過去の憧憬、未来にいる君へ (バードストライク)
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過去の憧憬、未来にいる君へ

今回の作品は手紙風になっています。(あくまでも手紙風です。手紙じゃないと思ってもご勘弁を)それでも良ければどうぞ読んでください。


ドラえもんへ

久しぶりだね。大人になったのび太だよ。

職業はサラリーマンで今年で30歳。

結婚して妻と1歳の娘がいるよ。

昔のことを思うと平凡だけど楽しい日々を過ごしてる。

ねぇ、ドラえもん。

君の言ってた未来とは違うけど、君のために僕の過去を手紙に書くよ。

いつか君が読むことを信じて。

 

小学校を卒業した日、ドラえもんは未来に戻るといったね。

僕は友人のドラえもんと別れることが嫌だった。だから必死に止めた。

でもドラえもんは『君はもう一人でも大丈夫。僕の役目は終わったんだ。これからは君の力で未来を切り開いていくんだ。』と言ってくれた。

ドラえもんと離れることは嫌だったけど、同時に大切な友人に認められることがとても嬉しかったんだ。

だから僕はこう言ったんだ。

『わかったよ。これからは道具に頼らず生きていくよ。ドラえもんが未来で心配しないように!』

 

その晩、ドラえもんの送別会をやったね。

僕とドラえもんとパパとママ…皆で食事をとった。

笑いあった。

そしてドラえもんとお別れになることを悲しんだ。

次の日ドラえもんは去っていった。

『じゃあね、のび太くん。元気でね。』

『うん、さようなら、ドラえもん。またね。』

これが僕たちの最後の会話だった。

 

中学校に入学してから僕は勉強をよりいっそう頑張った。

出来杉には勝てなかったけど、それでも上位の成績を維持できるくらいには学力が身に付いたんだ。

部活は弓道部に入った。

僕は射撃が得意だったからかメキメキと上達していった。

後に全国大会で2位の成績を残したのは今でも良い思い出だよ。

女子にもそこそこモテるようになったっけ。

僕には本命がいたから告白されても断ったんだけどね。

ジャイアンとスネ夫は野球、しずかちゃんは吹奏楽部に入ったよ。

しずかちゃんは最初バイオリンをやってたけど、あまりの下手さに顧問から怒られてピアノに転向したって聞いたときは思わず吹き出しちゃった。 

そのあとしずかちゃんにグーで殴られたっけ。

…めちゃくちゃ痛かったし、しずかちゃんの般若の形相を見たときは二度とこの話はするまいと思ったよ。

 

中学校2年の頃、文化祭のときにしずかちゃんに告白した。

『しずかちゃん、貴女のことが昔から好きでした。よかったら僕と付き合ってください。』

『ええ、喜んで!』

僕の告白を受け入れてくれた瞬間は今でも覚えてる。

とても嬉しかったんだ。

目に見えてるものすべてが輝いて見えた。

後日ジャイアン達にこのことを言ったら『よかったな、のび太!』と言ってくれた。

出来杉は少しだけ悔しそうにしてたっけ。

この頃の僕は毎日が幸せだった。

時々喧嘩もしたけど、そのたびに仲直りして前よりもしずかちゃんのことが好きになっていった。

どんなしずかちゃんも愛しく見えた。

こんな幸せがいつまでも続くと思っていた。

…でもそれは唐突に終わりを告げたんだ。

 

中学校3年の中頃だった。

しずかちゃんはご両親と共に突然消えた。夜逃げだった。

心配になった僕は、しずかちゃんの携帯に電話をした。

でも繋がらなかったんだ。

僕はしずかちゃんに会えないことを悟った時、目から涙があふれでた。

拭っても拭っても止まらなかったんだ。

僕はショックで学校を休んだよ。

立ち直れたのは両親とジャイアン達のお陰だった。

皆のお陰で立ち直ることが出来た僕は、無事卒業して公立高校に進学することが出来たんだ。

ただもう人を好きになることはないと当時の僕は思っていた。

 

