もしもお嬢様を1mmも理解してないゲーマーがセシリアに憑依したら (まみま)
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クラス代表決定戦編
お嬢様大地に立つ


 IS学園。IS(インフィニット・ストラトス)と呼ばれる宇宙開発のためのマルチフォーム・スーツの操縦や整備を学ぶための選りすぐりのエリートが通う高校。ISが女性にしか動かせないというところから生徒は全員女子。

 その学園の校舎のその前に、誰よりも淑女らしい淑女が一人。

 

 

「今日も紅茶がクソ美味いでございますわね! やっぱリプ○ンは最高ですわ!」

 

 

 他でもない、わたくし(セシリア・オルコット)ですわ。

 思い返せば15年前、不意にちぎれた電線が降ってきて感電して雑に死んだわたくしは、気がついたら赤ん坊になっていました。それもイギリスの名家の生まれだと。つまりはお嬢様。それならば言動もお嬢様らしくなければならない! 

 だからわたくしはわたくしなりにお嬢様らしい言葉遣いや仕草を勉強して、そして15歳となった今、どこに出しても恥ずかしくない完璧なお嬢様へと進化を遂げたのでございます! 

 

 

「えっと、わたくしのクラスは1-1でございましたわね」

 

 

 それにしてもそこら中に咲いている桜が綺麗だこと。この体になる前は日本人だったわたくしは、イギリスで15年を過ごしても日本人の心は忘れてはいなかったようで、舞い散るピンクの花びらにノスタルジーを感じますわね。

 日本人が桜に感じるものは、アメリカ人が自由の女神に抱く感情のようにそのルーツを持つ者にしかわからないものだと何かで読んだ覚えがありますわ。イギリス人で言ったらなんでしょう、スターゲイジーパイ? 

 

 おや、思考を巡らせているうちにわたくしのクラスについたようですわね。1-1の文字を見て、教室の戸をピシャリと開けますわ。

 

 

「皆さまご機嫌よう! 一年間、よろしくお願いいたしますわ!」

 

 

 ……おや、完璧なお嬢様・ファーストコンタクトの筈ですのに誰も挨拶を返してくださりませんね? 

 見てみると、どうやら一番前の席に座っている一人の少年を中心に、全員が距離をとって大きな輪を作っているようですわ。少年……つまり、女性にしか動かせないISを動かせる世界で一人の男子、織斑一夏さんですわね。

 なるほど、みんな誰が彼に話しかけるかで牽制合戦が始まっているわけですわね。

 

 

「わたくしはセシリア・オルコット! なにか困っていることが有れば力になりますわ! よろしく!」

「え!? あ! おう! ありがとう!」

 

 

 すぐに机の前まで行って硬く握手を交わしましたわ。誰が相手であろうと物怖じしない。これぞお嬢様メンタルですわね。文句を言ってくる奴がいれば酷ければケツの穴から手突っ込んで奥歯ガタガタ言わせたることもいといませんわ。

 席につくと、教室の前の扉を開けて緑髪の先生が入ってきましたわ。なッ!? あれはッ!? 身長は低く童顔でありながら……おっぱいがおデカ遊ばせてあらせられる!? ○ンギの判定ぐらいにはデカいですわね……

 

「はーい! 皆さん、着席してくださーい!」

 

 流石にHR(ホームルーム)の時間にもなると、皆さんちゃんと自分の机に着席されましたわ。

 

「IS学園へようこそ! 私はこのクラスの副担任の山田真耶です!」

 

 上から読んでも下から読んでもやまだまや先生ですわね。でもこのネタは散々擦られてそうだから今更触れようとは思いませんわね。BD(ブルーディスティニー)BD(ブーストダッシュ)に今更触れる方がいらっしゃらないのと同じ理論ですわ。わたくしは当初死ぬほど困惑いたしましたけれども。

 しかし、山田先生が入学説明をしている間もクラスの雰囲気はなんだか張り詰めている様子がいたしますわ。まさかそれほどまでに闇が深いとは思いもよりませんでしたわね。

 

 ただ自己紹介が始まると、皆ちゃんとしていましたわね。むしろ面接の自己アピールくらいにちゃんとしてる人すらいらっしゃいますわ。

 さて、自己紹介も進み、わたくしのひとつ前、つまり織斑一夏さんの番になりましたわね。

 

「……織斑くん? 織斑一夏くん? 今50音順で自己紹介してて織斑くんの番なんだけど、いいかな? 自己紹介してくれるかな?」

「あっ! はい!」

 

 だいぶ遅れた返事をしましたわね。もしかして無線勢ですの? 日本国憲法にも無線勢コレ人権ヲ与エズってあるくらいですのに。

 

「織斑一夏です! ………………」

 

 と、名前だけ言ってしばしの沈黙。愚○独歩かなにか? ところでヒ○マイが流行り始めた当初は、TwitterのTLに独歩の名前がいっぱい出てきて困惑いたしましたよね? あの空手家に限界化する人間がそんなにいるのかと世界の常識を疑ってしまいましたわね。

 

「……以上です!」

 

 物思いにふけっていると、周りの子たちがズッコけていましたわ。古くありませんこと? 

 

「自己紹介もロクに出来んのかお前は!」

 

 おや、何やら黒スーツの女性が現れましたわね。彼女は間違いなく、世界一のIS操縦者にしてレジェンドである織斑千冬さんですわね。格ゲーでいうところの梅○名人みたいなとこですわ。

 どうも彼女がうちのクラスの担任らしく、周りの生徒たちがずいぶん盛り上がっていらっしゃいますわね。ゲーセンのエ○バの周りにいるあいつらくらいの品性のなさを感じますわ。

 いやしかし、戦士というのは品性を捨てたその日がスタートであるとも言います。実際、格ゲーもISも同じで多くを捨てた者だけが勝利を掴むことができるとはわたくしも確信しておりますし。

 

「では、これでHRを終了とする。残りの自己紹介は自分達でやっておいてくれ」

 

 ……おや? まさかわたくしのひとつ前で自己紹介終わりですの? わたくしのお嬢様っぷりをアピールできる最高のチャンスだと思いましたのに。コスト30の味方が2堕ちした時みたいな気持ちですわ。

 まあ、かまいませんわ。お嬢様というのは行動についてくるもの、わたくしのこれからの行動を見ていれば周りの人達も"理解"してくれることでしょう。つまりはわからせですわね。

 

 その後の授業では一夏さんの全くわからん発言はあったものの、特筆すべきこともなく一限目を終えましたわ。

 続く二時間目、このクラスの代表を決めるという話になりましたわ。まあ、ここはこのわたくしが立候補してこのクラスを引っ張って差し上げましょう。

 

「はい! 私、織斑君を推薦します!」

「えぇ!?」

 

 と、思っていると一夏さんが推薦されていましたわね。まあ担げる神輿は担ぐのが吉ですから、そりゃそうなりますわね。一夏さんは辞退を望んでいるようですが、織斑先生が許してくれないようですわ。

 ふふ、お任せください。代わりにこのわたくしがお受けしましょう。

 

「はい、わたくしが立候補いたしますわ」

「うむ、オルコットだな。他には?」

 

 しかし投票になればわたくしが彼に勝てるかは微妙なところですわね。わたくしはイギリスでも国家代表候補生という実力を保証された立場ではありますが、担ぐなら唯一の男の方でしょうし。

 

「では、他にいないなら投票で──」

「お待ち下さい!」

「──なんだオルコット」

「クラス代表になれば、代表として学内の試合に出ることもございます。でしたらまず、お互いの実力を見るべきでは?」

「ほう、つまりはお前の方が代表にふさわしいと?」

「滅相もございませんわ。つまり……ISの試合を以ってクラス代表を決めたいということですわ。文字通り、雌雄を決するというわけですわね。それに……」

「それに?」

「彼の操縦データが早くに手に入るのは、学園にとっても都合の良いことではなくって?」

「……いいだろう。では一週間後の放課後にアリーナを使えるようにしよう。各々準備をしておけ」

 

 我ながら完璧な話術ですわね。さて、一週間後に決まった試合、素人である一夏さんを相手取るのは気が引けますが、実力を見るという意味合いでもある程度本気で相手取ってあげましょう。初心者の暴れは結構怖いですし。

 

 さて、その日の授業は大した波乱もなくそのまま終わりましたわ。

 一週間後の試合、楽しみにしておきましょう。



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お嬢様空をトぶ

「ア"ァ"クソッ! クソわよ! お排泄物ですわよッ! 投げキャラ使いの家の蛇口から灰皿の水が出てくるようにできませんかしら!」

 

 試合が決定してから数日というもの、わたくしは寮の自室で格ゲーに勤しんでいましたわ。わたくしは代表候補生の中でも最も国家代表に近いとされる存在、向こうの一夏さんはズブの素人。本気で戦うとは言いましたが、この一週間休むことである程度のハンデを与えようと思い至ったわけですわ。

 べ、別に本国から離れたからってハメを外しているわけじゃありませんのよ? そもそも格ゲーとは読み合い! わたくしはこれで戦闘勘を養っているわけですわ! 

 

「読みもクソもねえブッパしてんじゃねえですわよ! アケコンで頭かち割って血でレッドカーペット敷いてやりますわ!」

「せ、セシリアさん? そんな口悪いキャラだっけ?」

「戦闘に煽りは不可欠! ISでの戦いでも罵倒の語彙に優れた方が精神的に優位に立つというのは周知の事実ですわ! でもコンプライアンスに沿って煽らないとただのクズ野郎なので注意が必要ですわね!」

「煽ってる時点でただのクズ野郎なのでは?」

「……ぐぅの音も出ませんわね! 夜道に気をつけなさい! 月の夜だけではありませんことよ!」

 

 オギャァッ! しかしこいつIQが低い! サボテンの方がマシな思考回路してらっしゃいますわよ! 帰れ! 砂漠に帰れ! ぁぁぁぁもうやってれませんわ! 別ゲーですわ!! 

 

「支援機を頼むじゃねえですわこのモジ汎が! 汎用が道作らずに強襲が仕事できると思ってますの!? 強襲機は勝手に相手支援を墜としてくる便利なファンネルじゃありませんことよ!? オギャッ! オギャァッ! てめぇ汎用に絡まれてる強襲が近くにいるのに無視して支援寝かすとか脳味噌にカマドウマでも沸いてらっしゃいますの!? お前のガチャからスーパーガ○ダムしか出ない呪いをかけますわよ!? がんばろうじゃねえよお前もがんばんですわよ!」

「別ゲーでもこの調子……」

 

 同室の方にドン引かれていますが知ったこっちゃありませんわ。捨てた者だけが得ることができるものもありますのよ。人間性を捨てて勝利を掴み、コンプラを捨てて煽り力を身につけるのと同じですわ。

 しかしことチーム戦に於いて自らの責任まで捨てる人間は勝ちを掴むことは出来ませんわ。みんなのおかげだ! を連呼しているようではいつまでもオールドタイプ止まり、惨敗の試合でも自らが全ての責任を背負えるようになって初めて成長が始まるんですのよ。

 

「そう、この試合はわたくしが全て悪い……わたくしが汎用を全員切り捨てて支援に辿り着いていれば負けませんでしたわ……そう、汎用による前線など必要ない……一重にわたくしが悪い……本当か? 本当にわたくし悪いか? アレは本当にわたくしが悪い……?」

「自分を騙し切れてないよセシリアさん」

「ま、まあつまりどんなことがあっても心の中でおハーブ()を生やして全てを許せる人間だけが成長できるということですわ! ……さて、わたくしは用事があるので出かけてきますわ!」

「用事?」

「一夏さんにわたくしの戦闘データを渡してくるんですわよ」

「へえ、随分と優しいんだねえ」

「ある意味ではハンデであり、ある意味ではわたくしの戦略ですわよ」

 

 そう、これはわたくしの切り札と煽りをフルに活かすための戦略。というのも、煽りをするのは仲の良い相手のみという鉄則があるからですわ。だからわたくしは今から試合までに彼と仲を深めることで、試合ではボロックソに煽ることが許されるわけですわ。これはつまり自分の苦手キャラの下方修正要望を出すのと同じこと。試合が始まる前から戦いは始まっているというわけですわね。

 

 

 

 と、いうことでやってきましたわ剣道場。と、いうのも、一夏さんが試合に備えて剣道で練習をしているという噂はこの学園でも広まっているからですわ。そしてどうやら剣道場の周りのギャラリーを見ると、噂はビンゴだったようですわ。

 しかし、観戦中に腕を組まず仁王立ちもしないとは品のないことですわ。ベガ立ちはギャラリーの義務という言葉をご存知でいらっしゃらないのかしら? 

 ギャラリーをかき分けて道場内へ進んでいくと、噂通りに一夏さんと黒髪ポニーテールの女子……確か篠ノ之箒さんが竹刀で打ち合いをしていらしました。

 

 

「感心なことですわね。ISに乗っての練習ができない状況でも鍛錬を忘れないとは、素晴らしい心得ですわ」

「オルコットさん!? どうしてここに?」

「これを渡しにきましたの。わたくしの戦闘データですわ」

 

 

 一夏さんに手渡すと、ありがとうと言って受け取ってくれましたわ。お礼が言えるのは良いことですわね。きっとゲームで負けた後も対ありちゃんと言えるタイプですわ。しかし親切なオーク、命乞いをする女騎士、犯さない山賊、清廉潔白なゲーマー、というようにそんな純粋なゲーマーでも気づいたら薄汚れているものですわ。わたくしとて昔はGGWPを欠かさず、決して煽りなどしない時期もありましたがそれは遠い昔のお話。気づけば今のように煽りのために広辞苑を読み込む立派な格ゲーお嬢様になっておりましたわ。

 

「敵に塩を送って、よほど余裕なようだな」

 

 何が気にくわないのか、竹刀を握ったまま凄んでくる篠ノ之さん。この子格ゲー向いてないタイプですわね。元々低そうな沸点が格ゲー始まるともっとすり減って、気づいたらモニターにヘッドバットでもかましてそうな雰囲気ですわ。

 

「余裕というわけではありませんわ。わたくしはISに慣れている、彼は慣れていない。ならばわたくしが彼のデータを一つも知らない状態で、彼はわたくしのデータを持っている。それくらいに条件を揃えるのは当然のことですわ。それにね……」

「それに?」

「そうしておかずに言い訳をされたら、勝利の快感も質が下がってしまいますから。それでは、ご機嫌よう」

 

 わたくしが嫌いなものは1に敗北、2に投げキャラ、3が負かした敵の言い訳、4と5が投げキャラですもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして時が流れ、試合の時がやってきましたわ。ISの試合ような大きなアリーナには観客が満載。ベガ立ちをしていらっしゃらないのは不服ですが、中途半端な覚悟でベガ立ちをされるよりかはマシですわね。

 定刻のアナウンスがあり、わたくしのIS、ブルー・ティアーズを展開してピットから大空へ飛び出しましたわ。このブルー・ティアーズはISの中でも最新の区分である第三世代機であり、機体名と同じBT(ブルー・ティアーズ)という名のファンネルを扱うことができますわ。クッソややこしいですわね。BDのBD格みたいなもんですわ(2回目)。

 

 しばらくヒラヒラと飛んで待っていると、ようやく一夏さんが出てきましたわ。相手を待たせるとはなかなかの策士、宮本武蔵と同じ戦法ですわね。しかし数多の対戦をくぐってきたわたくしには、遅刻なんて全く問題になりません。このわたくしをキレさせたくば起き攻めの得意な投げキャラ使いを連れてくることですわね。やっぱやめてください。

 

 

「レディとの待ち合わせに遅刻だなんて、なってない方ですわね?」

「ISが届くのがギリギリでな、悪かったよ」

 

『試合開始、5秒前……』

 

「あら、トークの間もくれないなんて、無粋ですわね」

 

『4……』

 

「剣で語り合えってことさ」

 

『3……』

 

「わたくしの得物はレーザーガンですがね」

 

『2……』

 

「ああ、データを見たから知ってるよ」

 

『1……』

 

「それはありがとうございます。そして……」

 

『試合開始!』

 

「申し訳ありませんわね!」

 

 

 試合開始の瞬間、わたくしは全速力を以って一夏さんへ肉薄しますわ。最新鋭の機体が誇る殺人的な加速力。目を剥いた一夏さんに最初の挨拶の一撃として、近距離ブレード『インターセプター』を突き立てますわ。

 

「なっ! 武器はレーザーガンなんじゃ……!?」

「敵の言葉とデータを信じるなんて小学生でもしないことですわ! 戦いの中で一番大切なのは相手の人間性を疑い、自らの人間性もその次元まで堕とすことですわッ! 戦いというものを教えて差し上げましょう!」

 

 インターセプターをレーザーガンに着剣し、銃剣のようにしてラッシュを仕掛けますわ。誰からも射撃型だと思われていたわたくしに、ギャラリーからの驚きと称賛がミルフィーユのように重なっていきますが、格ゲー好きな人間が近距離戦できないなんてあり得ない話ですわ。そんなのじゃ格ゲーネタを書いておいてフォ○オナーくらいしか格ゲーらしい格ゲーをやってないこの小説の執筆者と同じようなもんですわ。ちなみに持ちキャラは守○鬼とセ○チュリオンですわ。お前投げキャラ散々叩いといて持ちキャラがほとんど投げキャラじゃねえか。

 え? 騙し討ち? わたくし、3番目に言い訳が嫌いですけれど1番目に好きなのは相手の面食らって悔しそうにしてる顔ですの。

 

「見たところそちらのISは近距離戦主体のようですわね! さあ、練習していた剣道の腕を見せる時ではなくて? 早く反撃しないと地面大好きにしてやりますわよ?」

「思ってた五兆倍は性格が悪い!」

「あなたのように性格が良いままでは勝てる訳がありませんもの! まずは性格を悪くしなさい性格を!」

「クソ!!!!」

 

 助言を受けてすぐに悪態……彼、お嬢様の才能ありますわね。しかし実力の差は歴然ですわね、手に持ったブレード一本で必死にガードしてはいますが、ガードから漏れた攻撃が徐々に彼のエネルギーを奪っていきますわ。このままでは勝敗が決するのは時間の問題ですわね。まるで大○vs○護鬼ですわ。弱格早すぎて見えても反応はできねえんですわクソわよ。

 

「ほらほらほらほらほらほらぁ! このままでは完封ですわよ? せめて口だけでも煽り返して見せたらいかがです?」

「畜生ッ!! 流石にあんたほど人間性を捨てられない!」

 

 そして最後の一撃が彼のエネルギーを削り切ろうというその時、彼のISが眩い光に包まれましたわ。

 Whats? 覚醒? 覚醒ですの? こっちの覚醒ゲージは何処に? 相手が覚醒吐いたらこっちも覚醒吐かないと無理ですわよこれは? エ○バのガ○ダムにバト○ぺのガ○ダムぶつけるようなもんですわよ? 全1vs初心者でも無理ですわよそれは? 

 と、光が晴れるとそこには装甲の形が変わった一夏さんのISがありましたわ。

 

「こ、これは……」

一次移行(ファースト・シフト)ですわね。動きが鈍いとは思っていましたが、まさか初期状態で戦っていらしたとは」

 

 初期状態のISはしばらく操縦することで一次移行(ファースト・シフト)を起こし、ようやく戦える状態になりますわ。つまりカスパの有無のようなものですわね。そのような状態でこれまでの攻撃を捌いていたとは、なかなかやりますわね。

 しかし気になるのは彼のブレードが青い光を纏っている点……わたくしの記憶が正しければ、あれは織斑先生が世界大会で使っていた雪片と同じ光……あれは一撃でも当たれば相手のシールドを貫通して一撃でエネルギーを削り取るようなクソ壊れ武装。修正! 修正はまだですの!? 運営への修正要望はどこから出せますの!? 

 

「ちょっ! それはっ! あまりにもお排泄物ですわよ!? 流石に雪片はぶっ壊れすぎではございませんこと!?」

「これがあれば! 勝てる! 一撃当てれば勝ちなんだ!」

「当てれば勝ちっていうのは当てられない奴のセリフですわよ!」

 

 しかしそこからは一夏さんの動きも良くなったのと、わたくしの動揺もあって防戦一方でしたわ。今のところ一撃も食らってはいませんが、当たれば負けというプレッシャーで動きが鈍っていくのを感じますわ。なにこれ投げキャラよりクソでは!? 

 こうなれば! こちらが当たるよりも先に! 相手に最後の一撃を喰らわせるほかありませんわ! 

 

「くたばれェェェェ!!」

「口悪ッ!!?」

 

 お互いの刃はクロスカウンターのような形となり、互いの装甲に触れる───

 

 

 

『試合終了! 勝者、セシリア・オルコット!』

 

「……はい?」

 

 

 

 寸前に試合終了のコールが響きましたわ。



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クラス代表戦編
お嬢様再会する


 どうも、手巻きたばこ好きだから近所のたばこ屋がやってない時間に吸いきったことに気づくと苦しみの夜を過ごすスモーキング嬢様ですわ。
 感想をくれればくれるほどわたくしのお嬢様力は高まっていきますわ。
 感想をくれた方には後一撃の場面でも焦らずに攻められるようになる祝福をかけますのでどうかよろしくお願いしますわね。


 さて、あのクラス代表決定戦の次の朝がやってきましたわ。

 あの不可解な勝ち方、あれはどうやら一夏さんの自爆だったそうですわ。なんでも、彼の"雪片弐型"はISのシールドを貫通する攻撃力を持つ代わりに、発動中は自らのエネルギーも徐々にすり減らしていくそうで、最後の一撃の寸前にエネルギーが全損してしまったらしいです。内なる大力みたいですわね。あの光りかたはどちらかというと白くベタつくなにかみたいな感じでしたけれども。

 

 まあ、不完全な勝利に納得ができなかったわたくしは、消灯後も夜通し格ゲーだのガ○ダムだのをしまくってフラストレーションを解放させていましたわ。流石に相部屋の方が寝られるように暴言は脳内だけに留めていましたので満足するまでに時間がかかりましたわね。

 

 

「この! ブラックプ○オールなんて使いやがってふざけてるんですの!? その盾で担ぐやつやめないと刑法199条に引っかかるようなことやりますわよ!? ガー不が防がれた時以上のイラつきは存在しませんわねほんと! 素直に尋常じゃんけん押しつけさせろってんですわよお排泄物がッ!」

 

 

 相部屋の彼女も起き出して朝食を摂りに行ったので、わたくしも暴言を我慢せずにゲームに勤しめるというものですわ。てかブラックプ○オール死なないかしら? わたくし○蛇とブラックプ○オールとが最高に嫌いですの。なに使えばこいつらに勝てるんや? (キャラ崩壊)

 と、もう時間がおヤバイので教室に向かいましょう。朝食とか食べてる時間ございませんわ。朝活のために筐体でカップ麺食べる方とかもいらっしゃるらしいけれど、ゲーマーたるもの三日三晩飲まず食わずでも戦える精神力を身につけるべきですわね。

 

 

 

 

 思っていたよりも時間はギリギリだったようで、Bダッシュで急ぎ教室で机に着いたらすぐにHRが始まりましたわ。

 

 

「クラス代表は織斑くんに決定しました! あっ! 1-1の織斑一夏の一続きで縁起がいいですね!」

 

「……え? おかしくないですか!? なんで俺が負けたのに代表に!?」

「わたくしが辞退したからですわよ」

 

 そう。わたくしはあの試合の後織斑先生に辞退を申し出ていましたわ。

 というのも、あの勝ち方が気持ち悪かったからですわ。例えるなら一ドット削る瞬間に相手の回線トラブルで不戦勝になったようなもの。一番キモい勝ち方ですわね。

 ……あと、代表になったらゲームの時間もつぶれちゃいそうですし……

 

「残念ながらわたくし、あんな決着で納得できるほど人間がなっていませんの。再戦を望むのも手間でしょうし、手っ取り早く辞退させていただきましたわ。ま、何はともあれ代表就任おめでとうございます!」

 

 最後に拍手をしてみせると、周りの生徒達も拍手で応えてくれましたわ。ノリが良いのは良いことです。あとは観戦中に腕を組むようになれば文句なしですわね。

 

 その後は特になにもなく、授業で1日が終わりましたわ。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、入学から日も経ち、皆がこの学園にも慣れてきたころ。ようやく実技の授業が始まりましたわ。ただ専用機持ちのわたくしは、ちょくちょくアリーナを借りて練習してたのでそんなに特別感はありませんわね。

 

「では織斑、オルコット、試しに飛んでみろ」

 

 今日はISの中でも基礎かつわかりやすい飛行の訓練ですわ。早速ブルー・ティアーズを展開。瞬きの間も無く全身を蒼の装甲が覆い、視界がいくらか上がりました。

 

「ふむ、なかなかの展開速度だな」

「伊達にイギリス候補生全1などと呼ばれておりませんから」

 

