風紀委員長の弟にご用心 (後生さん)
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日常編
雲雀裕弥


 風紀委員会は並盛の秩序を守る組織だ。

 その頂点に立つ風紀委員長は、最強にして最恐として誰もが平伏する存在である。…そんな畏れ多い風紀委員長のとある噂にこんなものがある。

 彼には歳下の弟が存在し、たとえ屈強な男達が揃っても適わない実力を秘めている、とか。

 唯一風紀委員長に対等に語り合えるのが弟だけで、弟の言葉は彼も無下には出来ない、とか等々。

 

 そんな噂が飛び交う中でも信じられる事は、彼に弟が実在すること。並盛中に在籍し、風紀委員会に重石している弟だが、何よりも人と関わろうとしないらしく殆どは兄の元で過ごしている様だった。

そこは風紀委員長と同じ血を通わせているだけあり群れる事を自らしないが、やはり何処か謎めいた存在であることは誰もが気になっている事だった。

 

 そんな弟──雲雀裕弥の話をしようと思う。

 

 

 

 

 

□ □ □

 

 

 

 

 

 いつもの様に応接室で並盛の問題書類を読んでいたら、見回りが終わったらしい兄が戻ってきて扉を閉める。そして視界に入った僕を呆れた目で射抜く。

 

 

「ちょっと…裕弥、いくら風紀委員だからといってもいつまでも此処に居座る事は含んでないんだけど?それに、そろそろ教室に戻ったら?今日の残り時間も後僅かだし、クラスメイトに挨拶してきなよ」

 

 

 挨拶、という単語に思わずジト目で見返した。

 

 

「それぞれの教科担当の教師に授業内容を聞いた結果、僕が学べる事はないと思った迄だよ。それと、教室に態々戻ってクラスメイトにまた明日って言えるほど、僕は愛想を振り撒いてない」

 

「…そのひねくれた性格は誰に似たの」

 

 

 全くと肩を竦めながらも結局無理矢理外に出さないのは、どう言っても僕が治さない事を解ってくれている証拠だ。お蔭で僕は甘えてばかりなんだけど。

 兄の許容範囲を越えない様に慎重に行動する事を改めて誓い、そのまま書類を読み続けていたらこの中学校についての騒動が記載されており、それに目を留める。

 どうやら最近騒音が絶えず、尚且つ学校の器材等が破壊されているらしい。それ等の修復及び補充にはかなりの金額を費やしており、学校側からしても、また風紀としても見過ごせない事態となっている…と、その報告書は風紀の威信に関わっているかもしれないと訴えており、僕は目を瞬かせた。

 

 

「兄さん。今年は厄介な事柄が舞い込みそうだね」

 

「…あぁ。それは最近常々思い始めてるよ。ちなみにその報告書の事件の犯人、全部同じ奴等だから」

 

「解剖すればいいのに」

 

「それが出来ればとっくに咬み殺してる」

 

 

 今は様子見で妥協しているという兄さんの台詞に、これは邪魔でもされてるのかと手元の書類を見直した。

 これだけの事をやっているのだ、確かに兄さんが調べない筈がないよね。僕は犯人に匙を投げる。

 

 

「僕には関係ないか。どうせ面白いモノでも見つけたんでしょ?かなり見逃してあげてるじゃん」

 

「まぁね。いくら裕弥でもあげないよ」

 

「要らない。僕は強者に興味ないよ」

 

 

 兄さんの求める強い奴は、はっきり言って僕じゃ適わない。僕が相手に出来るのは兄さんよりワンランク下の雑魚だけ。それに、僕は実力行使より思考戦の方が好きなんだ。相手の出方、相手の能力、相手の弱点…そういう情報の探り合いこそが戦闘での僕の楽しみかた。だからこそ、ただの素人でありなんの情報も得られないクラスメイトは僕にとってガラクタ同然。解剖出来る奴等こそ僕の求めるモノ。

 

 

「ちなみに兄さんの見つけた面白いモノって、かなり頭がキレそうだった?」

 

「教えない。横取りは許さない」

 

 

断固として突っぱねる兄さんに、僕は微笑んだ。

 

 

「──そう。解剖してみたいなぁ」

 

 

 頭脳戦もかなり出来る奴らしい。兄さんが不機嫌そうに眉を寄せるけど、こういう所は兄さんだってそうだし、口出しはして欲しくないものだ。

 それでも噛み殺されるのはごめんだからすぐに笑みを消していつもの様に淡々と無表情で謝る。

 

 

「冗談。言った手前、そんな横領はしないよ」

 

「…一応信じるけど、その時は容赦しないから」

 

「兄さんに僕が適うわけないじゃない」

 

 

 弟ジョーク、と書類を兄さんのデスクに置いて、ひらひらと手を振りながら応接室を後にした。

 

 

「…適うわけない、ね」

 

 

──僕が去った後も兄さんは置かれた書類をじっと見詰めながら、小さく呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …応接室を出てからというもの僕は特にやる事も思いつかなかったが、どうせなら報告書に書いてあった事件の現場に向かってみようと歩いていた。

 兄さんによると同じ奴等…つまり複数人の犯人達の仕業は、僕に思わせると派手な様で少し慌てている感じが見受けられた。普通グラウンドに穴を開けるには何かしらの機具が必要だし、壁を焦がすには爆発物を使うしかない。リスクも考えずに動く馬鹿なら、兄さんが見過ごす道理なんて無い筈なんだ。

 それなのに見過ごし、その出方を様子見で済ませている。つまり、そう誘導している奴が居て、実際に起こしている奴等は間抜けで、尚且つ何処か生真面目な筈。頭が良いとは思えないからテストの点も悪く、手際が良いとも思えないから相当な不良児も混じってるかもね。もしかしたら上手く乗せられた阿呆も居るかも。全部推測の域は越えないけども。

 

 

「──あ。此処かな」

 

 

 綺麗に整備されてるのは流石としか言えないね。

 取り敢えずグラウンドに来てみたものの、やはり当時の状況など微塵も感じさせない為に少しばかり疑心暗鬼となっている。報告によると、これは一日で直したみたいだ。風紀の役員はいずれ過労死するんじゃなかろうか。

 別に僕には関係ないけど。

 

 

「確かグラウンドに巨大な穴が出来ていたのは、今回だけじゃなかった筈…」

 

 

 そう。確か、いつかの数学教師が学歴詐欺で退職させられた時にも見つかったんだよね。実際に僕も現場を見たからさっと思い出せたけど…。

 そういえばその犯人はまだ分かってないんだっけ。

 …今思えば犯人も何も、絶対にその元数学教師にちょっかい掛けられてた奴にしか思えないんだけど。あれ、犯人とか掴まえるの簡単じゃない?

 

 

「…まぁ、捕まえる訳にはいかないんだけど」

 

 

 なんで探偵紛いのことしてるんだろう、と一気に面倒臭くなってきて、僕はグラウンドを後にした。

 時計も見るとそろそろ下校時間に差し掛かるし、兄さんより先に帰っても別に構わないよね。

 

 

「──そういえば、鞄は教室だった」

 

 

 無表情のままコツンと頭を叩く様は、僕からしてもシュールだった。自然になかった事にして僕は教室を目指す。

 因みに僕がクラスに顔を出すのは、午前だけだ。午後は上手い具合に風紀の腕章で誤魔化して応接室で過ごしている。別に教室に居たって構わないんだけど、兄さんが少し幼くなった様な僕の顔じゃ、風紀の存在を徐々に理解してきているクラスメイトには気になるものがあるらしい。毎回見世物とされるこっちとしちゃ、全員を解剖したい位だ。

 

 傍から見れば無表情で、兄さんから見れば不機嫌な表情で僕は教室に着いた。

 どうやら今は挨拶の途中らしいが、そんな事僕には関係ない。そのまま扉を開け放った。

 

 

「!?ヒッ、──ぁ、ああ、雲雀裕弥か…」

 

 

 見ろ。教師がそもそも怯えるからクラスメイトが不安になって僕を凝視してくるんだ。

 全無視して僕の鞄を取りに行く。プリントなんかは机に置いてあるから確認して鞄に入れていく。

 準備はし終わった。そのまま教室から出ようとした所で、またあの教師に呼び止められる。

 

 

「っ、雲雀裕弥!」

 

「──なにか?」

 

 

 フルネームにイライラしながら教師を横目で見る。

 

 

「その、…風紀の仕事で忙しいのは分かるんだがな?そろそろ体育祭も間近だし皆と団結してだな…」

 

「何を言いたいのか非常に分かりませんが。僕は風紀委員として裏方を務める事となっています」

 

 

 はっきりと告げれば教師は沈んだ。

 何を言い出すかと思えば本当に今更な事だった。僕を見る度に勇気なんて物を出してくる教師の居るクラスに、僕がいつまでも下手に出ると思ってるのか。

 まぁ最初の一ヶ月でそんなもの止めたけど。

 

 

「そ、そうか…、いつもご苦労様…」

 

「どうも」

 

 

 というか教師が何故か泣いてからクラスの雰囲気が和やかになったのはどうしてだろう。

 まぁ関係ないなと踵を返し、僕は教室から去った。

 

 

 

 

──…下校途中、僕はチンピラ共に遭遇した。

 

 

「よぉ、風紀委員長さんよぉ〜?」

 

「てめぇ良くもオレ等の仲間病院送りにしてくれやがったなぁ?」

 

「落とし前キッチリつけてもらおうかぁ〜!?」

 

 

 相手は三人。格好から見るに高校生。

 どうやら僕の事を兄さんと間違えてるらしい。

 僕はトンファーなんて装備してないし、学ランだってボタン一つ…まぁ一つは開けてるけどきちんと着てるし。よく見れば似てるだけで違う事は分かるはずなのに、こいつ等は相当なおつむの持ち主だ。

 

 

「──僕、能無しも脳無しも嫌いなんだよね」

 

「あ゛ぁ゛?!」

 

「僕にくれる情報。あるの?って言ってんの」

 

「はぁ〜?何言ってんだこいつ」

 

 

 本当、話の通じない猿はこれだから。

 冷めきった瞳をチンピラ共に向けながら、嵌めていた黒い手袋を外す。そして、その手をくいっと曲げて、舐め腐った態度で挑発してやった。

 

 

「来なよ。“ガラクタ”」

 

 

 思った通りに“ガラクタ”共は顔を真っ赤に染め上げ、単調な動きで特攻してきた。

 三人だからと高を括っているのが丸見えだ。

 全く兄さんてば、確かに潰せば何でもいいんだろうけど、少しは賢い奴に喧嘩吹っ掛ければ良いのに。僕がただただ迷惑被るだけじゃない。

 溜息を吐きながら特攻してくる奴等をひらりと躱し、死角から鳩尾目掛けて拳をめり込ませた。

 角度に気を付けて殴ったから、一人二人と三人諸共吹っ飛び、壁に亀裂を作って倒れ込んだ。

 

 

「…軽いか重い、攻撃として有利なのは重いでしょ?こんなナリしてるけど頑張って鍛えてはいるんだよね。毎日毎日重りを増やしては、慣れるまで本当ダルいワケ。それでも“ガラクタ”なんか相手にする場合、軽く吹っ飛ぶのを見ると清々しくなっちゃって。実は兄さんの気持ちも少し分かるんだよね」

 

 

 聞いてないだろうけど、と手袋を嵌め直す。

 この手袋は5kgの重い素材で作られていて、勿論特注品だ。制服には上半身15kg。下半身15kg。靴に5kg。鞄に15kgの重りを仕込んでる。

 武器を持たない主義としては喧嘩じゃ素手で戦うしかないし、だからといって未だ成長中の身体に間違った鍛え方をさせる訳にもいかない。だけど頭脳戦を得意とする僕には体力は必要だし、突っ掛かってくる“ガラクタ”相手には早々にケリをつけたいし。どうするかと悩んだ時、ピコンと浮かんだんだ。

 

 

《重り仕込んで過ごせばいいんじゃね?》

 

 

 お蔭で体力も着いたし、動きも素早くなった。喧嘩する度に一撃一撃が重くなり、筋肉も発達した。

 

 あの閃きは自画自賛出来るものだと確信したね。

 置いていた鞄を拾って、幾らかストレス発散出来た事に上機嫌になりながら僕は家に帰っていった。

 

 

 

 





重りって体にかなり負荷が掛かるみたいですね。
書き直せないので、ちょっと軽く重量修正しときました。
……いやこれでもやべぇ重量背負ってますよね。まぁ、雲雀さんの弟だからって私も納得するので納得してください。


感想・評価あると助かります。ではでは!


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体育祭


日常編これしか書いてないんですけど、許してちょ。
思ったけど、ここで何気オリ主顔出てますよね。

……ツナ達ってなにを見てたんだろう…?