高校はみんなと違う学校に進学したよ。

みんなと離れるのは少し寂しかったけど、いつまでも頼るわけにはいかないと思ったから。

出来杉は有名私立高校に、ジャイアンとスネ夫はそれぞれ違う高校に行った。

二人とも野球部に入部して、高校野球の試合で二人の学校が対戦したときは両方のチームを応援したよ。

僅差でスネ夫のチームが勝ってジャイアンは悔しがっていて、それでもスネ夫のチームにエールを送って、二人の友情の美しさを見たよ。

僕は高校では学力は常に1位だった。

というよりあれは中学校の学力上位の奴が優秀すぎたんだろうね…出来杉とか。

部活は弓道部で高3の時に全国1位入賞した時は思わず嬉し泣きしちゃったよ。

泣き虫なところは今もあまり変わってないかも。 

そうそう、あれから何度か女の子とも交際したよ。

告白したり、されたり…日々を過ごしていくうちにいつまでも過去に囚われては駄目だと思ったから。

残念ながらあまり長続きはしなかったんだけどね。

ジャイアン達と遊ぶ機会は中学校と比べると減っちゃったけど、時々集まって一緒に遊んだんだ。小学校の頃の話もいっぱいしたよ。

いつもドラえもんの話がでていたよ。もちろんしずかちゃんも。

進路は迷ったけど大学に行くことにしたんだ。

ジャイアンは実家を継いで八百屋に、スネ夫は稼業を継ぐために海外の大学に、出来杉も海外の大学に行ったなぁ。

スネ夫と同じ大学なんだって。

 

大学に行ってからも僕は勉強を怠らなかった。

勿論サークルは弓道部に入った。

ジャイアンとはちょくちょく遊び、スネ夫と出来杉とはなかなか会えなかったけど連絡はよく取り合っていたよ。

ありふれた日常だったけど順調だったんだ。

そんなある日だった。

僕は彼女と偶然再開したんだ。

 

ジャイアン達と久々集まって、飲みに行って解散した帰りだった。

どこか虚ろな表情を浮かべた彼女を見つけたんだ。

一目見てわかった、あれはしずかちゃんだって。

 

『しずかちゃん!』

僕はすぐに声をかけた。

しずかちゃんは少し驚いた表情を浮かべたあと、僕の前から走って逃げていったんだ。

僕はすぐに追いかけたよ。

ここで追いかけなければもう二度と会えなくなる気がしたから。

これでもずっと弓道を続けているから体力には自信があった。

実際すぐにしずかちゃんに追い付いた。

『待ってよ、しずかちゃん!』

僕は呼び止めた。彼女の手を掴んで。

『やめて、離してよ!』

その言葉を聞いたときは誰だかわかっていないんだろうと思っていたよ。

『僕だよ。野比のび太だよ。』

彼女に僕はそう言うと彼女は『わかるわよ』と言った。

どうして逃げるのか聞いたら今さら合わせる顔がないと思ったらしい。

僕は一度落ち着いて話し合うことを提案したら、彼女は自分の住んでるマンションに案内した。

そこで僕は彼女の壮絶な過去を聞くことになる。

 

『夜逃げしたことは知っているんでしょう。私のパパが友人に騙されて連帯保証人になってしまったの。』

彼女が最初に言った言葉だった。

それで借金を支払えなくなってしまって、そのうち取り立てもひどくなって夜逃げせざる終えなくなってしまったらしい。

『そうだったんだ。しずかちゃんのご両親は元気にしてるの?』

僕はこの質問をしたことを後悔することになる。何故聞いたのだろうと。

『パパとママは自殺したわ。首を吊って、私を残して…遺書には最期まで一緒にいてあげられなくてごめんなさいって。』

彼女は眼に涙を浮かべながらそう言った。

何故なのだろう。

僕もご両親のことはよく知ってる。

とても優しい人達だった。

挨拶をしにいったときに見た家族の姿はとても幸せそうで、それが、こんな…

『私ね、今体を売ってお金を稼いでいるの。最初はね、普通に働いていたわ。でもパパとママが死んで、借金も返さないといけないと思ったから、体を売ることに決めて、借金は返せたんだけどね。でもいく場所がなかったから今でも働いてるんだ。お陰でそこそこ良い暮らしが出来ているけど汚れちゃった。』

続けて『馬鹿だよね、私』と笑みを浮かべながら彼女は言っていた。

その笑顔が無理矢理作ったもので有ろうことは誰の目から見ても明らかだった。

涙を流しながら言っていたのだから。

 

『しずかちゃんは汚れてなんかいないよ。』

『なにがわかるの!私はのび太さんとは住む世界が違うの!!』

しずかちゃんは僕の言葉に激昂したのだろう。

僕の記憶のなかのどんなしずかちゃんよりも強い口調で拒絶の言葉を投げかけた。

でもその姿はとても痛々しくて…確かに僕にしずかちゃんの気持ちを理解することはできない。

でも寄り添うことはできる。

痛みを理解できなくとも分かち合うことはできる。

だから僕は退かなかったんだ。

 

