カミサマアソビ (波津木 澄)
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プロローグ -転生ー

 神様転生。その言葉はきっと現代のライトノベルやSSを知る人間であればほぼ必ず心当たりのあるであろう言葉だ。

 何らかの原因で死んで、神様を名乗る存在によって生き返らせてもらう。転生する前に謎空間に入る入らないなどの細かな差異はあれど、大まかな流れはそんなものだろう。

 そして、今オレは確実に死んだはずだというのに目の前にはただ真っ黒なだけの空間が広がっている。

 なぜだかこうして()()()()()()()()()にさせられていることも含めて言いたいことはある。

 けれど誰もおらず、何もないこの空間で何かをするという事が酷くみじめに思えて何もしないでいる。

 

 果たしてこの何もない空間でどれだけの時間を待っていたかはわからないが、とにかく目の前に()()()がやってきた。

 それは確実に存在していて、けれどオレの眼には見えていない。存在するだけのモノ、とでも言うべきだろうか。

 いるのにいない、矛盾したその存在はオレに向けて声をかける。

 

―――――――――――(死した哀れなニンゲンよ)]

 

 いいや、目の前の存在は声なんて上げていない。

 声じゃない、もっと曖昧で訳の分からないものだ。鼓膜を揺らすわけでもなく、頭の中に入れられるわけでもない。

 言葉を伝えるという概念そのもの。意味を齟齬無く完璧に伝える、言語の枠組みを超えたモノ。

 

 ただただ気持ちの悪いそれを受けてもオレは()()()()()()()()

 逃げ場なんてなく、ただそれを受け入れるしかできない。

 

―――――――――(貴様には力をやろう)

 

 どこまでもオレを、ニンゲンを下に見た言葉だ。

 ()()()()()()()でオレを、死んだニンゲンを使っているのだと嫌でも理解させられる。

 特別、なんてことはない。どこまでも平等でどこまでも無情な意図。

 結局のところオレが選ばれた理由なんてただそこにいた、というそれだけだった。

 

――(望め)――――――――(哀れなニンゲンよ)

 

 "何だっていい"ってことが嫌と言うほどに伝わってくる。

 気まぐれで呼び出して、無理やり冷静にさせられて、そして最後には望めと言われる。

 けれど()()()()()()()()()()()()()()。明らかに異常なのに異常であることを認められない。

 常識的な判断が警告をする最中で、明らかに異常な思考が素通りする。

 

 こんなことになるのなら――

 

――――――(それが望みか)

 

 ああ、勝手に読まれた。けれどどうだっていい。

 オレが望むものはそれだけだ。

 

―――――(いいだろう)

 

 真っ黒なこの空間に穴が開く。

 穴が広がり、オレを飲み込む。見ることはできず、音もなく広がる穴を感じて、落ちる。

 落ちる、落ちる、落ちる。

 

 ――Darker Darker yet Darker(暗く、暗く、どこまでも暗く)

 

 その言葉が誰のものかを考えるよりも先に強制的に意識を閉ざされて――

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めるとオレは金色の花に受け止められていた。



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第1話 -見覚えのないセカイー

 目が覚めたその場所に見覚えはなかった。

 金色の花なんて初めて見たし、その上に寝転がっているという経験も初めてだ。少なくとも覚えている限りでは。

 

「……どこか、なんてわかんねぇんだよな」

 

 最初からお手上げであるという事に気付いてしまって空を仰ぐ。

 しかしそこにあると思っていた天上は存在しなかった。

 あるのはとんでもなく遠くに見える青い空と白い雲だけだ。どうやらここは地上ではなかったらしい。

 

「……まぁ、外に出てみないと分かんねぇよな」

 

 ぐるりとあたりを見渡してみれば一本の道があるのが見える。

 金色の花に一本の道。なんだか少しばかり記憶を擽られる。けれど未だに核心には至らない。

 けれど、オレの予想が正しければこの先にはヤツが居るはずだ。

 

 Undertale。そのチュートリアルモンスター……Floweyが。

 微かなケツイを胸に抱いて扉を潜る。しかしそこに金色の花は咲いていなかった。そこにいたのは白い毛を全身からはやしているのだろうヤギのようなモンスターとそのモンスターを庇うように立っているニンゲンの子供だけだ。

