海軍専門の泥棒 (小狗丸)
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主人公設定(ネタバレ注意)

「バトレム・D・ディボス」

 

 物語の主人公。

 男、十九歳。

 海賊団「ディボスグループ」の船長で、通称は「幽霊船」。

 悪魔の実シリーズの一つ「フネフネの実」を食べた操船人間。

 戦闘では敵が遠くにいたり大勢だった場合はフネフネの実の能力で自分の船にある兵器や武器を呼び出して戦い、近くの敵には独自の剣術で戦う。船の兵器を呼び出す時、何も無い所に船の姿が現れ、これが「幽霊船」と呼ばれる理由の一つとなった。

 東の海にある小さな島に代々暮らし、古代文明の技術を研究していた学者の家の出身。元々は古代兵器「兵器製造戦艦アーレース」を秘密裏に管理してきた一族であったが、一族の人間は長い月日で数を減らしていき、ディボスが最後の一人。

 両親はディボスが子供の頃に死んでいて祖父に育てられていたが、その祖父もディボスが十八歳の時に死んでしまう。そして祖父の死後、祖父が遺した遺書によりアーレースの存在を知ったディボスは祖父の死から一年後に準備を整えてアーレースと共に海へ出た。

 海に出た後は生活費に世界政府の情報、それと最新の兵器の情報を得る為に海軍専門の泥棒を目的とする海賊団「ディボスグループ」を結成する。

 機械や兵器に目がない性格で最新の機械や兵器に強い興味を示し、自分でも製作をすることがある。アーレースを手離さなかったり、海軍から兵器の情報を盗むのはこの性格によるところも大きい。

 海軍から盗みは行なっているが、一般人への犯罪は行なっていないため、最初は三百六十万ベリーと東の海の平均賞金額より少し高い程度の賞金しかかかっていなかった。しかし後に海軍本部の重大な機密を盗んだり、古代兵器であるアーレースを所持している事が分かり莫大な賞金をかけられる。

 フネフネの実を食べたのは六歳くらいの頃でその頃からいつかは海に旅立つことを決めていて、能力のコントロールや格闘術の訓練をしたり航海術を初めとする旅立ちに必要な技術や知識を蓄えていた。

 アーレースによって生み出された人造人間の女性達「アマゾースシリーズ」を自分の海賊団のクルーにしている。

 髪と瞳の色は黒。普段はアロハシャツとジーンズという格好をしている。

 名前の元ネタは戦争の神アレスの子供とされている敗走の神ポボスと恐慌の神デイモスから。

 

 

 

「ディボスグループ」

 

 ディボスが結成した海賊団。船長兼航海士はディボス。

 ディボスグループという名前は「ディボス(自分)を中心にした海軍専門の泥棒グループ」という意味で付けた。

 その名の通り、海軍専門の泥棒を主な活動としているが、自衛目的で他の海賊団と交戦する事もある。

 海賊ではなく海軍を対象とした理由は「海賊は見つけにくい上に金や兵器の情報があるか分からないが、海軍なら見つけやすい上に必ず金や兵器の情報があるから」。

 構成員はディボスと兵器製造戦艦アーレースによって製造された八人の人造人間の女性達「アマゾースシリーズ」で計九人。

 配下であるアマゾースシリーズの女性達が戦闘等をして注意を引きつけている間にディボスが盗みを行い、盗みを終えた後はフネフネの実の能力で呼び出した船に乗って逃走する戦法をとる。

 この何も無い所から船を呼び出して逃げるというやり方と、ディボスの戦闘スタイルから「幽霊船のディボス」という通称がついた。

 所有している船は二隻。一隻は古代兵器の兵器製造戦艦アーレース、もう一隻は潜水艦シールス号。

 ディボスグループの本船はシールス号の方で、シールス号は元々海軍が東の海で秘密裏に建造していた最新鋭の潜水艦の試作艦だったが、それをディボスが盗んで独自に改造したもの。

 シールス号の名前は戦争の神アレスの別名であるマルスと海を合わせたもの。

 

 

 

「フネフネの実」

 

 ディボスが食べた超人系(パラミシア)の悪魔の実。

 フネフネの「フネ」とは「船」の意味で、食べると船を自在に操る事が出来る操船人間となる。

 フネフネの実の能力は以下の通り。

 (1)自分が立っている船、そして船内にある全ての兵器や道具を自由に操れる。

 (2)船内に何があるのか感知して、自分のみ船内を自由に瞬間移動できる。

 (3)自分の中の異空間に船を取り込み、好きな場所に取り込んだ船、あるいは船内にある道具を呼び出すことができる。またすでに異空間に船を取り込んでいる場合、手で触れた生物以外の物体を異空間の船の中に送り込む事が出来る。

 悪魔の実の能力者は体を水につけると大きく力が減少する。しかし本来船は海を移動する乗り物であるためか、フネフネの実の能力者は悪魔の実の中で最も水による力の減少が少なく、例え海に落ちても落ちてから十数秒までなら能力の使用が可能。

 能力を研ぎ澄ませて「覚醒」に至れば、自分の船だけでなく敵の船も操作することが可能となる。

 作者が考えた超人系(パラミシア)で最強の悪魔の実。

 

 

 

「兵器製造戦艦アーレース」

 

 古代文明によって造り出された古代兵器。

 船内に兵器を製造する工場を持つ戦艦で、造り出される武器や兵器、そして艦にある武装は現代の兵器より遥かに強力。

 通常の武器や兵器だけでなく「アマゾースシリーズ」という人造人間の兵士も製造できる。しかしアマゾースシリーズの製造には一年近い時間が必要で、一度に製造出来るのは八人。

 ディボスの一族が大昔から秘密裏に管理してきたのだが、その動かし方も構造もディボスの一族ですら知らず、フネフネの実の能力でようやく稼働させることが出来た。

 艦内には古代文明の文字でアーレースの動かし方や設計図が刻まれた数十枚の石板がある。

 名前の元ネタは戦争の神アレスから。

 

 

 

「アマゾースシリーズ」

 

 兵器製造戦艦アーレースによって造り出された人造人間の女性達。

 兵士として製造されているので身体能力は常人よりも遥かに高く、それに加えてどんな傷も瞬時に治る異常なまでの回復力と主人(この場合はディボス)に対する絶対の忠誠心を持つ。

 ディボスグループの構成員はディボスを除くと全員アマゾースシリーズの女性達。

 祖父の遺書でアーレースの存在を知ったディボスは一年かけて八人のアマゾースシリーズの女性達を製造して、彼女達と共にディボスグループを結成した。

 アマゾースシリーズは全員、同じ外見と年齢をしているが服装やアクセサリー等の多少の違いがある。

 名前は、

 長女アマゾース・アデラ

 次女アマゾース・イザドラ

 三女アマゾース・ヴェラ

 四女アマゾース・エラ

 五女アマゾース・オーラ

 六女アマゾース・カミラ

 七女アマゾース・キーラ

 八女アマゾース・クラーラ

 となっている。ちなみに長女から八女までの順番は、ジャンケンやくじ引きで決めた。

 髪は銀色で瞳は金色。非常に整った容姿をしており、小柄だが巨乳。

 名前の元ネタは戦争の神アレスを祖先とする女戦士の部族アマゾネスから。



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一頁目

 赤ん坊の頃に両親を亡くした俺バトレム・D・ディボスをたった一人で育ててくれた祖父が死んでから早一年。

 祖父の命日の今日、俺はこの日記をつけることにした。

 日記をつけることにした理由は、俺が近いうちに海へ旅立つので、その決意を確かなものにするためだ。

 俺の家は代々東の海(イーストブルー)にある小さな島に住み、古代文明の技術を研究する学者の家系だ。そんな家系の影響か俺は機械や兵器が大好きで、まだ見ぬ未知の機械や兵器を見るために海へ旅立つことを子供の頃から夢見ていた。

 当然俺は海に出るために子供の頃から身体を鍛え、航海術等の旅に必要な知識や技術を学び、海へ旅立つ準備を整えてきた。そしてその準備ももうすぐ終わる。

 俺が旅に出たらこの日記帳は航海日誌へと変わるだろう。

 

 

 

 俺は一年前、死んだ祖父が遺した遺書からこの島に眠る「とんでもない存在」のことを知った。

 兵器製造戦艦アーレース。

 はるか昔にあった古代文明によって造られた戦争の神の名を持つ古代兵器だ。

 祖父の遺書によると俺の家系は元々この古代兵器を管理する一族らしい。

 アーレースの存在を知った俺は早速アーレースを探し、見つけた時にはこれ以上ない感動を覚えた。そして感動を覚えた俺はアーレースを自分だけのものにすると決めた。

 古代兵器は世界政府と海軍の管理下にあって、それ以外の者が所持することは重大な犯罪だが知ったことではない。世界政府にも海軍にもアーレースは渡さない。これはもう俺のものだ。

 そして非常に悔しい話だが、今の俺にはアーレースの仕組みも動かし方も全く分からないが、それでも俺の「悪魔の実」の力ならアーレースを動かし、その力を利用することができる。

 フネフネの実。

 それが俺が食べた悪魔の実。食べた者は自分の乗る船を手足のように操るだけでなく、船に関する様々な能力を持つ「操船人間」となる。

 ちなみに俺がフネフネの実を食べたのは五歳か六歳くらいの頃で、味の方は毒の一歩手前の不味さだった。

 アーレースは「兵器製造戦艦」の名の通り、艦内に兵器を製造する工場を持ち、そこから造られる兵器、そして艦にある武装は現在のどの兵器よりも強力だった。しかしこの艦にはそれ以上の驚くべき秘密があった。

 それは人造人間製造工場。

 この工場から造り出される人造人間は常人より高い身体能力を持ち、造り出した主人に絶対の忠誠を誓う兵士となるらしい。

 人造人間製造工場を知った俺は人造人間を造り、自分の部下にすることを考えついた。しかし工場が一度に造れる人造人間は八人だけで、製造に一年程の時間を必要とするのだ。

 その為、祖父が死んですぐに旅立つつもりだった俺は、旅立ちを一年延期して今日までまった。

 フネフネの実の能力で調べたところ、八人の人造人間は明日完成するみたいだ。

 ……しかし、部下ができるのは嬉しいのだが俺、ちゃんと喋れるかな?

 自慢ではないけど俺は人と話すのはそれほど得意ではなく、友人なんて一人もいないんだけど?

 

 

 

 ………今日は色々と予想外な出来事があった。

 アーレースの艦内にある人造人間製造工場に行くと、そこには俺の部下となる予定の人造人間が八人、完成していた。

 八人の人造人間達は、見た目は完全に俺と同じ人間で、全員が同じ容姿をしていて八つ子を見ているような気分だった。

 人造人間達の容姿を説明する前に、まず「兵士」という単語から人造人間が逞しい男だと思っていた俺の予想を反して、人造人間達は「女性」であった。

 それで人造人間達の容姿は、透き通るような銀色の髪に金色の瞳、雪のように白い肌。十代後半くらいに見える顔立ちと小柄な体格とは不釣り合いなくらいに豊満な体付き。

 そんな一目見たら忘れられないような美人達が八人、人造人間製造工場で俺を待ち構えていたのだ。

 ……裸で。

 そのあまりにも予想外で桃源郷な光景に驚いた俺は、思わず転んで頭を打ち気絶してしまう。

 次に目覚めると俺はアーレースの艦内にあるベッドの上に眠っていた。どうやら八人の人造人間達が俺をここまで運び、手当てをしてくれたみたいだ。

 ……裸で。

 その事実に俺は目を覚ましてすぐに「ありがとうございます!」と叫んでしまった。

 美人の部下ができるのは大歓迎だが、彼女達は本当に強いのだろうか?