 隣を見やると、一夏さんは展開に苦労しているようで、待機形態のガントレットを握り、ISの名を呼んでようやく展開できたようですわ。白と青を基調にして作られたIS、『白式』。なかなかに美しい見た目ですわね。織斑先生には厳しめの言葉をかけられていますが、ほんの少し前まで素人だったのだから展開が遅くてもしょうがないことですわね。そう、いきなり格ゲーを始めて勝てる人間が居ないように、最初から上手くできる人なんていませんわ。しかし、過酷な対戦の中で負けて煽られて磨かれていくのも事実、織斑先生の指導方針も間違いではありませんわね。

 

「よし、飛べ!」

 

 スラスターが唸りを上げ、青空が近づいてきます。これだけはISに乗らないと得られない快感ですわね。

 一夏さんの方も、飛行のセンスには光るものがありますわね。わたくしの方がいくらか速いものの、きちんと後ろについてきますわ。

 

「えっと、前方に角錐を作るようなイメージ……だったよな?」

「イメージはどこまで行ってもイメージですわ。格ゲーでもまずはコマンドを体に染み込ませて、頭ではなく体で戦えるようにするところから始まるのと同じですわね。必要でしたら訓練に付き合いますわよ?」

「え、いいのか? なら頼む!」

 

『織斑、オルコット。次は急降下と完全停止をやってみろ』

 

「はい! ……では一夏さん、下でお会いしましょう」

「おう!」

 

 ISのスラスターをふかし、真っ逆さまになり最大速で地面を目指しますわ。瞬く間に近づいてくる大地を見据え、地面にぶつかるその瞬間にピタリと停止しましたわ。PIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)を持つISだからこそできる慣性無視の機動ですわね。

 

「やはり国家代表クラスの実力だな。皆もオルコットを見習うように!」

 

 頭と地面に1mmあるかないかくらいの状態で停止していると、織斑先生から称賛の言葉が飛んできますわ。織斑先生はそれなりにわたくしを買ってくれているようで、彼女にしては珍しいお褒めの言葉をくださりますわ。

 

「次は織斑だ。やってみろ」

 

 織斑先生がISの通信越しに指示をすると、上空で一夏さんがくるりと宙返って急降下を始めて……その勢いのまま地面に激突しましたわ。

 壁にぶつかるディアブ○スみたいですわね。集中が切れてISが解除されたようで、生身で頭を地面に減り込ませて横たわっていますわね。

 

「いってぇぇ! 死ぬかと思った!」

「……馬鹿者。グラウンドに大穴を開けてどうする?」

「すみません……」

 

 しかしあれは痛そうですわね。主に心が。人の心ぶっ壊すのは大好きですけど勝手に壊れてる様を見るのはあんま好きじゃありませんわ。

 

「情けないぞ一夏! 私が教えてやったことをまだ覚えてないのか!?」

 

 箒さんめっちゃ厳しくておハーブですわ。まずは心配してあげて……いやこの状況は露骨に心配された方がキツい感じはありますわ。まあそんな心遣いもなくツンデレのツンの部分ってだけでしょうけれども。

 

「頭、打ってませんか? 違和感があったらすぐ保健室で診てもらったほうがいいですわよ」

「あ、ああ……いや大丈夫だ。ありがとう!」

「ISの保護があるのだから怪我をするわけがないだろう!」

「わたくしも昔、アリーナの壁にぶつかってISが解除された後に落っこちて左腕折って……あの時は酷かったですわ。ISを装備してるからって油断しちゃダメですわね。死な安で済んだけど下手したら死にますわよアレ」

 

 流石のツンの箒さんにも分かっていただけたようで幸いですわ。命あっての物種ですもの。スパルタで死んでたら世話ァないですわよ。

 

 

 

 

 

 さて、今日の授業やアリーナでの自主練習も終わり、寮に戻る時間ですわ。

 今更ではありますが、このIS学園は日本の海に作られた巨大な人工島の上に建てられており、もう馬鹿みたいに広いんですわ。だって島ですもの。

 

「しかしクッソ広いですわね」

「ああもう広いわね! どこに行けばいいのよ!」

 

 

「「……あれ?」」

 

 

 

「……久しぶりじゃない。セシリア・オルコット」

「あら、そのツインテールは凰 鈴音(ファン・リンイン)さん」

「なんでツインテールで判断するのよ!? あんたこそ個性の塊みたいな縦ロールじゃないの!」

「格闘戦で引っ掴んで膝蹴り入れたときの印象が深いだけですわよ」

「クッソ! 相変わらず煽りカスねあんた! 今度は私がその縦ロール握って振り回してやるわ!」

 

 そこにいたのは中国代表候補生の凰 鈴音さん。少し前に国家間の合同訓練で何度か試合をしたことがありまして、10:0で負かしてしまったのでだいぶ恨まれてるようですわね。打てば響き煽れば煽り返す最高の煽り相手だったので、ついつい楽しくなっちゃって終始煽ってた記憶がありますわ。

 

「で、あなたはここの生徒ではなかったと思いますけれど、こんな時期に転入してきたんですの?」

「ええ、そうよ! ……なんだけど、実は職員室の場所が全く分かんなくて……案内してくれない?」

「構いませんわよ。この学園アホみたいに広いから初見でそうなるのはしょうがないですわ。とりあえず校舎にいきましょう」

 

 歩き出すと、鈴さんが礼を言いながら後ろをついてきますわ。

 

「中国はIS学園で専用機の手の内を晒すよりも自国で育てる方針だと思っていたのですが、一夏さんのデータ取りのためですかね?」

「よく分かってるじゃない。ていうか一夏さんって何よ、あんたらもう友達なわけ?」

「まあ同じクラスですので、もう煽り煽る仲ですわ。しかし、中国も露骨なことをするものですわね」

「どれだけ露骨でも利を取るものよ。てかそれあなたの煽り100割じゃないの。え? あんた一夏にもあんな煽りしてんの?」

「さすがに鈴さんよりは軽めですわよ。呼び捨てとは、鈴さんの方こそお知り合いのようですわね」

「ええそうよ! 私と一夏は幼なじみですもの!」

 

 通りで中国が彼女をよこすわけですわね。まあ仲が良ければ色々とやりやすいでしょうからね。

 会話を楽しんでいると気づいたら校舎の前まで来ていましたわ。

 

「ここが校舎ですわ。職員室は入ってすぐ。じゃあわたくしはいきますので」

「うん! あの……ありがとうね!」

「構いませんわよ。これからは別国家の代表候補生同士ではなく学友ですわ。諍いは水に流して仲良くやりましょう?」

「あんた、思ってたより人間ができたやつね」

「まあ煽りはやめませんけど」

「やっぱクソだわ。その縦ロールもぎ取ってやるから覚悟してなさい」

 

 その後、わたくしはクッソうまいウォー○ンにタックル擦られまくって憤死したのでした。



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お嬢様煽り散らかす

 ゴロ寝で無様につぶれたアフロを隠すために帽子を被り、感染防止のためにマスクをつけ、目が悪いため眼鏡をつけるので外出時に不審者みたいなことになる投稿者ですわ。夜中に出会しても怖がらないでくださいませ。


「なっ! てめぇ殺すぞ! (お嬢様放棄) 味方が絡まれててもカットしないくせに味方のコンボにはFF入れるんですの!? アッギャァこれだからゴミ箱担いでるやつはダメなんですわ! え? 申し訳ない!? ……それ言われるとなんだかんだ許しちゃいますわね!」

 

 

 

 いつも通りギリギリの時間までゲームをして教室に着くと、丁度織斑先生がいらしていたようですわ。危なかった……ってあら、なにやら印象的なツインテールが織斑先生からゲンコツもらってますわね。

 

「なにすんのよ!?」

「もうSHRの時間だぞ」

「ちっ、千冬さん!?」

「織斑先生だ。さっさと戻れ邪魔だ」

 

 ああ、一夏さんとは幼なじみとおっしゃっていましたし、待ち切れずに顔を見にきたんでしょうかね。彼女はチラリとこちらを確認すると、教科書通りの嫌そうな顔をしてましたわ。心外ですわね。見るだけでそんな顔になるのはクソ回線の投げキャラだけで十分ですわよ。

 

「ゲェッ! セシリア、あんたもこのクラスなの!?」

「ええ、そうですわ……ていうかなんですの鈴さんその制服? その脇はちょっとハレンチが過ぎるのでは?」

「うっさい! 改造自由なんだから別にどうしても構わないでしょ!」

 

「どちらにしても時間だ。オルコットも早く教室に入れ。凰は帰れ」

 

「イッテェ! (素) はぁ……了解しましたわ」

「はーい」

 

 親友との朝の会話すら許されないとは! 格ゲーだったらわたくし振り下ろされるゲンコツをガーキャンくらいしますのに、やはり現実というものは不便ですわね。教室の中のクラスメイトたちは、今のやり取りでビビってみんな席についてましたわ。

 

「おはようセシリア。朝から災難だったな」

「全く以ってその通りですわ……では、これ以上話してるともう一発飛んできそうなので!」

「お、おう……」

 

 背後からゲージが溜まっている気配がしたわたくしは、一夏さんとの会話も早々に切り上げて自分の席に向かうのでした。

 

 

 

 

 

「ここ、座って構いませんこと?」

 

 そうして時は流れて昼食の時間。デフォルトで朝を抜いているわたくしにとっては待ち焦がれた時間ですわね。食堂でトレーを持って周りを見やると、一夏さんと鈴さんが一緒に食べてるようだったのでお邪魔させていただきたいところですが……

 

「ああ、俺は別に構わないぜ」

「えぇ〜、私はご飯食べてる時にまで煽られるの嫌なんですけど……まあいいわ、座りなさいよ」

「さすがにこんなタイミングで煽らないですわ。失礼します」

 

 トレーを置き、上に乗っている丼の蓋を開ける。やはりここの食堂のは素晴らしいカツ丼ですわね、閉じ卵が輝いているようですわ。

 

「相変わらずイギリスもクソもない料理ね」

「わたくしの祖国らしい料理なんてだいたい不味いんですのよ。鈴さんはらしいやつ食べてますわね」

「ええ、まあ別に中国発祥ってわけでもないんだけど……大事なのはイメージよイメージ! そもそも私のルーツは日本にもあるしね!」

 

 そう言えば合同訓練で話した時も日本から中国に帰国してすぐだったかしら? 多分その時に一夏さんにも知り合ったんでしょうね。……うん、やっぱりカツ丼はいいですわね。肉を喰らうことで戦いのために英気を養うことができますわ。今のわたくしならガーキャンに反応して超ガソでカウンターできそうですわ。やっぱ無理。

 

「しかし、2人とも仲がいいんだな。どこで知り合ったんだ?」

「何国かの間で行われた国家合同代表者訓練でですわ。どうやら鈴さんがよっぽど負けるのが好きなようでしてね」

「あっ! あんた今煽ったわね! 私はアンタを負かしたくて勝負挑んでるのよ!」

「叶うといいですわね? 今のところ10:0でわたくしの勝ちですわよ。ダイヤグラムバグってるんじゃなくて?」

「ムキーッ! でも私も強くなってるんだからね! 今度こそアンタをボッコボコにしてやるわ! 跪いて謝るまで許さないんだから!」

「あら、なら今日の放課後にアリーナの使用許可を取ってますの。どうせならすぐにやりあいたくないかしら?」

「上等よ! 首洗って待ってなさい! 100先で勝負よ!」

「軽々しく100先なんて言葉を使わないでくださる? 人が死にますわ」

 

 しかしやはり煽りが噛み合うので面白い人ですわね。懲りずに向かってくるのもまた良い。なんだかんだ彼女とは長い付き合いになりそうな気がしますわ。

 

「ああ、そう。一夏さんと鈴さんは幼なじみだと聞いたんですが、そうなると箒さんともお友達ですの?」

「箒? 誰よそいつ。掃除道具と友達になるほど寂しい人間だった覚えはないわよ?」

「ああ、箒は小五まで同じ学校だったんだけど引っ越して行っちゃってな。そのすぐ後に鈴が来たから丁度すれ違ってるんだよ」

「へぇ……で、どんな子なの?」

「隣のテーブルからこっちをチラチラ窺ってる黒髪ロングの巨乳ですわ……おーい箒さん! どうせなら一緒に食べませんか?」

 

 指差された時にはびっくりしていましたが、まさかあんなに露骨に視線送っといてバレてないとでも思ってたんでしょうか? 箒さんも観念したようで、こちらのテーブルに移ってきましたわ。てか隣めっちゃいますわね、揃いも揃って盗み聞きとは。

 

「おお箒! こっちが鈴だ! 箒がファースト幼なじみで鈴がセカンド幼なじみって感じだな!」

「ふぁ、ファースト……!」

「ふーん、初めまして! これからよろしくね?」

「ああ、こちらこそ」

 

 見える見える見えますわ。2人の視線の間に電流が走るのが……一夏さんも罪な男ですわね。

 

「あっ、そういえば一夏って一組の代表になったんでしょう? 私とセシリアの100先が終わったら一緒に練習しましょうよ!」

「なっ! 敵の施しを受けるなど!」

「俺は別に構わないぜ? ……ってか100先ってなんだ?」

「100勝先取で勝敗を決める一般的な儀式ですわ。ISでやったらわたくしのストレート勝ちでも普通に丸一日はかかるので、やるなら休日にして今日はとりあえず3先くらいに抑えましょう。合同訓練でやった時は確か100:8で終わっても30時間はぶっ通しでしたわ……」

「あの時はキツかったわね……」

 

 遠い目をする鈴さん。半年程度前だけれどあの時のわたくしたちはお互いに若かった……若さ任せにIS100先なんていうバカみたいな儀式に手を出してしまったのですわ……なにがキツいってISに乗って加速した情報処理能力で常に高速戦闘をするおかげで、脳味噌が限界を超えて顔中の穴から血が流れ出すんですわ……まさか血涙を流しながら戦う羽目になるとは思いませんでしたわね……

 辛く苦しい思い出に想いを馳せていると、チャイムが鳴ってしまいましたわ。

 

「まあとりあえず今日の放課後はよろしくね! 私はもういくわ!」

「おう! 待ってるぜ!」

 

 わたくしも急いでカツ丼をカキ込んで教室へ戻りましょう。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、こうして対峙するのは久しぶりですわね?」

「ええ! この復讐の日をどれだけ待ったことか……全力でぶっ潰すから覚悟なさい!」

 

 授業も終わり、見慣れたアリーナにやってきましたわ。なぜ大量の生徒がいるこの学園でここまで簡単にアリーナの使用許可を取れるのかというと、4つあるIS学園のアリーナのうち、4つ目のアリーナは基本的に専用機持ちが優先的に使えることになっているからですわ。専用機持ちなら訓練機の貸し出しも必要ありませんしね。IS学園としても専用機持ちが学園内にいると色々なメリットがありますから、待遇も良いものになるわけですわね。

 

「じゃあ行くぞー。3……2……1……スタート!」

 

「オラァ! くたばれェ!」

「どこを狙っていますの? もしかしてラグでも起きてらっしゃる? これだから脳味噌無線勢はダメなんですわ」

「キ──!! ここぞとばかりに煽りやがるわねほんっと!」

 

 開始と同時に速攻をかけてきた鈴さんをひらりとかわし、蹴りでカウンターを入れながら後退しますわ。一度戦ってわたくしの煽りを受けたものは、怒りかトラウマを植え付けられますの。怒りで積極的に攻めてくる相手には引き撃ちを致しますし、トラウマで消極的になった相手には接近してブレードをお見舞いしますわ。人の嫌がることを進んでやるのが模範的ゲーマーというものでしてよ。

 鈴さんは言うまでもなく前者、攻撃を後ろへとかわしながらレーザーライフルとBT(ファンネル)で嫌がらせを続けますわよ。

 

「ああもう鬱陶しいわね!」

「近づけませんわねぇ、わたくしが磁石のN極ならあなたもN極……いやM極でしょうか? こうやってわざわざいじめられに来てるんですものね?」

「絶対ぶっ殺す!」

 

 彼女の専用機甲龍(シェンロン)は基本的には近接型。不可視の衝撃の球を撃ち出す武装もありますが、やはりブレードを振らないと火力は出せない機体。ならば延々と下がり続けてブレードの射程に入らなければ良いだけですわ。

 

「クッソォ!」

「あら? ブレードを手放して良いんですの?」

 

 彼女が手に持つ《双天牙月》という両端に刃のついた円月刀を蹬脚してくると同時に距離を詰める。ブーメランのように帰っては来ますけれども、その間近接武器をなくした彼女をカタにハメるのは容易なことですわね。

 

 先程も言った衝撃砲《龍砲》を両肩から撃ってくる彼女ですが、不可視のそれの弾道を予測し、BTから発射されたビームで打ち消しますわ。

 

「プディングよりよっぽど甘いですわねぇ?」

「クソおおおおおお!!」

 

 およそ淑女らしくない断末魔をあげる彼女のエネルギーを銃剣とBTで削り取っておしまいですわ。これだからチョロい相手はやりやすくて助かりますわね。

 

「詰められた時に暴れずに、素直にガードか回避の択を取っていればよかったのですよ。まあ暴れ以外の可能性を消すために煽ってるんですけれども」

「うう……また負けたぁ……どうやったら勝てるのよ……」

 

 ISを解除して地面に座り込む彼女。良い感じにトラウマも植え付けられましたわね。学友であるとは言いましたが将来は国家を背負って戦う相手、今のうちからイップスを植えつけておいて損はありませんわ。

 

「わたくしのIQが高い戦いに対抗するには、それを超えるIQを手に入れるかチンパン極めるしかありませんわ。ひとまず人語が理解できないくらいチンパンになってみては?」

「くそぉ……煽られても負けたからなんもいえない……」

「あら、煽りではなく助言のつもりでしたのに」

「正論が人を救ったためしなんて古今東西探してもないのよ。あなたは私を慰めるだけで良いの」

「クソみたいな理論だけど一理ありますわね」

 

 わたくしもISを解除して地上に降りると、一夏さんがすっごい微妙な顔でいました。あら、完璧な試合を見せたと言いますのになにが不服なんでしょうか? 

 

「あの……煽りは必要なのか?」

「わたくしにとってはとても重要ですわ。BT(ブルー・ティアーズ)は脳から直接信号を送って操作していますから、わたくしのメンタルの状態によって大分性能が変わりますの。なので常に煽りで精神的に上位に立っている必要があるわけですわ」

「なるほど……」

「一夏! あんたはこいつみたいな煽りカスになっちゃダメよ! 絶対だからね!」

「あら、煽りを身につけたら大分楽に戦闘を進められるというのに」

「いや……俺は良いかな……」

 

 残念、詰めるのが不可欠な近接型こそ相手を逆上させることが大切になりますのに。

 

「さあ、3先ですから後2回はやらせていただきますわよ」

「はぁ? 3回の間違いじゃなくて?」

「おや、まだ勝てる気でいらっしゃるとは。相変わらず脳味噌ハッピーセットですわね? もしかして体のどこかを押せばそのツインテールが回ったりしますの?」

「あああぁぁぁ!!! 殺す!!!」

 

 

 その後は3:0で終わりましたわ。




 今更ですが、ここのセシリアはめっちゃ強いことになってますわ。ISの技量はもちろん、格ゲーで鍛えられた読み合いや精神戦が光る一級品の操縦者ですわね。まだ出てきてないけど大体生徒会長とのダイヤが5:5くらいの実力だと思ってくださいませ。


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お嬢様IQを磨く

 ご機嫌よう。勢いのままに次の話を書いたライティングお嬢様ですわ。家にいるとクソ暇だからタバコの本数と執筆の時間が増えてなりませんわね。


「俺……なんで勝てないんだろう……」

「そりゃ素人と代表候補生なんだから当たり前ですわよ。IS自体の技量は練習でしか身につきませんから、IS操縦の練習と同時に読み合いについても学んでみてはいかがです?」

 

 何度か行った模擬戦に惨敗した2人と、見学していた箒さんと寮に帰る途中。ぽろっと漏らした一夏さんの言葉ですわ。実際ISの技量は搭乗時間に比例すると言われるほどISには時間というものが大切。幸いIS学園ならいくらでも乗れますので、並行して別のことを覚えるのが効率的ですわね。

 

「読み合い……」

「ええ、例えば一夏さん、攻めてる間は強いですが一度守りに入るとジリ貧になってしまっています。一撃必殺の武装持ってるんですからガードなんて擦らなくて良いんですのよ、暴れるか超暴れるかの二択で考えてください」

「そんな極端な……」

「実際ガードされるよりあの剣振り回される方が怖いもの! もっとチンパン性を身につけなさいチンパン性を!」

「ほら、チンパンの先輩もこうおっしゃっていますよ」

「誰がチンパンの先輩よ! 知性溢れる戦いしてるわ!」

「溢れてるのは脳味噌だけでは?」

「ムッキィィィィ! なんなのよこの煽りカス!」

 

 鈴さんは元気ですわね。

 箒さんは物静かな方なようで、わたくし達の様子を見てたまに笑いながらついてきますわ。

 

「あれだけ負けたのにまだ叫ぶ余力がありましたのね?」

「なによ! まだ煽ろうっての!?」

「いえ、素直に評価しているんですわ。あなたがたった半年ほどで代表候補生になれた理由、それは才能のみならずそのガッツと体力が大きいところです。何度打ちのめされても再び立ち上がれるというのは、ISや格ゲーだけでなく様々なことに役立つ才能ですわよ」

「い、いきなり褒めるじゃない……」

「まあ実力が伴わなければただの馬鹿なんですけれどもね」

「ぶっ殺すわよ! 余計な一言が多いわねほんと!」

 

 本当に気持ちいい返しをしてくれる方ですわね。まあ彼女も煽られるのを楽しんでいる節がありますし、しばらくはサンドバッグにさせていただきましょう。

 

「あっ、じゃあ俺と箒はここの部屋だから! 今日はありがとうな!」

「……えっ? 一夏女の子と相部屋なの? 嘘でしょ……?」

「別に幼なじみなんだし問題ないだろ。なあ箒?」

「あ、ああ! そうだな!」

 

 ゲッ……めんどくさそうな雰囲気がしますわね。君子危うきに近寄らずと言いますし、わたくしもササッと逃げてしまいましょう……l○lでクソみたいな編成になったらドッジするのと同じ理論ですわ。

 

「幼なじみなら問題ないのね!」

「え、ああ……まあそうだけど……」

「そう! 行くわよセシリア!」

「えっ、ちょっ、わたくしの部屋そっちじゃな……!」

 

 退却が遅かったようで、鈴さんに手首引っ掴まれて連れ去られてしまいましたわ。活発なのも考えものですわね。廊下をBダッシュする鈴さんに引き摺られながらたどり着いたのは彼女の部屋でしたわ。

 

「なぜ鈴さんの部屋にわたくしも……?」

「いまから部屋を移るのよ! 荷造り手伝って!」

「えぇ……いろんな申請とかあると思うんですけれども……」

「ほら口より手を動かす!」

「もしかして人の話を聞いてらっしゃらない? 耳にジョイスティックでも詰まってますの?」

 

 早く帰ってゲームやりたいんですけど……やらなきゃ帰してくれなさそうですわね。仕方がないから荷造りを手伝いますわ。幸運なことに彼女のルームメイトはまだ帰ってきていないようですので、事情の説明はしなくてすみましたわ。

 

「さあ行くわよ!」

「わたくしバ○オペの日替わり任務回収したいんですけれども……今日アッ○マー実装なんですわよ……」

 

 またも鈴さんに引っ張られてやってきたのは一夏さん達の部屋。

 彼女は部屋の扉を力強く開け、荷物を中に放り投げますわ。

 

「というわけで、部屋替わって?」

「ふ、ふざけるな! なぜ私が……?」

「篠ノ之さんも男と同室なんて嫌でしょう? ねえ、セシリアもそう思うわよね?」

 

 なんで逃げようとしてるタイミングでわたくしに振ってくるねん背中に目でもついてんのか(キャラ放棄)。この状況をなんとかしないと帰らせてくれなさそうですわね……

 

「ま、まあ別に一夏さんと箒さんの問題ですし……わたくし達が口出しするようなことでは……」

「ほら! セシリアの言う通りだ!」

「別に私も幼なじみなんだから問題ないじゃないの。ねえ、一夏?」

「俺に振るなよ……」

 

 わたくしはともかくお前は当事者なんだからこの状況をなんとかしてくださいませ一夏さん。わたくしフォーオ○ーのスティールも回収したいんですけれども。

 

「とにかく! 部屋は替わらない! お前はお前の部屋に帰れ!」

「……ねぇ一夏、約束覚えてる? 小学校の時にぃ」

「無視をするな! こうなったら!」

「あぁ! 馬鹿!」

 

 机に立てかけてあった竹刀をとって振り下ろさんとする箒さん。それを部分展開された甲龍とブルー・ティアーズの腕が受け止めますわ。それにしても危ないことをするものですわね。

 

「今の、生身の人間相手だったら本気で危なかったよ」

「これだけは鈴さんに同意ですわ。いくら人間性を捨てても暴力に訴えては最低のクズに成り下がってしまいますわ」

「煽ってる時点であなたも最低のクズよ」

「カァ〜ッ、百理ある! 死んでくださいませ!」

「ほんとに死ぬとこだったわよ今……まあ別にいいけどね」

 

 少し冷静さを取り戻して竹刀を置く箒さん。彼女を煽るのは試合中だけにしときましょう……

 

「鈴、約束とか言ってたけどなんの話だ?」

「そう! 覚えてるよね?」

「えっとぉ……あれか? 鈴の料理の腕が上がったら、毎日酢豚を……」

「そうっ! そう!」

「毎日飯を奢ってくれるって約束だろ?」

「……はい?」

「いやぁ……一人暮らしの身にはありがたい……」

 

 ピシャリ、鈴さんが一夏さんにビンタを食らわせた音だ。ああ……大体把握しましたわこれは……めんどくさい男と女ですわね……めんどくさいのは○ンギと○蛇とスト○スだけで十分ですわ……

 

「さいってい! 女の子との約束をちゃんと覚えてないなんて!」

「えっ!? ちゃんと覚えてただろ!?」

「約束の意味が違うのよ意味が!」

 

 まあ……責任のダイヤグラムは5:5ってとこでしょうか……わかってやれない一夏さんも一夏さんですが、わかりづらい告白をする鈴さんも鈴さんってわけですわね。

 

「じゃあこうしましょう! 来週のクラス代表戦で負けた方は勝った方の言うことをなんだって聞く!」

「あ、ああいいぜ!」

「決まりだからね! 後で吠えづらかいたって知らないんだから!」

 

 そう言って荷物を背負ってまたわたくしの腕を掴んで走っていく鈴さん。この人移動方法がダッシュしかないんですの? ソ○ックかなにか? 

