ヒーリングっど♥プリキュア byogen's daughter (早乙女)
しおりを挟む

オリキャラ設定集

随時、更新していきたいと思います。


■クルシーナ CV:雨宮天

 

人物キーワード:小悪魔・怠惰・無慈悲・ドS・残虐

 

ビョーゲンズの幹部である少女で、キングビョーゲンの娘の一人。薄いピンク色のような肌に、白と黒を基調としたマジシャンのような衣装を着ており、髪をツインテールにしている。

 

基本的には怠惰かつマイペースで、普段は興味のなさそうな気だるな発言が多いが、苛立ったり激昂したりすると攻撃的な口調となり、また地球の生き物はみんな苦しめばいいと考える残虐かつサディスティックな一面を持つ。「努力」や「頑張り」といったものを否定している。常に不機嫌な表情をしているが、時折妖艶な笑みを浮かべることもある。

 

ドクルンを胡散臭い奴と煙たがっており、イタイノンとは意地の張り合いから口論になることもしばしば。また、相棒のウツバットにも辛辣な態度を取るが、心の奥底では大事に思っている。また、ダルイゼンのことは自分よりも下に見ているが、何らかの特別な感情を抱いている。

 

主に可愛い人間を病気で蝕むのを好んでおり、キュアグレースこと花寺のどかを病気で侵して永遠に苦しめようと目論んでいる。

 

メガビョーゲンを召喚する際には、手のひらに息を吹きかけながら「進化しろ、ナノビョーゲン」というかけ声の下、メガビョーゲンの素となる「ナノビョーゲン」を発生させる。

 

 

■ウツバット / モリリン CV:河瀬茉希

 

クルシーナを相棒として持つコウモリの妖精。中折れのハットに変身できる能力を持つ。

 

元はコウモリのヒーリングアニマル「モリリン」だったが、何らかの理由でビョーゲンズと一緒に行動しており、ラビリンを弱虫ウサギと見下し、また腐った人間のいる地球を癒す価値などないと考えている。余計なことをする癖があるため、クルシーナにはぞんざいな扱われ方をしているが、どんな酷い扱いをされても彼女のことを大切に思っている。

 

 

■ドクルン CV:沼倉愛美

 

人物キーワード:探究心・丁寧・狂気・ヤンデレ

 

ビョーゲンズの幹部である少女で、キングビョーゲンの娘の一人。薄い黄緑色のような肌に、白衣と眼鏡を着た研究員のような格好で、ボサボサの髪をしている。

 

普段は飄々かついい加減な性格で、他人に対しても余裕を崩さず軽い口調で接するが、その本性はマッドサイエンティストであり、地球の生き物たちを実験の材料としか考えておらず、平然と他者を実験にかけることも厭わない。努力や気持ちを論理的ではないとして見下しており、証明できないものを認めていないが、予測不可能な事態は驚くどころか面白がっている。苛立ちが高くなると、無表情で冷めた言動を取り、その怒りはイタイノンを震え上がらせるほどである。

 

メガビョーゲンを召喚する際には、指を鳴らしながら「進化してください、ナノビョーゲン」というかけ声の下、メガビョーゲンの素となる「ナノビョーゲン」を発生させる。

 

 

■ブルガル / ガルルン CV:佐倉綾音

 

ドクルンを相棒として持つオオカミの妖精。スタッド付きのチョーカーに変身できる能力を持つ。

 

元はオオカミのヒーリングアニマル「ガルルン」だったが、何らかの理由でビョーゲンズと一緒に行動しており、ペギタンのことを見下すような態度を取っている。

 

 

■イタイノン CV:矢作紗友里

 

人物キーワード:引きこもり・罵倒・ツンデレ・恨みつらみ・ドS

 

ビョーゲンズの幹部である少女で、キングビョーゲンの娘の一人。雪のような白い肌に、黒を基調としたゴシックロリータのような格好で、長い髪をポニーテールにして結んでいる。

 

陰湿かつ根暗な性格で、常に他人に毒のようなある言葉を浴びせる皮肉屋。一方で、他人と目を合わせて話すことができない人見知りで、眩しいものや美しいものを嫌っている。自分だけの場所があればいいとビョーゲンズの使命に興味を示しておらず、病気を蝕もうとするのも自分が引きこもれる場所を確保するためや人間の恐怖による快楽を得るためである。

 

シンドイーネをやかましい女と嫌悪している。また、ネムレンは本人が唯一直接心を打ち明けて話せる数少ない存在で、常に大事に思っている。

 

メガビョーゲンを召喚する際には、両袖を払いながら「進化するの、ナノビョーゲン」というかけ声の下、メガビョーゲンの素となる「ナノビョーゲン」を発生させる。

 

 

■ネムレン / シプリン CV:花澤香菜

 

イタイノンを相棒として持つヒツジの妖精。カチューシャに変身できる能力を持つ。

 

元はヒツジのヒーリングアニマル「シプリン」だったが、何らかの理由でビョーゲンズと一緒に行動しており、ニャトランのことを嫌っている。




質問や意見があればどうぞ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1話「始動」

いろいろと投稿をサボりがちですが、ひとまずは生存報告ということですみません!
だって、書く暇がないほど、めちゃくちゃ忙しかったんです。。。。。。

この新型コロナウイルスの影響で暇ができ、とりあえずは今はまっているものの二次小説をを書くことにしました。
ぜひお楽しみください!

本編で言うところの第2話からスタートです!



・・・苦しいのか? 辛いのか?

 

・・・自由に走り回りたいか?

 

・・・いい憎しみだ。まるで地球を憎んでいるとも思える。

 

・・・我が全て楽にしてやろう。自由に行動できるように力を与えてやる。

 

・・・その代わり、我のために働き、我のために尽くすのだ。

 

・・・地球を我らの住む世界のような、快適な環境にするために。

 

・・・我の大切な娘としてな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

・・・何か懐かしい夢を見た。

 

いつかは覚えてないけど、何だか嬉しいような、悲しいような夢だった。

 

アタシでもまだこんな夢を見るんだ、と、心の底から嫌な感じがした。

 

起きたからといって、特に何かするわけでもなく、もう一度横になろうと思った時、見たくもない顔がアタシの視界から現れた。

 

「クルシーナさん」

 

薄い黄緑色の肌をしたアタシの同僚が、ムカつくくらい薄笑いを浮かべて顔を覗いた。

 

「・・・何か用?」

 

アタシは嫌そうな声を隠そうともせずに、話す。

 

「用がなければ話してはいけないのですか?」

 

「・・・ふん」

 

あんたと話してたって時間の無駄だっての。

 

「用件だけ言えよ」

 

「おお怖い怖い。まあ、それはそれとしてお父さんが呼んでますよ」

 

「あっそ」

 

・・・お父様が? なんで?

 

普段は姿を現さないのに、呼び出しなんて。まあ、あんな状態で姿も何もないけど。

 

でも、お父様の命令なら行かないわけにもいかない。

 

「ウツバット!」

 

私は体を起こすと一緒にいる相棒の名前を呼ぶ。すると、パタパタと一匹の小さなコウモリがこちらに飛んでくる。

 

「呼んだウツ?」

 

「呼んだから来たんだろ。お父様が呼んでるから行くわよ」

 

「キングビョーゲン様がウツ?」

 

「他に誰がいんのよ?」

 

ウツバットは黒い中折れのハットに変化すると、私の頭に収まる。こいつが変身したのだから、私の頭にはピッタリだ。

 

私は正装を整えると、マグマ以外何もない地形を歩き始めた。

 

ここはビョーゲンキングダム、私たちビョーゲンズが住む世界。空を見上げれば、暁のような闇の色が広がっていて、マグマで満たされた地形が広がる。紫煙のような瘴気も漂っていて、地球の人間、というか生き物たちはとてもというほど生きていくことはできない。でも、私たちにとっては快適な環境。

 

ーーーそう、最高の楽園なのだ。地球などという快適な空間は本当に虫酸が走るほどに。

 

「・・・で、一体何なわけ?」

 

「何がですか?」

 

眼鏡がを上にあげながら、私の同僚ーーードクルンが問い返す。

 

「だから、何で呼び出しなのかって聞いてんのよ」

 

私は苛立ちを隠さずに話す。わかってるくせに、問いて来るのが本当にムカつく。

 

「何も、ダルイゼンさんが何か報告があるらしいですよ。それでお父さんがみなさんを呼んでってね」

 

あのダルイゼンが? あの何事も無関心で誰にでもムカつく態度を取るあいつが?

 

まあ、どうでもいいけど、あいつが報告するってことはよっぽどなことなんでしょうね。あいつもあいつで、お父様には忠実だから。

 

なんだかんだで、お父様の元にたどり着き、そこに他の幹部たちはもう着いていた。

 

・・・私とこいつだけ最後なの? なんかムカつく。

 

私はそれを口に出さずに定位置へと瞬間移動してついた。その目の前には黒い大きな影が浮かび上がっている。これが私のお父様、キングビョーゲンの現在の姿なのだ。

 

そんな、お父様はダルイゼンの報告を聞いている。何とも、自分たちの病気で蝕むのを妨害するものが現れたという。

 

「むぅ・・・プリキュアだと?」

 

「自分で名乗っていたし、多分ね」

 

プリキュア? お父様から聞かされたことはあったけど、お父様が戦ったことがあるという、あの・・・?

 

「プリキュアというと、はるか昔にキングビョーゲン様を一度倒したという、あのプリキュアか?」

 

ダルイゼンに続いて話す、筋肉隆々の男はグアイワル、アタシの同僚だ。真面目な顔して、見てて暑苦しい奴だけど。

 

「もう、バカバカバカバカ!」

 

グアイワルの前に瞬間移動して、そう言いながら胸をたたくのはシンドイーネ、この女もアタシの同僚である。

 

「キングビョーゲンは倒されてなんかいませんー! ベー! ちょっと追い詰められただけですぅー! ねぇ、キングビョーゲン様♥」

 

こうやってお父様に媚びを売るような妖艶な女だ。赤と青のハートなんか出したりして、気色悪・・・。

 

「恋するおばさんは気持ち悪くて虫唾が走るの。見てて見苦しいだけなの」

 

「なんですってぇー! あんたみたいな地味なやつに言われたくないわよ! それに私はまだおばさんっていう歳じゃないですー!」

 

「キーキーうるさいの。私の耳が腐るだけなの」

 

シンドイーネと言い争いをしている、ゴスロリワンピースで雪のような白い肌をしている少女はイタイノン、こいつも私の同僚である。

 

「うるさいですよ、二人とも。キングビョーゲン様の前ですよ」

 

ドクルンが二人を諌める。いつものような調子づいたようなテンションで・・・。

 

「むぅ・・・逃げ延びたヒーリングアニマルが新たな人間をパートナーに選んだか」

 

そのヒーリングアニマルって奴らも気になるけど、そのプリキュアって奴が脅威になるってこと?

 

そう思ったアタシはお父様に問いてみた。

 

「それで? どうすんの、お父様。潰しちゃう?」

 

脅威は潰しておかないと侵略活動はいつまで経っても進まないだろう。蒔かれた種は早めに潰しておくのが念のためだ。

 

だが、お父様からは意外な言葉が返ってきた。

 

「いや、地球を蝕むことが先決だ」

 

正直、軽視しすぎじゃない?と思ったけど、まあ、お父様がそういうんじゃ、問題ないのだろう。なんせ私たちは無限に沸くことができる。プリキュア一人ごときに食い止められるとは思えないだろう。

 

「我の体を取り戻すためにも、グアイワル!」

 

「はっ!」

 

「シンドイーネ!」

 

「はい♥」

 

「ダルイゼン!」

 

「・・・・・・」

 

「クルシーナ!」

 

「はいはい・・・」

 

「ドクルン!」

 

「はい」

 

「イタイノン!」

 

「・・・ふーん」

 

「この星は必ず我々のものにする・・・いいな?」

 

「はい!」

「わかりました」

「りょーかい」

「はーい」

「もちろんです」

「・・・・・・」

 

それぞれが異なるテンションで返事をする。一人返事してないやつがいたけど・・・別にどうでもいい。

 

こうして私たちは地球を病気で蝕むための準備を始めていくことになる。

 

それにしても、プリキュアってどんなやつなわけ? 別に興味ないけど、ダルイゼンを妨害したぐらいだから、相当なものなのだろう。

 

ちょっと探りに行ってくるか・・・・・・。

 

私は久しぶりに地球に降りることにした。

 




本日もう1話を、暦が変わった時間帯に投稿します。お待ちください。

感想、評価、ご指摘等、お願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話「出撃」

二日連続で投稿します。
その後は毎週月曜日投稿になりますので、よろしくお願いします。


・・・さてと、人間界に来たわけだけど。確か、ダルイゼンがメガビョーゲンを生み出したのはすこやか市という街だったわよね。

 

私は瞬間移動してきたハート型の灯台の上から、街を見上げる。

 

自然豊かな森・・・きれいな川・・・元気に遊ぶ子供たち・・・この街に澄み渡る快適な空気・・・。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

・・・なるほど、あいつが蝕むのを好みそうなところじゃん。

 

あまりにも快適過ぎて、本当に・・・・・・ムカムカする。

 

そんな場所を病気で蝕んでやったら、どうなるのかなぁ? どんな苦しむ顔をしてくれるのか。

 

「なんか健康的すぎて、不快な街ウツ」

 

コウモリの羽の生えた中折りの帽子になっているウツバットが不快感を隠さず話す。

 

こいつは常に私のそばにいる相棒だ。いつからいるかは覚えてないけど、とにかく私のそばにいるのだ。元々は地球を癒す存在だったらしいけど、心底どうでもいい。

 

「ふふ、だから病気で蝕むのに最高の環境なんじゃない」

 

生き物の苦しむ姿が目に浮かぶわぁ~。まさに蝕みがいのある場所だものね♪

 

ここを黒く染められると思うと、笑みが止まらない。早速、降りてみようか。

 

私は瞬間移動して、街の中へと入っていく。視界に写るのは、日帰り温泉、ハーブショップ、鍼灸院、リフレクソロジーといったお店らしい建物の数々。

 

・・・・・・これらは健康的っていうけど、やって何の意味があるんだか。

 

少し歩くと足湯やお土産ショップといったものもある。人間のセンスってよくわかんない。

 

「あそこのお土産のお饅頭、美味しそうウツ」

 

「・・・はぁ?」

 

なんか頭の沸いてることを言い出した帽子がコウモリに戻る。頭が寒いっての・・・!

 

「何言い出すのよ、あんた」

 

「あの赤くてテカテカしている、あの饅頭、美味しそうウツ」

 

・・・何、人間のものに感化されてんのよ。

 

「はいはい、いくわよ」

 

「一口、食べプギャァ!?」

 

「うるさい! 食べてる暇なんかないんだよ!」

 

アタシは人差し指と小指以外の手でバカを掴むと、暴れるのも構わずにその場を立ち去っていく。

 

・・・何をそんなに騒いでるんだか。どうせここだって病気で蝕まれるんだ。

 

バカを帽子に戻るように言った後、アタシは歩いていくと街の外に出た。ふと左へ向くと海のある景色が見えている。

 

そして、何やら人間が隊列を作って走っていくのが見えた。

 

「すこ中ー、ファイ!」

 

「オー!」

 

「ファイ!」

 

「オー!」

 

どうやらランニングをしている模様だ。ということはこの近くに中学校があるのか。

 

「あれは何ウツ?」

 

「さあ? スポーツバカどもの運動じゃない?」

 

・・・健康そうな体つきなんかしちゃって、本当に生きてるって感じ。ムカムカするわ。

 

っていうか、その中学校からこんな奴らが出ちゃったら、ビョーゲンに強い人間が出ちゃうってこと?

 

それはいけない。その学校を蝕みに行かないと。

 

私はその場から瞬間移動して、例の中学校へ向かった。

 

校舎の屋根の上から見れば、校庭では運動着を着た多くの人が多種多様の運動をしていた。

 

・・・元気に運動なんかしちゃって、本当に腹が立つ。

 

「子供、元気ウツね」

 

「ええ、本当に黙らせたいくらいね」

 

アタシは苛立ったように言って別の場所に視点を向けると、裏の校舎のところに木が一本立っているのを発見した。

 

アタシは笑みを浮かべると、木の近くに瞬間移動して触れてみる。

 

「クルシーナ、この木がどうしたウツ」

 

「黙ってて」

 

ーーーーーーーードクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン

 

・・・・・・ふーん、よく育ってるわね。

 

「いい感じじゃない。生きてるって感じがして」

 

特に自然の中にあるわけでもないのに、よく育っている感じがする。木漏れ日が射していて、健康的な木だ。

 

・・・あまりにも健康的で、いい感じすぎて、ホントーに・・・ムカムカする。

 

健康的な環境は本当に不快だ。健康的だからこそ、本当の苦しみを知らないと見える。

 

不快すぎてもう限界ね・・・とりあえず、こいつで試してみるか・・・・・・。

 

アタシは、右手の握りこぶしを開き、手のひらに息を吹きかける。ナノビョーゲンを生み出す際の私の動作だ。

 

「進化しろ、ナノビョーゲン」

 

「ナーノー」

 

アタシが生み出したナノビョーゲンは鳴き声を上げながら、先ほど触れた健康的な木に取り憑く。木が徐々に病気に蝕まれていく。

 

「ああ・・・ああああ・・・」

 

木の中にいる妖精、エレメントも病気へと染まっていく。

 

私たち、ビョーゲンズは自然の中、物体の中に存在するエレメントさんを見ることができる。ナノビョーゲンはエレメントさんに取り憑かせることで、ある怪物を誕生させるのだ。

 

エレメントさんを介して、その病気が巨大になってその姿を象っていく。凶悪な目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な器物が現れていき・・・・・・。

 

「メガビョーゲン!」

 

世界を病気で蝕むことができる怪物、メガビョーゲンの誕生だ。

 

メガビョーゲンは誕生するとすぐに口から病気を吐き出し、桜の花を病気で蝕んでいく。

 

部活動を行っている女生徒の悲鳴が響き、怪物から離れようと逃げ惑う。

 

ふふふ・・・これよこれ、こうやって人間たちが怯える光景・・・。

 

本当に最高だわぁー。もっともっと見ていたいものね。

 

メガビョーゲンは校舎の壁の横に生えている他の植物にも病気を吐き出し、蝕んでいく。

 

さて、ダルイゼンの言っていたプリキュアは現れるのかしらぁー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャアアァァァ!」

 

放課後の校内では、突然怪物が現れ、部活動に勤しんでいた女生徒が逃げ回っていた。

 

「みんな! 学校から離れるんだ!!」

 

担任の先生らしき中年男性が焦燥しつつも、女生徒たちに避難するように指示する。

 

「メガビョーゲン!」

 

「怪物!?」

 

そんな中、自身は逃げつつも、足を止め、口から得体の知れないものを吐く怪物を見る、ポニーテールの女性がいた。

 

一方、この学校の生徒の一人ーーー花寺のどかの家ではある異変が起きていた。

 

「クチュン!」

 

「この反応は、ビョーゲンズ!」

 

「ええ!?」

 

ある日、彼女と会った子犬の妖精ーーーラテに餌を挙げていたが、突然くしゃみをしたと共にぐったりとし始めた。そこへ虎のような模様の猫ーーーニャトランが家のような形をしたバッグを持ちながら言う。

 

「聴診器でラテ様の心の声を聞いてみろ!」

 

のどかはニャトランに言われた通りに聴診器をして、ラテに向ける。

 

(あっちの方で、大きな木が泣いているラテ)

 

「!?」

 

「襲われたのは大きな木か!」

 

ラテが向いている方角からして、おそらく学校だろう。

 

(・・・また、あんなことが!?)

 

のどかに昨日の光景が甦る。街を歩いたところ、ビョーゲンズという地球を病気で蝕もうとする悪い人が現れた。のどかは子犬がいると聞いて、危険も気にせずに助けに行き、不思議な動物たちと行動を共にすることになったのだ。

 

ーーーあんな辛いこと、もう起こさせはしない!

 

のどかは支度を整えるとラテを抱え、ニャトランと一緒に家を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メガビョーゲン!」

 

・・・ちょっとずつだけど、大分蝕んできたわね。

 

「メガビョーゲン!」

 

メガビョーゲンは学校にある木をある程度蝕んだ後、花壇にある花に病気を吐き出していく。

 

「結構いい感じになってきたウツ!」

 

「ええ、このままひとつ残らず、蝕んじゃおうか」

 

「メガビョーゲン!」

 

学校の生徒たちもみんな居なくなったし、このままここもビョーゲンズの手に落ちるのも時間の問題だ。

 

・・・そういえば、プリキュアの姿が見えないわね。まさか、怖気ついて逃げ出したとか?

 

ふん、ダルイゼンもビビりすぎなのだ。そんな小娘一人に作戦を邪魔されたことなど、要はあいつの性格故の油断でしかないんだよ。

 

アタシは病気に蝕まれていく植物たちを見下げながら、そんなことを考えていた。

 

「ひどい・・・・・・」

 

・・・ん? アタシがナノビョーゲンを取り憑かせた木の前に誰かいるわね。

 

その子はどう見ても普通の女の子だが、メガビョーゲンが暴れているのに全く逃げようとしない。この学校の生徒だろうけど、誰なの、あいつ?

 

もしかして、あいつがプリキュア?

 

・・・でも、あんないかにもな普通の子がプリキュアなわけ? 確かに見覚えのある変な猫が空中にいたり、体調の悪そうな子犬を抱き抱えてはいるが、あんなのがプリキュアだとは到底思えない。

 

「・・・でもどうしよう」

 

「くそー、ラビリンがいればプリキュアになれるのにニャ!」

 

なんか、どうにかしようとしているが、普通の小娘一人にこの状況をどうにかできるわけがない。

 

・・・っていうか、今、プリキュアって言った?

 

「メガビョーゲン!」

 

なんて思っていたら、そろそろこの辺も蝕む場所がなくなってきたな。

 

「どうするウツ?」

 

「・・・そろそろ場所を変えるか」

 

アタシはメガビョーゲンの近くの屋根へと飛び移る。

 

「メガビョーゲン、あっちよ」

 

アタシとメガビョーゲンはさらに範囲を広げるべく、移動しようとする。

 

「こっちだよ!メガビョーゲン!」

 

こっちに声が聞こえてきたので、振り向いてみると、そこには剣道の防具を纏って、両手にラケットと何やら紐らしきものを持っている。

 

「メガ?」

 

「あなたなんか怖くないんだからー!」

 

どうやらメガビョーゲンを引きつけようとしているらしい・・・。

 

・・・っていうか、何なの? あの格好? いろいろと間違えている気がするが・・・。

 

「あれ、何ウツ?」

 

「さあ~ね」

 

呆れたようなウツバットの言葉に、私は適当に答える。

 

お父様から聞かされてはいるけど、あんなお粗末な格好をしているのがプリキュアなの? っていうか、バカにしてるわけ?

 

「ここまでおいでー!」

 

小娘はメガビョーゲンを呼んで走り出した。メガビョーゲンもお遊びに付き合うかのように、小娘の後を追う。

 

何をする気? っていうか、あいつが持ってるのってテニスコートのネット?

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、・・・・・・」

 

「メガビョーゲン!」

 

小娘はナノビョーゲンに侵した木を回るように走っていき、持っていたテニスコートの紐を巻きつけて引っ張る。

 

すると、テニスコートのネットが立ち、メガビョーゲンが引っかかる。

 

「メガ!?」

 

「引っ掛かったー!」

 

草むらに避難しているであろう、猫が叫ぶ。

 

「うん~~~・・・・・・」

 

小娘は懸命に紐を引っ張っている。どうやらメガビョーゲンを転ばせようとしているらしいが、所詮は人間の考えだ。そんなことでメガビョーゲンを止められるわけがない。

 

・・・・・・浅知恵にもほどがあるんだよ。

 

「メガ、ビョーゲン!!」

 

「あっ、きゃあぁぁぁぁぁ!!」

 

メガビョーゲンは引っかかったネットを上回る力で引っ張り、その反動で小娘を木へと吹き飛ばした。

 

木にぶつかって防具が脱げたようで、そのまま地面に落ちる。

 

「きゃは!あう・・・・・・」

 

この小娘は本当に何も考えてない。逆に笑えてくる。

 

「アハハ!! あんた、それでどうにかできると思ったわけ? バッカじゃないの?」

 

アタシはメガビョーゲンの近くの屋根に飛び移って、小娘を嘲笑する。

 

「クルシーナ!!」

 

草むらに隠れていた猫が叫ぶ。っていうか、思い出したけど、あいつ、隣にいる子犬共々、いつかのヒーリングアニマルじゃない。ウサギとペンギンもいたっけ?

 

「あら? そこの犬と猫は何もしないわけ? 小娘一人にやらせてるなんていいご身分なのね」

 

「くっ・・・!」

 

「ウサギとペンギンはどこに行っちゃったの? ・・・ああ、もしかして地球から逃げたのか」

 

「ち、違うっ! それは・・・」

 

「まあ、あんたたちは指をくわえてそこで見てれば? どうせ増えたところで何もできやしないんだし」

 

アタシは猫を散々けなした挙句、猫の悔しそうな顔を拝んで満足した後、止めていたメガビョーゲンの進行を再開させる。

 

「メガビョーゲン、あっちだ」

 

「メガー!!」

 

アタシとメガビョーゲンは、中学校から出ようと足を進める。

 

「あ、ダメ・・・!」

 

後ろで小娘の声が聞こえたが、どうでもいい。っていうか、もう興味はなくなった。

 

ダルイゼンが騒ぐぐらいだからなんなのかと思ったら、プリキュアなんかただの小娘じゃない。それにあんなお粗末な格好でメガビョーゲンをどうにかしようなんて、バカみたい。

 

・・・所詮、プリキュアなんて無力な小娘なのだ。心配するだけ杞憂だったわ。

 

私はそう思って、病気の範囲を広げるべく、進行させる。

 

だが、私のそんな軽い考えは吹き飛ばされることになる。それはアタシのメガビョーゲンが横に吹き飛ばされたからだ。

 

・・・あの小娘がまた目の前に立っていたのだから。それも格好を変えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラビリンから一方的にパートナー解消を告げられていたのどかは、自分が病気で苦しい思いをしたということを話し、だからこそみんなを助けたい。そんな思いをラビリンに吐露して、両者は和解。キュアグレースに変身し、メガビョーゲンの後を追った。

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

そして、メガビョーゲンの姿を捉えた途端、ジャンプして飛び上がり飛び蹴りを食らわせる。

 

「メガ!?」

 

「えっ?」

 

クルシーナは一瞬何が起こったかわからなかったが、のどかの姿を視界に捉えた瞬間、状況を察した。しかし、彼女の姿が変わっているのには驚きを隠せなかった。

 

「・・・何あれ?」

 

花びら型のハイライトが目立つピンク色のロングヘアー、黄色い花に緑の葉の髪飾り、胸にバラの飾りをあしらったパフスリープのワンピース。

 

ーーーーもしかして、あれがプリキュア?

 

「キュアスキャン!」

 

クルシーナがそんなことを考えているうちに、キュアグレースは素敵の一部となっているラビリンの顔をメガビョーゲンに向ける。

 

ラビリンの目が光り、メガビョーゲンの中にいる、苦しんでいる様子のエレメントさんを見つける。

 

「いた!木のエレメントさんラビ!」

 

ーーーー姿が変わったからって何だと言うの? この蝕んでいる状況に変わりはない!

 

「メガビョーゲン、何やってんの!? 早く潰せ!」

 

「メガビョーゲン!」

 

メガビョーゲンは起き上がると、キュアグレースへと手を伸ばす。

 

キュアグレースは飛んでかわすと、間髪入れずにメガビョーゲンは病気を口から吐き出す。

 

「ぷにシールド!!」

 

ステッキになっているラビリンがそう言うと、肉球型のシールドが展開され、メガビョーゲンの攻撃を防ぐ。

 

「メガー!」

 

「押し返すラビ!!」

 

「はぁ!!」

 

メガビョーゲンは病気で押そうとするも、ラビリンの言葉でキュアグレースがぷにシールドで押す。すると、ぷにシールドで跳ね返された病気がメガビョーゲンへと直撃した。

 

「メガ!?」

 

メガビョーゲンは跳ね返された攻撃でよろけて倒れそうになる。その隙をプリキュアが見逃すはずもなく・・・。

 

「今、ラビ!!」

 

花の模様が描かれたヒーリングボトルをステッキへとかざす。

 

「エレメントチャージ!!」

 

そう言いながら光るステッキの先をハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「ヒーリングゲージ上昇!!」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングフラワー!!」

 

キュアグレースはそう叫びながら、ステッキをメガビョーゲンに向けて、ピンク色の光線を放つ。光線は螺旋状になっていた後、メガビョーゲンに直撃した。

 

その光線はメガビョーゲンの中に入ると、螺旋状のエネルギーは手へと変化して、木のエレメントさんを優しく包み込む。

 

花状にメガビョーゲンを貫きながら、光線は木のエレメントさんを外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。浄化されたのだ。

 

「「お大事に」」

 

木のエレメントさんは、木の中へと戻り、蝕んだ箇所も元に戻っていく。

 

「ワゥ~ン!」

 

体調不良だった子犬ーーーラテも額のハートマークが黄色から水色に戻り、元気になった。

 

「・・・何よ、やるじゃない。小娘のくせに・・・帰ろ・・・」

 

その光景を見たクルシーナはため息を吐いた後、静かに撤退していった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プリキュアによって、メガビョーゲンを倒された後、アタシは病気で蝕まれたとある一室に寝そべっていた。

 

まさか、メガビョーゲンが倒されるなんて・・・やっぱり、ダルイゼンが言っていたことは本当だったか・・・。

 

あいつの言う通り、プリキュアがアタシたちにとって障害になるんだなんて、マジムカつく・・・!

 

「クルシーナ、怒ってるウツ?」

 

パタパタとウツバットが飛びながら、アタシに言う。

 

「・・・見りゃわかんでしょ?」

 

「そんな怒っている風には見えなプギュ!?」

 

アタシはうるさいコウモリを鷲掴みにすると、窓から放り出した。

 

「うるさいから、あっちいけ」

 

ーーーー気遣われるのが一番嫌いだって言ってんのに、何考えているんだか・・・。

 

そんなことをイライラしながら考えていると、誰かがこの一室に入ってきた。

 

「・・・クルシーナ?」

 

その声はいかにも暗いと言えるような声だった。

 

「・・・なんだ、イタイノンか」

 

「ここで何してるの?」

 

「なんでもいいじゃない」

 

「・・・ふーん」

 

アタシが苛立ったように言うと、イタイノンは興味を失ったかのように、アタシの前を通り過ぎるとテレビモニターへと向かう。

 

・・・ゲームをしに来ただけか。まあ、別に構ってもらいたいわけじゃないけど。

 

「プリキュアはどうだった、なの?」

 

赤色のコントローラーをピコピコ動かしながら、イタイノンが問いかけてくる。

 

ーーーーこいつ・・・アタシが出撃したのを知ってて・・・!

 

「・・・小娘よ小娘、別に大した奴でもなかったわ」

 

「その割にはボロ負けだったネム。舐めプしてたんじゃないネム?」

 

その声は・・・イタイノンの羊のツノのついたカチューシャに化けている、ネムレン。

 

アタシはそれを聞くと、余計に苛立って体を起こす。

 

「なんでアタシが負けたってわかるんだよ!」

 

まるで見え透いたような言い方にアタシは苛立ちを隠さない。

 

「クルシーナはすぐに調子に乗るネム。この前のババ抜きだってボロ負けだったネム」

 

ネムレンはカチューシャから小さなヒツジのような姿に戻ると、アタシを見下しながら言う。

 

「・・・ハッ!ヒーリングガーデンを襲ったときも、アタシがほとんど襲っていて、お前の主人なんかビョーゲンキングダムに引きこもってただけだろうが!」

 

「それはキングビョーゲン様の手柄ネム。クルシーナの手柄なんかひとつもないネム」

 

いつまでも口の減らない言い草に、アタシの怒りメーターがマックスになった。

 

「なんだとぉ! もう一回言ってみろよ! この生意気ヒツジ!!」

 

「ひゃ、ひゃめるニェム! ほうりょくはんふぁいニェム!」

 

アタシがネムレンの頬を思いっきり引っ張っていると、ゲームに夢中になっていたはずのイタイノンがネムレンを取り上げる。

 

「やめてなの。ネムレンはイタイノンのしもべなの。クルシーナが痛めつける権利はないの」

 

イタイノンはちょっと膨れたような顔をしながら言う。

 

・・・アタシも好きでこいつを痛めつけてるんじゃないっての。

 

「だったら、ちゃんとその出来損ないの管理したらぁ? アタシだっていい迷惑だっつーの!」

 

「・・・ふん」

 

ーーーー本当に根暗で、陰湿すぎて、すぐ可愛子ぶってムカつくやつだ。

 

「っていうか、あんたも出撃したら? プリキュアがどんな奴かアタシに聞くよりはいいでしょ」

 

「・・・イタイノンは、侵略に興味はないの。イタイノンにとって居心地のいい場所、眩しい場所がなければ、それでいいの・・・」

 

ピザをかじりながら、イタイノンはアタシに言葉を返してくる。

 

こいつ・・・・・・!

 

「・・・あっそ」

 

・・・・・・ああ!もういい!! こいつの話なんかに付き合ってたら疲れるわ・・・!

 

アタシはここにイタイノンと一緒にいてはたまらないと、病気でボロボロになった手術台から起き上がる。

 

「帰るわよ、ウツバット」

 

「酷いウツ~。太陽の下に放り投げるなんて~!」

 

「・・・文句言うなら、すこやか市に放り投げるわよ」

 

ウツバットは帽子に変化して、アタシはそれを被るとイタイノンには目もくれず、その場を離れる。

 

それにしても、プリキュア・・・アタシに黒星をつけるなんて・・・・・・!

 

・・・・・・まあ、いいわ。負けたなんて思ってないし、次に出撃したときには思い知らせてやるから。

 

ピコピコとあいつがゲームをする音を後ろで聞き流しながら、アタシは廃病院を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「プリキュア、興味深いですね~。私も少し見てみたくなりましたよ~。フフフ・・・」

 




感想、評価、ご指摘等、お願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話「実験」

本編的には第3話になります。
長くなったので前後編で分けます。今回は前編です。


ビョーゲンキングダム、そこはビョーゲンズにとっては楽園とも取れる病気で構成されている彼らの本拠地。普通の生物は生きていくことができないビョーゲンたちのためにある場所。

 

そこでは、一人の女性の初々しいような声が響く。

 

「キングビョーゲン様ぁ~♥ シンドイーネが朝のご挨拶に参りましたぁ~♥」

 

ビョーゲンズの幹部の一人、シンドイーネが暁の空に向かって呼びかける。今日も愛しのキングビョーゲンに言葉を返してもらえると声がハキハキとしている。

 

・・・・・・・・・。

 

しかし、暁の空に呼びかけた声は特に帰ってくるものではなかった。それもそのはず、今日はそんなモヤモヤとした顔は浮かび上がっていないのだから。

 

「・・・えぇ、今日もいらっしゃらないの~? お顔が見れないとやる気でないのに~」

 

愛しのボスが応じる気配がなく、シンドイーネは心底落ち込んだような声を出す。

 

その言葉に自分にとって余計な言葉が聞こえてきた。

 

「・・・ふん。あんな状態じゃ、いても顔なんか見えないだろ」

 

「・・・っ。見えます~! グアイワルには見えなくても、私には見えます~! 在りし日の素敵なお姿が浮かぶんです~!」

 

グアイワルの皮肉めいた言葉に、子供じみたような不機嫌そうな声で反論する。

 

「・・・つまり今はナノビョーゲンの集合体にしか見えてないってことじゃん」

 

「っ・・・!」

 

ダルイゼンの冷めた態度に、しかめた顔をするシンドイーネ。

 

「頭の中にお花畑でも沸いてるの。ビョーゲンズにとってあるまじき醜態なの」

 

「そこのガキ! うるさいわよ!!」

 

「・・・ふん」

 

イタイノンの毒のある言葉に、シンドイーネはイラっとしたのかキツい言葉で返すも、彼女はまるで意にも介していないかのようにあさっての方向を向く。

 

そんな態度にシンドイーネは心底悔しそうな顔をすると、キングビョーゲンがいるであろう方向を向く。

 

「待ってくださいね!キングビョーゲン様ぁ♥ どんどん地球を蝕んで、元のお姿に戻して差し上げますから♥」

 

そう意気込みを叫んだシンドイーネは地球を蝕むべく準備を進めるのであった。

 

そんなシンドイーネの姿を見ていたイタイノンは心底呆れたような表情で見つめていた。

 

「・・・フフ」

 

鼻で笑ったかのような声が聞こえたので、振り向くとドクルンが何やらニヤッとした笑みを浮かべていた。

 

「・・・何ニヤニヤ笑ってるの? 気持ち悪いの」

 

「いやぁ? クルシーナさんが戦っていたプリキュアがどんなものなのか興味が湧きましてねぇ」

 

ドクルンの言葉に、イタイノンはため息を吐く。

 

「・・・別にイタイノンは興味ないの。ボスもいないし、帰ってゲームでもしてるの」

 

イタイノンはそう吐き捨てると、瞬間移動してその場を去った。

 

「ドクルン、何か面白そうなことでもあったのかブル?」

 

ドクルンのスタッドチョーカーに化けていた小さなオオカミーーーーブルガルが元の姿に戻って問いかける。

 

「・・・まぁね。フフフ」

 

「お前のそういう顔しているときはいつも悪巧みをしている顔だブル」

 

ドクルンも笑みを浮かべたまま、その場を瞬間移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人間界のとある場所へと降り立ったドクルン。周囲を見渡すと視界にとらえたのは一件の大きな建物だった。

 

「あれは・・・旅館か」

 

彼女が見上げているのは『旅館沢泉』。このすこやか市で一番大きい旅館であろう場所だ。

 

「健康的な匂いがして、不快だブル」

 

「まあまあ、でもなかなか面白いところではあるねぇ」

 

ドクルンのチョーカーになっているブルガルは嫌悪感を隠さなかったが、ドクルンは何やら楽しそうだ。

 

この温泉旅館の周囲を歩いていると、この旅館の温泉をくみ出していると言ってもいいボイラーが設置されているのを目にする。おそらくここに源泉があるかと思われるが・・・。

 

「・・・ふむ」

 

ドクルンは何かを考えるとボイラーから目を離して、雑木林の方へと向かっていく。

 

「ドクルン、さっきのでもメガビョーゲンは作れるだろブル?」

 

「ええ。でも、あまり単純な作りのものに入ってると、弱いメガビョーゲンしか生まれませんからねぇ。もっといいものを探してるのよ」

 

ドクルンはそう言って雑木林の中へと入っていこうとすると・・・。

 

「って、あんた。なんでここにいんのよ?」

 

声がする方に振り返ってみると、そこには見覚えのある同僚の姿が。

 

「おや? シンドイーネさんではないですか? あなたもここにいたんですか?」

 

「地球を蝕みに来たんだから、当然でしょ」

 

シンドイーネはドクルンに会うのが嫌で嫌で仕方がないといったような顔をしている。一方、ドクルンはニヤついたような不敵な笑みを浮かべている。

 

「私はちょっと面白いものを探していましてねぇ。それをメガビョーゲンにしたらどうなるのかなと思いましてね」

 

「ウソくさ・・・そんなこと言って私の邪魔をしようとしてるんじゃないでしょうね?」

 

ドクルンの言葉を明らかに信じないどころか、逆に邪魔をするんじゃないかと疑っているシンドイーネ。メガビョーゲンが生み出されたら間違い無くこっちにも被害、いや支障が出るだろう。

 

ーーーーキングビョーゲン様のために貢献しようとしているのに、こんな胡散臭い奴に手柄を奪われてたまるもんですか。

 

「信じるも信じないもあなた次第ですよ? まあ、少なくともあなたの邪魔をする気はないので、安心してください」

 

ドクルンはメガネを上げながらそう言うと、雑木林の中へと入っていく。

 

どうだか・・・と思いながら、シンドイーネはドクルンが入っていった雑木林を見つめていた。

 

雑木林に入ったドクルンはとある場所へと一直線に向かおうとしていた。

 

「どこに行くんだブル?」

 

「面白い場所に決まってるじゃない」

 

「・・・だから、どこ?」

 

「知らない」

 

ドクルンの即答に思わずガクッとこけてしまいそうな解答を聞いて、ブルガルは呆れる。

 

「でも、こっちにありそうな気がするのよねぇ」

 

話しながら歩いていくと、雑木林を抜け、そこにあるのは岩場の多い川であった。

 

「おやおや、こんなところがあるのですか」

 

川の水は澄んでいて、魚が元気に泳ぎ回っている。周囲の自然の木も枯れていそうなものが一つもない。

 

ビョーゲンズにとっては、不快に感じるはずの場所だが・・・。

 

「ここならいいものがありそうですねぇ」

 

「いいものってなんだブル? オレには不快感しか感じないブル」

 

笑みを浮かべているドクルンの言葉が理解できないブルガル。

 

メガビョーゲン!!

 

雑木林の向こうからメガビョーゲンの声が聞こえてきた。どうやらシンドイーネが始めた模様。

 

「向こうは始めたみたいね」

 

ドクルンはそう言うと川に近づき、手ですくってこぼしてみる。

 

「ふむ。実に面白いものがあるわねぇ」

 

「何が面白いんだブル?」

 

「まあまあ、見てなさい」

 

パシャ!!

 

川から泳いでいた魚が飛び上がるのが視界に入る。川が綺麗だからこそ、魚が生き生きしているのだろうと考える。

 

「・・・フフ♪」

 

ーーーーでは、始めてみましょうか。ここ一帯を蝕むとどうなるか。

 

ドクルンは中指と親指を合わせると、パッチンと音を鳴らす。

 

「進化してください、ナノビョーゲン」

 

「ナノデス~♪」

 

ドクルンの生み出したナノビョーゲンが鳴き声を上げながら、先ほどドクルンが触れた川の中へと入っていく。川が徐々に病気へと蝕まれていく。

 

「わ、わ、わ、わぁぁ!ぁぁ!」

 

川の中にいる妖精、エレメントさんが病気へと蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガビョ~・・・ゲン!」

 

まるで鮭のような形をして、顔は不健康そうな顔つきのメガビョーゲンが誕生した。

 

メガビョーゲンは誕生すると川の中へと飛び込み、綺麗な水を水中から病気で黒く蝕んでいく。

 

「メガ~!」

 

更に口を開けて病気を吐き出すと、底に沈んでいる石が黒く蝕まれていく。

 

バシャ!!

 

「ビョ~ゲン!」

 

川の中から飛び上がると、自然の木に向かって病気を吐き出し、病気へと汚染していく。

 

バシャン!!

 

川の中へと戻っていくメガビョーゲン。更に飛び込んだ際の跳ねた水が地面や岩場へと降り注ぎ、病気へと蝕んでいく。

 

「やはり、生き生きしたものほど良いメガビョーゲンが生まれるわね」

 

「メガビョーゲンが大分はしゃいでるブル」

 

ドクルンはかなりの速度で周囲を病気へと蝕んでいくメガビョーゲンを見て、不敵な笑みを浮かべた。

 

「さて、プリキュアはきますかねぇ?」

 

まさか、2体現れているなんて思ってもいないだろう。それに対してダルイゼンやクルシーナから聞いているプリキュアの数は一人、あっちを処理したところでこちらはとんでもないことになっているだろう。

 

ドクルンはプリキュアが来たときのことを頭に思い浮かべながら、不気味な笑みを強くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンドイーネが生み出したメガビョーゲンと交戦中のキュアグレース。

 

最初のうちはことをうまく進めていたが、メガビョーゲンが吹き飛ばした木が友人のちゆへと飛んでしまい、かばってダメージを負ってしまった。

 

その影響が出始めてか、右腕から水流を放つメガビョーゲンに苦戦するグレース。

 

「メガ、メガ、メガ、メガ、メガ!!」

 

水流で上空へと吹っ飛ばしたグレースを、更に水球を放って追い打ちをかける。

 

「うっ、くっ、うわぁ!!」

 

水球を防ぎきれずに受けてしまい、地面へと落ちる。

 

「・・・ラテ様、グレース・・・」

 

ぐったりしているラテの側にいるペギタンは心配そうな表情を浮かべる。グレースが苦戦しているのに自分は何もできない・・・。

 

「クチュン!!」

 

そんな想いを嗤うかのように、ラテの体調に異変が起きた。

 

「ラテ様、大丈夫ペエ?」

 

「クゥ~ン・・・クゥ~ン」

 

「ラテ様? どうしたんだペエ?」

 

ラテ様はまるで何かを訴えたいと言わんばかりに弱々しい泣き声を上げている。

 

「クゥ~ン、クゥ~ン」

 

「・・・まさか」

 

何か嫌な予感がしたペギタンはヒーリングルームバッグから聴診器を取り出して、ラテの心の声を聞く。

 

(・・・あっちの方できれいなお水が泣いているラテ)

 

「っ!?」

 

ペギタンは驚愕した。何ということだ。グレースがただでさえ、今のメガビョーゲンに苦戦を強いられているというのに、別の場所でメガビョーゲンが現れたらしい。

 

ペギタンはたまらずグレースに向かって叫ぶ。

 

「グレース!ラビリン!大変ペエ!!別の場所にメガビョーゲンが現れたペエ!!」

 

その声はキュアグレースとラビリンに届けるには十分だった。

 

「え・・・嘘・・・きゃあ!」

 

グレースは信じられないような顔をしていたが、その隙を突かれてまた水流を受けてしまう。

 

「グレース!」

 

「・・・ドクルンね。あいつ、余計なことしなきゃいいけど」

 

ペギタンの声はシンドイーネにも聞こえていたようで、彼女は少し顰めたような顔をしていた。

 

実験とか言っていたが、彼女はどうしてもあいつが手柄を横取りしようとしているとしか思えない。

 

あんなヘラヘラしたやつにキングビョーゲン様のアピールポイントを取られるなんて冗談じゃない。キングビョーゲン様は私が何とかするのだ。

 

そんな彼女の心とは裏腹に、グレースも焦燥感を抱いていた。

 

「早く、なんとかしなきゃ・・・」

 

「グレース! まずはこのメガビョーゲンをどうにかしないとラビ!」

 

グレースは今すぐにでもそちらに行きたいが、メガビョーゲンが行く手を阻む。しかも、水球のせいで近づけずに防戦一方だ。

 

「どうしよう・・・どうしたらいいペエ。僕には何もできないペエ」

 

自分にもグレースの力になりたい・・・。でも、自分なんかが立ち向かったところで・・・。

 

ペギタンは自分の中で答えを出せず、グレースが苦戦しているのを見ているだけ。

 

そんなグレースの姿を見ているのはペギタンだけではなかった。

 

自分の両親が経営する旅館の源泉が病気で蝕まれているの目撃した少女ーーーー沢泉ちゆ。

 

「・・・私にできることはないの?」

 

グレースが、自分のクラスメイトがメガビョーゲンに苦戦しているのを見て、心の中で焦燥感に駆られていた。

 

ふと視界に入ったのは、同じようにグレースの戦いを見ている青い姿ーーーーペギタンだ。

 

「!!」

 

そういえば、のどかのそばにはピンク色のウサギがいた。そして、2人が心を通わせたことでのどかはプリキュアになった。

 

「もしかして・・・」

 

ーーーーそこにいるペンギンもあのウサギと同じだとしたら、自分もプリキュアになって、グレースの力になれるかもしれない。

 

ちゆは意を決して、ペギタンに近づく。

 

「ペンギンさん!!」

 

「!?」

 

不意にちゆに呼ばれたペギタンはビクッとしつつも、彼女に振り返る。

 

「もしかして、あなたもああやって戦えるんじゃない?」

 

「・・・・・・・・・(こく)」

 

ペギタンはちゆの言葉に迷いを見せつつも、頷く。

 

「できるのね! じゃあ、私にも手伝わせて!! お願い!!」

 

ちゆはそう言ったが、ペギタンは慌てたように言った。

 

「む、無理ペエ!!」

 

「どうして!?」

 

「・・・自信ないペエ」

 

ペギタンの心には迷いがあった。シンドイーネが生み出したメガビョーゲンにグレースはただでさえ苦戦している。

 

自分が行ったところで勝てる保証はないし、もし敵わなかったらこの女の子を危険にさらすことになる。つまり戦う覚悟と、彼女を危険に晒すというリスクに対する勇気が持てなかったのだ。

 

しかし、ちゆの心はペギタンの言葉では揺らがなかった。

 

「でも、あなたもみんなを助けたいんでしょ?」

 

「えっ・・・どうしてそれを!?」

 

「ごめんなさい、お風呂で聞いちゃった。怪物は私も怖いわ・・・」

 

ちゆが胸の内を明かす。本当はこの場から逃げたいほど、怖い・・・でも・・・!

 

「でも、それ以上に大切なものを守りたいの! どうしても守りたいの!!」

 

ちゆの覚悟は決まっていた。怪物なんかよりも、失うことの方が怖い。そして、旅館、大事な家族、そして大切なクラスメイトを、いや、大切な友達を守りたい!!

 

「あなたは?」

 

ちゆはペギタンに問う。ペギタンは苦しそうにしているラテを見る。そして、口を開いた。

 

「・・・守りたいペエ」

 

ペギタンから出た言葉に、ちゆは笑みを浮かべる。

 

「私はあなたより大きいから、少しは力になれると思う。もし勇気が足りないなら、私のを分けてあげる」

 

ちゆはペギタンに手を差し出す。

 

「大丈夫! 私がいるわ!」

 

ペギタンはちゆの言葉にある想いを感じていた。かつて自分にそんなことを言ってくれた人がいただろうか? 自分に寄り添ってくれる人がいただろうか? この人と一緒なら、きっと僕は・・・!

 

その時、ペギタンの足の肉球が光り始めた。

 

「私はちゆ。あなたは?」

 

「僕はペギタン」

 

ちゆの手とペギタンの手が重なり合った時、ヒーリングステッキが現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メガ~ビョ~ゲン~!!」

 

一方その頃、ドクルンとメガビョーゲンはある程度周囲を病気で蔓延させていた。

 

「んー、いい感じに蝕んできたわねぇ」

 

ドクルンとメガビョーゲンは川の下流から中流へと移動していた。岩場もある程度、メガビョーゲンの攻撃で病気へと変わってしまっている。

 

「プリキュアは来るのかブル?」

 

「来るはずですよ。あのヒーリングアニマルたちがメガビョーゲンを放置しておくわけがありませんからねぇ」

 

おそらくシンドイーネのメガビョーゲンに苦戦しているのだろう。ドクルンは気長に待つことにする。

 

それにしても、この川から生み出したメガビョーゲンはやけに元気だ。不健康そうな顔とは裏腹にかなりのスピードで周辺を病気へと変えていっている。下流域を病気に蝕むのもそう時間はかからなかった。

 

でも、まだ暴れ足りないメガビョーゲンに笑みを浮かべたドクルンはいっそのこと、ここの自然一帯を病気で蔓延させて、第二の場所を作ってしまうのもいいかもしれない。

 

そう考えたドクルンはメガビョーゲンを中流域へと連れて行き、思う存分メガビョーゲンを暴れさせた。

 

「あいつらに地球を守れるわけがないブル。本当の苦しいという言葉の意味も知らないやつにブル。ドクルンはそれをわかってるブル」

 

ブルガルはラテを連れていた3人のヒーリングアニマルを見下していた。

 

ーーーードクルンはそれをわかってる。

 

ブルガルのその言葉を聞いた途端、ドクルンの頭の中にあるイメージが浮かんでいた。

 

・・・廊下で後ろ姿で歩く2人の男女。

 

「・・・・・・・・・」

 

「ドクルン? どうしたのかブル?」

 

あれだけ流暢に話していたドクルンが突然沈黙したことに異変を感じたブルガルが声をかける。その言葉で我に返ったドクルンはメガネを上に上げる。

 

「・・・いえ、なんでもないわ」

 

「メガ~~!!」

 

バシャァ!!

 

メガビョーゲンの方を見ると、中流の川を広範囲で病気に蝕ばれているのを確認する。気のせいかメガビョーゲンが少し成長したような感じがする。

 

ドクルンはメガビョーゲンが順調に病気に蝕んでいるのを見て、笑みを浮かべる。

 

「早くしないと取り返しのつかないことになりますよぉ・・・プリキュア、フフフ」

 




感想、評価、ご指摘等、お願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話「成長」

前回の続き、後編です!


プリキュアとシンドイーネのメガビョーゲンの戦いは終わりに近づいていた。

 

沢泉ちゆがペギタンとパートナー関係を結び、水のプリキュア・キュアフォンテーヌへと変身。元々変身しなくても身体能力の高いフォンテーヌはメガビョーゲンを圧倒。キュアスキャンで左胸に水のエレメントさんがいることを知り、浄化は目前だった。

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

「メガァ!?」

 

キュアグレースがメガビョーゲンの膝裏を蹴り、後ろへと倒す。

 

「今だよ!フォンテーヌ!!」

 

「メガビョーゲンを浄化するペエ!!」

 

水の模様が描かれたヒーリングボトルをステッキへとかざす。

 

「エレメントチャージ!!」

 

そう言いながら光るステッキの先をハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「ヒーリングゲージ上昇!!」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングストリーム!!」

 

キュアフォンテーヌはそう叫びながら、ステッキをメガビョーゲンに向けて、水色の光線を放つ。光線は螺旋状になっていた後、メガビョーゲンに直撃した。

 

その光線はメガビョーゲンの中に入ると、螺旋状のエネルギーは手へと変化して、水のエレメントさんを優しく包み込む。

 

水型状にメガビョーゲンを貫きながら、光線は木のエレメントさんを外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「お大事に」」

 

水のエレメントさんは、源泉の中へと戻り、蝕んだ箇所も元に戻っていく。

 

「ふーん、まあまあね。あっちの方もどうにかした方がいいんじゃない? それでも、キングビョーゲン様には勝てないけど」

 

シンドイーネはそう言うと撤退していった。

 

とりあえず戦いが一段落させて、源泉の元へ。

 

「これで自然の声を聞けばいいのね?」

 

フォンテーヌはグレースやペギタンに教えられた通りに、聴診器をかざすと水のエレメントさんが現れた。

 

「体調はどうペエ?」

 

「ありがとうみなさん! ここの温泉はもう大丈夫です! ただ・・・」

 

水のエレメントさんは深刻そうな様子で、グレースに抱きかかえられているラテを見る。

 

「あともう一体、メガビョーゲンを浄化しないとラビ・・・」

 

ラビリンも辛そうな表情だ。それもそのはず、メガビョーゲンを全て浄化しないとラテの体調は元に戻らないのだ。

 

「私の仲間も苦しんでいるはずです。どうか助けてあげてください。私の力も差し上げます」

 

水のエレメントさんはエレメントボトルに自身の力を注いだ。

 

「ありがとう!」

 

「エレメントさんは必ず助けるから!」

 

フォンテーヌとグレースの言葉を聞いた水のエレメントさんは微笑むと源泉の中へと戻っていった。

 

「・・・行きましょう」

 

「・・・うん!」

 

グレースとフォンテーヌは向かう。出現したであろうもう一体のメガビョーゲンを浄化するために。

 

「きっと雑木林の向こうにいるペエ!」

 

ペギタンはラテの言葉を思い出しながら言う。確か、ラテ様は雑木林の方へ顔を向けていたはず、もしかしたら蝕まれたのは・・・。

 

雑木林の中を走っていく二人。すると徐々に病気で蝕まれた地帯が広がっていくのが見えて足を止める。そこはもはや自然とは思えないほどだった。

 

「こ、これは・・・!」

 

「ひどい・・・」

 

唖然とする二人。想像以上だった。周辺の木はもはや赤く染まっており、まるでここだけ世界が変わってしまったかのようだった。

 

雑木林を抜けるとそこはまるで地獄のよう。川はもはや自然にあるような透明感を感じない。

 

「まるで汚染水ペエ・・・」

 

ペギタンも声を震わせていた。

 

「メガビョーゲンはどこラビ!?」

 

「・・・ここにはもういないみたいだね」

 

2人と2匹はメガビョーゲンを探すが、どこにもいない。もう他の場所に移動したかもしれない。だとしたら、下流か、中流か・・・。

 

「クゥ~ン」

 

「ラテ様?」

 

ラテが弱々しい声で鳴いている。体調が悪いのは変わらないが、グレースの様子を見て不安になっているのだろうか?

 

「大丈夫だよ、ラテ。私たちはちゃんとお手当てできるよ」

 

グレースは抱えているラテを励ます。先ほどのメガビョーゲンとの戦いで苦戦していたグレース。ラテはそんな様子を体調で意識が混濁しながらも見ていたのだろう。

 

ラテは撫でられ、グレースからそんな言葉を聞かされたのか、安堵したように眠りについた。

 

「グレース、見て!!」

 

フォンテーヌが何かを見つけたようでグレースに叫ぶ。フォンテーヌの視線には蝕まれた雑木林があった。

 

「川の上流へと向かう方の道、その周囲の木が蝕まれてるの」

 

川の上流へと向かう道、その部分はやけに病気に蝕まれているところが多かった。下流の方を見ているとそちら側の木は病気であまり蝕まれた様子はない。

 

ーーーーまるで来てくださいと言わんばかりのように・・・。

 

「もしかして、この蝕まれた後をたどれば・・・!」

 

「メガビョーゲンがいるかもしれないラビ!!」

 

メガビョーゲンがどっちへ向かったかはわかった。そうと決まれば、あとは向かうだけだ。

 

グレースとフォンテーヌは互いに目を合わせて頷くと、病気を辿りながら走っていく。

 

(エレメントさん・・・待っててね! すぐ助けに行くから・・・!)

 

グレースは心の中でそう決意したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー、私の計算ならもう来るはずですけどねぇ」

 

そういうのは鮭型のメガビョーゲンを生み出したドクルン。実験と称して川にナノビョーゲンを取り憑かせ、メガビョーゲンを生み出した。中流域の川周辺を病気で蝕んだ後、いっそのこと侵略活動を続けようと上流域の開けた川のところへ移動した。

 

メガビョーゲンは黒く病気で汚れた川の中で泳ぎ回っている。

 

「メガ~・・・」

 

「そろそろここ一帯も蝕むところがなくなってきたブル」

 

ドクルンのスタッドがついたチョーカーに化けているブルガルが言う。

 

周囲をよく見れば、確かにもう蝕むところはなくなっているように見える。気のせいか、またさらに大きくなっているように感じる。

 

そろそろ移動する頃合いだろうか・・・。

 

「メ、ガ、メ、ガッ・・・」

 

「んー?」

 

そう思っていると何やらメガビョーゲンの様子がおかしいのが見えた。水面から顔を出してバシャバシャとよじるように動く。

 

しばらくすると水面に顔を引っ込め、尾びれを水上へと突き出す。その様子はまるで逆立ちをしているかのよう。

 

プルプルと身体を震わせると、腹ビレより下の部分から丸い玉のようなものが突き出しているのが見える。それも少しずつ玉が次々と顔を覗かせる。それはまるで産卵をしているかのようだ。

 

「メガ、ビョー、ゲン!」

 

メガビョーゲンの合図に声に合わせながら、ポンという音を立てて、卵は岩場の地面へと落ちた。

 

「ほほぅー?」

 

ドクルンは歩み寄って、玉を拾い上げる。一つ一つの卵の大きさはテニスボールと同じぐらいの大きさだが、まるでブドウのように束ねて落ちていた。

 

「それ、何だブル?」

 

「これは、面白いものができてきたわねぇ」

 

ーーーー帰ったら調べてみようかしらぁ。

 

ドクルンはそう思うと懐に卵をしまいこむ。

 

「いたー!!」

 

「お?」

 

そんなとき、可憐な声が聞こえてきた。ドクルンが振り返ってみるとピンク色の髪をしたもの、青色の髪をしたもの、それぞれステッキを持っている。

 

ーーーー間違いない、プリキュアだ。

 

でも、ダルイゼンとクルシーナの情報では一人だったはず。それなのに人数は二人に増えている?

 

そうか・・・またヒーリングアニマルが新たなパートナーを見つけたのか。

 

でも、ドクルンはそんなことは気にしなかった。例え何人に増えようが、私のやりたいことは変わらない。今のメガビョーゲンがどれだけの力を持っているのか試すだけだ。

 

「これはこれは、プリキュアの二人。随分遅かったですねぇ」

 

ドクルンはニヤリとした笑みを浮かべてそう言う。まるで他人を小馬鹿にしたような笑みだ。

 

「あれは?」

 

「ビョーゲンズのドクルンラビ!」

 

「俺もいるぜブル」

 

声がしたのはドクルンの首に巻きついているスタッド付きのチョーカーから。ブルガルは小さな狼の姿へと戻り、その姿を露わにした。

 

その姿を見て、驚愕したのはグレースの持つステッキの一部になっているラビリンと、同じくペギタンだった。

 

「そんなまさか・・・ガルルン!?」

 

「俺をその名前で呼ぶなブル! 今はブルガルだブル!」

 

ラビリンに名前を呼ばれて嫌悪感を露わにするブルガル。その名前はすでに捨てた名前だ、人間に使われるようなやつに気安く呼ばれる筋合いはない。

 

「知り合いなの・・・?」

 

「僕たちと同じ見習いのヒーリングアニマルだったはずペエ」

 

ちゆが問うと、ペギタンは辛そうな表情で言う。

 

「なんでビョーゲンズなんかにいるラビ!?」

 

「ハッ、俺がどこに行こうと俺の勝手だブル。お前らと一緒なんかにされたくねーんだよ」

 

ブルガルはラビリンの言葉に苦虫を噛み潰したような顔で言う。

 

「ブル? なんだ、ペギタンもいるのか?」

 

「ガ、ガルルン・・・」

 

「ブルガルだブル! お前も一緒になって地球のおままごとなんかしてんのかよ?」

 

ブルガルの見下すような言葉に、ペギタンが少し怒りを覚えた。

 

「おままごとって・・・僕は地球をお手当てするためにーーーー」

 

「それがおままごとなんだブル。大した力も持たないくせに、お前たちにお手当てなんかできるわけがないんだよ」

 

ペギタンはその言葉を受けてショックを受け、昔のことを思い出していた。

 

「フフ。痴話喧嘩するのは構わないのですが・・・」

 

ドクルンがまるで面白いものを見たような顔で言うと、右手の親指で川を指差す。

 

「あれ、どうにしかなくていいんですかぁ?」

 

バシャァ!!!!

 

「メガ~・・・ビョーゲン!!」

 

川から飛び出したメガビョーゲンはプリキュア二人にその姿をさらした。

 

「あんな感じになっちゃってますが?」

 

「大きくなってる・・・!」

 

「きっとさっきの場所とここ一帯が蝕まれたせいラビ!!」

 

メガビョーゲンの大きさに二人は悪寒に似た何かを感じた。メガビョーゲンがいつもと違って禍々しく、気のせいかさっきのメガビョーゲンより大きくなっている気がする。

 

でも、エレメントさんが苦しんでいるんだ。こんなところで怖気づいてなどいられない。

 

「メガ~・・・」

 

そんなことを思っていると、メガビョーゲンが水面から飛び出してこちらへと突っ込んできた。

 

「ぷにシールド!!」

 

ラビリンがそう言うと肉球型のシールドが展開され、メガビョーゲンの体当たりを防ぐ。

 

「う・・・!!」

 

メガビョーゲンに押されそうになるグレース。先ほどのメガビョーゲンよりもパワーが全く違う。成長して強くなっていることがわかる。

 

「はぁぁ!!」

 

「メガ・・・!?」

 

そこへフォンテーヌが横から飛び蹴りを入れて、メガビョーゲンを吹き飛ばす。

 

「大丈夫!?」

 

「うん!」

 

吹き飛んだメガビョーゲンは体勢を立て直すと川の中へと飛び込み、水の中に身を隠す。

 

フォンテーヌの背後へと素早く移動すると、蝕まれた地面から飛び出した。

 

「メガ~!!」

 

「あああっ!!」

 

メガビョーゲンは体を回転させて尾びれを振り回し、直撃したフォンテーヌは吹き飛ばされる。

 

「フォンテーヌ!!」

 

グレースは叫びつつも、メガビョーゲンへと向き直ろうとするが、姿が見えない。

 

「あれ?・・・どこに・・・?」

 

探ろうと周囲を見渡すも、グレースの横からメガビョーゲンは顔を出し、不意をついて黒い光線を放った。

 

「メガ~!!」

 

「え・・・きゃあぁぁ!!」

 

気づくのが遅れたグレースは防御姿勢もままならず、光線を受けて吹き飛んでしまう。

 

すぐに体勢を立て直すグレースだが、またメガビョーゲンの姿が消える。

 

「・・・まただ」

 

「これじゃあメガビョーゲンに近づけない・・・!」

 

グレースとフォンテーヌは背中合わせになって周囲を探るが、メガビョーゲンはまた姿を消してどこにも見当たらない。

 

そんな中、二人の足元からピチャっと水音がした瞬間・・・。

 

「メガ~・・・」

 

「「!?」」

 

「ビョーゲン!!」

 

「「きゃあぁぁぁ!!」」

 

二人は足元に気づいて離れるも、地面から飛び出したメガビョーゲンはその隙をついて尾びれを振り回した。動作が遅れた二人は吹き飛ばされてしまう。

 

「・・・ふむ、やはり健康的な場所でメガビョーゲンを作ると強くなりますねぇ」

 

「知能も増してるブル」

 

ドクルンとブルガルは興味深そうな感じで言う。

 

「う・・・このままじゃ・・・!」

 

グレースはなんとか立ち上がるも、先ほどと同じような行動をしていてもメガビョーゲンも思う壺だ。また、不意を突かれてやられてしまう。

 

「グレース! 二人で探がしてちゃダメよ! お互いに合図して、そこを狙いましょう!」

 

「・・・わかった!」

 

フォンテーヌがそう言うとグレースは再びステッキを構え、自分から探そうとはせずにそのままじっと待った。

 

一方、フォンテーヌはグレースのことを見ながら、来るであろうメガビョーゲンに警戒する。

 

しばらくの間、沈黙が続き、緊迫した状態が続く。じっと待っているグレースの頬に汗が垂れる。

 

「メ~ガ~・・・!!」

 

先に沈黙を破ったのはメガビョーゲンだった。そのメガビョーゲンが飛び出した場所は・・・?

 

「グレース、後ろよ!!」

 

フォンテーヌが叫ぶと、グレースは振り向きざまにステッキの先に溜めていた光線をメガビョーゲンに向けて放つ。

 

「ふっ!!」

 

「メガ~????」

 

光線は命中し、メガビョーゲンがよろける。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

その隙をすかさず横からフォンテーヌが飛び蹴りを放つ。

 

「メガァ!?」

 

メガビョーゲンは吹き飛び、病気で汚れている地面を数回跳ねると、体勢を整えて再び川の中へと姿を消す。

 

二人はメガビョーゲンを追うことはせず、再びステッキを構えてじっと待つ。

 

またしばらくの沈黙の後、メガビョーゲンが飛び出してきて黒い光線を放とうとする。

 

「フォンテーヌ、横だよ!!」

 

「!!」

 

フォンテーヌはすぐに横へ振り向き、ステッキをメガビョーゲンへと構えた。

 

「ぷにシールド!!」

 

ペギタンが言葉を発すると、フォンテーヌの持つステッキから肉球型のシールドが展開し、メガビョーゲンの黒い光線を防ぐ。

 

「キュアスキャン!!」

 

フォンテーヌが抑えている間に、キュアグレースは素敵の一部となっているラビリンの顔をメガビョーゲンに向ける。

 

ラビリンの目が光り、メガビョーゲンの中にいる、苦しんでいる様子のエレメントさんを見つける。

 

「水のエレメントさんラビ!」

 

「場所は左腹だよ!」

 

フォンテーヌは少しずつ黒い光線を押し返していく

 

「んん・・・やあぁ!!」

 

「メ・・・ガ・・・メガァ!?」

 

完全に攻撃を跳ね返されたメガビョーゲンが後ろへと少し仰け反る。そこへすかさずキュアグレースが突っ込む。

 

「はあぁぁぁ!!」

 

「メガ~~~!?」

 

頭に飛び蹴りを放ち、喰らったメガビョーゲンは空へと吹き飛ばされる。

 

「おやおや・・・?」

 

ドクルンは上空へと吹っ飛ばされるメガビョーゲンを見てそう言った。

 

「今、ラビ!!」

 

「うん・・・!」

 

花の模様が描かれたヒーリングボトルをステッキへとかざす。

 

「エレメントチャージ!!」

 

そう言いながら光るステッキの先をハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「ヒーリングゲージ上昇!!」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングフラワー!!」

 

キュアグレースはそう叫びながら、ステッキを上空へと飛んでいるメガビョーゲンに向けて、ピンク色の光線を放つ。光線は螺旋状になっていた後、メガビョーゲンに直撃した。

 

その光線はメガビョーゲンの中に入ると、螺旋状のエネルギーは手へと変化して、木のエレメントさんを優しく包み込む。

 

花状にメガビョーゲンを貫きながら、光線は水のエレメントさんを外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「お大事に」」

 

水のエレメントさんは、川の中へと戻り、蝕んだ箇所も元に戻っていく。

 

「プリキュア・・・面白いですねぇ、フフフ」

 

ドクルンは面白いものを見つけたかのような不敵な笑みを浮かべた。

 

「まあ、今日はこの辺にしておきましょう」

 

ブルガルはドクルンのスタッド付きチョーカーへと戻り、ドクルンはそのまま背を向けて立ち去ろうとする。

 

「ガルルン!!」

 

背後からペギタンの呼ぶ声が聞こえる。ドクルンはそれを聞いて思わず立ち止まる。

 

「少しうまくいったからって調子に乗るなブル。それにビョーゲンズに一緒にいるのは俺だけじゃないからな」

 

「!?・・・それってどういう意味ラビ!?」

 

ブルガルの言葉に衝撃を受けるラビリン。ガルルンの他にもビョーゲンズに寝返った仲間がいる?

 

「またな・・・ペギちゃん」

 

そう言うとドクルンはその場で瞬間移動し、撤退していった。

 

「ペギタン・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

その姿を見て悲しそうな顔をしているペギタンを、フォンテーヌはなんとも言えない顔で見つめていた。

 

その後、蝕まれた川へと聴診器を向けて水のエレメントさんと対面する。

 

「エレメントさん、体調はいかがですか?」

 

のどかが水のエレメントさんに尋ねる。

 

「ありがとうございます、皆さん! ここはもう大丈夫です! ただ・・・」

 

「ラテ様、まだ元気が戻らないラビ」

 

水のエレメントさんはまだ体調が良くならないラテを見ながら言う。浄化に時間がかかった上に、2体も現れたことから症状が緩和できていないのだろう。

 

「では、私の力を使ってください。先ほど、私の仲間にもらったはずです。それをラテ様の首輪に」

 

「これね」

 

ちゆは言われた通りに、エレメントボトルを首輪に付ける。

 

「ワフゥ~ン」

 

すると、ラテはたちまち元気になり、元気な声をあげられるようになったのであった。

 

「・・・・・・・・・ガルルン」

 

一方、ペギタンは辛そうな表情をしながら、敵となってしまった仲間の名前をつぶやくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、とある廃病院では・・・・・・・・・。

 

コツ、コツ、コツ、コツ、コツ、コツ・・・。

 

先ほど戻ってきたドクルンが地下へと続く階段を降りている音だ。

 

一部が病気で錆びかけている階段を降りきって扉を開けて、中へと入っていく。

 

パチッ!

 

部屋の電気をつけると、そこは10畳ぐらいの広い部屋があり、更に奥にも大きな窓があって何やら部屋があるようだった。

 

その奥の部屋の中には、ドクルンと同じぐらいの少女が呼吸器を付けながらベッドに横たわっていた。奥には心電図のモニターがあるようで、ピコンピコンと音を発していた。

 

ドクルンは部屋の横にある装置のマイクを取る。

 

『どうも~~~ご機嫌いかがですかぁ~?』

 

ドクルンはマイクを通して、部屋の中で眠る少女に声を掛ける。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

部屋の中にいる少女からは声が返ってこない。どうやら眠っているようだ。

 

「・・・ふむ、やはり反応がないわねぇ」

 

ドクルンはそう言うと懐から先ほどの卵を取り出す。それは先ほどメガビョーゲンから拝借したブドウのようにくっついている卵だ。

 

「それってメガビョーゲンから生まれた卵ブル?」

 

「えぇ、そうね。何やらメガビョーゲンと同じ不健康な香りがするのよねぇ」

 

ドクルンが何やらいいことを思いついた顔で言っていると、扉が開く音がした。

 

「でかい音が聞こえるから何なのかと思ったら、あんた戻ってたの?」

 

「・・・別にどうでもいいけど、ここは何?なの」

 

クルシーナとイタイノンだ。それもクルシーナは寝起きを起こされたかのようなしかめっ面をしていて、イタイノンは無表情で部屋を見渡している。

 

「実験室ですよぉ。あの子を人体実験するためのねぇ」

 

ドクルンは不敵な笑みでそう言うと卵を持ったまま、奥の部屋へと向かっていく。クルシーナはそれを聞くとしかめた顔を更に不機嫌にする。

 

「あんたってそういうの好きよね」

 

「おや? 褒めてるんですかぁ?」

 

「別に褒めてないの」

 

ドクルンの言葉をイタイノンが否定する。

 

「っていうか、それ何?」

 

クルシーナがドクルンの持っている卵のようなものを見て、彼女に問う。

 

「ああ、これですか? 私のメガビョーゲンが落としたものですよ」

 

「・・・それにしては、魚の卵みたいなの」

 

「でも、ただの卵じゃないみたいなんですよねぇ」

 

ドクルンは部屋へと入っていくと、ぶどうみたいについている卵を1個ずつ取って、少女のベッドの周囲へ囲むように置いていく。

 

全て置き終わると部屋から出てきて、窓から少女のベッドの様子を見る。

 

「何やってんの? 卵なんかあっちに並べちゃ意味ないじゃない」

 

「まあまあ、見ていてくださいよ」

 

ドクルンがそう言うと周囲に置かれた卵がプルプルと動き出す。

 

「・・・ん?」

 

クルシーナはしっかりと凝視していた。震える卵から何やら淀んだ何かが伸びてきたかと思うと・・・。

 

「・・・!?」

 

その何かはすべての卵から一斉に飛びかかり、少女を包み込んだ。

 

「!・・・!!」

 

少女の方へと視線を向けると、顔をしかめて苦しそうに顰めているのが見えた。

 

「・・・ふむ、何やら抵抗しているようですねぇ」

 

「・・・へぇ」

 

ドクルンはその様子を見て顔をしかめていた。逆にクルシーナは少女の顔を見てほくそ笑んだ。

 

「面白そうなことになってるじゃない。あの子の顔を苦しそ」

 

クルシーナはどうやら少女が苦しんでいる姿に喜びを感じている様子。

 

「・・・悪趣味なだけなの」

 

イタイノンは無表情で呆れたような声を出していた。

 

「まあまあ。でも、まだ馴染むのに時間がかかるみたいですから、このままにしておきましょう」

 

ドクルンは二人にそう言うと顔を俯かせる。

 

「・・・抵抗なんか無駄なだけなのに」

 

どこの誰に言ったのかはわからないが、クルシーナとイタイノンには聞こえないような声で言うドクルンに、二人は疑念を抱く。

 

「・・・どうしたの?」

 

「なんかブツブツ言って気持ち悪いの」

 

「・・・いえ、何でもないですよ。さてと、お父様に報告に行かないと」

 

顔を上げたドクルンはいつもの口調でそう言うと部屋を出ようとする。

 

「報告って何よ?」

 

「何やら、プリキュアが二人に増えたみたいなんでねぇ。一応、言ってはおかないと」

 

「はぁ!? 増えたの!? ・・・全く・・・シンドイーネもあんたも何やってんだか・・・」

 

ドクルンのお気楽な言葉に、驚きつつも心底面倒臭そうな声を出す。

 

「・・・クルシーナも大概なの。負けて帰ってきたんだから、なの」

 

「うるっさい!! まぐれだからいいんだよ、あんな戦い!! アタシは負けたつもりはないからね!!」

 

キングビョーゲンの元へと向かおうと、クルシーナとイタイノンも部屋から出ていく。

 

3人が部屋から出て行った後、奥の部屋では淀んだ何かが少女の体内へと入ろうとしているのであった・・・・・・。

 




感想、評価、ご指摘等、お願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話「恐怖」

本編的には第4話になります。
今回も長くなったので、前後編に分けます。前編です。


ビョーゲンキングダム、そこはビョーゲンズのための世界。そこには幹部たちが全員集まっていた。シンドイーネとドクルンがキングビョーゲンに報告があるとのことで、全員が収集されたためだ。

 

今日は普段、夕焼けのような空に現れない顔は、ドクルンが声を投げかけると姿を現していた。

 

ドクルンはシンドイーネの分も合わせて、プリキュアが二人になったことを話した。

 

「プリキュアが二人・・・?」

 

「ええ・・・間違いなく二人になってましたねぇ・・・」

 

ドクルンはいつもの口調を崩さずにそう言った。

 

「どうします? やっぱりやっちゃいます~?」

 

シンドイーネは鼻息を吹かせながら言っていた。プリキュアは障害の一つだ。排除するだけでも相当貢献度は上がると思うが・・・。

 

「今は地球を蝕め・・・我がヒーリングアニマルの女王よりも先に復活せねばならんのだ」

 

キングビョーゲンはあくまでも地球を蝕むことを指示した。プリキュアは障害の元になるとは思うが、それに固執しても地球は自分たちのものにはならない。少しでも地球を病気に侵すことが最前線である。

 

「ですよね~♥」

 

「かしこまりました、お父さん」

 

シンドイーネは相変わらずの調子で話しかけ、ドクルンは眼鏡を上げながらそう言った。

 

「まあ、今んとこ出くわす場所限られてるし、焦んなくていいでしょ」

 

いつもの口調で言うダルイゼンだが、隣を見ているとグアイワルは何やら考え事をしているような様子だ。

 

「・・・どうしたの? グアイワル」

 

「何・・・そのプリキュアとやらに、俺も合ってみたいと思ってな」

 

ダルイゼンが問いかけると、グアイワルはプリキュアがどんなやつなのか興味を示していたのであった。

 

「・・・全く、アタシの苦労が増えそうね、こんな奴らじゃ・・・ん?」

 

クルシーナはそれぞれが能天気な台詞を吐いていることにため息をついている。ふと横を見るとイタイノンが何やらピコピコと携帯ゲームをやっているのが目に入る。

 

その様子にクルシーナは不快感を覚え、イタイノンに近寄る。

 

「あっ・・・?」

 

イタイノンは夢中になってゲームをやっていてクルシーナには気付かず、しかもその手元からゲームがなくなると驚きの声を上げる。

 

「あんたねぇ・・・お父様の眼前で何やってんのよ?」

 

イタイノンが声がした方へと見上げると、携帯ゲームを取り上げたしかめっ面のクルシーナだった。

 

「別にいいでしょ、なの。人がどこでゲームをやってようと勝手なの」

 

イタイノンはそっぽを向きながら言う。

 

「アタシらの目的はなんだっけ?」

 

「・・・知らないの。イタイノンにはどうでもいいの」

 

イタイノンの言葉に、クルシーナはますます不機嫌そうな顔をする。

 

「っていうか、返せなの!」

 

イタイノンはクルシーナの手に持っている自分のゲームを取り返そうと飛びかかる。しかし、クルシーナは返さないと言わんばかりにゲーム機を持つ手を高く上げる。

 

「怠け者にやらせるゲームなんかねーんだよ!」

 

「~~~っ、返せ! 返せなのっ!」

 

クルシーナは吐き捨てるとイタイノンの顔を手で押さえつけて引き剥がそうとするも、イタイノンも一歩も下がらずに取り返そうとしてくる。

 

「返して欲しかったら、少しは地球を蝕んでこいっての!」

 

「誰が人間のはびこる場所に行くかなの! あんなところに行くかと思うと虫酸が走るの!」

 

「病気で蝕めばいないも同じだろうが!」

 

「そんな面倒くさいことお前がやればいいの!」

 

一歩も譲らないクルシーナとイタイノン。水掛け論だ。いつまでたっても終わらない。

 

そんな時、クルシーナの手からゲームが取り上げられた。

 

「「あ・・・」」

 

「全く、何を喧嘩しているのですか?」

 

ゲーム機を取り上げたのはキングビョーゲンに報告していたドクルンだった。二人のやり取りを見ていた彼女は面倒臭そうな声で彼女に聞いている。

 

「だって、こいつが・・・!」

 

「はいはい。まあ、大体の察しはつきますけどね」

 

ドクルンはイタイノンにゲーム機を差し出すと、イタイノンはひったくるように奪い取る。

 

「イタイノン、ゲームをやるのは勝手ですけど、少しはマジで働いてください」

 

「・・・ふん。5人もいるんだから、そいつらがやれば十分でしょ、なの」

 

「あんた、まだそれをーーーー」

 

イタイノンの言葉に食いつこうとしたクルシーナだが、ドクルンはそれを制止する。

 

「・・・では、もうあなたは入りませんよね?」

 

ドクルンの珍しく冷めたような言葉に、イタイノンはびくりと反応する。

 

「お父さんの快楽を満たせないようなやつなど、ビョーゲンズには不要。消されても問題ないですよね? あのダルイゼンですらちゃんとやっているのに、恥ずかしくないんですか? こっちは遊びでやっているのではないのですよ」

 

それを聞いて、プルプルと震えるイタイノン。ドクルンはイタイノンに近づくと肩に手を置く。

 

「!?」

 

「消えてしまっては大好きなゲームとやらもできなくなりますよ。それが嫌なら一緒に地球を蝕みましょう? 私はなるべくあなたに消えて欲しくなんかありません。それを、理解してください」

 

イタイノンがビクビクと視線を向けると、ドクルンが穏やかな表情でこちらを見ていた。口調も穏やかだ。

 

それは自分を軽蔑しているわけではない、仲間思いからの優しい感情だ。イタイノンはそんな風に感じていた。

 

イタイノンは無意識のうちに恐怖の表情が和らぎ、無表情ながらも少し頬を染めていた。

 

「・・・わ、わかったの。行ってくればいいんでしょ、行ってくれば、なの」

 

イタイノンはゲーム機をポケットにしまうと、その場から逃げるように去った。

 

「・・・素直ないい子ですねぇ、フフフ」

 

イタイノンが去るのを見届けると、ドクルンは元のニヤついた表情に戻っていた。

 

「何、あんた今の・・・気色悪いわよ・・・」

 

「寒気がしたウツ・・・」

 

その場にいたクルシーナとウツバットは、ドクルンのイタイノンに対しての言葉に言い知れぬ恐怖を感じたそうな・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクルンに軽く怒られて、まるで逃げるかのように渋々と人間界へと降りてきたイタイノン。

 

瞬間移動して来た場所は紫色の屋根の建物の上。何やら商業施設みたいな場所だった。

 

おそらく中であろうところを下から覗いてみると、そこにはイタイノンの苦手な人で溢れていた。子供を連れる親子がいれば、女友達同士で遊んでいるような人もいる。

 

イタイノンはその様子を見て、顔を嫌そうに顰めていた。

 

「ここは人間が多いの・・・行きたくない・・・」

 

イタイノンは憂鬱だった。そもそも自分は人の顔を見てまともに話せたことがないし、人に近づかれるのも恐怖すら感じる。特に明るくてポジティブな人間には極力関わりたくない。

 

せいぜいちゃんと話せるのは不本意ではあるが、ビョーゲンズのやつらだったりする。

 

「でも、ちゃんとやらないとまたドクルンに・・・」

 

「わかってるの! 仕方ないから入るの・・・」

 

カチューシャになっているネムレンに言われてムキになるイタイノン。行きたくないのが本音であるが、またドクルンやクルシーナに口うるさく言われるのもごめんだ。特にドクルンのあんな冷たい視線とあの言葉は二度と見たくないし、聞きたくない。

 

そう思い込んで、屋根から飛び降りて中に入るイタイノンだが・・・。

 

「ひぃ!!」

 

すぐ横から二人組の女性が歩いてくるのが見え、小さく悲鳴を上げたゴシックロリータは避けようと左方向に歩こうとするが・・・。

 

「ひゃっ」

 

避けた方向にも別の人が通りかかり、危うくぶつかりそうな距離で声をあげる。慌てて右に方向転換しようとしたが、思わずつまずいて地面へとコケてしまう。

 

「あう・・・!」

 

「大丈夫ですか・・・?」

 

「え・・・?」

 

そんな彼女を心配する声が。イタイノンは思わず疑問の声を出して、視線を見上げるとそこには大人の女性の姿が。しかも、自分に手を伸ばそうとしている。

 

「い、嫌ぁぁぁぁ!」

 

大きく悲鳴をあげるとすぐさま立ち上がって、反対側の方向へと逃げていく。そして、路地裏のようになっている曲がり角へと隠れた。

 

「・・・・・・・・・」

 

ビクビクとしながら、角から先ほどの方向を覗く。屋根の上から見ても人が多いのは明らかだったが、ここから見ると余計に人がいるようにも見える。

 

「向こうは人が多いの・・・うぅ・・・あっちに行くの」

 

「先が思いやられるネム・・・」

 

ネムレンはイタイノンの慌てっぷりに呆れるしかなかった。

 

すぐに諦めて人が混んでいない場所へと移動しようとするのだが・・・。

 

「みなぴー! りなぽんー!!」

 

「!?」

 

何やら叫ぶ声が聞こえて、またびくりとなったイタイノンは再び角へと隠れる。向かっていこうとした方向を見てみると噴水があり、何やら栗色のツインテールの少女が辺りを見渡しているようだった。

 

なんかやかましそうな子だ。あいつには絶対に近づきたくない・・・。

 

しばらく見つめていると、マゼンダ色の髪の少女と藍色の髪の少女が二人近づいてきた。

 

「向こうにはいなかったよ」

 

「今、どこにいるのか連絡つかないの?」

 

どうやら三人は誰かを探しているようだった。みなぴーとかりなぽーとか言っていたっけ? おそらく本名ではないようだが、それにしても何なの、その呼び方は?

 

「・・・・・・?」

 

そんなことを思っていると、ふと明らかに人間ではない反応を感じ、上を見上げる。どうやら上の階に反応がある模様。

 

とはいえ飛び上がったりすると怪しまれるため、イタイノンは瞬間移動を使って、上の階へ。すると・・・。

 

「!? ま、まぶっ・・・!?」

 

瞬間移動をした横の店はおしゃれな服のお店だった。しかも、ファッションと言うよりは素敵な服を求めるイケてる女性たちでいっぱい・・・。

 

服を見ているだけなのに・・・何でこんなに眩しいの・・・?

 

イタイノンはたまらず後ろを向いて、店を見ないようにカニ歩きで店の前を通り過ぎていく。

 

ようやく店が見えないくらいまで通りすぎ、気がつくと彼女の前にあるのは、ここもファッションのお店であった。

 

「はぁ・・・辛いの・・・」

 

「大丈夫ネム?」

 

まぶしいお店がありすぎて、げんなりする。もうさっさと地球を蝕んで帰りたい・・・。ネムレンも気遣ってはくれるが、そんなことで気が晴れるとは思えなかった。

 

そう思っていると、そこに彼女に声をかける男の声があった。

 

「お前・・・」

 

「ぴぃ!?」

 

「こんなところで何をしている?」

 

「・・・?」

 

思わずビクッとしたイタイノンだが、どこか聞いたことがあるような声を聞いて横を向くと筋肉隆々の男だった。

 

「・・・グアイワル?」

 

「ここはお前が苦手なところだろ?」

 

安心した。また知らない奴に声をかけられたのかと思った。

 

イタイノンは知り合いだとわかると、いつものような無表情に戻り・・・。

 

「地球を蝕みに来たに決まっているの。お前こそ何、なの? おめかしでもしに来たの?」

 

「違う! 俺もお前と同じだ!」

 

「そんな暑苦しい筋肉を出しながら言われても説得力ないの」

 

「き、筋肉は関係ないだろ!! 格好をどうしようと俺の勝手だ!!」

 

すっかりイタイノンにペースを乱されているグアイワル。イタイノンにとって一番からかいがいがあるので楽しい。だってクルシーナがスカートをチラつかせても動揺するような変態だから。

 

ここに来たのだってどうせ女性の服でも着に来たのだろう。でないと、わざわざこんなところでうろついている理由がない。自分の力に酔いしれている生粋の変態だから。

 

声には出さなかったが、そう思うことにした。

 

「じゃあ、イタイノンがどうしようと勝手なの」

 

「いや、そういうことを言ってるんじゃなく、って、おい! どこに行く!?」

 

イタイノンは捨て台詞を吐くとそのままグアイワルに背を向けて、その場を去ろうとする。からかって少しは気が晴れたのか、また蝕むものを探しに行くことにした。

 

「人のいないところで探すの~」

 

イタイノンはそう言うと瞬間移動をして、その場から消えた。この時にグアイワルがちょっと悔しそうな顔をしていたのはまた別の話である。

 

イタイノンが瞬間移動した先は、この商業施設の隣接したところにある建物の中。紫色の屋根があるもう一つの建物だ。ここにもいろいろなものが売られていた。

 

「お店が多いの、ここは。人が多くて萎えそうなの」

 

「無理しないでネム・・・」

 

「大丈夫なの・・・単に気持ちの問題なの」

 

少しは気持ちに余裕があるのか、言葉を返し、気遣ってくるれるパートナーに感謝しつつ歩いていく。

 

いろいろと周囲を見渡してみると、掘り出し物や洋服、おもちゃの楽器があったりとイタイノンには興味のないものばかり。別に遊びに来たわけではないが・・・。そもそも人のいる場所では遊びたくない。

 

目星がつかないまま進んでいくと、そこには何やらステージ会場があり、何か始まろうとしているのが見えた。ステージの前には椅子が並べられていて、人がいっぱい・・・。

 

「こんなところにも人がいっぱいいるの・・・」

 

「何か楽しそうでムカムカするネム・・・」

 

「何で集まっているのか理解できないの・・・」

 

とりあえず、ステージの方を見てみると看板には『4つの楽器のセッション、カルテット・コンサート』と書かれていた。何やら楽器を演奏する模様。

 

ステージには黒くてでかい楽器ーーーーピアノと言ったか、それが置いてあるだけ。楽器は一つだけ、じゃあ、残りの3つはどこにあるのか?

 

ステージの横にある設営されたテントに近づくとそこには、トランペットとそのケースが無造作に置かれているのが見えた。

 

「ピカピカとしている・・・」

 

「・・・イタイノン? どうしたネム?」

 

ネムレンがトランペットをじっと見つめている様子を見て心配そうな声をかける。人がいるせいでとうとう気が参ってしまったか?

 

ネムレンの思っていたことは違った。イタイノンはこの楽器が使われていることを感じつつも、綺麗に保たれているのを感じていた。

 

この楽器ーーーー自然で生まれたわけでもないのに、なーんか・・・生きてるって感じ・・・。

 

ドォーン

 

その時、建物が揺れ始め、周囲が何事かとざわめき始める。

 

「? 何だ?」

 

「何かあっちの方で大きな音が・・・?」

 

・・・おそらくグアイワルであろう。作戦を開始したらしい。

 

イタイノンもそろそろ人の多い場所に辟易して、むしゃくしゃしてきた・・・しかも、さっきはドクルンに叱られたし、クルシーナにも邪魔された。この怒り、ここ一帯を蝕むことで晴らしてやるとするか、なの。

 

イタイノンは両腕の袖をまるで埃を払うかのような動作をする。そして、右手を開きながら突き出すように構える。

 

「進化するの、ナノビョーゲン」

 

「ナノナノ~」

 

イタイノンの生み出したナノビョーゲンが鳴き声を上げながら、床に置かれていたトランペットへと取り憑く。金色の楽器が徐々に病気へと蝕まれていく。

 

「キラキラキラぁ~~!?」

 

トランペットの中にいる妖精、エレメントさんが病気へと蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガビョーゲン!」

 

パレードのような衣装を纏い、指揮棒を手に持ったメガビョーゲンが誕生した。

 

「な、なんだあの怪物は!?」

 

一般の客たちは突然現れた巨大な怪物に動揺していた。ここでやるのは音楽を奏でるコンサートだったはず・・・。

 

「メガ!」

 

そんな客の動揺など露知らず、メガビョーゲンはタクトを振ると、空中にトランペット、バイオリン、小太鼓を出現させる。そこには黒い悪魔のような羽が生えていた。

 

「メガ!」

 

メガビョーゲンがさらにタクトを振ると、出現した3つの楽器は同時に黒い光を集め始めると、一斉に光線を放った。

 

チュドーン!!!

 

「きゃあぁぁぁ!!」

 

「に、逃げろー!!!」

 

突然の攻撃に人々はパニックを起こし逃げ始めた。それを尻目に、爆発を起こした箇所は壊れつつも、病気で蝕まれていく。

 

メガビョーゲンはまるで指揮をするかのようにタクトを振り回すと、トランペットは光線を放って破壊していき、小太鼓は音波の波動を放って吹き飛ばしながら周囲を病気に蝕み、バイオリンは楽譜の光線を放って病気へと蝕んでいく。

 

メガビョーゲンの周囲があっという間に病気で蝕まれていく。

 

「いつもより元気だねぇ、メガビョーゲン・・・」

 

ネムレンは俊敏な動きでタクトを振りながら、楽器に指示をして破壊活動を行っているメガビョーゲンを見ながら言う。

 

「さっきのトランペット綺麗だったの・・・きっとそのおかげに違いないの」

 

「メガァ!」

 

チュドーン!!!

 

「きゃあぁぁ!!!」

 

イタイノンがほくそ笑んでいる間にも、メガビョーゲンは人が集まる場所に光線を放ち、客たちは悲鳴を上げて逃げていく。

 

「人間どもがごみ虫のように逃げていくの・・・愉快愉快なの・・・キヒヒヒ」

 

イタイノンは逃げ惑う人々を見て、優越感を抱いていた。怒りとつまらなさでいっぱいだった心が晴れていくように感じる。

 

一人でゲームをしていても感じなかったこの快感。人間たちは何もできずに、メガビョーゲンを恐れて逃げ出すだけ。こいつらを攻撃が直撃したらと思うと、ますますわくわくする。

 

もっと快楽を得るためには、もっともっと人間を怖がらせて、ここから追い出してやらないと・・・。

 

イタイノンは嬉々しながら、メガビョーゲンに命令する。

 

「メガビョーゲン、もっともっと蝕んでやるの」

 

「メガー!!!」

 

メガビョーゲンはまだ蝕まれていないところに楽器からの光線を放つ。破壊音がなっているというのもおかしな光景だが、それでも光線が直撃した箇所は病気で侵されていく。

 

人間に向かって放たれれば、恐怖に悲鳴を上げ、逃げ出していく。

 

「キヒヒ・・・」

 

壊れ行く店内、逃げ惑う人々、イタイノンはそんな喧騒を聞きながら不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆめぽーとに爆発音が響き、平光ひなたは何事かと動揺していた。眼下を見ると客たちが悲鳴を上げて逃げている。

 

そこへやっと見つけた友人、みなぴーとりなぽんから巨大な怪物が暴れていることを聞かされる。おそらく、このまま学校に現れた怪物だ。

 

一緒に逃げようとしたが、ここにいないのどかとちゆのことを思い出した。二人は怪物の方に向かって走っていったらしい・・・。

 

ーーーー二人が危ない・・・!!

 

平光ひなたは友人を放っておけない気持ちからに先に逃げるように言い、のどかとちゆが向かった方向へと走った。

 

元はと言えば、自分が奇妙なしゃべる猫・ニャトランを見つけたことで、のどかとちゆにも出会い、友達との約束を忘れた自分を、二人はこのゆめぽーとで探してくれると言ってくれた。

 

向かった先には・・・。

 

「うぇぇ!? デカっ! ウソウソ!? 何あれ!? ガチ怪物じゃん!?」

 

驚くのも無理はなく、このリアクションも当然だ。明らかに自分よりも倍の大きさを持つ怪物で、襲われたら一発で一捻りだ。

 

「何、この状況!? 何で真っ黒!? 可愛いもの全て台無しなんだけど・・・!!」

 

周囲を見渡して更に動揺するひなた。洋服や店が黒く汚されていっている。噂の怪物は友人から聞かされてはいたものの、懐疑的であまり信じておらず、まさか本当にいるとは。間近で見るのは初めてだ。

 

ニャトランに言われて、怪物の方を見る二人。すると、そこには・・・。

 

「のどかっちとちゆちー!?」

 

怪物の前に立ちはだかる友人二人だった。しかも側にはウサギとペンギンのような生き物もいる。

 

更に二人はひなたの眼の前で、姿を変えた・・・・・・。

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!!」

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!!」

 

「!?」

 

二人が目の前でコスプレみたいな正装に変わり、更には筋肉隆々の明らかに人の肌ではない男も現れた。

 

「来たな!プリキュア!」

 

「あれは?」

 

「ビョーゲンズのグアイワルラビ!!」

 

「貴様らの力、この俺に見せてみろ!! やれ、メガビョーゲン!!」

 

「メガビョーゲン!!」

 

男にメガビョーゲンと呼ばれた怪物は、首のマフラーを伸ばして襲いかかる。

 

キュアフォンテーヌは飛び上がって蹴りを入れるも、防がれてマフラーで吹き飛ばされる。

 

キュアグレースは飛び上がってハート型の光線を放つも、メガビョーゲンは周囲にバリアを張り、更には光線を跳ね返してきた。

 

お手当てが進んでいるとは思えない状況。そんな時・・・・・・。

 

「クチュン!!」

 

ラテがくしゃみをした。

 

「ラテ様!?」

 

「・・・もしかして、またペエ?」

 

「?・・・何の話だよ?」

 

「グレース、診察してみるラビ!」

 

前回もこんなことがあったような気がする。ペギタンはそう思った。

 

グレースはラビリンに言われて、ヒーリングルームバッグから聴診器を取り出し、ラテに向けてみる。

 

するとラテはメガビョーゲンがいるであろう方向を向きながら・・・・・・。

 

(・・・あっちの方で、金ピカな楽器さんが泣いているラテ)

 

「また・・・別の場所でメガビョーゲンが・・・」

 

グレースはラテの心の声に動揺する。前回もドクルンと名乗る別のビョーゲンズが現れ、メガビョーゲンを生み出していた。そのことがまた起こったのだ。

 

「フォンテーヌ!ペギタン!また別の場所でメガビョーゲンが!」

 

「やっぱりペエ・・・」

 

「大変!急がないと・・・!!」

 

急がないとまた苦しむ人が現れる。グレースとフォンテーヌは焦燥感を抱いていた。

 

「ほう・・・イタイノンのやつがやったか・・・あいつもなんだかんだ言ってやるやつだからな」

 

プリキュア二人の会話を聞いていたグアイワルがそう確信した。あんな臆病なやつでも本気を出せば侵略活動など簡単にできる。不本意だが、本当は自分よりも強かったりする。

 

「メガー!!」

 

電撃のような光線を放ってくるメガビョーゲン。

 

「!!」

 

「まずは、このメガビョーゲンをなんとかしないと・・・!」

 

グレースとフォンテーヌはそう決めると、メガビョーゲンと対峙する。

 

一方、ひなたは状況を呆然と見ている。

 

「嘘・・・え、何・・・プリキュア?」

 

・・・・・・理解が追いつかない。ゆめぽーとに怪物が現れ、可愛いものを真っ黒にされ、自分の友人が変身して、巨大な怪物と戦っている・・・?

 

特に理解がつかないのは、のどかっちとちゆちーが、自分の目の前でプリキュアというものに変身して戦っている・・・?

 

現実感がわかない・・・これは夢なのか?

 

「ひなたちゃん!?」

 

「え、避難したはずじゃ・・・!?」

 

ひなたの思考がめちゃくちゃになっていると、彼女に気づいたグレースとフォンテーヌが驚きの声を上げる。

 

確かに彼女はニャトランに連れられてメガビョーゲンがいない方向へ走っていったはず。なぜ、戻ってきているのか・・・?

 

「どうしよう・・・見られてたペエ・・・」

 

「もうニャトラン、何してるラビ!?」

 

(・・・さあ、ひなたはここからどう出るニャ?)

 

ペギタンが動揺し、ラビリンが憤慨する中、ニャトランはある一つの賭けを行おうとしているのであった・・・・・・。

 




感想、評価、ご指摘等、お願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話「快楽」

第6話、後編になります!


「きゃあぁぁぁ!!」

 

「うわあぁぁぁ!!」

 

「こっちだー!!」

 

女性客の悲鳴と男性客の悲鳴、そして避難誘導をしつつも逃げるもの。ゆめぽーとの別館は阿鼻叫喚で、様々な人の声で溢れていた。

 

「メガー!!」

 

チュドーン!!!

 

イタイノンとメガビョーゲンはステージ会場から場所を移動して、紳士服・婦人服売り場にいる客たちを襲っていた。

 

もっと恐怖で逃げ惑う人たちを見下ろし、かつ病気で蝕むために。別段、人が得意というわけではなくむしろ人がいない場所を好むイタイノンだが、あの快楽を忘れられず、ひたすら人ばかり襲っていた。

 

「キヒヒヒ・・・この辺もだいぶ人がいなくなったの」

 

気がつくと人もだいぶまばらとなり、病気で蝕んだ場所が残るばかり。もちろん、パパーーーーキングビョーゲンの言いつけも忘れない。

 

「メガー!!」

 

メガビョーゲンはひたすら指揮棒を振りながら指示、トランペット、バイオリン、小太鼓は光線や波動を放って破壊しつつ、病気に蝕んでいく。

 

「イタイノン・・・この調子でどんどん蝕もうネム」

 

「言われなくても、なの・・・」

 

不敵な笑みを隠さないイタイノン。そんな彼女を羊のパートナーーーーーネムレンは推しつつも、心配そうに見つめる。

 

「これでプリキュアをやっつけちゃえば、キングビョーゲン様に褒めてもらえるネム」

 

ネムレンの言葉に、イタイノンの頭にとある映像がよぎる。

 

ーーーー熊のようなぬいぐるみを床に叩きつけ、見下ろすかのように見る白衣の人。

 

「・・・・・・・・・」

 

イタイノンの体は少し震えていた。

 

なぜ、今の映像がフラッシュバックしたのか・・・?

 

「・・・イタイノン? どうしたネム?」

 

心配したネムレンが声をかけると、ハッとなったイタイノンは首を振っていつもの調子を取り戻す。

 

「なんでもないの・・・」

 

気づけばだいぶ蝕む場所も減ってきた模様。床も壁も破壊されてボロボロで、売られているきれいな服と共に真っ黒けだ。メガビョーゲンも気のせいか、少し大きくなった気がする。

 

ここは自分だけの場所になったが、どうせならもっと場所を広げたい・・・。

 

そう思い立ったイタイノンは暴れているメガビョーゲンに近づく。

 

「メガビョーゲン、あっち」

 

「メガビョーゲン!」

 

この別館から出るように指を指し、メガビョーゲンは指示に従って出口へと歩いていく。トランペットから放たれる光線を放って入り口を破壊すると、外へと飛び出した。

 

建物の中の騒ぎで異変を感じ取ったのか、人はほとんどいなくなっている。

 

逃げ惑う人々の姿が見れないのは残念だが、外にもこんなに不快感を感じるほどの場所がある。もっともっと病気で蔓延させて、パパの快楽を満たさなければ・・・。

 

「メガビョーゲン、もっと蝕んで」

 

「メガー!!」

 

小太鼓から波動が放たれ、近くの芝生が病気へとあっという間に蝕まれる。

 

「メガー!!」

 

バイオリンから楽譜のような光線が放たれ、街路樹が病気へと蝕まれていく。

 

「ビョーゲン!!」

 

トランペットから放たれる光線が近くの小さな建物を破壊し、病気へと侵されていく。

 

この調子でメガビョーゲンは外の景色をどんどん蝕んでいくのであった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひなたは二人の姿を見たとき、いろいろな状況を放棄してこんなことを思った。

 

ーーーーめっちゃかわいい!!!!

 

思わず口に出したその言葉は、グレースやフォンテーヌ、そしてビョーゲンズも唖然とさせた。

 

どう思うか賭けに出ていたニャトランは、ひなたの思わぬ反応に笑いが止まらなかった。まさか、敵がいるのにこんな面白い反応をする奴がいるとは。

 

友達思い・・・仲間を大事にしようとする・・・かなりノリがいい・・・。

 

まさに自分の理想のパートナーだった。それに仲間を助けようとする姿勢は何か心に熱いものを感じた。

 

しかも、自分よりも他人の心配をしてくれる・・・。

 

「お前、最高だよ! やっぱり俺、ひなたのことが気に入ったぜ!」

 

ニャトランの肉球が光る。

 

「心の肉球にキュンときた!!」

 

きっとひなたと一緒ならパートナーができる。そう思い、ニャトランは話した。

 

「なあ、ひなた。俺と一緒にプリキュアにならないか?」

 

「え、あたしもなれるの?」

 

「あの怪物、ビョーゲンズから地球を守るんだ!」

 

「地球を守る・・・」

 

「そう。お前の好きなものや大切なものを、守るんだよ!」

 

ひなたにも大事なものがある・・・大切な友達がいる・・・だからこそ、プリキュアに向いている、ニャトランはそう思いながら、手を差し出す。

 

そして、何よりも・・・ひなたは、自分が彼女の落とした口紅を届けようとして地面に衝突しかけたときも助けてくれた。今思えば、あれも運命だったのかもしれない。

 

「ひなた、お前ならできる! っていうか、俺はお前と組みたい!」

 

「・・・!」

 

ひなたはのどかとちゆのことを思い出していた。二人は今、怪物につかまっている。それを助けることができるなら・・・!

 

ひなたは立ち上がり、ニャトランへと歩み寄る。

 

「うん! わかった。やるよ、ニャトラン!」

 

二人の手と手が触れ合ったとき、あふれんばかりの光が立ち上った。

 

「な、なんだ!?」

 

「この光は!?」

 

「ひなたちゃん!?」

 

グアイワル、フォンテーヌ、グレースが驚く中、ひなたとニャトランの前には一本のステッキが現れていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃、イタイノンとメガビョーゲンはゆめぽーとの庭的な場所を病気に蝕んでいた。

 

芝生や街路樹、更には植えている花や面している海にも病気を蔓延させていく。

 

「メガビョーゲン!」

 

メガビョーゲンは庭園のような場所にも楽譜のような音波を放ち、病気へと蝕んでいく。

 

もうゆめぽーとの外のほとんどのものを病気で蔓延させたはず。気のせいか、メガビョーゲンがさっきよりも大きくなった気がする。

 

「ここもだいぶ蝕めるところがなくなってきたの・・・」

 

「そろそろ移動する・・・?」

 

イタイノンは暴れているメガビョーゲンを見ながら考える。もう自分は十分満足しているが、どうせだったら、もっと蝕むことができればクルシーナに吠え面をかかせられるかも・・・。

 

イタイノンはこの辺一帯を本当にないくらいに蝕ませた後、場所を移動させようと考えた。

 

「まだ蝕めてない場所があるの・・・そこを徹底的にやってからにするの」

 

「でも、もう十分大きいんじゃないかネム?」

 

「それで満足したらダメなの・・・ドクルンとクルシーナに足元を掬われるの」

 

心配そうなネムレンをよそに、イタイノンは不敵な笑みを浮かべる。

 

「メガー・・・」

 

「・・・ん?」

 

イタイノンはメガビョーゲンの様子がおかしいことに気づく。どうやら、トランペットから音が何も出なくなってしまったようで、指揮棒で叩いている。

 

カンカン!カンカン!

 

メガビョーゲンが叩き続けていると、トランペットはプルプルと震えた後、体を縮こませると・・・。

 

ポン!! ポン!!

 

トランペットの口から何かが吐き出された。

 

「!!」

 

イタイノンは瞬間移動をして何かを片手でキャッチする。握られていたものは中に病気のような赤い色をしたオンプが入った玉だった。しかも、2つだ。

 

「・・・これ、何なの?」

 

「見たことない玉ネム~」

 

メガビョーゲンの楽器から吐き出されたものだから、何か蝕むのに役に立つのは確かだ。でも、いまいち何のかわからない。

 

そういえば、ドクルンもメガビョーゲンが産んだ卵を持ち帰ってきたはず。もしかしたら、あの女に使えるかもしれない。

 

ーーーー帰ったらドクルンに調べてもらうの。

 

とりあえず、服のポケットに入れておくことにした。

 

・・・と、その時である。

 

「メガ!?」

 

「!!??」

 

「! 何ネム!?」

 

振り向くと何やらピンク色の光の柱が上がっていくのが見えた。自分にとって不快感しか湧かない、神々しい光。

 

その場所はゆめぽーとの中だ。確か、グアイワルがいたはず。まさか、失敗したのか?

 

あいつもあいつですぐに過信するところがある。調子に乗って失敗することも多くはなかった。

 

失敗したということは、あっちのゆめぽーとの蝕んだ場所は元に戻っていっているはず。ということはもっと蝕めるはず。プリキュアに会うリスクは大きいが、今のメガビョーゲンなら勝てると思う。

 

それに今なら人もたくさんいないし、思う存分自分の場所ができる。

 

イタイノンはそう決すると、メガビョーゲンに指示を出す。

 

「メガビョーゲン、あっち」

 

「メガビョーゲン!」

 

イタイノンとメガビョーゲンはゆめぽーと、もとい光の柱の方へと向かっていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニャトランとパートナーとなり、プリキュアーーーーキュアスパークルとなったひなたは可愛くなった自分の姿に興奮していた。

 

しかし、いつまでも興奮してはいられない。怪物をどうにかしないと。

 

ニャトランの言う通りに飛ぶと、体が軽く自分の体じゃないような気がした。この勢いでグレースとフォンテーヌを救出。

 

さらに光線を放ち、はじき返された光線をさらに弾きかえすなど、メガビョーゲンを圧倒。大いに立ち回った。

 

さあデビュー戦、大技で浄化の時間だ。

 

菱形の模様が描かれたヒーリングボトルをステッキへとかざす。

 

「エレメントチャージ!!」

 

そう言いながら光るステッキの先をハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「ヒーリングゲージ上昇!!」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングフラッシュ!!」

 

スパークルはそう叫びながら、ステッキをメガビョーゲンに向けて、黄色の光線を放つ。光線は螺旋状になっていた後、メガビョーゲンに直撃した。

 

その光線はメガビョーゲンの中に入ると、螺旋状のエネルギーは手へと変化して、光のエレメントさんを優しく包み込む。

 

菱形状にメガビョーゲンを貫きながら、光線は木のエレメントさんを外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「お大事に」」

 

光のエレメントさんは、鏡の中へと戻り、蝕んだ箇所も元に戻っていく。

 

「ふん、思いの外やるようだな。だが、あっちはどうかな? もう大きくなっているじゃないか?」

 

グアイワルは意味深に言うと撤退していった。

 

「え、勝ったの? やったー! あたしすごーい!」

 

スパークルは喜び、二人にハイタッチしようとするが・・・。

 

ドォーン!!

 

「ええ!? な、何!?」

 

「まだ終わってないラビ!!」

 

「メガビョーゲンは、あと一体いたはずニャ!」

 

突然の轟音にスパークルが驚き、ラビリンとニャトランが言うと、3人は辺りを警戒する。

 

ドォーン!!

 

また、轟音。しかも、少し大きくなった。こっちに近づいてきている・・・。

 

3人は周囲を警戒する。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

しかし、あれほど鳴っていた轟音が聞こえなくなった。

 

「あれ? 音がしない・・・?」

 

「いなくなった、ってこと?」

 

グレースとスパークルが気を抜いた・・・その瞬間・・・。

 

ビィィィィィィィィッ!!

 

チュドォーン!!

 

「きゃあ!!」

 

「え、何!?」

 

突然、3人の眼の前の地面に光線が直撃し、爆発と共に破壊音が響く。3人は思わず、片腕で防御姿勢を取る。

 

「メガビョーゲン!」

 

「グアイワル、やっぱりしくじったの。しかも、1人増えてるし。まあ、いいの。数の暴力は手数で払拭するの」

 

煙が晴れた後、フォンテーヌが光線が飛んできたところを見ると・・・。

 

「見て!あそこ!!」

 

フォンテーヌの言葉に、二人も見上げてみると・・・。

 

「ええ!? 怪物!? しかも、さっきのよりもデカくない!?」

 

そこにはゆめぽーとの屋根の上に乗っているメガビョーゲンと、ゴシックロリータの服を着た少女がいた。メガビョーゲンを連れているということは、ビョーゲンズだろう。

 

「あの子は・・・?」

 

「ビョーゲンズのイタイノンラビ!」

 

「あんな可愛い子が・・・?」

 

そう話していると、イタイノンの顔の後ろから小さな羊のマスコットのような生き物が姿を現れた。

 

それを見て、驚愕するものが2人、唖然とするものが1人いた。

 

「「!?」」

 

「え・・・シプリン・・・?」

 

「・・・ネムレンだネム」

 

唖然としていたーーーーニャトランが名前をつぶやくと、ネムレンはぎこちないながらも訂正した。

 

「え?ニャトラン、あの可愛い子と知り合い?」

 

「・・・ああ、そうだよ」

 

ひなたの言葉を肯定するニャトラン。

 

「シプリンも、ビョーゲンズになってたペエ・・・?」

 

「なんで、そんなこと・・・?」

 

「・・・・・・・・・」

 

ペギタンとラビリンがそう言うも、ネムレンは辛そうに目をそらしながら何も答えない。

 

「おい!シプリン!」

 

先ほどまで顔を俯かせていたニャトランがネムレンに向かって叫ぶ。

 

「お前、なんでビョーゲンズに・・・!? 一緒に地球を癒そうって約束したはずだろ!?」

 

「・・・・・・・・・」

 

ニャトランの悲痛な叫びも、ネムレンは俯いたままで答えようとしない。

 

「シプリン!!」

 

「・・・さい」

 

「え・・・?」

 

小さな声でぶつくさ言うネムレン。ニャトランがその言葉に戸惑っていると・・・。

 

「うるさい!! ニャトランには関係ないよ!!」

 

ネムレンは感情が爆発したかのように叫ぶ。

 

「関係ないってことないだろ!! 俺たちは友達じゃんか!!」

 

「何が友達なの!? 一緒に地球を癒すとか言って、自分だけパートナーなんか見つけて! 私のことなんかどうでもよかったんでしょ!!」

 

「そんなことない・・・!! オレは・・・!」

 

「もう放っておいてよ!! 地球もニャトランたちも大嫌いなんだから!!」

 

悲痛に叫ぶネムレンを見かねたのか、イタイノンは手で優しく髪の後ろに下げさせる。

 

「相棒をたぶらかすのはやめてほしいの。見てて見苦しいだけなの。メガビョーゲン」

 

「メガ、ビョーゲン!!」

 

イタイノンはメガビョーゲンに指示すると、少し大きくなった怪物は屋根の上から飛び上がり、3人を押しつぶそうと飛び降りる。

 

「来るラビ!!」

 

3人は飛び退いてかわす。

 

「「はあぁぁぁぁ!!」」

 

フォンテーヌとスパークルはその直後に蹴りを入れようとするが、そこにトランペットと小太鼓がそれぞれ攻撃を受け止める。

 

「「きゃあ!!」」

 

トランペットと小太鼓はそのまま二人を吹き飛ばすも、大抵を立て直す。

 

「はあぁぁぁ!!」

 

一方、グレースはハート型の光線をメガビョーゲンに放つも、バイオリンが黒い光線を放って相殺する。

 

「メガ、ビョーゲン!!」

 

「え、きゃあぁぁ!!」

 

そこへメガビョーゲンが指揮棒を長く伸ばすと、まるでブーメランを投げるかのようにグレースへと投げつけた。指揮棒が直撃したグレースは地面へと落ちる。

 

「グレース!!」

 

フォンテーヌとスパークルは近づこうとするも、トランペットが二人の前に光線を放って近づけないようにする。

 

更にトランペットはフォンテーヌに向かって突進し、バイオリンはスパークルに近づいて弦を振りかぶる。

 

「ぷにシールド!!」

 

「くっ・・・」

 

フォンテーヌはぷにシールドで防ぐも、攻撃が重くなかなか返せない。

 

「ああもう!楽器が邪魔で近づけないし!!」

 

スパークルはステッキで防ぐも、攻撃の隙をつくことができない。

 

パッパラッパー!パッパラパッパー!!

 

トランペットはぷにシールドで防ぐ、フォンテーヌに向かって光弾を乱れ打ちする。

 

「うっ・・・くっ・・・あぁ!!」

 

フォンテーヌは光弾を防ぎきることができず、吹き飛ばされてしまう。

 

「フォンテーヌ!! きゃあ!!」

 

バイオリンはスパークルに楽譜の光線を放つ。直撃して爆発し、地面へ吹き飛ばす。

 

すると、メガビョーゲンは3つの楽器を自分の周囲を囲むように配置する。

 

「うぅ・・・え、何?」

 

グレースはなんとか立ち上がるも、メガビョーゲンの行動に疑問を抱く。

 

そして、指揮棒を構え直すと・・・。

 

「メガー!!」

 

ブウォン!! ブウォン!! ブウォン!!

 

ブウォン!! ブウォン!! ブウォン!!

 

トランペット、バイオリン、小太鼓が、メガビョーゲンの指揮を振ると一斉に音楽を奏で始めた。

 

「きゃあぁぁ!!」

 

「な、何? この音・・・!?」

 

「頭がおかしくなっちゃう・・・!!」

 

3人は不協和音を聞かされ、思わず耳を塞ぐ。音は明らかな不快な音で、頭が痛くなる。

 

突然、演奏が止まり、頭痛がなくなったかと思うと・・・。

 

「え・・・?」

 

「メガビョーゲン!!」

 

「「「きゃあぁぁぁぁ!!!」」」

 

メガビョーゲンが指揮棒を伸ばして、3人を薙ぎ払い吹き飛ばす。

 

「くっ・・・!」

 

「これじゃあ、メガビョーゲンに近づけない・・・」

 

ブウォン!! ブウォン!! ブウォン!!

 

「嫌ああぁぁぁ!!」

 

「うっ・・・くぅ・・・」

 

「ああぁぁぁ!!」

 

3人は立ち上がろうとするが、3つの楽器はさらに不協和音を奏でて苦しめてくる。このままでは防戦一方だ。

 

ビィィィィィィ!!

 

チュドーン!!!!

 

また、音が止むと3つの楽器は黒い光線を3人それぞれに向かって放った。

 

煙が晴れた頃には、ボロボロになって倒れている3人の姿があった。

 

「キヒヒヒヒ・・・プリキュアなんか大したことないの。これだったら私でも捻り潰せるの」

 

イタイノンはメガビョーゲンがプリキュアを圧倒している姿を見て、笑みを浮かべる。

 

「うっ・・・・・・」

 

「このままじゃ・・・やられる・・・!」

 

スパークルとフォンテーヌは強力なメガビョーゲンに絶望に近い感情を抱いていた。

 

「諦めちゃダメだよ!!!」

 

そう叫んだのはグレースだった。伏していた状態から立ち上がろうとしている。

 

「私たちが諦めたら・・・この場所も・・・生きている人たちも・・・みんな、みんな苦しむことになっちゃう・・・そんなのダメ・・・!」

 

グレースは立ち上がると再びステッキを構える。

 

「私は守りたい・・・ここも、この大好きな町も、親切にしてくれる町も、みんな守りたい!!」

 

グレースの守りたいという気持ちに感化され、フォンテーヌとスパークルも立ち上がる。

 

「でも・・・あの楽器をどうにかしないと・・・!」

 

「あいつに近づけない・・・! でも、あれめちゃめちゃ強いし!」

 

「大丈夫!」

 

フォンテーヌとスパークルの弱気な言葉に、グレースが笑顔を見せる。

 

「私たち3人なら、きっとできる!!」

 

グレースの言葉に、フォンテーヌとスパークルは頷き、ステッキを再び構える。

 

「ふん。見え透いた虚栄心なんかくだらないの。メガビョーゲン、トドメ!!」

 

「メガー!!」

 

イタイノンはメガビョーゲンに命令すると、指揮棒を振り上げる。

 

「! またあれが来るわ!!」

 

フォンテーヌが言う。また不協和音の音波を奏でる楽器たちの合図だ。

 

「バラバラに攻撃しちゃダメラビ!!」

 

「3人で同時に、足並みを揃えて攻撃をしかけるペエ!!」

 

「ニャ!!」

 

「うん!!」

 

3人はステッキを構えて、臨戦態勢をとる。メガビョーゲンは指揮を振ると・・・。

 

トランペット、バイオリン、小太鼓が一斉に音を奏で始めた。

 

「いまラビ!!」

 

「「「ぷにシールド!!」」」

 

ステッキから肉球のシールドを展開し、さらに3人は同時にそれぞれの楽器に向かって飛び上がる。

 

不快な音波はぷにシールドによって打ち消されていき、それぞれの楽器へと近づいていく。

 

「メガ!!??」

 

それに驚くメガビョーゲン。そうしている間に、3人のぷにシールドが楽器を捉えようとする。

 

「メガ!!」

 

メガビョーゲンは指揮棒を慌てたように振ると、楽器たちは体をふるって打ちのめそうとするが、ぷにシールドが防ぎ受け止める。

 

「っ・・・!」

 

「くっ・・・!!」

 

「うっ・・・!!」

 

3人は相手からすごい力を感じながらも、徐々に楽器の体を押しのけていき・・・。

 

「「「はあぁぁぁぁ!!!」」」

 

それぞれの楽器を弾き飛ばした。

 

「メ、メガッ!!??」

 

3つの楽器はメガビョーゲンへと吹き飛んで直撃し、仰向けに倒れる。

 

3人は同時に着地し、その中の一人、キュアグレースがステッキをメガビョーゲンへと向ける。

 

「「キュアスキャン!!」」

 

ラビリンの目が光り、メガビョーゲンの中にいる、苦しんでいる様子のエレメントさんを見つける。

 

「光のエレメントさんラビ!」

 

「場所は左肩!!」

 

そうしている間にメガビョーゲンは再び立ち上がり、指揮棒を長くするとそれをブーメランのように投げつけてきた。

 

「ぷにシールド!!」

 

スパークルが素早く前に立って、肉球型のシールドを展開し、指揮棒を上へと弾く。

 

「はあぁぁぁ!!!」

 

さらにステッキから光線を出して、飛び上がったグレースがハート型の光線をステッキに向かって放つ。

 

「メ、メガァ!?」

 

ピンク色の光に包まれた指揮棒はメガビョーゲンへと飛んでいって、顔へと直撃。思わず、メガビョーゲンは膝をついたのであった。

 

「今だよ、フォンテーヌ!!」

 

「メガビョーゲンを浄化ラビ!!」

 

「ええ!!」

 

フォンテーヌは水の模様が描かれたヒーリングボトルをステッキへとかざす。

 

「エレメントチャージ!!」

 

そう言いながら光るステッキの先をハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「ヒーリングゲージ上昇!!」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングストリーム!!」

 

キュアフォンテーヌはそう叫びながら、ステッキをメガビョーゲンに向けて、水色の光線を放つ。光線は螺旋状になっていた後、メガビョーゲンに直撃した。

 

その光線はメガビョーゲンの中に入ると、螺旋状のエネルギーは手へと変化して、水のエレメントさんを優しく包み込む。

 

水型状にメガビョーゲンを貫きながら、光線は光のエレメントさんを外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「お大事に」」

 

光のエレメントさんは、トランペットの中へと戻り、蝕んだ箇所も元に戻っていく。

 

「・・・ふん。まあ、いいの。今日は満足なの」

 

イタイノンは心に満たされたような気持ちを抱きながら、その場を後にしようとする。

 

「シプリン!!」

 

ニャトランが姿を隠した友人に向かって叫ぶ。イタイノンは足を止めると顔だけを後ろに向ける。

 

「オレはお前がそっちにいるなんて許さないからな!! 絶対、お前の目を覚まさせてやるニャ!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

イタイノンと彼女の中に隠れるネムレンは何も答えずに退散していったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃病院へと戻ってきたイタイノンは、地下の実験室に来ていた。

 

扉を開けると、そこには部屋の中から窓越しから観察しているドクルンの姿があった。

 

イタイノンはその光景に黙って近づいていき、ドクルンの背後で立ち止まる。

 

「・・・まるで変質者みたいなの」

 

「おや、お帰りなさい。どうでした?」

 

「・・・いつも通りなの」

 

「それはよかったです。それにしても、この娘ったら面白いんですよねぇ」

 

何がよかったのかはわからないが、付き合うと疲れるので、話を聞いてやることにする。

 

「先日、私が持ってきたメガビョーゲンの卵、あれ与えてやったでしょう?」

 

「・・・それがどうかしたの?」

 

「あれを与えて数時間経つというのに、この娘、メガビョーゲンを拒絶するように抵抗しているんですよぉ」

 

よくわからなかったイタイノンは窓越しから覗いてみると、苦痛に顔をしかめる少女から何か蠢いているのが見えた。どうやら受け入れるのを拒んでいるかのよう。

 

抵抗して何の意味があるの? 抵抗したって苦しいだけだと思うけど・・・。

 

「あれってずっと前からこういう状態なの?」

 

「そうですねぇ。普段ならナノビョーゲンに取り憑かれるはずなのですが・・・」

 

イタイノンは「あっ」と思い出したかのように、ポケットから玉のようなもの2つを取り出す。

 

「私のメガビョーゲンからこんなものが出てきたの」

 

「・・・ほう?」

 

ドクルンはイタイノンから2つの玉を取ると、観察するかのような目で見る。

 

「・・・もしかしたら、メガビョーゲンの卵と同じようなものかもしれませんねぇ」

 

ドクルンはそう言うと部屋へと入っていき、ベッドの上で寝たきりになっている少女へと近づく。

 

パリンッ!!!!

 

「!?」

 

そして、2つの玉のうちの一つを床に叩きつけた。

 

イタイノンは突然の行動に驚いていた。一体、何をしているの・・・?

 

すると、玉の割れたところから赤色のものが飛び出していき、少女の体へと取り憑いていく。

 

「・・・!?・・・!!」

 

少女からかすれたような声が聞こえ、気のせいか少女の顔がますます苦痛に歪んでいるようにも見える。

 

「フフ。やはりね・・・」

 

ドクルンは不敵な笑みを浮かべながら部屋を出ると、窓から少女を観察する。

 

「あの玉は、私のメガビョーゲンの卵と同じ効果があるみたいですねぇ・・・」

 

「そんなの見てればわかるの」

 

イタイノンはドクルンに背を向けると出口に向かって歩き出す。

 

「おや? もう帰るんですかぁ? ここからが面白いというのに」

 

「今日はもう疲れたの。帰ってゲームでもするの」

 

「そうですかぁ。ご苦労様でした・・・」

 

ドクルンは引き止めようともせずに愉快そうな声で返す。イタイノンはそれに少しイラっとしたが、相手にすると喜びそうなので放っておくことにした。

 

地下室から出ると、イタイノンはいまだに出てこない相棒を気にかける。

 

「ネムレン・・・」

 

髪に隠れているはずの相棒に声をかけるが、反応はない。

 

「・・・いい加減に出てくるの」

 

しばしの沈黙の後、イタイノンの髪から顔出すネムレン。その顔はなんだか辛そうな表情だった。

 

「・・・・・・・・・」

 

ネムレンは黙ったまま何も答えない。

 

イタイノンは手のひらを広げると、そこに立てと言わんばかりに手のひらを振る。ネムレンは少し戸惑いつつも、手のひらへと足をつける。

 

「・・・イタイノン、あ」

 

何か話そうとするネムレンだが、イタイノンはまるで皆まで言うなと言わんばかりに彼女の頭を優しく撫でる。

 

「・・・一緒にゲームやる?」

 

「え・・・?」

 

「あんなネムレンをたぶらかす虎猫のことなんか忘れて、ゲームするの」

 

ネムレンがイタイノンの方を見ると、彼女は無意識なのか優しい微笑を浮かべていた。

 

ニャトランがパートナーとなってプリキュアの味方になり、思うところもある。でも・・・。

 

「・・・うん」

 

でも、今は珍しく見せる彼女の優しさを噛み締めようと心に思うのであった。

 




感想、評価、ご指摘等、お願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話「苦悶」

本編第5話がベースです。
今回は思ったほど長くなってしまったので、3部に分けます。まずは前編です。


ビョーゲンキングダム、どこを見渡しても人間が住めるような場所が存在しない閉鎖的な世界。ビョーゲンズにとっては快適な世界であるその場所で、今日も幹部たちが収集されていた。イタイノンとグアイワルがキングビョーゲンへと報告しに来たからだ。

 

ーーーープリキュアが3人に増えた。

 

それを聞いたキングビョーゲンは怒ることも、嘆くこともなく、ただ浮かんでいるだけだ。

 

「この短期間でプリキュアが3人になるとはね・・・」

 

「全く呆れたわよ。アタシがいない間にもう一人増えてるんだから」

 

「プリキュアが何よ。あんな小娘たち、とっととけちょんけちょんにしちゃえばいいのよ」

 

「プリキュアは単体でも浄化できるほどの力がありますねぇ。そう楽観的にはいかないんじゃないですかぁ?」

 

「・・・忘れるな」

 

各自が勝手な意見を述べる中、キングビョーゲンが厳かな口を開く。

 

「プリキュアの存在は今、我々に単独できるヒーリングアニマルがいないという証。まずは我が体を取り戻すことが先決だ」

 

「ですよねー♥」

 

明らかにプリキュアやヒーリングアニマルを警戒していない態度に、シンドイーネが調子のいい発言をする。

 

「ふん。相変わらず調子いい・・・」

 

「うるさいわね!」

 

若干不快感を隠さずに言うダルイゼンに、苛立つシンドイーネ。

 

「大体プリキュアがいたんじゃ、地球を病気に犯すことだってできないの」

 

「おばさんは、頭ん中お花畑でウジ虫でも沸いてんじゃないの?」

 

「誰がおばさんよ! 言われなくてもわかってるわよ! そんなこと!!」

 

イタイノンとクルシーナが好き勝手な暴言を吐き、シンドイーネはますますイライラする。

 

「キングビョーゲン様。このシンドイーネが気高きキングビョーゲン様のお身体を取り戻すために、今日も全力で行ってまいりまーす♥」

 

シンドイーネはそう言うと意気揚々と地球へと向かっていた。

 

「ふん」

 

「・・・なんかクルシーナ、機嫌悪くない?」

 

「さて? 私にはわかりかねますが。最初からああだったので」

 

「クルシーナが仏頂面なのはいつものことなの」

 

「だが、あんな気迫で不機嫌なあいつは初めて見るな」

 

なんだか不機嫌な様子のクルシーナに、珍しくダルイゼンがドクルンとイタイノンに問いかけるが、二人はどこ吹く風だ。それもそのはず、呼びに行った時からすでにご機嫌斜めだったのだ。

 

3人がこしょこしょ話していると・・・。

 

「おい」

 

「「「!?」」」

 

「何こそこそと話してんだよ?」

 

4人がヒソヒソしていることに気づいたクルシーナが、いつもよりも攻撃的な態度で呼びかける。3人はびくりとしたが、ドクルンは相変わらずニヤッとしている。

 

「・・・別に」

 

「クルシーナには関係ないの」

 

「俺は何も聞いていないぞ」

 

ダンッ!!!

 

「ウソつけ!! アタシがどうのこうの言ってただろうが!!」

 

右足を踏みつけるように叩きつけ、4人を睨みつけるクルシーナ。珍しくイタイノンも無表情を崩して動揺している。

 

「・・・俺、急用を思い出したから」

 

「私はあの娘の様子を見に行かないとねぇ」

 

「あっ! おい! ずるいぞ!!」

 

「逃げるな、なの!!」

 

ますます怒るクルシーナに関わりたくないダルイゼンとドクルンは適当な理由をつけ、グアイワルとイタイノンの制止の声も聞かずに去っていく。

 

そこに間髪入れずにクルシーナがグアイワルの前に瞬間移動をする。

 

「あ・・・」

 

「オラァっ!!」

 

「グヘッ!?」

 

顔面に蹴りを入れられたグアイワルは突き飛ばされて倒れる。イタイノンは「ああ・・・ああ・・・」と小さく震えていた。

 

「ハッ、憂さ晴らしにもなりやしない! 地球に行ってくる!」

 

クルシーナはそう吐き捨てると瞬間移動をして消える。

 

「ったく、なんなんだよ・・・あいつは・・・」

 

グアイワルは蹴られた頬を抑えながら不満を口にする。

 

「・・・クルシーナ、怒らせてはいけないやつ、なの」

 

「本当に一体何があったネム?」

 

イタイノンは体を抱きしめるようにして震わせており、彼女のカチューシャ姿のネムレンは明らかに様子がおかしいクルシーナの様子に心配そうに声を出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すこやか市のとある建物の屋根の上。クルシーナはまだ苛立ちを隠していなかった。

 

「ったく、何よもう! あいつらと来たら!!」

 

あいつらというのは誰かはわからないが、少なくともビョーゲンズの誰かだろう。

 

「アタシの知らないところでメガビョーゲンを大きく成長させちゃうなんてさ!」

 

そう、クルシーナは自分が出撃した以上にドクルンやイタイノンが活躍していることが気に入らなかった。自分はあっさり倒されたのに、あの二人のメガビョーゲンだけはプリキュアを圧倒していた。本当に気に入らない。

 

「そんなことで怒ってたウツ」

 

「そんなことって何よッ! アタシにとっては死活問題だっての死活問題!」

 

「クルシーナはいつも生きてるって感じがするぐらいうるさいウツ」

 

ウツバットの言葉に青筋を立てたクルシーナは握りこぶしを帽子になっている彼へと叩き込む。

 

バシッ! バシッ! バシッ! バシッ!

 

「痛い! 痛い、痛いウツ!」

 

「下僕のくせにアタシに口答えしてんじゃないっての!」

 

「げ、下僕じゃないウツ〜!」

 

「あら、ごめんなさい。下僕じゃなくて、小間使いの間違いだったわ」

 

「それも違うウツ〜! あ、痛い! 体が凹むウツ!!」

 

「うるさいうるさい!!」

 

ウツバットに何度も拳を叩き込んでも、クルシーナの怒りは治まらなかった。

 

でも、ウツバットが痛がるような様子を見て、ちょっとだけ・・・満たされた。

 

しかし、本当の感情は表に出さず、あくまでも不機嫌そうな顰めた顔をする。

 

「あーあ、もう!お父様もあいつらもグータラでやんなっちゃうわ」

 

「・・・でも、それがビョーゲンズウツ。病気してるからやる気なんか起きないウツ」

 

「そういうもんなのかね・・・」

 

ため息を吐くクルシーナ。プリキュアのことを軽視しすぎだ。ヒーリングガーデンのことなんか二の次だ。確かにあそこにヒーリングアニマルたちはお父様が大方再起不能にしたからいない。でも、見習いを全員潰したわけではない。そこから降りてきたウサギとペンギンとネコはすでにパートナーを見つけていて、しかも一人一人がメガビョーゲンを浄化できる技を持っている。

 

そんな奴らを放置して地球を病気で蝕むなど、いつまでも進まないいたちごっこになること間違いなし。

 

まあでも、そんな大した作戦を思いつかないのも事実だ。一つ分かるのはプリキュアの3人がメガビョーゲンを見つけられない場所で地道に病気で蝕むことをやるしか・・・・・・。

 

「クルシーナ、僕らじゃ考えてもあれだから早く蝕みに行こうウツ。ブッ!?」

 

「さりげなくアタシを『僕ら』のカテゴリーに入れるな! わかってんだよ、言われなくても!」

 

ウツバットの言葉にムカッとしたクルシーナが拳を一発入れる。こいつは余計な一言がいつも多すぎるのだ。

 

クルシーナは屋根の上から飛び降りると、そこは建物の入り口の前。入り口の横の看板には『健やか水族館』と書かれていた。

 

「水族館ね・・・・・・」

 

クルシーナはまるで興味がないというような顔をしつつも、水族館の中へと入っていく。

 

「ガラス張りの中に魚がいるわね。どういう趣味?」

 

建物の中へとさらに入っていけば、水槽の中に水が満たされていて、魚が泳いでいるだけ。ただそれだけのシステム。別段面白いことなど一つもない。

 

まあ、魚だけではなく、ガラス張りの部屋の中にいるのはアシカやペンギンといった動物たちがいるのも見かけた。まあ、これもこれといって面白いこともないが・・・。

 

「全く、地球の人間たちってこんなもの見て何が面白いのかねぇ? っていうか、趣味悪すぎでしょ」

 

「檻の中に閉じ込めているなんて、人間って本当にひどい奴らウツ」

 

クルシーナはつまらなそうに館内を徘徊する。自分にとって面白いものなんて何一つない。人間界の娯楽っていうのはよくわからん。

 

今度は動物のショーとやらがやるというステージへと入ってみる。すると、大勢の人間たちと奥にあるのはプールのような水槽で泳いでいるイルカが。

 

イルカはプールから飛んだり、人間の男女が乗せたりするなどしている。それが行われるたびに人間たちが大喜びをしている。

 

クルシーナも年相応の少女の外見だが、喜ぶどころかつまらなそうに見ている。イルカが泳いでいるだけのショーなんか何が面白いのか。

 

やがて興味を失くしたクルシーナはショーが終わる前に、そのまま扉を開けてステージを後にするのであった。

 

「地球の人間たちの感性がわからん・・・」

 

そうぼやくクルシーナだが、頭の上の帽子になっている相棒はカタカタと体を震わせていた。

 

「ん? ウツバット? 何、カタカタ震えてんのよ?」

 

「・・・・・・信じられないウツ。あんな風に動物たちを酷使して見世物にしてるなんて・・・!」

 

ウツバットはどうやら人間がイルカに乗ったり、イルカたちにジャンプさせているのが気に入らないらしい。同じアニマルという名の動物だから肩入れしているのか?

 

まあ、クルシーナにとってはどうでもいいことだったが・・・。

 

「ふん。知らないわよ、そんなこと。生きるための餌ぐらいは与えられてんじゃないの?」

 

「餌を与えて・・・生きておかせて・・・あんな風に下僕のように酷使されるなんて・・・人間には動物の苦しみがわかっていないウツ!」

 

そのウツバットの言葉に、クルシーナの歩みが止まる。彼女の頭の中に一つの映像がフラッシュバックした。

 

ーーーー横になった自分。そして、虚空へと伸ばされる自分の手。

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナはその映像が頭から消えた後、しばらく沈黙していた。そして、拳を振り上げると・・・。

 

バシッ!!!

 

「痛っ! な、何もひどいことは言ってないウツ!」

 

ウツバットが抗議の声を漏らすも、クルシーナは不敵な笑みを浮かべていた。

 

「ウツ・・・?」

 

「そうね。健康的なやつには苦しみがわからないわよねぇ・・・」

 

クルシーナはそう呟くと再び歩みを進めていく。その口調はいつもと落ち着いたものだった。

 

健康的な環境など極めて不快だ。それはもちろん人間でも、この水族館の動物であっても、健康的な環境であれば苦痛など感じていないのと同じだ。

 

そう。ここの水族館の魚共は飼育員か何だか知らない人間たちの手かはわからないが、健康的すぎるのだ。自分が本当に不愉快に思えるほどに・・・。

 

最近のドクルンとイタイノンは調子に乗っている気がする。赤い卵と音符の玉がメガビョーゲンから出てきたからといって何を浮かれているのであろう。ものすごくツヤツヤ、生き生きとしていた。全くもって気に入らない。

 

幹部に八つ当たりをしても、魚なんか眺めても、相棒をいじくって遊んでいても晴れない苛立ち。これを治めるにはやはり生き物の苦痛に関する快楽が必要だ。

 

そうだーーーー今日はこの水族館を蝕んでやろう・・・ここに他の奴らが来ようと構うものか。

 

クルシーナは再び周囲を見渡していると、「深海魚コーナー」と描かれた地下につながる階段を見つける。

 

何やら不快なものを感じた彼女は地下へと降りていく。深海魚という展示のためか、地下は暗くライトが灯されている。

 

その中の大きな水槽の一つ。そこにはこれまでつまらなそうに見ていた魚よりも明らかに大きい魚がいた。そして、その底には何度も枝分かれしたような植物のようなものーーーーサンゴがあった。

 

「・・・暗いところにいるのに、生きてるって感じね」

 

まるでイタイノンのようだ。あいつもよく引きこもってゲームをしていて、そのときの彼女は何だか生き生きとしているようだ。まあ無表情なので、本当のところはよくわからんが・・・。

 

クルシーナは健康的なサンゴを見て、不敵な笑みを浮かべた。

 

右手の握りこぶしを開き、手のひらに息を吹きかける。

 

「進化しろ、ナノビョーゲン」

 

「ナーノー」

 

生み出されたナノビョーゲンは鳴き声を上げながら、水槽の底にいるサンゴに取り憑く。サンゴが徐々に病気に蝕まれていく。

 

「あぁ・・・ああああ・・・」

 

サンゴの中にいる妖精、エレメントさんが病気へと染まっていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガビョーゲン!」

 

頭部のようなものにリュウグウノツカイのような口付きの触手、頭の下にある体にはケージのような体、そしてイカのような足を4本持つメガビョーゲンが誕生した。

 

水槽の中から現れたメガビョーゲンは手始めに、口のようになっている触手から病気の泡をばらまく。綺麗だった水槽がまるで赤いものが沈殿するかのごとく汚れ、病気に蝕まれていく。

 

水槽の中の魚たちは突然の怪物にびっくりして、どこかへと行ってしまったようだ。

 

「うわあぁぁぁー!!」

 

「か、怪物ー!!」

 

深海魚コーナーにいた客がメガビョーゲンに気づいて逃げ出していく。

 

「あーあ、どんどん汚れていくわね。まあ、アタシにとっては愉快そのものだけど」

 

人間の無力さが本当に心地いい。これで苦しんでくれるやつがいればもっといいが。

 

ここの深海魚コーナーの水槽は意外にも大きい。この中でメガビョーゲンを暴れさせて赤く染めてしまえば、メガビョーゲンも大きくなっていくはず。

 

プリキュアもここにはまだいないようだし、姿もどこにも見てない。心置きなくここ一帯を病気で蝕むことができる。

 

「メガビョーゲン、その調子でもっと蝕め」

 

「メガー!!」

 

メガビョーゲンはクルシーナの命令に従い、水槽の中に次々と病気をばらまいていく。

 

「・・・ウツ?」

 

帽子になったウツバットは何やら、健康的で不快なもの、でもどこか懐かしいような気配を感じた。

 

この気配、もしかしてプリキュアが・・・?

 

ウツバットは突然、クルシーナの頭の上の帽子から小さなコウモリへと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いないね・・・ペギタン・・・」

 

「そりゃそうだろう!」

 

「外に出たとか・・・?」

 

「ないな〜。アイツ、怖がりだからな〜」

 

のどか、ちゆ、ひなたの3人は水族館に遊びに来た・・・はずなのだが、今はいなくなってしまったペギタンを探していた。

 

イルカショーを見たり、水槽の魚たちを見たりと、プリキュア3人での交流会だったのだが、突然ペギタンが姿を消してしまったのだ。

 

今はひなたの妙案で館内のお土産売り場を探しているのだが、見つかる気配が全くしない。

 

「おーい、ペギタ〜ン! ぬいぐるみのフリはもういいよ〜!」

 

ひなたはなぜか床に落ちていたペンギンのぬいぐるみを片付けながら、コショコショ声で呼びかける。ペギタンが見つかると大変なことになるため、慎重に探しているのだ。

 

ちゆはぬいぐるみがある場所を見つめて、何かを感じていた。

 

と、その時である・・・!

 

「クチュン!! クチュン!!」

 

「「!?」」

 

「ラテ・・・!?」

 

ラテの額のハートマークの色が変わり、くしゃみをしてぐったりとし始めたのだ。この反応は・・・!

 

しかも、ペギタンが行方知れずなこんなときに・・・!

 

「こんなときにビョーゲンズかよ・・・!」

 

「しかも、2回くしゃみしたラビ・・・!」

 

ラビリンの、2回くしゃみをした、それは要するに・・・。

 

「早くどこかで診察ラビ・・・!!」

 

ラテが突然体調を崩したということは、どこかでビョーゲンズが現れたという証。悪行を止めないとラテの体調はよくならないのだ。

 

「こっち!!」

 

プリキュアの活動をあまり見られるわけにはいかない。ひなたは隠れられる場所を見つけて、のどかとちゆも後に続く。

 

のどかが聴診器をかざして、ラテの心の声を聞いてみると・・・。

 

(ここの泡が泣いてるラテ・・・、真っ暗なところで赤い植物が泣いてるラテ・・・)

 

「ここの? もしかして、水槽の泡・・・?」

 

「赤い植物って、ここだとサンゴのことかしら? でも、真っ暗なところ?」

 

ちゆとひなたは周りを見渡してみるも、病気で染まっている水槽は見当たらないし、暗い場所もあるわけでもない。

 

「真っ暗な場所・・・あ、ここって深海魚コーナーがあったよね!?」

 

ひなたが思い出して叫ぶ。ここには深海魚の水槽も存在するが、雰囲気を演出してか、深海魚は比較的灯りを消した真っ暗な感じになっているのだ。そこのサンゴが狙われたのかもしれない。

 

しかし、メガビョーゲンを浄化するか・・・ペギタンを探すか・・・3人の心は噛み合っていなかったのである。

 

パサパサパサ

 

「・・・ラビ?」

 

羽音が背後から聞こえて振り向くラビリン。すると、暗い通路に何かが飛んでいくのが見えた。

 

それはーーーーこっちからはシルエットにしか見えなかったが、まるでコウモリのような姿・・・。

 

・・・コウモリラビ?

 

そういえば、ラビリンたちの仲間にコウモリのような見習いがいたはず・・・今は連絡も取れなくて忽然と姿を消してしまい、消息不明だ。

 

もしかして、あの姿は・・・!

 

ラビリンは突然、ひなたのフードから飛び出す。

 

「ラビリン!?」

 

「おい! どこに行くんだよ!?」

 

突然の行動にひなたとニャトランが驚く。こんな事態だというのに一体どこへ行くつもりなのか・・・?

 

「ちょっとあっちを見てくるラビ!!」

 

ラビリンは理由も言わずに、そのまま暗い通路の向こうへと行ってしまった。

 

「あ、待ってよ! ラビリン!!」

 

のどかがラビリンに向かって叫ぶも、彼女は通路の奥へと消えてしまった。

 

ラビリンは飛んでいる影を追いかける。暗い通路へと入っていくと、影が扉を開けて入っていくのを見る。

 

扉が閉じる前にラビリンは奥へと入っていく。そこは階段だった。

 

周囲を見渡すと下の階段へと影が向かっていくのが見えた。

 

「あっちラビ!」

 

ラビリンは影を見失わないように飛んでいく。一体、どこへ向かおうとしているのか・・・?

 

すると影がB1と書かれた扉を開けて入っていくのが見えた。ここも扉が閉まる前に入っていく。

 

「ラビ!?」

 

ラビリンは驚愕した。ここは真っ暗な空間ーーーーおそらく、ひなたが言っていた深海魚コーナーだろう。

 

その深海魚が飼われているであろう水槽が・・・絵の具をこぼしたかのように赤く染められていた。

 

「こ、これは大変ラビ・・・!!」

 

懐かしさを感じて影なんかを追いかけている場合ではない・・・! 早くのどかたちを連れてこないと・・・! それに、のどかはラビリンがいないとプリキュアになれない。

 

そう思ったとき・・・ラビリンの背後から風を切ったような音がしたかと思うと・・・!

 

「ムギュッ!?」

 

ーーーー突然、体が締め付けられた。それはまるで手で握られたかのよう。

 

いや、握られたかのようではない、実際に握られているのだ。それも、捻り潰されかねないほどに強く。

 

「アンタね・・・一体、どこに行ってたのよ!?」

 

怒ったような女の声が聞こえてくる。

 

「って、これウツバットじゃないわね・・・」

 

女は異変を感じたのか、握ったものを弄るかのように指で押したり、肌触りを撫でてみる。

 

疑問に思ったラビリンが背後を向いてみると、それは見知った女の顔だった。

 

「クルシーナ!!」

 

「・・・ん?」

 

ラビリンを握っている女ーーーークルシーナは握っているものをようやく認識すると不敵な笑みを浮かべた。

 

「あら? 誰かと思えばウサちゃんじゃない。こんなところで一人ぼっちで何をしているのかしらぁ?」

 

「は、話すラビ・・・! ぐっ・・・うっ・・・!」

 

ラビリンは拘束を振りほどこうともがくも、クルシーナは握り潰さんと言わんばかりに彼女を握る。

 

「もぞもぞと鬱陶しいのよ・・・大人しくしろ!」

 

「うっ・・・あ・・・あぁ・・・」

 

苦しみの声を上げるラビリン。ぎっちりと握られていて拘束を振りほどくことができない。

 

「苦しい? アッハハハ! 抵抗するから悪いんじゃない」

 

クルシーナがラビリンの苦しむ顔に笑い声を上げる中、彼女はそのまま体から力が抜けてしまった。

 

「クルシーナ? 何してるウツ・・・ウギャアァ!?」

 

そこへウツバットが現れるも、突然壁へと叩きつけられた。クルシーナがラビリンを持っていない手で吹き飛ばしたのである。

 

「お前、アタシに断りもなしにコウモリの姿に戻るなんていい度胸してるじゃない」

 

「だ、だって〜・・・懐かしい気配がしたウツ〜・・・」

 

「知らないわよ、そんなこと! 次はその体毛を毟ってやるからね!」

 

「そ、それは勘弁ウツ〜〜!!」

 

ラビリンは懐かしい声を聞き、声をした方へと視線を向けるとーーーー次にした表情は驚愕だった。

 

「モ、モリリン!?」

 

ラビリンはブルガルとシプリンのときもそうだったが、理解が追いついていない。友達なはずの彼女がなぜここにいるのか・・・?

 

「ウツ? 誰かと思えば、どこかの弱虫ウサギウツね。懐かしい気配はそれだったウツね」

 

ウツバットはめり込んだ壁から抜けると、特に何かを感じたような表情をすることもなく、淡々と喋る。

 

「嘘・・・嘘ラビ!! モリリンがビョーゲンズと一緒にいるなんて・・・!!」

 

ラビリンは友達が敵になったことを認められずに悲痛な叫びを上げる。ラビリンに、あんなに寄り添ってくれた友達だったのに・・・!

 

そんな感情もモリリンはどこ吹く風だ。何も表情を変えていない。

 

「アンタ、こいつと知り合いなの?」

 

「そうじゃないと言えば嘘になるウツ。こいつとはヒーリングガーデン以来の腐れ縁ウツ」

 

「・・・ふーん」

 

クルシーナはウツバットの答えを聞いても、全く興味がなさそうな感じだ。別にこいつのプライベートなんかどうでもいい。そもそも、ビョーゲンズにプライベートがあるのか不明だが・・・。

 

「メガビョーゲン!!」

 

クルシーナの隣にメガビョーゲンが現れる。彼女が見渡すと大体の水槽が病気で蝕まれ、赤く染まっている。

 

「大体、ここも蝕まれてきたわね」

 

「次の場所に移動するウツ?」

 

「もちろん。もっと範囲を広げないとねぇ・・・」

 

クルシーナは面白そうに言った。ドクルンとイタイノンを見返し、お父様に快楽を与えるためにはもっともっと蝕まないと・・・!

 

「モリリン! 目を覚ますラビ!! が・・・あっ・・・」

 

涙をポロポロとこぼしながら叫ぶラビリンを、クルシーナは再び強い力で握り締める。

 

「うるさいやつ、ね!」

 

「わあぁぁぁー!!」

 

苛立ったクルシーナは握っていたラビリンを放り投げる。その先にいたのは、メガビョーゲン・・・!

 

「メガー!!」

 

メガビョーゲンは口のような触手を使って、飛んできたラビリンをキャッチ、そのまま丸呑みにしてしまった。

 

触手から上の頭部へ移動するかのように膨らみが動いていく。それが頭部へと完全に収まり、ゴクンという音がメガビョーゲンからしたと思うと・・・。

 

「ラビ・・・!」

 

ラビリンがメガビョーゲンの腹の一部となっている、檻の中へと落ちてきた。彼女はグルグルと目を回していた。

 

「そこで大人しくしてるウツ。どうせここはビョーゲンズのものになるんだからウツ」

 

ウツバットは無表情で、淡々としたような声でラビリンを見下ろしていた。

 

「さてと、別の場所に行こうかしら。ウツバット、帽子に戻れ」

 

「わかったウツ」

 

ウツバットは大人しくクルシーナの帽子へと戻る。

 

そして、クルシーナとメガビョーゲンはラビリンを檻の中に閉じ込めたまま、別の場所を病気で蝕むべく移動する。

 

「モ、モリリン・・・」

 

友人の名前をつぶやくラビリン。目から涙をポロポロとこぼしながら、自分を責めることしかできないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ラビリン、どこ? どこへ行ったの?)

 

ちゆとひなたと別れたのどかはラビリンを見つけるべく、ぐったりしたラテを抱えたまま水族館の中を走っていた。ラビリンがいないとのどかはプリキュアに変身できないのだ。それだとメガビョーゲンも浄化できない。

 

「ラビリーン!!」

 

のどかは通路の向こうへと名前を呼ぶも、返事は返ってこない。

 

もしラビリンに何かあったら・・・! そんなの嫌だ・・・! 絶対に見つける!!

 

のどかはそう思いながら、暗い通路へと走っていくのであった。

 




感想・評価・指摘、お願いしまーす!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話「苦痛」

今回は中編になります。
のどかとオリ幹部、初会話だと思います!

本編の新作がいよいよ来週28日から放送になりましたね。楽しみです!



「メガー!!」

 

クルシーナのメガビョーゲンはクラゲが泳いでいる水槽あたりを襲っていた。不健康そうな頭部の口から病気を吐き出す。

 

「いいわよ。ここも真っ赤な病気に染めちゃいなさい」

 

「メガビョーゲン!」

 

メガビョーゲンは触手から玉を吐き出しながら、他の水槽も病気へと蝕んでいく。

 

「順調に行きそうウツね」

 

「ええ、大分大きくなったわね」

 

メガビョーゲンは先ほど深海魚のコーナーにいたときよりも大きくなっていた。この調子でいけば、この水族館じゅうを蝕めるのも時間の問題だろう。

 

一方、メガビョーゲンの中に閉じ込められているラビリンは檻の中で病気に蝕まれるのを見ているしかできない。

 

「このままじゃ・・・!」

 

ラビリンはなんとか外から出ようと檻の鉄格子に力を入れるも全く動かない。

 

「あ、開かないラビ・・・!」

 

体の中で体当たりをしようとする。しかし、壁は固くビクともせず、逆に自分の体がはじかれてボロボロになるだけ。

 

「メガー!!」

 

中で暴れるラビリンを鬱陶しく感じたのか、右の触手を小さな水槽の中へと伸ばして水を吸い上げる。まるで汲み上げるかのように頭部へと吸収すると・・・。

 

「ラビ!? うっ・・・ゲホッゲホッ・・・!」

 

檻の中に赤い霧が降りてきて、吸ってしまいむせるラビリン。

 

「アッハハハ! そうやって暴れてればどうにかなると思ってんの?」

 

「おとなしくしてろウツ。どうせお前なんかが頑張ったって何もできないウツ」

 

ラビリンの無駄な抵抗をあざ笑う二人。

 

「ゲホゲホゲホ!!・・・あ・・・」

 

赤い霧を大量に浴びてしまい、耐えきれなくなって倒れてしまうラビリン。額には脂汗が滲んでいた。

 

「フフフ」

 

その様子をクルシーナは愉快そうに見つめる。

 

「さて、次の場所に行きましょう」

 

「ウツ!」

 

「メガビョーゲン!」

 

クルシーナとメガビョーゲンはさらに病気を拡大するべく、移動を再開した。

 

「の、のどかぁ・・・」

 

弱々しい声でパートナーの名前を口にするラビリン。赤い霧はもう出ていないが、今は立ち上がれないほどに無力感が漂っていた。

 

水族館の魚や動物たちも、きっとラテ様も、みんな苦しんでるのに・・・!!

 

「のどかぁーーー!!!!」

 

助けられない悔しさから、ラビリンはパートナーの名前を叫ぶのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

のどかがラビリンを探しに行く数分前ーーーー。

 

「急いでメガビョーゲンを探しましょう! 被害が大きくなる前に!」

 

ちゆは先にメガビョーゲンを倒すことを提案する。ペギタンのことも心配だが、メガビョーゲンの被害が大きくなるのも見過ごせない。病気が拡大する前に阻止するべきだ。

 

しかし、それに反対したのはひなただった。

 

「ちょっと待ってよ!ペギタンとラビリンを見つけるのが先でしょ!?」

 

「でも・・・!」

 

「ペギタンだってちゆちーのこと探してるよ!一人で心細くて泣いてるかも!! ラビリンだってきっとのどかっちを探してるよ!!」

 

ひなたはペギタンを見つけるのが先決だと主張する。メガビョーゲンの被害が大きくなるのはわかるが、ペギタンのことだって大事だ。内気で寂しがり屋なペギタンが一人でいるのを耐えられるわけがない。

 

ラビリンは人一倍正義感が強い。プリキュアになれないとお手当てができないのも知っている。だから、メガビョーゲンを見つけていたら真っ先にのどかたちを探しに行くだろう。

 

「メガビョーゲンが現れたのよ!? 放っておくわけにはいかないじゃない!!」

 

お互いがどっちも大事だと思っている。それが故にどちらかしか選べないことで、二人の主張は拮抗していた。

 

そんな二人に声をかけたのはのどかだった。

 

「どっちも探そう!」

 

のどかの言葉に、二人は彼女の方を向く。

 

「ペギタンは私たちの大切なお友達だし、それにメガビョーゲンを見つけても、ちゆちゃん、プリキュアになれないでしょ? 私もラビリンを探さないとプリキュアになれない」

 

のどかはきっとメガビョーゲンを探していれば、ペギタンが見つかると信じていた。もちろん、ラビリンのことも。これだけ騒ぎになっているのであれば、ペギタンとラビリンだってきっとメガビョーゲンのところに向かっているはず。だから、きっと見つかるはずなのだ。

 

「ね? 早く見つけてお手当てしよう!」

 

二人に笑顔を見せるのどか。言い争いよりも、とにかく動いた方が先決。その過程でどっちもやればいいのだ。

 

「・・・わかったわ」

 

「行こっ! ちゆちー」

 

「ちょっと、ひなた・・・!」

 

ひなたはちゆの手を取ると走り出した。

 

二人が駆け出していった、その時である・・・。

 

のどかぁーーーーー!!!!

 

「!? ラビリン!!」

 

どこからかラビリンの叫ぶ声が聞こえた。声の方向からすると、どうやらこの館内にいるみたいだ。

 

のどかもラビリンを探そうと走り出した。

 

水族館内を走っていると・・・・・・。

 

「あっ・・・!」

 

先ほど見ていたクラゲの水槽が赤く染まっているのを見つけた。それはまるで絵の具をこぼして、水と混ざったかのような色だ。

 

「クラゲさんたちが・・・ひどい・・・!」

 

クラゲがぐったりと床に横たわっているのが見える。病気によって水が汚れたせいで体が動かなくなっている様子だ。

 

他の水槽を見れば、クラゲの水槽と同じように全てが赤く染まっている。

 

「早くラビリンを見つけて・・・メガビョーゲンを浄化しないと・・・!」

 

のどかぁーーーー!!!!

 

「!?」

 

また、ラビリンの叫ぶ声が聞こえた。今度は暗い通路の方向だ。のどかhそこへと走っていく。

 

(ラビリン、どこ? どこへ行ったの?)

 

「ラビリーン!!」

 

のどかは通路の向こうへと名前を呼ぶも、返事は返ってこない。

 

もしラビリンに何かあったら・・・! そんなの嫌だ・・・! 絶対に見つける!!

 

のどかはそう思いながら、暗い通路へと走っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メガー!!」

 

上の頭部から赤い霧を吐き出し、プールの水を病気へと蝕ませていく。

 

メガビョーゲンはさらに二本の触手からプールの水を吸い上げ、頭部の口から赤い霧を更に吐き出し、観客席やステージ上の看板を病気へと侵していく。

 

「かなり成長したウツね」

 

「本当ねぇ、かなり強くなってるんじゃない?」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべる。

 

ここに来るまでにこいつを生み出した深海魚コーナーの他にも多くの場所を病気で蝕んだ。クラゲのある円柱のような水槽、アシカやペンギンが飼われている水槽、おみやげコーナー、大海の巨大な水槽、そして通路のような水槽とほとんどの場所を蝕んできた。

 

これならここ一帯も本当に自分たちの住処にできる。お父様も喜んでくれるだろう。

 

あとはプリキュアさえどうにかしてしまえば・・・ここ一帯の病気を阻むものは誰もいなくなる。

 

「あ・・・あぁ・・・」

 

一方、檻の中で倒れ伏しているラビリンは絶望に近い感情を抱いていた。メガビョーゲンが度々触手から水を吸収して赤い霧を浴びせてくるため、体がうまく動かない。

 

本当に自分がこんなにも無力だったとは・・・。

 

「これでわかったウツ? お前がどんなに努力をしたって足元にも及ばないウツ」

 

そんなラビリンの感情とは裏腹に、ウツバットは言葉を吐いてくる。

 

「な・・・なん、で・・・」

 

「ウツ?」

 

「なんで、ビョーゲンズなんかと・・・一緒、に・・・」

 

ラビリンは言葉を絞り出しながら、ウツバットに問いかける。

 

ウツバットはしばらくの間の後、口を開いた。まあ、こいつに話しても特に問題はない。

 

「決まってるだろ。人間なんか自分勝手で救う価値なんかないからウツ」

 

「え・・・?」

 

「人間は酷いウツ。動物たちをこんなところに閉じ込めて見せしめにしてるなんて、呆れて物が言えないウツ。そんな勝手な生き物の星なんかをお手当てして何の意味があるウツ。いっそ腐ってしまえばいいウツ」

 

ウツバットは若干怒りを滲ませながら言う。ラビリンはそれを聞いて言葉を絞り出す。

 

「に、人間にだって・・・いい人はいる、ラビ。私の、パートナー、だって・・・困ってたところを・・・助けてくれた・・・ラビ」

 

ラビリンは反論する。確かに最初にパートナーを探していた頃は、人間たちに跳ね飛ばされ、子供達に追いかけられたりして酷い目にあった。人間なんか信じられないと思った。

 

でも、のどかは苦しんでいる人を放っておけないと私たちを助けに来てくれた。その言葉が自分の想いと重なり、心の肉球にキュンときたのだ。それで思ったのだ、人間にだっていい人はいるんだと。

 

「ハッ、でもお前のパートナーはきやしないじゃない。見捨てて逃げたんじゃないの?」

 

「の・・・のどかは、絶対、来る、ラビ・・・」

 

ラビリンはクルシーナを睨みながら言った。のどかはそんなことをするようなパートナーじゃない。きっと来てくれるはず。

 

「のどかぁーーー!!!!」

 

ラビリンはそう信じて、自分がここにいるんだということをのどかに知らせるために叫ぶ。

 

クルシーナはそれを見て「ふん」と鼻を鳴らす。

 

「まあ、せいぜいあがけば? どうせメガビョーゲンを止められるわけがないけど」

 

クルシーナはメガビョーゲンの頭部に目を向けると、何やら頭部の上にサンゴみたいなものが生えていて、メガビョーゲンが何やらビクンビクンと震えている。

 

「ん?」

 

クルシーナは疑念の表情を浮かべる。今までメガビョーゲンにこんな反応をすることがあっただろうか?

 

そんなことを考えていると、サンゴの穴から赤い玉のようなものが顔を覗かせていき、ポンという音と共に玉が飛び出した。

 

「おっと!」

 

「ウツ!」

 

クルシーナとウツバットは赤い玉をそれぞれキャッチする。その形はまるでサンゴの卵のようで、大きさは手のひらにすっぽりと収まるサイズだった。

 

二人がそれぞれ取ったものと合わせると全部で4つある。

 

「順調に大きくなっているってことね」

 

「キングビョーゲン様に喜んでもらうのは秒読みじゃないかウツ?」

 

ウツバットは赤い玉をクルシーナに渡すと、帽子の姿へと戻る。

 

バン!!!!!!

 

そのとき、観客席側にある扉が強く開かれた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

出てきたのはキュアグレースこと、花寺のどかだった。走ってきたのか息がかなり上がっていて、汗もかいている。

 

「あら、遅かったじゃない。もう来ないかと思ったわよ」

 

クルシーナはプリキュアが来ることを見越したかのような言い方で話す。ラビリンがいる時点でプリキュアがいることは確定だろう。他のプリキュアだってどこかにいるはず。

 

「! ラビリン!!」

 

ステージの上にいるメガビョーゲンの中で倒れ伏しているラビリンに向かって叫ぶ。

 

「の、のどかぁ・・・」

 

のどかの声が聞こえたラビリンは涙をポロポロとこぼす。やっぱり、助けに来てくれた・・・!

 

のどかはその横にいるクルシーナの姿を見入る。

 

「ラビリンに何をしたの!?」

 

「何って、騒がれると困るから大人しくさせてやっただけよ」

 

のどかの若干怒りを滲ませた言葉に、クルシーナは当然だと言わんばかりに答える。

 

「ひどい・・・なんてひどいことを・・・!」

 

ラビリンはすでにボロボロだ。クルシーナやメガビョーゲンに手ひどく痛めつけられたのであろう。のどかは動揺を隠せなかった。

 

「そうだ。本人の前でもっと痛めつけたらどうなるのかしらねぇ? メガビョーゲン!」

 

「メガー!」

 

ニヤッと笑うクルシーナはメガビョーゲンに指示をし、メガビョーゲンは両サイドの触手をくるくると巻き戻すと、体を前へと屈むように縮こませる。すると、檻の中が見えなくなるほどに閉ざされた。

 

「うぅ・・・うあぁ・・・あぁ・・・!」

 

檻の中からラビリンが苦しむ声が聞こえてくる。

 

「!? やめて!!」

 

「やめてと言われてやめるやつがいるかよ」

 

「あぁ・・・ああ・・・あ・・・」

 

のどかの叫びに、クルシーナは嘲笑する。相手の苦しむ顔が拝めているのにやめるなんてもってのほかだ。ラビリンの苦しむ声は止まらない。

 

のどかは今すぐにでも助けたいが、プリキュアになっていない自分があの怪物に立ち向かっても勝てるはずがない。それはラビリンがいないときに経験した。

 

「やめて・・・お願いだから、やめてよ・・・!」

 

膝をついて泣きそうな声でポロポロと涙を流すのどか。ラビリンがいるのに何もできない自分を皮下するばかり。

 

クルシーナはそれを見て、顎に手を当てて考え始める。

 

このままあいつを再起不能にして、少しでも戦力を減らしてやりたいところ。まあ、正直3人が2人になったところで大して大差はないけど、ついでにあいつのもっと苦しむ顔を見られれば、万々歳だ。

 

ふと、右手に持っているサンゴの卵を見る。こいつは、メガビョーゲンから生まれた卵。この前の小娘の取り憑いていた赤いモヤモヤを思い出すと・・・。

 

ーーーーそうだ。いいこと思いついちゃった。

 

クルシーナは再び悪い顔をすると、のどかの方に顔を向ける。

 

「わかった、やめてあげる」

 

「え・・・?」

 

「クルシーナ!?」

 

驚いて顔を上げるのどかとウツバット。

 

「だから、このヒーリングアニマルを痛めつけるのはやめてあげるって言ってんの」

 

「本当に・・・?」

 

「ええ」

 

のどかの言葉に肯定するクルシーナ。

 

「クルシーナ、何言ってるウツ!?」

 

「お前は黙ってろ」

 

納得がいってないウツバットを黙らせると、クルシーナは言葉を続ける。

 

「このウサギも離してあげるわ。その代わり・・・」

 

クルシーナはのどかに指を突き立てる。

 

「お前が犠牲になれーーーー」

 

「!?」

 

彼女の言い放った言葉に、驚愕したのはラビリンだった。

 

「お前が犠牲になるんだったら、このウサギを解放してあげる。助けたいでしょ? このウサギを。ヒーリングアニマル一匹救えるんだったら安い取引だと思うけどね。まあ、拒むんだったらこのまま痛めつけるだけだけど」

 

のどかはそれを聞いて思考する。

 

私は何のためにプリキュアをやっている? 自分が健康になりたいから・・・? プリキュアをやっていて、その力でメガビョーゲンを倒せるから・・・?

 

違うーーーー苦しんでいる人を、放っておけないから!! だから、ラビリンと地球をお手当てしたいと思った。

 

「のどか! 言うことなんか聞いちゃダメラビ! う・・・ゲホゲホ!!」

 

メガビョーゲンがプールに触手を伸ばして水を吸収し、ラビリンに再び赤い霧が降り注ぐ。

 

「お前は口を閉じてろ。さあ、どうすんの?」

 

目を閉じて考える、のどかの答えは決まっていた。

 

「・・・わかった、私が代わりになる。だから、ラビリンをこれ以上苦しめないで」

 

「のどか!?」

 

のどかの言葉に驚愕するラビリン。

 

「いいの? お前が苦しむ羽目になるけど?」

 

「うん。私はもう苦しむ人を見たくないの。それで誰かが傷つくことも、辛い思いをするのも嫌なの。だから、私はラビリンを助ける!!」

 

その答えを聞くとクルシーナはニヤッと笑みを浮かべた。

 

ーーーー自分よりも、相手のことを考えているなんて、ホント・・・バッカみたい。

 

「!?」

 

クルシーナの姿がステージから消える。そして、のどかの背後から悪意のある声が聞こえた。

 

「・・・交渉成立、ね!」

 

背後に瞬間移動したクルシーナはのどかの服の襟を掴むと、病気に染まっているプールに向かって思いっきり投げ飛ばした。

 

「きゃあぁぁぁぁ!!」

 

バッシャアァァァァン!!!!

 

のどかはそのままプールの中へと落ちていき、激しい水しぶきが上がる。

 

「のどかぁー!!」

 

プールへと沈んだのどかに向かって悲痛に叫ぶラビリン。

 

「フフフ・・・」

 

「クルシーナ、考えがあるなら言って欲しいウツ」

 

「うるさい」

 

クルシーナはウツバットの文句を一蹴すると、手に持っていたサンゴの卵を一個自分の口に含み、咀嚼して口の中で転がすように細かくする。

 

そんな中、クルシーナにプールへと落とされたのどかは、一瞬意識が飛んでいた。

 

(あ、あれ? 私・・・)

 

「!! ぶふっ!?」

 

目を覚まして、水の中にいることに気づいたのどかはとっさに口を押さえる。

 

体を動かして周囲を見渡してみると、水は赤く染まっていてすっかり濁っている。泳いでいるはずのイルカの姿はなく、プールはすっかりともぬけのからである。

 

ーーーーとりあえず、プールから上がらないと・・・!

 

「ん、んんぅ! んんぅ!!」

 

のどかはジタバタと手足を動かすも、まるで水上へ上がっていく気配がしない。むしろプールの底へと沈もうとしていた。

 

「フフ・・・」

 

そこへ笑みを浮かべたクルシーナが上から降りるように現れた。まるで、水の抵抗など感じてもいないかのように。

 

「!!」

 

のどかがクルシーナに気づくと手足の動きを止める。クルシーナはのどかに近づくと彼女の腰に腕をまわし、自分の近くに引き寄せる。そして、もう一方の手で頭を押さえながら・・・。

 

「ん!?」

 

彼女に口づけを交わした。のどかは突然の行為に驚きを隠せなかった。

 

数秒間続く口づけ。そして、のどかの体の中に淀んだ何かが蠢き始めた。

 

「のどかぁ・・・」

 

一方、ラビリンはプールに落ちたのどかを心配していた。ここから出られるなら今すぐにのどかを助けたいが、出れないことにはどうすることでもできない。

 

ザパァン!!!!!

 

すると、プールから飛沫が上がり、そこから出てきたのはクルシーナと、彼女にお姫様抱っこのようにされているのどかだった。

 

クルシーナはステージに足をつけると、奥の方に向かって歩いていく。長テーブルの前で足を止めると、のどかの顔を見つめる。

 

「うっ、うぅ・・・うぅぅぅ!!」

 

「の、のどか!!」

 

なんと、のどかは両手で喉を押さえながらプルプルと震えていた。表情も苦痛に歪んでいる。

 

「フフフ・・・」

 

ーーーー心地よい程の苦しむ表情だ。見ていて笑みが止まらない。

 

苦しむのどかを長テーブルの上に寝かせると、メガビョーゲンの方に向き直る。

 

「約束だからそのウサギは解放しないとねぇ。メガビョーゲン」

 

「メガー!!」

 

メガビョーゲンは檻の中に二本の触手を突っ込むと、ラビリンをまるで投げ捨てるかのように放り投げる。

 

「あぁ! のどかぁ!!!」

 

投げられたラビリンは空中で態勢を立て直すと、のどかのところに歩み寄る。

 

「のどか! 大丈夫ラビ!?」

 

「うぅ・・・うっ! う、うぅ・・・」

 

どう見ても大丈夫ではなかった。のどかは身を捩らせて苦しんでいる。ラビリンの言葉にもまるで聞こえていないほどだった。

 

「のどかに何したラビ!?」

 

ラビリンは怒りを滲ませながらクルシーナに問う。

 

「さあね、お前が知ったところでどうにもならないわよ。どうせその娘もそんな状態じゃプリキュアにだって慣れないしねぇ」

 

クルシーナは面倒臭そうにしながらラビリンの質問には答えようとはせず、メガビョーゲンに向き直る。

 

「メガビョーゲン、ここ一帯を徹底的に蝕んじゃいなさい」

 

「メガビョーゲン!!」

 

メガビョーゲンは触手でプールの水を吸い上げると頭部から赤い霧を吐き、観客席あたりを病気で蝕んでいく。

 

「さてさて、あとはあの二人だけね・・・」

 

クルシーナはうまくいったと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべた。残るプリキュアはあと二人、そいつらを潰せば侵略活動だってスムーズにいくはず。

 

「あぁ・・・ああ・・・」

 

「う・・・うぅ!! あ、あ・・・」

 

ラビリンは苦しむのどかを見て、どうすることもできない。

 

のどかに出会う前、一人でメガビョーゲンに立ち向かってもあっさりとやられ、苦しむラテ様を前に何もすることができなかった。ラビリンにはその時の記憶がフラッシュバックしていた。

 

自分の無力さを改めて思い知り、余計に絶望感が増していく。

 

「だ、誰か・・・誰か助けてラビー!! ちゆー!! ひなたぁー!! ペギターン!! ニャトラーン!!」

 

今も水族館内で戦っているであろう仲間たちの名前を呼ぶも、それは虚しく蝕まれた観客席へと溶けていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、プリキュアに変身してメガビョーゲンと戦っているちゆとひなたは・・・。

 

「ん〜〜〜〜、こざかしいっ!!!」

 

シンドイーネは苛立っていた。プリキュアのパートナーとなっているヒーリングアニマルのペンギンを人質として利用しようとした手前、栗色の元気娘がリュックサックを投げつけた挙句、よく考えもせずに自分へと襲い掛かってきたのだ。

 

おまけに、メガビョーゲンのせいでペンギンを手放してしまい、プリキュアへの変身を許してしまったのであった。

 

「え、こざかしいってどういう意味?」

 

言葉の意味がわからないスパークルは単純に疑問に思う。そうしている間に、メガビョーゲンの触手が襲い掛かってくる。

 

スパークルはそれに気づくと背後へと飛び退く。入れ替わりにフォンテーヌが飛び上がり、襲い来る触手をキックで払いのける。

 

「生意気って意味!」

 

「え!? めっちゃ失礼じゃん!!」

 

フォンテーヌから律儀に聞かされると、スパークルはちょっとばかしイラっときた。

 

「メーガー!!」

 

メガビョーゲンが口から病気を吐き出す。今度はスパークルが前に出る。

 

「ぷにシールド!!」

 

ニャトランがそう言うと肉球型のシールドが展開され、メガビョーゲンの攻撃を防ぐ。

 

フォンテーヌとスパークルは同時に飛び上がり・・・。

 

「「はあぁぁぁぁぁ!!!」」

 

「メガー・・・ビョーゲン」

 

二人同時に息を合わせて飛び蹴りを繰り出す。メガビョーゲンが触手で防ぐも、光の力で態勢がよろける。

 

「「キュアスキャン!!」」

 

スパークルがステッキをメガビョーゲンへと向け、ニャトランの目が光るとメガビョーゲンの中にいるエレメントさんを見つけた。

 

「泡のエレメントさんニャ!!」

 

「フォンテーヌ、今だよ!!」

 

フォンテーヌは頷くと、水の模様が描かれたヒーリングボトルをステッキへとかざす。

 

「エレメントチャージ!!」

 

そう言いながら光るステッキの先をハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「ヒーリングゲージ上昇!!」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングストリーム!!」

 

キュアフォンテーヌはそう叫びながら、ステッキをメガビョーゲンに向けて、水色の光線を放つ。光線は螺旋状になっていた後、メガビョーゲンに直撃した。

 

その光線はメガビョーゲンの中に入ると、螺旋状のエネルギーは手へと変化して、泡のエレメントさんを優しく包み込む。

 

水型状にメガビョーゲンを貫きながら、光線は泡のエレメントさんを外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「お大事に」」

 

泡のエレメントさんは、水槽の泡へと戻っていき、蝕んだ箇所も元に戻っていく。

 

「ムキーッ!! ホント小賢しいッ!!!!」

 

シンドイーネは心底苛立った様子で撤退していった。

 

「早くのどかの元に向かいましょう!」

 

「うん!!」

 

ペギタンも見つかって一安心だが、まだメガビョーゲンを全部倒したわけではない。別れたのどかのことも心配だ。早く彼女の元へと行かなければ・・・。

 

そんな時だった・・・。

 

助けてラビー!! ちゆー!! ひなたー!! ペギターン!! ニャトラーン!!

 

どこからか助けを求める声が聞こえてきた。

 

「!! この声は・・・!?」

 

「ラビリンの声ニャ!!」

 

「もしかして、二人に何かあったんじゃ・・・!?」

 

「急いで向かうペエ!!」

 

さっきの声がしている方向は、どうやらイルカショーが行なわれている場所のようだ。もしかしたら、そこにメガビョーゲンとのどかとラビリン、そしてラテもいるはず。

 

4人はお互いの顔を見て頷くと、意を決して声がする方向へと走っていく。

 

ーーーー二人とも、無事でいて・・・!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ん? メガビョーゲンの反応が消えたわね」

 

「きっとビョーゲンズの誰かが失敗したウツね」

 

クルシーナとウツバットは会場の扉の方向を向きながら言った。おそらく意気揚々と出ていったシンドイーネだろう。彼女もここに来ていたらしい。

 

やっぱりビョーゲンズは油断している。そう感じさせざるを得ないのだった。

 

「メガー!!」

 

メガビョーゲンは変わらず、頭部の口から赤い霧を撒き散らし、イルカを模した看板や隣接する建物へと病気に蝕んでいた。

 

「この辺も蝕む場所がなくなってきたわね」

 

「もう十分なくらいウツ」

 

ーーーーこの施設はもう私たちの場所だ。もう誰も止めることなんかできはしない。

 

足をぶらぶらとさせながら、クルシーナが不敵な笑みを浮かべる。

 

「うぅ・・・うぅぅ!! うぅぅ・・・!」

 

「のどかぁ・・・」

 

クルシーナの後ろの長テーブルでは、寝かされているのどかが喉を押さえながら苦しんでいた。額には脂汗が滲んでおり、表情は苦痛に歪んでいた。その隣ではラビリンが寄り添って声をかけ続けている。

 

「フフフ・・・」

 

のどかの方に首を向けたクルシーナは彼女の苦痛に歪む表情を見てニヤリと笑みを浮かべた。やはり人間の苦しみは最高のスパイスだ。私たちにとっては快楽そのものである。無駄な抵抗だとわかっているのにもがいているのがまた心地よい。

 

クルシーナは右手をのどかの頭に伸ばすと、子供をあやすかのように優しく頭を撫でる。本当にかわいそうで・・・本当にバカな女だ・・・。

 

「う・・・あ・・・あぁ・・・」

 

まだまだ彼女には苦しんでもらわないと・・・。

 

これからやってくるプリキュア二人を叩きのめして、絶望を見せつけてやるために・・・。

 




評価・感想・ご指摘、お願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話「苦業」

お待たせしました!後編になります。
ほぼほぼオリジナルですね。



ーーーー私の中で何かが暴れている。

 

「うっ、うぅ・・・うぅぅぅ!!」

 

「のどか・・・のどかぁ・・・!!」

 

ーーーー私の中から耐え難いほどの苦痛が襲ってくる。

 

「うぅ・・・うっ! う、うぅ・・・」

 

「のどか・・・しっかりするラビ!!」

 

ーーーー苦しい・・・息ができない・・・体から力が抜けていく・・・

 

「う・・・うぅ!! あ、あ・・・」

 

「のどか!! のどかぁ!!」

 

ーーーーでも、ラビリンは無事みたい・・・よかった・・・

 

「うぅ・・・うぅぅ!! うぅぅ・・・!」

 

「う・・・あ・・・あぁ・・・」

 

ーーーー体がだんだんと動かなくなっていくのを感じる。気のせいか、心臓の鼓動が早くなっている。

 

ーーーー私・・・このまま、死んじゃうの、かな・・・?

 

「う・・・うぅ・・・うっ、くっ!!」

 

ーーーーちゆちゃん、ひなたちゃん・・・。

 

「うぅぅ・・・くっ、うぅ・・・!!」

 

ーーーーペギタン、ニャトラン・・・。

 

「うぅ・・・ううぅ・・・くっ・・・!!」

 

ーーーーラビリン・・・ラテ・・・。

 

ーーーーお父さん・・・お母さん・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふんふん、ふ〜ん♪」

 

クルシーナは足をぶらぶらとさせながら、まだ来ないプリキュアの二人を待っていた。

 

「プリキュアの二人、まだ来ないウツね」

 

「別にいいんじゃない? 待てば待つほど、アタシたちが有利になっていくだけだし。それに・・・」

 

クルシーナはそう言いながら、自分の後ろで今だに苦しむのどかの姿を見やる。

 

「うっ・・・くっうぅ・・・うぅぅぅ!!」

 

喉を押さえながら身をよじらせているが、よくなる気配は一向にない。

 

「のどか・・・負けないでラビ・・・」

 

ラビリンものどかに寄り添って元気づけようとしている。その声が彼女に聞こえてるのかどうかはまた別の話だが・・・。

 

「フフフ・・・この小娘の苦しむ顔が見れるのは最高だもんね」

 

クルシーナは微笑みながら、のどかにそっと手を伸ばして頭を撫でる。

 

可愛い・・・壊してやりたい・・・それとも、このまま、ビョーゲンズの一員にしちゃいたいくらい。

 

「うぅ・・・ふっ・・・くぅぅ!!」

 

「大丈夫・・・お仲間さえできれば、苦しくないでしょ?」

 

クルシーナはのどかの前髪をかきあげる。額には脂汗が滲んでいる。相当苦しい様子だ。

 

「のどかに触るなラビ!! あぁ!」

 

ラビリンはのどかに触れようとするクルシーナに抗議をするも、右手で払うように弾き飛ばした。

 

「性懲りも無く・・・」

 

ラビリンに呆れたように言うと、クルシーナは再びのどかの表情を見やる。

 

「全く、小娘のくせにビョーゲンズに楯突いちゃってさ」

 

「うぅ・・・あぁ・・・あっ、あ・・・」

 

手を額から頬の辺りへと動かし、わしわしするかのように指先を動かす。のどかは苦しむばかりで何も反応を示すことなく、すっかり彼女のなすがままだ。

 

「アタシがもっと・・・愉快になるようにしてあげる・・・」

 

そして再び手を前髪へと元に戻すとかきあげ、彼女の額に顔を近づけ、チュッと優しく口づけをした。

 

「フフ・・・」

 

クルシーナは今一番、ウツバットに見せたこともないような優しげで、ちょっと危うい笑みを浮かべた。

 

バァン!!!!!

 

「のどか!!」

 

「のどかっち!!」

 

「「ラビリン!!」」

 

扉が開け放たれ、フォンテーヌとスパークルが現れた。クルシーナはのどかを弄る手を止め、体から手をゆっくりと離すと、長テーブルの端から立ち上がり、声がした方へと向き直る。

 

「遅かったじゃない。このまま来ないかと思ったわよ」

 

「クルシーナ!!」

 

クルシーナはいつもの口調に戻して、二人の叫びに応える。

 

「!? のどか!?」

 

「のどかっち!?」

 

「う・・・あ・・・あぁ・・・」

 

フォンテーヌとスパークルが、ステージの真ん中に移動したクルシーナがいた場所を見ると、のどかが長テーブルの上で横たわっているのが見えた。しかし、寝ているわけではなく、表情はいまだ苦痛に歪み、手は喉へと添えられている様子だ。

 

「ラビリン!?」

 

「お、おい! 大丈夫かよ!?」

 

「あ・・・み、みんな・・・」

 

長テーブルの近くの床にボロボロになっているラビリンが転がっているのが見えた。ラビリンは観客席側に立っている2人と2匹の姿を見て、涙をポロポロとこぼす。

 

ーーーーやっと仲間が、来てくれた・・・!!

 

フォンテーヌはクルシーナのことを睨む。

 

「二人に何をしたの!?」

 

「そうだよ!しかものどかっちなんか、すごい苦しそうじゃん!!」

 

スパークルも酷いと言いたげな感情で叫ぶ。

 

「なーに、ちょっとメガビョーゲンの元にアタシの細胞を注ぎ込んでやっただけよ」

 

「メガビョーゲンの、元・・・?」

 

「細胞・・・?」

 

「ええ、プリキュアの小娘を病気に犯すとどうなるのかなと思ってね。で、案の定、何か抵抗してるみたいだけど、こんな苦しそうな顔が見れたってワケ。結構、感服なんだけど♪」

 

笑いながら言うクルシーナにスパークルは唖然としていたが、フォンテーヌは怒りの表情を滲ませていく。

 

ーーーーさっきのシンドイーネもそうだが、ビョーゲンズは他人のことをなんとも思っていないのか・・・?

 

「かわいそうに、プリキュアも変身できなきゃただの小娘だもんねぇ」

 

クルシーナはやれやれと首を振りながら言った。

 

「そこの弱虫ウサギはうるさいから、おとなしくさせてやっただけウツ」

 

クルシーナの帽子からコウモリのマスコットのような姿に戻ったウツバットが言う。

 

「モリリン!?」

 

「お前もビョーゲンズにかよ!!」

 

はいはい、二回目・・・といわんばかりにウツバットはため息を吐く。

 

「地球なんか癒す価値ないウツ。勝手な人間がいるだけで腐っていくだけウツ」

 

ウツバットは無表情でそう言い放った。

 

「大丈夫。あなたたちもすぐにあの娘のようにしてあげるから。そうすれば寂しくないでしょ」

 

気遣っているような言動ではなく、相手を嘲笑するかのような言動。フォンテーヌはステッキを持っている手を強く握りしめた。

 

「許せないッ・・・人を苦しめて楽しんでるなんて・・・!」

 

「そうだよ!病気になんかなったら楽しくないし!」

 

クルシーナはそれを聞くと分かりやすいようにため息を吐く。

 

「あっそ、一度苦しい思いをしないとわかんないわよねぇ。メガビョーゲン、プリキュアを叩きのめしな」

 

「メガー!!」

 

メガビョーゲンは2本の触手を伸ばして叩きつける。フォンテーヌとスパークルは飛び上がってメガビョーゲンに蹴りを入れる。

 

「メ、メガ、」

 

蹴りで体を押されたメガビョーゲンは体がよろける。

 

「「キュアスキャン!」」

 

ニャトランの目が光り、メガビョーゲンの中にいる、苦しんでいる様子のエレメントさんを見つける。

 

「花のエレメントさんニャ!!」

 

そのエレメントさんはどうやら腹の右上部分にいる模様。

 

「メガー!!」

 

メガビョーゲンは体勢をすぐに立て直すと、触手をすぐに戻してフォンテーヌを薙ぎ払う。

 

「きゃあぁぁ!!」

 

触手をぶつけられたフォンテーヌは赤く染まったプールへと落下する。

 

「フォンテーヌ!うわあぁぁ!!」

 

スパークルも触手で薙ぎ払われ、観客席へと落下する。

 

バシャアァァァン!!!!

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

プールから飛び出したフォンテーヌがステッキから水の光線を放つ。

 

「メガー!」

 

メガビョーゲンは触手を片方のばすと、光線を受け止めて触手の中へと吸収していく。

 

「そ、そんな!?」

 

「光線を吸収してるペエ!?」

 

「ビョーゲン!!」

 

さらに頭部から水の光線を吸収して変換した赤い霧を撒き散らす。

 

「う、ケホケホッ!! きゃあぁぁぁ!!」

 

フォンテーヌは赤い霧を浴びて咳き込み、ひるんでしまったところを触手で薙ぎ払われ吹き飛ばされる。

 

「ぷにシールド!!」

 

スパークルがステッキから肉球型のシールドを展開し、メガビョーゲンの元へと飛び出す。

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

「メガー!!」

 

メガビョーゲンは2本の触手を伸ばして、合掌するかのようにスパークルへと打ち合わせる。

 

「くっ・・・!!」

 

スパークルはそのまま押しのけようとするも、メガビョーゲンの触手はビクともしない。

 

やがて、肉球型のシールドにもヒビが入り始めた。

 

「う、嘘・・・!?」

 

「パワーが違いすぎるニャ・・・!!」

 

「メガー!!」

 

唖然とするしかないスパークルとニャトランが展開するシールドは徐々にヒビが増えていき・・・。

 

パリンッ!!!!

 

「あ、きゃあぁぁぁぁ!!!」

 

シールドは粉々に破壊されてしまい、さらにスパークルはメガビョーゲンが2つの触手を合わせて振るった攻撃に打ち据えられ、プールへと吹き飛ばされた。

 

「スパークル!!」

 

フォンテーヌは立ち上がるも、メガビョーゲンが触手からプールの水を吸収し始める。

 

「メガー!!」

 

そして、頭部から赤い霧を再び吐き出す。

 

「うっ・・・くっ・・・何、ゲホゲホッ!!」

 

「それは病気にされた水の霧ペエ! 吸っちゃダメペエ!!」

 

再び赤い霧を浴びせられたフォンテーヌは袖で鼻と口を押さえるも、少し吸ってしまい咳き込んでしまう。

 

「メガ、ビョーゲン!!」

 

「!!??」

 

そこへメガビョーゲンが2本の触手をフォンテーヌへと向けて赤い玉を何発も発射し、爆発音が響いた。

 

フォンテーヌは飛び退いてかわすが・・・。

 

「メガビョーゲン!!」

 

「ああぁぁ!!」

 

メガビョーゲンは2本の触手を床に叩きつけて飛ぶと、飛び蹴りのごとく4本の足を食らわせた。

 

「つくづくバカだよね。あがいたって無駄なことぐらいあるってのにさ」

 

その様子を見ながらクルシーナは嘲笑していた。メガビョーゲンは二人の攻撃をものともしていないどころか、完全に圧倒している。勝つのも時間の問題だろうと思っていた。

 

「うぅ・・・くぅぅ!! うぅぅ!!」

 

「のどか、頑張るラビ!! 今、二人がなんとかしてくれているラビ!!」

 

苦しんでいるのどかをラビリンが励ましている。でも、のどかが頑張っても容体が変わる気配がない。

 

ふと振り向いたクルシーナは二人に近づいていく。

 

「アンタ、その小娘に言葉をかけてるけどさあ、そもそもアンタのせいでそうなったんじゃない」

 

「ラビ・・・!?」

 

「アンタが間抜けにもアタシたちに捕まったせいで、その小娘はプリキュアに変身できなくなった。アンタがアタシたちに利用されるから、その小娘はアタシの手で苦しむことになった。あの二人がボロボロになっているのだってアンタのせいじゃない」

 

「ラビリンのせい・・・?」

 

「見捨てた仲間なんか追いかけてるからウツ」

 

ラビリンの励ましを馬鹿にするクルシーナとウツバット。

 

「まあ、メガビョーゲンに楯突いてるあの二人も、もうすぐ苦しむ羽目になるけどね」

 

「う、嘘ラビ!! プリキュアになって、仲間になった二人が負けるわけーーーー」

 

ドカーーーン!!!

 

破壊音が響くと、そこにはボロボロになって倒れて伏しているフォンテーヌとスパークルの姿があった。

 

「メガビョーゲン!!」

 

「「あぁぁ!!」」

 

更にその上からメガビョーゲンがのしかかる。

 

「メガー!!」

 

頭部の口から赤い霧を二人に向かって吐き出した。

 

「うっ・・・ゲホゲホゲホッ!!」

 

「ちょっ、何これ、苦し・・・ゲホゲホッ!!」

 

二人は吸わないように口を抑えるも、少し吸ってしまったのか咳き込みんでしまう。

 

その様子を見ていたクルシーナは「フフフ」と不敵な笑みを浮かべる。

 

「あーあ、かわいそうに・・・アンタのせいで苦しい目にあってさ、この小娘もあの二人も」

 

「そんな!ああ・・・あぁ・・・」

 

ラビリンは二人が倒されている姿を見て絶望の表情をする。そして、今だに喉を押さえているのどかの姿を見やる。

 

「ラビリンが・・・ラビリンが、捕まったりしなかったら・・・こんなことには・・・」

 

クルシーナに現実を突きつけられ、涙目のラビリンはのどかのそばに突っ伏す。

 

ーーー私があの時、勝手な行動をしなければ、人質になんかにされなければ、こんなことにはならなかったのかラビ・・・?

 

「・・・ラビ、リン・・・」

 

「!・・・のどか!」

 

すると、のどかが弱々しい声でラビリンの名前を呼ぶ。声を出すのもやっとで、顔は苦痛に歪んでいて、片目だけ開けてラビリンの姿を見ていた。

 

「ラビ、リン・・・のせい、じゃ・・・ない・・・よ」

 

「何を言ってるラビ! 私がのどかを放ったりしなければ、こんなことにはならなかったラビ!」

 

ラビリンは瞳をうるうると潤ませる。

 

「ちが、う・・・よ・・・」

 

「え・・・?」

 

「わた・・・し、が・・・ラビ、リン、を・・・すく・・・い、たいと・・・おも、ったから・・・だれ、かの・・・た、め、に・・・な、りたい、から・・・これは・・・わ、た・・・し、の・・・意志・・・だよ・・・もう、だ、れ、も・・・つ、ら、い・・・おも、い・・・を、させたく・・・な、い、から・・・」

 

「でも、それで自分が苦しい思いをしたら意味ないラビ!!」

 

涙をポロポロとこぼすラビリン。苦しみながら声を発するのどかを正直見ていられなかった。まるで、ラテ様の姿と重なるようで・・・。

 

「だい・・・じょう、ぶ・・・だよ・・・」

 

のどかは表情は苦痛ながらも、ラビリンに笑顔を見せる。

 

「きこ・・・えて、た・・・よ・・・ラビ、リン、の・・・声・・・がん・・・ば・・・って、って・・・それ、で、まだ・・・私・・・がん、ば・・・れる・・・よ・・・」

 

のどかはクルシーナに病気を体内に移され、苦痛に襲われながらも、あることを思い出していた。

 

ーーーーラテも、こんなに苦しい思いをしてたんだね。

 

メガビョーゲンが出現すると、体調が悪くなるラテ。その顔色は悪くなっていて、辛そうな顔をしている。病気でお外にも出られなくなった自分と重なったのだ。最初に出会って苦しそうなラテを見たとき、救いたいと思っていた。

 

でも、ラテがどんな思いをしているかまではわからなかった。病気に蝕まれそうになっている、今の私ならラテの気持ちがわかる気がする。

 

病気で苦しみが襲ったとき、もうダメだと思った・・・。私は死ぬんだと思った・・・。でも、意識が混濁する中で、ラビリンが寄り添って励ましている声が聞こえた。そんな声が聞こえてから、私は負けるわけにはいかないと思ったのだ。

 

「だか、ら・・・じぶ、ん、を・・・せめ、な・・・い・・・で・・・」

 

のどかは途切れそうな声で言う。その表情は病気で両親が励ましてくれたときと、同じような笑みだった。

 

「のどかぁ・・・」

 

ラビリンは不安そうな顔だったが、のどかの言葉に少し救われた気がした。

 

「のどか・・・」

 

「のどかっち・・・」

 

のどかの声を聞いていたプリキュアの二人。

 

「バッカみたい・・・頑張ったって苦しいだけじゃない」

 

その様子を不機嫌そうな顔で見ていたクルシーナは毒づいた。

 

のどかの声に奮い立たされた二人は意を決すると、メガビョーゲンを押しのけようと両手に力を入れる。

 

「確かに、頑張ろうとすることには苦しいこともあるかもしれない、でも・・・!」

 

「のどかっちが頑張ってるから、あたしたちも頑張る・・・! 一緒に頑張れば、きっと辛いことだって乗り越えられると思う・・・! だから・・・!」

 

「メ、メガ!?」

 

「私たちも、のどかの頑張りに応える!!」

「私たちも、のどかっちの頑張りに応える!!」

 

二人はメガビョーゲンを押しのけると、よろけた隙をついて仰向けになりステッキを向ける。

 

「「はあぁぁぁぁ!!」」

 

「メガァー!!??」

 

フォンテーヌは青色のエネルギー、スパークルは黄色のエネルギーをメガビョーゲンの頭部に向かって放つ。直撃を受けたメガビョーゲンは大きく後ろに倒れる。

 

「っ・・・!!」

 

クルシーナは苛立ちから、両手に握りこぶしを作って震えていた。

 

「うっ・・・くっ・・・」

 

「のどか、頑張ってラビ・・・」

 

ラビリンはのどかの汗を拭きながら、彼女を励ます。

 

クルシーナは二人の様子を見ると更に顔をしかめる。

 

そして、彼女にまた一つの映像がフラッシュバックする。

 

ーーーー自分の額をタオルで拭い、私の顔を見て何かを問いかけてくる男性。

 

クルシーナは一瞬動きが止まったが、すぐに右手の拳を震わせる。

 

「メガビョーゲン、何してる!? そいつらを叩き潰せ!」

 

「メガー!!」

 

メガビョーゲンに怒鳴るとすぐに起き上がり、触手を二人に振り下ろそうとする。

 

「「ぷにシールド!!」」

 

フォンテーヌとスパークルのステッキから肉球型のシールドを展開し、メガビョーゲンの触手を防ぐ。

 

「うぅ・・・!!」

 

「くっ・・・!!」

 

メガビョーゲンの触手攻撃はやはり重く、押されそうになる二人。

 

「そのまま押し返すニャ!!」

 

「っ・・・のどかが頑張ってるんだから、しっかりしなきゃ・・・!」

 

「私たちがのどかっちを救いたい・・・いや、救わなきゃいけないんだよ・・・大切な友達を・・・!!」

 

フォンテーヌとスパークルは再度自分を奮い立たせると、触手を徐々に押し返していく。

 

「メ、メガ!?」

 

「「はあぁぁぁぁぁぁ、あぁ!!」」

 

二人は更に力を入れて押していき、最終的に弾き飛ばした。メガビョーゲンはそれによって少しよろける。

 

その隙を二人は見逃さなかった。

 

「「はあぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

「メガ!? ビョーゲン・・・」

 

飛び上がって、メガビョーゲンが態勢を立て直そうとしているところを同時に蹴りを入れる。頭部に直撃を受けたメガビョーゲンは腹部の檻がまるで折れ曲がるかのように倒れこんだ。

 

「なんだと!?」

 

クルシーナは予想外の事態に驚いていた。

 

「今だペエ!!」

 

「一緒に浄化技を!!」

 

二人はお互いに顔を見合わせて頷くと、フォンテーヌは水の模様が描かれたヒーリングボトル、スパークルは菱形の模様が描かれたヒーリングボトルをステッキへとかざす。

 

「「エレメントチャージ!!」」

 

そう言いながら光るステッキの先をハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「「ヒーリングゲージ上昇!!」」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングストリーム!!」

 

「プリキュア!ヒーリングフラッシュ!!」

 

フォンテーヌとスパークルはそう叫びながら、ステッキをメガビョーゲンに向けて、青色の光線と黄色の光線を同時に放つ。光線は螺旋状になって混ざっていった後、メガビョーゲンに直撃した。

 

その光線はメガビョーゲンの中に入ると、螺旋状のエネルギーは手へと変化して、4本の手が花のエレメントさんを優しく包み込む。

 

水型状に、菱形状にメガビョーゲンを貫きながら、光線は花のエレメントさんを外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「「「お大事に」」」」

 

花のエレメントさんは、深海魚コーナーのサンゴの中へと戻り、蝕んだ箇所も元に戻っていく。

 

そして、苦痛の表情に歪んでいたのどかからも蠢めく何かが消え、苦しさから解放された彼女はそのまま意識を失った。

 

「ワゥ~ン!」

 

体調不良だった子犬ーーーラテも額のハートマークが黄色から水色に戻り、元気になった。

 

「あーあ、やられちゃったウツ・・・」

 

「ふん・・・まあ、いいわ。種は撒いといたし」

 

クルシーナは眠っているのどかに目をやると、不敵な笑みを浮かべて撤退していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー大丈夫だよ、のどか。

 

ーーーーお母さんたちがついてるからね。

 

ベッドに横になる自分へ手を握り、微笑みながら励ましの言葉をかけてくれるお父さんとお母さん。

 

花寺のどかは幼い頃、病弱だった。それでも、小さい頃は元気に外で遊べる子供だった。あの頃はまだ、お母さんやお父さんにもいろんなところに連れて行ってもらって、楽しかった。

 

でも、小学生にあがってから、病気をするようになり、病院へ入院をすることになったのだ。

 

入院生活は体がだるくてまともに歩けず、まるで重しでも背負わされているかのよう。

 

でも、お医者さんや看護婦さんは優しかった。幼い私の話し相手にもなってくれたし、病弱な私に気を使ってくれた。それが生きたいという彼女の気持ちにしてくれたのだ。

 

そんなみんなが支えてくれる入院生活で、のどかの容態は急変した。急に呼吸が苦しくなり、体がふらつき倒れてしまったのだ。

 

彼女はベッドに寝かされ、口元に人工呼吸器を着用したまま、そして額には脂汗が滲んでいる。

 

意識は混濁していたが、自分の手に誰かが触れる感触を感じる。それが、お父さんとお母さんだとわかるとのどかは弱弱しく微笑んだ。

 

そんな彼女に二人とは違う、もう一つの手の感触があった。

 

「だいじょうぶ・・・?」

 

のどかに声をかけるのは幼い少女の声、この手は・・・。

 

そうか、心配で見に来てくれたんだ・・・。あなたも病気なのに・・・。

 

「のどかを心配してくれるの?」

 

「うん」

 

お母さんの声が聞こえると、少女の肯定する声が聞こえてくれる。

 

ちょっぴりぶっきらぼうだけど、実はとても優しい。暗くなっている私を励ましてくれた。

 

と、手の感触が自分の頭のあたりに感じる。どうやら頭を撫でられているようだ。それはお母さんではなく、小さな少女の手。

 

撫でられると安心した。自分の母親でもないのに、幸せな感じがした。

 

そう、あなたは、私のーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・どか・・・のどかぁ!!」

 

誰かの声が聞こえてくる。誰かが私に呼びかけてくる。

 

ーーーー苦しさはもう、感じない。

 

「うぅ・・・」

 

黒くなっていた視界が徐々に晴れながらもぼやけ、はっきりとしてくる。段々と映像がクリアになっていき、ピントが合ってくる。

 

そして、視界にはっきりと映ったのは友人二人と、小さなパートナーの姿だった。

 

目がはっきりと見えるようになるのを確認できると、目の前にいた友人ーーーーちゆ、ひなたは歓喜の表情を浮かべ、小さなパートナーーーーーラビリンは目をうるうると潤ませる。

 

「のどかぁ!!」

 

ラビリンは目を覚ましたのどかに抱きつく。彼女の服を涙で濡らすことも構わず。

 

「よかった・・・よかったラビ・・・!!」

 

泣きじゃくるラビリンに、のどかは安堵の表情を見せながら抱き返す。

 

そのラビリン以上に泣いているものがいた。

 

「うわ〜ん! のどかっち〜! よかったよぉ〜!!」

 

感情表現が豊かな友人、ひなたがのどかの体に顔を埋めて突っ伏している。

 

「ちょっと二人とも! のどかが困ってるでしょ!」

 

ちゆはそういうも、二人はのどかから体を話そうとしない。そういうちゆも目を潤ませていたのは解りやすいことだったが。

 

「だってだって〜! のどかっちが本当に死んじゃうのかと思ったんだも〜ん!!」

 

「もう、のどかのこと、離したくないラビ・・・!」

 

そんな様子を安堵しつつも、若干呆れたように見ていたのはニャトランだった。

 

「おいおい、だからってそこまで泣くか〜?」

 

「でも、のどかが元気になって本当によかったペエ」

 

ペギタンはみんなと同様に安堵の表情を見せていた。

 

「もう、心配させないでよ! 大切な友達が苦しんでいるのを見てたら、私は・・・」

 

ちゆは若干声を詰まらせながら言う。彼女も本当は強かったのだ。友達があんなに苦しい目にあっていて、もし命を落としたりなんかしたら・・・考えただけでも耐えられそうになかった。

 

「そうラビ! 二度と、あんなこと、しないでほしいラビ!」

 

ラビリンも声を詰まらせながら言う。パートナーが苦しい思いをしているなんて、ラビリンもきっといつかは心が壊れてしまうだろう。

 

「うん・・・ごめんね、ラビリン・・・二人とも・・・ありがとう・・・」

 

のどかは声に張りが戻っていないが、自分を気遣ってくれる3人に笑顔で感謝を示した。

 

「ワン!ワン!」

 

「あ、ラテ!」

 

のどかが体を起こすと、そこへラテが元気に飛び込んでくる。

 

「ラテにも心配かけたよね・・・でも、もう大丈夫、ピンピンしてるから!」

 

「ワン!」

 

のどかはラテを撫でながら言う。ラテものどかが元気になって嬉しそうだ。

 

「もう遅くなっちゃったし、帰りましょう」

 

「うん! ひなたちゃん、帰ろう?」

 

「そうだね。あーあ、もっとここでいろんな動物を見たかったのにな・・・」

 

「また、来ればいいわよ。今度は3人の行きたいところに」

 

「ふわぁ〜、それいいかも!!」

 

他愛のない会話をしていく3人。こうして、水族館を通してさらなる絆を深めていったのであった。

 

ーーーーなんだか、小さい頃の病気が治った時みたいで、生きてるって感じ!