 

 

 

 八人の人造人間達が無事完成してから三日が経った。

 初めて会った時は彼女達は強いのだろうかと思っていた俺だったが、その心配は全くの的外れであったのをこの三日間で思い知らされた。

 八人の人造人間達は「アマゾースシリーズ」というらしく、最初から兵士となるべく造られただけあって全員その戦闘力は非常に高く、純粋な戦闘では確実に俺より強いだろう。しかし幸いにも彼女達は主人である俺に絶対の忠誠心を持っているのは確かなようで、自分達の方が強いからと反逆される心配はないみたいだ。

 とりあえずいつまでも彼女達を人造人間と呼ぶのもアレなので、くじ引きやらジャンケンで本人達に長女から八女までの順番を決めさせた後、名前をつけることにした。

 長女アマゾース・アデラ

 次女アマゾース・イザドラ

 三女アマゾース・ヴェラ

 四女アマゾース・エラ

 五女アマゾース・オーラ

 六女アマゾース・カミラ

 七女アマゾース・キーラ

 八女アマゾース・クラーラ

 以上が人造人間の彼女達の名前だ。少し安直な気がするがその辺りは我慢してもらうしかない。

 とにかくこれで部下もできたことだし、そろそろ旅立つことにしよう。

 

 

 

 旅立つことを決めた俺だが、アーレースに乗って海に出るつもりはない。

 確かにアーレースは非常に優れた艦だし、艦の機能も今まで異常無く動いていたが、今まで数百年間整備をしていなかった艦に乗る気はない。それにアーレースに乗って海に出たらすぐに世界政府や海軍に目をつけられるだろう。

 フネフネの実の能力の一つには、異空間を作り出してそこに船をしまうという非常に便利な能力があり、アーレースはその能力でしまって旅立ちのための船は別の船にする事にした。

 一応実家にも買い出し用の小船はあるが、流石にそれでは九人で海を旅するのは無理だ。

 だから俺は海軍から手頃な軍艦を奪い取ることを部下であるアマゾースシリーズ……いや、アマゾース姉妹に提案した。

 元々海軍から船やら金を盗み出すことは以前から考えていた。

 口外するつもりは全くないが、それでも古代兵器であるアーレースを所持している以上、普通の手段で旅の資金を稼ぐのは難しい。だったら金がある所から盗んでしまおうというわけだ。

 これに対してアデラが「旅の為に船とお金を盗むのは分かったけど、何で海軍なの? 海賊の方がよくない?」と聞いてきた。

 確かに海賊の方が罪に問われるリスクはないが、海賊は見つけにくい上に金が確実にあるかも分からない。だけど海軍だったら駐屯地に行けば確実にいるし、金も高確率である上、俺の知らない兵器の情報が見つかるかもしれない。だからリスクを覚悟しても海軍を狙うことにしたのだ。

 そう説明すると今度はオーラが「貴方って海軍に目をつけられたくないのか、そうでないのか分からないわ」と言い、アマゾース姉妹全員が呆れたような目で俺を見てきた。

 

 

 

 アマゾース姉妹に海軍から船と金を奪う計画を話した俺は早速、アマゾース姉妹と共に近くの島にある海軍の駐屯地へ向かい計画を実行した。

 結果から言えば計画は大成功。俺達は無事、海軍から船と金を盗み出して、この日記も盗み出した船の船長室で書いている。

 計画の内容は簡単。アマゾース姉妹が用意した爆弾とかを使って海軍達の目を引きつけている間に俺が船に忍び込み、フネフネの実の能力を使って船を動かしたらアマゾース姉妹を回収して逃げるというものだ。

 アマゾース姉妹の戦闘力が常人よりも遥かに高かったことと、フネフネの実の能力で動かす船の動きが迅速ということもあって、計画は思っていたよりずっと簡単に成功した。

 ……というか俺が船と金を手に入れてアマゾース姉妹を回収に行った時、彼女達ってば捕縛に出てきた海兵のほとんどを倒していたんだけど? これってもう少し俺が遅かったら駐屯地が彼女達に制圧されて騒ぎが予想以上に大きくなっていたんじゃないか?

 盗んだ船は海軍の船にしては武装も船体も貧弱な気がしたが、この東の海(イーストブルー)は「最弱の海」と呼ばれるくらい海賊とそれに戦う海軍のレベルが低い為、仕方がないことなのかもしれない。

 とにかくせっかく手に入れたのだから、しばらくはありがたく使わせてもらうとしよう。

 

 

 

 記念すべき初仕事から五日後。俺達はとある島にある街へとやって来た。

 この街へと来た理由は食糧や水の買い出しと、次の仕事のためだ。

 この街にはそれなりに大きな海軍の駐屯地があり、買い出しを終えた俺達はその日の夜、海軍の駐屯地へ盗みに入った。

 作戦の内容は初仕事の時とほとんど同じ。アマゾース姉妹が注意を引きつけている間に俺が盗み、その後で逃げるというもの。

 ただし逃走する時にフネフネの実の能力で異空間にしまっていた海軍の船を呼び出すと、追っていた海軍が全員驚き、中には腰を抜かす者がいたのは中々面白かった。

 面白かったといえば盗みをしている最中、興味深いものを見つけた。それは駐屯地の司令官が海軍の資金を横領している証拠の書類で、俺はその書類を司令官の執務室にある机の上に置くと、書類の一枚にある悪戯書きを書いた。

「中々面白い内容の書類を読ませていただきました。あまりにも面白い内容だったので内容の一部をこちらでも写し書かせてもらいました。今夜頂戴したお金は、この件の口止め料とさせていただきます。

 ディボスグループ船長、バトレム・D・ディボス」

 もちろん写し書きなんて真っ赤な嘘だ。こうしておけば海軍の追手の動きも少しは遅くなるだろうと思っての悪戯書きだったのだが、効果は抜群だったようで、追手が急に俺達を追うの止めて引き返して行ったのは逆にこちらが驚いた。

 うん。この手は中々有効だな。横領の証拠を見つけたら使う事にしよう。

 ちなみにディボスグループとは俺が考えた俺達の呼び名である。

 これからも海軍に盗むをする以上、海賊のような扱いになるのは目に見えているのだが、実際に海賊行為をしているわけではないのでこの名前にしてみた。

 

 

 

 前に日記をつけた日から一ヶ月ぶりにこの日記をつけた。

 この一ヶ月で九回も仕事をしたので、日記をつけることを忘れていたのだ。

 今回の仕事は中々に興味深いものだった。今回の海軍の駐屯地で盗むをしていた俺は、この近くの島で秘密裏に海軍が最新鋭の潜水艦の試作艦を建造しているという情報を入手した。

 なんでもDrベガパンクという「世界で最高の科学者」と呼び名も高い海軍お抱えの科学者が設計に携わっている高性能な艦らしく、東の海(イーストブルー)で建造している理由は「海賊も最弱の海で最新鋭の艦を建造しているとは考えまい」というものらしい。

 この最新鋭の潜水艦の試作艦は是非欲しい。

 いい加減、俺達も正式な自分達の船を欲しいと思っていたところだ。この試作艦なら俺達の正式な船になるのかもしれない。

 試作艦を盗むことに決めた俺がアマゾース姉妹にこの試作艦のことを説明すると、彼女達も乗り気で試作艦を盗む事に賛成してくれた。

 

 

 

 最新鋭の潜水艦の試作艦を盗むと決めた日から四日後。俺達は海軍から試作艦を盗むことに成功した。

 ……しかし今回の仕事は危なかった。

 計画は順調であったのだが、最後の最後で海軍本部から来たという数名の海兵達が俺達の前に現れたのだ。彼らは海軍本部から来ただけあって、東の海(イーストブルー)の海兵とは格が違い、今まで「苦戦」を知らなかったアマゾース姉妹が初めて苦戦をする強さを持っていた。

 戦いの最中に俺は、フネフネの実の能力で異空間にしまっていた船の大砲を呼び出して本部の海兵達に向かって撃った。大砲の砲撃は本部の海兵達を倒すまでには至らなかったが、それでも多少の手傷を負わせることができたようで、俺達はその隙に試作艦に乗り込み海軍達から逃げることに成功したのだった。

 もう一度言うが今回の仕事は危なかった。

 あの時、何かが違っていたら俺達は海軍に捕まっていたかもしれない。もうあんな事にならないよう、これからはもっと慎重に行動するようにして、力もつけないといけないだろう。

 そう思っているのはアマゾース姉妹も同じようで、彼女達はこれまで以上に戦闘訓練を行なっている。俺も後で戦闘訓練に参加するつもりだ。

 それと今回決死の覚悟で盗んだこの試作艦は予想以上に高性能な上に快適で、俺達はこの艦を正式な船にすることに決めて「シールス号」と名付けた。

 

 

 

 潜水艦の試作艦、シールス号を海軍から盗んでから一週間が経った。

 とある無人島でシールス号を自分達に使いやすいように改造していた俺達の元に、ニュース・クーが新聞と一緒に驚くべきモノを持ってきた。

 最初は何かのチラシかと思っていたが、それはチラシではなく最新の指名手配書で、指名手配書には見慣れた顔……つまり俺の写真が載っていた。

「ディボスグループ船長〝幽霊船〟バトレム・D・ディボス、懸賞金360万ベリー」

 通称の「幽霊船」というのはフネフネの実の能力で逃走用の船を呼び出したり、前の仕事で船の大砲を呼び出したところから付けられたようだ。

 この自分の指名手配書を見た時、俺は特に驚かなかった。何しろ今まで海軍専門の泥棒をやって来たからこうなるのは当然で「思ったより早かったな」という感想しか出てこなかった。

 むしろアマゾース姉妹の「懸賞金低すぎない?」という視線を一身に受けるの方が辛かった。

 別にいいだろ! 東の海(イーストブルー)の平均懸賞額300万ベリーは超えているんだから!

《追記》

 シャボンディ諸島を目前にこの日記を読み返してみた。

 あの頃は300万代の賞金首でしかなかった俺が今では「億超え」の賞金首になっているとは。

 正直、誇らしいやら、この頃に帰りたいやら複雑な気分だ……。



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二頁目

 シールス号の改造が完了した。

 この何も無い無人島で、しかもこの短期間で改造が完了したのは全てフネフネの実の能力とアーレースのお陰だ。

 アーレースの艦内にある工場で兵器と改造用の部品を作り、それをフネフネの実の能力でシールス号に取り付けた結果、最初よりもスピードと火力が大幅に上がった。

 それとついでにディボスグループのマークも考えてシールス号の船体と帆に描いてみた。先日俺は賞金首となり、海軍は俺達を完全に海賊扱いしているので、それだったら海賊みたいに自分達の象徴を掲げてみようと思ったからだ。

 色々と考えてみた結果、俺は「交差する鍵と剣のマーク」を描いてこれをディボスグループの象徴にする事に決めた。

 ただし海賊みたいに、とは言ったが骸骨のマークはいれておらず、これにはちゃんとした理由がある。

 まず骸骨のマークがないのは「俺達は多くの海賊が行なっている民間人への略奪は基本的にしない」という意味。

 次に交差している鍵は「海軍に対する盗みを主な活動としている」という意味。

 最後に交差している剣は「しかし攻撃をしてきたら、全力で反撃をする」という意味。

 アマゾース姉妹にもこのマークは結構好評で、その事に俺は内心で安堵していた。よかった。センスが悪いとか言われなくて。

 シールス号の改造が終わり、ディボスグループのマークも完成した俺達は明日からまた活動を再開するつもりである。

 

 

 

 シールス号の武装は、そのほとんどがアーレースの艦内工場で製造された兵器に交換されているのだが……その威力は予想以上に強力だった。

 今日、近くの島に向かっていた俺達は偶然、海軍の軍艦と遭遇した。

 シールス号は海中を移動していたため海軍の軍艦はこちらに気づいておらず、それを好機とみた俺達はその海軍の軍艦でシールス号の新武装の試し撃ちを行ったのだ。

 試し撃ちと言っても軽く一、二発くらい船底に撃って脅かしたらそのまま逃げる予定だったのだ。しかしだった一発撃っただけで海軍の軍艦は船底に大きな穴が空き、そのまま沈んでしまった。

 幸いと言うか軍艦に乗っていた海兵達は全員脱出できたようで死者は出なかったが、まさかこの様な結果になるとは俺もアマゾース姉妹も完全に予想外である。

 とりあえず海兵達が脱出した後、俺達は沈んだ軍艦から使えそうな物資を急ぎ回収すると、海軍の増援が来る前に逃げ出した。

 ……ほとぼりが覚めるまでこの辺りにはあまり近づかない方がいいかもしれない。

 

 

 

 先日うっかり沈めてしまった軍艦から回収した物資の中に気になる物があった。

 それは厳重に封をされた小さな宝箱で、他の物資に比べて明らかに重要度が高そうに見えたので、俺はなんとか宝箱の鍵を壊して中を確認してみた。すると……。

 宝箱の中には「灰色で、唐草模様の、ミカンに似た果物」が一つ入っていた。

 宝箱の中にある果物を見た瞬間、一瞬時が止まったような気がした。

 この、見るからに怪しくて不味そうな果物って間違いなく「悪魔の実」だよね? それが何で沈めた軍艦の物資に紛れ込んでいるの?