 そうして行き着いたのは人気のない外のベンチ……早く部屋に帰りたいですわ……

 

「うう……一夏の馬鹿ァ……」

「まあ大体状況は飲み込めましたわ……」

「ねえセシリア! 一夏が悪いわよね! そうよね!」

「そこはわたくしには言い切れませんわね……まあ、約束を取り付けたんですしクラス代表戦で勝てばいいのでは……?」

「そ、そうよ! あの鈍感馬鹿をボコボコに負かしてやればいいのよ! セシリア! 明日も模擬戦付き合いなさい! あの馬鹿と同じでブレードでね!」

「はぁ……わかりましたわ」

 

 しばらくは面倒事が続きそうですわね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、あいつに確実に勝つにはどうしたらいいと思う!?」

「そうですね……同じ近接戦同士で向こうは10割持ち、ヒットアンドアウェイで完封が丸いところだと思いますわ」

「やっぱりそうよね! 指先一つ触れさせずにぶっ倒してやるわ!」

「あと暴れの対策もした方がいいですわね。彼は素直な人ですから、昨日のわたくしの助言を聞き入れて攻められたら暴れるか超暴れてくると思いますので、それを的確にガードして攻撃を差し込むのが有効だと思いますわ」

「なるほど! じゃああんた! 相手しなさい!」

「はい……」

 

 鈴さんの熱量に押し切られ、早速翌日から対一夏さん特訓が始まりましたわ。わたくしは一夏さんと同様にブレード一本で何戦も何戦も……はっきり言ってキツイですわね。

 

「ほら! もっとIQを高めて! 一夏さんはチンパンで攻めてきますから鈴さんはIQで押さえ込まなきゃダメですわよ! そんなグランバニアの橋より無駄なコンボは通りませんわ!」

「うおおおおお! IQ龍砲! IQ龍砲!」

「いい! その龍砲はIQ高めですわ! もっと剣を回避したら当たるいやらしい位置に龍砲を巻いて! そう! そのIQです!」

「チンパンを捨てて! IQを手に入れる!」

「よし! 今多分250くらいありますわ! アインシュタイン超えの戦い方ですわそれは! よし! その回避と距離感を忘れずに! あなたは今や世界最高の頭脳を持っていますわ!」

 

 

 そうして試合までの約一週間、ひたすらにわたくし達はIQを磨き続けましたわ。



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お嬢様インテリジェンす

 勢いに任せて書き殴るスモーキングお嬢様ですわ。お気に入りが200突破したら感想いっぱい貰ったりして嬉しいんですの!
 後今日刊ランキング確認してみたら78位にいましたわ。一重に皆様のおかげですわね!


 そして来たる代表戦の日。わたくしは鈴さんの要望もあり、クラスは違いますがセコンドとして彼女側のピットにいましたわ。当然ベガ立ちは欠かしませんことよ。

 

「鈴さん、わたくし達はこの一週間ずっとIQを磨いてきました。今やあなたのIQは500は下りませんわ。そのIQをぶつけてくるのです」

「ええ、任せなさいセシリア。この圧倒的インテリジェンスを以ってあいつを沈めてくるわ」

 

『それでは両者、規定の位置についてください』

 

「よし、1+1は?」

「無限大!」

「行ってきなさい!」

 

 IQ500に恥じない素晴らしい答えを弾き出した彼女は、甲龍のスラスターをふかして大空へと飛び立つ。ああ、この距離からでもIQの高さを感じますわ……見てるだけで頭良くなりそう。

 

 

『試合を開始してください』

 

 

 双天牙月を構える鈴さん、雪片弐型を構える一夏さん。

 2人は一直線にお互いに向かっていき……激突の寸前に鈴さんがヒラリと身をかわす。大振りの一撃を外した一夏さんの背中に攻撃を叩き込み、反撃が来る前に龍砲で牽制をしつつ距離をとった。

 

『なっ!』

『悪いけどチンパンみたいな攻撃はしないわよ!』

 

 見ているだけでIQが引き上げられるのを感じるような戦いですわ。この試合のために情熱を燃やし、IQを磨いてきた彼女は一時的にわたくしと同等のIQを持っていますわ。IQを打ち砕くにはそれ以上のIQか最強のチンパンをぶつけるほかありませんが、一夏さんはまだその域(チンパン)に至っていない。

 

『ほらほらほらほら! その程度のチンパンじゃ私のIQは打ち崩せないわよ!』

『クソッ!』

 

 一夏さんは消耗戦を避けるため、一度引いてリセットするつもりのようですが……甘いですわね、対策済みですわよ。

 鈴さんは練習の通りに双天牙月を真っ直ぐに投げつけ、自分自身もその軌道を追うように急加速しますわ。そして一夏さんが双天牙月を弾くと同時に両肩から龍砲を発射、一撃振った後の無防備な体を二発の衝撃が捉え、吹き飛ばしてアリーナの壁に叩きつけましたわ。

 

「これは勝敗が決するのも時間の問題ですわね」

 

 しかし油断してはいけないのも事実。わたくしあそこから負けたらお嬢様になる自信がありますわ。

 

『ッ!? 上空から高エネルギー反応!』

「何ッ!?」

 

 

 言うが早いか、彼らの間を割るように上空からピンクのビームが降ってきましたわ。そのまま地面に着弾し爆発を起こしたそれは、今までわたくしが見たどんなIS兵装よりも高威力……少なくとも、観客を保護するためにアリーナに貼られたシールドを破るなど、今のIS科学では不可能なはずですわね。

 すぐにISを展開し、ハイパーセンサーによって上空を探ると、()()を放った張本人と思われるIS反応が二機、片方はアリーナのど真ん中、もう片方は観客席へ……まずい! 

 

「わたくしは観客の応戦へ向かいます! 先生方は避難のアナウンスを!」

 

 一緒にピットにいた鈴さんのクラスの担任に言い残し、ブルー・ティアーズのスラスターを唸らせて観客席へ向かいますわ。入り組んだ通路を抜け、観客席へ行こうとすると通路とギャラリーの間の扉が閉ざされていました。

 

「向こう側に誰かいらっしゃいますか!?」

「いっぱいいるよ! 避難したいけどここの扉が開かないの!」

「なるほど! じゃあ少し……離れていてくださいね!」

 

 向こう側の人が退いたのをハイパーセンサーで確認し、全力の蹴りで扉を打ち破る。逃げ道を得た生徒達が扉へ殺到します。

 

「落ち着いて1人ずつ! こっちにきたISはわたくしが抑えますわ! 落ち着いて! 落ち着いて!」

 

 扉を抜け、観客席の上空へ飛び立つと、ちょうど黒いISがこちらへ腕を向けてビームを放とうとしていた。

 

「させませんわよ!」

 

 即座にBTを展開、下からの攻撃で腕をカチ上げると、極太のゲロビは空の彼方へ消えていきましたわ。敵はビーム兵器を搭載した巨大な腕を再びこちらへ向けますが、チャージを始めるよりも先に肉薄してその顔面に銃剣刺突を喰らわせます。

 

「まさかチンパン通り越してゴリラになってしまうとは、IQを下げすぎるのも考えものですわね?」

 

 浅く刺さった銃剣をレーザーライフルから取り外し、蹴りでさらに深く叩き込みますが、動きを止めることはありません。やはりこのISは無人機、道理で生体反応がないわけですわね。

 

「一夏さん! 鈴さん! こいつは無人機です! どれだけバラバラにしても問題ありませんわ!」

『こっちもちょうど気づいたところだ! セシリアの方は一人で大丈夫なのか!?』

「わたくし、全一お嬢様ですわよ?」

 

 レーザーライフルをISの胸に何発か撃ち込みながら敵の上空を取りますわ。わたくしは外しませんが、相手の外した攻撃が観客席に降っては犠牲者が出てしまいますから。

 

「しかし硬いですわね……Q○Zジ○ギくらい硬いですわあいつ」

 

 明確なダメージになっているのは頭部に刺さった短剣くらいで、何発か当てたレーザーも装甲を少し溶かすだけにとどまっていますわね。容易く頭部装甲を貫けたところから見て、あの頭は弱点ではない。そしてどうやら操縦者が存在しないためにシールドに割くエネルギーが少ないようで、攻撃によってエネルギーを削り切ることもおそらく不可能ですわ。

 ならばおそらく胸部にあるISコアを抜き取るか破壊するほかに止める方法はないと見ましたわ! そしてどうやらあの胸部の装甲はわたくしのレーザーライフルやBTでは抜けない。ならば……

 

「感謝しますわ、鈴さん」

 

 鈴さんとの特訓で使っていた近距離ブレード『葵』。これを装備したままで助かりましたわね。葵を構え、胸元に狙いを定めて突きを放ちますわ。イメージはE○8の下格ですわ。

 しかしその一撃は腕を盾に塞がれ、反対の腕でカウンターを仕掛けてきますわ。

 

「まずは腕をもぐところからですわね?」

 

 左右の敵を倒さないとHPが減らないタイプの敵ですわねこれ。そうと決まると、BT4機とレーザーライフルの一斉射撃を左腕の肩関節部に集中させますわ。狙い通り関節部は装甲が薄く、容易く左腕を吹き飛ばすことができましたわ。

 近づいて塞がれても反撃はない。こうなればもう怖くないですわね。全速力で肉薄し、葵を振るいますわ。これも右腕で塞がれますが……

 

「隙だらけですわね?」

 

 再びBTの一斉射撃によって右腕肩関節部を攻撃、もぎ取るには至りませんでしたが問題はありませんわ。目の前にある前腕を蹴り飛ばし、レーザーによって弱った関節部に渾身の突きを突き刺すと、こちらの腕も自由落下していきましたわ。

 

「さて、だるま状態ですわね? ここから勝てるのは格ゲーの世界だけですわよ」

 

 両腕を失った敵ISの胸に突きを喰らわせ、そのまま地面へ叩きつける。

 そうまでしてもまだ装甲に塞がれ、コアを傷つけるには至らないようですわね。地面に押しつけたままBTの射撃と剣撃を合わせ、何十秒か攻撃を重ねてようやく胸部装甲を貫通させることができましたわ。

 

「じゃあ、これは貰っていきますわね」

 

 気分はヤー○ムの狩人、内臓攻撃よろしく右腕を突っ込み、ISコアを握って引き抜きますわ。これがなければどのようなISであっても動くことは不可能。目の前のそいつもご多分に漏れず、先ほどまで足掻いてバタつかせていた足を力なく地面に放り投げていましたわ。

 

「BOTじゃプレイヤーに勝てないってことですわよ。さて、鈴さんの方は……あら、上手くやってますわね」

 

 アリーナの中へ行った一機も、ちょうど今一夏さんが右腕を雪片で切り飛ばしたところでしたわ。しかしそれに合わせる形で左腕のカウンターが一夏さんに刺さり、地面に横たわる一夏さんに対し敵ISがビームのチャージを開始……

 

 

『狙いは?』

「完璧ですわ」

 

 

 もちろん、それを許すわたくしではありませんわ。そんな甘い追撃にカットが来ないと思って? BTによる一斉射撃で今度はあちらのISの前腕部の関節を破壊、こちらを向くそいつの胴にレーザーライフルを食らわせましたわ。

 

「とどめはお譲りいたしましょう」

『そりゃどーも!』

 

 最後は一夏さんの雪片が敵ISの胸を切り裂いてYou winですわ。

 全く、こんなのを遣すなんてわたくし達も舐められたものですわね。

 

 

 画して、クラス代表戦はトラブルにより幕を閉じましたわ。



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学年別トーナメント編
お嬢様100先る


 馬鹿みたいな更新速度してますわね。
 誤字報告ありがとうございますわ!


「ハァ……ハァ……今のところ92:12……腕を上げましたわね、鈴さん……」

「あんたこそ……BTの精度も格闘戦のキレも数段と良くなってるじゃない……さすが私のライバル……うっ……」

「鈴さん! 鈴さん!? 鈴さ───ん!!」

 

 IS学園の休日は土日、特別なアリーナ使用許可を取ったわたくしと鈴さんは約束通りに100先に興じておりました。しかしお互いに技量が上がって勝負は拮抗し、2日目の昼頃になってもまだ勝負はつかず、しまいに鈴さんは倒れてしまいましたわ。

 しかし! 神聖なる100先を中断することは許されざること! ここは一つ一夏さんに電話をかけて鈴さんに応援の一言をお願いしましょう! 

 

『……もしもし、どうしたんだ? セシリア?』

「ああ一夏さん、実はいま鈴さんと100先をやっているんですが、途中で鈴さんが倒れてしまいまして……彼女に応援の言葉をいただけたら嬉しいんですが……今大丈夫ですか?」

『ああ、大丈夫だ。外出して友達の家で格ゲーやってたところ』

「まあ、格ゲー!? 何をなさっていますの?」

『えっと……ス○Ⅴ!』

「それはそれは素晴らしい! ……あ、鈴さんにかわりますわね!」

『あっ、おう!』

 

 倒れている鈴さんの耳元に携帯電話を当てがいしばらく立つと……

 

「やるわよ! こっからぶっ倒してやるわセシリア!」

「あら、流石にここから負けたらわたくしもお嬢様になってしまいますわよ」

 

 鈴さんはガバッと起き上がり、ISを装備し直しましたわ。何を言ったのかは知りませんが、助かりましたわね。

 

『おまっ! やめろっ! 身内の恥を友達に晒したくない!』

「あら? どうしましたの?」

『いやなんでもないよ! じゃあな!』

 

 と、急いだ様子で電話を切ってしまう一夏さん。向こうで何かアクシデントでもあったのでしょうか……? 

 

 

《side 一夏》

 

 

「お前! 電話代われっての!」

「もう切ったから! 身内の恥は俺のとこでとどめとくんだよ!」

「誰が恥だ誰が! 今の子めっちゃ可愛い声で上品な喋り方だったぞ! お前こんな子に電話かけられるような立場にいておいて!」

 

 俺は外出許可を取り、休日を幼なじみである五反田 弾のところで過ごしていた。2人で格ゲーをしていた時にセシリアから電話がかかってきて、女の子の声を聞いた弾が騒ぎ出して……って寸法だ。

 

「どんな子なんだ今の子!?」

「えっと……イギリス貴族の出身だって言ってたな。それでいてイギリス代表候補生で……あとはうちの学園でもトップに入るくらい強いんだ。あとゲームが大好き」

「属性モリモリでめっちゃいい子じゃねえか! えー! 今度連れてこいよ! 一緒に格ゲーやろうぜ!?」

「いや、やめた方がいい……」

「なんで!」

「なんでって言われても……」

 

 そう、俺は前に彼女が格ゲーをやる姿を後ろから見たことがあるが、あれは半端なかった。アホみたいに上手いんだが……マシンガンみたいに暴言吐き出しながらやってたなぁ……

 

『おまっ、おまっ、お前この! お前がIQ高めてくるならわたくしはチンパンになって対抗しますわよ! ウッキィィィィ! 今年は申年! ウッキィィィィィぃ! はい! 尋常じゃんけんじゃんけんポン! ハァァァァ!? てめぇ未来予知でもしてるんですの!? クソッ! やっぱ○蛇はクソですわね! 修正要望出しておかないとですわ! 攻撃速度が今の10%くらいにならないかしら!』

 

 あれはなんていうか……鬼気迫るものがあった。尋常じゃない怒りを感じた。その後勝ったけど切れ散らかして別ゲーやってたっけなぁ……その時も……

 

『うおぉぉぉぉい!! 何一人で突っ込んでんだこのハ○ト!! チャージは多用するものではなくってよ!? グハァッ! これはハッキングですの!? お前かソ○ブラぁぁぁ!! 煮卵みたいな顔しやがって調子に乗ってますの!? ちょっ! カバーカバー! カバーお願いしますわ! うわぁぁぁぁ!! ……やっぱ野良はダメですわね……』

 

 キレ散らかしてたなぁ……ゲーム中とIS試合中の煽り暴言さえなければいい子なんだけど、そこだけで余裕でマイナス振り切れてるもんなぁ……

 

「なんていうか……残念な子だ。あとお前ザ○ギ使いだから多分嫌われる」

「どういうことだ……?」

 

 

 

《side セシリア》

 

 

 

「よっしゃ92:13! こっから追い上げてくわよ!」

「あの人何吹き込んだんですの!?」

 

 ドーピングによって力を増した鈴さんに一勝を譲ってしまいましたわ。しかし次からは負けやしないですわ。あと8戦で終わらせて見せます! 流石にこれ以上やったら死人が出ますわ! 

 

 

「あら、やっぱり面白そうなことやってるわねぇ」

 

 

 次の一戦を始めようというタイミングで、このアリーナに新たな声が響きましたわ。声の下方にいたのは水色の髪に赤い目をした女性……間違いありませんわね、彼女はこの学園の生徒で最強と呼ばれる……

 

「生徒会長、更識 盾無さん……でしたわね?」

「その通り! 知っててくれてお姉さん嬉しいわ!」

「で、何しに来たのよ」

 

 手に持った扇子を顎に当てながら考えるような仕草をする生徒会長。しばらくしてからその扇子をバッと広げると、そこには『敵情視察』の文字が。

 

「そっちのセシリアちゃん、めちゃくちゃに強いって聞いたから様子を見に来たのよ。あわよくば模擬戦って思ってたんだけど……その様子じゃ今はやらない方が良さそうね?」

「もちろんよ! 悪いけど今から87戦は待ってもらうわ」

「いえいえ、8戦で十分ですわよ。そもそも今から87戦したら休日もわたくし達の命も終わりますわ」

「あはは! 100本先取やってるんだってね? 噂で聞いたわよ」

 

 あら、まさか噂として広まっていたとは……まあ100先なんていう狂気の儀式をやっていたら広まるのも当たり前ですわね。なんにせよ、早く8勝してこの狂気を断ち切らなばなりませんわ。

 

「はじめっ!」

 

 不意をついたような生徒会長の一言に、わたくしと鈴さんが即座に反応してぶつかり合いますわ。

 

「あんたっ! やっぱり不意打ちの機会窺ってたわね!? そんな早く反応できるわけないものねぇ!」

「戦いとはすなわち人間性を勝利へと変換する作業に他なりませんわ! そもそもそういう鈴さんこそ反応できてるではありませんか?」

 

 

 

 この後、わたくしの8本ストレート勝ちで悪魔の100先は幕を閉じましたわ。

 

 

 

「いやあ! 見事だったねセシリアちゃんも鈴ちゃんも!」

「当たり前ですわ……ダイアグラムは9:1になってしまいましたが……」

「次は8:2になるわよ……その次は7:3、次は6:4、最後は0:10よ!」

「大口を叩きますわね……二度とやりたくないけど……そうなる日を心待ちにしていますわ……」

 

 地獄の儀式を終えたわたくし達はアリーナの地面に横たわり、空を見ていましたわ。ああ、空がもうオレンジに……結局休日2日とも潰れちゃいましたわね……でも不思議と後悔はなく、心地よさだけが胸に残っていますわ……

 鈴さんも心は同じようで、健やかな顔で横たわって寝ていますわ。

 

「ああ! そうそう! それでセシリアちゃんにお願いしたいことがあるんだけどさ!」

「……なんですの? 今から模擬戦って言われても絶対無理ですわよ」

「近々あなた達のクラスに転校生がやってくるの。彼女達の観察を頼みたいのよ」

「達? 複数人くるんですの? しかもわざわざ観察とは……?」

「うん、ドイツとフランスからね……どうにも二人とも危うい情報が入ってきててね。あなたは口は悪いけど面倒見がいいし頭もキレると聞くわ、それに私が卒業したあとはあなたが生徒会長をやることになるはず、今から仕事を体験しといて損はないわよ。詳しい話は後日するわ」

「……わかりましたわ」

 

 観察だのでゲームの時間が減るのは嫌でしたが……今は断るような体力は残っていなかったので、話を受けることにいたしましたわ。

 

 

 

 

 

 そして後日。

 

 

「今日は皆さんに転校生を二人紹介しまーす! どうぞ! 入ってきてください!」

 

 教室の戸を開け入ってくる少年と少女……少年!? 

 

 ……はぁ、またゲーム時間が削られそうですわね……



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お嬢様ザ○ギを揉みたい

 ご機嫌よう!ブレイクダンスを嗜んでいるダンシングお嬢様ですわ!最近クラブに行けないから和室でパワームーブとアクロバット練習してたら歩くだけで床が軋むようになりましたの!
 それはそうとお気に入り300突破ありがたいですわね!皆様の対戦相手のR2が壊れる祝福をかけておきましたわ!
 あと今回から原作二巻の内容に入りますわ!一巻を無くしてたのでだいぶ書きやすくなりますわね!


「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いと思いますが、皆さんよろしくお願いします」

 

 金髪の転校生、シャルルさんがにこやかな顔でそう告げますわ。皆さんは驚いているようですが、わたくしとしては呆れるやら面倒やらで……顔に表れているのが自分でも分かりますわね。

 

「お、男……?」

「はい、そうです! こちらに僕と同じ境遇の方がいらっしゃると聞いて……」

 

 境遇ねぇ……格ゲーで培ったわたくしの目はごまかせませんわよ。まあ、生徒会長から仰せつかった仕事はあくまでも『観察』――必要以上のことをする必要はないでしょうし、わたくしは静観に徹しましょうかしら。

 と、物思いにふけっているといきなり黄色い歓声が聞こえてきましたわ。鼓膜破壊されるかと思いましたわよ、大会の時のゲーセンよりうるせえですわね。元気なことですわ。

 

「ちょっとみなさーん! まだもう一人が終わってませんから!」

 

 さて、もう一人の転入生ですわね。もう一人はと言うと、綺麗な長い銀髪を下ろし、眼帯をした少女でしたわ。その表情やピシッとした身長が『軍人』のような雰囲気を醸し出して……というより、実際軍人なのでしょうね。小さく、筋肉も最低限しかついてない体ですが……あれはそれなりの実力者であることが窺えますわ。100先したら5回は持ってかれますわね。

 

「……挨拶をしろ、ラウラ」

「はい、教官」

「ここでは織斑先生と呼べ。私は先生で、お前もここでは一般生徒だ」

「了解しました」

 

 織斑先生に言われてようやく沈黙を破った彼女。教官、教官ねぇ……何にせよ、面倒くさそうなしがらみがありそうですわね。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「……えっと、以上ですか?」

「以上だ」

 

 そうしてまた長い沈黙。空気読めないタイプですわねあの子。読めないのは尋常じゃんけんだけで十分ですわ。

 しかし、今の今まで沈黙と平静を保っていた彼女が、一夏さんを見て目の色を変えましたわ。……あー、なるほど……そういう問題ですわね……

 

「ッ! お前が───」

 

 張り上げられた彼女の平手が一夏さんを打ち据える……前に、その間に滑り込んだBTが平手を受け止めますわ。

 

「貴様、何のつもりだ」

「何のつもりだはこっちのセリフですわよ? 試合もしないうちにリアルファイトは少々乱暴すぎるのではなくって? スラム街生まれのゲーマーでもそんなことしませんわよ?」

「チッ……貴様はイギリスのセシリア・オルコットだな?」

「あら、ご存知でしたのね? わたくしはあなたみたいな野蛮なチビは存じ上げませんけれどもね、あたり判定が小さそうで羨ましいですわね?」

「イギリス候補生最強などと言われて調子に乗っているようだな。近いうちに後悔させてやろう」

「わたくしが後悔するのはゲージ技を外した時だけですわ」

 

 リアルファイトはゲーマーの中でも最後のまた最後の手段ですわ。煽りのために辞典読んで語彙力上げるより辞典で殴ったほうが早いとは言いますが、それを最初に持ってくるなど人間の風上にも置けない人ですわね。人として越えちゃいけないラインをグラウンドの白線みたいに踏みにじりやがって、アンチスレでも立ててやろうかしら? 

