混沌を齎す者 (土曜日の魔術師)
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1話

 

 

 

 目が覚めると最初に見えたのは灰色の大地だった、くすんだ色の植物が疎らに茂っている

 

「ここが最初の惑星か」

 

 上を見上げると紫色の空が広がっている。話は聞いていたが本当に地球とは別の星らしい

 

 

 

 地球の存在する次元とは別の軸にある銀河系、そこはあらゆる惑星が大なり小なり問題を抱えているらしい

 

 その次元を管理する神がこのままでは銀河の崩壊を招きかねないと危惧し別の世界から力を授けた人間を派遣したと言う

 

 簡単に言えば異世界転生の宇宙版だ

 

 それに待ったをかけたのが同じ神である混沌を司る神

 今までの様な混沌で満ちた心地よい銀河がそうでなくなるのは受け入れられなかった混沌は自らも同じ様に銀河の混沌を維持する為、力を与え人間を送り込んだ

 

 その中の一人が俺だ

 

 普通そこは救う側じゃない? って思うかもしれないが俺を選んだのが混沌の神だったんだから仕方ない

 

 俺自身誰かの為に面倒を引き受けるより自分の好きな様に勝手する方が良い

 

 だからこそ混沌側の勢力に選ばれたのかも知れないけど

 

「さてと、確かめてみるか」

 

 混沌を維持すると言うのは現状良く分からないが何をするにしても大事なのは生き残る事だ

 

「『オープン』」

 

 俺の目前に半透明のゲームのメニュー画面の様な物が現れる

 

 俺達に与えられた能力だ

 

 ~~~~~~~~~~

 

 NAME.須黒 拓斗

 

 Level 1

 

 勢力.混沌

 

 筋力 2

 

 耐久 3

 

 持久 3

 

 瞬発 2

 

 残ポイント:15

 

 能力『グラビティ』

 

 ~~~~~~~~~~

 

 当然だが今のままの身体スペックじゃ、俺達人間がこの世界で生き残ることは不可能とは言わないが難しい

 

 そこで神が俺達に与えたのがこれ

 

 簡単に言えばゲームのレベルアップ能力だ

 敵を倒したり、とある行動を取る事で経験値を取得できて、レベルが上がる事で貰えるポイントを割り振って自身を強化できる

 

 ステータス項目は四つ、それぞれそのまんまだ

 

 筋力をあげれば力が上がる

 

 耐久を上げればより頑丈に

 

 持久を上げれば運動、能力使用時のスタミナが増す

 

 瞬発は俗に言う素早さだ

 

 初期ポイントとして15あるから自由に振っていいらしい

 

 経験値取得のとある行動とは所属勢力で変わる

 

 惑星の問題を解決し、銀河を救う事が目的の救済勢力は誰かを助けたり惑星又は銀河の救済に繋がる行動

 

 惑星を混乱させ、銀河を混沌に陥れる事が目的の混沌勢力は命を奪ったり、銀河を混沌に導く行動をすればボーナス経験値を貰えるらしい

 

 これもある意味分かりやすいな

 

 そして大事なのが一番下にある能力だ

 レベルアップ能力とは別に与えられた固有能力でそれぞれの適正に合った能力が目覚めるらしい

 

 俺の能力は『グラビティ』

 

 重力を操る能力だ、まんまだな

 触れた物と自身から約1m程度の重力を操る事が可能だ

 

 ちなみに触れた物なら離れても操作できる

 

 さっそく初期ポイントを振りたいがまずは能力の確認だな

 

 地面に転がっている岩に触れて意識する

 

「おー」

 

 すると岩が持ち上げてないのにも関わらず一人でに浮いた

 次は岩にかかる重力を大きくすると勢い良く岩が地面に叩きつけられてめり込んだ

 

 今度は自身にかかる重力を操作して飛行を試してみる

 

「おっと、これは少し慣れが必要だな」

 

 浮くのは成功したが体制が安定しない

 暫く浮遊して姿勢制御に四苦八苦しながら上下左右に飛んでいると倦怠感と少しの酔いを感じて来た

 

「ま、こんだけ浮いてりゃ酔うわな」

 

 能力使用過多のスタミナ切れの感覚も理解できたしちょっと休憩するか

 

 使ってみた感じ慣れれば高速で移動する事も出来るだろうし、大抵の相手は触れて重力で圧し潰すだけで無力化できるだろう

 

 そんなこんなで倦怠感もなくなり酔いも収まった所で高速移動を試した結果

 

「やっべ! …………っ痛ぇ!」

 

 高速で前方に打ち出された俺は自身にかかるGに体が軋むのを感じながらそのまま地面に投げ出された、打撲と体の軋みで暫くその場で蹲る

 

「いってぇ……」

 

 移動時のGによる負担はまったく考えていなかったし、制御をミスれば今みたいに地面に叩きつけられる

 

 でも今の失敗で俺のステータスの方向性が決まった

 ぶっちゃけ瞬発力は重力による高速移動があるから必要ない

 筋力も重力での圧殺やそこら辺の物を打ち出すだけでそれなりの攻撃力が期待できるだろう

 

 俺に必要なのは、能力を使い続けるスタミナと事故や高速移動のGに耐えきれるだけの頑丈な身体だ

 

 

 と言う訳で

 

 

 ~~~~~~~~~~

 

 NAME.須黒 拓斗

 

 Level 1

 

 勢力.混沌

 

 筋力 2

 

 耐久 8

 

 持久 13

 

 瞬発 2

 

 残ポイント:0

 

 能力『グラビティ』

 

 ~~~~~~~~~~

 

 

 俺のステータスはこういう風になった、中々極端なステータスだ

 この割り振りの場合スタミナ切れが起こった時かなりの確率で詰む、なので持久力重視で持久に10、耐久に5振った

 

 耐久に振った途端痛みが引いて大分ましになった、思わず痛んでいた場所を擦る

 

「これは……凄いな」

 

 まぁ、考えてみればこれくらいじゃないと宇宙を救うにしろ乱すにしろ土台無理な話か

 

 ポイントも振って、能力の確認もできた

 そろそろ周囲の探索に入るべきだろう

 とりあえず人間、と言うより知的生命体を探すのが先決だろう

 

 

 ——————

 

 

 歩いていると生物を見つけた

 

「gruruuuu……」

 

 4足歩行の犬の様な生物が唸り声を上げている

 

「とてもじゃないが知能を持ってるとは思えないな」

 

 思わず声に出して呟く

 だがいい機会だろう、能力を使用しての戦闘行為の

 

 道中、消耗しない程度に能力を使う練習をしていた

 そこらに転がっている岩を使っての高速射出も中々の命中率になった、とは言え無理はしない、まずは弾岩(命名)の威力の確認だ

 

 足元に転がっている岩を足で小突くと浮かせた岩を犬に向かって打ち出す

 高速で飛来したそれはそのまま犬に気づかれる事なくその身体を貫いた

 

 地面に伏したままの犬に近づいて確認したが死んでいる

 

「コイツが脆いのか弾岩が強いのか判断しづらいな」

 

 レベルは上がっていない、まぁドラクエで言うスライム的な雑魚だろうから1匹だけじゃ流石に上がらないか

 

 

 

 その後も遭遇した犬を倒していたが

 

「やべっ、外した」

 

 弾岩を外し、接近を許してしまった

 

 飛び掛かって来た犬の鋭い爪が俺に迫る……距離にして数十センチ、射程圏内だ

 

 瞬間、俺に迫っていた犬が地面に叩きつけられて文字通り”染み”になった

 

「おぉ……グロ……」

 

 地に縫い付けられ高圧重力に耐えきれなかったその体がトマトみたいに弾けた

 

 咄嗟だったので思わず手加減なしで放ってしまったがこうなるとは……

 

 これは慣れるまで人間相手には使わない方がいいかね

 殺すと決めた時はその限りじゃないが

 

 

 

 これで7匹目か、メニューを出してステータスを確認するとレベルが上がっていた

 