 そう言えばあの沈めた軍艦、東の海(イーストブルー)の海軍が使う物にしてはやけに立派だなと思っていたけど、もしかしてこの悪魔の実を運ぶためのものだったの?

 とりあえず俺はこの悪魔の実を自室の冷蔵庫の中に封印する事にした。

 

 

 

 半月ぶりにこの日記をつけた。

 この半月の間に四件の「仕事」をしたのだが……一つ言わせてもらいたい。

 東の海(イーストブルー)の海軍、横領しすぎ! この四件中三件、海軍の駐屯地で司令官かそれに近い責任者が横領をしている証拠を出たぞ!

 更に言えば俺達は今回の四件を含めて十五回、海軍で盗みを行なったがその内十回、横領等の汚職の証拠を掴んだからな!

 いくら東の海(イーストブルー)が他の海より平和な海だからって、お前達が平和を乱してどうするんだよ海軍?

 このままだと「最弱の海」の他に「腐った海」なんていう不名誉な異名を付けられるんじゃないか、この海?

 俺が怒るのも筋違いな気がするが、なんとなく腹が立ったので、今度からは汚職の証拠を掴んだらそれも盗んで新聞社などの情報を扱う奴らに売り払う事にしよう。

 

 

 

 本当にこの海の海軍はいい加減にしろよと言いたい。全ての東の海(イーストブルー)の海軍がそうだとは思わないが、この海の海軍は平和のあまり内部の腐敗が大きいような気がする。

 今回俺達が盗みに入った海軍も、前回の仕事の時と同じく横領等の汚職に手に染めていた。

 この日、ネズミ大佐とかいう駐屯地の司令官は、何かの用事があるのか駐屯地の海兵のほとんどを連れて外に出ていて、お陰で俺はゆっくりと徹底的に盗みを行うことができた。すると汚職の証拠や不当に入手した裏金が出るわ出るわ。

 調べてみるとこの海域には数年前からある海賊団が潜伏していて、その海賊団は近くの島にある全ての街を支配していたらしい。そしてネズミ大佐は海賊団から定期的に金を受け取る代わりに、この事実を他の支部や海軍本部に伝わらないよう情報操作をしていたそうだ。

 以上のことから分かるように、このネズミ大佐は俺が今まで見てきた中でもトップクラスに腐った海軍だ。こんな奴に容赦する必要はない。

 俺はネズミ大佐が貯め込んだ裏金を全て奪うと、汚職の証拠である書類をネズミ大佐の息がかかっていない、ここから離れた所にある新聞社に売る事に決めた。

 

 

 

 ネズミ大佐の基地から裏金と汚職の証拠である書類を奪った日から三日後。

 基地から大きく離れた島に到着した俺達は、その島にある新聞社に例の汚職の証拠である書類を全て売った。正直書類を売るのは汚職をする海軍に対する嫌がらせが主な目的なので、書類の値段には特に興味がなかったのだが思いの他高額で売れた。

 裏金と合わせて三千万ベリーの大金を得た俺達は、せっかくだから近くにあるリゾート地でゆっくりする事に決めた。

 そしてリゾート地へと行く途中、ネズミ大佐に金を渡していた海賊団が別の海賊団に壊滅させられたという噂話を聞いた。

 どうやら今日はいい夢を見られそうだ。

 できる事ならその海賊団を潰した別の海賊団が、今まで支配されていた全ての街の人々に乱暴をしなければいいのだが。

 

 

 

 リゾート地へとやって来てから今日で五日目。

 ネズミ大佐から盗んだ金を使いリゾート地で豪遊をしていた俺達の元に、ニュース・クーが新聞と一緒にある二枚の紙を運んできた。

 一枚は初めて見る海賊の指名手配書でこう書かれていた。

「麦わらの一味船長〝麦わら〟モンキー・D・ルフィ、懸賞金3000万ベリー」

 この東の海(イーストブルー)でいきなり三千万ベリーって凄いな。

 手配書の裏面に記載されている情報によれば、どうやらこのルフィという海賊が、ネズミ大佐に金を渡していた海賊団を壊滅させたらしい。

 そう思うと、苗字に俺と同じ「D」があることもあって、そんなに悪い奴には見えなくなった。

 そしてもう一枚は何と俺の新しい俺の指名手配書だった。

「ディボスグループ船長〝幽霊船〟バトレム・D・ディボス、懸賞金1100万ベリー」

 どうやら俺が金と一緒に海軍の機密文書を盗んでいることに危機感を感じた本部が、いきなり懸賞金を一気に前の三倍に釣り上げたようだ。

 しかし一般市民からは、汚職をしている海軍を罪を暴いているということでそれ程悪いようには思われていない……というかそれなりに人気が出ているようだ。

 この事実に俺は喜べばいいのか分からなかった。

 とにかく今分かっていることは、この街には俺もアマゾース姉妹も顔を知られてしまっているので、これ以上いられないということ。

 俺達は休暇を終了して、再びディボスグループの活動を再開する事にした。



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三頁目

 リゾート地を旅立って七日経った。

 俺に新しくかけられた懸賞金1100万ベリー。

 つい先日現れた海賊〝麦わら〟のルフィの三分の一で、偉大なる航路(グランドライン)から見れば小物程度の懸賞金の額だ。

 しかしこの東の海(イーストブルー)ではかなりの高額であり、加えて言えば俺は主に東の海(イーストブルー)の海軍にとって不都合な情報を持っている厄介な存在なのだろう。

 そのせいか最近になって海軍がやたら必死になって俺達を捕まえようと追ってきて、この七日間だけで三回、二日に一度のペースで海軍と戦闘になった。

 もちろん三回とも俺達が勝利した。

 実際の話、俺達は海軍の駐屯地で盗みを行うよりも、こうして海上で戦う方が得意なのだ。

 なにしろフネフネの実の能力者である俺が海軍の船に立てば、それだけで船のコントロールはこちらのものとなる。そして自分達の足場である船のコントロールを奪われて海軍が浮き足立ったところを戦闘力に優れたアマゾース姉妹が襲いかかるのだ。

 シールス号を盗む時に戦った海軍本部から来た海兵達ならともかく、東の海(イーストブルー)の海兵相手ならまず負けることはないだろう。

 アマゾース姉妹は丁度いい実戦訓練ができたと喜んでおり、そしてそれは俺も同意見であった。

 経験の濃さで言えばアマゾース姉妹と行う戦闘訓練の方が上だが、海軍との「実戦」はそれとは別の経験を得られて、戦いを重ねる毎に自分達が強くなっていくのが分かる。

 この調子でいけば、フネフネの実を食べた頃から訓練していた「あの技」が使えるようになるのも近いだろう。

 

 

 

 海軍の駐屯地と海軍の軍艦。どちらに盗みをすれば儲かるかと言えばそれは海軍の駐屯地の方だ。

 海軍の駐屯地なら海軍の資金が確実にあるし、汚職の証拠があれば新聞社とかにそれなりの値段で売れる。

 だが軍艦の方は駐屯地とは違うものが手に入ることがある。

 今日はこれまで海で戦った海軍の軍艦にあった戦利品の整理していた。

 戦利品のほとんどは特に新しくもないライフルに、大砲の砲弾や火薬ばかりだったが、その中に二つほど興味を引かれる物があった。

 それは奇妙なコンパスだった。ガラス玉の中にコンパスの針をぶら下げた、方角を記した文字盤もない奇妙なコンパス。

 奇妙なコンパスは、リストバンドに取り付けられたタイプと、砂時計みたいな枠に固定されたタイプの二つがあり、リストバンドタイプが二つと砂時計タイプが三つあった。

 最初俺はこれらが何なのか分からなかったが、どこかで見たことあるのを覚えており、実家から持ってきた本で調べてみた結果、これらが何なのか分かった。

 調べた本によると、リストバンドタイプは「ログポース」といい、砂時計タイプは「エターナルポース」という偉大なる航路(グランドライン)の航海に使うコンパスのようだ。

 偉大なる航路(グランドライン)では気候や海流の流れが全くのデタラメな上、偉大なる航路(グランドライン)にある全ての島が特殊な磁気を発しているせいで、通常のコンパスはすぐに狂って正しい方角を示さなくなる。

 そんな偉大なる航路(グランドライン)を旅するのに使うのがログポースとエターナルポースだ。

 偉大なる航路(グランドライン)にある島々の磁場は次の島の磁気と結び付いており、ログポースはその島の磁場を記憶して次の島がある方角を示すものだ。しかし新しい島の磁気を記憶すると、前の島の磁気はリセットされてしまう。

 それに対してエターナルポースは、一つの島の磁気だけを記憶して、その名の通り永遠に磁気を記憶した島の方角を示し続ける。

 まさか偉大なる航路(グランドライン)を旅するのに必要不可欠なアイテムがこんなところで手に入るとは思わなかった。

 今のところ偉大なる航路(グランドライン)へ行く予定はないが、これは大切にとっておくことにしよう。

 

 

 

 今日も俺達を捕まえようとする海軍と戦った。

 戦っても負けることはまずないし、いい経験になるのだが、最近俺だけじゃなくてアマゾース姉妹にも少しずつ疲労がたまってきている。

 疲労はどちらかと言えば精神的なもので、以前リゾート地で遊んだ時のようななにか気晴らしをする機会があれはいいのだが。

 

 

 

 今日、食料などを補給した島で、この辺りにとても美味しいおでんを食べさせてくれる屋台船があるという話を聞いた。

 おでん。確か偉大なる航路(グランドライン)の何処かにある島国「ワノ国」から伝わった鍋料理で以前一度だけ食べた記憶がある。……いや、煮物料理だったっけ?

 とにかくその屋台船のおでんは美味しい上に安く、わざわざ船を出して食べに行く常連客も多いらしい。

 せっかくだからアマゾース姉妹と一緒に食べに行こうと思う。

 美味しいものを食べればそれが気晴らしになって、精神的な疲れも解消できるかもしれない。

 

 ◆◇◆◇

 

 島で美味しいおでんを食べさせてくれる屋台船の話を聞いた俺は、仲間達と一緒にシールス豪華を海上に浮上させたまま、その屋台船がいるという海域に向かっていた。

 

 今俺はエラとクラーラと一緒に甲板の上に出て屋台船を探しており、俺が周囲を見回していると双眼鏡で前方を見ていたクラーラが声をかけてきた。

 

「船長。北東の方向に船が見えるわ」

 

「何? 屋台船が見つかったのか?」

 

「いいえ。俺は屋台船ではないと思うわ」

 

「そうね。どう見てもお店には見えないもの」

 

 俺がクラーラに訊ねると彼女は首を横に振って答え、双眼鏡でクラーラと同じ方角を見たエラもそう言ってきた。

 

「じゃあ俺達と同じ屋台船に向かっている船か?」

 

 俺の言葉にエラとクラーラは同時に同時に首を横に振った。流石同じ時期に製造された人造人間。息がピッタリだな。

 

「それも違うと思うわ。だってあの船、帆を畳んで錨を下ろしてあの場から動こうとしないのだから」

 

「動こうとしない? 何で?」

 

「そこまでは分からないわ。気になるなら行ってみる?」

 

 エラの報告に俺が首を傾げているとクラーラがその船に行くことを提案してきた。

 

 確かにここで考えているよりもそっちの方が早いか。

 

「そうだな。それじゃあ行ってみるか」

 

 俺はクラーラの言葉に頷くと、シールス号をその船がある方向へ進ませた。

 

 それから数分後。エラとクラーラが言っていた船が見えてきたのでシールスを船の横につけると、船の甲板に俺と同じくらいの男が一人、ぐったりと横になっていた……って!?

