グレイが召喚されました。 (アステカのキャスター)
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プロローグ



 思いつき投稿です。
 後悔はない!!でも良かったら評価、感想と主人公の名前をお願いします!出来れば外国人のカッコいい名前で!!では行こう!!





 

 こんな言葉を知ってるかい? 

 神様って意外とロクな試練を与えないんだって! 

 

 

 うんマジその通りだと思う。

 アメリカで亜種聖杯戦争に巻き込まれながらも最後まで勝ち抜き、生き延びた俺は飛行機に乗っていたのだ。

 

 だが飛行機の中でルーマニア辺りを通り過ぎた矢先に再び右手が痛み出すかと思ったら令呪があったのさ! 

 

 聖杯戦争終わったばかりなのに!? 

 よし、このまま気付かないフリして愛しきロンドンに逃げようと思った矢先、空から光の矢のようなものが襲ってきて飛行機墜落!! 

 幸い聖杯戦争を生き延びた褒美の槍と魔術で切り抜け高度6000メートルから紐なしバンジー!! 

 

 

 幸い魔術師である事が功を成したとは言え、普通に恐怖が勝った。挽肉にはならないものの、地面スレスレでギリギリ重力軽減と物理保護のルーンを最大にして着地出来た俺は凄いと思う。友達のキリシュタリアとかが聞いたら爆笑ものだろう。笑ったら買ったシュークリームを顔面に向けてスパーキングするけど。

 

 

「た、助かった! 地面って素晴らしい!」

「そうか、ならば地面を愛しながら逝け」

「って嫌に決まってんじゃん! うわっ!?」

 

 

 地面に感動していたのも束の間。

 愛した地面を蹴り上げながら、飛んでくる高速の矢を躱す。知ってる知ってる。弓使う奴は大抵アーチャーなんだよね。俺が戦ったアーチャーは自分より弓がデカかったけどね!! 

 

 

「サーヴァントと一般人が戦うとかなんてクソゲー! てか此処は人こそ少ないけど天下の街中ですことよ!? そんな場所で素人襲うとかサイテーじゃないですか!?」

「私の矢を躱せる汝の一体何処が素人だ」

「ですよね! 半分諦めてたし!!」

 

 

 強化のルーンで底上げした身体能力など、サーヴァントの前じゃ意味をなさない。特にアーチャーみたいな遠距離系の狙撃タイプには分が悪すぎる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、歴戦の英雄にため張れるのは頑張っても接近戦のみだ。

 

 

「せめてサーヴァントが居てくれたらいいけど、地面に描く隙なんて無いし……っ! うわっ!?」

「よく躱す。ここまで仕留め辛いのはギリシャ以来かもしれないな」

「あちゃー、逃げ場ないよねー」

 

 

 ギリシャ神話のサーヴァント、獣の耳、光の矢と言われたら大分予想がつく。高潔なギリシャの狩人であり、女神アルテミスより弓を授かった英雄と言えば1人だけ思いついた。キリシュタリアの神話の究明に参加しといて正解だった。

 

 

「うーん。死ぬ前に一個だけ聞きたいんだけどいいかな?」

「何だ?」

「この場所も多分聖杯戦争が始まってるんだよね? 令呪が宿ったのついさっきなのに何で分かったの?」

 

 

 問題はそこだ。

 ついさっきまで飛行機に乗っていた自分に的確に攻撃する事が出来た理由。そんなの観測とか言うレベルじゃない。キャスターと同盟を組んでいるのか否か。

 

 

「気に入らないが此方に神代の魔術師が居る。それだけの話だ。他に遺言はあるか?」

「うーん。流石に無抵抗で殺されるの嫌だから、足掻いてみるよ!純潔の狩人アタランテ!」

「っっ!? 貴様!?」

 

 

 右手に顕現させた槍で接近する。

 ギリシャ神話においてアタランテは最速の英雄と呼ばれている。ギリシャ神話の中ではアキレウスやヘラクレスといった武勇の中でも、その脚は()()()()()()()()()()とされている。勝った逸話でさえ、黄金の林檎でズルして勝ったくらいしかない。

 

 それは速度で物を言わせた勝負に置いて勝ち目は無く、遠距離から攻められた場合、勝つ可能性は万に一つもあり得ないのだ。

 

 あっ、これ死んだな。と言う直感はあくまで遠距離から一方的に嬲られた場合だが、接近戦になれば話は変わる。亜種聖杯戦争に置いて()()()()()()宿()()()自分なら英霊の残滓から戦闘経験だけを引き出せる。そんなに長くは保たないけど!! 

 

 

「くっ……!」

 

 

 だが相手も判断が早い。

 接近戦から抜け出して距離を取ろうとするのは分かっていたが、間違いなく次は油断しないだろう。だからこそ、このチャンスを逃さない。持っていた槍を投擲し、アタランテ目掛けて放つ。

 

 

「なっ……! 自らの武器を投げただと!?」

「本命は目の前だぞアーチャー!」

 

 

 投擲した槍は躱されたが、本命はアタランテの目を潰す事のみ。カッ!! と言う音と共に隠し投げた宝石が閃光を放つ。

 

 

「がっ……! 何っ!?」

 

 

 幸いステータス越しに見えた対魔力はDであり、一工程程度しか弾けない。キリシュタリアと一緒にジ○リのラ○ュタを一緒に見てただバ○スがしたかった為だけに宝石一個無駄にした複雑な思い出に救われた。

 

 今度キリシュタリアにジブリ集のDVD送ろう。

 

 

「ぐっ……小癪な……!」

 

 

 アタランテは目を抑えながら追撃が来ないようにその場から少し離れる。槍は今投げたし、もう一つは召喚のために魔力を温存しなければいけない為、使えない。

 

 召喚陣を丁寧に描く時間は無い。

 30秒もしたら絶対に殺される。10秒でマシに描いて呼び出す。マジな命の賭け事とかやりたくない。取り出したナイフで動脈を切り、滴る血でガリガリと乱暴に召喚陣を描いていく。

 

 もうマジで痛い。地面に血で召喚陣書いてるせいか堅い地面に爪が引っかかって割れる。顔を顰めながらも続けてなければ死ぬ。

 

 残念ながら今の窮地を救ってくれるのはサーヴァントを除いて他にいない。なのでその後の事は考える必要はなかった。

 

 

「っっ! ────告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ!」

 

 

 お世辞にも召喚出来るとは言い難い召喚陣。

 召喚陣はあくまで術者の縁さえアレば触媒無しでも可能だ。もしあの時戦ってくれたランサーが居るならば、召喚出来なくはない筈! 槍を渡してくれたくらいの縁があるんだし!! 

 

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ」

「チッ!!」

「天秤の守り手よ──―!」

 

 

 アタランテの矢よりも一瞬早く、詠唱が完了した。

 召喚陣が光を放ち、一瞬にして矢を切り落とした。そしてそこに召喚されたのは亜種聖杯戦争で戦ってくれたランサー……ではなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アサシンとして召喚に参上しました。あの、大丈夫ですか?」

「グレイ!?」

 

 

 まさかの知り合いが召喚されていた。

 神様、もしかして俺が神様殺しちゃったから根に持ってる? 

 



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天秤は未だ造れない。

『クルスマ』さん感想ありがとうございました!
昨日の深夜帯に投稿して再び投稿、久しぶりな気分だぜ!!では行こう!!続くかは評価次第!!

 では行こう!!




 前回、アーチャーことアタランテに命がけの鬼ごっこをしていた俺は頑張って召喚陣を描いて英霊を召喚したかと思ったら……

 

 

「アサシンとして召喚に参上しました。あの、大丈夫ですか?」

「グレイ!?」

 

 

 まさかの知り合いだった件。

 神様ってロクでもないと叫びたかった俺はまだ正常だと思う。

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 逃げました。

 とりあえず逃げる事には成功した。と言うか退いてくれた。サーヴァント最弱のアサシンと言えどサーヴァントとギリギリ張れるマスターとサーヴァントではアーチャーも分が悪いと察したのだろう。

 

 っしゃ!! とガッツポーズしてその場を離れる。

 

 右腕を治癒のルーンで塞ぎ、出血を防いだがちょっとまだ気怠い。とりあえず近場の森に身を潜め、人払いと防音の結界を張って一息付いた後に電話を掛ける。グレイが心配してくれていたが、大丈夫と口にした後にため息を吐く。

 

 

「もしもし、此方『神様の気まぐれと書いてクソったれと呼ぶ』です。絶対領域マジシャン教授は居ますか?」

『切るぞ』

「すみません今ふざけないと割とマジで落ち着けなかったんですよ。後生の頼みです切らないでください」

 

 

 ロード・エルメロイII世に電話が繋がった。

 こういうところ、自分が現代魔術科に所属していて良かったと思う。

 きっと他の教師だったら電話なんて持っていないから、魔術師のプライドが邪魔して頼れる人が居なかったのだろう。

 

 

『何のようだ。今私は忙しいと言うのに』

「そっちでニュースとか流れてません?」

『はっ? 貴様何を言って……飛行機の墜落事故? っっ! 場所はルーマニアか!?』

「帰りの便で乗ったら令呪が宿って撃ち落とされましたよ。ルーマニアに関連して何が起きたのか教えてくれませんかね? ぶっちゃけ全部聖杯戦争が終わったらまた聖杯戦争とか神様に愛され過ぎてヤバいので」

 

 

 まあそんな神様が居るならヤンデレに違いないのは確かだが。ふざけているが大分余裕が無い。まだ()()が完成していない中で、生き延びるのは正直厳しい。グレイだって正規の英霊では無いわけだし。

 

 まあとりあえず分かったのはユグドミレニア家が魔術協会からの離反、冬木の大聖杯を奪い取り、サーヴァントを呼び出し籠城。寄越した魔術師達を根こそぎ返り討ち。うわー、ヤバい案件だったわ。

 

 神様俺に対して鬼畜過ぎるゥゥ!! 

 

 

「待って? 聖杯戦争じゃなくて聖杯大戦? 俺の陣営は?」

「黒です。最後の一枠が拙だったかと……」

「魔術協会の敵側じゃねーか!?」

 

 

 アカン。これはマジでアカン。

 触媒的に考えればランサーかセイバーが呼び出されていた。いや、むしろセイバーが一番可能性があったが、余った枠と相性からアサシンであるグレイが召喚されたのだ。

 

 アメリカからインドの魔術関連の知り合いに礼装を直して来たから遠回りになってしまったが、連絡を忘れた訳じゃないよ?いや忘れてたけど。

 

 先ず赤の陣営は俺を敵だと思っているし、黒の陣営は黒の陣営についた途端に今後俺がどうなるか分からない。

 

 控え目に言って詰んでね? 

 

 

「天秤が完成次第逃げたいが……無理だなキャスターの勘の良さとか考えると絶対捕捉される」

『因みにサーヴァントは召喚したのだろう? どのクラスでどんな英霊だ?』

 

 

 まあ興味あるよね。

 だが今複雑な気分なんだけど……グレイは先生が好きなようだし、慕っているからマジで健気に応援してる。何故か犯罪臭がするのは置いといて、何故俺の元に召喚されたのかは分からないが、ちょっぴり罪悪感がするし。

 

 

「あー、召喚したサーヴァントでちょっと……ライネスちゃんかグレイはそこに居ますか?」

『……居るには居る。2人とも今ニュースに釘付け状態だ。貴様の心配をしているのだろう』

「マジで死にかけましたよ。6000メートルから紐なしバンジーとか本当ふざけた話ですよ。んじゃビデオ通話に変えますよ」

 

 

 ビデオ通話に変えた瞬間、先生とライネス、そしてグレイの顔が映り出す。心配そうな顔をしていたライネスと涙目になってるグレイが映っていた。

 

 

『だ、大丈夫ですかクイナさん! ニュースで飛行機が墜落したって……!』

 

「落ち着いてグレイ。まあとりあえず命は拾ったよ」

 

『飛行機を撃ち落とされたのに、随分余裕じゃないかい? しぶとさはゴキブリ並みだね』

 

「泣くぞコラ。まあいい、不幸中の幸いと言うべきか、亜種聖杯戦争を勝って無かったら死んでたね」

 

 

 ランサーの槍が無ければ回避出来ずに死んでいたな。持ち主に炎の加護を与え、()()()()()()()()()()()は伊達では無い。アレが無かったらマジ死ぬかと思ったし、身体に()()()()()()()()()為、魔力容量が増えたのも然り、槍を使うだけの魔力が無かったら死んでたな。うん。

 

 だが、先生は食いつくように質問を投げつけた。

 

 

『待て! 亜種聖杯戦争だと!? 貴様アメリカに里帰りに行ったのでは無かったのか!?』

「その里帰りした場所の近くにあったんですよ。亜種聖杯戦争、名付けるなら神の聖杯戦争。五騎全てが神霊のサーヴァントとして現界した異端の聖杯戦争が……まあ電話も繋がらなかったし伝えるのが大分遅れましたけど」

 

 

 神の亜種聖杯戦争。

 文字通り神霊が五騎召喚され、争う戦いに俺は巻き込まれた。その戦争は超過激、下手したら大陸が吹っ飛びかねない程の規模の戦いに、割と3回くらい死にかけたと思う。

 

 まあその分、亜種聖杯は魂の質が違い過ぎる為、放置しても危険だし、願いを叶えてもかなり容量がまだ余っている為、俺の体内で自然融解している。おかげで魔力の質や回路が驚く程強くなったが。

 

 

『……っ!? 貴様まさか聖杯戦争に勝利したのか!?』

「まあ頑張りましたよ。あの時は()()()()()()()()()()し、上手く立ち回れたのもありますけど」

 

 

 俺の魔術には『天秤の理』と言う解析魔術がある。

 これはいわゆる未来予測が可能となる。正確に言うなら自分の中で出会ったサーヴァントや魔術師に対しての勝率を瞬時に叩き出し、次の行動を数学的に予測するのが俺の魔術と頭脳から導き出せる最大の力だ。

 

 まあ当然、あの時は慎重を重ねた後に使い魔を何体も使ったり、小型カメラで観察したりと色々と情報を手に入れて初めて使えるものだ。正直な話、聖杯大戦で使えるかは微妙な所だ。

 

 規模が違い過ぎるし、あくまで行動を予測し、上手く立ち回るだけのやり方では勝てる保証はない。ただ勝率が高ければ狙うし、足りていない力は情報で補ってこそだ。ランサーの時はヒット&アウェイだったから天秤が完成出来た。

 

 

「あの時はランサーが強かったのもあるしなぁ」

『それで、貴様のサーヴァントは?』

「今映しますよ」

 

 

 カメラをアサシンのグレイに向けると緊張しながらも、グレイは顔を上げた。そしてそれを見た3人は開いた口が閉じないくらいに驚愕していた。

 

 グレイはフードを外し、画面越しで先生を見る。

 

 

「此方ではお久しぶりです。師匠」

 

 

 3人は目を見開いて、先生が叫んだ。

 

 

『なっ!? クイナ貴様ァァァ!! どう言う事か説明しろっ!?』

『えっ、えっ!? ど、どう言う事ですか!? 何故拙と同じ姿の人がそこに!?』

『アレっ? グレイって此処に居るはずなのに、ドッペルゲンガーの真似事かい? あれ? いやでもアサシンって言わなかったかい? えっ、ええっ?』

 

「グレイ落ち着け。ライネスは帰って来ーい」

 

 

 予想通り混乱している。

 ちゃんと事情を説明する。今居るグレイは未来で存在し、死後英霊として座に登録したサーヴァントらしい。英霊の概念に時間軸は存在しない為、不思議な話じゃない。こっちのグレイは全盛期な為、ちょっとだけ背が高いくらいか。

 

 

『成る程、不思議な話でもない訳だ。グレイはアーサー王の力を持つ存在である以上英霊として昇華されるのも不思議ではない。そして召喚者の縁によりグレイがアサシンとして召喚されたと考えてればあり得ない話でもない』

「神の聖杯戦争は相性で呼び出されてたけど……普通触媒って必要なんですよね? ならグレイは何で俺の所に召喚されたんだ?」

 

 

 神の聖杯戦争は神の気まぐれに過ぎない為、相性によるモノが大きかったのだが、聖杯大戦となると触媒は必要だがそれなら宝具にもなる槍と剣を持つ2人のどちらかだと踏んでいたのだが……

 

 

「そ、それは……! 拙が……クイナさんと未来で…………ううっ///」

「グレイ?」

『クイナ、それを聞くのは野暮ってモノさ』

「ライネスちゃん分かったの? 出来れば教えて欲しいんだけど?」

『鈍感だね君』

『鈍いな貴様』

『〜〜〜!? ///』

 

 

 成る程、意味分からない。

 グレイが顔を見せない程、めっちゃフードを深く被ってるし、何故かライネスちゃんめっちゃニヤニヤしてるし先生はため息を吐き、その奥のグレイは何故か悶絶している。

 まあいいや、召喚された以上グレイと聖杯戦争を乗り切るしかないし、理由は放っておこう。

 

 

「先生の方で打開策は?」

『どうにかして獅子刧界離に会え。此方からウチの生徒が聖杯大戦に巻き込まれたと説明しておく。確か貴様呪術や結界、ルーン関連に詳しかったな?』

「まあ大抵の呪いなら」

『よろしい、此方から獅子刧と同盟関係に出来るか交渉しておこう』

 

 

 それは有難い。天秤は情報があればあるほど精度が上がる。強いサーヴァントと必然的に行動出来ればそれこそ上手く立ち回れる。

 

 

「ありがとうございます。先生」

『クイナ、これだけは言っておく。──死ぬなよ』

「……はい。また連絡します」

『クイナさん! 絶対に生きて帰ってきてください! そちらに居る私によろしくお願いします!』

「分かった。頑張って生き延びれるように頑張るよ。ライネスちゃんは何か一言あるかい?」

 

 

 折角だと思いライネスに聞いてみる。

 だがライネスは態とらしく潤んだ嘘泣きでクイナを見つめて口を開く。

 

 

『クイナ、この戦いが終わったら私と──』

「それ死亡フラグです」

 

 

 切ろうとした瞬間、ライネスが最後に一言告げた。

 これ以上悪戯に死亡フラグ増やされたら堪らないのでため息を吐きながら耳を傾けた。

 

 

『まあ頑張りたまえ。ゴキブリのように這いずり回ってでも帰ってくるんだよ? じゃなきゃ私の遊び相手が減ってしまうからね』

「よし分かった。お前にお土産は要らないようだね」

『えっ? ちょっと待っ────』

 

 

 よし帰ったらアメリカで買ってきた紅茶に合いそうな菓子類は全部先生達に回そう。慈悲は無い。

 

 とりあえず決まった事、それはとてもシンプル。

 結構ヤケクソ気味に叫んだ。天上にいる神様に向かって呪いたいくらいだ。

 

 

「とりあえずいのちをだいじに! 聖杯大戦を乗り切りたい!!」

「そうですね」

 

 

 第一目標がそれだった(白目)

 グレイは霊体化しながら俺の後ろを歩き、俺はルーマニアの街を探索しながらサーヴァントに警戒して獅子刧さんを探す為に歩き始めた。

 




 良かったら感想、評価お願いします。
 続くかは評価次第にします。


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同盟相手を探す前に襲われる件について



 何とルーキーランキング12位に入りました!
 ありがとうございます!良かったら評価、感想をお願い致します!
 感想くれた『クルスマ』さん、ありがとうございます。『世界の神様』さん、素敵な名前をありがとうございます!

 では行こう!!




 

 

 前回を振り返ろう。

 グレイを召喚した後、森に人払いの結界を張り、グレートビッグベン☆ロンドンスターに即連絡、即混乱された。

 

 そして……

 

 

『クイナ、この戦いが終わったら私と──』

「それ死亡フラグです」

 

 

 乱暴に電話を切った。

 まあとにかく、グレートビッグベン☆ロンドンスターが獅子刧さんとの同盟の場を設けるようにしてくれた。やったね。

 

 

 

 ★★★

 

 

「でっ!? 何で俺は追われてるわけっ!? しかもサーヴァントじゃなく人間に!!」

「イッヒッヒ、そりゃまあ神様に愛されてる(嫌われてる)からじゃね?」

「アサシン」

「はい」

「あ、ああああああぁぁぁ!?!?」

 

 

 俺はユグドミレニアの領地を散策していた。

 因みにグレイには隠蔽のルーンをかけた宝石を渡し、霊体化せずに俺の後ろを歩いていた。グレイは死んでるはずなのに地上を歩いているものが嫌いと言うか苦手で、それを滅ぼさずにはいられないくらい、霊的存在が苦手なのだ。自分も含めて、霊体化はあまり良い気分がしないらしい。

 

 まあ()()()()()()()()()()()()()()のは現代の英霊と言う事なのだろう。ユグドミレニアの城からかなり遠い位置にいたはずなのに、来るわ来るわで弓矢を放つ人間が屋根を通じて飛んでくる。

 

 

「人間じゃなくホムンクルスか! てか問答無用で殺しにかかってる辺り、魔術協会側の人間は信用ならないらしいね!」

「あの、拙が出ましょうか?」

「いや、相手は君の能力を見る為にけしかけたに過ぎないし、それにアサシンの情報は隠してこそでしょ。頑張って乗り切るから悪いけど霊体化しといて!」

 

 

 聖杯大戦において、14騎のサーヴァントは赤と黒に分かれる。このホムンクルスはユグドミレニアが生み出した奴等、色白でアルビノの裸眼は血の色をしているのがその証拠だ。

 

 だが今、黒の色であるマスターの俺を狙って来ている理由は二つ。一つは魔術協会側と言う事で信用ならないのだろう。排除と言うより、令呪を奪って活用するが正しい。

 

 二つ目、それが出来なくてもサーヴァントの戦闘能力を見たいようだ。さっきから()()()()()()()()()()()()程、覗かれている事が分かる。

 

 だが、俺の脚力を甘く見るなよ? 悪戯で意趣返ししたライネスがトリムマウを馬のフォルムに変えて襲い掛かってきて、なお逃げる事の出来た男! 次のコーナリングで勝負じゃああああ!! 