 

「あー、HRはこれで終わりとする。各々授業の準備をしろ」

 

 と、織斑先生の鶴の一声もあり、この場はおしまいとなりましたわ。

 しかしあの軍人、近いうちに仕掛けてきそうですわね。準備をしておいて損はないでしょう。はぁ……わたくしのゲームの時間が削られていく音がします……人のゲームの時間を鰹節みたいに扱いやがってたこ焼きの上に乗せるぞあの生徒会長……

 

 

 

 

 

 

 授業は二組と合同でのIS模擬戦闘ですわ。早々に着替えてグラウンドで待っていると、チャイムが鳴って少ししてから一夏さんとシャルルさんがいらっしゃいましたわ。おっかない織斑先生に怒られてますわね。そのうち背中に天って出そうですわあの人。

 怒られ終わった一夏さん達はわたくしの隣の列に着きましたわ。

 

「あっ、セシリア! さっきはありがとうな!」

「いえ、構いませんことよ。格ゲーマーとして当たり前のことですもの」

「本当に助かったよ!」

 

「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する!」

 

 生徒達の返事にも熱が篭りますわね。彼女達がしてみれば待ちに待った実戦訓練、気合も入るというものでしょう。大会当日のようなものですわね……いやでも大会とかって当日になるといきなり面倒になりますわよね、何なんでしょうアレ。

 

「今日は戦闘の実演をしてもらおう……オルコット! 前に出ろ!」

「はい!」

 

 ISを展開しながら前に出ますわ。呼ばれるのがわたくし一人ということはおそらく相手は……ちょうど今ハイパーセンサーでこちらへ向かってくるISを感知できましたわね。しかしこの機動は……

 

「一夏さん、白式を展開しなさい」

「えっ、おう!」

 

 一夏さんが白式を展開すると同時に、そのISが一夏さんに突っ込み、地面を転がっていきますわ。派手にやりますわねぇ……バル○ァルクの彗星みたいですわ。

 土煙が晴れると、そこには一夏さんを押し倒す山田先生の姿が! ……展開が遅れてたら死んでてもおかしくなかったですわねあれ。言ってからノータイムで展開を始めてくれて助かりましたわ。

 

「あ、あの織斑くん……こんな場所でそんなことは……いえこんな場所でなくても私と織斑くんは教師と生徒ですし……ああ! でも織斑先生が義姉さんになるのはいいかも……いやそうじゃなくってですね!」

 

 あの一夏のやろう、わたくしの○ンギを揉みしだいてやがりますわ。離せ、その当たり判定はわたくしが揉むべきものですわ。……と、鈴さんがISを展開して一夏さん目掛けて双天牙月を……投げたァッ! が、山田先生が二丁拳銃を持って弾き返したようですわね。やはり彼女、なかなかの使い手でしたわね。

 

「で、わたくしの相手は山田先生ですわね?」

「ええ、そうです! よろしくお願いしますねオルコットさん!」

 

 さて、相手は射撃主体の機体であるラファール・リヴァイヴ。今の射撃の腕から見ても、中遠距離型なのは間違い無いでしょう。ならばわたくしはひたすらに攻めるのみですわ。

 

「では、始めろ!」

 

 織斑先生の合図で、わたくしは前へ、山田先生は後ろへと飛び去ります。予想通りの引き撃ちですわ。飛んでくる鉛玉を躱し、あるいは銃剣で弾きますが、なかなか近寄らせてくれないですわね。やはり只者ではありませんのね。

 

「山田先生……手加減はいたしませんわよ」

「ドンと来いです!」

 

 BTを展開し、わたくしの突撃を射撃で支援させますわ。それでも中々距離が詰められないですわね。こうなればアレを使いますか。

 

「山田先生! 逃げ回ってばかりではいけませんわよ! そうやって辛いことから逃げ続けていると婚期も逃すということですわ! ただでさえ出会いが少ないIS学園で働いているのですから! もっと積極性を出しませんと!」

「なっ……婚期の話はやめてください! 同級生が最近結構してるんですよ結婚! 私だけ取り残された感じが辛くて……いやそうじゃなくてですね!」

「ふっ! まだまだ読みが甘いわ!」

 

 彼女の集中が途切れた瞬間に仕掛けるましょう。取り出したるは"ある液体"が満タンに詰まったドラム缶。それの蓋を剥がしてぶん投げますわ。

 青空に広がるオレンジ色の液体、その正体は……

 

「まさか! ガソリンですか!?」

「ご名答ですわ!」

 

 レーザーガンを落下するガソリンに撃ち込むと、その熱でガソリンが一気に爆発を起こしましたわ。わたくしが超ガソと呼ぶこの技、これの目的は相手にダメージを与えることではなく、その爆音と光で集中を奪うこと。そして……

 

「この速い突きがかわせるかぁ!?」

 

 最高速での突撃とともに炎を突き破っての銃剣刺突。それは完璧に山田先生の腹を打ち据え、隙を作り出しますわ。

 

「今は悪魔が微笑む時代ですわよ!」

 

 そのままBTの援護射撃と同時に銃剣でのラッシュを仕掛けますわ。剣を避ければレーザーが、回避を拒めばそのまま次の攻撃を繰り出せるIQ500の超連撃! 

 が、意外にも山田先生は銃床を使ってこちらの銃剣を弾き、頭を打ち据えるともにわたくしを蹴り飛ばして再度距離を取りましたわ。なるほど、ただの引き撃ちマンでは無いということですわね! 

 

 

「そこまでだ!」

 

 

 熱くなってきたところで、織斑先生から制止がかかってしまいましたわ。チェッ。武器をしまい、山田先生と共に地上へ降りますわ。

 

「見事でしたよ! オルコットさん! あのまま続けてたら私負けてました!」

「いえ……続けていたらわたくしも危なかったですわ。流石元日本代表候補生なだけはありますわね」

「えっ!? 知ってたんですか!?」

「古今東西の操縦者のデータを集めるのは当然のことですわ。わたくしの射撃パターンも、山田先生を参考にしている点がいくつもありますし」

「えへへ……オルコットさんみたいな優秀な生徒に褒められると照れちゃいますね……」

 

 頭を掻く山田先生ですが、わたくしの視線は彼女の胸のザン○エフに釘付けでしたわ。なにそのデカさ、本当に何なんですかそのデカさ。当たり判定でも食って育ったらそんなんになるんですの? ヤバいですわね。

 

「さて、これで諸君もIS学園の教員の腕を確認できたことだろう。今後は敬意を持って接するように!」

 

 はい、と再びいい返事ですわね。わたくしとて彼女の戦闘データを知ってはいましたが、相対するのはこれが初めて、改めて見直しましたわ。

 

「では、これよりグループに分かれて実習を行う! 専用機持ちの織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰をグループリーダーとしろ! いいな?」

 

 グループリーダーに各生徒が自由に集まる形式のようで、当然一夏さんとシャルルさんの方にほとんど皆さんが集まっていきますわ。

 ……わかってはいたけど自分の不人気にちょっと凹みますわね……




 常にゲーマー語録と睨めっこしながらネタ考えてますわ。なんならいい感じの名言教えて欲しいですわね。

 そういや日間13位でしたわ!喜びですわね!今日はハーブを紙で巻いて火をつけて吸うおハーブパーティーを開きましょう!


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お嬢様助ける

 ご機嫌よう!好きなステップはスキーターラビットのロッキングお嬢様ですわ。お気に入りがついに400を超えましたわね!って書いてる途中に500に届きそうですわね!嬉しい限りですわ!お気に入りしおり感想その他諸々がわたくしの承認欲求を満たしてさらなる力を与えますわね!皆様に感謝を!
 そういえば基本的に読みやすいように4000文字前後で書いているんですが、1話ごとの文字数はこれくらいでよろしいですかね?


 結局、織斑組とデュノア組から溢れた可哀想な生徒達と実習を終えましたわ。その後皆さんと学食ではなくお弁当を屋上で食べました。箒さんも鈴さんも料理がお上手でしたわね。え? わたくし? 菓子パンとあとブルーベリーだけですわ。目はゲーマーの宝ですものね。

 それよりも面白かったのがシャルルさんでしたわね。必死であることを隠している様が非常に愉快でしたわ。この観察も意外と楽しめそうな気がしますわね。同室になった一夏さんの前でいつボロを出すのかが楽しみですわ。生徒会長さんと賭けでもやろうかしら? 

 

 さて、そんな生活も五日ほど経ち、今はいつものメンツでアリーナを借りて訓練をしていますわ。しっかし、箒さんと鈴さんはバリバリの感覚派なので教えるのがヘッタクソですわねぇ。解説に擬音使うやつは大抵教えるの下手くそですわ。わたくしは格ゲー用語使いすぎてわからんって言われてしまいましたし。それに対してシャルルさんは教えるのが上手いですわね。一度模擬戦をやらせていただきましたが、中々高水準の中距離射撃型の操縦者でしたわ。

 

 ……と、皆さんでやいのやいのと練習をしていると黒い影が現れましたわ。言うまでもなくラウラさんですわね。なんの意外性もありませんわね、なんなら思ったより仕掛けてくるのが遅かったくらいですわ。早速彼女に通信を取りましょう。

 

「あら、どうしましたラウラさん? 寂しいから混ぜてもらいにきたんですの? 残念ながら筐体は空いてないので待機列に並んでくださる?」

『貴様は……オルコットか。邪魔をするな、私が用があるのはそこの織斑一夏だけだ』

「へえ? どう言う用事が? 告白でもしますの?」

『……面倒だ。仕掛ける方が早い』

 

 やはり沸点がルンバの車高くらい低いご様子で、腹を立てた彼女はISの肩にマウントされたレールキャノンをこちらへ向けてきますわ。これだから野蛮な子は嫌いなんですの。ジャングルのみんなで育てましたって感じの性格してますわね? 

 

「仕掛けるって言って仕掛けたら対策されるに決まってますわよねぇ? 格ゲーマー舐めてますの?」

「セッ、セシリア!?」

「一夏さん達は下がっててください。ちょっとあのロリをわからせてきますわ」

「でも、大丈夫なのセシリア?」

「あら、シャルルさんも心配してくださりますの? 彼女は多分わたくし一人で負かしてやらないと懲りないと思いますの。あなたも見ててくださいな」

 

 彼女のレールガンが発射されるよりも前に、その銃口をレーザーが貫きますわ。武装を破壊してしまうのは心苦しいですが、ここでいくらか心を折っておきましょうか。

 

『貴様ッ!』

「おや、黒豚は随分と怒りっぽいようですわね? カルシウム足りてます? あなたの場合身長も伸びて性格も温厚になっていいこと尽くめですわよ?」

『減らず口を!』

「そう言う生き物ですからしょうがないですわよ」

 

 今度は近接戦を仕掛けようとブーストをふかして肉薄してくるラウラさん。その背中を回り込ませておいたBTで集中砲火しますわ。全く、これだからクールさを保てない人は弱いのです。

 

「頭が温まってる人ほど狩りやすいものですわね。ISには折角360°の視界があると言うのに、前にしか意識がいってないとは宝の持ち腐れですわね? まずは視界を広く持つことをオススメしますわ。『神は視界あれと言われた。すると視界があった。そしてワードを刺した』と、よく言うでしょう?」

『ふざけるな! 聞いたこともない!』

「教養がないのね。MOBAでもやって見聞を広げたらいかがです?」

 

 もうすっかりブチのギーレェですわね。次はスラスターを左右に、蛇行するような形で向かってくるラウラさん。今度は彼女が打撃を仕掛ける寸前に上空へと急加速し、レーザーライフルをお見舞い……しますが、空中でレーザーが止まってしまいますわ。

 

「あら、それがあなたの武装ですのね。ISに乗っても尚自分の殻に閉じこもっているわけですか、お似合いですわね?」

『すぐにそんな口を利けないようにしてやる!』

「どうやって?」

 

 今度はレーザーライフルと同時にBTを連射。何発かは躱され、何発かは止められましたが、大部分は着弾しましたわね。わたくしの読み通りアレが弾を止められるのは彼女が集中を割く一面のみ。360°どこからでも攻撃ができるわたくしには最も噛み合わないわけですわね。ダイヤは10:0って感じですわね。

 

「あら、殻に籠もっているというのは訂正しますわ。正しくは孤立した状況でたった一枚の壁に頼る哀れな敗残兵って感じでしょうか? ああ、言葉にトゲがあったらごめんなさいね? わたくし、綺麗な薔薇なもので」

『貴様……! 絶対に殺す!』

 

 

『お前ら! 何をしている! 学年とクラスと出席番号を言え!』

 

 

と、アリーナの見張りの先生から注意がとびましたわ。全く無粋なものです。もう少しで彼女の肋骨をえぐれたというのに。

 

「あら、ゴングに救われましたわね? よかったでちゅねぇ、ここが学園で。ゲーセンだったらハゲ上がるまで煽り続けるところでしたのに」

『言ってろ! 次は負かしてやる!』

「そこのお前! 一敗ですり減るプライドは三勝分ですわよ!」

『クソがッ!』

 

 まだ頭に冷静さが残っていたようで、そそくさと退散していきましたわ。もうちょっと煽って差し上げた方が良かったかしら? 地面まで降りると、ドン引きした様子の皆様が。

 

「なんていうかセシリア……噂通り本当に容赦ないんだね……」

「流石にビンタされかけた俺でも可哀想に思えた……」

「もしかしてスラム街育ちのお嬢様だったりする?」

「私もお前とだけは戦いたくないな……」

 

 ……テヘペロ! 

 

 

 

 と、ラウラさんを可哀想なくらいに痛めつけたその日の夜、格ゲーに興じていたときに携帯がなりましたわ。そこには一夏さんの文字が、電話を取ると……

 

『もしもし、セシリアか? 実はちょっと困ったことがあって……できれば俺の部屋に来てくれないか?』

「ええ、構いませんわよ。すぐに向かいますので待っててください」

 

 ああ、これはバレましたわね。しかしそうなってすぐにわたくしに頼るとは……随分信頼を勝ち取ったものですわね。わたくし煽りしかしてた記憶ないんですけれども。何はともあれ、面白そうな予感がしますので、わたくしも一時的にゲームから離れる価値はありそうですわね。

 

 一夏さんの部屋の扉をノックすると、すぐに一夏さんが出迎えてくれましたわ。

 

「で、困ったことはシャルルさんの件ですわね?」

「よ、よくわかったな……」

「言うまでもありませんわ」

 

 彼に促されて部屋に入ると、そこにはたわわな当たり判定を胸に携えたシャルルさんがいらっしゃいましたわ。どこか所在なくベッドの上に座っていて、まるで致命的ミスでゲージを無駄に溶かしたゲーマーみたいですわね。

 

「こんばんは、シャルルさん。えっと……シャルルは男性名ですし、本名はシャルロットさん、ですかね?」

「! ……よくわかったねセシリア。そうだよ、僕の名前はシャルロット・デュノア。本当は僕……」

「言わなくてもわかりますわよ。そもそもわたくしは生徒会長に言われてあなたを観察していましたから、事情も大体は読めていますわ」

 

 と言っても、彼女の実家である会社の大まかな状況のみですが。例えば社長であるデュノア氏に息子なんていないこと、経営が傾いていること、それくらいのことでしたわね。そうなったら考えることは危険な手を使ってでも一発逆転、って感じでしょうかね? 娘である彼女を彼として学園に潜り込ませ、一夏さんの機体データを盗む……ここまでがわたくしの推理ですが、多分当たってましたわね。

 

「えっ、セシリア最初から知ってたのか!?」

「……知ってて黙って見てたの?」

「その通りですわよ。それともわたくしの口からバラした方が良かったでしょうか? あなたが自己紹介をしたあの時点で口を滑らせても、別にわたくしは構わなかったですわ」

 

 別に責める気もありませんが、そう言うと彼女は口を噤んでしまいましたわ。

 

「それで、わたくしをここに呼んだのは彼女の今後の処遇について聞きたいから、ですわよね? 最善は言うまでもなく織斑先生を頼ることですが、それができない。あるいはしたくないからわたくしが選ばれた」

「ああ、その通りだ。やっぱりセシリアを呼んで正解だったな! ……それで、どうしたらいいと思う? 意見を聞きたいんだ」

「……あくまでも彼女の処遇を先送りにするには、というなら3年間知らんぷりすればいいだけですけれど、3年間ミッションを達成出来なかったらどうなるかなんて容易に想像がつきますわね」

 

 俯いたままのシャルロットさん。足や手が震えているようにも見えますわね。まあそりゃ一世一代のスパイ作戦で失敗したらこうもなるものですわ。

 

「なら、イギリスへ亡命すればいいんですのよ。もっとISの腕を上げればわたくしのスパーリング相手兼メイドとして雇いますわよ」

 

 やっぱり先立つものは財力ですわね。このセシリア、伊達に名家の生まれではありませんもの。両親なき今はわたくしがオルコット家の主人、主人の手にかかれば使用人を一人雇うくらいお安いものですわ。ついでに格ゲーの相手もしてくれたら文句なしですわね。

 

「……いいの? こんな僕を雇うなんて……」

「やむにやまれぬ事情があったのでしょう。それにわたくし、お人好しですもの。一度友達になれば煽りはしても見捨てたりなんか出来ませんわ」

「お人好しかどうかは微妙なとこだけど……本当に助かったよセシリア! やっぱりセシリアを頼って良かった!」

「構いませんわ。わたくしも、こんな状況で1番に頼られて友達冥利に尽きるというものです。では、わたくしは格ゲーに戻りますわね」

 

 

 さて、いいことをした後はいい気持ちでゲームに挑めるというものです。今日のわたくしは一味違いましてよ? 

 

 

「クソわよ! おクソですわね! お排泄物ですわ! そんな弱に反応できる人間がいまして!? あっ! お前毒で削り切って勝った気になってんじゃねえですわよ! スイーツみたいな防具しやがって! 頭からバリバリいきますわよ!? お! きた! よし! はいせーの! 回避狩りィ! 天に滅せい!」

「さっきまで機嫌良さそうだったのにもういつもの調子に……」



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お嬢様サディズむ

 ご機嫌よう!生まれつきのジオニストお嬢様ですわ!このSSのお気に入り数も600を超えましたわね!600といえばバ○オペでも最高コスト帯、この先も無制限に増えていくように頑張りますわ!
 あとこの回、ちょっとサディスティックお嬢様の性癖が暴走してしまったちょっとネタ少なめでなかなかサディスティックな仕上がりになっておりますわ。ご注意ください。


 さて、行事に事欠かないこの学園はクラス代表戦が終わった直後にもまた新たなイベントがありますわ! その名は『学年別個人トーナメント』! 一週間かけて執り行われる一大イベントですわ! 名前の通りに、学年別に全ての生徒が参加し、トーナメントを勝ち進んでいく、という大きな催しですわね! 

 このイベントで煽りがいのある生徒に会えることを期待しながらも、今日もギリギリの時間で教室に向かうわたくしですが、途中で珍しく一夏さんとシャルロットさんに会いましたの。

 

「あら、おはようございます」

「おう、おはよう!」

「おはよう……えっと……セシリアお嬢様?」

 

 カーッ! お嬢様なんて呼んじゃって可愛いですわねこの子は! 男装してても可愛さを隠しきれてないですわねほんと! 

 

「学園にいるときは呼び捨てで構いませんわよ。それに雇ってからも勤務中以外ではお嬢様なんて呼ばせる気はありませんわ」

「うっ、うん! セシリア、本当にありがとうね!」

 

 笑顔が眩しいですわ……心なしか1620万色に発光してるようにすら感じます……ゲーミングシャルロットですわね。いや、でも彼女にはこのゲーマーサイドに堕ちずに眩しいままであって欲しいですわ……

 

「わたくしのやりたいことをやったまでですわ。それに、可愛いメイドさんと有能なスパーリング相手を同時に手に入れたんです。わたくしの方がお礼を言いたい気分ですわ」

「か、可愛いだなんてそんな……」

「可愛いですわよ。ね、一夏さんもそう思うでしょ?」

「えっ、あっ、ああ! そうだな!」

 

 と言うと、顔を赤らめるシャルロットさん。ちょっと一夏さん、わたくしのメイド予定の子を落とさないでいただけます? ゲーマーの闇に堕ちるのも問題ですけれど、彼に落ちるのも問題ですわねほんと。

 

「ん? なんか騒がしいな」

「ええ、なんの騒ぎでしょうか?」

 

 教室についてみると、クラスの女子全員が中央の机に集まって話をしていましたわ。何が起こったのでしょうか? もしかしてア○グガイがついにナーフを受けたのでしょうかね? あいつが嫌で低コス出れないのでいっそ削除して欲しいくらいですわ。

 

「何をしてるんだ?」

 

 一夏さんが戸を開けながら言うと、みんなそそくさと退散してしまいましたわ。コミケやゲーセンで台車が通るときみたいですわね。その辺の民度の高さがわたくしは好きですわ。

 

「なんだったんだろうな?」

「さあ?」

「わかりませんわね」

 

 疑問符を頭に浮かべていると、もう時間がやばいので急いで着席しましたわ。瞬獄殺を喰らうのはごめんですもの。

 

 

 

 

 

 さて、その昼休みのことですわ。いつもより昼食を多く食べ過ぎてしまったので、腹ごなしに散歩をしていた時、ラウラさんの声が聞こえて来ましたわ。

 

「教官! こんな極東の地になんの役目があると言うのです! どうか我がドイツへ戻って、再び教鞭を取ってください! ここの生徒達になんの価値があるのですか!?」

 

 あー、どうやら彼女の目的は一夏さんではなくて織斑先生の方だったようですわね。会話から察するに、過去にドイツ軍で教官をやっていた織斑先生を連れ戻したいのでしょうか? しかしドイツ……ISの世界一を決めるための大会、モンド・グロッソの第二回がドイツで行われていましたわね。確か決勝まで勝ち進んだ織斑先生は試合開始を前に棄権していましたが……それと何か関係がありそうですわね。

 盗み聞きは趣味が悪いですが、好奇心に勝るものではありませんわ。

 

「ほう、ここの生徒には価値がないと? そう言うのか?」

「その通りです! 頭が軽く、危機感もない! ここはISをファッションか何かと勘違いした馬鹿どもの巣窟です! こんな程度の低いもの達のために教官が時間を割くなど───」

「そこまでにしておけよ、小娘。それに貴様はその程度が低い中にいるオルコットに手酷くやられていたじゃないか、アリーナの監視カメラの録画を見させてもらったぞ?」

「くっ……あれは! あれは油断していただけです! 