 

 今日は待ちに待った体育祭。

 …でもなく、僕等風紀委員会にとってはただただ忙しいだけのイベント日だ。青春なんてそんなもの、なんて言う奴は実際青春すら味わった事の無い中年親父の台詞だと考えられる。抗うだけ無駄なのにね、年長者の意地なんて捨ててしまえ。

 因みに現在の居場所は、並中の屋上。

 一応僕の役目はとっくに終わらせたから、同じく仕事を片付けた兄さんと体育祭の様子を見学している所だ。

 

 

「裕弥、あの馬鹿騒ぎ何とかしてきてくれない?」

 

「嫌だよ。今年の棒倒しを最終的に許可したのは兄さんでしょ。僕に押し付けないで」

 

「あの煩い口を黙らせるには仕方なかったでしょ」

 

「その結果更に酷くなったんだけどね」

 

 

 二人して物騒な空気を醸し出しているのは、今年の目玉、棒倒しによる生徒達の異常な盛り上がりのせいだった。凄まじい気合いの入れように若干引きつつ、その騒音について話し合っていたのだ。

 

 

「A組をB、C組で潰す道理ってなんなわけ?」

 

「さぁね。大将に恨みを持ってたか、宣戦布告でもしたんでしょ。それより──」

 

 

 兄さんの目がかなりヤバめだ。

 まぁ、体育祭なだけあってその群れ様は僕から見ても鬱陶しいからね。兄さんには我慢ならなかったんだろう。

 

 

「群れ過ぎ。噛み殺されたいの」

 

「無理な相談ってモノだよ兄さん。人が集まらない体育祭なんて開催する意味ないからね」

 

 

 理解はしてるらしいけど、どうやら兄さんの許容範囲は越えてしまったらしい。

 バッ!と飛び降りると、棒倒しに乱入しだした。

 

 

「あーあ。兄さんの独擅場になっちゃってる」

 

 

 至る所から悲鳴が響くこれは、まさにカオス。

 僕には関係ない…と言えるはずもなく、この後始末は風紀委員会がする事になるんだろうなと半目になった。兄さんは暴れながらも確実に楽しみだしてるし、もう僕にはどうする事も出来ないよ。

 

 

「…そもそもどうするつもりも無いけど」

 

 

 兄さんを止めてくれと役員から要請が来るまで、暫くグラウンド上の阿鼻叫喚を眺めていた。

 

 

 

「なかなか噛みごたえのあった一日だったよ」

 

「嫌味言ってる?僕には散々な一日だったよ」

 

 

 並盛街の見回りを兄さんとしながら、僕は肩を竦めて幾らか上機嫌の兄さんにジト目を向けていた。

 知ってる?この人僕が止めようとした時まさかの僕にまでトンファーを振り翳してきたんだよ?咄嗟に近くにあった棒で応戦して受け流したけど、かなり冷や汗モノだった。そのすぐに僕だって気づいてくれたお蔭で何とか収まったんだけど。

 

 

「暴れるなら僕の居ない時に…いや、やっぱり僕の居る時だけにしてくれる?理不尽はもう結構だ」

 

「却下。僕は僕のやりたい様にやるだけだ」

 

「これだから何様僕様風紀委員長様は…」

 

「喧嘩売ってるの、裕弥?」

 

「喧嘩っていうか巻き添えは喰らったんだけど」

 

「いつもの事でしょ」

 

 

 この兄は…。

 平然と言ってくれるけど、その後始末にどれだけ僕が駆り出されてると思ってるのか。

 僕は密かに何らかの仕返しをする事を誓った。

 

 

「そうだ裕弥、帰ったら付き合って」

 

「…嫌だよ」

 

「何?文句でもあるの?」

 

「…いつも特訓だって言う割に本気で掛かってくるのはどちら様?神経削れるから控えたいんだけど」

 

「実戦で使えない特訓はただのお遊びでしょ。裕弥のメンタルを強固にする為にも必要な事なの」

 

「はいはい、毎度有難う御座います」

 

 

 兄さんがジト目で見てくるのをさらりと躱して、見つけたチンピラ共を蹴散らす。

 帰ったら兄さんの嫌いな料理でも揃えるか、と仕返しの内容を考えつつ、中学最初のイベント日は終わった。

 

 





はい、次回から黒曜編です。
雲雀さんだって原作そんな顔出してないんだから、オリ主がこんぐらいでも仕方ないよね。え?閑話?なにそれ…?? 

ある程度オリ主の性格把握出来ましたか?
兄弟仲は悪くは無いですよ。良くもないだけで。

ではでは!


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黒曜編
黒曜編突入


 

「どうも。はい、…失礼します」

 

「また病院から?」

 

 

 そう、と頷き携帯を閉じて溜息を吐いた。

 

 最近並盛生徒が襲われる事件が多発している。

 大抵は重症で、何故か歯が抜けているのだ。それも全部だったり数本だったりと。並盛病院に搬送される度に此方に連絡が来る様にさせているのだが、風紀委員だけじゃない一般生徒までも狙った犯行となると、流石に絞れずに僕も兄さんもピリピリとしていた。

 眉間に皺を寄せたまま兄さんは報告書を読む。

 

 

「不愉快だ。完璧に遊んでる」

 

 

 絶対に咬み殺すオーラが出てる兄さんには同感するけど僕はこれを仕組んだ奴が非常に気になってた。

 

 

「この歯の数。絶対に意味を込めてる気がするんだよね。相対して襲われてる被害者の抜き取られている歯の本数も少なくなっている訳だし」

 

 

 もしかしたら何かの数字、それも順番かもしれない。

 始めの被害者の歯が全部抜き取られている事から、彼等は何かの順位外、ランク外の可能性が高いと推測出来る。確定は出来ないけど、僕や兄さんも狙われる事も有り得る事態だ。無視出来ない。

 僕は思考を巡らせ出来うる限りの情報を兄さんに流す。そうすればきっと、兄さんは動けるはず。

 

 

「…犯人は、並盛には居ないんじゃない?今時になって並盛に住んでいる奴等が兄さんに楯突く方が可笑しいからね。しかも並盛生ばかり狙ってるって事は並盛中に何かの目的を持ってる奴かもしれない。もしかして、相手はその目的にきちんと目星を付けてないんじゃないの?だから予め、狙うターゲットの何かを決めて順番に襲っている…最新の被害者の歯は6本抜き取られていたよね?ならもし後数名でその目的を達成出来るとしたら──残り六人、相手は襲って来るはず。

…でもそれは取り敢えず置いておくよ。犯人の元にさえ行けば済む筈なんだから」

 

 

 僕は犯人の特徴を、頭に構築し、完成させる。

 

 

「恐らく実行犯とは別の黒幕が居る。実行犯はソイツにかなり従順だと思うね。ご丁寧に歯を抜くのは実行犯の趣味だろうけど、それはターゲットにヒントを与える為。残念ながら実行犯にそんな頭は持ち合わせてないから黒幕の命令だ。

その黒幕は、黒曜中の生徒、しかも最近転校してきたばかりの人間だ。なんで黒曜中かと言うと、そもそも近い中学校として黒曜中か緑中の二つが挙げられる。

けど緑中は規律正しいと有名だからね、喧嘩とは無縁だからそもそも論外。黒曜中は物騒な不良の溜まり場だ。可能性が高いのは此処。けど既に在住している黒曜生が並盛に突っ掛かってくる可能性はゼロに等しい。なんせ兄さんの存在をきちんと理解してるから。じゃあ誰かとなると……

……最近時期外れな転校生が三人入学したらしいんだよね。そして、彼等は瞬く間に黒曜中の頂点に立った。

彼等なら兄さんの存在は噂程度だろうし、喧嘩を吹っ掛ける動機は幾らでも出来る筈なんだ。それに調べてみたんだけど、──彼等には全く情報がなかった。可笑しいでしょ?ただの一般人の、家庭の事情すら出てこないなんて」

 

 

 僕は兄さんに、彼等の居場所をメモした紙を渡した。

 兄さんは受け取り、その内容を読み取る。

 

 

「当たってると良いんだけど。因みに、別に兄さんの邪魔はするつもりないけど僕も後から行くから」

 

「──理由は聞いてあげる」

 

 

ギラギラとした目付きに、僕は微笑んだ。

 

 

「駄目だとは言わせない。僕だってウズウズしてるんだ。漸く遊び相手が見つかりそうなのにいっつも兄さんに取られちゃうから必死に押し殺してるんだよ?大丈夫、見るだけだから。横取りは、しない」

 

 

僕の瞳に隠された爛々とした光に、兄さんは小さく目を見開かせて、はぁ、と息を吐いた。

 

 

「…なんで後からなの?」

 

「役員達が入院している間の書類を纏めてから病院に持ってくからだよ。入院してるから仕事が出来ないってのは風紀には通じないからね」

 

「そう。確かにそんな言い訳は僕には通じないね」

 

 

 兄さんが薄く笑い、僕も目を細め笑う。

 無事に兄さんの許しが出た事で、僕の内心はかなり昂っていた。だって久し振りなんだ。

 “ガラクタ”とは違う、ちゃんとした相手が現れるなんて。

 

 

(あぁ、違った。別に僕と争うんじゃなかった)

 

 

 あくまで兄さんが倒す。

 ──けれどそこに、僕が引く理由なんて、存在してないよね?

 

 

「それじゃあ兄さん、気をつけてね。もしかしたら常識が通用しない相手かもしれないからさ」

 

「裕弥が来る前に終わらせてくるよ。けど、手加減はしないから、裕弥はガッカリするかもね」

 

「兄さんの好きな様にしてよ。でも一応喋れる形には残して欲しいなぁ」

 

「覚えてたらね」

 

 

 トンファーをしっかり確認した後、兄さんはひらりと手を振り応接室から出て行った。

 

 

「やだなぁ。僕の意図には気付かなくて良いのに」

 

 

バレちゃった、と苦笑して、僕は早速病院に連絡して、書類を纏め抱えてから応接室を後にした。

 

 

 

 





兄は戦闘狂。弟は頭脳狂。
なかなかよい立ち位置でしょう?…そうでもない?

この話長ゼリフ多いので、興味ある方はじっくり読んでいただければなと思います。ではでは!


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主人公一行

 病院に着き、風紀委員の病室を訪ね各々の仕事を渡し終わった後に、僕はすぐにでも黒曜センター…黒幕のアジトに向かおうとして、ふと足を止めた。

 

 

(アレは…確か兄さんが目をつけてる奴がいる馬鹿集団、じゃなかった。沢田綱吉一行か)

 

 

 何故か力んでいる様子の沢田綱吉に、不良児獄寺隼人、野球部山本武、その他色々がなんか言ってる。

 当然僕には関係のない奴等だけど、そういえば、とある時面白そうに話した兄さんの言葉を思い出す。

 

 

《彼等って大抵厄介事の渦中に居るよね》

 

 

 もしかして、と僕は奴等に近付き声を掛けた。

 

 

「ねぇ。そこで何してるの」

 

「!!、ぇっ!?雲雀さん!?」

 

「なんで野郎がこんな所に…!!」

 

「ん?雲雀…?」

 

 

 あ、これは兄さんと出会ったな。

 恐らく僕と話した後に会って…彼等は3年の笹川了平と仲が良い筈だから、ソレが病院送りにされた事でも兄さんから教えられて此処に揃ってるって感じか。

 結構気に掛けてる存在に兄さんって甘いよね。

 まぁそんな事は置いといて、僕は淡々と教える。

 

 

「残念だけど、兄さんじゃないよ。僕は君達と同じ学年の雲雀裕弥。それで、何してるの?」

 

「うぇっ!?雲雀さんじゃない!?でも雲雀って…ま、待って、もしかして、弟さんとか…?」

 

 

 のろのろと…こういうの嫌いな人種だ。

 

 

「兄さんって言ってる時点で気付くべきでしょ。そもそも格好からして違う点なんて幾つも解る事なのにいちいち指摘されても迷惑。それで。僕は何してるのって聞いてるんだけどいい加減答えてくれる」

 

「ッはっはいぃいいっ!!」

 

「長い」

 

「っあ、ご、ごめ」

 

「そんなの要らない。わざとやってるの?」

 

「ぁあ、ぃやっ、」

 

「要点」

 

「うっ」

 

 

 駄目だ、僕には全く理解出来ない。

 兄さんはこういうのを小動物なんて例えるけど、僕にはただのガラクタにしか見えない。まぁ、兄さんと僕の観点は違うから比べるのもあれだけど。

 それでももはや興味も失くしたモノに改めて情報を得たいとは思えず、僕はオロオロとする沢田綱吉をただ冷めた瞳で見つめていた。

 すると案の定不良児獄寺隼人が突っ掛かってくる。

 

