遊戯王ではない!デュエルモンスターズだ!! (なにかの波動に目覚めたトマト)
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揺れない魂のペンデュラム

ここは、舞網市。

何処かって聞かれたら答えづらいがスタンダード次元と呼ばれるところにある1つの街であり、中心街には遊戯王もといデュエルモンスターズを教える塾、デュエル塾が多く立ち並んでいる……うん。

 

「ここまで来れば、追手は来ないな」

 

 振り子メンタルこと榊遊矢に気付けばなっていた男です。

 

 本当になにをモノローグで言っているんだろうなと思うが、本当に気付けばそうなっていたんだ。

 

 あったことを説明をすると長いから、大事なことを3つに分けよう。

 

 1つ。何故か遊矢に転生した。

 

 2つ。色々と思うことはあるが後戻りも出来ないし持ってなかったカードを手に入れたりしたし、この世界でそれなりに楽しく生きようと決意した。

 

 3つ。クソ親父もとい父さんがストロング石島戦をすっぽかしたので俺が代わりにデュエルだと遊星のあの台詞を言ったら、ストロング石島をマジギレさせてしまいスタジアムを追い出されてストロング石島ファンと榊遊勝ファンを敵に回してしまった。

 

 4つ、どうせだったらポケモン(アニメ)の世界に、小野繋がりでアランにしてほしかった。

 

 5つ、デュエルは楽しいには楽しいがなんか違うと思う自分がいる。

 

 6つ、柚子は滅茶苦茶かわいい絶世の美少女で将来が楽しみである。

 

「父さん云々は置いておいて、デュエルさえしてくれれば良かったのにな」

 

 ストロング石島戦用にと作ったデッキをデュエルディスクから取り出す。

 なんか家の押入れにあったバカみたいにカードが出てくる転生特典と思わしきアタッシュケースから作り出したエンタメ要素皆無のデッキだ。

 エンタメデュエルを継ごうとは思わないのかだと……思わないな。リアルソリッドビジョンでやっているのは心踊るカードゲームだ。ジャンプフェスのデュエルオペラは凄く楽しかったが、それとエンタメデュエルは別である。

 ソリッドビジョンでショーをやりたければ他所でやれ。遊戯王は数あるカードゲームの中でも魔境なんだよ。

 

「はぁ……」

 

 デッキをデッキケースに入れて、夕焼けを見る。

 これから数週間は卑怯者の息子だとか言われる、絶対に苛めにあう。後、母さんがマジ泣きしている。塾長も泣いてるし、柚子も泣いている……ホント、疫病神だな、あのおっさん。

 エンタメデュエル好きの塾生も要である父さんが居なくなれば、減ってって最終的には10人にも満たないデュエル塾になる……ていうか、今更ながらだがデュエル塾なんてよく作れたな。

 デュエル塾=eスポーツプレイヤー養成校だって認識はあるが、教える側よ。

 

 アドバンス召喚したクリフォート・エイリアスはランク4の励輝士 ヴェルズビュートの効果を受けないを世界大会でミスるんだぞ。

 爆炎集合体 ガイヤ・ソウルの効果にターン1制限書いてないのにターン1制限掛かってたり、伝説のフィッシャーマンはいけて地縛神はダメとか公式すら理解してないコンマイ語とか多すぎて無理だろう。

 現に塾長は運命の火時計の効果でタイムカプセルのターンを経過できると思っていた。

 

「よぉ」

 

「……」

 

 リンクが無いマスタールール3。

 エクストラゾーン以外にもシンクロを置けるようになる環境に戻ったが、やっぱリンク召喚したいな。Amazonで注文してたガッチリ@イグニスターが付属されている本の代金、無駄になったって考えるとなんか腹立つな。

 

「お前、親父の代わりにデュエルするって言ったな?」

 

 前世の事を思い出していると、やたら体格の良い鉄下駄をはいた男が俺に敵意を剥き出してきた。

 こいつは……そう、使い捨てキャラだった筈だ。思い出せない、使い捨てキャラはヤムチャの印象が強すぎて、殆ど忘れている。勝鬨のあれはダメだ。

 

「だったらよ、オレがストロング石島の代わりにデュエルしてやるぜ!」

 

 デュエルディスクを構えるゴツい男。

 挑まれた以上は戦わなければならないのがデュエリストの宿命だとデッキケースからデッキを取り出す。

 

「待て!!」

 

 デュエルディスクにデッキをセットしようとしたところで待ったが入った。

 目の前に居る男同様にゴツいが漢気溢れた真っ直ぐな目をしたリーゼントヘアーが特徴的な応援団長みたいな雰囲気を醸し出す漢。

 

「暗黒寺、例え貴様が兄弟子であろうとも、弱い者いじめは、この漢、権現坂が許さん!!」

 

 権現坂、マジイケメンだ。

 

「いじめ?

ちげえよ。そこのチビは親父さんの代わりに戦うって言ってるんだ。だったら、オレはストロング石島の代わりに戦うだけだぜ」

 

 言っている事は間違ってない気もする事を言う暗黒寺。

 ゲス顔でなければ納得できたが、そうでないので権現坂は顔を真っ赤にしぷんすかと煙を出す。

 

「その顔が代理で戦おうと言う者の顔か!けしからん!ここは」

 

「おい」

 

「俺が……む?」

 

「デュエルしろよ」

 

 ストロング石島に対して言ったことを、暗黒寺に対して言う。

 自分の代わりにとデュエルディスクを取り出すのだが、相手が指名してきているのはお前じゃない。俺だ。

 

「ハッハッハァーッ!!どうやら向こうは勝負してくれるみたいだぜ!!」

 

「む、むぅ……」

 

「権現坂、だったな。

試合をすっぽかして何処かに行った父さんはともかく、遊勝塾に対しての罵倒や弱い者いじめは許さないと言う気持ちはありがたい。だが、1つだけ言わせてもらう……俺は勝てるからストロング石島に挑んだ。まぁ、勝負をしてはくれなかったがな」

 

 俺がデュエルをするとは思っていなかったのかなんとも締まりの悪い空気を流した。

 取り敢えずは権現坂に礼を言い、ストロング石島戦に作ったデッキを取り出してデュエルディスクにセットする。

 

「お得意のアクションフィールドもアクションカードも無いんだぜ?」

 

「デュエルをするのに必要なものはデッキとデュエルをしたいと言う気持ちだけだ。アクションフィールドもアクションカードも不要だ」

 

 困ったらアクションカードというのは嫌いだ。

 破壊無効系のカードやバーン系のカードとかデッキに入れてない汎用性の高いカードを手札に加えれるのは本当にダメだ。アクションマジックしか無いアクションフィールドで図書館エクゾやったら凄かったぞ。

 

「遊勝塾のエンタメデュエルではなく、我が権現坂道場と同じ不動のデュエル!?」

 

「違うな……俺は基本的には何処ぞの流派なんぞ無い。

勝っても負けても最後は握手をして次は負けない、次も勝つ。シンプルだが最も難しい考え方をしているだけだ」

 

 遊戯王はカードゲームなんだ。最も忘れちゃいけないことはカードゲームとして楽しむことだ。

 それを忘れるデュエルは嫌だな。エンタメデュエルとか、ただのソリッドビジョンのショーに見える。

 

「基本を忘れるべからず……見事、見事だ!!榊遊勝の息子、いや、お前の名を聞かせてくれ」

 

「榊遊矢だ」

 

「遊矢、この漢、権現坂!お前のデュエルを見届けさせてくれ!」

 

「好きにしろ……ただ、俺はどうもデュエリストとは程遠い異質な存在だ」

 

 漢泣きしている権現坂を余所にデュエルをはじめるべくデュエルディスクのオートシャッフル機能が作動。デッキがシャッフルされる。

 

「ストロング石島はチャンピオンだった榊遊勝にチャレンジしに来たチャレンジャーだ。先攻は俺が貰う!」

 

「好きにしろ……あ」

 

「俺のターン!俺はバーバリアン3号を召喚!」

 

 

 バーバリアン3号 星3 地属性 戦士族 攻撃力1000

 

 

 中々に良い感じの手札が来てしまったぞ。

 どうすっかな。エクストラ主体のデッキとかの権現坂みたいに守りの上手いデッキじゃないならワンキル出来るな。

 

「召喚に成功した瞬間、俺はバーバリアン3号の効果を発動!

このカードの召喚に成功した時、手札からバーバリアン4号を特殊召喚する!現れろ、バーバリアン4号!!」

 

 バーバリアン4号 星3 地属性 戦士族 攻撃力1200

 

 

『『ゴォオオオ!!』』

 

 青色の古代の野獣戦士(バーバリアン3号)ちょっと太マッチョな野獣戦士(バーバリアン4号)が叫ぶ。

 ソリッドビジョンのデュエルは楽しいが、こういう時の音声が喧しいな。

 

「オレはカードを1枚伏せて、ターンエンド!」

 

「ストロング石島と同じバーバリアンモンスターを……むぅ」

 

「権現坂、お前は不動のデュエルとやらをしているんだろ。だったら、心を揺らすな」

 

 相手のフィールドには地属性の戦士族2体で伏せは1枚。エクストラデッキは0で手札は2枚。

 ストロング石島ファンでバーバリアンデッキを使っているのは良いが、先攻でモンスターを並べるだけじゃ加速する9期以降の環境を生きたOCG次元の住人には届かない。

 

「俺のターン、ドロー……はぁ」

 

「どうやら最悪なカードを引いたようだな!親だけじゃなく、デッキにまで見放されてるのか!!」

 

「暗黒寺、貴様!」

 

「どうやら、俺の勝ちの様だな」

 

「なに!?」

 

「言っただろう。俺は勝てるからストロング石島に挑んだと。

俺は混沌の召喚神を攻撃表示で召喚、混沌の召喚神の効果を発動。自身をリリースすることにより、手札にある幻魔皇ラビエル、降雷皇ハモン、神炎皇ウリアの何れかを召喚条件を無視して特殊召喚する。俺は幻魔皇ラビエルをこの効果で召喚条件を無視して特殊召喚する。現れろ、幻魔の皇!幻魔皇ラビエル!」

 

 幻魔皇ラビエル 星10 闇属性 悪魔族 攻撃力4000

 

「な、な……攻撃力4000だと!?」

 

 何処かオベリスクと似た雰囲気を醸し出す青い悪魔に足を震わせる暗黒寺。

 安心しろ。これは本家と違ってただのカードでありオカルト染みた力とか負けたら命を失う闇のデュエルになるとか、そういうのは一切無い。

 

「ストロング石島はバーバリアン・キングがエースだ。

攻撃力3000のモンスターで、自身のフィールドの戦士族をリリースした数だけ攻撃回数を増やせる効果を持つ。

効果破壊には弱い様だが、それをストロング石島はアクションカードで補っている。なら、俺は真っ向からその力を超えて見せよう!俺は手札から幻魔皇ラビエル━天界蹂躙拳を墓地に送り、効果を発動!幻魔皇ラビエルの攻撃力を倍にする!!」

 

 

幻魔皇ラビエル 攻撃力4000→攻撃力8000

 

 

「ああ、そうそう。効果破壊とかバウンスとかの耐性は無いからな」

 

 なんやかんやで失楽園とかサーチ出来る、暗黒の招来神握ってたが使わない!!

 

「幻魔皇ラビエルで、バーバリアン4号を攻撃!!」

 

「そうはいくか!!バーバリアン4号の効果!!バトルフェイズ中に1度、【バーバリアン】モンスターへの攻撃を無効に出来る!!」

 

「無駄だ!天界蹂躙拳の効果はまだある!幻魔皇ラビエルは攻撃力を倍にするだけでなく、全てのモンスターに攻撃が出来る!!」

 

「んだと!?」

 

「幻魔皇ラビエル、バーバリアン3号に攻撃!!天界蹂躙拳!!」

 

 オベリスクとは異なり、拳を開いたまま左腕にパワーを溜めるラビエル。

 バーバリアン3号を上から押し潰すかの様に叩きつけて粉々に粉砕した。

 

 

 暗黒寺 LP4000→LP0

 

 

「攻撃力8000に加え、全てのモンスターを攻撃できる……ストロング石島をも超えるなんというストロングなパワーデュエル」

 

「いや、なんだよストロングなパワーデュエルって」

 

 即落ち二コマ漫画真っ青な1ターンキルを噛ましたお陰で、すたこらと逃げていった暗黒寺。

 これでもう絡んで来なければ良いのだが、ああいうのが街には何人も居る。主に父さんが原因でだ。

 

「改めて、兄弟子の無礼を詫びよう。すまなかった」

 

「気にするな。お陰で作ったばかりのデッキを使わずじまいにならなくなった」

 

 何処までも義理堅い漢、権現坂。

 俺に怯えるわけでもなく頭を下げてきたが、全ての大元は騒ぎを起こした父さんでありアイツは……まぁ、今は悪いかどうかは言いがたいな。

 

「そ、そうか……」

 

「なんだ?言いたいことがあるなら言って構わないぞ」

 

「遊矢、お前のデュエルは見事だった。

ストロング石島をも上回るストロングなパワーデュエルをした……だが、何故そんなつまらなそうな顔をする?」

 

 権現坂は俺の顔を見て、心配をする。

 そんなに酷い顔なのだろうかと海辺に映る自分の顔を見るのだが、映っているのは何処ぞのメ蟹ックと同じ無愛想な顔。

 つまらなそうか……まぁ、確かにそうかもしれない。カードプールとかインフレデフレ激しいし、そもそもの話初期LP4000とかいい加減に8000にしてくれないかと思う程だ。

 元の世界では第9期というかARC-Vからデュエルは更に加速した。新たなシンクロが出たことにより死にかけていた融合を、エクシーズが出たことにより新規が減ったシンクロを救済してくれたんだ。 だったら、LP8000にしても問題ない。昔と違って社長の嫁と同等のステータスがボンボン並ぶんだから。

 

「どうも俺はデュエリストになれない質でな」

 

「どういうことだ?」

 

「いずれ分かるさ、いずれな」

 

 これから先、権現坂とは長い付き合いになる。

 きっと俺のやっていることは権現坂とは相容れない、いや、デュエリストと大きく相容れないものだ。

 

「遊矢!何処だ!居るなら返事をしてくれ!!」

 

「そろそろ行かないとな……そういえば、ちゃんと名前を聞いていなかったな」

 

 柊塾長が俺の名前を呼んでいる叫びが聞こえたので、俺はこの場から去ろうとするのだが最後に名前を聞く。

 

「俺は権現坂昇だ。お前とはまた会いそうな気がする」

 

「デュエルをしていれば、会えるさ」

 

 コレが権現坂と俺とのはじめての出会いだった……え、なんかおかしくないかって?おかしくないぞ。




一人、また一人とエンタメデュエルから去っていく辛い現実を見てしまう一人の少女。

だが、父が失踪し臆病者の息子だと揶揄される幼馴染みの痛みに比べればどうということはない。

前を向き、歩こうとする少女に世界は幼馴染みは残酷な現実を見せてしまう。

それは玩具販売促進アニメとOCGとの境目にある見えるようで見えない亀裂であった。

次回、遊戯王ARC-V 【デュエリストの定義】にガッチャビングデュエルアクセラレーション!!


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デュエリストの定義

大天使クリスティアのデッキトップに戻る効果を忘れていましたので一部書き直しました。

他の遊戯王小説みたいに上手くかきたい……。


「お父さん、朝ごはん出来たよ!」

 

「おぉ、今日も旨そうだな!くぅ~娘の手料理を毎日食べれるなんて、俺は幸せ者だぁあああ!!」

 

「はぁ、お父さんったら……」

 

 おじさんがストロング石島との試合に来なかった事件から約一週間がたった。

 

【新チャンピオン誕生!!その名はストロング石島!】

 

【前チャンピオンは何処に?】

 

【臆病者の息子が挑戦!】

 

「これって」

 

「あ、いや、なんでもない!なんでもないぞ!!」

 

 お父さんが読んでいた新聞の記事を見て、思わず意識が飛びそうになる。

 ストロング石島との対決に来ず、消えてしまったおじさん。一週間ほどたった今でも警察の人達やお父さんの知り合いが探しているけど、何処を探しても見つからなかった。

 新聞の記事に書いてあるのは、そんなおじさんの事や勝ち上がったストロング石島のこと……そして遊矢の事が書かれていた。

 一面に無表情の真剣な目をした遊矢が、言った一言【デュエルしろよ】と書かれており、それを笑いの種としている。

 

「先ずは飯だ、飯!朝ごはんを疎かにするものは、デュエルの基本を疎かにする!今日から遊勝塾の授業が再開なんだ!食って力にするぞぉ!!いただきまーーす!!」

 

「お父さん……うん、そうよね!」

 

 無理をして私に心配をかけまいとするお父さん。

 おじさんがどうして居なくなったのかは分からない。けど、きっと生きている。だから、私達も頑張らないといけない。

 お父さんの頑張ろうとする姿を見て、私も朝ごはんを食べようとすると家の固定電話が鳴った。

 

「はい、もしもし……ああ、何時もお世話になっております!」

 

 電話に出たお父さん。

 知っている人からの電話で、相手が前に居ないのに頭を下げている……いったい、誰からの電話かしら?

 

「……え!?ど、どうして急に……確かに、先輩はあの日、来ませんでした。

ですが、先輩は理由もなく試合を放棄する人ではありません。きっと、なにか理由があって……それは、そうですが」

 

「お父、さん?」

 

 どうして急にとか、おじさんのこととか、なにを、言っているの?

 

「はい、詳しい事は後で……はい」

 

 元気なフリをしていたお父さんは一瞬にして、元気がなくなった。

 何時もは暑苦しいと思えるお父さんのこんな姿を私は見たことは無い。

 

「なんの電話だったの?」

 

「あ、ああ……塾生の保護者からの電話で、ちょっとな」

 

「?」

 

「ゆ、柚子。早くしないと学校に遅刻するぞ」

 

 お父さんがなにかをはぐらかした。

 それがいったいなんなのかは分からなかったが、私は朝ごはんを食べて学校へ登校した。すると遊矢が先に登校しており、自主的に勉強をしていた。

 

「遊矢、おはよう!」

 

「おはよう、柚子……」

 

「前から思っていたけど、それなんの勉強?」

 

 遊矢はデュエルも学校の勉強の成績も優秀で、予習復習も欠かさない……だけど、なにかおかしい勉強をしてる。

 授業でやってるところとか教科書に載ってるところと全く違うところを勉強している。一度、どんな勉強をしているかが気になって聞いてみたけど、分からなかった……。

 

「中学の勉強だ。

今はまだ良いけど、中学に入ると勉強の難易度が一気に跳ね上がるからな。成績を下げたりすると母さんが……忘れろ」

 

「え、どうし……ごめんなさい」

 

 学校の成績を下げれば親に迷惑をかける。

 遠回しにそう言おうとした遊矢だけど、途中で言うのを止め、止めた理由を直ぐに気付かなかった私は聞いている途中に気付き、謝る。すると、遊矢は持っていた鉛筆をへし折った……って、へし折った!?

 

「ゆ、遊矢?」

 

「あんのクソ親父……絶対に母さんの前に連れてきてやる」

 

 鋼の意思を感じさせる、何処か怖いけど言葉は優しくおばさんを思いやる気持ちが伝わる。

 本当は自分が一番泣きたい筈なのに、辛い筈なのに……。

 

「ところで柚子、今日お前が日直だぞ」

 

「え、あ、そうだった!!」

 

 おじさんや今朝の事で色々とモヤモヤしているけれど、やるべき事をしないと!

 何時も通りに学校で授業を受けて過ごす私達……そう、何時も通り。おじさんが居なくなった翌日、他のデュエル塾に通う人達が遊矢や他の学年の遊勝塾に通う人達に文句を言いに来た。中には卑怯者、臆病者の息子だって数人で遊矢をいじめようとする上級生も……でも、それも今日は居なかった。

 いじめは良くない事で、おじさんを馬鹿にする人が居なくなったのは良かったけれど、どうしても違和感を感じる。

 

「遊矢、今日から遊勝塾の授業が再開だけど」

 

「暫くは遊勝塾には立ち寄らない」

 

「え!?」

 

 放課後、今日から授業再開の事を伝えると意外な言葉が帰って来た。

 

「ストロング石島が正式にチャンピオンになったとはいえ、父さんが居なくなった話題の熱は全然冷めていない。

あの時、悪目立ちしてしまった俺が遊勝塾に行けば嫌でも写真を撮られて他の人達が巻き込まれる……ストロング石島が本当の意味でチャンピオンにならないとほとぼりは冷めないな」

 

「ストロング石島が本当の意味でチャンピオン?」

 

「ニュースとか雑誌を見てないのか?」

 

「お父さんが新聞を読んでたのをチラッと見たぐらいで……」

 

「そうか。とにかく、俺は遊勝塾には暫くは足を運ばない。

もし困った事とかあったりデュエルに行き詰まったりしたら連絡をくれ……なんか、ごめん」

 

 遊矢が謝る必要は無い。

 悪いのは…………居なくなってしまった、おじさんだ。エンタメデュエルの第一人者なのに、なんでファンの人達を、遊矢を悲しませる事をしたの?

 

「泣きそうな顔をするな」

 

「え?」

 

 謝る遊矢の姿を見て、泣きそうになる私。

 そんな私の涙を遊矢はハンカチを取り出して拭いてくれて、満足そうな顔をする。

 

「柚子は涙よりも笑顔が似合っているんだ。

泣きそうになる柚子を見るとエモい、じゃなかった。俺まで悲しくなるんだ」

 

「遊矢……」

 

 笑うところは余り見ないけれど、無愛想なところがあって締める時に締めれない三枚目な所がある遊矢だけど、その心は優しい。うん。

 

「私、おじさんが帰って来た時に、あっと驚くデュエリストになってみせるわ!!」

 

「その意気だ!頑張れ、ストロング柚子!!」

 

 は?

 

「誰がストロング柚子よ!!」

 

 遊矢から出た言葉を聞いてハリセンを取り出し、ツッコミをいれる。

 さっきまでのどんよりした気持ちは嘘の様に晴れており、私に勇気を与えてくれた……でも、現実はそんなに甘くは無かった。

 

「お父さん、この、書類……」

 

「ゆ、柚子!こいつは、その」

 

 何時も通り家に帰り、デュエル塾のセットを詰めた鞄を手に遊勝塾に向かった。

 何時もなら大勢の塾生が切磋琢磨しているのに誰もおらず、お父さんが沢山の書類を持っており、ヒラリと一枚の書類が落ちた。

 

「退塾届……これって!!」

 

 遊勝塾の生徒の名前や判子が押された退塾届を見て、目を見開いた。

 お父さんは退塾届を回収しようとするので、私は抵抗するとお父さんの足が滑り持っていた書類が……約半分以上の遊勝塾の生徒の退塾届が飛び散った。

 

「お父さん、この退塾届、どういうことなの!!」

 

「それは」

 

「正直に答えて!」

 

 なにも聞かされていない。

 何時もなら沢山の塾生達がそれぞれのエンタメデュエルを作り上げようと頑張っていたのに、どうしてなの?

 

「……今日、大勢の塾生の保護者達からの電話があったんだ。塾を止めて、LDSや梁山泊塾なんかの大手のデュエル塾に移籍するって」

 

「そんな……もしかして、おじさんが試合に行かなかった事が原因なの?」

 

 書類がばれて観念したお父さんは退塾があったことを教えてくれ、思わずおじさんの事が頭に過る。

 言いたくはないけれど、どう考えても原因はそれしか無い。でも、違う!と何時もの様な大きな声で叫んで否定して欲しいと思う私に辛い現実が突き付けられる。

 

 お父さんは返事をしなかった。

 

「っ、貸して!!」

 

 お父さんから書類を奪い、退塾した人達の名前を確認する。

 クラスや学年は違うけれど、一緒になってデュエルを学んだ塾生達でエンタメデュエルをあんなにも楽しんでいた。

 これはなにかの間違いや世間の人達に惑わされたりしたに違いないわ!!

 

「もう、電話をしないでくれ!」

 

「っ!!」

 

 退塾した人達に電話をいれるも、マトモに相手をしてもらえなかった。

 例え相手をして貰ったとしても遊勝塾に居るだけでと散々な言われよう。本当は居たかったけどと、言ってくれる人も居たけれど、それでも遊勝塾に居れば危険な目に遭うと言われてしまった。

 

「柚子……諦めるな!!

確かに塾生達は一気に居なくなった。だが、居なくなったのならば、また集めれば良い!

人々を熱狂の渦に巻き込んだアクションデュエル、そのデュエルで遊勝さんはエンタメデュエルを生み出して魅了した!ならば、もう一度エンタメデュエルのスゴさを魅せて、魅了すれば良いんだ!!うぉおおおおおお!熱血だあああああ!!」

 

「おじさんが居ないのに?」

 

「確かに居なくなってしまった。だが、エンタメデュエルは無くなってはいない!!」

 

 そうよ。

 おじさんは居なくなってしまったけど、おじさんが作ったエンタメデュエルは無くなっちゃいない。

 

「柚子、そして遊矢よ!お前達は榊遊勝の後を継いでエンタメデュエルを極めて榊遊勝のその遥か先にって……柚子、遊矢はどうした?」

 

「最初から居ないわよ……お父さん、もしかして?」

 

「い、いや、ほら、遊矢はどちらかと言えば無口じゃないか。だから、てっきり」

 

「てっきりじゃないわよ!!」

 

 もう、ちゃんとしてよね……でも、お父さんの言う通りね。

 

「遊矢には悪いけれども、遊勝塾に来てもらわないと……」

 

『ただいま、デュエル中で電話に出ることは出来ません。ピーっという発信音の後、メッセージを残すか時間を置いてから再度、掛け直してください』

 

「……デュエル?」

 

「おぉ、姿が見えないと思ったら……そうか。遊矢の奴、見えないところで努力をしているのか!」

 

「……っ!」

 

 違う、違う、そうじゃない。

 ストロング石島がチャンピオンになって、少しは静かになったけどそれでもまだおじさんの事で遊矢に因縁をつける相手は居る。

 

「何処、何処なの遊矢!!」

 

 そんな遊矢が今、デュエルをするなんて有り得ない。

 遊勝塾を飛び出した私は遊矢を探そうと必死になり舞網市を走るけど見つからない……。

 落ち着いて、私。遊矢が教えてくれた事を思い出すのよ。こういう時は、大事な事を3つぐらいに分ければ良い。

 

 1つ、遊勝塾が体を鍛える為に走り込みをする場所なんかには遊矢が居なかった。

 

 2つ、遊矢は今、何処かでデュエルをしている。

 

 3つ……どうしよう、3つ目が浮かばないわ。

 

「3つ目、3つ目……そうだ」

 

 街中でのスタンディングデュエルをしているなら人目につくはず。

 遊矢はある意味、世間から注目をされていて、帰る時に遊矢は周りの目を気にしていた……だから、そう。

 

「人目のつかない廃倉庫に……遊矢、何処なの!居るなら、返事をして!!」

 

「そこのお前、榊遊矢になんの用だ?」

 

 遊矢がここに居る。

 そう感じた私が向かった廃倉庫付近に、リーゼントが特徴的な男がいた。

 

「貴方は遊矢の居場所を知っているの?」

 

「知ってはいるが、お前はいったい」

 

「私は柊柚子!遊矢と同じ遊勝塾の」

 

「遊勝塾だと!?」

 

 塾生で遊矢のともだちだと言おうとする前に驚く男。

 

「なにを驚いているの?それよりも遊矢は」

 

「むぅ……悪いが、遊矢の居場所を教える訳にはいかん!」

 

「どうして!?」

 

「それは……すまぬが理由は言えない。

しかし、この男、権現坂、理由は語れまいが1つだけ断言できる。榊遊矢は真の男だという事を!!」

 

「どういう意味……ううん、違うわ。

貴方が遊矢の居場所を知っているんだったら、デュエルよ!!デュエルで私が勝ったのならば、遊矢の居場所を教えて!」

 

「良いだろう。ただし、デュエルでお前が負けた場合は分かっているだろうな」

 

「っ……絶対に負けないわ」

 

 この男が、権現坂が何者かは分からない。だけど、遊矢はなにか大変な目に遭っているはず。

 リアルソリッドビジョンシステムが無いから、アクションカードは無いけれど、絶対に勝ってみせる!!

 

「「デュエル!!」」

 

 先ずは最初の手札を確認……これって!!

 

「先攻は私からよ!

私は永続魔法!神の居城━ヴァルハラを発動し、効果を発動!

自分のフィールドにモンスターが居ない時、手札から天使族モンスターを特殊召喚することが出来る!私は大天使クリスティアを特殊召喚!!」

 

 大天使クリスティア レベル8 光属性 天使族 攻撃力2800

 

 赤い翼が特徴的な大天使クリスティア。

 よし。召喚時になにもしてこないわ。これなら、私の勝ち。このモンスターを先攻1ターン目で召喚出来た時は遊矢に1ヶ月に1回は勝つんだから!……このモンスターをくれたのは遊矢で神の居城━ヴァルハラの重要性を教えてくれたのも遊矢だ。ちなみに私が勝った時の遊矢はいつも手札が事故になっていた。

 

「カードを一枚伏せて、ターンエンド!」

 

 これで大丈夫、のはず。

 遊矢はこれをディスカバー・ヒッポからのオッドアイズ・ランサー・ドラゴンを召喚して倒したことがあるから油断はできないわ。

 手札には幻奏の歌姫ソロがあるけれど、並べた結果、オッドアイズ・セイバー・ドラゴンみたいに戦闘破壊に成功したら効果破壊が可能なカードが来るかもしれないし。

 

「1ターン目から攻撃力2800の最上級モンスターを、負けてはおられん!!俺のターン、ドロー!」

 

 お父さんの様に暑くドローをする権現坂。

 

「超重武者ビッグワラーGの効果!自分の墓地に魔法・罠カードが無い場合、このカードを特殊召喚することができるって、なにぃ!?」

 

 レベル5のモンスターをいきなりの特殊召喚。

 フィールドにモンスターが居ない時系と違ってかなり変わった条件下での特殊召喚は驚きだけれど、その特殊召喚は不可能よ!

 

「大天使クリスティアがフィールドに居る限りは、お互いにモンスターを特殊召喚できないわ!!」

 

 デュエルディスクのエラー音に驚く権現坂に理由を教える。

 

「特殊召喚が出来ないだと!?」

 

「ええ」

 

 通常召喚したモンスターや魔法カードの効果を巧みに扱いモンスターを並べて、上級モンスターを召喚する。

 大半のデュエル塾はその教えが当たり前で、その過程でどうしても特殊召喚が必要になる。大天使クリスティアはデュエルに必要不可欠な特殊召喚を封じるカード。

 

「ならば、俺はモンスターをセットしてターンエンドだ!!」

 

「私のターン、ドロー……」

 

 私のフィールドには神の居城━ヴァルハラと大天使クリスティアと伏せカードが一枚。

 手札はドローしたカードを合わせて3枚で、対する権現坂のフィールドはセットしているモンスターのみで手札は5枚……ここは一気に!

 

「私は幻奏の歌姫ソロを攻撃表示で召喚!」

 

 幻奏の歌姫ソロ レベル4 光属性 天使族 攻撃力1600

 

「バトルよ!私は幻奏の歌姫ソロでセットしているモンスターを攻撃!!」

 

 セットしているモンスターに攻撃を仕掛ける幻奏の歌姫ソロ。

 リバースモンスターや高い守備力のモンスターではなく、あっさりと破壊された。けれど、権現坂が僅かに笑った。

 

「俺はこの瞬間、超重武者グロウーVの効果を発動!

自分の墓地に魔法・罠が存在せずこのカードが墓地に送られた時、デッキ上から5枚のカードを並べかえる事が出来る!」

 

「破壊効果じゃないなら大丈夫!私は大天使クリスティアでダイレクトアタック!」

 

「この瞬間、超重武者グロウーVのもう一つの効果を発動!」

 

「デッキトップ操作以外にもまだあるの!?」

 

「無論だ。

相手のダイレクトアタック時、墓地のこのカードを除外し発動できる。

自分のデッキの一番上のカードをドローし、そのカードが超重武者カードならば攻撃してきたモンスターの攻撃力を0にする!俺の引いたカードは超重武者ダイー8!!」

 

 ギャンブル性の高いカード……いえ、それよりも

 

「まさか、遊矢以外にもどうにか出来る人が居るなんて……」

 

「俺の引いたカードは超重武者ダイー8!超重武者モンスター!よって、大天使クリスティアの攻撃力は0に!」

 

 攻撃力0は永続……次のターンで大天使クリスティアは破壊される。

 けど、私も特殊召喚が出来るようになるし、ミラーフォースがあるからまだまだ逆転のチャンスはあるわ!!

 

「私はターンエンドよ!」

 

 伏せカードは聖なるバリア ミラーフォース。

 大天使クリスティアは墓地に天使族が4枚あれば特殊召喚することが出来るモンスターで、私の使う幻奏モンスターは天使族。

 墓地に送る系の効果は少ないけれど、特殊召喚する効果は多くてフィールド中に歌姫達を召喚できる。歌姫達での総攻撃が失敗したら、再びクリスティアを、そのクリスティアを破壊しようと強いモンスターを使えばミラーフォースで撃墜出来るわ!

 

「俺のターン!俺は超重武者ダイー8を通常召喚!

召喚に成功した瞬間、効果発動!超重武者ダイー8の表示形式を変更する!」

 

 超重武者ダイー8 レベル4 地属性 機械族 守備力1800

 

「表示形式の変更……」

 

 あれだとミラーフォースの効果が無い。

 

「バトルだ!超重武者ダイー8で大天使クリスティアに攻撃!」

 

「守備表示のままバトル!?」

 

「そう。超重武者ダイー8は守備表示のままバトルが出来る。その際に守備力を攻撃力として扱う!」

 

「つまり攻守1800のモンスター……貫通効果が無いとダメージ計算もない」

 

「その通りだ!ゆけい!超重武者ダイー8!」

 

 大天使クリスティアに向かい突撃するダイー8。

 まずいわ。権現坂の召喚した超重武者ダイー8。レベル4のモンスター……グロウーVやビッグワラーGの効果に加えて、ダイー8の守備攻撃。

 

「超重武者はフルモンスターじゃないと動かないデッキで、守備攻撃をする攻守一体のデッキ」

 

 柚子 LP4000→2200

 

「その通り、よくぞ我がデッキの本質を見抜いた!

権現坂流不動のデュエルは、文字通り動かざること山の如し!なにが出るか分からないアクションカードには頼らず、己の魂を込めたデッキを信じ、揺れる事なく戦うもの!」

 

「アクションカードを取らない……遊勝塾の教えとは真逆に近いものじゃない!!」

 

「安心しろ。あくまでも不動のデュエルは不動のデュエル、エンタメデュエルはエンタメデュエル。

それぞれの流派が持つ考えは、それぞれが独創的で素晴らしいものだ。この男、権現坂。奴等の様にエンタメデュエルや遊勝塾を否定する様な真似はせん」

 

「奴等……奴等って、どういう意味?」

 

「それを知りたければ、俺に勝ってみせろ!

ダイー8の効果を発動!表側守備表示のこのカードを攻撃表示にし、デッキから超重武者装留チュウサイを手札に。

更に超重武者装留チュウサイの効果を発動!手札のこのカードを、超重武者ダイー8に装備!」

 

「装備効果を持つモンスター……攻撃力にも守備力にも変化が無い?」

 

 装備カードを装備したのに、なんの変化も無い。

 

「チュウサイは力を上げる超重武者装留にあらず!新たなる超重武者を呼び寄せるカードだ!

俺はチュウサイの効果を発動!このカードを装備したモンスターをリリースし、デッキから超重武者モンスターを特殊召喚する!俺が特殊召喚するのは、超重武者ビッグベンーK!!」

 

 権現坂が新しく召喚したのは巨大な機械の鎧武者。攻撃力は……

 

「攻撃力1000!?もしかして」

 

「その通り!

特殊召喚をした超重武者ビッグベンーKの効果を発動!表示形式を変更し、守備表示に!そしてこの超重武者ビッグベンーKはダイー8と同じく守備表示で攻撃できる……ターンエンドだ!」

 

 硬い、なんて硬いの……まるで、山の様だわ。

 

「私のターン、ドロー!!」

 

 権現坂のデッキのなんとなくの内容は理解できてきた。

 権現坂のデッキはフルモンスターでビッグベンーKをエースに、超重武者装留や超重武者モンスターがサポートをする、そんな感じ。

 

「……」

 

 ドローしたカードは効果によりデッキトップに来ていたクリスティア。私はどうするかを考える。

 フルモンスターだからモンスターが来ない事は絶対に無い。ターンを増やせば増やすほど、権現坂の不動のデュエルの真価が発揮をする。だから、素早く倒すしか道は無い。

 でも、私にそれが出来るの?今のこの手札だと……アクションカードがあれば……。

 

「アクションカードがあれば、か?」

 

「え?」

 

「お前は今、アクションカードを欲している。

これがアクションデュエルならばデュエリストはアクションカードを求めるだろう。この程度の状況でアクションカードを求めているようでは遊矢に会ったところで、邪魔にしかならない!!」

 

「っ……邪魔、私が……」

 

 今、遊矢はこの辺でデュエルをしている。

 リアルソリッドビジョンシステムが無いから、スタンディングデュエル……。

 

「遊矢は貴方に勝ったの?」

 

「無論……まさか向こうも動かぬデュエルをするとは思いもしなかった。

我が不動のデュエルの全てを用いても100000をも超えるライフポイントを削り切ることは出来なかった」

 

「10万!?」

 

 いったいどんなデュエルだったの……いえ、どんなデュエルだったとしても構わない。

 遊矢は権現坂に勝った……なら、私が立ち止まる訳にはいかないわ!!

 

「私は魔法カード、トレードインを発動!

手札のレベル8のモンスターを墓地に送り、デッキから2枚ドローする!私は大天使クリスティアを墓地に送るわ!!」

 

 これでドロー出来なかった分を補えた!

 

「……私はモンスターをセットして、バトルよ!幻奏の歌姫ソロで超重武者ビッグベンーKに攻撃!」

 

「超重武者ビッグベンーKの守備力は3500、血迷ったか!」

 

「いいえ、血迷ってなんかないわ。

私はダメージ計算時に手札の幻奏の音女スコアを墓地に送り効果を発動。幻奏モンスターとバトルするモンスターの攻守を0にするわ」

 

「攻守0!?」

 

 そう。これで貴方の超重武者が守備に優れていても破壊することが出来るわ!

 

「ターンエンドよ!」

 

「俺のターン、ドロー。

ゆくぞ!俺は超重武者ビッグワラーGを特殊召喚!超重武者ビッグワラーGは超重武者モンスターをアドバンス召喚する際に2体分のリリースとして扱う!動かざること山の如し。不動の姿、今見せん!超重武者ビッグベン━K!!」

 

 

 うそ、2体目!?

 

 

「ビッグベン━Kの効果発動!このカードの表示形式を変更する!」

 

 超重武者ビッグベン━K 地属性 機械族 レベル8 守備力3500

 

 まさかの2体目の登場に思わず引いてしまいアクションカードがあればと頼りたくなり周りを見る。

 直ぐに今はアクションデュエルじゃないことを思い出す。私は困ったらアクションカード、とアクションカードに依存している。苦手なアクションフィールドが来たとき、なにも出来ない。ここでアクションカードに頼ったら遊矢の邪魔になっちゃうと遊矢の事を思い出して、引いた分よりも更に一歩前に出る。

 

「更に俺は超重武者装留ダブルホーンの効果を発動!このモンスターを超重武者ビッグベン━Kに装備!」

 

 鬼の角の様なものを肩に装備するビッグベン━K。

 デュエルディスクに出てる数値に変動は無い……と言うことはなにか追加効果を付与したのね。

 

「超重武者装留ダブルホーンの効果!

このカードを装備した超重武者モンスターは2回攻撃することが出来る!!」

 

「2回攻撃!?」

 

「バトルだ!

俺はダブルホーンを装備した超重武者ビッグベン━Kで幻奏の歌姫ソロに攻撃!」

 

 ビッグベン━Kは地面を強く叩き地割れを起こし、幻奏の歌姫ソロを撃破した。

 

 柚子LP2200→300

 

「破壊された幻奏の歌姫ソロの効果発動!

このモンスターが戦闘で破壊され墓地に送られた時、デッキから幻奏の歌姫ソロ以外の幻奏モンスターを特殊召喚する事が出来る!私は幻奏の音女アリアを守備表示で特殊召喚!!」

 

 幻奏の音女アリア 守備力1200

 

「特殊召喚された幻奏の音女アリアが居るかぎり、幻奏モンスターはカードの効果の対象とならず戦闘では破壊されないわ!!」

 

「先にソロを破壊したのは間違いだったか……ならば、セットしているモンスターに攻撃!!」

 

「セットしているモンスターは幻奏の音女セレナ!幻奏モンスターだから戦闘破壊されないわ!」

 

「っく、ターンエンドだ!!」

 

 よし、これで戦闘破壊は防げる。

 でも、相手はフルモンスターデッキでこういう時も想定しているはず。貫通効果を持ったカードを入れている筈だから早く倒すかスピリットバリアを引かないと。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 ……ドローカードはスピリットバリアじゃない。けど、良いカード。

 権現坂のフィールドには実質攻撃力3500のモンスターが1体。

 フルモンスターのデッキでビッグベンーKをエースに、色々とするデッキ。ドローするカードは絶対にモンスター。毎ターン、何かしらできる……私のデッキとの相性も余り良くない。早目に終わらせないと。

 

「幻奏の音女セレナの効果!このカードは天使族モンスターをアドバンス召喚する時、2体分のリリースとする!

私は幻奏の音女セレナをリリースして幻奏の音姫ローリイット・フランソワをアドバンス召喚!!更に幻奏の音姫ローリイット・フランソワの効果を発動!1ターンに1度、墓地にある光属性・天使族モンスターを1体手札に加えるわ!私が加えるのは幻奏の音女スコアを手札に!」

 

「召喚時ではなく、ターンに1度の効果!?ということは」

 

「ええ、そうよ。これでなにが出てきても攻撃が出来るわ。

私は幻奏の音姫ローリイット・フランソワでビッグベンーKに攻撃!勿論、ダメージ計算時に手札からスコアを捨てて、ビッグベンーKの攻守を0にするわ!!」

 

 これで2体目も撃破よ!

 

「俺のターン、ドロー!……超重武者ワカーO2を召喚。

ワカーO2の効果を発動し、表示形式を変更……ターンエンドだ」

 

 よし、3連続のビッグベンーKは流石に来なかったわね。

 それと権現坂のデッキが大体読めたわ。フルモンスターデッキで効果ダメージとかは特に狙わず、ビッグベンーKに超重武者装留を装備させて、2回攻撃効果とか貫通効果とかを与えて戦闘する感じのデッキ。

 超重武者ビッグベンーKを召喚してそこから色々とするデッキだけど、先ず最初に超重武者ビッグベンーKを召喚する為の特殊召喚が出来ずに出鼻が挫かれて、そこから2連続でビッグベンーKが倒された。

 

「私のターン、ドロー……」

 

 この状況、どうしようかしら?

 スコアを手札に戻して守備力を0にしてアリアで攻撃……をしてもライフを0にすることは出来ない。

 権現坂のデッキはフルモンスターで、絶対にモンスターが来ることは分かっているのだから毎ターン、モンスターを呼び出す事が出来る。

 フルモンスターでビッグベンーKが要なら、三体目も普通にありそうだし、ビッグベンーKを簡単に呼び出せるカードもありそう。私、一撃でもくらったらおしまいなのよね……そう言えばワカーO2の守備力とドローカードを見ていなかったわ……あ!

 

「私はローリイット・フランソワの効果で幻奏の音女スコアを手札に加えるわ。

そして貴方のフィールドにある超重武者ワカーO2をリリースし海亀壊獣ガメシエルを貴方のフィールドに攻撃表示で特殊召喚!!」

 

「あ、相手のフィールドのモンスターをリリースして特殊召喚をするだと!?」

 

 海亀壊獣ガメシエル

 

 レベル8 水属性 水族 攻撃力2200

 

「普通に見ればデメリットしか無い効果に思えるけど、倒すことの出来ないモンスターとかを除去する事が出来るの」

 

 私のデッキは戦闘破壊出来ないモンスターに滅法弱い。それに加えて私のデッキも効果破壊とか戦闘破壊を防いだり出来て、スピリットバリアでダメージを0に出来るから、戦闘破壊出来ない系のモンスターを多く含んだデッキとデュエルをしたらデッキ切れで負けたり勝ったりすることもある。だから、こういうカードが必要だって遊矢に進められた。

 ラヴァ・ゴーレムを遊矢は一番押していたけれど、私のデッキじゃ攻撃力3000を野放しにすると大変だから攻撃力の低い海亀壊獣ガメシエルを代わりに入れた。

 

「戦闘破壊が出来ないワカーO2には退場してもらったわ。バトルよ!ローリイット・フランソワで海亀壊獣ガメシエルを攻撃!」

 

「ま、まだまだぁ!!」

 

 権現坂LP4000→3900 

 

「私はこれでターンエンドよ!」

 

「俺のターン……自分フィールド上にモンスターがおらず相手フィールド上にモンスターが2体以上居る時、超重武者テンBーNを特殊召喚できる!来い、超重武者テンBーN!」

 

 天秤に荷物を乗せた緑色の甲冑を着たモンスターを呼び出す権現坂。

 相手フィールド上にモンスターがいて、自分フィールド上にモンスターが居ない場合に特殊召喚できるとか、自分フィールド上にモンスターが居ない場合に特殊召喚できるとか色々とあるけれども、2体以上は珍しいカードね。天秤だからかしら?

 

「テンBーNの効果を発動!

テンBーNが召喚、特殊召喚された時、墓地からレベル4以下の超重武者モンスターを特殊召喚できる!

俺は超重武者装留チュウサイを特殊召喚し、フィールドからテンBーNに装備してチュウサイの効果を発動!!テンBーNをリリースしてデッキより超重武者ビッグベンーKを攻撃表示で特殊召喚!!」

 

「またなの!?」

 

 倒したばっかなのに、直ぐに現れるビッグベンーK。

 でも、大丈夫よ。私の手札には幻奏の音女スコアがいるから攻撃してきても0にすることができる。

 

「ああ、例え倒れても起き上がり動じる事なくデュエルをする。それこそが不動のデュエル!

俺は更に超重武者ソードー999を通常召喚!そして効果を発動し、守備表示にする!そして超重武者ソードー999で幻奏の音姫ローリイット・フランソワに攻撃!

先程の説明は少々足りなかったので改めて説明しよう!超重武者ビッグベンーKは守備表示で攻撃できる効果を持っていると言ったが、正確にはフィールドの超重武者モンスター全てに「守備表示で攻撃することができ、その際に守備力を攻撃力として扱いダメージ計算をする」効果を付与する!ダイー8は自らしか攻撃できないが、ビッグベンーKはフィールドに居る限り全ての超重武者モンスターを守備表示で攻撃可能にする!」

 

「じゃあ、ソードー999の攻撃力は実質1800……でも、ローリイット・フランソワの方が高いから……自爆特攻?」

 

 攻撃した後になにかを発動する系の効果を発動する為にわざとバトルに負ける戦術だったわよね?

 

「すまん、ソードー999よ。あの場に近付けぬ為にも、ここは犠牲になってくれ。

ソードー999の効果を発動!ダメージ計算後にバトルをした相手モンスターの攻守を0にする……永続にだ!!」

 

 永続効果はまずいわ!?

 

 権現坂 3900→3400

 

「更に超重武者ビッグベンーKで幻奏の音姫ローリイット・フランソワに攻撃!」

 

「幻奏の音女スコアの効果を発動!このカードを墓地に送り、ビッグベンーKの攻守を0に!そして攻撃力0同士のバトルではルール上、どちらのモンスターも戦闘では破壊されないわ!!」

 

「構わん。俺はこれでターンエンド。そしてビッグベンーKの攻撃力は元に戻る」

 

 スコアの効果を使わせる為に、わざわざ攻撃してきたのね。

 私のライフはたったの300。一撃でも攻撃をくらえば終わり……権現坂のデッキには守備表示モンスターと戦闘をした時にダメージを与える貫通効果を与えるカードが入っているし、ダイー8はビッグベンーKの効果が無くてもバトルすることが出来る。

 

「私のターン……!……権現坂、私の勝ちよ」

 

 ドローをしたカードを見て、私は勝利を確信した。

 

「幻奏の音女アリアを攻撃表示に、幻奏の音姫ローリイット・フランソワを守備表示に変更。

そしてローリイット・フランソワの効果でスコアを手札に加えて……魔法カード死者蘇生を発動よ!!」

 

「死者蘇生……俺の墓地にはアドバンス召喚をしたビッグベンーKが1体。

俺の残りのライフポイントは3400、超重武者ビッグベンーKが守備表示で攻撃すれば0に……見事だ」

 

「ええ……私は貴方の墓地にあるビッグベンーKを守備表示で特殊召喚!

これで終わりよ。幻奏の音女アリアで貴方の超重武者ビッグベンーKに攻撃!ダメージ計算時に幻奏の音女スコアを墓地に送り、超重武者ビッグベンーKの攻撃力守備力を0に!」

 

 攻撃力守備力0となり、段々と錆びて汚くなっていくビッグベンーK。

 鈍い音を出しながらそれでも動いており、スコアとアリアの歌声によってゆっくりとゆっくりと停止した。

 

「これで終わりよ。超重武者ビッグベンーKでダイレクトアタック!!」 

 

 権現坂LP3400→0

 

「私の勝ちよ!約束通り、遊矢の居場所を教えて!」

 

「約束は守ろう……しかし、覚悟は出来ているだろうな?」

 

「覚悟?」

 

「……来い」

 

 いったいどういう意味なの?

 権現坂の案内を受けた私は廃倉庫の内の1つに入った。

 

「……え?」

 

 私は中の光景を見て、固まった。

 

「俺は魔法カード、トレードインを発動。手札の青眼の白龍を墓地に送りカードを2枚ドロー!」

 

 そこでは遊矢が見知らぬ誰かとデュエルをしていた……けど

 

「なに、あのモンスター?」

 

「やはりお前も知らないのだな」

 

 遊矢のデッキはEMとオッドアイズと魔術師を複合したデッキ。

 だけど、今使っているデッキは違っている。見たことの無いドラゴンを使っている。

 

「……顔が中々に来ないな。やっぱ無理に混ぜるもんじゃないな。俺は青眼の亜白龍でダイレクトアタックだ!!」

 

「ひぃ!?ま、待った。オレの敗けだ!サレンダーする」

 

「サレンダーが出来るのは自分のターンのみだ」

 

「なに、サレンダーだと言えばデュエルを終わらせる事が出来るのでは無いのか!?」

 

「文句があるならコンマイにでも言え」

 

 見たことの無いドラゴンの一撃が対戦相手を倒す。

 

「さぁ、次はどいつだ!!」

 

「どいつ?」

 

「……ここに居るのは、ストロング石島の熱狂的なファンや榊遊勝のファンだった者達だ」

 

「!」

 

 倉庫の中にはそれなりの人が居る。

 これがおじさんやストロング石島のファン……。

 

「遊矢は、ここ数日この倉庫で奴等とデュエルをしている」

 

「デュエルを、もしかして……」

 

「ストロング石島の前でデュエルを挑んだのもあるが、怒りの矛先を遊勝塾に向けようとした者達も中には居る。遊矢はその者達と戦い今日まで無敗を貫き、遊勝塾に向く怒りの矛先を食い止めている」

 

「そんな……どうして誰も止めないの!?」

 

「無論、止めようとした。

どの様な理由かは知らぬが居なくなったのは榊遊勝で、遊勝塾は無関係だと。

それでも止まることがなかったので俺は助太刀をしようとしたのだが、俺は部外者だからと手を貸すことは許されず、遊矢にデュエルを挑んだものの、負けてしまい、どうすることも出来なかった。せめて、この姿を遊勝塾の者達には見せまいとしていたが……」

 

「どうした、誰も来ないのか?……なら、それで良い。

悪いのはあのくそ親父で、遊勝塾は関係無い……俺はストロング石島に勝てるから挑んだ。その二つを覚えておけ」

 

 次のデュエルをしようにも、挑んでくる相手は誰も居ない。

 遊矢はそれ以上のデュエルをすることはなくデュエルディスクを鞄に入れて、倉庫を出ようとする。

 

「遊矢……」

 

「げ、柚子!?おい、権現坂!どういうことだ、お前せめてもの助力つったよな!!」

 

「すまぬ、遊矢。デュエルで負けてしまった」

 

「いや、なんでそこでデュエルを挟む……いや、そうだよな。それが当然だよな」

 

 私が居ることに気付くと、激しく落ち込む遊矢。

 小さく見られたくなかったと呟いている。

 

「遊矢、どうしてこんな危険な事を」

 

「危険……なのか?デュエルをしているだけだが」

 

「っ、遊矢のバカ!!」

 

「ちょ、ハリセンを何処から出した!?」

 

 遊矢が強いのは知っている。

 だけど、もしアンチデッキを使ってきて負けたら……遊矢は一生━━あれ?

 

「なに、この沢山のデッキケース」

 

「あ、やべ!!」

 

 ハリセンで遊矢を叩いた際にバランスを崩す遊矢。

 鞄の中から大量のデッキケースが出て来て、遊矢は慌ててデッキケースを拾い集めるけど、私が先に1つのデッキケースを手に取る。

 

「スキドレバルバ?……」

 

 デュエリストにとってデッキは自分の命も同然のもの。

 やっちゃいけない事だけど、どうしても気になった私は思わずデッキの中身を見てしまった。

 モンスターの効果を無効化するスキルドレインを軸に高レベルのデメリットを持つモンスター達を並べるデッキで、物凄く強いデッキ。大半の、それこそ権現坂のデッキには相性が悪いデッキ。

 

「なんで遊矢が、こんなデッキを」

 

 遊矢はこんなに沢山のカードを持っているけれど、遊勝塾ではEMオッドアイズ魔術師のデッキしか使っていない……なんで?

 

「悪いな、柚子……どうも俺はデュエリストってのに、向いてなくてなれないみたいなんだ」

 

 この時、私ははじめて知った。

 遊矢はデュエルは好きだけれど、エンタメデュエルは好きじゃないこと。

 遊矢は複数のデッキを持っていることを。

 遊矢はデュエル中、座りたいなと何度も何度も思っていたことを。

 遊矢はアクションデュエルが嫌いな事を。

 

「俺はこんな感じのデュエリストになりきれない遊戯王プレイヤーだ。

だが、柚子は違うだろう。柚子が思うデュエルの道を突き進めば良い……うん」

 

 遊矢はデュエリストじゃなかった。本人曰く遊戯王プレイヤーらしい……遊戯王ってなに?




デュエリストの定義

己の信念を魂を1つのデッキに込めること。

己の信念と魂を込めたデッキで己のデュエルロードを突き進むこと。

カードを創造しようがデッキに入れていないカードをドローしようが一切気にしないこと。

デュエルディスクを持ち、立ちながらデュエルをすることになんの疑問も抱かないこと。

遊戯王ではなくデュエルモンスターズをやっているという自覚をしていること。

物事をデュエルで解決出来ると思っていること。

相手が世界に数枚しかないカードでオレ最強だZeと言っているのを見ても疑問に思わないこと。

カードを発動していた事を効果処理が終わるまで一切言わないこと。

ルールを守って楽しくデュエルというコンマイの言っていることを大体守れない人のこと。しかし、コンマイも守れてなかったりする時があるので、ここは然程気にすることではない。


次回予告


エクストラデッキ、それはデュエルを高速化させた最強のモンスター達が潜むデッキ。

コンマイにより15枚と制限されているが、15枚だけでも恐ろしく強い。

スタンダード次元でもエクストラデッキによる召喚方法が少しずつ、少しずつ広まっていく。

時を同じく、榊遊矢になっていたOCG次元の住人もエクストラデッキの構築に悩む。

この世界にはリンク召喚は無い。彼にとってエクストラデッキにはリンクモンスターが入って当然だった為にと感覚を思いだそうとしたその時、ペンデュラムが光る。


次回、遊戯王ARC-V 【白菜vsトマト】にガッチャビングデュエルアクセラレーション!!


漫才次元

遊矢「ところで、なんでここに来たんだ?」

柚子「あ、そうだった。遊矢とエンタメデュエルをしようと思ったけど、もう良いわ」

遊矢「すまない……」

柚子「ううん、私こそ気付かなくてごめん……エンタメデュエルで苦しんでいたなんて、それとありがとう」

遊矢「ん?」

柚子「私達の遊勝塾を守ろうとしてくれて、ありがとう」

遊矢「守れてなんかないさ。
肝心のエンタメデュエルを俺は出来ないんだ……」

柚子「そんな事は無いわ!
私、遊矢とデュエルをするのが楽しいって面白いって思っているもの!!」

遊矢「柚子……」

柚子「遊矢に出来ないエンタメデュエルを私がしてみせるわ!!」

遊矢「いや、しなくて良いぞ?」

柚子「え!?」

遊矢「柚子には柚子の良さがあるんだ。
それを無理に壊して笑われるデュエルとかにするよりも、柚子の良さを生かして欲しい……柚子が楽しくデュエルをしているだけで、俺は嬉しいよ」

柚子「遊矢……」

権現坂「むぅ、完全に俺の事を忘れてはいないか?」



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白菜vsトマト

読者のみんな、作者は禁止カードを使っちゃうよ。
でもねARCーVの途中までは許されてた、許されてたんだよ……無理なのは分かってるけど、やっぱ帰ってこねえかな。


「……相変わらず、ぶっ飛んだ世界だ」

 

 拝啓、父さん。

 貴方がエクシーズ次元で楽しく遊んでいる間にすっかり遊勝塾も衰退していきました。

 俺はラスボスことズァークになりたくないので、頑張る時は必死になって頑張りますが取りあえずは男前ヒロインに介護をして貰っているツーショットを撮って母さんに渡すから覚悟をしておけ。

 それはそうとして、柚子は可愛い。しかし、最近父さんの事を話題に出したりすると何処となく怖い……大天使クリスティアとヴァルハラを渡した自分が言うのもなんですが、柚子は本当に強く健気でエモい……。

 

「来い、来い!キャモン!」

 

 俺がエンタメデュエルをしないので柚子が人二倍頑張っていますので、せめてハゲの魔の手から花鳥風月は守りたい。

 あ、社長の言うことは絶対に聞きたくない。あれはもう、なんか無理だ。

 さて、俺は現在なにをして居るかと言うとアニメの遊戯王では非常に珍しいカードパック開封をしています。DMとGXぐらいでしかカードパックの話がなく、カードは創造するのが遊戯王なのである意味珍しい光景だ。

 え?転生特典でリンクとか使うの無理っぽいカード以外は全部持ってるだろうって?……OCGのカードは持ってるけど、アニメオリジナルのカードは無いんだ。

 

「……知らないシリーズの専用系のカードが多いな」

 

 伊達に遊戯王世界でなくカードプールのインフレは激しいもので、知らないシリーズも多々ある。

 だがそれよりも驚きなのがパックに入っている同名のカードは非公開で一箱に一枚じゃなくて製造の過程でそのシリーズにつき一枚もしくは三枚のみなことだ。おま、マジふざけんなよ状態である。カードゲームなんだから大量生産してくれ。

 

「最後の1つ……うっし!!」

 

 パックを開封するも弱そうだったり下位互換のカードばかり。

 最後のパックに望みを託して開封をすると最高にぶっ壊れなカードが当たった。

 

 

 速攻魔法 ビッグ・リターン

 

 ①:自分フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードの「1ターンに1度」と書かれた効果を、このターンもう1度発動する。

 

「これ、本当に何処で作ってるんだろうな」

 

 原作で見たことあるカードで、当たった事に喜ぶのだが直ぐに冷静になる。

 通常魔法でなく速攻魔法だからバトルフェイズ中にも使用可能でビッグ・リターンの効果その物にターン1制限がない。となるとディザスターレオ2連発とか出来るしグスタフ……マジで何処の誰がこんな頭おかしいカードを作ったんだ?

 アニメの展開的に必要かもしれない効果だが、もうちょっとましなOCG化されそうなカード効果に出来ただろう。

 

「遊矢、買ってきたわよ!」

 

「ありがとう母さん」

 

 パックのゴミをゴミ箱に入れていると買い物から帰って来た母さん。

 デュエル情報雑誌を買ってきてくれたので受け取り、ページを……エクストラデッキに関する事を開く。

 原作でもLDSがつい最近教え始めたとかどうのこうのと言っていた融合、シンクロ、エクシーズ。それが遂に大々的に解禁される……というか生まれる?……ヤバいな、表現の仕方が分からない。

 5D'sの時もZEXALの時も普通に出てきたから、考えてなかったが……3つの召喚法が同時に発表されたりしたら、カード制作会社大変だろうな。それに合うサポートカードを作らないといけないし。

 

「……よし、取りあえずデッキを作るか」

 

 パラパラと軽くエクストラデッキのモンスターに関する項目を読み、デッキを作ることにした。

 エクストラが解禁されることによりインフェルニティやシャドール等のエクストラメインのデッキを作ることが出来るようになる。エクストラ無しスキドレ墓守、エクストラ無しスキドレ暗黒界、エクストラ無しスキドレバルバも良いがエクストラはもっと良いものだ。

 

「ギミックパペット、ギミックパペット……」

 

 作るデッキのテーマを口にしながらギミックパペット系のカードを出す。

 転生する前は作ることは出来なかったが、この世界では転生特典と思わしきこのカード達のお陰で自由に作れる……ギミックパペットって、地味に作るのに金がかかるんだよな。基本的にランク8エクシーズで戦うデッキで、ギミックパペットはなんかの付属系が多いし、アージェントカオスフォース地味に高いし、テーマ化された頃の青眼デッキを1から作るよりはましかもしれないが、それでも高い。

 

「レアル・ジェネクス・クロキシアンとキメラテックも混ぜたら面白そう……こんな事を言ってるからデュエリストになれないんだろうな」

 

 自分がデュエリストになれない原因をなんとなく呟きながらもデッキを作る。

 あ、アージェントカオスフォースは使っても人体に影響を及ぼさないただのカードだから問題無い。

 

「やっぱ、エクストラがあると捗るな……やっべ、リンク欲しい」

 

 エクストラ主体のデッキを作れると思うと嬉しく、どんどんとデッキが出来るのだが手を止めてしまう。

 エクストラデッキに入れるカードは15枚。この15枚をどうするべきかと考えるのだが、どうしてもリンクモンスターが過ってしまう。エクストラモンスターゾーンからリンク以外は召喚出来る様になると聞いてた頃に転生したから、どうしても構築の際にリンクモンスターが浮かんでしまう。だが、無い物ねだりは出来ないのでそれ以上はしない。というか、ルールが違う。

 

『ほぅ、融合、シンクロ、エクシーズの全てが出たか』

 

「……え、マジで、ちょ、マジで?」

 

 エクストラデッキに入れるカードを悩んでいると首にかけていたペンデュラムが謎発光。

 頭から自分と同じ様な声が聞こえ、そこに誰かが居るわけでも無いのに二度見をしてしまう。

 

「……人違いかと思ったら、居るのか」

 

 聞こえた声がなんなのかは知っている。

 榊遊矢の中に眠る意識的なもの……四天の龍は居ないがシンクロも融合もエクシーズもペンデュラムも普通に出来るから、目覚めようとして居るのか?

 

「ズァーク、強いには強いけど召喚したくないんだよな」

 

 覇王龍ズァークは強いカードだが、専用構築じゃないと召喚しづらい。

 オッドアイズ魔術師なら比較的簡単に倒せるけど、エクストラデッキの枠をズァークにするぐらいならば他のモンスターにした方が良いんじゃないかと思う時もあったし……そもそもで1つになりたくない。

 

「取りあえず、オッドアイズ魔術師デッキを作る……いや、うん」

 

 なんだろう。

 今、俺の中の感情がおかしい。エクストラデッキ重視のデッキを作っていて楽しい筈なのに、なにかが邪魔をしている。戦え、戦えと言ってくる……戦いは終わってるんだ。

 

「あ~ダメだダメだ……こんなんじゃデッキを作れない。

こういう時は一度座禅を組んで集中しよう……まさか、デュエルの為に精神統一する日が来るとは思いもしなかった」

 

 似非デュエリストだ……落ち着け、落ち着け、俺。

 心が乱れている時はなにか1つの事に集中しておけば良い……柚子は可愛い。俺はそんな柚子が友人として好き。

 だから絶対に守る。赤馬零王とデュエルすることになったら迷いなくチェーンバーンとか方界とかのLP4000では使っちゃダメなテーマを使う。

 今度から通う中学の制服、ノースリーブだけどあれ狙って作ったのだろうか?エロいんだが。

 

『ほぅ、貴様からここにやって来たか』

 

 あの制服を着た女の子として成長する柚子をこれからどんな目で見れば良いんだ、俺は。

 大天使柚子があんなエロい格好をして良いのか?児童ポルノとか言われないのか?でも、目の保養にはなる。

 他の女の子をそういう目で見ているのをバレると柚子はリアルファイト(ハリセン)を仕掛けてくるが……DV系のヒロインは流行らないぞ。

 

『いや、やって来たのではないな。導かれたのだな我が写し身の一人よ。

覚醒せぬオッドアイズは四天の龍で最弱と言って良い。ならば、全ての召喚方法を会得した我の力を欲するのは道理!』

 

 柚子は俺をどういう風に見ているんだろう?

 柚子みたいな絶世の美少女に好意的になって貰えるのは嬉しいが、前世は恋愛なんか棄てていた人生だからな……。まぁ、とにかく嫌われるのだけは嫌だ。

 

『我が写し身よ!

我と1つになり、こことは異なる次元にいる他の写し身達を集めるが良い!そして』

 

「うるせぇえええええ!!」

 

 それはそうとしてここは何処だ?

 舞網チャンピオンシップで使われる会場によく似たスタジアムに何時の間にかおり、目の前には白菜みたいな髪型をしている凶悪そうな男がいる。

 

「人が精神統一で煩悩を全開させている時に、さっきからギャーギャーと……」

 

『貴様、聞いてなかったのか!?』

 

「話の半分以上は聞いてねえよ。

こっちはな、お前のせいでデッキ構築が出来なくなってるんだぞ。昂る心を鎮めようと頑張ってるんだぞ」

 

『その心を鎮めるでない。

その飽くなきデュエルへの心こそが最強のデュエリストへのロードだ!』

 

「誰がデュエリストだ。

言っとくが、俺はプロデュエリストになるつもりはないぞ」

 

 エクストラが解禁された今、高確率でワンキルになるんだから使わねえぞ。

 狙ってワンキルするワンキルじゃなくてLP4000だからワンキルになるって面白くねえぞ。グスタフで殴ってバーンで勝利するだけのデュエルになるぞ。

 

『なっ、貴様はそれでもデュエリストか!?』

 

「うるせえぞ。俺は遊戯王プレイヤーなんだよ。

困ったらアクションカードに頼るアクションデュエル好きじゃないし、柚子とか権現坂と楽しくデュエルをするだけで満足なんだよ」

 

『ふざけるな!!』

 

「ふざけてない」

 

『ならば、我が貴様の体の支配権を得てやる!!

未だに表に姿を現す事もその片鱗も力の一端も見せることは出来ぬが此処は精神世界!!我の力は思う存分に発揮する!!デュエルだ!!』

 

 うぉっ、急にデュエルディスクが出てきやがった。

 デッキ内容は……うわ、ヤバいな。

 

「これ、なにデュエルだ?」

 

『スタンディングデュエルだ!

アクションカードに救われる生易しいデュエルなどはしない!!我が力を貴様に思い知らせてやる!!』

 

「カッコいいこと言っているが、先攻は俺だぞ……俺は魔法カード、手札抹殺を発動!」

 

 デュエルをする流れには疑問を抱かずデュエル開始。

 良いとも悪いとも言える手札なのでとりあえずは手札交換……。

 

「俺はカードを3枚セットしてインフェルニティ・ミラージュを召喚。

ミラージュの効果を発動。自身をリリースしてチューナーであるインフェルニティ・リベンジャーとインフェルニティ・ネクロマンサーを墓地から特殊召喚」

 

『チューナー、早速シンクロか!!』

 

「いや、違うな。

インフェルニティ・ネクロマンサーの効果発動。

手札が0枚の時、ネクロマンサー以外のインフェルニティと名のつくモンスターを墓地から特殊召喚する。現れろ、インフェルニティ・デーモン。更にインフェルニティ・デーモンの効果発動!デッキからインフェルニティと名のついたカードをサーチする。俺がサーチするのはインフェルニティガン……1つ、聞いても良いか?」

 

『なんだ?』

 

「此処は精神世界のようだがデュエルが長引いたら現実世界にも影響があるか?明日、普通に学校なんだけど」

 

『心配するな。一時間だけ眠っていた程度で終わる』

 

「そうか……え~と、そうだ。

サーチした永続魔法、インフェルニティガンを発動!そしてそのまま三体でシンクロ。

多くの満たされぬ魂を持つデュエリストよ、百の眼を持つ龍と共に魂よ満たされよ!次からは口上無しだ。シンクロ召喚!ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン。ワンハンドレッド・アイ・ドラゴンの効果発動!墓地にある闇属性レベル6以下のモンスターを除外し、そのモンスターと同名カードとして扱い同じ効果を得る。

インフェルニティ・ミラージュを除外してワンハンドレッド・アイ・ドラゴンをインフェルニティ・ミラージュとして扱い、その効果を発動。手札が0枚の時に自身をリリースする事により墓地からインフェルニティと名のつくモンスターを2体特殊召喚する。俺が召喚するのはインフェルニティ・ネクロマンサーとインフェルニティ・デーモン。インフェルニティ・デーモンの効果を発動。デッキよりインフェルニティ・ナイトを手札に加える。更にインフェルニティガンの効果を発動!1ターンに1度、手札にあるインフェルニティと名のつくモンスターを墓地に送る。俺が送るのはインフェルニティ・ナイト。更に俺はインフェルニティ・ネクロマンサーの効果発動。墓地よりインフェルニティと名のついたモンスターを特殊召喚する。特殊召喚するのはインフェルニティ・ナイトだ。インフェルニティ・ナイトとインフェルニティ・ネクロマンサーでオーバーレイ!召喚口上以下省略。虚空海竜リヴァイエールをエクシーズ召喚!!」

 

 ミスってないよな?ちゃんと出来てるよな、このコンボ?

 

『1ターンでシンクロに続きエクシーズまで使ってきたか。

しかし、先ほどのワンハンドレッド・アイ・ドラゴンよりも脅威を感じぬ』

 

「リヴァイエールの効果、エクシーズ素材を墓地に送って除外されているカードを特殊召喚。

この時、墓地に送るエクシーズ素材はインフェルニティ・ネクロマンサーで特殊召喚するのはインフェルニティ・ミラージュ。立ってるの疲れたから座るか。ミラージュをリリースしてネクロマンサーとリベンジャー蘇生してライフを1000ポイント支払い簡易融合を発動。現れろ、深海に潜むサメ!!」

 

『1ターンでシンクロにエクシーズに融合を……流石はスタンダード。しかし、その程度で我は倒せん。我のターン!』

 

「まだ俺のメインフェイズは終了しちゃいないぜ!!」

 

『なに!?』

 

「深海に潜むサメとインフェルニティ・リベンジャーをチューニングして氷結界の虎王ドゥローレンをシンクロ。

更にネクロマンサーの効果を発動し、リベンジャーを特殊召喚してからのネクロマンサー、デーモン、リベンジャーでのシンクロでワンハンドレッドを出して、効果発動。ミラージュを除外してミラージュの効果をワンハンドレッドで使用してリリースしてネクロマンサーとデーモンを出して、デーモンの効果を発動して二体目のネクロマンサーサーチして、ドゥローレンの効果を発動して自身とリヴァイエールとインフェルニティガンを手札に戻す。この際にエクシーズ素材になったナイトは墓地に行き、エクストラデッキには自身とリヴァイエールで手札にインフェルニティガン。

で、インフェルニティガンを発動して二体目のネクロマンサーを墓地に送ってからフィールドにいる方のネクロマンサーの効果発動、さっき墓地に落ちたナイトを特殊召喚してエクシーズでリヴァイエールを呼び出して、除外ミラージュ特殊召喚でミラージュの効果でインフェルニティガンで落としたネクロマンサーとリヴァイエールの効果で落としたネクロマンサーを蘇生。一体目のネクロマンサーの効果でリベンジャーを特殊召喚して効果を使ったネクロマンサーとデーモンとリベンジャーでワンハンドレッドをシンクロで二体目のネクロマンサーでリベンジャー蘇生、リベンジャーとネクロマンサーでアームズ・エイドをシンクロ、ワンハンドレッドをリリースして二体のネクロマンサーを蘇生。一体目のネクロマンサーでデーモンを蘇生してアームズ・エイドとデーモンでダイガスタ・エメラルをエクシーズで、二体目のネクロマンサーでリベンジャーを蘇生してリベンジャー同士で二体目の虚空海竜リヴァイエールをエクシーズで、エクシーズ素材を取り除き、ダイガスタ・エメラルの効果を発動。効果モンスター以外の墓地のモンスターを特殊召喚する。俺が選ぶのは深海に潜むサメでこの時に送るエクシーズ素材はデーモンで、リベンジャーと深海に潜むサメでドゥローレンをシンクロ、二体目の虚空海竜リヴァイエールの効果を発動して、ネクロマンサーを墓地に送り、ミラージュを特殊で、ドゥローレンでリヴァイエール二体とダイガスタ・エメラルとインフェルニティガンとドゥローレンをバウンスしてガンをセットしてミラージュリリースして二体のネクロマンサーを蘇生。ネクロマンサーでデーモンを蘇生してデーモンでデーモンをサーチして、インフェルニティガンを発動してサーチしたデーモンを墓地で二体目のネクロマンサーでリベンジャーを蘇生してシンクロでパワーツールを呼び出して、効果発動。デッキより装備カードをランダムにサーチ、サーチしたのは継承の印で、印セットしてインフェルニティガンを墓地に送って二体目のデーモンとリベンジャーを蘇生。デーモン同士でダイガスタを出して、効果を発動して深海に潜むサメを特殊召喚してからリベンジャーとサメでドゥローレンで継承の印を発動して墓地のワンハンドレッドに装備して特殊召喚してドゥローレンの効果を発動して、継承の印とダイガスタとパワーツールと自分をバウンスして継承の印をセット。ワンハンドレッドの効果でミラージュ除外してミラージュの効果を使い二体のネクロマンサーを蘇生し、二体のネクロマンサーで二体のデーモンを呼び出してダイガスタを出して、サメを出して、ネクロマンサーでリヴァイエールからのミラージュで効果使ってリベンジャーとネクロマンサーを出して、サメとリベンジャーでドゥローレンを出す……喉が痛い、作っておいてなんだが、満足民はよくこんなもんを思い付いたもんだ。

セットしてた継承の印発動してワンハンドレッドに装備。ドゥローレンで自身とリヴァイエールとダイガスタと継承の印をバウンス。ワンハン効果でミラージュ除外して効果を得て、使ってネクロマンサーとデーモンを呼び出して呼び出したネクロマンサーを使いリベンジャーを出す。更にミラージュで出したネクロマンサーでデーモンを出す。デーモンドッキングでエクシーズで、ダイガスタでサメを呼んでリベンジャーとサメでドゥローレンを出してネクロマンサードッキングでリヴァイエールを出して、ミラージュを呼び戻して継承の印でワンハンドレッド蘇生でさっきの4枚をバウンス。ミラージュをリリースしてデーモンを二体出して、エクシーズしてラヴァルバル・チェインを出して、効果を発動三枚目のデーモンを墓地に送り、ワンハンミラージュにして効果でリリース、ネクロマンサー二体でデーモンを一体呼び出してエクシーズでリヴァイエール。ミラージュ呼び戻して投げ捨ててリベンジャーとデーモンを蘇生したダイガスタをエクシーズで、効果使ってサメを特殊召喚してドゥローレンシンクロからの継承ワンハンでドゥローレン継承とワンハン以外のモンスターバウンスして継承セットしてミラージュコピってリリース、二体のネクロで二体のデーモンを出して、エメラルとリヴァイエールを出して、サメとミラージュを出して、ネクロマンサーとリベンジャー呼び戻してドゥローレンを出して、継承使ってワンハンにして、ドゥローレンでワンハンとネクロマンサー以外のモンスターと継承の印をバウンス。継承をセットとしてワンハンリリースでネクロとデーモンでネクロ効果でリベンジャーを出して、もう一枚のネクロの効果でデーモンを出して、エメラルでサメをフィッシング。シンクロしてドゥローレンからのエクシーズでリヴァイエールでミラージュ出して、継承でワンハンを呼び出し、ドゥローレンで例によってミラージュとワンハン以外のモンスターと継承バウンス。セットとしてミラージュをリリース、二体のデーモンを出してラヴァルを出して効果でインフェルニティ・ビートルを墓地に送り、ミラージュをワンハンコピーリリースしてネクロマンサー蘇生でリヴァイエールにしてミラージュを呼び戻し━━」

 

『いい加減にしろぉ、貴様ぁ!!』

 

「とりあえず効果処理でネクロマンサーとリベンジャーだけ出させてくれ」

 

 まだまだ準備中の俺に叫ぶ白菜。

 瞼がこれでもかと開いており、目からビームが出そうなほどの鋭い眼光で睨み付けてくる。

 

「で、なんだ?」

 

『なんだではない!!

貴様、先程から同じモンスターを何度も何度も並べてなんのつもりだ?遅延行為か!?』

 

「遅延行為をしているのはそっちだろう!

このコンボはデュエルモンスターズ史上でもキチガイ染みたループなんだぞ!!」

 

『ループ、だと!?』

 

「え~っと……何処までやったっけな」

 

 余計な邪魔が入ったせいで、何処までやったか忘れてしまったじゃないか。

 俺はデュエルディスクの記録を確認し、何処まで仕込んだのかを確認する。

 

『貴様、何をするつもりだ!?

貴様は先程から同じモンスターを延々と召喚している。効果ダメージを持つモンスターならまだしも、蘇生させるだけで蘇生させられたモンスターも特殊召喚する効果を持つモンスターだ。如何なるデュエルでも先攻は攻撃することは出来ずライフを0にし勝利することは出来ない、どれだけ強力なモンスターを並べてもだ!!』

 

「それはどうかな?」

 

『なに?』

 

 白菜の言っている事は確かだ。

 どれだけ強力なモンスターを並べても攻撃できなければライフを0にすることはできず、このデッキにはガガガガンマンを搭載していないのでガンマンループは出来ない。

 

「確かにお前の言うとおり、ライフは0には出来ないし攻撃も出来ない。だが、勝利することはできる」

 

『なにを言う……まさか、伝説のエクゾ━━』

 

「この幻子力空母エンタープラズニルがあればな!!」

 

『……なんだそのカードは』

 

 

 幻子力空母(ミラージュフォートレス)エンタープラズニル 

 

 ランク9 風属性 機械族 エクシーズ 攻撃力2900 守備力2500

 

 レベル9モンスター×2

 ①:1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、以下の効果から1つを選択して発動できる。

 ●相手フィールドのカード1枚を選んで除外する。

 ●相手の手札をランダムに1枚選んで除外する。

 ●相手の墓地のカード1枚を選んで除外する。

 ●相手のデッキの一番上のカードを除外する。

 

『相手のあらゆる場所にあるカードを除外する効果、だと!?』

 

「そうだ。このデッキは普通に戦っても強いがエンタープラズニルのループも出来る一粒で二度美味しい満足デッキだ……さぁ、続きといこうか」

 

 既にエンタープラズニルのループする為の条件を満たしている。

 アクションカードは取らせない状況、相手の手札にGもヴェーラーもうさぎ……手札誘発系のカードが握られていない。

 俺はエンタープラズニルを召喚する為のループを続ける。

 

『違う……違う!』

 

「ん?」

 

『こんなのは我の知っているデュエルではない!!

我の、我の知るデュエルはもっと熱く血を滾らせ心を踊らせるデュエルだ!!』

 

「俺の知っているデュエルは、じゃんけんに勝つことにより勝者が決まるものだ!!」

 

 そこからはもう言うまでもない。

 覇王眷竜や覇王門等のモンスターをゆっくり時間をかけて1枚1枚丁寧にエンタープラズニルで除外。

 

『殺せ、いっそのこと一思いに我を殺せぇ!!』

 

「もう既にループは完成している。エンタープラズニルの効果で最後のデッキトップを除外……これでエクストラ以外のカード全ては除外された!!ターンエンドだ!」

 

『グゥアアアアアアアア!!』

 

 白菜 ドローフェイズでカードがドローできず敗北

 

「うし、満足させてもらった……ぜ……」

 

 デュエルへと勝利した俺は意識を失い、気付けば布団の上にいた。

 

「マジで一時間しか経っていないな」

 

 理論上は可能とかそういうレベルでやる気が起きない満足民ループ。

 実際のデュエルで使うことはほぼ無く、精神世界的な感じだったから出来た。

 体感的に数時間以上はループしていた感じだったが一時間眠っていただけだった。

 

「結果的には加速する限界を超えた先にあるデュエルを思い出せたな」

 

 白菜とのデュエルで忘れていたなにかを取り戻した気がする。代わりになにか大事なものを失った感覚もするが、転生した際に前世の家族を失ったも同然なので気にしていたらキリが無い。

 

「満足して気分爽快になったから、デッキ作りを再開する……ん?」

 

 オッドアイズ魔術師のエクストラデッキを作ろうとするのだが、出した覚えの無いカードを発見。

 ゆっくりとそのカードを手に取り、ジーっと見つめる。

 

「超天新龍オッドアイズ・レボリューション・ドラゴン……」

 

 オッドアイズデッキと対峙すれば高確率で出てくるカードで、ペンデュラムモンスター。

 オッドアイズ魔術師デッキの基本は完成しているからペンデュラムモンスターは出す必要が無いのに何故か出ている……。

 

「試しに落書きをしてみるか」

 

 俺は油性ペンと水性ペンを装備。

 俺は超天新龍オッドアイズ・レボリューション・ドラゴンにらくがき!!

 

「っぐぁ!?」

 

 その瞬間、俺の心臓に激痛が走る。

 

「こ、これは……創造したカードなのか……」

 

 二つのペンを離すと、心臓の激痛が消える。

 それで俺は確信する。これは俺のオッドアイズじゃなくて、遊戯王お馴染みのカード創造により生まれたオッドアイズ。

 原因はさっきの白菜とのデュエルか……。

 

「どうやらこのカードは捨てれなそうだな」

 

 俺のじゃない超天新龍オッドアイズ・レボリューション・ドラゴンを見てため息を吐く。

 玩具販売促進アニメに出てくる呪いの○○は本当にロクなものじゃないとアクリルフレームを取り出し、その中に入れて適当なところに放り込む。

 

「呪いのカードを使う必要は何処にも無い」

 

 本当ならば燃やしたいところだが、オカルト的なので防がれる。

 闇のデュエル的なことを仕掛ける技術も無いので、デッキに入れずに放置しておく……危険な物は取り扱わない。それ、当たり前のこと。

 

「遊矢、晩御飯が出来たわよ!」

 

 数時間デュエルをしていたから気持ち的に滅茶苦茶空腹だから、今日は食うぞー。

 




次回予告。


中学生になるも、今とは特に変わりの無い生活を続ける遊矢。

これで良いのだろうかと思うが、大事なのはなんと言っても母と幼馴染み。

紫キャベツ、バナナ、茄子と遭遇し、花鳥風月と交われば遥か彼方に飛ばされる恐れがある。

知らぬ存ぜぬを決め込むも、やはり運命からは逃れられない。

危機が迫る花鳥風月の元に、呼び出される。

次回、遊戯王ARC-V 【鳥が呼んだ救世主】にガッチャビングデュエルアクセラレーション!!

OMKフェイズ

柚子「う~ん」

遊矢「どうした?」

柚子「塾生が一気に減ったからデュエルを頑張らないといけないのは分かるけど、それで良いのかなってエンタメデュエルのファンじゃなくて遊勝塾に入りたい人を増やさないとダメでしょ?」

遊矢「強いデュエリストと確かな実績があれば人が集まるだろ?」

柚子「それじゃダメなのよ。遊勝塾に入塾して良かったって思って貰わないと」

遊矢「遊勝塾、デュエルよりもアクション重視のデュエルだからな……」

権現坂「話は聞かせて貰ったぞ!」

柚子「権現坂、居たの!?」

権現坂「最初からいる!!
遊矢、柚子よ、話は聞かせて貰った」

遊矢「出てきたと言うことは、なにか良い案があるのか?」

権現坂「無論だとも。
この男、権現坂、いずれは権現坂道場の跡を継がなければならない。その為には不動のデュエルを学ぶだけではならんのだ」

柚子「どういう意味?」

権現坂「世界というのは測り知れぬほど大きい。
不動のデュエル以外にも様々なデュエルが存在する……それを知るのもまた、不動のデュエルを極める為の道である!!」

柚子「他の流派のデュエル……そう言えば、私達って自然と入るデュエル塾が決まっていたわよね。
世界にはエンタメデュエル以外にも色々なデュエルがあって、それらを学べば……新しいエンタメデュエルの扉が開けるかも」

遊矢「学べばじゃなくてカード買えば……いや、言わないでおこう。
よくよく考えたら、LDSとか梁山泊なんかの有名どころ以外はなにも知らないんだが」

柚子「舞網市内だと女性に大人気ローレベルデュエル塾にディアン・ケトそっくりの講師が教える回復デュエル塾、シンクロ召喚で楽しく学ぶチューニング算数教室、最強流デュエル道場、Fire!fire! Duel School、最悲で最強を目指すワイトスクール……」

遊矢「改めて聞くととんでもないデュエル塾が多いな……つーか一個のことしか教えないのか」

柚子「う~ん、うちはアクション要素が多いから授業内容重視のチューニング算数教室?」

遊矢「上手くいけば授業の濃さを上げて、シンクロ召喚の導入もすれば塾生が増えるしデュエルだけじゃなく頭も鍛えれるから一石三鳥だな」

柚子「よし、じゃあチューニング算数教室に決定よ!」

遊矢「そうと決まれば塾長をどうやって引っ張ってくるか……一番の鬼門だ」

柚子「あ……忘れてた。私、まだ教えれるレベルじゃないしお父さんが覚えないといけないんだった」

権現坂「ならば、エンタメデュエルを柚子が、デュエルの戦術等を遊矢が、肉体を鍛えるのを柊塾長がすれば良いはず」

遊矢「俺もその辺は怪しいから無理だ。割と良い案なんだけど、問題は塾長が何処まで覚えれるかが重要で……無理っぽいな~はぁ」

権現坂「デュエルの道もデュエル塾の運営もそう易々と上手くいくものではないということだ」

柚子「そうね……」

権現坂「だが、遊勝塾の未来が明るいと言うことだけは確かだ!!」

柚子「そ、それって……も、もぅ権現坂ったら」

遊矢「当たり前だろう」

柚子「遊矢まで!?」

遊矢「柚子は急成長型のライバルの素質があるんだ!」

柚子「え……」

権現坂「柚子のデュエルの腕は凄まじい俺も次は負けんぞ!!」

柚子「ゅぅゃの……遊矢のばかぁああああ!!」

遊矢「ぐふっ……顔が真っ赤になってる柚子は今日も可愛い。ハリセンで殴られても見たい価値がある……」




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鳥が呼んだ救世主


ご都合主義とかぶっ飛んだ展開とか色々とあるが、気にしない気にしない(こまけぇことは良いんだよ)

手札二枚からワンキルはよくあること、よくあること。

真紅眼融合からの黒炎弾コンボはよくあること、よくあること。


「あ~疲れた」

 

 中学生になり、柚子が益々と女の子らしさを磨いた。そして制服姿がエロい。

 中学生になったことによりアクションフィールドがジュニアクラス向けの柔らかいアクションフィールドでなく大人向けのアクションフィールドに変わり、体作りをするべく権現坂道場と共にデュエルマッスルを鍛えたりした。

 いや、デュエルマッスルってなんだよとツッコミたい。

 

「体にロープをくくりつけて、先端に石を巻き付けて崖に投げ捨てて重さに耐えながらドローの練習って何時から遊戯王は男塾に変わったんだよ……」

 

 マジでざけんな、こんちくしょう。

 あいつ、不動のデュエルでアクション皆無のデュエルなんだぞ……いや、体を鍛えるのは良いことだよ。不健康よりは何倍も……腹筋バッキバキの中学生は目の毒である。女子は眼の保養にしかならない。

 

「はい、い~ち、にーい……さん!!」

 

 疲れた体にむち打ち、机にしがみつく。

 俺にはやらなければならない事がある。

 

「え~と、通常召喚について。

通常召喚は1ターンに1度与えられる召喚権で、星1から星4までのモンスターを召喚することが出来る……ああ、違う。星じゃなくてレベルだ」

 

 デュエル塾用のノートに遊戯王の基礎的な事をかく。

 なんでそんな事を書くのか?プロデュエリストになるつもりは特に無い。カードでインフレを起こしたりするのが遊戯王だ。

 金が欲しいなら持ってるカードを売れば良いし、賞金付きの大会に出れば生計は立てられるだろうが、そういうのに手を出せばロクな事にはならないので、デュエル塾でデュエルを教えれる様に教科書みたいなものを作る。

 

「レベル5、6のモンスターを召喚する際にはモンスターを1体、レベル7以上のモンスターを召喚するには2体のモンスターのリリースが必要であり、レベル5以上の通常召喚はアドバンス召喚という。しかし、中には特殊な例もある。フィールド上にモンスターが……あ、違う。これ、特殊召喚だ。リリース無しもしくはリリースの数が通常より少ないモンスターがおり、それらは攻撃力や守備力が高いがなんらかのデメリットを持っており、主に攻撃力が減る効果を持つカードが多い。高レベルのデメリットを持ったモンスターをリリース無しで召喚する事を妥協召喚という……これでバルバロスにガンナードラゴン辺りを出して、問題を出す感じにするか」

 

 OCGは構築済みのデッキを買ったらついてくる本を読めば基礎は分かるのに、どうして作らないんだろうか。

 本当に今更なコンボとかを書いていてデュエルモンスターズは何時になったら加速するのだろうと思うが、こんなのでも世の中の役に立つ知識だから、頑張ろう。

 

「柚子が準優勝したんだから、俺も出来る事をやらないと」

 

 柚子はジュニアクラスで準優勝を果たした。けど、塾生は増えない。

 ジュニアクラスでの準優勝はとてつもない成績であるのだが、柚子は本気で泣いていた。

 マスター・ヒュペリオンまで入れたら幻奏デッキじゃないって俺のカードを断ったからと泣いていたな……コレが原因で柚子の焦りがオーバートップクリアマインドとなったら笑えないので危険だと感じたらエクストラデッキのカードとか渡そう。

 

「幻奏デッキに合うエクストラってなんだ?」

 

 超重武者は他のフルモンの応用が効くからエクストラは色々と想像つくが幻奏デッキに合うエクストラは知らない。というか、OCG次元で幻奏を使ってるやつを見たこと無い。専用のリンクモンスターとかあるが、見ない。

 確か幻奏は効果を使ったりすれば光属性だけに制限をくらい、シンクロは幻奏チューナーがいないから無理にいれない方向となるとエクシーズで、ランク4。

 

「ホープ、レイ、ライトニングでクェーサーをお手軽に殺す……プトレノヴァインフィニティで鉄壁の守りと除去を見せつける……」

 

 殺意の波動に溢れているが、現実では良くあったコンボ……なんであの時、直ぐに禁止制限にいかなかったんだ……。

 

「……もし、柚子が敵になったらヤバイな」

 

 ライトニングで殴りに来てプトレノヴァインフィニティで鉄壁の守りをする柚子は強い(確信)。

 

「守らないとな……」

 

 既にハゲによる愛娘復活計画は動いている。

 愛娘復活してもエクシーズ次元の惨状を覚えていたら拒まれないのかと疑問に思うが、とにかく柚子は守らないと。全員生き残るコースじゃないと……デュエルと命の奪い合いを一緒にしないでほしい。

 

「超天新龍オッドアイズ……」

 

 アクリルフレームに入れた、創造で生まれたであろうカードを見つめる。

 

 超天新龍オッドアイズ・レボリューション・ドラゴン

 

 特殊召喚・ペンデュラム・効果モンスター

 レベル12 光属性 ドラゴン族 攻撃力 ? 守備力 ?

 Pスケール:青12 赤12

 ①:自分はドラゴン族モンスターしかP召喚できない。この効果は無効化されない。

 ②:自分の墓地のドラゴン族の融合・S・Xモンスター1体を対象として発動できる。このカードを破壊し、そのモンスターを特殊召喚する。

 モンスター効果

 このカードは通常召喚できない。

 手札からのP召喚、または自分フィールドのドラゴン族の融合・S・Xモンスターを1体ずつリリースした場合のみ特殊召喚できる。

 ①:このカードを手札から捨て、500LPを払って発動できる。デッキからレベル8以下のドラゴン族Pモンスター1体を手札に加える。

 ②:このカードの攻撃力・守備力は相手のLPの半分の数値分アップする。

 ③:1ターンに1度、LPを半分払って発動できる。このカード以外のお互いのフィールド・墓地のカードを全て持ち主のデッキに戻す。

 

「これ漫画版なんだよな」

 

 このカードは最強ジャンプで連載していた遊戯王に出てくるカードだ。

 オッドアイズデッキとデュエルする時には結構な確率で出てくるものだが……漫画に出てくるカードで、本編となんの関係の無いカードだ。ダークリベリオンとクリアウィングとスターヴヴェノムは転生特典になかったがこのカードは7、8枚ほどある。

 

「スタンダードの俺はペンデュラムのオッP。

4つの召喚法を操る白菜を倒したことにより3つの召喚法で呼び出した3枚の龍より降臨するオッドアイズに進化した……遊戯王世界ならば普通にありえるな」

 

 なんで超天新龍オッドアイズが生まれたのかが自分の中で完結した。

 ……多分、超天新龍になる前は素のオッドアイズだったんだろうな……素のオッドアイズも普通に便利なんだから書き換えないで欲しい。

 

「このカードが俺の元にある限りは、白菜の復活は阻止できると考えたら安いな」

 

『それはどうかな?』

 

 うわ、脳内に語りかけてきやがった。

 というか、ペンデュラム発光してるな。これ、柚子のブレスレットと違って貰い物だから曰く付きじゃないんだけどなんでだ?

 

「頭の中に語りかけてくるな」

 

 取りあえず、茄子達とのデュエルに負けなければ良いだけだ。

 あ、でも勝ったらどうなるんだろ……自爆スイッチで引き分けに終わるデュエルをするデッキを作っておいた方が良いな。

 

「え~っと、自爆スイッチだからシモッチバーンを応用したマテリアル自爆スイッチデッキでいくか……アロマで回復した末に身分転換の自爆スイッチにするか」

 

 ライフ4000だから、自爆スイッチを生かすデッキが作りづらいんだよな。

 前世だとチキンレースとかで減らしたり出来たからよかったが……本当にライフ4000はダメだ。

 

『……す、けて……』

 

「っ!!」

 

 昔と違いカードは腐るほどあるのだから二つ作れば良い。

 その事に気付きデッキを作っていると何処からか悲しみの声が聞こえ、それを聞いた俺はまずいと直ちにデュエルディスクを手にし、複数のデッキケースをポケット等に入れる。

 

「くそ、覚えとけよ」

 

 アクリルフレームに入れている超天新龍オッドアイズ・レボリューション・ドラゴンから放たれる光に包まれた。

 

『助けて、ユート!!』

 

 

 

 

 

 

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 光に包まれた家に居た筈の俺は、気付けば崩壊してしまった都市、ハートランドに……エクシーズ次元に来ていた。

 バナナがクリアウィングの力かなにかで度々次元を移動していたが、オッドアイズにもそういうことが出来る力があるのか。

 

「……ッチ」

 

 街の惨状を見て、聞こえるレベルの舌打ちをする。

 右を見ても左を見ても破壊された瓦礫の山。やったのは融合次元のオベリスクフォースとかで、全てはハゲによる愛娘復活計画のため。

 

「デュエルを、なんだと思っているんだ……」

 

 デュエルモンスターズが古代エジプトをモチーフにして作られたとかそういう感じの設定とかあり、モンスターを召喚して戦っていたとかそういうのがあったのは理解している。

 だが、それはあくまでもディアハで今はデュエルモンスターズ。高橋さんやペガサスさん、コンマイが楽しく遊んで欲しいと思い作ったもので戦争の道具に使うものじゃない。ビーダマンの漫画に登場する悪役をちっとは見習え。

 

「……あのハゲを打ち倒してどうにかなるのか?」

 

 歩くも歩くもエクシーズ次元のハートランドの悲惨さが伝わるばかり。

 お陰さまでこの光景を見てハゲ相手にはなんの迷いもなくカオスMAXリリーサーやガンマンループ、図書館エクゾなんかの殺意に満ちているデッキを使えるようになった。

 だが、思う。あのハゲを倒したところで戦争が終わるだけ。戦争はする準備と終わった後の後始末がなにかと大変であり、男前ヒロインや融合次元遊勝塾の塾生みたいに普通に良い人達もいるから、融合次元=悪じゃない。

 アカデミアの大体の奴等に責任を取らせるにしても、どうするんだこの始末。ハゲをカード化して生かすも殺すもお前次第だと黒咲やカイトに渡すが、カード化したハゲを破り捨てても後始末が出来ないぞ。色々とガバガバだぞ。

 

「……まぁ、なるようになるしかないか」

 

 俺はデュエルは出来るが、政治は出来ない現代っ子。

 今は考えるのに時間を使うよりも、やらなければならないことをやらないと。

 俺はここにやって来たんじゃなく呼ばれたんだ。

 

「さぁ、僕と一緒に来て貰おうか」

 

「っ……カードに、なって、いない?」

 

 紫キャベツに似た髪型をした俺と同じ顔で軍服っぽい男と柚子にそっくりな女が荒廃した土地でデュエルをし、女が負けた。

 

「君だけは特別でね。

プロフェッサーがカードにせずに連れてこいって言うんだよ……さぁ、アカデミアに来てもらうよ」

 

 そして誘拐されかけている。

 リアルソリッドビジョンよりも遥かにリアルなカード達のダメージを受けた女は意識を失いかけているので、俺は出るならば今だと紫キャベツの前に出る。

 

「ユー、ト?」

 

「へぇ、君がユートか……僕とそっくりで見間違いそうだ」

 

 俺の登場により、場の空気は一転……あれ、飛ばない。

 柚子に似ている女性こと黒咲瑠璃は柚子と似た感じのブレスレットをつけており、ズァークの分裂体とも言うべき遊矢シリーズが集い、ズァークが復活しようとするのを阻止するべく遊矢シリーズの誰かを飛ばし一人にする抑止力的な物になっている。だが、俺は飛んでいかない……ズァークをシバき倒したからか……そういえば、超天新龍オッドアイズ・レボリューション・ドラゴン、何処にいった?アレをデッキに入れていないから飛ばされないのか?……

 

「そのユートがどんな茄子かは知らないが、俺はユートという人じゃない」

 

 一先ずは瑠璃の方を向き、俺はナストラルでないことを伝える。

 髪型を見やがれと言いたいが、遊戯王の世界なので髪型も糞もあるかである。

 

「だが、お前を助ける事ぐらいは出来る」

 

「へぇ、僕とやろうって言うの?」

 

 黒い笑みを浮かべるユーリ。

 デュエルディスクに次元転送機能がついているので、とっと融合次元に戻れば良いだけなのだが、奴もまたデュエリスト。意気揚々とデュエルディスクを構えている。

 

「ダ、メ……その人、は、今までの、アカデ、ミアと……」

 

「柚子からストロングさを取り除いた子、心配はいらない」

 

「で、も……」

 

「なら、お前のデュエルディスクを貸してくれ」

 

 意識を失わない様に必死に耐える瑠璃からデュエルディスクを借りる。

 すると、安心したのかゆっくりと瞼を閉じて

 

「頑張って、ユート」

 

 応援をくれた……うん、色々と言いたいことがあるが、ここで連れ去られると脳内に虫を入れられる桜みたいな目に遭う。桜よりはましだろうが、それでもだ。

 

「取りあえず、エクストラとメインデッキを抜いてっと」

 

「ねぇ、早くしてくれる?」

 

「あ、ごめ。デッキとエクストラデッキを入れてっと……戦いの殿堂に集いし、じゃなかった。いらないんだった」

 

 何時もの癖でアクションデュエルの開戦を告げる口上を唱えてしまうがこれはアクションデュエルではない。スタンディングデュエルで……闇のゲームだ。

 

「「デュエル!!」」

 

 開戦の狼煙を上げて、デッキから初期手札の5枚をドロー。

 

「……あ、やべ!!」

 

 初期手札を確認し、俺はヤバい事に気付く。

 取りあえずはとエクストラデッキの方を確認してみると……やばい。

 

「デッキ、間違えた」

 

 使おうと思っていたデッキとは異なるデッキをセットしていた。

 

「っく、ハハハハハハ!!

君、間違えて違うデッキを入れたの!?」

 

「ああ、よく確認せずに入れたせいでデッキを間違えてしまった」

 

 スリーブにカードを入れる概念が無いから、間違えてしまった。

 使っているデッキケースはエクストラデッキとメインのデッキの部分が分かれているデュエルモンスターズの世界だけでなく現実でも売ってくれよと思うようなデッキケースで色統一してるから、確認せずに入れてしまった。

 

「あんだけカッコつけてデッキを間違えただなんて、君、ギャグのセンスがあるよ。笑わせてくれたお礼だよ。君が先攻だ。1ターンだけ長く生かしておいてあげるよ」

 

「1ターンだけ長くって、お前が後攻だとワンキルがあるから2ターンで終わって、俺が後攻だと攻撃できるターンは3ターン目でむしろ縮まったぞ」

 

「……う、うるさいなぁ!!」

 

 なんか変なところでポンコツ具合を発揮しているな。

 だが、先攻を貰えるのならば貰っておこう。

 

「あ」

 

 改めて手札の内容を確認し、思わず言葉が出てしまう。

 

「なぁにぃ?今度は手札事故でも起きたわけ?

使うデッキは間違うし、手札は最悪だし、デュエリストに向いてないんじゃないの?」

 

「ごめ……俺は手札より、真紅眼融合を発動」

 

「……それ、融合カード?」

 

 デッキを間違えていた俺に大笑いし、見下すユーリ。

 デュエルを中断してデッキを変えることも出来ないので、そのままと真紅眼融合を発動すると表情が変わる。

 それもその筈。今、俺達が居る場所はエクシーズ次元。エクシーズが当たり前でそれ以外の召喚が存在しない次元なのだから。

 

「このカードは自分の手札、フィールド、デッキから融合モンスターによって決められた素材を墓地に送り、レッドアイズモンスターを素材とする融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する」

 

「君、それを何処で手に入れたの……いや、違うね。君、ここの人間じゃないね」

 

「ああ、俺はここの住人じゃない。

俺は流星竜メテオ・ブラック・ドラゴンによって決められた融合素材、レベル7のレッドアイズモンスター、真紅眼の黒竜とレベル6のドラゴン族、ラブラドライドラゴンをデッキから墓地に送り、融合召喚をする……え~と、可能性の黒竜よ、時を越えて生まれ変わりし竜と共に新たなる可能性を見せよ!!融合召喚、現れよ、流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン!!」

 

 俺が別次元の住人だと分かると馬鹿にしていた態度も雰囲気も顔も変えるユーリ。

 遊び相手じゃなく戦う相手だと認識を変えて、本気になったが……なんか、ごめん。

 

「流星竜メテオ・ブラック・ドラゴンの効果を発動。

融合召喚に成功した時、手札・デッキからレッドアイズモンスターを墓地に送り、送ったレッドアイズモンスターの元々の攻撃力の半分のダメージを与える。俺は真紅眼の闇竜を墓地に送り元々の攻撃力2400の半分!つまり1200のダメージを与える」

 

「1200……っぐ……」

 

 ユーリ LP4000→2800

 

 メテオ・ブラック・ドラゴンの周りに出現する隕石がユーリに向かって墜落。

 墜落した場所はクレーターが出来ており、モンスターは本当に実体化しているのを実感する……玩具販売促進アニメの世界はこういうのが当たり前だと言い聞かせて震えを止めないと。

 

「更に俺は魔法カード、黒炎弾を発動。

自分フィールドの真紅眼の黒竜を対象にこのカードは発動でき、真紅眼の黒竜の元々の攻撃力分のダメージを与える」

 

「ちょっと待って。君のフィールドには真紅眼の黒竜はいない、そのカードの発動は出来ない筈だよ」

 

「それはどうかな?」

 

 取りあえずは言っておこう。

 

「真紅眼融合で融合召喚した融合モンスターは真紅眼の黒竜としても扱える!!

つまり、流星竜メテオ・ブラック・ドラゴンは真紅眼の黒竜として扱い、元々の攻撃力、3500のダメージをお前に与える!!」

 

 このダメージは魔法カードによる効果ダメージ。

 手札から墓地に送って効果ダメージを防ぐモンスターカードじゃないと防げない。選択肢としてはハネワタ、クリフォトン、Emフレイムイーター、EMレインゴートぐらいだ。

 お前の使っているテーマは捕食植物。捕食植物モンスターで捕食カウンターを乗せつつ融合したりするテーマで、俺の記憶がバグっていなかったら手札から落として効果ダメージを0にする系は無い。

 

「……黒炎弾に対するチェーンは無しだな」

 

 遊戯王お馴染みの○○を発動していたのさ!は無いな。

 たま~に、他のデュエル塾からやって来るやつがいるんだけど、それがまた鬱陶しいんだよね。カードを発動することの申告をしないのルール違反じゃないのかと思えるが、許されてるのが気にくわない。

 

「そんな……嘘だ。この僕が、こんなやつに」

 

 手札にハネワタの様な1ターン目からでも使用出来る効果ダメージ無効系のカードは無しで、ありえないとあわてふためくユーリ。

 

「黒炎弾!」

 

 そんなユーリに向かい、巨大な黒い火球を作り出し、咆哮する流星竜。

 放たれた黒炎弾はユーリに直撃し、念のためだとデュエルディスクを確認するとWinと表示されており俺が勝利していた。

 

「レッドアイズデッキつええ……」

 

 真紅眼融合から流星竜を出して適当なレッドアイズモンスターを落とし、1000以上のダメージを与えてからの黒炎弾でダメージを与えるレッドアイズがテーマ化され、色々なレッドアイズカードが出てきた時に作られたこのコンボ。

 流星竜の元々の攻撃力が3500で効果により落とされるカードが大体、攻撃力2000を越えるレッドアイズで、1000以上のダメージを受け、黒炎弾の効果も合わせれば4000以上、初期ライフの半分を先攻で削ることが出来て連続魔法を使うことにより、ワンキル出来るコースもある。

 効果ダメージを受けてから発動できる効果じゃなくて効果ダメージを受ける前に発動できるモンスターカードを手札に握っていないと、先攻4000バーンは逃れられない。

 

「僕が、こんな奴に、負けるだなんて……」

 

「先攻を俺に譲らなければ、まだチャンスがあったものを」

 

 幽鬼うさぎを手札に握っていたこととエクストラにドラグーンがあることは言わないでおこう。

 あ、そういえば、最初にドローするカードってなんだったんだ……増Gか。

 

「もぅ、一度だ……もう一度、僕とデュエルをしろ!」

 

「……嫌だね」

 

 傷ついた体に鞭を打ち、立ち上がるユーリ。

 負けたことに本気で悔しがり、俺を睨んでくるが二度目のデュエルをするつもりはない。

 

「俺はこいつを守る為に呼ばれてきた。お前を倒すためじゃない……デュエルに負けた以上は、とっとと帰れ」

 

「まだ、僕は負けていない。まだ僕は生きている……死んでない限りは、敗けじゃない」

 

 なんともデュエリストらしい台詞だな。

 だが、ユーリの敗けは誰にも覆せないことだ。

 

「さぁ、もう一度デュエルだ。今度は僕が勝つ!!」

 

 デュエルディスクを構えるユーリ。

 話し合いの通じる相手ではないのでここは徹底的に叩きのめそうと取りあえずはデッキを変えようとしたのだが、後ろで気絶している瑠璃のブレスレットが光った。

 

「……居なくなった、か」

 

 瑠璃のブレスレットから光が消えると、居なくなるユーリ。

 俺は居なくならずこの場所にいる……全く、どうなっているのやら。

 

「ユーリを倒しても一体化しなかった……ズァークを倒したからか?