 

 

「……うっわー、コイツはちょっとヘヴィーかな……」

 

 

 勝負なんてするもんじゃないな(真顔)

 曲がり角に待ち構えていたのはかなりの大きさで作られた岩のゴーレム。魔術で作られた遠隔使用の使い魔に過ぎないが、それでも並大抵の魔術師では敵わないだろう。

 

 

「仕方ねえ、ちょっと本気を出しますか」

 

 

 右手に特殊な術式を刻んだ手袋を嵌め、ゴーレムの根本を躱しながら逃げ回る。飛んでくる矢を紙一重で躱しながらも短い詠唱を口にした。

 

 

「──Call(目覚めろ) Call Open(目覚めて開け)

 

 

 右手に現れたのは一丁の銃。

 この手袋は自分が生み出した虚数空間と繋がっていて、そこに魔導具を大体しまっている。飛行機とか拳銃を持ち込めない為、いつも虚数空間にしまっている。つまりゲームで言うアイテムボックスだ。

 

 そしてこの銃の弾は……

 

「ギャアアアア!?」

「じゅ、銃だと!? 一体何処から!?」

 

 

 弾を()()()()で生み出している。

 投影魔術はハッキリ言えば物質具現化(グラデーション・エア)の部類に入るが、劣化品しか作れない魔術。包丁を投影したら生肉も切れない質の悪い包丁が出来上がる。

 

 だが、使い方によってはかなり使える魔術だ。

 

 弾丸の強度はある程度劣化しても鉄に変わりないし、火薬は弱くとも撃ち殺せる強さだし、形も遜色ない。魔術によって作られた弾丸はある意味、魔銃と化している。弾は魔力が続く限り無限だ。

 

 

「まあゴーレムには無理だろうけど、()()は完成したぞ」

 

 

 弾丸はゴーレムを破壊するに至らない。

 屋根に居るホムンクルスは1人だけ再起不能にして他は全滅させた。俺の魔術師の持論はあくまで『死ななければ勝ち』なのだ。『死ななければ、魔術師らしからぬ事をしてもいい』と言う事で、生きる事に特化している戦闘スタイルだ。プライド? 何それ美味しいの? 

 

 

「──接続(セット)

 

 

 効率の良い動きと予測した未来からゴーレムの攻撃を難なく躱す。

 ゴーレムに対してお得意のルーン魔術で(アンサズ)を放つ。俺のルーン魔術はランサーとセイバーに教えてもらった()()()()()()()()()使()()()()()、ゴーレム一体を派手な火葬した後に迫り来る二体目の攻撃を難なく躱し、ゴーレムに触れて魔術を解析する。

 

 

「ん……成る程、そう言う魔術か」

 

 

 ゴーレムに自分の魔力を通して制御を乗っ取る。魔術の練度は然程高くない。キャスターにしては杜撰すぎる。これはある意味量産型かもしれない。三体目のゴーレムを乗っ取ったゴーレムとぶつけて相殺する。

 

 

「悪いアサシン、あと三体は任せた!」

「はい。アッド、第一段階限定解除!!」

「イッヒッヒ、任せなぁ!!」

 

 

 合図をするとグレイは走り出す。

 グレイが持つアッドは封印型魔術礼装であり、最果ての槍(ロンゴ・ミニアド)を隠す為に存在している。そして今契約しているならば、アッドが()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()

 

 

「せいっ!!」

 

 

 サーヴァントも元を正せば死者に変わりない。アッドの存在はそう言う意味では()()()()()()()()()()()()()()()()

 二体、三体とゴーレムを切り裂いたグレイは俺の近くにトコトコと近づいてきた。

 

 

「ありがとうアサシン」

「いえ、拙は貴方のお役に立てましたでしょうか?」

「ああ、めっちゃ役に立ってくれた! 本当、君を召喚出来て良かったよ!」

「い、いえ……///それ程でもないです……」

 

 

 あっ、可愛い。

 自己評価が低いが、かなり役に立ってくれたのは確かだ。その気になればゴーレムを1人で殲滅出来ただろうが、やっぱ連携が取れる味方と戦うのは楽でいい。大した手の内を晒す事も無かった訳だし。

 

 

「さて……」

 

 

 スマホを取り出し、電話をかける。

 ユグドミレニアには知り合いが居たのを忘れていた。遠見の魔術は残念ながらあっちの声は此方に届かないので仕方なく電話する。

 

 

「もーしもし、此方『神様の気まぐれと書いてクソったれと呼ぶ』が座右の銘のクイナでーす」

『酷い座右の銘だな!? 何のようだよクイナ』

 

 

 親友の()()()()と電話が繋がった。

 カウレスは現代魔術科に居た生徒だったのだが、ユグドミレニアに居た為、其方に引き込まれたのだろう。

 

 グレイも一応知ってはいるから正直認識阻害で隠し通せるか微妙だが、この時のカウレスはグレイを知らないらしい。ちょっと安心していたクイナだった。

 

 

 ────────────────────

 

 

『やあやあカウレス君だっけ? 俺はクイナって名前なんだけど、君はどんな魔術を使えるの?』

 

 

 初めて会った時はなんだコイツと思う程、ストレートに気味が悪いと思った。知識に対して貪欲であり、変な奴なのに引き離そうとする気にならない。

 

 簡単に言うなら天才馬鹿だった。

 

 特にルヴィア嬢を揶揄っては宝石のガンドを飛ばされながら愉快に逃げ回り、先生に殴られて正座されていたり、ライネス嬢を揶揄い返したら馬に乗ったライネス嬢から全力で逃げ回って先生に殴られて正座させられていたり、フラットと一緒に魔術研究をしていたらゲテモノ魔術に2人してアイアンクローをかまされたり……と先生の胃痛を増やす要因なのだが天才だった。

 

 魔術の実績は16歳にも関わらず典位(プライド)と言う前代未聞の才覚を持つ。天体科のキリシュタリア・ヴォーダイムとも仲が良く、その魔術の才覚に限って言えば魔術協会の中で五指に入ると言っても過言ではない。

 

 あの時、鬱陶しく聞かれたアイツが。

 俺の電話番号を持っている事に今程後悔した事はない。

 

 

『惚けてもらっちゃあ困るぜ()()()()。そっちにマスター達とサーヴァント達が居るんでしょ? 出来れば音量最大にしてくれない? こっちも色々と言う質問したいしさ』

「……何の事だよ」

「じゃあ言い方を変える。──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に変われ。分からない君でもないでしょ? ()()

「っっ……!」

 

 

 見破られていた。

 ユグドミレニアに張った高度な結界に容易く干渉し、結界越しに此方を見ていた。戦闘の時は驚く程、人が変わり魔術師としての冷酷さを兼ね備えた完璧過ぎる人間。

 

 

「カウレス」

「……はい、ダーニック叔父様……」

 

 

 カウレスのスマホがダーニックに渡る。

 電話では魅了魔術は使えない。ある程度の印象操作と言うのは電気信号で表されると効果がない。

 

 

「カウレスに変わり私が相手をする。ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアだ」

『やってくれたな。ホムンクルスを嗾け、ゴーレムで俺を捕縛した後、令呪を奪って俺を殺害、それがお前の目的だったかは知らんが……アンタは一つミスを犯したな』

「何の事だ? 私は────」

『惚けなくて結構、視てるんだろ? そっちの高度な結界から。ゴーレムを仕向けたのは失敗だったな……えいっ☆』

 

 

 可愛い擬音を口にした瞬間、此方から見えていた遠見の結界がバキッ! と音を立てて消え去った。それを見たマスター達は動揺している。遠視に気付かれ、逆算して術式を乗っ取られ、破壊された。

 

 ユグドミレニアに張られた結界は割と大規模なものだ。それを難なく破壊したクイナに畏怖を隠せない。

 

 

「なっ!?」

『それじゃあ今日はこの辺で、まあ俺を襲った罰ですたい。んじゃまあ、()()()()()()()()()()()()()()♪』

「貴様……! 待っ──」

 

 

 動揺しながらも、次の言葉を発そうとした瞬間、クイナの方から電話を切られた。ダーニックは魔術協会を敵にしているからこそ、クイナから令呪さえ奪えれば、後々人質としても役に立つと踏んでいた。

 

 

「くっ……やられた」

 

 

 苦い顔をするダーニック。

 結界が破られ、しばらく他の英霊達の監視が出来なくなった。あの妙な言い回し、ゴーレムからキャスターが誰なのか判明したのかもしれない。そして戦場で妙に場慣れしている分、危険過ぎる。

 

 

「王よ。どうされますか?」

「ふむ、アーチャーにキャスターよ。奴をどう見る?」

 

 

 ゴーレムを難なく対処されたキャスターと、数々の英雄を育てたアーチャーの意見をランサーは聞いた。

 

 

「魔術分野はゴーレムの他はあまり詳しくはないが、魔術技量は神代の領域に踏み込んでいる。あのルーン魔術も、原初のルーンに近いものだと僕は思う」

「戦闘経験も豊富、周りの気配りもしながら的確な対処、魔術師というより魔術使いに近いかもしれません。ある意味厄介だと思います」

 

 

 どちらの意見にもマスター達は驚いている。

 だが、キャスターの意見は正しい。神代の領域に踏み込んだ魔術である事は確かだ。アーチャーの意見も間違ってはいない。戦闘のスイッチが入った彼は効率よく魔術を使う事に長けている為、魔術使いの戦いとしている為、あながち間違ってはいない。

 

 

「ふむ……奴等はアサシン……ならば放っておけ。単独で動けば奴等が他のサーヴァントと戦う機会が増えるだろう」

 

 

 確かに単独ならば、その考えは間違っていない。

 サーヴァント一体に二体のサーヴァントで戦わせても、相手の真名さえ分かればいいくらいの捨て駒として利用出来る。

 

 今回は一度だけ見逃す。しかし次はない。

 ランサーの意見には誰もが反対をしなかった。

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 一方でダーニック達がクイナの対策を練っている所……

 

 

「何故、何故貴様がここに居る! アーサー!!」

「っっ……!?」

 

 

 獅子刧とクイナが出会った瞬間、獅子刧の召喚したセイバーがグレイに斬りかかっていた。咄嗟に受け止める俺達と怒り狂うセイバー、まさに一触即発だった。

 

 何故だろう。俺、神様に嫌われてない? 

 



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同盟を組もうとした相手にも襲われた件


 あ、赤バーが!?(驚愕)
 感想くれた『アドメラレク(゜.゜)』さん、『弥生凛音』さん、『クルスマ』さん、『アニメ·ゲーム大好き神影』さん、ありがとうございます!!

 良かったら評価、感想よろしくお願いします!!
 では行こう!!




 

 前回を振り返ろう。

 ホムンクルスやらゴーレムに襲われた俺とグレイは何やかんやで敵を殲滅する。そしてカウレスに電話をかける。

 

 

「もーしもし、此方『神様の気まぐれと書いてクソったれと呼ぶ』が座右の銘のクイナでーす」

『酷い座右の銘だな!?』

 

 

 その後、ダーニックと繋がって苛ついた俺は意趣返しとして遠見の結界を破壊した。ふっー、スカッとした!! 

 

 

 

 ★★★

 

 

 ルーマニアの街を歩きながら、探索用のルーンで魔力を感知しながら悠々と進むクイナとその後ろを歩くグレイ。

 

 

「いやわざわざ後ろを歩かなくても……」

「拙は今はサーヴァントです。従者と言う立ち位置に変わりありませんから……」

「じゃあ命令、隣に歩いてくれない? 話し難い」

「……分かりました」

 

 

 グレイはクイナな隣で歩き、クイナは話し始める。

 現在、深夜2時であり、その街中は暗くて中々に怖い。何せ聖杯戦争は闇討ち騙し討ちなんでもござれだ。

 

 あー、聖杯戦争とかマジ滅びろ!! 

 

 まあ愚痴を言ってもしょうがないので、グレイと一緒に情報の確認をする。互いの陣営、黒と赤についてだ。

 

 

「んじゃあ先ず、赤の陣営から話をしようか」

「はい。えっと、判明しているのはアーチャーであるアタランテでしたよね?」

「ああ、ギリシャと言う口を滑らせた時点で確定だね。アルテミスから授かった女神の矢を持ち、速さではギリシャのトップクラスに位置する英雄アタランテ。アタランテの耳は多分、終盤で獅子にされた名残なんだろうね」

 

 

 獅子の耳に尻尾はそれが理由なのだろう。

 金の林檎を粗末に使った夫のヒッポメネスと共々、神々の罰により獅子にさせられた。つまりはそう言う事なのだろう。

 

 因みにあれが本物ならモフモフしてみたいと言う好奇心が疼く! 因みに俺は猫派。

 

 

「となれば必然的に考えれば女神アルテミスから授かった弓と、獅子に変容したと言われる毛皮かな? 神罰としてアルテミスからカリュドーンの毛皮を渡されたらしいし」

「毛皮を使われるとどうなるんですか?」

「そこまでは分からないけど予測は出来る。獣になると言う言葉は現代において理性をなくすとされる訳だし、理性を代償にステータスを上げるって事くらいかなぁ?」

 

 

 グレイはその答えに僅かながら驚愕していた。

 魔術や神秘の解体に至っては師匠であるロード・エルメロイII世の領分だが、クイナもそれに近しいくらい知識に貪欲で、神秘解体の推理は間違いなく理にかなっている。

 

 

「す、凄いですクイナさん!」

「ふふっ、ドヤァと言うべきかな?まあ赤は他に出会ってないから分からないとして、お次は黒の陣営かな?」

「えっ? 黒の陣営はまだ誰とも出会ってませんよ?」

 

 

 黒のサーヴァントとは確かに合っていない。

 ホムンクルスやらゴーレムを仕向けられたが、サーヴァントが出てきた訳じゃない。それだけじゃ、サーヴァントを知るのは不可能だとグレイは言うが、チッチッチと指を動かして否定する。

 

 

「じゃあグレイ、君に問題だ。ホムンクルスは別としてゴーレムを仕向けてきたのは間違いなくキャスターだ。ではゴーレムの始まりとされる意味は何だと思う?」

「えっ? ……始まりの意味ですか?」

「そう。10秒以内に答えよ。10、9、8──」

「わ、わわわっ!? えっと……胎児……ですか?」

 

 

 おー、勤勉なんだなぁ。まあ先生の弟子だし。

 そもそもゴーレムとはカバラの術の1つであり、名は『胎児』や『形作られざるもの』などを意味する。人の感情が血を流させる原因ならば、感情無き人間と同じ行動をするゴーレムは()()()使()()とも呼ばれた事もある。

 

 

「ピンポーン。正解、そもそもあれは使い魔の類ではなく、自立し命令に従うゴーレム。じゃあグレイ、ルーン魔術で作れるゴーレムとあのゴーレム、何が違う?」

「えっと……魔術がそもそもにして違うんじゃ……」

「単純なルーンでは限界があるのさ。原初のルーンだろうと、ルーン魔術で作るゴーレムは不完全なものだ。走れと言ったら走り続けるし、意思がない分決定する力も認識する力もない。そこで必要になってきたのが、カバラの数秘術だ」

 

 

 カバラの中には様々な意味合いもあるが、その中で数秘術は現代のプログラミングに近い発想だ。まあ俺の『天秤』も()()()()()()()()()()()()()を身体に入力し、効率よく動くのを目安としたもので結構馴染み深いものがある。

 

 

「ゴーレムの行動のコマンドを入力し、人間のように思考し、最適解の行動が出来る。これを量産出来るとするなら多分キャスターの正体はだいぶ絞られるが、俺の予想ならただ1人」

「……キャスターの正体は」

 

 

 カバラの基盤を生み出した人物。

 ゴーレム、即ち楽園の使者を生み出し、楽園を作り出そうと考えた人間は1人しか知らない。

 

 

「アヴィケブロン。カバラの提唱者であり、苦悩に満ちた民達を楽園へと導く偉大な王として君臨された人物」

 

 

 魔術王ソロモンのように、一つの系統の魔術の始まりとして歴史に名を残した研究者であり、信仰者だ。

 つまり、魔術の基盤を生み出したと言っても過言ではない。ゴーレムに特化しているとは言え、他の魔術もあるかもしれないし、ゴーレムだけの魔術技量に関して言えば右に出るものはいないだろう。

 

 

「まあゴーレムと魔術式だけじゃまだ本当にキャスターの正体が当たってるのかは不明だけどね」

 

 

 赤のアーチャー、黒のキャスターの真名は多分分かった。まあ真名を知っていれば勝てると言う訳でもないのだが、アタランテの死因に関連する事は獣に落ちた後に死亡した訳だし、アヴィケブロンは病弱だった為、早死になったくらいだ。

 

 それに類似した死に方の再現は弱点にはなるが、周りくどい事するより脳筋ゴリ押しの方が早いと思うのは誰でも同じだろう。

 

 

「……いえ、大分情報が絞られましたし……助かります。あっ、そう言えばクイナさんの『天秤』はどれだけ完成しているんですか?」

「情けない話二割以下、まあ聖杯大戦なんて大規模な戦いに、未来予測なんて後半にしか役に立たないし……」

 

 

 天秤は日頃からの癖みたいなもので、自分の思い通りに事が進めば楽出来ると言う為だけに作った簡易的数秘術の勝率判定に過ぎない。勝率判定が80%を越えれば、それに見合った的確な行動が可能で、それがある意味敵の動きを読む未来予測と勘違いされる。

 

 

「あー、もう無理! 天秤の範囲が広すぎて全然掌握出来る気しない!! まだ神の聖杯戦争の方が立ち回りが良かったよ!!」

 

 

 愚痴を零したくなるのも無理はない。

 全パラメータを把握して、チェスの駒を慎重に動かす事は中々難しいのだ。それこそ味方が居なければキツイ話だ。

 

 

「あの、大丈夫ですか?」

「ああまあストレスから愚痴っただけだよ。いやー参った参った。本当、真面目を張り通すなんて俺らしくないのに」

「いつもそうしていたら師匠に怒られないのでは?」

「アレは趣味だ」

「なお悪いですよ」

 

 

 ふふっと微笑むグレイ。

 何せ俺のスキルには生徒(胃痛): EXがついている為、最早先生は爆弾を抱えたも同然なのだ。まあ労ってあげているのがグレイだから複雑な気分なのだろうけど。

 

 

「おっ、アレじゃないか?」

「あっ、はい。獅子刧さんですね」

「グレイ知り合いだったんだ」

「たまたま師匠達と一緒に行ったお城で会ったんです」

「へぇー、おーい獅子刧さーん」

 

 

 手を振りながら友好的に迫る俺。 

 中々厳つい顔とサングラス、黒ジャケットを着て強面の印象の男の人と、その隣に居る金髪の女……凄いボーイッシュな格好に目が行くより、何故かグレイに似ているような。

 

 

「っっ……!?」

「えっ?」

「グレイ!!」

 

 

 ガキィン! と響き渡る金属音。

 いち早く反応し、即座に槍を出しセイバーに迎え撃つクイナ。赤く銀色の刀身をした大剣は赤雷を纏いながら力で押し潰さんとするようにクイナに襲いかかる重圧。

 

 赤のセイバーが鍔迫り合いをしながらも叫んだ。

 

 

「何故、何故貴様がここに居る! アーサー!!」

「っっ……!?」

 

 

 まさか、アーサー王の血縁!? 

 いや、アーサー王に恨みを持つ存在の中で『復讐者(アヴェンジャー)』として召喚されてもおかしくない存在と言えば、アーサー王が最後に聖槍で貫き、相打ちとなった人間。

 

 円卓の騎士か!?しかも名高い叛逆の騎士!!

