ゼロサーガ(ゼロの使い魔×ゼノサーガ) (宇宙間管理職)
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用語解説
ゼロサーガに登場した単語を解説
ネタバレ、メタ発言、筆者のオ○ニー丸出しなので注意
本編の進行と共に順次加筆
第01話
『KOS-MOS』:エロい!強い!カッコいい!を具現化した存在。中の人がいるらしい。
『Ver.4』:ゼノサーガⅢ後半の形態。Ver.3の4.75倍強いT-elosより強い。その実態は小型エルデカイザー。
『五回目』:KOS-MOSにとってハルケギニアは5回目の異世界となる。内4回は「NAMCO×CAPCOM」「無限のフロンティア」「無限のフロンティアEXCEED」「プロジェクトクロスゾーン」を指す。エンドレスフロンティアが被ってるじゃないかってツッコミはいらない。
『ハルケギニア共通言語』:なんかそれっぽいのを勝手に作った。筆者にはハルケギニアとハルゲニアの違いがわからない。
『シオン・ウヅキ』:KOS-MOSの開発者(の一人)。伏線の塊のような人間だったが塊のまま放置された。ゼノサーガ屈指のキチガイ。その統合失調症のような言動はどっかの公爵家三女を彷彿とさせる。マリアの巫女のクセにマリアに守られるとかお笑いもの。
『最優先保護対象』:何故かKOS-MOSはシオン・ウヅキを守っている。
『ヴェクターインダストリー』:KOS-MOSの世界の三菱
『グノーシス』:正体不明の敵。ゲーム的にもメタ的にも正体不明。なんか触れると食塩になるらしい。実体がないとかいっていきなり宇宙船の中に出現するのは勘弁してほしい。
『コンドーム』:筆者は童貞なので使ったことがない。
第02話
『虚数空間(領域)』:存在するが存在しない空間。グノーシスはここから生まれる(らしい)。知覚できるのは百式レアリエン、KOS-MOS、先天的特殊能力を持つ者(シオン・ウヅキ)のみ。
『実数空間(領域)』:今我々が存在している世界全てを指す。
『固着』:虚数空間にいるグノーシスを実数空間に引っ張りだすこと。実数空間のグノーシスは通常兵器で攻撃が可能。
『系統魔法』:このハルケギニアの魔法とは精神力を触媒に虚数空間へ干渉する行為。虚数空間を経由することで物理法則を逸脱した現象を発生させることができる。
『メイジ(魔法使い)』:先天的に虚数空間に干渉できる人間のこと。
『クラス』:ドットからスクエアまでの4段階が存在。
クラスが高いほど虚数空間への干渉能力も高くなる。
『失敗魔法』:ルイズが使う魔法。その実態は特定の虚数空間を空間ごと消去する現象。実数空間における爆破はその余波。
『虚無』:古代に存在したという第5の系統魔法。
『皿洗い』:KOS-MOSはゲームで皿洗いをする。
『かの地』:エンドレスフロンティア
『緑色のアンドロイド』:アシェン・ブレイデルのことでありまする。
『不明なユニットが接続されました。』:アーマードコアVの代名詞。オーバードウェポンがACに接続されたときに鳴り響く警告音声。筆者はヒュージキャノンがお気に入り。
『対チャラ男用挑発プログラム』:アシェンがKOS-MOSにぶっこんだプログラム。アシェンならやりかねない。
『チャラ男/キザ野郎』:ハーケン・ブロウニングに敵味方関わらずつけられるあだ名。話は変わるが筆者の好きなキャラはキュオン。決してロリコンではない。
『本体性能』:KOS-MOSは人型掃討兵器だけあって白兵戦能力がかなり高い。詳しくはKOS-MOS V.S. T-elosの動画を確認してもらえるとありがたい。
『ルックスが5%低下。(シオン)洗浄を。』:KOS-MOSが戦闘終了後に言うセリフ。KOS-MOSの出演するゲームには必ずこのセリフがある。
『オナホール』:筆者が初めて使ったのはTENGA。
第03話
『邪神』:詳しくは「邪神モッコス」で検索。筆者も初めて見たときはブラクラかと思った。
『92㎏』:KOS-MOSの体重。フルメタルの割には軽い気がする。なおゼロ魔にはメートル法に変わる単位があったはずだが筆者は覚えてないようだ。
『虚無(2)』:ブリミルが使っていたと言われる系統魔法。
『ベッドの上でエクササイズ』:童貞の筆者にはなんのことだかわからない。多分、組み体操かなんかだろう。
『ノア計画~軋んだ破片~』:タバサが読んでいた長編小説。一部の界隈で絶大な人気を誇る。海に浮かぶ沢山の大陸を舞台に、発掘された『ギア』と呼ばれるゴーレム、そしてとある事件に巻き込まれた主人公が世界の真実に迫る謎が謎を呼ぶ一大スペクタブルノベル。とにかく長い。
『ノア計画』:元ネタはゼノギアスの初期開発コード「Project“NOAH”」Wikipediaってサイトが教えてくれた。
『~軋んだ破片~』:元ネタはゼノギアスのエンディングテーマ「SMALL TWO OF PIECES 〜軋んだ破片〜」
『オーク鬼の肉を~』:詳しくは「ソイレントシステム」で検索。
『サイレント』:実数空間における音を構成するエネルギーを虚数空間に逃がすことで周囲を無音状態にする。
『ルイージ』:弟。
『使い手』:デルフリンガーが口にした言葉。ゼロサーガとは特に関係のないようだ。
『インテリジェンスガーゴイル』:インテリジェンスソードであるデルフリンガーがKOS-MOSに向けて言った言葉。詳細は不明。
『器』:デルフリンガーがKOS-MOSを指して形容した言葉。詳細は不明。
『覚醒めていない』:デルフリンガーがKOS-MOSに向けて言った言葉。詳細は不明。
『空間転送』:KOS-MOSはその多くの武装を別空間に格納し、必要に応じて転送する。別空間がどんな空間なのかはよくわからないが別空間は別空間なのだろう。デルフリンガーもここに収納された。
『ジン・ウヅキの使用兵器』:日本刀に酷似した片刃の剣。あの世界に時代錯誤も甚だしい。ゼノブレイドの新作はまだですかね。
『ジン・ウヅキ』:シオン・ウヅキの兄。インテリ武闘派古いもの好き。ゲーム上仕方ないがこの家系は文武両道すぎやしませんかね。
『固定化』:物質を固定する魔法。実数空間からの力のベクトルを虚数空間に向けることで対象を保護する。
その性質上、ドットクラスの『固定化』は魔法には弱い。しかし物理的な壁などにスクエアクラスの『固定化』をかけると実数空間への力は虚数空間へ、虚数空間への力は実数空間へ、を繰り返し最終的には力は霧散する。なお虚数空間と実数空間を同時に破壊するルイズの失敗魔法の前には紙くずも同然だった。
『(フーケの)ゴーレム』:トライアングルクラスのメイジが作り出すゴーレム。虚数空間に干渉し続けることで触媒(精神力)の続く限り形状を維持し続ける。
『ヒルベルトエフェクト』:KOS-MOSに搭載されている専用兵器の一つ。虚数空間のグノーシスを実数空間に固着させることが可能。有効範囲は半径数万天文単位。ちょっと意味がわからない。
系統魔法にも効果はあり不可視の精神力を可視状態にした。
『力比べ』:KOS-MOSがフーケのゴーレムに対して使った言葉。通常兵装を用いてゴーレムを中破、半壊状態にし続けフーケの精神疲労を誘発させる鬼畜の所業。X・バスターでさっさと片付ければ良いものを
『ティファニア』:フーケが最後に残した言葉。おそらく家族のことだろうか
『M72ロケットランチャー』:『破壊の杖』の正体。ロストエルサレムがまだ地球として存在していたときに使われていた携帯火器。出番はなかった。
『ロストエルサレム』:人類がその生活拠点を宇宙に移したあと、ある実験により消滅したといわれる地球の成れの果て。確かそういう説明。
『異なる時間軸』:別の時間軸では未だに地球は存在しているというKOS-MOSの「経験」から使われた言葉。
『カマンベール』:チーズ。
『ティファニア(2)』アルビオン王国サウスゴータ地方、ウエストウッド村に住むメイジ。サモン・サーヴァントでT-elosを召喚した。
『T-elos』:KOS-MOSの色違い。KOS-MOS Ver.3の4.75倍強いがVer.4に傷一つつけられなかった。相手がエルデカイザーならしかたがない。勝っているのは露出度だけ。あとヤケに口が悪い。でも知らないことをいろいろ詩的に説明してくれる。フルメタルアンドロイドと異なり体組織の80%が生体パーツ。いくらなんでもマリアさんの身体丈夫すぎませんか?KOS-MOSの中の人を狙い一回目に舐めプしたら二回目に痛い目にあった。わかりやすく言うとKOS-MOSの胸(の相転移砲)に押しつぶされた。最近のゲームでは割と仲良し。
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第01話
「───私は、ヴェクターインダストリー製対グノーシス用人型掃討兵器KOS-MOS Ver.4です」
[第01話:召喚]
草原に爆音が轟く。それも一度や二度ではない。今ので23回目。当初は囃し立てていた生徒達にも早々に飽き、各々自分たちが召喚した使い魔と親睦を深めていた。
「ミス・ヴァリエール。もう時間も押しています。次ので最後にしましょう」
「そ、そんな、、、」
ミス・ヴァリエールと呼ばれた少女ルイズは動揺を隠せない。美しい桃色の髪は爆風でボロボロ。額は汗と跳ねた土でぐしょぐしょになっていた。その背中は一種の哀愁を漂わせている。
少女は思う。後はもうない。このままだと進級できず留年。いや我がヴァリエール公爵家末代までの恥として領地に強制送還。一生篭の鳥として育てられ政略結婚の道具にされるのはもはや規定事項。次で、必ず次で成功させなくては……
そんなルイズの気持ちを知ってか知らずか照り輝く太陽光を頭部で乱反射させている教師コルベールはせかす。
「では、ミス・ヴァリエール。召喚の儀式を」
「わかりました」とルイズは深呼吸。
そしてルイズは残りの精神力全てを呪文に注ぎ込む。
「来なさい! 私だけの、神聖で、美しく、強力な使い魔よ!!」
召喚の呪文の最後の句が終わり、ルイズは叫ぶ。
瞬間、魔力がルイズの前に凝縮したかと思うと今度は今までにない規模で爆発があたり一面に広がった。
これにはさすがに周りの生徒達も無視できず思わずルイズに目を向ける。そのうち何人かが未だ立ち込める土煙の中に影を見つける。
「なにかいるぞ!」
「まさかゼロのルイズが召喚を!?」
「明日は雪が降るぞー」
生徒達に軽いパニックが襲う。ルイズが魔法を成功させるのは前代未聞驚天動地の出来事と言っても過言ではない
「え、嘘……。本当に私成功したの……?」
かく言うルイズ本人も驚きを隠せない。
(何が召喚されたのかしら……?犬や猫?いやいやもっと大きい。もしかしてドラゴンとかだったらどうしよう……)
困っているようでその顔は笑みを隠せていない。
しかしそんな期待は杞憂に終わる。
煙の中から現れた姿に思わず唖然、その場に居合わせた全員が唖然とした。
思わずルイズは呟く。
「あなた、誰?」
煙、正確にはゲートより出現した瞬間からKOS-MOSは状況把握を主に思考を始める。
彼女のもつ「より人間らしく」を目指して搭載された「擬似人格OS」はある可能性を吐き出した。それはこれで5回目となる異世界、又は異次元への召喚。論理に支配されたKOS-MOSも流石に「慣れ」が生じる。KOS-MOSはその線で周囲の観察を始める。
まず目に入ったのは目の前にいた桃色の髪をもつ少女。その出で立ちはマントを身につけ手には木製の棒を持っている。次に視認したのはその少女の近くに立つ頭部防御力が明らかに危険値の中年男性。そして彼女等を取り囲むように周りには皆似たような姿の少年少女が散在していた。さらにKOS-MOSは彼らに随伴する多種多様の生物を確認した。その幾つかの生物は彼女のデータバンクに未登録であったが度重なる未知との遭遇によりそれすらKOS-MOSには「慣れ」ていた。
周囲の敵対行動がないことを確認していると目の前の少女がこちらを見据えて言葉をつぐむ。
「あなた、誰?」
敵対意志は感じられない、まずは情報収集が先決。そう判断してからKOS-MOSは答えた。
「私は、ヴェクターインダストリー製対グノーシス用人型掃討兵器KOS-MOS Ver.4です」
ルイズには彼女の言ったことを理解できなかった。言葉が通じなかったわけではない。確かに彼女の口からは流暢なハルケギニア共通言語が発せられた。幾分か冷静になったルイズは彼女を観察してみる。
(女の子……いや、女性ね……髪は青みがかった銀……眼の色は赤……陶磁器の様な肌にスタイルはチッ忌まわしきツェルプストー程じゃないが抜群、それでいてイヤらしさを感じない……まるで人形みたいに無表情ね……)
そんなルイズの後ろから生徒が声を放つ。
「おーいルイズーいくら上手くいかないからってその辺の平民連れてくるんじゃないぞー」
その一言を皮切りにしばらくどう反応していいかわからなかった他の生徒達も声を出す。
「ルイズの魔法が成功するわけねーよ」
「それにしてもあの平民、綺麗ねぇ」
「いくら払って雇ったんだー」
場がヒートアップしてきたところて教師コルベールが彼らをたしなめルイズに声をかける。
「ミス・ヴァリエール、どうやら召喚は成功したようですね。それでは契約の儀式を」
「ちょ、ちょっと待ってくださいコルベール先生。私がこの平民?とコントラクトサーヴァントを行うんですか?何かの間違いです。再召喚を許可を要求します!」
「しかしだねミス・ヴァリエール……」
「ねぇタバサ。ルイズの召喚した平民の女性、どう思う?まぁ私よりは数段劣るけどかなりの美人じゃない?」
と赤い髪の少女キュルケがタバサと呼ばれた青い髪の少女に声をかける。
タバサは読んでいた本から目を離しルイズが召還した女性を見た。
「……あれは人間じゃない……」
「えっ?」
タバサの答えを聞いてキュルケは思案する。
(人間じゃない……?だったらルイズは何を召喚したの……?)