 

・・・しかし、ちゆとひなた、ヒーリングアニマルたちはおろか、のどかですら気づいていなかった。

 

のどかの鼓動を打つ心臓部分に、小さな淀みのようなものが蛍の光のように蠢いていることに・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、んぅ・・・」

 

廃病院の地下の実験室、クルシーナは昏睡状態で横たわる少女に口づけを交わしていた。

 

メガビョーゲンから排出されたサンゴの卵のようなものを口の中に含み、呪詛した後、キュアグレースを病気に侵したのと同じように口づけをして、体内に移し込んでいた。

 

少女の表情がピクピクと顰め、その中には淀んだ何かが入り込んでいく。

 

「ぷぁ・・・」

 

移し終えると少女から口を離し、ベッドから降りると小部屋の外へと出る。

 

「ご苦労様でした。また一歩近づきそうですよぉ♪」

 

「・・・別にお前のためじゃないっての」

 

ドクルンの言葉にクルシーナはそう吐き捨てると、実験室から出ていく。

 

「フフフ・・・」

 

ドクルンは笑みを浮かべながら、小部屋にいる少女の姿を見ていた。

 

一方、クルシーナは廃病院の屋上にいた。ここも病気には蝕まれていて、白い柵らしきものは錆びたようにボロボロになっており、その外に向かって足をぶらぶらさせながら寝そべっていた。

 

クルシーナはいつものような不機嫌そうな顔を少ししかめて空を見上げている。

 

空に向かって手のひらを突き出すと、またある映像が頭の中に入ってくる。

 

ーーーー自分の目の前に病気で死にそうな少女。その子の手に触れ、頭を撫でた。

 

そういえば、敵であり、自分にとっては苦しめる対象の一つにしか過ぎない、キュアグレースの頭を、どうして撫でたりなんかしたんだ・・・?

 

考えてはみるが、何も思い浮かばない・・・あいつとは初対面のはず・・・。

 

あいつから何も感じず、気持ち悪さだけが残って、余計にイライラする。

 

その思考に拍車をかけるように、ある言葉も思い出させられ余計に腹がたつ。

 

ーーーーきこ・・・えて、た・・・よ・・・ラビ、リン、の・・・声・・・がん・・・ば・・・って、って・・・それ、で、まだ・・・私・・・がん、ば・・・れる・・・よ・・・

 

ーーーー頑張ろうとすることには苦しいこともあるかもしれない・・・

 

ーーーー 一緒に頑張れば、きっと辛いことだって乗り越えられると思う・・・!

 

プリキュアの3人の言葉、「頑張れる」「頑張ろうとする」「乗り越えられる」。その言葉を嫌でも思い出させられた彼女はそっぽを向くように鼻を鳴らす。

 

「ふん・・・何が、頑張りよ。無駄な抵抗なんかしちゃってさ・・・!」

 

メガビョーゲンを倒したのだって、あんなのまぐれに決まっている。プリキュアごときが、そんなに強いわけでもないのだ。頑張りなんて根拠のない言葉に、私たちがやられるわけじゃない。

 

「やめたやめた」と考えるのをやめて、横になろうとしたとき、何か風を切るような音が背後から聞こえた。

 

「・・・あれ? 機嫌、直ってる?」

 

「ん? って、ダルイゼン?」

 

聞き覚えのある少年のような声が聞こえて、後ろを向くとダルイゼンの姿があった。

 

まるで興味がないと言わんばかりに、横になると口を開く。

 

「あんた、何でここに?」

 

「・・・生気の感じるものの感覚をたどったら、ここに来た」

 

「・・・何、それ?」

 

生気の感じるものをたどってきた? ここには生気の感じるものなんか何もない。どう聞いても建前で言ってることが明らかだ。アタシに会いに来たとしか考えられない。

 

ダルイゼンは淡々に言うと、クルシーナの横にいつものように寝そべり始めた。

 

「アタシの隣に寝ないでくれる?」

 

「・・・別にいいじゃん。減るもんじゃないし」

 

クルシーナは嫌そうな顔をすると、ふんと鼻を鳴らして寝直す。物理的に追い払おうとしないということは肯定した証である。

 

「・・・ここ何なの?」

 

ダルイゼンが問いかけてくる。メガビョーゲンが出現しているわけでもなく、それでいて病気に蝕まれている箇所が多すぎる気がする。ここは、なんだか様子がおかしい。

 

クルシーナは体を起こすと、妖艶な微笑みを浮かべる。

 

「アタシたち、お父様の娘の本拠地。素敵でしょ? 赤く染まっててさ」

 

「・・・・・・」

 

クルシーナの言葉を、ダルイゼンはそれを無表情で黙って聞いていた。

 

「ここだけじゃなくて、あの辺だって全部赤く染まってるのよ。もうビョーゲンズの居心地がいいくらいにね」

 

クルシーナが指を指す方向には、寂れた家、寂れたビル、廃墟と化している店、そして街の木や奥の山が病気で赤く染められていて、人間のいる気配が全くしない光景が広がっていた。

 

そこはまさしくゴーストタウン。とても人が住めるような環境ではなかった。

 

ダルイゼンは体を起こして景色を見やる。これが、ビョーゲンズが目指している理想の世界、世界を切り取ったかのような、病気で溢れた世界で広がっていく・・・。

 

「ビョーゲンキングダムほどじゃないけど、素敵でしょ?」

 

クルシーナが微笑みながら言うと、いつもは無表情のダルイゼンが不敵な笑みを返す。

 

「・・・悪くないね。生きてるって感じがして」

 

それは、クルシーナのことなのか・・・ここ一帯の街のことを言ったのか・・・それは言った本人にしかわからない・・・。

 




感想、評価、ご指摘等、お願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話「安息」

原作第6話がベースです!
前後編に分けます!今回は前編になります!


 

「うぅ・・・んぅ・・・んん・・・」

 

ドクン、ドクン、ドクン

 

のどかはベッドの上で胸を抑えながら、顔は苦痛の表情を浮かべていた。額には脂汗が滲んでいる。

 

他の人から見れば、悪夢にうなされているように見える。苦しそうな声をあげ、時折「見たくない」と言いたげな感じで首を振ってもがく。

 

しかし、外から見てはわからないが、のどかの心臓で赤く小さく何か蠢いている。まるで、のどかの体を蝕ませていくかのように・・・。

 

「うぅぅ・・・んんぅ・・・んん・・・!」

 

ドクン、ドクン、ドクン

 

「うぅぅ・・・うんぅ・・・!!」

 

ドクン、ドクン、ドクン

 

「んんぅ・・・うぅんん・・・!!」

 

・・・どか・・・のどかぁ・・・!!

 

「うぅぅ・・・ん・・・!!」

 

ーーーーのどか、目を覚ますラビ!!!!

 

「あっ・・・!?」

 

ラビリンの声がどこかで聞こえてきて、のどかは目を見開く。視界には心配そうな顔で見るラビリンの姿があった。

 

「のどか、大丈夫ラビ? 随分とうなされてたラビ」

 

自分のパートナーが心配そうに見つめている中、のどかは体を起こす。顔や体が汗でびっしょりと濡れている。

 

そういえば、眠っている間も何だか胸も苦しくなっていた気がするが・・・。

 

「あれ・・・?」

 

いつの間にか胸の苦しさがなくなっていた。それもまるで、体から胸のつっかえがなくなったかのように。

 

一体、何だったのか・・・? 前までは悪夢を見ていても、胸が苦しいなんてことはなかった。こういうことが起き始めたのは、水族館でクルシーナに何かされて病気で侵されて苦しみ、そこから解放されてからだ。

 

普段は、苦しいと感じることなんて何もない。苦しみを感じるのは、いつも限って眠っている時だけ・・・。まだ、あの時の後遺症が残っているのだろうか?

 

「のどか? どうしたラビ?」

 

「・・・ううん。なんでもない」

 

ラビリンに心配をかけまいと笑顔を見せるのどか。

 

「クゥ~ン・・・」

 

ラテも心配そうにのどかのことを見つめている。鳴き声も悲しそうだ。

 

「大丈夫だよラテ。今日も私は元気元気」

 

ラテにも心配をかけたくないのどかは撫でながら笑顔を見せる。ベッドから立ち上がるとのどかはパジャマから私服へと着替えようとクローゼットへ。

 

確か、今日は日曜日。ちゆちゃんとひなたちゃんが家に来るはず。あの時ははぐらかしちゃったけど、ちゃんと家族にもお友達を紹介しないと。

 

のどかは今日も生きてるって感じを抱きながら、両親の待つ食卓へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マグマが満たされたビョーゲンズの住む世界、ビョーゲンキングダム。そこでは、シンドイーネがぶつくさと不満を漏らしていた。

 

「全く何なのよ、もう!! プリキュアってホント目障り!!」

 

この前、出撃したシンドイーネは水族館でプリキュアからあからさまな妨害を受けて、イライラしていた。特に栗色の髪の女、あいつはいきなりリュックサックを投げつけた挙句、ヒーリングアニマルのペンギンを取り返そうと掴みかかってきた。それも自分の顔を手で押しのけるかのように。

 

あんな頭の悪そうな行動に作戦を妨害された挙句、メガビョーゲンもあっさりと浄化された。ビョーゲンキングダムに逃げ帰った後も、彼女の怒りは今日に至るまで治まらなかったのだ。

 

「キーキー、キーキーうるさいぞ、シンドイーネ。お前の声こそ耳障りだ」

 

グアイワルがすぐ感情的になるシンドイーネに辟易しつつも、たしなめる。

 

「なんですって!? あんたはムカつかないの!? グアイワル!!」

 

グアイワルの言い方が癇に障り、突っかかっていくシンドイーネ。

 

「腹を立てても仕方あるまい。今は気にせず、地球を蝕めというのが、お前の大好きなキングビョーゲン様の命令だろ?」

 

後半、嫌味ったらしく口調を変えるグアイワル。

 

確かに、怒った仕方がないこともある。プリキュアを倒すことは特に命令には含まれていない。そんなことはシンドイーネでもわかっているのだが・・・。

 

「そうよ! そうだけど、あんたに言われるとますますムカつく!!」

 

小馬鹿にされて気分を害したシンドイーネの怒りは収まることを知らない。まるで、惨めったらしく恥をかかされた気分だ。

 

「ダルイゼン! クルシーナ! ドクルン! イタイノン! あんたらはどうなのよ!?」

 

この場にいる他の4人に八つ当たりのごとく、突っかかろうとするシンドイーネ。

 

「別に・・・俺は最終的に、この星が暮らしやすくなれば、なんでも・・・」

 

寝そべっているダルイゼンは面倒臭そうに答えながら横になる。

 

「アタシも地球や人間が病気で苦しんでればそれでいいわよ。っていうか、そんなことでいちいち怒ってたってしょうがないでしょ」

 

同じく寝そべっているクルシーナは手を追い払うかのように振りながら、そっけなく答える。

 

「怒りなど論理的ではないかと。すぐに冷めやすいものですし」

 

ドクルンは本を片手に読みながら、シンドイーネの怒りを否定。

 

「おばさんは少し頭を冷やしたほうがいいと思うの。しわが増えて余計に老けるだけなの」

 

イタイノンは携帯ゲームをピコピコしながら毒付く。

 

「キーッ!! ホントに何なのよ!? どいつもこいつも!! っていうか、イタイノン!! またあんた、おばさんって言ったわね!!」

 

メンバーから酷薄な発言しかされず、ますます苛立つシンドイーネ。特にイタイノンの言葉には聞き捨てならず、怒りを隠さず突っかかる。

 

「・・・ふん」

 

イタイノンは鼻を鳴らすと、ゲームをやる手を止めてポケットにしまうとシンドイーネから離れるように歩いていく。

 

「ちょっと! どこ行くのよ!?」

 

「うるさいから、他の場所行ってるの」

 

シンドイーネの言葉に意を介さず、そのまま歩き去っていく。

 

「・・・全く、付き合ってらんないね」

 

ダルイゼンも起き上がると歩き始める。

 

「ダルイゼン? 行ってくるの?」

 

「・・・ああ」

 

「ん・・・いってらっしゃ~い!」

 

「ダルイゼン! あんたまで!!」

 

クルシーナのだるそうな言葉に答えるダルイゼン。シンドイーネと本当に関わりたくないと言わんばかりの顔をしながら、答えようともせずに歩き去っていく。

 

「何よーもぉー!!!!!!」

 

「うるさ・・・」

 

ビョーゲンキングダムにはシンドイーネの怒りの声が響き渡り、クルシーナが嫌そうに声を漏らしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・ビョーゲンキングダムにいても不快、地球にいても不快・・・私の安息たる地はどこにもないの・・・」

 

イタイノンはすこやか市のとある木の木陰でため息を吐いていた。

 

ビョーゲンキングダムでは、シンドイーネがパパに向かって媚を売るし、今日だってプリキュアごときの愚痴を吐いてやかましい。ゲームをしていれば、クルシーナに邪魔される。

 

かといって、地球に来たところでここの健康的な環境は極めて不快だ。太陽なんか正直浴びたくないし、元気そうな人間がちらほらと歩いている。この木陰にいる間も不快感をふつふつと感じているのだ。

 

ーーーーやはり、安息の地を得るためには、地球を蝕んで自分の場所を作っていくしかない。

 

面倒臭くて辛いけど、やるしかない・・・。

 

「イタイノン? 大丈夫ネム?」

 

ネムレンが心配しているが、どこを心配しているのだろうか。ビョーゲンズにはいたわる相手など誰一人いやしない。皆、自分の目的を、パパのために働いているにすぎない。

 

イタイノンはため息を吐くと、ネムレンを優しく撫でる。

 

「大丈夫なの。ここの健康的な環境に、少し当てられただけなの」

 

イタイノンは立ち上がると、歩こうとしたが・・・。

 

ブウォン!!!!

 

「ひっ・・・!?」

 

イタイノンの前を突然、赤い車が通った。思わず悲鳴を上げ、硬直する。

 

どうやらイタイノンの歩く先は車道だったらしい。少し間違えていたら、跳ね飛ばされていたところだ。しかも、チャラそうな男が2人乗っていた気がする。

 

「・・・言わんこっちゃないネム」

 

「だ、大丈夫、なの・・・たまたま、たまたまなの」

 

イタイノンは緊張を解くと、ネムレンに言い訳をするかのように言葉を並べ、横に向かって歩こうとする。

 

ーーーー人間の住むところは、やっぱり怖いの・・・。

 

人間に若干恐怖を覚えながら、横に向かって歩こうとすると、彼女の横を銀色の大きな車が走ってきた。先ほどの赤い車よりも、ゆっくりと車を走らせている。

 

どうやらトラックというものらしく、銀色の四角い箱みたいなものには『す』という文字が吹き出しと木の葉が書かれていた。

 

「四角い箱・・・?」

 

「一体、何ネム・・・?」

 

二人揃って、あまり見たことのないロゴ。とはいえ、そんなことはどうでもいい。

 

そもそも、あの四角い銀色の箱はなんなのであろう。もしかして、何か中に詰めているのか?

 

あの箱は見た目としては、そんなに大きなものではなかった。そうするとなると、人一人が入れるぐらいの狭いスペース・・・。

 

ということは・・・その、すこやか運送に行ってみれば、私の安住の地が手に入る・・・?

 

「行ってみたいの・・・」

 

「え、どこに?」

 

「あの箱の中・・・」

 

イタイノンは空へと飛び上がると、その四角い銀色の箱の後を追う。

 

林を抜けていくと、ある一軒家の前に止まった。前の運転席から一人の人間が出てきて、後ろの四角い銀色の箱を開けて何かを取り出すと、家の前へと向かっていく。

 

イタイノンは下へと降りて、開けっ放しの箱の中を見ると、何やらいろんな四角い箱が入っていた。

 

「・・・何なの? これ」

 

「重そうな荷物ネム」

 

イタイノンはそれを見ながら嫌そうに、呆れたような顔をして辟易する。確かに一人に慣れるスペースとしては申し分ないが、いくら何でもこんな狭い場所に入りたいとは思わない。

 

「!・・・戻ってきたネム」

 

「!?」

 

ネムレンの言葉を聞くと、四角い銀色の箱の横に隠れる。バタンと、箱が閉まるような音が聞こえた。

 

そして、何かのエンジン音が聞こえると、トラックは再び走り出した。

 

イタイノンは空に飛び上がると、トラックを見失わないように追跡する。

 

「・・・辛いけど、我慢我慢なの」

 

「本当に無理しないでネム」

 

イタイノンの顔が若干歪んでいることに気づいたネムレンが心配そうな声を上げる。

 

しばらくトラックをつけていくと、結構な距離を走っていき、最終的に「すこやか運送 配送センター」と書かれた建物の中に入っていく。

 

だが、イタイノンは走ったわけでも、体に負担をかけたわけでもないのに、なぜか息を荒くしていた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

「大丈夫ネム?」

 

「はぁ・・・地球の太陽は居心地が悪いの・・・」

 

どうやら太陽の日差しのせいで、体力を削られた模様。顔からも汗が出ている。

 

人間にとって居心地のいい場所はビョーゲンズにとって不快な場所。とても地球の環境は肉体的にも、生理的にも受け付けない。

 

それ以前に、イタイノンは基本的に引きこもってばかりなので、体力があまりないのだが・・・。

 

イタイノンは門の前へと降りると、中の様子を見やる。

 

別のトラックが走り出し、右へと曲がっていく。建物の中は人がいて、何やら別のトラックに荷物を積もうとしている模様。

 

「・・・何をしている?なの」

 

「荷物を運んでいるようネム」

 

何をするための行為なのかはよくわからないが、四角い銀色の箱に荷物を入れ込んでいる様子。

 

でも、あの建物は、何だか狭そうで、暗そう・・・光が届かなそうで、最高の引きこもり場所・・・。

 

「キヒヒ・・・・・・」

 

イタイノンはいい場所を見つけたと言わんばかりの不敵な笑みを浮かべる。中に入って、確かめようとするが・・・。.

 

「ワン!ワン!」

 

「ひぃ!!」

 

背後から犬の吠える声が響き、イタイノンは思わずビクッとすると瞬間移動をして、すこやか運送の建物の上へと隠れる。

 

建物から下を覗いてみると、門の前に小さな子犬がお座りして何かを待っているのが見えた。

 

よく見てみるとその子犬の額にはハートマークがあり、イタイノンも見たことがある動物だった。

 

「な、なんだ・・・あいつらと一緒にいるヒーリングアニマルか、脅かすな、なの」

 

「イタイノンは本当にビビりネム」

 

「うるさいの・・・!」

 

正直、つねってやろうと思ったが、声がして再び下を見るとマゼンダ色の髪の少女、藍色の髪の少女、栗色の髪の少女が子犬の元へとやってきた。

 

「あいつらは・・・?」

 

どこかで見たことがある少女たち。確か、人の多い商業施設で見たことがあるはず・・・。

 

さらに彼女たちのそばには、ピンクのウサギ、水色のペンギン、黄色のネコがいるのが見えた。あいつらは間違えるはずもない、紛れもなくヒーリングアニマルたちだ。

 

ということは、あいつらはプリキュア。パートナーを見つけたヒーリングアニマルたちが、人間の少女たちと一緒にいる。間違いない・・・。

 

「ちっ・・・面倒なヤツらがきたの・・・」

 

イタイノンは顔を顰めながら言う。プリキュアのヤツらがいたんじゃ、ここ一帯を病気で蝕めないどころか、すぐに策を破られることになる。それはさすがに本意ではない。

 

ここは落ち着いて、あいつらの様子を伺う。なにやら、子犬に聴診器を当てているようだった。

 

「そっか・・・のどかもラビリンもいつも学校に行っちゃうから・・・」

 

「ラテのこと、お母さんがずっと見ててくれたんだもんね」

 

どうやらあの子犬はプリキュアの一人である、あのマゼンダ色の髪の小娘のお母さんとやらに面倒を見てもらっているらしい。

 

お母さんに面倒を見てもらう・・・。

 

イタイノンはそれを聞いて表情でわかりやすいくらい、歯ぎしりをする。頭の中に映像がフラッシュバックしているのだ。

 

ーーーー自分の右手を取り、どこかへ連れて行こうとする女性。

 

「イタイノン・・・?」

 

ネムレンが心配そうに彼女のことを見ている。何やら辛いことでもあったのだろうか。

 

プリキュアたちの会話はまだ続いていた。

 

「私もね・・・病気で心細かった時、ちょっとお母さんが見えなくなると、すぐに探して、後を追っちゃったんだ。ラテも寂しかったよね・・・ラテはあの頃の私たちよりも、もっとちっちゃいんだもんね」

 

「ラビリンも、ごめんなさいラビ・・・。ただでさえ、テアティーヌ様と離れて、ラテ様は寂しかったラビ・・・。もっと一緒にいてあげなきゃいけなかったラビ・・・」

 

「僕たちもペエ・・・」

 

「ごめんな、ラテ様・・・」

 

「クゥ〜ン」

 

イタイノンは体をプルプルと震わせていた。また、頭の中に映像がフラッシュバックする。

 

ーーーー右腕を押さえつけられ、針のようなものを近づけてくる老年の男性。

 

「イタイノン? 本当にどうしたネム・・・?」

 

「・・・なの」

 

ネムレンが先ほどよりも聞こえるように声をかけると、イタイノンからブツブツ言っている声が聞こえてくる。

 

その声は段々とはっきりと聞こえてきた。

 

「大嫌いなの・・・! 人間なんか大嫌いなの・・・!!!」

 

イタイノンの表情から怒りとも、辛さとも取れるような感情が芽生えていた。

 

・・・お母さんが面倒を見ているから、お母さんが恋しくなる?

 

・・・お母さんが恋しいから、寂しい?

 

・・・寂しいから、一緒にいてあげないといけない?

 

イタイノンはあの子犬の行動も、マゼンダ色の髪の小娘も、あのピンク色のウサギの、どの言葉にも共感できなかった。人と付き合ったところで、そんな感情抱けるわけがない・・・。憎いとしか思えない・・・!

 

その時だった・・・。

 

「クチュン!!」

 

子犬がくしゃみをしたかと思うと、ぐったりして具合が悪くなった。

 

「これって・・・?」

 

「ビョーゲンズじゃない!?」

 

藍色の髪の少女と栗色の髪の少女が何やら騒いでいる。それに何やらメガビョーゲンの反応が。

 

おそらく、ビョーゲンズの誰かがメガビョーゲンを発生させている。そして、どこかで暴れているのであろう。

 

プリキュアたちは、何やら焦ったようにこの建物から離れていく。どうやら、私のことには気づかなかった模様。

 

それを見送ったイタイノンはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 

「しめしめなの・・・あいつらが離れている間に・・・」

 

バカなやつらなの・・・私がここにいることも知らずに・・・。

 

イタイノンは建物から飛び降りると、辺りを見渡す。何か病気で蝕めそうなものを探している。

 

車庫らしきものへと近づいていくと、イタイノンは何かに気づいたのか、ハッとするとそのものに駆け寄る。

 

それは三箱重ねて置いてある段ボール。そのうちの一番上を開けてみると、入っているのは緑色の大きな玉のような野菜ーーーーカボチャだった。

 

余程、大事にされて育てられていたのだろうか・・・しっかりと実が詰まっていて、生きてるって感じがする・・・。

 

「キヒヒ・・・」

 

イタイノンは不敵な笑みを浮かべると、両腕の袖をまるで埃を払うかのような動作をする。そして、右手を開きながら突き出すように構える。

 

「進化するの、ナノビョーゲン」

 

「ナノナノ~」

 

イタイノンの生み出したナノビョーゲンが鳴き声を上げながら、ダンボールの中のカボチャへと取り憑く。中のカボチャが丸々と徐々に病気へと蝕まれていく。

 

「ああ・・・あぁ・・・」

 

カボチャの中にいる妖精、エレメントさんが病気へと蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガビョーゲン!」

 

カボチャが巨大化したような感じで、蕾が生えた蔓のような触手、渦を巻いているような4本の蔦の足を持つメガビョーゲンが誕生した。

 

メガビョーゲンは頭をブルブルと震わせると、黄色いカボチャの玉を4つずつばらまく。カボチャの玉は爆発を起こすと、その場所を病気へと蝕む。何と黄色いカボチャは爆弾だった。

 

「何だ・・・騒がしいな・・・う、うわあぁ!?」

 

爆発音が聞こえて気になった中年の男が様子を見に来るも、メガビョーゲンの姿を見て驚愕した。

 

「きゃあぁぁぁ!!」

 

「化け物だー!!」

 

部長の声に気付いた社員たちは悲鳴を上げて逃げ惑う。メガビョーゲンは更に逃げる人たちに爆弾をばらまいて、爆発させ病気へと蝕む。

 

「きゃあぁぁ!!」

 

イタイノンはその姿を見て、笑みが止まらない。

 

「キヒヒ・・・いいのいいの・・・この調子でどんどん蝕むの、人間たちを震え上がらせるの」

 

「メガー!!」

 

イタイノンは逃げ惑う人間の快楽を得ようと、メガビョーゲンに指示。メガビョーゲンは飛び跳ねながら移動する。着地をしたところに衝撃波が発生し、コンクリートの地面が赤く蝕まれる。

 

更に近くの植物へと爆弾をばらまいて爆発させ、更に病気へと蝕んでいく。

 

「メガー!!」

 

更に口からも病気を吐き出し、建物の中の荷物にまで病気へと蝕んでいく。

 

「ここは蝕む場所が少ないの。もっと別の場所に行くの」

 

「その方がいいネム」

 

「メガビョーゲン、あっち」

 

「メガー!!」

 

メガビョーゲンは飛び跳ねながら、イタイノンに着いていく。地面を赤い衝撃波で蝕んでいきながら、先ほどのトラックが走った方向へ逆走していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

のどかたちはメガビョーゲンが発生したと思われる、母・やすこが運送を請け負う先、いちご農園へと向かっていた。

 

「いちご農園はまだラビ!?」

 

「もう少しよ!」

 

急いでいちご農園へと走る3人だが、元々運動が苦手で体力があまり無いのどかのペースが落ちてきていた。

 

「あっ、あああ!?」

 

「のどか! 危なかったラビ!」

 

のどかが足を絡ませて転びそうになり、ラビリンがそれに気づいて駆け寄る。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「のどかっち、大丈夫!?」

 

ひなたとちゆも息を切らす彼女に駆け寄る。元々体力が無い上に、虚弱体質なために無理が祟ったのか。

 

「うん・・・だいじょうーーーーあ」

 

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン

 

体から急に力が抜け、膝をついてしまうのどか。眠っているときと同じように、心臓の鼓動が警鐘を鳴らす。

 

「のどかっち!!」

 

「のどか!!」

 

「あ、あれ・・・?」

 

のどかは立ち上がろうとするが、立てない。まるで、体に鉛でも背負わされたかのような感覚。

 

おかしいな・・・今まではこんなことなんかなかったのに・・・。心臓の音はまだ早い。

 

やっぱりあの水族館の頃から、体が変になっている・・・。

 

「のどか、大丈夫なの!?」

 

ちゆも心配そうに声を上げる。

 

さらに追い討ちをかけるような事態が・・・。

 

「クチュン!!」

 

「!!??」

 

のどかに抱かれていたラテがくしゃみを起こしたのだ。メガビョーゲンが発生すると、ラテはくしゃみをして具合が悪くなる。

 

「もしかして・・・?」

 

「また、別の場所にペエ・・・?」

 

ちゆは聴診器をして、ラテの心の声を聴いてみる。

 

(あっちでかぼちゃさんが泣いてるラテ・・・)

 

「カボチャ・・・?」

 

「え、あっちの方向って、のどかっちのママの働き場所だよね!?」

 

なんということだ。先ほどのどかたちがいたすこやか運送にメガビョーゲンが現れたらしい。しかも、さほど走っていないと見るとついさっきだ。

 

メガビョーゲンが二体現れた上に、のどかの謎の不調・・・。状況はさらに悪化していた・・・。

 

のどかを見ていたラビリンは、意を決して二人の方を見る。

 

「ここはラビリンに任せるラビ!! 二人はメガビョーゲンのところに!!」

 

「で、でも・・・!」

 

ひなたは不安そうだ。水族館の出来事で下手をしたら友人を失っていたかもしれないのに、またのどかっちに異変が起きている。置いていくなんて、後ろめたい気持ちだった。

 

「早く行くラビ!! 取り返しのつかないことになる前に!!」

 

ちゆは不安そうな顔をしていたが、ラビリンの言葉を聞くと意を決する。

 

「わかったわ・・・」

 

「ラビリン、のどかっちをお願い・・・!」

 

ちゆとひなたはラビリンに任せて、メガビョーゲンのところに向かうことにした。分かれてメガビョーゲンが現れたとしたら、二手に分かれて処理するしかない。

 

「私はいちご農園に行くから、ひなたはすこやか運送に向かって!!」

 

「うん!!」

 

ちゆとひなたは二手に分かれた。それぞれのメガビョーゲンを浄化し、地球をお手当てするために。

 

のどかはその様子を不安そうに見つめると、なんとか足に力を入れようとする。

 

「行かないと・・・行かなきゃ・・・うぅ・・・!!」

 

「のどか! 無茶はダメラビ!!」

 

意地でも力を入れようとするのどかに、ラビリンは声をかける。

 

「だって・・・いちごが・・・お母さんが・・・! 私が辛い時に、ずっとそばにいてくれたのはお母さんなの・・・だから、今度は私たちが助ける番なの・・・!!」

 

のどかは母親への思いを口にしながら、少しずつ足を起こしていき・・・。

 

「うっ・・・くぅぅ・・・!!!」

 

足をプルプル震わせながらも立ち上がったのどか。その時、体から苦しさがすっきり消滅したかのように軽くなった。

 

「あ、あれ・・・? 楽になった・・・?」

 

一体、私の体に何が起こっているのか? 目を覚ましたと思ったら胸の苦しさがなくなり、こうやって何とか立ち上がると体の重さがなくなった。自分の体に異変が起きているとしか思えない・・・。

 

「のどか!! 大丈夫ラビ!?」

 

「!! う、うん・・・早く、向かおう・・・!!」

 

それを考えるのは後回しだ。とにかくメガビョーゲンを浄化しないと・・・!!

 

のどかは再びいちご農園に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ビョーゲンキングダムで寝そべっているクルシーナ。今、ここには、自分の周囲には誰かがいるわけでもない。一人での時間を満喫していた。

 

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。

 

「・・・ん?」

 

何かの反応に気づき、右目を開けて首だけを振り向く。

 

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン

 

心臓の音が聞こえてきて、自分の体が疼くような感覚。でも、心地よい感覚・・・。

 

クルシーナはそれを感じると、不敵な笑みを浮かべた。

 

「ふーん、ちゃんと蝕んでるじゃん」

 

水族館でのどかを病気へと蝕もうとした張本人は、再び横になろうとする。

 

「クルシーナ、あの小娘に何をしていたウツ?」

 

彼女の帽子になっているウツバットが問いかける。

 

「別に、ちょっと種を蒔いてやっただけよ」

 

「種?」

 

「フフフ・・・そう。あのプリキュアの小娘のね・・・」

 

クルシーナは妖艶に笑いながら、その種の快楽を味わっていたのであった。

 




感想・評価・ご指摘、よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話「怨恨」

第11話、後編になります。


 

のどかの母、やすこが働くすこやか運送の建物へと走るひなた。いちご農園とは別に発生したメガビョーゲンを浄化するためだ。

 

しかし、ひなたは向かいつつも、後ろめたいことがあった。

 

「のどかっち、大丈夫かなぁ?」

 

「のどかにはラビリンがついてるんだぜ! 大丈夫ニャ!」

 

のどかの病気で寂しい思いをしたという話を聞いた時、彼女をできるだけ寂しい目には会わせたくないと思った。だから、一刻も早くのどかの元には戻りたい。

 

だが、彼女には心強いパートナーがいる。だから、負けない。彼女は病気に侵されようとも。

 

親友のことが気がかりなひなただが、でもメガビョーゲンは放っておけない。

 

ひなたとニャトランは、そう思いながら走っていくが・・・。

 

「うぇぇ!?」

 

「ニャ!?」

 

ひなたは驚いて思わず足を止めた。なんと、すこやか運送へと向かう道が、家も、草木も真っ赤に侵されていたのだ。

 

「う、ウソ・・・もうこんなに広がってんの!?」

 

「早く行くニャ!!」

 

動揺するひなたに、ニャトランが発破をかける。

 

ここからまだ少しすこやか運送へは距離がある。ここまで侵されているということは、難しいことはわからないけど、メガビョーゲンの蝕む速度がむっちゃ速くて、強くなっているという・・・。

 

とにかく急いで走っていくひなたと、ニャトラン。地面も赤く病気に蝕まれていて、駆けるたびにピチャピチャと音がする。正直言って、気持ちが悪い。

 

でも、そんなことを言ってはいられない。早くメガビョーゲンを浄化して、のどかっちの元へ。

 

ようやく建物にたどり着くと、そこは凄惨な光景があった。

 

「ああ!?」

 

建物から地面、草木、トラック、そして看板までもが病気に侵されていた。

 

「のどかっちのママの仕事場が・・・!」

 

光景に絶句するひなた。もう見ているのが嫌になるくらいの、真っ赤な景色・・・。

 

周りを見渡すもメガビョーゲンの姿は見当たらない。まさか、この場所から移動したのか・・・?

 

「! ひなた、あっちニャ!!」

 

ニャトランが指をさすと、山の方へと向かう道が病気が蝕まれているのが伸びているのが見えた。

 

「あっちへと向かったってこと?」

 

「たどれば間違いないニャ! 早く行って浄化を!」

 

「うん!」

 

ひなたはニャトランに頷くと山へ向かう道へと走っていく。

 

ドドン! ドドン! ドドォーン!!

 

「な、何の音!?」

 

聞こえてくる爆発音。そして、山の向こうから煙が上がっているのが見えた。

 

「山の方からニャ!」

 

「!!」

 

ひなたは爆発音が起こっている山を睨みながら走っていく。

 

一方、山の中では・・・・・・。

 

ドドン! ドドン! ドドン! ドドン!

 

「メガー!!」

 

ドドン! ドドン! ドドン! ドドン!

 

メガビョーゲンがカボチャ爆弾をばら撒き、山の草木を病気へと蝕んでいた。

 

「キヒヒ・・・いい感じに蝕んできたの」

 

木陰からメガビョーゲンの様子を覗くイタイノンは順調に蝕むを続けているのを見て、笑みを浮かべる。

 

「結構良質なメガビョーゲンの素体だったネム」

 

ネムレンも作戦が順調にいっているのを見て、安堵の声を漏らす。

 

その時だった・・・・・・。

 

「こらぁー!!!」

 

「??」

 

どこからか怒鳴るような声が聞こえ、その方向を見ていると栗色の髪の少女ーーーーひなたと黄色いの小さなネコーーーーニャトランがこちらに近づいてくるのが見える。

 

あれは、商業施設にいた騒がしい女、そしてあの黄色いネコ、もといヒーリングアニマルをパートナーに持つプリキュアだ。

 

「ちっ・・・やかましい女が来たの」

 

イタイノンはひなたたちの姿を見て、顔を顰める。今、順調にいっているのにここで邪魔されてはかなわない。

 

「ひなた、行くぜ!!」

 

「うん!!」

 

「スタート!!」

 

「プリキュア、オペレーション!!」

 

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

 

ニャトランがステッキに変わると、ひなたは菱形のボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。そして、肉球にタッチすると、星のような光線が現れ、白衣が現れ、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

気づいていないメガビョーゲンにスパークルが飛び蹴りを食らわせる。

 

「メガ!?」

 

背後から蹴りを受けて、うつ伏せに倒されるメガビョーゲン。

 

「「キュアスキャン!」」

 

ニャトランの目が光り、メガビョーゲンの中にいる、苦しんでいる様子のエレメントさんを見つける。

 

「実りのエレメントさんニャ!!」

 

そのエレメントさんはどうやら顔のような部分の左下にいる模様。

 

「メガビョーゲン!!」

 

メガビョーゲンは立ち上がって振り向くと、口から種のようなものを発射する。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

スパークルは飛び上がって交わすと、ステッキを構えて黄色の光線を放つ。

 

「メガ!? ビョーゲン・・・」

 

光線を食らったメガビョーゲンは後ろへと吹き飛ばされる。

 

「よし!!」

 

「このまま浄化を!!」

 

このままの流れで菱形のヒーリングボトルをステッキにかざして必殺技を放とうとするのだが・・・。

 

バリバリバリ!!!!

 

「スパークル、横!!」

 

「え、うわぁ!?」

 

突然、地面から黒い電撃がスパークルに向かって放たれた。咄嗟に避けたスパークルが、地面を見ると一直線に焼き焦げた跡があり、さらに放った先を見てみると・・・。

 

「イタイノン!!」

 

「邪魔はさせないの」

 

イタイノンがこちらを睨みながら、右手をバチバチとさせている。

 

「マ、マジ!? あの娘にあんな力、あったっけ!?」

 

スパークルが驚いている間もなく、イタイノンは右手を広げて黒い電撃を放つ。

 

「スパークル!!」

 

「あっ!?」

 

ニャトランの声で我に返ったスパークルはステッキを構える。

 

「ぷにシールド!!」

 

ステッキから肉球型のシールドを展開させ、イタイノンの電撃を防ぐ。

 

「メガー!!」

 

「え、あぁぁぁ!!」

 

いつの間にか戻ってきていたメガビョーゲンが蔦をスパークルに向かって振るい、背中から直撃したスパークルは吹き飛ばされる。

 

「メガビョーゲン!!」

 

さらに追い討ちをかけるように口から病気を吐きつける。

 

「うっ・・・!!」

 

倒れながらも何とか起き上がって病気を避けるも、その先にはイタイノンの姿が・・・。

 

「あっ・・・!」

 

「ふん!!」

 

「きゃあぁぁぁぁ!!」

 

長い髪を鞭のように振るい、直撃を受けてしまったスパークルは地面を転げ回る。

 

「一人で出しゃばるからそういうことになるの」

 

イタイノンはスパークルを嘲笑しながら近寄る。

 

「うぅ・・・・・・」

 

「スパークル、大丈夫か!?」

 

「だ、だいじょーーーーえっ」

 

スパークルは傷つきつつも立ち上がろうとするのだが、そこへ紫色の髪が伸ばされて引っ張られる。

 

「うわあぁぁ!!」

 

イタイノンの目の前まで引っ張られると、スパークルは体を拘束され・・・。

 

ギリギリギリギリ・・・・・・。

 

「ぐっ・・・が、あ・・・ああぁぁぁぁ!!」

 

体を髪の毛に締め付けられ、悲鳴をあげるスパークル。

 

「キヒヒヒ・・・・・・」

 

イタイノンはそれを見て、笑い声をあげていた。

 

「もっともっと絞られて、痛い声をあげるがいいの・・・」

 

ギリギリギリギリギリギリギリ・・・・・・・・・。

 

「か、は、あ・・・く・・・あ、あ・・・」

 

「スパークル! スパークル!!」

 

髪の毛をさらに絞られて声もあげられないほどの弱々しい苦痛の声をあげるスパークル。拘束されて手に持つステッキを振れず、両足をバタバタさせてもがいてはいるが、大した抵抗にはなっておらず、締め上げられる苦痛だけが増していく。

 

「痛い? 苦しい? 私の邪魔をした罰なの」

 

イタイノンはスパークルの表情を見て、笑いながら告げる。

 

ーーーー人間の恐怖は素敵だが、それがプリキュアとなるとさらに格別、なの。

 

「メガビョーゲン、もっともっと蝕むの」

 

「メガビョーゲン!!」

 

イタイノンに指示をされたメガビョーゲンは周囲をもっと蝕むべく、二人から離れていく。

 

「あ・・・ダ、メ・・・」

 

離れゆくメガビョーゲンに弱々しい声をあげるスパークル。しかし、拘束されて動けないばかりか、イタイノンに絞られそうになっている。

 

「何、で・・・こん、な・・・のどかっ、ちの・・・おかあ、さん、の・・・会社に、酷いこと、を・・・?」

 

視界がぼやけつつも、イタイノンに問うスパークル。

 

「ふん・・・決まってるの、私はそのほうが居心地がいいの」

 

笑みを浮かべていたスパークルが無表情に戻り、顰めた顔で答えた。

 

「病気にしたほうが私にとっては居心地がいいの。快適な場所なの。太陽の光もいらない、人もいない、それが私にとっての楽園だからなの」

 

イタイノンが持論を展開する。病気は私たちビョーゲンズにとっても素敵なもの。でも、自分にとっては誰も邪魔されない場所が一番素敵なもの。だから、病気で蝕んで、人がいない場所を作ったほうがいい。

 

ーーーーそれが私にとっての、生き甲斐なのだ。

 

スパークルは締め上げられながらも声を絞り出す。

 

「それ、じゃ・・・一人、ぼっち・・・じゃん」

 

「・・・は?」

 

「一人なんて・・・寂しい・・・じゃん。みんなの・・・ぬく、もりがない・・・し」

 

「それがどうした、なの」

 

スパークルの言葉に徐々に不快感を覚えるイタイノン。一人が一番いい、一人が素敵に決まっている。こいつはなぜ、否定するのか?

 

「みんな、が・・・ともだ、ちが、いる、から・・・あたし、は・・・まい、にちが、たのしい、し・・・おにい、も、おねえ、も・・・いっしょに暮らしてる、から・・・あたし、として、い、られる、の・・・一人、は・・・楽しくない、じゃん」

 

スパークルが懸命に絞り出した声を聞いて、イタイノンは俯向く。彼女の頭の中にある映像がフラッシュバックしていた。

 

ーーーー頬を叩いてくる、大人の女性

 

ーーーーベッドの上で手足も動かせない、自分。

 

イタイノンは体をプルプルと震わせて、歯ぎしりをするとブツブツとつぶやく。

 

「・・・なの」

 

「・・・??」

 

突然、顔を上げるイタイノンはその表情は怒りに満ち溢れていた。

 

「誰かと一緒にいて楽しいわけがないのッ!!!!」

 

ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ・・・・・・。

 

「がっ!? あぁぁ、あっ・・・」

 

イタイノンは先ほどよりも強い力でスパークルを締め上げる。絞め殺さんばかりの強い力に、スパークルは呼吸ができなくなった。

 

「誰かがいたって迷惑になるだけなの、うるさいだけなの。そんな勝手なやつらと一緒にいるくらいなら、病気で侵し尽くしたほうがマシなの!!」

 

「あ・・・あ、あ・・・」

 

イタイノンは珍しく怒りの声を上げると、すぐに冷静に無表情になる。

 

「このまま、静かにさせてやるの・・・」

 

イタイノンは騒がしい女にとどめを刺そうと体から電気を帯電させると、一気に髪の方へと流し込んだ。

 

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

電気を浴びせられたスパークルは悲鳴を上げる。体が壊れると言わんばかりの強烈な電気だった。

 

「ふん・・・まだまだ騒がしいヤツなの・・・まあ、このまま流しておけば、静かになるの」

 

イタイノンは悲鳴に不快感を抱きつつも、本気でスパークルを殺そうとしていた。

 

「スパークル!! おい、やめろよ! やめてくれよぉ!!」

 

ステッキのニャトランが叫ぶも、イタイノンはまるで聞こえていないと言わんばかりに攻撃の手を緩めようとしない。

 

(あ・・・ごめ、ん、のどかっち・・・ちゆちー・・・)

 

スパークルは心の中で友人に謝罪をするも、彼女の視界は真っ暗になりつつあるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった・・・。

 

「「はぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

どこからか声が聞こえてきたかと思うと、ピンク色のエネルギーと青色のエネルギーがイタイノンに向かって飛んでくる。

 

「!!??」

 

イタイノンはそれに気づくと、髪から締め上げていたスパークルを離して飛び退く。

 

「スパークル!!」

 

「大丈夫!?」

 

駆け寄ってきたのは、キュアグレースとキュアフォンテーヌだった。

 

「ゲホゲホッ・・・あ、グレース・・・フォンテーヌ・・・」

 

「遅れてごめん! ここからは私たちに任せて!!」

 

グレースは遅れたことを謝罪し、早くメガビョーゲンを浄化するために駆け出す。

 

「行かせないの・・・!!」

 

イタイノンはグレースに向かって電撃を放つ。

 

「あっ!?」

 

「ぷにシールド!!」

 

電撃が直撃しそうになったグレースを、フォンテーヌが肉球型のシールドを展開して防ぐ。

 

「ここは私に任せて、グレースはメガビョーゲンを!!」

 

「うん!!」

 

グレースはメガビョーゲンの元へと走っていく。イタイノンはその様子に顔を見ても分かるほどに苛立ちを募らせていた。

 

「どいつもこいつも、鬱陶しいの・・・!!」

 

イタイノンは全身を帯電させて、今にも放電しそうな勢いだ。フォンテーヌはそれを見て臨戦態勢をとる。

 

「スパークルは休んでて! ここは私が!」

 

フォンテーヌは水色のエネルギーを放とうとエネルギーをステッキに集めるが、スパークルはボロボロの体を震わせつつもなんとか立ち上がり、フォンテーヌの隣へと立つ。

 

「スパークル!?」

 

「いや・・・あたしも、やるよ・・・」

 

「でも、そんな傷じゃ・・・!」

 

「あたしが、倒れている間に・・・エレメントさんや地球、のどかっちのお母さんの仕事の人だって苦しんでるかもしれないんだよ・・・それなのに、寝てなんか、いられないよ・・・!!」

 

スパークルはそう言って、ステッキを向けて黄色のエネルギーを集め始める。

 

フォンテーヌはその言葉を汲み取ると、うんと頷くとイタイノンに向き直る。

 

「わかったわ・・・」

 

プリキュアの二人はイタイノンに向き直り、エネルギーを放つ準備をする。

 

「一緒に攻撃するペエ!」

 

「一緒にやればできるはずニャ!!」

 

ペギタンとニャトランの叱咤に、プリキュアの二人は頷く。

 

「ふん・・・大人しく寝ていれば、痛みを感じずに済むものを、なの・・・」

 

イタイノンは先ほど以上に電気を帯電させ、手を開いてプリキュアの二人に向ける。

 

「静かに落ちろ、なのッ!!!!」

 

手のひらから一直線に電気の光線が放たれた。

 

「「はあぁぁぁぁ!!!!」」

 

フォンテーヌは水色のエネルギーを、スパークルは黄色のエネルギーを同時に放った。

 

「・・・!」

 

「くっ・・・!!」

 

「ふっ・・・!!」

 

お互いにぶつかり合い、大きな音を立てる力。互いに押しつ押されつつの拮抗状態。

 

負けるわけがない・・・こんな、他人の気持ちも理解しない人間ごときに・・・!!

 

「はぁぁ・・・!!!」

 

イタイノンはさらに自分を帯電させて、電気の出力を上げた。すると、プリキュアの二人は押し返されそうになる。

 

「うぅぅぅぅ・・・!!!」

 

「ふうぅぅぅぅ・・・!!!」

 

プリキュアの二人も負けじとエネルギーの出力を上げ、逆に押し返そうとする。

 

拮抗し合う強力な力と力、その二つはやがて膨らんでいき・・・!

 

チュドォォォォォォォォォン!!!!

 

大爆発を起こした。

 

一方、メガビョーゲンへと向かったキュアグレースは・・・。

 

「はあぁぁぁぁ!!!」

 

「メガ!?」

 

メガビョーゲンの顔面に蹴りを入れるグレース。吹き飛ばされるメガビョーゲンだが、すぐに態勢を立て直して二本の蔦を交互に振るう。

 

「ふっ! はっ! あっ!?」

 

左右と襲い来る蔦を交わしていくも、再び左から現れた蔦を受けてしまい、さらにメガビョーゲンは飛び上がってコマのように高速回転しながら体当たり攻撃を仕掛ける。

 

「きゃあぁっ!?」

 

グレースは当たって吹き飛ぶも、態勢を立て直して木の幹を踏み台代りにして、ミサイルのようにメガビョーゲンの元へ。

 

「ぷにシールド!!」

 

肉球型のシールドを展開させて、メガビョーゲンの顔へと突っ込もうとするグレース。

 

「メガー!!」

 

ヒュウゥゥゥゥゥゥゥ!!

 

すると、メガビョーゲンは大きく口を開いて吸い込み始めた。

 

「えぇ!?」

 

グレースは突撃を解除して、地面に着地するも足を徐々にメガビョーゲンの方へと引きずられていく。

 

「うわ、うわあぁぁ!?」

 

体がよろけそうになるも、足を踏ん張って倒れそうになるのを防ぐが、体は徐々に吸い込まれようとしていた。

 

「す、吸い込まれるラビ!!」

 

「うっ・・・!」

 

吸い込みのせいでうまく動けず、このままではメガビョーゲンの口の中へ。

 

グレースはメガビョーゲンの口元を見て、ある策を思い付いた。

 

「!! ラビリン!」

 

「ラビ!」

 

「ぷにシールド、もっと大きくできる?」

 

「できる、けど・・・?」

 

「お願い・・・!」

 

「・・・わかったラビ!」

 

グレースの意図を察したラビリンは彼女に応えようとする。

 

一か八かだけど、やってみるしかない・・・!

 

「ぷにシールド!!」

 

グレースはステッキをメガビョーゲンへと向けて、そのまま飛び上がる。吸い込みの勢いをそのままにメガビョーゲンへと突っ込んでいく。

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

「メガ!?」

 

肉球型のシールドは先ほどよりも大きくなり、メガビョーゲンの口へ。動揺するメガビョーゲンだが、時すでに遅し・・・。ぷにシールドが口に直撃して吸い込みを停止させられ、グレースはその勢いで頭上へと飛び上がる。

 

「やあぁぁぁぁ!!」

 

空中で一回転した後、メガビョーゲンへと踵を振り下ろす。

 

一方、イタイノンとプリキュア二人との戦いは・・・。

 

「はぁぁ!!」

 

「くっ・・・!」

 

フォンテーヌはパンチを繰り出し、イタイノンは右腕でガードする。

 

「っ・・・目障りな、の!!」

 

「あぁ!?」

 

イタイノンは自らの髪で拳を作ると、フォンテーヌを吹き飛ばす。

 

「やあぁぁ!!」

 

「っ・・・!!」

 

別の方向からスパークルが肉球型のシールドを展開させながら突っ込んで行き、イタイノンは手から電撃を放って防ぐ。

 

シールドと手の間で、爆発を起こし、イタイノンは踏ん張りつつも背後へと少し吹き飛ぶ。

 

「うっ・・・!!」

 

イタイノンの表情は少し苦痛へと歪んでいて、電撃を放った右手を抑える。

 

「はあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

そこへフォンテーヌが踵を振り下ろし、痛みで反応が少し遅れたイタイノンは両腕をクロスさせて受け止める。

 

「ぐっ・・・うぅぅ!!!」

 

両腕を振り払うように解き、フォンテーヌを弾き飛ばす。

 

痛みに顔を顰めたイタイノン。この私がまさか、押されている・・・?

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「!!??」

 

そこへスパークルが木の幹を踏み台代りにして、ミサイルのように飛び出し、拳を叩き込もうとする。

 

考え事をしていたイタイノンは再び両腕をクロスさせるが、防御の動作が遅れて受け止めきれず、空中へと吹き飛ぶ。

 

「あっ・・・!?」

 

数メートル飛ばされたイタイノンは、それでも足を踏ん張って着地する。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「はぁ・・・はぁ・・・鬱陶しい奴らなの・・・」

 

イタイノンは毒付くも、激しい戦闘でお互いにすでに息が上がっており、おそらく体力はあまり残っていないだろう。

 

「はぁ・・・はぁ・・・仲間が一緒にいるから・・・あたしは戦えるの!」

 

「!!」

 

スパークルの言葉に目を見開くも、すぐに怒りの表情へと変わるイタイノン。

 

「ありえない・・・! ありえないの!!!!」

 

イタイノンは首を振りながら激しく否定する。

 

ドォォォン!!

 

「メガー!!??」

 

そこへグレースと戦っていたメガビョーゲンが吹き飛んできて、ひっくり返った状態のまま倒れたのであった。

 

「・・・!?」

 

イタイノンはその状況に驚きを隠せなかった。まさか、私、押し負けてる・・・?

 

「今、ラビ! グレース!!」

 

「うん!!」

 

グレースは、花の模様が描かれたヒーリングボトルをステッキへとかざす。

 

「エレメントチャージ!!」

 

そう言いながら光るステッキの先をハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「ヒーリングゲージ上昇!!」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングフラワー!!」

 

キュアグレースはそう叫びながら、ステッキをメガビョーゲンに向けて、ピンク色の光線を放つ。光線は螺旋状になっていた後、メガビョーゲンに直撃した。

 

その光線はメガビョーゲンの中に入ると、螺旋状のエネルギーは手へと変化して、実りのエレメントさんを優しく包み込む。

 

花状にメガビョーゲンを貫きながら、光線は実りのエレメントさんを外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。浄化されたのだ。

 

「「お大事に」」

 

実りのエレメントさんは、カボチャの中へと戻り、蝕んだ箇所も元に戻っていく。

 

「っ〜〜~~~~~!! キュアスパークル、覚えておけ、なの!!!」

 

イタイノンは心底イライラした様子で、撤退していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キュアスパークル・・・キュアスパークル・・・キュアスパークル・・・」

 

廃病院、プリキュアに敗れたイタイノンは憎らしい相手の名前を呟きながら、携帯ゲーム機をピコピコしていた。その操作は、心なしか乱暴にボタンを押しているようにも見える。

 

「イタイノン? 大丈夫ネム?」

 

元の羊に戻ったネムレンは心配そうに声を掛けるも、イタイノンはまるで聞こえていないと言わんばかりにブツブツと名前をつぶやいている。

 

「キュアスパークル・・・キュアスパークル・・・キュアスパークル・・・」

 

イタイノンには、再び映像がフラッシュバックしていたのだ。

 

ーーーーベッドの上で動けない自分、何か鋭いものを突き刺される。

 

「キュアスパークル・・・キュアスパークル・・・キュアスパークル・・・」

 

「イタイノン・・・イタイノン!!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ネムレンが必死に名前を叫ぶと、イタイノンは途端にゲームを操作する手を止め、壊さんばかりに地面へと放り出すと、ネムレンに顔を向ける。

 

その表情は明らかに、怨恨に満ちた表情だった。

 

「ひっ・・・あっ・・・!?」

 

ネムレンは思わず悲鳴を上げ、その瞬間イタイノンの手につかまれる。それも握り潰さんと言わんばかりに・・・。

 

「気安く名前を呼ぶな、なの・・・!! やかましい、やかましいだけなの・・・!!」

 

「ぐっ・・・あっ・・・イタイ、ノン・・・やめ、て・・・」

 

恨みに満ちた言葉を吐きながら、ネムレンを握り潰そうとする。苦痛を訴えるネムレンだが、力は弱まるどころか、体が潰れてしまうのではないかというくらい強くなっていく。

 

「っ・・・・・・!!」

 

「あ・・・あっ・・・」

 

両手でネムレンを掴み、さらに強く握りしめる。ネムレンの意識が徐々に薄れていく。もうすぐ意識を失う・・・。

 

その時だった・・・。背後から影が近づいてきて・・・。

 

ドォン!!!!!!

 

「!!??」

 

イタイノンは医療道具の入っている棚へと吹き飛ばされた。

 

「変なオーラを感じると思ったら、バッカじゃないの・・・? 仲間を殺す気・・・?」

 

現れたのはクルシーナだった。イタイノンの背後から歩み寄って、彼女を蹴り飛ばしたのだ。

 

ガッシャァァァン!!!!

 

医療器具の山が吹き飛び、中から怒りの表情をしたイタイノンの姿があった。

 

「クルシーナ! 邪魔をするな、なの!!!」

 

「だから、お前が握り潰そうとしたのは相棒だっての」

 

「うるさい!! 関係ないの!! 私は、一人になりたいのッ!!」

 

イタイノンはそう叫びながら、クルシーナへと突っ込んでくる。

 

「はぁ・・・」

 

クルシーナはため息を吐きながら、突っ込んでくる彼女へと歩いていく。

 

ーーーーこりゃ、ダメだわ・・・。面倒だけど、一回、大人しくさせないと。

 

イタイノンは拳を突き出してくるも、クルシーナは瞬時にかわすと彼女の背後へと回り・・・。

 

「ふん・・・!」

 

「あっ・・・」

 

イタイノンの首後ろに手刀を打ち据え、彼女の体からそのまま力が抜けた。

 

クルシーナは自分の腕で倒れそうになる体を受け止める。普段のあいつは軽いけど、気を失った彼女は重いと感じた。

 

「全く、何事ですか? 騒々しい・・・」

 

そこへドクルンが部屋の中へと入ってくる。クルシーナはドクルンの顔を視界に写すと、心底嫌そうな顔をする。

 

「・・・このバカが暴れてたから、止めてたのよ。ネムレン、大丈夫なの?」

 

「ケホケホ・・・だ、大丈夫ネム・・・」

 

ネムレンは咳き込みつつ答える。締められて本当に息ができないくらいにやられたのだ。

 

「ほう・・・プリキュアに負けて帰ってきた、その恨みのエネルギーがふつふつと残っていますねぇ・・・」

 

ドクルンは部屋の中に残っている何かを感じているのか、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「面白がってんじゃないっての・・・しばらく寝かせるしかないわね・・・」

 

ドクルンの反応に不快感をあらわにすると、病室のベッドへと寝かせようと部屋の外を出る。

 

「フフフ・・・」

 

「また何か企んでるのか、ブル?」

 

「企んでるなんて人聞きの悪い・・・プリキュアがどんな実力なのか興味がわいただけよぉ」

 

スタッドチョーカーのブルガルが呆れたように問うと、ドクルンはさらに笑みを深くした。

 

一方、クルシーナはカプセルのようなベッドへとイタイノンを仰向けにしてそっと置くと、下にある機械のスイッチを入れる。するとベッドの蓋が閉じて、赤いモヤモヤがイタイノンに浴びせかけられる。

 

「全く、無茶なんかしちゃって・・・バッカみたい・・・」

 

クルシーナはベッドの中で眠るイタイノンに妖艶な笑みを浮かべる。

 

「イタイノン、大丈夫ウツ?」

 

「大丈夫でしょ? こんなことでやられる奴なら、お父様の娘なんか勤まらないでしょ」

 

帽子のウツバットにそう言うとクルシーナは早々に部屋を出て行く。

 

「んん・・・キュアスパークル・・・許さないの・・・」

 

眠っているイタイノンは怨嗟の相手の名前をつぶやきつつも、その表情はいつものように戻っていくのであった。

 




感想・評価・ご指摘、よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話「危篤」

原作、第7話がベースです。
ちょっとやりたいこともあって長くなってしまったので、また分けます。
まずは前編です!


 

・・・痛いのか? 辛いのか?

 

・・・自由に走り回りたいか?

 

・・・いい憎しみだ。まるで地球を憎んでいるとも思える。

 

・・・人間も憎んでいるとは、よほど復讐がしたいように見えるな。

 

・・・我が全て楽にしてやろう。自由に行動できるように力を与えてやる。

 

・・・その代わり、我のために働き、我のために尽くすのだ。

 

・・・地球を我らの住む世界のような、快適な環境にするために。

 

・・・我の大切な娘としてな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カプセルベッドの蓋が開き、赤いモヤモヤが部屋の中へとこぼれ出す。

 

その中にいたビョーゲンズの一人ーーーーイタイノンはベッドの上で目を覚ましていた。

 

なんだか、懐かしい夢を見た気がする・・・。いつ見たかは、もう覚えてないけど。

 

「・・・・・・・・・」

 

私、何をしていたっけ? 正直、昨日までの記憶が曖昧だ。

 

いつものように出撃して、騒がしい小娘が一人で歯向かってきて、いつものようにプリキュアにメガビョーゲンを浄化されて、悔しさを滲ませて帰ってきたところまでは覚えている。

 

でも、そこから先の記憶がまったくない。何かに取り憑かれていたような気がする・・・。

 

思い出そうとすると、どうしてもあの、黄色の騒がしいプリキュアの姿が目に浮かぶ。

 

ーーーー 一人なんて・・・寂しい・・・じゃん。

 

私に絞め殺されそうにながらも、発した言葉。それだけがフラッシュバックしてくる。

 

ーーーー 一人、は・・・楽しくない、じゃん。

 

・・・うるさい・・・うるさい・・・ウルサイ・・・!!

 

イタイノンは首を振りながら、あの生意気でムカつく言葉を忘れようとする。

 

ーーーー仲間が一緒にいるから・・・あたしは戦えるの!

 

「うるさいのッ!!!!!」

 

イタイノンは思わず、声を荒らげる。

 

一人が寂しいはずがない・・・一緒にいて楽しいわけがない・・・一緒にやってうまく行くわけがない・・・!!

 

あの黄色いプリキュアの、騒がしい女の言葉を、一人でいることを好むイタイノンは生理的に受け付けなかった。

 

「イタイノーーン!!!」

 

「あっ・・・ネムレン・・・?」

 

イタイノンの胸にネムレンが飛び込んでくる。彼女を受け止めたイタイノンは放心しながらも、彼女の頭を撫でる。

 

「よかった・・・いつもの優しいイタイノンネム!」

 

ネムレンは安堵して彼女の胸にスリスリする。プリキュアから逃げ帰った後、イタイノンの様子は明らかにおかしかった。まるで、何かに取り憑かれたかのように・・・。

 

相棒が自分を襲うまでに変貌するなんて信じられなかった。でも、今は大人しく静かなイタイノンだ。触ることができて安心する。

 

「ふん・・・別に優しくないの」

 

イタイノンは雪のような白い頬を赤く染めつつ、そっぽを向いて否定しながらも、ネムレンの撫でる手は止まらない。

 

「キュアスパークル・・・」

 

プリキュアは正直、邪魔者という認識で興味がなかったイタイノン。でも、あの黄色のプリキュアだけは妙に記憶が鮮明だった。

 

イタイノンはあの顔を思い出すと、表情を怒りへと歪ませる。

 

「キュアスパークル・・・許さない・・・! 必ず、潰してやるの・・・!!」

 

キュアスパークルを怨敵だと認識したイタイノンは、次に会った時にはひねりつぶしてやろうと歪んだ言葉を吐く。

 

「・・・まあ、今日は、もうひと眠りするの」

 

イタイノンは穏やかな表情へと戻るとネムレンを撫でつつ、カプセルベッドに横になるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう一度、言ってみなさいよ」

 

マグマで満たされたビョーゲンキングダム。そこでは、何やらダルイゼン、シンドイーネ、グアイワルの3人が言い争いをしている模様。

 

「失敗続きでよく恥ずかしくないものだ、と言ったんだが?」

 

「そういうグアイワルだって、地球を蝕めてるわけじゃないくせに」

 

「失敗はお互い様よ」

 

どうやらグアイワルが言い出しっぺのようだが、珍しくダルイゼンも突っかかっていた。

 

3人が言い争っているのは、ここ最近の地球を蝕む活動の成果のこと。数えているわけではないが、幹部たちは出撃してメガビョーゲンを発生させても、プリキュアに浄化されてしまうため、失敗する子おtがほとんどだ。

 

それに至ってはどの幹部も同じこと、のはずなのだが・・・。

 

「一緒にしてもらっては困る。俺とお前たちとでは全く違う」

 

「違う? どこが?」

 

シンドイーネが問い詰めると、グアイワルは急に頭に指を差し始める。

 

「ここの出来が違うのだよ」

 

頭を刺しているということは、頭の出来が違うことを言っているんだろうと思うが・・・。

 

「へぇー、どう違うんだ?」

 

グアイワルは笑みを見せると、どこからか大きな岩を出すと頭で砕いた。

 

「ふっ・・・」

 

「え・・・なにこれ?」

 

「ただの石頭・・・」

 

グアイワルはなぜか得意気に背を向けて去ろうとするも、シンドイーネとダルイゼンは全く理解不能だった。

 

確かに頭で岩を割った・・・だから何だ、と・・・?

 

「そこで俺が見事、地球を病気にするのを、指を抱えて見ていることだ。ふっはっはっはっは!!」

 

笑いながら地球へと向かおうとするグアイワル。頭の出来が違うとは言ったが・・・。

 

「『指をくわえて』、だし・・・」

 

「名前、グアイワルから『アタマデワル』に変えたら?」

 

岩を割っただけの上に、言葉の使い方も間違えている・・・。そんな、グアイワルに二人は呆れるしかなかった。

 

「ふわぁー、何よ、騒々しい」

 

岩場に寝そべっていたクルシーナがあくびをしながら、両腕を上に伸ばして背伸びをする。

 

「まあ、いつものことですけどねぇ・・・」

 

ドクルンも別の岩場に腰掛けながら、本を読んでいる。

 

「また、どうせしょうもないことでも言い合ってたんでしょ?」

 

クルシーナのだるそうな言葉に、シンドイーネがムッとする。

 

「しょうもないって何よ! 大体、あいつが勝手に絡んできて!!」

 

「・・・俺も別に付き合ってるわけじゃないけど」

 

ーーーー同じ幹部で、お互い様のくせに言われるとなんか腹が立つ。

 

グアイワルの物言いに、ダルイゼンも少しは不快感を感じていたのだ。

 

「ほっときゃいいわよ、あんな筋肉バカ。どうせすぐに負け帰って膝をつく羽目になるんだから」

 

クルシーナもグアイワルがいない前では言いたい放題である。

 

「・・・あれ? イタイノンは?」

 

ダルイゼンが二人に問う。いつも二人と一緒にいるはずの彼女がどこにもいない。最近は、地球を蝕むことにも誠意を見せるようになってきて、意気揚々としていたようだが、どこに行ったのか?

 

「寝てますよ。昨日、大暴れしてクルシーナに止められましたからね」

 

「そうね。自分の相棒を襲うぐらいに壊れちゃってたからね。アタシらにも迷惑だから黙らせたけど」

 

「・・・ふーん」

 

ドクルンとクルシーナがそれぞれ話すも、ダルイゼンは興味があるのか、ないのかわからないような返事を返す。

 

「まあ、あいつのことは置いておいて、あんたらさ、成果のこと考えたら少し趣向を考えたほうがいいんじゃない?」

 

「・・・何よ、それ?」

 

クルシーナは起き上がって、二人に近寄る。

 

「お父様はね、人間の苦しみも好物なの。病気はすべての生き物に対してかかるもの、でも人間を病気に侵さなくたって苦しめる方法なんていくらでもあるでしょ? そうしてお父様も喜ばせておけば、それでも成果の一つにはなる。あんたらだって好き勝手できるでしょ?」

 

「・・・・・・・・・」

 

不敵な笑みで説明するクルシーナに、二人は押し黙る。

 

「さてと・・・」

 

ドクルンは岩場から立ち上がると3人とは別の方向へと歩いていく。

 

「どこ行くの?」

 

「・・・ちょっと人間観察を、ね」

 

「あっそ・・・」

 

ドクルンは振り向いてそう言うと地球へと向かうも、クルシーナは多少呆れた言葉を返す。

 

「・・・・・・?」

 

クルシーナは別の方向を向くと、蠢く何かが見えている模様。

 

「へぇー、まだちゃんと蝕んでるのね」

 

彼女は不敵な笑みを浮かべると、瞬間移動をしてその場から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてさて・・・・・・」

 

すこやか中学校へと降り立ったドクルンは屋上から放課後の生徒たちの喧騒を見ていた。

 

校庭を見てみれば、花に水をあげているもの、部活動で運動に励んでいるもの、遊具で遊んでいるもの・・・。

 

「ふむふむ、実に健康的な人間が多いわねぇ・・・感心感心」

 

「俺は不快だブル・・・こんなところ」

 

ドクルンは顔をニマニマさせているが、スタッドチョーカーになっているブルガルは嫌悪感を隠さなかった。

 

「まあまあ、そんなこと言わずに・・・おや?」

 

ドクルンはメガネを上げながら校庭の門を見てみると、カメラを首から下げたメガネの男が学校から出ようとするマゼンダ色の髪の少女を隠れながら見ているのが見えた。

 

「ドクルン、どうかしたのかブル?」

 

「いやぁ? 女の尻を追いかけまわしている無粋な少年がいるのが見えてねぇ・・・」

 

不審に思ったブルガルが言うと、間延びした口調を崩さずつつも、不思議そうに見ている。

 

「そんな変態男には見えないブル」

 

「まあ、気になるとしたら、あのカメラに何か特別なものを写してるかもしれないわねぇ・・・」

 

ドクルンは笑みを浮かべながらそういう。あのマゼンダ色の髪の少女、確かプリキュアだったはず。しかも、あのメガネの男はあの少女をつけまわしていることから、何か秘密を写しているかもしれない。

 

まあ、それも完全に信用しているわけではないが・・・。

 

「おや・・・?」

 

「今度はどうしたブル?」

 

ドクルンが再び校庭の方を見ると、何やら陸上部が慌ただしくなっていくのが見えた。

 

「え、ちゆ!? それって県大会の記録より高いよ!?」

 

ちゆと呼ばれた少女が、部員と思われる少女に驚かれている。それに伴い、周囲がざわざわとし始めた。

 

彼女の言う通り、棒のバーを高くすると、メガネの男はそっちへと走り出した。

 

「あのちゆという女のもとに走り出したわねぇ」

 

「どういうことだブル?」

 

メガネの男の行動を理解できないブルガル。ドクルンは察しはついているが、おそらく写真に収める価値のあるものを撮っているのだろう。

 

しかし、あのマゼンダ色の髪の少女、いかにも普通そうに見える女に何の価値があるというのか?

 

「おや? あれはクルシーナの・・・」

 

マゼンダ色の髪の少女をもう一度しっかりと見てみると、何やら彼女の体の中に赤く蠢いているのが見える。

 

それがクルシーナの蒔いた種だとわかると、ドクルンは再び笑みを深くした。

 

「ほうほうほう・・・これは面白いことになってるわねぇ!!」

 

クルシーナはあの娘を苦しめようとしている。そのために体内に病気を入れ、彼女を病気に侵そうとしているのだ。

 

今の彼女の状態は、いわゆる風船が膨れたりしぼんだりしているような状態。何かの拍子で破裂すれば、あの娘はほぼほぼ病気に永遠に侵されることになる。

 

その相手が、そう・・・・・・プリキュアなのだ。あの小娘はプリキュアの一人、遅いにしろ決定打を与えている。あの種はそう簡単に消せるものではないのだ。

 

「ドクルン・・・あのメガネの男が動きそうブル」

 

「おっと・・・思わず興奮してしまったわねぇ・・・」

 

メガネの男はキョロキョロと辺りを見渡している。プリキュアの少女を見失ったらしい。

 

「まあ、あの男はマークしておいて、あの娘の様子でも見ましょうか」

 

「気が変わりやすいやつだブル・・・」

 

ドクルンは校庭で部活動をしている、ちゆという少女を観察しているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最近、花寺のどかは、ある少年に追われていた。

 

新聞部の唯一の部員で、『すこ中ジャーナル』を自称する同級生の増子道男だ。

 

彼はこの前からのどかを付け回し、彼女のとあるスクープを狙っているとのこと。

 

もしかして、プリキュアのこと? 変身して戦っているのがバレたのか?

 

と、思いきや、彼はのどかがメガビョーゲンを呼び寄せているというのだ。

 

一見、根拠のない情報に思えるが、メガビョーゲンは偶然にものどかがこの町に来てから現れ、高い確率で彼女が側にいる。

 

スクープを明らかにしたい、その道男からのどかは昨日からつけ狙われているのである。

 

メガビョーゲンを出しているというのは紛れもない言いがかりだが、プリキュアだということは秘密であるため、道男に真実を言えずにいる。

 

ちゆもひなたも、のどかから道男を遠ざけようとあらゆる手段を講じたが、道男は諦めようとせずにのどかの後をつけまわしている。これではキリがない。

 

放課後、雨が降りそうな曇り空。こんな日であっても、道男はゴミ箱に隠れながらのどかをつけている。

 

「よーし!」

 

のどかは自分から道男を巻こうと走り始める。草木の入った道へと入っていく。

 

道男も彼女を見失わないように駆け出していく。

 

追いつ追われつの攻防戦・・・・・・と、その時だった。

 

ドクン!!

 

「うっ・・・!」

 

突然、胸のあたりが抑えつけられるような圧迫感に襲われ、のどかの走りが鈍り始める。

 

ドクン、ドクン!!

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

息も切れ始め、額に汗が滲んでいき、走り方もフラフラした感じのぎこちない走りとなっていた。

 

「あ、あぁぁ!?」

 

おぼつかない足で、出っ張った地面に足を滑らせて転倒してしまうのどか。それでも抱いているラテが下敷きにならないように、背中から倒れた。

 

「ああ!!」

 

のどかの突然の事態に、道男は驚きの声を上げると、転倒したのどかに駆け寄る。

 

「イタタ・・・」

 

「怪我はありませんか!?」

 

背中から受け身を取ったことで、怪我まではしなかったものの痛みに呻くのどか。そこへ心配そうな顔をする道男がのどかへと手を伸ばす。

 

その表情は、やってしまった・・・とでも言いたげな顔だ。

 

「あ、うん、大丈夫」

 

道男は岩の上にハンカチを置き、そこにのどかを座らせる。そんな彼から出てきた言葉は、謝罪の言葉だった。

 

道男は自分のジャーナリズム精神のせいでのどかを転倒させてしまったことを気にしていた。相手を怪我させてしまうのは自分の信念に反すると。

 

自分でもわかっていた。相手をしつこく取材しようとして、生徒からは鬱陶しがられていることを。

 

のどかには一つ、疑問があった。

 

「増子くんは、どうして煙たがられてても、すこ中ジャーナルをやってるの?」

 

道男は少しの沈黙の後、口を開いた。

 

「・・・雨上がりの蜘蛛の巣って見たことありますか?」

 

「えっ?」

 

道男は小学生の頃にその雨上がりの蜘蛛の巣がとても綺麗だったことを話した。

 

雨の雫が太陽の光に照らされて、それで蜘蛛の巣が光って見える、風に揺られてキラキラと輝く・・・。

 

そのことを小学校の頃の新聞に載せたところ、先生たちはとても褒めてくれた、とても嬉しかった。その頃だった、自分が他人に喜ばれるような、そんな記事を書きたいと。

 

でも、取材のやりすぎで、みんなからは疎まれ、新聞部も一人になってしまった・・・。

 

しかし、のどかは道男の想いを否定しなかった。

 

「夢中になれることは素敵だと思う」

 

「え?」

 

「初めて記事を書いた時の気持ちって、きっとその雨上がりの蜘蛛の巣のようにキラキラとしていたんだね」

 

のどかは初めて、道男に笑顔を見せた・・・。

 

・・・・・・その直後だった。

 

ドクン!!

 

「うっ・・・!!」

 

のどかはまた胸を押さえ始める。心臓の鼓動がまた早くなっていた。

 

「? どうかしたんですか?」

 

のどかの異変を感じて、道男は彼女に問う。しかし、のどかは道男を心配させまいと笑顔を作り。

 

「ううん、なんでもないよ。増子くんの言う、雨上がりの蜘蛛の巣、見てみたいなぁ」

 

この日、道男は彼女を追うことは、もうしなかった。

 

「・・・・・・ふん」

 

近くの一本の木の陰で、誰かが二人の様子を聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その帰路・・・・・・・・・。

 

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン!!

 

「はぁ・・・はぁ・・・くっ・・・うっ・・・!!」

 

耐えきれないほどの苦痛がのどかを襲い、足元はふらついていた。心臓の鼓動も先ほどと比べて早く鳴っている。

 

のどかは歩みを止め、肩で息をしながら、呼吸を楽にしようとする。

 

額は汗で滲んでおり、のどかの表情は苦痛に歪んでいた。顔色も少し悪くなっている。

 

まただ・・・また、体がおかしなことになっている・・・。心臓の鼓動が急に速くなり、だるさと苦しさが襲ってくる、この現象。

 

どうしたのかな・・・? 私、手術を受けて健康になったはずなのに・・・。

 

もしかして、体が手術前に戻っちゃったのかな・・・?

 

もはや、自分があの時に起きた異変すら忘れてしまいそうだった・・・。

 

「クゥ~ン」

 

ラテはのどかの様子が明らかにおかしいことに気づき、心配そうな声を上げる。

 

「だ、大丈夫、だよ・・・ラテ、早く、帰ろう?」

 

ラテを心配させないように笑顔を見せる。しかし、どう見ても作り笑顔で、体は全く大丈夫ではなかった・・・。

 

楽になるばかりか、徐々に苦しくなっていく・・・。家へと帰ろうと足を動かしても、のどかの体調は悪化していくばかりだった。

 

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン!!

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

なんでもない帰り道のはずなのに、距離が遠く感じる・・・。足がうまく動かない・・・。

 

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン!!

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「クゥ~ン」

 

ラテの心配する声が遠くに感じる・・・。どこから聞こえているのかもわからない・・・。

 

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン!!

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

体が鉛を背負わされているかのように重い・・・。体がふらつく・・・。

 

ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン!!

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 

心臓の音がサイレンを鳴らすかのようにさらに速くなるのを感じる・・・。まるで、空気の薄い場所にいるかのように、呼吸がうまくできない・・・。

 

ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン!!

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 

視界が暗くなっていく・・・。もう自分が歩いているかもわからない・・・。

 

でも、帰らなきゃ・・・大好きな、お母さんやお父さんが、待ってる・・・。

 

ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン!!

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・あ・・・」

 

のどかは極度の苦しさに、おぼつかない足を躓かせ、倒れ込んでしまう。

 

「う・・・あ・・・」

 

体に力が入らない・・・私、死んじゃうの、かな・・・?

 

地面が冷たい・・・寒い・・・。

 

「ワン!ワン!」

 

ラテが自分に吠えているようだが、のどかにはもう聞き取る力は残っていない。ラテを撫でようと腕を動かそうとするも、体は全く動かない・・・。

 

その間も、心臓の鼓動は全く静まる気配がない・・・。

 

「あ・・・あ・・・」

 

周囲の人は誰もおらず、のどかの体調の悪さに気づく人が誰もいない。さらには雨も降り出し始めた。

 

助けて・・・ちゆちゃん・・・ひなたちゃん・・・。

 

お母さん・・・お父さん・・・。

 

ラビリン・・・・・・。

 

声がうまく出せず、心の中で助けを求めたその時だった。

 

倒れた彼女の視界に現れる黒いブーツ。力を振り絞って顔を上げると、マジシャンのような服装をした女が立っていた。

 

どこかで見たことのあるような姿だが、視界がぼやけていて焦点がうまく合わない。

 

「・・・・・・・・・」

 

静かにのどかを見つめている少女ーーーークルシーナはのどかに近寄ると彼女をお姫様だっこするように抱えた。

 

「ワン!ワン!ワン!ワン!」

 

ラテがクルシーナに向かって吠える。まるで、のどかに触るなと言わんばかりに・・・。

 

「・・・別に何もしないわよ。こいつに死んでもらっちゃ困るだけだし・・・」

 

クルシーナはラテに顰めっ面で返すと飛び上がり、のどかの家があるであろう方向へ進んで行く。

 

虚ろな瞳ののどかの顔を見ながら、クルシーナは妖艶な笑みを浮かべる。

 

「・・・バッカみたい。自分の身の心配もできないなんて。よくそんなんで地球をお手当てなんてできるもんね」

 

クルシーナはのどかに毒付くも、意識が混濁している彼女は聞こえていないのか反応を示さない。

 

「クルシーナ、なんでこいつを助けるウツ? プリキュアを一人やっつけるチャンスウツ」

 

「ふん、別に助けてるわけじゃないわよ。こいつにはもっと苦しんでもらわないと。死んだら苦しみから解放されちゃうでしょ?」

 

クルシーナは別に助けているわけではない。せっかくの可愛い女の子が、私に快楽を与えてくれる小娘が、単に死なれても困るだけなのだ。

 

水族館で病気に侵してから、苦しむ顔が本当に可愛いと感じる子・・・それはもう本当に一生飼ってやりたいくらい・・・。そんな逸材が、簡単に壊れてもらっては困るのだ。

 

「でも、死にそうな顔も本当に可愛い・・・虚ろで、儚くて、ここで落としたら壊れてしまいそう・・・めちゃくちゃにしてやりたい・・・」

 

のどかの今にも消えてしまいそうな顔に、甘美な気持ちを感じる。クルシーナの頭には、ある映像がフラッシュバックしていたのだ。

 

ーーーーこの子に似た車椅子に座った女の子が、私に向かって笑顔を見せている。

 

クルシーナは彼女の額にキスをする。あの水族館と同じように・・・。

 

すると、のどかがわずかに反応を見せ、弱々しく顔を上げる。視界はすでに真っ暗になる寸前だが、朧げに少女の顔が見えていた。

 

のどかは一筋の涙を瞳からこぼしながら、口を開いた。

 

「ーーーーちゃん・・・」

 

「!!??」

 

彼女を見て朦朧とした意識で弱々しく、つぶやいた言葉に、クルシーナは目を見開いた。

 

こいつ、なんで、その名前を・・・????

 

「クルシーナ、どうしたウツ?」

 

クルシーナの異変を感じたウツバットが声をかける。彼女はハッとすると、動揺からすぐにいつもの表情に戻る。

 

「・・・なんでもない」

 

そんなことをしているうちに、一軒のそれなりに大きな家が見えてきた。

 

「あの家かしらね」

 

のどかの家であろう場所に降りていくと、ベランダから入って窓に歩み寄り、窓を足でノックする。

 

バンバン!!

 

「誰、ラビ?」

 

ラビリンが窓を開けると、そこには絶対に会いたくない少女の姿が視界に写っていた。

 

「ク、クルシーナ!? 何をしに来たラビ!?」

 

ラビリンは突然、敵が家にやってきたことに驚くも、クルシーナは無言で部屋へと入るとのどかをベッドの上へと下ろす。

 

「あ、のどか!?」

 

ラビリンは弱っているのどかに歩み寄る。クルシーナは特に意に返すことなく、のどかの体に手のひらを置くと、胸へとスライドさせていく。

 

すると、のどかの表情から苦痛が消えていき、彼女は安らかな寝息を立てる。

 

それを見やった後、クルシーナは彼女に背を向けて家から出て行こうとする。

 

「待つラビ!!」

 

ラビリンに引き止められ、首を後ろに向けるクルシーナ。こいつの表情が怒りを滲ませているのは、火を見るよりも明らかだった。

 

「のどかに何をしたラビ!?」

 

「・・・別に、何もしてないわよ」

 

ラビリンはクルシーナの言うことが信じられなかった。まして、地球を病気で蝕もうとするビョーゲンズの言葉なんて・・!

 

「嘘ラビ!! じゃあ、何でのどかは体調が悪そうだったラビ!?」

 

「・・・どうでもいいでしょ」

 

「答えるラビ!! もし、のどかに何かあったらーーーー」

 

「ごちゃごちゃうるさいんだよ!!」

 

今度はクルシーナが声を荒らげる。苛立っているときに見せている攻撃的な口調だ。

 

クルシーナはラビリンをしばらく睨みつけると、顔を前に向き直る。

 

「ヒーリングアニマルなら、ヒーリングアニマルらしく、自分たちの小さな頭で考えたら?」

 

「卑怯なことをしてないだけ、ありがたいと思えウツ!!」

 

それだけ言い残すと、クルシーナは瞬間移動をして去っていった。

 

「ラビリン!!」

 

そこへちょうど、ちゆとひなたがのどかの部屋へと入ってきた。のどかと一緒にいるはずのラテも一緒だ。

 

「ちゆ! ひなた! どうしてここに?」

 

「ラテ様が知らせてくれたニャ!!」

 

「のどかっちがビョーゲンズに連れて行かれたって!」

 

ラテは、家へ帰ろうとしていたちゆとひなたの元へと急ぎ、のどかの危機を知らせてくれたのだ。念のため、ラビリンを呼ぶために、のどかの家へとやってきたのだ。

 

「のどかならベッドで眠っているラビ。クルシーナが抱えてたときには体調が悪そうだったラビ」

 

「クルシーナが来たペエ!?」

 

「もしかして、そいつに何かされたんじゃ・・・?」

 

ちゆとペギタンが不安そうな顔をする。十中八九クルシーナの仕業だろうが、でもそれでわざわざ家にのどかを届けに来た理由は何だったのだろう。そこが理解できなかった・・・。

 

「ラビリンも、よくわからないラビ・・・」

 

ラビリンもクルシーナの行動を全く理解できないのであった・・・。

 

とにかくのどかは無事な様子。今は静かな寝息を立てて眠っている。

 

ラビリンはそんな彼女の額の汗を、優しくタオルで拭ってあげるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨が上がり、自然が雨粒の恵みを授かった時・・・。

 

「全く、ドクルンは夢中になりすぎだブル・・・」

 

「いやぁ、うっかり人間観察に勤しみすぎたわねぇ・・・」

 

「絶対、意図的にやってたブル・・・」

 

ドクルンは自然の草木の中を歩いていた。

 

雨に濡れた自然・・・キラキラとしていて、何か生きてるって感じがする・・・。

 

「自然っていうのは不快だブル」

 

「まあ、この輝いている感じが、いい病気の元になりそうだけどねぇ」

 

ドクルンは面白がっていて、笑みを崩さない。こんな自然を病気で蝕むとどうなるのか、笑いが止まらない。

 

「さてさて・・・種の匂いはここにきているみたいだけど?」

 

種の匂い、すなわちのどかの気配を追ってここまで来ていたドクルン。周りを見渡すが、人の気配は全くない。

 

「おや・・・?」

 

ふと、草木の奥の方を見てみると、見たことがある少年が。

 

そう、学校でマーキングしていたメガネの少年だ。カメラはまだ持っている。

 

どうやら、木の上の何かを見ている様子。

 

「あいつ、何してるブル?」

 

「さあね・・・でも、一人でいるのは好都合ねぇ」

 

ドクルンは何か悪巧みを思いついたかのように、ニヤリと笑みを浮かべ、近づいて行こうとしたが・・・。

 

「?」

 

反対方向から別の気配が近づいてくるのが見えて、思わず木陰に隠れる。

 

「雨上がりの自然・・・ふん、実に活き活きして気に入らない・・・とりあえず!」

 

そこに見えたのは、意気揚々と地球を蝕むために出撃していたグアイワルだった。

 

「やれやれ・・・脳みそも筋肉みたいなやつが現れたわね・・・」

 

ドクルンは笑みを浮かべずに、面倒臭いと言わんばかりの表情をしている。

 

グアイワルは両腕の筋肉を鳴らすと、握りこぶしを作る。

 

「進化しろ! ナノビョーゲン!!」

 

「ナノー!!」

 

筋肉を見せつけるかのように胸を反らすと、ナノビョーゲンが鳴き声を上げながら、葉っぱに乗っている雨粒へと取り憑く。雨粒が病気へと蝕まれていく。

 

「レー・・・レイン・・・」

 

雨粒の中にいる妖精、エレメントさんが病気へと蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガビョーゲン!」

 

傘を模倣したようなメガビョーゲンが誕生したのだった。

 

「全く・・・面倒なことを・・・」

 

道男を病気で侵してカメラを奪おうと考えていたドクルンは、せっかくの計画が狂ったと言わんばかりに舌打ちをする。

 

「まあ、でも、それを利用して、いや、活かしてやるのが私だけどねぇ・・・」

 

ドクルンは不満そうな表情から、すぐにニヤリとした笑みを浮かべる。その右手から寒気がするほどの冷気のようなものを漏らしていたのであった・・・。

 




感想・評価・ご指摘、お願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話「嗚咽」

今回は中編になります。
3つに分ける割には、意外と短めです。


雨上がりの天気の日・・・。

 

「ん・・・んぅ・・・」

 

目を覚ましたのどかは、少しずつぼやけた視界を鮮明にしていく。

 

「ん・・・あ・・・」

 

そして、焦点のピントがあったとき、視界にまず映ったのはパートナー、そしてちゆ、ひなたの姿であった。

 

「あ、のどか! 気がついたラビ!?」

 

「のどか、大丈夫?」

 

「ねえ、どこも苦しくない!?」

 

のどかが目を覚ましたことに気づくラビリン。心配そうな声を上げるちゆ。ひなたは顔を近づけて、不安そうな顔で呼びかけるひなた。

 

みんな、のどかを心配して駆けつけてくれたのだ。

 

「うん、もう大丈夫・・・」

 

のどかは体を起こすと、額に置かれていたタオルを取りながら笑顔で言う。

 

のどかは自分に何があったのか思い出そうとしたが、そこまでの記憶があまりない。すこ中ジャーナルの増子くんと話して、その後に家に帰ろうとしたところまでは覚えてるけど、そこから今起きるまでに何が起こったのか思い出せない。

 

でも、何かに抱かれていたのは感覚としてある。一体、誰だったのか・・・?

 

「アン!アン!」

 

「わっ!」

 

ラテがのどかの胸に飛び込んでくる。彼女も、倒れたのどかが心配で心配で仕方なかったのだ。

 

「ラテも心配してくれたんだね。ありがとう」

 

ラテを撫でながら笑顔を見せる。友達がいることが彼女にとっても何よりの励み。

 

「よっと、うわぁ!」

 

「大丈夫!?」

 

「ちょっと、フラフラじゃん!?」

 

「ああ、こけそうになったラビ!?」

 

のどかは立ち上がろうとするが、昨日の不調がまだ抜けていないのかよろけそうになった。転倒しそうになったところをちゆとひなたが間一髪支えてくれた。

 

「だ、大丈夫・・・ちょっと疲れちゃったのかなぁ?」

 

「今日は横になってたほうがいいペエ!」

 

「また倒れるかもしれないニャ!!」

 

ペギタンとニャトランも心配している。今日はもう無理しないほうがいいと。

 

「う、うん・・・」

 

のどかはちゆとひなたに支えられてベッドへと座る。

 

と、その時、休んでもいられなくなる状況が起こった。

 

「クチュン!!」

 

のどかに抱かれていたラテがくしゃみをして、ぐったりとし始めたのだ。

 

「ラテ!?」

 

「ビョーゲンズ!?」

 

「こんな時にかよ!!」

 

この兆しはビョーゲンズがメガビョーゲンを召喚させた合図、しかもよりにもよってのどかが万全ではないこんな時に・・・!!

 

聴診器を取り出して、心の声を聞いてみる。

 

(あっちで雨さんが泣いてるラテ・・・)

 

「雨が泣いてる・・・!」

 

「雨・・・?」

 

ひなたはイマイチわからなかったが、どうやら雨で起こる現象そのものが狙われた様子。

 

のどかはエレメントさんが苦しんでいることを悟ると、おもむろにベッドから立ち上がって外へと飛び出そうとするが・・・。

 

「くっ・・・うっ・・・あぁ!?」

 

足元は明らかにふらついており、部屋から出る前に壁へとぶつかってしまう。

 

「のどか!!」

 

ちゆがのどかへと駆け寄るも、のどかは5、6歩しか歩いていないのに息切れを起こしていた。

 

「のどかっち! 無茶はダメだよ!!」

 

ひなたものどかの元へと駆け寄る。エレメントさんも気がかりだが、友達が辛そうにしているのはもっと見たくなかった。

 

「はぁ・・・はぁ・・・だって、早くしないと、雨さんが・・・」

 

意を決したちゆとひなたはお互いに顔を見やる。のどかがこんな状態なら取るべき行動は一つだけだ。

 

「ここは私たちで行きましょう!!」

 

「うん!! ラビリン、のどかっちをお願い!」

 

「わかったラビ!!」

 

二人はラビリンにのどかを任せて、メガビョーゲンの元へ。

 

「あ・・・ま、待って・・・」

 

のどかはかすれた声を出しながら、メガビョーゲンへと向かう二人に手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メガ、ビョーゲン!!」

 

グアイワルの生み出したメガビョーゲンは飛び上がると、赤く小さな病気を撒き散らし、周囲の木を病気へと蝕ませていく。

 

道男はカメラを手に持って、この町を騒がせている怪物に近づき、周囲を見渡す。

 

「花寺さんは?」

 

のどかのことを探しているようだが、そこにいるのは怪物と筋肉質の明らかに人間ではない肌をしている男だけ。

 

「あの怪物と花寺さんは関係なかったのか・・・」

 

そもそも、彼女は自分の記事を追い求める姿勢をほめてくれたのだ。そんな優しい少女が怪物を生み出すなんて最初から考えもしていない。

 

その木の陰からドクルンがじっと見つめていた。

 

「あーあ、随分と頭の悪そうなメガビョーゲンねぇ・・・」

 

「あまりにも特徴ありすぎだブル」

 

ドクルンとブルガルが毒づきながらも、様子を見守る。

 

「いけ!メガビョーゲン!!」

 

グアイワルは周囲を病気で蝕むように指示する。

 

「待ってください!なぜこのようなこと!? 独占取材を!!」

 

道男はそんな怪物に物怖じすることなく、近づいていく。

 

「取材? 仕方あるまい・・・。人間ごときの取材など極めて不本意ではあるが、これもビョーゲンズの目的を知らしめるため・・・」

 

グアイワルは嫌そうにしながら、取材に応えようとする。

 

「お名前は?」

 

「我が名はグアイワ、ル・・・?」

 

答えようとして言葉を詰まらせるグアイワル。それもそのはず、道男が取材しようとしている相手は・・・。

 

「一言で結構です! 今の気持ちを!!」

 

「メ、メガ? ビ、ビョー・・・?」

 

メガビョーゲンであった。噂の怪物はあろうことか、答えようとしており・・・。

 

「答えようとしてるんじゃなーーーーい!!!!!!」

 

無視された怒りも相まって、メガビョーゲンに怒鳴る。

 

その様子を影から見ていたドクルンは・・・。

 

「プッ、フフフ・・・アッハハハハハハハ!!!! グアイワルったら、自分が取材されてると思ってたなんて・・・アッハハハハハ!!!」

 

「傑作だブル・・・クックック!!」

 

グアイワルのあまりにも恥ずかしい所業に腹を抱えて大笑いしていた。

 

「蹴散らせ!!!」

 

「メ、メガ!? メガー!!!」

 

「うわぁぁぁ!!」

 

グアイワルにドヤされて、慌てたように思いっきり上に飛び上がるメガビョーゲン。道男はそれに吹き飛ばされ、カメラとメガネを落としてしまった。

 

吹き飛ばされたカメラはドクルンの足元へと転がる。

 

「ふむ・・・・・・」

 

ドクルンはカメラを拾い上げると、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「これはこれで好都合ねぇ。ちょっといただいていくわ」

 

ドクルンはそのままその場を立ち去った。

 

「メ、メガネが!? メガネはどこです!? メガネ・・・メガネ!」

 

カメラを持って行かれたとも知らない道男は、落としたメガネを探して地面を探っていた。

 

「いた! メガビョーゲンだ!!」

 

「グアイワルもいるペエ!!」

 

そこへちゆとひなた、ペギタンとニャトランが到着。メガビョーゲンの姿を捉えると二人は顔をあわせる。

 

「ひなた!!」

 

「うん!!」

 

「「スタート!!」」

 

「「プリキュア、オペレーション!!」」

 

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

 

ペギタンとニャトランがステッキに変わると、ちゆは水の模様が描かれたボトル、ひなたは菱形のボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。そして、肉球にタッチすると、ちゆには水、ひなたには星のような光線が現れ、白衣が現れ、水色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「「はあぁぁぁぁぁ!!」」

 

二人はメガビョーゲンを止めるべく、プリキュアに変身する。のどかの分まで頑張るために・・・。

 

一方、ドクルンは先ほど持っていったカメラの中身を近くにあった、静かな森林公園のベンチで見ていた。

 

写っていたのは、先ほどのちゆと呼ばれた少女が練習する姿・・・ハードルを跳ぶ生徒・・・砲丸投げをする生徒・・・雨上がりの蜘蛛の巣・・・栗色の少女のハプニング・・・。

 

ポチポチとボタンを押して中身を見てみるが、ドクルンの心に刺さるものは何もなかった。

 

「ふむ・・・あまり面白い写真は撮れてないわねぇ・・・」

 

ドクルンは期待していた分、当てが外れたというつまらなそうな表情でいる。

 

「人間は何でこんなものが撮りたいのか理解できないブル・・・」

 

ブルガルもドクルンの言葉に続くように述べる。

 

ドクルンは粗方見た後、興味を失くしたのかカメラをベンチへと放り出してため息をつく。

 

まあ、プリキュアの弱点を探せという命令はされてないし、別に困ったものでもない。ただ、少しでも弱みを握れるようなものがあればよかったが、大したものも見つからなかった。

 

「・・・まあ、いいでしょう」

 

ドクルンはベンチから立ち上がってカメラへと向き直る。

 

「グアイワルだけに任せるのも可哀想ですし、いつものいきますかねぇ・・・」

 

ドクルンは不敵な笑みを浮かべると、中指と親指を合わせると、パッチンと音を鳴らす。

 

「進化してください、ナノビョーゲン」

 

「ナノデス~♪」

 

ドクルンの生み出したナノビョーゲンが鳴き声を上げながら、ベンチに置いてあるカメラの中へと入っていく。カメラが徐々に病気へと蝕まれていく。

 

「キラキラキラぁ・・・!?」

 

カメラの中のエレメントさんが病気へと蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガビョーゲン!!」

 

フィルムカメラに手足、不健康な顔が生えたような人型のメガビョーゲンが誕生した。

 

「メガー!!!」

 

メガビョーゲンはレンズから光を照射すると、その照らされた草木は病気へと侵されていく。

 

「メガー!!!」

 

ベンチ、周囲の木や雨粒が病気へと侵される。

 

「人間の手で作られたものの割には、活きのいいメガビョーゲンが誕生したわねぇ」

 

「きっとあのカメラを持っている人間が生き生きしていたからだブル」

 

メガビョーゲンは地面や蜘蛛の巣のある場所にも照射し、病気へと蝕ませる。

 

「いいですよ、メガビョーゲン、その調子でどんどん蝕んでください」

 

「メガビョーゲン!!」

 

本当に生き生きとしているメガビョーゲンだ。あんな脳みそが筋肉のバカが作ったやつよりも余程仕事をしてくれる。人間のような情には全く流されていない、優秀なメガビョーゲンだ。

 

ドクルンは不覚を取ったが、転んでもただでは起きないような感じで笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

辛い・・・苦しい・・・でも、メガビョーゲンを止めにいかないと・・・!!

 

のどかは息を切らせながら、ラテを抱えたまま、二人の元へと向かおうとしていた。放課後の原因不明な体調不良を起こしてから、のどかはまだ回復していない。足取りはいつもの走りよりも重くなっており、表情にかなりの汗を滲ませている。

 

でも、のどかは足を止められないと必死に体に鞭を打つ。

 

「のどか! 無茶はダメラビ!!」

 

ラビリンがメガビョーゲンの元に向かおうとしているのどかを止めようとしている。本来ならまだ安静にしていないといけないのだが、苦しんでいるのを放っておけないとラビリンの制止も聞かずに外へと飛び出したのだ。

 

本当は自分の方が苦しいはずなのに・・・!

 

「はぁ・・・はぁ・・・私が、私が行かないと・・・」

 

のどかは自分に言い聞かせるように呟きながら、駈け出す足を止めない。

 

「のどかぁ!!」

 

ラビリンは叫ぶも、それでものどかは走っていく。しかし、疲れも相まって段々と足がおぼつかなくなっていき・・・。

 

「!? あぁ!!」

 

のどかは自分の足に躓いて、転倒してしまう。

 

「のどか!!」

 

「う・・・うぅ・・・」

 

ラビリンは痛みに呻くのどかに近寄る。

 

さらに・・・・・・!

 

「クチュン!!」

 

「ああ!?」

 

本日2回目のくしゃみ。先ほどよりもぐったりし始めたラテ。

 

「別の場所にも、メガビョーゲンが・・・」

 

ラビリンは聴診器を取り出してラテに当てる。

 

(あっちでカメラさんが泣いてるラテ・・・)

 

「カメラ・・・?」

 

「もしかして、増子くんの・・・?」

 

のどかはそれを聞くと再び立ち上がろうとするが、体はまだふらついていて・・・。

 

「うぁ!」

 

再び地面へと倒れてしまう。

 

「家で大人しくしてないとダメラビ!! 戦えるかもわからないのに!!」

 

ラビリンは、本当は戦わないといけない、そんなことはわかってる。でも、相手よりも自分の体調を気にしないなんて無理をしているにもほどがある。たとえのどかがプリキュアになったとしても、体調不良が尾を引いて危険な目にあうかもしれない。

 

つまりは、今ののどかを戦わせたくなかったのだ・・・。

 

メガビョーゲンがもう一体現れたことはラビリンが、飛んで知らせればいいだけの話だ。

 

「・・・・・・嫌」

 

「のどか!!」

 

「嫌だ!!」

 

しかし、のどかは頑なにそれを認めようとしなかった・・・。

 

「だって・・・だって・・・ラテも、エレメントさんも、雨さんも・・・みんな」

 

のどかは右手を握りこぶしを作りながら、体を震わせる。

 

「みんな・・・みんな・・・苦しんでるのに・・・!!」

 

地面に突っ伏したまま、涙を流すのどか。ラビリンは一人メガビョーゲンに立ち向かったときのことを思い出していた。

 

メガビョーゲンに一人無謀にも立ち向かい、ボロボロにされ、何もできない自分・・・。

 

『だからって放っとけないラビ! 地球が、こんなに苦しんでるのに・・・!!』

 

ラビリンは今ののどかを昔の自分と重ねていた。あの時ものどかがいなかったら、あそこは間違いなくビョーゲンズに侵されていた。のどかがいたから、地球を癒せたのだ。

 

「何もできないなんて・・・そんなの嫌だよぉ・・・!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

ラビリンは体を震わせて嗚咽するのどかのそばに歩み寄る。

 

「のどか・・・」

 

「ひっく・・・ぐすっ・・・」

 

ラビリンはのどかへと頭を下げる。

 

「のどか・・・ごめんなさい、ラビ・・・」

 

「ぐすっ・・・え・・・?」

 

「ラビリンは、のどかが助けたいって気持ちはわかってたラビ・・・でも、今ののどかがメガビョーゲンに立ち向かっても、辛い思いをするだけラビ・・・。ラビリンはのどかがこれ以上辛そうにしているのは見たくなかったラビ・・・」

 

ラビリンが気持ちを吐露する。のどかはここ最近不調が続き、倒れることもあれば、無理していこうとすると表情が辛そうなほどだった。ラビリンは相手のために自分が苦しい思いをするのどかをこれ以上見たくなかった。本当は止めたかったのだ。

 

「ラビリン・・・」

 

のどかはこんなことを思っていた。ラビリンは優しくて、お手当てに一生懸命だと。

 

最初に出会った頃に、のどかにお手当てをさせようと、戦わせようと思わなかったのは、彼女を危険な目に会わせたくなかったからだ。

 

そして今も、ラビリンはのどかのために止めようとしている。それだけパートナーが大事なのだ。

 

のどかはラビリンに微笑みかける。

 

「ありがとう、ラビリン・・・でも、ごめん・・・私は行くよ」

 

「のどか・・・?」

 

のどかは地面に手をつけて、少しずつ立ち上がろうとする。自分の体がガクガクと震えようとも・・・。

 

「例え自分が苦しくても・・・辛くても・・・私は、戦いたい・・・他に苦しんでいる人がいれば、手を差し伸べてあげたい・・・辛い人がいるなら、肩を貸してあげたい・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「私は、みんなの力になりたい・・・だって、見捨てることなんてできないから・・・!」

 

のどかの言葉を聞いて、ラビリンは意を決し、きょろきょろしながら何かを探す。そして、何かを見つけるとそちらへと飛んでいく。

 

「うぅ・・・くぅ・・・!!」

 

のどかはよろつきながらもなんとか立ち上がるも、正直もう立っているのがやっとな感じだ。

 

「のどか! これに乗るラビ!!」

 

そういうラビリンが持ってきたのは、リヤカーだった。近くの倉庫に置いてあるのを持ってきたのだ。

 

少しでものどかの手助けになりたいと思い、あまりない力を振り絞って持ってきたのだ。

 

「・・・うん!」

 

のどかはリヤカーへと乗り込み、ラビリンが懸命に力を入れながらリヤカーを引っ張る。

 

「雨のほうはちゆたちが言ってるラビ! 私たちはカメラの方へ向かうラビ!!」

 

「うん! 行こう!」

 

のどかたちは別の場所で発生したメガビョーゲンを止めるため、林の中へと入っていく。ラビリンは二人を信じているから、任せて別のメガビョーゲンを止めようとしているのだ。

 

「ラテ、すぐに元気にしてあげるからね・・・」

 

ぐったりしているラテを優しく撫でるのどか。

 

ーーーー絶対に治してあげるから・・・!!

 

そんな二人の様子を一本の木の陰から、中折れ帽子を被った少女が背中越しに聞いていた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メガー!!!」

 

一方、森林公園では大方、病気でほとんどの部分が蝕まれつつあった。

 

「ここはそろそろいいかしらねぇ・・・」

 

「別の場所に行くブル」

 

ドクルンは場所を移動しようと、メガビョーゲンに指示を出そうとする。

 

「いたー!!!」

 

そこへ少女の声が聞こえてくる。マゼンダ色の髪の少女ーーーーのどかとラビリンだ。

 

「おや、来たみたいねぇ・・・」

 

声がした方へ振り向いて、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「ドクルンラビ!!」

 

「ラビリン、行こう!!」

 

のどかの言葉にラビリンは頷く。

 

「スタート!!」

 

「プリキュア、オペレーション!!」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

 

ラビリンがステッキに変わると、のどかは花型のボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。そして、肉球にタッチすると、花びらが舞うと集まって、白衣が現れ、ピンク色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

花のプリキュア、キュアグレースに変身した。

 

「ほう・・・一人でやるつもりですかぁ?」

 

ドクルンはますます面白そうという顔をする。

 

「はあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「メガ!?」

 

グレースはメガビョーゲンの腹部へと飛び蹴りを喰らわせる。メガビョーゲンは若干、よろけてバランスを崩す。

 

「「キュアスキャン!!」」

 

ラビリンの目が光り、メガビョーゲンの中にいる、苦しんでいる様子のエレメントさんを見つける。

 

「光のエレメントさんラビ!!」

 

そのエレメントさんはどうやら右肩にいる模様。

 

「やあぁぁぁ!!」

 

「メガ、ビョーゲン!?」

 

倒れそうになっているメガビョーゲンの右足を攻撃し、うつ伏せに倒す。

 

(体が軽い・・・これなら行ける・・・一気に浄化を・・・!)

 

グレースは変身前の不調を感じなくなっていた。体は先ほどよりも軽いし、胸も苦しくない・・・だるさも感じない・・・これならメガビョーゲンを浄化できる、と。

 

しかし、それはまだ早計だった・・・。必殺技の準備に入ろうとしたその時・・・!

 

「メガ!!」

 

メガビョーゲンは倒れたまま、レンズの上についている2本のライトを点灯させる。それは周りが明るいのに暗くなるのではないかと思うくらい眩しかった。

 

「きゃあ! な、何!?」

 

「まぶしいラビ!!」

 

突然のまぶしさに怯んでしまったグレース。メガビョーゲンはその隙に立ち上がると、2本のライトを消し、左腕のリールからフィルムを伸ばす。

 

「メガー!!」

 

「あ・・・・・・!」

 

そして、そのフィルムをグレースに向かって投げつける。両目を擦っていて反応が遅れたグレースはフィルムに体を巻き取られてしまう。

 

「ビョーゲン!!」

 

「きゃあぁぁぁぁ!! あう!!」

 

メガビョーゲンはそのままグレースを放り投げ、フィルムを切り離した。その勢いで飛ばされたグレースは木の幹へと背中を打ち付け、地面へと落ちる。

 

「くぅ・・・うぅ・・・!!」

 

「グレース、大丈夫ラビ!?」

 

「と、取れない・・・!!」

 

グレースは立ち上がろうとするが、巻きついたフィルムは全く解けず、ギチギチと音を立てるだけ・・・。

 

更に状況が悪化する事態が・・・・・・。

 

ドクン!!!!

 

「あーーーー」

 

グレースの心臓の鼓動が再び早くなり、膝をついてしまう。プリキュアになってから軽くなったはずの症状がまた再発したのだ。

 

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン

 

「うぅ・・・あぁ・・・」

 

体に力が入らず、足が動かない。しかも、視界までぼやけてきた。

 

「やっぱり一人でのお手当ては無理がありましたねぇ・・・それに体調が悪そうですがぁ?」

 

「一人ででしゃばって、傷つくのはお前だけだブル」

 

ドクルンの嘲笑と並んで、メガビョーゲンがグレースに迫っていく。

 

「グレース! ここは逃げたほうがいいラビ!!」

 

「でも、そんなことしたらここ一帯が病気に・・・!」

 

「一回体制を立て直すラビ! フォンテーヌとスパークルを呼んで、一緒に浄化したほうがいいラビ!!」

 

グレースを叱咤するラビリン。メガビョーゲンに油断していたとはいえ、フィルムで体を拘束され、さらにはプリキュアになったのに再度悪化した症状、このような状態で戦いを続けてもやられるだけだ。だから、ラビリンは一人でやるよりも、三人でやったほうがいいと判断したのだ。

 

しかし、グレースは・・・・・・。

 

「嫌だ・・・嫌だよ・・・」

 

「グレース!?」

 

「だって、ここを離れている間に取り返しのつかないことになっちゃうかもしれない・・・私は、この公園を守りたい・・・だから、私は、絶対に離れない・・・!!」

 

そこへメガビョーゲンの手が迫り、グレースを掴み上げる。

 

「あ、きゃあぁぁぁ!!」

 

「グレース!!」

 

「何を考えているのか知りませんが、好きにはさせませんよ・・・メガビョーゲン、止めを」

 

「メガビョーゲン!!」

 

ドクルンが冷めた口調でメガビョーゲンに命令すると、メガビョーゲンは両手で掴みグレースを絞め上げる。

 

「うぅ・・・くぅ・・・うあぁ、あぁ・・・!!」

 

「グレース! グレース!!」

 

ドクンドクンドクンドクンドクンドクン!!

 

「はぁ・・・ぁぁ・・・ぁ・・・」

 

苦しみの声を上げるグレース。しかも、心臓の鼓動がさらに早くなって、視界が真っ黒になっていく。それは痛み故か、それとも体調の悪化故か・・・。

 

(守らなきゃ・・・まも、らなきゃ・・・)

 

グレースのそんな思いとは裏腹に、視界は段々と真っ黒になっていく・・・。

 

その様子を公園の木の陰から、中折れ帽子を被った少女ーーーークルシーナが背中越しに伺っていた。

 

「・・・・・・ふん、バッカみたい」

 

グレースの様子を見て顔を顰める。表情は苦しそうで目も虚ろになってきている。クルシーナがまさに好む苦痛の表情のはず。しかし、それがドクルンと、あいつが誕生させたメガビョーゲンのおかげだという事実にむしゃくしゃし、素直に味わえずにいる。

 

あいつ、キュアグレースは私の獲物なのだ。それを、あんなヘラヘラしたようなやつに奪われるのは気に入らない。自分以外の相手から与えられる苦しみの快楽など、私には欲しくない。

 

「あいつ、なんであんなに必死になれるウツ?」

 

「知らない。つーか、そんなこと考えたくないし」

 

ウツバットの疑問をあっさりと一蹴するクルシーナ。今日はいつにも増して不機嫌だ。

 

「ぁぁ・・・ぁ・・・」

 

一方、グレースは表情にすでに力がなく、すでに意識が落ちようとしていた。

 

「「はあぁぁぁぁぁ!!!」」

 

と、そこへ二人の少女の声が聞こえてきたかと思うと、水色のエネルギーと黄色のエネルギーがメガビョーゲンの顔に直撃した。

 

「メガァ・・・!?」

 

メガビョーゲンは思わず両手からグレースを離し、地面へと落ちる。

 

「うぅ・・・あ・・・」

 

絞め上げから解放されたグレースが戻っていく視界で、エネルギーが飛んできた方向を見ると、安堵の表情を見せる。

 

「スパー・・・クル・・・フォンテー・・・ヌ」

 

そこには、キュアフォンテーヌとキュアスパークルの姿があったのであった。

 




感想・評価・ご指摘、よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話「蹂躙」

後編になります。
今回は今まで書く中で一番複雑になっちゃったかと思います。
でも、これが書きたかったことでもあります!
どうぞ!


 

二人がグレースの元へと向かう数分前・・・。

 

グアイワルのメガビョーゲンは上空へと高く浮かび上がって、体を回転させて水の塊を撒き散らす。

 

「ふっ!」

 

「はぁ!」

 

フォンテーヌとスパークルはそれぞれ飛んできた水の塊をキックやパンチで打ち砕く。

 

メガビョーゲンは二人に近寄らせないように、回転して水の塊を放つ攻撃を繰り返している。

 

スパークルとニャトランはお互いに頷くと、ステッキをメガビョーゲンへと向ける。

 

「はあぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

黄色のエネルギーをメガビョーゲンの顔に向かって放ち、直撃を受けたメガビョーゲンは回転が止まり、地面へと落ちていく。

 

その勢いのまま、菱形の模様が描かれたヒーリングボトルをステッキへとかざす。

 

「エレメントチャージ!!」

 

そう言いながら光るステッキの先をハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「ヒーリングゲージ上昇!!」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングフラッシュ!!」

 

スパークルはそう叫びながら、ステッキをメガビョーゲンに向けて、黄色の光線を放つ。光線は螺旋状になっていた後、メガビョーゲンに直撃した。

 

その光線はメガビョーゲンの中に入ると、螺旋状のエネルギーは手へと変化して、メガビョーゲンの中にいた雨のエレメントさんを優しく包み込む。

 

菱形状にメガビョーゲンを貫きながら、光線は雨のエレメントさんを外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「お大事に」」

 

雨のエレメントさんが宙で自身の体を光り輝かせていくと、蝕んだ箇所も元に戻っていく。そして、エレメントさんは雨粒の中へと戻っていく。

 

「ちっ・・・我が勝利の記念日は延期だ!」

 

グアイワルは舌打ちをしながら撤退していった。

 

別のメガビョーゲンが現れたことを知らない二人は変身を解こうとしたが、突然木の向こうから強烈な光が輝いているのが見えた。

 

「うっ・・・な、何!?」

 

「ちょっ・・・眩しいんだけど!?」

 

あまりの眩しさに怯む二人だが、光はやがて消えて元の明るさに戻っていく。

 

「何だったの・・・?」

 

「あっちで何かあった・・・?」

 

疑念を抱く二人だが、そこへとある悲鳴が聞こえたことで確信へと変わった。

 

うあぁぁぁぁ!!!

 

「! 今の悲鳴って・・・?」

 

「のどかっちの声だよ!!」

 

二人は顔を見合わせて頷くと、光が放たれた方向へと走っていく。

 

ラテがいなかったからわからなかったけど、メガビョーゲンがもう一体現れたのかも・・・?

 

二人は急いで現場へと向かった。

 

フィルムカメラと一体となっているメガビョーゲンが見えてくると、その両手にはキュアグレースが掴まれていた。

 

「はぁ・・・ぁぁ・・・」

 

グレースの苦しみの声は弱弱しくなっていた。

 

「グレース!!」

 

スパークルは助けようと飛び出そうとするも、フォンテーヌに止められる。

 

「フォンテーヌ!?」

 

「近寄っちゃダメ! 逆に人質に捕られるかも・・・!!」

 

「でも、早く助けないと・・・!!」

 

「わかってるわ!! だから・・・!!」

 

フォンテーヌはそう言ってステッキを構えて、水色のエネルギーをチャージする。

 

「同時に、これで攻撃するの」

 

「あ、そっか!」

 

スパークルも理解すると、ステッキを構えて黄色のエネルギーをチャージしていく。

 

「「はあぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

フォンテーヌとスパークルは水色と黄色の光線を同時に放つ。

 

「メガァ・・・!?」

 

メガビョーゲンは思わず両手からグレースを離し、掴まれていたグレースは地面へと落ちる。

 

「うぅ・・・あ・・・」

 

グレースは虚ろな目から戻っていく視界で、エネルギーが飛んできた方向を見ると、安堵の表情を見せる。

 

「スパー・・・クル・・・フォンテー・・・ヌ」

 

「グレース大丈夫!?」

 

「大人しくしなきゃダメって言ったのに・・・!!」

 

スパークルの心配する声と、フォンテーヌのやや叱責する声が聞こえる。二人は本気でグレースを心配していたのだ。

 

「ほう・・・ようやく3人揃いましたか。でも、1人が3人に増えたところで・・・」

 

「メガー!!」

 

攻撃から復帰したメガビョーゲンが左腕のフィルムを振り回して放り投げる。

 

「ふっ!」

 

「はぁぁ!!」

 

フォンテーヌはそれを蹴りで払いのけると、スパークルがうまくキャッチしてメガビョーゲンへと放り投げる。

 

「メ、メガ!? ビョー・・・ゲン・・・!!」

 

飛んできた自分のフィルムにぐるぐると巻かれたメガビョーゲンは転倒して地面へと倒れた。

 

ひとまずメガビョーゲンを行動不能にして、グレースへと駆け寄る。

 

「グレース!!」

 

「しっかりしてよぉ!!」

 

「うぅ・・・!!」

 

フォンテーヌとスパークルが呼びかけるも、グレースはいまだに目は虚ろで体をガクガクと震わせている。

 

ドクン・・・ドクン・・・ドクン・・・!!

 

グレースの心臓の鼓動は先ほどではないが早くなっていた。プリキュアに変身すれば起こすはずのない不調が、メガビョーゲンからのダメージも祟ったのか体に力が入らないでいる。

 

「メガビョーゲン、何をしているんです。さっさと潰して下さい」

 

ドクルンは巻きついているフィルムを氷漬けにして砕き、メガビョーゲンを動けるようにする。

 

「メ、メガ、メガー!!」

 

メガビョーゲンは立ち上がると、レンズから赤い光線を照射する。フォンテーヌは飛び上がってかわし、スパークルもグレースを抱えたまま飛び退く。

 

「スパークル、グレースをどこかに避難させて。メガビョーゲンは私が!」

 

「わかった!!」

 

そう言ってフォンテーヌはメガビョーゲンに一人立ち向かおうとする。

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

フォンテーヌは飛び上がって、メガビョーゲンに飛び蹴りを入れる。

 

「メ、ガ!?」

 

メガビョーゲンは蹴りを食らってよろける。フォンテーヌは飛び蹴りの反動を生かして、ステッキを構えて追撃をしようとする・・・。

 

シュッ!! シュッ!!

 

「フォンテーヌ!!」

 

「え・・・きゃあ!」

 

そこへ氷柱のような氷の塊が飛んできたのだ。ペギタンの声でフォンテーヌは間一髪反応して避けると、地面へと着地する。

 

飛んできた先を見てみると、ドクルンが氷の塊を宙に浮かせていた。

 

「全く世話が焼けるメガビョーゲンですね・・・でも、邪魔はさせませんよ?」

 

ドクルンがやれやれと首を振りながら、無表情で再びフォンテーヌへと氷を飛ばす。

 

「あいつ・・・あんな力があるの・・・?」

 

フォンテーヌはバックステップで氷の塊を交わしながら疑問をつぶやく。この前まではあんな能力を見せたことはなかったドクルン。

 

「ふん!」

 

ドクルンは間一髪入れずに右足を地面に叩きつけると、フォンテーヌの足元から氷の柱が出現する。

 

「きゃあ!!」

 

バックステップで着地した瞬間を狙われたフォンテーヌは氷の柱を受けてしまい、打ち上げられ地面へと落ちる。

 

「フォンテーヌ!!」

 

グレースのそばにいたスパークルが声を上げる。

 

「メガビョーゲン、今のうちにあっちを蝕んでください」

 

「メガビョーゲン!」

 

ドクルンは体勢を整えたメガビョーゲンにまだ蝕まれていない林のような道へと指をさすと、メガビョーゲンはそっちへと移動しようとする。

 

「行かせないよ!はぁぁ!」

 

「メガ!?」

 

スパークルはそうはさせないと言わんばかりに、メガビョーゲンへと飛ぶと足裏を蹴りつける。

 

メガビョーゲンは再び地面へと仰向けに転倒。そこへ煙の中からフィルムが飛び上がり、それが飛んでいった先は・・・!

 

「ああ・・・ラテ!!」

 

「ラテ様!!」

 

メガビョーゲンの外れたフィルムが飛んだ向こうにはぐったりとしているラテの姿があった。このままでは大きなフィルムでラテが下敷きに・・・!!

 

「危ない!!」

 

フォンテーヌは立ち上がって飛び出すと、ラテを庇うように抱きかかえる。

 

ドン!!!

 

「うっ・・・くっ・・・!」

 

フォンテーヌの背中にフィルムが直撃し、痛みに呻き倒れそうになるのを堪える。

 

「フォン、テーヌ・・・!!」

 

いまだに立ち上がれないグレースが声を振り絞る。

 

「クゥ~ン・・・」

 

「うっ・・・大丈夫よ、ラテ。あなたは私たちが守るから・・・」

 

右目を顰めつつも、ラテに心配させないように笑顔を作る。

 

「・・・・・・・・・」

 

それを見ていたドクルンは沈黙していた。彼女の頭の中にある一つの映像がフラッシュバックしたのだ。

 

ーーーーベッドの上、他のベッドの女の子の方へ背を向けて歩いていく女性。自分はその女性に手を伸ばしている。

 

「・・・ドクルン?」

 

スタッドチョーカーのブルガルが、急に大人しくなったドクルンに声をかける。

 

ドクルンはしばらく沈黙すると、右手に冷気を迸らせてハンマーのようなものを作る。

 

「ふっ・・・!!」

 

そして、立ち上がろうとするフォンテーヌの上へ瞬間移動をして、ハンマーを上から振りおろす。

 

「あ・・・ぐっ!?」

 

気づくのが遅れたフォンテーヌはハンマーをそのまま背中へと重い一撃を受けてしまい、倒れそうになりながらもしっかりと足を支える。顔は苦痛の表情になっていた。

 

「あ・・・あ・・・きゃあ!!」

 

痛みに呻くフォンテーヌを、ドクルンは横から蹴りを入れて吹き飛ばす。

 

背中から木へと打ち付けられるフォンテーヌ。ハンマーの痛みと重なって、倍の痛みが襲う。

 

さらにドクルンが地面に右足を叩きつけると、フォンテーヌの下から氷が発生し、足が凍りつく。体と地面がくっつくように凍りついて、思うように身動きが取れなくなったフォンテーヌにドクルンが近づく。

 

「全く、他人を構っているなんて・・・論理的ではありませんね・・・」

 

ドクルンの表情は体が凍りつくほどの冷たいものだった。彼女は感情のこもっていない声でそう言いながら、右の人差し指から白色のエネルギーを集め始める。

 

フォンテーヌは痛みに呻きながら顔を上げると、ドクルンが人差し指をこちらに向けていた。

 

(やられる・・・!!)

 

ドクルンが右手からエネルギーを発射しようとした時、そこへハート型のエネルギーが飛んできた。

 

「!!??」

 

ハート型のエネルギーはドクルンの左肩に直撃して彼女はよろけ、レーザー状に放たれた光線はフォンテーヌの後ろの木に当たり、彼女の顔すれすれが氷漬けになった。

 

痛みに顔を顰めたドクルンが光線の飛んできた方向を見ると、そこにはまだ倒れたまま、ステッキをこちらに向けていたグレースの姿だった。

 

「フォン、テーヌ・・・早く、そこから・・・」

 

「!・・・ふっ・・・くっ!」

 

声を絞り出すように言ったのはそこから離れることだった。フォンテーヌはグレースの方を見つめると、地面に力を入れて氷から脱出し、ひとまずラテを抱えて、そこから離れる。

 

ドクルンは特に追撃することなく、グレースの元へと走る後ろ姿を無表情で見つめていた。

 

「ドクルン、どうした? いつものお前らしくないブル」

 

ブルガルは冷静な口調ながらも、ドクルンを心配する。彼女は基本侵略活動はメガビョーゲン任せだ。そんな彼女が自分から手を出そうとするなんて、ドクルンじゃない。

 

「・・・失礼、ちょっと取り乱しました」

 

ドクルンは眼鏡を上へと上げながら、気持ちを落ち着かせる。

 

「くっ・・・うぅ・・・」

 

一方、グレースは顔を苦痛に歪めながらも、木に手を這わせて無理にでも足を入れて立とうとしていた。

 

「わ・・・私、も・・・」

 

「グレース!? 休もうよ少し!!」

 

メガビョーゲンを阻止して戻ってきたスパークルが叫ぶ。

 

「ダメよ!! 無茶したら!!」

 

フォンテーヌまでもがそう言っても、グレースは首を振って止めようとしない。

 

「全くわかりませんねぇ、そこまでして私たちを止めたいわけが。そんなまともに動けない体で何ができるというのですか?」

 

ドクルンは無表情でグレースの行動を嘲る。

 

「動けないわけじゃ・・・ないよ・・・」

 

「どういう意味ですか?」

 

「まだ体は動くよ・・・動く限り、私は戦うよ・・・例え苦しくても、辛くても・・・私は自分以外に苦しんでる人を放っておけない・・・!! 今まで誰かに助けられてばかりだから・・・だから、私は、私が助けたい・・・!!」

 

グレースは病弱な体で、病気をした。みんなに助けられた。だから、そんな人たちに憧れて、自分も誰かを助けたいと思った。

 

だって、自分が苦しいと思っている人を、放っておけないから・・・!!

 

スパークルはそのグレースの言葉を聞くと、自分の首後ろへと彼女の腕を回し支えるように立ち上がらせる。

 

「スパークル・・・?」

 

「一緒にやろう? こうすれば、二人で一人っしょ?」

 

「! うん・・・!」

 

グレースの表情に笑顔が戻った。一人では無理でも、二人三脚でやればきっと上手くいく。

 

それを見ていたフォンテーヌも微笑む。

 

「しょうがないわね。これが終わったら、今日はもう休むこと! わかった?」

 

「フォンテーヌ・・・ありがとう・・・!」

 

二人が三人になり、そして、3人で臨戦態勢となる。

 

「なら、三人仲良く苦痛へ沈めてあげますよ。メガビョーゲン、いつまでも倒れてないで、プリキュアを倒してください」

 

「メ、メガー!」

 

メガビョーゲンは立ち上がると再びレンズから赤い光線を照射する。三人はそこから飛び退くことで光線を交わす。

 

「よーし!」

 

「え、スパークル、ふわぁー!?」

 

スパークルは空中で両腕を掴むとグレースと一緒にその場で体を回転させる。

 

「何をするのかわかりませんが、撃ち落としてあげますよ」

 

空中に氷の塊を出現させると、グレースとスパークルの二人へと投下する。

 

「させないわよ!!」

 

フォンテーヌが飛び上がって、氷の塊を蹴り飛ばす。

 

「っ・・・!!」

 

氷の塊はドクルンの周囲の地面へと落ち、彼女は思わずかばうように顔に右腕をやる。

 

彼女が右腕を離すと、目の前にフォンテーヌが立っていた。

 

「やりますね・・・」

 

「あなたの好きにはさせない!!」

 

フォンテーヌは、ドクルンが攻撃を仕掛けてきても良いように臨戦態勢を取っていた。

 

「行くよー、グレース!!」

 

「ちょ、ちょっと待っ・・・ふわぁぁぁぁ!!」

 

その隙に回転しながらスパークルはグレースをメガビョーゲンへと放り投げる。悲鳴を上げるグレースだが、メガビョーゲンの姿を捉える。

 

「はあぁぁぁぁ!!!」

 

「メガァ!?」

 

グレースは表情を戸惑いから真剣な表情になり、両脚を合わせて槍のようになりながら高速で突っ込む。メガビョーゲンのレンズへと激突し・・・。

 

パリンッ!!!!!

 

レンズが割れて砕け、メガビョーゲンが吹き飛んでいく。

 

グレースもかなりの反動で吹き飛び、スパークルがうまく受け止める。

 

「グレース、大丈夫!?」

 

「ふぇぇ・・・」

 

グレースは目を回してはいたが、大怪我もなく無事な様子。

 

「フォンテーヌ、今のうちペエ!!」

 

「うん」

 

フォンテーヌは頷くと、水の模様が描かれたヒーリングボトルをステッキへとかざす。

 

「エレメントチャージ!!」

 

そう言いながら光るステッキの先をハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「ヒーリングゲージ上昇!!」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングストリーム!!」

 

キュアフォンテーヌはそう叫びながら、ステッキをメガビョーゲンに向けて、水色の光線を放つ。光線は螺旋状になっていた後、メガビョーゲンに直撃した。

 

その光線はメガビョーゲンの中に入ると、螺旋状のエネルギーは手へと変化して、光のエレメントさんを優しく包み込む。

 

水型状にメガビョーゲンを貫きながら、光線は光のエレメントさんを外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「お大事に」」

 

光のエレメントさんは、カメラの中へと戻り、蝕んだ箇所も元に戻っていく。

 

「ワゥ~ン!」

 

体調不良だった子犬ーーーラテも額のハートマークが黄色から水色に戻り、元気になった。

 

「キュアフォンテーヌ・・・あなたは残酷ですね・・・」

 

ドクルンは哀れんだような笑みを浮かべながら、その場を立ち去ったのであった。

 

「やったね!! フォンテーヌ!!」

 

スパークルがグレースの前に出て手を振ると、フォンテーヌは笑みを浮かべた。

 

グレースもその様子を見て、安堵したような微笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、その時だった・・・・・・。

 

ドスッ!!!

 

「え・・・?」

 

体が反射を起こすような衝撃、それは背中から感じた。そして、彼女の背中は血が出ていないものの、誰かの右腕に貫かれていたのだ。

 

「うぅ・・・く・・・」

 

「グレース! どうしたラビ!?」

 

体に苦痛を感じながら、後ろに顔と視線を動かすと、そこにいたのは・・・。

 

「ク、クルシー・・・ナ・・・?」

 

ビョーゲンズの幹部、クルシーナだった。彼女は不機嫌そうな顔をしながら、右腕をグレースの背中へと突っ込んでいる。

 

「フフ・・・」

 

グレースが正体に気づくと、クルシーナは不敵な笑みを浮かべて右手を弄るように動かし、何かを掴む。それは彼女の心臓・・・。

 

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン!!!

 

「かはぁ、ぁ・・・あぁ・・・」

 

グレースの口から空気が漏れるのと同時に心臓の鼓動が早くなり、彼女にこれまでとは比べものにならないほどの痛みが襲う。

 

心臓が、痛い・・・痛い・・・苦しい・・・イタイ・・・クルシイ・・・イタイイタイイタイ・・・!!

 

胸を鈍器で殴られたかのような死ぬほどの苦痛、意識が急激に落ちていく・・・・・・。

 

「「グレース!!」」

 

クルシーナがいることに気づいたフォンテーヌとスパークルは彼女に駆け寄ろうとする。

 

「ちっ・・・ウツバット」

 

「ウツ!!」

 

クルシーナは舌打ちをすると、左腕で被っている帽子を上空へと放り投げる。帽子は一回り大きくなると、顔のような口を開けて中から小さなコウモリの妖精のようなものを吐き出す。

 

「! きゃあ・・・!!」

 

「うっ・・・!」

 

「モリリン・・・!!」

 

二人はコウモリの群れに邪魔をされ、グレースへと駆け寄る走りを止めてしまう。

 

その隙にクルシーナはグレースの心臓を掴んだ右腕を引き抜くと、グレースはまるで操り人形から糸が切れたかのように倒れていく。

 

そして、変身も解けてしまい、ただの花寺のどかに戻ってしまう・・・。

 

「! のどかぁ!!」

 

ステッキから元に戻ったラビリンは、小さな体で倒れるのどかを受け止める。

 

一方、クルシーナは手のひらに握りこぶしと同じ大きさの赤く蠢くものを持っていた。それは黒いバラの形へと姿を変えた。しかも、それは3つになっている。

 

「フフフ・・・大きく成長したじゃん」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべると、ラビリンが地面に落ちないように必死に支えているのどかの方を見やる。

 

蠢く何かは・・・まだ、残っている。

 

「まだ、成長できるんだ・・・」

 

のどかの体の中に蠢く何かがまだあることを確認すると微笑むクルシーナ。そのままその場を立ち去ろうとしたが・・・。

 

「「はあぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

プリキュアの叫び声が背後から聞こえる。どうやら自分へと攻撃しようとしている模様。

 

現にフォンテーヌとスパークルはエネルギーをこちらに向かって放っている。

 

クルシーナは顔を顰めると右腕を黒い木の幹へと変形させ、振り向きざまに薙ぎ払う。二つのエネルギーは跡形もなく消滅した。

 

「何? アタシはお前らに用はないんだけど?」

 

腕を元に戻したクルシーナがそう言い放つも、フォンテーヌとスパークルは怒りの顔をしながら、こちらにパンチを繰り出してくる。

 

「よくも、グレースを・・・!!」

 

「絶対に、許さない・・・!!」

 

「何よ、仲間が一人倒れたぐらいで・・・」

 

クルシーナはフォンテーヌの拳を二回避けた後に右手で受け流して転ばせ、続いて飛んできたスパークルの拳を避けて、蹴りを受け流して彼女の眼前に近寄り、右拳で吹き飛ばす。

 

「「はあぁぁぁぁ!!」」

 

フォンテーヌとスパークルは同時に飛び上がって、飛び蹴りを繰り出す。

 

「はあ、少しは場数の差をわからせてやったほうがいいかしらね・・・」

 

クルシーナはため息を吐くと、右足を叩きつけて細く黒い木の壁を作り出すと二人の飛び蹴りを受け止める。

 

「ふん・・・」

 

クルシーナは自分の前に立った壁に手のひらを当てると、それを突き破るかのようにプリキュア二人の白い異空間が壁から現れ、茨のような黒いビームを放った。

 

「あぁ!!」

 

「うわぁ!!」

 

植物がまるで急成長するような軌道を描く茨のビームに当たって絡め取られ、上空へと吹き飛ばされる二人。

 

「ウツバット、戻れ」

 

クルシーナはウツバットに声をかけると、上へと飛んで一回り小さなサイズへと戻ると彼女の頭へと収まる。

 

クルシーナは自分が出した木の壁の上に立ってスパークルの方へと飛び出す。

 

スパークルはパンチで迎撃しようとするが、直前でクルシーナの周囲に黒い茨と花が舞ったかと思うと姿を消す。

 

「え、消えた?ーーーーきゃあ!!!」

 

スパークルの背後からクルシーナが上空から蹴りを浴びせて吹き飛ばす。反応が遅れたスパークルはそのまま食らって地面へと吹き飛ばされる。

 

「スパークル!!」

 

叫ぶフォンテーヌの目の前に不敵な笑みを浮かべたクルシーナの姿が。フォンテーヌは空中で回し蹴りを振るうも、クルシーナはフォンテーヌの足を苦もなく掴む。

 

「・・・!?」

 

「この程度・・・?」

 

「きゃあぁぁぁぁ!!」

 

クルシーナはそのまま振り回すと、地面へと放り投げる。フォンテーヌはかなりの速度で投げられたため、着地体勢が取れずに地面へと叩きつける。

 

「くっ・・・うっ・・・!」

 

フォンテーヌはダメージを負いながら立ち上がろうとするが、その背後へクルシーナが瞬間移動する。

 

「あ・・・!?」

 

クルシーナは右手でフォンテーヌの右腕を掴むと後ろ手に抑え、左手で黄色い花びらを出現させるとそれをフォンテーヌの口と鼻を覆うように抑え込む。

 

「んぐっ!? んんん、んんぅ!!」

 

「フフフ・・・・・・」

 

フォンテーヌは振りほどこうと抑え込まれていない方の手を掴み、首を振るも、利き腕を抑えられているせいで力が入らず、なかなか振り解けない。

 

「フォンテーヌ!!」

 

「・・・ウツバット」

 

スパークルはフォンテーヌへと駆け寄るも、顔をしかめたクルシーナがウツバットに指示、帽子の顔がスパークルの方を向くと口から小さなコウモリの妖精のようなものを吐き出し、スパークルの行手を遮る。

 

「あ! ま、また・・・!」

 

「これじゃあ、近寄れねぇ!!」

 

スパークルはまとわりつく小さなコウモリを追い払おうと苦闘。

 

その間、クルシーナはフォンテーヌの足掻く姿に笑みを浮かべる。

 

フォンテーヌはしばらく振り解こうとしていたが、少しずつもがく力が緩慢になってきた。

 

何、これ・・・な、なんだか力が抜けて・・・。

 

フォンテーヌの視界が少しぼやけてきた、その時・・・。

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

小さなコウモリをなんとか追い払ったスパークルが黄色のエネルギーを飛ばす。クルシーナはそれに気づくとフォンテーヌから両手を離し、瞬間移動をして退避する。

 

「うぅっ・・・! ゲホゲホゲホッ!!!」

 

解放されたフォンテーヌは両膝をつくと、片手で首を抑えながら咳き込んでいた。

 

「フォンテーヌ、大丈夫!?」

 

「ゲホゲホゲホッ・・・え、ええ、だいじょーーーーあ・・・!」

 

フォンテーヌは咳き込みながらも、立ち上がろうとするも足元がふらつく。視界もなんだかピントが合っていないように感じる。

 

(あ、あれ・・・? なんか、視界がぼやけて・・・)

 

フォンテーヌは自分の身に異変が起きたのを感じていた。実はクルシーナに抑え付けられたとき、左手で何かを嗅がされていた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

「フォンテーヌ、大丈夫ペエ!?」

 

ペギタンが心配して声をかける。よく見ると彼女は肩で呼吸をしていて、額は汗で濡れていた。

 

クルシーナは握った左手を開くと、黄色い花びらをパラパラと地面へと落とす。

 

「そ、それ、は・・・」

 

「フフフ・・・可愛い花には毒があるってね」

 

フォンテーヌはクルシーナが持っていた花びらの花の名前を知っていた。外国にしか存在しないはずの、強力な猛毒植物だった。

 

「もうやめといたら? アタシはお前らに用はないの。それに、そこの水色のプリキュアはあと数分しか戦えないし、そこの黄色のプリキュアは大して戦闘なんかできないでしょ」

 

「っ・・・!!」

 

クルシーナの侮蔑とも取れる言葉に、フォンテーヌは怒りを滲ませてステッキを構える。

 

ーーーー許せない、友達をあんな目に合わせておいて・・・!!!!

 

フォンテーヌはステッキに水色のエネルギーをチャージすると、クルシーナに向かって放った。

 

「はぁ、性懲りも無く・・・」

 

クルシーナは全く臆することなく、右手から黒いイバラのようなビームを放つ。水色のエネルギーはあっさりと打ち消され、プリキュア二人に直撃した。

 

「あ、そんな、ああぁぁ!!」

 

「きゃあぁぁ!!」

 

ビームに吹き飛ばされ、地面へと転がる二人。

 

「くっ、はあぁぁぁぁ!!」

 

スパークルは体勢を立て直すと、ステッキから黄色のエネルギーをチャージして放つ。

 

クルシーナはエネルギーを視界に入れることなく、右手で抑え、それを赤色のエネルギーに変えるとデコピン一発で弾き返した。

 

「え、う、嘘・・・!」

 

ドォォォォォォォォォォン!!!!

 

「「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

自分が放った速度よりも、かなりの速度で迫ってきたため、肉球型のシールドの展開が間に合わず、そのまま二人に直撃した。

 

「馬鹿の一つ覚えっていうのは、こういうことを言うのかしらね・・・」

 

「たぶん違うと思うウツ」

 

プリキュア二人はまだ立ち上がろうとしているが、身体中すでにボロボロで、対してクルシーナは涼しい顔であくびをしている。実力の差は明らかに相手の方が上手だった。

 

「うぅ・・・あっ・・・!!」

 

フォンテーヌは再び立ち上がろうとするが、両腕に力が入らず、視界のピントが段々と合わなくなってきた。

 

(あ、頭が、ぼーっとして・・・)

 

フォンテーヌの思考能力も失われつつあった・・・瞼が重くなっていき、目が細くなる・・・。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「フォンテーヌ! しっかりするペエ!!」

 

「うっ・・・くぅぅ・・・!!」

 

ペギタンが必死に呼びかけるも、フォンテーヌは声が聞こえていないかもわからないような感じで、それでも立とうとしていた。

 

「二人とも! こうなったらあれを使うニャ!!」

 

「うぅ・・・あ、あれって、何?」

 

「エレメントボトルニャ!」

 

「あ、そうペエ! メガビョーゲンの浄化技なら!!」

 

「え、ええ、そう、ね・・・」

 

「うん、わかった!!」

 

スパークルは再度立ち上がり、フォンテーヌもなんとか力を振り絞って立ち上がる。

 

そして、二人は水の模様が描かれたヒーリングボトル、菱形の模様が描かれたヒーリングボトルをそれぞれステッキへとかざす。

 

「「エレメントチャージ!!」」

 

そう言いながら光るステッキの先をハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「「ヒーリングゲージ上昇!!」」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングストリーム!!」

 

「プリキュア!ヒーリングフラッシュ!!」

 

フォンテーヌとスパークルはそう叫びながら、ステッキをクルシーナに向けて、青色の光線と黄色の光線を同時に放つ。光線は螺旋状になって混ざっていく。

 

しかし、クルシーナはその光線を見やるとため息を吐く。

 

「はあ、うざったい奴ら・・・」

 

クルシーナは全く動揺することなく、右手を伸ばすだけで螺旋状の光線を受け止める。

 

そして左手で光線を掴むと口を開け、なんと、体内へと吸い込み始めたのだ。

 

「そ、そんな・・・!?」

 

「あたしたちの攻撃が吸われてる・・・!?」

 

「おいおい、マジかよ・・・!!」

 

「浄化技を吸収されるなんて・・・!!」

 

驚く二人をよそにクルシーナは螺旋状の光線を全て口の中へと収め、ゴックンと飲み込む。

 

メガビョーゲンを浄化できるほどの力がある強力な技を、片手一つで抑えられ、吸収された・・・!?

 

クルシーナはため息を吐く。

 

「・・・医者の不養生って言葉知ってる?」

 

彼女はプリキュア二人にようやく向き直りながら言う。しかし、見下したような冷たい表情だった。

 

「要するに、お前らのお手当てなんか口先だけなんだよ。全く話になんない・・・もういいわ、全部返してやるよ。ウツバット!!」

 

「ウツゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

クルシーナは吸収した光線を、右手の手のひらから赤色のオーラへと変換させ、ウツバットは口を開けて黒いオーラを集めると・・・。

 

ビィィィィィィィィィィィィ!!!!

 

一斉にイバラのような光線を撃ち放つ。

 

二つの光線は成長するような複雑な軌道を描きながら混ざり合わさっていき、赤黒く太いイバラ光線となっていく。

 

その光線は、まるで気づかないうちに飲み込まれてしまうような、包まれた瞬間に色を失くした世界かのような光線・・・・・・。

 

プリキュア二人はなすすべなく吸い込まれそうな黒い極太な光線に飲み込まれ、自分がどこにいるのかわからないような感覚に陥る・・・。そして・・・・・・。

 

チュドォォォォォォォン!!!

 

光線は大きな爆発を起こし、キノコのような黒い雲のような煙が上空へと上がる。

 

「ラビ!!!!」

 

「アウゥ~ン!」

 

凄まじい爆発音に思わず、腕で目を抑えるラビリン。ラテも思わず声を上げてしまうほどだった。

 

そして、煙が晴れたときにそこへ見えてきたのは、黒く荒れたような地面で倒れている、プリキュアの変身が解除されてただの女の子に戻ってしまったちゆとひなたの姿だった・・・。

 

「ああ、そんな!? ちゆ!! ひなた!!」

 

のどかを近くの木へと寝かしていたラビリンが叫んで、二人へと駆け寄る。

 

「ちゆ!! ちゆぅ!!」

 

「ひなた! しっかりしろよ! おい!!」

 

ステッキから戻ってしまったペギタンとニャトランが彼女たちに呼びかけているが、二人は今の攻撃で明らかな大ダメージを負って意識を失っており、全く反応を示さない。

 

「あら? まだ本気出してないんだけどなぁ。所詮はただの小娘ね。準備運動にすらなりもしない・・・」

 

クルシーナはクスクスと嘲笑いながらそう吐き捨てると、ラビリンが離れた後ののどかへと歩み寄って顔を近づける。

 

「キュアグレース・・・もっと苦しんで、アタシのために綺麗な花を咲かせてね・・・」

 

クルシーナはのどかの頭を優しく撫でる。まるで、彼女を可愛がるように・・・。

 

ーーーー今日はこのぐらいにしといてあげる。

 

クルシーナは意識を失っているのどかの耳元でそう囁くと、額にキスをすると彼女から体を離し、そのまま公園の外へと少し歩いた後、瞬間移動をしてそのまま立ち去ったのであった。

 

プリキュアは、たった一人の幹部に、圧倒的な実力差で完敗したのだった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃病院の調剤室、そこではドクルンが一人、黙々と何かを作業していた。試験管から試験管に液体を入れ、二つの液体を合わせている。

 

そして、そこにピペットで白い瓶の液体を少量吸い上げると試験官に加え、右手で軽く振って回す。三つの液体を混ざるようにし、試験官の中身を見つめる。

 

「・・・・・・・・・」

 

ドクルンは試験管を置くと、『人間行動心理学』という本を出して開き始める。

 

そこへ調剤室の扉が開かれる音が聞こえる。

 

「アタシの花も使う?」

 

クルシーナの声がしたかと思うと、ドクルンの本の上に黒い一枚の花びらが置かれる。ドクルンは黒い花びらを拾い上げると、メガネを上げてそれを見つめる。

 

「・・・これは?」

 

「・・・アタシの種、あいつの種」

 

クルシーナは名前を明かさずに言うと、ドクルンは無言で黒い花びらを見つめる。

 

そして今朝、マゼンダ色の髪のプリキュアを思い出すと、無表情だった口元にニヤリと笑みを戻る。

 

「随分と育ったようですねぇ・・・」

 

「ええ、だってアタシの種だもの。体の中で生命力を食って成長したの、あいつの体の中でね」

 

クルシーナは椅子に座ると、右足を組みながら話す。

 

「ふむ・・・でも、人間はすぐに回復してしまいますよね?」

 

「天才のアンタでもわかんないことあるんだ?」

 

クルシーナは不敵に笑う。そして、左胸に手をトントンと叩く。

 

「それが狙いなのよ。あいつが生きたいって思う限り、あいつの中のアタシの種はいつまでも成長し続ける。健康的なあいつの体の生命力を食べてね、まああいつは病弱みたいだから、すぐ倒れちゃうみたいだけど。で、ある程度成長して抜き取ったのが、これってわけ」

 

右手から黒いバラのようなものを取り出す。ドクルンはそれを見て、口元に笑みを浮かべる。

 

「なるほど、確かに、生きてるって感じがしますねぇ・・・」

 

クルシーナは黒いバラに軽く赤いオーラを注ぎ込む。すると、黒いバラに草木のような4本足が生え、手のひらから飛び出して、床を歩き出していく。

 

「フフフ・・・・・・」

 

クルシーナはその様子を妖艶な笑みで見つめていた。

 

一方、黒いバラはカサカサと病院内の廊下を歩いていくと、地下の階段をピョンピョンと降りていく。そして、実験室の扉へとたどり着くとドアノブへ駆け上り、2本の足を交互に動かしながら鍵を開ける。

 

実験室の中へと入っていくと、別室へと繋がる扉、これも下の隙間から入っていくと、そこでベッドに寝かされている一人の少女へと歩み寄る。

 

「ぅ・・・ぁ・・・」

 

黒いバラは彼女の体の上に乗ったかと思うと、自分の花を大きく開いて黒いモヤモヤと化し、少女の鼻と口の中へと入っていく。

 

「・・・!!!・・・!!??」

 

少女は目を見開くと声にならないほどのかすれ声を上げる。そして、再び横に倒れると力尽きたような表情を浮かべながら意識を失った模様。

 

そして、彼女の体の中には黒い淀んだ何かが蠢いていたのであった・・・・・・。

 




次回は4日後に更新します。
よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話「閑話」

原作にないオリジナル話になります。
閑休話題のような感じなので、今回は短めです!


 

花寺のどかは病院時代、車椅子がないと移動することができなかった。

 

今日も外の庭が見たいと看護師の女性にお願いして、車椅子に乗ってお庭へとやってきていた。

 

「今日もいい天気ね」

 

「・・・うん」

 

「きっと治るわよ、あなたの体」

 

「・・・そうかなぁ・・・?」

 

自分の体は、本当に動けるようになるのだろうか? のどかは不安を抱えていて、元気に返事が出来る気がしなかった。

 

「・・・?」

 

お庭の花壇に植えられている花のところに近づいていくと、一人の少女がジョウロを使って花に水をあげているのを見つけた。

 

しかもその少女は、自分と同じ患者服を着ていた。どうやら私と同じ、この病院の患者のようだった。

 

「あ、のどかちゃん・・・!」

 

のどかは車椅子の車輪を自分で動かして彼女に近づく。

 

少女は背後に気配を感じたかのように、後ろへと振り向く。

 

見つめ合うのどかと、ジョウロを持った少女。

 

「えっと・・・」

 

「・・・花を見にきたの?」

 

正直、両親以外の人とあまり話したことがない彼女は、どうやって話していいのかわからなかった。のどかよりも先に少女が口を開く。

 

「え・・・?」

 

「・・・花を見にきたの?」

 

少女は首を傾けながら再度質問をし、のどかは顔を俯かせながら頷いた。

 

少女はその反応に笑みを浮かべると、のどかに近づいていき、彼女の手を取る。

 

「おいで」

 

「あ、ま、待って・・・」

 

のどかは片方の手で車輪を動かしながら、彼女と一緒に花壇の真ん中へと歩く。

 

植えられているのは、赤とピンク色のチューリップ・・・。二つの色の花が、交互に並べられていて、まるで赤とピンクのカーテンを作り出しているよう。

 

そして、もう一つの花壇には黄色のマリーゴールドが植えられていた。

 

「・・・きれい」

 

「ねえ? 生きてるって感じでしょ」

 

「え・・・?」

 

少女は近くの水道からジョウロに水を入れて、花壇の花へとジョウロから水を注ぐ。

 

「チューリップとマリーゴールドの花言葉って知ってる?」

 

「・・・ううん」

 

のどかは首を横に振る。

 

「まずチューリップは思いやり、マリーゴールドは健康、よ。この花たちはね、元々お医者さんたちが植えてくれたの。この病院が思いやりを持って、みんなを健康にしてくれたらいいっていう願いを込めてね」

 

「・・・・・・・・・」

 

のどかが無言で顔を俯かせる。

 

「どうしたの?」

 

少女はのどかが喋らなくなったのを見かねて問いかける。

 

「・・・私、動けるようになるのかなって」

 

「治るかどうかが心配なの?」

 

「うん。私、昔はお父さんやお母さんと一緒に外を出歩いたんだ。でも、自分が急に体が重くなって、自由に体が動かせなくなって、この病院に何ヶ月もいるから、もう治らないのかなって・・・」

 

のどかは瞳を潤ませながら話す。昔はあんなに動ける体だったはずなのに、どうして私は病院のベッドにいるんだろう。しかも、何日も。もしかしたら、もう一生、この病院から出られないのかもしれない・・・。のどかはそのぐらい不安だった。

 

少女はそんな彼女の両手を手に取る。

 

「でも、あなたはいきたいって思ってるんでしょ?」

 

「え・・・?」

 

のどかが顔を上げると、少女は微笑んでいた。

 

「みんなともっとあそびたいんだよね? 自由に外へと出たいんだよね?」

 

「・・・うん」

 

「だったら、治るってことをあきらめちゃダメ。治るってことを信じれば、きっとあなたの病気は治るよ。この一面の元気な花みたいにね」

 

少女はのどかを励まそうとしているが、彼女の不安はまだ晴れなかった。

 

「そうかな・・・?」

 

「うん。それでも不安なら、怖いんだったらーーーー」

 

「あ・・・」

 

少女はのどかを抱きしめる。

 

「ーーーー私といっしょになおそう?」

 

少女はのどかから体を離して、彼女の顔を見つめる。

 

「わたしのゆうきをあげる、わたしのきぼうをあげる。だから、この病院でいっしょにささえあって、いっしょにたたかおう。なおることを信じようよ。だって、あなたはひとりなんかじゃないんだから」

 

のどかは少女の言葉に不安な心を洗われたような気がした。体が動かなくなり、いつしか死んでしまうかもしれない恐怖で不安だった。でも、彼女は希望を信じていて、私に歩み寄ろうとしている。一緒に戦おうとしてくれている。

 

不安はまだ消えたわけじゃない。でも、のどかの心から不安は和らいでいた。

 

「・・・うん、ありがとう。ふふ」

 

のどかはこの日、病院からやってきて初めて、満面の笑顔を見せた。

 

少女は彼女の太陽のような笑顔に、少し頬を赤らませた。

 

「やっと笑ってくれたね。ステキな笑顔」

 

少女ものどかの笑顔に自然と笑みになっていった。この子って、こんな笑顔を見せられるんだ。

 

「あなた、名前なんていうの?」

 

「私、のどか、花寺のどか」

 

「私はねーーーー」

 

ーーーーちゃん!!! どこに行ったのー!!??

 

少女はのどかに名前を名乗ろうとしたが、女性の叫ぶ声が聞こえてきた。どうやら、この少女を探しているらしい。

 

「あ・・・そうだ。私、こっそりとびょうしつを抜け出して来たんだった・・・」

 

「ええ!?」

 

のどかは驚く。花に水をあげているから外出許可をもらっているのかと思っていた。まさか、勝手に外へと抜け出してきていたとは・・・・・・。

 

「もう戻らなきゃ。また一緒に話そう、この花のところにいるからね。ばいばい」

 

「あ・・・」

 

少女はそう言って病棟の方へと走って戻っていく。のどかは名前を聞けなかったなと思いながらも、この花壇に来ればまた彼女に会える・・・そう思った。

 

そして、彼女の言った希望を信じて、自分の体を治そうと心に決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「のどか! のどかぁ!!!」

 

ラビリンは意識を失っているのどかに必死に呼びかける。彼女のそんな表情はまるで悪夢を見ているようだった。

 

「のどか!! 目を覚ますラビ!!」

 

「う・・・うーん・・・」

 

のどかは瞑っている目をピクピクとさせると、瞼を少しずつ開く。その視界には心配そうな顔をするパートナーの姿があった。

 

「気がついたラビ!?」

 

目がチカチカすると視界がクリアになっていく。ピントがようやくあったとき、自分は寝かされていたということに気づいた。

 

「・・・うん、大丈夫」

 

「よかったラビ・・・」

 

ラビリンが抱きついてくると、のどかも彼女を抱き返す。

 

「あ・・・・・・」

 

のどかは体を起こすと、濡れたタオルが落ちてきた。どうやらラビリンが意識を失っていた私を看病してくれていたらしい。

 

「のどか、もう苦しくないラビ?」

 

ラビリンに言われ、のどかは自分の胸に手を当てる。

 

苦しさは、もう感じない。動悸もする様子はない。まるで、痛みや苦しみがまるごと取り除かれたかのような感覚。

 

あの時、クルシーナに中の心臓を掴まれたのか、どうかはわからないけど、死ぬかもしれない苦しさと痛みが襲った。のどかはその凄まじさのあまり意識を失ってしまったが、あの夢を見ているときはなんだか楽になったような気がしたのだ。

 

一体、クルシーナは私に何をしたのだろうか・・・?

 

「のどか、どうしたラビ?」

 

「あ、ううん、なんでもないよ。もう苦しくない、大丈夫だよ」

 

多少の不安は残りつつも、ラビリンに笑みを見せるのどか。まずは、パートナーと仲間の無事を確認しないと・・・。

 

「あ、ちゆちゃんとひなたちゃんは!?」

 

「あそこで眠ってるラビ・・・」

 

ラビリンが指した方向を見ると、ちゆとひなたがボロボロになって木に横たわっているのが見えた。その側にはペギタンとニャトランが付き添っていた。

 

ニャトランがタオルを濡らしてひなたの額に置こうとしたとき、ひなたの顔が顰め始める。

 

「うぅ・・・うーん・・・」

 

「! ひなたぁ!!」

 

「ん・・・あれ? あたし、何してたんだっけ?」

 

ひなたの目が開き、ピントが合ってくるとニャトランの姿がはっきりと映った。

 

「ひなた! よかった!! もう心配させないでくれよ!!」

 

「うぇぇ! ニャ、ニャトラン!? ど、どうして・・・あ・・・」

 

ニャトランに抱きつかれ、状況が飲み込めないひなただったが、真っ黒な地面が視界に映り、ようやく倒れる前の記憶が蘇る。

 

ーーーークルシーナのイバラビームに吹き飛ばされ、背後から現れた彼女に蹴り飛ばされ、二人で放った渾身の浄化技も吸収され、返された・・・・・・。

 

そうか、あたしたち・・・負けちゃったんだ・・・・・・。

 

ひなたは顔を俯かせる。二人で戦ったけど勝てなかった・・・圧倒的な力でねじ伏せられた・・・。

 

「ひなたちゃん!!」

 

そんな落ち込む彼女の元にのどかが駆け寄る。

 

「大丈夫!? 痛くない!?」

 

「あ、のどかっち・・・く、苦しいよ・・・」

 

「あ、ごめんね・・・」

 

のどかがひなたに抱きつくも、ひなたの言葉に体を離す。

 

「あたしは大丈夫・・・でも・・・」

 

ひなたはそう言って、いまだに眠っているちゆの方を見る。

 

「ちゆがまだ目を覚まさないんだニャ・・・」

 

珍しく落ち込んだような口調で言うニャトラン。その横でペギタンは濡れタオルをちゆの額へと置いていた。

 

「ちゆ・・・・・・」

 

ペギタンが心配そうに彼女を見つめている。

 

「ちゆちー、クルシーナと戦ってたとき、あいつに口を塞がれてた。そのときに何かされたんだと思う・・・・・・」

 

ひなたが不安そうな顔で言う。ちゆはそのせいなのか、少し苦しそうな表情をしているようにも見えていて、汗も少し滲ませている。

 

ひなたは再び顔を俯かせる。クルシーナの言ったあの言葉が胸に刺さっていたのだ。

 

ーーーーお前らのお手当てなんか口先だけなんだよ。

 

プリキュアに対する実力の見下し、そしてビョーゲンズと戦うことへの否定・・・実力が伴わず、全てを潰され、ぐうの音も出なかった・・・。

 

「・・・ねえ、のどかっち」

 

「どうしたの?」

 

「あたしたちのお手当てって口先だけなのかな・・・?」

 

ひなたは泣きそうな声で話している。のどかは黙って聞こうとしていた。

 

「プリキュアになって、嬉しいと思って・・・一緒に地球をお手当てして・・・エレメントさんが元気になって、よかったって思ってた・・・」

 

ひなたは俯いた顔を上げて、潤ませた瞳をのどかに向ける。

 

「でも、あいつに何にも通用しなくて・・・! 必死にお手当てしようとしても、あんなふうに受け流されて・・・! 強力なはずの力だって、あいつに全て潰されて・・・! あたしたち、のどかっちが傷つけられたのに、何もできなかった・・・!!」

 

「ひなたちゃん・・・」

 

ひなたは必死に声を絞り出していた。のどかっちやちゆちーと一緒にお手当てができるようになって、辛いことはあったけど、今ではよかったと思っていた。

 

しかし、のどかがクルシーナに手を出されたとき、たった一人のビョーゲンズに完膚なきまでに叩きのめされ、メガビョーゲンを浄化した必殺技すらも通用しなかった。

 

これからもあんな強力なあいつの相手をしなくてはいけないのか・・・。ひなたの心はすでにボロボロだったのだ。

 

「あたしたち、プリキュアをやめるべきなのかなって・・・あんなのがもう一度相手になったら、勝てる気がしない・・・怖い・・・地球をお手当てできる気がしないよ・・・」

 

ひなたは自身の身体を抱えて震えている。

 

それは紛れもない恐怖・・・。暖かいはずの春は、寒かった・・・。

 

のどかは身体を震わせているひなたの肩を抱く。

 

「ひなたちゃん・・・私も本当は、怖いよ・・・」

 

「え・・・?」

 

「クルシーナに病気に侵されたとき、私は死ぬんだって思った・・・意識がなくなっていく中で力が抜けていくのが怖いって思った・・・でも、あのときはラビリンが一緒にいるって、そばにいるってわかったから、頑張れたんだよ。ひなたちゃん、私たちは一人で戦ってるんじゃないよ。みんながいるから、一緒にお手当てできる友達がいるから、私はプリキュアをやれるんだよ」

 

のどかはひなたのことを抱きしめる。

 

「一緒なら大丈夫だよ。お手当ても地球を癒すことも。私たちは病気に立ち向かう怖さもわかってる。それでも怖いなら、私が手を引いてあげる。私たちが治すことを諦めたら、そこで終わりだから」

 

「のどかっち・・・・・・」

 

ひなたはのどかの言葉が心に刺さった。こんなに勇気があって、温かい友達は今までいただろうか・・・?

 

「のどかの、言うとおりよ・・・」

 

「!! ちゆ!!」

 

「ちゆちゃん!!」

 

聞こえた方向へ向くと、ちゆが目を覚まして体を起こそうとしていた。

 

「ちゆちー! 大丈夫!?」

 

「まだ身体がふらつくけれど、大丈夫よ・・・」

 

ちゆはまだ逆らおうとする体を動かしながら立ち上がり、ひなたの近くに寄る。

 

「私だって、戦うのは怖くないわけじゃないわ・・・でも、戦わなきゃ、私たちの大切なものが、地球が、みんな病気に侵されちゃう・・・。守りたいものを守れないもの・・・そんなのは嫌。私は友達のためだったら、何度だって立ち上がるわ!」

 

ちゆはひなたへと向き直る。

 

「ひなた、一緒に戦いましょう。もし、怖いのなら、私の勇気も分けてあげる」

 

ひなたはのどかとちゆを見つめる。自分には友達がいる、共にプリキュアとして戦う友達がいる、心が折れかけたとき、支えてくれる友達がいる。

 

「のどかっち、ちゆちー、ありがとう・・・優しいね・・・」

 

ひなたは吹っ切れたのか、すくっと立ち上がって頬を叩く。

 

「よーし! これからもビョーキンズから地球を守るぞー!!」

 

ひなたが気合を入れるも、このときニャトランがずっこけそうになった。

 

「ひなたちゃん・・・」

 

「『ビョーゲンズ』よ・・・」

 

「ああ!また間違えたー!!」

 

そのあとは、道男にカメラを届けて感謝をされたり、のどかがメガビョーゲンを呼び寄せてはいないという疑いが晴れたり、3人は仲良しであることを言われたりと、いつもの平和な光景が戻ってくるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビョーゲンキングダムーーーーそこでは、クルシーナ、ドクルン、イタイノンのビョーゲン三人娘が、自分たちの父親、キングビョーゲンに呼び出しを受けていた。

 

「・・・経過は順調のようだな」

 

「もちろんよ、お父様。しかも、苦しみを与えている相手はプリキュアだしね」

 

クルシーナは黒いバラを取り出しながら、キングビョーゲンに嬉々して報告する。

 

「こちらもある作戦を施行中ですよ、お父さん。ちょっとこっちの二人に協力してもらって、実行しようかと思っています」

 

ドクルンは飄々とした軽い口調で話す。

 

「パパ、キュアスパークルは必ず潰すの。そのためにあいつがどんな弱みを持っているか見ておきたいの・・・」

 

引きこもり体質の、イタイノンは珍しくキュアスパークル打倒のために恨みのオーラを滾らせていた。

 

「・・・お前たちへ密かにプリキュアの打倒を任せてはいるものの、地球を蝕むことも忘れないようにせぬとな」

 

「・・・わかってるわよ、そんなこと。あいつら、たまにわけわかんない力を発揮するから・・・」

 

「まあ、元は非力なただの小娘。プリキュアへの変身能力を奪ってしまえば、赤子の手を捻るのも同然でしょう」

 

「奇跡なんか二度も起こらないの。1人でいるところを襲えば、倒すのは簡単なの」

 

三人娘がそれぞれの言葉を紡ぐ。プリキュア3人とて所詮はただの人間の小娘たちの集まりなのだ。プリキュア1人1人は強くないし、更に変身させなければ容易いはず・・・。それはクルシーナがキュアグレースを侵したので実証済みだ。

 

たまによくわからない力を発揮することもあるが、あんなものはまぐれに過ぎない。奇跡は二度も起こらないはずだから、次に会ったときは3人を潰すのは簡単なはずだ。

 

「引き続き、お前たちのさらなる活発な活動、期待しているぞ・・・・・・」

 

「はいはい」

「はい」

「なの」

 

キングビョーゲンは三人娘に任を任せ、彼女らが返事をするとスッと消えていった。それから帰路に着こうとする三人娘。

 

「全く課題が山積みですね・・・お父さんのお守りに、地球を蝕むこと、私たちのアジトにいる娘たちの管理、そして、プリキュア・・・大変すぎて胃に穴が開きそうですよ・・・」

 

「その割には楽しそうな顔をしているの・・・」

 

「本当に悪趣味ね、あんた・・・」

 

ドクルンは愚痴をこぼしてるかと思いきや、ニヤリとしたような顔で言っている。クルシーナとイタイノンは呆れたような口調で言っている。

 

「私はそんなつもりはないんですがねぇ・・・」

 

「ニヤけた顔で言うなっつーの」

 

「言動と表情が一致してないウツ」

 

クルシーナが嫌そうに返す。付き合ってられない・・・。

 

「それにしても、今回のプリキュアは弱いわね。アタシが準備運動程度の力を出しても、呆気なく折れちゃうんだからさ。これだったら、あいつと戦ってたほうが幾分退屈が紛れてたわね」

 

「おや? プリキュアと戦ったのですか?」

 

ドクルンは意外そうな顔をしながら言う。

 

「イタイノンはボコボコにされてたネム」

 

「あれは単に舐めプしてただけなの。本気の私ならもっと強いの」

 

余計なことを言うカチューシャのネムレンに、イタイノンは顔をしかめながら言う。

 

「まあ、確かに今回は大したことはなさそうですが、でも油断は禁物ですよ? あのプリキュアみたいに、奇跡とやら起こしてくるかもしれませんからねぇ」

 

「その奇跡っていうのがよくわからないの。あいつらも同類の人間のくせに・・・」

 

ドクルンは過小評価しつつも警戒する。あれでも、メガビョーゲンを一体浄化できるぐらいの力はあるからだ。

 

「でも、クルシーナがプリキュアの一人を病気にしたのはいい成果ですねぇ。このまま残りの二人も病気にしてしまえば、地球を蝕むなど赤子の手を捻るのも同然です」

 

「ふん、ヒーリングアニマルのあいつらなんか、人間さえいなければ何もできないブル」

 

ドクルンがメガネを上げながら、クルシーナの戦果を評価。ブルガルはプリキュアについている3人のヒーリングアニマルを見下している。

 

「あんたが素直に褒めるなんて、ビョーゲンキングダムに雪が降りそうなんだけど」

 

「雪は降らないウツよ」

 

「それ、答えなくてもいい返しネム・・・」

 

ドクルンの言葉に気持ち悪さを感じるクルシーナ。褒められるのは悪い気はしないが、こいつに褒められるのは何か違和感がある・・・。

 

ウツバットも天然は天然で、ネムレンも呆れたようなツッコミを入れている。

 

「キュアスパークル・・・私が必ず激痛を味あわせてやるの・・・」

 

イタイノンが歪んだ決意を行う。それはまるで、彼女に執着をしているかのような・・・。

 

「まあ、何にせよ、よ・・・」

 

クルシーナは立ち止まって、二人へと振り向く。

 

「アタシらの目的は変わらない。地球を病気で蝕んで私たちのものにし、生き物たち、人間たちに苦しみを与える・・・ただそれだけよ。邪魔なプリキュアもいずれ潰してやるんだから、お父様のために」

 

彼女は不敵な笑みを浮かべると再び歩み始める。

 

「ふふふ・・・お父さんのために」

 

「キヒヒ・・・パパのために」

 

ドクルンとイタイノンも、クルシーナの言葉に不敵な笑みを浮かべ、歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビョーゲン三人娘が根城とする廃病院。その一室では、クルシーナが黒いバラを赤く染まった土を入れた植木鉢へと埋めていた。

 

「フフフ・・・・・・」

 

病気で赤く染まった湖の水を汲み上げたジョウロを手に取ると、埋めたところへと水をあげていく。

 

すると、地面の中からニョキニョキと黒い芽が不気味に生えてきた。

 

「・・・いい感じに成長しそうね」

 

不敵な笑みを浮かべながら、他の場所も見やる。

 

そこには植木鉢に植えられた植物や花々、しかし、その多くの花弁が、葉っぱが赤色に、黒色に染まっていた。

 

そう。ここは、クルシーナが管理する植物園だ。ほとんどが彼女の病気で染め上げられた植物や花たちばかりで、すべてはクルシーナのお世話によって不気味な成長を遂げていた。

 

そんな健康とはお世辞にも言えない植物たちに、クルシーナはジョウロの水をあげていく。自分の素敵な花壇を、赤く、美しく、染め上げていくために・・・。

 

そんな、クルシーナにはある一つの記憶が蘇っていた。

 

ーーーー花壇に囲まれたジョウロを持った私、そこに現れるのはマゼンダ色の髪をした少女。

 

「フフフ・・・早く大きくならないかしら・・・」

 

クルシーナはまるで年頃の少女のような笑みを浮かべながら、甲斐甲斐しく植物や花々を世話をする。

 

「あっ・・・!」

 

ある植物の方を見ると驚きの声を上げ、近づいていく。大きな花壇に植えられている一本の小さな木、そこにはドクロのような顔をした林檎のようなものが成っていた。

 

「こっちは大きくなってる・・・!」

 

クルシーナは子供のように嬉しそうな声を上げると、ハサミを取り出して芯から下を切り取って収穫する。

 

「フフフ・・・」

 

林檎のようなもののドクロのような模様を見つめる彼女。

 

「あの子に食べさせてあげたいなぁ・・・」

 

クルシーナは林檎を一口かじった後の、その少女が苦しむ姿を想像する。喉元を抑えてもがき苦しみ、足をばたつかせながら弱っていく姿、そして今にも消え入りそうな虚ろな表情・・・。

 

その瞬間、クルシーナの感情は昇天した・・・。

 

「ああ、最高・・・!!」

 

恍惚な表情を浮かべる彼女。そんなことができれば、私の快楽は満たされるし、お父様ももっと喜んでくれる。想像するだけで最高だった。

 

しばらくして、ハッとしたように表情を元に戻すとリンゴのようなものをもう二つほど収穫して、かごの中に入れる。

 

さらにもう一つのリンゴを手で枝を折らないように取ると、口に近づけてかじる。咀嚼するとシャクシャクとしっかりとできたリンゴの音がする。

 

「ん・・・おいしい・・・」

 

右手に手を当てて、頬を赤く染める。味は普通のリンゴと変わらないが、病気によって育ったリンゴは甘い蜜っていう感じ。

 

「他の作物の木も大きくなってきたし・・・」

 

クルシーナが見やる場所には、リンゴ以外にも多くの作物の木が成っている。しかし、その木の多くは幹が赤くなっていて、健康的とはとても言えない状態だ。葉っぱも黒く染まっている。

 

クルシーナはリンゴをかじりながら、取ったリンゴをどうしようかと考えたところ、いいことを思いついた。

 

「あの娘にも持って行ってやろうかしら・・・」

 

そう言うとリンゴを一個掴み上げ、右人差し指を棘のような鋭利なものに変えると、リンゴを8つに切り分ける。それをお皿に乗せると部屋の扉を開ける。

 

「フフフ・・・」

 

クルシーナは背後を振り向くと、不敵な笑みを浮かべ扉を閉める。

 

その時、黒いバラを埋めた地面から生えた芽が、異常な速さで数メートルまで成長を遂げ、蕾を作り出す。

 

その蕾には黒い何かが蠢き、何らかの形を作り出していくのであった・・・・・・。

 




想・評価・ご指摘、よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話「氷室」

今回も長くなったので、何回か分けます。
まずは前編になります。


 

ビョーゲンキングダム、そこではシンドイーネが何やらダーツのようなものをやろうとしている模様。

 

的となるものは、赤いハートマークのものと青く割れたようなハートマークがあり、明らかに赤いハートマークの方が比率が広いものであった。

 

「・・・何やってんの? あれ」

 

「またおかしなことをしてるの・・・」

 

岩場に寝そべってその様子を見ているクルシーナが、隣で座って見ているグアイワルに声をかける。クルシーナの横にはイタイノンもいる。

 

「・・・占いだ」

 

「占い?」

 

「『キングビョーゲン様の気持ちを射止められるか? 射止められないか?』だとよ・・・」

 

グアイワルが呆れたように見るクルシーナに説明する。

 

「何なの、それ? なの」

 

「おばさんがお父様の心を射止める? ありえないんだけど」

 

イタイノンは少々呆れ気味に、クルシーナが嘲笑したように言う。

 

「そこ、うるさい!! せっかく練習してるのに、集中乱さないでくれる?」

 

シンドイーネが苛立ったように言う。

 

・・・っていうか、練習?

 

「練習がある占いなんて聞いたことがないぞ」

 

「何言ってんだか・・・」

 

「もうすでに頭がおかしいの・・・」

 

ダンッ!!!!!

 

3人が小バカにしたように言うと、シンドイーネが右足を地面に叩きつける。

 

「あるんですぅ~!! いい結果を出すためには練習必須なんですぅ~!!」

 

そう言って振り向きざまにダーツを投げるシンドイーネだが、矢はよりにもよって比率の狭い青く割れたハートマークの方へと刺さった・・・。

 

「いやあぁぁぁぁぁ!!!」

 

頭を抱えて悲鳴をあげるシンドイーネ。

 

「もはや、ヘタクソなダーツを見せつけられただけなの・・・」

 

呆れたように見ていたイタイノンは興味をなくして、その場から立ち去っていく。

 

「・・・バッカみたい、占いなんて」

 

実にくだらないと、クルシーナも溜息を吐くと、起き上がってその場を後にしようとする。

 

「ん?」

 

地球へ行って種の様子を見に行こうと思った矢先、ドクルンが何やら試験管とにらめっこしているのが見えた。

 

そういえば、いつの日か作戦に付き合ってくださいと言われていたような気がする。クルシーナはそれを思い出すとドクルンへと近づいていく。

 

「・・・何してんの?」

 

「ん? ああ、クルシーナですか」

 

ドクルンはクルシーナの方を向くと、再び試験管の方へ視線を戻す。

 

「ある作戦のために、作っているのですが、なかなかうまくいかなくてですね・・・」

 

「ふーん・・・」

 

ドクルンにしては珍しく真面目だ。クルシーナは内心そう思った。

 

三人娘の一人としてビョーゲンズにいるので、私にはわかる。こういうときのドクルンは大概本気である。いつものヘラヘラしたような態度とは全然違う。彼女からはそんなオーラを感じていた。

 

クルシーナは顎に手を添えて考えると、そういえば珍しい植物が育ったから詰んで持ってきてたことを思い出す。

 

「・・・じゃあ、これ使えば?」

 

集中しているドクルンの目の前にその植物を差し出す。

 

それは、帽子をかぶったような人の姿をしたような花弁を持つ花・・・。

 

「・・・なんですか? これは」

 

ドクルンはメガネを上げながら問う。こんな花、見たこともないし、名前も知らないが・・・。

 

「オルキス・イタリカ、花弁のところが人間みたいに見えるでしょ?」

 

ドクルンはクルシーナから花を受け取ると、じっくりとその花を観察する。

 

「ふむ、なんとも奇妙な花ですね・・・」

 

あくびをするクルシーナをよそにドクルンは花をじっくりと見ていたが、彼女は何かを思いついたのか、顔を不敵な笑みにさせる。

 

「・・・何か思いついたの?」

 

「ええ、あの娘を貶めるためのね・・・」

 

「あっそ」

 

クルシーナは頭を掻きながらそう言って、その場を立ち去ろうとしたが・・・・・・。

 

「ちょっと待ってください」

 

ドクルンが肩を掴み、クルシーナを引き止める。

 

「・・・何? 地球を蝕みに行きたいんだけど?」

 

止められたクルシーナは不機嫌そうな顔を向ける。どうせ面倒なことに付き合わされるに決まってる

そう思って立ち去ろうとしたのだが・・・ドクルンは真面目な表情だった。

 

「それは結構ですが、ちょっと私の作戦に付き合ってもらえませんか?」

 

「・・・?」

 

首をかしげるクルシーナ。それに対して、ドクルンはほくそ笑んでいた。

 

ドクルンは手招きするかのように手を振ると、クルシーナは耳を傾ける。

 

コショコショ・・・コショコショコショコショ・・・・・・。

 

ドクルンはクルシーナの耳元で何かを話すと、少し顰めたような顔をする。

 

「・・・それってホントにやんなきゃいけないの?」

 

「任せてください。あなたには一つたりとも損という文字はありませんよ・・・フフフ」

 

疑うようなジト目をしながら言うクルシーナに、ドクルンはメガネを上げながら笑い声を漏らすのであった。

 

正直、それはクルシーナにとってはとても不本意な作戦だったのだが・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず、作戦が決行されるまでの間、地球へと降りることにしたクルシーナ。すこやか中学校の校舎の屋上で、陸上部とやらの練習風景を見下ろしている。

 

彼女の視界には、藍色の髪の少女が走高跳びをしているのが見えた。

 

他の場所では砲丸投げやハードル走に励んでいる生徒もいて、何やらいつも以上に気合いが入っているように見受けられる。

 

相変わらず、ここの連中は運動神経がよくて、健康的な人間ばかりだ。全くもってイライラする。

 

金網の壁の方を見れば、栗色の髪の少女と、自身が病気の種を植え付けたマゼンダ色の髪の少女が、藍色の髪の少女の様子を見守っているのが見える。

 

後者をよく観察してみると、種は体内にあるようだが、現在はそんなに大きな変化を見せる様子はない模様。ただ、少しずつ彼女の生命力を吸収しているのはわかる。

 

まあ、しばらく経てば彼女はまた苦しみだすので、楽しみに置いておくとして、今はドクルンが気にしているという藍色の髪の少女の方を見る。

 

走高跳びをしているところを見れば、運動神経はいい方だろう。プリキュアになってからのあの身体能力、確かにキレがあるのは頷けるだろう。

 

しかし、クルシーナにはわからない点が一つ・・・。

 

「・・・あいつ、あの女のどこに執着してるんだろうかね・・・」

 

「別に普通の少女ウツ」

 

ドクルンが2度目の出撃以来、あの藍色の少女のことを気にしている。最近では、廃病院の自室に籠もって何やら没頭しているし、さっきも何かをしていた。クルシーナ好みの少女ではあるが、ちょっと生意気そうな感じがして、彼女の趣味には程遠い。

 

結局、いくら考えてもわからず、ドクロマークのリンゴを取り出すと一口かじる。

 

「クルシーナ、僕にも欲しいウツ!」

 

「・・・ん」

 

クルシーナはリンゴを帽子になっているウツバットに近づけ、コウモリはかじりついて咀嚼する。

 

何の面白い変化もないまま、眼前の敵を覗いていると、走り高跳びをしていた藍色の髪の少女が飛んでいた棒がマットへと落ちた。どうやら、飛び越えるのに失敗したらしい。

 

「・・・あいつ、失敗したわね」

 

「何か動揺の匂いがするウツ」

 

そんなことを話しているうちに、どうやら部活は終了したらしく、女生徒たちが物を持って校舎へと駆けていく姿が見えた。

 

「まあ、弱みとしてはいいかもしれないけど、別に面白くもないわね」

 

「期待はずれだったウツ」

 

見れば、藍色の髪の少女はショックを受けているようにも見え、クルシーナが本気を出せば何かと弱みは握れそうな感じはした。でも、ただそれだけだ。

 

その後も観察を続けたが、特に面白いことが起こったわけでもなく、藍色の髪の少女が帰宅準備を始めたところで、クルシーナはその日、メガビョーゲンを出さずにその場を去った。

 

廃病院へと戻ってくると、ある一室で寝そべっている。

 

「・・・・・・・・・」

 

「クルシーナ・・・」

 

「・・・何よ?」

 

「ドクルン、何考えてるんだウツ?」

 

「知ってりゃ苦労しないわよ、そんなもん」

 

ウツバットは素朴な疑問をすると、クルシーナは苛立ったような素っ気ない口調で答える。前々から何を考えているのかわからないやつだったが、今回はいつにも増して何を考えているのかわかりもしない。

 

・・・って言うか、そんなわかりきったことを聞くなと。クルシーナは再び目を瞑る。

 

しかし、この一室にクルシーナと同じくらい苛立っているものがいた。

 

「って、何で私の部屋で寝てるの・・・?」

 

イタイノンが当たり前のように自分の部屋で寝そべるクルシーナにジト目をする。

 

「別にいいでしょ、減るもんじゃあるまいし」

 

「私の過ごすスペースが減るの!!」

 

「うるっさいわね・・・場所ぐらいでグダグダと・・・!!」

 

クルシーナがだるそうに当然のように言うと、イタイノンが苛立ったような口調で言う。

 

少し声を荒らげてみたが、クルシーナは不機嫌そうな声で返す。彼女が退く気配が全くなく、追い出すのを諦めたイタイノンはゲーム機へと視線を戻した。

 

「ねえ、あんた・・・」

 

「・・・何?なの」

 

「・・・いや、なんでもない」

 

「・・・・・・・・・?」

 

何かを聞こうとしてやめたクルシーナは横になる。イタイノンはゲーム機からクルシーナへと視線を戻し、首をかしげるのであった。

 

コンコンコン・・・。

 

「クルシーナ!」

 

ドアがノックするような音が聞こえると、ふざけたような口調が聞こえてくる。

 

クルシーナはため息をついて立ち上がると、ドアの方へと向かい扉を開ける。

 

「・・・何?」

 

「あるものができましたので、実験に付き合ってもらえます?」

 

「は・・・?」

 

不機嫌そうな顔で言うクルシーナに、ドクルンは一言言うと背を向けて歩き出す。

 

クルシーナは帽子のウツバットと目を合わせると、ドクルンの方へと歩いていく。

 

二人がやってきたのは、地下の実験室。とは言っても、ベッドで横たわる少女とは別の、暗くて無機質で何もない部屋だった。かろうじてあるのは、白いデスクだけ。

 

「・・・それで? 実験って何なわけ?」

 

クルシーナは面倒臭そうな声で言う。アタシをここまで連れ出しておいたからには、まともなものができているんだろうな・・・しょうもないものだったら承知しない・・・時間を返せと思う。

 

「これを食べてもらえますか?」

 

ドクルンが差し出したのは人型の何かが入った丸い玉、食べ物とは言い難いような奇妙なものであった。

 

差し出された玉を受け取り、マジマジと見るクルシーナ。

 

「・・・何これ?」

 

「食べてもらえればわかりますよ」

 

ドクルンって元から変なやつだけど、やっぱりいつにも増して変なやつだ。何か花の香りがするのを感じるが、ちょっと食べるものにしては、おかしすぎるだろう。

 

「・・・こんな得体の知れないものをアタシに食べろと?」

 

「お願いしますよぉ、きっとあなたにも役に立つはずです・・・」

 

ドクルンが媚を売るような声を発したため、クルシーナはさらに顰めつつ、もう一度玉を見つめる。

 

まあ、変なこと変だけど、こいつの実験は失敗したことはないし、とりあえず騙されたと思って口に入れてみるのもいいだろう。

 

クルシーナは玉を口の中へと放る。かじるとパキパキパキと硬いものが砕けるような音がする。食感的には、顎にはいいかもしれない・・・味は、ほのかに甘ったるい・・・?

 

ゴクリと飲み込む。

 

・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・。

 

「何も起きないけど・・・?」

 

「おお!おおおお!!」

 

失敗したんじゃないかと思うクルシーナに対して、こっちを見て感嘆の声を上げるドクルン。

 

「何よ?」

 

「成功! 成功しましたよぉ~!」

 

「は? っていうか、何かムズムズして・・・」

 

わけわからないというクルシーナに対して、ドクルンの表情は喜んでいる。そういえば、頭とお尻の部分が何か違和感を感じる・・・。

 

「これでよーく、自分をみてください」

 

ドクルンは何やら手鏡を差し出してきた。疑問に思いながらも、手鏡で自分を覗き込む。

 

・・・・・・・・・。

 

・・・・・・あれ? 誰、こいつ? 人間みたいな肌色をしている。

 

手でその顔を触ってみる。

 

・・・うん。これは私の顔だ。触れば感触はするし、頬を抓ってみれば普通に痛みを感じる。

 

自身の右腕を見る、肌色。

 

太腿を見る、肌色。

 

服をめくってお腹を見てみる、肌色。

 

自分の肌が全て人間のような肌色になっていた。

 

「頭とお尻も見てみてください」

 

ドクルンに言われて、恐る恐る帽子を取ってみる。

 

・・・悪魔のツノがない。ビョーゲンズの象徴である赤いツノが、私のチャームポイントがない。あるのは自身の黒髪だけだ。手で触ってもサラサラした感触だけ。

 

お尻の部分を見てみると、生えているはずのサソリのような尻尾もなくなっている。これもビョーゲンズだからこそあるもの、きれいさっぱりなくなっている・・・・・・。別に透明になったとかそんなことはなく、尻尾があるような感じはしない。

 

「・・・これが、アタシ?」

 

「間違いなくクルシーナですよ、人間になった、ねぇ」

 

そう、クルシーナは人間となっていたのだ。自分の体は全て肌色に変わり、悪魔のツノと尻尾が引っ込んでスッキリとなくなり、見た目は普通の人間となっていた。

 

「あんた、アタシに何を食わせたわけ?」

 

「人間の擬態能力を身につける玉ですよ。あなたがこの前持ってきた花をどうにか利用できないかと思いましてねぇ・・・」

 

ドクルンは左指を鳴らすと、彼女の肌は人間のような肌色になり、悪魔のツノが消えて、サソリの尻尾が消えた。

 

「あんたも、やってたわけ?」

 

「すでに実証済みですよ。地球に赴くんであれば、人間になっておいたほうが都合がいいでしょう?」

 

それを聞いてクルシーナは顔を顰める。そんなのは建前で、本当はアタシを人間に変化させて反応を見ようとしたのだろう。面白い反応でも期待していたのかもしれない。

 

本当に嫌な奴だ・・・イライラする・・・。

 

っていうか、ダルイゼンたちは普通に今の姿でも、誰にも違和感を抱かれることなく出撃していたような気がするが・・・まあ、特に困るようなこともないので、この能力は持っておくことにした。

 

クルシーナは右指を鳴らすと、擬態能力が解除されて薄いピンク色の肌に戻り、赤いツノとサソリのような尻尾も生えてきた。

 

「・・・あ、戻るんだ・・・」

 

手鏡を見ながらクルシーナが言う。

 

・・・でも、今の自分には必要ないから、とりあえずは元に戻しておこう。

 

実験は成功したとして、そろそろ本題に戻さなくては・・・。

 

「それで? これでどうやって作戦を決行するわけ?」

 

手鏡を捨てるように後ろへ放ると、腰に手を当ててクルシーナが問いただそうとする。

 

ドクルンはその質問を待っていたかのように、メガネを上げてニヤリと笑った・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペギタンは最近のちゆの調子が悪いことを心配していた。

 

彼女は一緒にプリキュアとして戦うパートナーだが、それ以前に走り高跳びの選手で、県大会の記録保持者でもある。しかし、ここ最近の彼女はバーを落とすことが多く、明らかなスランプに陥っていた。

 

しかも、毎日練習に行っている。学校の放課後だけでなく、休みの日曜日まで練習に出ようとするちゆにペギタンは休んだほうがいいんじゃないかと言うも、ちゆは笑顔で練習場へと向かっていった。

 

ちゆはなんで急に飛べなくなったのか・・・もしかしたら、病気かもしれない・・・。

 

ペギタンは大急ぎでヒーリングルームバッグの中へと入り、本棚を漁り始める。本を何冊もめくっていくと、とある病気へとたどり着いた。

 

イップス・・・・・・それは、簡単にできたことが急にできなくなり、できなかったことが気になって更にできなくなるという精神的な病気・・・。

 

スポーツ選手などがこの病気にかかって、スポーツをすること自体をやめてしまうことがほとんどだという。

 

ペギタンは青い体を更に青ざめさせ、汗をダラダラと流し始める。

 

ーーーーちゆがこのままでは、スポーツ選手と同じように、走り高跳びをやめかねない・・・!!

 

ペギタンはちゆの症状を伝えるべく、家を飛び出した。

 

一方、ラビリンは・・・・・・。

 

「ラテ様、お加減はいかがラビ?」

 

「ワフ~」

 

ラテはラビリンにマッサージをされていて、気持ちよさそうにしていた。

 

のどかは現在、出かけていて、今はこの2人がいる。ほっこりとしていて、平和的な光景だ。

 

「大変ペエ~!!!!」

 

「わぁ!?」

 

そこへペギタンの叫び声が聞こえ、何事かと驚くラビリン。

 

「イップスイップスイップスイップス!!!」

 

「えっ、何ラビ!?」

 

テンパったように話すペギタンに、ラビリンはあまり状況をつかめていない様子。

 

「早くみんなでお手当ての方法を考えないと!! のどかは!? のどかはどこペエ!?」

 

慌てたようにきょろきょろとするペギタン。今日は中学校はお休みのはずだが、家にいるはずののどかの様子は見えない。

 

「ひなたとお買い物に行ったラビ」

 

「ええ!? お買い物!!??」

 

ラビリンのとんでもない発言に、驚愕するペギタン。

 

のどかとひなたはちゆが今、どんな状況に陥っているか理解しているはず・・・なのに、まさか遊びに行った・・・!?

 

二人でお買い物をしている様子が嫌でも目に浮かぶ。

 

「きっとお買い物も済んだころラビ。これからラビリンたちもひなたの家にーーーー」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

 

「ああ、ペギタン!?」

 

ペギタンはラビリンの話を最後まで聞かずに、大泣きしながらのどかの家から飛び出して行ってしまった。

 

「ひどいペエ!! ちゆは一人で悩んでるペエ!! なのにこんなときに遊んでるなんてひどいペエ!!!」

 

泣きじゃくりながら、それでも「ひどいひどい」と怒りながら飛んでいくペギタン。

 

その様子を一人の、小さなマスコットのような生き物が伺っていた。

 

「ふん・・・相変わらず、泣き虫で落ち着きのないやつだブル・・・」

 

狼の姿をした妖精ーーーーブルガルだった。ドクルンが別の場所に行っていて、手を離せないという理由で一人偵察に来たのだが、たまたま喚く声が聞こえたので、その様子を見に来たのだ。

 

ペギタンが一人・・・それにあいつは人間のパートナーがいたはず・・・ということは、その人間は今一人か・・・。

 

「・・・これはいい情報だブル」

 

ブルガルは笑みを浮かべると、自分の相棒に報告すべくその場を飛び去っていく。

 

一方、ちゆは学校の校庭でひたすらハイジャンプを続けていた。しかし、棒は変わらずに落ちてうまくいっていない模様。

 

すでに何度も飛んでいるのか、息も切れていた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

でも、飛び越えることを諦めたくない・・・! そんな思いから、ちゆは再び飛ぶべくバーを元に戻していく。

 

その様子を、クルシーナが学校の屋上から様子を伺っていた。

 

「・・・あいつ、なんであんなに頑張るウツ?」

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナはちゆの一生懸命な様子を不機嫌そうな顔で眺めつつも、ある映像がフラッシュバックしていた。

 

ーーーー必死な表情でこちらに声をかけてくる男性

 

ーーーー男女のコンビが、その男性に頭を下げられている。

 

「・・・・・・・・・」

 

正直、さっきのウツバットの言葉に、クルシーナも内心では同意だった。努力なんかしたところで意味なんかない。どうせ、そんなもの潰せば消えてしまうものなのだから。

 

「ふん・・・疲れるまで頑張っちゃって、バッカみたい。どうせ、飛べやしないのにさ」

 

クルシーナは鼻を鳴らしてそっぽを向き、ちゆの努力を否定する。

 

もうあの女は何度も棒を飛び越えることを失敗している。その度に棒を戻しては、落とし、棒を戻しては、落とし、棒を戻しては、落としを繰り返している。

 

さっきから、同じ映像を見せられているかのような無駄なあがきの繰り返しだ。クルシーナにとっては見苦しいようにも見えている。

 

「だから、彼女は残酷なのですよ」

 

「は・・・?」

 

隣で共に様子を見ているドクルンの言葉に、クルシーナが何を言っているんだと言いたげに返す。

 

「あの娘は、相手のことを心配せずにはいられない、しかも、自分が辛いことがあっても、一人で抱えようとする。相手に気を遣って自分のことを疎かにするなど、死にたいと訴えている生き物を生かそうとしているのと一緒です・・・」

 

「いや、何言ってんのか、さっぱりわかんない・・・」

 

クルシーナは呆れたような態度をとり、ドクルンの言葉を聞き流すことにした。

 

でも、クルシーナにも思い当たる奴はいる。キュアグレースーーーーあいつも生意気なピンクのウサギを助けるために自分を犠牲にして、自らが病気に冒された。地球を守ろうとしている、あいつの神経がどういうものなのか全然理解できなかった。

 

ちゆを偵察しているうちに、ブルガルがこちらに戻ってきた。

 

「おや、ブルガル、そっちはどうでしたか?」

 

ブルガルはドクルンの耳元にコショコショと偵察してきた様子を話す。それを聞いた彼女は、何か悪いことを思いついたかのような顔でほくそ笑む。

 

「そうですか、ご苦労様です」

 

「いろいろとチャンスだブル」

 

ブルガルはそう言うとドクルンのスタッドチョーカーへと戻る。

 

「・・・チャンスって何が?」

 

「もちろん、作戦決行のチャンスに決まってるじゃないですかぁ・・・」

 

ドクルンはニヤリとしながら、クルシーナの疑問に答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5月3日、日曜日ーーーー。

 

この日は、すこやか中学校の陸上部が出場する、春の陸上大会の日。

 

ちゆはいつものようにランニングウェアに着替えて、準備を終えると外へと繰り出す。

 

いつもちゆの隣で眠っているペギタンは、今日だけはのどかと一緒の家で泊まらせてもらっている。だから、大会の会場へと向かうのはちゆ一人だ。

 

空を見上げながら、自分は飛べる、いや、飛ぶんだと言い聞かせる。

 

「・・・よし!」

 

ちゆは足早に会場へと向かう。場所は、すこやか市にある競技場、そこには多くの選手や仲間が陸上大会を見に来ているはず。

 

この数日間は、正直スランプでいっぱいだった。すこ中ジャーナルを自称する益子道男のカメラから、自身の県大会の記録を超えたものが現れたと聞き、少し動揺していた。そのときは、自分の敵は自分と言い聞かせたものの、動揺は体の方に現れ、誤ってバーに足が当たり、ハイジャンプを失敗してしまった。

 

その後は来る日も来る日も、ハイジャンプの練習を続け、失敗ばかりだ。自分が動ける限界まで、ハイジャンプを続け、どんなに体が悲鳴を上げても飛びたいと思い、練習を重ねた。

 

そんな自分を無理しているんじゃないかと友達ののどかやひなたも心配してくれたが、ちゆは二人にこういったのだ。

 

ーーーーそれでも、私は飛びたい。今は無理してでも、自分の限界を超えたい。

 

ちゆは辛いけど、二人には笑顔を見せた。そして、今日はその努力の成果を見せるときがきた。

 

そんな思いを持ちながら、ちゆは会場へと向かうのだ。

 

そんな中、彼女がとある少女の前を通り過ぎたときだった。

 

「うっ・・・!!」

 

水玉模様のワンピースを着て、日傘を持ったポニーテールをした少女は突然、胸を押さえて苦しみ出し、膝をつき始めたのだ。

 

「!? 大丈夫ですか!?」

 

ちゆは突然倒れそうになった人を放ってはおけず、彼女に駆け寄る。彼女が膝をついた瞬間に、落としてばら撒いてしまったカバンの中身を拾い始め、差していた日傘も拾う。

 

「薬・・・」

 

「え?」

 

「そのカバンの中に心臓の薬が・・・それを飲まないと・・・!」

 

胸を押さえて苦しみながら、ちゆが持っているカバンに指を差す。

 

「薬ですね! ちょっと待っててください!!」

 

ちゆは少女のカバンの中を弄ると、その中から白い錠剤のようなものがあるのが見え、それを取り出す。

 

「これを・・・!!」

 

「こ、これです・・・うっ!!」

 

ポニーテールの少女は受け取ろうとしたが、さらに胸を強く押さえつけて苦しみ始め倒れそうになる。ちゆは地面へと落ちそうになる体を抱きとめる。

 

「しっかりしてください!大丈夫ですか!?」

 

早く救急車を呼ばなくては・・・!!

 

ちゆはそう思い、携帯電話を取り出そうとした、その時・・・・・・!!

 

「・・・え、ええ、ありがとうございますーーーー」

 

ドスッ!!!!!

 

「・・・・・・えっ?」

 

ちゆは体が突然、反射したかのようにビクッと右に一瞬動いたのを感じ、疑問の声を漏らす。

 

何やら体に痛みを感じ、顔を恐る恐る下に映してみると・・・・・・。

 

腹部に突き刺さった黒色の六角形のようなもの・・・そして、それを手に持っている左腕をたどるように見ていくと・・・。

 

「フフフ・・・」

 

自分が助けようとしていた少女が、ニヤリと笑みを浮かべている姿だった。

 

「・・・!?・・・あ・・・」

 

ちゆはそれを認識した瞬間、体が震えて急激に力が抜けていくのを感じた。少女をうまく支えることができず、膝をついてしまう。

 

「全く、そうやって他人に構っているから足元を掬われるんですよ」

 

少女はポケットからメガネを取り出してかけ、ポニーテールの髪型のかつらを取ってボサボサの髪型に戻し、左指を鳴らす。すると、彼女の肌色は薄い黄緑色の明らかに人間ではない肌へと戻っていき、服装は白衣を纏った研究員のような格好、そして頭に悪魔のようなツノ、お尻に尻尾が生えてきた。

 

ちゆは彼女のことを見たことがある、彼女はビョーゲンズの・・・。

 

「ド、ドク、ルン・・・!」

 

そう、少女はドクルンが擬態していた姿だったのだ。ドクルンはちゆが気になっている人、もとい困った人を放っておけない性格をしていることを、彼女がキュアフォンテーヌとして対峙した頃から分かっていた。

 

さらにちゆが走り高跳びのハイジャンプがうまくいってないこともクルシーナから情報を得ており、焦っているということも分かっていた。

 

つまり、ちゆはドクルンにその心の隙をつけこまれて、罠にはまってしまったのだ。

 

呆然とするちゆを前に、ドクルンは右手を彼女の後頭部へと持っていくと、そのまま自分の顔へと近づけ、口づけを交わす。

 

「んん!?」

 

突然のドクルンの行いに目を見開くちゆ。ドクルンは彼女が息ができないくらいのディープキスをしっかりと交わす。

 

「んん!! んんぅ!!」

 

ちゆは首を振って口を離そうとするも、体から力が抜けていっており、ドクルンの口づけから顔を離すことができない。

 

ドクルンはちゆの体に何かが入ったのを確認すると、左手で黒い六角形のようなものを彼女の体から抜き取る。

 

「ぷはっ・・・」

 

ドクルンはちゆの顔から口を離すと、今度は両手で頬をつかんで表情を覗き込む。

 

「・・・っ」

 

「おや? まだそんな表情ができるのですか? 健気なものですねぇ・・・」

 

ちゆがこちらを睨みつけているのを見て、口元に笑みをこぼすドクルン。

 

「な、なんの、ために・・・こんな、ことを・・・!?」

 

ちゆは動かなくなっていく体に鞭を打って、声を絞り出す。目がチカチカと点滅し始めている。

 

( 意識が・・・)

 

「ちょっとした興味でねぇ、健康的で健全なあなたを病気に侵したら、どうなるのかなと思いまして・・・」

 

ちゆは頭がぼーっとしていくのを感じる・・・。チカチカとピントが合わなくなっていく視界に、黒みがかかっていく。

 

「まあ、死なせはしませんよ。お友達が悲しむでしょうしねぇ・・・」

 

クスクスと笑うドクルンを尻目に、ちゆの体から完全に力が抜け、前のめりに倒れていく。

 

ドクルンはそんな彼女の体を地面に落ちる前に片手で受け止める。

 

「フフフ・・・」

 

不敵に笑うドクルンに対し、ちゆは体に力が入らず、意識が朦朧としていく。すでに瞳は虚ろになっていた。

 

(・・・のど、か・・・ひな、た・・・ペギ・・・タン・・・)

 

競技場の会場へと向かっているはずの友人二人と、大切なパートナーのことを思い返しながら、ちゆの意識は闇へと落ちていった・・・。

 

「所詮はプリキュアも、変身できなければただの人間ですね・・・」

 

ドクルンは完全に意識を失ったちゆをお姫様抱っこのように担ぐと、上空へと飛び上がっていく。

 

「ドクルン、そいつをどうするブル?」

 

「そいつは見てのお楽しみです・・・」

 

ドクルンはブルガルに小悪魔っぽく答えると、どこともしれない空を見上げながら言う。

 

「さて、あとはあなたの本領発揮ですよ、クルシーナ」

 

ドクルンは作戦を実行中の同僚に期待しながら、ちゆをある場所へと連れていくのであった・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話「凍結」

前回の続きです。
やりすぎ感もありつつも、投稿します。

だいぶストックも増えたので、今週から毎週月、金で投稿してみようと思ってます。
お楽しみに!


春の陸上大会が行われる競技場、そこでは今日のために練習をしてきた陸上部の生徒たちがその成果を発揮していた。

 

すこやか中学校のライバル、すこやか西中学校の面々は砲丸投げを披露するもの、そしてハードル走を披露するものもいる。すこやか中学校も負けずにその成果を披露していた。

 

会場の席で他の陸上部のみんなもその競技も見守っている。

 

そんな中にいる、のどかたちはすこやか中学校の陸上部で、友達のちゆを応援するために座っていた。彼女を応援するための横断幕の準備も万端である。

 

「そろそろ、ちゆの出番ラビ!」

 

「おい!ペギタン!!」

 

「無理ペエ!心配で見てられないペエ・・・!!」

 

そののどかの側にはラビリン、ニャトラン、ペギタン、そしてラテの4人のヒーリングアニマルも来ている。そろそろ陸上部の走り高跳びの競技、ちゆの出番がくる時間だ。

 

ペギタンはニャトランに呼びかけるも、ペギタンは顔を伏せたままビクビクとしていて、会場の方を見ていなかった・・・。

 

ざわざわざわ・・・。

 

しかし、ここで会場のテントの方が慌ただしくなっているのが見えた。大会の主催者らしき人に、すこやか中学校の顧問らしき人が話し込んでいた。

 

会場には走り高跳びの準備はできているのだが、ちゆが出てくる気配がない・・・。

 

「? ちゆちー、出てこないよ・・・?」

 

「どうしちゃったんだろう・・・?」

 

のどかとひなたが心配するよそに、その声を聞いたペギタンはラテの上から会場を覗く。

 

「ちゆ・・・?」

 

ペギタンは彼女のことを心配していた。もしかして、やはりイップスとやらで出場することを棄権してしまったのか・・・?

 

でも、昨日の二人からはそんな感じのことはなかったはず・・・もしかして、会場に向かう途中に何かあったのではないか・・・?

 

「なんか、会場の様子がおかしいラビ・・・」

 

「ちゆが出てこないのと、何か関係してんのか・・・?」

 

「クゥ~ン」

 

ラビリンとニャトランは会場の異変に気付きつつも、ちゆのことを心配していた。ラテも不安を隠せない様子だ。

 

会場でそんなことが起こっている一方、屋根の上からそれを見下ろしている一つの影が・・・。

 

「全く・・・人間ってよくわかんないわね・・・こんなものやって何の意味があるんだか・・・」

 

「僕は理解できないウツ」

 

クルシーナは腕を組みながら、競技している人間の行動に難解を示していた。

 

そろそろ会場をめちゃくちゃにしてやろうと、準備を始めようとするが、そこに風を切ったような音が聞こえてくる。そこを見ていると見知った同僚の姿があった。

 

「ダルイゼン?」

 

「・・・クルシーナ?」

 

ダルイゼンが腕と足を組みながら座り込み、会場とは別の場所を見ていた。

 

「何であんたがここに?」

 

「生気がするものの気配をたどってきたら、ここにきた・・・」

 

生気がするもの・・・? 確かにここにはあるが、なんで会場とはそれた場所なのか?

 

クルシーナはダルイゼンが見ている方向を見下ろしてみると、そこにはクーラーボックスとドラム缶があった。

 

しっかり見てみるとクーラーボックスから何やら妙な不快感を感じた。

 

「・・・なーんか、生きてるって感じ?」

 

「ああ・・・」

 

ああ、そういうこと・・・。クルシーナはダルイゼンの言う気配を察すると、不敵な笑みを浮かべる。

 

「ねえ、ダルイゼン」

 

「・・・何?」

 

「あんた、あれやってくんない? アタシはあっちをやるから」

 

クルシーナはかじりかけのリンゴを取り出すと、その側に植えてある植物の近くへと放る。

 

「? まあ、別にいいけど・・・」

 

ダルイゼンは疑問符を抱くも、特に否定はしなかった。彼は自分の髪をなびかせる。

 

「進化しろ、ナノビョーゲン」

 

「ナノー・・・」

 

ダルイゼンの生み出したナノビョーゲンが鳴き声を上げながら、クーラーボックスの中へと入っていく。クーラーボックスが徐々に病気へと蝕まれていく。

 

「ヒエ!?・・・ヒエー!?」

 

クーラーボックスの中のエレメントさんが病気へと蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガビョーゲン!!」

 

クーラーボックスを象った姿に先に氷のついた両腕、両足、不健康な顔が生えたような人型のメガビョーゲンが誕生した。

 

「フフフ・・・」

 

クルシーナも笑みを漏らした後、右手の握りこぶしを開き、手のひらに息を吹きかける。

 

「進化しろ、ナノビョーゲン」

 

「ナーノー」

 

生み出されたナノビョーゲンは鳴き声を上げながら、クーラーボックスの側の植物に取り憑く。植物が徐々に病気に蝕まれていく。

 

「ああ・・・ああ・・・!!」

 

植物の中のエレメントさんが病気へと蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガビョーゲン!!」

 

不健康な顔のついた木に3本の葉っぱが生えた枝に木の実が付いていて、根っこのような太い4本足の生えたメガビョーゲンが生み出された。

 

「・・・なんか、前も作ったメガビョーゲンじゃないかウツ?」

 

「メガビョーゲンに同じ奴がいるわけないでしょ」

 

確かに、最初に作ったメガビョーゲンに似ているかもしれないが、性能は全く違う。そう豪語して疑わないクルシーナであった。

 

一方、会場の方では・・・・・・。

 

「クチュン!! クチュン!!」

 

「ラテ!?」

 

「ビョーゲンズラビ!!」

 

「きゃあぁぁぁぁ!!」

 

のどかたちの方ではラテの体調が悪化し、ビョーゲンズが現れたということを察知すると同時に、会場の人々が逃げ出していく。

 

なんと、ビョーゲンズが現れたのはこの会場らしい・・・。

 

「メガー・・・」

 

ダルイゼンのメガビョーゲンは姿を現したと同時に競技のトラックに病気を吐き出し、氷漬けにしていく。

 

「メガー!!」

 

ドン!ドンドンドン!!