 

 

「止めろセイバー!」

「止めるなマスター! コイツだけは、オレの手で殺さなきゃ気が済まねぇ!! アンタの治政で民を殺し、オレに王位を譲らずにブリテンの国を終わらせたコイツだけはな!!」

「ぐっ……! 重っ……! って違う……っつーの……!!」

 

 

 無理矢理ながら身体機能をルーンで強化してセイバーの剣を弾き、距離を置く。たかが魔術師に自分の一撃が止められた事に驚愕しながらも、目の前にいる魔術師のクイナは叫んだ。

 

 

「グレイはアーサー王じゃねえ!! 別人だ! アーサー王の呪いを受けた現代の英霊だ! アンタがアーサー王を恨んでるかは知らねえが、アンタは仇と似た人間の区別すらつかないのかよ!!」

「黙れえぇぇぇぇ!! オレは! オレはあの人より強い!! あの人を超えたはずだ!! 今更現代の亡霊が引っ掻き回してんじゃねぇぇぇ!!」

「っっ……! グレイ!」

「はい! 第一段階、限定解除!!」

 

 

 籠に入ったアッドを変形させ、鎌のような形状でセイバーと迎え撃とうと構える。一触即発の状況でセイバーが飛び出そうとするその前にセイバーの肩を掴んで止めようとした人物が居た。

 

 

「あァ!?」

「落ち着けっての。俺はこんな事に令呪を使いたくねえんだわ」

「獅子刧さん……」

 

 

 頭を痛めたような素振りを見せながらもセイバーを止める獅子刧さん。グレイを見て、「マジで召喚されたんだな」としみじみ思いながら呟き、グレイに挨拶する。

 

 

「久しぶりだなグレイの嬢ちゃん。いや、今はアサシンと言うべきか?」

「はい。お久しぶりです。獅子刧さん」

「マスター知り合いなのか!? 英霊のコイツに!?」

「まあ一時世話になったからな。現代の聖杯戦争で召喚されたアーサー王が消えた後、突如アーサー王に成り変わっちまったのがそこのお嬢ちゃんと言う訳だ」

「なっ……!?」

 

 

 あり得ない。と言いたいが、セイバーは押し黙る。

 グレイは暗い顔をしていた。アーサー王に成り変わってしまった存在。それは現代では地獄にも等しいのかもしれない。突如自分の顔から別のナニカに変わったら気味が悪くて仕方がない。

 

 

「拙は……(グレイ)です。黒でも白でもない、グレイ(どっちつかず)────」

「ハァ……助かりました獅子刧さん」

「いんや、こっちこそ悪かった。同盟の話の前にセイバーが斬りかかるなんて俺も想定外だったわ」

 

 

 セイバーの真名は今分かったし、グレイがアーサー王と瓜二つだった事を忘れていたようだ。マジ死ぬかと思ったからそこは気を配って欲しかった。

 

 と言うか、今ので腕に軽くヒビが入ったし。無茶な状態で強化なんてするものじゃないな。うん。

 

 

「まあそこは水に流しますよ。同盟の件はどんな感じに考えてます?」

「どちらかの陣営が崩壊するまでお互い不戦協定、各陣営の情報は相互提供、片方の陣営が崩壊したら共闘ありの同盟。どうだ?」

「悪くないですね。グレイ、あとセイバーは賛成?」

「拙は大丈夫ですが……セイバーさんは?」

「あァ? あー、まあ良いぜ。父上と同じじゃねえってのは、そこのマスターの言った通りだしな。けどその前に一つ聞きてえ」

 

 

 セイバーが睨みを聞かせながら俺達を睨み付ける。

 アーサー王としての願いの確認なのか、それとも俺達自身を試すような質問なのか。答えはCMの後と言いたいがふざける事は出来ない。

 

 

「お前らの聖杯への願いは何だ?」

「拙は……その……もう叶っていますし……ありません」

「俺は無いぞ? 飛行機で帰ろうとしたら偶々令呪が宿って襲われて仕方なく参加したし」

「お前さん良く生きてたな……」

 

 

 うん。よく死ななかったよね(白目)

 ハッキリ言ってあんな刺激的な経験は2度としたく無い。何処の世界にパラシュート無しでスカイダイビングし、いきなり殺されかける人間が居るのか。居たよ俺だよ。

 

 

「んだよつまんねえ。まあ良い、顔合わせだけだろ! 行くぞマスター!」

「ああ分かった分かった。『自己強制証明(セルフ・ギアススクロール)』をお互い渡したら俺達も行く。悪いが今は同盟は無しだ。裏切ってまで双方に敵を作りたくねぇ」

「まあ妥当ですね。はい、コレ俺の電話番号」

 

 

 付箋を取り出し、自分の番号を書いて獅子刧さんに渡す。

 見た感じ、さっき話していた内容と同じ、見落としもなければ特に問題は無い。右手の指を軽くナイフで切り、血で名前を書く。

 

 

「ああ助かる。ほらよ、俺の番号だ。『自己強制証明(セルフ・ギアススクロール)』の確認は大丈夫か?」

「問題ないですね。ほいサイン完了」

「そんじゃ、俺達は今から不戦協定だ。聖杯を手にする前に先に死ぬなよ?」

「お互いに」

 

 

 不敵な笑みを浮かべながらお互い逆方向の道へと歩いていく。此方も収穫が大きい。セイバーの真名も分かり、後半戦になればなる程、生存率はかなり高くなる。

 

 獅子刧さんは魔術使いだ。

 戦場を知るあの人と手を組めたのは運がいい。神様は嫌いだが今回ばかりは幸運だ。

 

 

「でも正直意外です。クイナさんとあっさり同盟を結ぶなんて……」

「曰く、暗殺者は絶対に殺せると言うのは絶対に死なないと同義と語った。曰く、勝てないと分かった敵に真っ先に矛先を向けさせない事こそ敗戦なれど勝利と同義に他ならない。今夜は俺達の勝ちだ」

「勝ち……ですか」

「聖杯戦争を生き延びる俺、願いを達成したグレイ。良いんだよ俺達は、無理して勝つ必要は無い。生き延びる事が勝つ事なんだから」

 

 

 グレイの頭を撫でながら告げると、グレイは柔らかな笑みと顔を赤くしてフードを深く被った。照れているのか頭をわしゃわしゃすると、「ひゃっ!」っと言う声がしてちょっとだけ面白かった。肩をポカポカ叩かれたけど。

 

 

「結局、飛行機の時間もあって宿は取れなかったか」

「野宿するしかありませんね……」

「いや明日の天気予報、雨なんだけど……」

「「…………」」

 

 

 結果、翌日まで野宿してずぶ濡れになり、宿が取れる時間帯に俺達はびちゃびちゃの状態で駆け込んだ。

 えっ? 手袋に刻まれた虚数空間に傘とかテントとか無いのかって? こんな状況を一体誰が予想できたらテントなんて虚数空間にしまうんだい? 

 

 まあちょっと髪が濡れたグレイにドキッとしたのは墓場まで持っていくとしよう。

 



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あれ、俺の方がよっぽどアサシンしてないか?

 まさかのルーキーランキング10位にランクイン出来るとは!?衝撃的な事実に開いた口が三分くらい戻らなかったです。
 さあて、貰い受けた槍が誰に渡された者か分かりましたでしょうか。まあ知る人には答えが乗ってると思います。

 感想くれた『セウ』さん『Батэнхライダー大好き日本語勉強中』さん『ゴレム』さん『クルスマ』さん『チャサキ』さん『厨二ゲーマー』さんありがとうございました。

 良かったら評価、感想をよろしくお願い致します!では行こう!!


 前回の振り返りをしよう。

 黒のキャスターと赤のアーチャーの真名を絞り、赤のセイバーに襲われながらもゴーライオンさんと手を組む事になった俺達。

 

 

「結局、飛行機の時間もあって宿は取れなかったか」

「野宿するしかありませんね……」

「いや明日の天気予報、雨なんだけど……」

「「…………」」

 

 

 結果、翌日まで野宿してずぶ濡れになり、宿が取れる時間帯に俺達はびちゃびちゃの状態で駆け込んだ。ずぶ濡れて下着は見えない。見えたら殴られそうだから言わないが。

 

 

 

 ★★★

 

 

 昼過ぎだと言うのに

 野宿は全く寝れなかった為、ずぶ濡れになった後はシャワーだけ浴びて乾かした服を着て眠っていた。

 

 無理もない。

 飛行機墜落事故から英霊の召喚、()()()()による行使が二回、魔力はトップクラスに位置するクイナでも流石に疲労が蓄積されていたようだ。

 

 

「ふあああぁぁ」

「おはようございます。クイナさん」

 

 

 目が覚めたらグレイが椅子に座っていた。

 そして少し濡れたタオルを渡してきてくれた。グレイって本当に気が利くよな。と言うより先生ってグレイに世話焼かれっぱなしなんでしょ? ちょっと羨ましい。

 

 

「おはよグレイ……ってグレイは寝てないの?」

「拙はサーヴァントですから……寝る必要はありません」

「それでも寝たら回復すんだから寝ときなさいな。まあ、ありがとうグレイ。見張り任せちゃって」

「いえ、このくらい問題ありません」

 

 

 まあグレイはサーヴァントとしては忠実な方だが、この時の場合は何故か機械的なんだよな。彼女だって二回限定解除をしてるってのに……まあ俺の魔力量を考えれば当然か。

 

 

「四時まで寝てな。夜までにコンディションを整えといてくれ」

「えっ、でも拙はサーヴァントで」

「そう言うのいいから、一応ながら命令で」

「は、はい。では少し眠らせていただきま……」

 

 

 グレイは瞬間、気づいた。

 この部屋にはソファーが無く、ベッドとシャワールーム、幾つかの椅子くらいしかない。ベッドはさっきまでクイナが使っていた。

 

 眠ると言う事はクイナが使っていたベッドを使うと言う事、それに気づいたグレイはさりげなく毛布をとって床で寝ようとしたが……

 

 

「いやベッド空いたんだからそこで寝なよ。女の子が床で寝るもんじゃないでしょーが」

「で、でも……」

「あっ、もしかして潔癖症とかだった? なら悪かった……俺が寝ちまったせいで……」

「ベッドをお借りします。おやすみなさい」

 

 

 悲しそうな顔をしたクイナにグレイは良心を傷つけまいと即行で眠り始めた。掛け布団からは微かにクイナの匂いがして、優しい匂いとまだ逃げてない熱に頬を染めながらも、電源が切れたようにグレイは柔らかな表情で眠り始めていた。

 

 因みにクイナは少しだけしてやったりと言う顔をして、寝顔可愛いからこっそり写真撮った。後でル・シアン君に自慢しよ。

 

 まあグレイがサーヴァントと言う事実がまだ慣れないから単純に気を遣っているのもあるけど……

 

 

「すっかり晴れたな。朝、結構降ったってのに通り雨か?」

 

 

 カーテンから見上げる空は雲一つも無い快晴だった。

 だが知っている。俺はサーヴァントの数値で例えるなら幸運値E−なのだ。神様に嫌われてると言うか神様に呪われてると言うか、ともかく運頼りの戦術は絶対失敗するから『天秤』なんて魔術を作ったのだ。 

 

 考えみてくれ、里帰りしたら超過激な亜種聖杯戦争に巻き込まれ、ルーマニアの上を飛行機で通ったら令呪が宿り、飛行機が爆破、セイバーの強襲に通り雨、神様が悪戯に試練を与えるならまだしも、ハード過ぎて泣ける。俺はどの星の下で生まれてきたって話だ。

 

 まあしぶとく生きている辺り、下手したら前世がゴキブリだったまでにある。本当、サーヴァントだったら悪運値Aだと思うよ。多分。

 

 そして、この()()()()()()()()()()()()()

 悲しい考え? 知っているさ。だがそれは神の聖杯戦争を勝ち抜いた俺の唯一の直感だ。

 

 

「あっ?」

 

 

 スマホが震え出した。

 着信音はならないように切っているが、いつもはフラットが作った先生に対しての歌を着メロにしている。それゆけ僕らのグry

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 着信の表示相手はカウレスだった。

 その事に少し真顔になりながらもいつもの切り出しで電話に応じた。

 

 

「もしもし、此方『神様の気まぐれ────」

『いやもうそれ聞いたから』

「……チッ」

『舌打ち!?』

 

 

 何故だろう。今一瞬イラッとした。

 揶揄ったりふざけたりするのが趣味だからこそ、今の切り返しは見事だが不快さが何故かあったと追記しておこう。まあ揶揄いが趣味のクイナにとって冗談が通じない奴が一番嫌いだ。

 

 まあとりあえずカウレスから連絡事項を聞いた。

 

 

「────何? 赤のバーサーカーが?」

『ああ、見張りホムンクルスの情報で独断でこっちに向かってるらしい』

「何で俺にその情報を? 俺襲撃にイラついてそっちの遠見の結界壊しちまっただろうが」

『壊した理由がそれかよ……。まあお互いそれで水に流して協力して欲しいとのことだよ。バーサーカーが来るって事は必然的に』

「他のサーヴァントも来るってか。みすみす手駒を失う訳にはいかないしな」

 

 

 バーサーカーが独走で暴走状態。

 それに伴って他の赤の陣営のサーヴァントが来る。まあ確かに総力戦となれば幾らか削れるとは思うのは間違いないだろう。

 

 いやでも罠の可能性もありそうだしなぁ。見逃してもいいんだけど、『天秤』を完成させる為に黒の陣営とは一回会わなきゃいけないのもあるしなぁ? 

 

 悩んだ末に、クイナは決意した。

 

 

「まあ襲撃しないと誓えるなら、顔合わせと今後の方針の確認程度はしてやる。赤の陣営も減らせるだけ減らしておきたいしな」

『ああ、ダーニック叔父様にも伝えとく、遅れるなよ? キャスターとアーチャーの予測なら今日の21時頃到達らしいし』

「こっちはこっちのタイミングで行くよ。アサシンは奇襲が売りなんだし」

『んじゃ、また夜な。……頼むぞ』

「はいはい」

 

 

 電話を切って手袋を嵌め、虚数空間から魔術の触媒を出す。

 特に三騎士には大抵対魔力がついている為、俺が直接魔術を撃とうが弾かれておしまい。

 

 俺の二つある奥の手、()()()()はあくまでサーヴァントと戦わなければいけない時の切り札。まあもう一つも同じだが、使い手の技量を現代の人間は完全に再現は出来ない為、劣化技量でしか相手を肉薄出来ない。まあそれでもそこらのサーヴァントよりかは強いかもしれないが、慢心はダメ、ゼッタイ。

 

 

「対魔力持ちに対する切り札を考えるしかねぇか……」

 

 

 神の聖杯戦争が終わり、俺が使える魔術の中でルーン魔術が現在トップクラスに位置する。何せ原初のルーンは現代で再現出来るルーンと性能の差があり過ぎるからだ。だが対魔力は大抵は一工程である魔術を軽減、又は無効化する。原初のルーンの破壊力も対魔力B以上には通じない。

 

 残念ながらルーンで描いた術式ではサーヴァントに攻撃出来る程の強さはないのだ。まあマスターが前線で戦うってのがおかしな話だ。

 

 ……だが、対魔力を貫通する方法なら実は思いついてる。成功するか不明だけど。てかサーヴァントと戦う想定をするマスターってのがおかしな話だ。

 

『天秤』で使える選択肢は増やしておくに越した事ない。

 

 

「さて……やるか」

 

 

 グレイが静かな寝息を立てている中、クイナはグレイを起こさない程度に鼻歌を歌いながらも魔具生成の魔方陣を描き始めた。

 

 グレイに悪戯しないのかって? 後で先生とル・シアン君に殺されるでしょうが。おい今ヘタレとか言った奴、後でキリシュタリア特製のバ○スで目を潰してやる。

 

 

 ────────────────────

 

 

 赤のバーサーカーがキャスター、ライダー、ランサーの手で捕らえられた後の数分後、黒のセイバーとバーサーカーは口笛を吹き陽気に大樹に背もたれる男、赤のライダーと対峙していた。

 

 

「いやぁ、俺も甘く見られたもんだなぁ。たった二騎で俺を仕留めようとか────屈辱にも程があるぜ!」

 

 

 黒のセイバーとバーサーカーを前に強気な赤のライダーが矛を手元で遊ばせながらも不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「俺のクラスはライダーだが、なぁに戦車は使わねえ。たった二騎だけでは役不足だからな」

 

 

 その余裕な笑みで矛を突き出して恐れる事なく告げる。2対1という不利な状況にも関わらず、この戦いを楽しもうとしている戦士そのものだ。セイバーとバーサーカーはその圧力に武器を既に構えていた。

 

 

「————来い。真の英雄、真の戦士というものをその身に刻んでやろう」

 

 

 先制を仕掛けるセイバーに矛で余裕で弾きながらも距離を詰めて打ち合う2人、バーサーカーは僅かな隙間をついて手に持つ鈍器のような武器を振るうが、蹴り飛ばされ吹き飛ばされる。セイバーが背後を取り剣を振るうが振るう手を掴まれて剣撃が止まる。

 

 速さも技術も大抵のサーヴァントでも太刀打ち出来ない。

 

 

「残念だったな。お前に俺と戦う資格はない!!」

 

 

 赤のライダーの重い一撃がセイバーを貫こうとするが、セイバーの肌にライダーの一撃は通らない。互いに耐久が売りなせいか、長くなりそうだが、それでも面白いと呟くライダー。

 

 

「………!」

 

 

 無表情が一瞬だけ驚いた顔をしながらも無表情に戻すセイバーに唸るバーサーカー。その様子にライダーは思わず声をかける。

 

 

「笑わねえ者はエリュシオンでも笑いを忘れてしまうぞ。散り様くらいは陽気に行こうぜ」

 

 

 無表情のセイバーに赤のライダーは笑いながら忠告する。単純に舐めているという訳ではない。これは余裕だ。戦士である絶対的自信の現れ、一騎当千の力を持った戦士は伊達ではない。

 

 だが、そんな様子にセイバーは軽く笑みを浮かべた。

 

 

「……フッ」

「へぇ、堅物っぽいが笑えるんだな。なんだ忠告して損したぜ」

「ああ、何せ肩の荷が一つ降りる事になりそうだからな」

「あっ? 何言って────」

 

 

 突如嫌な予感がしたライダーは目を見開く。

 戦闘中に気付かなかったが、この場所に()()()()()を感じながら周りを見渡す。木々を揺らす風の音も、獣の気配も、先程までの()()()()()()()()()()()()()()()気持ち悪い感覚。

 

 

「あっ…?何だこれ? –––––っっ!?」

 

 

 そして目に入ったのはライダー達の周辺から少し遠く離れた場所に()()()()()()()()()()()()()()と、そして────

 

 

「姐さん後ろだ!!」

「っっ!?」

 

 

 遠くに離れたアーチャーの背後から奇襲を仕掛けようとするアサシンのマスター。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()だった。

 







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俺には詐欺師の才能があると思う。


 ごめんなさい。首寝違えて2日間マトモにスマホすら見れませんでした(泣)投稿期間が遅れた事、申し訳ありませんでした。

 そんな中、感想をくれた『もっとみる』さん、『サッドライプ』さん、『クルスマ』さん、『鉄屑』さん、『厨二ゲーマー』さん、『けーやん』さんありがとうございます。指摘もありがとうございます。

 この作品基本的に4000字くらいなのに8000字書いてしまいました。アンケートもあるので出来ればご協力お願いします。

 良かったら評価、感想よろしくお願いします!では行こう!!



 

 

 

 前回を振り返ろう。

 ずぶ濡れの中で宿を取ってクイナが先に寝た後、グレイが寝た。

 

 

「…………」スヤスヤ

「…………」カチャカチャ

 

 

 おいお前、今何を想像した。バ○ス!!

 

 

 

 断じて疚しい事はしてません。

 グレイが寝ている間に魔導具を造ってただけです。マジで。ズボンのベルトに手をかけた音だと思った奴、死のルーンで殺ry────

 

 あとは赤のバーサーカーが来るから、それに合わせて俺達は移動したと言う事くらい。因みにグレイの寝顔は可愛かったですありがとうございました。

 

 

 

 ★★★

 

 

 カウレスが話した情報通り、戦いは既に始まっている。

 黒のランサー達はバーサーカーを確保したらしい。そこまでは良かった。だが……

 

 

「おいなんかデジャヴ!」

 

 

 俺は軽くゴーレムから逃げていた。

 と言うか警報のゴーレム、俺達を味方に設定してないじゃねえか。一々触れて乗っ取りするのが面倒だった。いやまあ全部壊さずに無力化したよ? 面倒だったけど。大事なので二回言いました。

 

 無効化した後軽く息を切らしながらも身を潜めながら、ちょっと悪いけど霊体化してもらっているグレイに話しかける。

 

 

「よし……アサシン、作戦を伝えるよ」

「はい、マスター」

 

 

 黒のランサー達については問題ない。

 だが黒のバーサーカーとセイバーについては中々に苦戦を強いられている。感知した魔力の衝突を肌で感じながら、俺は遠視の魔術を使って2キロ先から覗いているから分かるが、2人はどうやら赤のライダーと相性が悪いようだ。

 

 見た感じ黒のセイバーとバーサーカーが赤のライダーを仕留めに行ってるのと、そのやや後ろに赤のアーチャーことアタランテが居た事は分かったが、此方には気付いていない。

 

 

「アサシン、このルーンストーンを前に言った形になるように設置してきて、出来れば気付かれないようにお願い。それが終わったら念話で伝えて待機、合図があり次第戦闘になるから。出来るかい?」

「はい、やってみます」

 

 

 当然、今回ばかりは勝ちに来た。

 逃げる戦術は多いのだが、獅子刧さんと契約し、()()()()を進める為にもサーヴァントはある程度削っておきたい。

 

 後半になれば『天秤』が十全に働くし、死ぬ可能性が高い戦場に足を踏み入れる理由も、ぶっちゃけて言えば黒の陣営に取り入る事が一番安全なのだが、俺の家も中々権力者としてはデカいのが理由なのか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()もなくはない。

 

 まあ生きられれば万々歳なのは否定しないのだが、黒の陣営も中々に危ない気もするし、かと言って獅子刧さんと連絡したやりとりでは何と赤の陣営はキナ臭いらしい。

 

 と言うかアサシンがセミラミスと言う時点でもう相当ヤバいだろ。アシッシアの女帝で毒を巧みに使い毒殺し、女帝に君臨した後に自分の庭園を作り上げ、最後は鳩となって飛び去ったとか言う結構有名な英雄。「あっ、共闘は危険、てか無理」と赤のセイバー、叛逆の騎士()()()()()()が告げるくらいだ。

 

 今の所、カウレスにも確認したが赤の陣営のランサーは別格らしい。とりあえず教えてもらったのは赤の陣営の情報だけだが、今のライダーと言い、カウレスの言う赤のランサーと言い、赤の陣営は黒の陣営より強い可能性が高い。

 

 赤の陣営で判明しているサーヴァントはもう聞いただけで神性持ちが二騎も居る時点でもう相当ヤバいだろう。神様本当にロクな仕事しないな。

 

 

「まあいい、終わったら考えればいいだけの話だ」

『マスター、準備が終わりました。霊体化していたので敵にも気付かれていません』

「ありがとう。少し悪いけど霊体化したまま待機。頼むよ」

『はい』

 

 

 俺はユグドミレニアに仕掛けられた結界を軽くハッキングして、セイバーとバーサーカーに一方的とは言え念話で伝える。対魔力で伝わらないのでは? いいや伝わるのさ。

 

 今使ってるのは魔術じゃなく()()だからだ。呪術は得意ではないが、使えなくない。そもそも呪術は対魔力関係なく、超自然現象を肉体を改造して生み出すと言うものだ。魔術で火を生み出すではなく、火を生み出せる体に作り替える的なもので魔術じゃない。

 

 俺の呪いは五寸釘の人形の原理に近い。

 流石に遠距離から相手を呪い殺すなんて事は出来ないが、痛みや心情、恨み言を伝えると言った事はある程度可能だ。

 

 俺の場合、ユグドミレニアに張られた結界を連動して指定した自分の領域内に踏み込んでいるユグドミレニアの味方に対して発動している。赤のアーチャー、ライダーには聞こえないように、尚且つ呪術を仕掛けた事に気付かれない遠距離で言葉を届けるのって地味に大変だ。

 

 

『あー、聞こえるか黒のセイバー、バーサーカー』

「…………っ!?」

『俺はアサシンのマスターだ。今から遠距離にいるアーチャーを仕留めに行く、ライダーを止めてアーチャーの手助けをさせないように頼む。あとはアドリブで対応してくれ』

 

 

 セイバーは直ぐに動揺を直してライダーに向き合う。

 微かに頭を動かしてくれたから肯定してくれたのだろう。バーサーカーは「ウウゥ」と唸るようだがアレ同意でいいんじゃね? いいよね多分。

 

 

「よし、始めるか」

 

 

 自身にも隠密のルーンと強化のルーンを刻む。

 グレイが特定の場所に規則的に置いてくれたルーンストーンのおかげで此方の準備は整った。ルーンストーンを握り締めて詠唱を開始する。

 

 

「──接続(セット) 第一陣(アルギス) 第二陣(トゥール) 第三陣(ラグス) 第四陣(ハガラズ)