 

「あ〜、腹減った〜。サンジ〜、メシ〜」

 

 船の甲板で横になり力のない声を出すその男を俺は知っていた。……知っていたけど、何でこんな所にいるんだよ?

 

「……君、まさか〝麦わら〟のルフィ?」

 

「ん? 俺を知っているのか? お前誰だ?」

 

 俺の呟きが聞こえたのか、船の甲板で横になっていた男、懸賞金三千万ベリーの海賊麦わらのルフィが起き上がってこちらを見てきた。

 

 これが俺とルフィの最初の出会いで、ある意味で俺の不幸の始まりでもあった。



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四頁目

 おでんの屋台船を探している最中、海の真ん中で停まっている奇妙な船を見つけた。

 シールス号を船の横につけてみると、船の甲板には今東の海(イーストブルー)で最も懸賞金が高い海賊「麦わらのルフィ」が力なく倒れていた。

 ルフィの船がこの場にいる理由を聞いてみると、何でも彼の仲間の一人が近くの島、俺達がこないだまでいた島へ食料の買い出しに行っていて、その帰りを待っていたからだそうだ。そしてルフィが船の甲板で倒れていたのは、買い出しを待っている間に彼が船に残っていた僅かな食料を全て食べ尽くして、食べるものがなくなったかららしい。

 この話を聞いた時、俺は思わず頭を抱えた。

 残っていた食料を食べ尽くすなんて一体何を考えているんだ? その食料の買い出しに行っている仲間が、何かのトラブルで戻るのが遅れたらどうするつもりだ? 冗談でも何でもなく、マジで飢え死になるぞ?

 一緒に話を聞いていたエラとクラーラも呆れていたし。

 その後、あまりにも空腹な様子のルフィが哀れだったので、彼と彼の仲間達を昼飯に誘ったのが……俺はこの行為をすぐに後悔する事になった。

 ルフィの奴、せっかく補充したばかりの食料の半分以上をほとんど一人で食べてしまったのだ。これには彼と一緒に来た彼の仲間であるゾロとナミとウソップも謝ってくれた。

 それにしてもゾロと言えばこの東の海(イーストブルー)でも有名な「海賊狩り」の異名を持つ賞金稼ぎだったはずだ。そんな人間が海賊になってルフィの仲間になっていたのは正直驚いた。

 そして昼飯を食い終わった丁度その時、海軍の軍艦が一隻、俺を捕まえにやって来た。

 ルフィとゾロが昼飯の礼と言って協力を申し出てくれたが、最近になってようやく使えるようになった「新技」を試したかった俺はこれを断り、新技を使って海軍を撃退した。

 この時、ルフィとその仲間達は俺の新技に驚いた顔をしていて、それが少し面白かった。

 

 ◆◇◆◇

 

「〝幽霊船〟ディボス! もう逃げられないぞ! 大人しくこちらへ投降しろ!」

 

「お、おい、どうするんだ!? 海軍が来ちまったぞ?」

 

 昼食を終えた丁度その時に現れた海軍の軍艦。それから聞こえてくる降伏勧告に、海賊〝麦わら〟のルフィの仲間である長い鼻が印象的である青年ウソップが狼狽えた様子で一人の青年に声をかける。

 

 ウソップが声をかけた青年の名前はディボス。〝幽霊船〟の通称で知られている懸賞金千百万ベリーの賞金首である。

 

「ん? 戦うのか? だったら手伝うぞ?」

 

「そうだな。メシを食わせてもらった恩もあるしな」

 

 ウソップの言葉に反応して麦わら帽子をかぶった青年、海賊〝麦わら〟のルフィと、その仲間で「海賊狩り」の異名を持つ元賞金稼ぎだった青年ゾロもディボスに声をかける。しかしそれに対してディボスはゆっくりと首を横に振った。

 

「いや、海軍は俺一人で相手をする。皆はそこで待っていてくれ」

 

 ディボスは自分の部下である八人の美少女アマゾース姉妹とルフィ達にそう言うと、海軍の軍艦に向かって歩いていく。

 

「待って! 相手をするって一人でどうやって……!?」

 

 ルフィの仲間の一人、オレンジ色の髪をした女性ナミの言葉の途中で、ディボスは甲板を蹴ってこちらへ向かってくる海軍の軍艦へ跳躍する。しかしその高さも距離も全く足りておらず、このままではディボスは海に落ちてしまうと思われたその時……。

 

「『召艦(コールシップ)』」

 

 ディボスが呟いた瞬間、彼の周囲に半透明な船が現れ、ディボスは半透明な船の甲板を蹴って空中で二回目の跳躍をする。その後、自分の仕事を終えた半透明な船は空に溶けるように消えて、それを見てルフィとその仲間達が驚きで目を見開いた。

 

「何だありゃ!? 船が出てきたぞ!」

 

「まさかアイツも能力者か!?」

 

「まるで幽霊のように現れたり消えたりしたぞ、あの船!?」

 

「だから『幽霊船』って呼ばれているんだ……!」

 

 そして驚いているのはルフィ達だけではなかった。海軍達も捕まえにきた対象が突然船から飛び降りたかと思ったら、空中に別の船を呼び出しそれを利用してこちらへ跳んでくる光景に驚き、動きを止めてしまっていた。

 

 ディボスは海軍達が驚きで動きを止めている間に彼らの軍艦に降り立つと、甲板に手を当てた。すると次の瞬間、彼がつい最近使えるようになったフネフネの実を使った新技が発動された。

 

「『奪艦(ゲットシップ)』」

 

 ディボスが技を発動させると海軍の軍艦が一瞬で消えた。そして軍艦に乗っていた海兵達は突然空中に投げ出され、驚きと困惑の表情のまま全員海へと落ちていった。

 

 海兵達が訳も分からないまま海へと落ちていく中、軍艦が消える直前に跳躍をしたディボスは、自分の船である潜水艦シールス号の甲板に降り立つと、そこにいる自分の部下達とルフィ達に何でもない顔で話しかける。

 

「終わったぞ。海軍の増援が来るかもしれないから、念のために急いでここから離れた方がいい」

 

「なぁ、ディボス! お前、今何をやったんだ!?」

 

 ここから離れることを提案するディボスに、ルフィは驚きと面白そうなものを見つけた興奮が混ざった表情で質問をしてきた。そんな彼にディボスは一瞬驚いた顔をした後、簡単に説明をする。

 

「……別に、ただ能力を使って軍艦を消しただけさ。

 俺は悪魔の実の一つ、フネフネの実を食べた『操船人間』。

 自分が乗った船を手足のように操るだけでなく、好きな場所に船を呼んだり、逆に船を消したりすることができるんだ」

 

『『…………!』』

 

 ディボスの説明にルフィとその仲間達は、再び驚きで目を見開くのだった。



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五頁目

 昨日、俺達を追ってきた海軍に使った新技「奪艦(ゲットシップ)」は見事に成功した。

 この技は言ってしまえば、俺がいつもやっているフネフネの実の能力で船を異空間に収納しているのと同じだ。だが本来の収納では船と一緒にそれに乗っている人間達も収納してしまうのだが、「奪艦(ゲットシップ)」では船のみを収納することが出来るのだ。

 俺が「奪艦(ゲットシップ)」を完成させようと思ったのは、海軍相手の盗みをよりやり易くする為である。この技さえあれば邪魔な乗組員である海兵を取り除いて軍艦を手に入れて、後で安全に軍艦の中にある物資を確認できるからな。

 とにかく海軍がここに来た以上、俺達はここから離れるつもりだったのだが、ルフィ達は買い出しに行っている仲間を待つ為にしばらくこの海域にいるそうだ。

 だからルフィ達とはここでお別れになるのだが……ルフィ達、というかルフィって本当に図々しな! アイツ、昨日の晩飯に今日の朝飯、そして仲間がやって来るまでの食糧を強請ってきたんだぞ!?

 これには思わず半眼になって「遠慮って知っているか?」とルフィに言った俺は悪くないと思う。

 しかしルフィの奴は全く気にしておらず「いいじゃねぇか。俺達、友達だろ?」とか言ってきた。全く何が友達だ? いくら俺が今まで友達が一人もいないボッチだと言っても、そんな言葉で誤魔化せると思うなよ?

 ……ま、まあ、ここで飢え死されても目覚めが悪いから今回ばかりは仕方がないけど。

 そう思い俺は食糧をルフィ達に分けたのだが、この時にアマゾース姉妹が呆れた様な表情をしていたのはまだ分かるとして、

 ゾロが信じられないもの見たと言わんばかりの表情を浮かべ、

 ウソップが可哀想な人を見るような目になり、

 ナミがまるで「いいカモ」を見つけたような恐い笑みで俺を見る意味が分からなかった。

 ちなみにルフィは早速俺が分けた食糧から肉を取り出して食べていた。

 コイツら本当に大丈夫なのだろうか?

 

 

 

 ルフィ達のせいで補給したばかりの食糧が五分の一になってしまった。昨日奪った海軍の軍艦にも食糧はあったが、それを足しても五分の一が四分の一になるくらいだろう。

 その為、急ぎ人が住んでいる島に向かっている俺達だったが、そこで偶然本来の目的であった美味いおでんを食べさせてくれる屋台船を発見した。

 早速俺達はその屋台船でおでんを食べさせてもらったが、これが噂以上に美味かった。これが食えただけでここに来る価値はあったと思う。

 途中で海軍と戦闘になったり、ルフィ達に食糧の五分の四を食われたのも、今となってはどうでもいいことである。

 アマゾース姉妹もこのおでんを気に入ったようで、全員喜んでおでんを食べていた。後、彼女達はそれぞれ好きなおでんの品が違うようだ。本来ならば味の好みが違うというのは当たり前のことなのだが、同じ外見をしている彼女達からそれが見れたことはちょっとした驚きであった。

 確かにこれはわざわざ船を出して食べに来る常連客もいるいい店だと思ったのだが、店主の孫である少年はおでん屋よりも海賊に興味を持っているようで、俺達にこれまでの旅の出来事を聞いてきた。

 その後、店主の孫に旅の出来事を話しながら食事をした俺達は、お土産用のおでんも買って屋台船を後にした。

 また機会があればここのおでんを食べたいものである。

 

 

 

 昨日の屋台船でおでんを食べた影響か、イザドラとヴェラが料理に興味を持ち始めた。

 今までは交代で料理を作っていたのだが、これからしばらくは自分達で料理を作るとイザドラとヴェラは言い、俺達は特に断る理由がなかったのでこれを了承した。

 イザドラとヴェラに許可を出すと、次に二人は航海用の料理について書かれた料理本が欲しいと言ってきた。これには俺も賛成だ。海の上で限られた食材を活用する料理の知識は是非欲しい。

 次の島に着いた時は食糧の補給だけでなく料理本も探してみることにしよう。

 

 

 

 客観的に見て俺とアマゾース姉妹の料理の腕前は人並み程度だ。

 それはイザドラとヴェラも同じだったのだが、あの屋台船でおでんを食べてからのこの数日間、熱心に料理の勉強をしている二人の料理は少しずつ美味しくなってきていた。これはとても嬉しいことである。