 これはつまりそういうことなのだろう。オレは転生させられたのだ。Undertaleの世界……それも物語の"本当の意味での始まり"の瞬間に。

 

「……誰だ」

 

「ちょ、ちょっとChara! 初めて会うのにそれは……」

 

「いいや、ニンゲン相手ならどれだけ警戒してもしたりないことはない」

 

 ……しかし随分と警戒されてしまっている。

 少なくとも今のオレは武器なんて持ち合わせてはいないのに。

 いや、もとより地上の世界でよくない事があってこの地下へと落ちてきたのがCharaだ。だったらその警戒も仕方がないのかもしれない。

 そう思うと何も言えなくなってしまうが、一先ずは話をしておかないとならないだろう。ここで殺されるなんてたまったものじゃない。

 

「あー、そんなに警戒しないでくれよ。オレはこの通り、武器なんて持っちゃいないさ」

 

 手をあげて自分が無力であることをアピールする。

 けれどその動きで警戒を解くことができたのはヤギのようなモンスターの方だけだった。

 

「ほら、やっぱり怖いところなんて――」

 

「オマエ、モンスターを見ても驚かないんだな」

 

 Charaと呼ばれていた子供の声がオレに突き刺さる。モンスターなんて地上でも存在を信じられていない存在だ。

 そんな奴を見て驚かないってのはいくら何でも可笑しなことなのだろう。……いや、()()()()のせいでオレが勝手に警戒を解いてしまっただけか。

 どちらにせよ、ニンゲンの子供……Charaの警戒心はより強まったという事だ。全く、笑えてくるぜ。

 

「クハハ……」

 

 笑ってごまかそうとしてみるけれどそれでは警戒を強めるだけだ。

 ……本当にどうしようもない。

 

「……まあいい、ついて来い。オマエは私が監視する」

 

「Chara!!」

 

 ヤギのようなモンスターに大きな声をあげられているがCharaと呼ばれる人間はお構いなしに話を進める。

 結局、オレはあの子供の許可がなければ何もできないらしい……。

 …………まずは信頼を勝ち取るところから始めないといけないみたいだ。



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第2話 -執念ー

注意:展開が一気にぶっ飛んでますが何も考えずに感じてください。


 幾度となく繰り返した眠りから覚めるために目を開く。

 目の前に広がる景色は変わらない。子供部屋に押し込められた子供が揃っているだけだ。

 その中で起きているのはオレ一人。

 …………今日という日はオレの命日だ。

 

 どういうことだと思われるだろう。けれどその言葉に違いはない。

 オレの望んだ力は確かに手に入っていた。『やり直す力』を望み、得ることはできた。

 けれどそれは()()()()()()()()()()()()()なんて綺麗で優しいモノじゃない。

 

 どこまでも醜く自分の事だけを考える力だ。自分が死んだという事を受け入れることができず、けれど世界を捻じ曲げるような力もなく。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 まず能力を施行することができるのは()()()()()()()。他のタイミングでは何をどうしようとも意味はない。

 そして融通の利かないことにこの力は何も選べない。

 死んだら必ず勝手に動き始めて、そして目を覚ませば今日という日に戻される。

 何をしても。どうあがいても。

 どうやってもオレは死ぬ。最初は自分から望んで死のうとしていた。けれど今日という日に戻されて……。

 それを数十回ほど繰り返してからオレは死なないように済む道を探し始めた。

 けれど最初に決まった死という運命はどうやってもオレのどこまでも醜いだけの執念(Observation)では覆すことができない。

 

 時計の針を撒き戻して、違う方へと進んで。けれど何も変えられなくてまた時計の針を撒き戻す。

 そんなことを繰り返し続けていて、ついにオレは諦めた。

 何も変えられないことを悟って、何もかもを諦めることにした。

 オレにはもう未来なんてない。あるのはもうとっくの昔に過ぎ去ってしまった過去の思い出だけ。

 