カードが喋っていたのをハッキリと聞いた。ズァークを倒して、超新天龍オッドアイズが創られたからズァークを俺が奪った?いや、それならばズァークは語りかけてこない……デュエル中になにかを感じたわけでもないし、俺からズァークの成分が抜け出てカード化し、ユーリとユートとユーゴにはまだ干渉出来るが、俺には干渉出来ず、俺が勝ってもただただ普通に負けるだけ……わからないな」

 

 オカルト染みたことは下手に考えるよりも、そういうもんだと思い納得しておいた方がいい。

 

「次は、デッキを間違わないでおこう」

 

 最低でも、後、一回はユーリとデュエルをすることになる。

 今回みたいにヌメロンゼアルデッキと間違えて真紅眼デッキを使うという惨事を起こさないようにしよう。

 

「さてと、起きろ。こんなところで寝ていると風邪をひくぞ」

 

 一先ずは瑠璃を起こす。

 デュエルで負傷しているかもしれないが、ここで寝ていたら風邪をひいてしまう。

 

「ん……ユート?」

 

「さっきも言ったように、俺はユートじゃない」

 

 ゆっくりと目覚める瑠璃。

 俺の顔じゃなくて髪型で判断をして欲しいと言いたいが、こんな世界なので髪型で識別することは出来ない。

 ユートじゃない事を伝えると徐々に徐々に意識を取り戻していく瑠璃。

 

「っ、来ないで!!」

 

 起き上がる為に差し伸べた手を拒んだ……やっべ、融合モンスターの流星竜をエクストラデッキに戻すの忘れてた。




OMKフェイズ

遊矢「うちの女子の制服ってエロいな」

沢渡「ああ、クールビズの最先端をいってやがる」

遊矢「ポニーテールがエロいから禁止とか言う謎の校則があるこんな時代によくノースリーブ受け入れられたよな」

沢渡「パパが頑張ったんだ、感謝しやがれ!」

遊矢「俺、18になったら沢渡の親父さんに投票するよ」

沢渡「ついでにこの天才デュエリストのオレ様の華麗なるデュエルの虜になりな!」

遊矢「お前、ほんと、なんでLDS居るんだよ……あ、パンツ見えた」

沢渡「うぉぉ……スゲぇな、最近のは」

遊矢「ああ……あ、誰か屋上にやって来る」

沢渡「やっべ、双眼鏡を隠さないと」

遊矢「これが柚子だったら、骨は拾ってやるよ」

沢渡「そりゃあオレの台詞だ!!病院送りどころじゃ済まさねえぞ」

遊矢「そんな、大袈裟な……軽く数メートルは飛ばされるだけだ」

沢渡「お前の彼女、本当にストロングだな!!」

遊矢「彼女じゃない」

沢渡「入学して間もない頃、お前の下駄箱に入ってたラブレターを先に奪って破り捨てたのは彼女としての嫉妬だろう」

遊矢「あ、それ他所の小学校出身のストロング石島ファンで卑怯者の息子を倒す的な偽ラブレターだったぞ」

沢渡「お前、色々と大変だな……」

遊矢「安心しろ。独身貴族って悪くなくね?と思うタイプだから」

権現坂「ここに居たのか遊矢、それに沢渡」

遊矢「権現坂、どうした?」

権現坂「先生達が俺とお前を探していてな」

沢渡「やべえ、猥談してるのがバレたのか……」

遊矢「落ち着け、それならばお前も同罪の筈だ……なんか提出してなかったとかそんなのか?」

権現坂「いや、生徒指導だ」

遊矢「はぁ!?俺、なんもして……ないぞ!」

権現坂「俺もだ。この男、権現坂。文武両道と学業も常に真面目に取り組んでいて心当たりが無い……いったい、なんだと言うのだ」

沢渡「いや、お前等、制服とか靴とかまともに着てねえからだろうが」

遊矢「女子の制服があれでOK出されてるのに、そんな事で怒られるのか!?」


次回予告


デュエルモンスターズ、それはギネス記録にも登録されたことのあるほど世界中で熱狂するカードゲーム。

eスポーツと考えれば誇りを賭けるに値する。人生を賭けるにも値する。

だが、殺しあいの道具ではない。カードゲームとは楽しく面白く、皆に笑顔になってもらう為に作られたものだ。

世界を統一したり、支配したり、生と死を逆転したりするもんじゃない。

楽しいデュエルを笑顔を思い出すべく、遊矢は瑠璃とデュエルをする。

次回、遊戯王ARC-V 【笑顔のデュエル】にガッチャビングデュエルアクセラレーション!!


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笑顔のデュエル

アニオリとOCGをオーバーレイ!!(ワンキル)


 ユートとは少し違う。けど、何処か優しく暖かい人にデュエルディスクを貸して意識を失った。

 目を覚ますと、そこには一人の男性しかおらず、デュエルディスクには紫色のモンスターカード、融合モンスターカードがセットされていた。

 

「さっきの彼を、何処にやったの!!」

 

「……はぁ。お前、デュエルディスクを見ろ」

 

「デュエルディスク……私のデュエルディスク!」

 

 大きく呆れた顔をする男の腕にあるデュエルディスクは私のデュエルディスク。

 

「デュエルは俺の勝ちで終わったよ」

 

 彼はそう言うとデュエルディスクを外して私に返す。

 

「1ターンキル、しかも手札二枚で」

 

 デュエルのログを確認し、目を見開く。

 最初の先攻で手札二枚でドローするカードを一切使わずに彼は勝利している。

 

「手札一枚でもデュエルは逆転できるだろう」

 

「そうだけど……ううん、そうね」

 

「取りあえず、デッキだけは返してくれ」

 

 彼は敵ではない。

 ユートと似ているのか、さっきのユートとそっくりなデュエリストと雰囲気が異なるせいかそう感じた私は彼にデッキを返した。

 

「助けてくれて、ありがとう……貴方は何者なの?」

 

「何者と言われても、俺は俺だ」

 

「そうじゃなくて、どうして融合カードを持っているの!?」

 

 ハートランドには、エクシーズ次元にはエクシーズモンスターしかない。

 融合に関するカードは何処のカードショップにも置いておらず、それを持っているのはアカデミアだけ。でも、この人は私を拐おうとしたアカデミアの兵士を簡単に倒し、意識を失っていた私を優しく起こした。悪い人じゃないのは確かだけど、融合を使っている……どうして?

 

「逆に聞くが、融合を使っていたらダメなのか?この辺りじゃ、禁止カードになっているのか?」

 

 禁止カードにはなってない。デュエルモンスターズのルール上はなんの問題も無い。それはそうだけど

 

「アカデミアが融合モンスター達を古代の機械(アンティークギア)を使ってハートランドを滅茶苦茶に」

 

「それがシンクロや儀式モンスターでも融合を憎むのか?」

 

「それは……」

 

「お前が嫌悪して良いのは、アカデミアとかいうやつだろう。融合召喚を使う=悪なんて考えは間違いだ」

 

 彼の言うことは間違ってはいない……でも、どうしてもそう思ってしまう。

 少し鬱陶しく感じるぐらい過保護な兄さんと平和に過ごしていたのに、一瞬にしてハートランドは戦場に変わってしまった。

 

「直ぐに受け入れろとは言わない。だが、俺はそいつ等とは無関係とだけ認識してくれ」

 

「うん……私は瑠璃、黒咲瑠璃」

 

「遊矢だ」

 

「遊矢……」

 

 見た目だけじゃなく、名前もそっくりなのね。

 

「貴方は何者……ううん、違う。どうしてここにいるの?」

 

 ユートと瓜二つの遊矢。

 こんなに瓜二つならば兄さんや私、それにユート本人も気付く。レジスタンスでも話題になる……けど、話題にもなっていない。遊矢はレジスタンスの人じゃない。

 

「お前の声が聞こえて、お前に呼び出された」

 

「私の声?」

 

「助けてと強い叫びが聞こえた」

 

 強い叫び……確か、アカデミアのデュエリストと戦って追い込まれて負ける寸前にユートに助けて欲しいと心の中で叫んだ。

 

「尤も、呼んでいたのは俺じゃなくて別の奴だが……まぁ、結果的には助かったんだから、その辺の細かなところは気にするな」

 

「……うん、そうね」

 

 遊矢は見ていないけど、ユーリが危険なのを感じている。

 私は直接見たから分かる。ユーリのスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン。今まで色々なモンスターをみたりしてきたけれど、アレはなにか違う。私の中のなにかが危険を感じている。

 ユーリの魔の手から遊矢は守ってくれた。

 

「第一、俺の方がユートより強いだろうから」

 

「うん……」

 

「柚子なら、この辺で調子に乗らないのってハリセンが来るんだけどな」

 

「柚子?」

 

「瑠璃にそっくりな子だよ」

 

 遊矢はデュエルディスクを取りだし、私にそっくりな女の子の写真を見せる。

 その子はとっても嬉しそうに準優勝と書かれたトロフィーを持っているけど、涙を流した跡がある。それは優勝出来なかった事を悔しがった跡。

 

「……」

 

「涙を拭けよ」

 

「え?」

 

「泣いているよ」

 

 私、泣いてるの?なんで……なんでなの?

 

「お、おい、泣くな。泣かないでくれ!!

ほんっと……違うか。泣きたいときは思う存分に泣いたら良いと思う。無理に笑うよりも、吐き出すものを吐き出した方がいい」

 

「ごめん、ごめんなさい……」

 

「謝らなくて良い。と言うよりは、俺に謝る理由は無いだろう」

 

 自分と同じ顔をした人物が悔しさで泣いたけど、それよりも嬉しい事があったと笑う姿を見て涙が止まらない。

 奪われた平穏を思い出してしまう。プロデュエリストを目指して頑張っていたのを、笑っていたあの頃を思い出してしまう。

 会ったばかりでなにも知らない私に泣いていいと言ってくれる遊矢の胸を借りて私は思う存分に泣いた。

 

「ありがとう、遊矢」

 

「気にするな。それよりも大丈夫か?」

 

「うん、もう大丈夫。走ることも出来るし、兄さん達のところに」

 

「そっちじゃない」

 

「?」

 

「心の方だよ」

 

「っ……」

 

 思う存分に泣いたけど、私の心の中に燻るものは多い。

 私が一人じゃなにも出来ないと思っている過保護な兄さんに対する事とか、さっきのデュエルで負けてしまった事とか……私にそっくりな柚子の笑顔の写真とか。

 

「瑠璃、時間はあるか?」

 

「まだ大丈夫だけど」

 

「じゃあ、デュエルをしよう」

 

「デュエル……」

 

「ああ、デュエルだ」

 

「私が遊矢と……無理よ、負けるわ」

 

「おいおい……とりあえず、デッキを選んでくれ」

 

「複数のデッキ?」

 

 幾つものデッキケースを置いていく遊矢。

 珍しい……2つぐらいデッキを持っている人は知っているけれど、こんなに多くのデッキを持っているのは珍しい。いや、それ以前にこんなにデッキを持ってて使いこなせるの?

 デュエリストにとってデッキは命も同然のもので、デュエリストがランクアップすればデッキはそれに応える。けど、こんなにあるのは……。

 

「どうも俺はデュエリストには向いてなくてな、1つのデッキに魂を込めるとかが無いんだ」

 

 デッキケースを見ていた私に遊矢は少しだけ気まずそうに答える。

 デッキはデュエリストを現す物で、兄さんは鉄の意思や鋼の強さを現すRR。ユートは何度破れても立ち上がる幻影騎士団を使っている……ここにあるデッキはさっきのレッドアイズとは無関係のものばかり。

 

「まぁ、とにかくデュエルをしよう。

自分のデッキを見ていて嫌な思いをしているんだから、物凄く強い俺のデッキを貸してやる」

 

「……うん」

 

 デュエルに誘われたからには受けるのがデュエリスト。

 適当なデッキを手に取り、エクストラデッキとメインデッキを確認。エクシーズモンスターを主体とするデッキで、完成度が……なにかしら?他とは違う気がする。彼が異質を現す感じ……なにかしら?

 

「「デュエル!!」」

 

 よく分からない違和感を抱きながらもはじまるデュエル。

 先攻は私からで、手札は余り良くない。

 

「私は魔法カード、トレード・インを発動!レベル8のモンスターを墓地に送ることによりデッキからカードを二枚ドローする。私はギミック・パペットーマグネ・ドールを墓地に送り、2枚ドロー!」

 

 ……よし、エクシーズの準備は出来た!

 

「私は魔法カード、ジャンク・パペットを発動!

このカードは墓地にいるギミック・パペットモンスターを選択し、フィールドに特殊召喚する。私が選ぶのはトレード・インで墓地に送ったギミック・パペットーマグネ・ドール!」

 

 ギミック・パペットーマグネ・ドール レベル8 闇属性 機械族 攻撃力1000

 

「更に私はギミック・パペットーギア・チェンジャーを通常召喚!

ギミック・パペットーギア・チェンジャーの効果発動!フィールド上のこのカード以外のギミック・パペットモンスターを一体選択し、選択したギミック・パペットモンスターと同じレベルになる!!」

 

「お、来るか」

 

 ギミック・パペットーギア・チェンジャー レベル1→8 闇族性 機械族 攻撃力100

 

 レベル8のモンスターが2体。

 エクシーズ召喚の準備は整った……けど、どれを召喚すればいいのかしら?

 ギミック・パペットモンスターはレベルが高くて、ランク8のエクシーズモンスターを召喚して戦うデッキ。ここまでは分かったけれど、問題はここから。

 私の先攻で遊矢のフィールドにはモンスターも魔法も罠も無い。ユートのダークリベリオンの様なエクシーズモンスターを召喚しても意味はない。

 

「なにがあるかしら?」

 

 エクストラデッキを確認する。

 このデッキのエクストラデッキには強力なランク8のモンスターが沢山いて、中には特殊勝利効果を持つカードまでいる。

 でも、このカードを出すには3体必要だから呼び出せない。召喚条件が2体のエクシーズモンスターを探していると、ふとあるエクシーズモンスターが目に入り、手札にあるカードを見る……あれ?これって、もしかして?

 

「お~い、早くしてくれ」

 

「あ、うん……2体のモンスターでオーバーレイ、エクシーズ召喚!!

打ちのめされ叩きのめされし屑鉄よ、今こそ思いを1つにしここに降臨せよ!!ランク8!廃品眼の太鼓竜!!」

 

 廃品眼(ガラクターアイズ)太鼓竜(ファットドラゴン) ランク8 地属性 機械族 攻撃力3000 ORU(オーバーレイユニット)

 

「うげっ……お前、それを先攻に召喚したってことは」

 

「ええ、私はRUM アストラル・フォースを発動!

自分フィールドの一番ランクが高いエクシーズモンスターを対象とし、このカードは発動できる。

私は廃品眼の太鼓竜を対象にし、二つ上のランクで同じ属性、同じ種族のエクシーズモンスターをエクストラデッキから廃品眼の太鼓竜の上に重ねてエクシーズ召喚扱いとして特殊召喚する!!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!!」

 

「来るか!!」

 

「高次元の彼方より、地響きともにただいま到着!現れろ!超弩級砲塔列車グスタフ・マックス!」

 

 超弩級砲塔列車グスタフ・マックス

 

 ランク10 地属性 機械族 攻撃力3000 ORU3

 

「グスタフ・マックスの効果発動!

1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き相手に2000ポイントのダメージを与える!発射オーライ ビッグ・キャノン!!」

 

 グスタフ・マックスの巨大な砲身から弾が発射。

 遊矢の近くに落ちて、軽く吹き飛ばされるけれども遊矢は直ぐに立ち上がった。

 

「先攻はバトルはできないから、これでお前のターンは終わりだ!次のターンでグスタフマックスは倒させて貰うぞ」

 

 遊矢 LP4000→2000

 

「それは無理ね」

 

「な……え、もしかしてお前……」

 

 流石、遊矢。自分で作ったデッキの事だからよく知っているわね。

 

「私は速攻魔法!ビッグ・リターンを発動!

1ターンに1度と書かれた効果を持つカードの効果を、もう1度使うことが出来るわ」

 

「お前、お前、お前ぇええええええ!!」

 

 二度目のグスタフの発動を前に語彙力を失ってるけど、これを作ったのは貴方よ?

 

「トレード・インで来たのよ。いっけえ!発射オーライ ビッグ・キャノン!!」

 

 ふたたび放たれるグスタフ・マックスの一撃。

 遊矢はどうすることもできず、グスタフ・マックスの一撃を受けた。

 

 遊矢 LP2000→0

 

「ぐふっ……」

 

「えっと、大丈夫?」

 

 自分で言うのもなんだけど、凄く決まったわ。

 

「大丈夫だ」

 

 あ、普通に起きた。よかった……それにしても、なんて恐ろしいデッキなの。

 特殊勝利に加えて1ターンで最初の4000のライフを削り切るコンボまであるだなんて。

 

「瑠璃、1つ言って良いか?」

 

「なに?」

 

「次はライフ8000でお願い。

多分、ここにある殆どのデッキがライフ8000じゃないとダメっぽい」

 

「それは構わないけれど……」

 

 通常の倍のライフが無いとマトモにデュエルが出来ないだなんて、どれだけ殺意が高いの?

 初期ライフの設定を変え、再びデュエルをする私達。

 

「グラスジョーとヘッドギアでエクシーズ召喚!BK 番兵のリードブロー!!からのカイザーコロシアムを発動!!」

 

「酷い!」

 

 破壊耐性のあるモンスターを出してカイザーコロシアムでエクシーズをさせないパワーデッキと見せかけて、強烈なロックコンボを見せるBKデッキ。

 

「もう一回!!」

 

「デッキを変えてもいいぞ」

 

「じゃあ、次はこれよ!」

 

 負けた私は次のデッキを手に取り、デュエルを。

 

「私のターン、ドロー!」

 

「ホープゼアルの効果を発動!!エクシーズ素材を取り除き、このターンお前はカードの効果を発動できない」

 

「そんな……」

 

 開始早々にランク1のモンスターを並べたと思えばルール上ランク1でエクシーズモンスターを素材とするエクシーズモンスターを呼び出し、なにもさせてくれず一方的に蹂躙された。

 

「ロンゴミアントの効果発動!フィールド上のカード全てを破壊する」

 

 でも、次は星因子(テラナイト)モンスター5体でエクシーズ召喚したロンゴミアントで勝った。

 

「黒炎弾からの連続魔法で」

 

「……え、7000の効果ダメージ?」

 

「イエス」

 

 でも、その次、遊矢はまさかの1ターンキルをしてきた。

 他にもいっぱい、いっぱいデュエルをした……。

 

「よかった、楽しそうで」

 

 え、楽しい?

 

「デュエルモンスターズはプロ化したりデュエル塾が出来たり、養成校が出来たりしたけどさ……結局はカードゲームなんだ」

 

「カードゲーム……」

 

「殺しあいの道具でもなんでもないって事だよ。

デュエルモンスターズを作った人は俺達が遊んで楽しんで欲しいと思って作ったんだ……ジャンプ連載とかファラオの為とかそんなんじゃなくて、勝っても負けても面白い。

それがデュエル……まぁ、勝った方が良いに決まっているし、負けたら滅茶苦茶悔しいが、どっちでも面白い……それがデュエルモンスターズの筈……こんな事を言ってるからデュエリストになれないんだろうな」

 

 負ければ死ぬ、勝たなければ生き残れない。デュエリストにとってカードは命で安易に渡すものではない。

 そんな考えとは全く異なる考えを遊矢は持っており、この時間は忘れかけていた楽しいデュエルをすることが出来た。

 デュエルをする理由……それは楽しいから。楽しくて笑顔になるから遊矢も私もデュエルをはじめた。その事を、この時だけは思い出し、堪能した。

 

「……う~ん」

 

「どうしたの?」

 

「そろそろ帰らないといけないんじゃないかなって」

 

 あ、そうだったわ。

 

 何時の間にか夜は明けようとしており、日の出を迎えようとしていた。

 

「綺麗……でも……」

 

 ハートランドは……。

 

 差し込む日の光は美しいけれど、ハートランドを照らし出せば崩壊した姿しか見れない……取り戻さないと、私達の日常を。

 

「ねぇ、遊矢。レジスタンスに……遊矢?」

 

 遊矢が協力してくれるなら、この戦いは早く終わる。

 兄さん達の元に遊矢を連れて戻ろうと遊矢を誘おうとするけど、その前に遊矢は歩き出す。

 

「遊矢、何処にいくの?」

 

「ちょっと、気になる事があってな」

 

「気になること?」

 

 レジスタンスの拠点がある場所とは異なるところを歩いていく遊矢。

 この辺りには人気もなく、拠点に出来そうな場所でもない。

 

「……そこか」

 

「カード?」

 

 アクリルケースに入ったカードを手に取った遊矢。

 

「っ!!」

 

 そのカードを見た瞬間、戦慄が走った。

 さっきのデュエルで遊矢は融合とエクシーズ、それに儀式とシンクロ召喚を使っていた。けど、けど、これはその四つの召喚に使うカードとは異なるカードで、スターヴ・ヴェノムを見たときと同じものを感じる。

 

「そのカードを」

 

 使うのはダメ。

 そう言おうとする前に私のブレスレットと遊矢の持つカードが突如として光り出し、光が消えると遊矢はその場に居なかった。

 

「遊矢?」

 

 何処にいったの?

 

「瑠璃、瑠璃ぃいいいいいいいい!!」

 

 この声は!!

 

「兄さん!!」

 

 どうしてここに!?

 

「瑠璃、無事だったか!!」

 

「え、ええ……それよりも遊矢が」

 

「誰だそいつは、いや、それよりもお前が無事で良かった……全く、一人で出歩くな。お前はオレが居ないとちゃんと」

 

「兄さん!!」

 

「なんだ……いや、それよりも拠点に戻るぞ。ユートもお前の事を必死になって探して……ん?デッキケースが落ちている……」

 

 私の腕を掴み、拠点に帰ろうとする兄さん。

 デッキケースが落ちている事に気付き、拾い上げるけど直ぐに投げ捨てた。

 

「なにをしてるの!?」

 

「こんなカードは不要だ。瑠璃、帰るぞ」

 

 投げ捨てられたカード達に怒りを向ける兄さん。

 兄さんが投げ捨てたカードの中には簡易融合という融合カードの1つ……それに融合モンスター

 

「LL……」

 

 私の知らないLL(リリカル・ルスキニア)の融合モンスターカード……それにランク1のエクシーズモンスター達。

 

「瑠璃、無事だったか!」

 

「ユート……」

 

 やっぱり、似ているわ。

 

「ねぇ、兄さん、融合召喚は敵なの?」

 

「なにを言っている瑠璃、オレ達の平穏を壊したアカデミアを襲撃してきたあの日の事を忘れたのか!」

 

 あの日の事はちゃんと覚えているわ。でも……。

 

「瑠璃、一旦戻ろう。隼は一睡もせずにお前を探していたんだ」

 

 ユートに言われ、兄さんの目をよく見ると凄く目が充血している。

 

「分かったわ…」

 

 兄さん達と一緒に拠点に戻った後、もう一度、この場所に来たけれど遊矢は居なくなっていた。

 でも、兄さんが投げ捨てたカード達はそこにあった。

 

「デュエルを続けてたら、また会えるのかしら……」




OMKフェイズ

遊矢「くそ、なんでこんな事になったんだ……」

洋子「なんか言ったかい?」

遊矢「い、いえ、なんでもありません」

洋子「なんでもない……夕飯前に靴も履かずに家から消えて、朝帰りをしたのに?」

柚子「遊矢のバカっ!!心配、したじゃない……」

遊矢「柚子……え、待って。なんでいるんだ?」

洋子「あんたを寝ずに一晩中探してたんだよ!!
全く……でも、良かった。遊矢まで居なくなったら……」

遊矢「母さん……」

洋子「とにかく、今日はご飯抜きだよ」

遊矢「俺、昨日からなにも食べてないんだけど!?」

洋子「ほら、とっとと着替えて学校に行ってきな!!」

遊矢「ぐぉっ、そうだった……くそ、日常に戻った途端に気が緩んで眠気と空腹か襲ってきやがった」

洋子「これ、遊矢の分の弁当。遊矢は今日、飯抜きだからあんたが食べて」

柚子「おばさん、ありがとうございます!」

遊矢「俺、頑張ったよな、頑張ったのになんでこんな目に遭うんだ……」

柚子「おばさん達を心配させるからでしょ!!」

遊矢「ぐうの音も出ない正論です、はい」

柚子「でも、よかった……遊矢が無事で」

遊矢「柚子……ごめん」

柚子「ううん、良いのよ。それよりも、お弁当」

遊矢「え?」

柚子「昨日からなにも食べてないんだったら、授業はまともに受けれないでしょ。私は私のお弁当があるから、大丈夫よ」

遊矢「ゆ、柚子……いや、柚子様、ありがとうございます」

柚子「もう調子良いんだから。それよりも、何処でなにをしていたの?」

遊矢「ええっと……デュエルをしてました」

柚子「家を裸足で抜け出してまで、デュエル?」

遊矢「本当だって。デュエルディスクのログを確認してくれよ」

柚子「あ、本当だ……この瑠璃って誰?」

遊矢「黙秘権を行使します」

柚子「瑠璃って誰なの、答えなさい遊矢!!私の知る限り、遊矢の知り合いに瑠璃なんて女は居ない筈よ!」

遊矢「ちょっと色々とあったんだ。何時か話すから、今は聞かないで」

柚子「そういって一切話さないじゃない!教えてくれないなら、このお弁当は渡さないわよ」

遊矢「渡さないわよって、お前その弁当と自分の弁当の二つを食ったら太るぞ」

柚子「ゆぅ、やぁあああああ!!」ハリセンクズリュウセン

遊矢「ぐふぉう!!」

次回予告

手札事故が起きない限りは俺に勝てない権現坂、今日こそはと本気の俺に挑み勝利しようとする。

言っておくが、俺はまだエクストラデッキを残している。エクストラ無しの俺に手を焼いていたら、ペンデュラムモンスターとエクストラデッキを用いた俺には叶わないぞ。

今回は面白いデッキを作ってきた、見せてやろう……って、え、あ、もう原作開始してんの?

花鳥風月は守ったが、いったいどうなることやら。かくして、遊戯王ARC-Vの幕が開き見学者のタツヤそっちのけでデュエルがはじまる。

次回、遊戯王ARC-V 【お楽しみはここまでだ!!】にガッチャビングデュエルアクセラレーション!!


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お楽しみはここまでだ!

「いや~終わった、終わった」

 

 瑠璃を助けてから朝帰りをして、丸一日ご飯を食べれなかった日から時が過ぎた。

 ユーリの奴は今度はリンを拐いに来たので、普通に倒した。もう、その辺に関してはどうだっていい。

 

「柚子、これ」

 

「なにこれ?」

 

「フトシもアユも、講義に呆れてたから改良したもの……のサンプル的なものだ」

 

「へ~」

 

 何時も通り学校の授業を終え、そのまま遊勝塾に向かう俺と柚子。

 何時も通りの光景で今日はとこの前、起きたと言うか必死になって作っていた教科書の一部を渡す。

 

「妥協召喚に眠れる巨人ズシンに、2体扱いのリリース、3体必要なリリースに、それらを応用したコンボやデッキも……流石だわ」

 

「こういうのがLDSの基礎で、当たり前だって言ったら?」

 

「うっ……」

 

 カードプールがおかしいから、デッキ破壊とかレベルデッキとかバーンデッキとか1つの事しか教えないデュエル塾が多い。

 そのせいか教えることが偏ってたりし、色々なデュエル塾の買収に成功しているLDSは色々なカードを手にすることができ、色々な戦術を教えることが出来る。

 

「流石はLDS……大手の企業の資本力はなんて強いの」

 

 うちみたいな弱小デュエル塾はなー。大手って本当に恐ろしい。

 

「って、あれ?」

 

「どうした?」

 

「融合にシンクロにエクシーズまで書いたの?」

 

 アドバンス召喚や特殊召喚のページを飛ばし、エクストラデッキを使った召喚方法に目を向ける柚子。

 その前のページにリリーサーカオスMAXとかいう恐ろしいコンボを書いてあるが目を向けていない。リリーサーカオス、恐ろしいんだぞ。

 

「そりゃまぁ、教科書だから教えるか教えないかは別として一通りの事は書いている。

とはいえ、アユのデッキみたいにエクシーズには向いているけど融合はちょっと難しいとか色々とあるけど。あ、塾長のデッキもエクシーズ向いてるぞ」

 

「ねぇ、遊矢。もしかして……全部の召喚使えるの?」

 

「柚子……そう難しく考えるんじゃない。

結局のところ、ルール通りにしとけば誰でも使えるもので物凄く頭を捻るものじゃない。なんだったら、細かな要所要所を除いた生徒手帳ぐらいのページのルールブックあれば出来るだろう」

 

 未だにデュエル塾に関して謎だと思ってるんだぞ。

 

「はぁ、そういうことをいうから遊矢はデュエリストじゃないのよね」

 

 なんか解せない。

 そりゃ最後は実戦あるのみだが、基本的には本とか動画とかを見て遊戯王はやるもんでしょう……ああ、そうだな、そうだったよな。やっぱり、意識の問題だな。デュエリスト向いてないな。

 

「私にも使いこなせるかしら」

 

 それ以前にカードを買ってこい

 

「大丈夫、プロデュエリストだってはじめはなにも知らないまま覚えたんだ。

柚子はもう元プロの塾長より強いんだから、いけるし……こうしている間にも、未来のライバル達は成長しているんだから胡座をかいたらダメだ」

 

「そうよね」

 

「と言うことで、柚子。

その教科書(仮)を使って3つの召喚方法とコンボ、それに弱点を覚えてくるんだ」

 

「えぇ……もしかして、最初からそれが目的なの!?」

 

「もし覚えられたら、良いものやるぞ」

 

「良いもの……」

 

 ゴクリと唾を飲み込む柚子。

 なにを想像しているんだ、絶対に変なものを想像してるぞ。柚子って意外にスケベ……いや、元からエッチいか。

 

「来たか、遊矢よ!」

 

「ああ……って、早いな」

 

 教科書とにらめっこする柚子と一緒に遊勝塾に辿り着くと先に権現坂があがっていた。

 普通に下校した筈なのに、先に来ているとは……凄まじいデュエルマッスルの持ち主だ。

 

「ふっ、今日こそはお前を完全勝利の上で倒す!!」

 

「今日はお前にとっても面白いデュエルをしてやる」

 

 俺とデュエル(非公式戦)する気満々の権現坂。

 俺と権現坂の成績は俺の勝ち越しで、ほぼ負けなし。一番最初のデュエルではマテリアルドラゴンと黒蛇病を使いライフポイントを10万まで回復させて削りきれなくし、終焉のカウントダウンで終わらせると言うヤバいデッキを使った。

 自分からは一切攻めず、威嚇する咆哮や一時休戦で延々と攻撃させずにターンを重ねてパワーデッキでも削れないレベルにライフを回復させて、ライフで相手を打ちのめすデッキ。ロマンに溢れているが楽しかった。

 

「おお、お前達ナイスタイミングだ!!」

 

「お父さん、どうしたの?」

 

 塾内に入るとよっしゃとガッツポーズする塾長。

 

「遊勝塾に見学に来ている子がいるんだ」

 

「ええ!?」

 

「まだ何処のデュエル塾にも所属していなくてな。

取りあえず、設備とか基本的な説明は終えたんだが保護者の方が物足りなさそうでな」

 

 うちは、設備とか講義が売りじゃないからな。

 そもそも未だにエンタメデュエルってなんだよと思ってるからな。

 

「そういうことならば、この男、権現坂、力を貸そう。

今日こそは遊矢に完全勝利すべくここに参った。遊矢との真剣勝負を是非とも見てほしい」

 

 他塾の生徒なのに遊勝塾の事を気にしてくれる権現坂はマジでイケメンである。

 ここでくだらない議論を続けるのもあれなので、話は終わり塾の見学者がいる応接室に向かうと保護者の方とうちにいるジュニアクラスの生徒、アユとフトシぐらいの子がいた。

 

「はじめまして、俺は榊遊矢だ」

 

「は、はじめまして。僕は山城タツヤ。えっと、遊矢さん?」

 

「そんなに畏まらなくて良いよ」

 

 そうか……タツヤというのか……ああ、そういうことね。うん、大体わかった気がする。

 

「デュエル塾に来るのははじめてか?」

 

「うん。今までは本とか、DVDだけで勉強をしてて」

 

「そうか……なんか申し訳ないな」

 

「え?」

 

「うちの塾、父さんが居なくなってから色々と大変な事になってな。

塾生も少ないし、売りのエンタメデュエルを教えようにも教えれる人が居ない」

 

「ちょ、ちょっと遊矢。なに言ってるのよ」

 

 事実を述べたまでだ。

 柚子が頑張っているが肝心の経営は上手くはいっていない。俺がこんなんだから、エンタメデュエル要素薄いし。

 

「タツヤはデュエルは好きか」

 

「うん、僕はデュエルが大好きだよ」

 

「なら、お前に面白いデュエルを見せてやる」

 

「面白いデュエル?」

 

「ああ。デュエルは無限の可能性を秘めている。

1ターンに全てのデッキを破壊するコンボもあれば無限ループにより攻撃力を10万以上にすることだって出来る。

俺は今から権現坂とデュエルをする……あっと驚く面白いデュエルをお前に見せてやる」

 

 尚、エンタメ要素は皆無である。

 

「遊矢よ、今日こそは勝たせて貰う!」

 

「今日も勝たせて貰うぞ!戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

 

「モンスター達と地を蹴り、宙を舞い!」

 

「フィールド内を駆け巡る!」

 

「見よ!」

 

「これがデュエルの最強進化系!!」

 

「「アクショーーーーン、デュエル!!」」

 

 この口上、毎回必要なのだろうか?

 アニメの方でアクション要素皆無になって、困ったらアクションカードな展開があったが……まぁ、いいか。

 

「俺のターン!

モンスターをセット、カードを1枚セットし、永続魔法、暗黒の扉を発動!!」

 

「っぐ……相変わらず、凶悪なカードを使う」

 

「これ、ロックデッキに近いからな」

 

「あの魔法カードはいったい……」

 

 余り見ないカードなのか、頭に?を浮かべるタツヤ。

 スゴくあれな話だが、タツヤのお母さん物凄く教育ママな見た目だな。

 

「え~とですね……遊矢、説明を頼む!!」

 

 おい、塾長!

 確かにこれを使うデッキはロクでもないデッキがほとんどで、使う機会は少ないけれども、そこは頑張って答えようよ。

 

「暗黒の扉は発動している限り、お互い一体のモンスターでしか攻撃できない。後は考えてみろ」

 

「ええっと……沢山のモンスターを並べても一体しか攻撃できなくて、モンスターを守備表示にしていると戦闘ダメージは免れる。でも、それだとその次のターンに……そうか!魂を削る死霊みたいに戦闘で破壊されないカードをセットしておけば、鉄壁の守りが完成する!!」

 

 そこにスピリットバリアが出てこないのが、惜しいな。

 戦闘破壊出来ないモンスター+スピリットバリアのコンボは地味に厄介だ。しかも9期以降から戦闘でも効果でも破壊されないとか、対象を取らない効果じゃないと破壊されないとかの色々な効果を持つカードがどんどん増えているし。

 とはいえ、そのコンボはバーン系のデッキとの相性は最悪である。

 

「ということで、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー!!」

 

 さぁ、どうする?

 

「俺は超重武者カゲボウーCを攻撃表示で召喚!更に俺は超重武者カゲボウーCの効果を発動!

カゲボウーCをリリースすることにより、手札から超重武者モンスターを特殊召喚する事が出来る!現れよ、超重武者ビッグベンーK!!」

 

 出たな、初手ベンーK。

 だが、それだけじゃなにも出来ないぞ。

 

「更に俺は超重武者装留ダブルホーンの効果を発動!

超重武者モンスターを対象とし、このカードを装備する。俺は超重武者ビッグベンーKにダブルホーンを装備!!」

 

「早速、越えてきたか」

 

 暗黒の扉のロックを簡単に越えてきたか。

 まぁ、これぐらい越えてもらわないと権現坂道場の後を継げないからな。

 

「バトルだ、超重武者ビッグベンーKでセットしているモンスターに攻撃!!」

 

「守備表示のまま攻撃するの!?」

 

「その通り。ビッグベンーKは守備表示のまま攻撃できるモンスター。その際に守備力を攻撃力として扱いダメージ計算等を行う!!」

 

「かっこいいが、これが魂を削る死霊だったらどうすんだ?」

 

「その時はただ耐え忍ぶまでよ」

 

 あ、こいつ手札にイワトオC握ってないな。

 

「ゆけぇい、超重武者ビッグベンーK!!」

 

 セットモンスターに攻撃するべく、飛んでくるビッグベンーK。

 ダブルホーンの角でセットモンスターを、巨大なネズミを貫くと座禅を組む。おい、不動のデュエルは何処にいった。

 

「更にダブルホーンを装備した超重武者は、1ターンに二度のバトルができる!」

 

「暗黒の扉で一回しかバトルできないんじゃないの?」

 

 塾長、説明してくれ。

 

「それは違うぞ。

暗黒の扉は一体のモンスターでしか戦闘が出来なくなるカードだ。だから、一体のモンスターでなら複数回攻撃する事ができる」

 

「じゃ、じゃあ遊矢兄ちゃんはビッグベンーKのダイレクトアタックを」

 

「そうその通り……って、いかん。いかんぞ、遊矢!!このまま負けてしまえば、折角の入塾希望者がぁあああ!!」

 

「それは問題無い」

 

 権現坂のデッキにダブルホーンが入っていることは知っているし、これぐらいは余裕で越えてくるのも理解している。

 そして権現坂自身も俺がこれを越えてくると予測している……だが、その越えた先になにをするかの予測は出来ていない。

 

「俺が倒したモンスターは巨大ネズミ、戦闘で破壊された時に攻撃力1500以下の地属性モンスターを特殊召喚する事が出来るモンスター。やはり、ただでは転ばぬか」

 

「権現坂、ただでは転ばないんじゃないぞ。

暗黒の扉を越えれなければお前はそこまでのやつで、越えたら越えたで更なる脅威が待ち構えている」

 

 一粒で二度美味しい体制だ。

 

「ならば、その脅威を乗り越えてお前を倒してみせよう!!」

 

「巨大ネズミの効果を発動!

戦闘で破壊された時、地属性の攻撃力1500以下のモンスターを特殊召喚できる!!俺が特殊召喚するのは超重武者ビッグベンーK!!」

 

「な、なにぃ!?」

 

 ネズミからのベンーK、強いよな。

 スターダストとかEMとかHEROみたいに色々と出張できず、専用構築にしないと使えないけどもそれでもこれはスゴく便利だ。

 

「ビッグベンーK……」

 

 巨大ネズミをもう一度呼び出し、攻撃を免れようとすると予測していたのか放心状態の権現坂。

 

「言っただろう。面白いデュエルをすると」

 

「まさか、ビッグベンーKを召喚するとは……しかし、超重武者は!」

 

「甘いな、権現坂!お前の不動のデュエルも面白いが、俺の可動のデュエルも面白いんだ!」

 

 権現坂を相手に作り上げた魔法罠ありのビッグベンーKデッキ。

 シンクロやエクシーズは搭載していないが、ブラックガーデンやD2シールド、仁王立ちなんかの相性の良いカードを多く搭載している。

 

「さぁ、どうする?」

 

「まさかこんなデュエルがあろうとは……ターンエンドだ!!」

 

 ビッグベンーK同士の相討ちは不可能で、どうすることもできない権現坂。

 悔しそうな顔をしターンエンドをする。

 

「俺のターンドロー!

俺は手札から超重武者カゲボウーCを墓地に送り、ワン・フォー・ワンを発動!

手札、デッキからレベル1のモンスターを一体、特殊召喚する!俺が特殊召喚するのは、ブロック・スパイダー!!」

 

 ブロック・スパイダー レベル1 地属性 昆虫族 守備力100

 

「ブロック・スパイダーの効果を発動!

デッキからブロック・スパイダーを特殊召喚する!この効果は1ターンに1度だけしか使えないから、3体目は来ないが、2体あれば充分だ。このモンスターがフィールドにいる限り、このモンスター以外の昆虫族には攻撃できない!」

 

「あれ、でも超重武者ビッグベンーKは機械族だよね?」

 

「ああ、ビッグベンーKは機械族でブロック・スパイダーの効果の対象とならないから攻撃はできる。

普通ならばビッグベンーKの圧倒的な守備力のお陰で攻撃を防ぐことが出来るが、対戦相手の権現坂はビッグベンーKをエースとし、超重武者装留を装備すれば遊矢のビッグベンーKの守備力を越えられる……遊矢の奴、いったいなにが狙いなんだ?」

 

 権現坂とのデュエルを何度も見ているせいか、俺の手を予測することが出来ない塾長とタツヤ。

 

「俺はモンスターをセットし、ターンエンドだ」

 

 切り込み隊長ロックよりちょっと下位互換に近いかなと感じるものの、それでも強烈なスパイダーロック。

 効果破壊を狙うのが良いと思える圧倒的な守備力を持つビッグベンーK

 全てを倒そうにも一体しか通すことができない暗黒の扉。

 

 

 OCGじゃここからワンキルがあるんだよな……というか、面倒なデッキ。

 入れなかったけど、素早いモモンガと終焉のカウントダウンでもっと面倒な事が出来るんだよ。

 

「なんの、俺のターン、ドロー……よし。

俺は俺の超重武者ビッグベンーKで、遊矢の超重武者ビッグベンーKに攻撃、この瞬間、俺は超重武者装留バスターガントレットの効果を発動!このカードを手札から墓地に送り、バトルする超重武者モンスターの守備力を元々の守備力の倍にする!」

 

「ドローをしたか、バスターガントレットを!」

 

 守備力がバスターガントレットにより倍増したビッグベンーK。

 俺のビッグベンーKに巨大ネズミを倒した時と同じように飛ぶのだが何時もの二倍飛んでおり、突撃するときには回転しながら……通常の三倍の回転を加えて突撃した……それは攻撃力12倍になる計算だぞ。

 

「続いて、セットしているモンスターに攻撃!!」

 

「セットしていたモンスターはメタモルポットだ!リバース効果発動!」

 

 メタモルポットは互いに手札を全部捨てて、5枚ドローする手札リセットカード。

 俺の手札は0で権現坂の手札は3枚。墓地発動できないカードを握っている権現坂は大損だ!!

 

「メタモルポットは守備表示でダメージは0!そして俺は手札を補充できた!」

 

「手札が増えたのはお前だけではない!

俺は超重武者ジシャーQを通常召喚!更にジシャーQの効果、このカードが召喚に成功した時、レベル4以下の超重武者モンスターを特殊召喚し、その後、このカードを守備表示にする。俺は二体目のジシャーQを特殊召喚!!」

 

 超重武者ジシャーQ×2 レベル4 地属性 機械族 守備力1900

 

「ジシャーQがフィールドに居る限り、他のモンスターには攻撃できない。そしてジシャーQは二体!」

 

「遊矢兄ちゃんのスパイダーロックと同じ!!」

 

 いや、こいつは昆虫族限定で権現坂のは制限が無いぞ。

 

「スゴい……どっちも同じモンスターを使っているのに、全く別のデュエルをしてる……」

 

「不動のデュエルの道を歩んだ事には後悔はない。

しかし、不動のデュエルを歩むことなく突き進んだ先にこの様なものがあるとは思いもしなかった!流石だな遊矢」

 

「それは単純にお前の勉強不足だ!!もっとカードを覚えろ!!」

 

 フルモンデッキは色々とあるんだ。お前のデッキ、ガリスとの相性が良いのに入れてないの知ってんだぞ。

 

「っぐ……ターンエンド」

 

「エンドフェイズ時にお前のビッグベンーKの守備力は元に戻る。

後、リビングデッドの呼び声を発動して墓地の俺のビッグベンーKを甦らせる。んでもって、効果で守備表示な」

 

「復活してきたか……」

 

 さて、どうするか。

 ジシャーQのせいで攻撃はできず、権現坂の墓地にはカゲボウーCがいる。

 カゲボウーCは墓地から除外することにより超重武者を対象とする効果を無効にして破壊にする効果を持っていて、ジシャーQのロックによって殴れない。

 

「カッコつけたのは良かったけど、相性悪いんだよな……」

 

 レベル制限B地区とかつまずきとか平和の使者を入れているが権現坂との相性はビックリするほどに悪い。

 エクストラ無しでも回るには回るが、やっぱりエクストラ欲しいな。ライオンハートでカウンターをしたい。

 

「とりあえず、波動キャノンを発動してっと……なんか忘れてる気がするような……」

 

「また恐ろしいカードを」

 

 ライフ4000の世界で波動キャノンは強い(確信)。

 殴れない相手に対してなにも考えていない俺じゃない。波動キャノンとかステルスバードとか入れてるし、本来ならばライオンハートも出せて、効果ダメージを狙える。

 

「……う~ん」

 

 なんか忘れている気がする……なんだっけな?

 

「遊矢よ、真剣勝負の時だ。他の事はかんがえ……なにぃ!?」

 

 あ、そうだった。

 タツヤが塾の見学に来たってことは、リアルソリッドビジョンシステムが壊れるんだった……。

 突如として消える超重武者やスパイダー……。

 

「お楽しみは、ここまでだ!!」




OMKフェイズ

遊矢「遂に原作がはじまったな……あのハゲをどうにかしても無理なんだし、どうすれば良いんだろう?」

柚子「どうかしたの?」

遊矢「……いや、父さんが居なくなってからカレコレ3年だなって」

柚子「3年、長いようで短いようで……おじさん、いったい何処にいったんだろう。警察の人達も知り合いも探してくれたのに、見つからないなんて」

遊矢「その間に遊勝塾が大変な事になって……今日まで頑張れたのは柚子のお陰だよ」

柚子「遊矢があの時、私を守ってくれたからよ……おじさんを絶対に見つけ出さないと」

遊矢「デュエルを続ければ会えるよ」

柚子「遊矢は会えたら、どうするの?」

遊矢「この禁止カード満載のデッキで心が折れるまで叩き潰す!!」

柚子「酷すぎない!?」

遊矢「母さんを泣かせた罪は重いから。そういう柚子こそどうするんだよ?」

柚子「えっと……ハリセンで叩く?」

遊矢「それ同じだろう!?」

次回予告


権現坂とのデュエルは中断になったが、手札とか墓地からして俺の勝ちだな、うん。

そんな事を言ってる場合じゃないでしょ、リアルソリッドビジョンシステム壊れちゃったわよ!!

俺にそんな事を言われて、俺は蟹じゃなくてトマトなんだぞ

折角タツヤくんが入塾したいって言ってくれたのに……このままだと、遊勝塾が運営できなくなっちゃう。

次回、遊戯王ARC-V 【ショーの舞台裏】にガッチャビングデュエルアクセラレーション!!


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ショーの舞台裏

「どう?」

 

「いや、どうって言われてもな」

 

 リアルソリッドビジョンシステムから煙が出て、急遽デュエルが中止となった。

 二人ともアクションカードをとるつもりが無かったから、そのまま続ければと思ったけれども、何時もと違い今日は見学者がいて、そのままのデュエルは出来なかった。

 

「これって、何時からあるっけ?」

 

「遊勝塾が出来た頃からの物だから結構古い物よ」

 

「じゃあ、どうにもならないぞ」

 

 リアルソリッドビジョンシステムを遊矢に点検して貰うけれど、なんの成果も無し。

 

「そんな、どうにかならないの!?」

 

「俺にどうしろって言うんだよ。何処ぞのメ蟹ックならまだしも、トマトだぞ」

 

「こう、コテみたいので」

 

「プログラムに異常があるんだったら、ちゃんとしたところでアップデートすれば良い。

けど、電子機器の核となる部分が老朽化してたり排熱が上手くいってない感じっぽいし……まぁ、平たく言えばぶっ壊れた」

 

 そ、そんな……。

 

「修理って幾らぐらいかかるの?」

 

 経営難の遊勝塾。

 見学に来ていたタツヤくんは入塾したいと言ってくれたけれども、肝心のリアルソリッドビジョンが使えないとアクションデュエルが出来ない。

 それどころか、アユちゃんとフトシくんもアクションデュエルが出来ない……遊矢は余り関係無さそうだけれど。

 

「専門知識は無いけど、こういう保証書の期限とか切れてるレベルの古い型は下手に修理に出すよりも新品を買った方が安いぞ」

 

 機械って、高い。

 

「ど、どうしよう、このままだと遊勝塾が……」

 

 やっとの思いで今日までやって来たのに、リアルソリッドビジョンが壊れたらもうなにも出来ない。

 

「落ち着くのだ、柚子。こういう時こそ冷静さを欠いてはならない。先ずは塾長が戻るまで、平静を保たねば」

 

「そうだぞ。こういう時はさっきのデュエルの続きをだな……俺の手札的にも権現坂に勝ててた」

 

「俺の手札にはグレート・ウォールとファイヤー・アーマーが握られている。守備力も上げることができ、破壊を無効にすることもできた」

 

「波動キャノンの存在を忘れては困る、取りあえずどう頑張ってももう一回、俺のターンが来るっぽいしドロー!」

 

「待て、それならば俺が先にドローだ。む、超重武者タイマー2か」

 

 こんの、二人はぁあああ!!

 

「冷静じゃなくて呑気になって、どうすんのよ!!」

 

「「!?」」

 

 平常運転の二人にハリセンを入れる。

 遊勝塾の一大危機だってことが分かってんの!?

 

「うっし、ドローカードは一時休戦だ!」

 

「なんの、そのカードは互いにドローができるカードだ、逆転のカードを……っく、ダイー8だったか」

 

「やったぞ、柚子。俺の勝利だ」

 

「だから、呑気にデュエルの続きをするんじゃなあああああい!!」

 

 ハリセンを手にし、遊矢に攻撃をしようとする。

 くそ、こういう時は絶対に遊矢に当たらない。普段は簡単に当たるのに、私の太刀筋が全て見切られている。

 

「ぎゃっ!!」

 

「お父さん、ご、ごめんなさい!!」

 

「全く、凶器なんて振り回すからだぞ」

 

 ハリセンを遊矢に当てようとしたけど、当てられず、帰って来たお父さんを叩いてしまった。

 だから、遊矢が……もういいわ。これ以上は不毛よ。

 

「それでタツヤくんとタツヤくんのお母さんはなんて言ってたの?」

 

「遊矢のデュエルを見て気に入ってくれたみたいでな。

入塾に必要な書類にサインはして貰ったんだが……肝心の判子を貰えなかった」

 

「それってもしかして」

 

「ああ、リアルソリッドビジョンが直ったら判子をするとな。どうだ、遊矢?」

 

「リアルソリッドビジョンは壊れて、修理するよりも新品を買い直さないとヤバい感じだ」

 

 因みに相場はこんな感じと電卓を操作する遊矢。

 私とお父さんはその数字を見て膝を崩してしまう……そんな、こんな金額、どうしろって言うの!?

 

「そんな、久し振りの入塾希望者だというのに、リアルソリッドビジョンシステムが壊れて、このままだと遊勝塾の経営が破綻してしまう!!」

 

「元から破綻してるみたいなもんだろうが」

 

 それ、言ったらダメなやつよ!!

 リアルソリッドビジョンシステムが使えなくなり、今後の事を考えてしまい暗くなる私達。

 頭が良くても遊矢はエンジニアでもなんでもないから直すことは出来ず、途方にくれていると応接室のドアが開いた。

 

「お話、聞かせて貰いました!!」

 

 黄色と黒の縦縞模様のスーツを着た如何にも成金風味なおじさん

 この人、どうやってうちに入ってきたのかしら?

 

「ええっと、貴方は?」

 

「ああ、自己紹介が先でしたよね。私、こういうものです」

 

 アポを取っておらず、突然の来訪者に驚くお父さん。

 男性は軽く謝ると名刺を取り出し、渡した。

 

「アクションデュエルの現チャンピオンであるストロング石島のマネージャー兼プロモーターのニコ・スマイリーと申します」

 

「ストロング、石島!?」

 

 男が誰なのか、何者なのか分かると背筋が一瞬だけゾクりとする。

 3年前のあの日を境にアクションデュエルのチャンピオンとなったストロング石島はチャンピオンの座を守り続けており、そのせいかおじさんがなんらかの事情があって居なくなったのではなく負けてしまうから逃げたと言う説が真実味を帯びはじめた。

 

「……LDSのイメージキャラクターのストロング石島のマネージャーである貴方が、うちのような小さいデュエル塾になんの御用ですか?」

 

「はい!実はですね、もうすぐストロング石島のファン感謝デーがありまして、そこでスペシャルマッチを行うのですが、ストロング石島とのスペシャルマッチを是非、遊矢くんにと」

 

「いや、ファン感謝デーなんだから、ファンの人から選ばないと。炎上するぞ」

 

「遊矢の言うとおりよ。そういうのはちゃんとしておかないと、炎上するわよ」

 

 ストロング石島にも沢山のファンがいる。

 過激なファンは遊矢が叩きのめしたけれども、それでも多くのファンがいる。ファンがいてこそのデュエリスト。

 そのファンの感謝デーをファンでもなんでもない遊矢を選ぶのは流石にどうかと思うわ。

 

「いえいえ、これはあのストロング石島たっての希望なのです」

 

「ストロング石島の希望?」

 

「3年前のあの日、榊遊勝は試合に来ませんでした。

榊遊勝のファンは悲しみ、ストロング石島のファンは激怒していました。あの日の試合、私も楽しみにしていた者の一人で、ファンの気持ちは良く分かります……覚えていますか?貴方があの時どうしたのかを」

 

 あの日……おじさんがストロング石島との対戦をしなかったあの日。

 今でもハッキリと罵声や悲鳴が飛び交うスタジアムを覚えている……確か、あの時、遊矢は

 

「おい、デュエルしろよ。俺はそう言ったら追い出されたぞ」

 

 ストロング石島にデュエルを挑んで、追い出された。

 

「実はストロング石島はあの時の事を酷く反省しているのです」

 

「反省?」

 

「罵声や悲鳴が飛び交う中、貴方は表情一つ変えずにデュエルディスクを構えてストロング石島に挑んだ。

ですが、あの時、ストロング石島は榊遊勝が来なかった事に激怒し、息子である貴方を追い出しました。しかし、デュエリストならば、挑まれたデュエルに応えるのが流儀。その事を悔やんでいるのです」

 

「……結局、悪いのは父さんだよな……」

 

 ボソリと小さくおじさんにすべての責任があると呟く遊矢。

 本当にいったいどこでなにをしてるの、おじさんは……。

 

「というわけで、あの時果たせなかったチャンピオンとのデュエルをすればファン感謝デーで大盛り上がりです!」

 

「それって結局は遊矢を話題作りの為の当て馬にするってことじゃない!?」

 

「けしからん、実にけしからん!!3年前の事を持ち出し、遊矢を見せ物にしようとは、この漢、権現坂、断じて認めんぞ!!」

 

「二人とも、落ち着け。落ち着くんだ。

特に権現坂……あの時、俺は勝つつもりでデュエルに挑んだって言っただろう」

 

「むっ……確かにそうは言っていたが、なにもこの様な公衆の面前でましてやファン感謝デーでするものではないだろう」

 

 デュエルをするだけだったら何処でも出来る。

 人前に出てまでデュエルをする必要はない。なんだったらストロング石島が直接こちらに来るだけで済む話よ。

 

「遊矢を見せ物にするわけにはいきません。この話は無かったことに」

 

「因みにですが、報酬としてレオ・コーポレーション製の最新のリアルソリッドビジョンシステムを。あ、勿論、デュエルをするだけで勝ち負けは関係ありません」

 

「よし、遊勝さんに代わりストロング石島に挑め、遊矢!」

 

 なにを言ってるノ?

 さっきとは言ってる事が真逆の手のひら返しのお父さんをハリセンで叩く。

 

「確かにリアルソリッドビジョンシステムは欲しいけれど、遊矢を見せ物にして良い事にはならないわよ」

 

「柚子、鏡を見てから言えよ」

 

 はっ!?目が何時の間にか$マークになっている……。

 

「リアルソリッドビジョンよりも遊矢の方が大事、リアルソリッドビジョンよりも遊矢の方が大事、リアルソリッドビジョンよりも遊矢の方が大事、リアルソリッドビジョンよりも遊矢の方が大事」

 

 デュエルをするだけで貰えて勝ち負けなんて全くといって関係無い。

 破格の条件で目玉が飛び出すかと思える程の値段のリアルソリッドビジョンが貰える誘惑に必死に耐えるべく、自己暗示をする。

 

「柚子……俺はやるぞ。

父さん云々は置いといて、リアルソリッドビジョンが無いと遊勝塾が経営できないんだから」

 

「え、本当!?」

 

「そこで嬉しそうなリアクションをしないで欲しいなー……ファン感謝デーでのスペシャルマッチを俺は受けるよ」

 

「ありがとうございます!!」

 

「でも、ギャラが少ない……と言うよりは人の弱味に付け込んだギャラはダメだろう」

 

 人差し指と中指を親指で擦る遊矢。

 電卓を取り出し、報酬の上乗せを要求する……私の事を守銭奴って言ってたりするけれど、遊矢の方も大概よね。

 

「OK,OK。じゃあデュエルに勝ったら報酬追加で」

 

「全く、お上手ですね」

 

 最終的にはデュエルでストロング石島に勝利すれば報酬は上乗せで契約が成立。

 

「では、私はこれでっと、忘れていました。関係者の皆様の観客席のチケットです」

 

 最後にスタジアムのチケットを置いていき、去っていった。

 

「【三年前の因縁、スペシャルマッチ!榊遊矢vsストロング石島】……」

 

 遊矢は今、試合に出るって言ったのにもうチケットが発行されるなんておかしい。

 万が一遊矢が断った場合を考え、逃げ道を先に無くしてた……大人って、いったい……って!

 

「これ明日じゃない!?」

 

 スペシャルマッチ、明日って急にもほどがあるわ!!

 

「最初から奴の掌の上だったと言うことか。おのれ、ニコ・スマイリィイイイイイイ!!」

 

 流石の遊矢もその事については怒っていた。

 そうよね、いきなり明日が試合だなんて誰だって怒るわよね。

 

「よし、じゃあ、リアルソリッドビジョンの撤去をするか」

 

「遊矢、その辺りは俺がやっておく。今日は家に帰り、明日に備えてゆっくりと休むんだ!」

 

「それなら、ありがたく休ませてもらうよ」

 

 お父さんが気を利かせ、先に帰る遊矢。

 私や権現坂はここに残りリアルソリッドビジョンの撤去を手伝おうとするけど、最終的には最新のリアルソリッドビジョンを設置してくれる業者が撤去してくれるから書類の手続きとか一人でも出来ると私達も帰ることに。

 

「こういうことを言うのは不謹慎だが、遊矢が羨ましくもある」

 

「羨ましい?」

 

「相手は現役のプロ、しかもチャンピオンだ。

挑戦するにはプロの資格を取り、挑戦権を得なければならない」

 

 確かに、言われてみれば羨ましいわ。

 アマチュアの私達がプロと真剣勝負をする機会なんて早々に無い。それこそ、何処かの大会に優勝したりしないと。

 今回はストロング石島が遊矢を指名したけれど、指名しなかったらファンの誰かと戦ってそれで終わり。そのデュエルは真剣勝負のデュエルと言えるものになるか分からない。

 

「何れはプロと戦ってみたいものだ」

 

「うちのお父さんは元プロなんですけど……」

 

 暑苦しいところはあるけれど、お父さんは強い。

 主に暑苦しいのが原因でエンタメデュエルとの相性が悪いけれども。

 

「遊矢、勝てるかしら?」

 

「なにを言っている。

遊矢は勝てると思っているからストロング石島に挑んだ。ならば、俺達に出来ることは遊矢を信じることだ!」

 

「……うん、そうよね!」

 

 遊矢の全力や本気は未知数だけど、少なくともシンクロやエクシーズ、融合召喚を遊矢は使える。

 きっとストロング石島とのデュエルはそれらを使った今までのデュエルとは異なるデュエル……きっと、なにも知らない人達は驚くわよね。

 遊矢が榊遊勝の息子だからとエンタメデュエルを期待する人達がいる。でも、遊矢はエンタメデュエルが苦手……出来ない事は無いけれども、あんまりしたくない。

 

「しかし、遊矢がストロング石島に勝利すれば遊矢はアクションデュエルのチャンピオンよりも強いと言うことになる。

勝負はその時の状態によって変わるが、ストロング石島に勝つとなれば最低でも並大抵のプロデュエリストを遥かに凌駕する腕、今日の可動のデュエルといい、遊矢の背中は遥かに遠いな」

 

「プロデュエリスト……」

 

 権現坂のプロ発言を聞き、足を止めてしまう。

 

「遊矢がプロデュエリスト……」

 

 エンタメデュエルも出来ないし愛想もそんなによくないしプロとかそういうのに向いてないって言ってる。

 でも、それでも遊矢の知識や強さは本物で、もしストロング石島との戦いであの時みたいに圧倒的な強さで勝利したら、遊矢はプロデュエリスト……プロ……っ!!

 

「お、おい柚子!!」

 

「ちょっと遊矢のところにいってくる!!」

 

 体が勝手に動き、家とは別の道を、遊矢の家へと向かい走る。

 遊矢がストロング石島に勝利する事は嬉しい……けど、それって……

 

「あら、柚子ちゃん。話は遊矢から聞いてるよ……あの人の分まで」

 

「おばさん、遊矢は何処にいるの!?」

 

「部屋にいるけど……早いわね……あたしと同じで、恋する乙女は強いのね」

 

 遊矢の家に行くと、おばさんが出迎えてくれた。

 遊矢は今何処にいるのか?それだけ聞き、私は遊矢の部屋のドアを開いた。

 

「遊矢!!」

 

「ぬぅおあ!?……柚子か、ビックリした~」

 

 遊矢の部屋のドアを開くと、デッキを調整している遊矢がいた。

 

「よかった……」

 

 何時も通りの遊矢の姿を見て、安堵し私は涙を流す……。

 

「柚子、なんで泣いているんだ?」

 

 あれ、そういえばなんで涙を流してるの?

 

「ご、ごめんなさい」

 

「謝るんじゃなくて、理由を教えてくれよ」

 

「ゆ、遊矢の顔を見たらホッとして……あ、ぅぅ……」

 

 私、なんて事を言ってるの!?

 

 確かに遊矢の顔を見れて安心できた。何時も通りで、なにも変わらずにいる遊矢で良かったって思ってる。

 

「俺の顔なんて毎日見てるだろう」

 

 そうじゃない、そうじゃなくて、その……うぅ……。

 

「遊矢が、何処か遠くに行きそうで怖くて」

 

 遊矢は、遊勝塾で燻って良いデュエリストじゃない。

 ストロング石島とのデュエルに勝利すれば、遊矢の強さは本物だって周りに証明される。

 

「遠くに行くって……ああ、前みたいな」

 

「そうじゃなくて、なんだか遠くに、もう二度と会えなくなる所に行きそうで。

遊矢の実力なら直ぐにプロになれる。おじさんみたいなエンタメデュエルは出来ないけれど、それでも面白いデュエルは出来る……もし、ストロング石島に勝ってプロになったら」

 

 私の前から消えてしまう。

 

 そう思うと怖い。だから、遊矢がちゃんといるかどうか気になって来てしまった。

 おじさんの様にある日突然姿を消しちゃうんじゃないか、そう思った。

 

「大丈夫だ、俺は父さんみたいに勝手に消えたりはしない。

あくまでも明日はスペシャルマッチで、タイトルマッチでもプロ試験でもない……だから、泣きそうな顔をしないでくれ。柚子は笑顔が一番似合ってるんだから」

 

「遊矢……」

 

「それでも俺の事を信頼できないんだったら鎖でも首輪でもって、母さん!!」

 

「おばさん!?」

 

 何時の間にかカメラを手にし、撮影をしていたおばさん。

 

「なにを撮ってるの!?」

 

「居ない人扱いをして大丈夫よ!

それよりも遊矢、そこは柚子の頭を撫でてあげるとかそういうことをしないと」

 

 遊矢のやり方に甘いと指導するおばさん。

 

「あ、あの……何時から撮ってたんですか?」

 

「最初からよ……青春って、良いわよね」

 

「あ……ああああああ!!!!」

 

 私、勢いに任せてとんでもない事を言っちゃってる!!

 

 自分が言ったことややっていることがどれだけの事なのか改めて理解してしまい、顔を真っ赤にする。

 

「やっと気付いたか、自分がどれだけの事をしていたのかを」

 

「忘れて、忘れて!!お願いだから、忘れてぇえええええ!!」

 

「ちょ、明日は試合なんだぞ!?」

 

 お願いだから、さっきまでのくだりを全部忘れて!!

 無し、無しよ!!

 

「落ち着きなさいよ、柚子。

この子の事が心配なんだったら……今日、泊まっていきなさい。何処かに消えない様にしっかりと手綱を握ってないと……でないと、あの人みたいに急に居なくなるかもしれない」

 

「おばさん……」

 

 そうだ。

 おばさんは一番のおじさんのファンで、誰よりもおじさんの事を愛していた。

 あの日、おじさんが居なくなって誰よりも悲しんだのは他でもないおばさんだ。

 

「おかしい、おかしいぞ、柚子。

サラッと丸め込まれてるけれどもシリアスな空気が流れちゃってるけども、単純に面白がってるだけだからな、これ。

シリアスな顔をしてるけれどもカメラを持っている手が微動だにしていないぞ!!」

 

「あんた、一回、本当に消えかけたわよね?」

 

「……あの時は柚子をはじめとした色々な人達に多大なるご迷惑をお掛け致しまして、誠に申し訳ありません」

 

 おじさんの様に急に居なくなってしまう。遊矢にはその前科がある。

 あの時は色々と探してみたけれど何処にもおらず、最終的には何事もなく家で寝ていた。あの時、何処でなにをしていたのかを問い質してもデュエルをしていただけだと言い、詳しい事はなにも教えてはくれない。

 けど、帰ってきてくれただけで良い。遊矢と楽しくデュエルを出来る毎日が無くならなくてよかった。

 

「お父さんに連絡をしないと!」

 

「落ちた、落ちたよ。

気付け、柚子。気付くんだ、柚子。お前は今、とてつもなく恥ずかしい事をしようとしているのを!!」

 

 この日は遊矢の家に泊まった。

 おじさんの様に急に居なくなるかもしれないとお父さんに遊矢の事が心配だからと伝えるとアッサリと承諾してくれた。




OMKフェイズ(ギャグなので特に気にしない)


榊遊矢


説明

紳士という名の童貞であり、少子高齢化社会を防ぐ為の種族の繁栄を捨てた友人達と楽しく衰退の一途を辿っていたOCG次元の住人。デュエリストでなく住人である。
リンク召喚が登場し、エクストラの相場が荒れた際には一年ほどポケモンカードをやってたりした。つまるところは普通の住人で童貞。
本当になんでかよく分からないが遊矢になっており、友人とか家族とかと会えないショックがあったりしたものの、人生を謳歌するしかないと思い、前向きには生きているのだが転生先が玩具販売促進アニメの世界なので価値観の違いとかに困惑したり、苦しんだり、色々と思ったりする童貞でデュエリストではない。
デュエルの実力はOCG基準なら、新しいパックやストラクを購入し環境にあったデッキを作ったりしないので、そこまでで遊戯王ARC-V基準ならば洒落にならないぐらいにやばい。ライフ4000で真紅眼融合+黒炎弾はダメだって。
好きなテーマは転生炎獣、しかしリンクがないので手に入らない。
苦手なテーマはブルーアイズで、ブルーアイズデッキが環境に入った頃、ブルーアイズデッキを作るのに必要な財布に与えるダメージが凄まじく、ギミックパペットも苦手だった。
エンタメデュエルも苦手ではあるものの、本人が好きならそれで良いんじゃない?とそれはそれ、これはこれの線引きはしており柚子達が楽しくデュエルをしているのを見るだけで満足。しかし、父親はぶん殴る。
心が荒んでいるので笑顔の柚子とかを見ていると心が癒される。いや、本当にエモくてエロいよ、柚子は。
制服を着崩してるせいか、生徒指導の対象となったことがある。



柊柚子


説明

OCG遊矢くんの幼馴染み。
エンタメデュエルは良いもので、自分が思うエンタメデュエルで皆を笑顔に出来れば良いと思っている天使かなにか。制服姿はエロく、ハリセンを取り出す魔法を使える。
OCG遊矢くんと付き合いが一番長く色々とカードを貰ったり、プレイングを教えてもらったりとしており原作よりも強く、開幕クリスティアとか平気でやって来る。そしてそれを平気で越えてくる遊矢くん。開幕クリスティアぐらい越える手段は9期以降の遊戯王なら結構ある。
価値観が違っていたり遥かに知識を凌駕していたり、追い付けると思えば一瞬にして背中が遠退く遊矢くんを色々と心配しており、デュエリストじゃなくても遊矢は遊矢だと自己完結しており、自分達と楽しくデュエルをしているだけで満足なのでそれ以上は余り触れない。
遊矢を男性として好きかどうか聞かれれば、好きだが、中々に好きだと言えず、チキってしまったりする。早くしなければ、槍サーの姫とかに取られる。幼馴染みは負け犬属性の可能性が高いんだ!!
遊矢くんが柚子の為にと色々とやっているので通常よりも好感度は高く、過去にエクシーズ次元で瑠璃と朝帰りをしてしまう前科を作ってしまったので更に高くなる。
依存してないかって?原作の時点で軽度の暴力系ヒロインの素質があったんだから、好感度が更に上がるとそうなるのは当然じゃないですか、やだー。
好きだとか愛してるとかハッキリと言えないくせに付き合っているかどうか聞かれれば、付き合ってないとハッキリと答えて、そういう風に見えるの?やだ、嬉しい!とテンションを上げる。
大嫌いなカードはEMユニとEMコン。自身とのデュエルで使ってきたら、デュエルそっちのけでハリセンを手に戦いを挑むほどである。


権現坂昇


説明

出る度に好感度を上げまくる漢。
不動のデュエルの道を極めんとする漢で、遊勝失踪時も遊矢くんの味方をするイケメン。
遊矢くんがエンタメデュエルはそんなに好きじゃなく、デッキを沢山持っている事に当初は驚くしかなかったが、デュエルには無限の可能性が秘められており、可能性の方向性が異なるデッキを扱う遊矢は凄まじく越えるべき壁と見ている。
遊矢くんと一番最初にデュエルをした際にマテリアルバーンかと思えば終焉のカウントダウンで逃げ切るデュエルをし、自身がそれまでに鍛えていた不動のデュエルでも削り切れない程で驚いた。
それ以降も度々遊矢とデュエルをしており、一番最初に勝ったのがエクストラ抜きのスキドレ暗黒界。守備力の高い超重武者を遊矢くんは越えることが出来ず、デッキ切れでの勝利というなんとも後味の悪い勝利に終わる。
苦手なカードは言うまでもなくスキルドレイン。相性最悪で、泥沼化間違いなし。
柚子と遊矢はお似合いだが、健全なお付き合いを!と思っている。遊矢の可動のデュエルを見て、色々と思うことができたりもした。真面目だが鉄下駄が原因してか生徒指導をくらった事がある。


次回予告


やって来た、運命の日。

ストロング石島は榊遊勝の対戦相手で、自分は榊遊勝の息子?そんなものは関係無い。

ここにいるのは互いにデュエルモンスターズが好きなデュエリスト。ならば、やるのはただ1つ、そうデュエルだ。

しかし、忘れてはならない。彼はデュエリストではない、遊戯王プレイヤーであることを。

次回、遊戯王ARCーV 【ショーの幕開け】にガッチャビングデュエルアクセラレーション!!


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ショーの幕開け

気付けば3位になってたよ……え、本当になんで?
こんな小説に評価をしてくださった方達、本当にありがとう。


「……!……よかった」

 

 目を覚ますと遊矢は直ぐ側で寝ていた。

 その姿を見て、何時も通りに今日がやって来たと一安心をする。

 

「起きて、遊矢。もう朝よ」

 

「大丈夫、後数分はいける」

 

「それは一時間更に寝る為の言い訳でしょ!ほら、起きなさい……起きろ!!」

 

「布団をセットしてターンエンドしたい」

 

 遊矢から布団を引き剥がす。

 

「って、スゴい隈。

デッキに悩むのは良いけど、睡眠不足は体に良くないわよ?」

 

「誰のせいだと思ってんだ」

 

「え?」

 

「お前、普段から俺が使っているベッドで寝たんだぞ。

隣に柚子が俺の普段使っているベッドで寝ているんだぞ!!」

 

「……」

 

 昨日、おばさんに誘われてそのまま泊まった。

 空いている部屋に通されたんじゃなくて、遊矢の部屋で寝なさいってなって、遊矢は敷いた布団を、私は遊矢のベッドで寝た。

 

「この布団にも遊矢の匂い」

 

「MA☆TTE!それ以上は越えちゃいけない一線!」

 

「さ、流石にそこまでするわけないでしょ!そんな事をする変態じゃないわよ!」

 

 布団に遊矢の熱が籠っているのを確かめながらも、遊矢の布団を畳み着替える。

 流石にそこまではしない。確かに暖かさはあるけれども、そこまではしない……多分。

 

「遊矢、行きましょう」

 

「ああ……手でも繋ぐか?」

 

「それ良いわね」

 

 手を繋いでいれば、遊矢は離れない。

 私は遊矢と手を繋ぎストロング石島が待ち受けるスタジアムへと向かった。

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「むぅ……」

 

 場所と時間は変わり、ここは舞網市でも特に大きなスタジアム。

 生真面目な権現坂は遊勝塾の面々よりも早く観客席についたが緊張を隠せない。

 

「あ、権現坂!もう来てたんだ」

 

「さんをつけろと言っておるだろう!」

 

 1人で不安で居るとやって来た遊勝塾所属のDD(ダンシングデブ)ことフトシ。デッキが思ったよりも脳筋なアユ。

 権現坂より年下な小学生なのだがなんの迷いもなく呼び捨てにされており、権現坂も一応は怒るのだが半ば諦めている。ゴツい漢の彼だが、子供と仲良くは出来ている。

 

「スッゲエ、こんな所で遊矢兄ちゃんデュエルをするんだ。痺れる~!!」

 

「呑気な事を言っている場合ではないぞ」

 

「えぇ、どうして?

こんな大きなところでデュエル出来て、相手はストロング石島なんだよ?」

 

 デュエリストとして、デュエルをする上でこの上ない場所。

 幼い二人は羨ましいと思っていたりはするものの、権現坂は少しだけ焦っている。

 

「周りをよく見てみろ」

 

「周り?」

 

 権現坂にそう言われたので、周りを確認する。

 フィールドではファン達にサービスをしているストロング石島がおり、観客席にはストロング石島の熱狂的なファンやデュエルが大好きな人達が盛り上がっていた。

 

「ここに来ている者達はストロング石島のデュエルを見に来た、遊矢のデュエルを見に来たのではない。

実力を疑いはしないが、遊矢はこうした大舞台に立ったことはない。緊張の余り、ミスをしなければ良いのだが……」

 

「ファンなら此処に居るぞ、権現坂!!」

 

「っむ、柊塾長ではないか!!」

 

 圧倒的なアウェイのフィールドでプレミをしないか心配な権現坂。

 そんな中、塾長がやって来た。

 

「俺に柚子に洋子さんにアユにフトシ、それに権現坂!

俺達6人は遊矢を応援しにやって来たんだ。だったら、この会場のストロング石島ファンを上回る熱血パワーで、俺1人で100人分の応援をして見せる!!熱血だぁあああ!!」

 

「そうか……そうであったな。

この男、権現坂!危うく大事な事を忘れるところだった。大事なのは数ではない、心だ!100人分の漢気を持って、遊矢を応援する!!」

 

 尚、スタジアムは5万人ぐらい入るので焼け石に水である。

 

「ところで、柚子は?」

 

「ん、おお、柚子は昨晩遊矢の家に泊まったよ」

 

「な、なにぃ!?」

 

 一緒に来ていないことを疑問に思ったので聞いてみるととんでもない答えが帰って来た。

 

「柚子が遊矢と一晩同じ屋根の下で……けしからん、けしからんぞぉ!!」

 

「なに変な事を想像してるのよ!!」

 

 顔を真っ赤にし、あれやこれやと想像して煙を出す権現坂。

 観客席に到着した柚子はむっつりな権現坂をハリセンで叩いた。

 

「そんなんじゃなくて、遊矢が心配だったから行っただけよ!!」

 

 そう、柚子が遊矢の家に行ったのはあくまでも遊矢が心配だからであり、それ以上もそれ以下も無い。

 とまぁ、否定するもののちょっとぐらいはそういう感じのイベントがあった方が良かったとは思ってもいる。一緒の布団で寝るというイベントを逃した罪は重いかもしれないぞ!!

 

「え~ホントなの?」

 

「本当は遊矢お兄ちゃんが何処かに行っちゃうのが怖かったからじゃないの?」

 

「なんですって?」

 

「うっ……痺れるぐらいに怖いぜ、柚子姉ちゃん」

 

「柚子、お前が此処に居るってことは遊矢は」

 

「ちゃんと一緒に来たわよ」

 

「あの子なら控え室にいるわ」

 

 遅れながら到着する洋子おばさん。

 遊矢は無事会場入りすることが出来た事を聞き、一先ずはホッとする一同だった。

 

 

「今日の遊矢は、スゴいわよ」

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「やっと最近、eスポーツが認められたり地上波で放送されたりするレベルになったのにあの観客数」

 

 柚子と恋人手を繋ぎ、スタジアムの控え室にやって来た。

 原作通りピエロの格好をするのは面倒なのでしない。そもそもやる必要性は無いと思う。

 

「あ~胃が痛い」

 

 完全にアウェイのフィールドで戦わなければならない。

 こういうときにプロは凄いと思う(ダメ親父は別)。アウェイでもフェアウェイのフィールドでも戦い抜いているんだから。OCG次元でもあのレベルの客はいないぞ……セ■■ンさんは毎年、世界と戦っていて周りからの期待に応えてたり驚かせたりしてたんだよな、やってんの遊戯王じゃなくてポケモンだけども。

 

「間もなくスペシャルマッチです。アップの方をお願いします」

 

「デッキの確認をしておくか」

 

 試合前のアップをしろと係員に言われたので、俺はデッキケースからデッキを取り出す。

 今回持ってきたのは全盛期のEMEmとアークペンデュラムとか猿が投獄されて以降に作られたカードを搭載したデッキ……なんてエグいものでなく、ペンデュラムデッキだ。

 まぁ、マスタールール3の時点でペンデュラムはエグい動きをするんだが。

 

「このデッキ、使ったこと無いんだよな」

 

 デッキに入れているカードを見る。

 転生特典でカードを沢山貰ってはいるものの、使ったことの無いテーマが割と多い。炎星とか竜星とかインフェルノイドとかシャドールとかヴェルズとか。

 今回使うデッキはペンデュラムデッキで、比較的安価で作ることが出来るのだが作りたいと思っていなかったので作っていなかった。OCG基準じゃそんなに強くないデッキである。

 

「数年間まともに使ってなくてリンク召喚当たり前でエレクトラム前提のデッキ多かったからミスしないかどうか」

 

 デッキを作ったはいいが使う機会が無いので使ってないデッキも多数ある。

 それに加えて前世でも見たことの無い型のデッキ。EMEmとか影霊HEROとか何処の大会に行っても見る感じのデッキだったら回し方は分かるんだが、これ本当に見たこと無い型だからな。

 

「お時間です」

 

「さて、遊戯王をしにいくか」

 

 ポケットに入れているハーモニカを取り出し、俺はフィールドに向かう。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

『時を遡ること三年前!

現チャンピオンであるストロング石島がまだチャンピオンでなく、前チャンピオンである榊遊勝に挑戦権を得て、タイトルマッチに挑んだ!』

 

「徹底的に遊矢を使うつもりね……遊矢、絶対に勝ちなさい!!」

 

 話題性を盛り上げる為にもと三年前の事を出すMCニコ・スマイリー。

 洋子さんはそれに苛立ち、そちらがそのつもりならばとまだ出てきてない遊矢を応援する。

 

『しかし、皆様御存知の通りそのタイトルマッチは行われなかった。

榊遊勝が姿を消し、スタジアムに来なかった為に……しかしその時、1人のデュエリストが現れました!』

 

「あ、出てきたわ!」

 

「遊矢、絶対に勝ってくれええええ……って、いつもと違う?」

 

 控え室からフィールドに出てくる遊矢。

 その手にはハーモニカが握られており、Future Fighterを吹きながら出てきた。

 

『その名は榊遊矢!!榊遊勝の』

 

「ニコ・スマイリー!」

 

『え、あ、はい?』

 

「此処に居るのは、榊遊勝でも榊遊勝の代わりでも、榊遊勝の息子でもない!1人のデュエリストだ!!それ以上はよせ!!」

 

『わ、分かりました』

 

 盛り上げようとしたニコに切れるストロング石島。

 遊矢を1人のデュエリストとして見ており、背負っているものは関係無いと扱う男気を見せつけ、会場を沸きだたせる。

 

「すまないな」

 

「あんたは悪くはない。巡りめぐって父さんが悪い」

 

「いや、オレはあの時、お前とのデュエルを怒りに身を任せて断るだけでなく会場から追い出してしまった。

榊遊勝との決戦を挑むことは出来なかった。望まぬ形とはいえチャンピオンとなってしまったオレはチャンピオンとしての責務を、デュエリストとして挑まれたデュエルを拒んでしまった!!その時の事を謝らせてもらいたい」

 

「お、おぅ……」

 

 ストロング石島の良い人っぷりに、遊矢は引いてしまう。

 デュエリストとして当然のことをしなかったのだから仕方ないのである。本当に榊遊勝が作った罪や傷は大きい。

 

「今日はファン感謝デーで、何時もならばファンを楽しませるデュエルをする。

だが、今日は違う!榊遊矢、お前を1人のデュエリストとしてチャンピオンとして倒す!!」

 

「そうか……」

 

 長々と言ったものの、真剣勝負するぞである。

 

「あの時、あんたに挑んだ時とはかなりデッキの構成は異なっているが、文句は言うなよ」

 

「そんなこと、構わない。

デュエリストとは一分一秒、常に進化し続けるものだ!」

 

「……」

 

 やっぱこういうノリは苦手である。

 

「もう、良いか?」

 

「ああ、もう良いぞ」

 

 私情を挟んで遊矢を指名したもの今日はファン感謝デー。

 カッコいい事を言ったりカッコつけたりしないといけない。そして場は盛り上がり、気付けば遊矢が卑怯者の息子云々をハッキリと言う奴は出てこず、遊矢とのデュエルはまだかとウズウズしている。

 

『さて、先ずはアクションフィールドを!

本来ならばファンの方に選んで貰いますが、今回ストロング石島は真剣勝負を望みますので文字通りランダムに!先攻、後攻もランダムとさせていただきます!』

 

 司会のニコの声と共に起動するリアルソリッドビジョンシステム。

 無数のアクションフィールドカードがランダムに動いていく。

 

 

 今と全く関係無い事で、凄くどうでも良いことだが沢渡がペンデュラムカードをパクって遊矢にアクションデュエルを仕掛けた際のアクションフィールドが選ばれるシーンでダークゾーンとかがあり、アクションフィールドとしての効果以外にもフィールド魔法と同じ効果も持ってたりしたが、そんなもんは最初から無かったと無かった事にされてたりする!!

 

『フィールドは辺境の牙王城!』

 

 選ばれたフィールドは辺境の牙王城。

 原作通りであり、リアルソリッドビジョンが展開されてゆき巨大な城を中心に大量の森林が出現していく。

 

「え~と……」

 

 塾生が少ないのと本人がアクションデュエル嫌いなのであんましていない遊矢。

 とりあえずはフィールドを覚えるついでに手頃な場所は無いかと辺りを見回す。

 

「おいおい、アクションカードはまだないぞ」

 

 アクションカードの場所を探していると思うストロング石島は一言言うが、そうではない。

 互いにデュエルディスクを取り出し、電源を入れるとデッキケースからデッキを取り出してセットする。

 

『戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!!』

 

「「「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!!」」」

 

『フィールド内を駆け巡る!!』

 

「「「見よ、これぞデュエルの最強進化系、アクショ~ン!!」」」

 

「「デュエル!!」」

 

 ニコと観客達の口上が開幕の狼煙となり、遊矢とストロング石島の決闘の言葉と同時にアクションカードが散りばめられる。

 

「え~と……あ~、うん」

 

 先攻はストロング石島に決まり、手札を確認する遊矢。

 割と微妙な手札でなんとも言えず、ドローカード次第では停滞したデュエルをしてしまうんじゃないかと残念そうな顔をし

 

「よっこいしょっと」

 

 直ぐ近くにあった岩に座った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊戯王は座りながらプレイするものです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルールとマナーを守って、楽しくデュエル!!




OMKフェイズ(ギャグなので特に気にしない)

遊矢「う~ん、ストロング石島があんな格好だし、こっちもなんか衣装を用意した方が良いんじゃないかな」

権現坂「成る程、形から入るのも1つの手だ」

遊矢「なんか良い衣装とかある?」

権現坂「自身が使うモンスターやそれに関連する衣装はどうだ?」

遊矢「俺、デッキコロコロと変えるし服装でバレるのはちょっと」

権現坂「では、浪人風の衣装はどうだろう?果てしないデュエルの道を突き進むとして」

遊矢「それ沢渡と被ってて噛ませ犬臭がするから嫌だ」

権現坂「ならば、父である榊遊勝と同じマジシャンの衣装を!」

遊矢「俺、あの格好に良い思い出は無いんだよ。父さん、授業参観とかプライベートでもあの格好だったし……」

権現坂「あの格好の何処に問題があると言うのだ?」

遊矢「そうだった……遊戯王世界で奇抜な格好とか見た目は別になんでもないんだった……」


次回予告。


カードゲームは立ってするもんじゃないと座り込んだ遊矢。

遊戯王の世界で、その行動は余りにも予想外の代物なもののプレイングには一切関係無い。

手札がなんとも言えないが、それでも負けるつもりはない。

試合に勝った時のギャラで遊勝塾を支援する為にも、遊矢は振り子を大きく揺らし、燃やす。


次回、遊戯王ARC-V【燃えろ魂のペンデュラム!】にガッチャビングデュエルアクセラレーション!!


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燃えろ魂のペンデュラム!

頑張ればズァークだって召喚出来る。
ファン感謝デーという大舞台で4つの異なる召喚をする……あれ、やばくね?


「おい、なにを座り込んでいる!」

 

 アクションカードをそこまで必要とせず、困ったら回避や奇跡を使うプレイを好まないので近くにある手頃な岩に座ると驚くストロング石島。

 

「別に良いだろう」

 

「良くはない、デュエル中だぞ!!」

 

 デュエル中だから座るんだろう。ルールやマナーを守って楽しくデュエルというコンマイからの通達を知らんのか……肝心のコンマイはスリーブを売っててスリーブをつけないとダメだと公式大会でルールになってんのにスリーブをつけて遊ぶものじゃないと推奨してるけども。

 

「ああ、そうだな。だが、デュエルは座ってても出来る筈だ」

 

「真剣勝負だということを忘れたのか!?」

 

「なにを言い出すかと思えば、デュエルをするのに必要なのはカードとデュエリストだけ。

デュエルディスクやソリッドビジョンはただのおまけに過ぎない。まぁ、あった方が面白いと言えば面白いが、デュエルモンスターズが出来て間もない頃は座ってやるのが当たり前だっただろう」

 

 因みにだが、デュエルディスクは結構重い。

 権現坂と付き合い体育会系の塾長のお陰でデュエルマッスルは鍛えられてはいるものの、重い。

 音もなにも出ない玩具のデュエルディスクでさえ結構重く、その中に小型とはいえカードを読み取る機能やソリッドビジョンシステムなんて搭載したら重くなるのは当然である。

 別にデュエルディスクを持ったままデュエルが出来ないわけじゃないが、こっちの方が馴れている。

 

「確かに、お前の言うことには一理ある。だが、お前は遊勝塾のデュエリストで、父は」

 

「さっき自分で言ったことを忘れたのか?」

 

「……そうだったな!先攻はオレからだ!」

 

『え、ええっと……チャレンジャー榊遊矢選手がいきなりのハプニングを起こしたものの、デュエルは続行!さぁ、どの様なデュエルを見せてくれるのか!!』

 

 下手すれば暴動が起きかねない行為だが、俺はデュエリストじゃないので知らん。

 ニコの実況と共にストロング石島はデュエルをはじめる。

 

「オレは魔法カード、手札抹殺を発動!」

 

「え、ちょ!」

 

 アクションデュエルでそのカードはあきまへん、あきまへんで!!

 余りにも予想GUYで尚且つ凶悪なカードが出てきた事に驚いてしまい、若干だが出遅れてしまうものの俺は直ぐに立ち上がりアクションカードを拾いにいく。

 手札抹殺は持ってる手札全てを捨てて、捨てた枚数分ドローするカード。墓地肥やしと手札交換が出来る制限カードだが

 

「アクションカードを拾いに行かないと!!」

 

 このカードは効果を発動し、効果処理で墓地に送るカード。

 故にアクションカードを手札に加えて墓地に送ることが出来る……カードの効果処理中に手札にアクションカードを加えるのは出来ないとかやってくれないかな。

 

「どうしたデュエルは座ってでも出来るんじゃなかったか?」

 

「っぐ……」

 

 アクションカードを使い手札を増やす。

 ストロング石島の手札は5枚、俺の手札は6枚……う~ん、またなんとも微妙な手札だな。このデッキ、墓地肥やししてもそんなに意味ないし、ドローカードに賭けるしかないな。

 それはそうと煽られたことが、めっさ恥ずかしい。さっきまで変にカッコつけてた自分を消したい。

 

「オレはライフを1000払い、魔法カード、簡易融合(インスタント・フュージョン)を発動!!」

 

 ふぁっ!?

 

 ストロング石島 LP4000→3000

 

 ドローしたカードの中から余りにも予想外のカードが出てきたので、驚く。

 おかしいぞ。ストロング石島、バーバリアンキングがメインのデッキな筈だぞ。

 

「ふっ、驚くのも無理はない。

融合やエクシーズを教えるデュエル塾は数が少ない。オレもLDSのイメージキャラクターにならなければ、このカードは使うことは無かっただろう」

 

 ああ、そう言えばそうだったな。

 

「このカードはエクストラデッキにあるレベル5以下の融合モンスターを特殊召喚する!ただし、この効果で特殊召喚されたモンスターは攻撃できず、エンドフェイズに破壊される!王座を守護せし魔と剣技を極めし者よ、一時のみ姿を現せ!魔導騎士ギルティア!!」

 

 簡易融合とかいうロクでもないカードを使ってきたので驚いたものの、出てきたカードを見てホッとする。

 初期の方に出てきたカードで、専用のサポートカードもなにもない極々普通のカード。恐れることはない……と言いたいが、簡易融合をはなんかの素材に使う為に使うから、そこからなにかが出てくるのは確かだ。

 

「更に手札のバーバリアンキングを墓地に送り、ハードアームドラゴンを特殊召喚!」

 

 クソ、こういう時に限って増Gが手札に無い!

 

「オレはハードアームドラゴンと魔導騎士ギルティアをリリース!

密林の奥地から巨木をなぎ倒し、現れるがいい!!未開の王国に君臨する蛮族の王。バーバリアン・キング!!」

 

 バーバリアン・キング レベル8 地属性 戦士族 攻撃力3000

 

「更に蛮族の狂宴Lv5を発動!

手札、墓地からレベル5の戦士族モンスターを2枚まで特殊召喚することが出来る。

代わりに特殊召喚されたモンスターの効果は無効となりこのターンは攻撃できないが、先攻で攻撃する事は出来ない。

オレは墓地にいる魔導騎士ギルティアとバーバリアン2号を特殊召喚!」

 

 魔導騎士ギルティア レベル5 光属性 戦士族 攻撃力1850

 

 バーバリアン2号 レベル5 地属性 戦士族 攻撃力1550

 

「オレは魔導騎士ギルティアとバーバリアン2号でオーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!!現れろ!海に潜みし野獣の戦艦、シャーク・フォートレス!!」

 

 シャーク・フォートレス ランク5 水属性 魚族 レベル5モンスター×2 ORU2 攻撃力2400

 

「エクシーズまで……」

 

 融合だけじゃなくエクシーズまで口に出していたので、薄々感づいてはいたがやって来るか。

 

「ターンエンドだ!!」

 

『これは凄まじいコンボだ!1ターンで攻撃力3000のモンスターに加え、2400。

エースであるバーバリアン・キングを召喚する際に使用したハードアームドラゴンはアドバンス召喚に使用した際にアドバンス召喚したモンスターに効果破壊されない効果を付与する効果持ち!!』

 

 もっと言えば、シャーク・フォートレスが居る限りは他のモンスターに攻撃はできず、自分フィールドのモンスターを2回攻撃出来る様にする効果を持っている。

 効果破壊されなくなったバーバリアン・キングにその効果を付与して攻撃。それで倒せなくてもシャーク・フォートレスで攻撃。それでも無理なら、また蛮族の狂宴Lv5を引き当てて、シャーク・フォートレスの2回攻撃付与効果のコストで落ちたモンスターを特殊召喚して、バーバリアン・キングで3回攻撃。

 

「俺のターン、ドロー……」

 

「どうやら余り良いカードを引けなかったようだな」

 

「ああ、そうだよ。

俺はドローしたカードこと、王立魔法図書館を攻撃表示で召喚!!」

 

 キーカードが来ないから、これに賭けるしか無い。

 

 王立魔法図書館 レベル4 光属性 魔法使い族 攻撃力0

 

「攻撃力0……いや、待て。確かそのモンスターは!」

 

 俺の周りに出現する図書館(内部)

 攻撃力0を見て、なんの真似だと呆れるが直ぐにこのカードの効果を思い出す。

 

「ああ、このモンスターは魔法カードを発動すれば魔力カウンターが1つ乗っていく効果を持っている。

俺は召喚師のスキルを発動!デッキからレベル5以上の通常モンスターを手札に加える。俺はイグナイト・ライオットを手札に加える。王立魔法図書館に魔力カウンターが1つ乗る。

手札に召喚師のスキルは後二枚あるので、二枚発動!イグナイト・キャリバーとイグナイト・デリンジャーを手札に加える。これにより王立魔法図書館の魔力カウンターが3つとなったので効果を発動!魔力カウンターを全て取り除き、1枚ドロー……よし、来た!!」

 

「なにをドローしたかは知らないが、お前は既に通常召喚をしている。

更に召喚師のスキルで手札に加えれるカードはレベル5以上の通常モンスター!例え二重召喚を引き、王立魔法図書館をリリースしてサーチしたイグナイトモンスターをアドバンス召喚しても、バーバリアン・キングは越えられまい!!」

 

「お楽しみは、これからだ!!」(プレミするかもしれないから、余計な声を出すな)

 

 まだこのデッキのソリティアは続く!!

 

「俺は魔法カード、テラフォーミングを発動。デッキからフィールド魔法を手札に加える!

俺が手札に加えるのはイグニッションPで、王立魔法図書館に魔法カウンターが1つ乗り、そのままイグニッションPを発動!これにより2つ目の魔力カウンターを乗せる!!」

 

 王立魔法図書館のお陰により、大きく動く、動くぞ。

 あんま見ない感じのテーマだから使えるかどうか心配だったが、これならばいける……筈だ。

 此処が一番大事だと乱れた呼吸を整えるとペンデュラムが光を放ち、やるんだと覚悟を決めてカードを手に取る。

 

「俺はスケール2のイグナイト・キャリバーをペンデュラムスケールにセッティング!!」

 

 デュエルディスクのモンスターを置くスペースの端の更に端にイグナイト・キャリバーをセット。

 光の柱が1つだけ出現し、中には半透明で足元に数字の2が出ているイグナイト・キャリバーがいる。

 

「なんだこれは!?」

 

 本当になんなんだろうな、これって。

 遊戯王で主人公達が手元にないけどエクシーズとかシンクロとかする際にカードを創造する事は度々あったものの、ペンデュラムに関しては召喚方法どころかルールそのものに介入してきている。

 ペンデュラムモンスターをデュエルディスクに置いた瞬間に今まで無かったペンデュラムスケールのゾーンが出てきた。

 

「2つあるペンデュラムゾーンにペンデュラムモンスターをセットすることで、1ターンに1度、セットされたペンデュラムモンスターに書かれたペンデュラムスケールの間のレベルのモンスターを特殊召喚出来る!!」

 

「なんだ、その召喚は!?

いや、その話が本当ならば、何故もう1つのペンデュラムゾーンにモンスターをセットしない!」

 

 流石は遊戯王世界。

 聞いたことの無いカードでも、俺が知らないだけとかそんなんで受け入れ普通にデュエルを続行してくれる。

 

「ペンデュラムモンスターはペンデュラムゾーンにセットされている時は魔法カードとして扱うからだ!」

 

「魔法カードとして……まさか」

 

「そう。イグナイト・キャリバーをセットした事により王立魔法図書館の魔力カウンターを1つ追加!!

 

3つとなったから効果を発動して、更にドロー!まだまだ続くぞ!」

 

 とにもかくにもぶん回す。

 

「イグナイト・デリンジャーを赤のペンデュラムゾーンにセッティング!1つ目の、魔力カウンターを置く!

更にイグナイト・デリンジャーの効果を発動!もう片方のペンデュラムゾーンにイグナイトモンスターがセットされている場合、ペンデュラムゾーンを破壊して炎属性戦士族のモンスターをデッキ・墓地から手札に加える。

俺はデッキからイグナイト・ドラグノフを手札に加えてイグナイト・ドラグノフをセット、王立魔法図書館に二つ目の魔力カウンターを置いてイグナイト・ライオットをセットして三つ目の魔力カウンターを置いて、王立魔法図書館の効果を発動してドロー。

更にイグナイト・ライオットの効果を発動。もう片方にイグナイトモンスターがいる場合、ペンデュラムゾーンを破壊して炎属性戦士族モンスターを、イグナイト・マスケットをデッキから手札に加える!!

手札に加えたイグナイト・マスケットをペンデュラムスケールにセッティングして1つ目の魔力カウンターを置く!更にイグニッションPの効果を発動!!イグナイト・マスケットを破壊し、イグナイト・キャリバーをサーチ!イグナイト・マスケットをセットして、これにより二つ目の魔力カウンターが置かれ、イグナイト・ライオットの効果を発動。自身とイグナイト・キャリバーを破壊し、三枚目のイグナイト・マスケットをサーチ。二枚目のイグナイト・マスケットをペンデュラムスケールにセット、これにより王立魔法図書館に三つ目の魔力カウンターが乗り、俺は効果を発動しカードを1枚ドローする」

 

「そこまでドローをしているのに、カードが来ないのか?」

 

「いや、もうあんたを倒せるコンボは出来てる感じだけど……ちょっと、ロマンに走ったり満足したいんだ」

 

 ストロング石島を倒せる所までは居る。だが、どうせならばオーバーキルしたい。

 別にやらなくても良いのにオーバーキルをしたいと思うのは遊戯王プレイヤーならば当然の事であり、とにかく出来るところまで頑張りたい。

 

「シャーク・フォートレスとハードアームドラゴンでアドバンス召喚をしたバーバリアン・キングを撃ち破るだと?さっきから墓地のカードを増やしているだけでなにも変わっていない」

 

「それはどうかな?俺の墓地やデッキをよく見てみろ」

 

 俺のやっていることに些か理解を示さないストロング石島。

 俺でなくデュエルディスクに目を向け、俺のフィールドを確認する。

 

「墓地の量と破壊したカードの数が合わない、どうなってやがる!?」

 

「エクストラデッキをよく見てみな。

ペンデュラムモンスターはフィールドで破壊されると墓地に送られず、エクストラデッキに表側表示で置かれる……よっこいしょっと」

 

 ここから先はアクション要素皆無なので手頃な大きさの岩に座る。

 プロでもアマチュアでもそうなんだが、アクションカードをピンチになるか必要になった時にやっと取りに行こうとする傾向にある。

 既に詰みかけに近い状態だが、奇跡や回避、それに効果無効系のアクションカードを拾えば一発逆転のチャンスがあるのにストロング石島は拾いにいかない。俺はそこまでだし、そんなに好きじゃないからしないが、OCG次元のガチ勢がやったら開始と同時に走り出すぞ。

 

「え~と、エクストラには……よし、よし。

手札の三枚目のイグナイト・マスケットをセット、王立魔法図書館に1つ目の魔力カウンターが乗る。そしてイグナイト・マスケットの効果を発動し、二体のイグナイト・マスケットを破壊してイグナイト・マグナムをサーチ。

俺は速攻魔法!竜呼相打つを発動!!デッキから竜剣士ペンデュラムモンスターと竜魔王ペンデュラムモンスターを1枚ずつ選び、相手に見せる。そしてその内のどちらかを相手にランダムに選ばせ、選ばれたカードをペンデュラムゾーンにセットするか特殊召喚することができ、選ばれなかったカードはエクストラデッキに表側表示で置く!」

 

 エクストラを確認し、まだまだやれると竜呼相打ちを使う。

 さっきからずっとイグナイトをぶん回してたせいもあり、異なるカードが出てきたと驚くがまだだ。まだ、準備の段階なんだ。

 

「右手に持っているカードを選ぶ!!」

 

 ビシッと右手に持っているカードを選んだストロング石島。

 

「お前が選んだのは、竜剣士ラスターP!!このカードをペンデュラムゾーンにセット!そして選ばれなかった竜魔王ベクターPはエクストラデッキに表側表示で置かれる……魔法カードの発動をしたので王立魔法図書館に2つ目の魔力カウンターを置く!

魔法カード、増援を発動!デッキから二体目のイグナイト・ドラグノフを手札に加える。魔法カードを発動したから王立魔法図書館に3つ目の魔力カウンターを置く。三つ目の魔力カウンターが王立魔法図書館に置かれたので効果を発動し、一枚ドロー…今頃、増Gか。

俺は竜剣士マスターPを空いているペンデュラムゾーンにセットし、効果を発動!自分または相手のペンデュラムゾーンのカード1枚を対象として破壊する!俺は竜剣士ラスターPを破壊……ふぅ~」

 

 インフェルニティのソリティアと比べ、ミスをしても多少のリカバリーを出来るイグナイト。

 なんとか此処まで持ってくる事が出来た。ここからが正念場。ここからが最後の締めだ。

 

「俺はイグナイト・ウージーをペンデュラムゾーンにセット!!

イグナイト・ウージーのペンデュラムスケールは7!竜剣士マスターPのペンデュラムスケールは3!これでレベル4から6までのペンデュラム召喚が可能になった!!」

 

 やっと使うぞペンデュラム!

 

「揺れろ、魂のペンデュラム!天空に描け、光のアーク!!」

 

 俺の言葉と共に強く発光するペンデュラム。

 イグナイト・ウージーと竜剣士マスターPの間に光の穴が出現し、その中から4つの光がこちらに向かって飛んできた。

 

「ペンデュラム召喚!!現れろ!

竜剣士ラスターP!イグナイト・マスケット!竜魔王ベクターP!イグナイト・ドラグノフ!」

 

 竜剣士ラスターP レベル4 光属性 ドラゴン族 チューナー 攻撃力1850

 

 イグナイト・マスケット レベル4 炎属性 戦士族 攻撃力1400

 

 竜魔王ベクターP レベル4 闇属性 ドラゴン族 攻撃力1850

 

 イグナイト・ドラグノフ レベル4 炎属性 戦士族 攻撃力1400

 

『な、な、な、なんと!!

先程から未知のカード、ペンデュラムカードを使っている割にはなにもしないと思いきや、まさかの同時にレベル4のモンスターを召喚!?しかも、エクストラデッキに表側表示で置かれていたモンスター達を召喚しました!?』

 

「驚くのはまだ早いぞ!?」

 

『まだあるのですか!?』

 

「当たり前だ。散々、ソリティアをしていたんだから面白いものを見せてやる!!」

 

 ペンデュラムカードを見て、当初は驚いた観客達。

 王立魔法図書館でドローしてばっかなので、飽きられたりつまらなそうな顔をしていたりする。此処までソリティアしまくったんだから、面白いものの1つでも見せてやる。

 

「イグナイト・マスケットと竜魔王ベクターPでオーバーレイネットワークを構築!」

 

『こ、これは!?」

 

「召喚口上は特に考えていないがエクシーズ召喚!現れろ、昇竜剣士マジェスター(パラディン)!!」

 

 先ずはエクシーズ召喚!

 

 昇竜剣士マジェスターP

 

 ランク4 風属性 ドラゴン族 レベル4のPモンスター×2 ORU2 攻撃力1850

 

「エクシーズモンスター……」

 

「驚くのはまだ早い。竜剣士ラスターPはチューナー、そう言えばなにをするのか分かるか?」

 

「まさか、シンクロも使うのか!?」

 

「シンクロも使うじゃない。シンクロも使えるんだ!!

レベル4、イグナイト・ドラグノフにレベル4竜剣士ラスターPをチューニング!!

燃え盛れ、灼熱の刃!今こそ紅蓮の闘志を燃やし、暴れろその魂!!シンクロ召喚、爆竜剣士イグニスター(プロミネンス)!!……シンクロの口上なんかおかしいな」

 

 もうちょっと良い感じのシンクロ召喚の口上を考えたりした方が良いのだろうか?

 

 爆竜剣士イグニスターP

 

 レベル8 炎属性 ドラゴン族 チューナー+チューナー以外のPモンスター1体以上 攻撃力2850

 

「自分フィールド場のペンデュラムモンスターこと竜剣士マスターPを破壊し、爆竜剣士イグニスターPの効果を発動!

フィールド上のカード1枚を選択し、持ち主のデッキに戻す。俺が戻すのはストロング石島のエース!バーバリアン・キング!」

 

「ハードアームドラゴンの効果外効果の耐性の網を掻い潜って来ただと!?」

 

 イグニスターPの燃え盛る剣の一振りにより燃やされるバーバリアン・キング。

 熱さに苦しんだ末にストロング石島目掛けて飛び込み、デッキの中に戻っていった。

 

「破壊する事が出来ず、戦闘でも倒すのが無理ならば強制的に帰す!!それが一番だ!」

 

「っぐ……だが、まだシャーク・フォートレスが残っている。

シャーク・フォートレスの攻撃力は2400、イグニスターPで倒されマジェスターPの直接攻撃を受けたとしてもまだライフは700残る!」

 

「いいや、お前のライフは0になる!