場所は戻ってルイズとコルベール。
「ミス・ヴァリエール、召喚は神聖な儀式。例え平民であろうと契約をしなくてはならないのだよ」
コルベールはKOS-MOSをちらりと見ながらルイズに言い放つ。その時KOS-MOSのガラス玉のような深紅の眼はコルベールを見つめていた。
「そんなぁ……」
としぶしぶ了承するルイズ。
「感謝しなさいよ。貴族にこんなことされるなんて、普通一生無いんだから」
といったルイズは、KOS-MOSに近づく。
(背伸びしたら届くかしら……)
そしてKOS-MOSの左手を掴み詠唱する。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」
詠唱を終え、表情を変えないKOS-MOSの額に杖をちょん、と当てたあと、顔を引き寄せその唇に自らの唇を押し当てる
ことは出来なかった。
何が起こったのかわからなかったルイズだがすぐに自分の身に起きたことを理解した。
頭を、頭部を空いていた右手で掴まれそれ以上近づけないようにされていたのだ。
それはその場にいた全員にとってまったくもってイレギュラー、想定外のことだった。
これは貴族に対して平民が手を挙げたのと同義、そして彼らに限らずルイズの怒りのボルテージは跳ね上がる。
「ちょっとアンタどういうつもり!?平民が貴族に向かって手を出しイタタタタタ、待って!イタいイタい!!ヘルプ!!ヘルプ!!」
ルイズの頭部への力を強めながらKOS-MOSはコルベールに顔を向ける。
「あなたが責任者ですね。説明を要求します」
生徒と同じく混乱していたコルベールはその声にハッとして銀髪の女性を見る。
教師として、年長者としてこの場は収めるべきと幾分か冷静になった彼は彼女に告げた。
「わかりましたミス、まずはそのあなたが掴んでいるミス・ヴァリエールを放してください」
「了解しました」
と彼女は手を緩める。
「なんなのよアンタは!?いったいどういう了見でイタい!!イタいイタい!!許して!!」
「ミス・ヴァリエール!!いい加減にしなさい!これでは話が進みません!」
という教師コルベールの言葉にルイズは涙目で頷くしかなかった。
目まぐるしく変わる状況にすでに脳のキャパシティーが限界寸前の生徒達に向けて彼は手を叩きながら言った。
「はい、皆さん。ミス・ヴァリエールも召喚は成功したようですし私はまだ話があるのでミス・ヴァリエール以外は先に教室へ戻ってください!」
教師に刃向かうわけにはいかないとしぶしぶ生徒は『フライ』を唱えて空を飛ぶ。
全員が飛んで行ったところで未だにルイズを掴んで放さないKOS-MOSに声をかける。
「ではまず何からお話したらよろしいでしょうか。とりあえずミス、なんとお呼びしたらよろしいか」
「KOS-MOSで結構。敬称は不要です」
「わかりました。ではコスモス、どこから話せばよいでしょうか」
「質問します。周囲の状況から判断するに私は目の前のミス・ヴァリエールによって召喚されたと考えられます。間違いありませんか?」
「はい、その通りです」
「質問します。この場所の名称は?」
「トリスティン魔法学院です。私はここで教師をやっているコルベールと申します」
「この国の名と大陸の名、及び星の名は?」
「ハルケギニア大陸のトリステイン王国と呼ばれる場所です。星?というのはどういう意味でしょう。私からも質問よろしいでしょうか?」
「機密保持に関わらない程度には」
「ありがとうございます。それではまず、あなたは“何”ですか」
「質問の意図が不明。私は、ヴェクターインダストリー製対グノーシス用人型掃討兵器KOS-MOS Ver.4です」
「ちょっと待って下さい。兵器、
というとあなたは人間ではないと?」
思わずコルベールは訪ねてしまった。その質問にしゃがんでふてくされていたルイズも思わず顔を挙げる。
「はい、私は人間ではありません。体組織全てが人工物です」
「つまりあなたはゴーレム、いえガーゴイルの類だと?」
「正確にはアンドロイドです。しかしあなた方の言葉でガーゴイルがそれに該当するのであればその認識で構いません」
この言葉にコルベールもルイズも驚愕した。
こんなに精巧な、人間と見間違うようなガーゴイルは今まで見たことなかった。おそらくスクェアクラスのメイジが集まってもここまでのモノはできないだろう。
となるとルイズは思う。最初はハズレかと落胆したがもしやこれはスゴいアタリなのではないか?このガーゴイルを使役できればもう誰にもバカにされないのではないか、と。
そしてコルベールに言う。
「先生!私に、私がこのガーゴイルにコントラクトサーヴァントを行います!良いですね!」
「待ちなさいミス・ヴァリエール。まだ質問は終わってません」
「失礼、コスモス。質問の続きですがどうして先ほどミス・ヴァリエールのコントラクトサーヴァントを拒んだのでしょうか?」
「返答します。そちらのミス・ヴァリエールから詠唱後正体不明の力場を感知。極度の興奮状態により言語による制止は困難と判断。物理的制止に移行しました」
「こちらから質問します。コントラクトサーヴァントとは何でしょうか。意味と状況から判断するに召喚物への隷属を強制するものでしょうか?」
と言われてコルベールは一瞬口をつぐむ。
今まで考えてこなかったが確かにコントラクトサーヴァントは主への隷属を強制するものだ。コルベールは念のため言葉を選びながらKOS-MOSに応える。
「え、えぇ……。大体、そのような認識で構いません。説明もしましたことですしあなたは召喚者ミス・ヴァリエールの使い魔としてコントラクトサーヴァントをしてもらえますか?」
その問い掛けにKOS-MOSは応える。
「拒否します」
「「は?」」
思わず二人は問い返す。
「私のマスターたるは開発者であるシオン・ウヅキただ一人です」
これにはコルベールもお手上げだった。ガーゴイルである以上彼女を作ったメイジがいるのは道理。コントラクトサーヴァントできないのは仕方がないがこれもやむなしと考えていた。
しかしルイズは違った。ルイズの心は希望と絶望が交互に訪れもう正常と言える状態ではなかった。そしてKOS-MOSにつっかかる様に言う。
「そんなの意味わかんない!!私が、私があなたを召喚したのよ!!例えあなたが別の誰かに作られたからってそれがなんだっていうの!?ここは召喚者の言葉に従っておとなしく使い魔になるべきよ!!」
しかし相手はガーゴイル、そんなことは歯牙にもかけず淡々と述べる。
「私の最優先保護対象はシオン・ウヅキです。この世界、この時空に存在しないとしてもそれは変わりません」
「だったら、だったら私はどうすればいいのよ~~~~」
冷たく言い放たれたルイズは制服が汚れるにも関わらず地面に座り込んでしまった。
ルイズという存在がいたからであろう。
現状を冷静に判断していたコルベールはKOS-MOSの言葉に気になる点を見つけた。
「失礼コスモス。この世界、というのはどういった意味かな?」
「私はそもそもこのハルゲニアの存在ではありません。こことは異なる世界より召喚されました。現状、情報の不足は否めません。最高責任者との面会を要求します」
ルイズとコルベールはもう一度呆然した。
所変わってKOS-MOSとルイズが連れてこられたのは校長室。彼女等の目の前には老いてなお快活さを感じられる男性が年期の感じられる大きな机の前に座っていた。
「つまり君、コスモス君は別世界のガーゴイルだと?」
この学院の校長であるオールド・オスマンはKOS-MOSに訪ねる。
今この校長室にはオスマン、コルベール、ルイズ、そしてKOS-MOSしかいない。
「肯定します」
「俄かには信じられん。なにか証明できるものは?」
「私の存在こそがその証明です」
そう言ってKOS-MOSは右手で自分の左肩を掴み、文字通り外した。
「なんとっ!!」
唯一反応できたオスマンが声を挙げる。
そして次にコルベールがその左肩を確認する。
「す、すすすスゴいです校長!!こんなに精巧かつ緻密なガーゴイルは見たことありません!!さぞかし高位のメイジが作り上げたのでしょう!!」
興奮を隠せないコルベールに向かいKOS-MOSは左腕を戻しながら口にする。
「今の発言には誤りがあります。私の開発者はメイジではありません。また私の世界にメイジ、すなわち魔法というものを使う人間は存在しません」
その言葉に静寂が流れた。この精巧なガーゴイルの述べたことを反芻した。メイジがいない、つまり平民しか存在しないということ。
このガーゴイルは平民によって作られたという事実。KOS-MOSが異世界より召喚されたことは疑いようもなかった。ただ一人を除いて。
誰よりも貴族らしく育てられたルイズにとってKOS-MOSの発言は信じられなかった。校長や教師の前ということ忘れてKOS-MOSにつっかかる。
「待ちなさいよ!貴族がいないってどういうことよ!」
「貴族、王族という後進的な社会システムは既に数千年前に消失しました」
「後進的ですって……だったらどうやって国を動かすのよ!?誰が平民を守るのよ!?」
「国を動かすのは政府、国民より選出された代表者によって国の方針、税率などが決められます。国民より選出される以上不適切と判断された場合にはすぐにその地位を剥奪され別の選出者に換わる非常に合理的かつ公平な社会システムです。国民を守るのは軍隊、警察、裁判所など多岐に渡ります」
淡々と述べられるKOS-MOSの言葉にルイズ含め3人は絶句する。その発言はこのハルゲニアでは異端とされ、もし話しているところを憲兵に見つかったなら親族皆殺しもあり得るからだ。これにはルイズも彼女の存在を信じる他なかった。
軽く咳払いしながらオスマンは口を開く。
「してコスモス君、非常に残念なのじゃがわしらは君を君の世界に送り返す方法を知らんのじゃ。なのでここは一つヴァリエール嬢の使い魔になってくれないじゃろうか?」
その言葉にルイズはオスマンへ羨望の眼差しを向ける目が合ったオスマンは小さくウィンクをする。
しかし、
「その心配は及びません」
ルイズの心はもうボロボロだった
「も、もしや君は元の世界へ帰る方法を知っているのか?」
ワナワナしながらオスマンがKOS-MOSに問う。
「いえ、帰る方法はわかりません」
だったら何故、皆が考える。続けて、
「私はこれまで何度か異世界、異次元に召喚されました。そのいずれも私が召喚されるに足る理由が存在しました」
「その理由とは?」恐る恐るオスマンが問う。
「主にその世界の危機です。世界が危機に対し収束することが困難と判断されたとき、その防衛機能として私のような『力』が召喚されるのです」
誰も、二の句が告げなかった。彼女の発言の意味、それはこの世界ハルゲニアに我々では対処できないような未曾有の危機が迫っているということだ。こんなバカな話があるのかと一蹴するのは容易いが目の前のKOS-MOSという存在がそれを証明している。
「オ、オオオオールド・オスマン!!これは一大事ですぞ!!彼女の言うことが本当だとしたらこれは即座に王宮に伝えなければ!!」しかしオスマンは、
「こんなこと誰が信じるのじゃ。確かに筋は通っておる。目の前に証拠もある。伝えたところでコスモス君がアカデミーに連れて行かれるのが関の山。このことは我々だけの心の中に留めておくのじゃ」
「わかりました……」コルベールも頷くしかなかった。
「わかったかね。ヴァリエール嬢」
「えっ、あっ、はい……」
先ほどから放心していたルイズは突然話かけられてうまく返事できなかった。
「となるとコスモス君、君はこれからどうするのじゃ?君の意見を聞きたい」
KOS-MOSは応える。
「現状、情報収集を主に危機に対して待機するつもりです。また、ミス・ヴァリエールが私を召喚した以上ミス・ヴァリエールは危機に対するなんらかの重要人物であることが予想されるため、ミス・ヴァリエールを保護対象と認定、その護衛を行います」
「それはつまりコントラクトサーヴァントを受けるということでしょうか?」
「いえ、コントラクトサーヴァントには私のプログラム、つまり脳に対してなんらかの書き換えが起こる可能性が高いためそれは拒否します」
「使い魔になることには異論はないと?」
「使い魔が何を意味するかわかりませんが私はアンドロイドです。上位権限を持つものの指示に従うために存在します」
「よしこうしよう!」とオスマン。
「コスモス君はコントラクトサーヴァントなしにヴァリエール嬢の使い魔とする。ガーゴイルと言うのがバレても面倒じゃ。コスモス君は平民の女性と言うことで学院に通す。コスモス君、ヴァリエール嬢、これでよいかね?」
