空に浮かぶは大きい雲 (あろえよーぐると)
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浮雲さんが往く(第1話)

 この世界には魔法がある。魔女や超能力者だとか色々呼び名があったそうだが、超常の力を持つ彼等彼女等は現代社会において《伐刀者(ブレイザー)》と呼ばれている。

 宇宙から隕石を引っ張って攻撃。周囲の時間を操作して時空崩壊。はたまた、天災(地震・雷・火災・台風)を起こしたりとヤバイ世界に生まれて早十数年。けっこう楽しんでたりする。

 

 

 転生したっぽい?…意識がはっきりしたと思ったら病院のベッドの上にいた。とりあえず現状を確認すると大規模な火災があってそれに巻き込まれた生存者の一人で両親は火災に巻き込まれ死亡。身寄りなし、住むとこなし、お金もなしと第二の人生が中々に鬼畜で笑えない。ところが自分には伐刀者(ブレイザー)の才能があるということでとあるおじいさんに身元引受人になってもらい何とかなって幸いでした。

 現在5歳児のせいか感情が高まりやすく理性的判断がブレることブレること。前世の記憶があると言っても日常生活に必要な記憶や漫画やアニメのサブカルチャーの記憶は残っているだけでどうやって生きてきたとかは仕様で引き継げないようなのでオタ教育受けた子供と大して変わらないんだろう多分。

 親代わりになってくれたおじいさんに引き取られてから伐刀者として切磋琢磨と力を高めつつ能力(転生特典)も鍛えた。伐刀者はそれぞれ固有霊装(デバイス)という己の魂を具現化させた武器を引き出すことができ、自分は鞘付きの太刀だったので同じ系統の固有霊装を持つ爺様(じいさま)姉弟子(合法ロリ)に教えてもらったり知り合いの道場にお邪魔したりと素晴らしい環境だった。爺様や姉弟子がテンション上がってたまに死にそうになるけどそれ以外はホントに素晴らしい環境。

 ここ数年は爺様に手足切り飛ばされたり、姉弟子(まな板)に身体を圧死されそうになったり隕石落としてきやがったりとあれから成長したといえどふざけんなと叫びつつも能力を駆使して対処できつつあることに嬉しくも染まってきたなぁと逸般人の道を歩んでいく。ちなみに伐刀者にはそれぞれA、B、C、D、Eとランクがあって爺様や姉弟子はAランクでその中でもさらに上位な化け物クラスな訳で才能を持ってて努力できる奴が鍛えられたら強くなるのは必然である。

 実際、同年代と争うリトルリーグ(小学生の大会)に2回ほど出たけど余裕を持って倒したし。風使いの絡みが面倒だったのと魔力を無効化する槍使いしか覚えてない。後はお好み焼き美味しかったくらい?

 なんやかんや鍛え続けていたら、気付けば来年から伐刀者が通う高校に行く年齢に。

 ちなみにこの世界(原作知識)のこと知らないけど、何事も起こらないはずないのは分かる。だって主人公もしくはヒロインはたまたハーレム要員になりそうな子がいるからね。

 

「具体的にいうと目の前に」

「何か言ったかしら?」

 

 私は今、ヨーロッパの湾岸沿いにあるヴァーミリオン皇国に来ています。ニュースで伐刀者の平均の30倍以上の魔力量を持つ奴が海外にいるとか気になってたら爺様と姉弟子(師弟コンビ)が色恋沙汰と勘違いをして知り合いやコネを使い何故か戦うことになった。

 

「なんでもない。準備は?」

「ばっちりよ。通信教育(不思議探検隊)で学んだ私の日本語もばっちりみたいね!」

(ナニ)で学んだのか気になるけどちゃんと伝わってる」

「ならいいわ。今回、わが国に来てくれて感謝するわ。同じAランク同士で戦うなんて初めてだけどアタシはかなり強いわよ?せいぜい全力を出しなさい」

 

 負ける気がしないし負けるつもりもないけれど魔力が凄いだけの荒削りに負けたら流石に泣くぞ?いやその前に姉弟子に殺される可能性が高いわ。

 

先達(1歳年上)としてステラ・ヴァーミリオンさん、貴女をボコボコに負かしてみせよう」

 

 そう煽ると彼女の身体から魔力が噴出し炎の鱗粉が舞い獰猛な表情でこちら見る。

 

「上等じゃない。その顔、吠え面かかしてケチョンケチョンのギッタンギッタンにしてあげるんだから!」

今時(いまどき)聞かない台詞だなぁ…」

「う、うるさいわね!とにかく覚悟しなさい!」

 

 




・主人公
名前:○雲 ○○
伐刀者ランク:A
攻撃力A 防御力B 魔力量A 魔法制御A 身体能力A 運C



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紅蓮の皇女(第2話)

《ステラ・ヴァーミリオン》
伐刀者ランク:A
伐刀絶技:妃竜の息吹(ドラゴンブレス)

ステータス
攻撃力A 防御力A 魔力量A 魔力制御B+ 身体能力B+ 運A



 ここはヴァーミリオン皇国にある孤島。そこで二人の若き騎士が火花を散らし刃を合わせていた。

 伐刀者(ブレイザー)の平均30倍以上の世界最高の魔力を持ち才能溢れる少女ステラ・ヴァーミリオンと、世界的に数が少ないAランク騎士の中でもトップクラスの実力を持つ師弟から鍛えられた才能を持つ少年が何の因果(少年の師弟の悪ふざけによって)かぶつかり合う。

 彼女は今まで同年代に負けたことがなく、今では教育係の自国の騎士にさえ難なく勝星を収めてしまう。

 まさに天より愛されたし天才であり真の強者である。中にはそんな彼女に対して「努力すれば天才にも勝てるということを証明しよう」と宣い(のたま)無惨に敗北し、「努力しても天才には勝てなかった」という者もいた。

 ステラはいつだって才能に見合う努力をしてこそ今の自分を作り上げてきた。それなのに敗北すれば、〝やれ才能が違う〟〝お前はは恵まれて良いよな〟などと彼女の努力汚す言葉ばかり吐く者達に嫌気を差していた。

 そんな時に日本のAランク騎士との対戦の話が舞い込んだ。今まで戦った騎士(Cランク以下)達ではなく自分と同じAランク騎士。

 あの《闘神》の弟子にして《夜叉姫》の弟弟子である一つ上の少年との対決は彼女の心に一筋の光が射し込む話だった。すぐに了承し、今か今かと待ち望んだ。彼とならばいい試合が。燃え上がるほど熱い戦いが。自分の全力が出せるのではないのだろうかと期待に胸を膨らませた。

 

 そして迎えた当日。彼女の願いは成就する。

 

 

(かしず)きなさい!《妃竜の罪剣(レーヴァテイン)》!」

揺蕩(たゆた)え──《雲龍》」

 

LET's GO AHEAD(試合開始)!

 

 開始の合図が鳴ると同時に、彼女は大剣を上段に構えて魔力放出による加速で速効を仕掛ける。剣を振り下すステラに対して歩太は刀で弾き、そのまま返す刃でステラに斬り込む。

 ステラは剣を弾かれた勢いに乗り、刃を避けるべく後退する。だが、歩太は逃がす気がなく追撃とばかりにステラに踏み込んでくる。

 息をつく暇もなく斬撃を何とか捌くが、徐々に歩太の速度が上がり剣閃が上下左右縦横無尽と言わんばかりに周囲から襲ってくる。

 

「舐めるなぁ!」

 

 ステラは炎を燃え上がらせ、周囲に放出する。その熱量と勢いは周りを焼き尽くさんとばかりに燃え上がる。歩太はそれを見て危なげなく下がり距離を取った。

 ステラは追い詰められるが魔力のゴリ押しにより、下がらせることに成功し一息つく。対して彼は、あれほどの連撃を繰り出していたにも関わらず開始前と何ら変わらない姿勢を見せていた。

 ステラの心は燃え上がる。〝これだ。これこそ自分が求めていたものだ〟と。

 彼女の感覚は今までにないほど研ぎ澄まされ、魔力は唸りを上げるかのように練り上げられる。

 ステラは初めて同世代で敗北するかもしれない相手に、今まで味わえなかった充足感を感じた。しかも相手の力量は全く見えない。

 これが自分の同類(規格外)のAランク騎士なのだと歓喜する。それに呼応するかのように周囲の熱がより高まる。

 今度は魔法はどうだと火球を次々と放つ。歩太はそれに対し、自身を中心に水を出現させる。水はやがて龍を型どり、彼の身体に守るように巻き付く。

 

「甘いわよ!アタシの妃竜の息吹(ドラゴンブレス)は摂氏3000度。その程度の水量なんてあっという間に蒸発させるんだから!」

 

 彼女の言う通り火球がぶつかる度に水龍はその身を蒸発させる。歩太の狙いはそれだった。

 蒸発した水はは(もや)へと変わり、次第に霧になって周囲を(おお)う。

 ステラは視界が不透明になったことが己の失敗だと気づき、心の中で舌打つ。気持ちを切り替え、いつでも来いと反撃に備える。

 すると背後から高速で来る何かを感じ、剣で迎撃する。弾いたそれは槍のように鋭く尖った氷だと把握する。

 それを皮切りに地面以外のあらゆる方向から次々と襲ってくる。なるほど。水龍は攻撃をただ受け止めるだけでなく霧を作り出し視覚を殺し、この状況に持っていくための布石。あえて受けたのかとステラは感心する。その無駄の無さ、流れるような動作への繋げ方。並の騎士ならばここで終わるだろう。

 だがAランク騎士なのはこちらも同じ。そこらの騎士と同じと思われるのは心外だ。ステラは自分の気持ちを行動で表現した。

 

「チマチマといいかげん鬱陶しいのよ!消し飛びなさい《暴竜の咆哮(バハムートソウル)》!」

 

 灼熱の爆風により、全て吹き飛ばす。彼女の視界に彼の姿が映らない。伐刀絶技(ノウブルアーツ)で姿を消したのか?はたまた、こちらの攻撃で吹き飛ばしてしまったのか?意識を緩めず状況を確認し続ける。太陽が雲に隠されたのか、影が辺りを覆っている以外に特に変わった様子がない。そこでステラは違和感に気づく。

 今日は快晴で雲一つ無いのに平地が影に覆われている。ならば、自然現象ではなく誰かが行ったということになる。影は徐々に大きくなっている。

 可能な人間は一人しかいない。そう考えて上を見上げると、隕石かと見紛う大きな氷塊が彼女に向かって落ちてきている。まるで象が一匹の蟻を踏み潰さんばかりの異様さだ。

 

「そうよ…これこそ私が求めていたものよ!良いわ、気に入ったわ。アタシの全力を見せて上げる!」

 

 滾らせた炎で氷塊を蒸発させ消し飛ばしながらステラは宣言する。その先には水龍の頭上に立ち次の攻撃を放たんとする歩太の姿だった。

 彼女は自身の固有霊装(デバイス)である大剣に魔力を纏わせ注ぎながら言葉を紡ぐ。

 

蒼天(そうてん)穿(うが)て、煉獄(れんごく)(ほのお)……

 

天壌焼き焦がす竜王の焰(カルサリティオ・サラマンドラ)》!!」

 

 

間もなく戦いは終わる。

 

 

 

 




ステラ・ヴァーミリオンの作中に出してなかった技名
・火球…《焦土蹂撃》(ブロークンアロー)
・火龍…《妃竜の大顎》(ドラゴンファング)

当作の主人公の技名
・水龍…魔力制御の練習がてらディティールに拘った
・氷の槍…様子見の波状攻撃。
・氷塊…氷の槍を潜り抜けた相手にプレゼント。
つまりは技名つけるまでもない見せ札。あと何で水龍浮いてんのかの理由は空気中に水分含まれてる訳で…つまりそういうことだ。

2021/5/4、文章を少し変えました。


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決着…そして雲は流れる(第3話)

(ぬる)いな。

 

 彼はステラ・ヴァーミリオンをそう評価した。自身に比べ魔力量は確かに多い。特Aランクとでも付けようか。すでに一流一歩手前レベルで剣技を納め魔法も炎を操る自然干渉系で優秀だ。魔力量に対して能力が平凡過(・・・)ぎる所に疑問を感じるが今は(この試合中は)問題ないだろう。ただ同じAランクにしては弱い。日本の学生騎士で2人しかいないAランクの片割れ(風使い)の方が幾分強い。環境が(才能)を殺すとはこのことだなと思考しながら手を緩めず様子見の攻撃を繰り出す。

 さすがにAランクの炎使いは厳しいかと手札を1枚切ることも考えたがこの分だと当分はこのままで引っ張れそうだ。この試合中に彼女の力量は確かに上がっているが接待(油断・慢心・オレ様)プレイはする気は無いのだと戒めながら攻撃を放つため魔力を練り上げ津波が如く全てを呑み込む激流を彼女に向けて放つ。

 

「全てを呑み込め、《激龍葬(げきりゅうそう)》!」

 

 火と水の互いの伐刀絶技(ノウブルアーツ)が交わり水蒸気爆発が起こるがそれをなお食い破りぶつけ合う。いくら伐刀者用に整えられた平地とは言えど2人の技を受けた地面は大きく(えぐ)れていた。蒸気が晴れた大地に彼女は息を荒げながらも構えを解かずにいた。いつの間にか地面に降りてきた目の前の無傷な相手に油断などしてしまえば一瞬で刈り取られるからだ。そんな彼女に対して彼は言葉を告げる。

「まだ、出し切ってないでしょ?」

「……?」

 今、彼は何と言った?出し切ってない?一体何を?頭の中で思考が駆け巡り混乱する。

「これまでの相手とは違う同じAランク騎士なんだ。遠慮するな。先達として胸を貸してやるって言ってんだ」

 

 

 彼女から膨大な魔力が吹き出した。

 

 

 そうだ。(この同類)はいままでと違うんだ。遠慮しなくたって良いんだ。心が歓喜と興奮に包まれた。そうだ私の力はこんなものじゃない。何だこの感覚はこの感情は!押さえ付けられた(ふた)が取れたかのように溢れて仕方ないのだ!感謝しよう…今日という日に。そして目の前の偉大な騎士(私に初めてをくれたあなた)に…

 

「……ぇ…」

「ん?」

「名前を教えなさいよ…」

 

早く戦いたい(私に見せて欲しい)

 

「あ~覚えてなかった?」

 

全力をぶつけたい(私を見て欲しい)

 

「そ、そうじゃないけど…確認のためよ!確認のため!」

 

早く貴方の力を見たい(私の全力に答えて欲しい)

 

「まぁ、いいけど…

 

出雲 歩太(いずも あゆた)だ。よろしく、ヴァーミリ…」

「ステラでいいわ」

「さすがにここじゃ呼び「いいから、ステラって呼びなさいよ!」…あ~わかったよ。ステラ」

「ふふん…よろしくねアユタ。今から貴方をボコボコにしてあげるんだから!」

「じゃあ、俺はケチョンケチョンのギッタンギッタンにしてやろう」

今時(いまどき)聞かない台詞ね、それ」

「ハハ、おれもそう思う」

 

 あぁ、だから早く

 

 

 

 

早く貴方を知りたい(私を魅せて欲しい)

 

 

 

 

 

 

「私達でやっといてあれだけど、ヒドイ有り様ね」

 地面は溶解したり抉れたりしているが島の原型を何とか留めている。

「てかどうやって浮いてた(水龍と一緒に空に飛んだ)のよ?…え、おかしいわよね?何で浮いてんのよ?」

「いやいや伐刀絶技ってそんなもんでしょ」

「そうだけど~なんか納得いかないわ!私の魔力が尽きてるのにアユタの魔力が少しだけ残ってることとか」

「海に囲まれた島国って良いよね。この国けっこう好きだな」

「あ、ありがとぅ…ん?まさか(周囲の水)を使って…」

 彼は頷いて言う。

「そこにあるものは使わないと損でしょ」

「ズルいっ!私はできないのにぃー!」

「まぁまぁ。メシでも食べに行こう。オススメの店に連れてってくれよ」

「こうなったら食べまくってこのモヤモヤを晴らすわ!着いてらっしゃい!」

「はいはいっと」

 

 

 

 

 そして舞台は学園(原作手前)へ……

 

 

 

 

 

 




当作主人公 
・出雲 歩太(いずも あゆた)
伐刀者ランク:A
固有霊装:雲龍(うんりゅう)…鞘付きの太刀
伐刀絶技:激龍葬、○○○○、○○牙
ステータスの変更なし

・転生特典
その1…固有霊装の形と能力
その2…魔力量Aランク最高(ステラを除いて)
その3
その4
その5
その6
その7能力を引き継いで転生(性別は男で)
以上!


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雲さん、高校生になる(第4話)

ある日の主人公と爺様の会話

「なぁ爺様。高校は武曲に行かなくて良いのか?」
「別に気にせんでええよ。好きにしなさい」
「姉弟子は武曲だったのにいいの?」
「寧々が武曲に入ったのは理由があってのう。」
「姉弟子曰く、『あの頃ウチはやんちゃだった』だっけか」
「盗んだバイクで走ったあと売っぱらってたじゃろうな」
「いやいや。足が届かないことにイラっときて絶対スクラップにしてるでしょ」
「それもそうじゃの」


「「ハハハハハッ!」」




姉弟子「…」

 


 ステラと戦ったあの日から時間が過ぎ、今年から高校生。魔導騎士たる伐刀者(ブレイザー)のための学校の1つである破軍学園に入学した。ランク主義で面接時に学生騎士の大会である七星剣武祭に1年生でも自分(Aランク騎士)なら問題なく出場できると言われたからだ。爺様が特別顧問をやってる武曲学園だと学内で予選をし各学園出場者数の6人の席を勝ち抜け戦で争う。この前、粉ものが食べたくなり店に行ったらリトルリーグ時代(小学4年と5年時)に印象に残ったお好み焼き焼き屋の息子(魔力無効化能力を持つ槍使い)がそこの学生だそうで行くのを止めた。アイツ狡猾だからノリか遊びとかで集団をけしかけたりしてこちらの弱点を探るなんてこと平然とするだろうし。正直、風使い(同じAランク騎士)より面倒。

 (転生特典など)や身体を鍛えつつ学生生活を満喫してたわけだが、胸糞悪い光景が視界に入った。

 

 

 

「さぁ。今が頑張り時だよ。固有霊装(デバイス)を出して先生や皆に君の実力を見せつけるんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 今年の破軍学園には伐刀者ランクの最高峰である《Aランク騎士》出雲 歩太(いずも あゆた)が入学したと騒がれていた。

 

 その一方で平均の十分の一しかない過去最低の魔力量を持つ騎士についても密かにウワサになっていた。

 

 少年…黒鉄 一輝(くろがね いっき)は入学試験時。試験担当官であった教師に、あまりにも資質のなさ故に落とされそうとしていたが彼は担当官にこう言った。

 

『あなたに勝てます』

 

 Fランク…自分の伐刀者としての資質で普通に受験しては落ちるのが分かっていたために強い言葉で挑発し己の力(武芸者としての強さ)を示し入学をもぎ取った。

 しかし、今年から実戦教科を受講する最低能力水準(・・・・・・・・・・・・・・・)という他の学園にはない規定(・・・・・・・・・・)がつくられ、一般教科以外の全ての実戦教科を受講することができないでいた。例え資質が低くても実力を示し道をこじ開けてみせると考えていた彼にとって悪夢(歯がゆいこと)だった。それでも腐らずにチャンスを待ち続ける姿勢を見せていたせいだろうか?

 

 

 

『ごめん…黒鉄。俺はもう、お前と仲良くできない』

 

 

 

『アイツと仲良くすると、理事長に(にら)まれるらしぜ』

 

 

 

『一輝に関われば内申が悪くなる』

 

 

 

そんな噂が(ささ)やかれれば、友達や他の生徒達から距離を取られるのも当然の成り行きだった。そして今回の出来事である。今年の《入学首席(Aランク騎士)》に話題を取られて余り目立っていなかった《入学次席》である桐原 静矢(きりはら しずや)が中庭で昼食をとっていた一輝に話しかけてきたのだ。

 

 

「そうやっていつまでも先生達の言うことに従ってるばかりじゃ、一生かかっても先生達に実力を認めさせるなんて不可能だろ?だからさ、今ここでボクと決闘しようじゃないか」

 

 

 一輝は何故こんな目にあうのか理由を知っていた。それは彼の出生した家が原因だ。《黒鉄家》は代々、優秀な伐刀者(ブレイザー)を輩出してきた明治から続く日本の名家で騎士の世界にもとても強い影響力を持っている。その《黒鉄本家》から破軍学園に直接圧力をかけてきたのだ。

『黒鉄の家を出奔したはぐれ者。黒鉄一輝を卒業させるな』

 伐刀者は緊急時には固有霊装の展開を認められているがこの場で少しでも戦意を見せれば周りにいる理事長の一派である教師達がそれを不祥事として取り上げ黒鉄本家と直接繋がっている理事長は嬉々として一輝を退学に追い込むだろう。

 一輝は申し出を断って広場を後にしようとした。しかし、

 

「そんなこと言うなよ。ボクはクラスメイトとして君が心配なんだ」

 

 (きびす)を返した背に、桐原が固有霊装(デバイス)朧月(おぼろづき)》による射撃を打ち込んできた。こちらは決闘の申し出を断り固有霊装も出していないのにだ。そんな桐原の行動を誰一人として戒めるものはいなかった。近くにいる生徒や様子をうかがっているまともな教師達も。

 

「ほらほらどうした。立ち上がって固有霊装を構えるんだ。まだまだ平気だろ。Fランクでもやればできるとこを見せてく・れ・よっ!ほら見てみなよ。広場にいる皆も君のことをこんなに注目してくれてるんだ期待されてるんだ。そんなうずくまってるだけじゃなく立ち上がってみせるんだ。男を見せるんだ、黒鉄君。いま輝かないでいつ輝くのさ?騎士に成りたいんだろ?実力を示して入学してきたんだろ。七星剣武祭(しちせいけんぶさい)にも出場したことがあるこのボクがわざわざ君のために協力してるんだ。こんな機会を作ってくれたボクに感謝しなくちゃね。だってここで成果を上げればこれから皆が君の力を認めてくれて授業だって受けられるようになるかもしれないよ。さぁさぁ、もっと速度を上げて撃ち込むよ。あーもしかして勝てないと分かってるから手を出さないのかな?大丈夫っ!皆、分かってることだから落ち込むことはないよ黒鉄君。なんたってボクは君と違って優秀だからね!そんなボクと戦えるこのチャンスをものにするんだ。栄光を掴め、黒鉄一輝っ!」

 

 伐刀者の能力が低い…それだけでここまで仕打ちを受けなければいけないのか。回避も戦意ありと捉とらえられる可能性があるために一輝にできることは、ただ黙って攻撃を受け続けることだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにやってんの?」

 




原作主人公
・黒鉄 一輝(くろがね いっき)
伐刀者ランク:F
伐刀絶技:一刀修羅(いっとうしゅら)
二つ名:落第騎士(ワーストワン)
攻撃力F 防御力F 魔力量F 魔力制御F 身体能力A 運F



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イジメ、ダメ、絶対(第5話)

桐原
「どうしたどうした、もっと熱くなれよ!」
 一方的会話中。毎秒1発たまに大きく黒鉄(原作主人公)きゅんを射抜きまくる社畜の姿を見た歩太。

歩太
「(え、こわっ。ナニコレ?マジで)なにしてんの?」
 思わず心の声が出てしまった。

桐原
「ひょ?」



黒鉄
「……(気絶中)」


 声が響いた途端、辺りが静まった。先程まで大声を上げて一方的に話していた桐原もその声を聞いて一輝への攻撃を止めて音の発生源の方へ向く。その眼はこちらを全て見透かすような視線で思わず身震いする。

「ッ!…いやぁ。調子はどうだい。出雲君」

 

 桐原 静矢(きりはら しずや)出雲 歩太(いずも あゆた)のことが嫌いである。彼は同学年でありながらこの間の大会、七星剣武祭(しちせいけんぶさい)で自分と同じく1年生で出場し、自分より上位の成績。大会に優勝して七星剣王(セブンスワン)となったからだ。桐原はCランク騎士。対してあちらはAランク騎士とその差は歴然で理解も納得もするが不満がないわけではない。

 ぶっちゃけ、嫉妬(めちゃくちゃ悔しい!!)である。彼がいなければ自分が入学首席であったし、影が薄い(Aランク騎士スゴイッ!)次席の人(名前を呼ばれない)とか呼ばれずに済んだ筈なのだ。ちやほやされるのが好きな桐原にとって自分より目立つ存在は好ましくない。だからといって相手と自分の力量を(わきま)えないほど愚かでもない。平然とした様子で返事を返したが頭の中で必死に今の状況を分析しようとしている。

 

 お前なんでここにいるんだよ。ふざけんな。この時間帯いつも中庭にはいないはずだろ。あの理事長(狸ジジイ)、適当な情報提供しやがって。こっちはお前の出世のために協力してやってんだぞ。Aランク騎士(化け物)の不快感を買ってヒドイ目にあったらどうしてくれんだ。こちとら、コイツの敵に対する容赦のなさを知ってんだぞ。アーーーッ!黒鉄より狸ジジイを撃ち抜いてやりたいわ!!ホントどうすんのよこれ!?