 念の為に1匹毎に確認していたが、最初のレベルアップまで7匹か

 そこまで上がりやすくはなさそうな感じだが、深く考えなくていいだろう

 

 レベルアップ毎に貰えるポイントは5

 

 ステータス振りに関しては悩む必要はないな、持久と耐久にぶっぱするだけだし

 

 持久に3、耐久に2振っておいた

 

 ここに降り立ってからかなり時間が経っているが暗くなる様子がない、空を見ても太陽が見当たらないから恐らくそういう星なんだろう

 

 耐久力の検証と、能力を限界まで使った時にどうなるかを試してみたいが一人の状況でそれをやるにはリスクが高すぎるし、他の人間がいても信用できる奴じゃないと一人で試すのと同じ様な物だ

 

 

 その後も歩き続けていると岩に座っている人間、に見える武装した3人組を見つけた

 その傍らには手を縛られ身動きが取れなくなっている少女がいる

 

「いやぁ運が良かったぜ、まさかこんなガキが一人でうろついてるとはな」

 

「上玉だし、こりゃあ高値で売れるぜ」

 

 笑いながらそう話す3人の内の2人、その様子は普通の人間に見える

 

「おい、油断するなよ……このガキの関係者が捜索に出てる可能性がある

 子供の足じゃそこまで移動出来るもんじゃない、見つかる前にさっさと闇トレーダーに売りに行くぞ」

 

 1人は周囲を警戒しているが、話している2人はまるっきり油断している

 

 いけるか? 武装は銃に見える……他にはしているように見えない

 遠目で分かりにくいが来ている物も金属には見えないから防具と言う程でもないだろう

 

 混沌の勢力なのに人助けとはあまり褒められた事じゃないかもだが女の子を見捨てるのは忍びない

 別に助ける事でペナルティが課せられる訳でもないし、経験値が貰えないだけだ

 

 警戒してる奴を崩せば後の二人は簡単に混乱してくれそうだ

 

 気を付けるのは銃撃だな、果たして重力で防げるかどうか……

 

 ただ重いだけの物なら簡単に浮かせたり出来るが銃弾クラスの速度の物はまだ試してないから攻撃されそうになったら全力で周囲の重力を圧縮させる

 

 

 

 初撃の不意打ちで1人は確実に落とす

 

 弾岩を3つ待機させる、これ以上増やすと精度が落ちて少女に当たりかねない

 

「悪いが俺の経験値になってくれ」

 

 確実に殺すために3つ全部警戒中の男に照準を合わせる

 

「じゃあな」

 

 打ち出された弾岩は1つは顔に残り2つは胴体に命中した、顔の右半分が抉れ、胴体には岩がめり込み男は血を撒き散らしながら倒れた

 

「な、何だ!」

 

「ダックが死んだぞ!」

 

 狼狽している二人に向かって高速で飛来すると内一人を巻き込んで轢き殺しながら着地した

 出来れば二人共巻き込みたかったが仕方ない

 

「くそっ、こいつ……!」

 

 生き残った一人が俺に向かって銃を向けて撃ってくるが決めていた通りに限界まで圧縮した重力場により放たれた銃弾が宙で静止する

 

「弾が止まって……っ」

 

 止めた弾丸をそのままそいつに返してやると何発もの弾丸が襲い掛かり最後の一人も倒れ伏した

 

「……ふぅ」

 

 深呼吸して緊張を解いた

 

 完全に想定通りとは行かなかったが上出来だ

 それに銃弾を問題なく止められるのが分かったのも収穫だ

 

 能力による防御も申し分ない、このまま能力特化のステ振りで良さそうだ

 

 ステータスを確認するとレベルが2上がって4になっていた

 武装した人間(又は知的生命体)は経験値的に美味しいらしい……これは良い事を知った

 

 混沌勢によるボーナスもあるだろうが

 

 さぁステ振りだと思った所で

 

「あ、あの……」

 

 声を掛けられてようやく少女の存在を思い出した

 

「おっと悪かったね」

 

 まだ初めての対人戦で興奮していたのかもしれない

 

 少女に近づいて縄を解いてやる

 

「ほら、これで大丈夫だ」

 

「助けてくれてありがとう」

 

 年齢は中学生くらいか、あいつらが上玉だと言っていたのが分かるくらいには整った容姿をしている

 

 近くで見れば見る程、俺と変わらない人間に見える

 地球で言うと白人に近い特徴をしているな

 

「私はナンシーって言うの

 貴方は? この辺りじゃ見ない恰好をしてるけど」

 

 ちなみに今の恰好はジャージである

 まぁ、呼び出される前は普通に家にいたから仕方ない

 

 まさかそのまま放り出されるとは思わなかったし

 機能性抜群で動きやすいからある意味良かったのかもしれない

 

「あー、実は宇宙船で旅してたんだけど……船が事故に合って……緊急脱出装置で近くの星に一人放り出されたんだ」

 

 正直にいう訳にも行かないからその場でストーリーをでっち上げる

 

「だからここがどんな星かも分からないしで割と途方に暮れてたんだよ、出来れば街……っていうか人のいる所に連れてってくれると助かるんだけど」

 

 咄嗟にしては中々出来の良いカバーストーリーを作れたと思うがどうだ

 

「そうなんだ、それは大変だったのね

 私の集落に案内するわ、助けてくれたお礼もしたいし」

 

 よし、上手く誤魔化せたみたいだ

 これから出会う人達には全員同じ事を言うとしよう

 

「その前にちょっと待ってくれるか?」

 

 倒した奴らの装備を剥ぐ事にする、特に銃は頂戴しておこう

 持ってるだけでも牽制できるだろうし

 

 ナンシーに聞いて通貨や金目になる物も頂いておいた

 

 ちょっと気になる事があって彼女の前でメニューを開いてみたがどうやら見えていないみたいだったので

 耐久と持久に5ずつ振った

 

 

 

「それにしても石がビューン! って飛んで来たり、銃が効かなかったり貴方凄いストレンジャーなのね!」

 

 道中の会話で気になる単語が出て来た

 

「ストレンジャー?」

 

「ええ、不思議な力を持つ人をそう呼んでるの

 私も初めて会うけど」

 

 一応能力者の存在は認知されているらしい

 

 その存在は希少なので滅多に遭遇はしないとの事

 

 話を聞く限り無暗に能力を使っていると変なのに目を付けられるかもしれない

 少なくとも実戦で充分使いこなせる様になるまでは人前での乱用は避けよう

 

 

 

 それから体感で1時間程歩いた所で人工物が見えて来た

 

 集落って言うから農村みたいなのを想像してたが全く違った

 金網の様な柵に囲まれてコンテナの様な四角形の建物がいくつも並んでいる、外装は金属性に見える

 

 俺達が近づくと門に立っていた男がこっちに気づいた

 

「ナンシー! ナンシーじゃないか! 良かった、無事だったんだな?」

 

 少なくともさっきのならず者達よりは頑丈そうな装備をしている男は安心したようにナンシーに話しかけてから警戒の眼差しをこちらへ向けて来た、まぁ当然だわな

 

「うん、その……バンダ―に捕まって連れて行かれそうになった所をこの人に助けて貰ったの」

 

 言い辛そうにしていたのは、勝手に集落を抜け出してならず者(バンダ―と言うらしい)に捕まったからだろう

 

 さっき教えてもらった

 

「だから言っただろう!? 集落の外にはバンダーがいるから抜け出すなとあれ程っ——————」

 

 滅茶苦茶怒っている、脱走常習犯らしいし仕方ないだろうな、でもこれ以上ここで立ち往生するのも御免だ

 

「まぁまぁ、ナンシーも怖い思いをしたろうから親御さんに会わせてやったら?」

 

「あ、ああ、そうだな……あんた、ナンシーを助けてくれてありがとう

 何もない所だけどゆっくり体を休めてくれ」

 

 礼を言い、中に入る

 

 男は捜索に出ている男衆に連絡しに行った

 どうやら通信技術はそれなりに発達しているみたいだ

 

 そのまま集落を歩いていると

 

「ああ! ナンシーなのね! 良かった、心配したのよ!」

 

 こちらに駆け寄って来てナンシーを抱き寄せた女性

 

「お母さん、ごめんなさい……もう勝手に外になんか出ないわ、約束する」

 

 まぁ、母親でしょうね……ナンシーに似ている……美人さんだ

 

「話は聞きました、この子を助けてくれて本当にありがとう

 どうお礼をすればいいか……」

 

 ここで、じゃあその体で払ってもらおうかグへへ……とか言ったらボーナス経験値貰えるんだろうか? 