「異論はありません」とKOS-MOS
「もう好きにしてください」とルイズ
「どうやら話はまとまったようじゃな。コスモス君の服装は目立つ。ヴァリエール嬢、公爵家の令嬢に頼むのは忍びないが緊急事態じゃ。学院のメイドからメイド服を一着持ってきてもらえないじゃろうか」
「わかりました」と言って退出するルイズ。普段ならどうして私が、と反論するであろう彼女ももうその気力すらなかった。その足取りはさながら幽霊のようであった。
ルイズが退出した所でオスマンが口を開く。
「コスモス君、グノーシスというのは一体なんだね?」
「お、オールド・オスマン……」
「グノーシスというのはあなた方の言葉でいうなら<認識>、人類を脅かす正体不明の敵です。私はそのグノーシスに対抗するために開発されました」
「そのグノーシスはどれほど危険なのかね?」
「彼らは実体を持ちません。それゆえにあらゆる壁、構造物は意味をなしません。唯一対抗できるのはグノーシスが人間に対して攻撃するとき、その瞬間のみ彼らは実体化します」
「彼らに攻撃されるとどうなるのかね?」
「同じくグノーシスになるか塩化ナトリウム、すなわち塩になります」
2人の間に沈黙が流れる。
先程のKOS-MOSの言葉と合わせるとそのグノーシスとやらがハルゲニアを襲うのではないかと嫌な汗が流れる。
「失礼します」とドアを開けたのはルイズ。
「頼まれたメイド服を持ってきました。」
「おーおー、そうかそうか。ご苦労じゃったな。ではコスモス君、早速着替えてもらえんか?」
と場を和ませるために軽口を叩く。
「オールド・オスマン!!」とコルベールは顔を真っ赤にする。
「了解しました」
「ほっほっほっ、ちょっとした冗談じゃよって本当に!?」
オスマンが目を向けたときには既にKOS-MOSは一糸纏わぬ姿になっていた。もちろん局部にあるべきものは存在しなかったが。
「こ、こここコスモス、先程まで着ていた服はどうされたのです!?」コルベールはできるだけ見ないようにKOS-MOSに問う。
「私の服は全て別空間に収納しました」
答える頃には既に着替えは終わっていた。
「ではヴァリエールお嬢様。以後お見知りおきを。気軽にKOS-MOSとお呼びください」
その所作は主に付き従うメイドそのものだった。
「え、えぇ。私もルイズでよくってよ、コスモス」
なんとか、なんとかギリギリ残っていたプライドで応える。
「それでは校長、コルベール先生、私はコスモスと部屋に戻りますので」
「お、おう。今日はゆっくり休むのじゃぞ」ルイズの後ろ姿は今にも消え去りそうであった。
2人が退出したあとオスマンはドアに目を向けながらコルベールに語りかける。
「コンドーム君、このハルケギニアはどうなってしまうのかの?」
「コルベールです校長。いえ我々は教師として見守るしかないでしょう。」
2つの月が学院を照らす中一人と一匹は屋上に登り夜空を見上げていた
「シルフィード」そう呼ばれた竜は主に訪ねる。
「なんなのね。お姉さま」
「あの娘の召喚したアレは何?」
「あの方は神の使い、聖母様、救世主様なのね」と思い出して両前足をこすりながら器用に拝む。
「神……」
部屋に戻ったルイズは大分普段の調子が戻ったのかどこへ向けて良いのかわからない怒りを枕にぶつけていた。
「あーもう!何なのよ!何なのよ今日は!」
「とりあえず今日は寝る!話は明日!いいわね!」
「了解しました」
「明日は7時に起こして!」
「了解しました」
「もう!おやすみ!」
「おやすみなさいませ」
「もぅ……なんなのよ今日は……」
運命の歯車が崩れる最初の夜が更けていく
読んでもらえるなんてありがとうございます。
初めてのSSなので辛辣な意見を募集してます。
設定、口調は割と適当なので目を瞑ってください。
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第02話
「──言語による対象の覚醒は困難。実力行使に移行します」
[第02話:決闘]
「コスモス!私にわかるように説明しなさい!」
早朝の部屋に怒声が響く。
コスモスと呼ばれた女性は今朝の状況を説明する。
「07時00分、昨晩の指示に従い『起きなさい。起床時刻です』等の言葉を用いてルイズお嬢様の起床を試みる。07時05分、反応がないため昨日の経験より頭部への圧迫が有効と判断、実行。以上です」
「よ、よーく、わかったわ。ありがとう。でも明日はもっと穏便な方法をとってもらえると嬉しいかしら」
とルイズと呼ばれた少女はこめかみをピクピクさせながらKOS-MOSに応える。
「善処します」
「ルイズお嬢様、この歳から眉間に皺を寄せるのは将来、美容を損なう危険性があります。お気をつけください」
誰が!っと叫ぼうとしてルイズは踏みとどまった。
(落ち着くのよルイズ。相手は人間に見えるけどガーゴイル。こんなことで一々目くじらを立ててたらきりがないわ。そうよ!いろいろ気になる点はあるけど一応コスモスは私の使い魔、そして私はコスモスの主、貴族たるもの優雅たれ。お父様も常日頃私に仰っていたわ。)
一瞬思考が虚数の海にダイブしていたがどうやら戻ってきたようだ。
「とりあえず顔を拭きたいわ。水を汲んできてもらえるかしら?」
「こちらに用意してあります」と水で濡らしたタオルを差し出すKOS-MOS。
「そ、そう。ありがとう。次は着替えよ。着替えはそこのタンスに──」
「こちらに用意してあります。僭越ながらお着替えを手伝わせてもらいます」とあれよあれよとKOS-MOSに着替えさせられるルイズ。
「あ、ありがとう」昨日から使い魔に対して主従関係を徹底的に理解させようと意気込んでいたルイズは完全に出鼻を挫かれていた。
それにしてもこのメイド、できる。
「それじゃあこれから食堂に向かうわ。着いてきなさい」とルイズは部屋を出て鍵を閉める。
すると隣から『ロック』という声が聞こえてきた。
「あ~ら、ヴァリエールじゃな~い。ご機嫌い・か・が?」と隣の部屋の主がルイズに声をかける。
「あなたの所為で最悪だわ、ツェルプストー」
ツェルプストーと呼ばれた赤毛の少女キュルケはルイズの雰囲気がいつもと違うのを感じ取った。
「どうしたのヴァリエール。何か変なものでも食べたの?」と挑発してみても
「そんなんじゃないわ」と軽く流される始末。
これでは面白くないとルイズ弄りを日課とするキュルケは話題を変える。
「あんたの後ろにいるのが昨日召喚した使い魔?」
ビクッとルイズの肩が震える。
ルイズが言葉を発する前にすかさずKOS-MOSが口を開く。
「はじめまして。私は、ルイズお嬢様より召喚された平民のKOS-MOSです。現在ルイズお嬢様のご厚意に預かり使い魔兼メイドとさせております」
「そう、コスモスって言うの。良い名前ね。私は、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。キュルケでいいわ。よろしく」
「よろしくお願いします。キュルケ様」
KOS-MOSの言葉にキュルケは小さく「これが平民……?」と呟いた。勿論KOS-MOSには筒抜けだったが。
「ちょっとコスモス!何勝手にツェルプストーの女と仲良くなってるのよ!」といつもの調子に戻ったルイズがKOS-MOSに詰め寄る。その姿を見て満足したキュルケはKOS-MOSに助け舟を出す。
「いいじゃない別に~。それより見て私が昨日召喚した使い魔」
「これって、火トカゲ?」
「そう、サラマンダーよ。この尻尾の立派な火をご覧なさい!火山近くの種に違いないわ!」
「名前はフレイム。よろしくね?」
くっ、と一人歯ぎしりするルイズ。
思わずルイズが「私の使い魔だって、」と声を出した所でKOS-MOSに止められた。
「お嬢様、お食事の時間が迫っております」
「そ、そうね」と言って歩き出すルイズ。
KOS-MOSはきっちり30度のお辞儀をキュルケにしてからルイズに着いていく。
キュルケは食堂へ向かう2人を見ながら隣に語りかける。
「ねぇ、タバサ。どう思う、アレ」
いつの間にかキュルケの隣にはタバサと呼ばれた青い本の少女が本を読みながら佇んでいた。
タバサは本から顔を上げKOS-MOSを一瞥、「興味深い」とだけ言って歩き出す。
「ちょっとタバサ!?待ってよ~」とキュルケもタバサの後を追った。
「あ!コスモスさ~ん!」と大きな洗濯籠を持ったトリスタンでは珍しい黒髪のメイドがKOS-MOSに声をかける。ルイズの存在に気付いた彼女は慌てて籠を床に置いて一礼する。
「ヴァリエール様、おはようございます。昨日は突然のことに驚いてすみません。メイド服はこちらのコスモスさんのためのものだったのですね」
思い出した。そういえば昨日私はこのメイドからメイド服を借りたのだ。正直なんと言って借りたのか憶えていない。変なこと言ってないといいが……。
「そうね。昨日はありがとう。そういえばあなたの名は?」
「貴族様が私なんかに感謝なんて……。あ!失礼しました!私はシエスタと申します」
「そう、シエスタって言うの。憶えておくわ」
「それにしてもコスモス。いつの間に彼女と仲良くなったの?」
「説明します。早朝、昨夜の衣類を洗濯しようとした際、洗濯場への道案内及び洗濯の補助を受けました」
「補助だなんてそんな~。コスモスさん、説明したらどんどん洗い物を片付けちゃうんです!コスモスさんのお陰でいつもより早く終わって大助かりだったんです」
それでは洗濯物は部屋に入れときますね、と言ってシエスタはこちらに一礼してから去っていく。
「あなた、何から何まで完璧ね」
KOS-MOSは何も言わなかった。
アルヴィーの食堂に着いたルイズはKOS-MOSに椅子を引かせながら彼女に説明する。
「この学院はね、ただ魔法を教えるだけじゃないの。食事を含め全てが立派な貴族になるための教育の一貫なのよ!」
「でもあなたにとっては前時代的に見えるんでしょうけどね」昨日の話もありルイズの語気は弱まっていく。
「否定はしません」
しかし、と繋げてルイズに述べる。
「現状この王制がこのトリステインにとって最も相応しい社会システムであることもまた事実です」
首を傾げるルイズにKOS-MOSは続ける。
「社会システムはその時代に最も適応したものが選ばれます。それがトリステインでは王制なのでしょう」
「ルイズお嬢様は貴族としての誇りに自信を持ってください」
「もしかしてコスモス。私を慰めてくれてるの?」
KOS-MOSは何も応えず立ち去ろうとする。
「ちょっとコスモス!どこへ行くの!?」
「もうすぐお食事が始まります。私は厨房の手伝いに向かいます」
「今日の授業は使い魔の御披露目があるから一緒に授業に出るのよ!」
「了解しました」KOS-MOSは一礼してから厨房へ向かった。
その日最初の授業は、進級した生徒達の使い魔お披露目的な意味もあった。
故に、担当である土のトライアングルメイジ、シュヴルーズの授業、最初の言葉もそれを意識したものとなっていた。
「皆さん、春の使い魔召喚の儀は無事滞りなく終えたようですね」
様々な使い魔が居る中で、やはり一人、人間の使い魔、いやメイドがメイジの側に立っているのが目に着いた。しかも直立不動、先程から微動だにしない。
「ミス・ヴァリエールは……その、随分特殊な使い魔を召喚なさったようで」
教師の言葉に肥満体型の男子生徒がルイズを囃したてる。
「ルイズ!サモン・サーヴァントが出来なかったからって、そこいらで歩いてた平民を連れてくるなよ!」
「ち、違うわ!ちゃんと呼んだら、彼女が出てきただけよ!」
「嘘付くなよ!聞いたこと無いぜ、サモン・サーヴァントで平民を呼んだメイジなんて!」
「そうさ!おおかた、公爵様の領地のメイドを連れてきたんだろう!?」
続けて悪し様に笑う生徒達。
KOS-MOSは現状を静かに観察する。
『召喚者ルイズへの昨日からの他生徒の反応、及び言動、さらにメイジと呼ばれる貴族が支配する社会システムから考察するに、召喚者ルイズは魔法に対してなんらかの遺伝的欠陥がある模様。引き続き情報を収集』
「皆さんお静かに。学友のことをそのように言う物ではありませんよ」
と教師が生徒を止める。
「しかしルイズは……!」
初めに声を出した肥満体型の男子生徒が再び何か言いかけたところで、その口が赤土で塞がれる。
「貴族としての礼儀に欠けます。バツとして、そのままで授業を受けなさい」
そうして始まった授業を、KOS-MOSはまばたきせずに聴いていた。
この世界の魔法を決定する地火風水の4系統の説明から始まり教師が鉄を真鍮に『錬金』するといったとりわけ基本的な授業であった。