 

 全然できてない(パニクっている)状態である。

 

 歩太はこちらに近づく。桐原の心臓がキャベツの千切りばりに激しくビートを刻み、歩太の言葉(判決)を待つが彼は自分を通り過ぎ倒れている(桐原が射止めた)黒鉄一輝を担いでからこちらに振り向いて言葉を発しようとするが、何故か口を閉じて中庭から離れた。

 

 

 《出雲歩太》は《黒鉄一輝》と今より前。幼い頃に出会っている。Fランク評価を下されてから両親や親戚に見放され疎まれ、祖父以外で一輝のことを色眼鏡で見ず普通に接してくれた数少ない存在である。Fランクの一輝が魔導騎士になりたいという夢を笑わなかったし、強くなるためのアドバイス(ネタ)を教えてくれたりと1度しか会わなかったが一輝は歩太のことを友達だと思っている。破軍学園で久しぶりに出会った時は声をかけようとしたが、歩太の周りには人集りができて近づけなかった。またの機会に挨拶しようとその場を離れた。だが、その機会は中々訪れず歩太が七星剣武祭(しちせいけんぶさい)で優勝してからは機会を見つけることができなかった。

 

七星剣王(セブンスワン)

 

 七つの学校が競い1番を決める、普通に流血沙汰ありのけっこう血生臭い大会である。この大会では幻装形態(げんそうけいたい)を解除して戦うため手足は平然と飛ぶし、伐刀者(ブレイザー)の能力によっては頭さえあれば(思考さえできれば)余裕で戦線復帰するので殺し殺される覚悟ガン決まりな奴らが上位陣にいる。実際、大会の規定にも命の危険が伴うとしっかり記載している。

 そして今年。そんな大会に初出場ながら参加者を薙ぎ倒して優勝まで果たしたのが歩太である。歩太は入学当初からAランク騎士であること。顔も悪くはなく、そこそこ社交性を持っているため学園ではけっこう(ファンクラブがあるほど)人気者だった。人気者が大会に出場して結果を残しメディアなどに取り上げられ、ついには優勝してしまえば大人気(全国的にファンができるほど)になる。優勝してから無防備に街に出た時のこと(大量のファンに囲まれた)は今でも苦い思い出(メディアこわっ)だ。

 それから外に出かける時は伐刀絶技(ノウブルアーツ)の応用で変装(姿を偽って)することにした。

 

 

時を戻そう(説明終わり)

 

 

 気絶していた一輝は意識が戻りこれからについて考える。

 

 今回あれだけのこと(マシンガントーク(物理もマシマシ))をされたのだ。さすがに表立っての行動は暫くはないだろうが陰湿陰険さは今後増すばかりと考えるべきだ。自分は果たして耐えられる(心が折れない)だろうか?いや。耐えてみせるんだ(強がり続けるんだ)。幼き頃に誓ったはずだろ。諦めなくていいんだ。追い掛けていいんだと。こうなることは分かっていたはずだ。なら諦めず進み続けるんだ。ボクには諦めないことしかできないんだから。

 決意を(あら)たに確認して目を覚ますと、自分がベッドの上にいることに気づく。あそこにいた誰かが自分を運ぶとは思えない。というか放置されるはずた。ならばいったい誰だと。

 

「あ、起きた?」

 

 声が聞こえたのでそちらを向くと、話す機会を逃し続けていた友達がいた。

 

 

 

 

 

 

 




・桐原の実際の様子
桐原「いやぁ。調子はどうだい?」
 顔から汗が吹き出し目がキョドる。

歩太「(だんだん顔の色が悪くなってきてるんですけど?あ。涙目になって身体がバイブレーションし出した)……ぁ」

桐原「ッ!!」
 顔が白くなり涙・鼻水・涎が大量生産。身体はメトロノームの如く大きく揺れている。

歩太「……(大丈夫かって言おうとしただけなんだけど。仕方ない…お大事に)」
 いっちー担いでその場を離れる。




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あの頃は酷かった(第6話)

・姉弟子
「アユター。お姉ちゃんと遊ぼうぜぃ」
 空になった酒瓶が大量に転がっている。嫌な予感しかない。
・ちびアユタ
「今日は疲れたから夕飯まで寝るんでまた今度にしてさ。姉弟子」
・姉弟子
「ウチの言うことが聞けないっていうのかぁい?ったく。こんなイイ女の誘いをドイツもコイツも断りやがって。ケッ!」
・ちびアユタ
「(うわ。クソめんどくせー)…お水持ってくるんで今日はもうお酒を控えましょ?少しだったら付き合うから」
・姉弟子
「おっ。何だかんだ言ってウチのこと好きなんだから可愛いやつだなぁ。ウチも一緒に夕飯まで寝てやんよ。ほらこっちへ来な」
・ちびアユタ
「いやいやなんで服脱ごうとしてんですか。ちょっとこっちまで脱がしにかからないでっ!正気に戻って姉弟子っ!いやほんとヤメて。パンツ脱がそうとしないでーーーっ!!」




「記憶力は良い方なんだけどなぁ。覚えないとしたら姉弟子になんかされた(最終的に吐瀉物かけられた)時の印象が強すぎて他が何も思い出せないあの日に会ったとしか…」

「ちょっと待って」

 思い出そうとすると歩太の目がだんだん濁り始める。

「悪酔いした姉弟子と魔法ありありで1時間ほど場外乱闘の鬼ごっこ。最終的に尊厳(パンツ)だけは守り抜いた。まぁ、ゲロ浴びせられて身体は汚されたけど」

「うわぁ…」

 

 幼少時代。涙の数だけ強くなれることを実感することが多かった。弱いことは決して悪いことではない。弱いままでいることが悪いのだ。力が弱く、何度も煮え湯を飲まされたことか。年齢1桁で強くなりたい理由(あのドチビいつか泣かす!)ができるとは思わんかった。そんな理由欲しくなかった。ちょっとくらい、ちやほやされたかった。他の幼児みたいに。お陰様で強くなれたけど心の傷はまだ癒えない。

 だいたい可愛がり方がおかしいんだよ、死ぬわッ。あと、いいかげん魔力制御見直せ。

 

「あのできごとは忘れない。むしろあの日はそれしか覚えてない」

「ごめん、僕が悪かったから。もう思い出さなくていいから戻ってきてよ」

 歩太は自分が狂い出したのに気がついて昔話を打ち切る。

「おっと失礼した。じゃあ改めてよろしくだな」

「うん、こちらこそ。」

 こうして数年振りに再び友好関係を結ぶのであった。

 

 

 水面に一石を投じると波紋が生まれその波紋がまた新たな波紋を生み出すように本来ならば交わることがないものが加わることで史実(原作)とは異なる始まりを迎えることになる。

 

 

「ところで、どうやって剣技を磨いてきたの?」

「あまり誉められたことじゃないけど、名のある武人に果たし合いを挑んだり断られた時は辻斬り染みたことなんかも。あとは道場破りとか」

「えっ、こわ。『今宵は血を欲してたまらないっ!お前の血をよこせーッ!!』とか言ってたり?」

「そんな危ない人みたいな物騒なこと言ってないよっ!?」

「充分、物騒なことしてるからね?」

 

 

 

 季節は春を迎える。新入生だった者は真新しく着なれていなかった制服が馴染みだし、馴染んでいた者はやや解れが見え始めた。そう、新学期が来たのである。

 

 

『今年、十年に一人の天才騎士!ヴァーミリオン皇国第二皇女ステラ・ヴァーミリオン様(15)破軍学園に最高(・・)成績で首席入学!』

 

 

 ここ最近、新聞やニュースで話題が取り上げられている彼女だが僅かな不満があった。それは2年前に自身の全力を受け止められ敗北した相手の入試成績を越えることができなかったからだ。

 

若き超新星(スーパールーキー)!《水鏡(すいきょう)》出雲歩太(15)破軍学園に歴代最高(・・・・)成績で首席入学!』

 

 流石は自分が認めたライバルだ。簡単に越えることができないが、その背にわずかに触れている。ならば、あとは肩を掴んで振り向かせるだけ。あの保護者目線を鋭い眼光に変えてやるのだ。日本のハイスクールに行くといってパパがうるさかったが物理的に説得して最終的に認めてくれた。この機会をものにして伐刀者(ブレイザー)として国を守る騎士として、さらなる糧とするのだ。まだ新学期は始まったばかりで焦りは禁物。適度に肩の力を抜くことも忘れてはならない。それに今すべきことは他にある。

「寮に着いたらまずはシャワーね」

 約12時間かけて日本に来たから時差で少し眠気がある。さっぱりしてリセットしなくては。

 

 歩きながら考えていたためか気づけば彼女は今日から3年間を過ごす自身の寮の部屋へ着いた。鍵を差し込み扉のロックを外して扉を空ける。

 

「へっ?」

「えっ?」

 

そこには上半身裸の男が着替えの最中であった。大き過ぎずしかし鍛え抜かれたその肉体美を見つめる。

 先ほどまでシャワーを浴びていたのだろうか、湿りが残っている黒髪が艶やかに見えてどこか色気を感じるのは気のせいだろか。おもわず、喉を鳴らして唾を飲み込み凝視する。

 男は少し困惑した顔のまま口を開く。

 

「あー……えっち?」

「あぅっ!ごめんなさい。って普通逆でしょう!?」

 

 

 

紅髪皇女はムッツリすけべ。ハッキリわかんだねッ!

 

 

 

 

 

 

 

 



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破軍学園の事情(第7話)

 理事長室の扉の前でばったり会った一輝と歩太の会話。

「あれ、一輝も理事長室に用があんの?」
「うん。ちょっと部屋割の件について聞きたいことがあってね」
「生徒会長と一緒だけどもしかして…」
「部屋が同じだったんだ」
「ラッキースケベでもした?」
「えっ」
「俺はラッキースケベされた」
「えっ!?」




理事長室には現在4人の生徒が訪れている。寮の部屋割に問題があったからだ。破軍学園理事長、新宮寺 黒乃(しんぐうじ くろの)は各々の意見を聞いている。彼女は以前からここの理事長をしていた訳ではない。前理事長(狸じじい)の不祥事が表沙汰になったからだ。前理事長は長らく破軍学園から七星剣舞祭(しちせいけんぶさい)で優勝者を出していなかったことが原因で退任させられる予定だった。

 しかしAランク騎士、出雲 歩太(いずも あゆた)を学園に迎え優勝したことによってその話がなくなり彼を救った。しかし彼はここにいない。

 

 

 

 歩太(イジメ撲滅マン)が原因だ。

 

 

 

 彼は一輝に話を詳しく聞き、優勝したことによってできたコネを使い教育委員会を動かした。本来であればそれくらいなら理事長自身の力で如何様にもできた。しかし、歩太が一番最初に話を持っていった相手が悪かったのだ。

 

 

 

 現総理大臣(元・教師)である。

 

 

 

 教師という仕事に誇りと責任を持っていたし、生徒も大事にしていた彼がそんな話を聞けば血が騒がないわけがない。総理になった今でも昔の教え子と交流があるグレートティーチャーだ。話はトントン拍子で進みあの狸じじいはクビになった。ざまぁみろ。

 

 そして新たに任されたのが元騎士である現理事長(元世界ランキング3位)だ。彼女は元々ここの生徒であり今では子を持つ母親だ。母校の教師が腐ってるのも許せないが子供である生徒をよってたかって大の大人がイジメに加担するなど万死に値すると言わんばかりに着任早々、狸じじいに味方したクズや仕事が適当なカスな教師どもの首を次々と切っていった。

 

 

 

「確かに去年までルームメイトは同性同士だったが今年からは違う」

 

 

 

 黒乃が理事長を主任してきてから学園の体制はガラリと変わった。中でも一番大きいのが完全な実力主義。徹底した実戦主義だ。伐刀者(ブレイザー)の強さに男女差などない。単純に強いか弱いかである。ならば男女関係無く、力の強いもの同士が同じ空間にいればお互いを意識して切磋琢磨と競う環境を意図的に作り出し誘発するのが目的だ。

 

 

 

「ということだ。納得したか?」

「納得できるわけないでしょうッ!?」

 

 四人の内の一人であるステラ・ヴァーミリオンは理事長室にある机を強く叩いて抗議を続ける。

 

「だ、だいたいアタシ達みたいな年代の男女が一緒の部屋で生活するなんて…ひ、非常識だわ!間違いが起こったらどうするんですか!」

「おやおや。ヴァーミリオンは年頃の男女が一緒にいるとどんな間違いが起こると思っているのかな?是非聞かせて欲しいな~」

「そ、それは…その、ぅぅ……トーカさんもなんか言ってよっ!」

「えッ!?そげなことふられてもこまるばいッ!?」

 

 顔を赤くしながら破軍学園、生徒会長東堂 刀華(とうどう とうか)は声を荒らげた。

 

「なんだ、二人して顔を赤く染めてムッツリなのか?なんなら東堂からでもいいんだぞ~」

 

 この女、実にイキイキとしている。雲行きが怪しくなってきたため出雲 歩太(いずも あゆた)黒鉄 一輝(くろがね いっき)の両名が口を開く。

 

「理事長、それセクハラっす」

 

「なに泥酔(でいすい)したオッサンみたいな絡み方してるんですか」

 

 黒乃は冗談だと言って薄く笑った。

 

「ともかくこれは決定事項だ。君たち以外にも男女でペアになってもらう者はいる。その全員に便宜を図っていては本末転倒もいいところだ。それにヴァーミリオン、君も皇女だからといって特別待遇は無しだ。気に入らないというなら、退学にしてくれても結構だぞ?」

「………」

 

 黙り込んだステラを見て黒乃は彼女に近づき耳元でささやく。

 

「ちなみに出雲は料理が旨かったぞ?」

「仕方ないですね。それが学園の方針なら従います」

「よし、話はまとまったな。これにて解散だな」

 

 ステラとて別に知り合いである歩太と一緒に暮らすのが嫌ではない。ただ色々と覚悟決めてこの学園に入って早々のハプニングにパニクっただけなのだ。断じて淫らな妄想をして興奮したわけではなし、皇女としての倫理観的にごく普通の抗議をしただけなのだ。別に食べ物で釣られたわけではない。学園の方針に仕方なく、そう仕方なく従うだけなのだ。SUSHIやテンプラ、スキヤキを前に屈したわけではない。

 

「ステラさん。いま涎を拭いましたけど、どうしたんでしょう?」

「腹減ってんじゃないですか?朝バタバタして俺も食べてませんし」

「なら皆で食事に行こうか」

「じゃあアタシッ、回るお寿司が食べたい!」

 

 

 




「ラッキースケベって女子でも起こすんだな。少女マンガとかでよくある展開なわけ?」

「知らないわよッ!私にあんなもの見せておいてその態度はどうなのよっ。反省しなさいよッ!」

「ガン見してたヤツが言って良い言葉じゃないかなぁ」

「いいから私に謝りなさいよ、今なら五分の四殺しで済ましてあげるからッ」

「えっ。誰が誰を?はははっ、ご冗談を」

「ぶっ殺スッ!」


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Aランク騎士とFランク騎士(第8話)

歩太「この肉体美…どうかな……?」
ステラ「すごく…えっちぃです……ゴクリッ」

一輝「待ってッ!下着姿を見てしまったお詫びに僕も脱ぐから許してッ!」
刀華「そげなことせんでよかッ!ともかく落ち着くばいッ!」





 とある夕食時、歩太は料理を作りながらステラと会話していた。

「アユタとイッキって戦ったことあるの?」

「俺が忙しくて機会は少なかったけど、それなりにな」

「Fランクだけど、強いのよね?」

「強いというより(うま)いだな。剣や体術がバグってやがる」

「何よそれ、どういうこと?」

「言葉で伝えるより戦った方が理解する」

「へぇ…」

 ステラは歩太の言葉を聞き好奇心と闘争心が高まり、ならば歩太の言葉通り、自身で確かめようと動くのであった。

 

 

 そしてステラの思惑にまきこまれたルームメイト(歩太)はややテンション低めで闘技場にいる。

 

 

「ん、準備はできたようだな」

 

 巻き込まれたことに不満があるがこの試合には興味があるので、もう諦めて歩太は審判役を勤めながら二人の試合について考察していた。

 

 一人は伐刀者(ブレイザー)の平均魔力量の約30倍を持つAランク騎士『紅蓮の皇女』ステラ・ヴァーミリオン

 

 対するは平均魔力量の十分の一しか持たないFランク騎士『落第騎士(ワーストワン)黒鉄 一輝(くろがね いっき)

 

 世間が下す彼らの評価は対極の存在と答えるだろう。確かに魔力量で考えればステラは一輝の約300倍あり、その差は絶望しかない。

 だが武芸者、騎士として異様な力量を持つ一輝相手だと話は別だ。ステラは強すぎるから故に相手になる存在がいなかったが、一輝は弱すぎるからこそが魔力関係以外の強さをがむしゃらに求めた。つまり戦いに対する経験値ではステラよりも遥かに高い。

 この戦いはステラが蹂躙して勝つか。一輝が技巧をもって勝つか。

 

 力と技の対決なのだ。

 

 

 

「えぇ。始めましょうか、イッキ」

「こちらこそ。お互い全力を尽くそう」

 

 

 LET's GO AHEAD(試合開始)

 

 

(かしず)きなさい。妃竜の罪剣(レーヴァテイン)!」

「来てくれ。陰鉄(いんてつ)

 

 ステラはこの異様な騎士たる一輝に対して油断を一切せず自分から斬りかかった。上段から斜めに振り下ろし刃を交え受け流されてしまうが主導権を手に入れるため続けて真横、袈裟、再度上段、逆袈裟と次々と剣を振るう。

 一輝は最初の上段からの攻撃こそステラの膂力を見誤り受け流しが僅かにズレたが、情報を修正して2撃目から完全に受け流し始めた。

 そしてついに反撃を始める。

 

「もう見切った」

「ッ!?」

 

 瞬間、唐突に戦いの流れが激変する。試合開始から5分弱、一輝が攻めに転じた。確かに彼の受け流しの技術は超一流で、力で叩き斬るステラの剣術ではとても真似することができない。しかし、彼女が押されている意味が分からない。受けより攻めの方が圧倒的に力が必要だからだ。ステラは焦るが次第に冷静になり、状況を分析しようとするが一輝はさらに揺さぶりもかけはじめた。

 

「ありえないでしょ…っ!?どうしてイッキがそれを使えるの!?」

 

 ステラが学んだ剣術、皇室剣技(インペリアルアーツ)を一輝が使い始めたからだ。

 

「僕は昔から嫌われ者で、誰にも何も教えてくれなかったから、他人の剣を見て盗むしかなかった。だからこういうことばかり上手くなっちゃってね。大抵の剣術なら一分も打ち合えば理解できる」

 

 その理屈はおかしい(イヤイヤ普通は無理だから)

 

「そしてそこまで理解できれば、敵の剣術をあらゆる意味で上回る剣術を作れる。その剣術を戦いの中で作り出すのが僕の剣術《模倣剣技(ブレイドスティール)》だ。ステラさんの剣技はすごく研ぎ澄まされていたから、全部盗むのに二分もかかったし、超えるのに三十秒も使ってしまったけど、もう全て掌握した。ここから先は僕の番だ」

 

 ステラは精神攻撃と剣術のダメ出しのダブルパンチを受けた。なんだコイツ。こんなヤツが何故Fランク騎士なんて評価を受けるんだ。ドイツもコイツも狂ってやがる。ただの剣畜(けんちく)じゃねーか!と焦りに焦る。

 一輝は写真と実物(成績と実力)が違う見た目詐欺ですらない、ただの異常なので彼の実力を知る者からすれば常識である。

 冷静な判断ができないステラはフェイントを交えて隙を作ろうとするが体勢が不充分な力も速さもない剣圧ではこの剣畜には効かない。

 

「太刀筋が寝惚けてるよ」

 

 彼は嫌味で言ってるわけではない。天然なため、素で煽りまくることがあるのだ。そしてステラの剣を一輝は自身の固有霊装(デバイス)である刀の柄(持ち手)を使って受け止めたのだ。

 

「気持ちが押されているから安易な勝ち筋に走る。そんな温い剣だから、僕程度にも受けられる」

 

 ステラはもうごちゃごちゃと考えるのをやめた。剣術を盗まれるわ、ダメ出しされるわ、挙げ句の果てに怒涛の言葉責め(精神攻撃)だ。普通なら心が折れる。彼女はメンタル面も強いので折れることはなくともダメージは受ける。結果、どうなるかというと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怒り狂う(ブチギレする)のだ。

 

 

 

 




・歩太の場合「言葉で相手を惑わすのはありだと思う。実際たまにするし」

・一輝の場合「戦術としてありだけど、僕はしないかな」

歩太「えっ?」

一輝「えっ?」


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とりあえず1発殴らせろ。話はそれからだ(第9話)

・中学時代の歩太
「この食材…ふむ、買いだな」
「兄ちゃん、目利きすげーなぁ!」
「なんか、ある時から見れば解るようになって」
「もしかして伐刀者ってヤツかい?それなら納得ってもんだ」
「えぇ、まぁ。(無意識に能力使ってる?あとで確かめとこ)」



 一輝は隙を晒したステラに対して《陰鉄(いんてつ)》の刃を振り落とした。

 

(初撃は貰ったッ!)

 

 しかし、その一撃は届くことはなく一輝はステージの壁に激突。そして前方には拳を突き出した状態のステラが。

 咄嗟に後ろに飛んで威力を殺したものの完全ではなくダメージが入る。まさか拳が飛んでくるとは思わなかった一輝は再度、情報を修正する。

 

 ダメージが殆どないだろうが、とりあえず1発。一輝の土手っ腹ブチかまして冷静さを取り戻したステラ。上下に別れさせるつもりで殴ったのだが威力を流されたことに一輝の異様さをさらに理解させられた。なるほど、実際に戦わないと理解できない強さだ。自分とは強さの方向性が違う。

 

「流石ね、イッキ。まさかここまでとは思わなかったわ」

「いや、ステラさんこそ凄いよ。完全に入ったと思ったのに僕の方が攻撃を受けてしまった」

「受け流しといて何言ってんのよ。嫌味?」

「ごめん、そんなつもりはないんだけど。どうやら僕は技術でステラさんを圧倒できると自惚れていたらしい」

「アタシもイッキのこと舐めてかかったようだし、お互い様よ」

 

 ここからが本番だ。己の力で目の前の騎士に勝ってみせる!

 

「私の力を見せてあげる!」

「僕の最弱(さいきょう)(もっ)て君の最強を打ち破る!」

 

「我が身に宿せ!《炎竜の化身(ドラゴンフォース)》!」

 

「《一刀修羅(いっとうしゅら)》!」

 

 名前は違うが身体強化の伐刀絶技(ノウブルアーツ)を使う2人。しかし、その過程は異なる。

 

 膨大な魔力をもって己の身体強化を重ねがけするステラ。

 

 脆弱な魔力を根源たる源流から無理やり引き出し一種のオーバーフローを起こして身の危険を省みず1分間だけ超強化した身体強化を行う一輝。

 

 再び刃を交え合う2人。この光景を見て誰が苦戦するステラを嗤うだろうか?誰が一輝をFランク騎士と嗤えるだろうか?ただ目の前の強敵を倒したい。その意志が伝わらない筈がない。

 

「蒼天を穿(うが)て、煉獄の焔」 

 

 ステラはこの戦いを終わらせるために自身の最強の技を唱える。

 

「《天壌焼き焦がす竜王の焰(カルサリティオ・サラマンドラ)》!!」

 

 剣に纏わりついた炎の竜巻は天上を突き破り、轟轟と燃え盛る。ステラはその剣を一輝に向けて振り下ろした。

 この攻撃を喰らえば一輝の敗北は決まりだ。《一刀修羅》の発動時間はあと10秒。ならばと、その10秒を圧縮し剣先に力を集中させた突きの一撃にかける。

 

「《第1秘剣・犀撃(さいげき)》!!」

 

 衝撃が会場を揺るがし、煙が立ち込め2人の姿を隠す。勝利し立っているのは果たしてどちらか?肉体にダメージを与えない幻想形態を使ってるとはいえ、どちらも遠慮という言葉を一切チラつかせない攻撃を行ったのだ。まぁ、あの2人なら大丈夫だろうが。

 

 歩太は状況を確認してステージに向かい、こう言った。

 

「惜しかったな」

 

 

 そこには気絶して倒れた2人の姿だった。

 

 

 最後の瞬間に何があったか説明しよう。一輝はステラの技を《犀撃(さいげき)》の突きで正面から突破し、そのままステラを突き刺した。同時に、自分の技を破られたステラも最後の攻撃を繰り出したのだ。

 

砲竜の一撃(ドラゴン・ロア)

 

 自身の魔力を喉に貯めて口から放つ。簡単に言うとビームだ。互いの技が突き刺さり両者ノックダウン。実に接戦した試合だった。

 

 

「2人ともお疲れさん。じゃあ運びますかね」

 

 健闘を称えながら一輝とステラを俵持ちして運ぶ歩太であった。

 

「ちょっと待ってくれませんか?」

 

 後ろから声をかけられ振り向くと東堂 刀華(とうどう とうか)がいた。

 

どったの(どうした)、会長?」

「出雲君、私と戦ってくれませんか?」

 

 少数ではあるが一輝とステラの試合を客席から観ている生徒達がいた。その中の1人である刀華はAランク騎士のステラをFランク騎士の一輝が結果は引き分けだったがあっと一歩まで追い詰めた姿を見て興奮が収まらなかった。騎士として滾ってしまったのである。

 

 彼は格上相手にあそこまで戦った。自分はどうだ?同じ学園に倒すべく頂きが目の前にいるチャンスを逃してこのまま帰してしまうのか?

 

 ふざけるなッ!?良いわけないッ!!

 

 ならば、することは1つ。挑むだけだ!

 

 

「俺も2人の試合を観て少し疼いてたんで良いですよ?やりましょう」

「先輩である私が言うのもあれですが…胸をお借りしますね」

「大会じゃ当たらなかったんで楽しみにしてますね」

 

 

 

《雷切》東堂刀華と《七星剣王》出雲歩太の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その前に2人を医務室に連れて行くんで待っててくれません?」

「……私も手伝いますね」

 

 

 

 もう少ししたら戦いが始まる。

 

 

 

 




~オリ技~
ステラ・ヴァーミリオン
 《炎竜の化身》…魔力による身体強化の強化版
 《砲竜の一撃》…喉に魔力を貯めてなんちゃってメガフレア
~オリ設定~
黒鉄一輝
 《一刀修羅》…1分間だけの魔力を超倍加させてやる身体強化(これは原作と同じ)。
 ただし、2秒~10秒まで力を圧縮して一時的に強化率を上げることが可能。最大5回まで。それ以上は負担がヤバイ。

以上!



