日乃本帝國召喚 (背の高い吸血鬼)
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プロローグ 【接触】
1話 転移


【巻き込まれたので、ハジメさんの立場(原作の)を簒奪する事にしました。】を中途半端に投稿しておきながら、新たな作品を投稿するのは気が引けますが、書きたくなったので書いた。反省はしてますが後悔はしてないッ!!

メインが【巻き込まれ】なので、投稿ペースは遅いです。


「・・・この世界に来て、もう2ヵ月ね・・・」

 

帝都の街並みは、国家樹立以降最大の国難である【時空間転移災害】により元居た世界(ゲーム世界だが)から突如としてこの別世界。通称【異世界】に国土や海外領土共に転移したが、外出自粛の影響で通行人は少なくなったが依然として世界最大の大都市として存在していた。

 

転移直後は発電システムが緊急停止し、非常用発電器や電力貯蔵システムの限定的な動作を除いてブラックアウトなんて自体が発生したが、直ぐに復旧して数時間後には一部を除いた主要都市は息を吹き返した。

 

窓から視線を外し、この世界の世界地図である【異界図】がメルカトル図法により描かれた掛け軸をみる。

 

その地図には自国である【日乃本帝國】を中心に、左方向約1000km地点にはオーストラリア大陸の半分程度の陸地で大陸と言うには小さすぎ島と言うには大きすぎると言う判断が付かない陸地が存在し、その大陸名は【ロデニウス大陸】。そこに存在するは、

 

・肥沃な土地を有し、広大な穀倉地帯を持つ農業立国で、家畜でも美味い飯が食える【クワ・トイネ公国】

・砂漠地帯が広がり、作物の育たない貧しい国、だが地下資源の宝庫【クイラ王国】

・人間のみの国にあって、エフル、ドワーフ、獣人などを迫害し続け、ロデニウス統一を目論む人間至上主義国【ロウリア王国】

 

の三国家が存在した。

 

「・・・まさか、【日本国召喚】の世界に転移するなんて・・・」

 

そう。何と、この世界は【日本国召喚】の世界であり、召喚された場所は、本来であれば【日本国】が出現する場所である、若干数百kmのズレは有るが、それは日本本土の約23倍の広さ(アメリカより少し小さい程度)+海外領土を有している為だろう。

 

日本国召喚の世界に召喚された、私【綾瀬晴香】が国主(ゲーム設定)として存在する【日乃本帝國】(ゲーム世界)は、異世界の現実世界にゲーム世界より召喚されたのだ。

 

その日、晴香はpcと向き合って国家運営シミュレーションゲームをプレイしていた。かれこれ3年は続けてるゲームであり、ゲーム世界であればサーバー内で国家ランキングは2位。経済力も2位。軍事力も2位。何でもかんでも2位な立ち位置であったが、この世界に来た事により漸く1位の座に登る事が出来た。

 

勿論非公式である。

 

中央世界に存在するミリシアル帝国がこの世界では列強第一位だが、わが国の技術力的に見て確実に下だと偵察衛星にて判明している。まだ国交樹立もしていないので、列強ですらないがそれはさておき。

 

「そろそろ、なんだよね・・・」

 

ロウリア王国(国交樹立しておらず、国家認証していないので正確には武装勢力)とクワ・トイネ公国との戦争が。

 

我が國は転移から数日で【クワ・トイネ公国】に使節団を派遣しODA(政府開発援助)の名目の元インフラ等の技術を、彼等からは少量の食料などをと国交樹立。その他にも不可侵条約、安全保障条約も結んだ。

 

お陰でロウリア王国との戦争に巻き込まれる事となるが、この世界で初めて出来た隣人で有り、友人となった彼等を見捨てる様な事が出来るほど阿保では無いので陸海空軍を派遣した。

 

現代技術の塊が、高々中世止まりの軍に敗けるはずがない。史実を知って居るので、弾薬などの物資を必要以上に準備させているが、どうなるか。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

時は【日乃本帝國】が今世界に出現した時より、数日後。

 

この世界の暦にして、中央暦1639年1月24日午前8時――――

 

クワ・トイネ公国軍第六飛龍隊 

 

その日は快晴な空が広がっていた。竜騎士であるマールパティマは、公国北東方向の警戒任務に従事している。

 

それはロウリア王国と緊張状態が続いているためだ。奴らはここ数年、かなりの軍拡を行っており、それを警戒する我々公国は、軍船による迂回、奇襲が行われた場合に早期に探知、対策をとるため、彼は相棒を公国北東の空を飛ぶ。

 

「―――――――!?」

 

彼は何かを見つけた。

 

「あれは・・・?」

 

哨戒である自分以外にいるはずの無い空に、何かが見える。ロウリアからここまで、ワイバーンでは航続距離が絶対的に不足しており、存在するとすれば味方のワイバーンだが、先程も言ったようにこの空域には自分しかいない。

 

第三文明圏には竜母なる、ワイバーン飛行場を船に乗せた巨大な軍船が存在するらしいが、ロウリアはその様な超兵器は有していないので、可能性は無いだろう。

 

麦一粒のように見えた飛行物体は、どんどんこちらに進んで来た。それが近づくにつれ、味方では無いことを確信する。しかし、奇妙だ。

 

「羽ばたいていない?」

 

疑問に思いながらも彼は、すぐに通信用魔法具を用いて司令部に報告する。

 

「我、未確認騎を確認。これより要撃し確認を行う。現在地・・・・」

 

高度差は変わらない。彼は一度すれ違ってから、距離を()()()()()()()()()

 

未確認騎と交差する。

 

ゴオォォオオオ―――!っと、凄まじい音が鳴った。

 

その物体は、彼の認識によれば、とてつもなく大きかった。羽ばたいておらず、翼の形状も何もかもが変であり、後ろから炎を噴いて飛翔している。胴体と翼の先端がピカピカ点滅し、光り輝いている。頭部と思われる場所はのっぺりとした不気味な異形であり顎からは奇妙な突起物が飛び出し、触手の様に蠢くと、無機質な三眼をこちらに向けた。

 

正か突起物が目だとは!と驚愕しながらも、得体の知れない奇妙な飛竜に冷や汗を流す。しかし、幾ら得体の知れない竜だとしても、我が国の領海を飛翔している事には変わりない。不明騎として、その特徴を記憶に叩き込む。

 

機体は灰色、胴体と翼に赤い丸に何等かの花が描かれていた。これは国旗、なのか?

 

彼は反転して、愛騎を羽ばたかせる。

 

そして一気に距離を詰める・・・つもりだった。なのに、全く追いつけない。ワイバーンの最高速度は時速235kmであり、生物の中ではほぼ最強の速度を誇る。当然地上を走る馬よりも速く、空を自由に駆けれる機動性に富んだ空の覇者だ。

 

第三文明圏には更に高速化、高機動性を上昇させた新種のワイバーンの開発に成功したらしいが、それは兎も角。公国が保有する最高戦力たる我が愛騎が全く追いつけない。

 

マットな質感に覆われた相手は、生物なのか何なのかも解らない。

 

体感だが、ワイバーンの3・・・いや、4倍の速度で飛翔している!

 

「くっっっ!!なんなんだ、あいつは!!」

 

驚愕。この様な速度で飛翔する竜は古代龍か神龍の可能性がある。もし、そんな存在であれば、クワ・トイネ公国は滅びる。マールパティマは急ぎ魔信にて司令部に報告を送る。

 

「司令部!!司令部!!!!我、飛行騎を確認しようとするも、速度が違い過ぎて追いつけない。飛行騎は本土マイハーク方向へ進行!なお、未確認騎は古代龍か神龍の可能性がある!繰り返す、未確認騎は古代龍か神龍の可能性がある!!!」

 

報告を受けた司令部では、蜂の巣をつついたような騒ぎになった。ワイバーンでも追いつけない未確認騎。もしかしたら古代龍や神龍がよりによって、クワ・トイネ公国の経済の中枢都市マイハークに向かって飛んで来る。

 

攻撃を受けたら、軍の威信に関わる―――処の問題ではない。古代龍や神龍は、大地震や大津波といった自然災害に匹敵する天災。故に、たかが一体の飛来だとしても、国が亡びる可能性が高かった。

 

更に悪い事に、もし本当に古代龍や神龍だった場合、ワイバーンの全力出撃をもってしても撃退は不可能に近かった。確かにワイバーンは強い。だが、天災はワイバーンの数十や数百倍以上の力を有している。

 

騎は速度からしておそらくすでに本土領空へ進入しているはず。

 

報告を受けた司令部は悲痛な面持ちで、基地内魔信を起動し、指令を発する。

 

「第六飛龍隊は全騎発進セヨ、未確認騎がマイハークへ接近中、領空へ進入したと思われる。発見次第撃墜セヨ。繰り返す―――」

 

スクランブルを受け、滑走路から、待機していたワイバーンが発進する。その数12騎。基地で待機する全戦力の全力出撃である。

 

スクランブル発進した12騎は編隊を組んで飛翔する。そして第六飛龍隊は、運良く未確認騎の正面に正対した。報告に寄れば、相手は超高速飛行が可能な古代龍か神龍とのことだ。

 

もし、そんな天災が相手なら、我々は為す術無く撃ち落とされるだろう。しかし、国には家族や友人が、守るべき国民がいる。

 

第六飛竜隊の面々は覚悟を決めた。

 

古代龍や神龍に攻撃するチャンスは、一度のみ。飛龍隊12騎が横一線に並び、口を開ける。火炎弾の一斉射撃。これが当たれば、落ちなくとも大ダメージは与えられるはず。

 

祈りながらタイミングを見計らい、火炎弾を放とうとした―――その時。

 

未確認騎が上昇を始めた。すでにワイバーンの最大高度4000mを飛んでいた第六飛龍隊にとって、それは最悪の事態であった。

 

鉛直に迫る角度でぐんぐん高度が上がっていく。第六飛龍隊は、未確認騎をその射程にとらえる事無く、引き離された。

 



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2話 マイハーク激震

おはようございます。書けたので投稿します


第六飛龍隊は、無念に包まれた。天災と思われる未確認騎をその射程にとらえる事無く、引き離された。撃退は不可能。なら、自分達は死んででも阻止すると、覚悟を決めたのに・・・

 

「我、未確認騎を発見。攻撃態勢に入るも未確認騎は上昇し、超高々度でマイハーク方向へ進行した!繰り返す―――」

 

マイハーク防衛騎士団、団長イーネは、第六飛龍隊からの報告を受け、上空を見上げた。

 

もしかしたら、天災であるかもしれないという。本物の天災を見た事の無いイーネにとって、飛龍でも追いつけない正体不明の者、で脳裏に浮かぶのは、文献で見た天災の壁画だ。飛龍の上昇限度を超えて飛行していく恐るべき天災。それがまもなく経済都市マイハーク上空に現れる。

 

団長イーネは、空を睨んでいた。

 

遠くの方から黒点が浮かび上がった。それが不明騎なのかと一瞬だけ思考を逸らし、再び意識を戻すと、その不明騎は目前まで迫って居た。何と言う速さ。これが天災なのか!

 

・・・いや、そもそも、アレは竜なのか?

 

ソレは圧倒的な速度でマイハークをフライパス。ゴオォォオオオ!!といった聞き慣れない轟音を響かせマイハーク上空を通過し、途中で急旋回して上空を旋回した。

 

「アレは何だ!?」

「ば、化け物だ・・・化け物が攻めて来たッ!!」

 

街の人々は恐怖に顔を引きつる。その恐怖は感染力の高いウイルスの様に蔓延して行き、たちまち騒動になった。

 

奇妙異な物体、大きくて灰色の機体、羽ばたかない翼、怪奇な音、翼と胴体に赤い丸に花が描かれている。明らかな領空侵犯。しかし、飛龍は遙か遠くからこちらへ向かっている最中。攻撃手段はあることにはあるが、今回は接近が速すぎて、何も準備が出来ていない。

 

事実上現時点では迎撃不可能。我々は唯、その姿を見つめる事しか出来ず、非常に歯痒い思いに焦らされた。

 

謎の飛行物体はマイハーク上空を何度も旋回し、東方向へ飛び去った。

 

「・・・如何やら、アレは天災ではなく、飛行機械のようだな・・・」

 

火を噴いて飛翔する飛行物体など、聴いた事もない。だが、あの羽ばたかないフォルムを見るに、竜等の生物とは考えにくい。

 

そう結論付けたイーネは、上層部へと報告に向かう。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

クワ・トイネ公国 マイハーク 北側の港

 

経済都市マイハークの北側に位置するこの港は【ハイマーク港】と呼ばれている。

 

そのマイハーク港に基地を置くクワ・トイネ公国海軍第二艦隊はいつも以上に、緊張に包まれていた。

 

事の発端は3日前。公国が保有する飛龍隊の防空網をあっさりと越えた大型の未確認騎がマイハーク上空を旋回したからだ。特に攻撃を受けたわけではないが、その未確認騎はロウリア王国や列強のパーパルディア皇国も保有しておらず、未所属の可能性すらある。

 

この明らかな領空侵犯は未確認騎が所属する何処かの国家の偵察の可能性が高い。更に、その偵察に使用された未確認騎は飛行機械の可能性があるらしく、もし本当に飛行機械であったら、それは第二文明圏最大の列強【ムー】の飛行機械の可能性がある。

 

しかし、ムーは飛行機械を輸出していないはず。非公式か、はたまた属国となった国に払い下げられた飛行機械なのか。

 

真相は不明だが、もし公国が所属不明の存在から偵察を受けて居たらと言うのが問題で、軍の緊張感を倍増させた。

 

クワ・トイネ公国軍はすぐさま厳戒態勢となり、軍艦は全て出払って沖合にて哨戒任務に就いている。所属不明騎と会敵した第六飛龍隊も哨戒網を何時もの三倍以上に増して警戒していた。

 

マイハーク防衛指令室には各方向の哨戒状況が報告されている。が、特に何も発見されていない。

 

「ノウカ指令は何だと思いますか?例の所属不明騎の正体」

 

若手の幹部が指令に聞く。

 

司令は飛行機械の可能性の方が高い、そう思っていた。なぜなら、

 

「俺は実物を見てないから何とも言えんが・・・第六飛龍隊の全員が目撃している。しかも、その中で絵が得意な者が奴のイラストを寄こしてきたが・・・龍には思えんな。」

 

若手幹部に釣られて壁を見れば、第六飛竜隊の者が描いた例の未確認騎のイラストが掲示されている。何処か平べったい印象の竜であり、頭部が不自然に丸みを帯びて膨らんでおり、顎部分には髭かしこりの様な突起物。極めつけは羽ばたかず、尻から火を噴いてワイバーンよりも高速で飛翔するらしい事。

 

火を噴く攻撃はワイバーンでも可能だが、火を噴いて飛翔する竜など聞いた事が無い。

 

「やっぱり竜じゃ無いですよね・・・」

 

若手幹部が不安を隠さずに肩を落とした、その時。更に不安を煽るかのようにして通信員が鋭い声を上げた。

 

「司令!!」

 

司令と若手幹部の表情が強張り、視線を通信員に向けた。

 

「軍艦ピーマから報告!【未確認の大型船を発見。現在地、マイハーク港から北へ60km。これより臨検を行う為、同船に向かう】との事です!」

「大型船だと・・・?」

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

クワ・トイネ公国

マイハーク港沖合60km地点

 

クワ・トイネ公国海軍第二艦隊所属の軍艦ピーマは、不審な大型船3隻に向かっていた。

 

帆をいっぱいに貼り、風を動力として進むと共に、太鼓のリズムで帆船より突き出したオールを漕いで向かう。軍艦は既に臨戦状態に移行しており、水兵は皆、革鎧に身を包んでいた。

 

「船長、未確認の船たちは接近する私達に気付いたのか、急速に速度を落としている様ですね」

「そうだな・・・副船長、臨検は私が先陣を切る。もしもの事が有れば、君に全てを任せる。」

「は・・・何か懸念することがありましたか?」

 

ミドリ船長が大型船を凝視したまま顔を動かさないので、副船長も大型船たちを注視する。しばらくして漸く、こちらが接近しているはずなのに相手に辿り着かず、輪郭だけが大きくなる事実を認識する。

 

余りの大きさに距離を誤認していた。

 

「副船長・・・あれは、大きさが船の水準を超えてないか?」

「は、はい・・・私には孤島が浮いてるようにしか・・・」

 

絶句していたミドリ達は、なんとかその会話を絞り出した。

 

「船の上に、白い生地に草に囲まれた赤い丸、その中心にピンクの花が掲げられた旗が・・・うん?」

 

ミドリは出撃前に海軍基地で見た未確認機のイラストを思い出す。そのイラストには、胴と翼に赤丸と花が掛かれたマークが存在し―――

 

「―――ッ!?あの船は未確認機と同じマークを持っているぞ!」

「なんですと!?」

 

既に射程に入って居るだろうに攻撃されない事から、最大限の警戒。軍艦ピーマの船員一同がその巨体に圧倒される中、大型船に近づく。

 

すると、大型船の上から数十人の人間が軍艦ピーマに向けて点滅する光を照射する。何らかの攻撃かと身構えたが、大型船の人間が手を振っていることから、敵対の意思はないことをアピールしているのだろうか。

 

船長ミドリは険しい表情のまま振り返る。

 

「これより同船の臨検を行う。諸君は私の指示、もしくは攻撃を受けない限り、決して此方から攻撃してはならない。また、相手は所属不明だが、もしかすると新興国かもしれん。国と国のやり取りになる為、不用意に高圧的な態度を取る事を禁ずる。良いな!」

「「「「「ハッ!!」」」」」

 

船長ミドリは、大型船の船員の誘導に従い、同船に移った。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

日乃本帝國より南に900km地点の海域

日乃本帝國海軍 ハイドロゲン水素タービン動力空母赤城型二番艦【加賀】

 

海水から水素を摘出し、それを燃料とする事で事実上の【燃料無補給艦】となった【加賀】は、異界の海を奔る。

 

突然他国との通信が途絶し、人工衛星の信号すら探知不能となり、全く別の世界に転移してしまったと理解した晴香と日乃本帝國政府は、新世界固有の不明現象やジェット機を超える速度で飛翔する超生物が存在した場合などを考慮し、有人ではない帝國海軍の洋上型無人哨戒機【海蛇】を各方面に飛ばした。

 

日乃本帝國は日本国の様に一国だけで生きて行けないなんてことはないが、それでも資源は不足する。早急に文明のある国々と国交を結び、資源やこの世界の情報を確保する事が絶対だと認識した政府は、迅速に行動。まずは南方面に発見した、規模から推測して文明を持つと思しき民族と国交締結の可能性を見出す為、帝國海軍最大の航空母艦の一隻である【加賀】に外交官を乗せて派遣する事を決定する。

 

何故に加賀が選ばれたかと言うと、広範囲の哨戒は無論、異世界の国家より攻撃を受けても小国程度なら問題なく消滅させられる戦力を有する空母は適任だと判断されたからだ。しかし、空母単艦で送り出して何かあってはいけないので護衛として金剛型ミサイル巡洋艦【比叡】と吹雪型汎用駆逐艦【吹雪】、水中には蒼龍型潜水艦【剣龍】も随伴する。

 

砲艦外交になるのでは?と否定的な意見が出たが、晴香皇帝が強く願ったことでこの編成により派遣が決定したのである。異世界転移により外交官を送る際、大きな船一隻では舐められる可能性の方が高いと小説知識により理解していたからだ。

 

因みにこの時は、晴香皇帝はこの世界が【日本国召喚】の世界だと気付いていない。

 

レーダーに小さな船を捉えた【加賀】は、対象民族の船と判断して接近を図り、やがて一つの帆船を発見する。歴史の教科書に出て来そうなほど設計が古く、よく見ると火矢に用いる油壺や矢避けの盾、革鎧に身を包んだ水兵たちが茫然として本艦を見上げているのがわかる。

 

何パターンか想像していた晴香皇帝以外の幹部たちは、この世界の構造がどうなっているのか全く不明な状況で、現地人を傷つける訳にはいかないと慎重に減速し、舷梯を降ろす搭乗口を開き、隊員たちが現地人を招き入れる。

 

隊員は現地人を【加賀】の甲板に案内すると、外交官が話をする事となった。



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3話 外交官派遣

おはようございます!