「おいテメェ!10代目に何突っ掛かってきてんだ!テメェ等は兄弟揃って嫌味しか言えねぇのか!」

 

「ご、獄寺君!良いって!その、あんまり…」

 

「いいえ10代目!こんなヤツ俺にはなんてこと無いっすよ!!今すぐぶちのめして──」

 

 

 僕はその言葉に殺気を放った。

 

 

「ぶちのめす?──この僕を?」

 

「「「「!!!!」」」」

 

 

 固まる“ガラクタ”共に、僕は無表情のまま目を細めて、グッと拳を握った手を見せる。

 

 

「きゃんきゃん吠える事しか能がない忠犬は黙ってくれる?僕に、その安いプライドで勝てるとでも思ってるの?兄さんにさえ軽く沈んだガラクタ風情が僕に何か言う権限はないよ。僕は言った、何してるのかを。ガラクタはただ素直に僕の言葉に返事すればいいの。それとも、まだ僕に何か言えるほど、ガラクタは意志を保っているわけ?」

 

 

 解剖された物体は、いずれ物言わぬガラクタとなる。そのガラクタは新たに組み立ててもらわないと可動する事も出来ずに、そのまま沈黙を貫くだけ。

 でも可哀想とも思わない。だってそれは価値なんか無くて、元あった存在さえ壊された、無意味なモノだから。例え必要だと言われてもそれは、使い捨ての材料に、又は寄り集めの物に使われるだけ。

 

 “ガラクタ”は、拾われなければただの“屑”だ。

 

 ガラクタ…駄犬は言葉一つ出せないらしく、仕方が無いから僕は殺気を仕舞い、拳を降ろした。

 

 

「君等のせいで大幅に時間が遅れたよ。もう適当でもいいからさ、答えて。そこで何してるの?」

 

「っこ、黒曜ランドに行くかを話してたんだ…!」

 

「──さっさと言ってよソレを」

 

 

 本当に無駄な時間を過ごした。

 僕は心底疲れたと肩を竦めて、投げやりで伝える。

 

 

「そこ、僕も行く予定なんだよね」

 

「え!?ど、どうして?」

 

「並盛生襲撃事件の犯人の居所だと推測してるから。確定はしてないけどほぼ確信に近い。僕は風紀委員として向かうつもりだけど、君等はなんで?」

 

 

 これは素朴な疑問。本当はかなり推測は出来てるんだけど、一応本人達から聞いておかないとね。

 

 

「あ、あーと…、待ってる人が居るから、かな?」

 

「待ち人?黒曜ランドは既に廃墟と化している所なのに、君等ってだいぶ物好きなんだね」

 

「えーと、あははは…」

 

 

 褒めてないんだけど。

 まぁ、本音を教える気が無いのは十分に承知した訳だし、そろそろ兄さんの後を追わないと。

 

 

「そ。僕には関係ないけど、もう兄さんが暴れてる頃だから来るなら注意しなよ。僕は先に行くから」

 

「!あ、待って!」

 

「なに」

 

 

 迷惑オーラ全開にして振り返ると、沢田綱吉はビクビクしながら困り顔で恐る恐る僕に告げる。

 

 

「あの、良かったら俺達と行かない…ですか?」

 

「…なんで?後何その口調。変な敬語使わないで」

 

「ご、ごめん。…その、ほら!どうせ同じ場所に行くなら、頼りになりそうな雲雀、君に居て貰った方が俺としては心強いかなぁ〜…って…」

 

 

 段々萎んでいく言葉に僕はじっと見詰める。

 …嘘って訳では無い。けど本音でもない、か。

 僕からしたらツッコミ所はあり過ぎるんだけど、何より一番言いたい事は、

 

 

「一応これが初会話なのに、図々しいよね君って」

 

「うっ」

 

 

 彼って一応、此奴等の中でのリーダーになってるんじゃないの?存在が小さ過ぎるでしょ。

 

 

「そもそも、なんで僕が頼りになる存在にならないといけないの?僕は一人で充分だよ。兄さんの様子だって見ないといけないのに君等と更にちんたらしてたら日が暮れるじゃない。それに、見るからに頭の悪そうな奴と居ると僕にまで影響してきそうで我慢ならない。

──まさかソレを狙ってるわけ?」

 

 

 獄寺隼人の事を安直に指せば、沢田綱吉は青ざめ、慌てて首が取れそうなくらいにブンブン振った。

 

 

「とっとんでもない!!引き留めてごめん!」

 

「本当にね。僕はもう行くから」

 

「あっ、うん!」

 

 

 くるりと身を翻して、僕はやっと彼等から離れる事が出来た。話が長くなったのは僕のせいでもあるけど、安易に彼等が馬鹿だったのが痛い。深く溜息をつきながら、もういいか、とチラリと彼等──の近くに居た赤ん坊を覗き見た。

 

 

(わぁ、ガッツリ目が合っちゃった)

 

 

 さっさと視線を外せば、赤ん坊がニヤリと笑った気がした。それに自然と口許が引き攣る。

 …あー、流石は兄さんが認めただけあるよ、あの赤ん坊。全く隙がないし、何より僕の心を読もうとしてた。それを防ぐのがあまりに面倒だったから、お陰で余計に沢田綱吉への当たりが強くなってしまったけど。

 まぁ、途中ムッとしてたから恐らく読心術は使えなかったんだろうね。我慢は報われた。

 何故かワイルドな赤ん坊が何気なく彼等の輪に居た時、僕は兄さんの獲物にちょっかいを掛けるなとは言われてないから反応しても良かったんだけど…何だか厄介事に巻き込まれそうな予感がしたから、話し掛ける事も殺気をぶつける事も僕はしてない。

 

 

(それに、兄さんの方が僕よりも強いからね。きっとあの赤ん坊は、僕に切り替えることは、ない)

 

 

取り敢えず、彼等に先を越されない様に、兄さんに黒幕を倒されない様に、僕は早足を意識した。

 

 

 

 




なんだコイツ。と思ったそこのあなた。
私も現実に居たら絶対に関わりたくないと思いますね。

綱吉視点を入れるととても長いので、次回に回します。
ではでは!



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沢田綱吉視点

綱吉 side

 

 

 雲雀さんに教えられて、急いでお兄さんの容態を確かめに並盛病院に向かえば、意外にもお兄さんは元気そうで安心した。あの時京子ちゃんも来ていたからどう思うかヒヤヒヤしたんだけど、何だか勘違いしていたみたいで、だけど少しホッとしたっけ。

 

 並盛生襲撃事件。

 リボーンがこれは俺を狙って起きた騒動だと言うから、雲雀さんが怒っていた様子を思い出してかなり青ざめた。

 すると、実は病院に来る前に襲われていた獄寺君の詳しい話によれば、実行犯は“六道骸”の命令によって動いてたらしく、襲われていた被害者も俺を見つける為、フゥ太の並盛の喧嘩ランキングを素に襲撃されていたらしい。

 …そういえばフゥ太、俺の家で別れてから姿を見てないけど、今はどうしてるんだろう。大丈夫かな?

 

 その後六道骸の居場所を、何となくだけど黒曜ランドだって思い付いてから行く事を決断しようと皆に話してた時、何処かに行った筈の雲雀さんが現れた。

 思わず情けない声を上げてしまったけど、実は雲雀さんの弟で、まさかの俺達の同級生だった。

 

 

(パッと見、本当に雲雀さんにそっくりだから、間違えちゃったんだよね…)

 

 

 確かによく見れば学ランはきちんと着こなしてるし、顔も雲雀さんより幼い感じだし…けど、やっぱり性格とか口調は雲雀さんみたいで、同い歳とは思えないくらい達観?大人っぽい?から、ついつい恐縮しちゃってあたふたしたら、無表情なのにキツい喝で急かされて、もう泣きそうだった。

 

 そんな時、やっぱり獄寺君がキレちゃって、よりにもよって挑発する様な言葉を言っちゃって…──次の瞬間、俺は息が出来なくなった様な感覚を覚えて、ただただ固まることしか出来なかった。

 

 

「きゃんきゃん吠える事しか能がない忠犬は黙ってくれる?僕に、その安いプライドで勝てるとでも思ってるの?兄さんにさえ軽く沈んだガラクタ風情が僕に何か言う権限はないよ。僕は言った、何してるのかを。ガラクタはただ素直に僕の言葉に返事すればいいの。それとも、まだ僕に何か言えるほど、ガラクタは意志を保っているわけ?」

 

 

 その台詞に。俺が言われた訳じゃないのに、俺は本当にちっぽけな、孤立した“ガラクタ”の様な存在だと突きつけられた感じがして、酷く寂しくなった。

 これは恐れじゃない。怯えでもない。

 

 …寂しいんだ。何でそう思ったのかは分からない。

 けど、直感的に、そんな想いを抱いた。

 

 

(それ程に“ガラクタ”という単語が、何処か気になってしょうがない)

 

 

 深く考える前にその殺気は消えて、雲雀君は疲れた雰囲気でもう一度問い掛けてきてくれた。

 ハッとなって、今度こそは要点だけを伝えると、一瞬驚いてすぐにイラッとした雰囲気を醸し出した。

 

 

(一見、雲雀君って無表情だけど、その雰囲気は凄く表情豊かなんだって事に、その時気付いたんだ)

 

 

 まさか雲雀君も黒曜ランドに赴く用事があったなんて。

 しかもそれが、俺達と同じで六道骸を確かめる為だって言われたから、元凶である俺はドキリとしてしまった。

 確かに風紀委員として…いや、雲雀君達にとっては当然な事なんだろうけど、だけど幾ら何でも危険すぎる!ていうか雲雀さんはとっくに行ってるとか行動力ヤバすぎるだろ!

 行こうとする雲雀君を、俺は結構普通めに引き留めたんだけど、やっぱりというか見事に跳ね返されてしまった。

 

 

(一匹狼っていうより、雲雀君はただ、雲雀さんに合わせているだけなのかなって、少し思ったんだよね)

 

 

 獄寺君が未だに黙って…静かにしてくれていたお蔭でこれ以上の怒りを雲雀君から買う事はなくて安心した。

 あの時の怒り様はかなり怖かったから慌てて否定したけど、結果として雲雀君を引き留める事は出来なかった。

 俺って本当、情けないよなぁ…。

 

 雲雀君との干渉に暫く思考を浸らせてたら、お尻に大きな衝撃がぶつかって、俺は地面と衝突した。

 

 

「おいダメツナ、何ボケーっとしてやがる」

 

「ってぇッ!?おいリボーン!一々暴力に訴えるなよ!!ちょっと考え事してたの!!」

 

「それは雲雀裕弥の事か」

 

「!まっ、また勝手に人の心読んだな!?」

 

「ちげぇ。バカツナの顔に書いてあんだ」

 

 

 お尻を摩ってリボーンに詰め寄る俺に、リボーンは更に頭にチョップを加えてきて、俺は悶絶した。

 

 

「〜〜ッくぅ…!っおい、まさか雲雀君を変な事に巻き込むとか言わないだろうな!?」

 

 

ハッとなって噛みつけば、リボーンは思い出した様に、二ィ、と不敵に笑った。

 

 

「アイツ、俺の読心術が使えなかったな」

 

「!本当!?雲雀君ってやっぱり凄いっだぁッ!」

 

「何喜んでんだアホツナ」

 

 

 またもや理不尽な暴力に涙目になる。

 俺はタンコブが出来てないか確認しながら、何も言わなくなったリボーンに首を傾げる。

 

 

「どうしたんだよリボーン?」

 

「…アイツはファミリーには入れねぇ」

 

「?アイツって…雲雀君の事?」

 

「ああ」

 

 珍しい…。

 会う人物には揃ってファミリーに入れって言う癖に。

 でも、そういえば雲雀君と話してる時、一回も割り込んでこなかったな。それを思うと……そうだ、雲雀君もリボーンに全く反応してなかった。それも可笑しいよね、だってこんなにヘンテコな赤ん坊が普通に俺達と居たんだから。

 

 

「あてっ!」

 

「誰がヘンテコだトゲツナ」

 

「と、トゲって…というか今度は心読んだろ!?」

 

「オレの第六感が働いた」

 

「嘘つけっ!!」

 

 

 変な躱し方すんなよとツッコミながら、俺はリボーンに、何故雲雀君は入れないのかを尋ねる。

 

 

「別に入れろとは全くもって思わないけど、なんで雲雀君は入れないんだよ?」

 

「雲雀恭弥が居るからな」

 

 

 ちょっと何言ってるか分からない。

 

 

「……なんで雲雀さんは入ってる事になってんだよ!!なんでそれで雲雀君は入れないんだよ!?」

 

 

 俺の疑問に、リボーンは淡々と答えた。

 

 

「──雲雀恭弥の方が強い。守護者としても、アイツは完璧な雲だ。他者を寄せ付けず、立場を関係なく行動する事が出来る。…対して雲雀裕弥は、弱くはないが雲雀恭弥には劣る。そして、守護者としてアイツは雲には届かない。他者を寄せ付けないわけじゃなく、ただ寄せ付けたい相手が居ないだけだ。アイツの行動基準は第一に雲雀恭弥を重んじるところがある。お前がボスである為には、雲雀裕弥を引き受ける訳にはいかねぇんだ。雲雀恭弥であれば強者を条件に命令を下す事は可能だ。だが雲雀裕弥にはそういったモノが何であるか以上、命令する事も出来ない。アイツは完全に、己の存在を理解してる。よってファミリーには入れねぇ。

ただ一つ懸念点があるとしたなら、雲雀裕弥を他のファミリーに取られる事だ。アイツは非常に厄介な相手に成り得る」

 

 

 長々とした説明に、俺は何となく納得した上で、ざっと呟いてみる。

 

 

「えーと…つまり、雲雀君は、リボーンにとって得体の知れない相手だから入れられない、と」

 

「誰が怖がってるだダメツナ!」

 

「ぐへぇッ!?い、言ってないよそんなこと!!」

 

 

 なにその解釈の仕方!?