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あり得た未来(第10話)

《東堂 刀華》(とうどう とうか)
固有霊装:鳴神(なるかみ)
伐刀者ランク:B
伐刀絶技:雷切(らいきり)
攻撃力A 防御力C 魔力量B 魔力制御B 身体能力A 運D


「私は出雲君が優勝した瞬間を客席から見ていて嬉しく思いました。破軍学園の悲願が叶ったのですから」

 刀華は語るように話し始めた。

「でも、1人の騎士として途轍もなく悔しかった。あの時、準決勝に勝ち進むことがてきていたら貴方と決勝を争うことができたから」

 感情が昂り身体中から雷が迸る。

「先程の黒鉄君とステラさんの試合を見て思いました。私もこのままではいけない。先に進むんだと。

 ですのでこの燻った心をどうか今日ッ!ここでッ!晴らさせてもらいますッ!!」

 

 一輝とステラの試合を見てお互いに昂った気持ちを晴らすつもりで刀華が試合を申し込んだと思っていた歩太はおもわず面喰らった。しかしすぐに戦意を漲らせ獰猛な表情を浮かべた。

「幻の決勝戦ってとこですかね。まぁ仮に決勝戦で当たっても勝ったのは俺でしょうけど」

 

 刀華から何か太いヒモが切れるような音がした。

 

「何を言ってるんですか…私の刃が出雲君を斬り裂いていたに決まってるじゃないですか?」

「えっ。誰が誰を?はははっ、ご冗談を」

 

 刀華から完全に切れ(キレ)た音がした。

 

 

 

「アユタの煽りってなんか腹立つのよね」

 

 会場の客席には一輝とステラの姿があった。この2人、気絶し運ばれて医務室の扉を歩太が開けようとしたと同時に意識を戻したのだ。そして歩太と刀華の試合があると聞けば、休息を欲する身体を引き摺って観戦しに来るのは当然だ。

 

「あはは。あれは歩太なりのパフォーマンスでもあるから。僕はそうでもなかったけど。」

 

 いや一輝にはしないからな?お前にそれやると、どの切り口からでも悪口みたいになるからな?俺の良心が痛むわッ!

 

 どうやら彼は対象外だった。

 

「イッキはこの試合どう見る?」

「そうだね…東堂さんが如何にして歩太の懐に潜り込めるかが勝利のカギだと思う」

「でもアユタって…」

「そう、凄く守りが堅いんだ。Aランクの潤沢な魔力と卓越した魔力制御でもって他者を寄せ付けない」

「それに剣技も鍛えてあるから隙が見当たらないのよね」

「僕なんて『誰が好き好んでお前と接近戦なんてするかっ!』って言ってよく水に流されたよ」

「うわ、相変わらず容赦がないわね」

「一度、懐まで近づけたこともあるんだけど『ほれ、お代わりだ』ってまた流されたんだけどね」

「もう鬼畜じゃない、それ」

「でも凄く勉強になってるよ。歩太に一太刀浴びさせるのが当面の目標なんだ」

 

 歩太が鬼畜と否定しないところ、一輝もそうだと思っているようだ。

 

 

 

(とど)け。《鳴神(なるかみ)》」

揺蕩(たゆた)え。《雲龍(うんりゅう)》」

 

『LET's GO AHEAD!!』

 

 開幕早々、刀華は電磁力による反発を利用して刀を鞘から抜き放つ超電磁抜刀術《雷切(らいきり)》を繰り出した。決して怒りで我を忘れたわけではない。これは開始の位置から離れられるのを嫌ったためだ。刀華とて歩太の魔法による攻守の高さを把握している。しかし、この距離なら自身の最強の技である《雷切》で防御ごと歩太を斬り裂くことができると考えていた。

 

 実に浅はかである。その証拠に刀華の身体は水に覆われさらに氷で固められて身動きを封じられた。

 

「ッ!?」

 

 すぐさま身体から雷を発して水と氷でできた檻から抜け出すも歩太は充分な距離を取っていた。

 

「や~びっくり。開幕早々に斬りかかられるとは思わなかったっす」

「完璧に封じておいてよく言いますね」

「驚いたからといって反応できないわけじゃないですし」

 

 刀華は目の前にいる頂点(七星剣王)の力を改めて認識した。

 

 彼の魔法による攻守の高さを把握している?挑む立場で何を考えていた?七星剣王の称号はそんな甘いものではない。自分は何様だッ!

 

 刀華は自身に活を入れ直し、歩太に立ち向かう。歩太はすでに水を作り出し周りに展開している。しかも周りの水は純度100%だ。不純物が混じっていない水は電気を通さない絶縁体となる。先程の刀華を閉じ込めた檻にも純粋が使われており、最初から対策を怠らなかった。それともう1つ。

 

 彼の考えが全く読めないッ!?

 

 刀華には相手の脳の電気信号を読んで、行動を先読みする《閃理眼(リバースサイト)》という技を持っている。歩太は刀華のこの技を知らないが魔力制御の訓練のために常に身体に純水を薄く纏わせているため電気信号を外に漏らしていないのだ。水をここまで自在に変化させることができるのも魔力制御Aと評価される精密操作を持っているためだ。

 以前に歩太がステラと初めて対峙した時、彼女の魔力を魔力量特Aランクと評したが今の彼は魔力制御が特Aランクと言えるほどに常軌を逸している。しかし現在、実情を知っているのは親代わりである師と姉弟子のみ。

 歩太は基本的に自身の情報が勝手に知られることを嫌う。知らない第3者に教えてもいない自分のことをペラペラと話されるとイライラするからだ。それに特典持ちの転生者だ。秘密にしたいことはたくさんある。その姿勢は戦闘スタイルにも影響し今の彼があるのだ。

 

 刀華は近付こうとするが、歩太の周りに展開している複数の水球から放たれる強力な水のレーザーにより近づくことができない。少しでも立ち止まるものなら、あのレーザーの餌食になってしまう。こちらも雷を飛ばす技《雷鷗(らいおう)》で応戦するが水のレーザーに打ち負けた。そのため無駄な魔力は使わず捕まらないように動き回り歩太の隙を虎視眈々と狙う。

 

 どうすればいい?どうすれば近づける?どうすればこの騎士に勝つことができる?違う、そうじゃない!

 

 何を弱気になっているッ!私にできることは最初から1つだろッ!?

 

 刀華はステージの端まで下がる。距離が離れたため、歩太は一旦攻撃の手を止めた。

 

「私はこの一撃に全てをかけるッ!」

 

 そういって稲妻を走らせながら居合いの構えをとった。今から放つのは正真正銘、全力の《雷切》だ。これが通じなければ刀華には勝ち目がない。雷を纏って刀華は走り出した。歩太は水のレーザーを放つが彼女を目前に蒸発してしまう。ならばと水球を集め水龍を作り出す。水龍は先程のレーザーの数十倍の威力であろう息吹(ブレス)を刀華に向けて放つ。

 刀華は真っ直ぐと歩太に向けて走り続ける。攻撃を受けながらも突き破りながら最短距離を駆け抜ける。

 

 

 そしてついに

 

 

 

 

 

「ーーー《雷切》ッッ!!!」

 

 

 

 

 彼の身体を斬り裂いた。

 

 

 




~歩太と姉弟子~
歩太「もう許さねぇ。覚悟しろや姉弟子ッ!」
姉弟子「ウチに喧嘩を売るなんざ10年早いぜ、歩太」
歩太「はっ!行き遅れの女がいう10年は重みが違うな~」
姉弟子「ムカッ!てめぇー言っちゃあイケねぇこと言いやがったな。空き缶みたいにペチャンコにすんぞ、コラァ!?」
歩太「ペチャンコなのは姉弟子の胸じゃボケェ!?」
姉弟子「表出ろやコラァ!ブッ潰してやる!!」
歩太「日本沈めれる技持ってんのはアンタだけじゃないって教えてやんよぉ!!」

このあとメチャクチャ日本を気遣った。



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まもなく新学期(第11話)

早くジャンケンするとこ書きて~


 目を覚ますと医務室のベッドの上だった。まだ頭がボヤけているせいか現状を把握できていない。ベッドの脇にあるテーブルの水を飲み、徐々に覚醒していく。

 そして自身が試合をしていたことに。脳が完全に覚醒して試合の内容を思い出すのであった。

 

 

 

「私はこの一撃に全てをかけるッ!」

 

 東堂 刀華(とうどう とうか)は一か八か覚悟を決めて自身の最強の技である《雷切》を繰り出すために七星剣王である出雲 歩太の(いずも あゆた)に向かって駆け出した。歩太の攻撃を正面から受けつつも雷の化身と化していた刀華は構わず進み、彼の懐に辿り着いた。

 

 近距離(クロスレンジ)は私の距離!未だ破られたことがない最強(不敗)の《雷切》で仕留めてみせるッ!!

 

 「ーーー《雷切》ッッ!!」

 

 歩太の身体を斬り裂いた。

 

 

 

 

 

 かに思われたが刀華の刃からは斬った感触がなかった。驚愕して思考に空白ができてしまい慌てて立て直そうするがその隙は大きく、気づいた頃には彼女の身体は斬り裂かれる。

 

「《水龍爪牙(すいりゅうそうが)》!」

 

 渦潮のように水を渦巻かし、その流れに乗り中心にいる相手を斬り刻む技だ。

 

「なん…で……ッ?」

 

 刀華は途切れかかる意識の中、疑問を口にした。何故、自身の刃が届かなかったのかと。

 

「《鏡花水月(きょうかすいげつ)》…この技は相手に自分の位置を誤認させる技です。俺くらいの魔力制御を持つ者は自分の姿を水の魔法で光を屈折させ見えなくすることも自分を投影することも可能なんですよ」

 

 刀華の意識は次第に消えてゆく。

 

「言ったでしょ?例え決勝で当たっても勝つのは俺だって」

 

 七星の頂きは遠かった。

 

 

 

「そっか。負けちゃったんだ…」

 

 彼女の心中は悲しみにくれることはなく、清々しい気持ちであった。もちろん負けて悔しく思う。だが、それ以上にあの時の刀華は昨日までの自分の限界を超えた全力だった。まだまだ強くなれる可能性を見つけて負けたのだ。騎士として嬉しくないはずがなかった。

 

 

 

 早朝。破軍学園の敷地内を黒鉄 一輝(くろがね いっき)は走っている。彼は魔力が平均の十分の一と少ないため、己の身体を鍛えている。その身体の維持のために毎朝20キロ、ダッシュ&ジョギングで負荷をかけながら走っているのだ。

 一輝が走り終えてしばらく経ったあと、歩太が到着した。歩太は一輝と仲を深めてから暇な時は手合わせはしていたが、一緒に走ることなどしなかった。だは何故この時間にいるのか理由がある。

 

「ハァ…ッ…ハァ…ッ…ゴール………ッ」

 

 ステラのせいである(我儘に巻き込まれた)

 

 コヤツは一輝のトレーニングに興味を持ち、次の日から20キロ走を一緒にし始めたのだが、初日は半分で爆死(ゲロった)。二日目には何とか完走するも気絶。3日目である今日は意識を失わず完走。そんなステラはゴール先にいつもいる歩太に不満を持っていた。自分が苦しい思いしてるのに何もしてない(走ってない)涼しい顔してるヤツがいるのだ。お前も走れ(歩太もゲロれ)と巻き込まれた。

 しかし、涼しい顔して自分より走りきるもんだから少し不満だ。

 

「ハァ…ッ…フゥー…なんでアユタは平気なのよ?」

「自分、鍛えてますから」

「ムキーッ!絶対追い付いてやるんだからねッ!」

「まぁまぁ水分でも取りなさいな」

 

 歩太に宥められながらスポーツ飲料を渡されるステラ。さりげなくタオルも添えてるところが憎たらしい(優しさを感じる)。乱暴に受け取りドリンクを一気に飲み干した。そんな2人を微笑ましく見つめながら一輝はしみじみと思う。

 一年目は何のチャンスも与えられないまますべてが過ぎ去っていった。だが今年は違う。新理事長、神宮寺 黒乃(しんぐうじ くろの)のもと、すべての生徒にチャンスが与えられる。待ち続けたチャンス到来に気持ちが高揚する。そして今日は…

 

「何か嬉しそうだな。イッキ」

「そう見える?実は会いたい人がいてさ」

「あぁ。珠雫(しずく)か」

「うん。どうも新入生として入ってくるらしいんだ。四年前、僕が実家を飛び出したきりご無沙汰だったから、久しぶりに会えると思うと嬉しくってね」

 

 ……うん、向こうも嬉しいと思う…よ?

 

 歩太は声に出さず答えた。

 

「楽しみだなぁ」

「へぇ~、イッキって妹さんがいたのね。それで何でアユタは妹さんことを知ってるのかしら?」

「七星剣武祭で優勝した後、色々あった1つに黒鉄の妹に一週間ほど修行をつけて欲しいと依頼があってな。軽く(しご)いてやったんだ。だから妃竜の罪剣(レーヴァテイン)をしまえ」

 

 焦ることなく歩太はただ事実を述べる。一輝も補足する。

 

「確かに珠雫の手紙にもそんなことが書いてあったね」

「ならよし」

「よしじゃねーよ。ステラの朝飯、生野菜な」

「ちょっと!?今日は3種類のオムレツとスフレパンケーキって言ってたじゃない!?」

「一輝、朝飯食うか?和食の準備もできてるぞ?前に仕込んだ漬け物がそろそろ食べ時でなぁ…」

「ちょっと心が惹かれるね」

「あと昨日から漬け込んだ煮卵もあるぞ?」

「うん、お呼ばれしようかな」

「ねぇ、ちょっと無視しないでよっ!?」

 

 

 

 胃袋掴まれたヤツは大抵負ける。

 

 

 




黒鉄妹
「やっと。やっとお会いできますね、お兄様。もう誰にも私達を引き裂くことなどできない。これからはずっと一緒にいましょ?」


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実妹、襲来(第12話)

《黒鉄 珠雫》(くろがね しずく)
固有霊装:宵時雨(よいしぐれ)
伐刀者ランク:B
伐刀絶技:障波水蓮(しょうはすいれん)
攻撃力D 防御力B 魔力量C 魔法制御A 身体能力E 運C


「は~い、新入生のみなさん。入学おめでとーーー!」

 

 新入生達に目掛けてクラッカーを鳴らす、教壇に立つ若い女性教師は満面の笑顔を浮かべた。

 本来なら一輝の学年は2年生になるのだが、去年は授業を受けたくとも学園がそれをさせなかった。今年からはそんなことはないが、どんな理由があろうと単位が取得できなかった学生が進学などできる筈がない。故に一輝は新入生と同じ教室で入学説明を聞いている。

 歩太はちゃんと2年生である。それはそれ、これはこれ(友情も大事、単位も大事)だと考えているからだ。大体、七星剣王が留年なんて教育機関として問題である。他の学園の辻斬り紛いなことをしている学生だって3年に上がれているのだ。留年などしようものなら脳筋(おバカさん)の称号が贈られてしまう。

 

「……なんか疲れる先生ね」

 

 縁があるのか隣の席になったステラが、目の前の担任折木 有里(おれき ゆうり)の変なテンションにぼやく。

 

「あはは、まぁね。でも、良い先生だよ」

「知り合いなの?」

「前にちょっとね」

 

 去年、入学試験時に彼女を斬り伏せて合格をもぎ取った仲だ。

 

 折木教員は説明を続ける。それは『七星剣舞祭代表選抜戦』についてだ。去年は能力値(・・・)で選手をある程度決めていたが、今年からは全校生徒参加(・・・・・・)の実戦選抜に変わる。そして全校生徒が選抜戦を競い成績上位6名を代表選手とする実力制だ。

 ステラは疑問が浮かび手を上げる。

 

「先生」

「ノンノン。ユリちゃん☆って読んでくれないと返事してあげないゾ?」

「……ゆ、ユリちゃん」

「はい、なーにステラちゃん」

 

 出鼻を挫かれながら選抜戦は何試合するのか質問すると一人十試合以上あり、三日に一度は必ず試合があると答える。

 それを聞き一輝は安堵する。彼の伐刀絶技(ノウブルアーツ)《一刀修羅》は一日一度しか使えないため、連戦だと厳しいからだ。

 それを聞いて生徒の一部が不満を漏らす。伐刀者(ブレイザー)として高収入を得て平穏に暮らそうと考えているものだ。

 折木は一瞬、一輝の方を見やり優しく微笑みを浮かべる。

 

「確かに大変だと思う。だけど、誰にでも平等にチャンスがあるという事だけでも、この制度は素晴らしいものだと、先生は思うな♪

 それは、ここにいる誰もに、七星剣舞祭の優勝者『七星剣王』になれるチャンスがあるってことなんだから。

 だからできればみんな参加して、目指してみて欲しい。その経験はきっと掛け替えのないものになると思うから」

 

 向けられた眼差しに一輝は頭を下げて感謝する。彼女のおかげで破軍学園に入ることができたのだから。

 

「じゃあみんな。これからの一年、全力全開でがんばろーっ!

 はーい、みんなも一緒に。えぃえぃおブォファーーーッッ!!」

 

 折木は盛大に吐血した。

 

「「「ユリちゃぁぁああぁあああん!?!?」」」

 

 この教師、生まれつき病弱なのだ。

 

 

 

 突然の惨劇にクラスメートは騒然としたが一輝が対処し、教室は落ち着いた。折木を保健室に運んでいる際に、無理にテンション上げて入学を祝っていた折木にウザがられたことを伝える。吐血量が増したが本人ためである。

 教室に戻り今日は終わりだと伝言を預かりクラスメートに伝える。一輝は妹を探しに行こうとするが女子クラスメートに捕まった。なんでも一輝とステラの試合が動画でネットに上げられているの見たらしい。それを見たらしい他の女子達も好意的な目を一輝に向けているが、それを気に食わないクラスの男子達が一輝に突っ掛かり襲ってくるが、敢えなく撃沈。それを見た女子達はより好意的になり次々と一輝に声をかけ始める。そんな時だ。

 

「雑魚を歯牙にも掛けない圧倒的強さ。流石ですお兄様」

「しず、く…?」

「はい。……お久しぶりです。お兄様」

 

 四年ぶりに再会する妹にたまらず駆け寄りその小さな手を取った。

 

「うわ、やっぱり雫か!こっちこそ本当に久しぶり!なんだかすっごく大人っぽくなったね!見違えたよっ!」 

「当然です。四年も逢っていなかったのですから。変わらない方がおかしいですよ」

 

 大きく成長した雫に逢い、言葉を掛けようとするが興奮して考えが纏まらず何から話して良いやら上手く言葉が出ない。

 

「ねぇイッキ。その子ってもしかして今朝話してたイッキの妹さん?」

「え、あ。うん!そうなんだ!みんなにも紹介するよっ」

 

 そのとき、一輝の頬を両手に挟み自分の方に視線を引き戻す雫。その瞳は潤みなんともいえない雰囲気を放つ。

 

「お兄様…ずっと、お逢いしたかった……」

 

 雫はそのまま自分の顔を近づけ淡い色の唇を一輝の唇に押し付けた。

 

「「「ナニゴトーーーッッッ!?!?!?」」」

 

 雫はそのまま自分の舌を一輝の口内に潜らせてより深く一輝を求める。

 

「ッッッッ!?!?」

 

 一輝は声なき悲鳴を上げるが頭が真っ白になり雫から与えられる快楽に染められてゆき、次第に……

 

「って、ちょっと!あ、ああ、アンタ達なにやってるのよッッ!?イッキも戻ってきなさいッ!!」

 

 ステラのお陰で意識を戻し、自分から雫を離す。

 

「…ハッ!ありがとうステラ、助かった!珠雫!い、今のは一体なに…?」

「何って…もちろん口づけですよ?」

「それはわかってる、だから驚いてるんだよ!そうじゃなくて、どういうつもりなのかって話っ!?」

「どういうつもりもなにも、口づけとは親愛の証。ならば同じ血と肉と骨を分かつ、鉄よりも固い絆で結ばれた兄妹が口づけするのはごくごく自然なことなのです。むしろしない方が不自然でしょう。今さら何を驚くことがあるのでしょう」

「えっ!?日本の兄妹ってそうなの!?」

「ち、違うよ!?え、そうだよね?僕がおかしいの?」

 

『ステラさん違うよー』

『多分この兄妹が特殊なだけだよー』

『日本を誤解しないでねー』

『ありえないからー』

 

 外野にいるクラスメートがステラに歪んだ常識を否定して説明する。

 

「えー珠雫。やっぱり君の意見はおかしいという判決がでたんだけど」

「他所は他所、うちはうちです。何も問題ありませんわ、お兄様。他の皆さんの兄妹関係はツンドラのように冷え切っているのでしょう。でも私とお兄様は違います。

 そんな些末なことよりも…お兄様。珠雫にもっとお兄様を感じさせてください。口づけ程度では四年分の愛おしさを伝えられません。そのたくましい身体で珠雫の身体を強く抱きしめて感じて下さい。離れていた分をいまここで愛し合いましょう。

 

 この四年間、本当に恋しかったのですから………」

 

 珠雫は再び一輝に近づき、優しくその場に押し倒した。(みどり)色をした瞳が潤みを増して一輝の瞳を離さず熱く見詰めている。四年ぶりに見た妹は美しくなり色香を放ち一輝を逃がさない。一輝も脳内が桃色に染まりだし、意識が朦朧とし始め…やがて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 救い(歩太)がやってきた。

 

「……何してんの?珠雫」

 

 珠雫は素早く身体を直立させカクカクと声の主の方を向く。

 

「し、し、師匠……ッッ」

「ステラから連絡があって来てみれば……ふむ。状況はなんとなく分かった。とりあえずお仕置きな」

「慈悲をっ!どうか慈悲をお与えくださいッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あきらめろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




歩太&珠雫
歩太「今日から一週間ほど、お前を鍛えることになった出雲だ」
珠雫「私より弱い人に教わる気は有りませんので」
歩太「とりあえず模擬戦からやるから」
~上下関係構築~
歩太「もっと素早く水を展開させろ」
珠雫「ちょ、ちょっと待っブォホォ」
 水球に顔にぶつけられたり。
歩太「ほらほら早く制御権を奪わないと溺死するぞー」
珠雫「ブァ…ボォブビベブ……」(あ、もう無理)
 制御緩めで水の檻に閉じ込められたりした。


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ジャンケンしよう、最初はグーな?(第13話)

・桐原 静矢(きりはら しずや)
伐刀者ランク:C
伐刀絶技:狩人の森(エリア・インビジブル)
二つ名:狩人(かりうど)
攻撃力E 防御力D 魔力量D 魔法制御B 身体能力D 運B



 珠雫(しずく)も歩太にお仕置きされてから兄である一輝との接し方を幾分か落ち着きを見せた。一輝の同室の相手(刀華)と珠雫が一方的に問題を起こしかけたが一輝が宥めて有耶無耶になったりとあったが。珠雫に映画を誘われ、歩太とステラも呼んで一緒に行った。その際、紹介されたオカマの有栖院 凪(ありすいん なぎ)(『通称、アリスって呼んでくれると嬉しいわ♪』)に紹介され少し尻が引き締まったが問題なく友好を深めたりと平和な日々を過ごしていた。ショッピングモールが解放軍(リベリオン)に襲われる前までは。

 占拠されたもののAランク騎士2人(歩太とステラ)Bランク騎士(珠雫)が人質の中にいてFランク騎士(規格外)がその輪の外で控えていて解決できない事などなく、人質に被害なく鎮圧される。

 お互い労いながら帰ろうとすると、後ろから声をかけられる。

 

「フフフ。念のために控えていたけど、そのメンツならやっぱり問題なかったね」

「ひさしぶりだね、桐原君」

「ああ。ひさしぶりだね、黒鉄一輝君。君、まだ学校にいたんだ」

 

 桐原は嘲りの視線を向けながら一輝に言った。

 

「君はまだ、その惨めったらしい力で騎士道を歩み続ける気かい?」

「うん。そのために努力を続けてきたからね」

「かつてボクと戦うのが怖くて逃げ出した臆病者がよくいうよ。今度も逃げるんじゃないのかい?」

「どういうことかな、桐原君」

「生徒手帳の電源、切っているんだろ?入れてみなよ」

 

 一輝は促されるままに電子生徒手帳の電源を入れる。すると選抜戦実行委員会よりメールが送られてきた。

 

『黒鉄一輝様の選抜戦第一試合の相手は、二年三組・桐原静矢に決定しました』

 

「確認できたようだね。そう、君の一戦目の相手は去年の七星剣武祭代表であるこのボク。《狩人(かりうど)》の異名を持つ桐原静矢なんだよ」

「そうか…。良い試合をしよう」

 

 桐原は一輝の言葉に顔を歪め不愉快さを隠さぬまま告げる。

 

「はんっ!そんな粗末な力でボクの前に立つというなら、相応の覚悟をしてくることだね。なにしろ選抜戦は模擬戦とは違う実戦なのだから。殺されないように精々頑張ってくれよ」

 

 捨て台詞吐きながら桐原は去っていった。

 

 

 

 ついに七星剣舞祭に向けての選抜戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 誰もがこの試合は桐原の圧勝だと思っていた。

 

「やぁ。来たんだね」

「やっと来た機会なんだ。来て当然さ」

「もしかして本気でこのボクに勝てるとでも思ってるの?