 Charaの計画についてオレは元から知っていた。だからこそ、止めようって似合わないケツイを抱いて。

 そして計画を止めるためだけにオレの命を使おうって、そう思って――

 ああ、今思えばそれが間違いだったのだろう。ケツイを決めたというのなら、自分も生きる道をはじめから探すべきだった。

 それだというのにオレは自己犠牲に酔って、足を止めてしまった。

 この世界に未来はある。けれど、オレにはそれを見ることも感じることもできない。

 

 どれだけ手を伸ばしても、どれほど醜く足掻いたとしても。

 それでも、オレは未来へと進むことはできない。

 死んで、戻らされて。そしてまた死んで。

 結局ただのニンゲンでしかないオレには誰かを救うなんてのは無理だったんだ。

 ああほら、また(ヤツ)が来た。

 

 そうしてオレはまた目を覚ます。いつもと同じ日、同じ時間に。

 時計の針はあべこべで、進も戻るもできやしない。

 もう何も感じられなくなるほどに繰り返した今日という日の朝をまた繰り返す。

 生き返って、やり直して。そうしたところで結局オレは何もできやしないのに。

 

 そう、運命を変えようって言うのならもっと大きな想いが必要なんだ。

 それこそ、あのニンゲンの子供……Charaの胸に秘めた『ケツイ』のような強大な力が――



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第3話 -ケツイー

 …………見慣れた部屋で目が覚める。

 本来ならばこの部屋にいることが辛くて部屋を変えたのだから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 しかしそうなっていることに疑問はない。なにせそうなるようにしたのは他ならぬ私なのだから。

 

「ちゃんといる……」

 

「……オレの顔に何かついてるか?」

 

「いや、なにもついてなんかいないさ」

 

 私の目の前にいるのは見慣れた本物の家族のような一人のニンゲン。

 なぜだか急に何もかもを諦めてしまった、よくわからないニンゲン。

 今日という日に死んでしまったはずのニンゲン。

 

 ……私は、このニンゲンを助けるために今日という日まで()()()()()()()()

 Asrielに諭されて、パパとママ……AsgoreとTorielに見送られて。この日まで戻った。

 このニンゲンを助けて見せるって言う、『ケツイ』を胸に。

 

 けれど世界の運命ってやつは相当に強固だった。

 なにか策を練っても運命は軽々と乗りこえてくる。だから躍起になって何度も何度も()()()()()

 巻き戻すうえで毎回策を変えて品を変えて。そうやって世界を変えてやろうともがき続けた。

 

「……あれ」

 

「Asriel?」

 

「いや、なんだか見覚えがあるような気がして……」

 

「そりゃ同じ部屋だし見覚えなんてあって当然だろ……?」

 

 ケツイは強力だ。世界の針を無理やり戻すなんてことができるほどに。

 けれどその力は大雑把だ。こんな風に記憶の欠片が残ってしまうほどには。

 だからこそ乱用はできない。してはいけない。世界の針を戻して全部なかったことにするなんて、本当ならただの一度もしちゃいけないんだ。

 でも、これしか道はなかった。

 道がこれしかないのだから、何度だってやらなくてはいけないんだ。

 

 私の中にある選択肢。

 それをどう扱うかは私次第だ。けれど、今の私の中にある選択肢ではあのニンゲンの運命を変えることはできやしない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 目の前にある運命を打ち破って、そしてニンゲン一人簡単に引っ張り上げてしまうだけの選択肢を作ってしまえばいい。

 私のケツイは未だに折れてなんかいない。

 運命が決まっている? なら変えることのできる何かを探し出して見せる。

 

 何度繰り返すことになっても、何度心が折れそうになろうとも。

 その程度で私のケツイを折ることができると思うな。

 

 私は、あのニンゲンと未来へ進むまで時計の針を進めるつもりは毛ほどもないぞ。

 いま改めてケツイを抱こう。前よりもより強力で、そして次の私に託すためのケツイを。

 そうやって回数を重ねるごとに膨らむ私のケツイはいずれ極点に到達する。させて見せる。

 運命なんて関係ない。私は、自分の目的の為に世界の道を変えて見せると決めたんだ。







この物語はここで終わり!!
運命を覆すことができたのか、そんなことできなかったのかはこれを見ているあなた次第!

エンディングを読む人の最も好きな形に合わせる方法は()()()()()



…………………なんてね。


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