ミドリは困惑していた。

 

此処は本当に船の上なのか。騎馬戦が出来てしまいそうなほど意味不明に広い甲板で、自分の前には、護衛と思われる黒く丸い兜と同じく黒の布鎧を着、ゴテゴテした棒を持った奇妙な戦士3人に囲まれた、白服の者とパリッとした黒服の者がいる。

 

甲板には彼ら以外には誰も居ないが、代わりにイラストでみた所属不明機とかなり似ている龍・・・いや、鉄龍が数機待機しており、胴にはあのマークが存在している。しかし、これほどの巨大船であれば船員の数は膨大であり、仮に彼等を斬れば、自分達は生きては帰れまい。

 

ただ敵対の意思は無いようなので、勇気を振り絞って口を開いた。

 

「私はクワ・トイネ公国海軍第二艦隊所属、軍艦ピーマ船長ミドリです。此処は我がクワ・トイネ公国の近海であり、このまま進むと我が国の領海に入ります。貴艦の国籍と、航行目的教えていただきたい」

「言語は同じなのですね・・・失礼。私は日乃本帝國外務省の半田と申します。貴国はクワ・トイネ公国という国名なのですね、我が国、日乃本帝國政府は、貴国と交流を持ちたいと考えています。状況によっては国交締結まで視野に入れております。貴国の外交担当官に御取次頂けると幸いなのですが・・・」

「貴君は一国の使者、と言う訳ですね?」

「はい、そうです。後ろの皆様が緊張なされている様ですが、敵対の意思はありませんのでご安心ください」

 

ミドリの部下たちが多少安心したのか、肩が若干下がる。

 

「分かりました。その旨、本国に報告いたします。一つ質問なのですが、先日我が国のマイハーク上空に現れた騎は、貴国の騎士でしょうか?」

「騎・・・機ですね?我が国の【海蛇】の事でしたら、左様でございます。その件については、我が國から改めて公式に謝罪の意をお伝えしたく存じます。」

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

 

 

「司令!軍艦ピーマから一報入りました!」

「読め!」

「『大型船の臨検を行った所、同船に敵対意思無し。なお、同船の派遣元・日乃本帝國の外務担当者が乗り込んでおり、我が國と国交締結を視野に入れた会談を希望している。船の大きさは目測約400m、幅90m程であり、帆又はオールの様な物は確認できない。』」

 

司令以下の幹部たちが絶句する。大型船と聴いていたがまるでちょっとした宮殿では無いか。

 

「先日の未確認機の件については、日乃本帝國の哨戒機が哨戒飛行中、我が國の領空に侵入したとのこと。如何案件についてですが・・・国ごとこの世界に飛ばされたと担当者は申し立てている』・・・です」

「国ごと転移だと!?そんな荒唐無稽な事を上に報告しないといけないのかっ!?」

 

ノウカ司令が叫んだ。冗談ならまだしも、ソレを本気で上層部に報告しないといけない。言葉が通じるらしいのは幸いだったが、これなら言葉が通じない相手の方がまだましであった。

 

「400mの船が動いている、というのも中々に荒唐無稽な話ではありますが、これらは彼等の目で確かめられた事実ですので・・・報告しない訳にはいかないと愚考致します。また続きに『日乃本帝國政府より我が国に正式に謝罪したいとの申し入れあり。まずは公国の外務担当への御取次ぎを要請している』とのことです」

「とんでもない事になったな・・・はっ、そうだ!今、未確認機について政治部会が開催されているはずだ。早急に報告を入れよう」

 

通信員は臨検の状況をクワ・トイネ公国・公都に魔力通信で送信した。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

日乃本帝國 帝都【日之出】 皇居【天皇陛下の執務室】

 

皇都【日之出】の名所と言えば、海抜高度1002mの高さを誇る日乃本帝國最大の建造物にして最長の電波塔【日之出スカイ・メァーディス】。日乃本帝國の国花に指定され、国旗にも描かれている、春には様々な種類の桜が咲き乱れる【桜河】。そして、日乃本帝國の皇族が住まう【皇居】が代表的だろう。

 

そんな三大名所の一つである【皇居】の天皇陛下専用の、煌びやかさよりも品位を優先した厳かな雰囲気漂う執務室にて、その場に似合わない14~5歳程度の少女が、一つ数千万もの値が付きそうな、精緻な意匠の凝らされたテーブルに頬杖を付いていた。

 

晴香天皇陛下である。

 

先程、例の大陸に派遣した使節団艦隊より一報が入り、文明を誇る国家との接触に成功したとの報告が入った。ゲームでは使節団など送る必要もなかったので、この様なイベントは何とも新鮮である。ゲームではなく現実であるが。

 

―――こんこんっ

 

「入って良いよ~」

 

全く威厳も感じさせない間延びした返答に、補佐官は慣れたもので、気にせず入室する。

 

「失礼いたします。先程、使節団艦隊より報告がありました。異界の国家との接触により、同国家は【クワ・トイネ公国】との国名であr―――」

「ちょっと待って!」

「はい?」

 

いや、ちょっと待って。ほんとに待って。私の聞き間違い?なんかすごく聞き覚えのある国名に聞こえたのだけど。もしかして、空耳かしらん?

 

「・・・もう一度、国名を聞かせて?」

「はっ、【クワ・トイネ公国】であります!」

 

聴き間違いでは無かった・・・

 

「・・・そう。続きを聞かせて・・・」

「はい。クワ・トイネ公国は中世時代レベルの技術力の国家で、軍事関係は特に脅威にはならないでしょう。しかし【ワイバーン】と呼ばれる接近航空支援機に相当する龍、魔道通信なる無線技術、魔法と呼ばれる未知の力を有しており―――」

 

報告に来た補佐官の話す内容は、【日本国召喚】のクワ・トイネ公国の内容と全く同じであり、近隣諸国には【クイラ王国】と【ロウリア王国】が存在。その三国の存在する大陸を【ロデニウス大陸】など、完璧に一致。

 

クワ・トイネ公国が存命していると言う事は、クワ・トイネ公国とクイラ王国は現在、ロウリア王国との緊張状態の真っただ中。もし召喚時期が史実日本と同じなら、ロウリア王国がクワ・トイネ公国のギムという街に攻め込むのが4月12なので、進行開始まで後76日。約二か月ちょっとしかない。

 

「なるほど、解ったわ。引き続き報告をお願いね。それと、国防長官と法務大臣を呼んで頂戴」

「わかりました。」

 

数十分後、この部屋に日乃本帝國の国防を担う組織のトップである三河国防長官がやって来た。天皇である私に対しても結構フランクで軽い感じの人間だが、とても有能であるため、一部の頭の固い議員が左遷したくても出来ないトップ3に入る人物として認定している、とても名誉ある?人物である。

 

無論、私は左遷したいなどと一ミリも思って居ない。使える人材を態々島流しなど、阿保のする事だ。

 

「失礼しますよ、陛下。本日はどの様な御用件で?」

「これから戦争になるかもしれないから、第3艦隊(空母打撃群+遠征打撃群で編成された艦隊。アメリカ軍の横須賀を母港にした第七艦隊の様なモノ)が何時でも出撃できるように準備を進めてちょうだい。」

「・・・これまた急ですね。何処とおっ始めるつもりで?」

「ロデニウス大陸の覇権主義国家【ロウリア王国】よ」

 

三河国防長官が退出すると、入れ替わる様にして美理法務大臣が入出する。苗字が女性っぽいが列記とした男性であり、この帝國政府で最年長を誇る大臣閣僚であり、そろそろ後継者が如何と騒がれ始めているが、本人は死ぬまで此処に居ると言っている。隠居しても良いと晴香は思って居るが、本人のたって意思の事なので、強くは言えない。

 

「失礼いたしまする。如何なさいました、陛下」

「急いで新しい法律を作るわ。草案を直ぐに作るから調整に入って。出来るだけ早くお願い」

「承知いたしました。」

 

数時間後に晴香は【新世界技術流失防止法】や【技術輸出及び移転制限法】その他数個の法律案を提出。美理法務大臣を筆頭に精緻され、議会に提出。日本の様に思わず眠ってしまう議員が出現するような、のろっのろでは無い帝政なので、数時間かからず公布され、2日後に施行される運びとなった。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

クワ・トイネ公国 政治部会 会場【蓮の庭園】

 

国の代表が集まるこの会議で、首相のカナタは悩んでいた。昨日の事、クワトイネ公国の防衛や軍務を司る軍務郷から、古龍と思われる正体不明の物体がマイハークに空から進入し、市街地上空を旋回して去っていったとの報告が上がる。

 

空の王者であるワイバーンが全く追いつけないほどの高速、高空を侵攻してきたという。

 

驚異的な高速飛行、急上昇能力。迎撃に当たった飛竜隊は古代龍か神龍かもしれないと焦りながら報告してきたが、描かれたイラストを見るに、これは飛竜では無く飛行機械のようなモノだと判断できる。

 

そして、侵入してきた不明騎だが、国籍は全く不明。機体には赤丸に花が書いてあったとの事であったが、赤丸に花の国旗を持つ国など、この世界には存在しない。

 

カナタは発言する。

 

「皆のもの、この報告についてどう感じ、解釈する?」

 

情報分析部が手を挙げ、発言する。

 

「領空侵犯した物体が第2文明圏の大国【ムー】が開発している飛行機械に似ていると考えます・・・しかし、ムーにおいて開発されている飛行機械は、最新の物でも最高速力が時速350km程であり、今回の飛行物体は明らかに倍を超えています。ただ・・・。」

「ただ?」

「はい、ムーの遙か西、文明圏から外れた西の果てに第八帝国と名乗る新興国家が出現し、第2文明圏の大陸国家群連合に対して宣戦を布告した。と、昨日諜報部に情報が入っています。彼らの武器については、全く不明です。」

 

文明圏から外れた新興国家が、3大文明圏5列強国のうち2列強国が存在する第2文明圏のすべてを敵に回して宣戦布告したという事実。その新興国家とは、さぞお強い軍事力を保有しているのだろう・・・と、失笑が漏れる。

 

無謀にも程があるからだ。

 

「しかし、第八帝国はムーから遙か西にあるとの事。ムーまでの距離でさえ我が国から2万km以上離れています。今回の飛行機械がそれであることは考えにくいのです・・・」

 

会議は振り出しに戻る、結局解らないのだ。

 

ロウリア王国との緊張状態が続く準有事体制のこの状態であるのに、頭の痛いこの情報は首脳部を大いに悩ませた。味方なら接触してくれば良いだけの話なのだ。なのに、態々領空侵犯といった敵対行為を行ったという事は、その行動自体が敵である可能性が高い。もしくは、そうせざるを得なかった場合も考えられるが、可能性は低いだろう。

 

会議は踊ろうとしていた―――その時。

 

政治部会に外交部の若手幹部が、息を切らして入り込んでくる。通常は考えられない明らかに緊急時であった。

 

「何事かっ!?」

 

外務郷が声を張り上げる。

 

「報告しますッ!!」

 

若手幹部が報告を始める。内容は以下の通りである。

 

本日朝、クワ・トイネ公国の北側海上に長さ400mクラスの超巨大船が現れた。海軍により臨検を行ったところ【日乃本帝國】という国の特使がおり、敵対の意思は無い旨伝えてきた。捜査を行ったところ、下記の事項が判明した。なお、発言は本人の申し立てである。

 

・【日乃本帝國】という国は、突如としてこの世界に転移してきた。

・元の世界との連絡全てが途絶したため、哨戒機により付近の哨戒を行っていた。その際、陸地があることを発見した。哨戒活動の一環として、貴国に進入しており、その際領空を侵犯したことについては、深く謝罪する。

・クワトイネ公国と国交樹立も視野に入れた会談を行いたい。

 

この突拍子もない話に、政治部会の誰もが信じられない思いでいた。

 

だが、昨日都市上空にあっさり進入されたのは事実である。400mという考えられないほどの大きさの船も報告に上がってきている。国ごと転移などは、神話には登場することはあるが現実にはありえないと思っている・・・しかし、ワイバーンどころか列強の【ムー】を超える高高度及び超高速での飛行を可能とする飛行機械を保有し、400mを超える船など作る超技術力を有している。なら、その日乃本帝國という国の力は本物だろうと判断したカナタ首相は、まずは特使と会うこととした。

 



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4話 すかいらいん号

おはようございます!


クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ 首相官邸

 

首相カナタは、これから顔合わせをする異国の者達が待つ応接室を前に緊張して居た。

 

普通ならば外務局の者達が先んじて交渉や会談の打ち合わせをし、外務卿が国交締結を取り仕切り、クワ・トイネ公国の政務元首たる首相が、相手国の元首と条約宣言を行うのがこの国の順序だ。

 

しかし、現在はロウリア王国との緊張状態が続いており、準有事体制の状況下において、力のある国家とは少しでも友好を保ちたいと言うのが本音である。また、日乃本帝國なる国家が覇権主義国だった場合は、理不尽な要求を回避しなければならない。ましてや不平等条約を押し切られてはたまったものではない。

 

首相が担当者如きに緊張するなど情けない話だが、ワイバーンを優に超える超高速の哨戒機、400mを超える超大型船はいずれも超技術を示している。日乃本帝國の力は本物。相手が担当者であってもカナタは緊張せずにはいられなかった。

 

(・・・では、入るか)

 

応接室には一足先に日乃本帝國の使者―――外務官を通している。

 

一度深呼吸したカナタドアを開けて中に入ると、彼等は一斉に立って一礼した。

 

「初めまして、日乃本帝國外務省の半田と申します。本日は急な訪問にも関わらず、国の代表が対応してくださると聞き及んでいます。栄光の至りです、どうかよろしくお願いいたします。」

 

日乃本帝國側は、今挨拶した半田を代表として、横に二名を随伴している。

 

「ええ、よろしくお願いします」

 

クワ・トイネ公国側は首相カナタを中心に、外務卿リンスイ、外務局員5名でこの会談に応じる。

 

「司会進行を務めます、クワ・トイネ公国外務卿のリンスイと申します・・・早速ですが日乃本帝國の皆様、今回は貴国の訪問目的をお伺いたい」

 

リンスイは挨拶もそこそこに、本題を切り出した。

 

「はい、まずは資料を配布いたします・・・のですが、クワ・トイネ公国と我が国の文字が違うことが判明していますので、口頭での説明いたします。私達は、日乃本帝國という国から参りました。この国から東方向約1000km付近に位置し、869万4000km²の国土と2憶1500万人の人口を有する海洋国家です。」

 

リンスイは半田が説明した国土面積並び人口に面食らう。一国としては十分―――否。持て余す程に広大だが、その海域には群島がある程度で、その様な島・・・大陸が発見されたとは聞いた事が無い。

 

まさか、本当に転移国家とでもいうつもりか?

 

「・・・お待ちを。あの位置には国など無かったはずです。確かに群島はありましたが・・・」

「大変申し訳ないのですが、我々はアース(便宜上の理由により地球ではなくアースと呼ぶ)と呼ばれる世界から、何らかの形でこの世界に転移してきたと考えています。原因は今だ判明しておりません。」

 

半田のの言葉に、リンスイはここぞとばかりに噛み付いた。

 

「確かに、政治部会でもそのような報告は受けました。が、国ごと転移など・・・あなた方は御伽噺を元にしたホラ話吹聴しているのですか?」

「国ごと転移などと言う超常現象を信じられないのは当然です。我々もアースに居た頃に『1000km先に転移してきました』などと言う者達が現れたら相手にもしなかったでしょう。まずはお互いの国をよく知る為に、貴国から我が国に使節団を派遣していただけないでしょうか?直接見て来た方からの報告の方が貴国も信じることができるでしょう。」

「しかし・・・」

「良いかと思います」

「なっ!?」

 

リンスイが回答に悩んでいた所、静観していたカナタが割って入って来た。

 

「方々の話しぶりは堅実で、節度を弁えておられる。なにより、強力な騎に船を有しながら脅すようなことをしない・・・」

 

一度区切る。

 

「日乃本帝國の方々よ、国交を開始するにあたり我が国に何を求める。よもや観光にきたわけではあるまい?」

 

カナタが鋭い眼光で半田を見つめる。

 

半田は怯まず、落ち着いた口調で返答する。

 

「我々はこの世界について全く知らない(晴香一人の記憶では曖昧なので)ので、第一にこの世界の情報。そして食料や資源です」

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

クワ・トイネ公国 外務局

 

各国外務官や自国の大使館との外務を執り行うこの場所は、現在日乃本帝國と国交を開く為の事前準備に追われていた。使節団に送る人員の確保や特命大使の権限の調整、etc・・・書類と魔信通話が飛び交っている。

 

「ヤゴウ!日乃本帝國とかいう新興国家に行くらしいじゃないか!羨ましいなぁ・・・」

 

ヤゴウと呼ばれた男に、同僚の一人が話しかける。今回の使節団が派遣される対象の国は、色々注目を浴びているのだ。

 

派遣される構成員に配布された事前資料にヤゴウが目を通すと、信じられない事が記載されてあった。ワイバーンが飛行不可能な高高度空域を高速で飛行する鉄龍や、全長400mほどの巨大船を製造、運用する超技術力。

 

【正体不明国と侮る事無く、くれぐれも失礼のないように】

 

と、念押しが入る程、本件は慎重を要しているらしい。

 

「信じられないな・・・」

 

ワイバーンは高価な兵器だ。竜騎士はエリート中のエリート。兵ならだれでも一度は憧れる空の覇者である。時速230kmで飛翔し、矢の届かない航空から放たれる、人間とは隔絶したワイバーン自身の魔力による導力火炎弾は人間の作り出した兵器を凌駕する威力を有している。

 

ワイバーンよりも強力な生物と言えば、三大文明圏で少数ながら生産に成功したワイバーンロードくらいしか思い浮かばず、人間に制御できない存在であれば、属性龍たちや古龍種、神龍といった、ワイバーンなど比べ物にもならない存在がいる。あれは制御しようと考えるモノではなく、天災だ。

 

そんな天災に匹敵する様な【物】を、しかも異常に大きくした図体で飛ばすなんて。第二文明圏のムーですら不可能だろう。

 

信じられない報告の数々に、ヤゴウは日乃本帝國に興味がわいてきた。

 

(今回の使節団派遣・・・私はクワ・トイネ公国の歴史に刻まれるかもしれないな・・・)