イグニスターPの効果を発動!竜剣士モンスターをデッキから特殊召喚する!ただし、特殊召喚をしたモンスターはシンクロ素材には出来ない!現れろ、二体目の竜剣士マスターP!

そしてマジェスターPの効果を発動!オーバーレイユニットを1つ使い、エクストラデッキの表側表示となっている竜剣士ペンデュラムモンスターを特殊召喚する。ただし、特殊召喚したモンスターはエクシーズ素材にはできない!現れろ、竜剣士ラスターP!!」

 

 再び現れる二体の竜剣士。

 この時点で殴ったら終わりなんだが、ここまで来たらやらなければならない(使命感)

 

「竜剣士ラスターPと竜剣士マスターPを墓地に送り、エクストラデッキより剛竜剣士ダイナスター(パワフル)を特殊召喚することができる!出でよ、剛力とか言ってる癖に攻撃力の方が低い剛竜剣士ダイナスターP!!」

 

 剛竜剣士ダイナスターP

 

 レベル8 水属性 ドラゴン族 竜剣士ペンデュラムモンスター+ペンデュラムモンスター 攻撃力2000

 

「ふぅ……スッキリした」

 

 はじめてのデッキで、ここまで回すことが出来たことに大★満☆足。

 

『観客にいる皆さん、お忘れかもしれませんがこれはまだ榊遊矢の最初のターン、後攻で2ターン目ですが、最初のターンなのです!!

それなのに、それなのにペンデュラムという新たなる召喚から一気にエクシーズ、シンクロ、融合を行い我々の度肝を抜きました!!』

 

「バトルだ!爆竜剣士イグニスターPでシャーク・フォートレスを攻撃!!」

 

 剣に炎を纏い、飛び立つイグニスターP。

 シャーク・フォートレスはミニサイズのエアロ・シャークを出撃させるが切り刻まれていく。

 

「カードは……見事だ」

 

 攻撃の演出が終わるまでの間にアクションカードを拾うストロング石島。

 拾ったカードを見た後、満足した表情で目を閉じた。

 

 ストロング石島 LP3000→2550

 

「昇竜剣士マジェスターPで攻撃!!」

 

 ストロング石島 LP2550→700

 

「剛竜剣士ダイナスターPでとどめだ!!」

 

 ストロング石島 LP0

 

『し、試合終了!!スペシャルマッチ、まさかまさかの意外な結末を迎えました!!

新たなコンボを見せつけたストロング石島選手を榊遊矢選手が軽々と上回り、1ターンキルで勝利した!果たして、いったい、誰がこんな結末を予想したのでしょうか!!』

 

 異なる4つの召喚を1ターンで全て行い、その上で1ターンキルで勝利をした。

 ファン感謝デーに来ていた人達は盛り上がり、歓声を俺に浴びせる。

 

「俺はあんたみたいに馬鹿の1つ覚えに笑顔なんて言わない。

けどまぁ、あんたが最後の最後にやり残したことぐらいはやってやった……他の責任は取れよ」

 

 空を眺め、融合次元で遊勝塾を勝手に開いてのうのうとしている無責任な親父に向かって呟いた。




OMKフェイズ(ギャグなので特に気にしない+時系列は気にしない)

沢渡「お前、本当にアクションデュエルが苦手だな」

遊矢「アクションカード依存が苦手で、攻撃時にカード効果を発動できないデッキに片寄ってしまうな」

沢渡「おいおい、そんなデッキばっかじゃつまんねえだろ」

遊矢「とは言うものの、困ったらアクションカードに依存するデュエルもな。というか、デュエル自体はリアルソリッドビジョン無しでも出来るし、それを踏まえた上でのデュエルをすれば良いだけだ」

沢渡「そうはいかねえんだよ。
クイズフロンティアっつーアクションフィールドでは全てのアクションカードが使えばクイズが出題され、クイズに正解すればカード効果を使用することができ、答えなければ自分にダメージが与えられるんだよ」

遊矢「なんかそんなアクションフィールドがあったな……でも、俺、成績とか普通に良い方だぞ?」

沢渡「馬鹿野郎、勉強できたところで無駄なんだよ。
クイズフロンティアを得意とするデュエリストの中には更なるクイズカードを使ってくる奴がいるんだぞ?」

遊矢「更なるクイズって、大逆転クイズとか墓地のカードを当てるあのクイズだろ?」

沢渡「んなわけねえだろう。
永続魔法クイズ・アワーの事を言ってんだよ。
あのカードはな腕立て伏せ10回要求してきたり、一分間息を止めないといけなかったり、早口言葉を言わないといけなかったりするんだぞ!!」

遊矢「おかしい、俺はカードゲームをしているのに、なんでそんな事をしないといけないんだ」

沢渡「エンタメデュエリストだからだ!」

遊矢「絶対違う!」


次回予告


遊矢がストロング石島とのデュエルで勝ったから、こんなに入塾希望者が!

ペンデュラムカードが無いとペンデュラム召喚出来ないのと俺が自力で覚えたから4つの召喚が出来る、はい、解散。

ああ、折角の入塾希望者達が!?

どんだけペンデュラム目的なんだよ。専用のカテゴリーで構築しないと使い物にならないぞ。

確かに、そうだけど……

そう落ち込むな。タツヤはちゃんと入塾してくれるし金ならほら、ストロング石島とのファイトマネーがある。

遊矢、こんなに貰ってたの!?

ニコがストロング石島に勝てないと思ってたから、ギャラを割高に要求してた。

本当にちゃっかりしてるわね。でも、これだけあれば遊勝塾の経営は。

お前達、俺が塾長だって忘れてない?……忘れてるよな?

次回、遊戯王ARCーV 【榊遊矢の目指せさいつよデュエリスト講座!】にガッチャビングデュエルアクセラレーション!!


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榊遊矢の目指せさいつよデュエリスト講座!

コンマイ語って難しいから、あってるかどうかわかんない。



「それで、どうなっている?」

 

 遊矢がストロング石島相手にソリティアをし勝利をした頃、レオ・コーポレーションの本社。

 社長である赤馬零児はLDSのイメージキャラクターであるストロング石島が指名した榊遊勝の息子である遊矢との一戦を見ていた。イメージキャラクターでチャンピオンがプロでもなんでもない奴に負けるのは色々と問題なので一応のチェックの為と単純に面白そうだとデュエリストの血が騒いだ為に見ていたのだが遊矢がイグナイトを使った事により場面は急転した。

 

「このエネルギー反応!シンクロでもエクシーズでも融合でもありません!」

 

 最近になり融合、シンクロ、エクシーズを教えだしたレオ・コーポレーションが経営するデュエル塾LDS。

 財力にものを言わせ、最高の設備や環境を用意しており人気No.1のデュエル塾で、生徒が昨年はジュニア、ジュニアユース、ユースの3つの部門を総なめにしたほど。

 そんなLDSが、レオ・コーポレーションが全くといって知らない、聞いたことの無い召喚のエネルギーを感知した……

 

 

いや、召喚のエネルギーってなんだよ?

 

 

 

 

 リアルソリッドビジョンシステムを使ってのデュエルだけども、召喚のエネルギーってなんだよと思うが気にしてはいけない。

 シンクロ召喚のエネルギーで動く永久機関とかあるのが遊戯王世界なんだからツッコミを入れていたらキリが無い。

 

「ルールの方も変わっており、フィールドにペンデュラムゾーンと呼ばれるゾーンが出現しました」

 

 見知らぬ未知のカードならばまだしも未知の召喚方法に加えて、ルールの書き換えまで行ったので驚くしかない。

 零児の側近こと中島はルールブックやフィールド等を確認し、何時の間にか変わっていると言う……のだが、それだけである。

 

 

 デッキに入ってないカードを創造したり、カードのテキストを書き換えたりして使用しても特に怒られない、それが遊戯王世界。

 

 

 シュトロームベルクの金の城と7カードはどうなんだって?怒られるかどうかの基準はデュエリストとしての誇りを汚したらダメであり、それ以外は特に怒られないんだ。

 

 

 

 

「このペンデュラム召喚を行った彼の情報を!」

 

 ルールの書き換えを気にしない零児。

 ペンデュラムの解析をしたいので先ずはと遊矢の情報を目の前にある管制室の巨大なモニターに映し出す……おい、個人情報勝手に見るな。

 

「榊遊勝の息子の榊遊矢。

一昨年舞網チャンピオンシップのジュニアクラスで準優勝した柊柚子の幼馴染みで、本人は舞網チャンピオンシップに出場はしていない。今年の公式戦の成績は、たったの2試合だと!?」

 

 遊矢のプロフィールを見て、驚く零児。

 

「牙を隠していたのか?」

 

 目立った経歴もなく今年の公式戦、2連勝こそしているものの相手の内一人は同じ塾の柚子。

 ジュニアクラスで準優勝した柚子に勝てる実力、榊遊勝の息子、晴れ舞台で見せた4つの異なる召喚からの1ターンキルから推測し、今まで本気を出そうとしていなかったデュエリストだと結論付ける零児。

 

「社長、どうなさりますか?」

 

「ペンデュラム召喚に関するデータを」

 

「それなんですが、ペンデュラムスケールにセットしては破壊を繰り返していましたので、断続的なエネルギー反応しかなく、最後のペンデュラムでのエネルギー反応ぐらいしかサンプルが」

 

「っく……」

 

 雑な説明しかしていないペンデュラム召喚。

 一刻も早くそれがなんなのかを調べたいものの、スケールにセットしては破壊してエクストラを肥やすのを延々と繰り返すのがイグナイトの基本であるために観測しようとした途端にペンデュラムスケールから居なくなる現象が起きてしまったのだ。最後のペンデュラム召喚の時だけでもエネルギーの観測がちゃんと出来たのが救いだが。

 

「社長、榊遊矢からペンデュラムカードを回収しますか?」

 

「それはならん。彼はあの榊遊勝の息子であり、ペンデュラム召喚を造り出した張本人だ。

更に加えればエクシーズ、シンクロ、融合の3つの召喚を、いや、ペンデュラムも加えれば4つの召喚を1ターンで使っていて、それでも余力を残している」

 

「余力、ですか?」

 

 1つの召喚法を極めるだけでも一苦労な筈なのに、これだけやってもまだまだ全力じゃないとはとても思えない中島。

 

「墓地に眠るカードは数少ない上に、墓地から使えるカードも無い。だが、まだ手札は残っている」

 

 ストロング石島とのデュエルではあえてエクシーズ、シンクロ、ペンデュラム、融合の4つを出すのを優先した。

 だが、遊矢の手札は残っていた。手札が1枚でもあればそこから形勢逆転出来るのがデュエリスト。遊矢の手札は残っており、まだやろうと思えば色々と出来た筈だと結論付ける。

 

「彼の持つペンデュラムカードは確かに魅力的だが、それを取り上げれば彼自身が弱くなる。

彼は我々の求めている槍となるには充分な強さを持っているデュエリストだ。カードを取り上げ、私達が弱くするわけにもいかない」

 

「では、そのままに?」

 

「中島、公式戦のデュエル、柊柚子ともう一人は誰だ?」

 

LDS(うち)に所属している沢渡で、1ターンで敗北しております」

 

「LDSの生徒か……面白い」

 

 良からぬというか傍迷惑な事を考える零児のメガネがキラリと光る。

 ペンデュラムとはどの様なものなのか、榊遊矢の全力はいったいどれ程のものかを試そうとしているのだが、さっさと辞めておいた方がいいぞ、零児。

 

 

 常に安全地帯に座りっぱなしにいるお前の事を苦手としており、これから先、どんどんとお前に対する好感度が落ちていくイベントがあるのだから。それよりも今すぐにお前が直接向かえば良いだけなんだ!

 

 

 なんだったら遊勝塾の向かい側にLDS直営のカードショップを開いて、そこでデュエル教室的な事をやり、遊勝塾を閑古鳥にし経済的に追い詰めれば楽にペンデュラムカードを手に入れられる!

 

 

 そんな世界からか超天新龍オッドアイズ化したズァークからかの叫びは零児の耳には響かない。

 

 

 

 

 

 

 まぁ、向かい側に遊勝塾を潰す為だけに店を作ったりすれば天ノ河リュウセイの如く店を潰しに遊矢くんがデュエルをしにくる。無論、賭け金は遊勝塾とペンデュラムカードである。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ……ふふふふ」

 

 遊矢が未知のペンデュラム召喚を使い、更にエクシーズ、シンクロ、融合の異なる召喚でストロング石島に勝利した翌日。遊勝塾には沢山の入塾希望者がやって来た。

 その光景を見て私は笑みが止まらない。おじさんが居なくなる前のあの頃と同じ、いや、それ以上の入塾希望者がやって来たのよ!!

 この人達が入塾してくれれば、衰退の一途を辿っていた遊勝塾(の経営)が復活するための大きな一歩が踏み出せるわ!!

 

「遊矢兄ちゃん、何処でなにやってんだよ。皆、痺れるぐらいに待ってるのに」

 

「それを言うなら、痺れを切らすぐらいでしょ……でも、遊矢お兄ちゃんなんでいないの?」

 

「用事があるって言ってたから遅れるって……なんの用事かしら?」

 

 主役の遊矢が遊勝塾に来ていない。

 遊勝塾のモットーであるエンタメデュエルのデモンストレーションをするためにも、遊矢の力が必要なのに。

 

「柚子、このままだと入塾希望者達が痺れを切らす。ここは俺とお前の熱血エンタメデュエルで」

 

「ダメよ。皆、遊矢を待っているんだから」

 

 遊矢が居ないから、自分とデュエルをしようと提案をするお父さん。

 今回の主役は遊矢、主役が不在のエンターテイメントなんて絶対にありえないわ。

 

「あ~なんか思ったよりも多いな」

 

「遊矢、遅いぞ。いったい何処に行ってたんだ!」

 

「ちょっとニコのところに……それよりも多いな」

 

「ああ、全盛期を上回る程の入塾希望者がやって来た!!

それもこれもお前が見せた、あのペンデュラム召喚と3つの召喚のお陰だ!!」

 

「……」

 

「遊矢?」

 

 遊矢を称えるお父さんだけれど、余り良い顔をしない遊矢。

 鞄からカードが入ったクリアケースを取り出し、待ってくれている入塾希望者達の前に出た。

 

「やっとか!」

 

「待ってたぜ!」

 

「昨日のデュエル、凄かったぜ!!」

 

 遊矢が登場し、大喜びをする入塾希望者。っと、私もいかないと!

 

「お待たせしました!今から遊矢と私、柊柚子の」

 

「ストップ、ストップだ。柚子、詐欺るのはダメだって」

 

「エンタメデュエルをお見せって、なにをしてるの?」

 

「なにをじゃない、なにをじゃ。はい、榊遊矢の目指せさいつよデュエリスト講座!どんどんぱふぱふ~」

 

 遊矢とデュエルをし、大きく盛り上げて入塾希望者達の熱を上げようとしたらそれを止める遊矢。

 実技じゃなく講義がはじまり、遊矢はアクリルケースに入った紫色のカードの融合のカードを取り出す。

 

「はい、柚子。この紫色のカードとこの魔法カードの説明をしてみろ」

 

「ええっ!?」

 

「いいから、とっととしろ。お前自身がちゃんと勉強をしてるかどうかの確認だ」

 

 ちゃんと勉強をしてるかどうかって、渡されたの一昨日なんだけど?まぁ、良いわ。

 

「紫色のカードは融合モンスター!

メインデッキとは別のエクストラデッキのカードで、融合カードを使って融合モンスターに記載されたモンスターを手札やフィールドから墓地に送り、融合召喚する事ができる!」

 

「融合に対して昇天の黒角笛は使うことは?」

 

「……」

 

 昇天の黒角笛は特殊召喚を無効化するカウンター罠だったから……

 

「無効に出来るわ!!」

 

「あれは特殊召喚を無効で特殊召喚する効果の無効じゃないから出来ない」

 

「そ、そうなの!?」

 

「これ、融合の基本中の基本だぞ。

昇天の黒角笛は自分フィールド上にモンスターが居なければ特殊召喚出来るとかの主に自らを特殊召喚するチェーン組めない効果での特殊召喚を無効にするもので、融合は召喚までが効果処理で、召喚に成功した後だから無効に出来ない。奈落の落とし穴とかの成功時に使えるカードは使える」

 

 そうだったの……。

 

「因みにだが昇天の黒角笛はペンデュラム召喚には対応しているかいないか、どっちだ?」

 

「いきなり!?……ええと、ペンデュラム召喚はペンデュラム召喚をするって宣言をしてから召喚するもので、宣言をしただけでその時にはカードはなにも使っていないし、宣言をした時はもう相手はカードの発動のタイミングを逃しているから……ペンデュラム召喚に対して昇天の黒角笛は発動出来るわ!!」

 

 まさかのペンデュラムの問題が出てくるとは思ってもみなかったけれど、さっきの融合の件で学習出来たわ。

 ペンデュラム召喚はチェーンに乗らない特殊召喚の一種。だったら、使える筈よ!

 

「答えは発動出来る時もあれば発動出来ない場合もある……つまり、答えは時と場合による」

 

「ちょっと、それ卑怯じゃない!?」

 

 どっちを答えてもハズレじゃない!!

 

「ヴァカめ、遊戯王…じゃなかったデュエルモンスターズは大体そんな裁定が多いんだよ。

ペンデュラム召喚はチェーンの無い特殊召喚で、一度に同時の特殊召喚を行う。

ペンデュラム召喚で1体だけモンスターを召喚した時は発動出来て、ペンデュラム召喚で2体以上召喚した場合は発動出来ない。あくまでも昇天の黒角笛はモンスター1体の特殊召喚を無効にするだけで、モンスターの2体以上の特殊召喚を無効にできない」

 

 遊矢の引っかけ問題に引っ掛かっちゃった……。

 チラリと目をやると入塾希望者達や後ろで見ているアユちゃんやフトシくん、それにお父さんは煙を上げている。

 

「因みにだがペンデュラム召喚に対して奈落の落とし穴を使った場合は奈落の落とし穴の発動条件である攻撃力1500以上のモンスターのみ破壊されて除外され、1500以上のモンスターが複数いれば複数破壊され除外される。神の宣告とかの召喚無効系のカードを使った場合は全部破壊される……ついてこれてなくてもまだまだやるぞ~」

 

 今回は黒いカードとカイエントークンカードを出す遊矢。

 私の方をチラリと見たから、答えろって事なのよね?

 

「黒いカードはエクシーズモンスター。

レベルを持たないモンスターで、レベルの代わりにランクを持っていて……え~と……」

 

「なに、レベルが無いならばレベル0ではないのか!?」

 

「違うわ!……そう、それよ!

レベルが無いからレベルに関する効果、例えばレベル制限B地区や下克上の首飾りなんかの効果は受けないわ!」

 

 私の幻奏と相性が良いのは融合で、その次にエクシーズ。

 真っ先に覚えた融合よりは知識が薄いけれども、これぐらいならまだいけるわ。

 

「どやってるのは良いけど、召喚条件とかの説明もしてワンセットだ。折角俺がいれた合いの手が無駄になるぞ」

 

「エクシーズモンスターの召喚条件はランクと同じレベルのモンスターを2体以上フィールドに出して、オーバーレイすること!エクシーズモンスターによって2体、3体とエクシーズ召喚に必要な数が変わるわ!

エクシーズモンスターはほぼ全てが効果を持っているわ。でも、基本的にはオーバーレイユニットとなったモンスターを墓地に送ってから発動するものだから、オーバーレイユニットが無いと使えないから実質回数制限があるわ」

 

「ホントにそれだけで正しいか?」

 

「後、なにかあったかしら?」

 

「2体以上のモンスターを並べて、指定されている数を重ねてその上にエクシーズモンスターを乗せるのがエクシーズ召喚……中には2体以上と書かれているエクシーズモンスターもいて、その場合は3体でも召喚できて、モンスターを素材として要求しているからトークンでの召喚は出来ない……後は、エクシーズ素材となったモンスターはフィールドにいない扱いで、エクシーズモンスターの効果を発動し、仮にクリッターみたいなフィールドから墓地にの効果は使えない……フィールドから墓地に送られたは無理で、墓地に送られたはいける」

 

 あ、そうなの?知らなかったわ。

 

「はい、と言うことでここで問題です。

自分フィールドのモンスターを素材としてエクシーズモンスター1体をエクシーズ召喚する効果を持つ罠カード、ワンダー・エクシーズに対して昇天の黒角笛は使える?使えない?」

 

「ええっと、特殊召喚をする効果だから……使えないわ!!」

 

「正解!後でトリシューラプリンを奢ってやる」

 

「やった!」

 

「と言いたいが、ワンダー・エクシーズに対して使えないだけで昇天の黒角笛を使えるタイミングがある。それは何時?」

 

「え……」

 

 トリシューラプリンを奢って貰えると知り、喜んだのも束の間、追い討ちをかける遊矢。

 昇天の黒角笛を発動するタイミングって、何処にあるの!?

 

「外したらトリシューラプリンは無しだ」

 

「っく……」

 

 考えろ、考えるのよ私。

 トリシューラプリン、じゃなかった、入塾希望者達が見ているのよ。

 遊勝塾の先輩として看板娘として……そういえば、何時の間にかデュエルをせずにクイズ形式の講義になっているけれど、誰も文句を言わないわね。

 

「ヒント、使いますか?」

 

「っ……使うとどうなるの?」

 

「トリシューラプリンがメッセンジェラートに変わる」

 

「……ヒントを頂戴!」

 

「お前、今、入塾希望者前での講義だって忘れてないか?もうちょっと頑張れよ」

 

 トリシューラプリン……。

 

「このカードは罠カードで、発動すれば自分フィールドのモンスターを素材としてエクシーズモンスター1体をエクシーズ召喚する効果が発動される。エクシーズ召喚をする効果だがエクシーズ召喚が出来る様にもなる効果だ」

 

「できるとするじゃ違うわよ。

できるは任意でするは強制効果……頭が、痛くなってきたわ……」

 

「そんな時こそ甘いスイーツ、甘い物は頭にいいぞ(笑)」

 

 ひ、人の足元を見るなんて卑怯よ!!

 でも、ちゃんと答えがあるのよね……ワンダー・エクシーズはエクシーズ召喚する効果を持っている。エクシーズ召喚をする効果だから、任意じゃなくて強制効果。エクシーズ召喚出来るじゃない。でも、遊矢はするとも出来るとも言ってる。

 結果だけを見ればエクシーズ召喚が出来る効果を持っているけど、意味合いが違うってことで……なんだろう?

 

「これは罠カードだから、バトルフェイズ中に発動出来る。

バトルを終了したモンスター達でエクシーズ召喚するをエクシーズ召喚出来るって考えればよくて」

 

「もう答えを言って良いか?」

 

「……お願い」

 

「このカードはエクシーズ召喚が出来ないタイミングでもエクシーズ召喚が出来る様になるカードって目の付け所は良いけど、先ず大前提でここのエクシーズ召喚と特殊召喚は違うぞ」

 

「エクシーズ召喚って、特殊召喚の1つじゃないの!?」

 

「エクシーズ召喚は特殊召喚の1つでありエクシーズ召喚に分類されていて特殊召喚じゃない。しかし、特殊召喚でもある」

 

 ごめん、なに言ってるか分かんないわ。

 

「まぁ、凄くざっくりといえばだ。

ワンダー・エクシーズはエクシーズ召喚が出来ないタイミングでエクシーズ召喚を出来るようにするカードで、特殊召喚をする効果じゃない、似てるけど違うんだ。

ワンダー・エクシーズでのエクシーズ召喚はエクシーズ召喚扱いの特殊召喚じゃなくて正規のエクシーズ召喚で、そのエクシーズ召喚時に昇天の黒角笛は発動できる。これはバトルフェイズ中にシンクロ召喚ができる緊急同調にも当てはまる」

 

「あの、遊矢……そろそろ限界なんだけど?」

 

 私の頭が、オーバーヒートしそう。

 新しい召喚を覚えてデュエルの幅を広めようと思ってるのだけれど、これってそんなに難しいの!?

 

「じゃあ、3つ目シンクロだな」

 

 今度はシンクロモンスターと罠カードとハーピィの羽根帚を出す。

 

「えっと……」

 

「どうした?」

 

「シンクロ召喚はちょっと……」

 

 私のデッキと相性が良いのは融合とエクシーズで、シンクロ召喚とはそこまで。

 出来ないことはないけれど、シンクロに必要なチューナーモンスターを入れないといけないから下手をすればデッキを1から作り直さないといけない。

 

「分かるところまでで良い」

 

「う、うん……シンクロ召喚はチューナーとチューナー以外のモンスターのレベルを足した数値のシンクロモンスターを召喚出来る召喚法で、確かトークンも素材にすることが出来たはず……ごめんなさい、他はちょっと」

 

「……まぁ、齧りだけで良いか。

スターライト・ロードで出したスターダストのコンマイ語の説明をしたら、全員死ぬだろうし……大分初歩中の初歩なんだがな」

 

 もうやめて、私や入塾希望者達のライフは0よ!!

 

「最後におまちかねのペンデュラム。

ペンデュラム召喚はペンデュラムモンスターを赤と青のペンデュラムゾーンにセットして召喚する。

ペンデュラムモンスターにはペンデュラムスケールという数字が書かれていて、例えば昨日使ったイグナイト・マスケットのペンデュラムスケールは2、イグナイト・ドラグノフのスケールは7。

これらをペンデュラムゾーンにセットすると2から7の間までの数字、レベル3からレベル6までのモンスターを同時に複数召喚をすることができる」

 

「待ってました……そういえば、昨日の試合で魔力カウンターが乗ってなかったか?」

 

「ペンデュラムゾーンにあるペンデュラムモンスターは魔法カード扱いになる。

ペンデュラムモンスターをペンデュラムゾーンにセットするのは永続魔法の発動に近く、魔力カウンターが1つ乗せられる。そしてペンデュラムゾーンにセットしている時に使えるペンデュラム効果を使って破壊した。因みに、手札とかにあるペンデュラムモンスターはモンスター扱いで、ペンデュラム効果を持っていてもモンスターとしての効果を持っていなかったら通常モンスターで召喚師のスキルの様な通常モンスターを手札に加える効果を持ったカードでも手札に加えれる……お~い、生きてるか?」

 

「遊矢……デュエルしない?」

 

 本当なら結構な時間をかけてするはずの講座を一気に纏めてやっているせいか付いてこれる人が誰もいない。

 LDSですら融合、シンクロ、エクシーズの3つに分けているのに、それを同時にしかも短時間でやったら誰も理解することが出来ないわ。

 そう、こういう時こそデュエルよ、デュエル。折角最新のリアルソリッドビジョンシステムを入手したんだから思う存分に使わないと……あれ?

 

「え~ご説明の通り、ペンデュラム召喚をするにはペンデュラムモンスターが、シンクロ召喚をするにはチューナーが、融合召喚をするには融合のカードが必要です。当遊勝塾ではカードを取り扱ってません……はい、解散」

 

「なんだよ、期待して損した」

 

「ペンデュラムモンスターが無いとペンデュラム召喚が出来ないってズルなんじゃ」

 

「ストロング石島にズルしてまで勝ちたかったのかよ!」

 

 デュエルをしようと提案するも凍りつく空間。

 さっきまでの講座が皆には辛かったのかと思ったけれど、違う。確かにそれもあるけれど、皆、ペンデュラム召喚が目当てでここに来ていて、ペンデュラム召喚をするにはペンデュラムモンスターが必要だと分かれば手のひら返し。

 遊矢の事を卑怯だと罵倒しながら全員が出ていった。

 

「入塾希望者達が……」

 

「柚子、これで良いんだよ。ぶっちゃけあいつら、ペンデュラムが目的でエンタメデュエル云々はそこまで興味無さそうだったし」

 

 確かに、言われてみればそんな感じがしたけれど……。

 

「はぁ、仕方無いわよね。

おじさんは居ないし、遊矢はエンタメデュエルが苦手だし、私もまだまだ教えれるほどの腕じゃないし」

 

「そうそう」

 

 遊勝塾に騙す様な形で入って貰うのは良くないことよね。

 でも……これで赤字が更に続く。最新のリアルソリッドビジョンと電気代、どれぐらい掛かるのかしら?

 

「あ、そういえば、これ渡すの忘れてた」

 

「忘れてたって、通帳じゃない!?」

 

「今日、銀行に寄ってファイトマネーが振り込まれたかどうかを確認してきた」

 

 遊矢から手渡しされた預金通帳を開くと、そこには最新のリアルソリッドビジョンシステムを購入するのに必要な金額の半分ぐらい……いえ、これ下手な型落ちのリアルソリッドビジョンシステムを購入出来る額よね?

 ファイトマネーって言ってたから、多分、ストロング石島戦で勝利をした場合に貰えるものだけれど、凄い金額。

 

「父さんよりは少ないけど、遊勝塾の経費に使ってくれ」

 

「で、でも」

 

 こんなお金をポンっと渡されるのは流石に気が引けるわ。

 

「気にすんな、ストロング石島とのデュエルは遊勝塾の為にしたもんだ。

俺はエンタメデュエルは苦手だけど、さっきみたいにデュエルを教えることは出来るんだ。今は大きな事ができなくても、小さいことから一歩ずつ頑張って遊勝塾を復興させよう」

 

 だから、柚子も頑張れ。

 

 遊矢は微笑みながら私の背中を押してくれた。

 

「遊矢……ありが」

 

「遊矢ぁああああああ!!」

 

「ちょ、なんでここで塾長なんだよ!?」

 

 遊矢を抱きしめお礼を言おうとすると、先に飛び込んだお父さん……。

 

「ありがとう、遊矢!!

お前がエンタメデュエルが苦手だと聞いた時は色々と心配をしたが、お前は誰よりも遊勝塾を心配してくれていたんだな!!」

 

「……うん、あの、塾長?」

 

「最新のリアルソリッドビジョンも導入したことにより、タツヤくんの入塾も決まった!

目指せ、あの頃の遊勝塾!!全員、明日に向かって希望に向かって走るんだ!!うぉおおお、熱血だぁあああ!」

 

「あ、タツヤ入塾してくれるんだな……塾長、後ろ後ろ」

 

「後ろがどうかしっ……」

 

「柚子が凄い赤色の闘気を纏っている」

 

「お父さんのバカぁああああああ!」

 

 折角、折角、良い感じだったのに!!




OMKフェイズ(ギャグなので特に気にしない+時系列は気にしない)

遊矢「むさ苦しいおっさんに泣きながら抱きつかれるのは辛かった……」

柚子「感動するのは良いけれど、あの暑苦しさはキツいわよね。で、メッセンジェラートは?」

遊矢「結果的に俺が答えたから、俺の物だぞ」

柚子「そんな!?」

遊矢「冗談だよ、冗談。
メッセンジェラート以外にも色々とあるけど、それで良いか?」

柚子「他にもあるの?」

遊矢「マジョレーヌにシスタルト、ティアラミス、スイートミルクアップルベリーパイとろけるハニー添え、トリシューラプリン×2だな」

柚子「メッセンジェラートで良いわ……2つ余るわね」

遊矢「……あ~うん。何時もみたいに権現坂が来ると思って(後、タツヤも来るかなと思ってた)。そういや、権現坂は来ないな。何時もなら来るのに」

柚子「一昨日の遊矢とのデュエルで新しいなにかを掴む事が出来て、昨日の遊矢のデュエルで改めて遊矢の背中が遥かに遠い、だからこそ越えたいと思う事が出来る壁だって修行中よ」

遊矢「最後の修行中がなんかおかしいが、権現坂が強くなるんだったら前回のデュエルで出さなかったモンスターを出せるな」

柚子「ところで、余ったトリシューラプリンはどうするの?」

遊矢「トリシューラプリンが余るの前提なのか?
そうだな……賞味期限とかあるし、遊勝塾の面々でデュエルをして一番だった奴に渡すとして、もう一個は母さんにあげよう。母親孝行しないと」

柚子「そのデュエルって、遊矢も参加するの?」

遊矢「いや、参加しないけど……」

柚子「それなら、私が一番優勝する可能性があるわね」ニヤリ

遊矢「お前、トリシューラプリンどんだけ欲しいんだ?」

柚子「だって、トリシューラプリンなんて滅多に食べられないじゃない。あ~あ、無限にトリシューラプリンを食べれる装置があれば良いのに」

遊矢「赤帽子の家に乗り込めばって違う違う。
そんなのあれば直ぐにデブるぞ?トリシューラプリンはカロリーの塊で女の敵だぞ」

柚子「そういうことを言う遊矢が一番の敵でしょうが!!」


次回予告


新塾生のタツヤを交えて、新たな出発をする遊勝塾。

そんな中、現れるはそうこのオレ様、沢渡様だ!!遂に出てきたぜ、本編に!!

悪いな、遊矢。お前とのお友達ごっこ楽しかったぜ!ここからはオレのステージ!

このペンデュラムカードを使い、お前に勝利して華やかしい未来を勝ち取り沢渡世代を築き上げてやる!!

ペンデュラム召喚!!……あれ?

お前のやりそうな事ぐらいはお見通しだ。楽しかったぜ沢渡!お前とのお友達ごっこはよ!!

て、てんめぇええええ!!

柚子お姉ちゃん、なにあれ?

見ちゃダメなものよ……ていうか、沢渡、カードをちゃんと見なさいよ。

次回、遊戯王ARC-V【ゲス顔ペンデュラム】にガッチャビングデュエルアクセラレーション !!


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ゲス顔ペンデュラム

漢、権現坂。榊遊矢という友でありライバルの強さを改めて思い知る。


「遊矢だけではない。柚子も新たに強くなろうとしている。俺も精進しなければならん。
あの日、デュエルが中断にはなったものの、あのまま続ければ俺が負けていた……可動のデュエル……いかん、いかんぞ!!俺のデュエルはあくまでも不動のデュエル!可動のデュエルとは正反対のデュエル。まずは心を鎮め、身を清めなければ!!」


本日の権現坂の修行  滝行




遊戯王世界でデュエルの腕を磨くために滝にうたれることは珍しくもなんともない!!



 アユの優勝に終わったトリシューラプリン争奪戦。

 面白いデュエルを見せてくれた御褒美に増殖するGを渡そうとしたら全力で拒まれたので一族の結束を渡した。増殖するG、強いのに誰もデッキに入れないんだよな。

 

「今日の授業はどうするかな……」

 

 エンタメデュエルは出来ないが、デュエルを教えることは出来る。

 授業を聞きながら今日は遊勝塾でなにをするのかを考える。肉体を鍛えることとか精神論は塾長がいればどうにでもなるが、デュエルの講義はどうにもならない。

 俺の方が知識があるし頼んだぞと任せてくれるのだが、文字通り全部を頼んでいる……カリキュラムもなにもない。

 

「昨日は禁止カード講座だったから……今日はどうするかな」

 

 

 

 

 カリキュラムもなにもないのでお陰さまで好き放題やってます。

 

 

 

 

 

 昨日は滅茶苦茶楽しかったぞ。

 禁止制限カードがなんで禁止制限カードになっているか考えてみようと言う名の授業をやり、禁止カードあり制限無視のデュエルをした。

 柚子達は余所のカードゲームならば極々普通である強欲な壺や天使の施しを入れていたが、甘い。エラッタ前のクリッターと黒き森のウィッチと苦渋の選択を積んでるエクゾディアに勝てん。

 流石にそれだとデュエルをしているとは言えないと言ってきたからカエルドライバーを使ったら、やり過ぎてしまい柚子が泣いたりしてしまい、謝ったら抱きついてきて結構美味しい思いをしたりした。

 

「無限ループ……は、昨日のカエルドライバーで似たことをやってる」

 

「ちょっと、遊矢。今、授業中なんだから」

 

「榊、大きな寺や神社を中心に発展した町をなんて言う?」

 

「門前町です……ドヤ」

 

「なんだちゃんと聞いてたのか。そうだ、門前町だ」

 

 余計な事を考えていると先生から問題を吹っ掛けられたが、これぐらいは余裕だ。

 難なく答えた俺を見て柚子はホッとする。

 

「もう、授業中なんだから他の事を考えたらダメよ」

 

「それが柚子のことでもか?」

 

「えっ!?」

 

「柚子の笑顔とか思い出すと、心が癒されるんだ……もう二度と柚子の事は考えないよ」

 

「……べ、別に私の事だったらいい、けど、その……本人が隣に居るんだしわざわざ考えなくてもいいんじゃないの?」

 

 チョロい。柚子はチョロい。けど、可愛いな。

 

「遊矢兄ちゃーーーーん!!」

 

 授業を終え、学校を出ようとする俺達。

 校門前にはアユ、フトシ、タツヤの三人が待ってくれており、タツヤが俺に手を振ってくれる。

 

「遅いぜ、遊矢兄ちゃん」

 

「おいおい、小学生と中学生じゃ授業の時間が違うっての」

 

 俺が遅いんじゃないぞ、お前達が早いんだ。

 そして再来年にはお前達もこのフィールドに立つんだ。中学から勉強の難易度が跳ね上がるから大変だぞ。

 

「皆、来てくれるのは嬉しいんだけどわざわざここで待たずに先に遊勝塾に行ってても良いのよ?」

 

「遊矢お兄ちゃんや柚子お姉ちゃんとお話がしたいから、待ってられるよ」

 

 アユ……お前は本当にロリコンホイホイな発言をしてくれるな。

 

「それで遊矢兄ちゃん、今日はどんな授業にするんだ?」

 

「あんまり考えてないな……逆に聞くけど、どんな授業にしてほしい?」

 

「融合!」

 

「シンクロ!」

 

「エクシーズ!」

 

 タツヤ、フトシ、アユの順に要求する。

 やっぱりその辺の要求をしてきたか。

 

「教えるのは良いが、教えてほしいばっかの要求はダメだぞ。

自主的に勉強したりしないとな……と言うことで、3人ともその召喚の召喚方法を言ってみろ」

 

 先ずはタツヤから!

 

「融合召喚は融合カードを使って融合モンスターによって決められたカードを墓地に送ってエクストラデッキから特殊召喚!」

 

 はい、次はフトシ。

 

「シンクロ召喚はチューナーとチューナー以外のモンスターをチューニングしてレベルを合計した分のシンクロモンスターをエクストラデッキから召喚する痺れる特殊召喚!」

 

 最後にアユ。

 

「エクシーズ召喚は同じレベルのモンスターを並べて、オーバーレイ!1つに重ねて、一番上にモンスターを置く特殊召喚!」

 

「流石に俺達もそれぐらいは分かってるって」

 

「じゃあ、メリットやデメリットについても答えれるか?」

 

「ええ!?シンクロ召喚にデメリットなんてあんの?」

 

「それをメリットとデメリットと捉えるかは別として、特徴はあるぞ」

 

 その辺も答えれないと話にならない。

 3つの召喚のやり方だけは分かっている3人だが、ただ召喚するだけならばカードがあれば誰でも出来る。メリットとデメリットが答えられないとダメだ。

 

「融合召喚のメリットは手札でも出来ることでデメリットは融合カードが無いとなにも出来ないことかな?」

 

「お、タツヤは正解だ」

 

「スゲエ、タツヤ!!」

 

 ABCみたいなフィールド・墓地から除外すれば系の融合カードは多々あるが、概ね間違っちゃいない。

 手札から融合できるのは融合のメリットで、融合カードが無いとなにも出来ないのは融合のデメリットだ。

 

「タツヤくん、もうそんな所まで分かるの?」

 

「うん。遊矢兄ちゃんみたいに色々なデュエルが出来たり、分かったりしたいから頑張ってるんだ」

 

「お前達、うかうかしてられないな……」

 

 一番の後輩だが、ある意味一番賢いタツヤ。

 ほんわかな遊勝塾に良いカンフル剤となり、やる気を起こさせる。その調子で独学で覚えるんだ。なに、生徒手帳ぐらいの分厚さのルールブックを読めば遊戯王はそこそこ覚えられる。

 

「今日はなににするか」

 

「待ちな!」

 

 取りあえず軽めのテストは終わったから遊勝塾に向かおうとすると、聞いたことのある声を掛けられる。

 

「沢渡、沢渡じゃないか!何故ここに、お前はOMK次元の住人じゃないのか!?」

 

「本編のバリッバリの主役だ!!って、なに言ってんだ。違う、違う」

 

「おまっ、人に向かってダーツ投げんじゃねえ」

 

 よく見知った顔の男、同じ中学に通っている原作キャラであり主人公より主人公してるんじゃないかと思える沢渡シンゴ。ひょんな事から仲良くなったスケベ友達である。

 そして人に向かってダーツを投げるな。先端部分が吸盤なやつであろうと人に向かって投げる奴にダーツをやる資格はねえ!!

 

「柚子姉ちゃん、この人は?」

 

「沢渡シンゴ……知人、なのかしら?」

 

「おい、なんでそこで疑問に思う!」

 

「だって、私と沢渡の関係って微妙じゃない。

遊矢と一緒に居るの多いし、私と一緒に居るときって殆ど遊矢と一緒に居る時で……微妙じゃない」

 

「微妙だ」

 

「微妙だな」

 

「微妙っすよ、沢渡さん!」

 

 沢渡の取り巻きこと柿本、大伴、山部も何時の間にかやって来たな……。

 

「で、なんのようだ?」

 

「おいおい、つめてえな。折角、オレからデュエルの誘いをしに来たってのによ」

 

「デュエルの誘いって、貴方、遊矢に今年で一番最初に負けたじゃない!」

 

「う、うるせえよ!それを言うなら、お前は次に負けてんだろう!!」

 

 どっちも俺に負けてんだろうから、不毛な会話をしないでくれ。

 しかしまぁ、沢渡からのデュエルの誘いとは珍しいが嫌な予感しかしない。

 

「お前、舞網チャンピオンシップの出場資格手に入れる公式戦しにいかないでいいのか?」

 

「甘いな、遊矢。オレはとっくの昔にジュニアユースクラスの出場権を手に入れてる!」

 

「流石です」

 

「沢渡さん、マジぱないっす!!」

 

「よ、勝率6割!」

 

 ギリギリじゃねえか。

 

「それよか、お前も人の事を言えねえだろう!!

折角のペンデュラムとか言う召喚法を編み出したってのに、まともにデュエルしてねえそうじゃねえか。なら、オレがお前のペンデュラムを敗北に追い込んでやる!!」

 

 お前、見事なまでに良い感じの勝負をするけど最終的にはボコられる噛ませ犬の台詞を言いやがって。

 

「まぁ、デュエルをしろと言うならば受けてやろう」

 

「それでこそ我がライバル……っつーことで、LDSのセンターコートを押さえてるから来な」

 

「ちょ、ちょっと!私達、これから遊勝塾で授業があるんだけど」

 

「まぁまぁ、落ち着けって。

幸いにも塾生は全員揃っているし、舞網市で一番大きなデュエル塾のLDSのセンターコートでデュエルを出来るんだから……今日の授業はレポート形式にしよう」

 

「はぁ……じゃあ、敵情視察も兼ねてLDSに出発よ。3人とも、それで良いかしら?」

 

「うん!」

 

「は~い!」

 

「LDSのセンターコートでデュエルだなんて痺れるぅ!!」

 

 そんなこんなで今日の授業内容が決まり、LDSに向かう事になった俺達。

 いきなりセンターコートに向かわず、LDSの説明を沢渡から受けるのだが、総合コースって総合じゃなくてアドバンスと儀式メインだから、儀式コースじゃないのか?

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「社長、例の榊遊矢が来ました」

 

「そうか」

 

 場所はLDSのセンターコート、ではなく管制室。

 側近こと中島が沢渡がLDSに遊矢を引き連れて来たことを報告すると管制室のモニターは舞網市内からLDSのセンターコートへと移り変わる。

 

『流石はLDS……資本力からうちとは大違いだな』

 

『何時かうちをこれぐらい大きな自社ビル兼デュエル塾にしたいわね』

 

『無理無理、俺はデュエルは得意だけど経営学はからっきしなんだから大きくしても失敗する。

と言うよりは下手に塾生を増やしすぎると面倒が見切れなくなる。この前のペンデュラム目的の入塾希望者達、あれ俺と塾長で教えきれない数だぞ。目先の欲に眩むなとは言わないけど、後々大変な事になるって』

 

『うっ……人間高望みし過ぎるのも良くないのかしら』

 

『程よい欲望で良いんだよ……さてと、デュエルの準備をするか』

 

 軽く夫婦漫才をし、鞄からデュエルディスクとデッキケースを取り出す遊矢。

 

『分かってると思うが、ペンデュラムを使えよ!』

 

『分かった、イグナイトエクゾを使えば良いんだな!』

 

『ざけんな、前と同じになっちまうだろうが!』

 

『じゃあ、ヌメロンエクゾで』

 

『ペンデュラムを使え、ペンデュラムを!!つーか、エクゾディアから離れろ』

 

『馬鹿野郎、俺の所属する遊勝塾はエンタメデュエルをモットーにしてるんだぞ。今度はどんな方法でエクゾディアを揃えるかワクワクさせないと』

 

『遊矢、それただのワンキル厨よ』

 

「中々に進まないな……しかし、ペンデュラムとエクゾディアを組み合わせることが出来るのか」

 

 中々にデュエルをしない事に不満げな零児。

 エクゾディアとペンデュラムの相性が良いということが知れただけ、ましである。

 

『ペンデュラムね、ペンデュラム……あ~これでいいか』

 

「全員、データの取り込みの準備を。

ペンデュラムはまだまだ未知数だ。沢渡もそれなりの実力者だが、過去の戦績やストロング石島との試合からして速攻で終わる可能性が高い!」

 

 沢渡と遊矢のデュエル、それは全て赤馬零児が仕組んだものである。

 遊矢と親しい関係にある沢渡を甘い言葉で誘い込み、遊矢とLDSでデュエルをする様に指示をした。遊矢にペンデュラムモンスターを使わせ、ペンデュラムモンスターがどれ程の物なのか、ペンデュラムの真髄を見極めようとする。

 

『ところでよ、ペンデュラムモンスターってどんなカードなんだよ?』

 

『沢渡……お前、あんなにペンデュラム、ペンデュラム言ってて知らないのか?』

 

『当たり前だろう、ペンデュラムモンスターを持ってるのは、お前だけで見る機会なんてねえよ』

 

「何時になったらデュエルをするんだ。取り巻き達にデュエルをする様に催促を」

 

「いや、待て」

 

 ぐだぐだとしてデュエルをしない事に痺れを切らす中島。

 零児は沢渡がなにかをしようとしている事に気付き、止める。

 

『ほら、これがペンデュラムモンスターだ』

 

『へ~コイツがペンデュラムモンスターね。柿本達にも見せて良いか?』

 

『別に良いぞ』

 

『お~い、お前達、これがペンデュラムモンスターらしいぞ』

 

『スゲエ!』

 

『これがペンデュラムモンスター!』

 

『このカードがあれば、沢渡さん、マジ最強になれるっすよ!!』

 

『3人とも、それは遊矢のカードで、沢渡のカードじゃないわよ?』

 

『違うな、今からはオレ様のカードだ!!』

 

『あ~うん……』

 

 柿本達、3人の取り巻きにペンデュラムモンスターを見せた後、自分のデッキにペンデュラムモンスターを入れる沢渡。

 返すつもりは一切なく、してやったりとドヤ顔をしているのだがこの展開を若干予想していた遊矢はなんとも言えない微妙な顔をする。

 

『それは遊矢兄ちゃんのカードなんだ、返せ!』

 

『そうだそうだ!』

 

『落ち着け、タツヤ、フトシ。

沢渡、どうしてそんな事をするんだ?』

 

『決まってんだろう、オレが勝つためだ』

 

『勝つためなら相手のカードを奪うなんて、卑怯よ!』

 

 

 

 

 

 

 ※OCG次元には制限時間ギリギリまでトイレに引きこもり、200ぐらいのバーンダメージを与えて時間切れで、ジャッジで勝利する便所ワンキルがありました。

 

 

 

 

 

 

 

『社長の赤馬零児からの命令でな。

お前にペンデュラムモンスターを使わせて、ペンデュラムモンスターのデータを採取し何れはLDS製のペンデュラムモンスターを作るそうなんだ。オレは報酬として真っ先にペンデュラムモンスターを使わせてくれるみたいだが、そんなんじゃ満足しねえ!!お前のペンデュラムモンスターを使い、更なる高みに行ってやる!沢渡世代と言われるようにしてやる!』

 

「沢渡め、計画を漏らすとは……一旦、中止にしますか?」

 

「いや、続けろ。

それと沢渡のデュエルディスクからもペンデュラムのデータを回収できるようにしろ」

 

「はっ!」

 

 やってることは色々とあれだが、結果的にはデータ採取が捗る事をしてくれた沢渡。

 

『楽しかったぜ、お前とのお友達ごっこはよ!このペンデュラムモンスターを使い、オレはお前に勝利する!!おっと、無くなったデッキ2枚分をこのカードの中から補充しな』

 

『光天使ブックスじゃなくてサモプリ寄越せ。

サイドデッキとか予備カードとかあるし、このデッキ40枚以上あるからカードはいらん。俺にデュエルで勝ちたいのならば、キーカードを盗らないと』

 

 

 

 

 ※OCG次元には隙を見ては相手のカードをデッキから抜き取り試合終了後にジャッジを呼んでデッキが規定枚数に達していない事を訴えてジャッジキルをするカード摺りジャッジキルという便所ワンキルに対するカウンターとも言うべきワンキルがありました。言うまでもなく窃盗罪です。

 

 

 

 

『遊矢お兄ちゃん、そんな奴、ぶっ倒しちゃえ!』

 

『遊矢、ボッコボコにしてやりなさい!』

 

『柚子やアユが期待しているからな……このままデュエルをしてやる。

分かってると思うが待望のペンデュラムモンスター(笑)は貸しただけだ、負けたら返せよ』

 

『ふっ、お前だけじゃなくオレもペンデュラムモンスターを持っている。条件は五分五分ならば、選ばれしデュエリストのオレが勝利をする!!柿本、大伴、山部!!』

 

『アユ、フトシ、タツヤ!』

 

『戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!』

 

『モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!』

 

『フィールド内を駆け回る!!』

 

『見よ!』

 

『これぞデュエルの最強進化系!』

 

『アクショ~~ン!!』

 

『『デュエル!!』』

 

 柿本、アユ、大伴、フトシ、山部、タツヤの順に例の口上を言い、開幕するアクションデュエル。

 アクションフィールドは荒野の決闘タウン。何処ぞの満足民が集いそうな場所である。

 

『先攻は俺からだ。

俺はオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンをペンデュラムゾーンにセッティング!』

 

「早速来るか!」

 

『そして手札のクリフォート・アーカイブを妥協召喚!』

 

『妥協召喚?』

 

『リリースしないとアドバンス召喚出来ないレベル5以上のモンスターの中にはリリースしなくても通常召喚出来る効果を持っているモンスターがいて、そういうモンスターはリリース無しで召喚する代わりに攻撃力が下がったりする効果を持ってるのよ』

 

『ああ、デメリットがあるけど出せるし、仕方なくだから妥協召喚って言うんだ』

 

「授業、してますね」

 

「あのクリフォート・アーカイブというモンスターもペンデュラムモンスターか」

 

 割と大変な事になっているのだが、普通にデュエルを見物しているジュニア三人組。

 わからないところを遊矢から貰ったノートを見ながら柚子が解説をしてくれている。

 

『クリフォート・アーカイブは妥協召喚した時、本来の攻撃力2400から1800に下がる!カードを2枚セットし、ターンエンド』

 

「ペンデュラム召喚をしませんね」

 

「最初の5枚の手札の内、魔法もしくは罠カードが2枚で、榊遊矢の先攻1ターン目だ。

仮に最後の手札がモンスターであったとしても召喚できるモンスターは1体でターン終了時には手札は0、次の沢渡のターンに複数枚カードを破壊できる効果を持ったカードでペンデュラムゾーンを破壊されれば、次の自分のターンでペンデュラム召喚は不可能となる」

 

「ですが、ペンデュラム召喚をすればクリフォート・アーカイブの攻撃力を下げることなくフィールドに」

 

「鍵はセットしたカード……そして、1体だけペンデュラムゾーンにセットされているオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンにあるはずだ」

 

 遊矢の使っているデッキをなんとなく読めてきた零児。

 

『エンドフェイズ時にオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンのペンデュラム効果を発動。自身を破壊する事により攻撃力1500以下のペンデュラムモンスターを手札に加える!俺はクリフォート・ツールを手札に加える』

 

「サーチ効果を持っているのか。

ペンデュラムモンスターはフィールドで破壊されれば墓地には送られずエクストラデッキに送られ、ペンデュラム召喚が可能ならば何時でも召喚可能……」

 

 次の遊矢のターンにペンデュラムモンスターをドローできれば、サーチしたカードと共にペンデュラムゾーンにセッティングし、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを召喚。総攻撃が成功すればライフは0になる。

 ペンデュラムを生かしたコンボだと感心し、沢渡を見る。

 

『オレのターン!ふっ、流石はオレ様だ。カードに愛されてるぜ!』

 

『それって』

 

『もしかして?』

 

『もしかしなくても!』

 

『オレは召喚師のスキルを発動!デッキからレベル5以上の通常モンスター、クリフォート・ツールを手札に加えるぜ!!』

 

『お前、そこはペンデュラムゾーンにセッティングだろうが』

 

 早速ペンデュラム来るかと、場を盛り上げてくれる柿本達。

 しかし、発動したのはペンデュラムモンスターをサーチする為のカードである……なんとも締まらない。

 

『そしてもう1枚、召喚師のスキルを発動!今度はクリフォート・アセンブラを手札に加える!』

 

「異なるペンデュラムモンスターが2枚、来るか!!」

 

 だが、手札には異なるペンデュラムモンスターが2枚あることには代わりは無い。

 零児とてデュエリスト。未知なる召喚に多少の高揚を持ち、自分と沢渡を重ねて手札にそのカードが無いのにプレイをしているパントマイムみたいな事をする。

 

『「スケール1のクリフォート・アセンブラにスケール9のクリフォート・ツールをペンデュラムゾーンにセッティング!!これにより、レベル2から8までのモンスターをペンデュラム召喚出来る!!」』

 

『……』

 

『「ペンデュラム召喚!!」』

 

 遊矢から盗ったカードを使いペンデュラム召喚する沢渡、何故か零児も真似して沢渡と同じ動きをしているが誰も気にしない。

 

「どうだ?」

 

 ペンデュラム召喚された時のエネルギー等のデータはどうなっているのか?

 果たしてどんな感じなのか、どういう感じの裁定なのか、気になることが多々あり、エネルギー反応を見ている管制室のスタッフに訪ねる。

 

「あの、エラーです」

 

「なに……まさか、計測不能なのか!?」

 

「そうじゃなくて、ペンデュラム召喚をされていません」

 

「どういう、ことだ?」

 

 ペンデュラム召喚の大まかなやり方は、ストロング石島とのスペシャルマッチで言っていた。

 デュエルモンスターズのwikiとかサーバーにアクセスし、カードのテキストや裁定を変えるなんて不正らしい不正は無く、プレイミスも無い。零児も沢渡もペンデュラム召喚はこれで出来ると思っている。

 

 そんななか、遊矢は沸々と笑っていた。

 

『おい、ペンデュラム召喚できないぞ。どうなってんだ?』

 

『沢渡くぅ~ん、ペンデュラムゾーンにセッティングしたカードをよく見てみろ!』

 

『カードだと……っげ!?』

 

『甘いな、甘すぎるぞ沢渡!!』

 

「今すぐに沢渡のデュエルディスクのデータを繋げろ!!」

 

 なにが起きているかはデュエルをしている当事者しか分かっていない。

 デュエルを見ている柚子達もイマイチ理解しておらず、画面越しで見ている零児は沢渡のデュエルディスクに置かれているクリフォート・ツールとクリフォート・アセンブラーのテキストを、ペンデュラム効果を読み驚いた。

 

『クリフォートのペンデュラムモンスターは全てクリフォートモンスター以外を特殊召喚出来ないペンデュラム効果を持ってんだよ!!』

 

『嘘だろ、おい!?……ま、まさか!!』

 

『お前のデッキにはクリフォートモンスターはその2枚しか入ってない。他のクリフォートモンスターなら妥協召喚出来る効果を持っているが、その二枚はレベルが高いが攻撃力守備力のステータスがそこまでの通常モンスター!ペンデュラムモンスターはフィールドから墓地に送ることは出来ないからフォートレスの素材にもできない。

お前のやりそうな事ぐらいは、最初からお見通しなんだよ。楽しかったぜ、沢渡!!お前とのお友達ごっこはよぉ!!』

 

『て、てんめぇええええええ!!』

 

『柚子お姉ちゃん、なにあれ?』

 

『見ちゃダメなものよ』

 

『遊矢兄ちゃん、痺れるぐらい汚いぜ』

 

『でも、あれは元々遊矢兄ちゃんのカードで今使っているのはクリフォートモンスターが入っているデッキだから汚くないんじゃないの?』

 

『そういう問題じゃないわよ。全く、カードぐらい見なさいよ、沢渡』

 

 まんまと遊矢の罠に引っ掛かった沢渡。

 ペンデュラム召喚だと言い、デュエルディスクにセットしたモンスターを手札に戻して険しい表情をする。

 手札にいるのは高レベルのモンスターとそのモンスターをサポートするカードで、先ず大前提として召喚をしなければならない。その為にはペンデュラム召喚をしなければならないのだが、そのペンデュラム召喚は出来ない。

 

『全く、考えが甘いんだよ。

お前とはやり方は違うけど、この数日俺からペンデュラムモンスターを奪いストロング石島以上のデュエリストになってやろうと言うチンピラを相手にしてたんだぞ。その辺の対策ぐらいはしてある……あ!』

 

『ちょっと遊矢、その話本当なの!?』

 

『いや、それはだな』

 

『また無茶な事をして……あの時とは違うんだから、少しぐらいは私に頼ってくれたって良いじゃない!!』

 

 今明かされる衝撃の真実ぅ!に驚愕し、怒り心頭な柚子。

 降りかかる火の粉を振り払っただけだが、それでも柚子は遊矢が心配であり、頼ってくれない事が嫌だった。

 

『だから、それはその……』

 

『遊矢のバカ!!トマト頭!!』

 

『ご、ごめんなさい……で、どうすんだ?』

 

『ああ、もう止めだ、止めだ!!』

 

 遊矢のうっかり発言と柚子のマジギレ、そしてペンデュラム召喚出来ないの3つがオーバーレイ。

 沢渡はやる気を無くし、クリフォート・ツールとクリフォート・アセンブラをデュエルディスクから取り、遊矢に近付く。

 

『ペンデュラムもなんも出来ねえんだから、やってられっかよ。こんなデュエル』

 

『やりはじめた奴がなにを言ってんだよ。次のターンスキドレ発動するからボコらせろ』

 

『ざけんな……ほらよ』

 

 ペンデュラムカードを返す沢渡。

 

『ペンデュラムモンスターを盗んでもそれ用にデッキ構築しとかないと使い物にならないんだぞ。

シンクロとかエクシーズみたいにポンポン使えるカードじゃないし、手札消費も激しかったりするし、貪欲な壺と相性悪かったりするんだぞ』

 

 ペンデュラム作ったやつ(仮)がペンデュラムをディスってるが気にしない、気にしない。

 とにもかくにも、デュエルは中止となった。

 

「中島、沢渡のデュエルディスクを回収しろ」

 

「よろしいのですか?」

 

 目的のペンデュラム召喚がなんやかんやで見れなかった。

 LDSには優秀な生徒はまだまだ沢山いる。その生徒と遊矢を戦わせれば、ペンデュラム召喚を見れるかもしれない。

 

「構わない。

召喚こそしなかったものの、沢渡のデュエルディスクにはペンデュラムモンスターを読み込んだ記録がある。

そのデータがあればペンデュラムカードの製造に近付き、我々の力になる」

 

「はっ、では沢渡のデュエルディスクを」

 

 ペンデュラム召喚に盲信的すぎるところがあるぞ、零児。

 そんなんじゃ何れやってくる脅威には勝てない。ペンデュラム量産するよりも、カードのインフレデフレを無くしてOCG次元並にカードの入手難易度を下げれば脅威に打ち勝てるぞ!!デュエル産業は終わるけどな!

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「ちゃんっと、お父さんを交えて話し合うから覚悟しなさいよ」

 

 逃げたら絶対に殺されるだろうな。

 ハリセンを肩にかけた柚子に首根っこを掴まれLDSを後にし、遊勝塾に向かう俺達。

 ついうっかり、ペンデュラムカードをアンティカードとして賭けろとか言うチンピラとデュエルをしていたのがバレてしまった。

 ここで下手な事を言えば、そんなに私達が頼りないの!!とか言って泣かれそうなので潔く連行される。

 

「お、お前達、塾に行ったらドローの練習とかしないといけないけどちゃんとレポートを書いとくんだぞ」

 

「遊矢兄ちゃんは生きて帰って来てね」

 

 俺、死ぬの前提なのか?

 沢渡とデュエルをしただけなのに命の危険に晒されている事に驚きを隠せない。俺を殺すのはいったい……どんなストロングな柑橘系女子なんだ!!

 

「さぁ、ついたわよ」

 

「おぉ、お前達ちょうど良かった!!」

 

「ちょうど良かった?」

 

 遊勝塾に帰ってくると、出迎えてくれた塾長。

 ナイスタイミングだと言っているが、いったいなにがナイスタイミングなんだろうか?

 

「遊矢にお客さんが来ているんだ」

 

「お客って、誰?」

 

「俺もよくわからないが、とにかく遊矢を出してくれと言われてな」

 

「……」

 

 不穏な空気を感じながらも、そのお客さんを待たせるわけにはいかないと説教は中止。

 応接室に足を運ぶとそこにはキャンディーを咥えている小さな男がいた。

 

「ああ、やっと来たんだね。待ちくたびれたよ!!」

 

「お前は……」

 

「僕の名前は紫雲院素良……早速なんだけど、僕とデュエルしてくんない?」

 

 




OMKフェイズ(ギャグなので特に気にしない+時系列は気にしない)

VS沢渡戦のレポート


フトシ


遊矢兄ちゃんが痺れるぐらい卑怯だった。



アユ



沢渡が逆になんか可哀想に思えてきた。



タツヤ


デュエルは途中で中止になったけど、伏せカードスキルドレインで沢渡がなにもカードをセットしてなかったから、もしかしてワンショットキルが出来た?


柚子


遊矢がまた隠れてなにかやってた……なんで?なんで私に頼ってくれないの?ねぇ、なんで?私ってそんなに頼りないの?ねぇ、答えてよ……ねえってば!!なんで、なんで……っ…。




次回予告


アカデミア、それはデュエリスト戦士を養成する組織。

紫雲院素良はそんなアカデミアの中でも選りすぐりのエリートデュエリスト。

残党狩りはつまらない。狙うならば、大きな獲物。

アカデミアが最も危険視をしているトマトを凶器の玩具が喰らいつこうとする。

次回、遊戯王ARCーV【楽しいゲームと楽しむゲーム】にガッチャビングデュエルアクセラレーション!!


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楽しいゲームと楽しむゲーム

 漢、権現坂。榊遊矢という友でありライバルの強さを改めて思い知る。

「俺の行く道は不動のデュエル。
例え、相性が良くても不動のデュエルには関係の無いものはいれん。
ドロー!モンスターズカード!ドロー!モンスターカード!ドロー!モンスターカード!ドロー!モンスターカード!ドロー!モンスターカード!ドロー……っく、仁王立ちを引いてしまった」

 本日の修行 滝から流れてくるカードの中から自分のデッキに必要なカードのみをドローする謎の修行。


 カードが痛むとかの細かい事は気にしてはいけない。



 融合次元のデュエリスト戦士養成機関アカデミア。

 僕はそのアカデミアの中でも選りすぐりのエリートで、アカデミアのトップであるプロフェッサーから特命を与えられた。

 スタンダード次元に向かってデュエリストのレベルを調べて来いと言う重要な任務……だけど、全然面白くないよ、この任務。

 エクシーズもシンクロも融合も全く知らないデュエリストが殆どで、教えている人達も温くて使っている奴等も雑魚ばかり……だから、別の事をする。

 僕より強いデュエリストはアカデミアに……まぁ、ちょこっと、ほんのちょこっとだけ居るけれど、この次元のデュエリストが何人掛かって来ても僕に勝つことはできない。僕でそれなんだから、この仕事は終わり。

 後は遊ぶだけだよ……プロフェッサーが、絶対に挑むなと警告を出したデュエリスト、榊遊矢とね!!

 

「ちょっといきなりやって来てデュエルしろだなんて、急すぎるわよ」

 

「デュエリストならデュエルを挑まれたらデュエルをするでしょう?」

 

 遊矢にデュエルを挑むと、間に入り止めてくる女。

 僕はさっさと遊矢とデュエルをしたいんだから、邪魔しないでよ。デュエリストなら、挑まれたデュエルを断らないでしょ?

 

「僕、遊矢の噂を聞いて此処まで来たんだよ?」

 

「遊矢の噂……素良、だったかしら?

ペンデュラム召喚はペンデュラムモンスターが無いとできなくて、ペンデュラムカードを奪ったとしても専用にデッキを構築してないとペンデュラム召喚が出来ないわよ」

 

「ペンデュラム召喚?なにそれ?」

 

 聞いたことの無い召喚法を女が言った。

 ペンデュラム召喚、聞いたこと無い召喚だね。儀式召喚みたいに廃れて誰も見向きがしない召喚、じゃなさそうだし……。

 

「ペンデュラム召喚が目的じゃないの?」

 

「違うよ。

僕は遊矢とデュエルをして勝つのが目的なんだよ。僕の知り合いがさ、榊遊矢は滅茶苦茶強いって言っててさ~、その知り合いは結構いい線を行ってるんだけど、それでも遊矢に勝てないんだ」

 

「……遊矢、まだ変なところで辻デュエリストとデュエルをしたの!?」

 

「なんでそうなるんだ!?」

 

「まぁまぁ、落ち着け二人とも。

折角遠路遥々、遊矢とデュエルをしたいが為に遊勝塾にやって来たんだ。ここはデュエリストとして答えてやらないと」

 

「さっすが、おじさん!話が分かるぅ!!」

 

「おじさ……確かに、おじさんだが塾長なんだけど……しかぁし!俺は何時までも青春という名の塾の塾生だ」

 

 あ、そうなんだ。

 おじさんもとい塾長の計らいの元、デュエルに漕ぎ着けた。

 

「さぁ、遊矢。デュエルをしようよ」

 

 どれぐらいの実力を持っているかは知らないけど、キャンディーを噛み砕くみたいに君を打ち砕いて見せる。

 

「素良、先ずは例の口上をしないと……それと凄い顔だぞ」

 

 おっと、いけないいけない。

 つい君を倒した時を想像して優越感に浸っちゃったよ。

 

「よーし、素良が遊矢にデュエルを、決闘を申し込んだ……なら、アクションフィールドはこいつだ!!」

 

「ん?」

 

 フィールドの外にいる塾長がソリッドビジョンシステムを起動。

 すると僕達の周りが一気に変わり西部劇で出てくる様な荒野の街と変わった。

 

「へぇ~凄い凄い!!」

 

 話に聞いていた質量を持ったソリッドビジョン、リアルソリッドビジョンを間近で感じテンションをあげる。

 本物そっくりで、本当に荒野の西部劇の街に居るみたい……だけど

 

「却下!!」

 

「え?」

 

「このフィールド、なんか嫌だし殺風景過ぎるよ。もっと良いフィールドないの?」

 

「塾長、フィールドチェンジしてくれ。

ここさっき沢渡とデュエルしたフィールドだから、あれ、スウィーツのを頼む」

 

「あ、ああ……じゃあ、アクションフィールド、スウィーツ・ランド、オン!!」

 

 僕と遊矢の要求を聞き、フィールドを変えてくれる塾長。

 荒野の西部劇の街から一転し、お菓子の家、綿菓子の雲、ジュースの流れる滝、ケーキの山に、チョコの噴水……文字通りのスウィーツパラダイス!!

 

「いいね、いいね。こういうところでデュエルできるなんて最高じゃん!!」

 

 僕好みのフィールドだよ!

 

「アクションデュエル初心者っぽいから言っとくが、アクションフィールドにはアクションカードと呼ばれるカードが散りばめられている。もしヤバいと思ったら、そのカードを使えば攻撃を回避したりダメージを軽減したりできる」

 

「便利なカードがあるんだね……でも、そんなカードは必要ないね!!」

 

「そうか……俺も使わないぞ」

 

「……二人とも使わないなら、アクションフィールドを出す必要ってあるのかしら?」

 

 それ言ったらダメなやつだよ!!

 

「「デュエル!!」」

 

 本来ならば長い前口上があるらしいけど、今回は無し。

 僕の先攻からデュエルがはじまり、僕は最初の5枚の手札を確認する……うん、中々に良いじゃん!!

 

「僕は永続魔法、トイポットを発動!!

このカードは手札を1枚捨て、カードを1枚ドローし、ドローしたカードがファーニマルモンスターだった場合、手札からモンスターを特殊召喚できる。違った場合、ドローしたカードを捨てるよ。

僕はトイポットの効果を使い、1枚ドロー!よし、僕の引いたカードはファーニマル・ドッグ!ファーニマルモンスターだ!よってトイポットの効果により僕は手札のファーニマル・ドックを特殊召喚する!

更にファーニマル・ドックの効果を発動!このカードの特殊召喚成功時、デッキからファーニマルモンスターかエッジインプ・シザーのどちらか1枚を手札に加える。僕はエッジインプ・シザーを手札に加え、魔法カード、魔玩具補綴(デストーイ・パッチワーク)を発動!デッキから融合カードとエッジインプモンスターを手札に加える!手札に加えるエッジインプモンスターはエッジインプ・チェーンだ!」

 

「「「「「ゆ、融合!?」」」」」

 

 あれ、驚いてる。融合カードと融合素材をサーチするカードなんて普通なのに……ああ、そうか。

 

「この呆けた街に、融合1つまともに教えれない弱いデュエルスクール、君ぐらいしか知らないんだね……色々と」

 

 こことは違う次元が、世界が存在している。

 

 アカデミアではそんな事は常識だけど他では違う。ハートランドみたいに襲撃された場所なら、信じれるけどここはまだなんにもなってない。

 塾長や塾生が融合に驚いているけど、アカデミア、いや、融合次元だとこれぐらいは当たり前だ。皆、デッキに融合のカードぐらい入ってる、驚くことでもなんでもないんだよ。

 

「まぁ、教えてるところ少ないからな。

それよりも手札に融合カードとモンスターが2枚以上あるんだ……やるんだろ?」

 

「ピン、ポーーーン!!」

 

 その通りさ!

 

「魔法カード、融合を発動!」

 

「あ、チェーンで増Gで……やっべえな、発動のタイミングミスったな。ワンドロー逃したな」

 

「なにをしようと無駄だよ!

ファーニマル・ドックと手札のエッジインプ・チェーンで融合!!

融合召喚、現れ出ちゃえ!すべてを封じる鎖のケダモノ!デストーイ・チェーン・シープ!!って、うぉわぁ!?」

 

 融合召喚により現れたデストーイ・チェーン・シープ。

 縛られている羊のぬいぐるみの中から、ゴキブリが飛んできて遊矢のデッキに戻り、遊矢はカードを1枚ドローする。

 

「増殖するGの効果だ。相手がモンスターを特殊召喚する度にデッキからカードを1枚ドローする」

 

「よくそんなカードを使えるね……」

 

 効果は物凄く強力だけど、そのカード気持ち悪いよ。

 外で見ている遊矢の彼女?が悲鳴を上げてるよ?

 

「心臓に悪いのはソリッドビジョンのせいだ。

ソリッドビジョン無しのノーマルなデュエルでやったら凄い便利なんだぞ。一族の結束を入れてないデッキなら大抵のデッキには入る……まだあるだろ?」

 

「勿論だよ」

 

 その辺の奴等ならデストーイ・チェーン・シープでいいけど君は違う。

 

 デストーイ・チェーン・シープ

 

 レベル5 闇属性 悪魔族 エッジインプ・チェーン+ファーニマルモンスター 攻撃力2000

 

 

 本気でやるよ。

 

「エッジインプ・チェーンの効果を発動!

このカードが墓地に送られた時、デッキからデストーイカードを手札に加える。僕が手札に加えるのは魔玩具融合(デストーイ・フュージョン)!」

 

「フュージョンって確か専用の融合カードで、墓地のモンスターでも融合が出来るカード!?じゃあ、また」

 

「その通りだけど直ぐにはこのカードは使わないよ。でも、まだ僕の融合は続く!」

 

 遊矢を本気で倒せって、僕のデッキが言ってるんだ。

 まだまだやれる!

 

「僕はファーニマル・ペンギンを通常召喚!

ファーニマル・ペンギンの効果を発動!1ターンに1度ファーニマル・ペンギン以外の手札にあるファーニマルモンスターを特殊召喚できる!僕はファーニマル・オウルを特殊召喚!!」

 

「増殖するGの効果で1枚ドロー」

 

「ファーニマル・オウルの効果を発動!このカードの特殊召喚に成功したとき融合を手札に加える。

そしてそのまま発動だよ!手札から僕はファーニマル・ペンギンと手札のエッジインプ・シザーを墓地に送り、融合召喚!現れ出ちゃえ!すべてを引き裂く密林の魔獣!デストーイ・シザー・タイガー!」

 

 デストーイ・シザー・タイガー

 

 レベル6 闇属性 悪魔族 エッジインプ・シザー+ファーニマルモンスター 攻撃力1900 

 

「増殖するGの効果で1枚ドロー……お前、そんなポンポン融合召喚してて大丈夫か?先攻で攻撃できないんだぞ?増G発動しちゃってるんだぞ?」

 

「関係無いよ。デストーイ・シザー・タイガーとファーニマル・ペンギンの効果を発動!!

ファーニマル・ペンギンがデストーイ融合モンスターの素材として墓地に送られたとき、デッキから2枚ドローして、1枚墓地に!更にデストーイ・シザー・タイガーの効果!デストーイ・シザー・タイガーが融合召喚に成功した時、融合素材としたモンスター数までフィールドのカードを選んで破壊する!僕はトイポットを破壊!

そしてトイポットの効果を発動、エッジインプ・シザーまたはファーニマルモンスターを手札に加える。僕は2体目のエッジインプ・シザーを手札に加える!」

 

「素良の手札にはさっきデッキから加えた魔玩具融合が」

 

「1ターンに3回も融合するの!?」

 

「し、痺れるどころじゃない!?」

 

「甘いね、君達。これだけの融合で終わるほど、僕は弱くはないんだよ!!」

 

「まだあるの!?」

 

 そうさ。まだまだある、僕のターンはまだまだ続く!!

 僕のターンが終わった時、その時には無数のデストーイモンスターが君を包囲する。そして2回目の僕のターンで君は僕に狩られるんだよ、遊矢!!

 

「僕は魔玩具融合を発動!

フィールド・墓地のモンスターを除外し、墓地のエッジインプ・シザーとファーニマル・オウルで融合召喚!猛獣の翼よ!野獣の牙よ!神秘の渦で1つとなりて玩具の悪魔となりて現れ出ちゃえ!デストーイ・デアデビル!!」

 

 

 デストーイ・デアデビル

 

 レベル8 闇属性 悪魔族 エッジインプモンスター+ファーニマルモンスター 攻撃力3000

 

 

「増Gドロー」

 

「さっきから興味無さげで……舐めんなよ。

永続魔法デストーイ・ファクトリーを発動!墓地から融合カードまたはフュージョンカードを除外し、手札・フィールドの

モンスターでデストーイ融合モンスターを融合召喚する!!

僕は手札の二枚目のエッジインプ・シザーとフィールドのファーニマル・オウル、デストーイ・チェーン・シープで融合召喚!現れ出ちゃえ!全てに牙むく魔境の猛獣!デストーイ・サーベル・タイガー!」

 

 デストーイ・サーベル・タイガー

 

 レベル8 闇属性 悪魔族 デストーイ融合モンスター+エッジインプモンスターまたはファーニマルモンスター1体以上 攻撃力2400

 

 

「デストーイ・サーベル・タイガーの効果を発動!このカードが融合召喚に成功した時、墓地にあるデストーイ融合モンスターを特殊召喚する!!僕は融合素材にしたデストーイ・チェーン・シープを特殊召喚!」

 

「増Gでドローする」

 

「しつこいな、このG達」

 

「だったら、特殊召喚するのを止めればいいだけだ。手札の枚数10枚になったぞ」

 

 デストーイ・チェーン・シープ

 

 レベル5 闇属性 悪魔族 エッジインプ・チェーン+ファーニマルモンスター 攻撃力2000

 

 デストーイ・シザー・タイガー

 

 レベル6 闇属性 悪魔族 エッジインプ・シザー+ファーニマルモンスター1体以上 攻撃力1900 

 

 デストーイ・デアデビル

 

 レベル8 闇属性 悪魔族 エッジインプモンスター+ファーニマルモンスター 攻撃力3000

 

 デストーイ・サーベル・タイガー

 

 レベル8 闇属性 悪魔族 デストーイ融合モンスター+エッジインプモンスターまたはファーニマルモンスター1体以上 攻撃力2400

 

 フィールドに並ぶデストーイモンスター達。

 一歩、一歩と遊矢の元に向かい遊矢の前で止まる。最初のターンは攻撃することは出来ないけど、次の僕のターンになれば総攻撃を……いや、ドローカードによっては更なるデストーイモンスターを呼び出せる!!

 

「遊矢兄ちゃんは、ペンデュラム、シンクロ、エクシーズ、融合を1ターンでやったけど」

 

「素良は1ターンで融合を4回もしちゃったよ!!しかも、あんな怖いのを!!」

 

 僕のデストーイモンスターを見て怯える……確か、フトシとアユ。

 ペンデュラムがなんなのかは知らないけど、そんなものは融合には勝てない。

 

「おっと、デストーイ・シザー・タイガーとデストーイ・サーベル・タイガーの効果を言い忘れてたよ。

デストーイ・シザー・タイガーがフィールドに存在する限りデストーイモンスターはフィールドに存在するファーニマルモンスターとデストーイモンスターの数×300ポイント、攻撃力がアップする!

デストーイ・シザー・タイガーを含めてフィールドのデストーイモンスターは4体、フィールドにいるデストーイモンスターは攻撃力が1200ポイントアップ!!そしてデストーイ・サーベル・タイガーはデストーイモンスターの攻撃力を400ポイントアップ、合計1600ポイントアップする!」

 

 デストーイ・シザー・タイガー 攻撃力1900→3500

 

 デストーイ・チェーン・シープ 攻撃力2000→3600

 

 デストーイ・デアデビル 攻撃力3000→4600

 

 デストーイ・サーベル・タイガー 攻撃力2400→4000

 

 

 シザー・タイガーとサーベル・タイガーの効果を説明すると一回り大きくなるデストーイモンスター達。

 デストーイモンスター達の攻撃力は3000以上、要であるデストーイ・シザー・タイガーを倒すには最低でも3500以上のモンスターを出さないといけない。

 例え倒すことが出来たとしても、次のターンには召喚が簡単なシザー・タイガーは楽に呼び出せる。

 

「カードを1枚セットしてターンエンド……さぁ、どうする!!」

 

「あ~どうすっかな」

 

「っ、舐めやがって!」

 

 僕の事を全く気にせず手札ばかりを気にしている遊矢。

 その姿を見てイラッとし、僕は2つ目のキャンディーを噛み砕いて粉々にすると新しいキャンディーを出して咥える。

 

「ど、どうしよう。攻撃力3000以上のモンスターが4体も……」

 

「攻撃力だけじゃないよ、絶対になにか効果を持ってる。このままだと遊矢お兄ちゃんが」

 

「あ、諦めるな!!諦めるんじゃないぞ、遊矢ぁあああ!!」

 

 外で遊矢の事を応援しているフトシとアユと塾長。

 ここからどうやって逆転をしようって言うんだい?僕のセットしているカードはデストーイ・マーチ。デストーイモンスターが効果の対象とされた時に発動出来るカードで、魔法だろうと罠だろうとモンスター効果だろうと無効に出来る。

 更にサーベル・タイガーは融合するときに三体以上のモンスターで融合したら戦闘と効果では破壊されない、完璧な布陣だよ。

 

「お父さん、慌てすぎよ」

 

「二人とも遊矢兄ちゃんはまだなにもしてないんだよ?」

 

 遊矢の彼女?と小さな三人組で一番賢そうなタツヤ?は、他の3人みたいに慌てていない。

 

「けど攻撃力3000以上のモンスターが4体もいるんだぜ?」

 

「デストーイモンスター達が攻撃力3000以上になっているのは、デストーイ・シザー・タイガーがいるからだよ。

デストーイデアデビル以外のデストーイ融合モンスターの元々の攻撃力は普通の上級モンスターと比べれば低いから攻撃以外でデストーイ・シザー・タイガーをどうにかすれば突破口は切り開ける」

 

「タツヤくんの言うとおりよ」

 

 タツヤの言ってる事は正しいよ。だけど、僕にはデストーイ・マーチがある。

 デストーイ・シザー・タイガーに、いや、デストーイモンスターになにかをしようとしても無効に出来る。

 

「それにこの前、遊矢から習った事を忘れたの?」

 

「ええっと……ライフとデッキが0にならない限りはデュエルは敗けじゃない?」

 

「それもあるけど、もう1つ教わったでしょ」

 

「……なんだっけ?」

 

 なにを習ったか忘れているアユ。

 チラリと塾長の方を見るけど、その塾長も遊矢がなにを教えていたのか覚えていない。

 

「もうっ、皆して忘れちゃって!」

 

「遊矢兄ちゃんは手札はライフ以上に価値がある、ドローフェイズ以外でドロー出来るのは良いことで、ライフ0にならない限りは敗けじゃないんだから手札やフィールドを優先しろ。ドローフェイズ以外で手札に加えたドローカードにはライフポイント2000ぐらいの価値があるって言ったんだよ」

 

「タツヤくんの言葉を補足するなら、成金ゴブリンみたいに墓地にカードも置けない結果的に手札を交換するだけの1:1のドローは1000ポイントぐらいの価値だって言ってたわ」

 

「そういえばそうだったような……遊矢の座学は難しすぎるから、つい」

 

「確かに難しいけど、言いたいことはなんとなく分かるでしょ?」

 

 伊達にプロフェッサーに目をつけられているデュエリストじゃないね。

 融合使いだから僕は遊矢の言いたかった事がよく分かるよ。基本的に手札に融合カードが無いと融合はどうにもならないんだから。けど、それと今の状況は別だよ。

 

「俺のターン、ドロー」

 

「遊矢の手札は11枚……セットしたカードや融合モンスターを含めれば素良は5枚の手札から10枚以上のカードを使った。だったら、手札が11枚の遊矢は」

 

「あの、柚子。ハードルを上げないでくれ……んじゃま、ブラホで」

 

「っ、そうはさせない!罠カード、デストーイ・マーチをはつどっ……!!」

 

「このカードは対象を取る破壊効果じゃない……危なかった」

 

 フィールドの中心に黒い渦が発生し、飲み込まれるデストーイモンスター達。

 デストーイ・マーチは対象を取る効果に対して使えるカウンター罠で、ブラックホールはフィールドの全てのモンスターを破壊する魔法カード、対象は取らない。

 

 そんな、たった、1枚で……。

 

 複数回攻撃できるモンスターを出したり、除外してきたり、攻撃力を上げるもしくは下げるカードを使ったわけじゃない。

 対象を取らないモンスター全てを破壊するカード1枚だけでサーベル・タイガー以外のデストーイモンスターを全滅させた。

 

「ブラックホールなんて、何時の間に……」

 

「サーベル・タイガーを召喚した時の増Gのドロー効果で来た……破壊の後の効果発動は?」

 

「っ、デストーイ・サーベル・タイガーは3体以上のモンスターで融合した時、戦闘と効果では破壊されない!

デストーイ・チェーン・シープとデストーイ・デアデビルの効果を発動!デストーイ・デアデビルが相手の効果でフィールドを離れるか戦闘で破壊された場合、墓地のデストーイ融合モンスター×500のダメージを与える!墓地のデストーイモンスターは3体、よって1500のダメージ!」

 

 遊矢 LP4000→2500

 

「更にデストーイ・チェーン・シープの効果!

戦闘もしくは相手の効果で破壊されて墓地に送られた、このカードは墓地から特殊召喚する事が出来て、攻撃力を800ポイントアップする!蘇れ、デストーイ・チェーン・シープ」

 

 デストーイ・チェーン・シープ

 

 攻撃力2000→2800→3200

 

 デストーイ・サーベル・タイガー

 

 攻撃力 4000→2800

 

「危ない危ない」

 

 油断をしたつもりは無かった。

 本気でやったのに遊矢はたった1枚のカードでフィールドをひっくり返そうとしてきた。

 

「さぁ、どうする?」

 

 遊矢はまだブラックホールを使っただけで、なにもしていない。

 情報によれば融合もエクシーズもシンクロも全部使える……手札は沢山ある。ここから、どうする?

 

「俺はマンジュ・ゴッドを通常召喚」

 

「マ、マンジュ・ゴッドだって!?」

 

 優れたデュエリストならば、相手の使うカードを数枚見るだけで相手のデッキが分かる。

 これが本当かどうかは分からないけれど、少なくとも遊矢が召喚したモンスターがなんなのかは分かる。

 

「マンジュ・ゴッドの効果を発動。

マンジュ・ゴッドの召喚成功時、デッキより儀式魔法または儀式モンスターカードを手札に加える事ができる。俺が手札に加えるのはディサイシブの影霊衣!」

 

 遊矢が手札に加えたのは水色のモンスターカード、儀式モンスター。それはどの次元にでもあるモンスター。

 遊矢が使っているのは儀式デッキだ!

 

「柚子お姉ちゃん、儀式ってなんだっけ?」

 

「簡単に言えば融合とシンクロを合わせた感じの召喚よ。

儀式魔法を使って召喚するモンスターと同じレベルもしくはそれ以上になる様に手札、フィールドからモンスターを墓地に送って特殊召喚するのよ……ただ」

 

「ただ?」

 

「儀式召喚は他の召喚と比べてカードの消費が激しいのよ。

融合と違って手札に儀式モンスターが無いと召喚できないし、レベルの高い儀式モンスターとなるとモンスター1枚を素材に儀式召喚をするのが難しいから、儀式モンスターを1体召喚するだけで手札を4枚ぐらい使っちゃうのよ」

 

「手札を4枚も……そうか、だから増殖する…あれを使ったんだね!」

 

 融合とシンクロの両方を取った様に見せて、コストが激しく再利用も難しい。

 その上、儀式次元なんて次元も聞いたこと無いから廃れたものだと思っていた。

 そんなのを使っているデュエリストなんて滅多にいないし、仮に居たとしても弱い。

 

「Gと言え、Gと。

儀式魔法、影霊衣の降魔鏡を発動。手札の影霊衣の術師シュリットを墓地に送り、俺はディサイシブの影霊衣を儀式召喚する!」

 

 ディサイシブの影霊衣(ネクロス)

 

 レベル10 水属性 ドラゴン族 影霊衣儀式魔法により降臨 攻撃力3300

 

「チェーン・シープを上回っている……」

 

 復活したチェーン・シープの攻撃力を上回っている。

 遊矢がブラックホールをドローしていなくても、攻撃されて破壊される。

 

「あれ、ディサイシブの影霊衣ってレベル10だろ?影霊衣の術師シュリットって、レベル10以上のモンスターじゃないじゃん。儀式召喚出来ないはずじゃ」

 

「影霊衣の術師シュリットは影霊衣儀式モンスターを召喚する場合、このカード1枚で儀式召喚に必要なレベル分としてリリースできる効果を持っている。

更にシュリットの第2の効果を発動。このカードが効果でリリースされた時、デッキから戦士族の影霊衣儀式モンスターを手札に加える。俺が手札に加えるのはブリューナクの影霊衣。

そしてディサイシブの影霊衣の効果を発動。相手フィールドにセットされているカード1枚を対象とし、破壊して除外する……ほんと、神宣とかじゃなくてよかった」 

 

「……あれ?」

 

 そんな遊矢の姿を見て、遊矢の彼女?は違和感を覚える。

 

「更に俺は儀式魔法、影霊衣の万華鏡を発動。

こいつは他の儀式魔法とレベルが違うぞ……手札、フィールドに加えてエクストラデッキのモンスターどれかから1体儀式素材にでき、手札から影霊衣儀式モンスターを任意の数だけ儀式召喚する」

 

「エクストラデッキからだって!?」

 

 そんなカードが存在していたなんて……。

 

「俺はエクストラデッキのシューティング・クェーサー・ドラゴンを素材とする。

シューティング・クェーサー・ドラゴンのレベルは12!俺はレベル6のブリューナクの影霊衣を2体召喚する!!」

 

 ブリューナクの影霊衣×2

 

 レベル6 水属性 戦士族 影霊衣儀式魔法により降臨 攻撃力2300

 

「……やっぱり」

 

「柚子、なにがやっぱりなんだ?」

 

「遊矢、ブラックホールを使わなくても良かったんじゃないの?」

 

「な、なにぃ!?」

 

「どういうこと!?」

 

「ブリューナクの影霊衣は氷結界の龍ブリューナクの力を得た戦士。ブリューナクはフィールドのカードを手札に戻す効果を持っているからブリューナクの影霊衣も同じ効果を」

 

「同じ効果は持ってないが、どうにかする効果は持っている。

ブリューナクの影霊衣はエクストラデッキから召喚されたモンスター2体をエクストラデッキに戻す効果を持っている……2体ともエクストラデッキに戻れ」

 

「じゃあ、ブラックホールがなくても……」

 

「最初からどうにでも出来た。

と言いたいが、セットしてるカードが怖いし、先にブリューナクの影霊衣を召喚する事も出来ちゃって、先にやるとデストーイ・マーチの効果にやられてしまう。

ブリューナクの影霊衣の効果は1回しか使えないと書いているターン1制限だから、成功してもフィールドに2枚残る。

デストーイの殺意は高いし、ライフ4000ぽっちじゃなんとかライフが残って次のターンに持ち越しなんてデュエルも出来ないし、それならとダメージを覚悟して除去り、セットカードがなんなのかを見たかった……カードの種類によってはなにも出来ずに次のターンに回ってボコボコにされる。攻撃そのものが出来ません系のカードとか一番最悪だ」

 

「……よくそんな事を言えるね」

 

 ブリューナクの影霊衣の効果を確認したけど、遊矢が言う様にエクストラデッキのモンスターを2体まで戻す効果は1ターンに1度しか使えない……けど、色々と言ってないことがある。

 ブリューナクの影霊衣の効果は2つあって、それぞれ1度しか使えない。それぞれだから両方使える。そして、もう1つは手札からブリューナクの影霊衣のカードを捨てて、ブリューナク以外の影霊衣儀式モンスターを手札に加える効果。

 このデュエルで遊矢は影霊衣儀式モンスターをブリューナクとディサイシブの2種類しか見せてないけど、ブリューナクの影霊衣以外の影霊衣儀式モンスターって書いてるってことは後3、4種類ぐらいは影霊衣儀式モンスターがいる。それも強力な効果を持ったやつで……儀式モンスターはレベル1から存在するらしいから、ブリューナクの影霊衣よりもレベルが低いのと高いの、どっちもあるはずだ。

 それに遊矢はブリューナクの影霊衣の内、1枚は増殖するGの効果でドローしたカードかどうかは分からないけれどそれでも手札にあった。

 それとエクストラデッキを見てみると14枚ある。さっき墓地に送ったレベル12のシンクロモンスターを含めればエクストラデッキには15枚カードが入ってる。

 影霊衣の万華鏡は2体以上同時に儀式召喚が出来る効果を持っている。影霊衣の術師のレベルは3だから、それ以下のレベルもしくはランクのモンスターはエクストラデッキに入ってないって考えられる。

 ブリューナクの影霊衣を2枚同時に召喚出来るのを見る限りは、そこからエクシーズ召喚に繋げる事だって出来る。

 遊矢の言う手順、真っ先にブリューナクで失敗しても、ディサイシブの影霊衣を出してシザー・タイガーを破壊すれば攻撃力は大きく下げられる。マンジュ・ゴッドか影霊衣の術師シュリットのどっちかでまだ見たこと無い影霊衣を手札に加える。

 普通の融合とデストーイ融合モンスターを呼ぶことの出来る魔法カードも合わせれば3種類あって、後3、4枚ぐらい儀式モンスターがあるんだとすれば3つ目の影霊衣儀式カードかなんかがあるはずだ。

 ていうか、よくよく見てみると影霊衣の降魔鏡、フィールドにモンスターが居なかったら墓地の影霊衣モンスターと一緒に除外したら影霊衣儀式魔法をデッキから加える効果があるじゃん。

 最初にブリューナクの影霊衣を影霊衣の降魔鏡で素材にシュリットを使って儀式召喚してディサイシブの影霊衣を手札に加えれる。ブリューナクの影霊衣の効果の発動をデストーイ・マーチで無効にしたらフィールドは空で儀式魔法を手札に加える事が出来る。それで僕はなにも出来なくなる。

 そこからだったら通常召喚したマンジュ・ゴッドでブリューナクでもディサイシブでもない僕の知らない影霊衣の儀式モンスターを手札に加えることが出来たし……こんだけ儀式モンスターが多いデッキなんだからデッキから儀式モンスターを手札に加えるカードぐらいは……いや、もう止めよう。 

 

 ディサイシブの影霊衣

 

 レベル10 水属性 ドラゴン族 影霊衣儀式魔法により降臨 攻撃力3300

 

 ブリューナクの影霊衣

 

 レベル6 水属性 戦士族 影霊衣儀式魔法により降臨 攻撃力2300

 

 ブリューナクの影霊衣

 

 レベル6 水属性 戦士族 影霊衣儀式魔法により降臨 攻撃力2300

 

 マンジュ・ゴッド

 

 レベル4 光属性 天使族 攻撃力1400

 

 僕にはモンスターがもういない。守る手段も残されていない。

 色々と考えていたら遊矢のモンスター達が四方から僕を囲んで逃げられない様にしている。

 

「マンジュ・ゴッドだけスゲエ浮いてるが……このままバトルだ!ディサイシブの影霊衣でダイレクトアタック!」

 

「がっ!!」

 

 素良 LP4000→700

 

 ディサイシブの影霊衣が背負う砲台の砲撃。

 僕に当たることは無かったけれども、フィールドに当たった衝撃の余波で僕は空高く飛ばされる。

 

「マンジュ・ゴッドでとどめだ!」

 

 わざとなのか、ブリューナクの影霊衣じゃなくマンジュ・ゴッドで攻撃する遊矢。

 10000にも及ぶ手で上空から張り手をかまし、僕をクリームの中に叩き落としてライフポイントを0にした。

 

 素良 LP700→0

 

「これが、プロフェッサーが、危惧した……榊遊矢……」

 

 融合でもシンクロでもエクシーズでもない。

 どの次元にもある儀式で僕を倒した。最高に近い布陣を敷いたのに、それを簡単に上回った。

 

「俺の勝ちだ」

 

 圧倒的な力に僕は負けてしまいなにも思えず、天井を見ていると遊矢が側に来た。

 

「やれよ……君は知ってるんでしょ?」

 

 

 

 僕がアカデミアからこの次元に送られてきたデュエリストだってことを。

 

 

 

 

 

 僕の使っているデュエルディスクはスタンダードで購入できるデュエルディスクじゃない。アカデミアのものだ。アカデミアを知らない人達なら珍しいタイプのデュエルディスクで終わるけどアカデミアを知っている人ならこれがアカデミアのデュエルディスクだと分かる。

 度々アカデミアのなにかの作戦を邪魔してきたんだからアカデミアと彼は敵、だったらアカデミアの僕も彼の敵だ。

 だったら僕をカード化すれば良い、アカデミアが狩ったエクシーズ次元の住人のように。勝つために本気を出したのに、遊矢に簡単に倒された……余りの敗北に清々しさすら感じるよ。

 

「俺のデュエルディスクはお前のとは違って変なもんは入ってない。何処にでもある市販のデュエルディスクだ……それに誰がそんな事を好き好んでするかよ」

 

「遊矢お兄ちゃん、やったね!」

 

「影霊衣、滅茶苦茶痺れたぜ!!」

 

 デュエルを見ていたチビッ子達が遊矢の元に向かい、称える。

 僕は負けて遊矢は勝ったんだから当然だよね。

 

「素良もスゴかったよ!」

 

「え?」

 

「4回連続の融合召喚なんてスゴいよ!僕、融合召喚をやってみたいって思ってて……融合召喚って融合のカードが無いと融合召喚が出来ないから、シンクロやエクシーズみたいに沢山召喚出来ないと思ってたけど、1ターンであんなに融合召喚出来るんだね!!」

 

「痺れるぐらいモンスターは怖かったけどな」

 

「……なに言ってんの?僕はデュエルに負けたんだよ?」

 

 これでもかと沢山の融合モンスターを並べて、なにかされた時の為のカウンター罠も仕掛けた。

 それを耐えるわけでもなくたった1ターンでひっくり返されるどころか1ターンキルをされたんだ。

 

「そんな事は無いぞ!

LDSですら最近やっと教えはじめた融合をあそこまで使いこなして、遊矢に全力で立ち向かったんだ!!あんなスゴいデュエル、遊矢がペンデュラム召喚をした時以来だ」

 

「いや、つい最近じゃねえか」

 

「貴方、何処で融合召喚を学んだの?

もしよかったら私ともデュエルをしてくれないかしら?最近、融合召喚をはじめてて」

 

「融合召喚をはじめてってなんだ、融合召喚を……どうした?」

 

「……僕は負けたんだよ?なのになんでこんなになってんの?」

 

 勝った遊矢が誉め称えられるのは分かる。

 けど、なんで僕がスゴいとか注目されるの?僕は負けたデュエリストなんだよ?なのになんでこの人達は褒めるの?

 

「なにを言い出すかと思えば、お前と俺がやったデュエルは俺達が楽しくてフトシ達が楽しめるデュエルだった、それだけだ」

 

「そうだ!確かに負けてしまったことは悔しいことだ。だが、それ以上に楽しいデュエルだったんだ!」

 

「楽しいデュエルでも、負けたら意味無いじゃん!」

 

 自分でも驚く程に沢山の融合が出来て、良いカードを引けた。

 次にどうするかなにをやるかと考えているだけでも楽しかった……けど、負けは負けなんだよ。

 

「だったら、もう一回デュエルすれば良いじゃない」

 

「もう1回?真剣勝負にもう1回なんて無いんだよ」

 

「真剣勝負って、公式戦でもなんでもないから何度でもデュエル出来るわよ?」

 

「……あぁ、もう、なんか調子狂う!!」

 

 ここの人達がやってるデュエルなんて、アカデミアのデュエルと比べれば低次元のデュエルだ。

 なのに、なのになんだよ。この変な感覚は、アカデミアじゃこんな事は一度も無かったのに……なんなんだよ、いったい。

 

「デュエルは真剣勝負で魂をプライドを信念を賭けるものかもしれない。

だけどな、デュエルは、デュエルモンスターズはカードゲームなんだ。楽しんで欲しいと思って作られたもので、楽しむ事が出来ないと、勝手に壁を作ったりせずに楽しいと思えない限りは俺には勝てないぞ」

 

「そんなんで勝てるの?」

 

「これが案外勝てるんだよ。

難しい事とか考えずに純粋にデュエルしないと……何処もかしこも勝手に壁を作っている。だから、弱いんだ」

 

 自分に勝つための事を教えてくれる遊矢。

 言っている事がイマイチ分からないけれど、少なくとも遊矢は特に難しい事を考えていないのが分かる。

 

「で、どうする?もう一戦するか?さっきは出さなかったけど、あそこからまだまだモンスターを出せたぞ。真っ白なホープを呼び出すことも出来たぞ」

 

「……今日はもう良いよ。僕の負けだ」

 

「そうか」

 

「だけど、明日はこうはいかないよ!!

最後に笑うのは最後に勝つのは僕だ!今日は負けてデュエルを楽しむ事が出来なかったけど、明日は僕が勝利してデュエルを楽しんで見せる!」

 

「それはいいが、物騒なデュエルは嫌だし、死にたくないから、デュエルをするときはデュエルディスクは取り替えさせてもらう」

 

 そんなのは構わない。

 僕は君を倒して最強のデュエリストになって、君の前で大笑いで嘲笑ってやる!!




OMKフェイズ

遊矢「素良も帰ったことだし、さっきのデュエルの考察とか色々とするぞ」

柚子「素良、凄かったわ。まさか1ターンで4回連続の融合召喚をするなんて」

遊矢「ああ、物凄く融合召喚してきて危なかった。
ドローカードと初期手札だけだったら、ワンキルが出来なかった」

柚子「……どうにかすることは出来たのね」

遊矢「まぁ、どうにかすることは出来たぞ。
とはいえ、素良の墓地には沢山のモンスターがいるから普通に逆転される可能性もあって……マジ、危なかった。ほんと、初手に増殖するGが来てくれてよかった」

柚子「そのカード、使うの止めない?一族の結束を使うデッキ以外には絶対に入ってるわよね」

遊矢「そりゃ大半のデッキに入るからな……通常召喚してるところは見たこと無いけど。今回の素良の敗因はなんだと思う?」

柚子「素良の敗因は……うっ……」

遊矢「どうした?」

柚子「増殖するGが発動している中で、素良が特殊召喚し続けたのを思い出したら……怖いぬいぐるみが召喚される度に中から、中から!!」

遊矢「じゃあ、外からも」

柚子「普通に召喚しないで!!!」

遊矢「強いカードなんだぞ増殖するGは……ソリッドビジョンで無駄に凝った演出をするから、このカードは嫌われるんだ。
とにかく、このカードを発動しとけば相手が特殊召喚する度にカードを1枚引ける。デュエルモンスターズはライフが0にならない限りは基本的に負けない。だが、手札が0枚だったらなにも出来ない」

柚子「この前、墓地は第2の手札でデッキでもあるって言ってなかった?」

遊矢「細かい事は気にしない。
デュエルには無限の可能性があり、その可能性を生み出すのが手札なんだ。
素良は沢山のモンスターを並べたけれど、その代わりに大量のドローを俺にさせた。それが大きな敗因だ」

柚子「じゃあ、途中で融合召喚を止めれば良かったのね」

遊矢「そうとも言い難い。
相手に沢山ドローさせてもクリスティアみたいなモンスターを出して反撃の隙を与えないフィールドを作ったり、逆転されても生き残れたり巻き返せる様に途中から召喚するモンスターを変更すれば良い」

柚子「ブラックホールで逆転したと思ったら、ブラックホール無しで逆転出来た遊矢が言ったら説得力が欠けるわね……あ、そう言えば素良ってデュエル中に飴を食べてたわよね?」

遊矢「口に入れた瞬間に噛み砕いたりしてたから3つ以上は食ってたぞ」

柚子「じゃあ、ちょっと掃除をしないと。って、遊矢、増殖するGを通常召喚したままよ」

遊矢「それ、増殖しちゃったGだぞ?」

柚子「いぃい、やぁあああああ!!??!??」


次回予告。


異次元からの来訪者との会合を終えたが、特に激しい変化は起きない。

花は融合を望み、自らの手で新たなる力を開花させようとする。







そして最後の蕾を開花をさせるべく、そう!このオレ、ネオ・沢渡の元にやって来る!!







沢渡がナレーションをしてたの!?

甘い、甘いな柚子。新しく生まれ変わったネオ・沢渡は悪役から主役、果てはナレーションまでこなせるんだ!!

本当に芸達者ね……まぁ、良いわ。新しく生まれ変わったのは貴方だけじゃない、私の新しいデッキを見せてあげる!

待て!!

え……遊矢?

次回、遊戯王ARCーV【反逆の襲来】にガッチャビングデュエルアクセラレーション!!


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反逆の襲来

漢、権現坂。榊遊矢という友でありライバルの強さを改めて思い知る。



「このままでは今までとなにも変わらん。
新たなる不動のデュエルへの道が閉ざされてしまう。身も心も鍛えるのも良いが、デュエリストとして時には知識も鍛えなければ。ふむ、ポルトガルの商人が種子島に火縄銃を二丁のみを売ったのは……」



 本日の修行 新たなる不動のデュエルの為に知識をつける。




 読んでいる本が戦国時代の合戦術に関する指南書とか漢文とかデュエルと余り関係の無い本なのは気にしてはならない。




 

 

 

 

 遊矢がまた危険な事をしていた。

 

 

 

 可愛い顔をして、エゲつないモンスター達を並べて戦う融合使いこと素良。

 遊矢を訪ねて遠路遥々やって来てデュエルをして、話がなんやかんやで流れていたけれども私はちゃんと覚えている。

 ペンデュラムカードを狙うチンピラデュエリストとデュエルをしていた……おじさんが居なくなって遊勝塾がバッシングを受けていた時も遊矢は誰にも頼ることなく自分で動いていた。

 なんで私に頼ってくれないの?それとも頼りたくないの?私の事が嫌いなの…………。

 

「この辺りの筈だけれど何処だったかしら?」

 

 舞網市の端にある倉庫街にやって来た。

 この辺りにはあんまり良い思い出が無い。権現坂とはじめてデュエルをしたのはここで、遊矢が遊勝塾に敵意を向けるデュエリストとデュエルをしていてて……あの時は驚いたわ。

 遊矢はエンタメデュエルが好きじゃなくて、どっちかと言えば苦手で、使えないカードを使えないカードだって思ってたりしていて、沢山のデッキを持っていてデュエリストじゃないって。

 今となってはその辺りは特には気にならない。フトシくんにアユちゃん、タツヤくんにデュエルを教えるのは楽しそうで、デュエルをやってるときはもっと楽しそう……。

 

「あ、ここね……あいつ、市長の息子よね?」

 

 52とデカデカと白い数字が扉に書かれている倉庫を発見。

 なんでわざわざこんな場所に行くのかと疑問に思ったけれど、わざわざ家に向かうより此方の方が良いかもしれないわ。

 

「よっと……沢渡、居るなら返事してー」

 

 沢渡に会いにここまでやって来た。

 あいつ、市長の息子でお金持ちなのにわざわざ家からも学校からも遠いこんな所を溜まり場にしている。

 何処かからかソファーとか持ってきて、電気が通ってるからって冷蔵庫とか置いてて……なんか秘密基地感があってロマンを感じるって遊矢や権現坂は言っていたけれど、そんなの感じないわ。

 

「なんだ、誰かと思ったら、柚子か」

 

「なんだじゃないわよ。

貴方、最近またなにかやってるみたいだけど何をしてるの?」

 

 倉庫内で沢渡を呼ぶと梯子から降りてきた沢渡と取り巻きの3人。

 最近、なんか裏で色々とコソコソとしているけど……。

 

「おいおいおい、この前の話を聞いてなかったのか?」

 

「沢渡さんはペンデュラムモンスターのデータを取ってこいって言われたんだぜ?」

 

「ペンデュラムモンスターのデータはこの前のデュエルで取ることが出来た。

だから、約束通り真っ先にLDS製のペンデュラムモンスターを使わせて貰う為に先ずはペンデュラムのルールとかを覚えてるんだよ」

 

「そのとぉぅり!!

このオレ、沢渡はペンデュラムの力によりネオ・沢渡へと生まれ変わった!!」

 

「もうペンデュラムカードを!?」

 

 遊矢しか持っていないペンデュラムカード。

 LDSの親会社であるレオ・コーポレーションの技術力は世界でもトップクラスなのは知っている。

 だから、近い将来ペンデュラムカードが作られるのはこの前の事でなんとなく分かっていたけれど、もう作られているだなんて……これはチャンスよ!