 

クルシーナのメガビョーゲンはジャンプをして、会場へと着地した同時に枝についている木の実を落として爆発させた後、さらに体を回転させて付いている別の黄色い木の実を無差別にばらまいて病気へと侵していく。

 

「ひなたちゃん! 行こう!!」

 

「待ってよ!! ちゆちーは!?」

 

のどかは二人でメガビョーゲンを止めに動こうとしているのに対し、ひなたはちゆのことを心配していた。浄化なら3人でやったほうがいいと思っていたが、

 

「ちゆちゃんのことも心配だよ・・・でも、このままだとこの会場がメガビョーゲンに・・・!」

 

「わかってるけど・・・! ああ、もう! ちゆちーがいないこんなときに・・・!!」

 

のどかはちゆのことも心配している。しかし、メガビョーゲンを放っておけば取り返しのつかないことになりかねない。それはひなたも理解しているのだが、頭の中で考えが板挟みになっていた。

 

「とにかく、変身ラビ!!」

 

「ペギタン!! お前はちゆを探すニャ!! ちゆがいなきゃ、お前はお手当てできないだろ! ここは俺たちに任せるニャ!!」

 

ラビリンは迷っているなら変身したほうがいいと二人に催促。ニャトランはペギタンにちゆを探すように発破をかける。

 

「わかったペエ・・・すぐに駆けつけるペエ!!」

 

ペギタンは会場から飛び出すとちゆを探すために行動を開始した。

 

「ひなたちゃん、いくよ!!」

 

のどかの言葉に、ひなたも頷くと人気のない場所に移動する。

 

「「スタート!!」」

 

「「プリキュア、オペレーション!!」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

 

ラビリンとニャトランがステッキに変わると、のどかは花の模様が描かれたボトル、ひなたは菱形のボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。そして、肉球にタッチすると、のどかにはハート、ひなたには星のような光線が現れ、白衣が現れ、ピンク色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「「はあぁぁぁぁぁ!!」」

 

「メガァ・・・?」

 

二人はクーラーボックス型のメガビョーゲンに蹴りを入れる。突然の蹴りにメガビョーゲンは体がよろける。

 

「「キュアスキャン!!」」

 

ラビリンの目が光り、メガビョーゲンの中にいる、苦しんでいる様子のエレメントさんを見つける。

 

「氷のエレメントさんラビ!!」

 

「場所は右肩!!」

 

「メガァ・・・!」

 

メガビョーゲンは体勢を直すと病気を吐き出して、地面を氷漬けにして蝕む。

 

「固まってちゃダメニャ!! 散れ!!」

 

「うん!!」

 

グレースとスパークルは二手に分かれる。その間にメガビョーゲンは病気をプリキュアに向かって当たるように吐き出し続け、トラックを氷漬けにしていく。

 

「メガ!!」

 

氷になっている手をスパークルに叩きつけようとするも、スパークルはそれを転がって探す。

 

別の場所からグレースが飛び出して、拳をぶつけようとするが・・・。

 

「メガー!!」

 

「! うわぁ!?」

 

メガビョーゲンは右足を叩きつけると自分を覆うように氷の壁を作っていく。当たりそうになったグレースは肉球型のシールドで受け身を取り、地面へと着地する。

 

「ビョーゲン・・・チン・・・」

 

メガビョーゲンは見る見るうちに自身を氷で覆っていく。

 

「なにこれ? 壁・・・?」

 

「でも、全部氷で覆ったら、あっちから攻撃はできないはず・・・」

 

グレースがそうやって気を抜いた、その瞬間・・・!

 

「わあぁ!?」

 

メガビョーゲンは右手で氷の壁に穴を開け、そこから赤い水を発射した。

 

「そんなわけないじゃない。バッカじゃないの?」

 

「やれ、メガビョーゲン」

 

クルシーナが甘い考えを嘲笑し、ダルイゼンがメガビョーゲンに指示を出す。わざわざメガビョーゲンがそんな自分にも不利になるような状況を作るわけがないのだ。

 

開けた穴から水を噴射して、プリキュアを攻撃するメガビョーゲン。グレースもスパークルも避けるのはそんなに難しいことではないのだが・・・。

 

「これじゃあ、メガビョーゲンに近づけないよ・・・!」

 

スパークルは連続で噴射される水を回避することに精一杯で、メガビョーゲンに近づけず困っていた。

 

そんな中、グレースは噴射される水を避けながら走り、会場の壁をキックして飛び上がり、クーラーボックス型のメガビョーゲンの真上に到達した。

 

ところが、そこへ木型のメガビョーゲンがグレースの前を横切り・・・。

 

「え? きゃあぁ!!」

 

メガビョーゲンの振り回した木の枝に直撃してしまい、地面へと落ちる。

 

「アタシだっていんのよ。メガビョーゲンを召喚してないと思ったぁ?」

 

クルシーナは吹き飛ばされたグレースをあざ笑う。

 

「グレース! うわぁ!!」

 

グレースに気を取られたスパークルもよそ見をして、噴射した水に当たってしまい、地面へと落ちる。

 

さらに木型のメガビョーゲンは地面に着地すると、リンゴのような形の実を落とし、地面に溶け込んだその部分は沼のようになり、病気へと蝕まれていく。さらに自身の体を回転させ、黄色い梨のような形をした木の実を無差別にばらまく。

 

ドン!ドドンドンドン!!!

 

落ちた木の実は爆発を起こし、その部分は病気へと蝕まれていく。

 

煙が晴れた後、クルシーナの視界に見えたのはまだ立ち上がろうとしているグレースとスパークルの姿だった。

 

「お前らのお仲間、呼んできた方がいいんじゃない? まあ、今頃あいつに捕まってるだろうけど」

 

クルシーナが二人にとって衝撃の発言をする。

 

お仲間・・・もしかして、ちゆちゃんのこと? しかも、捕まってるって・・・?

 

「ちゆちゃんに何をしたの・・・!?」

 

「さあね? あいつの考えてることなんかアタシにはわかんないわよ。あいつの手にでもかかってるんじゃない?」

 

クルシーナの嘲笑うような発言に、二人の心に沸々と怒りが湧いた。

 

「ひどいよ・・・!! ちゆちゃんはこの日のために頑張ってきたのに・・・!!」

 

「うぅ、そうだよ!! ちゆちーは何も悪いことしてないじゃん!! あんなに一生懸命にやってたのに・・・!!」

 

グレースとスパークルはここ最近、ちゆが頑張って走り高跳びを飛び越えようとしていることを知っていた。

 

ビョーゲンズはそれをも踏みにじろうとしている。それだけは許せなかった・・・!!

 

「ふん、努力や頑張りなんか何の意味もないんだよ。メガビョーゲン!!」

 

クルシーナはグレースとスパークルの言葉を一蹴すると、自分のメガビョーゲンに指示を出す。

 

「メガー!!」

 

木型のメガビョーゲンは二人を駆逐すべく、飛び上がって襲いかかった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん・・・んん・・・」

 

どこかの仄暗い一室、ちゆは目を覚ました。視界がぼやけていたが、徐々にピントが合っていく。

 

「ここ、は・・・?」

 

ちゆは立ち上がって辺りを見渡すと、どうやら直方体の何かに閉じ込められているようだった。

 

壁に近づいて叩いてみるも、壁が壊れる気配もない。しかも、触れた手が何やら冷たく感じた。

 

「これって、氷・・・?」

 

そういえば、今気づいたが、体が少し寒いような感じがし、吐く息が白かったように感じる。

 

「おやおや、お目覚めですかぁ?」

 

そこへやってきたのは、メガネをかけ白衣を身にまとい、常に薄笑いを浮かべているビョーゲンズの幹部。

 

「ドクルン・・・!!」

 

「いかがですかぁ? あなたをいつまでも歓迎するための氷の牢獄は・・・?」

 

ドクルンに警戒するちゆに対し、ドクルンは笑みを浮かべながら自慢でもするかのように話す。

 

「わ、私をどうする気なの・・・!?」

 

ドクルンを睨むちゆだが、その表情は少し強ばっていた。額には緊張から汗が滲んでおり、強がっているのが見受けられる。

 

「何もするつもりはありません。あなたにはそこにいてもらうだけでいいんですから・・・」

 

「嫌よ!! 私をここから出して・・・!!」

 

ちゆは壁を叩きながら拒絶の意思を見せるも、ドクルンは顔色を変えることはない。

 

「お断りします。そんなことをしても、私に得などないですから」

 

「なんですって・・・!?」

 

憤るちゆに対し、ドクルンは薄笑いを浮かべる。彼女は右手を前に突き出すと優しく掴むように握る。

 

ドクン・・・ドクン・・・ドクン・・・。

 

「うぅ!? はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

突然、彼女の心臓がバクバクし始め、ちゆの息が切れ始める。

 

「無駄な抵抗はしないでください。苦しくなるのが早くなるだけですよ。それにあなたの体調はもう私の掌にあるようなものです」

 

そんな彼女をよそに平然と長方形の氷の壁をすり抜けて、彼女の右肩に手を置いて、耳元に口を近づけると、こう囁いた・・・。

 

「あなたは私のもの、私が存分に可愛がってあげます・・・」

 

「!!??」

 

ちゆは言い知れない恐怖を感じると、拒絶しようと右手を突き出すも、その手はあっさりと片手で抑えられてしまう。

 

「怖がる必要なんてありませんよぉ。だってあなたは何もしなくていいんですからぁ」

 

ドクルンはちゆが力を抜いたことを確認すると、何もすることなく片手を離す。ちゆは後ろへよろよろと後ずさり、まるで力をなくしたかのように膝をつき、体を震わせる。

 

ドクルンはクスクスと笑うと、さらにちゆへと近づく。

 

「い、嫌っ・・・!! 来ないでっ・・・!!」

 

ちゆはドクルンがこちらに近づいてくるのに気付き、拒絶の声を上げる。しかし、ドクルンはそれに臆することなく、近づいていく。

 

ちゆは体を震わせながら、彼女から体を引きずって後ずさろうとするが、ドクルンは右手を広げて前に出すと掴むように握る。

 

ドクン・・・ドクン・・・ドクン・・・!

 

「!? はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

突然、動悸がして胸を締め付けられる。呼吸が少し早くなり、息が苦しくなる。

 

「怖がる必要はありませんよ・・・私が外敵から守ってあげますから・・・」

 

ドクルンは動きが鈍ったちゆに近づくと、背後から右腕を掴んで後ろに回す。

 

「さ、さわらな、い、で・・・!」

 

ちゆは振りほどこうとするが、まるで力が入っておらずドクルンの手を払いのけることができない。ドクルンは特に気にした様子もなく、右手でちゆの顔を自分の方へと向けると顔を近づけ、再度口づけを交わす。

 

「んん!! んぅ、んんぅ!!」

 

ちゆは苦しそうに眉を動かすと、振りほどこうと無駄なあがきをするも、手は後ろ手に押さえつけられているために動かすしても力を入れることができない。ならばと、押さえつけられてない片方の手でドクルンの頬を叩いて払いのけようとするも、彼女にとってはペチペチと叩かれている程度にしか感じておらず、逆に片手で押さえつけられて後ろへと回されて、腕一本で一纏めにして押さえつけられてしまう。

 

「んん・・・んんぅ・・・」

 

首を振ってもドクルンの口づけから逃れることはできず、苦痛から涙も出てくる。

 

ーーーー私は、プリキュアになれなければ、こんなにも無力だ・・・・・・。

 

ドクルンは満足したのか、ちゆの顔から口を離す。

 

「・・・ペギ・・・・・・タン・・・・・・」

 

苦しさのあまりパートナーの名前を口にするちゆ。まるで、助けてとでも言いたげな感じで・・・。

 

それを聞いたドクルンに、映像がフラッシュバックする。

 

ーーーーベッドの横で胸を押さえて苦しむ少女、紐のようなものを引っ張ると女性たちが少女へと駆け付ける。

 

ドクルンはしばらく沈黙した後、ちゆを腕を押さえつける手を離すと、おもむろにちゆを角側へと吹き飛ばした。

 

「きゃあ!! うぅ・・・」

 

ちゆは壁に体を打ち付けた痛みで呻くも、ドクルンが今まで見せたことないような冷たい表情でちゆのことを見下ろしていた。

 

「まだ、そんなことを言うのですね・・・私が守ると言っているのに・・・」

 

ダァン!!!!!

 

ドクルンは右足をちゆの前で叩きつけると、氷の壁が音を立てながら出現し、彼女の周りを覆っていく。

 

「二度と私以外の名前を言えないようにしてあげますよ・・・!!」

 

ドクルンはそう言って、自分が擬態するために持っていたバックに入れた水筒を出すと、その中の水を氷ごとぶちまける。その中にある氷を見て、酷薄な笑みを浮かべる。

 

ドクルンは右手の中指と親指を合わせると、パッチンと音を鳴らす。

 

「進化してください、ナノビョーゲン」

 

「ナノデス~♪」

 

ナノビョーゲンは鳴き声を上げながら、床にぶちまけた氷へと取り憑く。氷が徐々に病気へと蝕まれていく。

 

「ヒエ・・・ヒエ!?」

 

氷の中にいるエレメントさんが病気へと蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「「メガビョーゲン!!」」

 

全身が氷で形成された悪魔のような二対のメガビョーゲンが誕生した。

 

「ああ・・・ああ・・・!!」

 

ちゆは誕生したメガビョーゲンに体を震わす。

 

「メガビョーゲン、その娘を囲っている氷の壁を守護してください」

 

「「メガー!!」」

 

二対のメガビョーゲンはちゆを囲っている氷の壁を少しすり抜けると、何かをつかむように氷の壁ごしにお互いの手を握って自身の体を固定させる。

 

すると、氷の壁は壊せないようになったばかりか、氷の壁から寒気がするオーラが出始めた。

 

ちゆは何とかしてここから出ようと壁を伝って調べるも、そもそもペギタンがいなければプリキュアに変身できない彼女では氷の壁を壊すことは不可能だ。でも、諦めたくない彼女はどうにかして脱出をしようとする。

 

そんな、ちゆにある異変が起こる・・・。

 

(あれ? 何だか、寒くなって・・・)

 

ちゆの体が震え、急に空間が寒くなり始める。それより前にドクルンが迫ってきたときには寒さを感じてはいたが、それはまだ耐えられるような寒さであったが、問題はなかった。しかし、氷の壁で狭い空間に閉じ込められ、さらにメガビョーゲンが氷の壁に取り憑いてからは急に空間の温度が下がりだしたのだ。

 

ドクン・・・ドクン・・・ドクン・・・。

 

「う・・・ はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

しかも、こんなときに心臓がバクバクと警鐘を鳴らし始め、ちゆの息が再度切れていく。寒いというのに額に汗がにじみ始め、冷たさと相まって全身から力が抜けていく・・・。

 

ちゆは壁に手をついて自身の体を支えていたが、その力も失われ、とうとう膝をついて座り込んでしまった。

 

震える自身の体を抱きしめ、少しでも自分を守ろうとする。しかし、それだけでは心臓の警鐘は治まらなかった・・・。

 

ドクン・・・ドクン・・・ドクン・・・ドクン・・・

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

(寒い・・・苦しい・・・体が震えて力が・・・)

 

やはりパートナーがいなければ、自分は無力なのか・・・。運動は好きで、自分の体は少し丈夫だと思っていた。でも、病気の前ではそれも通用しない・・・。

 

目がチカチカとしてきた・・・。

 

「フフフ・・・・・・」

 

ドクルンは寒さと病気で震える彼女を見つめながら、酷薄な笑みを浮かべる。

 

(ペギ・・・・・・タン・・・・・・)

 

ちゆは薄れていく意識の中で助けを求めるかのように、心の中でパートナーの名前を呼ぶのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちゆー!!! ちゆー!!! どこペエ!!??」

 

一方、ペギタンは会場から飛び出して、パートナーを探していた。一度旅館沢泉に戻ったが、どこにもちゆの姿はなかった。

 

そのあとも、すこやか中学校、すこやか市の商店街周辺、のどかの母が働く運送会社の周辺も探したが、ちゆの姿はどこにも見当たらなかった。

 

「ペエ・・・ちゆ、どこに行ったんだペエ・・・」

 

もしかして、どこかで事故にあったのかもしれない・・・。でも、そんなことが起きているのであれば、一番わかりやすいはずだ。そんな状況は起きていなかった。

 

もしや、誰かに誘拐されたとか・・・。ちゆもプリキュア以前に、年頃の可憐な女の子なのだ。一人で歩いているところを変な輩に捕まったとか・・・?

 

そんな悪い予感が過ぎりつつも、ペギタンはちゆのことを探し続ける。

 

すると、道端に気になるものが落ちているのを見かけた。上空からそこへと降りて、拾い上げてみるとそれはどこかで見たことがあるものだった。

 

「こ、これは・・・! ちゆが身につけてたシュシュペエ!!」

 

ちゆがいつも髪に止めている水色のシュシュ、トレーニングウェアでランニングに出るときも、いつも髪に身につけていた。

 

これが、ここにあるということは・・・ちゆは本当に、誰かに攫われたとしか言いようがなく・・・。

 

「た、大変ペエ・・・!! 早く助けないと・・・!!」

 

ペギタンは顔を青ざめさせる。ちゆが本当に攫われたのであれば、攫った人たちに酷い目にあわされているのかもしれない・・・。早くちゆを見つけないと彼女の身が危険だ。

 

「でも、一体どこにいるペエ? どこに行ったのか、見当もつかないペエ・・・」

 

しかし、手がかりがないのに探すのはどうやっても不可能だ。いろんな思い当たる場所を散々探し回ったのにここまで見つからないとなると、どこをどうやって探せばいいのかわからない。

 

ーーーー最初から、ちゆと一緒にいてあげれば、こんなことには・・・・・・。

 

涙を流すペギタン。やはり見習いの自分では何もできないのか・・・。

 

探すのを諦めかけた、そのとき・・・・・・。

 

ーーーー・・・・・・タン・・・・・・。

 

「!! ちゆ!?」

 

どこからかちゆの声が聞こえてきた。彼女の姿はどこにも見えない・・・でも、確かに彼女の声が聞こえたのだ。

 

ーーーーペギ・・・・・・タン・・・・・・。

 

また、聞こえてきた。今度ははっきりと・・・!!

 

その声が聞こえた先は・・・・・・そうだ、まだ探していない、あそこ・・・!!

 

「ちゆー!!! 今、助けに行くペエ!!!!」

 

ペギタンはすぐに上空へと飛び上がると、ちゆを助けるべく速度を上げていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」

 

寒さで体が震える・・・冷凍庫のように冷たくなった空間の中では息がうまくできない・・・。

 

意識が、段々と薄れていく・・・・・・。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」

 

こんなときでも、のどかとひなたは無事か、ペギタンは今頃私を探しているのか、と友達のことを気にしてしまう。

 

寒さで頭がぼーっとしていく・・・そんな思考能力も失われていく・・・。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」

 

プリキュアになって、のどかやひなたとも友人になった。私がしっかりしているからというけれど、それはみんながいるから、その力を発揮できるんだと感じた。

 

体が冷えて力が入らない・・・もはや、壁を叩いて脱出する力も残っていない・・・。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」

 

走り高跳び、なんで失敗したんだっけ・・・? 私、なんであんなに一生懸命に飛ぼうとしてんだっけ・・・? なんで自分があんなに努力をしたのかも思い出せない・・・。

 

体が冷たい・・・足や手の感覚がなくなっていくように感じる・・・。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」

 

あれ? 私のパートナーの名前、誰だっけ? そもそも友達って誰のこと・・・?

 

わたし、なんでこんなところにいるんだっけ・・・?

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」

 

なんだか、もうかんがえること、も、おもいだす、こと、も、できなくなって、る、きが、する・・・。

 

わた、し、は、この、まま・・・ここ、で・・・。

 

こわい・・・ひとりって、こん、な、に、こわかった、んだ・・・。わたし、ゆうき、なん、て、あったの、かな・・・?

 

ごめん、なさい、やく、そく、まもれ、なく、て・・・。

 

ふふふ・・・わたし、だれ、に、あやまってるん、だろう・・・ばか、みたい・・・。

 

「ひゅぅ、ひゅぅ、ひゅぅ、ひゅぅ・・・」

 

・・・・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

ーーーーちゆー!!!!!!!

 

だれかのこえがきこえてくる・・・わたしをよぶこえがきこえてくる・・・。

 

だれ・・・? このこえはだれ・・・? わたしをよぶのは、だれ・・・?

 

「ひゅぅ、ひゅぅ、ひゅぅ、ひゅぅ・・・」

 

・・・・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

ちゆは朦朧としていく意識の中で、誰かを呼ぶ声を朧げに耳にしていた・・・・・・。

 




感想・評価・ご指摘、よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話「凍傷」

前回の続きになります。


競技場でのプリキュアとメガビョーゲンとの戦いは鮮烈を極めていた。

 

「メガー・・・」

 

クーラーボックス型のメガビョーゲンは壁に穴を開けて水を連続で噴射する。スパークルはそれを避けつつも、この打開策を見出せずにいた。

 

「もー! あいつに近づけないよー!!」

 

スパークルは避けつづける消耗戦に、若干苛立ちを感じていた。

 

「メガー!!」

 

一方、木の幹を揺らして、黄色のリンゴを振りまく木型のメガビョーゲン。

 

ドン!! ドドンドン!! ドンドドン!!

 

グレースは降り注ぐ爆弾を走りながらかわしていき、メガビョーゲンの前へと迫る。

 

「はあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「メガビョーゲン!!」

 

「きゃあぁぁぁぁ!!」

 

グレースは飛び上がって攻撃をしようとするも、メガビョーゲンの振り回す木の幹に当たって吹き飛ばされる。

 

「メガー・・・!」

 

「うわあぁぁぁ!!!」

 

スパークルも、噴射された赤い水を受けて吹っ飛ばされてしまう。

 

「うぅ・・・!!」

 

「完全に狙い撃ちにされてるラビ・・・!」

 

先ほどから木型のメガビョーゲンには飛び上がったところをことごとく狙われている。こちらの動きを完全に捉えていて、今の状況では立ち向かったところで直撃必須である。

 

「くっ・・・!!」

 

「このままじゃ、ちゆを助けにいけねえよ・・・!!」

 

スパークルの表情にも疲れが見えはじめ、

 

「いい加減諦めたら? いつもは3人でどうにかできてんのに、2人でそんなじゃ無理だろ」

 

「そうそう、バカの一つ覚えみたいに向かったって何も変わんないっての」

 

ダルイゼンやクルシーナの言葉とは裏腹に、グレースは再び立ち上がろうとしていた。

 

「一体、どうしたら・・・?」

 

グレースは苦い顔をする。先ほどみたいに行ったところで、また木の幹で吹き飛ばされるだけ。でも、どうしても立ち向かう以外の選択肢が見当たらない。

 

「グレース!! こうなったら二人で・・・!!」

 

「何か考えがあるの・・・?」

 

「別にないけど・・・」

 

グレースは思わずこけそうになるが、スパークルは何か確信を得たかのように笑みを浮かべた。

 

「でも、いちいち考えてもしょうがないっしょ? だったら、あたしたちはあたしたちができるようなことをするだけだよ」

 

「スパークル・・・」

 

グレースはスパークルの言葉に、固くなっていた表情が緩んでいく。そうだ、私たちはどんなことがあっても地球をお手当てをするんだ。大した考えはなくても、その気持ちさえあれば・・・!!

 

グレースとスパークルは一斉にメガビョーゲンへと走り出した。

 

「また同じことする気? 無駄だってわかんないのかよ」

 

クルシーナをよそに、スパークルはステッキから肉球型のシールドを展開、そこへグレースが飛び上がってシールドを踏み台にすると、木型のメガビョーゲンへと飛んでいく。

 

「メガー!!」

 

「ぷにシールド!!」

 

グレースもステッキから肉球型のシールドを展開し、メガビョーゲンが振るう木の幹を防ぐも、やはり吹っ飛ばされる。

 

「ほら、やっぱり、バカのひとーーーー!?」

 

「うおぉぉぉぉぉ!!!」

 

クルシーナがバカにする前に、木型のメガビョーゲンに向かって、スパークルが走ってくる。

 

「メガー・・・」

 

そこへクーラーボックスのメガビョーゲンが氷の壁に次々と穴を開けて、赤い水を噴射するも、走っているスパークルには当たらず、一直線に木型のメガビョーゲンへ。

 

「はぁ!!」

 

スパークルは木型のメガビョーゲンの目の前を飛び越える。そこへもう一体のメガビョーゲンから噴射された赤い水が木型のメガビョーゲンへと迫り・・・。

 

「メガァ!!??」

 

直撃を受けた木型のメガビョーゲンは壁へと吹っ飛ばされる。

 

「あ・・・・・・」

 

「ああー!!??」

 

「メガビョーゲンの攻撃が当たったウツ!?」

 

これにはダルイゼンも絶句し、クルシーナも驚きを隠せない。まさか、他のメガビョーゲンの攻撃を利用されるとは思ってもみなかった・・・。

 

「ちょっと!! 何やってんだよ、メガビョーゲン!!!」

 

「メ、メガ・・・!?」

 

もちろん、邪魔されたような形になったクルシーナは怒り心頭だ。クーラーボックスのメガビョーゲンも、主人でもない彼女の怒りに押されて尻すぼみをしている。

 

木型のメガビョーゲンに吹っ飛ばされたグレースは攻撃が緩和されたおかげもあって、うまく着地し、ステッキを上にかざして再度肉球型のシールドを展開する。

 

「スパークル!!」

 

スパークルはそのままの速度で走ると、肉球型のシールドを踏み台にして飛び上がり、クーラーボックスのメガビョーゲンの真上へと到達した。

 

このメガビョーゲンは氷の壁を作っているので、赤い水を上にめがけて噴射することができない。絶好のチャンスだ・・・!!

 

「メガー・・・」

 

メガビョーゲンは悪あがきにスパークルにめがけて口から病気を吐き出す。スパークルは翻して交わすと、ステッキに黄色のエネルギーをチャージする。

 

「はあぁぁぁぁ!!!」

 

黄色のエネルギーが放たれると、メガビョーゲンの顔へと直撃する。

 

「メガー・・・ビョーゲン・・・」

 

怯んだメガビョーゲンは思わず、体がよろけて倒れそうになった。

 

一方、木型のメガビョーゲンは飛び上がってグレースの上へと飛び出し、その場で体を回転させて黄色いリンゴをばらまく。

 

ドンドンドン!!! ドンドドンドンドン!!!

 

落ちたリンゴは爆発を起こして、グレースも思わず顔を腕で覆う。

 

「こっちもなんとかしないとラビ!」

 

「うん! 実りのエレメント!!」

 

グレースはステッキに実りのエレメントボトルをかざすと、ステッキの先をピンク色のオーラの剣へと変える。

 

「メーガー!!」

 

メガビョーゲンは着地した瞬間に、再び青いリンゴを振り落とす。

 

「ふっ・・・はぁ!!」

 

グレースはそのリンゴの一つに剣を振るって、メガビョーゲンの方へと弾き返す。

 

「メガ・・・!?」

 

「はあぁぁぁぁ!!!」

 

グレースはそのまま怯んだメガビョーゲンにめがけてステッキを横薙ぎに払い、斬撃を放つ。

 

「メッガァ・・・! メガァ!!??」

 

メガビョーゲンは木の幹で覆って斬撃を防ごうとするも、押し負けて3本の木の幹が切断されて、その勢いのまま突き飛ばされた。

 

「ウツ!? 木の幹が切れたウツ!?」

 

「~~~~~~~~~~っ!!!」

 

クルシーナはその光景に唸りながら苛立ちを隠さない。

 

グレースは花の模様が描かれたエレメントボトルを、スパークルは菱形の模様が描かれたエレメントボトルをそれぞれステッキにかざす。

 

「「エレメントチャージ!!」」

 

そう言いながら光るステッキの先をハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「「ヒーリングゲージ上昇!!」」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングフラワー!!」

「プリキュア!ヒーリングフラッシュ!!」

 

グレースとスパークルはそれぞれ叫びながら、ステッキをメガビョーゲンに向けて、ピンク色、黄色の光線をそれぞれ放つ。光線は螺旋状になっていた後、それぞれのメガビョーゲンに直撃した。

 

その光線はメガビョーゲンの中に入ると、螺旋状のエネルギーは手へと変化して、メガビョーゲンの中にいた木のエレメントさん、氷のエレメントさんを優しく包み込む。

 

ハート状に、菱形状にメガビョーゲンを貫きながら、光線はエレメントさんをそれぞれ外へと出す。

 

「「ヒーリングッバイ・・・」」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「「「お大事に」」」」

 

氷のエレメントさん、木のエレメントさんがそれぞれ元の場所に戻ると、病気で蝕まれた場所は元に戻っていく。

 

トラックで氷付けになっていたところは、メガビョーゲンが消えたことで徐々に氷解してなくなっていく。

 

「ああ~もう~ムカつくッ!!!!」

 

「ふん・・・」

 

クルシーナは珍しく地団駄を踏んで悔しがり、ダルイゼンは何処吹く風だ。

 

直後、冷静になったクルシーナが会場の外を見上げる。

 

「・・・それにしても、あいつはうまくいってんのかね?」

 

「うまくいってるって、何が?」

 

「お前には教えてあげない」

 

「・・・別に興味ないからいいけど」

 

「なんだよ、その言い方!! もう~!!」

 

クルシーナとダルイゼンは少し空気が悪くなったような感じになりながら、二人ともその場から姿を消した。

 

奇しくも、メガビョーゲンを浄化した二人。しかし、怪物を浄化して戻るはずのラテの体調はまだ戻っていない。

 

「ラテ、大丈夫?」

 

「クゥ~ン、クゥ~ン」

 

「え、何何? どうしたの?」

 

しかも、ラテは何かを訴えるように弱々しく鳴いている。

 

「グレース、診察してみるラビ!」

 

「うん!」

 

グレースは聴診器を取り出して、ラテに近づける。

 

(山の方で、氷さんが泣いてるラテ・・・)

 

「山・・・? 山の中・・・?」

 

「そこで氷が泣いてるって、一体どういうことだ・・・?」

 

ラテの心の声に疑問を抱く4人。この季節に森の中に氷があるというのは考えにくい。でも、それで氷が泣いてるというのはどういうことなのか?

 

「クゥ~ン」

 

「どうしたの、ラテ?」

 

聴診器を近づけてみると・・・。

 

(氷さんの中でちゆが大変ラテ・・・)

 

「「!!??」」

 

ラテが心の声で告げた衝撃の言葉。なんと、ちゆはその氷さんの中で大変な目にあっている・・・。ということは、ビョーゲンズに拐われたとしか言いようがなかった・・・。

 

「ちゆちゃんが・・・そんな・・・!!」

 

のどかは呆然としたような表情をする。ちゆちゃんが・・・私の友達が、ビョーゲンズに酷い目にあわされている・・・。

 

この陸上大会に現れないのはおかしいと思ったが、まさかビョーゲンズに拐われているとは思ってもみなかった。

 

ーーーーこんなことになるんだったら、私がちゆちゃんの側にいれば、こんなことには・・・。

 

「グレース!!」

 

スパークルがグレースの両手を握る。

 

「とにかく行こうよ!! メガビョーゲンがいるってことだよね!?」

 

「・・・うん」

 

「氷さんってことは、メガビョーゲンをたどれば、ちゆちーだっているってことでしょ?」

 

スパークルの言葉に、グレースの不安は少し消える。そうか、メガビョーゲンのところにいるのであれば、それを見つければちゆちゃんにもたどり着けるはず・・・。

 

「うん、そうだね・・・ごめんね、ラテ、氷さんはどこにいるの?」

 

ラテに再び聴診器をあてて、心の声を聞く。

 

(氷さんは、あっちの方で泣いているラテ・・・)

 

あっち、方向はすこやか運送の方、確かそこに森に向かう道があったはず。その近くにいるかもしれない。

 

頷いた4人はラテを抱えながら、メガビョーゲンの元へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

体が氷のように冷たい、寒くて体が震える、体がうまく動かない・・・空気が冷たすぎて肺に痛みを感じ、呼吸がうまくできない・・・・・・。

 

ちゆは氷の空間、もとい氷の牢獄の中で苦しんでいた。もはや手を動かす力もなく、膝をついて角に寄りかかっていて立ち上がる力も残っていない。白い息を吐きながらも、肺の痛さに息をあまり吸えていない。

 

「「メガー・・・」」

 

そんな彼女を嘲笑うかのように二対のメガビョーゲンはちゆのいる空間の温度を低くしていく。現在、温度はすでに氷点下を超えるほど。普通であれば凍死してもおかしくない温度だ。

 

「フフフ・・・」

 

ドクルンは酷薄な笑みを浮かべると、ちゆに向かって右手を突き出し優しく掴むような動作をする。

 

「ぁ・・・ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・げほげほっ・・・ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・」

 

ちゆの中で赤い何かが蠢き、かすれたような声が聞こえた後、まるで彼女から笛が鳴ったかのような呼吸音が聞こえてくる。気のせいか、胸を弱々しく抑える彼女の顔から点のような汗が滲み、苦しそうな表情に変わったような感じがする。

 

「メガビョーゲン、そのまま彼女の病気をどんどん重くしてください」

 

「「メガー・・・」」

 

ドクルンはその症状がどうなのか知っている。そんな意識が朦朧としているちゆを見て酷薄な笑みを浮かべ、メガビョーゲンに指示。このまま氷の空間にさらして病気に侵して力尽きさせれば、私の前で永遠に輝くだろう。そう想像して疑わなかった。

 

「フフフ・・・もうすぐあなたは永遠に私のもの・・・」

 

このまま病気で手の施しようがないくらいにしてしまえば、記憶すらも消えて私の人形と化す。そうなってしまえば、他の奴らのことなど考えずに、私のことだけを見てくれるだろう。

 

・・・ゆー!!・・・ゆー!!

 

「? 誰かここにきたようね・・・」

 

「・・・この声は」

 

ーーーーもしかして、あいつか?

 

スタッドチョーカーのブルガルはなんとなく察していた。この女を助けにくる輩で、こんな少年声の持ち主はあいつしかいない。

 

ちゆー!! どこペエー!?

 

「ペエ? ペエといえば・・・なるほど、あいつね・・・」

 

「ふん、間違いないブル」

 

この語尾をつけるやつといえば、もはやヒーリングアニマルのあいつしかいない。

 

「ちゆー!!!」

 

声が近くなってきた、もうすぐ側だろう。

 

まあ、ヒーリングアニマル一人きたところで何かができるわけではないので、わざと妨害するようなことはしないでおくことにした。

 

しばらくすると黒い影が見えてきて、小さな青いペンギンの姿をした妖精があらわれた。

 

「!? ドクルン!!」

 

「おや? きたんですかぁ? しかも、たった一人で?」

 

ニヤリとした顔で言うドクルンに、ペンギンの妖精ーーーーペギタンは警戒する。

 

「ちなみにあなたのパートナーはあそこにいますけどねぇ」

 

「あ、いた!! ちゆ!!」

 

「ひゅう・・・ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・」

 

ドクルンに言われて、奥を見るとペギタンはちゆを視界に捉える。しかし、彼女はぐったりとしていて弱々しく、すでに意識は朦朧としていた。

 

「ちゆー!!」

 

ペギタンは一目散にちゆへと近づこうとするが、氷の壁に取り憑いていて、擬態していたメガビョーゲンが姿を表す。

 

「!? メ、メガビョーゲンペエ!?」

 

「「メガー・・・!!」」

 

二対のメガビョーゲンはお互いの両手を組むと、腕を伸ばしてペギタンに向かって振り下ろす。

 

「うわ! うわぁ!!」

 

ペギタンは間一髪で交わすも、手を離したメガビョーゲンは手のひらでペギタンを叩きつけようとしてくる。

 

「ちゆがメガビョーゲンに囚われてるペエ!?」

 

ペギタンの言う通り、氷の空間は二対のメガビョーゲンによって守られており、その中にちゆが冷凍庫のような場所で凍えている。このままでは凍死するのも時間の問題だ。

 

「ええ、そうですよぉ。すなわち、メガビョーゲンの牢獄ってところですかねぇ。まあ、あそこでは極寒の空間と変わりませんがねぇ」

 

「ちゆをどうするつもりペエ!?」

 

ドクルンに抗議するペギタン。彼女はニヤけ顏を崩さない。

 

「決まってるじゃないですかぁ。その娘を私のコレクション第一号に加えるためですよぉ。死にそうな人間を氷漬けにするほど美しいものはありませんからねぇ・・・」

 

「お前のパートナーももうすぐ楽になれるブル」

 

「死にゆく人間の顔・・・徐々に弱まっていく動き・・・私は強がりな人間がそういう儚さに変わっていくのが大好きなんです・・・その娘は優しさに加えて凛々しさも持っている、そういう人間はうってつけのコレクションなんですよぉ・・・他人のことなど気にせずに夢中になれるくらいにねぇ・・・フフフ・・・」

 

ドクルンが何やらつらつらと話しているが、ペギタンには何一つ理解できない。それどころかこの幹部の思考回路がおかしく感じる。

 

考えて恐怖を抱く前に、ちゆのことを考えようと思考を振り払い、ちゆの方へと向き直る。

 

「ちゆ!! ちゆ!! しっかりするペエ!!」

 

「ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・ぅぅ・・・ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・」

 

ペギタンがちゆに呼びかけるも、彼女は意識が朦朧としているせいかペギタンの声に反応しない。時折苦しそうに呻き声を漏らしている。

 

ペギタンはちゆを助けようと壁に体当たりをしようとするが、二対のメガビョーゲンが片手の爪を振り回す。

 

「「メガー・・・」」

 

「うわあぁぁぁ!!」

 

攻撃が当たってしまい、床へと転がるペギタン。しかし、ペギタンは立ち上がって、メガビョーゲンへと向かっていく。

 

「「メガー・・・」」

 

「ああぁぁぁぁ!!!」

 

しかし、体当たりはまるで意味をなしておらず、逆にパンチでぶっ飛ばされる。

 

ドクルンはそれを無表情で見つめている。

 

「ふん、一人じゃ何にもできないくせに、足掻いてるブル。本当に見苦しい光景だブル」

 

「まあ、それがお手当てするものたちの使命というやつらしいからねぇ・・・たとえ、無駄な努力だとわかっていても足掻こうとする・・・自分の身の心配もせずに相手ばかりを気にする・・・とてもお手当てをする輩の行動ではないわねぇ・・・」

 

ーーーー自分が死んだら、元も子もないのに・・・。

 

ドクルンはペギタンの行動を酷評する。お手当てする人間は理解できない。特に看護師とかは、複数人構おうとする傾向があるが、それが自分の身を滅ぼしていることに気づいていない。相手をかまって、結局自分が怪我をしたり、病気になったりする・・・全くもって理解不能だ。

 

「「メガー・・・」」

 

「ああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ペギタンはメガビョーゲンに殴り飛ばされ、床へと転がる。先ほどから立ち向かっては吹き飛ばされ、立ち向かっては吹き飛ばされを繰り返している、すでに彼の体はボロボロだ。

 

「そんなに逝き急がなくても、彼女はもうすぐ私のものになりますよ。あなたが何かをする必要はありません」

 

「つーか、お前一人で何ができるんだ?ブル」

 

ドクルンが傷ついたペギタンを見下ろす。それも氷のように冷たい無表情で。

 

「ぅぅ・・・ぅぅ・・・ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・」

 

ちゆの呼吸が段々と弱くなってきている。このままでは本当に彼女はドクルンの病気に完全に侵されて、体調が元に戻らなくなってしまうだろう。

 

「助けな、きゃ・・・助けないとペエ・・・!!」

 

ペギタンはそう言いながら、立ち上がるもメガビョーゲンはお互いの手を組んで振り下ろす。

 

「ぐぅ!! うぅ・・・」

 

ペギタンは床に叩きつけられ、再び倒れ伏す。

 

「あなたが頑張っても、彼女は余計に苦しむだけでしょうに・・・このままに楽にしてあげたほうが一番いいですよ・・・もうすぐ、何も苦しまずに済むんですから・・・」

 

ドクルンは酷薄な笑みを浮かべながら言う。

 

「それは違うペエ!!」

 

ペギタンはそう叫びながらも、体を震わせながら再び立ち上がろうとしている。

 

「ちゆだって、生きたいと思っているはずペエ!! イップスで飛べなくなっても、ちゆは頑張ってたペエ!! 病気に冒されても、負けないように頑張っているはずペエ!!」

 

ちゆはぐったりして力が抜けているように見えても、本当は病気と戦っているはず。ラテ様だって頑張っていたんだ。ちゆだってそのぐらいの力はあるはずだ。

 

そんなペギタンの言葉に、ドクルンの頭の中に映像がフラッシュバックする。

 

ーーーーぐったりした私、彼女に似た藍色の髪の少女が担いで走っている。

 

ーーーーベッドの上で寝かされる私、遠ざかっていく藍色の髪の少女。手を伸ばす私。

 

「・・・・・・ドクルン?」

 

ドクルンは体を震わせると、周囲に氷塊を出現させてペギタンへと投下する。

 

「ああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ペギタンは直撃こそ受けなかったものの、吹き飛ばされて地面へと転がる。

 

「全くもって論理的じゃないんですよ、論理的じゃ・・・そんなことで私たちに勝てるとでもお思いですか・・・?」

 

ドクルンはそう言いながらペギタンにコツコツと歩み寄る。

 

「負けない気持ちがあれば・・・勝てる、ペエ・・・!」

 

「叶わなければ消えるんですよ、そんなもの・・・」

 

ドクルンはあくまでもペギタンの言葉を切り捨てる。気持ちだけで病気に勝とうなど、論理的じゃない。所詮は強がりと一緒だ。

 

「消えたりなんか、しないペエ・・・!!」

 

「強がりはもういいです・・・うるさいのでもう消えてもらえますか?」

 

論理的ではないとドクルンは冷たい表情で見下ろしながら、右人差し指から白いオーラを溜め始める。

 

「うぅ・・・!!」

 

「さようなら・・・」

 

ドクルンはそう言いながら白いビームを照射した。

 

ドォーン!!!!!

 

白くて冷たい霧のような煙が晴れた後、照射した場所に残っていたのは・・・・・・ただの氷だった・・・。

 

「!! 消えた・・・」

 

「どこ行ったブル!?」

 

周囲を見渡すドクルン。すると、そこへ明るい声が聞こえてきた。

 

「こっちだよ!!」

 

声が聞こえた方向を向いてみると、そこにはペギタンを抱えたキュアスパークルの姿が。

 

「はあぁぁぁぁ!!!」

 

別方向からも女性の声が、そちらを向くとハート型の光線が迫っていた。

 

ドクルンは左足を叩きつけて、氷の壁を作るとハート型の光線を防ぐ。しかし、受け止めた瞬間、エネルギーと氷の壁は爆発を起こし、ドクルンは思わず腕で顔を覆う。

 

「っ・・・」

 

風を切ったような音がドクルンの横から聞こえ、過ぎ去った方向へ向くとキュアグレースの姿もあった。

 

「ペギタン、大丈夫?」

 

「ペエ・・・二人とも来てくれたペエ・・・」

 

「当たり前だよ! あたしたち、友達じゃん!!」

 

グレースとスパークルが来てくれたことに、安堵の声を漏らすペギタン。

 

「でも、早くちゆを助けないと・・・!!」

 

ペギタンが視線を向ける先を見ると、ちゆが氷の空間にとらわれている。その中にいる彼女はすでにぐったりしていた。

 

「やっときましたか・・・」

 

ドクルンは二人の姿を視認すると、白衣にポケットを入れていつもの表情を見せ始める。

 

「でも、できるんですかぁ? 彼女のお手当て」

 

グレースとスパークルがちゆの方をみると・・・。

 

「ぅぅ・・・ぅぁ・・・ひゅぅ・・・ぅぅ・・・」

 

ちゆはもはや弱々しく、今にも呼吸が止まりそうな勢いだ。肩や髪が若干凍りついているように感じる。

 

「ちゆちゃん!!」

 

「ちゆちー!!」

 

「ペギタン、ここで休んでて!!」

 

グレースとスパークルはちゆの方へと駆けつけようとするが、二対のメガビョーゲンが手を組んで二人へと振り下ろす。

 

「!!」

 

二人は飛び退いてかわすも、メガビョーゲンは手を離すと手のひらを広げてそれぞれ左右に動かして、叩きつけようとする。

 

グレースは飛び退いた後に、飛び上がると飛び蹴りのモーションをしてメガビョーゲンへと突っ込む。

 

「はあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「「メガ・・・!?」」

 

真ん中の握っているもう一つの手へと当たり、よろけるメガビョーゲン。

 

「はぁっ!!」

 

「「メガー!?」」

 

交わしたスパークルがさらに黄色のエネルギーを放ち、追撃をかける。

 

「「キュアスキャン!!」」

 

キュアグレースのステッキであるラビリンの目が光る。これはメガビョーゲンの中にいるエレメントさんを見つけるためのもの。なのだが・・・。

 

「え・・・なんで? エレメントさんが見つからない・・・!?」

 

「どういうことラビ・・・!?」

 

戸惑うグレース。メガビョーゲンであれば、普通はエレメントさんを見つけ出せるはずなのだが、なぜか二対になっているメガビョーゲンのどちらにも存在しなかった。

 

「うぇぇ!? 嘘でしょ!?」

 

「これじゃあ、メガビョーゲンが浄化できないニャ・・・!」

 

どうして・・・? そう考えているうちに、メガビョーゲンはお互いの手を合わせると赤いオーラを集め始め、球状のオーラを放った。

 

「「メガー!」」

 

「「ああぁぁぁぁ!!!」」

 

爆発したオーラに吹き飛ばされる二人。立ち上がろうとするグレースに、メガビョーゲンはお互いの手のひらをそれぞれ二人へと叩きつける。

 

「きゃあぁ!!」

 

「うわあぁぁ!!」

 

吹き飛ばされて地面へと転がる二人。

 

「グレース! スパークル! どうしよう、僕はどうすれば・・・!」

 

ペギタンは慌てながらちゆを見る。

 

「ぅ・・・ひゅぅ・・・ぅ・・・ぁ・・・」

 

彼女の呼吸が弱々しく、呻き声が多くなっていく・・・。病気に蝕まれ続けたせいか、体力も落ちていて、もうあと数分で呼吸が止まるだろう。すでに凍死寸前でもある。

 

「ふむ、どうやら今回のメガビョーゲンは特殊なようですね・・・プリキュアが戸惑っています」

 

ドクルンはその様子を見て、顎を当てる。よく見通してみれば、エレメントさんがいる様子がない。

 

「早く助けないと・・・!」

 

グレースとスパークルは再び立ち上がる。

 

「なぜ助けようとするのですか? 楽にしてあげればいいじゃないですか。別に助けを求めているわけでもないのに・・・」

 

「大体、その女がこんなことになったのも、そこの泣き虫ペンギンがほったからしにしたからだろ。そいつをそうなるまで助けに来ないなんて、薄情な奴だブル」

 

ドクルンは冷めた言葉で二人への疑問を提示し、ブルガルはペギタンを非難する。

 

「!! 僕が、一緒にいなかったから・・・!」

 

ペギタンはスタッドチョーカーになっている同僚に指摘されて、落ち込んだ様子を見せる。

 

「友達だからだよ・・・!!」

 

「はい・・・?」

 

「ちゆちゃんは私の大事な友達なの! 私が無茶をしてときだってアドバイスをくれるし、私のことを気にかけてプリキュアとして一緒に戦ってくれたの!! 今度は私がちゆちゃんを助ける番なの!!」

 

「ちゆちーは最初、怖いと思ってた。でも、あたしのことを考えて言ってるってわかってから、優しいなって思うようになったんだよ。そんな友達を放っておけるわけないじゃん・・・!!」

 

「それにペギタンは、ちゆのことを本気で心配していたラビ!! だから、薄情な奴だなんて、ラビリンは思わないラビ!!」

 

「本当はペギタンは強い奴なんだよ!! だから、あんなにボロボロになってまで自分のパートナーを助けようとしたニャ! そんな思いをお前らがバカにしていいもんじゃない!! 俺らの友達をバカにするな!!」

 

グレースとスパークルはドクルン、ラビリンとニャトランはブルガルにそう反論すると、メガビョーゲンへと向かっていく。

 

「グレース・・・スパークル・・・ラビリン・・・ニャトラン・・・」

 

ペギタンは4人の言葉に瞳をうるうるとさせると、意を決して自分ができることを考えるとちゆの方を向く。

 

「ちゆー!! 病気に負けるなペエ!! 二人が頑張ってくれているペエ!! 僕も一緒に居るペエ!!」

 

ペギタンはちゆに大声で呼びかける。自分はパートナーがいなければ、非力なヒーリングアニマルだ。怪物相手に何もできはしない・・・。でも、彼女に声援を送って、自分の中の病気と戦う勇気を少しでも与えられれば・・・。そう思い、声援を送り続ける。

 

「やれやれ、それが残酷だと言っているのですよ・・・本当に論理的じゃない・・・」

 

「ふん、パートナーを得たからって随分と偉そうなことを言うようになったブル・・・」

 

人間はよくわからない。病気を治そうとして苦しめるくらいなら、いっその事楽にしてあげれば苦しまずに済むものを、わざわざ治して生かそうとする。その理由が大切だからだとか・・・医者の使命だとか・・・ドクルンは論理的ではないと一つも理解できなかった。

 

「はぁっ!」

 

「やあっ!」

 

二人はメガビョーゲンが振るう手を蹴りや拳で弾き飛ばし、飛び上がって同時に蹴りのモーションへと入る。

 

「「はあぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

「「メガ!?」」

 

お互いの顔へとそれぞれの蹴りが直撃し、よろけて怯むメガビョーゲン。そのとき、握っている両手から赤黒いオーラが漂っていて、何やら顔みたいなものがチラチラと出てきそうになっているのが見えた。

 

「!? あれって、もしかして・・・!?」

 

グレースは何かに気づくと、ステッキを構えて肉球をタッチする。

 

「ラビリン!」

 

「ラビ!」

 

「「キュアスキャン!!」」

 

キュアグレースのステッキであるラビリンの目が光る。再度調べてみると、握っている両手から漂う赤黒いオーラからサーチが集中していく。

 

「見つけたラビ! 氷のエレメントさんラビ!」

 

氷のエレメントさんが苦しんでいるのを発見した。

 

「え? どういうこと? エレメントさん、いたの?」

 

スパークルは見つからなかったはずのエレメントさんが見つかったことに疑念を抱いていた。

 

「そうか!エレメントさんはいなかったんじゃない! あいつの中に隠れてたんだ!!」

 

「あ・・・そ、そういうこと!!」

 

スパークルは理解しているのかは不明だが、とにかくエレメントさんを発見した。これで浄化をすることができる。

 

しかし、赤黒いオーラは握っている両手の中に引っ込もうとしていた。

 

「ああ! また隠れちゃうラビ!! グレース!!」

 

メガビョーゲンを引きずり出さなければ、そう思ったグレースは実りのエレメントボトルをステッキへとかざす。

 

「実りのエレメント!!」

 

ステッキにピンク色のオーラを纏った剣を出現させると、一目散に飛び出していく。

 

「はあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

メガビョーゲンに接近し、握っている両手を剣で切り伏せる。すると、二対のメガビョーゲンからピク色のオーラが点滅する。

 

「「メ、メガー!!??」」

 

「!? うわぁ!?」

 

二対のメガビョーゲンが握っている両手から赤黒いオーラが飛び出し、グレースは間一髪で避ける。

 

「メガー・・・」

 

二対のメガビョーゲンが氷と化して動かなくなったのと引き換えに、飛び出してきたのは不健康そうな顔をしている4本の棘が生え、悪魔の赤いツノとサソリの尻尾を生やした比較的小柄なメガビョーゲンだった。

 

無理やり引きずり出されたせいなのか、目を回して空中を漂っている。

 

「え、何、あのちっちゃいの!?」

 

「あれがどうやら本体みたいだぜ!」

 

スパークルは驚いたように言うも、ニャトランは確信を得ているのかあまり驚かない。

 

「ほう・・・そういうことですか・・・最近のメガビョーゲンは進化していますねぇ・・・」

 

「何を感心しているんだブル」

 

ドクルンはニヤけたような表情で言うも、ブルガルが呆れていた。

 

「スパークル、今だよ!!」

 

「あ、うん!!」

 

スパークルは我に帰ると、菱形の菱形の模様が描かれたエレメントボトルをそれぞれステッキにかざす。

 

「エレメントチャージ!!」

 

そう言いながら光るステッキの先をハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「ヒーリングゲージ上昇!!」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングフラッシュ!!」

 

スパークルはそれぞれ叫びながら、ステッキをメガビョーゲンに向けて黄色の光線放つ。光線は螺旋状になっていた後、メガビョーゲンに直撃した。

 

その光線はメガビョーゲンの中に入ると、螺旋状のエネルギーは手へと変化して、メガビョーゲンの中にいた氷のエレメントさんを優しく包み込む。

 

菱形状にメガビョーゲンを貫きながら、光線はエレメントさんをそれぞれ外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「お大事に」」

 

氷のエレメントさんは元の場所に戻っていくと、氷と化した二対のメガビョーゲンの体は光となって消滅。

 

「すぅ・・・すぅ・・・」

 

ちゆの凍りついていた髪と肩は元に戻り、苦しそうな表情から安らかな表情へと変わる。赤くうごめく何かは沈静化し、寝息も穏やかなものとなった。

 

氷の空間は消滅し、壁に横たわるちゆだけが残された。

 

「ちゆちゃん!!」

 

「ちゆちー!!」

 

ちゆへと駆け寄るグレースとスパークル。そんな様子をドクルンは何とも言えない表情で見つめていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・ドクルン、帰るブル」

 

「・・・ふん、まあいいでしょう」

 

ドクルンにしては珍しく不機嫌そうな声を漏らすと、そのまま彼女たちに背を向けるが、ふとちゆの方を振り向く。

 

「フフフ・・・」

 

ちゆの中の蠢く何かがちゃんとあることを確認すると、不敵な笑みを浮かべながらその場から消えた。

 




あまり長くなってしまったので、今回はここで切ります。
感想・評価、お待ちしてます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話「氷解」

前回の続きです。
今回は後日談みたいなものと思ってもらえればと思います。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

ちゆは寒さと苦しさの中で意識が朦朧としていく・・・。それはまるで、もう死にたいと思うほどの苦しさ・・・自分がいつ死ぬのかもわからない・・・そんな恐怖さえも彼女の心を蝕んでいた・・・。

 

ザザ・・・ザザ・・・ザザ・・・

 

そこにノイズが走っていった後、映像が徐々にクリアになってある映像を映し出す。

 

ーーーー幼い頃、浮き輪で海を泳ぎ、空を見上げる自分だ。

 

小さい頃は泳ぐのが好きだったちゆ。いつものように海へ出て、夢中で泳いでいたとき、気がついたらそこは海と空の色も相まって、青一色の美しい景色だった。

 

このまま海を越えれば、空に届きそうで・・・空を泳いでみたい・・・ちゆはそう思った・・・。

 

空に向かって飛べば、きっと空も泳げるーーーーそんな思いが、ハイジャンプを始めようというきっかけにもなった。

 

自分が限界を超えたとき、この海を思い出せば、また飛べる・・・また飛びたいって思う・・・海と空が飛び越えていけると思った。

 

「ぁ・・・ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・」

 

まるで肺から空気が抜けていくかのように、苦しさが増し、息がうまくできなくなる・・・。

 

ザザ・・・ザザ・・・ザザ・・・。

 

映像に再びノイズが走り、クリアになってきたかと思うと、別の映像を映し出す。

 

ーーーーペットボトルのようなロケットを空に打ち上げようとしている、一人の少女。

 

・・・あれ? こんなきおく、あったかしら・・・? なにやらきおくがあいまいだ。

 

そういえば、ハイジャンプのれんしゅうちゅうに、メガネをかけたこがなにをやっているのかがきになって、こえをかけたことがあるような・・・。

 

それで、そのこはわたしにびしょうをうかべながら、こっちをむいてくれていたような・・・。

 

あまりおぼろげでおもいだせない・・・しっているようなきがするけど・・・だれだったかしら・・・?

 

「ひゅう・・・ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・」

 

く、苦し・・・・・・いきがすえていない・・・さんそがたりない・・・・・・。

 

ザザ・・・ザザ・・・ザザ・・・

 

映像にノイズが走ったかと思うと、また別の映像が映し出された・・・。

 

ーーーーベッドに横たわる少女。私はその少女を見ている。

 

・・・これもおぼえがない・・・このこはいったい、だれなのだろうか・・・?

 

「ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・ぅぅ・・・ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・」

 

くるし・・・クルシイ・・・びょうきになる、って、こんな、に、クルシかった、の・・・?

 

ーーーーゆ!! ちゆ!! しっかりする・・・!!

 

だれかがわたしをよぶこえが、きこえてくる・・・。

 

クルシイ・・・ツライ・・・クルシイ・・・。

 

・・・こんなクルシイの、いらない・・・そのこでも、いいから、はやく、なんとか、シ、て、ホシ、イ・・・。

 

モウ・・・コロ、シ、テ・・・ホシ・・・イ。

 

「ぅぅ・・・ぅぅ・・・ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・」

 

クルシ・・・コロ、シ・・・クルシ・・・イ・・・コロ・・・シ、テ・・・。

 

ーーーーそれは違うペエ!!

 

声が今度ははっきりと聞こえた・・・コノ、コエ、ハ・・・。

 

ーーーーちゆだって、生きたいって思っているはずペエ!!

 

・・・オボエガ、アル、コノ、コエ、ハ・・・。

 

ーーーーイップスで飛べなくなっても、ちゆは頑張ってたペエ!!

 

ソウダ、コノコ、ハ、ワタシ、ノ、パートナ・・・ノ・・・。

 

ーーーー病気に冒されても、負けないように頑張っているはずペエ!!

 

ペギ・・・タン・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

ウレシイ・・・ペギタンガ・・・ワタシヲ、オモッテ、クレテ、イル、ノ、ハ、ウレシイ・・・。

 

「ぅぅ・・・ぅぁ・・・ひゅぅ・・・ぅぅ・・・」

 

デモ・・・モウ・・・チカラガ・・・ハイラナイ、ノ・・・。モウ、ダメ、カモ・・・。

 

ワタシ、ハ・・・ココデ、シンデ、シマウノ・・・ダロウカ・・・?

 

・・・・・・・・・・・・。

 

ーーーーちゆちゃん!!

 

ーーーーちゆちー!!

 

別の声が聞こえてくる・・・二人の少女の声・・・。

 

コノコエ、ハ、エット・・・ダレダッタ・・・カシラ・・・。

 

「ぅ・・・ひゅぅ・・・ぅ・・・ぁ・・・」

 

ァ・・・モウ、ジブンノ、カ、ラ、ダ、ガ・・・シンデ、イクノガ、ワカル・・・。

 

ゴメン、ネ、ミンナ・・・ゴメン、ナサイ、ペギ・・・タン・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

ーーーーちゆちゃんは私の大事な友達なの! 私が無茶をしてときだってアドバイスをくれるし、私のことを気にかけてプリキュアとして一緒に戦ってくれたの!! 今度は私がちゆちゃんを助ける番なの!!

 

ーーーーあたしのことを考えて言ってるってわかってから、優しいなって思うようになったんだよ。そんな友達を放っておけるわけないじゃん・・・!!

 

ザザ・・・ザザ・・・ザザ・・・。

 

声が聞こえてきたと同時に、ノイズが走り映し出していく映像。

 

ーーーー日が落ちた時、心配してくれる二人の少女・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

アア・・・ソウダ・・・コノコエハ・・・ノドカト、ヒナ、タ・・・・・・。

 

ワタシノ・・・タイセツ、ナ、トモダ、チ・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

ワタシ、ドウシテ・・・・・・プリキュア、ヲ、シタイ、ッテ、オモッタノ・・・?

 

・・・・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

彼女の脳裏に浮かぶのは、グレースがメガビョーゲンに苦戦し、ペギタンに手を差し伸べた姿・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

ソウダ、ワタシ・・・ハ、ビョウキデ、クルシムノ、ヲ、ホウッテオケ、ナイ、カラ・・・プリキュア、ニ、ナッタンダ・・・。

 

グレースノ、ノドカノ、チカラニ、ナリタイッテ・・・。

 

ソシテ、ヒナタモ、プリキュアニ、ナッテ、イッショニ、オテアテシ、タイッテ、オモッタンダ・・・・・・。

 

ーーーーちゆー!! 病気に負けるなペエ!! 二人が頑張ってくれているペエ!! 僕も一緒に居るペエ!!

 

・・・ペギタンノ、コエ、ガ、キコエ、ル・・・。ワタシヲ、オウエン、シテクレテ、イル・・・。

 

・・・ソウダ、ワタシモ・・・わたしも、がんばらないと・・・!!

 

ちゆは自分を救うために戦うみんなのために、病気に抗った・・・。負けてはいけないと、自分の心に働きかけた・・・。

 

・・・・・・・・・!!

 

・・・・・・・・・!!

 

・・・・・・・・・!!

 

・・・・・・・・・!!

 

念じ続けていると、周囲の背景が変化し、海と空が広がる光景へと変わる。

 

浮き輪で海へと浮かぶ自分は、体から苦しさが抜け、楽になった気がした。

 

ここはどこだろう・・・もしかして、空の上なのかしら・・・?

 

水面を見ると、そこには白い雲があり、上を見上げれば真っ青な海が一面に広がっている。

 

私は空へと、空の上で、泳いでいるのか・・・?

 

水面をよく見ると、そこには見たことのある自分の顔が映っていた。

 

この姿って、小さい頃の、私・・・・・・?

 

すると、自分の上から光が差し込み始める。

 

ーーーちゆちゃん!!

 

ーーーちゆちー!!

 

ーーーちゆー!!

 

光から聞こえてくる声、暖かい・・・・・・みんなの声は、こんなにも、暖かかったんだ・・・。

 

ちゆは安堵の表情を浮かべながら、光へと手を伸ばした・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う・・・・・・う、うーん・・・・・・」

 

ちゆは目をピクピクさせた後、ゆっくりと開き始める。

 

ぼやけた視界が徐々にクリアになっていき、そこに映っていたのは友人とパートナーの姿だった。

 

「ちゆちゃん!」

 

「ちゆちー!!」

 

うるうるとした瞳をさせつつも、こちらを安堵の表情で見てくる二人。

 

「あ・・・こ、ここは・・・?」

 

「ちゆちゃんのお家だよ」

 

ちゆは体を起こすと周りを見渡す。どうやら自分の部屋の布団で寝かされていたようだ。

 

「ちゆちー、本当によかったぁ・・・メガビョーゲン浄化しても元に戻らなかったから、死んじゃったのかと思っちゃったよー!」

 

ひなたは涙目になりながら、ちゆに抱きつく。人の温もりはこんなに温かいんだなと改めて思った。

 

「ちゆちゃん、体調はどう?」

 

のどかが不安そうな顔で聞いてくる。

 

「ええ・・・もう大丈夫、すっかり元気よ」

 

のどかはちゆの言葉を聞くと、少しな不安な気持ちが晴れた。

 

二人はちゆに私が眠っている間の事情を話してくれた。

 

ビョーゲンズから自分を解放してくれたが、ちゆはまだぐったりしていて、体を触ってみるとすっかりと冷え切っていた。ビョーゲンズの病気はなくなったようだが、現実の病気を発している可能性があって、急いで私を自宅まで一緒に運んだという・・・。

 

「ちゆちーのママにごまかすの大変だったよー。ビョーゲンズのことは言えなかったしね・・・」

 

「だからって、冷凍倉庫に誤って閉じ込められたなんて・・・ごまかしにしては無理があるだろ・・・」

 

「あはは・・・」

 

そのあと、ちゆの熱を体温計で測ってみたところ、熱が40度を越えていたため、急いでトレーニングウェアを脱がせてパジャマに着替えさせ、体を拭いたり、濡れタオルを交換するなどして、付きっ切りで看病したのだ。のどかとひなたは来る日も来る日も沢泉旅館を訪れては看病を続け、彼女が意識を取り戻すまで、一週間もかかったという。

 

「私・・・一週間も眠ってたの・・・?」

 

「うん・・・」

 

「結構な重症だったラビ・・・のどかとひなたも体調を崩さないか心配だったラビ・・・」

 

ラビリンも一緒に付き添ってはいたが、正直、虚弱な体質のパートナーの体調が一番心配だった。この前だって、病気に侵されたばっかりだったのに。

 

だが、こうしてちゆは元気を取り戻すことができた。しかし、ちゆには一つ気になることがあった。

 

「? ペギタンは・・・?」

 

「ああ、それがよぉ・・・」

 

「ちゆがあんな目にあったのは自分のせいだって落ち込んでるラビ・・・」

 

ちゆは二人からペギタンが会わせる顔がないということを聞かされ、不安げな表情へと変わる。

 

ちゆは立ち上がってペギタンを探そうとするが、病気に侵されていた後遺症が残っているのか、足元がふらついてしまう。

 

「あ・・・!」

 

「ああ、ちゆちー!!」

 

「ちゆちゃん、治ったばかりなんだから寝てないと・・・!」

 

のどかとひなたが倒れそうなちゆを支えようとする。しかし、ちゆは足に力を入れて前へと進もうとする。

 

「二人とも、ありがとう・・・でも、私は悲しんでいるパートナーがいるのに・・・放っておけないの・・・」

 

笑顔を見せるちゆに、二人は顔を見合わせる。そして、ある一つの提案をする。

 

「だったら、一緒にペギタンのところに行こう? フラフラなちゆちゃんは見ていられないから・・・」

 

「そうだよ、ちゆちー。水臭いじゃん! あたしたちも一緒に励ますよ、ペギタンを!」

 

のどかとひなたが支えてくれる、かけがえのない友人二人が支えてくれている。

 

ちゆは二人に支えられながら、ペギタンを探しに行った。

 

一方、ちゆのパートナーであるペギタンは・・・。

 

「はぁ・・・・・・」

 

彼がいたのは、ちゆとパートナーとなり、メガビョーゲンを一緒に浄化した場所だ。

 

「ちゆ・・・・・・」

 

ちゆが目を覚ましたことを知らないペギタンはため息をついていた。

 

ペギタンはここで自信のない自分に声をかけてくれた彼女に勇気を分けてもらった、そして一緒にプリキュアをすることができたのだ。

 

しかし今回、そのちゆを危険な目に合わせてしまった。ちゆを一人にしてしまったことで、ビョーゲンズに誘拐されるという隙を作ってしまったのだ。

 

ペギタンはそれに責任を感じ、ちゆに目を合わせることができずに飛び出していってしまったのだ。

 

僕がなかなか助けに来ないから、ちゆは本当は怒っているのかもしれない・・・そう思うと彼女にどのような顔をして会えばいいのかわからなかった。

 

と、そこへ一人の少女がペギタンの隣に座った。

 

ペギタンは誰かと思い、見上げてみると・・・・・・。

 

「ち、ちゆ・・・」

 

「おはよう、ペギタン。隣、座るわね」

 

笑顔で話しかけてくれるちゆ。ペギタンは気まずそうに目をそらす。

 

しばらくの沈黙の後、口を先に開いたのはちゆだった。

 

「ペギタン」

 

「・・・・・・ペエ?」

 

「あのときは、ありがとう。とても嬉しかった」

 

「・・・な、なんのことペエ?」

 

ちゆからお礼を言われる理由がペギタンにはわからなかった。だって、僕は苦しむちゆを前に何もできていない・・・ただ声を送っただけ・・・結局は彼女を危険な目に合わせただけだ。

 

しかし、ちゆはそんなことも気にせずに話しかけている。

 

「私が捕まってたとき、応援してくれたでしょ。もちろん、のどかやひなたも一緒に。あの声援、聞こえてた。とても嬉しかったの、意識がなくなってきても、みんなが近くにいるんだなって」

 

「・・・でも、僕はちゆを危険な目に合わせたペエ・・・これ以上、ちゆに迷惑をかけられないペエ・・・」

 

ペギタンの心はまだ晴れなかった。このまま一緒にいても、また彼女を傷つけるだけ。だったら、いっその事、パートナーを解消した方がいいのではないかと思った。

 

しかし、ちゆの心はそんなことでは揺れなかった。

 

「いいじゃない、迷惑かけたって」

 

「ペエ・・・?」

 

「友達でいたって、パートナーになったって、迷惑をかけることだっていっぱいあるもの。私だってビョーゲンズに捕まってペギタンに迷惑かけたでしょ」

 

「・・・僕もちゆを助けることができなくて、迷惑をかけたペエ・・・」

 

「じゃあ、これでお互い様ね」

 

ちゆはペギタンを優しく拾い上げて、自分の胸に抱く。

 

「ペギタン、難しいことはわからないけど、ペギタンの失敗は私の失敗だもの。私はペギタンだけにそんな重荷を背負わせることなんかできないわ。私だってプリキュアとして一緒に戦ってるんだもの。だから、あんまり自分だけ責めないで・・・私たちは二人で一人、一緒になって支え合うパートナーなんだから・・・」

 

「ちゆ・・・・・・」

 

ペギタンは瞳をうるうるとさせ、ちゆの胸に抱きつく。

 

「ありがとうペエ・・・」

 

「うん・・・・・・」

 

「ちゆ・・・?」

 

「ごめんね・・・しばらく、こうさせて・・・」

 

二人は抱き合っっていたが、ペギタンはちゆの体が震えているのに気づいた。顔を見上げるとちゆは少し涙目になっているのが見えた。

 

「・・・・・・ペエ」

 

二人はそれからしばらく一緒に抱き合っていた。お互いの温もりをもっと感じ合いたいから。

 

ビョーゲンズに囚われて・・・一人で冷たいところに閉じ込められて・・・意識がなくなっていくときは寂しかった・・・。それが孤独なんだと・・・。パートナーと、みんなといる時間がこんなに温かいなんて、思ってもみなかった。

 

今回のことで、ちゆとペギタンはパートナーとしての絆をより一層深めたのであった。

 

「あっちはなんとかなりそうだな」

 

「ちゆちーとペギタン、仲直りできてよかったぁ」

 

「ペギタン、よかったラビ・・・」

 

「ふふ・・・」

 

のどかたち4人はその様子を見守っていて微笑ましく思い、二人の元へと駆け出していった。

 

ちゆも、彼女たちさえも知らない、ちゆの中に蠢く何かが光っているのも知らずに・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・苦しいのか? 辛いのか?

 

・・・自由に走り回りたいか?

 

・・・いい憎しみだ。まるで地球を憎んでいるとも思える。

 

・・・寂しいと思うのであれば、心などいっその事なくせばよいのだ。

 

・・・我が全て楽にしてやろう。自由に行動できるように力を与えてやる。

 

・・・その代わり、我のために働き、我のために尽くすのだ。

 

・・・地球を我らの住む世界のような、快適な環境にするために。

 

・・・我の大切な娘としてな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

ドクルンは自身が広げた本の上で、目を覚ました。

 

どうやら本を読んでいるうちに、眠ってしまったらしい。

 

ビョーゲンズだから疲れを感じることなんてないが、やはり眠っていないと何かしらの不調は感じるらしい。

 

それにしても、何か懐かしい夢を見た気がする。もう、いつの日かは忘れてしまったけど・・・。

 

「ドクルン、起きてたのかブル?」

 

「ああ・・・ブルガル」

 

声が聞こえた方に視線を向けると、お皿にリンゴを乗せて持ってきたブルガルの姿があった。

 

「・・・・・・・・・」

 

ドクルンの頭の中にフラッシュバックするさらなる映像があった。

 

ーーーーペットボトルのようなものを打ち上げようとしている私、その隣にいる藍色の髪の少女。

 

「ドクルン・・・?」

 

「あ・・・ええ、どうかしましたか?」

 

「さっきから様子がおかしいブル。本を読んでいるときだって、俺が話しかけてもずっと上の空だったブル」

 

スタッドチョーカーのブルガルが、相棒のことを心配する。

 

ここ最近のドクルンはどうもおかしい。病気を蝕むことよりも、何か別の考えごとをしている。今回の作戦もあのちゆというプリキュアの少女を閉じ込めて病気にしただけ、少しうつつを抜かしているような感じがする。

 

「別に・・・何でもありませんよ。私は正常通りです」

 

「噓だブル。ここ最近はあんな女のことばかり考えてるし、何かと自室に籠って何かをやっているし、様子がおかしいのは丸分かりだブル」

 

本へと視線を戻そうとするドクルンに、机の横にリンゴを置いたブルガルが冷静に反発する。

 

「・・・・・・あなたにごまかしは通用しませんね」

 

ドクルンはしばらく沈黙した後、幹部たちにも見せたことがないような悲しそうな笑みを浮かべる。

 

「最近の私は少し冷静さを欠いていたのかもしれませんね。あなたにも心配させ、作戦にクルシーナも巻き込んだ・・・飛んだ不始末ですね・・・ちっとも私らしくない。以後、気をつけるようにします・・・」

 

ドクルンはつらつらと言葉を並べて本を読むことに戻ろうとすると、ブルガルは彼女の胸に抱きつく・・・。

 

「? どうかしたのですか?」

 

「・・・寂しいなら寂しいと言え。あんな健康的な女と一緒にいるより、俺がついてるブル。俺がいつもそばにいることも、思い出して欲しいブル・・・」

 

ドクルンはブルガルの突然の行動に意外そうな表情を見せる。ブルガルが心情を吐露すると、しばらく憮然とした様子を見せた後、優しい微笑を見せる。

 

「あなた程度では、数パーセントの気持ちにすらなりませんよ・・・でも・・・」

 

ドクルンは相棒を優しく抱きながら、頭撫でる。

 

「・・・ありがとうございます」

 

ドクルンが静かな声で感謝の言葉を述べる。いつから一緒にいたかは覚えてないけど、この子はいつもそばにいてくれたはず、少しは気持ちが晴れた、気がする・・・。

 

「あら、あんた、帰ってたの?」

 

扉が開かれる音が聞こえると、クルシーナが中へと入ってきた。

 

「クルシーナ?」

 

「お父様が呼んでたわよ・・・って、何、気持ち悪いことしてんの?」

 

クルシーナは、ドクルンとブルガルが抱き合っている姿が視線に映り、ジト目を向ける。

 

「・・・あ、こ、これは、気の迷いで・・・!!」

 

「気の迷いとかで、抱き合ったりなんかするウツ?」

 

ブルガルが慌てて体を離し、顔を赤らめながら言い訳をしようとすると、ウツバットが呆れたような声を出す。

 

「どうせ嫌らしいことでも考えていたウツ。初々しいやつだウツ」

 

「う、うるさいブル!! 万年いじられてるウツバットのくせに生意気だブル!!」

 

嫌味っぽくウツバットが返すと、ブルガルが怒り口調で反抗する。

 

「別にお前の趣味なんかどうでもいいし、お前らの喧嘩なんか見たくねーんだよ」

 

「趣味じゃないブル!!」

 

クルシーナが不機嫌そうな声で返すと、ドクルンに向き直る。

 

「それよりもドクルン、このアタシを使ったんだから作戦はうまくいったんでしょうね?」

 

「ええ、もちろんですよ。彼女に氷を植え付けることには成功しましたしねぇ。もちろん、彼女のデータ搾取もねぇ」

 

ドクルンはメガネを上げながら、いつものようなふざけた口調で言う。

 

「・・・アタシだけ損してるような感じがするのは正直腹立たしいけど、まあうまく言ったんならいいわ」

 

「いいのかウツ?」

 

「うるさいの、いちいちお前はッ」

 

「や、やめろウツ!! 顔が、顔が伸びるウツー!!」

 

ウツバットが呆れたように言うと、クルシーナが不機嫌そうな声で帽子を横に引っ張る。

 

気が済むまで顔を引っ張った後、外へと出ようとする。

 

「あと、お父様が呼んでたからね。行ってあげなさいよ」

 

クルシーナはウツバットにも見せたことがないような笑みを浮かべたあと、部屋を出て行った。

 

「・・・ふぅ」

 

ドクルンは息を吐くと、本へと視線を戻そうとするが、ブルガルが自分の机の横にあるリンゴをこちらへとずらそうとしているのが見え、視線を移す。

 

「・・・なんですか、これは?」

 

「リンゴだブル」

 

「それはわかるんですが、どうしたんですか? これ」

 

ドクルンは本を机の上の横にずらしながら言う。

 

「クルシーナが差し入れだと、なんかいいリンゴができたと言って、俺に渡してきたブル」

 

「ふむ」

 

ドクルンはリンゴの皿を手に取ると、メガネを上げながらじっくりと観察する。

 

そういえば、クルシーナは植物や作物の世話をしているはずでしたね・・・。

 

お皿からリンゴを一切れ摘み上げると、口へと運んでいく。シャクシャクと口の中で音が聞こえ、味が広がってくる。

 

「・・・甘いですねぇ。あの娘と同じで」

 

ドクルンはリンゴをさらに口に運びながら、本へと視線を移した。

 

「・・・・・・ふん」

 

その様子を扉越しで腕を組みながら聞いていたクルシーナは安堵の笑みを浮かべていた。

 

その隣にはいつの間にか外にいたイタイノンもいて・・・・・・。

 

「ドクルン、大丈夫?なの・・・・・・」

 

「大丈夫でしょ。いつものドクルンじゃない」

 

クルシーナはそう言うとその場を立ち去っていく。心配をしていたイタイノンは閉まっているドアを一瞬だけ見つめると、クルシーナの後を追うようについていくのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話「装飾」

原作第9話がベースとなります。
ビョーゲンズもお洒落をする、のか?


ビョーゲンキングダムーーーーそこでは、シンドイーネが何やら鏡を見ながら何かをしている模様・・・。

 

どうやら鏡の前で自身の悪魔のツノに、ドクロの形をしたアクセサリーの、それぞれ色の違うものをつけておめかしをしているようだ。

 

「うーん、どっちの色がキングビョーゲン様のお好みかしら?」

 

年頃の女の子みたいにお洒落をして見比べていると、そこに嫌味な声が聞こえてくる。

 

「へっ、好みもなにもあるか」

 

「は・・・?」

 

「キングビョーゲンと言っても、今はボヤッとした塊だ」

 

「はぁ・・・!?」

 

背後から声をかけたのはグアイワルだ。今日も上司に心酔ばかりしている彼女に小馬鹿にしたような言葉を吐いてくる。

 

「いいんですぅ~!! ちゃんとあたしが体を取り戻すんだから!!」

 

「へっ、せいぜい頑張るがいい」

 

噛み付こうとするシンドイーネに、最後まで小馬鹿にしたような言葉を返してその場を去っていく。

 

「~~!! 何よぉ~!!」

 

グアイワルの言葉に気分を害したシンドイーネは、鏡に向き直りながら不機嫌そうな顔をする。

 

「・・・おばさんが、何、似合わないことしてるの?」

 

茶化されてただでさえ不機嫌なのに、さらに呆れたような声が聞こえてきたかと思うと、再び振り返ってみればそこにはこちらをジト目で見るイタイノンの姿だった。

 

「私だっておしゃれぐらいしますぅ~!! っていうか、おばさん言うな! あんただって小娘じゃないの!!」

 

余計にイライラするシンドイーネは、イタイノンに怒りをぶつける。

 

「似合わないことをするおばさんと違って、私はピチピチの小娘だからいいの」

 

イタイノンは特に怒ったような様子はなく、無表情ながらもどこか彼女を笑ったような様子だった。

 

「~~~~ッ!! 何よ、その哀れむような目は!!」

 

「ちなみに、どっちも似合ってないの」

 

彼女の嫌味を受け流され、ますますイライラとするシンドイーネだが、アクセサリーの指摘を受けて、再度鏡に向き直る。

 

「・・・あんたの言う通りなのが、ムカつくんですけどぉ・・・!」

 

頬を膨れさせながら、ドクロのアクセサリーをクルクルと回すシンドイーネ。

 

「大体、パパのご機嫌をとりたいんだったら、地球でも蝕みに行ってくればいいの。そうすれば、パパだって喜ぶの」

 

イタイノンは少し生意気っぽく返すと、その場を立ち去っていく。

 

確かにその通り、その通りなのだが・・・・・・。

 

「わかってるわよ!! そんなこと!!」

 

シンドイーネは涼しい顔をして去っていくイタイノンにムキになったように大声を張り上げたのであった。

 

「・・・うるさいおばさんなの」

 

イタイノンはうんざりしたようにその場を後にしていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イタイノンは久々に人間の恐怖を味わおうと、勇気を出してすこやか市の隣町にある商業施設、ゆめぽーとへとやってきた。

 

以前、ドクルンから変な玉を食べさせられ、擬態能力を身につけた彼女は人肌の人間の姿で地球を出歩いている。もちろん、悪魔のツノやサソリの尻尾は生えていない。お菓子だと騙して無理やり食わされたのは正直あれだったが、まあこれはこれで使えると気にしないでおいた。

 

さて、当のゆめぽーとだが、前回来たときよりもいつにも増して人が多かった。

 

「・・・なんで今日はこんな人が多いの・・・?」

 

ビクビクしながら、商業施設の中を歩いていると気づいたのは、比較的若い小娘が多いというところ。

 

しかし、その客たちは服を見に来たわけでも、アクセサリーを見に来たわけでもなければ、スイーツを食べに来たわけでもない。なんでこんなに人が多いかは理解できそうになかった。

 

遂には、人ごみに入ったわけでもないのに、酔いそうになり壁に手をつく。

 

「はぁ・・・人が多くて虫酸が走りそうなの・・・」

 

「イタイノン、大丈夫ネム?」

 

顔色を悪くするイタイノンに、カチューシャのネムレンが心配する。

 

「心配はいらないの・・・これでも慣れたつもりなの・・・うぅ」

 

首を振りながら言うも、明らかに慣れたような感じではない。しかも、口を抑えて吐きそうになっている。

 

「早く!早く!」

 

「急がなきゃ!!」

 

ふと、年頃の子供の声が聞こえ、視線をそちらに向けてみるとどうやら駆け出してどこかに向かっているようだった。しかも、それはイタイノンの外見同様、比較的多い若い小娘・・・。

 

あの小娘の後をつけていけば、いつもより人が多い理由がわかるかもしれない。

 

「とりあえず、行ってみるの・・・」

 

「虚勢は張らなくてもいいと思うネム」

 

「うるさいの・・・いいから行くの・・・!」

 

ネムレンは遠回しに行くのを断念するという言葉の表れだったのだが、イタイノンはそれを一蹴するとよろよろと体を動かしながら、小娘の後を追う。

 

しばらく、出撃していなかったから快楽に飢えているのだろうか? ネムレンは心配でしょうがなかった。

 

小娘二人の後を追っていくと、そこにはなんとも可愛らしいゲートのようなものがあった。

 

「エンジェルフォト・・・さつえいかい・・・?」

 

すでに疲弊しているイタイノンがげんなりとした表情で入口の看板を見つめる。

 

つい最近できたというこのブースは、どうやら服やアクセサリーといったいろんなおしゃれなものを借りて写真撮影をするブースらしい。イタイノンの外見と同様の、若い小娘には人気となっているスポットなんだとか。

 

客がいつもより増えているのは、若い小娘がこんなに増えているのは、このブースが原因らしい。

 

「早く!!」

 

「ぴぃっ・・・!?」

 

妙に明るい声が聞こえ、思わず近くの柱へと隠れるイタイノン。声がした方を覗いてみると、そこには見覚えのある3人の姿が。

 

マゼンダ色の髪の少女の肩にピンク色のウサギがいて、藍色の髪の少女の肩には青色のペンギンがいる。あれは見間違えるわけがない、ヒーリングアニマル共であいつらはプリキュアの3人だ。

 

隠れているつもりだろうが、イタイノンから見れば丸見えである。

 

しかも、自分にとっては憎らしい栗色の髪の少女ーーーーキュアスパークルの姿もある。さっきの明るい声は彼女だったらしい。

 

「面白そう!私、やりたい!」

 

「あ・・・せっかくだけど、私は・・・」

 

マゼンダ色の髪の少女はやる気十分だが、藍色の髪の少女は参加を渋っている模様。そこをキュアスパークルが背後から二人の肩に手を置く。

 

「まあまあ、とにかくやってみてよ!絶対、楽しいから!」

 

「え・・・ちょっと・・・!?」

 

キュアスパークルに肩を押されてブースへと入っていく3人。

 

その様子を後ろで見つめていた、イタイノンの表情は無表情ながらも顰めているようだった。

 

「あいつらまでここにいるなんて・・・最悪なの・・・」

 

イタイノンはやはりげんなりとした表情をしていた。

 

今日は久しぶりに蝕もうと思っていたのに、まさかあいつらがここにいるなんて・・・ここでメガビョーゲンを出したとしても、快楽は味わえないだろう。どうにかできないものか・・・。

 

「大体、撮影会なんか何が楽しいの・・・?」

 

先ほどのキュアスパークルへの否定かどうかはわからないが、エンジェルフォトさつえいかいの存在を否定する。私には写真を撮られるなど、耐えられそうにない。ただでさえ、鏡も嫌いだというのに・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

「? ネムレン・・・?」

 

「・・・ニャトラン、あんなに・・・しそうな顔・・・」

 

ネムレンが黒いオーラを感じ、先ほどから黙っていることが気になってイタイノンが声をかけるも、カチューシャはブツブツと何かをつぶやいている。

 

「おい、ネムレン!」

 

「あ! な、何ネム?」

 

「どうかしたの・・・?」

 

イタイノンが声を少し荒げると、ネムレンが反応を返す。先ほどまで私に余計な心配ばかりしていたのに、何かあったのだろうか・・・?

 

「な、なんでもないネム・・・」

 

「・・・あっそう、なの」

 

明らかになんでもないような態度だったが、とりあえずいつもの調子で返しておくイタイノン。

 

そんなことよりも、この厄介な撮影会ブースをどうするかだ・・・。

 

「むぅ・・・ここは、人が多そうなの・・・」

 

入ってあいつらを偵察したいが、ここは狭い場所であるが故に人ごみも多いだろう。入った瞬間に揉まれて倒れかねない。そんなものは耐えられない。

 

一体、どうしたものか・・・。

 

ふと、カチューシャになっているネムレンのことを思い出すと、意外と知能のあるイタイノンはいいことを思いつく。

 

「ネムレン・・・」

 

「何、ネム?」

 

「お前、偵察に行ってくるの」

 

イタイノンが思いついたのはネムレンに探らせること、これなら確かにあいつらにはバレそうに済みそうだが・・・。

 

「え? でも、イタイノンがいないことには・・・」

 

「それはなんとかするの、とりあえず行ってくるの・・・!!」

 

「わ、わかったネム・・・」

 

イタイノンがいないことにはメガビョーゲンが出せないということを言いたかったが、言葉の意図を察しているイタイノンは荒げた声で返すと、押し切られたかのように肯定する。

 

イタイノンが人間嫌いで人見知りなのがわかっているネムレンは、カチューシャから小柄なヒツジへと戻ると、さらに自分の体を光らせる。

 

「うぅ・・・眩しいの・・・」

 

すると、ネムレンの姿が変わって大きくなっていき、3人のプリキュアと同じような年頃の少女へと変わっていく。光が晴れていくと茶髪の三つ編みツインテールの、メガネをかけた少女へと変わっていく。

 

眩しさに目をつぶっていたイタイノンは、光が晴れた後に相棒の姿を見ると思わず放心する。

 

「・・・・・・・・・」

 

「こ、これでどう・・・?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「イタイノン・・・?」

 

人間の姿になったネムレンが、頬を少し赤くしながらイタイノンに声をかけるも、しかし彼女は何かを見入っていて、話そうとしない。

 

「は、恥ずかしい・・・!」

 

ネムレンはさらに顔を赤らめると頬に両手を当てて首を振りはじめる。

 

「ネムレン・・・」

 

「な、何・・・?」

 

「・・・・・・何でツノが出たままなの?」

 

「え・・・?」

 

恥ずかしがっていたネムレンが、イタイノンに指摘されるとネムレンは頭を触ると、自分の手に硬い感触が伝わってくるのがわかる。

 

そう、ネムレンのヒツジのツノだけは隠れていなかったのだ。

 

それに気づいた瞬間、リンゴのように顔を真っ赤にさせて、イタイノンに背を向け始める。

 

「み、見ないで~~・・・!!」

 

「帽子でも被ればいいの・・・そうすればツノは隠れるの」

 

「ふぇ・・・あ、そうか・・・!」

 

少しは頭を使えと言わんばかりにイタイノンが呆れたように言うとどこからか飛び出したのか麦わら帽子をかぶせる。ネムレンはどうして気づかなかったと言いたげな反応をし、その反応にイタイノンはますます呆れるばかりだ。

 

体に隠せないものは、他で隠せばいいとなぜ気がつかないのか・・・? ヒーリングアニマルはどこも無能ばかりだとイタイノンは思った。

 

「それはいいから、さっさと行ってくるの・・・!」

 

「わ、わかってるよ~~・・・!!」

 

イタイノンはそっぽを向きながら言うと、ネムレンは頬を膨らませながらエンジェルフォトさつえいかいの会場へと向かっていく。

 

「イタイノンも、人使いが荒いなぁ・・・」

 

ネムレンは文句を言いながらもエントランスから入ると、そこにはドレスゾーンや、アクセサリーのゾーンがあり、順番があるということでアクセサリーのゾーンから入ることにした。

 

「おしゃれなものがいっぱいあるなー」

 

ビーズメーカーでつくるアクセサリーやネイルシールのコーナーや、頭に身につけるものなどがいっぱいある。

 

「そういえば・・・・・・」

 

おしゃれなもの、ネムレンはその言葉からイタイノンの格好を思い出す。そういえば、イタイノンは見た目は年頃の女の子なのに、外見を気にしたことがない。

 

いつも紫色の髪のポニーテールで、ゴシックロリータの服だ。全く味気なく、女の子らしさが全くない・・・。

 

「そうだ・・・イタイノンのために似合うものを見つけてあげよう!」

 

ネムレンはイタイノンの偵察をそっちのけで、彼女に似合うものを探すことにした。

 

まず、ビーズメーカーは・・・・・・作るのは面倒臭そうだし、壊れそうだからやめておく。ネイルコーナーは・・・・・・特にそこまでのおしゃれをしなくてもいいかなと思うからやめておく。

 

結果、一番わかりやすいアクセサリーを見つけることにした。壊れにくいし、面倒なこともない・・・お気に入りを見つけてあげれば彼女も喜んでくれるはずだ。

 

では早速、ヘアーアクセサリーのコーナーへ。アクセサリーはリボンやらシュシュやら、ヘアバンドといったものまでいろいろとある。

 

気になったものをピックアップして鏡の前へと持ってきて、自分でつけてみようと思う。

 

麦わら帽子を外して、ヒツジのツノは見えてしまうが、この際は仕方がない。

 

まずは、水玉模様のリボン。鮮やかな水色で頭にもつけやすいが・・・。

 

「うーん・・・・・・地味かなぁ・・・」

 

リボンを外して別のものにする。次は、赤い花のような髪飾り。見た感じは、かわいいと思うが・・・。

 

「・・・イタイノンの趣味には合わないかな」

 

髪飾りはすぐに外して、次へ。ハート型のヘアクリップ。小さくてコンパクトだが・・・。

 

「・・・うーん」

 

いまいちだと思い、ヘアクリップも外す。

 

この他にもいろんなヘアーアクセサリーをつけてみるも、あまりいいものは見つからない。

 

「なかなか喜びそうなものがないなぁ・・・」

 

あまりイタイノンが気に入りそうなものを決めかねていると、その近くでは藍色の髪の少女が別の鏡の前でリボンを決めかねているのを見かける。

 

「!! プリキュア・・・」

 

正体がばれないように声を抑え、様子を伺う。

 

そこへ栗色の少女がヘアバンドを頭に乗せると、その少女はキラキラと輝かせていた。どうやら気に入った様子だ。

 

「私だって、似合うやつ見つけるもん・・・!」

 

とはいえ、あまり心にときめくものは見つからず、ヘアーアクセサリーを諦めて他の場所に行こうと思った時、黒いものが目に映った。

 

それは、黒と紫を基調とした蝶の形をした髪飾り。他のヘアーアクセサリーの中でも一際オーラを放っていた。

 

ネムレンはそれをゆっくりと手に取ると鏡の前へと戻り、髪へとつけてみる。すると、それをつけた自分とイタイノンの姿を重ねる。

 

・・・・・・・・・!!

 

「これだぁ・・・うん、これだよね・・・!!」

 

ネムレンは年頃の女の子のような笑顔を見せながら確信する。そうだ、これこれ、これは絶対に似合うはず・・・イタイノンもきっと喜ぶ・・・よし、持って行ってあげよう。

 

ーーーーああ、そうだ。私もお気に入りを探そうっと・・・。

 

ネムレンはそう言って再度アクセサリーブースで自分の合うものを探ろうとする。

 

「こっちは頭もお花畑ー!!」

 

「ふわぁ~! あははは!!」

 

と、そこへマゼンダ色の髪の少女が頭まるごとのお花畑のような髪飾りをしながら、栗色の少女が走ってきて・・・気づかなかった3人は・・・。

 

「! わぁ!?」

 

「ふわぁ!?」

 

体と体がぶつかってしまった。倒れることはなかったものの、マゼンダ色の髪の少女はぶつかったことに気づいて、栗色の少女と一緒に頭を下げ始める。

 

「「ごめんなさい!!」」

 

「あ、いえ・・・大丈夫です」

 

ネムレンはそう言ってアクセサリーが置いてある場所に行こうとするも、さっきの二人が気になっている。

 

(あの二人も、プリキュアだったよね・・・)

 

そう思いながらも、アクセサリーがたくさん置いてある場所に着き、そこからアクセサリーを選ぼうとする。

 

「えっと・・・私が合うのは・・・ん?」

 

床下から何か声が聞こえてくるのを感じ、クロスをめくって下を覗いてみると、そこには・・・。

 

(!! ニャトラン!!)

 

ニャトランたち3人のヒーリングアニマルが、アクセサリーをつけながらそこにいた。どうやら、人間たちに見つからないようにしているみたいだが・・・。

 

「アッハッハッハ!! エンジェルニャトラン参上!!」

 

「苦しゅうないラビ~」

 

「騒ぐと見つかるペエ・・・」

 

ニャトランは天使の輪っかをつけて天使を気取っている様子。ピンクのウサギーーーーラビリンはいろいろなアクセサリーをつけながらはしゃいでいた。

 

「・・・・・・・・・」

 

ネムレンはその姿を見ると無言のまま、クロスを元の位置に戻し、自分に合うアクセサリーを選び始める。

 

しかし、彼女の内では別の感情も蠢いていた・・・・・・。

 

(・・・ニャトラン、あいつらと嬉しそうにはしゃいじゃって・・・私のことなんかどうでもよかったんだ・・・)

 

ネムレンはめぼしい髪飾りをいくつか拝借し、鏡の前に戻ろうとしているときにこんな言葉を漏らした。

 

「・・・・・・嘘つき」

 

私がいなくなったときも、探してくれなかったくせに・・・!!

 

・・・ニャトランをあっち側に追いやった人間なんか、やっぱり自分勝手だ。他人のものをすぐに奪おうとして、返そうともしない。救う価値なんかないんだよ。

 

そう恨み言をふつふつと心の中に溜め込みつつも、ネムレンは髪飾りを選んでいく。

 

いろいろつけてみて選んでみた結果、最終的に選んだのは・・・・・・。

 

「うん・・・こっちの方が私に似合ってるなぁ・・・」

 

「おい」

 

ネムレンは頬を染めながら、嬉しそうな表情で鏡の中の自分を見つめる。

 

「このモコモコの丸こくって、私と同じヒツジの顔のあるアクセサリー・・・素敵だなぁ」

 

「ネムレン」

 

最終的に選んだのは、自分と同じモコモコの毛皮のように小さな髪飾り、可愛いヒツジの顔が描かれているものだ。

 

「これで、イタイノンにもこれを気に入ってもらえればーーーー」

 

バチッ!

 

「ひぃっ!?」

 

ネムレンは突然、肩を置かれて痺れるような感じがした。いや、実際に電気が走ってきて、体の芯まで痺れた気がする。

 

手を置かれた方をみてみると、そこにはイタイノンが顰めっ面でこっちを見ていた。

 

「・・・お前、何してるの?」

 

「イ、イタイノン!? な、なんでここに・・・?」

 

来ないはずの相棒が突然現れたことにネムレンは驚きを隠せない。

 

「・・・お前がいつまでたっても来ないから、私がわざわざ来てやったの。会場の外がだんだんと人で多くなって来たし・・・」

 

「そ、そうなんだ・・・」

 

ネムレンは冷や汗を垂らしながら答える。

 

「・・・プリキュアの偵察はどうしたの?」

 

「も、もちろんやってるよ! 人に溶け込むのに必要だから、こういうことしてたんだよ・・・!」

 

ネムレンは慌てて持っていたアクセサリーを隠しながら言う。

 

イタイノンは無言で周囲を見渡すと、心に落ち着きのないネムレンを再び睨む。

 

「・・・プリキュア、いないけど・・・?」

 

「え? ああ、うん、そうだね! 今はいないね! どこかに行っちゃった、の、かなぁ・・・?」

 

ネムレンは両手を慌ただしく振りながら答える。いい加減ごまかしが効かなくなって、慌て始めている。冷や汗もダラダラと垂れている。

 

イタイノンは右手に電気を纏わせると、彼女の右肩に手を置いた。

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!??」

 

ネムレンの肩から電気が入っていき、痛いような感覚に襲われて体を震わせる。髪が逆立って、上に上がる。

 

イタイノンはそれを見やると、彼女と目をそらすようにそっぽを向く。

 

「言い訳はいいの・・・! とにかく、こんなところはとっととーーーー」

 

ゴシックロリータの少女はそう言いながら歩こうとしたが、ブースの外には人混みがいっぱいだ。若い娘たちが話し込んだり、満足そうにしたりしている・・・。

 

それを見たイタイノンは、体をプルプルと震わせ・・・・・・。

 

「え、ちょっ!?」

 

「・・・お、お前が盾になって、私を誘導するの・・・!」

 

「ちょっ、押さないでよ~~~・・・!!」

 

人と顔をあわせるのが苦手なイタイノンは、ネムレンの背中へ周り、彼女を押しながらアクセサリーゾーンのブースを出る。

 

ブースの外は人で溢れていた。しかも、イタイノンが見たときよりも多くなっている気がする。

 

そんないてもへばりそうな場所に出た後、プリキュアの3人を探そうとするイタイノン。もちろん、ネムレンを前へと押しながら、きょろきょろと見渡す。

 

「イタイノン、歩きにくいんだけど~・・・」

 

「我慢するの。減るものじゃあるまいし、なの」

 

ネムレンが可愛らしい声で不満を漏らし、イタイノンが黙って歩けと言わんばかりに制する。

 

そんな、やりとりを続けていると・・・・・・。

 

「「「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」

 

「!!??」

 

突然黄色い声が響き、イタイノンがビクンと体を震わせる。声がした方を見てみると、どうやらそこはドレスブース、何やら女性たちが揉みに揉まれている模様。

 

「あれは何なの・・・」

 

「ドレスを奪い合ってるみたいだけど・・・」

 

そう、ネムレンの言う通り、この少女たちは撮影会のためにドレスの争奪戦を行っている。自分がとにかく可愛いものを着て、写真が撮りたい・・・そういう少女たちが安売りバーゲンの集まりなのだ。

 

そんな少女たちの戯れを見て、イタイノンは嫌悪感をあらわにする。

 

「そこまでして可愛いものにこだわる理由がわからないの・・・服なんかどれも着れば同じなの」

 

「そりゃ、イタイノンはおしゃれに疎いからそういうことが言えるんだけど・・・」

 

「・・・どういう意味なの?」

 

バチバチ!!

 

「あ、いや! 別にイタイノンの今の格好が似合ってないとか、そういうこと言いたいんじゃなくて!」

 

余計なことを言って、背中からピリピリと痛みを感じるのを危惧して言動がしどろもどろになるネムレン。

 

「の、のどかっち! 大丈夫!?」

 

「ふぇぇ・・・」

 

「・・・とりあえず、一旦外に出ましょう」

 

そんなことをしているうちに、マゼンダ色の髪の少女が目を回して、藍色の髪の少女と栗色の髪の少女に支えながらドレスコーナーを出る姿が見えた。

 

あれは、プリキュア・・・? もしかして、一人が人混みに酔って体調を崩したのか・・・?

 

イタイノンは通り過ぎていくのを見て、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

今がチャンスなの・・・ここ一帯を蝕んでやるの・・・。

 

「ほら、早くドレスブース入って・・・奥に入るの・・・!」

 

「わ、わかったから、叩かないで~~・・・!!」

 

イタイノンは後ろからポンポンとネムレンの背中を叩いて進むようにしようとし、ドレスブースへと入っていく。

 

奥へ入っていく途中でドレスの争奪戦を展開する少女たちを、イタイノンは見つめる。

 

そんなに奪い合う価値のあるドレスなのか・・・人間というのは全く理解できない。どのドレスを見やっても、人間の趣味が悪いとしか言いようがない。

 

「あっちに、何か部屋があるよ」

 

ネムレンに指摘されて前を向くと、確かに何か小さな部屋がある。スタッフルームだろうか?

 

「あ、イタイノン・・・」

 

特に入っても意味はないんだろうが、何やら不快なものを感じ、後ろに隠れていたイタイノンが入り口のカーテンを部屋を覗く。何かないかと部屋をきょろきょろと見渡すと、木製の糸車が放置されているのが見えた。

 

この撮影会のドレスを作るためのものだろうか? にしては、古すぎて全く使われていないような感じがする。

 

「・・・・・・・・・」

 

イタイノンは糸車に近づくと、足元についている木製のペダルを踏んでみる。カタカタカタカタと音を立てながら、ホイールが回り始める。

 

ある程度動きを見た後、足を離してホイールの回転を止める。

 

・・・・・・使われてなくて、逆に生きてるって感じ?

 

イタイノンは顎を当てて不敵な笑みを浮かべる。

 

今はブースが開催されている・・・少女たちがいっぱい・・・プリキュアもあの様子だとしばらくはいない・・・。

 

ここで怪物を暴れさせれば、少女たちの恐怖を味わえるはず。ついでにここも私のものにできる・・・。

 

「随分、使われていない糸車だね」

 

他の場所を見ていたネムレンの言葉をよそに、イタイノンは糸車に再び向き直る。

 

「キヒヒ・・・今から私が使ってあげるの」

 

イタイノンは不敵な笑みを浮かべて、自身の右指を鳴らして擬態を解除する。

 

そして、両腕の袖をまるで埃を払うかのような動作をして、右手を開きながら突き出すように構える。

 

「進化するの、ナノビョーゲン」

 

「ナノナノ~」

 

ナノビョーゲンが鳴き声を上げながら、糸車へと取り憑く。糸車が徐々に病気へと蝕まれていく。

 

「ああ・・・ああ・・・!!」

 

糸車の中にいる妖精、エレメントさんが病気へと蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガビョーゲン!」

 

糸巻きの左腕とホイールの右腕を持ち、茶色の机のような体、そこから骨組みのような4本足の生えた、まるで馬のような形のメガビョーゲンが誕生した。

 

「メガー!!」

 

メガビョーゲンはスタッフルームの入り口を破壊して飛び出すと、ドレスブースへと馬のように駆け出していき、両腕を横に振り回す。病気がばらまかれ、ドレスに赤い靄がかかっていく。

 

「うわあぁぁぁぁ!!」

 

「きゃあぁぁぁぁ!!」

 

怪物の存在に気づいた少女たちが逃げ出し始め、現場は悲鳴で溢れていく。

 

「メガー!!」

 

メガビョーゲンは両腕を振り回し続けて、病気をばらまいていき、触れられていないものはもちろん、少女たちが掴み合いをしていたドレスにも病気を蝕んでいく。

 

数分も経たないうちにドレスブースをほぼ赤一色に染めると、ブースの外へとジャンプして飛び出し、衝撃波を起こす。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「メガビョーゲン!!」

 

外で怪物から逃げ切れていない少女たちが悲鳴を上げて逃げていく。メガビョーゲンは不健康そうな顔から病気を吐き出し、立っている木や他の会場のテントも蝕んでいく。

 

「キヒヒ・・・いいのいいの、久しぶりの快感なの」

 

イタイノンは逃げ惑う人たちを見ながら、クスクスと笑う。しばらくは出撃できていなかったが、いざ出たとなると怪物を呼び出し、恐怖に怯える姿を味わうこの快感。

 

これは何度味わっても、飽きない・・・満足など当分できそうもない感じだ。

 

「あーあ・・・イタイノンに似合いそうだったのに・・・」

 

ネムレンは複雑そうな気持ちで赤くなっていく会場を見ていた。おしゃれに疎いイタイノンのために可愛いものをもっと見つけたかったのに・・・。

 

その漏らした声を聞き逃さなかったイタイノンはネムレンを睨む。

 

「・・・何か不満でもあるの?」

 

「い、いや! ないよ!! ない!」

 

ジト目のイタイノンに、慌てたように両手を前で振りながら否定する。

 

「・・・ふん。メガビョーゲン、もっともっと蝕むの」

 

イタイノンは鼻を鳴らしながらそっぽを向くと、メガビョーゲンに周囲をもっと病気にするように指示をする。

 

「メガー!!」

 

メガビョーゲンは両腕を振り回して病気をばら撒き、ゆめぽーとの壁、アクセサリーやネイルゾーンにあるものまで病気へと蝕んでいく。

 

(ああ・・・・・・)

 

ネムレンは、イタイノンに悟られないように、ひっそりと病気に染まっていく会場を口惜しそうに見るしかないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひなたとニャトランは、のどかたちの元へと飛び出したラテを追って、ゆめぽーと近くのドッグランへと来ていた。

 

いきなりのどかたちの元から走り出したラテ。そのラテが走った先は多くの犬と飼い主たちが楽しんでいるドッグラン。彼女も他の犬たちと同様、遊びたかったらしい。

 

みんなを心配させてしまうので、少しだけ遊んで帰ろうと思った、その時だった・・・。

 

「クチュン!! クチュン!!」

 

「「!?」」

 

突然ラテの具合が悪くなった。これはビョーゲンズが現れ、メガビョーゲンが現れた兆しだ。

 

「「えらいこっちゃ~!!」」

 

ひなたとニャトランはラテを連れて、急いで人目のつかない林の中へと移動する。

 

「ひなた、ラテ様を診察だ!」

 

「うん!」

 

ひなたは聴診器をラテに向ける。

 

(あっちの方で綺麗な色の石が泣いてるラテ・・・くるくると回る機械が泣いてるラテ・・・)

 

「くるくると回る機械って何だ?」

 

「綺麗な石?って、まさか・・・!」

 

エンジェルフォトさつえいかいの会場には宝石のイヤリングが置いてあり、もしや、そこが襲われていると思った2人は走ってゆめぽーとへと向かうのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話「激痛」

前回の続きです。
イタイノンの発生させたメガビョーゲンに、ひなたはどう対応するのか?


「メガーーー!!!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

イタイノンが生み出したメガビョーゲンは撮影会の会場を大方蝕んだ後、会場の外を出て唸り声を上げながら少女たちを襲っていた。

 

メガビョーゲンは両腕を振り回して、病気をあちらこちらにばらまいていく。

 

「キヒヒ・・・年頃の少女の悲鳴は格別なの」

 

イタイノンがゆめぽーとの建物の上から逃げ惑う少女たちを見下ろしながら、笑い声を上げる。

 

「ああ・・・可愛いものが汚れていく・・・」

 

ネムレンが複雑そうな表情で下の悲惨な光景を見下ろしている。

 

少女たちは心底どうでもいいが、せっかくの可愛いものや服が汚れていくのは悲しい。これではイタイノンに似合いそうなものをあげられなくなってしまう・・・。

 

その漏らした声を再度耳に拾ったイタイノンが、ネムレンに顰めた顔を近づける。

 

「お前・・・不満があるんだったら、はっきり言うの・・・!!」

 

「だ、だから不満なんかないってば~~! そんなに顔を近づけて私を見ないで~・・・!!」

 

ネムレンは顔をリンゴのように真っ赤にさせると、体を光らせた後にイタイノンのカチューシャに戻った。

 

「・・・なんで顔が真っ赤だったの?」

 

イタイノンは別に嫌がらせをしたわけでもないのに、ネムレンの言葉に拍子抜けし、怒りが冷めて首を傾げるばかりであった。

 

「あら、あんたもいたの?」

 

「ん?」

 

艶のある女性の声が聞こえてきたかと思うと、そちらを振り向けば見覚えのある同僚ーーーーシンドイーネの姿が。そして、ゆめぽーとの奥を見れば、シンドイーネが生み出したであろうメガビョーゲンの姿もあった。

 

イタイノンはそれを見た途端に、心底嫌そうな顔をする。

 

「なんだ、シンドイーネなの・・・」

 

「・・・何よ、その不満そうな顔は?」

 

シンドイーネが顰めた顔をすると、イタイノンはそっぽを向きながらため息を吐く。

 

「おばさんと場所が被るなんて、なんか不服なの・・・」

 

「なんですって! あたしだって、アンタみたいな小娘と一緒にいるなんて嫌よ!」

 

同僚同士で、いい大人の女と小さな娘が喧嘩といういつもの光景を繰り広げていると・・・。

 

「大体お前、それ・・・」

 

「な、何よ・・・?」

 

イタイノンはシンドイーネのツノを指差しながら言う。ツノには何やらピンクの斑点みたいな模様が。

 

「ツノに何、ゴミをつけてきてるの? おしゃれのつもりなわけ?なの」

 

「ゴミ言うな!そうよ! あたしが好きだからつけてきてんのよ! 悪い!?」

 

イタイノンは、ムキになるシンドイーネに背中を見せる。

 

「・・・別に、どうでもいいけど、なの」

 

「キーッ! 相変わらずムカつくやつね!!」

 

ゴシックロリータに興味なさげに返されると、地団駄を踏み始めるシンドイーネ。

 

「お前は、相変わらず文句ばかりでうるさいやつなの・・・」

 

イタイノンとシンドイーネの間にバチバチと火花が散っているような感じの光景。

 

ーーーーああ、騒がしい・・・。

 

イタイノンはため息をつく他なかった。もうこいつに関わるのはよそう・・・・・・。

 

「ああ、信じられない・・・!! せっかくのイベントがめちゃくちゃじゃん・・・!」

 

そこへ騒がしい声が聞こえたきた。イタイノンが再度見下ろしてみれば彼女にとっては最も潰すべき敵がいた。

 

「・・・キュアスパークル、やっと会えたの」

 

イタイノンは獲物を見つけたように不敵な笑みを浮かべて言った。

 

「ニャトラン、行くよ!」

 

「おいおい、その前に二人を連れてこようぜ!」

 

「そんなの待てないって! 今すぐここを守んなきゃ!! アタシ一人でなんとかするし!!」

 

「メガビョーゲンが2体もいるんだぜ!! 絶対に呼んできた方がいいって!!」

 

「それならどっちもあたしが相手するし!!」

 

「だけどよ・・・!」

 

ニャトランはひなたが戦闘慣れをしていないのと、メガビョーゲン二人に絶対叶うわけがないと判断しているのだが、ひなたは守ると言って聞き入れない。

 

「ほら、ニャトラン!!」

 

「わかったよ! スタート!!」

 

「プリキュア、オペレーション!!」

 

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

 

「「キュアタッチ!!」」

 

ニャトランがステッキに変わると、ひなたは菱形のボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。そして、肉球にタッチすると、星のような光線が現れ、白衣が現れ、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「嫌だ・・・また、プリキュアじゃないの」

 

「さっきから騒がしい声が聞こえてたの」

 

「それ早く言いなさいよ!」

 

「なんでお前なんかのために、なの・・・」

 

プリキュアの出現に心底嫌そうな顔をするシンドイーネと、イタイノンはそっけない声で言い放ち、捲したてる彼女に辟易としていた。

 

「お前一人で何しに来たの? まさか、私たちを止めに来たわけ? なの」

 

「そうだよ! これ以上好き勝手させない!」

 

「ふん、鬱陶しいわね・・・メガビョーゲン、やっちゃって!」

 

「ビョーゲン!メガァ!!」

 

シンドイーネの宝石のような体に滑車のついたメガビョーゲンは口から病気を吐き出す。

 

「ふっ!はぁ!!」

 

スパークルは飛び上がってかわし、ステッキから黄色の光線を発射するも、メガビョーゲンの宝石のような体に跳ね返されてしまう。

 

「ふっ!」

 

施設の柱を蹴って、メガビョーゲンの顔を蹴りつける。

 

「可愛いのいっぱい台無しにして! せっかくあんなに楽しんでたのに・・・!! 」

 

ひなたはのどかとちゆと一緒に楽しんでいたことを思い返す。二人と一緒に撮影会のアクセサリーを選んでいたときは本当に楽しかった。それを台無しにするなんて許せない・・・!!

 

「絶対に元通りにしてみせる!!」

 

スパークルはそう言って、一人メガビョーゲンへと立ち向かっていく。

 

「あんなのを可愛いとか言ってるなんて趣味の悪いやつなの・・・・・・」

 

「・・・・・・むぅ」

 

「・・・ネムレン?」

 

イタイノンは不満の声を漏らすカチューシャに違和感を感じて、声をかける。

 

「・・・ニャトラン、あんなやつと・・・・・・」

 

「おい!ネムレン・・・!」

 

頭の上でブツブツと何かを言っているネムレンに、声を荒らげるイタイノン。

 

「は、な、何ネム?」

 

「・・・お前、さっきから何をブツブツ言ってるの?」

 

「・・・なんでもないネム」

 

ネムレンはしばらくの沈黙の後、一人言の原因を言わずにむくれたような声を出した。イタイノンはその言葉にため息を吐く。

 

「お前らの痴話喧嘩なんか興味ないの」

 

「な、何を言っているネム!? あ、あいつとはそんなんじゃないネム!!」

 

イタイノンがボソッと口にした言葉に、慌て始めるカチューシャ。

 

そうしている間に、スパークルはメガビョーゲンが伸ばしてくる手を避けて横に飛び、壁を踏み台にして蹴りを入れる。しかし、宝石のような体にはビクともしない。

 

「硬ッ・・・!」

 

あまりの硬さにスパークルは攻撃を与えるどころか、こちらの足が参ってしまいそうな痛さを感じる。

 

「残念でした。そんなへなちょこキックじゃビクともしないわよ」

 

小馬鹿にするシンドイーネ。スパークルは屋根の上へと飛び移ってメガビョーゲンを見下ろす。

 

それを見ていたイタイノンは・・・・・・。

 

「やっぱり、弱いやつなの」

 

スパークルの姿を見て、失望といったような感じで思うしかなかった。

 

「メガ!!」

 

「やっと帰ってきたの」

 

撮影会のブースの外を大方蝕んで戻ってきたメガビョーゲン。イタイノンはスパークルとメガビョーゲンを同時に見ながら、彼女は悪い顔をし始める。

 

「キヒヒ・・・・・・」

 

一方、屋根の上でシンドイーネのメガビョーゲンの様子をうかがっているスパークル。動きが鈍そうなメガビョーゲンは彼女を探している模様。

 

「こいつ、すごい頑丈・・・・・・!」

 

「でも、デカイから体は重そうだな!」

 

二人がそうやって油断をしていた、その時・・・・・・!!

 

シュシュシュシュシュッ!!! ドスッ!!

 

「! がぁっ・・・・・・!?」

 

突然、腹部に痛みが走り、体が吹き飛ばされるような感覚。ふと、下を見てみると、彼女の腹部に巨大なホイールのようなものが直撃していた。

 

スパークルが突然、攻撃を受けたことに驚愕するニャトラン。

 

「えっ・・・・・・?」

 

それを認識した、その瞬間・・・・・・!

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

スパークルははるか遠くまで吹き飛ばされていった。

 

「メガビョーゲン!!」

 

それを見たイタイノンのメガビョーゲンは弾かれて戻ってきたホイールを右腕にキャッチすると、馬のような身のこなしで屋根を軽々と飛び移り、吹き飛ばされたスパークルを追った。

 

イタイノンも同様に、屋根の上へと飛び移る。

 

「ちょっと! 何、邪魔してんのよ!?」

 

シンドイーネが不満そうに漏らすも、イタイノンはこちらを不機嫌そうな顔で見つめてくる。

 

「・・・ふん、その邪魔な奴を吹き飛ばしてやったんだから、むしろ感謝してほしいの」

 

イタイノンはそう吐き捨てると、メガビョーゲンを追いかけて飛んでいく。

 

「あ、ちょっと! もお・・・まあ、でもお邪魔虫がいなくなったからいいか」

 

シンドイーネはそう言うとメガビョーゲンに指示をして、さらに病気を拡大させようとする。

 

「あ、いた、メガビョーゲンよ!」

 

「気づくのが遅くなっちゃった!」

 

しかし、そこへメガビョーゲンの騒ぎを聞きつけて、のどかとラビリン、ちゆとペギタンが駆けつけてきた。

 

「もおー!あいつだけだと思ったのに、他のお邪魔虫もいたわけ!?」

 

シンドイーネがプリキュアの二人がいることを視認すると、心底イラついたような声を出す。

 

「シンドイーネ!」

 

「あれ? そういえば、ひなたちゃんは!?」

 

二人はシンドイーネを見つけたが、ひなたの姿がないのを不審に思っていた。

 

「あのうるさいじゃじゃ馬娘だったら、イタイノンが吹き飛ばしていったわよ」

 

「イタイノンが!?」

 

「早く助けに行かないと・・・!!」

 

そうとなれば、追っていったメガビョーゲンとイタイノンに追い詰められているかもしれない・・・。プリキュアと言っても、助けに行かないと危険だ。

 

しかし、ゆめぽーとではシンドイーネのメガビョーゲンがいる。今、ここを離れたら、一帯を完全にメガビョーゲンに侵しかねられない。

 

「でも、まずはこいつをなんとかするラビ!」

 

「行くわよ!」

 

「うん!」

 

のどかとちゆはヒーリングステッキを構える。

 

「「スタート!!」」

 

「「プリキュア、オペレーション!!」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

 

「「「「キュアタッチ!」」」」

 

ラビリンとペギタンがステッキに変わると、のどかは花の模様が描かれたボトル、ちゆは水の模様が描かれたボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。そして、肉球にタッチすると、のどかにはハート、ちゆには水のような流れの光線が現れ、白衣が現れ、ピンク色、水色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身した。

 

「・・・ふん、二人になったところで同じことよ。メガビョーゲン!」

 

シンドイーネはメガビョーゲンに倒すように指示するも、怪物はそのプリキュアを探している模様。頭の悪いメガビョーゲンにイライラしたシンドイーネは大声を出す。

 

「プリキュアはあっちよ!!」

 

「メ、メガ!? ビョーゲン!!」

 

シンドイーネに指摘されて、プリキュアを視認したメガビョーゲンは口から病気を吐き出す。

 

「「はぁ!!」」

 

グレースとフォンテーヌは、ステッキからピンク色と水色の光線を発射する。しかし、メガビョーゲンの宝石のような体に弾かれてしまう。

 

グレースとフォンテーヌは壁を蹴って踏み台にし、メガビョーゲンの顔に蹴りを入れる。

 

「メ、ガァ・・・!?」

 

スパークル単独の蹴りよりも効いたのか、少しよろけるメガビョーゲン。

 

「「キュアスキャン!!」」

 

その隙に、フォンテーヌがエレメントの場所を特定する。ペギタンの目が光り、メガビョーゲンの中にいる、苦しんでいる様子のエレメントさんを見つける。

 

「宝石のエレメントさんペエ!」

 

どうやら宝石の体の中に閉じ込められている模様。

 

「だから、固かったのね・・・」

 

フォンテーヌはメガビョーゲンに蹴りを入れて、足が少ししびれるような感じがしたが、宝石でできているとわかると納得できた。

 

「メガー!!」

 

メガビョーゲンは足元の滑車を動かすと、プリキュアに高速で迫り、拳を叩きつけようとする。

 

「ぷにシールド!!」

 

グレースは肉球型のシールドを展開して、拳での攻撃を防ぐ。

 

「はぁぁぁ!!!」

 

それを押さえ込んでいる隙を狙って、フォンテーヌが背後から後頭部に蹴りを入れ、メガビョーゲンをうつ伏せに倒す。

 

「メガメガメガメガメガメガメガ!!」

 

しかし、メガビョーゲンはすぐに立ち上がると滑車を動かして二人に向かって高速で動きながら、こちらに迫ろうとする。二人はそれを飛んでかわす。

 

「フォンテーヌ!氷のエレメントボトルを使うペエ!」

 

「わかったわ!氷のエレメント!」

 

フォンテーヌはステッキに氷のエレメントボトルをかざす。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

フォンテーヌはステッキから青い光線を放つと、屋根を凍らせる。

 

「メ、ガッ!?」

 

メガビョーゲンは凍結した部分に滑車を滑らせて背後へ転び、その瞬間氷漬けになった。

 

「ええ!? 氷で!?」

 

シンドイーネは心底動揺していた。

 

「今よ!グレース!」

 

「うん!」

 

グレースは花の模様が描かれたヒーリングボトルをステッキへとかざす。

 

「エレメントチャージ!!」

 

そう言いながら光るステッキの先をハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「ヒーリングゲージ上昇!!」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングフラワー!!」

 

キュアグレースはそう叫びながら、ステッキを上空へと飛んでいるメガビョーゲンに向けて、ピンク色の光線を放つ。光線は螺旋状になっていた後、メガビョーゲンに直撃した。

 

その光線はメガビョーゲンの中に入ると、螺旋状のエネルギーは手へと変化して、宝石のエレメントさんを優しく包み込む。

 

花状にメガビョーゲンを貫きながら、光線は宝石のエレメントさんを外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「お大事に」」

 

宝石のエレメントさんは宝石の中へと戻り、このメガビョーゲンが蝕んだ箇所のみもとに戻った。

 

「何なのよもう!! プリキュア! 今に見てらっしゃい!!」

 

シンドイーネは心底悔しそうに去っていった。

 

ビョーゲンズが一人去ったものの、撮影会の会場は完全に戻っている様子はない。

 

「・・・まだ、病気で蝕まれた箇所が残ってるわ。イタイノンもメガビョーゲンを発生させているんじゃないかしら?」

 

「そうだね・・・ラテも元気になってないし・・・」

 

グレースはぐったりしているラテを抱きかかえて、聴診器を当てる。

 

(くるくる回る機械は、あっちの林の方で泣いてるラテ・・・)

 

「あっちの林って、ゆめぽーとの外にある林・・・?」

 

「クゥ~ン」

 

ラテが何かを訴えるかのように弱々しい声を上げる。

 

「どうしたの? ラテ」

 

再び聴診器を当てると・・・・・・。

 

(ひなたがピンチラテ・・・)

 

「ええ!?」

 

驚愕するグレース。まさか、ひなたちゃんがイタイノンに追い詰められている・・・?

 

メガビョーゲンと戦う前の恐れていた事態が起こり、動揺した表情を見せる。

 

「とにかく行ってみましょう!」

 

「うん!」

 

グレースはそう言って、足を踏み出そうとした・・・・・・その時・・・・・・。

 

ドクン!!!!

 

「!!??」

 

突然、心臓がバクバクとし始め、何やら体が締め付けられるような感覚に陥る。

 

あれ、この症状・・・前にも・・・でも、何か違う・・・・・・?

 

「どうしたの? グレース?」

 

走ってこようとしないグレースに、フォンテーヌが足を止める。

 

「う、ううん、何でもない。行こう!」

 

グレースは気のせいだと自分に言い利かせながら、フォンテーヌと一緒に戦っているであろうひなたの元へと向かった。

 

「フフフ・・・・・・」

 

その様子を見て、柱に隠れていた少女が不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

のどかとちゆがメガビョーゲンと戦う数分前・・・・・・・・・。

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

ドーン!!!!!!!

 

イタイノンのメガビョーゲンのホイール攻撃に、遥か彼方まで吹き飛ばされたスパークルはゆめぽーとの近くの林の中へと墜落した。

 

「痛ぁ・・・・・・」

 

「おい、スパークル!大丈夫か!?」

 

「う、うん、なんとか・・・・・・」

 

スパークルはそう言いながらも、立ち上がった際には横腹を抑えていた。どうやら、先ほどのホイールをダイレクトに食らい、肋骨に何本かヒビが入った模様。

 

「メガビョーゲン!」

 

そこへ糸車型のメガビョーゲンと、後をつけてきたイタイノンが現れる。

 

「キュアスパークル、やっと二人きりになれたの。キヒヒ・・・ギタギタにしてやるから、覚悟するの・・・!」

 

「くっ・・・!」

 

スパークルは戦闘態勢をとるも、横腹を抑えて顔を少し苦痛に歪めている。

 

「はぁっ!」

 

スパークルはステッキから黄色の光線を放つ。

 

「メガ!!」

 

メガビョーゲンは両腕を振り回して、黄色い光線をはじき返した。

 

スパークルは一本の木に向かって走り出して飛ぶと、幹をキックしながらその反動でメガビョーゲンを蹴りつけようとする。

 

「メガー!!」

 

メガビョーゲンはスパークルの攻撃をかわすように飛び上がると、そのままスパークルのそばに落下して衝撃波を起こす。

 

「うわぁ! うぅ・・・」

 

スパークルは吹き飛ばされて態勢を立て直すも、顔を苦痛に歪め、横腹を押さえ始める。

 

(横腹の痛みがさっきよりも増してきた・・・)

 

「大丈夫か!? やっぱり、二人を呼んできた方が・・・!」

 

「ダメ! そんなことをしているうちに、ここ一帯があいつに侵されちゃう! あたしがなんとか止めないと・・・!」

 

ニャトランはプリキュアの二人を呼んでくることを提案するも、スパークルはその隙にここ一帯を病気に蝕まれることを危惧して動こうとしない。

 

「メガメガメガメガメガ、ビョーゲン!!」

 

そうしているうちにメガビョーゲンは両腕と支柱となっている体を高速回転させると、その勢いで右腕についているホイールを投げ飛ばしてきた。

 

「!! ぷにシールド!!」

 

パリンッ!!!!

 

「きゃあぁ!!」

 

スパークルはステッキから肉球型のシールドを展開するも、高速で放たれたホイール攻撃の前にシールドは呆気なく粉砕され、スパークルは吹き飛ばされてしまう。

 

うまく倒れないように態勢を立て直したものの、そこへ馬のように突進してきたメガビョーゲンが視界に入る。

 

「うわあぁぁぁぁぁ!!!」

 

メガビョーゲンの突進を食らってしまい、木の幹へと叩きつけられるスパークル。

 

「スパークル! 大丈夫か!?」

 

「うぅ・・・あ、ぐ・・・!」

 

スパークルは立ち上がろうとするも、今の攻撃で横腹をさらに痛めたのかステッキを持っていない方の手で押さえつけて、表情は苦痛に歪んでいた。

 

「メガ、メガー!!」

 

メガビョーゲンはスパークルが立ち上がるのも待たないまま、体を左向きに半回転させた後、左腕の糸巻きから糸をスパークルにめがけて発射する。

 

「あ、し、しまっ・・・!!」

 

倒れていて避ける態勢も作れなかったスパークルはなすすべなく、糸に拘束させられてしまう。

 

バチバチバチ・・・!!

 

スパークルはもがいて拘束を解こうとするも、さらに巻きついたところからメガビョーゲンが糸へと電気を流し込んだ。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

電気を浴びせられたスパークル、そしてステッキのニャトランは絶叫を上げる。まるで体が引き裂かれると言わんばかりの激しい痛みが襲った。

 

「ぐぅぅ・・・うぅぅぅ・・・!!」

 

スパークルは電撃を浴びせられながらも、拘束を解こうともがいているものの、電撃による攻撃と横腹の痛みが原因で体に力が入らず、拘束を解くことができない。

 

やがて電流が止むと、スパークルは煙を体から出しながらも表情は気絶しそうな状態になっている。

 

「メガー!! ビョーゲン!!」

 

「うわあぁぁぁ!! がっ・・・!」

 

メガビョーゲンは拘束していた糸を解くと、左腕を振り回してスパークルを殴りつけた。木の中へと吹き飛ばされたスパークルはガサガサと木の葉の音を立てた後、地面へと落ちる。

 

スパークルはそのまま変身を解除され、元のひなたへと戻ってしまった。

 

「ウニャ!!」

 

ニャトランもステッキから追い出されて、元のネコの姿に戻ってしまった。

 

「くっ・・・うぅ・・・あ、へ、変身が・・・!!」

 

(か、体に力が・・・・・・)

 

ボロボロになったひなたは立ち上がろうとするも、起き上がれずに倒れ込んでしまう。

 

「キヒヒヒヒ!」

 

イタイノンが笑いながら、彼女の側へと近づいてくる。

 

「最初から仲間を連れて来ればよかったんじゃないの? お前一人でも大して強くないくせに、出しゃばろうとするからそうなるの」

 

「うぅ・・・・・・!」

 

ひなたが痛みに苦しむ中、イタイノンはそんな無様な姿をあざ笑う。

 

「お前みたいな考えなしに、あいつらだって迷惑しているに違いなの」

 

「!!!」

 

イタイノンの耳元で囁かれた言葉に、ひなたはショックを受ける。

 

「あたし・・・また・・・?」

 

ーーーー考えなし。

 

そんな言葉に、ひなたは脳裏に蘇るのは2人を撮影会に連れて行ったときのこと・・・・・・。

 

一緒に行こうと二人をゆめぽーとへと連れ出し、撮影会へとやってきた。しかし、ドレスブースでのどかは体調を崩してしまい、結果的に二人に迷惑をかけることになってしまった・・・。

 

しかも、二人にこれ以上迷惑をかけられないと一人でメガビョーゲンを浄化しようとするも、阻止するどころか余計に被害は拡大し、結局は食い止められていない・・・。

 

「また・・・やっちゃった・・・・・・」

 

彼女の言葉と脳裏に浮かぶ映像に酷く落ち込んだひなたはかすれた声でつぶやき、立ち上がる気力をなくしてしまった。

 

「キヒヒ・・・メガビョーゲン、こいつは放っておいて、ここ一帯も蝕んでやるの」

 

イタイノンはひなたの抵抗がなくなったことを確認して笑みを浮かべると、メガビョーゲンに指示をする。

 

「メガビョーゲン!」

 

メガビョーゲンは辺りを病気で蝕むべく、ひなたの元から離れていく。

 

「あ・・・ダ、ダメ・・・!」

 

ひなたはメガビョーゲンに手を伸ばそうとするも、怪物との距離は徐々に引き離されていく。

 

「・・・ふん」

 

ゲシッ!!

 

「あっ・・・!」

 

イタイノンはそんなひなたの肩を蹴り上げると、仰向けへと倒す。

 

「あいつのことは放っておいて、私と少し遊ぼう、なの」

 

「ひっ・・・!」

 

自分のことを頭の上から笑みを浮かべながら見下ろしてくるイタイノンに怯えた表情を見せるひなたは体をうつ伏せにしながら、地面を這って逃げようとする。

 

イタイノンはその様子を不敵な笑みで見つめている。

 

「あ、ニャ、ニャトラン・・・!」

 

ひなたは途中で倒れているニャトランが視界に入り、彼の元へと行こうとするが、イタイノンには呆気なく追いつかれ、負傷している横腹を横から蹴りつけられる。

 

「あっ、ぐっ・・・!!」

 

激痛に痛みに顔を顰め、這う動きを止めてしまうひなた。

 

「キヒヒ・・・逃すと思ってるの?」

 

「ニャ・・・ニャトラン、ニャトラーーーーんぐっ!?」

 

ひなたはニャトランに助けを求めようと声を上げようとするも、イタイノンに口を塞がれてその声を掻き消されてしまう。

 

「キーキーうるさいやつなの・・・大人しくしろなの・・・!」

 

「んんぅ! んぐぅ!!」

 

イタイノンは暴れるひなたの足を押さえつけながら、口を塞いだ手を後ろへと引っ張って座らせるような体勢にすると、左手で口を塞いだまま自分の胸へと寄せる。

 

「んぅ・・・んむ・・・!?」

 

ひなたは顔を上げると、そこにはこちらを愉快そうに見るイタイノンの顔が映った。

 

「プリキュアは痛みに苦しむとどういう顔をするのか?なの。ちょっと試したくなったの」

 

イタイノンはそう言いながら右の人差し指に電気を纏わせると、それをひなたに見せつけるように人差し指を差し出す。

 

「ん・・・!? んんぅ! んんぅ!!」

 

ひなたはそれを視認した途端、汗がどっと出て怯えた表情をし始め、イタイノンの左腕を外そうと両手をかけ、足をバタバタと動かしながらもがき始める。しかし、イタイノンは彼女が暴れるのを調整しながら動いているため、もがいても状況が変わらない。

 

自分と離れた距離にいるニャトランに手を伸ばすも、体は全く動こうとせず手が届かない。ニャトランも先ほどの電撃でのダメージが尾を引いているのか、目を覚まそうとしない。

 

(ニャトラン! ニャトラン! 助けて・・・!)

 

心の中でニャトランに助けを求めるひなた。彼女の表情は恐怖で涙目になっていた。

 

「キヒヒ・・・大丈夫なの、そんなに怯えなくても。すぐに気持ちよくなるから、なの」

 

イタイノンはそう言いながら、電撃をまとった右の人差し指をひなたの首に当てがった。

 

「んん゛っ!?」

 

人差し指を当てがわれた瞬間、ひなたの首にいまだかつてないほどの激痛が走った。

 

「ん゛、ん゛ん゛っ! んん゛ぅぅ!! んんぅんん゛!!」

 

ひなたの塞がれた口から濁ったようなうめき声が聞こえ、彼女のもがき方も一層激しくなる。両手はイタイノンの手をかきむしるが如く動かしており、両足も激しく動かしている。しかし、イタイノンは体を押さえ込むように動かしているため、激痛からは逃れられない。

 

痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイイタイ・・・!!

 

耐えきれないほどの激痛がひなたの脳を支配し、もはや痛みのことしか考えられなくなっていく。

 

「んんんん゛っ!! んんん゛ぅぅ!! んん゛ぶぅぅぅ!!! んぐ、んんん゛ぅ!!!」

 

ひなたは体を必死に動かしているが、イタイノンは左手で口を押さえながら胸に引き寄せるような形で彼女の体も押さえ込んでいるため、激痛はいつまでも彼女の脳裏へと溜まっていく。

 

イタイイタイイタイイタイイタイイタイ、クルシイ、イタイイタイイタイイタイイタイ・・・!!!

 

激痛に苦しみながら激しく抵抗するひなた。しかし、その動きもだんだんとゆっくりとなっていく。両手はイタイノンの左手をペチペチと叩くような動作になり、足の動きももぞもぞと動くような弱々しい感じへと変わっていく。

 

イタイヨ・・・イタイ・・・クルシイ、クルシイヨ・・・イタイ・・・!!

 

タスケテ・・・・・・!!

 

あまりの激痛にひなたの目がチカチカと点滅し始める。ひなたの精神力も徐々に削られていっていく・・・・・・。

 

「キヒヒヒヒ・・・・・・」

 

ひなたの恐怖と苦痛に悶える姿を間近で感じ、笑い声をあげるイタイノン。抵抗する彼女を止めるのは面倒だが、それでこんな表情を見れるというのはまた格別だ。

 

しかも、このゆめぽーとに寄ってくる少女たちを襲うよりも、心地がいい・・・。

 

しかし、そんな快感はもうすぐ終わりのときを迎えようとしている。

 

「んん・・・ん・・・ぁ・・・ぁ・・・」

 

ひなたはもはや呻き声も弱々しくなり、両手の抵抗もイタイノンの手を掴んだまま、ピクピクと体を震わせるだけ、足も無意識に激痛を抑え込むかのように膝に力を入れているだけだ。

 

やがてその痙攣も止まっていき、ひなたの目からハイライトが消えると・・・。

 

パタン。

 

ひなたの両手はパタリと地面へと落ち、首もがくりと下を向いた。目はまるで生きる意志があるかのように開かれたままだ。

 

イタイノンは動かなくなったひなたの口から左手を離すと、倒れないように近くの木に運んで寄りかからせ、彼女の頬をペチペチと叩く。しかし、彼女は何も反応を見せない。

 

ひなたは肉体的苦痛とそれによる精神的な苦痛に耐えかね、脳が動きをシャットアウトしてしまったのだ。

 

「あーあ、壊れちゃったの・・・」

 

イタイノンはわざとらしくそう言うと、彼女を木に寄りかからせてその隣に座り込む。

 

「こうしてみると、お前のそういう顔も可愛いの・・・」

 

ひなたの顔を手でこっちに向かせると、目から光が消え、ポカンと口を開けたままにしている顔が見えてくる。それを見て、イタイノンは年頃の女の子のような笑みを見せる。

 

「・・・ぁ・・・」

 

彼女の右手を強くつねってみる。ひなたは少し眉を顰めはしたが、痛みに反応しただけで動こうとする気配がない。

 

「キヒヒ・・・・・・」

 

イタイノンはその様子に優しい笑みを浮かべると、ひなたの頬にキスをする。

 

「メガー!!」

 

そんなとき、ドシンドシンと地面を踏み鳴らす声が聞こえ、それが近くなっていく。メガビョーゲンが戻ってきた証だ。

 

イタイノンはメガビョーゲンが戻ってきたことを確認すると、メガビョーゲンが向かった先がどうなっているか確認してくる。林の外を覗いてみると、建物や芝生、花畑、水馬などの大半のものが病気に蝕まれていくのが確認できた。

 

「・・・そろそろ、この建物以外に範囲を広げるとするの」

 

イタイノンは不敵な笑みを浮かべると林へと戻り、動かないひなたを右肩に担ぐとメガビョーゲンへと向き直る。

 

「メガビョーゲン、あっち」

 

「メガー!!」

 

メガビョーゲンと共に場所を移動しようと林の外へと出た、その時・・・・・・。

 

「いたわ!! メガビョーゲンよ!!」

 

「ひなたちゃん!!」

 

そこへ駆けつけたのは、担いでいるひなたの仲間であるプリキュアのグレースとフォンテーヌ。どうやらシンドイーネのメガビョーゲンを浄化して、こちらに向かってきた模様。

 

「ちっ、鬱陶しい奴らが来たの。メガビョーゲン!」

 

「メガー!!」

 

舌打ちをしたイタイノンがメガビョーゲンに指示を出すと、怪物は飛び上がって二人に襲いかかる。二人はそれを飛び退いてかわす。

 

「「はあぁぁぁぁ!!」」

 

グレースとフォンテーヌはステッキからピンクと水色の光線をメガビョーゲンに向かって放つ。

 

「メガー! メガー!!」

 

メガビョーゲンは光線を右腕を回してはじき返した後、左腕を回して病気をばらまく。二人はそれを最小限の動きでかわしていく。

 

「メガメガメガメガメガメガ!! ビョーゲン!!」

 

メガビョーゲンは体を支柱に高速回転をさせると、右腕についているホイールを投げ飛ばす。二人はそれを飛んでかわしたが、ホイールは地面にバウンドした後、ブーメランのように回転しながらこちらへと戻ってきた。

 

「!? うわぁ!!」

 

戻ってきたことに気づいたグレースは間一髪でかわす。

 

「!! はぁ!!」

 

フォンテーヌはホイールを空中でかわすと、メガビョーゲンに向かって蹴り返す。

 

「メガー!?」

 

メガビョーゲンも自分のホイールが吹き飛ばされたとわかると、大慌てでとっさにかわす。しかし、その背後には、イタイノンとひなたの姿が。

 

「!?」

 

イタイノンはホイールがこちらに飛んできたことに気づくと、飛び上がって退避する。これでも、まだ俯いたまま動かないひなたの姿が。

 

「危ない!!」

 

グレースはとっさにジャンプして、ひなたの前に立ち、肉球型のシールドを展開し、回転するホイールを受け止める。

 

「ひなたちゃん、逃げて!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

グレースはホイールを押さえながらひなたに離れるように言うも、彼女は俯いたまま全く反応を示さない。

 

「ひなたちゃん・・・?」

 

「・・・・・・・・・」

 

グレースはひなたの様子がおかしいことに気づくも、その漏らした声でさえもひなたには届いていなかった。

 

「うぅ・・・邪魔しないで・・・! はぁっ!!」

 

ホイールはグレースを押しつぶそうと回転速度を上げていく。

 

グレースはそれでもホイールをなんとか抑えこみ、そのままメガビョーゲンへと返した。

 

「メ、ガ!?」

 

ホイールはメガビョーゲンの後頭部へと当たり、怪物はうつ伏せで倒れ込んだ。

 

「全く・・・私に向かって攻撃してくるとは何事なの・・・!」

 

空中へと逃げ込んだイタイノンはメガビョーゲンに向かって顰めた顔を見せる。

 

「まあでも、もうあの小娘は壊れたから終わりなの」

 

ひなたに駆け寄るグレースの姿を見て、イタイノンは不敵な笑みを浮かべた。

 

「ひなたちゃん、どうしたの? なんで何も言わないの?」

 

グレースはそう言ってひなたの肩を揺らすも、彼女からの返事はない。

 

「ひなたちゃん! ひなたちゃん! 返事をしてよ!!」

 

グレースの悲痛な叫びと共に、彼女の体をガクガクと揺らす。そうすると、一瞬だけひなたの顔が見えた。

 

「え・・・・・・?」

 

嫌な予感がした。そういえば、肩を揺らしたにしては軽すぎる。まるで、人形を揺らしているかのようだった。

 

まさか・・・まさか・・・!!

 

グレースは両手でひなたの顔を優しく掴み、その表情を真正面から見つめようとした。

 

「!?」

 

グレースは絶句した。それは信じられないような光景だった。

 

撮影会に連れてきてくれた友人の顔は、それは。

 

瞳孔が開ききっていて一切の輝きはなく、小さく口を開けたままの、悲惨な表情だった・・・・・・。

 

そして、彼女の体の中には赤く蠢く何かが淀んでいたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話「心傷」

・・・・・・痛い。

 

・・・・・・何か、誰かの声が聞こえるような気がする。

 

・・・・・・痛いのはもう嫌だ。

 

・・・・・・痛い。

 

・・・・・・なんだか、誰かに体を揺さぶられるような感じがする。

 

・・・・・・痛いのはもう嫌だ。

 

・・・・・・痛い。

 

ザザ・・・ザザ・・・ザザ・・・。

 

・・・・・・何やら映像があたしの頭の中に映し出される。

 

ーーーあれ? でも小さい頃のばっかだね? 最近のは?

 

ーーーああ、休んでた間はあまり撮らなかったから。

 

ーーーごめん! そうだよね・・・! 本当ごめん!!

 

・・・・・・何だか、胸がチクチクするような感覚がする。

 

・・・・・・痛いのはもう嫌だ。

 

・・・・・・痛い。

 

ザザ・・・ザザ・・・ザザ・・・。

 

・・・・・・何やら、また映像があたしの頭の中に映し出される。

 

ーーーーねえ二人とも! 今からちょっと付き合って!!

 

・・・・・・あたし、何であんなこと言ったんだっけ?

 

・・・・・・痛いのはもう嫌だ。

 

・・・・・・痛い。

 

ザザ・・・ザザ・・・ザザ・・・。

 

・・・・・・何やら、また映像があたしの頭の中に映し出される。

 

ーーーー面白そう!私、やりたい!

 

ーーーーあ・・・せっかくだけど、私は・・・

 

ーーーーまあまあ、とにかくやってみてよ!絶対、楽しいから!

 

・・・・・・何だか、胸の痛みが増した気がする

 

・・・・・・痛いのはもう嫌だ。

 

・・・・・・痛い。

 

ザザ・・・ザザ・・・ザザ・・・。

 

・・・・・・何やら、また映像があたしの中に映し出される。

 

ーーーーこっちは頭もお花畑ー!!

 

ーーーーふわぁ~! あははは!!

 

・・・・・・何だか、胸がズキズキと痛む。

 

・・・・・・痛いのはもう嫌だ。

 

・・・・・・痛い。

 

ザザ・・・ザザ・・・ザザ・・・。

 

ーーーーのどか!! のどか、大丈夫!?

 

ーーーーふぇ・・・・・・。

 

ーーーーのどかっち? のどかっち、大丈夫!?

 

・・・・・・胸がガンガンと痛む・・・・・・。

 

・・・マジヤバに痛い・・・苦しいくらい痛い・・・!

 

・・・・・・痛いのはもう嫌だ。

 

・・・・・・痛い。

 

ザザ・・・ザザ・・・ザザ・・・。

 

・・・・・・何? あたしにまだ見せたいものがあるの・・・?

 

・・・・・・いやだよぉ、もういやだ、見たくない・・・・・・!

 

・・・・・・もうあたしに、誰も構わないで・・・!

 

・・・・・・もう放っておいてよ・・・・・・!!

 

・・・・・・痛い・・・・・・苦しい・・・・・・痛い・・・・・・!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな・・・嘘だよね? ねえ、ひなたちゃん! ひなたちゃん!!」

 

ひなたの肩を強く掴んで前後に強く揺らすグレース。目の前の少女の悲惨な表情は、グレースの加減を忘れさせた、しかし、彼女はアクションどころか、リアクションすらもない。

 

そんな様子をイタイノンは空中で見つめていた。ひなたの体の中には淀んだ赤い何かが蠢いていて、彼女の体を蝕んでいるようだった。

 

あのプリキュアーーーーキュアグレースが体を揺さぶっているようだが、ひなたは全く反応を見せず、動く気配も全くない。

 

「キヒヒ・・・このまま成長して、永遠に壊れていればいいの」

 

イタイノンはその様子を見ながら、不敵な笑みを浮かべる。そして、彼女を救おうとしているあのプリキュアを叩きのめしやろうと、ホイールに当たって倒れているメガビョーゲンに向き直る。

 

「メガビョーゲン、何やってるの? そいつを一思いに潰してやるの」

 

「メガァァァー!!」

 

イタイノンの声にメガビョーゲンは立ち上がると、黒いオーラを上げながら足を踏み鳴らした後、グレースの方へと飛びかかる。

 

「グレース!!」

 

「!?」

 

ひなたに構っていて、背後にいるメガビョーゲンに気がつかなかったグレースは防御体制も取れないまま、両腕をかばうようにして目をぎゅっと閉じる。

 

「ふっ!!」

 

「メガ!?」

 

フォンテーヌが横から飛び蹴りを繰り出し、メガビョーゲンを吹き飛ばす。そして、ひなたの元へと駆け付ける。

 

「ひなた!!」

 

フォンテーヌがひなたに近寄るも、彼女の死んでいる表情を見て絶句する。

 

「まさか、そんな・・・・・・」

 

「これはもしや、精神に深刻なダメージを負ってるかもしれないラビ・・・!」

 

「これでお手当てできたとしても、ひなたは・・・・・・」

 

ラビリンとペギタンが瞳をウルウルとさせながら言う声が、グレースの耳に入っては抜けていく。

 

「嘘だよ・・・嘘だよ!!」

 

ひなたちゃんが壊れたなんて認めたくない・・・・・・だから、グレースはそれを否定するかのように彼女の体を揺さぶっていく。

 

「ひなたちゃん・・・・・・!ひなたちゃん・・・・・・!」

 

しかし、いくら揺さぶってもひなたが反応を示すことはない。彼女の表情は一筋たりとも動かず、何も変わることはない。

 

「キヒヒ・・・・・無駄な努力はやめるの」

 

イタイノンは彼女たちに近づいて嘲笑を浴びせる。

 

「そいつはいい痛がりっぷりだったの。私の腕を振りほどこうと惨めにもがいて、足をだらしなく暴れださせたりなんかして、本当に最高の瞬間だったの。もっと見ていたかったのに、残念なの・・・・・」

 

「!?」

 

「ッッッッ!!!」

 

イタイノンの残酷な言葉に、グレースは唖然としたような表情を浮かべ、フォンテーヌは全身が震えるほどの怒りの表情を浮かべていた。

 

フォンテーヌはステッキを水色に光らせて、イタイノンにめがけて発射する。

 

「メガー!!」

 

そこへ態勢を立て直して、イタイノンに庇うように立ったメガビョーゲンが右腕を振り回して、光線を弾く。

 

「はぁぁぁぁ!!!」

 

フォンテーヌはすぐさま飛び出して、メガビョーゲンに蹴りを食らわせる。

 

「メガ!!??」

 

蹴りの速さがあまりにも速かったため、メガビョーゲンは防ぎきれずに突き飛ばされる。

 

「・・・・・グレース、ひなたをお願い」

 

「・・・・・うん」

 

フォンテーヌは厳かな声でそれだけ言うと、ビョーゲンズの方へと駆け出していく。

 

「ひなたちゃん・・・・・」

 

グレースは動かないひなたを抱きしめながら、目から一筋の涙を流した。

 

「はぁ!!!」

 

「メガ!!」

 

一方、フォンテーヌはステッキから水色の光線を照射する。メガビョーゲンは右腕を振り回して光線を弾く。

 

「ふっ! はぁぁぁぁぁ!!」

 

「メガァ!?」

 

その隙にフォンテーヌは近くにある街路樹の幹を蹴って飛び出すと、メガビョーゲンに横から飛び蹴りを食らわせる。直撃したメガビョーゲンは吹き飛ばされる。

 

バチバチバチバチ!!!

 

「ふん!」

 

そこに空中から降りてきたイタイノンが、フォンテーヌに向かって黒い電撃を放つ。

 

「ぷにシールド!!」

 

フォンテーヌは肉球型のシールドを展開して、電撃を防ぐ。

 

「これはどう?なの」

 

イタイノンは電気を纏いながら体を回転させると二つに分裂した。

 

「え、イタイノンが・・・・・!?」

 

「二人に増えたペエ・・・・・!?」

 

「ふっ・・・・・!!」

 

「うっ・・・・・!!」

 

どうしてかも考える間も無く、一体のイタイノンが雷の速さで拳を突き出してきた。フォンテーヌはなんとか直撃は防ぐも、そこへもう一体が光速で近づいて蹴り上げる。

 

パリンッ!!!

 

「あっ・・・・・!!」

 

肉球型のシールドは破壊され、フォンテーヌは上空へと吹き飛ばされる。

 

「メガ、メガメガメガメガメガメガメガ!! ビョーゲン!!」

 

そこへメガビョーゲンが体を高速回転させ、ホイールを上空のフォンテーヌへと目掛けて投げつける。

 

「!?」

 

フォンテーヌは空中でなんとかホイールをかわすも、そこへ2体のイタイノンがいつの間にか現れ、フォンテーヌの周囲を回った後、姿を消す。

 

「え・・・・・?」

 

フォンテーヌが動揺した、次の瞬間・・・・・!!

 

「がはっ!ぐふぅっ!! きゃあぁぁぁぁ!!!」

 

2体のイタイノンが上空から雷を纏いながら、フォンテーヌに次々と蹴りを入れる。防御体制を取れなかったフォンテーヌは腹と胸に連続で食らい、最後に腹に蹴りを食らって地面へと落とされた。

 

「フォンテーヌ! 大丈夫ペエ!?」

 

「ぐっ、うぅ・・・・・!!」

 

地面へと叩きつけられたフォンテーヌはなんとか立ち上がろうとする。

 

そこへ2体のイタイノンが地面へと降り、統合して一体のイタイノンへと戻る。

 

「ふん、あんなうるさいやつ助けて何の意味があるの? ああいうやつは、すぐに場を引っ掻き回して、一人で勝手に突っ走って他人に迷惑をかけるだけなの。私たちを倒そうとするなんて、お門違いにも程があるの」

 

「ッッッッ!!!」

 

イタイノンの冷酷な言葉に、フォンテーヌの心に怒りの火がつき始める。

 

「ふ、ふざけない、で・・・・・ふざけないでよ!!」

 

「・・・・・?」

 

「私の友達をあんな風にしておいて、どうしてあなたたちは笑ったり、そういう表情ができるの!? あなたたちこそ、他人を病気で苦しめようだなんてお門違いだわ!!」

 

フォンテーヌの言葉に、押され気味になるイタイノン。

 

「それに私は、ひなたを一度も迷惑だなんて思ったことはないわ!! あの子はむしろ、私にいい経験をさせてくれたの!! 最初はドレスなんてって思ったけど、途中からとてもワクワクしたの!! それに一人で突っ走ったのはあの子が一生懸命だからよ!! あなたに立ち向かったのだって、大切なものを守るためよ!! 人のことを知りもしないあなたに、私の友達をバカにしないでッ!!!!」

 

「っ・・・・・!!」

 

続くフォンテーヌの怒りの言葉に、イタイノンは動揺する。彼女の頭の中に一つの映像がフラッシュバックしたのだ。

 

ーーーー子供が遊ぶような場所で黄色いリボンをつけた少女が、笑顔でこちらに手を差し出してくれた。

 

ーーーー暗い夜道の中、手を引っ張ってくれた黄色いリボンの少女。

 

「イタイノン!!」

 

イタイノンはしばらく動揺した表情をしていたが、ネムレンの声にハッとなると首をブンブンと振り、フォンテーヌを睨む。

 

「ごちゃごちゃとうるさいの!! 他人のことを考えないのはみんな一緒なの!! メガビョーゲン!!」

 

「メガー!!」

 

メガビョーゲンは馬のように足を上げると、そのまま4本足で駆けていきながらフォンテーヌへと突進攻撃を繰り出す。

 

「ぷにシールド!!」

 

「くっ・・・・・!!」

 

フォンテーヌは肉球型のシールドを再度展開すると、メガビョーゲンの突進攻撃を抑える。

 

「ふん・・・」

 

そこへイタイノンが横から体に電気を帯電させると、前かがみになってからのけぞらせた後、口から黒い電気のレーザーをフォンテーヌに向かって放つ。

 

「・・・・・!?」

 

メガビョーゲンを抑えようとするフォンテーヌに、黒い電気のレーザーが迫っていき・・・・・。

 

ドォォォォォォン!!!!

 

土煙が立つほどの爆発を起こした。

 

一方、ひなたの側にいるグレースは・・・・・。

 

「ひなたちゃん・・・・・」

 

グレースは考えていた。思い出したくはないが、クルシーナが私に病気を蝕もうとしたとき、彼女はどういう動作をしていたか。確か、口づけを交わしていたような気がする。

 

グレースはひなたに向かって、口づけを交わしてみる。プリキュアの私でもそういうことはできるのかな・・・・・?

 

「んぅ・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

お願いだから戻ってきてほしいと、彼女に願う。

 

しかし、そんな願いの口づけは彼女には何も影響を与えなかった。彼女の目は一筋たりとも動くことはなく、表情が変わることもない。

 

「ひなたちゃん・・・・・」

 

ひなたを見つめていても、彼女の表情は変わることはない。真っ黒な瞳が、闇で包まれているだけだ。

 

「いやだ・・・こんなのいやだよ・・・!!」

 

グレースはひなたを再び抱きしめ、そんな彼女の瞳からはボロボロと水のように涙がこぼれ、ひなたの顔へとポタポタと垂れていく。

 

「ひっく、ぐすっ・・・まだ私、撮影会でドレス、何も選べてないよぉ・・・・・。ちゆちゃんと一緒に写真も撮ってないし、ひなたちゃんにおしゃれをした私の姿も見てもらってない・・・・・。私、ひなたちゃんが迷惑かけたなんて思ってないよ・・・・・ひなたちゃんがいない撮影会なんて嫌だよぉ・・・・・!!」

 

グレースは聞こえているかどうかわからないひなたへの気持ちを吐露する。

 

「ひなたちゃん、今日はずっと自分のことそっちのけで・・・・・可愛いアクセサリーとか・・・・・私たちに合うの、見つけてくれたよね・・・・・。私、楽しすぎて、胸がいっぱいになったんだよ・・・・・本当はありがとうって言いたかったの・・・・・私たちのために夢中になっていろんなことをしてくれて、って・・・・・」

 

そんな彼女への気持ちを吐露していると、そこへやってくる一つの影が。

 

「ひなた・・・ん・・・くっ・・・」

 

ボロボロになっている黄色い猫。それはグレースが抱いているひなたのパートナー・・・・・。

 

「ニャトラン!!」

 

「一体、どこに行ってたラビ!?」

 

「いや、悪い・・・ちょっとメガビョーゲンの攻撃が激しくて、まいっちまってなぁ・・・」

 

ニャトランはメガビョーゲンの電撃が原因なのか、ステッキ越しに浴びてしまい、気絶してしまっていたのだ。今でも、ダメージが残っているのかフラつきながらこちらへやってきたのだ。

 

ニャトランはひなたに近寄ると彼女の肩へと登ると、ひなたの頬を抱きしめる。

 

「ひなた・・・俺、お前と出会ったとき、おっちょこちょいなやつだなって思ったけどさ・・・同時に面白いやつだって思って、そういうお前だからプリキュアとして一緒にお手当てしたいって思ったんだぜ・・・? だから、俺の心の肉球にキュンっと来たんだ・・・」

 

ニャトランはひなたへの気持ちを吐露すると、彼女の頬から顔を離す。

 

「だから、戻ってきてくれよ、ひなた・・・。俺、本当はお前がいないと何にもできねぇよ・・・。グレースだって、フォンテーヌだって、ラビリンとペギタン、ラテ様だって、お前が戻ってくるのを待ってるんだぜ・・・」

 

ニャトランの言葉に同調して、グレースも彼女のことをぎゅっと抱きしめる。

 

「そうだよ・・・私、ひなたちゃんのこと大好きだよ・・・」

 

グレースが精一杯の気持ちを表現する。

 

「クゥ~ン・・・」

 

体調が悪そうなラテがひなたを気遣うように彼女の足元に寄り添う。

 

しかし、これでもひなたの様子が変わることはない。

 

「うぅぅ・・・・・・」

 

グレースを始め、誰もが、そう思った・・・そのとき・・・・・・。

 

「グレー、ス・・・ニャ・・・ト・・・ラン・・・」

 

ひなたの口から弱々しい声が漏れ、手の指がわずかにピクリと動き出す。

 

「ひなたちゃん!?」

 

「! ひなた!!」

 

ひなたがわずかに動き出したことに気づく二人。私たちの声が届いたのか・・・?

 

ひなたの暗い瞳からは涙がこぼれ、右手をゆっくりと伸ばす。その手はガクガクと震えていたが、確かにこちらに伸ばしていた。

 

口元もわずかだが、微笑んでいるような感じがする・・・・・・。

 

「いっしょ・・・・・・に・・・・・・」

 

「!! ああ・・・」

 

ニャトランはひなたのわずかな言葉を聞くと彼女の腕へと移動して、彼女の指に触れた。

 

その瞬間、3人を黄色い光が包み始めた・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・痛みが続いている。苦しい。

 

・・・・・・痛いのは嫌だ。

 

・・・・・・痛みが続いている。苦しい。

 

ーーーーそんな・・・嘘だよね? ねえ、ひなたちゃん! ひなたちゃん!!

 

・・・・・・誰が叫んでいる声が聞こえる。

 

・・・・・・痛いのは嫌だ。

 

・・・・・・痛みが続いている。苦しい。

 

ーーーー嘘だよ・・・嘘だよ!!

 

ーーーーひなたちゃん・・・・・・!ひなたちゃん・・・・・・!

 

・・・・・・誰が泣き叫んでいる声が聞こえる。

 

・・・・・・目の前で、グレース、のどかっちが泣いている。

 

・・・・・・痛いのは嫌だ。

 

・・・・・・痛みが続いている。苦しい。

 

ーーーー私は、ひなたを一度も迷惑だなんて思ったことはないわ!!

 

ーーーー人のことを知りもしないあなたに、私の友達をバカにしないで!!!!

 

・・・・・・また、別の誰かの声が聞こえる。

 

・・・・・・フォンテーヌ、ちゆちーが小さな子を相手に怒っている。

 

・・・・・・痛いのは嫌だ。

 

・・・・・・痛みが続いている。苦しい。

 

・・・・・・あたしの唇に、グレースの唇が重なる。

 

・・・・・・おかしいな。痛い。でも、気のせいじゃない。

 

・・・・・・もう放っておいて。放っておいてよ。

 

・・・・・・痛みが続いている。苦しい。

 

ーーーーまだ私、撮影会でドレス、何も選べてないよぉ・・・・・。ちゆちゃんと一緒に写真も撮ってないし、ひなたちゃんにおしゃれをした私の姿も見てもらってない・・・・・。私、ひなたちゃんが迷惑かけたなんて思ってないよ・・・・・ひなたちゃんがいない撮影会なんて嫌だよぉ・・・・・!!

 

・・・・・・グレース。あたしが無理やり連れてきたのにそんなことを思っていたなんて。

 

・・・・・・でも、そのせいでグレースはフラフラになって、あたしは頭をさげることになった。

 

・・・・・・痛い。胸が痛い。心が痛い。

 

・・・・・・痛いのは嫌だ。放っておいてよ。

 

・・・・・・痛みが続いている。苦しい。

 

ーーーーひなたちゃん、今日はずっと自分のことそっちのけで・・・・・可愛いアクセサリーとか・・・・・私たちに合うの、見つけてくれたよね・・・・・。私、楽しすぎて、胸がいっぱいになったんだよ・・・・・本当はありがとうって言いたかったの・・・・・。

 

・・・・・・あたしが無理やり連れ出して、グレースが苦しい思いをしてると思ったのに。

 

・・・・・・グレースに嫌われたと思ってた。口では優しいあんなことを言っていたけど、本当は責めたくないだけで、心の底で怒ってるんじゃないかと思ってた。

 

・・・・・・あたしが勝手に思ってただけだったんだ。グレースはそんなこと思ってなかったんだ。

 

・・・・・・グレースは心の底から楽しんでくれていたんだ。

 

ーーーーひなた・・・

 

・・・・・・別の声が聞こえてくる。この声は、ニャトラン?

 

ーーーー俺、お前と出会ったとき、おっちょこちょいなやつだなって思ったけどさ・・・同時に面白いやつだって思って、そういうお前だからプリキュアとして一緒にお手当てしたいって思ったんだぜ・・・? だから、俺の心の肉球にキュンっと来たんだ・・・

 

・・・・・・ニャトラン・・・・・・。

 

・・・・・・あたしはダメな子だと思ってた。でも、ダメなところもニャトランは認めてくれたんだ。

 

ーーーーだから、戻ってきてくれよ、ひなた・・・。俺、本当はお前がいないと何にもできねぇよ・・・。グレースだって、フォンテーヌだって、ラビリンとペギタン、ラテ様だって、お前が戻ってくるのを待ってるんだぜ・・・。

 

・・・・・・ニャトラン。

 

ーーーー私、ひなたちゃんのこと大好きだよ・・・。

 

・・・・・・グレース。

 

・・・・・・フォンテーヌ。

 

・・・・・・そうだ。あたしは戻らないと・・・・・・。

 

・・・・・・可愛いものも、友達も守るって決めたんだから。

 

・・・・・・動いて! あたしの体、動いてよ!!

 

「グレー、ス・・・・・・ニャ・・・ト・・・ラン」

 

・・・・・・手を伸ばして! 約束守らなきゃ!!

 

「いっしょ・・・・・・に・・・・・・」

 

・・・・・・一緒に守ろう! みんなで一緒に!!

 

その瞬間、あたしの周囲は光に包まれていった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メガー!!」

 

「きゃあぁぁぁぁ!!!」

 

メガビョーゲンの振り回した両腕に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられて転がるフォンテーヌ。イタイノンとメガビョーゲンの二人の攻撃を受け続け、すでに体は傷つきボロボロだ。

 

「フォンテーヌ!!」

 

「くぅぅ・・・・・・!!」

 

立ち上がろうとするフォンテーヌに、メガビョーゲンが近づいてくる。

 

「もう諦めるの。お前がいくら頑張っても、あいつは元に戻らないの」

 

イタイノンが倒れているフォンテーヌを嘲笑する。

 

「私、は、諦めない、んだから・・・・・・!!」

 

「・・・もういいの。メガビョーゲン、とどめを刺すの」

 

「メガー! メガメガメガメガメガメガ!! ビョーゲン!!」

 

立ち上がろうとしているフォンテーヌに、イタイノンはため息をつき、メガビョーゲンに指示。メガビョーゲンは支柱を高速回転させると、右腕のホイールをかなりの速度で投げつけた。

 

フォンテーヌは迫ってくるホイールに防御動作を取ることができず、目をぎゅっと瞑る。

 

ドカーーーン!!!!

 

ホイールは激突し、大きな音を立てる。

 

「・・・ふん、呆気ないやつだったの・・・!?」

 

イタイノンはそう言って勝利を確信するが、ホイールを抑えている音が聞こえてきて異変を感じる。

 

土煙が晴れるとそこには二人の人物が肉球型のシールドを展開して、ホイールが衝突するのを食い止めているではないか。

 

その相手はキュアグレースと、自身が精神を壊したはずのキュアスパークル・・・。

 

「ありえないの・・・私が壊したはずなのに・・・!?」

 

イタイノンはキュアスパークルが再びプリキュアに変身して、フォンテーヌの前に立っていることに驚愕した。

 

「「はぁぁぁぁ!!」」

 

二人はぷにシールドを押しのけて、ホイールを後ろへと弾いた。そして、二人はフォンテーヌの方へと振り向く。

 

「フォンテーヌ、大丈夫!?」

 

「スパークル!! 元に戻ったのね!!」

 

フォンテーヌはスパークルが元に戻ったことに、歓喜の表情を見せる。

 

「グレースとあたしの頼りになる相棒のおかげでね!」

 

スパークルはピースサインを見せながらニッコリと笑顔を見せる。フォンテーヌは傷ついた体を起こして、ステッキを構える。

 

イタイノンは悔しそうな表情を見せていた。

 

「ッッッッ!! 今更、戦えるようになったって同じことなの! メガビョーゲン!!」

 

「メガー!!」

 

メガビョーゲンは高く飛び上がると、3人を押しつぶそうと上から落下する。

 

「「「はぁ!!」」」

 

3人は分散しながらかわすと、それぞれのイメージカラーの光線を放つ。

 

「メ、ガ!? メガ!!」

 

光線は顔に当たって怯むメガビョーゲンだが、すぐに態勢を立て直して馬のように前足を上げると駆けながら突進をしようとしていた。

 

「っ!!」

 

「ひゃあ!!」

 

猛スピードで迫ってきたメガビョーゲンにスパークルはかわし、グレースは戸惑いながらもなんとか避ける。

 

「メガビョーゲン、こっち!!」

 

「メガァー!!!」

 

スパークルはメガビョーゲンを挑発し、自分に追いかけてもらうように仕向ける。メガビョーゲンはスパークルの狙い通り、彼女の跡を追っていく。

 

ゆめぽーとに隣接する建物の近くへと走っていくと壁際のところでスパークルはメガビョーゲンへと向き直る。メガビョーゲンはスピードを一度も緩めることなく突っ込んでいく。

 

そして、スパークルとの距離がわずかに迫ったとき、彼女はそのまま飛び上がってメガビョーゲンの体の上に手をついて一回転すると、背後へと飛ぶ。

 

「メ、メガーーーーーー!!??」

 

メガビョーゲンは目の前に壁に気づくも、スピードを緩めることができずそのまま建物の壁へと思いっきり激突した。その衝撃で右腕の糸車が壊れてしまう。

 

「ああ・・・!?」

 

「糸巻きが壊れちゃったネム!!」

 

イタイノンとネムレンの二人はメガビョーゲンが攻撃手段を失ったことに動揺していた。

 

「「キュアスキャン!!」」

 

フォンテーヌはその隙にステッキの肉球にタッチして、ステッキのペギタンの顔をメガビョーゲンへと向ける。ペギタンの目が光り、メガビョーゲンの中で苦しむエレメントさんを見つける。

 

「木のエレメントさんペエ!!」

 

エレメントさんの位置は、メガビョーゲンの不健康そうな顔がついている支柱の真ん中あたりだ。

 

「糸車なのに、木のエレメントさんなの・・・?」

 

「きっとあの糸車、木で出来てるのよ」

 

「ああ、そういうこと!!」

 

スパークルの疑問にフォンテーヌが答えると、彼女は納得する。

 

「よ、よいっ、しょっと、えい!!!」

 

グレースは近くに落としていたホイールを持ち上げると、メガビョーゲンへと放り投げる。

 

「メガッ!!??」

 

ホイールはメガビョーゲンの顔面にブロックされ、怪物は目をぐるぐると回す。

 

「グレース、すごーい! 力持ちだねー!!」

 

スパークルは巨大なホイールを投げ飛ばしたことに感心していた。

 

「ついでにこいつもあげる!! 氷のエレメント!!」

 

フォンテーヌは氷の模様がついたエレメントボトルをステッキにかざす。

 

「はあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ステッキから氷の力をまとった青い光線が放たれる。4本の足も立たなくなっているメガビョーゲンに、光線は直撃し怪物はあっという間に氷漬けになる。

 

「今よ!スパークル!!」

 

「お願い!!」

 

「さあ、行こうぜ!スパークル!!」

 

「うん!!」

 

スパークルは菱形の模様が描かれているエレメントボトルをステッキにかざす。

 

「エレメントチャージ!!」

 

そう言いながら光るステッキの先をハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「ヒーリングゲージ上昇!!」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングフラッシュ!!」

 

スパークルは叫びながら、ステッキをメガビョーゲンに向けて黄色の光線を放つ。光線は螺旋状になっていた後、メガビョーゲンに直撃した。

 

その光線はメガビョーゲンの中に入ると、螺旋状のエネルギーは手へと変化して、メガビョーゲンの中にいた木のエレメントさんを優しく包み込む。

 

菱形状にメガビョーゲンを貫きながら、光線はエレメントさんを外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「お大事に」」

 

木のエレメントさんは元の場所に戻っていくと、病気で蝕まれた撮影会の会場やゆめぽーとは元の色を取り戻していく。

 

そして、スパークルの中を蝕んでいた病気も消えていく。

 

「ワゥ~ン!」

 

体調不良だった子犬ーーーラテも額のハートマークが黄色から水色に戻り、元気になった。

 

「・・・ふん、今日はこのぐらいにしておいてやるの」

 

イタイノンはスパークルの中に赤く蠢く何かがパチパチと小さな音を立てて、まだ残っているのを確認しておく。

 

「ねえ、イタイノン」

 

「何? なの」

 

「私、もうちょっと会場にいたいネム・・・」

 

「ふざけるな、なの。もう撮影会はうんざりなの・・・」

 

「そうだよね・・・ネム・・・」

 

イタイノンとネムレンはそんな会話をしながら、その場から姿を消したのであった。

 

「やったね、スパークル!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

グレースはスパークルに近づいて声をかけるが、その瞬間、スパークルの体がふらっと仰向けに倒れていく。

 

「!? スパークル!!」

 

グレースはとっさに走って、彼女の体を受け止める。

 

「スパークル! 大丈夫かよ!?」

 

「あ、あはは・・・ちょっと、安心したら力が抜けちゃった・・・」

 

スパークルはかすれた声で言葉を紡ぐ。イタイノンに痛めつけられ、病気に蝕まれていたスパークルはそんな痛む体を押してまで戦っていた。メガビョーゲンを浄化したことで自分の中の病気が沈静化し、その反動で力が抜けてしまったのだ。

 

特になんともないことに気づき、グレースが安堵の表情を浮かべる。

 

「スパークル! 大丈夫なの!?」

 

フォンテーヌが近づいて彼女を心配する。

 

「フォンテーヌこそ大丈夫なの? 体、ボロボロじゃん・・・」

 

スパークルはむしろそうなるまで、ビョーゲンズと戦ったフォンテーヌを心配していた。フォンテーヌも安堵の表情を浮かべる。

 

そしてその後、ゆめぽーとのエンジェルフォトさつえいかいは再開され、少し休んだのどかたちは撮影会に再び参加し、楽しい時間を過ごしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃病院の寂れた屋上、そこではクルシーナが退屈そうに寝そべっていた。

 

「はぁ、退屈。なんか面白いことないかしらね・・・」

 

クルシーナはそう言いながら、足を外へとぶらぶらとさせている。ウツバットをからかうのも飽きて、人間界へわざわざキュアグレースの種の様子を見に行ったが、少し成長している様子を拝見できて嬉しかったことしか頭に残っていない。

 

私たちの病気で染め上げられた赤黒い空を見上げたとしても、不健康そうなものが徘徊しているだけで面白いものが飛んでいるわけでもないし、荒廃した街に行ったとしても生気は感じないので、楽しいものは何もない。ここには面白いものはないようだ。

 

・・・適当に眠って、気が向いたら出撃するか。

 

クルシーナはそう思って横になり、一眠りしようとするが、そこへ屋上への扉の音が聞こえて、そちらを振り向いてみるとゴシックロリータの少女が感情のない顔で入ってくるのを感じた。

 

「・・・イタイノン?」

 

「・・・クルシーナ? ここにいたの?」

 

「アタシがいちゃダメなわけ?」

 

「・・・別に」

 

イタイノンはそう言うとクルシーナの横に座り込んで、荒廃した景色を眺め始めた。

 

クルシーナは当たり前のように横に来たイタイノンに文句を言おうとして言葉を止め、彼女の頭に異変があるのを感じた。

 

「あんた、その髪飾りどうしたの?」

 

イタイノンの髪には黒と紫を基調とした蝶の形の髪飾りがされていた。

 

「・・・秘密なの」

 

「ちょっとぉ、どこで手に入れたか教えなさいよー。ここにいてもいいからぁ」

 

「・・・どんなに病気の人間を注ぎ込んだって、教えてあげないの」

 

イタイノンはそっぽを向く。まだ、誰にも見せたことがないような頬を染めた少女の顔をしながら。

 

ーーーーこれ、あげる・・・。

 

ーーーー何これ? なの

 

ーーーー蝶の髪飾り。イタイノンに合うと思って持ってきたの。

 

ーーーー・・・しょうがないからもらってあげるの。

 

本当は人間にまた一時的に戻ったネムレンがくれたものなのだが、イタイノンは心の中で人間の行動の観察として付けておこうと思い、もらってやることにしたものだ。クルシーナにはもちろん、ドクルンやあいつらにも内緒だ。

 

「ねえねえ、教えろよぉー。そんな可愛い格好しちゃってさあー」

 

「・・・暑苦しいから離れるの」

 

クルシーナはイタイノンの後ろから首を回して抱くようにしながら、甘い声を出す。イタイノンは顰めた顔をしつつも、クルシーナを離そうとしない。

 

クルシーナとはいえ、間接的に褒めてくれた彼女に悪い気はしないと思い、機嫌がいいのではなさないことにした。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

バサバサバサバサバサバサ・・・・・・!!

 

「・・・ん?」

 

「・・・?」

 

なんだか空が騒がしいと思い、二人はじゃれ合いを止めて赤黒い空を見上げてみると何やら黒い何かが蛇のようにジグザグと大流しながら、こちらに向かってくるのが見えた。

 

それは何やら非常に不健康そうで、とても不気味だ。まるで群れをなして飛ぶ鳥のように隊列を崩さずに、集まって空を飛び回っていた。

 

その黒い大流は二人に近づいていき、彼女たちの前でゆっくりとスピードを落としていくと、彼女たちの眼の前で止まる。この大流はよく見ると大量のナノビョーゲンが先頭にある何かの核に集まってできたようなものだ。

 

「何? この荒廃した街を飛び回る、ストームビョーゲンが何の用?」

 

クルシーナは女の子の顔から、不機嫌そうな表情へと戻る。また、何か面倒臭いことでも持ってきたのか。

 

「ナノ~」

 

ビョーゲンストームと呼ばれた大流は、先頭のナノビョーゲンが蠢いていて見え隠れしているような核のようなものから映像を映し出す。

 

そこにはこの荒廃した街のどこかであろう場所で、一人のボロボロの白衣を纏った男性が何かから走って逃げていくような光景が見えた。

 

二人はこの男性の姿は見たことがあるし、誰なのかを知っている・・・・・・。

 

「・・・クルシーナ、こいつ・・・!」

 

イタイノンは無表情から一気に不機嫌そうな表情へと変わり、黒いオーラを迸らせる。

 

「へぇ、あいつ、まだ病気にやられてなかったんだぁ?」

 

クルシーナは、映像を見ながら獲物を見つけたような不敵な笑みを浮かべるのであった。

 




ここまで読んでくださったみなさま、ありがとうございます。

私も飽きずにここまで書けたのはプリキュアという作品がそういう魅力を秘めているのではないかというふうに思います。プリキュアという作品の二次創作が書きやすいという点もあるかもしれませんね。

さて、いつもはやらない次回の告知を二つ、あらかじめしておきます。

一つは、次回は原作の第10話と第11話をベースとしていく話になりますが、全部で9話もしくは10話で構成していくことを予定しております。後半は完全オリジナルの話にしていきたいと考えており、そこでビョーゲン三人娘の根源に迫っていく話にしていくことを予定しております。彼女たちは一体、何者なのか? そこで少しこれまでの伏線も回収して、見えていく話にしていきます。これまでの話でもヒントはあるので、これまでの話を読み返しながらご覧いただければと思います。

二つ目は、上記の話が終わった後、ビョーゲンズの新しいオリジナル幹部を一人、そして話を少し経た後もう一人ビョーゲンズを登場させる予定です。詳しいことはまだ言えませんが、三人娘と同じくらいクセのあるキャラクターとなっていますので、登場を楽しみにしていただければと思います。

最後の一つ、本編を投稿する前にビョーゲン三人娘を絡んだ本編とはあまり関係ない番外編を投稿したいと思っております。こちらは今後も投稿していき、基本1話完結の番外編になります。興味がある方は覗いていただければと思っております。

しかし、こちらの仕事がもうすぐで忙しくなりそうな関係上、本編を完成させるのは少し時間が必要になるかと思っております。それでも、この話はみなさまになるべくお届けできるように、早く完成させていきたいと思っております。

今後の話も期待していただければと思います。
もちろん、感想や評価、ご指摘もお待ちしております。

どうぞ、今後ともよろしくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話「襲来①」

原作第10話、第11話がベースとなります。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・!!!!」

 

森の中で一人の男性が何かに追われるように走っていく。

 

その森の上からは黒い大流のようなものが蛇のように隊列を作りながら、男性を追いかけていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・!!!!」

 

男性は自分の後から迫ってくる黒い大流が迫ってくるのを確認しながら、息を切らせながら走っていく。

 

しかし、黒い大流は纏わりつくようについているナノビョーゲンが赤い目を光らせると、男性の走りよりもスピードを上げて、呆気なく男性を追い抜く。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・!!!」

 

男性は黒い大流が森の上から入り、こちらに向かってくるのを視認すると、間一髪のところで大流を避け、地面で受け身を取って転がると、再び走り出す。

 

黒い大流は小回りよくUターンをすると、男性の後ろへと迫っていく。

 

男性は追いつかれまいと走り出すも、黒い大流は男性よりも早く距離はすぐに詰められていく。森の広いところへと出ると、そこにある石でできた小屋の前に立ち、扉を開けて待ち構えるように立つ。

 

そこへ黒い大流が猛スピードで迫っていき、男性はそれを確認すると大流が近づいてくるギリギリの距離で横へと避ける。小屋の中へと大流が突っ込んでいき、石の小屋が大流と共に吹き飛ぶ。石の小屋はバラバラとなり、大流の核は生き埋めになった。

 

「そう簡単に私を病気に蝕めると思うなよ!」

 

男性は石の小屋によって大流が動けないのを確認すると、再び赤くなっている森の中へと走り出して姿を消していく。

 

ドォォォォォォォォン!!!!!!

 

しばらくすると大流は小屋の残骸を吹き飛ばし、森の上へと出て上空へと上がる。大流は空中でサークルを作りながら、消えた男性の行方を探すように纏わりつくナノビョーゲンが目を赤く光らせる。

 

黒い大流は男性を探すべく、蛇のような隊列を作りながら街の方へと飛んでいったのであった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビョーゲンキングダムーーーーそこではここ最近、キングビョーゲンの姿を全く見ていない幹部たちの姿がいた。ダルイゼン、シンドイーネ、グアイワル、そしてクルシーナ、ドクルン、イタイノンのビョーゲン三人娘だ。

 

「はぁ・・・最近、キングビョーゲン様にお会いできなくて寂しい・・・」

 

岩場に座って暗い空を見上げるシンドイーネは愛しのボスの姿を見れなくて、つまらなそうな表情でため息をついていた。

 

「ハッ・・・ちっとも成果を出さないお前の顔なんか見たくないんじゃないか?」

 

そんなシンドイーネの思いを近くにいた、グアイワルが横柄な態度で小馬鹿にする。

 

「はぁ!? アンタに言われる筋合いないんですけどぉ! 自分だってろくな結果出してないくせに!」

 

できていないのはお互い様だと言わんばかりにシンドイーネも顰めた顔で言う。

 

「俺は寂しくないから、構わんのだ!!」

 

「地球を蝕めたかどうかの話ですぅ~! 話そらすのやめてもらえますぅ~?」

 

明らかに動揺したグアイワルに、今度はシンドイーネの方が嫌味っぽく返す。

 

「俺が小さい男みたいな言い方はやめろ!! 大器晩成型なだけだ!!」

 

グアイワルはムキになってシンドイーネに怒り出す。

 

「あーあ、また始まったよ。ホント懲りないわね・・・」

 

岩場で寝そべっていたクルシーナが呆れたような声を出す。

 

「毎回毎回、くだらない喧嘩を聞かされるこっちの身にもなってほしいの・・・」

 

イタイノンはゲームを行っている手を思わず停止させて、二人の喧嘩に辟易していた。

 

「あの二人の喧嘩は今に始まったことではありませんが、こっちの邪魔になるようなことはしないでもらいたいですねぇ・・・」

 

ドクルンは知恵の輪を動かしながら、いつもの口調で二人の喧嘩について言葉を返す。

 

「うるさっ・・・巻き込まれないうちに仕事へ行くか・・・」

 

クルシーナと同じように岩場に寝そべっていたダルイゼンは不快感を覚えると、言い合いに巻き込まれるのを避けるかのように立ち上がって人間界に向かうべくその場を離れた。

 

「付き合ってらんないわ、ホントに・・・」

 

クルシーナもそう言って立ち上がり、その場を後にしていく。

 

「おばさんと筋肉バカはいつまでも言い合ってればいいの」

 

イタイノンもうんざりしてゲームをしまい、クルシーナと同じ方向へと歩いていく。

 

「私も論理的ではない喧嘩など、見苦しいだけなので」

 

ドクルンも立ち上がって、知恵の輪をしながら同じ方向へと歩き去っていく。

 

一方、二人蚊帳の外へと置かれたシンドイーネとグアイワルは・・・。

 

「だったら見せてやろうじゃないか!! 俺の器の片鱗を!! キングビョーゲンが俺に惚れても知らんぞ!! 」

 

「やってみなさいよ! 私は私の方がお役に立てるってことを証明してやるんだから!!」

 

どっちがキングビョーゲンを満足させられるかで、睨み合うシンドイーネとグアイワル。

 

「・・・・・・ホントくだらない」

 

クルシーナは二人の聞こえた言葉に、ぼそりと声を漏らすのであった。

 

そんな彼女は人間界に向かうべく歩いており、彼女のそばにはドクルンとイタイノンの姿もあった。

 

「何? アンタらも行くわけ?」

 

「別にいいじゃないですかぁ。何人いたって困るものでもないでしょう」

 

「・・・何か問題でもあるの?」

 

「別にないけど・・・今日のビョーゲンズは妙にやる気があるわね。普段からそういう威勢を見せればいいのに・・・」

 

クルシーナは二人が着いてくることに対しては特に気にしなかったが、ビョーゲンズの普段の行動に呆れたような様子を見せていた。

 

「連続して失敗するのを気にしているのではないですかねぇ」

 

「・・・私も疲れているときは地球になんか行きたくないの」

 

「そういうことしてるから、お父様だって呆れて出てこないんじゃないの?」

 

二人の勝手な意見に、クルシーナの呆れた様子は変わらない。こいつら、本当に地球を自分たちのものにする気があるのだろうか?

 

ふと、クルシーナが思い出したかのように足を止める。

 

「ああ、そうそう、ドクルン。アタシたちがいるアジトの近くに、アタシたちがのものにしたあの町、襲撃したときのこと覚えてる?」

 

「もちろんです。忘れるわけがないじゃないですかぁ」

 

「一人だけ病気から逃れて取り逃がしたやつがいたじゃない? そいつ、あの町をまだのさばってるみたいよ」

 

「!・・・あの男が、ですか」

 

ドクルンは驚いたような表情を見せた後、口調が落ち着いたものとなり、表情も無感情なものとなる。

 

「ええ。だから、アタシがストームビョーゲンにその男を引っ捕えるか、病気に蝕むように言ってんだけど、森の中で見失ったみたい」

 

「・・・その男の目的は? ただ逃げ回ってるだけってことでもないですよね?」

 

「さあね・・・でも、アタシたちのアジトに入ろうとしてる感じだし。地下の隔離室にいるあの娘を狙っているんじゃないの?」

 

クルシーナが適当な憶測をつけると、ドクルンが足を止める。

 

「・・・あの狸じじいめ、それで私たちに勝てると思っているのか・・・」

 

「? どうしたの、ドクルン?」

 

「何か、調子でも悪いの?」

 

ブツブツと喋るドクルンに、クルシーナとイタイノンが振り返る。

 

「いえ、ただの独り言です。ところで、二人とも・・・」

 

「「?」」

 

「ちょっと私に、協力をしてもらえませんかねぇ・・・?」

 

いつものような調子に戻ったドクルンのニヤけ顏に、クルシーナとイタイノンは首をかしげるばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクルンは姿を現した場所は、どこかの美術館であった。しっかりと人間に擬態し、悪魔のツノやサソリの尻尾は隠れた状態のままである。

 

いつものように、生気の溢れるものの気配を辿ってきたのではあるが、こんな人の手で作られたものがあるところに生きているものがあるとは思えない。

 

「ふむ・・・・・・」

 

今は多くの絵が展示してあるフロアに来ているようだが、どれもこれも価値のある絵とは到底思えなかった。所詮、人間の描く絵など当人の自己満足に過ぎないのに。

 

「ここはあまりの意味のあるものがあるとは思えないわねぇ・・・」

 

「人間ってセンスがない奴らだブル・・・」

 

ドクルンもブルガルも、二人揃って美術品をつまらなそうに見ている。ドクルンに至っては哀れむような笑みを浮かべているため、そのように見ているかどうかは不明だが・・・。

 

その後も絵を見るが、特にドクルンに刺さるものはなく、絵が飾ってあるフロアを後にする。

 

窓が多く連なっている廊下を歩いていくと、ふとドクルンは足を止めて外を見る。何やら外にも生気の溢れるものの気配を微量に感じたのだが、見えているのはただ木が植えてあるのが見えるだけだ。

 

「ドクルン、どうしたブル?」

 

「いえ、何でもないわ。気のせいよ」

 

ドクルンはそう返すと、廊下を歩いていく。次に着いたフロアはどうやら陶芸品が展示してあるフロアのようだった。

 

「ほう・・・これは・・・!」

 

ドクルンの視界に映るのは色とりどりの陶芸品の数々。まるでサファイアのような花瓶とエメラルドのようなグラス、そして雪のようなオブジェ・・・どれもキラキラと輝いている。

 

人の手で作られたものなのにまるで、生き生きとしている感じだ。

 

「ふむ、どれも輝いてるわねぇ。まるで生きてるみたい」

 

「眩しすぎて逆に不快だブル」

 

美術品に興味がないドクルンが思わず見入ってしまうほどの輝き。しかし、ブルガルはその価値がわからず、声で不快感をあらわにするだけであった。

 

「それは私が初めて実用品じゃないものを作った思い出の作品なの」

 

「そうなんですか?」

 

作品の一つをどうしてやろうかと眺めていると声が聞こえてきたので、振り返ってみるとバンダナをつけている女性が、マゼンダ色の髪の少女たち3人に何やら説明をしていた。

 

どうやら彼女がこの陶芸品たちを作った人らしいが・・・・・・それよりも・・・・・・。

 

「おや? あの娘たちもいたのね」

 

「本当にどこにでも現れるやつブル」

 

よくよく見てみると、あの3人はプリキュアではないか。どうしてここにいるのかは不明だが、学校の制服を来ているあたり、学校の何かで来ているのだろう。

 

ここでメガビョーゲンを発生させても意味がないと考えつつも、彼女たちの様子を見やる。

 

「私がこの道に進もうと決めたのは、こういう美しいガラスを見て、自分も作りたいと思ったからなの。ちょうどあなたたちぐらいの頃ね」

 

マゼンダ色の髪の少女と藍色の髪の少女、二人が微笑ましく思う。

 

「それで、仕事にして何年か経って、もっと可能性を広げたくなってフランスに留学した時、私も自分の感じたものをガラスで表現したいってたまらなくなってね。試行錯誤を繰り返して、ようやく完成させた作品なのよ」

 

「ふわぁ~」

 

「技術と情熱の結晶なんですね!」

 

「午後の体験学習も、ぜひ参加して行ってね!」

 

「「「はい!」」」

 

女性とプリキュア3人で、女性の素晴らしい話を聞いているのをドクルンは眺めていて、彼女は女性の表情に注目していた。

 

「ほう・・・芸術を話すときの彼女は生きているような感じがするわねぇ」

 

「俺もそう思うブル」

 

ドクルンは不敵な笑みを浮かべながら、あの女性を病気に侵すとどうなるんだろうとワクワクしていた。

 

まあ、とりあえずそれは、デザート代わりというわけではないが、取っておくとして・・・・・・ドクルンは先ほど感じた生気の気配を考えていた。

 

「ふむ・・・・・・」

 

「どうしたブル?」

 

「いえ。さっきどこかで生気の溢れるものがある気配を感じたのよねぇ」

 

「この陶芸品たちじゃないのかブル?」

 

ドクルンは首を振る。

 

「違うわね。それは外から感じたから、少なくともここのものではないわ。まあ、ここも生気には溢れてはいるけどね」

 

ドクルンはそう言うと陶芸品の展示室を後にして、再度窓が連なった廊下を歩き出す。

 

そこで誰かとすれ違い、その相手は足を止めてこっちを振り返ってきた。

 

「ん? ドクルンか」

 

声をかけられたドクルンも立ち止まって振り返ってみると、見知った同僚の姿であった。

 

「おや? グアイワルではないですか。こんなところで何を?」

 

「当然、ここら辺を蝕みに来たのだ。あのやかましい女よりも先にメガビョーゲンを発生させて、あいつに俺の方ができるということを証明して、ほえ面をかかせてやるのさ」

 

グアイワルは横柄な態度で語る。

 

「お前ーーーーは、何だその姿は・・・?」

 

「これですか? 人間になっているんですよぉ。人間の施設に入って、生気の溢れるものを探すためには隠密行動も重要でしょう?」

 

グアイワルの怪訝な表情に、ドクルンはメガネを上に上げながらニヤリとする。

 

「・・・ふん、まあいい。そうだから、せいぜい俺の邪魔をしないようにな」

 

「そんなことするわけがないでしょぉ。ああ、そうだ。あなたの好きなキラキラと輝いているものがあっちにありましたよぉ」

 

グアイワルはそう言って牽制の言葉を言うも、ドクルンは小馬鹿にしたような甘えた声で答え、彼に情報を伝えるべく指をさす。

 

「ほう・・・それは都合がいいな」

 

グアイワルは不敵な笑みを浮かべると、そちらへと歩いていく。

 

しかし、ふと足を止めてドクルンの方を振り向く筋肉体質の幹部。その目は何やら彼女の方を気にしているような素振りだったが・・・・・・。

 

「・・・・・・?」

 

「・・・・・・ふん!」

 

グアイワルは鼻を鳴らすとそのまま陶芸の展示品の方へと歩き去っていく。

 

「フフ・・・・・・」

 

ドクルンはそれに笑みを浮かべると、彼とは逆方向に歩いていく。

 

「ドクルン、あいつにやらせちゃってよかったブル? 先を越されるブルよ」

 

「光りものは彼の十八番でしょうから譲ってあげるわよ。私は生気の気配を知りたいの」

 

ドクルンは心配するブルガルにそう返す。例の気配を感じた場所に立ち止まると、窓の方をよく見る。

 

微量な生気の気配はするが、姿は全く見えていない。でも、確かに窓の外にその気配をわずかに感じるのだ。

 

「ふむ・・・・・・」

 

ドクルンは窓の外を見つめていると、ふと立ち入り禁止の張り紙が貼ってあるガラスの扉があるのが目に映り、そこから窓の外へと出ていく。

 

芝生を窓に沿って歩いていくと陶芸品の展示品があった方向へと歩いていくと、その生気の気配が大きくなっていく。

 

そして、植物が生えている向こうへと足を踏み入れると、そこには芝生に水を撒いているスプリンクラーがあるのが見えた。

 

「なるほど・・・生気の気配はこれだったのね」

 

「このスプリンクラーが、生気の気配ブル?」

 

「ええ。微量に感じたのはこれだったわ」

 

きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!

 

うわああぁぁぁぁぁ!!!

 

ドクルンが気配のモヤモヤが消え去ると同時に、何やら騒がしい声が建物の方から聞こえてきた。

 

「何だブル?」

 

「ふむ・・・どうやら向こうも始めたみたいですし、好都合ですねぇ」

 

ドクルンは今がチャンスと言わんばかりに、スプリンクラーに不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクルンが美術館にいる一方で、イタイノンは河川敷のところへと姿を現していた。

 

イタイノンも健康的な不快さを辿ってここにやってきたのだが、場所がわかりやすい大きな川だったのだ。

 

「・・・川なんか面白くもなんともないの」

 

それは川そのものを言っているのか、病気で蝕んでもあまり大したことはないので、それが面白くないと言っているのかはわからないが、イタイノンは川を興味なさそうに見ていた。

 

「でも、不快を感じたのはこの川からネム?」

 

「そうだけど、こんな大きな川じゃ頭の悪そうなメガビョーゲンが生まれそうなの」

 

イタイノンは河川敷の川を見つめながら不満を漏らす。大きな川じゃあまりにもありふれていて、いかにもなメガビョーゲンしか発生しない気がする。そんなプライドの低いことをするなんて、まっぴらごめんである。

 

そう思いながら、別の病気で蝕むことができるものを探していると・・・・・・。

 

「またアンタなの?」

 

背後から嫌そうな声が聞こえる。誰なのかがわかっているイタイノンは顔を顰めながら振り返ると、同じく不満そうな顔をするシンドイーネの姿があった。

 

「別にお前と場所を被せる気はないの」

 

「ふん、別にいいわよ。こっちに合わせてくれなくても」

 

イタイノンはシンドイーネに言葉を返すと、他に病気で蝕むことができるものをきょろきょろと探す。

 

「あんた、キングビョーゲン様の娘だかなんだか知らないけど、可愛がられてるからって甘えてんじゃないの? どういう風のふきまわしか知らないけど、全然侵略活動に興味もなかったのに急に盛んにやりだして、それでいて仲間に横柄な態度をとってるわ、出撃になっても自分の役割を果たさないやら、少しは私やあの方の活動に貢献しようとは思わないわけ?」

 

シンドイーネがそう問い詰めると、イタイノンは顰めたような表情で全部を聞いていた。その心中はどういったことを考えているのか、誰も理解できないだろう。

 

「・・・・・・別にお前にどう思われようと関係ないの。私は私、お前はお前、人それぞれなの。それに私もパパにはどういう扱われ方をしているのか自覚しているから、お前なんかに心配される筋合いなんかないの」

 

「・・・あら、ごめんなさい。そう聞こえちゃったかしら?」

 

シンドイーネは杞憂だったと言わんばかりに手を振る。

 

「・・・ふん、グアイワルとの勝負は邪魔する気はないから安心するの」

 

イタイノンはそれだけ言うとシンドイーネから離れて、他に蝕むものがないかどうかを探していく。

 

「・・・ふん」

 

シンドイーネは鼻を鳴らして彼女から背けつつも、再び彼女の後ろ姿を見つめる。

 

ーーーーお前たちに合わせたいものたちがいる。

 

ーーーーそこの3人はこれから私のために尽くしてくれる可愛い娘たちだ。

 

ーーーー彼女たちと一緒に、我々の種の繁栄を広げるのだ。

 

シンドイーネは、ダルイゼン、グアイワルと共に愛しのキングビョーゲンがあの3人を紹介したことを思い出していた。そのときのイタイノンの第一印象は、少し生意気そうな小娘。でも、どこか儚い感じを醸し出していた。

 

しかも、その娘たちはキングビョーゲンの娘と聞かされて、心の中で少し対抗心を持っていたのだ。

 

「・・・何よ、虚勢なんか張っちゃってさ」

 

どんどん小さくなっていく彼女に顰めた表情を見せている。本当はキングビョーゲン様にとって、あいつはどういう立ち位置なのかをなんとなく察していて、彼女なりにあいつのことを心配していたのだが、あんな態度を取られてはこっちもムカついてくる。こっちもつい怒ったような態度になってしまうのだ。

 

シンドイーネは彼女の背後を複雑そうに見つめていた。

 

一方、イタイノンは河川敷の橋から離れて、川に沿って歩いている。しかし、川以外に特に広がっているものは特にない。

 

「・・・川以外、何もなくてつまらないの」

 

「うーん・・・もういっそのこと川を蝕む?」

 

「それはあいつの仕事なの。私は別のものにするの」

 

ネムレンの言葉を蹴って、イタイノンは歩きつつ周りを見渡す。

 

とはいえ川以外、本当に何もない。まるで川が自分を蝕んでみろとでも言いたげな感じがしている。

 

「!!」

 

次の河川敷が見えるくらいのところへやってくると、何やら不快なものを感じた。自分のサソリの尻尾がピクンと反応したから、間違いない。

 

イタイノンは川とは反対の方向へと降りていく。すると、そこには大きな畑があるのが見えた。

 

「何かの畑ネム?」

 

「クルシーナが好きそうなところだけど、何か不快なものを感じるの」

 

畑の近くまで来ると、そこにはビニールでできた大きなハウスがあるのが見えた。不快なものを感じたのはそこからだ。

 

イタイノンはビニールハウスへと近づいて、飛び上がると屋根の上にパネルのようなものがあった。そこから不快な生気が濃くなった。どうやら正体はこれだったらしい。太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。

 

「これって、ソーラーパネルネム?」

 

「何それ? なの」

 

「太陽の光を当てて、電気を作り出すものネム。電気の供給の発電とかにも使われるネム」

 

ネムレンの話を聞いて、そのソーラーパネルとやらを黙って視線を戻すイタイノン。

 

「あいつを始末するにはぴったりの逸材なの、キヒヒ」

 

イタイノンは、アジト周辺でのたまわっている男を消すにはいいもの、と不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、クルシーナはとある森の中へと現れていた。特にめぼしいものがあるわけでもない普通の森林だ。

 

もちろん、ドクルンやイタイノン同様、地球の不快な生気を辿って瞬間移動をしてきたわけだが、森の中は植物だらけで生気の溢れる環境だらけだ。

 

「・・・こんなところ、不快なものだらけのオンパレードじゃない」

 

クルシーナは周囲を見渡しながら不快感をあらわにする。こんな普通の森に一際不快なものを辿ってみようとすると、林の中に何かあるのを感じ、そちらの方へと歩いてみる。

 

広い場所へと出ると、そこには芝生に一面に黄色が広がるほどの、たんぽぽの花が咲き誇っていた。

 

「・・・へぇ、こんなところにも花が咲いてるんだ」

 

「随分と綺麗な場所だウツ」

 

「ふん、アタシが育ててる花の方がよっぽど綺麗よ」

 

森林の中で育っているから、本当に生きてるって感じ。

 

そんな風に感じていると、風を切ったような音が聞こえ、そちらの方向を見てみると木の上にダルイゼンがいるのを見かけた。

 

「・・・ダルイゼン?」

 

「何、お前もいたの?」

 

ダルイゼンはクルシーナがいることに気づくと、彼女の隣へと飛び降りる。

 

「そうよ。不快な生気を辿ったら、ここに来たってわけ」

 

「ふーん」

 

クルシーナの話を、特に興味がなさそうに返すダルイゼン。正直、ダルイゼンもそれを辿ってきたわけで、それが原因でクルシーナと被ったわけだが、まあいいとすら感じる。

 

「・・・お前さ」

 

「何よ?」

 

「最近、無理をしてるって感じがするけど・・・」

 

「は?」

 

ダルイゼンが唐突に思ったことを口にすると、クルシーナが不機嫌そうな顔をさらに顰める。

 

「俺の思い違いだったら、別にいいんだけど・・・」

 

「何それ? 意味わかんないんだけど?」

 

不機嫌そうな口調で返すクルシーナ。なんでこいつに心配をかけられないといけないのか、全くもっ訳がわからなかった。

 

「アタシは正常よ。バカにすんなっての。アタシはお父様の娘なんだから」

 

クルシーナはそれだけ言うと林の中へと戻っていく。

 

「別にそういう意味で言ったんじゃないんだけど・・・」

 

ダルイゼンは歩いていくクルシーナの背中を、顔は無表情だが、何か思うところがあるように見つめていた。

 

ーーーーなあ、お前ってさあ。

 

ーーーー・・・何よ?

 

ーーーー病気で染まった花や植物が好きなの?

 

ーーーーそうよ。悪い?

 

ーーーー・・・別に。それにしても、綺麗に育ってるじゃん。

 

ーーーー思ってもいないお世辞なんかいらないっての。

 

ーーーー俺は割と本気なんだけどな。

 

ーーーー!!・・・ふん!

 

あいつと初めて話したのは正直覚えてないが、三人娘がキングビョーゲン様に紹介されて、そのすぐ後だった気がする。他人に構われるのが大嫌いな可憐な少女だった。

 

何で話しかけたのかは皆目見当もつかないが、どこかで会ったことがあるような感じがした。としか、言いようがなかったから。

 

キングビョーゲン様からある程度は聞かされてはいるが、あいつはあのお方に使われる幹部の一人らしい。特に興味がないからあまり考えたことはないが、大層な名前をつけられた上に、その立場であるあいつはどう感じているのだろうか。

 

ダルイゼンはふとクルシーナが立っていた部分の地面を見ると、何かが落ちているのが見え、それを拾い上げる。それはあいつがいつも身につけている、黒いチューリップの髪飾りであった。

 

「・・・やっぱあいつ、無理してるじゃん」

 

ダルイゼンはクルシーナが消えた林の奥を見ながら、ぼそりと呟いた。

 

一方、クルシーナは森林の中をうろうろとしていた。

 

「ここは不快なものだらけねぇ。頭の悪いメガビョーゲンしか生まれそうな気配がしないんだけど」

 

「どこ見渡したって、木ばっかりウツ」

 

不快な生気を辿っても、そもそもここら辺一帯が不快なものだらけなのだ。その中で一際不快なものを見つけるなど、面倒なこと極まりない。

 

不快感に当てられて萎える前に、クルシーナは上空へと飛び上がって森から抜け出す。他に何かないか見渡してみると、森の東の方に何か小屋みたいなものがあるのが見えた。

 

「・・・何、あれ?」

 

「行って見ればわかるウツ。へぶっ!?」

 

いちいちうるさいウツバットを拳で黙らせた後に、クルシーナは小屋の元へと飛んでいく。

 

小屋の前に立ってみると、それはレンガでできたような古風な小屋。近くにはテーブルと椅子があって、綺麗な池があった。

 

「ここに、一際不快なものがありそうね」

 

「ほくももふちゅふちゅとはんじるウツ・・・」

 

クルシーナが周囲を見渡すと、そこは生きてるって感じがするものばかり。ここならいいメガビョーゲンが生み出せそうだ。アジトの周辺をうろちょろしているあの男も苦しめることができるはず。

 

どれを蝕もうかと思ってきょろきょろとすると、そこにクルシーナが思う一際不快なものを見つけた。それはこの裏の裏にあった。

 

「・・・へぇ、こんなところにもこんなのが育つんだぁ?」

 

クルシーナが見ているのは、植えられていたバラの花の数々。茎にもトゲが生えていて、触ると痛そうだ。

 

この小屋には誰も住んでいないようだが、こんな森林の中で、小屋の中で育っているなんて、本当に生きてるって感じだ。

 

生きてるって感じがし過ぎていて・・・・・・なんだか、頑張って育てた感がある。本当に不快だ、実に不愉快な感じがする。

 

「アタシがもっと綺麗に染めてあげる、フフフ・・・・・・」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべた。

 

こうして、それぞれ不快な生気を見つけたビョーゲン三人娘。仲が悪いかどうかは微妙なところもある三人の仕事が始まる。

 

ドクルンは、右指をパチンと鳴らす。

 

イタイノンは、両腕の袖を払うかのような動作をし、右手を構えるように突き出す。

 

クルシーナは、手のひらに息を吹きかける。

 

それぞれが異なる動作をし、黒い塊のようなものを出す。

 

「進化してください、ナノビョーゲン」

「進化するの、ナノビョーゲン」

「進化しろ、ナノビョーゲン」

 

「ナノデス~」

「ナノナノ~」

「ナ~ノ~」

 

それぞれのナノビョーゲンが鳴き声を上げながら、美術館の庭園スプリンクラー、ビニールハウスのソーラーパネル、小屋の裏のバラに取り憑く。取り憑かれたものが徐々に病気へと蝕まれていく。

 

「わ、わ、わ、わぁぁ!ぁぁ!」

「キラキラキラぁ~~!?」

「ああ・・・ああ・・・!!」

 

それぞれのものに取り憑いているエレメントさんが病気へと蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガビョーゲン!!」

 

3体ものメガビョーゲンが誕生したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美術館にメガビョーゲンが現れたことをラテの体調不良から知ったのどかたちは、館内でビョーゲンズのグアイワルと彼の作り出したメガビョーゲンが暴れているのを発見。すぐさまプリキュアに変身し、すぐさまメガビョーゲンへと応戦を開始した。

 

メガビョーゲンの口から吐き出す病気を避けると、フォンテーヌは顔に蹴りを入れていき、スパークルはステッキから出す光の線で縛り付けて攻撃を浴びせた。

 

現場に呆然と立ち尽くしていた長良さんをなんとか離れさせ、グレースも現場に復帰。キュアスキャンをして、メガビョーゲンの中にいる光のエレメントさんの場所も特定。

 

こうして、メガビョーゲンはもう浄化間近・・・・・・と、思われていたが・・・。

 

「クチュン!! クチュン!!」

 

隠れていたラテが辛そうに2回くしゃみをしたのだ。

 

「ラテ、大丈夫!?」

 

「待ってて、サクッとお手当て終わらせちゃうから!!」

 

グレースとスパークルが気遣うように声をかけるも、さらに・・・・・・!!