 不快だね。ああ、実に不愉快だよ。君みたいな落ちこぼれがボクに勝てなんて思われてる事が実に気に入らないねえ!」

 

「いいよ、ああ、いいともさ!格の違いを見せてあげるよッ!」

 

 

『それでは試合開始っ!』

 

 

「来てくれ。《陰鉄(いんてつ)》」

「さあ狩りの時間だ。《朧月(おぼろづき)》」

 

 桐原は直ぐ様、伐刀絶技(ノウブルアーツ)狩人の森(エリア・インビジブル)》を発動させて自分の存在を隠した。

 

「『さあ、ボクを見つけて捕まえてごらんよ!まあ、その前にボクの攻撃を潜り抜けなきゃイケないんだけどねッ!』」

 

 能力により自身をステルスさせた状態で一輝の後ろに回り、矢をつがえて一矢放つ。

 

「分かってたよ」

 

 一輝は振り返りながら矢を刃で斬り裂いた。

 

「『はっ…?』」

 

「こんなものかい?だったらこの試合、すぐ終わることになるよ」

 

「『くっ、…どうやら少しはやるようだね。でも今のは小手調べってヤツさ。マグレで対処したからって調子に乗らないで欲しいね』」

 

 桐原は苛立ちを含んだ声で話し、今度は連続で矢をつがえて撃ち放つ。その中の何本か特別製だ。しかし、一輝は難なく対応する。

 

「確かに見えないし気配も感じない。けど、歩太の攻撃の方が何倍も厄介だった」

 

「『ふ、ふ、ふざけんな!何で見えない(・・・・)矢にも対応できてんだよっ!アリえねえだろうがッ!?』」

 

 桐原はあまりにものできごとに驚き三歩程後ろに下がった。

 

「今、三歩下がったね」

「『~~~~っっ!?』」

 

 あっさり言い放つ一輝に桐原は身も凍るような恐怖を感じ、声にならない悲鳴を漏らす。それは一輝が言ったことが、紛れもない事実だから。

 人間、全ての行動の根幹を司る『理』がある。価値観と言っても言い。それをその人の行動や趣向、言葉の端々から辿り理解すれば、その人が今何を考えているか、自分がどう動けば、どういう手をこえじてくるか、ありとあらゆる行動全てが手に取るようにわかると一輝は説明する。

 そして見えないはずの桐原はしっかりと見据える。

 

「もう君の位置は確認できてるよ。もう逃がさない。勝負だ、桐原君。僕の最弱(さいきょう)をもって君の最強を捕まえる!」

 

 一輝は確実に仕留めるために《一刀修羅》を発動させた。

 

「で、デタラメを言うなッ!ボクの《狩人の森(エリア・インビジブル)》は無敵だ!こんなFランクのクズに見破られるはずがない!」

 

「君の器はもう見切った。この勝負は僕の勝ちだ!!」

 

「くるなあああああ!!!!」

 

 桐原は迫りくる一輝に向けて矢を放ち続ける。一輝は自分に当たる矢のみ斬り飛ばし速度を緩めず桐原の方に進む。

 

「まて、待て!とまれ!止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれって言ってるのがきこえねぇのかよぉおぉぉお!!ふざけんなふざけるな!」

 

 ならばとありったけの魔力を矢に込めて上空に撃ち放つ。撃ち放たれた矢は中空で爆ぜ、百を超える不可視の光の鏃となる無差別範囲攻撃。だが、それすらも一輝は当たらない。

 

「お、おい!冗談だろ!?なあ!やめようよ!そんな、それ、刃物だぞ!?そんなんで人を斬ったら、大変なことになるだろ!?普通じゃないってこんなの!どうかしてるって!!だからやめよう!そ、そうだ!ジャンケンで決めよう!!それがいいよ!なあ黒鉄君!ボクたちは元クラスメート、友達じゃないかッ!!」

 

 為す術がない桐原はその場でへたり込み一輝に懇願する。

 

「ひ、ヒィィィィイィィイイイ!や、ヤメロオオォォオォオオオ!!わかった!ボクの負けでいい!ボクの負けでいいから痛いのはいやだああああああ!!」

 

 一輝の刃は桐原を目前とし地面に刺して止める。

 

『桐原静矢、戦闘不能!勝者、黒鉄一輝!!』

 

 場内は唖然となる。去年、七星剣舞祭代表に選ばれた桐原が負け。無名のFランク騎士が勝利を納めたからだ。歩太達と一輝のクラスメイト達は拍手を持って一輝の勝利を称えた。

 一輝は七星剣舞祭に優勝すれば卒業できるようになる。そう理事長である神宮寺黒乃と約束を交わした。その一歩を今日進んだのだ。親からも学校からも友達から見放され続けた日々だった。歩太がもしあの時、自分を助けてくれなかったらもっと辛い思いをしただろう。歩太が裏で手を回してくれたことは知っている。ならば、一輝はこんな所で立ち止まるわけにはいかないと思っているし、何よりも…

 

「君に勝ちたいからね」

 

 一輝が目指す七星剣王は誰か?一番の親友である出雲歩太である。いずれ超えなければならない最大にして最強の壁だ。

 

「僕は勝ち続けるよ。君にも勝って優勝してみせる」

 

 

 

 

 この日を境に一輝は《落第騎士(ワーストワン)》から《無冠の剣王(アナザーワン)》と後に呼ばれ始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・黒鉄一輝が桐原にしたもの
《完全掌握》(パーフェクト・ビジョン)
相手の言動、性格、行動、さらに趣味趣向の情報を元に相手の全てを把握するトンでもな洞察力が必要な伐刀絶技。


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代表選抜戦(第14話)

ステラ「歩太の攻撃の方が厄介だって言ってたけど…?」

一輝「うん。見えない攻撃をされたことがあったんだ。微妙な湿度変化の違和感に気づかなかったら避けられなかったね。だから、仮に桐原君の能力が初見であっても空気の流れを掴んで対処できただろうし、最終的に捕まえられたはずだよ」

ステラ「…やっぱりイッキも大概ね」



『続いての試合はこの選抜戦、初戦以外すべて無傷で相手を沈めてきたダークホースッ!現在八連勝無敗中の《落第騎士(ワーストワン)》黒鉄一輝選手ッ!対するは破軍学園生徒会役員の一人にして七星剣舞祭代表有力候補、二年Cランク《速度中毒(ランナーズハイ)兎丸 恋々(とまる れんれん)選手!こちらも同じく現在八連勝無敗!

 しかししかし去年の年末に発表された校内序列は第三位!つまり彼女はこの学校で三番目に強い学生騎士なのです!兎丸選手が順位通りの強さを見せつけるか、それとも今日もまた《落第騎士(ワーストワン)》が武術では異能に勝てないとという我々の常識を蹂躙するのか!』

 

 試合は始まり兎丸はステップを踏みながら一輝に話しかけてくる。一輝はそれに応じ、もし自分が兎丸を捕まえることができたら負けを認めて欲しいと提案する。兎丸はプライドを刺激され提案を了承した。

 兎丸の能力は『速度の累積』。先程から一輝に話しかけながらステップを踏んでいたのは初速を稼ぐためだ。ステージを縦横無尽に加速しながら駆け回り一輝の背後から強襲。その速度は音速に達しマッハ2を超えた。

 

 しかし、一輝は兎丸を視線に捉えて彼女の拳を避ける。すれ違い様に兎丸の服の襟首を掴み、向かってきたスピードを利用してその場で独楽のように身体を一回転させ地面に叩きつけた。

 背中を殴打する衝撃に息を詰まらせる兎丸に一輝は刃の切っ先を突きつけ、

 

「僕の勝ち、だね」

「…………」

 

 兎丸は何が起こったのか分からなかったが自分が負けたことだけは理解して頷いた。

 一輝は九連勝と、また一歩選抜代表への道を進むのであった。もちろん、ステラや珠雫、アリスも一試合も落とさず連勝無敗を更新している。歩太も勝ち進んでいるが全て相手側の棄権により今現在一試合も戦っていない。そのことを特別顧問として呼ばれている姉弟子に「カワイソー」とゲラゲラ笑われ青筋を立てていた。

 

「あのやろう……ッ」

 

 

 

 試合を終えていつものメンバーで揃い本校舎にまで続く道を歩く。ここまで全員無敗で勝ち進めているため他の生徒の視線がチラチラとこちらを向いている。

 

 容姿、実力ともに高く。Aランク騎士に恥じない圧倒的実力差をもって相手を蹂躙する。

 《紅蓮の皇女》ステラ・ヴァーミリオン

 

 無表情で相手を溺れさせるという独特の戦い方から付けられた名前。

 《深海の魔女(ローレライ)黒鉄 珠雫(くろがね しずく)

 

 Fランクという低い能力にも関わらず武術でもって相手を沈めてきた。

 《落第騎士(ワーストワン)黒鉄 一輝(くろがね いっき)

 

 遠目から見れば高身長、泣き黒子がついてるイケメン。しかし実際は気遣いできる母性高めな男の身体に生まれた乙女。

 《黒い荊(ブラックソニア)》アリスこと有栖院 凪(ありすいん なぎ)

 

 昨年に行われた七星剣武祭で一年生ながら見事に勝ち進み優勝したAランク騎士。

 《七星剣王(セブンスワン)出雲 歩太(いずも あゆた)

 

 話題性抜群の四人が集まれば視線が集まるのは当然だろう。しかし、四人は気にせず歩いていく。そんな中、気になる視線があるため向けられている一輝に歩太が話しかける。

 

「なあ、一輝。ここんとこ毎日だけど、そろそろ何とかした方が良くないか?」

「ああ、あれのことだね」

「お兄様、アレ、とはなんですか?」

「うん。実は僕、なんかストーカーされてるみたいなんだ」

「「はぁああッッ!?」」

「す、すす、ストーカーってアレよね!?一日中その人の後をつけ回したり、勝手に部屋に入ってきたり、手紙にヒゲ剃り入れて送りつけたりする、あのストーカーよね!?」

「ぶふぉっ!…ちょっ、ヒゲ剃りて……」

「ステラさん。カミソリの刃です。ヒゲ剃りのまま入れてどうするんですか」

「身だしなみに気をつかえってことかしら。親切なストーカーねぇ」

「ううううるさいわね!ちょっと分解し忘れただけでしょ!ていうか今そんなことどうでもいいし」

「そうですね。お兄様、詳しく聞かせてもらってよろしいでしょうか?」

 

 ここ一週間、一輝の背中から同じ視線が張り付いてるの感じていたらしい。放っておいたら解決すると思っていたが未だに視線が剥がれる気配がないのだ。アリスや歩太は気づいていたが本人が無視していたため、何も言わなかった。

 しかしさすがにしつこいと感じ、歩太が一輝に解決の催促をしたのだ。一輝は物腰の柔らかさや顔立ちから女性にそこそこ人気がある。そのため好意を抱かれることもあるだろうし、応援もされるようになった。

 

「とりあえず害意はないんだから理由を聞こうぜ」

「うん。いい加減、理由が気になるところだし」

 

 歩太の言葉に同意を示し石畳の道の端にある茂みの中にいる人物に意識して少し大きめの声をぶつける。

 

「ねえ、そこに隠れてる人。ずっと僕をつけてるみたいだけど、何か用かな?」

「ひゃわわあぅ!!」

 

 すると茂みから弾かれたように飛び出してきたのは驚いたことに清楚な黒髪の真面目そうな美少女だった。その両手には葉っぱのついた木の枝が握られている。

 

「えっ。ベタすぎね?」

「ベタね」

「えぇ。ベタですね」

「えっ、そうなの?普通じゃない」

 

歩太、アリス、珠雫とステラ以外は同じ感想を抱いた。女生徒は突然居場所を言い当てられたことに目を回して動揺。すぐさま踵を返して一輝達から逃げ出したが、この先には小さな池があった。慌てていたため池を囲む石に蹴躓き、頭から突っ込もうとするが、歩太が素早く回り込みそれを防ぐも男に耐性がないのか顔を赤くして口を鯉のように開け閉めをする。

 とりあえず落ち着いた場所で話を聞こうとその場を移動した。

 

 

 




七星剣王になった歩太は例外として学校内序列には入っていません。


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悲壮な想い(第15話)

《有栖院 凪》(ありすいん なぎ)
固有霊装:黒き隠者(ダークネスハーミット)
伐刀者ランク:D
伐刀絶技:日陰道(シャドーウォーク)
攻撃力E 防御力D 魔力量D 魔力制御C 身体能力C 運D


「黒鉄君、どうかご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いしますっ」

 

 一輝は自身をつけ回していた女生徒。三年の綾辻 絢瀬(あやつじ あやせ)に剣を教えることになった。彼女はスランプに陥っていたらしく、一輝に相談すれば解決するかもしれないと思い近づくも男性との触れ合いが彼女の父が開いている道場の門下生くらいで免疫がないとかでなかなか話し掛けられなかった。そのためズルズルと一週間もチャンスを伺いながらストーキングしてたわけである。

 試合も終わり夕食まで各々が鍛練を行っていた。歩太は用事があると言って皆から離れた。

 

 

 

 その用事とは姉弟子に鍛練に付き合って貰うことだ。

 

「よぉ。歩太ー、待ってたぜぃ」

「ああ。今日はありがとな、姉弟子」

 

 同じ師から教えを受けた同門であり、魔導騎士達がその力を競い合うスポーツ競技『Knight Of Knights』通称『KOK』の世界ランキング3位。

 東洋最強の魔女《夜叉姫》西京 寧々(さいきょう ねね)

 

「本格的な鍛練ってなるとヘタに一輝に見せると技を盗まれたり対策される可能性があるからどうしても体術関連は気軽にできないんだよなぁ」

「ウチは歩太の気にしすぎだと思うけどねぇ。てかあんなん見ただけで簡単に盗めるもんでもねぇだろ」

「それでもできないと言い切れないのが一輝なんだよ。アイツは七星剣舞祭で優勝しなければ卒業できない。でも俺は一輝と七星剣武祭で剣を交えたい。戦いたいんだ」

「その前に代表選抜戦で当たるかもしれねぇじゃん」

 

 歩太は首を横に振りそれはないと言う。

 

「『勘』なんだけど、当たらない気がするんだ」

「ひょえぇぇ、そんなもんかねぇ」

「何となくなんだけどな」

「そういやぁ、歩太って()ぇーのに臆病なほどに手札を隠すよな。今からそんな神経質だと、将来ハゲんぞ?」

「未知ほど対処しずらいもんはないからな。あとハゲないし、ハゲても生やせるわっ。もういいだろ、始めようぜ」

 

 そう言って、お互いに固有霊装(デバイス)を召喚する。

 

「いっちょ、揉んでやんよ。来いよ若者(わかもん)

「いっちょ、頼むわ姉弟子」

 

 《夜叉姫》と《七星剣王》がぶつかり合う。

 

 

 

 一輝はあれから絢瀬に指導し、彼女の剣は鋭さを増した。そのことに喜びを(あらわ)にし感謝するなど、教え魔なところがある一輝にしても非常に満足いく結果であった。しかしある日の夕食時、ファミリーレストランで食事を取る一輝と絢瀬に貪狼学園の生徒達が絡んできた。絢瀬と何やら訳有りの様で俯いて震えていた。一輝は表立ち代わりに話すが、リーダー格の生徒と一悶着を起こす。ビール瓶で頭を強打されたが挑発と分かったおり、何より一輝が手を出した場合は退学の可能性もあるため乗らなかった。挑発に乗らないと分かったためリーダー格は興醒めしたと言葉を投げ捨て手下達とともに去っていった。

 絢瀬に先程の他校の生徒との関係を聞こうとしたところ、電子生徒手帳から次の選抜戦の試合内容が届く。

 

『黒鉄一輝様の選抜戦第十一試合の相手は三年一組、綾辻絢瀬様に決定しました』

 

 絢瀬も確認したようで血の気が失せ、青ざめた顔でこの場を去る旨を一輝に伝える。一輝も察して別れを告げると絢瀬は走り去った。

 それから何日も鍛練に来ることはなく、試合前日に絢瀬からメールが来る。その内容は明日の深夜午前三時に屋上に来て欲しいとのことだった。一輝は約束通り来るがそれは絢瀬が仕掛けた罠だった。

 剣を指南されている絢瀬では一輝に勝てないと判断してどうにか勝率を上げるためだ。絢瀬は自身の身を危険にさらし、一輝は絢瀬を助けるため一日一回しか使えない《一刀修羅》を使った。絢瀬の目的は達成してその場を去った。

 

 刀華は部屋で眠っていたが扉の開く音が聞こえ目を覚ます。そこには疲れ切った一輝が倒れていた。

 

「黒鉄君っ!?しっかりしてください!」

 

 一輝は息絶え絶えになっているが刀華の存在に気づいた。

 

 

 

 

『えーそれでは、お待たせしました!これより本日の第一試合を開始致します!!』

 

 ボクは何がなんでも勝たなくちゃいけないんだ

 

『まず青コーナーから姿を見せたのは十戦十勝のパーフェクトゲームを続ける、今注目のFランク騎士!一年、黒鉄一輝選手です』

 

 ボクは必ず、道場を取り戻す。たとえ黒鉄くんに二度と許してもらえなくなったとしても

 

『赤コーナーよりDランク騎士!三年、綾辻絢瀬選手です!』 

 

 怖い顔だ…好都合だよ。これだけ冷静さを失ってるなら今なら、あっさり罠に飛び込んでくるかも…

 

『それでは皆さんご唱和ください。LET's GO AHEAD(試合開始)!!』

 

 

「来てくれ。《陰鉄(いんてつ)》」

「赤く染まれ!《緋爪(ひづめ)》!」

 

 

 

 

「何があったか説明してくださいッ」

 

 刀華は黒鉄を介抱し、落ち着いたところ訪ねた。綾辻のこと、罠に嵌まって《一刀修羅》を使ったため、今日の試合では使えないこと。刀華は怒り絢瀬のところに行こうとするが、一輝が待ったをかける。

 

「このことは、誰にも言わないで下さい」

「どうしてですかっ!こんな、正々堂々と戦う他の生徒をコケにするようなことを黙っていろというんですか!」

「僕にはあれが彼女の本心とは思えないんです」

「こんなことされておいて貴方は何を…ッ!?」

「信じたいからです」

「黒鉄君…」

「綾辻さんとは短い付き合いですけど、それまで知った彼女の姿が嘘とは思えないんです。だから本当に最後の最後まで信じてみようと」

「………」

「それに僕は彼女との縁を切りたくない。何か追い詰められるあまり、自分を見失っているだけなんだと。

 僕は彼女を助けたい。だから東堂さん、今夜のことは誰にも言わないで下さい」

「……ええ、分かりました。今回だけ無かったことにします。

 ただし、勝ってください。それが条件です」

 

 刀華は優しく微笑み、一輝に告げる。

 

「助けてあげてください。貴方の大切なお友達を」

 

 

 

 

 一輝は先程から絢瀬の見えない斬撃にさらされている。彼女が屋上から落ちる際に自分の足場を能力で切り刻んでいた。そして今のことから空間に斬撃を配置して任意で発動させることができると分析しているが、如何せんまだ情報が足りないため不可視の攻撃を喰らい続ける。

 

「ハァァアアアアアアア!!」

 

膝をついた一輝に絢瀬は斬撃の雨を降らす。一輝は不安定な体勢ではあるが受けきる。そして立ち上がり反撃に出る。しかし、その攻撃は絢瀬は読んでおり受け流してがら空きの胴を目掛けて《緋爪》を振り抜く。

 

 だが一輝はその刃を《陰鉄》の柄尻で受け止めた。

 

「…よかった」

 

 黒鉄は安堵の言葉を漏らした。

 

「え?」

 

 絢瀬は距離を置き、言葉の意味を考えながら警戒を緩めず構えた。

 

「やっぱり綾辻さんは僕が思っていた通りの人だった。間違ったことをして平然といられる人じゃなかった」

「…何を言い出すかと思えば、よくもまあそんな世迷い言を」

「世迷い言なんかじゃないさ」

 

 絢瀬は思考が一瞬、真っ白になった。

 

「太刀筋も、踏み込みも、リズムも、呼吸も、何もかも滅茶苦茶だ。どれだけ自分を偽っても魂は欺けない、心技体揃ってこその剣術だ、迷ってる剣に本当の力は宿らない」

 

 絢瀬は違う、そんなことないと心の中で否定する。

 

「綾辻さんは本人が思ってる以上に誇り高い人なんだよ」

 

「そんなことない!」

 

 絢瀬は叫び語る。二年前にどれだけ誇り高くても負けてしまえば全て台無しになると思い知った。きれい事な何の意味はないと。だから自分は何をしてでも勝たなければならないと。必死になることで、自分の悲鳴に耳を閉ざしていた。

 

 故に一輝は

 

「…なら、僕のやるべきことは一つだ」

 

 《陰鉄》の切っ先を絢瀬に向けて告げる。

 

「僕の最弱(さいきょう)を以て、君の誇りを取り戻す」

 

 

 一輝は突撃の構えをとり、そのまま走り出した。絢瀬は近づく一輝に設置している斬痕の罠を発動させるが一輝の加速が速すぎるため、不発を起こす。

 今日はもう一刀修羅は使えないが、伐刀者(ブレイザー)なら誰でもやっている魔力放出を一輝は使っている。これによりわずかの時間だが一刀修羅並の速度を出している。そして絢瀬の行動の(ことわり)を把握した一輝に絢瀬の攻撃はもう当たらない。

 間合いまで近づいた一輝に絢瀬は裂帛の気合いを込めて《緋爪(ひづめ)》を振るうが、その刃は、何もない空を薙いだ。

 

「第四秘剣『蜃気楼(しんきろう)』」

 

 直前で歩幅を変えることによって相手に残像を見せる技だ。絢瀬が晒した隙を逃さず一輝は《陰鉄》を振り抜いた。

 

 

 

 勝負は一輝の勝利で幕を閉じた。そのあと、絢瀬から話を聞き出した。絢瀬の父親の道場が貪狼学園の生徒、倉敷 蔵人(くらしき くらうど)の道場破りにあい、最初は断っていたが門下生を傷つけられ勝負を受けたこと。その時、負った傷で倒れていること。七星剣武祭に出て蔵人に勝ち、道場を取り戻すこと。そして涙ながら一輝に聞いた。

 

「…どうして。ボクは黒鉄くんを裏切ったのに…っ。あんなに、ひどいことをしたのに、なのに…っ…どうして助けようとするの?」

 

「友達の涙を拭うのに、理由なんていらないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ…黒鉄くん…ボクを…たすけて…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その一言が聞きたかった」

 

 

 

 




《綾辻 絢瀬》(あやつじ あやせ)
固有霊装:緋爪(ひずめ)
伐刀者ランク:D
伐刀絶技:風の爪痕
攻撃力C 防御力E 魔力量E 魔法制御D 身体能力D 運E


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剣士殺し(第16話)

《倉敷 蔵人》(くらしき くらうど)
固有霊装:大蛇丸(おろちまる)
伐刀者ランク:C
伐刀絶技:蛇骨刃(じゃこつじん)
攻撃力B 防御力B 魔力量D 魔力制御F 身体能力B 運D


『さあ皆様お待たせしました!七星剣武祭三回戦第二試合のお時間です!青コーナーより貪狼学園二年・倉敷蔵人選手の入場です!二年生ながら学園のエースにして天性の反射神経である《神速反射(マージナルカウンター)》による鉄壁の守りと鋭い攻撃が特徴です!続きまして赤コーナーより破軍学園一年・出雲歩太選手の入場です。彼は一年生にして初出場ながらもここまで危なげなく勝ち進んできた今大会唯一のAランク騎士!その実力は未だ底を見せない!両者共に一体どんな試合を見せてくれるのでしょうか!それでは試合を開始いたします!』

 

 LET's GO AHEAD!!

 

 歩太はこれまでの第一、第二試合を魔力で水を生み出し操る異能で相手を蹂躙してきたが、この試合では《雲龍》を鞘から抜き身体を半身にして構えたままだ。蔵人は訝し気に思い頭を捻る。それを見た歩太は刀から左手を外し、人差し指を数度曲げて蔵人を挑発する。蔵人は獰猛な顔をして歩太に襲い掛かる。

 

「上等だ、オラァ!」

 

 蔵人は歩太に斬りかかるも難なく受け止められ手首の返しで蔵人の《大蛇丸》は流され、そのまま首をめがけて歩太の刃が閃く。上半身をのけ反らすことで刃を躱し、素早く状態を戻して再度斬りかかり後ろに下がり避けられるも連続の突きを蔵人は放つ。

 歩太は体捌きと《雲龍》で受け止め、後方へ大きく距離を取った。

 

「澄ました顔に一撃食らわしてやろうかと思ったが中々やるじゃねぇか。それにこちらの首を遠慮なく刎ねようとする容赦のなさも悪くねえ」

「どうも」

「だが一つだけ解せねえ。異能を使わねぇことだ」

 

 その質問に歩太は三つ理由があると答える。

 

「まずは異能だけが強いAランク騎士と思われたくないのが一つ、倉敷パイセンの異能に遠距離攻撃が無いのが二つ、そして最後の理由。

 

 斬り合い…好きなんでしょ、パイセン?」

 

 蔵人は歩太が挑発的に言った言葉の意味を理解した。つまり、このクソ生意気な後輩は異能を使わず自身の土俵である斬り合いで勝てると言っているのだと。

 

「嘗めたこと抜かしてんじゃねーぞ、コラァアアッ!!」

 

 蔵人は《大蛇丸》の刃を伸ばし、鞭のようにしなる刃を歩太に振るう。歩太はしゃがみ、回り、受け止めながら捌く。繰り返し避け続け次第に《雲龍》のみで捌く。そして力を込めて《大蛇丸》を大きく逸らした歩太はそのまま蔵人に速度をもって向かった。

 蔵人は舌打ちしながらも刃の鞭を振るうが効果がないと分かり長さを通常の状態に戻し待ち構える。近づいてきた歩太に開始直後に繰り出したものより素早く鋭い伸び縮みする突きを連続でお見舞いする。

 歩太はジグザグに躱わし近づく。距離を詰められ突きから斬撃に変える蔵人。自身の間合いに入ったことで歩太も刃を振るい始める。

 お互いの間合いが交じり斬り合いに発展する。激しい斬り合いに観客は盛り上がり声を上げて両選手を応援し始めた。

 蔵人は斬り合いの中、疑問に感じる。お互いの間合いに(とど)まりながら斬り合っているのに、どちらもまだ有効打を与えていない。死の危険と隣り合わせな近距離でのヒリつく斬り合いは蔵人の望むところで、土俵でもある。

 それなのに何故こちらの攻撃も当たらないのか?斬撃は蔵人の興奮を現すかのように速度を上げ、自身のこれまでの中で一番のノリだ。その速度に相手は着いてきているのだ。

 蔵人の中に一つの考えが浮かび、確信する。

 

「まさかテメェも持っていやがるのか、《神速反射》をッ!?」

「まぁ一応」

 

 歩太は前世?の記憶を思い出し拾われてから騎士を目指すために異能は勿論のこと、身体も鍛えることにも余念がなかった。

 身体を鍛える際にしっかりとした知識を学ぼうと考え、前世では凡そ理解できなかった医学書を読み漁り知識を蓄え身体に関する情報を仕入れていた。

 人は生まれつき足が速いもの、遅いものがいるように身体的に個人差がある。鍛えて強化することはできるがそれぞれの上昇限界を超えることはできないのでそれをどうにかしたかった。最初からアプローチの方向性は決まっていた。

 それは異能による限界突破と強化だ。魔力、異能は思いや考えによる意思で方向性を固め、成し遂げようとする意志よって形を成し顕現する。

 どこぞの農民はTSUBAME斬ろうとして刀を振るい続け、何の異能も使わず多重屈折現象という頭おかしいことしたのだ。それに比べれば充分に論理的だ。ならばできるはずだと意思を固め意志を持って実行したのだ。水の異能で脳の処理速度、身体から脳へ脳から身体への伝達速度、臓器関連、骨密度、筋肉の量と質。これ等を順番に確実に強化して成功した。