 

 何てしょうもない事を考えながら

 

「いや、偶然通りかかって助けられる力があったから助けただけですよ、娘さんが無事で良かったですね」

 

 無難に善人を演じておく

 

「そういえば名前聞いてなかった! なんて呼べばいいの?」

 

 ナンシーがそういえばと言う風に聞いて来た

 先程から悩んでいた事だ

 

 名前……そのまま本当の名前を名乗ると同じ転送組の奴らに一発でバレるだろう

 同じ混沌側なら別にいいが救済側に感づかれた場合厄介だ

 

 救いは転送組と知られた所でどっちの勢力かは判断する方法はないという事

 相手が救済側なら自分もそうだと嘯けばいいが口なら何とでも言えるから疑われないとも限らない

 

 この星に他の転送組がいるかは分からないが先程から見る限りここの人間は白人系の人種ばかりだ

 その中にいる日本人……うん、怪しい

 

 そもそもジャージ着てるから速攻でバレる

 

 聞かれないなら都合がいいと思っていたが流石に無理だった

 

 ……偽名を名乗ってもいつかボロが出そうだ

 

 とりあえず下の名前だけ名乗っておこう

 

「拓斗だ、そう呼んでくれ」

 

「タクト……いい名前ね!」

 

 ま、なる様になるだろう

 

 基本的にこの世界に慣れて、能力を使いこなせる様になるまでは転送組との接触を考えて善人を演じるつもりだ

 救済側ならそれで誤魔化せるだろうし、混沌側ならそのまま事実を話せばいい

 

 それに善人を演じれば、あちこちに点在するらしいバンダー達をぶっ殺して回っても違和感がない

 やってる事は良い事に分類されるだろうがこっちは殺すと言う行為そのものに経験値ボーナスがかかる混沌勢力だ

 

 それと恐らくだが相手が知的生命体であればボーナスが大きい

 さっきバンダ―を3人殺してレベルが2も上がった事から多分間違いない

 

 

 

 所変わって俺はナンシーの家にお邪魔していた

 

 捜索から帰って来たナンシーの父親、マークさんに拝み倒される勢いで感謝された、ちなみに母親はカーラさんと言うらしい

 

「そうか、宇宙船が……それは大変だったな

 そんな状況なのに娘を助けてくれるなんて拓斗さんは人が良いんだな」

 

「本当にいい人だわ」

 

 飯をご馳走になりながら俺の事情(大嘘)を説明したら自分も大変なのに娘を助けてくれた聖人扱いされた

 

 心の中の俺が夜神ライトばりのゲス顔で「計画通り」と言っている

 

 飯をご馳走になると聞いてゲテモノが出てくる事も覚悟したらミートローフによく似た物が出て来た、普通に旨かったです

 

 食事の後、この格好だと目立つ事を相談したら

 何着か服を持ってきてくれた、マークさんは体格が合わないので集落の俺と体格が近い人から一着ずつ譲って貰って来てくれたらしい

 

 いやー、やっぱ善人ムーブは事がスムーズに進んで都合が良い

 ジャージやバンダ―達から漁った物を持ち運ぶ為のバッグも貰った

 

 暫くは此処を拠点としてバンダ―を殺して回ってレベル上げに専念した方が良いかもしれない

 

 いずれはこの星を出て銀河を混沌に陥れる旅をしなければならないが肝心の移動手段、宇宙船がない、何でその辺のサポート一切せずに身一つで放り込んだんですかね? 

 銀河を混沌で満たすとか言うクソハードな要求に比べて初期サポートが貧弱すぎる、ドラクエかよ

 

 まぁ、直接的すぎる援助は決まりで出来ないって言ってたけどさ

 人によっちゃ宇宙船の入手で詰んでもおかしくないぞ

 

 話を聞くと、ここからかなり遠いがこの星で一番でかい街があるらしい、そこなら宇宙船も手に入る可能性があるとの事

 

 確かに宇宙船は手に入るかもしれないが、同時に俺と同じ転送組がこの星にいるとすると十中八九その街を目指すだろう

 そうなると相応の準備をして街に行かないともしもの時に対処できない

 

 ……決めた、当分はここを拠点としてレベル上げと能力の訓練に専念しよう

 

 とりあえず何においても必要なのは戦闘力だ

 

 生き残るにも、目的を遂行するにもそれを可能にするだけの強さが無いと始まらない

 

「マークさん、カーラさん、この集落で俺が住む事の出来るような空き家はありますか? 暫くは此処で街へ行くのに必要な準備を整えたいと思うんです」

 

「何だそんな事か、それならうちにいるといいよ、空き家もあるが恩人にまだまだ礼を返し切れていないからね、なぁカーラ?」

 

「ええ、歓迎するわ、それに娘もタクトさんの事を気に入ってるみたいだし」

 

 この人達の方が聖人では? 

 

 だが、ますます都合が良い……もし此処に転送組、それも救済側の奴らが来た時に俺の善人っぷりを証明する証人になって貰えるだろう

 

「ありがとうございます、何だか俺の方が助けられちゃってますね」

 

 謙虚な善人を演じてひたすら好感度を稼いで行く

 

 明日辺りから適当に理由付けてレベル上げ(バンダ―狩り)をやっていくとするか

 

 





初投稿で操作に慣れてなくて誤投稿2回もして草

ハーメルンって大分分かりやすいシステムの筈なのに
作者の頭が弱いってはっきり分かんだね

面白かったら感想の方よろしくお願いします


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第2話

この話まで擬態主人公


 次の日、俺は一人で外を出歩いていた

 

 集落の外に出ようとマークさんに

 

「外でうろついてるバンダ―共ぶっ殺して来るわ(要約)」と、告げた所大慌てでカーラさんまで一緒になって引き留められた

 

 引き留められた俺は主人公の如く「この集落のみんなの安全を脅かすバンダ―達をやっつけて来るよ(要約)」と説得したが

 一人で3人のバンダ―を倒した君の実力は信じているが恩人を一人で危険にさらす訳にはいかないとマークさん

 

 全く持ってその通りなんだけど一人残らず皆殺しにする(経験値的に)予定だからドン引きされるかもしれないと思うと……

 

 聖人ムーブかましてるから、虐殺シーンを繰り広げると俺の信用度に関わる可能性がある

 

 そして一番の懸念は、戦闘に他の人間が参加すると経験値が分散して俺の取り分が減る可能性がある、と言うか多分減る

 なので経験値的な意味でも誰かが付いてくるのはマジで勘弁してもらいたい

 

 俺の我儘で皆を危険に巻き込みたくないし、それでここの守りが手薄になったらそれこそ集落が危ない

 自由に動ける俺が危険の種を潰すのは理に適っていると思う、俺もこの集落の為に何かしたいんだ……と

 

 The勇者みたいな言葉で暗に付いてくんじゃねぇよと説得

 

 それでも渋っていたので、彼らの前で銃弾を止めて見せたらようやく渋々認めてくれた

 銃弾を止めるような芸当が出来るなら死んでしまう事はないだろうと

 

 只、無理はせず危険だと思ったらすぐに戻ってくるように言われた

 

 前向きに検討する所存です

 

 

 

 ある程度集落から離れたら訓練がてら飛行移動して索敵する、空からだと地上が良く見える

 

 2人組で行動するバンダ―がいたので1人は着地に巻き込んで轢殺、もう一人は混乱している間に射程圏内まで近づいて圧殺した

 ステータスを確認したがレベルは上がってない、当たり前だが必要経験値は徐々に上がっていってるんだろう

 

 死体を漁り、引き続き空から索敵していると、一人で歩いているバンダ―を見つけた

 

「1人か……」

 

 見た所周囲に他の仲間はいない、ちょっとばかりお話するチャンスだ

 

 アジトの場所でも吐いてもらうとしよう

 

 

 

「お、重っ……動けなぃ……」

 

 奇襲し手加減した重圧で無効化したバンダ―に話しかける

 

「さて、お前の生殺与奪の権利は俺が握ってる訳だ

 お前が属してる組織の規模はどんなもんだ? アジトの場所は?」

 

「そ、それは……」

 

 バンダ―の男が言い淀む、流石にすぐには吐かないか

 足にかかる重圧を上げ、軋む音がすると男が悲鳴を上げた

 

「分かった! 言う! だからやめてくれ! 足が潰れちまう……ぅぅ」

 

「だったら今すぐ吐くんだな」

 

「北に山が見えるだろ? あれを越えたら石造りの2階建ての建物がある、そこがアジトだ! 