 

「クチュン!! クチュン!! クチュン!!・・・クゥ~ン・・・クゥ~ン・・・」

 

辛そうにさらに3回くしゃみをしたラテは、何かを訴えるように弱々しく鳴き声を上げる。

 

「メーガー!!」

 

そんな中、メガビョーゲンは拘束を振りほどいて、病気を吐きつけて攻撃を繰り出す。

 

「「ぷにシールド!!」」

 

ラビリンとニャトランがすぐさま肉球型のシールドを展開すると、メガビョーゲンの攻撃を防ぐ。

 

「クゥ~ン・・・・・・」

 

弱々しく何かを訴えるように鳴くラテ。それが一番気になっていたのは、後方で構えていたフォンテーヌだった。

 

「ラテ・・・?」

 

「もしかして、またどこかでメガビョーゲンが・・・!!」

 

「・・・そうかもしれないわね」

 

「診察するペエ!」

 

「ええ!」

 

フォンテーヌは頷くと聴診器をラテを当てて診察してみる。

 

(水が噴き出す機械が泣いてるラテ・・・遠くのあっちで、大きな川が泣いてるラテ・・・家の青い板が泣いてるラテ・・・あっちの遠くで、黄色いお花さんが泣いてるラテ・・・お家の裏の赤いバラさんが泣いてるラテ・・・)

 

「!? なんてこと・・・!! グレース! スパークル! また別の場所でもメガビョーゲンが発生したわ!しかも、5体!!」

 

「「ふええっ!?」」

 

「うえぇ!?」

 

「ニャ!?」

 

なんということだ。美術館のメガビョーゲンを対処している最中、別の場所でもメガビョーゲンが発生したというのだ。ここまではいつものことだが、今回はなんと5体、つまりは・・・。

 

「つまり、メガビョーゲンが同時に6体現れたってことペエ!!」

 

「嘘・・・そんなに・・・!?」

 

一気にメガビョーゲンが出現したことに驚きを隠せないプリキュアたち。

 

ふと考えたのは、メガビョーゲンはプリキュア一人につき、せいぜい一体を抑えるのが精一杯。どうやっても、メガビョーゲンを止めるのは容易ではないだろう。

 

「ほう・・・シンドイーネはともかく、ダルイゼン、しかもクルシーナやイタイノンまで動いていたか・・・運が悪かったな、プリキュア!」

 

これはチャンスだと言わんばかりに笑みを浮かべるグアイワル。

 

これまでのビョーゲンズとの戦いよりも最大のピンチが、プリキュアたちを襲おうとしていたのであった・・・・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24話「襲来②」

「メガー!!」

 

美術館で頭に二つに分かれたような管を伸ばし、オブジェのようにも見えるメガビョーゲンが管から赤い水を噴射して、外の木や植物、建物を病気へと蝕ませていく。

 

「フフ・・・・・・」

 

ドクルンはそれを見てメガネを上げながら、不敵な笑みを浮かべる。

 

「そういえば、グアイワルの方はどうなったんでしょうかねぇ」

 

ドクルンは陶芸品のところへと行ったと思われるグアイワルが気になって、館内の方を振り向く。

 

「・・・おや?」

 

ふと、その館内にバンダナをした女性が逃げていくのを見やる。

 

「あれは、陶芸品を自慢そうに語っていた女ブル」

 

「ほほう・・・?」

 

ドクルンは何かおもちゃでも見つけたと言わんばかりに笑みを浮かべると、館内の方へと歩いていく。

 

一方、その女性ーーーー長良さんはプリキュアたちに逃げるように言われて館内の外へと出ようとしていたが、自分の作品たちが気がかりとなり、足を止めていた。

 

「私の作品・・・・・・」

 

長良さんが後ろ髪を引かれるような思いで、背後を振り返る。

 

と、その時・・・・・・。

 

「これはこれは、逃げ遅れた人ですかぁ」

 

「!?」

 

長良さんが声に気付いて前を向く。白衣を着た少女ーーーードクルンがいつの前にか目の前に立っていたのだ。

 

「だ、誰? あなたは?」

 

「名前なんかどうでもいいじゃないですか。それよりも・・・」

 

ドクルンは長良さんに近づいて彼女の肩を逃がさないと言わんばかりに掴む。

 

「あなたの陶芸品、本当に美しかったです。あんなにキラキラと輝いて、生きているかのようなものを見るのは生まれて初めてです」

 

「な、何を言っているの・・・!?」

 

ドクルンが突然、顔を近づけて話し出したことに動揺を隠せず、逆に恐怖を覚える長良さん。そんな彼女の様子を気にすることなく、言葉を続ける。

 

「でも今、作品は赤いもので汚されてしまっているでしょうね、お可哀想に・・・。せっかくのあなたの作品が美しくなって、見る影も形もないわけです・・・あの怪物によってね・・・」

 

「ああ・・・ああ・・・!!」

 

ドクルンからの甘い言葉に、長良さんは絶望したような表情になる。自分の作品が汚されていたのを見て、さらに動揺しているのだ。

 

「そんなのは辛いですよね?・・・悲しいですよねぇ?・・・私もあなたが大事に思っていることでそんな顔をするのは辛いんです・・・だから・・・!!」

 

ドクルンは長良さんの肩から手をくねくねと動かすように彼女の頬の方へと持っていき、掴んで自分の顔へとさらに近づける。

 

「・・・・・・私が忘れさせてあげますよ」

 

ドクルンはそう言うと長良さんに口づけを交わす。

 

「んんぅ!?」

 

彼女に口づけをされたことに動揺し、突然の出来事に動くことができない長良さん。

 

そうしているうちに、彼女の体の中に赤く蠢く何かが入っていき、それが中で蝕むように蠢いていく。

 

「ん・・・んん・・・」

 

長良さんの瞳のハイライトが消えていき、そのまま彼女は倒れ伏してしまった。

 

「フフフ・・・」

 

ドクルンはそれを見下ろしながら、不敵な笑みを浮かべた。

 

一方、ドクルン以外の他の場所でもメガビョーゲンは暴れていた。

 

河川敷沿いにある畑で、不健康そうな顔に青い4枚のプロペラのようなものを頭から生やし、青いパネルのような板を顔の両サイドにつけているメガビョーゲンを生み出したイタイノンは・・・。

 

「メーガー!!」

 

メガビョーゲンは青いパネルから赤い光を照射して、畑の地面を赤く蝕む。

 

「メガ、ビョーゲン!!」

 

さらに回転させるプロペラの真ん中にある針のようなものから黒い電気のようなものを上に打ち上げ、ビニールハウスに雷のような光線を降らせ、爆発音と共に赤く蝕んでいく。

 

「とりあえずは、ここら辺を蝕んでおくの・・・」

 

イタイノンはメガビョーゲンの様子を見ながら、三人娘で話し合った通りに実行しようとしていた。あの男性を再起不能にしてやるために・・・・・・。

 

そして、森の中の小屋近くでメガビョーゲンを発生させたクルシーナは・・・。

 

「ある程度、大きくしておけばいいんだっけ?」

 

彼女もまた、三人娘の作戦通りにメガビョーゲンを暴れさせていた。メガビョーゲンは刺々しいハートのような枠の中に不健康そうな顔が中にあり、3本の棘のような太く短い茎のような触手が生え、サソリのような鋏を腕のように二本生やしたような外見だ。

 

「メガー・・・ビョーゲン・・・」

 

メガビョーゲンは口から吐き出す赤い光線で、ほとんどの木を病気へと蝕ませた後、小屋にも口から吐き出す病気で蝕んでいく。

 

「まあ、大体でいいか・・・」

 

私たちのアジトをうろちょろする男性を病気で蝕んで苦しませるため、メガビョーゲンをもっと成長させていく。

 

ここでメガビョーゲンを発生させる、クルシーナはそれを受けてこんなことも思いついた。メガビョーゲンを発生させるということは、プリキュアもそれを浄化しようと動き出していくはず。つまりはプリキュアはこのメガビョーゲンと鉢合わせをするのは必然なのだ。

 

「ついでにプリキュアもあそこでブチのめせるわよねぇ・・・フフフ・・・」

 

クルシーナはそう考えると楽しみでたまらないと、不敵な笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プリキュアたちに訪れた未曾有の大危機。それは、いつもは2体ぐらいまでしか現れなかったメガビョーゲンが、今回は6体も同時に発生。まさに多勢に無勢となりそうな状態だ。

 

「くっ・・・・・・!」

 

フォンテーヌは天井に水色の光線を放つ。

 

「メガー・・・」

 

「のわぁっ!!」

 

光線は着弾すると、白い霧となって煙幕のようになり、メガビョーゲンとグアイワルが撒かれる。その隙にグレースとスパークルが、フォンテーヌへと合流した。

 

「グレース! フォンテーヌ! ど、どどどど、どうしよう!?」

 

「手分けしよう! 私たち3人が手分けすれば・・・!」

 

パニックになるスパークルに、グレースは別れてメガビョーゲンを浄化することを提案する。しかし・・・・・・。

 

「でも、メガビョーゲンは6体もいるのよ!? 私たちが一体ずつ相手ができたとしても、他の3体は・・・!?」

 

「!!」

 

そうだ。メガビョーゲンは6体もいるのだ。プリキュア一人でも、せいぜい一体を抑えるのが精一杯。それでも、残り3体のメガビョーゲンに大暴れさせるのを許してしまうことになる。

 

「どうしよう!! マジでピンチじゃん!!」

 

「・・・だったら、まずは場所がわかってるところのメガビョーゲンを倒そう! ここで何も動かないよりはいいと思う」

 

グレースの提案に二人は少し沈黙をしつつも頷く。ここで何もしないで、メガビョーゲンによる病気の拡大がひどくなるよりは、動いて一体ずつ浄化したほうがいいと考えたのだ。

 

「・・・そうね。きっと一体は電車から見えたあの川沿いにいるわ。スパークル! そっちをお願い!!」

 

「うん、わかった!!」

 

スパークルはすぐに現場へと急行する。

 

「わかってるもう一体は、黄色い花が咲いている場所にいるペエ!!」

 

「それは私たちが探しましょう!! グレース!! ラビリン!!」

 

「わかった!! ここは任せて!!」

 

グレースは美術館のメガビョーゲンをどうにかすることにし、フォンテーヌは黄色い花を探すために駆け出していく。

 

グレースは美術館内にいるメガビョーゲンと対峙する。ここからは時間との勝負だ。

 

「ほう? お前一人か? 戦いの第二幕といったところだな。ここは大方蝕んでしまったことだし、場所を変えようではないか。メガビョーゲン!!」

 

「メガ・・・」

 

「追ってこい!! プリキュア!!」

 

美術館の奥へと消えるグアイワルと赤い棘を引っ込めて彼の後を追うメガビョーゲン。そして、病気で蝕まれた長良さんの作品を見つめつつも、その二人を追跡していくグレース。

 

(この素敵な美術館を、絶対病気になんてさせない・・・・・・!!)

 

そう心に決意を秘めながら、美術館を取り戻すべくグレースは駆け出していった。

 

一方、グアイワルたちとグレースがこの場所から出た、その数分後、様子を見に来たドクルンが姿を現していた。

 

「ふむ・・・グアイワルたちはここ一体を大方蝕んだようねぇ・・・」

 

自分のメガビョーゲンは外の自然を蝕もうと大暴れ中だ。暇になったドクルンはグアイワルたちがどうなったか気になって、様子を伺っていたのだ。

 

病気で赤く蝕まれている陶芸品を見て、ドクルンは笑みを浮かべる。

 

「やはり私にはキラキラしているものよりは、赤く染めた方が素敵に見えるわねぇ・・・」

 

「ドクルンの嫌らしい趣味が始まったブル・・・」

 

「素敵な趣味と呼んでくれるかしら・・・ねぇ、お姉さん?」

 

「はぁ・・・はぁ・・・うぅ・・・」

 

ドクルンは右肩に担いでいる長良さんを撫でながら言った。当の彼女は辛そうな表情をしていて、息も切らしている様子。

 

そんな彼女を病気に蝕んだ張本人は中をキョロキョロとしていると、奥にも廊下があるのを発見。廊下の方を歩いていくと、別のメガビョーゲンの気配をしているのを感じる。

 

おそらく、グアイワルたちはこの奥に行ったのだろう。しかし、別の違和感も・・・。

 

「おや? フフ・・・これは面白いですねぇ・・・」

 

いつもは3人いるはずのプリキュアが、今回は1人しかいない。いや、さっきまでは3人いたようだが、いつもよりメガビョーゲンの気配が多くあることから、別れて対処しに行ったのだろう。それが無駄なやり方だとは思わずに・・・・・・。

 

ドクルンはそれを察すると、ニヤリと笑みを浮かべながら、グアイワルたちのいる方向へと歩いていく。

 

廊下の一本道を抜けると、そこは大きな美術品が展示してあるフロア。そこでメガビョーゲンとグレースが交戦していた。

 

「はぁ!!」

 

「メガ・・・」

 

「きゃあ!!」

 

メガビョーゲンに蹴りを入れるグレース。しかし、頑丈なのかビクともせず、棘に弾かれてしまう。

 

グレースが落ちようとしている下には、美術館の展示品が・・・!

 

「!?」

 

グレースはそれを動いて避けるも、着地や受け身を取ることができず、背中から地面に打ち付けてしまう。倒れて痛みに呻くグレース。

 

「グレース! どうしたラビ!?」

 

「私がぶつかったら・・・大切な作品が・・・壊れちゃう・・・・・・!」

 

いつもより動きに切れがないグレースに、ラビリンが心配の声を上げる。

 

ーーーー守る価値があるものとは到底、思えないけどねぇ・・・

 

それをドクルンは長良さんを下ろして壁に寄りかからせた後、メガネを上げながら不敵な笑みで見ていた。

 

一方、電車から見えた川沿いでは・・・・・・。

 

「アッハハハハハ!! その調子よ! メガビョーゲン!! グアイワルよりも先に、どんと蝕みまくっちゃいなさい!!」

 

「メガー・・・・・・」

 

シンドイーネが、川から生み出したメガビョーゲンが川を蝕んでいくのを見て、橋の上から高笑いを上げていた。

 

「いたぞ!! シンドイーネとメガビョーゲンだ!!」

 

ちょうどそこへスパークルが現場に到着した。

 

「メガ・・・ビョーゲン・・・!!」

 

メガビョーゲンの横に立って、スパークルが臨戦態勢をとる。

 

「あら、プリキュア。今日はちょっと遅かったわね」

 

「メガ・・・・・・」

 

メガビョーゲンが川から地上へと這い上がっていく。

 

「お手当てをパパッと終わらせちゃうし!!」

 

スパークルはそう叫ぶとメガビョーゲンへと立ち向かっていく。

 

「メーガー!!」

 

対するメガビョーゲンはスパークルを叩き潰そうと片手を振り下ろす。

 

「メー! ガー!!」

 

「うわぁ! うぅ・・・!!」

 

「メガー!!」

 

「うぅぅぅ!!!」

 

スパークルはとっさに避けるも、メガビョーゲンは次々と手を繰り出していく。スパークルはガードをするも、突き飛ばされて尻餅をついてしまう。

 

「ねえ、こいつなんか強くない!? やたらパンチが重いんだけど!?」

 

メガビョーゲンがいつもより攻撃が強くなり、受け流せしきれないことに違和感を感じるスパークル。いつもなら、こんな攻撃を受けても余裕で防げたはずなのに、このメガビョーゲンの攻撃はやたら腕にジリジリと痛みを感じるのだ。

 

「あ、そうか・・・! 美術館からここまで結構距離あったろ!? 到着まで時間がかかった分、メガビョーゲンが育っちゃったんだ!!」

 

ニャトランがそう推測する。三人娘が召喚した時もそうだったが、時間が遅れた分、メガビョーゲンも強化されていた。今回は距離があったせいで、メガビョーゲンに成長を許してしまったのだ。

 

「ええぇぇぇ・・・!?」

 

ニャトランから聞かされて動揺するスパークル。さらに悪いことが・・・。

 

「メガビョーゲン!!」

 

「えっ・・・?」

 

目の前にいるメガビョーゲンではない別の方向からも、メガビョーゲンの声が。

 

振り返ってみると、プロペラがついたようなメガビョーゲンが川とは別の方角に赤い光を照射しているのを発見。しかも、そのそばにいたのは・・・・・・。

 

「よし、だいぶ大きくなったし、このぐらいでいいか、なの」

 

ビョーゲンズのビョーゲン三人娘の一人、イタイノンの姿だった。

 

「うぇぇ!? もう一体!?」

 

「イタイノン!!」

 

メガビョーゲンがさらにもう一体、近くにいることにさらに動揺するスパークル。そんな声に気付いたのか、イタイノンが振り向く。

 

「ん? お前もいたのか、なの。キュアスパークル」

 

イタイノンは無表情でこちらを見つめている。

 

「今日はお前の相手をしてる暇はないの。メガビョーゲン、そろそろ行くの」

 

「メガビョーゲン!!」

 

イタイノンはメガビョーゲンの上に乗ると、河川敷とは逆の方向へと飛んでいく。

 

「あ・・・ま、待って! きゃあぁぁぁ!!」

 

スパークルはイタイノンたちを追いかけようとしたが、シンドイーネのメガビョーゲンが繰り出したパンチに吹き飛ばされてしまう。

 

「アッハハハハ!! よそ見をするなんて、間抜けねぇ!」

 

シンドイーネはそんなスパークルを嘲笑ったのであった。

 

そして、フォンテーヌが向かおうとしている森の中では・・・・・・。

 

たんぽぽが病気で蝕まれ、周囲の自然が病気へと侵されていた。

 

「いいねぇ・・・だいぶ蝕めてきた・・・」

 

一本の木に寄りかかりながらメガビョーゲンを見ているのは、ダルイゼン。メガビョーゲンは黄色い花から不健康そうな顔を出したような形で、6本のサソリのツメのような足を生やしていた。

 

「メガー・・・ハー・・・」

 

いつもより少し大きくなったメガビョーゲンは、口から病気を吐き出しながら周囲の自然を病気へと蝕んでいく。

 

「いたわ! あそこ!!」

 

そこへ美術館からここまで走ってきたフォンテーヌが駆けつける。

 

「黄色い花は、たんぽぽのことだったペエ!」

 

「病気が随分、広がってるわ!! 早くお手当てしてあげましょう!!」

 

フォンテーヌはそう思い、メガビョーゲンに立ち向かおうとする。

 

「メガー・・・!!」

 

フォンテーヌが来たことに気づいたメガビョーゲンは植物のツルのような腕を伸ばす。フォンテーヌは避けて、腕に乗って駆け上がる。

 

「メガッハー・・・!!」

 

そこへメガビョーゲンが赤い病気を吐き出し、フォンテーヌはそれを飛んでかわす。

 

「へぇー、プリキュアじゃん。今日はもう来ないのかと思ったけど・・・」

 

ダルイゼンはプリキュアがいることに気づくも、その表情は余裕の笑みだった。

 

フォンテーヌはメガビョーゲンの背後に着地し、ステッキを構え直す。

 

「見つけるのに時間がかかったから、その分メガビョーゲンが強くなってるはずペエ!! フォンテーヌ、気をつけるペエ!!」

 

「ええ!!・・・!?」

 

ペギタンが注意するようにフォンテーヌに話すも、そこへ目の前のメガビョーゲンではない別の赤い病気が飛んできた。

 

フォンテーヌはとっさに気づいて、体を翻してかわして、その場所を見つめるとそこには驚くべきものが・・・。

 

「な、何ペエ!? 今の攻撃、どこから飛んできたペエ!?」

 

「!! クルシーナ!!」

 

「ペエ!?」

 

フォンテーヌが背後に何かがあるのを気づいた。ダルイゼンのメガビョーゲンの背後に飛んでいたのは・・・・・・クルシーナと、その彼女が生み出したと思われるメガビョーゲンだ。

 

距離は離れているが、目の前にいるメガビョーゲンと同じように少し成長しているようで、しかもあの距離から攻撃を仕掛けてきたらしい。

 

「・・・・・・ふん」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべると、彼女たちから背を向けてメガビョーゲンと共に別の方向へと飛んでいく。

 

「あ、待ちなさい・・・くっ・・・!!」

 

フォンテーヌはクルシーナたちを追いかけようとしたが、目の前のメガビョーゲンにツルに邪魔をされてしまう。

 

(まずは、こいつをなんとかしないと・・・!!)

 

フォンテーヌはとりあえず、メガビョーゲンをなんとかしようと立ち向かうのであった。

 

「・・・あいつ、別に俺に気を使わなくていいのに・・・」

 

ダルイゼンは飛んでいくクルシーナが邪魔にならないように離れたのを察して、こんな言葉を漏らしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつは大丈夫そうね・・・・・・」

 

ダルイゼンの様子を見ていたクルシーナは不機嫌そうな顔でメガビョーゲンと一緒に飛び回っていた。

 

メガビョーゲンを発生させた後、小屋周りの自然は大方蝕んだが、同じくメガビョーゲンを発生させたダルイゼンの邪魔にならないよう、様子を伺っていたのだ。

 

ついでに彼のメガビョーゲンに油断しているキュアフォンテーヌを、遠距離から攻撃を仕掛け、来れるものなら来てみろと挑発した笑みを浮かべ、その場所を離れたのだ。

 

今回のあいつのメガビョーゲンは、今まであいつが出した中でも一番良質なメガビョーゲン。心配する必要はないだろう。

 

「どうせプリキュアを倒すんだったら、もう少し大きくしたいわよねぇ・・・」

 

クルシーナは他に蝕む場所がないか、探していた。鬱陶しい例の男を、プリキュアごと葬り去るのであれば、どうせなら一定量まで成長させてから、私たちのアジトの近くへと送りたい。

 

そう考えながら飛んでいると、ふとダルイゼンが暴れさせている場所とは反対側、森の東側のふもとに昔の日本のような古めかしい家が立ち並んでいるのを見えた。しかも、そこには何かを植えているのか作物が成っている畑があった。

 

「フフフ・・・・・・」

 

ーーーー蝕めるものがたくさんあるわね・・・これは一番いい。

 

「メガビョーゲン、あっちに行くわよ」

 

「メガー・・・・・・」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべると、メガビョーゲンと共にそのふもとへと降りていった。

 

一方、イタイノンは・・・・・・。

 

「メガビョーゲン!!」

 

「うわあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

スパークルとシンドイーネの姿が見えなくなったところにある発電所に、メガビョーゲンに光線を放って暴れさせていた。

 

「どうせだったら、人の逃げ惑う姿も拝むの・・・キヒヒ」

 

イタイノンは発電所の作業員たちが逃げ惑う姿を見て、笑い声をあげる。

 

今回は特別な任務とはいえ、人々の恐怖は味わいたいもの・・・あっさり終わったから少しぐらいはいいだろう。ついでにこの辺も蝕むことができるし、メガビョーゲンも大きくできる。

 

ふと思い出したように表情を無に戻し、スパークルとシンドイーネがいる方向を見つめる。

 

「・・・・・・おばさん、調子に乗って失敗してなきゃいいけど」

 

イタイノンは心配しているのか、馬鹿にしているのか、そのどちらかもわからないような感情でつぶやいていた。

 

そして、美術館でドクルンが見つめている先には・・・・・・。

 

「全く見苦しい限りですねぇ・・・・・・」

 

ドクルンはその様子を見て、つまらなそうに感じていた。

 

グレースはメガビョーゲンに向けてステッキを構えるも、その背後には美術館の作品が。美術品を壊したくないという気持ちがグレースに攻撃を躊躇させる。

 

「メガー・・・・・・」

 

「ああっ!!」

 

そんな彼女の気持ちをあざ笑うかのように、メガビョーゲンは赤い棘を伸ばして吹き飛ばす。

 

「どうした? プリキュア。いつもより動きが鈍いようだが?」

 

思うように動けないグレースを嘲笑うグアイワル。

 

「グレース! 作品を壊したくない気持ちはわかるラビ! でも、時間が経てば経つほど、メガビョーゲンが強くなっちゃうラビ!!」

 

立ち上がろうとするグレースに声をかけるラビリン。作品を壊したくないのはラビリンも一緒だが、グレースは作品たちを明らかに庇いきれていない。このままでは作品よりも先にグレースがボロボロになるのも時間の問題だ。

 

「メーガー!!」

 

ラビリンがそんなことを考えているうちに、病気を吐き出して作品を蝕もうとする。

 

「!! ダメっ!! きゃあぁぁぁぁ!!!」

 

メガビョーゲンの病気から作品を庇うために飛び出し、吹き飛ばされてしまうグレース。

 

「やれやれ、本当に見苦しい戦いですねぇ・・・・・・」

 

倒れたグレースの側には、ドクルンが見下ろしていた。

 

「ドクルン!? なんでここに・・・・・・!?」

 

ビョーゲンズの幹部がもう一人、現れたことに驚くラビリン。

 

「何って、同僚の活躍を見に来たんですよぉ・・・私のメガビョーゲンが成長して大きくなっている間にねぇ」

 

ドクルンはメガネを上げながら、ニヤリとした笑みを浮かべる。

 

「ああ、ついでに・・・・・・」

 

ドクルンは自分の背後で寄りかかっている女性ーーーー長良さんに向かって親指でさす。

 

「気になった女性もいたので、ちょっと細工をね」

 

「うぅ・・・!? 長良さん!!」

 

グレースは立ち上がろうとしながらドクルンが指した方向を見ると、ぐったりとしている長良さんの姿があった。その事実に驚きを隠せない。

 

「長良さんに、何を・・・・・・!?」

 

「廊下で無防備に突っ立っていたので、私の病気をねぇ。全く・・・作品を構ったりなんかしなければ、あんなことにはならなかったものを・・・・・・」

 

ドクルンは不敵な笑みを浮かべたまま、後半は長良さんを見やりながら話す。

 

「ひどい・・・! なんでそんなひどいことができるの・・・!?」

 

「私がビョーゲンズだからに決まっているでしょう・・・・・・まあ、お手当てをすることしか考えていないあなた方にはわからないでしょうがねぇ、フフ」

 

泣きそうな表情で訴えるグレースに、ドクルンはクスクスと笑い声を上げる。

 

目の前の眼鏡のビョーゲンズはグレースの怯えた表情を眺めた後、満足したように背を向ける。

 

「さてと、怯えたプリキュアの顔も拝めたことですし、私のメガビョーゲンの様子を見に行くとしますかねぇ・・・・・・」

 

「あ、ダメ・・・・・・!!」

 

グレースは歩き去ろうとするドクルンにステッキを向けるも、ドクルンの歩く前には大事な作品たちがある。

 

彼女は自分が病気で蝕まれたことがある経験から知っている。人が病気で蝕まれた際にはその幹部のメガビョーゲンを倒さなければ元には戻らない。ここで彼女を逃してしまったら、長良さんは助からないだろう。

 

歩みを止めなくてはいけないのだが、作品を傷つけたくないグレースは思うように攻撃できない。

 

「メーガー!!」

 

「!! きゃあ!!」

 

そこへメガビョーゲンが背後から赤い棘を伸ばして背中を狙い撃ち、防御体制を取れていないグレースは背中に直撃を受けて、吹き飛ばされてしまう。

 

一方のドクルンは臆すことなく、作品の上にピョンピョンと飛び移った後、上のフロアへと到達。ドアノブに手をかけて開ける前に、グアイワルの姿を見やる。

 

「彼はまあ・・・・・・自信があるなら大丈夫でしょう」

 

そして、自信が病気に蝕んだ長良さんの姿を見下ろす。

 

「いいですよぉ、もっと病気に蝕んでください」

 

ドクルンは笑みを浮かべると、扉を開けて大きな美術品のフロアを後にした。

 

グレース以外の、他のプリキュアもメガビョーゲンを相手に苦戦を強いられていた。

 

「メガー・・・・・・!!」

 

「ぐぅ・・・・・・!!」

 

シンドイーネのメガビョーゲンは手を振り下ろし、スパークルはそれを両腕で抑えようとしているが、重すぎて辛そうな表情をしている。

 

「これ一人だと、厳しくない・・・・・・?」

 

「うーん・・・・・・・・・」

 

スパークルが押さえつけている間に、ニャトランは考えていた。

 

そして、ダルイゼンのメガビョーゲンと交戦するフォンテーヌは、お手当てどころか近づくことすらできず、メガビョーゲンが伸ばしてくるツルを蹴り返すので精一杯だ。

 

「一体、どうしたら・・・・・・?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ペギタンもこの不味い状況に考えを巡らせていた。

 

ラビリンもこの状況を打開できる策を考えていた。そして、やっぱりこの方法しかないとグレースに提案をする。

 

「グレース! これ以上メガビョーゲンが育つ前に、3人で力をあわせるラビ!!」

 

「どういうこと・・・・・・?」

 

ペギタンもラビリンと同じような考えをフォンテーヌに話していた。

 

「別々にお手当てしている二人と合流して、まずは一体ずつ、確実に浄化するペエ!!」

 

ニャトランも、メガビョーゲンの手から逃れたスパークルに話していた。

 

「3人がかりでも手に負えなくなる前に!!」

 

このパートナーの提案に、スパークルとフォンテーヌは・・・・・・。

 

「そっか、そうだよね!」

 

「それしかないわね!」

 

賛成だった。このまま戦っても、メガビョーゲンは浄化できない。いつも私たちは3人でメガビョーゲンを浄化してきたのだ。いつもの3人で力を合わせればうまくいくはずだ。

 

グレースも賛成だったが、ラビリンがさらに別の提案をする。

 

「発生時間が遅いメガビョーゲンの方が浄化しやすいラビ。川の方なら早く見つけられるはずラビ」

 

ラテは、川は明らかなメガビョーゲンの発生場所として直接指定している。だから、見つけやすいメガビョーゲンの方が確実に浄化できるはず、だから先にそちらの方に行くべきだとラビリンは提案した。

 

しかし、グレースは・・・・・・。

 

「いや・・・・・・」

 

「グレース?」

 

「だって、ここを離れている間に取り返しがつかなくなっちゃたらどうするの? この素敵な作品たちは・・・? 作った人の、長良さんの思いは・・・?」

 

グレースはここを離れたくなかった。彼女が離れたら、ここの作品は間違いなくメガビョーゲンに蝕まれてしまうだろう。もし、3人で他の場所を浄化できたとして、ここを完全に浄化できるとは限らない。そうしたら、作品たちは二度と戻らないかもしれない。

 

「でも・・・・・・!」

 

「私は絶対に守りたい・・・! ここを離れたくない・・・!!」

 

グレースは実りのエレメントボトルをかざして、ステッキに光の刃を作り出す。

 

「グレース!! 落ち着くラビ!!」

 

「メーガー!!」

 

「ふっ!!」

 

ラビリンは声をかけるも、グレースは話を聞き入れずに、赤い棘で攻撃をしてくるメガビョーゲンの攻撃を切りつけ、避けていく。

 

「グレース!! このまま守りきれなければ同じラビ!!」

 

「はぁっ!!」

 

ラビリンの制止も聞かず、グレースは斬撃を放ってメガビョーゲンを吹き飛ばす。天井へとぶつかったメガビョーゲンは作品のあるフロアへと落下していく。

 

「ダメっ!!」

 

グレースは作品を守ろうと、メガビョーゲンが落ちないように抑える。

 

メガビョーゲンは重く、一人の力では体が震える・・・・・・。

 

さらに悪いことが・・・・・・!!

 

ドクン!!! ドクン!!!

 

「あっ・・・・・・はぁ、はぁ・・・・・・」

 

心臓の音がバクバクとし、グレースの息が辛そうに肩を上下し始める。メガビョーゲンを抑えきれない・・・・・・!!

 

「ハッハハハハハハ!! メガビョーゲンを助けてくれるとは! 感謝するぞ、プリキュア!!」

 

ドクン!! ドクン!! ドクン!!

 

「はぁ、はぁ、くっ、うぅ・・・はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

(なんで、こんなときに・・・・・・!)

 

グレースは苦しさに襲われつつも、ここで力を緩めたら作品たちが・・・!

 

壊したくないという思いからメガビョーゲンをあくまでも抑えようとする。しかし、体が震えて力が入らない。潰されそうだ・・・・・・!

 

「メー・・・ガー・・・!!」

 

「きゃあぁぁ!!」

 

抑えつけられているメガビョーゲンは、そんな思いも嘲るかのようにグレースへと赤い棘を伸ばし、彼女を投げ飛ばした。

 

「ああ・・・ぁ・・・!!」

 

グレースの目の前には守ろうとしている作品が・・・・・・!

 

私は何も守れないの・・・・・・? 彼女は絶望しながら、目を瞑るしかなかった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、美術作品の部屋を後にしたドクルンは、メガビョーゲンの元へと向かっていた。

 

「やれやれ、あのプリキュアの甘さ加減には、ほとほとげんなりしますねぇ・・・」

 

ドクルンはキュアグレースのことを思い出しながら歩いていく。

 

そういえば、私にもあんな風に気遣ってくれた少女がいたような気がするが・・・それは、誰だったのだろう。

 

ーーーーまあ、思い出すだけ無駄でしょうねぇ・・・論理的ではない。

 

そんなことをしているうちに、美術館の裏口から外へと出ると、少し大きくなったメガビョーゲンの姿が。

 

「メガー!! ビョーゲン!!」

 

メガビョーゲンは美術館の建物そのものに水を噴射しながら、霧のように降り注がせ赤く染めていた。

 

「ほうほう・・・だいぶ、大きくなってきましたねぇ・・・」

 

ドクルンはこれで十分かと思いつつも、他に蝕める場所がないかキョロキョロと探す。邪魔な植物をかき分けて進んでいくと、美術館の入り口へと出る。

 

「一応、あの辺も蝕んでおきますか・・・」

 

ドクルンはニヤリと笑みを浮かべながら、メガビョーゲンに指示をするべく行動を移したのであった。

 

一方、森のふもとの集落を襲わせているクルシーナは・・・・・・。

 

「きゃあぁぁぁぁ!!」

 

「うわあぁぁぁぁ!!」

 

「メー・・・ガー・・・!」

 

突然現れた怪物に悲鳴を上げながら逃げ出していく住民たち。メガビョーゲンは口から病気を吐き出しながら、藁でできた家や畑の土などを病気に染めていく。

 

「いいわよ、メガビョーゲン。その調子・・・」

 

プリキュアがいない分、順調に病気で蝕み、メガビョーゲンが成長していっていることに関して、笑みを浮かべるクルシーナ。

 

ドクン!!!

 

「ん?」

 

何かの気配を感じ、ふと虚空を振り返る。

 

ドクン・・・ドクン・・・ドクン・・・ドクン・・・。

 

聞こえてくる心臓の音、これが聞こえるのは、建物のある方角だ。

 

「また、アタシの病気の種が動き出したわね・・・」

 

クルシーナは、キュアグレースの中の病気の種が成長していっていることに対し、不敵な笑みを浮かべた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25話「襲来③」

前回の続きです。
次回はサブタイトルが変わります。


メガビョーゲンに吹き飛ばされ、作品に当たりそうになるグレース。

 

私は、何も守れないの・・・?

 

グレースが諦めかけた、その時・・・・・・!

 

「ぷにシールド!!」

 

当たる寸前でぷにシールドが現れ、グレースの体を弾く。下へと落ちていく彼女をスパークルが受け止めた。

 

「グレース! 大丈夫!?」

 

「スパー、クル・・・うぅ・・・!!」

 

グレースは締め付けられる胸を抑えつつも、メガビョーゲンの方へと飛び出していった影を見ると・・・!

 

「グレース!!」

 

メガビョーゲンを蹴りで牽制するフォンテーヌの姿が・・・。

 

「また調子が悪くなってるの!?」

 

「うん・・・なんだか胸が苦しくなって・・・!」

 

「グレースは休んでて! スパークル! メガビョーゲンを建物の外に出すわよ!!」

 

「うん!!」

 

調子の悪いグレースを気にかけ、フォンテーヌとスパークルは一緒にメガビョーゲンを共に倒そうとする。

 

「待て!! 今日のターゲットはここだ!! 貴様らの好きにはさせるか!!」

 

グアイワルは絶好に蝕める場所を邪魔されてたまるかと声を上げる。

 

「何、言ってんの!!」

 

「スパークル! 一緒にやるぞ!!」

 

ニャトランの声にスパークルは頷くと、フォンテーヌの元へ。

 

「ここはあんたたちのものじゃないし!!」

 

グアイワルに反論すると、スパークルはフォンテーヌの隣へ。

 

「メーガー・・・」

 

「フォンテーヌ!!」

 

「ええ!!」

 

「「はぁぁぁぁぁ!!!」」

 

フォンテーヌとスパークルはステッキを構えると、同時に青色と黄色の光線を放つ。爆発を起こし、メガビョーゲンは外へと吹き飛ばされる。

 

「メー・・・・・・!!」

 

メガビョーゲンは頭と尻尾を引っ込めると、棘の玉と化す。

 

「ガー!!」

 

メガビョーゲンを追って出てきたフォンテーヌとスパークルに向かって回転させながら、襲い掛かってきた。二人はそれを苦労することなく交わす。

 

「氷のエレメント!!」

 

フォンテーヌは氷のエレメントボトルをステッキにかざす。

 

「はあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

メガビョーゲンに向かって氷をまとった青い光線を放つ。すると、回転したメガビョーゲンが下から氷ついていき、動かなくなり地面へと落下した。

 

「ああ! メガビョーゲン!!」

 

氷漬けになったメガビョーゲンにグアイワルも動揺を隠せない。

 

「フォンテーヌ! やっちゃって!!」

 

フォンテーヌは頷くと、水の模様が描かれたエレメントボトルをステッキにかざす。

 

「エレメントチャージ!!」

 

そう言いながら光るステッキの先をハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「ヒーリングゲージ上昇!!」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングストリーム!!」

 

キュアフォンテーヌはそう叫びながら、ステッキをメガビョーゲンに向けて、水色の光線を放つ。光線は螺旋状になっていた後、メガビョーゲンに直撃した。

 

その光線はメガビョーゲンの中に入ると、螺旋状のエネルギーは手へと変化して、光のエレメントさんを優しく包み込む。

 

水型状にメガビョーゲンを貫きながら、光線は光のエレメントさんを外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「お大事に」」

 

光のエレメントさんは、作品の中へと戻り、このメガビョーゲンが蝕んだ場所だけが元に戻る。

 

「ちっ、せっかく上手く育ちそうだったものを!!」

 

グアイワルは悔しそうに吐き捨てながら、姿を消した。

 

メガビョーゲンはひとまず一体、浄化したが、明らかな違和感があった。

 

「あれ? この外と建物も蝕まれてるよね? なんで戻ってないの?」

 

「おかしいわね・・・メガビョーゲンは浄化したはずなのに・・・」

 

スパークルとフォンテーヌが疑問を隠せないでいると、女性の声が聞こえた。

 

「やれやれ・・・やはりあの筋肉頭脳には無理でしたか・・・」

 

「「!!」」

 

二人はどこか聞いたことがある声だと思い、振り向くとそこには・・・。

 

「ドクルン!!」

 

「もう一体、メガビョーゲンがいたのね・・・!!」

 

もう一体のメガビョーゲンと、その上に乗るドクルンの姿があった。

 

「気づくのが遅すぎです。私のメガビョーゲンはとっくにここでの役目を終えましたよ」

 

ドクルンは二人を見下ろしながら言う。

 

「うわぁ、でかくなってるよ!?」

 

「ここ一帯が蝕まれたせいニャ! 自然もここには多いからな・・・!」

 

「くっ・・・!!」

 

スパークルは大きくなっているメガビョーゲンに動揺し、フォンテーヌは歯ぎしりをする。

 

「さてと、別の場所に行くとしますか。あなた方に構っている暇などないのでねぇ」

 

「メーガー・・・」

 

ドクルンはそう言うとメガビョーゲンは森の方へと向かって飛んで行こうとする。

 

「! 待ちなさい!!」

 

フォンテーヌはそう言って走りながらステッキを構えようとするが、振り向いたドクルンが不敵な笑みを浮かべると左の指をパチンと鳴らす。

 

ドクン!!!

 

「!? ゲホゲホゲホゲホ!! はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

その瞬間、フォンテーヌの中の赤いものが蠢くと、彼女は膝をついて咳き込み始めた。その後に息を切らし始めるが、気のせいか吸い込む音がいつもよりおかしい気がする。

 

「フォンテーヌ!大丈夫!?」

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

スパークルが駆け寄って背中をさするも、フォンテーヌは明らかに苦しそうに呼吸をしている。

 

「ドク、ルン、を・・・追わない、と・・・」

 

「・・・うん!」

 

スパークルは苦痛の表情で汗を滲ませているフォンテーヌの言葉に追いかけるのが気が引けたが、ここで彼女を逃せば取り返しのつかないことになるかもしれない。彼女の真意に気づいて頷くと、追いかけ始める。

 

「こらぁー、待てぇー!!!!」

 

スパークルは大声を上げながら必死で追いかけるも、鬱陶しく感じたメガビョーゲンがスパークルの方を振り向く。

 

「メーガー・・・!!!」

 

不健康そうな顔から病気を吐き出す。スパークルはそれを飛び上がってかわし、メガビョーゲンと同じ高さへと到達する。

 

「ふっ・・・・・・」

 

ドクルンは笑みを崩さずに、左右から白い穴を出現させるとそこから氷の柱を射出した。

 

「うわあぁぁぁぁ!!!」

 

スパークルは伸びてきた氷の柱に吹き飛ばされるも、体勢を立て直して地面に上手く着地するとステッキを構える。

 

「はぁ!!」

 

ステッキから黄色い光線を放つスパークル。

 

ドクルンは余裕を崩すことなく、白い空間へと氷の柱を引っ込めると数十個もの氷の塊を出現させ、黄色い光線を弾く。

 

そして、そのまま両手を振り下ろすと数十個の氷塊は二人にめがけて飛んできた。

 

「ええぇぇぇ!!??」

 

「ぷにシールド!!」

 

慌てるスパークルをよそに、ステッキから肉球型のシールドを生成し、降り注ぐ氷塊へと構える。

 

ドンドン!! ドドンドンドン!!! ドンドンドン!!!

 

「くっ・・・・・・!!」

 

着弾した氷は白い霧を発生させていき、スパークルの周りが白く包まれていく。

 

「うぅ・・・これじゃあ、何も見えないし!!」

 

やがて氷塊の着弾する音がなくなると、白い霧が晴れていく。スパークルがぷにシールドを解除するが、霧がなくなったその上空にドクルンとメガビョーゲンの姿はなかった。

 

「嘘・・・どこ行ったの・・・!?」

 

スパークルはキョロキョロと空を見渡すが、ドクルンたちの姿はどこにも見えなくなってしまった。

 

「はぁ・・・ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・」

 

「!? フォンテーヌ!!」

 

フォンテーヌの呼吸がまるで、肺から空気が抜けたかのようなものに変わる。スパークルは彼女の体調が悪化したことに気づくと、彼女に駆け寄るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひとまず美術館の中へと戻った2人。スパークルはフォンテーヌが持っていたカバンから白い容器を取り出して、彼女に渡す。

 

「ほら、フォンテーヌ」

 

「ひゅう・・・ひゅぅ・・・ありが・・・とう・・・」

 

フォンテーヌは白い容器を受け取るとカバーを開けて、強く息を吸い込む。すると彼女の呼吸音は正常に戻り、苦痛の表情も少しは和らいだ。

 

「はぁ・・・ふぅ・・・助かったわ・・・」

 

スパークルはフォンテーヌの調子が戻ったことに、とりあえずは安堵の表情を浮かべる。

 

そしてスパークルは、聴診器をしてビョーゲンズに襲われた陶芸品に当てる。

 

「エレメントさん、大丈夫?」

 

『みなさんのおかげで私たちは助かりました! どうもありがとう!』

 

光のエレメントさんはお礼を言うと、他にも多くの光のエレメントさんがお礼を言うために現れた。

 

エレメントさんってこんなにいたんだ・・・!! スパークルとフォンテーヌにとっては不思議な感覚で、微笑ましくなる。

 

「長良さん!! 長良さん!! しっかりしてください!!」

 

グレースは壁に横たわっていた長良さんの肩を揺らしていた。しかし、彼女はメガビョーゲンが浄化されたのにも関わらず、ぐったりとしたままで意識を失っている。

 

そこへ一体の光のエレメントさんが近づく。

 

『これは・・・別のビョーゲンズによって蝕まれています・・・! そのメガビョーゲンを浄化しなければ、元の体調には・・・』

 

「! そんな・・・!」

 

それを聞いたグレースは顔を俯かせる。さらに俯かせたのはスパークルもだった。

 

「グレース、ごめんね・・・あたしたち、ドクルンは取り逃がしちゃったんだ・・・」

 

スパークルの謝罪の言葉に、グレースは瞳を潤ませた表情を見せるも、すぐに首を振る。

 

「ううん、スパークルのせいじゃないよ・・・。もっと私がここを守り切れていたら・・・」

 

俯くグレースに、フォンテーヌが肩に優しく手を置く。

 

「グレース、あなたは立派にここを守ってたじゃない。そう落ち込むことはないわ・・・」

 

「そうだよ! あいつらはまだ遠くに行ったわけじゃないし! 浄化できないってことじゃないよね!」

 

フォンテーヌとスパークルが励ましてくれる。グレースはその二人の心に暖かさを感じる。

 

「よーし! あと5体!! 浄化・・・できるのかなぁ・・・?」

 

スパークルは一瞬戸惑った。時間が遅れたせいで強くなってしまったメガビョーゲンを思い出し、本当に太刀打ちできるのか心配になってきたのだ。

 

「なんだよー! 俺たちで一体浄化したじゃん! できるって!!」

 

「できるのかじゃないわ。やるしかないでしょ!」

 

「一緒にやればできるはずペエ!!」

 

フォンテーヌたちは地球をお手当てしてあげようと奮起だ。しかし、グレースはまだ落ち込んだままだった。

 

『力になるかはわかりませんが、これを』

 

光のエレメントさんが体を光らせると、スパークルの持つ光のエレメントボトルに力が溜まっていく。

 

「力を分けてくれたのか?」

 

「えっ、いいの?」

 

『まだ苦しんでる他のエレメントさんたちも、助けてあげてください。よろしくお願いします!』

 

光のエレメントさんは少しでもプリキュアたちの力になってあげようと自分たちの力を分けてくれたのだ。

 

「わかった!!」

 

スパークルは光のエレメントさんに感謝した。

 

そして、今だに落ち込んでいるグレースへと歩み寄って手を伸ばす。

 

「行こうよ! グレース!!」

 

「・・・・・・うん」

 

グレースは表情は暗くしつつも、スパークルの手を取った。

 

美術館を後にしたプリキュアの3人は、次のメガビョーゲンの元へと走っていた。

 

「グレース、体調は大丈夫?」

 

「・・・うん、もう大丈夫」

 

「先に川の方をお手当てしましょう!!」

 

プリキュア3人が川の方にいるメガビョーゲンへと浄化に向かう中、ラテを抱えながら走るグレースはまだ俯いた表情をしていた。

 

そして、自分のパートナーに口を開く。

 

「ごめんなさい、ラビリン。やっぱりラビリンの言うとおりだった・・・」

 

「ラビ?」

 

「あのままだったら・・・私一人だったら、きっと守りきれなかった・・・もっと大変なことになってた・・・でも、私のせいで長良さんは・・・」

 

「グレース・・・」

 

「ちゃんと周りを見て考えなきゃって朝、ちゆちゃんも言ってくれてたのに・・・」

 

グレースがあのとき一人で戦っていたときのことを思い出していたのだ。自分がわがままを言ってラビリンの忠告を無視した結果、余計に苦戦して美術館の作品を壊すかもしれなかった。無我夢中になって朝、友人が言ったことも忘れてしまっていた。

 

結局は、フォンテーヌやスパークルに助けられている・・・本当に不甲斐なかった。

 

「本当に助けようと思うなら、目の前のことじゃダメなんだよね・・・・・・」

 

「・・・グレースは一生懸命だったラビ。そういうこともあるラビ」

 

ラビリンはグレースのことを責めなかった。大切なものを汚されようとしていて、立ち向かう勇気は必要だ。自分だってそういう行動をとることもあるんだから・・・。

 

「ラビリン・・・また、私が間違えそうになったら・・・そのときは、またちゃんと言ってね」

 

「もちろんラビ!」

 

グレースは安堵の微笑みを見せ、二人は絆を更に高めた。

 

そして、意を決したような表情となり、残る場所もお手当てをしようと決意を高めていく。フォンテーヌとスパークルに追いつくように足の動きを速さを早めていく。

 

「反省会は終わったか?」

 

「さあ、切り替えてお手当てに集中しましょう! そうすれば、長良さんだって助けられるはずよ!」

 

「「うん!!」」

 

プリキュア3人は木へと登って、街へと飛び出していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、美術館を離れたドクルンたちは、プリキュアたちが向かう方向とは逆の森の方へと向かっていた。

 

「やれやれ・・・プリキュアたちの甘さ加減には、砂糖を口から吐きそうですねぇ・・・」

 

「相手を気遣うあまり隙が多すぎるんだブル」

 

ドクルンは先ほどのプリキュア、特にグレースの甘さには辟易としていた。あんなに必死になって、美術館の作品を守る理由がよく分からない。価値のないものを守ろうだなんて、論理的じゃない。自分には一生わかる気はしないだろう。

 

そろそろ異空間を開けて、アジトへとメガビョーゲンと一緒に向かおうと考えていると、途中でクルシーナたちと鉢合わせた。

 

「あら、ドクルン」

 

「クルシーナですか」

 

クルシーナは先ほど集落を襲っていたが、そちらは大方蝕んだようで、他に蝕めるものを探しているようだ。

 

「もうちょっと大きくできそうだから、蝕める場所を探しているんだけど・・・」

 

「それだったら、さっきの美術館はどうですか? 先ほど、グアイワルが失敗したみたいです。彼が蝕んだところも元に戻っているはずですよ」

 

「ふーん・・・」

 

クルシーナはそれを聞くと、無言ですぐに向かおうとする。

 

「クルシーナ」

 

「・・・何よ?」

 

ドクルンの呼ぶ声に、進みを止めるクルシーナ。その表情は早く蝕みに行きたいと言わんばかりの不機嫌そうな顔だった。

 

「・・・私たちの目的、わかってますよね? 私たちの存在意義も」

 

ドクルンは珍しく静かで、落ち着いた声だった。クルシーナは彼女のそんな態度に少し驚いた顔を見せるも、すぐに不機嫌そうな顔に戻る。

 

「・・・ふん、決まってるだろ。地球も人間も病気で永遠に苦しめる。そのためにはあの男は邪魔だ。アタシはあいつを許さない、アタシたちを貶めたあの男を・・・! アタシがお父様に使われる立場であっても、その価値に似合ってなかったと言われたとしても、この中にある憎しみだけは変わらない・・・!!!」

 

クルシーナはそれだけ吐き捨てるように言うと、美術館の方角へと飛んで行った。

 

「フフ・・・あなたはいいですね・・・寂しそうではなくて・・・私は、こんなに寂しいのになぁ・・・」

 

ドクルンは飛び去っていくクルシーナを哀愁漂う表情で見つめながら、進むべき方向を向く。

 

「もう少し・・・蝕んでいきましょうか・・・メガビョーゲン」

 

「メー・・・ガー・・・」

 

彼女は自分が寂しくないようにもう少し病気で蝕んでいこうと、森とは60度方向転換した方角へと飛んでいったのであった。

 

一方、発電所を襲っていたイタイノンは、川沿いを挟んだ反対側の町を襲っていた。

 

「メガー!!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁ!!!」

 

町の人たちが怪物を恐れて逃げ出していく。

 

「キヒヒ・・・愉快愉快・・・」

 

人間たちの恐怖の悲鳴を味わいながら、イタイノンがクスクスと笑う。

 

「イタイノン・・・目的を忘れてないネム?」

 

見かねたネムレンが声をかけ、イタイノンが笑みから不快な表情をする。

 

「わかってるの・・・あいつをギタギタにしてやる前の前哨戦をしているだけなの」

 

ゴシックロリータは不機嫌そうに返す。正直、アジト周りをうろつく男を叩きのめすのもそうだが、それよりもいっぱい人間がいるところを襲った方が楽しい気がする。

 

「本当に大丈夫ネム? イタイノンがキングビョーゲン様のものになるって聞いたときは受け入れたけど、私は耐えられるのか心配で心配でたまらなかったネム・・・」

 

パートナーの心配する声に、イタイノンは体を震わせ始める。

 

「大丈夫だって言ってるの! お前はいちいちうるさいの! 変な心配なんかしなくていいの!!」

 

「でも・・・・・・」

 

「もう黙ってろ、なの!!」

 

イタイノンは声を荒げ、ネムレンはビクリとしつつも、これ以上彼女のストレスを与えないように黙っているしかなかった。

 

イタイノンは大声で言いつつも、昔のことを思い出していた。

 

ーーーー今日からお前たちは我のものだ・・・。我のために尽くし、我々のために快適な環境を作るのだ・・・。

 

自分の父親たるキングビョーゲンに、クルシーナやドクルンが適当に返事をする中、イタイノンだけは一人無言だった。

 

ーーーーイタイノン・・・どうした・・・?

 

ーーーー・・・別に、なんでもないの。

 

ーーーー我にとってお前は必要なのだ。活発的になってもらわなければ困る。まあ、まだその時ではないがな・・・・・・。

 

ーーーー・・・わかってる、なの。

 

イタイノンはビョーゲンズの一員となった後、複雑なものを感じるかのように佇んでいたのだ。動かなかった自分の体が動けるようになる感覚、誰にも痛めつけられることもない場所、そして他人を痛めつけることができる能力、様々なことが溢れてきて動揺していた。

 

「メガー!!」

 

「・・・ここもだいぶ蝕んできたの」

 

イタイノンがメガビョーゲンの鳴き声に気づいて、周りを見渡すと生えている木や家などの建物、地面がかなり赤く染まってきたのが見えた。

 

こんなものでいいかと思ったとき、ふと河川敷の方向を振り返る。

 

「・・・おばさん、調子に乗ってるんじゃないか? なの」

 

イタイノンはどうせなら失敗した姿を嘲笑ってやろうと考え、河川敷の方へと戻ることにした。

 

「メガビョーゲン、ここはもういいの。あっちへ行くの」

 

「メガー!!」

 

イタイノンはメガビョーゲンの上へと乗っかると、河川敷に向かうべく飛んだ。

 

まあ、私は、私がやりたいことをやるだけなの。そうやって地球も人間も蝕むことができれば、それでパパにとっても万々歳なの。

 

イタイノンは心の中で結論づけると、シンドイーネのメガビョーゲンの姿が見えてきた。川もさっき見たよりも病気を広げており、メガビョーゲンも少し大きくなっているような気がする。

 

川のそばの地面には、3人の色のあるコスプレ姿の少女もいる。

 

「なんだプリキュアもいたの・・・しかも、3人揃ってるし・・・」

 

イタイノンが嫌そうな表情を浮かべていると、プリキュア3人が川の中にいるメガビョーゲンへと飛び上がり、その怪物に川へと叩き落とされる姿を見た。

 

シンドイーネは勝ち誇っているようだが、メガビョーゲンの背後から3人は飛び出してきた。

 

背後から飛び出してきた3人に気づいたメガビョーゲンはなぎ払おうとしたが、3人の蹴りに跳ね返され、川の中へと倒れる。

 

「やっぱり、川では頭の悪いメガビョーゲンしか生み出せなかったの。あそこじゃなくて正解だったの」

 

もうことの結末がわかりきっていたイタイノンだが、スパークルの姿を見た彼女は不敵な笑みを浮かべる。

 

「まあ、少しはあいつで遊んでやるの」

 

イタイノンはそう言うと右の指をパチンと鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メガビョーゲンを背後から不意をついて、川の中へと倒した3人。

 

「グレース! 決めちゃって!!」

 

スパークルが叫んだ、その時・・・・・・!!

 

ドクン!!!

 

「!? うっ・・・!」

 

スパークルが突然、胸を押さえ始める。まるで、胸の中をえぐられているようなそんな痛みが走った。

 

彼女の中の赤く蠢く何かが、暴れ出していたのだ。

 

バチバチッ・・・!!!

 

「ぁ・・・・・・」

 

赤く蠢く何かが電気を発生させると、スパークルの体から力が抜け、彼女は何の抵抗も見せることなく、川へと真っ逆さまに落ちていく。

 

「スパークル!?」

 

二人はスパークルの異変に気付いて、叫びを上げる。フォンテーヌはとっさに川へと落ちていく彼女へと飛び出し、受け止めて川沿いの地面へと着地する。

 

「グレース! 心配なのはわかるけど、メガビョーゲンを!!」

 

「・・・うん!!」

 

グレースは突然、倒れたスパークルを気になりつつも、とりあえずは目の前のメガビョーゲンの浄化へと動く。

 

グレースは花のエレメントボトルをステッキにかざす。

 

「エレメントチャージ!!」

 

そう言いながら光るステッキの先をハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「ヒーリングゲージ上昇!!」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングフラワー!!」

 

キュアグレースはそう叫びながら、ステッキを上空へと飛んでいるメガビョーゲンに向けて、ピンク色の光線を放つ。光線は螺旋状になっていた後、メガビョーゲンに直撃した。

 

その光線はメガビョーゲンの中に入ると、螺旋状のエネルギーは手へと変化して、水のエレメントさんを優しく包み込む。

 

花状にメガビョーゲンを貫きながら、光線はエレメントさんを外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「お大事に」」

 

水のエレメントさんは川へと戻り、このメガビョーゲンによって蝕まれた場所は元に戻る。

 

「嘘でしょ!? あんなにいい感じだったのに!! もう悔しい~!!!」

 

シンドイーネは足をバタバタとさせながら悔しがりつつ、川沿いでフォンテーヌに担がれているスパークルを見やる。彼女はスパークルが落ちたのをちゃんと見ていて、私でない誰かがやったと感じていたのだ。

 

そして、プロペラのような音が聞こえ、空を見上げるとイタイノンとメガビョーゲンの姿が見えた。

 

「・・・あいつ、自分の身の心配もできないのに、余計なことしちゃって」

 

シンドイーネは顰めつつ、その場から姿を消したのであった。

 

一方、スパークルを坂のところで寄りかからせたフォンテーヌ、走って彼女たちの元へ駆けてきたグレースは。

 

「うぅ・・・!!」

 

「スパークル! 大丈夫!?」

 

「あ・・・なんか、胸が苦しくなったと思ったら、体の力が抜けちゃって・・・」

 

目がチカチカとしながらも声を紡ぐスパークル。気を抜いたら意識を失いかねない状態だ。でも、そんな自分よりも心配しなくてはいけないものがいる。

 

「そんな、ことよりもラテとエレメントさんは・・・?」

 

「ううん、ラテは全然よくなってないよ・・・」

 

「メガビョーゲンを2体浄化したのに、まだ回復しないラビ」

 

グレースに抱かれるラテはまだぐったりとしたままだ。それだけメガビョーゲンが暴れて、大きくなっているということだ。

 

「・・・・・・・・・」

 

フォンテーヌは自分よりも他人の心配をするスパークルを心配しつつも、聴診器で水のエレメントさんの様子を聞く。

 

『助けていただいてありがとうございます。みなさん、まだ苦しんでいる仲間のことも、どうか宜しくお願いします』

 

すると、フォンテーヌが持っている水のエレメントボトルに力が注がれた。

 

「・・・大切なあなたたちからの力、確かに受け取りました」

 

「絶対絶対、助けるから!!」

 

フォンテーヌは神妙な気持ちで感謝の言葉を交わし、グレースは助け出すと決意する。

 

そこへスパークルがよろよろと立ち上がって、こちらへと来る。

 

「スパークル! 休んでなくて大丈夫!?」

 

「だって、みんなが苦しんでるのに・・・休んでなんかられないよ・・・!」

 

スパークルは痛みに顰めたような表情をしながらも、顔は覚悟をすでに決めていた。

 

「・・・わかったわ。でも、辛くなったらちゃんと休んで」

 

「・・・うん」

 

フォンテーヌは彼女の気持ちも汲み取って、スパークルと共に向かうことにした。

 

「残りのメガビョーゲンの元へーーーー!?」

 

そんなとき、3人の耳に羽音のようなものが聞こえてきた。

 

「・・・え、何の音?」

 

「これって、プロペラの音・・・?」

 

3人は周囲を見渡してみる。すると、ニャトランが何かを見つけたようで叫んだ。

 

「! いたぞ!! あそこだ!!」

 

ニャトランが叫んだ方向に振り向くと、プロペラのついたメガビョーゲンとイタイノンの姿が。どうやら森の方へと飛んで行こうとしている模様。

 

「さっきよりも、大きくなってない・・・?」

 

スパークルは一人で向かっていたあの時よりも、メガビョーゲンが大きくなっているのを感じた。3人が他のメガビョーゲンを相手にしているうちに、他の場所を襲ったのだろう。

 

「メガビョーゲン!!」

 

フォンテーヌが叫ぶと同時に、3人はメガビョーゲンを追うべく走っていく。

 

そんな3人に気づいたイタイノンは、顔を顰めると右手から黒い雷撃を放つ。

 

「うわぁっ!?」

 

3人は後ろに飛び退いて雷撃を交わすも、メガビョーゲンとの距離は少しずつ離れていく。

 

「早く追わないと見失っちゃうわ!!」

 

フォンテーヌは怯むことなくメガビョーゲンを追いかけていく。グレースとスパークルはその後を着いていこうと走っていく。

 

しかし、そんな中でも、スパークルは苦しさを感じているのか、胸を押さえていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、美術館の中にいるクルシーナは、グアイワルが蝕んだものを同じように蝕んでいた。

 

「メガー・・・!」

 

メガビョーゲンは口から病気を吐き出して、作品を再び赤く染めていく。そして、今は大きな美術品のあるエリアを襲っていた。

 

「よし、ここも大分蝕んだわね」

 

「いつにないほどに順調ウツ」

 

ウツバットの言う通り、今回は蝕むのがいつもよりも順調だ。プリキュアと遭遇していないこともあるだろうが、一番はこのメガビョーゲンがかなり優秀だということだろう。

 

「ん? また、メガビョーゲンの反応が消えたわね」

 

クルシーナは森とは反対側であろう場所を向く。誰かがしくじったのかだろうが、おおよそシンドイーネだろう。森の方向にはまだ複数のメガビョーゲンの反応がある。

 

「ってことは、あっちもまだ蝕むことができるってことよね?」

 

クルシーナはシンドイーネが蝕んだ場所が元に戻っていることを察し、不敵な笑みを浮かべた。

 

「メガビョーゲン、次はあっちだ」

 

「メガー・・・ビョーゲン・・・!」

 

クルシーナはその場所も蝕むべく、メガビョーゲンに病気の進行を急がせるのであった。

 

そして、ドクルンは・・・・・・。

 

「メーガー・・・!」

 

メガビョーゲンに東の森のあたりを襲わせていた。頭の管から赤い水を噴射して霧のように降り注がせる。森を構成する木の多くが病気へと蝕まれている。

 

「ふむ・・・まあ、このぐらいでいいわ。私たちは一足お先にお暇しましょうか」

 

「メーガービョーゲン」

 

ドクルンはメガビョーゲンの上に乗ると、上空高く飛んでいく。白いホールみたいなものが出現し、ドクルンとメガビョーゲンはその中へと消えていく。

 

姿を現した場所は、全てが赤く染まった荒廃した街、三人娘のアジトがある街だ。その上空には球体のような塊を作っているナノビョーゲンたちが徘徊している。

 

ドクルンはそのままメガビョーゲンをアジトである廃病院の近くへと誘導すると、その上から飛び降りる。

 

「メガビョーゲン、男を探してください。生気があるからわかるはずです。見つけたら病気に蝕むか、捕らえてください。多少痛めつけても構いません。ただし、ここには近づけないこと、わかりましたね?」

 

「メーガー!」

 

メガビョーゲンは低い唸り声を上げると、街の方へと飛んでいく。

 

ドクルンはメガビョーゲンの姿を見届けると、廃病院の中へと入っていく。

 

(きっとあの男は、私たちのアジトの地下にいる娘を取り戻そうとしているんでしょうが、私の目の黒いうちはそうはいきませんよ)

 

「フフ・・・まあ、もう手遅れかもしれませんけどねぇ・・・」

 

ドクルンは男が始末される未来を頭に描きながら、不敵な笑みを浮かべる。

 

その廃病院の地下の実験室の中では・・・・・・。

 

「・・・ぅ・・・ぅぅ・・・」

 

ベッドに寝かされている金髪の少女が痙攣しながら、弱々しく唸り声を上げていく。体の中には赤い何かが蠢いている。

 

「・・・ぅ・・・ぁぁ・・・!」

 

苦痛の表情を浮かべていた顔が、唐突に赤く頬を染めていき、恍惚とした表情へと変わっていく。

 

「・・・ぁ・・・ぁぁ・・・♪」

 

かすれたような声で、甘い声を上げる少女。

 

そんな彼女の体には、肌が少しずつ変わっていき、頭にツノのようなもの、下半身にサソリの尻尾のようなものが生え始めているのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第26話「困難」

前回の続きになります。


プリキュア3人はイタイノンたちを追って、森の方へと走っていた。

 

「本当にしつこい奴らなの・・・!」

 

イタイノンはこちらを追いかけてくるプリキュアたちに不快感をあらわにする。

 

メガビョーゲンをさらに飛び上がらせるように指示し、森が見えてくるであろう丘を越えていく。

 

「ん? イタイノンじゃん。あいつもメガビョーゲン出してたんだ」

 

それに気づいたのは、森一帯を病気で蝕ませているダルイゼン。プロペラの音でこちらを振り返り、イタイノンとメガビョーゲンの姿を視認した。

 

イタイノンたちはダルイゼンを見ることなく、そのまま奥の森へと飛び去っていく。

 

「「「!?」」」

 

そこへプリキュアたちが丘を登ってやってくるも、そのあまりの光景に絶句した顔になる。

 

「これは・・・・・・!」

 

森が一切なく、大地一帯がすでに病気で赤く染め上げられており、侵食がかなり進んでおり、健康的な地面などどこにも存在しない。そして、その中に佇むもう一人のビョーゲンズーーーーダルイゼンが立っていた。

 

「あれ? いなくなったと思ったら、仲間連れて戻ってきたんだ」

 

ダルイゼンは不敵な笑みを浮かべながら、プリキュアの方を見る。

 

「大丈夫? お手当てできる? メガビョーゲン、結構育っちゃったけど?」

 

ダルイゼンの言葉は気遣いではなく、嘲笑だ。そんな彼の余裕を表すかのように、病気で蝕まれた大地の向こう側に、体の一部が見えてわかるぐらいの大きさに成長したメガビョーゲンの姿があった。

 

「メガビョーゲン!」

 

「ラビッ!?」

「ペエ~!?」

「ニャア!?」

 

それを見たラビリンたちは驚愕した。クルシーナたちのときも大きく成長したことはあったが、今回のそれは遥かに上回るぐらいの大きさだ。今までこんな怪物を見たことがあっただろうか?

 

「ちょっ、ちょっ、ちょっと! 嘘でしょ!? あんなでっかくなっちゃうの!? クルシーナたちのときよりもでかくない!?」

 

「オレたちもこんな大きさを見るのは初めて見たニャ!」

 

スパークルは動揺を隠せない。

 

「ビ、ビビってる場合じゃないラビ!!」

 

「あーそうそう、追ってた俺たちの仲間、奥行っちゃったけど、追わなくていいわけ?」

 

ダルイゼンが言っているのは追っていたイタイノンのことだ。彼女はこのメガビョーゲンの奥に、自分のメガビョーゲンと共に行ったという。

 

「そういえば、イタイノンがどっか消えちゃったけど、どうするの!?」

 

「でも・・・まずはここをどうにかしないと・・・!」

 

「・・・そうだよ。絶対にお手当てするんだから!! みんな、行こう!!」

 

「うん!!」

「ええ!!」

 

どちらにしろメガビョーゲンを倒せないと先には進めないと感じた3人。グレースはラテをその場に置いて、3人で一緒にメガビョーゲンに立ち向かう。

 

「メガー!」

 

メガビョーゲンが花のような形のツメを振るう。3人は肉球型のシールドを展開するも、吹き飛ばされる。

 

「メガー!」

 

メガビョーゲンはさらにもう一方のツメも振るう。

 

「はぁ!!」

 

「メガー!!」

 

「「「きゃあぁ!!」」」

 

3人はそれぞれの色の光線を放つも、メガビョーゲンのツメに弾かれ、地面へと叩き落とされてしまう。

 

「いったぁーい、全然当たんない、っていうか、近づけない・・・!」

 

「全部あの手でガードされちゃうペエ・・・!」

 

いつもの攻撃が通用せず、全くメガビョーゲンには毛ほどのダメージも与えられていない。

 

「くっ・・・あ!? うわあぁぁぁ!?」

 

グレースは立ち上がって再度メガビョーゲンに立ち向かおうとするも、地面に足を取られそうになり、ふらついた。

 

「これって・・・?」

 

「地面も蝕まれて傷んでるラビ!!」

 

「メガッハー!!」

 

そこへメガビョーゲンが自分の首回りについている白い綿毛のようなものを飛ばしてきた。

 

ドカン!! ドカン!!

 

白い毛のようなものは飛んでいくと同時に、空中で爆発を起こした。

 

「「「!?」」」

 

その後も綿毛は徐々に迫りながら爆発していく。3人はなんとか距離を取ろうと走り出し、少し離れたところで肉球型のシールドを展開するも、爆発していくその勢いは凄まじく徐々に押され始める。

 

「お手当てどころか・・・防ぐのも精一杯・・・!!」

 

メガビョーゲンのあまりの戦闘力に、プリキュア3人は手も足もでない。

 

そんな時だった・・・・・・!

 

ドクン!!!!

 

「うぅ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

必死に爆発を防いでいるフォンテーヌの胸が締め付けられ、息が切れ始める。

 

「フォンテーヌ!?」

 

「はぁ・・・はぁ・・・ま、た・・・こんな、時に・・・」

 

辛そうな表情で喉を抑えながらも、必死で体を支えるフォンテーヌ。

 

ドクン!!! バチバチ・・・!!

 

「うぅ・・・ぁ・・・きゃあぁぁ!!」

 

スパークルも胸を締め付けられたような感覚が起きた瞬間、全身から力が抜け、防御が疎かになって爆発を食らってしまう。

 

「スパークル!!」

 

グレースは叫ぶも、爆発の勢いは止まらずスパークルに駆け寄ることができない。

 

「スパークル! 大丈夫か!?」

 

「ぁ・・・ま・・・た、力が抜・・・」

 

倒れたスパークルは力を入れているが、立ち上がることができず全身をピクピクと痙攣させていた。

 

「くっ・・・あっ・・・!?」

 

更に悪いことが起きる。綿毛の一部がプリキュア3人から外れて飛んでいき、その先には震えるラテの姿が。

 

ラテが危ない・・・・・・!!

 

グレースはとっさにラテの元へと走りだす。しかし・・・!!

 

ドクン!! ドクン!! ドクン!! ドクン!!

 

「うぅ・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 

その最中、グレースの心臓の音がバクバクと鳴り出し、グレースの息が切れ始める。目が突然チカチカとし始めた。

 

(また、目がぼやけてきて・・・でも、ラテが・・・!!)

 

グレースは顔を顰めながら、足がよろつきそうになりながらも気力で走り出す。

 

「うぅ・・・はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、」

 

フォンテーヌも辛そうな表情をしながら、ラテの元へと走る。

 

「ぐぅぅぅ! うぅぅぅぅぅ!!」

 

スパークルもなんとか力を振り絞って立ち上がり、よろよろとしながらもラテの元へと走っていく。

 

3人は光線をブースター代わりにして飛び上がり、一気にラテの元へと近寄ると肉球型のシールドを展開する。

 

その瞬間、綿毛の凄まじい爆発が襲った。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、うぅ・・・!」

 

グレースは倒れそうになりながらも、ラテを抱きかかえたまま、体を必死で支え、シールドを展開する。

 

「あ、はぁ、はぁ、はぁ、ひゅぅ、ひゅぅ・・・」

 

フォンテーヌは呼吸が辛くなっていくのを感じつつも、シールドを消さないように展開する。

 

「ぅぅ・・・ぐぅ・・・!!」

 

スパークルの目はチカチカとしていたが、それでも彼女は気を抜かないように防御に集中する。

 

3人はそれぞれ謎の体調不良で辛そうな表情を見せながらも、必死でラテを守ろうとする。

 

しかし、綿毛の爆発は徐々に凄まじくなっていき、ついには・・・・・・。

 

チュドォォォォォォォォォォォン!!!!!!

 

一際、大きな大爆発を起こした。

 

「「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

大地を抉ってしまうような大爆発により、シールドを呆気なく粉砕されたプリキュアの3人は森の東側へと大きく吹き飛ばされていった。

 

「あーあ・・・これでプリキュアともヒーリングッバイかな・・・?」

 

ダルイゼンは吹き飛ばされた場所を見て、不敵な笑みを浮かべる。

 

「メガ・・・ビョーゲン!」

 

「?」

 

すると、突然メガビョーゲンの鳴き方がおかしいことに気づいたダルイゼンが振り向く。

 

「メガ・・・メガ・・・メガー・・・」

 

メガビョーゲンは花弁を閉じると、そこから一つの不気味な種を吐き出した。

 

その地面に落ちた種。それを拾い上げるものがいた。

 

「プリキュア共も無様なの。最初からおとなしく寝てればいいものを、なの」

 

「あれ? イタイノン、いたの?」

 

クスクスと笑いながら種を拾い上げたのは、メガビョーゲンと一緒に奥へと飛んで行ったはずのイタイノンだ。

 

「・・・いたら問題でもあるの? なの」

 

「・・・別にいいけど」

 

イタイノンは顰めた顔で言うも、ダルイゼンは興味がなさそうに返す。

 

「そのメガビョーゲン、珍しく優秀なの。このままもっと成長させれば、ここ一帯を私たちのものにできるはず、なの」

 

イタイノンはダルイゼンのメガビョーゲンに指をさしながら言う。このメガビョーゲンは三人娘が生み出す強力なメガビョーゲンと同じくらい強力になっている。おまけに成長したことで強暴性も増している。

 

今のプリキュアたちがボコボコにされているところを見ると、到底太刀打ちなどできないだろう。ここをビョーゲンズの大地にできるのも時間の問題だ。

 

「その種って、なんなわけ?」

 

「これはメガビョーゲンの種なの。メガビョーゲンは一定まで成長させると、こうやって種を吐き出すの。優秀なメガビョーゲンはそれができるの」

 

突然吐き出した種のことに疑問を持ったダルイゼンが聞いてくると、イタイノンは不敵な笑みを浮かべながら答える。

 

「・・・ふーん、それっていい感じに育ったってことじゃん」

 

ダルイゼンはそれを聞くと笑みを浮かべる。

 

イタイノンは種をポケットにしまうと、無言でダルイゼンへと背を向けて歩いていく。

 

「お前も無理してるわけ?」

 

「・・・・・・?」

 

「キングビョーゲン様がお前も必要としていて、それで無理をしていないのかってこと」

 

不意にダルイゼンにかけられた声に、イタイノンは足を止める。今まで活発じゃなかったこいつが、最近は活発的に活動している。さすがに無理しすぎなのではないかと。

 

だるそうな態度を見せながらもちゃんと人を見ているダルイゼン。基本、他人をなんとも思わない彼なりに彼女のことを心配しているようだが・・・・・・。

 

「・・・私は私のやりたいことをしているだけなの。お前に心配されることなんかないの」

 

「あっそ・・・まあ、別にいいけど」

 

イタイノンは素っ気なく返すと、ダルイゼンも余計な気遣いだったかと言わんばかりに返す。

 

「そろそろと行くとするの。ドクルンが待ちくたびれてるはず、なの。メガビョーゲン」

 

「メガー!」

 

イタイノンはメガビョーゲンを呼び出して飛び乗る。そして、そのまま上空へと飛び上がって、森の奥へと突き進むと白いホールが現れ、イタイノンたちはその中へと消えていった。

 

ーーーーこいつ、渡しておけばよかったか・・・? まあ、いいけど。

 

ダルイゼンはイタイノンたちを見届けた後、クルシーナが落としていった黒いチューリップの髪飾りをポケットから出して見つめているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・どか! のどか! 起きるラビ!!

 

ラビリンの声が聞こえてくる。目を開けるとぼやけていた視界が明るくなっていき、ラビリンの姿が見え始める。

 

「うぅ・・・あ・・・・・・」

 

のどかが目を覚ますと、ラビリンの表情が安堵したような顔になる。そのサイドにはペギタンとニャトランの姿が。

 

「よかったラビ!!」

 

のどかはハッとなって体を起こし、抱きついてくるラビリンを撫でる。

 

「ラテは・・・?」

 

「無事、とは言えないけど・・・」

 

「ケガはしてないペエ。みんなのおかげペエ」

 

ラテはまだぐったりはしているものの、プリキュア3人でメガビョーゲンからケガはしていない。ひとまずは安心だ。

 

「ちゆちゃんとひなたちゃんは・・・?」

 

「それが・・・・・・」

 

「先にのどかが目を覚まして、二人はまだ目を覚ましていないラビ」

 

のどかがよく周囲を見ると、ちゆとひなたも芝生の上で眠らされていた。よく見れば3人はプリキュアへの変身が解除されている。爆発で吹き飛ばされた衝撃で意識を失い、変身が解けてしまったのだろう。

 

「うぅ・・・ゲホゲホッ・・・ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・」

 

と、眠っているちゆが喉元を抑え始め、明らかにおかしい呼吸音を発しているのがわかる。

 

「ちゆ!!」

 

「ちゆちゃんーーーうぅ・・・あっ・・・」

 

ペギタンが苦しむちゆへと駆け寄る。のどかも近づこうとしたが、突然胸を抑え始め、膝をついてしまう。

 

「のどか! どこか具合が悪いラビ!?」

 

「うん・・・また、胸が苦しくなって・・・」

 

ラビリンが近寄って気遣うも、のどかの額には汗が滲み出ていた。

 

3人のヒーリングアニマルたちは顔を見合わせていた。のどかたち3人はあのメガビョーゲンの戦闘のとき、明らかに苦しそうな顔をしていた。ちゆは途中で呼吸が乱れており、ひなたは突然体から力が抜けてふらつく一面を見せ、のどかは胸を押さえて苦痛を浮かべながら、歩き方もフラフラになっていた。

 

どうして、3人に原因不明の体調不良が起こるのか。病気に冒されたことはあったが、それはメガビョーゲンを倒して浄化したはず、数日経っているはずなのにそれが尾を引くなんて普通ではありえない状況だ。

 

「ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・ゲホゲホッ・・・ペ、ペギ・・・タン・・・」

 

「ちゆ!? 目を覚ましたペエ!?」

 

ちゆが苦しさのあまりに目を覚ました、というよりは意識が覚醒して近寄るペギタンに必死に声を紡ぐ。

 

「ひゅぅ・・・ひゅぐ・・・く、くす、り、を・・・ポケ、ット、に・・・」

 

「ああ! わかったペエ!!」

 

ペギタンはすぐさまポケットの中から白い容器の薬を出し、ちゆに渡す。

 

ちゆは手を震わせながらも、容器を開けて口に近づけると思いっきり吸った。すると、ちゆの呼吸音が落ち着いてくる。

 

「はぁ・・・はぁ・・・ありがとう、ペギタン・・・」

 

「ちゆ!! よかったペエ!!」

 

ちゆは呼吸を楽にしながら、体を起こしてペギタンにお礼を言う。抱きついてくるペギタンも優しく撫でてあげる。

 

「うぅ・・・うーん・・・」

 

「あ! ひなた!」

 

「うぅ・・・あ・・・!!」

 

その直後、ひなたも目を覚ました。視界をぼやけさせながらも、徐々にクリアになっていき、ハッとしたように体を起こす。

 

「ひなたちゃん! 大丈夫!?」

 

「う、うん・・・なんともないし・・・」

 

のどかが近寄って、声をかけるとひなたは戸惑いながらも、いつもの口調で返す。でも、少し顔色は悪そうだ。

 

「ラテは!?」

 

「無事・・・とは言えないけど・・・」

 

「怪我はしてないペエ・・・みんなのおかげペエ・・・」

 

ラテは今まで以上にぐったりとしていたが、プリキュアたちが爆撃から守ってくれたので怪我はしていなかった。

 

「よかった・・・早くメガビョーゲンを、うぅ・・・浄化・・・し、に、いか、ない、と・・・ああ・・・!!」

 

のどかは再び起き上がろうとするが、顔を顰めていき、倒れてしまう。

 

「のどか!?」

 

「のどかっち!!」

 

「ぐぅ・・・うぅ・・・!!」

 

ちゆとひなたが駆け寄るも、のどかは苦痛の表情で胸を抑えていた。

 

「のどか! しっかりするラビ!!」

 

「だ・・・だい、じょう、ぶ・・・す、すこし・・・横に・・・なれば・・・平気・・・だから・・・」

 

「全然大丈夫じゃないラビ!!」

 

のどかは倒れてもなお立ち上がろうとしていたが、額には汗が浮かんでおり、顔色は悪くなっていた。明らかに大丈夫じゃない。

 

「本当にお手当てできるのかな・・・?」

 

「ひなた・・・ちゃん」

 

そんな中、ひなたは不安な表情を浮かべていた。

 

「まさかメガビョーゲンがあんなに強くなってるとはニャ・・・」

 

「ラビリンもあんなに成長したメガビョーゲンを見たのは初めてラビ・・・」

 

「正直、怖かったペエ・・・」

 

「浄化するにしても、まだまだ時間がかかる・・・つまり、もっと強くなってるってことよね・・・」

 

「そんなのもっと無理じゃん!!」

 

すると、ニャトラン、ラビリン、ペギタン、ちゆと次々と不安を口にする。クルシーナ、ドクルン、イタイノンのメガビョーゲンは成長して強くなったこともあって、攻撃もそれなりに強力だったが、今回はそれらの倍の大きさだ。3人がかりでかかっても、手も足も出なかった。

 

「それにさあ、あたしたちの体、なんかおかしくない・・・? あたし、メガビョーゲンと戦ってるとき、突然体の中が痛みを感じて、力が抜けて、目がすこし霞んだし・・・」

 

「私も、急に呼吸が苦しくなって・・・正直、立ってるのもやっとだった・・・」

 

ひなたは自分の体に起こっている謎の不調を口にすると、ちゆも自分に起こっていることを吐露した。おそらく、ドクルンやイタイノンが何かをしたかと推測できるが、もはやよくわからなかった。

 

二人は、今は大丈夫だが、この後も起こるのではないかと思うと怖くなった。

 

「ラビリンも、のどかが心配ラビ・・・のどかもまた前みたいに具合が悪くなるのが起こってたラビ・・・」

 

ラビリンものどかの様子がまたおかしくなるのに気づいていた。おそらくクルシーナが彼女の体に何かをしたせいで、のどかもラテを守るために引き返した後、体がふらついて呼吸が乱れていたのだ。このまま彼女を戦わせるのも不安だったが・・・。

 

のどかは少し苦しさが引いたのか、体を起こすと先ほどの話を問う。

 

「ねえ、ラビリン・・・このままメガビョーゲンの成長が続いたらどうなるの・・・?」

 

「・・・今、病気にされているところは二度と戻らなくなるラビ」

 

「「!? そんな・・・!」」

 

「それって・・・!?」

 

ラビリンが目を潤ませながら言った言葉に、3人は驚愕する。

 

二度と戻らなくなる・・・それはつまり、そこの自然は本当の意味での死を迎えるということ。

 

それを聞いて、動揺したのはのどかだった。

 

「ダメ、そんなの・・・絶対、浄化しなきゃ・・・!!」

 

「わかってるラビ!! でも、どうすればいいラビ・・・?」

 

「力の差が圧倒的すぎるニャ・・・」

 

「それに、今の3人を戦わせたら・・・危険な気がするペエ・・・」

 

浄化しなきゃいけない、そんなことはヒーリングアニマルの3人にもわかっている。ただ、あの強力になっているメガビョーゲンに対して、打開する案が思いつかない。それに3人が謎の不調を起こしていることもあって、またあんなことが起こってしまったら今度こそ取り返しがつかなくなるかもしれない。

 

「あたしたち・・・やり方、間違ったかな・・・」

 

「ひなた・・・」

 

「だって、めちゃめちゃ強かったよ? あたしたちがみんなビビんないで、手分けしたまま自分の担当を浄化できてたら、あんな強くなんなかったってことでしょ?」

 

ひなたはすでに発言が弱気になっていた。その言葉に他のみんなも体を俯かせ始める。

 

「ごめんペエ・・・僕たちの判断がよくなかったペエ・・・」

 

「ペギタンのせいじゃないわ・・・私も賛成したもの・・・」

 

「俺もニャ・・・」

 

すでにみんなは弱気になっていた。もはやメガビョーゲンをどうにもできず、このまま地球は蝕まれるしかないのか?

 

「そんなこと、ないよ・・・!!」

 

そんな中、のどかは諦めようとはしなかった。起こした体を立ち上がらせる。

 

「だって、ラビリンたちの判断があったから、光のエレメントさんを助けられた。作品だって守れたし、長良さんの思いも守れた。水のエレメントさんも助けることができた! それは本当のことだよ!」

 

「でも、長良さんは病気に侵されているし、結局、あのメガビョーゲンを浄化できなかったら、花のエレメントさんは・・・それに3人もそんな体調じゃ・・・」

 

ラビリンは発言が弱気だったが、それでものどかは揺らがなかった。

 

「諦めなきゃいいんだよ! みんな、見捨てるつもりで花のエレメントさんを最後にしたわけじゃないでしょ? それに私たちの体調だって、助けたいという思いがあればきっと乗り越えられる!! 全部のエレメントさんを助けたいという気持ちは変わらないでしょ!? だったら、どんなに難しくてもお手当てを続ける、それしかないんだよ・・・!!」

 

「でも、解決策がわからないんじゃ、どうにも・・・!!」

 

ちゆはまだ弱気だった。だからと言って、気持ちだけではどうにもなるわけでもない。無作為で突っ込んだところで、さっきと同じことだ。

 

「・・・それでも」

 

のどかには昔の映像が蘇っていた。

 

『ごめんね。今すぐ君を治してあげることができなくて。でも、僕たちは諦めない。だから、のどかちゃんにも、諦めずに戦ってほしい』

 

小さい頃、病気は治るのだろうかと不安に駆られていた頃、病院の先生がかけてくれた言葉。のどかはその言葉のおかげで少し不安を取り除かれ、病気と闘う決心がついたのだ。

 

「それでも闘うことを諦めちゃったら、終わりだから・・・」

 

のどかはそのことを思い返しながら、みんなに言った。すると・・・・・・。

 

「・・・そうラビ。まだまだラビリンたちも諦めないラビ!!」

 

「ラテ様も頑張ってるペエ!!」

 

「俺たちが絶対元気にしてやんないとな!!」

 

「そのためにまずは、早くこの森から出ましょう!」

 

「そうだよ! レッツゴー! ゴー! ゴー!」

 

みんなが気力を取り戻していく。そうだ、私たちは最初から諦めずに戦ってきたじゃないか。3人がそれぞれ病気に侵されたって助けようとし、どんなに強いメガビョーゲンが現れても臆せずに立ち向かってきた。

 

策はないけど、3人でどうにかすればきっと助けられるはずだ・・・。みんなはのどかのおかげで気づくことができたのだ。

 

ひなたは元気に歩き出そうとしていたが、あることに気づいて立ち止まる。

 

「で、どっち行ったらいいの?」

 

「!? そうだったニャーーー!!!」

 

「メガビョーゲンにぶっ飛ばされてきたから、どうやってきたかわかんないラビーーー!!!」

 

「森ばっかりで目印もないペエーーー!!!」

 

そう。みんなはメガビョーゲンの攻撃で吹き飛ばされて、気づいたら森の中だったのだ。結構、深いところにいるようで方角となるものやどこから落ちてきたのかもわからない。

 

ヒーリングアニマルたちはすでに心が少し折れそうになっていた。

 

「ラテに聞いてみようか」

 

のどかが提案する。ラテだったらメガビョーゲンの位置がわかるから、その方向に走れば見つかるはず。

 

のどかは抱いているラテに聴診器を当てる。

 

「ラテ、辛いときにごめんね。メガビョーゲンのいる方向、わかるかな?」

 

(・・・・・・・・・)

 

ラテからは何も返ってこず、辛そうな呼吸音しか聞こえてこなかった。

 

「症状が重すぎて、心の声が聞こえないラビ!!」

 

「うわーん!! ガチのガチでどっちに行ったらいいのーーー!!?? 教えて森さんーーー!!!」

 

ひなたがそう叫び声をあげると、森から白い光が舞い上がってくる。

 

「「!?」」

 

「ええ!? 何々!?」

 

驚く3人。白い光をよく見てみると・・・・・・。

 

「エレメントさんニャ!!」

 

「もしかして、道を教えてくれてるの・・・!?」

 

エレメントさんはどうやら森の西側の方向へと向かっているように見える。エレメントさんたちが、私たちを助けようとしてくれている・・・?

 

そこへ一つのエレメントさんがのどかたちに近寄る。

 

「?」

 

のどかは持っている聴診器で声を聞いてみると・・・・・・。

 

『お願いします! どうか私たちの仲間を助けてください!!』

 

エレメントさんがそう声を発していた。エレメントさんも助けたいという気持ちは一緒なのだ。3人はそう感じ取った。

 

「うん! 必ず助ける!!」

 

「ありがとう! エレメントさん!!」

 

「行きましょう!!」

 

3人とヒーリングアニマルたちは意を決して、エレメントさんが行く方向へと走っていく。すると、木が赤くなっているのが見えた。

 

「このあたりも、蝕まれてるペエ!」

 

「ってことは、メガビョーゲンはこの先ラビ!!」

 

メガビョーゲンがいることさえわかれば、あとは浄化するだけだ。大した策はないけど、私たちは諦めずにお手当てをするだけだ。

 

3人はそう思いながら、赤い森の中を走っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、ここも大方蝕んできたわね・・・」

 

クルシーナはメガビョーゲンに川を襲わせていた。ここでお手当てしたはずの場所をもう一度、病気に蝕ませたらあいつらはどんな顔をするのだろうか。

 

怒り? 悲しみ? 絶望? 焦燥感? どの表情が楽しみで仕方なかった。

 

メガビョーゲンもかなり育った気がする。さっき誕生させた時よりも、明らかに数倍大きくなっている。お父様もびっくりするだろう。

 

クルシーナはそう思いながら、メガビョーゲンが終わるまで昼寝を決め込もうとしたが、ふと頭に違和感があるのを感じた。

 

「あ・・・・・・」

 

体を起こして頭も両手で弄ってみるが、そこにあるはずのものがない・・・・・・。

 

「あいつから、もらった髪飾り・・・」

 

クルシーナがビョーゲンズのあいつからもらって、身につけていた黒いチューリップの髪飾りがなくなっていたのだ。

 

ーーーー何、これ?

 

ーーーーお前、花が好きなんだろ? 気にいるかなって思っただけ。

 

ーーーーだからって、なんで病気の花じゃないわけ?

 

ーーーー黒いのだって立派な病気の色だと思うけど。いらないなら返せよ。

 

ーーーーふん、仕方ないからもらってあげるわよ。

 

「・・・・・・・・・」

 

ダルイゼンがなぜかくれた髪飾り。アタシがビョーゲンズとして迎えられた、そのすぐあとの話だったっけ。花や植物が好きだからと言ったから、持ってきたのだろう。

 

クルシーナは自分の右手をぼーっと見つめていた。

 

「・・・・・・別に、あいつからもらったものなんか・・・」

 

別にあいつとは特に仲がいいというわけでもない。あいつは他人に興味がない性格なのだ。アタシのことを気にかけてくれているわけがない。あの髪飾りだって、いらないゴミとしてアタシに押し付けたに決まってる。

 

そう思いつつも、クルシーナの顔にはどこか寂しげなものが写っていた。気のせいか瞳が少し潤んでいるようにも見える。

 

「・・・・・・・・・」

 

両手を握りながら、表情はどこか辛そうな表情をし、顔を手の中に埋める。

 

「メーガー・・・・・・」

 

鳴き声を発しながら病気を吐き出すメガビョーゲンの方を向くと、そろそろここの川全体を病気で蝕めばそうだった。

 

クルシーナは首を振ると立ち上がり、先ほど自分がいた森がある方へと向く。

 

「あいつ、まだいんのかな・・・」

 

そういえば、アタシはダルイゼンと一緒にいたはず。森の中へと行けば、髪飾りがあるのかな。それとも、あいつが拾っているか・・・・・・。

 

「メガビョーゲン、あっちに行くよ」

 

「メーガー・・・・・・」

 

クルシーナはメガビョーゲンに指示を出し、怪物と一緒に森の方角へ飛んでいく。

 

すると、自分のメガビョーゲンと同じくらいの大きさの、彼のメガビョーゲンが遠くからでも見えるくらい暴れているのが見えた。

 

森はかなり赤く染まっていて、相当病気に蝕まれているのがわかる。

 

段々と近づいていくと彼の大きなメガビョーゲン、その下にはダルイゼンと・・・。

 

「へぇ、プリキュアもいるんだ・・・あんなにボロボロになっちゃって・・・」

 

クルシーナはプリキュアの無様な姿を見て、嘲笑を表す笑みを浮かべるのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第27話「足掻」

前回の続きです。
次回からは後編になりますね。
オリジナルストーリーになりますが、ちゃんと書けるのか正直心配です…。


遥かに大きいメガビョーゲンを止めるべく、プリキュアに変身した3人。

 

「メガッハー!」

 

メガビョーゲンはそんな3人に向かって綿毛を飛ばしてくる。

 

「はぁっ!」

 

3人は光線を放って綿毛を吹き飛ばし、爆発させる。

 

「すげえ作戦はないけどニャ!!」

 

「諦めなければ、少しずつ体力を削ることができるペエ!」

 

3人はぷにシールドを張って、爆発の中へと進んでいく。

 

「そしたらいつか・・・チャンスは来るラビ!!」

 

グレースは走ってメガビョーゲンへと近付いていく。

 

「メー!!」

 

グレースに気づいたメガビョーゲンが叩き潰そうと花の形をした両手を構える。

 

そこへ爆発の煙からフォンテーヌとスパークルが飛び出す。

 

「一人じゃ無理でも・・・!!」

 

「私たちが力を合わせれば・・・!!」

 

フォンテーヌとスパークルは両手を押さえつける。そして、そこへグレースが飛び上がってメガビョーゲンの眼前へと近づいた。

 

「きっとできる!!」

 

グレースはメガビョーゲンの渾身の蹴りを加える。メガビョーゲンが顔を後ろへと仰け反らせたのだ。手応えはあった。

 

「おい、みたか!!」

 

「メガビョーゲンがふらついたペエ!!」

 

「やったラビ!! 作戦が効いてるラビ!!」

 

少しは浄化への道が見えた。3人で力を合わせれば、浄化はできる。

 

・・・しかし、そんな気がしただけだったと思い知らされるのは、この後だった。

 

「メー!!」

 

仰け反ったメガビョーゲンがすぐに態勢を整え、緑のサソリの尻尾をグレースへと伸ばした。

 

「あっ!!」

 

油断していたグレースはその攻撃に当たってしまい、地面へと叩き落とされた。

 

「グレース!」

 

「メーガー!!」

 

グレースに気を取られた二人を、メガビョーゲンは二つの両手を合掌するかのように叩きつけた。お互いにぶつけられて地面へと落ちる二人。

 

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ガー!? メガー!!」

 

グレースが再びメガビョーゲンの顔に飛び蹴りを食らわせるも、すぐに態勢を立て直したメガビョーゲンは緑のサソリの尻尾を振るった。

 

「ああっ!!」

 

グレースは再び直撃を食らってしまい、地面へと落ちていく。

 

「体力削れてんのはそっちもみたいだけど? それにそっちの二人なんか具合悪そうじゃん?」

 

ダルイゼンは余裕の表情を見せている。よく見れば、先ほどのメガビョーゲンの攻撃を喰らい、落ち着いていた謎の不調が再発してしまっていた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

フォンテーヌはまた喉を抑えながら息を切らし始めている。

 

「ぅぅ・・・ぐぅぅ・・・うぅぅ・・・!!」

 

スパークルはメガビョーゲンにぶつけられた衝撃なのか、再度胸に痛みが走り、力が抜けていくような感覚に陥っていた。体がふらつくような感覚し、目がまたチカチカとしてきた。

 

しかし、二人はそれでも意識を失いまいと必死で起きようとする。

 

そして、その様子を上空から見ていたクルシーナは・・・・・・。

 

「あーあ、あんなに頑張っちゃって・・・無駄だってわかってるくせに」

 

3人を完全に見下していた。あのメガビョーゲンはプリキュアの蹴りなど、ピンポン球をぶつけられた程度にしか思っていないだろう。完全に弄ばれているのは火を見るよりも明らかだ。

 

それにグレースの方を見てみれば、彼女の中の蠢く病気の種がすでに収穫できるぐらいに育っているような感じだ。

 

「フフフ・・・・・・」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべると、右手の指を鳴らした。

 

諦めずに再度立ち上がるグレースだが・・・・・・。

 

「うぅぅ・・・あぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

また胸が締め付けられるような感覚に陥り、息が切れ始める。目も少しチカチカとし始めた。

 

「はぁ・・・うぅぅ・・・!!」

 

「うぅぅぅ・・・ぐぅぅぅぅ・・・!!」

 

フォンテーヌとスパークルも、不調に苦しめられながらも立ち上がろうとする。

 

「メガー!!」

 

「「きゃあ!!」」

 

「きゃあ!!」

 

メガビョーゲンはそんな努力を嘲笑うかのように、フォンテーヌとスパークルに花のような手を叩きつけ、グレースを緑のサソリの尻尾で吹き飛ばした。

 

「うぅ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「うぅぅ・・・ぐぅぅぅ・・・!!」

 

「うぅぅぅ・・・ぅぅぅぅぅ・・・!!」

 

お手当てを諦めたくない3人。再度立ち上がり、メガビョーゲンへと飛び込んでいくが・・・。

 

「メーガー!!」

 

「「「きゃあぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

メガビョーゲンはその場で高速回転し、3人を三方向へと吹き飛ばした。

 

「うぅぅ・・・・・・」

 

「ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・」

 

「ぅぅぅ・・・ぁぁぁ・・・」

 

赤く蝕まれた地面の上に叩きつけられ、意識が遠のいていく3人。メガビョーゲンの攻撃に加え、謎の不調が悪化し、すでに3人の表情は虚ろで、見えている視界は少し狭くなっていた。

 

その様子をクルシーナはつまらなそうに見ていた。

 

「ふん、やっぱり口先だけね、あいつらのお手当ては。頑張りなんか、全くもって見苦しいだけなんだっての」

 

あいつらは勢いで浄化しようとしているのが丸わかりだ。その結果、大きくなったメガビョーゲンの一撃一撃の強い力に完膚なきまでに叩きのめされている。

 

それにあの3人にはそれぞれ自分と、ドクルン、イタイノンが植え付けた病気が残っており、それによって生命力を奪われているあいつらはアタシらにとっては病気の苗床も同然。すぐに力尽きるのも時間の問題だろう。

 

だから、あいつらは医者の不養生という言葉が似合うのだ。綺麗事を言っておいて、行動がそれに伴っていない。本当にバカなやつらだ。

 

「わかっただろ? 無理なものは無理なんだって。そんな体調でお手当てするなんてバカでしょ。それに見ろよ、あいつは諦めてるぜ?」

 

「・・・うぅ・・・えぇ? うぅぅ・・・!」

 

ダルイゼンの言葉に、虚ろな表情をしていたグレースはなんとか正気を取り戻し、必死に傷ついた体を起こす。

 

「まさか・・・・・・!」

 

考えたくはないが、もしかして・・・!!

 

グレースは肉球を一回タッチして、ステッキをメガビョーゲンへと向ける。

 

「「キュアスキャン・・・」」

 

ラビリンの目が光り、メガビョーゲンの首元にいる花のエレメントさんを見つける。しかし、その姿はすでに手をだらんと垂らして気力を失っていて、今にも消えてしまいそうな状態だった。

 

「エレメントさんは、メガビョーゲンに力を使い果たされる寸前ラビ・・・!」

 

「エレメントさんが消えたら・・・!!」

 

「このあたりの蝕まれた土地は、もう終わりペエ・・・」

 

弱り切った花のエレメントさん・・・それに瞳を潤ませるヒーリングアニマルたち・・・。

 

「うぅぅぅ・・・エレメント、さん、諦め、ないで・・・! 」

 

グレースはふらつく体を必死に起こして、立ち上がる。

 

「ひゅぅ・・・あなた、を・・・ひゅぅ・・・助け、たい、と、思うの、は、・・・ひゅぅ・・・わたし、たち、ひゅぅ・・・だけ、じゃない・・・ひゅぅ・・・」

 

フォンテーヌも呼吸がおかしくなりながらも、治したいという気力で立ち上がる。

 

「先に助け、た、光のエレメントさん、も・・・水のエレメントさん、も・・・あと、とにかく、たくさ、ん、の、エレメントさん、も・・・みん、な、みん、な・・・言って、たんだよ!!」

 

スパークルも失いそうな意識を必死に起こして、立ち上がった。

 

3人はもはや、瞳も虚ろだったが、エレメントさんを助けたい、お手当てを諦めたくない気持ちからなんとか気力で立ち上がっていた。

 

「どうか・・・ひゅぅ、あなた、を、助けて欲しいって!!」

 

フォンテーヌも声を振り絞る。

 

「だから、お願い・・・! 一緒に頑張って・・・!! 私たちと、一緒に・・・!!」

 

そして、3人はふらつきながら、視界がぼやけながら、意識が落ちそうになりながらも、再びメガビョーゲンへと向かっていく。

 

「ああ・・・うぅ、あぁぁぁぁぁ!!」

 

3人の声が届いたのか、花のエレメントさんは力を振り絞って、グレースが持つ花のエレメントボトルに力を注いでいく。

 

「メガー!!」

 

「「「あぁぁぁぁぁっ!!」」」

 

しかし、そんな3人の想いを無惨に打ち破るかのように・・・メガビョーゲンはトドメの回転攻撃を食らわして、3人を吹き飛ばした。

 

3人は上空へ舞った後、赤い地面に叩きつけられる。そのまま3人はピクリとも動かなくなった。

 

「お大事に・・・ふっ、なんてな」

 

勝利を確信したダルイゼンは余裕の表情で言葉を返した。

 

「ふん、やっぱり頑張ることなんかに意味はないんだよ。アタシだって、頑張っても治んなかったんだから」

 

それを見届けていたクルシーナは興ざめしたように、適当な木の上で昼寝を決めこもうと考えた。どうせこの辺がビョーゲンズのものになるのも時間の問題だろう。

 

しかし、その時だった・・・・・・!

 

パァァァァァァァ・・・!!!

 

「「!!??」」

 

突然、何かが光り出し、その姿を見たダルイゼンとクルシーナは驚愕した。その光のもとは吹き飛ばされたプリキュアの3人からだった。

 

プリキュアから光が溢れたかと思うと、光の柱が上がっていく・・・!

 

3人が立ち上がると、その手にはハートに花と水と光の装飾がついた、エレメントボトルが握られていた。

 

「・・・えっ?」

 

「これは・・・?」

 

「俺たちが初めて見るボトルニャ・・・」

 

「でも、すごいエレメントパワーを感じるラビ!!」

 

そのボトルからものすごい力を感じる・・・。

 

「きっと、エレメントさんたちが力を貸してくれたんだ・・・! みんなと地球の病気と戦おうって・・・!!」

 

花、光、水のエレメントさん、そしてたくさんのエレメントさんたちが与えてくれた力・・・! 地球を救いたいという気持ちが溢れてくる・・・!!

 

そして、3人からはそのせいか体の不調が少し楽になったような気がする・・・。

 

「あの力は・・・!?」

 

クルシーナはどこかで見たことのある様子で、動揺していた。

 

プリキュアの3人は再び飛び上がり、それぞれのステッキにそのボトルをはめ込み、タッチする。

 

「「「トリプルハートチャージ!!」」」

 

「「届け!」」

 

「「癒しの!」」

 

「「パワー!」」

 

グレース、フォンテーヌ、スパークルの順で肉球にタッチしていき、ステッキを上に掲げる。すると、花畑が広がっていき、背後には自然豊かな森が広がっていく。

 

「「「プリキュア! ヒーリング・オアシス!!」」」

 

3人は一斉にメガビョーゲンへとステッキを構え、ピンク・青・黄色の3色の光線が螺旋状になって放たれる。螺旋状の光線は混ざり合いながら一直線にメガビョーゲンに直撃する。

 

螺旋状になった光線はそれぞれの色の手へと変化して、3本の手が花のエレメントさんを優しく包み込んでいく。

 

3色に光るハート状にメガビョーゲンを貫きながら、光線はエレメントさんをメガビョーゲンから外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「「「「「お大事に」」」」」」

 

花のエレメントさんは、タンポポの中へと戻り、このメガビョーゲンが蝕んだ場所だけが元に戻る。

 

「ふーん・・・プリキュアも成長するんだ」

 

ダルイゼンはそう呟いた後、手のひらに持っている黒いチューリップの髪飾りをポケットから出して見つめる。

 

「・・・・・・・・・」

 

何かを思うような表情を見せた後、その場から姿を消した。

 

「やったね!2人とも!!」

 

「うん・・・でも、ラテが・・・」

 

「まだ、あとメガビョーゲンは3体も残ってるけど・・・」

 

「あ、そっか・・・」

 

3人は集まり、スパークルはひとまず喜びの声を上げるも、まだラテは完治していない。

 

グレースはまだぐったりしているラテのことを抱く。

 

「ラテ、大丈夫?」

 

「まだ、全然体調が良くなっていないラビ・・・」

 

「あとはクルシーナ、ドクルン、イタイノンが出したメガビョーゲンだけペエ。でも・・・」

 

「あいつら、どこに行っちまったんだよ・・・」

 

ラテに聞こうにも、今の状況では心の声を聞くことも不可能。どうやってメガビョーゲンを探そうか困っていた。

 

「捕らえろ!!」

 

ビィィィィィィィィッ!!!!

 

突然、声がしてきたかと思うとイバラのようなビームが放たれ、グレースの体に巻きつく。

 

「えっ? うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

グレースはそのままイバラのようなビームに引っ張られていく。

 

「グレース!!」

 

フォンテーヌとスパークルが、引っ張られるグレースの方向を見てみると、先ほど浄化したのと同じサイズのメガビョーゲンと、それに乗っているクルシーナの姿があった。

 

「クルシーナペエ!!」

 

「あいつ、いつの間にいたのか!?」

 

「それに、あのメガビョーゲンもでかくない!?」

 

姿を現したクルシーナもそうだが、彼女についてるメガビョーゲンも先ほど苦戦したのと同じくらい大きい。きっと飛べるようだから、いろんなところを病気で蝕んでいったのだろう。そうとしか、考えられなかった。

 

「あら、簡単に捕まえちゃったぁ・・・」

 

「! クルシーナ!!」

 

グレースの目の前には、不敵な笑みを浮かべるクルシーナが映っていた。

 

「一緒にいきましょう」

 

「っ、離して!!」

 

「ふっ・・・・・・」

 

クルシーナの言葉に悪寒のようなものを感じたグレースは逃れようともがく。クルシーナはそれを鼻で笑うと右手を彼女の左胸へと伸ばし、一気に中へと突っ込んだ。

 

ドスッ!!!

 

「!? か、はっ・・・!?」

 

その瞬間、グレースに息ができないほどの激痛が走っていく。

 

「「グレース!!」」

 

友達が手をかけられたのを見て、フォンテーヌとスパークルはクルシーナに向かって、光線を放つも、それに気づいたクルシーナは顔をしかめる。

 

「メガビョーゲン」

 

「メーガー・・・!!」

 

メガビョーゲンは両手のバラの蕾を開くと、それで光線を受け止めその花の中へと取り込んでいく。

 

「吸収された!?」

 

「私たちの攻撃が・・・!?」

 

「メガー・・・!!」

 

メガビョーゲンはその光線を赤く太いエネルギーにして、二人へと返した。

 

「くっ・・・!!」

 

二人は間一髪でそれを避けるも、トゲのような両手の触手にクルシーナとグレースが囲まれていて、近づくことができない。

 

「メガビョーゲン、そのまま邪魔させないようにしろ」

 

「メーガー・・・」

 

メガビョーゲンが妨害をしている間に、クルシーナはグレースの体を弄りながら動かし、奥へと突っ込んでいく。その間にもグレースには抉られるような痛みが脳を揺さぶっていた。

 

いたい、いたい、いたいいたいいたいいたいいたい・・・・・・!!

 

目が急速に霞んでいき、クルシーナの顔がだんだんと見えなくなっていく。

 

「フフフ・・・・・・」

 

クルシーナは何かが指先に当たると、それを右手で掴む。その瞬間、グレースにこれまでにないというくらいの激痛が走った。

 

目の前にいる彼女が掴んだのは、心臓だった。クルシーナはそれを強く握った。

 

ドクンドクンドクンドクンドクン!!!!

 

「がぁっ・・・!!・・・!!?・・・!!」

 

イタイイタイイタイ・・・クルシイ・・・クルシイ・・・クルシイ・・・!!

 

あまりの激痛と苦しさに声をあげることもできない。グレースの瞳が見開かれて涙目になり、やがて体から力が抜けていく。

 

「フフフ・・・・・・」

 

「ぁ・・・・・・」

 

クルシーナは笑みを深くすると、突っ込んでいた右手を引っ張る。その瞬間、グレースの意識は急速に失われていき、瞳からハイライトが消えたかと思うと、そのまま力なく顔が後ろに倒れる。

 

「グレース! うわぁっ・・・!!」

 

完全に意識を失ったグレースにラビリンは呼びかけるも、彼女の手からは力が抜けており、ステッキはそのまますり抜けて地面へと落下。ラビリンも装着していたステッキから追い出された。

 

そして、グレースの変身はそのまま解けてしまい、花寺のどかへと戻ってしまう。

 

「フフフ・・・いい感じに成長したじゃない・・・!」

 

笑うクルシーナの右手には赤く蠢くものが形をなし、黒いバラへと変化していく。

 

「きゃあ!!」

 

「あああ!!」

 

フォンテーヌとスパークルはのどかを助けようと何度もメガビョーゲンに飛び込もうとするも、先ほどの攻撃でほとんど力を使い果たしたのか、大した抵抗にもなっておらず、メガビョーゲンのトゲの先についている鋏やバラのような花で薙ぎ払われ、地面へと叩きつけられる。

 

「ふっ・・・・・・」

 

クルシーナはその様子を見て笑みを浮かべると、のどかを左肩に担ぐ。

 

「行くわよ、メガビョーゲン。そろそろ二人も待ちくたびれている頃だしね」

 

「メーガー・・・」

 

メガビョーゲンはクルシーナの指示に従い、プリキュアたちに背を向けると上空へと飛び去っていこうとする。

 

「うぅ・・・! のどかぁ!!」

 

「逃げられちまうニャ!!」

 

「今、逃げられたら・・・ラテ様とのどかが・・・」

 

「あ・・・ダメっ・・・!!」

 

立ち上がろうとするラビリンとプリキュアの二人。その間にクルシーナたちはのどかを連れて、どこかへ飛び去ろうとしている。

 

「うぅぅ・・・えいっ・・・!!」

 

起き上がったスパークルが力を振り絞って、ステッキから黄色い光線を花つ。その光線は紐のようになり、メガビョーゲンの足の触手に絡みつく。その飛ぶ勢いでスパークルは引っ張られていく。

 

「フォンテーヌ!」

 

スパークルがこちらに向かって手を伸ばしてくるのが見えた。

 

「くっ・・・!」

 

フォンテーヌはなんとか立ち上がると、飛んでスパークルの手を取り、彼女に抱きつくような形で捕まる。

 

「! ラビ!!」

 

ラビリンもステッキを抱えたまま、メガビョーゲンの後を追って飛んでいく。

 

「メ・・・メガー・・・!?」

 

「ふっ・・・いいよ、メガビョーゲン。そのままそいつらも連れて行こうぜ」

 

メガビョーゲンは急に足に違和感を感じて振り向くと、プリキュアが自分の足に何かを絡みつかせて捕まってるのが見えた。メガビョーゲンは振り払おうとしたが、クルシーナに止められる。

 

どうせなら、こいつらも連れてってぶっ倒してやろう。どうせ、あそこはエレメントさんの力を借りることもできないのだから。

 

「いいから、気にせずに飛べ!」

 

「メガー・・・!」

 

クルシーナの声が聞こえてくると、メガビョーゲンは前を向いて飛んでいく。

 

その時、クルシーナたちの目の前に白いホールのようなものが出現する。

 

「! あれは・・・?」

 

「もしかしたら、どこかに繋がってるかもしれないペエ」

 

あのホールはもしかしたら、別の場所につながっていて、メガビョーゲンが逃げ込んでいるかもしれない。

 

クルシーナたちとメガビョーゲン、それに捕まるプリキュアの二人、そしてそのあとを追いかけるラビリンは白いホールの中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メガー・・・!!」

 

「くっ・・・!!」

 

荒廃した街で、メガビョーゲンに追われる一人の男性。白衣を着込んでいて、カバンを右手に持ちながら、息を切らしてメガビョーゲンから逃れようとしている。

 

「メガー・・・!!」

 

「くっ・・・うおっ!?」

 

メガビョーゲンが吐き出す病気を避けながら、必死に走る男性。

 

「!!・・・くぅぅぅ!!」

 

すると、男性は一つの何かを見つけ、走る速度を上げていく。

 

「メガー・・・!!!」

 

メガビョーゲンは男性に向かって、口から病気を吐き出す。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

男性はそれを飛んで交わすと同時にその中へと飛び込んでいく。そこは林の中であった。

 

「メ・・・メガ・・・? メガー・・・!」

 

メガビョーゲンは大きすぎて林の中へと入ることができず、森の外側を飛び回りながら男性が出てくるのを待ち構えようとする。

 

「ふぅ・・・危ねぇところだった・・・」

 

メガビョーゲンからとりあえずは逃げ切り、安心する男性。

 

「まさか、あの病院に近づこうとして、あの怪物に見つかるとはな・・・」

 

そうぼやく男性。ふと、その林の地面の中に何かあったのを思い出して、その下へと近寄るのであった。

 

「ふむ・・・やはりすばしっこい男ですね・・・」

 

ドクルンは地上へと降りると、自ら手を下すべく林の中へと入っていく。

 

林の奥を進んで行くドクルンだが、男性の姿はない。

 

「ん?」

 

ドクルンは広いところに出たところ、その中央の地面に何か扉みたいなものがあるのを見つける。

まるで防空壕のようで、どうやら男性はこの扉から逃げ出したらしい。

 

「・・・それで逃げたつもりなのかしらね」

 

ドクルンは無表情で穴を見つめ、右足で地面を叩きつけると氷の柱を発生させ、その防空壕のようなものを使えないように塞いでおく。

 

こんなことをしても、どうせどこかに出られる扉があるのだろう。奴の逃げ場を潰しておかなければ・・・!

 

ピゥ~イ!!

 

そして右手の人差し指と親指を使い、いわゆる指笛を吹く。すると、黒い蛇のような大流ーーーーストームビョーゲンが彼女の周囲を飛ぶようにサークルを作り始める。

 

「男を探してください。この際は病気に蝕んでも構いません。徹底的に逃げ場を潰して、奴を潰してください」

 

「ナノー!」

 

ドクルンの冷酷な命令に、一匹のナノビョーゲンの肯定するかのような鳴き声が聞こえると、ストームビョーゲンはサークルから林の奥へと突っ込むようにスピードを上げて消えていく。

 

ドクルンは見届けるように微笑を浮かべていると、ふとこの荒廃した街に何かが入ってくるのを感じて、その方向を向き始める。

 

「・・・どうやら、プリキュアがこの街に入ってきたようね・・・フフフ」

 

ドクルンはプリキュアの生命力を感じとり、不敵な笑みを浮かべ、彼女らに立ち会うべくその場から姿を消す。

 

一方、廃病院にいるイタイノンは、病院まわりの監視をメガビョーゲンに任せて、自分は自室で携帯ゲームをしていた。

 

ふとゲームを操作する手を止めて窓の外を見つめては、顰めた顔をしていた。

 

「クルシーナのやつ・・・遅いの・・・」

 

正直、イタイノンは待ちくたびれていた。クルシーナは元々他人を苦しめるのが好きな性格だから、どうせ必要以上にメガビョーゲンを襲わせているのであろう。全くもって無駄だと思う。

 

ゲームをやるだけでも気がまぎれるが、いい加減飽きてきてもう気がまぎれない。そろそろ戻ってきてもいい頃だと思うが。ドクルンも自分のメガビョーゲンが何かを見つけたと言ってどこかへ行ってしまったし、今は一人で退屈だ。

 

「あぁぁ・・・暇すぎて死にそうなの・・・」

 

携帯ゲームを床へと放り投げて、仰向けに寝転がるイタイノン。まあ、自分たちは病気の塊も同然なので、本当に死ぬことはないが、別の意味で死にそうだ。

 

「・・・・・・・・・」

 

目の上に置いた両腕を少しずらして、天井を見つめる。

 

ひとりぼっちは寂しいの・・・・・・。

 

「っ!?・・・ふん!」

 

心の中でそんな言葉が浮かんでハッとし、思わず横になる。別に天井のシミを数えようとしているだけで、寂しいと思ったことはないの。私は人間が嫌いなのだから、あいつらがいなくたって・・・。

 

・・・・・・誰に言い訳をしているのだろうか。

 

「ネムレン?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「おい、ネムレン」

 

「・・・・・・・・・」

 

カチューシャになっている相棒に話しかけるも、彼女から声は帰ってこない。さっきは思いっきり怒鳴ったから、怯えてしまっているのだろうか。

 

「ネムレン、さっきは怒鳴って悪かったの・・・だから、いい加減機嫌を直すの・・・」

 

一応、謝罪の言葉を口にする。相棒に八つ当たりをしてしまったことは少し罪悪感があった。

 

それでも返事は返ってこない・・・。そう思ったのだが、しばらくの沈黙の後、変化があった。

 

「・・・本当ネム? もう怒ってないネム?」

 

「怒ってないの。だから、私と話せ、なの」

 

ネムレンはまた沈黙した後、カチューシャから小さなヒツジの姿へと戻ると、イタイノンの胸へと抱きつく。ゴシックロリータはそんな彼女を優しく撫でた。

 

「イタイノンは、ちゃんと謝ってくれるネム・・・ビョーゲンズになる前から本当に優しいネム・・・」

 

「べ、別に優しくないの・・・寛容なだけなの・・・」

 

イタイノンは頬を赤く染めてそっぽを向きながらも、優しく撫でる手は止まらない。それはビョーゲンズになる前から・・・・・・なる前から?

 

ビョーゲンズになる前って何? 私は最初からビョーゲンズのはずだが・・・?

 

「!?」

 

そんなことを考えようとした時、この街では感じないはずの生命力を感じ取る。それはすこやか市の自然と同じくらい不快なものだ。

 

あの憎っくき男性・・・ではないの・・・。ということは・・・。

 

「あいつらが、来たの・・・!!」

 

イタイノンは手を撫でるのをやめて立ち上がると、そいつらに会うべくその場から姿を消す。

 

荒廃した街の上空では・・・・・・。

 

白いホールが現れ、そこからクルシーナとメガビョーゲン、それに黄色いエネルギーの紐に引っ張られるスパークルとフォンテーヌ、さらにステッキを持ったラビリンが抜けてきた。

 

「!・・・ここは・・・?」

 

「えっ・・・何、ここ?」

 

スパークルとフォンテーヌはメガビョーゲンに引っ張られている状態で上空にいるが、何やら異様だ。空は青がなく真っ赤に染め上げられており、街の景色を見れば色が存在せず、全てが灰色や白と化していて、所々がメガビョーゲンの病気のように赤い靄が広がっている部分さえある。

 

「見て分かんないわけ? バカじゃないの?」

 

ふと耳にしたであろうクルシーナが嘲笑の言葉を返す。声が聞こえて上をよく見れば、クルシーナがメガビョーゲンの背中に座ってこちらを見ていた。

 

「地球よ、地球。お前らって、空からの景色も見たことないわけ?」

 

「「!?」」

 

「ラビ!?」

 

「ペエ!?」

 

「ニャ!?」

 

クルシーナの見下ろしながら言った言葉にプリキュアの二人、そしてパートナーの妖精たちは驚愕する。ここが地球・・・だと・・・?

 

じゃあ、この街と自然はすでにビョーゲンズのものになっているということ・・・?

 

「まさか・・・そんな・・・!」

 

「嘘・・・じゃあ、ここはもう・・・!!」

 

「ビョーゲンズに奪われちまったってことか・・・!?」

 

「そんな・・・そんなの、ありえないラビ・・・!!」

 

「それがありえんだよ。ここには生気や健康的な環境などないのさ。あるのは病気で吸い尽くされた死の世界だよ」

 

呆然とするしかないフォンテーヌとスパークルたちに、クルシーナが冷酷な言葉を告げる。

 

「そして、地球全体も、お前らも・・・いずれこうなるんだよ・・・!」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべると、おしゃべりはおしまいと言わんばかりに手のひらを二人へと向け、白と黒のイバラビームを放つ。

 

「!? ああっ・・・!!」

 

スパークルは放たれたビームを自身の体を揺らしてうまくかわす。思いっきり揺らしたせいで光線の紐がグワングワンと揺れる。

 

クルシーナはさらにイバラのようなビームを乱発するも、スパークルにことごとく交わされる。本当は光の紐を狙えば切って落とせるのだが、残酷な幹部はあえてそれをしなかった。

 

クスクスと笑っていると、さらにそこへドクルンやイタイノンがメガビョーゲンの上へと姿を表す。

 

「遅いですよ、クルシーナ」

 

「どこで油を売ってた?なの」

 

「あら、随分な物言いね。アタシは地球を蝕んでたってのにさ」

 

ドクルンとイタイノンの皮肉を含んだ言葉に、クルシーナは強気に返す。地球を蝕むのがビョーゲンズの本筋だろうが。

 

「ドクルン!!」

 

「イタイノンもいるペエ!!」

 

ドクルンはプリキュア二人を視認すると、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「あーあ、もう狙い撃つのも飽きたわね・・・」

 

ピゥ~イ!!

 

クルシーナは手を引っ込めて指笛を吹くと、赤い空から黒い大流が蛇のようにジグザグとしながら近づいてくる。

 

「あれは、メガビョーゲン・・・!?」

 

「でも、なんか違うみたいだし・・・ちっちゃな何かが集まっているようにも見えるけど・・・」

 

「!? こっちにくるペエ!!」

 

プリキュアたちが戸惑いながらも、よく見てみると大流は小さな悪魔の妖精みたいなものが集まっているようにも見えなくもない。大流の先頭には鎖が巻かれたような黒い丸のようなものが見えるが、あそこにも悪魔のような顔が無数見えていて、とにかく何とも不気味なものだった。

 

そう考えているうちに、黒い大流はゆっくりとこちらに飛翔してくる。

 

「フフフ・・・・・・」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべると、手を上に上げて下へと振り下ろす。すると、無数の小さな悪魔の妖精の目が赤く光り始める。

 

「え・・・何・・・?」

 

スパークルが動揺したその瞬間、大流はプリキュア二人に目掛けて突っ込んでくる。

 

「こっちに来るぞ!!」

 

「くっ・・・!!」

 

スパークルはステッキを向けて水色の光線を放つも、大流に弾かれてしまう。正確には、当たったが、そこからさらに黒いのが湧いて元に戻っただけだ。

 

「! そんな・・・!!」

 

フォンテーヌが動揺したのもつかの間、大流はプリキュア二人へと突っ込んだ。

 

小さな悪魔の妖精の大群に飲み込まれ、流されそうになる二人。

 

「ぐぅぅ・・・うぅぅぅぅ・・・!!」

 

「んぅ・・・うぅぅぅぅ・・・!!」

 

スパークルはステッキを離さないように必死に耐えようとする。フォンテーヌも苦しい表情を見せながらも、流されないようにする。

 

「うぅぅぅ・・・うぅぅぅぅ・・・あぁぁぁぁ!!」

 

同じように大流に飲まれたラビリンだが、耐えきれずにそのまま吹き飛ばされてしまった。

 

「「ラビリン!!」」

 

叫ぶ二人だが、そんな二人を嘲笑うかのようにある異変が起きた。

 

「うぅ、ゲホゲホッ!! はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「フォンテーヌ!!」

 

「はぁ・・・ま、た・・・発作、が・・・はぁ・・・ゲホゲホゲホッ!!!」

 

フォンテーヌはまた咳込むと息が切れ始め、呼吸をうまくすることができなくなる。

 

「うぅ・・・あぁ・・・ぁぁ・・・・・・」

 

「スパークル!! 大丈夫か!?」

 

「ぁぁ・・・・・・ぁぁ・・・力が、抜け、て・・・」

 

スパークルは胸に痛みが走り、また意識が落ち始めたのだ。

 

二人の抵抗が急に弱々しくなるも、それを黒い大流は容赦なく攻め立てる。

 

そして、追い打ちをかけるように光の紐がほつれ始める。

 

「ぁぁ・・・紐、が・・・!」

 

スパークルが虚ろな目で紐を見つめるも、それで紐のほつれが収まることなく、ついには光の紐は切れてしまった。

 

そして、二人は大流に吹き飛ばされ、悲鳴も上げられずにステッキも手から離れ、そのまま下へと落下していってしまった。

 

「お大事に。フフフ・・・アッハッハッハッハ!!」

 

クルシーナはその様子を下から見届けると、勝ち誇ったように笑い声をあげる。

 

「プリキュアも病気の前では無様ですね・・・」

 

「どうせあいつらはここじゃ1日も生きられないの。今まで私たちの邪魔をしたからいい気味なの」

 

ドクルンは不敵な笑みを浮かべ、イタイノンは無表情で見下ろした。

 

「? そういえば、もう一人いませんでしたよねぇ?」

 

「・・・ここにいるわよ」

 

クルシーナが指を鳴らすと無数の小さなコウモリの妖精たちが下から花寺のどかを担いでいた。

 

「ああ・・・もう倒してたんですかぁ?」

 

「まあね、こいつをまた抜き取ってやっただけだけど」

 

クルシーナは左手に黒いバラのようなものを二人に見せる。

 

「ほう、いい感じに成長したじゃないですか」

 

ドクルンは感心感心という感じで見つめていた。

 

「で、こいつはどうするの・・・?」

 

イタイノンは気を失っているのどかを見ながら言う。

 

「ふっ・・・その辺のどっかに捨てていきましょう。こいつにも現実を知ってもらわないとね」

 

のどかにはまだ蠢く何かが小さく残っているが、こいつにはまだ苦しんでもらいたい。そのためにはこいつが長くは生きられないこの世界にいてもらわないと。

 

ーーーー正直、メガビョーゲンが手を下すまでもなかったわ。

 

クルシーナたちはメガビョーゲンと一緒に森の方へと飛んでいくのであった。

 

その間も黒い大流ーーーーストームビョーゲンはプリキュアの二人を探し回るかのごとく、サークルを描くように飛んでいるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人娘がいない間の廃病院。そのクルシーナが管理している植物園では・・・・・・。

 

植木鉢に植えられている黒い蕾が通常ではありえないくらいの大きさに成長している。これはこの前、クルシーナがキュアグレースことは花寺のどかから抜き取った黒いバラを埋めたものだ。

 

すでに数日経っているが、蕾は膨らみを持っており、棘のような茎やたくさんの葉をつけて壁を這いながら成長しており、今にも花が開いてもおかしくない状態だ。

 

ブォン・・・ブォン・・・ブォン・・・。

 

その蕾は紫色に点滅しながら光っており、その中には人のような何かが形成されているのであった・・・・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第28話「灰色」

今回からはオリジナルストーリーになります。
うまくできるかわかりませんが、見ていただけると幸いです。


 

今から数年前、病院に入院していた少女は、いつも自分が過ごしている病室を抜け出して、病院の色とりどりの花を植えてある場所へと来ていた。

 

病院は基本的に白を基調したものばかりだが、そこだけは色のある世界を見ることができる、自分にとっては素敵な世界だ。

 

少女は今日も近くの水道の場所からジョウロを拝借、水を汲んでから色を作り出す花たちに水をあげている。

 

その表情は病室のベッドの上にいるよりも輝いている。まるでこの病院から退院できると聞いたような晴れやかな表情だ。

 

「しんらちゃ~ん!!」

 

そこへ明るい声が聞こえて振り返ると、車椅子に乗ったマゼンダ色の髪の少女がやってきた。少女ーーーーしんらにとっては笑顔の明るい素敵な少女だ。

 

「のんちゃん・・・!」

 

「今日も来ちゃったぁ!」

 

のどかは太陽な笑顔を見せる。しんらはその笑顔に頬を赤く染めて笑みを浮かべる。

 

「今日は嬉しそうね、何かあったの?」

 

「うん! やっと手術ができそうなんだ! うまくいけば退院できるかも!!」

 

「そう、よかったわね」

 

のどかの嬉しそうな顔に、しんらも自然と嬉しくなる。友人が元気になるのはいいことだ。それで治るのであれば、彼女を祝福してあげたい。

 

「今日もお花さんに水あげたいなぁ。やらせて!」

 

「うん、いいわよ!」

 

しんらはジョウロを喜んで彼女に渡すと、あっちはまだあげてないと言ってあげて、のどかは車椅子を動かしながらジョウロに水をあげていく。

 

水をあげた花が太陽の光を浴びて、花の上の雫にあたり、キラキラと輝かせていく。

 

「ふわぁ~! 綺麗だなぁ~!」

 

「フフフ、生きてるって感じでしょ?」

 

活き活きとしている花を見ると自然に笑みがこぼれてしまう。そのぐらい、二人は楽しそうだった。

 

その後は、二人でいろんなことを話した。看護婦さんは優しかったとか、病院食はあまり美味しくなかったとか、お風呂は入れないけど久しぶりに浴びるシャワーは気持ちよかったなど、いろいろな話をした。

 

「へぇー、その自然ってそんなに綺麗なんだ」

 

「そうだよ。もっと小さな頃に一緒に行ったの。綺麗だったなぁ~。とても空気が澄んでたよ」

 

二人はのどかが入院する前の小さい頃に見たとある自然の話をしている。健康的で、開放的で、気持ちよくて、とてもいい自然だったという。

 

「アタシもそんな自然見に行きたいな」

 

「見に行こうよ! 一緒に!!」

 

のどかはそう言ってしんらの手を取る。

 

「あ・・・」

 

「お互い病気を治して、退院できたら一緒に行こうよ!! その自然に!!」

 

しんらはその言葉に体の芯から暖かくなっていくのを感じた。入院する前の学校にあまり友達はいなかったけど、病院でのどかという友達ができて、そういうふうに誘われたのは今まで初めてだ。

 

彼女は目を瞑った後、頬を赤らめる。

 

「うん、一緒に行きましょう。約束よ」

 

こうして、のどかとしんらは退院後の約束を交わしたのであった。

 

ザザ・・・・・・ザザ・・・・・・ザザ・・・・・・。

 

ザザザザ・・・ザザ・・・ザザザザ・・・・・・。

 

「えっ・・・?」

 

のどかが気がつくと視界にノイズから砂嵐が走っていく。

 

目の前にいる少女がしんらが姿から消え、辺り一面が暗闇へと変わる。

 

「しんらちゃん・・・?」

 

目の前にいたはずの少女の名前を呟くも、何も返事が返ってくることはない。

 

「しんらちゃん! しんらちゃん!!」

 

暗闇にいる寂しさが募っていき、叫ぶ声が大きくなっていくのどか。車椅子を動かしながら、必死で叫んでいく。

 

「しんらちゃん! 返事をしてよ!!」

 

しかし、どんなに叫んでも返事が返ってくることはなかった。一人でいる孤独と寂しさから瞳に涙が溜まっていく。

 

「しんら・・・ちゃん・・・ひっく・・・どこに、行っちゃったの・・・?」

 

顔を俯かせて泣きそうになる。今はお父さんもお母さんも、お医者さんもいない。友人の顔しか浮かばなかった。

 

すると、遠くに一筋の、誰かが後ろ姿で立っているのが見えた。

 

「!! しんらちゃん!!」

 

病院で約束を誓い合った友人だと思い、車椅子を走らせていく。突然一人になり、寂しくて寂しくてしょうがなかった。

 

近づいていくと患者着姿の少女、ツインテール・・・間違いない、彼女だ・・・!!

 

「しんらちゃん、どこに行ってたの? 私、寂しかったよ・・・」

 

のどかは後ろ姿の友人に笑みを浮かべながら声をかける。しかし、少女は黙ったまま、のどかの声に答えようとしない。

 

「しんらちゃん・・・?」

 

返事を返さない病院仲間に疑念を抱いていると、その患者着姿の少女が振り向いた瞬間にノイズが走り、見たことのあるマジシャンの姿へと変わる。

 

「えっ・・・?」

 

目の前の少女はニヤリと笑みを浮かべると、両手をゆっくりと前へと伸ばしていき、そのまま何かをつかむように握った。

 

「あっ・・・がっ・・・・・・」

 

すると、のどかはまるで首を絞められたような圧迫感を感じ、喉を抑え始める。

 

「あっ・・・あぁ・・・ぁぁ・・・・・・」

 

な、なん、で・・・? くる、し、い・・・・・・。

 

顔を後ろに仰け反らせながら苦しむのどか。しかし、圧迫感は徐々に強くなり、息が段々とできなくなっていく。

 

目の前の視界が徐々に霞んでいくのを感じる。

 

「ぁぁぁ・・・ぁっ・・・ぁぁ・・・」

 

しんら・・・ちゃ・・・やめ、て・・・・・・。

 

大した抵抗ができず、目の前の少女ーーーーしんらに右手を伸ばすのどか。しかし、彼女は手を取ろうともせず、不敵な笑みを浮かべるだけだ。

 

「ぁぁ・・・ぁぁ・・・ぁ・・・・・・」

 

遂には苦しむ声すらもあげられなくなり、視界が段々と見えなくなってきたのどかはそのまま喉を抑えていた手をパタリと落とし・・・・・・。

 

「あ・・・!?」

 

気がつくとのどかは仰向けで横にされていた。

 

「ゆ、夢・・・・・・?」

 

のどかは体を起こすと額の汗を拭い始め、苦しくなっていたはずの首に手を当てる。今は苦しみは感じない。でも、まるで本当に絞められたような感覚があって妙にリアルだ。

 

ーーーーまさか、病院で約束を誓ったはずの友人が、変貌して私を苦しめようとするなんて・・・・・・。

 

のどかは夢のはずなのに現実感があることに恐ろしいものを感じ、体が震えそうになる。

 

「クゥ~ン・・・」

 

「あ、ラテ・・・」

 

のどかの手の中にはラテが抱かれている。メガビョーゲンを3体浄化したことで重篤にならずに済んで入るが、体調はまだ芳しくなかった。心配するように鳴き声をあげるラテを、のどかは優しく撫でた。

 

それはともかく今、自分がどんな状況なのかを把握しようとする。周囲を見渡してみると、そこは地球とは思えないほどの景色だった。

 

「ここは・・・・・・?」

 

見ている世界がなんとも妙に感じた。森の中だと言うのに全てが灰色一色で染められており、空を見上げれば広がるはずの青さは、病気のような赤黒さ一色で広がっていた。でも、どこかで見たことがある景色のような気がしてならない。

 

足元を見れば花畑のようだが、ここも色は全くなく灰色に染まっているだけだ。どうやら自分はこの花畑の上に寝かされていたようだ。

 

でも、人がいる気配が全くせず、誰の姿も見えてこない。

 

のどかはハッとして最悪の可能性を考えた。

 

「もしかして・・・地球がビョーゲンズに・・・!」

 

自分が眠っている間に地球がビョーゲンズのものにされてしまったのか。そうとしか考えられない景色だった。

 

・・・いや、そんなはずはない。私たちは3人で強力になったメガビョーゲンを浄化し、新しい技も手に入れたのだから。

 

「あ、そうか・・・私、クルシーナに・・・」

 

そう考えて、のどかは自分に何が起こったのかを思い出した。メガビョーゲンを浄化した後、クルシーナに捕まって、また手を体の中に入れられたかと思うと耐えきれないほどの激痛が襲い、意識を失ってしまったのだ。

 

今は胸はもう苦しくない。まるで、体の中から何かを取り除かれたように圧迫感を感じず、体も軽くなっている。

 

「ラビリン?・・・あ、ステッキもない・・・!?」

 

ふとパートナーの姿が見えないことに気づき、それに持っているはずのヒーリングステッキが手元にないことに気づく。これでは、もし何かが襲ってきたときにプリキュアに変身することができない。

 

ーーーーとりあえず、ラビリンを探さないと・・・・・・!

 

「ラビリン!! ラビリーン!!」

 

のどかは立ち上がって、パートナーを探すために森の中を歩き始め、大声でその名前を呼び始める。

 

「ここは本当に・・・どこなの・・・?」

 

森の中を進んでいくのどかだが、どんなに進んでも灰色の森が続いているだけだ。しかも、生気を全く感じない。生きてるって感じがしない。

 

それに所々、赤い靄がかかっているのが見える。あれはメガビョーゲンが暴れるといつも出している病気だ。蝕まれているようだが、それにしても木から生気を感じないのだ。

 

ここは一体、どこなのだろうか? 私は異世界に来てしまったのだろうか?

 

のどかはそう思うと、一人でいる自分が怖くなった。

 

「ラビリーン!! いたら返事をしてー!!!」

 

まるで恐怖を紛らわせるかのようにパートナーの名前を叫ぶ。しかし、森の中はパートナーの声どころか、木霊すらも返ってこない。

 

「ちゆちゃーん!! ひなたちゃーん!! ペギターン!! ニャトラーン!!」

 

友人や他のパートナーの名前、自分の大切な仲間の名前も叫んでみる。でも、やっぱり返ってこない。

 

「みんな・・・どこに行っちゃったんだろう・・・」

 

のどかはこんなときでも仲間の身も案じてしまう。こんな灰色と白しかない生気を感じない景色、何が起こるのかわからず、不安に駆られるばかりだ。

 

森をそのまま進んでいくと枯れた木が見えるようになっていき、その先には小さな街が見えてくる。

 

「あ・・・あっちに何か見える・・・」

 

のどかはそちらに行ってみると、そこは色をなくした芝生があり、丘が見えてくる。

 

もしかしたら、丘の上の景色を見ていけばここが何なのかわかるかもしれない。そう思い、走って丘を上がり、景色を見てみる。

 

「!? な、何、これ・・・!?」

 

丘の上から景色を覗いたのどかの表情が驚愕に染まる。目の前には街が広がっているのだが、その景色がおかしい。

 

街も森同様に灰色と白の世界だ。しかし、驚いているのはそこではない。ビルや建物が寂れてボロボロになっており、中には破壊されているようなものさえ見えた。所々、赤い木の根っこのようなものが這っており、病気の赤い靄が落書きのようについている。

 

これは現実か? こんな景色が広がるなんてありえるのか? 本当に存在している街なのか? じゃあ、ここは本当に地球なのか?

 

のどかはあまりの光景に思考が全く定まらず、街を呆然と見つめているしかなかった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちゆちー! ちゆちー!!」

 

「うぅ・・・んん・・・!!」

 

ひなたは意識を失っているちゆを揺らして起こそうとしていた。ちゆは目をピクピクと動かした後、目をゆっくりと開く。

 

「ちゆちー! よかったー!!」

 

目を開けたちゆに抱きつくひなた。正直、一人でも生きている人がいて安心した。

 

一人目を覚ましてみれば、世界が白くなったような恐怖しかない景色しか広がってこず、何やら不気味ないななく声が聞こえてきて、もう震えが止まらない。そんな中、そばで倒れているちゆしか生きてるって感じがせず、起こして不安を和らげるしかなかったのだ。

 

「ひ、ひなた・・・苦しい・・・」

 

「あ、ごめん!」

 

思ったほど強く抱きしめていたことに気づき、慌てて手を離すひなた。

 

「ここは・・・?」

 

「あたしたち、のどかっちとメガビョーゲンを追って、ワケわかんない大群に落とされちゃったんだよー。ニャトランたちともはぐれちゃったし、ここはどこなのかわかんないし・・・!!」

 

ちゆは体を起こして周りを見渡す。逆にひなたは瞳をウルウルとさせながら大声で話した。

 

あ、そうか・・・そういえば、ビョーゲンズを追って、全てが白くなった世界へとやってきていたのだった。

 

とりあえずは、落ち着きのない友人を落ち着かせることにする。

 

「お、落ち着いて、ひなた・・・まずはペギタンたちを探しましょう。そんなに遠くに飛ばされていないはずだけど・・・うぅ、ゲホゲホゲホッ・・・!!」

 

「ああ・・・ち、ちゆちー! 大丈夫!?」

 

ちゆはひなたを落ち着かせようとするも、呼吸が苦しくなり咳き込む。これによってひなたは余計に取り乱してしまう。

 

「ゲホゲホゲホッ・・・ひゅぅ・・・ポ、ポケット、の・・・ひゅぅ・・・くす、り、を・・・!」

 

「あ・・・うん!」

 

「ゲホゲホゲホッ・・・ひゅぅ・・・!?」

 

ひなたに自分のポケットの中にある薬を出してもらうように言う。ちゆはその間も咳き込んでいたが、何やら手が冷たい・・・?

 

ふと抑えていた手に違和感を感じ、それを見つめてハッと目を見開く。

 

「はい、ちゆちー。? どうかしたの?」

 

「あ・・・ひゅぅ・・・な、なんでも、ない、わ・・・ひゅぅ・・・」

 

ひなたを怯えさせまいとごまかし、彼女から震える手で薬を受け取る。

 

実はちゆの右手には病気の靄のように赤黒い氷の欠片のようなものが付着していたのだ。赤い水のようなものを吐いたのならわかるが、どうして氷が・・・? 私の体に何が起きているというのだろうか?

 

ちゆは薬を吸引して呼吸を落ち着かせ、右手についていた氷を剥がして捨てると、すくっと立ち上がった。

 

「はぁ・・・ふぅ・・・もう、大丈夫。さあ、行きましょう」

 

「行くってどこに?」

 

「えっと・・・」

 

そういえばここがどういうところかはっきりと分からず、どこに向かえばいいかわからない。ちゆはとりあえず、辺りを見渡す。ここはどうやら林の中のようだが・・・。

 

「なんか、林を抜けたら街があったけど・・・?」

 

ひなたは自分を起こす前に林を出たらしい。ちゆはそれを聞くと林から出る。するとそこには、林と同様に灰色と白の世界が広がる街の姿であった。

 

「ここって、本当に地球なの・・・?」

 

「わかんない・・・でも、見たことはある風景だよね・・・?」

 

ちゆは正直言って信じられなかった。そもそも地球に不調が現れたのであれば、ラテが真っ先に反応しているはずだが、これまでもそんな反応を示したことは一度もない。もしかしたらペギタンたちが来る前からここはビョーゲンズに襲われたのかもしれない。そんな気がしてならなかった。

 

周囲を見渡してみても、ビルや家は寂れてボロボロになっていて、家の屋根には赤い靄が所々かかり、赤い木の根っこのようなものが這っている。街路樹も枯れ木と化していて、これも街と同じような色をしている。

 

そんな中、同じような色となっている山の上に一軒だけ、色を失っていない寂れた病院が建っているのが見えた。あそこだけ普通に見えるのはなぜだろうか?

 

「ひなた、あれを見て」

 

「え・・・あ、あれ? あのボロボロの病院だけ違うよね?」

 

ちゆに言われて山の上の病院を見てみると、ひなたでもわかるくらいに色があった。

 

他が灰色と白に染まる中、あの建物だけは色を作っている。この街がビョーゲンズのものになっているのであれば、それは明らかにおかしい。きっと何かがあるに違いない。

 

「そうね。あそこに行ってみましょう」

 

「ちょ、ちょっと待って・・・! ペギタンたちはどうするの?」

 

ひなたは自分たちの相棒の姿が見えないことを心配している。それはもっともだ。パートナーたちが危険にさらされるかもしれないし、私たちも敵に襲われたらプリキュアに変身できない。

 

でも、この場所のことがわからない以上は、闇雲に探すよりも、目的地を指定すればそっちにきっとペギタンたちも向かってるかもしれない。

 

「向こうに行ってみれば、ペギタンたちがいるかもしれないわ。とりあえず、行ってみましょう。大丈夫、きっと会えるはずよ」

 

「・・・うん」

 

ひなたも不安は残りつつも、ここで何もしないよりはマシだとちゆと一緒に歩き始めた。

 

林を抜けて、街を歩いていく二人。一軒家やビルがボロボロに見えるのはさっきも感じたが、この街には人一人いる気配が全くしない。

 

「何、この街? 人が一人もいなくない?」

 

「・・・きっとビョーゲンズのせいで、この街は病気に蝕まれて、人が住めるような環境ではなくなってしまったのよ」

 

「そ、そうだよね・・・」

 

ひなたが周囲を見渡しながら不安に駆られる。この街は何らかの理由でビョーゲンズに襲われてしまい、街周辺は死の大地と化している。しかも、街も自然も何もかも生気を全く感じない。

 

そして、何よりも・・・・・・。

 

「・・・生きている気配を感じないわ。エレメントさんの気配も感じない」

 

「もしかして、ラビリンが言ってた、あの・・・?」

 

ーーーー蝕まれた大地は二度と戻らなくなるラビ・・・。

 

「・・・間違いないと思うわ」

 

「そんな・・・じゃあ、この街は・・・!!」

 

「ここはもうビョーゲンズのものになっているのよ」

 

何よりもエレメントさんの気配を感じることができない。信じたくは無いが、この街のエレメントさんはメガビョーゲンに力を吸い取られて・・・。

 

ひなたはもっと信じたくなかったが、要するにこの街、そして本当にここが地球なら、その一部はビョーゲンズのものになっているということになる。ちゆも本当は信じたくはなかったが、肯定する他なかった。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

少し歩いていくと、ちゆはまた息が切れていくのを感じた。

 

おかしい・・・薬を吸引してからまだ少ししか経ってないのにもう呼吸が苦しくなっている。そういえば、すこやか市に住んでいるときも発作を起こしていたが、その薬を吸引してからそうなるまでが段々と短くなっているような気がする。

 

「ちゆちー? 少し休む?」

 

走ってもいないのに息を切らし始めたちゆに、ひなたが心配そうに声をかける。

 

「い、いえ、大丈夫よ・・・はぁ・・・」

 

まだ、大丈夫・・・私は、まだ歩ける・・・。

 

ちゆはそう言い聞かせる。もう少し歩いてから薬を吸引しよう。そういう気持ちを持ちながら、目的地へと歩いていく。

 

少し歩いてきたところで街から抜けたようで、田んぼのような道が広がっていた。

 

「はぁ・・・ゲホゲホッ・・・ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・」

 

「ああ、ちゆちー・・・!」

 

「ひゅぅ・・・だ、だいじょう、ぶ・・・ひゅぅ・・・」

 

ちゆは近寄るひなたを手で制止して、ポケットから薬を出すと吸引する。

 

「はぁ・・・はぁ・・・ふぅ・・・行きましょう」

 

呼吸を落ち着かせるちゆだが、やっぱり呼吸の苦しさの間隔が短くなっている気がする。このままそんなことが起きたとしたら・・・。

 

ちゆは考えただけでも身震いしそうだった。

 

二人は続いていく田んぼの道をおそらく半分ぐらい進んだであろうところで、何やらちゆが足を止める。

 

「? ちゆちー、どうしたの?」

 

「・・・何か音がするわ」

 

ひなたはちゆに言われて耳に意識を集中してみる。

 

パサパサパサ・・・・・・パサパサパサ・・・ナノ~・・・

 

確かに何かの羽の音、そして鳴き声が聞こえてくる。

 

「・・・こ、この音って・・・?」

 

「・・・こっちに近づいてくるわ」

 

しかも、その音は段々と近づいてきているような気がする。その音が聞こえてくるのは、私たちの背後・・・・・・。

 

それにこの音、さっきもメガビョーゲンに掴まってたときも聞こえてきたような・・・?

 

何やら悪寒がし、二人は緊張感から汗が伝ってくる。

 

「「・・・・・・」」

 

二人はゆっくりと背後を振り向いて空を見上げてみると、黒い大流がいつの間にかジグザグと動きながら、こちらに近づいてくるのが見えた。

 

「あれって・・・?」

 

「! 逃げるわよ、ひなた!!」

 

あれは知っている。クルシーナたちが呼び寄せた、病気のような塊。でも、メガビョーゲンではない。それでも、あれを見ると体が震えてくる。

 

ちゆはそれを視認すると走り出し、ひなたもそれに続いて走り出す。それを皮切りに大流はサークルのようにクルクルと回ると、道に沿って蛇のような大流を作りながら、こちらにスピードを上げて向かってきた。

 

二人は道を走っていくも、明らかに黒い大流の方が早く、距離の差はあっさりと詰められそうになっている。

 

「って、えぇ!? あれ超早いし!?」

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

ふと振り向いたひなたが黒い大流の早さに驚いてスピードを上げるも、距離が縮まるのが遅くなっただけで詰められるという事実は変わらない。

 

(な、何・・・なんか、息が・・・?)

 

ちゆは少し走っただけなのに、息が切れ始めていた。

 

おかしい・・・まだ少ししか走っていない。これではまだ息が切れないはずなのに・・・息が苦しくなる。

 

それに、何かが気道に詰まったような感覚が・・・?

 

しかし、今は逃げないと・・・。とはいえ、このままでは追いつかれてしまう。

 

ひなたは何とかしようと周囲を見渡す。

 

「! ちゆちー! あの森に入ろう!!」

 

「はぁ・・・え、ちょっ、ひなた!?」

 

ひなたは東の森に道があるのを発見し、唐突にちゆの手を引っ張ると森のほうへと走る。黒い大流は引っ張って横道へとそれた瞬間に通り過ぎる。まさに間一髪だった。

 

黒い大流は上空へと飛び上がり、空中でサークルを描くと、まるで二人が逃げる方向がわかっているかのように斜めから突っ込んでいく。

 

「ああぁぁ!?」

 

「うわあぁ!?」

 

吹き飛ばされそうになる二人だが、なんとかバランスを崩さず、黒い大流の直撃を避けてなんとか走り出す。地面に突っ込んだ黒い大流は自分たちと同じ大きさの赤い跡を残して、すり抜けるように入っていく。

 

「はぁ・・・ぜー・・・ぜー・・・」

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「ぜー・・・ぜー・・・ちょ、ちょっと、まっ、て、ひな、た・・・ぜー・・・」

 

ひなたに手を掴まれて走っているちゆの呼吸がまた異変を生じ始め、ひなたは異変に気付いて走る足を止める。

 

「ち、ちゆちー、また、苦しいの・・・?」

 

「ぜー・・・ぜー・・・え、ええ・・・ぜー・・・ゲホゲホゲホッ!!」

 

ちゆは震える手でポケットから薬を取り出して吸引しようとする。

 

しかし、二人の地面が丸い円状に赤く染まり始める。ひなたはちゆの背中をさすっていたが、ふと床下の地面がおかしいのを感じる。

 

「あれって・・・? !!」

 

ひなたは気づくと薬を吸引しようとしたちゆの肩を抱く。

 

「ちゆちー、危ない!!」

 

「ぜー・・・え? きゃあぁぁ!!」

 

ひなたに引っ張られて前へと倒れ込むように飛ぶ二人。その二人が立っている場所から黒い大流が飛び出してきた。あと一歩遅れていたら、二人はあの大流に吹き飛ばされていたかもしれない。

 

黒い大流は森の上へと飛び出すと、そのまま森下にいる二人に突っ込んできた。

 

「逃げるよ、ちゆちー!!」

 

「ぜー・・・ぜー・・・ぜー・・・」

 

ひなたはちゆの手を引っ張って走り出し、黒い大流の突進を避ける。しかし、ちゆは先ほどの黒い大流の攻撃で薬を吸引することができずに、苦しそうな呼吸をしたまま走り出すことになってしまった。

 

黒い大流は二人がいた地面へと突っ込むと、その中へと再び入り込む。

 

「ぜー・・・ぜー・・・ゲホゲホゲホッ!! ひ、ひなた・・・ぜー・・・ゲホゲホゲホッ!!」

 

「ごめん、ちゆちー! 我慢して!! あれに追いつかれちゃうよ!!」

 

ちゆはひなたに止まるように言おうとするが、ひなたもここで止まったら二人ともあれにやられると思い、走りを止めるわけにはいかない。

 

ひなたは気づいていなかったが、呼吸がうまくできていないちゆの顔色は悪くなっていた。

 

二人は森の中へと走り続けるも、目の前の地面が赤い丸状に染まり、そこから黒い大流が飛び出してきた。どうやら地面から先回りして、追い詰めにかかろうとしているようだった。

 

「うぇぇ! もう、しつこいぃー!!」

 

ひなたは左の道のない方へと走り、黒い大流から逃れようとする。

 

そこは舗装されていない森への道。木が異様に多く、地面も踏み外せば転んでしまいそうなところだ。

 

「うぅぅぅ・・・!!!」

 

「ぜー・・・ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・ひ、な、た・・・ひゅぅ・・・」

 

ちゆは全く薬を吸引する暇がなく、遂には掴まれていない方の手で喉を抑え始めた。

 

「ひゅぅ・・・ひゅぅ・・・く、くる、し・・・ひゅぅ・・・くるし、い・・・!!」

 

「ちゆちー、もうちょっと我慢して・・・! 今、隠れるところ見つけるから・・・!」

 

ちゆが苦しさを訴え始め、ひなたは黒い大流から隠れる場所を走りながら探し始める。すでにちゆの顔色はさらに悪くなっていた。

 

だが、黒い大流がそんなことを待ってくれるはずもなく、森の上から一気に二人を追い抜いて、先頭を走るひなたの前へと突進する。

 

「あーん! もうどうしたらいいの!?」

 

しつこく自分たちを追いかけてくる黒い大流に苛立つひなた。背後にいるちゆをリードするだけでも精一杯なのに、黒い大流に前から攻められると逃げ場がなくなる。

 

黒い大流はわざと当たらないように二人の地面の前へと入り込む。そして、二人の下には赤い円のようなものが染まっていくと、そこから黒い大流が飛び出した。

 

「くっ・・・!!」

 

「ひゅぅ・・・あぁ・・・!!」

 

ひなたはちゆを抱えて前へと飛び出すが、その前には・・・・・・地面がなかった。

 

どこまでも底が見えない、切り立った崖の上・・・・・・。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「あぁ・・・!!」

 

二人はそのまま崖の上から転落していった。

 

黒い大流は森の上から上空を眺めるも、二人の姿が見えない。まるで様子を伺うかのように空中でサークルを作ると、そのまま森の向こうへと蛇のように大流を作りながら直進していった。

 

一方、底が見えない崖から落ちた二人は・・・。

 

「ああぁぁぁぁぁぁぁ!!! !? がっ・・・!!」

 

ひなたはちゆを庇うかのように自分が下になると斜面へと背中を打ち付け、二人で斜面を転がるように打ちつけながら下へと下っていく。

 

「うっ・・・あっ・・・!!」

 

ようやく平らな地面へと落ちるとひなたはちゆを抱えながらも木に背中を思いっ切り打ち付け、痛みに呻く。自身の体はすでにボロボロで、あちらこちら怪我をしている。

 

「うぅぅ・・・! ちゆちー・・・大丈夫・・・?・・・!?」

 

ひなたはそう言って彼女を座らせて顔を伺うが、その表情を見た途端、彼女は動揺した。

 

「ぅぅ・・・ぁぁ・・・ぁぁ・・・ぁ・・・」

 

ちゆはすでに両手で喉を抑えながら目を見開いており、口は酸欠の魚のようにパクパクとしていた。薬を吸引できずに無理をさせすぎてしまったせいで、謎の不調が悪化してしまったのか。

 

ちゆとひなたには見えていないが、ちゆの赤く蠢く何かが彼女の肺全体に広がっており、ついには気管にまで到達していたのだ。

 

「ちゆちー? ちゆちー!! しっかりしてよ!!」

 

「ぅぁ・・・ぁぁ・・・ぁ・・・」

 

動揺したひなたが呼びかけるも、ちゆは声が聞こえていないのかひなたの言葉に反応を示さず、喉に手を当てて苦しむばかりだ。まるで、誰かに首を絞められているかのように、ちゆは息を吸うことができない。

 

「あ・・・薬! 薬を!!」

 

ひなたはちゆが持っていたはずの薬を思い出し、彼女を助けようとする一心で探し始める。しかし、周りは灰色と白に染まった草ばかりな上に、光があまり届いていないせいか視界も暗いため、薬の容器がなかなか見つからない。

 

「ぁ・・・か、は・・・ぁぁ・・・カッ・・・」

 

完全に窒息状態に陥っているちゆ。足をジリジリとよじらせて少しでも苦しみから楽になろうとする。しかし、そんなことをしても少しも楽にはならない。

 

「薬!! 薬どこなの!? 早く見つけないとちゆちーが死んじゃう!!」

 

薬を必死に探すひなたの心に焦りが芽生える。このままではちゆが死んでしまう。そんなことになったら、私は・・・・・・。

 

そんな彼女の想いが届いたのか、足元に何かがカツンと当たった。

 

「薬・・・あった!! ちゆちー! 薬!! 薬だよ!!」

 

ひなたは薬を拾うと急いでちゆの元へと走ろうとする。

 

しかし、その瞬間・・・・・・!!

 

バチッ!!

 

「うぅ!!」

 

ひなたが突然、胸を抑え始めたのだ。そして、足からも力が抜けて膝をついてしまう。

 

「う・・・ぁ・・・ま、また・・・? こんな、ときに・・・」

 

ちゆを急いで助けないといけないのに、体を動かそうとしても言うことを聞かない。さらに視界までもがぼやけ始める。

 

「ぁぁ・・・・・・ぁ・・・」

 

そんな中、ちゆに限界が訪れた。暴れさせていた足をプルプルと震わせた後に力が抜け、喉を抑えていた腕をパタリと落としてしまった。その表情には瞳にハイライトがなく口がポカリと開かれている。眉も苦しんだことを表現するかのように皺が寄せられたままだった。

 

「ぁ・・・ち、ちゆ、ちー・・・」

 

ひなたは視界がぼやけながらも地面をハイハイのようにしながら、ちゆの元へと行こうとする。

 

バチバチバチッ・・・!!!

 

「ぁっ・・・」

 

さらに胸に痛みが走り、視界が狭くなっていく。ついには地面にも突っ伏してしまう。

 

「ぅぅ・・・!」

 

それでも地面に這わせながら、ちゆの元へと一歩一歩近づいていく。

 

そして、やっとの思いでちゆの元へとたどり着き、意識がすでに朦朧としているであろう彼女の肩に優しく手を置く。

 

「ちゆ、ちー・・・しっか、り・・・」

 

自分も意識を失いそうなのにちゆのことだけを心配するひなた。そんなひなたも、それで気力を使い果たしてしまったのか、体から力が抜け、ちゆの胸に頭を倒してしまう。

 

ダ、ダメ・・・ここ、で・・・いし、きを、うしなっ、たら・・・・・・。

 

ひなたはそう思いつつも、体は全く言うことを聞かず視界も見えなくなってきた。

 

ふと何やらノイズのような音が聞こえてきて、ふと顔をピクピクとさせながら横へと向けてみると、何やら白衣を着た人物がこちらに近づいてきていた。

 

(ごめん、ね、ちゆ、ちー・・・あた、し、守れなく・・・って・・・)

 

・・・なた!・・・!・・・!!

 

・・・ゆ!・・・する・・・!!!

 

あ、れ? な、に? あた、し、を、呼ぶ、声、が・・・聞こえる・・・?

 

ひなたの意識はそのまま闇に落ちていったのであった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・怪物共に任せるのも退屈ね・・・」

 

そう言いながら、廃病院の外の芝生の上で寝転んでいるクルシーナだ。黒い大流ーーーーストームビョーゲンと、地球から生み出した怪物ーーーーメガビョーゲンに男の捜索をさせているのだが、いつまでたっても戻ってくる様子がない。

 

やっぱり、自分で行った方が良かったか? でも、この小さくもない街を探すのには骨が折れる。特にストームビョーゲンはそういうのに向いているから、あっさり見つけ出せるはずなのだが。

 

と、そこへこちらに命令を下したストームビョーゲンが戻ってくるのを視認した。ストームビョーゲンはクルシーナの上空を、サークルを描きながら飛び回る。

 

「・・・あのヤブ医者の男は見つかったの?」

 

それを見て体を起こしたクルシーナはいつまでも任務を遂行しないストームビョーゲンに苛立ったように言った。

 

「ナノ~」

 

「はぁ? 小娘二人を追ってたぁ!? アタシはヤブ医者の男を探せと言ったわよねぇ!? 誰がそいつらを襲えと言った!?」

 

「ナノ・・・」

 

「見つけるか、病気に蝕むまで戻ってくるんじゃないよッ! 次、戻ってきたらその塊を解体してやるからね! おら! さっさと行けッ!!」

 

クルシーナに怒鳴られたストームビョーゲンは慌てたように蛇のような大流を作りながら、任務を遂行すべく追っていく。

 

「ふん!」

 

クルシーナは再び寝そべる。本当に生命力を持っている生物がいると、やたらやることを無視して襲うような怪物だ。あいつらの行動パターンを考えるとムカついてくる。

 

やっぱり自分が行った方がマシだったか・・・・・・?

 

本当にどうでもいいと一蹴するかのように思考を振り払って横になった後、次に考えるのは色のない山の花畑に放置してきたキュアグレースのことだ。

 

あいつは本当に偽善ぶっていてムカつくやつだ。それで自分が病気に蝕まれようが、相手のことばかりを気遣う。ああいうのを見ているとあいつに命乞いをさせてやりたいほど、余計に苦しめたくなる。

 

でも、この地球という場所にあるこの街一帯はすでに病気に全て蝕まれて、生命力を失い、死の大地と化している。そんなところであいつにその真実を突きつければ、絶望して立ち上がれなくなるだろう。

 

「クルシーナ、メガビョーゲンがプリキュアを見つけたそうですよ」

 

と、そこへ風を切ったような音が聞こえるとドクルンとイタイノンが姿を表す。

 

「そいつってキュアグレース?」

 

「わかりませんが、一人で彷徨ってたみたいですよぉ」

 

ドクルンがニヤリとした表情のまま、メガネを上に上げながら言った。

 

確か、あいつは一人置き去りにしてきたはずだから、それがプリキュアだとなると・・・間違いない、キュアグレースのはず・・・。

 

「フフフ・・・ちょっとあいつの様子を見に行こうかしらぁ・・・」

 

クルシーナはおもむろに起き上がると、彼女の絶望や苦しみを食らってやろうと街の方へと飛んでいくのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第29話「医者」

前回の続きです。
頑張ります!オリストちゃんとできるように!


 

・・・なた!! おい、ひなた!!

 

「ぅ・・・うぅ・・・うーん・・・」

 

誰かの呼ぶ声が聞こえる・・・・・・それは、どこかで聞いたことがあるような男の声・・・。

 

暗くなっていた世界が広くなっていき、ぼやけていた視界が段々とクリアになっていく。

 

そして、視界にピントが合っていくと最初に映ったのは黄色い猫の姿だった。

 

「ひなた!!!」

 

「あ・・・ニャトラン・・・」

 

黄色い猫ーーーーニャトランが瞳を潤ませるとひなたへと飛びつく。ひなたは困惑しながらも、その猫が自分のパートナーであると認識すると彼女も瞳をうるうるとさせていく。

 

「うぅ・・・ニャトラン!! 寂しかったよぉ~!!」

 

「ひなた~、俺も会えてよかったニャ!! ニャ? ちょ、ちょちょちょ、ひ、ひなた苦しいニャ!!!」

 

二人はお互いに体格差のある体を抱きしめ合いながら涙を流す。ストームビョーゲンにバラバラにされてから、久方ぶりの再会・・・やっとパートナーに会うことができたお互いは安心していた。

 

よっぽど精神的に参っていたのか、ひなたが思わず強くニャトランを抱きしめてはいたが・・・。

 

「ひなた、無事でよかったペエ」

 

「ペギタン!!」

 

そこへ安堵したような顔をした小さなペンギンーーーーペギタンが姿を見せる。ひなたはまた仲間に再会できたことを感じ、心は安心しきっていた。

 

「!! ちゆちーは!? うぅ・・・!!」

 

ペギタンの姿を見て、ハッとしたひなたは体を起こすも左腕に痛みが走る。彼女の左腕と頭などに包帯が巻かれていた。

 

「ああ! 動いちゃダメニャ!! 結構、怪我してたんだぜ?」

 

「しばらく大人しくしてたほうがいいペエ」

 

ニャトランとペギタンがひなたを気遣う。しかし、ひなたは一緒に行動したはずの友達の姿が見えないことに不安が募っていく。

 

「でも、ちゆちーが・・・!!」

 

「ちゆならそこにいるペエ」

 

ペギタンが向いている方向を見ると、ちゆが病院のようなベッドに寝かされているのが見えた。彼女の口には酸素マスクがつけられているものの、彼女の容体は安定しているようだった。

 

気がつけば、自分もちゆと同じベッドで寝かされていた。

 

ちゆが穏やかな呼吸音をしているのを見て、ひなたは心に落ち着きを取り戻していく。

 

「よかった・・・!」

 

「でも、まだ目を覚ましていないペエ・・・」

 

ちゆは容態こそ安定したものの、余程の重症だったのかまだ意識を一度も取り戻していないという。念のため口元には酸素マスクを付けていて、呼吸に支障がないようにしている。

 

とりあえず、ちゆのことは安心したとして、状況を確認しようとする。

 

「えっと・・・ここは、どこ?」

 

周囲を見渡してみれば、辺りは真っ暗で明かりで辛うじて照らされているところが見えているぐらいで、ここがどこなのかはあまりわからない。

 

「俺のアジトさ」

 

「?」

 

と、そこへ壮年らしき男性の声が聞こえてくる。こちらへと近づいてくると白衣を身につけ、眼鏡をかけた年相応の男性がいるのを見えた。

 

「お嬢ちゃん、やっと目が覚めたか」

 

「えっ・・・おじさん、誰?」

 

見覚えのない壮年の姿を見たひなたは目をパチクリとさせる。

 

「俺か? 俺はただのしがない、ろくでなしの親父さ。一応、名前を言うんであれば、設楽って呼んでくれ」

 

壮年の男性ーーーー設楽はひなたの横に座ると普通の聴診器を取り出して、胸やいろんなところに当てていき、さらに首を触って何かを確かめている。

 

ひなたが気になった、というか焦燥感を抱いたのはニャトランとペギタンが堂々と設楽の前に姿を現していることで・・・。

 

「っていうか、二人とも! この人の前で喋ったりしちゃ!?」

 

「構わねぇよ。俺もお前と同じようにしゃべる小さい動物を連れた女を見たことがあるからな」

 

慌て出したひなたを制するように言う設楽。

 

「いやあ~、俺らも見つけられた時は焦ったぜ~」

 

「まさか、この街に人間がいるなんてペエ」

 

ニャトランとペギタンが言う。最初に出会った時は何故か暗いところで目が覚めたところで、そこには一人の人間がいた。バレないように動物のふりをしようとしたが、設楽には演技がお見通しで、しかも自分たちのようなヒーリングアニマルに会ったことがあるという。

 

「口を開けて」

 

「あーん」

 

ひなたは言われた通り、口を開けると設楽は小さな懐中電灯を当てて口の中、喉の奥を見る。そして、目を上下に開けるとそこにも懐中電灯を当てて何かを見ている。

 

そして、懐中電灯を消すと安堵したような微笑みを浮かべる。

 

「何ともねぇな。至って、健康体だ。俺の打った薬が効いたんだろうな」

 

設楽はそう言うと立ち上がって、未だに眠っているちゆの方へと歩いていく。

 

「あの先生、すごいニャ!! あんなに体調の悪かった二人をあっという間に元気にしたんだぜ?」

 

「まさにスーパードクターペエ。僕もあんな風に地球を癒せるようになりたいペエ」

 

ニャトランとペギタンが目を輝かせながら言う。ひなたやちゆに起こる謎の不調をあっという間に安定した容態にしたぐらいだから、確かにすごい先生ではあるのだろう。

 

「よせよ。俺はそんなスーパーだなんて大層なもので呼ばれるようなタマじゃねぇ。ただのヤブ医者さ」

 

しかし、それを設楽は否定するかのように返す。

 

「え? なんで? 超すごい医者じゃん!! あたし、尊敬したいぐらいなんだけど・・・!!」

 

「ハッ、本当のすごい医者ってのは、相手の顔を見てどんな病気だかすぐにわかって、諦めずに治すことができるやつのことを言うのさ」

 

設楽はそう言った後に、少し悔しそうに顔を歪める。

 

「俺は・・・あいつらを救ってやれなかったからな・・・」

 

「え・・・あいつらって、誰・・・?」

 

「お嬢さんには関係ねぇよ。今は安静にしてな」

 

設楽はそう返すとちゆの処置を終わらせて部屋を出て行く。ひなたには後にするその後ろ姿が、なんだか寂しそうに見えたのであった。

 

「・・・・・・・・・」

 

「どうした? ひなた」

 

「・・・いや、なんかね・・・あの設楽さんだっけ? なんか、寂しそうだなって・・・」

 

ひなたは設楽が出ていったのを見ながら、ニャトランにそうつぶやくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちゆとひなたが助けられているその頃、のどかは森の中を彷徨っていた。

 

どこを見渡しても色を全くない、灰色と白の世界。いまだに現実感が湧かなかった。

 

「ひなたちゃーん!! ちゆちゃーん!! ラビリーン!! ペギターン!! ニャトラーン!!」

 

もうこれまでに何回叫んだだろうか、もう覚えていない。でも、何回呼ぼうとも帰ってくる声は全くない。

 

「みんな・・・どこにいるのかな・・・?」

 

本当は、ここは別世界で、自分一人がこの世界に迷い込んでしまったのではないか? のどかはそんな感じがしてならなかった。

 

でも、ここはどこかで見たことがある風景な気もするし、自分がすこやか市に引っ越す前に見たいろんな町のどれかにも似ている気がする。異世界であるとも言い切れないのだ。

 

友達を探してそんな森の中をさまよっていると、見覚えのある声が聞こえてきて、不意に足を止める。

 

「メガー!!」

 

「!?」

 

のどかはハッとして周囲を見渡す。間違いない、メガビョーゲンの声だ。でも、どこにいるのか?

 

そう考えていると、雷のような黒い光線がこちらへと飛んできた。

 

「きゃあ!!」

 

降り注ぐ雷はのどかに直撃せず、彼女の横スレスレを走って行った。

 

雷が降り注いだ方向を見てると不健康そうな顔にプロペラのようなものを回転させながら飛ぶメガビョーゲンの姿があった。

 

「メガビョーゲン!!」

 

のどかはヒーリングステッキを構えようとするが、なぜか手が空振った。というよりも、何かを握っているような感触がしない。

 

「あれ?」

 

そもそも起き上がったときに私とラテ二人・・・手元にステッキがない・・・そもそも、パートナーがいない・・・。

 

「あ、そ、そうだった! 私、変身できないんだったー!!」

 

色をなくした森を彷徨って考えごとをしていたせいか、ステッキとパートナーがいないことを思い出したのどかは一転して、メガビョーゲンから踵を返して走り出した。

 

「メガー!!」

 

当然、見つけたプリキュアの一人をメガビョーゲンが逃すはずもなく、プロペラの中央の先から雷をのどかに向かって放つ。

 

ドォン!! ドドン!! ドォォォン!!

 

「ああ! ひゃあ! うわあぁぁぁ!!」

 

メガビョーゲンが放つ攻撃をよろけそうになりながらもかわし、息を切らしながらも必死に走っていく。こういうとき、体力のない自分を呪いたくなる。

 

「ラビリーン!! どこにいるのー!!??」

 

きっとどこかで自分を探しに彷徨っているであろうパートナーの名前を叫びながら、のどかはメガビョーゲンから逃れるべく走り出した。

 

一方、そののどかのパートナーは・・・。

 

「のどかー! ちゆー! ひなたー! ペギターン! ニャトラーン!」

 

ラビリンはヒーリングステッキを持ちながら、見たこともない街の中で仲間たちを探していた。

 

「みんな、どこにいるラビ・・・?」

 

クルシーナたちが操った黒い大流に吹き飛ばされ、ちゆやひなたと離れ離れになってしまい、気がついたら街の屋上のビルの上にステッキと共に落ちていた。そこからは少し重いステッキを引きずりながら、見つかっていないみんなを探していたのだった。

 

街は閑散としていて、所々は病気で蝕まれたような靄がかかっている。ビルの建物には赤い根っこのようなものが這っていて、一層不気味なものになっていた。

 

「人間の気配が全くしないし、エレメントさんの気配がまるでしないラビ・・・」

 

この街は、まさに色をなくした街だ。すこやか市と違って生きているような感じがしない。まるでビョーゲンズに全て奪われたようなそんな世界に見える。

 

果たしてこの街一帯は本当にビョーゲンズのものになってしまったのだろうか。ラテ様が今まで反応しなかったところを見ると、私たちがこの地球に来る前になってしまったように感じる。

 

「一体、どこに行ったらいいラビ・・・!?」

 

どこも同じような景色にしか見えず、頭を抱えるラビリン。全く仲間が見つかる気配もしないこの街のどこを探しに行けばいいのか?

 

「!! あれは・・・?」

 

ふと山の上に病院があるのに気づく。外観は黒く寂れていて、見るからに廃病院ではあったが、なぜかあそこだけ色が消えていない。どう見てもあそこだけ異様に見えるのだ。

 

もしかしたら、あそこに何かあるのかもしれない・・・正直、不安しかなかったが・・・。

 

ラビリンは緊張で眉をしかめつつも、あの病院へと行こうとするが・・・。

 

「メガー・・・」

 

「えっ・・・?」

 

しかし、何やら声が聞こえてきたので振り返ってみると、そこにはこの街に来る前に戦ったものと同じサイズのメガビョーゲンが立っていて、獲物に狙いを定めるかのようにトゲのついた触手をウネウネと動かしていた。

 

ラビリンはそれを認識した瞬間、体の震えが止まらなくなる。

 

その間にメガビョーゲンは触手の先についているサソリの鋏のようなものをラビリンへと向けた。

 

「あわわわわ・・・!! ラビー!!!」

 

「メガー・・・」

 

ラビリンは地球に来た時にメガビョーゲンにボコボコにされたことが蘇り、悲鳴を上げながら行こうとした病院よりもスピードを上げて飛び始めた。メガビョーゲンは交互の鋏から白と黒のイバラのようなビームをそれぞれ放った。

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

「メガー・・・」

 

さらにメガビョーゲンはもう一方の棘のような触手についているバラから赤色の短いレーザーを複数放った。ラビリンは悲鳴を上げながらも、直撃しないように必死に避けていく。

 

まるでロボットのように、メガビョーゲンはビームやレーザーを無差別に、ラビリンに向かって放っていく。

 

「のどかもまだ見つかってないのにーー!!!」

 

ラビリンも、のどかが見つからなければお手当てどころか、食い止めることすらままならない。結果、逃げるしかないのだが、全く距離が縮まっている気がしない。

 

ふとメガビョーゲンから逃げ回っているうちに、近くに森への入り口があるのが見えた。

 

「! 占めたラビ!!」

 

ラビリンは方向を90度転換して、森の中へと飛び込んでいく。そして、すぐそばの草の中へと隠れる。

 

「メガ、メガー・・・」

 

メガビョーゲンは自分よりも遥かに小さいラビリンを見失ったようで、ラビリンの隠れた場所スレスレのところで周囲を見渡すとそのまま森の奥へと進んでいく。

 

ラビリンは隠れていた植物から顔を出して、メガビョーゲンが自分から通り過ぎていくのを見て安堵の声を漏らす。

 

「ふぅ・・・助かったラビ・・・!」

 

このままではメガビョーゲンに追い詰められてやられかねない。早くのどかだけでも見つけないと・・・!

 

きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!

 

「!?」

 

すると、少女の悲鳴が聞こえた。しかも、この声はどこかで聞いたことのある声だ。

 

「この声は・・・!」

 

ラビリンはすぐに声が聞こえた方向へと飛んでいく。そこには道が開けた場所があり、植物に隠れて覗いてみると学生服の女子が走って通り過ぎているのが見えた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

その少女は、ラテを抱いたのどかで、その背後にはメガビョーゲンが雷を放ちながら追いかけ回していた。

 

「! のどか!!」

 

ラビリンが声を上げるも、のどかは逃げるのに必死で彼女の声が聞こえていない模様。

 

しかも、逃げ回り続けていたのか、もう体力も残っていないのだろう。彼女の顔はすでに汗だくで、息も絶え絶えになっていた。

 

「メガー!!」

 

その間にもメガビョーゲンは雷を次々とのどかに向かって放つ。

 

ドン! ドドン!! ドォォォォン!!!

 

「うわぁ! ひゃあ! あ・・・きゃあぁぁ!!」

 

のどかは必死に避けながら走るも、疲れからか足をよろけさせてしまい、雷の爆発に吹き飛ばされてしまう。

 

「うぅぅ・・・!」

 

のどかは起き上がろうとするが、そこにはプロペラのメガビョーゲンが迫っていた。

 

「ああ・・・!」

 

「メガー!!」

 

「!!」

 

メガビョーゲンは容赦なくのどかに向かって電撃を放つ。のどかは思わず目を瞑るも、その瞬間彼女の体は何かに吹き飛ばされる。

 

「え・・・?」

 

目をゆっくりと開けて気がつくと、自分が倒れていた場所の地面に雷が直撃したように焼け焦げており、自分は何ともなかった。

 

お腹の辺りに柔らかいものがあるかのような違和感があり、ゆっくりと下を見てみるとそこにはステッキを持ちながらも彼女を突き飛ばした自身のパートナーの姿が。

 

「ラビリン・・・?」

 

「のどか・・・怪我はないラビ?」

 

「うん、ラビリンは・・・?」

 

「私も、大丈夫ラビ」

 

ラビリンはそう言ってのどかに笑顔を見せる。のどかもそんなパートナーに微笑みで返し、ゆっくりと立ち上がる。

 

そして、ラビリンから落としていたヒーリングステッキを受け取り、メガビョーゲンへと向き直る。

 

「メガー!!」

 

メガビョーゲンはこちらを睨みつけたまま、上空へと漂っている。

 

「のどか、変身するラビ!!」

 

「うん!」

 

揃った二人はこうしてプリキュアに変身しようとするが・・・。

 

「メガー・・・!!」

 

「「!?」」

 

正面ではない別のところからメガビョーゲンの声が聞こえてきた。しかし、のどかたちは振り向く暇もなく、そこにイバラのようなビームが飛んできてのどかとラビリンを総まとめにして巻きつく。

 

「あっ・・・う、動けない・・・!」

 

「ぐっ・・・の、のどか・・・!」

 

放ったのは先ほどラビリンを追いかけていたメガビョーゲンだった。のどかともう一体のメガビョーゲンの追いかけっこの声を聞きつけたのか、戻ってきてしまったのだ。

 

怪物はイバラビームに二人がかかったことを確認すると、もう一方のトゲの触手についているバラから赤色の短いレーザーを放っていく。

 

「メガー・・・!」

 

「の、のどか、やっぱり逃げるラビ!!」

 

「えぇぇぇぇ!? そんなぁー!!」

 

そう叫びながらのどかは二体のメガビョーゲンとは違う方向へと縛られたまま走っていく。当然、メガビョーゲンたちがプリキュアになれる二人を逃すはずもなく追いかけていく。

 

プロペラのメガビョーゲンはその中央の先から雷を放つ。

 

ドドン! ドォォォォォォォォン!!!

 

「きゃあぁぁぁぁ!! うわぁぁぁぁ!?」

 

「ラビーーーー!!??」

 

吹き飛ばされながらも、地面に倒れずに踏ん張って着地しながらも必死に走っていく。

 

ハートのような枠からトゲのような触手を生やしたメガビョーゲンは、そのバラのような形のものから赤い短めのレーザーを放っていく。

 

ドン! ドン! ドン! ドン!

 

ドン! ドン! ドン! ドン!

 

「ひゃあぁぁぁぁ!!」

 

のどかはよろけながらも交互に走りながらもかわしていく。

 

「はぁ・・・はぁ・・・だ、誰か・・・助けてー! ちゆちゃーん!! ひなたちゃーん!!」

 

のどかは息も絶え絶えになりながら、まだ居場所が分かっていない二人の友達に助けを求めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数年前、小さかったちゆはその日、体操着に着替えて小学校の校庭へと出ていた。

 

彼女の目の前にあるのは、一本のバー。そして、後ろには青いマットがある。

 

そう、彼女は走り高跳びの記録に挑戦をしようとしていたのだ。このバーを高く飛べれば、空に届くかもしれないから・・・。

 

自身の靴の紐をしっかりと締め、髪をポニーテールに結んで、しっかりと立つ。足をトントンと踏み鳴らしながら気合いを入れ、目の前にあるバーをしっかりと見る。

 

「よし!」

 

ちゆは足を一歩後ろに下げ、両腕を構えて、一気にバーに向かって走り出した。しっかりと助走を付けていき・・・・・・。

 

バーの前の白い線のところで飛び上がり、体の側面を向けて飛び上がる。腰がバーを通過した瞬間、前足を上げ、背部からマットへと着地した。

 

くるんと後ろで一回転し、顔を上げてみるとバーは落ちていない。つまりはバーを飛び越えることに成功したのだ。

 

ちゆは心の中では歓喜の気持ちで頷きつつも、まだまだこれでは空に届かない。次はバーをもう一段階上げて挑戦しようと思う。

 

「・・・?」

 

と、ちゆが行動に移そうとしたとき、ふと視界に誰かの姿が映ったのが気になった。

 

それをよく見てみると、それは眼鏡をかけた少女で青いシャツの上から白衣を着込んでいて、下はジーパンを履いていた。手にはペットボトルでできた何かと木の棒を持っていて、校庭に何かを設置しようとしている模様。

 

ペットボトルはよく見ればロケットのような形をしていて、どうやらそれを校庭で打ち上げようとしているようだが、一体何のために・・・?

 

気になったちゆは打ち上げるために設置している彼女に声をかけてみることにした。

 

「ねえ、あなた」

 

「・・・?」

 

声をかけられた少女はこちらを振り向くが、すぐに足元にある木をノコギリで切り始める。

 

「何をしているの?」

 

「・・・見ての通り、それを打ち上げようとしているんですよ」

 

少女は視線を置いてあるペットボトルに向けながら淡々と答えると、すぐ視線を切っている木の棒へと移す。

 

「何のために?」

 

「・・・打ち上げたいからに決まっているでしょ。そんなこともわからないんですか?」

 

淡々と木を切りながらこちらに視線を合わさずに話す少女に、少しムッとするちゆ。

 

ふと、ちゆはペットボトルでできたロケットに視線を移すと拾い上げてマジマジと見てみる。

 

「へぇ、よくできてるのね・・・中に入ってるのって水かしら?」

 

ちゆはそう言って下のキャップに触ろうとするが、それに慌てた人物が一人いた。

 

「!? そこを触っちゃダメです!!」

 

「え? きゃあっ!!」

 

少女はちゆに視線を向けてハッとした後、大声で叫ぶも、時はすでに遅し。キャップに手をかけてしまったちゆの手元からペットボトルが勢いよく飛び出し、それが少女の方へと飛んでいく。

 

「えっ・・・がっ・・・!?」

 

駆け寄ろうとしていた少女の額へペットボトルが直撃し、彼女はうつ伏せに倒れてしまう。

 

「だ、大丈夫!?」

 

ちゆは少女の元へと駆け寄って体を起こすも、少女の額には擦りむいたような跡ができていて痛そうに抑えていた。

 

「あ、痛たた・・・全く、勝手に触らないでくださいよ!!」

 

「ご、ごめんなさい・・・!」

 

「!!」

 

少女は落ちたメガネを拾ってかけなおすと怒鳴り、それで落ち込んだような顔を見せるちゆ。そんな彼女の表情を見て、少女は何か気持ちが体から湧き上がってくるような何かを感じつつも、ちゆからは困ったように目をそらす。

 

その後、ちゆは保健室から絆創膏を貰ってきて、少女の額に貼ってあげる。そして、座っている少女に対して頭を下げる。

 

「本当に、ごめんなさい・・・!」

 

「・・・いいんですよ。あんなところに無用心に置いた私にも責任はありますから。あなたこそ怪我はないんですか?」

 

「私は、大丈夫よ・・・」

 

ちゆからの言葉を聞きつつも、少女は手に持っていた蓋が外れて、水がなくなってしまったペットボトルのロケットを見つめる。

 

「はぁ・・・また、水と空気を入れ直さないと・・・」

 

ため息をつく少女。そんな彼女の隣にちゆは座り込む。

 

「ねえ、それって何? なんだかロケットみたいだけど?」

 

ちゆが手に持っているものを聞いてくると、少女は穏やかな笑みを浮かべる。

 

「これはですね、ペットボトルでできたロケットなんです」

 

少女はそう言うと先ほどの蓋を取り出して見せる。

 

「このペットボトルに水を入れて、蓋をつける。そして、この中に空気入れとかで空気を入れればロケットのように水が噴射して飛んでいくんですよ」

 

「へぇ・・・すごいわね」

 

「別に大したことじゃないですよ」

 

少女はちゆの言葉にそう言うも、その表情はなんだか寂しいものだった。

 

「ねえ、えっと・・・?」

 

「りょうですよ、私の名前」

 

ちゆは、そういえば名前を聞いていなかったなと思うも、少女が呆れたような顔で答えてくれた。

 

「りょうは、どうしてそのロケットを作りたいと思ったの?」

 

「・・・・・・・・・」

 

ちゆの質問にりょうはしばらくの沈黙の後、口を開いてくれた。

 

「・・・遠いところにいる私の親に見てもらうためですよ」

 

「親?」

 

「私、幼い頃にお父さんを亡くしているんです。お母さんも出張であまり家には帰ってきませんし・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

ちゆはりょうの顔に何か哀愁のような何かを感じた。どこか寂しそうで、どこか儚い・・・。

 

「私は、幼い頃からものを作るのが好きなんです。元々友達ともそんなに遊びませんし、一人でものを作ることをやっているうちにすごいなーとか、楽しいなって思うようになって・・・」

 

りょうはすくっと立ち上がってちゆの方を見る。その顔は晴れやかな表情をしていた。

 

「私が頑張って作ったものを、お父さんやお母さんに届けたいなと思って、見てくれたらいいなって、そう思ってるんですよ。私のこれにかける思いを・・・」

 

嬉々して語るりょうの姿に、ちゆは微笑む。

 

「届くわよ、その思い。きっと、りょうのお父さんとお母さんに」

 

「何を根拠に言ってるんですか? まあ、いいですけど」

 

呆れが混じったような笑みで言うりょうに、ちゆは立ち上がってりょうの両手を掴む。

 

「ねえ、りょうの作ったものもっと教えて! 私、すごい興味があるの・・・!」

 

「っ!!」

 

ちゆの優しい笑みに、ドキッとしたりょうの頬が赤色に染まる。今、自分が恥ずかしい顔をしていると思った彼女はちゆから目をそらす。

 

「べ、別にいいですよ、あなたになら特別に・・・」

 

「! ありがとう! 私、沢泉ちゆ!」

 

「・・・毒島りょう、大した名前ではありませんけど・・・よろしくです」

 

りょうは照れ臭そうに頬を指で掻く。

 

「私、これから毎日りょうに会いに行く! 作ったものを教えてちょうだい!」

 

「なっ!? ・・・そんなに毎日来られたって新しいものなんかできませんよ!! それにあなたは部活があるでしょう!? 疎かにしない!!」

 

「もちろん、部活もやるわ。でも、りょうの作ったものにも興味が湧いてきたの・・・!!」

 

「・・・仕方ないですね。時々だったら、いいですよ」

 

りょうはちゆに呆れつつも、初めてできた友達に自分が作った自慢のものをたっぷりと教えてやろうと嬉々するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん・・・うん・・・んん・・・!」

 

病院のベッドで横になっていたちゆが顔を顰め始める。これは目を覚まそうとしているか、悪夢にうなされているかだ。

 

「あ、ちゆちー・・・!」

 

「ちゆ・・・!」

 

ベッドの横ではひなたが早く目覚めてほしいと願いながら、眠るちゆのことを見守っていた。ペギタンも不安そうに見守っている。

 

そんなちゆの表情が苦しそうなものに変わっていき、額から汗が滲み始めた。

 

「うぅ・・・うぅぅ・・・んんぅぅ・・・うぅぅ!!」

 

「!? ちゆちー!!」

 

ちゆは首を横に振りながら苦しみの声を上げている。ひなたは何か悪い病気が再発したんじゃないかと思うくらい動揺していた。

 

「んんぅぅぅ!! うぅぅ・・・うんんん・・・!!」

 

「ちゆちー起きて!! 起きてよ!!」

 

「うぅぅぅ! んんぅ・・・うぅぅんぅぅ!!」

 

ひなたが声をかけてもちゆは目を覚まさない。シーツ越しに胸を抑えながら、首を左右に振りながら苦しんでいる。

 

「ちゆちー!! ちゆちー!!」

 

「うぅぅぅ・・・んんぅぅ!!・・・あっ!?」

 

ひなたが必死に呼びかけると、ちゆは前かがみになった後、飛び起きてもおかしくないくらいに目を見開いた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「ちゆー!!」

 

「ちゆちー、大丈夫!?」

 

「随分とうなされてたニャ!」

 

「はぁ・・・はぁ・・・ん、大丈夫よ・・・」

 

ちゆは息が切れていたが、落ち着きを取り戻していく。

 

なんだか懐かしいものを見ていた気がする。あの記憶はきっと、忘れていたはずの・・・。

 

でも、あの子が突然変貌して、私に襲いかかってくるなんて・・・現実にあったら恐怖を感じる夢だった。

 

「おい、何の騒ぎだ? 隣の部屋にまで聞こえてきたぞ」

 

そこへ騒ぎを聞きつけた設楽が部屋の中へと入っていく。

 

「おう、清楚なお嬢ちゃん、やっと目が覚めたか」

 

設楽はちゆの隣に座ると触診をするために、普通の聴診器を出して胸に当て始めた。

 

「あなたは・・・?」

 

「私たちを助けてくれた設楽先生だよ。あたしたちの不調も治してくれたし」

 

「本当にスーパードクターなんだペエ!」

 

「やめてくれ。俺はそんな大層な医者じゃねぇって言ったろ」

 

設楽はちゆの首のリンパを触りながら、ペギタンの言葉を返す。

 

「ってペギタン!? 今ここで喋っちゃ!?」

 

「ああ・・・あたしと同じ反応・・・この人は大丈夫だよ。ペギタンとニャトランに似ている子を見たことがあるんだって」

 

「それって、本当なの・・・?」

 

「ああ。確か、カナリアみたいなやつだったな」

 

「カナリア・・・?」

 

カナリアのヒーリングアニマル? ペギタンとニャトランはヒーリングガーデンに確かそういうのがいたのを見たことがある気がする。

 

考えているうちに設楽はちゆに口を開けさせて小さな懐中電灯を当てると、口の中や喉の奥をしっかりと見る。そして、目の奥にも懐中電灯を当てて何かを見ている。

 

「よし、なんともないな。ただお前さんは重症だったから少し安静にしたほうがいい」

 

「あ、ありがとうございます・・・」

 

「礼なんかいらねぇよ」

 

設楽はそう言うと彼女たちに踵を返して部屋を出ようとする。

 

「あの・・・!」

 

「・・・何だ?」

 

ちゆが呼び止めると、設楽は立ち止まって振り返る。

 

「この街や森一帯って、一体どうなってるんですか?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「まるで生気を感じないし、住んでいる人が一人もいない・・・でも、その中であなたはここで暮らしている・・・ここは一体何なんですか? あの街に一体何があったって言うんですか?」

 

「・・・・・・・・・」

 

ちゆがおそらく核心についたことを聞くと、設楽はしばらくちゆを見つめた後、すぐに彼女から目をそらすように正面を向く。

 

「お前さんたちには関係ない。そんなことを知ってどうするんだ?」

 

「でも、それは・・・!」

 

「それに俺は好きでこんなところで暮らしてるわけじゃねぇ。あの廃病院で囚われてる俺の娘を取り戻して、こんな街から出て行きてぇんだよ」

 

「ちょっと、そんな言い方しなくても・・・! って、娘?」

 

「おっと、余計なこと言っちまったか。忘れてくれ」

 

設楽はそう言って部屋から出て行こうとするが・・・・・・。

 

きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

この部屋に悲鳴のようなものが聞こえてきた。

 

「!この声って・・・?」

 

「のどかっちの声じゃん!?」

 

「もしかして、この近くにいるの・・・!?」

 

のどかが危険な目に遭っている・・・。そう感じた二人はすぐに部屋から飛び出そうとする。

 

「おい!待て! お前さんたちは安静にしてろと言ったろ!!」

 

設楽がそんな二人に怒鳴り声を上げるも、二人は立ち止まって振り返りながらこう言った。

 

「のどかっちがピンチなのに、寝てなんかいられないよ!!」

 

「それに、私たちは大変な目に遭っている子を放っておけるほど、薄情な人じゃないんです!!」

 

二人はのどかを助けるべく、部屋からと飛び出していく。

 

「僕たちが追うペエ!!」

 

「心配すんなよ、スーパードクター!! 俺たちがついてるからよ!」

 

ペギタンとニャトランはそう言うと二人の後を追っていく。

 

「あっ、おい!!」

 

設楽は手を伸ばすも、4人は止まることを知らなかった。そんな4人の姿を見たとき、設楽にある記憶が蘇った。

 

ーーーーお前さん、逃げろ!! この街はもう終わってる・・・助けてぇのはわかるけど、無理なものは無理なんだよ・・・!

 

ーーーー嫌、です・・・!

 

ーーーー・・・なんで、そこまで?

 

ーーーー私は、病気で苦しんでいる人を見捨てるほど、落ちぶれた人ではありません!!

 

ハープを持ち、紫色のコスプレの格好をした女性がボロボロになりながらもそう言いながら、街の病気の侵食を食い止めようと奮闘していた。

 

今の2人があの、女性の姿と重なったのだ。

 

設楽はそれを思い出すと、まるでイライラしたように頭をかく。

 

「ったくよ・・・ガキは医者の忠告をちゃんと聞いてろってんだ!!」

 

設楽はそう吐き捨てると4人の後を追うべく走り出す。

 

(俺もあいつやあいつらみてぇに、そういう気持ちを持ってりゃ、患者を救えてたのかね・・・)

 

設楽は走って追う中、そんなことを考えていた。

 

(いや、今更、何を考えてるんだか・・・!)

 

しかし、もう昔の話だ。患者を救えなかった俺に医者を名乗る筋合いはねぇよ。

 

設楽は行動と思っていることが全く伴わない複雑な感情を抱いていたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第30話「資格」

前回の続きです!


 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「のどか、頑張るラビ・・・!!」

 

二体のメガビョーゲンに追われるのどかとラビリン。メガビョーゲンの放ったイバラビームにまとめて拘束され、変身することができなくなってしまった状態だ。

 

「メガー!!」

 

「メガー・・・」

 

プロペラのメガビョーゲンは雷を放ってきて、ハートの枠のようなものにトゲの触手を出しているメガビョーゲンは赤い短めのレーザーを放っている。

 

数十分もしつこく追いかけ回され、のどかの息はもう絶え絶えだ。顔はすでに汗だくで、足もふらついていて気を抜けばもつれて転びそうだ。

 

「はぁ、はぁ、ゲホゲホッ、もう、ダメ・・・苦しいぃ・・・!」

 

のどかの肺はすでに悲鳴をあげていた。元々体力のないので走ることはあまり得意ではなく、息が続かなくなった彼女は近くの木に寄りかかって息を整えていた。

 

「のどか! 早く逃げないとラビ・・・!!」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、む、無理だよ・・・これ以上、走れない・・・! はぁ、はぁ、はぁ」

 

のどかの呼吸がなかなか整わない。最初に単独で追われていた分も含めて疲労が蓄積して心臓がバクバクとしており、さらに休むこともできなかったために足がふらついている。これ以上走ったら心臓が破裂するのではないかと思うぐらいだ。

 

「メガー!!」

 

「メガー・・・」

 

メガビョーゲンたちは疲弊しているのどかに配慮するわけもなく、容赦なく黒い雷と赤い短めのレーザーをそれぞれ放ってくる。

 

「林の中に逃げるラビ!!」

 

「はぁ・・・う、うん・・・」

 

呼吸をまだ整えているのどかはラビリンに言われて、林の中へと飛び込み、メガビョーゲンの攻撃を間一髪で回避する。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

植物の中にうまく倒れこんで身を隠し、呼吸を整えるのどか。植物が開けている上を覗いてみると、メガビョーゲンが二人を見つけるべく周囲を飛んでいる。

 

ここで隠れているのもいいが、見つかるのも時間の問題だろう。それに縛られているので、のどかは今立ち上がれないだろう。

 

「うぅぅぅん!! うぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!! ラビ!!」

 

ラビリンが一緒に縛られているイバラビームの拘束から抜け出し、のどかの体を引きずって林の奥へと行こうとする。

 

「うんしょ・・・! うんしょ・・・!」

 

「ラ、ラビリン・・・!」

 

「に、逃げないと・・・見つかっちゃうラビ・・・!!」

 

のどかの体を必死に引きずるラビリンだが、それはまるで牛歩の歩みだ。少しずつしか進んでいない。それでもメガビョーゲンに見つからないように上を気をつけながら引っ張っていく。

 

「メガー・・・」

 

ドン! ドン! ドン! ドン!

 

「ひゃあぁ!」

 

「こっちにレーザーを撃ってきたラビ!?」

 

どうやらメガビョーゲンは無差別にレーザーを撃って、二人を燻りだそうとしている模様。

 

この場は危険だ。早く離れないと・・・!

 

「んんんんん!! んぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

「ラビリン! このままだと三人とも・・・! ラビリンだけでも・・・!!」

 

「ダメラビ・・・! せっかく見つかったのに、のどかとラテ様と一緒じゃないと意味ないラビ!! 」

 

のどかはラビリンだけでも逃げるように言うも、ラビリンは離れようとせずに懸命に引っ張る。

 

ようやく見つけた私のパートナーだ。のどかやラテ様をこんなところに置き去りにして、絶対に離れるわけにはいかない。小さいけれど、私の精一杯の力で救うんだ。

 

ドォォォォォォォォォォォォン!!!!

 

「うわあぁっ!!!」

 

のどかの横スレスレをメガビョーゲンの黒い雷が通り過ぎる。あと少しでもずれていたら当たっていたかもしれない。

 

「うぅぅ・・・ちゆちゃんやひなたちゃんはどうしてるのかなぁ・・・」

 

のどかはこんな状況でも二人の身を案じている。メガビョーゲンに酷い目に合わされてどこかを彷徨っているんではないか、もしかしたら謎の不調で倒れているのではないか?

 

そう思うとのどかの心の中には不安しかなかった。

 

「もうちょっと・・・あと少しラビ・・・!」

 

そうやって引っ張っているうちに、ラビリンは逃げるのに夢中になって後ろに切り立った崖があるのに気づかなかった。

 

「! ラビリン、後ろ!!」

 

「!? ラビ!?」

 

のどかが崖に気づいてラビリンに知らせると背後を振り向くと驚き、その引っ張りを止める。

 

「あ、危なかったラビ・・・!」

 

ラビリンは冷や汗を拭う。もしのどかが声をかけてくれなかったら、危うくパートナーを落とすところだった。

 

「メガー!!」

 

ドォォォォォォォォォォォォン!!

 

「「えっ・・・?」」

 

しかし、のどかの後ろをメガビョーゲンの黒い雷が通り過ぎ、その衝撃なのかの横になっていたのどかの方の崖が崩れ・・・。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「のどかぁぁぁぁぁ!!!」

 

のどかは切り立った崖から落ちていってしまう。ラビリンは大慌てで崖の下へと飛んでいく。

 

「うぅぅぅ・・・ぐぅぅぅぅぅぅ・・・!!」

 

「ラ、ラビリン・・・!!」

 

ラビリンはのどかが衝突するよりも前に下から彼女を持ち上げようとするが、引っ張るのに力を使いすぎたせいか辛そうな表情を見せている。

 

「ダ・・・ダメ、ラビ・・・」

 

「ラビリーン!!」

 

顔は必死の形相だったが、それとは裏腹にのどかの体はどんどん下へと下がっていき、ついには落下速度と変わらないのに戻っていく。のどかは叫び声をあげるしかなかった。

 

「ふぎゅ!?」

 

「あっ・・・うっ・・・あぁ・・・!!」

 

ついには地面に衝突してラビリンはのどかの体に潰され、彼女の体は地面で弾みながら、坂道を転がり落ちていく。

 

平らな地面でようやく止まった際には、のどかの体は少しボロボロになっていた。

 

「うぅぅぅ・・・」

 

のどかは致命的な大怪我はしなかったものの、体に傷ができていて、その痛みに呻いていた。

 

「きゅう~・・・」

 

ラビリンは潰されたショックで目を回していた。

 

そんなとき、誰かが駆けつけてくる音が聞こえてきた。

 

「あ、いたよ! のどかっち!!」

 

「ラビリンもいるニャ!」

 

「酷い傷・・・早く治療しないと・・・!」

 

のどかの友人で、プリキュア仲間のちゆとひなただった。二人は怪我をしたのどかを見つけるとすぐに駆け寄った。

 

そして、ペギタンは離れたところで目を回しているラビリンに近づく。

 

「ラビリン、しっかりするペエ!!」

 

「うーん・・・あ、ペギタン・・・」

 

ペギタンが声をかけると、ラビリンが目を覚ます。彼女は大きな怪我はない模様。

 

「うーん! な、何このイバラ、切れないんだけど・・・!?」

 

「か、固い・・・!」

 

「俺に貸してみるニャ!! ふにゅぅぅぅぅ!!」

 

ちゆとひなたがのどかを縛っているイバラを引きちぎろうとしているが、なかなかちぎれず、ニャトランも一緒にイバラを噛みちぎろうとしている。

 

「み、みんなここから早く離れるラビ!!」

 

「どうしたペエ?」

 

「そうは言っても、これがなかなか・・・!!」

 

「早くしないと、ここに・・・!」

 

慌て出したラビリン、そしてのどかの拘束を解こうとしているプリキュアの二人とニャトラン。

 

「メガー・・・」

 

そこへメガビョーゲンの声と共に、赤い短めのレーザーが飛んできた。

 

「「「!?」」」

 

3人は完全に上へと視線を移していなかったため、メガビョーゲンの攻撃に気づかなかった。思わず目を閉じる3人だが、3人のヒーリングアニマルが3人をそれぞれ押し飛ばす。

 

「「「あっ・・・!」」」

 

ドン! ドン! ドン! ドン!