「これより会議を始める。集まれ」

 

ヤゴウの思考は、不意の号令により中断された。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

小さな会議室で、使節団の団長が説明を始める。

 

今回派遣される使節団員はヤゴウを含めて5人。すべて外務局員の肩書を持つ物だが、軍務局の将軍ハンキだけは外務局への出向と言う形で使節団員に入っている。

 

「今回、我々の一番の目的は、日乃本帝國が我が国の脅威になるかを判断する事にある。知っての通り、我が國の防空網は日乃本帝國の鉄竜―――しかも、高々哨戒機によってあっさり突破された・・・しかし。今の所、我が國に鉄龍を防ぐ手立てはない。我が國と国交を結びたいという意思を示しているが、彼等が覇権主義国である事を隠していないか、もしくはロウリアの様に極端な亜人に対する差別意識を持っていないか、何のために我が国と国交を結ぼうとしているのか、その真意を調査する必要がある。」

 

皆が頷く。

 

「日乃本帝国がどの程度の発展具合なのか不明だが、高い技術力と相当な軍事力を保有している事は間違いない。理解していると思うが、毅然とした態度で接するだけでなく、相手を刺激しないように言動には配意すること。後一点。日乃本は何が強くて何が弱いのかを調べ、我々が彼等に対して優位に立てる部分を探してきてもらいたい。それでは、皆に配布した要網を見て欲しい。」

「『国ごと転移』?」

「彼等の言い分に寄れば、ある日突然この世界に国土ごと、この世界に転移してきたようだ。真意は定かでは無いが、先程も述べた様に、今回は相手を刺激しない為にも疑いの態度は慎むように。」

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

翌朝

 

雲は高く、綺麗な青空が何処までも続く涼し気な今日、使節団はマイハーク港に集まっていた。集合場所である外務局所有の事務所前で、パリっとした服を着た男性が話し始める。

 

「御集りの皆様、本日は日乃本へ使節団として来訪いただけるとのこと、喜びの極みです。私は皆さまの今回の視察を少しでも快適にお過ごしいただく為に派遣された、日乃本帝國外務省の半田です。不便な点があれば遠慮なくお申し付けください」

 

半田の清々しい笑顔に、使節団の面々は毒気を抜かれる。

 

「此度は皆さまの日乃本帝國入国にあたり、()()()()を用意いたしましたので、ご案内致します。」

「失礼。ヒコウキャクセンとは?」

 

てっきり船旅だと思って居た、使節団に混ぎれて向かう予定の将軍ハンキは、聴いた事も無い乗り物と思われるモノを、空飛ぶ客船では無いだろと思いながら半田に質問する。他の面々も訝し気に半田を見た。

 

「はい。飛行客船と言うのは・・・あぁ、彼方に御座います。あの船に御座います!」

「「「「「・・・・・・」」」」」

 

半田が指さしたのは空。使節団員は釣られて空を見上げると、其処には青と白のコントラストの人工物が、蒼穹の大空に紛れる様にして浮遊していた。凡そ空を飛ぶとは思えないほどの巨躯であり、ひな鳥の翼の様な小さい羽が数枚。一体どういう原理で浮いているのかさっぱり分からない。

 

まさか本当に空を飛ぶ客船であるとは思わなかったハンキらが、ぽかんっと口を開けて呆けてしまう。

 

「彼方が今回、使節団の皆様を本国へとご案内する為に用意された、政府所有の飛行客船【すかいらいん号】です」

 

【すかいらいん号】

全長200m

全幅60m

全高30m

最高高度4万フィート(約12000m)

最高速度180km

 

 




飛行客船と言うなの、最新技術の粋を集めた飛行船(と言う設定)


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5話 日乃本帝國へ

おはようございます


【すかいらいん号】は徐々に高度を落とすと、マイハーク港沖約300mの所に着水した。水陸どちらも離着陸できる機体であり、水上の場合殆ど浮いている様なモノなので、水深3m以上であればどこにでも離着水が可能。湾岸接続用に専用タラップも搭載してある為、乗員の登退場も楽である。

 

補助推進器の低周波音を響かせながら、すかいらいん号はマイハーク港に接岸。遠隔操作型なので、無人でタラップが展開され、埠頭に架け橋を繋いだ。

 

使節団員は、公国の保有する帆船が豆粒に見えてしまう程の巨体を誇る、この【すかいらいん号】に呆けるしかない。

 

「で、デカい・・・」

「それでは乗船していただきます。どうぞ、此方に」

 

半田に先導され、クワ・トイネ公国の民たちの騒がしい喧噪を耳にしながら使節団員は乗船をはたす。

 

タラップが収納されると、再び沖合に向かい、途中で垂直離水。徐々に高度を上げて行くと、日乃本帝國の本土が存在する方向に舵を切った。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

飛行客船の船内へ足を踏み入れると、使節団員が驚きの余り絶句した。明るい。光の精霊でも飼っているのだろうか。

 

「こ、この飛行客船?は・・・鉄でできている!・・・一体どうやって空に浮いているんだ?しかも、中は明るいし清潔。まるで王宮の様では無いか・・・」

 

各々に割り当てられた部屋へと案内され、一同は寛ぎのひと時を過ごす。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

その時のヤゴウの日記より

 

何と言う事だろうか。私は驚きを隠せない。

 

この様な大きな空飛ぶ船は見た事も聴いた事も、文献で読んだ事も無い。しかも中は快適で明るく、信じられない事に温度が一定に保たれている。200m程と巨大飛行物体にも拘わらず、空をワイバーン並みの速度で進んでいく。

 

1000kmをたった6時間程度で移動すると言うのは、本当のことなのだろう。

 

こんな物を作り出してしまう日乃本帝國とは、一体どのような国であろうか。

 

外務局員の中には「新興国家の蛮族に違いない」と言う者がいたが、今の所―――言いたくはないし、認めたくも無いが―――彼等から見た我々の方が、蛮族に映っているのではないだろうか。もしかしたら、日乃本帝國は文明圏の列強国に匹敵する力を持っているかもしれない。

 

・・・しかし、この飛行客船のロビーから見た外の景色は絶景であった。半田殿の説明によれば、今飛行している高度は約12000mで有り、ワイバーンの最大高度4000mを軽く超え、更に3倍にした高さを飛んでいる。

 

何と言う超技術・・・と驚きたかったが、上空12000m空の景色に見惚れてしまい、驚く事が出来なかった。

 

【あくりる】と呼ばれるガラスの様な物を挟んで、空から見下ろした我々の世界。それは、こんなにも青く美しい物なのだと、同僚の中には涙を流す者までいた。

 

それと、世界は丸い。地上から地平線を見れば平らに見えるが、この高さから見渡せば、世界は丸いのだと気付いた。これも半田殿に聞けば【水平線】と言うらしい。月は丸いが、この世界も同様に丸いそうだ。では反対側では人やモノが闇世界(半田殿は宇宙といった)に堕ちないのかと聞くと、この世界は星であり、その星が回転する事で星のエネルギー(重力というらしい)を発生させ、その影響下にある地上は、星に押さえつけられているのだとか。

 

その道の専門家では無いので、詳しく理解できないのが残念だ。

 

―――パタっ

 

記入した日記を閉じると、ヤゴウは窓から外を見る。相変わらずの蒼穹だ。

 

「ふふっ・・・わくわくが止まらない・・・まるで童心に帰ったみたいだ!」

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

「海では無く空を駆ける巨大船・・・」

 

大型の特殊硬質アクリル透明板が設置されたロビーでは、ハンキ将軍が信じられないほど柔らかく快適なソファーでくつろぎながら、カクテル片手に景色を眺めていた。青い空が途中で黒く染まり、その先は真っ暗で遠くが分からない闇世界との境界がくっきりと見渡せる。

 

我々は使節団として日乃本帝國に向かっているはずだが、これでは観光ではないか、と疑いたくなる。そんな心持で国交締結に向けた視察を行うのはイケないと理解している・・・が。

 

ずちー・・・カランっ

 

「良いものだな・・・」

 

カクテルの後味、甘い余韻を感じながら、そう呟かずにはいられなかった。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

巡航速度180kmで日乃本帝國に向かった【すかいらいん号】は、約5時間半のフライトの果てに本土上空へと差し掛かった。

 

「皆様、福岡市が見えてまいりました。福岡市は九州地方、中国四国地方の中で最大の都市です。正面に見えているのが博多国際ターミナルで、博多国際ターミナルからはリムジンバス―――大型の自動車でホテル新日航まで移動していただき、日乃本帝國についての基礎知識を学んでいただきます。」

 

余談だが日乃本帝國は史実日本を舞台に制作された国である為、本土は47都道府県で構成され、海外領土も合わせると53都道府県になる。そして都道府県別面積であるが、本土の大きさが日本の約23倍なので、その分必然的に県面積は上昇している。

 

更には、国の成り立ちや歴史については捏造するしかない!と判断した晴香陛下がやっぱり史実引用で日乃本帝國の資料を作らせ、それを今回使節団が回る博物館等に与え、説明してもらう事となっている。日本の歴史的な建造物等は現実を元に再現して各地に設置してあるので、唯の飾りとしてしか機能して無かったオブジェクトがこの様な形で役に立つとはと安堵の溜息を吐いたとか。

 

後は、この国の成り立ち等の歴史を国民全てに叩き込む事だろう。これは晴香だけが使える一部制限されたゲームシステムにより可能であった。所謂【全国民洗脳】である。

 

閑話休題。

 

ヤゴウ達は興奮のあまりロビーを立ち、進路の先を眺めた。そこにやってきた半田が、これからの予定について改めて説明したのだった。

 

高度を徐々に下げた【すかいらいん号】により、目下の都市の輪郭がはっきりと見えて来る。正面には半田の説明で判明した博多港が、その横には白や灰、赤、ベージュといった建築物が立ち並ぶ姿が確認できた。その上を通過すると、なんと水上を渡す巨大な橋や、二層三層にも重なる回廊まで見えて来る。

 

その様子をアクリル板に張り付きなが眺めていたヤゴウは、博多港の次に見えて来た、広大な敷地面積を有する巨大施設に目をやった。

 

何本もの長大な滑走路と異様に大きな倉庫が立ち並び、数十mもの高さを誇る変な塔の下には、この【すかいらいん号】よりは小さいがそれでも圧倒的な大きさを誇る鉄龍が数十機も係留されているのが目に入る。

 

「あんな巨体が空を飛ぶのか・・・」

 

丁度滑走路から飛び立った大型の機体を横目に眺めた使節団員たちだった。

 

『これより政府専用ターミナルに着陸いたします』

 

船内放送に慣れた様子の使節団たちは、一旦席に着く。軽く揺れる程度の振動が発生すると、再度アナウンスがあり、日乃本帝國へ入国する使節団たちに御もてなしの言葉が掛かった。

 

その後、下船し、半田の説明通りリムジンバスにのり、ホテル新日航へ移動する。

自動車と呼ばれる【内燃機関】によって動く車の事を聞かされていたが、まさかこんなに行き交う量が多いとは思わなかった。しかも国民一世帯あたり一台ほど所有しており、20代そこそこの日払い労働者であっても、格式の差はあれど車を購入できるという。

 

「「「「「何と言う豊かさ・・・」」」」」

 

思わず呆れる使節団員たちであった。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

ホテルに到着すると、日乃本帝國の基礎知識を学ぶ勉強会が開かれる。

 

信号システム、自動販売機、自動改札システム、鉄道システム、全国自動流通制御システム、自律治安維持AIロボット。

 

半田の説明によるとどれも不思議なものに見えるが、科学と言う分野から生まれた物だそうだ。仕組みが理解出来れば誰しもが作れると言っている。

 

道路交通法という法を合わせて説明されて、なるほど、信号と言う物がないと、あれだけの量の車たちが好き勝手に動き、交通網が麻痺してしまうだろうと使節団員たちは納得した。全国自動流通制御システムとは、無人の巨大な馬車が荷物を各地に運ぶもの、と理解する。

 

いや、そもそも無人でどうやって制御するのか不明だ・・・と言うのを理解した。

 

「【自律治安維持AIロボット】と言うのは、そうですね・・・クワ・トイネ公国でいう憲兵の様なもので、人間では無くAI・・・人工の精霊が仮初の肉体を保持して、治安を維持するゴーレムの様なものです」

 

と言う説明と共に、プロジェクターと呼ばれる映像投影機より映し出されたのは、黒い鎧を纏った人間の様な姿をしたゴーレム。全長は170cmの大きさで、普段から街中を巡回しており、事件や事故などが発生すると、近場のロボットが現場に急行するという。人間よりも能力を高く作られている為、人質救出などの生身の人が行う突入部隊などには、まず始めにこのロボットが突入するのが常習化しているのも特徴だ。

 

なによりも人命が第一である。それと、この人造精霊は先程の全国自動流通制御システムとやらにも導入されているようだ。

 

とはいえ、

 

まさか精霊を人の手で作り出すとは、彼の超大国ミリシアル帝国ですら成し遂げたことが無い、と言うか精霊を作りだそうなどと考えた事も無いだろうか。と、驚きを通り越して呆れて来る。

 

その他にも、拾ったものをそのまま自分の物にすると、遺失物等横領罪という罪に問われる、などと言った犯罪にあたる常識まで学ぶ。

 

 

        *   *   *   *   *

 

 

【自律治安維持AIロボット】

全長170cm

主兵装

通常時

 ・特殊硬質ポリカーボネートシールド

 ・特殊警棒

 ・マガジンカートリッジ式テイザーガン

有事

 ・特殊硬質ポリカーボネートシールド

 ・特殊警棒

 ・9mm短機関銃

 ・7.62mm狙撃銃

 ・その他、各種装備

 

 




因みに軍用、医療用、介護用など様々なタイプが存在します(という設定)


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6話 使節団と見る総火演

おはようございます!


「半田殿、日乃本帝國の軍隊を見学したいのだが、無理じゃろうか?」

「そうですね・・・少々お待ちを」

 

半田が一面だけ光る小さな板の様な物を取り出すと、それを操作して耳に当て、独り言を始めた。魔道通信でも出来るのだろうか?異常に小さいようだが・・・

 

「失礼しました。 静岡県東富士演習場畑岡地区にて【富士総合火力演習】の開催が予定されています。一般市民に向けて、我が國の軍隊はどれ程の実力を所有しているのか、分かりやすく説明する様な模擬演習ですが、実際の作戦行動を想定して進められるプログラムは圧巻ですよ。それでよければ手配できます」

「おお、誠にすまんがお願い申す!」

 

ワイバーンを超す超高速の哨戒機や、400m超の巨大船を有する日乃本帝國の訓隊を見学できる機会を得て、ハンキ将軍は上機嫌であった。

 

「他に行きたい方はおられますか?」

「私も行きます」

 

ヤゴウが手を上げる。他の3名は市街視察に出ると言うので、ハンキとヤゴウの二人で日乃本帝國本国最大の演習場にして、最大の模擬演習展示会である【富士総合火力演習】を拝見しに行く事となった。

 

因みに、博多が存在する福岡県から演習場が存在する静岡県までの距離は、史実日本と地形が全く異なっており、ゲーム世界で一番の脅威を誇っていた隣国に対抗する為に福岡県の隣には最大規模の陸海空軍共用の基地がある。そこが静岡県であり、隣同士なのである。良港の博多港からも近い立地に建てられたため、距離的には40kmしか離れていない。

 

余談だが、富士山はオブジェクトとして存在し、史実よりも約1000m標高が増えて4776mの日乃本帝國最大の火山である。本来であれば史実同様サイズの設置が行われるはずであったが、桁の設定を間違えた晴香のミスによりこのような形となった。

 

大型のオブジェクトほど、大規模な改装には巨額の金(ゲームの)が掛かるので、仕方ないとそのままになったまま、結局直される事無く異世界へとやってきてしまい、地形の大規模調整等のゲーム能力が使えなくなってしまったためにこれからもそのままな状態が続く。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

翌日 静岡県御殿場市 東富士演習場畑岡地区 富士総合火力演習会場

 

ハンキとヤゴウは富士総合火力演習場の来賓席にいた。半田も同伴している。

 

(正直、高速道路と言う奴には目を回しそうになったが、やっと鉄龍たちの性能を間近で見れる!それに―――)

 

今回は総合火力演習。つまり、日乃本帝國に存在する陸軍、海軍、空軍の三軍全てが一体となって行う最大級の大演習である。鉄龍の性能は無論、陸軍や海軍に関しても興味しかないハンキ将軍は感激した。

 

ハンキだけでなく、ヤゴウも鉄龍の性能については興味があった。何より、未確認機の報告を裏付ける必要もある。その任を外務局側ではヤゴウが担っていた。

 

2人の緊張をよそに、富士総合火力演習が開幕する。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

一般市民が軍の基地の中へ入場して軍隊と触れ合うなど、クワ・トイネ公国の常識からすれば異常である。しかし、見学しに来る人の多さ―――まるで難民の大移動でも見ているようだ―――を見るに、この国の軍は人々に愛されているのだなと気付くハンキであった。

 

『大変長らく御持たせ致しました。只今から令和2年度、富士総合火力演習を開始します―――』

 

とのアナウンスと共に始まった富士総合火力演習だが、ヤゴウの想像する軍事演習のソレを悪い意味で斜め上も予想を上回った。

 

まるで龍の唸り声の様な、低い咆哮を上げて広場を駆けて来たのは、緑と茶で塗装された鉄の地龍。異様に長い角の様な物を備えたソレは、5匹がそれぞれの場所に展開した。

 

「な、半田殿。アレは自動車という機械に魔道砲を搭載したものか?」

「魔道砲では無く、科学の力で放つ火砲ですね。それを搭載した戦う自動車です。」

 

『それでは、66式155mm自走留弾砲による、砲弾が地表で破裂する着圧射撃をご覧いただきます。』

『―――てぇッ!!』

 

―――ドドォンッ!!!

 

「「おおぅ!?」」

 

外務局員という、軍事に関係が乏しいヤゴウだけでなく、魔道砲を撃つ音を何回も聞いていたハンキ将軍でさえ驚く、まるで火山の噴火を思わす発砲音。そして、

 

『弾ちゃーく・・・今!』

 

遠方の土剥き出しに禿げた小ぶりの山に、煙で出来た花が咲いた。すると、数秒後には爆発音がこの会場に木霊し、大音響が轟く。

 

「「・・・・・・」」

 

長距離からこの様な大火力の威力投射。魔道砲ですら決して届かない、その更に超射程のこの【66式榴弾】が相手では、我が国の軍では長射程だった矢やバリスタをもってしても手も足も出まい。それ程、この超兵器は次元が違う。

 

それに、遠方から見た限り、あの着弾では砲弾その物が爆発したようだ。爆破する砲弾など、聴いた事も無い。もし着弾地点に兵が密集していたら・・・この一撃で100人は軽く吹き飛ぶ!