 人数は18人だ……だけど3人昨日から戻って来てない、今日外に出てるのは俺以外は2人だった筈だ

 後の奴らはアジトにいる筈だ、これでいいだろ!? 早く解放してくれ!」

 

 痛みに喘ぎながら男は口早に答えた、戻ってない3人は昨日の奴らだろう

 後者の2人はさっき始末した奴ら……こいつを抜きにしてアジトに居るのは12人か

 

「ああ、十分だ」

 

 男の顔に安堵が見えたが、次の瞬間その顔が潰れて地面に赤い花を咲かせた

 さっき圧殺したときそいつが持ってる物までダメになったからな、余裕があれば潰すのは顔などにするか他の方法で殺した方が良いと学んだ

 

 死体を漁って、奴らのアジトがある北を進む

 さてどうするか……一番手っ取り早いのは建物ごとぶっ壊す方法だがそれだと溜め込んでるであろう金目の物なんかを瓦礫の中から探す羽目になる

 

 やっぱ正面から行って全員殺すのが得策か

 後、レベルが上がっていたので持久に全振りした、耐久に関しては長時間ぶっ続けでもない限り高速移動によるGの負荷を感じなくなったので今からのアジト襲撃が長引いた場合に備えて持久を底上げしておく

 

 山の頂上辺りまで来た所で例のアジトが見えた、遠目に見てもそこそこ大きい、まだ余裕はあるが一応休憩をはさむ

 万全の状態で挑みたいからな

 

 俺の重力操作は強力だと思うが如何せん射程がなぁ……

 今回は弾岩を使うとアジトが崩壊する危険があるし、そもそも中に弾に使える物があるか分からない

 

 銃使ってみるか

 使えるようになって損はないだろう、弾も結構あるし集落である程度の使い方は教えてもらった

 マシンガンタイプだから数撃てば当たるだろ、使ってみて無理そうなら能力でゴリ押ししよう

 

 休憩も終わり、飛んでアジトの屋上に音を立てずに降り立つ

 見張りも立てないとかどうなんだ? こっちはありがたいが

 

 ここからでもバンダ―達の声が聞こえて来る、呑気にどんちゃん騒ぎしてるなぁ

 階段を下りてドアの隙間から覗き見ると室内で酒を飲みながら騒いでるのが見える

 

 全員ベロベロに酔っているし何なら2人寝てる奴がいる、もうちょっと危機感持った方がいいだろこいつら……

 それなりに緊張していた筈が気が抜けた

 

 さっさと終わらせるか

 

 ドアを勢い良く開き銃を乱射する

 

 突然の事に反応出来てない奴らは呆けた声を出した後、銃弾が命中した奴は苦痛の声を上げた

 3人……いや4人殺った、思ったよりやれなかったな

 

「侵入者だ! 殺せ!」

 

「クソッ、銃を取れ!」

 

「う、腕が! 痛えよぉ……」

 

 死ななくとも弾が当たった奴はまともに戦えないだろう

 俺が撃っていたマシンガンの弾が切れたのでマガジンを交換する、その隙に銃を手に取ったバンダ―達は俺に向かって銃を構える

 

 まだ慣れない手つきでの交換だったので向こうの方が早かった

 奴らが一斉に銃を撃ち始めるが俺が作り出した重力の壁に阻まれる

 

 ここで交換を終えた俺はある事に気づく

 

 これ俺が撃った弾も止まるじゃん

 自分の撃った弾だけ素通りさせるなんて真似、少なくとも今の俺には出来ない

 

 銃を使っての戦闘は無理かぁ

 まぁ、無理とは言わないが能力使った方が早いわな、銃を手放すと同時に向こうの弾が切れた

 

「銃が効かねぇぞ! ストレンジャーか!?」

 

 気づいたか、もう遅いけど

 銃弾をバンダ―達にばら撒く、弾の量が多かったので上手く纏めて打ち出せなかった

 

 それでも残りは3人だ、後は重力を纏った高速タックルで二人を吹き飛ばす

 逃げようとした残り一人を拘束して一息ついた

 

「身体が……っ、くそ! 何なんだお前!」

 

「そんなこと今はどうでもいい、それより金目の物溜め込んでるんだろ? 

 何処にあるか教えてもらえる?」

 

 バンダ―の言葉を無視して用件だけ伝える

 

「……い、1階の床にある隠し倉庫だ、蓋はとてもじゃないが一人で開けられる重さじゃない、

 俺も開けるのを手伝うから見逃してくれ! 中の物は全部やるから……」

 

「いや、それだけ分かれば十分だわ」

 

「ま、まっ——————」

 

 はいトマト

 

 

 

 1階で床を調べると、切れ目のある部分を見つけた、半分が大きい箱で隠れている

 

 箱をずらすと持ち手が見えた、そこまで隠れていると言う訳でもない

 念の為に持ち上げようとしてみたが案の定持ち上がらない、まぁ俺ってクソ雑魚筋力だしな

 

 大人しく重力で浮かせて開けると結構な量の金や宝石、装飾品……そして

 

「何だこれ? 何かの鉱石か」

 

 くすんだ灰色の鉱石の様な物が少量だがあった、まぁ貴重な鉱石か何かなんだろうな

 貰っとこう

 

 持ち手を隠していた箱が丁度いい大きさだったのでそれに移し替えながらステータスを確認する

 

 レベルが2上がって7になった、12人殺して2か

 そう考えると意外と上がりにくいのかもな、耐久と持久に5ずつ振った

 

 

 

 ~~~~~~~~~~

 

 NAME.須黒 拓斗

 

 Level 7

 

 

 勢力.混沌

 

 筋力 2

 

 耐久 20

 

 持久 31

 

 瞬発 2

 

 残ポイント:0

 

 能力『グラビティ』

 

 ~~~~~~~~~~

 

 この偏り具合よ、俺はこれでいいんだけどさ

 

 今日は帰るかぁ、これ持って帰らなきゃいけないし

 

 

 

 

 け、結構疲れた……

 俺の貧弱筋力じゃ間違いなく持ち上げられない戦利品の入った箱を浮かせて、かつ飛んで帰ったのだが

 かなり消耗している、休みなしでとは言え持久31もあるのにこんな疲れる? 

 

 もしかして俺の能力クソ燃費悪いのでは? 