 

「沢渡、デュエルよ!」

 

 遊矢以外にペンデュラム召喚をするデュエリストとデュエルできるなんて滅多な機会じゃない。

 デュエルディスクを取り出して、デュエルを沢渡に挑むけれど沢渡は意外そうな顔をしている。

 

「お前、なんか変なもんでも食ったか?」

 

「な、なによ、急に」

 

「オレもお前もジュニアユース選手権に出れる資格はあって、公式戦も済ませてる。

だったらジュニアユース選手権でオレと戦えば良い。腕を磨きたいんだったら権現坂や遊矢に頼めばなんとでもなるだろ」

 

「っ、それは……」

 

「もっとも権現坂はこれ以上どうすれば良いのか分からなくて停滞してる。

遊矢の奴はそもそもで大会に出ない。権現坂は停滞、柚子はオレを訪ねて来た……つまり、オレ等の世代で1番はオレ!!来たぜ、オレの時代!」

 

「「「沢渡さん世代と呼ばれるビッグウェーブ、来たぜ!!」」」

 

「おいおいおい、煽てんなよ……で、オレ様とデュエルなんてどういう風の吹き回しなんだよ?」

 

 コミカルな事やバカみたいな発言をした後、相談に乗ってくれる沢渡。

 デュエルをしに来た筈なのに何故か人生相談がはじまったけれど、私は沢渡に色々と打ち明ける。

 

「遊矢が私を頼ってくれないの……」

 

「はぁ?なにを言い出すかと思えば惚け話か!?」

 

「ち、違うわよ!!そういうのじゃなくて、ほら、遊矢からペンデュラムモンスターを盗った時に遊矢が言ってたじゃない。ペンデュラムモンスター目当てのチンピラデュエリストとデュエルしたとか」

 

「レアカードを狙うやつはこの街にはごまんといるからな。

お前、その辺のチンピラデュエリストにこのオレの生涯のライバルと決めた男が負けるとでも?」

 

「負けないから良いってわけじゃないのよ!!

遊矢は、3年前におじさんが居なくなって遊勝塾が衰退した時も1人で戦ってて、私はなにもすることができなくて」

 

 確かに遊矢は強い。

 変などうだって良い時に負けるけど、絶対に負けちゃいけないデュエルでの負けは今まで一度もない。

 だからって1人で戦わせて背負わせて良いの?遊矢が危険な事をしているのを目の前で指を咥えて見ているのも嫌……

 

「なによりも、遊矢にそんなデュエルばかりをさせたくないの」

 

 デュエルは楽しいもの。

 遊矢はそう言っていて、私達とデュエルをしている時は本当に楽しそうで笑顔になっていた。

 だけど、私達以外とのデュエルは違う。笑顔になっていない。デュエルを心から楽しんでいない……思い出すだけで涙が出てきそうになる。

 

「私、遊矢の背中に追い付きたい、遊矢の側を歩きたい、遊矢の隣を歩きたいの……永遠に」

 

「おっふ!」

 

「榊遊矢はなんて罪作りな男なんだ」

 

「上目使いの柊さん、マジ、エモすぎっす……」

 

 ずっとずっと、遊矢と一緒に歩いていたい。

 遊矢と一緒に笑っていたい……でも、余りにも遊矢の背中が遠すぎる。遊矢は自ら先に進むことをせずに、後退して遊勝塾の皆に色々と教えて遊勝塾の皆と歩幅を合わせている。

 遊矢と一緒にいたい気持ちはあるけれど、私は遊矢の邪魔になりたくはない。御荷物にはなりたくない。その為には1日でも早く追い付かないといけない。

 

「遊矢に追い付くためにも沢渡、貴方の屍を越えてみせるわ!!」

 

「……え~と……要するに新しいデッキの実験台になれってか!?」

 

「遠回しに言ったり、変な解釈をすればそうなるわ。でも、公式戦で負けた時の借りも返す為にもやって来たのよ!!」

 

「ちっとは否定しろや!!

つーか、新しいデッキだったら権現坂とデュエルでもしろよ!」

 

「権現坂は修行のために山から学校に通う生活を続けていて、デッキは調整中なの。

権現坂のデッキは特殊だから、新しくパワーアップをしたデッキで挑んでも仕方ないし……なによりも、遊矢や権現坂を除いてジュニアユースクラスの知り合いで一番強いデュエリストは貴方よ?」

 

「ったく、しゃーねーな」

 

 煽てるとあっさりと私の言葉に乗せられる沢渡。

 けど、言っている事は割と本当なのよ。舞網チャンピオンシップのジュニアユースクラスの参加権を手に入れる為の公式戦で戦ったデュエリストの中でも沢渡は3本の指に入るほどの実力者。

 タツヤくん程じゃないけど、学習能力もある。家がお金持ちだから、レアカードとか新しいカードを即座に入手して、デュエルする度にデッキが変わってる。

 

「沢渡さぁん、気付いてください!遠回しに権現坂の方が強いって言われてますよ!」

 

「なにぃ!?」

 

 そ、そこまでは言ってないわよ!?

 確かに公式戦で権現坂と沢渡がデュエルをしたら、権現坂が勝ったし、私個人としても権現坂を応援したいけど……。

 

「オレ様を踏み台にしようとは良い度胸だな、柚子……そうだ、折角だから色々と賭けをしようぜ!」

 

「賭け?」

 

「ああ、そうだ。

遊矢に危険なデュエルをさせたくない、してほしくない、隣に立ちたい。遊矢と同じぐらいに強くなりたいんだろ?だったら、こういう感じの賭けをした方がより実戦的だ!」

 

「……まぁ、確かにそうね」

 

 遊勝塾には何時も色々な危険が付きまとっている。

 おじさんの事とかペンデュラムとか塾生少なすぎて赤字続きとか、カードを取り扱ってないとか。

 きっとこれから先、更なる危険な事が起きる。だったら、そういう負けた方がなんらかの危険性が伴う危ないデュエルをしないといけない。

 負けたら終わりじゃなく負けたら何かあるという何時もとは異なるプレッシャーがのしかかるから実戦的で良いかもしれない。

 

「罰ゲームの内容……マドルチェスイーツ2000円分を奢るのはどう?」

 

「んなの罰ゲームにならないだろ?第一、0が1つ足りねえだろうが」

 

「っぐ……」

 

 トリシューラプリンとかマドルチェのスイーツは結構なお値段。

 2000円は結構なお金なのに、沢渡は罰ゲームでもなんでもないって、普段から柿本達にスイーツを奢ってたりするし、気前の良い沢渡にとって2000円分のスイーツを奢るぐらい日常茶飯事。

 罰ゲームだと認識してないのがイラッと来るわ。

 

「そこまで言うんだったら、30000円分奢ってもらうわ!!」

 

「どさくさに紛れて若干値上げしたな。

いいだろう、オレが負けたら遊勝塾に30000円分の差し入れをしてやる!!だが、お前が負けた時はどうなるか分かってるだろうな?」

 

「私が奢るんじゃないの!?」

 

 話の流れ的に私が奢る感じだったけど違うの?

 

「オレは他人に奢られるほど金に困っちゃねえんだよ」

 

 私の知り合いで一番財力を沢渡は持っている。お金で買える欲しい物は大体持ってる。

 そんな沢渡が私に対して与える罰ゲーム……

 

「沢渡さん、(遊矢と)ポッキーゲームっすよね!」

 

「沢渡さん、(遊矢と)愛してるゲームっすよね!」

 

「沢渡さん、(遊矢と)どんなエロいことをさせるんすか!」

 

 柿本、大伴、山部の3人が言っているのはお金では買えなさそうなことをいう。

 てか、山部がストレートにエロいって言ってたわよ!!

 

「そいつはデュエルに勝ってからのお楽しみだ!」

 

 デュエルディスクにデッキをセットし、ニヤリと悪どい笑みを浮かべる沢渡。

 勝った時になにをするか言わなかったせいで、どんな事を私にさせるつもりなのか分からない。このままだと大事なものを失いかねないと一旦デュエルを中止を提案をしようとするけれど、立ち止まる。

 遊矢は常に自分の大事なものを賭けている。おじさんの時だってそう。一度でも負ければ全てが終わっていた。

 

「沢渡、貴方にだけは絶対に負けない!」

 

「捻りのないセリフだな!」

 

 絶対に勝ってみせる!

 私もデュエルディスクにデッキをセットし、沢渡と向かい合いデュエルスタンバイ。私達が開幕を告げる合図をしようとした瞬間だった。

 

「待て!!」

 

 横槍が入った……んだけど

 

「だ、誰?」

 

 ちょうど遊矢と同じぐらいの体格の紅いストールを巻きマントで体を覆い黒いマスクとゴーグルで顔を隠した知らない誰かが出てきた。声からして男性みたいだけれど、誰?

 沢渡達の方を見てみるけれど誰だあいつといった顔をしている。私もあんな格好をした知り合いは居ないし、一瞬遊矢かと思ったけれど、遊矢に気付かれない様に沢渡のところに来たし、大体遊矢がこんな格好をして沢渡の元には来ない。

 

「……下がっていろ」

 

「下がっていろって、これ私と沢渡のデュエルで貴方は」

 

「あいつは危険だ」

 

 全くの無関係の彼はデッキをセットされたデュエルディスクを取り出す。

 と言うことはデュエルをしろってことで、彼もデュエリストだけれど……なんで彼と沢渡がデュエルをするわけ?

 

「いきなり現れたと思ったら、オレ様が危険だと?

確かにイケメン過ぎて逆に危険なのは分かるが、野郎には好かれたかねえぞ!」

 

「……貴様、LDSだな」

 

 か、会話が成り立ってない。

 

「LDS……ああ、てめえもしかして!!」

 

「知ってるの、沢渡?」

 

「最近、LDSで噂になってるLDS狩りのデュエリストだな!!」

 

 え、なにそのデュエリスト?

 大手のデュエルスクールにLDSのデュエリストを倒して名を上げようとするデュエリストって、ごまんと居るわよね?

 

「LDS狩りのデュエリストって言うと!」

 

「道端でスタンディングデュエルを挑んではエクシーズモンスターで勝利する!」

 

「LDSのエリート中のエリートである制服組も倒したっていうあの!!」

 

 LDSの制服組って、プロデュエリストの内定が決まってるも同然のエリート集団じゃない。

 ていうか、3人が言っていることを聞く限りは彼は辻デュエリストよね?もうすぐ舞網チャンピオンシップがあるから腕試し?いや、それならルール通りアクションデュエルをしないといけない。

 大手のLDSなんだからうちと違って塾生は沢山いるから公式戦を申し込めば直ぐにしてくれるのに、どうしてわざわざ公式戦をしないの?

 

「そのバッジ、お前はLDSだな?」

 

「ノンノンノン、ちょっと違うな。オレは今までお前が相手にしてきたエリートデュエリストとは異なるスゥパァエリートデュエリスト、ネオ・沢渡様だ!!」

 

 あ、まだ続いてるのね、それ。

 顔がよく見れないけど、向いている方向から見る感じ沢渡を睨んでそうな彼。

 

「「デュエル!!」」

 

 そして私を放置してデュエルがはじまった……

 

「私とのデュエルは!?」

 

「こいつを倒してからしてやるよ!!」

 

 完全に忘れられてる。

 沢渡は私とのデュエルよりもLDS狩りのデュエリストのデュエルに意識を向ける……取りあえずはデュエルを見よう。柿本達も完全に沢渡の応援モードだし、この後にやるデュエルの参考になるわ。

 

「オレのターン。オレは手札を5枚セットする!」

 

「!?」

 

 LDS狩りの先攻からはじまったけれど、まさかの5枚セットでの終わり。

 最初の手札が魔法・罠カードだって言ってるみたいなものでハネワタや冥府の使者ゴーズみたいな手札から発動できるタイプのモンスターが手札に無いって言ってるも同然じゃない。

 

「おいおい、ガン伏せかよ。

オレのターン、ドロー……オレは強欲で金満な壺を発動!

エクストラデッキのカードを3枚もしくは6枚をランダムに裏側表示で除外することにより除外したカード3枚につき1枚をドロー!オレはエクストラデッキのカードを6枚裏側表示で除外し、カードを2枚ドロー!」

 

 いきなりのドローカードの発動かと思えばエクストラデッキからカードを裏側表示で除外した沢渡。

 今までの沢渡はエクストラデッキにカードを1枚も入れていなかったのに入れている。ネオ沢渡だと言うほどパワーアップをしている。

 

「なにもしてこねえのか?……どうやら無駄みたいだったな。オレはハーピィの羽根帚を発動!!」

 

 強欲で金満な壺の効果でドローをしたハーピィの羽根帚。

 問答無用で相手の魔法・罠、ペンデュラムスケールにセットしたペンデュラムモンスターを破壊するカード。あれじゃあセットしたカードが召喚や効果発動時に使うカードでもブラフでも意味を為さない。フィールドががら空きになる。

 

「そうはさせない、罠カード発動!」

 

「効果の発動を無効化系のトラップか?っへ、使わせただけでも儲けものだぜ!!」

 

 ハーピィの羽根帚にチェーンをして伏せカードを発動するLDS狩り。

 だけど、発動する事の出来ないカードもあったのかハーピィの羽根帚の効果により破壊される……気のせいかしら?ハーピィの羽根帚で破壊された時に起きる演出の風が何時もより強い気がするわ。

 

「これでお前のフィールドはがら空きだぜ!」

 

「それはどうかな?」

 

「なに……まさか、和陸の使者でも発動したのか!?」

 

 沢渡の羽根帚でピンチになった筈なのに慌てない彼。

 あの状況でこんな事になってしまっても余裕でいられるカードって和陸の使者とかダメージを0にする系のカードぐらい。

 沢渡も同じ事を考えていると、彼のフィールドにモンスターが召喚される。

 

「手札無くて墓地にもカードが無いのにモンスターを特殊召喚だと!?」

 

「お前がハーピィの羽根帚を発動した際に発動した。

幻影騎士団(ファントムナイツ) トゥーム・シールド。このカードは発動後、通常モンスターとして扱う」

 

 幻影騎士団トゥーム・シールド×3

 

 レベル3 闇属性 戦士族 通常モンスター(罠カードとしては扱わない) 攻撃力300

 

 見たことの無いカードを召喚するLDS狩り。

 これって、確か罠モンスター……よね?

 

「セットしたカードが罠モンスターとは意外だな。

だが、罠モンスターは宮廷のしきたりがねえと上手くいかせねえ!」

 

 自身以外の永続罠カードを破壊から守る宮廷のしきたり。

 罠モンスターと組み合わせることにより戦闘でも効果でも破壊されなくなり、相手は宮廷のしきたりを破壊せざるをえなくなって、遊矢が権現坂に対してやった時は権現坂は凄く除去するのに苦労していたわ。

 

「幻影騎士団達は通常罠だ。宮廷のしきたりを使っても意味はない」

 

「なにぃ!?」

 

 通常罠の罠モンスター?

 幻影騎士団といい全く聞いたことの無いカードを使っているわね。

 

「更に罠カード、幻影騎士団ダーク・ガントレットの効果。

デッキから1枚ファントム魔法・罠カードを墓地に送る。オレが墓地に送るのは幻影死槍!」

 

「余計な壁を増やすどころか墓地まで増やしちまったか。

だが、効果もなけりゃパワーもねえカードにやられるオレ様じゃねえ!!」

 

「「「沢渡さん、気を付けてください!それ死亡フラグですよ!!」」」

 

「死亡フラグを打ち破る、それこそが天才デュエリスト沢渡様だ!

オレは魔法カード、フォトン・サンクチュアリを発動!フィールドに2体のフォトントークンを守備表示で特殊召喚する!」

 

 フォトントークン×2

 

 レベル4 光属性 雷族 守備力0

 

「フォトントークンは攻撃することは出来ず、シンクロ召喚に使うことはできない」

 

「トークンはエクシーズ素材にはできない……融合召喚か!」

 

「違うな。オレは2体のフォトントークンをリリースし轟雷帝ザボルグをアドバンス召喚!!」

 

「「「そ、そのカードは!?」」」

 

 ……あれ?

 

「ペンデュラムじゃないじゃない」

 

 ペンデュラムカードがどうのこうのとデュエルをする前に色々と言っていた沢渡。

 今使っているカードは帝と呼ばれるカードで、アドバンス召喚をメインとしているモンスター達。ペンデュラム召喚をすればアドバンス召喚の為に通常召喚出来るけど、合わない気がするわ。

 

「ふっ、甘いな。

オレは常に時代の最先端を行く男だぞ?そんな沢渡が生まれ変わりネオ・沢渡になった。ならば時代の最先端の更に先を行く!」

 

「まぁ、本当はペンデュラムカードがまだ未完成でLDS内部でしか使えないから違うカードを使ってるってだけですけど」

 

 それでアドバンス召喚ってむしろ退化してない?

 

「轟雷帝ザボルグの効果を発動!

アドバンス召喚に成功した時、フィールドのモンスター1体を破壊する。そしてその破壊したモンスターが光属性だった場合、そのモンスターのレベルもしくはランクの数だけお互いにエクストラデッキからカードを墓地に送る!!」

 

「なに!?」

 

「エクストラデッキのデッキ破壊!?」

 

「その通り!

LDSは融合、シンクロ、エクシーズの3つの召喚全てを教えはじめた。

そしてそれを真似るかの如く他のデュエル塾も融合、シンクロ、エクシーズの何れかを教えている。

今の時代はそれらを出来る奴がスゴいが、このネオ・沢渡は更にその先を行く!今の時代じゃそれですごいと持て囃されるが、数年後にはそれが当たり前!だったら、それが当たり前の環境でも最強なこの轟雷帝ザボルグのエクストラデッキ破壊が最先端の更に未来を行くデュエルだ!!」

 

 言っていることがなんだかスゴく恐ろしく効果もとてつもなく恐ろしい轟雷帝ザボルグ。

 効果で墓地送りにされれば蘇生することは出来ないし、墓地に送られた時に発動する系の効果を持っているカードはほぼ無いに等しい。

 

「オレはこの効果で轟雷帝ザボルグを破壊するぜ!!

そして轟雷帝ザボルグを光属性モンスターをリリースしてアドバンス召喚した場合、この効果で墓地に送る相手のエクストラデッキのカードもオレが決める!」

 

 な、なによその色々ととんでもないふざけた効果は!?

 轟雷帝ザボルグを召喚して妨害がなければ相手のエクストラデッキを8枚も自分で選んで墓地に送ることが出来る。しかも、エクストラデッキから8枚を選ぶ効果だから相手のエクストラデッキの全てを見ることが出来る。

 知識の豊富なデュエリストは相手の使うカード2、3枚で相手のデッキがどんな感じなのかを見抜ける。問答無用で15枚のエクストラデッキを見ることが出来るから、相手のデッキがどんな感じなのかが分かる。

 8枚もデッキから墓地に送られたら、エクストラデッキのモンスターを主体としたデッキは上手く回らない。

 

「って、エクストラデッキ7枚しかねえじゃねえか。全部墓地送りだ!」

 

 7枚しか無かったので、迷うことなく墓地送りにする沢渡。

 半透明な轟雷帝ザボルグが彼に向かって雷を落とす……え?

 

「停電?」

 

 轟雷帝の雷が落ちると急に倉庫内が停電した。

 まだ明るい時間帯だから中は見れるけど、急に停電するなんておかしい。

 

「そしてオレのエクストラデッキから8枚のカードを墓地に送る!カードを2枚セットしてターンエンドだ!」

 

 沢渡のフィールドは2枚の伏せカード、手札は2枚。

 モンスターゾーンはがら空きだけど、幻影騎士団罠モンスターの攻撃力は低いからダイレクトアタックを受けてもライフは0にならず、エクストラデッキからモンスターを出すことも出来ない。

 

「オレは魔法カード、貪欲な壺を発動!!

墓地に眠る幻影騎士団ブレイクソード2枚と幻影騎士団カースド・ジャベリンを2枚とダークリベリオン・エクシーズ・ドラゴンをデッキに戻して2枚ドローする!」

 

 轟雷帝の効果により墓地に送られたエクストラデッキのカードを戻し、デッキから2枚ドローするLDS狩り。

 これでエクストラデッキの補充が出来て、足りなかった分の手札の補充も出来た。手札によっては1ショットキルも出来そうな感じだけれど、問題は沢渡がセットしたカード。

 

「2体の幻影騎士団トゥーム・シールドでオーバーレイ!!

戦場に倒れし騎士たちの形見よ今こそ蘇り、闇を切り裂く光となれ!エクシーズ召喚!現れろ!ランク3、幻影騎士団ブレイクソード!」

 

 幻影騎士団ブレイクソード

 

 ランク3 闇属性 戦士族 レベル3モンスター×3 攻撃力2000

 

「……おかしい、おかしいわ!!」

 

「なにがだよ?」

 

「これはアクションデュエルじゃなくてスタンディングデュエル。

リアルソリッドビジョンを使わないデュエルで、衝撃もなにもない……なのに、そのモンスターからは寒気を感じるのよ!!」

 

 フォトントークンは光を放っているだけのトークンだから余り感じなかった。

 轟雷帝ザボルグや幻影騎士団トゥーム・シールドを出したときに僅かな違和感を覚えた。そしてブレイクソードでハッキリとした。

 

「貴方達のモンスターが実体化してる。沢渡、今すぐにデュエルを中止にしないと怪我を」

 

 モンスターが実体化している。

 リアルソリッドビジョンを使ったデュエルなら別に普通のこと。でも、リアルソリッドビジョンを使ってない今はおかしなこと。

 安全装置もなにもない床がコンクリートのこの場所で吹き飛ばされたら、アクションデュエルでの事故よりも酷い大ケガをおうかもしれない。

 

「っは、怪我の1つや2つが怖くてデュエリストなんてやってられるかよ!」

 

 そういう問題じゃないでしょうが!!

 

「それにな、その原因は判明している。そう、犯人はあいつだ!」

 

 ビシッとLDS狩りを指差す沢渡。

 いや、確かにおかしな原因は彼にあるけれどもそんな分かりきった事をかっこよく言わなくても……。

 

「アイツのデュエルディスクは見たことの無いタイプだ。

恐らくは違法改造されたリアルソリッドビジョンを入れたデュエルディスク……リアルソリッドビジョンはな、レオコーポレーションの専売特許なんだよ。こんなバカな使い方をしてるやつ、見逃せるか!とっちめて、社長の前につれてってやる」

 

「「「っよ!沢渡さん、正義の味方!!」」」

 

 私の制止を振り切り、デュエルを続ける沢渡。

 こうなった沢渡はどうすることも出来ず、取り巻き三人組が盛り上げるのでデュエルを見守る。

 

「エクシーズモンスターはモンスターの魂であるオーバーレイユニットを使い真の力を発揮する!

オレは幻影騎士団ブレイクソードの効果を発動。オーバーレイユニットを1つ墓地に送り、互いのフィールドのカードを1枚ずつ破壊する!オレは右側のセットカードと三枚目の幻影騎士団トゥーム・シールドを破壊!」

 

「LDS狩り、オレ様というデュエリストと対峙したのはどうやら運命の様だったな」

 

「どういうことだ?」

 

「お前が選択したカードと、選択しなかったカードの両方を使わせて貰うぜ!

先ずは選択したカード!速攻魔法、帝王の烈旋を発動!!このカードを発動したターン、相手モンスターをアドバンス召喚の素材にできる」

 

 

「だが、今はオレのターン。お前はアドバンス召喚はできない」

 

「不可能を可能にする。それこそがこの天才デュエリストの沢渡様だ!!」

 

 沢渡がそういうと2人の間に巻き起こる竜巻。

 チラリと一瞬だけ風帝ライザーが見えるけれども直ぐに居なくなる。そしてこの竜巻もアクションデュエルで起きる竜巻よりも風が強く、私はスカートが捲れない様に裾を押さえた。

 

「永続罠、連撃の帝王を発動だ!!」

 

 沢渡の声が響くと消える竜巻。

 

「なぜお前のフィールドにモンスターが……」

 

 竜巻が晴れるとLDS狩りのフィールドには幻影騎士団ブレイクソードは居なくなり、代わりに沢渡のフィールドには新しい帝モンスター、邪帝ガイウスがたっていた。

 

 邪帝ガイウス

 

 レベル6 闇属性 悪魔族 攻撃力2400

 

「永続罠、連撃の帝王は、相手ターンのメインフェイズかバトルフェイズでアドバンス召喚をすることが出来るカードだ!オレはお前の幻影騎士団ブレイクソードをリリースし、邪帝ガイウスをアドバンス召喚した!」

 

 沢渡は文字通り不可能を可能とした。

 

「更に邪帝ガイウスの効果を発動!フィールドのカードを1枚除外する。

除外したカードが闇属性のモンスターだった場合、相手に1000ポイントのダメージを与える。オレが除外するのは、そう。最後の幻影騎士団トゥーム・シールドだ!1000ポイントのダメージを受けな!!」

 

「沢渡、そのダメージ効果は除外したカードが闇属性モンスターかどうかで判定があるからフィールドから離れたら罠カードに戻る罠モンスターだとダメージを受けないわよ?」

 

「え、まじで?」

 

 邪帝ガイウスの効果をよく理解していなかった沢渡。

 既にトゥーム・シールドを選んでしまったから、別のカードを選ぶことは出来ない。

 邪帝ガイウスはダークマターを思わせるかの様な深く黒に近い紫色の円を出すと円から引力が発生し、トゥーム・シールドが吸い込まれていく。

 

「私も引っ張られるんだけど!?」

 

 カードが実体化してるせいか、巻き込まれる形で引っ張られる私。

 トゥーム・シールドよりも私の方が邪帝ガイウスよりも遠い場所にいるから吸い込まれる事は無かったけど、心臓に悪い。

 対戦しているデュエリストが吸い込まれそうになるならまだ分かるけど、見ている私がさっきから巻き込まれてばかり。もうちょっとどうにかならないのかとLDS狩りのデュエリストに文句を言おうとした。

 

「……遊、矢?」

 

 文句の一言の代わりに、幼馴染みの名前が出た。

 邪帝ガイウスの効果で引っぱられたのは私だけじゃなく、彼も引っ張られて少しだけ立っている位置が変わり、つけていたマスクとゴーグルが外れて素顔を見せた。

 物心つく前からずっと一緒にいる幼馴染みで私の大事な人で、何時か本当の笑顔にしたいと思っている遊矢と同じ顔を見せた。

 

「はぁ!?LDS狩りの正体は遊矢だったのか!?」

 

「そんなことあるわけないじゃない!遊矢だったら不意打ち紛いの事はせずに、堂々と襲撃しにいくわ!!」

 

 素顔を見て驚く沢渡。

 事件の犯人は遊矢がとなるけど、わざわざ私達の前で素顔を隠して出る必要なんて何処にもないし、おばさんがこっそりとデュエルディスクに仕込んだGPSで何処に居るかぐらいすぐにわかるわ!!

 

「遊矢?オレはユートだ」

 

「ユート……遊矢に似ているが、親戚じゃあなさそうだな。自分と同じ顔は世界に3人はいるとか言うが、まさかマジだったとはな」

 

 気が動転する沢渡だけれど、本人が普通に否定したのでそっくりさんで終わる。

 けど、そっくりさんで終わるレベルじゃない。体格とか色々と同じで、違いは服装と髪の長さぐらい。

 双子とかクローンと言われてもおかしくないレベルで瓜二つで……なんだか、嫌な感じがするわ。これはあれね。似すぎるのもあまり良くないということね。

 

「……ターンエンドだ」

 

「オレのターン、ドロー……1つ聞いて良いか?」

 

「なんだ?」

 

「お前、なんでこんな事をやってんだ?

今回はこのスゥパァエリートであるオレ様が相手で運が無かったが、制服組を倒したんだろ?

何処で教わったかは知らねえがエクシーズ召喚を使いこなす腕があんのに、なんでそんな事をしてんだよ」

 

 LDSの制服組を襲った事について聞く沢渡。

 デュエル中にこんな事を聞くって事は沢渡は彼の事を強いデュエリストだと認めているということ。

 彼が何処の誰かは知らないけれど、少なくともLDSの制服組を倒すほどの実力を持っている。見た感じだけど、権現坂道場を破門された暗黒寺ゲンの様な凶暴な性格でもない。

 公式戦を申し込めば山のように出てくるのがLDSの生徒で、わざわざ制服組を襲う理由が分からないわ。

 

「……戦いを終わらせるためだ」

 

「戦いを終わらせるだと?」

 

 むしろ戦いの火蓋を切ってるわよ?

 

「オレは……オレ達は戦いを終わらせる。

その為に此処にやって来た。散っていった仲間や拐われた仲間達を救うためにも、悲しみを断ち切るためにも」

 

「お前、なに言ってんだ?」

 

 なにかあったっぽいけど、話が読めない。

 仲間って言ってるから仲間がLDSと勝負をして仲間が負けた?……いや、それだったら倒した相手とデュエルを挑んで敵討ちをすればいいだけ。

 

「……」

 

 よく分からないから詳しい事を聞きたい沢渡に対して、彼は口を閉ざす。

 こんな感じだから時折忘れるけど沢渡と柿本達はLDSに所属している。LDSで起こった事とか噂されている事とかあるんだったら色々と知れる。

 彼と彼の仲間達がLDSといざこざがあったとしても、言っていることがなんか色々と変。

 

「どうやらお前にはお前の事情があるみたいだな。だが、だからと言って負けてやるほどお人好しじゃねえんだ!

オレは魔法カード、汎神の帝王を発動!手札の帝王カードを墓地に送り2枚ドローする。オレは2枚目の連撃の帝王を墓地に送り2枚ドロー!

更に汎神の帝王を除外し、更なる効果を発動!デッキから帝王魔法・罠カードを3枚を相手に見せ、その内1枚を相手に選ばせ、残った2つをデッキに戻す!オレは帝王の烈旋を2枚と帝王の深淵を見せるぜ!」

 

「オレは帝王の深淵を選ぶ!」

 

「手札に加えた帝王の深淵を発動する。

攻撃力2400もしくは2800で守備力1000のモンスターを相手に1体見せて、デッキから帝王カードを手札に加える!オレは天帝アイテールを見せて帝王の烈旋を加える!!」

 

 結局なにを選んでも帝王の裂旋は手札に加えることが出来るのね……。

 これで次のターンになにを召喚してもアドバンス召喚の素材にされる可能性が出てくる。

 

「そして邪帝ガイウスをリリースし、天帝アイテールをアドバンス召喚!!」

 

 天帝アイテール

 

 レベル8 光属性 天使族 攻撃力2800

 

「天帝アイテールはアドバンス召喚をしたモンスターをリリースすれば1体でアドバンス召喚できる!

更に天帝アイテールの効果を発動!手札・デッキから帝王の魔法・罠カード2種類を墓地に送ることにより攻撃力2400以上、守備力1000のモンスターを特殊召喚する事が出来る!帝王の凍気と帝王の轟毅を墓地に送り、現れろ、冥帝エレボス!」

 

 冥帝エレボス

 

 レベル8 闇属性 アンデット族 攻撃力2800

 

 

 攻撃力が2800のモンスターが2体、ユートのライフを削りきることが出来る。

 

「バトルだ、天帝アイテールでダイレクトアタック!!」

 

「っく……」

 

 ユート LP4000→1200

 

「こいつで終わりだ!

オレは冥帝エレボスでダイレクトアタック!」

 

「幻影騎士団は倒れない、何度だって立ち上がる!

この瞬間、幻影騎士団シャドーベイルとダークガントレットの効果を発動!相手のダイレクトアタック宣言時、自分のフィールド上にカードが無い時、墓地からこのカードを守備表示で特殊召喚する!甦れ、幻影騎士団達よ!!」

 

 幻影騎士団シャドーブレイク

 

 レベル4 闇属性 戦士族 罠(通常モンスターとして扱う) 守備力300

 

 幻影騎士団ダークガントレット

 

 レベル4 闇属性 戦士族 罠(通常モンスターとして扱う) 守備力600

 

「破壊したと思ったらフィールドに甦りやがって」

 

「幻影騎士団は何度でも甦る!

仲間達のために、例え何度倒されても不撓不屈の精神でお前の前に立ちふさがる!そして仲間の思いを背負う!

幻影騎士団ダーク・ガントレットは墓地にあるファントム魔法・罠カードの枚数×守備力を300ポイントアップする。

オレの墓地には幻影騎士団トゥーム・シールド3枚と幻影死槍の合計4枚。1200ポイントアップする!」

 

 幻影騎士団ダーク・ガントレット 守備力600→1800

 

「だが、それでも冥帝エレボスの攻撃力には届かねえ!

オレは冥帝エレボスでその邪魔なダーク・ガントレットを破壊させてもらう!冥帝エレボスの攻撃!!」

 

 不撓不屈の精神で立ち上がる幻影騎士団。

 冥帝エレボスは指を鳴らし、幻影騎士団ダークガントレットの前に地獄の門の様な物を出現させた。

 地獄の門の様な物はゆっくりとゆっくりと扉が開いていきダークガントレットは引き寄せられ、半透明なトゥーム・シールド達が必死になって吸い込まれない様にするのだけれど、引き寄せられる力の方が強くダークガントレットは扉の向こう側に飲み込まれる、その瞬間だった。黒い槍が扉に刺さった。

 

「この瞬間、幻影死槍の効果を発動。

闇属性モンスターが戦闘で破壊される時、墓地のカードを除外することで破壊を免れる!」

 

「っち、レベル4のモンスターが残っちまったか。オレはカードを1枚セットし、ターンエンド。

そしてエンドフェイズ時に天帝アイテールの効果を発動。自身の効果で特殊召喚したモンスターを手札に戻す、戻りな冥帝エレボス」

 

「これって……」

 

 沢渡のセットしたカードは多分だけど手札に加えた帝王の裂旋。

 手札には冥帝エレボスがいる。帝王の裂旋はアドバンス召喚する時に相手のモンスターを1体素材に出来る。沢渡のフィールドには永続罠、連撃の帝王がある。

 次のターンにエクシーズ召喚に成功したとしても帝王の裂旋と連撃の帝王のコンボで天帝アイテールとそのモンスター1体をリリースされて、冥帝エレボスがアドバンス召喚される。

 次のターンに沢渡がライフを0に出来ないなんて事は無いし、このターンでデュエルに勝利しないといけない。

 

「……」

 

 彼もそれを感じているのかデッキを見つめる。

 そのドローを含めた3枚の手札と墓地にあるカードだけで、ワンショットキルを決めないといけない。

 

「つまんねえな」

 

「なに?」

 

「同じ顔をしているのに、お前とデュエルをしてて全然面白くねえんだよ」

 

 ドローをする手が震えているのを見て、沢渡は不満そうな顔をする。

 

「アイツは……全く別のゲームをしてるんじゃないかって思うぐらいに1人プレイで速攻魔法で3体のブルーアイズ特殊召喚とかいう頭のおかしなデッキを使ってくる殺意の塊みたいなデュエルをしてくる。

コンマイ語を感じるんじゃない考えるんだとか変な事を時折言ってくるよくわからねえ時もあるが、1つだけ確かな事がある……アイツとの、榊遊矢とのデュエルは楽しくて面白いんだよ!」

 

「楽しくて、面白い……」

 

「ああ、そうだ!!

油断すると一瞬でやられるスリルを楽しめ、デュエルの度にデッキをコロコロと変えやがるから自分の本当の実力を知れて面白い。なによりも、アイツ自身がデュエルを楽しんでいる。なのに、お前のデュエルはつまんねえどころかお前自身が楽しんでねえ!!」

 

 彼とのデュエルに対し、不満を言い放つ沢渡。

 確かにデュエルを楽しもうとしていない。沢渡とのデュエルを面白いと思っていない。

 でも、それはLDSの間になにかしらの事情があったからで、今は3年前の遊矢みたいに……。

 

「デュエルってのはな、カードゲームなんだよ!

今でこそプロだなんだとできたけど、元々は楽しんで遊んでもらう為に作られたんだ!真剣勝負?大いに結構!だが、楽しむ心を忘れてるんじゃ一生オレには届かねえ!」

 

「「「沢渡さん、それ遊矢が言ってたことっすよ!!」」」

 

「オマージュといえ、オマージュと!」

 

 どこがよ。

 遊矢の言っていることを丸パクリしているだけ……でも、言っていることや伝えたい事は分かるわ。

 

「デュエルは楽しむもの……」

 

 沢渡の言葉に感化され、なにかを思い出す。

 チラッとだけど私の方を見たけれど、知り合いと私が似ているのかしら?

 

「なら、このドロー、楽しませてもらう」

 

「ああ、楽しめ。

オレは遊矢と違って優しいから、強烈なはたき落としは使わねえ!」

 

 そういえば、似たような状況で遊矢に強烈なはたき落としでドローカードを墓地に送られていたわね……沢渡が。

 

「……オレは墓地の幻影騎士団トゥーム・シールドの効果を発動。

自身を除外することにより、相手フィールド場の表側表示の罠カードの効果をエンドフェイズ時まで無効にする。オレは連撃の帝王の効果を無効にする!これでこのターン、お前はアドバンス召喚を出来なくなった」

 

「確かにそうだが、まだオレのフィールドには天帝アイテールがいる!!こいつを倒した上で4000のライフを削りきる事が出来るかな?」

 

「幻影騎士団ダーク・ガントレットと、シャドーベイルでオーバーレイ!!

漆黒の闇より、愚鈍なる力に歯向かいしもの、反逆の時!!エクシーズ召喚、ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン!!」

 

 レベル4の罠モンスターからエクシーズ召喚された黒いドラゴン。

 今まで出てきた幻影騎士団とは違うモンスターで、威圧感が段違いで……遊矢のオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンと同じ、召喚法を名に持つモンスター。

 

 ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン

 

 ランク4 闇属性 ドラゴン族 ORU×2 攻撃力2500

 

「ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの効果を発動。

オーバーレイユニットを2つ使い、相手モンスター1体の攻撃力を半分にし、その数値分だけ攻撃力をアップする!」

 

「フォースと同じ効果だと!?」

 

「オレは天帝アイテールの攻撃力を半分にする!トリーズン・ディスチャージ!!」

 

 紐状の雷を背中の翼から出すダーク・リベリオン。

 天帝アイテールを縛り上げると、電気を流し込み攻撃力を半分にし、もう半分を自分の物にしていく。

 

 天帝アイテール

 

 攻撃力2800→1400

 

 ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン

 

 攻撃力2500→3900

 

「これで天帝アイテールを上回った」

 

「確かにそうだが、ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの元々の攻撃力分のダメージしか与えられない!次のターンにオレがモンスターを引いて、ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンを素材にアドバンス召喚すれば」

 

「お前に次のターンは無い!

オレは闇の誘惑を発動!デッキから2枚ドローし、手札から闇属性モンスターを除外する!オレは幻影騎士団ラギットグローブを除外し、速攻魔法、異次元からの埋葬を発動。

除外されているラギットグローブとトゥーム・シールドを墓地に戻す。ラギットグローブの効果を発動!自身を除外することにより、デッキから幻影騎士団かファントム魔法・罠カードを墓地に送る!オレが送るのは幻影剣!

墓地に送られた幻影剣の効果を発動。自身を除外することにより、墓地の幻影騎士団モンスターを特殊召喚することが出来る。オレは幻影騎士団ブレイクソードを特殊召喚!!」

 

 再び甦った幻影騎士団ブレイクソード。

 エクシーズ召喚でなく特殊召喚で墓地から甦らせた為にオーバーレイユニットの球は回ってはいない。

 オーバーレイユニットが無いと効果を使えないエクシーズモンスターは通常モンスターと遊矢は言っていたけれど、今はその通常モンスターが必要だった。

 

 ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン

 

 攻撃力3900 ORU×0

 

 幻影騎士団ブレイクソード

 

 攻撃力2000 ORU×0

 

「ブレイクソードでアイテールを倒して、ダーク・リベリオンでダイレクトアタックってか!舐めんじゃねえぞ、アクションカードで……あ、アクションデュエルじゃなかった」

 

 なにを今更な事を言ってるのよ。

 沢渡はアクションカードに頼ろうとしたけれどもアクションデュエルじゃないことに顔を真っ青にする。

 

「バトルだ、幻影騎士団ブレイクソードで天帝アイテールを攻撃!」

 

「ぐっほぉ!?」

 

 沢渡 LP4000→3600

 

「沢渡!?」

 

 ブレイクソードのボロボロの刃に切り裂かれる天帝アイテール。

 モンスターが破壊された時に起きる突風が何時もより強く、沢渡は尻餅をつく。

 

「あ~くそっ!やるなら、とっととやりやがれ!!」

 

 これ以上はどうすることも出来ない沢渡。

 潔く負けを認めた。

 

「……ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンでダイレクトアタック!反逆のライトニング・ディスオベイ!!」

 

 顎の牙に雷を纏わせ飛ぶダーク・リベリオン。

 沢渡に向かって突撃し、顎の牙で沢渡を突き飛ばした。

 

「おぉおおおお!のぉおおおおおん!!」

 

「「「沢渡さん、大丈夫っすかぁ!?」」」

 

 沢渡 LP3600→0

 

 そして見事なまでの敗北フラグを回収した沢渡と見事なまでの逆転勝利をしたユート。

 

「こ、今回はオレの負けだ!だが、覚えておけよ。

次に会ったとき、ネオ・沢渡からニュー・ネオ・沢渡に進化した時にはお前も、そして遊矢もぶっ倒す……ガクリ」

 

「すまない……」

 

 負けた筈の沢渡はゆっくりと意識を失うもののその顔は清々しく、気持ちいい笑顔。

 勝った彼は浮かない顔で、勝ったことを喜ばず謝っていた。

 負けた方が心の底から笑顔になっていて、勝った方は笑顔になるどころか悲しんでいる。

 

「待って、貴方はどうしてこんな事をしているの?」

 

 この場を去ろうとする彼。

 悲しい顔でデュエルをしている人を見過ごすことは出来ず、私は腕をつかむ。

 

「君は……いや、違うか」

 

「違うって、なにが違うの?」

 

「違うとはいえ、オレは君を巻き込みたくない」

 

「巻き込みたくないって、私はもう当事者、きゃっ!?」

 

 彼にはなにかしらの事情がある。

 その事について聞こうとすると桜色の光がブレスレットから放たれ

 

「……いない」

 

 光が消えると彼が居なくなっていた。

 

「あ、やっぱ此処に居たのか」

 

「遊矢?」

 

 ユートが居なくなるとまるで入れ替わるかの様にやって来た遊矢。

 流石に無いと思うけれど、さっきまで居たのは実は遊矢でしたは……無いわよね。

 

「遊矢、よね?」

 

 改めて遊矢の顔を見るとさっきまで居たユートと瓜二つ、ううん、そういうレベルじゃないぐらいに顔が似ている。

 さっきまで居たユートじゃないのか確認を取ると目を細める……え、どうしたの?

 

「なに言ってるんだっと、沢渡っ──」

 

「またなの!?」

 

 沢渡の事を心配する遊矢。

 何時も通りの遊矢で、さっき居たユートは瓜二つの別人だったと納得がいったのだけれど、さっきまでユートが居た場所が光った。

 

「ここがスタンダード……」

 

「今度は……私!?」

 

 光が消えると、そこに居たのは服装と髪の長さ以外は私と瓜二つな女性が立っていた。

 いったいなにがどうなっているのか分からない。

 

「っ、見られ──ユート?」

 

 私の声に反応し、慌ててしまう私のそっくりさん。

 遊矢の顔を見ると驚き、ユートの名前を出すけれども遊矢は目もくれず沢渡に向かう。

 

「ユートじゃないって前も言っただろう。取りあえず、沢渡は、あ~ダメだ、これ……山部、救急車って呼んでるか」

 

「今、電話しようとしてるところっす。あ、もしもし救急車をですね───」

 

 意識を失った沢渡の為に救急車を呼ぼうとする山部。

 電話が繋がり、救急車1台を頼もうとしたその時だった。

 

「遊矢、遊矢なのね……会いたかった!!」

 

 私のそっくりさんが遊矢に抱きついた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「沢渡さん、起きてください!」

 

「沢渡さん、物凄く面白い事になってますよ!」

 

「沢渡さん、榊遊矢の分の救急車も追加しときますよ!!」

 

 

 

 

「「「これで入院生活で寂しい思いはしませんよ、沢渡さん!」」」




OMKフェイズ


柚子が負けた場合の罰ゲーム的なの。

柿本

柚子と遊矢のポッキーゲーム

説明

ポッキー(極細)タイプのポッキーゲーム。
1本ずつゆっくりと丁寧に遊矢と共にポッキーゲームをしている姿を見せて欲しかった、絶対に面白い事になる。
そしてその瞬間をカメラに納めたかった。

もしやった場合

ポッキーを口に加えた動かず至近距離の遊矢を見て、顔を真っ赤にする柚子。
遊矢はある程度食ったら、ポキッと折ってやろうと考えて食べ進んでいると柚子が先に限界を迎えて遊矢にアッパーカットをくらわせて終わる。

大伴

柚子と遊矢で愛してるゲーム

説明

柚子と遊矢で互いに愛してると言い合うゲーム。
ただ単に愛してると言ってもつまらないから、何処が好きなのかと言ってそういうところも大好きだよ、愛してると言わせたかった。そしてその瞬間をカメラに納めたかった。

もしやった場合

柚子は褒めることとか好きなところはすらすらと言えるのだが肝心の愛してるが言えない。
そしてそれを遊矢は無理せずに言わなくても良いんだとフォローするのだが、柚子的にははっきりと言わないとダメな気がするからとはっきりと言おうと頑張るのだが、それを見ていると遊矢も段々と恥ずかしくなり、沢渡が柚子が言えねえんじゃお前から言ってやらねえとな!と遊矢が愛してると言うことになり、愛してると言おうとした瞬間に余りの恥ずかしさに柚子は遊矢にアッパーカットをくらわせて終わる。

山部

ラブレター

説明

遊矢に対する思いを文字にし、それを沢渡達の前で音読する。
ラブレターの原文は沢渡の手により大事に保管される。唯一の救いは遊矢本人が不参加だということ。勿論、これもカメラに納められる。

もしやった場合

遊矢への思いを改めて文字に綴り沢渡達の前で音読する。
遊矢本人に言うならともかくなんで沢渡達にと言う恥ずかしさと遊矢にこれを渡さないといけないのと考えてしまい、遊矢と顔をあわすのが恥ずかしくなり異変を感じた遊矢が沢渡を締め上げ、沢渡が自白しようと録画していたビデオを再生するので、遊矢をアッパーカットで気絶させて見せない様にする。沢渡はバックドロップボムをくらう。


沢渡がやりたかった罰ゲーム

付き合ってますよドッキリ

説明

読んで字のごとく、私達実は付き合ってますよと言う嘘をつく例のやつ。
お相手は沢渡なので周りからは、ああ、そういう感じの遊びなんだなと見られるだけなので一切引っ掛からない。


もしやった場合

物凄く嫌そうな顔で柚子は付き合ってるのよ遊矢もドッキリかなんかだなと察して乗ってしまう。
そうかボケとツッコミでお似合いだなとちょっと残念そうな顔をし、柚子の精神に大ダメージを与えてしまう。
沢渡はあんなんだけど良い奴なんだから逃すなよと祝福っぽい一言で柚子は限界を迎え、ストレスで吐いてしまい、泣きながら私が本当に好きなのは遊矢なのよと言い、それを証明する為にも遊矢と徹底的にイチャつきそこから段々と病んでいく(満足)。デュエルディスクに人をカード化する機能があれば遊矢に近付く女的な意味で敵だと思うデュエリストをカード化するぐらいのことは平然とする様になる。

次回予告

遊矢、誰なのよその女!!

……

え、私?

黙ってないで答えなさい!その私に!そっくりな女とどういう関係なの!!

か、彼女は瑠璃

瑠璃って朝帰りをした時の女の……貴女、いったい何者なの?

わ、私は……(スタンダードの人にアカデミア、エクシーズ次元の話をしても信じて貰えそうに無いわよね。どうしましょう……)

遊矢とはどういう関係なの?答えて!!

私はその……そう!遊矢のガールフレンドよ!

火に油を注ぐんじゃねえ!!

次回、遊戯王ARC-V【襲撃していた反逆者達への反逆者】にガッチャビングデュエルアクセラレーション!!


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襲撃していた反逆者達への反逆者

漢、権現坂。榊遊矢という友でありライバルの強さを改めて思い知る。

「己が出来ることと出来ないことを知り、そこから出来るようになりたい出来たら良いなという願望を持ち、修行に生かす。不動のデュエルの新たなる境地に至るには今の俺の不動のデュエルがどれ程の物なのかと先ずは己の制空権を知らなければならない……鮭、ドロー!鮭、ドロー!鮭、ドロー!」


 本日の修行 川の中にいる魚をドローする。


 最早、デュエルは関係無いって?サバイバルで生き残るのもデュエリストに必要な能力だ!



「うむ、自分で採った魚の味はまた格段と旨い。
それに加えてこの大自然の景色。目の前の川は清らかで洗練されて自然は心を癒し、魚と調和しあい旨味を更に増す……しかし、贅沢を言うならばポン酢が……む……調和……調律……目の前の川、魚……見えた、見えたぞおおおおお!!」



 漢、権現坂。新たな不動のデュエルを遂に見つける。




「ねぇ、遊矢、誰なのその女?」

 

 急に現れた私そっくりの女。

 さっきまで居たユートの知り合いなのか、遊矢をユートと見間違え、遊矢が否定をすると抱きついた。

 

「……」

 

 滝の様に汗を流す遊矢。

 明らかに見られちゃいけないものを見られた感じで、無言を貫いており目線が合わない。

 

「遊矢、知り合いよね?教えなさい。

ほら、はーやく、しないと、マジ、切れちゃうよーって」

 

 取り出したハリセンを右手で持ち、左手にポンポンと叩きながらカウントダウンをする。

 早く答えてくれないかしら?

 

「え、私!?」

 

 遊矢に問い詰めていると、抱きついていた女が振り向き私の顔を見て驚く。

 ええ、そうよ。貴女は私なのよ。なのに、なんで私じゃなくて貴女が遊矢に抱きついているの?

 

「……彼女は瑠璃」

 

「瑠璃って朝帰りをした時の女」

 

 昨年、ふらっと消えた遊矢。

 私達が必死に探しても見つからず、何処に行ってたかを聞いても答えてくれず危ない事をしていたかと聞けばデュエルをしていた。そう答えてデュエルの記録を見せてくれて、その時の対戦相手の名前!!

 女の名前だと思ったらやっぱり女だったのね!しかも、私のそっくりさんだなんて……。

 

「…貴女、何者なの?」

 

 文字通り何処からともなく急に現れた瑠璃。

 ユートも急に消えたけれども、明らかにおかしい。

 

「私は、その……」

 

 色々と隠し事がある瑠璃。

 さっきのユートもなにかあったみたいだし、答えなさい。

 

「柚子、今は瑠璃よりも沢渡を」

 

「ふ~ん、その女を庇うんだ?」

 

「……そうだが、なにか問題があるのか?」

 

「っ……」

 

 遊矢をちょっと睨んでみるけれど、遊矢は動じない。

 瑠璃を庇うつもりで、その事に対してなんの罪悪感も抱いていない。

 

「彼女はなにも知らないみたいね。アカデミアやエクシーズ次元の事を無理に話さなくても……」

 

「だって……だって、遊矢が……瑠璃、貴女は遊矢のなんなの!?」

 

「「「柚子、そこでチキってどうするんですかぁ!?」」」

 

 うるさい、取り巻き3人組!!

 肝心な事を言葉にすることが出来ず、瑠璃に遊矢との関係を問い詰めると真剣に悩む。

 

「上手く、誤魔化せ」

 

「聞こえてるわよ!!」

 

 この後に及んで、言い逃れなんて絶対に許さないんだから!!

 

「私は……そう、遊矢のガールフレンドよ!」

 

「火に油を注ぐんじゃねえ!!」

 

「っ……グスッ……」

 

「なに泣かせてんだよ、榊遊矢!!」

 

「俺は悪くねえ!!」

 

 分かってる。分かってるわよ、それぐらい。

 瑠璃が遊矢のガールフレンドだなんて嘘ぐらい簡単に見抜ける、見抜けるわよ……でも、違いを見つけるのが難しい私と同じ顔が、遊矢のガールフレンドだなんて……そんなの、私の性格が、私が嫌いだって言ってるみたいなもので……。

 

「瑠璃、つくんならもう少しましなやり方を。

一昔前の実は俺達付き合ってるんだぜ!というニセコイ的な展開はやめろぉ!」

 

「よ、デュエル界の一条楽!」

 

「大伴、ざけんな、誰があんなクズ野郎だ!!」

 

「お前が愛してるって言えば終わるだけじゃないんですかぁ~」

 

「……お前、それはズルいだろう」

 

 否定しないってことは、瑠璃がガールフレンドでもありって思ってることなの!?

 

「あ、あの~」

 

「なによ!!」

 

「あ、いえ。

救急の通報があったので来たのですが、患者の方は?」

 

「あいつらに聞きなさい!」

 

 色々とやっている内にやって来た救急車。

 沢渡は完全に意識を失っていて打撲程度の怪我をしているだけで命に別状は無い。

 

「あ、こっちです」

 

「沢渡さん、LDS狩りとデュエルをして負けたんすよ」

 

「後、もうちょっとで勝てたのにダーク・リベリオンなんてフォース擬きにやられてこうなりました!」

 

「待って、貴方なんて言ったの!?」

 

 3人がローテーションで救急隊員になにがあったのか答えると山部の言葉に反応する瑠璃。

 

「ダーク・リベリオンとかいうフォース擬きのモンスターだよ。あれさえなければ沢渡さんの勝ちだったのに」

 

「ダーク・リベリオン……もしかして、そのデュエリストは遊矢に似ていた?」

 

「確かにあのLDS狩りのデュエリストは榊遊矢と滅茶苦茶そっくりだったけど、デュエルの腕は遊矢程じゃなかったな」

 

 なんで威張っていうのよ。

 

「……じゃあ、ユートが彼をこんな目に」

 

「そうだ!……榊遊矢、オレ達じゃあの野郎に勝てない。沢渡さんの敵を絶対に取れよ!」

 

「いや、そこはお前達が頑張れよって、瑠璃?」

 

 3人に散っていった沢渡(死んでない)の敵討ちを頼まれるけど断る遊矢。

 ユートについて聞いていた瑠璃はプルプルと震えて両手で顔を隠して、膝を地面に落とした。

 

「間に合わなかった……ごめっ……なさい……ごめんなさい、ごめんなさい……グスッ……」

 

 瑠璃は謝る。

 結果的にはユートが沢渡を傷つけた事に対してなのかは分からない。けど、両手の隙間から流れる涙は本物だった。

 

「「「あ、沢渡さんの容態が心配なんで付き添いで行ってくる!」」」

 

「おまっ、おまっ、ざけんな!!時限爆弾と導火線に火がついてる爆弾を抱えた俺を見捨てるな!!」

 

 柿本達3人は病院に搬送される沢渡に付き添っていった。

 

「ごめん、なさい……」

 

「やだ……嫌よ……」

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

「ふぅ、最近運動不足じゃないかって久々にデュエルをしたけど、良い汗がかけたわ」

 

「いや~洋子さん、何年もまともにデュエルをしてないのに腕は一向に衰えてなくて驚きました」

 

「そういう修造くんこそ、現役だった頃より腕が上がったじゃない」

 

「ハッハッハ、遊矢が柚子達に教えてるのを聞いてたら、色々とありまして……まだまだ若い奴等には負けませんよ!」

 

「……なんでこういう時に限って母さんと塾長が遊勝塾にいるんだよ……」

 

 あのまま倉庫街にいるとLDSがやって来そうなので遊勝塾に場所を移したが、今日の運勢、最悪なの?俺、厄年なの?14歳だから厄年じゃないよ。確かにこれから毎日厄日みたいな日常が続くのだろうが、こんなのって無いだろう。

 

「遊矢じゃない、今日は休みなのに精が出──」

 

 本日は塾は休みなのに何故か居る白いジャージ姿の母さんと何時もの塾長。

 腕にデュエルディスクをつけているのと会話の内容からデュエルをしていたっぽいが……終わったな。

 

「あんた、なにをしたんだい?」

 

 俺が来たと分かると喜ぶ母さんだが、今の俺を見ると直ぐに顔を変える。

 

「……グスッ……」

 

 右腕にしがみつくのは涙を流した柚子、無言を貫いている。

 

「傷つけた傷つけた……きっと兄さんも……あの人は無関係なのに」

 

 左腕には壊れたラジオの様にぶつぶつと呟き、時折涙を流す瑠璃。

 

「柚子、どうしたんだ!!」

 

「あ~塾長」

 

「遊矢、お前がついていながら柚子が泣くだなんていったいなにをしたんだ!!」

 

 え、俺がなにかやらかした前提?

 

「柚子、大丈夫か?遊矢がなにをしたんだ、正直に言ってくれ。幸い、洋子さんもいる」

 

「……じゃないです」

 

「なんだって?」

 

「おじさん、私、柚子じゃなくて瑠璃です。柚子はそっちですよ」

 

「お父さんのバカ……」

 

 柚子と瑠璃を間違えて、柚子に更に涙を流させる塾長。

 

「ゆ、柚子が2人!?」

 

「遅い、遅いぞ、塾長」

 

 俺、柚子と瑠璃を連れて来たんだから真っ先にその事について気付かないと。

 血が繋がった娘……あれ、そう言えば柚子と塾長って血が繋がってるのか?柚子って塾長の娘だけど、ハゲの娘の分身でもあるからDNA的な意味ではどうなってるんだ?俺と父さん達って血が繋がって……無い可能性が高いな。まぁ、血が繋がってなくても心の繋がりがあるからいいか。

 

「あんた、その子を何処から連れてきたの?」

 

「連れてきたと言うよりは、向こうからやって来たんだよ」

 

「じゃあ、なんで泣いてるんだい!

またなにかをやらかして、柚子だけじゃなくその子を傷つけたんでしょ……その二人を泣き止まして、終わるまでは家に帰ってくるんじゃないよ!!男なんだから、責任を取りなさい!!」

 

 なんでそうなるんだ!?

 

「遊矢、お前が原因で二人を泣かせたというのならば、お前の力で笑顔にしてみろ!」

 

 おいこら……ああ、もう分かった。

 

「分かったから、ちょっと3人でゆっくりとさせてくれ」

 

 一先ずは落ち着きたい。

 倉庫からここまで連れてくるのに思ったよりも時間かかったし、足がパンパンじゃないが疲れを感じている。

 

「ちゃんと謝るんだよ」

 

 母さんはそう言うと遊勝塾を出た。

 塾長も柚子を笑顔にさせるんだぞとビシッと人差し指で指差してから出た……わざわざ遊勝塾を出る必要があるのだろうか?

 そう疑問を持ったのだが、柚子と瑠璃が最優先なので二人を応接室まで連れていき、座らせる。と言うよりは、俺が座ると柚子達も座る。

 

「瑠璃、なにが──」

 

「なんで私じゃなくて瑠璃なの?」

 

 俺が去った後になにがあったのかを聞こうとすると、柚子の俺を掴む力が強くなった。

 

「なんで瑠璃を先に構うの?」

 

 ハイライトのない目を開き、瞬きせずに俺を見つめる柚子。

 何時もなら綺麗な瞳は黒く淀んでおり、嫉妬の炎を燃やしている時よりも恐ろしさを感じてしまう。

 

「ねぇ、なんで?なんで瑠璃を先に構うの?」

 

「瑠璃が泣いている理由がよく分からないから」

 

「じゃあ、私は分かるっていうの?分かっているのに、瑠璃を優先したの!?」

 

 やめろ、やめろぉ!!

 俺がいったいなにをしたって言うんだ!!泣いている顔で若干ヒスになっている柚子を見ると心が痛む!!

 

「私と、瑠璃は、見た目は一緒なのに、遊矢は瑠璃を」

 

「互いの事情を知ってからにしようと考えてたんだよ!!(やけくそ)」

 

 もうどうしろって言うんだ。

 咄嗟に出た適当な言葉を並べて、オーバーレイかシンクロするしかねえ!!

 

「じゃあ、私を優先してくれるのよね?」

 

「とにかく、瑠璃の話を聞こう!」

 

 もう、どうしろって言うんだこんちきしょう!

 瑠璃が泣いている理由はともかく、瑠璃とかナスビとかクロワッサンがこっちにいる理由はなんとなく予測出来るんだ!!本当にどうしろって言うんだ!

 

「遊矢とのデュエルは楽しかった」

 

 なんでいきなり地雷を爆破させてスタートさせるんだよ……

 

「……楽しかったのね」

 

「ええ、あの時の私達は毎日毎日酷い目に遭っていて心が荒んでいたと思うわ。

でも、遊矢が思い出させてくれたの。デュエルは本当は楽しいもので笑顔になれるものだと」

 

「そう、瑠璃の笑顔を取り戻したのね」

 

「ええ、あの時の笑顔は本物の笑顔よ」

 

 おい、手を組むな。

 長々と回想しなかったりする分、余計に怖い。

 

「レジスタンスは、周りの皆は兄さんはデュエルを楽しいものだと思っていなかった。

デュエルが戦いの道具に、戦いの手段だと認識を変えてしまっていたわ。私はそうじゃないと兄さんや皆に笑って欲しかった。笑顔でデュエルをしてほしかった!!」

 

 重い、重いぞ。

 本来の遊矢くんや父さんがほざいている笑顔と比べて物凄く重い。

 

「でも、私の言葉は届かなかった。

倒しても倒してもアカデミアはやって来て、笑顔になれるデュエルなんて出来ない。私の言葉に共感してくれた人達は、アカデミアにやられて……」

 

「瑠璃、辛いんだったらもう言わなくて良いんだ」

 

 あの後、起きたことを語る瑠璃は本当に辛そうな顔をしている。

 聞いておいてなんだが、そこまでするぐらいならば無理に語らなくていい。笑顔にならなくてもいい。

 

「ダメ……最後まで言わせて……言わないと、ダメなの」

 

 心が痛い。

 瑠璃はやめることをせずに、話し続ける。

 

「一人、また一人とレジスタンスは敗れて着実に戦えるデュエリストは減っていきアカデミアはデュエリストでもなんでもない人達も襲っていて、勝てないとアカデミアは降参をした者も問答無用でカード化した。

このままだとハートランドの人達は全員カード化をされる、そんな時私達は知ったわ。アカデミアのトップであるプロフェッサーには家族がいて、スタンダードに居ると。

プロフェッサーの家族ならこの戦争を止めるきっかけやなにかを、そもそもなんでハートランドを襲ったのかを知ってるかもしれない。ユートと兄さんがプロフェッサーの家族に会って戦いを終わらせようとスタンダードに向かったわ」

 

 予想していた通りの感じか。瑠璃が拐われていなくても来るだろうと俺は予想していた。

 瑠璃が拐われていなくてもクロワッサンとナスビの仲間達はカード化されているし、ハートランドはボロボロだ。

 あの二人が居なくなって、シンクロ次元で遊んでたらレジスタンスが全滅していたし、このまま戦い続けるのはダメだと思うのは当然の事だ。

 

「そう……私はその時、終わらせようと思っていた」

 

「ん?」

 

「兄さん達がスタンダードに向かった後、私は聞いてしまった。

兄さんはプロフェッサーの家族をカード化し、人質として戦争を終わらせようとしているのを」

 

「……結果的には終わるんだから、それで良いんじゃないのか?」

 

「ダメ!……それじゃあ、ダメ。

やっていることはアカデミアとなにも変わらない。デュエルは戦いの道具じゃない、楽しんで笑顔になるものなのよ!

兄さんやユートにそんな事をしてほしくない、アカデミアと同じになってほしくない。プロフェッサーの家族がカードにされれば、きっと誰かが悲しむ。だから、私もスタンダードに……でも、間に合わなかった!!」

 

「……それで泣いていたのか」

 

 ユートと黒咲は既に赤馬零児を誘き出す為にLDSのデュエリストと辻デュエルしている。

 サラッとベジータ面して仲間になっているが、黒咲がやったことは地味に重い。実体化したモンスターを使い辻デュエルでLDSの講師を襲ったりしていた。向こうもそんだけ必死だったのは分かるが、無関係な奴等を巻き込んでいた。

 

「さっきの人はユートのダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンにやられた。

きっとプロフェッサーの家族を誘き、出す為に、プロフェッサーの家族ならデュエリストとしてとてつも、ない強さをっ」

 

「瑠璃、もう止めてくれ」

 

 呼吸は乱れ、ボロボロと落ちていく瑠璃の涙。

 こんな体勢だからハンカチを取り出すことは出来ないが、この手で涙を拭うことは出来る。

 瑠璃の涙を拭おうと手を伸ばすのだが、その手を柚子に掴まれた。

 

「2人がなにを言っているか分からないわ、2人だけの世界に入らないでよ……」

 

 目をウルウルとさせる柚子。

 一切の説明をせずに瑠璃と会話をしていることに不満を持っている。

 

「……ごめんなさい、話すことは出来ないわ」

 

「っ!なんでよ!」

 

「貴女を巻き込みたくない。きっと知れば───」

 

「どうしてよ!?どうしてなのよ!!」

 

 自分と同じ顔を巻き込みたくないと瑠璃は柚子に話すつもりは無いと断ると、叫ぶ柚子。

 

「傷つくからよ!!私は、関係の無い人達を巻き込みたくない。傷つけたくない。楽しくないデュエルをしてほしくない。

甘えたことを言っているのは分かっている、言っていることが守れないところまで来ているのは知っている。それでも傷つく人はみたくはないの!!」

 

「じゃあ、遊矢は傷ついて良いの!?」

 

「っ……それは……」

 

 柚子の見事なまでのカウンターをくらい、言い返せない瑠璃。

 

「遊矢に泣きついたりしているけど、貴女は遊矢に頼るつもりよね?

巻き込みたくないって言っているなら、遊矢も巻き込まないでよ!!遊矢はおじさんが居なくなってから、ずっとずっと……私達の為に一人で頑張っていて……グスッ」

 

 ボロボロと涙を流していく柚子。

 

「遊矢は自分でどう、にか出来るから勝手に一人で危険な事をしていて危なっかしくて、でも強い。だけど、辛いって思わないわけでも苦しいって思わないわけでも無いのよ!!だから、だから、私は遊矢の隣を、隣を歩ける様に……うっ……ップ……」

 

「柚子!?」

 

 吐き出すものを吐き出したかと思えば、本当に吐き出してしまいそうになる柚子。

 流石にこの場で吐くわけにもいかず口を押さえてトイレに駆け込んでいく。

 

「柚子……」

 

 柚子の言葉に刺激され、柚子を心配できるほどに冷静に戻った瑠璃。

 とはいえ、俺の事をチラリと見てくる。俺にどうしろって言うんだよ。

 

「もし、もしそれでも遊矢を巻き込もうとするならっ!!」

 

「はい、ストップ」

 

 戻ってきた柚子はデュエルディスクを取り出して強く瑠璃を睨む。

 そういう感じのデュエルは本当によくない。

 

「止めないで、遊矢。その女を消せない」

 

「違う違う違う、もう色々とちっがう!」

 

 特に台詞とかそういうのが違う、違うんだよ。

 デュエルをして瑠璃を叩きのめして追い出そうとする柚子を止めに入る。このままだと、デュエルを通り越してリアルファイトの流血沙汰になりかねない。

 

「柚子、貴女の言うとおりよ。確かに、私は遊矢を頼ろうと遊矢を巻き込もうとしている……。

遊矢、此処に来て直ぐに貴方と再会出来て嬉しくて舞い上がって、ユートが事件を起こしてしまって苦しくて……私達の問題なのに貴方に頼ろうするなんて無責任よね」

 

 俺から離れてスッと立ち上がる瑠璃。

 

「私、あの後、貴方が何処に消えたか分からなくて心配だったの。

でも、よかったわ。元気にやっていて……私、頑張って兄さんとユートを見つけ出して止めてみせる。

兄さんとユートにこれ以上、無関係な人達を傷つけさせない為にも……だから、遊矢は安心して毎日を過ごしていてね」

 

「そんな顔をされたら、断れなくなるだろうがぁあああああ!!」

 

 くそっ、これだから柚子シリーズは、柚子シリーズはぁああああ!!

 俺に背を見せた瑠璃の体は震えており、本当は助けてほしいと言いたいのだろうが言わず、そのまま頭だけ振り向かせて、涙の跡が残った顔で空元気の笑顔を見せる。

 そんなのを見せられて、断れって言うのか!?童貞舐めんなよ!チャラいのと違って純情なんだよ!今、物凄くドロドロした修羅場になってっけど、なってっけども!!

 

「手伝う、手伝うよ!

俺のそっくりさん探しだろうがなんだろうが、手伝ってやるよ!」

 

「……気持ちは嬉しいけど、いいのよ。

兄さんやユートを止めたとして、その後に待ち構えているのは戦うだけの日々。

遊矢が居てくれれば心強いけれど、柚子の一言で目が覚めたわ。貴方を巻き込まないように」

 

「俺はお前がそんな悲しい顔をしているのが一番辛いんだよ!!

無理に笑顔になるな!!俺が好きなのは心の底から嬉しいや楽しい、面白いって笑っている顔でそんな無理して作った顔じゃないんだよ!!」

 

 今の瑠璃の笑顔は見てて痛々しいんだよ。

 柚子に似ているだけあって余計に質が悪いんだ。クロワッサンとナスビ、どうせこっちに来るなら瑠璃も連れて来いや!!……あ、ダメだ。俺と出会った瞬間に瑠璃が抱きついたから抹殺対象になるだけだ。

 

「もう頼れ、頼りまくれ!

もう既に色々とややこしいことになってるんだ、どうせ堕ちるんだったら徹底的に堕ちてやるよ!!」

 

 人はそれをやけくそと言う。

 

 カッコいい言葉も説得に使えそうな良い案も浮かばず、やけくそで瑠璃を手伝うことに。

 決して嫌々ではない。ちゃんと手伝いたいからと思っているし、ユートのせいであらぬ風評被害を受けるのは嫌なんだよ。

 

「ありがとう、遊矢……ありが──」

 

「させるかぁ!!

 

 俺が手伝ってくれると分かると、また涙を流す瑠璃。

 俺の胸に飛び込もうとするのだが、その前に柚子がハリセンで打ち返した。

 

「ゆ、柚子?

流石に自分そっくりの奴の顔をハリセンで打ち返すのはどうかと」

 

 

「隙あらば抱きつこうとするメス鳥()を止めただけよ」

 

 怖い。

 

「大丈夫か、瑠璃?」

 

「だ、大丈夫よ……」

 

 柚子シリーズで唯一ストロングが無い瑠璃。

 さっきのハリセンは結構効いたようで涙目になっている。

 

「遊矢がユートと瑠璃のお兄さんを探すって言うなら、私も手伝うわよ」

 

「……」

 

「ダメとは言わせないわよ?」

 

 何だかんだで無駄に強いクロワッサン。

 ピンチになると勝手にカードを創造するユート。この二人をデュエルで叩きのめさないといけない。

 クリスティアを召喚すれば勝ち筋は見えるが、クリスティアが来なかったらそこそこ分が悪い。というか、幻奏ってそんなに強いイメージが無い。他のテーマがぶっ壊れて強いだけでそう見えるんだろうが。

 

「……一度負けたら、次は無いからな」

 

「遊矢は、そんなデュエルを毎日してたんでしょ?」

 

 予想外のカウンターをくらっちまったな。

 なんとか瑠璃を泣き止ませ、柚子を落ち着かせる事に成功した。柚子がユズリズムにならなくてよかった……デュエルディスクにモンスターを実体化させる機能がついてたら、今頃ユズリズムになってたんだろうな。

 

「いい、3人よ!

手分けして探した方が良いかもしれないけれど、私達3人で行動して探すのよ!」

 

「……分かったわ」

 

 不審者捜索の話は3人で行動して探すで解決した。

 ……これってユートを捕まえるの、無理になるんじゃないのか?あ、ヤバイ。クロワッサンに殺される可能性が浮上してきた。

 

「それと貴女が何者なのかだけど、ユートと貴女のお兄さんを捕まえたらちゃんと教えてよ!

なにを抱えているかは知らないけれど貴女が遊矢に泣きつかないといけないぐらいに苦しんでるのは確かで、その原因がユートと貴女のお兄さんなんでしょ?」

 

「……うん」

 

 これで修羅場は完全に乗り越えた。

 沢渡と一緒に入院生活を過ごすなんて事はなく、ホッとしてソファーに座り心労から解放されていると瑠璃が左に座り、肩に寄り掛かって来た。

 

「瑠璃、なにをしてるの!?」

 

「ちょっと、少しの間だけこうさせて……疲れたの」

 

 ゆっくりと目を閉じ、物凄い速さで眠る瑠璃。

 俺を頼っているのか信頼してくれているのか俺が動けば倒れる感じに肩に寄りかかる。

 

「遊矢、ベッドに瑠璃を連れていくわよ」

 

 ハイライトの消えた目で瑠璃を見ながらそういう柚子。

 さっきまで若干だが光があったのに、どうして消えるんだ……とまぁ、叫びたいがだ。

 

「柚子」

 

「なに?」

 

「ここで瑠璃を連れてくとなると、お姫様抱っこ(こう)なるぞ」

 

 今の瑠璃は俺に寄り掛かって寝ている。

 だから、誰かが瑠璃を連れていかなければならず位置的にも筋力的にも俺が一番だ。体勢的にもお姫様抱っこをしなければならず、そうなれば柚子からハリセンが飛んで来る。

 

「大丈夫よ……瑠璃を叩き起こすから」

 

「それはやめろ。

瑠璃はお前と違ってストロングじゃないんだから、そういうキャラじゃないんだ」

 

「なんで……なんで瑠璃を……」

 

 何時もならばストロングじゃないとか叫ぶのに泣いてしまう柚子……こういうことをすれば自分で自分の首を絞めているとか言われるんだろうな。

 

「柚子、ちょっと」

 

「なによ……ストロングな私より、瑠璃の方がいいんでしょ……」

 

「左は埋まってるけど、右は空いてるぞ」

 

 瑠璃ばかり構っているので、物凄く拗ねている柚子。

 瑠璃を移動させることを諦めさせて右隣に座ると俺に寄り掛かる。

 

「こんな、可愛い幼馴染みを無視して、よりにもよって瓜二つな女を……」

 

 自分で可愛いとか言うんじゃない。絶世の美少女であることには間違い無いけどもだ。

 嫉妬している柚子を鎮める為にも瑠璃にハリセンが飛んで来ない為にもここから自分の首を絞めないといけない。

 

「だったら、こういうのはどうだ?」

 

「きゃっ……ゆ、遊矢?」

 

 柚子の肩を掴み、膝に頭を置かせる……要するに膝枕する。

 

「柚子……俺はお前が傷つく姿を見たくないんだ」

 

「……上手いこと言えば私が騙されると思ってるのかしら?」

 

 額を撫でながら柚子を懐柔しようとするも、あっさりと破られる。

 こんなことで騙されるほど俺の幼馴染みはチョロく無いことぐらいは知っている。

 

「なんで手をはなそうとするの?」

 

 後、結構ワガママなのも。

 撫でている手を止めたり離そうとすると怖い声を出すので続ける。

 

「ねぇ、遊矢。上手いことを言って、誤魔化そうとするからそんな事を言うの?」

 

「んなわけないだろうが」

 

 闇のデュエルや命懸けのデュエルなんてしてほしくはない。

 楽しくない云々以前に肉体に痛みを感じるデュエルをする柚子なんて見たくはないんだ。

 

「私が、遊矢ぐらいに強かったらそんな事を言わない?」

 

「いや、言うけど?確実に柚子が傷つくんだから、強い弱いとかの話じゃないよ」

 

 柚子がOCG次元と同じレベルの腕を持っていたとしても止める。

 どうせ傷付くのならば、俺でいい。柚子や瑠璃が傷ついて笑顔が消えたりするのは嫌だ。

 

「そう……でもね、遊矢が私を心配している様に私も遊矢の事が心配なのよ。

遊矢にとって私は守りたい人なのかもしれないけれど、私は守られたくない、一緒に隣を歩きたい……だから、今年の舞網チャンピオンシップで優勝したら……って、なにを言わせるの!」

 

「お前が勝手に言ってるだけだろう……とにかく柚子も休んどけよ。疲れてるだろう」

 

「うん……」

 

 柚子は目を閉じ、瑠璃と同じぐらいの速さで眠りについた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦通り

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 色々と上手いことを言って柚子を大人しくする事に成功した。本当に大変な事にならずに済んでよかったと俺は汚い笑みを浮かべる。

 それにしても瑠璃から良い匂いがする。柚子の体が柔らかい……落ち着け、落ち着け、俺。チンコはたつな。柚子を膝枕しているから、大きくなるとヤバくなる。

 

「ハッキリとバッサリと柚子か瑠璃かを選ばずに長々と引き伸ばしてしまったな……」

 

 結果的には先延ばしで終わらせた。

 瑠璃の顔をみていると強く言えず、断るに断れない。柚子的にはガツンと言って断ったり拒んだりしてほしいだろうが、俺みたいな男気0の少子高齢化社会を防ぐ為に種族の繁栄を捨てた友人達と楽しく衰退の一途を辿っていたOCG次元の住人だ……ヤバいな、いざという時に何処かの次元に逃亡している自分を簡単に想像できる。

 シンクロ次元のシティ(コモンズ)のどっかで無限に涌き出るカードを利用して露店でカード売ってるおっさんになってそうだ。

 

「沢渡から借りたボッキンパラダイス(ファイブ)を返そうとしたら、大変な事になったな……俺も少しだけ、休もう」

 

 これから休む暇なんて無くなる。平穏な日々は無くなる。

 瑠璃と柚子の女子特有の柔らかさとか匂いとか雰囲気とかを堪能しつつ、俺も休んだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エクシーズ次元から2人を追いかけてきた瑠璃は行く宛が無い。

 

 

 

原作で特に誰も気にしていなかったが、黒咲もユートも野宿をしているのだろう。

 

 

 

柚子にそっくりな絶世の美少女である瑠璃を一人にして野宿をさせる?無理である。

 

 

 

行く宛がなく困っていた瑠璃に家に来ないかとポロっと言ってしまい、第2の修羅場を迎えた。

 

 

 

最終的には柚子の家でお世話になることになった。

 

 

 

迷惑を掛けてばかりだと瑠璃は滞在中、遊勝塾でエクシーズを指導する講師になった。




OMKフェイズ(ギャグなので特に気にしない)


沢渡シンゴ


説明


ゴキブリ並みの生命力を持ちネオとかニュー・ネオとかゴキブリ並みの速度で成長して復活してくる究極の三枚目もしくは七光り。
中学に進学した際に弱虫だなんだと言ってきたりした奴を遊矢がデュエルでボコっている噂を聞きつけてデュエルを挑んだら先攻ワンキルされた。憎めないが舐められまくる三枚目。
デッキをコロコロ変えたり、変則ギアを使ったアクションデュエル限定の害悪プレイを行う遊矢にお前はデュエリストじゃねえ!リアリストだ!とツッコミをいれ、財力にものを言わせて強力なレアカードを手に入れて挑んでは負けるを繰り返し、最終的には遊矢の事を認めてオレのライバルにしてやる!的な展開でライバル認定された。
以来、遊矢と仲の良い友人的な関係になっているのだが隙あらば目立とうとしたり、ぶりぶりざえもんが如く裏切ったり、遊矢に罪を擦り付けられたりされている。
父親が借りてたり使ってたりしている倉庫の1つを改造し、秘密基地っぽくしており、家では見れないAVを見ているのだが、柚子に一回バレた事がある。
なにを見ているのよと柚子にテレビを壊されかけたが、遊矢だってスケベでこういうのを見てんだよ!!男は皆、スケベなんだよ!とその場に居ない遊矢を売り、そのまま柚子にAVを早送りとかせずに丸々一本鑑賞させた(巨乳物)。
三枚目気質が強すぎるせいで舐められやすく、上や周りが化物過ぎてパッとしないが凡百のデュエリストが沢渡に挑んでも勝てないと遊矢達には認識されている。
柚子と遊矢がくっついちまえと思っており、遊矢がいざという時にチキって逃亡するのを察しているので柚子を色々と煽り楽しんでいる。
リアルソリッドビジョンでEMユニとEMコンのおっぱい揉んでる遊矢を見たことあるが、絶対にそれをネタに脅さない。というか、自分も遊矢に同じことをしており見られている。スケベ友達である。
尚、遊矢の持つユニとコンは精霊がついてると思う。ペンデュラムじゃないEMモンスターだとしても大事にしてくれるので物凄く遊矢になついており、エロい目で見てくる沢渡へのダイレクトアタックは金的への攻撃、柚子へのダイレクトアタックは目の前でおっぱいを揺らす。



黒咲瑠璃


説明


柚子シリーズの一人で、エクシーズ次元の柚子。身長は柚子シリーズの中で1番大きいけど、おっぱいは柚子シリーズの中で多分1番小さい。エクシーズ次元のおっぱいは小さい。
紫キャベツことユーリにデュエルを挑まれ敗北してしまい、拐われそうになったところで遊矢くんに助けられる。
ハートランドがあんなことになっており心が荒んでいたが遊矢とのデュエルで笑顔を取り戻し、デュエルは楽しく笑顔になれるものだと思い出す。
その後一人のところをアカデミアに襲われたりしたが遊矢の残したカードにより簡単に撃退していた。そのせいかクロワッサンが一人になるなデュエルなら俺がとシスコンを発揮。不満は募る。
そして戦争は一向に終わらない。故郷が破壊され、アカデミアを憎むレジスタンスの人達には笑顔のデュエルは届かない。届いたとしても、皆、カードにされる。希望を手に入れたと思えば一気に絶望に叩き落とされる。
なんとか希望を見つけたと思えば、兄とユートがアカデミアと同じ様な事をしていると更に絶望に叩き落とされるものの、遊矢という希望と再会する。




とどのつまり、徐々に徐々にNTRな展開もとい関係になっている。





平穏なスタンダードを見て、この次元の人達を巻き込みたくない。アカデミアと同じ事をしたくないと日に日に強く思い、やらかした噂が増加していくLDS狩りことクロワッサンの好感度や親愛度は直角に落ちていく。ユートが原因で起きる戦いでユートへの好感度も直角に落ちていく。無関係な人を巻き込んでるんだから、仕方ない。
その一方で遊矢や柚子達とするデュエルは本当に楽しいデュエルで、心の底から笑顔になれるものだと思っており、徐々に徐々に好感度を上げていく。このままいけば普通にNTRできる。なにせクロワッサンやユートは自ら好感度を下げる行為をしているのだから。NTR、NTR。着実に崩れていくユートとの塔。
人をカード化してたり、無関係な人達を襲っているクロワッサンがお前は甘いとか言ってくればユートもろともカード化するつもりで、その上で遊矢から罰として自分もカード化して貰うつもりである。楽しいデュエルを思い出させてくれた遊矢にやられるのならば本望だと……荒んだ環境にいただけあり楽しいデュエルを思い出させてくれた遊矢への好感度、たっけーな、おい。


柊修造


説明


遊勝塾の塾長で柚子の父親で、シングルファザーで元プロという地味に属性の多い人。
遊矢に三回ぐらい松岡と間違えられたりするが、本当に立派な大人である。とにもかくにも暑苦しいのだが立派な大人で娘思いである。
アクションデュエルの為に体を鍛える授業に関しては好評なものの、アドバンス召喚しかやってこなかった環境にいたせいか、エクストラデッキを用いた召喚法に疎くコンマイ語を上手く理解していない。
その上に塾生である遊矢にデュエルの授業をさせているので塾長としての面子が丸潰れ。遊矢が教える授業を聞いて1日でも早く新しい召喚法をマスターしてやると努力家の一面を持つ。活躍する場があるかどうかは別だ。
遊矢がエンタメデュエルやアクションデュエルを本当は苦手としていることを知りショックを受けたものの、それがお前の道ならばと否定はせず、修羅にはなるなよと言ってくれる大人である。
遊矢ならば柚子を任せることはできる!と思っているが、健全なお付き合いをしてほしいと思っており、召喚法をマスターしたら娘が欲しければ俺に勝ってみろ!と言う気満々。
瑠璃が居候になった時には事情があるとはいえ柚子が2人になった、姉妹が出来たみたいだと喜んだ。
柚子に妹が出来ない妻が居ない事を気にする素振りはなく、なんにせよ柚子は愛娘であることには変わらず瑠璃も娘みたいなものだと娘認定している。


デュエルの腕はともかく、なんやかんやで塾生達からは慕われている。


初対面の瑠璃にも兄とは違う感じで暑苦しいけれども良い人で、正直兄よりもこっちの方がよかったと思われる。


次回予告


なんやかんやで大きな舞網市。

その中からユートと黒咲を見つけ出すなんて至難の業。

倉庫とかコンテナとかを探してみるけれども、中々に見つからない。あいつ等、何処でホームレスってるんだ。

主にユートが原因で忍び寄るLDSの魔の手、ユートが原因だが多分、クロワッサンもやっているだろうと瑠璃からの好感度と親愛度がランクダウン、エクシーズチェンジ!ザマァみさらせ、シスコン!

かくして、遊勝塾の命運を賭けた三本勝負がはじまる!


次回、遊戯王ARC-V 【襲来、LDS!(前編)】に熱きバトルにチャージイン、じゃなかった。ガッチャビングデュエルアクセラレーション!!



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襲来、LDS(前編)

前回までのあらすじ。


NTRじゃないんです、遊矢くんがタイミングよくそこに居ただけなんです!!本人はNTRたいと思っていなくて、NTRで燃えないんです!AVでもそっち系は見ないんです!むしろ幼馴染みの柚子が遊矢をNTRされそうなんです!


感想でNTRとユートについて色々と書かれたが、黒咲に関しては誰も心配してくれなかった。


「よかれと思ったら、スゴい修羅場になってる……本当にどうすればいいんだろう」

 

 休みの日に瑠璃達と不審者探しをしてはみるものの、見つからない。

 原作でそれらしい描写が無かったし、金目の物を持っていってないらしいからホテルに泊まるなんて出来ない。

 野宿をしているんだろうなと色々と探してみるけれども、中々に見つからない。

 行き当たりばったりのやけくそな行動しかしておらず、冷静に考えてあの二人と瑠璃が出会ったのなら確実にデュエルをするだろう。そうなったら俺じゃなくて柚子にデュエルをしてもらうとして……その後はどうなるやら。

 

「どうしたの?浮かない顔をしていると幸せが逃げるわよ?」

 

「柚子みたいな可愛い子と仲良くできている時点で幸せ者で、それが逃げるということは……沢渡に寝取られる?」

 

「なっ……そんなことあるわけないじゃない!!

沢渡はあくまでも知人よ、知人!友達ですら無いのだから絶対に無いわ!!」

 

 哀れ、沢渡、マジで哀れ。

 因みにだが沢渡は大事をとって一週間ぐらい入院をしている。

 怪我はそこまでだが、念のためで親父さんの力を使い、良い病室を使っている。

 病院食があんまり美味しくないから、アップルパイを持ってきてくれと連絡は来るが怪我人は怪我人らしく病院食を食っていろ。

 

「私は、その、好きなのは……ゆ……とにかく、そんなことあるわけないじゃない!!大体、私達今は付き合ってないんだから寝取られるっておかしいわよ」

 

「そだねー」

 

「全くもう、適当に相槌を打たないでよ!」

 

 顔を真っ赤にせずにぷんぷんと怒っている柚子も可愛い。守りたい、この笑顔。

 でも守るとか言ったら私は頼りないの?とハイライトの消えた目で首を傾げながら聞いてくるので、言わない。

 

「さ、このまま遊勝塾にいくわよ!」

 

「はいはいっと……最近権現坂来ないよな」

 

「遊矢のデュエルをみて、感化されて修行をしているらしいけれども、権現坂、今年のチャンピオンシップの出場権をまだ得てないのに大丈夫かしら?」

 

「これで終わるなら権現坂はそこまでのデュエリストだ……まぁ、そこで終わるほどアイツは柔なデュエリストじゃない」

 

 最近、顔を出さない権現坂。

 刀堂刃からシンクロを伝授されたが、この時点では会ってはいない。

 生真面目で勤勉な権現坂ならば自力でシンクロ召喚を習得出来そうな気がするが、たかがシンクロを覚えた程度で成長したとは言えない。少なくとも遊勝塾では着実に3つの召喚を教える準備に入っている。そして権現坂はその事を知っている。あいつならばシンクロを覚えるだけでは終わらない。

 

「他人の事を気にするよりも、自分の心配もした方がいいぞ」

 

 融合召喚を覚えたみたいだが、これから先は融合やシンクロが当たり前のエクストラ依存の環境に成り代わる。

 そう言おうとするのだが

 

「遊矢~!」

 

 その前に瑠璃が校門前で手を振っていた。

 

「……そうね」

 

 瑠璃を見ると目が変わる柚子。

 違う、そうじゃない。そういう意味での心配じゃない、今年優勝を目指すんだろう!幼馴染みという負け犬属性から勝ち組になるんだろう!頑張れよ!!

 

「瑠璃、わざわざ学校に来なくても良いのよ?」

 

「でも、やることが無いわ。

兄さん達を探すのは3人で一緒にって柚子が言ったし、それに今日から私がエクシーズ召喚を皆に教えないといけないでしょ?だったら迎えに行かないと」

 

 話が噛み合ってない、噛み合ってない。

 柚子が敵意を向けているが、瑠璃には通じない。というか、瑠璃とはそういうんじゃない。

 

「やっぱり、柚子姉ちゃんより瑠璃姉ちゃんの方に分が」

 

「でも、柚子お姉ちゃんは遊矢お兄ちゃんの幼馴染みで……」

 

「幼馴染みは踏み台だよ」

 

 フトシ、アユ、タツヤ、冷静にこの状況を分析するんじゃない。

 そんなんだから遊勝塾の極悪三連星とか言われるんだぞ。

 

「いきましょう、遊勝塾に」

 

 瑠璃はクロワッサンの事を忘れているんじゃないかと思えるぐらいにふつくしい笑顔で遊勝塾に向かって歩き出した。

 

 

 はいそこ、瑠璃が通い妻とか恐ろしいことは言うなよ?

 

 

 

 

 

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 遊矢達が遊勝塾に向かう一方、LDSの理事長こと赤馬日美香。

 外国のデュエル塾の買収につい最近まで海外におり、ついさっき帰国したところだ。

 

「今回の買収の成功は社長もお喜びです」

 

「ええ、これで計画をまた一歩進められるわ……なにかあったのかしら?」

 

 柚子達とは一生縁が無い縦長の白いリムジンでレオ・コーポレーションへと向かう。

 その最中、中島からなにかがあったのだろうと察する。

 

「理事長の仕事の妨げにならない様にと連絡を控えておりましたが、少々ありまして」

 

「なにがあったのですか?」

 

「はい、実はここ最近、LDSに辻デュエルを挑む者が居まして」

 

「……別にそれぐらいの事、控えなくて結構です。

それで立て続けにLDSの生徒達が負けたというのならば、それはLDSの生徒達が悪いことですわ」

 

 デュエル産業でNo.1と言っているレオ・コーポレーション。

 事業拡大企業拡大の為とはいえ、良い噂だけでなく悪い噂もあるので敵も多い。ましてや舞網市はLDSだけでなくレオ・コーポレーションの本社がある。勝つデュエルを教えているのだからLDSにも責任の一端がありそうなものだが、LDSの塾生以外のデュエリストに辻デュエルを挑まれて負けたのならばその塾生が悪いとする。結構、非情なBBAである。

 

「とはいえ、負けたままだと言うのは天下のLDSの名折れ。LDSのトップレベルのデュエリストで敵討ちをしましょう。その辻デュエルをした者は誰ですか?」

 

「実は問題はそのデュエリストなのです」

 

「なんですって?」

 

 デュエルで負けたのならばデュエルでやり返す。

 一見平和的に見えるが結構バイオレンスな事を言っている理事長。中島はデュエルの結果でなく、デュエルの対戦相手が問題だと言うと表情を変える。

 

「LDSの生徒が襲われた場所の襲われた時間帯に強力なエクシーズ召喚の反応がありました。

昨年、ジュニアユースクラスで優勝した桜樹ユウのエクシーズ召喚を遥かに上回るもので、デュエルをした生徒達からの証言によれば見た事が無いカードでアクションデュエルでもないのにモンスターが実体化していたと」

 

「なんですって、もうあの人からの攻撃が!?」

 

「いえ、それは無いと社長は仰っておりました。

召喚反応からしてこちらの者では無いことだけは確信できると」

 

「分かりました。この事については迅速に対処を……他は?」

 

 中島は少々と言った。

 それはつまりLDS狩りのデュエリストとは別のなにかがある。

 

「そのことについては社長から直々にお話があるとのことです」

 

 その件に関しては中島からは語られない。

 とはいえ、LDS狩りをしている事を中島の口から語らせて、もう1つの事を零児直々に話すとはただ事ではない。

 なにがあったのかと最悪の事態も想定していると車はレオ・コーポレーションの本社に辿り着き、理事長は社長室へと向かった。

 

「母様、この度はご苦労様です。これで」

 

「その話は後にしてください。なにがあったのですか?」

 

 社長室で待っていた零児は仕事を労うのだが、今その言葉を貰っても嬉しくもなんともない。

 なにがあったのかを聞かれるので零児はメガネをキランと光らせてスチャッと人差し指でメガネを動かした後、指パッチンをした。

 すると、プロジェクトスクリーンが天井から降りてきて、部屋は暗くなり遊矢の顔写真が映し出される……社長室の仕掛けはすごい。

 

「彼は?」

 

「彼の名は榊遊矢。

融合、シンクロ、エクシーズに次ぐ新たなる召喚、ペンデュラム召喚を作り出したデュエリストです」

 

「ペンデュラム、召喚?」

 

 なんじゃそりゃとなる日美香。

 百聞は一見にしかずと先ずはこれを見てくださいとストロング石島とのスペシャルマッチを見せると、目を見開く。

 

「新たなる召喚法に加えて融合、シンクロ、エクシーズ召喚!?いったい、彼は何者なのですか!!」

 

「彼はあの榊遊勝の息子です」

 

「榊遊勝っ、まさか彼が敵と手を組んで息子にカードを」

 

 来るべき敵ことアカデミアからの使者なのかと目を見開き驚く理事長。

 もしそうであればこの4つの召喚を操るデュエリストと槍が揃う前にも関わらず戦わなければならないのかと冷や汗を流す。

 

「それは……今のところは分かっていません」

 

「今のところ?」

 

「彼の所属する遊勝塾から数日前より強力なエクシーズ召喚の反応が、それよりも前から強力な融合召喚の反応がありました」

 

「黒じゃありませんか!!」

 

 こちらの者では出せそうにないレベルの強力な召喚反応に加えて未知なる召喚をした。

 遊勝塾はこの世界の敵となる者がいる。もしくは者で構成されていると決めつける日美香。実際のところは、遊矢に挑んでくる素良と瑠璃の召喚反応で遊矢は無関係である。

 

「先程申し上げた通り、今のところはです」

 

「何故、そう言いきれるのですか?」

 

「LDSを襲撃しているデュエリストが榊遊矢に似たデュエリストだったとの目撃証言があります。その際に、榊遊矢と同じく遊勝塾に所属している柊柚子もその現場に居合わせていました」

 

 ピッと今度は柚子の画像を見せる社長。本当にプライバシーもなにもあったもんじゃない。

 

「榊遊矢は昔から舞網市に住んでおり、柊柚子とは幼馴染み。

彼が黒ならば彼女も黒の線が濃厚な筈です。しかし、LDSを襲撃した榊遊矢似のデュエリストが別次元から来たと言うのならば、敵同士もしくは味方同士のはず。なのに、彼女も驚いていたそうです。彼だけが黒という線もあり、他にも不明な点が多々あるためになんとも言えない状況です」

 

 遊矢の情報が思ったよりも少ない。

 公式戦は言うまでもなく、交友関係もそんなに広くはない童貞野郎な為に調べあげても目ぼしい情報は無い。

 黒に近いが、黒ならばどうしてなにもしてこないとなり、白ならば白でおかしな点が幾つもある。謂わばグレーの存在。

 

「ペンデュラムについても3つの召喚法と同等の力を持っていると彼を見張ってはいますが、滅多な事では使用していません。もし白であるならば、彼が我々の槍となる存在であることは間違いありません」

 

「……成る程、そういうことですか」

 

 クスリと笑う理事長。

 零児がなにを言っているか分かり、なにをすれば良いのか理解した。

 

「分かりました。ペンデュラムモンスターを、彼と彼が所属する遊勝塾ごと買収してみせます」

 

 遊矢が白でも黒でもどっちでもレオ・コーポレーションの力を使い買収すれば良いだけだ。

 白ならばLDSの傘下になった遊矢を手駒の如く動かせる。槍兵どころかチェスの女王の駒を手に入れられる。

 黒ならばペンデュラムモンスターを手に入れる事ができ、スタンダードの戦力アップに加えて撃退することが出来る。

 どっちであろうとLDSは得して更なるパワーアップをする。そして幸いか、榊遊矢にそっくりなデュエリストがLDSを襲撃しているという買収するのに使えそうな口実が存在している。断れば実力行使をすれば良い……。

 

 

 

 

違う、そうじゃない。デュエルじゃなくて財力で解決した方が早い!!

 

 

 

 

 

遊勝塾は塾生が絶望的に少ない貧乏塾だが、遊矢のせいで殺意だけは満々なんだ!

 

 

 

 

未来あるLDSのデュエリストを傷付けるんじゃない!

 

 

 

 

 

遊矢とユートが別人なのにそれを口実に使ったら好感度が一瞬で落ちるぞ!!

 

 

 

 

万が一に襲撃者がやって来た場合を、品種改良トマトは想定しているんだ!

 

 

 

 

気付け、自らの足で地雷を踏みにいっていることを!撃って良いのは撃たれる覚悟がある奴なんだぞ!

 

 

 

 

 

デュエルをすればレオ・コーポレーションがそこそこ大変な事になる!

 

 

 

 

 

 

今ならまだ止められる。平和的にいける!!やめるんだ!!

 

 

 

 

「では、遊勝塾に……中島!」

 

 

「はっ!御意に!」

 

レオ・コーポレーションの大暴落まで待った無し。

 

 

 

 

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「頼もう!!」

 

「ええっと、どちら様ですか?」

 

「柚子、確かに此処最近は全くといって遊勝塾に足を運んでいなかったがそれはないのでは?」

 

 苦難に苦難を重ね、修行をし続けて俺は一筋の希望を見つけた。

 新たなる不動のデュエルの道を見つけたものの、境地には辿り着いていない。だが、強い力を持つと人は使いたくなると言う。それは正にその通りであり、どうしても遊矢とのデュエルで試したい。

 久しぶりに遊勝塾に訪ねると何時もとは違う格好の柚子が俺を他人扱いした。確かに、最近は出向かなかったがそれはないだろう。

 

「私は柚子じゃないわよ?」

 

「なにを言っているんだ?」

 

「はぁ……塾長といい、アユちゃん達といい、どうして私と柚子を間違えるのかしら?」

 

「む、どうやら本当に人違いのようだな。すまぬ」

 

 柊塾長を柚子はいかなるときでも父と呼ぶ。塾長と他人行儀な呼び方をするのを今の今まで見たことも無い。

 本当に人違いだと分かると頭を下げて謝罪すると許してもらった。

 

「私は瑠璃、黒咲瑠璃。

ちょっと色々とあって今、ここでお世話になっていて……貴方は?」

 

「俺は権現坂昇。

権現坂道場の者で、遊勝塾の者では無いが、時折遊勝塾に来ては遊矢達とデュエルを……して、遊矢は?」

 

「遊矢ならお手洗いに……だけど、今から講義の時間よ?」

 

「それは参ったな……」

 

「ふ~スッキリした。瑠璃、そろそろ時間っと、権現坂、久しぶりに来たか」

 

 噂をすればなんとやら。

 用を足した遊矢が瑠璃を呼びに来て俺と顔を合わせる。

 

「新たなる不動のデュエルの可能性を見つけ、遊矢に挑戦をと来たがタイミングが悪かったようだな。日を改めて来よう」

 

「いや、別に今日で問題ないぞ」

 

「しかし、今から講義の時間ではないのか?」

 

「ついでだから権現坂も受けてけよ。エクシーズ召喚について学べるぞ」

 

 日を改めて来ようと立ち去ろうとする俺を止めるどころか誘ってくる遊矢。

 エクシーズ召喚といえばLDSがここ最近教え出したもので、それを学ばせるとは相変わらずの知識だが、それはおいそれと教えて良いものなのだろうか?

 

「ちょ、ちょっと遊矢。私、今日がはじめてなのよ!?」

 

「うちの塾は引くほど人少ないんだから、一人二人増えても問題ないよ」

 

「遊矢が教えるのではないのか?」

 

「カリキュラム的なのを俺が用意して、瑠璃が教えることになっている。

ちょっと色々とあって、瑠璃が遊勝塾というか塾長と柚子の世話になってばかりだからとエクシーズ召喚を」

 

「なんと、つまりは瑠璃は独学でエクシーズ召喚を」

 

「えっと……まぁ、そうなると言えばそうなるわね」

 

 やはり世界というものは広いな。

 柚子も遊矢の用意した教科書の様なもので必死に努力しており、瑠璃は独学でエクシーズを……そういえば、遊矢に勝負を挑み続けている素良というデュエリストは融合を使っているそうだな。

 エクシーズ召喚、話に聞くレベルで事細かな事は知らないものの、昨年のジュニアユースクラスの優勝者はエクシーズ召喚を用いていた。そして遊矢は既に5つの召喚法だけでなくあらゆるデュエルを可能とする、知識をつけておいて損はない。

 

「迷惑でなければ、この男権現坂もその授業を受講させてくれ」

 

「……その、最初だから失敗するかもしれないから間違った知識を教えたらごめんなさい」

 

「なーに、その時は遊矢に任せればいい」

 

「権現坂、そういうの良くないぞ。お前は今は鍛えたり教えを乞う側だけど何時かは教える側になるんだから、なんならこの授業の良いところを盗むぐらいの気持ちでいないと」

 

「他の流派を盗むなどと俺にはできん」

 

「ものの例えだ例え。講義が終わったら実技だって俺がエクシーズメインのデッキを使うから、そん時にデュエルしよう」

 

 どうやら楽しみが2つに増えたな。

 当初の予定とは違ったものの、思わぬ機会がやって来た。

 念の為だと遊矢が塾長に許可を取ると急遽俺も加わりエクシーズ召喚の授業がはじまる。

 

「遊矢が触りだけは教えているみたいだけれど、一応の復習ね。

エクシーズモンスターは基本的に同じレベルのモンスターを重ねてその上に置く、エクシーズ召喚と言う特殊召喚の1つよ。

エクシーズモンスターはレベルの概念を持たない代わりにランクを持っていて、レベル制限B地区の様なレベルに関する効果は一切効かない。一見、便利に見えるけれども下剋上の首飾りの様な自身に利のある効果も使えない……流石にこの辺りは分かってるみたいね。じゃあ、次はエクシーズ使いのデュエルはどんな感じかを説明するわ、遊矢」

 

「はいはいっと」

 

 瑠璃に指示され部屋を暗くし、プロジェクターを起動する遊矢。

 瑠璃のすぐ真横に12枚のエクシーズモンスター達が投影される。

 

「エクシーズモンスターはフィールドのモンスターで召喚をし、同じレベルのモンスターを最低でも2体並べないといけない。

ランク1からランク4までに関しては物凄く簡単だから、ランク1から4までの素材3体のエクシーズモンスターと素材2体のエクシーズモンスターをどうやって召喚するかを各自宿題として出すから、皆、考えてきてね」

 

 む、いきなりの課題か。

 しかし、これに関しては俺を含めて遊勝塾の面々にとっても……いや、デュエル塾に通うものならば容易だな。

 召喚に2体必要なランク4のエクシーズモンスターならばジシャーQを並べるだけで可能。俺のデッキでは出来ないものの、ワン・フォー・ワンでブロック・スパイダーを呼び出して更にブロック・スパイダーを出し、レベル1のモンスターを通常召喚すればランク1のモンスターを簡単に召喚できる。

 

「問題はここから、ランク5以上のモンスター。

召喚する為には当然そのランクに応じたレベルのモンスターをフィールドに並べないといけないけれど、どうやって並べる?試しにこのモンスターで考えてみて」

 

 指示棒でランク5のモンスターをさす瑠璃。

 

 セイクリッド・プレアデス

 

 ランク5 光属性レベル5モンスター×2

 

「げげっ!属性も制限されてるのかよ!?」

 

「フトシくん、属性の制限をされている分、セイクリッド・プレアデスの効果は強力よ。

オーバーレイユニットを1つ使うことで1ターンに1度、フィールド上のカードを手札に戻す事が出来る、しかも、相手ターンでも」

 

「痺れるぐらいに強力だぜ……」

 

 バウンス効果、しかも相手ターンでも使えると言うのは恐ろしい。

 オーバーレイユニットの数だけと言う制限もあるが、レベル5以上のモンスターで召喚するだけあり効果は強力なものだ。

 

「さぁ、考えてみて。どうやって召喚するかを」

 

「答えは簡単だ!」

 

「お父さん、もう分かったの!?」

 

「ああ、勿論だ!蛮族の狂宴Lv5を使うんだ!

あれは戦士族のレベル5のモンスターを呼び出す効果で、属性に関してはなにもない。だからサイレント・ソードマンLv5やジャックス・ナイトなんかの光属性の戦士族を特殊召喚。そこからプレアデスをエクシーズ召喚する。

プレアデスが戦闘や効果で破壊されそうになれば、効果でプレアデス自身をエクストラデッキに戻す。そうすればエクシーズ素材にしていたモンスターは墓地に行き、二枚目の蛮族の狂宴Lv5を使い再びプレアデスを呼び出せる」

 

 おお、流石は塾長。あっさりとコンボが出来た!

 

「塾長、どやってるところ悪いけれども、それストロング石島が使ってたコンボの応用だよな」

 

「うぐっ……ま、まぁ、確かにそうとも言うが……プレアデスを戻すコンボは俺が考えたからであって、だな……」

 

「塾長、いじけなくて良いのよ。

それもプレアデスを召喚する為のコンボの1つよ。他にはなにがあるかしら?塾長が使った手段以外で考えてね」

 

「う~んと……あ、分かった!

サイバードラゴン・コアを召喚して機械複製術でサイバードラゴンを呼び出してサイバードラゴンで召喚するの!」

 

「アユちゃん、正解……で、良いわよ、ね?」

 

「ん~まぁ、良いんじゃないのか?

プレアデスを絶対に召喚とかじゃなくてレベル5以上のモンスターをどうやって並べるか考えさせることが重要だから」

 

 なにやらアユのコンボに問題があるのか、遊矢に少し助けを求める瑠璃。

 と言うことは、そのコンボを用いてプレアデスよりも優先した方が良いモンスターが居るという訳か。う~む、エクストラデッキでの召喚は奥が深いな。

 

「因みに瑠璃ならどういった風に召喚するの?」

 

「先ずはセイクリッド・クレディを通常召喚する。

セイクリッド・クレディは通常召喚に成功した時、セイクリッドモンスターを手札から特殊召喚出来るわ。

その効果を使ってセイクリッド・カウストを特殊召喚する。セイクリッド・カウストの効果は1ターンに2回、セイクリッドモンスターのレベルを1上げるか下げることが出来るから、自身とクレディをレベル5にしてプレアデスを召喚するわ」

 

「……セイクリッド・プレアデスと同じセイクリッドモンスターを使っての召喚が正しい答えじゃないの!?」

 

「瑠璃姉ちゃん、そういうカードがあるなら先に教えてくれよ!!」

 

「ダメよ……っと、こんな感じかしら?」

 

「まぁ、そんな感じだな」

 

 遊矢と相槌を打ち合う瑠璃。

 なにがそういう感じなのだろうか?