 後にBランク騎士で水の自然干渉系の《白衣の騎士》という異名を持つ、通称《薬師》と知り合い情報交換や、共同研究などで正確性が増し自他共に調べて異常なしの太鼓判を押す異常な身体になっている。

 

 興奮止まぬ斬り合いの均衡が遂に崩れた。歩太の斬撃が蔵人の身体を傷つけ始めたのだ。それは歩太の剣速が上回っていることを示し、蔵人が追い詰められていることを示している。

 歩太の刃が徐々に深く入っていくが蔵人は焦りを見せず、嗤う。自身の命が危ぶまれているというのに剣速をさらに上げて嗤う。神経は研ぎ澄まされ魂はこれ以上無いくらいに燃え上がらせて嗤う。しかし、届かない。追い付かない。それでも嗤う。

 歩太は斬り合いの中、蔵人の刃を《雲龍》でしっかり受け止め左手に持つ鞘を魔力で強化し強く振るい《大蛇丸》を折った。蔵人は意識が途切れそうになるが宙を舞おうとする刃を掴み両手で斬撃を繰り出しながら吼えた。

 

「ぉぉぉおおおおおおッ!!」

 

 すると《大蛇丸》と折れた刃は姿を変えた。新たな形となった二刀の《大蛇丸》を蔵人は振るい歩太を攻撃するも、体力と血を多く失っているため身体がブれる。歩太は霊装の変化に驚きながらも蔵人の腹に蹴撃を当てて吹き飛ばす。蔵人は倒れず着地し、歩太を見て嗤う。

 

「やっとだ…やっと澄ました顔に当ててやったぜ」

 

 歩太の両頬に薄く斬り傷がある。蹴りを放つ瞬間に斬られたのだ。水の異能で瞬時に治してから思考を高速させる。どうしたもんかと。

 

 こっちは体力、魔力ともに充実している。先程までの斬り合いも魔力による身体強化をしているように見せてその実、肉体の素の力しか使っていない。それも半分の力も出していないので余裕があるのだ。

 事故などで記憶を失った伐刀者の霊装が変わったという事例があることは知っている。

 しかし自身の魂である霊装の形が変わる現象は希なのだ。それが目の前で変化するなどホントびっくりだ。動揺が収まらない内に蹴ったから攻撃喰らってしまったし。反省はしよう。でも致命傷じゃないからセーフだセーフ。

 さて、改めてどのような勝ち方が良いだろうか考えよう。観客も倉敷パイセンも盛り上がっていてボルテージは最高潮なわけで、そんなところに水の異能で押し流すなんてことしたらブーイング待った無し。手合わせなら遠慮無くするのに……

 

 歩太は納刀し居合の構えをとる。蔵人もボロボロの身体を気力で奮い立たせ歩太に刃を向ける。会場にいる全員がこの一撃で全てが決まると理解した。

 両者、同時に踏み出したと思った瞬間には交差した後だった。静まり返った会場に《雲龍》を納刀する音が響き渡り、蔵人は膝から崩れ落ちた。

 

『……決まったぁあああ!!息を詰まらせるほどの接戦をぶち破り三回戦を制し勝ち進んだのは出雲歩太選手ッ!!』

 

 

 

 荒れ果てた道場の中、自身が持ち込んだソファーに寝転がり眠っていた蔵人は目を覚ます。

 あの日。人生の中で一番熱く燃え上がらせた、悔しくも最高の瞬間を夢見たせいで起きたばかりだというのに身体が疼いて仕方ない蔵人は、この前ファミレスで会った剣客を思い出した。

 

 あれは中々の実力者だと。この高ぶりはそこらの雑魚相手では余計に疼いてしまうが、あいつならば満足できそうだと考えがよぎる。今から破軍学園に乗り込んでやろうかと危険な思考を巡らせていると道場の入口が騒がしくなり静まったと思ったらお目当ての存在が現れた。

 

「ハハッ。おいおい、おもしれぇことになってきたな」

「お邪魔するよ」

 

 そこには綾辻絢瀬が連れてきた黒鉄一輝がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日はどうやら良い日になりそうだ。

 

 

 




 眼球痛めてたので極力細かいものを見ないようして癒してました。申し訳ない。


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最後の侍(第17話)

原作2巻より強くなってる蔵人。でもイッチーの運Fだと考えたらこういうこともあるかと納得してしまい書きました。


 一輝と蔵人はお互いに向かい合い霊装を顕現させた。

 

「勝負はオレとテメェの真剣勝負。死んだほうが負けだ」

「勝負を受けてくれて感謝するよ。《剣士殺し(ソードイーター)》」

 

 蔵人は一輝の《陰鉄》に目をやり、なるほど一級品だと確信する。全身の毛が逆立つような感覚を覚え久方振りに滾らせた。猛り高ぶった興奮のまま一輝を襲う。

 

「じゃあ、行くぜ!」

 

 蔵人は脚に魔力を込めて床を蹴り砕き、一輝に迫る。二刀の《大蛇丸》よる連撃を一輝は捌きながら分析する。踏み込み、太刀筋、体捌き、全てに技の軌跡が見られない、剣も腕の力のみで振っているので剣術に関して素人と判断した。

 素早く、鋭く、力強い攻撃は《陰鉄》を削り斬ろうと火花を散らせる。防戦一方だが一輝は焦らず捌いていく。そして蔵人の攻撃パターンを読み切った一輝は体捌きだけで躱し蔵人に突きを繰り出す。蔵人は上半身をのけ反らせ避ける。狙いどおり、のけ反らせて一歩踏み込み一輝は斬りかかるも蔵人はすでに体制を戻して片方の刃で受け止め残りの刃が一輝を襲う。

 後ろに避けたが腕の部分の制服が斬られていた。一輝は完璧なタイミングで繰り出した攻撃が避けられたため頭を回して原因を考える。瞬時に浮かび上がった考えがあるが、もしそうなら最悪な状況ということになる。

 

「ほらほら、どうしたどうした!」

 

 一輝は虚実を混ぜ受け止め捌き、蔵人が大振りをしたのを見計らい今度こそ一撃当てられるであろうタイミングで攻撃するも躱される。一輝は自身の予想が正しいことを確信した。

 唐竹割りの攻撃を《陰鉄》で受け止めようとするが、蔵人の姿が消えた。一輝の危機感が警報を鳴らし咄嗟に下がるも腹部に斬撃をもらう。

 

「ッ…これが《最後の侍(ラストサムライ)》を倒した君の本当の力か」

「ハハッ。どうやら気づいたみたいだな。言ってみろ。答え合わせをしてやる」

「倉敷君の強さを根底から支えてる力。それは反射神経だ」

 

 反射神経とは刺激に対して瞬間的に反応する能力のことであり、蔵人のそれは常人とは比べ物にならないほど、反射速度が違う。

 反射速度は『知覚し・理解し・対応する』この行動行程の速度のことだ。

 一般人で0.3秒。一流の短距離走などのアスリートで0.15秒と言われている。

 蔵人のそれは0.05秒を割っているのだ。

 

「オレの《神速反射(マージナルカウンター)》は能力じゃなく特性だ。着いてこれねぇならテメェは斬り刻まれるだけだぜ」

 

 そういって蔵人はギア上げて刃を振るう。突き、斬撃、鞭、刃の長さを自在に変えることができる彼だからこそできる縦横無尽の刃が一輝を囲む。一輝は《陰鉄》の刃を握り刃の長さを短くすることで刃を振るう回転速度を上げるが全く追いついておらず、その身体を傷つけられてゆく。

 

 

 絢瀬は二人の果たし合いを見守っていたが、一輝の傷つく様を見て止めようと踏み出すが肩を掴まれその場に踏み止まる。掴んできた相手に振り向き睨み付けるが、その人物を見て驚愕する。

 

「綾辻さん、邪魔したら駄目ですよ」

「生徒会長!?何でここに、って何で止めるですか!?黒鉄君が死ぬかもしれないんですよッ!?」

 

 東堂刀華は今朝、一輝の身に戦意を漲らせているのを見た。絢瀬の件も少々強引にだが聞いている。では今日、約束を果たしに行くのだろうと。故に後を着けてきたのだ。

 

「同じ騎士としてあの戦いが羨ましくあります。」

「……羨ましい?」

「二人の表情を見れば分かるようにとても楽しそうではありませんか」

 

 絢瀬は一輝と蔵人の方に視線を向けると、二人とも獰猛に笑っているのだ。それを見て唖然とした。

 

 蔵人の猛攻は続く。

 

 二年前、ヒリつく決闘を味わえたが途中で終わり不完全燃焼だった。一年前、クソ生意気な一年に自分の土俵である斬り合いで斬り刻まれ負けたくない一心で霊装が変化するも相手の頬を浅く斬るだけで敗北した。自分は不甲斐なさを嗤い怒りを燃やすが手加減されたまま負けた。今年の七星剣舞祭で借りを返すつもりだが、今の自分では勝てない。だからだろうか、未だにこの道場にいるのは…

 

「しぶといのにもほどがあんだろ」

 

 蔵人は一輝を吹き飛ばしそう言った。蔵人は先程からの猛攻で体力をある程度失っているが、一輝は血も体力も大幅に消費していつ倒れても不思議ではない状態まで追い込まれている。自滅覚悟で蔵人の体力を削ろうと試みた一輝だがこちらの何倍もの動きをしていると言うのに相手はまだ余裕がある。《完全掌握(パーフェクトビジョン)》もこちらの動きを見てから手を変えることができる蔵人の《神速反射》には通用もしない。一輝の《一刀修羅》は身体強化の技ではあるが反射速度を上げるものではない。それに攻略法がない状態で一分の制限時間内に倒すことはできないだろう。

 一輝は考えを巡らせながら僅かでも体力を回復させるために呼吸する。そして何故か、ある日の歩太との会話の記憶が甦った。

 

『ふむ、孤塁抜きか』

『どうしたの?』

『いやさ、格闘漫画で面白い技があってさ。見てみろよ』

 

 孤塁抜きとは、ある漫画の無敵超人の技で相手の意識下よりや外れ、孤立している箇所に攻撃を叩き込む技だ。

 防御している守っているために安心感という油断が微かに存在するし箇所や、ここには攻撃するとは思わないだろう箇所をぶち抜く。

 

 

 一輝は覚悟を決め《一刀修羅》を発動させる。チャンスは一度きりで成功しなければ負けが確定し、成功すれば互角に持ち込める分も悪くない賭け。

 蔵人に強化された速度で間合いを詰めて斬り合い、《一刀修羅》の十秒分を注ぎ込み《陰鉄》を受け止めようとする《大蛇丸》ごと蔵人を叩き斬る勢いで刃を振るう。

 

「ッ!?…舐めんなぁぁあああ!!」

 

 蔵人には刃が届くことはなかったが、二刀ある《大蛇丸》の一本を縦に叩き斬ったのだ。蔵人は途切れかけた意識を気合いで繋ぎ止め吼える。蔵人の攻撃を避けて距離を空けた。

 

「最後に一つ、聞いて良いかな?」

「なんだ」

「僕たちが憧れたあの偉大な剣客は、今の僕らのように、わらえていたかい?」

「ハッ、くだらねぇこと聞くな。こんな熱い死合いを楽しめねぇヘタレが、《最後の侍(ラストサムライ)》なんて呼ばれるわけねぇだろうが」

 

 

 絢瀬は今の会話を聞いて愕然とするが、暫くしてあの時の光景を確認するように思い出す。そうだ、父は笑っていたと。

 

『俺の決闘だ!邪魔をするなッ!!』

 

 絢瀬の中で食い違っていた何かがカチリと音を立てて噛み合ったことで理解する。あの戦いの中、止めに入ろうとした絢瀬を海斗は、今まで見たこともないような恐ろしい形相で鬼の咆哮のような声で怒鳴りつけた理由を。

 誰の目にも勝敗が明らかな勝負を、幾度打ち叩かれても戦うことをやめなかった海斗の気持ちに気づけなかった。目の前の敵と戦い勝ちたいという純粋で強烈な闘争本能を漲らせて楽しんでいたのだ。

 

『……すまない』

 

 あの言葉も病に朽ちていくしかない自分に誰よりも勝る価値を見いだし、なりふり構わず戦うことを望んでくれた少年に綾辻一刀流の全てを出し尽くすことの出来ない自分ですまないと蔵人に対しての詫びだったのだと。

 

 

 一輝は蔵人に向かって駆け出した。蔵人は一刀になった《大蛇丸》を高速で振るい八連撃を一輝にお見舞いする。しかし、全ての攻撃が一輝に触れたと思ったら避けるようにズレるのだ。

 一輝は正眼に刃を構えたまま進む。その光景が二年前の海斗と重なり二人は交差した。

 

「《天衣無縫》…これが綾辻一刀流の真髄だッ」

 

 蔵人は一輝に斬られ水溜まりが出来るほどに血を流していた。よろけているが彼は倒れることはなかった。

 

「……なるほど。こいつがオッサンがあの時、出そうとしたモンか。ハハッ…やるじゃねぇか」

 

 蔵人は鮮血に染まる身体を持ち上げ、背筋を伸ばして改めて一輝に視線を向ける。

 

「おい、テメェの名前は?」

「黒鉄一輝」

「クロガネ。この続きは七星剣舞祭でだ……テメェら行くぞ」

 

 取り巻き達にそう言って、蔵人は道場の出口までボロボロの身体で一人で歩き、一輝達から見えなくなった所で倒れるのであった。

 

 

 

 




・今作の倉敷 蔵人(くらしき くらうど)
去年の七星剣舞祭にて歩太と戦い、《大蛇丸》が2本になる。
二刀流になったので使いこなすために振りまくって大幅に体力上昇

 まだ比翼の剣技を覚えてないイッチーは負けても可笑しくない相手に仕上がりました。


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雷切VS深海の魔女(第18話)

落第騎士19巻…買えなかった


 蔵人との決闘を終えてから数日後、綾辻海斗が目を覚ましたと報告がメールで絢瀬から一輝に送られた。鍛練には当分来られないとのことだが、せっかくの親子の時間を過ごしてほしいと思う一輝としては問題はない。少し困ったことがあったとしたら絢瀬の携帯で海斗から連絡があり、娘と何時婚姻するだの言われたことくらいだろうか。電話の向こうで絢瀬が父親を殴り倒した音が聞こえて海斗は何だかんだと長生きするだろうと苦笑したくらいだった。

 

 

 

 黒鉄珠雫(くろがね しずく)は次の試合に向けて訓練を行っていた。訓練会場には五十人もの生徒がいたのだが全員、珠雫一人に敗北していた。事の始まりは珠雫がその場にいた生徒達に訓練として自分一人を全員で相手して欲しいと願い、その自信過剰といえる挑発を受けて勉強させてやろうとその場の生徒が了承した結果、今の現状である。

 

 足りない。

 

 珠雫はそう思った。これまでの試合相手は取るに足らなかった。それどころか手加減すらしていたのだ。だが次の相手である《雷切》には期待を持ち訓練をした。

 しかし、質を数で補った訓練をしてみたがあまりにも弱かった。こちらの本気を一つも引き出させない不甲斐ない者達ではストレスが溜まるだけでこの訓練は失敗だ。故に珠雫は余計に期待している。

 

「あなたは、私を失望させないわよね」

 

『黒鉄珠雫様の選抜戦第十四試合の相手は、三年三組・東堂刀華様に決定しました』

 

 珠雫は口の端に凄艶な笑みを浮かべる。そろそろ本気で戦える相手と殺り合いたいとずっと思っていた。冷めない熱を発する身体を抱き締めながら珠雫は静かに笑うのだった。

 

 

 

『それでは、本日の第十二試合の選手を紹介しましょう!青ゲートから姿を見せたのはあの黒鉄一輝選手の妹にして、《紅蓮の皇女》に次ぐ今年度次席入学生!戦績は十五戦十五勝無敗!属性優劣も何のその!抜群の魔力制御を武器に今日も相手を深海に引きずり込むのか!一年《深海の魔女(ローレライ)》黒鉄珠雫です!!』

 

 

 珠雫は周りの歓声など聞こえず、目の前にいる一人に対して意識を集約している。

 

『そして赤ゲートより我が校の、生徒会長にして校内序列最高位!前年の七星剣舞祭では二年生で準決勝まで駒を進める快進撃を見せるも惜しくも決勝を逃しました。しかし、彼女は再び七星の頂を争う戦いの場に帰ってきました!一年前よりもさらに磨きがかかった伝家の宝刀をひっさげて!三年《雷切》東堂刀華(とうどう とうか)選手です!!』

 

 

『それでは第十二戦目、開始!!』

 

飛沫(しぶ)け、宵時雨!」

「轟け、鳴神」

 

 

 開始の合図がなった途端、無数の氷と雷がぶつかり合った。氷は雷に砕かれ細かい粒子となり会場の照明灯(ライト)の光を反射して散り散りに輝いている。

 

氷光地帯(ひょうこうちたい)ッ!」

 

 珠雫は会場の光を氷で反射させ視界を惑わし、刀華に自身を視認させないようにした。近距離(クロスレンジ)で放たれる電磁抜刀術《雷切》の対策として攻撃が来る場所から方向は分かっても距離が掴めないようにするためだ。

 相手の視覚を奪い、次は動きを止めるために《凍土平原(とうどへいげん)》を使用し足場を氷一面に。地面に縫い付けられてる足を気づかれる前に刀華の頭上に氷柱を作り出し投下。

 

 刀華は頭上からの飛来物に対して回避を選択。しかし足元に絡みついた氷によって動きを封じられていることに気付くが、気付いた分の時間のロスによって氷柱が目前に迫る。

 

「…《雷切(らいきり)》」

 

 雷光一閃。視覚を惑わす光、足に絡みついた氷、頭上の氷柱、全てを一撃にて薙ぎ払った。刀華は刀を鞘に納め珠雫へと直進しようとするが今度は会場が霧に覆われたため足を止める。

 

「《白夜結界(びゃくやけっかい)》。フフッ…師匠の言葉を借りるならずっと私のターンですよ?」

 

 珠雫は霧と一緒に複数の水球を刀華の周囲に作り出し、そこから無数の水の針を飛ばす《血風惨雨(けっぷうさんう)》を繰り出す。刀華は《雷鷗(らいおう)》にて水球を撃ち落とすが、爆発に見舞われる。

 撃ち落とされた水球は囮で本命は相手に雷を使わせること。珠雫は幾つか水素を凝縮させている水球に偽装したものを忍ばせていた。水から酸素を抜いて水素を取り出すことは不純物のない純水を作り出すよりも難易度が高い。魔力制御が得意な珠雫でも時間がかかるため、初手には使えなかった。

 

「さて、少しくらいはダメージを負ってくれてるかしら…」

 

 瞬間、珠雫の目の前に雷が迫った。

 

「ッ!」

 

 水をドーム型の壁に形成して防ぐが雷は連続で珠雫に襲いかかる。たまらず水の層を厚くした珠雫だが、正面には水の壁越しに居合の構えをした刀華の姿が写った。

 

「しまったッ!」

 

 咄嗟に水の壁を蒸気爆発させて離れることに成功したが、身体に衝撃のダメージが残る。辺りを見れば珠雫が作った霧や氷のフィールドは消え、元に戻っている。そして服の破れからして多少は傷を負ったであろう刀華が隙あらば斬り捨てると虎視眈々と眼光を光らせていた。

 

 刀華は水素爆発に対して咄嗟に電磁波のバリアでその身を守り、電流の熱でステージの氷も霧も溶かし、晴らしたのだ。

 そして油断していた珠雫に悟らせる前に《閃理眼(リバースサイト)》で位置を把握して雷撃にて、先制攻撃。足を止めさせて《雷切》にて終わらせようとするが珠雫の自爆覚悟の攻撃によって仕留め損ねた。

 

 対峙している二人は動こうとしない。珠雫は残りの手札で倒すための道順を探すために。刀華は相手の手札を警戒するがために。

 

 先に動いたのは刀華だった。珠雫は刀華の一挙手一投足を逃さないように集中力を高まらせる。しかし、目の前まで刀華に接近され刃を鞘から抜き始めるまで気付くことができず、そのまま刃は珠雫の身体に入り込むが手応えがない。

 

「まさかこれは…」

 

 その技を刀華は知っている。入学式前に戦った七星剣王である歩太が使っていた。

 

「この技は《鏡花水月(きょうかすいげつ)》。知ってました?魔力操作さえしっかりしていれば魔力の消費は少なくて済む非常に効率的な伐刀絶技(ノウブルアーツ)ですよ」

 

 余裕を見せるように珠雫は答えるができれば仕留める直前までは見せたくなかった切り札の一つを晒してしまった。それでも勝つために道筋を考え直す。

 

「お兄様や師匠達も順調に勝ち上がっている中で私だけが躓く訳にはいかない。だから私は貴女に…《雷切》に勝つッ!」

 

「私にも譲れないものがあります。故に、黒鉄さんを斬って進ませてもらいます!」

 

 自然と戦う位置は一定の距離に固定していた。攻防は激しく、代わる代わるに攻めては守り守っては攻めるを繰り返す。時代が違えばどちらも七星剣王になっていただろう強者同士の戦いだ。熾烈を極めるのも当然だ。

 そして終わりは間も無く。体力は限界を迎え魔力が多少残っている珠雫。体力は多少あるが、魔力があと《雷切》一回分の刀華。次の一撃にて決着をつけるために互いに呼吸を整える。

 

 飛び出したのは同時だった。しかし珠雫が速さで刀華に敵う筈がなく鞘から抜き切った刃に斬られるもそれは幻影。そんなことは百も承知と言わんばかりに解き放った刃を勢いのままに背後から襲おうとする水の分身を斬り捨てる。居合を終えた所に珠雫が自身の霊装である小太刀に水を纏わせ刀華に近づく。水を纏った小太刀の攻撃は刀華に掻い潜られ左手に持つ鞘で珠雫の脇腹を強打され息を吐き出した。

 

「かはっ…ゥ…ァァァアアアア!!」

 

 (うずくま)りそうになる身体を気合いで押し止める。

 

「《雷切》ッ!」

 

 刀華は再度居合の構えをとり自身の最強の技《雷切》を抜き放ち珠雫を斬り裂く。

 

 珠雫を斬り裂く刃は途中で止まり、押すことも引くこともできないでいる。

 

「…っと…捕ま……たよ…ッ」

 

 執念の籠った声にぞわりと本能が危険信号を放つ。

 

「…《鮮血刃(せんけつじん)》」

 

 珠雫の血が刀華の身体中を這いずり切り刻んだ。

 

「…えっ」

 

 刀華は身体中から血が吹き出しその場に倒れた。そして程なくして肉体の限界を越えた珠雫も倒れる。

 

 

『こ、これは…まさかまさかの、両者ノックダウン!?試合結果は両者引き分けだぁぁああああ!!』

 

 

 死力を尽くした試合は引き分けに終わった。

 

 

 

 



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強くなるために(第19話)

この前、原作読み返して「七星剣『舞』祭」じゃなくて「七星剣『武』祭」だったことに気がつきました。勘違いって恐いっすね。


 珠雫と刀華のとの試合は世にも希な引き分けという結果に終わった。試合の内容を吟味し教師陣が下した決断はこの引き分けを勝ち星判定にすることに。

 七星剣武祭は運で優勝できるほど甘くない。どちらか片方が勝つならば良かったのだが、どちらも落とすには二人の実力はあまりにも高かったためだ。

 

 

 

 一輝は熱を入れて鍛練をしていた。伐刀者(ブレイザー)としての才能が低すぎる一輝はこれまで洞察力と磨き上げた技で乗り切っていたが、今の自分では選抜戦を無事通過できてもこのまま七星剣武祭で自分の力が通用するのか不安を抱いていた。何か強くなるきっかけを見つけなければと。故に歩太と久しぶりの試合は有り難かった。

 歩太は強い。基本的に自身の手の内が攻略されること前提で戦うために戦術を破られても動揺することなく次の手札を切る。どれほど手札を持っているのか一年共に過ごしている一輝でさえ全容が全く見えない。

 ちなみに歩太は学園内で一番警戒している相手は誰かと言えば一輝の名を告げる。理由は一輝は決して慢心しないからだ。正確には慢心するほど余裕がないのだが、強者は勝利のためなら普通の人間なら踏み込まない所で躊躇い無く踏み込む。

 だが一輝の場合は危険を侵してさらにもう一歩踏み込んでくるのだ。勝利に対しての嗅覚と貪欲さはどこぞの神殺し魔王達並。それが歩太が一輝に対しての評価だ。

 そんな二人が久し振りに霊装を出して対峙してるのだが、ふと一輝から提案があった。

 

 たまには剣だけで勝負してみないかい?

 

 霊装(デバイス)こそ刀剣型だが歩太は自他共に認めるウィザードタイプの伐刀者だ。もちろん剣の腕を蔑ろにしているわけではない。手札を晒す気がない時や魔力消費を抑えるために霊装で斬り込んで平然と近接戦闘もするし、自身の魔法と絡めた秘剣も幾つか修めている。

 剣の才能は一輝と比べて潜在能力は負けていているが、剣の腕は現段階で歩太の方が技術を多く所有しているため勝っている。

 対して一輝は幼い頃から実家で居ないもの扱いを受けており、剣技を学ぶために日本各地の剣術道場や名のある剣客に果たし合いを願い出る剣キチ(ヤバイ奴)である。お前そん時、何歳だったよ?