 腹のダメージを摩って中和させつつ、取り敢えず雲雀君を巻き込まなくて良かった〜と安心した。

 するとさっきまで家で準備をしていた山本達が、首を傾げながら戻ってきていた。

 

 

「10代目!只今戻りました!」

 

「ツナ!さっきから何してんだ?」

 

「山本、獄寺君!いや、いつもの事だから気にしないで…、その、準備は出来たの?」

 

「ん、おう!一応な」

 

 

 山本の背には細長い鞄があり、何かと疑問に思うが、山本の早く行こうぜ!の言葉に頷いた。

 

 

「獄寺君もいい?」

 

「はい!…でも、その…」

 

 

 何やら言い淀む獄寺君は、しきりに隣を気にしていて、見れば隣にゴーグルを掛けた女性が…って、

 

 

「ビ、ビアンキ!?なんで、ていうか、え!?」

 

「──居ちゃいけないの?」

 

「滅相も御座いません!!」

 

 

 ボイズンクッキングを交渉に持ち出すのは狡いと思う…。

 獄寺君が申し訳なさそうに謝ってくるのを苦笑で流すと、リボーンが何でもなく告げる。

 

 

「ビアンキは立派な戦力だゾ」

 

「ってお前が呼んだのか!!」

 

「──何か問題でもあるの?」

 

「いやホント来てくれて助かります!!」

 

「本当スイマセン10代目ッ!!」

 

 

 いや、もう…仕方ないよ。

 遠目で乾いた笑いを響かせた後、一旦息を吐く。

 そして、改めて気合いを入れ直した。

 

 

「よし!行こう!黒曜ランドへ!!」

 

 

 ──きっとあの二人なら大丈夫だ。

 

 先に行ってしまった雲雀君や雲雀さんの無事を祈りつつ、俺は漸く道を進みだした。

 

 

 

 




いや綱吉、黒曜ランドの直感ほわほわしすぎ。
代わりに主人公への直感働きすぎ。
いやぁ、ご都合展開って凄いですよねえ。

オリ主の「ガラクタ」への想いとは? 
そんなものキャラ紹介じゃないと明らかになりません。

感想・評価・ツッコミあると私、飛びます。
ではでは!


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僕と兄さん

 

 黒曜センターはやはりというか、荒れ放題だった。

 こんな所を根城とするなんて僕には理解出来ないけど、確かに隠れ蓑としては有効かもしれない。

 

 

「それにしても…偉く静かだ」

 

 

 もう戦闘は終わったのか。

 はたまた、兄さんが敗れたのか。

 どっちにしろ、兄さんを回収する迄は気が抜けないと溜息を吐いて、施設内を進み出す。

 

 左右に視線を流しながら、慎重に、けれど敵に普通に存在を知らしめる風に歩いた。戦うのは面倒だけど、だからといって僕が隠れる必要なんてないものね。それに、敵が居ればソイツを通して兄さんの場所に辿り着けるし、一石二鳥だと考えられる。

 

 

「…とは思ったけど」

 

「こんにちわ、お兄さん」

 

 

 子供だとは思わなかった。

 恐らく低学年の小学生辺りの男児。

 この場に合わない笑顔を浮かべているけれど、その瞳は光が無く、通常通りでは無い事が簡単に把握出来た。

 僕は淡々と目の前の子供に言葉を突き付けた。

 

 

「君、名前と此処に居る理由を簡潔に述べて。あと、君が敵対するなら僕は容赦しないけど」

 

「…子供にでも普通に手を上げるの?」

 

「子供以前に、僕は誰に対しても頭脳で決めるからね。脳が無い者は利用されるだけの価値しかないんだよ。君が僕の前に現れたのは、そんな上司の命令か、それともただ迷い込んだだけか。どっち?」

 

 

 子供は口を噤むが、そのまま俯くと呟く。

 

 

「…呼んで来なさいって」

 

「そう。上司の命令か。君も難儀だね」

 

「何で僕が従ってるって分かったの?」

 

「少なくとも此処は危険だと見れば分かるのに、君は平然と現れた。こんな所を遊び場にしてる風ではないし、君って常識は携えてる性格でしょ?それに、その瞳を見れば何かしらの理由があると考えるのは当然だ。──というか、君が従っていようが迷子だろうが、僕には関係ないんだけどね。理由がなければ早々に立ち去って放置してたよ」

 

 

 子供は淡々と告げる僕にぱちぱちと目を瞬かせて、悲しそうに眉を下げて見せた。

 

 

「流石は並盛一の頭脳の持ち主で、並盛一の効率主義者でもある雲雀裕弥さんだね」

 

「…なにその称号。というか僕の名前知ってるの」

 

「うん。僕は色んなランキング付けが出来てね、それで知ったんだ。雲雀裕弥さんの他のランキングでは、並盛中の喧嘩の強さランキング2位、家族を大事にしてる人ランキング4位、料理上手な人ランキング2位、怒らせると怖い人ランキング3位──」

 

「もういい。個人情報漏洩し過ぎてるのは解った」

 

 

 子供への評価が少しだけ変わると同時に、僕はこの度の事件には此奴が深く関わっていると認識した。

 

 

「つまり。君のその喧嘩ランキングのせいで、僕等が傍迷惑を被った、であってるよね?」

 

「…ごめんなさい」

 

「気にしてないと言えば嘘になるけど、どうせ大元を潰しに行くんだ。君には最初から興味無いよ」

 

 

 それより案内して欲しい、と唆せば、分かった、と頷き子供はくるりと後ろを向き、僕はその跡を着いていく。

 他に敵は居ないようだけど、もし子供が罠だとしたら面倒だから注意深く警戒はしておいた。

 

 

 

 ──そして、廃墟の中を進んでいくと、ある扉の前に辿り着く。子供が怯えた様に声を震わした。

 

 

「こ、此処だよ…」

 

「案内ご苦労さま。もう用は無いから離れなよ」

 

「う、うん……あの…」

 

「なに?」

 

 

 操られているとは思えない程に僕を心配するその表情に急かさずに待っていると、子供はまた俯いた。

 

 

「ううん…気を付けてね」

 

「言われなくてもそうする気だよ」

 

 

 子供の肩に手を軽く乗せた後、僕は扉を開け放った。子供は少し驚いた顔をしながら、そのまま背を向けて何処かに行ってしまう。気の所為か僅かに笑みを浮かべていたのは、彼の正気の部分なのか。

 

 扉を開けきって中に踏み入れると、そこには一人の男がソファーに優雅に座って待ち侘びていた。

 

 

「──ようこそ雲雀裕弥。彼を通して様子を窺っていましたが、やはり雲雀恭弥に似て無愛想ですね」

 

「開幕早々気色悪い事言わないでくれる?それに、僕は無愛想じゃなくてこれが素なだけだから」

 

 

 頭が南国果実の様で少し笑える。実際笑いはしないけど。

 というか、子供の名前教えて貰ってないけど、様子をどうやって窺っていたんだろうね。

 普通人間越しに人間を確認する事は出来ないのに。

 

 

「あんたに聞く事は山程あるけど、そう口を割らないでしょ?でも取り敢えず兄さんの居場所を吐いてくれると有難いんだけど、言い分としてはどう?」

 

「クフフ、そうですねぇ…雲雀恭弥なら──」

 

 

 ──彼処に。

 

 そう言って壁際に視線を向ける南国果実の後追いをして、僕もゆっくり其方を見つめた。

 

 そこには、血塗れになりながらもか細く息を吐き出す、最強の風紀委員長の姿があった。

 僕は軽く瞬いてから、静かに息を吐き出し、視線を戻す。

 

 

「…そう。敗れたの。ならもう少し待っててよ兄さん。此奴を限界まで弱らせてから渡すから、最期の一撃を当てるまで、死なない様に頑張ってね」

 

 

 僕の言葉に、南国果実は目を見開いた。

 

 

「…冷淡ですね。こんなにも重症だと言うのに、君は急ぐ事もましてや慌てる事もないと言う」

 

 

 その反応に小さな違和感を感じながら、逆に驚いたとばかりに反応を返した。

 

 

「まるでそうして欲しかったみたいな言葉だね。

…兄さんはきちんと僕の意図に気付いていながらもあんたと戦った。そして、敗れた。なら僕のする事は一つ。兄さんが復活する迄の間、持ち堪える事。あんなにも一方的に瀕死な姿は初めて見たけど、その分兄さんは、僕に情報をくれたのだから」

 

「ふむ、情報ですか?」

 

 

 不信な表情から一点、愉快気に歪ませた目元に僕は手袋を外しながら、答えてやった。

 

 

「一つ、兄さんが敗れる程に強力な手があんたにある事。一つ、あんたが並の人間じゃない事。一つ、あんたの目的が兄さんでは無い事。一つ、僕じゃせいぜいあんたの隠し玉を暴く事しか出来ない事」

 

 

 南国果実は僕にプライドがないという事に気付いた様だ。

 少しつまらなさそうに目を細めた。

 

 

「…安易に僕に負けると宣言していますが」

 

「僕は兄さんより弱いからね。あんたにとっては楽しめないだろうけど、付き合って貰うから」

 

「自分の実力を大いに知っている上での挑戦ですか。無謀にも聞こえますが、貴方の場合策力とも言える。…一つ聞きたいのですが、何故僕の目的が雲雀恭弥ではないと断言できたのでしょうか?」

 

 

 上着も脱ぎ、半分本気で迎え撃とうと構える僕は、病院内で出会った栗色の髪色をしている男を思い浮かべて、少しだけブルーになった。

 

 

「恐らく僕の考えているモノとあんたが探している目的は、一致してると思うんだよね。その点で言うけど、今、僕達は何をする関係だと思う?」

 

「…正に交じり合おうとしている関係ですかね」

 

「ファック。殺り合う関係性にあるのに僕があんたに教える義理は無いっていう事だよ。というか、あんたってちょくちょく気持ち悪いんだけど、それが素なら大分兄さんに嫌われてるでしょ」

 

「間違いなく嫌われているでしょうね。僕にはそんな事どうでもいいですが…貴方は違うんですか?」

 

 

 座ったまま動かない南国果実をじっと見据える。

 

 

「初対面の相手を判断する場合、僕は交わす言葉を重宝する。あんたは兄さんにとって邪魔な存在なんだろうけど、僕には特に害は起きてないし、会話も躓かない。マイナスの印象としては兄さんの敵だって所だけだけど、僕は頭が良い奴が好きなんだ。

この事件、本当はあんたと話したくて、兄さんが倒れるこの時を、待ち望んでいた位なんだから」

 

 

 薄く浮かべた微笑みに、南国果実は目を見開いて、面白そうにクスクス笑った。

 

 

「クフフ、貴方が雲雀恭弥の弟である事実を疑いますよ。雲雀裕弥、貴方のその性格は何とも不思議に思えます。外野に埋もれる人間では無い筈なのに、貴方は兄の影として見事に隠れてしまっている。裏の人間だとも疑いましたが、貴方の様な効率主義者は現れてもいなかった。

…雲雀裕弥、教えてくれませんか?本来ならば、雲雀恭弥とは別に居るべき貴方が、そうまでして彼の後を追う理由を」

 

 

 南国果実が意外にも僕の事を買っていたとは思わなかった。そして、そんな理由を聞きたがっている事も。

 僕は暫し沈黙してから、言葉を捻り出した。

 

 

「僕は、別に兄さんを真似してる訳じゃない。兄さんを追い掛けている訳じゃない。兄さんの後ろに隠れている訳じゃない。僕はただ…レールに乗っているだけ。兄さんを支えるルートを僕が補ってるだけ。兄さんの独走に着いていくとね、二着が案外悪くない事を知ったんだ。後出しだからこそ兄さんの全てを知る事が出来る。そして全てを知れば、兄さんに被る事も無く、僕自身を創り出す事が出来るんだ」

 

 

 ──雲雀裕弥。

 その道が生まれた原因は、兄さんだ。

 

 

 



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六道骸視点

 

骸 side

 

 

 僕は非常にこの男に興味を持っていた。

 並盛の秩序である最強と謳われる雲雀恭弥の実の弟であり、数多の噂が絶えない謎の人物でもあるこの男に。

 

 …実際に目にした時は驚きました。

 殆ど変わる事のない無表情。兄と違う義務的な淡々とした口調。己を押し付けない小さなプライド。好戦的ではないかと思えば拳スタイルの構えを見せる始末。

 

 兄とは正反対かと思えば似ている部分が有り過ぎるこの不思議な男に、僕は呑み込まれそうになった。

 

 

「つまり、貴方は雲雀恭弥ですら利用していると」

 

「利用なんて出来る訳ないじゃない。成り行きだよ。僕が兄さんと同じになってしまったら、困るのは僕だ。だからこそ兄さんに先頭を切って貰うわけ」

 

 

 淡々と喋る雲雀裕弥を見て、僕は笑む。

 …貴方は何処までも理屈を捏ね回す人間の様だ。

 

 

「ですが結果論として、貴方は雲雀恭弥を転がしてしまっている。貴方は貴方自身の望みを叶える為に、見事に言霊を使って雲雀恭弥を動かしていた。雲雀恭弥が此処に辿り着いた末に敗れる事は、分かっていたのでしょう?貴方の異常なまでの冷静さは、僕が普通では無い事を察していたからこそではないですか?