 

「ランク5以上のエクシーズ主体のデッキの場合、塾長やアユが言ったみたいにレベル5以上のモンスターを特殊召喚してエクシーズ召喚する方法以外にも効果を使い本来のレベルとは異なるレベルにしてエクシーズ召喚をする方法もある。ここが結構重要なポイントだ」

 

「重要なポイント?」

 

「本来のレベルから異なるレベルにして高いランクのエクシーズモンスターとか高レベルで簡単に特殊召喚出来る効果を持ってるが攻撃力がやたらと低いモンスターはエクシーズ召喚できないと弱い」

 

「エクシーズ使いがエクシーズ召喚が出来なければ弱いのは当然の事ではないのか?」

 

「これが若干考えるところなんだよ。

柚子のデッキが分かりやすいな。ヴァルハラでモーツァルトを特殊召喚して、モーツァルトの効果でモーツァルトを召喚、2体目のモーツァルトで3体目のモーツァルトを召喚、3体目のモーツァルトでレベル8の光属性・天使族を特殊召喚する。召喚出来るモンスターは光属性限定だがこの時点でエクシーズ召喚が可能だ……ここで、エクシーズ召喚をしなくても良いという選択肢がある」

 

 確かにその状況で自分のフィールドには攻撃力の高いモンスターが4体。

 相手のフィールドによってはエクシーズ召喚をするよりもそのまま攻撃した方がいい。もしくは攻撃を終えてからエクシーズ召喚をするというのもありだ。

 レベルを変動させる効果を持つモンスターやレベルが高く特殊召喚がしやすいが攻撃力が低いモンスターはエクシーズ召喚をする為にフィールドに並べるのには最適かもしれぬが、その代わりにエクシーズ召喚を絶対にしなければならない。

 どちらが優れているか?と言った話になれば答えづらいが、少なくとも2つのパターンがある事は確かだ。

 

「この辺りに関しては色々と相手のデュエルを見て考えないといけない。

エクシーズ召喚はシンクロみたいに足し算しなくていいし、融合ほど素材の縛りが厳しくない。

だから、油断してると同じシンクロモンスターでエクシーズ!とか同じ融合モンスターでオーバーレイ!とか普通にありえる……ガトムズからVFD出てくんなよ、ダイソンスフィアでいいだろ……」

 

「あ、そっか!同じレベルのモンスターを並べれば良いだけだから、融合でもシンクロでもエクストラデッキの枠が余っていたら召喚出来るんだ!前に遊矢兄ちゃんがエクストラデッキに3枚も同じカードを入れなくても良いって言ってたのはこういうことだったんだね!」

 

 融合とシンクロをエクシーズと組み合わせるのは実は案外簡単なのかもしれんな……。

 

「遊矢、一応、私が教えているのだけれど……ここまで仕事を取られるのはちょっと」

 

「悪い悪い、じゃ、次を」

 

「じゃあ、いざ対峙した時にどうやって対処するかどうかだけど、これも宿題にするわ。

相手フィールド上にオーバーレイユニットを2つ持ったセイクリッド・プレアデスが1体だけ居るから、どう立ち回るか考えてみてね」

 

 セイクリッド・プレアデスの効果はフリーチェーンでしかもカードの種類を問わない。

 カードの効果で破壊すればいい等と言う答えを出せば赤点は確か。セイクリッド・プレアデスの効果を使われるのを前提にするか、もしくは使われても問題なくするか……。

 

「今年に入ってから、一気に遊勝塾の授業の質が上がったな」

 

 元々遊矢が色々と教えていたところはあったが、まさかこれほどまでに伸びるとは。

 

「おじさんが居なくなってから、遊矢が必死になって教科書を作ったの……瑠璃は関係無いわ」

 

 なにやら言葉に棘があるぞ、柚子。

 しかしこれをみていると遊矢の遠さがよく分かる。

 つい最近まで新たなる不動のデュエルを見つけようと必死になっていた。今の俺は探求者だが、何れは権現坂道場の後を継ぐ。そうなれば我が道場の門を叩く者に、不動のデュエルがなんたるかを教えなければならない。

 何れは教えなければで、まだ教えてはいない。対して遊矢は教科書を作り塾生達に教えている……その背中は余りにも遠い。だからこそ、越えなければならんな。

 

「じゃあ、エクシーズ召喚のメリットを生かしたコンボとデメリットでやれる時を───」

 

 気を引き締め直し、改めてエクシーズ召喚について学んでいると

 

「榊遊矢を引き渡しなさい!!」

 

 外から聞いたことの無い声が響いた。

 

「だーかーら、僕は遊矢にデュエルを挑みに来たんだから渡せないんだよ、おばさん!!」

 

「誰が、おばさんですか!!」

 

「この声……よし、逃げるか」

 

「え、様子を見に行くんじゃないの!?」

 

 明らかに遊矢関係で外で揉めている人達がいる。

 それなのに遊矢は制服の上着をほっかむりにして逃げようとする。

 

「逃げるな、遊矢。明らかにお前が原因で揉めているぞ」

 

「ッチ……ナンデヨリニヨッテドウジナンダ……はいはい、中止。授業中止、揉めてるっぽいから確認するぞ」

 

 いったいなにがどうなっているのか、誰にも分からない。

 遊矢はなんとなく察しているが、不安そうな顔をしており外に出ると小さな男の子とおばさんが言い争っていた。

 

「素良、なにを喧嘩してるのよ?」

 

「あ、柚子。

聞いてよ、このおばさんいきなり現れたと思ったら遊矢を出せとか引き渡せとか色々と言ってきたんだよ。

遊矢は今から僕とデュエルをするから、そんな暇はないから帰りなよって遊矢の代わりに断ってあげてたんだ」

 

 小さな男の子は最近遊矢にデュエルを挑み続けている融合使いの素良。

 

「残念だが先に俺と遊矢がデュエルをする事になっている」

 

 既に遊矢とのデュエルの約束をしている!

 

「君、誰?」

 

「権現坂昇、遊矢の友にしてライバルだ!」

 

「ふ~ん、僕は紫雲院素良。遊矢の1番のライバルだよ、権ちゃん!」

 

「ご、権ちゃん!?いや、それよりも、なにを言っておるか、1番は俺だ!!」

 

「いいや、僕だよ!」

 

「おい、お前達ちょっと黙れ。

ゴツいのとショタに取り合いされても嬉しくない。柚子と瑠璃ならまだ嬉し……そ、そこのおばさん!俺になんのようだ!!」

 

 どちらが1番なのか言い争ってしまい、本題から話が逸れてしまった。

 遊矢が間に入ることによりライバル問題については幕を引き、もう一人の来訪者について訪ねると塾長が驚いた顔をする。

 

「あ、貴女は赤馬理事長!!」

 

「お父さん、知ってるの?」

 

「知ってるもなにも、LDSの理事長だ!!」

 

 なにやら大きな戦いがはじまる予感がする。

 そうなったら、この男、権現坂、男として友のためにも力を貸さねば!




OMKフェイズ

遊矢「お~い、大丈夫か?」

沢渡「見舞いに来るのおせーよ!つーか、なんでお前は入院してねえんだよ!」

遊矢「柚子にボコられて入院して終わればどれほどよかったか……」

沢渡「どうやらまだうまい飯が食えそうだな……」

遊矢「てめえ、糖尿病にしてやろうか」

沢渡「そう易々となってたまるかよ。それよか、持ってきたか?オレのマイフェイバリット」

遊矢「ああ……借りてたボッキンパラダイスV、返すわ」

沢渡「ちっげえよ!見舞いなんだから、なに言ってるか分かれよバカ!」

遊矢「でも、これはお前を元気付けるものでイチオシのマイフェイバリットだって言ってただろう」

沢渡「意味がちげえ、意味が……てか、アップルパイ買ってきてねえのか!?」

遊矢「一応は買ってきたけど、怪我での入院患者だからってNGくらったから柚子達のお腹の中に納まった」

沢渡「くっそ、退院したら真っ先に食いに行くぞ!」

遊矢「お前の奢りならな。まぁ、何はともあれ元気そうで良かったよ」

沢渡「この程度でくたばるほど柔な鍛え方はしてねえよ。何度倒されても蘇る、七転び八起きなオレ様はそう」

遊矢「ゴキブリ並みの生命力を持つ男」

沢渡「フェニックス沢渡さんと呼べ!!」



後半へ続く。


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襲来、LDS(後編)

前回までのあらすじ

1つ、遊矢は沢渡に借りたボッキンパラダイスVを返していた。

2つ、タツヤは幼馴染みのままで満足していると負けることを忠告する

3つ、レオコーポレーション、株価大暴落待ったなし!



 はじめての授業中にまさかのアクシデント。

 今日、来る予定が無かった人達がどんどんとやって来てしまう。どうしてこうなったのかしら……。

 

「ど、どうぞ」

 

「御気遣いはいりませんことよ」

 

 如何にも高級車な白いリムジンに乗ってやって来たおばさんに柚子は緊張しながら茶菓子と紅茶を出してもてなすけれども、一触即発な空気で、おばさんの向かい側のソファーに座る塾長は真剣な顔をしている。

 

「ねぇ、遊矢。今日、デュエルできそうに無い感じかな?」

 

「権現坂との先約もあるし、凄く不穏な空気が流れてるんだから察してくれ」

 

 なんでこうなると物凄く落ち込んでいる遊矢……と、小さな男の子、素良。

 タツヤくん達が言うには私がこっちに来る少し前に遊矢にデュエルを挑みに来た凄腕のデュエリストらしく、遊矢に負けては挑むを繰り返してたみたいだけれど、ここ最近──具体的には私が遊勝塾に来てからは挑んでなかった。

 

「てか、柚子が増えてるんだけど?」

 

「あの子は瑠璃、柚子と間違えるなよ。塾長達がそれやらかして柚子を泣かせたから」

 

「滅茶苦茶柚子とそっくりなんだけど」

 

「世界には自分のそっくりさんが3人居るという。かくいう俺も既に2人ぐらいそっくりさんがいる……」

 

 私と柚子の見た目がそっくりで驚いているけれども、余り気にしない方がいいわ。

 世界には自分のそっくりさんが3人居るって言うのだから。それよりも、このおばさんはいったいなにをしに来たのかしら?塾長が言うには、この次元で最も大きなデュエルスクールの理事長らしいけどアポもとらずにどうしてうちに。

 

「赤馬理事長、本日はどういった御用でしょうか?

失礼ながら我が遊勝塾は次の舞網チャンピオンシップに向けて力を入れております。アポイントも無しに急な来訪は困ります」

 

 普段とは異なる塾長。

 なにをしにやって来たのかを分かっては居るが、言わない。けれども、少し怒っていることは分かる。

 

「おや、そうでしたか。それは大変失礼な事をしましたわ。

では、社交辞令等は省き本題に入らせていただきます。そちらの榊遊矢の身柄を引き渡していただきませんか?」

 

「いきなりやって来て遊矢を渡せとはどういった了見で?」

 

「御存知ありませんか?

最近、LDSの生徒を辻デュエルで狩っているデュエリストが居るという事を……それが榊遊矢だということを!!」

 

「っ!」

 

 赤馬理事長の叫びに戦慄が走る。

 

「待ってください。

その件に関してはこちらでも色々と知っていますが、LDSに辻デュエルをしたのは遊矢ではありません!

遊矢の友人でそちらのLDSに所属している沢渡が遊矢に似たデュエリストとデュエルをしたと言っており遊矢でないことは確かで、他にも瑠璃──」

 

「塾長、ストップストップ」

 

「お父さん、落ち着いて」

 

 遊矢は無実だと息をあらげて興奮する塾長。

 ソファーから立ち上がったので柚子と遊矢が落ち着かせに入るとすまないと一言謝り、少しだけ冷静になりソファーに座った。

 

「天下のLDSがこの様な小さなデュエル塾の者に負けたとあってはならないのです」

 

「ですから、遊矢じゃないと」

 

「襲撃者が榊遊矢かどうかは関係ありません!!」

 

「「「ひっ!」」」

 

「このおばさん、怖いね」

 

「素良、煽るな」

 

 遊矢じゃないと否定し続ける塾長。

 赤馬理事長は短気なのかキレてヒステリックに叫び声を上げてしまい、タツヤくん達が怯えてしまう。

 

「襲撃者が榊遊矢かどうかは最早、関係ありません。

榊遊矢に負けたと言う噂がLDS外にまで広まっていると言う事実がありますもの」

 

「……大丈夫か、瑠璃?」

 

「……」

 

 徐々に顔色が悪くなる私の顔をみて遊矢は心配してくれるけれど、その声に私は答えることは出来なかった。

 赤馬理事長が何故この件に執着するかは分からない。でも、ハッキリと分かるのは今回の出来事の発端はユート。

 ユートが辻デュエルをしなければこんなことにはならなかった。遊矢達は舞網チャンピオンシップに向けて毎日頑張っていた。

 

「LDSは業界大手No.1でプロ輩出数No.1、昨年はユース、ジュニアユース、ジュニアクラスの3つのコースを総なめにした最強最大のデュエルスクール!LDSの生徒同士ならばともかく他の塾の生徒に例え公式戦でなくとも負けることはあってはならないのです。大きく噂が広まってLDSの顔に泥が塗られました!」

 

「我々にどうしろと言うのですか!」

 

「デュエルで泥を塗ったのならば、デュエルで洗い流すのみ!

榊遊矢!我がLDSの融合、シンクロ、エクシーズのジュニアユースクラスの首席とデュエルをしなさい!!」

 

 ビシッと指を遊矢にさす赤馬理事長。

 

「俺じゃないって言ってるだろう」

 

「先ほど言ったことをお忘れかしら?

榊遊矢にLDSの塾生が負けたと言う噂は広まっているの。それをどうにかして汚名を返上するにはただ1つ!貴方を倒し、LDSが最強であることを証明すること!!」

 

「ふざけないで!!」

 

 遊矢を連れていく事は出来ないと分かると挑戦状を叩きつける赤馬理事長。

 ずっと黙って話を聞いていた柚子は赤馬理事長の横暴を許せず、ついにキレてしまった。

 

「さっきから聞いてれば、最強だ汚名返上の為だ遊矢をなんだと思ってるの!!

沢渡は遊矢じゃないって否定しているし、LDSに辻デュエルをするデュエリストにデュエルを挑みなさいよ!!」

 

「っ……」

 

 遊矢の事を思い、激しい怒りを赤馬理事長に向ける柚子。

 言っていることはなにも間違いじゃない。そう、ユートと兄さんにデュエルを挑んで汚名返上すればいい……ただ、それだけなのに。

 

「何度も言わせないで貰えませんこと?

例え襲ったのが榊遊矢であろうがなかろうが榊遊矢が襲ったという噂は既に流れているのよ」

 

「だから、遊矢を倒そうと言うのか!?

ふざけるな!!この男権現坂、その様な理由で因縁をつけること断じて許さん!!」

 

「落ち着きなよ、権ちゃん」

 

「だから権ちゃんと言うでない!」

 

「どうせその首席とか言うのと遊矢がデュエルをしても遊矢が勝つんだから、慌てる必要なんて無いよ」

 

「あら、随分と大きな口を叩きますわね」

 

 ……

 

「大丈夫か、瑠璃。無理っぽいなら引いても──」

 

「ごめん、なさい……」

 

 兄さん達を止めに追い掛けて、間に合わなかった結果、遊矢をくだらない目的の為に利用される羽目になった。

 その為に柚子も権現坂も、タツヤくん、アユちゃん、フトシくん、塾長が怒っている……兄さん達のせいで、こんな事に!!

 

「大丈夫だ──どうせ俺が勝つ」

 

「強いから問題ないのと心配しないのは話が別よ!」

 

 きっと遊矢ならLDSの首席3人を軽々と倒すけれども、それとこれとは話が別なのよ。

 

「遊矢だけって、1対3なんて卑怯よ!!」

 

「では、3対3の団体戦は……おっと、失礼。

遊勝塾はジュニアユースクラスのデュエリストが2人しか居ませんでしたわね。

そちらの3人の誰かがデュエルをしてくださるのかしら?言っておきますが、手加減はしませんわよ?」

 

「だったら、僕が!!」

 

「いいや、オレが痺れさせてやる!!」

 

「私が戦うよ!!」

 

「否、ここはこの男権現坂が」

 

「いや、お前はうちの塾生じゃないからアウトだよ」

 

「け、けしからーん!!指を咥えてろと言うのか!?」

 

「だって、君、遊勝塾の生徒じゃないじゃん。ま、それを言うなら僕もだけど。出れるんだったら力を貸してあげたいけど無理っぽいよね」

 

「構わないわ!私と遊矢が2勝すれば3人目が誰であっても」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前達、静かにしろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 騒ぐ遊勝塾一同を一喝し、静かにさせる塾長。

 さっきまで授業を受けていた人なのかと思うほどで、遊矢も予想外だったのか目を見開いていた。

 

「赤馬理事長、その様な理由でのデュエルは承知致しかねます。

私の先輩は見るものを笑顔にさせるエンターテイメントデュエルをしていました。

私事として残念な事に遊矢はそれを苦手としておりますが、デュエルは楽しくて面白くて笑顔になるものだと言う気持ちは受け継いでおります。そして我が遊勝塾の面々はそんな遊矢に影響されデュエルは笑顔になるものだと思っております」

 

「笑顔、ですか?

お笑い草ですね。人を笑顔にさせるエンタメデュエリストである貴方の先輩で榊遊矢の父は、貴方を含めて誰よりも多くの人を悲しませたじゃありませんか」

 

 どういう、こと?

 

 昔の事を掘り出されると気まずそうな顔をする塾長。

 柚子も俯いて目を合わせない様にしており遊矢も嫌そうな顔をしている……よくよく考えてみれば、私は遊矢の事を良く知らない。力を貸してくれるこの次元の住人と言うだけで、他にはなにも知らない……でも、こんなに静まりかえるだなんてなにかがあったのよね。いったい、なにがあったの?

 

「それにこの勝負、貴殿方は受けなければなりません!」

 

「どういう意味でしょうか?」

 

「今はまだ、LDSの生徒しか辻デュエルの被害にあってません。

ですが、その内、LDS以外の生徒に被害が及べばどうなるのか?例えばそう、LDSに次ぐプロ輩出数No.2の梁山泊塾の生徒を襲ったとすれば……あそこはLDS(うち)と違って過激ですのでどうなることやら」

 

「それ言ったら、ここで俺がデュエルしても真犯人を捕まえないとなにも変わらないだろう」

 

「ええ、ですので、もし遊勝塾が勝てば噂が榊遊矢ではないと此方側が否定いたします」

 

「……食えないBBAだこと」

 

 絶対に断れない状況を作り出す赤馬理事長。

 今はまだ、いえ、既に大変な事にはなっているけれどもハートランドよりはましなこの状況。

 これより更に酷くなりたくなければデュエルに応じなければならない。

 

「そしてLDSが勝った場合はこの遊勝塾をLDSの物とさせていただきます」

 

「ちょっと待って、話が飛びすぎてるわよ!!

LDSの汚名返上の為に来ているのにどうしてうちを乗っ取る話になっているのよ!」

 

「柚子、落ち着け。

赤馬理事長、近年LDSは様々なデュエルスクールを買収していると噂を聞いております」

 

「御存知でしたか。

つい、先日まで海外の有名なデュエルスクールを買収しておりまして……帰国した際には驚きましたわ。まさか、ペンデュラムと言う新たなる召喚法が見つかったことを」

 

 段々と本性を表していく赤馬理事長。

 この人は最初から汚名返上の為でもなんでもない……遊矢が持つ、エクシーズでもシンクロでも融合でも儀式でもない、ペンデュラムモンスターが狙いだったのね。

 

「榊遊矢くん、ストロング石島との試合を見させていただきましたわ。

1ターンで複数のモンスターを同時に召喚するどころか、シンクロ、エクシーズ、融合まで行った……ペンデュラムの力は凄まじい。そしてLDSの生徒達はこう思ったでしょう。ペンデュラム召喚を使いたいと。

聞いた話によればストロング石島との試合の翌日、遊勝塾に入塾希望者が殺到したは良いもののペンデュラムカードが無いので教えることは出来ないと期待を裏切ったそうで」

 

「無いもんは仕方ないだろう」

 

「ええ、そうです。無い物は仕方ありません……ならば、作れば良い!!

レオコーポレーションの力ならば、榊遊矢のペンデュラムカードのデータを基にペンデュラムモンスターやそれらに関するカードを作ることができる!!融合、シンクロ、エクシーズに次ぐペンデュラムコースを作れる!」

 

「最初からそれが目的で……赤馬理事長、まさかこの噂は貴女が遊勝塾を乗っ取る為に」

 

「それは違います。ですが、チャンスとは捉えております。

ペンデュラムモンスターのオリジナルと4つの召喚を使いこなすデュエリストを手に入れるチャンスを逃す訳にはいきません」

 

「っ……遊矢を物みたいに」

 

「落ち着け、柚子」

 

「でも……」

 

「暴力沙汰はまずい」

 

 遊矢を物みたいに扱う赤馬理事長にハリセンを手に取る柚子を抑える遊矢。

 言葉にしていないけれどタツヤくん達も怒っている。

 

「この遊勝塾を渡すわけにはいきません。

そしてデュエルは喧嘩の道具じゃない。それでもしなければならないと言うのなら、遊矢達には戦わせられない!!私が相手になります!!」

 

「それは困りますわ。

買収が1番の目的ですが、汚名返上も目的の1つなのです。その為には必ず榊遊矢をデュエルで倒さなければなりません!!

榊遊矢が1人で融合、シンクロ、エクシーズの3コースの首席を倒すか、榊遊矢を含めた遊勝塾の3名が団体戦として相手をするのか、2つに1つ!!」

 

「なによ、それ……」

 

 静かに怒る柚子。

 前者は遊矢にかかる負担が大きい。後者は遊矢が勝てたとしても、他の誰かが負け続ければ勝った意味が無くなる。

 遊勝塾側が圧倒的に不利な条件を突きつけてデュエルを挑んでくる赤馬理事長、いえ、LDS。応えなければ、遊勝塾が大変な事になる。

 

「遊矢……すまない。また、お前に色々と背負わせてしまって」

 

「謝らないでくれ、塾長。

遊勝塾を乗っ取られると1番困るのは塾長なんだし、このままだと折角作った教科書とか無駄になる。父さんが帰って来た際にお前の席無いからなと言えなくなる……ところで赤馬理事長」

 

「日を改めてデュエルならば構いませんわよ?」

 

「いや、そうじゃなくて……レートの調整をお願いしたい」

 

「レートの調整?」

 

 戦う事を決めた遊矢。

 塾長の隣に座り赤馬理事長に交渉をはじめる。

 

「俺達が負けた時のリスクとLDSが負けた時のリスクの差が違いすぎる」

 

「確かに、小さいとはいえデュエルスクール1つの運命と榊遊矢ではないと言うだけでは足りませんわね。

でしたら最新のリアルソリッドビジョンやデュエルディスク等はどうでしょうか?勿論、ここに居る皆様の分も」

 

「んな生易しいもんじゃなくてもっとエグいのくれよ。

あんたが所有するレオコーポレーションの株全部を乗せてくれねえと、デュエルには応じない」

 

「なっ!?」

 

 遊矢、なにを要求しているの!?

 どさくさ紛れにとんでもない事をさっき言っていたけれども、それをも上回るものを要求し周りを驚かせる。

 

「そんなふざけた事は出来るわけありません!!」

 

「なにを言い出すかと思えば、ふざけてるのはそっちだろう。

遊勝塾が乗っ取られれば塾長は塾長じゃなくなって今の生活が崩壊するんだ。だったら自分の生活を崩壊させるぐらいの物を賭けて貰わないと困る。それが出来ないならばデュエルには応じられない」

 

「応じられない、応じないといけない状況を理解して──」

 

「今までの様に立ちはだかるのならば全て薙ぎ倒せば良い。

なんならば舞網チャンピオンシップにでて汚名を雪げばいい。俺の公式戦は2戦2勝0敗で止まっている。

権現坂や権現坂道場のデュエリスト、柿本達にデュエルを挑めば無敗の6連勝であっという間に舞網チャンピオンシップに出場できる」

 

 あ、あれ?

 優位だった筈の赤馬理事長が何時の間にか不利になってる。

 

「勿論、そんな事をさせるのだからこっちのレートも引き上げる。俺の持つこんなカードも差し出そう」

 

 複数のデッキケースからカードを取り出し、伏せた状態で並べる遊矢。

 オープンしてみろと言う意味合いだと理解して赤馬理事長が1枚カードをオープンした。

 

「これは、シンクロモンスターのペンデュラムモンスター!?」

 

 赤馬理事長がオープンしたカードはクリアウィング・ファスト・ドラゴンというペンデュラムとシンクロの2つを併せ持つモンスター。

 

「驚くのはまだ早い。エクシーズペンデュラム、融合ペンデュラムモンスターもある」

 

 2枚目、3枚目と未知のカードを見せる遊矢。

 エクシーズペンデュラムは何処となくユートのダーク・リベリオンに、融合ペンデュラムは遊矢とユートに瓜二つなアカデミアの使っていたスターヴ・ヴェノムにそっくりだった。

 

「残りの3枚は」

 

「ここから先は見せられないな。見たければ遊勝塾を買収してからじゃないと」

 

 6枚のカードを1つのデッキケースに戻す遊矢。

 

「この条件ならばデュエルをしてやる」

 

 デッキケースをテーブルの上に置く遊矢。

 カードのテキストがよく見えなかったものの、デッキには融合、シンクロ、エクシーズのペンデュラムモンスターが入っている。ペンデュラムモンスターが目的の赤馬理事長の視線は自然とデッキケースに向いている。

 

「……いいでしょう。ただ、こちらが勝てばそのカードだけでなく貴方の持つカードを全ていただきます」

 

「構わない」

 

 交渉は成立し、ジュニアユースクラスのデュエリストを連れてくる為に一度、出ていく赤馬理事長。

 

「ふぅ……俺、こういうの得意じゃないんだからもうちょっと頑張ってくれよ、塾長」

 

 出ていった事により肩から力が抜けたのか、ソファーにもたれかかる遊矢。

 腕で目元を覆い翳し、塾長に対して小言を飛ばす。

 

「つーことだ。今から遊勝塾の命運を賭けるマッチ戦がはじまるから今日の授業はここまでで明日以降に持ち越し。権現坂、デュエルが出来なくなったから帰っても良いんだぞ?」

 

「戯け!!

遊勝塾の命運を友が背負い戦っているのだぞ!例え、戦うことは出来なくとも応援をすることはできる。全力をもって応援をさせてもらおう!!」

 

「素良は?」

 

「僕も応援させてもらうよ。

遊勝塾が無くなると遊矢と面白いデュエルができなくなるからね」

 

「そうか」

 

 一丸となる遊勝塾の面々……。

 

「……ちょっと外の風に当たってくる。さっきの交渉、マジでキツかった」

 

 その光景を見た遊矢は外に出ていった……。

 

「遊矢にばかり頼っていられないわ。

団体戦のメンバーは3人で向こうはジュニアユースクラスの首席達。一人は私として、もう一人を選ばないと」

 

「権現坂と素良はうちの塾生じゃないし、俺達3人の中で1番強いのはタツヤだよな」

 

「うん。だけど、僕じゃなくて瑠璃姉ちゃんが良いんじゃないかな?」

 

「そうか!瑠璃は塾生ではないが遊勝塾の一員!ならば、ルール上はなにも問題は……瑠璃は?」

 

 私はなにも言わず、応接室を出ていく。

 

「おい、大丈夫か?泣きたい時は泣いて良いんだぞ?」

 

 向かった先は外で風に当たり、涼んでいる遊矢。

 私を見て大慌てするけれど、それでも優しい言葉を掛けてくれて駆け寄ってくれる。

 

「……私達は、来なければよかった」

 

 こんなことになったのは私達がこの次元にやって来たせい。

 ユートと兄さんがこの次元で暴れてしまったせいで、無関係な遊勝塾がこんな事になってしまった……私達は疫病神よ。

 

「瑠璃は関係無いだろう」

 

「関係、あるわ……こんな過激な事を発案するのは兄さん。

兄さんは過保護だったけれど、あの日から兄さんは過激さが増して、それで」

 

 こうなったのはユートが原因で、ユートにこんな事をさせたりしているのは兄さん。兄さんがそんな過激なことをするようになったのは拐われそうになった私のせい。

 

「今回は俺の問題じゃなくて遊勝塾の問題だ。だから、3対3の団体戦だ。こっちは俺と柚子……後、一人必要だ」

 

「遊矢?」

 

「自分を責めるぐらいなら、自分に出来ることを探せよ」

 

 怒られても仕方ない、遊勝塾に不幸を呼び込んだのに怒らない。それどころかチャンスをくれた

 

「ありがとう……ありがとう、遊矢……」

 

 絶対に、絶対に勝ってみせるわ!

 

「礼を言うのはまだ早いぞ。デュエルで勝たな──」

 

「遊矢、3人目なんだけど瑠璃に……なにをしてるの?」

 

「なんでこうなるんだろ」

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━1時間後━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「あら、3対3の勝負でよろしいのですか?」

 

 1時間後、赤馬理事長はLDSのジュニアユースクラスの融合、シンクロ、エクシーズコースの首席の3人を引き連れて私達と対峙をする。

 

「これは遊矢一人の問題でなく遊勝塾の問題です。遊矢だけでなく、遊勝塾で戦います」

 

「もしかしたら勝てる可能性を捨てて……まぁ、よろしいですわ」

 

「赤馬理事長、さっきの約束を忘れてないだろうな?」

 

「勿論です。ただし、貴方達が勝てれば、ですけど……ところで何故二人は正座をしているのですか?」

 

「ToLOVEるがあったんだ、気にしないでくれ」

 

 正座をする私と遊矢。

 暖かい言葉をくれて思わず遊矢に抱きついてしまったけれども、今はそんな事をしている暇は何処にもなかった。

 私を3人目として迎え入れようと遊矢に相談に来た柚子にハリセンで叩かれて、怒られてしまい私達は正座をしている。

 

「正座で足が痺れたからアクションカードが取れなかったなどの言い訳は通用しませんが……向こうから弱くなってくれる事はこちらにとっては喜ばしい事です」

 

「ナメるな、権現坂と共に座禅の修行もしているんだ。正座ごときで痺れるほどの俺じゃない」

 

 ごめんなさい、私は痺れてるわ……。

 

「それではまずは最初のデュエルを。

此方はLDSのエクシーズコースの首席である志島北斗を出します」

 

 星座を模した独特の髪型の男子が一歩前に出る。

 エクシーズコース、ということは相手はエクシーズ召喚を使うのね。

 

「ならば、先手必勝!!遊矢、お前の──」

 

「「待って、私が相手をするわ!!」」

 

 塾長が遊矢を指名するけれど、私と柚子が声を遮った。

 まさか柚子も同じ事を言うとは思わず、柚子も私が同じ事を言うと思っておらず互いの顔を見合う。

 

「瑠璃、遊勝塾の為に立ち上がってくれたのは嬉しいわ。

でも、ここは私に任せてくれないかしら?今まで遊矢に無茶をさせていたの。でも、今回は違う」

 

「柚子、気持ちは分かるけれど私に譲ってくれないかしら?

相手がエクシーズ召喚を使うのなら、私の方が圧倒的に分があるわ」

 

 この次元じゃエクシーズ召喚を教えだしたのはつい最近でレベルが低い。

 エクシーズ召喚が出来ればスゴいと尊敬の眼差しを受けるけれど、ハートランドではエクシーズ召喚ができて当たり前。相手がなにをしてくるか大体分かるし、私なら確実に勝つことが出来るわ。

 

「それを言うなら、これはアクションデュエルよ。

瑠璃の住んでたところは普通のデュエルをしてアクションデュエルをしたことは無いでしょ?」

 

 っ、確かにここのデュエルはハートランドのデュエルと大分異なるアクションデュエルだ。

 柚子はそんなアクションデュエルの大会で準優勝をするほどの実力を持っている。

 

「柚子、彼のデッキとの相性は大丈夫なの?

少なくとも私のデッキなら相性関係無しに先攻1ターンキルで終われるわ」

 

 柚子のデッキはモンスターを並べて攻撃して相手のライフを0にするデッキ。

 弱点は攻撃力が低いことで簡単に召喚できるエクシーズモンスターならあっという間に越えられる。効果ダメージも与える事の出来る私のデッキならば例え相手のデッキがなんであれ勝てる。

 

「相手はエクシーズコースの首席なのよ?

それはつまり他のエクシーズコースの人達とデュエルをしているということ、エクシーズの対策の1つや2つしているはず。私のデッキは融合()できるデッキだから安定しているわ」

 

 ああ言えばこう言い、こう言えばああ言う柚子と私。

 このまま言い合っていても埒が明かず、デュエルで決着をつける時間は何処にもない。見た目も同じだけでなく考えることも同じなのか対戦相手の北斗を見る。

 

「「私達のどっちとデュエルをするの!!」」

 

 譲り合うつもりは私にも柚子にも無い。

 だったら、対戦相手を選んでもらうわ!!

 

「あの……榊遊矢とデュエルをしたいんだ──」

 

「「は?」」

 

「ひぃ!?」

 

 この人は話を聞いていなかったの?

 私か柚子のどちらかを選ばなければならないのに、なんでよりによって遊矢を選ぶの?

 

「お父さん、私と瑠璃、どっちが良いの!!」

 

「え、えっと……俺は遊矢を指名したんだが」

 

 北斗が無理なら塾長にと聞くけれども、塾長も遊矢を推す。

 チラリと遊矢を見てみるとコロンビアポーズを取っておりドヤ顔になっている。その姿は柚子を苛立たせたのかハリセンで叩かれる。

 

「あ、俺は2番手にデュエルをするつもりだから1番手に出ないぞ」

 

「なんで2番手なの?」

 

「三本勝負で2勝しないといけない。

勝とうが負けようがどっちでも試合が続く1番手で勝ったとしても、後の二人が負けたら話にならない。

最初のデュエルで勝ったら俺がとどめをさす。負けたら俺が巻き返す。だから、俺は2番手。本当なら3番手にいきたいけど、万が一の2連敗はちょっとな」

 

 遊矢の言葉に成る程と納得をする。

 3本勝負は3本勝負でも、1人が3回戦うのでなく3人で1回ずつ戦う。遊矢が絶対に負けないのは分かっているから、どちらかが勝てば良い……だったら、尚更出ないと。

 さっき色々と言ったけれども柚子は強い。何度かデュエルをして勝ったり負けたりを繰り返して連勝数では私の方が上だけれど総合的に見れば柚子の勝った回数の方が多い。柚子ならば絶対に勝ち、遊矢が勝ってこの戦いは終わる。

 それに越したことは無いけれども、迷惑をかけた遊勝塾に償うことができない。

 

「遊矢、私と瑠璃、どっちが良い」

 

「じゃあ、柚子で」

 

「っしゃあ!!」

 

「っ……そんな……」

 

 最終的に遊矢に指名権を与えると、遊矢は迷うことなくあっさりと柚子を指名した。

 柚子なら北斗を倒すことが出来る。次の遊矢のデュエルで二本先取してしまい、遊矢や遊勝塾の皆に──

 

「瑠璃、万が一の時は頼んだぞ」

 

「……」

 

「柚子は無敗でも無敵でもない、負ける時は負けるんだ。

もしそうなったら俺一人が強くてもどうにもならない……もう一勝はお前が──」

 

「ウソつき」

 

 そんな事を言って、誤魔化そうたって無駄なのよ?

 柚子が遊矢の事を信頼している様に、遊矢が柚子を信じているのは言わなくても分かるわ。だから、安心して柚子の背中を後押しして見送る事が出来るのよね。

 

「ウソつき」

 

 遊矢が嘘をついている。

 大事な事なので2回言った。

 

「ああ、俺はウソつきだ」

 

 遊矢はウソつきを否定せず、認めた。

 

「私のこと、信頼してくれないの?」

 

「今ここで信頼や信用を使う場じゃないとだけは言える……お前はなんでここに居る?」

 

「……ズルい」

 

 私がスタンダードに来たのは遊勝塾でエクシーズを教えるためでも遊矢と再会するためでもない。ユートと兄さんを止めるために追いかけてやって来た。ここでエクシーズ召喚を教えているのは遊矢達へのお礼の様なもの。

 遊矢は兄さん達と対峙した時に私を選んでくれると言ったので私はこれ以上はなにも言わない。ただ言えることは、遊矢はズルくてウソつきな男だったってこと。

 

「対戦カードが決まったから、外野となる俺達は出るぞ……瑠璃?」

 

「ご、ごめんなさい、足が痺れたわ」

 

 さっきの正座の影響が今になって襲ってきた。

 両足に刺激を与える度に物凄く痺れるこの感覚、デュエルフィールドの外まで歩き抜く事ができるかしら

 

「全く、いくぞ」

 

「きゃっ──ゆ、遊矢?」

 

 歩けない私を抱き抱えてくれる遊矢。

 私を軽々しく持ち上げるなんて……体が細いけれど、筋肉はかなりあって……暖かい。

 

「試合に勝って勝負に負けた……っ」

 

「あの、そろそろデュエルをしたいんだけど」

 

 試合には負けたけれど、勝負には勝った様な気がするわ。

 こうして遊勝塾の命運を賭けたデュエルの幕が開けた。




OMKフェイズ

権現坂「ううむ……世界には自分と同じ顔が3人居ると言うが、柚子と瑠璃は本当に瓜二つだな」

遊矢「よく見ろよ、大分違うぞ?」

権現坂「違うと言われても、何処が違うのか俺にはさっぱりだ」

遊矢「髪の長さとか目の色とか身長とかおしとやかさとか」

権現坂「確かに言われてみれば、瑠璃からは柚子のストロングさが感じれず、代わりにおしとやかさが感じれる」

遊矢「後、おっぱい」

権現坂「け、けしからーーん!!遊矢よ、幼馴染みと瓜二つの女性をなんという目で見ておるか!!」

遊矢「幼馴染みのそっくりさんだ。
まぁ、とにかく似ているだけで完全な別人で髪型を変えてもバレバレなんだから見間違うなよ。
あんま言わないけど、全員から一回は間違われてしまったのを瑠璃は気にしているんだから」

権現坂「話をそらすな!まったく……そういえばLDSに辻デュエルをしている者が遊矢のそっくりさんなのだろう?」

遊矢「そうだけど、どうした?」

権現坂「赤の他人の筈なのに同じ顔の人間が近くに二人もいる。
となれば、もしかすれば俺にそっくりなデュエリストが舞網市の何処かに居るのかもしれん!!他にも沢渡のそっくりさんに塾長のそっくりさん、フトシのそっくりさんも居るやもしれん!!」

遊矢「一応聞いておくが、権現坂のそっくりってどんな感じだ?」

権現坂「モヒカンヘアーでメインデッキにモンスターを入れず、罠と魔法だけで戦うデュエリストだ!!」

遊矢「精神操作とか超融合でカードをパクるデュエルをしてくるのか……」



次回予告


やめて!プレアデスの効果を今ここで発動したら、プレアデスを戻すしかなく、北斗のフィールドががら空きになっちゃう!

お願い、負けないで北斗!

あんたが今ここで倒れたら、赤馬理事長の持つレオコーポレーションの株が全て奪われるのよ!

デュエルは終わっていない、ここを乗り切れば柚子に勝てる可能性があるんだから!


次回、遊戯王ARC-V【ワンキル!宿題の答え合わせ】にデュエルスタンバイ!


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ワンキル、宿題の答え合わせ

前回までのあらすじ

1つ、実はそこまで強くない漫画版四天の龍でレオコーポレーションの株をサメトレをし、遊勝塾の存亡を賭けたデュエルが何時の間にかレオコーポレーションの存亡も賭けたデュエルにした。

2つ、ユート達が原因で起こった戦いなので、瑠璃のユート達に対する好感度がランクダウンエクシーズチェンジ!優しい言葉をかけてくる遊矢への好感度がランクアップエクシーズチェンジ

3つ、遊矢が段々と瑠璃に奪われそうになっている!負けるな、幼馴染み!




「遊矢、もう足が楽になったわ」

 

「もちょっと、もうちょっと美味しい役を」

 

「ダメよ」

 

 遊勝塾とLDSの命運を賭けた一戦(3本勝負)

 俺はお姫様だっこした瑠璃を堪能しようとするものの、瑠璃からNGが出たので下ろす。

 

「遊矢兄ちゃん、そういうことやってると何時かバチが当たるぜ」

 

「なにを言い出すかと思えば、父さんが蒸発し、いじめられるだけじゃなく冤罪にもなってるんだぞ?ちょっとぐらい美味しい思いをしても文句は言われない」

 

「柚子お姉ちゃんが今にでも殺しそうな目で睨んでるけど?」

 

 いや、あれは睨んでいるというよりは病んでいるのが正しい。

 何時か刺されそうな気もするが、その時はその時だと諦める。

 

「ちょっとトイレに行ってくる」

 

「今から柚子のデュエルがはじまる、早く済ませろ」

 

 はいはい、分かってるよ。

 権現坂にちゃんとしろと呆れられながらも観客席から出ていく。

 

「よし、戸締まりできてるな」

 

「なにしてるの?」

 

「戸締まりの確認だよ……なんで居る?」

 

「デュエリストがお手洗いを欠かすわけないでしょ。遊矢がなんかしてるんじゃないかって思ってね」

 

 遊勝塾の戸締まりを確認をするためにトイレに行くフリをした。

 素良は俺が今このタイミングで行くのが怪しいと思い、つけてきていた。

 

「で、なんで戸締まりをしてるわけ?」

 

「お前はこっちの住人じゃないから詳しくは知らないだろうが、LDSの親会社であるレオコーポレーションはデュエル産業で1番の企業で、あのババアが持ってるレオコーポレーションの株の数は相当な物だ。

今やっているのは一種の企業間のデュエルで、何処にパパラッチが潜んでいるか分からない。マスコミを相手にすれば遊勝塾の評判が更にがた落ちするかもしれないし、勝利して手に入れたレオコーポレーションの株の価値が下がる」

 

「うわぁ、遊矢って汚い」

 

 なんとでも言いやがれ。

 父さんが帰ってきても問題ないように、お前の立場ねえからな!と言ってやる為にも遊勝塾を安定させないといけない。

 その為には最高の環境を整えるぐらいはしておかなければならない。今のリアルソリッドビジョンシステムは最新の物だが、暫くすればまた新型が出てきたり、デュエルディスクだけでアクションデュエルが出来る様になるのは知ってるんだ……よくよく考えればデュエルディスクだけでアクションデュエルが出来るようになったら、貰ったリアルソリッドビジョンシステムが無駄になるな。

 

「まぁ、とにかくパパラッチが来ると大変なんだしLDS狩りとかいう物騒なのが居るんだ。念の為に聞いておくが、お前じゃないだろうな?」

 

 ここ最近、具体的には瑠璃が遊勝塾に来てから姿を見せなかった素良。

 ご都合主義と言えばご都合主義だが、その間にLDSの生徒を襲ってたら今すぐに売り渡すぞ。

 

「疑ってるの?僕がそんなつまらない真似するわけないでしょ。

柚子レベルのデュエリストなら挑んで、遊矢レベルなら襲撃するかもしれないけど、並のデュエリストなんてわざわざ挑まないよ」

 

「ここ最近、遊勝塾に来てなかったのは?」

 

「……」

 

 おい、黙り込むな。売り渡すぞ。

 

「……武者修行だよ」

 

「武者修行?この辺のデュエリストのレベルは低いんじゃなかったか?」

 

「……」

 

 目線を合わせようとしない素良。

 逃げようとは良い根性してるじゃねえかと無言で見つめると我慢出来ずに口を開いた。

 

「まさか柚子にも負けるとは思ってなくて……」

 

「そういえば、お前最後に柚子とデュエルをしたな」

 

 確かヴァルハラでモーツァルト出して、ソナタを特殊召喚してトランスターンでアリアを出してモーツァルトの効果でクリスティアを出して……。

 

「お前、なんも出来なかったな」

 

 素良のデッキはデストーイモンスターを融合召喚して戦うデッキ。

 ファーニマルモンスターは優秀なサーチ効果を持ってはいるが、破壊とかが無い……除去系のカードを入れてないから開幕クリスティアはどうにもならんな。

 

「流石にこんなに負け続けてたらショックで適当にデュエル塾を襲ってたんだよ。あ、勿論ちゃんとした手順でだよ。

いや~ノーダメージに1ターンキルとかも出来てさ、僕が弱いとかじゃなくて遊矢が馬鹿みたいに強いんだって自分に言い聞かせる事ができたよ」

 

 なんか、ごめん。

 俺のせいで遊勝塾が殺意満々になってんだよ。

 

「早く柚子の応援に──」

 

 

───ガン

 

 

「……鍵閉めてて正解だったね」

 

「ああ、正解だ」

 

 素良はやってなかったので、柚子の応援に戻ろうとすると誰かがドアを無理矢理開けようとする。

 しかし、鍵は閉めているので開くことはなく、ガンガンと何回か無理矢理開けようと試みるも開くことなく諦めたのか音は止んだ……お前が出てくるとややこしいからくんな。

 

「さ、柚子の応援にいくぞ」

 

 なにをしに来たかは知らんが、子供(アマチュア)の戦いに大人(プロ)が横槍を入れるのは良くないことだ。

 俺はブラックな社長を出禁にしたので素良と一緒に戻るとアクションデュエルは既にはじめられており、アクションフィールドは星の聖域。塾長、なんでそのフィールドにした?

 

「遊矢兄ちゃん、もうデュエルはじまって先攻が終わっちゃったよ!」

 

「悪い悪い」

 

 トイレと言って誤魔化したけど思ったより長引いてしまったのでタツヤに怒られた。

 

「で、どんな感じなんだ?」

 

「えっと……さっきの宿題が出てきた!」

 

「柚子のワンキルに500円!」

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 一戦目は私。

 相手はエクシーズ使いの志島北斗……エクシーズ使い……。

 

「榊遊矢が相手じゃないのは残念だけど、君が相手なのは光栄だね」

 

「私と?」

 

「勿論……僕はね、今、エクシーズコースの首席なんだ」

 

 どういう意味なのと首を傾げると自分語りをはじめる北斗。

 

「昨年、君を負かしてジュニアユース選手権を優勝した桜樹ユウ先輩。

あの人はエクシーズコースのジュニアユースクラスの首席だった。今はユースに昇格して、ユースの首席になっている」

 

 うっ……嫌な思い出が蘇った。

 去年、舞網チャンピオンシップのジュニアユース選手権で、桜樹ユウと当たって、私は一回戦で負けた。

 遊矢が言うにはドロール&ロックバードってカードを入れてなかったのが悪いらしいけれど、とにかく負けた。

 

「だから、君を倒して今年の舞網チャンピオンシップの願掛けにさせてもらう!!公式戦40戦無敗で無傷、41勝目の相手になってもらうよ!」

 

「40戦無敗、今まで戦ってきた相手が弱すぎたからそんな大口が叩けるのね」

 

 北斗がそういう感じなら、こっちも同じ様に言い返す。

 すると怒りを見せる北斗。

 

「なら、好きなアクションフィールドを選びなよ。僕が本当に強いってみせてやる!」

 

「そんな事をするつもりは無いわよ。お父さん、アクションフィールドを公平に選んで!」

 

 自分に有利なフィールドで戦って勝ったとしてもなんの意味も無い。

 アクションデュエルは嫌いで苦手だとしている遊矢はあらゆるフィールドで戦える。だったら、私もどんなフィールドでも戦えるようにならないと。

 

「よし……う~ん、どのフィールドにするか。

仏恥義理埠頭、仙界竹林、無限架橋……柚子が輝けるステージを、輝く、北斗、北斗七星……そうだ!!アクションフィールド、オーーン!!」

 

 色々と考えた末にフィールドを決めたお父さん。

 子供の遊び場だったフィールドはギリシャを思わせる様な場所に一変し、無数の星空が輝く。

 キレイ……今年の舞網チャンピオンシップとユートや瑠璃のお兄さんを捕まえることが出来れば、遊矢と一緒にプラネタリウムか天体観測に行きたいわ……。

 

「ぷっ、あっはっはっは!」

 

「なにがおかしいの!」

 

 アクションフィールドを見て笑う北斗。笑う要素なんて何処にもない。なのになんで笑うのよ。

 

「そりゃ笑うさ。

アクションフィールド、星の聖域はね、僕の1番得意なアクションフィールドだ」

 

「な、なにぃ!?」

 

「わざわざ僕を強くしてくれてありがとう」

 

「そ、そんな……一番星を目指し輝いている柚子とピッタシだと思ったのに」

 

「塾長、なにやってんだよ!北斗と北斗七星掛けたら、得意だって分かるだろう!」

 

「大丈夫よ、フトシくん……多分、誰が出てもこのフィールドを選んでたから」

 

 北斗と北斗七星を連想して選んだのだから、誰がどう出てもこうなっていたわ。

 

「残念だったね、運にも見放されたようだ」

 

「デュエルは運だけでするものじゃないわ!

どんな事にも動じない揺るがない精神力、笑顔を忘れず楽しむ気持ち、たゆまぬ努力で身につけた知識、そしてどうしてこんな効果にしたと思うようなカードが大事なのよ!!」

 

 それに運に見放されたなんて思ってもいない。むしろこれはチャンスなのよ。

 相手の方が圧倒的に有利なフィールドで勝つぐらいじゃないと、遊矢には追い付けないわ!!

 

「戦いの殿堂に集いしデュエリストが!」

 

「モンスターと共に地を蹴り宙を舞い!」

 

「フィールド内を駆け巡る!」

 

「見よ!これぞデュエルの最強進化系!アクショーーーーン!」

 

 

 

 

 

 

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

 

 私と北斗が交互に言い合い、開幕するアクションデュエル。

 先攻は北斗。エクシーズコースの首席がどれぐらいか、先ずはお手並み拝見ね。

 

「僕のターン!僕はセイクリッド・グレディを召喚!」

 

 セイクリッド・グレディ

 

 レベル4 光属性 戦士族 攻撃力1600

 

「セイクリッド……」

 

「見せてあげるよ、星々の導きを!

セイクリッド・グレディは召喚に成功した時、手札からセイクリッドモンスターを特殊召喚できる。こい、セイクリッド・カウスト!」

 

 セイクリッド・カウスト

 

 レベル4 光属性 戦士族 攻撃力 1800

 

「更にセイクリッド・カウストの効果を発動!

フィールド上のセイクリッドモンスターを1体選び、レベルを1つ増やすか減らすことができる。

セイクリッド・カウストのレベルを1つ増やし、更にもう一度効果を使ってセイクリッド・グレディのレベルを5にする」

 

 セイクリッド・カウスト

 

 レベル4→5

 

 セイクリッド・グレディ

 

 レベル4→5 

 

 

 レベル5のモンスターが2体、これってもしかして。

 

「僕はセイクリッド・カウストとグレディでオーバーレイ!!

星々の光よ!今大地を震わせ降臨せよ!エクシーズ召喚!ランク5!セイクリッド・プレアデス!」

 

 

 セイクリッド・プレアデス

 

 ランク5 光属性 戦士族 ORU2 攻撃力2500

 

「僕はこれでターンエンドだ」

 

「……」

 

 余りの出来事に驚くしかない。

 

「驚いたかい?」

 

「ええ、驚いたわ」

 

「当然だ、エクシーズコースの首席の僕に掛かればこれぐら──」

 

「さっきまでやっていた授業で習ったところが出てきたのだから!!」

 

「なに!?」

 

「柚子、ワンキルをしてやれ!!」

 

 さっきまで教わっていた部分が、宿題として出された部分が出てくるなんて思いもしなかった。

 しかもなんのカードもセットせずにいる。

 

「私のターン、ドロー……よし」

 

 遊矢からの声援を受けたからなのか凄く良い感じ!

 けれど、油断は出来ない。やるからにはとことんやらないと!

 

「アクションカードは……あった!!」

 

 この星の聖域の特徴はアクションカードが置かれていないこと。

 普通だったらフィールドの何処かに置かれているけれども、星の聖域は違う。アクションカードが流れ星になって降ってくる。

 私は流れ星を見つけ、落ちてくる場所が神殿付近だと見抜き急いでアクションカードを取りに行った。

 

「カードは」

 

「探し物はこれかな?」

 

「何時の間に!?」

 

 神殿に辿り着くと先回りしていた北斗。

 

「星の聖域は僕の最も得意とするアクションフィールドだ!

アクションカードが何処に落ちてくるかも分かれば、最短でその場所に向かう方法も知っている!ドローすらまだしていないのに、アクションカードを手にしようとするなんて、君の手札は最悪みたいだね」

 

「それはどうかしら?」

 

「なに?」

 

「私はアクションカードの処理が出来ればそれでよかったのよ!

Ladies&Gentleman!!これより柊柚子によるワンターンキルショーを、そして瑠璃、貴女が出した宿題の答え合わせをするわ!」

 

「ワンターンキル宣言だと!?」

 

 ええ、そうよ。

 今から私のデュエルショーの開幕よ!!

 

「私は魔法カード、オスティナートを発動!

自分フィールドにモンスターがいないとき、このカードは発動でき、手札またはデッキから幻奏融合モンスターにより決められた素材を2体墓地に送り、融合召喚をする!!」

 

「融合!?」

 

「ええ、融合よ!」

 

 覚えたばかりで、公式戦では一度も見せていない融合。

 北斗、私が去年の私のままだと思ったら大間違いなのよ!私は常にパワーアップしているの!!

 

「私は幻奏の歌姫プロディジー・モーツァルトと幻奏の音女オペラを融合!

至高の天才よ!気高き共鳴よ!タクトの導きにより力重ねよ。融合召喚!今こそ舞台に情熱の歌を!幻奏の華歌聖ブルーム・プリマ!」

 

 幻奏の華歌聖ブルーム・プリマ

 

 レベル7 光属性 天使族 幻奏の歌姫モンスター+幻奏モンスター1体以上 攻撃力1900

 

「ゆ、融合を使ったのは驚いたけれど、攻撃力は1900、プレアデスには勝てない。頼みのアクションカードは僕の手、まぁ、拾ったとしてもこのカードじゃどうすることも出来ない」

 

「いいえ、ブルーム・プリマは融合素材の数×300ポイント攻撃力をアップする。私の送った融合素材は2体!よって600ポイントアップするわ!」

 

 幻奏の華歌聖ブルーム・プリマ

 

 攻撃力 1900→2500

 

「だが、それでも相討ちじゃないか」

 

「なにを言ってるの?私の手札はまだ5枚もあるわ!!」

 

 デュエルは手札がつきない限りは無限の可能性がある。

 そして貴方はもう術中に嵌まっているのよ!

 

「自分フィールドに幻奏モンスターがいるとき、幻奏の音女ソナタは特殊召喚できる!私はソナタを特殊召喚!」

 

 幻奏の音女ソナタ

 

 レベル3 光属性 天使族 攻撃力1200

 

「特殊召喚したソナタがフィールドに居るとき、自分フィールドの天使族モンスターの攻撃力守備力は500ポイントアップ、だけど今回はそれが目的じゃない。ソナタを墓地に送り魔法カード、トランスターンを発動!」

 

 ……なにもしてこない?

 別に構わないのだけれど……成る程、これがプレアデスの弱点ね。

 

「トランスターンはコストで墓地に送ったモンスターと同じ属性、同じ種族でレベルが1つ上のモンスターを特殊召喚できる!私はレベル4、光属性、天使族モンスターの幻奏の音女アリアを特殊召喚!」

 

 幻奏の音女アリア

 

 レベル4 光属性 天使族 攻撃力1600

 

 

 

 これで準備完了!

 

「バトル、私は幻奏の華歌聖ブルーム・プリマでセイクリッド・プレアデスを攻撃!!

幻奏の音女オペラが融合素材として墓地に送られた時このターン、幻奏モンスターは戦闘及び効果では破壊されないわ!!」

 

 プレアデスもブルーム・プリマも互いに2500。

 本来なら相討ちに終わるけれど、オペラの力により効果破壊を免れる。そしてアリアの力によって──

 

「戦闘でも倒されない?効果破壊が出来ない?

だったら、別の手段を使えば良い。この瞬間、セイクリッド・プレアデスの効果を発動!」

 

 戦闘破壊がされず相討ちにならないと分かるとプレアデスの効果を発動する北斗。

 

「オーバーレイユニットを1つ使い、フィールドのカード1枚を対象に手札に戻す!!」

 

 回数制限があるとはいえ、恐ろしいバウンス効果を持つプレアデス。

 自身の周りに飛んでいる光る球を、オーバーレイユニットを1つ消した。

 

「僕は幻奏の華歌聖ブルーム・プリマを手札に戻す。

融合モンスターはエクストラデッキのモンスターだから、この場合はエクストラデッキに戻る!」

 

「流石はLDSが誇るエクシーズコースのエース!戦闘でも効果でも破壊出来なければ、手札に戻せば良い!!素晴らしいですわ!」

 

 上手いと拍手を送る赤馬理事長。

 融合コースとシンクロコースの人も出たぞ北斗の十八番と言った顔で見ている。対して遊勝塾や権現坂達は呆れている。

 

「……早くしてくれないかしら?」

 

「え、あれ……どうしてフィールドから離れないんだ!?」

 

 一向にフィールドから離れないブルーム・プリマを見て驚く北斗。

 プレアデスもどういうことだと慌てており、何度も何度もブルーム・プリマの足元を光らせるけれどエクストラデッキには戻らない。

 

「特殊召喚された幻奏の音女アリアが居る限り、幻奏モンスターは効果対象にならず戦闘では破壊されないのよ」

 

「そ、そんな……じゃあ、効果は不発」

 

「あくまでもこの効果は幻奏モンスターのみの効果で、幻奏モンスター以外には効かないのよ……貴方なら分かるわよね?」

 

 そのデッキを使って公式戦40勝無傷無敗の40連勝をしているデュエリスト。セイクリッド・プレアデスの効果をちゃんと理解しているわよね?

 

「セイクリッド・プレアデスはフィールドのカードを1枚手札に戻す……この効果はプレアデスにも」

 

「貴方がプレアデスの効果を発動するという宣言の巻き戻しは出来ない、セイクリッド・プレアデスには退場してもらうわよ!」

 

 私が指を鳴らすと光の粒子となり北斗のエクストラデッキに戻っていくセイクリッド・プレアデス。

 これで北斗のフィールドはがら空き。ブルーム・プリマとアリアの総攻撃でライフを削りきれるわ。

 

「流れぼ──っ──」

 

「そう、アクションカードは1枚しか手札に加えられない」

 

 フィールドの何処かに落ちた流れ星を見て、まだ終わってないとニヤけるも手札にアクションカードがあることを思い出して絶望に染まる北斗。

 そのアクションカードを消費しなければ次のアクションカードは拾えず、取りに行く素振りすら見せないとなると手札にあるアクションカードはダイレクトアタックに対して使えるものじゃない。さっきポロっと溢していたけれどもアレは攻撃力を上げるカードでも無いみたいね。

 

「バトル再開!幻奏の華歌聖ブルーム・プリマと幻奏の音女アリアでダイレクトアタック!」

 

 フィールドのモンスターの数が変わったことにより巻き戻しが起きたので、もう一度攻撃宣言。

 ブルーム・プリマとアリアは一緒になって歌いはじめ、舞い躍りながら北斗へと向かい、太股を思いっきり蹴った。

 

 北斗 LP4000→1500→0

 

「そんな、ダメージすら受けたことがなかったのに、それなのに、こんな弱小塾に負けるなんて」

 

 1ターンキルが出来たけれども、1ショットで終わらなかったことは少し残念ね。

 

「確かに今の遊勝塾は弱小貧乏塾……でも、これから遊矢と一緒に元に、ううん、全盛期以上の活気を取り戻すのよ!その為にはこんなところで負けてられないわ!」

 

 

 

 

 

遊勝塾vsLDS 3本勝負

 

 第一試合

 

 ○柊柚子VS志島北斗●

 

 

 勝者、遊勝塾 柊柚子

 

 

 

 

「遊矢、やったわよ!1ターンキルで勝てたわ!!」

 

 デュエルが終わり、アクションフィールドに出ると遊矢に直行する。

 宣言通りに1ターンキルで勝利した。それだけじゃなく、出された宿題の答えも瑠璃に提出できたわ!

 

「ああ、見ていた。見事なまでの1ターンキル……と言いたいところなんだが」

 

「なにか問題があったの?」

 

「残りの手札はなんなんだ?」

 

「融合解除とオネストと失楽の魔女よ」

 

 もし失敗した時の保険としてメインフェイズ2に失楽の魔女を召喚していた。

 遊矢に残った3枚の手札を見せるとひきつった笑みを浮かべる。

 

「なにをやろうと無駄だったってわけか」

 

「出来るって確信したから1ターンキル宣言をしたの。

瑠璃、貴女から出されたプレアデスの宿題の答えはどうだったかしら?」

 

「もう見事なまでの1ターンキルよ……ただ」

 

「なに?」

 

「大丈夫かしら?」

 

 LDS側を心配している瑠璃。

 試しにLDS側を見てみると北斗が正座させられており、赤馬理事長に睨まれていた。

 

「榊遊矢に負けるならまだしも、なぜ柊柚子に負けているの?

言ったはずですわよね?LDSの汚名を祓う為に来たと……更に泥を塗ってどうするのです!!」

 

 鬼の様な形相の赤馬理事長。

 1ターンキルをして怒られる原因を作っておいてなんだけど、ここですることじゃないわ。

 

「これだとLDSのエクシーズコース首席の名が泣くわ」

 

「は、はい……申し訳ありません!!」

 

 土下座をする北斗

 

「あれパパラッチに売ったら面白そうだな」

 

 遊矢、やめて。これ以上騒ぎを起こさないで……

 

「遊矢、私、貴方の力になることができた?」

 

 もう足手まといじゃない。

 この一戦で見事なまでの1ターンキルを決め、私は強くなっている事を見せることが出来た。

 まだまだ遊矢には届かない。だけど、遊矢の力になることは出来たはず。

 

「ああ、これで勝ったも同然だ」

 

「遊矢……」

 

 嬉しい、今まで遊矢に頼りきりだったけど、今は違う。

 私が遊矢の力になれた……だから。

 

「これからは二人一緒に支えあいましょう♪」

 

「……」

 

「なんでそこで無言を貫くのよ!!」

 

 まだ私の力を信用できないの?

 

「あ、あの柚子……その言い方だと──」

 

「まるでプロポーズではないか!!早い、まだ早いぞ、柚子!!」

 

「権ちゃん、堂々と言っちゃダメだって。もうちょっとオブラートに包まないと」

 

 ………!

 

「#:(_@Σ!?」

 

 私、なんて事を言っちゃったの!?

 

「柚子姉ちゃん、なんでこういう時には言えるんだよ」

 

「柚子お姉ちゃんは肝心な時にチキるけどどうでも良いときにハッキリと言えるタイプだからじゃないの?」

 

「遊矢兄ちゃん、恥ずかしそうで今にでも逃げ出しそう。でも、逃げたらもっと酷い目にあうよ?」

 

 フトシくん達がなにか言っているけど、聞こえない。

 うぅ……遊矢の顔がまともに見れない。今から遊矢のデュエルがはじまるのにこれじゃあ応援が──

 

「柚子」

 

「ひゃ、ひゃい!?」

 

 ダメ、何時も以上に遊矢の顔が見れない。カッコよく見えちゃう!意識しちゃう!

 逃げ出したいけど、瑠璃がいる以上はここで逃げ出せば遊矢が……。

 

「お前のお陰で遊勝塾の乗っ取りが阻止出来た……俺達二人で遊勝塾を守りきったんだ」

 

「2人……私と遊矢で2人……ふふ」

 

 良い言葉を聞き、思わず笑みを浮かべる。

 

「私がデュエルをしていても勝っていたわよ!!」

 

「瑠璃姉ちゃん、対抗心を燃やすなって……にしても、あんまり強くなかったよな!」

 

「でも、LDSのエクシーズコースのエースだし、柚子お姉ちゃんが物凄く強かったからそう見えたんじゃないのかな?」

 

「ううん、多分、そこまでだと思うよ。セイクリッド・プレアデスを先攻で出したのは良かったけどそれだけだし」

 

「先攻プレアデスは強力だけど、効果を受けない対象にならないカードには効かない。

その手のカードを出てこさせない様に召喚されたモンスターを手札に戻したりするか、その手のカードがなんなのかを見抜かないといけないデュエルの知識が問われるカードなんだよ」

 

 それって遠回しに相手が弱かったから勝てたって言ってない?

 

「さて、と……柚子が頑張ってくれたんだ。瑠璃には悪いが、ここで決めさせて貰うぞ」

 

 そしてはじまる2戦目。

 

「先攻は俺からだな。俺のターン!

魔法カード、デス・メテオを発動!それにチェーンしてご隠居の猛毒薬を発動し、800ポイントのダメージを与える効果を選択。更にチェーンして連鎖爆撃(チェーン・ストライク)を発動!

デス・メテオは相手に1000ポイントのダメージを、ご隠居の猛毒薬は800ポイントのダメージを、連鎖爆撃はチェーンの数×400ポイントのダメージを与える。合計3000ポイントのダメージをお前に与える!

効果処理前にカードの発動なし、効果処理後の効果発動なし!これでとどめだ!火炎地獄!お前は1000、俺は500のダメージを受ける!これでお前のライフは0だ!!」

 

 そして終わる2戦目。




OMKフェイズ

遊勝塾カリキュラム


基礎デュエル学

言うまでもなく本当に基礎中の基礎を教える座学。
遊矢が教えるときが多くシンクロ、エクシーズ、融合、ペンデュラムについても噛りで教えている。
本格的に教えるとなるとLDSみたいにコース分けもしくは専門家を呼んで教えないといけない。一人で全ては教えきれない。


柊塾長によるデュエルマッスル作り


アクションフィールドで自由自在に動き回るためのデュエルマッスルを手に入れる為の授業。
モンスターに乗っても落ちないバランス感覚も養えて最終的には熊を素手で倒せるぐらいのマッスルを手に入れる事が出来る。もうそれは別の塾になってないかとの疑問はあるもののデュエルディスクって結構重く、リアルソリッドビジョンでの攻撃は思ったよりも威力があるので必須授業。唯一塾長が活躍できる場。

柊柚子による発声練習

テーブルデュエルは互いにカードを確認したりするが、遊戯王世界ではそれをしない。
その為にいちいちカードの効果を説明しながらプレイしなければならず、その為にはある程度の距離が離れていても声が聞こえる強靭な声帯と早口を手に入れなければならないので、声帯と早口を鍛える授業。
当初は遊矢が受け持っていた授業なのだが、黒棺の完全詠唱とかサーヴァント召喚の呪文とかラーの翼神竜の神官文字の詠唱とかさせており、石破ラブラブ天驚拳を柚子とやったのを最後にこれ以上余計なことをするなと柚子が講師になった。

黒咲瑠璃のランクアップ・デュエル学


瑠璃が本格的なエクシーズ召喚を教える授業。
なにも知らない人から見れば高度な授業だが、ハートランドでは知ってて当然、出来て当たり前のことを教えている。
瑠璃にも出来ないことや知らないことがあるので遊矢がちょこちょこっと間に入って色々と教えている。
尚、遊矢はその内、融合とシンクロ講師も連れてこようかなと考えている。


メイドイン遊矢のレンタルデュエル


遊矢が作ったデッキでデュエルする所謂レンタルデュエル大会。
極稀に急に開催するもので、何時ものでなくはじめて使うデッキでデュエルをする。
デュエリストとして鍛え上げたデッキでないので純粋な知識が求められるものでありOCG次元の住人が作ったデッキなのでやたらと殺意が高く大体、2、3ターンで終わる。
デュエルは絆とかそういうのじゃなくて知識が必要なんだよと教える為にやっている。


遊矢の難しいコンマイ語講座。

皆、イミフなコンマイ語講座。
イレカエルとメンタルマスター、墓地に捨てると送る、カードを手札に加えるとドローをするのややこしい事を教えるもの。余りにも高難度な授業で遊矢もよくわかってないところもあり、そもそもでデュエルディスクが処理してくれるか別にそこまでしなくても良いんじゃないのかと思える授業。
聞いてると公式の裁定どうなってんだよと思えることだらけであり、本当に頭が痛い。


次回予告


しゃあ!!二本先取したぜ!

遊矢兄ちゃん、痺れるぐらいに汚いぜ

ま、まぁ、とりあえず勝って遊勝塾は守られたのだから結果オーライじゃない。

いや、ちょっと待て!オレの出番は!?

文句があるならば、負けた2人に言いな!!

あんなのどうずればいいのよ!がでるわげないじゃない!!

いや、流石に責められねえだろ……



次回、遊戯王ARCーV【無限に繋がる新たな不動の境地】にガッチャビングデュエルアクセラレーション


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無限に繋がる不動のデュエル!

前回までのあらすじ。


お前には禁じ手を使ってやる!(チェーンバーン)



遊勝塾vsLDS 3本勝負

 

 第2試合

 

 ○榊遊矢VS光津真澄●

 

 

 勝者、遊勝塾 榊遊矢

 

 

 

「2本、先取したったどぉおおおお!!」

 

 ハマグチェマサルの如く高らかに叫びをあげて、柚子達の元に舞い戻る。

 

「遊矢兄ちゃん、痺れるぐらいに汚いぜ」

 

 チェーンバーンを使った為に引いているフトシ。

 仕方があるまい。遊勝塾の存亡を賭けたデュエルなんだから、優しさとか愛とか捨てておかないと。アニメで絶対使ってはいけないであろうバーン系のカード盛りだくさんのバーンデッキこそ、最強……でも、危なかった。

 最後の1枚が命削りの宝札で、最初に3000ポイントのダメージしか与えることが出来なかった。仮にこれが素足マフラー社長ならば負けていた……チェーンバーンデッキは使わないけど。

 

「ま、まぁ、何はともあれ2連勝したわ。これで遊勝塾は乗っ取られずに済むわ」

 

 頬をヒクヒクさせたひきつった笑みを浮かべながらも、勝ったことに喜ぶ瑠璃。

 これで余計な問題は解決し、クロワッサン探しを再開することなんかが出来るのである。

 

「そうだよね。勝ったんだから結果オーライだよ!」

 

 瑠璃に賛同するアユ。

 

「って、ちょっと待て!!オレのデュエルは!?」

 

「んなもんねえよ」

 

 シンクロコースの首席こと刀堂刃はなんか言ってくるが、んなもんはねえよ。

 3試合中、先に2勝した方が勝ちの団体戦でストレートで試合が終われば3番手には出番はない。団体戦のお約束だ。

 

「ふざけんなよ、オレだってデュエルをしたい!

いや、ちげえ。お前や柊柚子が相手でも絶対に負けない自信があるんだよ、オレは!!」

 

「文句があるならば、負けた2人に言いな!!」

 

 団体戦のルールはちゃんと守ってるんだ。

 俺は負けたLDS側を見た。

 

「こんな、こんな事があってたまるものですか!!

なにをしているの、貴方達は!!それでもLDSが誇るエース達なのですか!!」

 

「あんなのどうずればいいのよ!がでるわげないじゃない!!」

 

「いや、責められねえだろ……」

 

 負けた事を怒る赤馬理事長。

 どうすることも出来なかった対戦相手こと光津真澄は余りの敗北にアクア様の如く涙を流しており、その姿を見て、刃は責めるに責められない。

 

「いっでみなざいよ!

あのじょうぎょうで、どんながーどをづかえばいいの!だいだい、わだじだぢにデュエルをざぜるんじゃなぐてあんだがデュエルじなざいよ!!」

 

「落ち着くんだ!」

 

「うるざい、ワンキルの負け犬!」

 

「ぐふぅ!」

 

 あ、北斗がオーバーキルされた。

 八つ当たりする赤馬理事長に対し逆ギレする真澄。

 

「そういう時は、このカードよ」

 

 そんな真澄に柚子は手を──ハネワタのカードを差し伸べる。

 

「このカードがあれば効果ダメージを防げるわ」

 

「柊、柚子……」

 

「柚子で良いわ、それよりも泣かないの」

 

 優しくハンカチを差し出す柚子。

 真澄は涙を拭い、呼吸を整えて少しずつ冷静に戻る。

 

「遊矢のデュエルは大体あんな感じなの。

一瞬でも油断したら命取りで、後攻だったら手札を確認したらアクションカードを即座に取りに行くぐらいの事をしないとダメよ。ほら、涙を拭いて。これは非公式戦で、敗けを次に生かすことが出来る試合なのよ」

 

「……ありがとう、柚子」

 

「お礼なんて良いわよ。それよりも、今度デュエルをしてくれないかしら?」

 

「べ、別に、それぐらいは構わないわ……隕石落とさないわよね?」

 

「しないわよ。それよりも立てる?」

 

「うん、じゃなかった、それぐらいは出来るわよ!!」

 

 とか言いながらもしっかりと柚子の手に引っ張られて起き上がる真澄ん、マジ真澄ん。

 柚子から若干バブみを感じながらも俺はLDS側に足を運び、赤馬理事長の前に立つ。

 

「LDSのデュエルは素晴らしい!戦略もカードパワーも!だが、しかし、まるで全然!遊勝塾を倒すには程遠いんだよねぇ!!」

 

「やめなさい!!」

 

 エンタメ要素が無かったので、エンタメ要素を入れると柚子にハリセンでしばかれた。

 赤馬理事長は今にでも人を殺しそうな顔で俺を睨んでくるが知ったことじゃない。

 

「約束通り、遊勝塾の買収は止めてLDS襲撃犯は俺じゃないと言い、あんたの持つレオコーポレーションの株を寄越しな!」

 

「こんな、こんな事があって良いわけが──」

 

「ボイスレコーダーで録音してるから、最初から無かった事にはさせん!!後、今の社長に持ち株を移動させて、所有してる株は0戦法は認めん、認めんぞ!!」

 

 あの手この手で逃れる事ぐらいはお見通しだ。

 万が一にLDSが襲撃した時を俺がなにも想定していないと思ったら大間違い、はじめからくだらない事をせずにペンデュラムカードを売ってくれと言えば売ってやったんだよ。数十万円でな!!

 

「遊矢、株とか貰うとか言ってるけど通帳とか大丈夫なの?」

 

 あ、そうだった。

 そういう感じの名義の通帳とか色々と後で作らないといけないな。後で家に帰って色々と準備をしないと。

 

「赤馬理事長、LDSを襲撃した者のせいで気が動転しています。今日のところはお帰りください。

そしてLDSを襲撃した犯人は榊遊矢ではないと公表をお願いします。遊矢はあんなデュエルはしますが、辻デュエルは絶対にしません!例え何度挑もうとも、遊勝塾は守り抜きます。二度とこの様な事をしないでください」

 

 どういう感じの口座を作れば良いのか調べていると、モニター室から出てきた塾長。

 赤馬理事長に遊勝塾は渡さないとカッコよく言ってくれる。普段はアレだが締める時は締める、流石は塾長だ。

 

「なぁ、塾長さん」

 

「君は、シンクロコースの……ええっと」

 

「刀堂刃だ。折角、デュエルしに来たのにオレだけデュエルしないってのはちょっとよ。誰でも良いからデュエルしてくんねえか?」

 

 レオコーポレーション関係はどうでもいいなんてなんともデュエリストらしいことを言ってくれる刃。

 まぁ、そういう重たいものを背負っていないデュエルならば幾らでもやってやろうとするのだがその前に権現坂が前に出た。

 

「そのデュエル、この男権現坂が相手でも良いか?」

 

「お前がか?でも、お前は確か遊勝塾の塾生じゃ」

 

「ああ、権現坂道場の跡取りだ。

しかし、刃。今はもうそういった塾同士の争いは関係無く、一デュエリストとしてデュエルを求めているのであろう?」

 

「ま、そうだな。よっしゃ、じゃあデュエルをしようぜ!!」

 

「塾長、申し訳ないがアクションフィールドをお借りしたい」

 

「あ、ああ、構わない。折角ならLDSのシンクロ召喚も見てみたいし、思う存分デュエルをしてくれ!!」

 

「っ、刀堂刃、貴方だけでも勝ちなさい!

遊勝塾どころか他の塾の塾生に負ければ、LDSは最強ではなくなります!!」

 

 既に最強じゃないだろうが。

 そんなこんなでLDSとか遊勝塾とかの命運が関係無い番外デュエルの準備がはじまる。

 

「ねぇ、遊矢、権現坂はどんなデュエリストなの?」

 

 余計なものを背負っていないので気楽にできるデュエル。

 権現坂のデュエルを見たことの無い瑠璃はどういうデュエルをするか聞いてくる。

 

「ん~まぁ、凄くざっくり言えばアクションデュエルに喧嘩を売ってる感じだな」

 

 アイツの実家こと権現坂道場はアクションカードに頼らない不動のデュエルを教えている。

 アクションデュエルをある意味否定するようなスタイルを取っており、困ったらアクションカードに頼るのでなく困らない様に心身共に鍛え上げてデッキも鍛え上げようぜと教えており、よくよく考えれば普通のデュエルをしているだけである。

 

「アクションデュエルに喧嘩をって、権ちゃん強いの?」

 

「刀堂刃が勝つ可能性が遥かに高く、権現坂と2、3回デュエルをすれば権現坂は完璧に攻略される」

 

 フルモンスターなんてロマンに走ったデッキだと分かれば、プレイが変化したりする。

 だから、1、2回は権現坂が勝つ可能性を持っているが、それ以降は刃に分がある。

 

「遊矢兄ちゃんがさっき使ったみたいなデッキってこと?」

 

「まぁ、ある意味そうだが……タツヤ、見ておけよ。

お前が遊勝塾の見学に来た時にやったデュエルを糧にパワーアップしている」

 

 ここ最近、顔を全く出さなかったのはパワーアップのため。

 今日、ここにやって来たのは新しい自分を見せるためで、結果的には俺に見せられなかったが、相手はシンクロコースの首席……いったい、どんなパワーアップをしているのやら。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

『お前達に相応しいアクションフィールドを用意した、思う存分デュエルをしてくれ!!』

 

 

 柊塾長の声と共に起動するアクションフィールド。

 

 

「っへ、剣の墓場か!」

 

 枯れ果てた荒野に突き刺さる無限の剣。

 成る程。刃と刃を架けてこのフィールドを、俺という刃が負けるのか、刀堂刃という刃が折れるのか。塾長も中々に粋な計らいをしてくれる。

 

「言っとくがよ、オレはさっきの二人と違って本当に強い。

油断も慢心も一切しねえ!お前がどんなデュエリストであれ、最初から全力で行かせてもらう!」

 

「この男権現坂、油断と慢心をしている間にやられるほど貧弱ではない!」

 

「そっちの方が困るぜ。即座にやられたら榊遊矢や柊柚子とデュエルした方がましだってもんだ」

 

 俺の目指すべきは、倒すべき相手は、ライバルは、榊遊矢!

 悔しいが今はまだその背にすら届かず教えられることが多々あるが、一歩ずつ背中に追い付いている。

 本来であれば遊矢に新たなる不動のデュエルを見せようと思っており、結果的には全く別の相手とデュエルをすることになったが、相手はLDS。相手にとって不足なし!

 

 

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

 

 刃も俺もデュエリスト。

 であれば、必要なのは言葉による対話にあらず。デュエルによる闘いのみ。

 

「先攻はオレからだ!」

 

「見せてもらおうか、シンクロというものを!」

 

 柚子の後攻、遊矢の先攻ではじまったので俺が後攻となりはじまるデュエル。

 手札を確認すると、よくもなく悪くもない平凡と言った手札であり、ドローするカード次第でデュエルが良くも悪くなる。

 

「……っへ、どうやら運の尽きみたいだな!」

 

「なに?」

 

「最初から全力で行かせてもらう!

XX-セイバー フォルトロールを墓地に送り、魔法カード、ワン・フォー・ワンを発動!デッキからレベル1モンスターを、XX-セイバー レイジグラを特殊召喚!」

 

 遊矢もよく使う墓地肥やしと特殊召喚を両立するカードを早速使ってきた刃。

 

 XX-セイバーレイジグラ

 

 レベル1 地属性 獣戦士族 攻撃力200

 

 蜥蜴の様な見た目の獣戦士。

 攻撃力もレベルも低いが、その分強力な効果を有している。いや、仮に無くとも相手はシンクロ使い。

 シンクロ召喚とはチューナーとそれ以外のモンスターのレベルを足すことにより召喚する特殊召喚の一種であり、レベルが低いのはむしろ有利の証。

 

「レイジグラの効果を発動!墓地のXセイバーモンスターを手札に加える。さっき墓地に送ったフォルトロールを手札に!」

 

 手札コストを最初からなかったことにしたか。

 刃はまだ通常召喚権を使っていない……来るか……そして2体目。

 

「XX-セイバーフラムナイトを通常召喚!

フィールドに2体以上X-セイバーモンスターがいる時、XX-セイバーフォルトロールを特殊召喚出来る!来な、XX-セイバーフォルトロール!

レベル6 XX-セイバーフォルトロールにレベル3 XX-セイバーフラムナイトをチューニング! 白銀の鎧輝かせ刃向かう者の希望を砕け!シンクロ召喚!出でよ!レベル9!XX-セイバーガトムズ!」

 

 XX-セイバーガトムズ

 

 レベル9 地属性 戦士族 攻撃力3100 チューナー+地属性モンスター1体以上

 

「最初のターンから、最上級モンスターを……」

 

「この程度で驚いている様じゃ、まだまだだぜ!」

 

 まだまだ余裕を見せる刃。

 レベル9のモンスターをシンクロ召喚するだけでは終わらないとなると、まだ使うべきでないか?

 

「2体目のフォルトロールを特殊召喚!

さぁ、これで準備は整った!フォルトロールにはレベル4以下のX-セイバーモンスターを特殊召喚する効果があり、ガトムズはモンスター1体をリリースすることで、相手の手札一枚をランダムに破壊する効果がある!

フォルトロールでレイジグラを、レイジグラで1体目のフォルトロールを手札に、ガトムズでレイジグラをリリース、1体目のフォルトロールを特殊召喚、2体目のフォルトロールをリリース、1体目でレイジグラを復活、そしてレイジグラでフォルトロールを回収する、無限ループの完成だ!」

 

 高らかと自慢のコンボを語る刃、高い攻撃力だけでなく、ハンデス効果までも有してるのか!

 先攻でハンデス、しかも遊矢の作るデッキの様に狙ってのハンデスではなく、偶然にそれが揃っていたら出来るお手軽なコンボ……だが、欠点もある!発動するならば、ここでしかない!!

 

「俺はフォルトロールの特殊召喚後にこの効果を発動する!」

 

 俺はカードの効果を発動すると剣の墓場に隕石が降り注ぎ、フォルトロール、ガトムズ、レイジグラが滅ぼされる。

 

「っ、な、なにをしやがった!?」

 

「相手がモンスターを5体以上特殊召喚をしたメインフェイズに発動できる。

フィールドの表側表示のモンスター全てをリリースし、原始生命態ニビルを特殊召喚することが出来る!!」

 

 原始生命態ニビル

 

 レベル11 光属性 岩石族 攻撃力3000  

 

「な、なんだそのふざけた効果は!?」

 

「否、その分のデメリットは当然ある。

相手フィールド上に原始生命態トークンを特殊召喚し、原始生命態トークンの攻撃力・守備力はリリースしたモンスターの攻撃力・守備力を合計した分となる!!」

 

 原始生命態トークン

 

 レベル11 光属性 岩石族 攻撃力5600 守備力5400

 

 

 攻撃表示で目の前に出現する巨大な隕石。

 効果を持っていないとはいえ圧倒的な攻撃力は圧巻。隕石からは宇宙の波動を感じる。

 

「相手が5体以上モンスターを召喚しねえと特殊召喚出来ねえカードって、お前これ、シンクロ使うオレへのアンチカードか!?」

 

「否、これは俺の新たなる不動の境地を表すカードの1つだ!!」

 

「新たなる不動の境地、だと?」

 

「そうだ!遊矢がペンデュラム召喚を披露した前日、俺は遊矢とデュエルをしていた!

決着は付かなかったものの、終始遊矢に翻弄されており、その翌日には4つの召喚を見せつけられた!近付けたと思った友の背中は、一瞬にして遠退いてしまった!!」

 

 あの時のデュエル、遊矢はシンクロやエクシーズ召喚が出来たのにしなかった。

 俺はそれほどまで手加減されていたことに悔しくて仕方なかった。

 

「新たなる不動のデュエルを見出だす為に、俺は修行に明け暮れた。

不動のデュエルとはアクションカードに頼らず己のデッキを信じ抜くデュエル!困ったらアクションカードなどと言う事はせず、魔法・罠に頼らない方法を模索した!」

 

 滝に打たれ、魔法・罠カードに対する欲求を、煩悩を振り払った。

 滝から流れるカードの中から本当に必要なカードのみをドローした。

 熊と闘い、これから来るであろうシンクロやエクシーズモンスターの攻撃を耐えうる肉体を作り上げた。

 デュエルに生かせるものは無いかと戦国時代の合戦での戦術を学んだ。しかし、それでもまだ足りなかった。

 

「そして、ある日、俺は自分に出来ることと出来ない事を区別するべく魚をドローしていると気付いた。俺のデッキに足りないもの、それはほんの少しの雑味、汚れだと!」

 

「どういうことだ!?」

 

「刀堂刃、エクストラデッキを含めてお前のデッキにはX-セイバーモンスター以外のモンスターが何種類入っている!」

 

「そ、そいつは……って、言えるか!!」

 

「言わなくてもいい。今の反応を見るからに、X-セイバーモンスターしかいないか1枚だけX-セイバーモンスターでないと言ったところか!」

 

「そ、それの何処が問題なんだよ!」

 

「それではいかんことに俺は気付いたのだ!!」

 

 俺のデッキは、今の今まで超重武者と超重武者装留しか入れていなかった。

 過去に遊矢がこういうカードもあるぞと言うアドバイスを聞かず、これこそが己のデュエルだと頑固になってしまった。

 

「遊矢はデュエルには無限の可能性があると柚子達に教えている。

本人はそれを現すかの如く様々なデュエルを、様々なデッキを使いこなし、同じカードを使っても異なる型のデッキを作り上げる程の腕を持つ!遊矢の言うデュエルの無限の可能性の中には、我が権現坂道場の教えである不動のデュエルの可能性も秘められている!そしてその可能性は権現坂道場の外にあった!!権現坂道場の教え以外の様々な場所に新たなる不動のデュエルの可能性が秘められていた。

水が清らか過ぎる場所には魚は住まず、ある程度は汚れておかなければならない様に俺のデッキは1つの不動のデュエルを極めんとするばかり、他の者との調和を忘れていた!!」

 

 人と人が支えあい生きていく様にカードもまたカードと支えあう。

 それが全く違うカテゴリー同士でも出来ると言う事を遊矢は遥か昔より理解していた。

 

「見せてやろう、新たなる調和せし不動のデュエルを!!」

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「隕石、あれ10期だったような……」

 

 

 3戦目というか番外試合の権現坂VS刀堂刃。

 開幕ハンデスを仕掛けてきたと思えば、隕石が降り注ぎハンデスを強制的に終わらせるのだが、アレって10期のカードじゃ……まぁ、良いか。

 とにもかくにも恐ろしくてエグい物が見れて、権現坂が殻を破ることが出来た。

 

「権ちゃん、エグい……」

 

「5体以上のモンスターを召喚ってかなり……いえ、エクストラデッキのカードをメインに戦うのならば、簡単に条件を満たせるわ」

 

 権現坂の使ったカードに引いている素良と瑠璃。

 OCG次元じゃ5回以上の召喚は当たり前で、Gで手札を増やして満足したら用済みだってあのカードが出てくるから驚くことじゃない。舌打ちはするけども。

 

「遂にその境地に至ったか、権現坂」

 

 この世界の住人は1つのカテゴリーしか使わない悪い癖とも言えることをしている。

 例えば茄子の幻影騎士団。アレは彼岸とかと組み合わせることが出来る。例えばバナナのSR、アレは音響戦士と組み合わせることが出来る。だが、しない。カードを持ってるとか持ってないとかじゃなくて何故かしない。

 純なデッキを組もうとする傾向にあり、エクストラ余ってるならこれぶちこめば?的なカードもぶちこもうとしない。そんなんじゃOCG次元の住人に逆立ちしても勝てない。

 複数のカテゴリーを混ぜ合わせたデッキを使ったり、全く違うカテゴリーのモンスターをエクストラデッキから出せる様にならないと。

 

「俺のターン、ドロー!!」

 

 全てのX-セイバーを除去られたのでなにも出来ない刃はターンエンド。

 権現坂のターンとなり、権現坂は力一杯ドローをすると強風が吹き荒れて、アクションカードが飛んでいく……どんなデュエルマッスル?

 

「俺はコアキメイル・デビルを召喚!」

 

「おいっ!」

 

 権現坂が思ったよりもどころか、パワーアップし過ぎている。

 召喚をしたモンスターを見て、思わずツッコミを入れてしまった。

 

「遊矢、権現坂はなにをしようとしてるのか分かったの?」

 

 権現坂のデッキを知らない瑠璃。

 

「見てればわかる」

 

 恐ろしい事をしやがって。

 

「俺は手札の星見獣ガリスの効果を発動!

デッキトップのカードを1枚墓地に送り、墓地に送ったカードがモンスターであればそのモンスターのレベル×200ポイントのダメージを与え、星見獣ガリスを特殊召喚する!もし、モンスターでなければこのカードを破壊する!」

 

「権ちゃんのデッキってギャンブルデッキなの?」

 

 バーンと特殊召喚と墓地肥やしの3つを兼ね備えたギャンブル効果から、権現坂のデッキを予測する素良。

 

「違う。権現坂は運に頼るようなデュエルはしない……絶対にモンスターを墓地に送れるからあのカードを使っている」

 

「それってもしかして……」

 

 俺の言っている意味を理解した素良。

 権現坂はデッキトップのカードを1枚ドローした。

 

「デッキトップのカードは無限起動スクレイパー!レベル5のモンスター!

よって、お前に1000ポイントのダメージを与えて星見獣ガリスを特殊召喚!」

 

「っく」

 

 刀堂刃 LP4000→3000

 

「手札のA・ジェネクス・バードマンの効果を発動!

自分フィールド上のモンスターを手札に戻し、自身を特殊召喚する!!」

 

「上手い、これならもう一度星見獣ガリスが……え!?」

 

 星見獣ガリスの効果をもう一度使えると感心する瑠璃。

 そんな生易しいものではない。フィールドのガリスだけが消えて、A・ジェネクス・バードマンは特殊召喚されなかった。

 

「おい、さっさと特殊召喚しろよ!」

 

「特殊召喚しないのではない、できないのだ!

コアキメイル・デビルがフィールド上に居る限りは闇属性・光属性のモンスターは効果は無効になる!」

 

「それならA・ジェネクス・バードマン……いや、待て。確かそのカードは!」

 

「そう。A・ジェネクス・バードマンの手札に戻す効果は効果にあらず、特殊召喚をする為のコストである!!」

 

「モンスター以外を墓地に落とさねえ限りは、無限に使えるのか!?」

 

「無限とは言うがデッキが無くなれば、それまでだ。いくぞ!星見獣ガリスの効果を発動!」

 

 そしてはじまる無限ループ。

 

「権ちゃん、なんの迷い無く星見獣ガリスの効果を使ってる。

アレ、絶対にモンスター以外は引かないぞって目をしてるよね……もしかして、権ちゃんのデッキって」

 

「フルモンだ」

 

 モンスターと魔法カードを組み合わせることで強力なコンボを生むのが醍醐味とも言える遊戯王。

 手札に沢山モンスターがあっても通常召喚権は1ターンに1回しかなく、二重召喚の様なカードを使わないと増やせない。融合を使う素良はなんてデッキを使っているんだとありえない物を見る目で権現坂を見ている。

 

「権現坂のデッキはモンスターしかいない。

今までは超重武者モンスターしか入れていなかったが、パワーアップをしたようだな」

 

 星見獣ガリスやA・ジェネクス・バードマンは俺が教えたが、無限起動スクレイパーは教えていない。

 あのカードは地属性限定の貪欲な壺で、地属性モンスター主体の超重武者とは相性がいい。超重武者と合わせて事故率は高いかもしれんが魔法無しでも超重起動とか作れる。

 

「あ、あの、アレって防ぐ方法があるの?」

 

「……スタンバイフェイズにハネワタを落とすか、森の聖霊エーコを使うかのどっちかだな」

 

 代表的な防ぎ方と言えばそれぐらいしかない。

 後攻だから防ぐ方法は他にもあるけれど、少なくとも先攻でやって来たらそれぐらいしかない。ただまぁ、コアキメイル・デビルとバードマンとガリスの3体が手札に揃ってるのが条件で、バードマン制限で、コアキメイル・デビルがそれ以外に使い道の無い事故要因だ。

 とはいえ、ハネワタを使っても効果の発動が出来なくなるわけじゃないので、満足できる量の墓地肥やしを出来るんだよな、権現坂のデッキだと。

 

「こんな……こんな事が……」

 

 アクションカードを取りに行くも、効果を無効にして破壊する系のカードでなく敗けを認める刃。

 そんな刃の姿を見ている赤馬理事長はありえないと震えている。

 

「LDSは最先端の設備と技術を兼ね備えた世界一のデュエルスクール、それなのにこんな貧乏デュエル塾どころか、デュエル道場1つも倒せないなんて……私の、私の今までの行為はいったい……」

 

 そう言えば、このババアは槍サーを作るためにあの手この手でデュエル塾を買収してたんだっけ?

 買収することによりデュエル事業を拡大し、最新の設備と技術を備えた優れた環境で育った確かな実績を持つ優れたデュエリストを育成している筈なのに、蓋を開ければ3連敗。

 相手が悪かったとしか言えないのだが、少なくともこの場に居る塾長以外の誰かが相手をしても3連勝していたとだけは言えるぞ。

 

「遊矢、見たか」

 

「ああ、見させて貰った。壁を乗り越える事は出来たみたいだな」

 

「いや、少し違うぞ」

 

「?」

 

「壁を乗り越えるのでなく、壁を撃ち破り繋げたのだ。

デュエルに無限の可能性があると言うのならば、不動のデュエルにも無限の可能性がある。壁を撃ち破ることにより無限の可能性へと繋げる事が出来た」

 

 成る程。

 Lvモンスター塾とかデッキ破壊塾とかローレベル塾とか、基本的には1つの事しか教えないデュエル塾。

 単一じゃなく複数のカテゴリーを組み合わせれば大幅に強くなるのにこの世界の住人は何故かそれをしない。権現坂は目の前の壁を乗り越えるのでなく撃ち破り、不動のデュエルと他のデュエルを繋げる事により新たなる不動のデュエルの境地に辿り着いたわけか。

 

「今日はデュエルは出来そうには無いが、何れはお前を」

 

「シンクロは会得したのか?」

 

「……流石に知っておったか」

 

 A・ジェネクス・バードマンはチューナーモンスター、ガリスの効果で落ちたカードには超重武者チューナーがいた。

 シンクロ召喚を会得しているのか聞いてみると苦い顔をする権現坂。どうやらまだそこまではいけていない様だな。

 

「残念ながらシンクロはまだだ。しかし、今年の舞網チャンピオンシップまでには会得してみせる!」

 

「そうか…ま、楽しみにしてるよ」

 

 その内、ミラーマッチをしよう。絶対に面白いことになる。

 

「いや~遊矢とはデュエルが出来なかったけど、面白いデュエルが見れて良かったよ」

 

「面白いと言うよりは殺意の塊だけどな。

取りあえず、デュエルをしていないタツヤ達は今回の事をレポートにして提出してくれよ」

 

 ランク1~4召喚までの手順、先攻プレアデスの攻略、三本勝負の纏め。

 気付けば結構な量の宿題になった。少しぐらいは提出を待ってやろうじゃないか……暫くは忙しくなりそうだし。

 

「赤馬理事長。

今日のところはこれぐらいで勘弁してやるから、さっさとその3人を連れて帰れ……後日、株を寄越せよ」

 

「っく……」

 

 殺してやると言うような目で俺を睨む赤馬理事長。

 話を持ってきたのはあんたで、負けてしまったのはLDSなんだから自業自得だ。

 

「今、思ったんだけど遊矢兄ちゃん、レオコーポレーションの株主になったら遊勝塾じゃなくてLDSの人間に」

 

「そんなわけないだろ、俺は遊勝塾の榊遊矢だ。

ある程度は売って現金に変えて、遊勝塾の運営費とか将来の為の貯金に回す」

 

 LDSで働くなんてごめんだ。

 企業とか事業を大きくすると現場の声を聞けなくなる。遊勝塾ぐらいのちょうど良い大きさのデュエル塾で子供達にデュエルを教えるのが俺の性に合ってる。

 その事を伝えるとホッとするタツヤ達。俺のことをそんなに思ってくれていたのかと軽く感動をしながらも、赤馬理事長達を見送ろうと外に出る。

 

「帰るのは少し待ってくれないか?」

 

 そこには素足マフラーのメガネが立っていた……こいつ、ずっと外でスタンバってたのか!?




OMKフェイズ

瑠璃「柚子、1つ言って良いかしら?」

柚子「なにかしら?」

瑠璃「アクションデュエルをするときは別の服に着替えてくれないかしら?」

柚子「なんで?」

瑠璃「なんでって、貴女、デュエルの時は中学の制服じゃない。ミニスカで、高いところから跳んだら、その、下着が」

柚子「大丈夫よ、下にスパッツ履いてるから」

瑠璃「そういう問題じゃないわ!大体、遊矢といい貴女といいどうして制服なの?」

柚子「遊矢はなんかコスチュームで迷走し過ぎて、一時期おかしな格好をしてたから制服にすれば良いぞってお父さんからアドバイスを貰ったから。私は……服を買うお金がそこまで無いから」

瑠璃「柚子……」

柚子「やめて、その目は!そこまでで無いってことは無いから!
別に良いの、デュエルは服でやるものじゃない。カードでやるものよ!
それに遊矢がなにを着ても柚子は柚子だって、そもそもで柚子は可愛いんだからなにもしなくて良いって言ってくれたの!」

瑠璃「そうなの?」

柚子「ええ、そうよ。ありのままの私で良いって……それに学生の間じゃないと制服を着てデュエルは出来ないから」

瑠璃「た、確かに……でも、やっぱりスカートは」

柚子「大丈夫よ、私のスカートの中は遊勝塾七不思議の1つだから」

瑠璃「七不思議の1つなの!?」


次回予告


私ともデュエルをしてはもらえないだろうか?

え、嫌だけど

デュエリストならば挑まれたデュエルに応じるものだ。

いや、俺、デュエリストじゃないんだけど?

……母様が自社の株を賭けたと聞いている。流石にそればかりは渡せん。

俺達が死(を相手に与える)闘(いと言うなのワンキル)の末に手に入れた物を奪おうって言うのか!!

無論、タダとは言わない。デュエルで私が負ければこの件に関しては引く。その上で──

ふざけるな、お前が一切損しないだろう。お前のところの親父みたいにお前がハゲになるぐらいのなんかが無いと……いや、待て。確かハゲって遺伝す──

黙れ!!

カリカリするな、父親と同じ人間(ハゲ)になりたいのか?


次回、遊戯王ARCーV【DDDブラック社長vsOCG産トマト】にガッチャビングデュエルアクセラレーション!!


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DDDブラック社長vsOCG産トマト

前回までのあらすじ

1つ、ガチ泣き後の真澄ん、マジ、チョロいん。

2つ、権現坂、OCG次元領域デュエルを体得

3つ、2話前から外でスタンバってた素足マフラー


大会が、無かったからって、リンクロスだけって……。


 兄さんが撒いた種が巡り巡って遊勝塾に降りかかってきたけれど、遊矢達のお陰で守られた。

 そう思ったら、何故か素足で靴を履いているメガネの男性が遊勝塾の前に立っていた。

 

「あの人は?」

 

「瑠璃お姉ちゃん、知らないの?」

 

「え、ええ……ちょっと世間に色々と疎くて」

 

 かなり有名な人みたいで、知らなかったことにアユちゃんに驚かれる。

 適当に誤魔化すとそうなんだと納得をしてくれ、フトシくんが説明をしてくれる。

 

「あの人は赤馬零児。

舞網チャンピオンシップ、ジュニア、ジュニアユース、ユースクラスの全部で優勝して最年少でプロになった天才デュエリストだぜ」

 

「赤馬零児!?……赤馬……遊矢とどっちが強いの?」

 

「……」

 

 そこで無言になるのは止めてくれないかしら?

 遊矢はプロよりもデュエルを教えている方が性に合うらしく、プロを目指さないらしいけど……やっぱり、遊矢の強さは異常、よね?

 

「とにかく、赤馬零児は天才プロデュエリストで、レオコーポレーションの社長なんだよ」

 

「レオコーポレーションの……」

 

 もしかして、此処に来た用事って?

 

「なんの用だ?

こっちは死(を相手に与える)闘(いと言う名のワンキル)を繰り広げて、勝ったんだぞ」

 

 赤馬零児に対し嫌悪感丸出しの遊矢。

 死闘って、絶対に意味が違うわ。相手を死に誘う闘いしかしていないもの!!

 

「……遊勝塾が勝ったのか?」

 

「勝ったけど、大変だったぞ。あのババアが敗北した北斗を目の前で叱りつけてて。

そういう反省会って後でするもんなのにデュエルが終わって直ぐにだったから、もう色んな意味で見苦しかった」

 

「それは本当にすまない」

 

「零児さん!?」

 

 その件に関しては謝るしか無いわね。

 似たような事を兄さんがしたことあるし、本当にアレは酷いわ。負けた事を怒るのはまだ理解できるけれど、目の前で堂々とするのはダメ。

 

「母様が自社の株を賭けたと聞いた。

勝てればそれは構わないが負けたとなれば、レオコーポレーションは傾く」

 

「所々がブラックな発言をしやがって。

これは俺達が正々堂々とデュエルをして手に入れた物だ、レオコーポレーションの事なんて知ったことじゃねえ」

 

 中指を突き立てて威嚇する遊矢。

 柚子に止めなさいと指を戻されると遊矢は軽く舌打ちをした。

 

「確かに君の言い分にも一理ある。

だが、レオコーポレーションの株を賭けるとなると彼等にデュエルをさせるわけにはいかない」

 

「なにを言い出すかと思えば、承諾したのはお前の母親だろう。

沢渡から別人だって証言を貰ってるのにLDSの顔に泥を塗ったからとか言う理不尽すぎるイチャもんをつけてきたんだ。最終的に恥の上塗りして終わったけど」

 

「遊矢、何時も以上に毒舌だね。明らかに怒ってる」

 

 遊勝塾でもなんでもない素良は飴を舐めながら遊矢の変化に気付く。

 理不尽な理由で遊勝塾が乗っ取られそうになったり、話を無かったことにしようとしてきたりすれば誰だって怒るわ……それもこれも全部兄さんのせいよ!!