 そんな一輝(剣キチ)が自分より技術を持っている相手がいたら勝負を挑むのは当然だ。一年生の時からそれは今でも続いているが、歩太は一輝と訓練する時は剣技を見せず、魔法のみ。何でかと聞くと、

 

 …自分の技術をあっさり模倣されたら腹立つから見せたくねぇ。

 

 歩太は一年生の時に一輝に《模倣剣技(ブレイドスティール)》で抜き足(ぬきあし)という歩法技術を数回使っただけで盗まれたことがあるし見切りもヤバイことを体験して、見られても問題ない動きや真似できない魔法でしか模擬戦で使わないようになった。

 だからこそ一輝の提案もいつもなら拒否されるし言った本人も何となく言ってみただけなのだ。

 

 ふむ…たまにはいっか。

 

 その言葉に一輝は目を見開いた。しかし次の瞬間、闘志を漲らせ獰猛な笑みを浮かべた。

 

 

 

 時間は遡り、珠雫と刀華の試合から数日が経ってから歩太、ステラ、一輝の三人は刀華に頼まれ彼女が所属する生徒会の仕事の手伝いをすることになった。

 毎年、七星剣武祭の前に奥多摩にある代表選手の強化合宿を行っている合宿施設で最近になって不審者が出たとのことで安全確認をしてきて欲しいと頼まれたのだが、生徒会だけでは人手が足りないからだ。

 なんでも四メートルほどの巨人が出没してるらしい。それを聞きステラは目を輝かせて生徒会の一人である恋々(れんれん)と意気投合し盛り上がっていた。

 次の日曜日。歩太、一輝、ステラは生徒会メンバーと奥多摩の山奥にある破軍学園の合宿場へやってきた。

 

「ん~。空気が美味しいわ。それに涼しくて気持ちいい」

「このマイナスイオンが出てる感じが良いよな」

「アスファルトが少ないから、空気がほどよく冷やされるんだろうね」

「日本はどこもかしこもコンクリートで固めすぎなのよ。暑いし蒸すしでたまらないわ」

「今は梅雨の時期だからどうしてもな~」

「もう(ほと)んどこの国は亜熱帯だからね…」

 

 欧州の北側にあるヴァーミリオン皇国出身のステラにとって日本の夏は正直厳しいものだった。日本人だって辛いのだから無理もない。

 さて、噂の巨人の正体を突き止めるとはいえ合宿場の敷地はいくつもの山と森を有する広く険しい地形で生徒会メンバー5人と歩太達を含めた8人でも時間がかかる。そのため英気を養うためにまずは腹ごしらえということで昼食にカレーを作ることになった。ちなみにステラと恋々はバドミントンでテニヌをしているため昼食作りには不参加だ。

 

 一輝は切った具材を刀華の元へ持って行くがふと足が止まった。

 見事な手さばきで肉と玉ねぎを刻んでいるエプロン姿の刀華を見て、若くして母性すら感じさせる立ち姿に視線が吸い込まれる。

 

「どうかしましたか?」

「あ、いや。なんでもないです」

 

 振り向いた刀華に声をかけられ一輝は我を取り戻し、持ってきた野菜を刀華に渡す。他に手伝うことはないらしく一足先に炊事場を抜けた。

その途中で生徒会副会長の御祓 泡沫(みそぎ うたかた)に声をかけられた。

 

「ふっふっふ。どうしたんだい後輩クン。刀華のおっきいお尻に見とれてたのかな?」

 

 先ほど刀華を見つめてしばし立ち尽くしてことを泡沫に追求された。

 

「ち、ちがいますよ!」

 

 確かに刀華のお尻は丸くて柔らかそうで男して魅力を感じるし感情が込み上げることもなくはないが、

 

「そうじゃなくて…。自分でもよく分からないんですが東堂さんが炊事場に立つ姿に目を奪われたんですよ。なんていうか…そこに目を逸らしちゃいけない何かがあるように思えて」

 

 一輝と刀華は同じルームメイトであるため互いにご馳走したこともご馳走になったこともあるが時間帯やタイミングが合わなく調理風景を見たのは今回が初めてだった。

 泡沫はその返答に興味深そうに唸ったあと一輝に言った。その感覚は正しいと。そしてあの姿こそ彼女の強さの源泉だと。

 二人は同じ養護施設『若葉の家』で暮らしていた。そこには親に捨てられた、親を亡くした、殺されかけたなど複雑な事情を持った子供達がいた。似たような境遇の連中同士で些細なことで傷つけ、罵りあったりと苦しみを誰かにぶつけていた。そんな中で刀華は自分も同じ境遇でありながら周りを笑顔にしようと頑張っていた。小さい子供に絵本を読み聞かせたり、院長先生に代わりに料理をしたり。

 

「院長先生はすごくいい人なんだけど料理だけはもう本当にまずくてたまらなかったからね。あれはもうみんな大喜びだったよ。あはは」

「面倒見のいい人だったんですね」

「昔からね。人の世話を焼かずにはいられない性格なんだ」

 

 泡沫は昔のことを思い浮かべていた。

 

『どうして刀華はそんなに強いの?』

『私はたくさん両親に愛してもらったから。それは普通の家族に比べたらとても短い時間だったかもしれないけど、たくさんの笑顔と愛情をもらったの。

 その思い出は両親が亡くなった今でも私を支えてくれている。だから私も他の子供達を笑顔にしたい。みんなが支えになるような思い出を作ってあげたいの。両親がそうしてくれたように。

 人を愛することは両親が私に教えてくれた大切で大好きなことだから』

 

「…刀華は施設を出た今でもずっと若葉の家のみんなに笑顔と勇気を与えている。親無しの自分達でもすごい人間になれるんだということを身を以て示し続けてくれている。全国でも指折りの実力派学生騎士《雷切》として活躍し続けることでね」

 

 彼女の強さの源泉とは『善意』なのだと一輝は理解した。自分のためではなく第三者のために比類無き力を発揮する。刀華はそういった魂の在り方をした少女なのだと。

 

「後輩クン。君は強い。正直予想以上だった。ボク程度じゃ歯が立たないしカナタでも危ういと思う。だけどそんな君でも刀華には勝てない。刀華の強さは別格だ。

 何故ならあの子は自分が負けるということがどういうことか。どれほど多くの人間に悲しみを与えることかを知っているから。

 だから負けない。だから折れない。あの子と君では背負っているモノの重みが違うんだ」

 

 

 




泡沫パイセンの攻撃「メダパニ」



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謎の巨人(第20話)

・出雲歩太の転生特典new!
その1…固有霊装の形と能力
その2…魔力量Aランク最高(ステラを除いて)
その3…丈夫で健康な肉体
その4…頭脳明晰(学園都市一位の演算能力とかリリカルな世界のフェレット並の並列思考とか)
その5…能力と記憶を引き継いで転生(性別は男で)
その6…
その7…



 昼食後。ある程度腹具合が落ち着くのを見計らい、散策のための班分けを行った。それぞれ二人一組の四組となり貴徳原カナタと一輝を拠点となる合宿場の建物に残り、他三組が巨人の捜索のために乗り出した。

 班になった歩太とステラの二人は西側の山林を任される。その場所は伐刀者(ブレイザー)の訓練用施設のために草木が鬱蒼と生い茂って斜面の傾斜もあり道とは言えない道となっている。身体能力が高い二人にとって少し足場の悪い坂道程度の認識。だが、毒蛇が多いらしく何度か襲いかかれる。それでもどうということでもないのだが。

 

「ステラ、大丈夫か」

「……うん」

 

 歩太は声をかけるがステラの返事はいつもより元気がない。そういえば昼食のカレーもかなり味が良く周りも杯が進んでいる中で五、六人前以上は余裕で平らげる彼女は1度もおかわりをしていなかった。あの食欲魔神が?どう考えてもおかしい。

 引き返すことを提案するがステラはそれを拒否。仕方なく早く終わらせるために魔力を放出し知覚範囲を広げて捜索をすることにした。捜索中、次第に天気も悪くなり今にも雨が振りそうだ。あと暫く捜索して何もなければ一旦戻ることを考えた歩太だが、視線の先に妙なものを見つけた。

 

「これは…足跡か?」

 

 何十本もの木々が倒れ、地面は巨大な何かが這い出てきたかのようで足跡のようなものがある。

 

「ステラ、これを見てくれ」

「はぁ、はぁ……」

「ステラ…?」

 

 歩太はステラが荒い息を吐きながら木に寄りかかっていることに気がついた。側に駆け寄り状態を確認するが顔は赤く、額に汗が珠のように噴き出していた。首筋に指を当て能力でステラの状態を確認する。

 

「身体の状態はどうだ?」

「わ、わかんない…。ただ…さっきからなんだか身体がすごくだるくって…吐き気がとまらなくって…目眩がして……ッ」

 

 ステラ自身の意見と能力で確認した結果。どういう症状か理解した。

 

「風邪だな。日本の気候は移り変わりが激しいから急な気候の変化で体調を崩した感じか」

「か・ぜ…?」

「え、その反応本気か…?まぁ見た感じ(魔法で解析)では安静にしてれば比較的早い段階で治ると思うが拗らせると厄介だな」

「…あぁ、これが噂に聞く『カゼ』なのね。子供の頃は学校が休めるのが羨ましかったけど…羨ましがるようなもんじゃないわね、これ」

 

 ステラは苦笑いを浮かべるがやはり辛そうだ。

 

「このままじゃ調査の続行は無理だ。引き返そう」

「ちょ、ちょっとまってよ。せっかく手がかりを見つけたんだから……」

「初めての風邪を引いたんだ。身体も動きづらいだろ」

「そんなことないわっ。このくらい………あ、あれ?」

 

 ステラの身体がふらりと揺れ、地面に崩れ落ちそうになる。歩太は素早く動き彼女の身体を抱き寄せるように支える。

 

「ほら言わんこっちゃない。それに息も上がってるし体温も高くなってる。安静第一だ」

「あぅ…」

「悪いがこのまま運んで帰るからな」

「…ぁ…ぅ」

 

 歩太はステラを抱き上げて下山を決意するがぽつりぽつりと雨が降り出し、次第に豪雨となった。

 

「うわ、このタイミングでか」

 

 豪雨に変わる直前に魔力を半円状に展開して雨から濡れるのを防いだ。激しい雨の中で病人を動かすのは不味いと考え、ここに来るまでに避難用の山小屋を見つけたことを思い出した。

 

 

 

『ステラさんが倒れられたのですか!?』

「はい。担いで近くの山小屋に避難したところです」

 

 山小屋に着いてから気温がかなり下がっているため山小屋内の囲炉裏に火を起こして居留守組の貴徳原にこれまで得た情報とステラの状態を電話で説明した。

 

『わかりました。安静にして救援を待っていてくださいませ。多分1、2時間ほどで到着すると思います。外は寒くなっていますので濡れた身体を乾かすのを忘れずに』

「はい。よろしくお願いします」

 

 歩太は能力を使って雨で濡れた自身とステラの服から水分を取り除いた。ステラの場合は発熱による汗もかいていたので着衣の状態で全身丸洗いをしたのが良かったのか少しスッキリした顔をしていた。

 

「ねぇ……あゆた」

「どうした、ステラ?」

「膝まくら」

「うん?」

「床に直接寝てるの…痛いの。だから…して?」

 

 熱のせいか瞳を潤ませ弱々しい声でステラは懇願する。普段と違う様子に歩太は気遣いながら優しく持ち上げて自身の太股に頭を乗せた。

 雨が降り続ける中、再び体温が上がったのか首筋から汗粒が浮き上がり弱くもどこか妖艶に聞こえるステラの声に日常では意識しないようにしていたステラの女の部分を感じて自身の男を強く実感してしまう。

 気を紛らわすために左手の掌に程好く冷えた水を薄く形成してステラの額にそのまま当てる。

 

「あっ…冷たくて…ぃぃ…もっと…っ」

 

 ステラは歩太の左手を両手で掴み自身の右頬へと移動させて甘えるように頬擦りをしながら抱きしめた。

 

「フフッ…」

 

 

 下手に精神が大人のためか前世でヘタレてたのかは語らないがステラが歩太に対する好意は端から見ていれば誰でも気づくし、歩太の対応から見ても憎からず想っていることも読み取れるくらいなのだがまだ交際すらしていない。何故だ?why?

 

 理由は長い付き合いの中で育んだ心の距離の近さに原因があったりする。ステラはあれ・それ・これで分かり合えるのが心地良さに。歩太(性格S)は今の距離感でイジった時のステラのリアクションの面白さに。

 ちなみにステラを膝枕しながら介抱してる歩太はというと…

 

 

「……フゥ」

 

 

 今にも理性が溶けそう(一刀修羅したい)だったりする。

 

 

「ン……アユタァ…」

 

 時折甘く喘ぐような声を出しては機嫌良く自分の名前を呼ぶ声。左腕に感じる豊かな母性の象徴の柔らかさに男の性が今にも溢れそうになるのをぐっと堪える。『身体が若いから負けそう』とか心の中で呟いてたりするが流石に風邪を患ってる女性をドラゴンファングするのは常識的にあれなので今のところ理性が勝っている。しかし身体は正直と良く聞く台詞があるように一部が大変元気になっている。

 ところで女性は匂いに敏感な人が多くいるらしい。交際してる異性の匂いは勿論好きな場合が基本だが本気で嫌いになった場合はその匂いが駄目になるのだとか。

 では、生まれつき五感が他人より優れており付き合ってはいないが好いてる相手の脱いだ服の匂いをスーハーすることがあるご満悦に膝枕を堪能しているどこぞの皇女(匂いフェチ)が自分の近くの匂いの変化に気付かないだろうか。いや気付かない筈がない。

 ステラは仰向けの状態から歩太の腹筋を経由してゆっくりとうつ伏せになる。

 

「ん?」

 

 歩太はステラの行動に疑問を持つが次の瞬間、思わず驚愕の声を上げた。

 

「え──ちょっ、ステラさん!?」

「あ、すごい……」

「今スゴイことしてるの君だからね!?」

 

 元気なっている歩太の雲龍に手を伸ばし触れてきた。その顔色は風邪のせいか興奮してるか赤く頬を染めて状上目遣いで見てくる。

 

「アユタ……しよ……?」

 

 プッツン。糸が切れる音を歩太は聞いた。もう歩太は羊を前にした腹を空かせた狼と変わらない。その柔肌にかぶりつくことしか考えることができなくなっていた。

 

 

 しかし突如、危険を感じて咄嗟にステラを抱えて山小屋から脱出した。山小屋は破壊されて少しでも遅れていたら歩太はともかく今のステラは危なかったかもしれない。

 

 目の前には土でできた巨大なゴーレムがいた。

 

 歩太はどう考えても巨人じゃないとか伐刀者(ブレイザー)の仕業じゃねーかとか何か違うなど思うことは色々あったかも知れない。ただ一つ、確実に言えることがあるとしたら……

 

 

「土塊如きが…消え去れ」

 

 

 ラブコメ展開を邪魔するのは万死に値する。

 

 




本当は去年まで書き終える予定が延び延びと。申し訳ッ。


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代表選抜戦終了(第21話)

暇が出来たので久々に投稿。中々、纏まらなくて別の話のアイデア浮かんだりしてました。


 現れた巨人はぶちギレた歩太の伐刀絶技(ノウブルアーツ)によって跡形もなく消滅した。しかも今まで南郷寅次郎や西京寧々との鍛練でしか見せたことがない正真正銘のちゃんと考えて作った絶技を使って。

 

「アユ、タ……?」

 

 ステラは歩太を呆然と見つめていた。

 

 

◆◆◆◆

 

 あの後、巨人を消滅させて少し少し経った頃に東堂 刀華(とうどう とうか)御祓 泡沫(みそぎ うたかた)が救助として山小屋に現れた。事は既に終了しているものの、雨が長時間降り続いたので歩太達が下山出来たのは日が沈み始めてからだった。ステラの熱はもうすっかり良くなり念のため歩太に背負われている。

 大人しく背負われているステラは歩太が巨人を跡形もなく消し飛ばした能力について考えを巡らせていた。何だかんだと二年の付き合いで破軍学園に通ってからはルームメイトで訓練などでも同じ時間を共有していると思っていたがあの伐刀絶技は見たことがないし、純粋な自然干渉系の水使いができる芸当だとは考えられない。

 

 ……つまり、歩太は厳密には水使いではない?では本当の能力とはいったい……

 

 伐刀者としてはライバルは強ければ強いほどに燃える。しかし、乙女としては全く萌えないしスッゴく不満なステラであった。

 

「……私にくらい教えてくれたって良いじゃない

 

 誰にも聞こえない小さな声で呟いた後、歩太に不満を訴えるかのように彼の首に回している腕の力を強めた。

 

「ッ…ちょっとステラ、苦しい」

「フンッ、これくらい何ともないでしょ」

 

 ステラは言うことを聞く気がなく余計に回している腕に力を込めた。

 

「七星剣王のアユタ様ならこれくらい平気でしょ」

「ちょっと待って。いや本気で苦しいからちょっと緩めてさ。てか色々当たってるから違う方向でもヤバい」

「なっ!?何言ってるのよ、この変態!!」

 

 歩太は自身の背中で暴れるステラの耳元に口を近づけて…

 

「      」

「ッッ!?……バカ…」

 

 ステラは顔を真っ赤にして歩太の背中に顔を押し付けた。

 

 さて、今は下山中で歩太達二人だけではない。空気になっているが救助として駆けつけてくれた刀華と泡沫も一緒にいる訳でやや距離が離れていて話の内容は分からずともイチャついてるのは見てれば明らかに分かる。

 

「おいおい、イチャイチャするのは良いけどあまり見せつけられるといい加減、砂糖を口から吐きそうだぜ」

「お二人が仲が良いのは知っていましたがこれはちょっと…」

「「あっ、すみません…」」

 

 二人は素直に謝った。

 

 

◆◆◆◆

 

『ではこれより、任命式を開始する。名前を呼ばれたものは壇上へ上がるように』

 

 理事長の新宮時黒乃がよく通る声で一人一人、代表の名前を読み上げていく。

 

『二年Aランク、出雲歩太』

『一年Aランク、ステラ・ヴァーミリオン』

『三年Bランク、東堂刀華』

『一年Bランク、黒鉄珠雫』

『三年Bランク、貴徳原カナタ』

『一年Fランク、黒鉄一輝』

 

 選ばれた選手達は集まった全校生徒の方を向き、壇上に横並びする。

 

『ここに並ぶ六人を正式に我が破軍学園の七星剣武祭代表と認める!』

 

 

 これより始まるは己の力と誇りをかけた真剣勝負の大会。

 

 しかし、裏で蠢くは怪しい影が一つ…

 

『フフフ、じゃあ破軍のオーダーも固まった訳ですね。《紅蓮の皇女》、《雷切》、《深海の魔女(ローレライ)》…そして《七星剣王》とはずいぶん豪華なメンツですねぇ』

「ええ。破軍学園の最強メンバーが出揃ったって感じよ」

『今回に限って豊作とは運が良いのか悪いのか…』

「どうでもいいわよ」

『冷たいですねぇ。まあいいです。それでそっちの準備は万端ですかね』

「ええ、問題ないわ。計画に支障はなし。──いつでも殺れるわよ」

 

 有栖院は普段、歩太達に見せている親しみやすい顔とは似ても似つかない冷たい表情をしていた。

 

『ともあれ、これで前夜祭の準備は出来たというわけだ』

 

 通話相手は(あざけ)るような笑いを漏らしながら、どこか恍惚とした声音で呟く。

 

『役者は出揃った。みんなはそう思っているでしょう。

 

 だけど、それは間違いだ。まだ『主役』が登場していない。

 

 その存在に誰も気づいていない。だから彼らに教えてあげよう。

 

 今回の七星剣武祭の主役は、ボクたち《(あかつき)》なのだと』

 

 

 舞台は全国へと動き始める。

 

 

◆◆◆◆

 

 7月下旬。梅雨も終わり、青空に白い入道雲が見える季節。

 歩太達は8月半ばから開催される七星剣武祭に向けて巨門学園と合同強化合宿をしていた。

 本来なら各校独自に強化合宿を行うのだが、破軍学園は『奥多摩巨人騒動』があった。あの一件は未だ解決していないので安全性のために毎年使っていた奥多摩の合宿場を使わず他校の合宿場を合同ですることになった。

 

 巨門合宿場の模擬戦用リング。

 

 紅蓮の炎光と黄金の雷光が激しくぶつかり合い、火花を散らす。

 

 紅蓮の炎を纏い、大剣を振るうは

 

 《紅蓮の皇女》ステラ・ヴァーミリオン。

 

 強力無比な剛力と圧倒的な魔力にものを言わせた防御と機動力。攻・守・速とありとあらゆる能力が、才能が、非常に高い次元でバランス良く備わっている。故にAランク騎士。

 

 対するは猛攻を真正面から凌ぎ、降り落ちる剛剣を殺すしなやかな防御。守り一辺倒にならず素早く反撃を繰り出す技の冴えを持ちしは

 

 《雷切》東堂刀華(とうどう とうか)

 

「シッ!!」

 

 刹那を競う剣戟の中、刀華が技を見せる。双方の刃が火花を散らしてかち合った瞬間、生じる衝撃をいなすように手首を捻る。

 刀身を滑らし衝撃を剃らされたためにステラの身体が大きく傾く。

 

「くっ!」

 

 しかしステラも一流の騎士。その程度でバランスを崩すようなことはなくしっかりと身体を地面に縫い付ける。だが、僅かな隙が生じる。それを見逃すほど刀華は甘くない。

 すぐさま固有霊装(デバイス)である《鳴神(なるかみ)》の刃を腰に下げた黒塗りの鞘へと戻す。そしてスタンスを広く取り、鞘に雷の力を流し込む。

 

「《雷切》ッ!」

 

 放たれる一撃がどういうものか彼女は知っている。抜き放てば敵を一撃で斬って落とす刀華の切り札──《雷切》。

 

「受けて立つわッ!」

 

クロスレンジにおいて圧倒的な力を誇るそれをステラは真っ向から立ち向かう。固有霊装《妃竜の罪剣(レーヴァテイン)》を振り上げ上段に構える。

 魔力が高まり紅い光が身体を包み──全力で振り下ろす。

 

「新技よ?《暴激竜の逆鱗(タイラントブレイク)》!!」

 

 一切合切を凪払う剛剣は《雷切》を撃ち破り圧し折った。

 

「これで三勝二敗。ようやく勝ち越せたわ」

 

 

◆◆◆◆

 

「だぁーー負けたぁああ!!」

「まだまだ負けてはやれんさ」

 

 歩太とステラは食堂で食事をしていた。怒りと食事量は比例するのかステラは暴食をしている。

 

「やっとトウカ先輩に勝ち越せて調子良かったからそのままアユタに挑んだのに…」

「丁寧に返り討ちしたな」

「もう食べないとやってらんないわっ。デザート貰ってくる!」

「いってら。……アイツ、自分がどれだけの成長スピードで強くなってるのか実感してないんだな…」

 

 ステラは刀華に勝利した後、勢いそのまま珠雫をしごいていた歩太に挑戦状を叩き付けた。のらりくらりと攻撃を避けられ、緩急を繰り返す動きで斬り刻まれ敗北した。しかし、刀華との戦いを経て目が鍛えられ、いつもよりも動きが見えていた。

 

「…絶対、負かしてやるんだからっ」

 

 ステラはデザートを大量に乗せたお盆を持って歩太の元に向かった。

 

 

 

 

 

 




◼️ステラのオリ技
・暴激竜の逆鱗(タイラントブレイク)…上段に構えて力と魔力を貯めて振り下ろすシンプルな脳筋技。

 原作に赤座なんて牛蛙いましたが、今作のイッチーはスキャンダルが見つからず泣く泣くスルー。どこぞの七星剣王がパパラッチ引っ捕らえて暗躍したっぽいとか…


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前夜祭その1(第22話)

前夜祭は何話か分けて書きます。


 十日間に及ぶ強化合宿も終わり、参加していた破軍学園の一同を乗せたバスは長旅を終えてようやく破軍学園の近くまで戻ってきていた。空は茜色にそまり始めた夕刻頃だ。

 バス内では和気藹々と談笑している声が聞こえる中、ステラだけがしょんぼりした表情で肩を落としていた。

 

「……はぁ~」

「元気だしなよ、ステラ」

 

 反対の通路側でステラの溜め息の理由を知る一輝に慰めの声をかけられる。

 

「いいわよね~イッキは。アユタに一太刀浴びせられて…アタシなんてイッキより付き合い長いのに、結局アユタに一度も当てられなかったし。三回も戦って三回とも負けたし…」

「僕だってようやく一太刀当てれたけど、結局は勝てなかったし同じだよ」

「それでもアユタが戦闘中に表情を崩すとこなんて初めて見たわよ。アタシがあの余裕そうな表情を崩して『なん、だとっ…!?』って言わせたかったのに」

「いやいや、歩太そんなこと言ってなかったから。僕の《天衣無縫》擬きを『ん?じゃあ、これならどうだ』って言ってより正確な太刀筋で斬り破られたからね」

「もう~絶対、ギャフンて言わせてやるんだから!」

 

 打倒歩太に決意の炎を燃やすステラであった。その様子に一輝は苦笑していたが、自身とて未だ彼に勝てていないのだ。彼に勝たねば七星の頂きを手にすることなど夢のまた夢だ。しかし今回、始めて彼に刃を浴びせられた。一度とはいえできたのだからあとは試合の際にもう一度だけ浴びせることができれば勝機はある。そんなことを考えながらステラや他の皆と過ごすのであった。

 

「そういえば、何で帰りのバスにアユタは乗らなかったの?」

 

 ステラの純粋な疑問に話を聞いていた刀華が答えた。

 

「たまたま見掛けて声をかけた時に教えてもらったんですが、なんでも総理大臣から呼び出しがあったらしく私達より先に東京に戻ると言ってました」

「なんだってこんな時期に日本のトップから呼び出しがあるのよ?」

「さあ。本人も首を傾げていましたから、なんとも言えません」

「ム~~っ。こんな時は食べて気を紛らわすに限るわ」

 

 ステラは鞄から高カロリーな携帯食料を三本取り出すともそもそと食べ始める。そんな様子を見ていた珠雫は呆れていた。

 

「ステラさん、流石に食べ過ぎじゃありませんか?もう少しで学園に着くのにそんなもの食べたら夕飯がはいらなくなりますよ」

「こんなのオヤツよオヤツ。腹の足しにもならないわ」

「ステラ。流石にサービスエリアでうどん三種、ラーメン三種を全て大盛で頼んでおいてそれは流石にどうかと思うよ」

 

 あまりにもな発言に一輝はついつい突っ込む。そんなステラに対して珠雫もおかしなもの見る眼をしていた。

 