 

『それでは、66式155mm自走榴弾砲による、スラローム着圧射撃をご覧いただきます』

 

「・・・半田殿。【すらろーむ】とは?」

「スラロームとは、ジグザグに走行しながら射撃する高度な射撃技術です」

「なんと!動きながら撃つのか!?・・・それで、当たるのか?」

 

五匹がほぼ同時に動き出し、それぞれジグザグに動き始めた。そして急カーブを行っている最中に射撃命令が下り、射撃員はその命令を忠実に守り、砲を撃ち放つ。

 

鉄の化け物が大地をうねりながらの、10kmの射撃。本当に当たるのか?と疑問顔のハンキたちをあざ笑うかのように、先の着圧射撃の着弾地点で爆破が発生する。当たったのだ。これほどの激しい軌道を描きながらの射撃で。

 

兵で言うならば、騎馬でジグザグに走行しながら、弓で100m先の1mの的の中心を射る様な物。普通ならまぐれや奇跡が起こらない限り当たる事は無いが、地を駆ける化け物は『効力射』と命令されると共に、次弾を人間が装填しているとは思えない速度で次々に発射し、その全てが的に吸い込まれる様にして命中する。

 

10式戦車に初搭載された射撃管制装置の発展型であり、走行中も主砲の照準を目標に指向し続ける自動追尾機能があり、タッチパネル操作でも主砲の発砲が可能である。なので98%以上の、驚異の命中精度を誇るのだ。水平射撃で榴弾砲でも戦車のように攻撃できるが、あくまでも榴弾砲である。正式に戦車は存在するが、最近の自走榴弾砲は移動しながらでも撃てるなら撃つことが求められる。それに答えて開発された66式榴弾砲は走行射撃も可能な仕様となっていた。

 

それからは【AH-23cヤンマ攻撃ヘリコプター】の上空からの30mmチェーンガン射撃や、無人標的機を【06式短距離空対空誘導弾】による空中破壊、強化外骨格と12.7mmを弾くセラミック装甲を備えた【1式強化外骨格】を纏った兵たちによる高速展開など・・・

 

陸軍だけでもクワ・トイネ公国軍は勝てない。有利に立てる分野が魔法程度しかない事を見せつけられた。

 

『左手上空をご覧ください。上空で待機していた【F-3】制空型戦闘機が時速850kmで侵入してまいりました。火力誘導班により照射されたレーザーにより、誘導爆弾を投下します』

 

「なっ・・・!?」

「何じゃと!?な、半田殿!今850km言ったか?聞き間違いでは無いのか!?」

 

ハンキが興奮して半田に話しかける。

 

「はい、間違いございません。時速850kmとアナウンスしていました。」

 

左方向から無音で、飛行物体が飛んで来た。来賓席に近づいた頃、漸く音が聞こえ始める。

 

「何と言う速さだ!」

「これが、マイハークを飛んだ【鉄龍】かの!」

 

ハンキたちが吼える。

 

「いいえ、件のアレは哨戒機でして、こちらは戦闘機です!戦う為の飛行機です!!」

 

周囲の音に負けじと、半田も吼える。

 

―――イィィイイイィイイイイ!!

 

マットな質感に覆われた大型のステルス機―――第六世代戦闘機【F-3】はウェポンベイより爆弾投下後、垂直に近いのではないかと思うほどの軌道で上昇を始める。主翼上部には一部剥離した空気が白い雲を作り、翼端では主翼下部から上部へ周り込む空気によって白い航跡を引く。

 

―――ゴオォォォオオオオオォオッ!!

 

雷鳴の様な轟きが周辺一帯に響き渡る。機体の後ろからは赤い炎が二つ見える。アフターバーナーの点火。その飛行機は短時間の内に、蒼穹の大空へと消えて行った。

 

「「・・・」」

 

ハンキもヤゴウも、初めて見る戦闘機に絶句している。

 

空中で投下されたレーザー誘導爆弾は、レーザーにより照射された目標に向かって微調整を繰り返しながら、目標に向かって突き進み、着弾。これまた大きな爆発音が響き、着弾地点には50m程のキノコ雲が出現した。

 

『右手上空をご覧ください。先程の【F-3】が戻ってまいりました。』

「え、もう!?」

『【F-3】は時速600kmほどで進入し、皆さまの前で旋回します。この間、パイロットは旋回中、大きなGがかかります』

 

F-3が客席前で大きく旋回する。

 

「これ程の運動性能を有しているのか・・・」

 

そのまま上昇

 

「あの体勢から、更に上昇が可能なのか!?」

 

その後もインメルマンターンや宙返りといった、普段の総火演では見られない、空軍機F-3の曲芸飛行。ステルス性能と高運動性を両立したその機体は、さながら灰色に染まったブルーインパルスのようであった。

 

今回のちょっとした曲芸飛行は、使節団員の歓迎の為に行ったが、見学に来た市民たちに好評なら、来年度からは空軍機による曲芸飛行もプログラムに入れる事となる。

 

「・・・なあ、半田殿。あの・・・えふ・・・なんとかという鉄龍は、一体どれくらいの速度が出るのじゃ?よもや、あれが全力ではあるまい?」

「【F-3】ですね、最大速度はマッハ―――音速、つまり音が伝わる速度の2.9倍ですね。音速を超えると衝撃波が出る為、今日の飛行は、時速850kmくらいに抑えていたみたいです。」

「「・・・・・・」」

 

絶句。

 

『―――左手海上をご覧ください。』

 

無言で海上を見ると、巨大船がいつの間にか存在した。灰色であり、砲が一門しかない割には異常に大きな船体を持つ、チグハグな印象を抱かせる船だが。

 

『対地攻撃任務が与えられた駆逐艦【山風】より、通常弾頭のトマホーク墳進弾が発射されます。爆発の際、とても大きな音が発生しますので、注意してください』

『―――トラック№253。トマホーク墳進弾撃ちー方始め!』

『トマホーク模擬墳進弾、撃ちー方始め!』

 

突如、山風と言われた軍船が燃え上がる。すると、もうもうと発生した白煙から、光の矢が放たれた。

 

トマホーク模擬墳進弾は【山風】より発射されると、安定翼を展開して、設定された目標である白の台に向かって突き進む。そして、

 

『トマホーク模擬墳進弾命中!』

 

先程F-3が投下した爆弾よりも大きな爆発が発生し、100mを超えるキノコ雲が発生。遅れて、爆発音と共に衝撃波が観客席にまで到達し、ハンキ達は恐れおののく。

 

見学しに来ていた帝國民たちは興奮のあまり歓声を上げた。

 

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

【66式155mm自走榴弾砲】

CI-5(CI-4の後継)と射撃管制装置を装備して、走行射撃が可能となった自衛隊の99式の様な物。

通常最大射程は40km。特殊弾使用時の最大射程は70km。なお、現在は更に高射程化を目指した特殊弾の開発中である。

 

【AH-23Cヤンマ攻撃ヘリコプター】

AH-64Dをイメージして自国生産された攻撃ヘリコプターだが、二重反転ローターやステルス性の付与などにより外見はアパッチに全く似ていない。しかし、出力が大幅に上昇したため重装甲化。並みの攻撃では胴体を抜くことが困難となった。

武装

・30mm単銃身機銃

・00式短距離空対空誘導弾(射程約40km)

・01式短距離空対地誘導弾(射程約40km)

・70mm無誘導弾収容器(一対16発ずつ)

 

【06式短距離空対空誘導弾】

装甲車に搭載された短距離誘導弾。

射程は50km

 

【1式強化外骨格】

人工筋肉等によるアシストにより60kg超過の装備を身に纏いながらでも16kmの速度の走る事が出来る【0式補助強化外骨格】の12.7mmまで耐えうるセラミック装甲を備えた戦闘用パワードスーツ。装着式のバッテリーは24時間持つが、様々な戦闘行動により消費電力が異なる為、実質稼働時間は12~16時間程度。体温を電力に変換する発電装置も初期から搭載されているが、効率はそれ程良い訳では無い為、5時間の充電で30分ほどしか稼働出来ない。

武装

・12.7mm重機関銃

・その他各種装備

 

【F-3】

主に制空戦闘に重心を置いた制空ステルス戦闘機。派生型として制海型が存在する。制空型だが対地攻撃も可。ステルス性能が極限まで洗練されており、並みのレーダーには影すら捉えられない。戦闘行動範囲の拡大により大型化、それに伴いウェポンベイの拡大により様々な兵装を備える事が出来る。

武装

・20mm多銃身機銃or指向性高出力レーザー各種一門

・20式長距離空対空誘導弾(射程150km強)

・10式中距離空対空誘導弾(射程100km)

・00式短距離空対空誘導弾(射程40km)

・500kg無誘導爆弾

・500kg誘導爆弾

・8式燃料気化爆弾

制海型

・20mm多銃身機銃or指向性高出力レーザー各種一門

・10式中距離空対空誘導弾(射程100km)

・00式短距離空対空誘導弾(射程40km)

・30式超長距離空対艦誘導弾(250km強)

 

駆逐艦【山風】

対地、対空、対艦、対潜戦闘を卒なくこなせる汎用性の高い帝国海軍が保有する駆逐艦。汎用性の高さから、姉妹艦が世代が違えど40隻以上存在するベストセラー傑作艦である。

武装

・127mm速射砲一門

・20mm多銃身独立動作式機関銃二門

・12.7mm機銃四門

・垂直発射装置68セル

・30式艦搭載型超長距離空対艦誘導弾発射機4門×二機

・533mm単魚雷発射機三門×二機

・その他チャフなど

 




基本【日本国召喚】の流れで進みますので、この先どの様な事が発生するかは殆どの読者さまは知っていると思います。なので、もしこれから先のお話に出して欲しい兵器とか話でもありましたら感想から意見をお願いします。

―――意見されたものでも、必ず書くわけではありません。

あと、専門的過ぎるもはちょっとご勘弁を(にわかですのでw)


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7話 帝都【日之出】へ

おはようございます!


その日のハンキの日記より

 

街にあふれる巨大な建築物、そして巨大な空中回廊(高速道路と言ったか)、筒如何と呼ばれる大規模流通システム。凄まじいまでの建造物群を作る日乃本帝國と言う国が、私は恐ろしい。

 

しかもここは、日乃本の首都では無く、一地方都市にすぎぬと言う。驚愕よりも上の言葉が欲しい位である。

 

【えふ3】と呼ばれた戦闘用の鉄龍は、音の速さの2.9倍で飛行し、上昇力も途轍もない。それだけの超高速の性能を持ちながら、戦闘行動半径も2000kmを超えるという化け物だ。彼等から見れば、ワイバーンなんて止まった的だろう。案内役の半田殿に聞いて見た所、あの鉄龍は海上や陸上の対地攻撃支援も可能だそうだ。

 

マイハークに侵入した鉄龍は脅威であったが、彼等の真の実力はあんなものではない。

 

戦闘用鉄龍であれば、マイハークに侵入した鉄龍は余裕で街を壊滅せしめる。つまり、彼等のマイハーク侵入は本当に哨戒活動に過ぎなかったと推測できる。

 

鉄龍だけではない。陸上戦力も驚異的であった。火砲と呼ばれる化学の力で発動する魔道砲を装備した、鉄の地龍が10km先の標的を動きながら攻撃して命中させるのだ。あれの射程は最大70kmであり、補助があればほぼ100%の命中率を誇る。現在は更なる超射程弾の開発をしている様であり、どれ程の射程距離かは詳細を教えてもらえなかったが100kmは超えるのではないだろうか。

 

回転翼機といったトンボの様な飛行機械が存在した。アレはワイバーンでは体力の損耗が激しすぎるホバリングが出来たり、連射できる魔道砲を撃ち出したり、その攻撃に耐えられる重装甲を誇る。更に誘導魔光弾を発射できる様だ。

 

そう。日乃本帝國は彼の魔帝の様に【誘導魔光弾】を実用化していた!

 

残念ながら艦砲の射撃は見られなかったが、陸上で激しく動きながらほぼ100%命中させる技術を艦砲に取り入れて居たら、小型の陸上機械であのような驚異的性能を誇るのならば、何倍も面積の大きい船には余裕で搭載できよう。もしかしたら、その大きさに比例して更なる超性能が詰め込まれている可能性がある。

 

この艦船にも誘導魔光弾が搭載されており、聴くところによれば【駆逐艦】と呼ばれる艦種を含めたそれ以上の大型艦は大体100発近くの誘導魔光弾を搭載しているらしい。

 

日乃本帝國とは、友好関係を絶対に築かなければならない。彼等を敵に回すなど、文明圏の列強国を敵に回すよりも恐ろしい。彼等とは、間違っても敵対してはならない

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

ホテル新日航 スイートルーム

 

「なぁヤゴウ殿。日乃本帝國をどう思う?」

「そうですね・・・一言で表すなら【豊か】ですね、呆れる程の・・・」

 

ホテルの中は、あの飛行客船の様に温度が一定に保たれており、これほどの規模の建築物全体を温めるのに、一体どれ程の燃料が必要なのか想像もつかない。それに我々が宿泊する部屋だけでなく廊下や玄関などもだ。捻るだけでお湯が出る機械がある。スイッチ一つで照明を操作できる。トイレも臭くない。

 

ヤゴウはこれまでに体感した居住設備だけで、驚くという感覚自体が麻痺を起こしそうになっていた。

 

しかし総火演で後頭部を殴られる様な衝撃を受けた後も、ホテルに戻って夜を迎えてから更に未知の世界を体感する事になった。

 

外に出れば無人販売機械が存在し、冷えた飲み物や、場所によっては酒も提供される。夜間開いている店舗では調理済みの料理や衣類が提供され、その品質も高い。大きな店の食品売り場では、常に新鮮な食材が並んでいる。夜間の大通りも非常に明るく、カンテラ無しでも問題が無い。

 

そして、治安が途轍もなく良い。話に聞いていた【自律治安維持AIロボット】も拝見した。とても機械の様な動きでは無く、人間の様に自然な歩行に驚き、更に人工精霊とまさかの会話が出来るという驚愕。しかも活舌が良く、本物の人間と話している様であった。このようなロボットが数百体もこの街に存在しているらしい。

 

不眠不休で動作し続ける治安維持ロボットが存在するならば、この様な治安の良さも納得だろう。

 

「・・・我が国と比べて、全ての生活水準の次元が違う。悔しいが、国力の違いを感じます。」

 

一旦区切り、かぶりを振るうヤゴウ。その目には畏怖が浮かんでいる。

 

「総火演には驚かされました。圧倒的な力の差を見せつけられた思いです。日乃本を敵に回してはいけない」

「やはり同じ思いか・・・あの戦闘型鉄龍の前には、ワイバーンの空中戦術は無意味じゃろう。明日は首都に出発じゃな。日乃本は心臓に悪いよ」

「私も恐ろしいですが、一方でわくわくしてますよ。この様な国が突然近くに現れ、しかも自分達以外を見下しきっている文明圏よりも高度な文明を持っている。その最初の接触国が我が国とは・・・彼等に覇を唱える性質が無ければ、これは幸運です」

 

ヤゴウとハンキは深夜まで語り続けた・・・

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

翌日

 

新しい朝。雲は高く、空気は澄んでおり、遠くまでよく見える。

パリッとした服―――スーツと言うらしい―――の男が一人、ホテルのロビーで待機する使節団の前に現れた。

 

「皆さん、おはようございます。昨日は良く眠れましたか?」

 

半田が集まった使節団に話しかける。

 

「本日は朝食の後、午前10時から帝都【日之出】での事項について説明があり、11時30分にホテルを出発。12時に博多発日之出行きのリニア新幹線に乗車してもらいます。18時07分には日之出に付きますので、その後は・・・」

 

説明が続く中、ヤゴウが日乃本帝國に来て毎日実感するのが、時を刻む概念がはっきりしている事だ。腕時計という精密な機械が使節団員全員に配られており、一秒単位で正確に測れるとあって正に驚愕。そもそも、時計とは持ち運びできるサイズでは無く、腕時計など、その様な概念すらなかった。

 

それに、この配られた腕時計は【でんぱそーらーうぉっち】と言うらしく、これは光がある限り動き続け、誤差は日乃本に居る限り10万年に1秒しかないという。なんと形容すればいいのか。仕組みすら理解出来ない、摩訶不思議な魔法道具である。

 

代わりにと言っては何だが、ヤゴウは時間について一つ質問する事にした。

 

「半田殿。博多と日之出は3000km以上離れていると聞いて居ましたが・・・今日乗るリニア新幹線と呼ばれる乗り物は、地上を高速で走る乗り物と聴いています。」

「その通りでございます。なにか、懸念される事でもございましたか?」

「18時07分というのは何ですか?分までそんなに正確に計算できるものなのですか?」

「はい。災害や事故が無ければ時間通りに到着します。」

(どうやら、本当に我々の常識で日乃本帝國を測ろうとしてはイケないらしい・・・)

「わかりました。ありがとうございます」

 

その後、特に何も無く確認が終わり、使節団を案内する半田を先頭に、博多駅まで向かう事となった。

 

史実であれば此処でタクシーに撥ねられた女性を、ヤゴウが魔法にて治療する事となったが、まだ魔法が使えない事を漏らすのは良くないと考えた晴香により、使節団が通るルートの通行止めが行われていた。

 

それが幸いし、事故も起こる事無く、無事に駅へと到着した。これより、使節団員たちは超高速のリニア新幹線を体験する事となる。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

東海道 山陽新幹線 車内

 

「そ、それにしてもハンキ様、この【りにあ新幹線】とは、速い物ですね・・・」

「・・・そうじゃな。ワイバーンの数倍の速度を地上で走ると言う、何とも形容し難い現実よ・・・」

 

ハンキが視線を向けた先には、この車両の現在速度が表示された画面が存在す。そして、其処には赤い文字で【803km】と、表記されている。ワイバーンの最高速度の実に約3倍だ。

 

陸地をワイバーンより速く走ると聞いて、何を馬鹿なと思って居たハンキ将軍は、実際に体験してみると考えるのを止めた。

 

開いたのである。悟りを。

 

「しかし、これほどの速度で走っているのに中は殆ど揺れず、座り心地も良くて快適そのものじゃ。だが、これほどの速度、事故が怖いのぅ・・・」

「リニア新幹線は開業以来、事故が原因の死者はいないらしいです。日乃本帝國で最も安全な乗り物だとか」

「う~ん・・・信じられんのう。そう聞いてもやっぱり不安じゃ」

 

小型の窓から外を見れば、建造物が残像を描いて後方へと消えて行く。もし事故が発生したら。そう考えると不安でしか無かった。

 

不安を抱える5人を乗せ、新幹線は今日も安全に走行する。

 




日本のリニアは600km位で抑えるようですね


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8話 国交締結に向けて

こんにちは。少し短いです


ヤゴウの日記より

 

我々はリニア新幹線に乗って幾つもの大都市を通り過ぎ、日乃本帝國の首都【日之出】にやって来た。道中の地方都市でさえ文明圏にひしめく列強国の首都を遥かに凌ぐ発展度であったが、日之出は正に次元が違う。

 

通路を抜けると、其処は摩天楼であった。

 

ビルと呼ばれる高層建築物の高さも天を貫かんばかりであり、我が国の有名なエージェイ山(海抜高度539m)を凌ぐ建造物が現実に、しかも幾つも存在している。最大の建築物で海抜高度1003mであるらしい。

 

私は、このような巨大な建造物群を作り出す国に使節団として派遣され、明日実務者協議に臨む。我が国の国益の為、最大限の努力をするつもりだ。

 

重責だが、このような歴史的瞬間に立ち会えることは幸いである。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

翌日 日乃本帝國、クワ・トイネ公国 実務者協議

 