 

 

 自分の持つルーンストーンに呼応して、グレイが四方に配置してくれたおかげで、()()()()()は完成した。後は俺の機転と隙を上手く作り、どちらか一体を倒せるかどうかだ。

 

 

「行くか」

 

 

 奇襲で倒せれば万々歳だが、相手は英雄だ。そうはいかないだろう。だから、俺はギリギリ死なない程度の作戦を組み立て、一瞬の隙を狙って、女神の槍でアタランテに襲い掛かった。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「姐さん後ろだ!!」

「っっ!?」

 

 

 突如、背後から襲い掛かってきたあの時のマスターが槍を持って自分に襲い掛かったのを見て、一瞬驚愕しながらもその一撃を躱し、別の木々の上に着地する前に矢を放っていた。

 

 焦っても対象が早く、正確なのはアタランテの技量と言うべきだろう。意にも返していない。

 

 

「チッ──退去(エイワズ)!」

 

 

 身体に刺さる前にルーンを刻むクイナ。

 退去のルーンを使って放たれた矢を分解する様に消滅させる。退去(エイワズ)のルーンは生じた歪みを元に戻す力がある為、魔力という異能から発せられた歪みは消える。つまり矢を消すのは難しくない。

 

 

「貴様は……!」

「お久しぶりアーチャー。いや1日ぶりか。借りを返しにきたぜ」

 

 

 矢を消した事に若干驚きながらも、再び弓矢を構えるアタランテ。女神の槍を構えながら、木々の上に立つクイナはアタランテを見据えている。

 今のクイナは『天秤』を使ってアタランテの動きを予測している為、ある程度の対処が可能だが、サーヴァントと人間ではその対処は長くは保たない。

 

 

「まさかマスター自身が前線に参戦するとはな。私も予想外だ」

「でしょうね。俺も驚いてるわ」

「汝が私に勝てるとでも? と言うよりサーヴァントは何処に行った?」

 

 

 率直な疑問をアタランテはぶつけてくる。

 あの時、召喚したサーヴァントがどこに潜んでいるのか気になるが、油断をしている訳ではない。だが、クイナは疑問に思いながらもアタランテに聞き返した。

 

 

「あっ? 何言ってやがる、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「何……? いや、()()()()()()。とは言えマスターならサーヴァントに力を貸す程度だが、サーヴァントの役割をするとは正気の沙汰ではないな」

「ああ、俺もそう思う。セイバー、さっさとライダーなんて倒しちまえよ!」

 

 

 野次を飛ばすようにクイナが黒のセイバーに叫ぶ。アタランテは苦い顔をしながら弓矢をクイナに向ける。

 

 此処で疑問に思ったライダーがアタランテに叫び出す。

 

 

「姐さん! アンタ何言ってんだ!?」

「はっ? 小僧、どういう意味だ?」

「確かアンタが言ってたそこのマスターのサーヴァントって──」

 

 

 アタランテは首を軽く傾げながらその意味を聞く。ライダーに伝えられていたサーヴァントは灰色のローブを着た女だった筈だ。ならば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その認識の齟齬にライダーも困惑した。

 

 どうやらクイナが仕掛けた魔術はアタランテより高い対魔力を持つライダーには聞かなかったようだがもう遅い。

 

 

()()()()!! 令呪を以って命ずる!」

「「っっ!?」」

 

 

 その瞬間、ライダーが黒のセイバーの方を向く。

 だが、ライダーもアタランテもその言葉に気を取られ、セイバーを警戒している。あれ? なんかマジで宝具使おうとしてない? 

 

 

「宝具か! 面白い! やってみるがいい!!」

 

 

 しかし……それは(ブラフ)だ。

『天秤』が二割完成した中で、アーチャーの性格は大体掌握していた故の一瞬の隙、それを逃すつもりはない。

 

 

「一撃で仕留めろ()()()()!!」

 

 

 令呪が消えると同時に()()()()()()()()()()()()し、鎌状の武器で狙いを定めたグレイが転移された。

 

 

「なっ……! しまっ──!」

「遅い!!」

 

 

 ザシュ!! とグレイの鎌がアタランテに入った。

 アタランテが矢を放つより先にグレイの鎌がアタランテの胴体を斬り裂いていた。胸から腰にかけて深い斬撃を負わせたが、一瞬後ろに飛んで胴体が斬り離されるだけは避けたのだろう。

 

 あの一瞬でその対応は見事と言わざる得ないが、グレイの鎌がそれだけ斬り裂いたならもう詰み(チェックメイト)だ。

 

 

「がっ、がああああああああああっっ!!?」

「姐さん!?」

「セイバー、バーサーカー!!」

 

 

 グレイの第一段階のアッド、正確に言えばアトラス院の七大兵器の一つのコピー『ロゴスリアクト・レプリカ』は封印礼装と同時に、()()()()()()()()が備わっている。サーヴァントと言えど、魔力と神秘を濃縮しただけの死霊に変わりはない為、グレイの宝具はそう言う意味では()()()()()()()宝具でもある。

 

 そして俺が設置したルーンストーンの結界の効果は『忘却』『認識阻害』を織り込んだ結界だ。

 一工程(シングルアクション)の魔術は対魔力Dのアタランテには弾かれてしまうが、二工程(ダブルアクション)や連動型の魔術は防げない。

 

 用途は人払いの結界に似ているが、()()()『忘却』のルーンによる効果は『()()()()()』が起きる程、強力だ。

 

 そして『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』為に張った結界はアタランテには効果抜群だったようだ。

 

 アタランテの傷は大分深く、霊基にまで届いている為、捕食された魔力は尋常じゃないだろう。ライダーが助けようとするが、セイバーとバーサーカーはそれを遮る。

 

 

「っ! 退きやがれっ!!」

「行かすつもりはない!」

「ヴアアアアアアッ!!!」

 

 

 ライダーはセイバー達を薙ぎ払ってアタランテの救出に駆け出すが、阻まれ遮られるライダー。アタランテは瀕死のまま膝をついて、自分から流れる血を止めようとしている。

 

 

「イッヒッヒッヒッヒッヒ! 最高だな! 堪らないな!!」

「アサシン! 追撃!」

「はい!」

 

 

 トドメを刺そうとグレイは追撃をする。

 しかし、後ろからライダーの指笛が鳴ったのを聞いた瞬間、天から地面を駆ける戦車(チャリオット)がグレイを襲う。

 

 

「くっ……!?」

「クサントス!! 姐さんを連れていけ!」

「っっ! 逃すなっ!!」

 

 

 戦車の突貫を身体を捻ってギリギリ躱すグレイ。

 避けれたはいいが、アタランテにトドメを刺す前に戦車はアタランテの元へ到達されてしまった。

 鎌のアッドでアタランテに迫るグレイと女神の槍を持ち、駆けるクイナ。だが神獣クサントスは瀕死のアタランテを戦車に乗せて、三体の馬は走り出し、空へ駆けていく。

 

 

「クソッ!!」

「今回は退く──っ!? ガッ……!?」

 

 

 ライダーも退散しようとしたその瞬間、自分の肩を矢で撃ち抜かれた。神性を持つライダーの身体を傷つける事が出来るのは、神性を持ったサーヴァントにしかできない。つまり、神性を持っているアーチャーの矢、黒のアーチャーの援護だ。

 

 

「くそがっ! アーチャー、邪魔しやがって!!」

 

 

 ライダーが戦車に乗り込もうとするが先を読まれたように矢を放たれ、戦車に乗る事が出来ないライダー。この身体に傷を負わせる英雄とならば戦いたいといつもは思うが、今は鬱陶しくて仕方ない。

 

 

「…………小……僧……!」

「姐さん! アンタ無事なのか!? 待ってろ!! 今振り切ってアイツ(アサシン)の所へ!!」

「アサシン……のマスターに……黒の……アーチャーよ……!」

 

 

 アーチャーが瀕死の状態で戦車に立ち、矢の二本を弓を天に構える。

 

 

「っっ!? 姐さん、止めろ!!」

 

 

 ライダーは叫ぶがアタランテは止まらない。

 その状態でソレを放てば、アーチャーは消滅するが、ライダーの一瞬の逃走の隙さえ稼げれば、瀕死の自分にも使い所はある。

 

 

「避けねば……死ぬぞ……!」

「っっ! しまっ、アサシン宝具で……!」

「二大神に……奉る……!」

 

 

 その瞬間、ライダーは跳躍し戦車に乗り込む。

 アタランテの宝具が放たれる前にクイナがグレイに命じようとしたがもう遅い。先程とは逆にアタランテの宝具は放たれた。

 

 

訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)!!」

 

 

 アタランテが女神アルテミスから授けられた『天穹の弓』で雲より高い天へと二本の矢を撃ち放ち、太陽神アポロンと月女神アルテミスへの加護を訴えることで、矢の豪雨を降らせる。

 

 この領地にそんなものが撃ち込まれたら、今居る俺やグレイ、セイバーにバーサーカーだけじゃなく、森に居るキャスターやライダー、ランサーにまで被害が及ぶ。

 

 城から構えていたアーチャーも降り注ぐ矢の豪雨の全てを撃ち落とす事は出来ないと考え、ライダーの攻撃を止め、降り注ぐ矢の豪雨で自分達に致命傷が遭いそうな矢を撃ち落とし始める。

 

 

「っっ! この雪辱、覚えておけアサシンのマスターよ!」

 

 

 ライダーは消えていくアタランテを抱えて、その矢の範囲から逃げるように戦車(チャリオット)を走らせ、天の彼方に消えていくが、此方はそれどころじゃない。

 

 天から降り注ぐ矢の豪雨。

 宝具である以上、ルーンの護りなんて大して防げないだろう。それにグレイの聖槍を放つには間に合わない。

 

 

「セイバー! バーサーカー! 撃ち落とすか防ぐ手段は!?」

「ヴヴゥ!!」

 

 

 バーサーカーは首を振った。

 どうやら無いようだ。めっちゃ分かりやすいなおい! いや令呪を使えば宝具時間を短縮出来るか? だが多分、それでも足りない! 

 

 

「俺に任せてくれ」

「っ! セイバー!?」

「助かったぞアサシンのマスター。だから今回は俺の番、と言う訳だ」

 

 

 大剣の持ち手を捻ると剣からは大量の魔力、真エーテルが天へと溢れ出した。その魔力は対人宝具の粋じゃない。対軍宝具の魔力量に思わず目を見開く。

 

 

「邪悪なる竜は失墜し、世界は今落陽に至る! 」

 

 

 セイバーが高く跳躍し、その真名を解放する。

 

 

「撃ち落とせ──!

── 幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

 

 セイバーの叫びと共に放たれる斬撃。

 その真エーテルを纏いながら放たれた斬撃により、光り輝きながら降り注ぐ矢の豪雨は全て斬り落とされた。

 

 

 

「うわマジかっ、セイバーってまさか竜殺しのジークフリートかよ!?」

 

 

 大英雄ジークフリート

 北欧神話、ドイツの英雄叙事詩『ニーベルンゲンの歌』の竜殺し、邪竜討伐を以て不死と化した大英雄。最後は背中の不死ではない僅かな部分を貫かれ暗殺されたと言う。

 

 

「大丈夫か? アサシンにそのマスターよ」

「まあな。作戦通りに事が進んでくれたおかげで怪我も無しだ。まあ出来れば焦ってたライダーも仕留めたかったが、結果は上々と言った所じゃないか? てかさっきブラフに合わせて宝具使おうとしなかった?」

「アレはマスターの令呪だ。キャンセルで二画は使われてしまったが……」

 

 

 はっ? 馬鹿じゃねえの、そのマスター。

 俺のブラフに合わせてくれたなら有難いが、令呪を使うタイミングを完全に誤っただろ。いや俺からしたら有難いのだが……

 

 

「済まない、マスターの指示があった。俺はマスターの所に向かう」

「あっ、おい!」

 

 

 そう言ってセイバーは別の方向へ走り去っていった。

 用件を何も伝えずに行ってしまったセイバーにため息をつきながら肩を落とす。

 

 

「行っちゃいましたね……」

「ヴヴゥ」

「しゃーない。追うぞアサシン。バーサーカーはどうすんだ? 一回マスターの所に戻る?」

「ヴヴゥゥ」

 

 

 コクリと頷いた。

 成る程、会話は出来ないが意思疎通は不可能じゃないのね。分かりやすくて助かるよ。

 

 ともかく、俺とグレイはセイバーが向かった方向に走り始めた。

 

 



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大英雄が託そうとしたもの

 亜種聖杯戦争って五騎だけだったのを知らずに訂正しました。『桜ナメコ』さん、ありがとうございました。

 大学の通信授業が始まり、投稿が遅れました!!ちょっとペース落ちるかもしれませんがよろしくお願いします!

 良かったら感想、評価よろしくお願いします!では行こう!!


 

 前回の振り返りをしよう。

 

 

 アーチャーをグレイが倒した。

 おしまい!以上!それ以外!グレイが可愛かったから言う事無ぁし!!

 

 

 

 ★★★

 

 

 

「……はっ! なんか回想が雑だった気がする!」

「……何を言ってるんですか?」

 

 

 前回、然程シリアスが足りなかったと呟く。アレだ。オチが無い的なアレだ。……冷静になると何を言ってんだ俺。

 

 今2人はセイバーを追っているのだ。

 強化なしで走るクイナに並走するグレイ。改めて見るとサーヴァントってやっぱり凄いよな。常人の数十倍の力を有しているってのは知っていたが……改めて再認識する。

 

 

「あの……拙がマスターを抱えていった方が……」

「いやなんかそれは恥ずい」

 

 

 サーヴァント、英霊として現界したとは言え同い年の女の子におんぶかお姫様抱っこってなんか恥ずかしい。逆の構図ならまだしも、女の子にフランクに話せるとは言え密着するのはちょっと心に余裕が無くなるし。

 

 そう、グレイは美少女だ。

 だからこそ、だからこそ普通逆じゃね!?と叫びたいが今のグレイはサーヴァント、命じれば行動してくれるからと言って変な事命令したら先生(過保護)とライネス(悪魔)から殺されそうなので却下。

 

 揶揄いはするが基本的に平穏に明け暮れていたらの話だ。平穏からかけ離れた真っ只中で殺されたくはない。いや、むしろ平穏を望んでいるのに首突っ込んでない俺?今更だけど?

 

 まあ美少女に密着出来る余裕はない。てか知り合いなら尚更だ。

 

 

「いや待てよ? グレイがアーサー王の現し身なら無くはない? でも騎士王としてならあり得てもグレイは騎士って訳じゃないし……いや、でもサーヴァントという立場なら……アリあのか?」

「あの……運びましょうか?」

「やっぱ無しでお願いします」

 

 

 おい、今ヘタレとか言った奴、前に出やがれ。

 

 

 ────────────────────

 

 

 気絶したマスターとそこに立つセイバー。

 小さな身体は鋼鉄のような拳で殴られ、命が終えようとしているホムンクルスを抱えていた。

 

 

「どうして、もっと早く決断しなかった! 止められたはずだ! 君なら、あの馬鹿を止めることができただろう!」

 

 

 黒のライダーが涙を流しながらセイバーを責めた。

 ライダーはホムンクルスの傍らに膝を突き、その手を握り締めている。ホムンクルスは今にも死んでしまいそうで、もはや、一刻の猶予もない。すぐに、然るべき処置を施す必要がある。

 

 だが、そのためには魔術師に助力を請わねばならない。それは、できないのだ。ライダーはその魔術師からホムンクルスを救うためにここまで逃れてきたのだから。

 

 

「すまない」

 

 

 セイバーはライダーとホムンクルスに謝るしかできなかった。だがその言葉にライダーは激昂する。

 

 

「すまないで済むか! こんな……彼は必死に生きようとしただけなんだぞ! ボクたちはソウルイーターで、人殺しで、ただのサーヴァントかもしれないけど、でも……生きようという意思を、尊重することすらもできないなんて……」

 

 

 その嘆きをぶつけてホムンクルスを見つめるセイバーに近づくサーヴァントの姿があった。金髪で旗を持ち、普通のサーヴァントとは違う存在……

 

 

「黒のセイバー」

「……ルーラーか」

「ルーラー?」

 

 

 ライダーはよく分からないまま聞き返すが、セイバーは眼を閉じて自分の贖罪を告げる。

 

 

「俺は、また道を踏み外してしまった。目の前の俺に願わぬ、誰かを見捨てようとしていた。自分で考えようとせず、誰かに選択を委ねようとした」

「一体何を……」

「ともすれば非業な運命を背負わせるかもしれない。だがそれでも、彼に捧げるべきモノがある」

「っっ! 待ちなさい!! 待ちなさい、ダメッ!!」

 

 

 セイバーは自分の手を胸に力強く食い込ませようとした。

 自分の迷いのために、生きようと願う一つの命が失われようとしている。ならば、その責は己の命で贖うべきだ。それがセイバーのやるべき事だった。

 

 だが……

 

 

「ストッープ!! ちょ、ちょっと待ったあああああああ!!?」

 

 

 

 そこに居たのは食い込ませようとしたセイバーの右腕を掴んで止め、息切れしながら叫び、咽せているクイナの姿だった。

 

 

 

 ★★★

 

 

 遠見の魔術でセイバーの行先を覗いていたら突如心臓を抉り出そうとしてギョッとした。強化の魔術をかけて超全力で走って止めた。

 

 いやあああああ!どう見ても自害寸前ですありがとうございました! 『御帰り()』は彼方になりま……ってちょっと待てコラアアアアアアアアアアアア!!? 

 

 ちょっと心臓を抉り取るなんてちょっと心臓に悪い事をしようとしたらマジちょっと罪滅ぼしになるとかちょっと心臓と胃が痛くなるので無理でした! グロ無理!! 

 

 

「ゲホッ! ゲホッ! ヴァー、間に合ったあっぶなっ!! 何この状況、セイバー今死のうとしなかったか?」

「だ、大丈夫ですか? マスター」

 

 

 遅れてやってきたグレイが背中を摩ってくれた。

 昼間に食べたご飯がもんじゃになって出てくる事になったかもしれない。割とガチで。マジでありがとう。

 

 

「き、君は?」

「げほっ…、ハァ、ハァ、アサシンのマスターだよ。お前はランサー……いや、ライダーか?」

「き、君魔術師だよね! だったらさ、この子を見てやってくれないか!?」

「はっ? この子……まあ分かったけど、説明しろよ?」

 

 

 ライダーが抱えている小さな子供に軽く触れて治癒の魔術を施すが、残念ながら臓器が潰れている。と言うか硬い物で殴られたような……もしかしてそこに寝ている魔術師か?

 

 詳しく調べてみると肺の片方は潰れ、呼吸もままならず、骨も幾らか砕けてしまっている。原初のルーンでさえ、治癒が困難だ。

 

 

「悪い……かなり厳しい状態だ。人間とは違って、多分この子はホムンクルスなんだろ? 人体理解していれば難しくはないけど、明らかに造り方が分からないこの子に治癒のルーンで治せるのは砕けた骨程度だ」

「そんな……」

「セイバー、ライダー、説明してくれ。この子は一体何だ?」

 

 

 ライダーは少し伝えたくなさそうな顔をしていたが、それでも話した。このホムンクルスはどうやら魔術師として一流の魔術回路を有してしまいキャスターの宝具の炉心に使う為に黒の陣営が捕らえようとしていたが、ライダーが逃す為に動いたらしい。

 

 うーん。まあそう言う事か。

 

 

「成る程ね……キャスターの宝具の炉心としてこの子が……んで、ライダーは逃そうとした訳か」

「う、うん。あっ、君でもこの子は渡さない! あの場所に戻すくらいならボクは君を倒してでも!!」

 

 

 槍を向けるライダーにグレイも黙っていられずに構える。だが、クイナはグレイを右手で制しながらも落ち着かせ、ため息をつきながらも、ライダーに対して質問する。

 

 

「まあ待てよ。ライダー、この子を逃すと言う事は黒の陣営の損失なんだろ? ──それでも、助けたいか?」

「うん、僕は彼の願いを尊重しただけさ! 目の前の子供1人救えないならボクは英雄になんかなってないからね!」

「──セイバー、お前も同意見か?」

「ああ」

 

 

 眼を細め、真剣な眼差しでクイナは聞いた。

 大英雄がまさか頼まれなかった人間、目の前に居る人間を救う事だとは思わなかったが、心臓を抉り出そうとしたのでそう言う事なのだろう。

 

「聖杯に託す願いと同じくらい、この子を救いたいと望むか?」

「ああ、そうだ。だから俺は彼に──」

「だったら尚更、お前が死ぬべきじゃないだろ馬鹿」

「!」

 

 

 何を勘違いしているのか知らないが、今後如何なるか分からない以上、まだセイバーを死なせるつもりはない。そもそも、赤の陣営を減らした中で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、無駄にサーヴァントを切るのは愚作だ。

 

 てか何? 救う為に心臓を抉り出して心臓を埋め込むつもりだったの? そりゃねえよ流石に。

 

 

「お前が死んだら、それこそお前がそこのマスターはどうなんだ。子供を殴った最低な奴でも、俺はお前の英雄としての高潔さを知った以上、尚更死なせるつもりはないぞ」

「だが、それでその子が死ぬなら……俺の判断のせいで、死なせてしまうのは耐えられない」

「だから命を捧げてでもこの子を助けたい……か?」

「ああ」

 

 

 クイナはため息をつきながら金髪のサーヴァントを見る。見た感じサーヴァントなのは間違い無いのだが、何というか……在り方が()()()()()()()()()()()()()()()()のは気のせいって訳じゃないだろう。

 

 

「──アンタは? 見た感じサーヴァントだろ? クラスは分からんけど?」

「私はルーラー、聖杯戦争の監督役のような立場です」

「あっ、マジ? そんなクラスあるんだ? んじゃルーラー、質問するが聖杯戦争に関係ない人を保護出来るか?」

「はっ? ……はい、可能ではありますけど」

 

 

 成る程、それは良かった。

 一応、このサーヴァントは良心的なタイプだ。グレイに少し似ているが、多分アレだ、お母さん的なタイプなのだろう。言ったら怒られそうだから言わないけど。

 

 

「──それが仮に黒の陣営と敵対してもか?」

「問題はありません。私は一般人を巻き込まない為に召喚されたようなものですから」

 

 

 何それそんなクラスあるんだ。

 ルーラー、別の意味では調律者、聖杯戦争を監督するサーヴァントねぇ? と言う事は、サーヴァントに対して何かと有利な能力があるのだろう。まあ、毅然としているし問題ないだろう。多分。

 

 と言うか、そんなクラスがあるならあの時の亜種聖杯戦争に召喚されて欲しかった(切実)

 

 

「分かった。此処に居る全員、悪いが企業秘密で頼む。今からやるのは魔術師にバレたら不味いからな」

 

 

 バレたら封印指定どころではない。

 幾多の魔術師に命を狙われる状況になってしまうが、今切れるカードで出来るなら、多少の覚悟は必要だ。魔術回路全てを全フル稼働し、詠唱を紡いでいく。

 

 

「──If I have a golden cup in my hand(我が手に黄金の杯あり)and I am the magician who holds the cup of(我が身は神の杯を正しく扱う者)God in it answer my call(彼方にて我が呼び声に応えよ)!」

 

 

 長い詠唱を得て右手に光が収束していく。

 亜種聖杯戦争から封印を開ける事は永遠に無いと思っていたが、まさかこんな早くその約定が崩れるとは思わなかった。

 

 

「なっ……!」

「へっ? な、何でそんなものが!?」

「…………っ!?」

「クイナさん!?」

 

 

 右手に収束した光がやがて形と為している。

 そこにあったのは亜種聖杯戦争の勝利品。震えながらもルーラーがその手に持つ物の名を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

「…………聖……杯……?」

 

 

 クイナがランサーと共に手にした戦利品。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 



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さて、お前ならどちらを取る?