 それとは別に今日の新聞に、悪魔の実の能力者が船長をしている東の海(イーストブルー)でそれなりに有名な海賊団が壊滅したという記事が載っていた。

 悪魔の実の能力者を倒せるだけの海兵や賞金稼ぎがこの東の海(イーストブルー)にいるとは聞いたことがないが……一応は用心しておこう。

 

 

 

 今日は久しぶりに仕事をした。

 島で食料の補給をした俺達は、一度島を出てわざとシールス号を島の駐屯所にいる海軍に発見させた。そして海軍の追手が来たところで軍艦を「奪艦(ゲットシップ)」で奪い、そのままシールス号を潜航させてその場から逃走。

 その後、海に落ちた海兵達を救助するため駐屯所に残っていた海兵達が海に出たのを確認してから俺達は海軍の駐屯所へ盗みに入った。

 今回の仕事は中々に見入りが多く、金の他にも興味深い物を手に入れる事ができた。

 それは「悪魔の実図鑑」という、これまで存在が確認された悪魔の実の外見と、食べた時に得られる能力を記した図鑑。悪魔の実という希少さと危険さから東の海(イーストブルー)はおろか偉大なる航路(グランドライン)でも滅多に手に入らない貴重な資料だ。

 そういえば俺の部屋の冷蔵庫に偶然手に入れた悪魔の実があったので、せっかくだからこの図鑑で調べてみようと思う。



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六頁目

 悪魔の実図鑑で調べた結果、俺の部屋の冷蔵庫にある悪魔の実がなんであるか判明した。

 どうやらこの悪魔の実は「自然系(ロギア)」であるらしい。

 悪魔の実には、超常現象を起こす力が得られる「超人系(パラミシア)」、

 動物に変身できるようになる「動物系(ゾオン)」、

 身体が自然現象そのものとなる「自然系(ロギア)」の三種類がある。

 そして自然系(ロギア)の悪魔の実はどれも希少で強力な物だとされている。なにしろ身体が自然現象そのものとなって、弱点をつかない限り通常攻撃が全て無効になるんだから、それは強いに決まっている。

 悪魔の実の能力がなんであるか分かった俺は、これをどうするか考えた。

 悪魔の実はどんな物でも最低一億ベリーの大金がつくのだが、残念なことに俺にはそんな大金がつく代物を売り捌くルートを持っていない。なのでアマゾース姉妹の誰かに食べさせようと思ったのだが、アマゾース姉妹の全員が「そんな不味い物は食べたくない」と拒否。

 お前達、悪魔の実の能力よりも味の方が大事なのか?

 いや、確かに悪魔の実はどれも尋常じゃないくらい不味いけどさぁ……。

 

 

 

 シールス号で海中を潜航していた時、なにやら動きが奇妙な海軍の船をニ隻発見した。

 二隻のうち一隻は普通の軍艦なのだが、もう一隻は何かの荷物を運ぶ貨物船のような船であった。その二隻の船は人目がつかない航路を進み、海賊だけでなく一般の船にも見つからないように移動しているのが妙に気になった。

 もしかしたらあの貨物船は海軍にとって貴重な物資を運んでいて、軍艦の方はそれの護衛なのか?

 興味を覚えた俺達は海中に潜みながら、その二隻の海軍の船の後を追うことにした。

 

 

 

 奇妙な動きをする海軍の船二隻の後を追って二日目。

 二隻の船は相変わらず人目につかない航路を進み、近くの海軍の駐屯所にも寄りつこうとしなかった。

 貨物船が運んでいる荷物は味方である海軍にも秘密ということなのか?

 ますます興味が湧いてきた。幸いにも食糧にはまだ余裕があるしこのまま追跡を続けることにしよう。

 

 

 

 今日は最悪な気分だ。

 海軍の船二隻が運んでいた荷物、それが一体何なのか分かったが、それは俺達が思っているようなものではなかった。

 今日二隻の船は無人島で補給をしていて、俺はその夜にこっそりとフネフネの実の能力を使って貨物船が何を運んでいるのかを調べた。そうしたら貨物船の中には、何十人もの手錠をつけられた人間が乗せられているのを俺は知った。

 そう、この貨物船は奴隷を運んでいたのだ。

 とりあえず俺は奴隷達ごと貨物船を「奪艦(ゲットシップ)」で異空間に収納すると、追手が来ないように護衛役の軍艦もいただき無人島を後にした。

 まったく、海軍が奴隷を扱うとか何を考えているんだよ。

 

 

 

 貨物船を奪ってすぐにシールス号を一晩中進ませた俺達は、一先ず海軍が追ってきそうにない無人島を見つけると、そこで異空間に収納していた奴隷達を乗せた貨物船を現実世界に呼び出した。

 貨物船に運ばれていた奴隷達は最初、一体何が起きたか分からなかったようだが、自分達が海軍から解放されたと分かると全員涙を流して喜んだ。中には俺達に手を合わせて拝んでくる人までいた。

 一体どうして奴隷にされて、しかも海軍に運ばれていたのか事情を聞くと、何でも彼らのほとんどは東の海(イーストブルー)にある小国の住人で、自分達の国が世界政府の加盟を拒んだことから奴隷とされたらしい。そして奴隷にされた彼らは「テキーラウルフ」という国に労働力として運ばれるところを俺達に救われたというわけだ。

 テキーラウルフ。

 確か橋の上にある国で、七百年も昔から今も巨大な橋を建造しているという話を聞いた事がある。しかしこんな無茶な方法で労働力を確保しているとは思わなかった。

 

 

 

 貨物船に乗っていた奴隷達は自分達の生まれ故郷へ帰ることに決めたようだ。そこまで一緒に行こうかと言ったが、それは断られた。

 それはまあ仕方がない。いくら奴隷から解放したとは言え俺達は海賊(自分から海賊と名乗った覚えはないが)、信用できないと思われるのは当然だ。

 とりあえず奴隷達には彼らが乗っていた貨物船と食糧等を渡し、ここで別れることにした。

 彼らがもう二度と奴隷にならないことを祈っておこう。

 

 

 

 俺の密航者が出た。昨日分かれた奴隷達の一人がシールス号の倉庫に隠れていたのだ。

 密航者はモニカという十六歳の女性で、自分から俺達の前に現れると仲間に加えて欲しいと言ってきた。

 仲間にするかはともかく、貨物船はすでにどこかに行ってしまったし、海に放り捨てるわけにもいかないだろう。だから俺はしばらくは彼女を船に乗せておくことに決めて、アマゾース姉妹もこれに賛成してくれた。

 この事を伝えたらモニカは大喜びしたのだが、

「原作には出てないけど、人のよさそうな海賊団でラッキー」とか、

「特典無しの転生だったけど運が向いてきた」とか、

「これで原作キャラに会えたら最高なのにな~」みたいなよく分からない言い出した。

 一体何を言っているんだ、彼女は?



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七頁目

「ディボスグループ船長〝幽霊船〟バトレム・D・ディボス、懸賞金2300万ベリー」

 何だか知らないがいきなり俺の懸賞金額が一気に二倍以上になった。

 今日届いた新聞に新しく更新された自分の手配書も一緒にあって、どうして急に懸賞金が上がったのか俺が首を傾げていると、モニカが「私達を助けたからじゃないの?」と言ってきた。

 モニカの話によると彼女が連れて行かれる予定だった国、テキーラウルフで行われている橋の工事は「天竜人」から命じられたものらしい。

 天竜人といえば現在の世界政府の原型を作った二十人の王の末裔で、世界政府の頂点に立つ人々の事だ。なんでも天竜人に危害を加えた者は、海軍の大将自ら一族もろとも抹殺されるという話を聞いたことがある。

 なるほど。確かにそんな天竜人が出した工事の為の労働力を横から奪うようなマネをすれば、懸賞金も上がるだろう。

 それに加えて俺は、海軍が世界政府に加盟していないとはいえ、何の罪のない国民を奴隷にしていたというあまり世間に出したくない情報を知ったことも、懸賞金が上がったことに関係していると思っている。

 それにしてもモニカって、よくそんな情報を知っているよな?

 俺がモニカの意外な情報力に驚いていると、彼女の方も俺達ディボスグループの活動に興味を覚えたようで聞いてきた。そしておれたちが主に海軍から金や貴重な代物、時に汚職の証拠を盗んでいることを説明すると、

「それって怪盗じゃない! 海賊の上に怪盗とか属性重ねすぎじゃない!」とか、

「この海賊の仲間になるんだったら、私も怪盗っぽい服を用意した方がいいのかな?」とか、またよく分からないことを言い出した。

 というか、やっぱり俺達について行く気なのか。

 

 

 

 今日は朝からモニカがうるさかった。

 アマゾース姉妹の誰かから俺が悪魔の実を持っていることを聞いたらしく、大声を出しながら俺の部屋に飛び込んで来て、悪魔の実が自然系(ロギア)だと知ったらまた大騒ぎをした。まったく、騒がしい奴だ。

 そしてしばらく騒いだ後、モニカは俺に悪魔の実を寄越せと言ってきたがフザケンナ。

 悪魔の実だぞ? 最低でも一億ベリーもする代物。確かに俺達には悪魔の実を売りさばくルートが無いし、アマゾース姉妹の誰も食べたがらないけど、会って間もない人間に食べさせる気はない。

 悪魔の実が欲しかったら俺達に能力を得ても裏切らないという信用を得るか、一億ベリーで俺から買うかしかない。

 そうモニカに言うと、彼女は「だったら体で払う♩」と言い出し、妙に迫力のある笑みを浮かべて俺に近づいてきた。

 気がつけば朝から夕方になっており、俺は裸でベッドの上で横になっていた。

 この数時間何があったのかほとんど思い出せない。何か、色々と凄いことがあった気がするのだが……。

 意識を取り戻して数分呆然とした後、俺が部屋を見回すとそこには裸のまま悪魔の実を食べているモニカの姿があった。

 後でモニカに聞くと、悪魔の実は尋常ではないくらい塩辛くて不味かったそうだ。

 

 

 

 どうやらモニカはアマゾース姉妹と仲良くなれたみたいだ。

 アマゾース姉妹に囲まれて何やら楽しく話をしているところを見て少し安心した。

 ……しかしモニカの話を聞いているアマゾース姉妹の顔が赤いのは一体何故だろうか? 気になるのだが、俺の直感が「聞かない方がいい」と訴えてくるので聞かないことにしておこう。

 とりあえず先日モニカと一緒に海軍に運ばれていた奴隷達に食糧を分けたこともあって、そろそろ食糧が不安になってきた。

 この近くにはリゾート地として有名な島があるらしく、そこに食糧の補給を兼ねて遊びに行くとしよう。

 

 ◆◇◆◇

 

 東の海(イーストブルー)でもリゾート地として有名なとある島。

 

 そこでディボス達は以前出会った海賊〝麦わら〟のルフィが率いる海賊団「麦わらの一味」と再会をした。しかしその直後にディボスは……。

 

「死ねコラ! 羨まし過ぎるんだよ、このクソ野郎っ!」

 

「グボホォッ!?」

 

 何故か結婚式の新郎のような白いタキシードを着た、先端がグルグルに巻かれた眉毛が特徴的の金髪の男に蹴り飛ばされる事になった。



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麦わらとの冒険1

ディボスとモニカの外見の描写を書き足してみました。


「よし。これで完璧」

 

 東の海(イーストブルー)にあるとある島に来たディボス達はそこで食糧を主とした補給を行なっていて、シールス号の艦内で補給が完了したのを確認してアロハシャツとジーンズを着たボサボサの黒髪の青年ディボスが満足気に頷く。するとつい先日強引にディボスグループに仲間入りしてきた、鮮やかな赤髪を短く刈りそろえた愛嬌のある顔立ちの女性モニカがディボスに話しかける。

 

「補給終わったのディボス船長? それじゃあ海に出て海軍相手に盗みをしに行くのね? オッケー、任せて! あのゲキマズの悪魔の実を食べてパワーアップしたモニカ様の実力を見せてあげるわ!」

 

「いや、行かないけど」

 

「………へ?」

 