日乃本帝國政府は、この世界の情報を何よりも優先して確保する為に、手始めに【クワ・トイネ公国】を利用してこの世界を知ろうとしていた。そして、十分に諜報員を派遣できる体制を整える為に協議を行う。

 

その結果、大して必要でも無いが有っても困る事の無い食料を年間約500万トンほど輸入することになり、その大量の食糧を我が国に輸出させる為の港湾設備の整備、及び穀倉地帯を繋ぐ線路の敷設などのODAを行う事となったが、クワ・トイネ公国がその他の他国に掛け合ってくれると言うのも条件に入れるとこの様な形となった。

 

直接軍艦に外交官を乗せて派遣するよりも、クワ・トイネ公国より一報という形で既に知らせておいた方が、彼方も軍艦が来て大慌てする心配がない。

 

そして、政府が援助して港湾設備の整備を行うと言う大義名分を手に入れる事が出来た日乃本政府は、これを利用して諜報員を数名、秘密裏に派遣する事になる。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

「半田殿。日乃本帝國は文字通り帝政であろう?皇帝とはどのような御方なのだ?」

 

ヤゴウは本日の実務者協議が終了した後、ふと、思い出す。この国の皇帝(imperial)とはどのような人なのか、と。この様な五大列強国すら足元にも及ばないであろう超大国の長であり、もはや認めるしかない我が国との格差があろうと、平等に接しる事の出来る寛大さ。さぞや偉大な方なのだろうと、晴香陛下の存じぬ所で株が上昇していた。

 

「陛下ですか?御写真が御座いますので、其方をご覧頂きましょう」

 

ヤゴウの他にも気になっていた使節団員たちが、半田の下に集まると、半田は空間ディスプレイを起動させ、晴香の写真を表示させた。

 

「「「!?!?」」」

 

空間ディスプレイには、12~4歳程の幼い面影しかない少女がソファーに座っていた。前面にフリルのあしらわれた純白のドレスシャツに、これまたフリル付きの黒色プリーツスカート。その上から純白に青のラインが入ったロングコートを羽織っている。足元はショートブーツにニーソ。装飾はダイアモンドとブルーサファイアのあしらわれた銀のティアラ一つのみ。

 

皇帝の衣装としては控えめ・・・否。国民に示しがつかないのでは?と疑問を抱かせるレベルで質素な衣装で有る事も驚いたが、それよりも・・・

 

「「「お、女の子!?」」」

 

超大国の長は、想像していた威厳溢れる初老の男だとばかり思っていた使節団の予想の、遥か斜め上をいっていた。そんな使節団員たちの反応に、写真を見せた半田や、周りにいた情報省や農林水産省の幹部らが苦笑いを浮かべる。

 

「いえ、容姿は少女ですが57歳の女性ですよ」

「「「57っ!?」」」

 

晴香がこの国を建国してから現実世界では約3年の月日が経過したが、ゲーム時間では約44年か経っていた。(13歳として登録したため)

 

ゲームでは設定した容姿から老化等の現象で歳を取ることが無かったので、57を過ぎても少女のままなのである。

 

この世界はゲームではないので老化しないとも限らない。それは経過観察である。

 

閑話休題

 

と、皇帝が少女であると知った使節団員たちは度肝を抜かれた。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

10日後

 

クワ・トイネ公国ならびに日乃本帝國に置ける同意事項

・クワ・トイネ公国は日乃本帝國に必要量の食料を輸出する。

・日乃本帝國はクワ・トイネ公国のマイハーク港の拡充、マイハークから穀倉地帯までのインフラを、日乃本帝國の資金で整備する。

・日乃本帝國及びクワ・トイネ公国は、国交締結に向けた話し合いを継続する。

・為替レートを早急に整備する。

・日乃本帝國はクワ・トイネ公国からの食料一括購入の見返りとして、今後一年間はクワ・トイネ公国のインフラ(水道・ガス・電気)の整備を行う。その後は食料額に応じた対応を行う。

・日乃本帝國、クワ・トイネ公国は不可侵条約締結に向けた話し合いを継続する。

・日乃本帝國とクワ・トイネ公国の交流は、日乃本帝國が用意する洋上都市にて行う事とする。

 

日乃本帝國本土では【新世界技術流失防止法】等に制限される物が溢れている為、それらを入国者に渡さない為に、メガフロート技術を応用して海上都市を築き、そこで漏洩しても良い技術のみの製品の販売や、他国との交流を行う事となる。

 

本土からの海洋都市移民者及び旅行者に対しては、高度な技術的遺物の持ち込みを制限される事となる。その変わり、税金の低減、治療費無償などの対応が取られる。政府が不便を強いるのだから当然の対応と言えよう。

 

日乃本帝國とクワ・トイネ公国は良好な関係を築くことが出来た。今後切っても切れない友好関係を築き、運命共同体となって、この世界の奔流に呑まれる事となるのだが、この時はまだ晴香だけが知って居る・・・

 




プロローグ終了。次回より二章【動乱】編です


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一章  【動乱】
9話 帝国会議と御前会議


おはようございます!


中央歴1639年3月22日午前 クワ・トイネ公国

 

日乃本帝國という国と国交を結んでから、一ヶ月が経とうとしていた。

 

クワ・トイネ公国はこれまでの歴史上、もっとも変化した一ヶ月であった。

 

2ヵ月前、日乃本帝國はクワ・トイネ公国と国交締結してから、クワ・トイネ公国の仲介の元、隣国のクイラ王国と二国にほぼ同時に接触して双方と共に国交を結んだ。

 

日乃本帝國からの食料の買い付けの量は膨大な量であったが、大地の神に祝福された土地を有するクワ・トイネ公国は日乃本からの受注に―――種類によっては無理なものがあるものの―――特に困る事無く応える事が出来た。

 

クイラ王国は元々作物が育たない不毛の大地だったが、日乃本帝國の調査によれば地下資源の宝庫らしく、鉱物や原油と言った大量の資源を、クワ・トイネ公国と結んだ通商条約とほぼ同じ条件で日乃本帝國に輸出する事を決定。さらに日乃本帝國の技術供与を受けて採掘を開始した。

 

一方、日乃本帝國はこれらを輸入する代わりに、やはりと言ってかインフラを輸出する。

 

大都市間を結ぶ、石畳が進化してつなぎ目の無い道路。そして鉄道と呼ばれる大規模輸送システム、さらに大規模な港湾施設が築かれようとしていた。これらが完成すると、国内での移動が活発になり、今までとは比較にならない発展を遂げるだろうとの試算が、経済部から首相カナタの元へと上がってきている。

 

武器の輸出も求めたが、こちらは法で禁じられているとの事で応じてもらえなかった。それならばと各種技術の提供も求めたが、日乃本帝國には新たに【新世界技術流出及び漏洩防止法】【技術輸出及び移転制限法】と呼ばれる法律が出来たため、様々な技術の輸入が困難となってしまった。

 

しかし『火器は無理ですが・・・』と、クワ・トイネ公国在住日本大使の半田殿が我が国に、軍事技術では無いが一応武器として使用可能な、と言うか我が国では主力と言っても差し違えない剣や弓等の輸出は出来ると言われ、その現物を数本、輸出モデルとして掲示されたが、これには政府も軍部も驚愕した。

 

半田殿が用意したのは、ヘンテコな形状をした弓矢と、直ぐに折れそうな細剣、槍の様で違う大きな包丁を括り付けた棒のような何かであり、集まった重鎮は皆一様に訝し気な表情を浮かべたが、使用してみると途端、用意されたものが超技術の産物であると強制的に認識された。

 

【こんぱうんどぼう】と呼ばれた、端に輪っかが付いており、複雑に付けられた舷の弓とは思えない形状のこの武器は、有効射程距離が200mという超長射程に加え、威力は公国が用いる青銅鎧を易々と貫く。【ぽんど】という威力調整の様なモノの数値を上げると、最大飛距離は1000mを超えると言う矢とは思えない超兵器である。

 

【日本刀】と呼ばれた、細く反りのある細剣は、叩き付ける剣ではなく【斬る】剣であり、包丁で野菜を切るように様に、案山子に向かって振り抜くと、有り得ない事に案山子は横一閃で上半身が泣き別れ。

 

【薙刀】と呼ばれた、日本刀の刃の構造をした刃を、棒の先端に括り付けた様な槍も、同じように対象を切り裂く事も、突き刺す事も、間合いを十分に取る事も出来る優れものであった。

 

その結果、財務局が許す限りの予算で大量注文が入った。現在クワ・トイネ公国はロウリア王国との緊張状態が過去最低レベルで悪化の都度を辿っているので、かなりの予算が下った。刀剣類の所持が比較的緩い帝國では、刀剣類所持資格さえ持っていれば所持出来るので刀剣類界隈はそれなりに盛んだが、この大量注文には業界もてんてこ舞いする事となるが、それはまた別の話。

 

火器は残念であったが、それでも日乃本帝國から入ってくる便利な物は、クワ・トイネ公国、クイラ王国の生活様式を根底から変えるものばかり。いつでも清潔な水が飲めるようになる水道技術(元々水道はあったが真水ではとても飲めるようなものではなかった)、夜でも昼間の様に辺りを照らして、様々な機器の動力となる電気技術、手元のスイッチを操作するだけで火が灯り、一瞬で温かいお湯を沸かすプロパンガス。余らせていた資源と引き換えにするには十分な新技術の数々。

 

まだ一ヶ月しか経っていないので、大規模に普及していないが、それらのサンプルを見た経済部の関係者は驚愕で、放心状態になったという。国が途轍もなく豊になる、と。

 

「凄い物だな、日乃本帝國という国は。明らかに三大文明圏を超えている。もしかしたら我が国の生活水準も、三大文明圏を超えるやもしれんぞ」

 

カナタが興奮冷めやらぬ語気で秘書に語り掛ける。使節団が戻って来て以降、彼はずっとこの調子だ。

 

「辺境国家が文明圏内国を超える生活水準を手に入れるなど、世界の常識からすれば考えられない事ですが、使節団の報告書・・・何度読んでも正直信じられません。もしもこれが全て本物ならば、国の豊かさは本当に文明圏を凌駕すると、私は思います。」

「ははは。私は年甲斐ものなくわくわくしてしまったよ。少年の頃の心を取り戻したかのような気分だ。私が首相の時に国が劇的に発展する・・・これ以上他にやりがいのある仕事はあるだろうか」

 

カナタと秘書は、この国の行く末を見据え、期待に胸を躍らせていた。

 

しかし、戦雲の怪しい影が、徐々に迫って居る・・・

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

日乃本帝國 帝都【日之出】 帝國議会

 

 

全員が会議室に集まり、開始時間となったので、桂木情報大臣が話し始める。

 

「―――それでは報告させていただきます。現在のロウリア王国・・・いえ、武装勢力ですね。」

 

何れ戦争になると理解していた晴香が外務省に根回しして、外交官らを【ロウリア王国】に派遣しておらず、日乃本帝國は彼の土地に住まう人々を国と認証していない為、それが完全に国で有ったとしても武装勢力と認定している。国交締結してないので武装勢力!という史実日本と同じ様な対応である。

 

「情報省構成員を秘密裏に派遣し、重大な情報を確保しましたので、此方のディスプレイをご覧ください。」

 

巨大ディスプレイに映し出されるは、豪華絢爛な装飾が施された中世の城の中のような、歴史を感じる会議室内。映し出される会議室に集まる人物たちは、衣装や装飾が凝っており、いずれも有権者か貴族か。そして、映像越しにもわかる程の覇気を纏う人物が、王座のような椅子に座っている。

 

「武装勢力圏の暫定首都【ジン・ハーク】の、武装勢力最高権力者の住まう【ハーク城】内部の会議室の一室です。この映像は、この武装勢力の行く末を決める御前会議です。参加者の名前ですが―――」

 

・ロウリア王国第34代目大王、ハーク・ロウリア34世

・王国防衛騎士団将軍、パタジン

・宰相、マオス

・三大将軍、パンドール

     、ミミネル

     、スマーク

・王宮主席魔導士、ヤミレイ

 

その他国の幹部たち。

 

「この中の真っ黒なローブを纏った、その、気持ちの悪い者は表向きは五大列強の一国【パーパルディア皇国】の使者とだけで、素性が判りません―――」

「その黒ローブは【パーパルディア皇国】の第三外務局隷下の国家戦略局局員の人だよ~」

 

桂木の言葉を遮って、この場に似合わない可愛らしい少女の発言したのは、何を隠そうこの国の最高権力者、晴香陛下である。確か2巻で明らかになる事実だったかな?なんて思い出しながらの発言だったが、この場にいた閣僚たちは『何故知っている!?』と、引きつった表情をしていた。

 

それは桂木情報大臣もであり、桂木隷下の特殊構成員である王城に忍ばせた者ですら確かめられなかった情報を、映像も今回初公開なのに何故か知って居るからである。

 

「・・・何処で、その事を?」

「秘密っ♪」

 

エージェント、と名高い部下ですら得られなかった情報を何故か知って居る陛下ちゃん(57歳)。若干震え声で問いただそうとした桂木大臣に各省庁の閣僚が同情の眼差しを向けた。

 

皇族であり、日乃本帝國の皇帝たる晴香は、閣僚にすら言えない秘密がある。それは、この世界がどういった世界で、今後どのような事が発生するのかと言った未来知識を有している点だ。覚えている内容を出来るだけ紙媒体に記録し、それを今後に役立てるべく暗躍中であるが、先程言った国家戦略局局員の事も、その情報の一つである。

 

仮に本当の事として『本で読んだ』なんて言っても信じる人はいないだろう。

 

「それより続き続き」

 

なので、取り敢えずにっこり笑っては話を逸らした。皇帝とはいえ、見た目は10代前半の少女そのもの。無邪気に見える笑顔も武器の一つだ。

 

しかし、このような国家機密級の会議に紛れ込む形で参加できたエージェントも流石と言えよう。名も知らぬ彼は、泣いていい。

 

「あ~、え~それでは再開し、映像を流します」

 

物凄く気になる!でも、聴いたらヤバそう!と言う葛藤に悩まされ、同情の眼差しを向けられる桂木大臣は居心地が悪そうにデバイスより再生ボタンを押した。

 

『―――これより会議を始めます』

 

宰相マオスが進行で、厳かに口火を切った。

 

『まずは国王からお言葉があります』

 

国王ハーク・ロウリア34世が話し始める。

 

『皆の者。これまでの準備期間、ある者は厳しい訓練に耐え、ある者は財源確保に寝る間も惜しんで奔走し、またある者は命を賭けて敵国の情報を掴んで来た。皆、大儀であった。亜人―――害獣共をロデニウス大陸から駆逐することは、先々代からの大願である。その意思を継ぐ為、諸君らは必至に取り組んでくれた。まずは諸君らの働きに礼を言う』

 

王は少し頭を下げた。

 

『おお・・・・・・』

『なんと恐れ多い・・・』

 

皆が恐縮する中、王は続ける。

 

『全ての準備が整ったと報告を受けた。諸君―――会議を始めよう』

 

両会議室が静寂に満ちる。晴香たちは、映像を無言で見守った。



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10話 派兵

おはようございます!


会議室が静寂に満ちる。これまでの戦争とは一味違う、初めて開始する戦略戦争の前夜のような、極度の緊張感に包まれた。

 

マオスは今作戦の責任者である、将軍パタジンに向かって話しかける。

 

『まず・・・ロデニウス大陸統一は目前です。ただ、クワ・トイネ公国とクイラ王国には強い絆があります。同盟を組んでいると差し支えないほどで、片方に戦争を仕掛ければもう一国も参戦してくる可能性が高い。つまり二か国を同時に敵に回す事に成りますが、将軍は二国を相手にしても勝てる見込みはありますか?』

 

白銀の鎧に身を包んでいるが、その鎧の上からでも鍛え抜かれた筋肉が確認できる程の体格を持つ、黒髭を生やした30代ほどの男、パタジンは自信に満ちた表情で答える。

 

『一国は農民の集まり、もう一国は不毛の地の貧国。何方も亜人比率が多く、結束は弱いでしょう。負ける事はありませぬ。数においても質においても我が方の優位はゆるぎない。宰相、ご安心召されよ。作戦概要については会議後半にて説明いたす。』

『わかりました。』

 

将軍パタジンは逆に、宰相に懸念事項を確認する。

 

『宰相殿、クワ・トイネ公国及びクイラ王国と国交樹立したと言われる新興国【日乃本帝國】とかいう国の情報はありますか?』

 

晴香の指示によりロウリア王国との接触を避けていたが、クワ・トイネ公国やクイラ王国内にロウリアの構成員でも居たのだろう。例え情報が漏れていたとしても、今後の対応に支障はない。

 

『ロデニウス大陸のクワ・トイネ公国から東に約1000kmの沖合に出来た新興国家だそうです。1000kmも離れていることから、軍事的に影響があるとは考えられません。間者により情報を集めさせましたが、何でも【クワ・トイネ公国でワイバーンを初めて見た】と証言したと報告が上がっています。竜騎士の存在しない蛮国なのでしょう。情報はあまりありませんが』

 

ワイバーンはこの世界に置ける唯一と言っても差し支えない、軍隊の航空戦力だ。そのワイバーンがいないということは、地上、洋上における火力支援が受けられない。空爆だけで騎士団は壊滅しないが、常に火炎弾の脅威にさらされ続ける為、精神力が持たない。

 

「そりゃワイバーンなんて初めて見るよ」

「元の世界には居ませんでしたからね・・・」

 

晴香の発言には皆、苦笑いを浮かべるしかない。ゲームの中とは言え、現実世界がモデルになっていたこともあり近SF要素は在れどファンタジー要素はなかった。なので、ワイバーンやドラゴンといった存在は全て架空のもの。この世界に来て初めて見るのも当たり前だ。

 

ワイバーンがいない蛮国と言われたが、ワイバーンを超える航空戦力を保有していることを知らない彼等が滑稽に見え、そしてこれからの戦争で、日乃本帝國の本当の航空戦力を漸く知る事になるだろうと思うと、なんだか不憫に思えてくるのだ。

 

「三河国防長、対ワイバーン兵器の開発状況は如何なってるの?」

「あ~砲は簡単な調整で問題なし。誘導弾タイプは低速目標で、高度な空戦機能も有さないワイバーンなので大量生産向けの安価な誘導弾を試験中。」

「そう、結果がでたら教えてちょうだい。試験だったら、今回派遣する第三艦隊を使って」

「へい。」

 

対ワイバーン兵器とは、第4~6世代機を攻撃出来る高価な誘導弾では無く、低速目標だけにしか使えないがとても安価な誘導弾だ。他にも高出力指向性エネルギー兵器(レーザー兵器)で撃ち落とせるのかが不明なため、これは実戦で検証するしかない。

 

この世界の約9割が航空戦力としてワイバーンを運用しており、多機能で高価な誘導弾で落とすより、より安いコストで迎撃出来た方が無駄にお金を使わないので、コスパがよろしい。

 

『そうですか。では万が一、クワ・トイネ公国が日乃本帝國に助けを求めたとしても、大したことは出来ないでしょうな』

 

パタジンは口の端の片方を釣り上げた。

 

反対に日乃本帝國側は苦笑いした。たかが1000kmである。

 

『しかし、我が代でついにこのロデニウス大陸が統一され、忌々しい亜人共を根絶やしに出来ると思うと、余は嬉しいぞ』

 