 強力な能力だし戦闘に関してはほぼ万能な能力だ、欠点が無いなんて都合が良すぎるよな

 戦闘も基本速攻で終わってたから、あんまり実感が湧かなかった

 まぁ、俺のステ振りは間違ってなかった訳だ

 

 耐久には当分振らなくていいかな

 能力が使えなくなったらそこそこ丈夫なクソ雑魚ナメクジと化すからな俺は

 そんな自体にならない為に持久に振りまくってスタミナを上げる

 

 後は長時間の戦闘を避ける事と、戦闘が長引きそうだったら躊躇せず逃げる事が絶対だな

 俺は別に尻尾巻いて逃げるのに何の抵抗もないし、最終的に勝った奴が勝ちだ

 

 門の前に降り立ち門番の青年に挨拶する

 

「門の番ご苦労さん」

 

「ああ、それにしても本当に飛べるんだなぁ、銃弾も平気な顔で防いでたし……羨ましいよ」

 

「まぁ、俺もこの力には世話になってるよ」

 

 青年が俺の持ってる箱に目をやる

 

「その箱は?」

 

「戦利品さ」

 

 それだけ言い集落の中に入った

 すれ違う人達に挨拶しながらマークさん一家の家に戻る

 

「あっ、おかえりなさいタクトさん! それ何?」

 

 どうやらナンシーちゃんだけらしい

 マークさんは警備で日中は基本居ないし、カーラさんも農業などで家を空ける事が多いみたいだ

 

「バンダ―達をやっつけて得た戦利品だよ」

 

 ソフトな言い回しで事実を伝える

 

「見てもいい?」

 

 蓋を開けて、行動で答えを示す

 覗き込んで中を見たナンシーが驚きながら声を上げた

 

「すごーい! お金も宝石もこんなに一杯! これだけでこの集落の誰よりもお金持ちよ」

 

 へぇ、結構溜め込んでたんだなあいつら

 いやはや、経験値も貰えて金も稼げるなんてバンダ―様々だな

 

「お父さんとお母さんが見たらびっくりすると思うわ……ね、それより今日はもう外には行かないの?」

 

「ああ、あんまり無理をしてもしょうがないからね」

 

「じゃあ遊んで!」

 

 

 

 その後ナンシーちゃんを能力で浮かせて遊んでいると

 楽しそうにはしゃぐナンシーちゃんに釣られて集落の子供たちが集まって来た、能力の特訓がてらその子達も浮かせて遊んであげる

 

 それで分かったのは、一度に重力を操る事のできる対象に制限はないが増えれば増えるだけゴリゴリスタミナが削られるという事だった

 ついでに限界まで能力を使ってみたが、感覚は普通に運動して疲れるのと同じ感じだった、それでも使おうとすると頭痛と心臓が締め付けられる様な痛みに襲われた

 これはきついな、この状態じゃとてもじゃないが戦闘何て不可能だ

 

 楽しそうにはしゃぐ姿もだが、限界ギリギリの俺を心配するナンシーちゃんもかわいかったです。

 

 

 

「そうか、バンダ―のアジトを……何人いたんだ?」

 

「アジトに居たのは12人ですね、全員銃で武装していたのでそこそこ厄介な集団だったかもしれませんね」

 

「銃で武装した12人を一人で……凄いな」

 

 夕食後、マークさんに今日の事を聞かれたので答える

 

「討ち漏らしは?」

 

「ありません」

 

 最後にアジトがあった場所を伝えて、奪った銃と弾薬を自分が使う分以外は集落の自警団に寄付した

 マークさんと集落の男性達に感謝された、好感度稼ぎは抜かりなくだ

 

 話が終わった後は就寝までナンシーちゃんを構ってあげながら過ごした

 断じてロリコンではない、そもそもナンシーちゃんは14歳で俺は17歳だ3歳しか変わらないからロリコンじゃないです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからはバンダ―をサーチアンドデストロイしながら戦利品を強奪、帰って子供達で重力制御の特訓、夜はナンシーちゃんとイチャイチャしていたら何と3週間経ってた

 

 この3週間に潰したバンダ―のアジトは7つ、人数にしたら100は越える……レベルは何と7も上がって14になった

 

 

 ~~~~~~~~~~

 

 NAME.須黒 拓斗

 

 Level 14

 

 

 勢力.混沌

 

 筋力 2

 

 耐久 20

 

 持久 60

 

 瞬発 2

 

 残ポイント:6

 

 能力『グラビティ』

 

 ~~~~~~~~~~

 

 

 これがステータス、振ってない6ポイントは何かあった時の為に残しておく……切りのいい数字っていいよね

 

 持久が60に到達した、3週間前の倍だ

 相変わらず筋力と瞬発はクソ雑魚である

 

 計8つのバンダ―のアジトから金品を強奪した今の俺はかなりの金持ちだ

 多くの戦闘をこなし、能力の制御も上達した

 

 星一番の街、ライドランテに行く準備は万全と言えるだろう

 ぶっちゃけこの3週間で、このままここに留まってナンシーちゃんルートも悪くないんじゃないかと思い始めていたが流石にマズイ

 マークさんとカーラさんが俺達をくっつけようと企んでいる感があるしナンシーちゃんも満更でもなさそうだが

 

 ごめんね、俺この銀河を混沌に陥れなきゃいけないから

 

 集落に行商がやって来た、ここを出たらライドランテに向かうらしい

 これも(混沌の)神の思し召しだろう

 

 夕食を終えて3人に話を切り出す

 

「マークさん、カーラさん、ナンシーちゃん、話があるんだ」

 

 真剣な顔の俺にナンシーちゃんは首を傾げ、マークさんとカーラさんは悲しそうな顔をした

 

「ああ、分かっているよ……明日、ここを発つんだろう?」

 

 そう言ったマークさんに俺は頷く

 

「え……集落を出ていくって事? な、何で?」

 

「仕方がないわ、ナンシー……タクトさんにはやらなきゃいけない事があるの」

 

 そうなんだよナンシーちゃん、お兄ちゃんな、宇宙船を手に入れるついでで手始めにライドランテを混沌に陥れようと思うんだ

 

「そんなのいいよ、ずっと此処にいようよ」

 

 ナンシーちゃんが泣きそうになりながら俺を引き留めようとする

 泣き顔もかわいいなぁ

 

「ごめんね、ナンシーちゃん」

 

 俺はただ謝るだけだ、将来有望だし正直手を出しそうになった事もあったけどごめんね、思い止まったから許して

 

「い、嫌だよ……ずっと一緒にいようよ、行っちゃうなんてやだよぉ……」

 

 とうとう泣き崩れてしまったナンシーちゃんを抱きしめる

 

「ナンシーちゃん、ごめんね」

 

 本当にごめんね? ナンシーちゃん……ここで涙でも流せば最高なんだろうけど1mmも出る気配がないんだ! 

 

 こんな俺を許してくれなくてもいいけど出来れば許して

 

 

 

 夜、ナンシーちゃんが俺の寝床に入って来た

 逆夜這いか? 俺を行かせない為に既成事実を作りに来たのか? と思ったかどうやら違うみたいだ

 

 ただ抱きしめて来ただけでそれ以後動きはないし、何も言ってこない

 

 悪魔の俺が立つ鳥跡を濁してイケよといっている

 

 天使の俺は……そんな奴いなかったわ、代わりにもう一人いた悪魔がヤっちゃえよ、と言ってる

 

 でも駄目です

 

 もう此処には来ないみたいな雰囲気だけど普通に来ます、この集落には俺の最終防衛ラインになって貰う

 此処の人達は思わず憐れんでしまう程、馬鹿みたいに俺を善人だと信じ込んでるからな

 もし、救済勢力に出くわして追いつめられた時はこの集落に逃げ込んで此処のみんなに庇ってもらいます

 

 それで諦めてくれるなら良し、諦めなくても救済勢力に選ばれるようなお人好しならさぞ戦い辛くなるだろう

 躊躇ってる間にぶっ殺せば万事問題なし

 

 なのでここでナンシーちゃんを喰っちゃうと戻って来た時に変に期待されかねない

 俺も抱きしめてナンシーちゃんの身体の柔らかさを堪能させてもらうだけに留めた

 

 生殺しって辛いね

 

 

 

 翌日、行商人には話はつけた

 俺の財産(奪った)が入った箱×3つも報酬を払って積んで貰ってる

 

 俺が発つと聞いて集落のみんなが見送りに来てくれていた

 この3週間好感度上げる為に頑張ったからね! 順調なようで何より

 