「ほう。ここの連中を危機感がないと評しておいて、よく油断などと言えたものだな? いいか、貴様は選ばれた者などではない。一度自分をしっかりと見直すことだ」

 

 あいも変わらず容赦のない方ですわね。10先やったら3敗もしないうちにリアルファイトおっぱじめそうですわあの人。

 

「何にせよ、授業の時間だ。教室に戻れ」

「……はい」

 

 悔しそうに走っていくラウラさん。まあ鬼神に迫られてはしょうがないことですわね。流石のわたくしでも彼女を煽る勇気はありませんわ。

 

「オルコット。盗み聞きとは感心しないな?」

「……散歩をしていただけですわよ。それとも、飛び出て行って彼女を慰めた方が良かったですか?」

「回れ右して帰るのが最適解だ。……はぁ、お前の戦闘のためにその減らず口が必要なのはわかっているが、普段はもう少し抑えろ。これでも私はお前を買っているんだ」

「世界最強に評価されるとは、身に余る光栄ですわ」

「どうでもいいからお前も教室へ戻ることだな」

「仰せのままに」

 

 織斑先生のため息を背後に、わたくしも教室への道を急ぐこととしましたわ。

 それにしてもラウラさん、また仕掛けてきそうな雰囲気でしたわね。楽しみに待っておきましょう。

 

 

 

 

「で、本当に仕掛けてくるとは、ずいぶん短絡的な思考の持ち主ですわね? 頭にソーセージとか詰まってらっしゃる?」

『そんな軽口を叩けるのは今日までだ!』

 

 案の定、一人で訓練中にラウラさんが仕掛けてきましたわね。その短気さたるやFPSゲーマーですわね。少しは引くこと覚えろカスと言ってやりたいですわ。

 

 早速距離を詰め、今度はワイヤーの先についた刃をこちらへ差し向けてきますわ。まあ、劣化版BTって感じですわね。

 

「有線と無線の致命的な差をわかっていらして?」

 

 その場から動くことなく、展開したBTをもってして全てのワイヤーを焼き切りますわ。常にBTに動きを指示しているわたくしにとっては、メイン兵装でない有線のインコムなど止まって見えますの。

 ならばと格闘戦を仕掛けてくるラウラさんから距離を取り、超ガソを撒き散らかしますわ。

 

「短絡的ですわね。まさか具体的な策もなく仕掛けてきたんですの? ドイツ軍人が聞いて呆れますわね?」

『うるさいうるさいうるさいッ!』

 

 あー、いい具合ですわ。そろそろ心を完璧に折れそうですわね。出る杭は打つに限りますもの、彼女はどこも出てはいないツルペタですけれどもね。このままガチ撮り100本勝負のえ○れほたてさんみたいにメンタルを叩き折ってやりますわ。

 着火されたガソリンが爆発し、彼女の視界を奪いますわ。当然、レーザーライフルとBTから5本の攻撃が飛び、彼女を滅多打ちにしますわ。

 

『クソッ! イギリス人が!』

「煽りに人種を使う時点で底がしれてますのよ。広辞苑読んで煽りスキルを磨いてはいかがですか?」

 

 そのまま吶喊してくる彼女の背中をBTが打ち抜き、よろめいたその隙に真上から銃剣突撃を喰らわせて地面に叩きつけますわ。

 

「あの壁を使わないところを見ると、発動には随分と集中力が必要なようですわね? ダメですわよ。こうやって煽りながらでも戦えるまで練度を高めないと」

 

 彼女の真上に立ち、弱々しく張られたバリアを踏み潰すように彼女の顔へ向けて足を下ろしていきますわ。プライドの高い人間にとっては随分と堪えることでしょうねえ? わたくしも煽られたときクッソキレ散らかすからわかりますわよ。

 

「よほど地面が大好きなようですわね? ほら、あと数センチ。気合入れて守らないとプライドをグチャグチャに踏み潰されますわよ? ほら、がんばれ♡がんばれ♡」

 

 由緒正しき応援にも動かされなかったのか、わたくしの足はそのまま沈んでいき、彼女の顔を踏みにじる……

 

 

「そこまでだ。オルコット」

 

 

 ……寸前に停止が入ってしまいましたわね。ちぇっ、もう少しで最高に楽しい時間でしたのに、残念ですわ。

 

「まったく、ガキどものお守りも楽ではないな……」

「あら、仕事が楽になるようにうるさいのを片付けて差し上げようとしましたのに」

「余計なお世話だオルコットよ。お前のサディズムの言い訳に私を使うんじゃない」

 

 呆れたように言う織斑先生。ていうか先生生身にIS用のブレード担いでますわね。もしかして化け物ですか? いや、問うまでもなく化け物でしたわね。

 

「これより学年別トーナメント戦まで一切の私闘を禁じる! 破ったものには重い罰則を与えるから、覚悟しておくように!」

 

 そのようにして、2回目の襲撃も終わりましたわ。本当にもう少しでしたのに、残念なこと。

 

 

 

「セシリア……あのな……流石にあれは性格が悪いとかそういう問題じゃないと思う……」

 

 ちょうど練習にきていた一夏さんに言われてしまいましたわ。性格が悪いとはお言葉ですわね。シャルロットさんは問題ないと思いますわよね? 

 

「僕……メイドになったらあんなことされたりするの……?」

 

 まさかのガチ怯えでしたわ。大丈夫ですわよ、素直で可愛い子にはあんなイジメ方は致しませんから。



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お嬢様目覚めさせる

 ハウディー!筋トレが趣味のマッスルお嬢様ですわ!最近ようやくプッシュアップバーを使ってのプランシェができるようになりましたの!それはそうと、今確認したらお気に入り数が777でしたわ!これは幸運ですわね!
 あと誤字報告ありがとうございますわ!勢いと早さだけで書いてるのでアホみたいに誤字が出るんですの!面倒おかけしてごめんなさいですわ!でもやめらんねえんだわ!


「ああ、そういえば例の教室のザワつきの件、わかりましたわ」

「えっ? なんだったんだ?」

「僕も気になる!」

 

 先ほどの戦闘の後、予定通りに練習をしている中、ISを纏った一夏さんとシャルロットさんにわたくしが聞いたことについて話しますわ。

 

「実は、学年別トーナメントで優勝した者は一夏さんかシャルロットさんのどちらかと付き合える……なんて噂が流れてるそうですの。今日の皆さんの気合いの入りようはつまりそういうことですわね」

「えっ!? なんだそれ!? 聞いてないぞ!?」

「そりゃ聞いてるはずありませんわよ。みなさんが勝手に言っていることですもの。……しかし困りましたわね。一夏さんはどうでもいいですが、シャルロットさんがお付き合いするなんてことになったら大変ですわ。バレる危険が一つ増えるわけですからね」

「そ、そうだね……!」

「まあ、わたくしの従者はわたくしで守りますわ。言うまでもなく優勝はわたくしでしょうから」

 

 これは自信ではなくただの事実ですわ。ジャ○にユ○をぶつけたらユ○が勝つのと同じように、言ってしまえば自然の定理ですわね。ダメだわ、○ダに勝つ○ャギいますわ。でもあれはジ○ギによく似た隠しキャラだからセーフ……セーフですわね! 

 

「俺だって優勝は狙っていくぜ。もちろん、セシリアにだって勝つつもりだ」

「志が高いのはいいことですわ。わたくしと会うのがトーナメントの上の方であることを祈るべきですわね」

「またナチュラルに煽りを……いけないいけない。これじゃ思う壺だ……」

 

 わたくしと言うものを学習してきたのか、平静を保とうとする一夏さん。うん、なかなかいいお嬢様に育ってきましたわね。

 

「ああ、一夏さんには一つ助言をしておきますわね」

「おう、ありがとうな!」

「いえいえ、それで、一夏さんは攻めている時は強いけど一度ペースを取られるとそのまま負けやすいサ○ザーみたいな方です。一度攻め込んだらそのまま逃さないようにコンボを続けられるようなセットムーブを作るべきでしょう。相手に逃げられたとしても一度クールダウンをして仕切り直せるよう、冷静を常に意識することも必要ですわ。大丈夫、あなたはわたくしの性格の悪さの塊みたいな煽りを常に受けているのですから、並大抵のことでは逆上しないはずですわ」

「性格が悪い自覚はあったんだね……」

「ゲーマーとは性格が悪ければ悪いほど有利なのですわ。シャルロ……いえ、シャルルさんも煽りを覚えればもっと楽に戦えますわよ?」

「僕は流石にそこまで人間性を捧げられないかな……」

「わたくしもその方がありがたいですわ」

 

 流石に性格が悪い人間を従者として雇いたくはありませんからね。オルコット家の煽りカスはわたくし一人で十分ですわよ。最近は煽りすぎてこのIS学園のモミアゲポイントも溜まっていってますが、わたくしは怯みませんわ! 

 

 

 さて、アリーナの使用時間も終わり寮に帰ってゲームをしようかと言うころ、遠くからこちらへとジ○ジョの擬音みたいな音が押し寄せてきましたわ。アイオニオン・○タイロイか何か? 

 

「織斑くん!」

「デュノアくん!」

 

 ヒェッ、なんと言う軍勢。戦いは数だよ兄貴って感じですわね。あっという間にわたくし達……と言うより、一夏さんとシャルロットさんが取り囲まれてしまいましたわ。

 

「なんだなんだ!?」

「どうしたのこれ……? ちょっとみんな落ち着いて!」

 

「「「これ!」」」

 

 彼女達が掲げたのは学内の緊急告知文が書かれている申込書ですわね。

 えっとなになに? 『今月開催する学年別トーナメントでは、より実践的な模擬戦等を行うため、2人組での参加を必須とする。なお、ペアができなかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする』と、なるほど。みなさんはこれを機に男子生徒とお近づきになろうと言うことですわね。チャンスを利用するのはいいことですわ。ただ残り1ドットを削ろうとして負ける方を何人も見てきましたがね。

 

「私と組もう! 織斑くん!」

「私と組んで! デュノアくん!」

 

 と、片方は美少女ですが、側からみれば二人ともタイプの違うイケメン。両方に女子達が殺到しますわね。……ちょっとー、わたくしはー? わたくし一応一番強いんですのよー? 優勝狙うならわたくしですわよー? もしかしてバグ? わたくし透明にでもなってますの? 最初期のバ○オペ2かなにか? 

 

「えっと……ごめん! 俺はもうシャルと組むことになってるから!」

「う、うん! そうなんだ! ごめんね!」

 

 あら、うまくかわしましたわね。女子の追撃から逃れ、わたくしのメイドも守れる最適解ですわ。やるようになりましたわね一夏さん。あとは言葉遣いを丁寧にすれば立派なお嬢様の仲間入りですわ。ようこそ……お嬢様の世界へ……ですわね。

 

「えー……じゃあオルコットさん! 私と組んで!」

「じゃあってなんですのじゃあって。わたくしに目をつけたのは見事ですが、ペアについてはもう少し考える予定ですわ」

 

 わたくしの時は随分とあっさり諦めた彼女達は、その手に自分の名前だけが記入された書類を持って来た方へと帰って行きましたわ。一瞬でうるさくなって一瞬で静かになる様はまるでゲーセンを出入りした時のようですわね。

 

 

 

 

 

 さて、その時からしばらくが立ち、学年別トーナメント戦も5日後に迫る中。抽選で選ばれたパートナーの告知が出ましたわ。結局誰が仲間に来ても勝てると言うことで壁に貼られた抽選結果に目を通したわたくしは……若干引きましたわ。

 

「……ということらしいですわ。よろしくお願いしますわね、ラウラさん」

「……ふん」

 

 真後ろにいるのは銀髪の少女……言うまでもなくラウラさんですわ。まさか彼女と組むことになるとは思いませんでしたわね。てか両方とも専用機持ちとかどう言う調整してますの? ガン○ンの運営より無能ですわよこの調整は。

 しかし、一度倒した敵が仲間になるのはゲームでもヤンキー漫画でも定番の流れではありますが、普通もう少し心を開いてから仲間になるものでしょう? 水と油を混ぜようとしても出来上がるのは透明と黄色の二層ですわよ? 誰も得しないきったない色ですわよ?

 

「……当日に向けて、訓練しますか?」

「するわけがないだろう」

 

 ……彼女も随分と弱々しくなったものですわね……頼むから、とは以前の彼女からは聞かなかったことでしょう。

 

「しかし、訓練をすればするほど期待値が上がりましてよ? 期待値を突き詰めた先に最適解があるのです。わたくしの好きな言葉は"期待値"と"最適解"ですわ。なぜなら口に出すだけで頭が良さそうに見えるから」

「その発言が既にIQ0だぞ」

 

 あら、返事をしてくれるなんて珍しいこともあるものですわね。

 

「……お前に負けて、私は自分の弱さを思い知った。正直どう戦ったってお前に勝てる気がしない……だから正直、お前とペアになってホッとした自分がいたんだ……」

「あら、弱気なことを言うなんて珍しいではありませんか。当日もその調子では困りますわよ?」

「……私はどうあっても織斑一夏を倒さなければならない。セシリア・オルコット、力を貸してくれとは言わない。どうか邪魔はしないでくれ」

「きちんと試合で相手を下すのならどんな手段を使っても文句は言いませんわ。どれだけひどい煽り方をしても笑いながら見てますわよ」

「そうか……」

 

 どうやら心は折れていたようですわね。一度心折れた者は煽りに対してある程度の耐性を得ますから、彼女が立ち直れば前よりも強い戦士になるはずですわ。

 ……ん? どうやらもじもじしているようですが……なんでしょう、嫌な予感がしますわね。マドロ○クで出たら対面にス○カスを見つけた時みたいな……

 

「それから、もう一つ頼みがあるんだが……」

「は、はい。なんでしょう?」

「……あの……踏んでくれないか? 私を」

 

 ……は? もしかして世界がラグってたりしますかね? 地球は無線勢でしたのね、それならこの星を滅ぼすこともやぶさかではありませんことよ。

 しかし、彼女はそれを否定するように、わたくしの袖を掴みながら言いますわ。

 

「踏んでくれ! できるだけ! 強く!」

「えっ……Mは鈴さんだけで十分ですわぁ!!」

 

 

 つい、つい彼女を振り払って逃げてしまいましたわ……才能は戦いの中で開花するとは言いますが、そんな才能を開花させた覚えはありませんことよ。レッパがダムに化けたような気持ちですわ。武器ショトカしようとしたらタックルが出ちゃった時みたいな気持ちですわ。

 

 

「待ってくれ! どうか……! 待ってくれ!」

「嫌ですわ!!」

 

 

 このセシリアが敗走を喫するとは、ラウラ・ボーデヴィッヒ……なかなか手強い相手になりましたわね……



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お嬢様ブロッサむ

 ワッツアップ!半分寝ながら書いてるスリーピングお嬢様ですわ!お気に入りも800を突破してそろそろ寝ようと思ったんですが、ヤニ吸ってたらやる気が出てきたから書いちゃいましたの!マジで目がキツイんでもう寝ますわ!


「しかし、中々の人ですわね」

「ああ、その通りだ。……この視線の中で踏まれたらと思うとゾクゾクするな……」

「わたくしも背筋が凍る思いですわよ……」

 

 さて、彼女が開花(ブロッサム)してしまったあの日から早五日経ち、今日は学年別タッグトーナメントの当日ですわ。毎日訓練、あるいはSMプレイを積んできたわたくし達は、ジョ○フとシ○ザーのように不服ながら素晴らしいコンビとなっておりました。ちなみにわたくしは7部が好きです。e○hでも7部キャラばかり使っていましたわ。え? 天国に登っているのはラウラさん? 口を噤め。

 開花(ブロッサム)してしまった彼女はこの五日間でさらなる進化を遂げ、ゼ○ィランサス、サイ○リス、ステ○メンを超えて今はガーベラ○テトラくらいの練度を誇っています。なんの練度かはわたくしからは言いたくないですわね。

 

「ご主人様……間違えた。セシリア、幸運なことに織斑のペアとは初戦で当たるようだ。約束通り邪魔はしないでくれ」

「絶対その呼び方を漏らすんじゃないですわよ!? もしもぽろっと言ったりしたら両足を縛ってISで引き摺り回しますわよ!?」

「それも……いいな……」

「あああああぁぁぁぁこいつには逆効果なんでしたわ!」

 

 成長したラウラさんは完全にわたくしのアンチピックに進化を遂げてしまいましたわ。今やわたくしの嫌いなものは投げキャラとラウラさんですわ。まさか彼女がここまで練度を高めるとはゆめゆめおもっていませんでしたわね……恐るべしドイツ軍人ですわ……

 

「さあ! 私達の試合だ! 行くぞご主人様!」

「あなた今絶対わざと言いましたわよね!? いいですわ、二度と言葉でも肉体でもいじめてあげませんわよ!」

「放置プレイもまた一興!」

「逃げ道がないですわ!?」

 

 半ば彼女に引き摺られるようにピットへ向かいますわ。はぁ……こんなに気が進まない戦いは初めてかも知れませんわね……

 

 

 

「一戦目で当たるとは、待つ手間が省けたと言うものだ」

「それは何より。こっちも同じ気持ちだぜ」

 

 ただまあ……試合が始まるとなれば真面目な顔に戻ってくれて幸いですわね……

 

 さあ、5……4……3……2……1……

 

 あれ? この子カウントダウン聞いて恍惚とした顔してませんこと? わたくしそんなプレイした覚えは……

 

 

『試合開始!』

 

 

 っと! 試合開始と同時に突っ込んできた一夏さんをラウラさんがAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)で捕まえますわ。慣性の完全停止こそが彼女のあの壁の正体。一度絡めとられてしまえば、援護なしに抜け出すのは至難の技ですわね。

 

「開幕突進とは、わかりやすいな」

「そりゃどうも。以心伝心で何よりだよ」

 

 ラウラさんは一夏さんを絡めとったまま、レールキャノンの発射を開始しますわ。ハメとは卑怯ですね。ウチのシマじゃノーカンですことよ。しかしそれを一夏さんの上を飛び越えて現れたシャルロットさんの銃撃が阻止しますわ。

 急後退をして距離を取るラウラさん。

 

「……援護は必要でして?」

「1分間だけ、デュノアを止めてくれ」

「お安い御用ですわ」

 

 素直に人に頼れるようになったのは成長ですわね。あとで腹を抓るくらいのご褒美を差し上げましょう。ラウラさんへ追撃を喰らわせようと前へ出るデュノアさんを、BTで進路を遮るようにレーザーを撒きますわ。

 

「さて、1分間だけ遊びましょうか? なに、主人と従者の戯れの時間ですわよ」

「セシリアッ! 主人っていうのは私の……」

「あなたは黙って一夏さんとやりあってなさい!」

 

 目敏く会話を聞きつけたラウラさんを叱り付けると、またもや嬉しそうな表情を。もうやだあのロリ、ヤー○ムとかで引き取ってくれないですかね? 

 

「はは……セシリア、行くよ!」

「来なさい、シャルロット」

 

 積極的に距離を詰めて弾幕を張ってくる彼女に対し、わたくしは全力で引き撃ちを始めますわ。やはり彼女は腕がいい。スレスレの位置を飛んでいく銃弾を見送りながら、反撃を続けますわ。

 

「なかなかの嫌がらせですわね? 人にやられたら嫌なことは自分もやっちゃいけないって習いませんでしたの?」

「自分がやられて平気なことなら嫌がらせにならないでしょ!」

「素晴らしい返答ですわね。くたばれ」

 

 いつの間にやら性格の悪さを身につけていたとは、恐れ入りましたわね。さて、わたくしが動く時間は残り30秒。ラウラさんの方はどうやらワイヤーブレードで一夏さんを拘束したところのようですわね。羨ましそうな顔してますわねあいつ、自分がやった緊縛に自分が嫉妬してどうしますのよ。

 

「さて、30秒は確実に向こうにはいかせませんわよ」

 

 BTによる全角度からの攻撃はひらりと躱される……が、前に回避軌道をとった彼女にたいしてこちらも急接近し、銃剣での突きを喰らわせますわ。回避狩りはお嬢様の嗜みですの。

 

「クッ!」

「ほら、抜け出してみなさい」

 

 後ろにブーストをふかして距離を取ろうとする彼女を逃さず、銃剣による攻撃とBTによる牽制を絶え間なく行いますわ。よろけハメは基本ですわね。できない奴はレートマに来るなって感じですわ。

 連撃を喰らわせて彼女を地面に押しつけ、残りの20秒を待つことにしましょう。

 

「言っておきますけれども、そんな苦し紛れの攻撃をくらうわたくしではありませんわよ? 引き金みてから反撃余裕でしたわ」

 

 倒れた状態で尚こちらを狙ってくるアサルトライフルをBTで撃ち抜き、そのまま拘束を続けますわ。さて、残り10秒……5秒……3、2、1……

 

「はい終わり、行ってどうぞ?」

「本当に1分経ったらやめるんだね……!」

「彼女とはそういう約束ですもの」

 

 向こうへ真っ直ぐに飛んでいくシャルロットさん。おかげで一夏さんは落とされずに済んだみたいですわね。そのあとはひどいものでしたわね。一夏さんとデュノアさんのコンビネーションによって瞬く間にラウラさんは追い詰められてしまいましたわ。そしてシャルロットさんのパイルバンカーによる連撃を受け……ちょっと気持ち良さそうな顔してますわね。負けすぎてレートを溶かすことに快楽を覚え始めた頃のわたくしと同じ顔ですわ。そしてISが強制解除される……その瞬間、異変が起こりましたわ。

 

 

《side ラウラ》

 

 

 気づけば、私は真っ暗な空間にいた。見渡す限りなにもない空間……放置プレイだろうか? 何にせよ、私は早く帰ってセシリアにご褒美を……

 

──願うか……? 汝、自らの改変を望むか……? より強い力を欲するか……? 

 

 ……闇の向こうから聞こえてきた禍々しい声。力、力、か……今の私は力というよりは……

 

「痛みが欲しい」

 

…………えっ? 

 

「厳密に言えばご主人様からの痛みが欲しい」

 

……まあいいや

 

 まあいいやとは何だ! 大事なことだ! ……と言い返す前に、私の意識は更なる深みへと沈んでいった……

 

 

 

《side セシリア》

 

「で、アレは一体何事ですの?」

「僕もわからない! エネルギーを削り切ったと思ったらいきなり黒いのが溢れてきてああなったんだ!」

「とりあえず消耗している二人は下がって様子を見ていてくださいませ。暴れ出すようならわたくしが取り押さえますわ」

 

 会場は混乱していますわね。まあ、無理もないでしょう。目の前でISがあんなことになったのですから……彼女とISを覆った黒いヘドロは、まるで泥人形を作るように巨大な人形を形成していきますわ。メタ○ンか何かでしょうか? 

 

「あの刀は雪片だ……アレは……千冬姉を模しているんだ……!」

 

 わたくしの真横を通り、雪片弐型を構えた一夏さんが奴に吶喊しましたわ。血気盛んなことですわね全く。しかし……アレは何でしょうか? ワザップとかみたら書いてないですかね? もしかして第二形態があるタイプのクソISだったんでしょうか? ダ○ソ3のボス? ああ、そう言われるとエ○ドリッチに見えなくもないですわね、あいつ第二形態ないけど。

 

「とりあえず一夏さんを援護しましょうか。あのままでは死にそうですわ」

「うんっ!」

 

 レーザーライフルとBTで援護を始めるわたくし達……ですが、あんまり効いてる気がしませんわね。物理無効でしょうか? クソにも程があるのではなくって? 良識を弁えたクソボスをやって欲しいものですわね。

 

 援護を続けていると、相手の刀に弾き飛ばされた一夏さんがこちらまで転がってきますわ。

 

「くそっ! まだだっ!!」

「一夏さん、一旦落ち着いてください」

「落ち着いていられるか! あいつは……あいつは千冬姉の剣を……!」

 

 肩を掴んで止めますが、そのまま振り払っていきそうな雰囲気ですわね。彼の地雷は織斑先生にある、というわけでしょうか? 

 

「だから落ち着くのですわ。あったまったやつから負けていくのがこの世の摂理。最後まで小足暴れを潰すような冷静なプレイングをしてこそようやく勝利があるのです。堅実に立ち回りなさい」

「……わかった……随分落ち着いた……」

「だ、大丈夫なの一夏!?」

「大丈夫、大丈夫だ。キレすぎてむしろ冷静になってきた……セシリア、シャル、協力してくれ。アレの中からラウラを引き摺り出す」

 

 ようやく冷静さを取り戻したようで幸いですわね。平静を失ったゲーマーが辿るのは敗北の道ですわ。感情があるせいで日和って焦って負けるのです。戦いに心はいらないのですわ。

 

「言われずとも援護しますわよ。シャルロットさん、準備はよろしい?」

「うん! 任せて!」

「行くぞ!」

 

 刀を構える一夏さんを先頭に、ジェットストリー○アタックを仕掛けますわ。シリアスな場面なのにちょっと笑いそうになっちゃいましたわ。危ない危ない。

 彼女が振り下ろさんとする雪片をわたくしが近距離ブレードで受け止め、ガードに回ったもう一つの腕をシャルロットさんがパイルバンカーで弾き飛ばしますわ。

 

「うおおおおお!!」

 

 雄叫びと共に振り下ろされた一夏さんの雪片弐型が泥の腹を捌き、その中からラウラさんが倒れ込むようにでてきましたわ。

 

「とりあえず一件落着……ですわね?」

 

 

 まさかクラス代表戦のみならず学年別トーナメントまでお釈迦になるとは……どこかでフラグ管理を間違えでもしたかしら……



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お嬢様修羅場る

 グッドイブニン!好きなお酒はワインのテイスティングお嬢様ですわ!寝て起きてこれを書く頃にはお気に入りが2000に届きそうなくらいでわたくしびっくり!しかも日間一位!めっちゃ嬉しいですわね!