投稿遅れました。
大学の課題とか課題とか宇津見エリセとか!!

色々大変だったんですよ!!(血涙)

今回グレイちゃんほぼ空気です。それでも良ければ感想、評価お願いいたします!!では行こう!!




 

 

 

 

 前回の振り返りをしよう。

 

 

「ストッープ!! ちょ、ちょっと待ったあああああああ!!?」

 

 

 自害しようとした大英雄を止め、軽くもんじゃを吐きそうになった。その後、神の亜種聖杯を取り出した。さらっと出したけど、かなり大変だった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「なっ……!」

「へっ? な、何でそんなもの持ってんの!?」

「話は後でする。ライダー、その子供を横にしてくれ」

「う、うん! 分かった!」

 

 

 そのホムンクルスを横にして聖杯の中の澄んだ魔力を傾ける。聖杯の無色の魔力がホムンクルスの口へと注がれていく。中身が少し減ったのを見計らって、聖杯を傾けるのをやめた。

 

 ホムンクルスの身体が光り出した。小さくか細い身体がまるで長い年月を得たかのように成長していく。

 

 光が収まると身体は成長され青年くらいの大きさで止まっていた。

 

 

「……成る程な。アインツベルンの生み出す聖杯とは全く別、無色の魔力の器が無ければ器となる外面が強化されるようになるのか」

「う、動いてる! 生きてる! 良かったああああああああっ!!」

「ライダーちょっと退いてくれ。身体の方を軽く調べる」

 

 

 泣きつくライダーにため息をつきながら、調べようとするがライダーが退かないのでグレイがライダーを引き離してくれた。首元や心臓部に軽く触れて身体機能が正常か調べるが、異常は特にない。

 

 

「うん。問題ないな」

 

 

 意識はあるか? と頬を軽くペチペチしているとホムンクルスの少年は目を覚ました。目を覚ました瞬間、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「……俺は……どうなって…………」

「まあとりあえず、無事復活? 外面的、つまりホムンクルスとしての機能が強まったから身体機能が普通の人間よりに戻ったみたいな感じかな」

 

 

 アインツベルンの聖杯を生み出す技術は俺も知っている。

 てか流出したから亜種聖杯戦争なんてものが起きたからだ。アインツベルンの聖杯は器に英雄の魂を注ぎ、英雄の魂から抽出した力で根源の孔が開かれ、そこから溢れ出た無色の魔力がどんな願いも叶える聖杯となる。

 

 このホムンクルスも多分アインツベルンから流出した技術によって生み出されたのだろう。聖杯の器として製造はされていないが器になる資格がある。だから聖杯の魔力で器そのものを生み出す事に成功したと言う事だ。器の大成に伴って身体機能は人間と同等になったと考えるべきか。

 

 

「アサシンのマスターよ」

「ん?」

「……すまない、俺の願いの為に君の力を借りることになってしまって」

「そこはすまないじゃなくてお礼の方が何倍もポイント高いんだぜ? 因みに100ポイント貯まると願いが叶うとじっちゃんが言ってた」

「……ああ、そうなのか。──ありがとう、この子供を救ってくれて」

「いやそこはツッコめよ。どういたしまして。……っと、来たか」

 

 

 どうやら、黒の陣営が全員集合のようだ。

 うわっ、凄い壮観だな。歴代の英雄達がこの場に集結するのは滅多に目にかかれない。そして魔術師、ダーニック・プレストーン・ユグドミレニアを始めとする魔術師達、カウレスやその姉、ライダーのマスターも顔だけ知っている。

 

 

「凄い壮観だな。サーヴァント七騎がここに揃うって普通の聖杯戦争なら絶対あり得ないけど、こうして見ると凄いと思わないか? アサシン」

「はい。確かに……そう思いますけど」

「君がクイナ・バルハルクとアサシンか」

「話が早くて助かるよ。そう! 俺は時計塔でちょっと有名な問題児、問題児コンビのフラットと一緒にロードに胃痛を与える事でプチ有名なクイナ・バルハルクとは俺の事さ!!」

「いや威張る所じゃないだろ……」

 

 

 カウレスがげんなりした顔で突っ込む。

 だが、ダーニックは無表情のまま倒れているセイバーのマスターとライダーの背後に隠したホムンクルスを見据える。

 

 

「ライダー、セイバー、何があった。そしてそこのサーヴァントは何者だ?」

「私はルーラー、此度の聖杯戦争の裁定を行う者です」

「まっ、そうだな。此処からは俺が説明しようかね。今さっきまで起きた出来事を」

 

 

 俺は聖杯の事を伏せて全て説明した。

 ライダーはホムンクルスを逃がそうとして、セイバー達に見つかりホムンクルスを捕らえようと重傷を負わせ、そこにやってきた俺達がそのホムンクルスを治癒していたと言う事を話した。

 

 

「ダーニック、このホムンクルスは炉心として有用だ」

「ライダー、セイバー、彼を引き渡せ」

「「断る」」

「くだらぬ事で令呪を使わせるな。ならばクイナ・バルハルクにアサシンよ。彼を引き渡してもらえるか。君達ならそのホムンクルスの有用性に気付く筈だ」

 

 

 キャスターの炉心にあたる魔術師。

 まあキャスターの真名を看破した時点で予想はしていたがやはりそうか。

 

 

「ライダーから聞いたよ。キャスターの宝具に必要ってな」

「その通り、だからこそ彼は此方の陣営に大きな役割を担える。君なら理解出来る筈だ。そのホムンクルスがどれだけ重要な役割を担えるのか」

「ホムンクルスを引き渡せば、勝率が上がる」

「ああそうだ。だから──」

 

 

()()()()

 

 

 その言葉にダーニックは「……はっ?」とポカンとした顔で硬直していた。他のサーヴァントも誰もがその言葉に

 

 

「このクイナ・バルハルクの最も好きな事の一つは、自分より強いと思っている奴にNOと断ってやる事だ!!!」

 

 

 ババン! と効果音が付くくらい、いっそ清々しい程に言い切ったクイナに誰もが固まっていた。ルーラーどころかグレイまで硬直している。ライダーの腹筋が崩壊した。ウケる。

 

 

「っしゃ! 一度は言ってみたかったランキングベスト3を言えるとは幸先がいい! ……とまあ今言った通り、俺の答えはNOだ。俺は彼を引き渡さない」

「何を馬鹿な……魔術師であるならば理解出来ない筈が無い事を、断ると言うのか!?」

「ああ、何せ大英雄達の頼みであり、願いであるからな。悪いが俺はその願いを尊重したに過ぎん」

 

 

 ほう、とランサーは納得したように呟く。

 乗馬しているとは言え、このサーヴァントは王の風格があるな。多分、この場所では絶対勝てない。理由と言うか勘がゾクゾクッと来てる。そう言う奴に限って勝率が低いのだ。

 

 

「アサシンのマスターよ。君は何故大英雄の願いに手を貸した?」

「んなもん、理屈なんてねーってのは魔術師らしくないな。うん。理屈があるとするなら、ライダーは彼を逃がそうとした、セイバーはマスターよりも彼を優先した、ルーラーは彼の魂を守ろうとした、俺はそうだな……まあ……何なんだろうな?」

「結構自信無さ気だねっ!? 普通に彼の意志を尊重したでいいんじゃない!?」

 

 

 なるほど、ライダー頭良いな。

 自信なさげな様子にルーラーは少し呆れ顔だが、無視する。まあ助けた人でいいんじゃないかな? アレ? 俺多分、命の恩人だよな? なんでそんなに視線が冷たいの? 

 

 

「んじゃそれで、俺は英雄じゃないけど、それでも人類史を生きた英雄達が守りたいと思ったのが彼だぜ? 俺はそれに乗っかった。要するに自己満足だな」

「自己満足で黒の陣営に損失を生むと言うのか?」

「そうだな。けど、それの何が悪いんだ? 他人の足引っ張る事か? それともキャスターの宝具を揃えられない事か? んなもん知らん。我が道を行くのが英雄なんだろ? ライダー然り、セイバー然り、願いは自分が進んだ道の先にあるものだ。なら俺はそれを信じただけさ」

 

 

 セイバーもライダーもその言葉に少しだけ笑った。

 英雄として、認めてくれているからこそ信じて助けてくれている目の前の魔術師に少し尊敬する。ルーラーも少しだけ驚いた表情をしている。英雄と魔術師は全く違う。在り方が自己的な魔術師と他人を優先する高潔さを持つ英雄では決して理解し合う事は難しい。

 

 それを踏まえて、なお信じているクイナ。

 グレイはクイナの隣に立ち、ランサー達を見据える。

 

 

「そして、それを奪おうって言うなら是非も無い。ルーラーも含め四騎対四騎だ。黒の陣営で争うかダーニック? まさかお前がサーヴァントを使い魔と称して、願いを踏みにじるなんて真似をする筈が無いよな?」

「っっ!!」

 

 

 この言葉はダーニックに特に響いた。

 ランサーであるヴラド三世は高潔で寛大な王だ。それを使い魔と称した時点で良好だった関係は一瞬にして崩れ去る。まだ序盤だ。そんな中で黒の陣営同士で殺し合いでもすれば聖杯を護る手は一気に失う。ユグドミレニアは魔術協会から離反したのだ。今更後戻りは出来ない。

 

 

「余のマスターを脅すか?」

「おっと、それは悪い。気に障ったなら謝罪しよう。なら交換条件だ」

「何?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()。セイバー、ライダー、アサシンの情報を引き換えに彼を見逃しちゃくれませんかね? ()()?」

「何っ!?」

 

 

 クイナの一言はダーニックには到底聞き逃せなかった。

 ランサーを王様と見抜いた。まだサーヴァントの真名は明かしていない。にも関わらず、ランサーを王様と言った。

 

 

「……ほう? だが、その情報の信憑性は?」

「黒のキャスターの真名はアヴィケブロン」

「「「っっ!?」」」

「ゴーレムに仕組まれた魔術はカバラを用いた数秘術、ゴーレムの意味は楽園の使者、元々カバラはセフィロトの樹、人界と天界の魂の階級を示す身分階級表の中の一つ、王冠(ケテル)より来てる意味合い、炉心となる人間はある意味、人を楽園の使者に引き上げる術式、楽園の使者を生み出す意味はエデンの創造、故にキャスターの宝具はゴーレムの中で最上級の、天使や神の意味合いを与えて生み出す楽園の使者」

 

 

 アヴィケブロンはあくまで苦しむ民を救いたかったユダヤ教の信者だ。ゴーレムと言う存在は人が生み出す負や悪意が取り除かれた完璧な存在、セフィロトの樹における天使や悪魔、身分階級表を示したものにあたる。

 

 俺の魔術ではゴーレムを作れない。単純なルーンじゃコマンド不足の欠陥品しか作れない。数秘術を限りなく簡略化した未来予測が天秤にあたるが、アレとは方式が全く違う。数秘術で他人の心理から行動予測するアレとは似ても似つかない。

 

 

「そしてそこから導き出される答えはカバラの提唱者であり、苦悩に満ちた民達を楽園へと導く偉大な王として君臨された人物。どうだ? 百点満点だろ?」

 

 

 ニヤリと笑うクイナにカウレス達はあり得ないと言う顔をしていた。だがそれがクイナの推理を証明する事になる。そして、その有用性も証明される事になる。

 

 

「……確かに、僕の真名はアヴィケブロンだ」

「まっ、この推察力はご察しの通りだ。そんな俺が知っているサーヴァントの情報は、今後のアドバンテージに活かせると思わないか?」

 

 

 俺がダーニックに乗せた天秤の秤。

 片方を取ればサーヴァントを使い魔と称する行為に等しいが、取らなければキャスターの宝具は完成が遠退く。だが、まだ序盤で自分の本性を己がサーヴァントに晒す訳にはいかない。

 

 

「さて、お前はどちらを取る? ダーニック・プレストーン・ユグドミレニア」

 

 

 クイナ・バルハルクの天秤の上に乗せられた究極の2択。ある意味この場の主導権を握っているのはクイナの後ろにいるルーラーだ。それに今、ランサー達を使い魔と称してしまえば今後に影響が生じる。

 

 辛酸を舐めたような顔でダーニックは決断した。

 

 

「…………いいだろう。そのホムンクルスは見逃そう」

「! ダーニック、それは……!」

「領王よ、このご決断を如何いたしましょう」

「良い。赦そうではないかダーニック、貴様の決断も、その少年の勇姿も、そしてセイバー達の誇りを持った英雄としての願い、それを踏みにじる程、余の器は狭くない」

 

 

 それにホッとするライダーとグレイ。

 だが、ダーニックの一言でクイナは目を見開いた。領王、と言ったと言う事はルーマニアが祖国であり、ルーマニアの歴史の中に王であり、吸血鬼として名を馳せた人物はただ一人。

 

 

「なっ……! 王は王でも領王!? じゃ、じゃあまさかルーマニアの領王って事はまさか……!」

「ほう、それだけで気付くとは目敏いな。我が真名はヴラド・ツェペシュ。ルーマニアの領王として君臨するものだ」

 

 

 ま、マジかー。

 まさかの串刺し公だったとはなー。となれば領地内で勝ち目がない訳だ。護国の鬼将と呼ばれる彼は文字通り、領地に至る場所に於いて莫大な戦闘力、信仰を手にしている。それによる戦闘ボーナスがあるのだろう。領地で行われていた彼の神話を発動出来ると言う事だ。そりゃ勝てないわ。

 

 

「んじゃ、この後どうする? 俺達は捕縛? それとも待遇?」

「待遇でいいだろう。ライダー、セイバーも城へ戻るぞ」

「俺、後から付いてくんでアサシン。悪いけど先に行ってて」

「は、はい」

 

 

 ちぇー、とライダーは少しだけ不満ながらも彼から離れていた。セイバーも頭を軽く撫でると、背を向けて黒の陣営へと戻っていく。

 

 とりあえず、この一件は収まってくれて良かった。ため息をついて、ホムンクルスの頭に手を当てる。

 

 

「さて、君はこれで晴れて自由だ」

「俺は……自由になっていいのか?」

「英雄達が望んだんだ。良いに決まってるだろ?」

 

 

 ホムンクルスの彼は若干まだ生に対する執着よりホムンクルスとしての本能が強い。だから、これから様々な事を知っていかなければならない。まだ赤子、生きる理由なんてわかる筈がない。

 

 

「そうだなぁ。差し当たっては名前だな。ルーラー、何かいい名前ないか?」

「名前……そうですねぇ、ホムンクルスだからホム君とか?」

「お前に任せた俺が馬鹿だった。反省してる」

「アレ!? 即却下されました!?」

 

 

 名前か、名付け親は俺になる。

 俺がパパになるんだよぉ! 的な事はないが、少しでもいい名前にしようと悩んだ結果、ジークフリートが命をかけてでも救いたかった願いが彼なので、ここは大英雄からとって……

 

 

「──ジーク。君の名前はジーク・バルハルク。どうだ?」

「ジーク……竜殺しの大英雄と……バルハルクは貴方の家名?」

「ああ、どちらにせよ大戦が終わったらウチで引き取るよ」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、ルーラーが旗を構えてジークの前に立つ。おい、なんか誤解してないか? そ、そんな固くて太いものを俺に向けないで! と内心ふざけていたが、流石に武器を構えられた状態でふざけたら串刺しにされそうなので考えるのをやめた。

 

 

「まさか、彼を実験に……!」

「んな訳ないだろ。流石に聖杯の中身を流し込んだとバレたら魔術師達が彼を狙うだろうし、バックアップがなきゃ彼が大変だよ? 今はルーラーに任せるけど」

「……分かりました。けど、聖杯に関しては後で説明してもらいますよ」

「オーケー。んじゃあジーク、これ俺の予備端末、終わったらコレに連絡するから持っとけ」

 

 

 ポケットに入っていた予備端末をジークに投げ渡す。

 因みに俺はポケットに予備端末をジークに渡したのを除いて3つ持ってる。まあプライベートと仕事用と色々あるからだ。因みにジークに渡したのはAnd○oid、高性能だ。

 

 

「済まない……貴方にまで迷惑をかけてしまって」

「まだお前ガキなんだ。生まれたばかりの奴は大抵迷惑をかけるものだ。気にすんなよ。んじゃ、俺も行くからルーラー、後はヨロピク」

 

 

 クイナはそう言ってジーク達から離れていく。

 そして、なぜか準備運動して、ジーク達に振り向く。なぜかクラウチングスタートの構えをしながら。

 

 

「あっ、そうだ」

「?」

「ルーラー、二人きりだからって……襲うなよ?」

「なっ、ななな何言って……!!」

「じゃあまたな、ジーク!」

「あっ、待ちなさい!!」

 

 

 顔が真っ赤になったルーラーを横目にクイナは全力で逃げた。まあ後で絶対に怒られそうだが、ふざける事で気を紛らわせようと言う事もあった。

 

 

「まさか……ジークもか……」

 

 

 あの時、微かにジークの左手の甲に()()()()()()()が浮き出ていたのに頭を痛めながら……

 



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俺達を選べ

一か月バイトと課題で失走してました。
ちょっと趣向が変わった英霊グレイの過去編です。
グレイが自分を見失った時に、いっそ死にたくなったグレイをクイナはあの時に手を伸ばしたのだ。

良かったら感想評価お願いします。では行こう。



 これは夢だ。

 マスターはサーヴァントの過去を夢として見る事が意図していない状態で起こる。

 

 今は聖杯大戦で疲れが溜まっていたのか早めに寝て、気がつけば自分は時計塔の廊下に立っていた。いや、自分の姿は無くただ夢の中に意識があるだけ、それ以上はこの夢が語ってくれるだろう。

 

 

「………!」

 

 

 グレイが時計塔の廊下を走っていた。

 フードを抑え、アッドも連れずに逃げるように走っていた。すれ違った彼女の顔には涙が流れているように錯覚する程悲しそうだ。あの顔はまるで何かに絶望したような、そんな顔だった。

 

 片眼に包帯を巻いていた。

 フードを抑えて逃げるように走っていくグレイ。そして、視点が変わるように今度は先生、ロード・エルメロイ二世と少し成長し、少し伸びた髪が()()()()()()()()()()に変色した自分が居た。

 

 

「先生、この際全部話してください。グレイが抱えてる事について」

「……それを聞いてどうする。貴様に関係が––––」

「無いと言うなら軽蔑しますよ。幾ら先生でもそれ以上口にするなら力尽くで聞き出します」

「……この事は他言無用だ。それだけは約束してくれ」

「はい」

 

 

 先生は語った。

 俺はその時まで知らなかったのだ。グレイが使う宝具は知っていてもグレイ自身の事を深く知ろうとはしなかった。グレイ自身がそうして欲しくないと思って避けていた。

 

 けど、この時初めて知ったのだ。

 グレイと言う人間に起こっている事態に。

 

 

 

★★★

 

 

 逃げたかった。

 逃げる事は悪い事じゃない。逃げて逃げて、自分の事など曖昧でその環境に溺れていたのだ。いずれ、自分と言う人間が曖昧で無くなる事を知っていたと言うのに。

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

 

 気がつけば、ロンドンの裏路地に来ていた。

 無意識だった。無意識にこの場所に来ていた。此処で私は一度、クイナさんに救われた事があった。

 

 

『あのなー、この場所に限って治安悪いからあんまオススメしないぜい?ココには死体が埋まってます的に()()()()()()()()()()()()()()()()()。特に無意識の行動だと、霊を霊と気付かずに魂の一部を持ってかれかねない』

 

 

 死者に引き寄せられる実験が昔あった場所だと告げた瞬間、私はその時手が震えて過呼吸に陥りそうになった。アッドの声も遠くなり、視界が揺らいで意識が刈り取られそうになる。死者の残響(トラウマ)に身体が動かなくなるその時だった。

 

 

『アホか。そこで怯えたらなお悪くなるって、ホラ。これ持ってな』

 

 

 その時渡されたのは短剣だった。

 小さな十字のロザリオの形を模した短剣。鞘に収まっているそれを握ると身体の震えが止まった。

 

 

『それ埋葬機関とか執行者が使う黒鍵を俺なりに改良したもんだ。概念礼装で軽い浄化の力はある。それ持ってりゃ大丈夫だろ』

 

 

 どうだ?と彼が聞いた時には身体の震えも過呼吸も無くなっていた。霊感が強い自分はそう言った類が苦手にも関わらず、死者に引き寄せられているようで吐き気がした。

 

 

『君、アレだろ時計塔にいたフードの子。先生が連れてきた』

『拙は……(グレイ)です。黒でも白でもない、グレイ(どっちつかず)────』

『んじゃグレイ、早速友達になろうぜ!』

『えっ?』

 

 