 

3人がいた地面にレーザーが着弾し、3人が見てみると黒く焼け焦げたような跡、そして上を見上げれば二体のメガビョーゲンが迫っていた。

 

「メガビョーゲン!!」

 

「うぇぇ! しかも二体!?」

 

3人が見ているメガビョーゲンはそれなりに大きくなっていて、しかもハート型の枠のメガビョーゲンは、先ほど3人で協力したダルイゼンが生み出したメガビョーゲンよりも同じくらい、それ以上の大きさだ。

 

今の私たちでは、こんな狭い場所でプリキュアに変身しても太刀打ちできるかどうか・・・。

 

「おーい!お前ら!!」

 

背後から聞こえる声に振り返ると、医療カバンを持った設楽がこちらに駆け寄ってきていた。

 

「設楽先生!!」

 

「ちっ・・・ここがバレちまったか・・・!」

 

設楽は宙を飛んでいるメガビョーゲンを見上げると舌打ちをする。

 

「お嬢ちゃんたち! 俺についてこい! 一旦、中に戻るぞ!!」

 

「で、でも・・・」

 

「いいから来い!!」

 

設楽がアジトの方へと走り出して戸惑うのどかたちだが、彼の言葉を信じてついていくことにした。

 

しかし、のどかの拘束はまだ解けていない。

 

「のどかっち、ごめん・・・!」

 

「ひ、ひなたちゃん・・・!」

 

ひなたは一言謝っておいた後、のどかを肩に担いで走り出した。その際にのどかが顔を少し赤らめていたが・・・。

 

「メガー・・・」

 

「メガー!!」

 

のどかたちが走っていくのを皮切りにメガビョーゲンは赤い短めのレーザーと、黒い雷を放ってきた。

 

背後で爆発音が聞こえつつも、3人は振り返ることなくアジトの入り口へと走っていく。

 

のどかたちがアジトの入り口へと入っていくと、それを待っていたかのように入り口に直撃すると木っ端微塵に破壊され、中へ入ることができなくなった。

 

「ああ・・・! 入り口壊されちゃったよ!?」

 

「そ、そんな・・・!!」

 

ちゆとひなたはそれを見てショックを受けるが、設楽は気にせずに走り出している。

 

「心配すんな。ここにはまだ見つかってねぇ別の入り口がある。そこから出りゃいいのさ」

 

設楽はそう言うとアジトの奥にある取っ手のついてる床を見つけると、そこを開けると人一人分が入れる穴があった。

 

「ほら、お前らから先に入れ」

 

「わかりました・・・」

 

「う、うん・・・」

 

設楽に言われ、ちゆとひなたは一人ずつ入っていく。のどかはひなたに担がれながら一緒に入る。

 

「ここって・・・?」

 

「下水道ペエ・・・?」

 

「ああ、そうさ。あの怪物から逃れる際にここを利用したりしてるのさ」

 

設楽は扉を閉めると梯子から降りる。その下ではのどかの拘束をひなたとニャトランが解こうとしていた。

 

「うーん・・・! なんでこんな、ちぎれないし・・・!!」

 

「噛み切ろうとしても、噛み切れねぇよ・・・!!」

 

「ひなたちゃん、ニャトラン、無理しないでいいよ・・・」

 

ひなたとニャトランがなかなか拘束が外せないことに唸っている。のどかは二人が怪我をしないか不安そうに見ていたが、それを見ていた設楽は近づいてくる。

 

「おい、お前ら、俺に貸してみろ」

 

「え、あ、うん・・・」

 

ひなたがそう言われてその場からどくと、設楽は医療カバンからメスを取り出すとのどかを縛っているイバラに突き立てる。

 

ガツッ・・・ガツッ・・・。

 

突き立てては上げ、突き立てては上げを何度か繰り返していくとイバラに裂け目がついていき、設楽はそこからイバラの裂け目に両手を入れる。

 

「おら、よっ!!」

 

両手に力を入れるとイバラはプチプチと千切れていき、ようやく引き裂くことができた。そして、いまだに縛っているイバラを少しずつ解いていく。

 

「ほらよ。解けたぜ」

 

「あ、ありがとうございます・・・」

 

「ついでにその怪我も治してやる」

 

設楽はイバラを捨てると、今度は医療カバンから薬と包帯を出すと額と右腕についている切り傷、膝の擦り傷を消毒して包帯を巻いてやる。

 

「すごい、先生! あっという間に直したね!」

 

「大したことはしてねぇよ」

 

設楽は医療バッグに包帯と薬をしまうと、のどかに向き直る。

 

「お嬢ちゃん、歩けるか?」

 

「は、はい・・・」

 

「よし、じゃあ行くぞ。別の入り口はこの下水の奥にあるのさ」

 

設楽はのどかの手を取って立たせると、下水の奥へと進み始める。ちゆとひなたたちもそのあとを追っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん、ここにいたんだ。あいつら」

 

「・・・あのヤブ医者、逃げ足だけは早いの」

 

「全く、逃げても無駄だというのに・・・」

 

一方、崩れたアジトの入り口付近にはクルシーナ、ドクルン、イタイノンの三人娘が着いていた。

 

クルシーナはアジトの入り口に近寄ると、崩れた落盤の隙間には妖精が通れるぐらいの穴があるのを見つける。

 

「この落盤は起きたばっかみたい。まだ、あいつらは遠くまで行ってないはずね」

 

クルシーナはそう言うと右指をパチンとならす。すると、小さなコウモリの妖精が複数匹現れる。

 

「この隙間から入り込んであいつらを追跡しろ。出ようとしている入り口を抑えるだけでもいい」

 

彼女がそう命令すると、小さなコウモリの妖精の群れは落盤の隙間からアジトの中へと入っていく。

 

「あいつらはこの先にいるの?」

 

「ええ、そうみたい。でも、どこぞの誰かのメガビョーゲンが派手に破壊したせいでアタシらは入れなくなったけど・・・」

 

「か、怪物のコントロールは難しいの・・・!! 蝕めるものもないし・・・」

 

「まあ、私もわかりますよぉ。所詮は本能のままに動く私らの分身ですからぁ」

 

「お前はニヤけてんじゃねぇっつーの」

 

クルシーナがジト目で見ると、イタイノンは少し頬を赤らめて言い訳をする。そして、いつも通りの口調のドクルン。

 

ため息を吐いていると小さなコウモリの妖精の一匹が二人の元に戻ってきた。

 

「あら、早いじゃない」

 

その妖精はクルシーナの耳元に何かを伝えている模様。

 

「・・・下水道?」

 

もしかして、このアジトにはそこへ向かう入り口があって、奴らはそこから逃げ出したのか。

 

クルシーナはそう考えるとドクルンに向き直る。

 

「ねえ、ドクルン。ヤブ医者のアジトと下水道の入り口は補足できてるの?」

 

「ええ、もちろんですよ。この街一帯はストームビョーゲンに確認済みです」

 

「まだ、敢えて壊していない入り口が一つあったわよね?」

 

「はい」

 

クルシーナがそう聞くと、ドクルンが肯定する。

 

あとは壊していない入り口を先回りして抑えてしまえば、あいつらは袋の鼠だ。確実に病気に蝕むことができる。プリキュアは必殺技で疲弊しているはずだし、充分に育ったメガビョーゲンの前では大した脅威にはならないはず。

 

「あのヤブ医者め、年貢の納め時よ・・・フフフ」

 

クルシーナはどんな手を使って苦しめてやろうか? そう考えながらメガビョーゲンに命令を下すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

のどかたち3人とヒーリングアニマルたちは、設楽に連れられて下水道を歩いていた。

 

下水道の中は、壁や地面こそは普通の色をしているものの、流れている水は赤く染まっているようだった。

 

「ここも、病気で蝕まれてるし・・・」

 

「本当にこの街は、生気も何も感じないわね・・・」

 

ひなたとちゆは下水道の水を見ながら言う。元々下水道という場所自体、そんなに水がきれいだとは思ったことはないが、ビョーゲンズに蝕まれているとなれば、感情は複雑な気持ちだった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・!!」

 

「あ、のどか・・・!!」

 

「のどかっち・・・」

 

のどかが息を切らして膝をつき始めたのを見て、ちゆとひなたが駆け寄る。

 

そういえば、もう何分歩いているだろうか? いまだ出口は見えてこない。歩きっぱなしでろくに休憩しておらず、のどかの体力はもう限界だ。

 

設楽も足を止めて、3人の様子を見ると医療バッグを地面に置き始める。

 

「ちょっと休憩してくか」

 

「はぁ、だ、大丈夫です・・・私はまだ・・・」

 

「いや、休憩も大事だぜ。無理するとまた倒れるぞ」

 

設楽はそう言うと医療バッグからペットボトルの水を取り出してのどかに差し出す。この水は病気で蝕まれていない、全く健康的な水だ。

 

「この水は・・・?」

 

「俺がよく送ってもらってた水だ。こいつだけは汚されてなくてよかったぜ。飲んでも大丈夫だから、飲みな」

 

ちゆの疑問に設楽が答える。のどかはそう聞いて安全な水だと安堵し、ありがたく設楽の手からペットボトルを受け取った。

 

ゴク、ゴク、ゴク

 

「ぷはぁ~! 生き返った~!」

 

「そうかい。そいつはよかったな」

 

のどかが顔をキラキラとさせる姿に、設楽は少し心の中で安心しつつ自分もそこに座ると、のどかが右手で抱いている子犬が気になった。

 

「おい、お嬢ちゃんのその子犬」

 

「え・・・ラテのことですか?」

 

「ああ。随分と具合が悪そうだなって思ってな。俺が見てやるよ。まあ、獣医じゃねぇけどな」

 

設楽はそう言いながら、のどかの隣に来てラテを見ようとするが、それを止めに入ったものがいた。

 

「それは無理ラビ!!」

 

声をあげたのはラビリンだった。

 

「いくら先生でも・・・この子は治せないペエ・・・」

 

「気持ちは、わかるけどよ・・・」

 

「あぁ? どういうことだ?」

 

設楽がペギタンとニャトランの沈んだような言葉を聞いて、顔をしかめる。

 

「なんて言えば、いいんだろ・・・? その子は特別な体質っていうか・・・なんていうか・・・」

 

「特別?」

 

ひなたは頭の中の整理出来ずに言葉を発し、設楽は訳が分からないというような顔をする。

 

「その子は、設楽先生も見たと思いますけど、あの怪物を浄化しないと治らないんです!」

 

「私たちは、その怪物を浄化して、ラテを救うためにこの街に来たんです・・・!」

 

「怪物を倒さないと治らないだぁ? そんなことがあるわけねぇだろ」

 

うまく説明できてないひなたに代わって、ちゆとのどかが説明するも、設楽は信じられないと言ったように言葉を返す。

 

特別な体質? 怪物を倒さないと治らない? そんな超越したような話がどこにあるというのか。

 

人間や動物を治せるのは俺たち医者の役目だ。中には治せなかった病気もあるかもしれないが、そんな医者らしくもない方法で治すなど馬鹿げている。自殺行為だ。

 

「本当なんです・・・! 私たちはプリキュアで、ラテを救いたいんです! 信じてください・・・!!」

 

のどかが必死に声を張り、瞳を潤ませながら訴えかける。設楽はその表情にある記憶が蘇った。

 

『あの子たちは、絶対に私が救います! 信じてください!!』

 

紫のコスプレのような女性が訴えかけた言葉、医者としての使命を疎かにできない自分はその言葉を信じた。

 

でも、結局、街はに奪われ、あいつもどこかに消えてしまった・・・・・・。

 

あいつも結局は、誰も救えてねぇじゃねぇか・・・!!

 

「ふん!」

 

設楽は鼻を鳴らしてそっぽを向くと、ポケットから木でできたパイプを取り出して口に咥える。

 

「俺にはそいつを救えねぇってことかよ・・・! あいつらと同じように・・・」

 

設楽は不貞腐れたかのように声を漏らす。それはまるで何かを失敗してやけになっているような感じだ。

 

「あいつらって、誰のことなんですか?」

 

疑問に思ったちゆがそう聞くと、設楽は口に咥えていたパイプをポケットにしまって息を吐き、しばらくの沈黙の後、口を開いた。

 

「・・・俺の患者だよ」

 

設楽が言った言葉に、3人は息を飲む。

 

「お嬢ちゃんたち、この街に来るときに病院が見えなかったか? もうボロボロになっちまってるあの病院だよ。あそこはな、俺が医者をやってた病院なんだ」

 

「設楽先生の・・・」

 

「病院・・・?」

 

のどかとちゆが愕然としたような表情になっていく中、設楽は話を続ける。

 

「そこはちゃんと施設も揃ってて、医者が必要なものたくさんあってな、人を救える優秀な医者もいっぱいいたぜ。俺はその中で患者を救いたいって一心で、ある難病の子の担当を任されたのさ」

 

設楽はまたパイプをポケットに口に咥える。

 

「そいつは、まあ本当は名前を教えちゃいけねぇが、来栖、毒島、板井、あと他にも2人の患者を任された。そこには俺の娘も入院してた。俺はあいつらのために、病気を抱えても生きるための心得、あいつらの心のケア、そして一刻も治そうと方法を探す、その全てを全力でやったさ」

 

設楽はパイプを口から離して、息を吐くと少し辛そうな表情を見せた。

 

「・・・だが、俺はあいつらの本当に抱いている気持ちに気付けなかったのさ。医者としての知識さえあれば、あいつらを治せると思ってた。だけど、それは違った。そんなこともわからずに、俺は勘違いをしてあいつらを無意識に傷つけただけだった。結局は、あいつらを救えなかったってわけさ」

 

そんな設楽の話すことを、3人は黙って聞いていた。

 

「・・・そんなこともわかんねぇから、この街はあんな風になっちまったわけだ」

 

「ど、どういうこと・・・?」

 

設楽の吐露した言葉がわからず、ひなたが思わず聞き返す。

 

「・・・いつものように病院に出勤したら、医者や看護師が一人もいなくなってた。病院じゅうに赤い靄みたいなやつが湧いてきていて、悪魔のツノとサソリの尻尾を生やした奴らが、黒い大流みたいな怪物共を引き連れて、この街一帯を赤く染めていきやがった。ビルも家も、何もかも。俺は呆然とそこを見ているしかなかった。そんなとき現れたのが紫のコスプレをした女だったな」

 

「コスプレをした女・・・?」

 

「もしかして、プリキュアのことニャ・・・?」

 

「そのプリなんとかかは知らんが、そいつが来たのさ。俺はあいつらに攻撃されそうになったが、コスプレをした女は俺一人でも守ろうとしてた」

 

ーーーー早く逃げてください・・・! あなただけでも・・・!

 

「俺は医者としての使命から逃げたくなくて、その場から離れようとはしなかった。少しでも患者をあいつらから救いたかったから。でも所詮はただの医者、あいつらと戦える力があるわけでもねぇ。あいつの足手まといになるだけだったさ」

 

ーーーー俺に患者を見捨てて逃げろってのか! 冗談じゃねぇ!!

 

ーーーー気持ちはわかります・・・! でも、今のあなたにできることは何もありません。手遅れにならないうちに離れる方が先決です・・・!

 

ーーーーふざけんな!! お前みたいなコスプレ女に何ができるってんだ!? 俺の娘もいるんだぞ!?

 

ーーーー街を救うことができます・・・!

 

ーーーー私はプリキュアです。地球をお手当てするためにいる伝説の戦士です。ここの街も、患者も、この街の人も私が救って見せます! あの子たちも私が救います! だから、私を信じてください・・・!!

 

「・・・俺はそいつを信じて、怪物やあいつらに見つかんねぇように下水道の中に隠れた。ほとぼりが冷めるまで。そして、そろそろ落ち着いただろうというときに外に出たら・・・・・・街は、このざまさ」

 

設楽は再びパイプを口に咥えた。

 

「そいつもあいつらにやられちまったのか、俺のところに二度と現れることはなかった。信じて任せた俺はバカだった。患者を救うはずの医者がのこのこと現実から逃げて、その結果取り返しのつかないことをしちまった。そんな俺に、医者を名乗る資格なんかねぇのさ」

 

「「「・・・・・・・・・」」」

 

3人は設楽の話を黙って聞いていた。その表情は悲しそうな顔をしていた。

 

ちゆやひなた、ヒーリングアニマルたちはどういう言葉をかけていいかわからない・・・。設楽先生は一生懸命患者を救おうとしていた。しかし、それがほんの少しの間違いで、病院を、街を全てビョーゲンズに奪われてしまった。

 

自分たちがもし先生の立場だったら・・・そうなってしまったと思ったら、耐えられそうになかった。

 

「設楽先生は・・・」

 

そんな中、言葉を振り絞ろうとしたのはのどかだった。

 

「設楽先生は、立派な医者だと思います・・・!!」

 

「あぁ!? 俺の今の話を聞いてたか!? どうしてそういう考えになる!?」

 

のどかのその言葉に、設楽は不快感をあらわにする。

 

「だって、設楽先生は、その子たちのために力を尽くそうとしていたんでしょう? そのプリキュアに任せたとしても、決して治すのを諦めたわけじゃないんでしょう? 難しいことはよくわからないけど、先生はビョーゲンズに街を襲われたときも患者を救いたいという気持ちはあったんです! その思いは本物なんだよ!!」

 

「何も知らねぇガキが知ったような口聞いてんじゃねぇ!! この街がこうなったのも、俺が患者を救えなかった結果なんだよ!! そんなろくでなしが、立派な医者なわけがねぇんだよ!!」

 

「それは違います・・・!」

 

設楽の荒げた言葉に反論したのはちゆだった。

 

「この街がこうなっているのは、先生が尽くせなかった結果じゃありません・・・!」

 

「お前さんまで・・・!」

 

「私は、プリキュアとしてお手当てをできるようになって、初めて3人であの怪物に立ち向かってボロボロにされたとき、もうダメなんだと思っていました。でも、のどかが私たちを奮い立たせてくれて、諦めずに立ち向かって、その結果、森や花畑を救うことができたんです! だから、この街だって諦めないって気持ちがあれば、救えるはずなんです!!」

 

「っ!!」

 

ちゆのその言葉に、設楽は動揺したように悔しそうに歯を食いしばっている。

 

「あたしも守りたいって気持ちは、ありましたよ・・・」

 

「お前さんも・・・」

 

「あたしも、お手当てを失敗しちゃったなって思ったときは諦めてた。でも、たくさんのエレメントさんたちも救いたいって、あたしたちと同じ気持ちなんだなって。あたしたちって3人で戦ってるんじゃなくて、救いたいと思ってるみんなと一緒に戦ってるんだなって。だから、あたしたちは諦めずに戦うことができたんだよ! あたしは自分が立派にお手当てできてるだなんて思ったことないけど、それでも地球を救いたいって思いは本当なんだよ!! だから、先生! 自分が大層じゃないとか、ろくでなしだとか、思わないでよ・・・!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

瞳を潤ませるひなたの言葉を黙って聞いている設楽。

 

「私たちも、例えこうなったとしても諦めないラビ!!」

 

「僕たちは、お手当てをすることに全力を尽くすペエ!!」

 

「俺だって、できることはなんでもやるニャ!!」

 

ヒーリングアニマルたち3人も決意の眼差しをしていた。

 

「先生! 困っているなら私たちも協力します! 私たちができることならなんでもやります! 一緒に戦いましょう!! 街がこうなったら終わりだなんて思ってたら・・・・・・きっと誰も救えないから・・・!!」

 

「っ!!!!!!」

 

設楽はのどかの言葉に驚いたような表情をする。自分にここまで言ってくれたやつが、今までいてくれただろうか。俺もこんなことを言ってくれるやつがいたら、まだ立派だったのだろうか。

 

設楽はふぅとため息をついた。

 

「・・・俺にとっては、お前さんたちの方が立派だよ」

 

(そういう思いがあるなら、この街を救えるのかもしれねぇな・・・)

 

設楽は頭を照れ臭そうに掻きながら言った。少しは気持ちが楽になった気がする。

 

ちょっとはこのお嬢ちゃんたちに、頼ってみてもいいかもしれない。そう思った。

 

「よし、そろそろ行くか・・・」

 

設楽は医療バッグを持つと出口に向かうべく歩き出した。のどかたち3人とヒーリングアニマルたちはお互いに頷いた後、設楽の後をついていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「病気で苦しめて~、愉快愉快♪ 楽しいわ♪」

 

「ウツウツ♪」

 

「苦痛の先は~、クラクラ♪ 虚ろだ♪」

 

「ウツウツ♪」

 

「楽しいことはやらなきゃさ♪ 病気蝕み、フフフ、フフフ♪ 辛いことも忘れてグッバイ♪ お前は私のもの♪」

 

そう言って自分が推測した場所で待ち伏せながら、陽気に歌を歌っているクルシーナの姿があった。ウツバットも歌のノリに合わせて相槌を打っている。

 

「何を変な歌を歌ってるの・・・?」

 

イタイノンがその歌に不快感を示す。

 

「別にいいじゃない。退屈なんだから」

 

今度は歌にいちゃもんをつけられたことにクルシーナが不満を漏らす。

 

「これならゲーム音を聞いてたほうがよっぽど気がまぎれるの」

 

「ハッ、言ってろ。あんたには一生、その良さがわかんねぇんだからさ」

 

イタイノンの嫌味に、クルシーナも興味がないように吐き捨てる。

 

「まあまあ、喧嘩もいいですが、使命にも忠実でないと」

 

ドクルンの牽制する言葉に、クルシーナとイタイノンは沈黙して視線を元に戻す。

 

「あーあ、早くあいつら、来ないかなぁ・・・」

 

そう言いながらも、街路樹の木の上で昼寝を決め込もうとしているクルシーナ。

 

「・・・もうすぐ現れるはずですよ。出口はこの辺にしかないはずですから」

 

ドクルンは知恵の輪をやりながら、クルシーナに向かって言葉を返していた。

 

「私たち、なんだかのんびりしすぎなの・・・」

 

そう不安を漏らしつつも、廃ビルの壁に寄りかかって携帯ゲームをしているイタイノン。

 

その三人娘の中央には、観客席のような段差のある階段に、丸い円のようなステージがあった。

 

そして、その三人娘のそばに隠れるように、それぞれのメガビョーゲンが待ち構えているのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第31話「融合」

前回の続きです!
今回のメガビョーゲンは一回限りのスペシャルなメガビョーゲンです!


 

「着いたぞ、出口はここだ」

 

下水道を歩いているうちに、出口へとたどり着いたのどかたちプリキュアの3人とヒーリングアニマルたち、そして彼女たちを引率した設楽。

 

先生は出口の扉を開けて辺りを見渡した後、穴から出ると下水道にいるのどかたちに呼びかける。

 

「よし、お前ら出てこい!」

 

設楽がそう呼びかけるとのどか、ちゆ、ひなた、ヒーリングアニマルたちの順で出てくる。設楽が扉を閉めてしっかりと隠しておく。

 

「この辺に俺の別の拠点があるはずなんだが・・・」

 

設楽が周囲を見渡しながら言う。

 

「ねえ、あれだったりする・・・?」

 

ひなたが指を指した方向に、設楽がそこに視線を向ける。

 

「おう、あれだあれだ・・・っ!?」

 

設楽が円状のステージの向こう側にあるそれに近づこうとするが、設楽はそれを見て絶句する。まだ色をなくしていない白塗りの建物があるのがここにあるはずなのだが・・・。

 

「なんだこりゃ・・・ 俺の拠点が壊されちまってる・・・!?」

 

彼らの目の前に立っていたのは変わり果てた建物の姿だった。全体的に潰れてしまっており、とても中には入ることができなくなっている状態だ。

 

ビィィィィィィィィィィ!!!!

 

チュドォォォォォォォォォン!!!

 

さらに白と黒のイバラビーム、黒い雷撃、白いビームが発射され、のどかたちの背後にある下水道への入り口を直撃して、誰も入れないように破壊された。

 

「あっ、入り口が・・・!」

 

「うぇぇ!? なんで!?」

 

声を発したのどかとひなたを始め、動揺する一同。そんな彼らの元に嘲笑う声が響いた。

 

「しぶとく生きてたわねぇ、プリキュアと設楽先生」

 

街路樹の木の上で右手を広げながら言うのはクルシーナ。

 

「もう死んでるかと思ったの。でも、あえて万々歳なの」

 

そして、ビルのそばから出てきたのはイタイノン。

 

「もう逃がしませんよ。私たちを手こずらせた罰として、全員まとめて病気に蝕んであげますよ」

 

イタイノンとは反対側の木の陰から現れたのはドクルン。

 

三人娘が三方向から現れ、プリキュアと設楽を囲むようにして立っていたのであった。

 

「くっ・・・どうしてここが?」

 

「あなたの拠点をアタシらが補足できないと思ったんですかぁ? ここは今、私たちの世界です。あなた方、人間の生気など手に取るようにわかるんですよ」

 

「つまり、お前の居場所なんかとっくにわかってたの」

 

「アジトなんかに隠れてアタシらの目をやり過ごせてると思ってたわけ? バカね。ここはもう死の世界なのよ。生きている人間がいればわかるに決まってんじゃない。残念だったわね」

 

憎い仇を見ているような顔をしている設楽に、三人娘がが不敵な笑みを浮かべて答える。

 

こいつらは最初から設楽の居場所をとっくに補足していた。自分たちで意図も簡単に探せるのに、あえて怪物に探索をやらせていたのだ。この残酷な奴らは、俺らや怪物をおもちゃにして遊ぶために・・・。

 

完全にはめられた・・・!! 設楽は最初からなんで気づかなかったと心の中でクソッタレと自分を罵った。

 

そんな中、設楽の前に立ったのは3人のプリキュアとヒーリングアニマルたちだった。

 

「お嬢ちゃんたち・・・!!」

 

「設楽先生は下がっててください! ここは私たちが!!」

 

設楽先生を下がらせて、3人はビョーゲンズに立ち向かおうとしていた。

 

「あら? アタシらとやろうっての? お前らのようなひ弱な小娘ごときが?」

 

クルシーナが嘲笑うかのような言葉を吐く。

 

「やるよ!! 私たちは、何度だって!!」

 

「この体が倒れたって、お手当てを諦めないという気持ちは変わらないわ!!」

 

「ラテも、エレメントさんも、頑張ってくれてるんだし! あたしたちは最後まで戦うよ!!」

 

3人は三人娘の言葉では揺るがなかった。お手当てを諦めたくない、諦めるわけにはいかない・・・その気持ちがあれば、その思いは届くはず・・・!!

 

三人娘は3人の言葉を聞いても、表情を全く変えようとせずに、不敵な笑みを浮かべている。

 

「へぇ・・・じゃあ、やってもらおうじゃない」

 

クルシーナがそう言ったことを合図に三人娘が上空を見上げると、3体のメガビョーゲンが姿を現した。

 

「大丈夫なの? メガビョーゲン、だいぶ育ったけど・・・?」

 

イタイノンの言葉は気遣いではなく、見下しの言葉。要するに3人をバカにしているのだ。

 

「散々逃げ回ってたのに勝てるんですかぁ?」

 

ドクルンはメガネをずらしながら、ニヤリとした笑みを浮かべた。

 

3人は自分たちよりも遥かに大きいメガビョーゲンたち、三人娘の言葉に物怖じすることなく、ヒーリングステッキを構える。

 

「みんな、いくよ!!」

 

「ええ!」

「うん!」

「ラビ!」

「ペエ!」

「ニャ!」

 

「「「スタート!」」」

 

「「「プリキュア、オペレーション!!」」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

 

「「「キュアタッチ!!」」」

 

ラビリン、ペギタン、ニャトランがステッキの中に入ると、のどか、ちゆ、ひなたはそれぞれ花のエレメントボトル、水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

そして、肉球にタッチすると、花、水、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、水色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ちゆは水色、ひなたは黄色へと変化する。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「「「地球をお手当て!!」」」

 

「「「ヒーリングっど♥プリキュア!!」」」

 

こうして、3人が変身した『ヒーリングっど♥プリキュア』が揃い踏みしたのであった。

 

「やっとプリキュア3人が揃いましたねぇ・・・」

 

「まさに、この時を待ってた感じ、なの」

 

「じゃあ、こっちも3体ようやく揃ったことだし、ドクルン、イタイノン、もっと悪化させてみようか・・・!」

 

「フフ・・・」

「キヒヒ」

「ふん・・・」

 

三人娘はこれまでとは比べ物にならないほどの笑みを浮かべると、それぞれ上空にいるメガビョーゲンに向かって右手を突き出した。

 

「「「融合しろ、メガビョーゲン!!」」」

 

「メガー・・・」

「メガー!!」

「メーガー・・・!」

 

三人娘がそう叫ぶとメガビョーゲンはそれぞれ声を発した後、ある変化をし始める。

 

ガシャン! ガシャン!

 

まず、イタイノンのメガビョーゲンが頭のプロペラを収納し、縦から二つにそれぞれ分かれると黒い3本の爪とプロテクターを身につけたような手のようなものへと変形する。

 

ガシャン! ガシャン! ガシャン!

 

次にドクルンのメガビョーゲンは、頭の中央が正方形のように分離すると中に収納し、中央から管を90度回転させた後にその管と管の間をひし形になるように開くと、まるで腰から足の下半身になったかのように変形した。

 

さらにクルシーナのメガビョーゲンは左右と下から出ているトゲのような触手を中に収納する。

 

ジジジジジジジジ・・・ガシャン! ガシャン!

 

そして、クルシーナのメガビョーゲンに、両腕になったメガビョーゲンと下半身になったメガビョーゲンが電撃的な力によって吸いつけられてくっつくと・・・。

 

「メガビョーゲン!! メガー!!」

 

まるで鎧を着込んだかのようなロボットの形をしたメガビョーゲンが誕生した。不健康そうな顔の目は赤色になっていて凶悪さが増しており、3体のメガビョーゲンが合体したためか力が融合して、ダルイゼンが生み出したメガビョーゲンの倍以上の大きさと化している。

 

「「メ、メガビョーゲンが・・・!?」」

 

「合体した・・・!?」

「合体したペエ・・・!?」

 

「えぇ!? そんなのアリなの!?」

 

「しかも、さっき森で浄化したメガビョーゲンと比べ物にならない大きさニャ!!」

 

プリキュア3人は動揺を隠せない。今までだって、こんなことができるメガビョーゲンは見たことがない・・・!

 

「やりました・・・やりましたよ,、二人とも・・・!!」

 

「へぇ・・・メガビョーゲンってあんなこともできるんだ・・・?」

 

「ちょっとワクワクしたの・・・! あんなメガビョーゲン、興奮するの・・・!」

 

興奮するドクルンを尻目に、クルシーナは興味深そうに合体したメガビョーゲンを見やり、イタイノンは不敵な笑みを隠さない。

 

「あれこそが、地球を病気で蝕む私たちのお父さん、キングビョーゲンの先触れ・・・混沌と蔓延のメガビョーゲン・・・! 素晴らしいですねぇ・・・!!」

 

ドクルンは興奮と笑みを隠しきれない。おそらく今の彼女を見れば、とてつもないほどに目を輝かせているだろう。

 

「メガビョーゲン!!!」

 

ドォォォォォォォォォォォォォン!!!

 

「「「きゃあぁ!!」」」

 

メガビョーゲンは叫び声と同時に周囲が震えるほどの凄まじい咆哮を放ち、プリキュアたちは吹き飛ばされそうになるも、地面に手をついて踏ん張る。

 

「な、何、あの力・・・?」

 

「パワーが桁違いすぎる・・・!」

 

「っていうか、いきなり飛ばしすぎだし・・・!」

 

あまりの凄まじいパワーに驚く3人。しかし、もっと驚くべき事態が・・・!

 

「え、う、うわぁぁぁぁ!?」

 

グレースが立ち上がろうとして、足を滑らせて倒れそうになる。彼女はうまく足を踏ん張って転倒を防ぐ。

 

「何ともなかった地面が痛んでるラビ・・・!?」

 

「っていうか・・・!」

 

「この街一帯がほとんど病気で蝕まれてるニャ!!」

 

ヒーリングアニマルたちはいつの間にか赤くなっていた地面に驚きを隠せず、しかも、この広場一帯や街一帯、そして森に至るまでの広範囲に渡っての場所が病気に赤く染まっていた。その範囲は半径1キロメートルぐらいだろうか。

 

「う、嘘、全部あいつがやったの・・・!?」

 

「このメガビョーゲン、相当強いわ・・・!」

 

衝撃波だけでも力の凄まじさを思い知らされるプリキュアたち。しかし、こんなことで怯んでいるわけにはいかないと、3人はステッキを片手に前に出る。

 

「あのメガビョーゲン、強すぎじゃない?」

 

「さすがの私も引いたの・・・」

 

「当たり前じゃないですか。お父さんの先触れなんですから」

 

クルシーナやイタイノンには想像以上の強さに驚いていた。ドクルンはまるで当然みたいな言い草だったが・・・。

 

「でも、浄化しないと! 私たちは諦めないって決めたんだから! 行くよ!!」

 

グレースの言葉に他の2人も頷くと、3人は一斉に飛び上がってそれぞれの色の光線を放つ。

 

「メガー!!」

 

メガビョーゲンは光線をまるで受け付けていないようで、逆に口から倍以上の量の病気を吐き出してきた。

 

「うわあぁ!」

「きゃあぁ!」

 

「メガー!!」

 

当たりそうになったフォンテーヌとスパークルは間一髪で交わす。さらに、メガビョーゲンは右腕の片方を操るようにグレースへと振るった。

 

「ああぁ!!」

 

グレースは肉球型のシールドを展開するも、強力な爪攻撃にシールドごと吹き飛ばされる。グレースは空中で態勢を立て直すと近くにあったビルを蹴って飛ぶ。

 

フォンテーヌとスパークルも、一旦地面に着地をした後に飛び上がり、グレースと並ぶ。

 

「「「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

そして、3人は体を一回転させて、メガビョーゲンの顔に目がけて飛び蹴りを放った。

 

「メガー!!」

 

メガビョーゲンは両腕をクロスさせて。3人の飛び蹴りを防ぐ。

 

「ビョーゲン!!」

 

「「「ああぁぁ!?」」」

 

力は押し合うと思われたが、メガビョーゲンはいとも簡単にクロスした腕を振り払って3人を弾き飛ばした。

 

吹き飛ばされた3人はそれぞれ地面へと着地する。

 

「な、何なのアイツ・・・!?」

 

「全然攻撃が通用してないニャ!!」

 

「力の差が、ありすぎる・・・!」

 

「あの鎧のせいで攻撃が全く通ってないペエ・・・」

 

あまりの防御力にぼやくスパークルとフォンテーヌ。メガビョーゲンは攻撃を蚊に刺されたとも思っていないような有様だ。

 

「考えずに戦ったらまた同じことになるだけラビ・・・!!」

 

「一体、どうしたら・・・?」

 

グレースはあまりの強さに動揺を隠せない。このまま策を講じずに戦ったところで結局は森で戦ったメガビョーゲンと同じようにボロボロにされるだけ・・・。

 

「メガビョーゲン!!」

 

そんなことを考える間も無く、メガビョーゲンは胸の装甲を開くと斜め上に白と黒のトゲが生えている赤い玉のようなものを打ち上げる。玉が飛んでいった先はもちろん立っているプリキュア3人の元。

 

ヒュゥ~・・・ドォォン! ドーン! ドォォォォン!

 

「うわあぁぁぁぁ!!」

 

「くっ・・・!」

 

玉は地面に着弾すると爆発を起こして草木が急成長するかのように閃光が上がり、プリキュア3人は飛び上がる。

 

「メーガー!!」

 

「「「きゃあぁ!!」」」

 

その行動を読んでいたかのようにメガビョーゲンは巨体を回転させて突っ込んできた。吹き飛ばされて地面に叩きつけられる3人だが、立ち上がってメガビョーゲンへと向かっていく。

 

「うぅぅ、あの体当たりも結構重いんだけど・・・!?」

 

スパークルがこれまでのメガビョーゲンと力の差を感じてぼやく。なんだ、これは。川でお手当てをしたメガビョーゲンのパンチよりも強力じゃん・・・!

 

3人とも体のあちこちにあっという間に傷ができていた。これではメガビョーゲンを浄化する前に身が持つかどうか・・・。

 

「そうペエ! 動きを止めることさえできたら・・・!」

 

「そうね! 氷のエレメント!」

 

ペギタンの提案に賛同したフォンテーヌは氷のエレメントボトルをステッキにはめる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

フォンテーヌはステッキから氷をまとった光線をメガビョーゲンに向かって放つ。

 

「メ、ガ・・・」

 

下半身に光線を受けたメガビョーゲンは下からゆっくりと氷漬けになっていき、最終的に全体が凍り付いた。

 

「やったペエ!」

 

「いいよー! フォンテーヌ!」

 

「メガビョーゲンの動きを止めたぜ!」

 

「よし、このまま一気に・・・!」

 

メガビョーゲンの動きを止めることができた。少しは希望が見えてきた。このままいけばこのメガビョーゲンを浄化できる・・・!!

 

・・・しかし、このメガビョーゲンの本当の恐ろしさを知ることになるのはここからだった。

 

ピキッ、ピキッ・・・

 

「「「!?」」」

 

氷漬けになっているメガビョーゲンの氷にヒビが入り始める。嫌な予感を感じるプリキュアの3人。

 

「え・・・まさか・・・?」

 

「う、嘘、だよね・・・?」

 

グレースとスパークルが戸惑いの声を上げる中、メガビョーゲンの氷は音を立ててヒビが入っていく。

 

ピキピキ、ピキピキピキピキ・・・!

 

「メガー!!」

 

氷全体にヒビが入り込み、メガビョーゲンの声が聞こえてきたと思うと・・・。

 

パリーーーーンッ!!!!!!

 

メガビョーゲンは中から氷を打ち砕き、体を分裂させた。

 

ハートの枠のような胴体、プロペラへと戻った両腕、下半身の3パーツに分かれてプリキュアたちに襲いかかる。メガビョーゲン特有の不健康そうな顔は胴体にのみ出ている。

 

「そ、そんな・・・!?」

 

「えぇぇ!? 嘘でしょ!?」

 

「3つに分かれた・・・?」

 

グレースはメガビョーゲンが3つのパーツに分かれたことに戸惑っていたが、いちいち驚いている場合ではない。すぐに敵は襲ってくるのだから、次の手を考えなければ・・・。

 

「お、驚いている場合じゃないラビ!!」

 

「3つ分かれたから、1つずつ相手をするペエ!」

 

「分かれたってことは、力も分散してるはずニャ!!」

 

プリキュアの3人はお互いに頷くと、それぞれのパーツに分かれたメガビョーゲンを処理しようとする。

 

スパークルはプロペラへと戻った両腕、フォンテーヌは下半身部分、グレースはハートの枠のような胴体を処理しようとする。

 

「はぁ!!」

 

スパークルはプロペラのパーツに黄色い光線を放つ。パーツは聞いているかのようにビクビクと動きを見せる。

 

「よし! 手ごたえがあるぞ!!」

 

「はあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

スパークルは動きのにぶったプロペラにパンチを繰り出す。パンチを受けたプロペラはクルクルと縦に回転しながら吹き飛ぶも、すぐにプロペラの刃を下にして高速回転させるとスパークルに向かって体当たりをしてきた。

 

「!? うわあぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

スパークルは空中でとっさに避けて地面に着地するも、プロペラはまるでブーメランのようにこちらへと戻ってくる。

 

「戻ってきたぞーーー!!??」

 

「いぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?」

 

スパークルは戻ってきたプロペラを必死で避ける。

 

一方、下半身はピョンピョンと大きく跳ねまわり、フォンテーヌはその動きに翻弄されて攻撃のタイミングを掴めずにいた。

 

「くっ・・・!」

 

「動きが読みづらいペエ・・・」

 

フォンテーヌは下半身を目で追いながら攻撃の機会を伺っていた。

 

その時、メガビョーゲンが自分の上を飛び越えようとしているのが見えた。

 

「そこよ! ふっ!」

 

フォンテーヌは青い色の光線を下半身に放つ。食らったような反応を見せると、下半身は180度体を回すと縦に一回転して爪のように振るってきた。

 

「ぷにシールド!! うぅ!」

 

肉球型のシールドを展開して爪攻撃を防ぐも、背後へと3メートルぐらい押される。

 

「強い・・・!」

 

「パーツに分離しても力はかなりあるペエ・・・!」

 

下半身に力の強さを感じるフォンテーヌ。やはり成長している分、パーツに分かれたとしても強力になっていることは変わらない。

 

そんなことを考えているうちに、下半身は2本の爪の先から赤い水をジェット噴射のように放つ。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

フォンテーヌはそれを飛び上がってかわすと、下半身に向かってその勢いのまま飛び蹴りを放った。

 

そして、グレースは大きなハートの枠の胴体のようなパーツを相手にしていた。

 

「はぁぁぁぁ!!!」

 

ハートの枠の胴体に蹴りを入れるグレース。しかし、全く効いている様子はなく、むしろグレースの足の方が参りそうだった。

 

「うっ・・・固い・・・!」

 

「グレース、大丈夫ラビ!?」

 

「メガー!!」

 

「!? ぷにシールド!!」

 

足に感じる痛みに涙目になりそうになるも、その間にメガビョーゲンはハサミのついたトゲのような触手をこちらに振るってきた。

 

グレースは肉球型のシールドを展開して触手を防ぐが、そこへメガビョーゲンがスピードを上げて突っ込んできた。

 

「メーガー!!」

 

「ああぁぁぁ!!」

 

メガビョーゲンの体当たりを受けて吹き飛ばされるグレース。しかし、すぐに態勢を立て直して近くの電柱を踏み台にして蹴り、メガビョーゲンへと飛んでいく。

 

「実りのエレメント!」

 

グレースはステッキに実りのエレメントボトルをセットすると、ステッキの先からピンク色の光の刃を作り出す。

 

そして、飛んだ勢いのままメガビョーゲンへと向かっていく。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

グレースはステッキを横へと振るい、斬撃を放つ。メガビョーゲンは攻撃が効いているかのようによろけた。

 

「よし・・・!」

 

「メガビョーゲンがよろけたラビ!」

 

メガビョーゲンをようやく怯ませたことに希望が見えたように感じるグレース。その勢いのままパンチを喰らわせようとするが・・・。

 

「メーガー・・・!!!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

メガビョーゲンは体を回転させてグレースを弾きとばし、さらに胸の装甲から白と黒のトゲが生えている赤い玉のようなもの無差別にばらまく。

 

「うぅぅ、あぁ!?」

 

ドォォン! ドーン! ドォォォォン!

 

草木が急成長するかのように閃光が上がり、グレースは爆発に吹き飛ぶ。

 

「うぇぇ!? うわあぁぁぁ!?」

 

ドーン!ドォォン!ドォォォォォン!!

 

「な、なんでこっちに!? あぁぁぁ!?」

 

しかも、スパークルとフォンテーヌの赤い玉が飛んできており、パーツに集中していたせいもあって避けきれずに爆発に巻き込まれてしまう。

 

「うおぉ!?」

 

凄まじい爆発にプリキュアとメガビョーゲンの戦闘を見ていた設楽は思わず、腕で目を覆う。

 

「なんて野郎だ・・・ここ一帯を吹っ飛ばす気か!?」

 

設楽は憎々しげに吐き捨てる。あの怪物はよくわからないが、これだけはわかった。

 

ーーーープリキュアの小娘3人と、あの怪物、力に差がありすぎる・・・! プリキュアたちは完全に怪物に遊ばれている。

 

そう悟った設楽は見ているしかない自分に、不甲斐なさと苛立ちを感じるのであった。

 

「うぅぅ・・・うぅぅぅぅ!!」

 

「くっ・・・うぅぅ・・・!!」

 

「ぐ、うぅぅぅ!!!」

 

プリキュアたちは傷つきながらも立ち上がって、メガビョーゲンに立ち向かっていく。

 

「はぁぁ!!」

 

スパークルは黄色の光線をプロペラのパーツへと放つが、プロペラは光線をヒラリとかわすと縦に一回転して3枚の羽のプロペラを爪のように曲げると、そこから黒い雷撃を放った。

 

「あぁぁ!?」

 

スパークルは黒い雷撃を交わすも、その攻撃が向かった先はグレースがいた。

 

「グレース! 危ない!」

 

「えっ・・・きゃあぁ!?」

 

スパークルが叫んだおかげでグレースは気づいてかわすことができたが、黒い雷撃が向かった先はハートの枠の胴体部分であり、胸の装甲を開いて黒い雷撃を受け止める。すると一本の雷のような線ができて、胴体が体を回転させると、プロペラは円を描くように回転させ始めた。

 

「!?」

 

「あれに当たったら危険ラビ!!」

 

「うぇぇ!? ちょ、ちょっとちょっとぉ!?」

 

円を描くように回転させたことで黒い雷撃が迫っていき、グレースとスパークルはたまらず逃げ出す。

 

「あの雷、私の攻撃、なの?」

 

その様子を見ていたイタイノンは感心したように眺めていた。まさか、自分の力を使うようなメガビョーゲンがいるとは・・・。

 

「当たり前じゃないですかぁ・・・何故ならあれは私たち3人のメガビョーゲンなんですからぁ」

 

ドクルンはメガネを上げながら、ニヤけた顔で言う。

 

「フフフ・・・・・・」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべていた。メガビョーゲンの中にいる、あるものの様子を見て何かを確信したように察していて・・・。

 

「二人がピンチペエ!!」

 

「でも、こっちも攻撃が激しくて・・・!」

 

フォンテーヌは二人の元へと駆けつけようとするが、下半身のパーツが繰り出す爪攻撃を防ぐので精一杯で身動きが取れない。

 

「ひぃぃぃぃ! 追いつかれるぅぅ!!」

 

「なんとかしないと・・・!」

 

グレースとスパークルに一本の雷が迫ってくる。二人は当たりそうになる直前で飛び上がって雷を交わすが、それを狙っていたかのように帯電を終わらせると、ハートの枠のメガビョーゲンが胸の装甲を二人に向けて赤黒い何かを溜め始めた。

 

「え、あれって・・・?」

 

「めっちゃヤバイ奴じゃ・・・?」

 

「メー・・・ガー!!!」

 

グレースとスパークルがそう言った直後に、メガビョーゲンは胸の装甲から二人に目掛けて極太の白と黒のイバラのようなビームを放つ。

 

ドォォォォォォォォォォォン!!!

 

「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

二人にビームが直撃し、散らばるかのように地面へと落ちていく。

 

「グレース! スパークル!!」

 

二人に気を取られたフォンテーヌは、下半身のパーツが2本の爪先から放った白い光線に気づくことができず、足元を凍らされてしまう。

 

「し、しまった・・・!」

 

フォンテーヌは足を動かそうと足掻くが、その隙をついた下半身のパーツが縦に一回転させて蹴り上げるかのように攻撃を繰り出す。

 

「あぁ!!」

 

攻撃を食らったフォンテーヌは上空へと蹴り飛ばされ、そこへプロペラから両腕へと変形したパーツがグーのような形をすると彼女へと突っ込んだ。

 

「きゃあぁ!!」

 

直撃を受けたフォンテーヌは二人とは反対方向へと吹き飛ばされ、地面へと叩きつけられる。

 

3人を打ち負かしていく3つのパーツは再び合体し、ロボットのような形へと戻る。

 

「メガビョーゲン!!」

 

咆哮をあげるメガビョーゲンに、すでに傷ついてボロボロの3人は諦めずに震える体を奮い立たせて立ち上がり、向かっていこうとする。

 

「メガー!!!」

 

そんなプリキュアたちにメガビョーゲンは顔を上にあげると口から赤い病気を上空へと噴射する。すると、赤い色のイバラのような光線が黒い電撃を纏いながら、まるで隕石のように降り注いできた。

 

プリキュアたちは肉球型のシールドを展開させながら、メガビョーゲンへと向かっていく。

 

ドーン! ドォォォン! ドドォォォォン!! チュドォォォォン!! ドドンドン!! ドォォォォォォン!!!

 

着弾して大爆発を起こしたことによって煙が舞い上がり、地上が見えなくなっていく。ようやく降り注ぐ赤い色のイバラが治まると、煙が晴れていき、そこにはボロボロになって突っ伏しているプリキュアたちの姿だった。

 

「うぅぅ・・・」

 

「くっ・・・ぅぅ・・・」

 

「あぁ・・・ぁぁ・・・」

 

プリキュアの3人は諦めずに立ち上がろうとしていたが、メガビョーゲンはこちらに向かってくるのを許さない容赦ない攻撃を仕掛けようとする。

 

「メガメガメガメガメガメガ、メガッ!!!」

 

ドォン!! ドォン!! ドォォォォォォォン!!!

 

「「「あぁぁぁぁ!!」」」

 

胴体を回転させて短めの赤いレーザーを無差別に乱れ打ちをし、地面に着弾して爆発に巻き込まれて吹き飛ばされるプリキュアたち。

 

それでもなお、立ち上がろうとするが、メガビョーゲンは赤いマフラーのような不気味な紐を胸と両腕から放ち・・・。

 

「あぁ・・・!?」

 

「ぐっ・・・!?」

 

「ぐぇっ・・・!?」

 

プリキュア3人の首に巻きつけた。赤いマフラーはキリキリと音を立てていく。

 

「ぐ・・・うぅぅ・・・!」

 

「くっ・・・ぐっ・・・!」

 

「うぅぅ・・・ぐぅぅ・・・!」

 

赤いマフラーに首を絞められ苦しむ3人。両手をかけて外そうとしているが、これまでに蓄積したダメージのせいか力が入らず、ビクともしない。

 

「お嬢ちゃんたち・・・!!」

 

それを見ているしかない設楽は3人の無残な姿を見て、動揺した様子を見せる。

 

そんな彼女たちの一人、グレースの背後にクルシーナがゆっくりと降りてきた。

 

「もう諦めたら? お前らじゃ敵いやしないんだから」

 

「ぐぅっ・・・ま、だ・・・あぁぁ・・・!!」

 

クルシーナの嘲るような言葉に、グレースは抵抗しようとするが、メガビョーゲンに赤いマフラーを引っ張られ地面へと倒される。

 

「あぅ・・・うぅぅぅ・・・!!」

 

「くぅぅ・・・うぅぅぅ・・・!!」

 

フォンテーヌとスパークルも赤いマフラーに引っ張られて地面へと倒されており、足を捩らせてもがいていた。

 

さらにフォンテーヌの前にはドクルン、スパークルの前にはイタイノンが降りて近づいてくる。

 

「抵抗などして何になるのですか? そんなの苦しいだけでしょうに」

 

「ぐっ・・・ふっ・・・うぅ・・・」

 

ドクルンの言葉に、フォンテーヌは呻き声を上げながら睨みつけている。

 

「大して強くないのに出しゃ張るからそうなるの。無駄に見苦しいだけなの」

 

「んっ、ぅぅ・・・苦、し・・・ぐ、うぅぅ・・・!!」

 

イタイノンが冷たい言葉を吐くが、スパークルは首にかかる苦しさに反応しきれていない。

 

「大体お前ら、ちゃんとあいつらを見なよ。無駄な努力になるだけだぜ?」

 

「ぐぅぅ・・・え・・・?」

 

クルシーナのメガビョーゲンの方を向きながらの意味深な発言に、グレースは苦しさを忘れて耳を疑う。

 

クルシーナが言うあいつらというのは、エレメントさんのこと。そしてそのあとの、無駄な努力という言葉・・・。

 

「ま、まさ、か・・・」

 

「また、ラビ・・・?」

 

グレースはマフラーを掴んでいた両腕を一旦離し、苦痛で震える手を必死に動かしてステッキの肉球を一回タッチして、ラビリンの顔をメガビョーゲンへと向ける。

 

「「キュアスキャン・・・」」

 

ラビリンの目が光り、メガビョーゲンの中の花のエレメントさん、水のエレメントさん、光のエレメントさんの3人のエレメントさんが右肩、左肩、胸の部分にそれぞれいるのを見つける。しかし、3人ともすでに意識がなくなっていて、体はすでに薄く透けている上にノイズが走っていて、すぐにでも消滅してしまいそうな感じだ。

 

「そんな・・・エレメントさんが・・・!」

 

「もしかして、遅かったペエ・・・?」

 

「嘘だろ・・・!? あんな状態なんて・・・!!」

 

ラビリンたち、ヒーリングアニマルはエレメントさんの姿を見て絶句し、瞳をうるうると潤ませる。彼らはエレメントさんのあの状態を知っていた。だからこその、この反応だ。

 

「どうした、の、ラビリン・・・?」

 

「ぐっ・・・一体、エレメント、さんたちに、何、が・・・?」

 

「消え掛かってる、けど、助ければ、いいんじゃ、ない、の・・・?」

 

プリキュアの3人は自分の相棒たちの反応がいまいちわからなかった。あのような状態であれば、まだメガビョーゲンから救い出せるはず、それなのになぜラビリンたちは絶望的な表情をしているのか?

 

そんなヒーリングアニマルたちの反応の意味を説明するかのように、クルシーナがクスクスと笑い出す。

 

「フフフ・・・お前らのお供は、あの状態がわかってるみたいね」

 

「ど、どういう、こと・・・?」

 

「ぐっ・・・エレメント、さんに、何が・・・?」

 

「説明、してよ・・・ニャト、ラン・・・!」

 

プリキュアの3人はそう声を絞り出すと、クルシーナはさらに笑い出した。

 

「アッハハハハ! まだわかんないわけぇ? お前らってホントバカね」

 

クルシーナは何もわかってない3人を嘲笑すると、メガビョーゲンに指をさす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつらはなあ、もう死んだも同然なんだよっ!!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第32話「喪失」

前回の続きです。
納得がいかない人がいるかもしれませんが、これがとあるキャラクターの結末です。


 

「エ・・・エレメント、さんたちが・・・」

 

「し、死んで、る・・・?」

 

「う、そ、でしょ・・・? 」

 

クルシーナの衝撃的な一言を聞かされた、プリキュアの3人は呆然とメガビョーゲンを見ていた。

 

エレメントさんが、死んでいる・・・?

 

だから、あんなに透けていて、もう意識が消失していて、今にも消えてなくなりそうになっているのか? 3人は信じられなかった。

 

「そうよ。だから、お前らがいくらアタシらに立ち向かったって無駄な努力ってこと」

 

「私たちのメガビョーゲンが蝕んだ場所はもう私たちのものってことですねぇ」

 

「私たちを手こずらせた報いが来たの。いい気味なの」

 

三人娘はそれぞれ勝手な言葉を吐き、プリキュアの心理を煽る。お手当てをしても、死の大地はそのままであるということを教えてあげるために。

 

「そん、な・・・私、たち、は、守れな、かったの・・・?」

 

「嫌、だ・・・そんな、の、嫌だよ・・・!」

 

彼女たちに現実を突きつけられたフォンテーヌとスパークルは力が抜けそうになっていた。メガビョーゲンを見つめるその表情は絶望に染まりかけていた。

 

「ま、だ・・・まだ、だよ・・・私、たちが、なんとか・・・すれ、ば・・・」

 

一方、グレースはまだ諦めていなかった。メガビョーゲンの赤いマフラーのようなものを外そうと両腕に力を込め、首を振りながらもがいていた。

 

その様子は三人娘にとっては、どう見ても現実を受け入れていないようにしか見えない。

 

ギュゥゥゥゥゥ!!

 

「ぐぅぅ・・・が・・・あ・・・!」

 

暴れるグレースを鬱陶しく感じたのか、赤いマフラーを強く絞めて首を圧迫する。グレースは苦しさから声を上げ、表情を苦痛に歪ませる。

 

「見てわかんないわけ? あいつらがあんな状態になってるのに、まだそんなことが言えるなんて、本当に頭ん中沸いてるんじゃないの?」

 

クルシーナがやれやれと呆れたような素振りをしながら、嘲笑の言葉を吐く。

 

ギュゥゥゥゥゥゥ!!!

 

「あぁ・・・は、ぁ・・・!」

 

「か、は、ぁぁ・・・ぁ・・・!」

 

フォンテーヌとスパークルも締め上げられて、苦しみの声を上げる。

 

「本当は病気で苦しんでる方がいいんだけど、まあ、これはこれでいいわね」

 

クルシーナはクスクスと笑い出すと、グレースへと近づいていく。そのグレースは足を捩らせながら、首にかかった赤いマフラーを外そうともがいている。

 

「そういえば、私が植え付けた氷はどうなっているんでしょうかねぇ?」

 

「私もすっかり忘れていたの。でも、結構育っているはずなの」

 

ドクルンとイタイノンも何かを思い出したようにそう言いながら、フォンテーヌとスパークルへと近づいていく。

 

「フォンテーヌ!!」

 

「く、うぅ・・・んぁ・・・ぁ・・・」

 

「大丈夫です。すぐに楽にしてあげますから」

 

ドクルンは頬を赤くして苦しむフォンテーヌの体を抱きとめるとそのまま右手を彼女の体に突っ込もうとする。

 

「スパークル!!」

 

「ぐっ、ぅぅ・・・あっ・・・!」

 

「痛みなんか一瞬ですぐに終わるの」

 

イタイノンは苦しむスパークルの上に馬乗りになって、両手を体にかけようとしていた。彼女の額に汗が滲む。

 

「ぐぅぅ・・・わた、し、は・・・ま、だ・・・あぁ・・・!」

 

「もう終わりなんだよ、見苦しいやつめ。いっその事、苦痛しか考えられないようにしてやるよ」

 

クルシーナは、マフラーを外そうと足掻いているグレースの胸のあたりに蹴るように足を置く。彼女の頬はすでに赤くなっていた。

 

そして、右手に赤いオーラを纏わせると彼女の心臓あたりに触れようと手を伸ばしていく。

 

「ぐぅぅ・・・ぁぁ・・・ぁぁ・・・」

 

「グレース!!」

 

「フフフ・・・」

 

苦しむグレースに、クルシーナが伸ばしてくる手が迫る。このまま、グレースも彼女の手にかかる・・・。

 

・・・・・・そんな時だった。

 

「やめろぉ!!!!」

 

突然この場に聞こえた男の声に、三人娘は動きを止めた声へと振り返る。

 

その声はプリキュアと怪物の戦いを見守っていた設楽だった。

 

「来栖!! 相手を苦しめたところでお前の病気は完治しないぞ!!」

 

「あぁ?」

 

「毒島!! 寂しいなら俺がそばにいてやる!!」

 

「・・・なんですか?」

 

「板井!! 他人を傷つけてもお前の気は晴れはしねぇ!!」

 

「・・・・・・」

 

設楽は三人娘の名前を叫んでいるようだが、その言葉に彼女たちはそれぞれ不快感をあらわにする。

 

「お前ら!! 調子が悪いんだったら、俺が診察してやる!! だから、そいつらをこれ以上傷つけるのはやめろ!!」

 

設楽は三人娘に向かって叫ぶ。

 

顔色こそよくないが、彼女たちは俺の大事な患者だ。昔は諦めたこともあったが、コスプレをして怪物と戦っているお嬢ちゃんたちの声を聞いて諦めないことをやめた俺なら彼女たちを救えるかもしれない。

 

しかし、設楽の言葉は三人娘の怒りや憎しみを煽っただけだった。

 

「!? ぐあぁ!!」

 

クルシーナはその場から姿を消すと、設楽の目の前に現れ、彼を右手で突き飛ばした。そして、倒れた彼に近づいて背中を思いっ切り踏みつける。

 

「設楽、先生・・・!!」

 

設楽が攻撃されてしまい、グレースが叫ぶ。

 

「患者も一人治せねぇやつが何をほざいてんだよ、ヤブ医者ごときが。知ったようなことを言って、アタシらを気遣おうとしてるつもりなわけ? バカにすんのもいい加減にしろ」

 

クルシーナが憎しみにも近い怒りの言葉を吐く。その表情は不機嫌を通り越して冷たく見下げたようなものであった。

 

「設楽先生、この街がこうなったのはあなたと、その他大勢のヤブ医者共が原因でしょう。すでに過ぎたことを今さら掘り返して偽善者ぶろうだなんて、論理的でないにも程があるんですよ」

 

ドクルンはいつも以上に冷たい表情で吐き捨てる。

 

「お前がそんなことを言ったところで、のこのこと生きてるお前が気にいらないの・・・! お前みたいなやつがいる限り、地球なんか永遠に病気になっていたほうがいいの・・・!!」

 

イタイノンは黒いオーラを漂わせながら、怒りの形相で設楽の言葉を吐き捨てた。

 

「お、俺は・・・お前ら、を・・・!」

 

「まだなんか言うわけ? お前が何か言って、アタシらが心変わりするとでも思ってんの?」

 

声を振り絞ろうとする設楽が何かを言う前に、クルシーナが切り捨てる。どうせ、アタシらをどうのこうの言うつもりなのだろう。先に言っておいた方が現実を突きつけられるだろう。

 

「大体、来栖って誰?」

 

クルシーナの質問を聞いて設楽は驚愕する。こいつ、まさか・・・?

 

「お、お前の・・・お前の名前、だろうが・・・!」

 

「はぁ? アタシはビョーゲンズのクルシーナだ。そんな名前で呼ばれた覚えなんか一度もねぇよ」

 

そんなクルシーナはドクルンとイタイノンの方を振り向く。

 

「お前らもそんなダサい名前で呼ばれてたんだっけ? 毒島とか、板井とか」

 

「さあ、覚えがありませんねぇ? 私はビョーゲンズのドクルンのはずですが?」

 

「イタイノンはそんな名前、呼ばれたことも、聞かれたこともないの。こいつのおかしな妄想じゃないのか? なの」

 

ドクルンもイタイノンも首をかしげながら言葉を返す。

 

「まあいいわ。こいつが何にもわかってない自惚れ屋だってことがわかったしーーーー」

 

「な、なんで・・・」

 

「ん?」

 

クルシーナの言葉を遮るかのように、設楽が苦しげに言葉を絞り出す。

 

「な、なんで・・・お前ら、は・・・こんな、ことを・・・?」

 

設楽が出した言葉は、なぜ自分たちの街をこんな風にめちゃくちゃにしたのかという問いであった。

 

クルシーナはそれを聞くとふんとバカにしたように鳴らした。

 

「決まってるじゃない。アタシらはその方が居心地いいからよ。むかつくヤブ医者共を苦しめて、大嫌いな街を苦しめて、みんなみんな苦しめて、地球の快適な環境を苦しめてしまえば、アタシらにとっては楽園そのものなのよ」

 

「うぅぅ・・・!?」

 

苦しむグレースはクルシーナの言葉を聞いてハッとする。その言葉は同じくビョーゲンズの一人であるダルイゼンも言っていた言葉。

 

ーーーー俺はその方が居心地いいからさ。

 

グレースはその言葉を聞いて、怯えに近いような呆然とした表情で見つめていた。

 

「もう気が済んだ? じゃあ、病気で苦しんでもらおうかな」

 

「ぐぁ・・・!!」

 

クルシーナは設楽の体を蹴って仰向けに倒す。

 

「!? や、やめて・・・!!」

 

「前も言ったろ? やめろと言われてやめるやつがいるかってんだよ」

 

グレースは叫ぶも、クルシーナは振り向いて冷酷に吐き捨てると設楽に向き直る。

 

「アタシ、女だったら口でやりたいけど、男には口つけたくないのよね。だから、こうして蝕んであげる」

 

右手に赤いオーラを込めると、それを設楽の左胸に押し当てた。その部分は人間で言うところの心臓の部分があるところだ。

 

「うっ・・・ぐぁぁ・・・!!」

 

設楽は体に何かを注ぎ込まれて、苦しみの声を上げていく。それは何か熱いものを体の中へと当てられているような感覚だ。

 

「ダメ・・・お願、い・・・やめ、て・・・やめて、よ・・・!!」

 

ギュゥゥゥゥゥゥ!!!

 

「がぁ・・・ぁっ・・・!!」」

 

「グレース!!」

 

グレースはクルシーナの行動を止めようと赤いマフラーに両手に力を込め、首を振りながら足をジタバタとさせるも、その行動を煩わしく感じたメガビョーゲンがさらに首を強く絞め、呼吸ができないぐらいに圧迫していく。

 

「大人しくメガビョーゲンと遊んでろよ。どうせ何もできやしないんだからさ」

 

クルシーナはジタバタするグレースに嘲笑の言葉を浴びせる。

 

「早く・・助け、ない、と・・・」

 

ギュゥゥゥゥゥゥ!!!

 

「ぐっ・・・うぅぅ・・・!!」

 

「先生、が・・・死んじゃ・・・」

 

ギュゥゥゥゥゥゥ!!!

 

「ぐうぅ・・・ぅんぅ・・・ぐぅぅ・・・!!」

 

「フォンテーヌ!!」

 

「スパークル!!」

 

それを見ていたフォンテーヌやスパークルも助けなければと思うのだが、こちらも赤いマフラーに首を圧迫されていき、呻き声を上げる。顔にはすでに脂汗が滲み出ていた。

 

「大丈夫ですよ。もうすぐ何もかも終わりますから」

 

「お前らが気にする必要なんか一つもないの」

 

ドクルンとイタイノンはそう言いながらも、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「フフフ・・・」

 

「ぐっ・・・んぐうぅぅ・・・!!」

 

クルシーナは触れていた胸から右手を離すと、設楽は意識を失わずとも左胸を抑えながら苦しみの声をあげていた。

 

「あ、あぁ・・・せ、先生・・・!」

 

グレースは設楽が病気に蝕まれ始めたのを見て、絶望に似た表情を浮かべる。

 

「これであとは、あいつらだけね」

 

クルシーナはそう言いながら、メガビョーゲンに赤いマフラーで首を絞め上げられているプリキュアたちを見る。

 

「さて、どうするかな?」

 

「が、は・・・あぁ・・・!!」

 

クルシーナは、酸欠なのか頬を赤くしているグレースへと再度近づく。

 

「とりあえず、一回気絶させて、廃病院の地下部屋へとご案内するのはどうですか? そして、一人一人もらうとか」

 

「く・・・あ・・・!」

 

フォンテーヌから体を離したドクルンが、クルシーナに振り向いて言う。

 

「まあ、このまま暴れられても鬱陶しいだけだから、そっちのほうがいいの」

 

「ぐ、ぅぅぅ・・・!!」

 

イタイノンも足を暴れさせるスパークルを見ながら言った。

 

「まあ、それじゃあ、倒しておいてからアタシたちのお部屋にご案内するっていうことでいこうか」

 

クルシーナはそう同意すると、メガビョーゲンの方に顔を向ける。

 

「メガビョーゲン、そいつらにトドメを刺しとけ。殺すなよ」

 

「メガビョーゲン!!」

 

ギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!

 

「がっ・・・ぁぁ・・・!?」

 

「ぐっ・・・が、ぁ・・・!!」

 

「あ・・・ぁ・・・!」

 

メガビョーゲンはこれまで以上の強さで赤いマフラーに力を込め、プリキュアたちの首を圧迫する。さらに3人を空中へと持ち上げて、獲物にトドメを刺すべくさらに強い力をいれる。

 

首を圧迫されて気道を塞がれ、本当に息ができなくなった。3人の表情はさらに苦痛に歪む。

 

「ぐぅ・・・うぅぅぅ・・・!!」

 

グレースは赤いマフラーに手をかけながら、足をジタバタとさせる。しかし、マフラーのようなものは頑丈な上に絞める力の方が上回り、外すことができない。

 

「あぁ・・・ぁぁ・・・!!」

 

「ぐぅ・・・ぅぅ・・・!!」

 

フォンテーヌやスパークルも足を動かしているが、宙でから振るだけで何の意味もなしていない。

 

もがく彼女たちの視界が少しずつ歪んでいく・・・。

 

「・・・しぶとい奴らね。早く楽になっちゃいなよ。メガビョーゲン、焦らさないで一気に絞め上げろ」

 

「メガー!!」

 

クルシーナは少し顔をしかめながらそう言った。3人が苦しんでいる表情を眺めるのもいいが、こちらは早く終わらせてこいつらを好きにしたい。

 

メガビョーゲンに冷酷に命令し、怪物も限界以上にマフラーを絞っていく。

 

「あぁ・・・ぁぁ・・・」

 

そんな中、グレースに限界が訪れた。掴んでいた両腕から力が抜けるとパタリと下へと落ちた。

 

「グレース! 負けちゃダメラビ!!」

 

ラビリンが呼びかけるも、グレースの表情からは力が抜けていて開かれている瞳も虚ろになっている。それでもメガビョーゲンは3人が完全に気を失うまで力を入れ続ける。

 

(もう・・・ダ、メ・・・体に、力が・・・入らない・・・)

 

視界が狭くなっていき、意識が遠のいていく・・・。口が開いていても、息を吸うことができない。

 

「ああ! グレースが大変ニャ!!」

 

(うぅ・・・このまま、じゃ・・・3人、とも・・・死んじゃ、う・・・)

 

「でも・・・この状態じゃ、どうしようもないペエ・・・」

 

(私、たちは・・・何、も・・・守れない、の・・・?)

 

スパークルとフォンテーヌは、グレースの方を見ながらも絶望的な表情を浮かべていた。メガビョーゲンにここで光線を当てたところで通用していなかったのはわかっている。じゃあ、どうすればいいのか?

 

どう考えても、この状況を覆す方法が浮かんでこない。そうしているうちに、フォンテーヌとスパークルの視界にも霞がかかっていく。

 

「ぐっ・・・んぐぅ・・・!!」

 

設楽は膝をつきながら体が病気に蝕まれていくのを感じ、苦痛に呻いている。

 

(所詮、非力な人間の俺には、一人も救えねぇってことかよ・・・!!)

 

そんな中でもプリキュアたちが危機に陥っているのを見て、顔を俯かせて悔しそうな表情を浮かべる。

 

自分にあんな言葉を言ってくれたお嬢ちゃんたちは、今はあの怪物によってやられようとしている。状況はもはや絶望的だった。

 

何が、気持ちさえあれば自分でも救えるかもしれないだ。あんなことを言われて、心が変わったとしても、結局はコスプレの娘たちに助けられているだけ。自分が情けねぇ。あの時の、過去の俺がここにいたら殴りたいとすら思う。

 

そんな記憶の中、浮かんでくるのは、自分をかつて助けてくれた紫のコスプレの女だった。あいつは、この街を、病院の患者を必死に救おうとしていた。結果的にあいつは俺のことを助けてくれたのだ。

 

街がこんな状態になっちまって、今は姿を消してしまったが、あのときの俺は心の奥底では誰かに助けて欲しいと思っていたのかもしれない。絶望的な状況、医者だけど祈っても大丈夫だろうか・・・?

 

(なあ、俺をあのとき助けてくれたお嬢さんよ・・・! まだここにいるんだろ・・・? あいつらがピンチなんだ・・・出てきて助けてやってくれよ・・・!!)

 

設楽は心の中で、もう今はいないあの女性の名前を呼び続ける。

 

(なあ、頼むよ・・・俺もようやく、人を救うのを諦めたくねぇっていうのが芽生えてきたところなんだ・・・!! 別に俺のことはどうなったって構わねぇ・・・!! 助けてくれるんだったら、この俺の命なんかくれてやる・・・!! だから・・・だからよぉ・・・!!)

 

設楽は地面を掴む手を強くしていく・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつらを、助けてやってくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

設楽が断腸の思いで、叫び声を上げた・・・その時だった・・・!!

 

キラン。ブォォォォォォォォォォォン!!!!

 

どこか遠く山奥から光る何かが飛び出していき、ものすごい速さでどこかへと向かっていく。

 

「終わったわね。・・・ん?」

 

クルシーナはもうすぐでプリキュアたちは完全に倒される、そう確信していると、何かが遠くからとてつもない力が飛んでくるのを感じた。

 

「何か、来ますよ・・・」

 

「この気配は・・・?」

 

ドクルンも何かを感じ取って、クルシーナと同じ方向を向き始める。

 

三人娘が全員同じ方向を向いたその直後、光る何かが飛び出してきて、プリキュアの首を絞めているマフラーを切断する。

 

「メ、ガ・・・?」

 

メガビョーゲンは突然のことにバランスを崩して驚く。そして、光る何かは下から上、右から左、左から右へとまるで殴りつけるかのようにメガビョーゲンに体当たりを仕掛ける。

 

「メガ・・・メッガ・・・メガ・・・ビョーゲン・・・!?」

 

メガビョーゲンは避けることができず、最後に胸の部分に体当たりを食らうと後ろへと倒される。

 

「なんだと・・・!?」

 

「「!!??」」

 

三人娘も突然の出来事に驚きの表情を隠せない。

 

「ゲホゲホゲホゲホゲホッ!! はぁ・・・はぁ・・・な、何・・・?」

 

「何が起こってるラビ・・・?」

 

メガビョーゲンの首絞めから解放されたグレースは地面に手をつき、喉を抑えながら激しく咳き込む。息を整えながら、突然現れた光を驚いたように見る。

 

「かはっ・・・はぁ・・・あ、あの光は・・・?」

 

「わからないペエ・・・僕も見たことがないペエ・・・」

 

フォンテーヌも喉を抑えながら、息を吸い込みつつ光の玉を見る。

 

「んんぅ・・・あたしたちを、助けて、くれてる・・・?」

 

「そう見たいニャ・・・」

 

スパークルも息を整えつつ、そのように声を上げる。

 

ピカァ!! ブォォォォォォォォォォン!!

 

光の玉はプリキュア3人に近づいていくと、そこから3つの光に分かれてプリキュア3人の中へと入っていく。

 

その瞬間、プリキュアたちの体が光始め、何かとてつもない力が流れ込んでくるのを感じてくる。

 

「何か力が、湧いてくる・・・」

 

「私たちに、守って、って気持ちが伝わってくるわ・・・」

 

「何か、暖かいな・・・」

 

プリキュアたちは力と共に、暖かい何かが流れ込んでくるようにも感じる。

 

他人を思いやる気持ち・・・みんなを助けて欲しいという気持ち・・・そして、何よりも相手と寄り添うための気持ち・・・そんないろいろな何かが溢れてきて、暖かくなってくる・・・。

 

プリキュア3人のそんな様子を設楽は驚いたように見ていた。

 

(俺の祈りが・・・届いたのか・・・?)

 

彼女たちを助けて欲しいという気持ち・・・そんな真摯に願っていた心が、あいつに届いたのだろうか・・・?

 

「・・・へぇ、私たちが消してもまだ逆らうつもりなんだ、あいつ」

 

クルシーナはプリキュアに注がれたあの力の正体を知ると、不機嫌そうな顔をより一層不快にする。

 

「メガビョーゲン!!」

 

メガビョーゲンは立ち上がって、プリキュア3人の前に立ちはだかる。

 

「フォンテーヌ! スパークル! いくよ!!」

 

グレースの言葉に、二人は頷くとメガビョーゲンに向き直る。

 

「メガビョーゲン、やれ」

 

「メーガー!!」

 

クルシーナが冷静に命令すると、メガビョーゲンは胸の装甲に赤黒い何かを溜めると極太の白と黒いイバラビームを放った。

 

プリキュアの3人はそれを飛んでかわす。

 

「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

3人は同時に飛び蹴りを放ち、胸のあたりに直撃する。

 

「メ、ガッ・・・!?」

 

蹴りが効かなかったはずのメガビョーゲンの体にプリキュアの光る何かが足先から入り始める。それはメガビョーゲンの中にいるすでに透けて消えかかっているエレメントさんに注がれ、エレメントさんは透明さがなくなっていき、元の色を取り戻していく。

 

エレメントさんは、仮死状態から意識を無くす一歩手前まで体調が戻ったのだ。

 

「エレメントさんが!!」

 

「生気が戻ったラビ!!」

 

グレースとラビリンが、中にいるエレメントさんが少し回復したのを見て喜びの声をあげる。

 

「よかったー!!」

 

「本当によかったニャ!!」

 

スパークルとニャトランも瞳を潤ませつつも、回復したことを喜んでいた。

 

「まずは一安心ペエ!!」

 

「早く、このメガビョーゲンを浄化してあげましょう!」

 

フォンテーヌとペギタンにも安堵の声が漏れる。

 

プリキュアたちに希望の光が見えてきた。これならメガビョーゲンだって浄化ができるかもしれない。

 

「メーガー!!!」

 

メガビョーゲンは体を高速回転させてプリキュアを吹き飛ばそうとするが、3人はその前に体を蹴って地面へと着地する。

 

メガビョーゲンは回転を止めた瞬間に、再び3つのパーツに分裂して襲いかかろうとする。

 

プリキュアたちはお互いに頷くと、それぞれのパーツを相手をしようとする。

 

両腕からプロペラへと戻ったパーツは、腕のように変形させるとスパークルに向かって3本の爪から黒い雷撃を集束させて放つ。

 

「ぷにシールド!!」

 

スパークルは肉球型のシールドを展開すると、黒い雷撃を防ぐ。さらにプロペラは両腕へと戻ると同時にロケットパンチのようにスパークルへと飛び出した。

 

「ふっ・・・!!」

 

スパークルはシールドを押されて後ろへと下がっていくも、体が光ったかと思うと肉球型のシールドを逆に押していく。

 

「はぁ!!!」

 

さらにそこから黄色い菱形のエネルギーを集めるとゼロ距離で放つ。両腕を巻き込んだエネルギーは空中へと飛んでいき・・・・・・。

 

ドォォォォォォン!!!

 

爆発したかと思うと、両腕はプロペラへと戻り、爆発の煙の中から退避する。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

スパークルはパーツの後ずさった隙をついて飛び上がり、パンチを食らわせる。直撃を受けたパーツは黄色い光となって消滅した。

 

一方、下半身のパーツはピョンピョンと飛び上がってフォンテーヌを翻弄しようとしていた。フォンテーヌは動きを冷静に見ながら、攻撃する場所を見極めていく。

 

「絶対に攻撃するチャンスがあるはずペエ」

 

「ええ!」

 

ペギタンと共に気を緩めないように、下半身のパーツの動きを見極める。下半身のパーツはフォンテーヌに攻撃を仕掛けようとピョンピョンと飛び回る。

 

しばらくのにらみ合いの末、下半身のパーツはフォンテーヌの上へと飛び上がって、振り向きざまに爪を振り上げようとする。

 

「そこよ!! 氷のエレメント!!」

 

フォンテーヌは動き回る下半身のパーツの動きを見極めていた。ヒーリングステッキに氷のエレメントボトルをセットする。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

フォンテーヌの体が光ったかと思うと、ステッキからは極太の冷気をまとった光線が放たれた。光線は飛び上がった下半身のパーツに直撃し、氷漬けになると地面へと落下した。

 

「やったペエ!!」

 

ペギタンが喜びの声をあげるも、下半身は氷漬けになりながらも氷から脱出しようとガクガクと震わせている。

 

「氷の中から出ようとしているわ!」

 

「今のうちに攻撃するペエ!!」

 

「ふっ! はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

フォンテーヌは下半身のパーツの真上へと飛び上がると、体を一回転させると踵を落とす。

 

氷漬けのまま踵落としを受けた下半身のパーツは青い光に包まれたかと思うと粒子となって消滅した。

 

「ま、まさか・・・? なの・・・」

 

「・・・浄化されるのも時間の問題ですね」

 

イタイノンはメガビョーゲンが圧倒されているのを見て愕然とした表情で見ており、ドクルンはメガネを上げながら感情のこもらない冷静な声を漏らしていた。

 

しかし、二人とは別にクルシーナはその様子を無表情で見つめていた。

 

「ふん・・・・・・」

 

唐突に不敵な笑みを浮かべるとその戦いを見届けることなく背を向けて、歩いていく。

 

「クルシーナ?」

 

「どこへ行くの・・・?」

 

ドクルンはその様子を見て疑問の声を上げ、イタイノンもどこかへ行こうとする姿が気になって見やる。クルシーナは特に質問に答えることなく、手を握る動作だけを二人に見せる。

 

ドクルンはそれを見ると何かを察したように不敵な笑みを浮かべ、イタイノンも何かを感じているのか無表情で後ろ姿を見つめていた。

 

クルシーナはプリキュアたちから見えない近いところに隠れると指笛の動作をし始める。

 

一方、ハート形の枠のメガビョーゲンを相手にしているキュアグレースは・・・。

 

「はぁ!!」

 

ヒーリングステッキからピンク色の光線を放つ。

 

「メガ!!」

 

メガビョーゲンは体を回転させて光線を弾くとともに、白と黒のイバラビームを無差別に放ち始めた。ビームは植物が成長するかのような軌道を描きながら放たれていく。

 

「ぷにシールド!!」

 

グレースは肉球型のシールドを張って弾幕に備える。

 

ドォン!! ドォン!! ドォォォォォォォン!!

 

白と黒のイバラビームは着弾して爆発を起こし、地面を揺らしていく。

 

「くっ・・・!!」

 

「やっぱり大きい分、タチが悪いラビ!!」

 

グレースが顔を顰め、ラビリンがエレメントさんが戻っても強いことに変わりはないことにぼやく。

 

融合する前の3体のメガビョーゲンのうち、一番大きかったのはこの個体だ。すでに広範囲を蝕んでいるであろう巨大な体をしていて、ダルイゼンが発生させていたメガビョーゲンと変わりのない大きさだ。

 

そこへパーツを倒してグレースへと合流したフォンテーヌとスパークルがぷにシールドを踏んで飛び上がる。

 

「ふっ!!」

 

「はぁっ!!」

 

フォンテーヌがメガビョーゲンの顔面に向かって蹴りを繰り出して回転を止め、そこへスパークルがドロップキックを放ってメガビョーゲンを吹き飛ばす。

 

「メガー!!」

 

メガビョーゲンは空中で態勢を立て直すと、トゲのような触手についているハサミから白と黒の薔薇ビーム、バラのような花から赤く短いレーザーを放った。

 

2人は肉球型のシールドを貼ると、ビームやレーザーの直撃に備えて防いでいく。

 

「実りのエレメント!!」

 

グレースはその間にヒーリングステッキに実りのエレメントボトルをセットする。グレースの体が光ったかと思うと、ステッキの先からピンク色の極太の光の刃が作り出される。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「メガァー!!??」

 

グレースは二人の前へと飛び出して、ピンク色の光の斬撃を振るう。斬撃はハサミと薔薇の花がついているトゲの触手を切断し、メガビョーゲンの胴体に直撃して再び落下していく。

 

「2人とも、今だよ!!」

 

グレースの言葉に、フォンテーヌとスパークルは頷き返す。お互いに体を光らせながら。

 

3人は花と水と光の装飾がついたエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「「「トリプルハートチャージ!!」」」

 

「「届け!」」

 

「「癒しの!」」

 

「「パワー!」」

 

グレース、フォンテーヌ、スパークルの順で肉球にタッチしていき、ステッキを上に掲げる。すると、花畑が広がっていき、背後には自然豊かな森が広がっていく。

 

さらにプリキュア3人の背後に、設楽が話していたとされる紫色のコスプレ姿をした女神の姿が映し出されていく。

 

「「「プリキュア! ヒーリング・オアシス!!」」」

 

3人は一斉にメガビョーゲンへとステッキを構え、ピンク・青・黄色の3色の光線が螺旋状になって放たれる。螺旋状の光線は混ざり合いながら一直線にメガビョーゲンに直撃する。

 

螺旋状になった光線はそれぞれの色の手へと変化して、3本の手が花のエレメントさん、水のエレメントさん、光のエレメントさんを優しく包み込んでいく。

 

3色に光るハート状にメガビョーゲンを貫きながら、光線はエレメントさんをメガビョーゲンから外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「「「「「お大事に」」」」」」

 

こうして三人娘の生み出したメガビョーゲンは浄化され、エレメントさんたちは解放されたのであった。

 

「やった、な・・・お嬢、ちゃんたち・・・」

 

設楽はプリキュアたちが怪物を倒せたことに安堵しながら、限界を迎えて倒れたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

救い出したエレメントさんたち3人は、ここには元に戻る場所がないため、プリキュアたちの目の前で漂っていた。

 

プリキュアに変身している3人はそれぞれ聴診器をしながら、エレメントさんの声を聞く。

 

「エレメントさん、調子はどうですか?」

 

『ちょっと少し体に負担は残りますが・・・でも、大丈夫です!』

 

『みなさんのおかげで助かりました!』

 

エレメントさんたちからとりあえずは無事であることを聞かされると、プリキュアの3人は安堵した。

 

「でも、まだラテ様が・・・!」

 

ラビリンは体調の戻っていないラテのことを心配する。表情は辛そうにしていて、まだ呼吸も少し荒くなっている。

 

『でしたら! 先ほどのエレメントボトルを差し上げてください!』

 

光のエレメントさんに言われて、グレースは先ほどのエレメントボトルをラテの首輪にはめる。

 

「ワフ~ン♪」

 

ラテは先ほどから重症だったのが嘘だったかのように元気になった。

 

「「「ラテ様~!!」」」

 

「よかった・・・よかったペエ・・・!!」

 

「はぁ、今回はどうなるかと思ったニャ・・・」

 

ヒーリングアニマルたちはラテが元気になったのを見て安心する。

 

「すごい・・・! あんなに辛そうだったのに、一気に治るなんて・・・!!」

 

「ミラクルなヒーリングボトルだね!!」

 

ちゆが驚き、ひなたが喜ぶ中、ラビリンはまだ名前のないエレメントボトルに何かをひらめいた。

 

「そうラビ! これをミラクルヒーリングボトルと名付けるラビ!!」

 

「ワン♪」

 

「えへへ。ラテも賛成だって」

 

ラビリンの名付けた言葉に、ラテもどうやら気に入った様子。

 

『今回は本当にダメかと思いました。あと少し遅れてたらどうなっていたことか・・・』

 

「ううん。私たちも設楽先生のおかげで助かっ、て・・・!?」

 

花のエレメントさんの言葉に、グレースはそう言いながら設楽の方を見るが、すぐに驚愕の表情を浮かべた。なんと彼女の視線の先には設楽がうつ伏せになって倒れていたからだ。

 

「せ、先生!!」

 

グレースはすぐに設楽の元へと駆け付ける。体を起こすと彼は苦痛に表情を歪めていた。

 

「ぐ、うぅ・・・!」

 

「先生、大丈夫ですか!?」

 

「お、お嬢ちゃん・・・俺の中にも、まだ医者の心があるって知れて・・・よかったぜ・・・」

 

そう言う設楽は額に汗をかなり滲ませていてどう見ても辛そうな感じだった。

 

『こ、これは・・・! 彼の中に病気が広がっています。しかもこれは、かなり強力な・・・!』

 

「え、嘘でしょ・・・? だって、メガビョーゲンは浄化したのに・・・!?」

 

「ど、どういうことなの!?」

 

フォンテーヌとスパークルたちが駆け寄るも、エレメントさんの一人が設楽の中に見える赤く蠢く何かを見る。先ほどメガビョーゲンは浄化したはずだが、設楽の中で蝕まれている病気は消えていなかったのだ。

 

「気にすんな・・・! 俺はお前らの、役に立てて、よかったと思ってんだ・・・」

 

「でも・・・!!」

 

「いいんだよ、俺は・・・!! 医者の、勘ってやつだ・・・もう無理だってことも、わかってる・・・!!ぐ、うぅぅ・・・!!」

 

設楽は胸に痛みが走ったことで呻く。

 

「先生!! しっかりしてください!!」

 

「こんなの嫌だよ・・・! 先生が治らないなんて・・・!」

 

フォンテーヌとスパークルが悲痛な声を上げるも、設楽の体調は悪化するばかりだ。

 

「ぅぅ・・・お手当てをするやつが、いちいち動揺してんじゃねぇ・・・!! お前らは、地球を救える、プリキュアって、やつ、なんだろ・・・? 俺ができなかったことを、お前らができるかもしれねぇんだ・・・だから、地球を・・・この街を・・・そして、あいつらを・・・救ってやってくれ・・・! 俺の娘のことも・・・頼む・・・!」

 

設楽がまるで遺言のように言葉を並べる。もう自分が本当に助からない・・・そう悟っているかのような言葉・・・。

 

「ダメ・・・」

 

それに否定の言葉を漏らしたのはグレースだった。

 

「ダメだよ・・・!! 私たちは、地球をお手当てするためにいるけど、それよりも前に人を救えなかったら、それは・・・!!」

 

グレースはビョーゲンズに侵されているなら、それを浄化すれば治るはず・・・。そう思っているのだ。

 

「は・・・どうせ、人なんか、いつか死ぬもんさ・・・何十年、医者をやってたって、中には、救えねぇ命だって、存在すんだよ・・・」

 

「でも・・・先生はまだ、救えるはずでしょ・・・!?」

 

「そうです! アタシたちがあいつらの誰かを倒せば、きっと・・・!!」

 

設楽の言葉に納得がいかないフォンテーヌとスパークルは食い下がろうとする。

 

「!・・・俺にばっかり・・・構ってんじゃねぇ・・・!! わかんねぇが・・・人が助かっても、地球が、病気になれば、終わりなんだろ・・・!? お前らはお前らで、やれることをやってくれ・・・!! 俺を言い訳にして、立ち止まろうとするな・・・!!」

 

設楽は全くふざけていない、真剣な眼差しをプリキュアたちへと向ける。

 

「この街みたいな、悲劇を犯さないで、やってくれ・・・頼む・・・!!」

 

「い、嫌だ、やめてください・・・そんな言葉、聞きたくない・・・!!」

 

設楽がそう発破をかけるも、グレースは頭を抱えたまま蹲ってしまう。このまま苦しむ設楽先生を放っておくことなんかできない、でも彼は前に進めと言っている。その感情の板挟みになって、彼女の中に葛藤が生まれてしまったのだ。彼女の瞳からはポロポロと涙がこぼれている。

 

「あたしも、先生を残して、離れたくなんかない・・・!!」

 

スパークルも目の前に助けられるはずの彼を置いていくことができず、震える声で涙を流す。

 

「っ・・・・・・!!」

 

フォンテーヌは言葉こそ出さないものの、泣かないように堪えようとしていて、それでも辛そうな悲しそうな表情を見せながら涙をこぼしそうになっていた。

 

「お嬢ちゃんたちは、やっぱりお嬢ちゃんたちだな・・・まだ、ガキなのにさ・・・。でも、そういう純粋な心が、病気になる人やあいつらを救ってやれるんだろうな・・・」

 

設楽は悲しそうな表情でそう呟いた。目の前の少女たちが俺のために悲しんでくれている。俺はそれだけでもう十分だった。

 

「!! 危ねぇ!!」

 

設楽はふと横を見て、グレースに何かが迫っているのが見え、彼女を両手で押して突き飛ばす。その瞬間、迫ってきた黒い大流が設楽を飲み込んだ。

 

「え・・・?」

 

グレースはそれを見た瞬間、目を見開いて愕然とする。一瞬、何が起こったのかわからなかった。

 

世界がスローモーションとなっていくのを感じる。

 

・・・・・・設楽先生が、私を庇い、黒い大流に飲み込まれた。

 

グレースは黒い大流を呆然と見やり、飲み込まれた設楽の姿を見る。先生が黒い大流の中で赤い病気に覆われていく。

 

ふと設楽がプリキュア3人の方を見て、優しい微笑みを浮かべたなんだか悲しそうな表情で、声は聞こえないが、何かを口パクで伝えていた。

 

ーーーーあとは・・・頼んだ・・・。

 

グレースがそれを認識した瞬間、世界の速度が元に戻り、黒い大流は通り過ぎていった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お嬢ちゃんたち・・・ありがとよ・・・。

 

こんなしがないヤブ医者の俺にあんなことを言ってくれてよ・・・俺は、正直嬉しかった・・・。

 

茶髪の嬢ちゃんと藍色の嬢ちゃんを治して、久しぶりに医者の仕事をしたと思った・・・お前らが何ともなく助けることができて、本当に良かった・・・。

 

スーパードクターって言葉も、本当は嬉しかったんだぜ?

 

最初は逃げた自分なんか、今さら医者面だなんてと思った。俺みたいな最低な医者なんか、医者だなんて思うつもりはねぇって。

 

でも、お前らのあの言葉で、俺は救われてたんだ。医者として、人を助けられるなら、もう何もいらねぇ・・・何も思い残すことはねぇって・・・。

 

娘を助け出せなかったのは心残りだが、お嬢ちゃんたちならなんとかしてくれるって、俺は信じるぜ・・・。

 

短い間だったけど、本当にありがとう・・・。

 

後のことは、頼んだ・・・。

 

お前たちの住む町にも、この街みたいな悲劇を起こさないことを、俺は祈ってるぜ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せんせぇーーーーーーーーー!!!!!!!!」

 

グレースの悲痛な叫び声が、広場へと響いた・・・・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第33話「決意」

前回の続きです。今回でオリストは最後になります!
そして、私が遂に出したかったあのキャラクターが登場します!


 

設楽を病気へと蝕み、飲み込んでいったストームビョーゲンは上空へと舞い上がって、プリキュアの上空へ戻るように飛んでいき、ビョーゲンズの幹部たちの上でサークルを描くように回り始める。

 

その様子を何が起こったかわからない、フォンテーヌとスパークルは呆然と見つめていた。

 

「あーあ、メガビョーゲンを浄化して油断しているところを蝕んでやろうと思ったのに、余計な邪魔が入っちゃった。でも、あの目障りなヤブ医者は潰すつもりだったし、まあ好都合ね」

 

クスクスと笑っているのはストームビョーゲンをけしかけた張本人であるクルシーナだった。

 

「はぁ、やっとモヤモヤが消えました。あのタヌキじじいをようやく消すことができて、万々歳です」

 

ドクルンはそう言いながら微笑を浮かべている。

 

「いい気味なの。そんな奴らと一緒にいるから、不幸が訪れたの。因果応報なの」

 

イタイノンは不敵な笑みを浮かべながら、クスクスと笑っていた。

 

「ふん、他人を助けるために、自分が病気に蝕まれちゃうなんて訳がないわよねぇ? フフフ・・・!!」

 

「ああ・・・先生・・・先生・・・」

 

目の前で先生を奪われたショックで、グレースは三人娘の言葉など聞こえておらず、地面にへたり込んで手を付き、呆然と何かをつぶやいていた。その表情には絶望が深く刻まれていた。

 

長い病院生活で目の前で人を失ったという実感が湧かないグレース。彼女の心は、三人娘の残酷な言葉に、すでにへし折れてしまっていた。

 

そんな中、呆然としていたフォンテーヌは三人娘の方を見る。

 

聞こえてくる三人娘の嘲笑・・・設楽先生への侮辱・・・そして、一人病気に蝕まれ、消えたというのに喜んでいるという狂った光景・・・。

 

それを感じたフォンテーヌは心の中に火が付いて、燃え上がっていくのを感じる。表情は三人娘を呆然とした表情から睨みつけるように怒りの形相となり、拳が震えるように握り締め、自然と足が動くように向かっていく。

 

「フォンテーヌ・・・?」

 

ペギタンがフォンテーヌの様子が変わったことに気づいて呟くも、彼女は歩みを進めていく。

 

そんなフォンテーヌの目の前に水のエレメントさんが何かを訴えるように飛ぶも、フォンテーヌには声が聞こえておらず、周りが見えていない。

 

そんな怯えたように呆然と見るスパークルの目の前に光のエレメントさんが飛ぶ。スパークルに何かを話そうとしている様子。

 

それに気づいたスパークルはハッとして、聴診器をエレメントさんへと向ける。

 

『あの三人は危険です! ここから早く逃げてください!!』

 

「え・・・どういうこと・・・?」

 

『何だかわかりませんが・・・あの三人からは邪悪で禍々しい力を感じます・・・! 今、立ち向かったとしても、それは私たちでさえも・・・!』

 

そこへ花のエレメントさんがスパークルの前に出てくる。

 

『それにあの黒い大流、私は聞いたことがあります・・・。あれは、古のプリキュアとテアティーヌ様でさえも苦しめたと言われている病気の集合体で・・・!』

 

「!! フォンテーヌ!!」

 

スパークルはエレメントさんの話を耳に挟むと、最後まで聞かずに向かおうとしているフォンテーヌの手を掴む。

 

「・・・スパークル、離して」

 

「ダメだよ!! なんだかわかんないけど、あたしたちあれに勝てない気がするの・・・立ち向かったってボロボロにされるだけだよ!!」

 

スパークルがそう呼びかけるも、フォンテーヌは俯いたままだった。

 

「離して」

 

「嫌だよ!」

 

「離して」

 

「嫌だ!!」

 

「離してよ」

 

「ダメ!!」

 

スパークルはフォンテーヌを説得しようとするが、怒りに駆られている彼女には言葉が届いていない。このまま離せばきっと後悔する。だから、スパークルは離さなかった・・・。

 

スパークルのこの行動に、怒りを抑えきれなくなったフォンテーヌはここで感情のダムが決壊したかのように掴まれている右手を暴れさせる。

 

「離して!! スパークル!! あいつらは!! あいつらだけは!!!!」

 

「落ち着いてよ!! フォンテーヌ!! フォンテーヌがそんな感情であいつらと戦ったら、お手当てをするプリキュアとして終わりな気がするんだよ・・・!」

 

「だからって見過ごせって言うの!!?? あいつらのひどいことを!! 目の前で大切な先生を消し去った上に、平然とあんな感じで笑っているのよ!!?? 私はそんなの耐えきれない!! あいつらに何か一撃与えてやらないと気が済まない!!!!」

 

「それをやらせたらあたし、フォンテーヌを同じプリキュアとして見れない気がするの!! そうやって怒って何かをやらせちゃったら、あたしたちは戻れなくなるような気がするの・・・!! お願いだから・・・周りを見てよ・・・。エレメントさんも、グレースも、ラテも、きっと苦しんでる周りの自然も・・・あたしのことも・・・ちゃんと見てよ・・・」

 

「私は・・・・・・!?」

 

フォンテーヌはそれでもなお食い下がろうとしていたが、自身の背中からすすり泣くような声がして、ついていた火が消化されていくような気がする。

 

フォンテーヌがゆっくりと振り返ると、泣いていたのはスパークルだった。その表情は瞳からポロポロと涙をこぼし、悲しそうな表情をしていた。

 

もうやめて、と訴えるような表情・・・ここは抑えてほしい、と懇願している表情・・・。

 

それを見たフォンテーヌは悲しく辛そうな表情になると、スパークルを抱き締めた。

 

「・・・ごめんなさい。私、どうかしてた」

 

「フォンテーヌ・・・」

 

「ありがとう・・・私、あのまま行ったら、お手当てをするということを忘れて自分の手を汚すところだった・・・先生の思いを無駄にしちゃいけないわよね」

 

スパークルは、フォンテーヌが落ち着きを取り戻してくれたことに安堵したような表情を見せる。

 

・・・と、その時だった。

 

ドスッ!!!!!!

 

「うっ・・・!?」

 

突然、フォンテーヌが目を見開いて空気を漏らす。体を震わせながら背後を振り返ると、そこにはいつの間にかドクルンが立っていた。

 

彼女の手は青いプリキュアの体の中に入り込んでいた。

 

「・・・何を臭い三文芝居をしているんですか?」

 

「ド、ドクルン・・・!!」

 

フォンテーヌが痛みに汗を滲ませたところを見て、無表情だった顔を笑みに歪ませる。

 

ドクルンは突っ込んでいる手を弄り始める。

 

「がっ、あぁ・・・!」

 

体の中を掻き回されているような激痛に、フォンテーヌが苦痛の声を漏らす。

 

「フォンテーヌ!!」

 

「や、やめて!!」

 

スパークルは悲痛な声を上げながらステッキをドクルンに向かって向ける。

 

シュタッ。バチッ!!

 

「あっ・・・!」

 

そこへイタイノンがスパークルの背後へと降りてきて、両手を彼女の肩に乗せて電気を流す。その瞬間、体に力が入らなくなり、地面へとへたり込んでしまう。

 

「イ、イタイノン・・・」

 

「ふん・・・」

 

「うわあぁ!!」

 

イタイノンは不敵な笑みを浮かべると、スパークルの襟に手をかけると彼女を背後へと引っ張って突き飛ばした。

 

「うぅ・・・!」

 

「お前の中にいる、私の種、ちゃんと育っているの」

 

地面へと倒されたスパークル。そこへイタイノンが近寄り、躊躇なく手のひらを押し当てる。

 

「私の種、採取させてもらうの」

 

「あぁ・・・ぐぅ・・・!」

 

手を押し当てられ、体の中に何かが駆け巡るかのような痛みにスパークルは呻く。体がまるで硬直したかのように動かなくなる。

 

「見つけましたよ」

 

「ぐぅ・・・か、は・・・!?・・・!!・・・!?」

 

ドクルンは弄っていたフォンテーヌの体の中で何かを見つけたようで不敵な笑みを浮かべるとそれを掴む。その瞬間、フォンテーヌの目は見開かれ、目尻に涙が浮かぶ。

 

彼女が掴んだものは肺の気管支の部分だった。フォンテーヌの口から空気が吐き出され、彼女はまるで気道を何かで塞がれたかのように呼吸ができておらず、口をパクパクとさせていた。

 

「!? ああ・・・フォンテーヌ!! スパークル!!」

 

呆然とした表情になっていたグレースが、二人がビョーゲンズに手をかけられていることに気づいてハッとし、駆けつけようとする。

 

このままでは、二人も死んでしまう・・・私の前からいなくなってしまう・・・! 半ば失うのを怯えるかのように二人を助けようとする。

 

そんな彼女の目の前にクルシーナが飛び降りてくる。

 

「二人のことは気にすることないじゃない。アタシと遊びましょう?」

 

「ク、クルシーナ・・・」

 

グレースは不敵な笑みを浮かべたクルシーナを見て、何かに怯えたように後ずさる。その笑みには狂気を感じる・・・・・・。

 

「どうしたの? 怖がることないじゃない」

 

「こ、来ないで・・・!」

 

クルシーナはそう言って焦らすようにゆっくりと数歩近づいていくと、グレースは拒絶の言葉を震える声で漏らしながら後ろへと下がっていく。

 

「逃げないでよ。アタシとお前の仲でしょ? いつも一緒だったじゃない」

 

「嫌・・・嫌ぁ・・・!」

 

「グレース!! しっかりするラビ!!」

 

クルシーナが手を広げながら言葉をかけてくるも、グレースは首を振りながら後ろへと後ずさっていく。

 

ラビリンはそんなグレースに発破をかけようとする。一体、どうしたというのか? 先生が目の前で黒い大流に飲み込まれてしまい、彼女の様子が明らかにおかしい。何かトラウマが甦ってしまったのだろうか。

 

クルシーナは手のひらを広げると白と黒のイバラビームを放って、グレースの左手に括り付ける。そして、彼女を引っ張って引き寄せる。

 

「ああ・・・!!」

 

「フフフ・・・あなたの怯えた顔も可愛い・・・」

 

「い、嫌だ・・・嫌っ・・・やめて・・・離して・・・!!」

 

クルシーナはグレースを抱き寄せて、彼女の首に手を回して逃げられないようにすると、グレースの頬を優しく撫でながら、首筋に触れる。グレースは首を振りながら、足をジタバタとさせるもクルシーナにはビクともしない。

 

クルシーナはグレースが完全に戦意喪失していることを確認し、彼女の髪を優しく撫でてあげる。

 

「連れないこと言わないでよ。アタシと一緒に逝きましょう」

 

「ああ・・・ああ・・・」

 

そう言うクルシーナの周りには、設楽先生を病気に蝕んで、飲み込んだ黒い大流と似たような、黒いタワーのようなものが地面から複数生やしていた。小さな妖精のような何かが蠢くように動いている姿を見て、グレースは恐怖で体を震わせる。

 

「どうしたの? 寒いのかしら? アタシが抱きしめて温めてあげる。怖くないように・・・」

 

「ぁぁ・・・ひぃ・・・ひぃぃ・・・!」

 

そう言ってグレースを抱きしめるクルシーナ。しかし、治まるどころか彼女の体の震えは大きくなっていき、ついには恐怖心が限界を迎えて過呼吸を起こしてしまっていた。

 

「ふむ・・・」

 

ドクルンはフォンテーヌの体から手を引き抜く。フォンテーヌは倒れそうになりながらも、なんとか踏ん張って止まる。

 

「うぅぅ・・・ゲホッ!ケホッ!カハッ!・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

首を絞めていた手から解放されるかのように止まっていた呼吸が再開され、急に酸素を取り込んだ勢いで咳き込む。霞んでいた視界が元に戻り、ドクルンの姿が見えるようになる。

 

「おや、耐えましたねぇ。まあ、いいでしょう」

 

そう言うドクルンの右手には黒い氷のようなものがあった。あれが私の中にあったの・・・?

 

フォンテーヌはそう思うと心の奥底から寒気がしてならなかった。

 

「こっちも欲しいものは手に入ったの」

 

イタイノンは右手に赤いクリスタルのようなものが握られていた。クリスタルは黒い電気をバチバチとさせていて、禍々しいオーラを放っていた。

 

「うぅぅ・・・!」

 

「スパークル!!」

 

フォンテーヌは側に倒れて呻いているスパークルに、イタイノンと入れ替わりになるかのように駆け寄る。

 

「スパークル! 大丈夫!?」

 

「う、うん、なんとか・・・でも、体が金縛りみたいになって、すごい痛かったよ・・・」

 

フォンテーヌがスパークルの体を起こすと、彼女はゆっくりと立ち上がる。イタイノンに何かされたようだが、どうやら何ともない様子。

 

「ねえ、グレースは・・・?」

 

「!?」

 

スパークルに問われたフォンテーヌはグレースの方を見ると、彼女はクルシーナに口づけをされていた。

 

「んんん!! んん! んんんぅ!!」

 

グレースは逃れようと足をジタバタとさせ、手はクルシーナの顔をペチペチと叩いていたが、彼女は全く意に介することなく、口づけを続けている。グレースの目には涙が浮かんでいた。

 

「グレース!!」

 

「早く助けないと・・・!!」

 

フォンテーヌとスパークルはすぐにステッキから光線をクルシーナに目掛けて放つ。しかし、クルシーナは目線で光線を視認すると片足を地面に叩きつけて、白と黒のイバラを生やす。二つの光線は呆気なく防がれてしまった。

 

「ぷはぁ・・・」

 

クルシーナはグレースから口を離すと、その場から姿を消して、ドクルンとイタイノンのそばに姿を表す。

 

「グレース!!」

 

「ああ・・・ああ・・・」

 

フォンテーヌは倒れそうになるグレースを抱きとめ、スパークルがそこに駆け寄る。

 

「グレース! 大丈夫!?」

 

「ああ・・・フォン、テーヌ・・・スパー、クル・・・」

 

すでにハイライトの消えた虚ろな瞳をしていたグレースは駆けつけたフォンテーヌとスパークルの姿を見ると、抱き留めてくれたフォンテーヌに思いっきり抱きつく。

 

「うぅ・・・怖かった・・・怖かったよぉ・・・!!」

 

「グレース、本当にどうしたのよ? いつものあなたらしくないわ・・・」

 

「ダ、ダメ、なの・・・体が震えて・・・」

 

フォンテーヌは明らかにグレースの様子がおかしいことに気づくも、彼女の頭をそっと撫でてあげる。

 

先ほどから尋常ではないほどに怯えている。どう考えても、いつもの彼女じゃない。

 

「グ、グレース・・・フォンテーヌ・・・」

 

「ま、周りが、囲まれて・・・!?」

 

「「!?」」

 

そんな二人に聞こえるのは動揺するスパークルとニャトランの声。不穏に思い、周りを見るといつの間にか黒い大流が自分たちの周囲を取り囲むように回っていた。それはまるで竜巻の中心にいるかのよう。

 

さらに地面からは黒いタワーのようなものが複数、禍々しく動きながら生えている。

 

「な、何、これ・・・!?」

 

「ああ・・・ああ・・・」

 

フォンテーヌは目を見開きながら周囲を見渡していく。黒い大流に囲まれていて、どこにも隙間がなく、逃げる場所がない。

 

グレースは黒い禍々しいものが蠢いているのを見て、体を震わせる。表情はすでに恐怖へと染まっていた。

 

「フフ・・・もうどこにも逃げられはしませんよ。あなた方を野放しにしているといろいろと都合が悪いので」

 

「目障りなやつがいなくなれば、私の居場所も簡単に確保できるの」

 

「というわけだから、三人まとめて苦しみの底に落としてあげる。死にたいと思うほどの苦痛を味あわせてねぇ」

 

三人娘はそれぞれそう言うと、一斉に手を上げて振り下ろした。

 

すると、黒い大流は徐々にプリキュアたちの逃げ場を無くすかのように範囲を狭めていき、黒いタワーは徐々ににじり寄ってきた。

 

「くっ・・・!」

 

フォンテーヌは悔しそうに歯をくいしばると、ステッキから光線を放つ。黒い大流には直撃するが、虫を落とすかのように小さな妖精が散らばっても、再度新たな小さな妖精が集まるだけで何の意味もなかった。

 

光線を何度も打っても状況は全く変わらない。ここから逃れられる手段が、ない・・・。

 

「アッハハハハ!! 無駄よ無駄! 大人しく病気に蝕まれるんだね」

 

クルシーナはフォンテーヌの無駄なあがきを嘲笑する。

 

黒い大流たちに追い詰められ、逃げ場を無くしてしまうプリキュアたち。

 

「ふ、二人とも・・・!!」

 

「っ・・・何か、方法はないの・・・?」

 

「ああ・・・ダ、メ・・・誰か、助け・・・」

 

スパークルとグレースの表情は絶望に染まっていた。特にグレースは地面にへたり込んで自身の身体を抱きしめてガクガクと震わせていた。

 

フォンテーヌはこんな状況でも考えを巡らせるも、何一つこの場を打開する策が思いつかない。

 

このまま、三人とも餌食になってしまうのか・・・?

 

と、そのとき、三人の近くに光る何かが近寄る。

 

「これは・・・?」

 

「エレメントさん・・・?」

 

エレメントさんたちはそれぞれのプリキュアの前に立つようにして構えていた。三人に何かを話すように動いた後、自らの体を発光させていく。

 

パァァァァァァァァァァ!!

 

「っ・・・な、何だ・・・!?」

 

三人娘たちは眩しさのあまり顔を手で覆う。この場であいつらが奇跡を起こせるはずもない。一体、プリキュアたちに何が起こっているのか・・・?

 

パァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!

 

玉のように自分たちの体を光らせていくエレメントさんたち。すると、3本の光の柱が上がり、天へと登っていく。

 

光の柱が消えていき、三人娘がようやく覆っていた手を退けてみると、広場に立っていたはずのプリキュアの姿は消えていた。飛び回らせたストームビョーゲンや、配置していたタワービョーゲンの姿もなかった。

 

「ちっ・・・逃げられたか・・・」

 

クルシーナは不機嫌そうな表情でそう呟いた。

 

「ふぅ・・・まあ、いいでしょう。私とイタイノンは欲しいものは手に入りましたからねぇ」

 

「キヒヒ・・・」

 

「・・・ふん」

 

それぞれ黒い氷、赤黒いクリスタルを手にしているのを見たクルシーナは不敵な笑みを浮かべ、鼻を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「のどか!! のどか!!」

 

ラビリンがのどかの体を揺さぶる。その隣には彼女を心配そうに見つめるエレメントさんの姿もあった。

 

「うぅぅ・・・うん・・・」

 

のどかは呻き声を漏らしながら、目を開く。

 

「ここは・・・?」

 

「元の場所ラビ! ラビリンたち、帰ってきたんだラビ!」

 

「!!・・・ああ・・・あぁ・・・」

 

ラビリンからそう聞かされるのどか。すると、のどかはあの時と同じ怯えた表情を見せ始めた。自分の体を抱きしめて横になり、プルプルと震え出す。

 

のどかの頭の中に流れる記憶・・・それは、自分の眼の前で黒い大流に飲み込まれた設楽先生。そして、自身に迫ってくるクルシーナ。

 

のどかは記憶がフラッシュバックすると、自身の体を抱きしめてガクガクと震え出す。

 

「うぅぅ・・・あぁ・・・」

 

「のどか、どうしたラビ!?」

 

「・・・怖い・・・怖いよぉ・・・!」

 

のどかの瞳からは涙が溢れていた。

 

彼女はあの時、生まれて初めて感じたことのない感情を抱いていた。

 

それは・・・・・・恐怖・・・・・・死の恐怖・・・・・・。

 

設楽先生が飲み込まれた際、人はあんなに簡単に消されてしまうのだ、人間はか弱い小さな生き物なのだということを思い知らされた。それは自分たちはプリキュアであっても同じように感じてしまう。

 

そして、クルシーナはまるで自分が見た夢の中の少女のように、自身に迫ってきたのだ。感じた寒気・・・・・・殺されてしまうという恐怖・・・・・・。

 

ーーーー俺はその方が居心地いいからさ。

 

ーーーー自分さえよければそれでいいの・・・!?

 

ーーーーいいけど・・・?

 

ダルイゼンのときに感じ取った感覚、それは人の悪意・・・病院生活が長かったのどかにとっては初めて感じたドロドロとしたような感覚だった。しかし、今回のこれはその比較にもならない。

 

のどかはプリキュアとして戦うことが、怖くなってしまったのだ・・・・・・。

 

「あ、ちゆちゃんとひなたちゃんは!?」

 

のどかはハッとして体を起越して、周囲を見渡すと自分と同じように倒れているちゆとひなたの姿があった。

 

「!! ちゆちゃん!! ひなたちゃん!!」

 

のどかは立ち上がって、まずちゆに駆け寄ると彼女の体を揺さぶる。そして、すぐそばに倒れているひなたの体を揺さぶる。

 

「んん・・・あ、のどかっち・・・?」

 

最初にひなたが目を覚ます。ひなたが目を覚ますと、そこにはすでに涙に濡れているのどかの顔があった。

 

「のどかっち、泣いてるの・・・? わぁ!?」

 

のどかはたまらずひなたの体を抱きしめる。

 

「うぅぅ・・・よかった・・・よかったぁ・・・」

 

「どうしたの? のどかっち・・・あたし、別になんともないよ?」

 

変なのどかっちだなぁ・・・・・・ひなたはそう思いながらのどかの体を抱きしめ返す。

 

「えっと・・・ここは・・・?」

 

「元の場所ニャ! 俺たち帰ってこれたんだ!!」

 

ひなたの問いに、ニャトランが声をかける。

 

「あ・・・私たち、戻ってこれたのね・・・」

 

「ちゆー!!」

 

「あ、ペギタン・・・心配かけたわね・・・」

 

次にちゆが目を覚まし、二人の姿を見て安心し、抱きついてくるペギタンを優しく抱擁する。

 

「ちゆちゃん・・・! よかったよぉ・・・」

 

のどかはちゆも無事であることを確認すると、ポロポロと涙をこぼしていく。

 

「のどかっち、苦しい・・・」

 

「あ、あ、あぁ・・・ごめんね・・・!」

 

のどかは怯えたような声をあげて、慌てて彼女から体を離す。彼女はふと自分の手を見ると、プルプルと震えているのがわかった。

 

「・・・・・・?」

 

「なんか言ってる・・・?」

 

すると、ちゆの近くにエレメントさんが何かを呼びかけるように動いている。プリキュアの3人は聴診器をしてエレメントさんたちに向ける。

 

『みなさん、無事でよかったです! あのままあそこにいたら、三人ともあの三人娘にやられるところでした』

 

「エレメントさんたちは、何ともないんですか・・・?」

 

ちゆはエレメントさんたちの容体を心配する。エレメントさんたちはきっと私たちをあの場から逃がすために力を使ってくれたと思う。そのことで体調が悪くなっていないか心配だった。

 

『はい! 私たちはなんともありません。でも・・・そこのピンクの髪のお嬢さんは・・・・・・』

 

花のエレメントさんは、ピンクの髪のお嬢さんーーーー要するにのどかの精神状態を気にしていた。聴診器をして聞いてはいるものの、その表情はなんだか辛そうなものだった。

 

ちゆとひなたも、のどかのことを心配そうに見つめる。それを見たのどかは顔を俯かせる。

 

「のどか・・・あ・・・!?」

 

ちゆが何か言葉をかけようとしたが、その前にのどかはちゆに抱きついた。そして、彼女がガクガクと体を震わせているのがわかる。

 

「ちゆちゃん、ひなたちゃん、ラビリン・・・私、怖いの・・・」

 

のどかが声を震わせながら感情を吐露し始める。

 

「先生が私たちの目の前であんなことにあって、初めて心の底から怖いって感じたの・・・。そしたら、私、思っちゃったの。このままビョーゲンズと戦い続けたら、ちゆちゃん、ひなたちゃん、ラビリンやラテ、みんなみんな消えて、私も消されちゃうんじゃないかって・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「私、プリキュアとしてお手当てするのが怖い・・・! それで大切なものが消されちゃうのが怖い・・・! 本当は、そんなこと考えちゃいけないのに、無理だよ・・・私、もう戦っていく自信がない・・・みんなを守れなかったらって思うと、体が震えて・・・・・・もう無理だよ・・・!!」

 

のどかはそう言いながら、嗚咽を漏らしながらすすり泣き始める。体の震えはまだ続いていた。

 

ちゆたちはお互いに悲しそうな顔を見合わせる。彼女にどんな言葉をかけていいかわからない。

 

「のどか!!!」

 

そんな中、声を張り上げたのはラビリンだった。のどかは泣くのをやめるとラビリンの方を向く。彼女の顔は可愛い外見だが、今は怒りの表情を見せていた。

 

「ラビリンもあまり大きなことは言えないけど・・・これだけは言えるラビ! ラビリンはそんな悲しいことには絶対にさせないラビ!!」

 

「ラビリン・・・・・・」

 

「私だって、大きなメガビョーゲンを前にしたとき、地球はもう終わりなんだって思ったラビ! でも、お手当てを諦めたらそこで終わりだって、私たちはまだやれるって、そう思えたからみんなと一緒にお手当てができたラビ!! その諦めないっていう気持ちを教えてくれたのはのどかじゃなかったラビ!?」

 

「!!」

 

ラビリンの言葉に、のどかはハッとする。確かにあのメガビョーゲンに一度やられた時、奮い立たせてくれたのは私だった。

 

「のどか・・・本当は、私も怖いわ・・・あの三人に先生が襲われたときだって本当は憎いっていう気持ちがあったけど、同時に逃げたいっていう気持ちがあった・・・ドクルンに襲われたときだって殺されると思って体が震えたりしたわ」

 

「! ちゆちゃん・・・」

 

のどかがちゆを見ると、彼女はあのときのことを思い出していたのか、右肩がわずかに震えているのが見えた。

 

「あたしも・・・あんな黒いのに囲まれて、怖かった・・・・」

 

ひなたも右腕が震えており、左手でそれを抑え込むかのように掴んでいた。

 

「怖いっていう気持ちはみんな一緒よ。でも、お手当てをしたいっていう気持ちも、守りたいっていう気持ちもみんな一緒。みんながいるから私はプリキュアとしてお手当てができるの。だから、のどか、怖いなら私たちと一緒にその気持ちを分け合いましょう。一緒にいれば、なんだって乗り越えられるはずよ。それに・・・・・・」

 

「ちゆちゃん・・・・・・」

 

「先生の思いも無駄にしちゃダメだと思うわ・・・」

 

ちゆはのどかに優しげな微笑みを見せる。

 

「のどかっち・・・あたしはあまりいい言葉、見つかんないけど、のどかっちを一人残していなくなったりなんかしないよ! 先生は・・・悲しかったけど・・・でも、そこで立ち止まってたら先生の気持ちは救われないと思うんだ・・・!!」

 

「ひなたちゃん・・・」

 

ひなたはのどかの首に手を回しながら、気遣うような言葉をかける。

 

「ラビリンたちは、もう二度とあんなことにはさせないラビ!!」

 

「僕たちも、お手当てを頑張って、悲しいことを起こさないようにするしかないペエ!」

 

「俺たちも、がんばんねぇとな!!」

 

ヒーリングアニマルたちも、決意の言葉を口にする。

 

すると、のどかは再度嗚咽を漏らし始める。

 

「ごめんね、みんな・・・私、全然ダメだよね・・・みんなはそう思っているのに、私がこんなんじゃ前にも進まないよね・・・」

 

「のどか・・・」

 

「のどかっち・・・」

 

「でも、お願い・・・しばらく、こうさせて・・・」

 

のどかはちゆに抱きついたまま、すすり泣きを漏らし始める。よっぽどこれまでの戦いで溜まっていたのだろう。体の震えが大きくなる。

 

「うぅぅ・・・ひっく・・・うぅぅぅ・・・うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

のどかは大声をあげて泣き始めた。先生を救えなかったという思い・・・彼が私たちを尽くしてくれたこと・・・そして、先生が見せてくれた優しい笑顔・・・。それら全てが頭の中に流れ込んでくる。

 

「うぅぅ・・・ぐす・・・」

 

「のどかっちが、泣いてるから、あたしも、悲しく、なって、うわぁぁぁぁぁぁん!!」

 

そんな彼女を見て、ちゆとひなたももらい泣きをする。ちゆは体を震わせて表情に力を入れていたが、目からは涙が溢れていた。

 

ひなたはのどかと同じように、先生のことを思い出して大きな声で泣いていた。

 

「・・・ラビリンも、なんだか苦しくて・・・悲しいラビ・・・」

 

「僕も・・・胸が痛いペエ・・・」

 

「ちくしょー!! なんでだよ!! あの先生、あんなにいいやつだったのに!!!」

 

ヒーリングアニマルたちも悲しみに包まれていた。エレメントさんたちは悲しそうな表情を見せながら、彼女たちの様子を見守っていた。

 

プリキュアたちはしばらくの間、設楽のことを思いながら、泣き崩れていた・・・。

 

ようやく落ち着いた頃、プリキュアたちは救い出したエレメントさんたちに向き直っていた。

 

『みなさん、どうかこれからも地球をよろしくお願いします!』

 

「うん、まかせて!!」

 

「私たちが、絶対にあの街も取り戻します!!」

 

「先生の思いも、私たちが受け継ぐから!!」

 

エレメントさんたちはプリキュア3人の言葉に安心したような笑顔を見せると、元の場所へと戻っていった。

 

こうして、プリキュアたちは先生の思いを持ちながら、これからも地球をお手当てし、ビョーゲンズから守ることを誓うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、荒廃した街、その廃病院の屋上では、ビョーゲン三人娘が珍しく3人集まって、街の景色を眺めていた。

 

空を見上げれば、病気のような一面の赤黒い空、そして黒い大流ーーーーストームビョーゲンが飛び回っている、なんとも不気味な空だ。

 

「なんでアンタたちまでいるわけ?」

 

「別にいいじゃないですか、たまには」

 

「私もたまには景色を見たくなったの」

 

クルシーナは他の二人に不満そうに漏らすも、ドクルンとイタイノンは意にも介さず好きなことをしている。

 

「ここはアタシの憩いの場所なんだけど・・・」

 

「この廃病院は私たちのものですよねぇ? 固いことを言うものではないでしょ」

 

「ケチケチすんな、なの」

 

なおも食い下がろうとするクルシーナに、二人は相変わらずの言動。彼女はもう諦めて景色を眺めることにした。

 

すると、イタイノンが思い出したかのようにポケットを弄る。

 

「そういえば、ダルイゼンのメガビョーゲンからこんなものが出てきたの」

 

イタイノンが取り出したのは、紫色の不気味な種。ダルイゼンのメガビョーゲンが吐き出したものだ。

 

「・・・それって」

 

「私たちのメガビョーゲンも出したものと同じ系統でしょうね」

 

クルシーナとドクルンはその種をじっくりと見る。それは自分たちのメガビョーゲンから吐き出しているものと同じであることがよく分かる。

 

「まあ、私には不要なもの、なの」

 

イタイノンは半ば押し付けるような形でクルシーナに差し出すと、彼女はそれを手に取る。

 

そのままマジマジといろんなところを眺めていたが、やがて何か悪巧みを思い出したように不敵な笑みを浮かべる。

 

「ちょっと面白いことしてみようか・・・」

 

クルシーナはその種に赤いオーラを注ぎ込む。すると、種から赤い4本足が生えてくるとクルシーナの手から飛び降りて、まるでクモのようにカサカサと動いていく。

 

すると白いワープホールみたいなものが現れると、種はその中に飛び込んで姿を消した。

 

「あの種は、どこに行ったんですかねぇ・・・?」

 

「さあね、適当なやつに入り込んでいくでしょ」

 

ドクルンがそう聞くも、クルシーナはそのまま昼寝を決め込もうとする。

 

しかし、そんな彼女の頭に何かが落ちてきた。

 

「あ、痛っ・・・もう、何?」

 

痛みに顔をしかめながら、空を見上げてみると上空にはダルイゼンの姿が。

 

「ダルイゼン?」

 

「・・・ふん」

 

ダルイゼンは彼女をしばらく見つめた後、背後を振り向いてそのまま姿を消した。

 

「あ、ちょっと! もう、なんなのよ、あいつ・・・!!」

 

言葉を待たずにその場を去ってしまったダルイゼンに不満を漏らすクルシーナ。

 

「クルシーナ、これが落ちてたみたいですよ」

 

「あ?」

 

何かを拾って声をかけてきたドクルンの方を向くと、その手には見覚えのあるものが。

 

「これって、アタシの髪飾り・・・」

 

クルシーナはドクルンから黒いチューリップの髪飾りを受け取る。どうやらあいつ、ダルイゼンは彼女の落とした髪飾りを届けるためにわざわざ現れてきたらしい。

 

「・・・ふん!」

 

クルシーナはあいつから髪飾りを渡されたときのことを思い出したのか、頬を恥ずかしそうに赤らめると鼻を鳴らしながら、髪にチューリップの髪飾りをつける。

 

「似合ってますよ」

 

「お世辞はいらないっての」

 

「道理で違和感があると思ったの」

 

「あんた、それはアタシに魅力がないって言いたいわけ?」

 

ドクルンとイタイノンのさりげない言葉に、不機嫌そうな表情になるクルシーナ。

 

「まあ、アタシたちは、病気で魅了すればそれでいいわよねぇ・・・」

 

クルシーナが笑みを浮かべて言った言葉に、ドクルンとイタイノンは目を見合わせる。

 

「病気で苦しめて~、愉快愉快♪ 楽しいわ♪」

 

さらに彼女は足を屋上から投げ出してプラプラとさせながら、急に歌を歌い始めた。

 

「苦痛の先は~、クラクラ♪ 虚ろだ♪」

 

「だから、何なの・・・その変な歌は・・・」

 

イタイノンは呆れたようにクルシーナを見つめる。

 

「まあ、いいじゃないですかぁ。私もたまには乗ってみたくなってきたところですし」

 

ドクルンはメガネを上げながら、歌に乗る気満々であった。

 

「病気で自由いっぱい♪ めちゃくちゃだらけだ♪」

 

一緒になって歌い出したドクルン。イタイノンは歌を歌う二人に辟易としつつも、仲間はずれにされるのは嫌だと言わんばかりに仕方なく乗ることにした。

 

「病気広がれ~♪ どんどん蝕め♪」

 

「病気で苦しめて~、愉快愉快♪ 楽しいわ♪」

 

「苦痛の先は~♪」

 

「クラクラ♪ 虚ろだ♪」

 

「「「楽しいことはやらなきゃさ♪ 病気蝕み、フフフ、フフフ♪ 辛いことも忘れてグッバイ♪ お前は私のもの♪」」」

 

三人娘はクスクスと笑いながら、珍しく3人仲良く見つめ合っているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃病院の地下室、一人の少女が眠る実験室・・・。

 

ブォン・・・ブォン・・・ブォン・・・。

 

体の中は赤い病気が蠢いていて、すでに彼女の体全体に広がっている。

 

少女の目はまるで死んでいるかのように閉じられている。肌の色は完全に人ではない色に変わっており、頭にツノのようなもの、下半身にサソリのような尻尾を生やしている。

 

そのまま赤い病気に包まれていたが・・・・・・。

 

眠っているはずの金髪の少女は、突然目を見開き、赤い光を宿していく。

 

その瞬間、彼女の中に眠る不思議な何かが膨れ上がり始め・・・・・・。

 

ドォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!

 

・・・大きな爆発を起こしたのであった。

 

「?・・・何? なんで揺れてんの?」

 

「今の音は、下から聞こえましたね・・・?」

 

「なんかすごい音がしたの」

 

その爆発音は屋上にいる三人娘の耳にも聞こえていた。この街が、この廃病院が揺れるほどの爆発が起こったのに、何とも冷静である。

 

「今のは地下から聞こえたウツ!」

 

「俺の耳もそう言ってるブル」

 

「何があったネム・・・?」

 

その音は幹部の相棒たちの耳にも聞こえていて、何事かというような感じだった。

 

地下室といえば、私たちが捕らえたあいつが眠っているはず、私たちがメガビョーゲンから手に入れた病気を与え続けていた・・・・・・。

 

「!・・・まさか・・・」

 

ドクルンは何かを察したように目を見開くと、急に立ち上がって走り出した。

 

「ちょっと!どこ行くの!?」

 

急に立ち上がって走り出したドクルンに、クルシーナが叫ぶ。残された二人は顔を見合わせると、立ち上がって彼女の後を追うべく走り出した。

 

ドクルンは中へと戻っていくと、地下室の階段へと向かう。すると、階段の踊り場のところに実験室の扉と思われるものが吹き飛んでおり、ひしゃげていた。

 

扉が吹き飛ばされて開かれた部屋、その中に入ると中にあったものが吹き飛んでめちゃくちゃになっており、少女を閉じ込めた部屋は防壁ガラスが全て割れていて、その中にあるものも散乱してめちゃくちゃになっている。

 

しかも、その少女の姿はなくなっている。

 

「何なのこれ・・・めちゃくちゃじゃない・・・」

 

「本当に何が起こったの・・・?」

 

後から追いついたクルシーナとイタイノンも部屋の惨状には、口調は冷静ながらも驚きを隠せない。少女に病気を与えていたとはいえ、いくら何でもこんなにめちゃくちゃになることがあり得るのだろうか?

 

何かが引火して爆発したのか? それとも、ドクルンが実験をかけていて、それが暴発したのか?

 

「ンフフ~♪」

 

「「「!!」」」

 

そんな考えを巡らせている中、背後からクスクスと笑うような声が聞こえてくる。

 

「お姉ちゃん♪」

 

さらに聞こえる猫なで声。三人娘たちは背後を振り返ると、そこに立っていたのは・・・。

 

「おやおや、やっとお目覚めですかぁ・・・」

 

ドクルンはその姿を視認すると、自身の実験がうまくいったと言わんばかりの不敵な笑みを浮かべるのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第34話「新種」

第12話がベースです。
告知もしていましたが、今回はオリジナルの新しい幹部、本格登場です!


 

ーーーーこいつ、どうする? アタシたちと同族になるんじゃないの?

 

ーーーーまあ、とりあえず、様子を見ましょうか。

 

ーーーーどうせ、うるさい奴が生まれるだけなの。

 

・・・誰かの話し声がする。赤い靄のようなものに包まれていて、体が動かない・・・。

 

ぼやける視界の中・・・見えているのは、3人の女の子・・・? でも、見た目は明らかに人間の肌ではなく、まるで病気のような色の肌。

 

ーーーーでも、ちょっとばかりはアタシらが細工を加えてもいいじゃない? 病気に蝕むとか?

 

ーーーーそうですねぇ、ついでに何も考えられなくなるぐらいにしてしまいましょうか。

 

ーーーー楽しそうだから、私もやるの。

 

・・・えっ、何? 何をする気なの?

 

すると、その子たちは、手に赤い何かを出現させると、私の体の中に注ぎ込んだ。

 

・・・痛い、痛い、痛い・・・苦しい・・・苦しい・・・。

 

・・・私の体の中が何かにかき回されていく・・・。

 

ーーーーまあ、これでこいつも少しは進歩するんじゃない?

 

ーーーーとりあえず、様子を見ましょうか。私たちの実験室で。

 

ーーーー楽しそうだから、私も付き合ってあげるの。

 

・・・3人の女の子が笑いながら、こちらを見ている。まるで蔑むような目。

 

・・・ああ、痛い、痛い、痛い、痛い・・・!!

 

・・・私の体の中が何かに蝕まれていく・・・。

 

・・・それからも、私は暗い部屋の中でいろいろと何かをされた。

 

・・・赤い卵が割れて、私の中に入ってくる。

 

・・・別の日には、ガラスのような玉からも赤い何かが私に入ってくる。

 

・・・また別の日には、少女に口づけされる。

 

・・・またまた別の日には、黒いバラが私の中に入ってきた。

 

・・・やめて。やめて。やめて・・・。

 

・・・激しく痛い・・・激しく苦しい・・・!!

 

・・・そんな、そんな、そんなこと、そんなところを掻き回されたら・・・!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん♪ 気持ちよくなっちゃう~~~~~~♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある夜、地球のどこかにある川岸。その川から一体の動物が陸上へと上がってきた。

 

その動物とは、ヌートリア。本来は日本に生息していない生き物で、世界では害獣指定もされている動物の一種だ。そんなヌートリアが日本の川からある川岸へと流れ着いてきたのだ。

 

濡れた体をプルプルと降って雫を落とし、草むらの中へと歩いて行こうとするヌートリア。

 

そんな、動物の後ろから白いワープホールが開いたかと思うと、あの紫色の不気味な種が現れた。

 

不気味な種は4本の足でカサカサと歩きながら、ヌートリアの背後を獲物を見つけたかのごとく近づいていく。

 

ヌートリアはそれに気付かずに、鼻をヒクヒクとさせながら臭いを嗅いでいる模様。

 

そんな動物の背後に接近すると、種は飛び上がって開き、赤い病気のようになり、なんとヌートリアの体内へと侵入していく。

 

「!!??」

 

その場で倒れるヌートリア。ピクピクと体が痙攣し始めており、その体の中には赤く蠢く何かが淀んでいたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マグマに満たされた世界、ビョーゲンキングダム。そこでは、ダルイゼン、シンドイーネ、グアイワル、そしてクルシーナ、ドクルン、イタイノンのビョーゲン三人娘が、自分たちの主であるキングビョーゲンに召集されていた。

 

「お呼びでしょうかぁ? キングビョーゲン様ぁ♪ シンドイーネ、取るものもとりあえず、駆けつけましたぁ♪」

 

愛しのキングビョーゲンに顔をあわせることができてご機嫌のシンドイーネ。まあ、まだ封印されている上に顔を成していないので、見えているとは言えないのだが・・・・・・。

 

「会わせたい者たちがいる・・・」

 

「会わせたい者たち?」

 

「何者ですか?」

 

キングビョーゲンから告げられた言葉は、最近は特になかった来訪者との接見だった。

 

ダルイゼンとグアイワルが正体のわからない人物に疑問を抱く。クルシーナ、ドクルン、イタイノンのときも顔合わせの収集はあったが、今回もこのようなことでの収集。一体、誰が現れたというのか?

 

するとキングビョーゲンはクルシーナたち三人娘へと視線を向ける。クルシーナは察したように不敵な笑みを浮かべ、三人娘は来訪者がいるであろう場所を振り向く。

 

「「「??」」」

 

三人娘が視線をキングビョーゲンと逆の方向に向いたことに疑問に思ったダルイゼン、シンドイーネ、グアイワルは彼女たちと同じ方向を向く。

 

カツ、カツ、カツ、カツ・・・。

 

ザ、ザ、ザ、ザ・・・・・・。

 

聞こえてくる二つの足音、黒い影が姿を現していくと、そこに現れたのは自分たちと似たような格好とサソリの尻尾を生やし、ネズミのような、ヌートリアのような外見をした獣人。

 

そしてもう一人は、自分たちと同じような人間のような外見で、同じく悪魔のツノとサソリのような尻尾をしているが、黄色のレースで白を基調としたバレリーナのような格好と白鳥のような翼をつけた衣装。薄い黄色の肌に、金髪の頭にティアラをしていて、両目は赤と緑のオッドアイになっている少女。

 

不気味な笑みを浮かべる獣人のような人物と、妖艶な微笑みを浮かべる少女。

 

(何、こいつら・・・?)

 

突然現れた相手に警戒心を持つシンドイーネ。ダルイゼンとグアイワルも警戒心を持っていた。

 

しかし、獣人のような人物と、少女は手を挙げると・・・。

 

「チ~っす!!」

 

「は~い!!」

 

獣人はやけにテンションが高く、少女はふわふわとしたような明るい声質だった。

 

「キングビョーゲン様~!! ただいま参上~っす!!」

 

「パパ~♪ ヘバリーヌちゃん、来ちゃったよぉ~♪」

 

キングビョーゲンに挨拶をすると、獣人はダルイゼンたちと同じような岩場へと飛び移る。

 

「来たか、バテテモーダ、ヘバリーヌ・・・」

 

ヘバリーヌと呼ばれた少女は周りをキョロキョロとしていて、一人の少女を見つけると瞳をキラキラと輝かせる。

 

「あ・・・♪」

 

「いぃぃ!?」

 

「クルシーナお姉ちゃーーーーん!!!」

 

「ちょ、ちょっ!? う、うわぁぁぁ!!??」

 

クルシーナは「嫌な予感」とでも言いたげな動揺した表情を見せていたが、案の定、ヘバリーヌが笑顔で飛んできたかと思うと、首に手を回して抱きついてきて、背後へと押し倒された。

 

「あ、イタタ・・・もう!ヘバリーヌ!!」

 

「な~に~? お姉ちゃん♪」

 

「いきなり抱きつくのはやめろって言ったでしょ!?」

 

「だって~~!! お姉ちゃんたちに、早く会いたかったんだも~ん♪」

 

クルシーナは痛みに頭をさすりつつ、ヘバリーヌに怒る。しかし、本人は全く悪びれることもなく、クルシーナの体を頬ずりしている。

 

「やっぱり、騒がしい奴だったの・・・」

 

「まあ・・・これは、私らが悪いんですけどね・・・」

 

イタイノンとドクルンは、クルシーナに抱きつくヘバリーヌの様子を見て「面倒臭くなった」と言わんばかりにため息を漏らしていた。

 

「もちろ~ん♪ 忘れてないよ~♪ ドクルンお姉ちゃん♪」

 

「はいはい・・・あなたは元気すぎて何よりですよ・・・」

 

そう言って抱きついてくるヘバリーヌに対して頭を撫でながら適当に返すも、ちょっと困ったように目をそらすドクルン。

 

「その蔑むような目も素敵だよ~♪ ノンお姉ちゃん♪」

 

「・・・暑苦しいから離れろ、なの・・・! っていうか、ノンお姉ちゃん?」

 

次にイタイノンに抱きついて頬ずりをしてくるヘバリーヌ。イタイノンは顔を顰めつつも、無理に彼女を振りほどこうとしない。それに、自分だけ呼ばれ方が違う・・・?

 

「もういい加減にしろっての!!!」

 

「あ~ん♪ もっと触っていたいぃ~♪」

 

「お父様の前でしょうが!! 自重しろ!!」

 

クルシーナはそう言ってヘバリーヌをイタイノンから引き剥がそうとする。しかし、彼女は嫌そうに聞こえない猫なで声を出しながら、彼女から離れようとしない。

 

「あ、じゃあ、クルシーナお姉ちゃんの体で♪」

 

ピトッ・・・・・・。

 

「ひぃ!?」

 

ドガッ!!!!! ズサァァァァァッ!!

 

「あぁ~ん!!!」

 

ヘバリーヌは思いついたように方向転換するとクルシーナの体を触った。敏感なところを触られたのか、鳥肌が立ったクルシーナは小さな悲鳴をあげると思わず蹴りを入れてぶっ飛ばした。ヘバリーヌは甘い声を上げながら数メートル地面を擦ると、岩場に激突した。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

クルシーナはすっかり息を切らしており、少し顔に汗もかいていた。

 

「痛ぁ~い!! でも、キ・モ・チ・イイ♪」

 

起き上がったヘバリーヌは痛がって泣くどころか、その攻撃をむしろ喜んでいたのであった。

 

「ああ!! もう!! 何なんだよ、何なんだよ、これ!!??」

 

クルシーナはヘバリーヌのおかしな発言に、イライラして地団駄を踏んでいたのであった。

 

一方、バテテモーダと呼ばれた獣人の方は、ダルイゼンに近づいていた。

 

「どうも~! ダルイゼン兄貴~♪」

 

「兄貴・・・?」

 

バテテモーダに兄貴と呼ばれたことに調子を狂わされるダルイゼン。

 

「随分とお調子者ね」

 

シンドイーネが呆れたように言葉を漏らす。

 

「そこはその、急成長の注目若手ってことで、多めに見てくださいなぁ~。ね? シンドイーネ姐さん♪」

 

「アンタに姐さん呼ばわりされる覚えはないわよ!!」

 

そこへごますりのように手を動かしながら、シンドイーネに近づくバテテモーダ。姐さんと呼ばれたことのない言葉を突然言われ、イライラしていたシンドイーネだが・・・。

 

「呼ばせてくださいなぁ~♪ 見目麗しいかな、シンドイーネ姐さんの類稀なる美貌♪」

 

「えっ? ま、まあね・・・当然よ」

 

バテテモーダに美貌を褒められて、満更でもないように顔を赤らめた。

 

「おばさんが顔を赤くしたの・・・」

 

「キモっ・・・そこにメガビョーゲンでも見たような気がするわ・・・」

 

「そこッ!! 聞こえてんのよ!!!」

 

クルシーナとイタイノンはその様子に寒気を覚えながらボソボソ言うと、シンドイーネの耳に入ったようで彼女が激昂する。

 

「あ・・・!」

 

ヘバリーヌは立ち上がって、シンドイーネの方に飛ぶと彼女に近づく。

 

「お姉さん、その蔑むような目、ヘバリーヌちゃんの好みなのぉ~♪ そういう目で見られるとヘバリーヌちゃん、ゾクゾクしちゃうの~♪」

 

「え、な、何・・・?」

 

ヘバリーヌの意味のわからない言葉に、訳がわからないという顔をするシンドイーネ。

 

「ねえねえ~、もっと私をその冷たい目で見てぇ~♪ っていうか、哀れなメス豚って罵ってぇ~♪♪」

 

「ちょっ、何なのよ!? こいつ!! 離れなさいってば!!」

 

すると彼女は猫なで声を出しながら、シンドイーネに抱きついてきた。シンドイーネは彼女を引き剥がそうとするが、意外にも力が強く離れようとせず、彼女の顔を押しのけるようにして力を入れる。

 

「・・・こっちの方は変態みたいだね。すごくめんどくさ・・・」

 

「わかる・・・? あいつは筋金入りの変態なのよ。目を覚ましたときも、どんだけ苦労したか・・・」

 

ダルイゼンは関わりたくないと言わんばかりにつぶやくと、クルシーナは疲れたような顔をしながら返す。

 

そんな彼はヘバリーヌに関して、一つ気になることがあった。

 

「っていうか、パパって呼んでたよね・・・?」

 

「ああ~、あいつもそういう口なのよ・・・」

 

「・・・・・・なるほど」

 

面倒臭そうに答えるクルシーナに、ダルイゼンはキングビョーゲン様のそういう器なのだろうと察して、一人納得した。

 

一方、バテテモーダはグアイワルの方へと近づく。

 

「輝かしいかな・・・グアイワル先輩の明晰なる頭脳!!」

 

「ふっ・・・」

 

グアイワルも褒められて笑みを浮かべる。

 

「誇らしいかな・・・ダルイゼン兄貴の沈着にして冷静なるハート!!」

 

「・・・ふん」

 

ダルイゼンも少しばかり照れながらも、鼻を鳴らして返す。

 

「そして・・・!!」

 

バテテモーダは、次は三人娘にも近づく。

 

「素晴らしいかな・・・クルシーナお嬢さんの偉大なる強さ!!」

 

「・・・褒めたって何もあげないわよ」

 

クルシーナはそっぽ向くように冷たく返す。ダルイゼンたちとは違って、媚びへつらっているように感じ、褒めても嬉しくない様子。

 

「煌びやかな・・・ドクルンお嬢さんの理知的で、素晴らしい頭脳!!」

 

「・・・それって、褒めてるんですかぁ?」

 

ドクルンは不敵な笑みを浮かべつつも、困ったような口調を返す。

 

「可愛らしいかな・・・イタイノンお嬢さんの素晴らしい悪巧み!!」

 

「・・・ふん」

 

イタイノンは鼻を鳴らしてそっぽを向く。誰かに褒められても嬉しくはないの・・・。

 

「みなさん方の活躍は、こ~んな小さい頃からよ~く知ってます! 自分もみなさん方のように、バリバリ地球を蝕みたいっすよ~!」

 

バテテモーダは指と指の間に隙間を作り、それを目の前にかざしながら6人に言った。

 

「ちょっと、アンタら!! こいつをなんとかしなさいよ!!」

 

「・・・・・・ふむ」

 

抱きついてこようとするヘバリーヌを両手で押しのけながら、シンドイーネは怒ったように三人娘に抗議する。クルシーナはその様子を見て顎に手を当てて考える。

 

「ヘバリーヌ」

 

「ん~?」

 

名前を呼ばれたヘバリーヌは、クルシーナの方を見ると彼女がこちらへと手招きをしているのを視界に移す。ヘバリーヌはそれに笑顔を見せると、シンドイーネから離れてクルシーナの元に飛ぶ。

 

「な~に~? お姉ちゃん♪」

 

「アンタ、殴られるのが好きなのよね?」

 

「そうだよ~♪ あ、殴ってくれるのぉ!?」

 

「ええ・・・好きなだけいたぶってあげるわ。ただし!!」

 

クルシーナはそう言って、ヘバリーヌに指を突きつける。

 

「アンタがちゃーんと仕事をこなしてくれたらね♪」

 

ヘバリーヌはそういうとますます瞳を輝かせて、首を激しく縦にふる。

 

「うんうんうん!!やるやる~!! ヘバリーヌちゃんも、地球を病気に蝕んで、気持ちよ~くしたいもん♪」

 

「だぁー!! もう!! 抱きつくなっての!!」

 

ヘバリーヌはウキウキしながら抱きつく。サソリの尻尾をフリフリとさせていて、本当に無垢な子犬のように嬉しそうだ。

 

「では、バテテモーダ・・・ヘバリーヌ・・・行くがよい・・・」

 

そんな二人の言葉を聞いていたキングビョーゲンは、早々に出撃の許可を出す。

 

「おーっと!! 早くも出撃のご命令!! 自分、感動~っす!!」

 

「やったー!! パパが許可してくれた~!! 嬉しいな~♪ パパだーいすき♪」

 

バテテモーダとヘバリーヌは目を輝かせながら言った。

 

「フフフ・・・アタシも行ってあげる。アンタたちの初舞台、ちゃんと見届けさせてもらうわよ」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべながら言う。

 

「おぉ~!! クルシーナ嬢に見てもらえるなんて!! 感激っすよ!!」

 

「お姉ちゃんも来てくれるなんて、ヘバリーヌちゃん、もう自分をさらけ出した~い!!」

 

「先輩が見るのは当たり前じゃない。まあ、新人の研修ってことで、ね?」

 

クルシーナはそう言いながら、二人にウィンクをかます。

 

「では、クルシーナも、この二人をもっと効率良く蝕めるように導いてやれ・・・」

 

「もちろんよ。お父様」

 

キングビョーゲンに任を任されたクルシーナは返事をすると、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

ーーーー利用できるものは、利用してやらないとね・・・。

 

クルシーナは笑みの裏でそのようなことを考えていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幹部1人と新人2人の、ビョーゲンズの3人が降り立ったのはすこやか市の採石場。そこには山のように積まれている石が安全柵に囲まれており、近くには石が掬い上げられたショベルカーがあった。

 

ショベルカーの近くに飛び降りた3人。

 

「・・・嫌な匂いするっすね。健康的な地球は」

 

バテテモーダが当たりの匂いを嗅ぎながらそう呟く。

 

「ホント不快よね。病気で侵したくなっちゃうくらい。まあ、ここは自然の山よりかはマシだけど」

 

クルシーナは不機嫌そうな顔を隠さずにそう言う。

 

「何か空気が肌にピリピリぃぃぃ・・・でも、それがまたいいよね~♪」

 

ヘバリーヌは肩を抱きながら頬を赤く染めながら、何かを感じ取って嬉しそうな声を上げている。

 

「ヘバリーヌお嬢って、そっち系の趣味なんっすか・・・?」

 

「ええ・・・そっち系よ。何でこんな奴になっちゃったんだか・・・」

 

「い、いや! 地球のこんな不快な空気で平然と振る舞えるなんて、さすがだと思うっすよ!!」

 

「無理して褒めなくていいっつーの」

 

ヘバリーヌが悶えるように体を動かしていることに、バテテモーダは無理に褒めようとし、クルシーナは呆れたような表情を見せていた。

 

「とりあえずは、蝕めるもの探したら?」

 

「OKっす!!」

 

バテテモーダは元気に返事をしたが・・・・・・。

 

「空気のピリピリ感がぁ、伝わってくるぅ~♪」

 

「ヘバリーヌは悶えてないで、探せっての!」

 

ヘバリーヌはいまだに肩を抱きながら、体をくねらせている。

 

クルシーナはヘバリーヌにため息をつきながら、二人から離れて別の場所へと移動する。

 

「クルシーナ、あいつらを本当に教育するウツ?」

 

「・・・教育するまでもないでしょ? ビョーゲンズなら最初からビョーゲンズとしてやることはわかってるんだから。お父様の快楽も満たせないような、使えない奴なんか切り捨てられるだけよ」

 

帽子のウツバットの疑問に、冷淡に答えるクルシーナ。正直、私も地球を蝕むという行為が最優先であって、あいつらの相手をしている時間は毛頭ないのだ。

 

あいつらが3人で出したあの浄化技、あの対抗策を考えなければ・・・・・・。

 

二人から見えなくなったところへ行くと、そこはショベルカーすらないが、別の採石場。そこには見覚えのある3人の少女と小さな動物のような妖精たちの姿が。

 

「あれってプリキュアじゃない。なんでこんなところにいんのよ?」

 

そもそもあいつらが、こんなところに行ってどうするというのだろうか? 呑気にピクニックでもしに来たのか? でも、わざわざこんなところでするバカがいるわけがない。

 

とりあえず、見つからないように様子だけ見てやることにする。

 

「ネコのポーズ!!」

 

栗色の髪の少女に付いている黄色い猫がそう言うと、3人はそれぞれ変なポーズをし始めた。

 

「次はペンギンのポーズペエ!!」

 

藍色の髪の少女と一緒にいる青いペンギンがそう言うと、これもまたおかしなポーズをとり始める。

 

「最後はウサギのポーズラビ!!」

 

キュアグレースにひっついているピンク色のウサギがそう言うと、やっぱり理解し難いポーズをとり始める。

 

「・・・はぁ~。全然合わないね」

 

マゼンダ色の髪の少女はそう言って、表情を緩ませた。

 

「・・・何やってんだが。バッカみたい」

 

「相変わらず、あいつらはトンチンカンなことをやってるウツ」

 

クルシーナは呆れたように見やると興味をなくして、二人の元へと戻っていく。

 

戻ってみるとバテテモーダはその場から移動していることから、探していたのだと思うが、まだ辺りをスンスンと鼻で匂いを嗅いでいた。

 

「あ~!! 不快不快不快!! 不快感しかない!! もう、自分限界っす!!」

 

辺りから漂う自然の匂いに不快感を覚えて、喚いているバテテモーダ。

 

「ホント不快でしょ? だから、アタシたち好みに染める必要があるの」

 

クルシーナは叫ぶバテテモーダの近くに来て、不敵な笑みを浮かべる。

 

「あっち、こっち、そっち~♪」

 

ヘバリーヌはウキウキしながら、あちらこちら移動しながら蝕めるものを探していた。

 

「おぉ♪」

 

すると、石が積み上がっている場所の近くに岩を削るためのドリルが地面に刺さっているのを見つける。

 

「なんかあれ~、かなり生き生きしてるって感じ~♪ あぁぁぁん!! 気持ちよくなっちゃう~♪」

 

ヘバリーヌはまた体をくねらせながら、生きてるって感じがするものの生気を感じ取る。クルシーナであれば不快感をあらわにするはずなのだが・・・。

 

「何、アンタ踊ってんの・・・?」

 

「あ、お姉ちゃん♪」

 

ヘバリーヌはクルシーナの姿を視認すると、彼女に近づく。

 

「ねえねえ、ヘバリーヌちゃんが気持ちよ~くなるものを見つけたんだよ~♪」

 

「は・・・?」

 

「こっちこっち~♪」

 

クルシーナは訳がわからないというような顔をするも、ヘバリーヌは案内するかのように手を引っ張る。

 

「あれあれ~♪」

 

ヘバリーヌはそう言って両手の指でさすと、クルシーナは地面に突き刺さっているドリルを見る。

 

「・・・ふーん、いいんじゃない?」

 

クルシーナはドリルから不快な生気を感じ取って笑みを浮かべると、バテテモーダの方を振り向く。

 

「アタシは見てるだけだから、アンタらがやんなよ」

 

「ええ!? 自分、いいんっすか!?」

 

「もちろんよ。そのぐらいやってもらわないとビョーゲンズの幹部なんか名乗れないからね」

 

「いや! クルシーナ嬢ほどでは・・・! でも、よーし! じゃあ、蝕んでやりますかねぇ!」

 

バテテモーダはショベルカーに積まれている石の一つを握力で砕く。そして、ダルイゼンたちですら見たことがない邪悪な笑みを浮かべる。

 

「ヘバリーヌ、アンタも」

 

「やったら、ヘバリーヌちゃんにご褒美くれるんだよね~?」

 

「ええ、あげるわ。ちゃんと仕事をしたらね」

 

「やった~! ヘバリーヌちゃん、頑張るね~♪」

 

ヘバリーヌは嬉しそうな声を出すと、先ほど見つけたドリルへと近づく。

 

「地球ちゃん♪ 私と一緒に、気持ちよくなろ♪」

 

妖艶な微笑みを浮かべると、ヘバリーヌはバレリーナのようなポーズを2回取りながら、それぞれ手を叩き、バレエのように体をクルクルと回転させる。

 

「進化しちゃってぇ~、ナノビョ~ゲン♪」

 

「ナノォ~♪」

 

ナノビョーゲンが鳴き声を上げながら、ドリルへと取り付く。ドリルが徐々に病気へと蝕まれていく。

 

「・・・!!?・・・!!!」

 

ドリルの中に宿るエレメントさんが病気へと蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガビョーゲン・・・」

 

肩と胸、両腕にドリルを持った人型のメガビョーゲンが誕生したのであった。

 

「メーガー・・・」

 

メガビョーゲンは採石場の石の壁を腕のドリルに電気を込めて削り始める。削られた壁からその広範囲が病気へと蝕まれていき、さらに飛び散り、落ちた石の壁のかけらが地面に落ちてその場所も狭い範囲ではあるが、病気の赤で染まっていく。

 

「メガー・・・」

 

メガビョーゲンはさらに地面にドリルを突き刺すと、地面の広範囲が病気へと蝕まれていく。

 

「へぇ・・・やるじゃない、メガビョーゲン」

 

クルシーナは感心したかのように声を上げる。

 

「いいよいいよぉ~♪ もっとこの場所を気持ちよくしちゃってぇ~♪♪」

 

ヘバリーヌは腕を振り回しながら、嬉々した表情でメガビョーゲンに指示をする。

 

「メガビョーゲン・・・」

 

メガビョーゲンはその後も電気をまとったドリルを突き刺して削り取っていきながら、病気に蝕んでいく。

 

「じゃあ、アタシは高みの見物してるから、しっかりやんなよ」

 

「了解っす!!」

 

「は~い!!」

 

二人が返事をする中、クルシーナはそう言ってどこかへと飛んで行った。

 

「ンフフ♪」

 

ヘバリーヌは自分のメガビョーゲンがこの場所を病気で蝕んでいるのを見て、妖艶な微笑みを浮かべたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

のどかたちプリキュアは、なぜか採石場でチームワークを高めるための特訓をしていたが、その時だった・・・!

 

「クチュン! クチュン!!」

 

一緒に連れてきていたラテが二回くしゃみをした後、ぐったりし始めた。

 

「ラテ!!」

 

「ビョーゲンズペエ!!」

 

ヒーリングアニマルたちが持ってきた、ヒーリングルームバッグから聴診器を取り出し、ラテを診察する。

 

(大きな車さんの中でちっちゃな石さんが泣いてるラテ・・・石さんたちの側にあるトゲの機械さんが泣いてるラテ・・・)

 

ここは採石場・・・どうやらこの近くにメガビョーゲンが二体も現れた模様・・・。

 

のどかたちは急いでその現場に向かうと、メガビョーゲンが地面の岩を削って掬い上げて、石を地面にばらまいて病気に蝕んでいて、さらにその後ろでは壁でドリルを削りながら病気に蝕んでいるメガビョーゲンもいた。

 

「いたわ!! メガビョーゲン!!」

 

「しかも、二体いる!!」

 

「え、もうこんなに蝕んでんの!?」

 

「察知してから時間は経っていないはずよ!!」

 

のどかたちはあまり広くないこの採石場が察知してから駆けつけるこの短時間に病気で蝕んでいることに驚きを隠せない。それほどメガビョーゲンも強いのだろう。

 

しかし、こんなところでビビっているわけにはいかない。早くメガビョーゲンを浄化しなければ・・・。

 

「ちゆちゃん!! ひなたちゃん!!」

 

のどかたち3人はお互いに頷く。

 

「ラビリン!!」

 

のどかに呼ばれたヒーリングアニマルたちも頷く。

 

「「「スタート!」」」

 

「「「プリキュア、オペレーション!!」」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

 

「「「キュアタッチ!!」」」

 

ラビリン、ペギタン、ニャトランがステッキの中に入ると、のどか、ちゆ、ひなたはそれぞれ花のエレメントボトル、水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

そして、肉球にタッチすると、花、水、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、水色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ちゆは水色、ひなたは黄色へと変化する。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「「「地球をお手当て!!」」」

 

「「「ヒーリングっど♥プリキュア!!」」」

 

3人が変身したヒーリングっど♥プリキュアが揃ったのであった。

 

「あれぇ? あれは、プリキュアちゃんかなぁ?」

 

ヘバリーヌはプリキュアに変身した3人の姿に気づく。あの少女たちも健康的で、生き生きとしている。

 

「懐かしいなぁ~♪ いつかは忘れたけど~、久々に見るぅ~♪」

 

彼女は感情を抑え込みつつも、内心ワクワクしていた。

 

自分もビョーゲンズとして目覚めて、こんなに気持ちよくなる前に見ていたあの女性とは違うが、確かにプリキュアだ。ピンク色と青色と黄色のコスプレ姿をしている。

 

でも、あのプリキュアとは明らかに、決定的に何かが違う。私が会ったあのプリキュアからは神秘的な何かをあの娘たちからは感じられなかった。

 

あの娘たちって、人間なのかなぁ・・・?

 

「ンフフ~♪」

 

ヘバリーヌはそう思いながら唇に指を当て、妖艶な微笑みを浮かべるのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第35話「激戦」

前回の続きです。
新幹部、初バトルです!


 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

プリキュアに変身した3人は、一斉に飛び上がってメガビョーゲンに向かって飛び蹴りを繰り出す。

 

しかし、そのメガビョーゲンとプリキュアの間に割って入る影が二つ。

 

「よっと~!!」

 

「「「!?・・・あぁぁぁっ!!」」」

 

そのうちの一人が右足を振り上げると竜巻が巻き上がり、プリキュアの3人はそれに吹き飛ばされて地面に落ちる。

 

「何、今の・・・?」

 

「メガビョーゲンが・・・?」

 

「違うわ・・・」

 

プリキュアたちはメガビョーゲンが未知なる力を発揮したのかと思ったが、明らかにメガビョーゲンの力ではないことを察する。

 

「! 見て!!」

 

グレースが指をさす視線の先には、ネズミのような獣人とバレリーナの姿をした少女だった。

 

「ち~っす! あんたたちがプリキュアっすか~? はじめまして~!!」

 

メガビョーゲンの間に割って入ってきた獣人ーーーーバテテモーダはプリキュアを見ながらへらへらとした笑みを浮かべる。

 

「ヤッホー! プリキュアちゃん♪ 見るのは久しぶりだね~♪」

 

同じく少女ーーーーヘバリーヌは腕をブンブン振り回しながら、年頃の少女のような笑顔を見せる。

 

「だ、誰ニャ・・・?」

 

「あいつらも、ビョーゲンズ・・・?」

 

「で、でも・・・ダルイゼンでも、グアイワルでも、シンドイーネでも、クルシーナやドクルン、イタイノンでもないペエ・・・!!」

 

「あんなの見たことがないラビ・・・!!」

 

プリキュアたちは突然、現れた新たな敵に戸惑う。あの6人以外、誰も姿を現さなかった敵が今になって現れるとは・・・。

 

「はいはいは~い! 自己紹介しまーす!! 自分、この度ビョーゲンズ注目若手として、新登場したバテテモーダっす!!」

 

バテテモーダはへらへらと動きながら自分の名前を名乗る。

 

「ごめんね~、名前を名乗るの忘れちゃってぇ~♪ ヘバリーヌちゃんは、ヘバリーヌっていうの~♪ ビョーゲンズの王様、キングビョーゲンの娘で~す♪」

 

ヘバリーヌは体を悶々と揺らしながら、敵らしくない明るい声で自分の名前を名乗り、最後にウィンクをする。

 

「バテテモーダ・・・?」

 

「ヘバリーヌ・・・キングビョーゲンの娘って・・・!?」

 

「クルシーナやイタイノンと同じ奴らかニャ・・・!?」

 

ヘバリーヌがキングビョーゲンの娘だと知らされて驚愕するプリキュアたち。クルシーナと同じようなビョーゲンズの仲間が増えてしまったのか・・・?

 

「しくよろ、プリキュア。そして多分、サヨナラ。だって自分、あんたらに負ける気がしないんで」

 

バテテモーダはピースサインをすると、一転して小馬鹿にしたような態度をとる。

 

「ねえねえ、ヘバリーヌちゃんとぉ、もっと気持ちいいことしようよ~♪ 私がゾクゾクするようなことをぉ~♪」

 

ヘバリーヌは体をくねらせながら、猫なで声を出す。

 

プリキュアたちは挑発の言葉を受けたかのように立ち上がる。

 

「ああ~! 勇ましいけど、やっぱ負ける気がしないっすわ。何故かって・・・? 自分、強いから・・・!」

 

バテテモーダはプリキュアが戦う意思を見せても、表情を変えず不敵な笑みへと変わる。

 

「バテテモーダ、オンステージ、開幕ッ!!!」

 

バテテモーダはなんと自分からプリキュアに向かって攻撃を仕掛けてきた。プリキュアたちは背後に飛びのいてかわす。

 

「あぁ~ん!! モーダちゃん、ずる~い!! 私も楽しいことしたいのに~!!」

 

ヘバリーヌは一足お先にプリキュアへと突っ込むバテテモーダに不満を漏らす。

 

「自分から戦うなんて・・・!?」

 

グレースは自分から積極的に戦いに来るバテテモーダに動揺を隠せない。メガビョーゲンを発生させているのに、自分から攻撃を仕掛けてきたのはこの敵が初めてだ。

 

「だってさー! 見てるだけなんて、つまんないっしょー?」

 

バテテモーダはそう言いながらジャンプして飛び上がる。

 

「やっぱ自分から盛り上げていかないとー!!」

 

壁に飛びついて蹴った後、スパークルへと飛び出していく。

 

「っ・・・!!」

 

スパークルはバテテモーダの拳をなんとか押し返すと、そこへフォンテーヌがパンチで攻撃を繰り出す。

 

「おぉ~!? 楽しい楽しい!! いいねぇ!! 思った以上にパワーあるっすねぇ!!」

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

バテテモーダはフォンテーヌの拳を腕で受け止めながら言う。さらにそこへ別方向からスパークルがパンチで殴りかかる。

 

「でも、聞かない!! 何故って・・・? 自分の方が、強いから!!」

 

「「きゃあぁぁぁぁ!!」」

 

バテテモーダは反対の腕で余裕で受け止めると、凄まじいパワーで押し返し二人を吹き飛ばした。

 

「スパークル!! フォンテーヌ!!」

 

叫ぶグレース、そんな彼女をヘバリーヌが見つめていた。

 

「ふーん、じゃあ私があれをもらおっと♪ とう!! やぁ~!!」

 

ヘバリーヌは地面を駆けると、飛び上がりグレースに向かって飛び蹴りを繰り出す。

 

「!? っ・・・!!」

 

グレースはヘバリーヌがこちらに攻撃を仕掛けてきたことに気づくと、ステッキを使いながらキックを受け止める。

 

ヘバリーヌは蹴って一回転をして背後に下がると地面に着地をした後に、再びグレースに接近していく。

 

「ほぉ!! はぁ!! やぁ!!」

 

「くっ・・・うぅ・・・きゃあ!!」

 

ヘバリーヌは右足を突き出してミドルキックを繰り出すも、グレースはそれを受け止め流すと、ヘバリーヌは次に左右と両足を蹴り上げ、さらには飛んで回転蹴りを食らわせる。グレースは両足の蹴りでステッキを弾かれ、回転蹴りを受けて吹き飛ばされる。

 

「ふっ!!」

 

「っ!?」

 

ヘバリーヌは地面に転がったグレースに、間髪入れずに飛び上がり、右足の蹴りを繰り出す。グレースはその場に転がってとっさにかわす。

 

「はぁぁぁ!!」

 

立ち上がったグレースはヘバリーヌへと飛び出し、パンチを繰り出す。ヘバリーヌはとっさに拳を繰り出して、グレースの拳を防ぐ。

 

「っ!?」

 

お互い拳の勢いでわずかに吹き飛ばされるも、踏ん張って止まる。

 

ヘバリーヌは防ぐのに使用した拳を開くと、唇の近くに指を当てて妖艶な微笑みを見せる。

 

「ねえねえ、プリキュアちゃんの攻撃、右手が痺れて気持ちいいな~♪ ヘバリーヌちゃんも気持ちいいのあ・げ・る♪」

 

「っ!!??」

 

ヘバリーヌは腕をもじもじとさせながら猫なで声を出す。グレースはその声に寒気のようなものを感じた。何を言っているの、この娘は・・・?

 

「とう!! やあぁぁぁぁ!!」

 

そんなことを考える間も無く、ヘバリーヌは再び飛び出すとグレースの上を飛ぶ。飛んだ先の岩場の壁を蹴って飛び上がると、オーバーヘッドのように回転させると、体を回転させてドリルのように突っ込んできた。

 

「っ!? きゃあぁぁぁぁぁ!!!」

 

グレースはステッキを構えて防ぐ体制をとるも、回転するキックの勢いの方が防御力を上回り、直撃して土煙を立てながら大きな音を出した。

 

土煙が晴れていくと傷だらけのグレースが倒れていて、再び立ち上がろうとしていた。

 

「今のは痛いよね~♪ でも、気持ちいいよね~♪」

 

ヘバリーヌは肩を抱きながらもじもじと悶える。その様子を見て、グレースは動揺の表情を隠さなかった。

 

「あらら・・・もうちょっと盛り上げてこうよ?」

 

バテテモーダは、グレースがヘバリーヌに圧倒されているのを見てつまらなそうに笑う。

 

「メガビョーゲン!!」

 

バテテモーダとヘバリーヌと戦っている間に、ショベルカーのメガビョーゲンは赤い石をばら撒いて着々と病気に蝕んでいく。

 

「はいはい! ご苦労さん!! どんどん蝕んじゃって!!」

 

「いいよいいよ~♪ 地球ちゃんが気持ちよくなってるよぉ~♪」

 

ヘバリーヌが悶々と悶えていると、バテテモーダが彼女を見て辺りを見渡す。

 

「ん、あれ? お嬢のメガビョーゲンはどこっすか?」

 

「あれぇ~? どこだろう~?」

 

ヘバリーヌは辺りをキョロキョロと見渡しながら、甘えたような明るい声を出す。

 

「くっ・・・キュアスキャン!!」

 

グレースは歯を食いしばりながらも、ステッキのラビリンの顔をメガビョーゲンへと向ける。

 

すると、メガビョーゲンの腹部の部分にエレメントさんの姿があった。

 

「宝石のエレメントさんラビ!!」

 

グレースがメガビョーゲンを止めようと走ろうとした一方で、バテテモーダに吹き飛ばされたフォンテーヌとスパークルは・・・・・・。

 

「くっ・・・!」

 

「うっ・・・!」

 

体が傷つきながらも、立ち上がろうとしている二人。そんな時だった・・・・・・。

 

ゴゴゴゴゴゴ・・・・・・!!

 

「え・・・?」

 

「な、何・・・?」

 

フォンテーヌとスパークルはどこからか凄まじい音が聞こえるのを感じ、その音が段々と大きくなっている。一体、どこから聞こえてきているのか・・・?

 

ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・!!!

 

「! 下だ!!!」

 

感じ取ったニャトランがようやく音の出所を割り出すも、もう時はすでに遅かった・・・。

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・ドガァァァァァァァァァン!!!

 

「メガ、ビョーゲン・・・」

 

「「ああぁぁぁぁぁ!!!」」

 

地面がいきなり吹き飛び、二人は上へと吹き飛ばされてしまう。地面へと落ちて転がる二人。

 

体を起こして正体を確かめようとすると、それはドリル型のメガビョーゲンだった。その穴から病気が広範囲に広がっていき、赤い靄が濃くなっていく。

 

「メガビョーゲン・・・!?」

 

「地面に、潜ってたの・・・!?」

 

そんなことをしてくるメガビョーゲンに、二人は信じられないといった表情だった。

 

「私のメガビョーゲン、あんなところにいたんだ~♪」

 

「地面に潜ってたんすかぁ~!? さすがお嬢のメガビョーゲンっすね~!!」

 

「ありがと♪」

 

ヘバリーヌはメガビョーゲンを見つけて明るい声を漏らし、バテテモーダは感心感心といったような声を出す。

 

「メーガー・・・」

 

「あぁぁぁぁ!!」

 

メガビョーゲンは両肩のドリルを回転させて体を傾けて振り下ろす。フォンテーヌはぷにシールドを張るも、重さと大きさの問題なのか呆気なく吹き飛ばされてしまう。

 

「ビョーゲン・・・」

 

「きゃあぁぁぁぁぁ!!!」

 

さらにサソリの尻尾の先にドリルを回転させながら振るい、スパークルは宙を舞いながら吹き飛ばされる。

 

「スパークル!! フォンテーヌ!!」

 

グレースはメガビョーゲンに攻撃されているフォンテーヌとスパークルへと振り向く。前と後ろにいるメガビョーゲン、両方を見るも、どちらを先に攻撃をすればいいのか?

 

「いいよ~、メガビョーゲン♪ そのままプリキュアちゃんたちを気持ちよくしてあげてぇ~♪」

 

「メーガー・・・」

 

ヘバリーヌが赤らめた頬を手に当てながら首を振ると、メガビョーゲンはまずフォンテーヌにトドメを刺そうと回転させているドリルを振り上げる。

 

「くっ、うぅぅぅ・・・!!」

 

「フォンテーヌ!!」

 

フォンテーヌは再度ぷにシールドを展開してドリルを受け止めるも、彼女の表情は苦しくに顰めていて、腕もプルプルと震えていて辛そうだ。

 

「ダメ!!」

 

フォンテーヌがやられてしまう・・・そう思ったグレースはドリル型のメガビョーゲンへと飛び出す。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

メガビョーゲンの上へと飛び上がって飛び蹴りを喰らわせようとする。

 

「無視しないでよぉ~♪」

 

そこへ同じ高さに飛び上がったヘバリーヌが右足を振り上げると、黒い竜巻が彼女に向かって飛んでくる。

 

「!? あぁぁぁぁ!!!」

 

黒い竜巻に飲み込まれ、そのまま地面へと叩きつけられて地面を転がる。

 

「グレース!! しっかりラビ!!」

 

「くっ、うぅ・・・!!」

 

「ひゃはははははは! 自分たちに勝てる気しないっしょ? なぜって・・・? 全く負ける気がしないからっす!! はい!ピンポン大正解!!」

 

バテテモーダが指を鳴らすと、ショベルカーのメガビョーゲンは壁の地面を削り取って病気へと蝕む。

 

「プリキュアちゃん、もしかして焦らしてるぅ~? そういう遊びをしてくれてるのかなぁ~、ンフフ~♪ それも嫌いじゃないけどぉ、やっぱり痛くしてくれるほうがいいなぁ~♪」

 

ヘバリーヌは妖艶な笑みを浮かべながら、嬉しそうに話している。グレースには全く彼女のことが理解できない。

 

「おぉ?」

 

彼女は、次は自分のメガビョーゲンの攻撃に耐え続けているフォンテーヌの方へと行く。

 

「あぁ~ん、苦しそう~♪ 苦しいよね~? 辛いよね~? 痛みを受け入れれば楽になれるかも♪」

 

「うぅぅぅ・・・ぐうぅぅぅぅぅぅぅ・・・!!!」

 

フォンテーヌはヘバリーヌの言葉に聞き耳を立てずにメガビョーゲンの攻撃を押し上げようとするも、腕が悴んで力が入らなくなってきた。押し上げるどころか、逆に押し返されようとしている。

 

ここ一体を、完全に蝕まれるのも時間の問題だった。

 

「このままじゃ・・・!」

 

新しいビョーゲンズ二人に攻められるこの状況、このままではお手当てもできない。また、あの時と同じようなことになるのではと不安に駆られる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

スパークルがメガビョーゲンの横から飛び上がって、ステッキから菱形のエネルギーを飛ばす。

 

「メーガー・・・?」

 

エネルギーは顔に着弾し、体勢を崩したメガビョーゲンは横へと倒れる。

 

「うぅぅ・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 

「フォンテーヌ、大丈夫!?」

 

「え、ええ・・・」

 

メガビョーゲンのドリルから解放され、膝をついて息を整えるフォンテーヌ。

 

「グレース!!」

 

スパークルはそんなグレースに声を掛け、彼女を安心させるかのように二人はボロボロになってもメガビョーゲンの前に立ち上がり、グレースを安心させようとする。

 

「そうだ・・・私たちは一人で戦ってるんじゃない。みんなの想いで戦っているんだ・・・私も、二人を信じたい・・・!!」

 

グレースは自分の再起してボロボロながらも立ち上がり、ヘバリーヌに向かって構える。

 

「な~に~? その冷たい眼差し~♪ はぁ~ん♪ いいねいいね~♪ 私をもっともっと気持ちよくしてぇ~♪」

 

ヘバリーヌは何やら快感を覚えると、甘い声を発しながらグレースへと走っていく。

 

「おお? まだやるっすかぁ? いいじゃんいいじゃん!!」

 

バテテモーダは相変わらずヘラヘラしたような態度でプリキュアたちを見ている。

 

「メーガー・・・」

 

ドリル型のメガビョーゲンは立ち上がると、フォンテーヌとスパークルに向かって両腕のドリルを振り下ろす。

 

フォンテーヌとスパークルは飛び退いてかわす。

 

「「キュアスキャン!!」」

 

フォンテーヌはステッキの肉球をタッチしてメガビョーゲンにペギタンの顔を向ける。ペギタンの目が光り、ドリル型メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを見つけ出す。

 

「雷のエレメントさんペエ!!」

 

エレメントさんはメガビョーゲンの左胸にいる模様。

 

「よそ見は禁物っすよ!!」

 

「!?」

 

「っ! はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

そこへバテテモーダがその隙を狙ってフォンテーヌに攻撃を仕掛けようとするも、スパークルが気づいてその勢いのままバテテモーダへと蹴りを入れる。

 

「ぐっ・・・でも、無理無理、っ!!」

 

バテテモーダは空中で両腕をクロスさせて蹴りを防ぎ、逆に蹴り返して吹き飛ばす。先ほどの一撃はさっきよりも強く、それでもまだ余裕があったが、少し彼の表情が歪んだ。

 

「ふっ! はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

フォンテーヌは岩の壁を利用して、バテテモーダに蹴りを入れる。

 

「うぉ!? ちょい強め!!」

 

バテテモーダは防ぎつつも怯み始め、少し後ろへと体勢をよろつかせた。

 

一方、グレースは・・・・・・。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「そーれっ!!」

 

グレースとヘバリーヌの蹴りがぶつかり合い、周囲を吹き飛ばすほどの風が飛ぶ。

 

「よっと! ほっ! やっ!!」

 

二人はお互いに吹き飛ばされるも、ヘバリーヌは素早く体勢を立て直して猛スピードで急接近すると、右左と足を出して回転蹴りを繰り出す。

 

「く、うぅ!」

 

「とう! よっと!」

 

「うっ、あぁぁ!!」

 

グレースはそれを右腕でなんとか防ぎきるも、表情が辛そうに歪み、さらにヘバリーヌはその勢いのまま地面に手をついて、再度右左と回転蹴りを繰り出す。

 

グレースは連続で来る攻撃には耐え切れずに、吹き飛ばされてしまう。

 

「そぉぅれぇ!!」

 

ヘバリーヌは蹴りの勢いのまま、飛び上がって一回転すると地面へと倒れるグレースへと踵を振り下ろす。グレースは両腕をクロスさせて踵の攻撃を防ぐ。

 

「くぅ・・・!!」

 

「ほらほら~♪ ヘバリーヌちゃんともっといい気分になろうよぉ~♪」

 

「うぅぅ・・・あぁ・・・!」

 

グレースは苦しい表情で受け止めながらも、ヘバリーヌは甘い言葉をかけながら叩き潰そうとしてくる。

 

パァァ・・・!

 

「!? これって・・・?」

 

その時、グレースの体が発光し始める。何やら自分の中に力が溢れてくる。

 

「ふっ!!」

 

「あぁぁん♪」

 

グレースはヘバリーヌの踵攻撃を弾き返す。吹き飛んだヘバリーヌは体勢を立て直すも、そこへグレースが向かってくる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「うぅぅ・・・!! プリキュアちゃん、いいよぉ~♪ だいぶマシになってきたぁ~♪」

 

グレースは拳をお見舞いしようとし、ヘバリーヌは右腕で拳を防ぐ。急に私の攻撃を弾き返し、結構強烈になった一撃を食らわしてくる。そんな状況でもヘバリーヌは喜んでいた。

 

「ほーれ!!」

 

「あぁぁ!?」

 

「そーれ!!」

 

ヘバリーヌはグレースの腕を掴んで背後へと投げ飛ばし、グレースと同じ高さに現れると右足を振り上げて黒い竜巻を繰り出す。

 

「ぷにシールド!!」

 

グレースは空中で肉球型のシールドを展開して黒い竜巻を上へと弾くと、一度地面へと着地して飛び上がりヘバリーヌへと迫る。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「あぁ~♪」

 

バシッ!!!!

 

空中にいたヘバリーヌは防御体勢は取れず、そのまま突っ込んでくるグレースの体当たりで吹き飛ばされる。

 

「あぁぁん♪」

 

ヘバリーヌは甘い声を上げながら吹き飛ぶも、すぐにオーバーヘッドのように体勢を立て直して、後ろに回転して着地する。

 

「うーん、今の攻撃じゃーーーー」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「!?」

 

ヘバリーヌはまるで蚊に刺されたとも思わない様子を見せていたが、そこへグレースが飛び蹴りを繰り出す。

 

ドォォォォォォン!!!

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん♪」

 

グレースの飛び蹴りがヘバリーヌに直撃し砂埃が舞う。そこからヘバリーヌが吹き飛ばされて出てくるも、地面に体を打ち付けながら転がり、うつぶせに倒れたのであった。

 

しかし、ヘバリーヌはすぐにすくっとお母さん座りになって股を開くと、目をキラキラとさせていた。

 

「んん~♪ いいよいいよ~!! 今のはいい痛みだったよ~♪ 気持ちよかったぁ♪」

 

「な、何なの・・・この娘・・・?」

 

攻撃をされたというのに喜んでいる金髪のビョーゲンズを、グレースは寒気すら感じているのであった。

 

一方、バテテモーダに勢いのまま蹴りを繰り出し続けるフォンテーヌとスパークル。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ぐぅぅ・・・! 何度やっても・・・え!?」

 

スパークルが踵落としを繰り出し、バテテモーダはその攻撃によろける。口調では余裕を見せていたが・・・。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ええーーーーっ!!??」

 

そこへ飛び上がったフォンテーヌが回転の勢いをつけた拳を繰り出した。これにはさすがのバテテモーダも勢いに押されて、防御体制が取れず・・・・・・。

 

ドォォォォォォォォォン!!!!

 

地面が吹き飛んで、砂埃が舞うほどの攻撃がバテテモーダに直撃した。

 

「うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

悲鳴を上げながら、回転しながら勢いよく吹き飛ばされるバテテモーダ。そのまま背後にいた自分のショベルカーのメガビョーゲンにぶつかる。

 

「メ!? ガビョーゲン・・・」

 

頭にぶつかったメガビョーゲンはそのまま横向きに倒れ、バテテモーダは弾かれて上へと吹き飛び・・・・・・。

 

反対側にいたドリル型のメガビョーゲンへと飛んでいく。

 

「メガー!? ビョーゲン・・・」

 

ドリル型のメガビョーゲンの胸部分へとぶつかったバテテモーダはそのまま背後へと押し倒してしまい、ごと地面へと落ちた。

 

「あああー!? 私のメガビョーゲンが!!」

 

「ヤベェッ・・・!!」

 

自分のメガビョーゲンが巻き込まれたことに、さすがのヘバリーヌも両手を頬に当てて動揺を隠せない。バテテモーダはしまったと言わんばかりに焦り始める。

 

「今だよ!!」

 

「みんな!! ミラクルヒーリングボトルラビ!!」

 

「「うん!!」」

 

グレースの言葉を合図に、他の二人も頷き3人は体を発光させる。

 

3人はミラクルヒーリングボトルをステッキにセットする。

 

「「「トリプルハートチャージ!!」」」

 

「「届け!」」

 

「「癒しの!」」

 

「「パワー!」」

 

グレース、フォンテーヌ、スパークルの順で肉球にタッチしていき、ステッキを上に掲げる。すると、花畑が広がっていき、背後には自然豊かな森が広がっていく。

 

さらにプリキュア3人の背後に、設楽が話していたとされる紫色のコスプレ姿をした女神の姿が映し出されていく。

 

「「「プリキュア! ヒーリング・オアシス!!」」」

 

3人は一斉にメガビョーゲンへとステッキを構え、ピンク・青・黄色の3色の光線が螺旋状になって放たれる。螺旋状の光線は混ざり合いながら一直線に二体のメガビョーゲンに直撃する。

 

螺旋状になった光線はそれぞれの色の手へと変化して、3本の手がそれぞれ宝石のエレメントさん、雷のエレメントさんを優しく包み込んでいく。

 

3色に光るハート状にメガビョーゲンを貫きながら、光線はエレメントさんをメガビョーゲンから外へと出す。

 

「「ヒーリングッバイ・・・」」

 

メガビョーゲンたちは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「「「「「お大事に」」」」」」

 

宝石のエレメントさんはショベルカーの石へ、雷のエレメントさんはドリルへと戻ると、病気に蝕まれた箇所は元に戻っていく。

 

「ワフ~ン♪」

 

体調不良だった子犬ーーーラテも額のハートマークが黄色から水色に戻り、元気になった。

 

「ハハハハハハッ!!! いいじゃん!いいじゃん! 強いじゃん!! やられちゃったぜ! メガビョーゲンちゃん!!」

 

「ンフフ~♪ プリキュアちゃん、いい攻撃だったよぉ♪ やるねぇ♪ 私ぃ~、メガビョーゲンと一緒に昇天しそうになっちゃったぁ♪」

 

メガビョーゲンが浄化されたのにも関わらず、腹を抱えてゲラゲラと笑うバテテモーダと、腕の埃をパンパンと払った後に唇に指を当てて妖艶な微笑みを浮かべるヘバリーヌ。

 

「笑ってる・・・何なの? あいつら・・・」

 

その様子にフォンテーヌは戸惑いの言葉を漏らす。

 

「フハハハハ!! 負けたのは自分じゃないんで! メガビョーゲンなんで!」

 

「別にメガビョーゲンなんか出さなくてもいいけどぉ、地球を私たちにとって快適にするためだからねぇ?」

 

ヘラヘラと笑うバテテモーダと、不敵な笑みを浮かべつつも冷静な声でウィンクをするヘバリーヌ。3人はその様子に不気味さを感じていた。

 

「まあ、今日はこれぐらいにするっす。それにしても・・・戦うのって、超楽しいわ」

 

バテテモーダはそう言いながら不気味に笑う。

 

「私もお仕事おしま~い♪ 地球ちゃんはきっと気持ち良さをわかってくれるよね~? だって、病気で苦しいのって、気持ちいいもんね~♪」

 

ヘバリーヌはプリキュアたちに背を向けながら歩くと、振り返って妖艶な微笑みを浮かべる。

 

「戦うのが・・・楽しい・・・!? 病気で苦しいのが・・・気持ちいい・・・!?」

 

グレースはそんな二人に怯えたような表情を見せていた。

 

パチパチパチパチ・・・。

 

「ご苦労様、二人とも。いい仕事っぷりだったわ。まあ、及第点だけど」

 

すると、どこからか拍手の音と声が聞こえてくる。その方向は岩の壁の上で、そこにいたのはマジシャン姿の少女だった。

 

「クルシーナ!?」

 

「なんでここにいるラビ!?」

 

クルシーナは岩の壁から飛び降りると、二人の方へと向く。

 

「アンタら、先に帰ってろ。アタシはこいつらと話があるから」

 

現れたクルシーナが発した言葉は、要するに撤退の言葉。実はクルシーナはバテテモーダたちとプリキュアの戦いを見物していたのだ。

 

「まあ、自分はもう満足したし、今日はもう十分っす!!」

 

「お姉ちゃんが約束通り、お仕置きをしてくれるならぁ♪ ヘバリーヌちゃん、楽しみぃ~!!!」

 

バテテモーダとヘバリーヌはその場から飛び上がると、一番上の岩場の壁に着地する。

 

「じゃあ、また遊びましょう!!」

 

「またね~! プリキュアちゃんたち♪」

 

二人はそう言うと姿を消していった。

 

クルシーナは二人が撤退していったのを確認すると、プリキュア3人に向き直る。3人は戦闘体制を取るが・・・・・・。

 

「そんな怖い顔しなくたっていいじゃない。アタシとお話ししましょうよ。あの二人を見事退けたお祝いとして、いいことを教えてあげる」

 

「え・・・?」

 

「な、何、言ってんの・・・?」

 

クルシーナが開口一番に言ったのは、自分とお話しをしたいということ。しかも、二人を追い払った記念としてと言われている。話に何か裏があるようで気がかりだった。

 

「そもそも、お前らはあいつらのことを知らなかったわけよね? 何でだと思う?」

 

「そういえば・・・・・・」

 

「あいつらはいつもの奴らとは、違ったニャ・・・」

 

今思うと自分から戦闘を仕掛けてきた上に、他の幹部とは異質な気がした。プリキュアたちが知らないのは当然だが、ヒーリングアニマルの3人ですらその存在を知らなかったのだ。

 

「答えを言うと、あいつらは最近生まれたばかりのビョーゲンズだからよ」

 

「!? どういうことなの・・・!?」

 

クルシーナが笑みを浮かべながら言った言葉に、フォンテーヌは思わず聞き返す。

 

「まず一人はさ、お前らが散々浄化に手こずったメガビョーゲン、いたでしょ? ダルイゼンが生み出して、森一帯を病気に蝕んでいたメガビョーゲン、そいつから生まれたのよ」

 

「え・・・?」

 

私たちが3体目に浄化したあのとんでもない大きさのメガビョーゲンから生まれた・・・? でも、あのメガビョーゲンからそんな兆しのある要素、あっただろうか?

 

メガビョーゲンが種を吐き出したことを知らないプリキュアたちは、戸惑いの声を上げていた。

 

「そしてもう一人は、アタシたちが捕らえていた娘。その娘にアタシたち3人が作ったメガビョーゲンの力を注ぎ込んで生み出したの」

 

「捕らえていた娘・・・?」

 

捕らえていた娘に最初はピンと来なかったプリキュアの3人。しかし、グレースは少しの思考で何かを察したように目を見開く。三人娘に奪われた街、そこで私たちを助けてくれた医者のことの言葉を思い出す。

 

ーーーー俺の娘のことも・・・頼む・・・!

 

「娘って、まさか・・・!?」

 

「お前にしては、察しがいいんじゃない? そう。お前らを必死に守ろうとしていた設楽先生ってヤブ医者。そいつの娘だって言えば、わかるでしょ」

 

「「!?」」

 

フォンテーヌとスパークルもようやく察したのか驚きの声を上げる。そういえば、設楽先生は自分の娘を取り戻したいと言っていた。

 

「な、なんですって・・・!?」

 

「ヘバリーヌが、先生の娘・・・!?」

 

信じられないというような反応。設楽先生の娘はいつの間にか、三人娘の苗床にさせられていて、その結果、ビョーゲンズの一員になってしまったのか。

 

「しかもこの二人の誕生、ちゃんとお手当てをできてたら止められたことよね? つまりはお前らの過失ってわけ。せっかくメガビョーゲンを浄化できてても、新しいやつらを生まれさせちゃったらお前らとしても成果はゼロなのと同じことじゃない」

 

「そ、そんなこと・・・!」

 

グレースはそんなことないと言おうとしたが、全てが全てクルシーナの言う通りで反論するための言葉が出てこない。

 

「そんなことあるんだよ。しかも、今後お前らがちゃんとお手当てができないと、こういうことが起きるかもしれないわよ? あの二人以外に、アタシらのお仲間が増えるかも」

 

「なんですって・・・!?」

 

「まあ、『諦めない』ってことをいつまでも続ければいいんじゃない? どうせ無駄だって思い知ることになるんだからさ」

 

クルシーナはそれだけ言うと一番上の岩場の壁へと飛び乗る。

 

「また会いましょう、小娘たち」

 

彼女は不敵な笑みで振り向きながら言うと、その場から姿を消した。

 

プリキュアの3人はその場を呆然と見つめていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、のどかたちは変身を解いた後、ショベルカーに積んであった石に宿っていた宝石のエレメントさんを診察した後、岩を削るためのドリルに宿っていた雷のエレメントさんを診察していた。

 

「雷のエレメントさん、体調はどうですか?」

 

『ありがとう! 私はもう大丈夫! 元気です!』

 

雷のエレメントさんは笑顔でそう言うとドリルの中に戻っていった。

 

「よかった・・・!」

 

エレメントさんがなんともないことに安心するのどかとちゆ。

 

「バテテモーダ・・・ヘバリーヌ・・・」

 

しかし、ひなたは現れた敵の名前を呟きながら不安げな表情をしていた。

 

「強かった・・・すごく・・・しかも、ヘバリーヌは、設楽先生の娘だって・・・」

 

「・・・うん」

 

「・・・まさか、その娘がビョーゲンズになったなんて、思わなかったわ・・・」

 

そう言うひなたの右手はプルプルとわずかに震えていた。

 

のどかとちゆは、ヘバリーヌが設楽先生の娘だと聞いて悔しげな表情を見せていた。

 

「もしさあ、あたしたちがあの3人に負けないで、ちゃんと助けられてたら、お手当てできてたら・・・ビョーゲンズになっていなかったって・・・ことだよね・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

のどかは助けられなかった設楽先生の顔を思い出して、表情を俯かせる。

 

私たちが、ちゃんと守れていたら、あんなに臆病になっていなかったら、ちゃんと助けられたはずなのに・・・!

 

「しかも、あんなやつが他にも来るかもしれないって言ってたわよね・・・」

 

「大変だぜ、こりゃ・・・」

 

クルシーナから聞かされた言葉。今後自分の仲間が増えるかもしれない。そう思うと不安に駆られる。

 

「クゥ~ン」

 

「!! ラテ・・・」

 

俯くのどかに心配するかのように鳴くラテ。彼女はラテに寂し気な表情を見せると、自分の手元へと抱く。

 

ーーーーこの街みたいな、悲劇を犯さないで、やってくれ・・・頼む・・・!!

 

設楽が最後に私たちに訴えた言葉。それを思い出すとのどかは決意の表情を見せる。

 

「・・・そうだよ。私たちは、取り戻すって誓ったんだ。あの街も、先生も・・・! だから、こんなところで落ち込んでちゃダメなんだよ・・・みんなで力を合わせればきっと大丈夫」

 

ちゆはのどかのその言葉を聞くと、安心したように優しい笑みを浮かべる。

 

「ええ! 今日だって力を合わせてメガビョーゲンを浄化できたもの」

 

「そうだな! みんなぴったり息が合ってたもんな!」

 

「特訓なんかしなくても、大丈夫だったペエ」

 

「まあ、ラビリンは最初からそう思ってたラビ!」

 

「「おい・・・」」

 

「ワン!」

 

「「ふふふ・・・!」」

 

みんなはいつものように明るい表情、明るい光景を見せていた。

 

しかし、ひなたは左腕を不安げな表情で見つめていたのであった。

 

「キヒヒ・・・」

 

そんなひなたの様子を見ていた、一人のゴシックロリータの少女は不敵な笑みを浮かべるとその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もぉ~!! モーダちゃんのせいで失敗しちゃったじゃ~ん!! せっかく気持ち良くなってきたところだったのに~!!」

 

「わ、悪かったっすよ!! まさか、プリキュアの攻撃があんなに勢いづいてくるとは、思わなかったんで・・・!」

 

ビョーゲンキングダムへと帰ってきたバテテモーダとヘバリーヌ。そこではヘバリーヌがバテテモーダに明るい声で不満を漏らしていた。その頬は可愛く膨れている。

 

「ぶぅー!! いいもーん!! お姉ちゃんにたっぷりお仕置きしてもらうも~ん!!」

 

余計に頬を膨らませてふてくされるヘバリーヌ。でも、なんだか怒っている感じでもなさそうだ。

 

「あら、こんなところにいたの?」

 

そこへ帰ってきたクルシーナが姿を現わす。プリキュアを打ち負かしたような嬉々とした表情で。

 

「クルシーナ嬢!!」

 

「お姉ちゃん!!」

 

「どうだった? 初めての出撃は?」

 

「いやぁ~、スカッとしたっすね!! 今後が楽しみで仕方がないですわ!!」

 

バテテモーダの言葉を聞いて、クルシーナがニヤッと笑みを浮かべる。

 

「そういう気持ちは大事よ。でも、メガビョーゲンの邪魔をしちゃったのは赤点レベルだけどね」

 

「うぅ・・・そ、それは・・・」

 

「そうだそうだ~!! あれはモーダちゃんが悪い~!!」

 

「だから、自分謝ったじゃないっすか~!! 勘弁してくださいよ・・・」

 

クルシーナが痛いところ突くと、ヘバリーヌが捲し立て始めて、バテテモーダは尻すぼみをし始める。

 

「別に戦ってもいいけど、メガビョーゲンの邪魔にならないところに誘導したほうがいいわよ。メガビョーゲンからあいつらを遠ざけるとか。基本的にアタシらは手を出さなくてもいいけど、メガビョーゲンが倒されそうになったら、手を出したりするなりしてもいいけどね」

 

クルシーナはそんな二人に指を一本上に突き立てて振りながら話す。

 

「なるほど~、参考になりますお嬢!! やっぱりお嬢は素敵っすね~!!」

 

「お世辞でもありがと♪」

 

褒めてくるバテテモーダに、クルシーナはわかりきったようにウィンクをする。

 

「お姉ちゃん!! 約束通り、お仕置きをしてくれるんだよね~?」

 

ヘバリーヌは両手を握りながら目をキラキラとさせている。

 

「もちろんしてあげるわよ。でも、あとでね。お父様に報告しにいかないとさ」

 

「了解っす! では早速、キングビョーゲン様のところに!」

 

クルシーナとバテテモーダはそういうと一緒にキングビョーゲンの元へと向かう。

 

「焦らしちゃうのぉ~? お姉ちゃん。でも、そのプレイも素敵~♪」

 

ヘバリーヌは頬を赤く染め手を当てながら、悶えるように動いた後、二人の後を追うように走る。

 

ふと気付いたように立ち止まって、まるで地球を見やるかのように背後を振り向き、妖艶な微笑みを浮かべる。

 

「プリキュアちゃんたち、また一緒に遊ぼうね♪ せっかくこんなに動けるようになったんだからさぁ♪」

 

ヘバリーヌはそれだけボソリと呟くと、二人の後を追うように走っていくのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第36話「教育」

原作第13話がベースです。
今回はでこぼこコンビであろう二人が出撃です!


 

マグマに満たされたビョーゲンキングダム。そこでは、ビョーゲンズの幹部たちがキングビョーゲンに収集されていた。

 

ダルイゼン、シンドイーネ、グアイワル、バテテモーダらは跪いており、クルシーナ、ドクルン、イタイノン、ヘバリーヌらキングビョーゲンの娘たちは静かに佇んでいる。

 

それぞれの立場の違いがよくわかるような光景だった。

 

「初仕事は楽しんだようだな? バテテモーダ、ヘバリーヌ」

 

「いやいやいやいや!! 楽しんだだけで、先輩たちやお嬢たちに比べれば、まだもう~!!」

 

「むぅ・・・・・・」

 

ヘラヘラとした態度でキングビョーゲンと話すバテテモーダに、シンドイーネは不満の声を漏らす。

 

「楽しかったよぉ~、パパ~♪ ンフフ~♪ プリキュアちゃんたち、激しかったなぁ~♪ これからも楽しみ~♪」

 

ヘバリーヌは両手を頬に当てながら満面の笑みを浮かべている。

 

「二人の初舞台はどうだ? クルシーナ」

 

キングビョーゲンは、今度はクルシーナに二人の状況を聞いてくる。

 

「上出来なんじゃない? あとは調子にさえ乗らなければ、全然一人で出撃していいレベルだと思うけどね」

 

「ハハハ・・・そうか・・・」

 

クルシーナは面倒臭そうに答える。正直、自分のことでも精一杯なので、この二人ばかりにかまけている暇はないのだが・・・。

 

「良いな? お前たち。今後、より活発な働きを期待しているぞ」

 

「「「はっ!」」」

「了解で~す!」

「はーい」

「わかりました」

「・・・わかったの」

「はーい!」

 

キングビョーゲンが姿を消した後、幹部8人は場所を移動させて会話をし始める。

 

「ちょっと!! キングビョーゲン様の前だからっていい格好やめてくれますぅ~!?」

 

開口一番に発したのは、先ほどからバテテモーダの態度に不満を抱いていたシンドイーネだった。そうやって愛しのキングビョーゲン様の前で借りてきた猫のように振舞うのは気に入らなかったのだ。

 

「滅相もない!! このバテテモーダ、そりゃあもぉ~、謙虚な気持ちでやらせておりますんで~!!」

 

「それよ!! その態度が余計むかつくのよ!! あんたも、って、あのふわふわしたやつどこ行ったのよ?」

 

バテテモーダの単純に媚びるような態度が気に入らないシンドイーネ。ヘバリーヌにも突っかかろうとしたが、彼女の姿が見えない。

 

「はぁ・・・ヘバリーヌならあそこよ・・・」

 

クルシーナがため息を吐きながらいる方向へと指を指す。

 

「待ってよぉ~♪ ノン姉ちゃーん♪ その冷たい視線をもっとヘバリーヌちゃんに~♪」

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!! こっち来るな、なの!!!」

 

ヘバリーヌは手を前へと広げながら、イタイノンを追いかけまわしていた。イタイノンにしては珍しくお化けでも見たかのような表情で彼女から走って逃げ回っている。

 

「・・・何やってんの? あれ」

 

「アタシに聞くなっての」

 

ダルイゼンがクルシーナに問うと、彼女は辟易したように答える。

 

「『ノン姉ちゃんの蔑むような視線をもっと晒され続けた~い』、ですって」

 

「真面目に答えんな。知りたくもないんだし」

 

「・・・っていうか、いろいろとヤバいんじゃない? それ」

 

クルシーナが律儀に答えるドクルンにツッコミを入れ、ダルイゼンはだるそうに答えた。

 

「って、アンタ! 私が真面目に怒ってるのに・・・!?」

 

すっかり蚊帳の外に置かれているシンドイーネが怒ろうとするが、ちょうど真正面から怯えた形相のイタイノンが走ってきたかと思ったら、彼女の背後へと盾にするかのように隠れる。

 

「って、ちょっと!! なんで私の後ろに!?」

 

「あいつ気持ち悪いの・・・! 絡んできたかと思ったら、私の肌に触ってきて・・・!」

 

背中越しでガクガクと震わせるイタイノンに、シンドイーネが困ったような声を出す。

 

「だってぇ~、怒らせたらもっと冷たい視線になるかな~と思ったんだも~ん♪」

 

一方のヘバリーヌは両手をワシワシとさせながら、イタイノンへと躙り寄る。

 

「こ、こっちへ来るな!! なの!!」

 

イタイノンはヘバリーヌに対して声を荒げる。しかし、ヘバリーヌを止めるための抑止力になるわけでもなく・・・。

 

「あ~ん♪ 怒った声がピリピリと来るぅ~♪ もっと叱ってほし~い♪」

 

むしろ怒鳴った声に快感を覚え始めたヘバリーヌは肩を抱えて悶えた後、再度彼女へと躙り寄る。

 

「ひぃ・・・!?」

 

イタイノンが体を震わせる。そのイタイノンとヘバリーヌの間に挟まれるシンドイーネ。

 

・・・あれ? イタイノンがこいつに追いかけられていて、このヘバリーヌとかいう娘が追いかけていて、イタイノンが後ろにいる・・・・・・前にはワシワシと手を伸ばしてくるヘバリーヌ、つまりはワシワシが来るのは、イタイノンの前にいる私なわけで・・・!!??

 

「え、え、ちょっ、ちょっと待って・・・待ちなさいよ・・・!! なんで私の方に寄ってくるの!? アンタの狙いはイタイノンでしょ!? こっちに来ないでよ!! っていうか、アンタも離れなさいよっ!!!!」

 

「嫌なの!! お前が代わりに受ければいいの!!!」

 

「ふざけんじゃないわよ!!!! なんで私があいつなんかに!!??」

 

シンドイーネが喚きながら、ヘバリーヌが近づく原因になっているイタイノンを振り払おうとするが、彼女はがっちりとついて離さないどころか、自分に受けろと言い出す。

 

「ねえ、なんであいつあんな性格になっちゃってるわけ? 人間だった頃はあんなこと言うやつじゃなかったよね?」

 

「・・・おそらく、私たちが3人で病気で苦しみを与え続けた結果、通り越してあんな感じになってしまったかと」

 

「・・・病気なんて普通苦しいもんでしょ? それを気持ちいいだなんておかしな奴だね。あいつの体、どこか壊れてるんじゃない?」

 

クルシーナが別に知りたくもないけど、気になったことをドクルンに問う。ドクルンはメガネを上へと上げて、真面目なトーンで話す。

 

ダルイゼンはまるで他人事のような感じだったが、それに呆れたように答えていた。

 

「大体なんでお前は私に触ってくるの・・・!?」

 

「だってぇ~、大好きな人の体は触っていたいじゃ~ん♪ お姉ちゃんにも気持ちよくなって欲しいんだも~ん♪」

 

イタイノンは震えながら問うと、ヘバリーヌから返ってきたのはふざけたとしか言いようがない答え。

 

「フフフ・・・そうですねぇ、私もわかりますよぉ」

 

「「わかるなぁーーーーーーー!!!!」」

 

ドクルンがふざけたように同調してやると、シンドイーネとイタイノンは二人揃って怒鳴り返す。その笑みは悪意を持ったかのようにニヤリとしていた。

 

「・・・はぁ、くだらない。巻き込まれないようにあっちに行ってよ・・・」

 

ダルイゼンは関わると確実に面倒なことが起きると感じ、立ち去っていく。

 

「よ、よーし!! バテテモーダ!! あそこでイチャついている女は放っておいて!! 俺と一緒に来い! 新人のお前に先輩の仕事ってやつを見せてやる!!」

 

「あ、あざ~す! 助かります!!」

 

グアイワルも巻き込まれたくないと言わんばかりに、バテテモーダを連れ出してこの場を去ってしまう。

 

「アタシはもう疲れてんのよ・・・イタイノン、そいつの相手、あとよろしく」

 

「新人を正しい方向に導いてやるのも、私たち先輩の役目ですからねぇ。頑張ってください」

 

クルシーナは欠伸をしながらその場を立ち去り、ドクルンもイタイノンに今はどう考えても必要のないアドバイスをしたあとに、手を振りながら立ち去っていく。

 

「あ・・・おい・・・!!」

 

「ちょっとアンタら!! こいつをどうにかしなさいよっ!!!!」

 

幹部が次々と去ってしまい、怒鳴り声を上げる二人。

 

「じゃあ、早速温もりを~♪」

 

「え、ちょっ、やめ、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」

 

近づいてくるヘバリーヌにあんなことやこんなことをされ、シンドイーネの絶叫がビョーゲンキングダムに響き渡ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バチバチバチバチ・・・!!!

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「あ、あ、あ、電流がちょうどよく、芯に痺れと痛みが効いて、いい~♪」

 

「うるさい、黙れなの!!!! はぁ・・・はぁ・・・」

 

地球へと逃げ込んだものの、しつこく追い回してくるヘバリーヌをなんとか電撃で沈め、息を切らしているイタイノン。黒焦げでプルプル痙攣させていても、まだ懲りずに気持ち悪い発言をする彼女に怒鳴り声を上げる。

 

「イタイノン、ちょっとやりすぎじゃないかネム・・・?」

 

「はぁ・・・どうせ死には、しないんだから、大丈夫なの・・・はぁ・・・」

 

カチューシャのネムレンに、イタイノンが息を整えながら答える。

 

あの後、口では言えないような奮戦が続き、シンドイーネはいつの間にか逃げ出し、それでもなお組みついてくるため、電撃を食らわせて黒焦げにしたのだ。

 

・・・逃げるんじゃなくて、あのおばさんの後ろにいるんじゃなくて、最初からそうすればよかったとイタイノンは今更ながら後悔するのであった。

 

しかも、その教育係を二人に押し付けられてしまった。今日はなんともついていない日だ。

 

「それで、ノンお姉ちゃん♪」

 

「ひぃ!? な、何、なの・・・?」

 

電撃を食らったことなど、まるで感じないかのようにスクッと立ち上がったヘバリーヌに驚くイタイノン。自分に変なことをしようとした娘は、無垢な微笑みを浮かべていた。

 

「今日は何をするの?」

 

ヘバリーヌが純粋に地球でどんなことをするのか聞いてきたのだ。キングビョーゲンの収集に応じる前に、あとはイタイノンに教えてもらうようにクルシーナにあらかじめ言われていたのだ。

 

場所はすでに来ている健康的な地球、ビョーゲンズにとっては不快な環境だ。逃げ回っているうちにここへと来てしまっていた模様。

 

・・・ちょうどいいの。こうなったらこいつを手堅く利用して、地球を病気に蝕んでやるの。そして、私だけの場所を手に入れる。

 

イタイノンはゴシックロリータの服のほこりを払った後、ヘバリーヌへと向き直る。

 

「・・・今日はお前に、人間を病気に蝕む方法を教えてやるの」

 

イタイノンはそう言いながら、指をヘバリーヌへと突きつける。彼女はそれを聞くと目をキラキラと輝かせ始めた。

 

「わ~い!! それって、人間を気持ちよ~くすることだよね~? やるやる!! 私、やるぅ~♪」

 

「わ、わかったから、くっついて来るな、なの・・・!」

 

ヘバリーヌは両腕をブンブンと振り回しながら、イタイノンに顔を近づけていくも、彼女はそんな新人の顔を押し退ける。

 

・・・私は、今日一日を無事で過ごせるのだろうか。

 

イタイノンは、心の奥底でそんな心配をしていたのであった。

 

二人は絶妙な距離を保ちながら、すこやか市の街のはずれの人通りの少ないところを歩いていく。

 

「メガビョーゲンは、自然を蝕めば蝕むほど大きくなるの。それはわかる・・・?」

 

「それは知ってるよ~♪ でも、人間を蝕むってどういうこと~?」

 

「私たちパパの娘は、人間を蝕むことができるの。人間を蝕んでもメガビョーゲンは大きくなるし、特に生き生きとしている不快な連中は、蝕めば蝕むほどメガビョーゲンは大きくなる。そうすれば病気のかけらとなって、パパや私の快楽として提供させることができるの。例えば・・・」

 

イタイノンは歩きながら話していると、ちょうど公園へと差し掛かり、そこで過ごす人々に指をさす。

 

「砂場などで元気に遊んでいる子供・・・子供を笑顔で見ている女・・・体操をしている男女の二人・・・ああいった奴らは生きてるって感じがしてイライラするの」

 

「ん~、な~んかピリピリするね~♪ 私の肌にぃ~、こそばゆい感じがぁ~♪」

 

「・・・・・・・・・」

 

イタイノンが指をさす人間たちを見て、ヘバリーヌは不快に思うどころか恍惚な表情を浮かべている。

 

ゴシックロリータはそれをジト目で、呆れたような表情をする。なんだか寒気がするような気がするが、気のせいだと思い込む。

 

・・・こいつの気持ち悪い発言は気にしない、気にしないの。

 

自分にそう言い聞かせながら、ゆっくりと指を下ろすと公園の中へ入っていく。

 

「あ~ん、待ってぇ~!」

 

ヘバリーヌは猫なで声を出しながら、イタイノンの後をついていく。

 

バチッ・・・!!

 

ドサッ!!