 気絶したラウラさんが保健室に運び込まれて数時間、ベッドの傍の椅子に掛けて待っていると、扉を開けて織斑先生がいらっしゃいましたわ。

 

「いたのか、オルコット」

「ええ、一応ペアですから……起きるまでは待っていようかと思いまして」

 

 気分はゲーセンの開店を待つときみたいな感じですわね。織斑先生は隣に置いてあった椅子に座り、足を組んでため息を吐かれましたわ。……まあ、色々と後処理に追われていたのでしょうね、かわいそうに……

 

「一夏さん、無傷でよかったですわね」

「……私は身内でからかわれることが嫌いだぞ。オルコット」

「からかったつもりなんて毛頭ありませんわ。身内が事件に巻き込まれた方がいるなら、心配するのが道理というものでしょう?」

「……ハァ。日頃の行いが悪い……」

「日頃の行いが良いゲーマーなんてキレ散らかす長○力のようなもの。つまりは存在したら大したもんですわ」

「○州力はキレ散らかしていただろうが」

 

 と、小粋な会話を楽しんでいるとラウラさんが目を覚ましたようですわね。うっすらと目を開け、赤と黄色のオッドアイが覗きますわ。眼帯つけてると思ったらオッドアイだったんですのね、カッコいいですわわたくしも欲しい。

 

「教官……ご主人様……」

 

「織斑先生と呼べ」

「セシリアと呼びなさい」

 

 お前も苦労してるんだなぁ……って目でこっちを見てくる織斑先生。やめて、やめてくださいませ。この学園一の苦労人に労わられるほどわたくしはやばくはありませんわよ。あっ、でもやばいかもしれませんわ。鈴さんはちょくちょく100先挑んでくるし目の前のマゾロリはしょっちゅう踏んでもらいたがるし……

 

「私は……なにが……」

「全身にかかった無理な負荷のせいで、筋肉疲労とひどい打撲だそうですわ。しばらく無理はするな、と保健医の先生がおっしゃっていました」

「そうか……ご主……」

「セシリア!」

「……セシリア」

 

 やめて織斑先生! そんな哀れなものを見る目でわたくしを見ないで! 変態みたいに見られるのは嫌ですが可哀想に思われることはもっと堪えますの! ちょっとリアル小足暴れ出そうなくらいにはきついですわ今! 

 

「それで……何が起きたのですか……?」

「……一応、重要案件である上に機密事項なのだがな」

「わたくし、聞かない方がよろしいでしょうか?」

「いや、オルコットも聞いて構わない。お前は当事者だし、更識が卒業すれば恐らくはお前が生徒会長をやることになる。今のうちからこういうゴタゴタには慣れておけ」

 

 生徒会長なんてやりたくもないんですけれどもね……ただまあ、今は断れる雰囲気ではなさそうですわね。わたくしは相手の暴れと空気の読める善良な格ゲーマーでしてよ。

 

VT(ヴァルキリートレースシステム)は知っているな?」

「……モンド・グロッソの部門優勝者(ヴァルキリー)の動きをトレースするシステム……確かアレは……」

「操縦者の肉体に多大な負担を課すので、IS条約で国家・組織・企業とあらゆる団体で研究・開発・使用を禁じられているはずですわね」

「その通り、それがお前のISに搭載されていた……巧妙に隠されてはいたがな、機体の蓄積ダメージ、そして操縦者の感情の昂りによって反応するようにプログラムが組まれていた。今は学園からドイツ軍へ問い合わせている。近く、委員会からの強制捜査も入ることだろう」

 

 シーツを握りしめるラウラさん。自らの意識があのような怪物に支配されたのがよほど悔しかったのでしょうね。ガーベ○・テトラにまで開花しても未だプライドを失ってはいなかったようですわ。

 

「……感情の昂り……確かに私はあのとき、ちょっと気持ち良くなってました……観衆の視線に晒される中でパイルバンカーを喰らって……ちょっと、ほんのちょっとだけ気持ち良くなってしまって……きっとそのせいで……」

 

 部屋に微妙な空気が流れますわ。……前言撤回いたしますわ。こいつもうプライドもクソもないクソマゾロリですわね。織斑先生も珍しくドン引きしたような表情を浮かべていますわ。そして多分わたくしも。

 

「いや! 本当にほんのちょっとですよ! 決して私はMなんかじゃありません! そもそもご主人様以外からの苦痛など……!」

「……ラウラ・ボーデヴィッヒ、貴様は何者だ?」

「……え?」

「聞き方を変えよう……貴様は自分を何者だと思う?」

 

 シーツを握りしめたまま俯き、思考するラウラさん。そして10秒ほどの時間が経ち、ラウラさんは1620万色の眩い笑顔を浮かべてこう言いましたわ。

 

 

私は豚です。ご主人様からのご褒美がなければ生きられない豚なのです!

 

 

 織斑先生がちょっと後退りましたわ。嘘でしょ、このドMは世界最強すら押す変態性を持ってますの? あーほらやばいもん、織斑先生がゲロ見るみたいな目で見てるもん。クソラグ投げキャラ使いと当たった時のわたくしみたいな顔してるもん。

 

「……だ、そうだ。オルコットよ、こいつの面倒はお前が……」

「嫌ッ! 絶対に嫌ですわよ! もう少しわたくしに優しくしようというまごころはないのですか!? もっと礼儀正しく職権を振りかざしてくださいます!?」

「ええいうるさい! 流石に私もこれは無理だ! ただでさえ胃に穴が開きそうなんだぞ!? ほら見ろこの顔! 目の前で罵倒されてちょっと気持ち良さそうな顔してるだろう!」

「だから嫌なんですわよ! 嫌ですわよ! わたくしは3年間をドMのお守りで棒に振りたくありませんわよ! 振るのはサーベルだけで十分ですわ! こんな越えちゃいけないラインの上で反復横飛びしてるようなロリに付き纏われるのは真平ごめんですわ!」

「ご主人様……教官……」

 

「セシリア!」

「織斑先生!」

 

 リアルD格事件に発展しそうな言い争いでしたが、ようやく治まりましたわね。絶対嫌ですわよわたくしこいつの面倒見るのだけは。生徒会長でもなんでもやりますからそれだけはどうかご容赦を……

 

「とりあえず私は後処理があるから戻る! 仲良くやれよ!」

「あっ! ずるいですわよ織斑先生コラ! 頼むからわたくしをこのロリと同じ空間に置いてくのは!」

 

 ピシャン、と保健室の扉を閉めて出て行ってしまう織斑先生。えぇ……嘘でしょ……わたくしこれからこいつの面倒みなきゃいけませんの……? 

 

「ご主人様、そう気を落とすな」

「あなたねぇ!」

 

「ねぇ、セシリアお嬢様〜?」

 

 ヒェッ、この声は……振り返ってみると、そこには暗黒の微笑みを携えたシャルロットさんがいらっしゃいましたわ。

 

「織斑先生が急いだ様子で出ていくからなんだろうと思って入ってきたんだけどさ……ご主人様ってなにかな? 僕以外にも学園の子に手出してメイドさんにするのかなぁ?」

「ちっ、違いますわ! これは彼女が勝手に……!」

「その通りだ! 私は彼女の僕として忠誠を誓った! 彼女に足で踏みにじられたその日から! 私の心はご主人様のもとにあるのだ!」

「へえ、そんなプレイをしてたんだね?」

「違いますわ〜!!!」

 

 

 攻めてると強いけど押されれば弱いのは一夏さんだけでは無かったようで……知りたくなかった己の弱さを思い知った一時でしたわ……

 結局この後、キレ散らかしたシャルロットさんにアリーナに連行され時間の許す限り模擬戦をやらされましたわ……36:5で勝ってはいましたが、あの暗黒の微笑みで距離を詰められるのはマジで怖かったですわ……トラウマになりそう……

 

 

 

 

 

「今日は皆さんに転校生を紹介します……紹介というかなんというか……もう紹介は済んでるんですけど……とりあえずどうぞ!」

「はいっ!」

 

 それはシャルロットさんの声。IS学園にいる間は国や家から帰還を命令されようが、生徒の自由意志で残ることができる。という制度に目をつけた彼女は、卒業までの時間を女の子として過ごすことにしたようですわ。

 ズボンではなくスカートを履いたシャルロットさんは、それはもう可愛らしく見えましたわ。わたくしにトラウマを植え付けたあの人とは別人かしら? 別人よね? 

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします!」

 

 眩い笑みでぺこりと礼をする彼女。やだ……わたくしだけがあの笑みの奥に闇が見えてしまう……怖いよぉ……ロ○ブリンガーの担ぎより怖いよぉ……

 

「ええと、デュノアくんはくんではなくてさんでした。ということです。……はぁぁ……また寮の部屋割りを組み立てる作業が始まります……」

 

 ああ、山田先生の顔に元気がないと思ったらそういうことでしたのね。お疲れ様って感じですわ。

 そして……廊下を走ってくる足音がしますわね。やだもう嫌な予感しかしない……対面に○蛇がいたときみたいな気分ですわ……

 

「ご主人様! 復活したぞ! 今日から授業に出てもいいそうだ!」

「だからご主人様はやめてって何度言ったらわかりますの!?」

「完治祝いに踏んでくれ! いつものように!」

「わたくしがいつあなたを踏みましたか!? ……ヒェッ?」

ねえ、セシリアお嬢様、結局僕はまだ納得いく説明が聞けてないんだよねぇ?

 

 嫌な一年に……なりそうですわ……



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臨海学校編
お嬢様実況する


 へいよーぐっつすっす!お気に入りが2700を超えて喜びしかないグラッドお嬢様ですわ!そして誤字修正お嬢様達にめっちゃくちゃ感謝しておりますわ!今回の内容、実況のとこはだいぶ適当かつ長くてガバガバなのでスルーしてもらって構いませんわ!


「あ"あゴミカスぅぅぅぅぅ!! ○ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!! あっ! 一夏さん! ご機嫌よう!」

「うおっ、セシリア!? そんな走ってどうしたんだ?」

「ドMクソロリに追われてますの! 捕まったらヤバいですわ! 汎用に囲まれた強襲みたいなことになってしまいますわ!」

「おっ、おう!」

 

 

 休日の10時ごろ、これから一人で外に買い物に行こうとしていたわたくしは、ドMクソロリに見つかってしまって廊下を全力疾走していましたわ。道中で出会った一夏さんに挨拶をして、学園から外に出るためのモノレールへ向かいますわ。……あら、一夏さんもついてきているようですわね。

 

「モノレールだろ? ちょうど俺も外出の予定だったんだ! 駅まで一緒に行こうぜ!」

「ええ、構いませんわよ!」

 

 モノレールの駅に着くと、どうやらドMクソロリは振り切れたようで、安心してモノレールに乗ることができましたわ。しかし朝っぱらから全力で走ることになるとは思いませんでしたわね。

 

「はぁ……はぁ……」

「疲れましたわね……」

「ああ、思ったよりも……」

 

 モノレールの椅子に座り、肩で息をするわたくしと一夏さん。しばらくお互いに無言で息を整えると、ようやく疲れも引いてきましたわ。

 

「セシリア、今日はいつもと雰囲気が違う服だな」

「ええ、こういう服が好きなんですが、いつもはほぼ制服と寝巻きくらいしか着れる機会がありませんものね……一夏さんはいつも通りのイメージですわね」

 

 

 今日の一夏さんの服装はシンプルなTシャツとジーパン。顔とスタイルがいいからそれだけでサマになりますわね。わたくしの方はオーバーサイズの白シャツに黒のカーゴパンツとキャスケット帽を被っていますわ。自称サバサバ系女子って感じのファッションですわね。ところで自称サバサバ系女子ってクソしかいないですわよね。そうなると同じくクソしかいないゲーマーは全員自称サバサバ系女子になってしまうのでは? 考えたくありませんわね。

 

「今日は何をする予定だったんだ?」

「ショッピングモールで買い物して、帰りにゲーセン寄るつもりでしたわ」

「へぇ! 俺もその予定だったんだよ! よければ一緒に回らないか?」

「ええ、構いませんわよ。今日は水着も見ますし、同行者がいれば見てもらえるからいいですわね、ただゲーセンについてはあんまり一緒にはいられないと思いますけど、大丈夫ですの?」

「ああ、問題ないぜ」

 

 しかし、島から出てみると本当にIS学園はでっかいですわね。マザ○ウィルくらいデカいですわ。脱帽ですわ。帽子は被ったままですけれど。

 

「ていうか水着? みんなでプールでも行くのか?」

「臨海学校の通知が出たばかりではありませんか。まさか見逃してたんですの? それはなかなかオジリティ高いですわね」

「オジリティ……?」

「おじさん度のことですわ。ん、つきましたわね。行きますわよ」

 

 IS学園から続くモノレールを降りてすぐのところに大型ショッピングモールがありますので、休日はIS学園の生徒で賑わいますわ。

 

「しかし、セシリアと2人きりなんて初めてじゃないか?」

「あら、口説こうとされてます?」

「なんでそうなるんだよ。えっと、水着だっけ?」

「ええ、そうですわ。わたくしはササッと水着を買ってゲーセンに行く予定でしたが、一夏さんは何か用事とかありまして?」

「いや、俺もないからすぐ買ってゲーセン行こう」

 

 

 さて、水着を買いに行きましたが特に面白いことは起きませんでしたわね。誰かに出会ったり、あのロリの襲撃を受けることもなくお互いに水着を買い、ゲーセンに辿り着きましたわ。

 

 

「なんか、すごい人だかりだな」

「当たり前ですわ! 今日はこのゲーセンで北○acのイベントが開かれてますの! わたくしもエントリーはしていませんが、実況席には座る予定ですのよ! 遅かったら先に帰ってても大丈夫ですので! では、行ってきますわ!」

 

 

 

 

《side 一夏》

 

『さあ始まりました北○ac横浜ショッピングモール大会! 本日の実況はこちら! イギリス代表候補生にして重度の格ゲー厨! そして現在使われているレ○バスケコンボを考案した第一人者! クソを濾過して残った部分を人の形に固めたみたいな性格のこの女! 金ドリルです!』

『みなさんご機嫌よう! 金ドリルですわ! クソみたいな紹介受けてるけど言い過ぎだと思いませんこと?』

 

 セシリアが言い切ると同時にブーイングを始める観客達。そして静かに中指を立てるセシリア。なんていうか……嫌われながらも好かれてるなぁ……

 

『やっぱ格ゲーマーはクソしかいませんわね! まあわたくしも格ゲーマーなのでクソなんですが! まあ手早く進めていきましょう!』

『はい! 第一試合のカードはあるこうるvsにこちんちん! いやあ! 最初っから最低の組み合わせですね!』

『あるこうるさんはまだしもにこちんちんさんは一回親父の玉袋からやり直したほうがいいですわね! 鳥が虹色に輝きながら頭を回しそうな名前してますわ!』

『はい! では両者筐体の前へどうぞ!』

 

 おお、なんていうか凄いなセシリア。年齢層が高いゲーセンの中でもきちんと自分の雰囲気を保っててカッコよくすら見える。しかしよく口が回るもんだなぁ……

 

『1p側あるこうるはサウザ○! 2p側ちんちんはジャ○ですわね! どこぞのガチ撮りでみた組み合わせ! さあ、試合開始しましたわ! はいガソリン撒いて、バクセイ撒いて、退かぬをガード! おおっとこのジャ○硬い! 石像が硬い! ちんちんが硬い! そしてガーキャン! ガソリン撒いて、近A近B! そしてサ○ザー画面端! 結構食らってますわね、これは……ピヨったぁぁぁぁ!! サ○ザー! ピヨりましたわね! そしてちんちんがNDKNDKとばかりに攻めていく! はいラウンド取ったのはにこちんちん! やっぱりサウ○ーは攻めている間は強いですが押し込まれると弱いですわね! さあ2ラウンド目始まって、ガソリン撒いて、バクセイ撒いて、ショットガンで露骨な牽制! おっとしかしカウンターして壁ドン! ああ! しかし落としてしまう! これはもったいない! はいそしてガードが硬い! 退かぬ媚びぬ省みぬが見えている! おっとここでガーキャン! からのガーキャンを邪狼撃でカウンター! そしてそのまま壁コン……落としてしまうっ! 残り1ドット! はい媚びぬをガード! ガーキャンは届かない! からのバクセイ、バニが入ってジ○ギ画面端! そしてそのまま鳳翔が入って……ラウンドを制したのはあるこうるサ○ザー! 1ドットがあの子の心のように遠い! そんなラウンドでした! しかしジ○ギはMPが溜まっている! 彼が魔法使いならば恐ろしいことですわ! はいそして試合が始まり! ガソリン撒いて、おっと柱で浮かす! 空中コンボが上手い! そしてサ○ザーのダウン! 近A近D! ガーキャンをガーキャンで返し……投げたぁぁぁぁぁぁ!! 露骨に投げたぁぁぁぁ!! さあそしてこれは大魔法が来る! 最初の試合からバスケが入るか……!? 羅漢撃! これは入りましたわね! 出たぁ! 魔法の数字『27』!!!! 成功率5%の技を決めて見せました! サ○ザーがカクカクしている! ダウンと吹っ飛びの立ち絵が交互に表示されてカクカクしている!! そして落とさずにバスケ! そして……はい! 勝ったのはにこちんちんジ○ギ! 素晴らしい試合でしたわ!』

 

 

 ……なんていうか、実況が上手すぎて怖くなってきた。

 

 

《side セシリア》

 

 

『ユ○のガーキャン超ガソでフィニッシュ死んだぁぁぁぁぁぁぁ!!! 一体何が見えているんだ!! さあ勝ったのはにこちんちんジ○ギ! ユ○でもちんちんには勝てなかったよとばかりに決勝戦を制してみせましたわ! 見事な戦いでしたわね!』

 

 

 イベントも終わり、周りの参加者の皆さんは打ち上げに行くそうですが、わたくしは時間制限があるので帰らなきゃいけないですわね。残念残念。

 

「すごかったなぁ、セシリア!」

「あら一夏さん! 待たせてしまいましたか?」

「いや大丈夫だったよ! 実況の試合を楽しめた!」

「そう言っていただけると嬉しいですわね! じゃあ帰りましょうか!」

「おう! ……ところでなんだがセシリア、実は……」

「ご主人様!」

「ラウラに……見つかっちゃったんだ……」

 

 即座に全力疾走を開始したわたくしを2人が追いかけてきますわ。

 頼むから……楽しいままで終わらせて欲しかったですわね……



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お嬢様ミーツやべえやつミーツ鬼神

 ラバーメン!携帯が壊れかけてまじで冷や汗かいたブロークンお嬢様ですわ!なんとお気に入りが4000突破!感想をくださる方もTwitterをフォローしてくださる方もいて嬉しい限りですわ!皆様に感謝を!そしてネタを提供してくださる方にはもっと感謝を!
 あとどうか皆様お嬢様モノ書いてくださいませ!!!わたくし他の人のお嬢様が見たくて先駆者になったんですの!!!


「はい昇竜ブーン! 昇竜ブーン! 壁ドン壁コンで……はぁいわたくしの勝利ィ!」

「ああクッソがぁ! なんだよそのクソみたいなコンボ! なんなのこのクソみたいなゲーム!? 開発者頭やられてるんじゃないの!? ちょっと! そこのお前!」

「あら、なんですの?」

「一回勝ったからって調子乗るなよ! 私が勝つまで続けるからな!」

「構いませんことよ? どれくらいかかるかわかりませんけどねぇ!!」

「ああクッソ!!!」

 

 大会の翌日、ラウラさんの追撃を逃れるためにまたもやゲーセンに来たわたくしは、対面に座った薄い紫の長髪の女性と楽しく会話をしながら北斗○cに興じていましたわ。

 この女性、言動からして初心者ですのに飲み込みが早いですわね。あとおっぱいデカいですわ。○ート様の当たり判定ですわね。

 

 マダマダヒヨッコダァ! 

 

「ああちっくしょう! 露骨に煽りやがってぇ!」

「ジ○ギでも素人の○キを押さえつけることくらい容易くってよ?」

「クソォ! もう一戦だ!」

「次はラウンドくらい取れるといいですわねぇ?」

 

 順番待ちの方もいないようでしたので、そのまま連戦しますわ。

 

 ですが、30戦ほどしたあたりで、気づけば予定していた帰りの時間になってしまいましたわね。

 

「あら、もう時間なのでラーメン食べて帰ることにしますわ。あなたも一緒に来ますこと? ていうか行きましょう」

「行くわけないでしょ! 顔は覚えたからな! 今度会った時は10:0で負かしてやる! ほら退け凡人ども!」

「あ、そこにいるにこちんちんさんはわたくしの五倍は強いですわよ?」

「そんな名前しといて!?」

 

 

 観衆の間をスルリと抜けて行きつけのラーメン屋に辿り着きましたわ。いつも通りのメニューを注文して待っていると、先程の女性が隣のカウンター席に座りましたわね。

 

「あら、来ないのではなくって?」

「……うるさい」

「……まあ構いませんわ。何食べます? とんこつ油マシムシニンニクマシマシバリカタとライスがおすすめでしてよ?」

「何もいらない」

「ここはラーメン屋ですわよ? 何も頼まずに席を一つ占領するのは失礼にあたりますわ。勝者の言うことは聞くものでしてよ?」

「……じゃあ同じのを一つ」

「あいよ!」

 

 コップを取って水を注いであげると、会釈もなしにいきなり飲み干しましたわ。まあ水分補給もなしで連戦してたからそりゃ喉も乾くってもんですわね。

 

「私さぁ! 他のゲームもやってネットで対戦してるんだけど! お前みたいな煽りカスがいっぱいいるんだよ! 特に金ドリルってやつがウザくてウザくて……!」

「あら? 金ドリル? それはわたくしですわよ?」

「ハァッ!?」

「世間は狭いものですわねぇ……はい、きましたわよ」

 

 これこれ! この体に悪そうな味がいいんですわ! やっぱりここのラーメンは最高ですわね! 毎日でも食べたいですわ! 流石に毎日食べたら早死にしそうだけど! 

 

「美味しいでしょう?」

「まあ……そこは認める」

「ここで食べて帰るのがわたくしのいつものルーティンですの。今度会った時も来ましょうね?」

 

 そのあとは特に会話もなく食事が進んでいきましたわ。やはりラーメンとは静かに食べるものですわねぇ。

 

「では、わたくしは時間もありますので先に行きますわね。大将、お勘定を。2人分でお願いしますわ」

「あいよ! 2200円ね!」

「ちょっと! お前みたいな小娘に払ってもらうほど余裕ない人間だと思うの!?」

「勝者の余裕でしてよ? 貸し借りなしにしたいなら、今度は勝ってあなたが払えばいいんですわ! それではまた!」

 

 ラーメン屋を後にして学園への道を急ぎますわ。遅れたら織斑先生に殺されそうですし。と、その中で携帯が震えたので見てみると、ゲームのアカウントへのメッセージが。

 

『次は倒す』

 

 簡潔ですわねぇ……『楽しみにしていますわ』と返信して、携帯を閉じますわ。いいゲーム仲間ができましたわね。

 

 

 

 さて、来る臨海学校の日。バスに乗って出発したわたくし達は、やいのやいのとお菓子だのをつまみながら目的地を目指していましたわ。

 

「ご主人様! ご主人様! 海が見えたぞ!」

「あら、綺麗ですわね」

「是非あそこに沈めてくれ!」

「クッソ汚ねえやつが隣にいなければもっと綺麗でしたのに……」

 

 乗り込んだその瞬間からベタベタくっついてくるロリを引き剥がしながら風景を眺めますわ。ここはIS学園が所有しているビーチであり、当然IS学園お抱えの旅館もありますの。やっぱりこの世は金ですわね。ビバ資本。

 

 予定の場所でバスを降り、部屋割りの通知を受けてまずは荷物を運び込みに行くことになりましたわ。しかしこの部屋割り……

 

「ちょっと織斑先生!? なんで私とラウラさんが同室ですの!? ウ○ンストンとリ○パーを小部屋に閉じ込めるような暴挙ですわよ!?」

「ええい! 部屋割りはもう決定している! 行け行け!」

「もっとわたくしに優しくしていただけませんこと!?」

 

 抗議もほどほどに、わたくしの手を引いて部屋へ向かうラウラさんに引き摺られ、部屋に荷物を下ろしましたわ。なんなんですのこの地獄……SMしないと出られない部屋か何かですの? 流石にわたくしも泣きますわよ? アンチピックと同室に突っ込まれるのは無理ですわ! 

 

「くそう! やっぱり抗議にいきますわ! 退けいロリっ子!」

「ご主人様ッ! 振り払う時はもっと強く……」

「だまらっしゃい!」

 

 ラウラさんを引き剥がして走り出すと……あら? 一夏さんと箒さんがいらっしゃいますわね。視線の先には……地面から生えるメカニックウサ耳……? その少し後ろには『ひっぱってください』の看板が……

 

「あらお二人とも、それはなんなんですの?」

「知らん」

「いや……あれはまさか……」

「知らん」

「おい! ほっといていいのかよ!?」

 

 あら、どうやら何かご存知のようですわね。箒さんは先に行ってしまいましたが……なんなんでしょうか? 

 

「ひっぱってみますか?」

「……ああ。放置した方が面倒なことになりそうだしな……」

 

 弱ったような声を出す一夏さん。一体何が来ますの? サイコガンダ○が乱入でもしてくるのかしら? nextのアレめちゃくちゃめんどくさかったですわよね。

 一夏さんがうさ耳を力一杯引っこ抜くと……あら、何もなかったようですわね? 勢い余った一夏さんは尻餅をついてしまいましたわ。軽いものを思いっきり持ち上げようとするとぎっくり腰になると言いますし、腰が心配ですわね腰が。

 

「一体なんだったんだ……?」

 

 言い切るが早いか、空から何かが降ってきましたわ。それは砂埃を上げて着地し……なんですのこれ、デッカいにんじん? にん○んいらないよ! そして何やら聞き覚えのある声が響きますわ……

 プシュー、と左右に開いたにんじんから飛び出してきたのは……先日ゲーセンで出会った彼女でしたわ。何者ですのこの人? 