 この時はまだ友達について詳しく分からなかった。

 けど、拙は貴方がいたから、貴方のおかげでグレイとしてこの場所を護りたい。そう思えたんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この場所は彼と出会った場所。

 いっそ此処で誰にも知られずに、グレイ(どっちつかず)ですらない自分を幕引ければ、私はグレイのまま死ぬ事が出来る。

 

 彼から貰った短刀の鞘を抜く。

 そして切っ先を自分の首に添えて、そのまま喉に突き刺す。そうすればきっと……拙はグレイのままで居られる。私は短剣を喉に突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 

「………えっ?」

「何、してんだよ、馬鹿!!」

 

 

 喉に突き刺そうとした短剣は彼が力強く握って止めていた。両刃の刃を強く握っているのだ。血が流れて顔を青くする。短剣を無理矢理奪って投げ捨てるクイナさんの表情は怒っていて、焦っていた顔をしていた。

 

 

「クイナ……さん」

「ハァ、ハァ、お前なら多分ここだと思ったよ。無意識にここに来る呪いが定評のある場所だからな」

 

 

 『天秤』で予測した場所はここしかないとクイナは時計塔から全力ダッシュでグレイを探したのだ。息切れと疲れに座り込むクイナにグレイは流れていく血にサァーと青い顔をして心配する。

 

 

「ごめん……なさい……その手……」

「そう思うならさ、なんで死のうとしたのか説明してくれ」

「………」

 

 

 私は黙り込んで俯いていた。

 クイナさんはため息をついて私に告げる。

 

 

「先生から全部聞いたよ」

「!」

「お前が何で『最果ての槍(ロンゴミニアド)』を使えるのかも、お前に起きてる出来事も全部知った」

 

 

 知られてしまった。

 私がどうなっているのか。この人にだけは知られたくなかったのに。

 

 

「フード、取ってみていいか?」

「嫌っ!」

 

 

 見られたくない。

 嫌いな顔を見てほしくない。自分自身が分からなくなった自分の顔は自分が思っている程に醜いのだ。それをクイナさんに見せたくなかった。

 

 けど、クイナさんは頭に手を立てて大丈夫だと言った。その言葉に何処か安心したような気持ちになる。

 

 

「フード、悪いけど取るぞ。みんなには黙ってる」

「………」

 

 

 ただコクリと頷く。

 フードを取ると髪の毛の大半が灰色から()()()()()()()()()。包帯をずらして瞳を見るといつもエメラルドのような瞳をしていた瞳は()()()()()()()()()()

 

 

()()()()()()()()……だいぶ進んでたんだな」

「……クイナさんも、同じなんですよね。その髪」

「まーな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()ようなもんだ。侵食はおかしくはなかった」

 

 

 クイナもグレイと同じ。

 英霊の宝具を持ってしまった以上、避けられない事態に陥ってはいる。髪の一部が女神と同じ髪色になっているのだ。グレイの場合は更に侵食している。戦闘中でしか金色にならなかった瞳は戻らずに髪色は金色と灰色が混ざってしまっている。

 

 

「何で……死のうとしたのか聞いていい?」

「……()は最近忘れていくんです」

 

 

 最近、忘れていくのだ。

 楽しい記憶も初めて護りたいと思った場所も私の中で薄れてしまっていくのだ。それは単純に忘れたからじゃない。知らない過去が自分の記憶を塗り潰しているからだ。

 

 

「私は……拙は、最近自分が消えていくようで嫌なんです」

 

 知らない過去の記憶、自分ではないアーサー王の記憶がグレイの思い出を塗り潰して行くのだ。

 

 知らない戦いの記憶、知らない王としての記憶、そして知らないカムランの丘での死を、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「分からなくなってきたんです。最近、誰かの声が聞こえて、自分自身が何者なのか……分からなくなって、私自身の意思すら……」

「……グレイ」

「……クイナさん、貴方の眼に映るのは……本当に『グレイ』なんですか?」

 

 

 聞こえてくるそれは人々の願い。

 救ってほしい。助けてほしい。導いてほしい。愛してほしい。殺してほしい。死なせてほしい。見つけてほしい。数えてキリがない果てしない願いが過ぎっている。

 

 

「怖いんです。怖くて恐ろしい。今感じている感情も思いも、本当に私の物なのか、拙にはそれが分からないんです」

 

 

 それは聖槍を通して聞こえたアーサー王としての役割の引き継ぎ、そのせいで現代を生きる自分から離れていってしまっているようで、怖くなった。

 

 

「クイナさんから見て、私は本当に『グレイ』なんですか?」

 

 

 果たして今の自分はみんなが知るグレイであるのか?

 今感じている感情はアーサー王としての別の自分なのか?

 

 

 

「今の()は……拙は……アーサー王(グレイ)なんですか?」

 

 

 泣きそうな顔でグレイはクイナに問いかけた。

 クイナはため息をついてグレイに近づく。グレイはそれに怯えながらも動かない。死ぬならいい。まだグレイとして死ねる。その最後がクイナならそれだけで救われる。

 

 だがクイナは頭に手を置き、自分の胸へ引き寄せた。

 

 

 

「………えっ?」

「辛かったんだな。グレイ」

「なん……で……」

「悪かった。俺はお前の事、何も理解してなかった。だから今から全部辛い事吐き出しちまえ」

 

 

 強く、グレイを抱きしめる。

 グレイが消えないように、離さないようにも思えた。

 

 

「拙…は……」

「俺はさ。女神に救われて、その槍を託されて使ってその一部が自分のものになった時はさ。嬉しかった。けど、お前はそうじゃないんだろ?アーサー王は尊敬してもアーサー王に成り代わりたいわけじゃない。だから苦しかった。そうなんだろ?」

「は…い……」

 

 

 クイナは今まで勘違いしていた。

 アーサー王に成り代わったグレイは選ばれた存在だと思っていた。けど、グレイはそれを望まなかった。

 

 

「私は……拙は……」

「––––お前はグレイだよ」

 

 

 クイナは迷わずに告げた。

 だが、グレイはその一言が恐ろしかった。こんなあやふやな自分はもうグレイですらない。どっちつかずの(グレイ)が心地よかった。だが今は、アーサー王になりかけている。そんな中で今の自分はグレイなのか。グレイであっているのか怖かった。

 

 クイナを突き飛ばしてグレイは叫んだ。

 

 

「私は……もうグレイじゃない!

グレイ(どっちつかず)』にすらなれない!!」

 

 

 もう諦めてしまったのだ。

 自分の中に聞こえる声に自分を捨ててしまったのだ。これから喪っていく。グレイとしての全てが消えてアーサー王に成り代わる。どっちつかずだった自分は遠からず死ぬ。

 

 

「拙は……喪うくらいなら、喪う前に死にたいんです……!その方がまだ幸せに終われる!!みんなの記憶を持ってこの嫌な顔がもっと変わる前に!!」

 

 

 それがグレイの本音だった。

 消えるくらいなら大切と思えた自分のまま死にたかった。いっそこのまま楽になれば、自分はグレイとして在れる。

 

 そうしたかった。

 そうなればどれだけいいか。

 

 

「もう分からないんです……もう何もかも…どうすればいいかも……私には…分からないんです……」

 

 

 膝をついて子供のように泣きじゃくる。

 保っていた心が決壊しダムが崩壊したかのように感情が溢れる。グレイはとっくに限界だったのだ。

 

 

「子どもかお前は……」

 

 

 ぽつりと、そう呟く声がした。

 泣き叫んで、クイナが出した結論に頑なに否定して閉ざそうとしてるグレイを見て、クイナがぽつりと呟いた。

 

 

「泣いて、喚いて、嫌だってごねて、全部一人で抱え込んで……これじゃ、まるで」

「––––––」

「一人ぼっちの、子供みたいだな」

 

 

 今のグレイは迷子の子供に見えた。

 一人ぼっちで、ただ寂しそうに泣く彼女は子供そのものだった。クイナはため息をつき、グレイに問いかける。

 

 

「そんなに分からないのが怖いか?」

「!」

「そんなに喪うのが怖いか?」

「………」

「そんなに……『グレイ(どっちつかず)』に縋らなきゃいけないのか?お前が思うグレイは、()()()()()()()()()()()()はその程度なのかよ?」

 

 

 グレイはクイナに掴みかかる。

 挑発的な笑みを浮かべて嘲笑うクイナを睨みながら、涙を流しながも激情のままグレイは掴みかかった。

 

 

「貴方に……私の何が分かるんですか!!」

「分からない」

「えっ……?」

「さっぱり分からん。俺はお前じゃない。お前の気持ちは分からない。喪うのが怖いのも、どうすればいいかなんて知らん。けどな、これだけは言える」

 

 

 共感は出来ても本音は理解出来ない。

 その本音だけは同情してはいけないからだ。けど、気持ちが理解出来ずとも今のグレイに言える事はただ一つ。

 

 

「お前はグレイだ。アーサー王じゃない」

 

 

 グレイの掴む手が緩んだ。

 彼女が今欲しかった言葉は大丈夫でも頑張れでもない。励ましの言葉なんて要らない。

 

 ただ、グレイで在る事を肯定すること。

 

 

「どっちつかず、灰色だからグレイ。白でも黒でもないどっちつかずだからグレイ。そんな意味は捨てちまえ」

 

 

 どっちつかずであやふやな自分が居た所で意味ない。最初からあやふやだったのだ。灰色でいい、自分を色に例えてどっちつかずになった所でグレイと言う少女はそこには居ない。どっちつかずの自分など、名前のない赤ん坊と同じだ。

 

 あやふやだったからグレイが生まれた。

 だけど、どっちつかずですら無くなったらグレイが消える。そんなのおかしい。そんな考えではグレイ自身が救われない。

 

 いい加減、自分を肯定する時だ。

 俺はお前に救われて欲しかった。

 

 

「お前はただの『グレイ』だよ。どっちつかずなんて意味のないもんに縋るなら、諦めて生まれ変われ。俺から言わせりゃ、忘れやすくなって髪と瞳の色が変わった程度だ。お前がグレイじゃないなんて馬鹿馬鹿しい」

 

 

 本質すら変わり始めてるのが怖いのだ。

 あやふやな『グレイ(どっちつかず)』ではなく、ただの『グレイ』として自分を肯定して生きられるなら、もう苦しまなくていい筈だ。

 

 

「でも、私は……拙は……」

「信じろ。お前はアーサー王なんかじゃない。お前はグレイで、先生の弟子でライネスの親友であの教室の仲間で、そして俺の友達だ。お前自身が自分を信じろ」

 

 

 グレイ本来の顔でなくとも、ちゃんと綺麗な瞳をしてる。それは外見的な話ではなく、瞳が語ってくれる。思い出が大切過ぎて消えていくのが怖いのはわかる。けど、だからってグレイである事を否定するのは違う。

 

 肯定できないなら、それでもまだ信じる事が出来ないなら……

 

 

「––––俺達を選べ」

 

  

 友達だから、だからこそグレイを助けたい。グレイも俺達を、アーサー王の人格に負けないくらいの自分を肯定して、共に生きよう。お前が救われないと嘆くなら俺は、俺達は何度だって救ってやる。

 

 

お前(グレイ)が護りたいと思ってくれた俺達を信じろ。アーサー王の意思もない、自分が選んだ道に俺達は必ずお前に手を伸ばしてやる」

 

 

 俺達は魔術師だ。利己的に動く薄汚い連中かもしれない。けど、目の前の女の子救えないで、魔術師として誇れる訳がない。こぼれ落ちそうならものを掬って、拾って、失わないようにするのがクイナ・バルハルクだ。

 

 あの時、ランサーが俺を救ってくれたように。

 

 

「だから、お前も『グレイ』として明日から全力で生きてみろよ。先生も、ライネスもフラットやルヴィア嬢やスヴィン、あの教室に居た奴らも、一緒にいる」

 

 

 味方だっている。友達だっている。

 何度忘れたって、何度も教えて、何度も笑えるように、そう言う場所で在れるように。

 

 

「一緒に生きよう、グレイ。まだ死にたいと思わないくらい楽しい思い出で埋め尽くして、自分がグレイである事を誇れる日まで、一緒に生きよう」

 

 

 俺はまた手を差し伸べる。

 グレイの生きる意味が今は無いならそれでもいい。いつか生きる意味がまた見つけられるように、その時まで一緒に。

 

 

「拙…は……」

「だから、俺達をお前(グレイ)が選べ」

 

 

 アーサー王としてではなく、グレイとして生きられた場所をグレイが選ぶ。そんな意味はないのかもしれない。幾らグレイが肯定したってアーサー王に成り代わるのは遠くないかもしれない。

 

 それでも……

 

 

 

 

 

「囚われた思いなんて捨てて、ただの『グレイ』として俺達と生きてくれ。お前が信じてくれた人達と一緒に」

 

 

 明日を生きる為に今日の自分を信じろ。

 それがクイナが今のグレイに贈れる最大限の応援(呪い)だった。 

 

 その後はどうなったのか分からない。ただ泣いていた彼女に胸を貸して、泣き止むまで側にいたのか、どうしたのかまでは見えない。いや、グレイがどうやら見せたくないらしい。

 

 夢は夢だ。

 もしかしたらいつか辿る未来であっても、その先を見る事は少しズルい気がする。俺とグレイは友達だ。この夢の先でどうなってんのかは知らない方が面白いのだろう。

 

 そんな考えを抱きながらも、クイナは夢の世界から覚めていた。

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

「んっ……」

 

 

 目が覚めると見覚えが薄い天井とふかふかのベッド、そして、椅子に座って見守っているグレイが居た。わざわざベッドが二つあるのに眠ってない事にため息をつきながら、目を擦り寝ぼけたままのクイナは話しかける。

 

 

「おはよー、グレイー」

「おはようございます。クイナさん」

「グレイー、ちょっと来てくれるー?」

「はい?」

 

 

 全く、この子は変わらないように誤魔化すのが上手いらしい。クイナがグレイを軽く手招きする。グレイは首を傾げながらクイナに近づくと……

 

 

「きゃっ!?」

 

 

 クイナは少しだけ強くグレイを抱き締めていた。

 それは単純に夢の中のグレイが寂しそうだったのもあるが、クイナはまだ寝ぼけているようだ。

 

 

「どうしてグレイはー肝心な所を話してくれずにー抱え込むのかなー?」

 

「ひゃっ、ク、クイナさん!?///」

 

「グレイー、俺はグレイとちゃんと友達なんだからー、困ったことがあったら頼ってくれよなー?全くー」

 

「わ、分かりました!分かりましたから離してください!?」

 

「んー、あったかいからそのまんまー」

 

「ぴゃっ!?///」

 

 

 どたまぎしているグレイに寝ぼけたまんま猫を抱くように抱きしめるクイナ。この後完全に目が覚めて赤面で涙目のグレイと抱き締めている事に漸く気がついたクイナは、青い顔をして土下座していたと言う。

 

 

 

 



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神の聖杯戦争……だと?


感想くれた『ヴァナルガンド』さん『トマト0527@』さん『クルスマ』さん『ライデン1115』さん『緋彩鳥』さん『冷たい雨』さんありがとうございます。

良かったら感想、評価お願いします。では行こう。


 

 

 前回を振り……いや止めよう黒歴史だ。

 前回、寝ぼけているとはいえ、グレイに…グレイに……!

 

 

「……忘れよう」

 

 

 そう。間違ってもライネスにバレたら弄られる。

 

 ああ女神よ、どうか俺を導いてくれ!

 

 

 ………と思ったが恋愛に関してはあの女神様ポンコツだったのを思い出した。駄目だ、やっぱ導かなくていいわ。

 

 

 

★★★

 

 

 朝の料理が美味しかった。

 貴族の料理は俺自身も慣れていたつもりだが、やっぱ美味いなと感じた。アサシンは朝の事もあり少しだけ席を外す事になり、いってらっしゃいと平然を装って手を振っていた。

 

 部屋に戻り、給仕のホムンクルスからコーヒーを一杯頂き部屋で優雅に飲もうとした矢先、ノック無しにルーラーがドアを強めに開けていた。何故ドアを強く開ける必要があったのか。

 

 

「何か遺す言葉はありますか?」

 

 

 いきなりまさかの死刑宣告。

 聖女はどうやら処刑人にジョブチェンジしたようだ。

 

 

「ステイステイ、ルーラー何怒ってんの?」

「私に吹き込んだ言葉、覚えてないんですか?」

 

 

 吹き込んだ言葉?

 ……やべぇ、夢が大分濃厚過ぎて忘れた。

 

 

「あー、何だっけ、ショタに目覚めるな……いや違うな。このおっぱいで聖女は無理でしょ……でもない……あっ、そうそうジークを食べちゃ駄目だ、だ!」

「分かりました。最初の脱落者は貴方でいいですね」

「いやー!!襲われちゃう!……えっ、ちょっ、まっ…!?」

 

 

 旗を振り下ろし、器用に避けるクイナ。

 ベッドから転げ落ち、ぐえっと首から地面に叩きつけられた。旗で人を殴るとか聖女じゃねえだろ。それ味方を奮い立たせる奴やん。

 

 

「首が痛い……とまあ冗談はさておき」

「中々いい性格してますね。サーヴァントに対して」

「あの後ジークを助けたのはアンタだしね。ジークはどうなった?」

「親切なお爺さんが引き取ってくれました。聖杯戦争が終わったら彼を……」

「不安そうな顔すんな。仮にジークがその場所を離れたくないってんなら無理に連れ出したりしないよ。俺は魔術師だけど、美しいもの、尊い存在には手を差し伸べたいタイプだからな」

 

 

 クイナ・バルハルクの起源は『接合』だ。

 俺もキリシュタリアも共通していることはそれだ。俺は何事にも無関心故に関心を求めて日々探究する魔術師、足りない物を誰かが持つ何かで当てはめるツギハギの異端者、キリシュタリアは無価値と決めつけ独善的な自身の愚かさと訣別し、人が見せた真の人間の美しさ、それを求める魔術師として今を生きる人間。

 

 互いに違う方向性を持ち、同じ場所を見たいと進む俺とキリシュタリアは友達になれたのだろう。

 

 

「んで、用件は何?」

「貴女が何故聖杯を所有してるのか。それについて答えてください」

「拒否権は?」

「ありません。聖杯大戦に於いて存在しない筈の聖杯が存在するだけで私が召喚される可能性がある。裁定者(ルーラー)として引き下がれません」

 

 

 まっ、それは俺も同感だ。

 同じ立場ならそうしていただろう。今回の聖杯戦争は聖杯大戦にまでランクが上がっている。裁定者(ルーラー)の召喚条件はグレイが聖杯の知識から聞いた話だと『聖杯戦争で世界に歪みが出る』とか『形式が特殊すぎて結果そのものが予測不能になる』だ。

 

 特に後者の場合は聖杯が二つあってもおかしくはないが、今回定められた聖杯は一つ。それが二つ以上存在する場合、予測不能の事態に陥る可能性が高い。

 

 

「……亜種聖杯戦争の戦利品、と言えば納得?」

「アレは聖杯にしては完成され過ぎている。それで納得しろだなんて不可能です」

「……他言無用、あと真名に誓うのが条件だ」

「分かりました。真名、ジャンヌ・ダルクの元に誓いましょう」

 

 

 ため息を吐きながらクイナは渋々話した。

 

 

「先ず、アレは聖杯なんかじゃない」

「えっ?」

「アレは俺が模して創った擬似聖杯なんだが……聖杯よりよっぽど聖杯になっちまった」

「ど、どう言う事ですか!?」

 

 

 意味が分からない。

 アレは間違いなく聖杯だ。聖杯じゃないと言う意味が分からない。

 

 

「俺の故郷のアメリカに里帰りしてたんだよ、結構田舎で小さな街、それ以外は山に囲まれた場所でさ。休暇貰って、久しぶりに街を散策しようとしたらあらびっくり、何と()殿()()4()()()()()()()()()()()

 

「し、神殿!?」

 

「まあ簡潔に話すと、故郷の霊脈が歪み過ぎて魔力が溜まり過ぎて暴発寸前だったらしく、その魔力を発散する為に擬似的にサーヴァントを呼ぼうとしたんだ。だが、聖杯の設定も無し、令呪の設定も無しに呼んだ魔術師は何を呼んだと思う」

 

「まさか……本物の神?神霊級のサーヴァントを!?」

 

「最初に出たのがデュオスクロイらしいんだが、召喚された瞬間即座に斬り殺されたらしい。だが問題は、それだけじゃなかった」

 

 

 クイナは深く語り始めた。

 あの人生で最も過酷と呼べる亜種聖杯戦争について。

 

 

 

★★★

 

 

「……まさか、神様が召喚されるなんてなぁ」

 

 

 千里眼擬きで見た感じ、()殿()()4()()()()()

 本来ならサーヴァントとはマスターがなければ存在出来ない。存在するとなれば『黙示録の獣』に存在する獣か、根源そのものに接続する事が出来る存在のみ。

 

 だが、あの神にマスターたる人間が居ない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして問題はそれが四騎も存在する。彼等は神殿から長時間離れる事が出来ない。彼等はマスターが無しでも神殿さえあれば現界可能。魔力も神殿内で回復されてる。

 

 

「しかし、聖杯戦争は聞いた事はあっても聖杯になるものが無い状態でサーヴァント、しかも神霊を降したらどうなるか考えたくないな……」

 

 

神降(かみおろ)し』

 一種の儀式魔術などが代表的な例だろう。神が、主がいませりと聖者が嘆くように神による神が伝え、神によって今を正しく生きるとされる人間は確かにいる。教会や聖地とか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そういったのは珍しくない。

 

 

「確か小聖杯にくべられた魂を繋げて大聖杯を開くんだったっけ。だとしたら、大聖杯も小聖杯もない中であのサーヴァント達が召喚されたのはキチぃんだけど」

 

 

 自分の右手には令呪が無い。

 そりゃそうだ。大聖杯に繋がってるわけでもなければ小聖杯すらない。霊脈の魔力によって現界している以上終わりは存在するだろうが、神秘の漏洩は絶対に駄目。

 

 

「霊脈、聖杯、令呪、うーん。霊脈は良いけど問題は形創る聖杯と令呪によるパスだな」

 

 

 召喚が出来てもパスが繋がらなければ現界し続ける事も出来ない。それに聖杯のようなものが無ければ神を殺せたとしてもこの場所そのものに影響を及ぼす。急造なら聖杯の器は用意は出来る。俺の家にあるレプリカの聖杯を小聖杯に見立てて、魔術で魔改造すれば出来なくはない……と思う。問題は令呪。