 

「?」

 

すると何やら電気のような音が聞こえてきて、イタイノンが振り返る。

 

「あぁ、あぁ、あぁん♪ お姉ちゃん、いきなり電気プレイだなんて、素敵・・・♪」

 

「わ、私はやってないの・・・!」

 

ヘバリーヌが足を押さえながら頬を赤らめている。気持ち悪いとは思ったが、とはいえ彼女が急に体を悶えさせたことに疑問を抱くイタイノン。しかし、電気のような音がしても、特に変化が起こったような感じがしない。

 

それでも、メガビョーゲンの気配がする・・・・・・。

 

ヘバリーヌが歩いていたところを見てみると、彼女が踏んでいたのは砂場の銀の淵。

 

もしかして・・・・・・!

 

淵をよく目を凝らして見てみると、米粒ぐらいの小さな赤い靄がかかっているのがわかる。要するにこの金属はわずかに病気に蝕まれていたのだ。

 

「・・・いつの間に」

 

イタイノンはボソッとつぶやくと周りを見渡すも、メガビョーゲンらしき姿は存在しない。私の攻撃のように早いメガビョーゲンなのだろうか?

 

本当ならここでそのメガビョーゲンに享受するために利用したいところだが、目に見えないものを見ても仕方がない。他の幹部が病気で蝕むためにやっていることだし、今日はそいつに任せることにする。

 

私は私の力でこいつの教育を進めよう。

 

「ほら、寝てないで立つの!!」

 

イタイノンは右手に電撃をまとって、倒れるヘバリーヌのお尻部分を触る。電撃を流された彼女はびっくりしたように飛び上がった。

 

「きゃうん!! 痛ぁい!! お姉ちゃん、何するのぉ? 気持ちよくなっちゃうよ~♪」

 

「・・・・・・ふん」

 

ヘバリーヌはお尻をさすりながらも顔は嬉しそうだ。イタイノンは鼻を鳴らすと公園の中へとさらに入っていく。

 

・・・こいつのバカな発言は気にしない、気にしない・・・!

 

彼女は自分にそう言い聞かせた。

 

二人は公園の中をうろうろしながら、病気で蝕む方法を話しながら、不快な生気を探している。

 

「まあ、地道に蝕んでもいいけど、ああいう奴らを蝕めば、メガビョーゲンの成長は促進されるはず、なの」

 

「まあまあわかったけどぉ~、どうやって蝕むの~?」

 

ヘバリーヌは人間をどうやって蝕めばいいのかイマイチわからなかった。メガビョーゲンで病気を蝕めるのは地形や自然、建物といったもの。人間を痛めつけることはできるが、病気で苦しめることはできないはず。

 

じゃあ、どうやって人間を蝕むことが可能なのか?

 

イタイノンはこの健康的な空間では、人間を蝕んでも意味がないということがわかっている。

 

自然を蝕み、人間を蝕み、苦しんでいる姿を見て快楽を得る。私たち、キングビョーゲンの娘にとって、この一石二鳥ならぬ、一石三鳥とも言えるような行いをこいつにもわかってほしいのだ。

 

「私が実際にやってやるから、お前はよく見て良さを見つけるの・・・」

 

「はーい!」

 

イタイノンはそう言って、公園のベンチのそばに止めている自転車に目をつける。

 

両腕の袖を払うかのような動作をし、右手を構えるように突き出す。

 

「進化するの、ナノビョーゲン」

 

「ナノナノ~」

 

生み出されたナノビョーゲンが鳴き声を上げながら、自転車へと取り憑く。自転車が徐々に病気へ蝕まれていく。

 

「フゥ、フ、フ、フゥ~!?」

 

自転車の中に宿っているエレメントさんが病気に蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガ、ビョ~ゲン!!」

 

両手、両足に自転車の車輪のようなものを付け、ハンドルのようなツノ、かごのようなものに不健康そうな顔のついた人型のメガビョーゲンが誕生した。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

公園に突然怪物が出現したことに、一時を過ごしていた人々は悲鳴を上げて逃げ始める。

 

「メガー!!」

 

メガビョーゲンは足の車輪を動かして、地面につけると猛スピードで走行し始める。すると、メガビョーゲンの走った跡が病気へと蝕まれていく。

 

「きゃあぁぁ!!」

 

逃げ遅れている人々がメガビョーゲンに危うくひかれそうになる。さらに両腕の車輪についている銃口から空気砲のように病気の球を発射して襲い始める。

 

悲鳴を上げて逃げていく人々。そして、走りと球で公園の木や砂場、地面、大気を次々と病気へ蝕んでいくメガビョーゲン。

 

「キヒヒ・・・やっぱり逃げ惑う人間を見るのは楽しいの」

 

それらを見やりながら、イタイノンは不敵な笑みを浮かべる。

 

「ん~、楽しさは伝わるけど~、あんまり気持ちよくないよね~♪」

 

ヘバリーヌは明るい声で微笑みつつも、なんだか面白くなさそうな様子だ。

 

ここまでは私でもできるような普通のこと。地球ちゃんは気持ちいいかもしれないけど、ヘバリーヌちゃんは何が楽しいのかよくわからない。

 

「あ・・・!」

 

そんな中、一人の逃げ遅れた少女がメガビョーゲンの蝕んだ地面のぬかるみに滑って転んでしまい、倒れてしまう。

 

「うぅぅ・・・」

 

転んで呻いている少女。そんな彼女をイタイノンとヘバリーヌは見やる。

 

「あの娘、なんで逃げてなかったのかなぁ~?」

 

「・・・手本を見せるにはちょうどいいの。よーく見てるの」

 

イタイノンはヘバリーヌにそう言い聞かせると、転んだ少女へとゆっくり近づく。

 

「うぅぅ・・・ひっ!?」

 

少女は起き上がろうとしているが、そんな彼女の目の前にイタイノンが無表情で立つ。

 

「お、お姉ちゃん・・・誰・・・?」

 

「その怪我、随分と痛そうなの。キヒヒ」

 

少女がイタイノンを怯えるように見つめると、逆に彼女は不敵な微笑みを浮かべて笑い始める。

 

「でも、そんな痛みよりも、もっと辛いことを教えてあげるの」

 

イタイノンは少女の頬に両手を添えてそう呟くと、彼女に口づけをする。

 

「んん? んぅ・・・んぅぅ・・・」

 

少女は一瞬わけわからないというような顔をすると、苦しそうに顔を顰め始める。イタイノンはそんなことを気にすることもなく、少女の口の中に何かを注ぎ込むように動かす。

 

「んぅ・・・ん・・・」

 

少女の体の中に赤く蠢く何かが入っていくと、彼女の瞳が虚ろになり、全身から力が抜けてピクリとも動かなくなってしまう。

 

「キヒヒ。うまくいったの・・・」

 

イタイノンは動かなくなった少女の体をそのまま肩に抱きかかえ、不敵な笑みを浮かべた。

 

「うわぁ~! この娘、すごく良さそう~! ヘバリーヌちゃんも気持ちよくしてほしい~!!」

 

「・・・お前は病気に蝕む側だから、人間たちをその口づけで気持ちよくさせてあげればいいの」

 

明らかに苦しそうにしている少女を見ながら、両腕をフリフリとしながら猫なで声を出すヘバリーヌに、イタイノンは呆れつつも、戻ってきたメガビョーゲンの頭がついている自転車の籠を模したようなところの中に少女を横たわらせる。

 

・・・人間が気持ちよい顔になるのはヘバリーヌちゃんにとってもいいこと。でも、ヘバリーヌちゃん、あの娘の顔を見て何だか気分がいい気がする。

 

ヘバリーヌは、少し良さはわかってきたかもしれないと感じた。自分の中に、気持ち良さとは違う何かが溢れてくるような感覚がある。

 

「うぅ・・・うぅぅ・・・」

 

「いい感じなの。その調子でどんどん蝕んでいくの」

 

イタイノンは苦しむ少女の中の赤い病気が少しずつ広がっていくのを見て、不敵な笑みを浮かべる。

 

「ここは大方蝕んだの。場所を移動するの」

 

ふと気がつけば、周囲はすでに赤一色で蝕まれており、地面に至ってはすでに荒地のような感じと化していた。

 

イタイノンは景色をきょろきょろと見渡して、病気の範囲を広げられる場所を探していた。

 

「お姉ちゃ~ん!! あっちなんかはどぉ~?」

 

イタイノンと同じ高さにまで浮いたヘバリーヌが指をさす。その視線の先にはハート型の灯台が見えていた。

 

「・・・まあ、あっちに行けば何かあるかもしれないの。メガビョーゲン、あっち」

 

イタイノンは特に何もなさそうに感じていたが、行かないよりはマシかと思い、メガビョーゲンに指示を出して向かわせる。

 

「メガ、ビョーゲン・・・」

 

メガビョーゲンは両足の車輪を収納すると、普通にハート型の灯台に向かって歩いて向かい始めた。ノッシノッシと重い音が地面へと響き渡る。

 

「あ~ん♪ ノンお姉ちゃん、待って~!!」

 

ヘバリーヌは甘い声を出すと、飛び上がってメガビョーゲンの籠の縁のに腰掛ける。

 

「大体これで理解したか? なの」

 

同じく籠の縁に腰掛けるイタイノンがヘバリーヌに声を掛ける。

 

「うん、大体ね♪ 地球も気持ちよくして~、人間たちも気持ちよくして~、ぜーんぶを気持ちよくすればいいんだよね♪」

 

「・・・まあ、そういうことなの」

 

甘い声でイマイチ理解できないことをしゃべるヘバリーヌに、イタイノンは思わず沈黙する。

 

まあ、でもそういうことにしておけば、こいつも少しは意欲が湧いてくるかもしれないので、肯定をしておいた。

 

「わかったわかったよぉ~♪ これなら私でもできそ♪ ありがと、ノンお姉ちゃん♪」

 

「あっそう、なの」

 

満面の笑みを浮かべてくるヘバリーヌに、イタイノンは頬を赤く染めて冷淡に返す。

 

ふとイタイノンはヘバリーヌの下を見ると彼女の足がモジモジするように動かしているのが見えた。

 

「んぅ♪ んぅ♪ んぅ♪」

 

「・・・お前、さっきから何を足を動かしてるの?」

 

ヘバリーヌの顔は微笑みを浮かべつつも、その表情は赤く染まって、汗が出始めている。何だか鬱陶しく感じたイタイノンは思わず聞き返した。

 

「あぁ♪ あぁ♪ この籠の縁がぁ、お尻に食い込んで、ジンジンするぅ~♪」

 

・・・どうやらお尻に、彼女が座っている籠の縁が固いのが当たっているらしく、ヘバリーヌは痛がっているようだが、顔は恍惚な表情を浮かべていた。

 

「・・・・・・はぁ」

 

「メ、ガ・・・」

 

・・・私は、こいつとはあんまり好きになれない気がする。まあ、そもそも人自体、苦手だけど。

 

イタイノンは聞くんじゃなかったと、彼女から目を逸らしながら大きなため息をつく。二人と共にゆっくりと移動しているメガビョーゲンですらも呆れたような声を漏らすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最近、ひなたがプリキュアとしてお手当てをすることに迷いが生じ始めている頃、のどかたちプリキュア3人とヒーリングアニマルたちは、ラテが不調を感じとったことで、彼女の声に従い、メガビョーゲンを追っていた。

 

しかし、どこを見渡してもメガビョーゲンはおらず、街の様子も怪物が出てきたとは思えないような平和な光景だった。

 

ラテが度々気配を察知して、その通りに移動をしてみるが、メガビョーゲンの姿はどこにもない。

 

しかし、何か異変が起きているのは確かだ。ラテがメガビョーゲンを察知したときも急にヒーリングアニマルたちの前髪が立ち、街を歩けばおばあちゃんたちが静電気のおかげでドアノブを回せず、家に入れなくて困っていた。

 

のどかのお母さん、やすこが働いているすこやか運送では、荷物を運び出すためのレールが動かないということが起きていた。

 

そして、店が並ぶ街中では・・・・・・。

 

「まいったなぁ・・・機械がいかれちまった・・・」

 

「お宅もかよ!? うちもだよ!!」

 

店の人たちも何らかの異変で困った様子を見せていた。のどかたちも周囲を見渡してみるが、やはりメガビョーゲンの姿は見当たらない。

 

「メガビョーゲン、やっぱり見当たらないニャ・・・」

 

「一体、どうなってるラビ・・・?」

 

のどかやひなたが周囲を見渡す中、ちゆは外に出ていた店の人たちに尋ねるべく近づく。

 

「すみません! 機械が壊れる前、静電気が起りませんでしたか?」

 

「そうなんだよ! 急に一瞬すごいのが来てさぁ! まいったね、こりゃ・・・」

 

店の人たちも、どうやら静電気のせいで機械が故障して困っている模様。

 

「やっぱり・・・・・・ありがとうございました」

 

ちゆは教えてくれたお礼を述べると、二人の元へと戻る。

 

「ちゆちゃん、どうしたの?」

 

「さっきからあっちこっち起こってる静電気問題、きっとメガビョーゲンの影響よ」

 

「ニャンだとぉ!?」

 

ちゆはメガビョーゲンの仕業だと結論づけると、ニャトランは驚く。

 

「そういえば、全部ラテの教えてくれたところでバチバチって・・・!」

 

のどかがそう言うと、ラビリンとペギタンは何か確信を持ったかのように飛び上がると、両手を押さえつけ始める。

 

「ニャ、ニャ、ニャにするんだ! やめろぉ!!」

 

前髪で額を隠そうとするニャトランを押さえつけて、ラビリンが彼の額部分を凝視すると、彼女は何かを見つけたように額部分を睨む。

 

ニャトランの前髪のすぐ前にある額部分に、小さな赤い靄がかかっていたのだ。

 

「証拠発見!!」

 

「ちゆの言う通りペエ!!」

 

確かにこれはメガビョーゲンにしか出せないものだ。これはビョーゲンズの仕業であると物語っている。

 

証拠は見つけた。見つけたのだが、だからと言って犯人である肝心のメガビョーゲンはどこにもいない。

 

「このままじゃ、もっと被害は広がっていくわ・・・」

 

「おのれぇ!! 早く見つけて浄化しないとぉ!!」

 

ニャトランは恥をかかされたことを憤っていた。実は彼の額には魚のマークがあり、本人はこれを見られるのが恥ずかしい。

 

のどかが犯人のメガビョーゲンの場所を聞こうとした、そんな時だった・・・・・・!

 

「クチュン!!・・・クゥ~ン」

 

「「!!??」」

 

「ラビ!?」

 

「ペエ!?」

 

「ニャ!?」

 

体調が悪そうなラテが再度くしゃみをした。これはもしかして・・・?

 

「また、どこかでメガビョーゲンが現れたの・・・?」

 

「まだ、肝心のメガビョーゲンも見つかってないのに・・・!!」

 

この騒動の原因となっているメガビョーゲンが見つかっていないのに、さらに別の場所でメガビョーゲンが発生した。ということは、別のビョーゲンズが現れてメガビョーゲンを生み出したということだ。

 

聴診器でラテを診察しようとする、のどかだが・・・・・・。

 

「・・・聞いても意味なくない?」

 

「えっ?」

 

それを遮ったのはひなたの言葉だった。驚いたのどかが彼女を見ると、ひなたは明らかに不安そうな表情を浮かべていた。

 

「言っても見えないし、どうせまた逃げられるし・・・そのメガビョーゲンだって、きっと同じようなタイプだったら、余計に無理だよね?」

 

「おい! ひなた!! 何を探す前から諦めてんだよ!?」

 

「探したじゃん!! あっちこっち行っての今じゃん!!」

 

「そ、そうだけど・・・」

 

ひなたはもはやお手当てをすること自体、諦めかけていたのだ。見えないメガビョーゲンなんか、どうせ見つかるわけがない、浄化なんかできるわけがないと・・・。

 

最近のひなたは、プリキュアとしてお手当てをすることに意味がないと感じるようになっていた。その不安の原因は、前回、新しいビョーゲンズであるバテテモーダとヘバリーヌが現れたことだった。

 

この前の強くなったメガビョーゲンを頑張ってお手当てをしたのに・・・その結果として敵が増え、メガビョーゲンも強力になってお手当てをすることも大変になってしまった。

 

自分はいつまでこのお手当てを続ければいいのか? もしかして、永遠に終わらないのではないか? 自分たちが力尽きるまでお手当ては続くんじゃないか? ひなたは、終わりの見えないこのお手当てに不安を抱えるようになってしまったのだ。

 

「こうなってる間に、またメガビョーゲンが強くなってるわけでしょ? もっと見つからなくなっちゃうに決まってるじゃん!」

 

「ひなたちゃん・・・・・・」

 

メガビョーゲンが強くなっていることも、この前の大量発生のお手当てで感じたことの一つだ。あれは辛かった。正直、死ぬかと思ったほどだ。今更メガビョーゲンと対峙したところで、辛さだけが残るに決まっている・・・。

 

ひなたの心にはプリキュアのお手当てとしての、一層の不安しか残っていなかったのだ。

 

「気持ちはわかるけど・・・私たちは設楽先生の思いをーーーー」

 

「わかってる!! わかってるの!! でも・・・設楽先生を救えなかったから、その娘も救えなくて、いつの間にかビョーゲンズになってて・・・。あの娘も結構強かったよね・・・?」

 

「っ・・・・・・」

 

ひなたの言葉を聞いて、ちゆはかける言葉が出てこない。

 

「あたし、あの娘と戦わなきゃ、お手当てをしなきゃって思うと、怖いの・・・。こんなに辛いことばかりで、何も成果が出てなくて・・・どうせ無理なんだよ、こんなことをしてたって・・・!」

 

ビョーゲンズのクルシーナから聞かされた言葉・・・・・・。

 

ーーーービョーゲンズが増えたのは、お前らの過失。

 

ーーーーちゃんとお手当てもできていなくて、成果がゼロなのと一緒。

 

ーーーー諦めないということを続ければいい、どうせ無駄だと思い知る。

 

これらの言葉を聞いたひなたは、もはやネガティブになっていた。クルシーナの言葉を真に受けてしまっていたのだ。

 

「そんなこと・・・!!」

 

「キヒヒ・・・」

 

「「「!!??」」」

 

彼女の、敵の言葉を聞き入れてはダメだとのどかは言おうとしたが、そこに聞き覚えのある笑い声が聞こえてきた。3人は聞こえてきた方向に振り返るとそこには対峙すべき敵が現れていた。

 

「そうそう・・・人生は諦めが肝心なの。辛いことをやったり受けたりしたところで、無駄なことは無駄になるだけなの」

 

「イタイノン!!」

 

不敵な笑みでそう話すのはイタイノン。

 

「はーい、プリキュアちゃんたち~♪ また来ちゃったよぉ~♪」

 

「ヘバリーヌもいるペエ!!」

 

ヘバリーヌは笑顔を見せながらプリキュア3人に手を振った後、指先を唇に押し当てながら微笑む。

 

プリキュアたちは動揺と警戒を隠さない。まさか、メガビョーゲンも見つけられていないこのタイミングでこの二人が現れるなんて・・・!!

 

「っ・・・!?」

 

ひなたは二人の姿を見て、怯えたような表情を見せていた。

 

「・・・ヘバリーヌ」

 

「はーい♪ よっと!!」

 

イタイノンに目線を向けられたヘバリーヌは元気よく返事をすると、その場から姿を消し、上空へと現れると右足を振り上げて黒い竜巻を下へと放つ。

 

「!!??」

 

その黒い竜巻はひなたの上へと落ちた。彼女は竜巻の中に飲み込まれ、外からでは姿が見えなくなる。

 

「「ひなた!!」」

 

「ひなたちゃん!!」

 

「キヒヒ・・・」

 

のどかとちゆ、ニャトランが叫ぶも、ひなたの声は聞こえておらず、そこへイタイノンが笑いながら黒い竜巻の中へに入っていく。

 

「ぐっ・・・うぅ・・・!!」

 

黒い竜巻の中に飲み込まれてしまったひなたは、表情をしかめていた。風が激しく吹き荒れていて、まるで台風の中にいるようで倒れそうになる。

 

「キヒヒ・・・」

 

と、そこへイタイノンが不敵な笑みを浮かべながら、ひなたの前に姿を現わす。

 

「ひっ・・・!?」

 

ひなたはその姿を見て、完全に怯えきったような顔をしていた。次々と溢れていく難題が増え、ビョーゲンズの脅威に晒されることに臆病になってしまったのだ。

 

しかし、ここは竜巻の中、後ずさっても逃げ場はない。

 

「さ、触んないで、んぅ!?」

 

そんな彼女にイタイノンは頬を手に取ると黙らせるかのように口づけを交わす。

 

「んんん!! んんぅ!! ん、んぐぅ!!」

 

ひなたは口づけから逃れようと顔を振るも、イタイノンは手を頭の後ろに回して押さえつけ、首を振ることができないようにする。

 

「んぅぅ!! んぐぅ!!・・・んん・・・ん・・・」

 

ひなたは無駄だとわかっていてももがいていたが、突然、操り人形の糸が切れたようにぐったりとさせる。

 

「ぷはぁ・・・ふん・・・」

 

イタイノンはひなたから口を離すと、彼女の中に赤く蠢く何かが入っているのを確認し不敵な笑みを浮かべる。

 

一方、竜巻の外では・・・・・・。

 

「うわぁ!?」

 

「ペエーーーー!!??」

 

「うわあぁぁああ!!??」

 

ヒーリングアニマルたちが竜巻の風で飛ばされそうになっていた。

 

「ラ、ラビリン! だ、大丈夫!?」

 

「ペギタンも、平気・・・?」

 

「た、助かったラビ・・・!」

 

「僕も、大丈夫ペエ・・・」

 

のどかもちゆも寸前のところでキャッチをし、ヒーリングアニマルたちを助ける。

 

「うっ・・・なんてすごい風・・・!!」

 

「これじゃあ、近づけないわ・・・!!」

 

「ひなたがあん中にいるのにニャ・・・!!」

 

ひなたを助けなければと思う2人だが、黒い竜巻に近づくことができず、風の凄まじさに片手で顔を覆っていた。

 

黒い竜巻はしばらく吹き荒れていたが、やがて竜巻の勢いがなくなり、旋風となって消える。

 

それはまるで、イタイノンの準備が整ったと言いたげなように・・・。

 

「うぅぅ・・・ぐぅぅぅ・・・!!」

 

そこには無表情で立っているイタイノンと、彼女に抱きかかえられ胸を押さえながら苦痛の表情を浮かべるひなたの姿があった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第37話「勇気」

前回の続きです!
なんかグアイワルのメガビョーゲンと絡ませるのが難しくて、しなくても書けちゃったんで割愛しました。
そこは原作と同じということで!


 

「んぅぅぅ・・・ぐぅぅぅ・・・!!」

 

「キヒヒ・・・相変わらずお前らは学習能力がないの」

 

イタイノンの腕の中で顔を歪ませるひなた、プリキュアたちをバカにして嘲う彼女。

 

「! ひなたぁ!!」

 

ニャトランはひなたの元へと飛び出そうとしたが、イタイノンは口から黒い雷撃を放つ。

 

「うわぁ!?」

 

ニャトランは黒い雷撃を間一髪で避ける。そして、その直後イタイノンの背後に巨大な怪物が姿を現した。

 

「! メガビョーゲンペエ!!」

 

「やっぱり・・・あいつも発生させていたのね・・・!」

 

「また、大分大きくなってるラビ・・・!!」

 

「ラテが察知してから全然時間経ってないのに・・・!」

 

イタイノンの背後に現れたのはメガビョーゲンだった。しかし、ラテが察知してからはそんなに時間は経っていないはずなのに、もうあんなに大きくなっていた。きっと彼らは、どこかの場所を病気で蝕んでからここに来たのだろう。

 

「私たちのメガビョーゲンの病気の蝕みの速さを甘く見るな、なの。ものさえ見つければ、あっという間に蝕むことはできるの」

 

イタイノンはそう言いながら、メガビョーゲンの顔がついた籠の中へと近づくとお姫様抱っこをしていたひなたを中に横たわらせる。

 

「!? あ、あれって・・・?」

 

「この街に住む、人たち・・・?」

 

のどかとちゆはメガビョーゲンの籠の中にいる人たちが見えており、その様子を見て動揺する。

 

「うぅぅぅ・・・あ・・・こ、この・・・みんな、は・・・?」

 

さらにひなたは言うことを聞かない体の中で、少し薄く目を開けるとそこには自分と同じようにぐったりとして苦しんでいる子供や彼女の母親らしき人、そして老夫婦の姿だった。

 

しかも、子供の方は自分と顔なじみで、三つ編みを輪っかのように結んでいる少女だった。

 

「みんな、病気で蝕まれている人たちだよ~♪ ノンお姉ちゃんがやったの♪ みんなみんな、気持ち良いって感じてるの~♪」

 

「!?・・・あ・・・ぁぁ・・・!」

 

中に入っていたヘバリーヌが明るい声でそう話すと、ひなたは恐怖の表情になる。

 

自分が、みんながイタイノンによって病気に蝕まれている。段々と体に違和感を感じていく。

 

・・・そうか。私も、この人たちと一緒に・・・。

 

ネガティブになっているひなたはそう考えることしかできなかった。

 

「あなた・・・また、そうやって人を苦しめて・・・!」

 

「許せない・・・!!」

 

「許さなかったら、何? なの。文句があるなら私を止めてみろなの」

 

のどかとちゆは怒りを見せるも、イタイノンはメガビョーゲンの上から二人を無表情で見下ろしている。

 

「ひなたを、みんなを助けださないと・・・!」

 

「行くよ! ちゆちゃん!!」

 

2人とヒーリングアニマルはお互いに頷く。

 

「「スタート!!」」

 

「「プリキュア、オペレーション!!」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

 

「「キュアタッチ!!」」

 

ラビリン、ペギタンがステッキの中に入ると、のどか、ちゆはそれぞれ花のエレメントボトル、水のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

そして、肉球にタッチすると、花、水をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、水色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ちゆは水色へと変化する。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身した。

 

「メガビョーゲン、やれなの」

 

「メガ、ビョーゲン・・・」

 

メガビョーゲンは両腕の車輪についている銃口から赤い空気砲を放つ。

 

グレースとフォンテーヌは飛び上がって空気砲を避ける。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

二人はメガビョーゲンへと向かって、蹴りを放つ。

 

「メ、ガ・・・!?」

 

両肩を同時に蹴りを食らったメガビョーゲンは突き飛ばされるも、両足の車輪を地面につけるとブレーキをかけてふみとどまり、そのままスピードを上げて地面に着地した二人へと突っ込んできた。

 

「メーガー・・・」

 

「うわぁぁ!?」

 

「あぁぁ!?」

 

二人は間一髪で避けるも、メガビョーゲンの走った後は赤い病気に蝕まれていた。

 

「ああ・・・!?」

 

「あのメガビョーゲンの走った後の地面が痛んでいるラビ・・・!」

 

どうやらこのメガビョーゲンが走り回るとその地面は病気に蝕まれるらしい。動きを止めなければここ一帯が蝕まれてしまう。

 

「メーガー・・・!」

 

そんなことを考えているうちにメガビョーゲンがUターンをして、こちらに突進してきた。

 

「「はぁ!!」」

 

「メガビョーゲン・・・」

 

「「あぁぁっ!!」」

 

グレースとフォンテーヌはステッキからピンク色、青色の光線を放つが、メガビョーゲンは物ともしておらず、そのまま二人を跳ね飛ばした。

 

家の柵に叩きつけられて地面に落ちる二人。

 

「グレース! フォンテーヌ! 大丈夫か!?」

 

ひなたがいないのでプリキュアになっていないニャトランが二人に駆け寄る。二人は大きなダメージもなく、起き上がったが・・・・・・。

 

「うん・・・でも・・・」

 

「あのメガビョーゲン、やっぱり強いわ・・・」

 

人間を病気で蝕むことのできる三人娘のメガビョーゲンは、どんな姿をしていてもタチが悪く強力だ。そう感じざるを得ないプリキュアの二人。

 

「メーガー・・・!」

 

そう思っている間にもメガビョーゲンは再びUターンをして、こちらに迫ってきた。

 

「ふっ! はぁぁぁ!!」

 

「メー・・・ガー・・・!?」

 

フォンテーヌは立ち上がって飛び出すと、メガビョーゲンに向かってドロップキックを放つ。胸あたりに直撃したメガビョーゲンはバランスを崩して背後から倒れた。

 

「ちっ・・・!」

 

「おっとぉ・・・!」

 

メガビョーゲンの籠の縁の上に乗っていたイタイノンは舌打ちをしながら、巻き込まれる前に倒れる直前で家の屋根の上に飛び退き、ヘバリーヌも同様に飛び退いた。

 

「!! 危ない!!」

 

グレースは、イタイノンに捕らわれた子供や女性が土けむりの中から飛び出してきたのに気付くと、すぐに飛び出してキャッチし、気付いたフォンテーヌも飛び出して老夫婦を受け止め、地面へと下ろして横たわらせる。

 

「! ひなたぁ!!」

 

さらに土ほこりの中から病気に蝕まれたひなたが力なく飛び出してきたのが見えた。ニャトランはとっさに飛んでいき、地面に衝突する直前で背中から彼女を下から支える。

 

「ぐぬぬぬぬぬ・・・!!」

 

辛い表情を見せるニャトランだが、なんとか体を支えてゆっくりと地面に下ろす。

 

「ふぅ・・・・・・」

 

ニャトランは無事とは言えないが、怪我をさせずに済み一息をつく。

 

「うぅぅぅ・・・ニャト・・・ラン・・・」

 

「! ひなた!!」

 

「うぅ・・・苦、しいぃ・・・苦しい、よぉ・・・」

 

ひなたがわずかながら声を絞り出し、胸を押さえながら苦しさを訴える。

 

「大丈夫ニャ!! 今、二人がメガビョーゲンをなんとかしてくれてる!!」

 

「あたし・・・死んじゃ、う、の、かな・・・? からだ、が・・・うごか、ない、んだ・・・」

 

「諦めんな!! 気をしっかり持てよ!! 俺が傍にいるニャ!!」

 

ニャトランが必死に声をかけるも、ひなたの体は赤く蝕まれていき体調は悪化、段々と弱っていく。

 

「メーガー・・・メガー・・・!!」

 

ドカン! ドカン! ドカン! ドカン! ドカン!

 

倒れたメガビョーゲンは両腕の車輪を回転させて地面につけて、逆立ちのような体勢になると車輪についている銃口を向けて赤い空気砲を連射した。

 

「っ!」

 

「「ぷにシールド!!」」

 

グレースとフォンテーヌはとっさに前へと出て、肉球型のシールドを展開して空気砲を防ぐ。

 

ドォン! ドォン! ドォン! ドォン! ドォン!!

 

「くっ・・・!」

 

しかし爆発の勢いがすごくて押されそうになり、足が徐々に後ろへと下がっていく二人。ひなたがいるときと比べれば、メガビョーゲンの攻撃を抑え込むことが難しくなっていた。

 

「このままじゃ、みんなが・・・!」

 

プリキュア二人の背後には、ひなたを含めてイタイノンによって病気に蝕まれてぐったりしている人たちの姿がある。ここで抑えきれなければ、全員が攻撃に巻き込まれてしまう。

 

「メーガー・・・メガビョーゲン・・・」

 

しかし、メガビョーゲンは逆立ちの状態から180度体を回転させた後、両手で地面を押すと飛び上がり、プリキュア二人に向かってドロップキックを放ってきた。

 

「「あぁぁぁぁぁ!?」」

 

攻撃の勢いが強いために、肉球型のシールドごと思いっきり後ろへと押されるプリキュア二人。なんとか足を踏ん張って腕に力を入れて押し留めるも、後ろはすでに壁で追い詰められてしまう。

 

「くっ・・・・・・!」

 

「うぅ・・・・・・!」

 

「メガー・・・・・・!」

 

二人はなんとか押し返そうとするも、メガビョーゲンも両足の車輪を回転させて力を上げ、押し潰そうとする。

 

「そうやってみんな庇っているから辛い目に遭うの。大人しくやられていればお前らも楽になれるの」

 

「くぅぅぅ・・・!」

 

「ぐぅぅぅぅ・・・!!」

 

イタイノンが嘲笑の言葉を浴びせるも、特に体力のないグレースはそんなことを気にすることもできないほどにすでに表情が辛そうだ。顔は顰めていて、玉のような汗が浮かんでいる。

 

「あぁ~ん♪ 気持ち良さそう~♪ 私も追い詰められてみたいな~♪」

 

ヘバリーヌは苦しい二人の様子を恍惚と見ながら、相変わらずのおかしな発言をしていた。

 

「ああ・・・二人がピンチニャ・・・!!」

 

ニャトランはプリキュア二人が体格差で押されていることに不安の声を漏らす。

 

しかし、ひなたはイタイノンによって病気に蝕まれている。

 

「くそっ!! 俺もひなたがこうなってなければ・・・!!」

 

「ニャト・・・ラン・・・」

 

地面に手を叩いて悔しがるニャトランに、ひなたが再度弱々しく声をかける。

 

「ごめん、ね・・・ニャト・・ラン・・・あたし、が・・・おく、びょう、な、せいで・・・また・・・みんな、に、迷惑、かけ、ちゃった・・・」

 

「ひなた・・・・・・」

 

「あた、し・・・全然、ダメ・・・だね・・・。設楽、先生、の、想い・・・守らない、といけない、のに、敵が、増えたから、って、メガビョーゲンが、強く、なったから、って、臆病に、なりすぎた、よね・・・意味は、あるはず・・・なのに、意味が、ない・・・なんて言って、あたし・・・もう・・・どうしたら、いい、か・・・わから、なかった・・・んだ・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

ニャトランはひなたの心情を聞いて、胸が苦しい気持ちになった。

 

ひなたは本当は、自分たちを救ってくれた設楽先生の思いを無駄にしてはいけないとわかっている。そして、エレメントさんにも、設楽先生にも約束したのだ。ビョーゲンズを倒して、あの街を取り戻すと。

 

しかし、いくらお手当てを頑張っても苦労しかしない感じ、そして敵が増えるという報われない虚しさ、彼女はいつまでもこういうことが永遠に続くのではないかと不安だったのだ。プリキュアをやっても意味がない、でもやらないといけない。その板挟みにどうしたらいいかわからなかった。

 

ニャトランは意を決した表情をして、力の抜けたひなたの手へと触れる。

 

「ひなた・・・辛いなら俺がそばにいるニャ」

 

「え・・・・・・?」

 

「あんまりいいこと言えねぇけど、俺は別にお前を迷惑になんか思ってねぇよ。むしろ、ひなたと一緒にパートナーやってよかったって思ってる。最高のパートナーだって。本当は俺だって不安だよ。地球のお手当てを最後までできるのかなって。でも、俺はそんな明日のことよりも今日のことを考えたい! どうなるかなんかわからないけど、今をどうにかしないと明日はねぇと思うニャ!!」

 

「ニャト・・・ラン・・・・・・」

 

「俺たちは、一人で戦ってるわけじゃないだろ? のどかだって、ちゆだっているんだぜ? ラビリンやペギタンも。確かに、終わりは見えないかもしれねぇけど、みんなと一緒に歩けば、今日も明日も、進めるだろ? ヘヘッ」

 

ニャトランはひなたにニコッと笑顔を見せる。ひなたはまだ戸惑いの表情を浮かべていたが、ニャトランのその表情に心が洗われる感じがする。

 

「暖、かい・・・暖かい、よ・・・ニャト・・・ラン・・・優しい、ね・・・」

 

ひなたはそう言いながらニャトランの優しさに笑みを見せつつも、涙がこぼれ落ちる。暖かい何かがひなたの中に流れ込んでくる。

 

そして、ひなたはあの時と同じように体が発光し始めた。

 

「・・・・・・・・・」

 

イタイノンはひなたとニャトランの様子を見て顔を顰めていた。頭の中にある記憶がフラッシュバックしていたのだ。

 

ーーーー大丈夫? ーーーーちゃん。

 

ーーーー怖いなら、あたしがいるよ。

 

ーーーーきっと良くなるよ。あたしがおねえに教えてもらったおまじないでね。

 

ーーーーねえ? もう苦しくないでしょ?

 

黄色いリボンをつけた栗色の髪の少女が、横たわる自分に手を伸ばしてくる。しかも、その少女はどこかあいつに似ていた。

 

「お姉ちゃん?」

 

「・・・・・・・・・」

 

バチバチバチッ・・・!

 

ひなたとニャトランのやり取りがなんとなく気に入らなかったイタイノンは帯電させると、右手を突き出すように構え黒い雷撃を二人に向かって放った。

 

「!? 危ねぇ!!」

 

「! あ・・・!!」

 

気づいたニャトランはひなたを押し出すように突き飛ばし、なんとか二人揃って黒い雷撃を避けた。

 

倒れ伏したような形となったひなたに、イタイノンが近づく。

 

考えていたが、こいつを一人潰しておけば、あいつらは3人でのあの技を出せなくなる。そうなってしまえば、私らの作ったメガビョーゲンも浄化できなくなるだろう。

 

ちょうどいい機会だ。この場で片付けておくか。

 

「うぅぅぅ・・・!」

 

「お前、辛いだろ? なの。私が楽にさせてあげるの」

 

ひなたは少し体が楽になったのか立ち上がろうとするが、そこに不敵な笑みを浮かべるイタイノンとは距離が縮まっていく。

 

「ひなたに手を出すな!!」

 

「・・・ふん!」

 

「うわぁ!!」

 

ニャトランが二人の間に入ってひなたを庇おうとするが、あっさりと右手で叩き飛ばされる。

 

「・・・何もできないヒーリングアニマルは引っ込んでろ、なの」

 

「ぐぅ・・・!」

 

イタイノンはニャトランを冷たい目で見下ろした後、起き上がろうとしているひなたへと近づく。

 

「うっ・・・あ・・・あぁ・・・!」

 

そして、彼女の胸ぐらを掴んで上へと持ち上げた。ひなたは病気の蝕みに加えて、首を絞め上げられるような苦痛に歪む。

 

「ぐっ・・・うぅっ・・・うぅぅぅぅ!!」

 

「痛いのは一瞬だけなの。すぐにお前の鼓動を動きを止めてやるの」

 

バチバチバチ・・・・・・!!

 

イタイノンは掴んでいない方の手の二本の指に電気を纏わせる。それを彼女の心臓がある左胸に突き刺そうとしていた。

 

「ひなた!!」

 

「ひなたちゃん!!」

 

「メーガー・・・!」

 

「くっ、うぅぅ・・・!!」

 

「うぅぅぅぅ・・・!!」

 

「う、動けないラビ・・・!!」

 

「これじゃあ、ひなたを助けに行けないペエ・・・」

 

うまく体が動かないひなたがイタイノンに襲われているのを見る二人だが、メガビョーゲンは邪魔させないように両足の車輪をさらに回転させて力を上げてきた。あまりの力に押し返せずに、身動きを取ることができない。

 

「やめろよぉ!!」

 

ニャトランは二人の元へと飛び出し、ひなたを助けようとイタイノンが彼女を掴んでいる手に噛み付く。

 

「っ・・・!!」

 

イタイノンは顔を顰めると掴んでいない方の手の指をニャトランの体へと突き刺す。

 

「がぁっ・・・!? うわぁぁぁ!!!!」

 

帯電させられたニャトランは思わず口を開いてしまい、その隙を突かれてデコピン一発で吹き飛ばされた。

 

「ぐぅぅ・・・あぁぁぁぁぁ!!!!」

 

床に転がるニャトランは再び立ち上がって、イタイノンへと立ち向かっていくが、やはり掴んでいない方の手で叩き落されてしまう。

 

「っ・・・やあぁぁぁぁ!!!」

 

それでもニャトランはひなたを助けようと何度もイタイノンに向かっていくも、その度に叩き払われる。それでも諦めずに助けようと向かっていく。

 

「ニャト・・・ラン・・・やめ、て・・・死んじゃう・・・よ・・・!」

 

「ぐっ・・・あぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ひなたは涙をポロポロとこぼしながらそう訴えるも、ニャトランはめげずに立ち向かおうとしている。

 

「いい加減にしつこいの!!!!」

 

「!? ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

 

何度も向かってくるニャトランに苛立ちを覚えたイタイノンは強めの黒い雷撃を放つ。まともに受けてしまったニャトランはボロボロになり、そのまま力なく地面へと落ちた。

 

「ニャト、ラン・・・!!!!」

 

ひなたはかすれながらも悲痛な声を上げる。

 

「プリキュアになれないお前が何をやっても無駄なことなの。おとなしくお前のパートナーが終わるのを見ているがいいの」

 

「う・・・あぁ・・・く、そ・・・!」

 

イタイノンは地面に倒れるニャトランに冷淡な言葉をかけると、再び掴んでいない方の指で帯電させていく。

 

「待たせて悪かったの。今、楽にしてあげるの」

 

ひなたへと不敵な笑みを浮かべるが、彼女は逆に怯えたような顔から睨むような表情へと変える。

 

「あきらめ、ない・・・!」

 

「?」

 

「お手当てを、やめたく、ない・・・諦めたく、ない・・・! だって、ニャトラン、が・・・あんなにあたし、を・・・助けてくれようとしてるのに・・・二人が、あんなに、頑張っているのに・・・!」

 

「・・・お前が動いたって状況は変わらないの。大して強くもないくせに、むしろ悪化させるだけなの」

 

ひなたはイタイノンの冷淡な言葉に首を振る。

 

「違、う・・・違う、よ・・・! 確か、に・・・私一人、では、弱い、かも・・・。でも、二人の中に私が、入れ、ば・・・助け、られる・・・あたし、が・・・少し、でも・・・頑張れ、ば・・・できる、んだよ・・・お手当てだって、人を救うことだって、できるんだよ・・・!!」

 

「っ・・・!?」

 

必死で声を絞らせるひなたの体が発光し始め、イタイノンの掴む手をゆっくりと押し退けていく。

 

「あぁぁぁ・・・!!」

 

それに苛立ちを覚えたイタイノンはひなたを前へと投げ飛ばした。

 

「やっぱりお前、目障りなの・・・! ここで消えろ、なの・・・!!」

 

イタイノンは両手を上げて黒い雷撃を込めると、球状にしてひなたに向かって放った。

 

「ひなたぁーーーーー!!!!!!」

 

傷ついたニャトランがなんとか立ち上がり、ひなたの方へと飛び出していく。

 

ドカァァァァァァン!!!!

 

黒い電撃の球は着弾して、爆発を起こし、煙が立ち込めていく。

 

「ひなたちゃん!!」

 

「ニャトラン!!」

 

グレースとラビリンが叫ぶ。

 

「ふん・・・・・・」

 

イタイノンは始末したと確信する。まともに動けない栗色の髪の少女、これでプリキュアを一人倒したと・・・・・・。

 

キュン!

 

「!!??」

 

しかし、聞いたことのある音、それが聞こえてきた途端、イタイノンの表情は驚愕へと変わった。

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

煙が晴れるとそこにはキュアスパークルに変身したひなたの姿があった。

 

「ひなた!! 変身できたなぁ!!」

 

「うん・・・まだ、ちょっと体は重いけど・・・動けるよ!!」

 

「よーし! 行こうぜ!!」

 

「うん!!」

 

スパークルはニャトランと絆を確かめ合うと、イタイノンに向かって構える。

 

「ちっ・・・!!」

 

どうして?と考えることもなく、イタイノンは悔しそうな表情をすると、片足を地面に叩きつけて黒い雷撃を走らせる。

 

「はぁぁ!!」

 

スパークルは飛び上がってかわすと、ステッキから黄色の光線を放つ。

 

イタイノンは三体に分裂して黄色い光線を避けると、空中にいるスパークルへと一人ずつ遅れて飛び出していく。

 

「ふっ・・・くっ、はぁ・・・!」

 

「ふん!」

 

「あぁ!!」

 

一人が飛び蹴りを放ってきたのを空中で避け、そこへ二体目が回転して踵を落としてくるも、スパークルは防いで弾き飛ばす。さらにもう一人が死角から蹴りを放ってくるのを気づいて、両手をクロスして防ぐも地面へと吹き飛ばされる。

 

しかし、衝突はせずに着地して踏ん張る。そこへ地面に降りた一体が真正面からパンチを繰り出してくる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

スパークルもステッキを持っていない方の手でパンチを繰り出すべく飛び出して行き、二つの拳がぶつかる。

 

「くっ・・・!!」

 

お互いの拳が押し合い、無表情のイタイノンに対して苦しそうな表情を見せるスパークル。

 

そこへ分身であろう二体のイタイノンが同時に飛び蹴りをスパークルに向かって放ってきた。

 

「!! うっ・・・ふっ!!」

 

三体のイタイノンに挟まれたスパークル。彼女は正面の拳で抑えつつも、ステッキを下に向けると黄色い光線を放ってジェット噴射のようにして飛び上がる。

 

「はぁ!!!!」

 

そして、一体のイタイノンに踵を落とす。両腕をクロスさせて防がれ、弾き飛ばされるも、スパークルはその勢いを利用してもう一体のイタイノンの背後へと飛ぶと壁を蹴って飛び出す。

 

「よっ!! はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「!? っ・・・!?」

 

もう一体のイタイノンに飛び蹴りを繰り出す。彼女は同様に両腕をクロスしたが、勢いが強かったために吹き飛ばされて、本体であるイタイノンにぶつかり、二体は引き合うようにして一体へと戻る。

 

分身が受けたダメージが反動で入り、膝をつくイタイノン。

 

「これも、あげるよ!!」

 

さらにスパークルはもう一体の分身の腕を掴んでクルクルと回転させる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「!? あっ・・・!?」

 

膝をついていた本体のイタイノンに向かって放り投げると、二体はぶつかり合って一体のイタイノンへと戻る。この分身のダメージも受けたイタイノンだが、脇腹を押さえつつも倒れずに地面に着地する。

 

「ちっ・・・本当にムカつくやつなの・・・!!」

 

イタイノンは表情に怒りと悔しさを滲ませながら、ヘバリーヌの横へと飛び退く。

 

「くぅぅぅぅぅ・・・!!」

 

「うぅぅぅぅぅ・・・!!」

 

「メーガー・・・」

 

その間にグレースとフォンテーヌは押す力を失い、段々と押される形になっていた。

 

「グレース! フォンテーヌ!」

 

スパークルはそれを見るとすぐに二人の横へと飛んでいき、肉球型のシールドを張る。

 

「スパークル! よかった・・・!」

 

「まあ、動けるようになっただけ、なんだけどね・・・」

 

「とにかく、3人一緒に行くわよ!」

 

3人はお互いの無事を喜んだ後、怪物の足を押し上げようとステッキを構える。

 

「「「せーのっ! はぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

「メ、ガ、ガ、ガ・・・!? メガ・・・!?」

 

3人は同時にステッキを動かしてシールドを押しのけ、メガビョーゲンを吹き飛ばす。

 

背中から地面に落ちたメガビョーゲンに向かって、スパークルがステッキのニャトランの顔をメガビョーゲンに向ける。

 

「「キュアスキャン!!」」

 

ニャトランの目が光るとメガビョーゲンの中にいるエレメントさんを見つける。

 

「風のエレメントさんだ!」

 

エレメントさんはメガビョーゲンの右手の車輪部分にいる模様。

 

「メーガー・・・!」

 

メガビョーゲンは立ち上がると両足の車輪を動かして、こちらへと向かってきた。

 

「こっち来るペエ!!」

 

「メーガー・・・!」

 

さらにメガビョーゲンは両腕の車輪の銃口から空気砲を放ってくる。グレースとスパークルは前に出ると肉球型のシールドを展開し、空気砲を防いでいく。

 

ドカン!ドカン!ドカン!ドカン!

 

「くっ・・・!!」

 

「うっ・・・!!」

 

着弾した空気砲は爆発を起こし、その凄まじさに二人はシールドを張るのが苦しそうだ。

 

「動きを止めないとね・・・氷のエレメント!!」

 

フォンテーヌはそんな二人の背後から飛び上がると、ヒーリングステッキに氷のエレメントボトルをはめる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ステッキから氷をまとった青い光線が放たれ、メガビョーゲンが走る地面を凍らせる。

 

「メ、メガ、ガ、ガ・・・!?」

 

走ることと打つことばかりに気を取られていたメガビョーゲンは、凍った地面に気づかずに足を滑らせると背中から地面へと倒れ、氷漬けになった。

 

「あ~、凍っちゃった~・・・」

 

「っ~~~~~!!!!」

 

ヘバリーヌは気の抜けた明るい声で言い、イタイノンは悔しそうに唸らせる。

 

「今よ!!」

 

「「うん!!」」

 

3人はそれを合図に体が発光し、ミラクルヒーリングボトルをステッキにセットする。

 

「「「トリプルハートチャージ!!」」」

 

「「届け!」」

 

「「癒しの!」」

 

「「パワー!」」

 

グレース、フォンテーヌ、スパークルの順で肉球にタッチしていき、ステッキを上に掲げる。すると、花畑が広がっていき、背後には自然豊かな森が広がっていく。

 

さらにプリキュア3人の背後に、設楽が話していたとされる紫色のコスプレ姿をした女神の姿が映し出されていく。

 

「「「プリキュア! ヒーリング・オアシス!!」」」

 

3人は一斉にメガビョーゲンへとステッキを構え、ピンク・青・黄色の3色の光線が螺旋状になって放たれる。螺旋状の光線は混ざり合いながら一直線にメガビョーゲンに直撃する。

 

螺旋状になった光線はそれぞれの色の手へと変化して、3本の手が風のエレメントさんを優しく包み込んでいく。

 

3色に光るハート状にメガビョーゲンを貫きながら、光線はエレメントさんをメガビョーゲンから外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンたちは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「「「「「お大事に」」」」」」

 

風のエレメントさんは自転車へと戻ると、病気に蝕まれた箇所は元に戻っていく。

 

「ワフ~ン♪」

 

体調不良だった子犬ーーーラテも額のハートマークが黄色から水色に戻り、元気になった。

 

「ちっ・・・あと、もうちょっとだったのに・・・!!・・・はぁ・・・・・・」

 

イタイノンは悔しそうに拳を握り締めたあと、落ち込んだようにため息をつく。そしてやや不機嫌な表情で、ヘバリーヌの方を振り向く。

 

「・・・で、大体わかった? なの。これがやり方なの」

 

イタイノンは失敗はしたものの、ヘバリーヌに今回の出撃を理解したかどうか聞いてみる。

 

「うん♪ 参考になったよ~♪ ありがとぉ♪ ノンお姉ちゃん、ス・テ・キ♪」

 

「あ・・・もう、くっつくな、なの・・・!」

 

ヘバリーヌは笑顔でイタイノンに抱きつき、当の彼女は赤らめながらも困ったような顔をする。そして、二人はそのまま姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、プリキュアたちは静電気騒ぎを起こしていたメガビョーゲンも浄化し、ひなたが助け出した雷のエレメントさんから貴重なボトルをもらった後、3人はひなたの姉・めいが経営するワゴンの近くへと来ていた。

 

ワゴン車の中に閉じ込められていためいは、ようやく脱出することができて、ひなたは心の中で安堵の声を漏らしていた。

 

「私も・・・ありがとね・・・ニャトランも、ありがと・・・」

 

ひなたがお礼の言葉を述べる。

 

「バテテモーダとか、ヘバリーヌとか、まだ全然いるけど・・・それでも、今、あたしが頑張れば、みんなを助けられるんだもんね!」

 

強敵の出現で、お手当ては意味がないと思った。でも、ニャトランが言っていた今が大事、自分がお手当てを頑張ればみんなを救うことができる。さっきも閉じ込められていた姉を助けることができた。

 

だから、自分たちのお手当ては・・・自分のお手当ては・・・。

 

「意味なくなんか、ないんだもんね!」

 

「ワン!」

 

「設楽先生だって、先生の娘だって、あたしたちが取り戻せるよね!!」

 

「ああ!!」

 

設楽先生の思いだってきっと遂げられる。ビョーゲンズになったあの娘だって、きっと救ってあげられる・・・ひなたはそう思えば、お手当てを続けられると感じた。

 

ネガティブな発言をしていた、あの時の自分にさようならだ。

 

ひなたが明るくなり、笑いあうプリキュアの面々。

 

「みんなー! お待たせ!!」

 

「はーい!!」

 

そんな頃、めいが3人を呼ぶ。グミ入りのジュースを3つ、自分の手元に用意しながら。

 

地球も、設楽先生の思いも守ってみせると、プリキュアたちは胸に誓ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 

「あ~ん♪ 待ってよ~♪ お姉ちゃ~ん♪」

 

廃病院の外、イタイノンが黒焦げになったヘバリーヌに追いかけ回されていた。

 

抱きついた状態のまま、二人はアジトへと帰ってきたのだが、あの後、その状態のまま、胸や脇腹といった場所を触られまくったイタイノンは不快感を覚えて電撃を浴びせまくった。しかし、ヘバリーヌは何事もないようにすくっと立ち上がってきて、それに恐怖感を覚えた彼女が逃げ出し始め、現在に至る。

 

「もっともっと私をシビれさせて~♪♪」

 

「なんで、こいつ倒れないの~~!!??」

 

どうやら黒い電撃をイタイノンから浴びたがっているようだが、当の彼女は迫られてくる恐怖から気が気でない様子。

 

「アタシもあんなことされたら、逃げ切れる自信ないわ・・・」

 

「私だったら、薬を染み込ませた布を顔に被せますけどねぇ・・・」

 

「それってなんかエグくない・・・?」

 

クルシーナとドクルンはその様子を、テラス椅子に座りトランプをしながら、呆れた様子で眺めている。

 

「お前ら、見てないで助けろなのっ!!!!!!」

 

「ノンお姉ちゃんも、もっと痛めつけてぇ~♪」

 

イタイノンは逃げ回りながら、他人事のように見ている二人に怒声を飛ばす。

 

「焦らすと我慢できなくなっちゃうから早くぅ~♪」

 

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

バチバチバチバチバチ!!!!!

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

 

イタイノンの悲鳴と共に空へと柱が立つほどの電撃、そしてヘバリーヌの嬉しそうな声が街へと響き渡ったのであった・・・・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第38話「春祭」

原作第14話がベースです。
二人のビョーゲンズにも軽くスポットが当たっている話でもあります。


 

ビョーゲンズにとって快適な世界、ビョーゲンキングダム。そこではクルシーナが特に何かをするわけでもなく、一人で寝そべっていた。

 

「はぁ・・・退屈ね・・・」

 

彼女は言葉通り、心底退屈そうにしていた。イタイノンとヘバリーヌはくだらないことでじゃれ合いをしているし、ドクルンは実験があると言って地下室に行っちゃうし、ダルイゼンとシンドイーネはどうせ相手にしてくれないし、本当につまらないのだ。

 

「なんか面白いことないかね・・・」

 

「しりとりでもするかウツ?」

 

「・・・バッカじゃないの?」

 

ーーーーくだらないんだよ。そんな余計に退屈になる遊び誰がやるかっつーの。別に誰かに構ってほしいとかそういうんじゃねぇし、そもそも構われるのは大嫌いだ。

 

帽子になっている相棒に心の中で悪態をつくとあくびをし始める。

 

こういうときは、何も考えないで寝ちゃうに限るか・・・・・・。

 

そう思って横になろうとするが・・・・・・。

 

「えぇぇぇぇっ!!??」

 

「ッ・・・・・・」

 

耳に聞こえてきた騒がしい声に顔をしかめると、すくっと体を起こして不機嫌な表情のままでその声の主を見やる。どうやら、さっきの驚いたような声は、自分を注目若手だとのたまっているバテテモーダのようだった。

 

「でも、これ、グアイワル先輩の大事なおやつじゃないっすか!?」

 

「ああ、実はその通り。俺がずーっと取っておいた大切な菓子だ。だが、特別に、ものすごーく特別に! お前にやろう!!」

 

どうやら筋肉バカのグアイワルが、勝手に弟子扱いをしているバテテモーダに菓子を与えようとしているらしい。そのお菓子は何やらおはぎみたいな形をしている。

 

ーーーーっていうか、あんな腐りかけの菓子を誰が欲しがんだよ・・・。

 

クルシーナは内心呆れながらもそう思った。

 

「じゃあ、遠慮なく~!」

 

バテテモーダは本当に遠慮なく菓子を摘み上げると口へとほうばる。

 

「う、うま~い!! 最高っす!!」

 

バテテモーダは親指でガッツポーズをしながら、いつものようなテンションでご機嫌な様子だ。見ているクルシーナがムカついてくるくらい。

 

グアイワルのほうをよく見ると、口元によだれが垂れているのが見えた。

 

「・・・よだれ垂らすぐらいならあげんなよ」

 

クルシーナはますます呆れながらそう言う。

 

「いいか、バテテモーダ!! お前には期待しているぞ!! 」

 

グアイワルは尊大な態度でバテテモーダに告げる。

 

「もぉ~!! 任せちゃってくださいよ~!! グアイワル先輩のためなら、このバテテモーダ、例え日の中、水の中、洗剤の中っすから~!!」

 

バテテモーダは媚へつらいながら、グアイワルの肩を揉み始める。

 

ああいう媚びへつらって、お世辞ばかりを言う奴はあまり気に入らない。っていうか、クルシーナはそういう奴が大嫌いなのだ。

 

ここまで見れば、本当に上司と部下のような関係だが・・・・・・。

 

「ケッ、なんちってな・・・」

 

バテテモーダが後ろを向いて何かをブツブツ呟いている。クルシーナは一瞬、彼の様子に違和感を覚えていたが、何かを察したかのように笑みを浮かべ始める。

 

「へぇ・・・・・・」

 

何をブツブツ言っているかはわからないが、多分、あいつはそういう性格らしい。どこぞの媚びへつらうだけの安い部下とは違う。あいつにはきっと何かがあるのだ。

 

「ん? どうした?」

 

急に部下が黙ったことに疑問を覚えたグアイワルが振り向く。

 

「いやぁ~! 感激の涙を拭いただけっす! じゃあ、グアイワル先輩のために、早速地球蝕んでくるっす~!!」

 

「おお、そうか!! なら、行ってくるがいい!!」

 

「了解っす!!」

 

バテテモーダはとっさにごまかして宣言すると、グアイワルは歓喜の声をあげる。バテテモーダは元気に出撃していった。

 

クルシーナはその様子を不機嫌そうに見つめていた。

 

「あいつもバカね・・・部下の本性も見抜けないなんてね」

 

グアイワルはバテテモーダの本当の性格に気づいていないのか、もしくは知っていてあんなことを言っているのか・・・まあ、どちらにしても察していない第三者には哀れな光景にしか見えていない。

 

まあ、グアイワルはそもそも部下思いとかそういう奴じゃないし、逆に利用しようと考えているかもしれない。そのために部下には優しくして、自分の出世のための道具にしようとしているのだろうなと思う。

 

なんていろいろ考えているけど、別にどうでもいいし・・・・・・。

 

ようやく静かになったクルシーナは再度寝そべって、昼寝を決め込もうとする。しかし、そこへ風を切るような音が二回ほど聞こえてくる。

 

「いぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 

「待ってよ~♪ ノンお姉ちゃ~ん♪」

 

ゲシッ!!

 

「グハッ!?」

 

悲鳴と甘い声が聞こてきたかと思うと、お腹が圧迫されて変な声が出る。クルシーナは再度起き上がって、声の主を見やるとまた追いかけっこをしているイタイノンとヘバリーヌだった。

 

あいつら、アタシのお腹を踏んでいきやがったのか・・・?

 

眠りを邪魔されたことに苛立ちを覚えたクルシーナは顔を顰めるとすくっと立ち上がり、手を開いて構えると白いホールのようなものを出現させるとそこから白と黒のイバラビームを放った。

 

ビィィィィィィィィィィィィィィ!!

 

「あぁぁぁぁぁぁぁん♪」

 

イバラビームはヘバリーヌへと直撃し、彼女は思いっきり吹き飛ばされる。地面へと落ちたヘバリーヌはビクンビクンと体を痙攣させているが、その表情は恍惚としていた。

 

イタイノンはそのまま逃げ出していったようだが・・・・・・。

 

「・・・・・・ふん」

 

憂さ晴らしにもなっていないクルシーナはその様子を近くで見ることもなく、その場から立ち去っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~・・・全く落ち着いて昼寝もできやしないわ・・・」

 

「新人が増えてから、ビョーゲンキングダムが騒がしくなったウツね」

 

地球に降り立ったクルシーナはブツブツと文句を言いながら、適当に昼寝をする場所を探していた。

 

「イタイノンも適当に痛めつけて、引き剥がせばいいだろうに・・・」

 

「ヘバリーヌ相手には逆効果ウツよ。喜ぶだけウツ」

 

「・・・・・・ふん」

 

あいつもあいつでされるがままになるんじゃなくて、適当に叩きのめせばいいのだ。どうせ死にやしないんだから。まあ、アタシたち自体、もはや死んでるのと変わらないけど。

 

パンパン・・・! パンパパン・・・!!

 

「ん?」

 

何やら弾けるような音が聞こえてきた。視線を向けてみると、何やらすこやか市の街の上で何かが打ち上がっているようだった。

 

「何かやってるウツ?」

 

「さあね・・・」

 

「退屈なら行ってみたらどうウツ?」

 

「余計なお世話だっつーの・・・別にいいけど」

 

ウツバットの言葉通り、何かやっているかもしれないと踏んだクルシーナは、元々暇だったので珍しく相棒の言葉に同意して街へと降りてやることにした。

 

すると、そこは街の温泉街の近くにある場所で、様々な出店があって多くの人で賑わっていた。

 

中央にあるステージの看板らしきものには『すこやかフェス』と書かれていた。

 

「へぇ・・・こんな面白そうなもんがやってるんだ」

 

「人もいっぱいだけど、食べ物もいっぱいウツね」

 

「いいじゃない。この辺一帯を病気で蝕み放題ね」

 

クルシーナはバレないように人間にしっかり擬態した後、不快な生気を探しながら出店を見て回っていく。この辺は人も多く、病気で蝕むのには絶好のスポットだ。あとはメガビョーゲンを発生させれば・・・・・・。

 

と、クルシーナはとある一つの出店に足を止める。そこは生カステラと書かれたお店で、白い紙の中にお菓子みたいなものが入っていた。

 

「・・・ふーん、いいじゃない」

 

「・・・クルシーナ?」

 

クルシーナは瞳をキラキラと輝かせるとその出店へと近づいていく。今まで蝕むものを探しに行っていたはずなのに、突然店の方に向かっていった彼女に疑問の声を上げるウツバット。

 

「ここ一帯を蝕むんじゃないのかウツ?」

 

ドガッ!!

 

「ブヘッ!?」

 

「・・・何をしようとアタシの勝手だろ」

 

クルシーナはウツバットを拳で黙らせると、迷わず出店へと向かっていくのであった。

 

ビョーゲンズの彼女は生カステラを密かに手に入れていた人間界のお金で一つ購入し、白い紙の包み紙を剥がすと口へとかじる。

 

「んん~♥ 人間の作ったものにしてはよくできてるじゃない♪」

 

「僕も! 僕も欲しいウツ!!」

 

クルシーナが頬を赤らめながら満足そうな笑みを浮かべていると、ウツバットが彼女の頭の上でそのカステラを要求していると彼女は不機嫌そうな顔を浮かべる。

 

「アンタは病気に蝕むものを探してるんでしょ?」

 

「僕はお菓子を食べに来たんだウツ!!」

 

・・・調子のいいヤツ・・・。と、クルシーナは不機嫌そうな表情でそう思う。

 

「適当なそこの人間の血でも吸ってればいいでしょ。コウモリなんだから」

 

「コウモリはコウモリでも血を吸うコウモリじゃないウツ! 植物や果物を食べるコウモリウツ!」

 

「あっそ、だったらお菓子は食べないわよね?」

 

「あ、あれ!? なんか言い方、間違えたような・・・!?」

 

ウツバットが動揺している隙に、クルシーナは生カステラを全て口の中へと放り込む。

 

「んん~!! いいわね!!」

 

「あーん! 僕も食べたいウツ~!!」

 

年頃の少女のような嬉しそうな笑顔を見せるビョーゲンズの幹部に対し、その頭の上で焦ったような駄々をこねる相棒。

 

ふと他も見渡してみると、他の出店とは少し訳が違う黄色のワゴンがあった。あれもどうやら出店のようだが、何を売っているのか?

 

その黄色いワゴンを覗いてみると、看板からしてジューサーのワゴンのようだが、今はパンケーキを売っているらしい。

 

「パンケーキね・・・悪くないかも」

 

クルシーナはよくわからないが、パンケーキの何かに惹かれた様子。

 

「ウツウツ!! 僕も何か食べたいウツ!!」

 

「うるさいねぇ・・・わかったから、喚くな・・・!」

 

帽子になっている相棒がやかましいので、彼女は仕方なく二人分のパンケーキを買ってやることにする。

 

カウンターの近くに来るとコンコンとノックをするように叩き、店員を呼び出す。

 

「いらっしゃい! あら? 見かけない子ね。引っ越してきたのかしら?」

 

カウンターから栗色の髪の女性が出迎えてくれた。比較するものがなくてあれだけど、シンドイーネと同じくらい、もしくはあいつらプリキュアの3人よりは結構な美人の人だ。

 

しかし、クルシーナはその女性に違和感を感じ、女性をじっと見る。

 

ーーーーこの女性、どこかで見たことあるような・・・。

 

「えっと・・・・・・」

 

そういえば、その髪型といい、その色といい、その顔といい、プリキュアのあいつに似ているような・・・・・・。

 

「あの・・・・・・」

 

「あっ・・・そ、そうね・・・来たばかりでわからないところがあるかも・・・」

 

女性が困ったような声を出したため、クルシーナはとっさにごまかす。本当のところはもう何度か探索しているのだが、それは気にしないことにした。

 

パンケーキサンドを二人分注文し、ワゴンの近くに設置されているテラス席で食べることにした。

 

「ほら」

 

「ありがとう、クルシーナ! ウツ~、おいしそうウツ~」

 

ウツバットは帽子からコウモリの姿へと戻ると、クルシーナに差し出されたパンケーキを受け取って、彼女が座っているすぐ横に降りる。

 

クルシーナはパンケーキサンドをバーガーを食べるかのように一口食べる。

 

「うん~、あま♥」

 

同じように頬を赤らめる彼女。中身を見てみると黄土色のクリームのようなものが入っていた。これは、カボチャだろうか?

 

「おいしいウツ~!」

 

「・・・本当に調子のいいヤツ」

 

パンケーキをチマチマつまんでいる相棒に、クルシーナはやや顰めた顔をする。さっきまで病気で蝕むのかを考えていたくせに。

 

調子に乗っている相棒にそう思いつつも、パンケーキを摘んでいく。

 

その後、パンケーキを食べ切った後、黄色いワゴン車を後にすると再び出店を見て回っていく。食べ物ばかりかと言わんばかりだが、その中に一つだけクルシーナにとっては気になる出店があった。

 

それはきゅうりやトマト、ナス、タマネギなど、獲れたての野菜が多く売り出されている出店であった。

 

「・・・ふーん、生き生きとしちゃって。生きてるって感じ・・・」

 

クルシーナは色とりどりの野菜たちから不快な生気を感じ、不機嫌そうな顔をしかめる。

 

「クルシーナが部屋で育ててる野菜とどっちがいいウツね?」

 

「そんなのアタシのに決まってんじゃん。愛情と病気を注いで作ってるんだからさ」

 

廃病院の部屋でクルシーナが栽培している作物には、この出店でも売られているトマトやナス、ニンジンなどがある。特にニンジンは他の作物と比較してすぐに成長するので、失敗しにくく収穫しやすいんだとか。

 

「買ってみたらどうウツ?」

 

「・・・一応、人間の作ったものの腕前を確かめようかしら」

 

そう言って出店に近づくとトマトやミニトマト、ナス、ニンジン、タマネギ、とうもろこし、きゅうり、キャベツなどといったほぼほぼ全部の野菜をある程度購入した。

 

店員にビニール袋に入れられた、人間たちが作った色とりどりの野菜。クルシーナはその中の一つ、赤いトマトを一つ取り出すとそのままかぶりつく。

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナはお菓子を食べた時と違い、不機嫌そうな表情のままだ。トマトは生き生きとしているせいか、口の中でシャキシャキとした音が頭の中に聞こえ、その味も甘い。甘いのだが・・・・・・。

 

「・・・やっぱりアタシが作ったものの方がおいしいわ」

 

人間の野菜をお気に召さない彼女は、部屋でトマトも栽培している。そっちの方がトマトはしっかりと身が引き締まっていて、糖度も高い。この野菜もしっかりはしている・・・しっかりはしているのだが、何か物足りない感じだ。

 

「僕も食べたいウツ」

 

「ん・・・」

 

帽子になったウツバットの口に、クルシーナは先ほどのかじったトマトを放り込む。

 

「・・・別に普通に甘くて美味しいウツよ」

 

「お前の意見なんか求めてない」

 

ウツバットの感想をバッサリと切り捨てるクルシーナ。お前は余計なことを言いすぎなんだよ。作物も育てているアタシの目利きに間違いなんてありえないし、そもそも生き生きしている野菜なんか受け入れられない。

 

ビニール袋に入った野菜を、使役している手下の小さなコウモリの妖精たちに持たせておくことにする。よくわからないけど、なんとなくそばに置いておきたくない。

 

その後も、いろんな出店を回っていき、気になったお菓子を片っ端から買っていき、桶の中へと入れていく。

 

そんな中、また気になるものを発見し、足を止める。黄色のクロスに並べられている色とりどりのお菓子。クルシーナはよくわからないが、何かに惹かれるように近づいていく。

 

「・・・ふーん」

 

「いらっしゃい、お嬢ちゃん! すこやかまんじゅう、どうだい!?」

 

鉢巻をした壮年の店員にすこやかまんじゅうと呼ばれたお菓子をよく見てみると、そのすべてに笑っている顔のようなものが焼印されていて、その額に「す」と描かれている。

 

それをマジマジと見るクルシーナは、病院で出会った車椅子に乗った笑顔が可愛いマゼンダ色の髪の少女の顔を思い出す。

 

ーーーー・・・なんか、あいつに雰囲気が似ているわね。

 

「お嬢ちゃん?」

 

「あっ・・・」

 

壮年の男性の声に我に返った彼女は、このすこやかまんじゅうとやらを聞いてみる。

 

「これって、何でできてんの?」

 

「おお、興味があるのかい? このすこやか市の名物である、すこやかまんじゅうはなぁ、6種類の野菜を使っててねぇ。イチゴにカボチャに、コマツナに、どれも美味しくて体にいいんだ!」

 

「ふーん・・・」

 

体にいいのは正直どうでもいいが、このまんじゅうが野菜でできてるということを知ったクルシーナは俄然に興味が湧いた。っていうか、余計に惹かれた・・・食べてみたいと。

 

「僕も食べたいウツ~!!」

 

「? また変な声が聞こえたな・・・?」

 

帽子のウツバットが思わず呟いた言葉に、店員がキョロキョロとし始める。

 

「気のせいでしょ。それよりも、そのすこやかまんじゅうとやらを頂戴。全種類4個ずつね」

 

クルシーナはそれを冷静に返し、すこやかまんじゅうを購入しようと札を取り出す。

 

「まいど!!」

 

店員は一回り大きな桶にすこやかまんじゅうを入れて、彼女に手渡してくれた。早速、桶に入れられたすこやかまんじゅうを二つ出して、包んであるビニールを剥がすと一つをウツバットに渡し、一つは自分に。

 

そして、二人はまんじゅうをほぼ同時に食べてみる。

 

「!! ん~!! 美味しい~!! 最高ね♥」

 

「ほっぺたが落ちそうウツ~!!」

 

二人はお互いに頬を赤らめながら満面の笑みを見せるという同じリアクションをとる。アンコがしつこくない甘さで、野菜が野菜として感じずにその美味しさを引き立てている。

 

桶に入っているまんじゅう、もっと食べたい・・・!!

 

そう思ったクルシーナはどこか落ち着けるところに座って食べようと移動をし始め、どこか座れるところがないかを探していると、ちょうどよく座れる場所があった。

 

「あったあった・・・!!」

 

そこは足湯があるエリア。温泉は正直あれだが、ここならば落ち着いて食べれると近づいていくが・・・・・・。

 

「・・・げっ。あいつらは・・・・・・!」

 

クルシーナは嫌なものでも見てしまったような反応をする。そこには足湯に浸かっているどこかで見たことのある3人の少女と、小さな動物ーーーーヒーリングアニマルが4匹いた。要するにあいつらはビョーゲンズにとっても脅威になりつつあるプリキュアたちだ。

 

「もっと食べたいラビ!! もっともっともっともっともっと~!!!」

 

「・・・しつこいペエ」

 

ベンチに隠れるように座っているピンクのうさぎが、何やら駄々をこねており、隣の青いペンギンが困っている様子。

 

「相変わらず、あいつはわがままなやつだウツ」

 

「・・・バッカみたい」

 

クルシーナとウツバットは呆れた様子で見やると、3人にバレないようにその場を通り過ぎようとする。その距離は、足湯の側で柵の側であるために、3人とは目と鼻の先だ。

 

「そういえば、今日ね、病院で先生にすっごく元気だって言われたの」

 

マゼンダ色の髪の少女ーーーーのどかが話す言葉に思わず足を止めるクルシーナ。その距離は彼女のすぐ背後だ。

 

「え!? 本当!? のどかっちやったじゃん!!」

 

「へへへ、もう前から元気だったんだけど、お墨付きをもらった感じで、嬉しくって・・・」

 

「よかったわね。のどか」

 

のどかはなんだか嬉しそうだ。ひなたもちゆも喜んでいる。

 

それに比べてその話を立ったまま聞いていた、クルシーナの表情はなんだか暗そうな感じで、俯いている。

 

ーーーーこの街で、お前さんを絶対に治してやるぜ。

 

ーーーー大丈夫だ。体はきっと良くなっていくさ。

 

かつて設楽が自分に言った言葉を思い出す。彼を信じていたが、病気はよくならなかった・・・・・・。

 

医者なんて嘘つきだ。患者に嘘をついて、偽りの安堵を与えようとする。本当はもう治らないってわかっているくせに、きっと治ると嘘をつこうとする。一生、好きにはなれない。

 

「私、この街に引っ越してきて、すっごいパワーアップしてる気がする!」

 

「っ・・・・・・!」

 

のどかの言葉に、クルシーナは物を持っていない方の拳を震わせる。

 

このすこやか市に来て元気になっている・・・? パワーアップしている・・・?

 

そんなことあるはずがない。こんな他の街と変わった様子も、何の変哲もない街が元気を与えてくれるわけがない。そういう根拠のない力を信じるなど、私は大嫌いだ。

 

そういうのを聞いていると、本当にこの街を蝕んで、苦しめてやりたくなる・・・・・・!

 

「クルシーナ?」

 

「・・・・・・・・・」

 

心配するウツバットの声をよそに、クルシーナはそのままプリキュア3人の横を通り過ぎていく。

 

その後は特にめぼしいお店はなく、連なる出店が途切れた商店街の外へと出るクルシーナ。

 

「ん? 何やら騒がしいウツね?」

 

「・・・どんだけ騒ごうとアタシには関係のないことよ」

 

何やら先ほどの商店街がざわつくような何かが起こった模様だが、クルシーナは全く興味を示さない。人間が困っていようとどうでもいい。むしろ苦しんでもらったほうがアタシにとっては好都合だ。

 

お遊びは終わり。そう思いながら商店街の外に出て、改めて病気で蝕めるものを探そうとしていると・・・・・・。

 

「だ~れがグアイワルの子分になるかっつーの」

 

バテテモーダが自分が歩いていた方向とは、逆の方向から愚痴をこぼしながら歩いているのが見えた。

 

あいつは普段、私たちに対しては猫をかぶっていて、今はその化けの皮を露わにしているようだ。

 

クルシーナは面白そうなものを見つけたかのような笑みを浮かべると、バテテモーダへと近づいていく。

 

「へぇ・・・それがアンタの本性ってわけ?」

 

「なっ・・・ど、どこだ!? って、アンタ誰っすか・・・!?」

 

不意に声をかけられたバテテモーダは慌てたように周囲を見渡す。まさか、誰かに聞かれているのを見られたのか・・・?

 

ようやく声の主を視線に捉えるも、人間に擬態したクルシーナを認識できていないバテテモーダは疑問の声を上げる。

 

クルシーナは右指を鳴らして、人間の擬態を解除する。薄ピンク色の肌となり、悪魔のツノ、サソリの尻尾を生やして元の幹部の姿へと戻る。

 

「ク、クルシーナ嬢!?」

 

「何、慌ててんの? アタシぐらいになれば人間にも化けれんのよ」

 

バテテモーダは自分の先輩で、キングビョーゲンの娘であるクルシーナだと認識すると余計に焦燥感に駆られる。

 

「それよりもさっきの言葉だけど・・・?」

 

「えぇぇ!? な、何の事やら・・・?」

 

「別に誤魔化さなくてもいいじゃない。アタシはアンタみたいな狡賢いやつ嫌いじゃないからさ」

 

話を戻されたことにバテテモーダは本性をごまかし始めるも、クルシーナはむしろ彼の姿勢を肯定する。

 

クルシーナは桶からすこやかまんじゅうを一つ取り出すと、バテテモーダへと放る。ネズミのような獣人はうまくそれをキャッチする。

 

「それあげる」

 

「何っすか、これ?」

 

「すこやかまんじゅう、だって。この街の名物らしいわよ」

 

クルシーナがそう言うと、バテテモーダは包み紙を剥がしてまんじゅうを食べる。

 

「・・・美味しいっすね」

 

「美味しいでしょ? 美味しくできてるからこそ、この街はムカつくのよ」

 

バテテモーダが素直な感想を述べると、クルシーナは顔を顰めながら答える。こんな健康で美味しいものを作れるからこそ、不快感を感じるのだ。

 

「・・・アタシはキングビョーゲンの娘であり、お父様に似合う器の一人だ。そして、アンタやダルイゼンたちはキングビョーゲンの忠実な駒。器は器らしく、駒は駒らしく、与えられた使命を全うすればいい。お父様の快楽を満たせる奴がビョーゲンズにふさわしいのさ」

 

「自分にはよくわかんないっすね・・・」

 

「でも、お前にはちゃんと意思も考えもあるでしょ?」

 

「・・・ふむ、そうっすね。自分が大活躍をして、グアイワルを逆に子分にするのも、ありってことっすよね・・・!」

 

不敵な笑みを浮かべるクルシーナに、バテテモーダはニヤリと笑みを浮かべながら言う。

 

「ええ。別にアタシを押し退けて、出世したっていいのよ・・・?」

 

「そ、そんな! お嬢にそんなことをするなんて! キングビョーゲン様に申し訳が立たないっすよ・・・!!」

 

「あら、そう? 生まれたばかりのアンタにはまだ早いかしらねぇ」

 

バテテモーダが慌てふためくと、クルシーナはその反応に面白いものを見たかのような顔をする。

 

「確かに自分は生まれたばかりっすけど・・・!! ただ、これだけは言えるっす・・・」

 

「ん? 何?」

 

「お嬢たちのそういうところや姿勢は、グアイワルとか他の奴らとは違って好きっすよ」

 

バテテモーダは生まれてはじめて、本音とも言える言葉でクルシーナを褒めた。それはもう媚びたようなあの態度ではない。本気で思った言葉だ。

 

クルシーナは一瞬きょとんとした様子だったが、すぐに年頃の少女らしい笑顔を見せた。

 

「フフフ、お世辞でもありがと♥ じゃあ、お互い頑張りましょう」

 

クルシーナは右指を鳴らすと、小さなコウモリの妖精たちがビニール袋を持って現れる。その中には先ほど彼女が買った野菜がたくさん入っている。

 

その中から黄褐色の皮に包まれている野菜、玉ねぎを数個取り出すと床へと放る。

 

「地球がアタシたちのものになる祈願、そしてこれからの種の繁栄も願って・・・!」

 

「よし!! じゃあ、自分も早速!!」

 

ある意味、持ちつ持たれつの関係の二人。お互いにすこやか市を、地球を自分色に染め上げようと目論む。

 

バテテモーダが素体を探しているうちに、クルシーナは手のひらに息を吹きかけ、黒い小さな塊のようなものを出現させる。

 

「進化しろ、ナノビョーゲン」

 

「ナーノー」

 

生み出されたナノビョーゲンが鳴き声を上げながら、彼女が地面に転がした数個の玉ねぎに取り付く。店員である農家の人間によって作られたであろう、新鮮な野菜の玉ねぎが病気へと蝕まれていく。

 

「・・・!?・・・!!」

 

玉ねぎに宿るエレメントさんが病気へと染まっていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガ! ビョーゲン!」

 

玉ねぎを模したような顔の頭に長い葉っぱが4本、細い触手のようなものを2本、下には複数の根っこのような触手と足を生やしたメガビョーゲンが誕生した。

 

「メガー!!」

 

メガビョーゲンは手始めに、頭の葉っぱに隠れている隙間の部分から赤い液体のようなものを噴射する。粘液を含む液体が建物や街路樹などにかかり、赤い靄へと蝕まれていく。

 

「フフフ・・・・・・」

 

このままさっきの出店も蝕んでやろうと、クルシーナは不敵な笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、のどかたちはすこやかまんじゅうを焼けずに困っていたお店の人たちを、他の商店の人たちと協力して、無事に出店はすこやかまんじゅうを売り出すことに成功した。

 

すこやか市は誰かが困っていたら、お互いに助け合う街で、そういう街だからこそ自分は健康でいられるんだということをのどかは感じたのであった。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

「クチュン!! クチュン!!」

 

「あ・・・!!」

 

ラテが突然、くしゃみを二回してぐったりし始めたのだ。

 

「まさか・・・!」

 

ビョーゲンズが現れた・・・? そうのどかたちが察した時・・・・・・!

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

街の人たちの悲鳴が響き、視線を向けると両手に扇風機、両足に車輪を持ったメガビョーゲンがすこやかフェスの会場を襲っていた。

 

「ビョーゲンズだわ!!」

 

「メガ~!!」

 

メガビョーゲンは扇風機から赤い病気を放って、建物を病気へと蝕んでいく。

 

「みなさん!! 避難してください!!」

 

「こっちです!!」

 

お店の人たちが避難を誘導し、街の人たちはその方向へと逃げていく。

 

一方、のどかたちは会場から隠れたところへと移動し、そこでなぜか別行動を取っていたラビリンたちと合流した。

 

「のどか~!!」

 

「みんな~! どこに行ってたの?」

 

「・・・っ!?」

 

すこやかまんじゅうが欲しくて、我慢できずに行動していたなんて言えない・・・。こっそり手に入れようとしていたラビリンたちは思わずギクリとなった。

 

「い、今はそんなことより変身ラビ!!」

 

「うん!」

 

「「「スタート!」」」

 

「「「プリキュア、オペレーション!!」」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

 

「「「キュアタッチ!!」」」

 

ラビリン、ペギタン、ニャトランがステッキの中に入ると、のどか、ちゆ、ひなたはそれぞれ花のエレメントボトル、水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

そして、肉球にタッチすると、花、水、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、水色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ちゆは水色、ひなたは黄色へと変化する。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「「「地球をお手当て!!」」」

 

「「「ヒーリングっど♥プリキュア!!」」」

 

3人は変身を終えて、メガビョーゲンの前に立ちはだかろうとする。

 

「ち~っす! プリキュア!! ご機嫌いかがっすか~??」

 

すこやかフェスの会場にはバテテモーダがへらへらとしたような態度で挨拶をする。

 

「ふんっ、アンタが来たから超最悪っ」

 

「おぉ、怖っ!」

 

スパークルがそっけない態度を取ると、バテテモーダはわざとらしく身を窄めてみせる。

 

「最悪ってことないでしょ? せっかくのフェスなのに」

 

「クルシーナもいたの!?」

 

そんなフェスの会場の裏からはクルシーナが悪そうな笑みを浮かべて姿を現した。

 

「ふっ、健康的な環境あるところ、ビョーゲンズありってね!」

 

クルシーナは相変わらず、挑発的な態度でプリキュアを煽る。右手にはフェスの出店で購入した大量のお菓子を抱えながら・・・。

 

「そういえば、メガビョーゲンがもう一体いないラビ!!」

 

「メガビョーゲンはどこなの!?」

 

そういえば、ラテは二回くしゃみをしたから、もう一体メガビョーゲンがいるはず。でも、クルシーナがいるのにもう一体メガビョーゲンがいない。もしかして・・・!

 

「さあね。知ってても、素直に教えると思ってんの? お前らの知らないところでどんどん蝕んでるんじゃない?」

 

「!! まずはそのメガビョーゲンを何とかしないと・・・!」

 

グレースはクルシーナの言葉に動揺した表情をする。

 

プリキュアたちもラビリンたちヒーリングアニマルからは知らされてはいるが、彼女はキングビョーゲンの娘だ。その娘たちは今までの経験からしてラテが察してから到着しても、その数分ですでに広範囲を病気で蝕んでいる。しかもダルイゼンやシンドイーネ、グアイワルが放ったメガビョーゲンも一回り強いため、そのメガビョーゲンから浄化しないと危険だと判断したのだ。

 

グレースは、クルシーナが生み出したメガビョーゲンの元へと行こうとするが・・・・・・。

 

「まあまあ、いいじゃないっすか~!! お嬢よりも自分たちと遊びましょ~!! 行っちゃって~、メガビョーゲン!!」

 

しかし、そんな3人の前にはバテテモーダと彼のメガビョーゲンが立ちふさがる。

 

「メガビョー、ゲン!!」

 

メガビョーゲンは車輪を走らせると、腕の扇風機を振り下ろす。プリキュアたち3人はそれを片なく飛びのいてかわす。

 

しかし、その行動はメガビョーゲンが狙っていたものであった。

 

「「「!?」」」

 

メガビョーゲンは飛び上がったプリキュアたちに両腕の扇風機を向けて、強烈な風を放った。

 

「「「きゃあぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

空中にいたプリキュアたちは強風を受けて、そのまま背後にあった山へと吹き飛ばされてしまった。

 

「メメメメメメ、メガァ!!」

 

メガビョーゲンは吹き飛ばしたプリキュアたちを追うべく、車輪を走らせた。

 

「おぉ! すっげぇ~!!」

 

「結構、飛んだわねぇ」

 

バテテモーダとクルシーナが驚いてしまうぐらいに強力なメガビョーゲンだった。

 

「さてと、アタシは今のうちにここ一体を病気で蝕んでおくか。あと頼んだわよ」

 

「了解っす~!!」

 

クルシーナはバテテモーダにこの場を任せて、自分が生み出したメガビョーゲンの元へと向かっていく。

 

「フフフ・・・」

 

そんな彼女の表情には酷薄な笑みが浮かんでいたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第39話「土産」

前回の続きです!
このお話の最後にちょっと気になるシーンも入れているので、最後までご覧ください。


 

「メガ!!」

 

プリキュアたちがバテテモーダのメガビョーゲンと交戦している中、クルシーナのメガビョーゲンは舞台の裏の方にある場所で、口から赤い粘り気を含んだ液体を吐き出し、出店や建物を着実に病気に蝕んでいた。

 

自分たちが散々回った出店も躊躇なく、メガビョーゲンの病気によって赤く染まっていく。

 

「いいわよ、そのままどんどん蝕みな」

 

クルシーナは被害を被らない建物の上でメガビョーゲンに指示をすると、桶からすこやかまんじゅうを一つ取り出すとビニールを剥がして一口摘む。

 

「ん~! やっぱりいいわね~♥」

 

どんどん凄惨な景色になっていく中、お菓子を食べて年頃の少女のような笑顔を見せるクルシーナ。

 

「クルシーナ! 僕にも! 僕にも!!」

 

「はいはい、わかったわよ」

 

クルシーナはまんじゅうを一つ出してビニールをはがすと、帽子のウツバットの口に放り込む。

 

「ん~! 美味しいウツ~!!」

 

帽子の顔が赤く染まり、顔も笑顔に歪む。

 

「フフフ・・・」

 

クルシーナは病気で赤く染まっていく出店の商店街を眺めながら笑みを浮かべる。

 

ドーーーン!!

 

きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!

 

遠くの山から何かを叩きつけたような音と、プリキュアと思われる悲鳴が聞こえてくる。

 

「あっちも派手にやってるみたいね」

 

音がした方向を向きながら、クルシーナは笑みを浮かべる。プリキュアはおそらくバテテモーダが生み出したメガビョーゲンに苦戦しているだろう。あいつが生み出したメガビョーゲンもある意味、強力なメガビョーゲンだ。

 

「あっ、そうだ。この隙にこのすこやかまんじゅうを洗いざらい、いただいちゃおうかしらね」

 

「それ、いいウツね。かなり美味しいし」

 

クルシーナは建物の上から飛び降りると、すこやかまんじゅうがある出店を探す。

 

アタシのあのメガビョーゲンも蝕む速度は速いが、狙っているのは主に街路樹や出店の背後にある建物で、まだそんなに出店を蝕んではいない。せっかく美味しいんだし、人間は全員逃げ出したので、今なら簡単にまんじゅうが手に入るはず。

 

あいつらのお土産にしては十分なものになるはずだ。あいつらにも美味しさをわかってもらいたい。

 

「お、あったあった・・・」

 

すこやかまんじゅうと書かれた出店を見つけると、その店のテーブルに並んでいるまんじゅうを一つ一つ取って桶の中に入れていく。

 

「フフフ、大量大量・・・」

 

クルシーナは桶に溜まっていくまんじゅうを見て、年頃の少女のような笑みを浮かべる。

 

「メガビョーゲン・・・!」

 

ちょうどメガビョーゲンが出店を襲い始めたようだ。出店の看板に目掛けて口から粘り気のある液体を吐き出し、病気で赤く染めていく。

 

クルシーナはそれに巻き込まれないように、飛び上がって建物の上に避難する。

 

「その調子だ、メガビョーゲン。大分ここも蝕めてきたわね」

 

周囲を見渡してみれば、すでに建物、街路樹や木、地面も含めて病気が広がっている。もはや赤一色と言えるものであり、メガビョーゲンの侵攻も片なく完了するだろう。

 

病気が広がったことで、メガビョーゲンも少しばかり成長したような気もする。

 

「あーあ、あの娘と一緒に・・・ここら辺を回りたかったな・・・」

 

クルシーナは病気で赤く染め上がった商店街のフェス会場を眺めながら言う。

 

・・・車椅子に乗って笑顔を見せるマゼンダ色の髪の少女。その娘とは一緒に病院の花も世話をしたし、一緒に深夜の病院を抜け出したりもした。

 

一緒に病院を出て、一緒に遊び、この街で一緒にいろんなものを食べる。そんなことをしてみたかった・・・。

 

もし、あの娘と一緒に病院を出られたら・・・そういうことが、できたのか・・・?

 

「!?」

 

突然、変な記憶や感じてもいないことが頭に流れ、ぼーっとしていたクルシーナはハッとした表情になると首を振る。

 

「?・・・クルシーナ? 大丈夫ウツ?」

 

「・・・何、考えてんだよ・・・アタシ・・・バカなの・・・?」

 

落ち着け、落ち着くんだ、アタシ。アタシはビョーゲンズのクルシーナ。生まれた以前の記憶などないはずだ。

 

あの娘と一緒に祭りに行きたい・・・? この街で一緒に食べたい・・・? 何を思ってもいないことを考えているんだ、アタシは・・・?

 

・・・でも、さっきの記憶は、一体、何だ・・・? あれは、アタシの記憶か・・・? 何だか違和感を感じる気がする・・・。

 

もしあれがアタシの記憶だったら、アタシはあいつとどこかで・・・?

 

クルシーナの頭には顰めるほどではないが、ジンジンと頭痛がしていた。

 

「いたよ! メガビョーゲン!!」

 

聞こえた声に我に帰り、その方向を振り向くとプリキュア3人がこちらに駆けつけてきていた。

 

「もう、こんなに広がってるよ・・・!」

 

「早く、お手当てしてあげないと・・・!」

 

プリキュア3人はそう言いながらメガビョーゲンの前に立ちはだかろうとする。

 

「あら、随分と早かったわね。ってことは、バテテモーダのはやられちゃったのかしら? 新しい技を手に入れて、少しはマシになったってこと?」

 

冷静になったクルシーナは余裕そうな笑みを浮かべながら言う。相も変わらない挑発的な態度。

 

「アンタが言わなくても十分お手当てやれるし!!」

 

スパークルがそれに対して、強気な言葉で返す。

 

「あっそ。メガビョーゲン、やっちまいな」

 

「メガ!!」

 

メガビョーゲンはクルシーナに指示されると、両手の顔のついた玉ねぎがついた触手をプリキュア3人へと伸ばす。

 

「「「ふっ!! はぁ!!」」」

 

プリキュア3人は伸びてくる触手を飛び上がってかわすと、3人同時にそれぞれの色の光線を放つ。しかし、玉ねぎのような顔がついている触手に弾き返される。

 

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

次にグレースがパンチを放つ。しかし、メガビョーゲンはひらりとかわすと逆に根っこのような触手を両手に巻きつける。

 

「あ・・・!?」

 

「メーガー!!」

 

「きゃあぁぁ!!!」

 

グレースはそのまま放り投げられ、出店の後ろへと吹き飛ばされる。

 

「グレース!!」

 

「はぁぁぁぁ!!!」

 

今度はスパークルが飛び上がって、メガビョーゲンに向かって蹴りを繰り出す。このパンチも触手についた顔のついた玉ねぎに防がれる。

 

「うぇぇ!?」

 

「メガ!!」

 

「あぁぁぁぁ!!」

 

動揺したその隙を狙ってメガビョーゲンが体ごと回転させてもう片方の玉ねぎを食らわせる。それに当たったスパークルは吹き飛ばされて、街路樹へと激突して木の下へと落ちる。

 

「スパークル!!」

 

「メガビョーゲン・・・!!」

 

仲間を構っている暇もなく、メガビョーゲンは口から赤い粘り気のある赤い液体をフォンテーヌへと吹き付ける。

 

「ぷにシールド!!」

 

フォンテーヌはヒーリングステッキから肉球型のシールドを展開して、赤い液体を防ぐ。これを凌いで反撃のチャンスを伺おうとする。

 

「くっ・・・!!」

 

しかし、赤い液体は粘り気を含んでいるためか重さがあり、フォンテーヌはいつも防いでいる病気よりも押されそうになる。

 

「・・・! な、何・・・!?」

 

ふと不意に足元に違和感を感じたかと思うと、急に閉じて体が持ち上がる。

 

実はメガビョーゲンは赤い液体での攻撃で目をそらさせている隙に、足元に触手を伸ばしてフォンテーヌの足を一纏めにして拘束したのだ。

 

「メガァ!!」

 

「あぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

メガビョーゲンはフォンテーヌを持ち上げたかと思うと、正面へと放り投げた。受身が取れずに、地面へと数回叩きつけられて、高く飛び上がったかと思うと地面へと落ちる。

 

「うぅぅ・・・やっぱり、強い・・・!」

 

三人娘の生み出すメガビョーゲンは大きくならなくても、それなりに脅威だと感じざるを得ないグレース。

 

「っていうか、動きが俊敏すぎるんだけど・・・!!」

 

3人で放った光線や飛び蹴り、自身が出したパンチを放っても、全て体を翻してかわされるか、跳ね返されてしまうことにぼやくスパークル。

 

「メガァ!!」

 

メガビョーゲンは触手についている玉ねぎのような顔の口から、輪切りにされた玉ねぎのようなものを発射していく。

 

ドン!ドン!ドン!ドン!

 

輪切りの玉ねぎは着弾して、爆発を起こし土煙を巻き上げる。

 

「いいわよ、メガビョーゲン。そのまま叩き潰して、ここら辺一帯を全部病気で蝕んじまいな。あむ・・・ん~、何度食べてもいいわね~♪」

 

クルシーナは高みの見物をしながら冷酷な命令を下しては、すこやかまんじゅうを摘んで少女のような顔をしていた。

 

「クルシーナばかり食べててずるいウツ~!!」

 

「うるさいわね・・・あげるわよ、ほら!」

 

クルシーナは帽子になった相棒が喚くのにイライラしながら、まんじゅうを包むビニールを剥がして彼女の口に放り込む。

 

ドン!ドン!ドン!ドン!

 

「くっ・・・これじゃ、近づけない・・・!」

 

メガビョーゲンが輪切りの玉ねぎを連射するため、プリキュアたちはぷにシールドを展開して防ぐのが精一杯。怪物に近づけずにいた。

 

ドン!ドン!ドン!ドン!

 

「ああ!? 病気が広がって・・・!?」

 

ぷにシールドで跳ね返った輪切りの玉ねぎがまだ無事だった場所へと着弾して、病気へと蝕まれていく。自分たちのシールドに当たったものは爆発せず跳ね返り、他の場所に当たって逆に被害が広がってしまっていた。

 

しかし、ここでぷにシールドを解除すれば、まともに食らってしまうため、どうすることもできない・・・。

 

さらに輪切りの玉ねぎがプリキュアの側を通り過ぎて、向かおうとしていたのはすこやかまんじゅうを販売していた出店。

 

「!・・・ダメー!!!!」

 

グレースがシールドを解除して、その出店の前へと飛び出す。

 

「あぁぁぁぁぁ!!!」

 

輪切りの玉ねぎが直撃し、グレースは吹き飛ばされて地面に転がる。

 

「自分からぶつかろうとするなんて、バカなやつね」

 

クルシーナはそんなグレースを建物の上からあざ笑う。肉球のシールドを展開し続けていれば、無事だったのに、庇うために飛び出すなんて冷静になれてないし、頭の悪い行動だ。

 

「ぐ、うぅぅ・・・!!」

 

「メー、ガー!!!」

 

「!? あぁぁぁ!!!!」

 

グレースは傷つきながらも立ち上がろうとするが、そこにメガビョーゲンが片方の輪切りの玉ねぎの連射を止めて、その玉ねぎを鉄球のように振り回して放る。

 

グレースはとっさに気づいて玉ねぎを受け止めるも、抑えきれずに後ろへと吹き飛ばされる。

 

「がぁ!? ぐ、ぅぅぅぅ・・・きゃあぁ!!!!」

 

建物の壁へに背中から叩きつけられ、その痛みに息を吐くグレース。そのまま体を押し潰そうとしており、グレースは苦痛に顰めながら玉ねぎを押さえつけるも、体力的な問題で力が及ばずに建物へとめり込まされた。

 

「メー!!」

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ガー!!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁ!!!!」

 

メガビョーゲンはもう片方の玉ねぎの連射を止めて鉄球のように振るい、スパークルをシールドごと吹き飛ばし、さらにフォンテーヌも巻き込んで一緒に吹き飛ばした。

 

「うぅぅ・・・!!」

 

「くぅぅ・・・!!」

 

「く、うぅぅ、うぅぅぅ・・・!!!」

 

地面へと倒れるスパークルとフォンテーヌ、建物へとめり込まされて呻くグレース。二人の方は体を起こして立ち上がろうとし、グレースは壁へとめり込んだ上半身をジタバタしながら出そうとしていた。

 

「やっぱり弱いわね、あいつら・・・」

 

クルシーナはプリキュアがボロボロにされるその様子を嘲るような笑みで見つめていた。

 

昔の方がよかった。今は弱すぎて実に退屈でしかない。これならアタシが生まれた頃に、現れたあいつを相手にしていた方がよっぽどマシだったかもしれない。本当に話にならない奴らだ。

 

「メガビョーゲン、今のうちにここ一帯を全部蝕んじまいな」

 

クルシーナは出店から取った生カステラを齧りながら、もう終わらせてやろうとメガビョーゲンに指示を出す。

 

「メガァ!!」

 

メガビョーゲンは葉っぱのようなものの隙間から赤い粘り気のある液体を噴射して、残りの出店も病気へと蝕む。もちろん、グレースが庇って守ろうとしていたすこやかまんじゅうの出店もだ。

 

「ああ!?」

 

「そんな・・・!?」

 

出店一帯が病気へと蝕まれたことにスパークルとフォンテーヌは絶望の表情を浮かべる。

 

「お前らのお得意の頑張りは無駄だったわね、アッハハハ!!」

 

プリキュアが結局は病気になる前に守り切れていないことを嘲笑うクルシーナ。

 

結局、頑張ったって何の意味もないのだ。あいつらのお手当てだって頑張ったところで、アタシのメガビョーゲンよりも強くなるわけでもない。まあ、わかっていたことだけど・・・。

 

こいつらなんか、自分が手を下すまでもなかったということだ。

 

「さーてと、メガビョーゲン! こんな奴らは放っておいて、今度はあっち行こうか」

 

「メガ!ビョーゲン!」

 

クルシーナは山がある方へと指をさすと、メガビョーゲンは指示に従ってそちらの方へと向かっていく。プリキュアを見向きもしないかのように彼女たちはその場を後にしていく。

 

「スパークル! 大丈夫か!?」

 

「うぅぅ、止めなきゃ・・・!!」

 

「でも、あのメガビョーゲン、やっぱり強いペエ!!」

 

「何か、打開策を・・・」

 

スパークルとフォンテーヌはボロボロになりながらも、なんとか立ち上がったが、あのメガビョーゲンはバテテモーダが生み出したものと比べてやはり強い。あいつが別の場所を病気で蝕む前に、なんとか大人しくさせる方法を考えないと・・・。

 

「うぅぅぅぅ・・・うぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 

一方、グレースはめり込んだ壁から抜け出すことができずに、足をジタバタとさせていた。

 

「「グレース!!」」

 

二人はそんな彼女に気づくと近づいていき、グレースの足を掴む。

 

「「せーの・・・ふっ!!」」

 

そのまま足を引っ張って、めり込んでいたグレースを建物の壁から引っ張り出す。

 

「グレース!大丈夫!?」

 

「う、うん・・・なんとか・・・あ・・・!」

 

グレースは無事だったが、彼女は自分がめり込んだ建物を見る。その部分の壁は壊れて、建物の中が見えてしまっていた。

 

「建物・・・壊しちゃった・・・」

 

すこやか市の住民の大切なお店であろう建物を、メガビョーゲンの攻撃を食らったとはいえ壊してしまったことを気にして、顔を俯かせるグレース。

 

建物を守り切れなかったとその表情は落ち込んでいた。

 

フォンテーヌとスパークルはお互いに目を見合わせると口元に笑みを浮かべる。

 

「グレース」

 

「・・・?」

 

「グレースは頑張ってるじゃん。お手当てだって、自分のことだって。いくら頑張ってても、こんなことはあるし! あたしは頑張っても、お姉やお兄にはまだまだだけど・・・」

 

「スパークル・・・」

 

スパークルが最後は自分を自虐しつつも、グレースを励ます。

 

「私だって、頑張ってても失敗することだってあるわ。気に病む必要なんてない、それでも気にしてるなら、後で建物の人に謝りに行きましょう」

 

「フォンテーヌ・・・」

 

フォンテーヌも自分なりの言葉で、グレースを励ました。

 

「そうだよね・・・今度は、失敗しないようにすればいいんだもんね・・・」

 

「うん!!」

 

「ええ!!」

 

二人のおかげで元気を取り戻したグレース。三人はメガビョーゲンを止めるべく、クルシーナたちが向かった方向へと走っていく。

 

一方、そのクルシーナたちは・・・・・・。

 

「メガー!!」

 

メガビョーゲンは口から赤い粘り気のある液体を吐き出しながら、山の木々を蝕んでいた。

 

「ここもそろそろ終わりかね・・・?」

 

「そろそろ別の場所へと範囲を広げるウツ?」

 

クルシーナは病気で蝕まれた周囲を見渡しながら、余裕の表情を見せている。

 

「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

「メガ・・・!?」

 

そこへプリキュアの3人が一斉にメガビョーゲンの背後から飛び蹴りを放った。気付かずに直撃を受けたメガビョーゲンは吹き飛ばされて、うつ伏せに倒される。

 

3人はヒーリングステッキを構えながら、メガビョーゲンの前に立ちはだかった。

 

「何? 性懲りも無く、また来たわけ?」

 

クルシーナはプリキュアの方を見ながら、呆れたような言い草をする。

 

「何度だって来るし!!」

 

「みんなが大事に作り上げたお祭りを、蝕ませたりなんかしない!!」

 

スパークルとグレースがそう言うも、クルシーナは不機嫌そうな顔をする。

 

「ふん、こんな街の何が大切なんだか・・・」

 

そもそもこの街は、協力するだの、お互いに助け合うだの、健康的なものが多いだの、アタシにとっては不快なものだらけだ。そんな街を見ていると本当に病気で苦しめたくなる。

 

「メガビョーゲン、返り討ちにしてやれ」

 

「メーガー!!」

 

メガビョーゲンはクルシーナの指示にすくっと立ち上がると、両腕の玉ねぎをプリキュア3人に向かって叩きつける。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

3人は飛び上がってかわすと、グレースはそのままメガビョーゲンに飛び蹴りを放とうとする。

 

「メー・・・ガー!!」

 

メガビョーゲンはまたひらりとかわすと、両腕の玉ねぎを当てようと体を回転させようとする。

 

「はぁぁぁ!!」

 

「ふっ!!!」

 

しかし、そこへスパークルとフォンテーヌが玉ねぎを上空から踏みつけるように蹴りを入れ、玉ねぎを押さえつける。

 

「メ・・・ガ!?」

 

メガビョーゲンは両腕を動かせなくなったことに戸惑う様子を見せ、回転攻撃が不発に終わる。その隙にグレースは地面へと着地して、すぐさまメガビョーゲンに向かって飛び出す。

 

「はぁぁ!!」

 

そして、そのまま根っこの一本を掴んで、ターザンのようにメガビョーゲンの周囲で一回転するとそのまま顔面に向かって蹴りを繰り出す。

 

「メガ!? ビョーゲン・・・!?」

 

蹴りを受けたメガビョーゲンは吹き飛んで再び倒れる。

 

「何よ、さっきよりもキレがいいじゃない・・・」

 

クルシーナはさっきと比べてプリキュアたちの動きがよくなっていることに不快感をあらわにする。

 

キュン!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

グレースは肉球にタッチして、ヒーリングステッキのラビリンの顔をメガビョーゲンに向ける。

 

ラビリンの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを見つける。

 

「実りのエレメントさんラビ!!」

 

エレメントさんは、メガビョーゲンの不健康そうな顔の額の上、つまりは葉っぱの根元部分にいる模様。

 

「メーガー!! メガー!!」

 

メガビョーゲンは立ち上がると口から赤い粘り気のある液体を吐き出す。グレースとフォンテーヌが肉球型のシールドを展開して、液体を防ぐ。

 

「病気が水っぽい・・・ってことは、あれ、いけるかな?」

 

何か妙案を思いついたスパークルは、二人の背後から飛び上がる。

 

「雷のエレメント!!」

 

ヒーリングステッキに雷のエレメントボトルをはめ込む。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ステッキの先から電気をまとった黄色い光線を、メガビョーゲンが吐き出す赤い液体に目掛けて放つ。

 

赤い液体に光線が当たり、その電気はその赤い液体をつたりながら昇っていくと、メガビョーゲンに直撃した。

 

「メガガガガガガガ!!?? メ・・・ガ・・・」

 

感電したメガビョーゲンは黒焦げになって、その場でぐったりと沈黙したのであった。

 

「あ・・・!?」

 

「焼きタマネギになっちゃったウツ!?」

 

クルシーナはメガビョーゲンが変わり果てた姿になったことに目を見開いた。

 

「よーし! やりー!!」

 

スパークルは狙い通りにエレメント技が決まったことにガッツポーズをする。

 

「行くわよ!! 二人とも!!」

 

「「うん!!」」

 

3人はそれを合図に体が発光し、ミラクルヒーリングボトルをステッキにセットする。

 

「「「トリプルハートチャージ!!」」」

 

「「届け!」」

 

「「癒しの!」」

 

「「パワー!」」

 

グレース、フォンテーヌ、スパークルの順で肉球にタッチしていき、ステッキを上に掲げる。すると、花畑が広がっていき、背後には自然豊かな森が広がっていく。

 

さらにプリキュア3人の背後に、紫色のコスプレ姿をした女神の姿が映し出されていく。

 

「「「プリキュア! ヒーリング・オアシス!!」」」

 

3人は一斉にメガビョーゲンへとステッキを構え、ピンク・青・黄色の3色の光線が螺旋状になって放たれる。螺旋状の光線は混ざり合いながら一直線にメガビョーゲンに直撃する。

 

螺旋状になった光線はそれぞれの色の手へと変化して、3本の手が実りのエレメントさんを優しく包み込んでいく。

 

3色に光るハート状にメガビョーゲンを貫きながら、光線はエレメントさんをメガビョーゲンから外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンたちは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「「「「「お大事に」」」」」」

 

実りのエレメントさんは玉ねぎへと戻ると、病気に蝕まれた箇所は元に戻っていく。そして、壊された建物も元通りになっていった。

 

「あーあ・・・種の繁栄はまだまだ先みたいね・・・あーむ・・・」

 

クルシーナはすっかり元通りになった街を不機嫌な表情で見つめながら、桶の中に入れていたすこやかまんじゅうを一つ取り出すと摘む。

 

「ん~、美味しい~♥ 最高ぉー!!!!」

 

クルシーナは左手を頬に当てながら右腕を振り、女の子のような赤らめた笑顔を見せるとそのまま姿を消したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドン!!!!!!

 

「ほい!」

 

クルシーナは撤退後、廃病院の外のテラスのテーブルに大きなお皿を叩きつける。

 

「ん?」

 

「なにこれ? なの」

 

「何か、可愛い形してるね~♪」

 

テラス席でそれぞれ好きなことをしていたドクルン、イタイノン、ヘバリーヌの3人は突然、テーブルの中央に何かを叩きつけられて驚く。

 

大きなお皿に乗っているのは、山のように綺麗に積み上がったまんじゅうであった。

 

「あの街の名物のすこやかまんじゅうよ」

 

「まんじゅう~?」

 

「なぜそのようなものを・・・?」

 

ドクルンはクルシーナがなぜ地球のまんじゅうを持ち帰ってきたのかが気になってしょうがなかった。

 

「あの街でお祭りをやっててさ、試しに買ってみたら美味しかったからたくさん持ってきちゃった♪」

 

「・・・お前、人間のお祭りで何やってるの・・・?」

 

「地球を蝕みに行ったんじゃないの~?」

 

「っ、いいじゃないの・・・お祭りに参加したって! アタシだって目ぼしいものぐらいあるっての! ちゃんと仕事はしてきたし・・・」

 

イタイノンに呆れられて、彼女に抱きついているヘバリーヌにも煽られたクルシーナがムキになって怒り出す。大方、祭りを楽しんだ後にそれはそれ、これはこれと言わんばかりにメガビョーゲンを発生させて地球を蝕もうとしてきた。

 

そんなことよりも、こいつらには言いたい文句があった。

 

「大体、アンタらだってアタシの安眠を妨害したくせに、何言ってんのよ!! 今だって、二人仲良くイチャついちゃってさ!!」

 

「なっ、イチャついてなんかいないの・・・! こいつが勝手にくっついてくるだけなの・・・!!」

 

「あぁぁぁん♪」

 

ビョーゲンキングダムで昼寝をしようとして腹を踏みつけられたことを根に持っていたクルシーナがそう言うと、イタイノンは自身にくっついていたヘバリーヌを突き飛ばし、ムキになって否定し始める。

 

「ノンお姉ちゃん・・・素っ気ないプレイも素敵・・・♪」

 

背中からテラス椅子ごと倒されたヘバリーヌがピクピクとしながら快感を得ていた。

 

「まあ、それは置いておくとして・・・」

 

「置いとくな!!」

 

「置いとくな、なの!!」

 

ドクルンがいたちごっこでどうせ終わらないであろう喧嘩を打ち切った後、皿に乗っているまんじゅうを手で掴んでじっくりと眺める。

 

「この顔はどういう原理なんでしょうね?」

 

彼女はどうやらまんじゅうに描かれている顔が気になるようだった。イタイノンやヘバリーヌも気を取り直すとまんじゅうを一つ掴んで眺めてみる。

 

「・・・なんだかムカつく顔なの」

 

「顔が動かないからつまんないなぁ~」

 

イタイノンはまんじゅうが笑顔になっているのを見て、顔を顰める。ヘバリーヌも面白くなさそうな顔を浮かべている。

 

「・・・まあ、確かに顔はどうかと思うけど、味は結構いけると思うから、騙されたと思って食べてみろよ」

 

クルシーナもまんじゅうが笑顔を浮かべているのはなんとなく腹が立つが、食べたらそんなことは気にならないほどだった。

 

他の3人はお互いに顔を見合わせると、すこやかまんじゅうを一口摘んでみる。

 

「・・・おいしいの・・・!」

 

イタイノンはパァァァァと顔を明るくすると、摘んだまんじゅうを口に全部入れるとさらにお皿からまんじゅうを掴んで食べ始める。その頬は年頃の少女のように赤く染められていた。

 

「・・・ふむ、なかなか美味ですね。何でできているのか気になりますが」

 

ドクルンもまんじゅうを気に入ったようで、顔を赤らめながら手に持っているまんじゅうを口へと運ぶ。

 

「んん~♪ おいしいぃ~♪ 最高だね♪」

 

ヘバリーヌも顔に満面の笑顔を貼り付けていて、顔も頬が赤くなっていた。

 

「でしょ? 人間の作るものの割には結構いける味なのよ」

 

クルシーナもお皿からまんじゅうを取って口へと運んでいく。彼女はそのまま自分もテラス椅子に座って一緒に食べようとしたが・・・・・・。

 

「っ・・・・・・・・・」

 

椅子に座る前に急に体を止め、数十秒間その場で静止した後、椅子に座るのをやめて廃病院へと体を向ける。

 

「ごめん、アタシ、廃病院の部屋に戻ってるわね。それ全部食べちゃっていいよ」

 

「・・・クルシーナ?」

 

クルシーナはそれだけ言うと、ドクルンのつぶやきに反応することもなく、そのまま廃病院へと戻っていく。

 

「ノンお姉ちゃんのそのまんじゅうおいしそ~♪」

 

「まだいっぱいあるんだから、そっちを食べればいいの・・・!」

 

「・・・・・・・・・」

 

イタイノンとヘバリーヌがじゃれ合ってる中、ドクルンだけはクルシーナの背中を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャアァァァァァァァァァァァァ・・・・・・

 

クルシーナは廃病院の洗面台へと来ていた。水道から水を出すとそれを自分の頭へと浴びていた。

 

帽子からコウモリの姿に戻っているウツバットはそんな相棒の姿を、洗面台の背後のどこからか露出しているコードの上に止まりながら、心配そうに見つめている。

 

出撃した際もそうだったが、クルシーナは急に変なことをつぶやき始めて、明らかに意識が別世界にいるかのようにぼーっとしていた。今まではそんなことは一度もなかったのに、一体どうしたというのだろうか?

 

シャアァァァァァァ・・・キュッ、キュッ、キュッ・・・

 

「・・・・・・・・・」

 

水道の水を止めたクルシーナは、濡れた自分の髪や顔を一部がひび割れた鏡を見ながら、表情を顰める。

 

ズキッ・・・

 

「う・・・っ・・・・・・」

 

クルシーナは自分の頭を片手で抑えながら、顔を苦痛に歪める。まるでトンカチで軽く叩かれているようなそんな痛みが走る。

 

そんな数秒の頭痛と共に耳鳴りのようなものがして、クルシーナの頭にある映像がフラッシュバックする。

 

ーーーーどこかの病院で、花に水をあげる自分。

 

ーーーーそんな自分を見つめているのは、車椅子に座っているあいつに似た少女。

 

「ッッッッ・・・!!」

 

パリンッ・・・!!!!

 

クルシーナはビョーゲンズである自身に起こらないはずの、原因不明の頭痛にイライラして目の前にある鏡を拳で叩き割る。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

クルシーナは息を切らしながら、先ほどの自分の頭の中に流れた映像について考える。

 

あれは、一体なんだ・・・? アタシと関係があるものなのか・・・?

 

でも、花壇に水をあげる姿は、確かにアタシだった。それにキュアグレースの変身前にそっくりのあの女も・・・。

 

もしかして、本当に・・・あいつとアタシは、どこかで会って・・・?

 

「ここにいたんですか・・・」

 

「!?・・・なんだ、アンタか」

 

背後から真面目なトーンの声が聞こえてきたかと思うと振り返るクルシーナ。そこには無表情でこちらを見つめてくるドクルンの姿があった。

 

「あいつらと一緒に食べてたんじゃないの?」

 

「あなたを差し置いて食べれるわけがないでしょ。これでも私はあなたを心配はしてるんですよ?」

 

クルシーナはドクルンの言葉を聞いて、口元が笑うように歪む。

 

「フフフ・・・アタシを心配だって? ふざけてんの? どうせ面白がってんでしょ? アタシのこういう反応を見てさ」

 

気遣われるのが嫌いなクルシーナはドクルンが差し出すタオルをひったくるように取ると、自身の濡れた髪を拭きながら洗面所を後にしようとする。

 

ドクルンはクルシーナの嘲るような言葉に、表情を一つ変えることはない。

 

「・・・私も!!!!」

 

大きな声をあげるドクルンに、クルシーナは足を止めて思わず振り向く。

 

「私も、イタイノンも、今のあなたみたいに頭痛が起きることがあるんですよ。今まではそんなことはなかったんですけどね」

 

「・・・それがどうかしたの?」

 

クルシーナは不機嫌そうな表情でドクルンを見る。

 

「しかも、頭痛が起こるようになったのは、あいつらが私たちの世界に来た後、じゃないですか?」

 

「だから・・・! それがどうかしたの? 何を心配してるわけ?」

 

クルシーナはイライラとさせながら、ドクルンに返す。

 

「私は、あなたがどこかへと行ってしまいそうな気がするんですよ・・・」

 

ドクルンが寂しそうな声を漏らしながら言う。クルシーナはきょとんとしたような表情で見つめるも、すぐにふんと鼻を鳴らして、彼女は顔を前へと向く。

 

「バカなんじゃないの? 何を心配してんだか・・・アタシはどこにも行きやしないよ」

 

「・・・・・・・・・」

 

「頭痛なんか寝てれば治るっての。それにアタシは、そんなことでどうなろうともビョーゲンズのクルシーナだ。アタシの中に流れてくる映像が、アタシにとって関係があろうがなかろうが、それが本当であろうが嘘であろうが、どうでもいいことだ。・・・ウツバット、行くわよ」

 

クルシーナはドクルンの心配する言葉を吐き捨てると、今度こそ洗面台を後にしていく。

 

「・・・あなたは、もう自覚しているんですね」

 

ドクルンはそんなことを呟きながら、彼女の背中を寂しそうに見つめていた。

 

一方、カプセルベッドの部屋へと来たクルシーナはタオルを適当な場所へと放ると、カプセルベッドの一つのスイッチを入れる。

 

「まあ、とはいえ、少し眠ったほうがいいか・・・・・・」

 

クルシーナは自虐的な笑みを浮かべると、開いたカプセルベッドの中で横になる。

 

「クルシーナ、少し休むウツ?」

 

「ええ、だからお前は好きにしてな」

 

心配するウツバットにそう返すと、クルシーナはスイッチを入れてカプセルベッドを閉じる。ベッドの中に病気のような赤い靄が噴出し、彼女の体を包み始める。

 

クルシーナは病気の赤い靄の中で、体を横にして目を瞑る。

 

そんな彼女の頭には、私たちの街でキュアグレースが自分に怯えている姿が思い浮かぶ。

 

「フフフ・・・」

 

・・・今日はいい眠りになりそうだ。

 

クルシーナは口元を笑みに歪ませながら、意識を闇へと落としていくのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第40話「人形」

原作第15話がベースです。
今回はヘバリーヌにスポットを当ててます。お楽しみください。


マグマで満たされた世界、ビョーゲンキングダム。そこには珍しい組み合わせの3人が一緒にいた。

 

「お加減はどうっすか~? 兄貴」

 

「・・・・・・・・・」

 

「足、結構凝ってますね~!」

 

「・・・・・・・・・」

 

「他にほぐしてほしいところ、ないっすか~?」

 

ネズミのような獣人ーーーーバテテモーダのいつものような媚びへつらうような愛想笑い。

 

それに対し、一緒にいる少年ーーーーダルイゼンの表情は不快そうに顰められていた。

 

バテテモーダがいつものように岩場に寝そべっているダルイゼンを気遣って足を揉んでいるのだが、当の本人は気持ちよさそうにするどころか、鬱陶しそうにしていたのだ。

 

別に普段からそんなに苦労はしていないので、凝っている場所など一つもないのだが・・・・・・。だからこそ、こいつのやっていることはありがた迷惑でしかない。

 

「ねぇ、ダル兄ぃ~♪」

 

「・・・何? っていうか、ダル兄・・・?」

 

そこに金髪の少女ーーーーヘバリーヌが彼の冷たい視線を見つめていた。その表情はイタイノンからの蔑んだ視線を浴びたかのように嬉しそうだ。

 

一方のダルイゼンは、冷めた態度で返しつつも、呼ばれなれない言葉に疑問符をつける。

 

「ダル兄はなんでダル兄なの~?」

 

「・・・お前の言ってることがよくわからないんだけど? っていうか、お前も触るなよ」

 

ダルイゼンは顰めた顔でヘバリーヌに返すと、いつまでも足を揉んでいるバテテモーダの手を振り払う。

 

「あぁ~ん♪ ヘバリーヌちゃんもダル兄に冷たくされた~い♪」

 

「・・・・・・・・・」

 

ヘバリーヌはなぜか羨ましそうにしており、それを聞いたダルイゼンは表情が動いたことがわかりやすいくらいに顔を顰める。そういえば、彼女はこういうやつだったと・・・。

 

・・・俺が関わりたくない一番、面倒な奴に絡まれたな。

 

クルシーナも苦戦したという新入りの変態発言に、ダルイゼンは心の中でため息をつく。

 

「そんなことおっしゃらずに~! 自分は兄貴とお近づきになりたいだけなんすから~!」

 

バテテモーダはダルイゼンの態度に表情を少し引き攣らせつつも、彼に本性がバレないようにあくまでも取り繕う。

 

「はい、ジュース」

 

バテテモーダが紫色のトロピカルジュースのようなものを差し出すも、それでもダルイゼンの表情が変わることはない。やっぱり鬱陶しそうにしているだけ。

 

心の中でため息を吐くと、ダルイゼンはジュースを受け取るわけでもなく、黙っておもむろに立ち上がる。

 

「俺はお前に興味ないし」

 

「えぇぇ!?」

 

ダルイゼンは冷たくそれだけ言い残すと、スタスタと歩いてその場を去ろうとする。

 

「あぁ~ん、ダル兄待ってぇ~!」

 

ヘバリーヌはそんな彼の姿を、甘い猫なで声を発しながら追いかけていく。

 

「あ、兄貴ぃ~・・・冷たいっす~・・・」

 

ダルイゼンに素っ気なくされたバテテモーダは、それでも愛想笑いをする。

 

(ちっ・・・面倒くせぇヤツ・・・!!)

 

二人が姿を消したことを確認すると、バテテモーダは不快な表情でそう思いながら、先ほどのジュースを口にする。

 

「あなたはもうちょっと彼に怒るべきでは?」

 

「ド、ドクルン嬢・・・!?」

 

そんな背後から話しかけてきたのはキングビョーゲンの娘にして、ビョーゲン三人娘の一人、ドクルンだった。バテテモーダは驚いたように返す。

 

自分の顰めたような顔が彼女に見られてしまったか・・・・・・?

 

バテテモーダは心の中で慌て出す。一方、ドクルンはそんな表情を見て、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「部下に対してあんな態度を取る彼など、媚びへつらう必要なんかありません。逆に安眠を妨害して、あのマグマへと蹴落としてやればいいんですよぉ」

 

「そ、そんな滅相もない!! 自分は兄貴を心の底から尊敬しているんで・・・!!」

 

バテテモーダはあくまでも彼を擁護するかのような発言をするが、そんな言葉にドクルンが笑みをはっつけたような顔を彼に近づける。

 

「嘘なんかつかなくていいですよ。だってあなた、彼が立ち去った後、不服そうな顔をしてたじゃないですかぁ」

 

「み、見てたんっすか・・・?」

 

「ええ、バッチリ・・・!」

 

動揺するバテテモーダに対し、面白い反応を見たかのようにドクルンは余計にニヤける。

 

「悔しいならあなたがもっと活躍をして、見返してやればいいんですよぉ。あいつらよりも自分の方が上だって威張れるくらいにねぇ」

 

「・・・そうっすね! 自分もバリバリ地球を蝕んで、あの面倒くさいやつに吠え面をかかせてやるってのも、ありっすよね!!」

 

ドクルンが発破をかけてやると、バテテモーダが悪い顔をしながらそう言う。

 

「フフフ・・・私に対しても、大歓迎ですよぉ・・・」

 

「と、とんでもない!! キングビョーゲン様の娘に、そんなことをするのは恐れ多いっすよ!!」

 

ドクルンがクスクスと笑いながらそう言うと、またも慌て出すバテテモーダ。

 

彼女は何を考えているのかは正直よくわからない。でも、部下になるならダルイゼンよりも彼女の方がマシだと感じるのであった。

 

「フフフフフフ・・・」

 

そんなバテテモーダの本性を知ることができたドクルンは彼に対して、ずっと満面の笑みを貼り付けていたのであった。

 

一方、ダルイゼンと、彼の後をつけてきているヘバリーヌは・・・・・・。

 

「待ってぇ~! ダル兄ぃ~!」

 

「ッ・・・・・・・・・」

 

鬱陶しく着いてくるヘバリーヌに、ダルイゼンは不機嫌そうな顔をする。そして、足を止めてその顔をヘバリーヌに向ける。

 

「・・・なんで着いてくるわけ? 俺はお前にも興味ないんだけど? っていうか、うざい」

 

「えぇ~、そういうこと言っちゃうの~? まあ、ヘバリーヌちゃんはその冷たい言葉も心地いいんだけどぉ~♪」

 

ダルイゼンの冷たい態度に、ヘバリーヌはなぜか顔を赤らめている。その様子に彼は不機嫌そうな顔を余計に顰めたような顔をする。

 

こんな似たような状況、前にもあった気がする・・・・・・。

 

ーーーー・・・なんで、着いてくんのよ?

 

ーーーー・・・お前が気になったから。

 

ーーーーはぁ? 意味わかんないんだけど? アタシはアンタに興味なんかない。

 

ーーーー俺は興味あるけどな。

 

ーーーーバカにしてんだろ・・・?

 

ーーーー・・・そんなつもりないけど。

 

ーーーーじゃあ、話しかけてきたついでに教えてくれる?

 

ーーーー・・・何を?

 

ーーーーアンタも、アタシと同じそういう口なわけ?

 

「・・・・・・・・・」

 

昔、キングビョーゲン様に紹介された直後のクルシーナに、興味津々で絡んでたことを思い出したダルイゼン。あいつとどこかで会ったような気がして、よく見ようと俺が後をつけるとあいつは不機嫌そうな顔でこっちを見てくるのだ。本当に嫌そうな態度で。

 

今のこの状況・・・つまりは、俺がクルシーナと同じような立場へと置かれているのだ。別に俺は生まれたばかりじゃないけど、なぜだかこいつは俺に興味津々らしい。

 

しかも、今のこいつは全く俺から離れる気はないようだ。

 

「はぁ・・・・・・」

 

本当に面倒な奴に絡まれたと言わんばかりのため息を吐くと、ダルイゼンは歩みを進めていく。こうなったら、あっちの気が済むまで相手をしてやらないと離れないと感じ、適当に相手をすることにした。

 

「お前、今日はクルシーナと一緒じゃないの?」

 

そういえば、こいつの教育係であるはずのクルシーナの姿が見えない。とうとう嫌になって逃げて行ったのか・・・?

 

「お姉ちゃん? お姉ちゃんなら寝てるよ~♪ なんか頭が痛くて、眠りたいんだって~♪」

 

「・・・・・・・・・」

 

ダルイゼンはまともな口調で話すヘバリーヌの言葉に、あることを考える。

 

頭が痛い・・・?

 

確かにこいつに絡まれると頭痛がするのは確かだが、そういうことじゃない気がする。もしかしてあいつ、また無理してるのか・・・?

 

「バカでしょ、あいつ・・・」

 

「ん~? なんか言った~?」

 

「・・・別に」

 

クルシーナへの心情を吐露した言葉に、ヘバリーヌが反応するも、ダルイゼンは冷静な言葉でごまかす。

 

「お前は今の立場に満足なの?」

 

「??」

 

「あいつ、バテテモーダみたいに、誰かを押し退けてのし上がろうと思っていないわけ?」

 

ダルイゼンは足をふと止めるとこんなことを聞いて見る。ヘバリーヌは彼の言葉に、目をパチクリとさせる。

 

何を言われたかよくわからないヘバリーヌはそんな表情を数秒浮かべた後、指を唇に当てて妖艶な微笑みを浮かべる。

 

「な~にぃ~、ダル兄ぃ~? 乙女の秘密には興味あるのぉ~?」

 

「・・・別に。娘だったらそういう立場には興味があるのかって思っただけ」

 

ヘバリーヌはいつもよりも間延びした口調で話し、ダルイゼンはそれに冷静に返す。

 

「ヘバリーヌちゃんは、そういうの興味ないも~ん♪ そんなの持ってなくたって、お姉ちゃんにご褒美がもらえるならそれで満足♪ お姉ちゃんやパパのためなら、ヘバリーヌちゃんは喜んで地球を病気に蝕んじゃう♪ 地球を病気で蝕んで~、気持ちよくして~、それでお姉ちゃんたちもいい気分になれるし~、ヘバリーヌちゃんもいい気分♪ そうすれば、ビョーゲンズもいい気分になれるよね~♪」

 

ヘバリーヌはふわふわとした口調でそう話す。彼女はご褒美をもらえるためなら、地球を病気で蝕もうとなんでもするらしい。

 

「・・・・・・そう」

 

ダルイゼンは瞑目させると、彼女に不敵な笑みを浮かべる。

 

「お前にも自分なりの意思はあるんだな。媚びへつらうどこかの鬱陶しい奴よりは、少し興味が湧いたかな?」

 

「本当~?」

 

ヘバリーヌはそれを聞いて、不敵な笑みを浮かべる。

 

「・・・・・・そこは、男の秘密ってことで」

 

ダルイゼンはそれだけ言い残すと、今度こそその場から去っていく。

 

「ダル兄ったら、焦らしちゃうのぉ~? まあ、それでもいいけどぉ♪」

 

何も答えようとせずにその場を去っていくダルイゼンに、ヘバリーヌは頬を手に当てて嬉しそうな顔をする。

 

放置プレイをされているような気分で、気持ちが良かったのだ。

 

「ヘバリーヌゥーー!!」

 

そこへバサバサと音を立てながら黒い塊がヘバリーヌの目の前へと飛んでくる。その姿は小さなコウモリのような妖精の姿。

 

「コウモリちゃん、誰~?」

 

ヘバリーヌは目を丸くしながら、いつものような声でそのコウモリーーーーウツバットに問う。

 

「ウツバットウツ!! クルシーナのパートナーの!!」

 

「ああ~! お姉ちゃんの~♪」

 

ヘバリーヌはウツバットが愛しのクルシーナと共に行動している相棒だと知ると、ようやくこの妖精の正体を察する。でも、お姉ちゃんと一緒にいたようなところってあったっけ~?

 

「私に何か用~?」

 

「これ見てウツ」

 

ウツバットが足で掴んでいた紙を差し出す。ヘバリーヌはその紙を取ってマジマジと見てみると、何やらすこやか市のある場所の広告のチラシだった。

 

「ハーブ専門店、ハーブガーデン~?」

 

「そうウツ」

 

「ん~・・・?」

 

そのチラシの下をよく見てみると、そこには何やら奇妙な生物が・・・・・・。

 

その生物は「ラベンだるまちゃん」と名前が書かれている。二頭身の体をしていて、下半身は緑色で顔は紫色の華やかな感じの顔。頬と額には花のような模様が描かれている。

 

「ぷふぅっ! 何、このブッサイクなキャラクタぁ~♪」

 

「ブサイク言うなウツ!! これはラベンだるまちゃんと言って、このハーブ専門店のマスコットキャラクターなんだウツ!!」

 

思わず吹き出すヘバリーヌに、ウツバットは憤慨する。

 

「これがどうしたの~?」

 

「ウツ~・・・僕はこのラベンだるまちゃんに一目惚れをしたウツ・・・ずんぐりとした体型・・・つぶらな瞳・・・愛らしい唇・・・もう会いたくてたまらないウツ~!!」

 

ウツバットは紫色の体を真っ赤に染めながら語る。ヘバリーヌはチラシのラベンだるまちゃんをもう一回見る。お世辞にも可愛いとは言えないキャラクターだが・・・。

 

「ヘバリーヌちゃんにどうしてほしいの~?」

 

「!!・・・ウツ・・・ウツ・・・」

 

ヘバリーヌに問われたウツバットはドキッとすると、翼の手をモジモジとさせ始める。そして、ギュッと目を瞑った後にヘバリーヌへと向き直る。

 

「ぼ、僕と一緒にこのハーブ店に行って、人形を手に入れてほしいウツ!!!」

 

「? なんで~?」

 

ウツバットの一世一代の頼みであろうお願いに、ヘバリーヌは疑問符を抱く。

 

私がこの店に行く必要があるのだろうか? 店だったら自分で行けばいいんじゃないかと思う。

 

「だって・・・僕は妖精だし、お店の中には入れないウツ」

 

「・・・ああ~、そっかぁ~♪」

 

ヘバリーヌはようやく一緒に行ってほしい理由を察する。

 

妖精の自分が店に入っても、人間には客として扱ってくれないばかりか、珍しい動物だと思われて捕まってしまうかもしれない。誰か人らしい人と一緒に行かないと手に入らないのだ。

 

「クルシーナはお休み中で行けないし・・・ドクルンとイタイノンは相手してくれないし・・・他のビョーゲンズと一緒に行ったらバカにされるのが目に見えてるし・・・ヘバリーヌだったら好意的に見てくれるかなと思って頼んだウツ・・・」

 

実際問題、ビョーゲンズの幹部らは地球を蝕むことが最優先事項であるため地球で遊んでいる暇はないのだ。当然、ウツバットの趣味に付き合う義理はないし、くだらないことの一つでしかない。

 

でも、ヘバリーヌは他の幹部とは違って、異質な存在ではあるから、付き合ってくれると思ったのだ。

 

「う~ん・・・」

 

ヘバリーヌは顎に手を当てながら、どうしようかと迷っていた。

 

このラベンだるまちゃん、正直言って自分が気持ちよくなれる要素なんか一つもない。要素なんか一つもないのだが、なんだか完全に否定できないほどの何かを感じるのだ。

 

なんていうか、意外とあれ、かも・・・。

 

「いいよ~♪ 行こっか~♪」

 

ヘバリーヌは、クルシーナですら見せたことがない笑顔でウツバットにそう答える。

 

「ほ、本当ウツ!?」

 

「うん~♪ ヘバリーヌちゃん、今暇してるし~、それにこのラベンだるまちゃん? 意外と可愛く思えてきたかも♪」

 

「ウツ~! ヘバリーヌはわかってくれると思ってたウツ!!」

 

年頃の少女のような笑みを見せるヘバリーヌと、どうやらウツバットは意気投合した模様。

 

「ハーブ店に行けばいいんだよね~?」

 

「そうウツ。正確に言うなら、そのハーブ店のイベントに参加しなきゃいけないウツ」

 

「イベントかぁ~♪ ンフフ~♪」

 

ヘバリーヌはウツバットを連れて、早速地球へと赴くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘバリーヌはある建物の前に、ウツバットと一緒に姿を現していた。

 

そこは何やらラベンダーや黄色い花が建物の周りに咲き誇っていた。ゲートと思われる看板には「ハーブガーデン イベント開催中」と書かれている。

 

「ここが、ハーブ店かぁ~♪ んん~、何か肌がピリつくなぁ~♪」

 

ヘバリーヌは来て早々、このハーブガーデンの健康な環境の空気に当てられて、肩を抱えて悶え始める。ビョーゲンズの彼女にとっては触れた空気を痛みとして認識し、頭の中で快感へと変えているようだが。

 

「き、気持ちいいのはわかるけど、我慢するウツ!! 変な奴だと思われるウツ!!」

 

「あぁ~、ごめんごめん♪ つい~♪」

 

右肩に止まっているウツバットが注意をすると、ヘバリーヌは可愛くウィンクをしながら舌を出す。

 

今回のヘバリーヌの格好はいつものような格好ではない。いつもの白鳥のバレリーナのようなスタイルだと変人だと思われるので、普通の少女のような格好をして、人間と変わらない外見をしている。

 

白いブラウスの上に、チェック柄のジャンパースカートを着込んでおり、肌の色もいつもの薄い黄色の肌から人間のような肌色に変化している。肩には茶色のショルダーバッグを提げていて、地球のどこにでもいるような可憐な少女の外見だ。

 

ーーーーねえねえ、ノンお姉ちゃ~ん♪

 

ーーーーひぃ!? な、何、なの・・・!?

 

ーーーー服とバッグを貸してほしいの~♪

 

ーーーーあ・・・な、なんだそういうこと、なの・・・。

 

ーーーーそれだったら、好きなだけ持っていけばいいの。

 

服やバッグはイタイノンにおねだり。理由を話してくれたら、自分のお下がりを譲ってくれた。

 

ーーーードクルンお姉ちゃん♪

 

ーーーーどうしたんですか?

 

ーーーーお姉ちゃんたちって人間になれるよね~? ヘバリーヌちゃんもなりたいなぁって♪

 

ーーーーお安い御用ですよぉ。いいものをあげます。

 

人間としての肌色はドクルンに球体の変なものを食べて身につけ、やり方を教えてもらったことでうまく擬態できた。

 

わざわざ私のために提供してくれた、お姉ちゃん二人には感謝しなければ。

 

「じゃあ、早速いこ~♪」

 

ヘバリーヌは右腕を振り上げると、ハーブ店のゲートらしきものに意気揚々と通っていく。

 

「ごめんくださ~い♪」

 

建物の扉を挨拶しながら中へと入っていく。

 

「あれ~?」

 

ヘバリーヌは店の中を見て、思わず目を丸くする。

 

ハーブ店というお店の割には人の気配があまりない。中央にはラベンだるまちゃんのぬいぐるみが置かれていること以外、閑散としていてお客の姿は全くない。

 

かろうじて言うのであれば、マゼンダ色の髪の少女が一人いるだけ。彼女もイベントに参加しにきたのだろうか?

 

「!!?? あ、あいつは・・・!?」

 

ウツバットがマゼンダ色の髪の少女に視線を向けると驚愕する。彼女の右肩に止まっているピンクのウサギのような動物の姿。あいつはもしや・・・!?

 

「??」

 

ヘバリーヌはウツバットが焦り出したことに疑問符を抱くと、彼女を手のひらへと乗せてマゼンダ色の髪の少女から背を向ける。

 

「どうかしたの~?」

 

「なんで、あの泣き虫ウサギがここにいるウツ・・・!?」

 

「泣き虫ウサギって・・・あの女の子の肩に乗ってるウサちゃんのこと~? 」

 

「あれはプリキュアのパートナーのラビリンっていう泣き虫ウサギで、あいつといるってことはあいつはプリキュアってことウツ・・・!!」

 

ヘバリーヌにコショコショと話すウツバット。まさか、あのウサギもラベンだるまちゃんを狙っているのか・・・? あいつが呑気にハーブティーなんか飲むはずがないし、このハーブ店のイベントにいるってことはそれしか考えられない。

 

「へぇ~、あの娘ってプリキュアちゃんなんだぁ~♪」

 

ヘバリーヌはあのマゼンダ色の髪の少女がプリキュアであることを知る。プリキュア自体はこの前も見たことがあるが、変身前の彼女たちがどんな姿なのかは知らなかった。

 

(やっぱり普通の女の子なんだねぇ~♪)

 

自分が病院で出会ったあのプリキュアとは雰囲気が違うというのがよくわかった気がする。人ならざるものを感じたあの女性とは違い、あの娘は人間なのだ。あのウサギのパートナーを得たことでプリキュアになった娘の一人なのだということを。

 

「まあ、気を取り直して~、ラベンだるまちゃんを手に入れよ?」

 

「ウ、ウツ・・・」

 

はとりあえず、プリキュアのことは放っておいてぬいぐるみを手に入れることが先決だと考える。ウツバットも戸惑いつつも、ヘバリーヌの言葉に頷き平静を保とうとする。

 

彼女は店の中に入っていくと、マゼンダ色の髪の少女の側に並んで待つことにする。

 

それにしても、人が本当にいない。普段からこの店は繁盛しているのだろうか?

 

「あの・・・・・・」

 

「ん~?」

 

「このお店にはよく来るんですか?」

 

不意にマゼンダ色の髪の少女がヘバリーヌに話しかけてくる。どうやらプリキュアの彼女は自分がビョーゲンズだということに気づいていない模様。

 

右肩に乗っているピンクのウサギが汗を浮かべて動揺しているのが気になったが、きっと自分の肩に乗っている相棒が誰なのか気づいているのだろうと推測しておく。

 

「ん~」

 

「あ・・・ごめんなさい!! いきなり話しかけられて迷惑でしたよね・・・!?」

 

「ううん、いいよ~。実は私も初めてなんだよね~。この辺りを通りかかったときにあのぬいぐるみが気になっちゃって♪」

 

頭を下げて謝ってくる少女ーーーーのどかに、ヘバリーヌはあまり気にしない様子で話した。

 

「ああ、そうそう! ちょっと可愛いですよね!」

 

「うんうん! 何か惹きつける魅力があるよね~♪」

 

どうやらこの少女もあのブサイクな顔のぬいぐるみが可愛いと思ったらしい。この娘がプリキュアなのがちょっとアレだけど、私と同じことに共感ができる娘がいたと思うと、少し嬉しくなった。

 

・・・嬉しい? ヘバリーヌちゃんが?

 

ヘバリーヌちゃんが嬉しいのは、痛いことをしてもらうか、地球ちゃんを病気で蝕むかして一緒に気持ちいいと感じているときのはず・・・。なのに、この感情は何なのかなぁ?

 

「クゥ~ン・・・」

 

「? どうしたの、ラテ? 大丈夫だよ~」

 

よく見ると彼女の提げているカバンには子犬のような姿があった。どうやらこちらを見て怯えるような表情をしているようだが・・・。

 

彼女はそんな子犬を撫でて安心させようとしている。

 

「そのワンちゃんも、可愛いね♪」

 

「うん。この子はラテって言って、うちで飼ってるの」

 

「なんだか変わったワンちゃんだね。額にハートの飾りなんかしてるし~」

 

「えっ!? あ、あ、うん、そうだね・・・この子のお気に入りなの・・・」

 

ヘバリーヌは少女のバッグの中にいるラテと呼ばれた子犬の話を振る。なぜか額についているハートを指摘したら、少女は急に慌て出したが・・・。

 

彼女はそんな少女の反応よりも気になることがあって、顎を手に当て始める。

 

(このワンちゃん、ヘバリーヌちゃんの正体に気づいているのかなぁ?)

 

その顔を見るからに、私から何かを感じ取っているような感じがするのだ。私が人間ではなく、ビョーゲンズであるということに。まあ、あくまでも推測に過ぎないが・・・。

 

「いらっしゃいませ~!」

 

二人でそんな会話をしているうちに、左の水色の扉からおしゃれそうな男性の店員が現れた。このハーブ店の店長だろうか?

 

「よかった~。私は気にいってるんだけど、この子、あんまり人気なくって・・・。二人だけでも来てくれて、嬉しいわ」

 

「ふふふ・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

店長の言葉に、のどかは笑顔を見せ、ヘバリーヌは口元に微笑を浮かべる。

 

「ワンちゃん、ウサギちゃん、コウモリちゃんもよろしくね」

 

「ワン♪」

 

ラテは元気に返事をする。ラビリンとウツバットは正体がバレてはいけないので、ぬいぐるみと動物の振りをしているのみだ。

 

「それじゃあ! 自慢のハーブティーをご馳走するわね!」

 

ヘバリーヌとのどかはテラス席へと案内され、店長より紫色のハーブティーを差し出された。

 

二人は同じ席でティーカップに入ったハーブティーを飲む。

 

「ふわぁ、何か落ち着く・・・」

 

「何だかほっこりして・・・不思議な感じだね~・・・」

 

「でしょう? ラベンダーにはリラックス効果があるの」

 

「へぇ・・・」

 

のどかと店長が話す中、ヘバリーヌは湧き上がってくる感情に違和感を覚えていた。

 

・・・ヘバリーヌちゃん、こんなことで気持ちいいとか、安心すると思うなんて、どこか体がおかしいのかなぁ?

 

表にこそ出さなかったが、心の中で何か痛みを与えられるのとは違う、こそばゆい何かを感じていた。

 

二人でハーブティーを堪能した後、店の中へと戻ると店長はのどかのカードへとスタンプを押してくれた。

 

「ふわぁ~、やった!」

 

「はい、スタンプ。また来てね」

 

「はい!」

 

のどかへスタンプカードを渡すと、店長はもう一枚スタンプカードにスタンプを押す。

 

「はい、あなたも」

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・どうかしたの?」

 

「あ・・・ありがとう♪」

 

ぼーっとしていたヘバリーヌは愛想笑いをしながら、スタンプカードを店員から受け取った。

 

帰り道・・・・・・ヘバリーヌはスタンプカードを見つめながらトボトボと歩いていた。

 

「ヘバリーヌ? どうしたウツ?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「ヘバリーヌ!!」

 

「あ・・・な~に~?」

 

ウツバットの声がまるで聞こえていないほどに考え事をしていた、ヘバリーヌはようやく気づくというものようなトーンで返した。

 

「さっきからぼーっとしてるウツ!!」

 

「あ・・・ごめんね・・・地球の健康的な環境に当てられたかなぁ・・・? 今日はもう帰ろっか♪」

 

ヘバリーヌとウツバットは話しながら、その場から姿を消した。

 

それからというもの、ヘバリーヌはのどかと一緒にイベントへと通い続けた。

 

「ふわぁ~!!」

 

「おぉ~・・・!!」

 

ヘバリーヌとのどかは店一面に植えられているラベンダーを見て興奮する。

 

「これがラベンダーの花よ」

 

「だから、紫色なんだぁ~」

 

(なるほどねぇ・・・顔がラベンダーみたいな色だから、ラベンだるまちゃん、ね)

 

ヘバリーヌとのどかは、あのキャラクターの由来をようやく察するのであった。

 

その後も、ハーブティーを作る作業場を見せてもらったり、お互いにラベンだるまちゃんの魅力を一緒に話したりもした。

 

ある日は、草原でレジャーシートを敷いて一緒にハーブティーを飲んだりした時は・・・・・・。

 

「フフ・・・」

 

ハーブティーを啜りながら、ラビリンとラベンだるまちゃんが一緒に並んでいるのを見て、口元に笑みを浮かべたり・・・・・・。

 

「待て待てぇ~♪」

 

ヘバリーヌがラテとウツバットと一緒に追いかけっこをしたりなんてすることもあり、のどかと店長はその光景を微笑ましく見守っていた。

 

またある日は、店長からラベンだるまちゃんのポストカードを渡されたりもした。

 

「はぅ~♪ やっぱり可愛いね~♪」

 

「ヘバリーヌ! 僕も僕も!!!」

 

「ごめんね~、はい♪」

 

廃病院の自室でヘバリーヌがそれを見ながら腕をルンルンとさせたり、ウツバットにもそのカードを見せてその絵をスリスリとさせたりしていた。

 

そんな毎日のイベントをこなしていくこと数日・・・・・・。

 

「二人ともスタンプが貯まったわね」

 

ヘバリーヌとのどかのカードのスタンプは6個溜まり、店長はカウンターからラベンだるまちゃんのぬいぐるみを取り出した。

 

「はい、ぬいぐるみをプレゼント」

 

「ふわぁ~・・・!!」

 

「あぁん、可愛いぃ~♪」

 

店長からぬいぐるみを受け取ったのどかは目をキラキラとさせ、ヘバリーヌは可愛さに惹かれて、受け取った瞬間にぬいぐるみを抱きしめた。

 

日も暮れてきた夕方・・・・・・ヘバリーヌとウツバットは帰路についていた。

 

「はい、ぬいぐるみ♪」

 

「ありがとうウツ~♪」

 

ぬいぐるみを受け取ったウツバットは嬉しそうに抱きしめ始め、それを見たヘバリーヌも笑顔になる。

 

「!!・・・・・・・・・」

 

ヘバリーヌは今まで感じたことのない感情があることにハッとすると、俯いて胸に手を当て始める。

 

ハーブ店のイベントに毎日通いつめて、ぬいぐるみをもらって、それを受け取ったお姉ちゃんのパートナーが喜ぶ姿を見て、嬉しい・・・・・・?

 

ヘバリーヌちゃんが嬉しいのは、お姉ちゃんにご褒美をもらえたことのはず。たかがこんなぬいぐるみをあげただけで嬉しいと思うなんて、本当にどうしちゃったんだろぉ・・・・・・?

 

「ヘバリーヌ・・・?」

 

「あ・・・何・・・?」

 

「ここまで付き合わせちゃって、ごめんウツ。ヘバリーヌも疲れたんじゃないかウツ? 僕はぬいぐるみをもらえただけで十分ウツ。もう大丈夫ウツ。ありがとウツ」

 

ウツバットはそう言うとクルシーナの部屋へと帰るために、そのまま飛び去っていく。

 

「あ・・・・・・!」

 

ヘバリーヌは飛んでいくウツバットへ手を伸ばす。しかし、そんな彼女の手に気づくことなく、コウモリの妖精は姿を消していく。

 

自分の伸ばしていた手を見つめるヘバリーヌ。その表情はなんだか物悲しそうな表情になっていた。

 

ヘバリーヌちゃんが、悲しい・・・?

 

何これ・・・? 楽しいや嬉しい以外にも、なんだかモヤモヤしたものがあるの・・・?

 

自分がいつもやることで感じることが、他のことで感じることで違和感を感じるヘバリーヌ。さらに感じたことのない感情が溢れてきて、頭の中がドロドロになり、グチャグチャでよく分からなくなっていく。

 

ふとハーブ店を見つめるヘバリーヌ。

 

違和感のある嬉しいや楽しい・・・そして、悲しいという感情・・・このグチャグチャな感情は、あのハーブ店に通いつめていけばわかる・・・?

 

ヘバリーヌは姿を消す前、そんなことを思っていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、ヘバリーヌは再度ハーブ店を訪れていた。しかし、ウツバットと一緒ではなく、一人で来ていた。

 

ハーブ店のイベントはまだ開催しているようだが、毎日のように通っていたマゼンダ色の髪の少女の姿はない。

 

ぬいぐるみを一個もらって満足してしまったのだろうか。自分なら、あんな可愛いぬいぐるみいくらでも欲しいって思えるのに・・・。

 

そんなことを考える中、ヘバリーヌはテラス席で店長の入れてくれたハーブティーを啜る。その瞬間、彼女は無表情になる。

 

・・・・・・やはり、何か違和感を感じる。ヘバリーヌちゃんは、こんなことが気持ちいいと、安心すると。いくら飲んでも、違和感は拭えない。

 

と、そこへ店長がやってきたので、愛想笑いをしておく。

 

「店長~、今日も美味しいよ~♪」

 

「ありがとう・・・今日はあの子たち来ないのかしら・・・」

 

「あの子って~?」

 

「ワンちゃんとウサギちゃんを連れた子よ。いつも毎日来てくれてたのに・・・」

 

「そういえば、いないね~・・・」

 

「はぁ・・・あなたは来てくれてありがとう。コウモリちゃんはいないけど・・・」

 

店長はそう言いながら落ち込んだ様子で、店の中へと戻っていった。

 

ヘバリーヌは愛想よく手を振る。店長が見えなくなった後、なんだかまた感情が湧いてくるような感じがする。

 

プリキュアちゃん、今日はいないんだ・・・寂しい・・・・・・。

 

それにウツバットもいない・・・一人だと、全然楽しくない・・・・・・。

 

・・・寂しい? 寂しいって、何・・・?

 

楽しくないって・・・私は、ウツバットがいないと楽しくないってこと? でも、プリキュアちゃんもいなくて楽しくなくって・・・でも、プリキュアちゃんとウツバットがいるときは楽しいって感じて・・・。でも、今は、楽しくなくって、寂しくて、悲しくて・・・・・・。

 

ズキズキズキ・・・・・・。

 

(!!??)

 

自身の胸の中に痛みが走る。まるで病気になったみたいに、苦しい・・・・・・。

 

でも、なんで・・・? ここに来るときにウツバットがいなくて、一人でハーブティーを飲んでも楽しくなくて、そしてプリキュアちゃんがいなくて寂しくて、それが悲しくて・・・・・・。

 

もしかして、この溢れてくる感情が、原因・・・? 病気みたいに痛くて、苦しいの・・・?

 

でも、私はビョーゲンズで・・・病気もへっちゃらで・・・でも、感情が溢れてきて、痛みと苦しさを感じて・・・・・・。

 

・・・・・・ああ、もう。わかんないよぉ!!!!!!

 

ヘバリーヌは頭の中がグチャグチャしてきて、この感情がよくわからずイライラしてきた。

 

「やれやれ・・・」

 

「・・・?」

 

そんな思考を打ち切るかのように、少年の声が聞こえてきた。その方向に振り返ってみると、そこには見たことのある少年の姿が。

 

「ダル兄ぃ・・・?」

 

ヘバリーヌは目をパチクリとさせながら、彼のことを見つめていた。

 

一方、木の上にいる少年ーーーーダルイゼンは地球を蝕むべく、ハーブ店のテラスのテーブルにある茶葉の入ったティーポットに目をつけていた。

 

「・・・今回はここでいいか」

 

ダルイゼンはそう言って飛び降りようとしたが・・・・・・。

 

「ダル兄ぃ~♪」

 

「!?」

 

突然、聞こえてきた猫なで声にびっくりして振り返ると、別の枝の上にヘバリーヌが寄りかかるように立っていた。その姿はいつものおめかしした姿ではなくいつものバレリーナの衣装で、擬態も解除されている。

 

「・・・なんだ、お前か」

 

「ねぇ~、ダル兄ぃ~・・・」

 

「なんだよ。っていうか、お前らしくもない声じゃん」

 

ヘバリーヌは金髪の髪を弄りながら不満そうな顔と声を出している。ダルイゼンは何かあったんだろうと思いつつも、適当に返事をしておく。

 

「あのハーブ店のイベントに参加したんだけどぉ~・・・」

 

「・・・遊んでたのかよ」

 

「違うも~ん!! ヘバリーヌちゃんはそんなつもりなかったも~ん!! クルシーナお姉ちゃんのコウモリちゃんがうるさいからぁ~!!」

 

ダルイゼンが冷たく茶化すと、ヘバリーヌはイライラしたような声を出す。

 

クルシーナのコウモリって・・・ああ、帽子になってるやつか・・・。

 

彼はウツバットに対して、その程度の認識をした後に、仕方なくヘバリーヌの話をちゃんと聞いてやることにした。

 

「で、そのくだらなそうなイベントに参加したから、何なの?」

 

「何だかドロドロするのぉ~! 一緒にハーブティー飲んでふわふわしたり、追いかけっこしてワクワクしたり、でもコウモリちゃんが離れたらジクジクとしてぇ・・・さっきだっていつも来ている娘がいないだけで胸がズキズキして・・・これって、何なのかなぁ・・・」

 

どうやら彼女はイベントに参加してるせいで、調子がおかしくなっているらしい。自分がよくわからない何かが彼女の中に流れていて、それに苛立っているのだろう。

 

・・・何とも面倒くさい。これで人間に感化されても、こっちが困るだけだ。でも、このまま放っておいても、今後の仕事に支障をきたすだけだ。

 

ダルイゼンは仕方なくビョーゲンズらしく、生まれたばかりのキングビョーゲンの娘にちゃんと教えてやることにする。

 

「・・・不快な環境と同じだろ、それは」

 

「え・・・?」

 

「お前がよくわからないことで同じことを感じて、それに違和感を感じて、イライラしてるってことは、それは俺たちにとっては不快な環境と同じってことじゃない? 俺だってこんな地球、生きてるって感じでイライラするし、そういうのを地球ごと蝕んでやりたくなる。つまり、そういうことだろ?」

 

「・・・・・・・・・」

 

ダルイゼンに言われて、ヘバリーヌは改めて自分の胸に手を当ててみる。

 

ヘバリーヌちゃんにとっての楽しいは、お姉ちゃんにご褒美をもらえること・・・。

 

ヘバリーヌちゃんが嬉しいのは、地球を気持ちよくして、人間を気持ちよくして、お姉ちゃんにも気分よくなってもらうこと・・・。

 

ここでダルイゼンの言ったことを思い返す。

 

・・・そうか、ヘバリーヌちゃんには、ハーブ店のあの感情は不快な環境と一緒ってことなんだぁ。だから、胸が痛くなって、ズキズキとなって、イライラするんだ・・・。

 

確かに、地球の健康的な環境と同じで、痛みが体の中にピリピリと来る。

 

じゃあ、そういうのを病気で蝕んじゃえば、ヘバリーヌちゃんも嬉しくなるんだね~。

 

ヘバリーヌは自分の頭の中で結論付けて、すっきりしたような気がする。

 

「ありがと、ダル兄♪ おかげでスッキリしたよ~♪」

 

「・・・別に」

 

満面の笑顔で返すヘバリーヌに、ダルイゼンは素っ気なく返す。その頬は若干赤く染められていたような気がする。

 

「そろそろ行くか・・・」

 

「あ、待ってダル兄ぃ♪」

 

「・・・なんだよ」

 

「ヘバリーヌちゃんも行っていい~?」

 

ダルイゼンは無駄話をしすぎたと、そろそろ地球を蝕みに行こうとするが、そこにヘバリーヌが待ったをかける。今日は自分も一緒にやっていいか聞いているようだ。

 

「・・・好きにすれば?」

 

ダルイゼンはそう言い残すと、木から飛び降りる。

 

「あぁ~ん、ダル兄ったらいけず~♪」

 

ヘバリーヌはその素っ気ない態度に嬉しそうな表情をしながら、同じく木から飛び降りて、テラスの方へと降り立つ。

 

彼女が別のテラス席を見ると、赤い小さな容器と何かの専用のストローがあるのが見えた。少女とヘバリーヌちゃんが来たら一緒にやろうと思っていたのだろうか?

 

「ンフフ♪」

 

もはやそんなことはどうでもいいと、ヘバリーヌは妖艶な微笑みを浮かべる。

 

彼女はバレリーナのようなポーズを2回取りながら、それぞれ手を叩き、バレエのように体をクルクルと回転させる。

 

「進化しちゃってぇ~、ナノビョ~ゲン♪」

 

「ナノォ~♪」

 

ナノビョーゲンが鳴き声を上げながら、ストローへと取り付く。ストローが徐々に病気へと蝕まれていく。

 

「・・・!!?・・・!!!」

 

ストローの中に宿るエレメントさんが病気へと蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガビョーゲン・・・!!」

 

上が少し出っ張った容器のような姿に不健康そうな顔、6本のストロー、そして頭には丸い輪っかのようなものを生やした浮遊型のメガビョーゲンが誕生したのであった。

 

自分にとって不快なものは、気持ちよくしないとね~♪

 

ヘバリーヌはそんなことを思いながら、妖艶な微笑みを浮かべた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第41話「快感」

前回の続きです。
今回は長くなってしまったので、次回に続きます。


 

すこやか中学校から下校中のプリキュアの3人。しかし、花寺のどかにはいつものような元気はなく、暗い雰囲気を出していた。

 

「昨日のこと、聞いたわ・・・ラビリンはきっと・・・そのダルマを好きなんだって、ニャトランに知られることが嫌だったんでしょうね・・・」

 

ちゆはひなたから事情を聞いて、大体のことは察していた。

 

事の発端は、ある夜にのどかが起きていたラビリンに話しかけたことから始まった。ラビリンがチョコレートの缶缶の中に入れて大切に持っていたチラシ、それはハーブティーのイベントのチラシだった。彼女はそこのマスコットキャラクターである、ラベンだるまちゃんに一目惚れをしたのだ。ラビリンの趣味を理解したのどかは一緒にラベンだるまちゃんを手に入れようと一緒にハーブ店へと行ったのだ。

 

ハーブ店のイベントは、参加者は私と金髪の少女しかいなかったけど、毎日続けて参加をしてその毎日は楽しかった。生きてるって感じがした。そして、スタンプを貯めてようやくラベンだるまちゃんのぬいぐるみを手に入れた。

 

しかし、一悶着が起こったのはその後だった。ぬいぐるみをもらった帰り、通りがかったひなたやニャトランたちに可愛いと思ったラベンだるまちゃんを見せたところ、ラビリンが地面へと叩きつけた挙句、欲しくなかったと言い出したのだ。のどかはどうしてそんな酷いことをするのか理解ができなかった。ラビリンも意地を張って訳を話さなかったため、怒った二人は喧嘩になり、結果的にあれから二人は一度も話していない。

 

「のどかっち、別に悪くないし・・・好きなものは好きって言いたいじゃん?」

 

「そうね・・・多分、どちらが間違ってるって話じゃないのよ」

 

ひなたとちゆがそう話していても、のどかの表情は暗いままだった。

 

一方、公園にいるラビリンたちヒーリングアニマルは・・・・・・。

 

「別にバカにしたわけじゃないんだぜ・・・確かに可愛くねぇとか思ったけどよ・・・」

 

「ニャトラン!!」

 

滑り台の上にいるニャトランがそういうも、明らかに逆撫でするような言い方だったため咎めるようなペギタンの声。

 

「でも、まあ・・・悪かった・・・」

 

「ごめんペエ・・・」

 

ニャトランとペギタンが謝るも、ラビリンは背を向けたまま無言で俯いたままだ。

 

二人は顔を見合わせる。自分たちが言ってもどうしようもない・・・これはラビリンが動かなければいけない問題だと。

 

「・・・なあ、のどかとちゃんと話せよ・・・」

 

ニャトランは背中のラビリンにそう言うことしかできなかった。

 

「クゥ~ン・・・」

 

そんな姿をラテは心配そうに鳴き声を漏らす。

 

・・・・・・その時だった。

 

「クチュン!! クチュン!!」

 

「「「ラテ様!?」」」

 

落ち込んでいたラビリンを含め、ラテが体調不良になったことを察する。ペギタンが聴診器を取り出して、診察をしてみる。

 

(あっちの方で、紫のお花さんが泣いてるラテ・・・泡が出るお水が泣いてるラテ・・・)

 

「「「!!」」」

 

ヒーリングアニマルたち3人は、それを聞いて場所を察した。いつか一緒に通っていたハーブ店のラベンダー畑が襲われていると・・・!!

 

「・・・先にラテ様と行ってるラビ。二人はみんなを連れてくるラビ!」

 

「えっ、いや、だけどよ・・・お前、のどかがいなきゃ・・・!」

 

ラビリンは背中を向けながら、二人にそう言った。ニャトランは彼女に言おうとして、ペギタンに止められる。

 

きっとのどかもいるだろうから、後ろめたい気持ちもあるのだろうと。

 

「・・・わかったよ」

 

ペギタンとニャトランはのどかたちに知らせるべく急いで飛んだ。いつもの下校のコースへと飛んでいくとのどかたちが下校している姿が見えた。

 

「みんなーー!!」

 

「メガビョーゲンが現れた!!」

 

「「「!!」」」

 

のどかたちはヒーリングアニマル二人に知らされて、メガビョーゲンに襲われていることを察知。

 

そんな中、のどかはあることが気になっていた。ちゆの方にはペギタンが飛んでいき、ひなたにはニャトランが着く。しかし、自分のパートナーのラビリンの姿がない・・・。

 

「ラビリンは・・・?」

 

「あいつはラテ様の側についてる! あのハーブ園だ! 急げ!!」

 

ニャトランの言葉に、のどかは感じたことのない何かを感じつつも、みんなと一緒にハーブ園へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ハーブ園では二体のメガビョーゲンが暴れていた。

 

「メーガァー!!」

 

ダルイゼンが発生させた、透明なティーポットに手と植物のような足を生やしたメガビョーゲンは、ポットの先から赤い液体を噴射してラベンダー畑を病気に蝕んでいた。

 

「メガァ・・・!!」

 

ヘバリーヌが発生させたメガビョーゲンは頭の上についている4方向4本のストローから赤いシャボン玉のようなものを噴射する。生み出された無数のシャボン玉は、木でできたゲートやラベンダー畑の周囲の花壇に植えられている花たち、その奥の草原、林の木へと飛んでいくと・・・・・・。

 

パチン、パチン、パチン、パチン、パチン

 

ドカン!ドカン!ドカン!ドカン!ドカン!!!

 

シャボン玉は割れたかと思うと小規模な爆発を起こして、その一帯が病気へと蝕まれていく。

 

「はぅ~! いいよいいよ~♪ そのままどんどん蝕んで、気持ちよくしてあげてぇ~♪」

 

ハーブ店の建物の上でヘバリーヌは暴れる自分のメガビョーゲンを見ながら、体を悶えさせている。

 

「へぇ・・・お前のメガビョーゲンもやるじゃん」

 

「ふふ~ん♪ ヘバリーヌちゃんが不快だって思うものにやったら~、気持ちよくできそうなメガビョーゲンができちゃったかもぉ~♪」

 

同じく一緒にいるダルイゼンが珍しく褒めてくれたことに対し、ヘバリーヌはお姉ちゃんに頼らないでもできるんだと感じ、クルクルと回りながら喜びの舞を踊っている。

 

「ああぁぁ・・・!!」

 

「ん~?」

 

そんなヘバリーヌの耳に高い男の声が聞こえる。

 

「な、なななななな・・・!!??」

 

声がする方向へと振り向いてみると、ハーブ店の店長が怪物を見て驚きのあまりに腰を抜かしている様子だった。

 

「ん~・・・・・・」

 

見下ろしていたヘバリーヌは顎に手を当てて考える。

 

・・・あれは、あの人は、ヘバリーヌちゃんにとっては不快なもの、不快な感情、不快な環境を知ることになった元凶だ。

 

不快なものは病気にして、気持ち良くさせなくちゃ・・・。

 

人間を蝕む方法はこの前、ノンお姉ちゃんに教えてもらったばかり。それを試すいい機会かも♪

 

えーっと、女の人は口づけで、男の人は・・・えーっと・・・ああ、そうだった、あれあれ♪

 

ヘバリーヌはその店長の目の前へと飛ぶ。

 

「おにぃ~さん♪」

 

「だ、だだだ、誰よ、あなた!?」

 

得体の知れない人物が現れたことに対し、口調がしどろもどろになる店長。ヘバリーヌはそんなことを気にせずに、店長へと近づいて同じ目線になるようにしゃがむ。

 

「ヘバリーヌちゃんが、楽しい気分にしてア・ゲ・ル♪」

 

彼女は右手に赤黒いオーラのようなものを込めると、それを店長の左胸へと押し当てる。

 

「うぅぅ!? あぁ・・・ぐぁぁ・・・!!」

 

店長は体に何かを注ぎ込まれて苦しみの声をあげる。まるで自身のハーブティーのような熱いものを体の中へと押し当てられて、抉られているような感覚だ。

 

「ンフフ~♪」

 

「うぅぅぅぅ・・・ぁぁ・・・ぁ・・・」

 

ヘバリーヌは苦しむ店長の姿を見て、妖艶な微笑みを浮かべる。しかし、元々病気にそんなに耐性がなかったのか、店長はやがて力を失ってそのまま地面へと倒れ伏してしまった。

 

「フフフ~♪ そのうち気持ちよ~くなってぇ~、たのし~い気分になるよ~♪」

 

ヘバリーヌは床に倒れる店長を見下ろしながら、不敵な笑みを浮かべる。

 

「ヘバリーヌちゃんも気持ちよくなりたいなぁ~♪」

 

ヘバリーヌはまるで楽しみにする女性のように、両手を頬に当てながら言う。

 

「メガァ・・・!!」

 

そんなヘバリーヌの期待に応えるかのように、メガビョーゲンは頭のストローから赤いシャボン玉を噴射する。

 

ハーブ店の建物の横や屋根の上、テラス席へと飛んでいくと、次々とパチンと割れて、小規模な爆発を起こしていき、赤い病気へと染まっていく。

 

「はぅ~、メガビョーゲンわかってるねぇ~♪ その調子♪」

 

ヘバリーヌはメガビョーゲンが期待通りのことをしていることに、明るい声を漏らす。

 

「ああ・・・!!」

 

「クゥ~ン・・・」

 

「??」

 

ヘバリーヌは聞こえてきた明るい声と犬のような鳴き声に振り向く。ラベンダー畑の近くの花壇にピンクのウサギと子犬の姿があった。

 

「あれぇ~、あれって確か、プリキュアちゃんのそばにいたウサちゃんとワンチャンだよねぇ? 今日は一緒じゃないんだぁ~?」

 

ヘバリーヌはあの二人に見覚えがある。ハーブ店のイベントに参加していたマゼンダ色の髪の少女と額にハートマークを持つ子犬だ。いつもは一緒にいるはずなのに、今日はなぜか別行動を取っているようだ。

 

・・・まあ、ヘバリーヌちゃんは考えるよりも、気持ちよくなっていたほうがいいからぁ。

 

「ラテ様ー!!」

 

「ラビリン!!」

 

二人を呼ぶ声が聞こえてきたかと思うと、そこに3人の少女と2匹のヒーリングアニマルが駆けつけてきた。

 

「おぉ? あの娘もいるねぇ? ってことは、あの3人はプリキュアちゃんたちぃ~?」

 

ウツバットから聞かされてはいるが、あのマゼンダ色の髪の少女はプリキュアだという。変身前の姿を見るのは初めてだが、やっぱりどう見ても普通の少女だった。他に二人の少女がいるが、ペンギンとネコを連れていることから、彼女たちもプリキュアなのだろう。

 

「メガァ・・・!!」

 

自分のメガビョーゲンが大方ハーブ園を蝕んで戻ってきたようだ。

 

・・・まあ、いいか~。今のヘバリーヌちゃんは自身にとって不快なものを蝕んで、いい気分にしなきゃ~。

 

「よ~し、メガビョーゲン。今度はあっち行こっか♪」

 

「メガァ・・・!」

 

そう言って、ヘバリーヌは柵の向こうの森を指差す。メガビョーゲンは彼女の指示を受けて、建物の奥へと浮遊していく。

 

そこにはダルイゼンと彼のメガビョーゲンも一緒にいて、赤い病気を噴射して暴れ回っていた。

 

「あ、ダル兄ぃ~、そっちはどお~?」

 

ヘバリーヌがダルイゼンへと手を振りながら、彼の近くへと飛び降りる。

 

「順調だけど・・・? お前のメガビョーゲン、成長早くない?」

 

「ふ~ん♪ もうあっちの林とか、草原とか、花壇とかいっぱい蝕んで、いっぱい気持ちよくしてあげたんだよ~♪」

 

ダルイゼンが不思議そうに問うと、ヘバリーヌは蝕んだ場所を嬉しそうに語る。ダルイゼンにとってみれば、その場所は取るに足らない範囲であるはず。なのに、いつの間にか彼女のメガビョーゲンは少し成長しているようにも見えるのだ。

 

やはり、クルシーナもそうだったが、キングビョーゲンの娘が生み出すメガビョーゲンは一味違う・・・。そう感じざるを得ないのであった。

 

「メガァ・・・ハァ・・・!!」

 

ヘバリーヌのメガビョーゲンは頭のストローのような部分からシャボン玉を噴射。あらゆる場所へと飛んでいき、パチンと割れて爆発を起こし、赤い病気へと染まっていく。

 

「いいよ~♪ そのままどんどん気持ちよくしちゃってぇ~♪」

 

ヘバリーヌは体を悶えさせながら、メガビョーゲンへと指示を出す。

 

一方、マゼンダ色の髪の少女ーーーーのどかたちプリキュアは、下校場所からようやくハーブ園へとたどり着いた。

 

「行くわよ!」

 

「うん」

 

「「うん!!」」

 

ちゆとひなたはお互いのパートナーと顔を見合わせて頷く。

 

「ラテ、もう少し我慢してね」

 

のどかは体調が悪そうなラテを撫でるが、隣にいたラビリンには声をかけない。

 

ラビリンはのどかの顔の高さまで飛び上がると顔を合わせる。

 

「行こう!」

 

「ラビ!!」

 

声を合わせる二人だが、他の二人とは明らかに雰囲気が違う。のどかとラビリンは喧嘩中なのだが、そうは言ってもいられないと。まるで、仕方がないと言いたげな感じの様子だ。

 

「「「スタート!!」」」

 

「「「プリキュア、オペレーション!!」」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

 

「「「キュアタッチ!!」」」

 

ラビリン、ペギタン、ニャトランがステッキの中に入ると、のどか、ちゆ、ひなたはそれぞれ花のエレメントボトル、水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

そして、肉球にタッチする・・・・・・。

 

ところが・・・・・・。

 

バチッ!!!!!

 

「きゃあ!!」

 

「うあぁ!!」

 

パートナーの入ったヒーリングステッキの肉球にタッチした瞬間、黒い電気が走り、お互いに吹き飛ばされたものがいた。

 

「「ああ・・・!?」」

 

落ちていくヒーリングステッキ・・・・・・動揺する二人・・・・・・。

 

「うぁ!!」

 

「あぁ!!」

 

吹き飛ばされて転がる変身者・・・・・・落ちたステッキから追い出されるように弾き出されてしまうパートナー・・・・・・。

 

体を起こして、お互いを見合う二人・・・・・・。

 

その傍らで問題なく変身できた二人は・・・・・・。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

フォンテーヌは屋根の上に飛び移って、テラスの方へと降りる。

 

「大丈夫ですか!? しっかりしてください!!」

 

「うぅぅぅ・・・ぅぅぅ・・・」

 

フォンテーヌが倒れていた店長の体を起こすも、彼は苦しそうに呻いている。

 

「前のイタイノンのときみたいに病気に蝕まれているかもしれないペエ!」

 

「そんな、ひどい・・・!!」

 

フォンテーヌは人間をも平気で蝕むビョーゲンズに怒りを露わにする。こうなった場合はその幹部が発生させたメガビョーゲンを倒さない限りは元に戻ることはないのだ。

 

フォンテーヌはとりあえず、彼が戦闘に巻き込まれないように安全なところへと運んでいく。

 

その様子を建物の屋上から見ていたスパークル。しかし、ここである違和感に気付いた。

 

「あれ? グレースは?」

 

いつもなら一緒に登場しているはずのグレースの姿がない。スパークルが先ほどいた場所を振り返るとのどかとラビリンが横たわっているのが見えた。

 

そう、先ほど肉球から発した黒い電気に吹き飛ばされ、変身に失敗したのはのどかとラビリンの二人だったのだ。

 

「変身・・・できない・・・?」

 

「どうしてラビ・・・!?」

 

ビョーゲンズに立ち向かうために、いつも変身できていたことができないことに呆然とする二人。

 

「メガ、ビョー!!」

 

「はぁ!!」

 

「ゲェン!!??」

 

「はぁぁ!!」

 

赤い病気を二人に目掛けて噴射しようとしていたポット型のメガビョーゲンの先を蹴り飛ばして阻止し、そのままもう一方の足で蹴り飛ばす。

 

「ここはあたしたちでやるから!!」

 

「メガァ・・・!!」

 

赤い容器型のメガビョーゲンは二人に目掛けて頭のストローからシャボン玉を放つ。スパークルの近くまで飛んだシャボン玉は割れて小規模な爆発を起こす。

 

スパークルはぷにシールドを展開して、爆発を防ぐ。

 

「くっ・・・!! はぁぁ!!」

 

「メ、ガァ・・・!?」

 

少し苦しそうにしながらもなんとか防ぎきると地面に着地して飛び上がり、赤い容器型のメガビョーゲンを蹴りつけて飛び、勢いをつける。

 

「はぁぁ!!」

 

「メガ!!??」

 

そしてその勢いのまま、ポット型のメガビョーゲンを蹴り飛ばして倒す。

 

「一旦、この場から離れて!!!」

 

「・・・うん!」

 

フォンテーヌの言葉に頷き、のどかとラビリンはラテを連れて離れた場所へと避難する。どうして変身ができないかわからないが、今の自分たちがいても足手まといになるだけだ。

 

「・・・今日は二人だけ?」

 

「う~ん、おかしいなぁ~。ヘバリーヌちゃんが見たときは3人いたはずなんだけどねぇ~?」

 

「そうなの?・・・まあいいけど」

 

柵に寄りかかりながら見ていたダルイゼンはプリキュアが二人しかいないことに違和感を漏らすも、同じく柵に腰掛けていたヘバリーヌが顎に手を当てながら甘い声で答える。でも、当の彼は特に興味がなさそうな様子だ。

 

「ヘバリーヌちゃん、ちょっと探してくるね~♪」

 

「いってらっしゃーい・・・」

 

ヘバリーヌはそう言いながら、ハーブ園の建物がある方へと飛んでいく。

 

「あ、ヘバリーヌ! 待ちなさい・・・!!」

 

フォンテーヌはのどかの元へと向かおうとするヘバリーヌを止めようとする。彼女は設楽の娘ではあるが、今はビョーゲンズである彼女をプリキュアに変身できないのどかに近づけさせたら、何をしでかすかわからない。

 

「メガァ、ビョ~!!」

 

そんな彼女を含めたプリキュア二人に、ポット型のメガビョーゲンは、ポットの蓋部分のような頭部を飛ばしてくる。フォンテーヌとスパークルはとっさに空へと回避するが、蓋部分はブーメランのように返ってきたかと思うと、自由に飛び回ってフォンテーヌの方へとまとわりつく。

 

「あぁぁ!!」

 

攻撃を受けて怯んでしまうフォンテーヌ。

 

「メガァ・・・・・・!!」

 

そこへ赤い容器型のメガビョーゲンが両手のストローからシャボン玉を噴射する。多く噴射されたシャボン玉はフォンテーヌへと飛んでいき、割れると同時に小規模な爆発を起こす。

 

「うぅぅ・・・!!」

 

「フォンテーヌ!!」

 

爆発を受けて落ちていくフォンテーヌの腕をスパークルは掴み、そのままポット型のメガビョーゲンに目掛けて放り投げる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

フォンテーヌはステッキから青色の光線を放って攻撃する。

 

「メガァ・・・!!」

 

赤い容器型のメガビョーゲンは再度両手のストローからシャボン玉を放つ。

 

「ぷにシールド!!」

 

スパークルは肉球型のシールドを張りながら、飛び上がり爆発するシャボン玉の中を突き進む。

 

「メガ・・・!?」

 

「はぁ!!」

 

「メ、ガ・・・!?」

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「メガガガァ・・・!!?」

 

そのままシールドごと体当たりをしてメガビョーゲンをよろけさせ、さらに両腕を横に蹴り飛ばして怯ませた後、オーバーヘッドして蹴りを食らわせて地面へと叩き落とした。

 

一方、ヘバリーヌはハーブ園の建物から手を目の上に当てながら辺りを見渡す。

 

「ん~、どこに行ったのかなぁ~?」

 

プリキュアであるはずの少女は必ずどこかに隠れて戦いを見ているはず、そう遠くまではいってないはずだ。ヘバリーヌはあの娘と話せるのをウキウキしながら探していた。

 

「おぉ?」

 

ふと、林の中の小さな茂みの中にピンクのウサギがわかりやすいようにいるのを見かける。そして、尻を隠して頭を隠さずと言わんばかりにマゼンダ色の髪も見えた。

 

「みぃ~つけたぁ~♪」

 

ヘバリーヌは獲物を見つけたという笑みを口元に浮かべる。

 

そして、メガビョーゲンとプリキュア二人の戦闘から離れた茂みの中にいたのどかとラビリンは・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

戦闘が激しくなっていくのを見て、顔を見合わせる二人。

 

早く仲直りをして、プリキュアに変身して合流しないといけないのに・・・・・・。そんな気持ちとは裏腹に二人の間には気まずい空気が流れる。のどかはラビリンと顔が合わせづらく、目を逸らしてしまう。

 

「ねえねえ~♪」

 

「「!?」」

 

そこへそんな状況にそぐわない明るい声が聞こえてきた。二人が振り返るとそれはハーブ園の被害を作り出した一人である、ビョーゲンズのヘバリーヌだった。

 

「そこのプリキュアちゃんは変身しないのぉ~?」

 

「・・・・・・!!」

 

変身もできないこの状況で私たちに近づいてくるなんて・・・!!

 

のどかは心の中で焦燥感に駆られていた。

 

「ねえ、どうなのどうなのぉ~? 早く変身して、ヘバリーヌちゃんをその拳で気持ち良くしてほしいんだけどなぁ~♪」

 

ヘバリーヌは二人のそばに降りると底抜けに明るい声で二人を煽る。しかし、二人は彼女に何も言い返してやることができず、特にのどかは悔しげに顔を歪めるだけ。

 

「クゥ~ン・・・」

 

「ワンちゃん辛そうだねぇ~♪ でも、気持ちいいんだよねぇ?」

 

ラテの体調不良を見て、二人には到底理解できない言葉を発するヘバリーヌ。

 

このビョーゲンズは一体何を言っているのか・・・? 辛いのが気持ちいい? そんなことあるわけが・・・。

 

「あぁ~、もしかしてぇ・・・変身できないとか?」

 

「「!!??」」

 

ヘバリーヌの核心をついた言葉に二人は動揺する。

 

「ンフフ~、アタリでしょぉ? イェイイェイ! だって、さっきからプリキュアちゃんたちは~、近くにいるのに離れているような感じがするんだよねぇ~♪」

 

「っ・・・・・・!」

 

ヘバリーヌが自分にパチパチと拍手をしながら、またも意味深な発言をする。喧嘩をして距離が離れているのは事実で、そこを突かれているのどかは何も言い返すことができず、口元を悔しげに歪めるだけだ。ラビリンはそんな彼女を呆然と見つめている。

 

「変身できない原因も当ててみよっか~? うーんと、ふーんと・・・」

 

ヘバリーヌはそう言いながら考えるように頭に両手の指をさす。

 

確か、この娘はここのハーブ園のイベントに参加していた。それはウツバットからもらったポスターから知った。そのポスターに大きく書かれていたラベンだるまちゃんという少し可愛いと思ったキャラクター・・・。

 

そうヘバリーヌちゃんとこの娘はそのラベンだるまちゃんのぬいぐるみが欲しくて、イベントに参加したのだ。ハーブ店の店長と楽しい時間を過ごして、スタンプが貯まったらラベンだるまちゃんのぬいぐるみをもらえたのだ。しかし、その翌日から彼女たちは来なくなったのだ。

 

ヘバリーヌはここまで考えると頭の上に電球が光った。

 

「ああ、もしかしてぇ、これが原因~?」

 

彼女はのどかに向かってそう言いながら、掌からラベンだるまちゃんのぬいぐるみを出現させる。

 

「っ・・・それは・・・?」

 

「ラベン、だるまちゃん・・・」

 

動揺する二人。まさにヘバリーヌの手元には喧嘩の原因となったラベンだるまちゃんのぬいぐるみが確かにあったのだ。

 

「その反応ってことは~、正解ってことだよねぇ~。イェイイェイ!!」

 

ヘバリーヌは当てたであろう自分にぬいぐるみを持っていない方の手でピースサインをする。

 

「ダル兄にイベントのことを教えたら~、くだらないって言ってたの~。ぬいぐるみもダサいって言ってたし~、そんなもの友情と一緒で簡単に引き裂けるでしょって言ってたよ~」

 

「っ・・・!!」

 

「ヘバリーヌちゃんも、プリキュアちゃんは本当は無理して参加してたんじゃないのかなぁって思ったけどぉ~?」

 

「そ、そんなこと・・・っ・・・!!」

 

ヘバリーヌがぬいぐるみを指で回転させながら煽るも、パートナーと喧嘩をしているのどかはやっぱり何も言い返すことができなかった。そのラビリンは否定してくれないのどかに悲しげな表情になる。

 

やっぱり、のどかは可愛いとか言ってたけど・・・本当は無理して付き合ってたんだラビ・・・。

 

・・・・・・二人の距離がさらに離れた気がして、余計に気まずさが増した気がした。

 

「あ、今二人とも辛そうな顔したよねぇ~!?」

 

ヘバリーヌは表情を明るくすると、二人へと顔を急接近させる。

 

「「!!??」」

 

「ねぇ、気持ちよくなったぁ~? それって気持ちよくなったってことだよねぇ~?」

 

「あ、ああ・・・・・・」

 

「ぁぁ・・・・・・」

 

彼女が顔を近づけてきたことに対して、のどかは怯えたような表情になる。普通の人間と変わらないその明るい表情には狂気すら感じる・・・。

 

今ののどかはプリキュアになれない・・・早く逃げないと・・・! でも、なぜだか足が震えていて、まるで鉛をつけられているかのように動かすことができない。

 

一方、ヘバリーヌは最初こそ明るい表情を見せていたが、特に何も変わっていないことを察し始め、ずっと見つめていた表情が段々と普通に戻っていき、そして頬を膨らませたような不満そうな表情へと変わっていき、のどかから顔を離す。

 

「ん~、な~んか、全然気持ちよくなさそう~・・・どうすればいい気分にさせてあげられるのかなぁ~・・・」

 

ヘバリーヌは彼女に背を向けると、顎に手を当てて考え始める。

 

辛い表情をするのは気持ちよくない? でも、自分は気持ちいいんだけど、やっぱり人間の彼女には合わないのかなぁ?

 

自分はお姉ちゃんたちから病気を与えられ続けた結果、気持ちいいと感じるようになったわけだからぁ・・・。

 

・・・ああ、そうか~!

 

「! いいこと思いついちゃったぁ~♪」

 

彼女を病気に蝕んじゃえばいいんだぁ♪ この前、ノンお姉ちゃんが試してくれたように、先ほど蝕んだ店員のように・・・。ヘバリーヌちゃんでもお姉ちゃんたちに入れられた病気の苦しみで、快感を得ることができたんだから彼女にもできるはず・・・。

 

「メガビョーゲ~ン!!」

 

ヘバリーヌは両手をメガホンのように当てて叫ぶと、彼女の近くにメガビョーゲンが飛び上がって現れた。

 

「メガァ・・・」

 

「ああ・・・メ、メガビョーゲン・・・!?」

 

「ラビ・・・・・・」

 

メガビョーゲンが現れたことに驚き、逃げようとゆっくり後ずさるのどか。ラビリンも同じように後ろへと下がる。

 

「あの娘を気持ちよ~くしてあげてぇ~♪」

 

「メガビョーゲン・・・」

 

メガビョーゲンは両手のストローを合わせて大きなシャボン玉を作り出すと、それをのどかに向かっって飛ばす。シャボン玉は風邪で飛んでいるとは思えないスピードで真っ直ぐに飛んでいく。

 

「っ・・・!!」

 

足がうまく動かず、逃げ切れないと思ったのどかは、抱いているラテを咄嗟にラビリンに投げて、彼女たちを突き飛ばす。

 

「あぁ!!」

 

「きゃあ!!」

 

のどかに突き飛ばされて、ラビリンとラテは地面へと落ちる。ラテを庇うように自分が下になったラビリンはラテの下から顔を出すと、その光景は・・・・・・。

 

「あぁ・・・のど、か・・・?」

 

私のパートナーが・・・本当は喧嘩なんかしたくなかった、友達が・・・あんなことになるなんて・・・!

 

「のどかぁーーー!!!」

 

ラビリンは目の前のパートナーの光景に、絶叫を上げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ポット型のメガビョーゲンと交戦中のフォンテーヌとスパークルは・・・。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「メガー!?」

 

スパークルはメガビョーゲンの腹の部分にキックを食らわせ、仰向けに倒す。

 

のどかぁーーー!!

 

「!? ラビリンの声・・・!?」

 

「のどかっちに何かあったんじゃ・・・!?」

 

ラビリンの悲鳴が聞こえてくる。

 

「メガビョ~!!」

 

メガビョーゲンは立ち上がってそんな隙を狙うべく、頭となっている蓋を飛ばして再度二人を攻撃してくる。

 

二人はそんなメガビョーゲンの攻撃に気づくと、スパークルがフォンテーヌのそばから離れる。

 

「はぁ!!」

 

「メガァ~!?」

 

そして真っ直ぐに飛んできたその蓋を、フォンテーヌは回し蹴りを食らわせて吹き飛ばす。蓋はメガビョーゲンの体へと飛んでいって直撃し、蓋が上下逆の状態でハマってしまった。

 

キュン!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

その隙にスパークルがステッキの肉球をタッチして、メガビョーゲンに向ける。

 

ニャトランの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを見つける。

 

「見つけたぞ! 葉っぱのエレメントさんだ!」

 

エレメントさんはポットの赤い液体の中に澱んでいる茶葉のようなところにいる模様。

 

「行くよ! フォンテーヌ!!」

 

「ええ!!」

 

スパークルとフォンテーヌはお互いに頷き合うと、ヒーリングステッキに光のエレメントボトル、水のエレメントボトルをそれぞれはめ込む。

 

「「エレメントチャージ!!」」

 

そう言いながら光るステッキの先をハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「「ヒーリングゲージ上昇!!」」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングストリーム!!」

 

「プリキュア!ヒーリングフラッシュ!!」

 

フォンテーヌとスパークルはそう叫びながら、ステッキをメガビョーゲンに向けて、青色の光線と黄色の光線を同時に放つ。光線は螺旋状になって混ざっていった後、メガビョーゲンに直撃した。

 

その光線はメガビョーゲンの中に入ると、螺旋状のエネルギーは手へと変化して、4本の手が葉っぱのエレメントさんを優しく包み込む。

 

水型状に、菱形状にメガビョーゲンを貫きながら、光線はエレメントさんを外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「「「お大事に」」」」

 

葉っぱのエレメントさんは、ティーポットのお茶の中へと戻り、そのメガビョーゲンが蝕んだ箇所が元に戻っていく。

 

「あーあ、うまくいきそうだったのに・・・あとはヘバリーヌに任せるか・・・」

 

ダルイゼンはそう呟くとその場から姿を消した。

 

「早く! のどかの元に!!」

 

「うん!!」

 

フォンテーヌとスパークルは、ラビリンの声がした方へと走っていく。そこには隠れることができそうな茂みが見えてきた。

 

「いたわ! あそこ!!」

 

「メガビョーゲンもいたペエ!!」

 

フォンテーヌは茂みの奥にのどかの姿が見えるのを確認した。しかし、その隣にはヘバリーヌも一緒にいて・・・。

 

「ああ・・・!?」

 

スパークルは異様な光景に驚いたような表情を浮かべる。のどかを見つけた、そこまではいい。ただ落ち着いていられないのは彼女がどのようになっている、ということだった・・・。

 

「ねえ~、何で我慢なんかしてるの~? 吐いて楽になっちゃいなよぉ~♪ 病気は辛いかもしれないけど、やがて気持ちよくなるよぉ~♪」

 

「んんっ・・・ん、んんんぅ・・・!!」

 

ヘバリーヌがのどかの横で不満そうな声を漏らしながらも、催促するような猫なで声を出す。声をかけられている彼女からは苦しそうな呻き声が漏れる。

 

その光景とは・・・のどかがシャボン玉の中に閉じ込められていて、その中には赤い霧のようなものが充満していて、彼女は吸い込まないように両手で鼻と口を押さえながら、必死で息を止めている様子だった。

 

結構長い間、止めていたのか彼女の頬は少し赤くなっていて、額に汗が滲んでいた。

 

「のどか!!」

 

「のどかっち!!」

 

叫ぶフォンテーヌとスパークル。そんな声にヘバリーヌは気づいて振り向く。

 

「青と黄色のプリキュアちゃんたち、やっと来たんだ~♪」

 

ヘバリーヌは彼女らを見るなり、嬉しそうな笑顔を浮かべる。

 

「ねえ、見て見て~♪ このプリキュアちゃんを気分良くしてあげるために、この中で私にとって快適な環境を作ってあげたんだよぉ~♪ でもこの娘、気分良くするのを我慢してるの~。なんでかなぁ~? 苦しいのを感じ続ければ、気持ち良くなるのにぃ~♪」

 

ヘバリーヌはのどかが包まれているシャボン玉を指で優しく撫でながら明るい声で言う。

 

「んんんぅ・・・んんっ、んんんん!!!」

 

その中で苦しそうに呻き声を上げるのどか。もう息を止めるのも辛くなってきているようだ。

 

「何、言ってんのよ!! 病気になんかなったって気持ちいいわけないじゃない!!」

 

「そうだよ!! 病気になったらずっと苦しいし!!」

 

フォンテーヌとスパークルは辛そうな表情で反論する。自分たちはドクルンとイタイノンにそれぞれ病気を植え付けられて、苦しい思いをしたからわかる。あれは、病気は、限界を迎えても決して気分が良くなるわけがなく、ただ苦しいだけだと。気持ちよさなんかどこにもないと。

 

「えぇ~? 気持ちいいよ~♪ ヘバリーヌちゃんはそうだったも~ん♪」

 

ヘバリーヌはあの時の自分を思い出して快感に浸りながら言う。

 

「くっ・・・全然話になんない・・・! のどかっち、今助けるから!!」

 

スパークルは話の通じない相手の言葉を交わさず、ステッキから黄色い光線をのどかが包まれているシャボン玉に目掛けて放つ。

 

しかし、その光線はヘバリーヌが足でミドルキックを放って真っ二つにし、光線を分散させて当たらないようにする。

 

「もぉ~、邪魔しないでよぉ~! せっかくいい気分にしてあげようとしてるのにぃ~!!」

 

ヘバリーヌは顔を膨らませながら、不満そうな声を漏らす。

 

「ああ~! もしかして、羨ましいんだぁ~?」

 

かと思えば、彼女はからかうような妖艶な微笑みを浮かべながらそう言った。

 

「そんなわけないし!! 苦しむ友達を助けようとしただけ!!」

 

「ふざけるのもいい加減にして!! 私たちは今のあなたとは違うんだから!!」

 

「いいよいいよぉ~! そんな風に誤魔化さなくても♪ すぐに青と黄色のプリキュアちゃんも気持ちよくしてあげる~♪ メガビョーゲ~ン!!」

 

二人の怒る声も聞かずにヘバリーヌは勝手な解釈をすると、自身のメガビョーゲンを大声で呼ぶ。

 

「メガァ・・・!!」

 

「あの二人も気持ちよくしてあげてぇ~♪」

 

「メガビョーゲン・・・!!」

 

メガビョーゲンはプリキュア二人に指をさすヘバリーヌに指示され、両腕のストローを構える。

 

プリキュアの二人は、のどかを助け出すべくメガビョーゲンに挑んでいくのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第42話「相棒」

前回の続きです。
ヘバリーヌの出撃の結末は・・・?


 

「いっちゃってぇ~、メガビョーゲン!!」

 

「メガビョーゲン・・・!!」

 

ヘバリーヌに指示されたメガビョーゲンは両腕のストローから小さなシャボン玉を数個、噴射する。

 

「「ぷにシールド!!」」

 

対処法がわかっているフォンテーヌとスパークルは、肉球型のシールドを張って備える。小さなシャボン玉は二人へと飛んでいくと、その場で割れて中規模な爆発を起こす。

 

「くっ・・・!!」

 

「うぅぅ・・・ねえ・・・さっきと爆発が強くなってない・・・?」

 

フォンテーヌとスパークルは先ほどとは大きくなった爆発に辛そうな表情をする。

 

「メガビョーゲンが大きくなったせいだニャ!」

 

「そういえば、少し大きくなってる気がするわ・・・!!」

 

それでもなんとか爆発を耐え抜くと、フォンテーヌはぷにシールドを解除して、スパークルのぷにシールドをトランポリンのように使って飛び上がる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「メ、ガァ・・・!?」

 

メガビョーゲンに向かって飛び蹴りを繰り出して吹き飛ばす。

 

「メ、ガ、ハァ・・・!!」

 

しかし、メガビョーゲンも負けじと空中で踏ん張り、その勢いで頭の上についている輪っかのようなものを地面に着地したフォンテーヌへと振り下ろす。

 

「えっ・・・?」

 

「攻撃、じゃないペエ・・・?」

 

フォンテーヌは一瞬きょとんとした。輪っかを振るっての攻撃かと思いきや、メガビョーゲンは輪っかの中にフォンテーヌを入れるかのように、輪っかを地面に叩きつけたのだ。

 

しかし、それは明らかな油断だった・・・。

 

「メガビョーゲン・・・!!」

 

メガビョーゲンは輪っかを上へと振り上げる。すると、フォンテーヌを長いシャボン玉が包んだ。

 

「!! いけないペエ・・・!!」

 

「ああ・・・!?」

 

フォンテーヌとペギタンは怪物の思惑に気づくも、時すでに遅し。長いシャボン玉は割れたかと思うと・・・。

 

ドォォォォォォォォン!!!

 

「きゃあぁぁぁ!!!」

 

凄まじい爆発を起こし、フォンテーヌは数メートル吹き飛ばされた。

 

「フォンテーヌ!!」

 

仲間が吹き飛ばされたことにスパークルは顔を顰めながらも飛び上がる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「メガ・・・!!」

 

スパークルはメガビョーゲンに向かってパンチを繰り出すも、メガビョーゲンは腕のストローで防ぐ。さらにもう一方のストローを合わせて、スパークルの前で大きなシャボン玉を作り出す。

 

「うぇぇ!? ああ!!」

 

スパークルは大きくなるシャボン玉が迫ってくることに驚くも、シャボン玉の中に入れられてしまう。

 

「メガビョー・・・ゲン・・・!!」

 

メガビョーゲンはそのままそのシャボン玉を空へと噴射した。

 

「うわぁぁぁぁ!? あぁぁぁ!!」

 

シャボン玉ごと吹き飛ばされるスパークル。当然、シャボン玉も破裂して爆発が起こり、スパークルは地面へと落とされる。

 

「うぅぅぅ・・・つ、強い・・・!」

 

「あのメガビョーゲン、やっぱり強いわね・・・」

 

フォンテーヌとスパークルは少しボロボロになりながらも立ち上がる。やはりキングビョーゲンの娘のメガビョーゲンはタチが悪い・・・。

 

「メガビョーゲン・・・!!」

 

メガビョーゲンは両腕のストローから再び、無数の小さなシャボン玉を噴射していく。

 

ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!

 

「「あぁぁっ!!!」」

 

シャボン玉が二人の近くで弾けて、爆発を起こす。そのまま断続的に爆発を起こして、どんどん大規模なものになっていく。

 

しかし、その爆発の煙から二人は飛び出していき、メガビョーゲンへと向かっていく。

 

「メガ・・・!?」

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

「メ・・・ガ・・・!?」

 

メガビョーゲンは両腕のストローを二人に向けてシャボン玉を大きく膨らませようとするも、発射する寸前で二人は両腕のストローの上へと飛び蹴りを放ち、二本のストローを叩きつける。

 

「「はぁ!!」」

 

「メガァ・・・!?」

 

そして、二人は同時にステッキから水色、黄色のエネルギー弾をそれぞれチャージしてメガビョーゲンに向かって放つ。メガビョーゲンの顔面に直撃して怯み、その隙に二人は両腕から離れる。

 

「メ、ガ・・・メガァ・・・!?」

 

ドォォォォォォォォン!!!

 

メガビョーゲンが呻いている間に両腕のストローから膨らませている途中のシャボン玉が出てしまい、怪物は割れたシャボン玉の爆発に巻き込まれた。

 

「メガビョーゲン・・・!!」

 

しかし、メガビョーゲンはあっさりと煙を振り払って、まだまだ元気そうな声を上げる。

 

「っ・・・!!」

 

フォンテーヌとスパークルはステッキを構えて戦闘態勢になる。これはグレースがいない以上、また長丁場になりそうな予感がする。

 

「メーガー、ビョーゲン・・・!!」

 

メガビョーゲンは両腕のストローを合わせて大きなシャボン玉を作ると、それを二人に目掛けて撃ち放った。シャボン玉はこれまでとは違い、まるで弾のようなスピードで二人へと迫っていく。

 

ドガァァァァァァァァァン!!!!

 

「「きゃあぁ!!!」」

 

これまでとは比べ物にならないほどの凄まじい爆発が襲い、二人は吹き飛ばされる。

 

「くっ、うぅぅ・・・!!」

 

「うぅぅぅぅ・・・!!」

 

「メガー・・・!!」

 

「あぁぁぁ!?」

 

「ビョーゲン・・・!!」

 

「きゃあぁぁぁ!?」

 

二人はボロボロになりながらも立ち上がるが、メガビョーゲンはそんなプリキュアをあしらうかのように両腕のストローを振るって殴り飛ばす。

 

地面へと転がる二人。そこへメガビョーゲンは追い打ちをかけるように両腕のストローから小さなシャボン玉を数個噴射する。

 

ドォン!!ドォン!!ドォン!!ドォン!!

 

「「あぁぁぁぁ!!」」

 

シャボン玉は中規模の爆発を起こして、二人はそれに巻き込まれる。

 

一つ前のメガビョーゲンとの戦闘による疲労が完全に見えており、さらにはシャボンによる攻撃でダメージが蓄積していて、二人は明らかに動きにキレがなくなっていた。

 

「いいよいいよ~♪ もっと気持ち良くしてあげてぇ~♪」

 

ヘバリーヌは戦闘を見ながら、甘い声を漏らす。

 

「ああ・・・このままじゃ、二人が・・・!!」

 

その様子を見ていたラビリンが危機を感じ、ラテの下から這い出るとシャボン玉に閉じ込められているのどかへと飛んで近づく。

 

「んんんっ・・・んんんぅぅ・・・ふぐぅぅぅ・・・!!」

 

のどかはいまだに息を止めているも、表情は苦痛に歪んでおり、顔が少し息の止めすぎで赤くなっている。

 

「んぐぅぅぅ・・・!!」

 

そして、とうとう彼女は膝をついてしまった。

 

「のどかぁ・・・!!」

 

苦しそうにしているのどかを見て、泣きそうな顔になるラビリン。

 

ラビリンのせいでこうなったんだ・・・ラビリンが素直にあの人形が好きだって言えばよかったのに、素直になれなくて、そのせいでのどかと喧嘩をして、のどかはプリキュアに変身できなくなり、こうしてメガビョーゲンの手で苦しい目に遭わされている。

 

早く助けて、仲直りをしないと・・・!!

 

「のどか・・・ごめんなさいラビ・・・!! 今、助けるラビ・・・!!」

 

ラビリンはそう言ってシャボン玉を叩いて割ろうとするも、彼女が非力なのかそれともこのシャボン玉の弾力が原因なのか破ることができない。

 

「やあぁぁぁぁぁ!!! あぁぁぁぁ!?」

 

ならばと遠くから体当たりをして打ち破ろうとするが、弾力に跳ね返されてしまい、逆に自分が飛ばされてしまう。

 

「うぅ・・・やあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ラビリンは立ち上がって、再度体当たりを試みるも結果は変わらずに弾力に跳ね飛ばされてしまう。

 

「あぁぁぁぁぁ!!」

 

ラビリンは地面へと転がるも、あきらめずにシャボン玉に体当たりを繰り返す。しかし、それでもシャボン玉は割れることはない。

 

その後も、ラビリンは何度も体当たりを続けるも、シャボン玉は微動だにすらせず、自身の体がボロボロになっていくだけだ。

 

「ぐ・・・うぅぅぅぅ・・・!!」

 

ボロボロになりながらも、立ち上がろうとするラビリン。

 

「!? あぁぁぁぁ!?」

 

ふとその体が誰かに摘み上げられる。

 

「ウサちゃん、何やってるのぉ~?」

 

ラビリンを捕まえた張本人であるヘバリーヌが、彼女に妖艶な微笑みを貼り付けた顔を近づける。

 

「は、離すラビ!! のどかが!! のどかがぁ!!」

 

ヘバリーヌに掴まれている手から逃れようとジタバタするラビリン。

 

「プリキュアちゃんのこと~? まだ我慢してるけど~、心配しなくてもそのうち気持ちよくなるよ~♪」

 

ヘバリーヌの明るく甘い声。自分もその状況を楽しんでいるかのような口調だ。

 

どうやらこのプリキュアちゃんは息を止めて病気の靄から逃れようとしているらしいが、このシャボン玉が壊れない限りはその靄から永遠に逃れることはできない。しかも、人間は息を長い間、止めることもできないということはわかっている。病気に冒されて気持ちよくなるのももうすぐだろう。

 

まあ、このまま息が止まって、窒息するっていうプレイも悪くないけどね・・・♪

 

「んんんぅ・・・んぐぅぅ・・・くっ・・・」

 

(く、苦し・・・!)

 

「んんん・・・んんんぅ!! んぶぅぅ・・・!!」

 

のどかの顔は苦痛に歪んでいて、体がピクピクと震え始めた。

 

「くぅぅぅ・・・うぅぅぅぅ・・・!!!」

 

「もぉ~、まだ暴れてるの~? 大丈夫だよぉ~、みんないい気分になれるしぃ♪」

 

ジタバタ暴れているラビリンに、ヘバリーヌは不満そうな声を漏らしつつも、明るい笑顔になりながら話す。

 

ドガァァァァァァァァァァン!!!!