『確かに僕には分からないかもしれない。住む世界も違うのかも知れない。だけど、しずかちゃんはしずかちゃんだよ。ジャイアンもスネ夫も出来杉も勿論僕も!しずかちゃんのことを忘れたことは一度もなかった!!だから僕に教えてよしずかちゃんのことを…わかり合うために。』

彼女はそれを聞くと『なんで…どうして…』と言い大粒の涙を流した。

僕は彼女を抱きしめた。

彼女が泣き止むまで優しく。

彼女は泣き止んだあと、自分がいなくなったあとの僕の話を聞いてきた。

僕の話を聞いている彼女はどこか嬉しいそうな、そしてどこか寂しそうな表情を浮かべていた。

話していくうちお互いのことを話すようになった。

まるであの時の続きをするように…だから僕は決めたんだ。

 

『しずかちゃん、もう一度僕と付き合ってほしい。』

彼女は一瞬喜びの表情を浮かべた後、哀しげにこう言ったんだ。

『私は…駄目だよ。もう戻れない。』

そう言う彼女の言い分は理解できる。

だけど…!

『確かに過去のことはどうにもできないし、昔のような関係には戻れないかもしれない。でも未来を歩むことはできる。僕は今のしずかちゃんと新しい関係を築きたいんだ!明日、空き地に来て。

昔、ドラえもんやジャイアン、スネ夫と僕たちで遊んでいた場所だ。待ってる。』

僕はこう言い彼女のマンションを後にした。

最期の別れになるとも知らずに…

 

次の日、僕は空き地に朝早くから待っていた。

なんでこんな肝心な時にドジ踏むかな…時間を彼女に言うのを忘れてしまった。

もっともこの時間帯より前に来ることは考えにくいし、大丈夫だろうと僕は思っていた。

結局この日、彼女がここに来ることはなかった。 

よくよく考えてみれば付き合ったとは言っても中学校の頃な訳だし、引かれてしまったのだろうか…このときはこう考えていた。

それから3日後のことだった。彼女の訃報を聞いたのは。

 

訃報聞いてから三日後のことだった。

彼女の葬式が行われたのは。

幸いにも親族が引き受け人となったために無縁仏にならずに済んだらしい。

僕とジャイアン、スネ夫、出来杉は葬儀に参列した。

彼女の…しずかちゃんの死因は自殺だった。

彼女のご両親と同じ首吊りで。

葬式が行われるなか、しずかちゃんのご親族に挨拶に伺ったときだった。

僕が土下座したのは。

 

『彼女が…しずかちゃんが自殺したのは僕のせいです。申しわけありませんでした!』

このときの僕は自責の念でいっぱいだった。

僕が言ったことで彼女を追い詰めてしまったと思っていたのだから。ご親族の方々は驚き、頭をあげてくださいと言った。

ジャイアン達も驚いていたのだと思う。

それでも僕は頭を地面に擦り付けていた。

そうしているうちに僕を見たご親族の一人が声をかけてきたのだ。

 

『貴方は、もしかして野比のび太さんですか?』

若い女性の声だった。

『はい、僕は野比のび太と言います。』

これが、後に僕の妻となる女性、源雫(みなもと しずく)との最初の出会いだった。

『私の名前は源雫、しずか姉は私をよく可愛がってくれていました。貴方宛にしずか姉の遺書があるので受け取っていただけませんか?』

雫がそう言うので、僕は遺書を受けるために頭を上げた。

その時に初めて雫の顔をみたのだが、とても驚いたのを覚えている。

年は若く、後に知ったのだが当時高校2年生の彼女は双子と言われても納得できるほどしずかちゃんとそっくりだったのだ。

 

『しずか姉の遺書です。どうぞお読みください。』

納骨を終えた後、僕と僕と縁のあるジャイアン、スネ夫、出来杉は雫の家に案内され、雫から遺書を手渡された。

 

『のび太さんへ

 貴方がこれを読んでいるとき、私はこの世にいないでしょう。貴方は優しいからきっと自責の念に駆られているのだと思います。自分が追い詰めたのだと。でもそれは違います。

 貴方と出会ったとき私は既に死ぬことを考えていました。貴方が私のことを知ろうとしてくれたこと、私とやり直そうと行ってくれたこと、中学校のときに貴方と離れてから、一番幸福なひとときでした。