 つい先日に悪魔の実を食べて能力者となったこともあってハイテンションのモニカにディボスが即答すると、彼女は一気に惚けた表情となって呟いた。

 

「え? 海、行かないの? 何で?」

 

「何でって、せっかくリゾートに来たんだから少しくらい遊んだ方がいいだろ?」

 

「リゾート?」

 

 今ディボス達が来ているのは東の海(イーストブルー)でも有名なリゾート地なのだが、モニカはそれを聞いておらず、補給が終わればすぐに出航すると思い込んでいたらしい。現にアマゾース姉妹の八人はリゾート地で遊ぶ準備を整えており、それを見たモニカは恥ずかしそうな顔をして叫ぶ。

 

「〜〜〜! 分かったわよ! とりあえず今は私もリゾート地で目一杯遊ぶわよ! 私の実力を見せるのはその後!」

 

「分かった分かった。それじゃあ皆、行こうか?」

 

 ディボスはそう言うとアマゾース姉妹とモニカを連れてシールス号を出ると、まずはどこに遊びに行こうかと考える。しかしその時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 

「お〜い! ディボス〜!」

 

 

 ディボス達が声が聞こえてきた方を見るとそこには、先日知り合った麦わら帽子をかぶった海賊の青年ルフィと、その仲間達がこちらに向かって走ってきていた。

 

「あれは……ルフィか? アイツら、なんて格好をしているんだ?」

 

 こちらに向かって来るルフィ達の姿を見てディボスが思わず呟いた。

 

 ルフィは以前会った時と同じ服装なのだが、ゾロとウソップは「ワノ国」の式典とかで着られる着物を着ており、ナミは純白のウエディングドレス、そして見覚えのない金髪の青年は白のタキシードを着ていた。まるで仮装大会のような姿であるが、彼らは全員必死な表情をしており、遊びに来たわけではないようだった。

 

「なあ、ディボス! 俺達、海に出たいんだ! お前達の船に乗せてくれ!」

 

「はい?」

 

 ディボス達の前にやって来たルフィは開口一番にそう言い、それを聞いたディボスは首を傾げた。

 

「海に出たいって……? 自分達の船があるだろ? それに乗っていけば……」

 

「だから! 盗まれたんだよ! 俺達の船が!」

 

『『ハァ!?』』

 

 ディボスの言葉を遮ってルフィが大声を出し、これにはディボスだけでなく他の仲間達も同時に驚きの声を上げた。

 

 ルフィの話を聞くと、彼らもディボス達と同じくこの島のリゾート地に遊びに来ていたのだが、海水浴をしている最中に何者かに自分達の船、ゴーイングメリー号を盗まれてしまったらしい。そしてゾロ達の格好が以前と違うのは、ゴーイングメリー号を盗まれた時ルフィ以外は全員水着で、代えの服を探したが見つかったのは結婚式場の貸衣装だけだったからだとか。

 

「ね、ねぇ、ディボス船長……」

 

 それまでずっと無言でディボスとルフィのやり取りを聞いていたモニカが震える声でディボスに話しかける。

 

「ん? どうした、モニカ?」

 

「ディボス船長ってばルフィ達の知り合いだったの?」

 

「え? ああ、まあな。少し前に知りあって……」

 

「ディボス船長!」

 

 ディボスの言葉の途中で感極まった表情となったモニカが彼に抱きつく。

 

「私! ディボス船長に拾われて本当に良かった! まさかこんな早くに原作キャラ、しかも主役に会えるだなんて! 私、ディボス船長に永遠の忠誠をここに誓うわ!」

 

「お、おう? それってどういう「死ねコラ! 羨まし過ぎるんだよ、このクソ野郎っ!」グボホォッ!?」

 

 いきなり抱きついてきたモニカの言葉にディボスが戸惑いながら何かを言おうとした時、白いタキシードを着た青年サンジの蹴りがディボスの顔に炸裂して彼を吹き飛ばした。

 

「聞いたぜ……! 乗組員が全員綺麗なレディー達で男はお前一人なんだってなぁ……! 男の夢であるハーレムを実現するとは大した野郎じゃねぇか、このクソ野郎。お前だけはこの俺……がっ!?」

 

「何やってんだこのアホコック!?」

 

「駄目じゃない! いきなり蹴ったりしちゃ!」

 

「船に乗せてもらえなくなるだろうが!?」

 

 どうやらサンジはディボスの船が彼以外全員女性のハーレム状態だと聞いて、嫉妬による八つ当たりでディボスを蹴り飛ばしたようだ。しかしサンジはまだ気が収まらず、すでに気絶しているディボスを親の仇でも見るような目で睨みつけ更なる追撃を加えようとしたところでゾロ、ナミ、ウソップの三人に取り押さえられた。そしてその数分後……。

 

「もう知るか! お前達なんか絶対船に乗せてやらん!」

 

「そんなこと言わないでくれよ〜。なぁ、頼むよ〜」

 

 気絶から目を覚ましたディボスは怒りの表情で言い、ルフィが困った表情となって手を合わせて頼むのであった。



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麦わらとの冒険2

 嫉妬に狂ったサンジの八つ当たりによって最初はルフィ達を船に乗せないと言っていたディボスだったが、最後にはルフィの「頼むよ。俺達友達だろ?」という言葉にあっさりと船に乗せることに決めたのだった。

 

 また、このやり取りを見ていたモニカが「ウチの船長、チョロすぎない?」と呟いたのだが、それはまた別の話。

 

「おー! スッゲェー! これがディボスの船かー!」

 

「潜水艦なんて初めて乗ったぜ!」

 

 ディボス達の船である潜水艦シールス号の中を見てルフィとウソップが大きな声を上げる。ゾロやナミ、サンジも声を出してはいないが、初めて見る潜水艦の艦内に興味を示していた。そして自分達の船を褒められたディボスはやや自慢気に話す。

 

「これは海軍から盗んだ最新の潜水艦の試作艦、それを改造したものだからな。性能は保証するぞ?」

 

「えっ!? これって海軍から盗んだものだったの!?」

 

 ディボスの言葉にディボスグループに入ったばかりのモニカが驚いた顔となる。しかしルフィ達は興味がないのか予想していたのか特に驚いた様子はなかった。

 

「やっぱり……。流石は海軍専門の泥棒〝幽霊船〟のディボス。……そういえば前から聞きたかったんだけど、何でアンタってば海賊をしている上に海軍から盗みなんてしているの? そんな事したら二重の意味で海軍に目をつけられるじゃない?」

 

「ん? 俺は別に自分から海賊を名乗った覚えはないぞ?」

 

『『え?』』

 

 ナミがディボスに前から聞いてみたかったことを聞くと本人は何でもないように言い、それを聞いたルフィ達とモニカが驚いた声を出す。

 

「俺は学者の家系の出身でな、機械や兵器が大好きなんだ。だからまだ見たこともない機械や兵器を見るために海に出たんだ。だけどその中には世界政府が研究を禁じているものもあるし、何より俺の『宝物』は所持しているだけで重罪となる危険な兵器だからな。いつかは世界政府や海軍に目をつけられるのは分かっていたから、開き直って海軍から活動資金やら色々いただくことにして……そうしたらいつの間にか海賊扱いになっていたんだ」

 

「そうか。じゃあ仕方がないな」

 

「いや、それでいいのかよ!」

 

「ていうか、そんな適当な理由で海軍から盗みをしていたの!?」

 

「なんか色々おかしいだろ!?」

 

「所持しているだけで重罪となる兵器が宝物……? 一体何だよ、それは?」

 

 ディボスが自分が旅に出た理由と海賊扱いになった理由を話すと、それを聞いたルフィは納得したようだったがゾロ、ナミ、ウソップ、サンジの四人は納得がいかなかったようでそれぞれツッコミを入れる。

 

「あー……。やっぱりディボス船長も『この世界』の住人なのね……。色々と無茶苦茶だわ」

 

『『……………』』

 

 ルフィ達の横でモニカがどこか呆れたような顔となって呟き、更にその隣ではアマゾース姉妹が嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 

 ディボスが言う宝物とはアマゾース姉妹を製造した古代兵器、兵器製造戦艦アーレースのことである。主人であるディボスが自分達を生み出した存在を「宝物」と呼び大切にしてくれていることはアマゾース姉妹にとって嬉しいことだった。

 

「まあ、それはどうでもいいや。それよりディボス、これって潜水艦なんだろ? だったら海の中に潜ってくれよ」

 

「それはいいけど……。海の中から船を探す事が出来るのか?」

 

 シールス号を潜航させろと言うルフィの言葉にディボスがナミの方を見ると、麦わらの一味の航海士である彼女は少し考えてから首を横に振った。

 

「ごめん。私も潜水艦で海に潜っての航海はしたことがないわ。だからこのまま潜らずに船を進めて」

 

『『ええ〜〜!』』

 

 シールス号を潜航させないで進めるように言うナミにルフィとウソップが明らかに不満そうな顔となり、それに対してナミが怒鳴る。

 

「うるっさい! アンタ達! メリー号を探す気があ「前方に船が見えるわ」……え?」

 

 ナミの言葉を遮って前方を双眼鏡で監視していたアマゾース姉妹の一人カミラが声を上げ、その場にいる全員の視線が彼女に集まる。

 

「船! メリー号か!?」

 

「いいえ。前方にある船は二隻。そのどちらにも麦わらの一味の海賊旗は見えないわ」

 

「だったら海軍か?」

 

 ルフィの言葉にカミラは首を横に振り、続くディボスの言葉にも首を横に振った。

 

「海軍でもないわ。海賊船が小船を追いかけているみたいね」

 

「海賊船が小船を……略奪か? それでどうするんだ?」

 

 ディボスがカミラの報告を聞いてからルフィ達に意見を求めると、最初に反応したのはウソップだった。「海賊船」という単語を聞いてから彼の顔色は一目で分かるくらい青くなっており、足も震えていた。

 

「ど、どうするってそりゃ、俺達にはゴーイングメリー号の捜索という重大任務があり、海賊船にかまっている暇なんかないというか……」

 

「でもメリー号が向かった方向もこの先なのよね……。もしかしたらメリー号の事を知っているかもしれないわ。……行ってみるべきかも」

 

『『……』』

 

 ウソップの言葉を遮ってナミがゴーイングメリー号の行き先を推測して言い、ゾロとサンジも彼女の意見に賛成のようで無言で頷く。

 

「よおっし! それじゃあ全速前進っ!」

 

「はいはい……」

 

 どうやらゴーイングメリー号の情報を得るために海賊船と小船がいる方向へ進むことが決まったらしく、ルフィが大声で号令を出してディボスはそれに内心でため息を吐きながら従いシールス号を進めるのであった。



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麦わらとの冒険3

「……さて。ルフィ達の船の情報を求めて海賊船と小船に接触しようとしたのはいいんだが……」

 

 疲れた表情でディボスがそこまで言ったところで轟音が起こり、シールス号の周囲にいくつもの水柱が立った。

 

「やっぱり俺達も襲われる対象になるか。相手は海賊だものな」

 

「何冷静に現実受け入れているのよ!」

 

「そうだぜ! 反撃しろ、反撃! ほら、前にやってみせた『奪艦(ゲットシップ)』とかいう技であの船消しちまえ!」

 

 先程の轟音と水柱は海賊船が放った砲弾によるものであり、海賊船が小船だけでなくシールス号も襲う対象としたことをディボスが冷静に指摘すると、ナミとウソップが面白いくらい慌てた様子で叫ぶ。しかしディボスはウソップの言葉に首を横に振る。

 

「『奪艦(ゲットシップ)』をするには一度相手の船に乗り移らないといけない。だけど流石にあんなに大砲を撃たれていたら、向こうの海賊船まで乗り移るのは無理だ」

 

「じゃあどうするんだよ!? まさかこのまま沈められろってか!?」

 

 ディボスの言葉とこちらへ近づいてくる海賊船にウソップは顔を青くして言うが、それに対してディボスは特に焦った様子もなく海賊船を見ながら口を開く。

 