 

「ほら~、あっちもぉ♪」

 

「!? フォンテーヌ! スパークル!!」

 

ヘバリーヌが向く方向にはメガビョーゲンの攻撃でボロボロになり、それでも体をガクガクと震わせながら立ち上がろうとするフォンテーヌとスパークルの姿があった。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

すでに息を切らしていて、体力も限界を迎えているようだった。それでも二人は立ち上がってメガビョーゲンを止めようとしていた。

 

「メーガー、ビョーゲン・・・!!」

 

そんな彼女たちを嘲笑うように、メガビョーゲンは両腕のストローを合わせて大きなシャボン玉を作り出す。また爆弾なのかと思いきや、シャボン玉の中に赤い靄を注ぎ、それをスパークルに目掛けて放った。

 

「!? きゃあ!!」

 

シャボン玉はスパークルに命中し、吹き飛ばされたかと思うとシャボン玉はボールのように弾んでいき、地面へと着地する。スパークルはシャボン玉の中に閉じ込められてしまった。

 

「スパークル!!」

 

「うぅぅ・・・あ・・・!?」

 

スパークルは立ち上がってシャボン玉に触れる。中から出ようと拳を振るうも、弾力があって、スパークルの拳を防いでしまう。

 

ならばとステッキから光線を放つも、シャボン玉は全く貫通しておらず、光線が吸収されていくだけだ。

 

「わ、割れない・・・!?」

 

動揺するスパークル。しかも、悪いことが・・・。

 

「うっ・・・ゲホゲホッ・・・な、何、これ・・・ゲホゲホゲホッ・・・!!」

 

スパークルは息が詰まり、両手で口を抑えて咳き込み始める。どうやら赤い靄を吸い込んでしまった模様。

 

「ぐっ・・・ぅぅぅ・・・!!」

 

「スパークル、大丈夫か!?」

 

スパークルは突然、膝をつき始める。赤い靄のせいなのか、この中に空気が入っていないのか、体から力が抜けていくような感覚に陥る。

 

「待って! 今、助けーーー」

 

「メーガー、ビョーゲン・・・!!」

 

スパークルの危機にフォンテーヌは駆けつけて助けようとするも、メガビョーゲンが同じようなシャボン玉を作って彼女に放った。

 

「!?」

 

「メガビョーゲン・・・!!」

 

「あぁぁぁ!!?」

 

フォンテーヌはそれに気づいて飛び上がってかわすも、メガビョーゲンはそれを狙っていたかのようにフォンテーヌのところへと飛ぶと腕のストローを振るった。

 

「きゃあぁぁぁ!!」

 

フォンテーヌはそのままシャボン玉に衝突して中へと入ってしまい、それごと地面へと衝突した。

 

「ああ・・・!!??」

 

ラビリンはこの状況に絶句する。プリキュア3人、メガビョーゲンの手によってシャボン玉の中に閉じ込められてしまったのだ。

 

「ンフフ~♪ あっちも終わったみたいだねぇ~♪」

 

ヘバリーヌはメガビョーゲンがプリキュア2人を仕留めたことに対し、妖艶な微笑みを見せる。

 

「これでみーんな気持ちよくなれるねぇ~♪ プリキュアちゃんたちが病気になって~、ハーブ園の店長さんも病気になって~、このハーブ園が病気になって~、地球ちゃんが病気になって~、みんなみーんないい気分♪ みんな気持ちよくなって~、みーんないい気分になれれば~、みーんな幸せだもんね~♪」

 

ヘバリーヌは手を広げながら、心底幸せそうな顔をする。その様子は周辺が病気になっているこの状況では、もはや狂っているとしか言いようがなかった。

 

そして、のどかはもはや顔はリンゴのように真っ赤になっており、体もプルプルと痙攣するように震わせている。

 

「んんんんんんっ・・・んんんぅぅぅ・・・」

 

(もう・・・ダメ・・・)

 

「ぷはぁっ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

顔を捩らせながら必死で息を止めていたが、限界を迎えてとうとう息を吐き出してしまった。息を吐き出したということは、当然息を吸い込むことになる。

 

「はぁ・・・あぁっ・・・あ・・・」

 

赤い靄を吸い込んだのどかの体の中に澱んだ何かが入っていき、のどかはそのまま地面へと倒れ伏してしまった。彼女の体を赤い病気が蝕み始めた。

 

「あぁ♪ やっと受け入れる気になったんだねぇ~♪ もうすぐ気持ちよくなれるよ~♪」

 

ヘバリーヌはそんなのどかを見て、年頃の少女のような顔で瞳をキラキラとさせる。

 

「のどかぁ!! うぅぅぅぅ・・・ふぅぅぅぅぅぅぅん、うぅぅぅぅぅぅん!!!」

 

自分のパートナーが倒れたことに叫ぶラビリンは、彼女を助けに行こうと体をジタバタとさせる。

 

このままでは病気に蝕まれて、彼女が死んでしまう・・・!!

 

ラビリンの頭の中には彼女との喧嘩よりも、のどかを助け出したいという思いしかなかった。

 

「なぁ~に~、また暴れたりなんかして~?」

 

ヘバリーヌは手で掴んでいるラビリンを見て不満そうな声を漏らす。そんな様子を見つめていると、「ああ!」と表情を明るくさせる。

 

「ウサちゃんも気持ちよくなりたいんだね~? 早く言ってくれればいいのに~♪」

 

ヘバリーヌは少女のような明るい声で言うと、のどかが閉じ込められているシャボン玉の近くへと移動する。

 

「プリキュアちゃんのこと気にしてるみたいだから、ここに入れてあげる~♪ これで寂しくないでしょ~?」

 

「ああ・・・!?」

 

ヘバリーヌはそう言ってラビリンをシャボン玉の中に入れた。ラビリンは掴まれた手を離されたことで、地面へと落ちる。

 

「これで、みーんな幸せになれるねぇ~♪ ンフフフフ~♪」

 

ヘバリーヌは手に口を当てながら、嬉しそうに笑う。

 

「メガビョーゲン、ここ一帯を蝕んで~、気持ちよ~くしてあげてぇ♪」

 

「メガビョーゲン・・・!!」

 

メガビョーゲンはヘバリーヌに指示されると、頭の上のストローからシャボン玉を噴射する。ラベンダー畑へと飛んでいって割れて爆発を起こし、元に戻っていたラベンダーが再び病気へと蝕まれる。

 

「あぁん♪ いいねぇ~♪」

 

ヘバリーヌは自分の肩を抱きながら、悶え始めた。

 

痛みと苦しさに快感を覚える幹部は、すでにプリキュアを打ち負かしているのであるが、本人は倒すという自覚はなく、自分の趣味に夢中になっていた。

 

「んっ・・・んんぅ・・・んんんんんんー・・・!!!!」

 

フォンテーヌは赤い靄を吸い込まないように鼻と口を押さえているも、その表情は苦しそうだった。

 

「うぅぅ・・・ぅぅぅぅ・・・」

 

スパークルは地面に倒れ伏して、意識を失いそうになっていた。

 

「うぅぅ・・・ケホケホ・・・苦しいラビ・・・!」

 

のどかと同じシャボン玉の中に入れられたラビリンは咳き込みながら苦しんでいた。

 

「うぅぅぅ・・・!!」

 

「あ・・・のどかぁ・・・!」

 

ラビリンはのどかの呻く声に気づくと、苦しさも忘れて彼女に近寄る。

 

「のどかぁ・・・しっかりするラビ・・・!!」

 

「うぅぅ、あ、ラ、ラビ、リン・・・?」

 

ラビリンはのどかの体を揺すって声をかける。のどかはラビリンに気づくと顔を起こして、弱々しい声を漏らす。

 

「来ちゃった、の・・・? せっかく、逃がした、のに・・・」

 

「のどかを放って逃げられるわけないラビ!!」

 

ラビリンは瞳をうるうるとさせながら叫ぶ。

 

「うぅ・・・ケホケホ・・・!」

 

「ケホケホ・・・!」

 

その後は話が続かず、ラビリンとのどかの咳き込む音が聞こえてくるだけ。

 

苦しい・・・体が少しずつ侵されていくような感覚がする。やはり、赤い靄の中で健康的な人間は生きていられないのだ。

 

でも、プリキュアになれない私にはどうすることもできない。ますますラビリンは落ち込んでいく。

 

「ケホケホ・・・ラビ、リン・・・」

 

「?」

 

ふとのどかがラビリンに声をかける。俯いて病気に蝕まれるのを待つしかないラビリンは気づいて彼女の方へと振り向く。

 

「ごめん、ね・・・」

 

「!!」

 

のどかの口から聞こえたのは、謝罪の言葉だった。

 

「・・・なんで、のどかが、謝るラビ・・・?」

 

「ラビ、リンの気持ち、わかって、なくて・・・人形、嫌だった、んだよね・・・? 私が、変なこと、しちゃった・・・から・・・」

 

のどかはラビリンの気持ちもよく考えずにおせっかいをしたことを謝りたかった。自分は余計なことをしたと思った。それでラビリンはあんなに怒ったんだと思ったのだ。

 

「のどかは・・・何も、悪くないラビ・・・」

 

ラビリンは耳を垂らしながら、瞳をうるうるとさせながら言う。

 

「言ってもないのに・・・勝手にわかってもらった気になって・・・一人で勝手にムカッとしたラビリンが悪いラビ・・・」

 

「ラビ、リン・・・」

 

ラビリンの声は泣きそうな声になっていた。それは自分から打ち明けることができなかった本音だった。全ては素直になれなかった自分に非があると・・・。

 

「なのに、のどかに謝らせちゃって・・・ゴメンなさいラビ・・・!!」

 

ラビリンは泣きそうな顔で、のどかの顔を見ながら言った。

 

「のどかは、もうラビリンのことを嫌いになったのかと思うと、すごく言えなくて苦しかったラビ・・・!!!」

 

ラビリンの目から涙がポロポロとこぼれてくる。拭いても拭いても涙が止まらない。

 

「私も、だよ・・・喧嘩したとき、よりも・・・そのあとのずっと、一人で、悩んで、た、夜、のほうが辛く、て、嫌だった、よ・・・」

 

のどかも涙もこぼしながら、ラビリンに言った。お互い苦しかったのだ。喧嘩をして二度と口をきいてくれない。もうあのときの仲には戻れないんじゃないかと思った。

 

「のどかぁ・・・」

 

「ケホケホ・・・嫌い、になんか、ならない、よ・・・私、ラビ、リンと、ともだち、やめたく、ない・・・もっと一緒、に・・・仲良く・・・したい・・・!!」

 

「そんなの・・・ケホケホ・・・ラビリンも、一緒に決まってるラビ・・・!!!!」

 

二人は苦しそうにしながらも、ようやく笑顔を見せる。

 

そうだ、私たちはこれからも友達だ。ずっとずっと、友達。

 

のどかは倒れ伏したままだったが、気力を振り絞ってラビリンへと手を伸ばす。

 

ラビリンはそんな彼女に答えるように、彼女の近くに行って小さな手を伸ばす。

 

パァァァァァァァァァァァァ・・・!!!!

 

手を交わした時、暖かい光が二人を包み込んだ。

 

「ええ~? なになに~?」

 

ヘバリーヌは突然、光が出現したことに明るい声ながらも驚く。

 

「んんん・・・? のど、か・・・?」

 

「のどか、っち・・・」

 

その光はシャボン玉の中の赤い靄に苦しめられているフォンテーヌとスパークルにも見えたようで、安心したような表情になる。

 

そう、あれはのどかとラビリンが仲直りをした証であると・・・。

 

「スタート!!」

 

「プリキュア、オペレーション!!」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

 

「キュアタッチ!!」

 

ラビリンがステッキの中に入ると、のどかは花のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

そして、肉球にタッチすると、花をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンクを基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もイメージをしたようなものへと変わり、ピンク色へと変化する。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身したのであった。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

変身するなりグレースはメガビョーゲンへと飛ぶ。

 

「はぁぁ!!!」

 

「メ、ガァ・・・!!」

 

グレースはメガビョーゲンの胴体に飛び蹴りを食らわせ、メガビョーゲンを地面に叩き落とす。

 

「グレース!二人を助けるラビ!!」

 

「うん!! 実りのエレメント!!」

 

その隙にフォンテーヌとスパークルを助けるために、実りのエレメントボトルをはめ込む。ヒーリングステッキの先に光の刃を出現させる。

 

「ふっ!はぁ!!」

 

光の刃を二人が包まれているシャボン玉へと斬撃として振るう。命中してシャボン玉が割れ、二人は赤い靄の中から開放された。

 

「ぷはぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「うっ・・・うぅぅぅ・・・」

 

フォンテーヌはようやく息を吐いて呼吸を落ち着かせ、スパークルは懸命に立ち上がる。

 

「二人とも大丈夫!?」

 

「はぁ・・・えぇ・・・」

 

「ありがとう、グレース・・・」

 

「えへへへ・・・」

 

グレースはドジっ子のように舌を出して笑い、二人も笑顔になる。

 

「もぉ~! 何、3人だけで楽しそうなの~!? ずるいずるい~!! ヘバリーヌちゃんも入れて~!!」

 

「メーガー、ビョーゲン・・・!!」

 

ヘバリーヌちゃんが不満も漏らしつつも、羨ましそうな声を出す。それと同時にメガビョーゲンが再び起き上がり、両腕のストローを合わせて大きく膨らませたシャボン玉を放つ。

 

玉のようなスピードで向かってくるシャボン玉を、3人はジャンプして避ける。

 

「メーガー・・・」

 

メガビョーゲンは飛び上がったグレースに向かって、小さなシャボン玉を噴射する。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

グレースはヒーリングステッキから光線を放ち、シャボン玉が到達する前に爆発させる。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

そこへ煙の中からフォンテーヌとスパークルが飛び出し、メガビョーゲンの両腕のストローを同時に蹴り上げる。

 

「メ、ガァ・・・!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ビョーゲン・・・!?」

 

両腕を蹴られてよろけるメガビョーゲン。さらにグレースが体を回転させながら、メガビョーゲンの顔面に飛び蹴りを食らわせて、再度地面に叩き落とす。

 

キュン!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

グレースは地面へと着地すると、肉球にタッチしてステッキをメガビョーゲンに向ける。

 

ラビリンの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを見つける。

 

「泡のエレメントさん、見つけたラビ!!」

 

エレメントさんはメガビョーゲンの右腕のストローのところにいた。

 

「みんな!!」

 

「ええ!!」

 

「OK!!」

 

3人はそれを合図に体が発光し、ミラクルヒーリングボトルをステッキにセットする。

 

「「「トリプルハートチャージ!!」」」

 

「「届け!」」

 

「「癒しの!」」

 

「「パワー!」」

 

グレース、フォンテーヌ、スパークルの順で肉球にタッチしていき、ステッキを上に掲げる。すると、花畑が広がっていき、背後には自然豊かな森が広がっていく。

 

さらにプリキュア3人の背後に、紫色のコスプレ姿をした女神の姿が映し出されていく。

 

「「「プリキュア! ヒーリング・オアシス!!」」」

 

3人は一斉にメガビョーゲンへとステッキを構え、ピンク・青・黄色の3色の光線が螺旋状になって放たれる。螺旋状の光線は混ざり合いながら一直線にメガビョーゲンに直撃する。

 

螺旋状になった光線はそれぞれの色の手へと変化して、3本の手が泡のエレメントさんを優しく包み込んでいく。

 

3色に光るハート状にメガビョーゲンを貫きながら、光線はエレメントさんをメガビョーゲンから外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンたちは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「「「「「お大事に」」」」」」

 

泡のエレメントさんは赤い容器の中に戻ると、病気に蝕まれた箇所は元に戻っていく。そして、ハーブ店の店長の中にあった赤い病気も消えた。

 

「ぶぅ~! せっかくいい気分だったのに~!!・・・でもぉ~、気持ちよかったぁ~!!!!」

 

ヘバリーヌは不満そう表情を浮かべた後、手を頬に当てて満面の笑顔を浮かべてそう言うとその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふんふんふふ~ん♪」

 

ヘバリーヌは廃病院の中をルンルンと明るい気分で歩いていた。

 

病気で蝕んで、地球や人を気持ちよくするのはやっぱり楽しい。あの子たちも楽しめるし、ヘバリーヌちゃんも楽しい。でも、ぬいぐるみ集めも、少しはよかったからたまにはやってもいいかも。

 

「ふわぁ~、よく寝たぁ。寝すぎちゃった気がするけど、爽やかな気分だねぇ」

 

そこへクルシーナが両腕を上に伸ばしながら、自分の自室へと向かっていくのが見えた。

 

「あ、クルシーナお姉ちゃん!!」

 

ヘバリーヌは姿を見ると否や、彼女の体に抱きつく。

 

「あっ・・・ヘバリーヌ?」

 

いきなり新人の幹部に抱きつかれて、きょとんとしたような顔になるクルシーナ。

 

「ヘバリーヌちゃん、初めて一人で出撃したの~♪ 自分が不快だなぁって思うところを病気で蝕めて、気持ちよくして、すっごく楽しかったよぉ~♪」

 

ヘバリーヌは体を抱きながら、瞳をキラキラと輝かせていた。サソリの尻尾をフリフリさせて、まるで子犬のようにご機嫌だ。

 

「そう、よかったわね・・・」

 

「あ・・・・・・」

 

クルシーナは微笑を浮かべながら、ヘバリーヌの頭を撫でる。

 

ヘバリーヌは突然、クルシーナが行った行動に頬が赤くなる。いつもはお姉ちゃんにはお仕置きしかもらっていないはずなのに、今日はやけに優しい。

 

「これからもその調子で頼むわよ」

 

クルシーナはそう言うとぼーっとしているヘバリーヌの体を優しく引き剥がして、自室の方向へと歩いていく。

 

ヘバリーヌはクルシーナの後ろ姿を見つめながら、ぼーっとしていた。ふと頭に手を当てて、その掌を見つめる。

 

今、ヘバリーヌちゃんはお姉ちゃんに撫でられて嬉しいって感じた・・・これも嬉しいってことなのかな・・・?

 

その嬉しいって気持ちに不快な気持ちは感じない。じゃあ、これはヘバリーヌちゃんが心の底から嬉しいって思っていることなんだぁ・・・。

 

ヘバリーヌはそう感じると、少女のような赤らめた顔で嬉しそうな表情を浮かべる。それはいつもの痛みや苦しさで感じる気持ちよさとは違う、穏やかな感情だった。

 

「フフフ・・・♪」

 

ヘバリーヌは女の子のような笑い声を漏らすと、嬉しそうにルンルンと歩きながら自分の自室へと戻って行った。

 

一方、自室のドアを開けたクルシーナは・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

「ウツウツ~」

 

紫色の奇妙なぬいぐるみがベッドの上に置かれているのを見て、目を丸くする。

 

「ウツバット」

 

「ウツゥ!? ク、クルシーナ!? 起きてたウツ!?」

 

「・・・何、そのダッサい人形?」

 

「ダ、ダサくないウツ!! これは僕が一目惚れをしたラベンだるまちゃんウツ!!」

 

「へぇ・・・・・・?」

 

クルシーナはそれだけ聞くと、スタスタとベッドへと近づいてそのぬいぐるみを掴み上げた後、廃病院の窓から放り投げた。

 

「ああ!? 何するウツ!?」

 

「アタシの部屋にそんなセンスのないぬいぐるみを置かないでくれる? バカにされんでしょうが!」

 

「好きにしろと言ったのはクルシーナウツ!!」

 

クルシーナは反論するウツバットにイライラすると、彼女を掴み上げて左右に引っ張る。

 

「誰がアタシの部屋を好きにしろと言ったんだよ!? 自由にしろとは言ったけど、アタシのプライベートを好きにしろって言った覚えはないんですけど?」

 

「ウツツツツツツツツ!!! ウウシーナはフンナフトヒッテナファッファウフ~!!」

 

「言ってなきゃ何をしてもいいってわけ!? あっそう!! じゃあ、アタシのお仕置きをされても文句はないってことよね・・・!!」

 

「ウ、ウツ? ウツゥ・・・!!??」

 

クルシーナの体から黒いオーラが立ち込めて目が睨むように赤く光ると、ウツバットは一転して体をプルプルとさせ始める。

 

ウツゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!

 

廃病院の外にウツバットの悲鳴が響き渡り、ドカドカ、バキバキという聞こえてはいけない音が聞こえてきた。

 

「おやおや、クルシーナが元気になったようですねぇ」

 

「・・・騒がしいから、もう少し寝てもらった方がマシだったの・・・」

 

「あいつも懲りないヤツだブル・・・」

 

「ウツバットは頭いいのに、なんでおバカネム?」

 

廃病院の外のテラス席に座っていたドクルンとイタイノンたちは、彼女の悲鳴からクルシーナが起きたことを察してこんな言葉をつぶやいていた。

 

そして、最近与えられた自分の自室に戻ったヘバリーヌは・・・・・・。

 

「フフフ・・・お姉ちゃん、だーい好き♪」

 

ベッドに横たわり、どこで手に入れ、どこで作ったのか、クルシーナの顔写真を貼り付けた抱き枕を抱きながら、嬉しそうな笑顔を見せていたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第43話「友達」

原作第16話がベースです。
今回はドクルンに着目なんですが、少し気になる描写も入れているので、合わせてご覧ください。


 

マグマに満たされた世界、ビョーゲンキングダム。そこにはビョーゲンズの幹部たちが珍しく全員集合していたが・・・。

 

「蝕むぜ地球♪ 嗜むぜ卓球♪ キングにサンキュー♪ 和尚なら一休♪ 蝕むために、この星に生まれーーーー」

 

何やらバテテモーダが先輩幹部たちの目の前で、歌と言えるのかわからないようなものを歌っているようで・・・・・・。

 

「・・・ごめん、あれ、何?」

 

「いや、私に聞かれても・・・」

 

「アタシらに聞かないでくれる・・・?」

 

何をやっているか本当によくわからないダルイゼンが振り向いて問うも、シンドイーネは困ったような感じで、クルシーナはイラッとしているのか不機嫌そうな口調で答える。

 

「あれはラップというものですね。ああやって、喋り口調かつ捲し立てて歌いながら、自分の存在を主張するものであるかと・・・」

 

ドクルンが何かの本を見ながら、ラップだということを幹部たちに説明する。

 

「いや、そういうことじゃなくて・・・」

 

「なぜ、ヤツがそれをやってるのかということだ・・・」

 

イタイノンとグアイワルは見当違いの答えが返ってきたことに対して、辟易したような様子で返す。

 

「そんなの私が知るわけがないでしょうに・・・最近、地球にちょくちょく行ってるみたいですから、人間界の変な真似事でも覚えてきたんじゃないですか・・・?」

 

ドクルンがうんざりしたかのような顰めた顔を見せながら二人に返す。事実、本を読むのに集中できておらず、彼女も珍しくイライラしている模様。

 

「はぁ・・・・・・」

 

他の幹部たちの話を諸々聞いたダルイゼン。しかしドクルンの話に特に興味はなく、やかましさしか感じないダルイゼンはため息をつくしかなかった。

 

「それで・・・?」

 

「ん?」

 

「お前はそいつで何やってんの?」

 

ダルイゼンはクルシーナの足元にいるヘバリーヌを見ながら言う。

 

「ああ、ブーツを綺麗に舐めさせてんの。『お姉ちゃんにお仕置きされたい』って言うから」

 

「・・・それ、何か意味あるの?」

 

「アタシがご主人様だっていうのをわからせるためよ。これもプレイだけど」

 

クルシーナは当然のように話すが、ダルイゼンには何一つ理解できない。

 

「・・・それってここでやること?」

 

「こいつが、我慢できない我慢できないってやかましいからやってんの。まあ、目の前にもやかましいヤツが約一名いるけどね」

 

シンドイーネが呆れたように問うと、クルシーナは不機嫌そうな顔をで言ったかと思うと、目の前のラップとやらを歌っている獣人に不機嫌そうな顔を一層顰める。

 

「マイネームイズバテテモーダ♪ レペゼンビョーゲンキングダム♪ プチョヘンザ♪」

 

・・・・・・・・・。

 

バテテモーダは何かをしてもらおうと幹部たちの方を向いているが、幹部たちは拍手をするわけでもなければ、立ち上がることもない。訳が分からず、沈黙しているだけだ。

 

「プチョヘンザ♪」

 

「ッッッ・・・!!」

 

ゲシッ!!!

 

「あぁん♪」

 

クルシーナはイラっとすると、立ち上がってヘバリーヌを蹴飛ばした後、右手からピンク色のオーラを込めて弾にして放った。

 

ドカァン!!!!

 

「どわぁぁぁぁ!!??」

 

ピンク色のオーラはバテテモーダの乗る岩場に着弾しただけだが、バテテモーダはびっくりして岩場の下に隠れる。

 

「やかましいんだよ!!! ヘタクソなもん歌いやがって!! 耳障りだ!!」

 

クルシーナはいつも以上にイラっとした口調で怒鳴る。

 

「ノリ悪いっすね~、先輩方~。人生は一度きりのフェスっすよ~!!」

 

バテテモーダはそういうも、他の幹部たちは・・・・・・。

 

「フェスなら他所でやって、他所で!」

 

「金を払って見る価値もないの」

 

「しっしっ・・・」

 

「つーか、そんなもんにハマる暇があるんだったら、地球を一つでも蝕みに行ってこいよ」

 

全く理解できない幹部たちは冷たくあしらい、クルシーナに至っては仕事をしてこいと言う始末。

 

「ちぇ~・・・」

 

他のみんなと純粋に楽しもうとしたであろうバテテモーダはなんとなくいじけていた。

 

ダンッ!!!!

 

「おい、なんだその態度は・・・?」

 

「うぇぇ!?」

 

ビョーゲンキングダムを揺らすような音が響き、バテテモーダがその音がした方を向くとクルシーナが黒いオーラを出しながら睨みつけるような赤い目を光らせていた。

 

「お前、今不満そうな顔したよな・・・?」

 

「い、いや!! とんでもない!! 自分は先輩方と健全な態度で接したいだけでーーーー」

 

バテテモーダは言い訳をするように弁明するが・・・・・・。

 

「もういいッ!!!! さっさと行ってこいッッッ!!!!!!!」

 

「は、はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」

 

クルシーナに怒鳴られたバテテモーダは逃げるかのように地球へと向かっていった。

 

「・・・・・・・・・」

 

「はぁ~・・・ふんっ!」

 

ものすごい剣幕で怒鳴ったことに幹部たちが呆気にとられているのも気にせず、クルシーナは再び座り込んで息を吐いた後に鼻を鳴らす。

 

「ほら、変態。続きをやれ」

 

「は~い、お姉ちゃ~ん♪」

 

クルシーナはブーツを履いている足をフリフリとさせると、ヘバリーヌは返事をして四つん這いになり始める。

 

「そんなことさせて楽しいのか・・・?」

 

「・・・まあ、優越感には浸れるんじゃない? 女王様気分で相手を見下ろせるから♪」

 

グアイワルが呆れたように見ていると、クルシーナは口元に笑みを浮かべながらウィンクをしながら返した。

 

クルシーナはヘバリーヌの姿を見ていたが、やがて不快な顔をすると・・・・・・。

 

パシン!! パシンッ!!

 

「あぁん♪ うぅん♪」

 

ドゴッ!!!

 

「へぶっ!!!」

 

ブーツの先でヘバリーヌの頬をビンタしたかと思うと、頭を踏みつけて地面に叩きつける。

 

「ほら、そこは舐めただろ! もっと上の部分を舐めろよ!」

 

「は、はい・・・♪ お姉ちゃぁ~ん♪」

 

クルシーナの怒鳴るような言葉に、ヘバリーヌは顔を赤らめながら四つん這いでブーツに顔を近づける。

 

「・・・みっともないわね。それでもこいつ、ビョーゲンズの幹部なわけ?」

 

「喜んでるんだから別にいいんじゃない? なの」

 

シンドイーネが呆れたように言うと、イタイノンは他人事のように言う。

 

「はぁ・・・・・・」

 

ドクルンは見ていられないと言わんばかりにため息をつくと、読んでいる本を閉じて立ち上がり、スタスタと歩いていく。

 

「どこ行くの?」

 

「・・・静かに本を読めるところを探してきます」

 

ドクルンは不快感を隠さずに言うと、そのままその場を歩き去っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・ビョーゲンキングダムも騒がしくなったわね・・・」

 

ぶつぶつとぼやきながら地球へと降り立ったドクルンはとある建物の前に来ていた。看板には「喫茶 純」と書かれている。

 

ドクルンがプライベートで地球に降り立ったときにたまたま見つけた喫茶店である。彼女がなぜか心を落ち着ける場所であり、ここであればゆっくりと本を読むことができる。そういう場所だ。

 

ガチャ

 

あらかじめ人間に擬態したドクルンは緑色のドアを開ける。

 

「! あら、いらっしゃい」

 

「どうも、マスター」

 

ポニーテール姿の店員、おそらくマスターであろう人がドクルンを出迎えてくれた。

 

「また、喧嘩してきたの?」

 

「別にそうではありませんよ。いつものブレンドをお願いします」

 

「了解」

 

ドクルンは冷静な口調でオーダーすると、扉へ入ってすぐ右側の角にある席へと座る。

 

テーブルに本を置いて開くと、左肘を付きながら静かに読み始める。内容は友達を作る100の方法が書かれている本で、そこにはクラス浮かない方法とか、変な人だと思われなくなる方法、自分や相手をもっと知ったほうがいいといったいろんなことが書かれていた。

 

ドクルンにとっては心底どうでもいいことだったのだが、人間の文化を勉強しておくために敢えてこの本もその一つとして選んだだけだ。

 

コーヒーを入れる音、紙をペラペラとめくる音のみが響き、割と静かな空間が維持される。

 

「はい、ブレンドコーヒー」

 

「どうも」

 

ドクルンはソーサラーに置かれたティーカップを持つと、中に入れられたコーヒーを啜る。

 

・・・苦い。美味しいかどうかはわからないが、これがまた良し。コーヒーと誰もいない店の中、これらこそが静かに過ごせる憩いの場所というやつだろう。

 

ドクルンは再び本を手に取ると、静かに本を読み始める。そこからペラペラと紙をめくる音のみが聞こえ、彼女は邪魔されずに完全に一人の時間を満喫していた。

 

しかし、そこへその静かな空間を邪魔するかのように客が入ってきた。

 

「ふわぁ~、綺麗なお店~!」

 

ドクルンは聞こえてきた声に顔をしかめると、背後を振り向く。そこには見覚えのある3人の姿が・・・。

 

「・・・また、あの3人ですか」

 

不快感を隠さずにボソッと呟くと、言いたいことを言おうとする口を黙らせるかのようにコーヒーに手を伸ばして啜る。

 

ドクルンが不快感を示すのはそれもそのはず、店に入ってきたのはマゼンダショートヘア、栗色ツインテール、そして彼女が目をつけている藍色ロングヘアの3人の少女たち。彼女たちは自分たちビョーゲンズの侵略を邪魔する忌々しいプリキュアの3人だからだ。

 

3人は店に入ると、すぐ左の真ん中の4人掛けの席に座り始めた。

 

こんなところに来そうにもない3人が一体何の目的があってこの喫茶店に来るのか。特にコーヒーを飲むような年齢の娘たちでもないし、だからといってくつろぎに来たわけでもなさそうだ。

 

まあ、プリキュアがどうなろうと関係ないですが、騒がしくなりそうで遺憾だ。

 

心の中でため息をつくと、ドクルンは本へと視線を戻してペラペラとめくり始めた。

 

「いらっしゃい。うちには珍しいタイプのお客さんね。ご注文は?」

 

店員が3人組に声をかけているようで、彼女も珍しそうにしている。お客なのだから、対応するのは当然のことだが、あの3人がどのような会話をするのかをとりあえず聞いておくとしましょうか。

 

ドクルンは視線は本に向けたまま、彼女たちの会話を聞くことにする。

 

「キャラメルソイラテお願いしま~す!!」

 

「ごめん、そういうのないんだ」

 

「うぇぇ!? じゃあ、この『レスカ』っていう謎の飲み物を・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

・・・メニューは普通見るでしょうに。当たり前のようにキャラメルソイラテを頼んでるし。

 

私のような常連であれば、普通にコーヒーを頼むが、この娘たちは、あまり喫茶店に来たことがないのだろうか? こういう昔っぽい喫茶店はコーヒーが基本的にあるもの、ソイラテなんてものが置いてあるわけがない。

 

ここでいうレスカとは、レモンスカッシュのこと。昔の人が使っていた言葉で、レモンスカッシュのことをレスカと呼んでいたのだ。

 

そんなことも知らないとは、まだまだ子供ですね・・・・・・。

 

ドクルンは心の中でさらにため息をつくと、コーヒーに手を伸ばす。

 

「お仕事中にすみません。ちょっと伺いたいことがあるんです」

 

「ん?」

 

「ひでおさんとふみさんという方をご存知ありませんか? 50年前にこの店に来てた人たちで、えっと・・・そのときは3人組で」

 

この声は、キュアフォンテーヌの声。店員に何か人のことを聞いているようだが、どうやら昔この店に通っていた人らしい。

 

また、自分が関係のない変なことに首を突っ込んでいるのか。本当に自分のことは疎かにして、他人が困っていればおせっかいをやこうとする。私はそういう人が大嫌いだ。

 

「50年前か・・・それって先代のマスターの時代だし・・・」

 

店員が困ったように声を漏らす。それはそうだ。彼女はどう見ても外見が若く、そんな50年前に生まれているような人間とはとても思えない。そんな時代のことを知っているわけがないのだ。

 

「でも、その二人ならーーーー」

 

ガチャ。

 

「ひでおさん、ふみさん、まいど!」

 

「「「!!」」」

 

しかし、店員がその名前が挙がった人たちは知っているような声を漏らすと、店の扉が開く。ドクルンが視線をちらっと背後へと向けると、入ってきたのは初老の男性と女性の二人。この人たちがひでおとふみなのか。

 

プリキュアたちは何やら事情みたいなことを話し始めると・・・・・・。

 

「彼があの樹の下で私たちを?」

 

「はい!」

 

「てつやに頼まれてきたんだね?」

 

「え? え、えっと・・・」

 

「そ、そこは、まあいろいろと複雑な事情があって・・・へへへ」

 

・・・やっぱりおせっかいをしているらしい、この3人は。反応を見ればわかるが、そのてつやという人間に頼まれたわけでもないだろう。

 

相手の事情も分かっていないのに勝手に入り込んで、勝手に解決をしようとして他人にどれほどの迷惑をかけているのか分かっていないのだろう。

 

「あの・・・・・・大樹まで行ってもらえませんか?」

 

「・・・・・・・・・」

 

マゼンダショートヘアの少女に説得されると、初老の男性ーーーーひでおと初老の女性ーーーーふみは困ったような表情を浮かべる。

 

よく注視して見てみるとこの二人の薬指には指輪がはめられているのが見えた。ドクルンは自分にはどうでもいいことだが、この二人には何か混みいった事情があると察する。

 

「いろいろあってね・・・今になって思えば、ちっぽけなことが原因だった・・・でも、あの頃の私たちにとっては本当に、本当に深刻な問題だったんだ・・・悪いけど、大樹には行けないよ・・・」

 

「!?」

 

「何で!? 大昔のことじゃん!!」

 

「生きるってことは変わっていくことなの・・・今さら顔を合わせても、私たち・・・きっと話すことなんて・・・何もないわ・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

ドクルンはその様子を見つめた後、ため息をつくと残りのコーヒーを全て飲み干し、本をパタンと閉じると席から立ち上がって人間界の小銭をテーブルに置く。

 

「マスター、お金こちらに置いておきます」

 

「あ、まいど!」

 

ドクルンはマスターに一言声をかけると、店を後にする。

 

「ふぅ・・・全くおせっかいな連中共ですね。彼女たちには、それが他人を苦しめるということがわからないんでしょう」

 

「人間というのはわからん生き物だブル」

 

ドクルンは冷静な言葉で、先ほどのプリキュアの3人に侮蔑の言葉を漏らす。

 

あの会話を集約してドクルンなりに解釈をすると、3人がその木の下で会ったというそのてつやという人、先ほどいたひでおとふみの二人は、50年前は友達だったのだ。小耳に挟んだことがあるが、このすこやか市には永遠の大樹と呼ばれる木があるらしい。3人はあの場所で友情を誓い合った友人だったのだ。

 

しかし、ここにてつやがいないとなると、その人と二人は些細なことで喧嘩をして、仲違いをしてしまった。どういう喧嘩かは知る由もないが、薬指に指輪をはめていたことも関係はしているとなると、おそらく恋愛絡みなのだろう。

 

そして、絶縁状態のまま、そのまま一度も会わないまま、50年という時が過ぎて現在に至る。こういったところだろう。

 

まあ、そんな話はどうでもいい。ドクルンには少し気になることがあった。

 

すこやか市の丘に立っているという永遠の大樹、あの3人は50年前にその下で永遠の友情を誓ったらしい。あそこで友情を誓ったものは、永遠に友達でいられるらしいが・・・。

 

「ふっ、喧嘩しているじゃない。それで結局誓ったものたちは会わずにもいる。所詮、噂は噂ね」

 

ドクルンはそんな根拠のかけらもない木を嘲笑う。

 

何が永遠の大樹だ。バカバカしい。森や林と離れているだけの木など、生きる環境が異なっているだけのこと。特別なことなんて一つもない。永遠の誓いなど、破れば終わる約束と同じなのだ。

 

私にも、気になる少女がいたようだが、その少女とは永遠に会えていないままだ。まあ、そんなことはどうでもいい。忘れてしまえ。

 

しかし、単純な興味から少しその木の様子を見てみたいとドクルンはその大樹へと足を運んでいく。

 

街にある建物の風景が減っていき、少しずつ林や森といった自然が見えてくる。山の中へと入っていき、その茂った森を抜けていくと草原が広がる丘が見えてくる。

 

そこに立っていたのは一本の木、のようだが・・・。

 

「これが永遠の大樹? 見る影もないじゃない」

 

それは真ん中から上が折れてなくなった木だった。そもそも木自体も枯れ木とかしていて、生きているという感じがまるでしない。しかも、宿っているあいつを見てみれば、すでに力も弱々しくなっていて、ここでナノビョーゲンを飛ばしてしまえば、数分も経たないうちに命が終わりそうな感じだ。

 

クルシーナであれば喜んでその命を永遠に苦しめに行くだろうが、私には生憎そんな趣味はない。命が終わっていくのを死神のように見届けてやって、あとは忘れていくだけだ。

 

「まあでも、この辺は本読むのには絶好の場所ね。空気が少し澄んでいるのが不愉快だけど」

 

ドクルンはそう言って永遠の大樹の裏側へと歩くと、その地面に座り込んで寄りかかり、本を開くと喫茶店で読めなかった続きを読み始めた。

 

背中越しに枯れ木同然のこの木がトクントクンと音が響くのが伝わってくる。どうやらこんな姿になっても、必死に生きようとしているらしい。そんなこと、ただただ苦しいだけなのに。

 

この木は風の便りでは、近いうちに業者が伐採に来るらしい。しかし、それはいつになるのかは知らない。

 

「早く伐採して終わらせてやればいいのに。人間は残酷だと思いませんか? あなたも変に生かされて・・・」

 

背後の木に呼びかけるかのようにドクルンは言葉を口にする。別に返事が返ってくるわけでもない。しばらく木を見つめた後、彼女は本へと視線を戻す。

 

そこからは何かが起こるわけでもなく、そよ風で草木が揺れる音、紙がペラペラとめくれる音のみが響く。しばらくするとドクルンの口からあくびが漏れ始め、眠気が襲ってくる。

 

そういえば、私たち3人に起こっている謎の頭痛。顔を顰めるほどではないが、ジンジンとするような痛みが起こることもある。そのあとに流れてくる、私のものだと思われる映像。そこに写っている少女は一体誰なのだろうと思う。でも、顔はどことなくキュアフォンテーヌの変身前に似ている気がした。

 

おかしい・・・私は生まれた時からビョーゲンズだったはず。でも、どこかで違和感があって、それを消し去ることができない。そんなこと起こるなんて、全然論理的じゃない。

 

あれは、もしかして・・・だとしたら、私はあの少女とどこかで・・・?

 

ーーーーそんなことでどうなろうともビョーゲンズのクルシーナだ。

 

ーーーーアタシの中に流れてくる映像が、アタシにとって関係があろうがなかろうが、どうでもいいことだ。

 

クルシーナはそう言ってはいたが、あいつも結局はどこかで気になってはいるに決まっている。廃病院の洗面台にいたときも、強がっているような感じはした。

 

私も、そういう風に割り切るべきなのか・・・?

 

そう思っているうちに、ドクルンの首はこくりこくりとし始め、そのまま意識が闇へと落ちていった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザザ・・・ザザザ・・・。

 

「ねえ、ーーーー、今日どこかに遊びに行かない?」

 

「遊びに、ですか?」

 

「ええ、ちょっと買いたいものもあるの。付き合ってよ」

 

「・・・いいですよ、あなたと一緒なら」

 

ザザザ・・・ザザザ・・・。

 

「はい、これ」

 

「これは?」

 

「ミサンガよ。これが買いたかったの」

 

「お揃いで私たちの友達の証、ずっと友達でいたいから」

 

「・・・ありがとうございます。純粋に、嬉しいですよ、ーーーー」

 

「その呼び方、やめない? 友達なんだから、普通でいいわよ」

 

「・・・わかった。嬉しいわ、ーー。これでいい?」

 

ザザザ・・・ザザザ・・・。

 

「この木の下で友情を誓うと、永遠に友達でいられるって噂よ」

 

「それって、本当なの?」

 

「まあ、ただの伝説っていうか噂だけどね。叶わないこともあるみたいだけど・・・」

 

「・・・はっきりしないわね」

 

「でも、私たちの友情も誓っておく?」

 

「えっ?」

 

「だから・・・! 私たちの永遠の友情も誓っておくかって言ってるの」

 

「! ええ! 誓いましょう! かなうかわからないけれど・・・」

 

「でも、せっかく来たんだから、やらないよりはマシでしょ?」

 

ザザザ・・・ザザザ・・・。

 

「ーーー、大丈夫? 倒れそうになったって聞いたわ」

 

「ええ。でも、ちょっとフラついただけ。寝てれば治るわ」

 

「そう。よかった。りんご剥いてあげる」

 

「ありがとう」

 

ザザザ・・・ザザザ・・・。

 

「見舞いに来たわよ」

 

「ーーーー、ありがとう。来てくれて嬉しい」

 

「・・・私、あなたに言わないといけないことがあって」

 

「?」

 

「私、しばらくの間、すこやか市を離れてーーーー」

 

「そんな・・・せっかく心を許せる友達ができたと思ったのに・・・」

 

「何言ってるのよ? 私たちは離れていても友達でしょ?」

 

「・・・そう。そうか。そうだね。いつまでも友達」

 

「また、会いに来てくれる?」

 

「ええ。場所が離れても、私はあなたに会いに行くわ。約束よ」

 

「うん。約束・・・」

 

「じゃあ、もう面会時間終わりだから、またね」

 

待って・・・行かないで・・・お願いだから、行かないで・・・・・・!!!!

 

私を置いて行かないで・・・一人に、しないでよぉ・・・!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!?? はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

ドクルンは目をハッと見開くと、まるで酸素不足になったかのように息を切らす。バクバクとしないはずの心臓がバクバクと警鐘を鳴らす。

 

額に手をやると汗をびっしょりとかいているのがわかる。服の中まで汗が滲んでいて、気持ち悪い。

 

「はぁ・・・はぁ・・・ふぅ・・・」

 

整っていた呼吸をようやく落ち着かせ、右袖で汗を拭ってから周囲を見てみると、すでに辺りは暗くなり始めていた。

 

「あ・・・うっかり、眠ってしまったようですね・・・」

 

自分らしくもないその有様にため息をつくと、ドクルンは先ほどの見せられた映像を思い出す。

 

今のは夢・・・? それとも、頭痛の度に流れてくる映像・・・?

 

でも、映像にしてはやけにリアルだ。しかも、キュアフォンテーヌそっくりの少女が現れて、私がその娘と学校に行ったり、遊んだりして戯れている。

 

・・・少し落ち着こう。私はビョーゲンズのドクルン。ビョーゲンズとして生まれて、地球を病気で蝕むことの使命しかないはず。

 

でも、なんだか違和感がある。何度もあのような映像を見せられて、どうでもいいと思っていても、そう思わざるを得ない。

 

もしかして、私はあの娘とどこかで・・・?

 

ズキッ・・・。

 

「っ・・・!」

 

考えようとすると頭痛が起こる。今度は無意識であっても、顰めるぐらいの分かりやすい頭痛だ。

 

「ドクルン、大丈夫かブル?」

 

「・・・ブルガル」

 

「随分とうなされていたブル。何か悪いものでも見たのかブル?」

 

スタッドチョーカーのブルガルが、様子のおかしいドクルンを心配して声をかける。

 

「・・・まさか、私がそんなものを見るわけがないでしょう。ちょっとここの健康的な環境に当てられていただけです」

 

「・・・お前、無理してないかブル?」

 

「ご心配ありがとうございます。でも、私は大丈夫ですよ」

 

「・・・・・・・・・」

 

ドクルンは逃げるかのようにそう言って優しい笑顔をブルガルに見せる。相棒は本当に心の底から心配していたのだが、彼女の心を逆撫でしたくないので、これ以上何も言わなかった。

 

彼女はそろそろビョーゲンキングダムへと帰ろうと重い腰を上げるようとする。

 

「? 誰かいるわね?」

 

自分と反対側の、この木の前に生きている人間の気配がする。立つのをやめて見つからないようにそっと覗き込むように見ると、そこには初老の男性が立っているのが見えた。

 

もしや、あの人が喫茶店でプリキュア3人が話していたてつやという男なのでは・・・?

 

てつやは何やら寂しそうな表情を浮かべているようにも見える。こんなただの枯れ木に一体、何の思入れがあるというのだろうか?

 

「っ・・・・・・」

 

そう考えながらしばらく見ているとドクルンはおもむろに顔を顰める。自分にとって目障りな3人組がここへやってきたからだ。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

「お嬢ちゃん・・・?」

 

その中の一人、マゼンダショートヘアの少女がてつやに息を切らしながらも駆け寄る。

 

「二人は『喫茶 純』に居ます! 2時頃にいつも来てるんです! だから・・・!!」

 

「おい、藪から棒に何を・・・?」

 

「だから、会いに行ってください!! そうすれば・・・そうすれば、きっと・・・!!」

 

「・・・40年振りにこの街に帰ってきた。じきにまた街を出る・・・ここにはもう戻らん・・・! だから・・・! もういいんだ! もう、終わったことだ・・・!!」

 

・・・やっぱり、あいつらのおせっかいか。本当にお人好しすぎて、吐き気がするわ。

 

ドクルンは3人の甘さ加減に、不快感をあらわにする。

 

そんなてつやは迷惑そうにしながらも、なんだか寂しそうな声にも聞こえた。

 

「だったら!! どうして毎日ここに来てるんですか!? 約束を信じてるからでしょう!! 永遠の友情を信じてるからでしょう!!」

 

ズキッ・・・!!

 

「っ・・・・・・!?」

 

マゼンダショートヘアの叫ぶ声に、ドクルンは再び頭痛が起こり、目を片方閉じるように顔をしかめる。

 

耳鳴りがして、周囲の音が無になったかと思うと、頭の中に映像が流れ込む。

 

ーーーーだから・・・! 私たちの永遠の友情も誓っておくかって言ってるの

 

ーーーー! ええ! 誓いましょう! かなうかわからないけれど・・・

 

ーーーーでも、せっかく来たんだから、やらないよりはマシでしょ?

 

つい眠ってしまったときに見ていた映像。キュアフォンテーヌそっくりの少女と丘の上に、一緒に立っている私自身・・・・・・。

 

「! はぁ・・・はぁ・・・」

 

頭痛が落ち着くとドクルンは息を切らしていて、額からポツポツと玉のような汗が浮かんでいた。

 

また、あの映像を・・・!?

 

ドクルンは自分の中の違和感が拭えずに、呆然としていた。

 

やっぱり、ここの環境は良くない・・・? 健康的な地球に長く居すぎたかもしれない・・・。

 

ドクルンはそう思いながらも、自分の不調も忘れて再度様子を覗き込む。どうやらてつやという男は木の前からいなくなったようだ。

 

「怖くなったの・・・いつか、私たちも、友達でいられなくなっちゃう日が来るんじゃないかって・・・」

 

マゼンダショートヘアの少女は不安そうな顔をしている。そこに栗毛ツインテールの少女が歩み寄る。

 

「誓お!」

 

「え?」

 

「ふふふ・・・」

 

そこに藍色ロングヘアの少女も歩み寄り、円になるように立ち、2人は手を重ね合う。マゼンダショートヘアの少女は表情を晴れやかにすると一緒に手を重ねる。

 

「私、花寺のどかは、大樹に誓います」

 

「沢泉ちゆは誓います」

 

「平光ひなたは誓います」

 

「「「永遠に友達でいることを!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!?? う・・・あ・・・!!」

 

様子を見ていたドクルンが先ほどよりも比べものにならないほどの激しい頭痛が襲い、両手で頭を押さえる。その表情は苦痛で歪んでいた。

 

先ほどよりも激しい耳鳴りがして、周囲の音が無になったかと思うと、頭の中に再び映像が流れ込む。

 

ーーーー遊びに、ですか?

 

ーーーーええ、ちょっと買いたいものもあるの。付き合ってよ

 

ーーーー・・・いいですよ、あなたと一緒なら

 

ーーーーお揃いで私たちの友達の証、ずっと友達でいたいから

 

ーーーー・・・ありがとうございます。純粋に、嬉しいですよ、ーーさん。

 

ーーーーその呼び方、やめない? 友達なんだから、普通でいいわよ

 

ーーーー・・・わかった。嬉しいわ、ーー。これでいい?

 

ーーーーだから・・・! 私たちの永遠の友情も誓っておくかって言ってるの

 

ーーーー! ええ! 誓いましょう! かなうかわからないけれど・・・

 

ーーーーでも、せっかく来たんだから、やらないよりはマシでしょ?

 

ーーーーそうね。

 

ーーーー私、沢泉ちゆは誓います。

 

ーーーー・・・毒島りょうは誓います。

 

ーーーー永遠に友達であると!!

 

藍色のロングヘアの少女と、いっしょ、に、いて、友情を、ちか、い・・・?

 

「ドクルン!?」

 

ブルガルは相棒の尋常ではない状態に声を上げる。

 

そして、その異変は同じ場所にいる彼女にも起こっていた。

 

「!? うっ・・・くっ・・・!!」

 

「ちゆちゃん!?」

 

「ちゆちー!?」

 

ちゆに起こった異変に、のどかとひなたは動揺の声を上げる。ちゆは手で頭を押さえながら、表情は苦痛に顰められていた。どうやら耐え難い頭痛を起こしているようだった。

 

「りょ、う・・・? あ・・・あ・・・」

 

ちゆは自分の記憶が流れてくるのを感じ、思わず誰かの名前をつぶやく。そうした瞬間、頭痛が激しくなり、両手で頭を押さえ始めた。

 

「あ・・・あ・・・あ・・・」

 

自分の頭の中に甦ってくる記憶・・・そして、自分の中に湧き上がってくる。

 

そして、それが終わった時、ギリギリで頭痛を耐えていたちゆは、そのまま前のめりに倒れていく。

 

「ちゆちゃん!!」

 

「ちゆちー!!」

 

のどかとひなたはお互いに地面へ倒れそうになるちゆを受け止める。

 

「大丈夫!? ちゆちゃん!!」

 

「しっかりして!!」

 

「うぅ・・・だ、だいじょうぶ・・・ちょっと頭が痛くなっただけ・・・部活の疲れが、出たのかな・・・?」

 

ちゆはそう言いながら、取り繕うように笑顔を見せる。しかし、そんな彼女の額にはポツポツと玉のような汗が浮かんでいた。

 

「全然大丈夫じゃないし!!」

 

「ちゆちゃん、今日はもう帰ろう?」

 

「ええ、そうするわ・・・」

 

そう言って、ちゆは2人に支えられながら、3人で一緒に丘の下へと降りていく。

 

ちゆは一緒に歩いていく中で、彼女は心の中で激しく動揺していた。

 

・・・どうして・・・!? なんで、私、忘れてたの・・・!?

 

りょう・・・!! あなたのことを・・・友達のはずのあなたを・・・どうして・・・!?

 

「ちゆちー、どうかしたの?」

 

「!? い、いえ、なんでもないわ・・・」

 

表情が顔に出ていたのか、ひなたが心配そうに声を掛けるも、ちゆは笑顔でとっさにごまかした。

 

しかし、心の中の動揺はまだ治まりそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

すこやか市にある大樹の木の裏から廃病院へと逃げ帰ってきたドクルン。頭痛は落ち着いてはいるが、手は頭に添えられていて、しかも息を切らしていてそれを整えていた。

 

「ドクルン、大丈夫かブル!?」

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

激しく心配するブルガルに、ドクルンは何も返答を返さず、息を整えることに集中している。

 

そこへコツコツと歩み寄る人物が・・・・・・。

 

「あら、ドクルン。帰ってたの?」

 

「はぁ・・・クル、シーナ・・・」

 

聞こえてきた声に気力を振り絞って振り向くと、クルシーナがいつもの不機嫌そうな顔でこちらを見ていた。

 

彼女は何かを察したようにため息を吐く。

 

「その様子だと、アタシらと同じで頭痛が起きてる。そして、映像が流れてきてる、違う?」

 

「そう、ですが・・・それが何、か?」

 

頭痛が落ち着いてきたドクルンが彼女に言葉を返す。

 

「アンタ、それを考えようとしてるんじゃないでしょうね・・・?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・ハッ、やっぱりね」

 

クルシーナの質問にドクルンが肯定するかのように沈黙すると、彼女はそれを鼻で笑う。

 

「そうやって考えようとするから痛みが増すんだよ。忘れちゃえばいいじゃない、いつものアンタみたいに」

 

「・・・別に考えてなど、いませんよ・・・」

 

「嘘ばっかり。いつからアンタと一緒にいると思ってんの? イタイノンもそうだけど、アンタらのことなんか全部お見通しなんだよ」

 

「割り切ろうとしても、忘れようとしても、流れてくるんですよ・・・!! ふとしたことをきっかけに・・・!!」

 

「ふん、何を気にしてんだか・・・」

 

クルシーナはドクルンの言葉を一蹴すると、ドクルンの背後に近寄る。

 

「そんなに頭が痛くて辛いなら、その元を消し去ってしまえばいい。アンタのその頭痛はなんで起きるの? なんで映像が流れてくるの? なんで起こったの? 少し冷静になって考えれば、わかるでしょ」

 

クルシーナはドクルンの耳元に囁くように言うと、その場から離れていく。

 

「・・・クルシーナは・・・辛くないんですか・・・?」

 

目の前を歩き去っていこうとするクルシーナに、胸の内を明かすかのように声を掛けるドクルン。クルシーナは足を止めると振り向く。

 

「・・・前も言ったでしょ、アタシにはそんなものどうでもいいことだって。映像が流れてこようとも、アタシが今の地球が大嫌いだっていうのは、変わんないんだよ。眠っている中でそう割り切ったら、少し楽になった」

 

クルシーナは最後に微笑を浮かべると、そのまま部屋へと戻るために歩き去っていった。

 

「・・・頭痛の元か」

 

頭痛が和らいだドクルンは少し考えてみる。

 

私はキングビョーゲンの娘として生を受けた。お父さんの命令にも従って、病気を蝕むことが喜びとして教えられてきた。

 

人間はすぐに病気になっていくか弱い生き物だということも教えられた。発熱、フラフラ、頭痛、胸が苦しくなる・・・そんな感じの異変が起きて弱って死んでいく生き物だということも。

 

・・・頭痛?

 

じゃあ、この頭痛は、私が弱くなっている証拠なのか? ビョーゲンズとして生まれて、病気にすることを喜びとしてきたはずなのに・・・?

 

・・・不愉快だ。人間と同じような異変が起こるなんて、不愉快極まりない。こんな、頭の痛み、私には必要ない。こんな辛いの、私にはいらない。

 

この頭痛の元を消し去るためには・・・?

 

まあ、とりあえず今日は休もうか・・・。

 

ドクルンは意を決したような顔をすると共に、休息を取るために自分の部屋へと歩き出したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別の日の夜・・・・・・。

 

すこやか市にあるすこやか駅。その駅の掲示板に貼られている1枚のポスター、それは命が尽きるであろう永遠の大樹を讃えるために開催される祭り、『永遠の大樹 ありがとうフェス』というポスターだ。

 

そこへ獣人の姿をしたビョーゲンズ、バテテモーダが近づいていた。

 

「フェスっすか・・・フッ・・・」

 

そのポスターを見たバテテモーダは不気味な笑みを浮かべていた。

 

トントントン!

 

「あぁ?」

 

グイッ・・・。

 

不意に誰かに肩を叩かれ、振り向くと指を頬へと押し付けられる。誰がやったのか、顔をよく見てみると・・・。

 

「フフフ・・・こんばんは、バテテモーダ」

 

口元に笑みを貼り付けているキングビョーゲンの娘、ドクルンだった。

 

「ド、ドクルン嬢!? ングッ」

 

「静かにしましょうか? 遅いんですから、誰かが来たら怪しまれますよ」

 

大声を出しそうになったバテテモーダを、押し付けた指で口を塞いで黙らせる。獣人がうんうんと頷くと手を離す。

 

「そ、それで、どうしたんっすか? こんなところで・・・」

 

「フフフ・・・気になっているのでしょう? そのフェスが」

 

「それは・・・そうっすけど・・・」

 

ドクルンが笑顔を貼り付けながら言うと、バテテモーダが言いにくそうに言う。

 

「では、飛び入りしてやろうではありませんか、そのフェスに。あなたのだーい好きなラップもそこでできるかもしれませんよ」

 

ドクルンは不敵な笑みを浮かべる。

 

「ドクルン嬢と一緒にっすか!? それは感激っす!? ムグッ」

 

「ちょっとボリュームを抑えましょうか?」

 

「ご、ごめんっす・・・」

 

「わかればいいんですよ。その声はフェスまでとっておいてください」

 

ドクルンは貼り付けた笑顔で言う。

 

「そこで・・・」

 

「?」

 

「あなたには明日、やってもらいたい頼みがあります」

 

ドクルンは不敵な笑みを浮かべながら、その内容をバテテモーダに耳元に話すのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第44話「永遠」

前回の続きです。
今回はいつもよりちょっと長めです。
結構、気になる描写が満載の回になったと思いますね。


 

プリキュアの3人は、大樹の下で出会ったてつやという老人、喫茶店で出会ったひでおとふみ、友人であるはずの3人を会わせるためにあるイベントの企画を立てようとしていた。

 

その名前は、『永遠の大樹 ありがとうフェス』ーーーー。

 

それは、すこやか市の友情を見守り続けてきた永遠の大樹に、この街の住民たちと一緒にありがとう、そしてさようならを言うイベントである。

 

のどか、ちゆ、ひなたは3人で話し合って行おうと決めた。このフェスにはきっと、あの3人も来てくれるはず。

 

学校の先生に課外活動の一環として、了承を得、すこ中ジャーナルの益子に協力を仰いで、町の掲示板などの色んな場所にポスターを貼ってもらい、ちゆは他の生徒にも協力を仰ぎ、ビラ配りを手伝ってもらって、のどかとひなたはイベントの飾り付けをしていきながら、着々と準備を進めていったのであった。

 

そして、イベントを次の日に控えた夕方・・・。

 

「・・・明日、絶対に成功させようね!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

「ちゆちー?」

 

「ちゆちゃん?」

 

「あ、ええ、頑張りましょう! じゃあ、おやすみなさい」

 

「おやすみ~! 明日ね~!」

 

のどかの家で作業を終えた3人、ちゆは何かを気にしているかのように顔が俯いていたが、2人に声を掛けられると我に返り、みんなはそれぞれの家へと帰っていった。

 

そんな中、家へと戻り、自分の部屋へと戻ったちゆは、何か考え事をしているようだった。

 

「りょう・・・・・・」

 

引き出しの中からミサンガを取り出し、ここにはいないはずの人物の名前をつぶやき、悲しそうな表情を浮かべるちゆ。

 

「ちゆ?」

 

「! ペギタン・・・」

 

「寝ないペエ?」

 

「もちろん、寝るわよ。明日に備えないとね・・・・・・」

 

ちゆはペギタンに微笑みながらそう言うも、再び表情は暗くさせる。何か罪悪感がありそうな感じの表情だ。

 

ペギタンはそんな彼女を見かねて、自分の小さな布団から出て、彼女に歩み寄る。

 

「ちゆ」

 

「何?」

 

「りょうって、誰ペエ・・・?」

 

「!!」

 

ペギタンに問われた言葉にちゆは驚いたような顔をする。そして、哀愁を帯びたような顔をした後、ペギタンから背を向けると口を開き始める。

 

「・・・私の、友達よ」

 

「ちゆの、友達・・・?」

 

「ええ。とは言っても、のどかとひなたと会う前の、私は小学校だった頃の友達よ」

 

ちゆは落ち着いてはいても、その声はどう聞いてもいつもより暗かった。

 

「小学校の頃に、陸上の部活動で練習してた時に、校庭でペットボトルを打ち上げようとしていた子がいたの。それがりょうだった。気になって私は声をかけて、そのときは迷惑をかけちゃったけど、友達になったのはそこからだったわ。りょうの作ったものをもっと見たいって」

 

「作ったもの・・・?」

 

「ああ、りょうはものを作るのが得意だったの。私、興味があって、いろいろと見せてもらったわ」

 

微笑みながら話すちゆだが、再び暗い表情に戻る。

 

「でも、ある時、りょうは病気になって、週に何回かお見舞いに行ってたんだけど、私がすこやか市から離れなきゃいけないことがあって、りょうとはそれっきりだったの・・・」

 

「ちゆ・・・」

 

「このミサンガはりょうと一緒にお揃いで買ったものなの」

 

ちゆはペギタンに見せながら言う。

 

「あと、なんだったっけ・・・? りょうとはまだ思い出があるはずなのに、思い出せないの・・・そもそも、わた、しは、なんで、彼女のこと、を、わす、れてるの・・・?」

 

「っ・・・・・・」

 

「えいえん、の、たいじゅ、にも、ちかった、はず、なのに・・・」

 

ちゆの瞳からはポロポロと涙が溢れ、声も涙声になっていく。

 

私はどうして、友達のことを忘れていたのか? 永遠の大樹にも誓っていたはずの友情を、一緒に出会ったあの出来事も、どうして・・・?

 

そして、あるはずのたくさんの思い出も、記憶に霞みがかったように、どうして思い出せないのか?

 

ちゆは自分に自信がなくなりそうで、心が折れそうになっていた。

 

「ちゆ!!」

 

そんなちゆに、ペギタンが彼女の顔の頬に寄り添うようにスリスリとさせる。

 

「りょうが、大切な友達だというのは、ちゆの顔を見ればわかるペエ。ちゆも誰も、何も悪くないペエ」

 

「・・・・・・・・・」

 

「無理に思い出さなくても、ちゆは思い出したことがあるはずペエ。そういう小さな思い出だとしても、思い出せただけでもよかったと思えば、少しは気が楽になると思うペエ」

 

ペギタンは難しいことは言えなくても、必死に言葉を紡いでちゆを励まそうとしている。

 

大切な友達の記憶を思い出せただけでも、いいことだと・・・。

 

「でも、私は・・・今まで忘れてたかと思うと、胸が痛いの・・・。大切なことも忘れているような気がして・・・」

 

「そんなのは、ゆっくりと思い出して行けばいいペエ!!」

 

「!!」

 

ちゆのまだ晴れない心に、ペギタンが必死に声を上げる。

 

「ちゆは無理しすぎペエ。陸上で飛べなくなったときも、あんなに無理をして僕は心配でしょうがなかったペエ。もしかしたら、いつか怪我をするんじゃないかって・・・」

 

「ペギタン・・・」

 

「ゆっくりと歩くような感じでもいいペエ。りょうの記憶を少しずつ、思い出して行けばいいペエ。また無理をして、それで倒れるようなことがあったら・・・僕はもう気が気でないペエ・・・」

 

ペギタンが泣きそうな声でちゆに訴えかける。

 

ああ・・・私は、またパートナーに心配なんかさせて・・・のどかやひなたにしっかり者とかよく言われるけど、本当は一人で無茶をしているだけ。そういうところがダメな私なんだなと思う。

 

「・・・ありがとう、ペギタン。ごめんね、心配かけて」

 

「ペエ・・・」

 

「明日、がんばりましょう。一緒に」

 

「・・・うん!!」

 

ちゆとペギタンはお互いの気持ちを通わせると、明日のイベントに備えて就寝に入るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、待ちに待ったフェス当日。

 

「パパはここでプロポーズしたんだよ」

 

「だから、ママとパパは永遠なの」

 

「わーい! えいえ~ん♪」

 

大樹の周りには、親子連れや友達と一緒に来たもの、そしてすこやか中学校の吹奏楽部たちが演奏をしてたりして、盛り上がりを見せていた。

 

「ふむ・・・思ったほどフェスは賑わってるわねぇ・・・本当に不愉快・・・」

 

そして、そのフェスにはドクルンの姿も見せていた。周囲の人間が楽しんでいる様子を見て、顔は貼り付けたような笑みを見せつつも、口では不快感を隠さない。

 

こんな死にかけの大樹に寄り添って、ここの連中は何が楽しいのだろうか? 全くもって理解できない。私は一人で本を読んでいた方が落ち着くというのに・・・。

 

ドクルンはきょろきょろと見渡すと、あのプリキュアの3人が大樹から離れて誰かを探しているのが見えた。

 

「奴らは離れてますねぇ。チャンスです」

 

不敵な笑みを浮かべると、彼女は自分にとって不愉快極まりない大樹へと近づいていく。

 

「バテテモーダは・・・ああ、いたいた・・・」

 

ドクルンはきょろきょろと辺りを見回して、待ち合わせをしている幹部を探す。すると、大樹の周りに立ててある柵の前に立って、大樹を見つめながら待っているのが見えた。

 

昨夜あいつと会って、ドクルンの中では大樹ごとぶち壊すためのプランを話して、ここに来るようにお願いしたはず。

 

ーーーーあの大樹を、自分が、っすか・・・?

 

ーーーーええ、あの大樹をメガビョーゲンに変えて、あなたの大好きなラップで盛り上がるんですよぉ。まあ、客は逃げちゃうでしょうけど、奴らは現れるでしょう。

 

ーーーープリキュアっすねぇ・・・。えっと、その間、ドクルン嬢は何をするんっすか?

 

ーーーー決まっているでしょう? あの一帯を蝕んでやるんですよ。私とあなたが盛り上がれるようにねぇ。

 

昨夜のやり取りを思い出しながら、ドクルンはニヤリと笑みを隠さない。

 

・・・この際、使えるものは使ってやらないとねぇ。

 

そう思いながら、バテテモーダの元へと近づいていく。

 

「おぉ! ち~っす! ドクルン嬢~!」

 

「おはようございます」

 

二人は軽く挨拶を済ませると、同時に大樹を見上げる。

 

「へっ・・・枯れそうなのに、必死に生きてるっていうのがジンジンと感じるっすね~」

 

「ええ・・・だから、盛大に終わらせてやるんですよ」

 

ドクルンは不敵な笑みを浮かべながら、柵の周りに結び付けられている複数の風船に視線を向ける。

 

「そのためにわざわざ素体まで用意してくれてますからねぇ・・・フフフ」

 

これはいいメガビョーゲンができそうだと、ドクルンは笑みを浮かべる。

 

「じゃあ、行くとするっすか!!」

 

「ええ、もちろんですよ・・・」

 

バテテモーダは気合い十分に、ドクルンは徹底的に障害を潰すために。珍しい彼らの作戦が決行される。

 

ドクルンは指をパチンと鳴らし、黒い塊を出現させる。

 

「進化してください、ナノビョーゲン」

 

「ナノデス~!」

 

生み出されたナノビョーゲンが鳴き声を上げながら、柵に結び付けられている風船へと取り憑く。風船が徐々に気へ蝕まれていく。

 

「・・・!?・・・!!」

 

風船の中に宿っているエレメントさんが病気に蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガァ、ビョォ、ゲェン!」

 

巨大な丸い風船のようなものに不健康そうな顔、そして両腕、両足が生え、体全体に無数の風船を生やしたような人型のメガビョーゲンが誕生した。

 

そんな二人のビョーゲンズによる悪巧みが行われている中で、プリキュアの3人は・・・・・・。

 

「どう? いた?」

 

「ううん・・・」

 

「もお~!! いい歳して意地を張るなし!!」

 

数年前に永遠の大樹で誓い合ったはずの3人を探しているプリキュアの3人。やはり、来てくれるだなんて安易な考えだったのだろうか・・・。

 

「あっ!!」

 

そんな中、のどかがてつやの姿を見る。彼は大樹に背を向けて帰ろうとしているところだった。

 

「どうしよう! てつやさんが帰っちゃう!!」

 

慌てるのどか。てつやは、ひでおとふみと再会を果たしていない。ここで帰られてしまったら、このイベントのそもそもの目的の意味がなくなってしまう。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

「クチュン! クチュン!」

 

「「「!?」」」

 

ラテが2回くしゃみをし、辛そうにぐったりし始めたのだ。これはもしかすると・・・?

 

「「「ビョーゲンズ!?」」」

 

そして、その言葉を合図にしたかのように・・・・・・。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「ビョー♪ ビョー♪ メガビョーゲン♪」

 

「メガァ! メガァ!」

 

会場で悲鳴が響き渡り、その声に視線を向けると逃げ出す人々と、ラップのようなリズムを刻む巨大な木の姿を持つメガビョーゲンがいた。

 

「うわあぁ!? 大樹が大変なことになってるペエ!!」

 

「ってことは、エレメントさんはあの中か!?」

 

「待つラビ!! メガビョーゲンがもう一体いないラビ!!」

 

「ペエ!?」

 

「ニャ!?」

 

ヒーリングアニマルがこんな会話をしているときだった・・・・・・。

 

シュー! シュー! シュー! シュー!

 

ドカン!! ドカン!! ドカン!! ドカン!!

 

「「「きゃあ!!」」」

 

丸い風船のようなものが丘の上の木のメガビョーゲンをすり抜けるようにして飛んできたかと思うと、草原に着弾して爆発を起こし、大気と地面が病気で赤く染められていく。

 

「あっ!? 草原が!!」

 

「大気も病気に蝕まれてるニャ!!」

 

「もう一体も一緒にいるみたいペエ!!」

 

「のどか!! 永遠の大樹を早くお手当てしないとまずいラビ!!」

 

「どこか、変身できる場所は・・・」

 

3人は隠れてプリキュアに変身できる場所がないか探す。

 

「!?」

 

てつやは背後が騒がしくなったことに異変を感じて、振り向く。

 

「一体、何が・・・!?」

 

「・・・!!」

 

「あ・・・ふみ!!」

 

離れた場所でひでおは突然怪物が現れたことに困惑するも、ふみは何を思ったか走り出し、ひでおもそのあとを追った。

 

そして、丘の上のメガビョーゲンの近くでは・・・・・・。

 

「ついに来た来た蝕むタイム♪ メガビョーゲンが放つ、このイルなライブ♪ フェスの主役は?・・・MC!バテテモーダ!! ア~ンド? ドク!ドク!ドクルン嬢♪」

 

「ヨォ♪ ヨォ♪」

 

バテテモーダがメガビョーゲンの近くでラップを歌っており、ドクルンはそれに適当に合いの手を入れてあげている。

 

「メガァ、ビョォ、ゲェン!」

 

シュー! シュー! シュー! シュー!

 

風船のメガビョーゲンは体についている無数の風船を周囲に撒き散らす。地面や丘の下の木へと飛んで行って着弾して爆発し、大気もろとも赤い病気に蝕まれていく。

 

「結構、順調に蝕めますねぇ」

 

自分のメガビョーゲンが一回の攻撃で広範囲を蝕んでいっているのを見て、不敵な笑みを浮かべるドクルン。

 

「出ていけ!」

 

「ん?」

 

「?」

 

聞こえてきた怒鳴るような声に二人が振り向くと、そこにはドクルンが昨日見たてつやという初老の男性が少し離れたところに立っていた。

 

「おやおや、いたんですかぁ?」

 

ドクルンは不敵な笑みでその男性を見下げる。

 

「ここは! この木は! 俺たちの場所だ!!」

 

てつやが二人にそう言い放つ。彼が言った「俺たち」という言葉、これはひでおとふみのことも含まれているようだった。喧嘩をして別れてしまっても、本心では二人のことをどこか思っていたのかもしれない。

 

「てつや!!」

 

「てつやくん!!」

 

そんなひでおとふみが、彼の元へと駆け寄る。

 

「「「ああ!?」」」

 

のどかたち3人は、3人が集まったことに気づいて振り返る。

 

「お前ら・・・来てくれたのか・・・?」

 

そんな様子をドクルンは無表情に見つめていた。病院にいる自分から離れていく、あの少女との出来事を思い出しながら、やがて顔を顰め始める。

 

「・・・ふん、何を訳のわからないことを。メガビョーゲン、やってしまいなさい」

 

ドクルンは首を振りながら鼻で笑い、メガビョーゲンに攻撃するように指示する。

 

「メガァ、ビョォーーー!!!」

 

ピュゥー、ピュゥー、ピュゥー、ピュゥー!!

 

風船のメガビョーゲンは、体についている長い風船のようなもの、いわゆるジェット風船を飛ばす。

 

「ビョー♪ ビョー♪ メガー!!」

 

巨大な木のメガビョーゲンはラップのように刻みながら、腕を振り上げて攻撃しようとする。

 

「「「スタート!」」」

 

「「「プリキュア、オペレーション!!」」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

 

「「「キュアタッチ!!」」」

 

ラビリン、ペギタン、ニャトランがステッキの中に入ると、のどか、ちゆ、ひなたはそれぞれ花のエレメントボトル、水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

そして、肉球にタッチすると、花、水、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、水色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ちゆは水色、ひなたは黄色へと変化する。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「「「地球をお手当て!!」」」

 

「「「ヒーリングっど♥プリキュア!!」」」

 

3人は変身を終えて、すぐさま3人の前に飛び出す。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

グレースは、巨大な木のメガビョーゲンが伸ばしてくる腕を蹴り、3人に到達する前に動きを止める。

 

「逃げてください!!」

 

「君は、一体・・・?」

 

「!! はぁ!!」

 

突然現れた彼女たちに3人は困惑する。そこへ風船のメガビョーゲンが放ったジェット風船が飛んできたのが見え、グレースはピンク色の光線を放って、到達する前にその場で破裂させる。

 

「「ふっ!!」」

 

動きを止めた腕が再び襲い来るも、フォンテーヌとスパークルが横からさらに蹴りを入れて吹き飛ばす。

 

「お願いします!!」

 

「大樹は私たちに任せて!!」

 

「さあ!!」

 

てつやはそれでも困惑するも、ひでおがその手を取り、ふみが背中を押してその場から3人は逃げていく。

 

「すまない!!」

 

プリキュア3人はメガビョーゲンの伸ばしてくる腕の攻撃をぷにシールドで抑え込みながらも、その姿を見届ける。

 

ようやくあの3人は繋がったんだと・・・。

 

「てつやさんたち、3人でまた会えたね!」

 

「ええ!」

 

「それじゃあ、今度は・・・!!」

 

「「「私たち3人の友情を見せる番!!」」」

 

そして、プリキュア3人はぷにシールドの抑え込みに力を入れ始める。

 

「やれやれ、勇ましい友情ですね・・・全く以って不愉快極まりない」

 

「メガァ、ビョォゲェン!!」

 

ドクルンが顰めたような表情で言うと、それに応えるかのように風船のメガビョーゲンが無数のジェット風船をメガビョーゲンに向けて飛ばす。

 

ピュー、ピュー、ピュー!!

 

ガッ、ガッ、ガッ・・・!!

 

「くっ・・・!!」

 

ジェット風船はぷにシールドで防ぐことはできているものの、力が強く3人は苦しい表情をし、さらに腕の推してくる力も相まって足が後ろに下がり、押されそうになっていた。

 

「力比べはバッドなチョイス♪ オススメしない、勝ち目などない♪ それは何故かと問うならば♪ 今回のこいつら、マジビョーゲン♪」

 

「メガー!!」

 

「「「うぅぅ・・・!!」」」

 

バテテモーダのラップのリズムの合図に合わせて両手の指を突き出すと、巨大な木のメガビョーゲンがさらに力を入れ、プリキュアたちはさらに数センチほど押される。しかし、なんとか足を踏ん張って押されないように支える。

 

その様子を無表情で見ていたドクルンは、このメガビョーゲンが浄化されるのは時間の問題だと判断し始める。

 

「・・・メガビョーゲン、あいつらに突撃してください」

 

「メガァビョォ・・・ゲェン!!」

 

瞑目しながら指示されたメガビョーゲンは手についている空気入れのようなもので、体に生やしているいくつかの風船を膨らませる。

 

「メガァ、ビョォー・・・!!」

 

するとメガビョーゲンはなんと宙に浮き始めたのだ。そして、プリキュア3人の方向に体を向けると、風船の一部の空気を抜くと・・・。

 

「ゲェェェェェェェン!!!」

 

自らの体をジェット噴射のように飛ばし、プリキュアたちに向かって飛んでいく。

 

「「「!? きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 

メガビョーゲンは巨体でぷにシールドごとプリキュア3人を吹き飛ばす。

 

「うぅぅ・・・な、何、今の?」

 

「メガビョーゲンが、突っ込んできた・・・?」

 

「っていうか、あれもよく見たらあのメガビョーゲンよりも大きくない・・・?」

 

3人は別のメガビョーゲンの攻撃に困惑するも、その隙を見計らったかのようにフォンテーヌの近くにドクルンが瞬間移動をする。

 

「!?」

 

「ふんっ・・・!!」

 

「あぁぁぁぁ!!」

 

フォンテーヌは突然の行動に防御体制が取れず、ドクルンが空中で放った回し蹴りを受けて吹き飛ばされ、二人からやや遠くへ引き離されてしまう。

 

ドクルンは、彼女の隣へと降りた自らのメガビョーゲンと共にフォンテーヌへと近づいていく。

 

「「フォンテーヌ!!」」

 

「メガビョーゲン♪」

 

「きゃあぁぁぁ!!」

 

「うわあぁぁぁ!!」

 

グレースとスパークルはフォンテーヌに駆け寄ろうと動くが、そこへ巨大な木のメガビョーゲンの伸ばしてくる手に当たって吹き飛ばされてしまう。

 

「よそ見はダメダメ♪ 良い子はダメダメ♪ そのぐらい、こいつはマジビョーゲン♪」

 

「ビョー♪ ビョー♪ メガビョーゲン♪」

 

バテテモーダはそんな二人に嘲るようなラップを捲し立てて歌う。

 

再度巨大な木のメガビョーゲンが腕を伸ばす。二人は集まってぷにシールドを展開するのだが・・・。

 

「「くぅ・・・うぅぅぅ・・・!!」」

 

フォンテーヌが一人欠けただけでも、明らかに押す力は落ちていた。

 

一方、ドクルンに蹴り飛ばされたフォンテーヌは丘の下へと転がり、木へと体を打ち付けてしまう。

 

「ぐっ・・・うぅぅ・・・!!」

 

フォンテーヌは痛みに呻きながらも、立ち上がろうとする。

 

「大樹を叩き潰せばモヤモヤが消えると思いましたが・・・やはり目障りなあなたを倒さないことには私の気は晴れないみたいですね・・・」

 

「ドクルン・・・あなた、最初からそのつもりで・・・!」

 

「ふっ・・・やりなさい、メガビョーゲン」

 

「メガァビョォ、ゲェン!!」

 

メガビョーゲンは無数の丸い風船を体じゅうから飛ばす。

 

シュー! シュー! シュー! シュー!

 

ドカン!ドカン!ドカン!ドカン!!

 

フォンテーヌの周りに風船が飛んでいき、中規模な爆発を起こし、煙に包まれる。

 

しかし、彼女は煙の中から飛び出し、メガビョーゲンまでジャンプで飛んでいく。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

パンチをメガビョーゲンに繰り出す。その攻撃は命中したのだが・・・・・・。

 

ボヨン!!!

 

「あ・・・!?」

 

「メガァビョォゲェン!!」

 

その拳はメガビョーゲンの風船の体の弾力に弾かれてしまい、代わりに怪物はジェット風船を体から噴射してフォンテーヌへと飛ばした。

 

「うっ・・・くっ・・・きゃあぁぁぁぁ!!!!」

 

フォンテーヌはとっさに両腕を交差して防御体制をとるも、ジェット風船は体中に当たりまくり、最後に一際大きな風船が直撃し、吹き飛ばされる。

 

彼女は空中で体制を整えると、地面へと着地して再度メガビョーゲンへと飛び出す。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

メガビョーゲンより高いところへとジャンプし、その高さから怪物の背後に飛び蹴りを繰り出す。

 

「メガァビョォー・・・!!」

 

メガビョーゲンは生やしている風船を膨らませると、空中へと飛び上がる。

 

「くっ・・・!」

 

飛び蹴りをかわされてしまい、フォンテーヌは悔しそうにするも、その飛び蹴りの軌道の流れに乗るかのように空気を抜いて、ジェット噴射のように飛び出す。

 

フォンテーヌは振り向きざまにステッキを振るって、青い色の光線を放つも、メガビョーゲンの風船のようなボディには通用せずに跳ね返されてしまい、彼女に巨体が迫る。

 

「あぁぁぁぁぁぁ!?」

 

そのままフォンテーヌはメガビョーゲンに体当たりされ、怪物ごと地面に叩きつけられてしまう。

 

「メガァビョォー・・・!!」

 

メガビョーゲンは風船を再度膨らませると、宙へと浮かび上がる。その下には少しボロボロになって仰向けに倒れているフォンテーヌの姿が。

 

「フフフ・・・手も足も出ないみたいですが?」

 

ドクルンはフォンテーヌが一人で苦戦している様子を見て、不敵な笑みを浮かべる。

 

「うぅぅぅ・・・!!」

 

ドクルンの挑発的な態度に、フォンテーヌは歯ぎしりしながら、よろよろしつつも立ち上がる。

 

「メガァビョォ、ゲェン・・・!!」

 

メガビョーゲンは空中に浮きながら、丸い風船のようなものを飛ばす。

 

ピュー! ピュー! ピュー! ピュー!!

 

「・・・!!」

 

フォンテーヌは飛んで避け、風船が着弾した部分が爆発を起こして病気に蝕まれる。

 

「あ・・・!?」

 

フォンテーヌは自分の避けた部分が病気で蝕まれたことに目を見開く。

 

「メガァビョォー・・・ゲェン」

 

「くっ・・・全然近づけない・・・!!」

 

「あんな空中にいたんじゃ、さっきの攻撃も全て弾かれちゃうし、避けられちゃうペエ・・・!」

 

メガビョーゲンが放ってくる風船を避けるばかりで防戦一方のフォンテーヌ。

 

そんな中、風に煽られたのか一個の風船がメガビョーゲンの背後、つまりは永遠の大樹がある方向へ。

 

「!?・・・ダメ!!」

 

フォンテーヌはその風船に気づくと、急いで飛び出してその風船の前へと飛ぶ。

 

ドカァァァァン!!!!

 

「あぁぁぁぁ!!」

 

風船は当然、爆発して彼女はそれに巻き込まれる。

 

「うっ・・・!?」

 

「メガァビョォゲェン!!」

 

フォンテーヌはかろうじて爆発のダメージを最小限にして煙から抜け出すも、そこへ空気を抜いてジェット噴射をして再びこちらに迫る。

 

「あぁぁぁぁぁぁ!!」

 

防御体制が取れずにフォンテーヌはメガビョーゲンに再び体当たりされ、怪物ごと地面に叩きつけられてしまう。

 

「もう終わりですか? つまらないですね」

 

ドクルンはフォンテーヌの様子を見て不敵な笑みを浮かべ、彼女へと近づいていく。

 

「ぐっ・・・うぅぅぅ・・・お、重い・・・!!」

 

メガビョーゲンに地面にのしかかられた形となったフォンテーヌはその重さに苦しみ、抜け出そうともがく。軽い風船とはいえ怪物の体、重さは倒れた棚の下敷きになっているのと変わらない。両腕がピクピクと動くだけだ。

 

「いい格好ですねぇ。少しお疲れなのでは?」

 

「うっ・・・まだ、終わってーーーー」

 

ギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!

 

「ぐっ・・・うぅぅぅぅ・・・!!!」

 

メガビョーゲンは体を地面に押し付けるように圧迫し、フォンテーヌは表情を苦痛に歪ませる。

 

「大体あんな枯れ木、守って何の意味があるというのですか? もはや死にかけだというのに」

 

ドクルンは枯れ木の方角を向きながら、フォンテーヌに敢えて問いかける。

 

「あれは、私が・・・私たちが・・・てつやさんたちが、誓った友情の木だから・・・!!」

 

「何の変哲も無い一本の木に、永遠の友情など約束されるわけが無いでしょう。あなたバカなんですか? 枯れ木は所詮枯れ木でしかないんですよ。辛くなる前に終わらせてやれば、枯れ木だって無駄なことを誓われるよりも幸せでしょう」

 

反論するフォンテーヌに、ドクルンは嘲笑する。

 

あの木は、あのてつやら3人組が誓っても彼らは喧嘩をしているし、仲違いもしている。私だって、誓っても叶ってなんかいないのに・・・。

 

「終わって、ないわ・・・!!」

 

「?」

 

「あの木だって、必死に生きてるの・・・! 寿命で辛くたって、生きてるんだから・・・!!」

 

「だから、私の手で終わらせてやるんですよ。寂しくないように・・・無駄に命を費やすよりはいいでしょう」

 

フォンテーヌの反論に対応しているうちに、不敵な笑みだったドクルンの顔が不機嫌な表情になっていく。

 

「ふざけ、ないで・・・!! 終わっていい命なんか、あるわけないじゃない・・・!!」

 

「・・・は?」

 

「木だって、森だって、植物だって、人間だって、弱ってても・・・!! みんなみんな、生きてるの・・・!! 辛いことだって、寂しいことだって、たくさんあるかもしれない・・・!! でも、みんなはそれを抱えて精一杯、今を生きてるの・・・!! 終わらせていい命があると思ってるなんて、あらゆる命をバカにしてるのと一緒よ・・・!!!」

 

フォンテーヌの必死の言葉に、ドクルンは不機嫌そうな表情を一層不機嫌にさせる。

 

「ふんっ、あなたに私たちの何がわかるっていうのよ・・・!? 大してお手当てもできていないくせに、命を語るんじゃないわよ!! 小娘ごときが・・・」

 

ドクルンは若干声を荒くして言う。そこにはフォンテーヌに対して、メガビョーゲンを浄化するだけのプリキュアに対して、何か思うことがあるような怒りが感じられた。

 

「・・・ではあなたは、今のあなたみたいに一人動けない人間に手を差し伸べたことはあるというのですか?」

 

「? な、何、を、言ってるの・・・?」

 

ドクルンは高ぶりそうになった感情を落ち着かせて、冷静に質問を投げかけると、フォンテーヌは訳がわからないといった顔をする。彼女の反応を見て、ドクルンはため息をつく。

 

こいつはやはり、何も感じようとしないのね・・・・・・。

 

「もういいです・・・」

 

ギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!

 

「ぐっ・・・あ・・・あ・・・」

 

興ざめといったようなドクルンの言葉と同時に、メガビョーゲンがさらに地面へと押し付け、フォンテーヌが苦しみの声をあげる。

 

「木をやる前に、まずは目障りなあなたから終わらせてあげますよ」

 

「あ・・・あ・・・んぐっ!?」

 

苦しむフォンテーヌに、メガビョーゲンがさらに体を押し付けると風船の体が顔に張り付き、口と鼻を塞がれた彼女は息ができなくなる。

 

「んっ!・・・んぅぅ・・・」

 

フォンテーヌは両手で押しのけようとするが、やはりビクともしない。

 

「んんんぅ! んんんんんぅ!!! んぐぅぅぅぅ!!!」

 

フォンテーヌはメガビョーゲンから逃れようとジタバタさせるも、のしかかられている体勢のために足は前後に捩ることしかできず、両手は風船を引き剥がそうと力を入れているが、メガビョーゲンの力の方が強く、さらに素材は滑りやすいせいか力が入れることができない。

 

「んむぅぅぅぅ! むぅぅぅぅ!! んぶぅぅぅぅ!!!!」

 

「フフフ・・・ヘバリーヌによれば、窒息はだんだんと気持ちよくなってくるらしいです。苦しいのは少しだけ、あなたもそうなって終われば、幸せでしょう?」

 

苦しみもがくフォンテーヌの姿に、ドクルンは笑い声をあげる。その顔はもはや余裕の表情だ。

 

ドクルンがそう言うも、フォンテーヌの頭の中に気持ちよさなど感じない。息が吐き出せず、吸い込むこともできず、ただただ苦しさが増していくだけだ。

 

「フォンテーヌ!」

 

「んむぅぅぅ! んぶぅぅぅぅ!! むぐぅぅぅ・・・んぐぅぅぅ・・・!!」

 

ペギタンが呼びかけるが、フォンテーヌには聞こえておらず、彼女は拳を叩きつけるなり、足をバタバタとさせてもがいているだけだ。

 

「んむぅ・・・むぅ・・・んぐぅ・・・んぶ・・・」

 

やがてフォンテーヌの動きも緩慢になり、ただ痙攣しているような震える動きになる。瞳は虚ろになってきており、彼女の視界がぼやけて狭くなっていき、意識も遠のきかけている。

 

「んぶぅ・・・」

 

彼女の両手が地面にパタリと落ちる。息が止ま・・・る・・・。

 

しかし、メガビョーゲンは体を離そうとせずに、むしろ体をさらに押し付けるだけだ。

 

「フフフ・・・」

 

ドクルンが勝利を確信した・・・・・・その時だった。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

「!?」

 

そこへグレースとスパークルが飛び上がって、倒れているメガビョーゲンに同時に飛び蹴りを放つ。

 

パン!! ピュゥー!!!!

 

「メガァビョォー・・・!!??」

 

メガビョーゲンから破裂音が響いたかと思うと、怪物の体は地面に浮き上がり、空中を縦横無尽にめちゃくちゃに飛んでいきながら、地面へと衝突した。

 

グレースとスパークルはその隙にフォンテーヌに駆け寄って、彼女の体を起こす。

 

「フォンテーヌ!」

 

「大丈夫!?」

 

「ん、うぅぅ・・・ぷはぁ! ゲホゲホゲホッ!!!」

 

フォンテーヌは体を震わしつつも、ようやく息を吐き出すと激しく咳き込んだ。

 

「あーあ、ようやく目障りなやつを始末できると思ったのに・・・」

 

ドクルンは誰に言うわけでもなく、無表情にぼやく。

 

「ご、ごめんっす!! 自分のメガビョーゲン、やられちまったっす・・・!!」

 

バテテモーダが彼女の隣に降りてくると、申し訳なさそうに謝ってくる。

 

「はぁ・・・お人好しもここまでくるとあれですね・・・」

 

ドクルンは冷めたように言うと、メガビョーゲンの方へと向く。

 

「メガビョーゲン、何をしているのですか? あの3人をやりなさい」

 

「メガァビョォー・・・!」

 

メガビョーゲンは風船を膨らませて宙に浮かぶと、無数のジェット風船を噴射する。

 

「「!?」」

 

「「ぷにシールド!!」」

 

グレースとスパークルが気づくと、フォンテーヌの前でステッキから肉球型のシールドを展開して、迫り来るジェット風船を防ぐ。

 

「「くっ・・・!!」」

 

一つ前のメガビョーゲンとの戦いで体力を消耗しているのか、先ほどよりも押さえ込む力は無くなっており、足が徐々に後ろへと下がり始めていた。

 

フォンテーヌは息を整えながらも、シールドで弾かれたジェット風船が上に打ち上がるのを見る。

 

「二人とも! そのまま押さえておいて!!」

 

彼女は二人にそう言うと、氷のエレメントボトルをステッキにはめ込む。

 

「氷のエレメント!! はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ステッキの先から氷を纏った光線を、上へ跳ね返ったジェット風船に向かって放つ。

 

「よし!」

 

フォンテーヌはそのまま氷漬けになったジェット風船へと飛び上がる。

 

「ふっ!やっ!はぁ!!」

 

そしてメガビョーゲンに向かって蹴り飛ばし、ジェット風船の噴射をかい潜るようにして、メガビョーゲンの膨らんでいる風船へと当たる。

 

パン!! ピュー!!

 

「メガァ!? ビョォー!!!!」

 

破裂音が響いたかと思うと、メガビョーゲンは再び縦横無尽に飛んでいき、地面へと墜落した。

 

キュン!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

フォンテーヌはメガビョーゲンに近くに降りると、肉球にタッチしてステッキをメガビョーゲンに向ける。

 

ペギタンの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを見つける。

 

「空気のエレメントさんペエ!!」

 

エレメントさんはメガビョーゲンの右の脇の下あたりにいるのを確認できた。

 

「メガァ、ビョォー!!」

 

メガビョーゲンは再度風船を膨らませて宙に浮くと、そのままフォンテーヌに向かって突進してきた。

 

そんな彼女の近くにグレースとスパークルも集まり、3人は顔を見合わせて頷くと体が発光する。

 

「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 

同時にメガビョーゲンへと飛び出し、体を回転させて飛び蹴りのモーションとなって一直線に向かっていく。

 

「メガァ!? ビョォー!!??」

 

二つの攻撃がぶつかるも、プリキュア3人の方に軍配が上がり、メガビョーゲンはクルクルと回りながら吹き飛ぶ。

 

「私は大樹を守りたい・・・!! だって、りょうと友情を誓った思い出の場所なんだからーーーー!!!!」

 

「!!??」

 

フォンテーヌの叫びにドクルンが動揺する。まさか、あいつ・・・。

 

「一緒にやろう!!」

 

「ええ!!」

 

「うん!!」

 

3人はそれを合図に体が発光し、ミラクルヒーリングボトルをステッキにセットする。

 

「「「トリプルハートチャージ!!」」」

 

「「届け!」」

 

「「癒しの!」」

 

「「パワー!」」

 

グレース、フォンテーヌ、スパークルの順で肉球にタッチしていき、ステッキを上に掲げる。すると、花畑が広がっていき、背後には自然豊かな森が広がっていく。

 

さらにプリキュア3人の背後に、紫色のコスプレ姿をした女神の姿が映し出されていく。

 

「「「プリキュア! ヒーリング・オアシス!!」」」

 

3人は一斉にメガビョーゲンへとステッキを構え、ピンク・青・黄色の3色の光線が螺旋状になって放たれる。螺旋状の光線は混ざり合いながら一直線にメガビョーゲンに直撃する。

 

螺旋状になった光線はそれぞれの色の手へと変化して、3本の手が空気のエレメントさんを優しく包み込んでいく。

 

3色に光るハート状にメガビョーゲンを貫きながら、光線はエレメントさんをメガビョーゲンから外へと出す。

 

「ヒィーリィングゥッバァイ・・・」

 

メガビョーゲンたちは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「「「「「お大事に」」」」」」

 

メガビョーゲンが浄化されると同時に、病気に蝕まれた箇所は元に戻っていく。

 

「ワフ~ン♪」

 

体調不良だった子犬ーーーラテも額のハートマークが黄色から水色に戻り、元気になった。

 

「これで勝ったと思うなよ♪ 全く懲りない、悪びれない♪ーーーー」

 

二人はそのまま背を向けて歩き去ろうとする。バテテモーダがラップをしながら歩く中、ドクルンは立ち止まって背後を振り向く。

 

「あなたはいつになったら、病人の寂しさ、苦しさに気づくのかしらね? キュアフォンテーヌ・・・いや、ちゆ」

 

ドクルンは呟きながら、不敵な笑みを浮かべる。そして、再び歩き出す。

 

「ドク、ドク、ドクルン嬢も悪びれない♪」

 

「バテテモーダ」

 

「MC!バテテモーダ、ア~ンド、ドクルン嬢~♪」

 

「いい加減、やかましいです♪」

 

「レペあががが!? あひゃえい! あーもう、ラップはやめるっす!!」

 

ドクルンが怖い笑顔を貼り付けながら言うと、それに動揺したのかバテテモーダは言えずに舌を噛んでしまい、愚痴を漏らす。二人はそのままその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃病院の自室へと戻ったドクルン。何かが入っているわけでもない机の引き出しを開けると、そこには靄で赤く薄汚れたミサンガがあり、それを手に取った。

 

それはビョーゲンズとして生まれたときにいつの間にかよくわからずに付いていて、外して適当に引き出しに入れておいたもの・・・・・・。

 

ミサンガを手のひらに置いて、なんとも言えない顔で見つめながら過去の映像を思い出す。

 

ーーーーお揃いで私たちの友達の証、ずっと友達でいたいから

 

ーーーー・・・ありがとうございます。純粋に、嬉しいですよ、ちゆさん。

 

ーーーーその呼び方、やめない? 友達なんだから、普通でいいわよ

 

ーーーー・・・わかった。嬉しいわ、ちゆ。これでいい?

 

全てが甦ったわけではないが、これは自分の記憶なんだとそう自覚する。

 

・・・過去に私に会っていて、友達だと言って・・・今はキュアフォンテーヌに変身して、ビョーゲンズに楯突いている少女ーーーーちゆ・・・。

 

ーーーーみんなみんな、生きてるの・・・!! 辛いことだって、寂しいことだって、いっぱいあるかもしれない・・・!! でも、みんなはそれを抱えて精一杯、今を生きてるの・・・!!

 

ドクルンはフォンテーヌが言った言葉を思い出し、手のひらの上のミサンガを潰すかのように握る。

 

「ちゆ・・・私はあなたを、医者を、人間を、この世界を、絶対に許さないわ・・・。永遠にね・・・」

 

怨差のような言葉をボソリと呟く。みんな、あなたみたいに生きていることが幸せなやつがいるだなんて、思い上がらないでほしい。

 

その一方で、ドクルンは口元に微笑を浮かべる。

 

ーーーーりょうと友情を誓った思い出の場所なんだからーーーー!!!!

 

でも、あいつが忘れていたはずの昔のことを覚えていたのは、ちょっと嬉しかった、かも・・・。

 

ドンドンドンドン!!

 

「ドクルン!!」

 

ドアをノックする音が聞こえてきたかと思うと、クルシーナの声が聞こえてくる。

 

「帰ってんでしょ? 一緒にまんじゅう食べましょうよ! たまにはね」

 

どうやら彼女からおやつーーーー否、お茶会のお誘いのようだ。

 

「はいはい。今、行きますよ」

 

ドクルンは手のひらのミサンガをデスクへと置くと、自室を後にしていくのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第45話「子供」

原作第17話がベースです。
今回はヘバリーヌが再び活躍する話です。


 

ビョーゲンキングダムーーーーそこはビョーゲンズにとって快適な世界。

 

そんな場所でシンドイーネが、ダルイゼンと同じくらいと思えるほどにだらけている様子で・・・。

 

「あーホント・・・何もする気がしない・・・」

 

シンドイーネは本当に何もやる気なく岩場に寝そべりながら、あくびを漏らしていた。

 

「こんなときは癒しが欲しいわ~・・・!!」

 

かと思えば、駄々っ子のように両腕両足をバタバタとさせ、また体をぐったりとさせる。

 

「おっ、シンドイーネ姐さん。相変わらずお綺麗で~」

 

そこへバテテモーダがいつもと変わらない様子で彼女へと近づく。

 

「・・・あんたは相変わらず調子いいわね。あたしは何だかクタクタなのよ」

 

そう言って、寝転がってひどく疲れた様子を見せるシンドイーネ。

 

「シンド姉、疲れてるのぉ~?」

 

「ひっ!? へ、ヘバリーヌ!?」

 

ヘバリーヌの声が聞こえてきたかと思うと、近づいてきた彼女に小さな悲鳴をあげてすくっと起き上がる。

 

「ヘバリーヌちゃんがマッサージしてあげよっか~?」

 

ヘバリーヌは両手をわしわしとさせながら、いたずらっ子のような笑みを浮かべる。

 

「い、いいわよ!! あんたに肌を触られるなんて!!」

 

「ぶぅ~・・・お姉ちゃんたちは気持ちいいって喜んでくれるのにな~♪」

 

この前のお触りがトラウマになっっているのか、シンドイーネはあからさまに怯えたような様子を見せ、その反応を見たヘバリーヌが顔を膨らませる。

 

「じゃ~あ~、ヘバリーヌちゃんを気持ちよくしてぇ♪」

 

「ち、近づかないでよ!! 相変わらず、あんたは気持ち悪いわね!!」

 

顔を近づけてくるヘバリーヌを手で押しのけながら、シンドイーネは嫌悪感を隠さない。

 

「ヘバリーヌ嬢は、本当に相変わらずっすね・・・」

 

バテテモーダは、ヘバリーヌに呆れた顔を隠さない。

 

「じゃあ、シンドイーネ姐さん、こういうのはどうっすか?」

 

「?」

 

バテテモーダはどこから手に入れてきたのか、一冊の本を彼女に見せる。

 

「ん~? モーダちゃん、何それ~?」

 

ヘバリーヌも一緒に覗き込んで、目をパチクリとさせる。

 

「温泉のガイドブックっす。人間共は心と体を癒すために、温泉とかいうのに入るらしいっすよ~」

 

「ふぅ~ん」

 

バテテモーダが見せたページには、魅惑の温泉郷だの、癒しを温泉で味わおうだの、最高の癒しだの、様々な温泉が銘打って書かれていた。

 

「温泉?」

 

「なんか全然気持ちよくなさそぉ~・・・」

 

「ホント、くだらないわね」

 

ヘバリーヌはなんだかつまらなそうに見つめていて、シンドイーネも同調するかのように鼻を鳴らす。

 

「あたしの癒しは~、キングビョーゲン様のぉ~、お優しいお言葉だけなんですぅ~♥♥♥」

 

いつもよりハートを出しながら乙女のような表情をしながら、赤黒い空にそう叫ぶ。

 

「・・・パパ、見えないよ?」

 

「っていうか、いないし・・・」

 

「・・・はぁ」

 

いつもよりも冷めたような言葉のヘバリーヌと、呆れたようなバテテモーダの、二人が空を見上げながらの言葉。

 

愛しのキングビョーゲン様は今日も現れず・・・・・・シンドイーネはため息をつくしかない。

 

「当たり前じゃない」

 

「っ・・・!」

 

聞こえてきた声に顔を顰めたシンドイーネが振り向くと、クルシーナが岩場で寝そべっているのが見えた。

 

「お父様は体が封印されてるんだからそんなにちょくちょく出てこれないし、ましてや部下に任せっきりにして働きもしない幹部のところに顔を出すとでも思ってんの? 夢見すぎでしょ」

 

クルシーナは嫌味ったらしく、咎めるような声でそう言う。

 

「うるっさいわね・・・わかってんのよ、そんなこと!!!」

 

「だらだらしてたくせに、説得力ないんだよ」

 

シンドイーネの怒ったような声に、クルシーナも睨み返す。

 

・・・アタシはお父様のため、地球を病気で蝕むためにあらゆる策を練っているというのに、このボンクラどもは・・・!

 

ますますイライラするシンドイーネは悔しそうな顔をする。

 

「そうよ・・・! あたしの気を晴らすためにも・・・キングビョーゲン様に褒めていただくためにもーーーー」

 

シンドイーネは指を突き立てながら、こう宣言するのであった。

 

「地球を蝕みに行かなくっちゃ!!」

 

「おぉ~♪」

 

パチパチパチパチ・・・

 

そんな彼女をバテテモーダとヘバリーヌは拍手をしながら称える。

 

「な~に、当たり前のこと言ってんだか・・・」

 

「そこ!! 聞こえてんのよ!!」

 

ボソリと言ったつもりのクルシーナの言葉は、シンドイーネにも聞こえていたようで彼女は憤慨する。

 

「聞こえるように言ったんだよ」

 

クルシーナは悪びれもせずに、嫌味ったらしく返す。

 

「くっ・・・今に見てなさい!!」

 

シンドイーネは悔しそうにしながら、スタスタと歩いてその場を去った。

 

「ん~」

 

「ああ・・・?」

 

「ヘバリーヌちゃんも行ってこようかなぁ~? ここにいても退屈だし、行かないよりはいいっしょ♪ 行ってきまぁ~す♪」

 

ヘバリーヌはバテテモーダから本を取ると、楽しいことをしてこようとルンルンと歩いていく。

 

「いってらっしゃ~い! お二方~!!」

 

バテテモーダがいつもの調子で二人に手を振る。

 

「・・・・・・ふん」

 

クルシーナはその様子を見ながら鼻を鳴らすと、横へと寝返りを打つのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え~っと、この街の温泉は~・・・」

 

ヘバリーヌは商店が多くある街を歩きながら、本をパラパラとめくっていた。

 

ここはすこやか市・・・ということはすこやか市のページを見れば、その温泉の情報が載っているはず・・・。

 

「おぉ、あったあった~♪ え~っとぉ、これなんて読むのかなぁ? さ、さわ・・・さわせん? りょかんさわせん? さわみず・・・さわみずぅ~?」

 

すこやか市の温泉情報のページを見つけ、その中で特に気になったのは・・・大きく書かれているのは『旅館 沢泉』。しかし、ヘバリーヌは後者の漢字をなんと読むのかわからない様子。

 

「まぁいっか~♪ ここにしよ~♪ この温泉、何かありそうだし~♪」

 

ヘバリーヌは旅館沢泉に狙いをつけて歩くことにした。もちろん、指を鳴らして人間に変装することも忘れない。

 

白鳥のバレリーナのような格好からハーブ園のイベントに参加した際に来ていた服装にチェンジ、肌も人のような肌にして、悪魔のようなツノとサソリのような尻尾を隠せば、立派な人間への変装の完了だ。

 

早速歩き出していくヘバリーヌだが、途中で気になるお店を見つけて足を止める。

 

「おぉ?」

 

お店をよく見るとオレンジ色の暖簾に『おんせんまんじゅう』と書かれていて、ショーケースの横には箱がいくつも積み上がっている。

 

店に近づいてみると、立てて置いてある箱には『すこやかまんじゅう』と書かれていた。

 

「おぉ~♪ これって♪」

 

この前、クルシーナお姉ちゃんがお土産にとくれたやつだ。食べてみたら、それはそれは美味しかったなぁ~・・・・・・。

 

なんか、思い出したら、また食べたくなってきちゃった~・・・・・・。

 

ヘバリーヌはそう思うと箱を一つ手に取ると、ショーケースの上に出す。

 

「これ、く~ださい♪」

 

そう言ってクルシーナからもらった人間界のお金を出す。

 

「まいど! おや? お嬢ちゃん見かけない顔だねぇ? 観光かい?」

 

「そうだよぉ~♪」

 

店員であるおばちゃんに、ヘバリーヌは貼り付けた笑顔を見せる。

 

これも怪しいやつだと疑われないように、お姉ちゃんたちに教えてもらった取り繕うということ・・・ヘバリーヌちゃんには容易いことだ。

 

「そうかい? ここはいいところがいっぱいあるから、ゆっくり見てきな!」

 

「ありがと♪」

 

店員からお釣りを受け取ったヘバリーヌは、店から離れた場所に移動する。

 

「あ~む・・・」

 

早速、箱を開けてまんじゅうを一つ、口の中にほうばる。

 

「ん~♪ やっぱり美味しいぃ~♪」

 

ヘバリーヌは赤らめた頬に手を当てながら、嬉しそうな表情を見せ、さらにもう一個口の中に入れる。

 

この喜びに不快さはないから、いくら食べてもダ~イジョ~ウブ♪

 

「「ワウ!!」」

 

「オイシイでーす!」

 

「イッツ、アメージング!!」

 

「ん~?」

 

何やらテンションの高い声が聞こえたかと思うと、振り向いてみたらそこは先ほどのまんじゅうのお店だった。

 

そこにはヘバリーヌでもわかるぐらいの、明らかなここの街の住人ではない夫婦っぽい男女。そして、その隣には・・・。

 

「おぉ、プリキュアちゃんだぁ♪」

 

藍色の髪の少女、確かあれは青いプリキュアだったはず。どうやら彼らに街の案内をしている模様。

 

「あむ・・・ああ!!」

 

あの夫婦の子だと思われるベレー帽をかぶった少女がまんじゅうを摘んで、嬉しそうな顔をする。

 

「どうですか?」

 

「!・・・クッキーの方が好きだわ」

 

藍色の少女に問われるとぶっきらぼうに返すベレー帽の少女。

 

「そう・・・クッキーの方が美味しいものね・・・」

 

なんだか冷たくされている模様で、その藍色の少女は落ち込んでいるように感じられた。

 

「う~ん、なんであの子、素直にならないのかなぁ~?」

 

ベレー帽の少女の態度に、ヘバリーヌは疑問符を浮かべる。

 

ヘバリーヌちゃんみたいに素直になれば、ずーっと楽しいのに~・・・・・・。

 

お姉ちゃんたちからは素直すぎって言われてお仕置きを食らっていて、ヘバリーヌちゃんは嬉しいんだ。お姉ちゃんたちの喜ぶことはみ~んな好き♪

 

だって、あのすこやかまんじゅうはお姉ちゃんによれば、すこやか市の名物で、あのおんせんまんじゅうよりも・・・おんせん・・・おんせん・・・?

 

「あっ!! 温泉行かないと!!」

 

唐突に思い出したヘバリーヌはすこやかまんじゅうの箱を指先を向けて消す。

 

「続きは後でた~べよっと♪」

 

ヘバリーヌはそう言うと、沢泉の温泉に向かって歩き出す。

 

向かえているかどうかはわからないが、なんとなく進めば着くだろうと歩いていて、気がつくと建物が見えなくなっていて、咲き誇る花が広がる場所に来ていた。

 

この場所は、ヘバリーヌにとっては肌にピリピリするようで・・・。

 

「うぅ~ん♪ この健康的な環境ぉ~♪ いい感じ~♪」

 

彼女は肩を抱きながら悶えつつも、旅館へと歩いていく。

 

きゃはははは♪ うふふふ♪

 

わーい♪ わーい♪

 

「ん~?」

 

嬉しそうな子供の声が聞こえ、振り向くとそこは公園であった。

 

ブランコに乗っているもの・・・ボールで遊んでいるもの・・・すべり台で遊んでいるもの・・・ラジコンカーで遊んでいるものと、たくさんの子供たちが遊んでいた。

 

「ん・・・・・・・・・」

 

ヘバリーヌは何か思うところがあるかのように、その公園の中へと入っていく。

 

「ん?」

 

すると子供の遊んでいるボールが足元に転がってくる。ヘバリーヌがそのボールを拾い上げると、子供の声が聞こえてきた。

 

「お姉ちゃーん!」

 

「ボール!ボール!」

 

「あ・・・うん♪」

 

ヘバリーヌはぼんやりしていたが、子供の声で我に返ると彼女たちの元へとボールを持っていく。

 

「ありがとう、お姉ちゃん!」

 

「どういたしまして♪」

 

ボールを受け取った少女は彼女にお礼を言う。すると、遊んでた子供たちがヘバリーヌの元に集まってきた。

 

「お姉ちゃん見ない人だね~」

 

「どこから来たの~?」

 

「えっとね~、遠くから来たんだよ~。あの山の向こ~」

 

「へぇ~」

 

「すご~い!」

 

ヘバリーヌは子供の質問に、適当に答える。自分がビョーゲンズと言えるわけがないので、ごまかさざるを得ない。

 

「お姉ちゃん、一緒に遊んで~」

 

子供から遊ぶことを要求されると、妖艶な微笑みを浮かべる。

 

「な~に~? お姉ちゃんと遊びたいの~?」

 

「うん!!」

 

子供はヘバリーヌの言葉に動じずに元気な様子だ。

 

「じゃあ、襲っちゃうぞぉ~♪」

 

「わーい、おにごっこだー!!」

 

「待て待て~♪」

 

子供は手をワキワキとさせるヘバリーヌから走って逃げて行き、ヘバリーヌも子供の走りに合わせて追いかけていく。

 

「ンフフ~、子猫ちゃんったら早~い~♪」

 

「捕まんないも~ん!」

 

「捕まえちゃうぞぉ~♪」

 

子供もヘバリーヌも、楽しそうに追いかけっこしている。

 

「タ~ッチ♪」

 

「きゃあ♪」

 

「次はお嬢ちゃんが鬼だよぉ~!」

 

「わーい、お姉ちゃん待ってぇ~」

 

子供の一人にタッチして、ヘバリーヌは背後を振り向いて逃げ、子供が追いかける。もちろん子供の走りに合わせて。

 

子供たちといわゆる鬼ごっこをしているヘバリーヌは頭の中で考えていた。

 

・・・・・・前もこんなことして、遊んだ気がする。

 

鬼ごっこの後も、ヘバリーヌは子供たちとの遊びに付き合った。

 

「いーち」

 

「おー!」

 

「にーい」

 

「おおー!!」

 

「さーん!」

 

「わーい、きゃはははは♪」

 

ヘバリーヌが子供の背中を押しながら、ブランコを漕いであげていた。

 

「お姉ちゃーん!僕も僕も!!」

 

「はいは~い! 順番ね~♪」

 

男の子が急かそうとするも、ヘバリーヌは子供をなだめる。

 

・・・こんなことも、した気がする。

 

「だ・る・ま・さ・ん・が・こ・ろ・ん・だ~!」

 

その後、ヘバリーヌは木の幹に顔を伏せながら言葉を言い、最後の単語を言うと振り向く。子供たちは思い思いのポーズを取りながら、その場に停止する。これはそういう遊びなのだ。

 

ヘバリーヌはしばらく見つめた後、再度木に顔を伏せる。

 

「だ・る・ま・さ・ん・が~・・・・・・ころんだぁ~!」

 

ヘバリーヌは言い方のテンポを変えながら、最後の単語を言うと振り向く。すると・・・・・・。

 

「きゃっ!」

 

片足を上げて静止していた女の子がバランスを崩して、地面に膝をつく。

 

「その娘、アウトォ~♪」

 

「う~ん、悔しい~・・・」

 

ヘバリーヌは子供に指をさしながら言うと子供は悔しそうにしながらも、ヘバリーヌが伏せている木に幹に捕まるように触っておく。

 

それを確認するとヘバリーヌは再度木に顔を伏せる。

 

「だ・る・ま・さ・ん・がーーーー」

 

「タッチ!」

 

「わーい!!!」

 

男の子がヘバリーヌにタッチすると子供たちは一斉に走り出した。

 

「ああ、待て待てぇ~♪」

 

ヘバリーヌはそれに気づくと手をワキワキとさせながら、子供たちに合わせて走り出す。

 

・・・う~ん、こんな遊びもしていたような気がする。

 

あとは、子供が操縦するラジコンのヘリコプターをヘバリーヌが追いかけ回したり、すべり台で一緒にすべったり、シーソーに一緒に乗ったり、砂場で砂山を作って遊んだりと、子供たちと一緒に遊んで楽しんだ。

 

「あ~む・・・んんん~♪ このまんじゅう美味しいな~♪♪」

 

そして、遊んだあとはヘバリーヌが残していたすこやかまんじゅうをみんなでおすそ分けして、一緒に食べて、みんなで笑顔になった。

 

「・・・ん?」

 

すこやかまんじゅう・・・まんじゅう・・・おんせん・・・・・・。

 

「ああ~!! ヘバリーヌちゃん、行かなきゃいけないところがあったんだった~!!」

 

子供たちと遊んでいて、沢泉の温泉に行くのをすっかり忘れていたヘバリーヌ。早く行かないと~・・・・・・。

 

「お姉ちゃん、もう行かなきゃ~・・・」

 

「行っちゃうの~?」

 

「うん♪」

 

ヘバリーヌがそう答えると子供たちは悲しそうな顔をする。彼女はそんな表情に目を丸くすると、その子供の頭に手を置いて撫で始める。

 

「そんな顔しないで♪ また遊ぼ♪」

 

「・・・うん」

 

ヘバリーヌは子供に笑顔を見せると、子供は名残惜しそうにしながらも頬を染める。

 

「じゃあ~ね~~~!!!」

 

「「「「バイバーイ!!!!」」」」

 

ヘバリーヌは子供たちに手を振ると、そのまま公園を後にした。

 

・・・こういうのも、なんだか経験してたような気がする。

 

「・・・・・・・・・」

 

旅館沢泉へと向かう道すがら、ヘバリーヌは自分の両手を見つめながらワキワキとさせていた。

 

子供たちといろんなことをして楽しかった・・・いろんな遊びをして楽しかった・・・子供たちと一緒にいられて嬉しかった・・・。

 

これは本当の気持ち・・・純粋に思った楽しい気持ち・・・嬉しさ・・・・・・。

 

なのに・・・なんでだろう・・・。

 

この、不快感・・・そして、懐かしい気持ち・・・・・・。

 

これも、ダル兄が言っていた、自分にとっては不快な環境なのかなぁ・・・?

 

ヘバリーヌはまた頭の中がもやもやとしていたのであった。

 

そんなことを考えて無意識に歩いているうちに、大きな建物が彼女の目の前に姿を現す。

 

「あ・・・・・・」

 

ヘバリーヌはそれに気づいて、目の前を見るとその入り口の看板には『旅館 沢泉』とある。彼女が目的としていた温泉旅館だ。

 

「あぁん、や~っと見つけたぁ~♪」

 

とりあえず頭を切り替えるように擬態を解除して、いつもの調子に戻ると温泉旅館の入り口の前に立つ。

 

「ここで~、ヘバリーヌちゃんを気持ちよくしてくれるんだよねぇ~♪」

 

ヘバリーヌは下半身を嫌らしく抑えながら身悶える。温泉は地球の人間にとっては健康的だと聞いたから、ヘバリーヌちゃんも気持ちいい気分に浸れるはず。

 

早速、入り口から入ろうとするのだが・・・・・・。

 

「ちゆちー、ちゃんとやれてるかなぁ?」

 

「お仕事中でいなかったりして~」

 

誰かがここに来るような気配がして、話し声も聞こえてくる。

 

「誰か来たねぇ~・・・」

 

ヘバリーヌはきょろきょろと見渡し、背後に草むらがあるのを見つけるとそこへ飛び込んで身を隠し、外の様子を見つめる。

 

ちょうど入り口の前に二人の少女が歩いてくる。しかし、それはヘバリーヌにとっても見覚えのある髪型だ。

 

一人はマゼンダショートヘアの少女、もう一人は栗毛ツインテールの少女・・・。

 

「あれぇ~、プリキュアちゃんたちだぁ~♪」

 

そう。あの二人はヘバリーヌちゃんがハーブ園を気持ちよくさせようとしたときにもいた、プリキュアの二人だった。今は変身前の姿であの真面目そうな服装ではないが、一体ここに何をしに来たのか?

 

すると、二人は旅館の扉に近づいて、そっと少しだけ開けると中を覗き始めた。

 

「なんで素直に入らないのかなぁ~?」

 

ヘバリーヌは二人に疑問符をつける。あんなこそこそしなくても、普通に正直に入って仕舞えばいいのに、あれでは変装が怪しまれたときの感覚と変わらない。

 

「あれ~? ちゆちー、いないのかなぁ?」

 

「うむ・・・」

 

何やら誰かを探しているようだが、そんな彼女たちに藍色ロングヘアの少女が近づく。

 

「何しているの?」

 

「「!!??」」

 

声をかけられてびっくりし、背後を振り返る二人。

 

「あわわわわわわ・・・!!??」

 

「あわわわ!!?? ああ、え~っと・・・!!!」

 

何か言い訳をしようとしているようだが、しどろもどろになって言葉が出ていない。

 

そんなに驚くぐらいなら、堂々としてればいいのに~・・・・・・。

 

ヘバリーヌは純粋にそう思った。

 

「ち、ちゆちーがね~!!」

 

「頑張ってるのを、ちょっとだけ見に来たの・・・ごめんね、忙しいときに」

 

「今は大丈夫よ。それに私も、二人にちょうど会いたかったから・・・」

 

「えっ・・・?」

 

「ちゆちー・・・?」

 

「あ・・・ううん、何でもないわ・・・!」

 

藍色ロングヘアの少女は何やら気落ちしているような声色だ。

 

・・・っていうか、よく見たらプリキュアちゃんたち3人集まってるねぇ~。

 

ヘバリーヌはそう考えつつ、3人の様子を伺う。

 

その後は3人の間で沈黙が続く。それを打ち破ったのはマゼンダショートヘアの少女だった。

 

「ねえ、ちゆちゃん。まだ、ちょっとだけ時間あるかな?」

 

「!・・・え・・・?」

 

マゼンダショートヘアの少女がそう言うと、3人はどこかへと歩いていく。

 

旅館の入り口に誰もいなくなったことを確認したヘバリーヌは草むらから飛び出す。

 

「あぁ~ん♪ 植物がチクチク、ムズムズして気持ち良かったぁ~♪」

 

どうやら覗きながら、草むらの植物たちが体の節々を刺してくるのを楽しんでいたようで、ヘバリーヌは肩を抱きながら悶々とする。

 

「でもぉ~、本命はそっちじゃないもんね~♪ じゃあ、早速温泉に~♪」

 

ヘバリーヌは気持ちを切り替えて、温泉宿に入るべく先ほど二人が開けた扉の隙間から様子を伺おうと覗き込む。

 

「ん~・・・・・・」

 

中は静かなようだが、受付だと思われるところに着物を着た従業員の姿があった。

 

「人がいるねぇ~。入りづらいなぁ~・・・」

 

この入り口から中に入るのは難しいと判断。ましてや、こんな格好では変質者として追い出されそうだ・・・。

 

まあ、ヘバリーヌちゃん的には従業員たちに冷たい目で見られるのはアリだけど、それでは温泉を堪能できなくなりそうだ。全く来た意味がなくなる。

 

入り口を離れてきょろきょろと見渡して、他に行ける場所がないか探す。

 

ふと店の名前の看板の上を見る。あそこ、なんだか登れそう・・・!

 

「そうだ~!! 前がダメなら~、上から入っちゃえばいいんだ~!! よーし!!」

 

ヘバリーヌは看板の上へとジャンプして飛び乗り、屋根の上、そのまた屋根の上へと飛び移って建物のてっぺんへと来る。

 

・・・キングビョーゲンの娘であれば普通に飛べるので、そういうことは簡単に思いつくはずなのだが

 

まあ、それはともかく、ヘバリーヌはきょろきょろと見渡して温泉を探している。

 

「!! あったあった~!!」

 

何かを見つけたヘバリーヌは建物から飛んで、その場所へと降りる。

 

そこは大理石の床で、木でできたベンチのようなものがあり、その空間の真ん中には四角い枠の中にお温があって、右の角の部分には岩場があってそこにもお湯があった。

 

「はぅ~♪ これ温泉だよねぇ~? いいねいいねぇ~♪ ピリピリ感が肌に伝わってくるよぉ~♪」

 

ヘバリーヌは健康的で良さそうなものを見つけて大興奮。これで今までの地球の健康的な環境よりも、もっと気持ちいいのを味わえると。

 

「じゃあ、早速~・・・あつっ!」

 

ヘバリーヌは四角い枠のお湯に足を入れると反射的に引っ込める。しかし、それとは裏腹に彼女の頬は赤く染まっていた。

 

「うぅ~うぅ~♪ 熱くって、痛くって、気持ちいいなぁ~♪」

 

どうやらお湯の熱さに快感を抱いている模様。

 

そうだ、今度お姉ちゃんにロウソクでのアレに加えて、こういうこともしてもらおうかなぁ~・・・。

 

そういう卑猥な考えが浮かんだが、気を取り直して、ヘバリーヌはお湯に足を入れて、体をゆっくりと沈めていく。

 

肩まで沈め、しばらくするとヘバリーヌの体がプルプルと震え始める。その表情は辛そうに、でも顔は明らかに頬は赤く染まっていた。

 

その震えがさらに大きくなると、足をもじもじと悶えるように捩らせ始め・・・そして・・・!!

 

「あぁぁぁぁん♪」

 

ヘバリーヌは体を後ろへと仰け反らせ、体をビクンビクンと痙攣させる。

 

「ああ・・・いい、いいよぉ、すごくいいぃ・・・この健康的なお湯がぁ、ヘバリーヌちゃんの全身を蝕んで、ジクジクと痛みを与えてくるのぉ・・・! ピリピリして、ピクピクして、ジクジクして、ズンズンして、痛くて・・・・・・すっごく気持ちいい~~~!!!!!!」

 

ヘバリーヌは他所の建物だというのも忘れて快感の声を上げ、完全な興奮状態だった・・・。

 

それはそれとして、やはり温泉はビョーゲンズにとっては不快に感じるものらしく、肉体的に体を受け付けないようだ。しかし、ヘバリーヌのような変わった性癖の持ち主であると、そんな違和感を全て無くすことができるようだ。ダメージは受けているはずなのだが・・・。

 

ヘバリーヌは言葉では表現できない感覚をもう一度味わおうとするが、誰かがここに近づいてきたようだ。

 

コツコツコツ・・・

 

「はぁ・・・・・・」

 

「!?」

 

ヘバリーヌはまだ溢れ出る快感を抑えながらも、温泉から出ると建物の上へと飛び上がって様子を伺う。

 

入ってきたのは、先ほどまんじゅうのお店の前で変わった夫婦と一緒にいた娘らしき子だった。

 

その娘は何やらつまらなそうな様子で歩いていくと木の枠に腰掛けて、お湯の中に足を入れる。

 

ヘバリーヌは娘の表情を伺えないにしても、その背中は何やら寂しそうで、どう見ても足湯を楽しんでいる様子ではなそうだった。

 

「あぁん♪ 寂しそうな、娘、だね~・・・♪」

 

ヘバリーヌは快感の余韻に浸りながらも、声を抑えながら様子を伺う。

 

すると、そこに誰かが入ってきて、少女の隣に座ってきた。

 

「おぉ? プリキュアちゃん、戻ってきたんだぁ~♪」

 

その少女は度々見かける青いプリキュアに変身する、藍色ロングヘアの少女。ここに堂々と入れるということは、この旅館は彼女のものなのか。

 

「エミリーさんは、いつもどんな遊びをしてるの?」

 

「・・・ブランコとか、追いかけっことか」

 

「!?」

 

藍色ロングヘアの少女は歩み寄ろうとしているが、その少女が話したことにヘバリーヌは目を見開いて驚く。

 

ブランコ・・・先やった。追いかけっこも、さっき・・・子供たちとやった。

 

ヘバリーヌが考えることをやめていた、中に何かモヤモヤした不快な気持ちが甦ってくる。

 

「じゃあ、きっと公園が好きなのね」

 

「・・・公園は好きよ。でも、日本の公園は嫌い。お友達がいないもの・・・」

 

ズキッ・・・・・・。

 

「っ・・・!」

 

少女が吐露した言葉に、ヘバリーヌは胸の中がチクっとするような感じがした。

 

・・・何、これ? 痛い・・・痛いのは気持ちいいはずなのに、気持ちよくない・・・。ただただ不快感が膨らむだけ。

 

これ、何? 何なんだろう・・・?

 

ズキッ・・・・・・。

 

「っ・・・・・・」

 

顰めるほどではないが、頭に何やらジンジンと痛みを感じる。ヘバリーヌの頭の中に映像が流れてくる。

 

ザザ・・・ザザ・・・。

 

ーーーーお前、あの子たちと一緒に遊ばねぇのか?

 

ーーーー・・・体の弱い子が入ってもつまんないからダメだって・・・。

 

落ち込んだように壮年の男性の近くに戻ってきて、訳を吐露する自分・・・。

 

ザザ・・・ザザ・・・。

 

ーーーーいいなぁ・・・みんな楽しそうで・・・。

 

ーーーーゲホゲホッ・・・ーーちゃんも一緒にあの中に混ざりたいなぁ・・・。

 

家のベッドの上で、窓から遊ぶ子供たちを羨ましそうに見る自分・・・。

 

・・・そういえば、ヘバリーヌちゃんって、なんで動けなかったんだっけ?

 

「でも、私は嫌・・・!!」

 

「!!」

 

少女の声に、我に帰ると気を取り直して様子を伺う。

 

「こっちでお友達ができるかわからないし・・・」

 

ズキッズキッ・・・ズキズキズキッ・・・。

 

「っ・・・!!」

 

お友達・・・その言葉に胸がチクチクと痛む。

 

不快・・・不快・・・不快不快不快・・・!!!

 

ヘバリーヌは心の中に黒い感情に支配されると、その場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

藍色ロングヘアの旅館から公園の近くへと逃げてきたヘバリーヌ。その表情は辛そうで、悲しそうな顔だった。

 

「・・・!?」

 

自分の掌を見ると手汗で濡れていて、気のせいかフルフルと小刻みに震えているのがわかる。

 

本当になんだろう、これ・・・不快・・・不快・・・不快感しかない・・・。

 

公園で一緒に遊んだ子どもたちに楽しいという気持ち、でも不快感を感じる。

 

私に別れを惜しむ子供に笑顔を見せる、でも不快感を感じる。

 

バイバイと手を振ってくれる子供たちは嬉しい、でも不快感を感じる。

 

あの少女のお友達という言葉に、寂しい・・・でも不快感を感じる。

 

友達ができるかわからないという言葉に、胸が痛い・・・不快感を感じる。

 

懐かしい感じはするのに、不快で、不快で・・・なんだか気持ち悪くて、不愉快しか感じない・・・。

 

嬉しい・・・不快・・・楽しい・・・不快・・・寂しい・・・不快・・・。

 

頭がグチャグチャになって、よくわかんない・・・!!!!!

 

ヘバリーヌは両手を胸に当てる。私は、一体、何が楽しいんだろう・・・?

 

子供たちと遊ぶことか・・・地球を病気で蝕むことか・・・。

 

ポツ、ポツ・・・。

 

「・・・?」

 

頭に冷たいものが当たり、見上げてみると黒い雲が空に広がっており、その雫がポツポツと落ちてきている。どうやら雨が降ってきたようだ。

 

「あぁ♪」

 

首筋に雨が当たり、ヘバリーヌは甘い声を漏らす。

 

それを合図に雨がパラパラと降ってきて、ヘバリーヌの体を濡らしていく。

 

「冷たくて気持ちいいなぁ~♪ あぁ・・・体中に雨の水が当たってぇ~、ピリピリするぅ~、あぁん、快・感♪ ンフフフフフフ~~♪」

 

雨が降った途端に、ヘバリーヌのモヤモヤした考えは一瞬で吹き飛び、彼女の体に快感が押し寄せてくる。避けようがない雨に体中が不快を感じているようで、痛くて不快で、すごく気持ちいい感じがする。

 

ヘバリーヌはクルクルと回り、バレリーナのように舞い踊りながら、雨が当たる痛くて気持ちいい快感を楽しんでいた。

 

「おぉ?」

 

気がつくとブランコや砂場といった先ほど子供と遊んでいた公園に着いており、滑り台の上には見たことがある女性の姿が。

 

「ンフフフフフ・・・水も滴るいい女、シンドイーネの、登場よー!!」

 

ビョーゲンズの先輩幹部、シンドイーネだった。最初は水浴びをしているのかなと思ったヘバリーヌだが、彼女は何やら上手いことを言ったつもりのようなセリフを言って、自分の存在をアピールするように手を大きく広げていた。

 

ヘバリーヌはその様子を見るとゆっくりと彼女が乗る滑り台に近づく。

 

「シンド姉~♪」

 

「!? ヘバリーヌ!?」

 

ヘバリーヌに声をかけられて、驚くシンドイーネ。

 

「・・・何してるの? 痛いよ・・・?」

 

「何よ!? 水で濡れた美しい~、私をみんなに見せつけてるのに!!」

 

ヘバリーヌに一転して冷めたような態度で言われ、憤慨するシンドイーネ。ヘバリーヌはそれを聞いて辺りをきょろきょろするが・・・。

 

「・・・誰もいないよ?」

 

「え、えぇ!? 嘘!? って、本当に誰もいないじゃない!!」

 

シンドイーネが周りを見渡しても、本当にヘバリーヌ以外誰もいなかった。

 

「最初から誰もいなかったよ~?」

 

「それを早く言いなさいよ!!」

 

「なのに子供の遊具の上でカッコつけてるの~? カワイイ♪」

 

「う、うるさいわね!!」

 

後輩にいびられて、薄紫の頬を赤くしながら怒るシンドイーネ。

 

「ねえ、シンド姉♪」

 

「・・・何よ?」

 

「今日も地球に来て、い~っぱい楽しくて、不快なことを学んだの。なんで不快って感じるのかなぁ~?」

 

ヘバリーヌが顰めた表情をするシンドイーネに質問をする。ダル兄にも教えてもらったが、この不快感の正体が本当に何なのかを聞きたいのだ。

 

シンドイーネは顰めた表情のまま見つめて、ふんと鼻を鳴らすと口を開く。

 

「そんなの、あんたが普通じゃないからでしょ?」

 

「おぉ?」

 

「ビョーゲンズの幹部のくせに、他の女に痛めつけられたいわ、妙に明るい声だわ、病気で蝕む概念が他の連中と異なるやら、あんたは他とおかしいところが多いものね。何をやってたのか、あたしは知らないけど」

 

ヘバリーヌちゃんが普通じゃない・・・?

 

ということは、普通じゃ満足できないってことかなぁ? 子供たちと遊んでいるのが普通なら不快で、ヘバリーヌちゃんが気持ちいいと思ってやってることは楽しい・・・。

 

あぁ!! そうかそうか!! そういうことなんだぁ~!!

 

ヘバリーヌちゃんは普通でないと満足できないし、普通じゃないことが楽しいんだぁ~♪ スッキリした~♪

 

「シンド姉~♪」

 

「何? きゃあ!?」

 

「ありがと~♪」

 

シンドイーネは皮肉のつもりで言っていたのだが、ヘバリーヌは変な方向に解釈して結論付けて勝手にスッキリし、シンドイーネが驚くぐらいの満面の笑みを浮かべる。

 

「べ、別に私は、あんたに・・・」

 

「シンド姉、今日も綺麗だぞぉ♪」

 

「!!」

 

シンドイーネはヘバリーヌから目を反らしながら言う。さらにヘバリーヌから美貌を褒められ、年頃の女性のように頬を赤く染めていた。

 

「ってこんなことしてる場合じゃないわ!! ここに人がいない今のうちにどんどん蝕んでやんなきゃ!! ヘバリーヌ、あんたも手伝いなさい!」

 

「えぇ? いいの~?」

 

「当たり前でしょ! あんたも少しはビョーゲンズらしいところ見せなさいよ!」

 

ハッとしたシンドイーネがそろそろ仕事をしようと、ヘバリーヌにも声を掛ける。なんだか気を良くしたような返事だった。

 

ヘバリーヌはそれを聞くと目をキラキラとさせる。

 

「わかった~♪ シンド姉のために頑張る~♪」

 

「ふふふ、嬉しいこと言ってくれるじゃない」

 

ますます気を良くしたシンドイーネは、ブランコのそばに落ちている子供が忘れていったと思われる長靴に目をつける。

 

「う~ん、う~ん・・・おぉ?」

 

一方、ヘバリーヌはブランコとは反対方向をキョロキョロとしていると何か気になるものを見つける。

 

公園のベンチの上に、これも同じく子供が忘れていったものと思われるラジコンのヘリコプターがあった。これは先ほど、子供たちが運転するのを追いかけまわして遊んでいたものだ。

 

「ンフフ~♪」

 

それを見ると、妖艶な微笑みを浮かべるヘバリーヌ。

 

彼女はバレリーナのようなポーズを2回取りながら、それぞれ手を叩き、バレエのように体をクルクルと回転させる。

 

「進化しちゃってぇ~、ナノビョ~ゲン♪」

 

「ナノォ~♪」

 

ナノビョーゲンが鳴き声を上げながら、ラジコンのヘリコプターに取り付く。ラジコンのヘリコプターが徐々に病気に蝕まれていく。

 

「フゥ、フ、フ、フゥ~!?」

 

ラジコンのヘリコプターに宿っているエレメントさんが病気に蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガビョーゲン・・・」

 

ヘリコプターを模したような姿のメガビョーゲンが誕生したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人のビョーゲンズによる企みが公園で行われている中、本降りになっていた雨がようやく落ち着きを取り戻していく。

 

花寺のどかの家では、のどかたちが家の中で雨が止むのを待っていた。

 

「ふわぁ~! 雨が小降りになったよ、ラテ」

 

そうラテに話しかけるのどかだったが・・・。

 

「クチュン!! クチュン!!クゥ~ン・・・」

 

ラテの額のハートマークが黄色に変わると、くしゃみを2回して体をぐったりとさせる。

 

彼女にこの症状が出たということは・・・?

 

「ああ!? ビョーゲンズラビ!!」

 

のどかは聴診器を出して、ラテを診察する。

 

(あっちで雨さんが泣いてるラテ・・・空飛ぶおもちゃさんが泣いてるラテ・・・)

 

「あっちって・・・?」

 

ラテの心の声を聞いたのどかは不安そうに窓を外を見つめるのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第46話「公園」

前回の続きです。
今回は戦闘オンリーなので、いつもより短めです。
最後に気になる描写も入れてますので、最後まで御覧ください。


 

ビョーゲンズの二人がいる公園では、二人が作り出したメガビョーゲンが暴れていた。

 

「メガァァ!!! ゲェン!!!」

 

シンドイーネの作り出した深緑の長靴を模したような姿に口が付いているようなメガビョーゲンは、飛び上がりながら地面を何度も踏みつけ、その場所が赤い靄に蝕まれていく。

 

「ゲェン!! ゲェン!!」

 

何度も何度も飛び上がりながら地面を踏みつけ、病気へと蝕んでいく。

 

「さあ! どんどん蝕むのよ、メガビョーゲン!!」

 

シンドイーネは滑り台の上でメガビョーゲンに指示を出していた。

 

「メガビョーゲン・・・」

 

ヘバリーヌが作り出したメガビョーゲンは両サイドに付いている羽から小型ミサイルのようなものを発射し、着弾したベンチや草木などを赤い靄に蝕んでいく。

 

「いいよ~、メガビョ~ゲン♪ どんどん気持ち良くしてあげてぇ~♪」

 

ヘバリーヌは滑り台の近くで、メガビョーゲンに指示を出す。

 

「っ、シンドイーネ!」

 

「ヘバリーヌもいるラビ!!」

 

「ビョーホッホッホ!! メガビョーゲン!!」

 

「メガ、ビョーゲン・・・」

 

そこにプリキュアの3人が駆けつけ、二体のメガビョーゲンの前に立ちはだかる。

 

「ひどい・・・!!」

 

「みんな! 行くラビ!!」

 

「「「スタート!」」」

 

「「「プリキュア、オペレーション!!」」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

 

「「「キュアタッチ!!」」」

 

ラビリン、ペギタン、ニャトランがステッキの中に入ると、のどか、ちゆ、ひなたはそれぞれ花のエレメントボトル、水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

そして、肉球にタッチすると、花、水、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、水色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ちゆは水色、ひなたは黄色へと変化する。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「「「地球をお手当て!!」」」

 

「「「ヒーリングっど♥プリキュア!!」」」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

変身後、フォンテーヌは長靴のメガビョーゲンにキックを放つ。

 

「ビョー!! ゲェェェン!!!」

 

長靴型のメガビョーゲンはそれを飛び上がってかわすと、振り向きざまに踏みつけようとする。

 

「危ない!!」

 

「っ!?」

 

フォンテーヌはそれをなんとか回避すると、そこにある水たまりが水しぶきを大きく上げる。

 

「えぇぇ!?・・・うぇぇぇぇぇっ!!」

 

スパークルは運悪く、その飛んできた水しぶきを思いっきりかぶった。

 

「ブルブルブル!! もお~! 何すんのぉ!!!」

 

びしょ濡れになったスパークルは水しぶきを払った後、怒った声を上げる。

 

「メガビョーゲン、やっちゃってぇ~♪」

 

「メガビョーゲン・・・」

 

ヘバリーヌに指示されたヘリコプター型のメガビョーゲンは羽に付いているミサイルを放つ。

 

「っ!?」

 

グレースは飛んできたミサイルをなんとか避ける。

 

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

お返しにグレースはメガビョーゲンにピンク色の光線を放つ。

 

「メガビョーゲン・・・」

 

メガビョーゲンは体を90度前に傾けると、頭に付いているプロペラを回転させて光線を弾き、逆にプロペラから黒い竜巻をグレースに向かって放った。

 

「!?」

 

「ぷにシールド!!」

 

「きゃあぁぁ!!」

 

グレースはステッキから肉球型のシールドを展開するも、竜巻は勢いが強くシールドごと吹き飛ばされてしまい、電柱へと叩きつけられる。

 

「グレース!!」

 

フォンテーヌが声を上げる。

 

「メ~ガ! メガメガメガメガ~!! ビョーゲン!!!」

 

長靴型のメガビョーゲンは水たまりをまるではしゃぐようにぴょんぴょんと跳ね回り、飛び上がってスパークルに向かってスライディングを放つ。

 

スパークルはスライディングを、飛んでくる水と共にかわす。

 

「ああ、もう!! 全然近づけないし!!!」

 

攻撃に全く転じることができないことにぼやくスパークル。

 

「シンド姉のメガビョーゲン、あんなにはしゃいじゃって子供みた~い♪」

 

「可愛くていいじゃない。あんたのメガビョーゲンはやる気なさそうだけど?」

 

「声だけでしょ? やる気はあるし、強いよ♪」

 

ヘバリーヌとシンドイーネがこんな会話をしている中・・・・・・。

 

「メガビョーゲン・・・」

 

ヘリコプター型のメガビョーゲンはミサイルを放って、地面や残っているベンチを赤く蝕む。

 

「っ!? はぁぁぁぁぁ!!!」

 

グレースはそれに目を見開くと、飛び上がってキックを放つ。

 

「メガ・・・」

 

メガビョーゲンは上空へと飛んで、キックをかわすと体を横に90度傾けると体ごと回転させてグレースへと飛んでいく。

 

「メガビョーゲン・・・」

 

「ああぁぁぁ!!!」

 

回転攻撃に吹き飛ばされたグレースは地面へと叩きつけられる。

 

「グレース!!」

 

長靴型のメガビョーゲンに苦戦している、スパークルが声を上げる。

 

「クゥ~ン・・・」

 

「ラテ様~!!」

 

二体のメガビョーゲンが暴れていて、無事なベンチで待機しているラテは辛そうな表情を浮かべていた。

 

「相手になってないねぇ~♪」

 

「本当、そうねぇ」

 

「じゃあ、どんどん気持ちよくしちゃってぇ~、メガビョ~ゲン!!」

 

「どんどん蝕むのよ~!! あんたも!!」

 

「メガビョーゲン・・・」

 

ヘバリーヌが指示するとヘリコプター型のメガビョーゲンは羽からミサイルを数発放って着弾させる。

 

「メガ~!! ビョー!! ゲン!!」

 

シンドイーネが指示した長靴型のメガビョーゲンは辺りを飛び跳ね回りながら踏みつけていく。

 

シンドイーネとヘバリーヌは巻き込まれないようにその場から安全な場所へと飛ぶ。

 

「ふふふ」

 

「ンフフ~♪」

 

二人が笑みを浮かべるその視線には、公園の地面だけでなく、ブランコや滑り台、うんてい、鉄棒といった遊具までもが蝕まれ始めていた。

 

「ああ・・・!!」

 

絶句するフォンテーヌ。旅館に来てくれた外国人夫婦の娘・エミリーと一緒に遊び、笑顔になるための場所が病気に蝕まれていく。

 

「ダメー!!!!!」

 

焦りを見せたフォンテーヌは止めようと飛び出していくが・・・・・・。

 

「メガ・・・」

 

「あぁっ!!!」

 

ヘリコプター型のメガビョーゲンはプロペラから黒い竜巻を放ち、フォンテーヌはそれをまともに食らってしまう。

 

「フォンテーヌ!!」

 

吹き飛ばされたフォンテーヌは地面へと叩きつけられる。

 

「ビョー!!!」

 

そこへ長靴型のメガビョーゲンが飛び上がったかと思うと、踏み潰そうと襲い掛かってくる。

 

「くっ・・・ここは・・・!! 大切な、公園なの・・・!!」

 

フォンテーヌは迫り来るメガビョーゲンを両腕で受け止める。

 

「ヘバリーヌちゃん、わかんないなぁ〜。こんな何の変哲もない普通の公園なんかどこにだってあるじゃん」

 

ヘバリーヌは顎に指を当てながらも、妖艶な微笑みは崩さない。

 

「そうよ、こんな地味な公園のどこがぁ・・・?」

 

彼女に同調するかのように、シンドイーネは完全に見下したような口ぶりで言う。

 

「この公園で、あの子が笑ってくれるかもしれない・・・だから・・・!!」

 

そう言いながら踏み潰されまいと必死に抑え込むフォンテーヌ。

 

「う〜ん、でも赤く染め上げた方が気持ちいいはずだよね〜♪」

 

「っていうか、大切とか聞いたら、ますます蝕むたくなっちゃう・・・!!」

 

「メガァ!!」

 

「ぐっ、うぅぅぅ・・・うっ、うぅぅぅぅ・・・!!」

 

その二人の言葉を合図に、メガビョーゲンの踏みつける力に負荷がかかり、さらにはフォンテーヌ自身も受けたダメージが蓄積していて全力を出すことができず、耐え凌ぐのが背一杯だった。

 

「メガビョーゲン・・・」

 

ヘリコプター型のメガビョーゲンは、グレースとスパークルに目掛けて黒い竜巻を放つ。

 

二人は飛び上がってかわすと、スパークルは雷のエレメントボトルをヒーリングステッキにはめ込む。

 

「雷のエレメント! はぁぁぁぁぁ!!」

 

「メガ・・・ガガガガ・・・!?」

 

雷をまとった光線をステッキから放ち、メガビョーゲンに直撃して感電すると動きが鈍くなる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「メガ・・・!?」

 

それを横からグレースが蹴りを入れて、メガビョーゲンを吹き飛ばして地面に叩きつける。

 

「「!! フォンテーヌ!!」」

 

二人はフォンテーヌが窮地に陥っているのを見るとすぐに駆けつけようとするも、吹き飛ばしたメガビョーゲンがすくっと飛び上がり、コマのように体を高速回転させる。

 

「メガガガガガガガ、ガァ・・・」

 

「「きゃあぁぁ!!」」

 

メガビョーゲンはその状態のまま、高速で飛び出すと二人を吹き飛ばした。

 

「メガビョーゲン・・・」

 

二人はなんとか体勢を立て直すも、メガビョーゲンが再び前かがみになって黒い竜巻を放つ。

 

「「ぷにシールド!!」」

 

「「うっ・・・!!」」

 

肉球型のシールドを展開して黒い竜巻を防ぐも、竜巻の勢いが強く二人は徐々に押されそうになる。

 

「これじゃあ・・・!」

 

「フォンテーヌを助けに行けないよ・・・!!」

 

「あのプロペラを止めないとラビ!!」

 

「な、なんか方法ねぇか!?」

 

二人は黒い竜巻を防ぎながら、打開策を考える。

 

ふとスパークルが過去にやったある技を思い出して、この方法なら行けるかもしれないと試してみる。まずはグレースに耐えてもらうように言わなければ。

 

「グレース! ちょっとそのまま抑えられる・・・?」

 

「スパークル!? 何をする気なの・・・?」

 

「いいからいいから!!」

 

スパークルはぷにシールドを解除すると、すぐに横へと走る。

 

「ぐっ、うぅぅぅぅぅ・・・!!!」

 

スパークルがいなくなったことで黒い竜巻の負荷がかかり、グレースは押されていき、電柱へと背中を押し付けられるように叩きつけられる。

 

「うぅぅぅぅ・・・スパークル、早く・・・!!」

 

グレースはぷにシールドで黒い竜巻への直撃を防げてはいるが、それでも苦しい表情を浮かべていた。

 

スパークルは黒い竜巻を横目に走りながら、メガビョーゲンの元へと向かっていく。

 

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

スパークルはステッキから黄色い紐状のエネルギーをメガビョーゲンの回転するプロペラに向かって放つ。

 

「メ、ガァ・・・!?」

 

紐状のエネルギーはプロペラにグルグルに絡みつき、回転が止まって竜巻の放出が止まり、メガビョーゲンは体をよろけさせる。

 

「よし!・・・!? う、うわぁぁぁぁぁ!!??」

 

「メー・・・ガー・・・!!」

 

スパークルは作戦がうまくいって喜びの声を上げるも、暴れ出したメガビョーゲンに紐状のエネルギーを逆に引っ張られて振り回されることに。

 

「ちょっ、ちょっとぉ! 暴れ! ないで! よぉぉぉぉ!!!」

 

スパークルは叫び声を上げながら、振り落とされまいと必死に押さえ込もうとする。

 

「スパークル!!」

 

「あ、あたしはいいから!! フォンテーヌを!!」

 

「メガガガガ・・・?」

 

スパークルは押さえ込みながら、ステッキから電流を流してメガビョーゲンを大人しくさせようとする。

 

「!! うん!!」

 

その間、動けるようになったグレースはフォンテーヌの元へ。

 

「メガビョーゲェン!!」

 

「うっ、うぅぅぅぅ・・・あ、あ・・・!!」

 

フォンテーヌは必死に押さえ込んでいるが、すでに潰される寸前であり、両腕がプルプルと震えていて力も入らなくなってきた。

 

「ねえ、なんでそんなに我慢するの〜? 抜けば楽になると思うけどなぁ〜」

 

「そうよ、何をやっても無駄よ無駄。諦めなさいな」

 

無駄な足掻きを続けるフォンテーヌに、二人から言葉が投げかけられる。

 

「ヘバリーヌちゃんはもういいかな〜、メガビョーゲンの様子見てくるね〜♪」

 

ヘバリーヌは興味をなくした様子で、その場から離れた。

 

「あ、ぁ・・・!!」

 

もう・・・ダメ・・・・・・。

 

このままメガビョーゲンに為すすべがないまま、フォンテーヌはこのまま潰される・・・・・・。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

「!?」

 

重かったメガビョーゲンが急に軽くなるような感じがした。

 

「させないよ! この公園は私たちが守る!!」

 

前を見ればグレースがメガビョーゲンを下から持ち上げて、フォンテーヌの支えとなってくれていたのだ。

 

「グレース・・・・・・」

 

「っ・・・大丈夫! 行こう!!」

 

「ええ・・・!!」

 

「「せーの!! はぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

二人は一斉に力を入れて、メガビョーゲンを投げ飛ばす。

 

「メガガガガ!?」

 

メガビョーゲンはそのまま地面へと叩きつけられた。

 

キュン!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

グレースは肉球を一回タッチすると、ステッキをメガビョーゲンに向ける。

 

ラビリンの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを見つける。

 

「あそこラビ!!」

 

メガビョーゲンの左胸あたりに、雨のエレメントさんが苦しんでいるのが見えた。

 

「今よ!!」

 

フォンテーヌとグレースはお互いに頷き合うと、ヒーリングステッキに水のエレメントボトル、花のエレメントボトルをそれぞれはめ込む。

 

「「エレメントチャージ!!」」

 

そう言いながら光るステッキの先をハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「「ヒーリングゲージ上昇!!」」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングストリーム!!」

 

「プリキュア!ヒーリングフラワー!!」

 

フォンテーヌとグレースはそう叫びながら、ステッキをメガビョーゲンに向けて、青色の光線とピンク色の光線を同時に放つ。光線は螺旋状になって混ざっていった後、メガビョーゲンに直撃した。

 

その光線はメガビョーゲンの中に入ると、螺旋状のエネルギーは手へと変化して、4本の手が雨のエレメントさんを優しく包み込む。

 

水型状に、花状にメガビョーゲンを貫きながら、光線はエレメントさんを外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「「「お大事に」」」」

 

雨のエレメントさんは、長靴の中へと戻り、そのメガビョーゲンが蝕んだ箇所が元に戻っていく。

 

「ふん・・・まあ、いいわ。ヘバリーヌにどうにかしてもらいましょ・・・」

 

シンドイーネはそう言うとその場から消えた。

 

雨のエレメントさんを助け出すことができて、安心する二人。

 

「ちょ、ちょっとぉぉぉぉ!! こっちも! 手伝って!よぉ!!!」

 

「メガビョーゲン・・・!!」

 

今だにもう一体のメガビョーゲンに振り回されているスパークルがそんな二人に叫び声をあげる。メガビョーゲンはスピードを上げて飛び回りながら、さらには体をプロペラごと回転させてスパークルを振り回す。

 

「ああ! あんなに広がってる・・・!!」

 

「早く助けないと・・・!」

 

「うん!」

 

背後を振り向くと公園の広範囲が病気で蝕まれている光景だった。二人はメガビョーゲンを止めるべく元へと走る。

 

「もぉ〜、メガビョ〜ゲン。全然気持ちよくないから振り落としてよ〜!」

 

「メガビョーゲン・・・!!」

 

「うわぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ヘバリーヌの不満そうな声にメガビョーゲンは体をいつもより早く高速回転させて、さらに激しく振り落とそうとする。

 

すると、紐状のエネルギーに亀裂が入り、ステッキの根元から紐状のエネルギーがちぎれた。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

スパークルは遠心力で飛ばされてしまう。

 

「危ない!!」

 

グレースは飛んできたスパークルをうまくキャッチして受け止める。

 

「大丈夫!?」

 

「うー、うん・・・なん、とか・・・で、でも・・・」

 

スパークルは目をぐるぐると回していたが、なんとか無事な様子。

 

「あのメガビョーゲン、なんか放ちながら暴れてたから病気が広がっちゃって・・・」

 

スパークルは押さえ込んでおきながらメガビョーゲンの暴走を止められていないことに、目も当てられないといったような感じで話す。

 

「大丈夫! 私たちが守るから!!」

 

「失敗した分、3人で取り返せばいいわ!」

 

グレースの手の中から立ち上がり、3人はメガビョーゲンの前に立ちはだかる。

 

「よいしょっと! ほら、メガビョーゲン、やっちゃってぇ〜!」

 

ヘバリーヌは乗っかりながら絡みついた紐状のエネルギーを足で切って解いてあげると指示を出す。

 

「メガビョーゲン・・・」

 

メガビョーゲンは羽からミサイルを数発、プリキュアたちに向かって放つ。

 

「ふっ!!」

 

「はぁっ!!」

 

フォンテーヌはキック、グレースはパンチをしながらミサイルをいなしていく。

 

「ぷにシールド!!」

 

「くっ・・・はぁぁぁぁぁ!!!!」

 

スパークルは肉球型のシールドを展開して、ミサイルを抑え込み、そのままメガビョーゲンへと投げ返した。

 

「メガビョー・・・!?」

 

その結果、全てのミサイルが返され、メガビョーゲンの前で爆発する。

 

「メガビョーゲン・・・メガガガガガガガガガガ・・・」

 

爆発の煙を払ってメガビョーゲンは体を高速回転させると、まるで自らが小型のつむじ風のようになって、プリキュア3人へと突っ込んでいく。

 

「!!」

 

プリキュア3人は散らばって、メガビョーゲンの突撃を交わすも、小さなつむじ風はブーメランのようにこちらへと戻ってくる。

 

「うわぁ!?」

 

グレースは目の前に来たつむじ風をリンボーダンスのように反らしながらスレスレで避ける。

 

「くっ・・・!!」

 

フォンテーヌも体を横に向けて避けるのもスレスレだった。

 

「あいつ、どうにかして止めらんないの・・・!?」

 

「そうだ! スパークル、さっきの紐をもう一回あいつに!!」

 

「うぇぇ!? もう振り回されるのは嫌なんだけど!?」

 

「そうじゃねぇよ!! プロペラを結ぶんじゃなくて、あいつの体全体をやるんだニャ!!」

 

「ああ、そっか・・・!! よし・・・!!」

 

スパークルは渋々といった感じで、ステッキを構える。

 

「メガガガガガガガ・・・」

 

メガビョーゲンはまっすぐこちらに向かってくる。

 

「今だ!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

スパークルはステッキから紐状のエネルギーを放つ。そして、その紐状のエネルギーは向かってきた小さなつむじ風を大きく囲むように周り・・・・・・。

 

「メガ・・・!?」

 

高速回転をしていたメガビョーゲンの動きを止めた。

 

「二人とも、今だよ!! やっちゃって!!」

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

スパークルの言葉を合図に、グレースとフォンテーヌは同時に飛び上がり、メガビョーゲンの上から踵を落とす。

 

「メガビョー・・・!?」

 

直撃を受けたメガビョーゲンはそのまま地面へと叩きつけられた。

 

キュン!

 

「キュアスキャン!」

 

スパークルは肉球を一回タッチすると、ステッキをメガビョーゲンに向ける。

 

ニャトランの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを見つける。

 

「いたぞ!! 風のエレメントさんだ!!」

 

エレメントさんはプロペラの根元部分にいるのが確認できた。

 

「行くよ!! みんな!!」

 

「ええ!!」

 

「OK!!」

 

グレースの言葉を合図に3人の体が発光し、彼女たちはミラクルヒーリングボトルをステッキにセットする。

 

「「「トリプルハートチャージ!!」」」

 

「「届け!」」

 

「「癒しの!」」

 

「「パワー!」」

 

グレース、フォンテーヌ、スパークルの順で肉球にタッチしていき、ステッキを上に掲げる。すると、花畑が広がっていき、背後には自然豊かな森が広がっていく。

 

さらにプリキュア3人の背後に、紫色のコスプレ姿をした女神の姿が映し出されていく。

 

「「「プリキュア! ヒーリング・オアシス!!」」」

 

3人は一斉にメガビョーゲンへとステッキを構え、ピンク・青・黄色の3色の光線が螺旋状になって放たれる。螺旋状の光線は混ざり合いながら一直線にメガビョーゲンに直撃する。

 

螺旋状になった光線はそれぞれの色の手へと変化して、3本の手が風のエレメントさんを優しく包み込んでいく。

 

3色に光るハート状にメガビョーゲンを貫きながら、光線はエレメントさんをメガビョーゲンから外へと出す。

 

「ヒーリン、グッバイ・・・」

 

メガビョーゲンたちは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「「「「「お大事に」」」」」」

 

メガビョーゲンが浄化されると同時に、病気に蝕まれた箇所は元に戻っていく。

 

「はぁ〜、つまんない・・・お姉ちゃんにお仕置きしてもらお〜・・・♪」

 

ヘバリーヌはつまらなそうな顔をしてそう言いながら、その場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廃病院の外のテラス席、クルシーナはとある映像を見ていた。

 

手下である小さなコウモリの妖精の一匹に、自身が出撃したところを撮影してもらい、それを記録したものを真っ赤な空に映し出してもらうことで映像を見ることを可能にしている。

 

自身がこれまで出撃してメガビョーゲンを作り出したことはもちろん、その後の病気を蝕む様子や目障りなプリキュアとの戦闘、そして最後には浄化されるところまで記録されており、その隅々まで繰り返して見ながら何かないか探している。

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナは黙って映像を見つつ、時にはさらに乗っているまんじゅうを摘む。

 

「・・・クルシーナ、何しているの?」

 

「・・・イタイノンか」

 

クルシーナが声をした方に振り向くと、カップケーキを抱えたイタイノンが立っていた。

 

「見りゃわかるでしょ。映像見てんの」

 

「・・・何の?」

 

「アタシの出撃の記録。なんかヒントになるもの映ってないかと思ってね」

 

「・・・そう、なの」

 

イタイノンはそれだけ答えると、テラスの空いている席、クルシーナの隣の席に着くとカップケーキを摘む。そして、一緒になって映像を見始める。

 

「クルシーナが全部失敗した出撃の記録なの」

 

「・・・うるさい、ほっとけ」

 

イタイノンは馬鹿にするような不敵な笑みを向けると、クルシーナは不機嫌そうに言う。

 

イタイノンは興味本位で映像を見ていて、その横でクルシーナは小さなコウモリの妖精に「戻せ」と何度も言う以外は黙って見つめていた。

 

「手下が疲れているんじゃないか、なの?」

 

「それがどうかしたわけ?」

 

「映像が少し乱れてきてるの」

 

「・・・別に見られりゃいいわよ」

 

イタイノンの指摘にも、問題はないとクルシーナは取り合わずに小さな妖精たちに指示を出す。

 

クルシーナは他のビョーゲンズが出撃していく中、数日考えていた。プリキュアが得た新たな力、それは3人で一斉に放つ強力な浄化技。それには3人を分断していくしかないが、それを効率よく自分たちが病気に蝕むためにはどうすればいいのかを。

 

過去の映像を見て、出撃した時やプリキュアとメガビョーゲンの戦闘、あのときに自分たちが見逃している何かがあるはず。それを探すために手下たちに撮らせていた映像を確認していたのだ。

 

今のところ、映像には何一つその決め手になるものは写っているものはないが、絶対に見逃している何かがあるはず。それが映っていればいいが・・・。

 

皿の上のお菓子を摘み、何度も何度も繰り返して見ていると、そこに気になるものが小さく映り込んでいるのが見えた。

 

「? 止めろ」

 

クルシーナが指示を出すと、映像はその位置で再生を停止させる。

 

それは競技場をダルイゼンと二人で襲っていた時の映像、キュアグレースと黄色のプリキュアの隅に何かが映っている・・・・・・?

 

「映像を拡大しろ」

 

クルシーナがそう命令すると、隅に映っているものを拡大していく。

 

それは額のハートマークが黄色のヒーリングアニマルの姿だ。しかも、体調が悪そうにぐったりと横たわっているように見える。

 

あいつ、どこかで見たことがあるな・・・?

 

まるで、ヒーリングガーデンを襲撃した際にいた、お父様にダメージを負わせたあの力を持った女王、テアティーヌと何か似ているような気がする。

 

・・・そうか、もしかしたらあいつはあの女王の・・・。

 

「・・・なるほどね」

 

「クルシーナ・・・? どうかしたの?」

 

「イタイノン、この映像を見て」

 

クルシーナが静かに言うと、イタイノンはノイズが走っている映像を見る。そこには子犬のような動物が映っている。

 

「このヒーリングアニマルがどうかしたの?」

 

「いや、少しは地球を病気で蝕むための布石が見つかっただけよ」

 

クルシーナは手下の妖精が映した映像を消させると、廃病院の角を見る。

 

「そこに隠れてるんだろ? ドクルン」

 

彼女がそう呼びかけると廃病院の影からドクルンが姿を見せた。

 

「おや、気づいてたんですかぁ?」

 

ドクルンは不敵な笑みを浮かべながら答える。

 

「白々しい。さっきからそこで見てたくせに。何年一緒にいると思ってんの?」

 

クルシーナは首を振りながらそう言うと、おもむろにテラス席から立ち上がる。

 

とりあえず、こいつらに周知はさせておこうとクルシーナは考える。アタシがあいつらを利用して踏みにじってやるために。

 

「ねえ、アンタたち」

 

「ん?」

 

「なの?」

 

疑問符を浮かべるドクルンやイタイノンに、クルシーナは不敵な笑みを浮かべながら言った。

 

「ちょっとアタシの検証に付き合ってくれない?」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第47話「検証」

原作第18話がベースです。
三人娘がプリキュアに対抗すべく、ある検証を始めます。


 

ビョーゲンズにとって快適な世界、ビョーゲンキングダム。ここは幹部たちにとっては楽園ともいうべき場所なのだが、何やらいつもとは違い、空気が澱んでいて様子がおかしい・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

岩場により掛かりながら一緒にいるのは、ビョーゲンズの幹部の一人、グアイワルとビョーゲン三人娘だ。しかし、グアイワルは顰めるように瞑目していて、三人娘は呆れたような視線をそこにいる人物に見つめている。

 

「ち~っす!!」

 

そこにヘラヘラしたような態度のバテテモーダがやってきていつものような挨拶を交わすのだが・・・・・・。

 

モワンモワンモワン~~・・・・・・。

 

「!?・・・!!!???」

 

漂ってきた強烈な匂いに、思わず鼻を押さえるバテテモーダ。その目は鼻につくような刺激が強すぎて、涙目になっている。

 

「ふんふんふふ~ん」

 

シュー!!

 

「う~ん♪ う~ん♪」

 

「はぁ・・・・・・」

 

ため息を吐いたイタイノンの視線の先には、岩場に座り込みながら悪魔のような絵柄の描かれた瓶から香りがする気体を出して、それーーーー香水を顔に浴びせているシンドイーネの姿が。

 

その近くには何故かヘバリーヌが赤く染めた頬に手を当てながら、悶えている姿もあったが・・・・・・。

 

とにかくその香水の匂いがまるで霧のようにビョーゲンキングダムじゅうに漂っていて、快適な世界を害されているとしか思えないグアイワルや鼻栓をしている三人娘は迷惑を被っているわけだ。

 

「シンドイーネ姉さん・・・キツっーーーーいや、素敵な匂いっすね・・・」

 

思わず本音が漏れそうになったバテテモーダは、引き攣ったような、辛そうな笑みを向けながらあくまでも取り繕う。

 

「当然よ。いつキングビョーゲン様からお呼びがかかっても大丈夫なようにね」

 

「うぅ~ん♪ すごくいい匂いぃ~♪ 天にも昇る気分~♪ ヘバリーヌちゃん、気持ち良くなっちゃうぅ~♪」

 

「あら? アンタにもこの良さがわかるのねぇ」

 

シンドイーネは優越に浸りながら香水を浴びていた。

 

ヘバリーヌは肩を抱きながら香水の匂いを味わい、頬を手に当てて悶える。

 

「へ、ヘバリーヌ嬢も、さすがっすね・・・」

 

バテテモーダは、明らかに匂いがきついのに耐えられるヘバリーヌを心の中で尊敬した。

 

「ふん! つけすぎて臭いんだよ!!」

 

「そんなもの嗅いでると気分が悪くなるの・・・!」

 

イタイノンとグアイワルだけは黙ろうともせずに不機嫌そうな声を出し、はっきりと物を言う。

 

「この世界に香水など不要かと・・・」

 

「・・・ホント、バカみたい」

 

ドクルンとクルシーナは、不満そうな顔でぼそりと漏らす。

 

「ふん、恋する乙女の気持ちがわからない奴らは、香水の良さもわからないようね」

 

シンドイーネはその場にいる幹部たちの不満に冷めたような態度でそう言いながら、香水を幹部たちに向けて噴射する。

 

「いぃぃ!?」

 

「「!?」」

 

「あぁ~ん♪」

 

三人娘はその行動に健康に悪そうな顔色を青ざめさせると、早々にその場から逃げ出した。もちろん嬉しそうに悶えているヘバリーヌを強引に引っ張り出して。

 

「「ゲホゲホゲホッ!!!」」

 

充満していく香水に苦しそうに咳き込むグアイワルとバテテモーダ。

 

「し、仕事に行ってくるっす!!」

 

「ああ!?」

 

堪らずバテテモーダは逃げるようにその場から去り、ビョーゲンキングダムは香水が白い霧のように漂っていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲホ、ゲホゲホ・・・ブファブファ・・・あ~、臭かった~!!」

 

ビョーゲンキングダムからすこやか市の山へと逃げ出したバテテモーダは、いまだにキツイ香水の香りの余韻が残っているのかむせている様子だった。

 

「ん・・・」

 

そんな中、バテテモーダの着ているベストをグイグイと引っ張るものがいた。

 

「え・・・?」

 

バテテモーダが背後を振り向くと、そこには揃いも揃って鼻栓をしているキングビョーゲンの娘たち、ビョーゲン三人娘がいた。

 

そのうちドクルンとクルシーナより前に立っているイタイノンが無表情で、親指を背後に向けて突き立てる。いわゆる自分たちに着いてこいという意味合いの動作だ。

 

バテテモーダは彼女たちに着いていくことにした。

 

そして4人、正確にはクルシーナが連れ出したヘバリーヌも含めて5人は、鼻栓もちゃんと外せるような話しやすい場所に移動する。

 

「・・・お前は本当にあいつらにもっと怒るべきなの」

 

「い、いや! そ、それは・・・いや、その・・・!!」

 

ここでイタイノンの言うあいつらというのは、ダルイゼン、シンドイーネ、グアイワルのことを言っているのだが、バテテモーダはいつものように吃る。

 

「あんなボンクラトリオたちは、少し痛い目を見るべきです」

 

「ボ、ボンクラだなんて、そんな・・・!!」

 

ドクルンが不敵な笑みを浮かべながら言うが、バテテモーダは表情を引き攣らせる。

 

「遠慮なんかする必要はないんだよ!!」

 

「ク、クルシーナ嬢まで・・・!!」

 

クルシーナが苛立ったような感じで言っても、バテテモーダの態度は変わらないままだ。

 

「ビョーゲンズが生意気に香水かよ!! おめかしだかなんだか知らないけど、お父様から生まれた存在のくせにふざけやがってよ!!」

 

クルシーナは、シンドイーネが香水を撒き散らしたせいでビョーゲンキングダムに居づらくなったことに不満を抱いていた。

 

「なんであんな奴らがビョーゲンズの幹部をやってるのか疑問なの・・・!」

 

「そこが不満ですか・・・」

 

イタイノンも黒いオーラを出しているかのような怒りの表情を浮かべており、ドクルンは怒りの感じるところが違うことを指摘する。

 

「まあ、あの方々がもう少し寛容であればね・・・」

 

「ないない」

 

「ないない、なの」

 

ドクルンは手を頭に当てながら、首を振っている。クルシーナとイタイノンは手を横に振りながら、ありえないと断言する。だらけてばかりのあいつらにそんな純粋さがあるわけがない。

 

「お、お嬢たちも、あいつらに不満があるんっすね・・・」

 

バテテモーダも、お嬢たちが普段からダルイゼンやシンドイーネたちに不満を持っていることを察するのであった。

 

「ヘバリーヌちゃんは、ダル兄たちが蔑むような視線をしてくるから、気持ちいいんだけどなぁ~♪」

 

「お前は少し黙ってろ!!」

 

「お前は少し黙ってろなの!!」

 

「あぁぁぁぁぁん♪」

 

ヘバリーヌの悶えながらの変態な発言に、クルシーナとイタイノンは息ぴったりに怒鳴り、彼女はその声に甘い声を上げて快感を覚える。

 

「って、こんな話をしたいんじゃないんだよ!!」

 

ダルイゼンらへの不満なんか心底どうでもいい。アタシらにはやらなければいけないことがあるのだ。

 

クルシーナは咳払いをすると口を開く。

 

「バテテモーダ、ヘバリーヌ」

 

「何っすか?」

 

「なぁ~に~、お姉ちゃん?」

 

「ちょっとアンタたちに協力してほしいんだけど、いい?」

 

「「?」」

 

疑問符を抱くバテテモーダとヘバリーヌを相手に、クルシーナは詳細を説明し始める。

 

「プリキュアたちの中に自分らの動きを察しているやつがいるっすか・・・?」

 

「それってホントなの~?」

 

「ええ、アタシはそういうやつがあいつらにいるんじゃないかって確信してるの」

 

信じられないというように目を丸くするバテテモーダとヘバリーヌに、クルシーナは腕を組みながら答える。

 

「大体、アンタたちおかしいと思わない? メガビョーゲンを生み出して暴れさせた後に、あいつらが都合よく現れるのがさ」

 

「確かに・・・・・・」

 

「怪物は予告して発生させているわけじゃないし~、おかしいもんね~♪」

 

クルシーナがそう説明すると、二人は何かを感じたかのように納得する。

 

「そう。だから、そいつが本当にいるのかどうかを確かめたいから、アンタたちにちょっとやってほしいことがあるわけ」

 

クルシーナはそう言いながら、バテテモーダとヘバリーヌに指を突きつける。

 

「協力してくれるわよね?」

 

不敵な笑みを浮かべるクルシーナに、バテテモーダは考えていた。

 

彼女たち3人はキングビョーゲン様の娘だ。しかも、自分たちよりも経験があって、地球を蝕むことなど容易くできそうな能力を持っている。

 

もしかすれば、彼女たちに協力さえすれば、キングビョーゲン様のお側につかせてもらい、そうすればあんなグアイワルらボンクラ共と同じ扱いを受けずに、出世ができるかも・・・!

 

彼は心の中で邪悪な笑みを浮かべながらそう思い、両手でゴマをするかのような動作をする。

 

「自分! 喜んでやらせてもらうっす!!」

 

バテテモーダは快く快諾した。自分が出世してキングビョーゲン様、そして娘たちに認めてもらうために・・・・・・。

 

「ヘバリーヌちゃんもやるやる~♪♪ やればお仕置きしてくれるんだよね~?」

 

「ええ、いいわよ。アタシも鬱憤がたまっているところだからね」

 

クルシーナがあっさりと了承すると、ヘバリーヌは目をキラキラとさせる。

 

「やったー♪ 期待してね♪」

 

「・・・抱きつかなくていいっつーの」

 

「いやぁ~ん、お姉ちゃんったらいけず~♪」

 

「いけずでけっ、こう!!」

 

「へぶっ!!」

 

抱きつこうとするヘバリーヌを、クルシーナは頬に両手を押し付けて抑えた。そのままヘバリーヌを抑えながら位置を移動させて受け流すように放り、ヘバリーヌを木へと叩きつけた。

 

顔面をそのまま木にぶつけられたヘバリーヌはズルズルと地面へと落ちる。

 

「あぁ・・・顔面ブロックなんて、ホント・・・すごい・・・!!」

 

ヘバリーヌは体をピクピクとさせながらも、何やら気持ち良さを感じていた。

 

クルシーナはそれを無理して指を鳴らすと手下の小さなコウモリたちを呼び出す。

 

「ドクルン、イタイノン、アンタらにアタシのコウモリを付き添わせてあげる。それは見たものを他のコウモリに通して映し出せるし、記録もできるし、通信もできるから、何かあったらそれで映して、何か言って」

 

「わかりました」

 

ビョーゲン三人娘、ヘバリーヌ、バテテモーダによるプリキュアに対抗するための検証が行われようとしていた・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・はぁ、なんで私がこいつらのお守りを? なの」

 

イタイノンはため息を吐きながら背後で、素体を探しているバテテモーダとヘバリーヌの様子を見守っていた。

 

「まあまあ、後輩が働くのは微笑ましいではありませんかぁ」

 

「・・・お前のあっさり肯定できる、その頭の中を見てみたいの」

 

イタイノンは数分前のクルシーナとのやり取りを思い出す。

 

『アンタらはその二人と一緒にいて』

 

『ほう・・・』

 

『なんで私がそんなことを? なの』

 

『大勢でプリキュア共を見に行ったってしょうがないし、実験するためには素体も見つけなきゃいけないでしょ。アンタらはあいつらに手を貸してやれってこと』

 

『・・・素体は普通、自分たちで見つけるものなの。他人に見つけてもらうものじゃないの』

 

『まあまあ、いいじゃないですかぁ。後輩たちがどんな風に病気で蝕むのか興味がありますから』

 

『私は全然興味ないの・・・!』

 

クルシーナの提案に、ドクルンは寛容だったが、イタイノンは不満を漏らしていた。

 

『とにかく! 全員で来る必要はない。あいつらに怪しまれるから。アンタらはあの二人が勝手なことをしないように見張っておいて! わかった?』

 

結局、クルシーナに押し切られて、彼女たちは二人の見張りというか、お守りをさせられる羽目になったのである。

 

「どこにあるんっすかね~? いい素体は・・・」

 

「ヘバリーヌちゃんをピクピクさせるような~、いい素体があるはずだよね~♪」

 

林の中で手を目の上に当てながら素体を探しているのんきな二人。

 

「はぁ・・・もう疲れる未来しか見えてないの・・・」

 

「それがあなたの本音ですか・・・」

 

そんな二人にイタイノンがため息を吐きながら言うと、その言葉にドクルンが冷静なツッコミを入れる。

 

ザー・・・ザー・・・

 

『そっちはどう?』

 

小さなコウモリの妖精からクルシーナの声が聞こえてくる。

 

「特に変わったところはありませんよ。イタイノンがため息ばかりを漏らしているだけですが」

 

『あっそ。最後のいらないでしょ。いつものことなんだし』

 

「二人のお守りは全然面白くないの・・・! 私もこの辺を病気で蝕みたいの・・・!!」

 

『・・・気持ちはわかるけど我慢しろ。今、プリキュアどもを探してるんだから』

 

「っ・・・!」

 

クルシーナとイタイノンが通信機越しで小競り合うも、押し切られたイタイノンは押し黙る。

 

「そっちはどうですか?」

 

『とりあえず今、ウツバットに探させてるけど、まだ戻ってこないのよね。何をちんたらしてるんだか・・・』

 

「ラベンだるまちゃんに見とれてるんじゃないですかぁ?」

 

『・・・その話はやめて。その話を聞くと今握ってる枝を折りたくなるから』

 

クルシーナから本当に嫌そうな冷淡な声が聞こえてくる。ウツバットの惚れていたぬいぐるみは知っていたが、それに彼女がそこまで嫌悪感を示すものとは思っていなかった。

 

『ラベンだるま? 何それ? ラベンダーとだるまが合体ってーーーー』

 

「クルシーナ、何かあったら連絡くださいね」

 

『・・・あ、わかった』

 

何やらブツブツとつぶやきそうになったクルシーナに辟易して、ドクルンが通信を打ち切る。

 

「ふぅ・・・・・・」

 

一息をついてイタイノンの方を見やると・・・・・・。

 

「ノンお姉ちゃん♪ その冷たい視線をヘバリーヌちゃんに頂戴♪」

 

「こ、これは私のものなの・・・!!」

 

「ヘバリーヌ嬢・・・! イタイノン嬢とじゃれ合ってないで探すっすよ!!」

 

「え~・・・だってつまんないんだもん・・・。ピリピリした気配を感じないし~! 大好きなお姉ちゃんと一緒にいた方がいいもん♪」

 

「だからって私にくっつくのはやめろなの!!」

 

イタイノンがヘバリーヌに言い寄られていて、それをバテテモーダが咎めている。でも、ヘバリーヌは頬を膨らませながら、イタイノンに抱きついている。

 

「・・・こっちも苦労しそうですね」

 

ドクルンは頭に手を当てながら言うと、2人を働かせるべく歩み寄っていく。

 

一方、すこやか市の街の空では・・・・・・。

 

「ウツゥ・・・クルシーナも人使いが荒いウツ・・・」

 

ウツバットが飛びながら町並みを見渡していた。クルシーナに言われてあの平和に浮かれて呑気なプリキュアたちを探すためだ。

 

すこやか市の中学校・・・温泉街の街・・・ハーブ園の近く・・・競技場のあたり・・・先ほどからいろんな場所を飛んで探し回っているが、プリキュアがいる様子はない。

 

旅館沢泉・・・あのマゼンダショートヘアの少女の家にも行ってみたが、どうやら出かけているようだった。

 

そして、ワゴンが近くにある、動物クリニックへと向かっていく。

 

「一体、どうなってるラビ!?」

 

「!?」

 

可愛く怒鳴るような声が聞こえ、ウツバットはよろけそうになる。その声の主の方を見下ろすと、ワゴンのテラス席の辺りに見覚えのある3人と小さな動物たちが4匹いた。

 

「いたウツ・・・さっきの大声は泣き虫ウサギウツか・・・」

 

ウツバットは3人に飛行しているのがバレないようにゆっくりとワゴン車の看板の裏へと降りる。そして、3人の様子を伺うことに。

 

とりあえず、小さな声で一緒に連れている小さなコウモリの妖精に通信する。

 

ザザ・・・ザザ・・・。

 

「クルシーナ、プリキュアたちいたウツよ」

 

『遅いんだよ!! いつまでアタシを待たせる気!?』

 

クルシーナの怒鳴るような声に、思わず顔を顰めるウツバット。

 

「声がでかいウツよ・・・!! 様子伺ってるんだからウツ・・・!!」

 

『そこまで命じた覚えはないんだけど? まあ、いいけど・・・どこにいたの?』

 

「黄色のワゴン車の近くの席に座ってるウツ」

 

『あそこか・・・』

 

プツッ・・・!

 

クルシーナは確認すると早々に通信を切った。もしかして、ここに来るのか?

 

「「「「「えぇぇぇぇぇ!!??」」」」」

 

「!?」

 

また大声が聞こえてきて、よろけそうになるウツバット。様子の続きを見ると、どうやら大声を出したのは黄色の猫ーーーーニャトランが何かを言ったから、のようだった。

 

「あいつら・・・何、騒いでるウツ?」

 

ウツバットは話を聞いていなかったのであれだが、どうせしょうもないことなんだろうと呆れたように見やる。

 

その証拠に、ニャトランの顔が間抜けとしか言いようがないような惚気たような顔をしている。

 

「そういえば、あいつ・・・しょうもなく惚れっぽいヤツだったウツ・・・」

 

ヒーリングガーデンにいた頃、自分と同じ見習いだったあの黄色い猫はよく他のメス猫に惹かれることもあって、こっちが迷惑を被ることもあった。

 

それはあいつがメス猫に惚れると、イタイノンの相棒で同じ見習いだったネムレンが嫉妬をしていたのだ。その度に彼女の様子を探ってこいだの、ヒヅメでやつあたりされるだの、こっちがなぜか被害を被っていたのだ。

 

あいつが惚れるとすぐに自分が酷い目に会う。でも幸い、今はネムレンもここにはいない。自分は誰にもやつあたりされることもないのだ。安心して様子を伺える。

 

「うんうん・・・織江さんと仲良くなれるといいね!!」

 

「だよな!!」

 

ニャトランのパートナーである栗毛ツインテールの少女が嬉しそうに言うと、ニャトランは目をキラキラと輝かせた。逆に青色のペンギンーーーーペギタンと泣き虫ウサギこと、ラビリンは衝撃を受けているようだ。

 

「なんであいつがプリキュアとしてお手当てなんかしてるウツ・・・」

 

ウツバットは信じられなかった。パートナーは恋だと知らないのかわからないが、仲良くなるのを喜んでおり、ニャトランは言わば自分の欲しか考えていない。あんな奴らがどうしてプリキュアなんかになれるのか・・・。

 

シュルシュルシュル・・・・・・。

 

「ウツ? ウツゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

そんなことを考えていると、体を白と黒のイバラに縛られ、そのまま木の板の柵の方へと引っ張られる。

 

そして、誰かの手にシュタッと納まる。

 

「・・・何やってんの?」

 

「クルシーナ、いたウツか・・・?」

 

「さっき来たんだよ」

 

ウツバットの目の前には不機嫌そうな顔のクルシーナがいた。今にも握り潰そうな力でウツバットを掴んでいる。

 

「早く帽子に戻れ」

 

「人使い、コウモリ使いが荒いウツ」

 

ウツバットは文句をたれながらも、クルシーナの頭に収まる帽子に戻る。

 

「あいつらは、っと・・・」

 

板の柵の上から少し向こうを覗き込むと、あいつらはどこかに行こうとしているようだった。

 

さてとどうしようか・・・ここから奴らの後をつけるか・・・それとも、ヒーリングアニマルのあの子犬だけを記録しておくか。

 

とりあえず、あいつらに手下にはつけておこうか・・・。

 

クルシーナは右指を鳴らして、小さなコウモリの妖精を何体か出す。

 

「あいつらの後をつけて監視しろ。なんだったら記録してもいい。特にあの子犬はマークしておけ」

 

それだけ言われると小さなコウモリの妖精たちは、散らばってプリキュアたちの元へと飛んでいく。

 

「さてと、アタシは適当な場所で昼寝しよっかな、っと」

 

「・・・ドクルンとイタイノンたちに怒られるウツよ」

 

「うるっさい!」

 

「ホゲェッ!?」

 

両腕を伸ばしながら言うクルシーナにウツバットは咎めるも、彼女の拳一発で黙らされた。

 

クルシーナはそのまま上空へと飛び上がると、森の方へと飛んでいく。

 

ザザ・・・ザザ・・・

 

「プリキュア、見つけたわよ」

 

『そうですか? どこに?』

 

「どっか行くみたい。そっちにあるコウモリを映してみて、記録するように言ったからどこにいるか分かるはずよ」

 

『わかりました』

 

クルシーナはただ怠けようとしたわけではない。ちゃんと手下に仕事をさせた上で、あいつらにも情報共有をしておくことで、検証を効率化させようとしたのだ。

 

それでも、昼寝を決め込もうとした時点で怠けようとしているのには変わらないが・・・。

 

「そっちは?」

 

『こっちはですねーーーー』

 

バチバチバチバチバチバチ!!!!!!

 

「っ・・・!」

 

通信から聞こえてきた凄まじい音に、顔を顰めるクルシーナ。

 

『はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・』

 

『あぁん・・・激しすぎて・・・気持ちよすぎて・・・イっちゃう・・・♪』

 

『へ、ヘバリーヌ嬢、大丈夫っすか!?』

 

『・・・お前も私のストレス発散に付き合えなの・・・!!』

 

『ま、待って!! お嬢!! ひぃぃ!?』

 

『相変わらず遊んでますねぇ』

 

「・・・まだやってんの?」

 

『私に止める義理はないので』

 

「・・・アンタの氷の能力で、そいつらの出番が来るまで氷漬けにしとけば?」

 

クルシーナはそう言うと通信を切ると、少しスピードを上げて森の方へ飛んでいく。最近はプリキュアの対抗策を寝ずに行っていたし、昼寝もできていないから、少しは眠りたい・・・・・・。

 

彼女は心の中でそう思い込んでいた。

 

そして、森の入り口のすぐ近くにある適当な木の上に横になる。

 

あいつらに任せて、アタシはゆっくり、と・・・・・・。

 

クルシーナはそのまま寝返りを打つこともなく、闇へと意識を落としていった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザザ・・・ザザ・・・ザザ・・・。

 

「ーーーちゃん、ごめんね・・・。本当は病気のあなたのところにいてあげたいんだけど・・・」

 

「大丈夫。お父さんは、気にしないで仕事してきて」

 

「いい子ね、あなたは・・・。嫁にしたいくらいだけど・・・」

 

「何、言ってるの?」

 

ザザ・・・ザザ・・・ザザ・・・。

 

「・・・花を見にきたの?」

 

「え・・・?」

 

「・・・花を見にきたの?」

 

「・・・・・・」

 

コクコク

 

「おいで」

 

「あ、ま、待って・・・」

 

ザザ・・・ザザ・・・ザザ・・・。

 

「ーーーちゃ~ん!!」

 

「ーーちゃん・・・!」

 

「今日も来ちゃったぁ!」

 

「今日は嬉しそうね、何かあったの?」

 

「うん! やっと手術ができそうなんだ! うまくいけば退院できるかも!!」

 

「そう、よかったわね」

 

ザザ・・・ザザ・・・ザザ・・・。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・!」

 

「ーーちゃん!! ーーちゃん!! しっかりして!!」

 

「はぁ・・・はぁ・・・ーーー、ちゃん・・・はぁ・・・はぁ・・・!」

 

「待ってて!! 今、看護師さんに・・・!!」

 

「うぅぅぅ・・・ーーー、ちゃん・・・」

 

「ーーちゃん・・・?」

 

「苦し、い・・・助け、て・・・一人に、しない、で・・・!」

 

「!!・・・誰かぁ!! 誰かいないのー!!??」

 

ザザ・・・ザザ・・・ザザ・・・。

 

「だいじょうぶ・・・?」

 

「ーーーを心配してくれるの?」

 

「うん・・・・・・」

 

ザザ・・・ザザ・・・ザザ・・・。

 

「アタシが連れ回したりなんかしたから、ーーちゃんはあんなことになったんだ・・・」

 

「君のせいじゃないよ。君はーーーと一緒にいてくれたんだろ?」

 

「私たちは恨まないわ。だってあなたのおかげで、一人悲しそうな顔をしてたあの子が笑顔になったんだから・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

ザザ・・・ザザ・・・ザザ・・・。

 

「残念だけど・・・あなたの娘さんの、病気は・・・!!」

 

「嘘よ・・・嘘言わないで!! そんなことあるはずないわ!! うちの娘が治らないんて・・・!!」

 

「お父さん、落ち着いてくれ・・・!!」

 

「!?」

 

そ・・・そんな・・・・・・アタシの、病気が・・・・・・?

 

嘘・・・嘘だよ・・・!! 嘘だッ!!!! ーーちゃんと約束したのに!!!! 一緒に体を治そうって!!!!

 

例え病院が離れたとしても、絶対に治して会おうって!!!!

 

ザザ・・・ザザ・・・ザザ・・・。

 

アタシにはもう、夢も、希望もないんだ・・・・・・。

 

一生、この箱から出られないままなんだ・・・・・・。

 

もうあの娘も、アタシのことなんか忘れて病院に出ているだろうなぁ・・・。

 

どうして・・・どうしてよ・・・なんでアタシは元気になっちゃ、いけないの・・・? アタシが何をしたって、いうの・・・?

 

いらない・・・こんな世界、いらない・・・アタシを拒絶する世界なんかいらない・・・。

 

みんなみんな、アタシみたいに病気になって、一生苦しんでればいいんだ・・・!!!!

 

『・・・シーナ・・・クルシーナ!!』

 

「!?」

 

切ったはずの通信機から声が聞こえたドクルンの声に、眠っていたクルシーナは目を見開いて息を切らせる。

 

「ドク、ルン・・・?」

 

『どうしたのですか? 随分と苦しそうに呻く声が聞こえたので・・・』

 

体を起こして額を拭うと、手の甲が汗で濡れ、脂汗をかいていたことがわかる。

 

「っ・・・なんでもないわ・・・」

 

『・・・本当に大丈夫ですか?』

 

「そんなことよりも、あいつらは・・・?」

 

ドクルンの通話を打ち切って、クルシーナがプリキュア3人の様子を聞く。

 

『・・・直接見てはいませんよ。ただ通信の映像を見る限りでは、彼女たちは足湯に入ってますね』

 

「そう・・・」

 

『その前には何やらオープン前の店に入っていましたけどね』

 

オープン前の店に行った・・・? ということは、あいつらはその店のやつらと関わりがあるということか? 特にあの黄色い猫のヒーリングアニマル、あいつの様子も少し変だったが、もしかして・・・?

 

そこまで考えたクルシーナは通信機に向けて語りかける。

 

「ドクルン、そのお店の前で待ち構えておいて」

 

『なぜですか?』

 

「あいつら、そこに来るかもしれない。場所はわかってるんでしょ?」

 

『ええ、まあ・・・』

 

「じゃあ、お願いね・・・」

 

クルシーナはそう言って通信を切ると、森から離れるように飛ぶ。プリキュアたちを張り込んで、監視を再開するために・・・。

 

飛んで向かっている最中、クルシーナはこんなことを考えていた。

 

さっき見た夢は、アタシの夢なんだろうが、関係ない。アタシはアタシ、あんなものを見せられようが、アタシにはどうでもいいことだ。

 

クルシーナは不機嫌そうな普段の表情をしながら、プリキュア3人を探すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・クルシーナ、大丈夫なのかしら?」

 

ドクルンはため息を吐きながら、プリキュアたちが向かうであろうお店の前に向かおうと歩いていた。

 

「クルシーナがどうかした? なの」

 

イタイノンが淡々としながら彼女に聞いてくる。

 

「どうやら眠っていたみたいですが、苦しそうな声が聞こえたので起こしたのですよ。本人は大丈夫と言っていましたが・・・」

 

「・・・怠けるからバチが当たったの」

 

ドクルンの心配そうな声に、イタイノンは呆れたように返した。

 

「でも、それ頭痛と関係ある? なの」

 

「・・・・・・・・・」

 

「私も頭痛があると変な夢を見るの。まるで私が経験をしたような感じの記憶みたいなもの、なの」

 

しかし、正面を向くと不安そうな顔をでそう話した。

 

「・・・さあ。でも、これだけは言えます。彼女は絶対に無理してる、そんな夢を何回も見させられれば彼女も辛いでしょうに・・・」

 

ドクルンは真面目なトーンで返すと、正面にいる新人幹部二人を見やる。

 

「どんなものがあるのかなぁ~? フンフンフ~ン♪」

 

「早くこの辺一帯を蝕みたくてたまんないっすよ~、ヘバリーヌ嬢~!」

 

「まだかなまだかなぁ~♪」

 

ヘバリーヌとバテテモーダはワクワクしながらその場所に向かっていた。

 

「あの二人はいいですねぇ・・・能天気で・・・」

 

「逆に心配になるの・・・」

 

そんな二人の様子を、ドクルンは苦笑いを浮かべながらいい、イタイノンはなんとも言えない表情で見ていた。

 

そして山へと向かう坂道を下ってきたところ・・・・・・。

 

「んっ・・・?」

 

イタイノンは何やら爽やかな、自身にとっては不快とも取れるような匂いがしてきて、思わず鼻を摘んで顔をしかめる。

 

「何、この匂い、なの・・・」

 

「何だか爽やかな香りがしますね・・・」

 

ドクルンは鼻をスンスンとさせながら、表情を少し顰める。

 

「う~ん、う~ん、いいにお~い♪ 気持ちよくなっちゃう~♪」

 

ヘバリーヌは頬を赤く染めながら、体を悶えさせている。体にジンジンときているようだが、それに快感を覚えているようだ。

 

「お嬢!! 多分、あそこからっす!!」

 

鼻を摘みながらバテテモーダが指をさす視線の先には、一つのお店があった。

 

「あれは・・・プリキュアたちがいたお店なのでは?」

 

「よりにもよって、あんな不快な匂いのお店なの・・・」

 

確か小さなコウモリで偵察してみる限りでは、アロマショップのお店だったはず。しかも、まだ開店する前のお店だ。

 

ドクルンは何か思うところがあるのか、その店の近くへと歩んでいく。

 

「ドクルン、まさか・・・いくの・・・?」

 

「プリキュアが来る場所であれば、好都合でしょう。あそこで張り込んでおきましょう。不快な環境もありそうですし・・・」

 

「あ・・・待つの・・・!!」

 

イタイノンは追いかけるようについていく。バテテモーダもヘバリーヌは顔をあわせると、先輩幹部二人の後についていく。

 

ザザ・・・ザザ・・・。

 

『そっちの状況は?』

 

小さな妖精のコウモリからクルシーナの声が聞こえてきた。

 

「とりあえず、素体は見つかりそうですね」

 

『そう・・・』

 

「そっちはいかがですか?」

 

『あいつら・・・動物のクリニックにいるわよ。黄色いやつと猫が何かはしゃいでたけど』

 

クルシーナの淡々とした声が聞こえる。

 

「クルシーナ・・・本当に大丈夫なんですか?」

 

『・・・何がよ?』

 

ドクルンの淡々としつつも懸念しているかのような言葉に、クルシーナの不機嫌そうな声が聞こえてくる。

 

「自分でわかってるくせに・・・」

 

『だから・・・! 何が?つってんの』

 

ドクルンが瞑目しながらそう言うと、クルシーナはイラッとしたような声で返す。

 

「私たち、変な夢や映像を見るでしょ?なの。自分が自分でないような気がしてきたの・・・本当は今の私たちが嘘なんじゃないかって、なの・・・」

 

不安そうな声を漏らすイタイノン。どうやら自分の身に覚えのない自分や記憶を見て怯えている模様。

 

その言葉に通信機から深いため息が聞こえてきた。

 

『あのね・・・どんな映像が頭の中に流れてたってアタシたちはアタシたちなの。わかる?』

 

「・・・・・・・・・」

 

『そんなことに戸惑っててどうすんだってこと、そんなのがあってもアタシらは変わらない』

 

「・・・そう、なの?」

 

イタイノンはクルシーナの言葉にボソリとつぶやく。

 

『例え今のアタシたちの姿が紛い物や嘘だったとしても、アタシたちにとってはそれらを含めて、それが全てよ。それが今に繋がってるって考えれば、何も気にならないでしょ』

 

「・・・・・・・・・」

 

イタイノンはクルシーナからの言葉を聞いても無表情で沈黙していた。

 

『! 奴ら家から出てきたわよ』

 

「そうですか・・・じゃあ、そろそろ始めますか」

 

『いいわよ、あの子犬もいるみたいだし』

 

「じゃあ、通信は繋げたままで」

 

ドクルンはクルシーナにそう言うと、3人を連れてアロマショップの近くの広いところへと歩く。ちなみに店を見てみると、どうやら開店間近でお客がたくさん並んでいる。

 

「本当に生きてる感じがしますね。全くもって不愉快だ・・・」

 

ドクルンはその様子を見て顔を顰めると、笑顔を貼り付けて新人の二人に向き直る。

 

「さて、バテテモーダとヘバリーヌ」

 

「うっす!」

 

「は~い!!」

 

「メガビョーゲンを生み出してください。そろそろ検証を開始します」

 

ドクルンがそう言うと二人は目をキラキラとさせる。

 

「本当っすか~!? いやぁ~、あの爽やかな香りが鼻障りで仕方なかったんですわ~! どんどん消し去ってやるっす~!!」

 

バテテモーダはそう言うと、店長と思われる眼鏡の女性が店の前に飾ったランタンのキャンドルに目をつける。

 

「いいのぉ~? ドクルンお姉ちゃん?」

 

「もちろんですよ。仕事はしてもらわないと・・・」

 

「う~ん、でも~・・・他に何があるのぉ?・・・おぉ!」

 

ヘバリーヌは目をキョロキョロとさせているとあるものを見つけた。それは向かいの青い屋根の家、そこに何かがあるのを感じた。

 

彼女は人にバレないように岩の壁にぶら下がって中を覗いてみると、その下に小さなコンポが放置されているのが見えた。

 

「ああいうのでもいっかぁ~♪」

 

ヘバリーヌはいたずらっ子のような笑みを浮かべると、バレリーナのようなポーズを2回取りながら、それぞれ手を叩き、バレエのように体をクルクルと回転させる。

 

「進化しちゃってぇ~、ナノビョ~ゲン♪」

 

「ナノォ~♪」

 

ナノビョーゲンが鳴き声を上げながら、その小さなコンポに取り憑く。小さなコンポが徐々に病気に蝕まれていく。

 

「・・・!?・・・!!」

 

コンポの中に宿っているエレメントさんが病気に蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガビョ~ゲン!!」

 

コンポのような頭部に不健康そうな顔、足に4対8個のスピーカーを搭載した人型のメガビョーゲンが誕生した。

 

「メガ~!!」

 

メガビョーゲンはコンポのような頭部にあるスピーカーから赤い音波を店の向かいの建物に向かって放つと、それを浴びた家や植物たちが病気に蝕まれていく。

 

「ンフフ~♪ 気持ちいいものの上に気持ちいいことをして、さらに気持ちよくしないとね~♪」

 

ヘバリーヌは悶えた後に両腕を大きく広げながら、気持ちよさそうな表情を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

のどかたちは織江というアロマショップを経営する女性に、ニャトランが惚れたことを知り、彼は彼女に想いを伝えようと奮闘していた。他のメンバーが戸惑いを見せる中、パートナーのひなただけは彼を応援しようとしていた。

 

店の前で倒れていたところを助けてもらった恩を返そうと、3人は織江さんの家へと向かった。そこで引越しの手伝いやお店の宣伝をしたりと彼女の手伝いをした。そんな中、ニャトランは彼女に想いを伝えたいと3人に語り、ひなたはそれならプレゼントを贈ろうと提案。

 

ビーズメーカーを使って、気合を入れてアクセサリーを作る彼の姿に、ラビリンやペギタンもパートナーを交代してしまうのではないかと気が気でない様子。

 

そして、3人はできたプレゼントを持って再び織江のアロマショップへと向かっていた。

 

「・・・喜んでもらえるかな?」

 

「気持ちめっちゃ込めたし! 大丈夫だよ!」

 

不安になるニャトランに、ひなたは彼を励ましてあげる。あんなに一生懸命にやったんだから、思いは絶対に伝わるはず・・・。

 

「・・・ふん、のんきな連中ね」

 

そんな彼女たちの様子を、クルシーナが通りの店の屋根の上から見下ろしていた。

 

『メガ~!』

 

小さなコウモリの妖精からはメガビョーゲンの声が聞こえている。あの新人幹部二人がナノビョーゲンを飛ばして生み出したようだ。

 

さて、あの子犬の様子はどうなっているのか・・・。

 

しばらく様子を見ていると・・・・・・。

 

「クチュン!! クチュン!!」

 

「「!?」」

 

注視していたあの子犬が、くしゃみをして体調を崩したようだ。それに気づいたプリキュアの二人が、栗色の少女に呼びかけてどこかへと走って向かうようだった。

 

「・・・ほぉ?」

 

クルシーナはそれを見て確信を持ったかのように笑みを浮かべる。やっぱりあの子犬はメガビョーゲンが現れると反応している。ということは、あいつはヒーリングガーデンの女王、テアティーヌの・・・。

 

彼女はそこまで考えると3人を追うべく、店と店の間を飛んでいく。あいつらが入った先は人気のない路地裏だった。

 

ビルの上から3人を覗いてみると、聴診器のようなものを子犬に当てようとしていた。

 

(良い香りの炎さんが泣いてるラテ・・・良い音が出る機械さんが泣いてるラテ・・・)

 

「良い香り・・・? もしかして!」

 

栗色の少女は黄色い猫とお互い頷くと、一足先に駆け出し、マゼンダ色の少女と藍色の少女はその後を追って走り出す。

 

クルシーナはそれを見やると、ちょうど3人がいた位置へと飛び降りる。

 

「これで全部わかったわね。あの子犬はアタシたちにとってガンでしかないってこと」

 

不敵な笑みを浮かべてそう言うと、小さなコウモリの妖精に呼びかける。

 

「ドクルン、イタイノン、検証終了よ。やっぱりドンピシャだったわ」

 

『・・・そうですか』

 

「あとは新人二人の好きなようにさせましょうか」

 

『・・・不本意だけど、仕方ないの』

 

クルシーナはそう言って通信を切ると、メガビョーゲンの場所へ向かう・・・・・・ことはせずに、昼寝を決め込める場所を探し始めた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第48話「確信」

前回の続きです。
ビョーゲン三人娘の作戦、今日と出るか吉と出るか、その内容をご覧ください。


 

「メガ~!!」

 

ヘバリーヌが生み出したスピーカー型のメガビョーゲンは、頭部のスピーカーから赤い音波を放ち、青い家の屋根や庭、草原の向こうの林や隣の建物の壁を赤い靄へと染めていく。

 

「メガ~、ビョビョビョビョビョ!!」

 

一方、バテテモーダが生み出した両腕に3本のロウソクをつけたキャンドル型のメガビョーゲンは、口からロウソクを吹き、近くの森や草原、織江の店の壁などに付着させて蝕み始める。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ああ・・・くっ・・・!!」

 

その場にいたお客は悲鳴を上げて逃げ出し、織江は突然現れた怪物に呆然としつつも逃げ出していく。

 

「おやおや、蝕むのが随分と早いですねぇ」

 

「見ているのが嫌になるくらいなの・・・」

 

その様子を店の建物から見下ろしていたドクルンとイタイノンはそれぞれの反応を示した。二体のメガビョーゲンはあっという間に店周辺を赤色に染めて行っており、コンポ型のメガビョーゲンは気のせいか少し大きくなっている気がする。

 

「織江さんのお店が!!」

 

「っていうか、あっちもまた大きくなってない!?」

 

そこへ入れ替わるかのようにひなたたち3人がメガビョーゲンの元へと到着した。

 

ひなたは持っていた袋を近くのベンチへと置いた後、二人の方を向く。

 

「みんな!!」

 

「「うん!!」」

 

「「「スタート!」」」

 

「「「プリキュア、オペレーション!!」」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

 

「「「キュアタッチ!!」」」

 

ラビリン、ペギタン、ニャトランがステッキの中に入ると、のどか、ちゆ、ひなたはそれぞれ花のエレメントボトル、水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

そして、肉球にタッチすると、花、水、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、水色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ちゆは水色、ひなたは黄色へと変化する。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「「「地球をお手当て!!」」」

 

「「「ヒーリングっど♥プリキュア!!」」」

 

変身を終えた3人はメガビョーゲンの前へと立ちはだかる。

 

「メガ~! ビョビョビョ!! ビョビョビョ!!」

 

キャンドル型のメガビョーゲンは3人に構うことなく、口からロウソクを吐き続ける。

 

「メガビョ~!!」

 

コンポ型のメガビョーゲンは頭部と足元についているスピーカーから赤い音波を放って病気へと蝕んでいた。

 

「ちょっと!! 何してくれちゃってんの!?」

 

「メガ~」

 

「メガビョ~ゲン!」

 

スパークルが怒鳴ると、動きを止めてプリキュアの前に立つメガビョーゲンたち。

 

そして、それぞれのメガビョーゲンの足元から現れる二つの影。

 

「おっ!プリキュア!ち~っす!」

 

ヘラヘラした顔で出てきたのはバテテモーダ。

 

「プリキュアちゃんたち、来たんだ~♪」

 

妖艶な微笑みを浮かべていたのはヘバリーヌだった。

 

「バテテモーダ! ヘバリーヌ! こんにゃろぉ!!」

 

「これ以上、好きにはさせないよ!」

 

3人はメガビョーゲンへと立ち向かっていく。

 

「メガ! メガ! メッガ!!」

 

対するキャンドル型のメガビョーゲンはロウソクを口から放ち、3人はそれを避ける。

 

「メガビョ~ゲン!!!」

 

ドォォォォォン!!!!

 

コンポ型のメガビョーゲンは頭部、腕、両足のスピーカーから空中に飛んだプリキュアに向かって破壊音波を放った。

 

「「「きゃあぁぁぁぁ!!!」」」

 

音波をまともに食らって吹き飛ばされた3人は、なんとか体勢を立て直して地面に着地をする。

 

「近づけない・・・!!」

 

メガビョーゲンに手こずるプリキュアたち。まともに近づくとロウソク攻撃及び音波攻撃が阻み、うかつに近寄ることすらできない。

 

「じゃあ、ヘバリーヌちゃんが近づいてア・ゲ・ル♪」

 

「!? きゃあ!?」

 

そんなフォンテーヌの目の前にヘバリーヌが近づき、彼女を蹴り飛ばす。

 

「フォンテーヌ!」

 

「よそ見しな~い!」

 

「!? あっ!?」

 

叫ぶグレースの背後からはバテテモーダが近づき、爪攻撃を浴びせる。

 

「んにゃろぉ!!」

 

「グワハァッ!?」

 

そこへスパークルが飛んできて、飛び蹴りをお見舞いして吹き飛ばす。そのまま攻撃を受けたグレースへと駆け寄る。

 

「上にい~るよ♪」

 

しかし、声が聞こえてきたかと思うと体を上下逆さにしていたヘバリーヌがいつの間にか現れていた。

 

「!?」

 

「そ~れっと!!」

 

ドカァァァァァン!!!!

 

「「あぁぁぁぁ!!!!」」

 

ヘバリーヌは両腕を地に伸ばした状態のまま、体を回転させると彼女の周りに竜巻が発生し、そのまま下にいた二人へと突っ込んだ。

 

大きな土煙が立ち、その中からグレースとスパークルが吹き飛んできた。

 

「グレース!スパークル!」

 

フォンテーヌが二人に駆け寄って呼びかけると、グレースとスパークルは起き上がる。

 

「よっ!と!」

 

地面に衝突して回転していたヘバリーヌはその動きを止め、片手で逆立ちした体勢のまま地面を押して飛び上がり、倒れているバテテモーダの横に着地する。

 

「もぉ~、モーダちゃんったら油断しすぎ~♪」

 

「いやぁ~、悪い悪いっす~! にしても、いいねぇ! いいねぇ! やっぱり戦うのは楽しいっすねぇ~!」

 

ヘバリーヌが甘い声で声をかけると、バテテモーダはすくっと起き上がってヘラヘラした後、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「ヘバリーヌちゃんも腕痛ぁ~い、でもそこがまたいいぃ~♪」

 

一方、ヘバリーヌは両手を見つつも、すぐに両手を頬に当てて顔を赤らめる。

 

「・・・やっぱり、強い・・・!」

 

一見、お調子者のように見えても、実力は相当なもの。そう感じざるを得ないグレース。

 

「メッガビョー、ビョーゲン!」

 

キャンドル型のメガビョーゲンが両手についているロウソクをミサイルのようにして発射する。

 

「メガビョ~~~、ゲン!!!」

 

コンポ型のメガビョーゲンは、頭部と両腕のコンポから周波数のような光線を放つ。

 

「「「!?」」」

 

ドカァン!! ドカァァァァァァァン!!!