 俺がバンダ―から奪った武装は全部貢いだから男衆の装備がやけにごついので商人がちょっとビビってるのが面白い

 

「マークさん、これを」

 

 俺は財産の一部をマークさんに渡す

 

「これは……受け取れない、宇宙船を手に入れるのに相当な金額が必要な筈だ」

 

 いいからいいから、この程度で好感度が稼げるなら安いもんだから

 

「いえ、出ていく俺が最後にこの集落の為に出来る事です、受け取ってください」

 

 どうせライドランテに行ったら獲物は腐るほどいるだろうからさ

 

「君は頑固だからなぁ……分かったよ、受け取る、この集落の為に大事に使わせて貰うよ」

 

 よし、稼げるだけ好感度を稼いでいくぞ俺は

 集落のみんなからも話しかけられるので別れを告げていく

 

「タクトさん……」

 

 目を赤くしたナンシーちゃんがやって来た、昨日の夜も静かに泣いてたからな

 

「これが最後じゃないさ、約束するよ……また来る」

 

「本当?」

 

 本当だよ、ただちょっと厄介事も持って帰ってくる可能性があるだけだよ

 

「ああ、でも当分会えないだろうから、悲しそうな君じゃなくて笑ってる君が見たいな」

 

 決まった

 

「約束だよ? 絶対、絶対帰って来てね」

 

 ナンシーちゃんが飛び込んで来たので抱きしめ返してあげる

 

「また、ね?」

 

「うん……またね、タクトさん」

 

 最後に彼女は飛び切りの笑顔を見せてくれた、ちょっと泣きながらだけど

 

 

 手を振るみんなが遠目に見える、俺もみんなが見えなくなるまで手を振り続けた

 

 

 

 

 

 …………っしゃあ! 解放されたぜ! 

 みんないい人でナンシーちゃんもかわいかったけどやっぱり善人ロールプレイ息が詰まるわ

 

 いやぁ、こっからはもう自分に嘘は付かない

 

 ライドランテでは思うままに混沌勢力らしく好き勝手振るまいます

 とりあえず行商の護衛もかねて道中のバンダーは俺が受け持つよ! 誰にも譲らない! 

 

 ついでにアジトの場所を聞ければ、潰しに行って金を稼ぐ

 ちょっと分けてやるって言えば嬉々として着いて来るからなこいつら、やっぱ商人だわ

 

 さて、街に着くまでにいくつレベルが上がるか楽しみだ

 

 

 

 





昼間は命乞いをするならず者達を容赦なく皆殺しにして
夜は美少女とイチャイチャするサイコパス

次話からナンシーちゃん達と言う枷が外れた主人公の外道混沌ムーブが始まります

100%の好意に対して利用する気満々の最低主人公がいるってそれマジ?


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第3話


外道ムーブと言っても暗躍とか策略みたいな感じになりそう


 

 

 集落を出発して1週間と少し、道中バンダ―を狩ったり、アジトを壊滅させたり、それを見た商人にドン引きされたりしながら目的地であるライドランテに到着した

 

 レベルは3上がって17に、持久に10だけ振っておいた

 

 目的である宇宙船を手に入れる方法を別れ際に商人に聞いて見た所、他の惑星からの宇宙船は停泊しているがこの街では販売してないらしい

略奪するしかないか?と思ったが

 

 このライドランテの市長であるレゾナンテさんならどうにかできるかも知れないとの事

 

 とりあえず転送組との接触を警戒して商人が扱っている商品の中にあったフルフェイスのメットを購入

顔が割れない様に街に入る前に装着しておいた

 

 ちなみに持ち歩く分以外の俺の財産は商人に預かって貰っている、着服されるかもしれないと思うかもしれないが容赦なくバンダ―共を皆殺しにする俺を見て最初は恐怖してたからな

もしそんな事をどうなるかを理解しているのでそんな真似はしないだろう

 

 解散する直前にきちんと

 

「俺はお前を信頼して預けるんだ……分かってるな?」

 

 って言ったらもげるんじゃないかと思う勢いで首を縦に振っていた

 

 宿を取り市長に接触する方法を模索しながら街を散策していると先の方が騒がしい事に気づいた

 

「俺が盗んだって証拠が何処にあるんだ!」

 

「監視モニターで貴方が取引未完了の商品をバッグに入れた事を確認しました」

 

「デタラメ言うな!俺は急いでるんだ、さっさと行かせてもらうぞ!」

 

 叫んでその場から立ち去ろうとする男とそれを止める人間、否

 

 一瞬全裸の変態かと思ったが違う、顔や体に継ぎ目のある人型のロボット…アンドロイドだ

マネキンの様な形をしている

 

「何なんだ?あの、アンドロイドは?」

 

 近くに居た住民に聞いて見る

 

「ライドランテが誇る自立思考型治安維持アンドロイドを知らないのかい?さてはこの街に来たばっかりのお上りさんだな?」

 

「ああ、今日来たばかりなんだ」

 

 自立思考治安維持、ね

 

「あれは我らが市長であり科学者でもあるレゾナンテさんが長年を掛けて開発したまるで人間の様に話し、そして自らで思考できる最高のアンドロイドさ!」

 

 住民の話を聞いている間にアンドロイドが男を捕縛していた

 

「へぇ、それは凄いな・・・教えてくれてありがとう」

 

「いや、良いって事さ、あんたのヘルメットも中々イカしてるね」

 

 礼を言ってその場を離れる

これは、この街の事を深く知る必要がありそうだ

 

 解散して然程経ってないが、商人の拠点へ赴く

 

 

 

「おや、どうしました?金をお卸で?」

 

「いや、この街の事を詳しく教えて欲しくてね」

 

 手短に用件告げる

 

「あれ、お知りにならなかったんですか?まぁ、いいですよ、お教えします」

 

 椅子に座り話を聞く

 

 

 

 市長邸を囲むように展開されたライドランテの街は自立思考型アンドロイドに守られ、治安も良く活気に溢れている

 

 この自立思考型アンドロイドは長い間市長であるレゾナンテが開発に取り組んでいた物の中々成功しなかったらしい

だがある時、それまで何の進展もなかった筈が急に上手く行き、自立思考型アンドロイドが完成

その勢いのままに市長はアンドロイドを街の治安維持に抜擢したらしい、疲れる事なく24時間街の監視モニターと常に同期している為、死角などもカバーできるし監視モニターに映れば一発で摘発だ

 

 しかも自身で思考し判断する事も出来る為、柔軟に対応できるし、人間の様にスムーズに会話できる

 

 治安維持アンドロイドの投入で犯罪検挙数は何倍にも増加し、瞬く間にこの街で犯罪行為を行う輩は滅多にいなくなり、街も大きくなったが良い事だけという事もない

 

 元々存在していた街の警備団はアンドロイドに立場を奪われ、警備の職を追われ、それに付随する仕事をしていた人間達も職を失った

そして24時間四六時中アンドロイドに監視される事に反発する住民も一部存在し、それらの人も市長の怒りを買い立場を失った

 

 そしてそんな職を失い立場を失った人達が街の最南端にある工場跡地に住み着き始めた、今では貧民街と呼ばれているらしい

そこは治安維持アンドロイドの管轄外である為治安も悪く、人が頻繁に行方不明になるらしい

 

 貧民街は基本的に市長に恨みのある人間しかいない為、市長であるレゾナンテも貧民街をアンドロイドで警備する事もない

だが、治安が良い事を売りにしているライドランテにその様な場所がある事は街のイメージダウンに繋がる

 

 商人達も含め、誰もがすぐにでもアンドロイド達によって撤去されると思ったが市長が

彼らの居場所を奪ってしまった自分にも非があるだろうが自分も譲る気はない、だが一度彼らの居場所を奪い彼らが見つけた新しい居場所すら奪うのはあまりにも酷だ、なので私は貧民街に関しては干渉しない

撤去する事もしない、だが逆に支援する事もない

 

 完全な不干渉を貫く、と

 