しかし、KOS-MOSの赤い瞳には彼らの授業、いや魔法はまったく異質のものに映った。
KOS-MOSのデータバンクには今まで遭遇した異世界、異次元の魔法、魔術、法術などの非科学的な現象がデータとして記録されている。当初はそのデータと照合しながらハルゲニアの魔法に対しての体系を分析していた。だが教師を名乗る女性の行った『錬金』に対してKOS-MOSの観測器が反応したのだ。
『虚数空間への干渉を感知』
『“鉄”から“真鍮”への元素変換を感知』
『直前までの魔法考察を破棄』
『情報の収集を推奨』
『情報不足』
『情報不足』
『情報不足』
端から見れば先程と同じ様に立っているのだがKOS-MOSは機械であるにも関わらず『動揺』していた。
「ではこの練金を、ミス・ヴァリエール。やってご覧なさい」
「は、はいっ!」
突然指名され、慌てて立ち上がるルイズ。
「先生、止めておいた方がいいと思いますけれど……」
キュルケがおずおずとそれの撤回を求める。
「何故ですか?」
「危険です」
キュルケの言葉に、肯定する大勢の生徒達。
「危険?どうしてですか?」
「ルイズを教えるのは初めてですよね?」
キュルケが止めるように求めるが、シュヴルーズは何の事か判らないという様子で、ルイズに向ってやってごらんなさいと促す。
「やります!」
と教壇へ向かうルイズに、キュルケはなかば悲鳴のような懇願を投げかけた。
「ルイズ。やめて!」
ざわざわと教室が騒がしくなる。一人、青い髪の女生徒がそそくさと教室を退出するのを知覚した。
『さらなる“魔法”へのデータ収集を継続。また、召喚者ルイズのデータ収集も並列して継続』
周りの生徒に授業の冒頭のとき感じられたルイズへの嘲弄は微塵も感じられず、有るのはまるで、地震が発生する直前の森の動物たちの恐怖感の様だった。
「ミス・ヴァリエール、練金したい物質を心に描くのです」
はい!と力強く頷き、杖を振り上げるルイズ。
『召喚者ルイズの虚数空間へのアクセスを感知』
他の生徒達が机の下に避難するなか、KOS-MOSは観察を続ける。
すると教壇から凄まじい爆風が吹き荒れ、机が吹き飛び生徒達は爆風に晒された。
辺り一面、見るも無惨な有様だった。
「だから言ったのよ!あいつにやらせるなって!」
キュルケも机の影からはい出ながら叫ぶ。彼女の使い魔であるフレイムを初め、他の使い魔達も大パニックである。
瓦礫の中、煤だらけでぼろぼろの制服に身を包んだルイズが立ち上がる。
「ちょっと、失敗みたいね」
「ちょっとじゃないだろ!ゼロのルイズ!」
「いつだって成功率、ほとんどゼロじゃないかよ!」
立て続けにルイズへ浴びせられる罵倒。
その中でKOS-MOSのみが今起こった現象について冷静に考察する。
『召喚者ルイズが虚数空間へ干渉』
『それと同時に虚数空間の消滅を確認』
『実数空間に発生した爆発は虚数空間消滅の余波と予測』
『周囲の言動から虚数空間消滅は“失敗”』
『教師の行った元素変換が正しい“魔法”』
『蓄積された情報から判断するにこの世界の“魔法”とは実数空間から虚数空間に干渉しその効果を実数空間に導くものと推測』
『データ不足のためこれ以上の考察は不可能』
『引き続きデータを収集』
やがてルイズの魔法で気絶していた教師シュヴルーズも目を覚まし、結局そのまま授業はお流れとなった。ルイズは魔法無しでの片づけを命じられていた。
使ったところで失敗ばかりの魔法では片づけるどころか余計に被害を甚大にするだけなので言われるまでもないことなのだが。
KOS-MOSもルイズと共に片付けを始める。
破壊された机や椅子を手早く運び出し、粉塵レベルとなった元机や椅子を箒で履き集める。相変わらずKOS-MOSは無駄のない動きだ。
そして悪態一つ、文句一つも言わずに黙々と彼女が作業を続けるほど、ルイズは気が滅入っていた。
何も言わないだけで、自分に呆れ返っているのではないか?無能な主人だと悟られ、見限られようとしているのではないか?或いは、魔法が使えない自分は、ガーゴイルである彼女からも哀れみでもって見られているのか?
それは余りに惨めだ。
「……何か言ったらどうなのよ」
ついに静寂に耐えきれなくなったルイズが、破片を拾い集めるKOS-MOSに言葉を投げる。
「何か、とは何でしょうか」
そう言いながらルイズに振り向く。
「どうせコスモスだって、私のことを魔法も使えない無能なメイジだって思ってるんでしょ?」
「仰っている意味が理解できません」
「ガーゴイルのクセに私をバカにするの!?見たでしょさっきの!私はね!どんな魔法も爆発爆発爆発、ぜーんぶ爆発しちゃうのよ!これが失敗じゃなくてなんなのよ!」ルイズは今までの鬱憤をKOS-MOSに吐き出す。
「確かにルイズお嬢様の“魔法”は“失敗”です」
ほら見たことかとルイズは睨む。
「しかしそれは彼らの定義に当てはめた結果です」
「どういう意味よ」
「ルイズお嬢様の“魔法”は確実に虚数空間へアクセスしています」
虚数?アクセス?と聞き慣れない単語にルイズは首を傾げる。
「しかしルイズお嬢様の“魔法”は他者の使う“魔法”とは異なり実数空間への逆干渉を発生させるものではなく虚数空間そのものを破壊しているのです。実数空間における爆発はその余波です」
連発される意味不明の言葉をルイズはなんとか解釈しようとする。
「つまりなに?要するに私の魔法はみんなと違うってこと?魔法が使えないんじゃなくて?」
KOS-MOSは首肯する。
「はい。ルイズお嬢様の“魔法”は固着してないグノーシスに対して有効な攻撃手段と言えるでしょう」
今まで考えてもみなかった別の角度からの考察にルイズは目を開く。もしかしたら自分の失敗魔法を理解できるかもしれないと掃除をほっぽりだしてKOS-MOSに質問する。グノーシスとは何か、虚数空間とはどんなものなのか。KOS-MOSは丁寧にルイズに説明する。
掃除はKOS-MOSが説明しながら終わらせた。
結局、とルイズはわかったことを纏める。まだKOS-MOSの説明を完全に理解はできていないが状況はわかった。
「グノーシスってのもいないし話を聴く限り普通の系統魔法も使えないってことじゃない!」
確かにルイズは自身の失敗魔法について理解した。しかし理解しただけであって進展はなく魔法を使えないという烙印を押されただけだった。それでもルイズの心は軽かった。
「情報の収集を提案します。推測の域を出ませんがルイズお嬢様は“虚無”の可能性が考えられます」
「現在、“虚無”に対する情報が圧倒的に不足しています」
「自身の“魔法”を知るためにまずは“虚無”を調べるのはどうでしょう」
ルイズは頷く。
「そうね。正直伝説の系統があるなんて信じられないけど普通の魔法が使えない以上、虚無だろうが虚数だろうが調べないことには始まらないわね」
「それにしてもお腹が空いたわ。丁度良い時間だし食堂へ向かいましょう。コスモスはまた厨房へ行くの?」
「はい」とKOS-MOS
「あなた厨房でなにしてるの?」
「皿洗いです」
「えっ?」
「皿洗いは私の得意分野です」
ガーゴイルのクセにヤケに自信満々だった。
食堂で昼食を食べていたルイズはトレーにデザートのケーキを載せて配膳してるKOS-MOSを見つけた。
自分の所に来たついでに問う。
「あなた、皿洗いしてたんじゃないの?」
「はい、皿洗いを実行していたところ料理長マルトーより『おまえには花がある』と配膳を指示されました」
確かに、とルイズは納得する。ハッキリ言ってコスモスは美人だ。正直その辺の三流貴族の娘では到底太刀打ちできない。
「そう、わかったわ。精々私の恥にならないようしっかり努めなさい」
了解しました、とKOS-MOSは配膳を続ける。
配膳を続けていたKOS-MOSの前に数人の男子学生がたむろしていた。
発端は、一人の男子生徒が落とした香水入りの瓶だった。
KOS-MOSはそれを拾い上げると、男子生徒ギーシュ・ド・グラモンの眼前に突き出す。
「落としました」
差し出されたギーシュは、一瞬ぎょっとしながらも瓶を手でおしやる。
「これは僕のじゃない」
「いえ、確かにあなたの右ポケットより落ちたのを確認しました」
KOS-MOSの言葉に反応した他の男子生徒がおお!と声を上げる。
「その香水は、もしやモンモランシーの香水じゃないのか!?」
「言われてみれば!」
「成る程、ギーシュは今モンモランシーと付き合っているのか!」
口々に他の男子生徒が囃し立てる中、KOS-MOSはケーキの配膳を続ける。
ギーシュのもとに一人の少女が現れた。
「ギーシュさま……」
何やら思い詰めた表情をしている。
「やはり、ミス・モンモランシーと……」
「彼等は誤解しているんだ。ケティ。いいかい、僕の心の中に住んでいるのは、君だけ……」
「その話、詳しく聞かせて欲しいわね」
別の方向からまた一人、少女が現れる。こちらは明らかに怒っていた。
「も、モンモランシー……」
配膳しつつ状況を分析していたKOS-MOSは以前かの地で遭遇した“修羅場”についてのデータを引き出していた。
「つ、つまりだね……僕はケティもモンモランシー、君も……」
盛大に破裂音が響き、ギーシュはその両頬を赤くして倒れていた。
「ひどいですっ!ギーシュ様!」
「最っ低!」
思い詰めていた表情の少女は泣きながらその場を去り。怒っていた少女もテーブルの上のワインの瓶をひったくるように取ると、ギーシュにぶちまけて去っていった。
「……さて、と。どうしてくれるんだい?」
埃を払いながら立ち上がるギーシュはまだ近くにいたKOS-MOSに声をかける。
「何をでしょうか」
KOS-MOSはギーシュに顔を向けることなく配膳を続ける。
「僕は君が香水を落としたと声をかけた時に知らないフリをしたじゃないか。話しを合わせるぐらいの機転があってもよいだろう?」
「そうですか。申し訳ございません」
KOS-MOSは手を止めない。
「そうだとも!っと、ああ思い出した。君は確かゼロのルイズが呼び出した平民の使い魔だったね?まったく……呼び出したメイジがメイジなら、その使い魔も使い魔か……」
ふぅと呆れたようなため息を露骨についてみせる。
「せめて謝罪の言葉ぐらいは欲しいものだね?僕と彼女たちに」
「そうですか。申し訳ございません」やはり顔は上げない。
「君はさっきから僕をバカにしてるのかい?誠意が感じられないね?土下座くらいしてみ――!」
「ちょっとギーシュ!人の使い魔に、勝手な因縁付けないでちょうだい!」
ずい、とルイズが割って入り、ギーシュを睨み上げる。騒いでるのを聞きつけ、慌てて近づいて来たのだが、己の使い魔はこの二股男に反論するどころか謝る始末。見ていられなかった。
「コスモス!あなたもよ!今のはどう考えたって二股かけてたこいつが一方的に悪いんだから、軽々しく謝らないで!私まで軽んじられるわ!」
「失礼しました。現状、無益な争いは不要と判断。対象が謝罪を要求していたためそれに従いました」
「それってつまり面倒だからとりあえず謝っといたってこと?」
「そう解釈されて構いません」
そう言われて頭にきたのはギーシュだ。
そもそも自分が原因だというのを棚に上げルイズとKOS-MOSにつっかかる。
そのときKOS-MOSの電脳に保管されていたあるデータが開かれた。それはかの地で自分をライバル視していた緑色のアンドロイドにインストールされたもの。
ウイルスチェックもクリア、用途不明で削除せずに残していたものだ。電脳に声が響く。
『不明なユニットが接続されました。システムに深刻な障害が発生しちゃります。直ちに使用を停止してくださ──────
『対チャラ男用挑発プログラムを作動』
「『おいキザ野郎』」
食堂に声が響く。言い合いをしていたルイズとギーシュも、周りで見ていた生徒達も声のする方向に目を向ける。そこには今まで静観していたメイドが立っていただけだった。
「ちょっとコスモス今なんて──」とルイズが口にする前にギーシュがもの凄い剣幕で食ってかかる。
「き、君ぃ。さっきから大分無礼だとは思っていたけどその『キザ野郎』ってのは僕のことかい?」
「『そうだキザ野郎。お前以外に誰がいる』」
「『貴族だかなんだか知らないが女を泣かせておいてこちらに責任転嫁』」
「『貴族である前にもう少し男を磨いたらどうだ?』」
「『そんなに女が恋しかったら領地に戻ってママのおっぱいでもしゃぶってろ』」
そこまでKOS-MOSはまくし立てると口を閉ざした。
食堂に静寂が訪れる。
表情を変えずにここまで言い放つKOS-MOSになんて反応していいのかルイズを含めてわからなかった。