「それこそまさかだ。向こうが大砲で撃ってくるならこっちも大砲で反撃するまでだよ。……シールス号、出番だ」

 

 ディボスはそう言うとフネフネの実の能力を使いシールス号を操作し、シールス号の前方の装甲が展開して二門の大砲が現れる。そして現れた二門の大砲の砲門に光が集まり、その異様な光景にルフィ達とモニカが目を見開く。

 

「おいおい……! 一体何が起こるんだ?」

 

「ビームだ……! 絶対ビームだ……!」

 

「んなわけねぇだろ、このクソゴム!」

 

 ゾロの言葉にルフィが緊張した表情で言い、それにサンジがツッコミをいれるのだが……。

 

「ルフィ、正解」

 

『『えっ!?』』

 

 ディボスが言うとルフィ達、そしてモニカが驚いた顔となり、そうしている間にシールス号の大砲が発射された。

 

「シールス号、『城壁破壊砲アレウス・レイ』発射!」

 

 シールス号の大砲から放たれた二本の光線は、海賊船の船体をあっさりと貫き、そのはるか後方で大爆発を起こした。そして船体を大きくえぐられた海賊船は海に沈み始め、もはや戦闘は不可能だろう。

 

 城壁破壊砲アレウス・レイ。

 

 ディボスが持つ古代兵器、兵器製造戦艦アーレースが製造した光学兵器。内部に取り込んだ光のエネルギーを、対象を爆発させる数千度の熱線に変えて放ち、乱発は出来ないがその威力は一度で戦艦を沈めることが可能。

 

 ディボス達に盗まれた後、改造をされたシールスはこのアレウス・レイが十門以上備え付けられていた。

 

『『ビームじゃん! カッコい〜〜!』』

 

「だろ!? 見たか、シールス号の大砲の威力!」

 

 ルフィとウソップがアレウス・レイが発射された光景を見て瞳を輝かせ、ディボスもまたドヤ顔となって二人にサムズアップをする。

 

「マジでビームを撃ちやがった……!?」

 

「ビームを撃つ潜水艦って、どこの夢の国から来た船だよ?」

 

 ゾロとサンジも驚いた表情をしながらも、その目の奥に興味の光を宿していた。しかし……。

 

『『……………』』

 

 ナミにアマゾース姉妹、そしてモニカは全く興味を覚えないのか、無表情ではしゃいでいるディボスとルフィ達を見つめていた。

 

 ……この男性陣と女性陣の温度差は一体何なのであろうか?

 

「まさかこんな序盤からビーム兵器が出てくるだなんて……。これって原作崩壊が凄いことになるんじゃないの? まあ、でも……」

 

 モニカは誰にも聞かれない小声で呟いてから、シールス号が来るまで海賊船に追われていた小舟に視線を向けた。

 

「まずはアッチを何とかしないとね」

 

 

 

 ディボスが海賊船を沈めてから十数分後。海賊船に追われていたと小舟を保護したディボス達は、海賊船と戦った海域から少し離れた所へ来ていた。

 

「あ、ありがとう。助かったよ」

 

 海賊船に追われていた小舟、それに乗っていたのは一人の少年で、少年は助けてもらった礼を言うと自己紹介をする。

 

「俺はアキースっていうんだ。この近くで海賊用の罠を仕掛け……じゃなくて、用事で来ていたらさっきのトランプ海賊団に襲われていたんだ」

 

「トランプ海賊団? なんだそりゃ?」

 

 小舟に乗っていた少年アキースの言葉にルフィが首を傾げる。

 

「知らないのか? この辺りの海で暴れている凶悪な海賊さ。そいつらは強いし数も多くて海軍でも全く敵わないんだ」

 

「ああっ。多分そいつらのせいだわ」

 

 アキースがトランプ海賊団について説明をすると、ナミが納得したように手を叩いた。

 

「どういうことだ?」

 

「私達が会ったあの島、メリー号が向かった方角へ誰も船を出してくれなかったのよ。恐らくそのトランプ海賊団を恐れていたのね。ディボス達に会えなかったらどうしようもなかったわ」

 

 ナミがディボスに、彼と再会するまでリゾート地があった島で海に出るための船を探していたことを説明をすると、そこにルフィも話に加わってきた。

 

「まあ、その時はあのアヒルの船に乗れば良かったけどな。ハハハッ!」

 

「……それって、あの二人乗りの足漕ぎボートのこと? イヤよ、あんなので海に出るなんて」

 

 笑いながら言うルフィにナミは半眼となって返事をする。

 

 確かに二人乗りの足漕ぎボートに四人で乗って海に出るなど、冗談を通り越して自殺行為しかないだろう。……しかしルフィ達ならいよいよとなれば実際にやりそうなイヤな予感がディボスにはあった。



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麦わらとの冒険4

「ねぇ? それでアキース君は一人で行動しているの?」

 

 ディボスが考え事をしているとその横でモニカがアキースに話しかける。

 

「ううん。俺はいつもボロードと一緒にいるんだ。だけどボロードは何か用事があるみたいで少し前に一人で出ていったんだ」

 

「そう……。ボロードってあの有名なボロードのこと?」

 

 アキースの言葉を聞いてモニカがそう言うと、アキースは驚いた顔となって彼女の顔を見る。

 

「ボロードを知っているのか!?」

 

「ええ、知っているわ。盗みの腕だけじゃなく、風や波を見る目にも優れていて、東の海(イーストブルー)の様々な島で活動をしている大泥棒ボロード。……そう、ルフィ達の船を盗んだのはボロードなのね?」

 

『『………!?』』

 

 モニカの言葉にその場にいた彼女以外の全員が驚き絶句する。そしてそれに真っ先に反論したのはアキースだった。

 

「ふ、ふざけんな! 何でボロードが船を盗まないといけないんだよ!?」

 

「だってボロード以外にルフィ達の船を盗む人がいないから」

 

 大声で叫ぶアキースにモニカはそう断言してから根拠を説明する。

 

「まず私達がここに来る前にいた島の人達は除外。さっきナミが言っていたように彼らはトランプ海賊団の縄張りであるこの海域に船を出さないし、もし彼らが盗んだのだったら別の海域に逃げるはず。そもそもルフィ達はあの島のリゾート地のお客さんだったから、お客さんの船を盗む理由がないから除外。

 次にトランプ海賊団も怪しいけど除外。海賊だから他の船からお金を盗む理由はあるけど、それだったら港で略奪が行われていないのも、被害がルフィ達の船だけというのも変よね? ルフィ達を倒すための罠、ていう線も考えたけど、それだったら船を盗むよりリゾート地で海水浴をしていて無防備だったルフィ達を襲った方が早いわ。

 それで最後にボロードなんだけど……。ボロードって、泥棒の他にも小さな海賊団を捕まえて海軍に引き渡す賞金稼ぎみたいなこともしてるって聞いたけど?」

 

「……!?」

 

 モニカに言われてアキースは顔を一気に青くして一歩後退りをした。

 

「ルフィ達から船を盗んだのは、罠を仕掛けた海におびき寄せて一気に捕まえる、あるいはトランプ海賊団に船を盗んだ濡れ衣を着せて互いを戦わせて共倒れさせるため。そう考えれば辻褄が会うわ。もちろん私が言っているのは何の証拠もないけど、島の人達やトランプ海賊団よりもボロードが盗んだ可能性が高いのは確かでしょ?」

 

「……」

 

「おっどろいた……! モニカ、貴女あれだけの情報でよくそこまで分かったわね?」

 

「スゲェぜ、モニカちゃん!」

 

 どこか確信を持っているように言うモニカの言葉にアキースは何も言えなくなり、今までの話を聞いていたナミとサンジが感心したように声をかけた。

 

「ふふん♪ このモニカ様にかかればこれくらい当然よ!」

 

(原作知識をそれっぽく言ってみたけど、信じてもらえてよかった……)

 

 モニカはナミとサンジに向けて服の上からでも分かるくらい豊かな胸を張って得意気に答えるが、内心では冷や汗をぬぐいながら安堵の息を吐いていた。

 

「……? つまりどういうことだ?」

 

「ようするにアキースの知り合いのボロードって奴がルフィ達の船を盗んだ犯人かも知れないってこと」

 

「何っ!?」

 

 いまいちモニカの話を理解できなかったルフィにディボスが要点を説明すると、ルフィがアキースに詰め寄る。

 

「おい、お前! そのボロードってのは何処だ! メリー号を返せ、このヤロー!」

 

「そーだ、そーだ! 早く返せテメー!」

 

 ルフィだけでなくウソップまでもアキースに詰め寄り、それに対してアキースはムキになったように叫ぶ。

 

「う、うるさい! そこのネェちゃんがそう言っているけど、ボロードが本当に盗んだか分からないだろ!? 確かめてもいないくせに勝手なことを言うな!」

 

「じゃあ確かめに行こうか?」

 

「……え?」

 

 突然聞こえてきたモニカの言葉に、ルフィとウソップに怒鳴り返していたアキースが怒りを忘れて彼女を見上げる。

 

「だから確かめに行こうって言っているの。アキース君が乗っていたあの小舟、ろくに食料も水もなかったから近いうちにどこかでボロードと落ち合う予定なんだよね? そこまで案内してくれないかな?」

 

 モニカの言う通り、アキースはこの後近くの島でボロードと落ち合う予定であった。そして自分達の行動を先読みされている少年には、目の前にいる赤髪の女性の言葉に逆らうことができなかった。

 

 ◆◇◆◇

 

「すまなかった! この通りだ!」

 

 数時間後。とある島で泥棒ボロードはルフィ達、麦わらの一味の前で土下座して謝罪をした。

 

 モニカの推測通り、ルフィ達の船、ゴーイングメリー号を盗んだのはボロードであった。最初は盗んだのは自分ではないと言っていたボロードであったが、モニカがアキースにも聞かせた推測を語ると、観念して自分の犯行を認めたのだ。

 

「ふざけんな! すまなかったですむか! メリー号を盗んだ上にトランプ海賊団のアジトに置いてきただぁ!? 今すぐ取り返してこい!」

 

 ボロードはゴーイングメリー号をねじまき島という島にあるトランプ海賊団のアジト、その一番奥まで運んだと言い、それを聞いて最もゴーイングメリー号に愛着を持っているウソップが怒鳴る。しかしその声にボロードは首を横に振る。

 

「すまないがそれはできない。運ぶだけならなんとかなったが、取り返すとなるとトランプ海賊団との戦闘は避けられない。そうなったら俺一人ては無理だ」

 

「このや「解せねぇな」……ゾロ?」

 

 ウソップがボロードに掴みかかろうとした時、ゾロが探るような目をボロードへと向ける。

 

「モニカの話では、お前は俺達とトランプ海賊団の共倒れを望んでいるらしいが、それだけならメリー号をどこかに隠せばいいだけだろ? 危険を冒してメリー号を敵のアジトへ持っていくなんて、まるで『なにがなんでも俺達とトランプ海賊団に戦ってほしい』みたいじゃねぇか? ……一体何を企んでいやがる?」

 

「そ、それは……」

 

 ゾロの視線にボロードは目を逸らして言葉を濁す。するとそれを見てモニカが口を開いた。

 

「そう……。ボロードの目的はねじまき島にあるって噂の『ダイヤモンドクロック』なのね?」

 

「ダイヤモンド!? ねぇ、モニカ! それって一体何なの!?」

 

 ダイヤモンドという単語に興味を引かれたナミが瞳を輝かせて聞くと、モニカは一つ頷いて答えた。

 

「今思い出したんだけど、ねじまき島には昔からからくりとかの機械に詳しい人達が住んでいて、ダイヤモンドクロックというのはそのねじまき島の人達が作ったっていう世界一高価な時計のこと。それを盗みだせた者は世界一の泥棒と呼んでも過言ではないそうだよ」

 

「世界一高価な時計!」

 