 街の人達はこの行為を市長の慈悲だと言うがそんな事が出来るならそもそも治安維持のいざこざの時点で誰からも恨まれない様な折衷案を出している筈だ

治安の良さが誇りのこの街で人攫い等が当たり前になっている区画があるなんて不利益にしか繋がらない

 

 急に上手くいったアンドロイドの開発に貧民街、そして何もしない市長、か

 

「成程なぁ」

 

「ですから貧民街には近寄らない方がいいですよ、貴方なら問題ないでしょうが」

 

「まぁ、行く用事もないし行かないさ」

 

 あ、そういえば

 

「俺が預けた中に良く分からない鉱石があるんだけどあんたなら何か分かるか?」

 

 ふと思い出した、謎の鉱石について質問する

 

「箱の中身は見てないので何とも言えませんが、鉱石も扱っているので恐らく分かるかと」

 

 

 

 

 箱から取り出したくすんだ灰色の鉱石を見せる

 

「アドミラ鉱石ではありませんか!非常に貴重な鉱石ですよ、高い硬度を誇り、固さに反して加工しやすいので様々な応用が利く鉱石です

ですが産出量が僅かで市場では稀にしか見る事が出来ません」

 

 あのバンダー達そんな貴重な物どっから手に入れたんだよ

 

「是非とも買い取りたい所ですが、確か市長が積極的に買い取っていますのでその鉱石を利用すれば…」

 

「市長に接触できるって訳か」

 

 頷く商人、中々やるじゃないか

箱から装飾品をいくつか取り出しくれてやる、金の切れ目が縁の切れ目って言うからな

 

「情報量だ、やるよ」

 

「いやぁ、助かります!このネックレスなんて加工が細やかで高値で売れますよ」

 

 それは良かった

 

 

 

 

 翌日、市長邸を尋ねた俺は受付と話していた、ヘルメットは付けたままだと怪しいので市長邸に入る直前に外してある

 

「今回はどのようなご用件で?」

 

「いえ、実はとある筋から非常に貴重な鉱石を手に入れまして、人伝に聞いたのですが市長殿がその鉱石を必要としていると聞いて取引をと思い尋ねさせて頂いた所存です、はい」

 

 今の俺は鉱石を売りに来た商人だ、口調は適当である

 

「そうですか、では担当の者を呼びますのでそこで取引をお願いします」

 

 やっぱりそうだよなぁ、市長自らなんて在り得ないよね

でもそれじゃダメなんだよ

 

「担当、と言うと市長殿ではないのでしょうか?」

 

「ええ、そうなります、市長は御忙しいので」

 

「ああ!それはいけません!」

 

ここで大げさに仰け反って声を上げる

 

「私、商人になる際にそのお品物を必要とする御本人とでなければ取引を行わないと亡き父に誓ったのです!」

 

 嘘っぱちの誓いで遠回しに市長本人を出せと要求する

 

「で、では取引はなしという事でよろしいでしょうか?市長は取引になど応じる時間はありませんので……」

 

「おお!それは何という事でしょう!私がお聞きした所市長殿は大変その鉱石をご所望になられているとの事ですが一介の受付嬢が貴重な商談を勝手な判断で断ったと知れば何と仰る事やら!」

 

 最後に恐ろしや…と呟き、迫真の演技を終える

 

 

 ……ど、どうだ?

 

 

「あ、え…えっと、しょ、少々お待ちください、市長に確認を取り次ぎます」

 

 よし来た!チョロい

後は市長が本当にこの鉱石を必要としているかどうかだが…

 

「はい、はい、分かりました、お通しします……先程は申し訳御座いません、係りの者が市長室まで案内致します」

 

 第一関門は突破だな、一番重要なのはこれからだが

 

 

 

 

「こちらが市長室です、失礼の内容にお願いします」

 

「ご丁寧に、ありがとう御座います」

 

 市長室に入るとデスクに座った男とその両脇に武装したアンドロイドが立っていた、市長と俺以外の人間はいない

 

 市長であるレゾナンテは40代程の男だ、成程…確かに学者って感じの風貌をしている

 

 俺が今からしようとしている事は一種の賭けだ、確証もないし確信もない……が、レゾナンテを実際に見て思った、勝算は高い

 

 俺は先程までの似非商人の様な態度を止め、レゾナンテのデスクに鉱石の入った箱を投げた

音を立てて箱はデスクに着地し、衝撃で蓋が取れ鉱石が飛び出す

 

 アンドロイドが銃を俺に向けて来て、レゾナンテが眉を顰める

 

「取引をしに来たんだ」

 

 俺は不遜な態度で堂々と言い放つ

 

「……聞いているよ、予想通りアドミラ鉱石の様だな」

 

「あー、違う違う……そっちじゃない」

 

 分かりやすくアンドロイドを一瞥し、レゾナンテに視線を戻す

 

「分かるだろ?なぁ?」

 

レゾナンテは眉一つ動かさず動じていない

 

「すまないが、私には君の考えは理解できないようだ……アンドロイドが君を攻撃する前に鉱石の取引に戻るか、部屋を出て来た道を戻るかをお勧めしよう」

 

 ま、認めないよな

 

「分かったよ、じゃあ少しだけ俺の話を聞いてくれ、それでもあんたが帰れって言うなら大人しく帰るさ、鉱石もただでくれてやる」

 

 言葉にはしないが目で続きを促して来た

 

 ここからが正念場だ、全部俺の予想で妄想だが全て理解しているとでもいう様に堂々と話し切らなきゃならない

 

 

 

「ある所に一人の男がいた、そいつは科学者でアンドロイドの開発をしていたんだ…人間の様に自身で考え、会話する事の出来る」

 

 語りだした俺に不審な目をしたレゾナンテだが、内容を理解した瞬間その目付きが鋭くなった

 

「その男は市長でもあり、その財力と、その知識で、アンドロイドを開発しようとしたが上手くいかない

どれだけの時間を、知識を、財力をつぎ込んでも成果は出なかった」

 

 レゾナンテは只黙って俺の話を聞いている

 

「そしてある時、男は気づいたんだ、作れないなら…既に”在る”物を使えばいいと

 

 自らが理想とする形をしていて、喉から手が出る程欲しかった高度な自立思考を可能とする脳を持った生物……

 

 そう、人間だ

 

 だが、周囲の人間や街の住民を使えば、行方不明になった時に捜索が始まり、バレる可能性がある

 

 なら、いなくなっても誰も探そうとしない人間だったら?

 

 例えば……犯罪者、とかな」

 

 レゾナンテが目を閉じた、良い感じだ

 

「犯罪を犯すような人間が消えた所でまず誰も探さないし、もしいたとしても何とでも言える

 

 今は服役中だとか、その男は追放したとか、な

 

 後は簡単だ、必要な部分だけ残して、残りは自身が望む機械の身体…アンドロイドにすればいい

 

 そして男は見事、自立思考型アンドロイドを完成させた……大発明だ!」

 

 俺が大袈裟にそう言っても、何の反応もない

 

「男は自身の作ったアンドロイドを街の警備に当てた、24時間休まずに街を守り続ける最高の警備員だ

 

 男の予想通り、アンドロイド達は凄まじい検挙率で犯罪者を逮捕していった

 

 犯罪者を確保すればする程、アンドロイドは増え

 

 アンドロイドが増えれば増える程、犯罪の検挙率は上がる

 

 男にとって最高の循環が産まれたんだ」

 

 

「銃を下げろ」

 

 

 俺の話が一区切りついた所でレゾナンテがアンドロイドに銃を下げさせた

 

 

「続きを」

 

 

 促され、肩を竦める

 

 

「だが、その循環は長くは続かなかった

 

 治安の良さを武器に街は有名になり、元々大きかった街がさらに大きくなった

 

 市長としての男は大いに喜んだ、しかし…科学者としての男にとっては一大事だった

 

 治安維持アンドロイドによる圧倒的な警備力に、街で犯罪を犯す様な愚か者が居なくなったからだ

 

 アンドロイドを作る為に必要な素体の供給が絶たれたのさ

 

 街はこれからも大きくなっていくだろう

 

 今はまだ問題ない、でも街の大きさとアンドロイドの数が釣り合わなくなったら?