 

「私ともデュエルをしては貰えないだろうか?」

 

「え、嫌だけど?」

 

 デュエルを断る遊矢。

 LDSの3人はデュエルを断った事に対して驚く。

 

「……デュエリストならば、デュエルに応じるべきだ」

 

「ッチ……俺はデュエリストじゃないっつーの」

 

 赤馬零児の一言で更に怒る遊矢。

 遊矢は一般的なデュエリストと大きく異なっている。自分のデッキと言う物を持っていない代わりに大量のデッキを持っている。そのデッキもバーン、デッキ破壊、特殊勝利といった統一性が一切無い。

 デュエルモンスターズを1つのカードゲームとして捉えていて、それはデュエリストとは程遠い異端な存在。

 自分が異常な事を遊矢は理解していて、誰よりもデュエルが強い筈なのに誰よりもデュエリストではない。

 

「大体、ただ単にデュエルをしろって訳じゃないだろう」

 

「……私が勝てば、レオコーポレーションの株を返して貰いたい。

無論、沢渡の一件に関しても母様の無礼に対しての御詫びはする。今レオコーポレーションが傾けば」

 

「ふざけるな、お前が一切損しないだろう」

 

 上手いこと言いくるめ様とするけれど、遊矢はデュエルに応じない。

 でも、よくよく聞けば赤馬零児は損はしていない。

 

「レオコーポレーションの株が無くなれば、大損だ」

 

「その大損は赤馬理事長が原因だから関係無い。曲がりなりにも社長だろう。交渉のカードを出してみろ」

 

「……ならば、これはどうだ?」

 

 デッキケースから2枚のカードを取り出した赤馬零児。

 なんのカードだろうと見てみると上はモンスターカード、下は魔法カードの──

 

「ペンデュラムモンスター!?」

 

「ば、バカな!ペンデュラムカードは遊矢しか持っていない筈だ!」

 

 近くにいた為に先に見れたので驚く柚子と権現坂。

 ペンデュラム、シンクロでも融合でもエクシーズでもない4番目の召喚法で遊矢しか使えない。というよりは、持っていないカード……そう聞いていたけれど、赤馬零児が持っている。

 

「落ち着け、2人とも。所詮はカードだ、データとか許可とかあれば作れる」

 

「……余り驚かない様だな」

 

「沢渡に借りたボ──沢渡の見舞いに行った時に順調にペンデュラムカードが作られてて、舞網チャンピオンシップには間に合うから大会で優勝したら挑戦状を叩きつけるって言ってたからな」

 

「……」

 

「……」

 

 遊矢を驚かせようと出したものの、動じるどころかむしろ驚かせてきた。

 そういえば、ユートにやられたデュエリストのお見舞いに1度も行けていない。その内お見舞いに行って謝らないと。

 

「お前、交渉下手くそだな。

俺とデュエルをしたければお前が負けた時、お前のところの行方不明の親父みたいにハゲになるぐらいのなんかが無いと……いや、待て。確かハゲって遺伝す──」

 

「黙れ!!」

 

 今まで物静かだった赤馬零児。

 父親の事を出されると怒りを露にする……流石にハゲ弄りはダメ。

 

「遊矢、ハゲ弄りはダメよ」

 

 ほら、柚子も同じ事を言ってるわ。

 

「もっとエグいのをくれよ、お前の持っている株とかさ」

 

「いけません!!零児さん、絶対に持ち株を賭けてのデュエルは──」

 

「君の父の居場所はどうだ?」

 

「「「!?」」」

 

 遊矢の父親の居場所と聞き、遊矢と素良と私以外が目を見開く。

 

「その口振り、知っているのか?父さんの居場所を」

 

「正確な位置は不明だ。

だが、3年前のあの日、何処に向かったかは知っている。君がデュエルに勝てば、榊遊勝の行方とそこまでの道程を示そう」

 

 今までと雰囲気が一変し、デュエルを受けざるを得ない状況が出来はじめる。

 

「おかしいな。あの時、警察だけでなくファンの人達総出で探しだそうとしていた。

江戸時代レベルの文明ならばともかく高度に発達した電子機器が多く並ぶ現代では簡単に居場所が割れる。

なのに、一時期死亡説が出たほどに痕跡を残していない。父さんがそういうのを隠滅するのが上手いのを知っているが、幾らなんでもおかしい。死んだと言ってもおかしくない、いや、むしろそちらの方が納得できる」

 

「けしからんぞ、遊矢!自分の父を死んでいた方が納得できるとは」

 

「そうだ!きっと遊勝さんは」

 

「権現坂、お父さん、ちょっと黙ってて──なにかおかしいわ!」

 

「そう、おかしい。なにかがおかしい。

警察が総出となりファンが総出となり探したが痕跡一つ残していない……なのに、お前は知っている。それはおかしい。

レオコーポレーションが世界を股にかける企業でアクションデュエルの要であるリアルソリッドビジョンを造り上げた企業で、デュエル関連の事業ではトップを取っている……だが、それだけだ」

 

「た、確かに言われてみれば……おかしいことだらけだ。

赤馬零児と先輩があの日、なんらかの理由で会っていて行方を知っていたとしても、それならば警察やファンの人達が見つけ出す筈。それなのに誰も見つけ出せない……いったい、なにを知っているんだ!!」

 

 完全に話の外にいる私たち。

 話の内容から遊矢のお父さんが3年前から行方不明で、赤馬零児はその行方を知っている。

 だけど、警察や遊矢のお父さん達のファンが見つけることが出来ていない。目の前にいる赤馬零児は物凄い有名人で、遊矢のお父さんは一時期死亡説が出るほど痕跡が残っていない……痕跡を残さずに、遠いどこかに行ける方法が1つ。

 そして赤馬零児は──

 

「足りないな」

 

「なに?」

 

「父さんの行方であって居場所を知らないんじゃ足りない。

お前が持っている株を賭けないなら、更にそこから別の物を上乗せしない限りはデュエルには応じられない」

 

 父親の居場所だけでは足りないと言う遊矢。

 多分、遊矢は目星がついている。どうしてかまでは分からないけれど、何処に行ったかまでの目星は。

 

「株を寄越せとは言わないということは、なにが目的だ?」

 

「父さんとストロング石島によるスペシャルマッチだ。

俺がデュエルに勝てばレオコーポレーションのありとあらゆる手を使い、父さんを此処に連れてきてストロング石島とのスペシャルマッチをセッティング、その際の売上金を寄越せ」

 

「遊矢、お前……」

 

「何時までも臆病者の息子の称号はごめんだし、あの時、勝てないから逃げたんじゃないっていい加減に証明して欲しいだけだ。勘違いを」

 

「遊矢、お前ってやつは!先輩の事をそこまで思っていただなんて、てっきり俺はもう色々と冷めていると思っていたぞ!!」

 

「塾長、抱きつかないでくれ。後、俺の事をなんだと思ってるんだ。

それでもまだ釣り合わないからアクションデュエルじゃない普通のデュエルでのデュエルでやるぞ。それが無理なら、この話は無かったことにして貰う」

 

「構わない……アクションデュエルでない方が、ある意味私に有利だ」

 

「それはどうかな?」

 

 こうして予想外の延長戦、4試合目がはじまる。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「どれにしようかなっと……」

 

 素足マフラーの無能駄眼鏡の乱入により、予想外の延長戦が決定。

 俺は今日持ってきていたデッキケースを全て取り出し、なにを使うか考える。DDDはEMEmが居なくなった後にEMと同じく構築済みデッキのお陰で環境入りしたデッキ。脅威的な意味ではEMEmの方が上だが、油断ならない。

 真澄んに使ったチェーンバーンは無理。DDDはバーンに強い……どうすっかな。

 

「君はそんなにデッキを持っているのか?」

 

 デッキに悩んでいると驚く零児。

 

「デュエルには無限の可能性が秘められているんだ。

1つのデッキに固執していればその可能性は閉ざされてしまう。大体、デュエルはカードゲームなんだから、色々とデッキを作っておいた方が良いだろう」

 

 デッキを持ってない人とデュエルをしたり、こういうコンボがあるんだぞとか教えたり、デッキとのコンセプトとか相性が悪いから使ってない余ってるカードとかが使えたりとか色々とお得だ。

 逆になんで複数のデッキを作らないのか俺には理解できない。

 まぁ、こんなことを考えたり言ってたりしているからお前はデュエリストじゃねえと沢渡に言われたりするんだ。

 

「君の父である榊遊勝はデュエルはエンターテイメントとして捉えていた。

現在のアクションデュエルを築き上げた榊遊勝を私は心から尊敬している。君がストロング石島とのスペシャルマッチでのデュエルからは榊遊勝をリスペクトする様なものを感じられない」

 

 ま~た、面倒な事を言ってきたよ。

 榊遊勝の息子なんだから榊遊勝をリスペクトしたようなエンタメデュエルをとか言ってくる奴は稀にいる……本当に面倒だ。

 

「そう思いたければ、そう思えば良い。

俺はこうすれば面白そうだとデュエルをしているだけだ……デュエリストの定義は知らないが、少なくとも俺は使えないカードはハッキリと使えないカードと言うからデュエリストじゃない」

 

 ラーバモスとか不運なリポートとかモウヤンのカレーとか使えなさそうなカードはハッキリと使えないと言う。

 柚子がデッキに入れていたフォルテシモもあんまり使えないカードだって言い切る。柚子もオネストと置換融合があるからやっぱ良いやとなって外したけど。

 

「父さんにはあの日の償いを色々として貰わないといけない、当時いた遊勝塾の塾生を失望させた、ファンを裏切った。柚子を泣かせた。塾長を絶望させた……母さんを悲しませた。笑顔と言っているのに、誰よりもエンターテイナーだった人が、誰よりも悲しませてはいけない人達を悲しませた」

 

 父さんは一発ぶん殴らなければ気が済まない。

 本当に悲しませてはいけない人を悲しませてエンタメデュエル(笑)は笑えない。

 

「っと、くだらないご託を並べに来たんじゃないんだったな……デュエルをするぞ」

 

 デッキを選び、デュエルディスクにデッキをセット。

 デュエルの開始の宣言をしようとするが、その前にフィールドが……父さんが最も得意とするマジカル・ブロードウェイに切り替わる。

 

「塾長、今回はアクションデュエルじゃない。普通のデュエルだ」

 

 アクションフィールドは不要。

 むしろ、それで勝てるデュエルが勝てなくなる可能性が出てくる。

 

「すまん、遊矢……だが、デュエルをするならばこのフィールドで戦ってくれ!

先輩が、榊遊勝が最も得意としていたこのフィールドで、赤馬零児に勝って、あの日をもう一度!」

 

「はぁ……俺はアクションカードを使わない」

 

 塾長の叫びを断る事は出来ない。

 

「ならば、私も拾わないでおこう」

 

 零児も同じ条件で戦うとメガネをクイっとさせる……。

 

 

 

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

 

 デュエル開幕の合図と共に飛び散るアクションカード。

 何時もならばカードがどの位置にあるのかを確認したりするが、取るつもりは無いので──

 

「よっこいしょっと」

 

 座る。

 

「……デュエル中だ」

 

「ああ、デュエル中だ。先攻はお前なんだから、早くしてくれよ」

 

「っ……」

 

 デュエルに必要なのはカードとプレイヤー。

 ソリッドビジョンは添え物、パセリの様な存在で座ってでもデュエルをすることは出来るんだ。なにより座ってたら、アクションカードを取りに行くことが出来ないから、万が一にアクションカードをという欲望にも勝てる。後、楽。

 零児はふざけるなと言いたげだが、拳や言葉で語るよりもデュエルで語るものだと手札を確認する。悪くはない手札だ。

 

「私はDDスワラル・スライムの効果を発動!

手札のこのカードと手札のDDバフォメットを墓地に送り、DDD融合モンスターを融合召喚する!

自在に形を変える渦よ異形の神よ、ひとつとなりて新たな王を生み出さん!融合召喚!生誕せよ!DDD烈火王テムジン!」

 

 烈火王テムジン

 

 レベル6 炎属性 悪魔族 DDモンスター×2 攻撃力2000

 

 安定の開幕テムジン。

 パワーは低いが恐ろしい効果を宿しているモンスターで、纏う炎の様なオーラからは恐ろしさを感じる。

 だが、本当に恐ろしいのはそこではなかった。マジカル・ブロードウェイの路地裏からカサカサと例の黒い奴が飛び出し、俺はカードを1枚ドローする。

 

「スワラル・スライムの効果にチェーンし、増殖するGの効果を発動した。お前がモンスターを特殊召喚する度に俺はカードを1枚ドローする」

 

 4つの召喚、いや、リンクを含めれば5つの召喚を使いこなすDDはとにもかくにも特殊召喚する。

 このカードを見てどう対応するか……少なくとも、テムジン単体はキツいぞ。

 

「……私は永続魔法、地獄門の契約書を発動。

デッキからDDモンスターを手札に加える。私が手札に加えるのはDDナイト・ハウリング。私はDDナイト・ハウリングを通常召喚!」

 

 DDナイト・ハウリング

 

 レベル3 闇属性 悪魔族 チューナー 攻撃力300

 

「DDナイト・ハウリングは召喚に成功した時、墓地からDDモンスターを攻守0にして特殊召喚をする。私はDDバフォメットを特殊召喚!」

 

「増殖するGの効果で1枚ドロー」

 

 DDバフォメット

 

 レベル4 闇属性 悪魔族 攻撃力0

 

 増殖するGの効果を見ても手を止めない零児。

 増殖するGで手札を増やしまくっても問題無いフィールドを作り上げる気か、殴り倒せないフィールドを作り上げる気か……。

 

「レベル4、DDバフォメットにレベル3DDナイト・ハウリングをチューニング!

闇を切り裂く咆哮よ。疾風の速さを得て新たな王の産声となれ!シンクロ召喚!生誕せよ!レベル7!DDD疾風王アレクサンダー!!」

 

 DDD疾風王アレクサンダー

 

 レベル7 風属性 悪魔族 DDチューナー+チューナー以外のモンスター1体以上 攻撃力2500

 

「この瞬間、DDD烈火王テムジンの効果を発動!

DDモンスターが特殊召喚された時、墓地からDDモンスターを1体特殊召喚する!私はDDバフォメットを特殊召喚し、更にDDD疾風王アレクサンダーの効果を発動!DDモンスターが特殊召喚された時、墓地からレベル4以下のDDモンスターを特殊召喚する。私はDDナイト・ハウリングを特殊召喚!」

 

 バフォメットとナイト・ハウリング……色々と出せるが、なにを出すつもりやら。

 ここから出せるモンスターは色々とあるが、次のターンまでどう繋ぎをいれるか。もう、手札、エグい事になってるんだけどな。

 

「DDバフォメットの効果を発動。

DDバフォメット以外のDDモンスターのレベルを1から8までの任意のレベルに変える。私はDDナイト・ハウリングをレベル4に変える!」

 

 DDナイト・ハウリング

 

 レベル3→4

 

「レベル4DDバフォメットとレベル4となったナイト・ハウリングでオーバーレイ!

この世の全てを統べるため、今 世界の頂に降臨せよ!エクシーズ召喚!生誕せよ!ランク4!DDD怒濤王シーザー!!」

 

 DDD怒濤王シーザー

 

 ランク4 水属性 悪魔族 悪魔族モンスター×2 ORU×2 攻撃力2400

 

「融合、シンクロ、エクシーズを1ターンで……これが天才デュエリスト、赤馬零児」

 

「当たり前です。

我がLDSは融合、シンクロ、エクシーズを教えている。ならば、レオコーポレーションの社長である零児さんは3つの召喚法を、いえ、ペンデュラムを合わせれば4つの召喚法を使うことが出来る最強デュエリストなのです!」

 

 先攻で3つの召喚法を行った事に驚く塾長。

 赤馬理事長は出来て当然な自慢の息子だと言い、鼻を高くするが、塾生達はそこまで驚かない。

 3つの召喚法はスゴいが、それが出来る=強いじゃない。それらが1ターンで出来たとしても、勝てなければ意味は無い。シンクロしか出来なくても強いデッキはある。融合しか出来なくても強いデッキはある。そう教えているから、スゴいとは驚くけれども、そこまでだ。

 

「だ、だが遊矢はこれに加えてペンデュラムも1ターンでやり遂げた!まだ遊矢の方が有利だ!」

 

「それはどうでしょうか?」

 

 張り合わないでくれ、塾長。

 

「DDD……それは、異次元を制する王!私はカードを2枚セットし、ターンエンドだ!」

 

 3つの召喚を見せて終わった零児……

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 ドローカードを含めれば11枚……あ

 

「魔法カード、ハーピィの羽根帚を発動」

 

 ドロー、羽根帚だった。

 

「っ、罠カードオープン!戦乙女の契約書と契約洗浄(リース・ロンダリング)

契約洗浄は契約書カードを全て破壊し、破壊した枚数分ドローし、ドローした枚数×1000ポイントライフを回復する!フィールドには地獄門の契約書と戦乙女の契約書の2枚、よって私は2枚ドローし、2000回復する。」

 

 零児 LP 4000→6000

 

 そこそこ面倒なカードをセットしていた……が、まだましなカードでよかった。

 奈落の落とし穴とかの汎用性の高いカードだったら危なかった……とは言えないな。ドローカードによっては、俺は死ぬ。

 

「破壊剣士の伴竜を召喚」

 

 破壊剣士の伴竜

 

 レベル1 光属性 ドラゴン族 チューナー 攻撃力400

 

「破壊剣士の伴竜の効果を発動!

デッキから破壊剣もしくはバスターブレイダーカードを手札に加える。加えるのは破壊剣-ドラゴンバスターブレードだ。お~よしよし」

 

 塾長がリアルソリッドビジョンを起動したことにより、触れる伴竜。

 家には犬や猫が居るが、こういう可愛いドラゴンは居ないからモフれる時にモフらないと……もうすぐこの子には消えてもらうのだから。

 

「破壊剣士の伴竜の第2の効果。自身をリリースし、手札のバスター・ブレイダーを特殊召喚」

 

 バスター・ブレイダー

 

 レベル7 地属性 戦士族 攻撃力2600

 

「手札の破壊剣-ドラゴンバスターブレードの効果を発動。

バスター・ブレイダーを対象にし、破壊剣-ドラゴンバスターブレードを装備。

更にドラゴンバスターブレードの効果を発動、1ターンに1度、装備されているこのカードを特殊召喚する」

 

 破壊剣-ドラゴンバスターブレード

 

 レベル1 闇属性 ドラゴン族 チューナー 攻撃力400

 

「レベル7、バスター・ブレイダーに、レベル1破壊剣-ドラゴンバスターブレードをチューニング!シンクロ召喚、レベル8、破戒蛮竜-バスター・ドラゴン!」

 

 破戒蛮竜-バスター・ドラゴン

 

 レベル8 闇属性 ドラゴン族 チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上 守備力2800

 

 毎度のことながら召喚口上、浮かばないな。

 

「早速使って──なに!?」

 

 零児が向こうもシンクロを使ってきたかと感心していると、目の前にいる3体の王の体から竜の鱗の様な物が浮き出る。

 

「破戒蛮竜-バスター・ドラゴンがフィールドに居る限り相手フィールドのモンスターはドラゴン族になる。悪魔族である3体のDDDは悪魔族からドラゴン族になったから、その影響で見た目に変化があったんだ」

 

「成る程……」

 

「さて、まだデュエルは続いているから続けるぞ。

俺は破戒蛮竜-バスター・ドラゴンの第2の効果を発動、フィールドにバスター・ブレイダーモンスターが存在しない時、墓地のバスターブレイダーを対象とし、特殊召喚する。蘇れ、バスター・ブレイダー」

 

 ふたたび現れる竜殺しの剣士。

 回りに居るのはドラゴン、ドラゴン、ドラゴン、ドラゴン。最高の獲物しかいない。え?3体は悪魔だって?……汝は竜なり!(ドラゴン族付与!)

 

「更に破壊剣士融合を発動。

自分の手札及び自分・相手フィールドから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、

バスター・ブレイダーを融合素材とするその融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する」

 

「相手のモンスターを融合素材……いや、待て。私のモンスターをドラゴン族にしたのは」

 

「俺はフィールドのバスター・ブレイダーと手札の伝説の黒石を融合!

竜殺しの剣士よ可能性の竜の卵を喰らい、新たなる姿を今ここに!!融合召喚!竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー!」

 

 

 竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー

 

 レベル8 光属性 ドラゴン族 バスター・ブレイダー+ドラゴン族 攻撃力2800

 

「私のモンスターを融合素材にしなかった?」

 

 融合素材にする効果はコストであり、融合召喚そのものを禁止にしていない限りは防ぎようがない。

 目の前にいる3体の王を1体でも除去し、強力なモンスターを召喚した方が自分によりダメージを与える事が出来るのにそうしなかった事に疑問を持つ零児。

 その答えを教えるかの様に3体の王は膝をつき守備表示へと替わった。

 

 DDD烈火王テムジン

 

 守備力1000

 

 DDD疾風王アレクサンダー

 

 守備力2000

 

 DDD怒濤王シーザー

 

 守備力1200

 

「竜破壊の剣士-バスター・ブレイダーがモンスターゾーンに存在する限り相手フィールドのドラゴン族モンスターは守備表示になり、自身の攻撃力・守備力は相手フィールド・墓地のドラゴン族モンスター×1000ポイントアップする」

 

 竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー

 

 攻撃力2800→5800

 

「攻撃力5800っ、だが、DDD達は守備表示に──まさか!!」

 

「ああ、貫通効果を持っている。

だが、まだ俺のデュエルは終わってはいない。俺は手札の沼地の魔神王の効果を発動。

沼地の魔神王を墓地に送りデッキから融合を手札に加えて、そのまま発動!手札のブラックマジシャンと真紅眼の黒竜を融合!最強の魔法使いよ、可能性の竜との絆により究極の殺意を抱け!!融合召喚、超魔導竜騎士ドラグーン・オブ・レッドアイズ!!」

 

 超魔導竜騎士ドラグーン・オブ・レッドアイズ

 

 レベル8 闇属性 魔法使い族 

 ブラックマジシャン+真紅眼の黒竜またはドラゴン族効果モンスター 攻撃力3000

 

 

 なんでこんなお手軽なモンスターを生み出してしまったんだと言われてしまう恐怖の象徴を降臨。

 こいつとアナコンダをどうして同時期に出したと言いたい。アナコンダのせいでどんなデッキでもこいつが出てくるという悪夢でしかない。

 

「バトル!竜破壊の剣士-バスター・ブレイダーで烈火王テムジンに攻撃!真・破戒竜一閃!!」

 

 持っている剣に光輝く竜殺しのオーラを纏わせ一閃で真っ二つに切り裂くバスター・ブレイダー。

 テムジンが消えると剣に纏っている竜殺しのオーラ(殺意)が少しだけ弱くなる。

 

「烈火王テムジンの守備力は1000、竜破壊の剣士-バスター・ブレイダーの攻撃力は5800、よって4800の貫通ダメージを与える」

 

 纏っている竜殺しのオーラが弱くなったが、代わりにテムジンが纏っていた燃え盛る様なオーラを剣に纏わせ剣を振ったバスター・ブレイダー。赤く飛ぶ斬撃が零児を襲う。

 

「がぁっ……」

 

 零児 LP6000→1200

 

「だが、これでドラゴン族が減り竜破壊の剣士-バスター・ブレイダーの攻撃力は下がる」

 

 竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー

 

 攻撃力5800→4800

 

「そしてテムジンの効果を発動。

このカードが戦闘で破壊された時、墓地から契約書カードを1枚手札に加える。私は地獄門の契約書を手札に加える」

 

「超魔導竜騎士ドラグーン・オブ・レッドアイズで怒濤王シーザーを攻撃」

 

 ドラグーン・オブ・レッドアイズの杖から放たれる黒炎弾。怒濤王シーザーは焼き尽くされて消滅する。

 

「まだだ!

怒濤王シーザーがフィールドから墓地へ送られた時、デッキから契約書カードを手札に加える!私は魔神王の禁断契約書を手札──」

 

「ドラグーン・オブ・レッドアイズの効果を発動。手札の金華猫を墓地に送り、怒濤王シーザーの効果を無効にする。本来ならば無効にして破壊だが、既に破壊されているので破壊はされない。

メインフェイズ2、相手モンスターを1体選択し破壊、そして破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージをお前に与える。俺は疾風王アレクサンダーを破壊し、2500のダメージを……終わりだ」

 

 手札にあるカードをチラリと確認し、終わりを宣言する。

 手札には融合解除がある。融合解除で竜破壊の剣士-バスター・ブレイダーをバスター・ブレイダーと破壊剣-ドラゴンバスターブレードに分離して、バスター・ブレイダーに破壊剣-ドラゴンバスターブレードを装備。装備する効果はターン1の制限はなく、装備している間は相手はエクストラデッキからモンスターを召喚できない。というか、そもそも殴り倒せる。

 契約洗浄の効果でなにをドローしたかは知らないが、4枚の手札ではどうすることも出来ず、一方的に蹂躙される。

 

 零児

 

 LP1200→0

 

「最年少プロと言っても、所詮はこの程度か」

 

 柚子や瑠璃とデュエルをしていた方が何万倍も楽しい。

 俺はレオコーポレーションの株だけでなく、父さんとストロング石島のスペシャルマッチとその売上金を手に入れる事に成功した。

 

「……先にドラグーンの効果でアレクサンダーをやって、バスター・ブレイダーでテムジン殴って、テムジンの効果を無効にしてドラグーンでシーザーを殴って本体をもう一度殴って、融合解除でライフは8000スタートでも0……結果オーライか」

 

 はじめて使うデッキのせいか変なプレミをしたが、結果的にはライフは0に出来たからそれでよし。




OMKフェイズ

遊矢「質量を持ったソリッドビジョンの実現により生まれたアクションデュエル、モンスター、そしてデュエリストが一体となったこのデュエルは人々を熱狂の渦に巻き込んだ」

瑠璃「どうしたの急に?」

遊矢「俺が乗っ取るもといデュエルを教えているせいで色々とアクション要素が薄れてる気がしてきてだな」

柚子「なにを今更な事を言っているのよ?」

遊矢「最新のリアルソリッドビジョン貰ってもあんまり上手く活用出来てないと思ってな」

瑠璃「これ、貰い物なの?」

柚子「色々とあってね……でも、遊矢の言うとおりよね。
極端な話、デュエルディスクさえあればデュエルが出来るし……リアルソリッドビジョンを生かさないとなんか勿体無いわ」

遊矢「リアルソリッドビジョンを生かすって、結局のところモンスターが実体化しているだけだから……取りあえずモンスターでも召喚するか。C・ドルフィーナを召喚」

柚子「あ、イルカ……可愛いモンスターと触れ合ってリフレッシュ出来るわね」

瑠璃「遊矢、私にも!」

遊矢「C・チッキーを召喚」

瑠璃「可愛い小鳥……ふふっ、おいで」

柚子「ドルフィーナちゃんはひんやりしているわ……」

遊矢「いや~瑠璃と柚子がキモくなる前のでキャッキャと喜んでいるの良い……さて、2体をリリースして、キモイルカとキモドリを特殊召喚!!」

キモイルカ「やぁ!」

キモドリ「癒し系ネオスペーシアン参上!」

柚子・瑠璃「いぃいいい、やぁあああああ!!」

遊矢「あれ、モンスターが喋ってる……まぁ、いいか」


次回予告


予想外の4戦目、それは余りにも呆気なく終わってしまう。

遊勝塾に降りかかった火の粉は完全に振り払った。

しかし、火の粉は消えず新たなる戦いの火を生み出す。

隼が越えてはならない一線を越え、小鳥は悲しみ涙を流し、OCG産トマトの胸を借りる(NTR)

お兄ちゃんはお前を認めん!!

次回、遊戯王ARCーV【隼の逆鱗(シスコン爆発)】にガッチャビングデュエルアクセラレーション!!


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隼の逆鱗(シスコン爆発)

前回までのあらすじ

バスター・ドラゴン

「汝は竜なり!!」

バスター・ブレイダー

「ドラゴンだ!!ドラゴンだろう!?なあ、ドラゴンだろうお前!守備表示になれよ!!なあ!!!」

ドラグーン・オブ・レッドアイズ

(【∩ ∩】)< 死にたいらしいな?




 おじさんの行方とレオコーポレーションの株を賭けた予想外の4戦目。

 相手はジュニア、ジュニアユース、ユースを総なめし最年少でプロデュエリストになった赤馬零児。

 レオコーポレーション製のペンデュラムカードを搭載したデッキで挑み、最初のターンに融合、シンクロ、エクシーズの3つの召喚法を見せつけた……けど、あっさりと1ターンキルされて敗北した。

 

「デュエリストじゃない俺を侮ったな……4つの召喚法を使えるだけで息巻いているお前ごときが俺に勝てると思ったか?」

 

 まるで最低最悪の魔王の様に赤馬零児を見下す遊矢。

 

「零児さんが……」

 

 この場に居る誰よりも赤馬零児の強さを疑っていなかった赤馬理事長は震える。

 私自身、疑っている。天才デュエリストと言われる赤馬零児がこうもあっさりと負けるなんて……。

 

「皆、勝ったぞ」

 

 ……。

 

「え、柚子?」

 

「遊矢、よね?」

 

「どうしたんだよ、急に」

 

「さっきの怖かった」

 

 私はそう言うと遊矢の胸に倒れる。

 

「ドラグーン?」

 

「カード的な意味じゃなくて、遊矢の方よ」

 

 ドラグーンの方は確かに恐いけど、もっと怖いのは遊矢。

 赤馬零児を倒した後の遊矢は冷たく鋭くとても怖かった……。

 

「デュエルは楽しくて笑顔になるもの。何時もそう言っているのに、あれじゃあ皆が怯えるだけよ」

 

「そうか?」

 

「ええ、そうよ」

 

「……結構、ノリノリで言ったんだけどな」

 

「遊矢にとっては極々普通のことでも見ている私が怖いのよ」

 

「じゃあ、柚子に笑顔になって貰おうか……」

 

 そう言うと遊矢は私を抱き締め、優しく撫でる。

 

「今回の1番の金星は柚子だ。

宿題の答えを一瞬で出して、アクションカードを相手に持たせなにも出来ない様にする高度なプレイを見せた。

今回の舞網チャンピオンシップ、お前ならきっと優勝できる……強敵は権現坂」

 

 甘く優しい言葉で私を褒める遊矢……ズルいな。

 なんでこんなズルい人を好きになっちゃったんだろ?幼馴染みだから?……う~ん……冷徹な鬼に見える時もあるけど、遊矢は本当に優しくて、本当は遥か先に居るのに後ろを振り返って私達を──

 

「オホン!二人とも、自分の世界に入っているが良いか」

 

「へ?」

 

「柚子お姉ちゃん、物凄く自分の世界に入っていたよ?」

 

 権現坂の咳払いで意識を現実に戻す……。

 

「アユちゃん、そのカメラは?」

 

「……!」

 

 何処からか持ってきたカメラでさっきまでの私達を撮影していたアユちゃん。

 無言でサムズアップしないで!

 

「アユ、後でオレにも写真をくれよ!」

 

「良いけど、コピー代は出してよ」

 

「遊矢兄ちゃんと柚子姉ちゃんの思い出の1ページが出来たね」

 

「3人とも!からかわないで!私と遊矢はまだ付き合ってないわ」

 

「……まだなんだね」

 

「今年の舞網チャンピオンシップに優勝したらと意気込んでおる。

友として応援をしてやりたいが、勝負は譲れん……なんとも歯痒い気持ちだ」

 

 素良、権現坂、なにをコソコソと話してるの!!

 

「付き合ってないなら、そこまでよ!!

ほら、遊矢。居なくなったお父さんの居場所を聞き出すんでしょ?」

 

「ちょ、瑠璃」

 

 私を抱き締めていた腕を無理矢理引っ張り、赤馬零児の目の前に連れていく瑠璃……。

 

「やっぱり、瑠璃は遊矢の浮気相手なのね……」

 

「ゆ、柚子お姉ちゃん?」

 

 ええ、分かってるわ。まだ遊矢は私の物じゃない。

 けれど、何れは私の物になるのよ。遊矢だってこんな事をするってことは待ってるってことなんでしょ?私は遊矢の幼馴染みで遊矢のあんな事やこんな事まで知ってる。幼馴染みが負け犬属性なんて今時古いわ!

 でも、苛立つわね。自分と同じ顔が遊矢と仲良くしているからかしら?遠回しに見た目は美少女でもその性格は無理って言われてる気がするし……瑠璃より私の方が良い女だと教えないとダメかしら?それとも遊矢の方から好きだって言わせる様に仕向けないといけないかしら……。

 

「零児、デュエルは俺の勝ちだ。

約束通り父さんの居場所を教えて、父さんとストロング石島のスペシャルマッチを──」

 

 

──ピリリ

 

 

 赤馬零児におじさんについて聞くと、携帯が鳴った。

 私達の周りでなく、赤馬理事長への電話で今、良いところなのに電話が鳴ったので空気を読めよと周りは冷たい視線を送る。

 

「失礼。中島、なにかあり……なんですって!?」

 

 電話に出ると急変する赤馬理事長。

 何事かと思っていると、赤馬零児の元へと駆け寄り耳打ちをする……なにかしら?

 

「なに、マルコが?」

 

「マルコって、マルコ先生のこと!?」

 

 なにかを聞き驚き、言葉を溢す赤馬零児に反応する真澄。

 マルコ先生ってことはLDSの講師よね?その人がなにかあった……いえ、ちょっと待って。

 

「すまないが、その話はまた今度だ」

 

「お前、契約を踏み倒すのか!!」

 

「違う。知っての通りだが舞網チャンピオンシップはレオコーポレーションが運営だ。

榊遊勝の居場所についてもスペシャルマッチをするにしても、舞網チャンピオンシップを終えなければ話にならない」

 

「……上手いことを言いやがって」

 

「ふっ、デュエルには負けたものの交渉では私の方が上手だ」

 

「それはどうかな……さっさと帰れ!」

 

 嵐の様にやって来て、騒動を起こしたLDS。

 私達はLDSに全勝し、遊勝塾を守り抜く事に成功した。

 

「……ねぇ、遊矢」

 

「ん~……襲われたんだろうな」

 

「やっぱり」

 

「なにがやっぱりなの?」

 

 遊矢は分かっていたみたいだけれど、瑠璃は分かってはいない。

 言わないで……ううん、言った方が良いわね。

 

「LDSの襲撃犯はまだ捕まっていないわ。

さっきの赤馬理事長の電話で出たマルコってLDSの講師、襲われたんじゃないかって」

 

「!……」

 

 必死になってデュエルをしていたから忘れかけていたけれど、LDSを襲撃しているユートは捕まっていない。

 エクシーズ召喚を使いこなすユートはかなりの実力者で、真澄達3人のデュエリストよりもレベルは上でLDSの講師にも勝つことが出来る筈。

 ありえない話でなく、ここ最近の騒動と今の電話からしてそうである可能性は高く、瑠璃は一瞬にして落ち込み悲しそうな顔をする。

 

「早いところ見つけないとな。このままだと、俺はまた無実の罪で色々と言われるし……」

 

 最後の最後で悲報があったけれど、LDSとの対抗戦は終わった。

 遊矢は赤馬理事長が持っていたレオコーポレーションの株を入手し、一瞬にして億万長者にランクアップ。

 更におじさんの行方やおじさんとストロング石島のスペシャルマッチの開催を漕ぎ着け、遊勝塾を担保に色々なものを手に入れた。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━数日後━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 社長が契約を踏み倒し(比喩)て数日後、LDS兼レオコーポレーション本社前へとやって来た俺……達。

 

「なんでお前まで来てるんだよ」

 

 スーツ姿のキャリアウーマンな格好の柚子がついてきた。

 今からやるのは株を貰うだけで、レオコーポレーションの仕事とかしないぞ。

 

「タイム」

 

「?」

 

「えっと、先ず私が来たのは遊矢を手伝うためよ。

レオコーポレーションの株を大量に持ってても仕方ないから、会社を動かせるレベルから株主優待が出来るレベルまで売って一部を遊勝塾に振り込んでくれるんでしょ?」

 

「まぁ、そりゃあな」

 

 赤馬婆が所有する株の量は凄まじく、持ってたらなんかややこしい仕事をしなければならない。

 ある程度は現金に変えて好き勝手出来るようにしようとは思ってはいる。

 

「私は遊勝塾の経理よ?」

 

 いや、お前は塾生だろ。

 

「お父さんに渡したところで基本的な使い道しか無いし、振り込めば色々とややこしいお金になるわ。こういうお金の管理は私がしないと」

 

「ん~まぁ、柚子なら絶対に大丈夫って安心感はあるな」

 

「ありがとう……それでね、遊矢」

 

「なんだ?」

 

「それを踏まえた上で……なんで瑠璃がOKで私は邪魔者扱いなの?」

 

 レオコーポレーションの本社に来たのは、俺と柚子と瑠璃。

 当初の予定では俺と瑠璃で……ぶっちゃければ柚子は邪魔者であった。

 

「なんで私を邪魔者扱いするのよ……瑠璃の方が貧乳なのに」

 

「なっ、なんで今そんな話をするの!?て言うか、貴女もそんなに大きくないじゃない!」

 

「だって、最近貴女の遊矢を見る目が変わってるじゃない!!

あのユートが原因で遊矢に冤罪を掛けられた時、自分のせいだって泣いて遊矢に励まして貰って……ズルい!!」

 

「ズルく無いわ!そういう貴女こそ、周りから遊矢のガールフレンド認定されてるじゃない!!」

 

「瑠璃のせいでそのポジションが危ういのよ!!タツヤくんがこのままだと本当に危ないよって言ってるし……」

 

「努力が足りないんじゃないかしら?」

 

「お前等、やめてくれ……」

 

 死ぬほど恥ずかしい。別次元に逃げたい気分だ。

 

「あんた達、なにやってんの?」

 

「あ、真澄ん」

 

「真澄ん!?馴れ馴れしいわよ、あんた!!」

 

 瑠璃と柚子の痴話喧嘩を白い目で見ていた真澄ん。

 今までの会話を聞かれていたと俺は真っ赤になった顔を両手で隠し、腰を降ろして縮こまってしまう。

 

「数日ぶりね、柊柚子」

 

「柚子はこっち、私は瑠璃よ」

 

「え、あ、嘘!?」

 

「嘘じゃないわ……なんで皆、間違うのかしら?」

 

 カッコつけて柚子に挨拶したと思ったら瑠璃でテンパる真澄ん、マジ真澄ん。

 大本を正せば同一人物だから間違うんだ。仕方ない。

 

「数日ぶり、元気にしてた……って、間柄じゃないわね」

 

「え?」

 

「なにを驚いてるの。私達はまだ知り合いレベルで、お互いの事をよく知らないのよ?」

 

 柚子、やめろ。そういうこと言うと真澄んマジで傷つく!

 

「そ、そうよね……まだ、お友だちじゃないわよね……グス……」

 

 もうちょっと泣いちゃってるじゃないか!!

 

「そ、それでなんの用なのよ?」

 

「ほら、この前の対抗戦で遊勝塾が勝ったでしょ?

私達が勝ったら赤馬理事長の持っているレオコーポレーションの株を遊矢が貰うって約束だから貰いに来たのよ」

 

「そ、そう」

 

 サラッと言ってるけど、かなりとんでもない事で引いている真澄ん。

 よくよく考えればあの3人に赤馬婆の運命を賭けてデュエルをして、悲惨な目に遭ったんだよな……かわいそうに。

 

「あ、そうだ。

株の引き渡しとかが終わったらデュエルをしない?

融合を覚えてから遊勝塾の子達としかデュエルをしていないから、他のデュエルスクールの人とデュエルしたいの」

 

 この前の北斗はノーカンか。

 

「だから私が相手をしろって?

舐めないで、確かに榊遊矢には負けたけれど融合を覚えたての貴女になんか負けないわ!」

 

 デュエルはしてくれるのか。

 真澄んはマジで真澄んだなと生暖かい目で見守っていると、視線を感じたのか俺を見てゾクリとする真澄ん。

 直ぐに浮かない顔をし、俯いてしまう。

 

「どうしたの?」

 

「……別に」

 

「別にじゃないわ、今にでも泣きそうな顔をしているじゃない。辛いことがあったのなら私で良ければ相談に乗るわ」

 

「……マルコ先生が数日前から行方不明なのよ」

 

「マルコ先生?」

 

「私の先生で、融合コースの講師よ」

 

 グイグイと聞いてくる柚子に根負けし、話し出す真澄ん……あれ、そういえば

 

「行方不明って、またどうして」

 

「知らないわよ!!……この前の最後のデュエルが終わった後に掛かってきた電話はマルコ先生が襲われたって内容で、あの日から授業も無くて音信不通で」

 

「待って、今なんて言ったの?」

 

「だから、襲われたのよ!榊遊矢、じゃなかった。LDS狩りのデュエリストに」

 

「そん、な……」

 

 真澄んからのマルコ先生行方不明の話を聞き、膝をついてorzの姿勢になる瑠璃。

 どうしてマルコ先生が居なくなったのかを直ぐに理解し、体が小刻みに震えており冷や汗を流している。

 

「行くぞ、瑠璃、柚子」

 

「……」

 

「瑠璃……」

 

 レオコーポレーションの株を貰うのは中止。

 俺は瑠璃を起こして手を握り、レオコーポレーションを離れていき人気のない路地裏のベンチに座らせる。

 

「大丈夫なんて言わせないぞ、お前はもう大丈夫じゃないんだから」

 

 瑠璃の隣に座り、肩を抱き寄せる。

 

「ねぇ、遊矢。

そのマルコ先生が行方不明な原因を瑠璃は知っている──違うわね。そろそろ隠していることを教えてくれないかしら?」

 

「教えるにしても瑠璃の口からだ」

 

 素良と瑠璃はデュエルをするところを互いに見ていないが、もう限界だ。

 柚子に教えなければならないが、それは俺からじゃなく瑠璃の口から語って貰いたい。

 

「私、なにか飲み物を買ってくるわ」

 

「この辺に自販機は無いぞ?」

 

「ちょっと歩けばコンビニがあるわ。瑠璃、飲み物以外で欲しい物はない?なんでも買うわ」

 

「……好きにして……」

 

「キャラメルでも買っておいてくれ、あ、俺はトマトジュースで代金を」

 

「多くない?」

 

「全員分だ」

 

 柚子にお金を渡し、コンビニまでダッシュしにいってもらった。

 

「俺は口下手のクサレDTだから、こういう事しか出来ない」

 

 曲がり角を曲がり、柚子が見えなくなると瑠璃の頭に手を置いて撫でる。

 こういう事をしていると本当に刺されそうだが、こういう事を今の瑠璃にしないと鬱より酷い精神病になるかもしれない。

 

「……分かってた」

 

 頭を撫でて落ち着かせると、語りはじめる瑠璃。

 

「兄さんのデュエルディスクには人をカードにする機能が入っている。

それを持ってこの次元に来て、プロフェッサーの息子である赤馬零児を人質にしようとしていたのだから、カードにするつもりなのは分かっていたわ。この次元に来て直ぐに、ユートが無関係な人達を傷つけていた事も知って……理解してた、覚悟は決めていたつもりだったのに……」

 

 黒咲とユートが色々とやらかしている。

 それを理解し、その上で止めようとしているが、いざ現実を突きつけられて苦しむ。

 

 そういや、なんやかんやと言うかご都合主義と言うか謎パワーでカード化された人達は元に戻ったが……ちゃんと元に戻したと言う描写、あったっけ?

 千年アイテムとか精霊の力とか赤き竜とかルーンの瞳とかNo.とかの遊戯王お馴染みのオカルト的な力だったら、人をカードにしている奴をデュエルで叩きのめせば大体はどうにかなる。

 でもこれ、オカルト染みた物じゃなく科学技術でカードにしていて、デュエルディスクにその機能をダウンロードさえすればそれこそ塾長でもデュエルで負けた相手をカードにする事は出来る。まぁ、塾長は絶対にそんな事はしないけど。

 オカルトの力だったらオカルトパワーの発生源を叩けばどうにでもなるが、そうじゃないとなれば俺はどうにもならん……多分だけど。

 科学の力で冥界に行く事が出来るのが遊戯王の世界。オカルト染みた力を使えば元に戻るのは最終回で判明している……これは、アレか?俺がズァークになって、柚子や瑠璃がズァークになった俺を消さないと世界を救えないのか?

 

 たった一人の命を犠牲に世界を救えるアレだな……うん。

 

「お前はどうしたいんだ、瑠璃?」

 

「……兄さんやユートを止めたい」

 

 意識を現実に戻し、瑠璃になにをしたいか聞く。

 

「それだけか?」

 

 それだけだったらもうすぐ終わるぞ?

 

「……楽しくて嬉しくて笑顔になりたい。

柚子とアユちゃん、フトシくん、タツヤくんと塾長と笑って過ごしたい……もう、こんな思いをしたくない。あの頃よりも笑顔になって、鳥の様に自由に飛び回りたい」

 

 崩壊したハートランドからの平和でしかないスタンダードでの日々。

 短いながらも精神的に色々と疲れている瑠璃にとっては安らぎ手放したくはないもの……株を売れば、瑠璃一人が暮らしていける金ぐらいは入るな、うん。

 

「鳥の様に自由に飛び回りたいと思っているのなら、飛び回れば良い。

もし余計な障害があるなら俺が取っ払ってやる……だから、自分の思う様にすればいい」

 

 俺に出来ることがなんなのかは深くは考えたくないが、少なくとも瑠璃には生きていて欲しい。

 その為の1番の敵は……黒咲だな。あいつが居るだけで、色々と瑠璃の未来が危うくなる。

 

「……私、遊矢に貰ってばかりだわ」

 

「そうか?」

 

「ええ。楽しい笑顔になれるデュエルを思い出させてもらった。貴方の置いていったカードで命を助けてもらった。兄さんより弱い私が兄さんやユートと戦う為のアドバイスやカードをもらった。行く宛の無い私に住む場所を提供してくれて、楽しい時間をもらった……本当に、貰ってばかり」

 

 最後のは柚子じゃないのか?

 

 雰囲気をぶち壊す一言なので俺は言わない。

 

「そんな風に感じなくて良いぞ。俺は瑠璃の笑顔を見れるだけで満足しているんだ……」

 

 もう二度と元の自分に戻れないと諦めてこの人生を頑張ろうとしても、デュエル世界が合わなかったりして心が荒んでたり、嫌になることも多くある。けど、瑠璃や柚子の尊い純粋な笑顔を見るだけで頑張ろうと思える。

 女っ気の無い人生で種の繁栄を捨てた奴等(生涯独身貴族)と一緒になってた時と比べるのは難しいけど、それでも今の人生にそれなりに満足している。

 

「……」

 

 ボフンと顔を真っ赤にして煙を上げる瑠璃。

 こういう反応は本当にふつくしい(尊い)……。

 

「貰ってばかりの私が貴方に渡せるものを渡したいの」

 

「え、ちょ」

 

 首裏に手を置く瑠璃。

 自分の顔を近付けていきゆっくりと目を閉じていく。

 

 

 

 逃げて良いですか?

 

 

 

 ……いやいやいやいや、無理無理無理無理。

 いや、嬉しい、嬉しいよ。瑠璃はアイドルだって言われてもおかしくないぐらいに美少女だよ……ダメだ。

 柚子が優勝したら言うというフラグ的なものを建ててたよ。その前に瑠璃が襲来って、予想できないよ……どうしろって言うんだ。ダメだ。

 女性に関するトラウマらしいトラウマなんて特にはないのだが、俺の中のなにかが逃げたいと訴えている。

 それと同時に逃げればどうなるのかという恐怖心が俺を支配して硬直している……柚子の事をチキってるだなんだと思ってるが俺も大概だ。

 

「私もはじめてだから、舌は無しで……」

 

 なにエロい事を言ってんだ!清楚系ビッチ(矛盾)か!ありがとうございます!!

 

 

『花鳥風月を手中に納めれば、我を邪魔立てする存在は居なくなる……いけぃ、我が分身!!』

 

 

 ズァーク、ちょっと黙ってろ!!つーか、頭の中で語りかけてくるな!!

 

 

 これは男として覚悟を決めるしかないのかと瑠璃のキス顔が目に入り、柚子と瑠璃は同一人物だという謎理論が脳裏を走ったその瞬間だった。

 

 

 

──シュ、サクッ

 

 

 

 俺の頬をカードが切り裂き、カードはベンチに突き刺さる。

 

「っ、ぎゃああああ!?」

 

「え!?そんなに私の──血!?」

 

 頬骨のところをスパッとやられた。

 傷の度合いを具体的に言えばブリーチの序盤の方にあった母親の墓参りに行って虚との戦いの傷を完全に治せずにそのまんまだった一護の頬の辺りの傷と同じぐらいのレベル。

 肋が2、3本折れたとか漫画で言ったりするけど、現実だとすごく痛い。ていうか、血がダラダラと流れてやがる!!

 

「なんでカードで頬を切れるんだって」

 

「ライズ・ファルコン!?」

 

 俺の頬を切ったのはRR━ライズ・ファルコン

 この次元では売られていないRRのエクシーズモンスターで、アニメ版の効果は洒落にならないぐらいエグい。しかし、目の前にあるのはOCG版……いや、その辺りは気にしてはいけない。

 このRRを使うデュエリストはただ1人。

 

「ユート、貴様ぁ!!」

 

 瑠璃の兄である黒咲隼。

 目を血走らせ、俺を鋭い眼光で睨み付けるその目は隼どころの騒ぎではない。さ、流石はレジスタンス。カードで人を傷付ける事が出来るのか。

 

「前々から瑠璃と一緒にいる時が多いと思っていたら、そういう事だったのか!!」

 

 俺をユートだと勘違いをしている黒咲。

 手をポキポキと鳴らしており、明らかにデュエルで解決をする動きではない。

 

「瑠璃、何故お前が……いや、皆まで言うな。

ハートランドの何処に居てもアカデミアの兵士達と遭遇する。瑠璃を安全な場所に避難させると言う点ではこのスタンダードが最適だ……だが、何故オレに相談しない!!お兄ちゃんに相談しないんだ、瑠璃ぃいいいいい!!」

 

 おい、なんかコイツ原作以上に面倒臭い事になってんぞ。

 瑠璃が居ない方がシリアスなキャラになれてんのか?どうなってんの?

 

「兄さん、私は守られるだけの存在じゃない!!私は兄さんの物じゃないわ!」

 

「オレはお前を物扱いした覚えは無い!!

ただ、お前がまだ未熟なデュエリストでありオレが兄として先導してやろうと言う兄としての優しさだ!!」

 

「それは優しさとは言わないわ!!柊塾長を見習いなさい!!暑苦しいけど大人として最低限の一線は守ってるわ!!」

 

「誰だ、そいつは!!」

 

 あの人と柚子の関係は色々と深いから、お前達と違う!!

 

「ちょ、血が、絆創膏かなにか持ってないか?」

 

「そんな物は必要ない。デュエリストならばそれぐらいの傷、唾でもつけておけば治る!!」

 

 俺、デュエリストじゃないからその定義には反する……いかん、興奮するな。血圧が上がる。

 

「そう……じゃあ、唾をつけないと」

 

 瑠璃はそういうと俺の顔を掴み、頬の傷口をペロリと一舐めした……エロい。

 

「っ──」

 

 音はしていない。

 だが、ハッキリと聞こえた。黒咲の中のなにかがキレた音を。

 

「貴様ぁああああ!!懺悔の時間すら与えん!!

お前を友と思っていたオレが大バカだった。ユート、お前は瑠璃に悪影響を及ぼすオレの敵だ!」

 

「いい加減にして!!彼はユートじゃなくて遊矢よ!!」

 

「遊矢?……ユートでなかろうと関係無い!!オレにとっての敵であることには、変わりは無い!!」

 

 いってーよ、マジでいってーよ、頬。

 この場から逃げてコンビニに行った柚子を追い掛けて、ガーゼとかを買った方がいいんじゃないか?

 

「だったら……だったら、兄さんは私の敵よ!!」

 

「なに!?」

 

「兄さん、貴方はどうしてこの次元に来たの!?

アカデミアとの戦争を終わらせる為にこの次元に来たのに、どうして兄さん達が戦争の火種になっているの!!」

 

「甘いぞ瑠璃!!

赤馬零王はアカデミアのトップではあるものの元はこの次元の住人、既にこの次元も手遅れの可能性も大いに有り得る。

もしプロフェッサーの息子がアカデミアと同じ思想を持ちLDSをアカデミアの戦士養成所としているのならば、その可能性が僅かでもあるならば、オレは出る杭を全て打つ!!なによりもアカデミアとの戦いは既に話し合いで済む次元ではない!!相手を問答無用で黙らせるカードがオレ達には必要だ!!」

 

 

 LDSが戦士養成所というのも、話し合いで済む段階じゃないのも言っている事に一応の一理はある。

 でもぶっちゃければ零児連れてっても無駄だしな……。

 

「そんな物は必要無いわ!!

私は少しの間、この次元のデュエルスクールでお世話になったわ!!

そこにはハートランドの皆が失った笑顔が溢れていた。ここの人達は次元戦争を知らない無関係な人達よ!!

ユートと兄さんの噂は聞いたわ……無差別に人を襲って、一部の人をカードにしている、それじゃあアカデミアと一緒じゃない!!」

 

「だったら、そいつは何者だ!!」

 

「彼は……私を幸せにしてくれる人よ!!」

 

 火に油を注ぐんじゃねえ!!

 

「ふざけるな!!彼氏なんてお兄ちゃんは断じて認めん!!

瑠璃はお兄ちゃんのお嫁さんになると昔、言っただろう!!あれは嘘だったのか!!」

 

「子どもの時の事を掘り返さないで!!」

 

「オレからすればまだまだお前は子どもだ!!

瑠璃、そいつがユートで無いと言うのならば、そいつはいったいなんなんだ!!

オレとユートはスペード校からの付き合いがあり、レジスタンスとして共に戦い抜いた!オレは知っている。ユートに兄弟は居ない!!

そいつがどうしてユートとそっくりなのかは知らんが、ユートでもなければ兄弟でもない赤の他人でこの次元の住人と言うのならば何故そいつは他の次元について知っている!?」

 

「そ、それは……」

 

 だから、なんで俺に飛び火するんだ……。

 

「瑠璃、お前が答えられないのならばオレが答えてやろう!

そいつはスタンダードの住人でありアカデミアの人間だ!!瑠璃、お前は騙されているんだ!」

 

「っ、違うわ!!遊矢はアカデミアから私を守ってくれた!!」

 

「奴等は人をカードにする極悪人だ!!使えない兵士を捨て駒にだってする、自作自演の可能性もある」

 

 お前が言うな。

 

「遊矢、違うわよね?貴方はアカデミアの人間じゃないわよね?」

 

「アカデミアの人間なわけないだろうが」

 

「ならば、何故お前は色々と知っている!?」

 

「……言わないとダメなのか?」

 

 ズァークのせいにすれば大体どうにでもなる。

 だが、そうなると戦争の原因はズァークとレイになり……ややこしくなるなぁ……。

 

「やはりなにか後ろめたい理由が、アカデミアに関するなにかがあるんだな!!アカデミアは瑠璃を誑かす男はオレの敵だ!デュエルだ!!」

 

「デュエルディスクは家に置いてきた!!なのでデュエルは出来ない!」

 

「なん、だと……貴様、それでもデュエリストか!」

 

「るせーよ、実体化したモンスターに殴られたくねえんだよ」

 

 今日、こんな事になるとは全く思っていなかった。

 デッキは念のためと持っているがデュエルディスクは普段から持ち歩いていない!!

 

「兄さん、兄さんの相手は私よ!」

 

 俺の代わりにデュエルディスクを構える瑠璃。

 黒咲は一瞬だけ戸惑うのだが、直ぐに全ての原因は俺だと睨み付ける。

 

「これ以上、罪を増やさない為にも兄さんを今ここで倒す!」

 

「その男に騙されているのならば、お前を倒してその男の本性を暴く!!」

 

 

 ……逃げたい。

 

 

 なんでこんな事になったかと聞かれれば……大体、ハゲが悪い。頬の傷、物凄く痛い。病院に行って、カードでこうなったって言ったら信じてくれるか……遊戯王世界ならば普通に信じてくれるか。

 余りにも予想外の時に兄妹喧嘩(デュエル)が今、はじまる。




OMKフェイズ

塾長「遊矢、デュエルを教えるのは構わないが些か花が無いんじゃないのか?」

遊矢「そう言われても、これとこれ組み合わせたら強いとかこういうデュエルがあるとか普通の事しか教えてないんだけど?」

塾長「た、確かにそう言われればそうだがこのままだと遊勝塾のエンタメデュエルがだな」

沢渡「聞いたぜ、柊塾長!!」

塾長「さ、沢渡、どうしてここに!?」

沢渡「ここはOMK時空、謎ギャグ時空だ。細かいことを気にしちゃいけねえな。
それよりもエンタメデュエルが無くなっていくことを気にしてるんだろ?それならこの、てんっさいデュエリスト、沢渡様に良い案があるぜ!!」

遊矢「ほぉ、オレ様が輝くとか言わずに良い案と来たか」

沢渡「エンタメデュエルショーには主役を引き立てる数々の名脇役が必要なんだよ。主役のオレ様だけだと眩しすぎる」

塾長「そ、それでどうすれば良いんだ?」

沢渡「そりゃやっぱり顔だろう。
エンタメデュエリストの榊遊勝が居なくなってから、コイツがって言う遊勝塾の代表的存在が遊矢、お前になっちまった。ま、ペンデュラム召喚を生み出しんだから仕方ねえけどな」

遊矢「恐ろしく真面目な事を言うな。お前、本当に沢渡か?」

沢渡「お前、オレをなんだと思ってんだ!
とにかく今の遊勝塾にはアイドルとも呼べる広告塔的な顔が無い!」

遊矢「俺は?」

沢渡「お前は顔としては汚すぎるだろうが!!」

遊矢「誰が汚いだと!今年のバレンタインデーで女装してチョコ渡して実は榊遊矢でしたドッキリすんぞ!」

沢渡「おい、それマジでやめろ。それオレが人間不信になるだけだ」

塾長「成る程、顔の様なアイドル的存在か。
思えば遊勝塾は先輩である榊遊勝が象徴の様な存在で、他の代表的な人と言ってもピンと来ないな」

遊矢「いや、塾長元とは言えプロだろう」

塾長「プロと言っても榊遊勝と違ってエンタメデュエルの顔の様な存在じゃないさ。よし、此処は世界一可愛い愛娘の柚子をアイドル化させて華やかしいプロの道を──」

黒咲「待てぇい!!世界一可愛いのは柊柚子ではない……オレの妹の瑠璃だ!!」

遊矢「お前、時系列が謎でギャグだから大体許されるOMK次元とは言え本編で色々と面倒な事になってんのに出てくんなよ」

黒咲「瑠璃こそが世界一可愛いんだ!!」

塾長「なにを言う、柚子こそが1番可愛いんだ!!」

黒咲「どうやら話は平行線の様だ。かくなる上はデュエルで」

遊矢「おい、話聞けよ」

沢渡「身内贔屓は良くねえな」

黒咲「なに!?貴様、瑠璃が可愛くないとでも言うのか!!」

塾長「そうだ!!柚子は遊勝塾の看板娘なんだぞ!!」

沢渡「馬鹿野郎、アイドルは皆のアイドルなんだ。
ただ1人のファンをつけたからって、真のアイドルとは言えねえ……ここはデュエットにして、大勢のファンの人達に決めて貰おうじゃねえか!!」

黒咲・塾長「成る程、その手があったか!!」

遊矢「……これ、他の2人も呼んでカルテットにしないとダメなんじゃないのか?」



次回予告


瑠璃、なんだそのカードは!!そんなカード、お前のデッキには無かった筈だ!


遊矢から貰ったカードよ!!このデッキは、今までの私のデッキとは違う。私と遊矢が作り上げたデッキよ!!


もうちょっと言い方をどうにか出来ないか……。


2人で作り上げただけだと!?許さん、許さんぞ貴様ぁ!!オレですらそんな事はしていないと言うのに!


おい、本音が出てんぞ。


次回、遊戯王ARC-V 【羽ばたく小鳥?】にガッチャビングデュエルアクセラレーション!!


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羽ばたく小鳥?

 え〜お久しぶりです。本当に長い間更新しておかなくてすみません。
 作者ね、遊戯王大好きなんだけどもぶっちゃけた話で遊戯王の腕前は下手くそな方なんで色々と動画を見てたりするんだけどね、思ったよりも上手く行かないんだ。既に投稿されてる話でここでなんでこうしないんだろう?的な展開とか普通にあるし、これ無理じゃんって思う展開も普通にあるわけだ。
 シンプルにデュエルが下手なんだよ。他の遊戯王書いている人みたいに上手く書き切る自信がない……それでもまぁ、書いてみたわけですよ。矛盾点とかこれ出来ないとかのコンボとかあるかもしれないんだけどね……その内修正するから。とかいってめんどくさいから修正しない事もある。
 ハッキリと言ってクソでしかないこんな小説を見たいと言うならば気が向いたら、また更新しようかなって思う。


「オレのターン!オレはRRーバニシング・レイニアスを召喚!」

 

 RRーバニシング・レイニアス

 

 レベル4 闇属性 鳥獣族 攻撃力1300

 

 帰ったらダメだろうか。黒咲に受けたダメージが思ったよりも痛い。

 俺は見ている側だろうがコッソリと帰ったら──

 

「遊矢、待ってて。貴方の身の潔白を証明してみせるわ」

 

 ダメだよなぁ。

 瑠璃は兄である黒咲に動じることなく勝ってみせると意気込んでおり逃げるに逃げられない。もしこの場を治める方法があるとするならばコンビニに行ってる柚子が帰ってくるぐらいだがありえなさそうな雰囲気。

 

「バニシング・レイニアスの効果を発動!このカードが召喚に成功した時、手札からレベル4以下のRRを特殊召喚できる。オレはRRートリビュート・レイニアスを特殊召喚!」

 

 RRートリビュート・レイニアス

 

 レベル4 闇属性 鳥獣族 攻撃力1800

 

「トリビュート・レイニアスの効果を発動。デッキからRRカードを一枚墓地に送る!オレはRRーミミクリー・レイニアスを墓地に送り、ミミクリー・レイニアスの効果を発動!墓地のこのカードを除外する事によりミミクリー・レイニアス以外のRRカードを手札に加える。オレはRR─シンキング・レイニアスを手札に加える」

 

 ソリティアだなぁ。リンクがあったらもっと酷い事になっていたのがよくわかる。

 やっぱりと言うかこのスタンダードの人間じゃないってだけでレベルが違うのがよく分かる。

 

「オレはトリビュート・レイニアスとバニシング・レイニアスの2体でオーバーレイ、冥府の猛禽よ、闇の眼力で真実を暴き、鋭き鉤爪で栄光をもぎ取れ! エクシーズ召喚!飛来せよ、ランク4!RR-フォース・ストリクス!」

 

 ランク4 闇属性 鳥獣族 ORU×2 守備力2000

 

 メカメカしいフクロウのエクシーズモンスター。

 パックとかに入っていない限定物で一時期値段が高騰したカードで、その効果は絶大だ。

 

「フォース・ストリクスの効果を発動!デッキから闇属性・鳥獣族・レベル4のモンスターを手札に加える!オレはレイダーズ・ウィングを手札に加える!」

 

 あれ……11期のカードじゃね?いやまぁ、いいか。

 

「オレはカードを2枚セットして、ターンエンドだ」

 

 やっぱりと言うべきか純RRで組んでいる黒咲。

 OCG次元だったら全く違う強力なモンスターが飛び出たりするが、そんな事は無かった。もっともっとデッキをぶん回す事が出来る気もするが、瑠璃のデッキを相手にモンスターを大量に並べても無駄なのを知っているから下手に手を出さずにいる……のか?

 RRって相手が色々としている状態で出した方が強いイメージがあるから自ら攻めてるって感じが薄いんだよな。いや、強い事には変わりないんだけど。

 

 

「私のターン、ドロー!LLーセレスト・ワグテイルを墓地に送り、魔法カード、ワン・フォー・ワンを発動!デッキよりレベル1モンスターを特殊召喚する!私はミスティック・パイパーを特殊召喚!」

 

「……なんだそれは!?」

 

 歌舞伎模様な笛吹の男が出てきて黒咲は戸惑う。そのカードのステータスが雑魚だからとかそんなんじゃない。

 

「瑠璃、なんだそのカードは!!そんなカード、お前のデッキには無かった筈だ!」

 

 純粋なLLデッキな瑠璃のデッキ。

 レベル1のモンスターしか入っていないデッキなので入っていてもおかしくないカードだが、この世界の住人は純構築が当たり前なのか入っていなかった。墓地肥やしと同時に特殊召喚できる強カードなワン・フォー・ワンと組み合わせれば強い。

 

「遊矢から貰ったカードよ!!このデッキは、今までの私のデッキとは違う。私と遊矢が作り上げたデッキよ!!」

 

「もうちょっと言い方をどうにか出来ないか……」

 

「2人で作り上げただと!?許さん、許さんぞ貴様ぁ!!オレですらそんな事はしていないと言うのに!」

 

「おい、本音が出てんぞ」

 

 デッキを一緒に作るのがデートよりもいい感じの扱いってなんなんだよ。

 それが許されるのがカードゲームの世界なんだろうがデッキ構築なんてガチの優勝狙いに行く大会メインじゃなければ仲間内でワイワイにやり合うもんだろうが。

 

「ミスティック・パイパーをリリースして効果を発動!デッキからカードを1枚ドロー!このドローしたカードがレベル1のモンスターだった場合、もう1枚ドロー出来る!私がドローしたのはLLーベリル・カナリー!レベル1のモンスターでもう1枚ドロー!」

 

 通常召喚権を残して墓地にカードが1枚あり、手札が6枚……ワンキル行けるか?

 

「ベリル・カナリーの効果を発動!墓地のセレスト・ワグテイルを選び、ベリル・カナリーと共に特殊召喚!」

 

 色々と性能が壊れてるな……。

 

 LLーベリル・カナリー

 

 レベル1 風属性 鳥獣族 攻撃力0

 

 LLーセレスト・ワグテイル

 

 レベル1 風属性 鳥獣族 攻撃力0

 

 

「LLバード・コールを発動!デッキからLLモンスターを手札に加えるか墓地に送る!その後モンスターを特殊召喚する事が可能!私はLLーセレスト・ワグテイルを墓地に送り、手札よりLLーターコイズ・ワーブラーを特殊召喚!更にターコイズ・ワーブラーの効果を発動!手札または墓地のLLを特殊召喚する。私は墓地のセレスト・ワグテイルを特殊召喚して効果を発動。デッキからLL魔法・罠カードを手札に。私はLLバード・サンクチュアリを手札に加えるわ!」

 

 LLーターコイズ・ワーブラー

 

 レベル1 風属性 鳥獣族 攻撃力0

 

 LLーセレスト・ワグテイル

 

 レベル1 風属性 鳥獣族 攻撃力0

 

「……」

 

 残りの手札は5枚……展開力が凄いが打点が足りない。ひっくり返すには高火力のモンスターなんかを召喚しなければならないが……瑠璃は悩んでいる。一時の感情に身を任せてカッとなっているものの相手は兄である黒咲。実力は嫌でも知っており、俺がデッキを改造しているとはいえ強い。RRは純粋でも充分に力を発揮する。

 瑠璃のデッキからしてフォース・ストリクスはそこまで脅威じゃない。無視することが出来るには出来るのだが、問題はあの2枚のセットカードだ。純粋なRRデッキでセットカードとなると大凡の予想はつく。攻撃を受け切る防ぎ切る系のカードか……。

 

「ベリル・カナリー、2体のセレスト・ワグテイル、ターコイズ・ワーブラーでオーバーレイ!麗しき翼を持つ鳥たちよ! 戦場に集いて気高く輝け! エクシーズ召喚! 舞い降りよ、ランク1! LL-アセンブリー・ナイチンゲール!」

 

 色々と悩んだ末に瑠璃はこれ以上モンスターを召喚しない。

 通常召喚権を残した状態でモンスターをエクシーズ召喚した……これでいいはずだ。

 

 LLーアセンブリー・ナイチンゲール

 

 ランク1 風属性 鳥獣族 ORU×4 攻撃力0

 

「LLーアセンブリーナイチンゲールの攻撃力、守備力はオーバーレイユニットの数×200ポイントアップ!攻撃力800!」

 

「アセンブリーナイチンゲールはダイレクトアタックが可能で素材の数だけ攻撃をすることが出来るか……甘いぞ瑠璃!4回の攻撃ではオレのライフは削りきれない!」

 

「それはどうかしら?LLーベリル・カナリーを素材にした風属性エクシーズモンスターは攻撃力が200ポイントアップするわ!」

 

「なに!?」

 

「更に永続魔法LLーバード・サンクチュアリを発動して効果を発動!オーバーレイユニットが3つ以上あるエクシーズモンスターがいる場合、デッキからカードを1枚ドロー!」

 

 全然手札が減らない瑠璃。

 制限ありとはいえドローが出来るインチキ臭いカードも出てきて盤面を揃える。

 これがOCG次元ならば決着はつかないがここはデュエルモンスターズ次元。

 ライフポイントは4000であっさりと決着がつく……相手が黒咲でなければだ。

 

「この瞬間、罠カード、RRーレディネスを発動!このターン、RRは戦闘では破壊されない」

 

「っ……」

 

 セットしていたカードをオープンすると瑠璃は苦々しい顔をする。

 RRーレディネスの効果でRRモンスターを戦闘で破壊出来なくなったからじゃない。RRーレディネスの第2の効果、墓地にRRモンスターがいる場合RRーレディネスを除外することで受けるダメージを全て0にする効果。黒咲の事を知っている瑠璃はこのターンで決めることが不可能だと悟る。

 

「バトル!LLーアセンブリー・ナイチンゲールの攻撃!」

 

「墓地のRRーレディネスの効果を発動!このカードを除外する事によりこのターン受けるダメージを全て0にする!」

 

「っ……」

 

 攻めきる事が出来なかった。

 決して悪い手札ではなかったが黒咲の方がまだ上手…………いや、瑠璃はこうなることを見越してカードを使い切らなかった。まだチャンスはある。

 

「お前の新しいカードには驚いたが、基本的なところはなにも変わらないようだ……強くなったが、まだまだだ。この程度ではアカデミアから自分の身一つまともに守れはしない」

 

「っ……」

 

「くだらない意地を張るんじゃない瑠璃、ここに居ては危険なんだ」

 

 度が過ぎたシスコンであることには変わりないものの、妹の身は本当に心配をしている。

 実際のところここはそんなに危険なところではないのだが、危険な場所に居てほしくはない……。

 今まで怒りと私情が混ざった言葉だっただけに少しだけだが戸惑いを見せる瑠璃。

 

「……言いたいことはそれだけ?」

 

「なに?」

 

「兄さんは何時も何時もそう。私には早い、危険だと言って遠ざけようとする……私はそんなに弱いのかしら?頼りないのかしら?」

 

「……その答えをこのデュエルで教えてやる!」

 

「カードを2枚セットしてターンエンド」

 

「オレのターンドロー!オレはフォース・ストリクスの効果を発動、デッキよりRRーファジー・レイニアスを手札に加える!」

 

 黒咲の手札が初期の5枚、内1枚はファジー・レイニアス、1枚はレイダース・ウィング、1枚はシンキング・レイニアスで残り2枚は不明。カードはセットカード1枚のみ……う〜ん、ヤバいかも。

 

「フィールドにRRモンスターが居るときRRーファジー・レイニアスは特殊召喚できる!更にフィールドにエクシーズモンスターがいる時RRーシンギング・レイニアスは特殊召喚が出来る!」

 

 このターンで決着をつけるつもりなのかガンガン行く黒咲。

 瑠璃のデッキを熟知しているしセットしているカードの予測は大体つく……強いな。こういう相手には増殖するGとかうららとかうさぎとか必要なのに瑠璃が嫌がって入れてないんだよな……見た目キモいのは仕方ないとして強いのに。

 

「2体のモンスターでオーバーレイ!冥府の猛禽よ、闇の眼力で真実を暴き、鋭き鉤爪で栄光をもぎ取れ! エクシーズ召喚!飛来せよ、ランク4!RR-フォース・ストリクス!」

 

 本日2度目のフォース・ストリクス。

 勢いに任せてライズ・ファルコンが出てくると思ったが。そんな事は無かったか。

 

「2枚目のフォース・ストリクスの効果を発動!デッキよりトリビュート・レイニアスを手札に加えて、効果のコストとして墓地に送ったファジー・レイニアスは墓地に送られた時新たに同胞を手札に加える!2枚目のファジー・レイニアスを手札に加える!」

 

 手札が全然減っていないクロワッサンだが、このターンでの決着まではまだ遠い。

 

「レイダース・ウィングの効果を発動。闇属性エクシーズモンスターのオーバーレイユニットを1つ取り除くことで自身を特殊召喚する!更にトリビュート・レイニアスを通常召喚し効果発動!デッキよりRRカードを墓地に送る!オレは2枚目のRRーレディネスを墓地に送り、トリビュート・レイニアスとレイダース・ウィングでオーバーレイ!冥府の猛禽よ、闇の眼力で真実を暴き、鋭き鉤爪で栄光をもぎ取れ! エクシーズ召喚!飛来せよ、ランク4!RR-フォース・ストリクス!」

 

 三度現れたフクロウ、攻撃力は低いはずなのだが圧を感じるのは気の所為ではない。

 

「3体目のフォース・ストリクスの効果を発動!RRーバニシング・レイニアスを手札に加え、RUMースキップ・フォースを発動!フィールドのエクシーズモンスターのRR1体を対象にそのモンスターのランクが2つ上のモンスターをエクストラデッキより特殊召喚する!誇り高き隼よ、英雄の血潮に染まる翼翻し、革命の道を突き進め!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ! 現れろ、ランク6!RR-レヴォリューション・ファルコンーエアレイド!」

 

 RRーレヴォリューション・ファルコンーエアレイド

 

 ランク6 闇属性 鳥獣族 ORU×2 攻撃力2000

 

 RRーフォース・ストリクス×2

 

 ランク4 闇属性 鳥獣族 ORU×0 攻撃力100→1100

 

 いや、そっちかよ。

 レヴォリューション・ファルコンが出てくるかと思ったら別のレヴォリューション・ファルコンが出てきやがった。

 

「レヴォリューション・ファルコンーエアレイドの効果を発動!自身のエクシーズ召喚に成功した時、フィールドのモンスターを1体選び破壊し、その攻撃力分のダメージを与える!オレはLLーアセンブリー・ナイチンゲールを破壊する!」

 

「そうはさせないわ!LLーアセンブリー・ナイチンゲールの効果を発動!オーバーレイユニットを1つ使うことでLLを戦闘と効果による破壊から免れ戦闘で発生するダメージを0にするわ!」

 

 

「そうはさせん!カウンター罠、RRーファントム・クロー!闇属性のエクシーズモンスターのオーバーレイユニットを1つ取り除くことでモンスター効果を無効にして破壊、レヴォリューション・ファルコンーエアレイドのオーバーレイユニットを墓地に……本来ならば取り除いたオーバーレイユニットがRRか幻影騎士団だった場合、エクシーズモンスターを1体選択して破壊したモンスターの元々の攻撃力分攻撃力をアップするがアセンブリー・ナイチンゲールの元々の攻撃力は0、攻撃力は変化しない」

 

 やっぱり伏せてたか、ファントム・クロー。

 破壊耐性付与の効果を無効にして破壊するのはそのカードしかない……このコンボが決まれば瑠璃は負ける……コンボが決まればだが。

 

「罠、発動……神の宣告」

 

「なん……だと……」

 

 ライフを半減する事により魔法・罠カードの発動を無効にし破壊もしくはモンスターの召喚、特殊召喚を無効にし破壊の効果を持つ強力なカウンター罠……モンスター効果に対応していないのが残念だが、対応してた場合文字通りのクソカードで禁止とかに行きそう。

 前までの瑠璃のデッキには入っていない汎用性の高いカードに黒咲は驚きを隠せない……そして俺を睨んでくる。俺は悪くねえんだよ。

 

 瑠璃 LP4000→2000

 

「っ……ターンエンドだ」

 

 出せる手は尽くしたのか苦い顔をする黒咲。

 フォース・ストリクスのORUと墓地にRRーレディネスのカードが残っている……どうする?

 

「私のターン、ドロー……ねぇ、兄さん、デュエルは楽しいかしら?」

 

 ドローしたカードを見て、目を細める瑠璃。

 プレイを行わずに心理フェイズに持ち込む。こういうことをするということは勝ち筋がある……いやでも……まさか。

 

「デュエルが楽しいだと?……いったいなんの話だ」

 

「私は最初、兄さんとユートを追いかけてこのスタンダードにやって来たわ。今は遊矢の通っている遊勝塾でお世話になっているの……遊矢のお父さんが失踪したせいで塾生は少ないけれど、そこにいる皆は心の底からデュエルを楽しんでるのよ」

 

 殺意の波動は高いけどな。

 

「アカデミアとの戦いが続いていて遊矢に似た誰かに拐われそうになって遊矢に助けられたあの時、思い出したのよ。デュエルは本当は楽しいもので戦争の道具でもなんでもないって……兄さんはどう思っているの?」

 

「……」

 

 戦いの道具の一種だと思っている節がある黒咲。

 瑠璃に聞かれたので気持ちを一度落ち着かせて目を閉じる。

 

「デュエルは楽しいものだ」

 

「だったら」

 

「だが、アカデミアを許すわけにはいかない!オレ達の日常を奪った奴等を倒すまでは楽しいものだとオレは思わない!この戦争を終わらせる為にもオレは戦い続ける」

 

「だからって、無関係な人達をカード化していいの!?違うでしょう!それだとアカデミアとなにも変わらない、私達がスタンダードにとってのアカデミアになるわ!」

 

「違う!オレ達はアカデミアとは違う!この戦争を終わらせる為の戦いを」

 

「……そう……兄さんはあくまでも戦うというのね」

 

 黒咲の説得は無理だ。

 アカデミアがやった事に関しては誰がなんと言っても悪でしかなく、全てを奪われた人達は大勢いる。これ以上は負の連鎖を続けないためにも誰かが鎖を断ち切らなければならず、黒咲はそれをやろうとしている。諸悪の根源を叩かなければ、どうにもならん話……これから深く関わってくるとか重いなぁ……。

 

「LLバード・サンクチュアリの効果を発動、カードを1枚ドロー……セットカード、オープン!」

 

 2枚目のカードをオープンする瑠璃。

 

「なん、だと……何故だ、何故そのカードをお前は持っている!?」

 

「兄さん、これは貴方との決別の証よ!魔法カード、融合を発動!」

 

 2枚目のセットカードは融合。エクシーズ次元の瑠璃が持っていたらおかしいカード。

 あれこそが俺が瑠璃に勧めたカードの1つ……簡易融合とか入ってるけど、まんまの融合も入ってるんだよな。

 

「私はフィールドのLLアセンブリー・ナイチンゲールと手札のLLーサファイア・スワローを融合!闇夜に響く小夜鳴鳥のさえずりよ! 内なる声とひとつになりてさらに激しく鳴くがいい! 融合召喚! 舞い降りよ、気高き孤高の夜鳴き鳥! LL-インディペンデント・ナイチンゲール!」

 

 LLーインディペンデント・ナイチンゲール

 

 レベル1 風属性 鳥獣族 融合 攻撃力1000

 

「何故、お前が融合を……」

 

「カードがあれば融合は誰だって使えるのよ……問題は使うデュエリスト、そうじゃないかしら?」

 

「ユート、貴様ぁああああ!」

 

「いや、俺は関係……あるけども俺のせいにするな。アカデミアは悪くても融合自体にはなんの罪もないだろう」

 

「ふざけるな!瑠璃はエクシーズ一筋、融合に浮気などとこのオレが許さん!」

 

 浮気ってなんだよ!

 

「兄さんの許しなんていらないわ!私が何処の誰と楽しくデュエルしようが好きになろうが勝手よ!」

 

「好き、だと……貴様には死すら生ぬるい」

 

 ホント、人の話を聞けよ。

 血走った目で俺を睨んでくるが本日はデュエルディスクを持ってきていない……デッキは持ってきているので瑠璃のを借りれば出来ない事はないのだが、それだとまた厄介なことになるか。

 

「インディペンデント・ナイチンゲールの攻撃力はレベルの数×500アップ!そしてインディペンデント・ナイチンゲールのレベルは融合素材にしたエクシーズモンスターのオーバーレイユニットの数だけ上がるわ!インディペンデント・ナイチンゲールのレベルは4、よって攻撃力は3000!」

 

 LLーインディペンデント・ナイチンゲール

 

 攻撃力1000→3000

 

「攻撃力3000だと!?」

 

「まだよ!インディペンデント・ナイチンゲールはレベル×500ポイントのダメージを与えるわ!」

 

「そうはさせん!墓地のRRーレディネスの効果を発動、除外する事によりこのターン受けるダメージを0にする」

 

 再び防がれる瑠璃の攻撃。

 確実に攻撃を防いでいる黒咲の方が上手に見えるが……あのカードを召喚したという事は瑠璃は握っている。

 

「LLーインディペンデント・ナイチンゲールをリリース!」

 

「なに!?」

 

「海王星の暴君よ、その圧倒的な力の前にあらゆる物を退けろ!アドバンス召喚、The tyrant NEPTUNE!」

 

「終わったか……」

 

 悪ノリで入れた海王星の暴君。本当ならばもっとスムーズに出てくるのだが、正規融合とは驚きだ。入れたの俺だけど。

 斧を持った巨大なワニからは今までのモンスターとは比べ物にならない程の圧を感じる。これが出てきた以上はライフ4000じゃ詰む。

 

 The tyrant NEPTUNE

 

 レベル10 水属性 爬虫類族 攻撃力?→1000→6000

 

「The tyrant NEPTUNEはモンスターを1体リリースしてアドバンス召喚が出来る。そして召喚する為にリリースしたモンスターの効果を引き継ぐわ!」

 

「なんだと!?」

 

「インディペンデント・ナイチンゲールの攻撃力はレベル✕500、The tyrant NEPTUNEはレベル10、よって攻撃力は6000!更にインディペンデント・ナイチンゲールは他のカードの効果を受けない!」

 

 打点6000で毎ターン制約なしの5000バーンで他のカード効果を受けない……このモンスター恐ろしい。

 俺は真正面でどうにかしたが黒咲のRRは……無理だな。特殊召喚したモンスターに対してはRRは滅茶苦茶強いがアドバンス召喚したThe tyrant NEPTUNEにやれることはない。これで環境入りとかあんましてないんだからOCG次元は化物だ。

 

「バトル!The tyrant NEPTUNEでRRーレヴォリューション・ファルコンーエアレイドに攻撃!」

 

 ダメージを受けなくてもモンスターを破壊することは出来る。

 レヴォリューション・ファルコンーエアレイドは天高く舞い上がったがThe tyrant NEPTUNEは軽々しく跳んでレヴォリューション・ファルコンーエアレイドの翼を掴み、持っている斧を叩きつけて真っ二つにする。

 

「ターンエンド」

 

「オレのターン……っく……」

 

 海王星の暴君をどうにかする方法は物理を上げてぶん殴ることかプレイヤーに作用するタイプのカードを使うこと。

 純粋なRRで組んでいる黒咲にはどちらもない……既に詰んでいる。

 

「……オレは」

 

「居たぞぉ!」

 

「LDS襲撃犯、遂に見つけたわよ!」

 

 どうすることも出来ない事を黒咲は気付いている。

 それでもまだ足掻こうとするとLDSの制服組と呼ばれる超エリート集団がこの場にやって来た。狙いは言うまでもなく黒咲……。

 

「ッチ、瑠璃、勝負は一旦お預けだ!」

 

 今ここで捕まるわけにはいかない黒咲。

 黒咲の実力からして制服組を倒すのは容易だろうが、デュエルの包囲網から抜け出すのは手間がかかる。

 

「待って、兄さん!」

 

「瑠璃、お前がなんと言おうとオレは歩みを止めない!この戦争を終わらせる為にオレは赤馬零児を表に引きずり出す!」

 

 瑠璃の静止を聞かずにグラサンをかけて颯爽と去っていく黒咲。

 LDSの制服組はそんな黒咲を追っていき、俺達の事を一切見向きもしない。

 

「あの野郎、負けてた癖に引き分け感を演出したな」

 

 海王星の暴君をどうする事も出来ずに苦痛の表情になっていた。

 盤面をひっくり返すことの出来るコンボがあるならばそれを使わないと次のターンで瑠璃から5000の即死バーンがとんできて負けていた。それなのにあたかも引き分けっぽい演出していた。

 

「遊矢……ごめんなさい、兄さんを仕留めきれなかったわ」

 

 後もう少しのところで瑠璃は黒咲を仕留めることが出来たが出来なかった。

 黒咲達を止めにやって来たのに後一歩のところで逃げられた事を瑠璃は強く悔やむ。

 

「あのまま勝ってたら、黒咲をカード化していたのか?」

 

 中断になってしまったのは仕方がないことだ。

 それよりも黒咲をどうするのかが気になる……カード化するならば仕方がないことだが……

 

「一旦、兄さんとユートを捕まえてから決めるわ……兄さん達をカード化しても、アカデミアの事がなにも解決しないから」

 

「そっか……」

 

「遊矢、買ってきたわよ」

 

 瑠璃の方針を聞くと買い物に行っていた柚子が戻ってきた。

 なんともまぁ、ベストなタイミングだと振り返ると柚子が手に持っていた袋を落とした。

 

「ど、どうしたのそのキズ!?」

 

 ついさっきまで傷なんてなかったのに頬から血を流している俺。

 それもこれもクロワッサンが悪い……言うべきなんだろうが……ヤバい……。

 

「悪い……柚子、詳しい事は瑠璃から聞いてくれ……ちょっと無理しすぎた」

 

 俺ってこんなに貧弱だったろうか?

 思ったよりも血を流しすぎたっぽいので体がフラつき、柚子に向かって倒れ込む。

 

「ゆ、遊矢……あの……え……遊矢!?」

 

 限界を迎えた俺は気を失った。




 遊矢、全部聞いたわ……冗談みたいな話よね

 ああ……でもこれが現実なんだ。俺はこの目でハートランドを見た、酷いものだ

 これからどうするの?瑠璃のお兄さんとユートを探すの?

 そうしたいのは山々なんだがLDSがなんらかの動きがするし、瑠璃が自分達の時間を使わないでほしいって

 榊遊矢、久しぶりだな!

 沢渡、お前退院できたのか!?

 当たり前だ!ユートとかいう奴に受けた傷、その内倍にして返してやる為にニュー・ネオ・沢渡へと生まれ変わった!

 相変わらずね

 今日はお前に宣戦布告に来た!遊矢、いい加減にジュニアユース選手権に出やがれ!お前ほどの男が表舞台に立たねえのは勿体ねえ

 え〜デュエルしたいなら遊勝塾に来てくれよ。フトシ達の前で公開処刑するから

 ふざけんな!

 次回、遊戯王ARC-V 【目指さないジュニアユース選手権】にガッチャビングデュエルアクセラレーション!!


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目指さないジュニアユース選手権

前回までのあらすじ


ゲーティアよ1年ぶりに私は帰ってきた。

海王星の暴君「禁止化されるまでとことん暴れてやる、えっ、中止ですか……次は殺す」





「……!」

 

 目を覚ますと見知らぬ天井、いや、見知った天井。

 俺の部屋の天井で頬に違和感を覚えたので触れると傷跡にガーゼが貼られている事に気付く。

 

「あのクロワッサン、一回何処かで潰す」

 

 RRにとって相性の最悪のデッキを使ってやる。

 とりあえずは布団から出ようとするのだが、違和感を覚える。誰かに服を掴まれてる感覚……まさか!

 

「ん……むにゃむにゃ……」

 

 布団を捲るとそこには柚子が眠っていた。

 なんでここにと思わず叫びそうになったが、声を飲み込んで柚子を見る。

 

「遊矢……死なないで」

 

「……死ぬレベルの傷じゃねえよ」

 

 夢の中でも俺の事を心配してくれる柚子。死なないでって言うが頬をカードで切られただけで即死レベルの大怪我じゃない。

 とはいえ心配をさせたことについては反省しないと……悪いのあのクロワッサンだし。

 

「柚子、遊矢は──遊矢!」

 

「瑠璃」

 

 柚子を起こすのか起こさないのか悩んでいると瑠璃が部屋に入ってきた。

 瑠璃は柚子になにかを言いに来た様だが、俺を見た途端に涙目になって走り出して抱き付いてきた。

 

「よかった……よかった、目覚めて」

 

「おいおい、そんなに酷い怪我じゃないだろ」

 

「なにを言ってるの!丸一日、眠り続けてたのよ!」

 

 嘘だろ、オイ。

 こんな傷で一日中眠り惚けるって、俺ってそんなに貧弱だっけ?確かに権現坂みたいにデュエルマッスルは鍛えていないし、腹筋は割れていない。

 デュエリストならばこの程度どうにかなったのだろうが、俺はデュエリストじゃないのでこんなんなっちまったんだろうな。

 

「おばさん、遊矢が目を覚ましたわ!」

 

「う、う〜ん……遊矢……遊矢!」

 

 同一人物な為に全く同じリアクションをする柚子。

 瑠璃と同じく涙目になっており、安心をさせる為に大丈夫だよと言うと安心してくれたのかホッとする。

 

「全く、2人を心配させるんじゃないよ!」 

 

 ホッとするのもつかの間、母さんが部屋にやってきた。

 俺の身の上の心配よりも瑠璃達を心配させたことについて怒っている……俺の事を知っているから怒らないんだよな。

 

「ごめん……」

 

「全く、心配させるんじゃないわよ……無茶をしないで」

 

 色々な人に心配をかけてしまったなと思うが、よくよく考えれば俺ってなにもしていない。

 こうなったのも全てクロワッサンのせいである。おのれ、クロワッサン。その内、潰してやる。

 

「……おばさんは行ったわね」

 

 俺に軽く説教をした後、部屋を去っていった母さん。柚子は完全に去っていったかどうかの確認をする。

 それは母さんに聞かれてはいけない話をするから……あ〜また怒られる。

 

「遊矢、正座」

 

「はい」

 

 俺にも色々と言い分がないわけじゃないが、言ったところで柚子に心配をかけていた事実は変わりはない。

 病み上がりの体に鞭を打ちつつベッドから出て仁王立ちする柚子の目の前で正座をする。

 

「歯を食いしばりなさい!」

 

「せめて、ハリセ─げゔこべ!?」

 

 柚子からどんなお叱りが待ち受けているかと思ったら平手打ちが飛んできた。

 何時もならばハリセンだったりするのに今回は一切の慈悲も思いやりも無い素手によるビンタで事前の言葉が無ければ耐えれなかったかもしれない。

 

「あの後、瑠璃から全部聞いたわ。エクシーズ次元のハートランドの事、融合次元のアカデミアの事、遊矢が何処で瑠璃と知り合ったのか、LDS狩りの不審者達の目的がなんなのかを」

 

 痛みが引かぬまま柚子は瑠璃から全てを聞いたことを教えてくれる。

 寝ている間に瑠璃が教えてくれたので手間が省けたが……俺がなんで知っているとかの疑問を持たないか心配だ。

 

「遊矢、全部聞いたわ……冗談みたいな話よね」

 

「ああ……でもこれが現実なんだ。俺はこの目でハートランドを見た、酷いものだ」

 

 ハートランドが酷い状況になっているのは頭で理解していた。しかしこの目で見るのとは違う。

 あそこまで荒廃したハートランドを元に戻す方法はあるのか?他の次元から救援物資を送ったりしたとしても元に戻るとは思えない……本当にどうなるんだろうな。

 

「これからどうするの?瑠璃のお兄さんとユートを探すの?」

 

「そうしたいのは山々なんだがLDSがなんらかの動きをするし、瑠璃が自分達の時間を使わないでほしいって」

 

「そうなの?」

 

「ええ……これは私達の問題、出来れば貴方達がこの問題に時間を割かないでほしいわ。私達が来なかった場合にしていたことをそのまま」

 

「そんな事は出来ないわ。私達はもう当事者なのよ!」

 

 俺達の協力はほしいものの、出来れば巻き込みたくないと思っている瑠璃。

 既に巻き込まれている側なので傍観者になるつもりはない柚子だが……。

 

「どうやって彼奴等を探すんだ?」

 

「そ、それは」

 

 ユートと黒咲を止めるには、大前提として彼等二人を見つけないといけない。

 舞網市は広大で、その中で1人の人を見つけるのは難しい。LDSのデュエリストが目当てだからLDSの融合使いのデュエリストを餌に……なんてやったら瑠璃も柚子も物凄い怒るだろう。

 

「それが出来たら瑠璃は今頃は飛び出してる。それが出来ないからこうやっている」

 

 赤馬零児のところに向かえば確実に会える気もするが、それをすれば色々とややこしくなる。

 

「……なにも出来ないの……」

 

「兄さん達の目的は恐らく赤馬零児、彼を人質に取って戦争を終わらせるつもり……けど、あの様子じゃ赤馬零児はなにも知らない」

 

「もしくは知ってるだけか……はぁ」

 

 今すぐアカデミアに乗り込んで、禁止カード満載のデッキで赤馬零王をぶっ倒してやろうか?でも、この戦争ただ単にデュエルで勝利をすれば良いだけの話じゃないし、シンクロ次元の事を無視するのもな。

 これ以上はなにを話しても埒が明かないのでこの話はやめて、今日一日は安静に過ごす事にして翌日普通に学校に登校した。

 

「瑠璃、大丈夫かしら……」

 

 色々と追い詰められている瑠璃の事を心配する柚子。

 今頃は遊勝塾で塾生達に教えるカリキュラムを覚えているのだろうが、きっと心地は悪いだろう。アカデミアの侵攻でなにかと苦しんでいるハートランドの人達がいるのに、呑気にエクシーズ召喚を教えてるとなると最悪な気分だろう。

 

「榊遊矢、久しぶりだな!」

 

 考えれば考えるほど憂鬱になっているとアホもとい沢渡が現れた。

 

「沢渡、お前退院できたのか!?」

 

「当たり前だ!ユートとかいう奴に受けた傷、その内倍にして返してやる為にネオ・ニュー沢渡へと生まれ変わった!」

 

「相変わらずね」

 

 もう完璧だぜとバク転をしてみせる沢渡。

 相変わらず元気と威勢だけは1人前で、その道化っぷりを見れば憂鬱な気持ちはスッキリとしていく。

 

「なんの用事だ?今は昼休みだし、飯食っとけよ」

 

 エビフライに齧りつき、美味しい母さんの手作り弁当をいただく。わざわざ退院したと報告に来るほど沢渡はお人好しな人間じゃない。

 

「今日はお前に宣戦布告に来た!」

 

「宣戦布告って毎回してるじゃない」

 

 今日こそはお前に勝ってみせるとか新たなるオレの力を見せつけてやるとか毎回言っている沢渡。

 宣戦布告なんて今更感がある。こいつ何度も出てきて恥ずかしくないんですかと思えるぐらいにしぶといし、不死鳥よりもゴキブリを連想させる男だ。

 

「遊矢、いい加減にジュニアユース選手権に出やがれ!お前ほどの男が表舞台に立たねえのは勿体ねえ」

 

「え〜デュエルしたいなら遊勝塾に来てくれよ。フトシ達の前で公開処刑するから」

 

「ふざけんな!」

 

 沢渡が俺を正当に評価をくだしてくれていることはよく分かる。

 その上で表舞台に立ってちゃんとした場所でのデュエルをしたいと沢渡は言うのだが、デュエルをしたいのならば遊勝塾に来ればいい。俺は暇だったら何時でも受ける。

 

「とにかく今度のジュニアユース選手権に絶対に出て来やがれ!いいな」

 

「はいはい、気が向いたらな」

 

 沢渡は言いたいことを言うだけ言ったので去っていく。

 

「遊矢、今年も出場しないの?」

 

「正直なぁ……興味ないんだ」

 

 プロデュエリストには魅力を感じないというわけではない。けど、俺は根本的にプロに向いていない。

 魅せるデュエルをするのは下手くそだし、立つのがめんどくさいからって座るし、アクションカードは取りに行かない。何よりも勝ち負けにそこまで拘りを持たない。負けて悔しいと思うし勝ちたいとも思うけども、デュエリストと呼ばれる人種程じゃない、その辺りの感情も希薄だ。楽しかったらそれでいい。

 

「そもそもで遊矢、出場資格を満たしていたっけ?」

 

「いや、公式戦柚子と沢渡ぐらいしかデュエルしてない気がする」

 

 非公式の試合なら今まで幾らでもやってきたが、公式試合となるとアクションデュエルだ。

 根本的にアクションデュエルが嫌いなのでやりたくないし、ストロング石島の一件があるからそもそもで挑んでくる同世代が少ない。俺の事を卑怯だなんだ言って挑んでくる奴等は既にコテンパンにしてしまったし……まぁ、原作的な話ならば問題無いだろうけど。

 

「あ、遊矢、お客さんが来てるわ」

 

 午後の授業も終え、遊勝塾に向かうと瑠璃が出迎えてくれた。

 来客者がやって来て若干だがあたふたしており、落ち着けと言って落ち着かせると来客室へと入る。

 

「待っていましたよ、榊遊矢くん」

 

 そこには黄色と黒の阪神タイガースを思わせるスーツを着た胡散臭い成金の見た目をした男、ニコ・スマイリーが居た。

 

「遊矢、お前ジュニアユース選手権に出場できるぞ!」

 

「え、でも遊矢は全然デュエルしてないんじゃ」

 

「その件については私が。榊遊矢くん、貴方の功績を称えて此度の舞網ジュニアユース選手権の出場をデュエル協会が認めました」

 

「あ〜……で、実際のところは?」

 

「私がデュエル協会に掛け合って無条件の出場を認めさせました。ストロング石島無き後に新たに輝くのは貴方しかいません──ってなにを言わせるんですか?」

 

 いやほら、その辺りについてはちゃんとしておかないといけないじゃん。俺の誘導にポロッとジュニアクラスの3人は軽蔑するかの視線を向ける。

 

「なんだよ遊矢兄ちゃんは金蔓かよ」

 

「ストロング石島が居なくなったからって次は遊矢兄ちゃんに鞍替えなんて最低」

 

「話が上手すぎると思ったら……」

 

 フトシ、アユ、タツヤの順に呆れる。

 思わず本音をポロッと溢してニコは焦りだしてハンカチで汗を拭き始める。

 

「か、勘違いをしないでください。確かにストロング石島の後釜にと思ったのは事実ですが、遊矢くんのデュエルに惚れたからこの話を持ち込んだのです!」

 

「嬉しい事を言ってくれるが……俺のデュエルに惚れたね」

 

 イグナイトとかいうガチでもなんでもないデッキをさんざんぶん回すだけ回してエクシーズだなんだとやった。俺からすればあの程度で惚れられるのは困る。

 

「無論、遊矢くんの情報は知っています……1つのデッキに固執しないのを」

 

「!」

 

「驚きましたか?プロデュースしようとしているデュエリストの事を知らなければプロモーターの沽券に関わります」

 

「だったら俺がプロ向きじゃないの分かるだろう」

 

 プロはただ単にデュエルをしておけばいいってもんじゃない。

 絶対的なエースの存在とか必要で、うちの親ならばスカイ・マジシャンのグッズとか出ている。

 

「いえいえ、デュエルする度に異なるカードを使う。デュエルには無限の可能性が秘められている事を知らしめる、ある種のエンタメデュエルを貴方は行っているのです」

 

「そういう言い方はあるかもしれないけど……」

 

 この世界のデュエルじゃなくてOCG次元のデュエルだからあっさりとしているだけだ。

 殆どワンキルみたいな勝ち方をするし最初は盛り上がるかもしれないが一時のブームだけで終わってしまう。

 

「人とデュエルするのも悪くないけど人にデュエルを教えてた方が性に合う」

 

「それならば尚の事、プロの資格がいります!プロになれば様々な大会に出場することが可能であり、更にはプロが教えていると箔が付きます」

 

「うちの塾長、元プロだけど格も箔も薄い」

 

「うぐぅ……ゆ、遊矢、お前なぁ」

 

 ニコ・スマイリーの言いたいことも分からないわけじゃない。

 プロになっていた方がなにかとお得なのも事実……けど、プロのロードを歩むとなるとどうしても父さんをイメージしてしまう。プロデュエリスト、キャラが強すぎるんだよな。

 

「プロであればお金に困った時、大会に出てガッポガッポ稼ぐことが出来ますよ」

 

 遊勝塾は貧乏塾、お金が手に入るのならば手に入れていて損はない……損はないんだけど、けどなぁ。

 なんかこう手の平の上で踊らされているのがなんか嫌だ。転生して自分じゃない自分になっているとはいえ、神様的なのが嘲笑ってるの分かったとしても絶対に嫌だ……よし、断るか。プロのライセンスについては、最悪プロデュエリストを表舞台で狩りまくっておけばデュエル協会も嫌でも黙っておかないだろう。

 

「すみませんが」

 

「遊矢、果たし状が届いたわ!」

 

 この話はなかったことにしてほしい。そう断ろうとすると、慌てた様子で瑠璃が果たし状と書かれた紙を持ってきた。

 沢渡が持ってきたのか?と思ったがついさっき宣戦布告したばかりの男が持ってくるのはおかしい。一先ずは何処から持ってきたのかニコ達には悪いのだが、この場で読ませてもらう。

 

「【拝啓、薫風の候。木々を吹き抜ける風もさわやかな5月を迎え、ますますご活躍のことと存じます。いきなりの果たし状に驚いた事かもしれません。貴方と私の関係でこの様な物を送るのは意外やもしれませんが、今回はこういった形式を取らせていただきました】」

 

「随分と丁寧な内容ね」

 

「私と貴方の関係……もしかしてそれって」

 

「【間もなくジュニアユース選手権が行われます。大会に出場する為の資格を満たす為の最後のデュエルの相手は貴方とはじめから決めており、貴方に新たに進化した不動のデュエルをお見せしたい。つきましては以下の日時に権現坂道場に遊勝塾の皆様と共にお越しください。貴方との真剣勝負、心の底から楽しみにしております 権現坂道場 権現坂昇】」

 

「やっぱり権現坂なのね」

 

「権現坂、こんな回りくどいことしなくても遊矢兄ちゃんなら何時でもデュエルしてくれるのに」

 

「【PS 権現坂でなく権現坂さんと呼ばんか】」

 

「よ、読まれてた……権現坂、痺れるくらいにすげえ」

 

 あ、その事についても書かれている。無駄に用心深いな権現坂は……って、おい。

 

「これ試合開始まで2時間後じゃん!」

 

 こういうのって、1日以上間を置いたりするものだろう。

 あまりにも突然過ぎることに焦るのだが、一応の猶予は残されている。今からデッキの調整をして権現坂道場に向かっても充分な時間がある

 

「ど、どうするの遊矢?」

 

「どうするもこうするもアイツは文字通りの真剣勝負を望んでいる。断る理由は何処にもないんだから勝負するに決まってる」

 

 こういった形で来るとは思っていなかったが、その内権現坂とは真剣勝負をする時が来るのはわかっていた。

 コレを送ってきたという事はあの時作っていた中途半端なデッキが遂に1つの形に纏まったということ。

 

「ニコ、悪いが今から権現坂道場で権現坂とデュエルがある」

 

「いえいえ、デュエリストたるものデュエルを挑まれたのならば応えなければなりません。私個人のワガママですが、そのデュエル、観戦させてくれませんか?」

 

「見ていてあんま面白くなくても後悔するんじゃねえぞ」

 

 今回使うデッキは決まってはいないが、綺麗な華やかなデュエルとは程遠いかもしれない。

 塾長達も俺の真剣勝負を見ておきたいと興奮し、結局今日は全員で権現坂道場に向かうことに。

 

「待っていたぞ、遊矢!遊勝塾の皆よ!」

 

「権現坂、2時間ぐらい前に果たし状を送るな。一応こっちにも予定ってものがある」

 

「む、それはすまん。しかし誰よりも早く新たなる俺の不動のデュエルをお前に見せたかった」

 

「ったく……」

 

「ハッハッハ、すまんな遊矢殿。昇はこの試合をジュニアユースの出場を賭けた戦いにするのになにかと勝率等の調整に忙しくてな」

 

 権現坂の事を許してやってくれと道場主こと権現坂の親父さんは笑う。

 予定とか言っているが暇なところもあるのでこれ以上はああだこうだ言わずにいる。

 

「ささ、遊勝塾の皆様こちらに……おや?見知らぬ顔がいらっしゃるが」

 

「その人はプロモーターで……なんか俺をスカウトに来た。このデュエルを見たいと言っているんですけど、ダメですか?」

 

「ほう、流石は榊遊勝の息子、プロモーターが付くとは……昇、負けるのではないぞ!」

 

「無論だ親父殿!此度は新たなる不動の境地をお前に見せてやろう!」

 

「興奮するのはいいが、デュエル開始まで時間がある……燃えるのは構わないが冷静になれ」

 

「むっ、まだだったか」

 

「あの二人、真逆ね」

 

 俺と権現坂の関係性を見て、瑠璃はそう呟く。

 熱く燃える熱血漢なところがある権現坂と、ちょっとドライなところがある俺。人種が全く違う様に見えてなんだかんだと上手くやっている。

 時折暑苦しく感じてしまうが、悪い奴じゃないし話も通じる。向上心もあり男前の主人公属性的なのもある……多分。遊勝塾の面々とニコと分かれて別の部屋に待機をする。

 

「さてと、なにを使うか」

 

 権現坂とは過去に何度も何度もデュエルをしている。

 何回か遊びと称して権現坂の使っているビックベンーKに魔法・罠カードを搭載したデッキを使ったりして、それで色々と学んでいて今じゃOCG次元の住人みたいなデュエルをする……どうするか。

 

「遊矢、いいかしら?」

 

 複数のデッキを並べて、どれにするべきか悩んでいると瑠璃がやってきた。

 

「どうした?」

 

「えっと……が、頑張って!」

 

「……頑張るつもりだけど」

 

「そ、そうじゃなくて、えっと……遊矢の今後の事を左右する大事な一戦だけどアカデミアとの戦いじゃないから気楽に行って、あ、でも権現坂は強いデュエリストで気楽にいける相手じゃないから」

 

「おいおい、なに言ってるか分かんねえよ」

 

 俺にエールを送りに来てくれた事だけは分かった。今回の戦う場所は何時もの遊勝塾でのデュエルでなくアウェーな戦いになる。

 プロになる上では周りが敵だらけでファンの1人も存在しないなんて事はよくある事で、それを跳ね除けてこそのプロデュエリスト……プロにはそこまで興味は無いが、その辺りの心構えとかは持っておきたい。

 

「……まっ、応援しておいてくれよ。相手は権現坂だから油断は出来ないけど、やっぱやるなら気持ちよく勝たないと」

 

「……うん、応援してるわ!」

 

 はっはっは〜こうなったら勝つしかねえな。

 多分ここで負けてしまったらニコも期待外れとか言ってきそうだし……ああ、くそ、人の期待に応えるデュエルとか本当に嫌だ。デュエルってもっと気楽な物なのに。

 

「遊矢、ちょ──なんで瑠璃と二人っきりなの?

 

 あ、やべ。

 瑠璃に頑張ってと応援されているところで同じことを考えてやってきた柚子に見つかり、ハリセンを構えられる。

 この後は言うまでもないのだが柚子に「遊矢のバカぁあああ」と軽くハリセンで叩かれる。俺、大して悪いことをした自覚は無いんだがなぁ……ホント、柚子と瑠璃のこと、どうしよう。

 

「遊矢兄ちゃん、これからデュエルなのに元気ないね」

 

「タツヤ、幼馴染とある日突然現れた系の女子のどっちかを選べって言われたらどうする?」

 

「それって柚子姉ちゃんと瑠璃姉ちゃんの事?……遊矢兄ちゃん、ハッキリとさせないと何時かハリセンが刃物に変わっちゃうよ」

 

「いやいや、幾ら柚子でもそこまでは……しないよな?」

 

「瑠璃姉ちゃんと仲良くしてるだけでハリセンを取り出す物凄い嫉妬深い人なんだよ……頑張ってね」

 

 デュエルなのか恋愛なのかどっちなのか聞きたいが聞くに聞けない、聞くのが怖い。

 デュエルに関して色々と集中しておかないといけないのに、柚子と瑠璃の事で頭がいっぱい……二人の事なんだかんだで好きなんだな俺。

 

「さぁ、時は来た!遊矢よ、今にして思えばこういった形の真剣勝負ははじめてかもしれぬな!」

 

「あ〜そう言えばそうかもしれないな」

 

 こういうデッキがあるとかの遊びとかはあるけどもちゃんとした星の取り合いをするデュエルははじめてかもしれない。

 

「緊張してるか?」

 

「なんの、胸の高鳴りが遥かに上回る」

 

「お、いいね……じゃ、戦いの殿堂に集いしデュエリストたちが!」

 

「モンスターとともに地を蹴り、宙を舞い!」

 

「フィールド内を駆け巡る!!

 

「見よ、これぞ、デュエルの最強進化形、アクション…」

 

 

 

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 

 さぁ、このデュエルを楽しもう。




幾度にカードの刃を交じ合わせた。しかし真剣の刃をまじ合わせるのはこれが初めてだ。


相手はOCG次元産のトマト、壁はあまりにも高すぎる。だが、だからこそ越える価値がある。


遊矢よ、今日と言う日は本気のお前を越えて見せる!


その言葉、威勢だけで空回りにならなければいいがな


見せてやろう!新たなる不動の境地を!


動かざること山の如し、巨大なる山である超重武者が襲いかかる


あ、速攻のかかしで


次回、遊戯王ARC-V 【動かなければただの山】にガッチャビングデュエルアクセラレーション!!


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動かなければただの山

「……ここは」

 

 権現坂との公式戦がはじまり例の口上を終えると、道場からアクションフィールドへと切り替わる。

 そこは剣の墓場、刀堂刃とのエクストラデュエルをした場所である。

 

「色々と考えた結果、この場を選ばせてもらった。本当ならばお前の1番得意なフィールドをと考えたが、そもそもお前はアクションデュエルが苦手なうえ、一通りのフィールドは問題無く得意なフィールドも無かったのでな」

 

「ま、スタンディングデュエルが1番だからな」

 

 権現坂なりに悩んだ結果出したフィールドなのだろうが、俺にとってはアクションデュエル自体が害悪である。

 とはいえ、今回の相手は権現坂、困ったらアクションカードに頼りに行くデュエリストでないので、このフィールドはある意味で使い物にならない。

 

「先攻は俺からだ。俺は星見獣ガリスの効果を発動!デッキトップを墓地に送り、そのカードがモンスターカードだった場合、自身を特殊召喚しそのモンスターのレベル✕200のダメージを、モンスターでなかった場合、星見獣ガリスを除外する」

 

「さぁ、なにが出る?」

 

 権現坂のデッキはフルモンスター、ガリスの効果が失敗することはまずない。

 問題は権現坂がなんのカードを墓地に送るかで、出来れば墓地から発動するタイプの効果じゃない事を祈る。

 

「デッキトップのカードは……っぐ、超重武者ビックベンーK!レベルは8、よって1600ポイントのダメージを与える」

 

「微妙なのを引き当てちまったな」

 

 遊矢

 

 LP4000→LP2400

 

「更に星見獣ガリスを手札に戻し、手札のA・ジェネクス・バードマンの効果を発動。A・ジェネクス・バードマンを特殊召喚し、もう一度星見獣ガリスの効果を発動……デッキトップは超重武者装留ファイヤー・アーマー……」

 

 落ちていくカードがなんとも微妙な権現坂。

 

 遊矢

 

 LP2400→2000

 

「……ゆくぞ!星見獣ガリスとA・ジェネクス・バードマンでオーバーレイ!」

 

「なに!?」

 

 ここから更に色々と繋がってくるかと思えばまさかのエクシーズ。

 あいつシンクロの修行をしていたんじゃないのか!