「いいかげん太りますよ」

「いいのよ。アタシ、どれだけ食べても太らないから」

「いやいや。そんな太い脚して何を言ってるんですか」

「ふ、太くないわよ!珠雫が細過ぎるのよ。アンタはもっと肉を付けなさいよ」

「今の体重が私のベストなんです。それと脚、太いですよ」

「だから太くないって言ってるでしょ!これは引き締まってるのっ!」

「まあまあ。二人とも落ち着いて…」

 

 そんな他愛のない会話を楽しんでいると突然、バスが急ブレーキを掛けた。あまりに唐突だったのでバスの中にいた全員が前に投げ出された。

 

「ど、どうしたの砕城(さいじょう)君!」

 

 真っ先に動いたのは生徒会長の刀華だった。彼女はすぐに立ち上がり、運転していた砕城の元へ駆けつける。彼は真っ青な顔でフロントガラスの向こうを見つめて震える指先をある方向を指す。

 

「あれ……学園の方ではないか?」

 

 その先には、血のように赤い夕空にもうもうと黒煙が立ち上がっていた。それは破軍学園の校舎があると思われる方角から。

 

 

◆◆◆◆

 

「急に呼び出してすまなかったね、出雲君」

 

 とある官邸内にて歩太は内閣総理大臣である月影 獏牙(つきかげ ばくが)と会談をしていた。

 

「いえ。前に学園の正常化でお世話になりましたし、呼び出されるくらい問題ないです。しかし、今回はどういったご用件でしょうか」

「君に聞きたいことがあってね。少し、年寄りの長話に付き合って貰えないかね」

「聞きたいこととはいったい…?」

 

 すると突然、歩太の携帯が鳴った。着信相手はあまり接点がない貴徳原カナタ。

 

「すみません。ちょっと出てもよろしいでしょうか?」

「ああ、構わないとも」

 

 月影総理の許可を取り電話に出ると焦燥している声でカナタが叫ぶ。

 

『出雲さん!すぐに学園に戻ってきてくださいっ!!いま我々は……』

 

 そこで声が途絶え電話が切れた。どうやら只事ではない様子に歩太は総理に会談の中断を申し入れようと振り向こうとするが背後から危険を感じて自身の固有霊装(デバイス)ある《雲龍》を握りしめ凶刃を受け流す。

 背後から襲ってきた相手は黒い西洋の甲冑をその身に纏い巨大な戦斧(ハルバード)を握っていた。

 

「月影総理、これはいったいどういうつもりですか。てか何であんたが日本にいんのさ、世界ランキング4位の《黒騎士》さん」

 

 《黒騎士》アイリス・アスカリッドが歩太の前に立ち塞がった。

 

「すまないね、出雲君。彼女には無理を言って今日のことをお願いしたんだ。今、君を学園に戻らせる訳にはいかないからからね」

「はっ……?一体全体何が起こってんですかね。後で戻ってきますから、さっさと退いてくれません?」

「君は話を聞いてくれさえいてくれれば此方も手荒い真似はしなくてすむんだが」

「急いでるって言ってんだろうが、ごちゃごちゃ言わず退けってんだよ」

 

 《黒騎士》と《七星剣王》がぶつかり合う。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 あのあと一輝達はそのまま突っ込む勢いでバスを走らせて学園の正門を抜けて停車させるとすぐに外へと飛び出し、惨状を目にする。

 校舎は荒れ果てそこかしこから黒煙が立ち上り、舗装していた地面も砕けて爆撃でも受けたような有り様。帰省していない滞在組の生徒や教師達が倒れていた。その衣服は斬り裂かれた跡やほつれがある。

 これはおそらく──

 

「幻想形態でやられたのか……」

 

 一輝は状況から戦闘が行われたと推測。

 

 

「レディィィィス、アェンドゥ、ジェントルメェェンンンンッッ!!」

 

 なんともふざけた調子の軽い声が突然響いた。声の出所は、上。一輝達は一斉に視線を上げてそれを見た。

 燃える校舎の屋上に立っているのは道化師(ピエロ)の装いをした長身痩躯の男。

 

「長旅をご苦労様でした、破軍学園の皆さん!お待ちしていましたよぅ~」

 

 奇っ怪な賊の装いに皆は困惑の表情を浮かべる。この中で一輝と刀華は男の風体に見覚えがあった。

 

「貴方、文曲学園の平賀 玲泉(ひらが れいせん)さんですよね」

 

 刀華は険しい表情で問いかける。道化師の格好をした平賀は極彩色の赤で縁取った口を嬉しそうに吊り上げた。

 

「おやボクをご存じで?かの《雷切》に覚えていて貰えるとはこうえいですねぇ…フフフ。どうですか、このステージは。驚いて頂けましたかね?」

「これは貴方がやったことですか?」

「いやいや、いやいやいや。やったのは『ボク』ではありませんよぉ」

 

 瞬間、平賀は10m以上はあろう校舎の屋上から飛ぶ。しかし、飛び降りたのは一人ではなかった。

 彼の背後から次々と続くように人影が飛翔し、全員同時に一輝達の前に着地する。

 長い野太刀を携えた和服姿の男。

 トップレスにエプロンを身につけただけの奇抜な姿をした女性。

 (からす)のように黒い毛並みのライオンに跨がる眼帯を付けた少女とメイド服の女。

 その他三名、平賀を含めた七名の面妖な風貌と、その風体以上に異常な凶兆を孕むオーラを持つ者達が一輝達の前に並び立つ。

 平賀は彼らと自分を指し、刀華の問いにかけに対する答えを告げた。

 

「ボクではなく、ボクたち『暁学園』です」

 

 これが暁学園。影で蠢いていた八校目の正式に名乗りあげた最初の瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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前夜祭その2(第23話)

 《黒騎士》アイリス・アスカリッドと《七星剣王》出雲歩太の斬り結びは室内で収まるはずがなく気づけば外に出て、より激しさを増していた。

 竜巻の如く凪振るう戦斧(ハルバード)によって歩太の繰り出す水と氷の魔術は無効化され、刃を閃かせるも相手の鎧型の固有霊装(デバイス)、《無敵甲冑(オレイカルコス)》によって防がれてダメージを負わすこと叶わない。

 さらに自分の位置を相手に誤認させる《鏡花水月》にも惑わされず正確に彼へ向かって戦斧を叩きつけようとしてくる。

 世界ランキング第4位の名に偽りなしの強さを示していた。

 歩太は苛立ちを隠さずに舌打ちする。このままでは不味いと。

 

「いいかげん退けっていってんだろうがっ!」

「……」

 

 つばぜり合い、火花が散る。大技を放つ隙さえあれば撒いて置き去りにする自信があるが相手がそれを許さない。足を止めて斬り合う中でアスカリッドの身体が瞬間的に硬直する。その隙を逃さず歩太は刃を何度も振るった。

 

「その鎧がどれだけ丈夫でも、中のあんたも鎧並みに丈夫な分けないよなっ!」

 

 歩太は何度か斬り結んで鎧を容易に突破出来ないと理解し、衝撃を相手の内部に浸透させることにした。衝撃を緩和出来ないと分かり身体全身を連動させて何度も衝撃を与える。アスカリッドは耐えきれず、ついに吹き飛ばされ官邸の壁に激突した。

 歩太は即座に大量の水を生成して彼女がいる辺り一帯を水で覆い、分厚い氷で閉じ込めた。

 

「ざまぁみろ!」

 

 普段の歩太らしくない態度で中指を立てる。

 

「ざまぁみるのはアナタ」

 

 無防備な歩太に向けて振り上げた戦斧を歩太に向けてアスカリッドは振り下ろしながら告げた。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

「どうしてこのようなことをするのか。『暁学園』とはなんなのか。皆さん、疑問に思ってるようなのでお教えしましょう。

 簡単なことです。いくら生徒が七星剣武祭出場権を持っているからといって騎士連盟の許可なく新設された学園の参戦など、運営委員会が認めるわけがない。認めさせるには示す必要があるのです。

 我々が存在しない『日本で一番強い騎士を決める祭典』ほど無意味なものはないということを誰の目にも明らかな形でね」

「つまり『破軍』を壊滅させることでその『示し』を行い、『破軍』に変わって七星剣武祭の七校目になろうということですか」

「流石は《雷切》、理解が早いですねぇ。その通りです」

「そんな無法、まかり通るとでもおもっているんですか?」

 

 刀華がそう指摘するも平賀は不適な笑みを崩さない。

 

「フフ。それがそうでもない。我々は七星剣武祭に必ず出場します。というよりも運営委員会とその母体である騎士連盟は我々『暁学園』を認めざるを得ないのですよ。

 『破軍』という歴史ある一校を壊滅させられておいて、我々の挑戦を拒むのは敗走と同義。今まで多くの伐刀者を教育してきた連盟が自分達より遥かに力を持つ教育機関の存在を許せるわけがない。なんせ信頼に関わる事態ですから。

 彼らは傷ついた信頼を取り戻すためにも自分達が育てた伐刀者が我々よりも優れていることを証明しなくてはならない。戦後、半世紀以上の時をかけて構築してきた『日本の伐刀者教育の全ての独占する』という権益(システム)を守るためにもね」

 

 暁学園とは騎士連盟に対し強い敵対意思を持つ、ある巨大な組織の目的のために作られた学園だった。

 

「だから非常に申し訳ありませんが、皆さんにはここで倒れていただきます。我々の踏み台として」

 

 ぞわりと、強い殺気が暁学園のメンバー達の背から立ち昇る。濃密な殺気と共にそれぞれ霊装を構え、彼らは戦闘態勢を取る。

 

「ここまで好き勝手コケにされて〝はいそうですか〟〝分かりました〟なんて言うと思う?」

 

 一輝達、破軍学園の生徒も全員固有霊装を顕現させて向かい来る敵に抗う意を示す。

 

「やれるものなならやってみなさい!」

「では、遠慮なく。フフ」

 

 こうして場の緊張は一気に沸点に達し、両軍は同時に地を蹴った。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

「ごめんなさい。彼には逃げられたわ」

『本当ですか…?まさか貴女から逃げ切られるとは思いませんでした』

「彼、力がある傲慢な子だと思ってたけど始めから演技だったみたい。見事に騙されたわ」

『確かに少し彼らしくないとは思いましたが…流石は七星剣王といったところですか』

 

 アスカリッドは月影総理に歩太に逃げられたと連絡していた。

 

 あの瞬間、確かに仕止めたと思ったのだが…いつの間にか水の分身に入れ換わられていた。斬り裂いた分身の水は身体に纏わりつくと牢獄となり、彼女は暫く身動きが出来なかった。

 

「それに……」

 

 身動きが取れなくなった時に彼女の目端に映った閃光は破軍学園の方角に向かっていた。あの正体が彼なら…。本気で全力を出しても逃げられた可能性があったかもしれないとアスカリッドは思うのであった。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 それはまだ学園に到着しておらず、一輝達がバスから黒煙を確認した時の出来事。

 

『暁学園…。それが今、破軍学園を襲撃している者達の名前よ』

 

 ややパニックになりかけたバスの中に有栖院の冷たい声音が響いた。同時に全員の影に《黒き隠者(ダークネスハーミット)》の刃が突き立てられる。

 突然動きを奪われたことに全員が動揺を示す。一同を見回して有栖院は言った。

 

『順を追って全て話すわ。だから落ち着いて聞いてちょうだい』

 

 彼は自分の正体が解放軍(リベリオン)の暗殺者であること。解放軍がある組織に雇われて七星剣武祭を滅茶苦茶にしようと目論み、既存の七校に自分と同じ闇の世界の精鋭を送り込んでいること。ここにいる一輝達と襲うことになる脅威と策謀。

 

『じゃあ、ずっとアタシ達を騙していたの!?』

『冗談なら今すぐ撤回してほしいね』

 

 狼狽と苦渋を顔に(にじ)ませるステラと一輝。だが有栖院は首を横に振り全て本当のことだと断言した。

 迷いのない口調にステラと一輝の表情は沈痛なものなる。

 

『……わからないわね』

 

 今まで一番、有栖院と付き合いの深い珠雫が静かな表情で横合いから疑問を挟んだ。

 今、自分達にその話を聞かせれば作戦が台無しになるのに何故かと。

 

『ええ、そうね。つまりあたしは台無しにしたいのよ。この作戦をね』

 

 珠雫に返す言葉は彼の中で迷いなく決まっていた。紛れもない本心でこの作戦を失敗させようと決意を固めていたからだ。

 

『あたし、自分でもどうしようもないほど珠雫のことが気に入っちゃったのよ。それがあたしがこの行動を起こした理由の全てよ。だからそのために皆に協力してほしいの。貴方達の夢の舞台、七星剣武祭を守るために』

 

 味方からの裏切り。その初手はどんな使い手も対応出来ない。

 今まで間者としてギリギリの瞬間まで微塵も怪しい所を見せずに暁の一員として行動してきたのは100%奇襲が通る最大のチャンスを作り出すためだった。

 ここで暁を完膚なきまで返り討ちすれば彼らの思惑は完全に頓挫して七星剣武祭に出場することなく敗走するしかない。

 

『だから……お願い。あたしと協力して暁の思惑を挫いてちょうだい』

 

 

◆◇◆◇

 

「やあああああぁぁぁッ!!」

 

 結果として有栖院の計略は見事に嵌まった。暁陣営は全員が彼の《影縫い(シャドウバインド)》によって縫い止めた。彼らは完全に無防備となり破軍学園の陣営が振るう刃の前に一人残らず倒れ伏す。

 敵は避けようもなく、味方は外しようもない攻撃。完全な勝利である。皆が一様に安堵の息を漏らし、肩の力を抜く。

 

 ただ一人。一輝だけが自分が斬り倒した兄・王馬を見下ろし、顔を(こわ)ばらせていた。

 

 あの兄が、《風の剣帝》と呼ばれる黒鉄王馬が無様に自分の足元に横たわるなど絶対にあり得ない。どういうことだと考えを巡らせる。

 その瞬間、ある記憶が脳裏に甦る。それは数日前、山形の商店街を仲間達と歩いてた時の記憶だった。

 

 

『わーっ!待って待って!そんなことしちゃダメだってば!』

 

 

 一輝の中に天啓が下る。臓腑から喉元まで戦慄が這い上がり──

 

「気をつけてアリスッ!これは罠だッ!!」

 

「えっ、────ッ!?」

 

 一輝の言葉に有栖院が行動を起こすよりも早く、彼の身体を背後より飛来した無数の剣が貫いた。

 

「は……?」

 

 十本もの銀剣に貫かれ地に倒れ伏す有栖院。突然の事態に誰もが息を呑む。

 

「惜しいなぁ。もう少し早く気づけたらギリギリ間に合ったかもしれないのに。だけどあれだけの接触で僕の能力に気づけるなんてすごいや。さすがイッキ君だね!」

 

 底抜けに明るい声が有栖院の背後から聞こえる。無数の銀剣を両手に携えて無邪気に笑う、少年がそこにいた。

 

 

 




 夕闇に染まった空。建物の屋根、或いは屋上を伝って一般人では目に負えない速度で走る歩太がいた。

「バレるかどうか半々だったけど上手くいって良か良か。まあ、向こうも本気で相手する気は無かったみたいだから何とかなったけど。あの鎧、確かリジェネ効果あるって聞いてたからなぁ」

 歩太は常時アスカリッドの身体を回復させるあの鎧を破る自信が無かった。鎧ごと消し飛ばすつもりで攻撃すれば、あるいは可能だったかもしれない。
 しかし、刃を交えて相手が本気で自身を拘束する気もないことが分かり、なるべく穏便にすませる方向で事を成した。

 「ステラと一輝、それに東堂先輩が居るなら大丈夫だと思いたいけど俺の足止め役が豪華だったのが怖い」

 どう考えても只事ではない。歩太はさらに速度を上げる。



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前夜祭その3(第24話)

 

 山形県にある巨門学園との合同合宿中、場所を借りている破軍学園の代表選手一同は自由時間に気分転換に街まで降りて観光や散策したりとするものがいた。

 歩太、ステラ、一輝、珠雫の四人もせっかくの県外なので自由時間に街に繰り出すことした。有栖院も誘おうとしたが連絡しても繋がらなかったので歩太達は帰りに何かお土産でも買うことにした。

 商店街を練り歩いている最中。突然、一輝の歩みが止まる。

 

「どうした、一輝?」

「ごめん、ちょっと待ってて」

 

 一輝は不審者らしき男を見つけ後を追った。男は何もない十字路で立ち止まり、中学生ほどの少年がぶつかった瞬間、

 

「キヒ──」

 

 ポケットより取り出そうとしているのはサバイバルナイフ。予想される惨劇を回避するために一輝は動く。彼の速度なら充分に間に合うタイミング。

 刀身を全て抜き去る前に片はつく。だが次の瞬間、予想外の事態が発生した。

 

「わーっ!待って待って!そんなことしちゃダメだってば!」

 

 少女と思わしき切羽詰まった甲高い声が響き、あろう事か一輝が男の元へたどり着くよりも早く、その声の主が男の腕に抱きついた。

 

「えっ……」

 

 一輝は虚を突かれ、仕方なく減速して立ち止まった。男の方も突然の割り込みに驚愕の表情を浮かべる。

 

「ダメだよオジサン!いくら会社にリストラされて借金まみれになったからって、誰かを道連れに自殺しようなんて考えちゃ!」

「ッッ……!?」

 

 大声で叫んでいたので周囲の人間はナイフに気付き、騒然となる。そんな中、男の腕にただ一人しがみつきながら残った少女はやや汗を滲ませた顔に笑みを浮かべて優しい声で語りかけるように説得したが、男には通じなかった。

 

「この、グゾガギャァアァアア!!」

「うわぅ!」

 

 少女は振り下ろされたナイフに対して頭を抱えて叫んだ。

 

「だ、だれかたすけてえぇぇ────!!」

 

 一輝は立ち止まり、成り行きを見守ってると少女──ではなく彼に見覚えがあった。巨門学園の男子生徒であり七星剣武祭に出てくるレベルの伐刀者(ブレイザー)だと。ならば無策で飛び込んでくるはずがないと考えたが、

 

「(無策かぁぁあああッ!?)」

 

 その後、男を無力化して彼を助けた。一輝を追い掛けてきた歩太達も合流してきたので事情を説明する。助けた彼は一輝のことを知っており興奮した面持ちで叫んだ。

 

「うわー!うわ─っ!本物だ本物のイッキ君だ!」

 

 彼は一輝に抱きついてきた。

 

「え、えええええ!?」

「ちょっ、あなたお兄様から離れなさいッ!!」

ふぁっ!ふぁひぃふぉほ!?(えっ なにごと )

「ステラ、食べ物を口に咥えたまま食うな。手を使え手を」

 

 少年は構わず一輝を抱き締めるが珠雫に力尽くで引き剥がされ威嚇される。

 

「なんですか貴方。服装から見て男性みたいですがゲイですか?お兄様はノーマルなんです。アリスとキャラが被っるのでどうぞ消えて下さい」

「ああ、ごめんね妹さん。僕は別にゲイって訳じゃないんだ。ただイッキ君に会えたのが嬉しくてつい興奮しちゃって」

 

 そう釈明してから改めて歩太達に向き直ると自らの名を名乗った。

 

「はじめまして。僕は巨門学園一年、紫乃宮 天音(しのみや あまね)。君たちと同じ七星剣武祭代表選手で『無冠の剣王(アナザーワン)』の大ファンなんだよ!」

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

『僕はイッキ君とかと違って七星剣武祭にそんなに興味がないからね。腕力も無くって武術も身につけてないへっぽこなのに、能力がたまたま珍しかったからって理由で代表に選ばれただけだから』

『あの通り魔に気づけたのもその〝珍しい能力〟のおかげなんだね』

『へえ…。さすがイッキ君。そんなことからでも見抜いてくるんだ。噂に違わぬ洞察力だね』

 

 

 

 あの後、とあることで彼の能力はレアスキルである因果干渉系の伐刀者(ブレイザー)であると知った。ならば一番高い可能性……

 

「(未来予知!!)」

 

 ずしゃり…。有栖院の身体が力無く地面に崩れ落ちる。幻想形態で身体を貫かれたことによる、意識のブラックアウト。

 もっと早く己が気づけていればと一輝の表情には悔しさが滲む。

 

「アリス!」

 

 この事態に対し、一番早く行動したのは珠雫だった。叫び、彼の元へ駆けつける。しかしその行動は──

 

「珠雫、迂闊だ!前を見ろッ!」

「っっ!?」

 

 一輝の忠告。それは今度こそギリギリ間に合った。珠雫の眼前。何も無いはずの空間に存在する僅かな歪み。風景の捻れ。

 

「(これはっ!?)────《障波水蓮(しょうはすいれん)》ッッ!!」

 

 それを認識し珠雫はすぐに自身に水を纏わせ防御を取る。彼女の小柄な身体は水の守りごと真横に吹き飛ぶ。まるで見えない何かに殴り飛ばされたように。

 

「えっ………?」

 

 それは驚くべき光景。まるで透明の煙の中から歩み出るようにして、今倒したはずの暁学園の生徒達が無傷の姿で眼前に現れたのだ。

 自分達の足元に倒れている暁の生徒を改めて確認すると、足元に倒れていたのは塗装を施された木製の人形だった。

 

「《騙し絵(トリックアート)》。アタシの芸術は本物より本物らしいってこと」

 

 ボソリと呟いたのは暁学園の一人。大きな乳房を絵の具避けのエプロンだけで隠したトップレスの少女。

 有栖院と同じく解放軍(リベリオン)に身を置く、《血塗れのダ・ヴィンチ》サラ・ブラッドリリーだ。

 

「つまり、今まで皆さんが我々だと思っていた者達は彼女の『芸術』を操る伐刀絶技(ノウブルアーツ)により生み出された模造品にボクが《地獄蜘蛛の糸(ブラックウィドウ)》で動きを加えただけの木偶だったのですよ。

 そして本物の我々はこのように王馬君の風の力で光を屈折させて姿を隠し、皆さんの企てが空転するのを待っていたというわけです」

「初めからアリスの動きはお見通しだったってこと!?」

「ええまあ。何せこちらには優秀な予言者がいるのでね。もちろん裏切り者には知られていなかったことですが」

 

 平賀はカラカラと愉快そうにネタをばらす。

 

「しかし、結局は天音さんの予言通りになってしまいましたか。情けをかけ最後のチャンスをお与えになったヴァレンシュタイン先生もさぞ悲しまれることでしょう」

 

 そう言いながら彼は倒れた有栖院の身体を担ぎ上げた。

 

「それでは後はお任せしますよ皆さん。スポンサーのオーダーは〝可能な限り圧倒的な、議論の余地がないほどの壊滅〟です。一人も残さず徹底的に叩き潰してください。ボクには先生の元までこの裏切り者を連れて行く仕事がありますので」

 

 (ひょう)のような素早さで後ろに飛ぶと有栖院を連れて、そのまま戦域からの離脱を計る。

 一輝は易々と許しはしない。すぐに追い縋るために地を蹴る。

 

「待てッ!」

 

 速度は充分。すぐに追いつけるはずだった。しかし、一輝の進路上に黒鉄王馬が割り込まなければ。

 

「王馬兄さん!」

「散れ」

 

 王馬は何の躊躇いもなく、刃渡り1mを超える野太刀の霊装《龍爪(リュウヅメ)》を振るう。風を斬り、銀弧を描いて一輝の胴へ一閃。

 一輝はその無慈悲な一撃に渾身の守勢に回らなければ《陰鉄》ごと両断されると確信する。

 

「くっ!」

 

 足を止めて追跡を断念しようとしたその時。

 

「はあああっ!!」

 

 横一線。振り抜かれた王馬の霊装が、炎纏う黄金の剣によってその軌跡を阻まれた。

 

「ステラッ!」

「イッキ!シズクがアリスを追い掛けて行ったわ!」

「っ!?」

 

 ステラは王馬と鍔迫り合いをしながら、一輝に告げる。彼はすぐに王馬に吹き飛ばされた珠雫のいた場所に目を向けるがそこにはもう誰もいない。

 珠雫を探すと、遠くの視界に逃げた平賀を全速力で追い掛ける珠雫の背中があった。

 

「コイツらシズクを素通りにした!多分行った先に罠があるのよ!一人で行かせたら不味いわ!急いでシズクを追いかけてッ!」

 

 一輝は僅かに逡巡(しゅんじゅん)するがステラに刀華を初めとした生徒会役員達もいる。ならば、孤立している側に駆けつけるべきだと判断する。

 

「わかった。ここは任せたよ!」

「ええ。こんな奴ら全員ここで叩き潰してやるわよ!」

 

 そんな一輝の背中を見送り、ステラは改めて彼によく似た敵を見据えた。

 

「ずっと視線を感じていたわ。アタシと戦うのがお望みなんでしょう?」

 

 あの芸術が本物より本物であるというのなら、ステラだけを真っ直ぐに見据えていたあの視線もまた本物の王馬の感情を模倣したものだろう。

 で、あるならば…それを拒む理由は『紅蓮の皇女(ぐれん  こうじょ)』には存在しない。

 

 

「受けて立つわよっ!〝風の剣帝〟ッ!!」

 

 

 




 前夜祭はまだ終わらない……


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前夜祭その4(第25話)

・黒鉄 王馬(くろがね おうま)
伐刀者ランク:A
伐刀絶技:月輪割り断つ天竜の大爪(クサナギ)
二つ名:風の剣帝

ステータス
攻撃力A 防御力A 魔力量A 魔力制御C 身体能力A 運C


 相対するは自分と同じAランク騎士。力量がどの程度か不明だが、只者でないのは理解できる。故にステラは膂力(りょりょく)に任せて王馬の身体を突き飛ばし、初手から己の必殺の伐刀絶技(ノウブルアーツ)を選択した。

 

蒼天(そうてん)穿(うが)て、煉獄(れんごく)(ほのお)……

 

 ────《天壌焼き焦がす竜王の焰(カルサルティオ・サラマンドラ)》ッッ!!」

 

 両手に持つ《妃竜の罪剣(レーヴァテイン)》に全霊を注ぎ込み、猛る炎熱を纏った光の剣を王馬に振るう。これで決まるならば良し。そうでないのなら、この一撃にどう対応するかで相手の力量を見極めようとした。

 

「フン…」

 

 対して王馬は周囲の気温を跳ね上げる程のステラの本気に犬歯を覗かせた野蛮な笑みを浮かべ、自らの最強の伐刀絶技で応じた。

 

「こんなつまらぬところで終わってくれるなよ?」

 