──雲雀裕弥。貴方は誰よりも自分の為だけに行動する人間だ。僕が、保証しましょう」

 

 

 立ち上がり、微笑みながら雲雀裕弥に近付いていく。

 彼は僅かに眉を顰めると、構えていた拳を降ろした。どうやら僕と戦う気は無くなったようだ。

 

 

「兄の代行はしなくても良いんですか?」

 

「…あんたに戦う気がないんだから仕方ないじゃない。それに、兄さんはまだ生きてるみたいだからね。僕はあんたとの会話に気を遣う事にするよ」

 

 

 雲雀恭弥が生きている。

 まさか、アレが雲雀恭弥の幻覚だと言う事に気付いたのか。僕は驚きながら、首を傾げて問うた。

 

 

「雲雀恭弥は虫の息ですよ?」

 

「そうみたいだね」

 

「放って置いても構わないと?」

 

「構わない。だって彼処に転がっているのは──完璧なまでに死にかけの風紀委員長でしかないから」

 

 

 違う?と首を傾げて見せる雲雀裕弥に、僕は今度こそわかり易く目を瞬かせて驚いた。

 

 

「…本当に貴方は…そのずば抜けた洞察力に愕然としますよ。えぇ、アレは幻術です。雲雀恭弥を模した幻覚。本物の雲雀恭弥は別の部屋に居ますよ」

 

 

そう言って雲雀恭弥の幻術を解くと、雲雀裕弥は何も無くなった空間に驚いた様に目を見開いた。

 

 

「幻覚…?意図的に相手に見せる事が可能なの?」

 

「僕は幻術師なのですよ。高度な幻術であればある程、現実味が増し泥沼の様に抜け出せなくなる。貴方には奇しくも通じませんでしたが。因みに、雲雀恭弥を倒した際にも幻覚を用いて瞬殺しましたよ」

 

「幻術師……」

 

 

 雲雀恭弥の事は無視ですか。

 …いや、納得した上で思考を置き換えてますね。それ程に、幻術という存在を知り得ていなかった様だ。裏社会に居そうな人物なのに、本当にただの一般人なのは驚きだ。

 

 

「話なら座ってしませんか?不思議だ、貴方となら分かり合えそうな気がします」

 

「否定はしない」

 

 

 雲雀恭弥を幼くした容姿だと言うのに、こうも人格が違うと馴れ合えるんですね。

 薄く笑いながら雲雀裕弥をソファーに座らせる。そして僕も隣に座ってから、ふいに思い出した。

 

 

「そういえば自己紹介をしていませんでした。僕は、六道骸と言います。因みにさっきの子供は、フゥ太。裏社会では有名な情報屋ですよ」

 

「情報屋、ね。確かに便利だよね、彼の能力。利用しているのは分かったけど、どうやったの?」

 

「質問に対して少し抵抗されたので、マインドコントロールで操っています。今は乗っ取ってはいないので、幾らか自我は残っていますね」

 

 

 人を操るという方法を軽く話していると言うのに、彼に感情の乱れはない。それどころか、僕の方法を当然だと受け止めている様だった。

 …末恐ろしいと感じる僕に、不信気に彼は見詰めてくる。

 

 

「ふぅん。少し?」

 

「クフフ。えぇ、少し」

 

 

 疑っているというか、まぁ嘘を吐いたと察しられた様だ。

 それ以上追及されずに、彼と会話を続ける。

 

 

「それで、特に争う理由も無くなった訳ですが…隠す必要もないですし僕の目的をお話しましょうか」

 

「正直言って興味ないんだけど。でもあんたがここまでの行動を起こす理由は知りたい」

 

 

 耳を傾けてくれる様子に微笑んだ。

 知り合って間もないと言うのに彼は身元不明な僕にかなりの好奇心を抱いてくれたようだ。恐らく、彼の性格や理想に、僕が当て嵌っているのだと思う。兄である雲雀恭弥が嫌う僕を、弟である雲雀裕弥は全面的に馴れ合いたいと近寄ってくる。もし雲雀裕弥が雲雀恭弥を真っ直ぐに見習っていたなら、僕は個人に目を向ける事すら無かったでしょうね。

 

 だから…そうですね。この男、雲雀裕弥にだけは、僕は少しだけ、本音で語る事にしたのです。

 

 

「──僕はこの世界において、何よりもどんなモノよりも、“マフィア”という存在を憎んでいます。己のファミリーの為ならば他は犠牲となっても厭わないという、何処までも執念深く卑しく欲深い冷酷な人間共が集う腐ったマフィアが、酷く醜く穢らわしい愚の塊にしか見え無い程に、黒く渦巻く強い憎悪が僕の中に根付いているんです。血みどろに染まった人生で、僕は誓いました。腐り落ちたマフィアの殲滅を。そして、マフィアによって穢れてしまった世界に終焉を。僕は、世界に争いの種を蒔くと決めたのです。

…その為の手段として、僕はある人物に狙いを定めました。雲雀裕弥、解りますか?」

 

 

 長い話にも雲雀裕弥は欠伸をする事も無く頷く。

 

 

「──沢田綱吉。…もう情報は入ってるの?」

 

「クフフ、部下のお蔭でね。実際に会った事はありませんが、沢田綱吉、彼は不幸にもボンゴレX世候補者として選ばれていたのですよ。悪気は全くありませんが、マフィア界において1、2を争うボンゴレファミリーの次期首領を乗っ取れば、簡単に世界を混沌に陥れる事が出来ると踏まえたのです。…貴方から見ればくだらなく思えるでしょう?僕の目的は、何処までも私的に計画したモノですから」

 

 

 微笑み、さてどう返してくるのかと思っていれば、彼は意外な反応を見してくれた。

 

 

「くだらないも何も、僕はあんたの想像する未来が訪れた時でしか言える事は何もないよ。…それに、僕はあんたの思考の末の行動に、疑問点は一つも浮かばないんだ。どう捉えるかは任せるけど、この世界で、私的理由で行動してない奴は、居ない」

 

「………貴方は…」

 

 

 僕の瞳をじっと見詰める雲雀裕弥に、僕は小さく息を呑んだ。それは、その言葉は、僕の存在意義を肯定しているのだと、自ら認めた様なモノだからだ。

 …僕は少し戸惑った表情になり、思わずさっと彼から視線を背けるとわかり易く肩を竦めた。

 

 

「貴方って、本当に勿体無い人間性してますよね」

 

「ちょっとそれどういう意味?」

 

「…まぁ、貴方が僕の意見で変わる事はないでしょうし、僕はそのままでも構わないんですけどね」

 

「自問自答しないでくれる」

 

 

 不機嫌そうな声を出す雲雀裕弥に、僕は苦笑で流した。

 きっと自分で気付く事はないでしょうね、貴方が認めた者に対しては甘い対応を下している事に。そして、それを知る人間も少ないでしょうね。貴方の認める者の判断基準は、とんでもなく高いですから。

 それが本当に、勿体無いと感じたんです。

 

 

「雲雀裕弥。僕は貴方を好きになったみたいです」

 

「ふぅん…」

 

「距離を取ろうとしないで下さい。交友関係として、貴方とは馴れ合えると言ってるんです」

 

 

 そう告げれば、少し驚いた後に肩を竦められた。

 

 

「…南国果実が。つくづく誤解されそうな言い回しばかりしてるってちゃんと自覚してる?」

 

「何ですか南国果実って。あと大丈夫か此奴みたいな視線辞めてください。自覚はしてますよ」

 

「自覚済みのパイナップル(南国果実)とか草」

 

「無表情で草生やさないでください。というか可笑しいですね、僕にはパイナップルとしか聞こえないんですけどちゃんと漢字使ってます?」

 

「日本人なんだから当然でしょ、パイナップル(南国果実)はハワイにでも住んでたの?」

 

「故郷はイタリアですよ。それと、やはり副声音にパイナップルが聞こえるんですが?」

 

「疲れてるんだよパイナポー」

 

「今馴れ馴れしくはっきりと確実に言われたんですが。…貴方、僕で遊びだしましたね」

 

 

 半目で雲雀裕弥に目を向けると、彼はニッコリと笑った。

 なるほど。こういう時にも笑顔を浮かばすんですね。彼を知るにはやはり時間が掛かる様だ。

 

 僕の方が歳上であるのに弄ばれてる感がして、全くと溜息を吐いた。見ると彼はもう無表情になっていて、早速また飽きる事無く会話を続け出した。

 

 

 




気の所為だよパイナポー。
パイナポーとオリ主は気が合ったようだ。兄ェ…。

如何でしたか?ここ何気に凝ってるんですよ。
骸の心情を頑張って解析してた時期が私にもありました。

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ヒバードと駄犬

 

 やはり沢田綱吉が事の元凶だと確実になり、更にあの軟弱さで、有名所のマフィアファミリーの次期首領候補者だという事実に僕は内心耳を疑った。

 確かにあのガラクタ…駄犬は10代目と頻りに彼を呼んでいたが、まさかつるんでいる彼等全員がファミリーの一員な事にも驚く。世間とは意外にも身近で知るモノなんだと溜息を吐きながら、僕は南国果実…いや、骸に教えられた場所へと足を進ませていた。

 実は先程、沢田一行が黒曜ランドへと乗り込んで来たと骸の部下から報告があった。当然だけど、その前に僕に警戒心を抱いた部下を制して、骸は愉しげに偵察にだと、僕から見ればがっつりと沢田綱吉に会いに行くと言って、部下を連れていく去り際に兄さんの場所を教えてくれたのだ。

 

 元々その目的で来たのだから有難かったけど、どうせならもう少し話していたかったな。

 

 

「…と、此処かな」

 

 

 目的地に辿り着き、閉められている扉を開けた。

 するとそこには骸の言う通り、かなりの傷を負った兄さんが壁に寄り掛かりながら座っていて…それは勿論分かっていたんだけど、もう一つ、何故か肩には小さな小鳥が並盛中の校歌を下手くそに歌う姿がある。

 想定もしていなかった光景に、僕は呆然としていて、暫くその様子を眺めてしまっていた。

 

 

「──裕弥。随分と遅かったね」

 

「!…あぁ、色々とね。…その鳥はなに?」

 

 

 兄さんの声に一瞬遅れ、肩を竦めながら近付くと、ああこれ?と小鳥を横目で兄さんは見つめる。

 

 

「勝手に引っ付いて来たんだ。仕方が無いから飼う事にしたんだよ。名前はまだ決めてないけど」

 

「その仕方が無い要素が分からないんだけど……もう一つ聞いておくんだけど、それ何科の鳥なの?」

 

「さぁ?喋れるみたいだから言葉を教えるつもり」

 

「言葉より先に校歌教えようとしてるよね」

 

 

 この時々よく分からないテンションになってる兄さんに未だに慣れないんだけど、僕は悪くないよね。

 取り敢えず、兄さんの傷を確認だな。血もだいぶ流してるから普通貧血とか色々なってる筈なのに、兄さんのタフさは異常だからね。本人の気合でどうにかなる身体ってどんだけだよとしか言えない。