 

「現れよ!ランク3、彼岸の旅人 ダンテ」

 

 彼岸の旅人 ダンテ

 

 ランク3 光属性 戦士族 ORU×2 守備力2500

 

 

 出てきたのは結構強いカテゴリーである彼岸の旅人ダンテ。

 墓地肥やしをしてくれて表示形式の変更もしてくれる優れ物であるが……

 

「驚いたか、遊矢よ」

 

「ああ、驚いたよ。シンクロ召喚が飛び出してくると思ったが、まさかエクシーズだったとは」

 

「ふっ、武士たるもの刀は2本用意しておかなければならない。シンクロ召喚という刀を鍛える一方で俺はエクシーズと言う脇差しを用意した」

 

「だが、付け焼き刃に見えるのは気の所為か?」

 

 彼岸の旅人ダンテの効果は決して悪くはないが、超重武者的には墓地に落ちまくっても拾うカードや墓地発動系のカードは少ない。

 もっと他にも色々とエクシーズがあるような気もするが……。

 

「彼岸の旅人ダンテの効果を発動。オーバーレイユニットを1つ取り除きデッキから3枚カードを墓地に送る!」

 

 デッキトップより3枚墓地に送られるカード。

 公開情報なので確認をすると超重武者テンBーNと超重武者ワカーO2と超重武者カゲボウーCが墓地に送られる……要注意はカゲボウーCだが、フィールドには超重武者がいないか。

 

「俺はターンエンドだ、さぁ、何処からでもかかってこい」

 

「よし、俺のターン、ドロー!俺はボルト・ヘッジホッグを墓地に捨てて魔法カード、ワン・フォー・ワンを発動!デッキよりレベル1のモンスター、チューニング・サポーターを特殊召喚」

 

 チューニング・サポーター

 

 レベル1 光属性 機械族 攻撃力100

 

 権現坂のデッキには問答無用でフィールドをリセットしようとしてくるあの隕石が入っている。

 今回のデッキはシンクロデッキ……下手に大量展開をして除去られても困る……が、ある程度は冒険しないといけない。

 

「魔法カード、機械複製術を発動。攻撃力500以下の機械族モンスターを対象に発動でき、同名モンスターをデッキより2体まで特殊召喚できる……因みにだがこの特殊召喚は一回の特殊召喚カウントだ」

 

 一気に2体の召喚……増殖するG的なのは無いか。

 

「更に俺はドリル・シンクロンを通常召喚」

 

 ドリル・シンクロン

 

 レベル3 地属性 戦士族 チューナー 攻撃力800

 

「いくぞ!レベル3、ドリル・シンクロンに、レベル1、チューニング・サポーター3体をチューニング!集いし力が、大地を貫く槍となる!光差す道となれ!シンクロ召喚!砕け!ドリル・ウォリアー!」

 

 ドリル・ウォリアー

 

 レベル6 地属性 戦士族 シンクロ 攻撃力2400

 

「チューニング・サポーターの効果を発動。このカードがシンクロ素材になった時、デッキからカードを1枚ドロー出来る。チューニング・サポーターの数は3枚、よって3枚ドロー!」

 

 これで召喚した数は5枚。

 権現坂の手札に隕石が握られているかどうかは不明だが、これ以上やると怖いし権現坂をどうにかするコンボは既に出来ている。

 

「手札を増やしつつシンクロモンスターを出すとは見事だ。しかし彼岸の旅人ダンテの守備力には程遠い!」

 

「それはどうかな。ドリル・ウォリアーは攻撃力を半分にすることで相手にダイレクトアタックが出来る!」

 

「なに!?」

 

「ドリル・ウォリアーでダイレクトアタック!ドリル・スマッシャー!」

 

 彼岸の旅人ダンテを踏み台にして飛び越えるドリル・ウォリアー。

 右腕に装備されているドリルが激しく回転して権現坂に向かって強烈な突きをかます。

 

 権現坂

 

 LP4000→2800

 

「更にドリル・ウォリアーの効果を発動。手札を1枚墓地に送り、このカードを次の俺のメインフェイズまで除外する……ターンエンドだ」

 

「自らフィールドをガラ空きにするだと……なにが来ようとも、俺は負けん!俺のターン、ドロー!俺は彼岸の旅人ダンテを攻撃表示にし効果を発動!オーバーレイユニットを1つ使い、デッキトップからカードを3枚墓地に」

 

 落ちたカードは超重武者装留グレート・ウォール、無限起動スクレイパー、超重武者ダイー8……やっぱ権現坂のデッキ的に彼岸の旅人ダンテは合わないな。

 無限起動ロック・アンカーが入ってるってことはギアギガントX辺りが入っていそうだが……。

 

「墓地に落ちた無限起動スクレイパーの効果を発動。自身を除外し墓地にある地属性・機械族モンスターを5枚デッキに戻してシャッフル、そしてカードを2枚ドローする。俺は超重武者装留グレート・ウォール、超重武者ダイー8、ビックベンーK、テンBーN、ワカーO2をデッキに戻し2枚ドロー!」

 

 手札が6枚になった権現坂……召喚権は残しているから、どうくる?

 

「俺は超重武者ダイー8を通常召喚し、効果を発動。表示形式を守備表示にし、更に効果を発動。デッキより超重武者装留を手札に加える。俺が手札に加えるのは超重武者装留チュウサイ。そしてチュウサイは超重武者モンスターに装備。装備されているチュウサイの効果を発動。このカードを装備しているモンスターをリリースすることによりデッキより超重武者モンスターを特殊召喚する。俺は超重武者ビックベンーKを特殊召喚」

 

 超重武者ビックベンーK

 

 レベル8 地属性 機械族 守備力3500

 

「自分の墓地に魔法、罠カードが無いので俺はチューナー、超重武者ホラガーEを特殊召喚」

 

「来るか」

 

「レベル2、超重武者ホラガーEに超重武者ビックベンーKをチューニング!荒ぶる魂よ、千の刃の魂と共に、荒波渦巻く戦場に現れよ! シンクロ召喚!いざ出陣!レベル10、超重荒神スサノーO!」

 

「……来たか」

 

 付け焼き刃のエクシーズ召喚とは違う正真正銘の鍛え上げた新たなる刃ことシンクロ召喚。

 

 超重荒神スサノーO

 

 レベル10 地属性 機械族 シンクロ 守備力3800

 

 ……このモンスター、強いには強いんだがな。

 相手の墓地に依存するところが大きくて専用構築なデッキだと専用の魔法カードとかしか使ってこないっていう欠点があるんだよな。攻撃力が実質的にバカみたいに高いのは魅力的なんだけど、この世界はライフ4000だからビックベンーKでいいところがある……まぁ、スサノーOから例の殺意マシマシなあのモンスターに繋げるとか出来るから油断は出来ないけど。

 

「超重荒神スサノーOはビックベンーKと同様に守備表示で攻撃が可能!超重荒神スサノーOのダイレクトアタック!クサナギブレード・斬!」

 

「この瞬間、手札の速攻のかかしの効果を発動。手札からこのカードを墓地に送り、その攻撃を無効にしてバトルフェイズを強制的に終了させる!」

 

「ぐぅ、やはり手札に対処出来るカードを握っていたか!」

 

「当たり前だろうが……さぁ、どうする」

 

「ぐぬぬ……ターンエンドだ」

 

 通常召喚権も特殊召喚も使ってやることがない権現坂。

 手札になにかしらのカードを握ってるのは予想していたがスサノーOの対象に取られない効果の為にカゲボウーCは使えない……。

 

「俺のターン、ドロー……さて、ここで権現坂に悪いお知らせをしよう」

 

「なんだ?このターンで決着が付くというつもりか?」

 

「いやいや、前の俺のターンで除外されたドリル・ウォリアーがこのターンに戻ってくるんだが実はこの効果には続きがあるんだ」

 

「続きだと?」

 

「その効果は……墓地のカードを手札に加える効果……この意味が分かるか?」

 

「……まさか!?」

 

「そう、そのまさかだ!」

 

 ドリル・ウォリアーでダイレクトアタック

 

 ドリル・ウォリアーの効果で手札を1枚捨てて自身を除外

 

 ガラ空きになったフィールドにダイレクトアタックしてきたところで速攻のかかしでバトルフェイズを強制終了

 

 除外されていたドリル・ウォリアーが自身の効果でフィールドに戻ってくる

 

 墓地にある速攻のかかしを手札に加える。

 

「無限、ではないが手札の続く限り起きうる有限のループ」

 

 そしてこのコンボを崩す方法は墓穴の指名者ぐらいだが、権現坂のデッキはモンスターのみ。

 ドリル・ウォリアーのコンボを強制的にヴェーラーとかで止める方法があるにはあるが、俺は墓穴の指名者を握っている。更には他のモンスターを召喚してシンクロする手札もあり……何処からでも掛かってこい状態である。

 

「ドリル・ウォリアーのダイレクトアタック」

 

「ぐ、ぅ……」

 

 権現坂

 

 2800→1600

 

「手札を1枚捨てて、ドリル・ウォリアーを除外してターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー……俺は超重武者ジシャーQを召喚し、ジシャーQの効果を発動。レベル4以下の超重武者モンスター、ジシャーQを特殊召喚する」

 

「ジシャーQがフィールドに居る限り他のモンスターを攻撃できない……が、他のモンスターを攻撃できないだけでダイレクトアタックは可能」

 

「ぐぅ……スサノーOでダイレクトアタック」

 

「速攻のかかしを墓地に送って、攻撃を無効にしてバトルフェイズを強制終了」

 

「彼岸のダンテを守備表示にしてターンエンドだ」

 

「ふっ、俺のターン、ドロー……LDSとの三本勝負からここまでの間にシンクロとエクシーズ召喚の2つを覚えるのは見事としか言えない。動かざること山の如し、攻防一体のモンスターは恐ろしさを感じる……だが、しかぁし!動かない山ならば無視すればいいんだよ!」

 

 どれだけ強力なモンスターを並べていようとも、真正面からぶつかって来なければその真の力を発揮することは出来ない。

 スサノーOもダンテも強いには強いが今回に限って相手が根本的に悪い。

 

「ドリル・ウォリアーでダイレクトアタック」

 

「ぐぅう」

 

 権現坂

 

 LP1600→400

 

「ドリル・ウォリアーの効果で手札を1枚墓地に送り、自身を除外してターンエンド」

 

「俺のターン……スサノーOでダイレクトアタック」

 

「速攻のかかしでバトルを無効にしバトルフェイズを強制終了」

 

「ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー。ドリル・ウォリアーがフィールドに戻り、墓地より速攻のかかしを手札に加えて、バトル!ドリル・ウォリアーで権現坂にダイレクトアタック!ドリル・スマッシャー」

 

 最後の攻撃だからか何時も以上にやる気を出すドリル・ウォリアー

 ドリルによる回転だけでなく自らの体を回転させて権現坂に突っ込んでいき、権現坂を吹き飛ばした。

 

 権現坂

 

 LP400→0

 

「むぅ……修行によりシンクロ召喚とエクシーズ召喚に辿り着いたが、まだまだの様だったか」

 

「シンクロはともかくエクシーズに関してはなんとも言えないな」

 

 デュエルが終わるとアクションフィールドは消え去り、何時もの見慣れた権現坂道場に。権現坂は腕を上げて今回こそは俺に勝てると思っていたが、まだまだ届かない高みにいる存在だと再認識する。

 シンクロはまだいいとしてエクシーズの方が拙いところが見られた。フルモンのデッキである以上はメインデッキを弄る事に限界があるが、エクストラデッキにはそういう制限は無い。弄るならばエクストラデッキで特にエクシーズだ。

 

「スサノーOを召喚して棒立ちしたまんまもあんま良くなかったぞ。墓地依存なところはあるとしてもあれじゃ超重武者装留付けて守備力上げたビックベンーKと大して変わらん」

 

「っぐう……痛いところを的確についてくる」

 

「まぁ、それを見越した上であんまカードを使わなかったけど」

 

 なにはともあれ速攻のかかしとドリル・ウォリアーのコンボに嵌める事が出来てよかった。

 隕石の可能性が無いとは言えないのでジャンク・シンクロンで色々とぶん回すのが怖いんだよな……あ、次のターンのドロー、ジャンク・シンクロンだ。

 

「けどまぁ、汎用性の高いアクションカードを使ってくるデュエリスト相手なら幾らでも立ち回れるからな……相手が悪かったな」

 

「遊矢が相手だから勝てなかったは言い訳に過ぎん」

 

 ただシンクロとエクシーズが出来ただけじゃ俺には勝てない。

 エンジョイ勢とはいえOCG次元の住人なんだから、はいそうですかと負けられない。特に権現坂みたいに改善の余地が多くあるデッキにはな。

 

「遊矢、よくやったあ!」

 

「はいはい」

 

 別の部屋から出てくる遊勝塾の面々。

 塾長は勝利を我が事の様に喜び、熱い抱擁をかましてこようとするので避ける。なにが悲しくて暑苦しいおっさんから抱きしめられなければならないのか。

 

「遊矢兄ちゃん、すごい!」

 

「権現坂を相手になにもさせないなんて、痺れるぜ!」

 

「だから、さんをつけんかさんを」

 

「あれでまだ全力じゃないんでしょ?」

 

「まーな」

 

 主力であるジャンク・シンクロンもウザいぐらいに出てくるドッペル・ウォリアーも使わなかった。

 その2枚のカードを使えばもっともっとデッキが回るのだが権現坂が相手だとなるとどうしても隕石をイメージしてしまう……コアキメイル・デビルも怯えとかないといけないんだがな。

 

「見せてもらったわ、貴方のデュエル……凄まじいわね」

 

 前回がバーンしかしておらず、まともなデュエル?を見るのははじめてな瑠璃。

 いいデュエルを見せてもらったと俺に拍手を送るので親指を突き上げてサムズアップする。

 

「見せてもらいましたよ、貴方のデュエル。攻防一体の超重武者相手に完璧な防御、圧倒的でした」

 

 拍手を送りながら俺に向かってくるニコ。

 俺のデュエルはデュエルでもなんでもない一方的なゲームとか言ってくるかと思ったが褒めてくれる。

 

「こんなのデュエルでもなんでもないって言わないんだな」

 

「ええ、デュエリストの数だけデュエルが存在する。貴方のデュエルも無数にあるデュエルの1つです」

 

「やめろ。俺はデュエリストじゃない」

 

 いざとなったら徹底的に相手を蹂躙するクソみたいなデッキを使う、デュエリストとは程遠い存在。

 デュエリストと褒められて気分は悪くはないのだが、世間一般的なデュエリストとは程遠いので呼ばれたくはない。

 

「それでお話の方は引き受けていただけますか?」

 

 俺へのヨイショを終えると話は本題に入る。

 舞網ジュニアユース選手権に出場するか否か……正直な話、どっちでもよかったりするんだがな。チラリと柚子にどうした方がいいかの視線を向けると呆れられる。

 

「こんな機会、もしかしたら二度と無いかもしれないわ。引き受けたほうがいいに決まってる」

 

「そうか……」

 

「それにちゃんとした場所で遊矢とデュエルをしてみたいの。タツヤくん達にデュエルを教える為のデュエルじゃなくて私との真剣勝負のデュエルを」

 

「言っとくが俺にちゃんとしたデッキは無いぞ」

 

「それでもよ」

 

 悪ふざけとかネタとかのデッキはあれども、ここぞという時に使う1番のデッキ的なのは無い。

 EM魔術師とか一応は組んでたりはするものの、それはデッキの1つであり、ここぞという時に使ったりはしない。俺にとってはデッキはデッキでしかない。

 

「……優勝したらジュニアユースからユースに昇格……」

 

「プロの資格、取っておいて損はありませんよ」

 

「……わかった。出てやるよ」

 

 どうせオベリスク・フォースとかの余計なのが送られてくるし、否が応でも前線に立たないといけない。

 嫌だな……ナスビとバナナと面と向かわないといけないし、紫キャベツが柚子と瑠璃を攫いに来たりするし、本当にやることがいっぱいだ。

 柚子に関しては既にジュニアユース選手権の出場資格を持っていて……あ〜くそう。考えるだけで胃がキリキリする。なんで俺、主人公やってるんだろう。

 

「ただ1日だけ時間をくれ」

 

「1日、ですか?」

 

 出場する覚悟は決めたが、何故にと首を傾げるニコ。

 

「特別枠で出場するか正規の方法で出場するか決めるんだよ。特別枠で出場したら、また外野がうるさい」

 

 全てデュエルで叩き伏せて優勝すれば問答無用でどいつもこいつも黙るだろう。

 けど禍根的なのが残るのは嫌だし、正規の方法なら文句は言われなさそうだ……けど、残り3戦がめんどくさい。なにより嫌な予感がする。

 

「俺の公式戦の成績は3戦3勝で今年のジュニアユース選手権には残り3勝で出場できる」

 

「え、そんなに少ない数で出場できるの?」

 

「50戦して勝率6割(30勝以上する)か、6連続無敗で勝てば出場できるのよ」

 

「そういうわけだ」

 

「なるほど……お気持ちは分かりました。では、こちらの方で3人のデュエリストをピックアップしておきましょう」

 

「もしかしたら断るかもしれないからそん時はすまん」

 

「いえいえ、出場してくれるだけで私としてはありがたいのです」

 

 一先ずは舞網チャンピオンシップジュニアユース選手権に出ることは決めた。

 恐らくはここから平穏なデュエルは暫くは出来ない……まぁ、負けてもいいデュエルなんて何処にも存在しないから何時も通りだが……あのクソマフラーとクロワッサンは一度何処かで徹底的にやらんとなぁ……




次回予告は無い。


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目指せ、1ターンキル

「瑠璃がこの次元にいただと!?」

 

 遊矢が権現坂をぶっ倒したその日の夜。舞網市のレオ・コーポレーションの付近にあるビル街で2人の男、黒咲隼とユートが会合していた。

 この次元には赤馬零王の息子である赤馬零児を捕まえて戦争を終わらせるべくやって来たのだが、思ったよりも上手く進展はしていない。そもそもで赤馬零児を表に引きずり出さないとならず、その為にLDS狩りをしている。

 最初は普通の生徒や講師を狩っていて最近になって制服組と呼ばれるエリート達が出てきたのだが、未だに表に出てこない。

 

「ああ……どうやらオレ達を止めるために追いかけて来たらしい」

 

「本当に瑠璃なのか?この次元に瑠璃と瓜二つな子がいた。その子じゃないのか」

 

 そんな彼等は近況報告をしている。

 と言っても成果らしい成果はまだ出ていないのだが、それはさておいて黒咲は瑠璃がこのスタンダードと呼ばれる次元に居る事をユートに報告した。柚子と一度顔を合わせているので瑠璃と間違ってるんじゃないかと聞くが黒咲は首を横に振った。

 

LL(リリカル・ルスキニア)を使っていた。あのエクシーズはこの次元の住人には到底使いこなせないものだ」

 

「瑠璃が、この次元に」

 

「それよりも気になるのはあの男……お前と瓜二つなあの男だ」

 

 瑠璃はこの次元に来ている。それは疑いのない事実でそれ以上は言及せずに問題である遊矢を思い出す。

 

「奴め……よくも瑠璃を毒牙に」

 

「瑠璃になにかあったのか!?」

 

「ああ……赤馬零児もそうだが融合次元に出向く際に一度叩きのめさなければ」

 

 思い出すのは瑠璃が遊矢にキスをしようとした瞬間。

 大事な大事な箱入り妹が友人どころか友人と顔が似ている全くの別人とキスをしようとしていた。兄として認めた男ならまだしも、文字通り何処の馬の骨かも分からない奴とイチャイチャしているなど兄として絶対に許さない。殺す。

 

「瑠璃は今はどうしているんだ?」

 

「瑠璃は今、そいつの元にいる」

 

「……その男は悪い奴じゃないんじゃないか?」

 

 瑠璃が悪人と協力するなんてありえない。

 遊矢がどんな感じかは知らないが瑠璃が気を許している人間ならば信用に値する。

 

「ふざけるな!あんな男、お兄ちゃんは認めん」

 

「隼……」

 

 めんどくさいお兄ちゃんモードに入っちまったよ。

 

「第一、スタンダード次元の住人ならば何故瑠璃の事やアカデミアを熟知しているのかが説明がつかない……奴にはなにか後ろめたい事がある」

 

「スタンダードの住人か……隼、もうこんな事はやめにしないか?」

 

 スタンダードの住人であるLDSの生徒をユートは多く狩った。

 LDS狩りのデュエリストならばLDSの生徒としてかたきを討つと多くのデュエリストが言った。誰一人としてエクシーズ次元の住人やアカデミア、融合次元等の言葉を一切言わなかった。

 自分そっくりの男がどうして知っているかどうかは置いておいて、今まで倒してきたデュエリストはなにも知らない。ハートランドの現状とスタンダードの現状を照らし合わせてもこの次元は平和だ。自分達は異物でしかないと感じ始めている。

 

「ならば、今すぐにアカデミアがある融合次元に乗り込むか?」

 

 こんな方法はしたくないならば今すぐに融合次元に乗り込むしかない。熱くなったり頭が色々とおかしくはなっているが、冷静なところはちゃんと冷静だ。残されたレジスタンスと共に融合次元に乗り込むのは危険だと言うことは分かっている。

 ユートもその事は分かっており、黒咲にそう言われるとなにも言えない。

 

「居たぞ!」

 

 黒咲を止めることが出来ずにいるとスーツを着た沢山のグラサン達がこちらに向かってくる。

 例によってLDSかとデュエルディスクを取り出して構えるのだがグラサン達はデュエルディスクを取り出さずに空を見上げるので、なにがあるのかと見上げるとそこにはLDSのロゴが書かれたヘリコプターがやってくる。

 

「……!」

 

「遂に出てきたか」

 

 ヘリコプターから降りてきた素足マフラーこと赤馬零児。

 目当てのデュエリストがやっと来たと黒咲はデュエルディスクを構えるのだが零児はデュエルディスクを構えない。

 

「私を人質にして赤馬零王に交渉をするつもりか?やめておけ」

 

「っ、貴様!」

 

 事情の説明を一切していないのに当てられた事に驚く。

 全ての事情を理解していると黒咲は警戒心を強めるのだが、零児は戦うつもりは毛頭無い。

 

「君達が異邦者なのは知っている……ついてきたまえ」

 

「何処に連れていくつもりだ!」

 

「我等が先兵の槍たる人物を選別する……君にはその手伝いをしてもらおう」

 

「どういう意味だ!」

 

 自分勝手に話を進めていく零児。デュエルをする姿勢はなく、言っていることが本当ならばここでデュエルをしても無駄になる。

 黒咲とユートは何時でもデュエルが可能な状態を保ちながらヘリコプターに乗り込んだ。

 

 

───────────────────────────────────────────────────────────

 

 素足マフラーとユート達が会合した。会話は丸聞こえであり今回の大会で好き勝手やろうとしている。

 ニコに「貴方はプロになるべきです!」と推されている身としてはふざけんなとしか言えない。あのおっさん、普通に俺ならプロになれるって推してくれての次元戦争なんだから笑えない。

 

「母さん、朝ごはんなに?」

 

 ユートたちの事はさておき食事フェイズ。

 デュエリストじゃないけど朝飯は食っておかなければならないのだが、母さんは朝ごはんに手間取っていた。

 

「ちょっと待ってて。今スペシャルサラダとミルフィーユカツを作っているから」

 

「朝っぱらからヘビーだなぁ」

 

「なに言ってるの。縁起を担ぐ為にも作らないと」

 

「って、時間が無い……ごめん、母さん」

 

「ちょ、待ちなさい」 

 

 ミルフィーユカツとスペシャルサラダには興味があるが、割と時間はない。

 一食ぐらいは抜いていても問題は無いと家を出ると、そこには素良がいた。

 

「やっほー、遊矢」

 

「素良か……悪いけど、今急いでる」

 

「急いでるって、今日なにかあるの?」

 

「プロモーターがやって来てるから返事をするんだ……舞網チャンピオンシップが掛かってるから遅刻は出来ない」

 

 何故かは知らないけども物凄い早い時間を指定してきている。

 急いで遊勝塾に向かって走っていくと、素良も後からついてくる。

 

「舞網チャンピオンシップって?」

 

「この街の一大イベントのデュエル大会……とはいえ、お前にとってはレベルが低いだろう」

 

「まぁ、この辺のデュエル塾ってどこもかしこも弱いからね。今更そんな大会に出るなんて意外だね」

 

「プロになってくれって推してくれたんだ……そういえばお前、このままでいいのか?」

 

 ふと気になった。

 素良はこの次元の先兵としてやってきており、俺が強いからとやって来てボコられ、柚子には負けないと挑んではボコられた。

 割とマジで悔しがっていて他のデュエル塾で腕試しをして自信を取り戻した……完全に遊んでるとしか思えない。スタンダードの情報収集とかちゃんとやっているらしいが……。

 

「……君には関係ない」

 

「関係無いか……言っておくが次元戦争的な話をすれば俺はお前の敵だ」

 

「……ああ、そうだね」

 

「大きく派手な戦いになったら俺は慈悲とかデュエリストのプライドとかそういったものを全て捨てたりしたデッキを使う……」

 

「うるさいよ……君こそ降伏した方がいい、理事長はとんでもなく強い」

 

「ふざけんな……止めるなら今の内だ」

 

 そう言うと素良は苦い顔をする。

 アカデミアがやっていることに対しての罪悪感……と言うよりはここでの日々が強く心に残っている。勝つ事が絶対なところがあるアカデミアと比べればヌルいが、負けても楽しく責められることはない環境……アカデミアを知っているからこそ、戦いたくないという情が出ている。

 今の内にこっちに寝返っておけばいいと一言だけ忠告はしてみるものの、素良ははいそうですかと裏切れない。

 

「まぁ、俺のデュエルを見ておけよ」

 

 ああだこうだ言っても人の決心を変えることは難しい。一先ずは俺を見ておいてほしい。

 素良と話をしているとあっという間に遊勝塾に辿り着いた。

 

「やぁやぁ、待っていましたよ。遊矢くん」

 

「待たせたな」

 

「それでどうしますか?」

 

「俺は……3試合をするよ。後でああだこうだ因縁をつけられるとめんどくさいしな」

 

 色々と考えた結果、特別枠での出場を諦めて普通に勝利して正式な方法での出場を決めた。

 こんなやり方でやったとしても外野は色々とうるさいんだろうが、やらないよりもやっておいた方が良い。

 

「貴方ならそう言ってくれると思いました」

 

「そりゃどうも」

 

「では、早速デュエルに向かいましょう」

 

「ええっ!?」

 

「なにを驚いているのですか。3戦デュエルをすると決めたのでしょう。今日はこのまま3試合、纏めてしますよ」

 

 嘘だろ、おい。

 一応はデュエルをすることが出来る様にしているがまさかのトリプルって……まぁ、身内同士のデュエルとかで3連戦とか普通にあるからいいけども。

 いきなりのデュエルには驚いたが、やるならば早いに越したことはないとニコに連れられて料理教室こと霧隠料理スクールにやってきた。

 

「最初の相手はミッチーか」

 

「流石は遊矢くん、対戦相手を瞬時に見抜くとは」

 

 原作通りの対戦相手かどうか心配だったが、杞憂だったようだ。

 美味しい匂いに釣られない様に耐えながら中に入ると巨大なクッキングスタジオがあり、フトシ、アユ、タツヤの3名がいた。

 

「遊矢兄ちゃん!」

 

「3人とも待たせたな」

 

「全然待ってないよ」

 

「そうか……柚子達は?」

 

「遊矢兄ちゃんなら絶対に勝ち進むから最後のデュエル塾で待ってるって……でも、オレ達は最初が気になったから」

 

「う〜ん、この程度のデュエル塾なら全勝しそうだよ」

 

「おや、随分と言うじゃないか」

 

 俺なら勝てると知っているから今回の相手に呆れる素良。

 ハッキリと言ってしまったのでそばかすの青年こと茂古田未知夫……ミッチーが出てくる。

 

「だって、料理を優先してるデュエル塾なんでしょう……こんなの遊矢の圧勝だよ」

 

 ハードル上げるな……それにしても腹が減ったな。

 

「どうやら肝心の彼はお腹を空かせてる様だね」

 

「朝飯を抜いてきたからな」

 

「だったら君に味あわせてあげるよ、僕の完璧なクッキングデュエルを!」

 

「ミッチー、未だに口と書いて味と読む。口に含んでいない未知の存在だから味なんだ……完璧なデュエルも料理も存在しないことをお前に見せてやる!」

 

 ミッチーの母親ことモンペがなんで俺とデュエルをするのかと苦情を言っているが気にしない。

 デュエルディスクを取り出してデッキをセットしアクションフィールド、アクション・キッチンにフィールドが様変わりすると例のデュエルの口上を言い終える。

 

「先攻は俺からだ!俺はフィールド魔法、死皇帝の陵墓を発動!更にエクストラデッキのサイバー・エンド・ドラゴンを除外しSinサイバー・エンド・ドラゴンを特殊召喚!」

 

 Sin サイバー・エンド・ドラゴン

 

 レベル10 闇属性 機械族 攻撃力4000

 

「更に死皇帝の陵墓の効果を発動!アドバンス召喚をする際に必要なモンスターの数×1000ポイントのライフを支払う事でモンスターをリリース無しで召喚できる。俺はライフを2000支払う」

 

 

 遊矢

 

 LP4000→2000

 

「黒金の暴竜よ、現世の狭間を閉ざす鎖錠を破り、我が敵に滅びをもたらせ!現れろ!破滅竜ガンドラX!」

 

 

 破滅竜ガンドラX

 

 レベル10 闇属性 ドラゴン族 攻撃力?

 

「破滅竜ガンドラXの効果を発動。このカードの召喚成功時、このカード以外のフィールドのモンスターを全て破壊してその中で一番攻撃力の高いモンスターの攻撃力分のダメージを与え、破滅竜ガンドラXは与えたダメージと同じ攻撃力になる」

 

「え……と言うことはSinサイバー・エンド・ドラゴンと同じ攻撃力のダメージを……」

 

「そういうことになる……はい、終わり!」

 

 ガンドラXの効果に固まるミッチー。

 アクションカードを拾いに行くかと思いきやそんな事は一切せずにガンドラXの体から放たれる光線が命中する。

 

 

 ミッチー

 

 LP4000→0

 

「……嘘、だろう」

 

「嘘じゃない……ガンドラワンキル(弱)だ」

 

 まだギリギリ禁止カードになっていないガンドラX。

 OCG次元じゃワンキルしすぎたせいで禁止という牢獄に閉じ込められてる……禁止カードは伊達じゃない。

 

「これがストロング石島を倒したデュエル……僕じゃ手も足も出ない……」

 

「悪いな、こっちも時間が押してるんで速攻で終わらせた」

 

 何時も通りのデュエルだったが、仕方がないことだ。

 

「僕のデュエルを味わわせるどころか、逆に味わわされて……これが未知の味……」

 

「遊矢兄ちゃん、先攻ワンキルなんてスゲえ痺れたぜ」

 

「この程度なら幾らでもっと、時間が押してる。お前等ついてくるなら来いよ」

 

「最後のデュエル塾に行くよ……次も絶対に勝ってね」

 

「ああ、任せろ」

 

「遊矢くん、早く行かないとバスに間に合いませんよ」

 

 くそ、やることが多い。

 霧隠料理スクールを急いで後にし、急いでバスに乗り込む。

 

「次に向かうは明晰塾、対戦相手はどなたか分かりますかね?」

 

「彼処でジュニアユースの選手と言えば九庵堂栄太か」

 

「正解です、流石ですね」

 

 原作知識のおかげとも言っておこう。

 移動の最中、次に向かう明晰塾についての説明をするニコ。明晰塾は様々な分野のエリートを排出している塾であり、とにかくインテリのエリートが多く九庵堂栄太は学生クイズの大会で優勝するほどの頭脳明晰とのこと。

 

「やぁ、君が榊遊矢だね」

 

 明晰塾の説明が終わる頃に塾に辿り着いた。

 塾の中に案内してもらうとそこかしこに眼鏡をかけたガリ勉がいて、なんだか辛気臭い感じだと思っていると九庵堂栄太が現れた。

 

「前にテレビで見たよ。九庵堂栄太だな……よろし──」

 

「さてここで問題です!」

 

「……」

 

「今日はよろしくお願いしますをフランス語でなんと言うでしょうか?」

 

「おいおい」

 

「解答は10秒だよ」

 

 いきなりの問題を出して知識のマウントを取ってこようとする九庵堂栄太

 残念ながら俺はそんなに頭がいい方じゃない……故に答えるべき答えは1つしかない。

 

「俺はそこまで教養がないから、その答えは知らないな!」

 

「ふぅん、ペンデュラム召喚を生み出したと言っても」

 

「だから逆にお前に問題を出す。俺が持っている知識で今一番役立つ物はなんでしょう?」

 

「なんだいその問題は」

 

「答えはお前を倒す方法だ!この中で一番知っている!」

 

 今必要なのはフランス語の知識じゃない。デュエルの知識だ。

 人並み程度の知識しかないものの、それでもお前を倒すのには充分過ぎる知識量だ。

 

「言うじゃないか。なら、見せてもらうよその知識!」

 

「お前に見せてやろう!この問題の答えを!」

 

 くだらない前置きはそこまで必要じゃない。

 デュエルディスクを取り出してさっきとは違うデッキをセットするとアクションフィールド、クイズ・フロンティアが展開されていく。

 このアクションフィールド、セットされているアクションカードが全部クイズに答えることが出来たら効果発動系の効果ばっかでデュエルとは関係の無いクイズとか出されるんだよな……おい、デュエルしろ。

 

「先攻は俺からだ。フィールド魔法、チキンレースを発動!チキンレースの効果を発動!ライフを1000ポイント支払い、カードを1枚ドロー!更に魔法カード、テラフォーミングを発動!デッキよりフィールド魔法、チキンレースをサーチ」

 

 遊矢

 

 LP4000→3000

 

「サーチしたチキンレースを発動し、もう一度効果を発動!カードを1枚ドロー!」

 

 遊矢

 

 LP3000→2000

 

 

「おやおやおや、さっきからドローばっかりして手札が悪いようだね」

 

「言ってろ……フィールド魔法、擬似空間を発動!墓地にあるフィールド魔法を除外し、そのカードと同じ効果をこのターンの終わりまで得る。俺はチキンレースを除外し、チキンレースの効果を得て三度効果を発動!ライフを1000支払いカードを1枚ドロー!」

 

 遊矢

 

 LP2000→1000

 

「カードを2枚セットし、手札とフィールドのカードを全て墓地に送り、大逆転クイズを発動。自分のデッキの一番上にあるカードの種類を宣言。当てた場合、相手と自分のライフを入れ替える」

 

「さっきから何をやってるかと思ったら、そんな運に頼るなんて心外だな」

 

「それはどうかな?俺は一切運に頼っていない……何故ならこのデッキには魔法カードしか入っていないからだ。俺は魔法カードを宣言!ドロー……ドローしたカードは成金ゴブリン、よってお前と俺のライフは入れ替わる」

 

 遊矢

 

 LP1000→4000

 

 九庵堂栄太

 

 LP4000→1000

 

「ライフが……で、でもここまでだ!これ以上はライフを変えることは」

 

「言っただろう。俺はお前を倒すことだけは知っているって。セットしていた2枚の風魔手裏剣の効果を発動。このカードがフィールドから墓地に送られた時、相手には700ポイントのダメージを、合計1400ポイントのダメージを与える」

 

「ぎょ、ぎょえええええええ!」

 

 

 九庵堂栄太

 

 LP1000→0

 

「はい、終了!次に行くぞ、次ぃ!」

 

 もう一戦、デュエルが残っているんだ。遊んでいる暇は何処にもない。

 万が一九庵堂栄太と戦うときが来たとき用にと作っていたデッキは予想以上に効果を発揮したが今は感傷に浸ってる場合じゃない。急いで次に行かなければならないとミッチーの時よりも更に急ぎ足で明晰塾を後にし、バスに乗り込む。

 

「はぁ〜……」

 

「おや、随分とお疲れの様ですね」

 

「デュエルはともかくとしてこの移動が思ったよりも大変なんだよ」

 

 どっちも先攻ワンキルでよくあるデュエルだけで疲れはない。

 けど、デュエルをしてはバスを使っての移動なんて遠征とかしない遊勝塾じゃやらないことで見た目以上に疲れが出ている。

 

「この程度で根を上げてはいけませんよ。下積み生活のプロは地方営業と言った業務を欠かせません、こういった事には馴れなければ」

 

「まぁ……そうだな」

 

 これからもっと辛い目に遭うのがわかっていると胃が痛い。

 とりあえず市販の胃薬とか正露丸的なの買っておこう……うん、そうじゃないとホントにキツイなこれは。デュエルで勝利しとけばある程度は問題解決出来るけど……ああくそ、平和なデュエルはここまでなんだよな。

 

「よくこんなのを建てれたよな」

 

 胃がキリキリしつつも辿り着いたのは海野占い塾。

 ホーンデット・マンションだかタワー・オブ・テラーだか分かんない見た目をしている……占いの館よりもお化け屋敷感が強いな。ニコもローブを被ってそれらしい演出をしている。

 

「遊矢兄ちゃん」

 

「お前等、待たせたな」

 

「ううん、そんなに待ってないよ。遊矢お兄ちゃん、一時間しか経ってないし」

 

「痺れるデュエルしてくれよな!」

 

「いやぁ、どうだろうな」

 

 俺のデュエルは普通のデュエルでありエンタメデュエルじゃないんだよな。

 

「遊矢、待ってたわ」

 

「その様子だと連勝したみたいね」

 

「待たせたな、柚子、瑠璃」

 

 タツヤ達に軽く声をかけると柚子と瑠璃が出てくる。最初からここにいた二人に声をかける……こういう日常での一時がホッとする。

 このデュエルがある意味最後の普通のデュエルの可能性がある……よし、ワンキルするか。

 

「待っていたわよ!ミエルの運命の人!」

 

 あ、死んだかも。

 

 デュエルディスクにデッキをセットし直していると対戦相手の方中ミエルがテンションを爆上げしながらやって来た。

 ビシリと俺を指さしてとんでもない事を言い出す……ヤバい、後ろを見ることが出来ない。

 

「嘘……こんなのがミエルの運命の人なの!?マッチョなダンディズムでもクールなエリートデュエリストでも家庭的な一面を持ってるんでもないじゃないの!?」

 

「悪かったな」

 

 権現坂みたいな漢と書いて(おとこ)じゃないし沢渡みたいな切れる3枚目じゃない。

 人間として種の繁栄を捨てて衰退の一途を辿っていた割と何処にでもいる感じで一時期遊戯王じゃなくてポケモンカードやってたぐらいだ。

 

「……ええ、そうよ」

 

「ん?」

 

「遊矢はマッチョなダンディズムでもクールなエリートデュエリストでも家庭的な面を持つ男でもないわ……ミエル、貴方の運命の人なんかじゃないわ」

 

「でも、ミエルの占いは外れた試しがないのよ」

 

「貴方の占いだとこのデュエルの結果はどう見えてるの?」

 

「そりゃ勿論、ミエルの勝利に決まってるわ!」

 

「残念よ、ミエル……このデュエルは遊矢の勝ちで終わる。貴方の占いは外れてるのよ」

 

 ハリセンを取り出して襲い掛かってくるのか心配だったが珍しく静かな柚子……いや、違う。

 

「貴女の運命の相手が遊矢なわけないじゃない」

 

 目が全然笑ってない。

 柚子、ミエルが違うんじゃないかと疑問を持たせて強く否定したり露骨な反応を見せたりしない。あえて肯定したりすることで俺からミエルを遠ざける……ツンデレのツンを出したままにしてデレる事なく終わらせるつもりだ。ストロングすぎるぞ、柚子。

 

「遊矢、ち、違うわよね……」

 

「違うと思うぞ」

 

「思うじゃなくてハッキリと言って!ほら、早く!」

 

 おっと、瑠璃もストロングだった。

 シュラバラートな空気を生み出しており今からデュエルする空気じゃねえよ。

 

「遊矢兄ちゃん、ここ占い塾も兼ねてるから後で恋愛運を占ってもらったら?」

 

「多分死相か女難の相が出てるぜ」

 

「どっちかハッキリと選べばいいのにね」

 

 タツヤとフトシとアユの言葉が本当に痛い。

 それはともかく後でマジで一回占ってもらおう。ズァークの影響でマジの占いが出来ないとか言われそうだけど。

 

「貴方がミエルの運命の相手かどうか見てあげるわ!」

 

「俺は恋愛相談に来たんじゃない」

 

 そういうのはオカマバーでやるべきことだ。

 本日3度目となるアクションデュエルの前口上を言い終えるとアクションフィールドが展開される。

 

「先攻は俺だ!俺のターン、俺は強欲で金満な壺を発動!エクストラデッキのカードを6枚裏側表示で除外し2枚ドロー!更にカード・アドバンスを発動!デッキトップ5枚を確認し好きな順番で……お楽しみはここまでだ!」

 

「あれは……遊矢の1ターンキル宣言!」

 

「デッキトップ5枚を見ただけなのに、もう1ターンキル宣言ですって!?」

 

 ミエル、見せてやろう。圧倒的な力というのを。

 

「俺は魔法カード、真実の名を発動。デッキトップのカードを宣言し手札に加える。宣言した通りのカードならばある属性のモンスターを特殊召喚できる!」

 

「ある属性?」

 

「タツヤ、デュエルモンスターズの種族と属性、全部言えるか?」

 

「えっと、獣戦士族、海竜族、岩石族、植物族、幻竜族、アンデット族、恐竜族、爬虫類族、魚族、天使族、悪魔族、サイキック族、ドラゴン族

、魔法使い族、戦士族、鳥獣族、炎族、獣族、機械族、昆虫族、雷族、水族で地属性、水属性、火属性、風属性、闇属性、光属性だよね」

 

「違うな!」

 

「ええっ、違うの!」

 

「見せてやろう!7番目の属性、神属性を……俺が宣言するカードは光の創造神ホルアクティ!手札に加えたカードは光の創造神ホルアクティ!よってデッキよりオシリスの天空竜を呼び出す。冥王オシリスよ我が絶対の力となりて我が領域に降臨せよ!冥府を揺るがせる全知たる力で俺に勝利をもたらすのだ!現れるがいいオシリスの天空竜!」

 

 オシリスの天空竜

 

 レベル10 神属性 幻神獣族 攻撃力?

 

「なに……これ……」

 

 神の降臨を見て固まるミエル。

 それもそのはず、このカードは俺しか持っていないとんでもないOCG仕様のカード……。

 

「オシリスの天空竜の攻撃力は手札の枚数により決まる。俺の手札は5枚、よって攻撃力は5000」

 

 オシリスの天空竜

 

 攻撃力?→5000

 

「攻撃力5000……でも、これは先攻よ!どれだけ攻撃力に優れていても攻撃出来なければ意味はないわ!」

 

「相手のライフを0にするだけがデュエルの勝利じゃない。俺は愚かな埋葬を発動し、デッキよりオベリスクの巨神兵を墓地に送って魔法カード死者蘇生を発動!オベリスクの巨神兵を蘇らせる!破壊神オベリスク!我が絶対の神となりて我が領域に降臨せよ!天地を揺るがす全能たる力によって俺に勝利をもたらすのだ! オベリスクの巨神兵!」

 

 次に現れるは青き巨神兵、オベリスク

 

 

 オベリスクの巨神兵

 

 レベル10 神属性 幻神獣族 攻撃力4000

 

「攻撃力が4000……」

 

 オベリスクの原作効果はモンスターを2体生贄にしてオベリスクの攻撃力分のダメージを与える。

 コストは重いもののその効果は絶大で相手のターンでも使えるフリーチェーンのインチキ効果……残念だが、このオベリスクはOCGオベリスクだから使えないんだよな。

 

「更に手札のラーの翼神竜を墓地に送り、千年の啓示を発動!墓地より死者蘇生を手札に加え、発動!ラーの翼神竜よ降臨せよ!」

 

 本来ならば特殊召喚することが出来ないラーの翼神竜。

 千年の啓示の効果で召喚条件を無視して特殊召喚をする事ができる……

 

「いくぞ!オシリスの天空竜、オベリスクの巨神兵、ラーの翼神竜をリリースし……光の創造神ホルアクティを特殊召喚!そしてこの瞬間、光の創造神ホルアクティの効果。このデュエルに俺は勝利する!」

 

 光の創造神ホルアクティ

 

 レベル12 神属性 創造神族 攻撃力?

 

 

「嘘……特殊勝利」

 

「そう……そしてホルアクティの特殊召喚は何人たりとも無効に出来ない……闇を討ち祓え!ジェセル」

 

「そんなミエルの占いが……ハズレた」

 

 榊遊矢

 

 光の創造神ホルアクティの効果により勝利

 

 

 俺の宣言した通り1ターンキルでデュエルは終わりを告げる。

 3つのデュエル塾、異なる先攻1ターンキルで終わらせることが出来た。

 

「お前の占いじゃ俺の負けだったがハズレ」

 

「ダァアアリイイイン!」

 

「ゔぇっ!?」

 

 お前の占いは間違っていたと教えて終わらせようとすると目を輝かせて飛び込んでくるミエル。

 

「今、確信したわ!貴方は間違いなくミエルの運命の人よ」

 

「っち、違う……ッハ!」

 

 この状況は非常にまずい。

 後ろを振り向くと柚子はハリセンを構えており、フトシ達はなんまいだ〜なんまいだ〜と念仏を唱えている。

 

「遊矢……違うわよね」

 

「え?」

 

「ミエルは貴方の運命の人じゃない、そうよね」

 

「は、はい……」

 

「だったら、はい……退治して」

 

 ハリセンを俺に託す柚子……え、つまりはアレか?

 ミエルを自分の手でぶっ倒す(物理)をやって貴方は私のものだと証明しろって言うのか……ミエルの事はちゃんと断らないといけないし、これはあり

 

「騙されないで、遊矢。それを振るったら最後、貴方は柚子を認めた事になるわ!」

 

「……っは、確かに」

 

「何を言ってるのよ……事実でしょ」

 

 うわ、遂にとんでもない事を言い出したよ……あれでも、これって告白になるのか?

 柚子との付き合いはそれはそれは長いけれど、まともな告白的な事はされた覚えはない……それだとちょっと嬉しい。

 

「遊矢お兄ちゃん、なにニヤけてるの。修羅場だよ」

 

「癪に障るけど柚子、ここは一時休戦よ。今はまずミエルを倒すわ」

 

「仕方ないわね……足を引っ張らないでよ」

 

「遊矢兄ちゃん逃げるなら早いところ逃げた方がいいぜ……多分、どんな結果でも痺れるぐらい地獄だから」

 

 わー……逃げちゃ駄目だって言わなきゃいけない気もするけど、逃げの一択しかない。

 タツヤがいつの間にか逃走経路を用意してくれる。やだ、この子達優秀過ぎる……いや、ホント優秀で助かる。

 

「あ、占い塾の塾長、俺の運勢を見てほしい」

 

「死相と女難の相がくっきりと出てます……諦めて腹を括ってください」

 

 かーなーしーみのーはまだ迎えたくない。

 柚子と瑠璃がミエルと変則タッグデュエルをしている横で俺はタツヤ達と共に海野占い塾を出た。

 

「遊矢くん、プロになる上ではある程度は清らかでなくてはなりません……怖いので早く決着をつけてください」

 

 





遂にはじまった舞網ジュニアユース選手権

宣誓……めんどくさいから省略、優勝するのは俺だ。何処からでもかかってこいや

遊矢、それは大胆すぎるぞ!

綺麗な言葉を見繕っても全員腹の中じゃ俺が1番だと思ってるんだからやるっきゃない。

それでも限度ってものがあるでしょう、もう……でも、私負けないわよ

ハッハッハ、かかってこいや


次回、、遊戯王ARC-V 【開幕 舞網チャンピオンシップ】にガッチャビングデュエルアクセラレーション!!


っち、あのクロワッサン、出場してやがる

瑠璃、何故瑠璃が大会に出場を!


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開幕 舞網チャンピオンシップ

実名出すか出さないか検討中


 黒咲の撒き餌は成功し、赤馬零児とのコンタクトに成功するものの赤馬零児は人質の価値は無く、それどころか赤馬零王と戦おうという意思を持っていた。敵対する理由は何処にもないと黒咲を仲間に引き込み暫くするとユートと再会をし、情報交換をし合う。

 柚子と一回出会っているユートは人違いではと考える。しかし、黒咲は違うと断定する。実際に出会ったのは瑠璃であった。

 

「彼女は間違いなく黒咲瑠璃だ。君の言う似た少女は柊柚子の事だろう」

 

 三本勝負の場には瑠璃も柚子も居たのを零児は知っている。似ているが同一人物ではない。

 その事を聞いてユートはここに来ていたのかと考える。

 

「瑠璃は無事なんだろうか」

 

「我々が身辺調査をしたところ、彼女は遊勝塾で世話になっている。彼処には榊遊矢という君とそっくりな腕利きのデュエリストがいる。彼ならばアカデミアの刺客を容易に退ける事が可能だ」

 

 いいえ、彼はデュエリストでなく遊戯王民です。

 瑠璃が無事だと分かるとユートはホッとするが黒咲がかなりの殺意を剥き出しにしている事に気付く。

 

「瑠璃が心配なのはわかるが、無事ならばそれでいいじゃないか」

 

「違う。俺が気にしているのは瑠璃ではない。瑠璃の邪魔虫であるあの男だ」

 

「あの男?」

 

「榊遊矢の事か」

 

 現在黒咲が向けている殺意の矛先には遊矢がいる。大事な大事な妹を寝取った男がだ。

 

「あの男はこの戦争について全てを知っている不可思議な男だ」

 

「瑠璃から全て聞いたんじゃないのか?」

 

「違う!奴は恐らくはアカデミアが此方の世界を侵攻すべく送り込んできた尖兵だ」

 

「いや、その線は薄いだろう」

 

 遊矢に敵意を剥き出しにする黒咲。

 しかし、その可能性はほぼ0だ。なにせ遊矢はスタンダード生まれのスタンダード育ちの極々普通のデュエリスト(笑)なのだから。

 

「だったら奴は何者だと言うのだ!この次元の住人はアカデミアの事を、この次元戦争についてなにも知らない。だが奴は、あの男は全て知っていた」

 

「彼についてはLDS側も色々と不明なところがある。見よ、これを」

 

 零児は立体映像を映し出す。

 そこには粉々に壊れてしまった機材が多数存在しており、何事かと思えば遊矢の顔と3枚のカードが映し出される。

 

「昨日、彼は舞網チャンピオンシップに出場すべく他のデュエル塾と公式戦を行った。その結果、3本とも先攻1ターンキルで終わった」

 

「全て先攻1ターンキル……それは凄まじいな」

 

「問題はその3本目の勝負だ。彼は何処から入手したか不明の未知のカードを多数所持している。ペンデュラムモンスターもその一例だが、今回は更に大きな召喚のエネルギーを感じた」

 

 それがこれだと密かに手に入れたデュエルの記録を見せる。

 それはもうデュエルと言っていいのか分からない程に1人でやっている高度なソリティアであり、ユートも黒咲も圧巻する。

 

「神属性のカードだと、デュエルモンスターズには6つの属性しか無いはずだ」

 

「赤馬零児、奴は一体何者なのだ!」

 

「それは私にも分からない……だが、彼ならば赤馬零王に対抗する一番槍になってくれよう。その為にも君達には是非とも協力をしてもらいたい」

 

 赤馬零児による計画は着々と進んでいく。

 しかし当然の様に遊矢はその事を知っている。ニコにプロを目指さないかと誘われたのでどうしたものかと頭を抱える。なにせ下手をすれば今回が最後の大会になるのかもしれないのだから。

 

 

 

_________________________________________________________________

 

 

 

 

「ふぁ~、眠い」

 

 舞網チャンピオンシップが今日から開幕する。プロを目指して日夜特訓していたデュエリスト達が今日から激闘を繰り広げる。

 そんな大事な大事な大会なのだが、色々と大変な事になる……本当に楽しいデュエルはいったい何処に行ったのやら不明だ。

 

「遊矢、今日は大事な日だって言うのに随分と呑気なのね」

 

「瑠璃、いい事を教えておく。これが俺の通常運転だ」

 

 大きなあくびを出している俺に瑠璃は少しだけ呆れる。

 こんなのんびりとしていて大丈夫かと心配もするが、俺からすれば気張りすぎるのもどうかと思う。権現坂の様に熱くなりすぎるのもいいが、氷の様な冷静さと動じない平常心が大事だ。

 

「でも、良かったの?塾長達と一緒に向かわなくて」

 

 現在、俺と瑠璃は歩いて舞網チャンピオンシップの会場へと向かっている。

 遊勝塾が出してくれるバスには乗らない。

 

「俺、乗り物が苦手なんだよ」

 

 榊遊矢になるよりも前から乗り物に弱い。少しだけならばいいが、長距離のバス移動とか何かをしながらでの移動とか特にキツイ。

 この前のデュエル三本勝負の時は事前に酔い止めを飲んでいたから良かったけど、酔い止めを飲みすぎたら酔い止め慣れして薬が効かなくなる恐れがある。

 

「それにな、俺はこの時間を大事にしたいんだ……多分、もうすぐ大変な戦いが待ってる」

 

 パッと会場に足を運んでもいいのだが、忘れちゃいけない事はある。

 今回の舞網チャンピオンシップ、あのクソメガネもとい社長が槍サーを選出すべくシッチャカメッチャカしてくれる。融合次元の事を放置しておけばそれはもう大変な事になってしまう。流石にそれは見過ごす事は出来ない。

 

「ごめんなさい」

 

「お前が謝る事じゃない」

 

 こんな事に巻き込んでしまったと瑠璃は謝るが、瑠璃のせいではない。

 全ては娘を復活させようと企んでいるハゲが悪いことだ……互いの次元同士不干渉で良かったのに、無理に干渉しているんだ。

 

「瑠璃、先に言っておくが俺はデュエリストなんてものとは程遠い存在だ。舞網チャンピオンシップは何時も通りのデュエルをするが、そうでないのならば容赦の無いデッキを使う……それはきっとお前が俺を軽蔑するほどだ」

 

 自分で作っておいてなんだが、これはまずいと思えるデッキが出来た。

 きっと俺以外にも遊戯王の世界に転生をした人達がいたとしてもやらないような途轍もないデッキだ。デュエリストの風上にも置けないデュエルを俺はする。

 

「遊矢のデュエルは遊矢のデュエルよ。私は否定はしないわ」

 

「そうか……瑠璃、俺のデュエルは刺激的だぞ」

 

「ええ。フトシくんの言葉を借りるなら痺れるデュエルを見せてね」

 

 痺れるデュエルか。生憎な事に俺はOCG次元では極々普通のデュエルをしているだけに過ぎない。

 瑠璃と仲良く談笑をしつつも舞網チャンピオンシップの会場に辿り着くとそこにはハリセンを持った柚子と水晶玉を持ったミエルが対峙していた。いや、どゆこと。

 

「あ、遊矢お兄ちゃん」

 

「アユ、いったいなにがあっ──」

 

「待っていたわよ、ダーリン!!」

 

「このっ、遊矢から離れなさい!!」

 

 アユに状況説明を求めると颯爽と俺に飛びついてくるミエル。

 柚子は俺からミエルを引き剥がそうとするが、ミエルの力の方が上なのか中々に剥がれない。周りにいる別の塾からはこのハーレム野郎がと睨まれはするのだが、俺は純愛派なのである。3人に攻められてどう応えればいいのか物凄くチキっているけど。

 

「ミエル、俺はお前の運命の人じゃない」

 

「そんな事は無いわ。貴方はミエルの運命の人、いいえ、運命を打ち破る人なのよ!」

 

「運命を打ち破るか」

 

「私のダーリンにふさわしい人よ!!」

 

「さっきから聞いてれば遊矢をものみたいに扱って……遊矢はわたっ……瑠璃、言ってやりなさい!」

 

「えっ、そこは柚子が言うんじゃ」

 

「無理無理、柚子姉ちゃんはそこから先を言えないヘタレだから」

 

「誰がヘタレよ!!」

 

 ツンデレとはまた違う柚子が見れてエモいです。

 とはいえ、瑠璃に火の粉が飛んできてこのままでは何時俺にハリセンが飛んでくるのか分からなくて怖い。

 

「公共の場で痴話騒ぎはやめんかお前等!」

 

 やだ、権ちゃんイケメン。

 公共の場でキャットファイトを繰り広げる3名を一喝して落ち着かせる。流石だぜ、権現坂。

 

「遊矢よ、お前もお前で原因があるのだぞ」

 

「まぁまぁ落ち着いて……これ以上は睨まれたくはない」

 

 こんな馬鹿騒ぎ起こしているから周りは四方八方敵だらけ。リア充滅びろなんて声も聞こえなくはない。

 流石の俺もそこまでメンタルは強くはないので縮こまっているとニヤニヤした悪役ヅラの男……暗黒寺が俺の前にやってくる。

 

「何処かで見たことがあると思えば逃げ出したチャンピオンの息子じゃねえか」

 

「そういうお前は俺がボコボコに倒したチャンピオンを崇拝する1信者……悪いがお前レベルの雑魚には今のところは興味がない」

 

「だ、誰が雑魚だと!!」

 

 俺と渡り合いたいというのならばせめて沢渡レベルのデュエリストになってからこい。

 と言ってもあいつなんだかんだで強いからな……はてさて、どうしたものなのか。安い挑発に乗ってくるので底が見えたため俺は相手をしない。暗黒寺は何時でも俺を倒せると言いたげだったが、俺はそう安々と負けはしない。

 

「さて……俺は此処で優勝を果たしてプロの道を歩んでいく。今回は何時も楽しくデュエルをする遊矢お兄さんじゃなく本気で潰すつもりでデュエルをする遊矢としてデュエルをさせてもらうか」

 

「遊矢……頑張ってね、塾長達と応援してるわ」

 

「ま、見ててくれよ」

 

 俺はデュエリストじゃないけどもデュエルする事は出来るんだ。間もなく開会式が始まるとの事で選手ではない瑠璃はこの場を後にした。

 

「レディースアンドジェントルメン!!今年もこの季節がやってまいりました!!舞網チャンピオンシップの時間です!!司会は私、ニコ・スマイリー!さぁ、選手達いえ、デュエリスト達の入場です!!」

 

 特にコレといったトラブルが起きることはなく舞網チャンピオンシップの開会式ははじまる。

 プラカードを持ったお姉さんに誘導されて歩いていくと舞網チャンピオンシップの会場に姿を見せる……満員御礼、相撲用語だがその言葉が最も似合う程に会場は熱気に包まれていく。

 

「さぁさぁ、先頭はこの御方!新たなる召喚、ペンデュラム召喚を生み出した開祖!プロすらも手球に取る次元を超えし稀代のデュエリスト!その名も榊遊矢」

 

「ハードル上げるなぁ……ま、コレもプロになる上での試練ってところか」

 

 やたらと俺を盛り上げてくるニコ。

 俺としてはそんな事をせずともデュエルの腕一つで黙らせるのだが、こういう口上を受けて綺麗に対応するのもまたプロデュエリストに必要な能力なので俺は腕を大きく掲げて周囲にアピールする。

 周りは待ってましたと言わんばかりに歓声を上げる……勝ち続ければ天国なプロの世界がいかにシビアなのかが思い知らされる。俺は遊勝塾で楽しくデュエルを教えられればそれでいいんだがな。

 

「……!」

 

 ニコが次の目ぼしいデュエリストの紹介をしていくと俺のアピールタイムは終わった。

 後は気長に開会式が終わるのを待っていると殺気を感じたので振り向くけばクロワッサンもとい黒咲が居た。俺を強く睨んできており、殺意を向けている……瑠璃の件に関してはほぼほぼお前の自業自得であり、俺は悪くねえ。

 

「どうしたの遊矢?」

 

 難しい顔になっていたのか柚子は心配してくる。

 俺の僅かな表情の変化を読み取るとはと思っていると黒咲は驚いた顔をしており此方に近付いてくる

 

「瑠璃!どうして瑠璃がここに居るんだ!?」

 

「え、どうして瑠璃の事を……貴方、まさか!」

 

「彼女は瑠璃ではない……柚子は柚子だ」

 

「ごふっ……」

 

 人違いと言うには少々難しいのだが瑠璃と柚子は違う。

 お淑やかさとかあどけなさが特に違う。茄子がこの場に居ないので茄子に代わって腹パンを叩き込む。

 

「貴方が遊矢を……よくも遊矢を……」

 

「敵討ちなんて馬鹿な真似は止せ……あいつ、無駄に強いぞ」

 

 俺の頬を傷つけた事に対して柚子は怒りを顕にするのだが黒咲はその辺のデュエリストじゃない。並大抵のデュエリストならば簡単にボコボコにする事が出来るこの大会でも頭一つ抜き出ている次元の違うデュエリストだ。柚子が決して弱いわけではないが相手が悪過ぎる。

 

「それでは選手宣誓を遊勝塾の榊遊矢選手、お願いします!」

 

「宣誓……めんどくさいから省略、優勝するのは俺だ。何処からでもかかってこいや!!」

 

 マイクパフォーマンスもプロの仕事である。

 ニコは俺にマイクを渡してきたので選手宣誓をしようと思ったが、ここはハードルを上げておかなければ面白味に欠ける。この大会に優勝する為に参加している。どんな敵が相手だろうともオレはやりきってみせる。デュエリストじゃなくてもデュエルに勝てると証明してみせる。

 

「遊矢、それは大胆すぎるぞ!」

 

 俺のマイクパフォーマンスに権現坂はあたふたする。

 

「馬鹿を言っちゃいけねえ。綺麗な言葉を見繕っても全員腹の中じゃ俺が1番だと思ってるんだからやるっきゃない」

 

「それでも限度ってものがあるでしょう、もう……でも、私負けないわよ!遊矢に勝って優勝してみせるわ!!」

 

 やる気満々の柚子。そうだ、それでいい。そうでないとカードゲームの面白味に欠ける。山はある程度は大きくなければ意味が無い。

 柚子が打倒俺宣言をすると他のデュエル塾の面々もあんな事を言う奴には負けていられるかと闘志を燃やしている。発破をかけて正解だったな。

 

「ハッハッハッハ……かかってこいや」

 

「あの遊矢選手、もういいですよ」

 

 派手なマイクパフォーマンスはもういいとニコにマイクを取り上げられる。

 意外と爆弾発言が多い俺にヒヤヒヤしているんだろうが俺には清廉潔白は似合わないんだよ。そういうのは権現坂や柚子が似合うんだ。

 

「では、選手の皆様デュエルディスクをお手に装着」

 

 マイクパフォーマンスが終わったのでニコは進行を続けていく。

 デュエルディスクを腕に装備するとプラカードを持っていたお姉さんからIDカードの様な物を渡されたのでデュエルディスクに読み込ませると一回戦の対戦相手がデュエルディスクの液晶に映し出される。

 

「ハーハッハッハ!流石はオレ様だ!一回戦から場を盛り上げる為の踏み台を用意してくれるとはな!!」

 

「五月蝿いな……一回戦の相手はお前か、沢渡」

 

 デュエルディスクに映し出されたのは沢渡だった。

 原作ブレイクをしていて黒咲と因縁があるので一回戦の相手が黒咲の可能性があったが……運営が俺が何処までのデュエリストなのか試す為にある程度の実力者である沢渡を噛ませ犬にした……のだろうか。この大会、裏でレオコーポレーションが好き勝手にやっているせいで先がそこまで読めない。

 

「一回戦にお前とデュエルをするのはちょっとばっかし残念だが、お前を倒して沢渡世代を作り上げる礎にしてやる!」

 

「なんだよ沢渡世代って……今回も俺の1ターンキルによる殺意を見せつけてやるよ」

 

 ただまぁ、沢渡と一回戦で戦うのは少しだけだが惜しい。準決勝辺りで戦ってカッコよく勝利を決めて圧倒的な強者の風格を漂わせるデュエリストになりたかった。

 

「柚子、権現坂、お前達の対戦相手は誰だった?」

 

「俺の対戦相手は暗黒寺だ……まさか一回戦に当たる事になろうとは」

 

「私の相手は真澄よ……あの時は遊矢が戦ったけれど、今度は私が勝ってみせるわ!!」

 

 柚子と権現坂の対戦相手は特に変わってはいなかった。

 これで気になるところは黒咲のみ。素良は居ない。デュエルを応援はしてくれるらしいが……どうなるのか、ホントに先が読めないな。



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舞網 ワンキルフェスティバル

前回までのあらすじ

けっきょく おれが いちばん つよくて すごいんだよね 


 

「餅カエルでダイレクトアタック!!」

 

「っ!!」

 

 舞網チャンピオンシップが開催した。

 初日の今日は俺の出番は無く、ジュニアクラスのアユ、フトシ、タツヤの3名が優勝を目指してデュエルを行う……のだがな。

 

「わ〜い、やった!!」

 

 原作通りに事は動かないというか……アユの一回戦の相手である赤馬零羅にアユはワンショットキルをきめた。

 エクシーズ召喚でこの時代ではまだ禁止ではないっぽい餅カエルを召喚してCCCを無効化にした……平均打点2500超えの盤面はそう安々と乗り越える事が出来なかったと言うわけか……まぁ、いいか。

 

「負け……僕の負け……」

 

 負けたことをイマイチ受け止めきれない零羅。クソメガネもといマフラーこと赤馬零児の様にと思ったがOCG次元産のトマトのおかげでアユは尋常じゃない程に強くなっていた。

 

「あの子、中々にやるけどアユの相手じゃなかったね」

 

 ペロキャンを口に咥えながら素良は冷静に語る。

 零羅は決して弱いデュエリストじゃない、むしろ強い方だがアユがそれを遥かに上回ってしまっている……アクアアクトレスと湿地草原と一族の結束のコンボは半端じゃねえ。平均打点2500超えとかおかしい。OCG次元じゃコレで普通のデッキなんだから恐ろしい。

 

「……兄さん、どうして……」

 

 アユが勝利を収めたので遊勝塾のジュニアクラスの3人とも一回戦を突破する事が出来たと塾長達は喜ぶ。

 そんな中で瑠璃は浮かない顔をしている。それもそうだろう、LDS狩りをしていた筈の兄である黒咲が次元戦争とは全く関係無い舞網チャンピオンシップに参加している。なにか裏があるのは確かで……今回の舞網チャンピオンシップは例年とは大きく異なる。

 皆真面目に必死になってプロデュエリストになろうとしている中で次元戦争に巻き込もうとしているのは見過ごすわけにはいかない。

 

「安心しろ。アイツは俺がぶっ飛ばしてやるよ」

 

「遊矢……」

 

「裏があるのは確かだけど、それを踏まえた上で俺は勝ち抜く……プロデュエリストになるために。俺は優勝する……だから見ていてくれよ、俺のデュエルを」

 

 とまぁ、カッコつけるのは良いけれども今日は俺のデュエルは無い。

 対戦相手が沢渡となると並大抵のデュエルでは終わらない……アイツ、コロコロとデッキを交換するからな。帝で来るのか……いや、アイツの事だからこの前ペンデュラム召喚出来なかった腹いせに妖仙獣で来る……事を祈ろうか。

 

「じゃあ、行ってくるわね」

 

 俺の試合は無いが柚子の試合はある。

 相手は原作通り光津真澄、ジェムナイトデッキの使い手……俺がチェーンバーンにより先攻1キルしてしまったせいでロクに活躍が無かったが、LDSのジュニアユースクラスの融合コース首席のデュエリストであることには変わりはない。

 

「勝ってこい……俺はお前等を上に引っ張ることはしても待つつもりは無いからな」

 

「ええ、相手はLDSのデュエリスト。相手にとって不足は無いわ!」

 

 裏で色々と陰謀が渦巻いているが、そればっかりはなるようになれだ。

 柚子の背中を見て声援を送ると会場を移動して観客席に座るのだが、隣にいるのが塾長だ。

 

「うぉー!柚子!ファイトだ!!熱血だ、見せつけてくれ、遊勝塾魂を!!」

 

「塾長、落ち着いて……」

 

「柚子、俺は1ファンとしてお前に10人、いや、100人分の声援を送る!」

 

「ならばこの権現坂も100人分の声援を送ろうではないか!!」

 

「2人合わせて200人だ!頑張れ、柚子ぅうううう!!」

 

 ダメだこりゃあ。試合が無い権現坂も声援に熱が入っており暑苦しい姿を見せつける。

 隣に居る俺を完全に気にしていない。柚子は顔を真っ赤にして少しだけはずかしそうにしている。

 

「塾長と兄さん……塾長の方が良いわね」

 

 恥ずかしいけども声援を送ってくれる塾長と度が過ぎるシスコンの黒咲を比較する。

 そういうことはあんま良くない事だけども黒咲に恨みはあるので止めはしない。自業自得だ馬鹿野郎。

 

『一回戦、第4試合!ジュニアクラスでの準優勝の経験もある遊勝塾のアイドル、柊柚子!対するは天下のLDS、融合コース首席のデュエリスト光津真澄!!見逃す事は出来ない好カードです!』

 

「遊矢兄ちゃん、相手の光津真澄って強いの?」

 

「ん〜曲がりなりにも融合コースの首席だからな。強いことは強い……ただまぁ、上には上がいる。同じ融合使いでも素良の方が上だ」

 

「でも、強い事には変わりないんでしょ?」

 

 柚子の対戦相手が光津真澄なだけに色々と心配をしているタツヤやアユ。

 俺の情報が間違いなければ相手はジェムナイト使い……ジェムナイトは決して弱いカテゴリーではない。リンクを合わせれば先攻1キルも出来るが……融合デッキ特有の取り敢えず融合召喚しないと勝てない的なのがある。

 

「柚子のデッキには大天使クリスティアが入ってる。先攻を取って開幕クリスティアが出来れば殆どのデュエリストは突破出来ないだろう」

 

「開幕クリスティア……アレってどうやって突破すればいいのかしら?」

 

「除去しても即座に蘇るからタチが悪い……というか瑠璃が言うのか?」

 

「え……だ、だってLLであんなコンボがあるなんて思わないわ」

 

 海王星の暴君の方が突破するのが難しいわ。打点5000超えで効果効かない系のモンスターなんて生贄以外の除去は無いぞ。

 なんだかんだで瑠璃もエグいデュエルをしていると思いつつも観客席から柚子に視線を向ける……

 

『アクションフィールド、オン!無限架橋!!』

 

 原作通りのアクションフィールドだ。相手は光津真澄……相手にとって不足は無い。ここで強者を喰らって上の段階に進める

 並大抵のデュエリストを寄せ付けない次元が違うデュエリストになるにはここで相手を喰らっておかないといけないな。

 

「戦いの殿堂に集いしデュエリストが!」

 

「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!」

 

「フィールド内を駆け巡る!」

 

「見よ!コレぞデュエルの最強進化系!」

 

「アクショ〜ン!」

 

「「デュエル!!」」

 

 例によって何時もの口上を行った柚子と真澄。

 アクションカードがフィールド中に散りばめられると早速柚子は架け橋から飛び降りる……って、おい

 

「先攻じゃねえのに……回避や奇跡を警戒しているのか」

 

 柚子の後攻でデュエルは開幕する。アクションマジックで首の皮一枚繋がったなんて面白くないデュエルだ。

 それを知っているから柚子はアクションカードを狙いに行く……流石は遊勝塾のアイドル、橋から飛び降りても綺麗に着地しつつアクションカードを回収する。

 

「どうやら終わったみたいね。行くわよ!私のターン!私は永続魔法ブリリアント・フュージョンを発動!自分のデッキからジェムナイト融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を、攻撃力・守備力を0にしてエクストラデッキから融合召喚する。私はデッキからジェムナイト・アレキサンド、ジェムナイト・ルマリン、ジェムナイト・ラズリーを墓地に送り融合召喚!これが私の真のエース!輝きの淑女!ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ!」

 

 ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤ

 

 融合 レベル10 地属性 岩石族 ジェムナイトモンスター×3 攻撃力0

 

「開幕から飛ばす……盤面を埋めておかなきゃ即死するって分かってるから……」

 

 柚子を相手に余力を残してのデュエルなんてやってられない。

 開幕ジェムナイト・フュージョンじゃないということはジェムナイト・フュージョンを握っていない可能性が高いな。

 

「ジェムナイト・ラズリーの効果を発動!このカードが墓地に送られた際に墓地から通常モンスターを手札に加える!私はジェムナイト・ルマリンを手札に加えるわ!」

 

「1枚カードを使って融合とサーチと墓地肥やし……中々に強いわね」

 

「いや、まだだぞ」

 

 やってることは攻撃力0のモンスターを召喚しただけだ。回避や奇跡が無ければ進まないデュエルならば柚子に勝つことは出来ない。

 ジェムナイトでここまで来たのならばジェムナイト・フュージョンを出す……が、真澄はあまりいい顔をしていない。最高の手札じゃないんだな。

 

「ジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤの効果を発動!ジェムナイトモンスターをリリースすることでエクストラデッキより召喚条件を無視してジェムナイト融合モンスターを特殊召喚する!私はジェムナイトレディ・ブリリアント・ダイヤをリリースし、ジェムナイトマスター・ダイヤを特殊召喚!」

 

 ジェムナイトマスター・ダイヤ

 

 融合 レベル9 地属性 岩石族 ジェムナイトモンスター×3 攻撃力2900→3200

 

「ジェムナイトマスター・ダイヤは墓地のジェムナイトモンスターの数×100ポイントアップする!」

 

「うげぇ!?攻撃力3000以上のモンスター!?痺れるくらいにヤベえ」

 

「でも、コレは先攻だよ。耐性のあるモンスターを並べるのならまだしもただ攻撃力が高いモンスターを並べても次のターンにやられちゃうよ」

 

「打点だけを見るなよ、フトシ。アユの言うとおりだ」

 

「魔法カード死者蘇生を発動!ジェムナイト・アレキサンドを墓地より蘇生」

 

 ジェムナイト・アレキサンド

 

 地属性 レベル4 岩石族 1800

 

「…………ねえのか」

 

 ここで死者蘇生とは意外と言うべきか、まだ通常召喚権を使っていないしジェムナイト・フュージョンは普通に飛んでくる筈なのに飛んでこない。墓地も手札もまだ余裕があるのに使ってこないとなると使ってこないのでなく使えない、サーチするカードを握っていない……リンクがあればアナコンダとか出せるけども、マスタールール3では関係無い話。

 

「手札のジェムナイト・ガネット、ジェムナイト・ルマリン、墓地のジェムナイト・ラズリーを除外する事でブロックドラゴンを特殊召喚!」

 

 ブロックドラゴン

 

 特殊召喚 地属性 レベル8 岩石族 攻撃力2500

 

「……手札にジェムナイト・フュージョンが無いのならばそれが最善かな?」

 

「遊矢、どういう意味だ?」

 

「ブロックドラゴンはフィールドに居る限りは岩石族は戦闘以外では破壊されない。岩石族主体のジェムナイトとは相性がバッチリだ……」

 

 初手にジェムナイト・フュージョンもしくはサーチ系のカードを握っていないのはやや痛いが、決して悪い盤面じゃない。

 柚子は打点3000以上のモンスターを並べない限りは倒せない……狙うならばブロックドラゴン……俺がアレから色々とカードを渡したりしたが、アレから柚子はどれだけ強くなっているのか

 

「ターンエンド」

 

「私のターン、ドロー!」

 

 柚子はカードをドローし、ドローしたカードを確認すると架け橋を飛び降りる。

 狙いはアクションカード……となると……

 

「私は魔法カード、手札抹殺を発動!互いに手札を全て墓地に送り、送った枚数分のカードをデッキからドローするわ!」

 

 柚子はアクションカードを墓地に送ると手元にあったアクションカードを拾う。

 柚子が墓地に送ったカードはアクションカードを含めれば7枚、柚子のデッキのカードは5枚……真澄の手札は1枚で、真澄は表情を変えずにカードをドローした。墓地肥やしはコレで出来た……ただなぁ、幻奏デッキって9期では当たり前の、墓地融合の専用カードを貰っていない。

 手札が7枚……エグい事になるだろうな。

 

「私は神の居城─ヴァルハラを発動!自分フィールドにモンスターが居ない場合、天使族モンスターを特殊召喚する事が出来る!私は幻奏の音姫プロディジー・モーツァルトを特殊召喚!」

 

 幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト

 

 光属性 レベル8 天使族 攻撃力2600

 

「幻奏の音姫プロディジー・モーツァルトの効果を発動!手札より天使族・光属性のモンスターを特殊召喚!私が特殊召喚するのは幻奏の歌姫ソプラノ!」

 

 幻奏の歌姫ソプラノ

 

 光属性 レベル4 天使族 攻撃力1400

 

「…………勝てるか?」

 

「え、もうそんな盤面なの?」

 

 柚子が自分のフィールドを着々と作り上げていっている。

 真澄がブロックドラゴンで戦闘以外の破壊を無効化しているが、このままだったら1ターンキルが出来るかもしれない。渡したカードを使っていないのはデッキのコンセプトに合わないから抜いているのだろう……取り敢えず入れとけば強い系のカードだからな。

 

「墓地にカードは5枚で墓地肥やしは充分に出来ている。真澄は……カードを取りに行こうとしていないな」

 

 既にピンチに陥っているにも関わらず真澄は柚子の出方を伺っている。

 この時点で1枚でもアクションカードを取りに行かないのは悪手、柚子が危険だから当たりかハズレか分からないけれどもアクションカードに頼らなければならないのは確かで……マズいな。

 

「幻奏の歌姫ソプラノの効果を発動!墓地から幻奏モンスターを手札に加える、私は幻奏の音女スコアを手札に加えるわ!」

 

「……でも、攻撃力が届かないね」

 

「いや、あのカードがあるはずだ」

 

「私は永続魔法、一族の結束を発動!自分の墓地の全てのモンスターの元々の種族が同じ場合、自分フィールドのその種族のモンスターの攻撃力は800アップする!私の墓地には天使族しかいないわ!」

 

 幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト

 

 攻撃力2600→3400

 

 幻奏の歌姫ソプラノ

 

 攻撃力1400→2200

 

「嘘でしょ、こんな簡単に攻撃力を上回った?」

 

 柚子はあっさりとジェムナイトマスター・ダイヤを上回るモンスターを並べた。

 素良も柚子の盤面に呆気に取られるが……柚子の手札は残り4枚で通常召喚権を残している。

 

 

「っ!」

 

 流石にここまでくれば危ないと気付くだろう。

 真澄も架け橋からジャンプして急降下、アクションカードを手にするのだがその表情は歪んでいる。

 

「困ったらアクションカードに頼る一か八かの賭けは危険過ぎる……やはり己のデッキを信じなければならぬな」

 

 いいアクションカードを引き当てる事が出来なかったのでアクションカードの不要性を権現坂は口にする。

 困ればアクションカードなんて……ホントにロクでもない。アクションカードなんて手札コストに使うので充分なんだよ。

 

 まだ柚子の手札は残っている。

 

「フィールドに幻奏モンスターが居る時に幻奏の音女ソナタは特殊召喚出来る!幻奏の音女ソナタを特殊召喚!幻奏の音女ソナタは特殊召喚で出た際に天使族の攻撃力・守備力を500ポイントアップするわ」

 

 幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト

 

 攻撃力3400→3900

 

 幻奏の歌姫ソプラノ

 

 攻撃力2200→2700

 

 幻奏の音女ソナタ

 

 攻撃力1200→2000→2500

 

「チェックメイトだな」

 

 頼みのアクションカードはこの場面では使えないカードだ。

 

「バトル!幻奏の音姫マイスタリン・シューベルトでジェムナイトマスター・ダイヤに攻撃!ダメージ計算時に手札から幻奏の音女スコアを墓地に送って効果を発動!攻撃相手のモンスターの攻撃力・守備力を0にするわ!!」

 

「っ!」

 

 歌声を響かせる幻奏の音姫マイスタリン・シューベルト

 ジェムナイトマスター・ダイヤにピシリとヒビが入ると粉々に砕け散り粉末となったダイヤモンドがフィールドに舞い散り、幻奏の音姫プロディジー・モーツァルトの歌声と調和しあう。

 

 真澄

 

 LP4000→100

 

「幻奏の音女ソナタでジェムナイト・アレキサンドに攻撃!!」

 

「……貴女、最高に煌めいて輝いているわ」

 

 真澄

 

 LP100→0

 

 真澄は見事なまでに負けた。

 俺の時とは異なり綺麗な負け方をしたのが満足なのか笑みを浮かびあげていた。

 

『な、ななな、なんとぉ!柊柚子選手、光津真澄選手の巧みな融合と戦闘以外の破壊を免れる例えるならばそう!燦然と輝く宝石をも魅了する歌姫の様です!!流石は準優勝経験者、レベルが違い過ぎる』

 

「……遊矢、柚子に勝つことは出来るの?」

 

 圧倒的な力を柚子は見せつけた。

 瑠璃は開会式であんな事を言っていた俺を心配してくれるがそんな心配は無用だ。

 

「俺は優勝してプロになる為にここに来たんだ。柚子も権現坂も沢渡も……誰が相手だろうが勝たせてもらう」

 

「遊矢が言うとホントに出来そうだから怖いね」

 

 素良、ホントに出来そうじゃない、やるんだよ。

 取り敢えず今の俺にやれる事は柚子の勝利を褒め称える事だ……柚子のデュエルの腕は着実に上がっていっている。慢心してるかもしれねえけど、それでも負ける気はしない。





我が永遠のライバル榊遊矢よ!一回戦で当たった事は実に残念だ

そうか?一回戦だろうが二回戦だろうが決勝戦だろうが俺は何時でも良かったぞ

相変わらずの余裕だな。だが、このネオ・ニュー・沢渡の妖仙ロストドローコンボの前にひれ伏すがいい!!

また中々に厄介な裁定を……普通は手札に回収してから墓地行きだろう

ハーハッハッハ!お前の無敗神話も遂に潰える日がやってきたってなんだこの盤面は!?

見せてくださいよぉ、沢渡さん!ペンデュラムの力ってやつをよぉ!!

てんめ、こんな状況でどうしろって言うんだ!!

大丈夫、大丈夫、まだ優しいコンボだから。

次回 遊戯王ARC-V 【妖仙ロストドロー】にガッチャビングデュエルアクセラレーション!!

お前、基本的なルールを分かっていないようだな!壁は並ばせる事は出来るんだよ!


CCCの描写書くのめんどうなのでやられた事にした。


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妖仙ロストドロー

前回までのあらすじ

歌声で世界を変えてみせるわ!(殺意)


 

 舞網チャンピオンシップ二日目。

 ジュニアクラス、ジュニアユースクラス、ユースクラスの3つのクラスは激闘に継ぐ激闘を繰り広げていた。

 

「ごめん、なさい」

 

「お前が気に病む事ではない。勝負の世界には勝者と敗者、2つが存在しているのだから」

 

 レオ・コーポレーションの怪しげな一室で赤馬零羅は赤馬零児に謝った。

 期待をしてくれていた筈の兄の前でみっともない姿を見せてしまい、敗北してしまった事を。尊敬する兄の顔に泥を塗ってしまった。

 勝負の世界の厳しさを零児は知っているが、弟である零羅に厳しくすることはしない。

 

「相手はあの遊勝塾だ……次を期待している」

 

「……!うん」

 

「遊勝塾か……ジュニアクラスの3人とも融合、シンクロ、エクシーズを使いこなしているな」

 

 零羅が浮かない顔から明るい顔に切り替わると、ユートは巨大なモニターに映るデュエルの結果に圧倒される。

 この次元ではエクストラデッキを用いた召喚方法を身に着けるのも一苦労だというのに、他を圧倒する程の実力を見せつけている。遊勝塾のジュニアクラスのタツヤ、フトシ、アユの3人はそれだけ強かった……OCG次元産のトマトが鍛えているから抜き出ても仕方がない事だ。

 

「彼等もまた我らの槍の候補に」

 

「待ってくれ!彼等までも巻き込むというのか!?」

 

 今回の舞網チャンピオンシップはただの大会ではない。

 裏で渦巻く陰謀をユートは知っている。アカデミアの脅威と戦う為の槍の選別をしているのだが自分達よりも幼い3人のデュエリストを槍にしようとしている事について問いかける

 

「まだ幼いデュエリストを戦場に向かわせるわけにはいかない。せめて、ジュニアユースクラスのデュエリストを」

 

「……そうなると一番槍は彼になるか」

 

 モニターに映し出されるのは遊矢の顔。

 自分と同じ顔を映し出されたユートはやや眉を寄せる。遊矢の事は瑠璃がポツリと呟いていた事をユートは何度も聞いている。本人が預かり知らぬ事とは言え、ズァークが原因でまともに対面する機会は無かったがアカデミアの魔の手から瑠璃を守ってくれたというのは知っている。

 

「赤馬零児!」

 

 彼ならば力になってくれるとユートが思っていると、鬼も逃げ出すかの様な形相で黒咲が現れる。

 ちょうどモニターに遊矢の顔写真が写っているのでビシッと黒咲は指を指した。

 

「何故あの男と、榊遊矢と当てなかった!!」

 

 対戦相手は原作通りならば素良だったが、素良は狙いを遊矢一択に絞っているので大会に出ていない。よって名もなきモブと対戦カードを組まされているのだがそれが黒咲にとって不満でしかなかった。

 

「あの男はアカデミアの尖兵だ!」

 

「彼がアカデミアの尖兵ならば今頃はスタンダードはエクシーズ次元と同じ様になっている」

 

 次元転移をサラリとやってのけ、次元戦争について把握している。

 スタンダードの住人は呑気に普通のデュエル大会を行おうとしているのでなにも知らない……それなのに遊矢は色々と知っている。黒だと黒咲は主張をするのだがそれならば既にエクシーズ次元、ハートランドの様に戦火に包まれ火の海に成り代わっていると零児は語る。

 

「彼について謎が多いのは確かだ。それを調べる為に沢渡を当てた」

 

 誰かに教えを受けたわけでもないのに融合、シンクロ、エクシーズ、儀式、ペンデュラムと全ての召喚を操るだけでなく幾つものデッキを多彩に操りデュエリストとしての腕はピカ一だが、どうやってそこまで腕を磨いたか謎なのは事実。遊矢の底を測る為に黒咲をぶつければどちらかが負ける。遊矢を一番槍にしたい零児は今ここで遊矢と黒咲を敗退させるわけにはいかない。遊矢の事を十二分に理解し、ある一定以上の実力を持っている沢渡をここでぶつける。

 

「瑠璃は……瑠璃は無事なんだろうな?」

 

「それについては問題はない。瑠璃と柊柚子の両名は常に監視している」

 

 遊矢と戦えない事に不服な黒咲。こうなってしまえばまともに話を聞かないので時が過ぎるのを待つしかない。

 ユートはこの次元にいる瑠璃と柚子を心配する。零児は万が一を想定して2人の忍者を雇っている。彼等もまた槍の一員である。

 

「我等にとっての槍を選別する。ジュニアクラスは切り捨て、ジュニアユース、ユースコースにのみ絞る」

 

 零児の判断は正しいというか遊矢の逆鱗に触れる触れないのギリギリのラインを歩いている。

 ジュニアクラスは最悪LDSで育成してからと危ないことを零児は考えており、それはまさに遊矢の逆鱗に触れる事だった。

 

「…………すまない…………」

 

 スタンダードの住人はプロのデュエリストを目指して切磋琢磨している。

 嘗てのハートランドもそんな光景だった。この舞網チャンピオンシップも例年ならばプロを目指してデュエルをしていた。しかし今回は別次元のデュエリストを叩きのめす為のデュエリストを選別しようとしている。

 平和なこの次元を巻き込んでしまっていいものかとユートは悩んでいる。しかしもう止まる事は出来ない。引き金はもう引かれてしまい、次元戦争は赤馬零王の目的を果たすかアカデミアが滅びるまでは終わらない。せめてハートランドの様に戦火に包まれない様にと祈りを捧げる。

 

 ただ彼等は知らない。OCG次元産トマトである遊矢の恐ろしさを。

 

 

────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

「超重荒神スサノ-Oで攻撃!」

 

 ダブルホーンとグレートウォールを装備して隙の無い二段構えで権現坂は攻めに入る。

 権現坂の相手は嘗て俺がボコボコにした暗黒寺。ストロング石島をリスペクトするかの様にバーバリアンモンスターを使ってきて、更には権現坂のモンスターを奪うピンポイントメタまでやってのけた……が、この程度で転ぶ権現坂じゃない。タマーCの効果で奪われたビックベンーKを墓地に送ってスサノーOを召喚し、グレートウォールとダブルホーンで打点と攻撃回数を増やして勝利を収めた。

 

「権ちゃんのデュエル、前は無限ループだったから印象が変わってくるけど結構面白いね」

 

「いや……まだまだだな」

 

 俺が超重武者デッキを使えばもっと酷い事が出来る。

 素良は権現坂のデュエルを面白いと評価を下すけれども、まだ超重武者に頼りきりなところがある。悪いとは言わないし、それで勝てる相手は普通にいるが、上を目指していくのならばもっと他の事にも目を向けておかないと……地属性で機械族のカテゴリーは他にもある。組ませるととんでもない化け方をする……鍵はエクシーズ召喚にあり。

 

「じゃ、行ってくるわ」

 

「遊矢、頑張ってね!」

 

「相手はあの沢渡よ。何時もの様にケチョンケチョンに撃退してね」

 

「痺れるデュエル楽しみに待ってるぜ」

 

「応援してるね!」

 

「今日も面白いデュエル、楽しみにしてるよ!」

 

「遊矢、勝利を掴み取れよ!!」

 

 権現坂の試合が終わり少しだけ休憩の時間に入るのだが、次は俺のデュエルの番だ。

 観客席に何時までも居られないのでこの場所を後にしようとすると、瑠璃、柚子、フトシ、アユ、タツヤ、塾長から声援を受ける。俺にどれだけデュエルのファンが居るのかは知らないが、この6人、いや、権現坂と素良を含めれば8人も応援してくれるファンが居る。それだけで充分だ。

 

「遊矢、こんな大会余裕で勝ち抜けるでしょ」

 

「こんな大会ね……案外、面白い奴が出場しているかもしれねえぞ」

 

 デュエリストのレベルの低さを知っているからか素良はつまらなさそうにしている。

 そんなに面白く無いのならばお前も出場してくれればいい……まぁ、そんな事をしたらクロワッサンとデュエルをさせられるんだろうが。

 

「遊矢……いや、言葉は交わさん。デュエルの結果のみがここでは全て」

 

 観客席を後にしてスタジアムの中に入ろうとすると権現坂と遭遇する。

 権現坂はなにか言おうとしたが直ぐにやめた。この場ではデュエルが全て、結果が全てだ。言葉を交わさずアイコンタクトだけを交わす。

 

「じゃあ、勝ってくるわ」

 

 相手はあの沢渡、油断はならない。でも俺だってなにもしていないわけじゃない。

 リンク召喚が使えなくて使いたくても使えないコンボが多々あるけれども、それでも色々とデッキのネタには困りはしない。

 

『さぁさぁ、1回戦も残すところ後僅かとなりました!』

 

 ニコはノリノリになっているので俺はスタジアムに出る。

 歓声が鳴り響く……いやぁ、満員御礼なのは良いことだけどもこういう場は馴れないな。楽しくデュエルを出来ればそれに越したことは無いんだがな。

 

『出ました!ペンデュラム召喚の開祖!エクシーズ、シンクロ、融合の全ての召喚を巧みに操り圧倒的な強さで6連勝を果たした榊遊矢選手!選手宣誓ではとてつもない事を言ったが果たして優勝なるか!!』

 

「優勝はなるかじゃない。優勝する為にここまで足を運んだんだよ」

 

 プロになればなにかと有利になる。その為にプロデュエリストになる。

 きっと俺はあの笑顔笑顔、鬱陶しい父さんの様な華やかしいデュエリストにはなれない……いや、そもそもで俺はデュエリストなんかじゃない。ホントにデュエリストならば……あんなデッキを持ち歩く事はしないだろう。俺は何処まで行ってもデュエリストにはなれない。

 

『さぁ、榊遊矢に対する相手はっと、おおっとコレは!』

 

 編笠を被り、青と白の縦シマラインのマントを羽織り、草笛を吹いて現れる三枚目。

 下の服が中学の服だからなんとも言えないのだが、インパクトだけは確かにあり周りが静かになっている。

 

「聞こえる、聞こえる……オレを呼ぶファンの声が聞こえるぜ!!」

 

「沢渡お前、こんな場外パフォーマンスすんじゃねえよ。デュエリストならデュエルで魅せろよ」

 

「沢渡だと?ノンノンノン!違うぜ、オレ様は沢渡じゃねえ!」

 

 バッと編笠とマントを捨てる沢渡。

 

「ネオ・ニュー・沢渡様だ!今日のオレ様は一味も二味もちげえ!!」

 

「お前……毎回そんな事を言ってて俺にボコボコにされてるじゃねえか!」

 

「舐めんじゃねえぞ!今日こそはお前の無敗神話を崩壊させてやる」

 

「いやいや、俺も負ける時は負けるからな」

 

 ここぞという時の勝負には絶対に勝っているけども負ける時には負けているんだぞ。

 デッキの相性とか色々とある。塾長の代わりにデュエルを教える際に色々とデッキを使って瑠璃と実戦形式で講義してる時は負けてるんだよ……ギリッギリの負けだから地味に悔しかったりする。

 

「公式戦は負けなしだろうが!6連勝して勝ち上がりやがって……ネオ・ニュー・沢渡の力を見せてやる」

 

 沢渡はそういうとデュエルディスクを腕に装着し、デッキをセットする。

 場外パフォーマンスはもう終わりの様なので、俺もエクストラデッキとデッキをデュエルディスクにセットする。

 

『アクションフィールド、オン!未来都市ハートランド!!』

 

「……なに?」

 

 夕日の荒城が来ると思ったのだがまさかのハートランドがやってきた。

 俺を試しているのか?それとも疑っているのか……黒咲は俺をアカデミアの人間だと思っている。次元戦争について色々と知っているのはレジスタンスかアカデミアかのどちらかで、それ以外で知っている人間はあのマフラーぐらいだろう。

 周囲がアクションフィールドに切り替わる前になんとか観客席で応援をしてくれている瑠璃を見つけるとありえないと言った様な顔をしている。

 

「ほぉ、中々にサイバーな未来溢れる舞台じゃねえか……バエるな」

 

「……」

 

「おい!なに観客席を見てやがる!対戦相手はこのオレ様なんだぞ!!浮ついた気持ちでデュエルに挑んでくるんじゃねえ!」

 

「……悪いな」

 

 赤馬零児はハートランドを見せることで俺を試している。

 普通に夕日の荒城でデュエルをしたかったのだが、この舞網チャンピオンシップはレオ・コーポレーション主催で好き勝手に出来る……海馬社長はそんな事をしようとしていないのに……いやまぁ、デュエルで負けたら自殺するとか言い出すからあれもあれで大概なんだけども。

 

「戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

 

 ハートランドを見て露骨な反応を見せてしまえばそれこそ赤馬零児の思うツボだ。

 黒咲は全くと言っていいほど話を聞こうとしないし、茄子は瑠璃と柚子が居るせいで会いにくい。素良も俺にのみ標的を絞っているから暴れていないが、アカデミアの手先である事には変わりはない……マジでどうしたものかだが今はデュエルに集中する

 

「モンスターとともに地を蹴り宙を舞い」

 

「フィールド内を駆け巡る!」

 

「見よ!これぞデュエルの最強進化系」

 

『アクショーン』

 

「「デュエル!!」」

 

 沢渡、俺、沢渡、俺、ニコの順番でアクションデュエルの前口上を終えると、フィールド内にアクションカードが巻かれる。

 ちょっと近未来的なSFっぽい見た目な街で何処にアクションカードが隠されているのかやや気になるが、困ったらアクションカードに頼るデュエルは極力しない。手札コストとして使うのが丁度いいんだ、アクションカードは。

 

「先攻はオレからだ……フッフッフ、ハーハッハッハ!!」

 

「どうした?手札事故でも起こしたのか?」

 

「ノンノンノン!オレ様はカードに愛された男だ!初っ端からこのコンボが出来るとはカードはオレの事を愛してくれているな!」

 

「ならさっさと見せてみろ!」

 

「いいだろう。いくぞ!永続魔法、修験の妖社を発動!このカードは妖仙獣を召喚、特殊召喚する度に妖仙カウンターを1つ置くことが出来る!」

 

「……よし」

 

 帝とか飛んでくるかと思ったが、普通に妖仙獣だった。手札を確認し、これならば勝つことが出来ると小さくガッツポーズを取る。

 ただ沢渡が相手だから油断はならない。何時もならば座ってデュエルをするところを、立ったままデュエルしているところがこのデュエルがマジだという証拠である

 

「先ずは妖仙獣 鎌壱太刀を通常召喚し効果を発動!妖仙獣モンスターを1体更に召喚する!妖仙獣 鎌弐太刀を召喚し更に妖仙獣 鎌弐太刀の効果を発動!コイツも妖仙獣モンスターを召喚する効果を持つ!妖仙獣 鎌参太刀を通常召喚!」

 

 修験の妖社 妖仙カウンター0→1→2→3

 

 妖仙獣 鎌壱太刀

 

 風属性 レベル4 獣戦士族 攻撃力1600

 

 妖仙獣 鎌弐太刀

 

 風属性 レベル4 獣戦士族 攻撃力1800

 

 妖仙獣 鎌参太刀

 

 風属性 レベル4 獣戦士族 攻撃力1500

 

「見事なまでに並んだな」

 

 流石は沢渡と言ったところか、妖仙獣モンスターを軽々と3体並べた……が、それまでだ。

 こいつらはターンの終わりに手札に戻る効果を持っている。妖仙カウンターを積み上げるには丁度いいかもしれない。アクションカードに頼りさえすれば攻撃を防ぐ事が出来る……なんて甘い考えだったら即座に1キルしてやる。

 

「このコンボの鍵を握るカードだ!命削りの宝札を発動!自身の手札が3枚になるまでドローする!トリプルデスティニードロー!!」

 

「だが、そいつを使うターンは特殊召喚も出来ずにダメージを与える事も不可能だ!」

 

「修験の妖社の効果を発動!妖仙カウンターを3つ取り除きデッキから妖仙獣モンスターを手札に加える!オレは妖仙獣 左鎌神柱を手札に加えて左側のペンデュラムスケールセット!更に妖仙獣 右鎌神柱を右側のペンデュラムスケールにセッティング!!」

 

『おぉっと!コレはまさかまさかのペンデュラムモンスター!?しかし、命削りの宝札の効果でこのターンは特殊召喚は出来ない、ペンデュラム召喚も特殊召喚の一種!実に残念です!!』

 

 妖仙獣 左鎌神柱

 

 ペンデュラムスケール3

 

 妖仙獣 右鎌神柱

 

 ペンデュラムスケール5

 

 ペンデュラムカードを出した事により周りがざわめく……と言ってもアクションフィールド内部に居るので俺と沢渡には聞こえない。

 

「カッコよくそこでペンデュラム召喚を決められないのか、お前は」

 

「舐めんなよ!妖仙ロストドローコンボは既に完成してある!カードを2枚セットしてターンエンドだ!」

 

「妖仙ロストドローだと?……」

 

「エンドフェイズ時にカードの効果を発動する。妖仙獣達は手札に戻っちまう、そうすれば命削りの宝札の効果で墓地に送られてしまうが遊矢、お前ならば知っているよな?エンドフェイズ時に複数の効果を発動する場合、発動するカードの順番を選ぶ事が出来るって事をよ!オレは先に命削りの宝札の効果を処理し、手札0の状態で手札を破棄!その後、3体の妖仙獣モンスターを手札に回収するぜ!!」

 

「くっそ、またややこしい裁定を……普通は手札に回収してからだろう」

 

 ルールの穴を突いたコンボを沢渡は見せつける。

 命削りの宝札がデメリットになっていない……めんどうだが流石だな

 

「さぁ、お前のターンだ!ハーハッハッハ!オレを捕まえてみな!!」

 

「テメエ、やり逃げかよ!!」

 

「るせぇ。お前相手に後から呑気にアクションカードを拾いに行ってたら間に合わねえんだよ」

 

 沢渡に感心していると俺のターンが回ってくるのだが沢渡は俺に背中を向けて走り出した。

 俺を相手に攻擊の瞬間にアクションカードを発動していたのさ!は出来ないので全速力でアクションカードを取りに行っている。間違ってはないが見る人が見ればやり逃げだ。

 

「俺のターンドロー…………お楽しみはここ──」

 

「おおっと、そうはさせるか!この瞬間、トラップカードを発動させてもらう!和睦の使者!このターン受けるダメージは0になる」

 

「っ……テメエ、ふざけんじゃねえぞ!どうして俺に気持ちよく1ターンキルをさせねえんだ!!」

 

「シャアラップ!!毎回毎回1キルされる身にもなれや!」

 

 沢渡を確実に葬り去る事が出来る手札だというのに、沢渡はセットしていたカードで妨害してきた。

 和睦の使者が使われてしまった以上は、このターン沢渡にダメージを与えることが出来なくなってしまう……人の決め台詞も邪魔しやがって……まぁ、いい。それでもどうにか出来るのが遊戯王の醍醐味だ。

 

「俺はカッター・シャークを通常召喚し、効果を発動!自分フィールドの水属性モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターと同じレベルでカード名が異なる魚族モンスター1体をデッキから守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは、このターン効果を発動できない。この効果の発動後、ターン終了時まで自分はエクシーズモンスターしかエクストラデッキから特殊召喚できない」

 

「ほぅ、今回はエクシーズデッキで来たか!だがしかし、エクシーズだけでオレ様の牙城を崩すことが出来るかな?」

 

 この野郎、和睦の使者でダメージ受けないからって調子に乗ってるな……まぁ、いい。ボコボコにするのには変わりは無いのだから

 

「俺はカッター・シャークを選択し、ランタン・シャークを特殊召喚!更に魔法カード、テラフォーミングを発動し、フィールド魔法ゼアル・フィールドを手札に加えてゼアル・フィールドを発動!」

 

「うぉ、眩しい!」

 

 フィールド内に眩い光の柱が出現した。

 夜景で綺羅びやかなハートランドには似合うかどうかは分からないがとにかくコレで本来ならば1キル出来るコンボが揃った。沢渡もアクションカードを拾って笑みを浮かべている……回避でも拾ったんだな。

 

「カッター・シャーク、及びランタン・シャークはエクシーズ召喚する際にレベル3もしくはレベル5として扱う事が出来る!俺はカッター・シャークとランタン・シャークでオーバーレイ!レベル5として扱う2体のモンスターでエクシーズ召喚!現われろN・As・H Knight(ネフィル・アサイラム・ヘット・ナイト)

 

 N・As・H Knight

 

 エクシーズ ランク5 水属性 水族 レベル5モンスター×2 ORU2 攻撃力 1700

 

「エクシーズ召喚に成功した瞬間、ゼアル・フィールドの効果を発動!自分のエクストラデッキ・墓地からエクシーズモンスター1体を選び、対象のモンスターの下に重ねてオーバーレイユニットとする!俺はエクストラデッキのNo.86 H-C ロンゴミアントをN・As・H Knightのオーバーレイユニットに!」

 

 沢渡からの妨害札は無し……いい感じだぞ

 

CX(カオスエクシーズ)N・As・Ch Knight(ネフィル・アサイラム・カオス・ナイト)の効果を発動!N・As・H Knightの上に特殊召喚!」

 

 CX(カオスエクシーズ)N・As・Ch Knight(ネフィル・アサイラム・カオス・ナイト)

 

 エクシーズ ランク6 水属性 水族 レベル6モンスター×3 ORU4 攻撃力2000

 

「CX N・As・Ch Knightの効果を発動!オーバーレイユニットを1つ取り除く事によりNo.101~No.107のいずれかのNo.エクシーズモンスター1体を、自分フィールドのこのカードの上に重ねてエクシーズ召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。尚、この効果で特殊召喚したモンスターは次の相手エンドフェイズに破壊される」

 

「どうせそいつも踏み台にするんだろう!お前の魂胆が丸見えだぜ」

 

「当たり前だろうが。CX N・As・Ch Knightの上に俺はCNo.101 S・H・Dark Knightをエクシーズ召喚扱いで特殊召喚し、更にエクストラデッキのCX(カオスエクシーズ) 冀望皇(きぼうおう)バリアンの効果を発動!このカードは自分フィールドの、CNo.101~CNo.107のいずれかのCNo.モンスターの上に重ねてX召喚する事もできる。俺はCNo.101 S・H・Dark Knightの上にCX冀望皇バリアンをエクシーズ召喚!混沌の具現たる軍神よ、切なる望みを我が元へ!集え、七皇の力!CX冀望皇バリアン」

 

 CX冀望皇バリアン

 

 エクシーズ ランク7 光属性 戦士族 レベル7モンスター3体以上 ORU5 攻撃力0

 

「冀望皇バリアンの攻撃力はエクシーズ素材の数×1000になる!」

 

 冀望皇バリアン

 

 攻撃力0→5000

 

「攻撃力5000だと!?」

 

「どうだコレがエクシーズの真髄だ!」

 

「っく、攻撃力5000には驚かされたがこのターン、オレはダメージを受けねえ!フィールドにモンスターも居ねえ!」

 

「ああ、そうだよこんちくしょうが……と、思うじゃん?」

 

 俺の真の狙いはそこじゃないんだよ、沢渡くん。

 俺の本当の狙いは其処にあるんじゃないんだよ。

 

「冀望皇バリアンの効果を発動!自分の墓地のNo.モンスター1体を対象として発動できる。相手エンドフェイズまでこのカードはそのモンスターの元々のカード名、効果と同じカード名、効果を得る。俺は墓地にいるNo.86 H-C ロンゴミアントの効果をコピーする!」

 

「何時の間に墓地に……そうか!N・As・Ch Knightの効果で墓地に……だ、だからといってどうしたってんだ!そのロンゴミアントがデッキ破壊の効果を持ってるわけじゃねえんだろう」

 

「ああ、持っていない……ロンゴミアントはエクシーズ素材の数によって効果が増えるカードで5枚ある時は……相手フィールドのカードを全て破壊する」

 

「ぬぅぁ、ぬぁにぃいいい!!」

 

「最果てより光を放て……其は空を裂き、地を繋ぐ! 嵐の錨!ロンゴミニアドォオオオ!!」

 

「グァアアアアアア!!」

 

 沢渡のフィールドは一瞬にして聖なる槍の輝きの前にひれ伏すしかなかった。

 修験の妖社は粉々に破壊されてしまっている。

 

「カードを2枚セットし、ターンエンドだ!」

 

「っちぃ、攻撃力6500の化け物だと、ふざけやがって……なんてな!オレの手札には既にそいつを除去する事が出来るコンボが揃ってるんだよ!オレのターン、ドロー!妖仙獣 鎌壱太刀を通常召喚……ってあれ……エラーだと!?」

 

「バリアンでコピーしているロンゴミアントの効果は全部で5つだ。オーバーレイユニット1つ以上、このカードは戦闘では破壊されない。2つ以上、このカードの攻撃力、守備力は1500アップする。3つ以上、このカードは他のカードの効果を受けない。4つ以上、相手はモンスターを召喚・特殊召喚できない。5つ以上:1ターンに1度、発動できる。相手フィールドのカードを全て破壊する」

 

「反則だ!イカサマだ!インチキ効果も大概にしろ!デメリットかなんかある筈だろう!」

 

「相手のエンドフェイズ時にエクシーズ素材を1枚取り除く……しかぁし、妖仙ロストドローなんてコンボを決めた沢渡ならばコレがどういう意味か知らないとは言わせない」

 

「っ、エンドフェイズ時に発動する効果の処理が複数ある時は自分で順番を選べる!って、事は……」

 

「毎ターン、ロンゴミアントの裁きを受ける!!お楽しみはここまでだ!!」

 

「クソぅ、妖仙獣でペンデュラムでお前を超えてやろうって言うのに…………ターンエンドだ!!」

 

「エンドフェイズ時に先にバリアンの効果を発動しロンゴミアントの効果を発動せずに俺のターン、ドロー!コレで俺のショーの幕引きだ!バリアンでロンゴミアントをコピーして沢渡にダイレクトアタック、最果てに輝ける槍(ロンゴミニアド)!!」

 

「がぁあああああ!!」

 

 沢渡

 

 LP4000→0

 

「クソ……一回戦負けかよ」

 

「楽しいデュエルだったな」

 

 俺のワンショットキルにより沢渡は敗北した。

 沢渡は大の字にねそべっており、負けたことを心底悔しんでる。

 

「妖仙ロストトルネードとか色々とコンボを組み立ててたのに台無しにしやがって」

 

「馬鹿を言うな。俺の1キルを和睦の使者で妨害しやがって、ワンショットじゃ盛り上がりに欠けるだろうが」

 

「お前、自分がエンタメデュエリストになれないって言ってる割にはその辺を気にしてるじゃねえか」

 

「1キルはいい文明なんだよ……いい勝負だったな」

 

「何処がだよ、人の事を徹底的にリンチしやがって」

 

「増Gもヴェーラーも握っていないお前が悪い」

 

 欲しいカードを常に手元に引き寄せる事が出来るのがデュエリストなんだろうが。

 

「オレ様に勝ったんだ……とっとと優勝してプロでもなんでもなりやがれ……オレも後で追いついて何時かお前を追い抜いてやる」

 

「その日が来るのを楽しみにしてる」

 

 まぁ、俺もデュエルの腕を磨いておく。

 

「……」

 

「どうした?」

 

「いや、なんでもない」

 

「嘘だな、こういう時は絶対になにかある……柚子がまた泣くぞ」

 

「美少女を泣かせる極悪人だよ、俺は」

 

 ハートランドがアクションフィールドになっている事で瑠璃は動揺している。

 素良もなんでといった顔をしており俺と目が合うとハッとした顔になり柚子になにかを聞くと観客席を後にする……ここからどう動くんだか。




ハートランド……どうして彼処をアクションフィールドに

嘘でしょ、なんでハートランドが……ねぇ、柚子ちょっと聞きたい事があるんだけど

どうかしたの?