 

 神は傲慢さや格の違いがある。それを御し得る為には令呪は欲しい所だが……無理だろうな。フラットみたいに魔術ハッキングとは違って大前提の聖杯が無い以上は無理だろう。

 

 

「つーかどうやって神様を召喚したんだろう?」

 

 

 普通無理だし、何の目的があったのかは分からない。

 傍迷惑とだけ言っておこう。神様を使い魔にして全知零能でも手に入れようとしたのかは知らんが、おかげで聖杯戦争擬きをしなければならない此方の身になってほしい。

 

 

「……よし」

 

 

 やる事は決まった。

 下準備をした後に、俺は神様とやらを召喚しようじゃないか。

 

 

 ★★★

 

 

「––––馬鹿なんですか?」

「まさかの辛辣ぅ!?酷くない!?」

 

 

 まさか聖女から罵倒がくるとは思わなかった。

 別に興奮しないし、何かに目覚める事もない。単純に呆れられているのだ。

 

 

「令呪も無しに主を……神霊を召喚するなんて無茶無謀過ぎます!と言うか、どうやって神霊を召喚したんですか!普通格が違い過ぎて召喚出来ない筈では!?」

 

「まー、それは案外難しくはないぞ?応じるかは別として、神霊を降ろすなら()()()()()()()()()()()とかな」

 

 

 まあ俺の場合は頑張って、()()()()()()()()()()()()()()()()()事で()()()()()()()()殿()()()()()()()()()()()()()()()()。神様を降ろすなら神殿、神聖領域に必要な魔力は霊脈を弄って補強し、一部の領域を神を降ろす為の降霊地ならぬ降神地を作ったのだ。霊脈は大聖杯が動いたせいで霊脈が弄りやすかった。

 

 

「ですが触媒は!?普通召喚には縁となる触媒が無ければ……!」

「触媒は俺。俺は良くも悪くも()()()()()()()()()()()()

 

 

 稀にいるんだよなぁ。

 幸運が無くて()()()()()()()()()()()()()。そう言う星の下で生まれたのか、逆に不運が無いときを疑ってしまうくらいの人間って、偶に存在する。

 

 相性で召喚されるならクイナはむしろ()()()()()()()()()()()()()()()。逆に神に見放されたとか、神を憎んでいるとかそっち系の神性持ちがくると睨んでいた。

 

 

「いやいや、神に見放されてるって、そんな筈ありません!主は平等に人々を見て––––」

 

「何も無いところを歩けば転び、大通りに出れば食べ歩きしてた人の食べ物のソースがついたり、今回の聖杯戦争でルーマニア通っただけなのに令呪が宿ったり、故郷の近くに神様が降ろされたり……平等に見える?」

 

「うっ……しかしそれはあくまで運が悪かったと……」

 

「俺が召喚したのはブリュンヒルデだよ?」

 

「……すみませんでした」

 

 

 遂に聖女が諦めた。

 いや俺が言うのもなんだがそこは頑張って欲しかった。

 

 ブリュンヒルデ。

 北欧神話に於ける悲劇の女。 『ヴォルスンガ・サガ』において大英雄シグルドの運命の相手であるシグルドリーヴァと同一視される戦乙女。ワルキューレの長姉として神霊の身であった頃には自我の薄い『人形』のように振る舞っていたものの、父たる大神の怒りに触れて地へ落とされた神霊だ。

 

 神に見放されてた意味合いでは俺と同格だろう。幸運値Eだったし。

 

 

「まあ良くも悪くもブリュンヒルデは戦乙女だからな。神性が落ちてようが、戦闘に慣れてない神よりアドバンテージが高くて助かった」 

 

「じゃあ貴方が使っていた槍は––––」

 

「ああ、ブリュンヒルデの槍。『煉愛の魔槍(ロマンシア)』だ。ブリュンヒルデが聖遺物として残すようにルーンを施した宝具だ」

 

 

 確かに強いが、これめちゃくちゃ重くなる。 

 身体強化した状態でも英雄みたいに軽々しく使おうとするなら40キロが限度だ。この槍は彼女の心に燃える『愛』が高まるほどに槍の性能が強化され、重量とサイズが増大すると言う特性が反映され、俺が持つ相手の好感度によって槍は重くなるのだ。その分性能も上がるが……人間に使えるものじゃない。

 

 因みに愛し合うレベルが最大(シグルド)級だった場合サイズは10m・重量は8トンくらいまで達するらしい。何それヤンデレ怖い。

 

 

「まあ今回の場合、マスターが俺以外居なかったからな。神殿を破壊しては器に魂を収め、壊しては収めの繰り返しで生き延びたわけだし」

 

「ちょっと待ってください。魔力供給は?令呪が無い以上パスが……」

 

「……聞きたい?ねえ聞きたい?」

 

「……やめときます」

 

 

 まあそっち系じゃない。

 あくまで他の神達も神殿があるから現界出来ている。それを真似して擬似的な神殿を作っているから聖杯のバックアップ無しで現界出来る。俺の起源『接合』のおかげでパスを繋ぐ事も出来て魔力供給は問題無く出来た。まあ条件が『互いの体液を交換する』と言う事だから生々しいけど。

 

 ……いや、血だからね?唾液じゃないよ?

 

 

「まあそれを繰り返してる内に聖杯そのものが高次元化したんだ。普通の英霊の魂と違って()()()()()()()()()

 

 

 そのせいで、殆どの願いが()()()()()()()()()()()()()()()聖杯と言う器に留めなければ、この無色の凝縮された魔力は私利私欲で使わないようにしてる。今は内包している為、魔術回路と『接合』して少しずつ魔力を減らしてる。俺も特に願いは無いし、根源も興味はなくは無いが自力で行きたいので使わなかった。

 

 

「とりあえず中身を出来る限りブリュンヒルデの願いに使ったりして中身を減らしてたんだが……大して減らなかったから俺の身体の中に『接合』して擬似的に融解させてる」

 

「そうですか……」

 

「いやマジでしんどかったなあの戦い。神様四騎も相手にしなきゃいけなかったんだぜ?イシュタルやデュオスクロイ、アフロディーテにアルテミス、どれも聞いた事ある神様だし、ギリシャ偏り過ぎなんだよと愚痴ったしな」

 

「………よく生きてましたね」

 

「ああ、全くだ」

 

 

 クイナはため息をついた。

 もしかして神様を殺したから神様に呪われてるとか?ありがちだから怖いのだが……

 

 

「因みに女神ブリュンヒルデはどんな願いを?」

「大英雄シグルドの再会。まあ一週間くらい現界させたけど、あっち側から抑止力が来るとか言ってランサーと一緒に帰って行った」

 

 

 その時、戦いや原初のルーンを教わった。

 まあ故郷と言う事もあって、二人が住む場所もどうにかなったし聖杯の魔力で一年くらいは現界出来そうだったが、それでも二人は消滅を選んだ。それは幸せそうに。

 

 

 

 

 

 

 そういや、いつかブリュンヒルデが妹達と会わせたいと言ってたが、ワルキューレって天使級の神性持った存在じゃね?多分相性が悪い気がして未来が不安なのは俺だけか?

 

 



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そう、これがパンクラチオだ(ジョジョ風)




 最近グレイとのイチャイチャが書けない!
 と言うストレスが溜まっているアステカです。
 
 良かったら感想、評価お願いします!


 

 

 

「へばぁ!?」

「肩に力が入り過ぎですよ。もう少し細やかに、最小限の力で最大の力を発揮しなさい」

「さ、流石ギリシャの英雄を育てた英雄……割と今ガチで三途の川見た……クソっ、もう一度」

「その意気です」

 

 

 クイナは『煉愛の魔槍(ロマンシア)』で黒のアーチャーであるケイローンと戦っている。と言うより指導してもらってるの方が正しいか。良くも悪くも俺は英雄とタメ張れる程の技量、技術、経験が圧倒的に足りない。

 

 と言う訳でギリシャでも数々の英雄を育て上げた賢者、ケイローンに教わっている。と言うのにも、訳がある。ケイローンのスキルには『神授の智慧』と言うものがある。ギリシャ神話の神から与えられた賢者としての智慧であり、英雄独自のものを除く、ほぼすべてのスキルにB~Aランクの習熟度を発揮できる。マスターの同意があれば他サーヴァントにスキルを授けることも出来るのだ。 

 

 仮の話、人間でもそれは出来るらしい。

 サーヴァントに近い能力は例えるなら、陣地作成とか。ケイローンの教えがあるだけで格段にその効果が上がるのだ。

 

 そしてもう一つは、ケイローンと俺の考え方が似てるのだ。

 俺の『天秤』はぶっちゃけて言うなら『軍略』に近い。サーヴァントの中には軍師的な英雄がそれを持っているらしい。ケイローンの未来視も状況を把握した上で、導き出す状況理論。言わば『心眼』のスキルを持っている。

 

 俺にも似たような素質があるらしく、『心眼』は生まれつきの才能ではなく経験に基づいたスキルだ。経験を積めば『天秤』も向上し、ある程度は有利な万策を取れる。

 

 だが……

 

 

「がはっ……!?」

「甘いですよ。左からの攻撃が単調です。それでは直ぐにカウンターを食らってしまいます」

「……っ、くっ」

「ほらそこ、痛みに慣れてない分、隙も生じやすい。魔術で痛みを切るのは無しですよ」

「へぶっ!?」

 

 

 ケイローン先生ガチスパルタだった。

 パンクラチオは『全ての力』とも呼ばれた武の総称。合気道や空手などの力に対するものはここから来ている。クイナは近接戦闘や格闘戦は悪い成績じゃない。けど、英雄のそれと比べると天地の差だ。

 

 

「はー、はー、キッツ!!英雄ってやっぱ化け物だわ!」

「まあそんなものですよ。現代の人間がサーヴァントとタメ張れる時点で貴方も大概ですけどね」

「いや分かってたけど、サーヴァントと人間じゃ経験と神秘の強さが違うんだよなぁ……ランサーの技量を完璧に真似れる訳じゃないし」

「超重の槍ゆえに対処法がやりやすいんですよ。打ち下ろすか薙ぎ払うかの2択、読みやすいと言う意味では貴方にその宝具は向いていないんでしょう」

 

 

 まあそうなんだよね。

 否定するつもりは無い。俺は宝具を()()()()()()()。何故槍を選択したかと言うと、英雄の宝具にも()()()と言うのが存在するからだ。

 

 

「流石にシグルドのは使えないし……」

「竜殺しの魔剣グラムですか。槍よりは使いやすいと思うのですが」

「無理無理。俺とは()()()()()()()

 

 

 俺が持っていた宝具、『竜殺し(ドラゴンスレイヤー)』大英雄シグルドの剣である魔剣グラム。アレは使()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 ブリュンヒルデの『煉愛の魔槍(ロマンシア)』の場合、侵食率がかなり低い。  

 それは単純な話、相性の良さと言うのもあるのだろうが、シグルドの宝具に関しては話が変わる。

 

 シグルドは聖杯の魔力とブリュンヒルデの槍を縁として召喚したのだが、シグルドはどちらかと言うと、ブリュンヒルデとは真逆で根っからの英雄だ。ブリュンヒルデは逆に物語の中では、シグルドを貫いた神話があり、物語で言うなら悲劇のヒロインに近い。

 

 要するに、()()()()()()()

 

 シグルドは英雄として、ブリュンヒルデは悲劇のヒロインとして、()()()()()()()()が、逆の存在だからこそ、英雄だが在り方は其れにかけ離れた存在であるブリュンヒルデの槍は侵食率が低い。逆に英雄としての力が強過ぎるシグルドの魔剣は俺には使えない。使えたとしても概念に侵食され、魂が削れてしまう。

 

 故にシグルドの魔剣は受け取ってはいるが、多分表に出す事はないだろう。

 

 

「うーむ、どうしたものかねぇ。軽く出来てもそれ程威力もリーチも伸びないし、逆に威力やリーチ重視だと出来る事が限られるんだよなぁ」

 

 

 魔剣グラムはシグルドとの実戦形式の修行中に一度だけ使った事がある。だが、その後激しい頭痛に見舞われ、叡智のルーンで調べてもらい、侵食率の高さを知った。

 

 ブリュンヒルデは逆に相性が良かったが、宝具の使い勝手は現代の魔術師では相性が悪いだろう。だってめっちゃおもいもん。

 

 

「それは今後の課題としましょう」

「まっ、そうだな」

 

 

 大の字で倒れている俺に手を伸ばすケイローン先生。やっぱり英雄に名を刻んだ存在とは格が違い過ぎた。あと単純にイケメン。爆ぜろと思った瞬間、掴んだ手を捻られた。壊されなかったけど。

 

 いやパンクラチオ怖過ぎだろ(震え)

 

 

 ★★★

 

 

 

「さて、捻られた手は治癒でなんとかしたとして、契約通りその脚を見るぞー」

「診察と言え診察と」

「はい、お願いします」

 

 

 ケイローンの教えを受けた対価がフィオレの脚の診察だった。クイナの得意な魔術は維ぎ合わせる結界魔術が多いが、亜種聖杯戦争が終わって使ってるのは大神と戦神のルーンを用いたルーン魔術だ。

 

 と言うわけで眼鏡をかけている。

 

 

「まず、脚を触るけど感覚があったら言ってくれ」

「はい」

「大丈夫なのか?」

「まあ最初は診察だ。俺だって情報がないと判断しかねる」

 

 

 まずは足の指を1本ずつ触る。

 指を軽く押したり、爪を少し強く押したりする。

 

 

「痛み、体温、感覚は?」

「痛みと感覚はありません。体温はほんの少しだけ感じます」

「足裏、今タオルで触れてるが、濡れている感触は?」

「ありません」

 

 

 後ろのグレイがメモを取ってくれている。

 気遣いがありがたい。自分が言った脚の箇所に細かく今の症状が書かれている。

 

 

「……結構真面目なんだな」

「こらそこ、プライベートと仕事は分けるちょっと出来る子なんだよ俺は」

「自分で言うなよ」

 

 

 カウレスが大分失礼な事を呟くが、あくまで問題児なのは仕事のない時だけだ。ストレスを発散したい時はするし、仕事の時は仕事をするオンオフの出来る人なのだ。ふふん。

 

 ある程度症状が分かった所で、クイナは眼鏡に手を当てる。

 

 

「よし、条件は揃った。じゃあ始めようか。自称シグルド名物」

「なっ……!?まさか、叡智の結晶––––!?」

「『輝いて煌めいてときめいて叡智の結晶(ハイファン・グラス)』!!」

 

 

 眼鏡に魔力を込めると眼鏡が輝き出す。

 シグルドの持つ叡智の結晶。竜の心臓を口にして得た叡智が結晶化したもので、それはルーンに問わず、知りたいと思った事に関しての答えを得る事が出来る。

 ただし、未来や異常性があるもの、理解出来ないものに対しては答えは得られない。クイナは頭脳に関しては明晰な方な為、叡智の結晶の情報処理は早い。

 

 

「うわっ、眩し!?」

「眼鏡が光らないと叡智の結晶って使えないんですか!?」

「いや、本人曰く夏に当てられた思い込みらしい」

「無意味じゃねぇか!?」

 

 

 仕方ないだろ。

 聖杯戦争が終わった後はイチャイチャしてたし、それこそ田舎だったから山でキャンプしたり、川で泳いだり、釣りしたりしてたし。

 

 まあ、その後に『当方が再び我が愛と出会えたのは貴殿のおかげだ。俺に出来る事なら何でもしよう』と言う事で魔術や剣技、ブリュンヒルデから槍術を教わっていたのだ。叡智の結晶も現界が終わる前に貰ったものだ。

 

 だが……

 

 

「ぐっ……!?」

「マスター!」

「お、おい大丈夫か?」

 

 

 幾ら処理が早かろうが宝具級の神秘である事に変わりはない。魔剣グラムのような侵食性はないものの、叡智の結晶の膨大な情報に処理が追いつかないと激しい頭痛がする。

 

 

「ああ、大丈夫。とりあえず、連発しなけりゃ問題ないよ」

「……無理しないでくださいね」

「わかってるから、心配してくれてありがとう」

「……はい」

 

 

 眼鏡を外し、フィオレの脚に再び触れる。

 軽く魔力を流してみると魔術回路が浮き出ている。その魔術回路を見ると、クイナはなるほどと呟いた。

 

 

「ああ、分かったよ。脚の原因」

 

 

 クイナは告げた。

 フィオレの脚の原因を特定出来た事に––––不敵な笑みを浮かべながらクイナはそう告げた。

 

 

 



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女の子をギュッと抱き締めると柔らかいと思ってしまうのは不可抗力だと思う。

 久しぶりにコッチを書きました。
 地獄界曼荼羅で平安が出てしまったちくせう!
 コレじゃあスバルクリプターが書きにくいじゃないかぁ!(泣)まだプレイしてないのでそれを終わらせてから書き始めたいと思います。

 良かったら感想評価、お願いします。では行こう。




 

 

 前回の振り返りをしよう!

 

 

「コレがパンクラチオンです(ジョジョ風)」

「ヒェッ」

 

 

 特訓してもらって手首壊されかけました。

 いやアキレウスやらヘラクレスやらあんな大英雄が育った理由がわかったわ。この人スパルタでした。

 

 あとはフィオレの診察しました。叡智の結晶で。

 

 

 ★★★

 

 

「「魔晶圧迫障害?」」

「それが脚の不自由な原因だ」

 

 

 二人とも聞きなれない単語に首を傾げる。

 まあこんな症例は稀っぽいし、クイナも初めて見た。叡智の結晶によりその知識が頭に流れ込んできた。まあ長時間使用は無理があるが。

 

 

「魔力の変質により、魔力の一部が神経内で結晶化、そうして神経内で圧迫されてしまう事で神経そのものが硬直する。稀なケースだがな」

 

 

 叡智の結晶、本当に便利だな。

 わりかし無理だと諦めてたけど、現代の知識にも適応されるとは改めて凄いなと思いましたマル

 

 まあこの症状は魔術回路と神経回路が密接にあるが故に発生する稀なケース。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。神経そのものに魔力が詰まってしまっているようなものだ。取り除いても普通なら元に戻ってしまうから対処法が見つからなかったのだろう。

 

 

「まあ、治すことは出来る。俺の技術でもなんなら今すぐでも可能だ」

「っっ!?なら……!」

「だが、俺の契約は診察までだ。それ以上は契約外だしな」

 

 

 カウレスが俯く。

 そう、フィオレとの契約はあくまで診察のみだ。叡智の結晶を使用する代わりにケイローンに戦いを教わっている。それ以上は契約外だ。仕事が絡んでいる以上、ボランティアでやるわけにもいかない。

 

 

「では、追加で契約を。何を差し出せばよろしいですか?」

「んー、特に決めてない。とりあえずは高い貸しにしておくよ。異論あるかい?」

「ありません」

「ちょっ、姉さん!?少しは慎重に契約を」

 

 

 カウレスの言う通り、そんな簡単に契約するものでもない。少しだけキョトンとした顔をしたあと溜息をついた。

 

 

「安心しろよ。俺がお前さんに恩を一つ売っておくだけだ。それがどう言う意味か分からないお前でもないだろ?」

 

 

 魔術師に恩を売る行為は今後の事を有利に進める事に等しい。クイナ自身は生き残る為に何パターンかは考えついているが、ケイローンは正直味方になってほしい。仮とは言え同盟関係を結んでいる赤セイバー陣営、黒の陣営のアーチャー陣営で()()()()()()()()()()()()()、それこそ生き残る可能性が高いと言える。

 

 魔術協会側は胡散臭いらしいし、かと言ってユグドミレニアを放置しておくわけにはいかない。特にダーニックについては魔術師として魔術師すぎる。第三勢力を作り、勝てれば残る三基で願いがあるのはケイローンと獅子刧、赤のセイバーモードレッドだけだ。

 

 ケイローンと獅子刧の願いは大聖杯の中身全てを使わずとも叶えられる願いだ。モードレッドは知らないが。まあともある恩を売っておけば後々役に立つだろう。

 

 

「よし、カウレス。一旦部屋を出ようぜ」

「はっ?何で…」

「失敗したくないから着替えてもらうだけだ。アサシン、悪いけど頼んでいいか?」

「はい、わかりました」

 

 

 カウレスの肩を掴んで部屋から出る。

 着替えを覗こうとするほど馬鹿ではない。んな事したらルヴィアやル・シアンくんに殺される。

 

 フィオレの部屋から少し離れた場所で窓際に座る二人。

 

 

「んで、本題に入ろうかカウレス」

「本題?」

「フィオレ嬢だよ。あの人が本当に当主でいいのかって話さ」

「はぁ!?いや、いいに決まって……」

「本当に?」

 

 

 真剣な顔でカウレスに問う。

 クイナは少なからずフィオレの性格を見抜いていた。あれは人間らしい魔術師だ。()()()()()()()()()()()()()

 

 

「心当たりがあるんじゃない?素質はともかく、精神的に魔術師に向いていない。会って俺が数日で気付けたんだ。兄弟のお前が分からない話でもないだろ?」

「………」

「まあ、深くは言わない。だが兄弟を比べればやはり優秀なのは彼女だ。だけど、精神的には話は別だ。きっとこの世界で生きれば彼女は遠からず心に深い傷を負う。お前も弟なら考えてやれ」  

 

 

 魔術師とは非情な存在だ。

 クイナも一見そう見えるがスイッチを切り替えてるだけだ。魔術師として生きる為には非情さは必要だ。フィオレでは耐え切れるのか否かと言われたら耐え切れないだろう。

 

 

「姉さんの脚は」

「治すよ?まあ筋力が落ちてるからリハビリは必要だ。この大戦中で頑張っても歩けるくらいしかならん」

 

 

 まああの礼装があるから大丈夫だろう。

 とは言え、魔術師としてこのまま突き進むのであれば相応の覚悟が必要になってくるだろう。

 

 

『クイナさん、着替えが完了したので戻ってきてください』

「りょーかい。んじゃパパッと脚を治すか」

「そんなあっさり言うなよ……」

 

 

 まあどちらにせよだ。

 それを決めるのは俺でもカウレスでもない。脚は治すが、それ以上はお節介が過ぎてしまう。着替え終わったフィオレの脚に触れ、原初のルーンを使って変質し、固まってしまった神経を治してから部屋に戻っていった。

 

 

 ★★★

 

 

 俺はダーニックに頼んで乗り物について考えていた。

 意外にも車やバイク、なんなら小型飛行機まである。まさかこの城にそんなものがあると思わなかった。

 

 

「言っただろう。準備は万全にしていたと、ライダーの騎乗スキルを考えた上で乗り物の選択肢を増やす事も考えていた」

「抜かりねぇ……おっ、コイツがいいかな」

 

 

 選択したのはバイクの中でも最速を誇るトマホークだ。

 ちょっと待て、これ限定で10台くらいしか売ってなかった奴だよね?なんであんの?