 

 

「兄さん、ちゃんと意識あるみたいだけど、実の所傷の具合はどうなの」

 

「大した事ないよ」

 

「──僕が知らないとでも思ってるの?」

 

 

 ジトリと目を細めると兄さんは片眉を上げる。僕の態度に、僕が骸と会った事が分かったみたいだ。

 

 

「…横取りしたわけ」

 

「話しただけだよ。今もピンピンしてる」

 

 

 どうやら治療される気はないようで、仕方が無いからこの事件が終結したら真っ先に病院に送り付けてやろうと思う。そして嫌味を言いまくる事に決めた。

 

 

「教えてあげようか?あの人の戦闘スタイル」

 

「要らない。僕が自分で片をつけるから。…それにしても、随分と仲が良さそうに聞こえるんだけど」

 

 

 複雑そうな、それでいて珍しいと言う様な視線に、僕は薄く微笑んだ。

 

 

「なかなか有意義な時間を過ごせたかもね。どうせなら普通に出会いたかった」

 

 

 黒曜中…は、結局兄さんの管轄外だから会う機会なんて訪れなさそうだったから良しとするけど。

 今頃沢田綱吉の性格諸々に驚いてるだろう骸を思う僕に、兄さんは目を見開いて驚いていた。

 

 

「…裕弥の相手が務まる人間だとはね」

 

「その言い方だと、僕が手に負えない人間みたいなんだけど。言っとくけど、兄さんに言えた義理じゃないから。僕と似た様な感じでしょ」

 

「裕弥が認めた、ね……尚更噛み殺しがいがある」

 

「出たよ兄さんワールド。あとスルーしないで」

 

 

 ギラギラと猛る目付きに、僕は溜息を吐いた。

 相手が幻術師である以上、再戦しても苦戦を強いられるのは確実。それに、今の兄さんには弱点がある。それをどうにかしないと一撃も当てられない事を分かっているのか。

 僕はまた半目で見つめた。

 

 

「…兄さんは何で倒されたの?同じ二の舞いを喰らうつもり?その対策は突破だけじゃ通じないよ」

 

「…僕に意見を言うのなんて裕弥くらいだよ」

 

「当然でしょ。僕が何も言えない人間だったら、兄さんは迷い無く切り捨てる事を分かってるからね」

 

 

 そう肩を竦めれば、兄さんは目を細めた。

 その様子に見つめ返せば、ふぅ、と目を瞑る。

 

 

「…彼の前に立った時に考えるよ。取り敢えず一撃は入れないと気が済まない」

 

「…そう。僕にもこれといった対策は思いつかないしね。兄さんがそうしたいなら聞くよ」

 

 

 立ち上がった兄さんに合わせて僕も動く。そうすると、肩に居た小鳥がパタパタと扉の方へと飛んで行く。兄さんも同様に扉に向かい、僕もその背を追いながらも、少しだけ気になっていた。

 

 

(…何を言おうとしてたんだろう)

 

 

 さっきの兄さんの変な様子には疑問が浮かんだ。

 もしかして、僕の言った事が引っ掛かった?…いや、まさかね。兄さんは、そんな人間じゃない。

 

 

 部屋から出ると、小鳥は並盛中の校歌を歌いながら何処かに飛んでいく。対して気にせず突き進んでいくと、廃墟内が軽く揺れる程の爆発音が響いた。

 

 

「さっきから爆発音が響いて煩いんだけど」

 

「あぁ…多分沢田綱吉達だろうね。兄さんが寝てる間に色々と起きたから。鉢合うかもよ」

 

「小動物が?…ふぅん。度胸はあるみたいだ」

 

 

 会話を交わしながら骸の元へ向かっていると、そう時間の経たない内に、小鳥が地味に上手くなった校歌を歌いながら爆発音の元凶を連れ現れた。

 

 

「ミードリタナービクーナーミーモーリーノー」

 

「──っハァッ!ハッ…!っテメェ等…っ!!」

 

「──……君か」

 

「雲雀、ッぐ、此処に居たのかよ…ッは、!」

 

 

 想像はしてたけど。よりにもよってガラクタ…面倒だと感じたけど少し様子が可笑しい事に気付いた。

 恐らく敵から与えられた傷とは別の辛そうな表情に、まさか体調でも崩してるのかと目を瞬かせる。

 

 

「獄寺隼人、随分と痛めつけられたみたいだね」

 

「っ、ハッ…これは、違ぇよ…!」

 

「どうでもいいけど、まさか僕等を探してたの?」

 

「!…ぁあ、」

 

 

 僕の視線に素直に頷く。

 驚いた、どうやら僕と出会った前回の出来事が少しは効いた様だ。そうでなくとも、プライドを翳すつもりはないらしい。兄さんもどうやら変化に気付いた様で、驚きながらもその目は獄寺隼人の背後にある。

 どうやら骸と殺り合うよりも先に、アレ等を相手にしたいらしい。それに気付き、僕は肩を竦め獄寺隼人に聞いた。

 

 

「敵に手こずってる様なら兄さんに分けてあげてくれない?君にとって悪い話じゃないでしょ?」

 

「、…ケ、頼む必要がなくて、安心したぜ…、」

 

「へぇ…君、本当に獄寺隼人?」

 

「んだよ…っ!嫌味言ってんのか、ッ!」

 

 

 ギッと睨んでくる瞳に、薄く笑みを浮かべた。

 僕は感情的な馬鹿は大嫌いだけど、理性ある馬鹿は嫌いじゃない。反抗心多性な所を見てこれは獄寺隼人だと確信し、追い掛けてくる二つの気配に視線を向けた。

 

 そいつ等は僕等を見ると目を瞬かせる。

 

 





素直に骸を褒める弟に、お兄ちゃんムムム。
獄寺は一歩進歩したもよう。

果たして現れたのは……?
ではでは!


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ガラクタめ


あれ?ヒバードどこいった…??




 

「ひゃー何処に行くかと思えば、死に損ないを助っ人に呼んでたのかー!?」

 

「並盛中学風紀委員長…雲雀恭弥」

 

「んあ?死に損ないが二人居るびょん?」

 

 

 僕を見て首を傾げる見るからに頭の悪そうな奴に、隣の──先程骸と共に去った部下が眉を顰めた。

 

 

「…雲雀恭弥の弟、雲雀裕弥…」

 

「また会ったね。骸は一緒じゃないんだ」

 

「…あの時、骸様がお前を庇ったから攻撃はしなかった…けど、今は違う……敵は、始末する」

 

 

 明らかに僕を敵対視する部下に、僕は目を細める。

 骸に感謝しろみたいな言い方も酷く気に食わないけど、報告されたお蔭で僕は骸と話せなくなったんだから、邪魔者なのは圧倒的に彼でしょ。滲み出る殺気に、獄寺隼人はビクリと一歩後退った。

 

 

「兄さん、あのガラクタは貰うから」

 

「…唐突だね。別に良いけど」

 

「ありがとう。獄寺隼人、悪いけど譲らないよ」

 

「ッハ、ァ…っ、好きにしろ…」

 

 

 獄寺隼人は何が痛いのか、激痛に顔を歪みながら、早くも僕達に任せ壁に寄り掛かっている。

 横目で見た後、僕は部下を見据えて拳を構えた。

 

 

「なんだなんだ?柿ピーはそっちやんのかー?じゃオレはこっちの死に損ないを相手にしてやんよ!」

 

「ザコが意気込まないでくれる?鬱陶しいから」

 

「…あったまきた。徹底的にやってやる!」

 

 

 早くもキレた敵により両方共に一触即発。

 

 …始めに動いたのは兄さん側の敵だった。

 いきなり四つん這いに構えると、驚いた事に何やら鋭い歯を装着した。一見何の変哲もないが、よく見ると雰囲気が荒々しくなっていて、兄さんは目を瞬かせる。

 

 

「──百獣の王。ライオンチャンネル!!!」

 

「ワォ。子犬かい?」

 

「うるへー、アヒルめ!!」

 

 

 一直線に特攻してきた敵に、兄さんはトンファーを構えた。敵は兄さんの眼前まで来ると、余裕の表情を浮かべながら思い切り拳を振り上げ──。

 

 

「ひょい♪」

 

「──舐めてるの?」

 

「!!?」

 

「犬!!」

 

 

 隙だらけの鳩尾にトンファーを喰らい、敵はたったの一撃で地に沈んだ。兄さんがつまらなさそうに溜息を吐きトンファーを降ろす。

 その様子に部下は目を丸くするが、僕の殺気に態勢を直した。

 

 

「…骸は強いのに、部下である君等がそんなので良いの?兄さんに掠り傷すら与えてないじゃん」

 

「っ…!…犬は弱い、それだけ」

 

「ふぅん?君は同じじゃないって言いたいの?僕からすれば、実力の違いすらも把握出来ないガラクタにしか思えないんだけど。君は、本当に違う?」

 

 

 そう聞けば、ギリッと僕を睨む部下に僕はグッと拳を握った。

 実は内心、かなり哀れんでいた。骸は彼等の事なんて、微塵たりとも気にしてないから。

 骸の傍に居るのがガラクタなのが、とてつもなく残念だと感じる。そして、とても腹ただしく思う。

 

 

「君等は骸に相応しくないよ。せめて骸を引き立てる装飾品なんかになればマシだったのに」

 

「ッ!お前に言われる筋合いはない…!!」

 

「君よりはあるに値すると自負するね。少なくとも、チンピラ風情で終わる君等に価値はない」

 

 

 ──そんなの、僕が決める事じゃないけど。

 

 完全に殺気立ったガラクタを冷めた目で見据える。

 …少なくとも今までの人生の中で、こんなにも相手を潰したいと思った事はなかった。

 語られた骸の思考によって僕もなんらかの影響を受けたのか、はたまた同類の為のお節介なのか。なんにせよ、僕にとって彼等の存在は目障りでしかないガラクタだ。

 

 

「時間の無駄だ。早く来たら?」

 

「──ッ!!」

 

 

 僕の挑発に感化されたガラクタが、懐に手を突っ込み自らの武器を手に取った。それは、至って普通のヨーヨー。

 しかし側面には至る所に穴が空いている。恐らく中にも何か仕込んでいて、それも致命的なモノの筈だ。

 ヨーヨーを掲げるとガラクタは殺意を込めた瞳で僕を睨む。

 

 

「骸様の元には行かせない…!!」

 

「ガラクタ如きが僕に指図するな。ま、確かにガラクタは障害物として存在するものだけどさ」

 

「ッ減らず口を!」

 

 

 目にも止まらない速さで飛んでくるヨーヨー──だけど僕は、兄さんのトンファーを振るう速さに慣れているせいで視界に捉える事が出来ていて、顔面スレスレで避けて見せる。

 そして、そうする事により何かが飛び出てくるのは予測していた為に、バックステップで回避した。僕が回避した事で地面へと突き刺さったモノは──針。目を細めて納得した。

 

 

「針、しかもそれ、ただの針じゃないよね。そんな小さなモノを人に刺せたって、運が良くても目を潰すか動きを止めるだけでしょ。てことはそれ以外の重要度がある。つまり、毒か麻痺といった状態異常系が付属されてるのは明白だよね。どう?」

 

 

 僕の推理にガラクタは眉を顰めヨーヨーを引っ張りあげた。またそれを回避し、視線を交える。

 

 

「…試してみたらいいんじゃない、!」

 

「最もな意見だね」

 

 

 再び飛んでくるヨーヨーと飛び出してくる針を避けながら、どうしようもないなと溜息を吐いた。

 

 

「っ!その余裕な態度ムカつく…!!」

 

「──実際、余裕だから」

 

「!!」

 

 

 だってそうだろ?簡単な話だ。

 一瞬で距離を詰めてしまえば、ガラクタは息を止め驚き、ヨーヨーを投げれずに終わるんだから。

 

 

「この通りにね」

 

 

 鳩尾に僕の今持てる本気を叩き込んでやれば、ガラクタは息を吐き出し壁へと吹っ飛んだ。

 獄寺隼人がその様子に青ざめているが当然の様に無視して、ガラクタの傍まで歩き、ガラクタを見下す。

 

 

「ぅ、ぐ…ッ」

 

「弱い。圧倒的に弱い。本当、無様」

 

「っ…!」

 

 

 沈黙したガラクタからふっと視線を背けて兄さんの元に戻ると、兄さんは興味深そうに僕を見つめていた。

 思わず、何?と見返すと別に?と返された。

 

 

「ふぅん…。ところで、獄寺隼人。いつまで座ってるつもり?沢田綱吉の所に行くんじゃないの?」

 

「!あ、あぁ、悪ぃ」

 

 