しかし肩を震わせるギーシュは違った。自分だけではなく家門まで侮辱されたのだ。ここで黙っては男が廃る。
「決闘だ……」震える声でギーシュが言う。
「諸君!!僕は決闘を申し込む!!」
「ギーシュ、馬鹿なこと言わないでちょうだい。貴族同士の決闘は禁止よ」
「判っているとも。だから僕が決闘を申し込むのは君の使い魔だ!彼女の所為で女性二人の名誉も、僕の名誉も傷つけられたのだからな!」
「しつこいわね。全部アンタが自分で蒔いた種じゃない」
「ぐ、くっ……フッ!そうやって逃げるつもりかい?」
「何ですって……?」
すっとルイズの目が細くなる。
「いや、済まない。そうだったなぁ。ゼロのルイズが呼び出した平民の使い魔だ。それがメイジで軍人の家系に生まれた僕に勝てるはずもなかった!これでは決闘にならない!」
歌うように、高らかにギーシュは言う。
ギリ、とルイズは奥歯を噛み締める。
「『来いよチェリーボーイ』」
「『遊んでやる』」
その言葉に周囲が沸き立つ。変化のない日常の中でこんなに刺激的なことはないと大騒ぎだ。
「逃げるなよ。ヴェストリの広場で待つ」そう言ってギーシュは食堂を出て行った。
『悪性プログラムの完全消去を確認』
『通常モードに復帰します』
「ねぇちょっと!大丈夫なの!?」とルイズが話かける。
「はい、プログラムはすべて消去しました」
「プログラム?じゃなくて決闘のことよ!」
KOS-MOSは会話ログから情報を分析する。
「とくに脅威は感じられません」
「そ、そう。あなたがそう言うならそうなのでしょうね」とルイズは納得する。
すると厨房の方からシエスタが涙を流しながらKOS-MOSに抱きつく。
「コスモスさ~ん。貴族と決闘なんて無茶ですよ~。まだ間に合いますから謝りましょうよ~」
しかしKOS-MOSは「問題ありません」と一蹴する。
「ヴァリエール様もなんとか言って下さいよ~」
「彼女が大丈夫って言うのだから大丈夫よ」
ぺたんと床に座ったシエスタの「そんな~」という声を背に浴びつつ二人は広場に向かう。
「諸君!決闘だ!」幾分か落ち着いたギーシュの声が広場に響く。
そして目の前のKOS-MOSに向かって言い放つ。
「よくぞ逃げずに現れた。そこだけは誉めてやろう」KOS-MOSは微動だにしない。それをメイジへの恐怖からだと判断したギーシュは続ける。
「ふっ、どうやら達者なのは口だけだったようだな」
「でも僕は手加減しない。二人の女性の名誉と我がグラモン家の誇りを守るために僕は貴族として!例え相手が平民だとしてももてる全ての力で屈伏させてみせる!」そこまで言うとギャラリーは沸き立った。流れは完全にこちらに向いている。ギーシュは勝利を確信した。
そこでKOS-MOSは口を開く。
「質問します。この闘いの勝利条件は?」
これから負けるのにどうしてそんなことを、と鼻で笑いながらギーシュが答える。
「そうだね。どちらかが参ったと言うまで。でも僕はメイジだ。ハンデとしてこの杖を奪ってま君の勝ちということにしよう」
「了解しました。闘いの開始はそちらに任せます」
「では始めよう。僕は『青銅』のギーシュ!!行け!僕の『ワルキューレ』!」そう言い放つと地面から青銅で出来た戦乙女が一体出現した。
KOS-MOSは状況を分析する。
『敵性体1を確認』
『敵性Aと呼称』
『勝利条件の確認』
『1、対象の降伏の意の表明』
『2、対象の持つ杖の奪取』
『任務内容の確認』
『周囲に対し存在の秘匿』
『転送兵器による迎撃は認められない』
『本体性能による対応が推奨』
『敵性A接近、スペックを分析』
『青銅製、空洞』
『脅威度判定E-』
『敵性Aのこちらへの攻撃は通用しない』
『訂正』
『現在身に着けている衣服へのダメージは有効』
『推奨パターン、敵性Aの攻撃を回避しつつ対象へ接近、杖を奪取』
『行動開始』
未だ動かないKOS-MOSを見てギーシュはワルキューレに指示を出す。よし、直撃コース!と剣を振り下ろしたところにKOS-MOSはいなかった。正確には半身をズラして回避した直後にこちらに走り始めていたのだ。
それを視認した瞬間ギーシュも感づく。こちらの杖を狙っていると。幸いこちらまでにはまだ距離がある。落ち着いて杖の花弁を放ちながら新たなワルキューレを出現させる。
『敵性B、C、Dの出現を確認』
『回避』
KOS-MOSは剣や槍の攻撃に自ら飛び込み回避していく。ギーシュにはそれが恐ろしかった。普通どんな人間も目の前から迫る物に対しては躊躇いが生じる。
だが目の前の平民はそれを最小限の動きで回避する。それもこちらに近づきながらだ。さらに生み出した2体も突破された。
そして気づいたときには目の前に立っていた。こちらの杖に手を伸ばしている。「かかった」とギーシュは杖を後ろに回してKOS-MOSの背後にワルキューレを出現させる。斧を振り上げた状態で。その斧がKOS-MOSに振り下ろされる。その場にいた誰もがこのあと起こる惨劇に対しあるものは目を瞑ったりした。
しかしその惨劇は起こらなかった。
一番驚いたのは目の前にいたギーシュ。
なんとワルキューレの斧はKOS-MOSの右手に刃を掴まれ止められていた。後ろを振り向かずに。
呆けている間に左手で杖を奪われワルキューレは土に還った。
『対象の無力化、敵性の消失を確認』
「私の勝利です」そう言ってKOS-MOSはギーシュに背を向け歩き出す。
ギーシュは何もいえずへたり込んでしまった。
それを見てKOS-MOSのもとへ駆け寄ったルイズが声をかける。
「これで懲りたわね、ギーシュ。ちゃんと2人にも謝っておくのよ」
そう言われてギーシュは力なく頷いた。
「コスモス、あなたすごいのね」
「今回は難易度の高いミッションでした」
「どうして?」
「制約条件が厳しく本来のスペックを出せませんでした」
それってどういう、とルイズが言おうとしたところで観客の中からコスモスさ~んという声が聞こえる。
声の主シエスタがKOS-MOSに近づく。
「コスモスさんスゴいです!まさか貴族様に勝ってしまうなんて!」
「今頃厨房は大騒ぎですよ!」
「シエスタ、まだ皿洗いが終わっていません。急ぎ向かいます。」といつもの調子で厨房へ向かう。
後に耳にした話だがコスモスは厨房で「我らが女神」と呼ばれるようになったらしい。
(コスモスは私に召喚されたことに意味があるって言った。私の失敗魔法も理由がわかった。私もコスモスに相応しいメイジにならなくちゃ)
ルイズは小さく拳を握った。
「ルイズお嬢様」KOS-MOSがルイズに声をかける。
「ルックスが5%低下。洗浄を」
「勝ってしまいましたな」と校長室にて遠見の鏡を用いて決闘の一部始終を監視していたオスマンがコルベールに話しかける。
一時は決闘に対して『眠りの鐘』の使用を申請してきた教師に「ガキの喧嘩に何をムキになるのか」と一喝したのだ。
「オナホール君、君は今の決闘どう思う?」
コルベールです、と訂正しながら自身の考察を述べる。
「彼女、コスモスは一切本気を出していません。兵器と言いながら武器も使ってないところを見るとおそらくガーゴイルとバレることを懸念したからでしょう。あの身のこなしも人間に合わせたものかと」
「いい機会だからとコスモス君の力がどれほどのものかみようかと思ったがダメじゃったな」
2人は深く溜め息をついた。
広場で決闘を見ていたキュルケが珍しく本から目を離していたタバサに語りかける。
「さっきのスゴかったわね~。なんかこうびゅっびゅ~って」興奮している彼女に対してキュルケは一言、「興味深い」と言うだけだった。
しかし彼女の目は広場から離れていなかった。
「今日も疲れたわね~」
服を脱ぎ散らかしながらルイズはベッドに飛び込む。
「でも今日はいろいろわかったし、明日から何をすべきかわかったわ~」
昨日とは違いルイズの顔は晴れ晴れしていた。
服を回収しているKOS-MOSに声をかける。
「あなたのお陰よコスモス。ありがとうね」
「何がでしょうか」
恐らく彼女は本当にわかっていないのだろう。
それでもいいとルイズは思った。
「なんでもないわ。おやすみ、コスモス」
「おやすみなさいませ」
そして夜は更けていく。
ゼロサーガIF~もし人型掃討兵器のKOS-MOSが本来のスペックを発揮したら~
『敵性Aを確認』
『戦闘シークエンスに移行』
その瞬間広場は淡い光に包まれた。
そこから現れたのは白を基調とした戦装束。
その姿はワルキューレにも劣らない、否、ワルキューレ以上の気品と美しさを持っていた。
ギーシュは混乱する。
「き、君はもしかしてメイジか!?」
ギーシュに限らずみた者は恐らく皆『錬金』を想像しただろう。
「いいえ、違います」KOS-MOSがそれを否定する。
「そんな見かけ倒しに!ワルキューレ!」
そう言うとギーシュはワルキューレに指示を出す。
しかし気付いていただろうか、KOS-MOSの右手に拳銃が握られていたことに。
「ブラスター、発射」
その言葉と同時にワルキューレが吹き飛んだ。
ブラスターとはKOS-MOSに標準装備されている小銃だが今はそんなことはどうでもいい。
ギーシュには状況を理解できなかった。それでもなんとか現状を打破するべく新たにワルキューレを5体呼び出す。
「ど、どんなに良い銃を持っていたってこの数は捌ききれまい」その手に持つ杖には汗が滴る。
「F・GSHOT、展開」
ギーシュのワルキューレに呆気を取られていた観客がその声にKOS-MOSを見る。
KOS-MOSには三本の大きな筒を束ねた謎の物体が握られていた。しかも片手で。察しの良い者は気づいただろう。もしやあれも銃なのかと。
「制圧射撃」声と同時に爆音が轟く。思わず目を閉じ耳を塞いだ人々はギーシュの作り出した5体のゴーレムを探す。恐らくゴーレムがいたであろうその場所には見るも無惨な土塊しかなかった。
バコンッとKOS-MOSはガトリングガンを放り出してギーシュに近づく。
「なんなんだよ!お前はなんなんだよ!」そう言って後ずさりしながらギーシュは最後の力を振り絞って杖を振る。そこには先ほどとは異なり随分と不細工なゴーレムがいた。ワルキューレ!とギーシュは叫ぶ。
「R・BLADE」と言う彼女の右手には青白し光を放つ剣が伸びていた。
出来損ないのゴーレムを一刀両断した彼女はギーシュに剣を向ける。
「ま、参った」そう言ってギーシュは杖を思わず地面に落としてしまった。
「私の勝利です」ギーシュに背を向け歩き出すKOS-MOS。先ほどの剣は既に右手にはなかった。
ギーシュは恐怖から解放された安堵からか地面にへたり込んでしまった。
そののちランクを上げ今やトライアングルとなったギーシュはその美しく力強いゴーレムを作り出すメイジ、『白銀』のギーシュとして名を馳せたらしい。
そのゴーレムはいつぞやの戦乙女に似ていたとか似ていなかったとか。
おわり
第02話も読んでもらえるなんてありがとうございます。
そしてゼロ魔ファンの方ごめんなさい。今回系統魔法に対し身勝手な自己解釈を加えてしまいました。核融合なしに元素変換が起こるのがどうしても許せなかったのです。KOS-MOSのメイド姿がヤケに様になってるのといい全部ヴェクターインダストリーって企業の仕業なんです。
さらにギーシュフルボッコを期待してた方々、ご期待に沿えずすみません。IFにも書きましたがスペック上KOS-MOSは歩くだけでアルビオンを海に落としかねません。それも全てエルデカイザーとか言うロボットの所為なんです。
今回、初めて戦闘シーンというものを書いてみたのですがどうでしょうか。まだまだズブの素人故荒削りな面が目立ちます。後学のためにアドバイスをお待ちしております。
最後に
本編に加えこんな後書きまで長々と読んでもらいありがとうございます。
初めてSSを書き、沢山の感想をいただきました。
今後の期待や誤字脱字の指摘、感想の中から本文へのインスパイアを受けたりと頭が下がるばかりです。
一応、このゼロサーガの大まかなプロットは完成しているので展開予想などはこ自由にしてください。
今後ともゼロサーガをよろしくお願いします。
P.S.破壊の杖どうしよう……。
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第03話
「──私の重量から判断するに、馬を用いた移動は推奨できません」
[第03話:盗賊]
あの決闘以来、私ルイズことルイズ・フランボワーズの周囲は少し変わった。最近は自室と図書館を行ったり来たりで気づかなかったがあまり「ゼロのルイズ」と揶揄されなくなった。相変わらずキュルケはしつこく絡んでくるが。