この大会を運営しているのって何処のどいつ?

LDSの親会社のレオ・コーポレーションの筈よ。この前、遊矢が撃退した赤馬零児の会社の

赤馬零児……ふ〜ん、そういう事か

素良……貴方、もしかして

やらなきゃいけない事が出来たよ。ちょっと行って来るね

あ、待ちなさい!

次回遊戯王ARC-V 【番外デュエル】にガッチャビングデュエルアクセラレーション!!

エクシーズの残党……遊矢には悪いけど、潰させてもらうよ。


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番外デュエル

『見事!1ショットキルを決めた榊遊矢選手!本来ならば1ターンキルで終わるところを防いだ沢渡選手!共に見事なデュエルでした』

 

「いやいや……」

 

「遊矢兄ちゃん、痺れるぐらいにエグいコンボだぜ」

 

「でも、抜け出せる瞬間はあったよ。バリアンが効果を使う時はノーガード状態だから効果を無効にして破壊するタイプのカードを沢渡がドローをしていたら展開が違ってたかもしれないよ」

 

 相変わらずというかなんというか遊矢のデュエルはエグかった。

 1キルを決める事が出来たのを防いだ沢渡は遊矢のライバルを自称しているだけの事はある……けど、1ターン延命しただけに過ぎなかった。アユ、フトシ、タツヤの3人は冷静に今のデュエルを考察している……前から思ってたけど遊勝塾のデュエリスト、下手なアカデミアの兵隊より強いよね。

 

「どうして……」

 

「……」

 

 遊矢のエグいデュエルは幕を引いた。手も足も出ない、出せない状況に一瞬で持っていった遊矢に観客達は圧倒される。

 何度も何度も遊矢に挑んで負けた僕にとって遊矢のエグいデュエルは日常と化しているから驚くことはしない。ちょっとだけ引いちゃうぐらい……でも、今はそんな事を気にしている場合じゃない。

 

「ハートランド……」

 

 遊矢と沢渡がデュエルをしたアクションフィールド、未来都市ハートランド。そこは紛れもなく僕達アカデミアが襲撃したエクシーズ次元、ハートランドそのものだった。

 この次元のデュエリストの調査を僕は依頼されている。各召喚が発展途上と言ったところでホントに強いデュエリストは遊矢達ぐらいで殆ど雑魚だ。遊矢に負けて気晴らしにデュエルした柚子にも負けて心が折れそうになった時に遊勝塾以外のデュエル塾は雑魚、デュエル塾の大手中の大手らしいLDSの首席も遊矢達の前には歯が立たない。

 

「ねぇ、柚子」

 

「……どうしたの?」

 

「この大会って何処の誰が運営をしてるの?」

 

「レオ・コーポレーション……LDSの親会社よ。ほら、この前やってきた赤馬零児の会社の」

 

「そう……ちょっと用事を思い出したよ」

 

「え?」

 

「ハートランド……LDSに乗り込まないと」

 

「ちょ、ちょっと素良」

 

 僕の使命はこの次元のデュエリストの強さを測る事だ。

 アカデミアが危険視していた遊矢やその周りは極力手を出さない方がいい、それだけレベルが違うのが僕の結論だ。遊矢達以外は雑魚でアカデミアの精鋭達が挑めば余裕で勝つことが出来る……ただし例外がある。

 LDSはハートランドを知っている。偶然に似たような街が出来たとかそんなんじゃない。ハートランドが出たのは遊矢を試す為だ。遊矢は滅多な事じゃ口にしないけど遊矢はアカデミアやハートランドについて知っている。レオ・コーポレーションは遊矢が何処まで知っているのか試した。

 露骨に反応をしていないのは流石だけど柚子や瑠璃が動揺してる。きっとこの2人も次元戦争について遊矢から聞いたんだと思う。

 

「素良」

 

 観客席を後にして会場から出ていこうとすると遊矢と鉢合わせになる。

 なにか言いたそうな顔をしている遊矢だけど語る言葉は少ない。僕から言える事なんて極々僅かだ。

 

「遊矢、僕はアカデミアの人間だ……ここでの暮らしもデュエルも悪くはなかったけど僕には使命があるんだ」

 

「……お前はアカデミアがやってる事が本当に正しい事だと思っているのか?」

 

「っ……それは……」

 

「先に答えだけを言っておく。瑠璃はエクシーズ次元の、ハートランドの住人だ」

 

「!!」

 

 瑠璃が、ハートランドの住人……遊勝塾でエクシーズ召喚の講師をしているって聞いてたけど。

 

「なんで……」

 

「なんだ?」

 

「なんで遊矢は何もしようとしていないわけ?ハートランドの事を知ってるなら僕に敵意を向けてくるでしょ、普通」

 

「確かにハートランドをあんな目に合わせたアカデミアは憎んで当然だ……だがな、素良。俺は知っているんだ」

 

「なにを?」

 

「この次元戦争の全ての原因を……俺はなにもかも知っている。情報の出どころに関しては秘密だが」

 

 この次元戦争は全ての次元を統一する為に行っているって聞いているけど違うの?

 遊矢は少しだけ悲しそうな顔をして目を細める。

 

「止めにしないか?……俺はデュエリストじゃない、本気で次元戦争をするなら慈悲を捨てて対戦相手をカード化する。俺は自分の事を最強デュエリストなんて思っていないが負ける事は先ず無いと思っている……正直に言おう、お前とデュエルはしたくても戦いたくない」

 

 遊矢にとってのデュエルは殺意の波動に満ちているものだけど、楽しいものである事に変わりは無い。

 遊矢は僕とのデュエルは楽しいものだと思ってくれて次元戦争として戦いたくないと言ってくれている……

 

「もう、遅いよ」

 

 ハートランドはとっくの昔に壊滅寸前にまで追い詰められている。

 アカデミアに対抗しようとレジスタンスを組織しているけど時期にアカデミアの兵士達がレジスタンスをジワジワと嬲り殺す。もう後戻りする事は出来ない程に。

 

「僕はアカデミアの人間で……後戻りは出来ない」

 

 僕は口に咥えていたキャンディを噛み砕いた。

 どうして……なんでだろう。ここでは勝った回数よりも負けた回数の方が多い、けど不思議と楽しい時間は過ごす事が出来ていた……僕ってホントに甘いな。アカデミアからスタンダードのデュエリストの強さを測って来いって命令だってのにこの次元に情が移っちゃった。

 僕はアカデミアの精鋭なんだ……もう後戻りする事は出来ない、そんなところまで来ている。今更ごめんなさいの一言で終わる事じゃないんだよ。

 

「そうか……瑠璃達に手を出すなよ。手を出すなら俺が出てくる」

 

「遊勝塾や権ちゃんには手は出さないようにするよ……僕でも苦戦する相手とのデュエルはキツいからね」

 

 僕は足を止める事はしない。遊矢は何処か悲しそうな顔をしている……。おかしいよね、遊矢にとってアカデミアは敵なのに情けをかけてるなんて。スタジアムを完全に後にする。まだ試合は残っているからスタジアムから歓声が鳴り響いているけど、僕は耳を向けずにLDSに足を運んだ。

 今、大きな大会が行われてる……気のせいかな?レオ・コーポレーションの傘下であるLDSの警備が手薄だ。なにか妙な違和感がある……その違和感はなにか分からないけど、警備が手薄なら好都合だ。

 LDSの本社に乗り込む。このデュエルを観客席で見物していないのならば社長室かなにかの一室でこの大会を見ている筈だ。監視カメラに映らない様にコッソリと裏口から潜入して奥へ奥へと進んでいくとモニターの明かり以外が灯っていない一室に辿り着いた

 

「流石はエクシーズ次元の住人、彼はLDSの総合コース首席だがものともしないか」

 

 気配を消し、姿を消していると赤馬零児の声がした。

 赤馬零児はエクシーズ次元とハッキリと言った……モニターには細身だけど大柄なコートの男が映っている。しまった、大会の方にレジスタンスが居たのか。

 

「……榊遊矢についてなにか分かったのか?」

 

 アレは、遊矢?……いや、遊矢に似た人だ。モニターを眺めている彼は遊矢について赤馬零児に尋ねている。

 

「彼については……わざわざフィールドをハートランドに指定したが表情一つ変えずにデュエルをしていた。次元戦争については知っているが……そこまでなのだろう」

 

 遊矢の謎について迫っているけれども赤馬零児も遊矢の謎は解明出来ていない。

 遊矢自身も情報の出どころを秘密にしているけどもこの戦争のホントの目的を遊矢は知っている……

 

「社長、よろしいでしょうか?」

 

「どうした中島」

 

「日影達から連絡が入りました。遊勝塾の面々と共にいた紫雲院素良がスタジアムを出ていったそうです」

 

「……中島!モニターを停止しろ。狙いはこの管制室だ!!」

 

「っ!!」

 

 バレた、バレちゃった。

 赤馬零児は秘書と思わしきスーツ姿の男性に僕が遊勝塾から離れた報告を受けるとモニターの画面を停止してデュエルディスクを腕に嵌める……

 

「なんだバレちゃってたか」

 

 何処まで僕の事を知っているのか知らないけれど僕がここに潜んでいる事はバレちゃってるってこと。

 デュエルディスクにデッキをセットし、腕に装着をして僕は赤馬零児達の前に出た。

 

「お前が素良……アカデミアの尖兵か?」

 

「だったらどうするつもり?」

 

「アカデミアは……許すわけにはいかない!!」

 

「僕とやろうって言うの?いいよ、やってやるよ!!」

 

「よせ、ユート」

 

「止めるな!コレはオレ達の問題でもあるんだ!!」

 

 レジスタンスの手先には負けない。デュエルディスクを構える。

 

「先攻は僕からだ!僕のターン、僕は魔玩具補綴(デストーイ・パッチワーク)を発動!デッキから融合とファーニマルモンスターを手札に加える!僕はファーニマル・ドッグを手札に加えてそのまま通常召喚!ファーニマル・ドッグの効果を発動、エッジインプ・シザーもしくはファーニマルモンスターを手札に加える。僕はファーニマル・キャットを手札に加えて融合を発動!」

 

「早速来るか!」

 

「ファーニマル・キャットとエッジインプ・シザーを融合!融合召喚!現れ出ちゃえ!すべてを引き裂く密林の魔獣!デストーイ・シザー・タイガー!」

 

 デストーイ・シザー・タイガー

 

 融合 レベル6 闇属性 悪魔族 エッジインプ・シザー+ファーニマルモンスター 攻撃力1900→2500

 

「ファーニマル・キャットの効果を発動、このカードが融合素材になった時、墓地から融合を手札に加える!」

 

 まだまだ僕の融合は止まらないよ!

 

「回収した融合を発動!手札のファーニマル・ドルフィンとエッジインプ・チェーンを融合!魔物の爪よ!悪魔の使徒と1つとなりて新たな力と姿を見せよ!融合召喚!現れ出ちゃえ!自由を奪い闇に引き込む海の悪魔!デストーイ・ハーケン・クラーケン!」

 

 デストーイ・ハーケン・クラーケン

 

 融合 レベル8 水属性 悪魔族 エッジインプモンスター+ファーニマルモンスター 攻撃力2200→3100

 

「融合素材として墓地に送ったエッジインプ・チェーンの効果を発動!このカードが手札またはフィールドから墓地に送られた時、デッキからデストーイカードを手札に加える!魔玩具融合(デストーイ・フュージョン)を手札に加えて更にファーニマル・ドルフィンの効果を発動!墓地にある融合をデッキに戻す!」

 

 さぁ、僕の融合を堪能してよ。

 

「魔玩具融合を発動!墓地にいるエッジインプ・チェーンとフィールドのファーニマル・ドッグを融合!融合召喚!現われろ、デストーイ・クルーエル・ホエール!」

 

 デストーイ・クルーエル・ホエール

 

 融合 レベル9 水属性 悪魔族 エッジインプモンスター+ファーニマルモンスター 攻撃力2600→3200

 

「僕はコレでターンエンドだ」

 

「攻撃力3000以上の融合モンスターを一度に3体もだと!?」

 

 遊矢からすれば驚くことじゃないけど、社長の秘書を務めている人は驚いている。これぐらいは日常茶飯事だよ。

 相手がハートランドの住民ならこれをどうにかする方法ぐらい見つけてるだろうけど、だからといって負けるつもりはないよ。

 

「オレのターン、ドロー!オレはカードをセットし、カードをオープン!幻影騎士団シェード・ブリガンダイン」

 

「罠カードをセットしたターンに発動だって?」

 

「このカードは墓地に罠カードが無い場合、セットしたターンに発動する事が出来る!」

 

「厄介な効果……だけど、僕のフィールドを崩す事が出来るのかな?」

 

 チラッと見たけど永続罠じゃない通常罠カードだから宮廷のしきたりと組み合わせる事は出来ない。

 

「手札を一枚捨てて幻影騎士団ティアースケイルの効果を発動!幻影騎士団モンスターまたはファントム罠・魔法カードを1枚墓地に送る。オレは幻影剣を墓地に送り、更にコストとして墓地に送った幻影騎士団ステンドグリーブを除外し効果を発動!手札より幻影騎士団モンスターを特殊召喚しレベルを1上げる!オレが呼び出すのは幻影騎士団ラギッドグローブ!」

 

「ラギッドグローブのレベルは4……来るね」

 

 来てもらわないと困るんだけどね。あまりにもあっさりと倒したらそれこそ拍子抜けだよ。

 

「オレはレベル4となった幻影騎士団ラギッドグローブと幻影騎士団シェード・ブリガンダインでオーバーレイ!舞い降りろ!漆黒の翼はばたかせ反逆の牙を持つ龍!反逆の時!現れろ、ランク4!ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン!!」

 

 ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン

 

 エクシーズ ランク4 闇属性 ドラゴン族 ORU×2 攻撃力2500

 

「幻影騎士団ラギッドグローブの効果!このモンスターを闇属性のエクシーズモンスターの素材にした時、そのエクシーズモンスターは攻撃力が1000ポイントアップする!」

 

 ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン

 

 攻撃力2500→3500

 

「っ、3500」

 

 ランク4の見た目じゃないドラゴンのパワーはエグい。

 エクシーズモンスターだからなにか厄介な効果を持っている可能性が高い……

 

「ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの効果を発動!オーバーレイユニットを2つ使うことで相手モンスター1体の攻撃力を半減し、半減した攻撃力分ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの攻撃力をアップする!」

 

「っ、フォースと同じ効果!?」

 

 案の定、えげつない効果を秘めていた。

 遊矢によく似た男はデストーイ・クルーエル・ホエールを指差した。

 

「トリーズン、ディスチャージ!」

 

 デストーイ・クルーエル・ホエール

 

 攻撃力3200→1600

 

 ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン

 

 攻撃力3500→5100

 

「っく……でも、この一撃さえ耐えれば」

 

 ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの効果はフォースと一緒だ。

 見たところ破壊耐性は持っていない。所詮はエクシーズ、エクシーズ素材が無くなれば丸裸も同然の召喚法だ。

 

「……お前はアカデミアの人間か?」

 

「なにを今更な事を聞いてくるかと思えば……そうだよ、僕はアカデミアの人間だ」

 

 遊矢によく似た男、ユートは今更な事を聞いてくる。

 僕はキャンディを取り出して思いっきり囓るとキャンディは噛み砕かれる。

 

「僕の目的はこのスタンダードのデュエリストの実力の調査さ……エクシーズの残党が紛れ込んでるのはいい意味で予想外だったよ」

 

「お前達は……お前達はこの次元すらもハートランドの様に地獄に変えるつもりか!!」

 

「っ…………ああ、そうだよ」

 

 遊矢達との日々を思い出す。負けの数の方が多いけれどもとっても楽しかった。アカデミア以上に厳しいデュエルをしていた筈なのにとても楽しく充実した日々を過ごしていた……僕はそれを破壊しようとしている。心の何処かで破壊したくないと思っている自分がいる。

 

「……アカデミアは許すわけにはいかない!」

 

「許されるだとか思ってないよ。コレは戦争なんだ、勝った者が正しくて敗者の言葉はただの戯言だよ!」

 

 第一、ここからどうやって逆転をしようっていうの?

 今はまだメインフェイズだけども、後はバトルフェイズに向かってバトルするだけ。デストーイ・クルーエル・ホエールを攻撃したとしてもライフは500残る。ライフが1でも残っていたらこっちのもんだ。次のターンで逆転をする手札は揃ってるんだ。

 

「オレはRUM-幻影騎士団ラウンチを発動!その自分のモンスターよりランクが1つ高い闇属性エクシーズモンスター1体を、対象のモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚し、このカードを下に重ねてエクシーズ素材とする」

 

「ここからのランクアップっ!」

 

「煉獄の底より、いまだ鎮まらぬ魂に捧げる反逆の歌!永久に響かせ現れよ!ランクアップ・エクシーズチェンジ!出でよ、ランク5!ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン!」

 

 ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン

 

 エクシーズ 闇属性 ランク5 ドラゴン族 ORU×2 攻撃力3000

 

「ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴンはダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンを素材としている時、1ターンに1度オーバーレイユニットを1つ取り除く事で相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力を0にし、その元々の攻撃力分このカードの攻撃力をアップする!オレはデストーイ・クルーエル・ホエールを対象に発動する!レクイエム・サルベーション!」

 

 デストーイ・クルーエル・ホエール

 

 攻撃力 1600→0

 

 ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴン

 

 攻撃力 3000→5600

 

「コレで終わりだ!ダーク・レクイエム・エクシーズ・ドラゴンでデストーイ・クルーエル・ホエールに攻撃!鎮魂のディザスター・ディスオベイ!!」

 

「そんな、こんな事が……僕が、アカデミアがレジスタンス如きにぃいいい!!」

 

 素良

 

 LP4000→0

 

 1発で一撃でワンターンで僕は敗北した。

 

「く……そ……」

 

 遊矢に瓜二つで遊矢程じゃないけどもデュエルの腕も確かにたつ。

 アカデミアの侵攻を手間取らせるだけあって強い……

 

「中島、直ちに彼を捕縛せよ」

 

「はっ!!」

 

 赤馬零児の秘書だと思う人が僕に近付いてくる……すると僕のデュエルディスクが光を放つ。

 

「嘘だ、これは!」

 

「っ、中島離れろ!!」

 

 強制的に次元転移する装置が作動した。

 嫌だ……僕はまだ終わってない……まだ戦える。もう一度戦えばエクシーズ使いにつけられた黒星を取り戻せる。

 

「……ぁあ……楽しかったな……」

 

 次元転移の光が放たれる最後の最後に僕の頭には遊矢達と過ごした日々が浮かんでいた。





榊遊矢、お前は一体なんなんだ?

俺は俺でそれ以上でもそれ以下でもない……時折自分が何者なのか分からなくなるがな

……どういう意味だ?

さて、それは俺にも分からない事だ……俺になにか用事があって来たんだろ?

お前はアカデミアなのか?

俺は俺だって言ってるだろう……アカデミアもハートランドの現状も色々と知ってるよ

っ……何故

知らないほうがいいことだって世の中にはあるんだ。例えばこの次元戦争の発端とかな

次回遊戯王ARC-V【覇王の児】にガッチャビングデュエルアクセラレーション !

お前の知っていること全てを教えろ!

嫌だね


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覇王の児

 舞網チャンピオンシップの今日の日程は終わった。

 終わったのだが、素良が帰ってこない。ハートランドがアクションフィールドになっているのを見て血相を変えてLDSに、レオ・コーポレーションに乗り込んで……あの素足マフラー辺りに返り討ちにあって次元転移装置が起動して融合次元に強制送還された、そんなところだろうか。

 明日はタツヤ達の2回戦のデュエルをするが俺達ジュニアユースクラスは無い……正確には権現坂も俺も柚子もデュエルが無いだけで、残りの1回戦は普通に続いている。

 

「監視カメラはあそこか」

 

 時刻は既に夜を回っている。素良が中々に帰ってこないのを理由に探してくると言って外に出た。

 素良は今頃は融合次元で色々と記憶を覗かれたりしている……冷静に考えれば他人の記憶を覗く装置ってオーバーテクノロジー、いや、そもそもで遊戯王世界の殆どがオーバーテクノロジーか。

 

「……来たか」

 

 俺は今、あえて監視カメラがある場所に仁王立ちしている。

 素良が戻ってこないという事は融合次元に、アカデミアに強制送還されたのだろう。次元を移動する事は出来なくもないけれども、アカデミアに単身で乗り込むのはハッキリと言って危険過ぎる。そもそもで素良はなにを思っているのか?この次元での日々を楽しんでいたみたいだが、彼奴はアカデミアの人間である事には変わりはない。心の何処かで一線を引いている、それはそれこれはこれと割り切っているところはある。

 

「よぅ……こうしてちゃんと会うのははじめてだな」

 

「……榊、遊矢」

 

 茄子の様な髪型をした男、ユートが現れた……俺自身が撒き餌になる事で呼び出したとも言える。

 黒咲辺りもセットでついてくると思ったが1人でやってきたか。

 

「お前がユートだな」

 

「ああ……瑠璃は、瑠璃は無事なのか?」

 

「瑠璃の事は安心しろ。遊勝塾で保護している。常在戦場なハートランド、エクシーズ次元よりも安全な場所だ」

 

「そう、か…………」

 

 瑠璃の身が無事な事を知るとホッとするユート。

 さて、どうしようか。何時かは顔を合わせるというのは分かりきった事だが、いざ顔を合わせてもなんの会話をすればいいのかがわからない。瑠璃に関して話題を出してみたものの、直ぐに話は終わる。向こうもあんまり語る事は無い……語る事は無いんだよな。

 

「お前があのクソマフラーを表に叩き出す為に暴れ回ったせいであらぬ疑いを俺にかけられたぞ」

 

「それは……すまない事をした」

 

「お前等が必死になっているのは理解している。だが、スタンダード……無関係なこの次元の住人を巻き込んでしまってどうする?」

 

「っ…………」

 

「あのクソ素足マフラーは何事もなかったかの様にしてるが瑠璃は許すつもりは無いみたいだぞ」

 

「瑠璃が……」

 

「まぁ、ここで起こした事件の罰は何れは受けてもらうとして……なんか用か?」

 

 俺と似ているから冤罪をかけられた件に関してグチグチと言ってやってもいいが、今はそれは置いておく。

 何れはこいつらにはこいつらが犯した罪を償ってもらうが、今はここにやってきた目的について語ってもらう。

 

「榊遊矢……お前はいったい何者なんだ?」

 

「俺は俺でそれ以上でもそれ以下でもない……時折自分が何者なのか分からなくなるがな」

 

 なんで転生したとかカードを沢山持っているとかホントに色々と謎だったりする。

 基本的には深く考えないようにしているが、前世の家族とか友達とか色々と思うところはある……考えれば考えるほど辛くなるだけの未来しかないので考えることはしないようにしているけれども。

 

「……どういう意味だ?」

 

「さて、それは俺にも分からない事だ……俺になにか用事があって来たんだろ?」

 

「……お前はアカデミアなのか?」

 

「いいや、違うな。俺は俺だ……ただアカデミアもハートランドの現状も色々と知ってる」

 

 知っているには知っているが自ら動くことは基本的にはしない。

 めんどうなのもあるし、全ての原因が俺の中にいるクソ野郎のせいでもあるからな。

 

「っ……何故」

 

「情報の出所については秘密だ……知らないほうがいいことだって世の中にはあるんだ。例えばこの次元戦争の発端とかな」

 

「なんだと……お前は知っているのか!この次元戦争の始まりを!!」

 

「ああ、知っているとも。赤馬零王のくだらない私情の為にアカデミアは全ての次元に迷惑行為を行っている」

 

 全ては自分の娘であるレイを復活させる為で、柚子や瑠璃がその娘を4分割した存在……なんて言っても意味は無い。

 瑠璃と柚子は守らなければならない。俺自身がそう思っているのでそれ以上は深く踏み込む真似はしない。

 

「お前の知っていること全てを教えろ!」

 

 物静かだったユートだったが、俺が全てを知っていることを知れば顔色を変える。

 そりゃそうだろうな。平穏な日常を破壊したアカデミアは全ての次元を統一するだなんだ崇高な目標を掲げているが、真の目的は愛娘の復活で……知れば全ての次元の住人は激怒するだろう。諸悪の根源みたいな存在である俺が言うのも何だけどな。

 

「嫌だね」

 

 ユートは俺の知っている事について全てを聞き出そうとする。

 しかし俺は教えない。教えると厄介な未来しか待ち受けていないし、教えたところでなにか出来るわけでもない。

 

「デュエルだ!オレが勝ったらお前の知っていること全てを教えろ!!」

 

決闘盤(デュエルディスク)とデッキは置いてきたからデュエルをする事は出来ない!!」

 

「なん……だと……お前はそれでもデュエリストか!」

 

「生憎、俺はデュエリストとは程遠い存在なんだよ」

 

 ユートや黒咲と遭遇すれば十中八九デュエルを挑まれると思っていた。

 こういう時を想定して決闘盤とデッキを置いてきた……こんな事をしているから俺はデュエリストとは程遠い存在なんだろうな。塾長やタツヤですらこんな時にでも決闘盤を持ち歩いている……デュエルモンスターズはeスポーツの一種程度の認識だからな、俺は。

 

「とにかくデュエルをするつもりは無い……仮にお前とデュエルをしたとしても十中八九俺が勝つしな」

 

 エクシーズに対して強いデッキを持ってくる事だって出来るんだ。

 これ以上は語り合う事は無いと思っているとユートの持っている決闘盤が、恐らくはエクストラデッキと思わしき場所が光り輝いたと思えばなにもない筈の場所が急に光り輝くと……Dホイーラーがいた

 

「おい」

 

『我が分身はまだ他にもいる、最後に貴様を取り込みさえすればいいだけの話よ』

 

 最近はやたらと静かになっていると思っていたズァークの意識は色々と企んでいたようだ。

 最後に俺を取り込むとはいい度胸だな。復活する意志を、心をデュエルで叩き折ったと思っていたが案外しぶとい存在である。

 

「なんだ、ここは!?って、オレ!?どうなってんだ!?」

 

「コレは次元転移……貴様、融合の手先か!!」

 

「オレは融合じゃねえ。ユーゴだよ!……あ、そうか。分かったぞ!お前、前にリンにちょっかいかけた奴だな!!」

 

 微妙に話が噛み合わないユートとユーゴ。俺の中にいるズァークの狙いはズァーク復活である。

 ユーゴは前にリンにちょっかいをかけた奴、つまりはユーリと勘違いをしておりユートは融合次元からの使者だと勘違いをしている。

 

「待て待て待て待て待て!お前等、絶妙なぐらいに話が噛み合ってねえぞ!!」

 

「邪魔をするな!」

 

「邪魔するわ!この野郎、こうなる事を分かってたから明らかに狙ってやりやがって……」

 

『っち、邪魔をしおって』

 

 デュエルの準備をしようとするユートとユーゴの間に入る。

 このまま行けばどちらかがどちらかを取り込むデュエルが開幕する。ズァークが復活するには俺がデュエルで負けなければ良いだけの話だが、この世界、ゲームバランスを無視したぶっ壊れカードが普通に存在しているので油断ならない。

 

「って、またオレ!?どうなってんだよ、いったい」

 

「お前のエースカードが導いたんだよ」

 

「エースカードって、エクストラデッキが光ってやがる!!コレは……クリアウィング・シンクロ・ドラゴン?」

 

 自分のエクストラデッキが光っていることにここでユーゴは気付く。クリアウィング・シンクロ・ドラゴンがこの次元に、スタンダードに導いた。正確にはズァークが導いたが……う〜ん……

 

『っく……ペンデュラムの我を支配下に置けない状態ではエクシーズとシンクロを操れぬか』

 

 ユートとユーゴを操り「今こそ1つに!」をしたかったみたいなズァーク。

 俺にボコボコにされた結果、この次元にまで連れてくる事は出来るが操る事が出来ない事を悔しがる。

 

「ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンが……」

 

 ユーゴが取り出したクリアウィング・シンクロ・ドラゴンに共鳴するかの様にというか共鳴しているんだろう。

 ユートはエクストラデッキからダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンを取り出すとカードが紫色に発光している……オカルトじみているな。

 

「ここはスタンダードと呼ばれる全ての召喚法を使う発展途上の次元だ」

 

「スタンダード?見たところトップスでもコモンズでもねえけど……」

 

「お前はシンクロ次元の住人だな?」

 

「シンクロ次元だと?」

 

「融合とエクシーズの次元があるんだ。シンクロ召喚の次元があってもなんらおかしくはねえだろう」

 

 今まで融合(アカデミア)とエクシーズ(ハートランド)しか知らなかったユート。

 シンクロ召喚という召喚方法があるのならばシンクロ次元が存在していても別におかしくはないと割とあっさりと受け入れる。

 

「なんかよく分かんねえけど、ここはオレが住んでた場所とは違うみてえだな」

 

「その認識で大体間違いはない……分かれてしまった4つの次元の内の1つがこの次元だ」

 

「分かれた?4つってまだ他にも次元があんのかよ!!」

 

「そこの俺達にそっくりな男がエクシーズ次元の住人で更にはもう一人俺達にそっくりな人間がいる。そいつが融合次元の手先だ」

 

「なんでそこまで知ってるんだ!?」

 

「遭遇したからデュエルでボコボコにした」

 

 リンにちょっかいをかけた奴がユーリとはあえて言わないでおく……言うとややこしくなるからな。

 ユートとユーゴはデュエルをする流れだったものの、俺が横槍を入れたおかげでデュエルをする空気は無くなった

 

『っち』

 

 ズァークはその事に関して舌打ちしている。ホントにロクでもねえ存在だな。

 

「ここがコモンズでもトップスでもねえ場所だって言うし、ここ以外にも別の世界があるとか言うし、本当にどうなってるんだ……」

 

「ユート、1から説明してやれ」

 

「ああ……」

 

 俺が説明をすれば言ってはいけない事を言ってしまいそうなので言わないでおく。

 ユートはユーゴにエクシーズ次元、ハートランドで起きた出来事や襲ってきた集団であるアカデミアの存在について語る。

 

「オレの知らねえところでそんな事が……」

 

「俄には信じ難い話だろうが、事実なんだ。信じろとは言わないけど」

 

「いや、信じるぜお前達の話を!……デュエルを戦争に使うなんて許せねえぜ、アカデミアはよ!」

 

 っく、真っ直ぐすぎる。ユーゴは真っ直ぐすぎる。眩しいくらいに真っ直ぐすぎる。

 

「今直ぐにでも融合次元に乗り込みたいところだがとにかく敵は数が多い。このスタンダード──っ」

 

「うぉ、消え──っ!?」

 

「このタイミングでか」

 

 なにか言おうとしているユートだったが突如として姿を消した。ユーゴはその事について驚いているのだがユーゴもユーゴで光を放って消えた。

 

『っち、歌氷麗月め……』

 

「遊矢!!」

 

 ユートとユーゴが消えたのかと思えば柚子が現れた。

 

「柚子か……素良は見つかったか?」

 

「ううん、何処にも居ないわ……ねぇ、遊矢」

 

「なんだ?」

 

「素良は…………アカデミアなの?」

 

「ああ、そうだ」

 

 流石に気付くよな。柚子は恐る恐る俺に素良の正体について尋ねるので正直に答える。

 柚子は驚いた顔をしてはいるが何処か納得した顔をしている。

 

「驚かないのか?」

 

「あんなに強くて融合を使える何処のデュエル塾にも通っていない子が居るなんて無いし……遊勝塾に来たとき遊矢が目当てでやってきたから」

 

 心の何処かでもしかしたらと柚子は思っていたのか。だったらそのもしかしたらは当たっている。素良は融合次元の、アカデミアからの尖兵だ。

 

「これだけ探しても見つからないとなると……融合次元に強制送還されたんだろう」

 

「……これからどうなるのかしら?」

 

「それは俺にも分からない……でも、楽しいデュエルをする事が出来なくなりそうだ」

 

 

 

 

─────────────────────────────

 

 

 

 素良は融合次元に、正確には融合次元のアカデミアに送り返されていた。

 ユートとのデュエルで傷ついた素良は医療班により怪我の状態をチェック及び治療等を受けるのだが素良はVRゴーグルの様な物を装着させられている。

 

「スタンダードでなにがあった?」

 

 VRゴーグルの様な物は素良の記憶を読み取るというオーバーテクノロジーにも程がある技術だ。

 スタンダードの実態の調査、スタンダードのデュエリストのデュエルの腕前がどれぐらいの物なのか調べるのが素良の仕事だ。その素良が怪我をして帰って来た。赤馬零王はスタンダードで起きた異変について医療班に尋ねる。

 

「どうやらデュエルで敗北したそうです」

 

『漆黒の闇より愚鈍なる力に歯向かいし』

 

「!……」

 

 決闘盤の記録(ログ)と素良の記憶からユートとのデュエルが流れ出る。

 ユートを見た赤馬零王は僅かに表情を変える。分裂したズァークの1人と遭遇して負けてしまったのかとユートとのデュエルを凝視する。

 

「アカデミアの精鋭である素良を1ターンキル……悪魔め……」

 

 分裂したとはいえズァークの一部である事には変わりはない。

 悪魔の様なデュエルをしているなと思っていると記憶の映像にノイズが走る。

 

「プロフェッサー、スタンダードに送り込んだ兵士がやられて帰ったんだよね?」

 

「……ユーリか」

 

 それと同じタイミングでユーリが医務室に入ってきた。

 素良が強制送還されたと話を聞いてきたのでとある事を調べる為にやってきたのだ。

 

「榊遊矢には会ったの?」

 

 瑠璃とリンを攫うという重要な任務を邪魔し、2度も1ターンキルでぶっ倒してきた遊矢の事をユーリは知りたがっている。

 スタンダードに居るのは知っているが、普段は何をしている等の情報は特になかった。素良の記憶からそれは読み取る事が出来ないかと調べに来て、ついでに遊矢との対戦データが記録に無いのかと調べると、あった。1つや2つだけじゃない十数回もデュエルをしている。

 

『シンクロ召喚!混沌魔龍カオスルーラー!』

 

 レベル8のヤベえシンクロモンスターを平然な顔で召喚する。

 

『竜皇神話!対象のドラゴン族の攻撃力を倍にする!』

 

 エクシーズモンスターで攻撃力10000近くを叩き出す。

 

『ペンデュラム召喚!現われろ我が下僕のモンスター達!』

 

 ペンデュラム召喚という聞いたことのない未知の召喚方法を操る。

 

「っ……」

 

 榊遊矢はスタンダードの住人だ。スタンダードは融合、シンクロ、エクシーズの全てがあるが、発展途上に近い。それなのに本場のデュエリスト並、いや、それ以上に扱いこなしている。コレもまた覇王龍ズァークの片割れの片鱗だが、異常な迄に強すぎる。素良のデュエルの記録を調べてみれば全戦全敗、殆どが1ターンキルである。

 

「スタンダードが1番の悪魔なのか」

 

「まだこんなに手札を隠し持っているんだね……面白いね」

 

 ユーリは潰しがいがあるデュエリストを見つけたと笑みを浮かび上げるが、プロフェッサーは笑えない。

 アカデミアの中でも精鋭と呼ぶに相応しい素良が手も足も出ない。悪魔の片鱗を見せている。

 

「オベリスクフォースを総動員しろ……悪魔は潰す」




 嵐の様な一騒動があったものの平穏な大会は続く

 舞網チャンピオンシップは1回戦が全て終了し続くは2回戦

 OCG次元産のトマトが相手をするのは前回準優勝者の勝鬨(ヤムチャ)

 相手が誰であろうとも今日も今日とてトマトは圧倒的なまでのチートなデュエルをする。

 次回遊戯王ARC-V【トリプルフィーバー】にガッチャビングデュエルアクセラレーション!

 お前ならばそのカードを発動する、俺はそう信じていたんだよ!

 ば、バカなぁああああ!!


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トリプルフィーバー

今回も短めです


 素良が居なくなっても舞網チャンピオンシップは続く。と言っても残りの1回戦を処理するだけだった。アユもフトシもタツヤも無事に2回戦、3回戦と駒を進めて行っている。

 

「……見えた!スサノーOでダイレクトアタック!!」

 

 ジュニアユースクラスも2回戦に突入する。

 権現坂の対戦相手は姿を晦ます手品が売りのデュエル塾で、権現坂は心の眼で何処に隠れているのかを見抜く……いや、おかしいだろう。ツッコミどころが多すぎる。なんでデュエルで心の眼が必要なんだ。デュエルで必要なのは心じゃなくて肉体の眼だろうが。

 

『見事!権現坂選手、相手のトリックデュエルに惑わされる事なく己の心の眼で見抜き2回戦を突破しました!』

 

「誰もツッコミを入れないのか」

 

「……なにが?」

 

 権現坂の勝利に喜びを見せる遊勝塾の面々。コレだからアクションデュエルは嫌なんだと思いつつも次は俺の出番だ。

 

「遊矢、次のお前の対戦相手は勝鬨勇雄だ。LDSに続くプロ排出量2番目の全寮制の武闘派デュエル塾……」

 

「遊矢兄ちゃん、怪我しないでね!」

 

「大丈夫だ、アクションカードさえ取りに行かなければ向こうはリアルファイトに持ち込まない」

 

 アクションカードを取りに行こうとすれば勝鬨は攻撃してくる。

 梁山泊塾は中々にバイオレンスな塾……普通はジャッジの1つでも入ってくるのだがアレはアレで有りなんだと認める……カードゲームで怪我人が、それこそ担架で運ばれないといけないレベルの怪我をするのは普通におかしい。やっぱり遊戯王世界は異常だったりするわけだ。

 塾長やタツヤ達は怪我をしない事を祈る……俺がデュエルで確実に勝つと思っているのか、勝ってこいとか楽しんで来いとかは言ってこない。

 

「む、遊矢か」

 

「2回戦突破、おめでとう」

 

「なんのこれしき……まだまだ俺の不動のデュエルの本領は発揮していない」

 

 選手入場の入口付近で権現坂と出会う。

 権現坂はまだ本気を出していない。スサノーOだけで今のところはどうにかなっており、他の超重武者のシンクロや付け焼き刃に近いエクシーズなんかを残している……やっぱり権現坂は男前だな。

 

「それよりも遊矢、お前の対戦相手は」

 

「去年の準優勝者だろ?……凄えのが相手だけども、大会で優勝する以上は誰が当たってもいいんだよ」

 

「っふ、遊矢らしいな。ならばお前のデュエルを見せてもらうぞ!」

 

「そんな他人に見せる事が出来るレベルのデュエルじゃねえよ」

 

 俺のデュエルはOCG次元じゃ極々普通のデュエルをしているだけなんだ。

 権現坂はやる気を見せてくれるのだが、そこまでのものじゃないしどうしたものかと思いつつも試合会場に向かう

 

『さぁ、2回戦第2試合!コレまた好カードが組まれました!武闘派で知られる梁山泊塾!前大会準優勝者で1回戦では圧倒的なまでの強さを見せつけた勝鬨勇雄選手!対するは開会式で優勝宣言をした後に1回戦で圧倒的なまでの強さを見せつけ勝利した榊遊矢選手!果たして、いったいどの様なデュエルを繰り広げるのか、見ものです!!』

 

「ハードル上げるなぁ……」

 

 ニコはこれから面白いデュエルが巻き起こるとハードルを上げてくる。

 エンタメデュエリストならばカッコいいエンタメデュエルをしてくれるだろうが、生憎俺はデュエリストとは程遠い存在だ。面白くもなんともない普通のデュエルをするだけで終わる可能性が圧倒的なまでに高い。

 

「待っていたぞ、この時を!!」

 

 周りが、観客達が盛り上がりの歓声を上げている中で勝鬨は俺を指差す。

 はて?コイツと因縁なんかあったっけ?梁山泊塾なんてデュエルマッスルを重視するデュエル塾とは交流を持っていない気もするが……

 

「貴様の父はエンタメデュエル等というものを掲げている。だが、デュエルの本質は笑顔にあらず!闘争にある!」

 

「また父さんか」

 

 あの似非奇術師、ホントにロクな事をしやがらないな。

 勝鬨は俺もエンタメデュエルをすると思っているのだろうが、俺はエンタメデュエルをするつもりはない。俺は極々普通のデュエルをするだけだ。

 

「勝鬨、勘違いをするな。俺はエンタメデュエルもしないしなによりもデュエリストとは程遠い存在だ……どんなに頑張ってもデュエリストにはなれないんだ」

 

「なに?」

 

 デュエルモンスターズを良くてeスポーツの一種程度の認識しかしていない。

 eスポーツどころか社会を動かす、それこそ戦争の道具として利用する事が出来るとんでもない代物……カードゲームなのに……こんな事を思っているからデュエリストとは言えないんだろうな。

 

「ここは言葉を交わす場所じゃない、決闘をする場だ。お前にはお前の信念や道があるんだろう。俺は基本的には否定はしない……見せてみろよ」

 

「いいだろう!地獄の研鑽の成果をお前に見せてやろう!」

 

『試合開始前の宣戦布告は終わった様ですのででは早速アクションフィールド、オン!』

 

 勝鬨を相手に宣戦布告をし終えるとアクションフィールドが展開される。

 アクションフィールド【仙界竹林】、原作通りである……ここ無駄に広いから何処にアクションカードが紛れてるのか探すの難しいし、何よりも相手はバリッバリ武闘派の梁山泊塾だからな。アクションカードを取りに行こうとすればリアルファイトでボコられる。一応はデュエルマッスルを鍛えているとはいえバリバリのデュエルマッスルは相手には出来ない

 

『戦いの殿堂に集いしデュエリストたちが!』

 

『モンスターとともに地を蹴り、宙を舞い!』

 

『フィールド内を駆け巡る!』

 

『見よ、これぞ、デュエルの最強進化形』

 

『アクショ〜ン』

 

「「デュエル!」」

 

 ニコと観客達が協力してアクションデュエルの口上を言ってくれた。

 期待されているなと思いつつも手札と順番を確認する。先攻は俺から……手札は微妙である。

 

「俺のターン!俺は魔法カード、成金ゴブリンを発動!相手のライフを1000回復してカードを1枚ドローする……魔法カード、テラ・フォーミングを発動!デッキからフィールド魔法を手札に加える!俺はチキンレースを手札に加える!」

 勝鬨

 

 LP4000→5000

 

 

「遊矢の奴、最初からガンガンと飛ばしているな」

 

「相手は準優勝者、なにが出てきてもおかしくはないわ」

 

 柚子と塾長がなにか言っているっぽいけれども気にせずにデュエルを続ける

 

「フィールド魔法、チキンレースを発動して効果を発動!ライフを1000ポイント支払い3つの効果の内の1つを選ぶ!俺はデッキからカードを1枚ドローする効果を選ぶ!」

 

 遊矢

 

 LP4000→3000

 

 う〜ん……微妙だな。

 

「カードを1枚セットしてカップ・オブ・エースを発動!コイントスをして表ならば俺が、裏ならばお前がデッキからカードを2枚ドローする……コイントスの結果は表!よって俺はデッキからカードを2枚ドローする!」

 

 カップ・オブ・エースの効果が成功したので手札が5枚になった。

 だがまだまだ微妙な手札なのでデッキを回さなければならない。

 

「魔法カード、プレゼント交換を発動!お互いのプレイヤーは、それぞれ自分のデッキからカード1枚を選んで裏側表示で除外する。このターンのエンドフェイズに、お互いはそれぞれ相手となるプレイヤーが除外したそのカードを自分の手札に加える」

 

 取り敢えずは仕込む、仕込みまくる。とあるカードを選んで裏側表示で除外する。

 残りの手札は4枚……まだまだだな。

 

「俺はもう一度カップ・オブ・エースを発動……結果は表!コレで手札は5枚、カードを2枚セットして新しいチキンレースを発動!新しいチキンレースの効果を使ってカードを1枚ドロー……」

 

 遊矢

 

 LP3000→2000

 

「……よしっ、カードを更に2枚セットしてターンエンドだ!」

 

 微妙だった手札だったがカップ・オブ・エースのお陰で割といい感じの方向に向かった。

 

「エンドしたのでプレゼント交換の効果で裏側表示で除外していた互いのカードを交換する……受け取れ!」

 

「……っ、このカードは!!」

 

 勝鬨に向けてカードを投げた。

 器用に二本の指でキャッチした勝鬨は受け取ったカードを見て表情を変える。それどころかプルプルと震えている。

 

「自分を……自分を何処まで侮辱すれば貴様は気が済むのだ!」

 

「俺は至って真面目だよ。真面目にデュエルを楽しもうとしてるんだ」

 

 受け取ったカードを見れば誰だって侮辱していると思ってしまうがコレも立派な心理フェイズの1つだ。

 勝鬨は乗る……というよりは乗ってこないと勝負する事は出来ない。チキンレースの効果で俺にダメージを与える事が出来ない。

 

「ならばこのターンで終わらせてやる!自分は沼地の魔神王を手札から墓地に送る事で効果を発動!融合のカードを手札に加える」

 

 自分のターンだからガンガンに飛ばしてくるな。

 沼地の魔神王で融合をサーチしたという事は既に手札にキーカードは握っているな。

 

「魔法カード融合を発動!手札の地翔星ハヤテと天昇星テンマを融合!天翔ける星 地を飛び 今ひとつとなって、悠久の覇者たる星と輝け!融合召喚!来い!覇勝星イダテン!」

 

 覇勝星イダテン

 

 レベル10 光属性 戦士族 融合 レベル5以上の戦士族モンスター×2

 

「覇勝星イダテンの効果を発動!覇勝星イダテンが融合召喚に成功した時、デッキから戦士族・レベル5モンスター1体を手札に加える!天融星カイキを手札に加える。更に自分フィールドに光属性のモンスターのみの場合地翔星ハヤテを特殊召喚!更に地翔星ハヤテの効果を発動!このカードが召喚または特殊召喚に成功した場合、手札から戦士族・光属性・レベル5モンスター1体を特殊召喚する!現れろ天融星カイキ!」

 

「おぉ、流石だな」

 

 通常召喚権を一度も使わずに融合モンスターを並べるだけでなく、融合素材を並べた。

 

「天融星カイキの効果を発動!LPを500を払って発動!自分の手札またはフィールドから、戦士族の融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。自分はカイキとハヤテを墓地へ送り再び現われろ!覇勝星イダテン!」

 

 勝鬨

 

 LP5000→4500

 

 2枚目のイダテンが飛び出してきたか。

 イダテンのサーチ効果は名称ターン1なのでこれ以上はサーチすることは出来ない……が、ヤバい状況である事には変わりはない。イダテン打点が3000と地味に強く、更には手札を墓地に送れば攻撃力がアップの至れり尽くせりな効果だ。

 

「おっと、バトルフェイズに突入する前に言っておくぞ」

 

「チキンレースがフィールドにある場合ライフが下回っている者はダメージを受けない、であろう」

 

「よくご存知で……さぁ、どうする?3000の壁を並べて終わりか?」

 

「笑止!自分には貴様から受け取ったこのカードがある!ハーピィの羽根帚を発動!相手フィールドの魔法と罠カードを全て破壊する!無論、お前のチキンレースもだ!!」

 

「フフフフ……ハーッハッハッハッハ!!」

 

「な、なにがおかしい!貴様のフィールドはガラ空きになったのだぞ」

 

「いや、おかしいんじゃねえ。ここまで俺の予想通りに動いてくれたから、面白くてな……」

 

 如何にもなカードを5枚ガン伏せ状態ならば誰だって警戒する。その上で相手からハーピィの羽根帚を送られたのならば普通は怪しむ……が、チキンレースという厄介なフィールド魔法があるのでどうにかして破壊しないといけないと思う。サイクロンを握っていればそれでいいが残念な事にサイクロンは握っていなかった……そう、ここまでなにもかも俺の計算通り、このデッキ博打要素は強いけれども決まれば凄く面白い。

 

「この瞬間、破壊されたジャックポット7の効果を発動!このカードが相手のカード効果によって墓地に送られた時、このカードを除外する!この効果によって除外された自分のジャックポット7が3枚揃った時、自分はデュエルに勝利する」

 

「ま、まさか!」

 

「そう、セットカード5枚の内の3枚はジャックポット7!カードの効果処理にチェーンは無し!よってジャックポット7の効果が3枚発動し、除外……お楽しみはここまでだ!!」

 

 決まった。何時もの決め台詞を言えばジャックポット7の効果が処理される。

 強欲な壺が上に乗ったスロットが出現したかと思えばスロットが回転して777とスリーセブンが揃い、大量のコインが勝鬨を飲み込み爆発を起こす……なんで爆発?

 

 

 榊遊矢 WIN ジャックポット7の効果による特殊勝利

 

 

『き、決まったぁああああ!!遊矢選手、モンスターと罠カードを1枚も使うことなく魔法カードのみで勝鬨選手を完封!強い、強すぎるぞぉおおお!!』

 

「ま、ざっとこんなもん……」

 

 相手の手札を確認するタイプのカードが中々に手札に来なかったからな、サイクロンとか使われてたら神の宣告使わなきゃいけなかった。

 割と危ないラインを渡っているもののなんとか勝鬨を倒す事が出来た。勝鬨の方をチラリと見れば勝鬨は膝をついていた。

 

「そんな……たかが1枚のカードで」

 

「たかが1枚、されど1枚だ。ハーピィの羽根帚を渡したのはわざとなんだから使ってくださいって言ってるも同然だろう」

 

「っ……」

 

「面白いデュエルをやらせてくれてありがとうな……とっても楽しかったぜ」

 

「嫌味か、貴様は!!」

 

「コレぐらいは遊勝塾じゃ日常の光景だ、バーロー……腕磨いて挑んでこい。次は別のデッキで相手してやるからな」

 

「次こそはお前を倒す!」

 

 そうそう。この程度でへこたれていたら1人前のデュエリストには程遠い……と言っても俺はデュエリストですらないけども。

 ともあれ勝鬨を無事に倒す事が出来たので俺は2回戦を勝ち抜いて次に駒を進める……

 

「楽しいデュエルはここまでか……」

 

 素良が今どうなっているのかは知らないけれども、記憶の解析はされているのは確かだろう。

 そうなると柚子や瑠璃の情報がバレてアカデミアは侵攻してくる。精鋭部隊らしいオベリスク・フォースを引き連れてだ。デュエルで負ける事は無いだろうが……瑠璃がこの次元にいて観客席に居るならば観客席を襲ってくる……いや、あの素足マフラーの事だから舞網市全体をバトルフィールドに変えるつもりなんだろうな。

 

「備えねえとな……はぁ、こんなデッキを作ったりするから俺はデュエリストとは程遠いんだろうな」

 

 勝鬨に無事に勝利したのに喜ぶことが出来ない。楽しいデュエルが暫くは出来ないと落ち込む俺であった。





 まだまだ続く舞網チャンピオンシップ。

 裏では壮大なる陰謀が渦巻くのだがそれを知るものは少ない

 そんな中現れるは1人の来訪者

「魔法カードのみで相手を倒すとは中々にやるな!今度は私と勝負だ!」

「嫌です」

 OCG次元産トマトは普通に断る。

 次回遊戯王ARC-V【月光現る】にガッチャビングデュエルアクセラレーション!


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月光現る

セレナは色々と酷い目にあうから許してけーれ。


 

「モンスターも罠カードも使わずに勝利、か……」

 

 レオ・コーポレーションの管制室でデュエルを観戦している素足マフラーもとい赤馬零児は呟く。

 アカデミアと戦うための尖兵の候補を絞るこの大会だが、遊矢が幾つも頭が抜け出ている。モンスターや罠カードを使わず魔法カードのみでデュエルに勝利した。対戦相手の勝鬨は1ターンで攻撃力3000のモンスターを並べたがそんな事は全くと言って意味は無かった。

 

「前とはデッキが異なるみたいだが……」

 

「榊遊矢は幾つもデッキを持っている」

 

 この前見た後攻ロンゴミアントとはデッキの内容が大幅に違う。

 その事を気にするユートだが、零児が遊矢は幾つものデッキを使いこなすデュエリストだと説明をする。デュエリストとは1つのデッキに己の信念や魂を込める者で、遊矢はデュエリストとは圧倒的なまでに遠い。

 

「瑠璃は無事なのか?」

 

 遊矢の事はさておいて、瑠璃の身を心配するユート。管制室の液晶画面に塾長達遊勝塾一同が映し出される。そこには遊矢の勝利を喜ぶ瑠璃と柚子の2人が居た。2人とも無事なようで何よりだとホッとしているその時だった。

 

「高エネルギー反応発見!コレは……融合です!融合召喚のエネルギー反応です!」

 

 融合召喚に関する高エネルギー反応が舞網チャンピオンシップの会場付近で発見される。融合と聞いてユートはもしやと反応する。

 解析班は急いで融合召喚のエネルギー反応について調べると直ぐ近くに監視カメラがある事に気付き監視カメラの映像を映し出す。

 

「コレは……」

 

「瑠璃だと!?」

 

「隼!」

 

 モニターに映し出されたのは瑠璃……にそっくりな少女だった。

 どうして瑠璃がと一瞬だけ思考が停止していると黒咲が現れて瑠璃がどうしてここにいるんだと声を荒らげたのでユートは一周回って頭が冷静になった。

 

「赤馬零児、融合召喚の反応だと言ったな!瑠璃が使ったのか!」

 

「君の妹は、瑠璃は無事だ。遊勝塾の面々と共にいる」

 

「遊勝塾……やはり榊遊矢が!」

 

「待て!榊遊矢と接触することは許さん」

 

 遊矢の元に向かおうとする黒咲を零児は止める。

 遊矢に対して個人的な敵意等を抱いている黒咲、こっちの次元にやってきて色々としでかしておりその件に関して零児は目を瞑っているのだが瑠璃は許すつもりは無い。会えば一触即発、どちらかが倒されるまで終わらないデュエルが開幕するのが目に見えている。

 遊矢はランサーズの第一候補、今ここでくだらない争いを繰り広げて貴重な戦力を潰すわけにはいかない。

 

「っちぃ」

 

 ランサーズの事なども考えれば接触するなという零児の命令を聞かなければならない。

 色々と言いたいことは多々あるが言葉を飲み込み渋々零児の命令を聞く。

 

「彼女は……」

 

「知っているのか!?」

 

 瑠璃や柚子に似た少女に零児は心当たりがあった。

 過去に偶然アカデミアに単身で辿り着いた際に出会った少女、セレナだ。彼女もまた柚子や瑠璃と瓜二つでありプロフェッサーこと赤馬零王のリバイバル・ゼロに必要不可欠なキーの様な存在である。

 

『エクシーズの残党はこの程度の実力なのか!』

 

「志島北斗がカード化されました」

 

「っ……」

 

 監視カメラから音声を拾い上げるとセレナはつまらなそうに憤慨していた。

 エクシーズの、レジスタンスの残党がこの次元に居るのでやってきてエクシーズ使いを見つけたので早速狩ってみたが、全くと言って話にならなかった。間違って狙われてしまった志島北斗はセレナの決闘盤にインプットされていたカード化の機能を用いてカードにされてしまった。

 

『今、ユースクラスのデュエルが開幕しています。そこにもエクシーズ使いが』

 

『なるほど、本命は別に居るというわけか……だが、今はデュエル中だ。乱入するわけにはいかない』

 

 どちらかといえば悪側の立ち位置の人間であるセレナだが、根はいい子である。

 大事なデュエルの大会に乱入して滅茶苦茶にする訳にはいかないと、ユースクラスのエクシーズ使いのデュエリストを出待ちしようとする。

 

『あ……』

 

『む、お前は!!』

 

「まずい。榊遊矢とセレナが鉢合わせした!!」

 

 今ここで遊矢を失うわけにもいかないし、融合次元からの使者とドンパチするわけにもいかない。

 まだなにも知らない人達を巻き込んでのデュエルは危険だと思い、零児は今すぐにでもと現場に向かおうと席を立とうとする。

 

『魔法カードのみで相手を倒すとは中々にやるな!今度は私と勝負だ!』

 

「っ……間に合わないか」

 

 決闘盤を取り出して構えるセレナ。

 今から向かっても遊矢とセレナのデュエルに立ち会う事は不可能である。遊矢の実力ならば負ける事は先ず無いだろうが、セレナの事も心配である。なにせプロフェッサーのお気に入りの1人なのだから。

 

『嫌です』

 

『なぁっ!?』

 

「断った、だと……」

 

 デュエリストならば挑まれたデュエルに応じるのが普通だ。しかしこのOCG次元産のトマトはデュエリストではないリアリストだ。

 決闘盤を構えるセレナを無視して通り過ぎようとするとセレナとセットでやってきた軍人の男、バレットが遊矢の前に立つ。

 

『どうか彼女とデュエルをしてもらえないだろうか?』

 

『無理だって。さっきのデュエルで俺のデッキのコンセプトがバレたんだから……チキンレースの効果で自壊してからのダイレクトアタックっていう道もあったんだ。色々と伏せてたけども次は無い……そんなデュエリストとデュエルはしたいか?』

 

『それは……』

 

 遊矢の、相手にハーピィの羽根帚を使わせてジャックポット7の効果での特殊勝利は初見殺しに近い。

 2回目以降からはハーピィの羽根帚は使われずサイクロン辺りでチキンレースを破壊される可能性が高い。1回だけしか使う事が出来ない初見殺しのデッキを相手に2回目のデュエルを挑むのかと聞かれればセレナは困る。

 

『初見殺しに2回目のデュエルはねえ……見たところ、大会に出場してねえデュエリストだろう。俺はこの大会、真面目に優勝を狙いに行っているんだ。番外デュエルなんてしてバランスを崩すなんて真似はしたくはねえ。大会が終わったら幾らでも相手になってやるから、おっさん、退いてくれ』

 

『む、むぅ……ならばこの大会が終われば真っ先に私とデュエルをしてもらうぞ!』

 

『はいはい』

 

 のらりくらりとセレナの挑戦を跳ね除ける遊矢。

 一先ずはデュエルをする事はなくホッとするのだが、アカデミアの使者がこの次元に来訪しているという事実には変わりはない。零児は急いで現場に向かわなければと席を立って現場に向かった。

 

「まだ出てこないか?」

 

「残念だが、ここからはユースクラスの選手は出てこない」

 

「!?」

 

「お前は……何者だ?」

 

「零児、赤馬零児……アカデミアからやってきたのだな」

 

「っ!?……赤馬、そうか。お前がプロフェッサーの息子か」

 

 アカデミアからの尖兵であるバレットは驚くが零児の名前を聞いて直ぐに納得をする。

 

「この次元に、スタンダードに来たという事は侵攻のためか?」

 

「コレはプロフェッサーの命令ではない。セレナ様と共に独断でやってきた……だが、ここで手柄を上げて勲章を得させてもらう!!」

 

 決闘盤を構えるバレットと零児、デュエルの火蓋が切られる。

 

 

──────────────────────────────

 

「ふぅ……なんとか撒くことは出来たな」

 

 セレナがこの次元に来ていた。原作通りに事が動いているのを喜ぶべきか悲しむべきか……明後日からは残っている選手達でバトルロワイヤルを行うんだろうなぁ……。ジャックポット7のデッキは初見殺しなところがあるので、これ以上は使っても確実に負けるだけだと適当な理由をつけて撒くことに成功した。

 

「……デュエルしないといけないんだよなぁ……」

 

 最終的にはデュエルをしようぜの約束を交わしたのでデュエルをしないといけない。

 厄介な事が更に増えたと大きなため息が出る……ああ、アカデミア対策のデッキとかを作らないといけないな。遊戯王は大好きだけども命を賭けたデュエルは行いたくはねえわ。

 

「さぁさぁ、残すはジュニアクラスのみとなって参りました!」

 

「おぉ、遊矢遅かったじゃないか」

 

「なんかデュエルしろって挑まれてな……あのデッキ、初見殺しみたいなところがあるから二度は使えないって断ってきた」

 

 遊勝塾が座っている場所に向かえば、塾長が声を掛けてくる。

 遅かった理由を伝えると、やっぱりこういう大会だから燃えるところでは燃えてるもんだなと塾長はそれ以上は深く追求してくる事はせずに、間もなく始まるデュエルを見守る姿勢に入る。

 

「アユ!お前の熱いデュエルを見せつけるんだぁ!!」

 

 ジュニアユース、ユースクラスのデュエルは終わって残すはジュニアクラス。

 ここまで勝ち残ってきたジュニアクラスのデュエリスト達は、会場の端っこではなくスタジアムでデュエルをする。

 

「フトシ、お前もいいところを見せてくれよ!」

 

『さぁ、お互いに遊勝塾のデュエリスト、同門対決です。LDS等の猛者を退けたアユ選手、痺れるデュエルを見せつけてくれたフトシ選手!どちらも優勝候補と言っても過言ではありません!』

 

 ニコの奴、盛り上げるなぁ。

 アユとフトシがデュエルをすることになった。どっちに勝ってほしいかと聞かれれば……どっちに勝ってほしいんだろうな。少なくとも遊勝塾で学んだ事を発揮する事が出来るデュエルをしてほしい。

 

『アクションフィールド、オン!』

 

 アクションフィールドが展開される。今回のアクションフィールドはスウィーツ・アイランド。どっちかが得意なフィールドじゃないので、フトシにもアユもどう出てくるか……見物だな。

 フトシにもアユにも得意なアクションフィールドじゃないのでどう出てくるか……見物だな。

 

「「デュエル!!」」

 

 アクションデュエルの例の口上を言い終えた後にアクションカードがフィールド中にばら撒かれる。

 デュエルが開始されると同時にアユとフトシは走り出す。目的はアクションカード……アクションデュエルは開始と同時にアクションカードを手に入れなければならない。

 

「私のターン!アクアアクトレス・アロワナを墓地に送って魔法カードワン・フォー・ワンを発動!デッキからレベル1のモンスターを特殊召喚出来るよ!私はアクアアクトレス・テトラを特殊召喚!」

 

 先攻はアユからだった。ワンフォーでモンスターを墓地に送る……悪くない動きだ。

 

「アクアアクトレス・テトラの効果を発動!アクアリウムカードをデッキから手札に1枚加える。私は水舞台を手札に加えてそのまま発動!このカードがある限り水属性のモンスターは水属性のモンスター以外との戦闘では破壊されなくて、更にアクアアクトレスモンスターは相手のモンスター効果を受けないよ!」

 

「だが打点が低い…………既に握っているか」

 

「魔法カード、テラフォーミングを発動!デッキからフィールド魔法を手札に加える。私は湿地草原を手札に加えてそのまま発動!フィールド上の水族・水属性・レベル2以下のモンスターは攻撃力が1200ポイントアップする!更に一族の結束を発動!墓地にはアクアアクトレス・アロワナの水族1体!アクアアクトレス・テトラの攻撃力は2000ポイントアップするよ!」

 

 アクアアクトレス・テトラ

 

 レベル1 水属性 水族 攻撃力300→1500→2300

 

「カードを1枚セットしてターンエンド!」

 

 手札がテラフォーミングとか一族の結束とかでキーカードが握れていなかったんだろうな。

 アユはアクアアクトレス・テトラ1体を召喚して終わらせる……セットカードは何なんだろうな?

 

「おれのターン、ドロー……おれはエレキリギリスを召喚!エレキリギリスは表側表示で存在する限り、相手は表側表示で存在する他のエレキと名のついたモンスターを攻撃対象に選択できず、カードの効果の対象にする事もできないぜ!更に装備魔法、月鏡の盾を装備!アクアアクトレス・テトラに攻撃!!」

 

 エレキリギリスは電撃を放つ。

 アクアアクトレス・テトラは電撃で痺れるが水舞台のお陰で戦闘では破壊されない。

 

『おやおやおや、アクアアクトレス・テトラの方の攻撃力が高いですが』

 

「月鏡の盾を装備しているモンスターは相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時に発動!装備モンスターの攻撃力・守備力はダメージ計算時、戦闘を行う相手モンスターの攻撃力と守備力の内、高い方の数値+100になるんだぜ!!」

 

 アユ

 

 LP4000→3900

 

「月鏡の盾がある限りは戦闘では絶対に勝って、他のエレキモンスターは狙えない……」

 

「地味だが中々に強いコンボであるな」

 

「更に永続魔法、平和の使者を発動!このカードがある限り攻撃力1500以上のモンスターは攻撃宣言は出来ない!カードを1枚セットしてターンエンド!」

 

『おおっと、コレは無敵のロックコンボかぁ!!』

 

 平和の使者で殴りにこさせない様にして、月鏡の盾では絶対に倒されない様にしている。

 まだエレキデッキの本領は発揮されていないため、流石のコンボだがアユのモンスターを突破する事が出来ていない……どっちが先に強烈なコンボを発動するのか。

 

「私のターン!ドロー!アクアアクトレス・テトラの効果を発動!水照明を手札に加えて、アクアアクトレス・グッピーを通常召喚!」

 

 アクアアクトレス・グッピー

 

 レベル2 水属性 水族 攻撃力600→1800→2600

 

「……ターンエンド」

 

 モンスターを並べるまでは良かったものの、そこから先が出来ない。

 平和の使者と月鏡の盾が絶妙なまでにいい仕事をしている。高い打点を得る事が出来ても殴ることが出来ない……

 

「おれのターン!ドロー!平和の使者のコストを支払い、おれのライフは3900に!そしておれはエレキングコブラを通常召喚!」

 

 エレキングコブラ

 

 レベル4 光属性 雷族 攻撃力1000

 

「バトル!エレキングコブラは相手に直接攻撃する効果を持つ!エレキコブラツイストだ!」

 

「し、痺れるぅううう!!」

 

 エレキングコブラはコブラツイストを決める。

 

 アユ

 

 LP3900→2900

 

「更にエレキングコブラの効果を発動!このカードがダイレクトアタックに成功した時、デッキからエレキモンスターを手札に加える!おれはエレキリギリスを手札に加えてエレキリギリスでアクアアクトレス・テトラに攻撃してターンエンドだぜ!」

 

 アユ

 

 LP2900→2800

 

「……フトシが優勢だな」

 

「どんなに強力なモンスターを並べても、攻撃する事が出来なかったら意味が無いわよね……」

 

 フトシの方にやや有利にデュエルの盤面は動く。瑠璃ならば突破する事が出来るだろうが、中々に厳しい。

 アユに残された時間は少ない……どう出る?

 

「私のターン、ドロー……アクアアクトレス・テトラをリリースしてアクアアクトレス・アロワナをアドバンス召喚!」

 

 アクアアクトレス・アロワナ

 

 レベル6 水属性 水族 攻撃力2000→2800

 

「アクアアクトレス・アロワナの効果を発動!アクアアクトレスモンスターをデッキから手札に1枚加える!私はアクアアクトレス・テトラを手札に加えて、ターンエンド!」

 

「おれのターン!ドロー!平和の使者のコストを支払って、おれはエレキリンを通常召喚!エレキリンもエレキングコブラ同様にダイレクトアタックする事が出来るぜ。バトル!エレキリンとエレキングコブラでダイレクトアタック!」

 

 アユ

 

 LP2800→1600→600

 

「エレキングコブラの効果を発動!エレキツネを手札に加えてターンエンド!」

 

「私のターン!ドロー……よっし!アクアアクトレス・アロワナをリリースして私は凍氷帝メビウスをアドバンス召喚!」

 

「させるかぁ!!ライフを半分支払って神の宣告を発動!そのアドバンス召喚を無効にするぜ!」

 

「そ、そんなぁ……」

 

 あ〜終わったな。

 アユが凍氷帝メビウスで一発逆転を狙ったが、フトシは効果を確認して凍氷帝メビウスの恐ろしい効果を知る。

 凍氷帝メビウスでエレキリギリスにつけられている月鏡の盾と平和の使者と水舞台を破壊すれば……いや、たらればの話は本番の大会ではしてはいけないことだな。少なくともこのタイミングで神の宣告を打って正解だ。通告だったら打てなかった可能性もある。

 

「……ターンエンド」

 

「おれのターン!ドロー!おれはチューナーのエレキツネを通常召喚!レベル2エレキツネにレベル4エレキリンをチューニング!エレキ!閃き!電撃!痺れるぅうう!!シンクロ召喚!現われろ、レベル6!エレキマイラ!」

 

 エレキマイラ

 

 レベル6 光属性 雷族 攻撃力1400 エレキと名のついたチューナー+チューナー以外の雷族モンスター1体以上

 

「アユのアクションカードは攻撃回避系でもダメージ減少系でもない。仮に回避系でも1回しか使えない……バトル!エレキマイラもダイレクトアタックすることが出来る効果を持ってるぜ!エレキマイラでダイレクトアタック!!」

 

 エレキマイラは電撃を放つ。

 アユにダイレクトアタックを決めてアユを痺れさせる。

 

 アユ

 

 LP600→0

 

「やったぜ!おれの勝ちだ」

 

「うわぁ~ん!負けちゃった!!」

 

「除去系のカードが少ないのがアユちゃんの弱点ね……ジュニアユースクラスになるまでには見直さないと」

 

 今回のデュエルを見て柚子は見直さないといけない部分を考える。

 アユvsフトシのデュエルの結果、フトシがデュエルを制した。

 割と地味めなデュエルだったものの、エレキのロックはライフ4000だと割とすぐ早くにライフが0になる。逆転の一手を引く前に倒される可能性がかなり高い。メビウスでの除去は悪くはなかったんだけどな……





 遂に始まるわ禁断のバトルロワイヤル。

 その裏では陰謀が渦巻く。悪魔を倒すべく、オベリスク・フォースは動く

 悪魔は悪を演じる。満足の行くまでの銃撃戦を楽しむ。

 禁断のバトルロワイヤルがハンティングゲームが今幕を開く!

 次回遊戯王ARC-V【開幕バトルロワイヤル】にガッチャビングデュエルアクセラレーション

 社長のデュエル?知らないな。


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開幕バトルロワイヤル

 

 アユとフトシは中々のデュエルを見せてくれた。

 地味めなデュエルだったものの、フトシが着実に盤面を揃えることが出来たので勝つことが出来たと言ったところだな。

 

『さぁさぁさぁ!此処に集いしは激戦を繰り広げたデュエリスト達!』

 

 例年通りならば3回戦が繰り広げられる舞網チャンピオンシップ・ジュニアユースクラス。

 今回は違うぞと言わんばかりに2回戦まで制したデュエリストを並ばせる。

 

『え〜例年通りならば3回戦が行われるのですが今年は少々変わった催しを行います!』

 

「やりたくねえ……」

 

 何時も通り3回戦を行うでいいじゃん。なんで今年に限って今回に限って特別な事を行うんだよ。

 原作通りなので仕方がない事だとある程度は割り切っているけれども、ここから色々とガバガバになるんだよな。

 

『なんと!舞網市全体にアクションフィールドを敷いてバトルロイヤルを行います!!』

 

「はい、質問!それって事実上の決勝戦ですか!」

 

『えっと……』

 

 おい、運営。ちょっとした質問を受けただけで手を止めるんじゃねえよ。

 ニコは困った顔をしていると思えばカンペの様な物を受け取るとカンペを見つめる

 

『え〜このバトルロイヤルはただ戦うのではありません!フィールド内にバラまかれたペンデュラムカードをアンティルールで賭けて戦います!ペンデュラムカードを最後に多く持っていた上位数名が準決勝に進出が』

 

「それって何時から何時までだ?」

 

『い、一日中戦う事になります』

 

「ざけんな!飯抜きトイレ無しで丸一日ぶっ通しでデュエルなんて幾らなんでも無理がある!」

 

 デュエリストをなんだと思っているんだ!いや、俺はデュエリストじゃないけども。

 アカデミアの侵攻対策の為にやっているんだろうがガバッている。徹夜でデュエルする事はあっても丸一日中ぶっ通しで動き続けるのはシンプルに嫌だ

 

『そ、そう言われましてもね』

 

「第一ユースとジュニアクラスのデュエルはどうなるんだ!このスタジアムで行うとしても観客達は家に帰れるんだろうな!!」

 

『え、ええっと……』

 

「運営、レオ・コーポレーション!ガバり過ぎだろう。時間制限と観客達が泊まるホテルを要求する!夜通しでペンデュラムカードを集められたら流石に負ける。デュエルの勝敗と関係無いところで負けるのはごめんだ」

 

 梁山泊塾というデュエルマッスルな精鋭がまだ残っている。

 権現坂も梁山泊塾に負けないデュエルマッスルを持っており、デュエルを全くせずに一日中ペンデュラムカードを集められたら流石に負ける。デュエルの結果で負けるのはともかく、こんなガバったルールで負けるのは普通に嫌だ。

 

「そうだそうだ!」

 

「オレたちをずっと出さないつもりか!」

 

 このバトルロイヤルのルールに関して文句を言っていると観客達もクレームを言ってくる。

 流石に丸一日以上軟禁されてしまうのは誰だって嫌である。食事フェイズと睡眠フェイズが行えないのは痛い。

 

『う、運営のレオ・コーポレーション!どうなさりますか!!』

 

 ニコは予想外の事なのでレオ・コーポレーションに丸投げをする。

 するとスタジアムで1番大きなモニターに素足マフラーもとい赤馬零児が映し出される。

 

『……分かった。要望は飲もう』

 

 ポーカーフェイスに見えて若干表情が引き攣っている。

 完璧な作戦かなにかだと思っているんだろうが大分、いや、かなりガバガバだからな。

 

「じゃあ、デュエルは朝の9時から夜の9時までの12時間でトイレとかの一部公共施設はアクションフィールド無しで……ペンデュラムカードはアンティで手に入れたカードのみをカウントし、ホテル取ってる観客達は払い戻しな」

 

『っぐ……』

 

「後、拾ったペンデュラムカードは絶対に使用しないといけないルールは無しな。デッキによってはペンデュラムモンスターと相性が悪いデッキだってあるんだ」

 

 一族の結束を積んでるデッキとか一部のデッキとは相性が悪い。レベル1デッキとかペンデュラムと相性が悪い。

 赤馬零児は色々と言いたそうな顔をしている。運営なのにゲームのルールの主導権を俺に握られているから思うところはあるんだろう。だがしかし、お前が色々とガバッているのは今に始まったことじゃない……さて……。

 

『……いいだろう』

 

「デッキの複数使用も認めろよ」

 

 でなきゃつまらないデュエルになっちまう。俺の要求を赤馬零児は全て飲み込んでくれる。

 取り敢えずコレで心配事は減った……減るには減ったのだが無くなったわけではない。まだまだ心配事は多い……あ〜胃が痛いな。その内胃薬的なのを購入しようかな?いや、原作さえ乗り越えればストレスの原因は無くなるから我慢するしかない。

 

『戦いの殿堂に集いしデュエリストたちが!』

 

『モンスターとともに地を蹴り、宙を舞い!』 

 

『フィールド内を駆け巡る!』

 

『見よ、これぞ、デュエルの最強進化形!』

 

『アクショ〜ン』

 

『「「「デュエル!」」」』

 

 アクションフィールド ワンダー・カルテットが展開される。

 火山、氷山、遺跡、密林の4つの地帯が存在しているアクションフィールド……舞網市の一部の公共施設を除く場所以外にアクションフィールド……

 

「いや、難易度高くねえか?」

 

 観客達と共にアクションデュエル開始の合図を告げると、選手達は一斉にスタジアムを抜け出た。

 俺も真面目にデュエルをしている振りをしておかなければならないのだが、冷静になって考えてみれば広大な舞網市に落ちているペンデュラムカードを手に入れるって難易度が高いと思う。決闘盤に何処にペンデュラムカードが置かれているのか分かるレーダーが搭載されているなんて言う都合のいい展開は無い。アクションカードと同様に自力で見つけ出さないといけない……俺もその辺りに関してツッコミを入れる事はしなかったが、今になって考えてみれば……うん。

 

「遊矢は何処のエリアに行くの?」

 

「俺は溶岩地帯のフィールドに向かう……柚子は?」

 

「私は氷山地帯のフィールドに向かうわ……決勝で会いましょう!!」

 

「ハハハ……決勝戦、来るかな」

 

 そもそもで舞網チャンピオンシップ曖昧に終わらせられるんだよな。

 これから起きる出来事を想像すれば頭が痛くなるが、柚子は柚子で頑張っているんだ……ここから出番が無いに等しいけれども強化は済ませてあるからなんとかなるはずだと思う。

 

「さて、ゲームバランスを度外視したアホペンデュラムカードは何処だ?」

 

 火山地帯に向かいつつもペンデュラムカードを探す。

 召喚制限が無いスケール9とか13とか言う馬鹿みたいなペンデュラムカードは早いところ処理しておかなければならない。しかしペンデュラムカードを探してみるが中々に見つからない…………。

 

「隠れてないで出てこい」

 

 カードは見つからないが、俺を監視している者が居る。

 

「HAHAHA、気付かれちゃってたか!」

 

「お前は……誰だ?」

 

「ありゃりゃ!知らないのかい?」

 

 知ってはいるけれども初対面なので知らないフリをする。

 もう既にこの手の演技は馴れているので、俺を付けていた男は俺が知っている事には気付かない。

 

「ボクはデニス、デニス・マックフィールド!君の今までのデュエルを見させてもらったよ!!」

 

「残念だが俺は今ペンデュラムカードは持っていない。ここでデュエルをしても意味は無いからしねえぞ」

 

「こんなところでデュエルを挑むだなんて無粋な真似はしないよ……それよりも1回戦も2回戦もスゴいデュエルをしたね」

 

「スゴい、か……」

 

「でも、残念だよ。榊遊勝の息子である君ならばもっと輝かしいエンタメデュエルをしてくれると思ったんだけど……スゴいデュエルは出来てもエンタメデュエルをする事は出来ないんだね」

 

「お前、なにか勘違いしていないか?」

 

「え?」

 

「俺はデュエリストとは程遠い存在だ。父さんのエンタメデュエルもあんまり好きじゃないんだよ」

 

「エンタメデュエルが好きじゃないだって!?君はそれでも遊勝塾のエースなのかい!?」

 

「遊勝塾のエースは柚子だ。俺は基本的には裏方で、今回舞網チャンピオンシップに出場したのはプロになった方がなにかとお得だからだ」

 

 その辺りを勘違いしてもらったら困る。

 エンタメデュエルは好きじゃない。ソリッドビジョンで派手な演出を魅せつけるのは構わないが、俺達はカードゲームをやっているんだ。面白いコンボとかで魅せるならばともかく、それ以外の方法で魅せつけるのはデュエルの本質を見失っている。

 

「そんな……」

 

「父さんのファンで居てくれるのはありがたいが息子の俺にまで同じデュエルを強要するんじゃねえ……俺は俺の満足が行く楽しいデュエルをするだけだ」

 

「そうか……だったら勝ち残って君に魅せてあげるよ!ボクのエンタメデュエルを!」

 

「いやだからエンタメデュエル自体あんま好きじゃないんだってば」

 

 デュエルで心に訴えかけるとかそういうのには興味はない。デュエルは楽しむものである。

 デニスは俺に宣戦布告をすると、ペンデュラムカードを集めに火山地帯に向かって走っていった。

 

「やれやれ……で、上手く気配を隠せてると思っているのか?」

 

「っ!!」

 

 デニスが見えないところにまで去っていった。

 本来の目的を忘れて真面目に舞網チャンピオンシップのバトルロイヤルに挑戦しているんだろう。それ自体は別にいいことなので深く踏み込む事はせずに、更に気配を上手く隠していたデュエリストに姿を現してもらう。

 

「コレは驚いた。拙者の気配に気付くとは」

 

「偶然だよ、偶然。デニスに出て来いって言った時に気配を2つ感じたんだ……確か日影だったか?」

 

「左様」

 

「残念な事にペンデュラムカードは握っていないんだ。デュエルをすることは出来ねえ」

 

 赤い忍者こと風魔日影が現れる。

 あくまでもこの大会に真面目にデュエルをしている体をとる為にペンデュラムカードを入手していない事を伝えると、ジッと俺の事を見つめてくる。

 

「アカデミア」

 

「……アカデミアって何処の学校の事だ?」

 

「惚けても無駄で御座る。いや、隠し立てはしなくていいと言ったほうが正しいのか。拙者は赤馬零児の命を受けてここにいる」

 

「はぁ……やっぱ裏があるよな」

 

 アカデミアの単語を出してカマを掛けに来たのだろうが、この程度で引っかかる俺じゃない。が、瑠璃の事やユートとの会合に関して赤馬零児やレオ・コーポレーション側は知っている。これ以上は嘘をついても無駄だと判断し、全てを知っている素振りをする。

 

「アカデミアからの尖兵が見受けられた。直ぐに追加で兵隊が送られてくる可能性が高いで御座る」

 

「んなのデュエルで蹴散らせばいいだけの話だ……話はそれだけか?」

 

「それだけとは、戦争で御座るよ!?」

 

「分かってるよ、それぐらいは。でもこっちはプロになる為にここに来ているんだ……悪いが、そこを通してもらうぞ」

 

 一応はペンデュラムカードを集めておかなきゃなんないんだ。

 真面目にプロになる為にここにやってきたんだ……例え次元戦争と言えども許すつもりは無い。

 

「デュエルで御座る!拙者とデュエルをしてもらうで御座る!拙者が負ければこの5つのペンデュラムカードをお主に渡そう!もし負ければこのバトルロワイヤル中、指示通りに動いてもらおう」

 

「ったく、結局はそうなるのか。まぁ、いい。ペンデュラムカードを貰えるというならばありがたく頂く」

 

 ここでデュエルを断るという選択肢はあるにはあるが、しつこく付きまとってくる可能性が高い。

 この手のタイプはデュエルで勝利すればああだこうだと言ってこない、キッパリと諦めるタイプだ。

 

「「デュエル!!」」

 

「先攻は拙者からで御座る!拙者は忍者マスターHANZOを通常召喚!忍者マスターHANZOは通常召喚成功時にデッキより忍法カードを手札に加える!拙者は忍法落葉舞を手札に加えるで御座る」

 

「チェーンは無い!」

 

「カードを2枚セットしてターンエンドで御座る!」

 

「……」

 

 日影のデッキは忍者デッキか。

 どういう感じの動きをするかは知ってはいるが実際の目で見るのは何気にコレが初であり、ここからどういう風に動くか若干謎である。

 俺の手札は……うん。悪くはないんじゃないかなと思う。

 

「俺のターン、ドロー!俺はティアラメンツ・レイノハートを通常召喚し効果を発動!デッキからティアラメンツ・レイノハート以外のティアラメンツモンスター1体を墓地へ送る!ティアラメンツ・ハゥフニスを墓地に送り、ティアラメンツ・ハゥフニスの効果を発動!このカードが効果で墓地へ送られた場合に発動できる。融合モンスターカードによって決められた、墓地のこのカードを含む融合素材モンスターを自分の手札、フィールド、墓地から好きな順番で持ち主のデッキの下に戻してその融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。俺はティアラメンツ・レイノハートとティアラメンツ・ハゥフニスで融合召喚!現われろ、ティアラメンツ・キトカロス!」

 

 

 ティアラメンツ・キトカロス

 

 融合 レベル5 闇属性 水族 ティアラメンツモンスター+水属性 攻撃力2300

 

「キトカロスの効果を発動!デッキからティアラメンツカード1枚を選び、手札に加えるか墓地へ送る。俺はティアラメンツ・ハゥフニスを手札に加えてキトカロスを対象に選びキトカロスのさらなる効果を発動!自分の手札・墓地からティアラメンツモンスター1体を選んで特殊召喚し、対象のモンスターを墓地へ送る。キトカロスを墓地に送りティアラメンツ・メイルゥを特殊召喚!」

 

 ティアラメンツ・メイルゥ

 

 レベル2 闇属性 水族 攻撃力800

 

「キトカロスの効果を発動!チェーンしてメイルゥの効果を発動!キトカロスが効果で墓地へ送られた場合に発動できる。自分のデッキの上からカードを5枚墓地へ送る。メイルゥは召喚に成功した時にデッキ上からカードを3枚墓地に送る!」

 

「む、むぅ……墓地肥やしを一瞬の内に」

 

「まだまだ終わらねえぞ!墓地に送られたカードは古衛兵アギド!このカードが墓地に送られた際にお互いのデッキの上からカードを5枚墓地へ送る!」

 

「ま、まだ落ちるでござるか?」

 

「まだまだだぞ!ティアラメンツ・シェイレーンが効果で墓地へ送られたので効果を発動。融合モンスターカードによって決められた、墓地のこのカードを含む融合素材モンスターを自分の手札、フィールド・墓地から好きな順番で持ち主のデッキの下に戻し、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。ティアラメンツ・ルルカロスを融合召喚!更にメイルゥの効果で融合モンスターカードによって決められた、墓地のこのカードを含む融合素材モンスターを自分の手札、フィールド、墓地から好きな順番で持ち主のデッキの下に戻し、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する!1枚目のティアラメンツ・キトカロスとティアラメンツ・メイルゥをデッキに戻してティアラメンツ・ルルカロスを融合召喚!」

 

 ティアラメンツ・ルルカロス

 

 レベル8 水属性 水族 攻撃力3000 ティアラメンツ・キトカロス+ティアラメンツ

 

「バトルフェイズに移行する!誘発及び妨害系のカードは?」

 

「な、無いで御座る……」

 

「ならバトルだ!ティアラメンツ・キトカロスで忍者マスターHANZOを攻撃!」

 

「そうはさせん!拙者は永続罠、忍法落葉舞を発動!そして効果を発動するで御座る!忍者マスターHANZOを生贄にしてデッキから忍者モンスターを特殊召喚する!」

 

「そうはいくか!ティアラメンツ・ルルカロスの効果を発動!モンスターを特殊召喚する効果を含む効果を相手が発動した時に発動できる。その発動を無効にし破壊する。その後、手札及び自分フィールドの表側表示のカードの中からティアラメンツカード1枚を選んで墓地へ送る!忍法落葉舞の効果を無効化してティアラメンツ・ルルカロスを墓地に送り更にティアラメンツ・ルルカロスの効果を発動!融合召喚したこのカードが効果で墓地へ送られた場合に発動できる。このカードを特殊召喚する!再び舞い戻れティアラメンツ・ルルカロス!」

 

「ぬ、ぬぅうう!!」

 

「ティアラメンツ・キトカロスでHANZOに、その後にティアラメンツ・ルルカロス、ティアラメンツ・メイルゥの順番でダイレクトアタック!ダイレクトアタック時にカードの発動は?」

 

「っく、む、無念でござる!」

 

 日影

 

 LP4000→3500→500→0

 

「ふぅ……なんとか勝てた」

 

 忍法マスターHANZOで忍法落葉舞じゃなくて異譚の忍法帖をサーチされてたら負けてたかもしれない。

 なんとか1ターンキルで切り抜ける事が出来たので一先ずはホッとするが、既に赤馬零児は裏で色々と動いている……最初からアカデミアの事を周りに教えれば──は無理だが、幾らなんでもこんなガバガバなルールはねえだろう。

 

「拙者の負けで御座る。流石は赤馬零児が一番槍として見定めたデュエリスト」

 

「あんのクソマフラー、どんだけ上からなんだよ……雇い主に言っとけ、俺は敵じゃないが言う事は聞かないって」

 

 日影は負けたことに関して言い訳などはしない。

 運営がゲームバランスを一切考慮せずに作り上げたペンデュラムモンスターを5枚受け取る……一先ずはコレで1歩リードしたってところだろうな。

 

「さて、ペンデュラムモンスターを探しに行くか」

 

 出来れば来ないで欲しいが、オベリスク・フォースが来るんだろうなぁ……。

 一応は対オベリスク・フォースもとい大量の相手とのデュエルを想定したデッキは用意してあるが……勝てるかどうか不安だ。1対1ならば基本的には負ける事は無いんだけども、多対一のデュエルは現実──OCG次元では積み上げる事は出来ないからな。




次回予告は今回は無しでガッチャビングデュエルアクセラレーション


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月vs歌

気が向いたから更新したよ


 遊矢に決勝で会おうとカッコつけて別れてやってきたのは氷河期を思わせるかの様な氷山地帯。

 

「うぅ……寒いわね」

 

 本物の氷山を再現していない、アクションフィールドだからちょっと冷たいぐらいだけど半袖の私には寒い。遺跡エリアか密林エリアを選べばよかったんじゃないかと少しだけ後悔しつつもペンデュラムモンスターを探す。遊矢が色々と言ってくれたお陰で一日中ずっとペンデュラムモンスターを探さなくてもいいルールになったけどペンデュラムモンスターは多く持っていて損は無いわ。

 

「あった!」

 

 氷山の上に乗っているペンデュラムモンスターを見つける。

 先ずはコレで1枚目、もう1枚ペンデュラムモンスターを見つければペンデュラムモンスターを賭けたアンティルールのデュエルを行う事が出来る。早くもう1枚と対戦相手のデュエリストを見つけないと

 

「……デッキには入れないでおきましょう」

 

 拾ったペンデュラムモンスターはデッキに加えていいルールだけれど、私のデッキとは相性が悪いペンデュラムモンスターだったのでデッキケースにしまう。さて……何処に2枚目のペンデュラムモンスターがあるのかし……あら?

 

「俺のターン、ドロー!俺は超重忍者サルトーBでダイレクトアタック!!」

 

 アレは権現坂……フィールドにはまだ見たことが無い超重武者のシンクロモンスターがいた。

 対戦相手のデュエリストは……分からないわね。けど、権現坂がデュエルを有利に進めているっていうか勝ったわね。

 

「俺の勝ちだ。ルール通りペンデュラムモンスターは頂くぞ」

 

「っく……」

 

 ペンデュラムモンスターを差し出す対戦相手のデュエリスト。

 まだバトルロワイヤルがはじまったばかりだから1回の負けで終わることは無い……多分だけど

 

「流石ね、権現坂」

 

「柚子か……デュエリストが目を合わせたのならばデュエルあるのみ!」

 

「ごめんなさい、まだペンデュラムモンスターを2枚ゲットする事が出来ていないのよ」

 

「むぅ……久しぶりに柚子とデュエルが出来ると思ったが誠に残念だ」

 

 コレが例年通りならばデュエルを引き受けたけれども、ペンデュラムモンスターが無いからデュエルが出来ないわ。

 権現坂は私とデュエルをする事が出来ない事を残念そうにするけれども、ルールだから仕方がない事だとすんなりと受け入れた。

 

「は、はっくしゅん!!!」

 

「大きなくしゃみ……デュエリストがそこに居るのならば」

 

「もしかしたらペンデュラムモンスターがあるかも!」

 

 女の子の大きなくしゃみが聞こえた。もしかしたらそこにペンデュラムカードがあるかもしれない、僅かな希望だけどなにもないよりはマシよ。

 くしゃみが聞こえたところに向かえばポニーテールの髪型の瑠璃が居た……いえ、違うわ。瑠璃じゃない、瑠璃より胸が大きいわ!

 

「瑠璃、この様な場所でなにをしている?」

 

「瑠璃?なにを言っている?いや、違う。なにが起きている?奴が勝ち抜くまで暇潰しにこのスタンダードのレベルを見ておこうとしたが」

 

「この次元…………むぅ、瑠璃ではないのか?世界には同じ顔の人間が3人居るというが、ホントに居たのか」

 

「む!よく見れば私に似ているな!」

 

 瑠璃や私によく似た女の子は私に似ている事に気付く……この子、スタンダードって言った!?

 

「貴方はもしかして別の次元からやってきたの!?」

 

「ああ、私はアカデミアからエクシーズの残党を討伐しに来たんだ!」

 

「アカデミア?エクシーズ?……柚子よ、この者はいったいなにを言ってるのだ?」

 

「…………………」

 

 権現坂はまだ瑠璃の詳しい事情は知らない。話せばどうしてなにも言ってくれなかった!きっとそういう筈よ。

 権現坂が頼りにならないなんて思ってない、むしろ頼りになるデュエリスト……でも、でも、それでも遊矢は言わなかった。

 遊矢は見た。アカデミアがハートランドを襲った焼け跡を。瑠璃は全てを見た、戦いの渦の中に居る。だから余計な人達は巻き込みたくないと思っている。

 

「わ、私がエクシーズの残党よ!!まさかこんなところでアカデミアと対峙する事が出来るだなんて思ってもみなかったわ!」

 

 だから、今の私が出来ることをする!

 彼女がアカデミアからの尖兵ならばここで私が倒す!瑠璃のデュエルディスクと違って人をカード化させるプログラムは入ってないけど、デュエリストならば負けた相手の言うことを聞いてくれる筈よ!

 

「ほぉ、貴様がエクシーズの残党か……自分と同じ顔の人間を倒さなければならないのは少々不愉快だが、エクシーズの残党ならばアカデミアの尖兵として貴様を倒す!」

 

「「デュエル!!」」

 

「け、けしからーん!この俺を放置して話を進めるのでない!」

 

「大丈夫よ、権現坂。終わったら全てを話すわ!」

 

 とにかく彼女を倒さないといけない。

 手札を5枚確認する。見た感じは悪くはないわ!けど、遊矢みたいに1ターンキル出来るかどうか怪しいわね。

 

「私は魔法カード、神の居城ーヴァルハラを発動!効果処理時に天使族モンスターを1体特殊召喚するわ!私はアテナを攻撃表示で特殊召喚するわ!」

 

 アテナ

 

 レベル7 光属性 天使族 攻撃力2600

 

「永続魔法エクシーズ・チェンジ・タクティクスを発動!更に幻奏の音女オペラを攻撃表示で召喚!」

 

「レベルが異なるモンスターではないか!?」

 

「いいえ、これでいいのよ!この瞬間、アテナの効果を発動!アテナ以外の天使族モンスターを召喚、特殊召喚、反転召喚に成功した場合、600ポイントのダメージを与えるわ!」

 

「っく……」

 

 セレナ

 

 4000→3400

 

「更に幻奏モンスターがフィールドに居るから幻奏の音女カノンを特殊召喚!コレで2回目のバーン!」

 

「レベル4のモンスターが2体、来るか!」

 

 セレナ

 

 3400→2800

 

「2体のモンスターでオーバーレイ!エクシーズ召喚!私達の戦いはここからはじまる!白き翼に希望を託せ!No.39希望皇ホープ!」

 

 No.39希望皇ホープ

 

 ランク4 光属性 戦士族 ORU2 攻撃力2500

 

「この瞬間、エクシーズ・チェンジ・タクティクスの効果を発動!希望皇ホープエクシーズモンスターを召喚に成功した時、ライフを500支払ってカードを1枚ドロー出来る!私は1枚ドローし更にカオスエクシーズチェンジ!希望皇ホープをCNo.39希望皇ホープレイの下敷きにして1枚ドロー!更にシャイニングエクシーズチェンジでSNo.39希望皇ホープ・ザ・ライトニングにランクアップ!更に1枚ドロー!」

 

 SNo.39希望皇ホープ・ザ・ライトニング

 

 ランク5 光属性 戦士族 ORU4 攻撃力2500

 

 柚子

 

 4000→3500→3000→2500

 

 とりあえずは高火力なモンスターを置いて手札補充が出来たわ。

 エクシーズ・チェンジ・タクティクス、強力なカードなんだけども別に幻奏じゃなくても構わないって言ったらそこまでなんだけどもとにかく手札が潤ったわ。3枚ドローで攻撃力2500以上の上級モンスターが2枚、悪くはない盤面の筈……ただホープを入れた時点で一族の結束が使うに使えなくなるから盤面を見たり対戦するデュエリストに合わせてデッキを調整しないといけないのが難点ね。

 

「…………!」

 

「おい、貴様敵前逃亡か!?」

 

「なにを言っているのだ?柚子はアクションカードを取りに行ったのだぞ」

 

 遊矢ならこの盤面をひっくり返してくるわ。その上で1ターンキルを行うわ。

 だから万が一を想定しておいてアクションカードを早目に取りに行く。幸いにもこの場所がアクションフィールドのお陰でアクションカードを使うことが出来るわ。

 

「キャンディ・コート、悪くはないわね」

 

 本来だったら置いてないであろうアクションカード、キャンディ・コートを拾う。

 このカードは自分のモンスター1枚を魔法と罠の対象にならず、戦闘で破壊されないようにするという遊矢がアクションデュエルを苦手だったり嫌ったりする一番の理由とも言える効果を持つカードね。

 

「カードを1枚セットしてターンエンドよ!」

 

 セットカードは貪欲な壺、万が一は普通に起こるからブラフでもいいからセットしておく……この状況で1番危険なカードは、効果を受けないという効果耐性を持っているカードですら簡単に除去できる相手のモンスターカードをリリースするルール効果な溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム。幻奏モンスター達を大量に並べて展開したけども、ラヴァ・ゴーレムでリセットされた事は何度も何度もあるからそれだけは注意しておく必要があるわ。

 

「いくぞ、私のターン、ドロー!私は月光翠鳥を攻撃表示で召喚!」

 

 月光翠鳥

 

 レベル4 闇属性 獣戦士族 攻撃力1200

 

 通常召喚権を用いての通常召喚をした。ということはラヴァ・ゴーレムみたいな除去札は持ってない。

 目の前に居る私にそっくりな子がホントにアカデミアからの使者なら融合召喚を使ってくる。

 

「融合を使わずに通常召喚権を用いての通常召喚をしたってことは融合サーチかしら?」

 

「どうやら多少は知恵が回るようだが残念だったな!この月光翠鳥は召喚成功時に手札のムーンライトカードを1枚墓地に送ってデッキからカードを1枚ドローする」

 

「むぅ、効率が良いカードだ!」

 

「その通りだ!私は月光黄鼬を墓地に送り、1枚ドロー!更に月光黄鼬はカード効果で墓地に送られたらムーンライト魔法、罠カードを手札に加える。月光融合を手札に加える!そして魔法カード、融合を発動!手札の月光紅狐とフィールドの月光翠鳥を融合!現れ出でよ!月明かりに舞い踊る美しき野獣!月光舞猫姫!!」

 

 月光舞猫姫

 

 レベル7 闇属性 獣戦士族 攻撃力2400

 

「この瞬間、月光紅狐の効果を発動!カードの効果で墓地に送られた時、相手モンスター1体の攻撃力を0にする。私はホープ・ザ・ライトニングの攻撃力を0にする!更に月光翠鳥の効果を発動!月光翠鳥以外の墓地または除外されているレベル4以下のムーンライトモンスターを守備表示で特殊召喚する!私は月光紅狐をフィールドに特殊召喚し、更に月光融合を発動!」

 

 っく……分かっていた、分かっていたわ。

 エクシーズ次元の瑠璃は割と普通のデュエリストって言っていたけど、全然普通じゃない。めちゃくちゃ強いデュエリストなのを。

 だったらアカデミアからの尖兵である彼女はもっともっと強い。

 

「月光融合は手札、フィールドのカードでムーンライト融合モンスターを融合召喚するカード……しかし、相手のフィールドにエクストラデッキから召喚したモンスターが居る場合は更に1枚エクストラデッキまたはデッキから1枚だけ融合素材を持ってくることが出来る」

 

「っ……」

 

「私はエクストラデッキの月光舞豹姫とフィールドの月光紅狐と手札の月光彩雛を融合!現れ出でよ!月光の原野の頂点に立って舞う百獣の王!月光舞獅子姫!!そしてこの瞬間、月光紅狐の効果が再び発動出来る!私はアテナの攻撃力を0にし、更には月光彩雛の効果、月光彩雛はカード効果で墓地に送られた時に墓地から融合を手札に加える!」

 

 月光舞獅子姫

 

 レベル10 闇属性 獣戦士族 攻撃力3500

 

「さ、3度目の融合!?」

 

「ふっ……確かに融合する事は出来なくもないがこの時点で貴様の負けだ!月光舞獅子姫は1ターンに2度攻撃する効果を持っておりカード効果の対象にならず、更には効果では破壊されず、ダメージステップ終了時に1度だけ特殊召喚されたモンスター全てを破壊する!ミラーフォースの様なカードが来ようとも、貴様の負けだ!」

 

「…………なら、どっちを攻撃するのかしら?」

 

「ふっ、最後だからな。貴様に選ばせてやる!アテナかホープ・ザ・ライトニング、どちらかを選べ!」

 

「じゃあ、ホープで!」

 

「いいだろう、月光舞獅子姫の攻撃だ!」

 

「この瞬間、ホープ・ザ・ライトニングの効果を発動!オーバーレイユニットを2つ使う事で攻撃力を5000ポイントにするわ!」

 

「なに!?」

 

「更にダメージステップ終了時までは相手はカード効果を発揮できないわ!」

 

「謀ったな!貴様、それでもデュエリストか!」

 

 セレナ

 

 2800→1300

 

 純粋な戦闘で月光舞獅子姫を倒す。

 一応は手札にオネストがあってキャンディ・コートがあるから戦闘破壊を免れる事が出来るけども、これで場を凌ぎきったわ。

 それよりも問題はここから……

 

「ならば月光舞猫姫でアテナに攻撃!月光舞猫姫は戦闘では破壊されない!更には攻撃時に相手に100ポイントのダメージを与える!」

 

 柚子

 

 2500→2400

 

「キャンディ・コートを発動!アテナを魔法と罠の効果対象にならず戦闘破壊に耐性を持たせて更にはオネストで攻撃力を一緒にするわ!」

 

「なっ、さっき手札に加えたカードはそんなカードだったのか!?」

 

「ええ、これこそがスタンダードで発展したアクションデュエルのアクションカードよ!さぁ、どうするの!?」

 

「…………ならば、私もそのアクションカードに賭ける!!」

 

 どうやら貴女の手札にホープ・ザ・ライトニングを破壊する事が出来るカードは存在していないみたいね。

 純粋な戦闘で倒すのは難しいけども、効果破壊耐性はついてる……でも、ホープ・ザ・ライトニングを破壊してくれたら破壊してくれたで貪欲な壺を発動する事が出来るのよね。そしたらアテナの効果ダメージで焼き切れるわ。

 

 私や瑠璃によく似た女の子はアクションカードを探しに走り出す。

 右を見て左を見て広大なフィールドの何処かに眠っているアクションカードを探すその目はまさに野生の獣の様な目、あっという間にアクションカードを拾うことに成功した

 

「っ…………………お前、名はなんだ?」

 

「……そういえばまだ自己紹介をしていなかったわね。私は柚子、柊柚子よ……貴女の名前は?」

 

「セレナだ……お前の名前をあの世に持っていく!そして覚えておけ!!私が倒されても第2第3の尖兵が居ることを!」

 

「セレナ…………私のターン、ドロー…………希望皇ホープ・ザ・ライトニングで月光舞猫姫に攻撃!攻撃時に効果を発動!ホープ・ザ・ライトニングの攻撃力を5000にするわ!」

 

「…………」

 

 セレナ

 

 1300→0

 

「ふぅ…………危なかったわ」

 

 アカデミアからエクシーズの残党を倒すために送られてきたデュエリストなだけあってか、レベルが段違いだったわ。

 遊矢が万が一を想定しておいて渡してくれたカードが無かったら今頃は負けていた……ホントのホントにギリッギリのラインを渡っている。

 

「…………殺せ…………覚悟は出来ている!!」

 

「……ほら、大丈夫?立てる?」

 

「……なんだその手は?」

 

 負けたセレナは死を覚悟するのだけれど、私はセレナに手を差し伸べた。

 

「私達は殺し合いをしているんじゃないの……ただただ、楽しいデュエルをしているのよ」

 

「楽しいデュエル?……負けているのに楽しいだと?」

 

「ええ……セレナ、負けても悔いは無かったんでしょ?だったら楽しいって思いがあるはずよ!デュエルは楽しむ為に存在してる…………決して貴女達アカデミアが戦争の道具に使う為の道具じゃないのよ」

 

「戦争?……アカデミアはエクシーズ次元のデュエリストと戦っているのではないのか?」

 

「…………」

 

「セレナよ、見事な融合だった……この様な場でなければ是非ともデュエルを挑みたいと思うが今は大会中で優勝する事に専念をしたい……柚子よ、遊矢の様に1人で納得はしないでくれないか?」

 

「……ええ、そうね……もう隠しきれないみたいね」

 

 事情の説明を求める権現坂にアカデミアとハートランドの次元戦争について語る。

 途中でセレナが「嘘をつくな!」と怒っていたけれども、私は遊矢や瑠璃の言葉を信じる……それしか道が無いのだから。

 

「俺の知らぬところでその様な事になっていたとは…………」

 

「柚子、ホントのホントにアカデミアはその様な事を……」

 

「瑠璃なら戦場になったハートランドの写真を持ってるわ…………これからどうしましょう?」

 

「一先ずは遊矢と合流するのはどうだろうか?遊矢ならば今後の打開策を考えているかもしれん……しかし……」

 

「なんだ?」

 

「赤馬零児はセレナの襲来を見越してわざわざこの様なルールにしたのだろうか……」

 

「それは…………」

 

 分からない。

 でももし、アカデミアから尖兵が沢山送り込まれるのならば私達に倒させようとしている事に変わりは無いわよね……。




赤馬零児との再戦辺りで実名にしなければ……


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