ハーク・ロウリアが嬉しそうに発言する。

 

『大王様。統一の暁には、あの約束もお忘れなく―――くっくっくっ』

 

薄気味悪い声が、横から口を挟む。

 

『わかっておるわ!!』

 

本来の王の性格であれば、気味の悪い男をその場で切り捨てている所だ。しかし、今回の作戦はパーパルディア皇国の軍事支援を受けている為、使者を無下に扱う事が出来ないのだろう。

 

『コホン・・・将軍、作戦概要説明を頼みます』

『はっ!説明いたします』

 

席を立ったパタジンは会議室の中央に進み出ると、一段低くなった床に置いてある、ロデニウス大陸の地図の乗ったテーブルに駒を並べて行く。

 

『今回の作戦用総兵力は50万人。本作戦でクワ・トイネ公国に差し向ける兵力が40万人、のこりは本土防衛用兵力となります。初戦、クワ・トイネ国境から近い、人口凡そ10万の都市【ギム】を強襲制圧します。なお兵站については、現地調達いたします』

 

帝国陣営の表情が強張る。【現地調達】―――つまり、略奪だ。中世レベルの軍隊による略奪と言えば、食料は無論のこと、女の強姦、人攫い、不要な気まぐれの殺人など、堕とした町から徹底的に人間を含めた財産を簒奪することだ。現代の軍隊では在り得ない非人道的行為が横行することとなる、決定である。

 

ロウリアの領土に置いた、騎士団を表す五つの大きな駒。そのうち四つをギムへと移すパタジン。クワ・トイネ側にも駒が複数あるが、どれも小さい。

 

『ギム制圧後、東方55kmの城塞都市エジェイを全力攻撃します。540km離れた首都クワ・トイネは、我が国のように街ごと壁で覆う城壁は持ちません。クワ・トイネ公国で最も堅牢なエジェイを攻略すれば、後は町や村を落としつつ進軍するだけで終わります』

 

ギムに置いた駒で首都を包囲すると、今度は串で高さを付けた駒と海上の船の駒を動かしながら説明を続ける。

 

『彼等の航空戦力は、我らのワイバーンだけで十分対応可能です。それと並行して、海からは艦船4400隻の大艦隊を北方向に迂回させ、マイハーク北岸に上陸、経済都市マイハークを制圧します。食料をクワ・トイネからの輸入に完全に頼っているクイラ王国は、この時点で全供給が止まって脅威では無くなります。』

 

・・・と、パタジンが語るが、少々事情が異なる。日乃本帝國はクワ・トイネ公国を経由してクイラ王国と国交締結をした。その際の条件の中に、日乃本帝國は地下資源を求め、代わりにクワ・トイネと同様にインフラの輸出を行っており、その中には大規模流通システム【鉄道】も含まれる。

 

クワ・トイネ公国とクイラ王国は非常に高い友好関係にあるので、満場一致で【クワ・トイネ公国=クイラ王国間直通鉄道】としての開発がスタート。現在では主要都市間が既に繋がれている為、連日大量の食料がクワ・トイネ公国側からクイラ王国に流れている。更に言えば、日乃本帝國より缶詰を含めた保存食も多数輸出されている。

 

なので、ロウリアが攻め込んでも数か月は干からびることが無いのである。

 

閑話休題。

 

パタジンは騎士団の駒の一つを半分に割り、クイラ王国国境へと置いた。

 

『クワ・トイネの兵力は全部で5万。即応兵力は一万にも満たないと考えられます。今回準備した我が方の兵力を一気にぶつければ、小賢しい策を講じようが圧倒的物量の前には意味を成しません。この6年間の準備が実を結ぶ事でしょう』

『そうか・・・』

 

王は先々代からの悲願が達成されると確信し、高揚のあまり歯を見せた。

 

『今宵は我が人生最良の日だ!!クワ・トイネ公国、並びにクイラ王国に対する戦争を許可する!!!』

『『『『『ははっ―――!!』』』』』

 

ロウリア王国の御前会議は、王の戦争開始の号令によって終了した。

 

「―――以上が、今回入手した最重要情報です」

「ありがとう桂木くん。三河国防長、第三艦隊の派遣準備は?」

「抜かりなく」

「三元くん、クワ・トイネとクイラにこの映像を見せてあげて。」

 

三元とは外務省大臣であり、40代程の初老の男性である。とてもダンディーな感じの男性で、何処か危険な香りが漂うと女性職員からかなり人気な人である。晴香から見ても確かにカッコいい。しかし、妻子を持っているにも関わらず狙って来る女性の多さに辟易してるのだとか。

 

「分かりました」

「ん。それで援軍を要請されたら直ちに派遣してちょうだい。志野原総理、皆を纏めてね」

「うむ。任せなさい」

 

60歳と高齢だが、歳など関係ないと言わんばかりにバリバリ働けちゃう凄い人。年齢的みれば57歳と高齢な晴香だが、見た目が完全に子供なので孫娘の様に見ており、偶に飴ちゃんをくれる好々爺である。何故かイチゴ味が多い。

 

「よし、それじゃぁ解散!」

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

クワ・トイネ公国 政治部会 会議室

 

普段の会議室である【蓮の庭園】ではない、数ある会議室の一室。それも最大の大きさを誇る第一会議室であり、室内にはクワ・トイネ公国の国政を司う錚々たる重鎮たちが勢ぞろいしていた。そして、その中には半田と会話した外務卿リンスイと首相カナタ、日本に来たハンキ将軍の姿も確認できる。

 

何故、このような形で勢ぞろいしているかと言うと、日乃本帝國よりクワ・トイネ公国及びクイラ王国の存続に関わる重大な情報を入手したので、それを説明する為に集められたのだ。最近はロウリア王国の動きが活発であり、何時攻めて来るか分からないので厳重体勢の中に有るにもかかわらず、その指揮を執る将軍も出席するという異例の会議。一体どんな情報を入手したのか。【存続に関わる】と言われる程の凶報なのかと、集まったメンバーは戦々恐々とするばかり。

 

内心ではそう思って居るが、表に出さないのは流石首相に将軍なだけある。

 

在鍬日乃本帝國大使として着任した半田は、話し始める。

 

「御集りの皆様。急な会議に出席なさって下さりありがとうございます・・・前置きはこの位にして、我が国の諜報員が得た情報を公開いたしますが、皆さまにとって大変心苦しい映像であります。ご気分がすぐれ無くなりましたら、遠慮なく申してください。それでは、再生いたします」

 

半田が再生ボタンをタップすれば、先日帝國議会で流されたロウリア王国の、戦争の許可の映像である。

 

「「「「「・・・」」」」」

 

視聴した政治部会の参加者たちが沈黙している。日乃本帝國から輸入している武具を持った精鋭だけでは到底かなわない、兵力40万という圧倒的な数の暴力。更に公国の保有数よりも多いワイバーン。4400隻もの大艦隊。

 

それが、兵力5万程度でしかない公国で防げるか?

 

否。無理である。

 

「・・・半田殿。援軍を、頼めないだろうか?」

「本国に問い合わせます」

 

冷や汗を流すカナタ首相は、もはやこの事態は公国で解決する事は到底不可能と判断し、国のプライドよりも国家の存続をかけて援軍を要請した。これに晴香皇帝は即座に肯定し、派遣準備が整っていた第三艦隊の派兵がなされる・・・

 

尚、超技術力を保有する日乃本帝國より派兵させることを知らされると、政治部会の会議室より歓声があがったとか。

 

 



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11話 開戦前

おはようございます!そして、お久しぶりです(汗)


日乃本帝國 静岡県 日乃本帝国統合軍築城(ついき)駐屯地

 

ハーク・ロウリア34世によるクワ・トイネ公国並びにクイラ王国による戦争許可宣言から、5日後。広大な敷地面積を誇る軍港には様々な艦種の軍艦が係留され、空軍が使用するのは4000m級の滑走路五本。陸軍も師団規模の部隊が存在する陸海空軍共用の統合基地であり、日乃本帝國最大の築城基地は、漸く日が上った早朝から喧噪に包まれた。

 

本日、この世界に転移して初めての友人となったクワ・トイネ公国へと【第三艦隊】が派兵として出撃する。軍港には出撃する艦隊へと隊員らが乗り込み、その彼らを涙を浮かべながら家族が見守る。家族とは別に一般人専用エリアには【頑張れ、帝國軍!】【日乃本帝國万歳!】と書かれた大弾幕を掲げる人、桜が国花として描かれる日乃本帝國国旗を振るう人。

 

「―――ご覧ください!国家転移という未曽有の事態から数か月。新たな友人となった隣人を救う為に第三艦隊が出撃します・・・」

「―――第七次日濫戦争から三年。新に転移した今世界にて初の戦争が・・・」

「―――本来であれば戦争は・・・」

 

日本とは大違いのマスコミが全国に生中継を流しながら、第三艦隊出撃を今か今かと待ちわびる。

 

そして。

 

「『第三艦隊、出撃ッ!!』」

―――ボオォォォォオオオオオオッ!

 

今回の派兵の総旗艦となったハイドロゲン水素タービン動力空母赤城型二番艦【加賀】より汽笛が軍港に鳴り響き、旗艦【加賀】に続き、祥鳳型強襲揚陸艦副旗艦【祥鳳】、その他護衛の誘導墳進弾搭載巡洋艦、駆逐艦、輸送艦。総数15隻が後に続く。

 

目指すは、此処から約1000kmに位置するロデニウス大陸。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

クワ・トイネ公国 マイハーク港 中央暦1639年3月27日

 

以前、初めて日乃本帝國と接触したミドリ船長の乗船する軍艦ピーマら三隻に先導される形で、日乃本帝國第三艦隊はマイハーク港へとやって来た。クワ・トイネ公国人たちは自国軍よりも圧倒的な戦力を有するロウリア王国と戦争になるかもしれないと、とても不安に駆られていたが、数百mの鋼鉄船を15隻も派遣してくれた日乃本帝國により、多少ではあるが安心感が芽生え始めた。

 

政治部会第一会議室にて、ロウリア王国の戦争宣言を()()()()()()()で見たハンキ将軍は、兵力差による絶望と同時に「とうとう来たか・・・」と、国の為に覚悟を決めた一人の軍人である。

 

その彼は現在、マイハーク港近隣の砂浜で数十人の部下たちと共に、【ヨウリク】という作業に移る日乃本帝國軍を視察していた。なお、この時には軍事関係者だけでは無く一般市民も指定された範囲内に侵入しないのならば自由に見学しても良いと通達されていた事により、実に千人以上の民間人が見学に訪れている。

 

「やはり大きいですね・・・ヨウリクとは、船が陸に乗り上げる作業の事だと聞いたのですが、あの船が乗り上げるのかな?」

「いや、それは無いだろう。木造船でも重いのだから、鉄船が乗り上げる事は無理だろう。第一、乗り上げたらどうやって海に戻るんだ」

「・・・さぁ?」

 

なんて部下と憶測を交えながら会話しているところ、帝國海軍が揚陸作業を開始する。

 

今回の派兵で派遣された第三艦隊副旗艦である強襲揚陸艦【祥鳳】と同型艦【瑞鳳】は、ウェルドックを開放すると、戦車や榴弾砲を積載したエア・クッション艇を吐き出す。轟音と共にプロペラを回す揚陸艇は、水上を僅かに浮遊して飛翔し、減速しながら砂浜に乗り上げると、其処から搭載車両を上陸させる。

 

「船が陸を奔ってるぞ!?一体どんな魔法を使ってるんだ!!」

「なんという魔道船だ!彼等なら・・・我が国を救ってくれる!!」

 

揚陸艇から現れたのは、ハンキ将軍らが総火演で見学した際に登場した【66式155mm自走りゅう弾砲】や初見の鉄の象【10式戦車改】、その他にも装甲車が多数、浜辺を疾走する。

 

他の物資や隊員たちは大型輸送回転翼機約十機によってピストン上陸させられる。

 

自分達の想像した「ヨウリク」とは懸離れた光景に圧倒される軍民両者。日乃本を己の目で見て来たハンキ将軍を圧倒させるその光景。次々にヨウリクさせられてゆく鉄の象【戦車】等を眺めながら、これは勝てると確信した。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

揚陸した日乃本帝國軍は即座に行動を開始する。今回の派兵は隣人たるクワ・トイネ公国並びにクイラ王国を救う防衛戦争だ。日乃本帝國情報省により敵武装勢力は、来月4月5~12日にギムの街へと進行すると予想されており、それよりも先に周辺の村々より民間人の保護を始めとした輸送作戦を行う。

 

魔道通信が行えるとは言え、一般レベルで広まっている訳では無く、情報伝達にはそれなりの時間がかかり、ギムよりも更に遠い村には【日乃本帝國】という国と国交を締結したことすら知らない者達も居る。そんな村にたいしてトラックで押しかければたちまち騒動に発展しかけてしまうと言う事で、護衛の91式偵察車を先頭にトラック数十台と同時に公国軍人数名を連れて村々を回る。

 

到着した村では、公国軍人の説得により全村人が財産を急ぎ纏め、トラックに乗り込んでゆく。一個小隊で、一日で約2~3つの村を回る事が出来、それが四個小隊で当たる。

 

迅速な行動により4月2日にはギムを除いて全ての村から人員を撤収させることに成功した。

 

次はギムの民間人を後方に輸送させる任務が待っている。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

四個小隊が民間人輸送に当たっている頃、敵の侵略対象である【ギム】には一個連隊約500名の帝国陸軍隊員が展開し、工作施設科によって陣地施設が始まる。空母並みの大きさを誇る【祥鳳】らからは、何も戦闘車両しか搭載されている訳では無く、支援車両もかなりの数が搭載されており、迅速に防衛陣地が形成されていく。

 

ギムの町を囲む城壁は、以前は丸太だったが、現在はコンクリートによる城壁に作り変えられてゆく。78式自走高射機関砲が陣取り空を睨む。66式自走155mm榴弾砲が所定位置に着き、戦闘行動を静かに待つ。簡易的に制作されたヘリポートにはヤンマ攻撃ヘリ10機が待機している。

 

塹壕と呼ばれる陣地には12.7mm重機関銃、88mm迫撃砲、兵300が多数配置されている。

 

更に前方には、鉄条網や馬防柵が三重に設置されている。

 

ロウリアには五大列強パーパルディア皇国が軍事支援をしている―――そんな風の噂により、歩兵2500、弓兵200、重装歩兵500、騎兵200、軽騎兵100、飛龍24騎、魔導師30人しかいなかった兵力で、焦燥感に駆られていた西部方面騎士団団長モイジは、日乃本帝國が送ってくれた頼もしい援軍に心から感謝した。

 

これなら、国境に張り付く数倍の兵力のロウリア王国軍から、絶対にギムを、クワ・トイネを守れる、と。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

中央暦1639年4月11日午前 ロウリア・クワトイネ国境付近

 

ロウリア王国東方討伐軍 本陣

 

クワトイネ公国外務部から、何度も何度も国境から兵を引くよう魔法通信にて連絡があったが、すべてを無視する。もう戦争することは決定しているのだ。それはクワ・トイネ公国側でも解って居る事であり、援軍である日乃本帝國軍から目を逸らす為のパフォーマンスでしか無い事は、この場に居る将兵たちは知る由もなかった。

 

「明日、ギムを落とすぞ」

 

アデムは、ギムに攻め込む先遣隊約3万の指揮官の任を与えられていた。歩兵2万、重装歩兵5千、騎兵2千、特化兵(攻城兵器や、投射機等、特殊任務に特化した兵)1500、遊撃兵1000、魔獣使い250、魔導師100、竜騎兵150、という大軍である。

 

数の上では、歩兵が多いが、竜騎兵は1部隊(10騎)いれば、1万の歩兵を足止め出来る空の覇者である。それが150騎もいる。

 

本国がどれだけこの先遣隊に期待しているのかが伺える。任務の重さを実感するアデムは、緊張よりも嬉しさが勝った。

 

以前説明した通り、ワイバーンはとても高価な生物兵器である。ロウリア王国の国力であれば、本来国全てをかき集めても、200騎そろえるのがやっとである。しかし、今回は対クワ・トイネ公国戦に、500騎のワイバーンが参加している。通常ではありえないが、今回は、五大列強の一国【パーパルディア皇国】より軍事支援があった。アデムらごく少数を除いて、パンドール将軍以下は誰も知らない。

 

先遣隊に150騎のワイバーン、この明らかに過剰な戦力に、アデムはとても満足だった。

 

しかし、ちょっとした懸念事項が存在する。それは、明日攻め入る予定のギムが、報告にあった絵にかいたような蛮族の城壁や陣地では無く、見た事も無い岩のような壁が町全体を囲むように立ち並び、多数の溝が横長に彫ってあるという。更に言えば、鉄地竜のような竜が確認できるだけで20騎は存在すると言う。斥候がもたらしたこの情報は、直ぐにアデムへと報告されたが・・・

 

『わけの分からない事を・・・その斥候は使えませんね。今すぐ殺しなさい』

 

との一言で斥候の一小隊は斬首にされてしまった。なので、その話を誰も信じる事が出来ない。

 

「ギムでの戦利品はいかがしましょうか?」

 

馬鹿もいたものだ、と、獰猛な笑みを浮かべる副将アデムに、伝令兵が怯えながら話しかける。アデムは冷酷な騎士であり、ロウリア王国が領地拡大のために侵略戦争を開始し、他の小国を統合した時代。占領地での残虐性が兵たちには知れ渡っていた。

 

「ギムでは略奪を咎めない、好きにしていい。女は嬲ってもいいが、使い終わったらすべて処分するように。一人も生きて町を出すな。全軍に知らせよ」

「はっ!!!」

 

アデムの部下は、すぐさま天幕を出ようとする。

 

「いや、待て!・・・やはり嬲ってもいいが、100人ばかり生かして解き放て。恐怖を伝染させるのだ。それと・・・敵騎士団の家族がギムにいた場合は、なるべく残虐に処分すること」

 

アデムは「ひっひっひっ」と笑って続ける。

 

「さぁ・・・殲滅の宴を始めようぞ!!」

「ハハッ!承知いたしました!!」

 

恐怖の命令。

 

アデムの心は人間ではない。そう思いながら、部下は、天幕を飛び出し、命令を忠実に伝える。

 

「ひっひっひっ・・・」

 

明日はどの様な悲鳴の選曲で、死のダンスを踊ろうかと気色悪い笑みを浮かべるアデム。だが、殲滅の宴の主役が自分たちである・・・とは、限らない。

 




【ハイドロゲン水素タービン動力強襲揚陸艦祥鳳】
アメリカ軍の史実ワスプ級強襲揚陸艦の大型発展版。

【12.7mm重機関銃】
M2

【88mm迫撃砲】
AA=ロマン

【鉄条網】
ゲートを見て

【馬防柵】
戦国時代などで馬の進行を妨害する設置型の障害。今回は馬だけでなく敵兵の進行も妨害できるようにしてある。尚、この馬防柵は二種類存在し、一つは総鉄製の帝國持参の物。もう一つはギムをこれまで守って来た丸太城壁の再利用版

【10式戦車改】
史実10式戦車の改良版。CI-5(CI-4の後継)と更に強化された射撃管制装置を装備。滑空砲は5mm大口径化され125mm滑空砲となっており威力が上昇している。特殊セラミック装甲、複合装甲など全体的に重装甲化が施されており重量が以前に比べて47tと大型化したが、その分性能が上昇している。特殊装備として、車体機銃は無人AI補助遠隔動作式となっており、対戦車ミサイルを察知すると同時に小型の迎撃墳進弾を発射、迎撃できるなどの新装備も多数搭載されている、正に陸の王者である。
武装
・125mm長砲身滑空砲:一門
・2式車載20mm機関銃(主砲同軸):一機
・10式12.7mmAI補助遠隔動作式機関銃:一機
・小型全方位対戦車誘導弾探知電探:一機
・小型対戦車誘導弾迎撃収容器:一基×12発
・チャフ発射機:四基(一基×3発)
・車体搭載小型無人偵察機:二機


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12話 ギム防衛戦【上】

おはようございます!
何時の間にかお気に入り300超えてましたねw気付かなかったです(>_<)
誤文字報告、ありがとうございます!