 もたつきながらも立ち上がり、壁伝いに歩いてくる獄寺隼人を見て、兄さんが口を開く。

 

 

「そういえばそんな事言ってたね。ねぇ、もしかして小動物は今彼と戦ってるの?」

 

「、ぁあ?…彼?」

 

「六道骸。主犯格だよ」

 

「!…あぁ、その筈だぜ…、っ、それがなんだ?」

 

 

 言ってから気付いたのか、ハッとした表情で納得した獄寺隼人は兄さんにバツが悪そうに訪ねた。

 

 

「、それはまぁ…、聞いてはいたが、…ッ、一体何でやられたんだ、?骸はそんなつえーのかよ…?」

 

「さぁ。僕も知らない」

 

「おま、っ…ハァ…知らないって、」

 

 

 獄寺隼人は訝しげに兄さんを見つめるが、実際そうだからそうとしか言えないんだ、兄さんからすればね。

 仕方なく蛇足として僕が付け加えた。

 

 

「桜を見せられたの。今の兄さんは、桜が弱点だから骸にそこをつかれたわけ」

 

「桜…?」

 

 

 首を傾げた獄寺隼人は、一間空けて目を見開いた。

 

 

「っそうだった!危うく忘れるとこだったぜ…!」

 

「…なに?煩いんだけど」

 

 

 僕と兄さんの視線を受ける獄寺隼人は、構わずに懐から小さな小瓶を取り出した。

 

 

「ッ、シャマルから預かってた“桜クラ病”の特効薬!は、っ、これで治せる筈だ…ッぐぇっ!?」

 

「「先に言いなよ」」

 

 

 僕はぱっと獄寺隼人から小瓶を奪い、兄さんは獄寺隼人の容態を気にせずトンファーで殴った。沈んだ獄寺隼人をそのままに、小瓶を兄さんに渡す。

 

 

「まさか病気だったとはね。その、シャマル?前に兄さん会ったんじゃないの?」

 

「あのヤブ医者みたいな奴…次会ったら咬み殺す」

 

「ねぇ獄寺隼人。これいつ貰ったの」

 

「ぐ、ッ、ゲホッ、!ぁー、外で戦闘があった時に、治療員を連れて来たんだよ…ッ、」

 

「ふぅん。兄さんの事覚えてたんだ」

 

 

 なんにせよ、兄さんの準備がやっと出来た事で不安点は解消された。兄さん自身の気力が持つかどうかだけど…まぁ、意地でもやり遂げようとするだろうし大丈夫かな。

 小瓶をグッと飲んだ兄さんを横目に、そろそろ立ち上がる事さえ至難になってきた獄寺隼人の腕を僕はおもむろに引っ張りあげた。

 

 

「!ぉ、おう…?」

 

「何その顔。足でまといになりそうだったから手貸してあげようとしてるんだけど。必要ないわけ?」

 

「!いっ、いや!た、助かる。サンキューな…」

 

「…ちょっと本気で獄寺隼人か疑っていい?」

 

「っはぁっ!?」

 

「冗談。ツッコめる位には元気みたいだね」

 

 

 薄く笑うと、すぐに沈黙して何やら複雑そうな表情を浮かべる獄寺隼人。すると、兄さんも獄寺隼人の肩を担ぎ出し、獄寺隼人が目を瞬かせた。

 

 

「小瓶の貸し返しとくよ。どうせ目的地は同じなんだから、小動物の所まで連れて行ってあげる」

 

「、…なんか歯痒くなってきたぜ…」

 

「気の所為でしょ。さっさと行くよ」

 

 

 足並み合わせて歩く様を他人が見たら、何処か勘違いされそうだが生憎そんな奴はとうに倒れている。

 僕達は、骸の居る場所に向けて進み出した。

 

 

 





思ったんですけど、オリ主ガラクタ連呼し過ぎですよね。まぁ現れる人間がその基準なんだから仕方ない、か?

流れはどうですか?
是非とも感想・評価していってください!
ではでは!


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原理を教えて

 

 

「俺は超一流の家庭教師だぞ?」

 

 

 やっと目的地に辿り着き、沢田綱吉達を視界に入れた時に見えたモノは大量の蛇だった。

 沢田綱吉の慌て様を見る限り普通の蛇じゃない、恐らく牙に毒を仕込んだ毒蛇だろうと推測していると、最初に動いたのは忠犬もとい獄寺隼人だった。

 

 

「10代目!伏せてください!!」

 

「!?ふ、伏せて!!」

 

 

 その声に反応した沢田綱吉がすぐに皆に指示を降した後、獄寺隼人が投げた爆弾によって毒蛇共は吹き飛び彼等の災難は去った。…いや、最大の凶悪はまだ居るけども反応するのは後でで良いかな。

 

 

「獄寺君!!」

 

「っ、遅く、なりました、!」

 

「やぁ小動物。意外と元気そうだね」

 

「雲雀さん!雲雀君も!無事で良かった…!!」

 

「…君に心配される憶えはなかったんだけど」

 

 

 思わず言い返せば、ですよねー…と苦笑する沢田綱吉。

 獄寺隼人から自然に離れ、そのまま骸を見据えると彼は少し驚いた表情をしてから肩を竦めた。

 

 

「わかったか?骸。俺はツナだけを育ててる訳じゃねぇんだぞ。若干一名は違うけどな」

 

 

 当然僕の事だろうね。

 兄さんは聞いてない振りをしつつ、肩を貸している獄寺隼人をぺしっと地面に落とした。

 

 

「借りは返したよ」

 

「!いてっ」

 

「(!?捨てた!あっさり!)」

 

 

 沢田綱吉の引いた表情を無視する兄さんと、僕を含めその他を見る骸の顔は何処までも余裕気だった。

 

 

「これはこれは外野がゾロゾロと。千種は何をしているんですかね?」

 

「へっ、眼鏡野郎ならアニマル野郎と下の階で仲良く伸びてるぜ?」

 

「なるほど」

 

「すっ、凄いよ獄寺君!」

 

「…いやまぁ、俺が倒したんじゃねぇんすけど…」

 

 

 気まずそうに正直に話す獄寺隼人に冷めた視線を向けそうになるのを止めた。彼処で見栄を張ってたら問答無用で意識を無くそうと思ってたのにね。

 何やら寒そうに震えた獄寺隼人から目を離し、骸を見据えトンファーを手にした兄さんを見つめる。

 

 

「覚悟はいいかい?」

 

「怖いですねぇ。だが今は僕とボンゴレの邪魔をしないでください。第一君は立っているのもやっとの筈だ。骨を何本も折りましたからね」

 

 

 その事実に沢田綱吉が動揺の色を見せる中、僕は冷静に兄さんを見据えていた。誰よりもその傷の状態を分かっている兄さんを、知っているから。

 

 

(確かに、兄さんは見た目よりも酷い重体を負っている。普通なら立つ事すらも出来ない程に…。

けど、兄さんにそんな常識は当て嵌らない)

 

「──遺言はそれだけかい?」

 

 

 どうやら気概だけではないと気付いた様だ。

 兄さんの視線に骸は面白そうに瞳を細ませる。

 

 

「思ったより面白い事を言う。仕方ない、君から片付けてしまいましょう。一瞬で終わらせますよ」

 

 

 ──その刹那、兄さんと骸がぶつかり合った。

 

 兄さんと互角の近接戦闘に、幻術師と聞いていたのに骸は体術も扱えるのかと目を見開く。

 僕でさえも集中しないと見切れそうになる素早い攻撃に、どちらとも引かず、トンファーと三又槍が連鎖する毎に激しい火花が散った。

 攻防の最中に兄さんは余裕気に口許を歪める。

 

 

「君の一瞬っていつまで?」

 

「クフフ…やはり君は興味深い男ですね」

 

 

 兄さんの余裕に沢田綱吉は一喜する。

 赤ん坊は実に上から目線で満足気に笑みを浮かべていた。

 

 

「やっぱり強い!流石雲雀さん!」

 

「こいつらを侮るなよ骸。お前が思っているよりずっと伸び盛りだぞ?」

 

「なるほど、その様ですね。彼が怪我をしていなかったら勝負は分からなかったかもしれない」

 

 

 その微笑みに僕も、沢田綱吉も反応する。

 言葉の通り、兄さんは立ち止まる。激しく動いたせいで塞がっていた筈の傷が開き血が滲み、痛みで動けなくなったんだ。骸はその様子に笑った。

 

 

「雲雀さん!」

 

「時間の無駄です。手っ取り早く済ませましょう」

 

「!」

 

 

 突如として美しい満開の桜が現れ、僕はその幻術の凄まじさに呆然となった。沢田綱吉は何が来るのかと身構えていたが、桜の登場に唖然となる。

 

 

「さ、桜…?」

 

「雲雀は桜を見ると動けなくなる桜クラ病だ。シャマルが前にトライデントモスキートを使ったんだ」

 

「(…ふぅん。それが原因なんだ)」

 

「!そんなっ!?じゃあ雲雀さんは…!」

 

「また膝まづいて貰いましょう」

 

「っ雲雀さん!」

 

 

 兄さんが治ったとは知らない骸と沢田綱吉とは違い、獄寺隼人と僕──恐らく赤ん坊もだろうけど──は澄ました顔をしていた。倒れた…と思わせた兄さんは隙をついて骸に一撃を食らわせる。

 

 

「がふっ…これは…」

 

 

 獄寺隼人がこれは得意気に鼻で笑った。

 

 

「甘かったな、シャマルから雲雀への薬を預かっていたのさ。……いや悪ぃって本当」

 

「君のドヤ顔程ムカつくモノはないよ」

 

「いやマジで悪かったって!」

 

 

 軽く睨みでお灸を据えた所で、兄さんが骸にトドメの二撃目を与えていた。吹っ飛ぶ骸に沢田綱吉は喜び、獄寺隼人はスカした表情を浮かべ、赤ん坊は薄い笑みを洩らす。僕は変わりに無表情だった。

 

 

「やった…!」

 

「ケッ、おいしい所全部持って行きやがって」

 

「遂にやったな。それにしてもお前、見事に骸戦で役に立たなかったな」

 

「ほっとけよ!」

 

 

 僕はそのまま兄さんに近づき、その様子に気付くと呆れたとばかりに肩を竦めた。

 

 

「…本当、意地っ張りだよね兄さんは」

 

 

 僕の一言に全員が気付き慌てて沢田綱吉が近寄る。

 ふらりと倒れ掛かった兄さんを受け止める僕に、慌てる沢田綱吉だがその様子に目を瞬かせた。

 

 

「雲雀さん!大丈夫ですか、って、寝てる…?」

 

「気絶だよ。当然の成り行きだよ」

 

「こいつ途中から無意識で戦ってたぞ?余程一度負けたのが悔しかったんだな」

 

「雲雀さん…すげぇ」

 

「…まぁ、兄さんだからね」

 

 

 兄さんを地面に横たわらせて呼吸の状態を確かめていると、沢田綱吉がまた慌てだした。

 

 

「そうだ!早く皆を病院に連れて行かなきゃ!」

 

「心配ねぇぞ?ボンゴレの優秀な医療チームがこっちに向かって──」

 

「──その医療チームは不要ですよ」

 

「ッ!?」

 

 

 ふらりと立ち上がった骸に全員が警戒する。

 僕は骸がまだ意識を保っていた事に幾らか安堵しつつも、その微笑みに違和感を募らせていた。

 

 

「てめぇ!」

 

 

 獄寺隼人が突っかかろうとした時、骸は徐に右手をあげる。その手の中には銃が握られており、まさかと思い僕は咄嗟に声を上げた。

 

 

「ッ骸!」

 

「──裕弥」

 

 

 ニッコリと笑う骸の姿に、僕は息を止めた。何故ならその瞳が、僕に安心をくれたから。

 

 

(…違う、んだ)

 

 

 僕が気付いたと知り、骸は引き金に指を当てる。

 

 

「また会いましょう。Arrivederci」

 

 

 バンッ!!という嫌な音と共に倒れ逝く骸に、全員が愕然となった。数秒後にハッと気付いて、沢田綱吉も獄寺隼人も後味が悪そうに顔を歪めた。

 

 

「やりやがった…」

 

「そんな、何でこんなこと…っ」

 

「捕まるくらいなら死んだ方がマシってやつか」

 

「(…なんだ?この感じ…)」

 

「生きたまま捕獲は出来なかったが仕方ねぇな」

 

 

 僕は骸がやはり思っていた通りの行動に出た事に動揺しつつも素知らぬ振りで無表情を貫いていたが、何処か微妙な表情をする沢田綱吉に目を向けた。

 

 

「なんだろう…?凄く嫌な感じがする」

 

 

 沢田綱吉の言葉と共に、一人の女が起き上がった。多分沢田綱吉の仲間だろう。僕には全く関係のない人間だったから地面に倒れていた事も忘れてた。

 