そしてコスモス。彼女はその美貌と決闘のときに見せた力から一部の女生徒の憧れの的になっているらしい。小耳に挟んだ話だがどうやら非公式ファンクラブがあるとかないとか。それをよく思わないとりわけ上級生からは『邪神』などと呼ばれている。そんなことはどこ吹く風とコスモスは今日も厨房で皿洗いに勤しんでいる。
「コスモス!今日は虚無の曜日よ!街へ行くわ!」
結局『虚無の系統』についてはわからなかった。
というより情報がなかった。
わかるのはいずれも始祖ブリミルが使っただとか御伽噺レベルのことのみ。
教職員用の図書室や王室の書庫を調べればもう少し詳しくわかるかもしれないが今のところ八方塞がりだ。
「いってらっしゃいませ」
「違うわよ。あなたも一緒に行くの」
「折角美人なのにメイド服しか持ってないなんてもったいないわ。ヴァリエール家に仕える者としてもっとキチンとした格好をしないと」
「ついでに何か武器も買いましょう!前の決闘、あなたなんか不便そうだったし」
そう言いながらルイズはテキパキと身支度をする。
そして話は冒頭に戻る。
「え?コスモスってそんなに重いの?」
「私の重量は92㎏です」
「き、きゅうじゅうに!?」
ルイズは失念していた。すっかり人間と同じように扱っていたがコスモスはガーゴイル。当然、その身体は金属で出来ていた。
これでは街に着く前に馬が潰れる。どうしたものかと立ち往生してると空から「きゅいきゅい」という鳴き声が聞こえる。すると一匹の青い風竜が二人の前に降り立つ。
「この竜って確かタバサとかいう娘の使い魔よね……?」
タバサというのはあの忌々しきツェルプストーの隣でよく本を読んでいる女生徒だ。召喚の儀で風竜を喚んだとあってよく目立っていた。その使い魔である風竜が今目の前にいる。これは一体。
「もしかして……。私たちを街まで乗せてくれるの?」恐る恐る尋ねると「きゅい!きゅい!」と風竜がこちらに背を向けてきた。
「ここに乗れ……ってことね。やったわコスモス!足ができたわ!」
「じゃあ街までお願いできる?」
風竜はもう一度「きゅい!」と鳴くと二人を乗せて大空へ飛び立った。
キュルケはその日、窓の外を見ながら朝日を浴びてまどろんでいた。昨晩は部屋に男を呼んでベッドの上でエクササイズをして少々疲れていた。流石に五人連続はきつかったかと、たまにはのんびりするのも悪くないかな、と思っていると正門の近くによく知る姿を見つけた。なるほど、あの二人は今日は街へ行くのか。でもどこか様子がおかしい。何かトラブルだろうか。
しばらく眺めていると彼女等の前に一匹の風竜が降り立った。そして彼女等は風竜に乗ると飛び去っていった。キュルケは親友の部屋へと駆け出した。
タバサにとって虚無の曜日は至福の時間。1日を誰にも邪魔されず読書に費やせる。タバサは先月まとめ買いした『ノア計画~軋んだ破片~』と格闘していた。オーク鬼の肉を馬肉と偽る農家を直撃するところは思わず吐き気を催したがそれもこの作品の魅力の一つだろう。部屋を施錠、『サイレント』の呪文で防音も完璧。ドアを外から叩かれてる気がするが多分気のせい。校則違反の『アンロック』で鍵が開かれた気がするがそれも気のせい。こんな自分と友だちになってくれた赤毛の女生徒がさっきから肩を揺さぶってくるが気のせいってことにしたい。
タバサはしぶしぶ『サイレント』を解く。
「…………何?」
「ちょっと窓の外を見なさいよ!いいの?あれ!」
タバサは外を見る。外には使い魔であり風竜ってことにしているが実はちゃっかり韻竜だったりするシルフィードがコスモスとル、ルイ……ルイージとかいう女生徒を乗せて空の向こうへと飛んでいた。しばらく無言だったがキュルケに言う。
「…………いい」
「そ、そう。あなたがいいって言うならそれでいいわ」
「ごめんなさいね。読書の邪魔をしちゃって」
そう言って彼女は部屋を出て行った。
「シルフィード………」再び訪れた静寂の中でタバサは呟く。本の内容は頭に入って来なかった。
風竜のお陰でルイズ達は予定より早く街についた。帰りも送ってくれるかと風竜に聞いてみたら「きゅい!」と元気よく鳴いて飛んでった。恐らく目立つのを避けるためだろう。学院に戻ったらタバサとかいう娘に感謝しなくては。
とりあえず呉服屋に向かって適当な服を見繕う。ついでにコスモスの採寸も調べてもらい彼女の服を作ってもらうことにした。主人は「こんな美人の服を仕立てられるなんて腕が鳴る」と息巻いていた。ご主人様冥利に尽きる。相変わらずコスモスはされるがままだった。
よし!と一息ついてからコスモスに話しかける。
「次はあなたの武器を買いに武器屋に行きましょう!」
「はい。ルイズお嬢様」
「確か薬屋の角を右に曲がって……。あ、あれだわ」ルイズの指差す先には剣と盾の看板の店があった。
店に入ると亭主が手を揉みながらこちらに話かける。
「へぃ、貴族様。うちは真っ当な商売をしておりまして……」
「客よ」ルイズがそう言うと途端に亭主は営業スマイルに変わった。
「こいつは驚きだ。貴族様が自ら剣をお取りになると」
「使うのは私の従者よ」
亭主はKOS-MOSに目を向ける。なるほど、と言った風に頷く。
「こいつはなかなかの別嬪……、じゃなくて最近流行ってますからね」
どういうこと?と尋ねるルイズに亭主は奥の倉庫を物色しながら説明する。
「いえね、最近巷でフーケとか言う盗賊が貴族の屋敷に忍び込んで悪さを働いているそうで」
亭主の話を纏めるとこうだ。
土くれのフーケと名乗る盗賊が貴族の屋敷に侵入。秘蔵のマジックアイテムを盗んでいくらしい。その手段は巨大ゴーレムを用いての大胆な犯行。盗まれた後には土しか残っておらずそこから名付けられたらしい。
近隣の貴族は震え上がり従者にも武器を持たせているとのこと。
そう話ながら亭主は剣を携え二人の下へ戻ってきた。
「こいつなんてどうです?」
差し出されたのはレイピアだ。
「こいつはかの有名なゲルマニアのシュペー卿がこしらえたものでして。見てくださいこの柄の部分の趣向、そちらの従者様の美貌に勝るとも劣らない一品です」如何です?と目で訴える。
「どう?コスモス」
「はい。刀身の強度に難あり。儀礼用なら問題ありませんが数回の使用で破損。実用性は皆無でしょう」
KOS-MOSはバッサリと斬って捨てた。
唖然としてる亭主に店の奥から声が投げかけられる。
「へっ、ぼったくろうとするから痛い目見るんだよ」
「うるせぇデル公!今大事なお客様の相手をしてんだ!黙ってろ!」
「どこ?どこにいるの?」ルイズがキョロキョロと辺りを見回す。
「おぅ!嬢ちゃん。こっちだよこっち」
しかし声のする方向に誰もいない。
「オレだよ!オレ!」すると壁にかけられている錆びれた剣がガチャガチャと音を鳴らす。
剣が喋っていた。
「インテリジェンスソード?」と亭主に聞く。
「へぇ。誰が作ったのか知りませんが見ての通り錆びた剣。全然売れんわ商売の邪魔をするわで……」
面白そうね、と言ってルイズはKOS-MOSに尋ねる。
「はい。材質、強度ともに規定値を満たしております」
KOS-MOSの言葉にデルフリンガーが反応した。
「こいつはおでれーた。『使い手』……、いや違う。おめぇは『器』か?」
「おい嬢ちゃん!オレを買え!きっと役に立つ」
「まぁいいわ。元々買うつもりだったし。それでいくらなの?」
「へぇ、新金貨ひゃ「新金貨十でいい!」
とデルフリンガーが口を挟む。
「なんでぇデル公こちと「うるせぇ厄介払いが出来るんだ!文句言うな!」
ルイズとKOS-MOSは新金貨十枚を置いて出て行った。
それにしてもインテリジェンスソードなんて珍しいわね、と道を歩くルイズはKOS-MOSのもつデルフリンガーを見て言う。
「なんでぇ、嬢ちゃんの方が珍しいもの持っているじゃねぇか」
「オレがインテリジェンスソードだとしたらこっちの姉ちゃんはさしずめインテリジェンスガーゴイルってとこか」
「発言の意図が不明」
「そうか。姉ちゃんはまだ『覚醒めて』いないのか?」
「発言の意図が不明。対象デルフリンガーを格納します」
ルイズが聞き返す前にデルフリンガーが虚空へ消える。
「ちょ、おま。姉ちゃんちょっと待っ────」
「あ、ああああんた何したのよ!?」
ルイズが驚き声を上げる。
「対象デルフリンガーを転送します」
すると虚空から一太刀の剣が出現、KOS-MOSの右手に握られた。それはこのハルケギニアでは目にしない片刃の剣だった。
「こいつはおでれーた、今まで6千年は生きていたがこんな経験は初めて……ってえぇえ!?なんかオレの姿変わってね!?」デルフリンガーにとっても驚きだったらしい。
「ジン・ウヅキの使用兵器に酷似」
「あなたってこんなことも出来たのね……」とルイズは呆れていた。それより、と一呼吸置き、
「ねぇデルフリンガー。あなた今6千年って言ったけどもしかして始祖ブリミルとなんか関係あるの?」
「ブリミル?あー、ブリミルかぁ。何となく憶えてるけど全然思い出せねぇ」なにせ6千年生きてるからなぁ、と笑うデルフリンガー。
剣のクセに忘れるとかどういうことよ、とルイズはプルプル震えていた。
『対象デルフリンガーの記憶領域を解析』
『エラー』
『ERROR』
『error』
『非常に強固な障壁を確認』
『解析を保留』
帰りもどこかで待機していた風竜に乗って学院へ戻る。学院の正門には二つの影があった。
風竜から降りて片方にルイズは尋ねる。
「なによツェルプストー。私になんか用?」
「用があるのは私じゃないの」
首を傾げるルイズにキュルケは続ける。
「こっちのタバサがあなたに用があるって」
そう言って一歩下がる。
ルイズもこの風竜がタバサの使い魔であることを思い出した。
「そういえばタバサ……って言ったわよね。あなたの風竜のお陰で今日は助かったわ。ありがとう」
「そんなことは……いい」
なにか思っていた反応と違う。
「あなたに決闘を申し込む。ルイージ」そう言ってタバサはルイズに杖を向ける。
「は?」ルイズはルイージと呼ばれたことにも気付かず聞き返す。キュルケを見る。キュルケも驚いていた。
二つの満月が夜の校舎を照らす中フードを目深に被り校舎の壁を手で叩く者がいた。
「なにが物理攻撃なら壊せるかもしれません、だよ。
こんなものどうしろってんだ」と息をつく。そこは学院の宝物庫の外側。伝説のマジックアイテム『破壊の杖』が保管されていると耳にしたフーケは学院長の秘書「ミス・ロングビル」として潜入。日々学院長のセクハラに耐えながら情報を収集していたのだ。
「物理的強度の高い壁にスクエアクラスのメイジがよってたかって『固定化』。賞賛に値するわ」
と呟いたところで足音に気が付いた。学生だろうか?フーケは草影に身を潜める。
じゃあルールはこれで良いわね。キュルケが音頭をとる。お互いに背中合わせで歩き出す。10数えたあと振り向きざまに一発お見舞いするということに決まった。あのあとルイズはキュルケにどうしてこうなったのか尋ねた。「なんかあの子、メイジとしての格が疑われるだとかなんとかって言ってたわ。付き合ってあげて」と頭を下げられた。
不本意だが貴族として全力を出さねばならない。
ルイズとタバサは歩き出す。
1、2、3
(というか私は何を詠唱すればいいんだろう)
4、5、6
(考えてみれば何を言ったって失敗魔法になるんだからどうせなら短いのが良いわね)
7、8、9
(そうだわ。アレにしましょう。短いし)
10
ルイズは振り向き杖を前に向け唱える。
「『ロック』!!」
タバサの背後の壁が爆発した。
決闘が始まる頃にはタバサはいつもの落ち着きを取り戻していた。少し大人気なかったと思う。しかしシルフィードが自分を見限ってしまったのかと不安になったのも事実。柄にもなく熱くなってしまった。
しかし決闘は決闘、本気でやらなければ相手にも失礼。これでもそこそこ修羅場を潜ってきた。高速詠唱には自信がある。せめて一撃で葬ってやろう。10数えて得意の『ウィンディ・アイシクル』を唱える途中でルイズの声が聞こえた。『ロック』?なぜ今その呪文を?一瞬虚をつかれたと思ったら背後から爆音が聞こえた。恐る恐る後ろを振り向く。学院の壁の一部が崩壊していた。
草影に潜んでいたフーケは歓喜した。宝物庫の壁の一部が破壊されるのを。どうして壊れたとかそんなことはどうでもいい。このチャンスを逃す手はない。フーケは駆け出し詠唱する。足下からの僅かな浮遊感。そこには巨大なゴーレムが出現した。