 ですが、貴方と同じ時間を歩むことは出来ませんでした。私はこの先の未来が怖くて、怖くて仕方ないのです。

 私の身勝手で最後まで貴方を傷付ける形になってしまいごめんなさい。どうか、私のことは忘れてください。そして貴方は、私と違って時間の歩みを止めないでください。私の最後のお願いです。

 最期に、のび太さん。こんな私を愛してくれてありがとう。ドラちゃん、武さん、スネ夫さん、出来杉さん、そして何よりのび太さんと過ごした日々が私を今日まで支えてくれたから今まで生きることが出来ました。

私はこの世から去りますがのび太さんのことをずっと愛しています。貴方が幸せな人生を過ごせるように天国で見守っていますね。

            

               源 静』

 

僕は泣き崩れた。

いろんな感情が入り交じってもはや何も考えることは出来なかった。

ジャイアン、スネ夫、出来杉もこの遺書を読んだ。

みんな泣いた。

涙が止まらなかった。

どのくらいたったのだろうか?ようやく涙が止まり、落ち着いてきた頃に雫は話しかけてきた。

『野比さん、貴方はしずか姉に愛されていたんです。自分を追い込むことは止めてください。しずか姉の分まで貴方は生きてください。』

雫は目に涙を浮かべながらそう言った。

 

大学卒業後、僕は大手の会社に就職した。

ジャイアンは今も八百屋を続けているが、売り物や内装を時代のニーズに合わせたことで、以前よりも売上が伸びたそうだ。

スネ夫は父の会社に就職した。

望めば上のポストも用意できたそうだが、スネ夫は断ったのだと言う。

曰く、一から学んでいきたいからだそうだ。出来杉は外国の政治家の秘書になった。

とても忙しいそうだがやりがいがあるのか出来杉は生き生きした表情で語っていた。

僕も、彼らに負けないよう精いっぱい仕事に取り組んだ。

お陰で今ではそれなりの役職につくことができて、家族を養っていけるだけの給料を貰っているよ。

後、休みの日に弓道のコーチを時々している。

全国一位の肩書きがあるお陰か、なかなか好評だ。

 

そうだ、雫との結婚までの話をまだしていなかったね。

雫と交際することになったのは就職してから2年後のことだった。

雫がしずかちゃんと仲が良かったこともあってか、葬式のあとも交流はあったんだ。

あるとき、雫から交際を申し込まれてね、最初は断ったんだよ。

しずかちゃんと重ね合わせてしまうからって。

だけど、雫は諦めなくてね…三回目の告白を受けたときに付き合うことにしたんだ。

僕もいつまでも過去を振り替えってばかりはいけないって思ってね。 

きっとしずかちゃんもそうした僕の姿は望んでいないだろうって。

そこから一年と半年後、僕が雫にプロポーズにしたんだ。

『僕と同じ時間を歩んでください』

それを聞いた雫は泣きながら僕に抱きついたんだ。

 

雫と結婚してから4年後、雫と僕の子供が産まれたんだよ。

ドラえもんと一緒にタイムマシーンに乗って僕の産まれた日を二人で見に行ったけど、当事者になった今、あの時のパパとママの気持ちが痛いほどよくわかるよ。

とっても可愛くて、いとおしくて、号泣しちゃった。

雫が『貴方ったら』といって、僕は産んでくれてありがとうと言ったんだ。

 

娘の名前はね、静香にしたんだ。

もし女の子だったらこうしようって雫と二人で決めたんだ。

野比静香、しずかちゃんの分まで幸せに生きてほしいって意味を込めてそう名付けたんだ。

 

ドラえもん、君が誕生した頃に見てる未来は僕が君から聞いた未来とは少し違うのかも知れない。 

でも、君が来たこと、君が僕にくれたもの、君が僕のかけがえのない友達であることは代わらない。

例え離ればなれになったとしても、異なる時間を歩んでいても心は繋がっている。

僕はこれからも自分の時間を歩んでいくよ。

しずかちゃんと君が認めてくれた僕として、雫と静香が愛してくれる僕として。

君がこれを読んでいる頃には僕は死んでいるのだろうけど、心はこの手紙に託すよ。

最後にドラえもん、君に出会えて僕は代わることができた。

本当にありがとう。

今度は未来で会おうね。

君とまた会える日を僕はここで待っています。

             野比 のび太

 




ここまで読んでいただきありがとうございました。今回はこれで終了となります。
恐らく内容は賛否両論だと思います。
少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。


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