 奇しくも構えはステラと同じ。大振りの刀剣を両手に持ち、刃を立て、同じく全霊の魔力を注ぎ込む。

 《風の剣帝》黒鉄王馬の能力は自然干渉系──『風』を操る。

 その力により生まれた暴風は《龍爪》を中心に竜巻と化し、周囲の大気を喰らう。

 圧縮に圧縮を重ね、もはや質量すら有した荒れ狂う暴風の剣を解き放つ。

 

「《月輪割り断つ天竜の大爪(クサナギ)》」

 

 双方の刀身は50mを超える、規格外の範囲攻撃。ほぼ同時に振り下ろされ衝突した。

 瞬間。互いを削り合うように火花を散らし、灼熱の嵐となり周囲に破壊をもたらしながらせめぎ合う。

 二人以外、その場にいた全員が、魔力で身を守り身体を丸めて辛うじて踏ん張ることがやっとだった。少しでも気を抜けば、遥か彼方まで吹き飛ばされてしまうため必死に自分の身を守る。

 並みの騎士は目を開け目撃することすら叶わない次元の戦いがそこにあった。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 学園に続く何もない坂道を氷でサーフボード状の板を作り、滑り下りる珠雫は有栖院を見失わず追いかけていた。

 有栖院が連れ去られる瞬間、珠雫は彼の身体に目に見えないほどに薄い魔力の糸を巻き付けた。その糸はあらゆる物質を突き抜け、真っ直ぐ有栖院に伸びている。

 途中で信号待ちをしていたバイク乗りが目に入り、これから向かう先に何が待ち受けているのか未知数なので少しでも魔力を残しておくために借りることにした。

 《宵時雨(よいしぐれ)》を喉元に突きつけてお願いすると相手は快く承諾。しかし、いざ跨がると足が届かなかった。

 そこに一輝が現れ珠雫の変わりにバイクに跨がり彼女を背中に乗せて、バイクを走らせ一直線に有栖院が連れ去られた先の暁学園に向かう。

 

 

 

 珠雫に従いバイクを走らせ、山道を抜けた更に奥に暁学園はあった。そのままバイクで乗り込んだ瞬間だった。

 

「ッッッ!?!?」

 

 突然の圧迫感。臓腑を全て押し潰されるような重圧に、一輝はタイヤを滑らせながらバイクを急停車させた。

 

「お、お兄様!?どうしたんですか!?」

 

 武人として未熟な珠雫には分からなかった。しかし、一輝には理解出来てしまった。

 

「………」

 

 故に、彼女に言葉を返す余裕がなかった。ただ一輝は総身を凍てつかせるような恐怖を押し殺し、呼吸を落ち着かせながら右手に《陰鉄(いんてつ)》を顕現させ天を仰いだ。

 暁学園本校舎屋上に白い輝きがある。夜闇に薄ぼんやりと輝く純白。

 まるで戦乙女(ワルキューレ)のような姿の女性が両手に対の剣を下げている。

 

「敵っ!?」

 

 珠雫もその存在に気づき、《宵時雨》を構えるが、彼女には興味を示さず。

 白く輝く人影はその美しい双眸は真っ直ぐに一輝だけを見つめていた。

 

「………」

 

 一輝は決意した。

 

「珠雫。アリスはこの学園の中だね?」

「え、ぁ、はい。その通りです」

「だったら先に一人で向かっていてくれ。ここは僕一人でいい」

「いえ、コレは向こうから仕掛けてきた戦争です。一対一に拘る必要は──」

「頼む、珠雫。いってくれ」

 

 幾つか言葉を交わし理解した。ここに居られると一輝は珠雫を守りきれないと。あの純白の女は、それほどの敵なのだと。

 

「……わかりました。お兄様。ここはお願いします(・・・・・・・・・)

 

 兄にその場を託し、一人で暁学園本校舎の中に入る。

 

「珠雫を素通ししてくれるんですね」

「ええ。中にはヴァレンシュタイン卿もいらっしゃいますので。それにここで二人まとめて倒すのも、貴方を倒してから追いかけるのも、時間としてはあまり変わりませんから」

「でしょうね。貴女にとっては」

 

 一輝は呻くような声で、言葉を(こぼ)した。

 仮にも学園を名乗るからには教師役がいると予想していた。恐らくAランクは間違いないだろうと覚悟していた。それでも一輝の予想を遥かに超えた人物だった。

 

「剣の道を志す者ならば、貴女の二つ名を知らない者はいません。神聖さすら感じさせる純白の装いに、翼を思わせる一対の剣。強すぎるあまり『捕らえる』ことを放棄された『世界最悪の犯罪者』……」

 

 彼は知っている。

 

「そして同時に、全ての剣の道の果て。その頂点に立つ『世界最強の剣士』……」

 

 彼女がいったい何者か。

 

「《比翼(ひよく)》のエーデルワイス。貴女のことで、間違いありませんよね」

「確かに。《比翼》は私の通り名で間違いありません。しかし、わかりませんね。私の正体を知って尚、何故剣を抜くのですか。剣を交えねば相手と自分の力量差も分からない程度の剣士ではないでしょう。そうでなければ、それほど怯えるはずもない」

「……見透かされないように強がってるつもりだったんですけどね」

 

 確かに怖い。しかし恐怖心に勝る理由がある。ここに留まるわけがある。

 

「世界最強の剣士ともあろうお方が、剣を抜いた敵に戦意を問うのですか」

 

 一輝は精一杯の空元気で表情に笑みを浮かべ、鴉の濡れ羽色の切っ先を純白の剣士に突きつける。

 純白の騎士は静かに頷く。

 

「確かに。この問答は不要でしたね」

 

 高く聳える校舎から音もなく純白の騎士が地に降り立つ。

 

「我、(はる)かなる(いただき)にして終焉(しゅうえん)

  一対の剣にて天地を分かつ者。

   我が名は《比翼》のエーデルワイス。

    幼き少年よ。世界の広さを知りなさい」

 

 世界最強の剣士、エーデルワイス。彼女と対峙した一輝は、青いオーラの猛りを身に纏う。

 

「おおおおぉぉっ!」

 

 伐刀絶技(ノウブルアーツ)一刀修羅(いっとうしゅら)》を発動させた。そうしなければ、そもそも戦いにすらならない。

 一分間。それが自分がこの世界最強を相手に戦いうる限界時間だと判断した。そしてそれは正しかった。

 風を巻いて攻め込んでくるエーデルワイスの斬撃。彼女の両の剣を振るった瞬間、自らの双眸がその斬撃を見失ったからだ。

 

「ッ──!?」

 

 慌てて自らの身体を後ろへと飛ばす。その刹那、一輝の鼻先の大気が裂けた。途轍もなく鋭い斬撃だと理解するがあまりにも早く、鋭すぎるが故に肉眼で捕らえることが出来ない。

 辛うじて捉え得たのは、規格外の速度で刀身が擦過(さっか)したことにより白熱する大気の輝き。

 一瞬でも気を抜けばそこで首を飛ばされると理解。一輝はこの戦いにおける呼吸を放棄した。文字通り、息を吸う暇なんてないからだ。

 エーデルワイスの二刀から繰り出される閃光が如き斬撃の対処に全神経を動員。第七秘剣《雷光》の速さを以て迫る斬撃を迎え撃つ。それだけでなく彼女の視線の動きから斬撃の軌道を逆算し、何とか防ぎきる。

 次々と手を考える一輝だが、その全てが通じない。問題なく対処された上で此方を刃が襲う。

 額を斬られ血が両目に入るも相手の呼吸、太刀筋、テンポ、足捌きから視界がなくとも敵の二手三手を読める洞察力で対応。視界不良など問題ない。

 

「やりますね」

 

 さしもの世界最強も『心眼』の域に達しつつある一輝の感性に感嘆の声を漏らす。だが、斬撃の手を緩めはしない。

 相手の隙を無理やり作り活路を見つけようとするが、その尽くを正面から向かい撃たれる。

 一輝は全身至る所の皮膚が筋肉が裂け、血飛沫が舞う。彼女には触れることすら出来ない。

 自らの尺度では測りきれないほどの強さを前に一輝は愕然とする。

 

あっ

 

 不可視の純白の刃が《陰鉄》の刀身ごと一輝を斬り裂いた。身に受けた傷は深くはない。だが魂の結晶である霊装を破壊されたことにより意識と身体が崩れ落ちる。

 一輝の身体が地面に崩れ落ちようとしたその刹那。

 

「ぅ、ぁ……ぁ、ぁ、ぁぁああああっ!!」

「ッ!?」

 

 あろうことか一輝はあらん限りの力を絞り出し、砕かれ宙に舞う《陰鉄》の刀身を掴みエーデルワイスに再度斬りかかった。その刃は軽々と防がれる。

 

「……まだ続けるのですか?」

 

 彼女は一輝と珠雫を無力化する気でも殺す気はない。だが奥にいるヴァレンシュタインは子供だろうが容赦しない。一輝が粘ればその分、珠雫の危険が高まる。一輝もそれは分かっている。

 

「貴女を通せば……、珠雫は助けて貰えるかもしれません。でも……、それを珠雫が望まない、アリスは助からない!」

「あの少年は闇の世界の咎人です。その末路も致し方ないこと」

「かもしれません。でも珠雫はそれを望まない。望まないから、ここに来た!そして僕は珠雫の望みに付き合うと約束した!」

 

 だから、

 

「ここは死んでも譲れない!」

 

 己を兄と慕い支えてくれた。勿体無いくらいに出来の良い妹の、たった一つの望みを叶えるために。

 

「命を賭けるには、十分過ぎる理由だ……!」

 

 それに命を賭けられなくて、何が兄か!

 

「僕の最弱(さいきょう)を以て、貴女の最強(さいきょう)を食い止める──!」

 

 命ある限りここは通さない。強い意志と決意を持って一輝はエーデルワイスの前に立ち塞がった。

 

 

 




多分、次で前夜祭終わります。


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前夜祭その5(第26話)

ステラ・ヴァーミリオンVS黒鉄王馬


 黒煙を上げる破軍学園。

 その敷地内で繰り広げられる『破軍学園』対『暁学園』の戦い。ステラの《天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサルティオ・サラマンドラ)》と王馬の《月輪割り断つ天龍の大爪(クサナギ)》に声無き悲鳴を上げながら学園内の建物は砕け、或いは熱で溶かせれて悲惨さを増した。

 必殺技のぶつけ合いは互角。ならば地力による決着を。ステラは踏み込みと同時に魔力放出による加速。王馬はそれに悠然と構え待ち受ける。

 Aランク騎士同士の戦いは通常攻撃ですら並の伐刀者(ブレイザー)を簡単に沈めてしまう。二人の戦いが熾烈を極めるほど周囲の被害は甚大なものとなる。二人の周りには誰も居らず、気づけば建物は瓦礫と化していた。

 ステラには、目の前の敵を倒すために他の者達の様子など気にしてる余裕は無かった。

 歩太と一輝は彼女の刃に応対する時、無理に受け止めずに受け流す。もしくは避ける。だが、王馬は正面から堂々と《龍爪(リュウヅメ)》で受け止められる。そして普通の太刀より一回り大きいその野太刀から繰り出される斬撃はステラをもっても安易に受け止めようとするなら剣ごと叩き斬られるほどの力を秘めていた。

 

「フン…こんなものか」

「…なんですって?」

「こんなものかと言っている。出雲歩太と刃を交えておいてこの程度(・・・・)しか己の力を引き出せないとは……。貴様には失望したぞ《紅蓮の皇女》」

 

 表情を動かすこと無く冷徹な声でステラを避難した。その瞳はお前は出雲歩太に並び立つ資格はないと物語っているように見えた。

 

「そんなこと知らないわよ。でも、そうね……。ええ、良いわよ。トコトンやってやろうじゃない」

 

 ステラはその身から炎の鱗粉を撒き散らして怒りを露にする。

 

「我が身に宿(やど)せ──《炎竜の化身(ドラゴンフォース)》ッ!」

 

 ステラの身体全体が赤い光に包まれる。ステラはその状態を維持したまま王馬に近づき剣を振るう。その速度、膂力は先程よりもかなり強化されていた。

 

「多少はやる。だが、────まだ足りん」

 

 しかし、王馬の態度は変わらず。否、口元が僅かにだが横に伸びている。

 

「アタシをっ……舐めるなぁあああああ!!」

 

 最高ランクの騎士同士の戦いは第二局面を迎えた。餓狼の如く、どちらかを喰い殺すかのように激しさを増す。

 斬り合いだというのに、一振り一振りの衝撃が瓦礫を吹き飛ばし、大地を抉る。

 ステラはこれまで一度も王馬に攻撃を当てられないことを悔しく、腹正しく思っている。しかし、切り札を使ってすらまだ彼の身に自分の刃は届かない。どうすればいいか考え、出した結論は……

 

「がぁッ!?くっ────どりゃぁああぁぁっ!!」

 

 《妃竜の息吹(エンブレスドレス)》で最低限の守りはあるからと回避を止めて、攻撃に全振りすることにした。

 例え相手の攻撃を受けようとも最後に自分が立っていれば勝ちだ。そのためには攻撃を当てなくては話が始まらない。

 ステラは相手の刃をその身で受けつつ全力で振った一刀は初めて王馬に回避を取らせた。しかも、完全に避けきれたわけではなく……

 

「……浅くだが、斬られたか」

 

 代償は高くついたがそれでも初めて一太刀浴びせることができた。ここからは我慢比べだ。先に根を上げた方が負ける。ステラはそう息巻く。

 

「────まだ甘い」

 

 王馬は《龍爪》を下ろし、構えを解いた。ステラは己の魂の結晶である《妃竜の罪剣》を気にせず全霊をもって振るう。何度も。何度も。何度も。

 衣服が斬られるだけで傷つかず堪える様子がない。王馬は空いてる手でステラの大剣を平然と掴む。

 

「っ!?」

「多少はマシになるかと付き合ったが期待した程ではないな」

「このおおおっ!離せぇぇえええッ!!」

「出直せ、愚か者」

 

 終幕を迎えるべく振り上げた野太刀の銀閃の軌跡は吸い寄せられるようにステラに向かう。

 

「終わりだ」

 

「いや、間に合った」

 

 火花を迸らせながら王馬の斬撃を《雲龍》で受け止める歩太がいた。左の掌に水を生み出し彼に向けると、レーザーのように何物をも貫く勢いで放たれた。流石の王馬もこれには避けざる負えず、ステラの霊装を掴んだ手を離して距離を取る。

 

「アユタ……?」

「おう、歩太さんです」

「…そう。助けてくれてありがとっ。でもアタシのことは良いから他の皆の所に行って」

「断る」

「何でよっ!」

「今のステラじゃ王馬くんに勝てないから。さっきので分かってるだろ」

「っ!」

「ようやく現れたか、待ちくたびれたぞ。あの時の雪辱、今度こそ晴らさせてもらうッ」

「確か小学生の大会(リトルリーグ)以降、最後に会ったのは中学三年の冬だったっけ?」

「ああ、あの冬のことだ。貴様に勝つために己をさらに鍛え上げ、貴様に傲慢にも授けられた技も修得した」

「だろうね。じゃなきゃステラの剣を手で掴むなんて真似、出来る筈がない。てか、傲慢にもって酷くない?」

 

 ステラを余所に二人の会話は続いていく。その中でステラは気になることが一つあった。

 

「ねえ、アユタ。教えた技ってなんなの?」

 

 歩太が答えようとするがそれより早く王馬が口を開く。

 

「《心刀合錬(しんとうごうれん)》……霊装と身体を一つに通わせることによって己の身体すらも霊装と化す技だ。恩恵は主に2点。本来の身体能力に霊装の頑丈さが加わる。魔力制御が一段階、上のものとなる。……これらの意味を分からんとは言わせぬぞ」

「えっ。そんな技術、今まで聞いたことがないわよ!?」

「俺も奴から初めて聞いた。出雲歩太は伐刀者(ブレイザー)として誰よりも先に進んでいる。片腹なことにな」

 

 ステラはなんだか裏切られたような気持ちになり歩太に尋ねた。

 

「……ねえ、アユタ。何で教えてくれなかったの?」

 

 歩太は言葉を選ぶように静かに応えた。

 

「いつか教えようと思ってたよ。ただ地力で気づく可能性もあったし、そもそもステラにはまだ早かったから」

「そう……。つまり教える気はあったのよね」

「それは勿論」

「そっかぁ…。今まで何で歩太に勝てないのか分かったわ。武芸者としてだけじゃなく、伐刀者としても技術が上だったからなのね」

 

 いつも歩太に勝てない理由の一端が見えたことで安堵とともに笑顔を見せた。

 

「いや、フェアじゃないから今まで正式な試合とかで使ってないぞ?」

「えっ」

「王馬くんとは野良試合だったことと〝愚弟と同じく詐欺紛いの技ばかり使うペテン師めっ!〟って言われたからイラっとして、つい」

「いやもう、そこは〝そうだ〟と頷いておきなさいよ!」

「それが無かったら勝てないって思われるじゃん?普通に嫌だ」

「アユタも大概負けず嫌いねッ!?」

 

 ステラはもう王馬に負けた陰鬱な気持ちは吹き飛び、元通りになる。

 

「というわけでバトンタッチだ」

「ええ……。悔しいけど今のアタシじゃアイツに勝てないからここは任せるわ」

「他のメンバーの応援に行ってもらっていいか」

「わかったわ。負けたら承知しないんだからねッ!」

 

 そう言ってステラはこの場から離れていった。

 

「待たせたかな、王馬くん」

「かまわん。それとその舐め腐った呼び方は辞めろ。虫酸が走る」

「王馬くんが見解を改めたら辞めるよ、この脳筋」

「……」

「……」

 

 互いに霊装を構えて魔力を練り上げる。

 

「死ねっ」

「やってみ」

 

 二人は同時に斬り込んだ。

 

 

 

 




史上最強の弟子ケンイチより、心刃合錬斬(しんとごうれんざん)をちょっろとだけ変えて出しました。



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そして夜は明ける(第27話)

 王馬は《龍爪(リュウヅメ)》を上段で構えたまま歩太に斬り込む。その刃には竜巻が渦巻いて今にも暴れ出すかようだ。

 奇しくもそれはステラが初手で己の必殺たる絶技を解き放ったように。王馬もまた、自身の必殺である絶技を至近距離でお見舞いする。

 

「《月輪割り断つ天龍の大爪(クサナギ)》ッ!」

 

 その威力、ステラとの時とは比べ物にならない力を秘めていた。しかし相手は王馬が伐刀者(ブレイザー)として誰よりも先に進んでると言わしめた出雲歩太。

 王馬は小学生(リトル)の時期に歩太に負けてから己を鍛えるために武者修行として、強者との命を懸けた果たし合いをするために世界を回った。その時に解放軍(リベリオン)の首領《暴君》と出会い、殺される寸前に《比翼》のエーデルワイスによって助けられる。世界最強の一角である二人に出会ってるのにも関わらず、強さは兎も角、伐刀者として侮ることが出来ないのが歩太だと実感している王馬。

 

「《断空牙(だんくうが)》」

 

 荒れ狂う竜巻は、研ぎ澄まされた風の一太刀によって王馬ごと斬り裂かれた。深くもないが浅くもない傷が彼に刻まれる。手を当て自身が血を流しているの確めると傷の痛みか、身体をふらつかせてやや後退する。

 

「……うことだ?」

 

 ……水使いでは無かったのか?しかし今の攻撃は間違いなく王馬にとって間違えようのない、自身と同じ『風』の力。

 王馬は傷の痛みではなく、予想外の出来事に動揺して思わず後ろに下がったのだ。そんな王馬に歩太は答える。

 

「俺の能力は自然干渉系なのは間違いないけど、一度も自分を『水』使いなんて言ったことはない」

「な、ならばなんだというのだ!?」

「今時は珍しい複合能力……自然干渉系『嵐』。水と風、そして雷を司る能力だ」

 

 歩太の《雲龍》から雷が迸る。まるで歩太の感情に呼応するかのように音を鳴らせながら青白い光が強くなっていく。

 

「言っても否定されるだろうけど、今まで別に手加減してた訳じゃない。ただ、水の精密操作が一番の訓練になるからと使い続けてたらそれだけで勝ち続けて……今や七星剣王さ」

「何故、今使った?」

「来年の七星剣武祭には出る気が無いから。だから折角なんで今年は本当の能力を見せようかと」

 

 刀身から漏れ出る蒼雷はスパークして今にも爆発しそうだ。

 

「あと、今回のことは流石にちょっと許せなくて憂さ晴らしも兼ねてる。だから喰らっとけ」

 

 奥多摩に現れた岩の巨人を消し飛ばして以来、人前では決して使わなかった。

 《断空牙》と同じ。出雲歩太が持つ、本当の伐刀絶技(ノウブルアーツ)の一つ。

 

「《牙龍(がりゅう)──」

「ちょっと待ちな、歩太」

「姉弟子…?」

 

 雷龍の牙を王馬が受ける直前に、破軍学園臨時教師で歩太と同門の西京寧音(さいきょうねね)に呼び止められる。

 

「ウチもクソガキどもにお灸を吸えたい所なんだけどね。ややこしい事情があるみてーなんだ。だから、ここはウチの顔に免じて引いちゃくれーねーか」

「これでもけっこうキレてんだけど?」

「事情さえ消えりゃあ、その後でボコってもイイから、な?」 

「……わかった」

「おう、ありがとよ。王馬ちゃんもそれで良いな?」

「………ああ」

 

 歩太と寧音は王馬に背を向けて去っていく。そして、その場に立ち尽くし何かを考える王馬の表情には怒りが満ちていた。

 

「……

 

 怒りの理由は歩太に対してなのか。自分に対してなのか。ただ彼の手は、拳を握り血を流していた。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 暁学園による破軍学園襲撃事件は、全国に大ニュースとして報道された。この未曾有の蛮行を行った彼らのテロリスト行為に対して厳罰に処され、当然七星剣武祭にも出られないものだと誰もが確信していた。

 だが、暁学園の『理事長』を名乗る人物。月影獏牙(つきかげばくが)がメディアに出てきたのだ。

 彼は現職の内閣総理大臣、この日本の最高責任者だ。彼は清々しい笑顔でこんなことを言った。

 

「素晴らしいだろう。ビックリしただろう。連盟所属の学園など相手にならない。これが連盟の犬である七星に代わり、日本の未来を担う『国立・暁学園』の強さだ!」

 

 様々な思惑が交差して、暁学園は七星剣武祭の『第八校目』の勢力として正式にエントリーされることとなったのだ。

 

 

◆◇◆◇

 

「すまん」

 

 破軍学園襲撃事件のその後の顛末を語り、理事長の新宮寺黒乃は自らの無力を一輝と珠雫の二人に詫びた。

 

 あの夜、一輝は《比翼》のエーデルワイスと。珠雫は暁学園の教師役をしていた解放軍(リベリオン)の《隻腕の剣聖》ヴァレンシュタインと戦った。

 一輝は全霊をもって己の全てをぶつけるも敵わず、奇跡的に彼女の頬に一太刀を薄く浴びせることしか出来ず意識を失う。

 珠雫は『摩擦』を自由に扱う能力を持つ相手に苦戦を強いられた。片腕を斬り落とされ、最後には身体を横に斬られて真っ二つになるも、自身の身体を気体化させて状態を元に戻すという荒業を披露。空間内を自身の水で支配し相手の肺に直接水を生成し爆発させて勝利を収めた。

 

「そんな、理事長が謝るようなことじゃありませんよ」

「ええ。ですが驚きですね。まさか裏にいたのがこの国そのものだったなんて」

「火種はあったんだ。それこそ第二次世界大戦後からずっとな。今回のような事件がいずれ起こるのは必然だったのかもしれんな」

 

 珠雫の呟きに黒乃が今回の背景について説明した。

 

「ようするに月影総理の目論見は七星剣武祭という連盟が自らの成果を示すべき場で、彼らの成果を正面から否定して連盟から伐刀者教育の権限を取り上げようということですか」

「それはまだマシな方の予想だな。最悪、連盟との関係そのものを完全に断ち切ることが目的かもしれない」

 

 相当イライラしているのか、理事長室の執務机の灰皿には大量の煙草の残骸が突き刺さっていた。

 

「ともかく暁学園の七星剣武祭出場はもう正式に決定されたものとなってしまった。彼らはほぼ全員、裏社会の精鋭だ。今年の七星剣武祭は例年のものとはまったくの別物だと言っても過言ではないだろう。そこで私達教師としては、改めて代表生の生徒達に参加不参加の意志を聞くべきだと思ってな。こうして足を運んで貰ったというわけだ」

 

 一輝達はそこで自分達が理事長室に呼び出された理由を理解する。

 

「すでに貴徳原は出場を辞退している。そして東堂はまだ意識が戻らなく、このままだと出場は難しいだろう。お前達はどうする?」

「僕は七星剣武祭に参加します」

「いいのか?」

「はい。そもそも僕にはそこまで今年の七星剣武祭が例年と別物とは思えません。表の世界の騎士達だけで行ってきた祭典に裏の世界の実力者が乗り込んできた。それだけのこと。

 むしろ日本で一番強い学生騎士を決めるのが七星剣武祭の趣旨なのですから、今年の七星剣武祭こそ本当の七星剣武祭の姿とすら言えるかもしれません」

 

 一輝は瞳に確かな覚悟を宿し言う。

 

「望む所です。月影総理達が何を考えていようが、僕達学生騎士には知ったことじゃない。いつも通り正々堂々戦い、歩太とステラとの約束の場所を目指すだけです」

「もちろん、私も参加します」

「お前達の意志はわかった。出場の方向で調整させてもらう」

「「ありがとうございます」」

 

 兄妹で礼を述べてから、気になったことを尋ねた。

 

「それで、理事長。歩太とステラは出場するんでしょうか?」

「今朝尋ねたら二人とも二つ返事だった。特にヴァーミリオンなんか『ここまでコケにされてオメオメ引き下がれるもんですか』と息巻いていたぞ」

 

 七星剣武祭を前に波瀾の出だしで始まった。だが、一輝、珠雫。そしてここには居ないが歩太とステラもまた参加を決意して今回の大会に挑むのだった。

 

 

 




これにて前夜祭は終了です。次回は一話挟んでから七星剣武祭が始まる予定です。


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