 

 街は大きくなっていくがアンドロイドは今までの様に継続的に生産するのは不可能になる

 

 科学者としての男は途方に暮れていた

 

 男が頭を悩ませていた時、ある情報が男の元へやって来た

 

 治安維持アンドロイド政策で行き場を失った警備団や政策に反発して男が追いやった一部住民が工場跡地に住み着き始めたらしい」

 

 

 俺とレゾナンテの視線が交差した

 

 

「自身に恨みを持っている様な奴らを守ってやるほど男はお人好しではなかった

 

 街の中で唯一の無法地帯になった工場跡地…いや、貧民街は以前の街の様な治安の悪い場所に逆戻りした

 

 そんな治安の悪い場所が存在すれば街の汚点だ、即座に撤去しようと男は思った

 

 だが、それに待ったを掛けたのが科学者としての男だ

 

 男は貧民街に対して、もう一度彼らの居場所を奪うのはあまりに酷だといい貧民街には手を出さないと、不干渉を貫くと掲げた

 

 そんな市長に対して住民は慈悲深い人だと感動したんだ、貧民街を利用して市長としての男は住民からの信頼をさらに得た

 

 そして、科学者としての男は行方不明になっても住民が気にしない、街から見放されたはぐれ者達が集う無法地帯を手に入れた

 

 継続的な素体を供給する事の出来る男にとっての金の卵を……」

 

 話が終わり俺は来客用のソファに勢い良く座り込んだ

 

「……驚いたよ、そこまで事細かに把握しているとはね」

 

 今までとは打って変わって、薄く笑う彼は俺に問う

 

「何が目的かね?全てを把握しているなら何故態々こんな所に足を運んだ?」

 

「はっ、最初に言ったじゃないか、レゾナンテ」

 

 立ち上がりレゾナンテの元へ近づくと、手を机について正面から彼を見据える

 

 

 

「取引を、しに来たんだ」

 

 

 

 場所を変えようとレゾナンテに提案され、承諾した俺は市長邸の地下に居た

 

「参考までに聞かせてもらいたいのだが、どうやって私の研究について調べ上げた?」

 

 やっぱそう思うよなぁ

 

「別に、そもそも昨日この街に来たばっかだから調べる時間何かねぇよ」

 

「……益々、聞かせてもらいたいのだが」

 

「表面上だけのこの街の、そしてあんたの経緯を聞いて怪しいと思った、そんであんたを実際に見て確信した」

 

 立ち止まってレゾナンテが俺を見る

 

「何をどう確信したんだ」

 

「あんたが俺と同じ手段を選ばない外道だって、確信したのさ」

 

 嗤いながら俺はそう告げる

 

 いや本当に、ビビッと来たね

見た瞬間一発で分かったわ、”こっち側”だって

 

「先程語ったのは…」

 

「全部俺の予想、でっち上げだ」

 

 レゾナンテが額に手を当て俯いている

 

「つまり、勘で私の悪事は暴かれたという事か」

 

 引きつった笑みで彼は笑っている

 

「ま、究極的に言えばそうなるな」

 

 

 

 

「さて、話を戻そうか」

 

 製作途中のアンドロイドが置かれている作業場を通り過ぎて、奥にあった部屋に通された

 

「君は取引と言ったな、詳しく話を聞こう」

 

「簡単な話だよ、宇宙船が欲しいんだ…強力で、頑丈で、銀河中飛び回ってもビクともしない様な凄い奴が」

 

「ふむ、私はこの星から出るつもりがなくてな、宇宙船にもあまり興味がない」

 

 は?

俺の考えていたプランが崩れる音がした様な気がしたが

 

「だが、市長であり、富豪である以上立派な船の一つでも持っていなければ顔が立たないのだよ

君の望む基準を満たしているかは分からないがそれなりの物は持ち合わせている」

 

 思わせぶりな事言うから本気でどうしようか一瞬考えたんだが?

 

「私は船を差し出すと言う訳だ、君は何を提示する?」 

 

 まさかこの鉱石と言う訳でもあるまい?と目で訴えて来る

 

「そうだな、時に市長、貴方の”事業”を嗅ぎまわる不埒な鼠なんかはいないのか?」

 

 聞きたかった事を質問してみる、恐らくだが存在するだろう

 

「…ああ、いるよ、この邸宅内に忍び込んでいる鼠は既に特定している」

 

「何だ、仕事が早いな、で?どんな奴なんだ?」

 

 大体予想は付いているが

 

「十中八九、貧民街の人間だろう…背後の仲間関係も把握する為に泳がせているが中々尻尾を掴ませてくれなくてな、こちらのも掴ませてないが」

 

 まぁ、貧民街のやつらだよなそりゃ

 

「アンドロイドに調べさせるって言っても限界があるだろうしな」

 

 隠れて人一人攫う位ならともかく、そいつらの目的であるアンドロイドを差し向ける訳には行かない

形振り構わず叩き潰すだけならアンドロイドを大量投入すればいいが、表立っては不干渉を貫いてるからな

 

「ああ、この件に限ってはアンドロイドを調査で貧民街に向ける訳には行かない」

 

 自分で正解って言う様なものだし、アンドロイドが向こうの手に渡れば終わりだ

 

「だからあんたは欲しかったんだろう?秘密を守れて、自由に動かせられる人間の協力者を」

 

 彼にとって俺は都合のいい存在の筈だ

 

「事が終われば俺はあんたから貰った宇宙船でこの星を出ていく、邪魔な鼠も消えて秘密を知る人間はいなくなるって訳だ」

 

「……いいだろう、だがどうやって尻尾を掴むつもりだ?」

 

 そこが問題だな、俺が貧民街で知らべて回ってもいいが流石に怪しまれそうだ

一網打尽にする為に中枢部まで深く入り込んで人員構成を隅まで把握する必要がある

 

「その鼠ってのは誰なんだ?」

 

「ここで働く職員だ、女性で名前はレーナン、アンドロイドによる調査で貧民街に入る所は確認している」

 

 まず間違いなくクロって事だな

 

「やろうと思えばすぐにでも消せるのか?」

 

「可能だ、彼女は街では常に一人で行動している、街の中なら私の腹の中同然だからな」

 

「そうか、じゃあもう襲っちまえ……そんで彼女が追い込まれたら俺が助けに入る」

 

 自分の素性がバレてしまった彼女は貧民街の仲間の元へ逃げるだろう、命の恩人である俺を連れて

 

「成程、だがそれなら現実味を出す為にアンドロイドにはそれなりに本気で掛からせないといけなくなるが」

 

 俺とレゾナンテの間にあるテーブルに触れる、それだけでテーブルは独りでに宙に浮いた

レゾナンテが目を見開き、驚いた様子を見せる

 

「驚いたな、ストレンジャーだったのか」

 

「そういう事、これでアンドロイドを適当な所に吹っ飛ばすからそのタイミングで退却させろ

そいつの目の前でアンドロイドを壊す訳には行かないからな」

 

 その後は相手方の組織の規模なんかを見て判断かね

 

「実行のタイミングはあんたに任せるけど?」

 

「分かった、襲撃に使うアンドロイドの調整がしたい、準備が出来次第・・・そうだな、明日辺りに君の宿にアンドロイドを遣わせる」

 

 その日はレーナンの情報を貰ってから解散して市長邸を後にした

 

 この街の混沌を払拭しようとするレジスタンス達を根絶やしにしてから宇宙に飛び立つとしよう

 

 





主人公が名探偵並みの推理力を持ってるみたいな感じになってるかもだけど違うんだよなぁ

こいつただアンドロイドに人間を使っていると仮定して、自分が市長と同じ立場だったらどうするかをそれっぽく語っただけだよ



凶悪犯罪者の犯行を暴くには凶悪犯罪者を使うのが良いってそれ一番言われてるから


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