 

 

「引っ掛かったね〜! ぶいぶい!」

「え、ええ……お久しぶりです……束さん……」

 

 

 は? いま束さんって言いましたの? 束と言えばISを開発したあの篠ノ之束のことでしょうか……? ロクな性格ではないと思っていましたが、まさかこの人が……

 

「そして金ドリル! 私はお前に北斗○cで100先を申し込む!」

「最近の人間気軽に100先やりすぎじゃありませんこと? 日本の死因ランキングに100先がランクインする日も近いですわねこれは……ていうか、筐体はどこにありますの?」

「もう運び込んであるよ! ……今日こそは叩き潰してやる」

「へえ、ラウンドすらもぎ取らなかったあなたがほんの数日でデカいこと言うようになりましたわね? 幼稚園に戻って先生にボタンの押し方でも教えてもらったんですの?」

「この煽りカス!」

「煽りはアタックエンハンスなので、煽れば煽るだけわたくしは強くなりましてよ?」

「ま、まあまあ2人とも落ち着いて……」

 

 バチバチとわたくしと束さんの間に火花が散りますわ。申し込まれた勝負は受けるのがお嬢様というもの。ここは一つIS開発者を揉んで差し上げましょう。いや、揉むのは胸の当たり判定ではなくってですね? 

 

 

 

 

 

「オラァ! 帝王に逃走はないんだよぉ!」

「この速い突きがかわせるかぁ!?」

 

 気づけばわたくし達は夕食の時間も無視してゲームに興じてましたわ。IS開発者とわたくしの戦いを見届けにきた生徒達が周りを取り囲んでいましたわ。今の戦績は75:69でわたくしのリード。しかしいつめくられてもおかしくない状況ですわね……

 

「ショットガンで撃たれれば人は死ぬ!」

 

 渾身のショットガンカウンターが決まり、76:69。束さんは悔しそうにしてらっしゃいますわ。

 

「この少ない時間でよくここまで磨き上げたものですわね! しかしまだわたくしに勝つには未熟!」

「言ってろ! そのヘルメット叩き割ってやる!」

 

 そして熱い勝負が始まる……

 

「お前達、何をやっている?」

 

 ……前に、リアル豪○が現れましたわね。やっ、やべえですわこれは。

 

「オルコット、夕食の時間にどこにもいないと思ったらこんなところでゲームか? 束も、勝手に現れて何をやっているんだ?」

「ち、違うんですわ織斑先生!」

「ち、違うんだよちーちゃん!」

 

「ほーう、何が違うのか部屋でじっくり聞かせてもらおうじゃないか?」

 

 あっこれ詰みですわ。メガ○ー脚部に食らったケン○ファーみたいなもんですわ。もうどうにもならないですわ。

 

「お、お待ちください! わたくし達が今やっている100先は神聖な儀式で……途中で中断するのは……!」

「あ?」

「なんでもないです申し訳ございません」

 

 視線だけで人を殺せる目してますわよあの人。そのうち空裂眼○驚(スティンギー○イズ)撃てそうな目ですわよあれ。怯えていると、わたくしの頭を掴んで自らも頭を下げる束さん。

 

(ばっ! ばっかお前今はとりあえず平謝りしとくんだよ! あとで再開すればいいから! 今はとりあえず謝っとこう!?)

(そっ! それが良さそうですわね! 流石に殺されかねませんわ! あの青い海に流されかねませんわ!)

 

「さて、覚悟はいいか?」

 

 ヒェッ……背筋が凍りつくっていうのはこういうことを言いますのね……? 

 どうか……命に関わらない罰則でお願いしますわ……

 

 

「この旅館を隅から隅まで掃除しろ。チリの一つでも残ってたら最初からやり直し。始めろ!」

 

 あっ……まだ有情でしたわ……

 

 

 

 

「消灯までに終わらなければ……どうなるかわかっているな……?」

 

 

 

 有情は有情でも有情断○拳の方でしたわね……




 そういや束さんならネトゲの相手くらい特定余裕なのでは?と思いましたが、そこまで興味はなかったということで彼女は特定をしようともしてないですわ。


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お嬢様海を飛ぶ

 こんちゃ!お気に入りが5000を超えて喜びのグラッドお嬢様ですわ!応援ありがとうございますわね!感想は出来るだけ全部返信していきますのでどしどしくださいませ!


「オッス織斑先生掃除終わりやした!」

「オッスちーちゃんチェックオナシャス!」

「……まあ、いいだろう」

「「アザース!」」

 

 あの後、何時間かかけて掃除を終えたわたくし達はようやく織斑先生から解放されましたわ。途中で束さんが自分の発明品を使おうとしていましたが、自分の手でやらないと反省にならないだろうと織斑先生にアイアンクローを食らっていましたわね。

 織斑先生の部屋の前に報告をしにいったわたくし達を一瞥し、障子を閉めると同時に束さんがわたくしに耳打ちをしてきますわ。

 

(よし! ちーちゃんも行ったし途中から始めるよ!)

(一時中断されてしまったのは惜しいですがもちろんですわ! 朝までかかっても勝負を決めますわよ!)

「まだ反省が足りないようだな? 次は5kmほど隣にある一般のビーチの掃除でもしてもらうか?」

「「ウス! サーセン!」」

 

 これはダメですわね。勝負は次の自由時間までお預けにしましょう……

 

「そうそう、束さんはなんでわざわざ臨海学校の時に来たんですの? 筐体が用意できるならメッセージで誘ってくれればいきますのに」

「んー? ああ、今回の100先は2つある目的の内の一つだからね。両方を一気にやるにはこのタイミングがうってつけだったのさ」

「へえ、もう一つとは?」

「それはね……いや! 明日になればわかることだよ! じゃあ早速……」

 

 束さんはそう言いながら、どこからともなくノートを取り出しましたわ。

 

「コンボ考察に付き合え」

「任せなさい」

 

 どっちみち部屋に帰ったらあのドMクソロリが待っていることですし、わたくしと束さんは廊下でノートを前に一夜を明かしましたわ。なるほど、この執念が彼女を強くするんですわね……

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、専用機持ちに加えて箒さんが一般生徒とは別の集合場所を指定されたわけですが……あなたの目的はこれ関係ですわね?」

「うん! その通りだよ! まあ大体予想はついてると思うけど、その瞬間までお預けにしようか! じゃあ後でねー!」

 

 と、何処かへ走り去っていく束さん。ステルス強襲みたいな人ですわね。チンパンみたいな行動しといてアホみたいなIQ持ってるから厄介ですわ。むしろIQを突き詰めるとチンパンになるのかしら? 

 

 集合場所の岩場にはわたくし以外のみなさんが先についていましたわ。なんかいつもわたくし最後になってる気がしますわね。

 

「遅いぞ! オルコット!」

「そうだぞご主人様! 部屋にも帰ってこないで……」

「セシリアはなにをしていたのかなぁ?」

 

 頼むから朝一番にドMクソロリとヤンデレメイドの挟み撃ちはやめてくださいませ死人が出ますわ……

 

「や──っほ──ー!! ちーちゃーん!!」

 

 おっとこの声はステルス強襲機の襲撃ですわね。支援機を守る必要が……あれ? 支援機誰ですの? 誰か来てくれって言ったらすぐに行きますわよ? 

 岩場を滑り降り、大きな跳躍をしてダイブする束さんを……アイアンクローで受け止める織斑先生。どっちも人間じゃないですわね。

 

「ちょっと! 昨日に続いてひどくなーい!? いっくんもそう思うよね! 金ドリルも!」

「強襲を止めるのは汎用の務めなのでしょうがないですわ」

「また訳のわからないことを言ってー! それにしても箒ちゃーん! 大きくなったねぇ! 特に……おっぱいが!」

 

 容赦なく木刀下格を頭にキメる箒さん。なるほど、彼女の容赦のなさは束さんによって育てられたものでしたのね。初手リアルファイトは怖すぎですわよ。スラム街のゲーセンでもありませんわよそんなこと。

 

「ほんっとーに連れないんだからぁ!」

「おい束、自己紹介くらいしろ」

「えー! めんどくさいなあ……私が天才の束さんでーす! はい! 終わりー!」

 

 周りの皆さんは驚いているご様子ですわね。まあこの頭脳以外残念な性格破綻女がISの開発者と知れば驚くのも無理はありませんわね。ていうか昨日生徒も観戦に来てたと思いますが、みなさんは別のことをやってらしたのかしら? 

 

「で、わたくしは答え合わせが気になりますわね」

「ふっふっふー! さあ! 大空をご覧あれ!」

 

 と言って、ラストシューティングのポーズをとる束さん。ゲーマーの本能がカットを入れろと騒ぎますわね。すると空から降ってきたのは……なんですのこれ、ラ○エル? 

 

「じゃじゃーん! これぞ箒ちゃん専用機『紅椿』! 全スペックが現行のISを上回る第四世代機だよ! なんてったってこの天才の束さんが作ったんだから当たり前だね! 紅いけど残念ながらバスケはできないよ! 搭載が間に合わなかったね!」

 

 あら残念。ついに現実世界で世紀末バスケを観れると思いましたのに……でも口ぶりからしていずれやりそうですわね。今後の運営に期待ですわ。

 

「さあ! この場でフィッティングとパーソナライズをやっちゃおうか! ほらほら箒ちゃん!」

「あ、ああ!」

 

 にしても、凄まじい性能ですわね。化物みたいな速さ、嘘みたいな旋回性能、荒○者のように左右の腰に携えた一対の刀を見ると、接近戦が得意な機体でしょうか? この機動力なら大体のISには近付いて殴りにいけますわね。なにこれチート? ジ○ギじゃなくてト○じゃありませんこと? 

 ……おや、あれは山田先生。慌てている様子ですがなにがあったのでしょうか? 

 

「たっ、大変です!! 織斑先生! これを!!」

 

 さあ言って彼女が差し出した端末を見て織斑先生の表情が曇りましたわ。

 

「はぁ……お前ら、非常事態だ。まだ指令は入っていないが、恐らくはお前達に働いてもらうことになる。一度旅館に戻るぞ」

 

 ……わたくし、もう何だかわかってきましたわ。どうせこの天才腹黒カス兎が何かやってるんですわ。ジ○ラル星人か何かですの? 

 

(金ドリル、気がついたようだけど口出しは不要だよ?)

(どうせ口出ししても止まる気はないでしょうし、黙ってますわよ)

 

 

 

 

 

「二時間前、ハワイ沖にて試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が監視空域より離脱。そして衛星での追跡によってここから2km先の空域を通過することがわかった。その上で時間にして50分後、学園上層部からの通達により我々がこの事態に対処することが決まった」

 

 ……はぁ、こんなことだろうと思ってましたわ。あのウサギは一度鍋で煮込んだ方がいいんじゃないでしょうか? そして皆さんの間に広がる混乱をさらに加速させるのが次の言葉でしたわ。

 

「教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」

 

 まあ、そうなるだろうとは思ってましたわ。

 

「そのISのデータはありまして?」

「これだ。ただし、これらは二カ国の最重要軍事機密。情報が漏洩した場合には、諸君には査問委員会による裁判と最低でも2年の監視がつけられる」

 

 勝手に暴走させて迷惑かけといて、面の皮がゲーマーくらい厚いですわね。しかしこのスペックは……さすが軍事用と言ったところでしょうか? 

 

「攻撃と機動の両方を特化した機体ね。スペック上では私の甲龍を上回っているのが厄介だわ。IQを高めて行かないと……」

「幸運なのはファンネルはなくてもわたくしと同じオールレンジ攻撃を行う点ですわね。みなさんも慣れていることでしょうし」

「まあ……だいぶ絞られてるからね……ちょうど本国からリヴァイヴ用の防御パッケージが来てるから、今の僕ならなんとか防御だけならできると思うよ」

「しかし格闘戦のデータがないのが不安ですね。偵察はできないんですか?」

 

 ドMクソロリ!? ドMクソロリが軍人の顔に戻っている!? 牙を抜かれたと思っていましたが再びその目を取り戻してくれてわたくしは嬉しいですわよ! 

 みなさんも伊達に代表候補生ではないようで、覚悟は決めているようですわね! 

 

「無理だな。こいつは今も超音速飛行を続けている。アプローチは一回が限界だろう」

 

 こいつもクソ速いですわね。当然のように音速超えるのやめていただけますこと? いやわたくしも超えますけれども、世界の法則が崩れ去る音が聞こえますわね。

 

「……しかしご主人様と同じオールレンジ攻撃となると、食らえば気持ちよさそうだな……」

 

 おい何ボソッと言ってるんですの。前言撤回ですわ。お前は誇りもクソもない黒豚のままでしたわ。ゲーマーはクソでもせめてプライドを持っていますが、プライドすら捨てたお前はゲーマー未満ですわ。頼むから死んでくださいませ。

 

「となると、一撃必殺の攻撃で沈めるのがいいでしょうね……ねっ、一夏さん?」

 

 おい腹黒兎、これで満足でしょう? お前のシナリオ通りの冗長な時間はゴメンですわ。ここは一つ思い通りに動いてやるから早く状況を収束させなさいな。

 

「え……?」

「一夏、あんたの白式で落とすのよ。覚悟を決めてIQを高める作業に入りなさい」

「だけどそうなると、問題は一夏をどうやって運ぶか……だね。エネルギーは全部攻撃に使うべきだろうから、移動をどうするか」

「しかも、目標に追いつける速度が出せるISでないといけないな。超高感度ハイパーセンサーも必要だろう」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ! お、俺がいくのか!?」

「「「「当然」」」」

 

 そりゃもちろんそうですわよ。むしろそうしなければいけないように状況が作られているのですから……

 

「織斑、これは実戦だ。覚悟がないのなら無理強いはしない」

「いや……やります! 俺が行きます!」

「ふむ。ではこの中で最も機体速が速い者は?」

「一応、わたくしの高速機動パッケージが最速ですわ。ただ……」

 

「箒ちゃんだね! 紅椿だね!」

 

 声がした方を見てみると、束さんの首が天井から逆さに生えてましたわ。キモッ。

 

「山田先生。室外への強制退去を」

「えっ! はい! えっと……篠ノ之博士、とにかく一度降りてもらって……」

「とうっ!」

 

 クルクルと回転しながら降りてくる束さん。台風みたいなザ○ギみたいな女ですわね。何はともあれ……黒幕の登場ですわ。

 

「紅椿の速度はそこの金ドリルの専用機を余裕で上回るよ! ここの展開装甲をこうすれば……ほらっ!」

 

 画面に表示されたスペックは予想通り、わたくしの高速機動パッケージを大きく上回っていましたわ。これに将来的にバスケが積まれると思うと、頭が痛いですわ。しかし全く、妹の晴れ舞台のために面倒なことをやらかす女ですわね。

 

「束さん、そのセッティングにはどれくらいの時間がかかりまして?」

「7分くらいかな〜?」

「では、一夏さんの運搬は箒さんが行うことにしましょう。ただどちらも場慣れしていない操縦者。箒さんに至っては初乗りの環境機でレートマに出るようなものですわ。もしもの時のために、わたくしが支援としてついて行かせていただきますわよ」

「うん! それが最善だと思うよ〜! ね、それでいいよねちーちゃん!」

「……いいだろう。オルコット、超音速下での戦闘訓練の経験は?」

「50時間ほど。連続しては6時間が限界ですわ」

「それなら十分だ。よし、作戦開始は11:30(ヒトヒトサンマル)! 各々準備を始めろ!」

 

 

 癪ではありますが。今回はクソウサギの計画に乗っかってやることにしましょう……



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お嬢様がんばる

 こんちゃ!ついにアッシマーを引き当てたお嬢様ですわ!いつも感想ありがとうございますわ!そしてネタくれるのめっちゃありがたいですわね!


 作戦開始時間の少し前、浜辺に集まったわたくし達は既にISを起動し、号令の時を待っていた。

 

「予定通り、箒さんが一夏さんを運搬してわたくしが後ろから随伴しますわ。お二人が目標にコンタクトした30秒後にわたくしも射程圏内に入る計算です。頭に入れておいて欲しいのは、わたくしの高速機動パッケージはBTをスラスターに回すことで機動力を得ている故にオールレンジ攻撃での援護は不可能な点。質問はありまして?」

「大丈夫だ」

「私も問題はない」

 

 返事をする一夏さんと箒さん。一夏さんの手は震えているように見え、対照的に箒さんは自信に溢れている気がしますわね。専用機を持ったことで浮かれているのでしょう。どちらにしても危険ですわね。

 

「大丈夫ですわ。主人公というものは初乗り機体の初戦闘に駆り出されるもの。それに今回は30秒だけ時間を稼げば場慣れしたわたくしからの援護もある。しかしこれが実戦であるものも事実。気を引きしめて戦ってくださいませ」

 

 緊張をほぐし、同時に決意を与えるのも経験者の務めというもの。半端な覚悟でランクマに来られてはこっちが困るんですわ。

 

「それに……いえ、これは必要ないですわね」

 

 チラリと束さんの方を見やる。彼女がこの暴走の黒幕ならば、箒さんや一夏さんが死ぬような状況になれば攻撃はやめるはず。改めて考えるととんでもないマッチポンプですわね。わたくし、談合での戦績稼ぎは嫌いでしてよ? 

 

『織斑! 短時間での決着を心がけろ! 討つべきは銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)。今後は福音と呼称する!』

「「「了解」」」

 

『……では、作戦開始時間だ! 行ってこい!』

 

 開始を告げる織斑先生の声。箒さんは一夏さんを背中に乗せ飛び立ち、わたくしもルート通りに飛行しますわ。しかしあの紅椿、恐ろしいスピードですわね。赤ければ三倍なんて使い古された理論ですわ。

 

『暫時衛星リンクを確立。情報照合完了。目標の現在位置を確認……一気にいくぞ!』

 

 通信の向こうから聞こえる箒さんの声。予測通りの位置ですわね。

 

『見えたぞ! 10秒後に接触!』

 

 向こうは目視確認し、攻撃に入るようですわね。こちらからも紅椿と白式のスラスターの軌跡が確認できますわ。しかしどうやら初撃での決着は失敗した様子。白式と福音との格闘戦がこちらからも見えますわね。

 

「こちらも射程圏内! わたくしと箒さんで動きを止めますわ!」

『わかった!』

 

 福音の放つ水色の弾幕の中をすり抜け、レーザーライフルで狙撃を行いますわ。当然躱されますが、これは所詮牽制に過ぎません。紅椿から展開装甲が二つ離脱し、プログラムによって独自に動くそれが福音の背中を打ち据えますわ。シールド○ットみたいですわね。同時に箒さんは一対の刀で接近戦を仕掛け、福音を拘束しますわ。

 

『なっ!?』

 

 同時に、一夏さんが福音とは逆方向へ動きますわ。その先には……一隻の漁船。データを照合すると国籍不明ですわね。教員の皆さんが海域の封鎖を行っていることを考えると、どこぞの密漁船でしょう。

 

『そんな奴らに構っている暇はない! 犯罪者だぞ!?』

『でも見殺しにはできないだろう!?』

 

 漁船への流れ弾を雪片で弾く一夏さん……そうしている間にシールドエネルギーが尽きたようですわ。もう一撃必殺は不可能ですわね。つまり作戦失敗ですわ。

 

「作戦は失敗! わたくしが撤退を援護しますので、箒さんは一夏さんを陸まで運んでください!」

『だっ! だが! ここを逃せば!』

「白式のエネルギーは底をつきましたわ! 箒さん、あなたとわたくしだけで倒せる相手ではないことは先ほどでの戦闘でも分かっているはず! 今はわたくしに従いなさい!」

『クッ……了解! 行くぞ一夏!』

 

 撤退する2人を尻目に、攻撃を仕掛けようとする福音へ牽制を加えるわたくし。そのタイミングで、織斑先生から通信が来ましたわ。

 

『オルコット、無理はするなよ』

「問題ありませんわ……織斑先生。わたくしは予定通り、一夏さんと箒さんが補給を終えて再出撃するまでここに福音を貼り付けにしますわ」

『損傷があればすぐに引き上げてこい』

「了解ですわ」

 

 これは余計な緊張を与えないために、一夏さんと箒さんには伝えられていない作戦内容。ファーストコンタクトに失敗した場合、両名が他の専用機持ちと共にここに戻ってくるまでわたくしが戦闘を継続するというものですわ。元々ファーストコンタクトの失敗は予定の内。本番はセカンドコンタクトでの全員の攻撃ですわ。そしてわたくしの仕事はセカンドコンタクトまでの時間稼ぎ、そして出来る限り福音の戦闘データをみなさんにお渡しすること。

 ここへの往復と束さんの整備と補給の時間を考えると……30分から40分程度1人で時間を稼げばいいわけですわ。

 

「さて、行きますわ。対NPCのトレモみたいなものですわね」

 

 放たれる弾幕をすり抜け、放つレーザーライフルは避けられましたわね。背を向け飛び去ろうとする福音を急加速と共に踏みつけ、水面へ叩きつけますわ。

 やはりお互いに射撃戦では逃げられるのがオチ、ここは格闘戦に持ち込んで時間を稼ぐ必要がありますわね。

 しかし相手はプログラム。得意の煽りも意味をなさないでしょう。フォー○ナーでレベル3botを相手取るときのような気持ちで挑まねばなりませんわ。

 

『もすもすひねもすー! 束さんだよー!』

「戦闘中に通信とは邪魔くさい天災ですわね!」

『いやー、応援してあげようと思ってね?』

「露骨な嘘を吐きますわね! で、本当の要件は?」

『あー、その子、福音ね。さっきまでは多少戦闘力を落としてたんだけど、金ドリル相手だし問題ないと思って一番強いプログラムに変えたから! 君ならできる! 頑張りたまえー!』

「クソわよ!」

 

 個人回線を打ち切りますわ。陸に戻ったらあのウサギ捌いてやりましょう。もしくは北○以外のゲームでもう一度プライドをボロボロにしてやりますわ。

 先ほどよりも濃密になった弾幕を躱し、銃剣で斬りかかりますが上へ避けられてしまいますわ。

 

「こんな田舎のバスダイヤよりスカスカな弾幕でわたくしを止めれると思わないことですわね!」

 

 ブーストの勢いが乗せられた突きが福音の腹を打ちますが、当然決定打にはなりませんわね。そのまま福音の腕と銃剣とで鍔迫り合いに入りますが、相手の理不尽なカーブをする射撃がわたくしに当たる前に蹴り付けて下がりますわ。

 ほんっとズルいですわねこのカーブ。フ○ビドゥンのフレ○ベルグよりだいぶ曲がりましてよ。

 

「早いとここのクソISナーフして欲しいものですわね!」

 

 理不尽なタイマンを続けていると、そんな言葉も出るものですわ。バ○オペやガ○オンが可愛く見えるくらいのクソ運営ですわね。いややっぱガ○オンはダメですわ。

 

「はい10分! 陸ではブリーフィングに入っている頃でしょうか!」

 

 

《side 一夏》

 

「総員! 準備を急げ! 終わり次第すぐに全員での攻撃に移る!」

「はっ! はい! ……織斑先生、セシリアは!?」

「オルコットは現在1人で福音をあの場に縫い付けている。お前達の補給が終わる15分後にこちらにいる全員であの海域に向かい、再び攻撃を仕掛ける予定だ」

「え!? それまでセシリアは1人なんですか!?」

「勿論だ。モニターにオルコットから送られてくる戦闘の映像が表示されている。奴の腕ならBTがなくとも時間稼ぎ程度こなしてみせるだろう」

 

 モニターを見ると、セシリアからの視点の映像が映し出されていた。見ているだけでわかる。格闘戦主体の俺よりも遥かに高レベルな操縦だ。速度を落とさずに弾幕の間を抜け、そのまま銃剣を振り、距離を取られてもすぐに接近を開始する。どれだけの訓練を積めばあの動きに辿り着けるのかわからないほどの技量だ。

 

「凄い……」

 

 しかし感心している暇はない。悔しさで握り締めた手は、血が滲みそうなくらいだった。箒とセシリアが援護についていながらも、俺は福音を倒すことはできなかったのだ。

 

「悔しいか、織斑」

「……はい、悔しいです」

「あのオルコットはそれ以上の悔しさを味わって、そしてあの境地へ辿り着いた。出撃の時まで、この戦いをよく見ていろ」

「はいっ!」

 

 

《side セシリア》

 

「はい30分! そろそろ皆さんが来る頃ですわね!」

 

 接近と回避の繰り返しでなんとか30分を防いだわたくしですが……もうボロボロですわよわたくし。100先と違ってちょっと距離を取り過ぎたら逃げようとするんですから、常に張り付いて戦闘を続けたせいで頭がパンクしそうですわ! もう朝6時にゲームを始めて気づいたら夜10時とかのあの頃には戻れないんですわ! 