 

 

「バイクの種類は知らないが、最も速いバイクを頼んだのだ」

「まあ、この馬力ならライダーの戦車に追い縋れるか」  

 

 

 赤のライダーの担当は俺になった。

 ケイローンでも良かったのだが、赤のライダーは確実に俺とグレイを殺しにくる。アーチャーの仇として確実に来る筈だ。

 

 そして赤のライダーは対軍宝具、ホムンクルスやゴーレムで足止めなど無理だろう。無駄に兵を消費するのは得策ではないし。ケイローンには全体の援護として城で狙撃してくれる。

 

 

「しかし、駿足のアキレウスか。勝てるのか?」

「いんや。そりゃ分からない」

 

 

 駿足のアキレウス

 ギリシャ神話においてヘラクレスと比肩し得る大英雄。英雄ペレウスと女神テティスを両親に持つ、世界的規模の知名度を誇るトロイア戦争最強の戦士である。

 

 トロイアの王子ヘクトールやアマゾネスの女王ペンテシレイアといった強敵を打ち破りギリシャ軍を優勢に導いたが、ヘクトールの弟パリスの矢を踵と心臓に受けて致命傷を負う。それでもなお戦場を駆け回って暴れ続けたのちに遂に力尽きて倒れたというまさに英雄的存在。

 

 問題は不死性にある。

 アキレウスの不死はアキレウスの母である女神テティスが彼に与えたもので神聖の炎で炙り、父ペウレスは人間性を残す為に踵だけをそのままにした。

 

 アキレス腱まで名前がある以上、弱点ではあるのだが……

 

 

「弱点を知った上で勝てるか分からないよなぁ」

 

 

 グレイの宝具やアッドは恐らくランクに関係なくサーヴァントに対して天敵属性を持っている。英霊はどれだけの事をしても死霊だ。サーヴァントである以上、アッドは敵の宝具・スキルに容赦なく魂を捕食する。

 

 だが、グレイは闘うことに向いているわけではない。俺と同じ闘える人間であって本職に劣る。二人掛かりと援護で勝てるかどうか。

 

 

「ハァ……」

 

 

 自業自得とはいえ溜息しか出なかった。

 

 

 ★★★

 

 

「ハハハハハハッ!!赤のライダー、先陣を切らせてもらう!」

 

 

 まさか要塞が攻めてくると誰が予想したか。

 思わず、ラピュタだ!と叫んだ瞬間カウレスとダーニックが吹き出した。お前らジ○リ知ってんのかよ。

 

 敵は竜牙兵と空中要塞、開戦としては上々、軍に対しては黒のランサーが対応、黒のライダーは空中要塞を動かしている赤のアサシンであるセミラミスを討伐しに、ジークフリートは赤のランサーと、ケイローンとアヴィケブロンは全体の援護、寝返ったスパルタクスは竜牙兵の所へ放り出した。

 

 俺達、黒のアサシンことグレイとクイナは……

 

 

「よお、駿足のアキレウス。元気過ぎそうで何よりだ」

「っ!?へぇ……!まさかお前らが乗り物で俺に挑むとはな!バイクだったか?そんな鉄の馬でこの俺に勝てると思ったなら、屈辱だぜ!!」

「アサシン!!飛ばしてくれ!」

「はい!!」

 

 

 アキレウスを所定の場所にバイクに乗って誘導していた。

 グレイのスキルには()()()()()()()()()()。それは本来、グレイには持っていないスキル、アーサー王の乗馬によるスキルが獲得されている。対魔力、騎乗についてはアーサー王から引き継がれてしまっている。

 

 こう言った場面で無茶はして欲しくはないが、アキレウスは間違いなく対軍宝具持ち、下手に兵を浪費するのは愚策な上にバイクの上で遠距離攻撃が出来るのは俺だけだ。グレイは魔術については知識以上に技術がからっきしだ。

 

 

「ガンド程度が効くと思ってねえけど、案外躱すんだな!」

「射抜こうとする矢に対して何もしねえのは木偶のやる事だ!」

「そりゃ同感だ!『水よ(ラグズ)氷となれ(イサイス)』!」

 

 

 アキレウスの進行方向に巨大な氷塊が出現する。

 アキレウスに魔術は効かないが、幻獣には通じるか試しにルーンを刻んだが……アキレウスが殴り砕いた。

 

 

「はっ、この俺の歩みをその程度で止められると思ったか!」

「デスヨネー」

 

 

 幻獣を狙う前にアキレウスが潰す。

 とは言え、地面を氷結させたり、ルーンを設置したりしても意にも返さないとは思わなかった。

 出鱈目さを知ってはいた。やはり大英雄である事は変わらない。勝てる見込みなど薄いにも程があるが、他のサーヴァントではウラド三世かケイローン以外で傷を付けるのは困難だ。宝具ならまだしも。

 

 

「このまま森を突っ切ります!掴まってください!!」

「うわっ!?わ、分かった!」

「ひゃっ!?」

 

 

 グレイの腰を強く抱き締めて体制を安定させる。

 このバイクの最高速度は四百キロ、振り落とされれば強化した肉体でも傷を負う。とは言え、予想以上に強く抱き締められたせいか顔が赤くなりながらも、迫り来る木々を華麗に躱す運転スキルで森を突っ切っていた。

 

 

「アサシン、止まってくれ。これ以上はいい」

「は、はい」

 

 

 アキレウスも戦車から降りる。

 赤くなった顔を直し、グレイはクイナの前に出る。この場所なら広いし、ケイローンの援護が通る場所だ。槍と鎌、矛では場所が広くないと振るえない。

 

 

「観念したか?」

「……まあ、逃げれるなんて思ってないし」

「へぇ、いいじゃねえか。マスターも含め二対一とは言え、この俺に挑むとは大した覚悟だ」

 

 

 グレイはアッドを既に第一段階にしている。

 クイナも『煉愛の魔槍(ロマンシア)』を構えてアキレウスの出方を伺う。グレイと俺は神性とサーヴァント特攻を持っている為、アキレウスの不死は通用しない。

 

 とは言え大英雄、足が震えるし勝てるかも分からない。グレイでさえ萎縮している。だが、勝算がないわけじゃない。

 

 

「行くぞアサシン!」

「はい!!」

 

 

 二人は大英雄に向かって走り出した。

 勝算が薄いが、勝てる見込みがない訳ではない。ややヤケクソ感はあるがアキレウスの相手をケイローンに任せたらよかったと思いながら、大英雄と闘い始めた。

 

 

 

 



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負けるつもりは毛頭ないが、勝てる気はしないのもまた事実だ。

 
 お久しぶりです。
 各戦いが雑な気もするが仕方ないと割り切った。話を進めていきます。今回の主役はジークくんです。では行こう!
 
 


 

 

 大英雄アキレウス。

 その膂力は槍を振るっただけで大気を押し除け、地を踏みしめただけで大地を砕く。トロイア戦争に於いて、アキレウスはその力を奮い、アマゾネスの女王やヘクトールを打ち破った。

 

 そんな化け物と相対して勝てる見込みは多く見積もって三割と言った所だが……

 

 激しい連撃がもう二十分は続いている。

 ケイローンの援護が途絶えてしまう中、流石に疲労が増し、足が鈍くなってきた。

 

 

「っっぅおっ!?」

「どうしたぁ!動くが鈍いじゃねえか!」

「アッド!!」

 

 

 アキレウスの追撃をグレイが防ぐ。

 グレイがアッドの礼装を限定応用解除し、鎌から盾へ変化させ槍を受け流す。すかさずクイナは女神の槍を振るうが、右腕で防がれた。

 

 

「……っ!?ハアアッ!!」

「ぐっ!」

「きゃあ!?」

 

 

 盾の上から蹴り飛ばされ、クイナとグレイは後方に。

 アキレウスは防いだ右腕をジッと見つめる。アキレウスには『勇者の不凋花(アンドレアス・アマラントス)』と言う宝具により踵以外が不死である。そしてランクが低い攻撃は通らない筈なのだが、今アキレウスが防いだ右腕から僅かに()()()()()()

 

 

「……その槍、まさか神造兵器か?」

「バレたか、畜生……」

 

 

 クイナが持っているのは『煉愛の魔槍(ロマンシア)

 女神であるブリュンヒルデから亜種聖杯で願いを叶えてもらった故に授かったもの。神性には神性で対抗する事ができる為、黒の陣営ではケイローンかアサシンをぶつけるしかなかったのもある。

 

 

「『炎よ(アンサズ)!』」

「チッ……!」

 

 

 地面に仕込んでおいたルーンがアキレウスの足下で爆ぜる。しかしアキレウスは跳躍し、それを回避する。クイナは決戦が始まる前にこの森に罠やルーンをありったけ用意した。飛びナイフ、氷結、炎、毒、そして……

 

 

「んなっ!?」

「アサシン!」

「はいっ!」

 

 

 地面に刃がビッシリと詰まった原始的な落とし穴。

 アキレウスが着地した地面が崩れ剥き出しの刃が敷き詰められていた。アキレウスと戦う事を想定し、死角からの攻撃も地雷も落とし穴も全てが踵に向くように設定している。

 

 アキレウスは落とし穴に落ちる前に槍を突き立て落ちるのを回避する。しかし、叩き落とせれば踵を潰せる。グレイが間髪入れずにアッドを大鎚に形態変化させ、アキレウスに迫るが……

 

 

「ペーダソス!!」

「っ、グレイ下がれ!」

「っっ!?」

 

 

 アキレウスの幻獣がグレイを轢き殺さんとする勢いで突撃する。グレイはクイナの声に反応して、それを回避する。やっぱり、二対二の構図になってしまう以上、ペーダソスの幻獣達をどうにかしないとまともに隙を突けない。

 

 

 

「面倒な罠張りやがって。よっ、と」

「結構焦ったろ。脚を止める手段ならそこいらに散りばめたし、足を封じるには得策だろ?」

「ド正論だよ。確かに俺は踵潰されちまったら速度七割減だ。だが、英雄ってのはそんな弱点を容易に突かせねぇ。正論だし得策なのは認めよう。だが、たかが脚を封じた所でこの俺を下せると思うな」

 

 

 実を言えば七割。

 既に罠の殆どを使ってしまっている。そもそも不死性を持つアキレウスに効く罠をそれ程多く用意する事は出来なかった。飛びナイフは潰され、氷結や炎は効くはずが無く、毒も英雄に効く毒を用意するには量が少なかった。なので踵を潰せる先程の落とし穴が本命に近かった。

 

 もう一つ本命を用意しているが、駿足を捨てる代わりに警戒を強められた。残念ながらこの後は殆どの罠に引っ掛からないだろう。

 

 そして、一番の問題は駿足を潰した所でアキレウスに勝てる保証はどこにもない事。悔しいが負けるつもりはなくとも勝てる見込みも少ないのが今の現状なのだ。

 

 罠は残り三つ。

 その間にアキレウスを倒さなければ勝ち目がないという悲しい事実に背中を震わせる。

 

 だがそんな中……

 

 

「んっ?」

「な、んだこの魔力……まさか!?」

「アッド!第一段階、応用限定解除!!」

『いけんのかコレ!?畜生なんて扱いだよ全く!!』

 

 

 メキメキと木々を薙ぎ払うように迫り来る衝撃波。

 木々を消滅させ、大地すら抉り取るかのような魔力が迫る中、アキレウスは霊体化し、クイナはルーンで結界を張り、グレイはクイナを庇うようにアッドを盾にして防いでいた。

 

 

 

 ★★★

 

 

 時は二十分を遡る。 

 

 竜牙兵を一掃する黒のセイバー。

 ジークフリートは魔力の余波だけでそれを蹴散らし、一振りで大地を抉るほどの斬撃を放ち、目の前の最後の竜牙兵を一掃する。

 

 息切れなどは全くない。

 英雄であるジークフリートからすればウォーミングアップにも等しい軽い運動。

 

 そんな中で現れた日輪にも等しいサーヴァントが天から舞い降りる。

 

 

「約定を果たしに来たぞ。黒のセイバーよ」

「来ると思っていた……赤のランサー」

 

 

 一度闘い、もう既に言葉はいらない。

 ただ目の前の敵を全霊を持って屠るのみ。

 

 

 黒のセイバー(ジークフリート) VS 赤のランサー(カルナ)

 

 

 ★★★

 

 

 黒のランサーは竜牙兵全てを狩るために戦場へ、

 黒のアーチャー、ケイローンは各戦場のサポートとして森から狙い撃ちをしていた。そして、足止めにもならないが、空を浮かぶ空中要塞に矢を番え、放つ。

 

 しかし、空中に浮かぶ要塞を落とすには足りない。

 魔術によって防衛され、動力源となる部分を貫くには威力が足りない。

 

 

「やはり、一筋縄ではいきませんか」

 

 

 空中要塞からの洗礼が降り注ぐ。

 圧縮した魔術の光線が空から堕ちる。それだけで森は焼き尽くされ、アーチャーを追うように第二波、第三波と降り注ぐ熱線。

 

 

「出鱈目な……!?」

 

 

 あんな高出力の攻撃が無尽蔵に。

 本体を叩かねば恐らく堕ちる事はないだろう。黒のアーチャーは回避しながら空中要塞に乗り込む術を考えつつ、回避しながらも仲間の支援に弓を番えていた。

 

 

 ★★★

 

 

 黒のライダーであるアストルフォは赤のアサシンを狙い空中庭園までピポグリフで飛んだのだが、対魔力Aの上で魔術のダメージを食らい、地上まで落とされてしまった。

 

 そこで赤のセイバーと遭遇し、地上戦となってしまい、圧されている。黒のバーサーカーであるフランケンシュタインの攻撃も止められ、セイバーに斬り伏せられた。

 

 

 そんな中、現れたのは……

 

 

「なんで……!」

 

 

 ライダーが授けた剣でセイバーに立ち向かうジークの姿だった。

 

 

「なんで来たんだ!ボクは助けてもらうために、君を助けたんじゃない!」

「……確かに、俺はライダーの手助けにもなれない。そんな事はもう痛感している。けど、俺はライダーを死なせたくない」

「ボクはサーヴァントだ!」

「それでもだ!それでも、俺は死なせたくない。無力でも、勝てない相手でも、俺はこの命にかけて死なせたくない!」

 

 

 赤のセイバーはその言葉に少しだけ認めた。

 確かにこのホムンクルスは戦場に出て粋がるだけの馬鹿だ。命を投げ出し、無力に死ぬような雑魚に過ぎない。

 

 だが、それでも心からそう思っている。

 それでも死なせたくないその度胸だけで戦場に出れる奴は少ない。

 

 

「ジーク、だったか?その名は我が身に刻んでやる」

「ガッ……!」

 

 

 故に手を抜かなかった。

 ザシュ、とジークの胴体に赤き宝剣が突き刺さる。戦場に出れたその度胸は認めても勝てるかは別問題だ。鮮血を撒き散らし、地面へと倒れ伏せた。

 

 それを見たアストルフォは激昂し、セイバーに襲い掛かる。

 

 

「赤のセイバーァァァアアア!!!」

 

 

 だが、その激昂もセイバーに届かない。

 アストルフォの槍捌きによる猛攻もセイバーの剣技に吹き飛ばされ、落とされた傷がまだ響いている。

 

 アストルフォでは赤のセイバー(モードレッド)に勝てない。

 

 

「あん?なんだコレ……っっ!?」

 

 

 垂直に立つ黒のバーサーカーの宝具。

 そして、バーサーカー本人はセイバーの頭にしがみつき、剥き出しになった自分の機械の腕を首に巻き付けた。

 

 

「バーサーカー!?なんで……」

『退きなさいライダー。バーサーカーは自爆するつもりよ』

「なっ!?」

 

 

 バーサーカーを中心に雷が()()()()

 空から降る落雷とは訳が違う。それはまるで桜のようにバーサーカーの第二種永久機関とも呼べる魔力のエネルギーを全て生体電気に変え、暴発させる人造人間フランケンシュタインの出せる最後の手段。

 

 

「ガッ…アアアアアアアアアアッ––––!!?」

 

 

 その圧倒的帯電にしがみつかれたセイバーは苦痛の叫びをあげる。カウレスの令呪により、全リミッターの拘束は解除。その威力は対軍を超え、一時とはいえ圧倒的火力は対城にさえ届き得る。

 

 

「ワタシト……イッショニ…コイ!!」

 

 

 バーサーカーはその宝具を発動する。

 名を『磔刑の雷樹(ブラステッド・ツリー)』。雷電は聳え立つ大樹は赤のセイバーの肉体を崩壊させる程の高電圧。フランケンシュタインの最後の生体電気全てを爆発力に変えたそれは戦場に一つの花を散らした。

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ……ここは……」

 

 

 暗転していた意識が元に戻っていく。

 先程、赤のセイバーに身体を貫かれた筈なのに……生きている。

 

 気が付けばそこは黄昏と、芝生の上に居た。

 先程までは夜で、草木も生えない地の上に立っていたのに……

 

 

『––––ここは当方の記憶の欠片。我が愛と一緒に刻んだ我が宝である』

「!」

 

 

 声が聞こえた。

 振り返るとそこに居たのは人の形をした影だった。

 

 姿はハッキリ捉えられない。少なからず人であるという事は理解出来るが、それ以上は理解ができない存在だった。

 

 

『––––当方が座に帰す時に僅かながら聖杯に魔力が注がれた。その魔力を貴殿が飲んだのなら、この世界が見えるのも無理はない』

「貴方…は……」

『どうやら時間が少ないらしい。なので率直に回答を求める』

 

 

 揺らぐ影はジークにただ一つ問いかけた。

 

 

『––––貴殿はどうしたい』

「俺が……どうしたいか?」

『既に貴殿は欠片を受け取っている。当方望むなら我が旅路の記憶にて身に付けた剣の理を貴殿に授けよう。彼女の欠片と合わせれば、セイバーに迫る力を得られるだろう』

 

 

 既に欠片は託された。

 その力を使う事が出来れば、出力はサーヴァントに匹敵する。拙い剣技も、影の記憶があればセイバーと斬り結ぶ程の力を得られる。

 

 

『だが、それは有償の奇跡。使い続ければいずれソレは貴殿から全てを奪うだろう』

 

 

 都合の良い力などありはしない。

 恐らく、数回使っただけでも身体を蝕み、自分という存在を崩壊させてしまうだろう。

 

 

『それでも、貴殿は力を望むか』

 

 

 それでも影はジークに再度問う。

 ジークには過ぎた代物だ。それを受け取らなくとも恐らくは生きていける。ライダーを見捨て、逃げる事が出来ればジークは生き残れるだろう。

 

 しかし……

 

 

「……俺は、ホムンクルスだ。生きる意味もない消耗品に過ぎない」

 

 

 ジークはその道を否定する。

 自分はホムンクルスだ。元より死ぬはずだった未来から救われただけの幸運者に過ぎない。

 

 

「でも、彼が言ったんだ。願いは自分が進んだ道の先にあるものだと。歩いた道なんてまだ数える程度しかない。俺に願いなんて崇高な考えは持ち合わせていない」

 

 

 ジークはただ運が良かっただけだ。

 それだけで生き延びた。生かしてくれた人がいた。そんな人達がまさに死んでしまうかもしれない状況にいる。

 

 

「けど、俺はライダーに生きてほしい!理屈も歩いた道なんて関係ない!俺が()()()()()()()()!」

『………!』

「力を貸してほしい、俺はライダーを助けたい!それが俺の今の願いだから!!」

 

 

 ジークは願いを吼えた。  

 その願いに偽善はなく、穢れた思考も全くない。

 

 ただ、助けたい。

 その為に立ち上がり、力を求めた。

 

 そんなジークの願いに影は笑ってるような気がした。

 

 

 

『了承。ならば受け取るといい、我が身に刻んだその力を!』

 

 

 高らかにその答えに叫ぶように告げた。

 影は霧散し、ジークの中へと消えていった。

 

 流れ込んでいく。

 かつて竜を殺し、女神を愛し、そして殺されてしまった英雄の記憶がジークの中に流れ込んだ。

 

 

 その英雄の名は……

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 バジジジッと、電流が流れる音が聞こえた。

 セイバーが虫の息であった死体に等しいホムンクルスから流れていた微弱な魔力。それが一瞬にして跳ね上がる。

 

 

「あっ……?」

 

 

 セイバーが無視できなくなるほどに膨れ上がった魔力に思わず視線を向ける。死に体だったホムンクルスが立ち上がっていた。土手っ腹を貫いた傷が修復されていくのを見て目を見開いた。

 

 

「腹の傷が……どうなってやがる」

 

 

 傷が塞がり、顔を上げセイバーを見据えた瞬間。

 ジークの身体が赤のセイバーの視界からブレた。

 

 

「なっ……オラァ!!」

 

 

 一瞬、捉えるのが遅れた。

 迫り来るジークを剣ごと弾き飛ばすが、ジークは受け身を取り自分の変化を実感する。先程の無謀で拙い剣技から一転して、歴戦の英雄の緊張感が張り詰める。ジークは剣を構えて赤のセイバーの前に立つ。

 

 

「………」

 

 

 鎧に僅かに傷が入った。

 それはジークの攻撃が僅かながら入った証拠である。ありえない。人の身で、ましてやホムンクルスの身でありながら、サーヴァントに匹敵する力を得るなんて……

 

 

「テメェ……何が起きやがった」

「自分でも、驚いている」

 

 

 赤のセイバーはジークを見据え、剣を向けながら問いかける。これほどの劇的な変化にセイバーは顔を顰める。

 

 ジークの瞳はホムンクルス特有の茶色から()()()()()()()()に変わっていた。

 

 

 




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