 

「ついに…骸を倒したのね…」

 

「姉貴…!」

 

「良かった!ビアンキが目を覚ました!」

 

「無理すんなよ」

 

 

 あれが獄寺隼人の姉なのか。

 内心つい思ってしまった事を振り払うと、獄寺隼人の姉は怪我を負った身体で獄寺隼人に言う。

 

 

「肩貸してくれない?隼人」

 

「…しょうがねぇな、今日だけだかんな!」

 

 

 普段から仲がやはり悪いのか、いや、この場合獄寺隼人が苦手にしてるって感じか。

 気恥しそうに姉に近付いていく獄寺隼人の足を止めようとしたのは、意外にも沢田綱吉だった。

 

 

「獄寺君!行っちゃダメだ!!」

 

「!」

 

 

 その台詞に全員が沢田綱吉を見る。

 お陰で獄寺隼人は止まったが不思議そうだ。

 

 

「…どうかしたの?ツナも肩を貸して?」

 

「え?…あっあれ、何言ってんだ?俺…」

 

「?良いっすよ、10代目は。これぐらいの怪我大丈夫っすから」

 

 

 怪我の事について言った訳じゃないだろうけど。

 沢田綱吉の様子に僕は引っ掛かり、じっと姉を観察すると、獄寺隼人が近付いた時に僅かにほくそ笑んだ口許を僕は見逃さなかった。

 

 

「すまないわね隼人…」

 

「ほら、手」

 

 

 はい、と姉が手を伸ばすが、その反対側の手から三又槍が飛び出した事により獄寺隼人は仰け反り尻もちをついた。

 僅かに切れた頬を抑え姉に叫ぶ。

 

 

「なっ、何しやがんだッ!!」

 

「まぁ、私ったら…!」

 

 

 惚けた驚き方をする姉に、下手な演技だと目を細める。そこで赤ん坊が飛び、姉の鼻を叩いた。

 

 

「何やってんだ、ビアンキ?しっかりしろ。刺したのはお前の弟だぞ」

 

「…私、なんて事を──したのかしら!」

 

「あっ!?」

 

「!リボーンさん!」

 

 

 続いて赤ん坊に三又槍の剣部分を突き刺そうとする姉から逃れ、赤ん坊はひょいっと飛んで後方に下がった。

 なんというか凄い軽やかなステップだ。

 

 

「…こいつは厄介だな」

 

「まさか、マインドコントロール…?」

 

「「いや違うな/ね」」

 

「!なんだ知ってるのか?雲雀弟」

 

「…知識が少し」

 

 

 図らずも被ってしまった事に後悔しながら、赤ん坊の質問に曖昧に答える。そうか、とだけ返した後に、赤ん坊は姉の様子について更に付け加えた。

 

「あれはマインドコントロールじゃない、そうだな…まるで何かに憑かれてるみてぇだ」

 

「!それって呪いっすか?」

 

「そんなことが…」

 

「だが、事実だ」

 

 赤ん坊の厳しい視線に沢田綱吉も獄寺隼人も固くなっていた。あまりの出来事に理解が追いついていないのだ。

 …対する僕も似た様なものだったけどね、常識とはかけ離れた事になると僕は動けなくなる。だからこそ、ざっくりとしか聞いていない。

 

 

「何言ってるの?あたしよ」

 

 

 姉の微笑みに、僕は少しだけ眉を顰めた。

 すると沢田綱吉が、まさかと気付き謎を解いた。

 

 

「っあ!六道、骸…!?」

 

「──また会えましたね」

 

「ぇ、!」

 

「で、出たー!?」

 

 

 驚きのあまり姉を凝視すると、姉は──いや、()は僕を見据えてニコリと笑った。

 それにより骸だと理解はしたが、その原理が全く分からない。これも幻術…?いやそれなんて魔法?

 …有り得ない事態に僕は珍しく困惑していた。

 

 

(ちょっと待って、どんなトリックなの?死んだ筈の骸が別の人間に取り憑いた…いや、幽霊でもないみたいだし、何らかの原理は働いてるはず…)

 

 

 祟りだなんだと慌てる獄寺隼人に、赤ん坊は「そんな馬鹿な事ある訳はねぇぞ?」と告げる。恐らくその通りなんだろうが、骸の本体を見る限りやはり死んでいる事には変わらない。沢田綱吉も確認して更に絶叫する中、不敵に骸はほくそ笑んだ。

 

 

「まだ僕にはやるべき事が有りましてね、地獄の底から舞い戻って来ました」

 

「や、やっぱり…」

 

「そ、そんなことが…」

 

 

 やるべき事と言えば、当然沢田綱吉を乗っ取る事だろう。僕には全く関係ないんだけど、どうせならその方法を聞く事くらいすれば良かった。

 惜しい事をしたなと考えていると、赤ん坊の雰囲気が不自然に強ばったのを感じ取る。

 

 

「後考えられるのは、まさかな」

 

「…」

 

「──さて、誰から片付けましょうか?」

 

 

 





オリ主は予想外の事に硬直してしまうタイプです。
マフィア……え?マフィアってなんだっけ。

感想・評価あると助かります。ではでは!


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分身するパイナップル

 

 

 

 赤ん坊の台詞に僅かに眉を寄せると、ついに()が動き出そうとした。僕を外しての全員を眺めると、獄寺隼人がずいっと前に出て意気込む。

 

 

「10代目!此処は俺に」

 

「だけど相手は!」

 

 

 沢田綱吉にかまけず、獄寺隼人は動く。

 

 

「りん!ぴょう!とう!しゃ!」

 

「(魔除け!?どこでそんな知識を!)」

 

「──獄寺隼人、ふざけてるの?」

 

「(ヒィィイ!?雲雀君が怒った!!)」

 

 

 まさかと思って見守ろうとしてた僕が今回ばかりは悪かった。普通しないでしょ、こんな場面で。

 僕の絶対零度な視線に獄寺隼人は怯むが、呻く声に僕もハッとして()を凝視した。

 

 

「う、うぅっ」

 

「!っかい!じん!れつ!」

 

「き、きいてる!?」

 

(乗るのかよ)

 

 

 呻きながら倒れた()を、沢田綱吉は心配そうにしている。 ──けれど僕は逃さなかった。呻きながらも骸が一瞬密かに笑みを浮かべた事に。

 もしかしなくともあんた、この状況を楽しんでるよね?

 

 姉の様子を見に行こうと迷う沢田綱吉に、獄寺隼人は清々しい笑顔で名乗り出た。

 

 

「俺やりましょうか?」

 

「獄寺君、!──骸!!」

 

 

 キン!っと振り翳された剣に沢田綱吉はギリギリ躱し倒れ込む。僕はその切り返しに目を丸くさせて、暫く獄寺隼人()を眺めてしまった。

 

 

「り、リボーン!獄寺君が!」

 

「ほぅまぐれでは無いのですね。初めてですよ僕の憑依を一目で見抜いた者は。つくづく君は面白い」

 

「そんな!?どうなってんの!?」

 

 

 君の方こそどうなってんの?

 沢田綱吉が骸に気付くまで、僕は全くと言っていい程骸の気配に気付かなかった。

 獄寺隼人が清々しい笑顔を浮かべた時も、骸を倒せて調子に乗ってるんだとばかり思ってたのに。

 

 

(…これかな。兄さんが感じてるところ)

 

 

 物言わない兄さんを横目で見ていると、赤ん坊が今度こそわかり易く顔を顰めた。

 

 

「間違いねぇな、自殺と見せ掛けて撃ったのはあの弾だな。…憑依弾は禁止されてる筈だぞ。どこで手に入れやがった?」

 

 

 憑依弾…?

 裏社会になんて関わりのない、ましてや興味のない僕は当然理解のない話だった。

 

 

「気付きましたか、これが特殊弾による憑依だと」

 

「ええ!?特殊弾って死ぬ気弾とかの!?」

 

「そうだ、憑依弾はその名の通り相手の肉体に取り憑いて自由自在に操る弾だぞ」

 

「なんだって!?それじゃあ、そのせいでビアンキと獄寺君が…」

 

 

 ふぅん、なるほど。そもそもどうやってそういった弾を作る事になったのか知りたい所だけど。

 

 

「エストラーネロファミリーの開発したと言われる特殊弾でな。こいつを使いこなすには強い精神力だけでなく弾との相性の良さが必要とされているんだ」

 

「僕との相性は抜群ですよ」

 

「憑依弾はあまりにも使用法が酷かったために、とっくの昔に禁止され弾もその製造方法も闇に葬られたはずだったんだがな」

 

「これはマインドコントロールの比じゃありませんよ、操作するのでは無く乗っ取るのです。──つまりこの体は僕のものだ」

 

 

 獄寺隼人の身体に、自らの爪で傷をつける獄寺隼人()に沢田綱吉は悲痛そうに声を荒らげた。

 

 

「やめろ!」

 

 

 …僕としては、獄寺隼人がどうなろうが知ったこっちゃ無いからどうでもいいんだけど、そろそろ僕には理解の薄い裏社会の話を持ち出してくるのはやめて欲しい。興味ない話は飽きてくるんだよね。

 マフィア関連なら余所でやって欲しい…無理か。

 

 

「ランチアほどの男を前後不覚に陥し入れたのはその弾だな。だが、なんでお前が持ってんだ!」

 

「僕のものだから…とだけ言っておきましょう。さぁ君に憑依する番ですよボンゴレ10代目」

 

「な!?俺に!?」

 

「やはり、お前の目的は…」

 

「目的でなく手段ですよ。若きマフィアのボスを手中に収めてから、僕の復讐は始まる」

 

「な!?何言ってんの!?そ、そんな!俺なんかに憑依したって、ダメダメで良い事無いって!」

 

 

 うん、ここら辺はもう骸自身から聞いた。

 要するに、骸は死んだ訳じゃなく特殊な弾による効果で殆ど仮死状態であると。

 左耳から右耳に聞き流していると、赤ん坊が沢田綱吉に警告を発する。

 

 

「奴の剣に気をつけろ!」

 

「え?」

 

「あの剣で傷つけられると憑依を許すことになる」

 

「よくご存知で」

 

「──その通りです」

 

「ビアンキ!」

 

 

 獄寺隼人()が剣を後方に投げつけそのまま倒れ込むと、剣を受け取り立ち上がった()が声を上げる…って、気持ち悪い。何これ気持ち悪いんだけど。実質骸が二人居るってことでしょ?何それもぎ取りたい。ていうか一々倒れて移り変わる必要あるの?僕の視線を受けると、何となく骸が落ち込んだ気がしたのは幻覚だろうか。

 

 

(ん、あれ、こっち来た)

 

 

 何故か()がこっちに来たので、取り敢えず何をしでかされるのか溜まったもんじゃない故に拳を構えると、やはり落ち込んでる気がした。

 

 

「…もっとも僕はこの行為を契約すると言ってますがね。──裕弥、少し彼を借りますよ」

 

「…ぁあ」

 

「ま、まさか…!雲雀さんの中にまで!?」

 

 

 小声で言われ、そのままサッと振り翳された剣を自然に避けて兄さんから遠ざかると、()は兄さんの頬に剣で切れ込みを入れると倒れた。そして、寝ていた筈の兄さんが立ち上がり、そのまま駆けて行くと思い切り沢田綱吉を殴った。けれどすぐに苦しげに顔を歪めると力尽きた様に倒れ伏す。

 

 

「おや?この体は使い物になりませんね、これで戦っていたとは恐ろしい男だ雲雀恭弥」

 

「雲雀さん!…骸の気配が消えた」

 

 

 まぁ、骸は察していた上で兄さんに乗っ取ったんだろうね。態々僕に言う必要ないし。

 赤ん坊は再び沢田綱吉に警戒を促すが、どちらか一方ではない二人同時の憑依に目を見張った。

 

 

「そ、そんな!獄寺君?え!?ビアンキにも!?二人同時!?」

 

「ちげえぞ。奴らもだ」

 

「んな!?骸が四人!」

 

 

 あれは…、と僕は目を瞬かせた。

 いつの間にやら骸の部下であるガラクタ二人が戻ってきていた。散々な目に合わせて動けない身体であった筈なのに、よくここまで来たものだよね。

 

 

「同時に四人に憑依するなんて、聞いたことねえ」

 

「それだけでは…ありませんよ!」

 

「ダイナマイト!」

 

「憑依した奴の技まで使えんのか」

 

 

 

 





さぁどうしようか!考えてないぞこの先!
アニメ見ないと…まぁ皆さん待ってくれてると信じて。 

中途半端でサーセンっ。いやどれもそうか…。
感想・評価で急かされたら……いや急かさないでください、後生ですから…!!気長にお待ちを!ではでは!



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