 

『オルコット、これより他の専用機持ちが出撃する。あと3分ほどいけるか?』

「30分やってるんだから3分くらい端数ですわよ端数! 今まで通り擦りもせずにやって見せますわ! オラ死ねェ!」

『……随分キてるようだな』

「強キャラ使いに対して道徳的有利を持つわたくし達弱キャラ使いは、強キャラ使い(チョッパリ)に何を言っても問題ないんですのよ! あークソッ! 終わったらアンチスレ立ててやりますわ!」

『言っておくが、情報漏洩は禁物だぞ』

「わかってますわ! ジョークですわよジョーク! ああっ! しかし共同の軍用だとやっぱりかけてる金が違いますわね! わたくしも家くらい売ってこようかしら!?」

 

 超ガソを撒いて着火すると同時に、海中へ潜りますわ。レーダーに映る大量の熱源と冷えた海水のギャップがレーダーに混乱を生み、わたくしを見失って飛び去ろうとする福音に真下から強襲を仕掛け、一撃を与えると同時に組みつきますわ。

 

「ほら! 夏なんですから海に入らないと損ですわよ!」

 

 反撃の隙を与えず海中に引き摺り込みますわ。反撃のレーザーを打とうとする相手ですが、熱を与えて攻撃するレーザーはこの海中では威力が下がりますわ。

 

 無理やり拘束を引っ剥がして海中から脱出する福音でしたが……その頭部装甲に何かが直撃したご様子。

 

『ご主人様! 到着しました!』

「わたくしの任務は成功のようですわね! 畳みかけますわよ!」

 

 引き続きレールガンを撃ち込むラウラさん。福音を追って空中へ出たわたくしに弾幕をばら撒きますが……

 

『データ通り! 数ばかり多くて1発1発は大したことないね! セシリア、大丈夫?』

「見ての通り、ピンピンしてますわよ。海水浴もできたことですしね」

 

 全てシャルロットさんのエネルギーシールドが防ぎ切りましたわ。

 同時に福音に斬りかかる二つの影が。

 

『合わせろ! 鈴!』

『任せなさい! 今の私のIQは600よ!』

 

 両方の翼ユニットを捥がれ、墜落する福音。そして───

 

 

『今度は逃さねぇぇぇぇ!!』

 

 

 ───青白く輝く刃が、福音を切り裂きましたわ。



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お嬢様一件落着

 ご機嫌よう!久しぶりに書いてるライティングお嬢様ですわ!今回はシリアス回なのでネタ少なめかつ、章の終わりで短めになってますわ!


「……さて、一件落着ですわね」

 

 海中へ沈んだ福音を眺めながら呟きましたわ。はあ、今日は疲れましたわね……帰ったらめちゃくちゃ寝ますわよわたくし。36時間は寝ますわ。

 ……しかし、わたくしの心には一つだけ疑念がありましたわ。他でもないあの天災カスウサギがこの程度で終わらせるのか、というところ。作戦成功でみんなおてて繋いで大団円、あの性格ゴキブリ以下の人格破綻女がそんなことを望むのか? という疑いが。

 

「……杞憂に終わるといいのですけど」

「ん? どうしたのセシリア?」

「ご主人様! どこか痛いのか! 痛いのは私だけで十分だぞ!?」

「大丈夫ですわ。ドMクソロリは一回黙ってください」

 

 

「あ、箒。リボン解けちゃったんだな」

「えっ!? あ! 本当だ……」

「ちょうど良かった! ほら!」

「こっ、これは?」

「これはって、誕生日プレゼントだよ! 今日は箒の誕生日だろ?」

 

 

 視界の端でイチャイチャしてますわ。ああいうとこがあるからモテるんですわね。対女性環境機一夏さんですわね。堕とすのは敵だけにしてもらいたいものですわ。

 

「じゃあ福音のパイロットを救出しなきゃね!」

 

 そう言って海面に近づくシャルロットさん。しかし……

 

「シャルロット! 下がりなさい!」

「えっ?」

 

 わたくしがシャルロットさんの装甲を掴み、後ろへ投げ飛ばすと共に海面が膨れ上がり、とてつもないエネルギーが爆発しましたわ。その爆発に巻き込まれたわたくしは吹き飛ばされ、元々少なかったエネルギーがほとんど底をついていましたわ。衝撃で頭がグラングランしますわ。

 

「セシリアっ!?」

「いいから前を見なさい……! まだ来ますわ……!!」

 

 福音は元々翼ユニットがあった位置にエネルギーの翼を生やし、先ほどよりも濃い弾幕を放ってきましたわ。

 

「回避!」

 

 全員が回避軌道を取り、シャルロットさんはわたくしに飛んでくる弾幕を防ぎ切りましたわ。

 

「威力が今までの比じゃない!」

「そのようですわね!」

『オルコット、そちらからの映像が遮断された。何が起きた?』

二次移行(セカンドシフト)ですわ。その際のエネルギーの余波で電波が狂いましたわね……第二形態はダ○ソだけにしとけって話ですわよ全く……織斑先生、この場の指揮はわたくしが取りますわ」

『了解。指揮はオルコットに一任する。……墜ちるなよ』

「フラグを立てるのはやめてくださいませ!」

 

 再び空を覆う弾幕を回避しますわ。やっぱり第二形態はお排泄物ですわね! それが許されてるボスなんてルド○イークくらいですわ! 

 

「通信の通り、わたくしが指揮を取りますわ! 箒さんと鈴さんは接近戦で押さえ込み、出来るだけ弾幕を張らせないようにしなさい! シャルロットさんとラウラさんは中距離を保ちつつ牽制を! わたくしは遠距離から支援しますわ! ……一夏さん! シールドエネルギーの残量は?」

『もう一撃も使えそうにない!』

「問題ありませんわ! ならば箒さんと鈴さんに加わって近距離戦を! 攻撃を食らったらISが解除されるよりも先に近くの岩場まで退避しなさい!」

『おう!』

 

 一夏さんの一撃必殺がないとなれば、正攻法で削り切るしかないですわね。指示の通りに戦闘を始めるみなさんを後ろから見ながら支援を差し込んで行きますわ。

 しかしあの福音の第二形態は厄介ですわね。近接三人で押さえつけてもなお濃密な弾幕を放ちながら飛び回っていますわ。

 

『ッ! 箒!』

 

 一夏さんが箒さんを庇うために死角から飛んできた弾を受けてしまいましたわ。このまま1人ずつ減らされていったら辛いですわね……戦いは数だっていうのは嘘だったんですの? 

 

「一夏さん、大丈夫ですか?」

『あ、ああ……まだギリギリなんとか戦える……』

「……危険を感じたらすぐに下がってください!」

 

 いつものわたくしならばすぐに下がらせるところですが、今はそんな余裕もなさそうですわね。しかしその時、箒さんに異変がありましたわ。

 あれは……光? 箒さんの紅椿が金色の光に包まれていましたわ。ゴ○ドモードか何かでしょうか? 

 

『これは……シールドエネルギーが回復している……絢爛舞踏? ……一夏! これを受け取れ!』

 

 そして繋がれた箒さんと一夏さんの手の間にも、同じ光が生まれましたわ。なるほど……これがあの天災腹黒カス兎の狙いだったわけですわね? 自分も仲間も回復可能とかマ○シーみたいですわ。

 エネルギーを受け取った一夏さんの白式は姿を変え、巨大化した左手からは雪片のものと同じ青白い光が漏れ出していましたわ。まさか、彼も第二移行(セカンドシフト)とは。

 

『これなら……いける!』

「よし! 畳みかけますわよ! わたくしとシャルロットさんが援護しますので、箒さんと鈴さんで隙を作りラウラさんが拘束しなさい! 一夏さん! 一撃で決めますわよ!」

「「「「「了解!」」」」」

 

 仲間の存在をこれほど心強く思ったことは、どんなゲームでもありませんでしたわ。

 わたくしとシャルロットさんの銃撃を上へ回避することを選んだ福音を追う箒さんと鈴さん。再び弾幕を張ろうとする福音の動きをレーザーで阻止し、両側から箒さんと鈴さんの攻撃が入りましたわ。そして怯んだ福音をラウラさんが拘束し……

 

『決めろ一夏!』

『やっちゃいなさい一夏!』

『うおおおおおおおお!!!』

 

 今度こそ、最後の一撃が決まりましたわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、よく働いてくれた。特にオルコット。福音を相手に単騎での時間稼ぎと指揮、ご苦労だった。今日はよく休んでくれ」

 

 旅館の中の作戦本部に帰還したわたくし達は労いの言葉を受け、解散となりましたわ。戦闘に時間がかかり、すでに空は橙に染まっていましたわ。

 誰もいない岩場で座り込み、足で水をチャパチャパとかいて海に来た気分だけでも味わっておきますわ……

 

「全く、あなたのせいで臨海学校が全部パーですわよ……ねえ、束さん」

「んー? でも楽しかったでしょ?」

「何が楽しいものですか。……で、今回も勝者はわたくしでしたわね?」

「……はぁ、その通りだね。この束さんが負け越すなんてちーちゃん以来だよ」

 

 いつのまにか隣に来ていた束さんは落ち込むような仕草を見せて、そのまま隣に座りましたわ。

 

「で、もう一つの目的は達成できましたの?」

「うん! そっちについては完璧さ! 予想以上ですらあるね! 君のおかげだよ! ありがとうね!」

「礼を言われたって嬉しくないですわよ。詫び石よこしなさい詫び石」

「そう言うと思ってね、君のために一つ武装を作ってきたよ! ……なにそんな信じられないものを見たみたいな顔して! 失礼だなー!」

 

 いやそりゃそんな顔にもなりますわよ。レートマに強襲固めででたら相手が支援固めだった時みたいな気分ですわ。

 

「IS借りるよー! ここをこうして……はい終わり!」

「ちなみにどんな武装ですの?」

「それは見てからのお楽しみかなー?」

「だろうと思ってましたわ」

 

 どうにも、踊らされた感が拭えませんわね……ただまあ、事件はひとまず終息したのですからよしとしましょうか……

 

「あ、束さんP○4持ってまして? フォーオナ○って言うゲームがあるんですが一緒にやりませんこと?」

「えー、どうしようっかなぁ」

「あら、負けるのが怖いんですのね?」

「やってやろうじゃねえか!」

 

 チョロくて助かりましたわ。この復讐はフォー○ナーでやってやりましょう。わたくしのセン○ュリオンのハメコンで泣かせてやりますわよ。




 


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番外編(夏休み編)
天災カス兎の日常


 ご機嫌よう!短い番外編を書いてみましたわ!後書きににこちんちんさんとあるこうるさんのキャラ紹介も入れておきますわね!


「あークソッ! なんだそのコンボ!?」

「はっはっは! そう言うゲームだからしょうがないしょうがない!」

「もう一戦ですわ!」

「他の人が使ってからねー」

 

 横浜ショッピングモールのゲーセン。私は北○ACの実力を上げるために、たびたびそこに来て練習をしていた。対面のにこちんちんと言う男は、名前はふざけてはいるがもうアホみたいに強い。気付いたらコンボ数が27になってて、そこから先はカクカクしたり弾んだりして終わりだ。

 

「あら? 束さんも来てたんですのね?」

「金ドリルじゃん! ひっさしぶりー!」

 

 こっちの子はセシリア・オルコット。ただここでは金ドリルで通っているのでその名で呼んでいる。ちなみに私はジーニアスラビット……この金ドリルがつけた名だ。格ゲーやISのセンスは最低限はあるが、名付けのセンスはゴミ屑らしい。

 

「昨日はよくも煽りまくってくれたね?」

「煽りは勝者の義務でしてよ! あの程度の崩しに反応できないのが悪いんですわ!」

 

 最近彼女が勧めてきたフォー○ナーとか言うゲームの話だ。北○では4:6程度に勝てるようにはなってきたが、そっちだとまだ全く勝てない。まだ何種類かのゲームを掛け持ちしているらしくて、まだまだこいつへの興味は尽きそうにないなと思う。

 

「あら、にこちんちんさんも」

「おう! ジサギの姉ちゃんと対戦しててな! 凄え強くなってるから金ドリちゃんもそろそろキツいんじゃないかな?」

「いえいえ、まだギリギリ勝ち越してますわよ。それに今は他ゲーで泣かせてますわ」

「はっはっは! 程々に抑えてやれな! じゃあ俺は外出て吸ってくるから!」

 

 ジサギというのはこのにこちんちんが勝手に略した私の名前だ。こいつもネーミングセンスは地の底をいっているらしい。無精髭を掻き、スキンヘッドを撫でながら去っていくにこちんちんは……

 

 

 オ! ニコチンチンジャネーカ! キャウコソハブットバスカラナ! 

 ウオッ! アルコウル! 

 

 

 スーツを着て酒を片手に持ったあるこうるに絡まれていた。

 ここは全員が相手の本名など知らず、それでいて友情が成立している。今までちーちゃん以外に友達というものがなかった私には不思議な空間だ。

 

「台も空きましたし、わたくし達もやりましょうか?」

「だね」

 

 しかし私はこの金ドリルにも不思議な友情のようなものを感じていた。ちーちゃんに抱くものとは違うよくわからない友情だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「全くさぁ! 初心者虐めすぎるのもよくないと思うんだよ!」

「始めて3日でバスケやり出した奴を初心者とは呼びませんわ」

「やっぱりジサギの姉ちゃんはセンスはやべえんだよな!」

「クソ……また負け越しだ……大将! 黒霧島水割り!」

 

 そしてゲーセン帰りにはこのラーメン屋で夕食をとって帰るのが定番になっていた。今日は金ドリルだけでなく、にこちんちんとあるこうるも一緒だ。

 にこちんちんは早々に食べ終えて店の面でタバコを吸い、あるこうるはノンストップで酒を飲んでいる。

 

「束さん、ゲーセンは楽しいでしょう?」

「認めるよ。不服だけどね……」

 

 ラーメンの残った汁をすすり、水を飲む。

 

「……なんていうか、あそこに来れて良かったって思ってる。もっと早く来れてたらとも……」

 

 違う。天才の束さんはこんなキャラじゃないのに。

 金ドリルは一瞬意外そうな顔をして、それから微笑んでみせた。

 

「遅いも早いもないですわよ。あそこの人たちはみんな、みんなあなたを歓迎してますわ」

 

「お! なんだいい感じの会話してるじゃねえか!」

「若いなー! おじさんも若い頃はなー!」

「おいやめろよ! 同い年の俺が若くないみたいじゃねえか!」

「30前半は若くないっての! 反射神経も老いぼれてきてるだろ?」

「言ったなお前! 今から戻って第二ラウンドだ!」

「いいぜ、やってやろう」

 

 

 ……なんていうか、いつでも耳が痛くなるくらい煩くて、不潔で、性格が悪い場所だが……私には初めてできた落ち着ける場所だった。

 

 

 

 

 

 

 ラーメン屋から自分の研究室(ラボ)へ帰ると長い銀髪が綺麗な幼い女の子……助手のくーちゃんが私を出迎えてくれた。

 

「おかえりなさい束さま!」

「うん! ただいまー!」

「あれ、今日何かいいことでもありましたか?」

 

 目ざとく私の変化に気づくくーちゃん。こういうところがいい助手なのだ。

 

 

 

 

「束さんね、友達ができたの!」




にこちんちん
スキンヘッドに髭面の大柄な男。ヤーさんとかではなく土建会社の社長さん。フランス人とのクォーターなので顔が良いがヤニカスが過ぎるのでモテない。1日3箱。持ちキャラはジ○ギ。

あるこうる
大企業で働くバリバリのサラリーマン。清潔感がある見た目で稼ぎもあるので結構モテる。ただ酒クズなので結婚はできない。日本酒を1日一升開ける。最近は薄毛が心配になってきたのでスキンヘッドにしたいが、会社的にアウトなのとにこちんちんとキャラが被るのでやらない。持ちキャラはサ○ザー。


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チェルシーとお嬢様

 夏休み番外編その2って感じですわ!2日も休んで息抜きも書いてようやく書く気になりましたわ!あとお気に入り6000ありがとうございます!


「こんッッッッッのクソったれ野郎! おふざけが過ぎましてよ? そんなに足払いが好きなら一生地面でくるくるしてやがれですわ!」

「お嬢様、少々言葉遣いが……あと台パンはお控えください」

 

 私の昔から使えているお嬢様は変わった人だ。物心ついた時から1日と欠かさずゲームをやり込み、ご両親が亡くなった時も悲しみはしたものの強さを保ったままこの家とレートを守られていた。

 

「ハッ、わたくしとしたことが少々揺さぶられてしまいましたわ……おハーブティーを飲んで落ち着アッツ!」

「お言葉ですがお嬢様はオルコット家の……いや、今やイギリスを代表するお方であります……」

 

 そう、彼女はイギリス代表候補生。その中でも最も代表に近い人間。だから……

 

「見えすいた処刑○の三択に警戒せず、スパアマを恐れてリーチも長くないセンチュリオ○で腰が引けた戦いをしているようでは勝てる勝負も勝てないかと……」

「知ってるにきまってますわ! そんなことはわかっていますの! 問題は精神面でしてよ! 私が求めているのは正論なんかじゃなくて氷砂糖のように甘くて爽やかな励ましの言葉ですわ! 正論が人をキレさせることがあっても救ったためしなんて一つも存在しませんわ!」

 

 

 言い切って、再び画面に向かうお嬢様。なんというか、変人だが悪い人ではないのだ。それを証明するために今日は私とお嬢様の1日を紹介したい。

 

 

 

 

 

 

 

「あら、おはようございますわチェルシー」

「おはようございますお嬢様。朝食はトーストとレ○ドブルです」

「気が利きますわね! 今日もエナドリ決めて頑張っていきますわよ!」

 

 お嬢様の1日はトースト一枚とエナドリから始まる。こうして夏休みに帰省をしてくる前から変わらないことだ。エナドリを飲めば神の加護を得られると昔からよく言っていた。正直言って正気を疑う。

 

 

 

「あっ! てめこら支援機を頼むじゃないですわ! それいうならそこのケンプ○ァー止めていただけますこと!? アホみたいにしつこいんですわこいつ! 冷蔵庫で寝かせたコーンポタージュを温めずに飲んだ時くらいしつこいんですの! ……いやいまのはわたくしが悪い! ケン○くらい一人でなんとかできないわたくしが……悪いか?」

「騙し切れてないですよ。強襲の道を作るのは汎用の役目なのでしょうがないことです。しかしあの甘えた下格はなんですか? あんなの猿でもカウンター取れますよ?」

 

 朝7時。お嬢様はこの時間帯は主に人口の多いゲームをプレイなさっている。その多くがチーム戦なので、良く味方の愚痴を独りごちている。しかし最終的には自分が悪かったと結論付けるのがこの方の強さかもしれない。自分を騙し切れていないが。

 

「よっしゃナイスEMPィ! 煮卵みたいな顔してるのにやりますわね! 脳味噌いっぱいつまってますわ! はいここで苦し紛れのリュウガワガテキヲクラウを木葉返し! そしてそのまま……リュウジンノケンヲクラエー! はっはぁ! DPSは長いマッチング時間待ってやるだけの爽快感がありますわね!」

 

 朝10時、この時間からお嬢様は別ゲーをやりだす。最初の方はゲームそれぞれのエイムの質感に苦しんでいたが、最近はスパッと切り替えられるようになったそうだ。

 

「お嬢様、昼食は生姜焼きとモン○ナです」

「ちゃんとウルトラを用意してくださりました?」

「もちろん」

「パーフェクトですわ、チェルシー」

「感謝の極み」

 

 昼12時、お嬢様はきっかりこの時間に昼食を取る。日本食が好みなようで、昔から生姜焼きやカツ丼などの家庭的な料理を多く望んでいらした。ダシがボタン操作にキレを与えるそうだ。

 

『超ガソでフィニッシュ死んだぁぁぁぁ!!』

「やっぱりQ○Zさんは人間離れしていらっしゃいますわね……あの域にたどり着くまでにどれだけかかることか……いや、それよりもまずはにこちんちんさんやあるこうるさんを倒さねば!」

 

 昼14時、昼食後2時間程度は動画鑑賞やキャラダイヤなどをチェックする情報収集の時間に回しているそうだ。

 にこちんちんやあるこうるなどというのは日本にいるゲーム仲間だそうで、12歳の頃からちょくちょく日本に行っていたお嬢様からすれば長い付き合いだと言う。付き添いで行った時に私も会ったことがあるが、多分あれはジャパニーズヤ○ザとジャパニーズシャ○クというやつだと思う。全く方向の違う二人と仲良くなるとは、さすがお嬢様だ。

 

「おっ、この位置にポータルとは"理解(わか)"ってるレ○スですわね! ブロスフゥンダルフゥゥン! 見える! わたくしにも敵が見えますわ! よっしゃ全滅! 今回はトリプルトリプル狙えそうですわね! えっ? ギャッ!? 漁夫ですの!? 汚い! 汚いですわよこのお排泄物がッ! もう少し礼節と言うものを弁えたほうがよろしいんじゃなくって!? お前今死体撃ちしましたわね!? ID覚えたからなこの野郎!」

「お嬢様、マウスがミシミシ言ってます。堪えて堪えて」

 

 昼16時、この時間はバトロワモノをプレイされることが多い。本来ならこう言う時間はあまりお上手ではないプレイヤーが多いそうだが、あえてその中で腕を磨くと言うお嬢様のストイックさが見て取れる光景だ。

 

「はい強キャン掴み、1、2発入れて壁当て、前蹴り、強、アッパー、転んで胸にグサッ! いやあこのコンボのためにセ○チュリオン使ってますわ! やっぱ壁際のセ○チュはクソですわね! わたくし絶対敵として当たりたくないですわ!」

 

 夕方18時、ようやくお嬢様お気に入りのゲームがマッチングするようになる時間らしい。もっと強いキャラを使えばいいのに、と何度言ってもキャラ愛で押し通されてしまう。人は愛故に弱キャラ(悲しみ)を背負うのだろう。哀れだ。

 

「昇竜ブーン! 昇竜ブーン! ほらチェルシー! ちゃんとプレイしてくれないと練習代にならなくってよ!?」

 

 夜20時、オルコット家の財力を持ってして日本から持ってきたアーケードゲームの練習の時間だ。2人以上いなければ実戦練習が出来ないので、この屋敷の使用人はしょっちゅう駆り出される。しまいには賞金をかけたオルコット家使用人大会が開かれる始末だ。

 ちなみに今のところ最強は私のユ○、次点で料理長のジャ○だ。しかし最近は新入りのコック見習いのト○にみんなが恐怖を覚えている。内輪大会で臆面もなく最強キャラを使うとは、面の皮がゾッ○の装甲くらい厚い。

 

「ですから束さん、それは甘えた回避をする束さんが悪いんですわ。まずは回避とパリィと防御の三択をしっかり取れるようにならないと始まりませんわよ?」

『ムッキィィィィ! 今度こそ束さんの荒武者で地面大好きにしてやるからね! 覚えてろよ!』

「楽しみですわねぇ? 北○でもまだ負け越してないからラーメンの奢りがだいぶ溜まってますわねぇ? いったいいつ返してくれるのかしら?」

『お前を殺す』

 

 夜22時、最近できたお友達にゲームを教えているそうだが、側から見ると初心者相手に煽り腐っているようにしか見えない。いや、実際には深い考えがあるのだろう。

 

「ほーら、コンボ入っちゃいますわよ? ほら、ほーら!」

『うぁぁぁぁぁちくしょぉぉぉぉぉ!!』

 

 ……あるのだろう。

 

 

「うーん、やっぱり料理長の寿司は最高ですわね!」

「ですね」

 

 夜24時、お嬢様は朝食と昼食は規則正しい時間に召し上がるが、夜だけはこの時間になる。夜にやっているゲームの方が好きで、時間を忘れてしまうからだそうだ。

 しかしこの寿司というモノ、最初は魚を生で食べるなんて考えられなかったが、意外とイケるモノだ。日本で修行を積んだアフリカ系アメリカ人を雇ったお嬢様の判断は正しかった。実際、彼は当時の料理長が歳を重ねて退職したあとすぐに料理長としてこのオルコット家の厨房を支えている。

 ちなみに朝がトーストなのはお嬢様の好みと、ついでにコック達に夜遅くまで仕事をさせて、朝にまで早く起きてもらうのは心苦しいとのお嬢様のお気遣いだ。

 

 

「あ、そうそうチェルシー。一つ言い忘れてましたが、今年のボーナスは結構多めに入れましたわ。あなたは特に」

「えっ? ありがとうございます」

「わたくしがいない間ちゃんとここを支えてくれてるから当然ですわ! 金が最大の感謝の証ですもの!」

 

 

 現金な人だ。私はこうして仕えられるだけでも幸福だというのに。

 人格は最低だが、人望が集まるのはこういうところなのだろう。

 

 

 

 

 ……しかしまあ、日にエナジードリンクを5本も飲んでおいて良く寝られるモノだなぁ……



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