ルイズは混乱した。あの失敗魔法がタバサに直撃しなかったことは良かったが代わりに学院を破壊してしまった。バレたらなんて釈明すれば……。と考えていた矢先に巨大なゴーレムが壁の前に出現。壁を壊そうとその拳を叩きつけている。ルイズは武器屋の亭主の話を思い出した。もしやアレが土くれのフーケなのではないかと。ルイズは杖を構えながらゴーレムに向けて走り出す。
KOS-MOSはデータ収集を続けていた。タバサの魔法のデータは得られなかったがルイズの失敗魔法の発動条件、射程、威力などを分析していた。そこにフーケのゴーレムが姿を現す。KOS-MOSは観察を続ける。
『対象を敵性と認定、解析』
『全長:10m、材質:土砂』
『脅威度判定D+』
『敵性は召喚者ルイズが破壊した建造物に対して攻撃』
『敵性の術者を確認』
『分析』
『女性、20代』
『骨格より該当人物の割り出し』
『該当人物あり』
『登録名:トリステイン魔法学院秘書ロングビル』
『敵性の行動を静観』
『訂正』
『保護対象が敵性に接近』
『対象の精神は不安定』
『対象の保護を要請』
『任務確認』
『他者への存在の秘匿』
『懸念要因2』
『対象の保護を優先』
『行動開始』
KOS-MOSは今まさにゴーレムの拳に潰されそうなルイズに向けて走り出す。「R・CANNON」口にしたと同時にゴーレムの拳を吹き飛ばす。滑り込むようにルイズを抱え距離をとる。ゴーレムの拳は再生していた。
キュルケは見た。ルイズが壁を破壊したのを。ゴーレムが現れたのを。ルイズが近寄りあの失敗魔法で果敢にゴーレムを打ち倒そうとするのを。しかしゴーレムの再生能力の前には無力だったことを。そしてキュルケは見た。隣にいたはずのコスモスがなにかを唱えてゴーレムの腕を吹き飛ばすのを。
ルイズは死を意識した。壁の破壊の汚名を晴らそうとゴーレムに立ち向かった。しかしすぐに相性が悪いのを悟った。どんなに破壊してもすぐにゴーレムは再生する。恐らく壁を完全に破壊したのだろう。こちらに振り向きゴーレムが拳を振り上げる。もうダメかと目を瞑った。その瞬間目の前で爆発音が聞こえる。目を開くと自分は誰かの腕の中にいた。「大丈夫ですか?ルイズお嬢様」ガーゴイルのクセにその瞳は慈悲に
充ちていた。
恐らくお目当てのものは手に入れたのであろう。フーケは『フライ』を唱えて森の中へ消えていく。
先ほどの爆音で目を覚ました衛兵や教師が近づいてくる。そこには土くれしか残ってなかった。
翌朝。魔法学院では、朝から蜂の巣をつついたような騒ぎが続いていた。
巨大なゴーレムで壁を破壊する、などという派手な方法で「破壊の杖」が盗まれたのだ。当然である。
破壊された宝物庫の周りには学院中の教師が集まりざわめいていた。
壁には、土くれのフーケの犯行声明が描かれている。
「破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ。」
教師達は好き勝手に責任を擦り合っているようだ。
「土くれのフーケ!ついに我が学院にも現れたか!」
「衛兵は一体何をしていたんだね!」
「平民など当てにならん!それより当直の貴族はどうしていたんだね」
「当直など、誰も真面目にやってなかったではないか!」
「さて」
教師達が集まりきるのを待っていたのか、オスマンが姿をあらわす。
「犯行の現場を見ていたというのは、君達かね?」
「は、はい!」
ルイズ、キュルケ、タバサ。そしてKOS-MOS。
「ふむ、君達か」
オスマンは興味深そうにKOS-MOSを見つめた。
「詳しく説明したまえ」
ルイズが進み出て、見たままを述べる。
「あの、大きなゴーレムが、ここの壁を壊して……たぶん「破壊の杖」を、盗み出したんです。」
「それで…肩に乗ってたメイジはゴーレムを飛び越えて、そのまま森の奥に……」
「ゴーレムは、皆さんの見た通りです……」
「ふむ。後を追おうにも、手がかりはなしか……」
このとき3人は昨日は夜の散歩をしていた、ということで口裏を合わせていた。
「ときに、ミス・ロングビルはどうしたね?」
オスマンが近くの教師に尋ねる。
「それがその……朝から姿が見えませんで……」
「この非常時に、どこに言ったんじゃ?」
「どこなんでしょう」
そんな風に噂をしていると、ミス・ロングビルが現れた。
「申し訳ありません、朝から、急いで調査をしておりまして」
「調査?」
「ええ。土くれのフーケの情報を」
「仕事が速いの。で、結果は?」
「はい、フーケの居場所がわかりました」
「誰に聞いたんじゃね?ミス・ロングビル」
「はい。近所の農民からの情報です。森の廃屋に、黒いローブの男が入って行くところを見たと」
ルイズが叫ぶ。
「黒いローブ?フーケです!間違いありません!」
オスマンは目を鋭くして、ミス・ロングビルに尋ねた。
「そこは近いのかね?」
「はい。徒歩で半日、馬で4時間といったところでしょうか」
「ふむ……」
コルベールが口を開く。
「オールド・オスマン!ここは急ぎ王宮に連絡を」
「それではフーケに逃げられてしまうぞ!」と一喝。
「よし、捜索隊を編成する。我と思うものは、杖を掲げよ」
周囲が、静まり返る。
「おらんのか?」
教師達は静まり返り、誰一人としてオスマンに向き合おうとすらしない。
ルイズはうつむいていたが、すっと杖を顔の前に掲げた。
「ミス・ヴァリエール。君は生徒じゃないか」
「誰も掲げないじゃないですか」
ルイズはまっすぐな目で、オスマンを見返す。
ルイズが杖を掲げているのを見て、キュルケも杖を上げた。
「ふふ、ヴァリエールには負けられませんわ」
それを見て、タバサも杖を掲げた。
「タバサ。あんたはいいのよ?」
そう言ったキュルケに、タバサは
「心配」
とだけ告げ、ちらりとルイズを見る。
キュルケは嬉しそうに、タバサを見つめた。
ルイズも感動した面持ちで、タバサにお礼を言った。
「ありがとう……タバサ……」
「ルイージとの決着はまだ終わっていない」
「い、いい加減私の名前ぐらい覚えなさいよ」
先ほどの感動はどっかにいった。
「そうか・・・・・・では3人に頼むとしよう」
オスマンは教師達の情けなさに落胆しつつも、その三人を見て決断する。
「二人はフーケの目撃者の上、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士でもある」
全員が驚きの表情を浮かべる。年端もいかない外見の少女が、実力の証明である称号を与えられていることに。
タバサは我関せずといった感じでただその場に直立不動し、キュルケすらも驚愕していた。
「本当なの?タバサ」
タバサは無表情のまま頷き肯定し、オスマンは続けた。
「さらにミス・ツェルプストーはゲルマニアの優秀な軍人の家系で、彼女自身の炎の魔法もかなり強力であると聞いている」
キュルケは得意気な表情を浮かべ、胸を張り髪をかきあげた。
「そしてミス・ヴァリエールは……優秀なメイジを輩出した、かのヴァリエール公爵家の息女で……その……」
オスマンは口ごもる、必死に良いところを探そうとするものの見つからない。
視線を泳がせていると、KOS-MOSの姿が目に映った。先ほどから微動だにしない一人のメイドを。
KOS-MOSを見てオスマンは閃く。
「そう!彼女の使い魔はグラモン元帥の息子、ギーシュ・ド・グラモンを決闘において華麗な勝利を収めた武術の達人じゃ」
前ほど悲しくはないがルイズは自分の価値はそこにしかないのかとなんとも言えない気持ちになった。
オスマンはそこまで言って場を纏める。
「では、よろしく頼むぞ。ミス・ロングビル、案内役くを」
「はい」
そう命じられたミス・ロングビルの顔には、場違いなほど妖艶な笑みが浮かんでいた。
馬で四時間、馬車ならもっとかかるだろうと思っていたが実際には6時間近くかかった。馬車乗っていたのはロングビルを除く4人だったがなにか重い荷物が積まれていたのだろうか。
森の中の空き地に、廃屋があった。
元は木こり小屋だったのだろうか、朽ち果てた炭焼き用の窯と物置が並んで建っている。
「わたくしの聞いた情報では、あの中にいるという話です」
ミス・ロングビルが廃屋を指差して言った。
「わかったわ。ミス・ロングビルはこのまま馬車の前で待機して馬車を守っていてちょうだい」
「わかりました」とこちらに一礼する。
廃屋に近づきルイズはKOS-MOSに声をかける。
「コスモス。中の状態分かる?」
「解析します」
昨日、ルイズはKOS-MOSのことを二人に説明した。
非常に高度な技術によって作られたガーゴイルであると。KOS-MOSが肩を取り外したところで二人とも信じた。キュルケは「確かに平民だとは思っていなかったけどまさかガーゴイルだなんてね」と。タバサは何も言わずKOS-MOSを見つめていた。
「内部に生体反応なし」
「中央に『破壊の杖』と予想される物体を感知」
「そう。ご苦労様」
「とりあえずどうする?さっさと『破壊の杖』を回収する?」
ルイズの提案にあなたの使い魔滅茶苦茶ね、と呆れつつキュルケは首肯する。
「そうね。でも罠ってこともあるかも」
そこでタバサが口を開く。
「ルイーズは外で見張り。『破壊の杖』は三人で回収する」
ルイズはこめかみをピクピクさせながら同意する。
「……あった」
廃屋の中、タバサが呟き、何やらケースのような物をやたら重いのか引き摺っていた。
「それ……『破壊の杖』!?」
「間違いない」
タバサはフーケが持ち去る様子を、遠目で見ていて確信した。
キュルケはまじまじと破壊の杖が入っているケースを見つめる。
「盗品がここにあるということは……とりあえずまだ引き払っていないようね」
キュルケの言葉にタバサは頷き同意した。
「ねぇねぇ、ちょっと開けてみましょうよ」
キュルケが嬉々とした表情で言う。
タバサがキュルケを睨む。
「中身がきちんと入ってるか、開けないと確認出来ないじゃない?」
キュルケの言い分にも一理ある。
タバサも中身は気になっていた。
タバサが魔法でケースそのものに罠がないかを確かめるとキュルケがケースを開けた。
「……これが破壊の杖?なにこれ?つまんないわね~」
キュルケは好奇心が削がれたつまんなそうな声で言う。タバサは首を傾げつつも黙って見つめていた。
KOS-MOSは分析を続ける。
そのときセンサーが警告音を鳴らす。
同時にルイズの叫び声も聞こえた。
それから間髪入れずに、廃屋の屋根部分が丸ごと吹き飛んだ。
誰よりも早く反応したのはタバサであった。杖を掲げ即座に詠唱を完成させる。
『エア・ストーム』、強力な竜巻が巻き起こるトライアングルスペルが、廃屋内を覗き込むゴーレムに直撃する。
キュルケがタバサに続いて『ファイヤーボール』を放つ。
しかしそのどちらもさしたるダメージはなく、ゴーレムは第二撃を打ち込む為に拳を振り上げる。
「やばっ!?」
その様子を見て、キュルケとタバサは咄嗟に『フライ』で廃屋から飛び出した。
間一髪二人は逃れたものの、廃屋は粉々に粉砕されていた。
「くっ……」
キュルケはゴーレムとの距離を測りながら、呪うように声を漏らす。
本当はKOS-MOSも連れて退避したかったが、時間がそれを許さなかった。
純粋にあのゴーレムが強い。自分達の魔法が殆ど通じず、時間稼ぎすらも出来なかった。
「コスモス!!」
ルイズの悲痛な叫びが木霊する。
キュルケとタバサの姿しか見えない。周囲にもコスモスの姿は見受けられなかった。
となると廃屋と一緒に潰された可能性しか考えられない。
タバサが口笛を吹く。彼方から飛んできた風竜はタバサを乗せ、そのままキュルケとルイズを回収した。
そのままゴーレムの攻撃範囲外まで上昇し、旋回しながら辺りを見渡す。
「降ろして!」
上空から見てもコスモスが見つからず、ルイズは叫ぶ。
「無茶よ!!」
未だゴーレムは廃屋に拳を振り下ろしたまま、上空を見上げている。
今降ろせば十中八九ゴーレムの的になる、キュルケはルイズを止めようとするものの聞く耳を持たなかった。
「まだ生きてるかもしれないでしょ!早く助けないと手遅れになるわ!!」
そう叫ぶとルイズは躊躇いなく飛び降りた。
その無謀な行動を予想していたのか、タバサがすぐさま『レビテーション』の魔法をかける。
やんわりと地面に降り立ち、ルイズが壊された廃屋に向かうために走り出そうとした時だった。
舞い上がった土煙が晴れていく中にルイズは奇妙な光景を見た。ゴーレムの拳が片腕で押さえられている。そんなことができるのをルイズはただ一人しか知らない。
「コスモス!!」ルイズが叫ぶ。
「ここは私が食い止めます。お嬢様方はフーケを追ってください」そこにいたのはいつも通りのコスモスだった。