中央暦1639年4月12日 早朝 ギム

 

 

―――ウゥゥゥウゥウゥゥゥウウゥウウウウウッ!!!

 

突如として、街全体に空襲警報が鳴り響いた。

 

この警報は、国境目前で陣を張り付けるロウリア王国軍がクワ・トイネ公国との国境を進行を開始した合図で有り、同時に空襲警報とある様に、敵性ワイバーンの接近を示唆するものである。尚、史実ではワイバーンの接近を探知した報告員が導力火炎弾にて爆殺されたが、()()()()()()を事前に配置させていた日乃本帝國軍が瞬時に察知できるので、今回は配置される事無く、死を回避した。

 

更に言えば、小型無人偵察機をロウリア王国軍陣地に飛ばして情報をリアルタイムで得ていたことも大きい。

 

しかし、得た情報は150騎ものワイバーンが存在すると知るや否や、西部方面騎士団の面々に死相が浮かんだ。幾ら日乃本帝國軍が鉄の地龍を多数保有していた所で、数の暴力には対抗できない。一瞬でもキルレシオが拮抗する事は有るだろうが、それも時間が経つごとに劣勢になっていくだろう。

 

「総員、配置に付けえぇえええっ!!」

 

モイジ団長が叫べば、兵の皆は恐怖に頬を引きつらせながらも統制の取れた動きでテキパキと行動し、自身が担当する場所にて待機する。しかし、彼等が行動を起こす時は、日乃本帝國がワイバーンを全滅させた後である。

 

「・・・それでは、風間将軍。ギムを、頼みます!」

「了解しました!この命に掛けて、ギムを、クワ・トイネ公国を防衛させていただきます!」

 

今回の派兵にて、ギムの防衛を担当する司令官を任された風間少佐は、クワ・トイネ公国及びクイラ王国、日乃本帝國の上層部や一部はマスコミで流される映像をリアルタイムで生放送されているので、政治的な意味合いを込めての発言である。そして、連絡員から全部隊のネットワークに接続された無線機を手に取ると、一拍。

 

そして、

 

「―――【ギム防衛作戦】開始!!」

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

作戦開始により、作戦行動を開始する。

 

まず初めにレーダーで探知された75騎の敵性ワイバーンの殲滅である。

 

「・・・アレで攻撃するのか?」

「一体、どの様に・・・」

 

前回と同様、御馴染みに成りつつある政治部会の第一会議室内にて、投影ディスプレイを緊張した面持ちで眺めるクワ・トイネ公国上層部。

 

画面には陸上迷彩と言われる緑と茶の斑模様に塗装された特殊な形状をした鉄竜(装甲車と言うらしい)が8台、陣地後方に展開している。

 

その装甲車の名は【96式装輪装甲地対空誘導弾搭載車】。自衛隊の装備する96式装甲車とは違い、8輪以外は全体的に大型化して移住性、生存性、戦闘行動半径、搭載能力の向上が施されている。その96式シリーズの一つが、この【96式装輪装甲地対空誘導弾搭載車】であり、車体上部後方に四角い形状の筒の様な物を縦3列横5列、計15個を装備。この中には、ワイバーンを撃ち落とす必中の誘導弾が収められていた。

 

しかし、この車両の特徴をよく理解していない上層部にとっては、こんなヘンテコな鉄竜で攻撃が本当に可能なのかと疑問視していた。

 

スピーカーより音声が流れる。

 

『<―――1号車から4号車まで、目標振り分け完了!>』

 

ピッ―

 

『<座標、ギム西南西上空より侵攻中のWVN(ワイバーン)!06式短距離地対空誘導弾、発射用ォー意!>』

 

射出機が電探と連動して自動で動作し、射出口を西南西上空に向ける。

 

『<―――撃ェッ!!>』

 

―――ドシュッ・・・シュゴオォォォォオオオオッ!!

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

轟音と共に各車両より地対空誘導弾が次々に発射される。射出機より撃ち出された誘導弾は空中で火を噴き出すと、光の尾を引き、煙の軌道を残して空へと消えて行く。

 

各車両より3秒置きに撃ち出され、約45秒で全弾を撃ち終えると、車体内部に搭載された再装填機構により、次弾装填が自動で開始される。予備弾は車内に搭載されている為、歩兵を収容する事が出来ないが、高速展開が可能な陣地防衛特化型で有るからして、さして問題ではない。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

ギムより約20km地点より飛び立った75騎のワイバーンは、約235kmの速度でギムへと飛翔していた。到達予想時刻は、約200秒後であり、とても小さくではあるが、ギムを薄っすらと確認できる。竜騎士として今作戦に参加する事となった一人の竜騎士は、相棒の背中に跨りながら、この戦争をとても楽観視していた。

 

これだけの大戦力。農奴しか存在しない亜人という蛮族相手には過剰過ぎる。思わず同情心が芽生えてしまうくらい、ロウリア王国軍とクワ・トイネ公国軍の間での戦力差は圧倒的であった。

 

「・・・ん?」

 

その時、ギムの後方で何かが光る。

 

「なんだ、あれは?」

 

目の良い者が気付いた。

 

「―――ッ!!」

 

お突如として表れた黒い点の数々は、一瞬で竜騎士たちとの距離を詰める。

 

「光の―――矢ッ!?」

 

彼が叫んだ瞬間、隊列を組んで飛行していたワイバーン隊前方が轟音と爆炎に飲み込まれる。

 

これが、悲劇の始まりであった。

 

いきなり仲間4騎が爆散し、黒い煙を上げながら地上へと落下して行く。何が起こったのか、全く解らないまま、また4騎、さらに数秒後は4騎・・・と、4騎ずつ次々と落ちていく。

 

流星のような光の尾を描くソレは、まるで意思をもっているかのような軌道を描き、栄えあるロウリア王国軍竜騎士団のワイバーンを次々に屠って行く。ある者は避ける間も無く爆散され、またある者は真っ黒になって落ちて行く。

 

「!―――ショーンズッ!ま、待てッ!?」

 

光の矢が、同僚であり友人でもあるショーンズに向かって突き進む。彼は光矢が止まらないと分かって居ながらも、思わず声に出して叫んだ。声に気付いたのか、急接近する黒点のソレに気付いたショーンズが、類稀なる動体視力と愛騎との阿吽の呼吸で急旋回。思わずほれぼれしてしまう綺麗でキレのあるターンで有ったが、やはりそれは意思が存在する様で、進行方向を変えてショーンズを目指す。

 

「振り切れェェエエエ―――ッ!!!」

 

しかし、彼の願いは届かず、ショーンズは愛騎と共に爆散してしまった。

 

その数十秒後、75騎存在した竜騎士団は15騎にまで減ってしまった。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

「・・・こ、これは・・・」

「なんと、凄まじい・・・」

 

敵性ワイバーンより、更に3000m上空を飛行していた無人偵察機の撮影映像を眺めていたクワ・トイネ公国政治部会のメンバーは、正に【唖然】と言った表情で絶句していた。

 

日乃本帝國に足を踏み入れたハンキ将軍らの外交報告により、日乃本帝國は誘導魔光弾の実用化に成功しているとの趣旨の報告を受けたが、そんな超兵器はラヴァーナル帝國が存在していた時の御伽噺の中にしか存在しない―――と思っている人間がかなり存在した。しかし、この映像で日乃本帝國は本当に誘導魔光弾の実用化に成功していると思い知らされる。

 

更に、そのような兵器を普通に国外派兵戦力として持ってきてしまえる。この様な兵器は本来、自国の防衛の為に使う方が実用度が高いはずなのに、一友好国の為にポンっと使用してしまえるのは、大量生産でもしているからなのだろうか。

 

やはり、国力と技術力の差が凄まじい。

 

「・・・半田殿。この、誘導魔光弾は日乃本帝國はどれだけ保有しているのかね?」

「私は其処まで軍事に詳しくは無いのですが・・・そうですね。最低でも10000発は必ず超えています(種類別)」

「「「「「い、一万発・・・」」」」」

 

ああ、神よ・・・

 

日乃本帝國を、我が国の隣に転移させていただき、感謝する・・・

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

僅か一分足らずで部隊としては壊滅状態にまでボロボロになったロウリア王国軍竜騎士団、残機15騎は、前代未聞の混乱からどうにか立ち直ると、ワイバーン同士で戦う事が真骨頂である竜騎士としての戦いでは無く、一方的に事務処理されていく味方の哀れな姿をみて、激しい怒りと共に復讐心が胸の内を焼き尽くさんばかりに溢れかえっていた。

 

本来であれば、このような荒唐無稽で出鱈目が過ぎる攻撃を受け、かつ部隊が壊滅状態になったとしたら撤退すると言うもの。しかし、仲間の仇という大義名分が、一瞬でも脳内に浮かんだ二文字を消し去る。

 

陣地から飛び立ったロウリア王国軍竜騎士隊は、ギムまで凡そ10km地点に差し掛かった。目の良いものでなくとも、上空からなので下方に存在するギムを視界に入れる事が出来る。

 

事前情報ではギムにも少数ながらワイバーンが存在するらしいのだが、現在ではその影も無い。如何やら、先程の追尾してくる【光の矢】と言う魔法が存在したからワイバーンが必要ではなくなったのか?しかし、此処まで接近しても攻撃が来ないと言う事は、魔力切れと竜騎士隊は考えた。

 

「仲間の仇だ!全騎、突撃ぃ―――ッ!!」

「「「「「うおぉぉぉぉおおぉぉおおおおおッ!!!!」」」」」

 

上空3000mより降下を開始し、襲撃を開始した―――その時。

 

ロウリア王国軍竜騎士団に更なる悲劇が襲った。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

30mmと大口径な機関砲が二門搭載され、AI補助によりマッハ0.1以下からマッハ10の飛翔目標に対して自動的に照準を補正する、日乃本帝國最新鋭の【78式自走高射機関砲】が今、電探連動とAI補助にて、ギムより10kmの位置に迫ったWVNに照準を定めた。

 

『<目標、ギム防衛陣地に接近中のWVN!78(78式自走高射機関砲隊の事)、攻撃用ォー意>』

『<撃ェッ!!>』

 

―――バババババババババババッ!!!

 

隊長車の攻撃命令より、各車振り分けられた目標にたいして攻撃が始まった。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

復讐心に燃え滾り、ショーンズの仇を取れる!と、意気込んでいた彼は、下方の異変を瞬時に察知した。複数の煙が現れたのだ。これは先程の【光りの矢】の再攻撃かと、警戒したが、如何やら違う攻撃の様であり・・・

 

「な、何ィ!?」

 

複数の光弾が高速で接近する。

 

高速過ぎて回避行動も儘ならならず、光弾の接近を許してしまい、貫かれる―――と思った瞬間。光弾はワイバーンの眼前で爆発した。

 

VT信管、又は接近信管と呼ばれる、砲弾内部に小型の電探が搭載されており、砲弾が飛翔中に放出した電波が一定範囲内の対象物から跳ね返って来た電波で信管が動作。砲弾が破裂する事により破片が飛び散り、対象物を切り裂き、穿つ、第二次世界大戦時に開発された高射砲の砲弾である。

 

砲口径が30mmと言う事もあり、現在の航空機に対しては一定以上の効果を発揮しなくなった砲弾だが、敵誘導弾や無人偵察機に対しては有効である。そして、それは生物に対しても有効であり、飛行生物としては破格の装甲を備えるワイバーンであったが、その強固な鱗を物ともせず貫き、非装甲物である翼がズタズタに引き裂かれる。

 

またしても、仲間が一瞬にして殺されて行く。

 

彼の怒りは頂点に差し掛かっていたが、その光弾が自身に対して接近してくるのを認知した瞬間、血の気が引いた。そして、間に合わないと分かって居ながらも体は動き、相棒が回避行動をとる・・・が。

 

「糞っ―――俺はまだ、死にたくない!シニタクナァ――――――ガっ」

 

部隊最後の彼は、愛機と共に複数の爆炎に呑まれ、この世を去った。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

政治部会

「「「「「・・・勝った」」」」」

 

ギム西部方面騎士団

「「「「「勝っちまったよ、日乃本やべぇ・・・」」」」」

 

日乃本帝國軍

『『『『『いや、当たり前・・・』』』』』

 

という反応が各所で発生したとか、しなかったとか・・・

 




【96式双輪装甲地対空誘導弾搭載車】
史実日本国陸上自衛隊が装備する96式双輪装甲車の拡大発展版であり、アメリカ軍が装備するストライカー装甲車の様に様々なカスタムが出来て汎用性が高い。

・96式双輪装甲車
・96式40mm機関砲搭載歩兵戦闘車
・96式105mm砲搭載車

等の様々なシリーズがある内の一つである。

武装
・06式短距離地対空誘導弾発射機:1機
・06式短距離地対空誘導弾:15発
・再装填機構:1機(再装填可能最大弾数15発)

【78式自走高射機関砲】
マッハ10とか、そこまでする意味が有るの?という軍事装備開発担当者の質問に対し、AIの処理能力と性能上の関係により、実用的でなくともスペックとしてはマッハ10の目標に対しても問題無く動作してしまう・・・と、成ってしまった兵器。

尚、小型目標であれば探知できるかは別問題。

実際の射撃試験で、速度だけを求めたが連続稼働時間が3分と短い(早すぎる速度によりそれ以上たてば燃え始める)標的機(マッハ6.3)の目標に対し、問題無く動作して迎撃に成功した。

武装
・30mm機関砲:一機
・10式12.7mmAI補助遠隔動作式機関銃:一機
・チャフ発射機:四基(一基×3発)


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13話 ギム防衛戦【下】

おはようございます。
めっちゃ遅くなりました。申し訳ありません・・・( ;∀;)
あと、こんな亀でも誤文字報告をして下さった方には感謝しかないです・ありがとうございます。


『光の矢が追ってくる!!避けられn―――』

『来るな来るな来るな、うわぁあああああッ―――』

 

先遣隊として派遣されたアデム率いるロウリア王国東方征伐軍上層部は、魔道通信機が設置された天幕の中で沈黙に包まれた。栄えあるロウリア王国軍竜騎士団の一員として出撃した兵が、要領を得ない【光の矢】という魔道兵器に次々と落とされ、数分でギムに差し向けた兵力75騎が全滅してしまったのだ。

 

亜人と農奴しか存在しない蛮国の一地方都市なんぞ、この程度で簡単に灰燼に帰せる兵力だったはずであった。

 

一体、何が起きたと言うのか。一体、何処で間違ったのだろうか。回答の無い疑問符が冷や汗と共に溢れでして行く。

 

「・・・許さん」

 

静まり返る天幕の中、アデムのどす黒い感情に彩られた声音が、ぽつりと小さく反響する。

 

「全軍に告げる。ギムへと突撃しますよ・・・ゴミ共が魔道兵器を生意気にも保有しているのは癪ですが、此方は全兵力3万であたれば、どんな魔法をもってしても蹴散らせるでしょう・・・」

 

アデム以外の将兵は、この戦争は失敗なのでは無いか?撤退した方がよいのではないだろうか?という思いでいっぱいで有ったが、報告をしに来た斥候を無慈悲に惨殺する様な危険人物であり、そのような者が此処の司令である。とても、反対意見を言えるような状況ではなかった。

 

もし反対意見を述べようものなら、本国にて平和に暮らす彼等の家族が、大変悲しい事になってしまいかねない。

 

口に出かかる反対意見を無理矢理押し込んだ将兵は、進軍の為に奔走した。

 

 

 

 

 

しかし、その努力は無駄に終わる事となるが、その事に彼らは気付かない。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

「【ギム防衛作戦】はこれより第二フェーズに移行する・・・海軍さん、航空支援攻撃を宜しくお願いします」

 

ロウリア竜騎士隊による第一次攻撃を防いだ風間少佐は、もとより計画していた第二の作戦行動を開始する。

 

『了解!これより攻撃隊を発艦させる。少々お待ちを』

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

日乃本帝國海軍 第三艦隊 旗艦【加賀】

 

「陸さんより入電!航空支援攻撃を求む!」

「よし来た!艦載機を上げろ!!」

 

珈琲を片手に暇をしていた艦長が、命令を下す。

 

全長400m、全幅90mと広大な飛行甲板の上に待機していた複数の第六世代艦載機【F-3C海神】に搭乗員が駆け寄り、急いで搭乗すると、キャノピーを閉めた。各種装備点検を素早く終わらせると、隣を見る。其処には、妙にのっぺりとした印象を受ける大型の無人機が存在した。

 

随伴無人戦闘機【XQ-3C青雲】

 

第六世代戦闘機に随伴できる無人の戦闘機である。元からF-3Cと共に行動するようにとのコンセプトで有った為、F-3Cと同様に超音速巡行(スーパークルーズ)能力を獲得しており、見た目もコックピット部分が存在しないだけで殆どF-3Cと同じであり、部品の約47%を共有しているので整備性が良い。

 

武装も同様の物を搭載できる【XQ-3C青雲】だが、有人機の護衛という任務も受け持っている為、対艦誘導弾を搭載する事は殆ど無く、対地、対空誘導弾を多く搭載している。

 

又、全機能を電子戦に振った特殊機体も存在するが、今回は加賀に搭載されていないので詳細は省こう。

 

XQ-3C青雲の制御は全て人工知能が管轄しており、全機能が問題ないかを各種感知器にて装備点検を終わらせ、隊長機となる有人機へと点検完了を知らせる。確認した搭乗員がタッチパネルを操作すると、AI補助誘導装置にて、搭乗員や誘導管制官の指示を受けずに自ら四基存在する電磁射出投射機(リニアカタパルト)に前輪を固定した。

 

〈こちら一番機。発艦準備完了。発艦許可を求む〉

〈了解。発艦を許可する〉

 

管制塔の指示にて、高性能演算機によって精密に制御された射出機が動作し、約四秒で一気に時速250kmまで加速。制御の難しい蒸気式射出機よりも搭乗員に対する負担が大きく軽減された機体は母艦より解き放たれ、快晴の大空へと飛び立つ。

 

隊長機(有人機)一機と無人機3機、計4機の小隊となり、ギムへと侵攻するロウリア王国軍に鉄槌を下す為に超音速巡行にて、現地に急行。

 

ギム上空まで、あと4分―――

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

〈間も無くギム上空に差し掛かる。攻撃用意―――〉

 