「! あ、ああ! そうなんだ。俺は世界一の大泥棒になるためにダイヤモンドクロックが欲しかったが、それにはねじまき島に居座るトランプ海賊団が邪魔だったんだ。だからお前達と奴らを戦わせて、そのどさくさに紛れてダイヤモンドクロックを盗もうと考えて、船をトランプ海賊団のアジトへ運んだんだ。……すまなかった」

 

 モニカの説明にナミは表情を輝かせ、ボロードは自分の計画を話して謝罪をした。

 

 しかしディボスには、計画が破綻したはずのボロードがどこか安堵しているように見え、更に言えばダイヤモンドクロックの話をしたモニカがボロードに助け船を出したように感じられた。



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麦わらとの冒険5

 モニカがダイヤモンドクロックの説明をしてから数分後。ルフィ達はゴーイングメリー号を取り戻すため、トランプ海賊団のアジトへ向かうことにした。

 

 そしてボロードは船を盗んだ償いとして、船を置いてきた場所への案内はするが、ダイヤモンドクロックを初めとするトランプ海賊団との戦いで得た戦利品は全て、ルフィ達とディボス達で山分けをするというタダ働きとなった。これにはアキースが何か言いたそうにしていたが、ボロードが彼を抑えてタダ働きを承諾した。

 

「随分とあっさりタダ働きを受け入れたな?」

 

 ボロードの態度が気になってディボスが訪ねると、ボロードは気楽な笑みを浮かべて答えた。

 

「うん? そりゃあ、俺だって命が惜しいからな。懸賞金三千万ベリー〝麦わら〟のルフィと懸賞金二千三百万ベリー〝幽霊船〟のディボス。東の海(イーストブルー)で一番目と二番目の懸賞金がかかっている海賊達にちょっかいをかけたんだ。タダ働き程度で命が助かるなら安いものだろ?」

 

「ナヌ? おい、ディボス! お前、懸賞金が上がったのか!?」

 

 ボロードの言葉に聞き捨てならない単語があったようでルフィがディボスに話しかける。それにディボスが答えようとする前に、アマゾース姉妹が自分達の主人に変わってルフィに言葉を返した。

 

「ええ、そうよ。知らなかったの?」

 

「新聞くらい読んだほうがいいわよ?」

 

「とにかくこれでディボスと貴方の懸賞金の差は七百万ベリー」

 

「以前の差は一千九百万ベリーだったけど、大きく差が詰まったわね」

 

「このペースでいけば、ディボスが貴方の懸賞金を追い抜くのはそう遠い日ではないわ」

 

「その日を楽しみにしているわ」

 

「それでディボスに懸賞金を追い抜かれたら『ウキー』って鳴いてちょうだい」

 

「家名の『モンキー』っぽくね」

 

 アデラからクラーラ、アマゾース姉妹の長女から八女の順番で言われてルフィが顔を真っ赤にしてディボスを睨む。

 

「ムキー! 負けねぇぞ、ディボス!」

 

「なんで何も言っていないのにキレられないといけないんだよ!?」

 

「一体何を騒いでいるの?」

 

 ルフィの理不尽な怒りにディボスが叫び返すと、シールス号からナミが出てきてディボス達に話しかける。

 

 シールス号から出てきたナミの後ろにはゾロにウソップ、サンジの姿もあり、四人は結婚式用の貸衣装からディボスとアマゾース姉妹の予備の服に着替えていた。これはモニカが、トランプ海賊団のアジトまで行ってゴーイングメリー号を取り戻すとしたら、高い確率でトランプ海賊団と戦闘になると思うので、今のうちに動き易い格好に着替えた方がいいと提案したからである。

 

 ディボスは着替えたゾロ達の姿を確認すると、自分の異空間にある海軍の戦艦、その中に保管されていたサーベルを三本呼び出して、それをゾロに投げて渡した。

 

「それを使いなよ。刀とは勝手が違うと思うけど、何も無いよりマシだろ?」

 

「ああ、助かる」

 

 ゾロがいつも使っている三本の刀は盗まれたメリー号の船内にあり、今まで無手であったゾロは三本のサーベルを受け取ると獰猛な笑みを浮かべて礼を言う。

 

「ねぇ、ボロード? それでトランプ海賊団って、どんな奴らがいるの?」

 

「え? ああ、そういえば話していなかったな」

 

 ナミがこれから戦うであろうトランプ海賊団についてボロードに聞くと、ボロードは自分が知るトランプ海賊団の情報を説明する。

 

「トランプ海賊団は二百人以上いるこの辺りで一番大きな海賊団で、中でも『トランプ5兄弟』という船長と四人の幹部が特に危険だ。全員恐ろしく腕が立つ上に、船長のベアキングとハニークイーンって幹部は悪魔の実の能力者らしいからな」

 

 

「あら? 私の事を知っている人がいるなんて嬉しいわね」

 

 

『『………!?』』

 

 ボロードがトランプ海賊団について話しているとそこに知らない女性の声が聞こえてきて、ディボス達が声が聞こえてきた方を見ると、そこにはバニーガールのような衣装の上にコートを羽織った扇状的な女性の姿があった。

 

「ああっ! 何て素敵なお姉様!」

 

「サンジくん、ちょっと待って!」

 

 突然現れた女性を見てサンジが目をハートにして駆け寄ろうとしたが、その前にナミが彼を止める。するとボロードが冷や汗を流しながら呻くような声を出す。

 

「トランプ5兄弟、ハニークイーン……! 一体いつの間に、どうしてこんな所に……!?」

 

 ボロードの言葉にこの場に現れた女性、ハニークイーンは妖艶な笑みを浮かべて答える。

 

「ふふっ。この近くで私達の船が一隻沈められたみたいでね。たまたま近くにいた私が様子を見に来たの。……それでどうやら貴方達が船を沈めてくれたみたいね?」

 

「何っ!?」

 

 ハニークイーンがそう言うと、ボロードが驚いた顔となってディボス達の方を見て、それにディボスが頷いて答える。

 

「ああ。確かにここに来る前に俺達はそちらの船を沈めた。……それで? だったらどうするんだ?」

 

「ふふ……。どうするって……決まっているでしょ!?」

 

 ディボスがハニークイーンに言うと、彼女は笑みを更に深くして右腕をディボス達の方へ差し出した。すると次の瞬間、ハニークイーンの右腕が液体となってディボス達に伸びた。

 

『『……!?』』

 

 ハニークイーンが悪魔の実の能力者であるとボロードから聞いたばかりであったが、それでもここまで大きな変化が現れると思っていなかったディボス達は、驚きで一瞬動きが止まってしまった。……ただ一人を除いて。

 

「はい。そこまで」

 

 粘液と化したハニークイーンの右腕がディボスに襲い掛かろうとしたその時、突然ディボス達の前に白い砂嵐のようなものが起こり、ハニークイーンの右腕を防いだ。

 

「なっ!? 一体何が……!?」

 

「ふぅ……。危ない、危ない。悪魔の実の能力は初見殺しのところがあるけど、貴女の能力は特にそうだからね」

 

 突然の出来事にディボス達も驚いたが、それ以上に驚いているハニークイーンの前で白い砂嵐が一ヵ所に集まり、一人の女性の姿となる。そしてその女性の姿を見てディボスが声を上げる。

 

「モニカ?」

 

「はい♪ ディボス船長、彼女の相手は私に任せてもらえないかしら」

 

 白い砂嵐が集まり体を作った女性、モニカは目の前のハニークイーンを見ながら自信ありげに言うのであった。



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麦わらとの冒険6

 ハニークイーン。

 

 トランプ海賊団の船長も含めた幹部、トランプ5兄弟の一人で悪魔の実の能力者。七百八百万ベリーの賞金首であり、この東の海(イーストブルー)では上位に位置する実力者である。

 

 そんな実力者の海賊(ハニークイーン)の相手を一人ですると言ったモニカの言葉に最初に反応したのはボロードだった。

 

「一人でハニークイーンと戦う……? お、おい! あのモニカって嬢ちゃん、そんなに強いのか!?」

 

 この中でハニークイーンの実力を一番よく知っているであろうボロードはディボスに聞くが、それに対してディボスは首を横に振って答えた。

 

「さあ? モニカが俺達のところに来たのはつい最近だし、彼女がどれだけ戦えるか俺達もよく知らないんだ」

 

「何だと!? テメェ、このクソ野郎! それだったら何でモニカちゃんを止めようとし「だけど」……あ?」

 

 ディボスの言葉にサンジが怒りの言葉を言おうとするが、ディボスはそれを遮ってモニカの背中を見ながら言う。

 

「少なくとも全く戦えないってことはないと思うぞ? なにしろモニカも悪魔の実の能力者なんだから」

 

『『………!?』』

 

 モニカが悪魔の実の能力者であるとディボスが言うと、彼と彼の仲間を除く全員が驚いた顔となって彼女を見る。そしてそれに対してモニカは自身ありげな笑みを浮かべて胸を張るのであった。

 

「ふふん♩ そういうこと」

 

「そう……貴女も悪魔の実の能力者だったのね。じゃあさっきの白い砂嵐みたいなのも貴女の仕業ってわけね?」

 

「ええ。貴女をこれ以上好きにさせておくと色々と厄介なことになりそうだからね。悪いけど貴女はここで私が止めるわ」

 

 ハニークイーンの言葉にモニカはそう答えるとナミの方へ僅かに視線を向けたのだが、それに気づいた者は誰もいなかった。

 

「……! 行ってくれるじゃない? じゃあ今度は本気でやってあげるわ!」

 

 モニカの発言を自分への挑発と受け取ったハニークイーンは、凄みのある笑みを浮かべると次の攻撃を仕掛けようとする。

 

 ハニークイーンが食べた悪魔の実は「トロトロの実」。食べた人間は自分の体を液体にする能力を得て、一度液体になれば相手が「実体を捉える力」を使わない限り、一切の物理攻撃が無効となる自然系(ロギア)に限りなく近いとされる超人系(パラミシア)の悪魔の実。

 

 ハニークイーンは液体化した自分の体を広範囲に分散させて多人数の敵を一度に無力化させる攻撃を得意としており、ここへ部下も連れず一人で来たのも油断でも何でもなく、一人の方が部下を巻き込むことなく確実に敵を纏めて捕まえることが出来ると判断したからだ。そして彼女は目の前にいる自分に向かって生意気な口を聞いた赤髪の女性ごと敵を一網打尽にしようとしたのだが……。

 

「………え?」

 

 能力を発動させたはずなのにハニークイーンの体は一向に液体化せず、その事に彼女は戸惑った声を上げる。そしてそんなハニークイーンにモニカが話しかける。

 

「能力が使えないでしょう? 貴女はね、最初に攻撃を防いだ時にはすでに無力化していたのよ。ほら? 自分の体をよく見てみたら?」

 

「私をすでに無力化? 一体何を……?」

 

 モニカに言われてハニークイーンは自分の体を見てみると、白い砂のようなものが彼女の体のいたる所に付いていた。

 

「何これ? 砂……いいえ、塩?」

 

「はい、正解♩ 私は『シオシオの実』を食べた塩人間。塩とは海が作り出した海の力を宿した物質。そして悪魔の実の能力者にとって海は最大の弱点。つまり私は悪魔の実の能力を封じることが出来るってわけ♩」

 

『『………!?』』

 

 悪魔の実の能力者全ての天敵となりうるモニカの能力に、以前から知っていたディボスとアマゾース姉妹を除いたこの場にいた全員が驚きの表情を浮かべる。

 

「悪魔の実の能力を封じる? そんなことが……!?」

 

「これでおしまい」

 

 信じられないいった表情で呟くハニークイーンの腹部に、いつの間にか近づいたモニカの右手の人差し指がめり込む。それによってハニークイーンは自分の体から力が抜けて意識が遠のいていくのが分かった。

 

「貴女……一体何者なの……?」

 

「私はモニカ。前世でも今世でも医療に関わったディボスグループの船医(予定)よ」

 

 気絶する直前に辛うじて言ったハニークイーンの質問に、モニカはそう答えるのであった。



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