ゴーレムは空いている左手でKOS-MOSを殴ろうとする。しかし素早くKOS-MOSはゴーレムの右腕を駆け上がりジャンプ。ルイズ達の近くまで距離を取った。
「フーケを追う、ってどうやってよ!?」キュルケがゴーレム迎撃のために『ファイアーボール』を詠唱しながらKOS-MOSに聞く。
「今からその準備をします」
KOS-MOSは蓄積されたデータから推測されるある可能性を確信に変えるべく行動する。
「行きます」
凛とした声が森に響く。
「ヒルベルトエフェクト」
その瞬間世界が裏返った
『ファイアーボール』を唱えていたキュルケは気付いた。自分の杖の先から赤い線がその火の玉に吸い込まれていくのを。それを見てタバサが『ウィンディ・アイシクル』を詠唱すると杖から二本、青と緑の線が空中で集まり氷の槍を作り出した。
そしてルイズはゴーレムの足下から伸びる沢山の黄色い線が森の奥へと続いているのを見る。
「わかったわコスモス。アレを追ってフーケを見つけろって言うのね」
「ここは任せられる?」
「問題ありません」
「じゃあ頼んだわよ」
「お任せください」
それを聞くとルイズは森の奥へ駆け出す。二人を載せた風竜も空から線を追う。
ゴーレムの前にKOS-MOSが立ちはだかる。
「行かせません」
「力比べです」
第2ラウンドが始まる。
KOS-MOSは分析する。
『ゴーレムの破壊は容易』
「R・CANNON」
迫る右拳を破壊する。
『光学兵器の使用による周辺環境への被害を危惧』
「F・GSHOT」
両腕に転送した2つの三連ガトリング砲がゴーレムの表面を抉る。
ゴーレムはそれに応えるように再生を続ける。
「F・SCYTHE」
飛び上がりながら巨大な鎌を転送。そのままゴーレムの左腕を根本から刈り取る。
『召喚者ルイズが対象に接敵』
「R・BRADE」
右腕から白い刃が伸びる
「デルフリンガー」
左手に握られたのは今日手に入れた剣
「やっとオレの出番か。待ちくたびれたぜ」
「ジン・ウヅキの戦闘パターン、再生」
再生が追いつかないのだろう。
ゴーレムは壊れ掛けの身体でなんとか背後のKOS-MOSへ振り向く。
「連舞迅雷刀八本」
雷を伴う2本の剣によってゴーレムは跡形もなく切り刻まれた。
「お眠りなさい。甘美な優しさの中で……」
それは崩れるゴーレムに向けた言葉なのか。
『戦闘行動を終了』
武装を解除しながら走り出す。
『対象の捜索を開始』
フーケは感じる。おかしい。ギーシュとかいうドラ息子を倒した平民がいるとはいえ残りはガキのメイジが三人。それなのにゴーレムは再生し続ける。ここでゴーレムを自壊させ逃亡するのも考えたが『破壊の杖』を諦めるのは惜しい。
「くそっ。何だってんだい」
ゴーレムの再生が追い付かなくなってきた。どれだけ集中放火を加えているのか。
すると足音が聞こえる。
「あなたが、あなたがフーケだったのね!ミス・ロングビル!」ルイズが立っていた。
「そ、そうさ。あたしが『土くれのフーケ』さ」
フーケは考える。ルイズだけならなんとかなる。
「お友達は置いてきたみたいだけどいいのかい?」
杖を持つ手はびしょびしょだった。
「あら?みんな来てるわよ?」友達っていうのは気に入らないけどね、と言いながら空を見る。
フーケも釣られて上を見ると上空で風竜が旋回している。なぜここまで接近されることに気付かなかったのか。さっきから息苦しい。顔も髪の毛も汗で気持ち悪い。「な、なぜ」なんとか声を振り絞る。
「あら?気付かなかったの?自分の杖をご覧なさいよ」フーケは自分の杖を見る。そこから黄色い線が廃屋の方へと伸びていた。わかったようね、とルイズ。そして黄色い線が途切れる。ゴーレムが倒されたことをフーケは悟った。
一つ聞きたいんだけど、ルイズがフーケに話しかける。「どうしてこんな手の込んだことをしたの?」
「はっ。それはね、『破壊の杖』を盗んだはいいけど使い方がわからなかったからさ」
「こんなことになるならさっさとトンズラすればよかった」肩で息をしながら応える。
「でもね。今のお喋りで少しは回復できたよっ!!」
フーケは『フライ』を使い飛び立つ。
そして目の前で起きた爆風の直撃を受け地面に叩きつけられた。「ティ、ティファニア……」それがフーケの最後の言葉だった。
ルイズはホッとする。咄嗟に反応できてよかったと。
そして空から見ていたキュルケとタバサは信じられないものを見た。フーケの前に突然白い光が集まったと思ったら収束して消えたのだ。その後起きたのはルイズの失敗魔法。
そこに廃屋の方からボロボロのメイド服を着たKOS-MOSが現れる。
「お怪我は御座いませんか?お嬢様方」
学院長室で、オスマンは戻った四人の報告を聞いていた。
「ふむ、ミス・ロングビルが土くれのフーケじゃったとはな」
「一体、どこで採用されたんですか?」
脇に控えたコルベールが問いかける。
「町の居酒屋じゃ。彼女は給仕をしとっとのじゃがな、この手がついっと、その、尻を」
「で?」
コルベールが先を促す。
「それでも怒らなかったんじゃよ。だからつい、秘書にならないかと言ってしまった」
「なぜです?」
本当に理解できないといった表情でコルベールが言った。
「うむ、今思えばあれもフーケの手じゃったに違いない。全く、女は魔物とはよく言ったものじゃのう」
コルベールはその時、今更ながらフーケのその手にやられ、宝物庫の弱点について語った事に思い出した。
「そ、そうですな!美人はそれだけで、いけない魔法使いですな!」
あの一件は自分の胸だけに秘めておこうと思いつつ、オスマンに調子を合わせる。
「その通りじゃ!君はうまいことを言うな!コルベール君!」初めて正しく名前を呼ばれたかもしれない。
ルイズとタバサ、キュルケの三人は呆れ返ってそんな二人の様子を見つめていた。
生徒達の冷たい視線に気付くと、オスマンはことさらに厳しい顔を作って見せた。
「フーケは捕らえ、『破壊の杖』は無事に宝物庫に収まった。一件落着じゃ」
「君達三人の『シュヴァリエ』の爵位と、ミス・タバサの『精霊勲章』の授与を宮廷に申請しておいた」
ルイズ・キュルケ・タバサ、三人の顔がぱあっと輝いた。
「本当ですか?」
キュルケが、驚いた声で言った。
「本当じゃ。君達はそれぐらいのことをした、当然の結果じゃよ」
「コスモスにはなにも無いんですか?」
「君たちはすでに知ってると思うがそもそもコスモス君は人間ですらない。すまんの」
オスマンは手を叩きながら三人に言う。
「さてと。今日の夜は『フリッグの舞踏会』じゃ」
キュルケの顔の輝きが、さらに強くなった気がする。
「そうでしたわ!フーケの騒ぎですっかり忘れておりました!」
「今日の舞踏会の主役は君達じゃ。用意をしてきたまえ」
三人は、礼をするとドアに向かう。
KOS-MOSだけは相変わらず無表情にそこに立ったままだった。
「お嬢様方はお先に用意をしてください」
KOS-MOSは言った。三人は心配そうに見つめていたが、頷いて部屋を出て行く。
「コスモス君は『破壊の杖』の正体がわかっているようじゃの?どう思う」先に口を開いたのはオスマン。
「はい。この『破壊の杖』と呼ばれる連携火器は明らかにこの大陸の技術力を逸脱しています」
「もしやこれは君の世界のものかの?」
コルベールも期待の眼差しでKOS-MOSを見る。
「いえ違います。恐らくロストエルサレムがまだ存在していた頃のものだと推測されます」
「「ロストエルサレム?」」聞き慣れない単語に二人は聞き返す。
「ロストエルサレム。それ人類発祥の地。そして約束の地。数千年前、人類が活動拠点を宇宙に移してからはその存在は人々の間から消えました」
そこに待ったをかけたのはオスマン。
彼はこの『破壊の杖』の話を始める。
まとめるとどうやら約30年前、ワイバーンから自分を助けてくれた恩人の形見らしい。
「しかしコスモス君の話を聞くと彼のいた場所は数千年前に消えたと聞く。どういうことじゃ?」
「推測の域は出ませんが、恐らく異なる時間軸なのでしょう」
「私の世界の地球は存在しませんが、別の世界にはまだ地球はあると思われます」
「さっきから突拍子もない話ばかりじゃが今のは君が考えたのかね?」
「いえ、これは経験に基づいた判断です」
「話は変わるが君にはコレを扱うことはできるのかね?」
「オールド・オスマン!一体どういう……」とコルベールが口を挟んできたところでオスマンが手で止める。
「はい。ガイダンスに従えば誰でも扱えます」
「こんなもの残していても仕方がないからの。どうやら一回しか使えないようじゃし。明日にでもカマンベール君に使わせてやってほしい。個人的には外側さえ残っていればそれで十分じゃ」
コルベールは自分の名前を間違えられことにも気付かず子供のようにはしゃいでいた。
「コスモス君は舞踏会に出るのかね?」
「はい。本日は使用済みの食器類の増加が予想されます」
「舞踏会にはでないのかの?」
「はい。私の仕事は皿洗いです」
そう言ってKOS-MOSは部屋をあとにする。
もったいないのう、というオスマンのぼやきは誰にも聞こえなかった。
「おいコスモス!!」料理長のマルトーが恐ろしい手際で食器を捌くKOS-MOSに声を投げる。
「なんでしょうか」
「おめぇさんは舞踏会には出ねえのか?」
「必要性を感じられません」
「まぁ、俺としちゃあそれでも良いんだがな。御主人様がお待ちだぜ」そう言って厨房の出入り口を指差す。
「ルイズお嬢様。なにかお困りですか?」
ドレス姿のルイズが扉の前に仁王立ちしている。
「なにかじゃないわよなにかじゃ!」
「こんなところでなにをしているのよ」
「皿洗いです」
「そうじゃなくて!!あなたも出るのよ!舞踏会に!」
「必要性を感じられまん」
「必要性とかいいのよそんなの!」
シエスタ!とルイズが叫ぶ。
「はっ。ここに」どこからともなくシエスタが現れる。
「コスモスにドレスを着せるわ。手伝ってちょうだい」
「喜んで」
そう言うとKOS-MOSは二人に連れ去られた。
ホールの壮麗な扉が、音を立てて開いた。
「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢!」
「そしてその使い魔、コスモス嬢の、おな~~り~~~」
会場の喧騒が途切れる。
ルイズは長い桃色掛かった髪をバレッタにまとめ、ホワイトのパーティードレスに身を包んでいる。
肘までの白い手袋が、ルイズの高貴さをいやになるぐらい演出し、胸元の開いたドレスがつくりの小さい顔を、宝石のように輝かせていた。
しかし彼女の一歩後ろで控えているKOS-MOSは格が違った。ルイズと同じ白いパーティードレスを着ていながらその姿は聖女そのもの。その存在感に圧倒され誰も口を開くことができない。あわよくばお近づきになろうかと画策していた男共は直視することすら憚られた。
これじゃあどっちが主役かわからないわ、とルイズは小さく口にした。
二つの月が照らす中、パーティーはまだまだ続く。
アルビオン王国サウスゴータ地方、ウエストウッド村
ここで一人のメイジがサモン・サーヴァント行っていた。
「私の名前はティファニア。五つの力を司るペンタゴンよ。私の運命(さだめ)に従いし、『使い魔』を召喚せよ」
瞬間、光に包まれる
なんとか目を開く。すると目の前に黒い肌に紫色の鎧のようなものを身に着ける女性が立っている。
「ど、どどどどうしましょう。人間が召喚されるなんて私聞いてません」
あたふたするそのメイジに向かって女性が声をかける。
「私を召喚したのは貴様か?」
「は、ははははいいい。私です。私ティファニアです」
そのメイジはティファニアと名乗った。
周囲を見回す女性にティファニアは話しかける。
「あ、あの~」
「なんだ?」
「ヒィッじゃなくてえーっと……」
「はっきり喋れ」
「あっ、はい。すみません。その、とりあえずあなたのお名前は?」
一瞬虚をつかれたようだったがその女性は空を見上げながら口を開く。
「T-elosだ。覚えておけ」
そしてT-elosは空に見える二つの月を見ながら思考する。
(もちろんいるんだろうな。KOS-MOS)
彼女笑みは歪んでいた。
また一つ、世界が壊れていく。
第03話も読んでいただきありがとうございます。
文章量は増えてるのに話がまったく進みません。
おかしいですね
フーケさんはよく頑張ったと思います。
あとティファニアの口調がまったく思い出せない。
次の投稿は多分間隔が開きます。
用語解説も追加しておいたので是非読んでみてください。
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