一瞬にしてギム上空へと到達した攻撃隊は、一定の間隔を取ると、下方の無人偵察機から送られた情報を頼りに目標を自動割り振りを行い、各目標に対しての攻撃準備が整うとピーという電子音が響く。完了の合図だ。

 

搭乗員は僚機に攻撃許可を発令。

 

〈―――投下!〉

 

ステルス性を極限にまで精練されたF-3CとXQ-3Cの機体から、対艦誘導弾共用の爆弾庫(ウェポンベイ)が開き、一機1発、合計4発の大型の爆弾が投下された。

 

それは慣性に従い自由落下を開始すると、落下降を開いて静かに敵侵攻軍の上空へと忍び寄る。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

始めに気が付いたのはロウリア王国の村々より招集された農兵の一人であった。

 

彼は進軍準備に慌ただしく喧噪の広がる王国軍の隙を見て、近くの木に縁りかかって休息を取っていた。元々、彼はこの戦争に参加したくなかったのだが、国からの強制的な出兵令である。逆らったりでもしたら、召集しにやってきた正規軍人に首を一閃されてしまうと渋々行くしかなかったのだ。

 

なので、彼の戦争に対するやる気は殆ど無い。ハッキリ言って面倒だし、迷惑。

 

そのやる気の無さが、結果的に壊滅したとはいえども自陣営に対する攻撃の予兆を感知したのだ。

 

「・・・ん?なんだ、あれは・・・」

 

彼は青空に咲く無数の白い花を見た。それには、鈍色に光る筒の様なモノがぶら下がっており、よく見れば、それが自然な物では無く人工物だと一目でわかった。そして、言いようの知れない焦燥感に駆られる。

 

ゆっくりと落ちて来る物体が何なのか分からない。

 

しかし、アレが何らかの攻撃であると、反射的にそう判断した彼は、大きく息を吸って味方に警告を飛ばした。

 

「上空より敵襲ぅうううッ!!!」

 

彼の叫び声に、進軍準備のため奔走していた将兵が空へと顔を向けると、視界が真っ白に包まれた。

 

そして―――

 

 

 

 

ドゴンッッッッッ))))))))))))))))))

 

 

 

煙が目を焼く光りに変わり、強烈な衝撃波と熱線が四方八方に吹き荒れると、ロウリア兵の一農兵から高貴なる貴族諸共関係なく爆散しながら吹き飛んだ。

 

一次爆薬で特殊爆薬が気化、放出弁が開いてスプレー状の気体を放出し、二次爆薬で着火する。強力な衝撃波で半径300メートル内のロウリア兵や待機していたワイバーンなどは跡形もなく爆散する他、急激な気圧の変化を引き起こし、生物の内臓を破裂させる。数マイル先にいる人の鼓膜を破壊する、ナノテクノロジーを応用したこの爆弾の名は帝國軍正式採用兵器【8式燃料気化爆弾】である。

 

帝國軍内部では単に8爆やら気化爆と呼ばれるが、使う爆薬から【サーモバリック爆弾】と呼ばれることも。

 

そして、この爆弾の威力はTNT火薬44トン分に相当し、核兵器に次ぐ威力と言われていて【貧者の核爆弾】との異名を持つこの爆弾は、陣地に存在した約3万のロウリア王国軍の、おおよそ2万7000人を爆散させ、残りの2000の内約8割は内臓破裂による死亡判定、生き残った2割の者達も何等かの重傷を負う事に成り、奇跡的に軽傷で済んだ者は、僅か3名であった。

 

この戦闘とも言えない戦闘により、ロウリア王国東方征伐軍上層部は壊滅。最高司令のアデムも、この戦闘により行方不明というなの事実上の死亡判定が下された(爆散により死体が消失したため)

 

日乃本帝國の損害

死者:0名

重軽症者:0名

 

クワ・トイネ公国の損害

死者:0名

重症者:0名

軽傷者:7名(動員中の転倒などによる事故)

wvn:0騎

 

ロウリア王国東方征伐軍の損害

死者:2万9467名(治療も儘ならない為に死者が増大)

重症者:530名

軽傷者:3名

wvn:150騎

 

この戦闘により、ロウリア王国東方征伐軍は壊滅することとなる。

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

中央暦1639年 皇歴2693年4月12日 日中 日乃本帝國 帝都【日之出】 

渋谷区 大型有機電界発光(EL)受像器前

 

高さ24m、幅30mの大型有機電界発光受像機前では数多くの帝國民が足を止めて画面に注目していた。つい先程まで、帝國内のニュースが流れていた画面だったが、帝國民の中でも注目度が高い【鍬派兵】についての速報が入ったからである。

 

『え~緊急速報をお伝えします。本日早朝、クワ・トイネへと進行するロウリア王国軍と鍬日両軍が戦闘状態へと突入。これの戦闘に勝利したとの発表がありました。』

 

原稿をめくるニュースキャスターは続ける。

 

『この戦闘による鍬日両軍の死者は0名に対し、ロウリア王国軍の死者は推定で約3万弱ほどであるとの政府発表がありました。続いて、政府より入手した戦闘映像がありますので、ご覧ください』

 

映像が切り替わり、帝國軍仕様の迷彩を着た男性が映し出される。

 

『・・・それでは、風間将軍。ギムを、頼みます!』

『了解しました!この命に掛けて、ギムを、クワ・トイネ公国を防衛させていただきます!』

『―――【ギム防衛作戦】開始!!』

 

代わり、96式装輪装甲地対空誘導弾搭載車が映し出される。

 

『<―――1号車から4号車まで、目標振り分け完了!>』

 

ピッ―

 

『<座標、ギム西南西上空より侵攻中のWVNワイバーン!06式短距離地対空誘導弾、発射用ォー意!>』

『<―――撃ェッ!!>』

 

―――ドシュッ・・・シュゴオォォォォオオオオッ!!

 

上空7000mより、とのテロップの下、()()()()()()()()()()無人機映像として、射出された06誘導弾が次々にワイバーンを撃ち落としてゆく映像が流れると、其処で映像は終わった。ニュースキャスターは『18歳以上の方で、見る覚悟があれば政府及び国防省ホームページにて機密外無編集戦闘映像を閲覧する事が出来ます』と告げると、再度同じニュースを繰り返し始めた。

 

因みにだが、無編集戦闘映像とは、普通に人体がはじけ飛ぶところなどのモザイクすらない本物の映像である。規制が無いので【覚悟のある方】ときちんと伝えられるのだ。心臓が弱い方は見ない方が良いだろう。

 

「おぉ~やっぱ凄いな~」

「相手はたかが235kmの低速目標なんだろ?撃ち落とせて当然じゃね?」

「それ聞くと、あれね。ロウリアが不憫に聞こえるわ・・・」

「実際に不憫でしょう?魔法はあっても中世レベルの相手に現代兵器って・・・まるで【日〇国召喚】みたいね」

「わぁ~カッコいい!僕も将来、へいたいさんになる!」

「息子よ。軍隊は辛いぞ?まぁなってもいいが、死ぬなよ?俺は無論、妻が一番悲しむからな?」

「う~む。ワイバーンに高い兵器は無駄な気が・・・・・・」

「そんな事より仕事仕事・・・」

 

この放送に帝國民は、市井、ネットなどで様々な反応を見せる。

 




この帝國民は良く教育がなされている!
まぁ、敗戦国となった日本みたいに牙を抜かれたり、洗脳されたり、報道規制がどうたらとされて無いので・・・w


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14話 海戦前

お久しぶりです。


中央歴1639年4月25日 マイハーク港

 

 

ついに、ロウリア王国が4000隻以上(正確には4400隻)の大艦隊を出向させたという情報が伝えられ、マイハーク港に基地を置く、クワ・トイネ公国海軍第2艦隊は艦船を集結させていた。

 

各艦は、帆をたたみ、港に集結し、きたるべき決戦の準備をしていた。敵船に切り込むための梯子を水夫が点検し、打ち込む火矢と、それを漬ける油が続々と船に詰みこむ。

 

矢を防ぐ木盾が、等間隔に設置され、大型弩弓バリスタが船横に配備される。

 

クワ・トイネ公国第二艦隊の総戦力。およそ50隻の、国家の未来が掛かった全力出撃である。

 

「壮観な風景・・・なのだが、な・・・」

 

提督パンカーレは、集結している自軍の艦船を眺め、溜息を付いた。

 

何故なら、港の水深が低すぎて入港出来ない、という理由で、マイハーク港の沖合500m程の場所で停止している日乃本帝國海軍第三派遣艦隊が瞳の中に映り込んでいるからである。全て木造の自軍艦船に対し、日乃本帝國の艦船は全て鉄でできている。木と鉄。防御力的に見れば、差は歴然だろう。

 

それだけでない。大きさも、自軍艦船での最大全長の40mを誇る旗艦船ですら、小舟に見える程、彼等の船は何倍も大きい常識を逸脱した大きさなのだ。

 

おまけに、多種に渡る魔道兵器を大量に配備しているらしい。

 

彼等の海軍を見て、我が海軍を見れば、何とちっぽけに映る事か・・・

 

「ライ。観戦武官を担当するブルーアイたちを連れて来い。そろそろ、日乃本帝國から【ユソウヘリ】が来ると伝えよ」

「はっ」

 

剣術での海軍主席の座に上り詰めた、若き幹部のブルーアイ等、計18人がそれぞれパンカーレの前へとやって来る。

 

日乃本帝國海軍での戦闘では、基本的に魔道兵器で全ての戦闘を行うので、剣を使う様な事態は万が一を省いて発生しないだろう。と、日乃本外務省経由で通達されていたが、それでは安心して部下を送り出せないだろうという気遣いから、全員帯剣してても良いという許可が下りており、向かう者達の腰には二本の剣が携えられている。

 

「諸君。彼等が一体どのような魔道兵器を扱い、どの様に戦闘を行うのか、その目に焼き付けて欲しい。諸君らの報告が、この国を変えるかもしれないからだ・・・頼んだぞ!」

「「「ハッ!!」」」

 

【ユソウヘリ】が飛び立つ時間になると、派遣艦隊で一番大きい小島のような、平べったい艦船から1騎の奇妙な鉄竜が飛び立つ。虫に例えるとトンボのような、飛行機械だ。以前見たものは、緑と茶のマダラ模様であったが、今回は白色をしたもので、ずんぐりした見た目をしている。

 

それがバタバタと音を立てて広場にやってくると、下方に吹き荒れる突風に、カンパーレ提督とブルーアイ等は顔を覆った。

 

広場に駐綺した飛行機械は、風と轟音を次第に弱めていく。胴体横の扉が開き、中からまた違ったマダラ模様の軍服に身を包んだ男が、しっかりした足取りで歩いてくる。カンパーレ達も歩み出ると、降りた男が敬礼する。

 

「こんにちは。私は日乃本帝国海軍のクワ・トイネ公国派遣部隊の勝埼と申します。この度、クワ・トイネ公国の観戦武官殿を迎えに上がるよう、指示を受けて参りました。」

「初めまして。私はクワ・トイネ公国海軍第二艦隊の作戦参謀をしております、ブルーアイと申します。この度は日乃本帝国の救援、感謝します。」

「それではどうぞ皆様、こちらへ」

 

ブルーアイたちは荷物を抱えて恐る恐る飛行機械ーーー輸送ヘリコプター【CH-53C重箱】と言ったかーーーに搭乗する。

 

【CH-53C重箱】

アメリカ海兵隊のCH-53Kを日乃本帝国海軍仕様に拡大発展させた大型の輸送ヘリ。小型の走行車両から数十人もの人員、大量の物資を輸送できる。武装はM2重機関銃を左右1丁ずつ装備可能だが、現在は装備していない。名前の由来は、いろいろ入るからと搭載するものを食材に例えて、重箱となった。

 

内部には装飾など一切ないが、座席はふかふかで心地がいい。

 

「それでは離陸します。シートベルトの装着をお願いします」

 

勝埼がこのようにします、と自身も座席に座ってシートベルト装着を実践して見せる。それを観戦武官たちは見様見真似で行う。金具がカチャっと音を立てて外れなくなると、勝埼が問題ないか確認して周り、CH-53C重箱が離陸を開始する。

 

奇妙な浮遊感だ。ワイバーンよりは多少遅いものの、翼の羽ばたきによる上下運動もなく、滑らかな上昇にブルーアイたちは驚く。ほとんど揺れずに飛翔するこの飛行機械は、ワイバーンよりも快適で、何より私たちのような人だけでなく大量の荷物を運ぶことができる。

 

「これは、素晴らしいな・・・」

「一体どんな構造なんだ?さっぱり分からんな・・・」

 

母艦までの飛行の最中、ヘリコプターの有用性に感嘆しっぱなしであった。

 

沖合に停泊中の母艦に近づくと、遠目で見ていたものとは比べ物にならない大きさに圧倒される。

 

「凄まじい大きさだ。見ろ、このユソウヘリと同型の物や、鉄竜の姿も」

「戦闘は魔導兵器で行うと言っていたが、これだけの大きさだ。兵の数も膨大だろう。白兵戦でもいけるのではないか?」

「航空母艦と言ってた。海上の鉄竜基地なのだろう。白兵戦は周りの小型・・・いや、我々からするとどれも大型だが、が行うのでは?」

 

彼らを受け入れるのは、二ヶ月前にクワ・トイネ公国へと外交官を派遣した、日乃本帝国海軍に4隻存在するハイドロゲン水素ガスタービン動力型航空母艦【加賀】である。全長400m、全幅90mと広大な飛行甲板の上には、ギム防衛戦で3万もの敵兵を殲滅した第六世代戦闘機【F-3C海神】や随伴無人戦闘機【XQ-3C青雲】が待機している。

 

CH-53C重箱は、管制官に指定された場所へと着艦。安全扉が開き、勝埼先導の元、ブルーアイたちが加賀の甲板に降り立つ。

 

(報告にあったが、本当に鉄なのか・・・一体、どのような魔法で浮いているんだ?)

 

ブルーアイたちの知識では、船=木製なのである。報告では鉄と書いてあっても、そんなことないだろうという思いで、実際に乗ってみると鉄製で。理解できるはずもなく、ブルーアイたちは混乱を強めた。

 

彼らは勝埼に言われるがまま、艦内に入る。

 

「中が明るい・・・これも、電気という魔法なのか?」

「つまり、このカガというのは魔導船ということか」

 

城内と錯覚するほど広い艦内を案内され、艦橋に入ったブルーアイたちは艦長に対面する。驚いたことに、この第三艦隊旗艦の艦長は女性であった。そして、そういえばと思い出す。日乃本帝国の軍隊では女性も採用していると。しかし、まさか艦長職でも就けるとは。

 

今度は遅れぬように、ブルーアイが敬礼した。

 

「クワ・トイネ公国海軍観戦武官のブルーアイです。この度は援軍、感謝いたします」

「初めまして、艦長の南雲です。早速ですが、我々は武装勢力の船の位置を既に把握しています。ここより西側500kmの位置、凡そ5ノットの低速ですが、こちらに向かってきています。我々は明日の朝出撃し、武装勢力に引き返すように勧告の後、従わない場合は殲滅する予定です。ああ、勿論、降伏や撤退する場合は攻撃を停止しますが・・・」

「せ、殲滅?・・・全て、殲滅ですか?」

 

そんなバカな。いくら魔導兵器を満載していたとしても、そんなことが可能なのか?いや、殲滅してもらえるなら、我が国にとってありがたいことなのだが・・・

 

「はい、殲滅する予定です。」

「失礼ですが、敵の総数はご存知でしたでしょうか?」

 

ブルーアイは日乃本帝国が海軍に対して敵の規模を知らせていないのではと危惧する。勿論、そんなことはない。

 

「武装勢力の船数は約4400隻と把握しています。クワ・トイネ海軍の皆さんに随伴いただく必要はございませんとお伝えしておりますが、貴官ら観戦武官殿の安全は保障いたします。ですので、明日までは艦内でごゆっくりとおくつろぎください」

 

ブルーアイたちは改て驚く。彼ら日乃本帝国海軍は、自分たちだけでクワ・トイネ公国海軍の協力を得ずに4400隻もの大艦隊に挑むつもりなのだと。

 

 

 

       *   *   *   *   *

 

 

 

その日のブルーアイの日記より

 

私はクワ・トイネ公国の民として、無事日乃本帝国の船に乗船した。

 

船までの空飛ぶ飛行機械の乗り心地は非常によく、金属でできた非常識な巨躯を誇る航空母艦という軍船も、艦内の温度が一定に保たれ、夜でも内部は明るい。ここは本当に海に浮かぶ船の中なのか?と疑いたくなるほど、艦内は揺れない。そんな巨船の艦長が女性であることにも、内心とても驚かされた。何もかもが常識外で、本当に驚かされる。

 

艦長と謁見した際、彼らはロウリア王国の軍船4400隻を相手に、たったの15隻で挑むと聞かされ、最初は自殺行為だと思った。しかし、艦内や、特別に兵装を見学させてもらうと、これほど大きく、そして金属でできていれば、確かに火矢では燃えず、バリスタでは貫けぬだろうと容易に推測できる。そもそも傷つけられないのならば、この船で体当たりすれば良いのではないだろうか。相手は木造船である。船体が金属ならば、このような戦術も可能なのでは?と案内の帝國兵に聞いてみた所。

 

『たとえ木造でも、船体が傷ついたら整備に時間がかかります。なので、我々は接近戦は極力行わず、離れて遠距離から攻撃を行うのです。それが、私たちの戦いの方法であります。』

 

とのこと。船体に傷とは・・・鉄製なのだから問題ないと思うのだが、それが彼らのやり方らしいので、強くは言えない。

 

そして武装だが、【しうす】という接近防御火器システムを見学させてもらった。白く細長い頭部に、腹から6本の棒が突き出た奇妙な生物を彷彿とさせる奇怪な兵器だが、実際の攻撃方法を魔導映像で見せてもらうと、一分間に約6000発もの光弾を高速で打ち出すと言う魔導兵器だった。これ一つを陸に配備できれば、戦列を組んだ数万の歩兵をも簡単に薙ぎ払えよう。まさに凄まじいの一言。一体、何を相手にこんなものを搭載しているのか。

 

名前に接近防御火器とついているように、誘導魔光弾(彼らは対艦誘導弾と言った)を迎撃する為の兵器らしい。誘導魔光弾といえば、御伽噺の悪しき大帝国、ラヴァーナル帝国が唯一実用化していたとされる伝承の究極兵器だ。そんなものを迎撃する為に作られたとは、見た目は一見奇妙だが、性能を知れば究極兵器から艦隊を守る頼もしい兵器に思える。

 

他にも兵装はあるらしいが、この航空母艦には搭載されていないとのこと。この艦の役目は、海上の鉄竜基地であって、主戦闘は周りの巡洋艦か駆逐艦が行うようだ。直接見れないことには残念でならないが、それらの軍船に守られている航空母艦が一番安全なのは理解している。戦闘時は艦橋からでもみれるそうなので、観戦させてもらおう。

 

はじめはたったの15隻と一時絶望感に飲まれたが、敵の攻撃がこちら側に通用しない可能性が高い。そして、日乃本帝国は、この戦いに絶対の自信を持っているようである。

 

これほどまでに緊張する観戦武官の任は、生まれて初めてだ・・・

 

 




いや、本当にお久しぶりです・・・気力が湧いたので書きました。不定期です。


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