 

同時に襲い来るミサイルと光線。三人は飛び退いてその二つの攻撃を交わす。

 

「あっ!?」

 

その時、一つのミサイルがあらぬ方向へと飛んでいくのをスパークルが見る。その先にあるのはニャトランが一生懸命作ったアクセサリーの袋・・・・・・。

 

「やばっ!!」

 

スパークルはとっさに駆け出して、間一髪でベンチの上の袋を手に取る。

 

ドカァァァァァン!!!

 

「きゃあぁぁ!!」

 

しかし、飛んできたミサイルをまともに受けてしまい、吹き飛ばされて地面へと落ちる。

 

「「スパークル!!」」

 

「メガビョ~~~~!!!」

 

ドォォォォォォォォン!!!

 

「「うっ・・・!!」」

 

グレースとフォンテーヌが彼女に駆け寄ろうとするが、そこへコンポ型のメガビョーゲンが頭部のコンポから音波を浴びせて、思わず二人は耳を塞ぐ。

 

そこへバテテモーダとヘバリーヌの二人が、彼女たちの目の前へと飛び降りてくる。

 

「ダメダメ! よそ見ダメェ!!」

 

「焦らさないでもっと相手してぇ~♪♪」

 

プリキュアの行く手を阻もうと襲い掛かるビョーゲンズの二人。興奮しきっていたバテテモーダはフォンテーヌへと拳を振るい、ヘバリーヌは両手に竜巻を纏わせるとそれをグレースにぶつけようと向かってくる。

 

「くっ・・・はぁ!!」

 

「うおぉ!?」

 

フォンテーヌは拳を両腕をクロスさせて防ぎ、逆に拳を押し返す。

 

「ぷにシールド!!」

 

「うっ・・・!」

 

ほぼゼロ距離から放ってきた竜巻をグレースは肉球型のシールドを展開して防ぐも、勢いが強くかなり苦しい様子だ。

 

「いい感じぃ~? じゃあ、もっと強くするねぇ~♪」

 

「っ!? うぅぅっ・・・きゃあぁぁぁ!!!」

 

ヘバリーヌは甘い声を上げると両手の竜巻の風力をさらに強くし、グレースはそれでも耐えようとするが、ぷにシールドごと吹き飛ばされてしまう。

 

「グレース!!」

 

「よそ見はダメって言ったっしょ!」

 

「あぁぁぁ!!!」

 

グレースに気を取られたフォンテーヌはバテテモーダの攻撃を受け、彼女の横へと吹き飛ばされる。

 

「メガビョ~~~~!!!」

 

そこへコンポ型のメガビョーゲンが頭部、両腕、両足にあるスピーカーから怪音波を放つ。

 

「うっ・・・あぁぁぁぁ!!!」

 

「ぐっ・・・くぅぅぅぅ!!!」

 

不快な音波を浴びせられ、耳を塞ぐ二人。頭が割れそうになるほどの音が二人の耳から頭の中に襲い来る。

 

「くっ、ぅぅぅぅ!! 氷のエレメント!! はぁぁぁぁ!!!」

 

フォンテーヌは顔を苦痛に顰めつつも、氷のエレメントボトルをステッキにはめ込むとコンポ型のメガビョーゲンの腹部に目掛けて放つ。

 

「メッガ~~!?」

 

メガビョーゲンはまともに喰らうと全身が氷漬けになり、怪音波の放出が止まる。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「メッガー!?」

 

フォンテーヌはそのまま飛び上がると、メガビョーゲンに向かってさらに蹴りを放ち、地面へと倒した。

 

一方、建物の屋上でそんな戦いを見下ろしていたドクルンとイタイノンは・・・・・・。

 

「ふぅ・・・面白くもない戦いね・・・」

 

ドクルンはその様子をつまらなそうに見ていた。

 

ビョーゲンズとプリキュア、やりつつやられつつの攻防戦のようなもの。地球を病気で蝕む行為はプリキュアに妨害されて一切できていないし、かといってもあの二人も舐めきっているのか本気であいつらを倒そうという気がまったくない。本当に味のない戦いだ。

 

「・・・・・・・・・」

 

「? どうしたのですか? イタイノン」

 

ドクルンが戦いに酷評をしている中、イタイノンは別の場所を黙って見下ろしていた。それは先ほどメガビョーゲンの攻撃で吹き飛ばされたスパークルの姿だ。

 

プレゼントが無事だったことをステッキのニャトランに話しているであろうスパークル。

 

何故だろう? あれを見ていると顔をしかめるほどではないが、頭がシクシクと痛む。

 

スパークルは傷つきつつも、ニャトランのステッキを上に掲げる。

 

「へへへ・・・ニャトラン、アタシに言ってくれたじゃん? プリキュアになるときに好きなものや大切なものを守るんだよ、って。守りたいんだ、ニャトランの気持ち!」

 

「!!」

 

「あたしはさあ、一つのことに集中するのって苦手じゃん? だから、何かを特別に好きっていうのわからないんだ・・・」

 

スパークルは笑いながら、ニャトランに気持ちを語りかける。

 

「・・・・・・・・・」

 

イタイノンはその様子を黙って見つめる。やっぱり、頭がシクシクとする。

 

「それがすっごく嬉しいの!! 一生懸命なニャトランすごくかっこよかったもん!!」

 

「!!・・・か、カッコイイのはスパークルニャ!! 今日だっていっぱいアイデアを出して! 一つのことに満足しないで、ぐんぐん進む! すごいやつだって思ってたニャ!! 」

 

ニャトランもスパークルに対して、その思いを打ち明ける。

 

「やった!! アタシたち両思いじゃん!!」

 

「あったりまえだぜ!!」

 

スパークルとニャトランはお互いに笑顔になりながら、頬を寄せ合う。

 

「!!?? ぐ、うっ・・・!!」

 

「イタイノン・・・!?」

 

イタイノンに顔をしかめて頭を押さえるほどの頭痛が襲った。ドクルンは彼女の異変に表情を変え、彼女へと近寄る。

 

「!!?? う・・・あ・・・!」

 

「ス、スパークル!? どうしたニャ!?」

 

「あ、頭が痛く、なって・・・!!」

 

その異変はスパークルにも起きており、顔を苦痛に歪めてステッキを持っていない方の手で押さえ始める。

 

イタイノンはドクルンに胸の中で支えられながら、スパークルは地面に倒れて悶えながら、ある映像が見えてきた。

 

ザザ・・・ザザ・・・ザザ・・・。

 

ーーーーねえ、ーーっち!

 

ーーーー・・・何? なの。

 

ーーーーこれプレゼント!! ーーっちにあげる!!

 

ーーーー・・・これは?

 

ーーーー蝶の髪飾り! ーーっちに似合うと思うんだ~!!

 

ーーーー・・・仕方ないから着けてやるの。

 

ーーーーやったー!! これはあたしたちの想いの証、これからも友達ってこと!!

 

ーーーーあんまりお前には関わりたくないの・・・好きになっちゃうから・・・。

 

ーーーーうえぇ!? ひどーい!! あたし、ヘコむかも・・・。

 

ーーーー・・・嘘なの。ーーーは本当にわかりやすいやつなの。

 

ーーーーあたし、からかわれただけ!? もうーーっちたら・・・。

 

ーーーーキヒヒ・・・。

 

ーーーーフフフ・・・。

 

・・・えっ・・・何、これ・・・なの・・・?

 

ザザ・・・ザザ・・・ザザ・・・ザザ・・・。

 

ーーーー!? ーーっち、大丈夫!?

 

ガシャン!!!!

 

ーーーーぐ、うぅぅぅ・・・!!!

 

ーーーー胸、痛いの!?

 

ーーーーうぅぅぅぅ・・・!!!

 

ーーーーえっと、こういうとき! どうすればいいんだっけ!?

 

ーーーーあぁ、ぁぁぁぁ・・・!!!

 

ーーーーあ、そうだ!! とにかく、病院に電話しなきゃ!! えっと、お兄ぃ!! お姉ぇ!!

 

えっ・・・こんな記憶、あった、っけ・・・?

 

ザザ・・・ザザ・・・ザザ・・・。

 

ーーーー大丈夫・・・?

 

ーーーー別に・・・何ともないの・・・。

 

ーーーー全然大丈夫そうに見えないよぉ・・・!

 

ーーーー心配するな、なの。私は死なないよ、なの・・・。

 

ーーーー本当?

 

ーーーーうん。

 

ーーーー本当に本当!?

 

ーーーー・・・うん。

 

ーーーー本当に本当に本当!?

 

ーーーーっ・・・もううるさいの・・・! 大丈夫ったら大丈夫なの!!

 

ーーーー・・・約束だよ。

 

ーーーーえっ・・・?

 

ーーーー病院から出てこれたら、また一緒に外で遊ぼう! 公園や森とか、いろんなところでさ!!

 

ーーーー・・・外も人も嫌なの。この病院だって大嫌いなの・・・。

 

ーーーーあ・・・。

 

ーーーーでも、お前と一緒だったら、頑張れそうだし、外も行けるような気がするの。

 

ーーーー!! うん!! 約束だよ!! らむっち!!

 

ーーーー約束なの・・・・・・ひなた。

 

ザザザザザザザザ・・・・・・。

 

「っ!!?? はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

イタイノンはひとしきりの映像を見せられた後、息を切らす。

 

「大丈夫ですか? イタイノン」

 

声をした方を振り向くと、ドクルンの胸に抱かれていることに気づく。

 

「っ・・・!!」

 

イタイノンはドクルンの胸から乱暴に抜け出すと、息を整えつつも額の汗を拭う。そして、スパークルの方を再度見やる。その表情は不機嫌そうに顰められていた。

 

一方、スパークルの方は・・・・・・。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「スパークル、大丈夫かニャ!?」

 

地面に伏して息を整えていたスパークルに、ニャトランが心配そうに叫ぶ。スパークルの顔には汗がかなり滲んでいた。

 

スパークルはそんな中で、あることを考えようとしていた。

 

(あたし・・・誰かと、なんか、約束してた・・・?)

 

先ほど流れてきた映像、自分の記憶なのだろうが・・・全く覚えがない。しかも、病院で誰かと何かを約束している。何か、大事なことを忘れているような・・・。

 

そんな時だった・・・・・・・・・。

 

ドガッ!!!

 

「きゃあぁぁぁ!!!」

 

そこへ風を切ったような音がすると、スパークルの腹部に痛みが走ったかと思うと体が吹き飛ばされる。

 

「スパークル!!」

 

「うぅぅ・・・あっ・・・!?」

 

スパークルは傷ついた体を懸命に起こして、自分を吹き飛ばした相手の顔を見ると、それはバテテモーダでもなく、ヘバリーヌでもなかった。

 

「イタイノン・・・なんで・・・!?」

 

「っ・・・・・・」

 

そこにはいるはずのないイタイノンの姿があり、スパークルは驚く。しかし、その表情は痛みを抑えているかのように顰められていて、顔にも汗が浮かんでいた。

 

イタイノンはフラフラとしつつも、倒れ伏しているスパークルに近づく。

 

「・・・お前、どこかで・・・?」

 

「えっ・・・?」

 

イタイノンが漏らした言葉に、スパークルはよくわからずに、目を丸くする。

 

イタイノンは、自分が会ったとされるあの映像の少女とこいつはよく似ている。背の高さは今と比べて違うとは思うが、もしかして、自分とこいつはどこかで会ったことがあるのでは? そう思い、彼女に問いただそうとしていた。

 

「どこかで、会ったこと、ある、の・・・?」

 

「な、何、言ってんの・・・?」

 

イタイノンは顔を顰めながらも、スパークルに迫ろうとする。

 

「イタイノン! しっかりするネム!!」

 

「!?」

 

イタイノンはカチューシャになっているネムレンの叫ぶ声を受けて、我に帰る。そして首を振って、私とこいつが会ったことがあるだなんて考えを振り払おうとする。

 

「関係ない・・・関係ないの・・・!」

 

イタイノンは頭を押さえながら、首を振るもなんだか混乱している模様。遂には頭を押さえながら、うずくまるようにしてしゃがみ込んでしまった。

 

スパークルはその姿を見て動揺するも、どう見ても敵の様子がおかしいことに気づく。

 

あたしにさっき流れてきた記憶の少女に似ている・・・あたしはこの子に会ったことがあるの・・・?

 

スパークルは体を引きずりながら、彼女に近寄ろうとする。

 

「お、おい! スパークル!! 何する気だよ!?」

 

ニャトランが叫ぶも、スパークルはそれでも彼女に近づく。

 

「もしかして、あんた・・・?」

 

「触るななの!!!」

 

触れようとしていたスパークルだが、イタイノンはその寸前で拒絶の声を上げて、彼女の手を払いのける。

 

「私は、嫌いなの・・・お前なんか、人間なんか、大嫌いなの・・・!!」

 

イタイノンは再び立ち上がると足をフラつかせながらも、後ずさっていく。

 

「イタイノン・・・・・・」

 

スパークルは何やら悲しそうな表情を浮かべると、再び彼女へと近づこうとするが、そこへ風を切るような音がしたかと思うと、ドクルンが彼女の背後から現れる。

 

「そこまでです」

 

「あっ・・・?」

 

ドクルンはイタイノンのことを抱きとめる。

 

「ドクルン!?」

 

「お前もいたのかよ!?」

 

幹部がもう一人現れたことに驚きを隠さない二人。

 

「あまりうちの同僚をかき乱すのはやめてもらいましょうか?」

 

ドクルンは抱いているイタイノンを優しく撫でつつも、スパークルのことを睨む。

 

「ドクルン・・・頭が変なの・・・シクシクするの・・・」

 

「そうですね。私たちは先に帰りましょうか。ここにいると頭がおかしくなりそうですし」

 

イタイノンが痛みを訴えると、ドクルンは優しい微笑みへと表情を向け、彼女を支えながら歩き去ろうとする。

 

「うっ・・・ま、待ってよ・・・!!」

 

「ッッ・・・」

 

スパークルがなんとか立ち上がってドクルンの背後へと声をかけると、彼女は振り向いて睨み返す。その剣幕に押されたスパークルは思わずたじろぐ。

 

ドクルンはしばらく睨みつけた後、再び前へと向き直り、そのまま姿を消した。

 

スパークルは二人が去っていた場所を唖然と見つめていた。

 

「ンフフ~♪」

 

「スパークル、後ろ!!」

 

「えっ・・・きゃあぁ!!」

 

ニャトランがスパークルに叫ぶも、彼女が振り返った瞬間にいつの間にか背後に立っていたヘバリーヌに蹴り飛ばされてしまう。

 

そのまま地面へと倒されるスパークル。その様子をヘバリーヌは頬を赤らめながら見つめていた。

 

「黄色のプリキュアちゃん、暇なの~? ヘバリーヌちゃんを気持ちよくして欲しいなぁ~♪」

 

「メガビョ~~ゲン!!」

 

ヘバリーヌは体をクネクネと動かしながら猫なで声を出すと、その背後からコンポ型のメガビョーゲンが現れた。

 

「うっ・・・メガ、ビョーゲン・・・」

 

「さっきより大きくなってるニャ!!」

 

先ほどはグレースやフォンテーヌと戦っていたはずだが、どさくさに紛れて辺りを病気に蝕んでいたのだろうか。最初に対峙した時よりも明らかに大きくなっていた。

 

「早く、浄化しないと・・・!」

 

スパークルはなんとか立ち上がり、メガビョーゲンへと向かっていく。

 

「メガビョーーーーゲン!!」

 

メガビョーゲンは頭部と胸についているスピーカーから禍々しい光線をスパークルに目掛けて放つ。

 

「っ・・・はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

スパークルは飛び上がってかわすと、黄色の光線をメガビョーゲンに向かって放つ。

 

「メガビョ~~~~!!!!」

 

メガビョーゲンは頭部のスピーカーから音波攻撃を放ち、黄色の光線をかき消す。

 

「う、嘘・・・あぁぁぁ!!!!」

 

音波はそのまま動揺していたスパークルに直撃し、彼女は吹き飛ばされる。

 

しかし、空中で体勢を整えて着地すると、そのままメガビョーゲンへと再度向かっていく。

 

「メガビョ~~ゲン!!」

 

メガビョーゲンは口から赤い円盤状の光弾を放ち、スパークルは横に避ける。メガビョーゲンはそのままスパークルを追うように光弾を何度も単発で放ってくる。

 

スパークルは走って逃げ回るばかりでメガビョーゲンに近づくことができない。

 

「これじゃあ、攻撃ができねぇよ!!」

 

「このままじゃ・・・!」

 

体力が消耗していく中、スパークルは打開策を考えようとする。

 

「ヘバリーヌちゃんがいるの忘れてな~い?」

 

「!?」

 

そこにヘバリーヌがいつの間にかスパークルの走る速度に合わせて横にいた。

 

「とりゃー!!」

 

両手に禍々しいオーラを纏わせて、それを合わせるように前へと突き出し黒い竜巻をほぼ至近距離で放つ。

 

「きゃあぁぁぁぁ!!!!」

 

当然、防御体勢が取れなかったスパークルは直撃を受けて飲み込まれ、空中へと打ち上げられる。

 

「メガビョォォォォォーーーーー」

 

メガビョーゲンは頭部と胸と両足についているスピーカーにエネルギーを溜めていく。

 

「ゲン!!!!!!」

 

スピーカーからスパークルに目掛けて、膨大なエネルギーの光線が放たれる。

 

ドカァァァァァァァァァァン!!!!!!

 

大きな土煙が立つほどの爆発を起こし、その煙が晴れるとそこにはスパークルが地面に突っ伏していた。

 

「う、うぅぅぅ・・・!!」

 

スパークルは気を失っていないながらも呻いており、小さなダメージも蓄積していて立ち上がることができない。

 

そこにヘバリーヌが近づいていく。

 

「黄色のプリキュアちゃん、もう終わりなのぉ~? ヘバリーヌちゃん、もっと気持ちよくして欲しいんだけどなぁ~♪」

 

「うぅぅぅ・・・!」

 

ヘバリーヌの猫なで声を漏らすも、スパークルは突っ伏したまま呻いているだけだ。

 

「スパークル!!」

 

「メッガ、ビョーゲン!!」

 

スパークルのピンチに気づいたグレースとフォンテーヌが気づくも、キャンドル型のメガビョーゲンが両手のキャンドルを再度ミサイルのように飛ばしてくる。

 

「スパークルのところにいけないラビ・・・!!」

 

「あのロウソクのようなメガビョーゲンをどうにかしないと・・・!」

 

スパークルを助けに行きたいグレースはメガビョーゲンの攻撃に邪魔をされてしまい、なかなか行くことができず悔しそうにする。

 

「ロウソク? もしかして・・・!」

 

グレースの言葉に、フォンテーヌは何か思いついたのか、戦闘中のバテてモーダから離れるように飛び退く

 

「あれぇ? 逃げるんっすか~?」

 

バテテモーダは馬鹿にしたような口調で煽る。

 

「雨のエレメント!!」

 

フォンテーヌは以前手に入れた雨のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

そして、それをそのまま上空に向かって青い光線を放つ。

 

バチバチ・・・!!

 

ザァァァァ・・・・・・。

 

青い光線は雲の中へと入っていくと、雲から稲光が起こったかと思うと頭上が黒い雲へと覆われ、青いエネルギーの雨が降り始めた。

 

雨はメガビョーゲンの両腕についているキャンドルミサイルの火を消していく。

 

「メガ~・・・? ビョー・・・ゲン・・・」

 

雨を浴びたキャンドル型のメガビョーゲンは力を失っていき、やがて沈黙した。

 

「うひゃ!? 雨、ヤベェ!!」

 

バテテモーダは降ってきた雨にたまらず、森の方へと避難していく。

 

「ん~? 雨~?」

 

ヘバリーヌは降ってきた雨を不思議そうに見つめる。

 

ビリビリビリ・・・!

 

「メ、ガガガガガ・・・ビョ、ビョビョビョ・・・? ゲゲゲゲゲゲゲ、ゲゲゲン・・・?」

 

コンポ型のメガビョーゲンはスピーカーから電気を起こすと、何やら声が低くなったり高くなったり、声の出が悪くなったりと変になっていた。

 

「メガビョーゲン?」

 

ヘバリーヌはメガビョーゲンの様子がおかしくなったことに目を丸くする。

 

「はぁぁぁぁ!!!」

 

地面に突っ伏していたはずのスパークルがヘバリーヌにステッキを向けて光線を放つ。光線は油断していたヘバリーヌに当たると紐のようになって彼女の体を縛る。

 

「あっ・・・♪」

 

「うっ・・・おぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

そして、なんとか立ち上がるとそのまま残っている体力を振り絞って、ヘバリーヌをメガビョーゲンに向かって放り投げる。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん♪」

 

「メメメ、ガガガガ・・・!?」

 

雨で自分自身が感電しているメガビョーゲンは、そのままヘバリーヌを顔面にぶつけられそのまま背後に押し倒される。

 

キュン!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

スパークルはその隙にステッキの肉球をタッチして、メガビョーゲンに向ける。

 

ニャトランの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを見つける。

 

「音のエレメントさんだ!!」

 

エレメントさんは頭部のコンポの右部分にいるのを発見した。

 

「こっちも見つけたラビ!!」

 

ラビリンはキャンドル型のメガビョーゲンの中に、火のエレメントさんがいるのを発見した。

 

「みんな!! ミラクルヒーリングボトルだ!!」

 

ニャトランの言葉を合図に、体を発光させる3人。

 

3人はミラクルヒーリングボトルをステッキにセットする。

 

「「「トリプルハートチャージ!!」」」

 

「「届け!」」

 

「「癒しの!」」

 

「「パワー!」」

 

グレース、フォンテーヌ、スパークルの順で肉球にタッチしていき、ステッキを上に掲げる。すると、花畑が広がっていき、背後には自然豊かな森が広がっていく。

 

さらにプリキュア3人の背後に、設楽が話していたとされる紫色のコスプレ姿をした女神の姿が映し出されていく。

 

「「「プリキュア! ヒーリング・オアシス!!」」」

 

3人は一斉にメガビョーゲンへとステッキを構え、ピンク・青・黄色の3色の光線が螺旋状になって放たれる。螺旋状の光線は混ざり合いながら一直線に二体のメガビョーゲンに直撃する。

 

螺旋状になった光線はそれぞれの色の手へと変化して、3本の手がそれぞれ火のエレメントさん、音のエレメントさんを優しく包み込んでいく。

 

3色に光るハート状にメガビョーゲンを貫きながら、光線はエレメントさんをメガビョーゲンから外へと出す。

 

「「ヒーリングッバイ・・・」」

 

メガビョーゲンたちは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「「「「「お大事に」」」」」」

 

火のエレメントさんは店に吊り下がっているアロマキャンドルへ、音のエレメントさんは家の庭のコンポへと戻ると、病気に蝕まれた箇所は元に戻っていく。

 

「いいところまで行ったんっすけどねぇ~!」

 

「本当にもうちょっとだったのにぃ~・・・」

 

森の木の上でバテテモーダが負けたとは思えないようにヘラヘラとしながら、いつの間にかその隣ににいたヘバリーヌは顔を膨らませながら不満を漏らす。

 

「でも、縛ったの良かったなぁ・・・♪」

 

「えっ・・・な、何してたんっすか・・・?」

 

ヘバリーヌはかと思うと、頬を赤らめて気分がよさそうにし、バテテモーダはそれを見て若干ひいたたような感じになる。

 

「ヒ・ミ・ツ♪」

 

ヘバリーヌはバテテモーダに向かってウィンクをしながら言う。二人はそのまま姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

建物の上で適当に昼寝を決め込んでいたクルシーナはふと片目を開く。

 

「メガビョーゲンの反応が消えたな。終わったのか?」

 

クルシーナは起き上がると小さなコウモリの妖精を呼び出して、プリキュアたちにつかせているあちらのコウモリの映像をこちらに出させる。

 

ザザザ・・・ザザザ・・・ザザザ・・・。

 

映像には砂嵐が走っていたが、それが腫れていくとプリキュアたちの様子が見えてくる。

 

「あいつら、さっきのところに戻ったのか・・・」

 

プリキュアたちはどうやら先ほどのクリニックの横のテラス席へと戻ったらしい。彼女は立ち上がると空中へと飛び上がり、その場所へと戻っていく。

 

「・・・本当に忌々しくて、邪魔くさいやつら」

 

クルシーナは不機嫌そうな顔をしながらそう言う。病気で蝕むのはずっと前からだが、あいつらのせいだ。アタシは自分たちにとって心地よい場所を手に入れられればいいのに、いつもあいつらは邪魔をする。本当にムカつくやつらだ。

 

しかも、新たな力を手に入れて、それでメガビョーゲンを浄化できて調子に乗っているだろう。繰り返して思うが、本当にムカつくやつらだ。

 

「クルシーナ・・・」

 

「・・・何よ?」

 

「自分が最初どんなやつだったのか覚えてるウツ?」

 

帽子になっているウツバットはクルシーナにこんなことを問いかける。

 

「・・・ふん。忘れたわよ、そんなこと」

 

「そう・・・」

 

「どうしたのよ? 一体」

 

「なんでもないウツ・・・」

 

クルシーナが逆にそんなことを聞いて何なの?と言わんばかりに問いかけると、ウツバットは何やらごまかす。

 

二人でそう話し込んでいると、やがてあのクリニックが見えてくる。

 

プリキュアたちに気づかれないようにゆっくりと降りていき、クリニックの建物の上であいつらを見下ろすことにする。

 

今、栗色ツインテールが黄色い猫にグミジュースを差し出し、泣き出した黄色い猫が彼女に撫でられている様子が見える。

 

どうやら女性と失恋したようだが、正直、どうでもいい光景。人間と妖精が結ばれるわけがないのだ。

 

クルシーナは心の中でため息を漏らす。

 

「・・・ウツバット」

 

「ウツ・・・?」

 

「言ったと思うけど、たとえ今のアタシが偽物だったとしても、アタシにとってはそれが全てよ。人間共の憎しみも含めてね」

 

「ウツ・・・?」

 

「アタシはこれからもビョーゲンズだし、これからもそれは変わらない。誰かになんと言われようと、おかしな頭痛や悪夢に苛まれようと、アタシはアタシなのよ」

 

「クルシーナ・・・」

 

クルシーナはキリッとしたような表情でウツバットに告げる。

 

「ラテ、どうしたの!?」

 

何やら慌ただしい声が耳に聞こえ、見てみるとそれは藍色のロングヘアをしている少女からだった。

 

彼女が見ていたのは、自分たちが気になっていた気配を察知することができるあの子犬だった。

 

その様子にプリキュアやヒーリングアニマルたちの様子が騒がしくなる。子犬はどうやら顔が赤くなっていて、辛そうな表情をしている。

 

「あいつ、具合が悪いのか・・・?」

 

「メガビョーゲンの気配の察知のしすぎだと思うウツ」

 

様子をよく見るクルシーナに、ウツバットが彼女について知っているかのようなことを言う。

 

「・・・なんですって?」

 

「クルシーナも見たと思うけど、あいつは気配を察知するとああいう風に調子が悪くなるウツ。そのガタが来たんじゃないか?ウツ」

 

「ふーん・・・」

 

クルシーナは適当に話を聞いている中、一つの考えを思いつく。

 

あの子犬が調子が悪い・・・もしかしたら・・・!

 

今だったら、地球の広範囲を蝕むことができるチャンスかもしれない。

 

「フフフ・・・・・・」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべると、その場から姿を消した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第49話「暗躍」

原作第19話がベースです。
今回から長編になります。最後までお付き合いください。


 

「ハ・・・ハ・・・ハァ~ックション!!!!!」

 

マグマに満たされた世界、ビョーゲンキングダム。そこで何やら品のない声が聞こえてきた。バテテモーダが思いっきり盛大なくしゃみをしたのだ。

 

・・・・・・・・・。

 

あんだけ盛大なくしゃみをしたのにもかかわらず、珍しく全員が集まっている幹部たちは思い思いのことをしていて、全く反応を示さない。

 

ダルイゼンは岩場に寝そべり、シンドイーネは鏡の前でおめかしをしていて、グアイワルは筋トレをしている。

 

ドクルンは眠っているイタイノンに膝枕をしてあげていて、クルシーナはその向かいで岩場に寝そべっており、ヘバリーヌはその間で何やら奇妙なポーズをとりまくっていた。

 

「やだな~、もう誰っすかぁ~? 俺の噂してるのは~? パイセン達かお嬢たちっすかぁ~?」

 

バテテモーダは先輩幹部たちの方を振り向きながら、ヘラヘラとした口調で言う。

 

「・・・してないけど?」

 

「プリキュアたちじゃないのぉ? あんたがヘバリーヌと一緒に負けてきたばっかりの」

 

ダルイゼンは淡々としたように返し、シンドイーネは皮肉めいた言葉で返す。

 

「あなたの噂の中身を教えて欲しいですねぇ」

 

「そんな風みたいなことわかるわけないでしょ。バカなの?」

 

ドクルンは煽るような言葉で返事をし、クルシーナは不機嫌そうな声で嫌味ったらしく返す。

 

「はぁ! ほぉ! やぁっ! モーダちゃんはたまに変なこと言うよね~♪」

 

ヘバリーヌは明るい声ながらも若干嘲るような感じで言いながら、奇妙なポーズを取り続ける。

 

「さてと・・・」

 

クルシーナはすくっと立ち上がるとその場から歩き去ろうとする。

 

「どこに行くんだ・・・?」

 

筋トレをしていたグアイワルが、クルシーナの背中に声をかける。

 

「地球を蝕みに行くに決まってんでしょ。アンタもバカになったの?」

 

「お、俺は・・・分かってたことだ!」

 

「・・・ふん」

 

クルシーナは背後を振り向きながらニヒルな笑みを浮かべながら言うと、グアイワルは言葉に詰まりながらも彼女に返す。

 

「好きに行ってくればいいんじゃない?」

 

「いってらっしゃーい・・・」

 

面倒臭そうに返すシンドイーネとダルイゼンに、クルシーナは顔をしかめる。

 

「・・・新人ですらやる気出してんのに、アンタらと来たらだらけてばっかね」

 

クルシーナは皮肉交じりにそう呟くと、今度こそ歩き去ろうとするが、数歩進んで何かを思い出したかのように立ち止まる。

 

「あ、そうだ。ドクルン、イタイノン、ヘバリーヌ」

 

「ん?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「な~に~?」

 

クルシーナは3人についてこいと言わんばかりに手招きをすると、再度歩みを進めていく。

 

ドクルンとヘバリーヌは目を見合わせると、ドクルンは膝枕をしているイタイノンの頬をペチペチと叩く。

 

「んぅ・・・・・・」

 

「イタイノン、起きてください。仕事に行きますよ」

 

「んんぅ・・・」

 

イタイノンは寝ぼけ眼でありながらも起き上がると、目をこすりながらクルシーナの後をついていくドクルンの後ろを歩いていく。

 

ヘバリーヌはルンルンと歩きながら、一緒についていくのであった。

 

「?」

 

バテテモーダはその様子を疑問符をつけながら見ていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人間たちが寝静まっているであろう静かな夜、すこやか市の町全体を見下ろせる、すこやか山の丘の上でビョーゲン三人娘とヘバリーヌが立っていた。

 

「気持ち悪い風ね・・・本当に不愉快だわ」

 

クルシーナは町を見下ろしながらニヒルな笑みを浮かべる。このそよ風は人間たちにとっては心地いいものだが、彼女たちビョーゲンズにとっては不快そのものだ。体の中がピリピリとする。

 

「あぁん♪ 風が体の芯に心地良くて気持ちいいなぁ~♪」

 

そんな中でもヘバリーヌは頬を赤らめながら、クネクネと体を動かしている。

 

「それで、この前の検証の収穫はあったんですか?」

 

ドクルンがクルシーナの背後に向けて問いかける。

 

「ええ、もちろん。やっぱりプリキュアどもに引っ付いているあのヒーリングアニマルの子犬、あれがガンになってたわね。ちゃんとバテテモーダとヘバリーヌがメガビョーゲンを生み出したところは通信で見ていたから、間違いないわ」

 

「やはり、そうですか・・・」

 

「・・・なんとも忌々しい話なの」

 

クルシーナは柵に寄りかかりながら言うと、ドクルンは無表情でつぶやき、イタイノンは顔を顰めながら言う。クルシーナはニヤッと笑みを浮かべながら次の言葉を吐いた。

 

「アタシ、今だったら地球を広範囲に蝕むことができるんじゃないかって思ってんのよ」

 

「? どういうことですか?」

 

疑問符を浮かべるドクルンに、クルシーナは人指し指を一本立てる。

 

「アンタたちが撤退した後、アタシだけあいつらの様子を見に行ったの。そのときにあの子犬、妙に具合が悪そうだったのよね。メガビョーゲンを作ってないのに」

 

「それがどうかしたのですか?」

 

「それはねーーーー」

 

ブスブスッ・・・・・・。

 

「ウツ!?」

 

クルシーナの説明であまり理解できていないドクルン。だんまりを決め込んでいるウツバットに顔を顰めると、指3本を使って帽子を数回つつく。

 

「お前から説明しろよ」

 

「わ、わかったウツ・・・・・・」

 

ウツバットは痛みに顰めながらも、あの子犬の性質を話し始める。

 

「あの子犬はラテという名前のヒーリングアニマルで、ヒーリングガーデンにいるテアティーヌという女王の娘なんだウツ」

 

「ふむ・・・つまりあの子犬はヒーリングガーデンのお姫様ってことですか」

 

「そうウツ。テアティーヌの一族は地球の病気を察することができるから、ビョーゲンズの病気をいち早く察知して浄化していったんだウツ」

 

「聞いてると、なんだかムカついてくる話なの」

 

「そのラテも、そう言った不調を感知する能力があるウツ。でも、僕たちが見た様子では、ラテはクルシーナやダルイゼンたちがメガビョーゲンを生み出しまくったせいで大分疲れているようだったウツ」

 

「・・・・・・・・・」

 

ウツバットの話を聞いている三人娘。ドクルンは質問をしながら聞き、イタイノンは話が気に入らずに顔を顰め、クルシーナはそれをただ黙って聞いていた。

 

「そのワンちゃんがお疲れってことは、プリキュアちゃんたちがメガビョーゲンに気づかないってこともあるってことぉ~?」

 

「アンタにしては察しがいいじゃない」

 

ヘバリーヌが珍しくまともなことを言うと、クルシーナは彼女に不敵な笑みを浮かべる。

 

「まあ、要するにだ。あいつの体調が悪いってことはアタシらの活動を察知できない可能性があるわけ。だから、そこを狙ってこの街一帯をアタシらで蝕んでやろうってことよ」

 

「ダルイゼンたちは協力させないの?」

 

イタイノンがクルシーナに意見を述べる。どうせ蝕むんだったら、あいつらも呼び寄せてやった方がいいんじゃないかと思う。その方が効率良くあっという間に蝕むことができるのではと考えた。

 

しかし、クルシーナはそれに対して首を振る。

 

「・・・いいわよ、あんなグータラ共は。呼び寄せるだけ時間の無駄よ」

 

クルシーナはどうせあいつらもやりたがらないだろうし、ましてアタシらと一緒に仕事をやりたがるわけがない。だから、正直どうでもいい。

 

「当てが外れた場合は、どうしますか?」

 

ドクルンがメガネを上げながら問う。それが一致しなかった場合は、結局この前の調査は無駄ということになる。はっきりと見たわけでもないから、なんとも言えないが・・・。

 

「・・・その時はその時よ。いつも通り、アタシたちで地球を蝕んでやるだけだし」

 

クルシーナは確信を持っていた。なんせ自分の帽子になっている相棒は、元々ヒーリングアニマルだ。こいつの言っていることが本当であれば、あのヒーリングガーデンの王女の情報は必ず一致するはずだ。

 

「さてと、じゃあ作戦について話しましょうか。まず、ドクルン、イタイノン、アタシの3人がこの更けた夜にメガビョーゲンを生み出す。ただしあくまでもそれはあいつらが気づいた時の陽動としての行動ってこと。あとはいつも通りメガビョーゲンに地球を蝕んでもらってーーーー」

 

クルシーナは作戦の内容を話していく。三人娘はあくまでもあいつらを釣るためのエサ。彼女がそのように作戦を話すのにはある理由があった。

 

「そして、トリはヘバリーヌ、アンタよ」

 

「えぇ? ヘバリーヌちゃん?」

 

クルシーナが指をさしたのはヘバリーヌだった。ヘバリーヌは珍しく戸惑ったような反応を見せる。

 

「そう。アンタに花を持たせようと思ってんの。アタシたちが陽動している間に、本命のアンタは人気のないところでこっそりとメガビョーゲンを生み出して、この街一帯を一気に病気で蝕んでやるってわけ。あの子犬の調子が悪い時に生み出してやれば、あいつらに呆気なく浄化されるってこともなくなるでしょ?」

 

「おぉ~!! いいねぇ♪ やるやるぅ~♪ ヘバリーヌちゃん、やるよぉ~♪♪♪」

 

クルシーナに作戦の要として起用されたことに、ヘバリーヌは瞳をキラキラとさせながら両腕をブンブンと回す。

 

「フフフ、威勢がいい子は嫌いじゃないわ。じゃあ、三人とも頼んだわよ」

 

「了解です」

 

「ラジャー♪」

 

ドクルンとヘバリーヌは場所を移動すべく、その場から姿を消す。

 

「・・・・・・・・・」

 

しかし、なぜかイタイノンだけは動こうとする様子がなく、どこかぼうっとしている様子だった。

 

「どうしたのよ? イタイノン」

 

「あっ、ごめんなの・・・」

 

クルシーナが呼び掛けるとイタイノンは反応を返すも、明らかに様子がおかしかった。さっきの話だってちゃんと集中して聞いてたか怪しいし、ビョーゲンキングダムにいたときもなぜかドクルンに膝枕をしてもらっていた。

 

「アンタ、最近ボケっとしすぎなんじゃないの?」

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナが不機嫌そうな口調で言うと、イタイノンは俯いたまま体をプルプルと震わせる。

 

そして、クルシーナに駆け寄ると彼女の前から抱きしめる。

 

「ちょっ、何よ?」

 

「・・・頭が痛いの」

 

「?」

 

「最近、頭がシクシクするの・・・眠ってても変な夢ばかり見るの、あのプリキュアどもと一緒にいると頭がおかしくなりそうなの、体がフラフラするの・・・。私が私でなくなりそうで、怖いの・・・」

 

イタイノンは体を震わせながら心情を吐露する。彼女はクルシーナにああは言われても、結局は変な映像に苦しめられていたのだ。

 

クルシーナはイタイノンを抱き返す。

 

「・・・前も言ったでしょ。アタシたちはアタシたちだって。偽物だとしても、今はビョーゲンズであることが全てなのよ」

 

「でも、考えようとしなくても、流れてしまうの・・・私の、頭の中に、痛いものが・・・!」

 

クルシーナがそう諭しても、イタイノンの苦しげな訴えは変わらない。

 

「だったらいつものように発散すればいいのよ。地球や人間たちを恐怖と苦痛に落としたりしてさ、アンタやアタシの得意分野じゃない」

 

「・・・・・・・・・」

 

「そんな夢や映像ごときに惑わされてるわけ? ヤブ医者が何かしたわけでもあるまいし。大体、今のアタシらの存在意義はアンタでも理解してるでしょ? もしかして、忘れた?」

 

「!!」

 

クルシーナが微笑を浮かべながら、イタイノンはハッと目を見開く。

 

そうだ、私はなぜ人間を憎み、ビョーゲンズとしての根源があるのか? 本当にそういうまやかしに感化されて、自分がどういう存在なのか忘れるところだった。

 

イタイノンは少し頭痛が引いたと思うと、ゆっくりとクルシーナから体を離す。

 

「い、一応、礼は言っておくの・・・」

 

「・・・別にアタシは何もしてないけど?」

 

イタイノンがそっぽを向きながら言うと、クルシーナは淡々と返す。抱きついて恥ずかしかったのか、彼女の頬が赤らめているのが見える。

 

「ありがとう・・・」

 

「ん? なんか言った?」

 

「な、なんでもないの! 行ってくるの・・・」

 

イタイノンはボソッと言葉を言うと場所を移動すべく、その場から姿を消す。

 

自分以外の三人が移動したことを確認すると、クルシーナは再びすこやか市の街を眺め始める。

 

「さてと、アタシはどうしようかねぇ?」

 

彼女がどのような素体からメガビョーゲンを生み出してやろうと考え始めた、その時だった・・・・・・。

 

バサッ!!

 

「ブッ!! ッ! な、何よ!!??」

 

突然、クルシーナの顔に何かがかかり、彼女はそれを乱暴に取り払う。少し離れた位置でそれを見てみると、それは一本の柱の上にかかっていた、黄色と緑の布ようなものだった。

 

布のようなものは風が吹いてくると、それによってパタパタと音を立てながらたなびかせる。風が止まると柱にかかるように元に戻る。

 

「何、これ?」

 

「よくわからないけど・・・風の強さに関わっているっていうのは明白ウツね」

 

クルシーナが疑問を抱いていると、布のようなものは風が吹くとまた音を立ててたなびく。

 

これは吹き流しといい、人間たちが風の風力や向きなどを調べたりするために高所からぶら下げているもの。

 

吹き流しは風が吹くと再びたなびかせ始め、さらに先ほどとは別の方向に向かってたなびいているのが見える。風が止むとまたぶら下がるように下へと垂れた。

 

それをしばらく見ていたクルシーナは不敵な笑みを浮かべる。

 

「これはこれで、生きてるって感じね。人間の作ったものだろうけど、いいものができそう」

 

クルシーナは手のひらを広げるとそこに息を吹きかけ、黒い塊のようなものを出現させる。

 

「進化しろ、ナノビョーゲン」

 

「ナ~ノ~」

 

生み出されたナノビョーゲンが鳴き声を上げながら、その吹き流しに取り憑いていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、先に移動していったビョーゲンズの二人。その一人であるドクルンは、すこやか市の緑がいっぱいの公園へと姿を現していた。

 

「静まり返った公園はいいわぁ。ここでは誰の目も気にすることなくここ一帯を蝕むことができるからねぇ」

 

ドクルンは夜の公園の暗鬱さを感じながら言う。人間たちは平和なこの世界で寝静まっている。今ならここで怪物を発生させても大丈夫なくらい、誰もいない状態だ。

 

これから私たちに地球を蝕まれることも知らずに・・・・・・。

 

「さてと、素体はどうしようかしら?」

 

ドクルンは辺りを見渡しながらメガビョーゲンの素体となるものを探す。

 

周りを探索していくと、花がいっぱいの庭園や広い草原、林の中には柵があって様々な植物が育っており、その中の階段を上がっていく。

 

「空気がよく澄んでいるわねぇ。色は素敵だけど、私たちの体には不快だ」

 

ドクルンはそう言いつつも、口元の笑みを崩さない。夜の公園と言えども、美しいものであっても、快適な環境であればビョーゲンズにとっては不愉快そのものでしかないのだ。

 

「ドクルン」

 

「何? ブルガル」

 

「体調は大丈夫なのかブル?」

 

ドクルンは不意に話しかけてきたスタッドチョーカーになっているブルガルのその言葉に、足を止める。

 

「・・・別に。何もないわ」

 

一拍置いた後、ドクルンが口を開く。特段頭痛なんか起きてないし、体がフラフラしていることもない。全くもって問題がないし、活動にも支障がない。

 

なのに、相棒は何を心配しているのだろうか?

 

「そうか、ブル・・・」

 

「? どうかしたの?」

 

「・・・なんでもない、ブル・・・」

 

ドクルンはそれを聞くと、再び歩き始めた。

 

「どうせ忘れるわよ。私がこうやって、ビョーゲンズとして活動をしていれば・・・」

 

「? 何か言ったブル?」

 

「・・・何でもないわ」

 

ドクルンがボソリと呟いたが、ブルガルに問われると冷静にごまかした。

 

階段を昇って頂上らしきところまで到達していくと、そこには何やら建物のようなものがあり、そのそばには発泡スチロールのような箱が積み上がっているのが見えた。

 

「・・・・・・ふむ」

 

ドクルンは何かを思うと、その箱に近づいていき、蓋を開けて中身を見る。そこには白い煙を放出する塊のようなものがたくさん入っていた。

 

「・・・へぇ~、まさかこんな場所でこれを見られるとはねぇ。でも、ここで何のために使われるのかしらぁ? まあ、いいわ」

 

ドクルンは指をパチンと鳴らし、黒い塊のようなものを出現させる。

 

「進化してください、ナノビョーゲン」

 

「ナノデス~」

 

生み出されたナノビョーゲンは、その箱の中身へと飛び込んでいく。

 

一方、誰もいないすこやか市の中学校、その校舎の屋上にイタイノンの姿があった。

 

「今、ここには誰もいない・・・本当に居心地がいいの」

 

彼女はニヒルな笑みを浮かべながら、夜の校庭を見つめる。私の部屋と同じで暗く、神秘的な世界・・・しかも、その世界に私一人だけがいるかのような世界。

 

イタイノンにとっては至福の時だ。なんせ今ならこの世界を独り占めにできるから。

 

「ネム・・・・・・」

 

「? どうしたの? ネムレン」

 

そんな静かな世界で、何やらため息をつくカチューシャのネムレンに、イタイノンは声をかける。

 

「私は心配ネム・・・」

 

「・・・何が?なの」

 

「イタイノンが、おかしくならないか心配ネム・・・!」

 

ネムレンが吐露した悩みに、イタイノンは顔を顰める。

 

「・・・それは私の頭が変だとでも言いたいの?」

 

バチバチバチ・・・!!

 

「え!? いや、そうじゃなくて! こんな地球にいて、イタイノンの頭痛がひどくならないか心配だっただけネム!!」

 

イタイノンが体を帯電させ始めたことに、ネムレンが慌てながら弁解する。私は心配なだけなのに・・・・・・。

 

それを聞くとイタイノンは電気の放出を止め、一拍沈黙した後、決意を秘めたような顔になる。

 

「冗談なの」

 

「え?」

 

「・・・お前の気遣いはよくわかってるの。でも、私はビョーゲンズなの。人間とは違うの。私は狩られる側じゃなくて、狩る側にまわっているの。何も心配する必要はないの」

 

「でも・・・・・・」

 

「もし、そんなことがあれば、まとめて私の憎しみで食いつぶしてやるの」

 

イタイノンは拳をグッと握りしめながらネムレンにそう言うと、彼女はそろそろメガビョーゲンを作り出す素体を探そうと辺りを見渡し始める。

 

「イタイノンは・・・強くなったんだネム・・・」

 

「? なんか言った?なの」

 

「なんでもないネム」

 

ネムレンがホッとするような声を出すと、イタイノンが反応する。

 

「ここは本当に、本当にいい場所なの」

 

イタイノンは素体を探しながら、そう呟く。誰もいない世界、一人になったかのような世界、本当に素敵な世界だ。

 

「でも、もっといい場所になるはず、なの」

 

イタイノンは笑みを浮かべながら言うと、屋上の出口の上にパラボラアンテナがあるのが見える。

 

彼女は不敵な笑みを浮かべると、両腕の袖を払うかのような動作をして黒い塊のようなものを出現させ、右手を構えるように突き出す。

 

「進化するの、ナノビョーゲン」

 

「ナノナノ~」

 

生み出されたナノビョーゲンは、パラボラアンテナへと取り憑いていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビョーゲンズによる卑劣な作戦が行われている一方、のどかの家では彼女たちが眠りにつこうとしていた。

 

この日は珍しくのどか、ラビリン、ラテの3人が同じベッドで一緒に眠りについていたが、ラテは寝付くことができずに不安そうな顔を浮かべていた。

 

火のエレメントさんと音のエレメントさんをお手当てをした後、体調不良で倒れてしまった自分。ひなたの両親が経営する動物病院に診てもらったところ、疲労がたまっていただけだという。

 

それにしても、自分はのどかたちにお手当てを任せっきりにして守られているだけ。自分は体調が悪くなり、いつもそこで眠っているだけだ。

 

のどかもちゆもひなたも、のどかのパパもママも、みんな自分に優しい。でも、それに比べて自分はなんだ、そんな彼女たちに何もできていない。

 

自分は本当に家の中のお姫様。そんな自分に何もできていないことが不甲斐なくて、本当に仕方なかった。

 

「クゥ~ン・・・・・・」

 

ラテはため息をつくような声を漏らす。

 

「ラテ?」

 

そんな声に反応したのどかが声をかける。

 

「大丈夫? 眠れない?」

 

「う~ん・・・・・・」

 

一緒に目を覚ましたラビリンも反応し、彼女がスタンドの明かりをつけるとのどかも起き上がる。

 

「ラテ様、大丈夫ラビ?」

 

「ウゥ~ン・・・・・・」

 

「どこが辛い? 教えてくれるかな?」

 

不安そうな表情をするラテに、何かを言いたいのであろうことを察したのどかが聴診器をつけてラテに当てる。

 

(元気になれないのが悲しいラテ・・・)

 

ラテは心の声を漏らす。どうやら自分が倒れてしまったことを気にしているようだった。

 

「うん。ラテも早くみんなとお外行きたいよね」

 

「元気になったらたくさん一緒に遊ぶラビ」

 

のどかとラビリンは優しい表情で声をかける。

 

(みんな・・・みんなラテに優しいラテ・・・でも、ラテは何もしてないラテ・・・みんなプリキュアになって頑張ってるラテ・・・ラテはいつも助けてもらってるだけラテ・・・)

 

ラテはどうやらみんなに迷惑をかけたのを申し訳ないと思っているようだった。みんなはメガビョーゲンと戦っているのに、自分は倒れてぐったりしているだけ。そんな彼女たちに恩返しの一つも、何もしてやれていないのだ。

 

「そっか・・・そんなこと思ってたんだね・・・でもね、ラテ」

 

ラテの心の不安を聞いたのどかはなおも優しい表情を浮かべ、彼女を優しく抱きかかえる。

 

「私たちこそ、ラテのおかげで助かってるんだよ」

 

「ラテ様が地球の苦しみを体で感じてくれているから、ラビリンたちがお手当てできるラビ」

 

ラテだって十分助けてくれている。そういう風にのどかとラビリンは思いを伝える。

 

「だからね、ラテが疲れるのは当たり前なの。何もしてないなんて、そんなこと全然ないんだよ」

 

(でも・・・・・・)

 

のどかの優しい言葉でも、ラテの表情は晴れない。

 

「何も心配することないラビ」

 

「今はゆっくり甘えてくれればいいからね」

 

彼女たちはそれでもラテを気遣うような優しい言葉をかけてくれる。ラテはそんな言葉を聞きながら、疲れからかゆっくりと意識を落としていくのであった。

 

「寝ちゃったね・・・・・・」

 

「よっぽど疲れていたんだラビ」

 

のどかは安心したような表情を浮かべるとラテをゆっくりとベッドの中へと戻し、彼女に掛け布団をかけてあげる。

 

「のどかは優しいラビね。いつも誰かを気遣ってるラビ」

 

「うん。だって私も、病院にいた頃はみんなに助けられてたから。共に戦う友達もいたし。みんなの助けになりたいから」

 

のどかは部屋に飾られている写真を見つめる。

 

「しんらちゃん・・・」

 

そこには飾られていない誰かの名前をつぶやく。

 

「のどか?」

 

「あ、ううん・・・なんでもない。早く寝よ?」

 

不安そうな表情を浮かべたのどかにラビリンが声をかけると、彼女は優しい笑みを浮かべる。

 

のどかとラビリンはスタンドの明かりを消すと、ラテに寄り添うように眠りについたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつら、本当にこないわね・・・・・・」

 

すこやか山の中。クルシーナは腕を組みながら、近くの木に寄りかかりながら見える山の麓の方を見ていた。

 

プリキュアについているあの子犬が、本当に体調が悪そうであれば、あいつらは自分たちの行動を察知できないと踏み、今が好機だとメガビョーゲンを生み出した。さらにこの時間帯は、人間共は家に篭って寝静まっている時間だ。自分たちが活動しているだなんて、毛ほども思わないだろう。

 

三人娘とヘバリーヌにも協力してもらい、自分たちが揃い踏みすれば、地球なんかあっという間に蝕めるはず。まずはその第一の場所として、あいつらが住んでいるこの街を襲ってやることにしたのだ。

 

もう暴れさせて数時間は経つと思うが、まさか本当に来ないとは・・・・・・。

 

「メガァ!! メガァ!! メガァ!!!!」

 

その近くでは、黄色の線のようなスカートに青いマフラーをしたようなメガビョーゲンが、両腕の赤い布のようなものを地面に叩きつけ、口から赤い光線を吐き出しながら山一帯を病気で蝕もうとしていた。まずはその前哨戦として、すこやか山の山頂を蝕んでいた。

 

プリキュアという障害がまるでなく、順調に病気で蝕んでいくメガビョーゲン。クルシーナはその様子に不敵な笑みを浮かべる。

 

「・・・まあ、どっちでもいいけど」

 

あの目障りな3人とお供のヒーリングアニマルがどんな時間に来ようが来なかろうが、自分のやることは変わらない。クルシーナは気にしないことにした。

 

「メガビョーゲン!!!」

 

メガビョーゲンは口から赤い光線を吐き出し、周りの木を病気へと蝕んでいく。

 

「フフフ、いいわよメガビョーゲン。その調子」

 

クルシーナが徐々に山が赤く染まっていくのを見て、不敵な笑みを浮かべる。先ほどよりも少しは大きくなってきた気がする。

 

「ち~っす!! クルシーナお嬢!」

 

「あぁ?」

 

そこにこの静かな夜には似合わない声が聞こえてきたかと思い、振り向くとそれはバテテモーダだった。

 

「バテテモーダ? 何しに来たわけ?」

 

「いやぁ~!! お嬢たちの活躍をこの目に焼き付けようと思っただけっすよ~!!」

 

「あっそ」

 

バテテモーダはヘラヘラしながら、クルシーナへと近づく。彼女は特に興味を示すことなく、メガビョーゲンの方を見やる。

 

「順調っすか?」

 

「ええ、今までが嘘みたいにねぇ」

 

クルシーナは両手を頭の後ろに組みながら言う。今回はプリキュアにほとんどというか、全く邪魔をされることなく、地球を蝕むことがスムーズにいっている。気持ち悪いくらいにだ。

 

「他のお嬢たちもどっかで蝕んでるんっすよね?」

 

「もちろん。アタシから離れた場所でね」

 

「さすがお嬢たちっすね~! 特にクルシーナ嬢、ドクルン嬢、イタイノン嬢の3人は地球のあらゆるな街を自分たちのモノにしたことがあるって聞くっすけど、それを成し遂げただけあるっすね~!」

 

「おだてたって何も出ないわよ」

 

クルシーナはバテテモーダの讃えるような言葉に、特に反応することなく適当に返す。

 

「それにしても、お嬢はあのピンクのプリキュアに執着してるんっすか~?」

 

「・・・は?」

 

バテテモーダが調子付いて言ったその言葉に、クルシーナは不敵な笑みから表情を消す。こいつが言ったのはおそらくキュアグレースのことだろう。

 

「なんか~、あのときにお嬢はあいつに近づいていったっすよね~? なんか気があるんじゃないかってーーーー」

 

「ッッ!!」

 

クルシーナは振り向かずに右手を向けると、暗いピンク色の光弾を放つ。

 

ドカァン!!

 

「ひぃっ!!?」

 

光弾は自分の顔を掠め、後ろにあった木へと当たる。木はバキバキバキと音を立てながら、根元から地面へと倒れた。バテテモーダはその光景に冷や汗を垂らす。

 

「・・・それ以上言ったら潰すぞコラ」

 

クルシーナが今までにないほどの冷たい声を放つ。まるで触れてはいけないことがあるかのように、その表情は怒りの表情を浮かべていた。

 

「ご、ごめんっす! 自分、触れられたくないって知らなくて・・・」

 

「わかったら今後、調子付いた発言は慎めよ。お前なんかいつでも消せるんだからな」

 

バテテモーダは慌てたように謝ると、クルシーナは攻撃的な口調でそう言うと彼から離れていく。

 

「お、お嬢? どこ行くんっすか?」

 

「メガビョーゲンの様子を見に行くに決まってんだろ」

 

クルシーナはいつの間にか移動をしているメガビョーゲンの様子を見に行こうと歩いていく。こんな奴に構っているとイライラするだけだ。

 

「メガァ!! メガァ!!! メガビョーゲン!!!!」

 

メガビョーゲンは山中へと降りてきていて、口から病気を吐き出しながら、布のような両腕を振り回してあらゆる場所を叩きつけ、暴れまわっている。山を順調に蝕んでいっており、この調子ならここ一帯を蝕むのも時間の問題だろう。

 

「特に問題はなさそうね。あいつらも来ないみたいだし」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべる。プリキュアの姿はどこにもないし、それどころか人っ子一人見当たらない。しかも今回のメガビョーゲンは、素体がいいからか効率良く蝕んでいる。

 

これならここ一帯を、それどころかこの憎たらしい街を、自分たちのものにすることができるかもしれない。

 

「おぉ~! 結構大きくなったんじゃないっすか~? 本当に順調っすね~!!」

 

バテテモーダがキラキラとさせながら感嘆の声を上げる。

 

「ふわぁ~、そうね」

 

クルシーナはあくびをしながら言う。

 

「それにしても、プリキュアちゃんたち遅いっすね~。いつもだったらスッと来るのに」

 

「呑気に寝てんじゃないの? お手当てのことなんか考えないくらいにさ」

 

クルシーナは適当に答えるとメガビョーゲンの様子が伺えるような適当な木の上へと飛び乗り、枝の奥で木に寄りかかるように寝そべる。

 

「お嬢?」

 

「アタシちょっと一眠りするから、アンタはメガビョーゲンの様子を見てて」

 

「それってもしかして、自分へのお願いっすか?」

 

「そうよ、お願いお願い」

 

クルシーナは見届けるのが面倒臭くて適当に押し付けようとしているだけなのだが、彼女たちのことを好意的に見れるバテテモーダは目をキラキラとさせる。

 

「了解っす~!! このバテテモーダ、快く惹きつけるっす~!!・・・自分はお嬢たちに並びたいっすから」

 

「? 最後なんか言った?」

 

「いえいえ! なんでもないっす!! 行ってきまーす!!」

 

バテテモーダはごまかすとメガビョーゲンの方へと走っていく。クルシーナは彼の後ろ姿を見つめていた。

 

「・・・嬉しい誤算もあるものね」

 

正直、雑用を押し付けたという認識しかないのだが、それでも嬉々してやろうとするバテテモーダにクルシーナは微笑を浮かべるのであった。

 

一方、緑が豊かな公園にいるドクルンは・・・・・・。

 

「あの3人、本当に来ないんですね・・・」

 

手に本を持ちながら、誰もいない虚空を見つめている。クルシーナの言う通り、あの子犬のヒーリングアニマルは本当に体調が悪くて、プリキュアたちは気づいていないということだろう。

 

「メガァ・・・!!!」

 

野太いメガビョーゲンの声が聞こえてきたかと思うと、赤い光線が木へと放たれ氷漬けになっていく。さらに氷漬けになったところから赤い煙が放出され、大気までもが赤く蝕まれていく。

 

「フフフ・・・」

 

ドクルンはメガビョーゲンが順調に蝕んでいっていることに不敵な笑みを浮かべた。

 

そして、すこやか市の中学校にいるイタイノンは・・・・・・。

 

「キヒヒ・・・いいのいいの、順調なの・・・!!」

 

サディスティックな笑みを浮かべながらイタイノンが見下ろしているのは、校庭やテニスコート、緑色のネットなどが赤い靄で蝕まれていく光景だ。

 

いつもならこの街に住むプリキュアたちが邪魔をしに来るはずなのだが、今回はなぜだか来る気配が全くない。それどころか本当に人っ子一人いないわけだが、これはこれでいい。人間たちの悲鳴や恐怖を味わえないのは残念だが、ここ一帯がやがて自分のものになると思うと笑いが止まらなくなる。

 

「メガビョー!!!」

 

メガビョーゲンの声が聞こえてきたかと思うと、ポポポという音が聞こえてきたかと思えば、隣の校舎に電気のようなバチバチとした音が聞こえて赤く蝕まれていく。

 

「あいつら、本当に来ない気なの・・・?」

 

イタイノンは無表情で虚空を見つめる。やっぱり人間の悲鳴を味わえないのはなんとなく物足りない気がするが・・・。

 

「・・・まあ、別にいいの」

 

イタイノンはそっぽを向きながら言うとメガビョーゲンの方を見つめる。それよりも地球の侵略活動をすることが優先事項だ。明るくなる前に少しでも多く蝕んでおかなければ。

 

「キヒヒ・・・」

 

メガビョーゲンが順調に蝕んでいっていることに対し、イタイノンは不敵な笑みを浮かべた。

 

一方、ヘバリーヌはすこやか市の街の外れへとやってきていた。

 

「なんか地味な建物だねぇ♪」

 

古めかしく汚れたような大きな建物を見下ろしながら言う。ヘバリーヌは屋根の上へと飛び降りると、建物を正面から見る。

 

「こんなところに不快なものがあるのかなぁ~? でも、ピリピリとするんだよねぇ♪」

 

ヘバリーヌはあまり人気のない場所で、不快な気配を辿りながらここへとやってきた。それがこの何十年も使われているような建物の前へと来たのだが、ここに生き生きしたものがあるとはとても思えない。

 

でも、体がピリピリとするのだ。それも、痛くて気持ちいいくらいに。

 

ヘバリーヌは建物の中へと入っていこうとするが、扉には鍵がかかっていた。南京錠で止められているだけの扉の鍵。しかし、こんなものはキングビョーゲンの娘の彼女にとってはなんてこともなかった。

 

「ほっ!」

 

ヘバリーヌは南京錠を足の蹴りで呆気なく破壊し、扉を開けると中へと入っていく。中はコンベアみたいなものがあれば、作業場のようなところもあるという場所だった。

 

「んん~♪ 肌がピリピリするぅ~、気持ちいいなぁ~♪」

 

ここの空気がヘバリーヌにとっては肌に痛みを感じるらしく、彼女は余計に気持ち良さを覚えて体を悶えさせる。

 

ふとそんな快感を得ていると、空気がピリピリとしている原因のあるものを見つけた。それはこの建物の角に置かれていて、空気を放出するような音を発しながら動いている。

 

「う~ん♪ これかなぁ~、ヘバリーヌちゃんを気持ちよ~くしてくれるものは♪」

 

ヘバリーヌは頬を赤らめながらも、その機械に近づいていく。しかし、近づいていくことに痛みを感じるぐらいにピリピリとしてきて、ヘバリーヌにとっては気持ちよさが増していく。

 

「あぁん♪ 気持ちいい~、最高だねぇ~♪♪♪」

 

そうやって悶えていたヘバリーヌだが、ふと何かを思いついた。

 

「こんなに気持ちよくなれるってことは~、病気にしちゃえばもっともーっと気持ちいいよね~♪」

 

ヘバリーヌは妖艶な笑みを浮かべながら、その機械を素体にメガビョーゲンを作り出すことを決めた。

 

街の人たちが眠りについている間、活動を続けているキングビョーゲンの娘たち。このことがプリキュアたちを未曾有の危機に追い込むとは、まだ気づいていない彼女たちは思ってもいないだろう・・・・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第50話「電波」

前回の続きです!


 

一夜が明けた、天気の良いすこやか市。その自然が豊かなすこやか山に一人の男性がハイキングへとやってきていた。

 

「ふぅ~、この季節のすこやか山は最高だなぁ~♪」

 

気分良く山へと登っていく男性。自然も豊かだし、気温もポカポカで絶好の登山日和。

 

しかし、途中で何やら赤い靄がかかっているのを見て、ふと足を止める。山の地面に赤い靄がこちらに向かって広がっているのが見える。

 

男性が山の頂上を見上げてみると・・・・・・。

 

「ひっ!?」

 

思わず悲鳴をあげる男性。彼が見たものは、山の麓の途中から頂上までもに赤い靄がかかっている光景。そして、山の頂上にいたのは・・・・・・。

 

「メガァ、ビョーゲン!!!!」

 

昨夜から山の中を暴れまわっていた怪物ーーーーメガビョーゲンの姿だった。

 

一方、すこやか市の街では、二人の女子中学生が制服姿で中学校へと向かっていた。

 

「休日なのに部活があるの・・・?」

 

「そんなこと言わないの。大会に向けて練習しないとね」

 

今日は休日、中学校はお休みの日だが、彼女たちは部活に所属していて、近々大会もある。一人はせっかくの休みなのに学校に来ることを不満に思っているようだが、もう一人の少女は先輩のようで彼女を叱咤しようとしていた。

 

「えっ・・・?」

 

もう直ぐ中学校にたどり着く、そんな少女は道路の赤いものを見つけると疑問の声をあげるとふと足を止める。よく見ると歩いていた時は何ともなかったのに、中学校の近くのこの辺は空の色がおかしい・・・・・・。

 

中学校へと走っていくと、そこにはとても部活ができるとは思えない光景が広がっていた。

 

「な、何・・・これ・・・?」

 

戸惑いの声をあげる少女たち。彼女たちが見たものは、校庭全体が赤い靄に染められており、校舎の方を見れば壁も同じように汚されている。

 

ドシン!! ドシン!! ドシン!!

 

「「!?」」

 

地面を揺らすような足音が聞こえてくる。彼女たちが校舎の方を見てみると、巨大な影が・・・・・・。

 

「ひぃっ!?」

 

校舎の脇から姿を現したのは、モニターのような顔にパラボラアンテナのようなものが付き、体がアンテナと同じような色の骨組みで構成されたメガビョーゲンの姿だった。

 

「メガァ!!!!」

 

「「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

メガビョーゲンの叫び声と共に、少女たちは悲鳴をあげて逃げ出していく。

 

「キヒヒヒ・・・」

 

イタイノンは学校の屋上からそれを見ると、ようやく聞くことができたと加虐的な笑みを浮かべた。

 

二体のメガビョーゲンが暴れている頃、緑が豊かな公園では・・・・・・。

 

「フフフ・・・いいわよ、本当に順調ね」

 

ドクルンは一面が氷と霧のような白い煙の世界と化している公園を見下ろしながら、不敵な笑みを浮かべる。

 

「メガァ・・・!!!!」

 

鋭利なフォルムをした巨大な氷の怪物のようなメガビョーゲンは、口から赤い病気を吐き出して公園を氷漬けにしながら蝕む。さらにはその氷漬けになったところから白い煙が放出されて、大気までもが蝕まれていく。

 

ドクルンは誰もいない虚空を見つめる。

 

「プリキュアたち、本当に来ないんですねぇ」

 

プリキュアたちが全く来ないことに対し、不敵な笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プルルル・・・プルルル・・・。

 

その頃、『旅館 沢泉』に一本の電話が鳴った。若女将の沢泉まおが受話器を取ると、それはとても恐ろしい凶報だった。

 

「まあ! すこやか山にあの怪物が・・・!? はい、わかりました」

 

まおは驚きを隠さない。すこやか市で度々現れる怪物がすこやか山に現れたという、すこやか市の街の観光協会からの電話だった。

 

「!?」

 

偶然そこを通りかかったちゆは足を止めて、驚いたような表情を浮かべていた。

 

あの怪物って、まさか・・・・・・!?

 

「みなさん、お客様の安全確認を」

 

「「はい!!」」

 

まおは従業員に指示を出して、共に旅館に泊まっている客への安全確認へと向かっていく。

 

それを尻目にちゆは肩に乗っているペギタンに頷くと、のどかの家に向かうべく駆け出していく。

 

一方、自らの家である『平光アニマルクリニック』から外出していたひなたはなんとなく散歩へと繰り出していた。

 

「ねえ、噂で聞いた・・・・・・?」

 

「うんうん、学校に怪物が現れたんだって・・・」

 

二人の、自分たちと同じ年頃の少女たちが、不安そうな顔を浮かべながら話し込んでいた。

 

「しかも、公園がなんか謎の霧で覆われているらしいじゃん? 携帯で見た?」

 

「見た見た! なんか不気味だよね~・・・」

 

「怖いなぁ~・・・・・・」

 

怪物・・・? 謎の霧・・・? 携帯で見た・・・?

 

驚いたような顔をしていたひなたは自分のスマホを取り出すと、何かを調べ始める。もしかしたら、若い子たちが何かを載せているかもしれない。

 

SNSを開き、『すこやか市 怪物』と検索すると、そこに載っていた二枚の写真にはとんでもないものが写っていた。

 

「!? 嘘・・・!?」

 

「ニャ!?」

 

ひなたは絶句したような表情になり、肩を乗り出してスマホを覗いたニャトランも驚いたような顔をする。

 

1枚目に写っていたのは、中学校でどこか見たことのある不健康そうな怪物ーーーー要するにメガビョーゲンが暴れている写真、そして2枚目には白い煙が立ち込めていて何も見えていない写真の中に、うっすらとメガビョーゲンらしき顔が写っているのが見えた。

 

これはヤバいかもしれない・・・早くのどかっちたちに知らせないと・・・!!

 

ひなたはのどかの家に大急ぎで駆け出していく。

 

のどかの家へと集まったプリキュア3人。まずはちゆが自分の旅館で知らされた情報を彼女に話した。

 

「すこやか山にメガビョーゲンが!?」

 

「っ!!」

 

ちゆからの情報を聞き、のどかは驚いていたが、ラテはそれ以上にショックを受けていた。自分がメガビョーゲンの出現を感知できていなかったからだ。

 

「それだけじゃなくて・・・これ見て!!」

 

ひなたはスマホを取り出して、その画面に映し出している写真を二人に見せる。それは見間違えるはずもない、明らかなメガビョーゲンの姿だった。

 

「私たちの中学校と、公園にも・・・!?」

 

「まさか・・・!!」

 

プリキュアたちはまさかと思い、ちゆが報告したものを含めて出現したメガビョーゲンを数えてみる。

 

「すこやか山に・・・公園に・・・ひなたたちの中学校・・・えっと、つまりはよぉ・・・!?」

 

「メガビョーゲンが同時に3体現れたってことペエ!!」

 

「ラビ!!??」

 

なんということだ。以前のガラス美術館があった町ほどではないが、このすこやか市にメガビョーゲンが3体現れたということだ。しかも、のどかのこの家から遠いところにあるすこやか山、さらには緑がいっぱいの公園、そして自分たちが通う中学校、と分散したかのように出現している。

 

さらに問題なのは、そのメガビョーゲンたちがいつから出現したのかわからないということ。大きく成長していれば、またあの時のように歯が立たずに苦戦するかもしれない。

 

「ラテ様の体調が悪いと感知できないんだな・・・盲点だったぜ・・・」

 

ニャトランの悔しさを感じるその言葉に、のどかはハッとしてラテの様子を見る。ラテは自分の体調不良のせいで、メガビョーゲンを、地球の苦しみを感知できなかったことにショックを受け、呆然としていた。

 

歩み寄るのどかにラテは自分を悔いるかのように、目をギュッとつむっていた。自分のせいでメガビョーゲンの出現を、ビョーゲンズの活動を許すなんて、悔やむことばかりだ。自分が体調さえ悪くなっていなければ・・・。

 

そんなラテにのどかは優しく彼女の頭を撫でる。

 

「大丈夫。ラテのせいじゃないよ」

 

のどかはこんな自分にも優しくしてくれる。それなのに自分は何もできずにお手当ても任せっきりで、ラテは心が晴れる気がしなかった。

 

「今は、急いでお手当てに向かうしかないラビ」

 

「うん! 何体に増えようと私たちはお手当てを続けるだけだよ」

 

ラビリンの言葉にのどかは頷く。

 

「でも、どのメガビョーゲンから向かう・・・?」

 

「そうだね・・・なんせ3体もいるし」

 

「ここからだと学校の方が近いはず。そこから確実に浄化をしていきましょう!」

 

「いつ出現したかもわからない分、メガビョーゲンが大きくなっているかもしれないラビ! ここは気を引き締めていくラビ!!」

 

まずは自分たちの通う中学校で暴れているメガビョーゲンをどうにかすることにしたプリキュアたち。皆がそう思う中、一つ問題が・・・・・・。

 

「ラテ様はどうするペエ?」

 

「今回、一緒に行くのは危険だわ」

 

「だよね・・・」

 

ちゆはラテをここに置いておくことを提案する。ラテはいまだに体調不良で、まともに動けるような状態でもない。メガビョーゲンが3体も現れたという状況の中、彼女を戦いの場にいさせるのは危険だと判断した。

 

しかし、ラテはベッドから起き上がるとのどかの服をクイクイと引っ張る。

 

「あ・・・」

 

のどかがそれに気づいてラテを見ると、彼女の顔は決意を秘めたような表情をしていた。聴診器で聞かなくてもわかる。これは、私も連れて行って欲しいと言っているに違いない。

 

でも・・・と、連れていくことをためらうのどかだったが、ラテは彼女の顔を見つめたまま、その表情を一つ変えない。まるで、もう覚悟は決まっているかのよう。

 

「・・・わかった。一緒に行こう」

 

ラテの意思を察したのどかは彼女を連れていくことにした。引き下がる様子のない彼女の決意を汲み取ったのだ。立場は違えども、彼女もラビリンと同じヒーリングアニマル、プリキュアたちがお手当てをしようとしているのに、自分だけこんなところで寝ているわけにもいかないのだろう。

 

のどかたちはまずこの近くにある、自分たちが通う中学校へと向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キヒヒヒヒヒヒ・・・もうすぐここ一帯を蝕み終わるの。この調子でどんどん病気を拡大していくの・・・!」

 

すこやか中学校では、メガビョーゲンが暴れまわっており、その様子を見たイタイノンが笑い声をあげる。

 

すでに学校全体のほとんどが病気へと蝕まれており、校庭に至ってはそのほとんどが赤い靄に包まれている状態だ。校舎も同じように大半が赤い靄へと蝕まれており、ほとんど見る影もない状態だ。

 

あとはこの学校の旧校舎を蝕んでしまえば、ここ一帯の蝕む箇所はなくなる。つまりは、病気で蝕むことが完了するのだ。本命ではないとはいえ、順調な様子だ。

 

「メガビョーゲン、残りも蝕んでやるの」

 

「メガー!!」

 

校舎の屋上にいるイタイノンの指示を受けたメガビョーゲンは最後に残った校舎を蝕むべく、ノッシノッシと移動していく。

 

そんな光景をのどかたちは走って向かいながら、メガビョーゲンが移動していくのを見ていた。

 

「いたわよ! メガビョーゲン!!」

 

「うえぇ!? もうあんなに蝕まれてるよ!?」

 

のどかたちから見れば、メガビョーゲンは以前のダルイゼンのメガビョーゲンほどではないが大きく成長しており、学校一帯もほとんどが赤に染められていた。

 

「急いで浄化しないと!! ラビリン!!」

 

「ラビ!!」

 

のどかたちはメガビョーゲンを食い止めるべく、プリキュアへと変身する。

 

「「「スタート!」」」

 

「「「プリキュア、オペレーション!!」」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

 

「「「キュアタッチ!!」」」

 

ラビリン、ペギタン、ニャトランがステッキの中に入ると、のどか、ちゆ、ひなたはそれぞれ花のエレメントボトル、水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

そして、肉球にタッチすると、花、水、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、水色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ちゆは水色、ひなたは黄色へと変化する。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「「「地球をお手当て!!」」」

 

「「「ヒーリングっど♥プリキュア!!」」」

 

3人は変身を終えて、すぐにメガビョーゲンへと駆け出す。

 

「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 

3人は同時に飛び上がると、メガビョーゲンの背後に向かってキックを繰り出す。

 

「メガー!?」

 

気づけなかったメガビョーゲンはそのまま肩にキックを食らい、前へと倒される。

 

「プリキュア、随分と遅かったの。お前らがちんたら眠っている間にこんなに蝕んだの」

 

イタイノンはプリキュア3人を見下ろしながら、不敵な笑みを浮かべる。

 

「もうこれ以上はさせないし!!」

 

「あなたたちの思い通りになんかさせないわ!!」

 

スパークルとフォンテーヌは反論をするも、イタイノンは笑みを崩さないままだ。

 

とりあえず、あいつらはクルシーナの作戦通りに、自分たちの陽動にはまっている。あいつらの、特にあのマゼンダ色の髪の少女の家から、ここまでは近いはず。だから、最初に浄化に来るだろうと踏んでいたのだ。

 

あいつらが来ようが来まいが、ここ一帯を完全に蝕んでしまえばそれで終わりなので変わらないが、こうも作戦に引っ掛かるとは・・・。

 

もう、私たちの思い通りになっている・・・。そういうことだ。

 

「ふん。メガビョーゲン、あいつらを叩き潰すの」

 

「メガー!!」

 

メガビョーゲンは起き上がると振り向きざまに口から赤い光線を放つ。プリキュアたちは同時に飛んでその光線を交わす。

 

「「「はぁぁぁ!!」」」

 

3人はそれぞれの色の光線をメガビョーゲンに向かって放つ。

 

「メガビョー!!!!」

 

メガビョーゲンは頭部、両腕についているアンテナから同時に赤黒い光線を放つ。プリキュアたちが放っている光線は呆気なく押されていき・・・・・・。

 

「「「きゃあぁぁ!!」」」

 

赤黒い光線は3人に直撃し、地面へと落とされる。

 

「やっぱり浄化が遅れた分、成長して強くなってる・・・!」

 

フォンテーヌはメガビョーゲンの力が強いこということを感じせざるを得ない。

 

「どうにかして動きを止めないと・・・!」

 

グレースはどうにかして方法を考えようとする。大きくなっているメガビョーゲンはお手当てに苦戦するほどにタチが悪い。どうにかして大人しくさせないと浄化することもできない。

 

「あれってアンテナだよね・・・? もしかしたら!! 雷のエレメント!!」

 

スパークルが何かを思いつき、ステッキに雷のエレメントボトルをはめ込む。アンテナは電気で動いているはずだから、そこに強烈な電気を浴びせてしまえば、メガビョーゲンはショートして動きを止めるはずだ。

 

しかし、そんな見え透いた行動を怪物を生み出した本人が見逃すはずもなかった。

 

「そうはさせない、の!!」

 

「!? あぁぁぁ!!」

 

イタイノンはスパークルの側に現れると、体に帯電させて右手を突き出すように構え、そこから雷撃を放つ。不意を突かれたスパークルは電撃を浴びて、吹き飛ばされてしまう。

 

「「スパークル!!」」

 

「メーガビョー!!」

 

ポポポポポポ・・・・・・。

 

「!?」

 

スパークルに気を取られた隙をついて、メガビョーゲンが右手のアンテナから電波のようなものをグレースに向かって放つ。

 

「うっ・・・!!」

 

グレースは避ける動作の間もなく、メガビョーゲンの音波をステッキで身を守るように構え、音波は彼女へと当たる。

 

「・・・あれ?」

 

グレースは疑問を抱く。音波は確かに自分に当たった。でも、体はなんともない。特に痛みを感じるわけでもないし、体が痛いというわけでもない。

 

なんでもない攻撃だったのか・・・?

 

しかし、その音波の恐ろしさを知るのはここからだった。グレースは構えた防御を解こうとしたが・・・・・・。

 

「あ、あれ? か、体が、動か、ない・・・?」

 

防御の構えを取ったまま、解こうとしても解くことができず、それどころか体がまるで固まってしまったかのように動かなくなってしまったのだ。

 

「さっきの音波を浴びたせいペエ・・・!!」

 

「大変!! 早くなんとかしないと・・・!!」

 

フォンテーヌは飛び出して行こうとするも、その前にメガビョーゲンがある行動を起こす。

 

「メガビョー!!!! メガ!!」

 

メガビョーゲンが何やら頭部のアンテナから何かを吸収し始めた。そして、腕についている片方のアンテナをグレースへと向ける。すると・・・・・・。

 

「え? あ、あれ? ちょ、ちょっと!?」

 

突然グレースの構えた防御が解かれて、彼女はフォンテーヌの方へと向き直る。

 

「グレース?」

 

動かないはずのグレースの体が突然動いたことに違和感を覚えるフォンテーヌ。そして、それを考える余地もなく・・・・・・。

 

「う、うわぁ!? ちょちょちょ、ちょっとぉぉぉぉ!?」

 

グレースはフォンテーヌの方へと駆け出していくと、なんと彼女に向かってパンチを繰り出してきたのだ。

 

「グレース、どうしたの!? なんで私を攻撃するの!?」

 

「グレース!! どうしたラビ!?」

 

「わ、わからな~い!! 体が勝手に~!!!」

 

フォンテーヌはグレースが繰り出してくる拳を避けながらも驚きを隠さない。しかし、グレースが叫ぶ通り、これはグレース自身の意思ではない。グレースはステゴロをやりたくてフォンテーヌに襲いかかっているわけではないのだ。

 

「もしかして、さっきの電波を浴びたせいペエ・・・!?」

 

「メガビョーゲンに操られてるの・・・!?」

 

先ほどグレースが浴びせられた電波、そしてメガビョーゲンが頭部に吸収していた電波、それを考えれば他人を操ることができるのも頷けるだろう。それがわかればメガビョーゲンをどうにかしないといけないが・・・・・・。

 

「!? あっ!?」

 

フォンテーヌは拳を避けているうちに、メガビョーゲンに蝕まれて傷んでいた赤い靄に足を取られて尻餅をついてしまう。

 

グレースはそれを見計らったかのようにジャンプして飛び上がる。これも彼女の意思ではない。

 

「フォンテーヌ、避けて!!!」

 

「!!」

 

フォンテーヌはなんとか立ち上がると飛んで、グレースの蹴りを避ける。

 

「メガー!!!」

 

そこへグレースを操っていて不動のメガビョーゲンが、フォンテーヌの方に顔を向けると口から光線を放つ。

 

「くっ!!」

 

「ぷにシールド!!」

 

ステッキから肉球型のシールドを展開し、赤い光線を防ぐ。

 

「フォンテーヌ!!」

 

「!? きゃあぁ!!!」

 

「ご、ごめん!! フォンテーヌ!!」

 

さらにその隙をついてグレースがフォンテーヌの横へと飛び降りると、彼女に向かって蹴りを繰り出した。もちろん、これは彼女の意思ではないため、グレースは謝罪の言葉を放つも、頭を下げることはできなかった。

 

それどころか、グレースはさらなる追撃をフォンテーヌに向かって加えさせられようとしていた。

 

一方、スパークルはイタイノンと交戦中だった。

 

「ふっ!!」

 

「くぅ、うぅ・・・!!」

 

光速で動きながら繰り出してくるイタイノンの拳をなんとかステッキで防いでいるものの、スパークルの表情は苦しそうだ。

 

「どうしたの? この前みたいなキレのいい動きはどこにいったの?」

 

「くっ・・・!」

 

イタイノンが不敵な笑みを浮かべながら、拳をこちらへと押しのけようとしてくる。

 

「きゃあぁ!!」

 

聞こえてくるフォンテーヌの悲鳴。思わずそちらを振り向くとフォンテーヌが転がされていて、そこにグレースがステッキを構えながら迫っていた。

 

「グレース!? なんで!? なんで、グレースがフォンテーヌを・・・!?」

 

スパークルは信じられないという表情で二人を見る。グレースが何の理由もなく、フォンテーヌを襲うわけがない。

 

「あのメガビョーゲンの仕業か・・・!?」

 

ニャトランは状況を見ただけで、あのアンテナ型のメガビョーゲンが何かグレースにしたのだろうと予測する。

 

「ふん!」

 

「うっ・・・!!」

 

「よそ見をしてる場合なの・・・?」

 

その不意を突くかのようにイタイノンが拳を繰り出す。スパークルはなんとか押し返すも、その後もイタイノンは拳と足を連続で繰り出していき、それを防ぎ交わすのが精一杯だ。

 

それでも何とか掻い潜ってパンチを繰り出すスパークルだが・・・・・・。

 

シュイーン!!

 

「うわっ・・・?」

 

「ふっ!!」

 

「あぁ!?」

 

イタイノンはその場で姿を消し、スパークルの横に現れたかと思うとパンチを当て損ねてよろけた彼女に蹴りを食らわせて吹き飛ばす。

 

スパークルは地面に転がりつつも、何とか倒れずに体勢を整える。

 

バチバチバチバチ・・・!!!

 

そこへイタイノンは体を帯電させると、前かがみになってからのけぞらせた後、口から黒い電気のレーザーを放つ。

 

「ぷにシールド!!」

 

「うっ・・・!!」

 

肉球型のシールドを展開し、苦しい表情をしつつも何とかレーザーを防ぐ。しかし、消滅したレーザーの中からイタイノンが姿を現した。

 

「!?」

 

「ふん!!」

 

「きゃあぁ!!!」

 

一瞬あっけにとられたスパークルに、イタイノンは回し蹴りを食らわせ、空中へと吹き飛ばされるスパークル。

 

シュイーン!

 

「ふっ!!」

 

その先に瞬間移動をしたイタイノンが片方の手に電撃をまとわせた白いオーラをまとわせるとそれをスパークルの腹部に押し当ててゼロ距離で放った。

 

ドカァァァン!!!!

 

大きな爆発が起こり、煙が晴れたときにはスパークルが地面に倒れ伏していた。

 

「う、ぅぅ・・・!」

 

「もう終わりなの? 今日はなんだか脆いの」

 

スパークルは体を起こし、こちらを見つめたまま近づいてこないイタイノンを見つめる。

 

「うぅ・・・!」

 

「フォンテーヌ、逃げてぇ・・・!!」

 

倒れるフォンテーヌにゆっくりと近づいていくグレース。構える彼女のステッキからピンク色の光線が放たれようとしていた。

 

イタイノンと二人、どちらも見つめるスパークル。どうにかして二人を助ける方法はないのか・・・?

 

しかし、こんなところで考えていたらどちらとも対応できない。臨機応変にどうにかしなければ・・・・・・。

 

スパークルはそう思うと、傷ついた体を起こして立ち上がる。

 

「あたしは・・・お手当てを、諦めないよ!!」

 

スパークルはまずメガビョーゲンにコントロールを奪われているグレースを止めようと駆け出していこうとする。

 

「させないの・・・!!」

 

イタイノンは体を帯電させると、再び片手を突き出して電撃を放つ。

 

「!!」

 

「ぷにシールド!!」

 

スパークルは気づいた直後、ステッキから肉球型のシールドを放って電撃を防ぐ。その隙にグレースの元へと駆け出していく。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「あっ・・・!!」

 

フォンテーヌへと迫ろうとしたグレースに飛びかかり、ステッキから放たれた光線はフォンテーヌの顔スレスレを通り過ぎて地面に着弾する。

 

スパークルはグレースをうつ伏せに倒し、抑えつける。

 

「ご、ごめん!! グレース!!」

 

「う、ううん・・・ありがとう・・・」

 

仲間を地面に押し付けているという端から見れば酷いことをしていることにスパークルは謝るも、グレースはフォンテーヌをこれ以上傷つけなくてよかったと安堵の声を漏らす。でも、まだメガビョーゲンに体のコントロールは奪われたままだ。

 

「メ、メガ!?」

 

メガビョーゲンはグレースを動かせなくなったことに戸惑い、振りほどかせようとするも、スパークルが必死に抑え込んでいるために動かすことができない。

 

「フォンテーヌ、今のうちに!!」

 

スパークルの叫びにフォンテーヌは頷くと立ち上がり、メガビョーゲンへと向かっていく。

 

「メガー!!!」

 

メガビョーゲンはそうはさせないと言わんばかりに、両腕のアンテナから赤黒い光線を放つ。

 

「ふっ!! 氷のエレメント!!」

 

フォンテーヌは飛び上がってかわすと、ステッキに氷のエレメントボトルをセットする。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ステッキから氷を纏った青い色の光線が放たれる。

 

「メ、メガ、ビョー・・・ゲン・・・?」

 

頭部のアンテナに青い光線が直撃し、メガビョーゲンは頭から両腕のアンテナの部分までが氷漬けになっていく。

 

「うりゃぁぁぁぁ!!!!」

 

「え、え、ちょっ、スパークル!?」

 

スパークルは大人しくなったグレースの両足を掴むと、ジャイアントスイングをする。

 

「おぉぉぉりゃぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ふわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

スパークルはそのままグレースを投げ飛ばした。悲鳴を上げていたグレースだが、その体はメガビョーゲンへと迫っていく。

 

「は!? ッ!!」

 

ドォーン!! パリンッ!!!!!!

 

「メガビョーゲン・・・!!??」

 

メガビョーゲンに自分が当たるということを察すると、覚悟を決めたように目を瞑る。そして、氷漬けの顔面にロケット頭突きを食らわしたような形になり、メガビョーゲンは吹き飛んで地面へと倒れる。

 

「ふわぁ~・・・・・・」

 

固いメガビョーゲンに思いっきり頭に打ち付けたグレースはそのまま目をグルグルと回しながら、地面へと落下していく。

 

「グレース!!」

 

フォンテーヌは落下していくグレースを寸前で受け止め、彼女を抱きとめる。

 

「グレース、本当にごめん!! 思い切りやっちゃったけど大丈夫!?」

 

「ふぇ・・・は、はいぃ・・・だ、大丈夫ですぅ・・・」

 

目を回してはいたが、グレースはなんとか無事な様子。

 

「それよりも、メガビョーゲンを・・・・・・」

 

「ああ、そうだね!!」

 

キュン!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

スパークルは肉球を一回タッチすると、ステッキをグレースと同じように目を回して倒れているメガビョーゲンに向ける。

 

ニャトランの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを見つける。

 

「あそこだ!! 雷のエレメントさん!!」

 

エレメントさんは、頭部のアンテナ部分の先にいる模様。

 

「二人とも行こう!!」

 

「うん!!」

 

「ええ!!」

 

3人はお互いに頷き合うと、それぞれのヒーリングステッキに光のエレメントボトル、水のエレメントボトル、花のエレメントボトルをそれぞれはめ込む。

 

「「「エレメントチャージ!!」」」

 

そう言いながら光るステッキの先をハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「「「ヒーリングゲージ上昇!!」」」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングフラッシュ!!」

 

「プリキュア!ヒーリングストリーム!!」

 

「プリキュア!ヒーリングフラワー!!」

 

3人はそう叫びながら、ステッキをメガビョーゲンに向けて、黄色の光線、青色の光線、ピンク色の光線を同時に放つ。光線は螺旋状になって混ざっていった後、メガビョーゲンに直撃した。

 

その光線はメガビョーゲンの中に入ると、螺旋状のエネルギーは手へと変化して、6本の手が雷のエレメントさんを優しく包み込む。

 

菱形状に、水型状に、花状にメガビョーゲンを貫きながら、光線はエレメントさんを外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「「「「「お大事に」」」」」」

 

雷のエレメントさんは、学校に設置されているパラボラアンテナの中へと戻り、蝕んだ箇所が元に戻っていく。

 

「・・・・・・ふん。まあ、いいの。囮としての役割はもう果たしたの」

 

イタイノンは特に気にする様子もない、満足したような様子でその場から姿を消した。

 

中学校でのメガビョーゲンの脅威が去った後、スパークルは校舎の屋上にあるパラボラアンテナに聴診器を当てる。

 

「エレメントさん、大丈夫?」

 

『大丈夫です! 助けてくださってありがとうございます!』

 

雷のエレメントさんが無事なことを聞いたプリキュアたちは安堵の声を漏らす。

 

『他の私の仲間も、どうか助けてあげてください!』

 

「任せておいて!!」

 

雷のエレメントさんは、スパークルの気合の入った言葉を聞くと、パラボラアンテナの中に戻っていった。

 

「さあ、行こう!!」

 

「残りはあと2体だ!」

 

プリキュアたちは頷くと、この学校から近い緑が溢れる公園へと向かっていく。

 

「スパークル」

 

「何? グレース」

 

「さっき私を止めてくれたことなんだけど・・・」

 

「あっ・・・ごめん、あの時は本当にごめん!! とっさにあれしか思いつかなくって・・・」

 

スパークルはグレースに行った仕打ちを謝罪した。止めるためとはいえ、仲間に向かってあんなことをしてしまうなんて・・・・・・。

 

しかし、グレースは怒りたいのではなく、むしろ笑顔を浮かべていた。

 

「ううん、ありがとう。スパークルがああしてくれなかったら、私、友達を傷つけたかもしれなかったから」

 

「グレース・・・」

 

「私がまたああなったら、また止めてね」

 

スパークルはグレースの言葉に顔を真っ赤にさせると、頬を照れくさそうに掻く。

 

「・・・次は、ちゃんと考えるから・・・あれはちょっとね・・・」

 

グレースとスパークルが絆を強くしたところで、3人は急いで公園へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、メガビョーゲンが暴れているすこやか山では・・・・・・。

 

「ん~・・・ふわぁ~・・・」

 

昨夜から眠っていたクルシーナが目を覚ましてあくびをする。両腕を上に伸ばして伸びをしようとしたところ・・・・・・。

 

「? うわぁっ!? っと!」

 

思わず木から転げ落ちそうになったクルシーナはなんとか踏ん張ると、彼女の視界に広がっていたのはかなり凄惨な光景だった。

 

「へぇ・・・かなり蝕んできたんじゃない?」

 

クルシーナは自分のメガビョーゲンがしっかり仕事をしていることに、不敵な笑みを浮かべる。

 

「お嬢!!!!」

 

「ん?」

 

声がする方に振り向いてみると、バテテモーダが見上げていた。

 

「順調!! 好調!! 快調っすよ!! お嬢が眠っている間にメガビョーゲンはかなり蝕んだようでっせ~!!」

 

「見りゃわかるわよ、そんなの」

 

バテテモーダの無駄に明るい声に、クルシーナは頭を掻きながら適当に返す。

 

「プリキュアどもは?」

 

「まだ、来てないっす。恐れをなして逃げ出したんじゃないっすかぁ~?」

 

「・・・あいつら本当に来ないつもり?」

 

バテテモーダの報告を耳に入れて、独り言のようにボソリと呟くクルシーナ。

 

そういう反応をする彼女だが、来ない理由を本当はわかっている。ドクルンとイタイノンにもメガビョーゲンを生み出してもらって、その対処に回っているからだ。だが、今回はアタシたち3人はあくまでも陽動、プリキュアたちが苦戦している間にヘバリーヌが地道に蝕んで、このすこやか市を私たちのものにしてやろうという作戦なのだ。

 

アタシが確認する限りでは、メガビョーゲンの反応は昨夜まではここを除けば3体あったが、今1体反応が消えて、現在は2体になっている。おそらく誰かのメガビョーゲンがやられたであろうが、本命であるここから遠いところで反応しているメガビョーゲンはやられていないので問題はない。あいつらは見事に陽動にはまっている。

 

本当にあいつらは、アタシの思い通りに引っかかってくれる。本当に何も知らなくて、勢いだけでお手当てをやろうとしている、本当にバカな連中だ。

 

そういう彼女たちを、私は敢えてわざとらしく呟くことによって、遠くで嘲笑ってやるのだ。本命のメガビョーゲンがすでに活動を再開していることも知らず、役に立たずお荷物にしかならないヒーリングアニマルを連れ、無駄なことを続けているあの連中を。

 

「どうせだったら見る影もないくらいに蝕んで、範囲を広げてやろうかしら」

 

クルシーナはプリキュアが来ないうちに、すこやか山どころか範囲を広げてやろうと目論むのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第51話「氷霧」

 

中学校で暴れているイタイノンのメガビョーゲンを浄化した後、そこから近くにある緑が溢れる公園へと急いで向かうプリキュアたち。

 

「公園はもう近くのはずよ!」

 

公園の近くにいるであろう場所まで走っていくと、何やら不可思議な現象が起こる。

 

「「「!?」」」

 

白い煙がこちらに向かって立ち込めてくるのが見え、思わず立ち止まる3人。

 

「何これ・・・?」

 

「白い、煙ラビ・・・?」

 

戸惑うグレース。メガビョーゲンが蝕んでいるところは普通は赤い靄が広がっているはずだが、白い煙がこちらに立ち込めるほどの現象があっただろうか。

 

「前が見えないよ~・・・?」

 

「これがメガビョーゲンの仕業ということは・・・?」

 

「あんなに煙が充満している分、もう病気がかなり広がってるかもしれないニャ!!」

 

「急いでお手当てをしないとペエ!!」

 

プリキュアたちは頷くと、恐れずに煙の中へと飛び込んでいく。

 

まるで霧がかかったような不気味な世界、公園ではない別の世界にいるかのよう。先の先もよく見えないので注意しながら公園の中を進み、メガビョーゲンを探していく。

 

「メガー!!!」

 

「「「!?」」」

 

野太いメガビョーゲンの叫びが聞こえ、思わず足を止めるプリキュアたち。そこへ赤い光線が3人に迫る。

 

「危ない!!」

 

グレースが攻撃に気づいて、プリキュアの3人は飛び退いてかわすも、辺りを見渡してもメガビョーゲンの姿が見当たらない。

 

「どっから飛んできたの!? 今の光線!?」

 

霧で全く周りが見えず、戸惑うプリキュアたち。そんな彼女たちに巨大な黒い影が迫る。

 

「メガー・・・!!!」

 

野太い声を上げながら、赤く光る不気味な目。姿は霧のせいでよく伺えないながらも、その体は美術館のある町でダルイゼンが発生させたメガビョーゲンほどではないが、それなりに大きくなっていた。

 

「うぇぇ!?」

 

「こいつも結構でかいぞ・・・!?」

 

「っ・・・!!」

 

巨大で得体の知れないメガビョーゲンを前に、プリキュアたちに緊張感が漂う。

 

「ふーん・・・ようやく来たみたいねぇ。かなり遅いけど」

 

その様子をドクルンが公園の山中で見下ろしていた。メガビョーゲンの放った病気で氷漬けになった部分から発している煙で生成された霧は充満していてよく見えないが、プリキュアたちとメガビョーゲンの影はよく見えるので様子を伺うことができる。

 

今はプリキュアたちが、霧の中に紛れていた自分のメガビョーゲンに遭遇した模様。

 

「メーガァ!!!!」

 

メガビョーゲンは口から赤い光線を放つ。プリキュアたちは再度、その攻撃をかわす。

 

「うわぁ!?」

 

しかし、避けた先で着地をしたスパークルが足を滑らせて尻餅をついてしまう。

 

「いったぁ・・・。!? これって・・・?」

 

打ったお尻をさするスパークルだが、その下の地面が冷たくて、なんだかピリピリする。よく見れば地面が氷漬けになっていた。

 

「もうここ一帯が蝕まれてるニャ!!」

 

周りは見えないが、ニャトランはこの辺一帯はすでにメガビョーゲンに蝕まれてることを察する。

 

「メーガー!!!!」

 

「!?」

 

そこへメガビョーゲンが鋭い爪をスパークルへと振り下ろす。彼女はすくっと立ち上がって退避する。

 

「「「はぁ!!!」」」

 

三方向に分散した3人は同時にそれぞれの色の光線をメガビョーゲンに向かって放つ。

 

「メーーーガァー!!!!」

 

メガビョーゲンは光線を受けるも、聞いている様子はなく、怪物は片手で光線を薙ぎ払う。

 

「メガー!!」

 

さらにメガビョーゲンは体中から白い氷塊を出現させると、それを周囲に向かって放つ。

 

「ふっ!!」

 

「はぁ!!!」

 

自身に飛んでくる氷塊を避けたり、パンチやキックで破壊していくプリキュアたち。しかし、メガビョーゲンは次から次へと氷塊を放っていく。

 

「ああもう、キリがないし!!」

 

「あいつの動きを止めないとダメね・・・!」

 

敵の攻撃が激しいことにぼやくスパークル。フォンテーヌの言う通り、止めないことには近づくことすらできない。

 

「氷だったら、あれだよね!! 火のエレメント!!」

 

スパークルは火のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ステッキから火を纏った黄色い光線が放たれる。

 

「メガー!!!!」

 

それに気づいたメガビョーゲンは口から赤い光線を吐き出し、火を纏った光線とぶつかるも、赤い光線が段々と押していき突破されてしまう。

 

「え、嘘・・・!?」

 

「ぷにシールド!!」

 

あっけにとられるスパークル。そこへ割って入ったグレースがステッキから肉球型のシールドが展開し、赤い光線を防ぐ。

 

「くっ・・・!」

 

「な、なんで!? 氷は火で解けるはずだよね!?」

 

それは勉強が得意ではないスパークルでもわかることだ。氷は火さえあれば解けるはずだ。しかし、それが普通の氷であれば・・・・・・。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「メガ!?」

 

フォンテーヌが気を取られているメガビョーゲンの顔面に蹴りを入れる。メガビョーゲンは少し体がよろけるも、倒れるまでには至らない。

 

「きっと、ドライアイスよ!!」

 

「ドライアイス・・・?」

 

スパークルのそばに降りたフォンテーヌがその正体を話す。

 

「二酸化炭素を固体化したもので、正確に言えば氷じゃないわ!!」

 

「ええ!? そうなの!?」

 

「二人ともまた来るよ!!」

 

二人が話している間に、グレースが叫ぶ。メガビョーゲンは再び自分の周囲に氷塊を出現させて放つ。

 

「へぇー・・・相変わらず冴えてるわね、ちゆは」

 

その様子を見下ろしながら、ドクルンはメガビョーゲンを構成しているのがドライアイスだと見抜いたフォンテーヌに笑みを浮かべる。

 

「私もちょっと遊びたくなっちゃったわねぇ」

 

ドクルンはそう言うとその場から姿を消す。

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

「メガ!!」

 

「っ!!」

 

フォンテーヌが飛び蹴りを繰り出すも、メガビョーゲンは鋭利な爪でその蹴りをガードする。

 

「メガー!!!!」

 

メガビョーゲンは爪でフォンテーヌを振り払うと口から赤い光線を吐きつけ、グレースとスパークルはぷにシールドを展開して光線を防ぐ。

 

「くっ・・・!!」

 

「何アイツ!? 全然攻撃が効いてないみたいなんだけど!?」

 

ぼやくスパークル。確かに全力を出しているはずなのに、メガビョーゲンは攻撃を受けても平然としている。それどころか、こちらの力に耐え切れるようになっているような感じがする。

 

「メガァー!!!!」

 

「うぅ・・・!!」

 

「くっ・・・!!」

 

メガビョーゲンが口から吐く光線の勢いを強くすると、二人は苦しい顔をし始める。そして、徐々に押され始める。

 

「うぅぅぅぅぅ・・・!!!」

 

「ちょっ、キツくなってない・・・?」

 

この程度の光線、ぷにシールドを使えば簡単に防げるはずなのに・・・。それどころか、こちらの力を入れようとしても、まるで入らなくなっているような感覚がする。グレースとスパークルはそう感じていた。

 

フォンテーヌもメガビョーゲンへの蹴りがあまり功をなしていないことに疑問を感じていたが、ドライアイスの性質を考えて確信を抱いた。

 

「そうよ・・・この煙かも・・・!!」

 

「どういうことペエ・・・?」

 

「ドライアイスから出てくる煙は、気化した二酸化炭素なのよ。これだけ充満するぐらい煙が舞っているってことは、私たちは今、動き回っていることで酸欠状態になっているかもしれない・・・!!」

 

フォンテーヌがそう分析していると、そこへ風を切ったような音が聞こえてくる。

 

「やっぱり冴えてますねぇ、キュアフォンテーヌ」

 

「!? きゃあぁぁぁ!!!!」

 

彼女の眼の前にドクルンが姿を現し、蹴りを食らわせて吹き飛ばす。

 

「くっ・・・ドクルン・・・!!」

 

「ふっ・・・」

 

体勢を立て直しこちらを睨むフォンテーヌに対し、ドクルンは笑みを漏らすとこちらへと駆け出してきた。

 

「はぁ!!」

 

フォンテーヌは向かってくるドクルンに青い光線を放つも、彼女は首を傾けてかわすとフォンテーヌに向かって回し蹴りを繰り出す。

 

「うっ・・・!!」

 

フォンテーヌはとっさにステッキでガードするもよろけ、さらにドクルンは赤い何かが淀んでいる氷塊を彼女の顔の横へと投げつける。

 

パチン!

 

「!?」

 

ドカァァン!!!!

 

フォンテーヌは何かを察したのか、ドクルンが右指を鳴らすととっさに飛び込んで転がるように避け、その瞬間氷塊が弾けるように爆発を起こし、氷の霧を撒き散らす。

 

地面に膝をつくも巻き込まれずに済み、体を起こすフォンテーヌだが、そこへドクルンがさらに3個ほど氷塊をこちらに向けて投げつけ、右手をパチンと鳴らす。

 

「っ!!!!」

 

ドカカカァァァン!!!!

 

氷塊は先程よりも大きな爆発を起こし、フォンテーヌは思わず体を伏せる。再度体を起こすフォンテーヌだが、そこへ爆発によって氷の霧へと紛れたドクルンがいつの間にか彼女の懐へと飛び込んできた。

 

「フフフ・・・!」

 

「!? あぁぁぁぁ!!!!」

 

フォンテーヌの腹部へと片足を繰り出すと、そのまま前へ飛ぶように彼女の体を蹴り飛ばす。

 

「くぅぅ・・・!!!」

 

フォンテーヌはとっさに片足を急ブレーキにして倒れないように踏ん張るも、一つ前のメガビョーゲンのダメージも蓄積していたせいか、膝をついてしまう。

 

「どうしたんですかぁ? 随分とお疲れのようですが。早くお手当てしないと取り返しのつかないことになるんじゃないんですかぁ?」

 

「くっ・・・!!」

 

膝をガクガクとさせつつも、なんとか立ち上がるフォンテーヌ。

 

ドカァァァァン!!!!

 

「きゃあぁぁぁぁぁ!!!!」

 

爆発した音が聞こえ、フォンテーヌが振り向くとスパークルが吹き飛ばされているのが見えた。

 

「スパークル!!」

 

「メガー!!」

 

「ぐっ・・・あぁぁぁぁ!!!!」

 

メガビョーゲンはグレースに爪を振り下ろし、彼女はぷにシールドごと吹き飛ばされてしまう。

 

「グレース!! スパークル!!」

 

「よそ見をするとは余裕ですねぇ」

 

ドクルンは二人に気を取られたフォンテーヌに目掛けて氷塊をばらまき、指をパチンと鳴らす。

 

ドカカカカァァァァァァン!!!!

 

「あぁぁぁぁぁ!!!!」

 

爆発に巻き込まれて吹き飛ばされるフォンテーヌ。氷の霧が晴れると倒れ伏した彼女の姿が映っていた。

 

「おやおや・・・もう終わりですかぁ? ならここ一帯はもう私のものですねぇ」

 

「うぅ・・・!!」

 

フォンテーヌは立ち上がろうとするが、小さなダメージが積み重なって立ち上がることができない。

 

メガビョーゲンは倒れ伏すプリキュアたちから離れて、赤い光線を吐きつけて氷漬けにしている。このままでは、ここ一帯が完全に蝕まれてしまうのももはや時間の問題だった。

 

「クゥ~ン・・・・・・」

 

安全なところにいるラテも、その様子を不安そうに見つめている。

 

「! ラテ・・・」

 

グレースはそんな彼女の様子を見ると、体をよろつかせながらもなんとか立ち上がる。

 

「フォンテーヌ・・・スパークル・・・まだ終わってないよ・・・。私たちは何があっても、お手当てを諦めないって決めたんだから・・・!!」

 

「! そうね・・・私も頑張らないとね・・・」

 

フォンテーヌは、その言葉に奮い立たせるようになんとか立ち上がる。

 

「だったら、やらないと・・・地球も困っちゃうもんね・・・!」

 

スパークルも立ち上がり、これで3人はもう一度ビョーゲンズの前に立ちはだかろうとする。

 

グレースとスパークルは再びメガビョーゲンの元へと駆け出す。怪物の近くまで近づいたところで、一斉に飛び上がる。

 

「「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

「メガー!!!!」

 

二人は同時に飛び蹴りを繰り出し、攻撃に気づいたメガビョーゲンが右手で防ぐ。

 

「ほお・・・まだいけますかぁ。これは面白くなりそうですねぇ」

 

ドクルンはそう言いながらフォンテーヌの周りに氷塊を投げつけて、指をパチンと鳴らす。

 

フォンテーヌは爆発する直前で飛び込むように転がり、爆発を避ける。

 

「ふっ・・・!!」

 

「くっ・・・!!」

 

避けた先にドクルンが移動し、フォンテーヌに蹴りを入れようとし、彼女はそれを両手で受け止める。

 

「少しはキレがよくなりましたねぇ・・・」

 

「もちろんよ・・・私には守るべきものがあるんだから・・・!!!!」

 

フォンテーヌはドクルンの足を押し返す。しかし、ドクルンは後方に下がると同時に氷塊を数個投げつける。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

フォンテーヌはそれらにその場で回し蹴りを放ち、氷塊をドクルンの方へと吹き飛ばした。

 

「っ!!!!」

 

ドカァァァァン!!!!

 

ドクルンはそれに目を見開くと、横へと飛び退いて爆発を回避する。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

そこへ飛んだフォンテーヌは勢いをつけた蹴りを繰り出す。ドクルンは冷静にそれを見ると、片手を氷の手に変化させるとそれをフォンテーヌに向かって繰り出す。

 

蹴りとパンチがぶつかり合い、大きな爆発を起こす。

 

「「っ・・・!!」」

 

二人はお互いに吹き飛ばされて後方へと下がっていくも、倒れずに踏ん張る。

 

ドクルンはパンチを食らわせた手を見つめて握ったり開いたりをすると、フォンテーヌに向かって不敵な笑みを浮かべる。

 

「ふむ・・・なかなかやりますねぇ」

 

ドクルンはそう言いながら、その場から後方へと下がっていく。

 

「・・・早く、メガビョーゲンを!」

 

フォンテーヌはそれを見届けると、メガビョーゲンを対処している二人の元へと駆け出す。

 

「メガー!!!!」

 

メガビョーゲンは体中から再び氷塊を出現させ、周囲に向かって放つ。プリキュア二人は空中へと飛び上がってかわすと、ステッキを構える。

 

「雷のエレメント!!」

 

スパークルは雷のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ヒーリングステッキから電撃を纏った黄色い光線が放たれる。

 

「実りのエレメント!!」

 

グレースは実りのエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「はぁぁぁ!!!!」

 

ヒーリングステッキからピンク色のエネルギー弾が放たれる。

 

「メガァ!? メガビョーゲン!?」

 

メガビョーゲンの顔面に黄色い光線が当たり、さらにそこへピンク色のエネルギー弾が着弾し爆発を起こす。

 

「メガー!!!」

 

しかし、メガビョーゲンはすぐに煙を振り払って大声を上げる。

 

「あんまり効いてる感じしないし!!」

 

「やっぱり、前みたいに弱点を突かないと・・・!!」

 

メガビョーゲンは顔をしかめたりはしたが、いまだ決定打を与えるようなダメージを与えられていない。どうにかしなければならないが、二人にはこのメガビョーゲンの弱点になり得るようなエレメントの力は持っていない。

 

万事休す、と思われたその直後・・・・・・。

 

「雨のエレメント!!」

 

ドクルンを退けたフォンテーヌが、ステッキに雨のエレメントボトルをセットする。

 

「はぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ステッキから水を纏った青色の光線が放たれる。

 

「メガー・・・!?」

 

メガビョーゲンは光線を頭から受けて、体全体がびしょ濡れになる。気のせいか、メガビョーゲンの体から白い煙のような何かが出てきたかと思うと、行動が少し鈍くなったような気がした。

 

「フォンテーヌ!!」

 

「ドライアイスは水で気化するのよ!」

 

「なるほど・・・!!」

 

「二人とも行くよ!!」

 

3人はお互いに目を合わせて頷くと、その場から飛び上がる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「メッガァ・・・!?」

 

3人で一斉にメガビョーゲンに向かって飛び蹴りを放つ。顔面に食らったメガビョーゲンは体がよろけ、地面へと倒れ込む。

 

「へぇ・・・なかなかにやるわねぇ」

 

上からそれを見下ろしていたドクルンはそれを見ながら興味深そうに笑みを浮かべる。

 

キュン!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

フォンテーヌは肉球を一回タッチすると、ステッキをメガビョーゲンに向ける。

 

ペギタンの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを見つける。

 

「氷のエレメントさん、首のあたりにいたペエ!!」

 

「行くわよ、二人とも!!」

 

フォンテーヌの言葉を合図に、3人はミラクルヒーリングボトルをステッキにセットする。

 

「「「トリプルハートチャージ!!」」」

 

「「届け!」」

 

「「癒しの!」」

 

「「パワー!」」

 

グレース、フォンテーヌ、スパークルの順で肉球にタッチしていき、ステッキを上に掲げる。すると、花畑が広がっていき、背後には自然豊かな森が広がっていく。

 

さらにプリキュア3人の背後に、紫色のコスプレ姿をした女神の姿が映し出されていく。

 

「「「プリキュア! ヒーリング・オアシス!!」」」

 

3人は一斉にメガビョーゲンへとステッキを構え、ピンク・青・黄色の3色の光線が螺旋状になって放たれる。螺旋状の光線は混ざり合いながら一直線にメガビョーゲンに直撃する。

 

螺旋状になった光線はそれぞれの色の手へと変化して、3本の手が氷のエレメントさんを優しく包み込んでいく。

 

3色に光るハート状にメガビョーゲンを貫きながら、光線はエレメントさんをメガビョーゲンから外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンたちは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「「「「「お大事に」」」」」」

 

氷のエレメントさんが箱の中のドライアイスへと戻っていくと、病気に蝕まれた箇所は元に戻っていき、白い煙も晴れて公園は元の明るさを取り戻した。

 

「まあ、いいかしら。十分に時間稼ぎができたでしょ」

 

ドクルンは満足げに言いながら、その場から姿を消した。

 

メガビョーゲンを浄化したグレースは安全なところに置かれていたラテを拾い上げて撫でていた。

 

「ラテ、大丈夫だよー」

 

「クゥ~ン・・・・・・」

 

グレースがそういうも、ラテの表情にはいまだに不安げな表情が浮かんでいた。

 

一方、フォンテーヌはスパークルと一緒に公園にある建物の近くの箱の中のドライアイスに聴診器を当てていた。

 

「エレメントさん、調子はいかがですか?」

 

『はい! 私は大丈夫! 元気です!!』

 

氷のエレメントさんはプリキュアたちに笑顔でそう言った。そして、不安げな表情をする。

 

『大したことができずにゴメンなさい・・・でも、私たちの仲間もどうか・・・!』

 

「もちろんです! 私たちが必ず助けます!!」

 

氷のエレメントさんは、フォンテーヌの力強い一言を聞くと安心したようにドライアイスの中へと戻っていった。

 

「行きましょう! あとはすこやか山にいるメガビョーゲンだけよ!!」

 

「他の二体よりも後回しにしたから、だいぶ強くなっているはずペエ!! 気をつけていくペエ!!」

 

グレースとスパークルの二人は頷くと、3人は残り1体のメガビョーゲンを止めるべく、急いですこやか山へと駆け出していく。

 

しかし、3人はまだ気づいていなかったのだ。メガビョーゲンは、すこやか山で終わりではないということを・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはメガビョーゲンによる騒動が治まった後の、すこやか中学校。そこには先ほど退散したばかりのイタイノンの姿があった。

 

イタイノンは校庭の中で、きょろきょろとしながら何かを探している。

 

「イタイノン、何を探してるネム?」

 

「・・・この辺にまだメガビョーゲンみたいな気配がしたの」

 

イタイノンはそう言うと校庭中を歩き回り始める。囮のために作った自分のメガビョーゲンは、確かに忌々しいプリキュアたちに浄化されたはず。しかし、地球のどこかに一度退散した後に、山の方と外れの工場の方に強いメガビョーゲンの反応があり、それとは別に中学校にほんのりとメガビョーゲンの気配がまだ残っているのを感じたのだ。

 

メガビョーゲンはすでに消えたはずだが、何かの反応を感じたということは、何かがあるはず。イタイノンはそれを確かめに来たのだ。

 

「・・・・・・!!」

 

イタイノンは歩きながら黙々と地面を見つめていると、赤く染まった灰色の欠片のようなものが散らばっているのが見えた。それも細かいものもあれば、大きいものもある。

 

「これは、メガビョーゲンの・・・」

 

この欠片は間違いなく、メガビョーゲンの破片の一部だ。おそらく、スパークルがピンクのプリキュアを投げ飛ばして、お互いが衝突した際にメガビョーゲンのアンテナ部分が砕けて破片となって散らばったものであろう。

 

しかも、その欠片は驚くことにその場で緑色のクリスタルのようなものへと変化した。しかも、その欠片は見間違いがなければ、全部で5つある。

 

イタイノンはその欠片の一つを手に取ってみる。

 

「・・・わずかにメガビョーゲンを感じるの」

 

「メガビョーゲンの欠片ネム?」

 

「そうみたいなの。でも、何だか懐かしくて、生きたいっていう何かを感じるの」

 

イタイノンはこのメガビョーゲンの欠片が、なんとなく昔を思い出しそうな感じがする。そういう気配がした。

 

「キヒヒ・・・こいつは使えそうなの」

 

イタイノンは、良いものを見つけたとでも言いたげな様子で不敵な笑みを浮かべた。

 

一方、ドクルンもプリキュアたちが後にした公園に再度現れていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

自分の作ったメガビョーゲンの攻撃が飛んできたと思われる林の中、そこに着弾していたと思われる氷の一部があった。その氷は赤く淀んだような何かが蠢いていた。

 

「これは・・・何かしら?」

 

ドクルンは無表情のまま、その欠片を見つめている。普通、メガビョーゲンが浄化された後は跡形も残らない怪物の痕。その一部が何故か消えずに残っているのだ。

 

気のせいか、その欠片からはメガビョーゲンの気配を密かに感じる。

 

「公園にまた戻ってきたかと思えば、こいつの気配ブルか」

 

「えぇ、そうみたいね」

 

ブルガルの言葉に愛想よく返すと、ドクルンはその氷の欠片に触れようと手を伸ばす。

 

「・・・!!」

 

すると氷の欠片はその直前で、まるでドクルンを受け入れる準備をするかのように緑色の欠片へと姿を変えていく。欠片は全部で7個あるようだった。

 

「ふーん、随分と面白そうなものに変わったわね」

 

ドクルンは改めて欠片の一つを拾い上げると、それは冷たくて、なんだか懐かしいような感じがして、なんだか生きたいっていう感じがした。

 

両手でコロコロと転がしながら、顔へゆっくりと近づけていく。ドクンドクンと心臓の音のようなものが聞こえてきて、まるで生きているかのようだった。

 

「フフフ・・・これは調べがいがありそうねぇ」

 

そして、街の外れの工場では・・・・・・。

 

「フーンフンフーン♪ 気持ちよくって嬉しいなぁ~♪」

 

ドラム缶の一つに腰掛けながら、体を悶えさせているヘバリーヌ。その周囲の光景はもはや地面全体が赤く染め上げられており、工場がすでに見る形もないほどに赤い靄に包まれていた。

 

「地球ちゃんも、気持ちいい気持ちいいって言ってるよぉ~♪」

 

ヘバリーヌは頬を赤く染め上げながら嬉しそうに、常人にはよく理解できない言葉を口にする。

 

「メガァ・・・・・・」

 

そんな彼女の視線の先には、上真ん中下と三つに分かれている球状の体をしたメガビョーゲンが体がから赤い煙を噴射しながら、周囲を赤く染め上げていた。

 

工場一帯の地形や大気はほとんど病気に蝕まれており、完了するのも時間の問題だ。

 

「んん~、ここは大分気持ちよくできたよね~♪」

 

ヘバリーヌはそろそろ場所を変えないと、地球を気持ちよく、蝕むことができないことを理解する。

 

そんな彼女は自身が慕うお姉ちゃんたちがいるであろう街の方を向く。

 

「お姉ちゃんたち・・・・・・楽しくやってるのかなぁ?」

 

ヘバリーヌはそう呟くも、その様子はなんだか寂しそうだった。

 

病気がまだ苦しいと感じていたとき、自分はベッドの上で外を見下ろしながら元気に遊ぶ子供たちを羨ましそうに見ていた。私は、あの中に入るのはきっと無縁なんだなとすら思えた。

 

そんなとき、声をかけてくれたのはあの金髪の綺麗な髪の女性だった。彼女は自分の元に毎日来てくれて、元気づけるような言葉をかけてくれていた。

 

そんな中で、自身はこんな不安を口にしたのだ。

 

ーーーーお姉ちゃん・・・・・・。

 

ーーーーどうしたのですか?

 

ーーーー私の病気って、治るよね?

 

ーーーーえぇ、親切なお医者さんたちがきっと治してくれますよ。

 

ーーーーでも、全然よくならないんだ・・・・・・お医者さんは治してくれないのかなぁ?

 

ーーーー今はまだその時ではありません。みんなを助けるためにお医者さんは日々努力をしているのですよ。あなたの病気もいつか治すことができますよ。

 

まるで聖母のように微笑みながら諭してくれた女性。

 

そして現在、自身はビョーゲンズのメンバーとしてお姉ちゃんたちと一緒に活動をしている。

 

そこまで考えだしたとき、ヘバリーヌはハッと思った。

 

「そっかぁ・・・今、動けるってことは、ヘバリーヌちゃんが起きたあのときが、そのときってことだよねぇ♪」

 

ヘバリーヌは口元に笑みを浮かべながらそう呟いた。

 

いつか会いたいなぁ・・・・・・元気になったヘバリーヌちゃんを見てもらいたい・・・!!

 

「メガァ・・・・・・」

 

そう思っているうちに、メガビョーゲンがここ一帯の病気の蝕みを完了したようだ。

 

「んん~? 終わったぁ~? じゃあ、どうしようかぁ~・・・・・・」

 

ヘバリーヌは顎に手を当てて考える。ふとお姉ちゃんたちがいるであろう街を再度見る。

 

「ンフフ~♪ じゃあ、あっち行ってみようか~♪」

 

「メガァ・・・・・・」

 

メガビョーゲンは上真ん中下に分かれている体をくっつけて球状の体に戻すと、その上にヘバリーヌが飛び乗る。

 

そして、街へと向かうべくその動きを進めたのであった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブォン・・・ブォン・・・ブォン・・・。

 

三人娘とヘバリーヌが出撃中で不在の廃病院。そのクルシーナが管理している植物園。

 

その中で彼女が植木鉢に埋めた黒いバラから育ったありえないくらいの大きさに成長した蕾。紫色に点滅しながら光るその中には人のような形が形成されている。

 

ブォン・・・ブォン・・・ブォンブォンブォン・・・!!!!

 

ふとその点滅が激しくなり、蕾が少しずつ開いていく。

 

ブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォン!!!!!!

 

点滅がさらに激しくなり、蕾が完全に開いていく。中にいた人の形をしたものが少しずつ蕾の中からずれ落ちていき・・・・・・。

 

ドサッ!!!!

 

それは病院の床へと落ちた。人の形をしているものも、花の蜜にでも浸かっていたかのようにひどく濡れていた。

 

人の形をしているものは、倒れた状態からフラフラと起き上がる。そして、自分の両手を見やり、握ったり開いたりを繰り返す。

 

ブウォン・・・・・・。

 

人の形をしているものは顔を上げた瞬間、被っているフードの中から両目を赤く光らせた・・・・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第52話「窮地」

前回の続きです。
今回は新キャラの姿が少しお見えします。


 

「フンフフーン♪ 楽しいなぁ~♪」

 

外れの工場から場所を移動したヘバリーヌは、岩場の上で足をぶらぶらとさせながら海を眺めていた。

 

「きれいな青色だなぁ~♪ どこまでも青いのが広がっていくよぉ~♪」

 

地平線の向こうを目の上に手を置きながら、どこまでも続く遠い場所をを眺めていた。

 

「そして、こっちにはぁ~・・・」

 

ヘバリーヌは妖艶な微笑みを浮かべながら、横を振り向くと・・・・・・。

 

「メガァ・・・・・・」

 

球状のメガビョーゲンが口から赤い光線を吐きながら、海岸や砂浜を病気へと蝕んでいる。

 

「メガビョーゲンちゃんが、ヘバリーヌちゃんとお姉ちゃんたち、地球ちゃんのために気持ちよ~くしているのでしたぁ~♪♪」

 

「メガビョーゲン・・・・・・」

 

ヘバリーヌは年頃の少女のような明るいテンションでそう言うと、メガビョーゲンはそれに応えるかのように体を上真ん中下の三層に分けると、上の頭の上から赤い霧を噴射する。

 

病気の霧が空気中に舞い、大気が赤く蝕まれていく。

 

メガビョーゲンの方を見て、口元に笑みを浮かべる。しかし、空を見上げるとなんとも言えないような表情をし始めた。

 

ーーーートリはヘバリーヌ、アンタよ

 

クルシーナが自分に向かって指をさして言い放った言葉。

 

「お姉ちゃん、ヘバリーヌちゃんをトリって言ってたけど、どうしてなんだろう~?」

 

ヘバリーヌはクルシーナが言ったことをいまだに理解できないでいた。トリはヘバリーヌちゃんよりも、クルシーナお姉ちゃんがやればいいのに・・・・・・どうして、私なんかにやらせるのだろうか。

 

あの時はとても嬉しいような感じがしたが、今になって思えば、その役目はヘバリーヌちゃんじゃなくても、モーダちゃんやクルシーナお姉ちゃんでもいけるような気がした。

 

「ヘバリーヌちゃん、わかんないなぁ~♪」

 

どう考えても、自身の頭では皆目見当もつかない。考えても、頭が痛くなるだけだ。

 

「メガァ・・・・・・!!」

 

メガビョーゲンは移動しつつ赤い霧を噴射して大気を蝕みながらも、さらに体中から赤く禍々しい玉のようなものを出現させると、そこから赤い風を海に向けて放ち、赤い靄へと蝕んでいく。

 

その様子を見ていたヘバリーヌは、自分が座っていた岩場の上に立ち始める。

 

「時間かかりそうだし、踊ってようかなぁ♪」

 

ヘバリーヌはそう言うと、スケートのように片足を上げながらくるくると体を回転させ始める。

 

「クルクルクルクル~・・・・・・ほいっ!!」

 

綺麗にポーズを決めて、さらにバレエのようにピョンと飛び上がって足を高速で交差させつつ、着地すると片足を上げてポーズを決める。

 

「ほいっ! ふっ! はっ!!」

 

片足を下ろすとバク転をしながら飛び上がり、空中で縦に回転すると着地して体操のようなポーズを決める。

 

「ほーい!! やっ!! はぁっ!!」

 

・・・・・・常人から見れば、かなりおかしなことをしているのだが、ヘバリーヌはその後もここ一帯が病気に蝕まれるまで、奇妙な踊りを踊り続けていたが・・・・・・。

 

「ぶぅ~、つまんな~い!!!」

 

踊るのに飽きたヘバリーヌは頬を膨らませながら、岩場に座って足をブランブランさせる。

 

「メガァ・・・・・・」

 

メガビョーゲンを見つめていても、大きく成長しているだけで特に面白いことは何もない。

 

「お姉ちゃんのところに行ってこよ~っと♪」

 

ヘバリーヌは立ち上がると、メガビョーゲンの気配がするすこやか山へと行くために姿を消す。

 

「メガァ・・・・・・」

 

メガビョーゲンはその間に赤い風を放って、海岸一帯が病気に蝕んでいくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ビョーゲンキングダムでドクルンとイタイノンは、すこやか市で発生させたメガビョーゲンの欠片を回収した後、自身たちの父親であるキングビョーゲンに招集をかけられていた。

 

「・・・クルシーナとヘバリーヌはどうした?」

 

キングビョーゲンは明らかに誰かがいないことを二人に問う。本来であれば、自身の娘たちーーーークルシーナ、ドクルン、イタイノンらビョーゲン三人娘、そして最近生まれたばかりの娘ーーーーヘバリーヌを呼び出したはずなのだが・・・・・・。

 

「絶賛、地球を蝕み中ですよ」

 

「私たちは役目を終えて、先に帰ってきたの・・・・・・」

 

「話なら受けますよ、私たちが」

 

二人は特に臆することなく、いつもの口調で返す。

 

「・・・まあよい。我の娘たちよ、お前たちの活発的な活動、本当に感服に値する」

 

キングビョーゲンは娘たちを褒めるような言葉を発した後、一拍置いて話し始める。

 

「そんな活動の中すまないが、ちょっとこちらで厄介なことが起きた。それの対処に回って欲しい」

 

「厄介なこと・・・?」

 

「それは何? なの」

 

ドクルンは顎に手を当てながら、イタイノンは首をかしげながら問う。

 

「・・・我々の種族の一人が脱走した」

 

「? どういうことなの?」

 

イタイノンはますますよくわからず、顔を顰め始める。

 

「・・・言った通りだ」

 

「・・・私たちビョーゲンズはダルイゼン、シンドイーネ、グアイワル、バテテモーダ、クルシーナ、私、イタイノン、ヘバリーヌしかわかりませんが、他にビョーゲンズが誕生したと?」

 

「その通りだ」

 

ドクルンが真面目なトーンで問うと、キングビョーゲンはあっさりと肯定する。

 

「・・・で、そんな脱走したやつっていうのは誰なの?」

 

イタイノンも真面目なトーンで問う。脱走者と言われても、特徴を言ってくれないと自分たちも探しようがないのだが・・・。

 

「・・・よくはわからんが、そやつは我の気配から察するに地球にいるらしい。厄介なことになる前に連れ戻すか、捕らえるかして欲しいのだ」

 

「・・・特徴はわからないってことなの?」

 

「まあ、お父さんが地球にいる気配を察することができるということは、私たちでも簡単に見つかるでしょう」

 

キングビョーゲンの曖昧な答えに、イタイノンは顔を顰めるも、ドクルンが諌めるように結論を付ける。

 

「・・・それなら仕方がないの」

 

イタイノンは顔を赤らめながらそっぽを向く。

 

「わかりました。最悪、障害になるなら消しても構いませんよね?」

 

ドクルンはいつものトーンで、自分たちの父親に問う。

 

「・・・よかろう。では、あとは頼んだぞ」

 

キングビョーゲンは許可をすると、そのまますっと消えていった。

 

ドクルンとイタイノンはそのまま帰路へと着いていた。

 

「ふぅん・・・しかし、特徴がわからないのではねぇ・・・」

 

「パパ、面倒なことを押し付けてくれたの。本当に厄介なことなの」

 

「まあ、何にしても、私たちビョーゲンズの邪魔になるのであれば、始末する他はありませんよねぇ」

 

イタイノンは不満そうな声を漏らすも、ドクルンはいつもの調子の良いトーンで話す。

 

「・・・お前は何でそんなに嬉しそうなの? 見つけるのが面倒なのに・・・」

 

「正体不明の相手を叩きのめすというのも、スリルがあるじゃないですかぁ」

 

ムッとするイタイノンに対して、ドクルンはニヤリと笑みを浮かべながら話す。

 

「はぁ・・・・・・」

 

イタイノンはため息を吐くしかなかった。この変な女は、もう何を言っても無駄だと。

 

「とりあえず、クルシーナと合流してから探すの。メガビョーゲンのせいで気配を追いづらいの・・・」

 

ドクルンとイタイノンはとりあえず、自分たちのアジトである廃病院へと戻っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「・・・・・・・・・」」」

 

プリキュアたちはたどり着いた場所の光景を見て、愕然とした表情を浮かべていた。

 

彼女たちはメガビョーゲンが出現したと思われるすこやか山へとやってきている。たどり着いているはずなのだが、そこへ着いたときのその場所は驚きを隠せなかった。

 

絶句・・・ただ絶句・・・こんなのありえない・・・・・・信じられない・・・・・・。

 

そういう言葉を発してしまうほどの凄惨な光景が広がっている。

 

そんな彼女たちが見ている光景は、すこやか山の頂上から麓までもが赤い靄に包まれており、細かく見ると木の一部が枯れ木となり始めており、所々がすでに荒れ地とかしてしまっている。おまけに大気までもが病気に蝕まれてしまっている。

 

すこやか山の、綺麗な自然はもはや見る影もなかったのだ。

 

「嘘・・・・・・!?」

 

「病気があんなに広がってる・・・!!」

 

スパークルとフォンテーヌは、信じられないといった表情を浮かべている。

 

「他の二体に時間をかけすぎたせいラビ・・・!!」

 

ラビリンたちヒーリングアニマルも、この光景にただただ愕然としていた。

 

のどかの家に近い場所に出現したメガビョーゲンから浄化していったが、少し成長していたために苦戦を強いられ、時間がかかってしまった。いつ出現したかはわからないというリスクを抱えながらも、メガビョーゲンを処理していったのだが、まさかすこやか山がこんなことになっているとは・・・・・・。

 

やはり3人で一体ずつ浄化していくというのは、無理のある作戦だったのか・・・・・・。

 

そして、彼女たちの近くにはこの惨状を作り出したクルシーナの姿があった。

 

「ん?」

 

すこやか山の光景を見ていたクルシーナは、プリキュアたちに気づくとこちらを振り向く。

 

「クルシーナ!!」

 

「あら? 随分と遅かったじゃない。もう来ないのかと思ったけど?」

 

クルシーナはこちらに体を向けるなり、不敵な笑みを浮かべる。

 

彼女はプリキュアたちが何をしていたのかわかっている。すこやか山に出現させた自分のメガビョーゲンよりも、他の二体ーーーードクルンとイタイノンのメガビョーゲンを処理していたのだろう。

 

わかっているからこそ、敢えて言うことで嗤ってやる、嘲笑ってやるのだ。お前らの考えた行動など、全くの無意味であの頃と全く変わっていないということを。

 

「どうすんの? メガビョーゲンあっちにいるけど? だいぶ育っちゃったけど?」

 

親指を背後に立てながら、質問、質問、質問・・・・・・これを繰り返すことでプリキュアたちを煽るクルシーナ。

 

そんな中、グレースは強気な表情をすると前に出る。

 

「もうこれ以上させないし、育たせない!!!」

 

グレースが強気に言っても、クルシーナの余裕の笑みは変わらない。

 

「行くよ、二人とも!!!!」

 

「うん!!」

 

「ええ!!」

 

グレースの言葉にフォンテーヌとスパークルが頷くと、意を決したように3人はすこやか山へと駆け出していく。

 

クルシーナは引き留めもせずに、3人がメガビョーゲンの元へと向かっていくのを見やる。

 

「・・・ふっ」

 

ここまで蝕んでいるというのに諦めようともしない威勢の良さを感じながら、笑みを漏らすとゆっくりと歩きながらプリキュアの後を追っていく。

 

「メガァ!!!!」

 

一方、山の中枢と頂上の間にいるメガビョーゲンは口から赤い光線を吐き出しながら、残るこの場所の地面を蝕んでいた。

 

そして、その近くにはメガビョーゲンを見張っていたバテテモーダの姿が。

 

「いいじゃん!! いいじゃん!! 快調じゃん!!!! さすがはお嬢のメガビョーゲン!!!!」

 

バテテモーダが山一帯に広がっていく病気に興奮気味に騒いでいる。

 

と、そこへ山の麓から駆け出してきたプリキュア3人がメガビョーゲンへと駆け出してきた。

 

「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 

「メガァ!!!!」

 

3人は一斉に蹴りを放つも、メガビョーゲンは赤い布のような両腕でそれを片なく防ぐ。

 

「ち~っす!! プリキュアちゃんじゃないの~!! 今回はもう来ないのかと思ったぜ??」

 

プリキュア3人に気づいたバテテモーダが、ヘラヘラした態度でプリキュアたちを煽る。

 

「来たし!!!」

 

彼の余裕の態度に強気で返すスパークル。そんな彼女たちの目の前に立っているメガビョーゲンは、美術館の街の山の花畑に現れていたメガビョーゲンと同じくらい、もしくはそれよりも大きく成長をしていた。

 

「メガビョーゲン、やっぱりものすごく育ってるペエ・・・!!」

 

「みんな、気をつけるラビ!!」

 

ヒーリングアニマルたちはプリキュアたちに警戒を促す。

 

「メガ、ビョーゲン!!!!」

 

それを合図にメガビョーゲンは布のような赤い両腕を振り下ろし、プリキュアたちは飛び退いて避ける。

 

「クゥ~ン・・・・・・」

 

まだ体調が悪いラテは、その戦いの様子を心配そうに見つめている。

 

そして、プリキュアたちに追いついたクルシーナは、ゆっくりとバテテモーダの横へと降りてくる。

 

「お嬢~!! 加勢したほうがいいっすかね~?」

 

「・・・その必要はないでしょ」

 

バテテモーダの意見に、クルシーナは両腕を頭の上で組みながらきっぱりと返す。

 

「お姉ちゃ~ん!!」

 

「・・・ふん」

 

「ゲボッ!!!!」

 

どこからともなく背後から現れたヘバリーヌを、クルシーナは一歩横に移動するだけで避ける。

 

「で、アンタは何してるわけ?」

 

クルシーナは地面に突っ伏すヘバリーヌに睨みつけるような冷たい視線を向ける。

 

「つまんないから遊びに来た~!!」

 

「・・・メガビョーゲンは大丈夫なの?」

 

起き上がって瞳をキラキラとさせるも、クルシーナの表情は変わらない。

 

「全然問題ないよ~、むしろ順調すぎて面白くないくらい♪」

 

「あっそ」

 

クルシーナは付き合いきれないと言わんばかりに、プリキュアとメガビョーゲンの戦いを見下ろす。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

「メガ!! メガァ!!!!」

 

フォンテーヌとスパークルがそれぞれ光線を放つも、メガビョーゲンは両腕で容易く防ぐ。

 

「はぁ!!」

 

その隙にグレースが前へと走り、メガビョーゲンの腕を駆け上がりながら飛ぶ。

 

「グレース!!」

 

「うん!!」

 

キュン!!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

グレースは空中でステッキの肉球に一回タッチすると、ステッキをメガビョーゲンに向ける。

 

ラビリンの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを見つける。

 

メガビョーゲンの胸の部分に、風のエレメントさんがいることを発見したのだが・・・・・・。

 

「ああ!? 風のエレメントさんがぐったりしてるラビ!!」

 

ラビリンはエレメントさんの様子を見て慌て出す。風のエレメントさんはすでにあの時、ダルイゼンが生み出したメガビョーゲンの中にいたエレメントさんと同じように、体をぐったりとさせていたのだ。

 

「早く、浄化しないと・・・!!!」

 

エレメントさんがいることはこれでわかった。あとは急いでこのメガビョーゲンを大人しくさせた後、『プリキュア・ヒーリング・オアシス』で浄化をするだけ。

 

・・・しかし、このメガビョーゲンはそんなに甘くはなかった。グレースのその行動こそが明らかな油断だった。

 

シュルシュル!!!!

 

「!? ああっ!?」

 

メガビョーゲンが赤い布のようなものを伸ばし、グレースを捕まえる。

 

「メッガァ!!!!」

 

「うぅ、あぁぁぁぁぁ!!!!」

 

そして、そのまま地面へとグレースを叩きつけた。

 

「油断しすぎなんじゃない? まずは一人ね」

 

その様子を見ていたクルシーナが瞑目しながら言った。

 

「「グレース!!」」

 

「っ・・・」

 

叫ぶフォンテーヌとスパークル。ふとスパークルがメガビョーゲンへと駆け出す。

 

「メー!!」

 

グレースを拘束したメガビョーゲンはスパークルに気づいて振り向く。

 

「待て!! スパークル!!!」

 

「ダメェー!!!!」

 

ニャトランの制止も空しく、スパークルはグレースを助けようと手を伸ばす。

 

シュルシュルシュル!!!!

 

しかし、メガビョーゲンはそれを狙っていたかのように、グレースを掴んでいる布を枝分かれさせ、スパークルも同じように捕らえる。

 

「「きゃあぁぁぁぁ!!!!」」

 

ズガーン!!!!!

 

そして、先ほどと同様に二人を地面へと叩きつけた。

 

「ウゥ・・・・・・」

 

ラテはその様子を不安そうに見つめている。

 

「メガァ、ハハハ・・・・・・」

 

メガビョーゲンは拘束した二人を持ち上げながら、まるで嘲笑うかのような声を上げる。

 

「これで二人・・・あとはそこの青いの、お前だけね」

 

「くっ・・・・・・!!」

 

クルシーナが指をさすその先には、フォンテーヌが焦りを感じ始めていた。

 

「どうせ逃げ回るんだったら、キツネになりなさいよ。それともお前は、捕まるだけの鳥で終わるのかしらぁ?」

 

「っ・・・・・・!!」

 

フォンテーヌの表情と心には緊張感で溢れていた。メガビョーゲンに捕まってしまえば、それで終わりのこの状況。しかし、一人でこの大きく成長したメガビョーゲンに対処できるはずがない。

 

しかし、どうすればいいか、そんなことを考える暇もなく、メガビョーゲンの布のような手が襲いかかる。

 

「っ!!!」

 

「メガァ!!!!」

 

ビタァン!!!!

 

飛んで避けたフォンテーヌは逃れようと青い光線を放つも、襲いかかってくる布には全く通用せずに打ち消されてしまい、逆に押してくる布にフォンテーヌは再び飛び退く。

 

「はぁっ!!!!」

 

フォンテーヌは再度青い光線を放つが、赤い布は蛇のように動きながら光線を掻い潜りフォンテーヌへと迫る。

 

「!? しまった・・・!! きゃあぁぁ!!!!」

 

そして、そのままフォンテーヌはなすすべなく赤い布に捕まってしまい、先ほどの二人と同様に地面へと叩きつけられた。

 

「キャウン!!!」

 

その様子を見ていたラテが悲痛な鳴き声を上げる。

 

「メッガ、ビョーゲーン!!!!」

 

メガビョーゲンは「つっかま~えた~!!」とでも言いたげな声を上げながら、両腕を頭の上に持ち上げる。

 

とうとうプリキュアは3人とも全員、メガビョーゲンに拘束されてしまったのであった。

 

「くっ・・・うぅ・・・!!」

 

「うっ・・・ぅぅ・・・!!」

 

「うぅぅ・・・うぅぅぅ・・・!!」

 

苦痛の声を上げるプリキュアの3人。

 

「クゥ~ン・・・クゥ~ン・・・!!」

 

その様子を見ているラテは不安げな声を上げる。

 

「フッフフフ・・・あらあら、どうしちゃったのかしらぁ?」

 

そこへクルシーナが笑い声を上げながら近づいていく。

 

「プリキュア3人仲良くメガビョーゲンに捕まっちゃうなんて、ちょっとお疲れなのかしらねぇ?」

 

「くっ・・・!」

 

「うっ・・・!」

 

「うぅぅ・・・!!」

 

クルシーナはメガビョーゲンに拘束された3人を見上げながらあざ笑う。

 

「本当にどうしちゃったの~? アタシたちは昨日の夜からメガビョーゲンを出現させて、ここ一帯を蝕んでいたのに、いつまで経っても来ないわ、やっと来たと思ったらこのザマだわ、お手当てがうまく行きすぎてちょっと気が緩んじゃったんじゃないのぉ~?」

 

クルシーナはそこまで言うとわざとらしくハッとしたような表情を浮かべた後に、あざ笑うかのようなニヒルな笑みを浮かべる。

 

「あぁ~、ごめんなさい。お前らは気を引き締めてもその程度だったわねぇ! アッハハハハハ!!! アーッハッハッハッハッハ!!!!!!」

 

クルシーナは徹底的にプリキュアをバカにしたような態度をとり、大きな笑い声をあげる。

 

「う、うるさい・・・!!」

 

「まだ、終わってないんだから・・・!!!」

 

グレースとスパークルは拘束されながらも、反抗して強気に返す。その表情からはまだお手当てを諦めていない様子だ。

 

「まぁ~だ、終わってないだぁ~?? そんな無様な格好で言われても説得力ないんですけどぉ??」

 

クルシーナはサディスティックな表情を見せた後、プリキュア3人に背を向けながら挑発する。あいつらは、もはや身動き一つ取れないというのに何を寝ぼけたことを言っているのだろうか?

 

「・・・それで? どうやってそこから抜け出すのかしらぁ?」

 

クルシーナは顔を振り向きながら3人、主にグレースに問う。その表情は不敵な笑みを浮かべていた。

 

彼女にはわかり切っていた。あの3人が自力であそこから抜け出す術を何一つ持っていないということを。拘束されて身動き一つ取れないあの状態ではステッキを振るうどころか、エレメントボトルを使うことも、3人でのあの合体技を出すことすらできないだろう。

 

だからこそ、彼女は敢えて聞いてやるのだ。無様なあいつらを嗤ってやるために。

 

「くっ・・・・・・!」

 

グレースはクルシーナの言葉に何も反論が出てこない。それどころか体全体を縛られていて、動くことすら叶わない。

 

ギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!

 

「ぐっ、うぅぅぅぅぅ・・・!!」

 

「うぅぅぅぅ・・・!!」

 

「くっ、うぅぅぅぅぅ・・・!!」

 

メガビョーゲンは拘束する腕の力を強くする。これによって強く体を締め上げられたプリキュアたちは苦痛の声を漏らし、その苦しさに表情を苦痛に歪ませる。

 

「ふん、強がればどうにかなるとでも思ったわけ? お前らってホントバカね」

 

手を腰に当てながら、何もできないプリキュアたちを嘲笑うクルシーナ。

 

あいつらはお手当てを諦めたくないんだろうが、この状況ではどうしようもない。プリキュアは3人しかいないはずだし、救援を駆けつけられるものは誰もいない。もはや強がっているようにしか聞こえない。

 

「無駄な抵抗はやめとけよ。もがいたって苦しくなるだけだぜ?」

 

クルシーナは余裕の笑みで言う。やっぱり今のプリキュアは弱すぎる。せめて相手になるぐらいのやつは現れないだろうかとすら思う。

 

「あぁん♪ いいないいなぁ~♪ ヘバリーヌちゃんもあんなふうに縛られた~い♪」

 

「あとで好きなだけ縛ってやるわよ。でも、まずは役目を果たさないとねぇ」

 

ヘバリーヌの羨ましそうな言葉に、クルシーナは適当に返す。するとヘバリーヌは瞳をキラキラとさせ始める。

 

「あとでお仕置きしてくれるぅ~? あ・・・」

 

「ちゃ~んと仕事してくれたらね♥」

 

クルシーナはヘバリーヌの頭を撫でながら言う。

 

「うんうんやる~!!」

 

「その意気で頼むわよ」

 

「りょ~かい♪ じゃあ、ヘバリーヌちゃん頑張ってくるね~♪」

 

ヘバリーヌは少女のような無垢な表情を浮かべると、敬礼のポーズをしながらその場から姿を消した。

 

クルシーナは口元に笑みを浮かべながら消えたのを見届けると、すこやか山の惨状を見やる。

 

「さてと、この辺は大体蝕み終わったところだし、そろそろ場所を移動するか」

 

すこやか山全体は赤く染め上げられており、特にメガビョーゲンの周囲の地面は赤い靄に包まれていて傷んでおり、すでに荒地と化している。

 

もう十分に蝕んだ。あとはこいつをどこまで大きくできるかだ。

 

クルシーナは他に蝕める場所がないか、空へと飛び上がって遠い場所を見てみる。

 

「あそこなんかいいかしらねぇ」

 

不敵な笑みを浮かべるクルシーナの目の前には、あのプリキュアたちが住んでいるであろう街が見えていた。

 

クルシーナはメガビョーゲンの近くへと降りて、怪物に指示を出すために近づく。

 

「お嬢~! 次、どこ行くっすか~?」

 

「あいつらの街に行ってみようかなと思ってね」

 

「!? や、やめて・・・・・・!!」

 

近づいてくるバテテモーダに答えると、それにグレースが反応した。

 

まさか、私たちの住む街に侵攻しようとしているの・・・? そんなことをされたら・・・・・・!!

 

しかし、今の自分は動くどころか、ビョーゲンズを止めることすらできない。

 

「・・・メガビョーゲン」

 

ギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!

 

「ぐぅ、うぅぅぅぅぅぅ・・・!!!」

 

グレースの言葉がやかましくなると感じたクルシーナは顔を顰めると、メガビョーゲンに指示を出すとさらに締め上げる腕を強くし、グレースを苦しめる。

 

「何もできないやつは大人しくしてろよ」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべながら言う。

 

病気で苦しめるのとは違うが、締め付けられているあいつらの苦痛に歪んだ表情も、これもまたいい。何せ拝めながら次の場所に行くことができるからだ。

 

「ほらメガビョーゲン、あっち。ああ、そいつらも何もできないように締め上げておけよ」

 

「メガァ・・・・・・」

 

プリキュア3人を拘束しながら、クルシーナの指示の下、移動しようとするメガビョーゲン。

 

「く、うぅ・・・!」

 

「う、うぅ・・・!」

 

「うっ、うぅぅぅぅ・・・!!」

 

プリキュア3人は苦痛の表情を浮かべている。身動きを取ることができず、そこから脱出することもできない。

 

「フフフ・・・・・・」

 

クルシーナはそんな3人を見上げながら、笑みを浮かべていた。

 

そのままビョーゲンズの幹部たちはゆっくりとすこやか山から移動していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクルンとイタイノンが帰還した後の廃病院。二人はその中の床を見つめていた。

 

「これは、なんですかね?」

 

ドクルンは床に溢れている赤オレンジ色の液体を見る。しかも、それは部屋のどこかに続いているようだった。

 

イタイノンは液体を指ですくうと口にしゃぶり、口から出す。

 

「甘いの・・・花の蜜みたいなの」

 

「花の蜜? ということは、クルシーナの植物園ですか」

 

二人は赤オレンジ色の液体をたどっていくと、扉の開いている部屋へとたどり着く。

 

「扉が開いていますね」

 

「廃病院には誰もいないはずなの。開けられるわけがないの」

 

「クルシーナが開けっ放しにしていくわけがありませんし、この液体の跡を見ると何かが生まれたとしか言いようがありませんね」

 

「・・・入ってみればわかるの」

 

二人は植物園の中へと入っていく。ここにも赤オレンジ色の液体が続いているが、廊下で見た部分と比べたら液体の濃度は濃く、よく見るとそこに靴のような足跡が付いていた。

 

「・・・人のような足跡なの」

 

「っていうことは、何かが生まれたんでしょうね」

 

赤オレンジ色の液体を最後まで辿ると、蕾が開き切ったような黒い花があり、そこから液体が垂れているのが見えた。

 

「どうやら、ここから生まれたみたいですね」

 

「・・・もう面倒臭いから液体を辿ればそいつの場所がわかるはずの」

 

ドクルンとイタイノンはそう言いながら、自分たちがたどった液体の跡を見つめた。

 

その一方で・・・・・・。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

地球のとある森の中、息を切らしているフードを被った人物。どんな人かは伺えないが、体つきを見ると少女のようだ。

 

「なんとか・・・あの世界から・・・逃げてきたが・・・」

 

背後を向きながら追っ手が来ていないか様子を伺うフードの少女。そして、周囲を見渡す。

 

「ここは・・・どこだ・・・? それにこのあたりは空気が澄んでいて、苦しさを感じる・・・」

 

夢中で走っていたのか、フードの少女はこの場所がどこなのかわかっていないようだ。しかも、よくわからないが、自然の空気が私に苦痛を与えてくる。

 

「とにかく、あいつらから遠くへ逃げないと・・・・・・!!」

 

フードの少女はどこに逃げようかと模索していると・・・。

 

「!!」

 

少女は何かを感じたように、目を見開き、あらぬ方向を向く。

 

「なんだか、誰かが泣いているような・・・?」

 

何かの気配を察した少女はつぶやく。確かに助けを求めている誰かの声が聞こえた気がする。自分が今、向いている方向にだ。

 

「あっちへ行ってみよう・・・」

 

少女は半信半疑でありながらも、その方向へと走っていくのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第53話「曲者」

今回で第19話ベースは最後となります。
まだまだ長編は続きます。最後までお付き合いください!


 

ギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!

 

「ぐっ、うぅぅぅぅぅ・・・!!」

 

「うぅぅぅぅ・・・!!」

 

「くっ、うぅぅぅぅぅ・・・!!」

 

クルシーナの生み出したメガビョーゲンに立ち向かうも、逆に拘束されてしまったプリキュアの3人。

 

「ふん、強がればどうにかなるとでも思ったわけ? お前らってホントバカね」

 

手を腰に当てながら、何もできないプリキュアたちを嘲笑うクルシーナ。

 

あいつらはお手当てを諦めたくないんだろうが、この状況ではどうしようもない。プリキュアは3人しかいないはずだし、救援を駆けつけられるものは誰もいない。もはや強がっているようにしか聞こえない。

 

「無駄な抵抗はやめとけよ。もがいたって苦しくなるだけだぜ?」

 

クルシーナは余裕の笑みで言う。

 

「ほらメガビョーゲン、あっち」

 

「メガァ・・・・・・」

 

クルシーナが指示を出すと、メガビョーゲンはプリキュア3人を拘束したまま移動しようとする。

 

「クゥ~ン・・・」

 

その様子を見ていたラテの想いは、不安から無力感へと変わっていた。

 

「く、うぅ・・・!」

 

いつも元気でおっちょこちょいだが、ラテを本気で心配してくれるスパークル。

 

「う、うぅ・・・!」

 

しっかり者で、常に自分を気にしてくれるフォンテーヌ。

 

「うっ、うぅぅぅぅ・・・!!」

 

そして、常にラテに寄り添ってくれて、優しい言葉をかけてくれるグレース。

 

その3人は今、メガビョーゲンを浄化することができず、窮地に追い込まれている。

 

なのに、体調の悪い自分は、何もすることができない。それどころか、地球の不調を察することができず、優しくしてくれる3人に迷惑をかけてしまった。

 

ラテは不甲斐ない自分に、悔しそうに目をギュッとさせながら俯向く。

 

そんな彼女に母親であるテアティーヌの声が甦る。

 

ーーーー私たちのお手当てはね、強くないとできないのよ。

 

自分もお手当てをしたいと言ったときに、彼女が微笑みながら言った言葉。

 

ーーーーラテは確かに強くない、でもラテがどうにかしないとグレースたちが・・・・・・!!

 

彼女たちを、助けてくれる仲間がいない。ヒーリングガーデンで待つお母さんが助けに来てくれるわけがない。

 

そう思ったラテの表情が意を決したように強い表情になる。

 

ラテは体調不良でふらつく体を必死で起こし、立ち上がる。足は震えているが、自分は立てると奮い立たせる。

 

その場から飛び出し、自身に背を向けてゆっくりと進んでいくメガビョーゲンを見据える。

 

「ワン!ワン!!」

 

メガビョーゲンに向かって吠え、そのまま駆け出していく。

 

「ワン!!ワン!! ウゥゥゥゥゥ・・・!!」

 

ラテはそのままメガビョーゲンの尻尾に飛びつくと噛み付き、怪物の進行を止めようとする。

 

「メガ・・・?」

 

尻尾に違和感を感じたメガビョーゲンが背後を振り向く。

 

「・・・あぁ?」

 

さらにそれに気づいたクルシーナが足を止めて振り返る。

 

「ラテ・・・!!」

 

「ラテ様!!」

 

グレースやラビリンが叫ぶのを尻目に、ラテはメガビョーゲンの尻尾に噛み付いて振り回す。

 

「ウゥゥゥゥゥゥゥ・・・!! キャウン!!」

 

そんなラテをメガビョーゲンは虫を振り払うかのように振り回して軽くあしらい、吹き飛ばす。地面へと叩きつけられて転がるラテ。

 

「ラテ!!」

 

「ラテ様!!」

 

「っ・・・!!」

 

スパークルとニャトランが心配そうに叫ぶも、ラテは震える足を立ち上がらせる。

 

「アッハハハ・・・それでどうにかできると思ってるわけ? バカじゃないの?」

 

そんな彼女を見て、クルシーナは余裕の笑みであざ笑う。

 

彼女の言葉も目にくれず、ラテは再びメガビョーゲンへと向かっていく。

 

「ラテ様!!」

 

「ダメー!!」

 

フォンテーヌとペギタンが叫ぶ中、ラテは再び尻尾に噛みつこうとしたが、メガビョーゲンは地面に尻尾を叩きつける。

 

「キャウン!!」

 

ラテはそれによって吹き飛ばされ転がるも、諦めずに震える足を立ち上がらせていく。

 

その後もラテはメガビョーゲンに立ち向かっていくが、その度怪物に軽くあしらわれ、攻撃によってボロボロになっていく。

 

しかし、ラテはそれでもなお、メガビョーゲンを止めようと立ち上がる。

 

「ラテ・・・やめてっ・・・!!」

 

グレースはラテを助けに行こうと足掻くも、メガビョーゲンに強く拘束されている状態では力を入れることができず、そこから抜け出せずにいた。

 

「まだわかんないわけ? お前が努力したところで、無理なものは無理なんだよ」

 

「ハァ・・・ハァ・・・」

 

もはや悪あがきにしか見えていないラテの行動を嘲笑するクルシーナ。彼女はそれでもなお、立ち上がり、メガビョーゲンに向かっていく。

 

「来るニャ!! ラテ様!!」

 

「死んじゃうよ・・・!!」

 

スパークルとニャトランはその様子を涙目になりながら叫んでいた。

 

「キャウン!!」

 

こちらに走ってくるラテを、メガビョーゲンは軽く蹴りを入れて吹き飛ばす。

 

「やめるペエ!!」

 

「ラテ!!」

 

ボロボロになり傷ついていくラテに、フォンテーヌとペギタンも涙ながらに叫んでいた。

 

「ハァ・・・ハァ・・・」

 

吹き飛ばされて倒れるラテ。立ち向かうたびにメガビョーゲンの攻撃を受け続けた彼女の表情は、疲れが見えていた。

 

「ふん、そもそもパートナーのいないお前に何ができるんだよ、ヒーリングガーデンの王女様?」

 

クルシーナはニヒルな笑みを浮かべながら、ラテをバカにする。

 

「ウゥ・・・・・・」

 

「箱入り娘は力の差っていうのを理解できないのかしら? 無駄だってわかってんのに立ち向かうとか、バカにも程があるんじゃないの?」

 

クルシーナの言葉に、ラテは悔しそうな顔を向ける。

 

「大体、捕まってるあいつらの顔見てみろよ。お前が余計なことして、さっき以上に苦しい顔してんのわかんないわけ?」

 

「っ・・・!?」

 

クルシーナがメガビョーゲンに捕まっている3人を見上げながら指摘すると、ラテはショックを受けて落ち込むような表情になる。

 

勝てないとわかっているのに、お手当てをしたいという気持ちからメガビョーゲンに立ち向かい、その結果ボロボロにされている。そのときの3人の顔はどうだろうか? メガビョーゲンに捕まっている時よりも苦しい表情、泣きそうな表情をしている。

 

ラテはお手当てがしたいと思っていても、パートナーがいないことには何もできていないのと同じ。不甲斐ない自分を悔やむしかなかった。

 

(ラテも・・・ラテもママみたいに、地球をお手当てするラテ・・・)

 

しかし、ラテの表情には諦めの色はなく、言葉を話すことができない彼女は心の中でそんなことを思っていた。

 

「!?」

 

そんな立ち上がった彼女に迫る影。それはクルシーナと一緒にいたバテテモーダだった。

 

バテテモーダはラテを片手でつまみ上げる。彼はそれを見て邪悪な笑みを浮かべると、ラテに頬ずりをし始める。

 

「よーち、よちよちよち~・・・」

 

「ウゥ~ン・・・ウゥ~ン・・・!」

 

「踏み潰されたいのかなぁ~? それとも握りつぶされる方がいいのかなぁ~?」

 

バテテモーダはラテを可愛がるように振り回しながら、どうしてやろうかと画策する。

 

その様子を見ていたクルシーナが、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「・・・バテテモーダ」

 

「はい?」

 

「そのままその子犬を頭の上に高く上げといてくれる?」

 

「あっ、了解っす~・・・」

 

バテテモーダは言われた通りに、ラテを自分の頭の上に掲げる。

 

「この際だからこいつは始末しておこうかしら」

 

クルシーナはそう言うと右手にピンク色の禍々しいオーラを込め始める。

 

「な、何をする気なの・・・?」

 

「ああ、そうだ。お前らも見ておけよ。一匹の命が終わる瞬間をさ」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべながら、ラテに向かって右手を構える。

 

「や、やめて・・・!!」

 

「ダメー!!!」

 

「そんなことしたら本当に死んじゃうよ・・・!!」

 

助けに行くことができないプリキュアの3人は叫ぶ。グレースに至っては拘束から逃れようともがいているが、やはり抜け出すことができない。

 

「恨むんだったら、無力な自分を恨むんだね。フフフ・・・」

 

バシュ!!

 

クルシーナはプリキュアの叫び声を聞いて笑みを浮かべながら、右手からピンク色の光弾を放った。

 

「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

グレースの絶叫が響くも、光弾は無情にもラテへと迫っていき・・・・・・。

 

ビィィィィィィィィィ!!

 

ドカァァァァァン!!

 

「!?」

 

ラテに当たる直前で、どこからともなく黒い光線が飛んでいき、ピンク色の光弾に着弾して爆発させる。クルシーナは突然起こった出来事に目を見開いた。

 

「え、何・・・!?」

 

「今、何が起こったの・・・?」

 

「攻撃が打ち消された・・・?」

 

グレースとフォンテーヌも突然のことに驚いている。

 

「な、何が起こったっすか!?」

 

バテテモーダもクルシーナの攻撃が打ち消されたことに驚きを隠せない。

 

「っ!?」

 

クルシーナは遠方から何かの気配を感じ、その方向へと振り返る。

 

それは一陣の風のようなもの、誰かの祈りに導かれるかのように吹き始め、それはまっすぐとすこやか山へと向かっていく。

 

そして、すこやか山へと現れた風はラテを掴んでいるバテテモーダへと向かっていき・・・・・・。

 

「ん? うおっ!? どわはぁ!?」

 

バテテモーダはそのまま風に襲われて吹き飛ばされ、地面を転がった。

 

「メガ!?」

 

「っ!?」

 

「「「ああ・・・!?」」」

 

その様子にメガビョーゲンはおろか、クルシーナ、プリキュアの3人は驚く。

 

「だぁ! いってぇ・・・!! あれ!?」

 

バテテモーダは体を起こすと、なんと彼の手元からラテの姿が消えていた。

 

「ラテは!?」

 

「消えちゃった・・・?」

 

ラテが突然いなくなったことに、戸惑いの声をあげるグレースとスパークル。

 

「っ! 見て!!」

 

何かに気がついたフォンテーヌの視線の先には、紫色の風が渦巻いているのが見えた。そして、その風が徐々に治っていき・・・・・・。

 

「あ!?」

 

そこには薄紫色のウェーブがかかったロングヘアに、頭には翼の飾りのついたティアラ。フリルのついた薄紫色のアシンメトリーのドレスを着た、グレースたちとほぼ同年代の女性の姿があった。

 

そんな彼女の手元にはラテが抱かれているのが見えた。

 

「プ、プリキュアラビ!!」

 

「えっ・・・!?」

 

「先代のプリキュアニャ!!」

 

「テアティーヌ様のパートナーだったプリキュアとそっくりペエ!!」

 

「「「ええっ!?」」」

 

「なんだと!?」

 

ラビリンたちは先代のプリキュアに酷似ていることを指摘し、プリキュアたちやバテテモーダは驚きを隠さない。

 

そんな中、突然の登場に目を見開きつつも、その女性を冷静に見たクルシーナはニヒルな笑みを浮かべる。

 

「へぇ・・・こんなところでまた会えるなんてねぇ」

 

その女性はクルシーナにとっては懐かしい存在。私が生まれたばかりの頃、あの街を襲い、自分たちと戦ったことがあるあのプリキュアだ。

 

でも、あの街にいたやつと雰囲気は一緒だが、違う。あの街のプリキュアは自分たちが消したはずだから、あいつとこいつは一緒であっても、何かが違うのだろう。

 

「ラテ様。あなたの望み、私が叶えましょう」

 

先代のプリキュアにそっくりの女性はラテを地面に優しく下ろすと、目の前にいるメガビョーゲンを見据える。

 

「地球を蝕む邪悪なものよ。最後の時です。清められなさい」

 

女性はそう言うと高く飛び上がって姿を消したかと思うと・・・・・・。

 

シュン!!

 

一瞬でメガビョーゲンの腕を切り裂いて、プリキュアたちを拘束から解放する。

 

「ふぅ・・・助かった・・・」

 

「っ! ラテ!!」

 

グレースはラテを見つけると、すかさず駆け出して自分の方に抱き寄せる。

 

「ラテ・・・よかった・・・」

 

グレースはラテが無事なのを確認し、涙ぐみながら安堵の声を漏らす。

 

「メガァ!?」

 

一方、先代似のプリキュアは舞うように飛び込むとメガビョーゲンに腹部に手を当てて掌底を放って怯ませる。さらにそのまま蹴りを放って高く打ち上げる。

 

「メガァ・・・!?」

 

そして、一瞬でメガビョーゲンの背後に移動すると、そのまま渾身の蹴りを放って地面へと叩き落とす。

 

「追いましょう!」

 

「「うん!」」

 

プリキュアの3人は女性とメガビョーゲンの元へと向かう。

 

「お嬢!! 自分たちも追うっすよ!!」

 

「フフフ・・・・・・」

 

焦ったように言うバテテモーダに対し、クルシーナはニヒルな笑みを浮かべながらゆっくりと歩いて向かっていく。

 

「メー・・・」

 

メガビョーゲンは自分を圧倒する、先代似のプリキュアを見据える。

 

「メガガガガガガ!!!!」

 

メガビョーゲンは起き上がると、素早く両腕を振るって攻撃する。先代似のプリキュアはそれらを難なくかわしていくとメガビョーゲンへと迫り・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

「メガァ!?」

 

メガビョーゲンの顔面に蹴りを入れて、そのまま踏みつけるように押し倒した。

 

「な、なんだあいつ!?」

 

「フッフフフフフフ・・・!!」

 

圧倒的な強さを誇る先代似のプリキュアにただただ驚くばかりのバテテモーダに対し、クルシーナは面白いものを見つけたかのように笑みを深くしていく。

 

「「「・・・!」」」

 

追いついたプリキュアたちは、バテテモーダと同じように驚くばかりだ。

 

「プリキュアよ、今です」

 

「えっ・・・あ、はい!」

 

先代似のプリキュアに言われ、呆然と見ていたプリキュアの3人はハッとした後に頷く。

 

3人はミラクルヒーリングボトルをステッキにセットする。

 

「「「トリプルハートチャージ!!」」」

 

「「届け!」」

 

「「癒しの!」」

 

「「パワー!」」

 

グレース、フォンテーヌ、スパークルの順で肉球にタッチしていき、ステッキを上に掲げる。すると、花畑が広がっていき、背後には自然豊かな森が広がっていく。

 

「「「プリキュア! ヒーリング・オアシス!!」」」

 

3人は一斉にメガビョーゲンへとステッキを構え、ピンク・青・黄色の3色の光線が螺旋状になって放たれる。螺旋状の光線は混ざり合いながら一直線にメガビョーゲンに直撃する。

 

螺旋状になった光線はそれぞれの色の手へと変化して、3本の手が風のエレメントさんを優しく包み込んでいく。

 

3色に光るハート状にメガビョーゲンを貫きながら、光線はエレメントさんをメガビョーゲンから外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンたちは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「「「「「お大事に」」」」」」

 

風のエレメントさんが吹流しへと戻っていくと、広範囲に蝕まれたすこやか山は元に戻っていき、元の山の自然の豊かさを取り戻していく。

 

「おいおい!? お嬢があんなに蝕んだのに・・・!?」

 

あんなに強力だったクルシーナのメガビョーゲンが浄化されたことに、驚きを隠せないバテテモーダ。

 

「フフフ、アッハハハハ!!! いいねいいねぇ! 強さはあの時のあいつと全く変わってない! これから楽しみねぇ!」

 

クルシーナは自分がようやく相手になりそうな、あいつとは違うが、強さはほとんど変わらないプリキュアが現れたことに笑い声を上げながら言うと、そのまま撤退しようとするが・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

ふとあることを思い出して、その方向を睨むように向く。それは自分の光弾を打ち消したあの黒い光線が飛んできた方向だ。

 

あいつは、あのプリキュアが放ってきたものとは違う、別の何かだ。ということは、自分の邪魔をした何者かがやったに違いないのだ。

 

ーーーー確かめないことには、アタシのモヤモヤが晴れない・・・。

 

クルシーナはそう思うと、黒い光線が飛んできた方向へと歩いていく。

 

「お嬢? どこ行くんすか・・・?」

 

「・・・アンタは先に帰ってて。あとお父様に報告ね」

 

クルシーナはバテテモーダにそれだけ言うと、その場から姿を消す。

 

「えぇ!?・・・ま、まぁ、ちょっと楽しくなってきたんで・・・」

 

彼女の唐突な行動に驚きの声をあげるも、楽しみが増えたと笑みを浮かべながら、彼もその場から姿を消す。

 

「フゥ・・・・・・」

 

すこやか山の自然が戻り、安心したラテはその場で倒れてしまう。

 

「「「ラテ様!!」」」

 

プリキュアたちは変身を解き、相棒のヒーリングアニマルたちと共にラテに駆け寄る。

 

「大丈夫!?」

 

「無理するから・・・!!」

 

「風のエレメントさんに頼もうぜ!! また、エレメントボトルを分けてくださいって!!」

 

「だね・・・!!」

 

今のラテは怪物に返り討ちにあったばかりか、元々体調も悪い状態、これはもうエレメントさんの力を借りるしかないとそう判断したプリキュアのみんな。

 

しかし、そこへ近づいてくるものがいた。

 

「その必要はありません」

 

「「「!?」」」

 

それは先程、あんなに大きかったメガビョーゲンを圧倒した先代にそっくりのプリキュアだった。

 

先代似のプリキュアは祈るように手を合わせると体を光らせる。すると、プリキュアは金髪のロングヘアの女性へと変化し、その手元にはのどかたちが見たことがあるボトルがあった。

 

「「「「「「えぇっ!?」」」」」」

 

その様子に驚くしかないのどかたち。

 

「エレメントさんじゃないのに、風のエレメントボトルを生んだペエ・・・!!」

 

その出来事にはペギタンたちヒーリングアニマルも驚きを隠せない。

 

その様子を尻目に、女性はラテを優しく抱きとめると風のエレメントボトルを首輪へとかざす。

 

「ワフ~ン・・・」

 

すると、ラテの傷はあっという間に良くなった。ラテは気のせいか体調もよくなった気がする。

 

「人間界で負った病が残ってしまうのですね・・・あぁ、お気の毒なラテ様・・・」

 

「ウゥ~ン・・・ワン、ワン・・・」

 

ラテは不思議そうに金髪の女性を見やると、女性は悲しそうにラテ様を抱きしめる。

 

「先代のプリキュアって大昔の人なのよね・・・?」

 

「なんでラテのこと知ってるの!?」

 

「その前になんで現代に現れたラビ!?」

 

ちゆたちは驚きを隠せないままだ。大昔の人であれば、ラテのことを知っているはずがないし、ましてや人間がそんなに長く生きられるわけがない。本当に不思議な雰囲気の女性だ。

 

しかも、なぜ今になって彼女は姿を現したのか・・・?

 

「プリキュアさん・・・あなたは一体・・・誰なんですか・・・?」

 

のどかが神秘的な女性に声をかけると、彼女は優しい微笑みを浮かべる。

 

また、ちゆは少し気になることもあった。

 

「さっきの黒い光線も、あなたなの・・・?」

 

「そうだよ、さっきラテへの攻撃を庇ってくれたのは・・・?」

 

「? それは私ではありませんが・・・?」

 

「「「えっ!?」」」

 

先程、ラテに攻撃しようとしていたクルシーナの光弾を吹き飛ばしたのが、彼女じゃない?

 

ちゆやひなたは黒い光線が飛んできたであろう場所を見つめる。

 

じゃあ、この女性とは別に、黒い光線を放ってきたのは、一体誰だったのか?

 

目の前にいる先代のプリキュア、ラテを庇った黒い光線・・・のどかたちは疑問を抱くばかりであった。

 

そして、戦いはまだ終わっていなかった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら、泣いている声は無くなったようだな・・・」

 

すこやか山の林の中、あのフードを被った少女はコスプレをした少女たちや子犬が無事なのを察すると、その場から歩いていく。

 

「よし、早くここから離れないと・・・!」

 

少女はその場から足早にすこやか山から立ち去ろうとする。ビョーゲンズの誰かに見つかってもあれだし、何よりもここは私にとっては環境が良すぎて息苦しい。

 

この息苦しい場所に長居はできないと、山の中枢あたりまで走って降りていくフードの少女。

 

シュイーン!!

 

しかし、そこへ彼女の背後から風を切るような音が聞こえてきた。

 

「おい」

 

「!?」

 

不機嫌そうな攻撃的な口調、かけられた声にフードの少女はビクッと震える。

 

「さっきアタシの邪魔をしたの、お前か?」

 

クルシーナが不機嫌そうな声で問うも、フードの少女は沈黙したまま何も答えない。

 

その態度にクルシーナの表情が顰められる。

 

「そもそもお前は誰だ? 見たところプリキュアでも無さそうだし、何よりもアタシたちと同族の気配がするんだよ、お前からは」

 

クルシーナは次々と指摘するも、フードの少女は何も答えようとしない。しかし、よく見ると見えている顔、頬の部分には緊張したように汗をかいているのが見えた。

 

少女は緊張から喉をゴクリとさせると、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

 

「ふっ!!」

 

ビィィィィィィィィ!!!!

 

フードの少女は振り向きざまに、プリキュアたちとよく似たステッキを向けて黒い光線を放つ。

 

クルシーナはこういう攻撃を予測していたのか、冷静に首を傾けるだけで光線を交わす。

 

「へぇ・・・アタシとやろうってわけ?」

 

クルシーナは相手が攻撃を仕掛けてきたことに、不敵な笑みを浮かべる。

 

ビィィィィィィィィィィ!!!!

 

そして、クルシーナの背後から電撃をまとった光線と冷気をまとった白い光線が同時に飛んできた。

 

「!?」

 

突然の攻撃に驚きつつも、フードの少女は転がるようにして光線をかわす。

 

「やっと見つけましたよ」

 

「メガビョーゲンの気配のせいで探すのに苦労したの・・・」

 

彼女の背後から現れたのは、ドクルンとイタイノンだった。

 

「ねぇ、アンタたち、あとでどういうことだか説明してくれる?」

 

「あとで好きなだけ話してあげますよ」

 

「まずはあいつを捕まえるの」

 

「っ・・・・・・」

 

フードの少女は立ち上がると後ずさりをしていき、逃げようと駆け出していく。

 

「捕らえろ!!」

 

クルシーナは右手からイバラビームを放って、フードの少女を捕らえようとするも、ビームは逃げた近くの木に絡まって外す。

 

「ちっ・・・・・・!!」

 

どんどん遠くへと走っていくフードの少女に舌打ちをすると、クルシーナは飛び出して追っていく。まずはあいつの行動を止めようと、ピンク色の光弾を次々と放っていく。

 

そして、その背後から追っていく二人はそれぞれ黄色の光弾と水色の光弾を、フードの少女に目掛けて放つ。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・!!」

 

ビョーゲン三人娘に追われるフードの少女。彼女は必死で走りながら、光弾に当たらないように避けていく。

 

なんだかよくわからないが、あいつらが相手だと何故か分が悪い。早く逃げて、追っ手を巻かないと・・・・・・。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

フードの少女は巻きやすい林の中へと逃げ込んでいく。

 

「すばしっこいやつなの・・・!!」

 

「これでは見えなくなりますね・・・」

 

ドクルンとイタイノンが険しい表情をする中、クルシーナは冷静な表情をしていた。

 

「・・・ふん」

 

クルシーナは右手からイバラビームを木へと目掛けて放った。

 

バキ、バキバキバキバキバキ!! ドォーン!!!!

 

ビームは木を貫くと、根元から折れて激しい音を立てて倒れていく。

 

「隠れてるなら、炙り出してやるまでよ」

 

そう言い放ってイバラビームを別の木へと打ち、同様に大きな音を立てて倒れる。

 

(なっ、なんて無茶苦茶な奴なんだ・・・!?)

 

林の中に隠れているフードの少女はクルシーナが取った行動に驚きを隠せない。

 

(と、とにかく、ここから離れないと・・・!!)

 

フードの少女は見つからないように匍匐前進をしながら、その林の中を抜け出そうとするが・・・・・・。

 

「!! そこか!!」

 

クルシーナが気配を感じた場所に、イバラビームを放つ。しかも、それはちょうどこのフードの少女がいる場所であった。

 

「!? うわぁっ!!!」

 

ビームが近づいてくるのを察したフードの少女は咄嗟にそこから飛んで林から抜け出す。そして、急いで立ち上がり、三人娘から離れようと駆け出していく。

 

「待てなの!!」

 

それを見ていたイタイノンは口から雷撃を放つ。

 

「随分と往生際の悪い女ですね」

 

ドクルンは指先から白い光線を放つ。

 

「っ!!」

 

フードの少女はそれらを、体を翻しながらかわす。そして、そのまま彼女たちからどんどん距離を離していく。

 

三人娘は足を止めることなく、フードの少女を追っていく。

 

一方、フードの少女は背後から迫る三人娘を見つつ、走っていくが・・・。

 

「!? うわぁ!」

 

体か傾くような感覚に陥り、なんとか踏ん張ってその場に止める。彼女の目の前には崖が広がっていた。

 

フードの少女は逃げ場を失って、追い詰められてしまったのだ。背後を振り向けば、そこには無情にも三人娘が自分へ迫ってくる。

 

「もう逃げられやしないよ」

 

「大人しく一緒に来てください」

 

「どうせお前の居場所なんか、この地球のどこにもないの」

 

三人娘は口々に言いながら、フードの少女への距離を詰めていく。

 

「っ・・・!!」

 

フードの少女は背後と前を見ながら、険しい顔をする。目の前には関わりたくない奴ら、背後には底が見えない崖・・・・・・。

 

しかし、彼女にはある秘めた思いがあった。

 

「わ、私は・・・!!」

 

フードの少女は言葉を紡ぎながら、背後へと下がっていく。

 

「お前たちと一緒に居るくらいなら・・・!!」

 

さらに背後へ下がっていき、足が地面に着く寸前までになる。

 

「私は・・・地獄でもいい・・・!!!!」

 

フードの少女はそう叫ぶと、背後の崖に向かって飛んだ。

 

「!!?? 捕らえろ!!!」

 

クルシーナはフードの少女の予想外の行動に目を見開き、とっさに片手からイバラビームを放つ。しかし、寸前で届かず彼女は下へと落ちていく。

 

三人娘が駆けつけて崖下を覗く頃には、フードの少女の姿は消えていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナは見えていない崖下を静かに見つめる。

 

「・・・ねえ、アンタら」

 

「・・・?」

 

「・・・何?」

 

クルシーナの声に、ドクルンとイタイノンが反応する。

 

「・・・これはどういうことか説明してくれる?」

 

「・・・見ればわかるでしょう。追ってるんですよ、今のやつを」

 

「パパの命令なの」

 

「お父様の・・・?」

 

クルシーナが冷たい声で問うと、ドクルンとイタイノンはキングビョーゲンの命令であることを話す。

 

「しかも、あのビョーゲンズ、あなたが管理している植物園から出てきたみたいなんですよ」

 

「花の蜜の匂いがすごかったの」

 

「アタシの植物園・・・?」

 

クルシーナはそんな思うところがあっただろうかと考えると、ふと思い出す。

 

もしかしたら、以前、植物園に埋めたキュアグレースから取り出したあの黒いバラ、あれを埋めたところから誕生したやつかもしれない。

 

「ふーん、なるほどね・・・」

 

クルシーナは何かを感じたかのように、不敵な笑みを浮かべる。

 

「ああ、そうそう。二人とも」

 

「「??」」

 

「現れたわよ、あいつが」

 

「あいつって誰ですか?」

 

「もっと詳しく言え、なの」

 

「アタシたちが占拠した街に現れたあのプリキュアよ」

 

「「っ!?」」

 

二人はクルシーナが発した言葉に驚きを隠せない。そんな、まさか・・・・・・。

 

ドクルンとイタイノンは顔を顰めながら口を開く。

 

「・・・それは本当ですか?」

 

「嘘ついて私たちを煽ってるんじゃないか? なの」

 

「本当よ。間違いないわ。アタシたちが消しとばしたはずの、あのプリキュアにそっくりだったわ」

 

ニヒルな笑みを浮かべながら言うクルシーナに対し、ドクルンとイタイノンは真面目な表情を浮かべる。

 

「まあ、とりあえず、お父さんに報告しましょうか」

 

「一応、バテテモーダにも頼んだけど、アタシたちも行きましょうか。・・・いろいろと聞きたいこともあるし」

 

メガネを上げながらドクルンがそういうと、クルシーナは必要ないと思いつつも、聞きたいことも山ほどあったため、一旦キングビョーゲンの元へ戻るとする。

 

「っ・・・・・・・・・」

 

「どうしたの? イタイノン」

 

そんな中、イタイノンがすこやか山に視線を向けていることに、クルシーナが声をかける。

 

「・・・お前、さっきメガビョーゲンを暴れさせたところ、行ってみるといいの」

 

「? なんでよ?」

 

イタイノンがこちらに笑みを浮かべてきたことに、疑問を抱くクルシーナ。

 

「きっといいものがあるの・・・」

 

ゴシックロリータの意味深な言葉に、クルシーナは首を傾げるのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第54話「欲望」

原作第20話がベースになります。


 

ビョーゲンキングダム、そこにはバテテモーダの姿があり、彼は一人、主人であるキングビョーゲンに報告しにやってきていた。

 

「古のプリキュアが現れた・・・・・・?」

 

バテテモーダからクルシーナの邪魔をした先代のプリキュアのことを聞かされると、キングビョーゲンの様子はいつも以上に厳かな雰囲気だった。

 

「似てるってだけでまだ確定じゃないんっすけど、とりま、ご報告を・・・」

 

そこまで話したバテテモーダに、キングビョーゲンの様相が変わった。

 

「潰せ・・・!!!」

 

「いぃ!?」

 

淀んだ顔を寄せてきたキングビョーゲンに、バテテモーダは思わず顔を引きつらせる。

 

「テアティーヌとそのパートナー・・・大昔から目障りであった」

 

厳かな声で言うキングビョーゲンは、さらにバテテモーダにその淀んだ顔を近づける。

 

「さっさと潰してこい・・・!!!!」

 

「ひぃ!? りょ、了解っす!!」

 

目までも大きく開かせて命令するキングビョーゲンに、さらに顔を引きつらせながら答えるバテテモーダ。

 

しかしそれとは別に、バテテモーダにはキングビョーゲンに頼みたいこともあった。

 

「つきましては・・・」

 

「何だ・・・?」

 

「この仕事、成功したらでいいんですが・・・!」

 

バテテモーダは手をこまねきながら、彼にあることをお願いした。それは・・・・・・。

 

「何が望みだ・・・?」

 

「グアイワルたちボンクラトリオよりも、このバテテモーダに指揮権を。そして、自分をキングビョーゲン様の一番の部下に、お嬢たちと一緒に並ぶような存在にしてくだされば、地球などあっという間に蝕み尽くしてみせます」

 

バテテモーダが邪悪な笑みを浮かべながら、欲しいのはお嬢たちと同じ必要とされる存在、そしてキングビョーゲンの娘と同じような位になって、キングビョーゲンとクルシーナら、主人の娘たちに認められたいという思いであった。

 

所詮、グアイワルやダルイゼンたちなどは自分を出世のために利用しているだけで、何一つしてくれず、大して仕事すらもしないボンクラな連中の集まりだ。逆にお嬢たちは自分にアドバイスをくれたり、一緒に仕事をしたりしてくれた。あいつらがロクに動いていない以上、これはチャンスだ。

 

ここで地球全体を病気に蝕んでやって、自分がキングビョーゲンや娘たちと同じような位に立てれば、グアイワルたちをギャフンと言わすこともできれば、娘たちも自分が特別な駒であることを認めてくれるはずだ。そう思い、バテテモーダは一大決心をしたのであった。

 

それを聞いていたキングビョーゲンは・・・・・・。

 

「よかろう。あの目障りなプリキュアを始末できればな・・・!」

 

バテテモーダの望みを承諾した。キングビョーゲンは元々バテテモーダを使えるやつだと思っていたので、あの力と勢いがあれば達成できると思い込んだのだ。

 

それを聞いたバテテモーダは、表情に喜びを出すと自身の主人に頭を下げる。

 

「ありがとうございます。このバテテモーダ、必ずや仕事を成功させてみせます!」

 

バテテモーダはそう言うと、意気揚々と出撃していったのであった。

 

彼がいなくなり、顔だけの王のみが残された空間で、キングビョーゲンは何かの気配を感じる。

 

「・・・そこにいるのであろう? お前たち」

 

誰もいない空間にキングビョーゲンが声をかけると、彼の近くに瞬間移動して3人の少女のような幹部たちが現れる。

 

それは自身の父親と称する彼に会いに来ていたクルシーナ、ドクルン、イタイノンのビョーゲン三人娘だった。

 

「ええ、いたわよ」

 

「さっきのやり取りもバッチリ聞いてました」

 

「随分な願いをパパに言ったものなの・・・」

 

それぞれが思い思いの言葉を吐く。お先にビョーゲンキングダムに戻ってきたバテテモーダに報告に行かせたのはクルシーナだが、まさか自身の父親にお願いをするやつがいるとは思わなかった。

 

それにしても、あいつの言う願いときたら・・・・・・。

 

「お父様の一番の部下とか、アタシたちに並ぶ存在にしてほしいとか、何言ってんだか・・・」

 

「アタシたちと同じ存在になれるわけないでしょうに・・・」

 

「あいつと私たちでは生まれた過程も存在も違うの・・・」

 

三人娘はどうやら呆れているようだった。そもそも、あいつと自分たちでは何もかも違っているのだ。それはダルイゼンやグアイワルたちにも言えることだ。

 

「あいつがアタシたちになれるわけがないじゃない。だって、アタシたちはお父様の力によって生まれた究極の存在なんだからさ」

 

「私たちにできて、ダルイゼンらにできないことはたくさんありますが・・・」

 

「ダルイゼンたちにできて、私たちにできないことはないの」

 

そうだ。自分たちはダルイゼンやバテテモーダたちとは格も力の差も違う。生まれたばかりのぽっと出のやつや、宿主がいなければ誕生すらもできないあいつらとは違う。自分たちはそのぐらい究極の存在なのである。

 

そんな自分たちに近づこうなど、あの新人は生意気にも程があるのだ。そもそも、あの古のプリキュア似のあいつに勝てるかどうかもわからないくせに・・・・・・。

 

「・・・ヘバリーヌはどうした?」

 

キングビョーゲンが自分の娘たちが一人いないことを問う。

 

「あいつは作戦実行中よ。あの街を着実に病気にしてるところだから」

 

「散々時間稼ぎをしたわけですから、成功してもらわないと困りますけどね」

 

「今頃、街は真っ赤っかなの」

 

「そうか・・・」

 

不敵な笑みを浮かべながら言う三人娘。プリキュアを追い詰めたとはいえ、あそこまでお膳立てをしたのだ。成功してもらわないと自分たちはただ働きをしたも同然である。

 

「ところで、お父様」

 

「何だ・・・?」

 

クルシーナは真面目な表情に戻して、逆にキングビョーゲンに声をかける。

 

「脱走者の件なんだけどさ」

 

脱走者のことを調べていたクルシーナは、真面目な口調でそれらのことを話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キングビョーゲン様に啖呵を切ったのはいいけど、なんか一気に病気に蝕めそうなもんねぇかな~?」

 

地球へと降りたバテテモーダはそんなことを言いながら、クルシーナが発生させたメガビョーゲンのいたすこやか山のあたりをうろうろしていた。

 

自分が戦うのを楽しみにしているあの先代のプリキュア。しかし、あの様子ではメガビョーゲンを呼び出したところですぐに浄化されてしまうのが目に見えている。

 

何か一発逆転を狙えそうなものはないものか・・・・・・。

 

そんなことを思っている最中だった・・・・・・。

 

「バテテモーダ」

 

「ん?」

 

彼の声を呼ぶ少女の声が聞こえる。それに振り返ってみるとクルシーナの姿があった。

 

「クルシーナお嬢!!」

 

「アンタ、頑張ろうとしてるみたいじゃない」

 

木の陰から姿を現したクルシーナはバテテモーダに近づく。

 

「え、えぇ、自分もあいつらに負けたくないっすからね!!」

 

バテテモーダは頭を掻きながら照れる。

 

「私たちは感謝しているのですよ。ヘバリーヌもそうですが、あなたもちゃんと働いてくれますからねぇ」

 

「!! ドクルン嬢も!?」

 

ドクルンも彼の背後から現れたことに、バテテモーダは驚く。

 

「お前はなんだかんだでやってくれてるの」

 

「イ、イタイノン嬢まで!!」

 

さらに別の背後からはイタイノンが姿を現していた。

 

「そんなアンタに、アタシたちからささやかなプレゼント!」

 

クルシーナはそう言うと右手から緑色のかけらのようなものを取り出す。

 

「・・・それは何っすか?」

 

「メガビョーゲンのかけらみたいなやつ。大きく成長したアタシたちのメガビョーゲンから取れたってわけ」

 

そう言うクルシーナも、密かに自分のメガビョーゲンから手に入れていたのだ。

 

それはキングビョーゲンへの報告に向かう前のこと・・・・・・。

 

すこやか山でイタイノンが何かの気配を感じて、その場所を三人娘で探していた。

 

『確か、メガビョーゲンを暴れさせてたのはこのあたりのはずだけど・・・』

 

クルシーナもそういえば気配を感じたなと思い、探そうと思っていたのでちょうど良かったと感じていた。

 

クルシーナがメガビョーゲンがいた場所をうろうろと探していると、何かが当たったのを感じて足元を見る。

 

そこにはウネウネと動く布の切れ端のようなものが散らばっていた。

 

『もしかして、これかしら・・・?』

 

この布の切れ端のようなものから気配を感じた模様。これはおそらく自分の作ったメガビョーゲンがあの先代のプリキュアに切り落とされて散らばったもの。それが浄化されても消えずに残っていたのであろう。

 

その切れ端をしばらく見つめていると、8個の禍々しい赤が澱む緑色のかけらのようなものに変化する。

 

『これは・・・?』

 

疑問に思いながら緑色のかけらを拾い上げるクルシーナ。手で触れてみるとドクンドクンと心臓の音のような何かを感じ、このかけらは自然と同じように生きてるって感じがする。

 

『なるほどね・・・』

 

クルシーナはかけらを頬ずりしながら不敵な笑みを浮かべる。これは何かに使えそうだと・・・。

 

そして、現在までクルシーナは、ドクルンやイタイノンと同じようにかけらを持っているのだ。

 

「これ頑張ろうとしてるアンタにアタシたちからあげる」

 

そう言ってクルシーナはバテテモーダの足元にかけらを放る。

 

「一個じゃ足りないと思うので、私からもあげますよ」

 

「感謝してほしいの」

 

ドクルンとイタイノンも、バテテモーダにかけらを一個ずつ放る。

 

「あ、ありがとうっす!! このバテテモーダ、お嬢たちにこんな素敵なものをもらえて感謝感激っす~!!」

 

バテテモーダはキングビョーゲンの娘からのプレゼントに、瞳をキラキラとさせながら涙ぐむ。今から地球を広範囲に蝕む前に、お嬢たちからこんな素敵なプレゼントをもらえるなんて、感謝するしかなかった。

 

「頑張ってきなさいよ」

 

「いい報告、待ってますよ」

 

「お前の活躍、少しは期待してるの」

 

「ありがとうっす、お嬢たち!! 自分、必ずやり遂げてみせるっす!!!」

 

三人娘に激励の言葉をかけられたバテテモーダは気を良くしながら、すこやか山の奥へと入っていった。

 

「行ったな・・・」

 

「行きましたね・・・」

 

「行ったの・・・」

 

バテテモーダの姿が見えなくなったのを見届けた後、口々にそう言うと彼の歩いていく方向とは逆に背を向けながら歩いていく三人娘。

 

「本当に純粋で利用しがいのあるやつね」

 

「甘い言葉をかければすぐに気をよくする・・・あいつは本当に無垢で可愛いやつですねぇ」

 

「自分が利用されてるだなんて、思ってもいないの」

 

「カワイイ♪ フッ、フフフ・・・」

 

「フフフ・・・・・・」

 

「キヒヒ・・・・・・」

 

その三人娘はクスクスと笑いながら歩く。その口元には邪悪な笑みが浮かんでいた。

 

一方、三人娘と別れて、一人山の奥へと行くバテテモーダ。

 

「フンフ~ン♪ イェ~イ♪」

 

三人娘に活躍を褒められ、ささやかなプレゼントをもらって気を良くしていた彼は歌いながら歩いていた。

 

「おい、バテテモーダ」

 

すると、そこへ背後から男性の声が聞こえてくる。

 

「っ・・・ちっ・・・!!」

 

聞いたことがある声だったため、思わず舌打ちをする彼。今、気分良く歌っていたのに、寄りにもよって偉そうなだけのこいつに会うなんて・・・!!

 

バテテモーダは取り繕うとしばらく前を向いた後、背後にいる男性の方を振り向く。

 

「あれぇ? なんっすかぁ? グアイワルせんぱ~い♪」

 

バテテモーダはヘラヘラした口調で目の前を歩いてくる先輩ーーーーグアイワルに声をかける。

 

「お前、あいつらからもらったメガビョーゲンのかけらを持っているだろう?」

 

不敵な笑みを浮かべながら話すグアイワル。どうやら自分がお嬢たちからもらっている緑色のかけらを狙っているようだ。

 

「な・・・えぇ? なんなんっすかぁ? 急に~♪ ぐわぁ!?」

 

バテテモーダはとぼけようとするが、すぐに近づいてきたグアイワルに胸ぐらを掴まれる。

 

「ごまかすな。見ていたんだ! 俺はぁ。お前がクルシーナたちにかけらを渡されるのをなぁ!」

 

どうやら三人娘に会っていたのを、寄りにもよってこいつに見られていたらしい。普段から何もしないボンクラトリオの一人に。

 

「くっ・・・!!」

 

「よこせ」

 

グアイワルは尊大な態度で命令する。バテテモーダは一瞬渡すかどうか迷ったが、今自分の一世一代の作戦を邪魔されるのは不都合だ。かけらはいくつか持っているし、渡せばこいつも引き下がるだろう。

 

「っ・・・もぉ~!! っと、しょうがないなぁ~」

 

バテテモーダはグアイワルから手を引き剥がすと、渋々ポケットからかけらを一個取り出す。

 

「グアイワル先輩には特別っすよ~!」

 

そう言いながら嫌な先輩に差し出す。グアイワルはそれをひったくるように受け取るが・・・。

 

「まだあるだろう」

 

「えぇ!?」

 

グアイワルはまだかけらがあると疑っている。全然ごまかしきれていなかった・・・。

 

グアイワルはさらにかけらを手に入れようと、バテテモーダの体を無理矢理弄り始める。

 

「よこせ!! 後輩の手に入れたものは、俺のものだ!!!!」

 

「お、お嬢たちからもらったんすよ!! お嬢たちからもらえばいいじゃないっすかぁ!!」

 

「う、うるさい!! さっさとよこせ!!!」

 

単純に三人娘にお願いしてもらえばいいのに、わざわざ自分からもらう必要はないはず。なのに、それでもバテテモーダからかけらを取ろうとするグアイワル。

 

理由も単純だ。クルシーナたちはキングビョーゲンの娘なのだ。そんな貴重な体の幹部に、手を出したなどとあいつらから報告されてしまえば、グアイワルはあっという間に主人に消されるだろう。

 

だから、バテテモーダがかけらを手に入れたことは自分にとって都合がよかったのだ。

 

「わ、わかった!! わかりましたって!!」

 

弄られるくすぐったさに耐えられなくなったバテテモーダはグアイワルの手から逃げ出すと、懐から緑色のかけらをもう一個取り出す。

 

「全部あげますから・・・!!」

 

「さすが、俺の子分だ。フッハハハハハハハ!!!!」

 

グアイワルは差し出されたかけらを取ると、笑顔でバテテモーダの肩をトントンと叩くと、そのまま彼に背を向けて笑いながら去っていく。

 

バテテモーダはそんな横柄な先輩の態度に、忌々しそうに顔を顰める。

 

「あざーっす・・・」

 

グアイワルの背に向けて体裁だけの感謝の言葉を投げかける。

 

そして、バテテモーダはしめしめといったような感じの邪悪な笑みを浮かべる。そんな彼が懐から取り出したものは・・・・・・グアイワルに渡したものと同じ緑色のかけらだった。

 

バテテモーダは全部渡すフリをして、かけらを一つ隠し持っていたのだった。

 

「本当に全部渡すバカがいるかよ。こいつは、俺とお嬢たちのために使わせてもらうぜぇ」

 

お嬢たちからせっかくもらったものを、あんな奴に全部渡してたまるものか。バテテモーダは、うまくいったと言わんばかりの不敵な笑みを浮かべた。

 

さて、そろそろ頃合いだ。地球全体を病気で蝕むための準備をしなくては・・・・・・。

 

バテテモーダはそんなことを思いながら、自慢の鼻で匂いを嗅ぎながら怪物にする素体を探す。

 

ふと、山の林を抜けてみるとそこには青色のパネルがついたような建物が並んでいるのが見えた。

 

崖の近くまで来てみると、その匂いは余計に強くなり、彼にとっては強烈な不快感が増してきた。

 

「ヘヘっ、くっせぇ・・・」

 

バテテモーダはそんなことを吐き捨てながら、顔を顰める。

 

「自然の力をたっぷり溜め込んだ匂いがするぜぇ・・・!!」

 

不快な匂いを感じたのは、あの青いパネルからだ。ビョーゲンズの自分にとってはイライラするほどの天気のいい日、そんな季節だからこそあのパネルは一層嫌な感じがする。

 

あれだったら、いいメガビョーゲンを生み出せるかもしれない・・・!!

 

そう思ったバテテモーダは侵攻する準備をするため、メガビョーゲンを生み出すことにする。

 

両腕を交差させつつ小躍りをし、黒い塊のようなものを出す。そして、自身の両手を合わせる。

 

「進化ベイベー、ナノビョーゲン!」

 

「ナノッス~!」

 

彼から生み出されたナノビョーゲンは、一直線に青色のパネルへと取り憑いていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

息を切らしながら歩く、フードを被っている少女。その足取りは足を引きずりながら歩いているようにすら見える。

 

「ここは・・・どこなんだ・・・?」

 

疑問を抱きつつも、歩く足取りを止めようとしない少女。

 

自分を襲ってきたビョーゲンズから逃げてきたのはいいが、崖から落ちた先で数分気絶していたためにどこを歩いているのかすらもわからなくなってしまった。

 

よく見れば、フードはホコリだらけで顔にも擦ったような傷が付いている。

 

それに・・・ここも変わらず、空気が澄んでいて息苦しさを感じる。

 

周りは木や葉っぱだらけで、何もない。自分がもはや、どこを歩いているのかもわからない。

 

グゥ~~~!!!

 

「っ!?」

 

少女は自分の腹部が鳴ったことに違和感を感じ足を止める。思わずお腹を抑える彼女だが、これがどういうことなのか自分にもわからない。

 

「とにかく、あいつらから逃げないと・・・!」

 

そう言いながら、足を引きずるようにして前へ進もうとする少女。自分がどこに向かっているかもわからない中で、私は一体何をしようとしているのだろうか?

 

そんな疑問を抱きながら進んでいた、その時だった・・・。

 

「!?」

 

何かの気配を感じて目を見開き、足を止める。

 

「誰かが・・・泣いている・・・?」

 

誰かが泣いているような、苦しんでいるような、そんな声が聞こえてきた気がする。

 

しかも、この気配、逃げてきたあいつらとは違うが、それでも同等の気配がする。そこから泣いている声も聞こえてくる。

 

「行かないと・・・!!」

 

何かはよくわからないが、行かないといけない気がする。そんな思いから、フードの少女は足の痛みも忘れて林の中を走っていく。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

汗が出るのも構わず、ステッキを構えたまま走り続ける少女。

 

一体、私は・・・どこへ向かっているのだろうか? 何をしようとしているのだろうか? 衝動的にあの部屋から飛び出してきたから、よくわからない。

 

自分は一体、誰なのか・・・・・・?

 

夢中で走りながらも、そんなことを考えてしまう。

 

そして、林の中を抜けて明るさを感じ、少女が見た光景は・・・・・・。

 

「なっ、何だ・・・これは・・・?」

 

動揺するフードの少女。その光景は建物が多く広がっている光景だが、そのほとんどが赤い靄がかかっていた。

 

どうやら人間が住んでいる場所のようだが、近くの畑や街路樹にも赤い靄がかかっている。

 

「メガァ・・・・・・」

 

「!?」

 

声がする方向に驚いて振り向くと、球体の怪物が口から赤い光線を吐きながら建物に赤い靄をかけていた。どうやらこの赤い靄は怪物の仕業のようだった。

 

しかも、怪物はあの山で見たものと同様、かなりの大きさになっている。

 

さらにその近くには、白い服を着た少女が座り込んでいる。

 

「フンフンフーン♪ お姉ちゃんいないとつまんないなぁ~・・・」

 

少女は足をぷらぷらとさせながら、怪物が赤い光線を吐くのを見つめている。

 

フードの少女は違和感を感じ、体を震わせる。

 

あの少女はなんだ・・・? なんだか私を追っていた奴らと同じ気配がする。

 

それだったら、こんなところにいるわけにはいかない。早く逃げないと・・・!

 

しかし、そんな思いとは裏腹にフードの少女は衝動的に黒いステッキを構える。

 

なんだろう・・・なんだかわからないが、あの怪物は止めなければいけない気がする・・・・・・。

 

二つの感情が交差する少女。ステッキを握る手を震わせる。

 

「くっ・・・!!」

 

表情は歯を食いしばりながらも、顔が緊張で険しくなっていく。

 

しかし、泣いている声はあの怪物から聞こえる・・・・・・。

 

そうだ。止めないと・・・。泣いているなら、泣き止ませないと・・・!!

 

何を思ったのか、フードの少女は緊張から汗を垂らしながらも、意を決したように駆け出していく。

 

「やめろぉ!!!!」

 

叫びながら少女は怪物へと駆け出し、目の前で飛び上がる。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

少女は黒いステッキから黒い光線を怪物に向かって放つ。

 

「メガァ・・・?」

 

黒い光線は怪物の背中に当たるも、全く通用していない様子。怪物は違和感を感じて、背後を振り向く。

 

「ん~? 誰~、あの子?」

 

白い服の少女ーーーーヘバリーヌは突然、自分の作り出した怪物ーーーーメガビョーゲンに光線を放つものが現れたことに驚く。

 

見たところプリキュアちゃんではなさそうだし、かといってあの子からはヘバリーヌちゃんと同じ同族の匂いがする。まるで違和感の塊としか思えない少女だ。

 

なんだかわからないが、ヘバリーヌちゃんの邪魔をするなら追いはらうだけだ。

 

「メガビョーゲン、そいつ邪魔だからぶっ飛ばしちゃってぇ~」

 

「メガァ・・・!」

 

メガビョーゲンはヘバリーヌに指示をされると、赤い球体のようなものを出現させ、そこから赤い靄のかかった風を少女に向かって噴射する。

 

「うっ・・・うわぁぁ!!」

 

吹き飛ばされて地面に落ちるフードの少女。

 

光線が効いていない・・・だったら・・・!!

 

フードの少女は空中で体勢を立て直して、建物の壁に足をつけるとロケットのように飛び出し、メガビョーゲンへと迫っていく。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

フードの少女はステッキを振り上げ、メガビョーゲンに向かってステッキを振り下ろす。

 

「メガァ?」

 

「な、なん、だと・・・!?」

 

ところが、メガビョーゲンに全く通用しておらず、呆然と目を見開く少女。

 

「メガァ・・・!!!」

 

「! あぁぁぁぁぁ!!!!」

 

メガビョーゲンはその場で高速回転して、フードの少女を吹き飛ばす。空中で体制を立て直す少女だが・・・・・・。

 

「メガァ・・・!」

 

「! うわぁっ!!!」

 

そこへメガビョーゲンがこちらに向かって飛んできて体当たりを繰り出した。攻撃を受けてしまった少女は地面へとコンクリートの地面に叩きつけられる。

 

「うぅ・・・くっ・・・!」

 

ボロボロになって倒れ伏したフードの少女。しかし、そこからステッキを杖代わりにして再び立ち上がろうとしていた。

 

グゥゥゥ~~~~~!!!!

 

「あっ・・・!?」

 

また、腹部から先ほどよりも大きな音がなる。気のせいか、音が鳴っていると力が抜けていくような感覚がする。

 

そんな彼女の前に、ヘバリーヌが降りてくる。

 

「ねぇ~、なんなの~? どうしてヘバリーヌちゃんのメガビョーゲンに攻撃したの~?」

 

「!?」

 

ヘバリーヌは猫なで声で話しかけつつも、感情のない顔で見つめてくる。フードの少女は体を震わせる。

 

こいつは、あいつらと同等の存在・・・!! 早くこいつから離れないと・・・!!

 

フードの少女が一歩前へ下がると、ヘバリーヌは一気に少女に詰め寄る。

 

「ひっ!?」

 

「キミも気持ちよくなりたいのぉ~?」

 

ヘバリーヌはそんな彼女に妖艶な微笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

のどかたちは自分を人間ではなく精霊だという金髪の女性に出会った。彼女はヒーリングガーデンの女王・テアティーヌの願いによって地球から生まれたものであり、そのせいで名前はまだないという。

 

女性はラテをヒーリングガーデンに連れ戻そうと連れて行くが、のどかの家の二階の窓から飛び出して落ちるなど、天然な一面を見せた。

 

それでも走って去ろうとする精霊をのどかたちは追いかけた。

 

ハート型の灯台のある場所で、ようやく追いついたのどかたちはその真意を問うと、彼女はラテを守るのが目的であるという。しかし、テアティーヌが連れて来いと言ったわけではなく、自分の勝手な判断であった。

 

ラビリンはテアティーヌがそんなことを言うはずがないと彼女を批判するも、彼女は守ることを連れ帰ることだというふうに主張。

 

のどかたちはこのようなやり取りから、精霊は生まれたばかりで本当に何もわかっていないと理解する。そこでラテの本音を彼女に聞かせてあげようとする。

 

そんな時だった・・・・・・・・・。

 

「クチュン!!」

 

ラテがくしゃみをし、彼女の体調が悪くなった。

 

「ラテ様!!」

 

「ビョーゲンズペエ!!」

 

のどかは聴診器を当てて、ビョーゲンズのいる場所を確認する。

 

(あっちの屋根で、おひさまが泣いてるラテ・・・)

 

「屋根でおひさま・・・?」

 

ラテの言葉は、いつも以上にアバウトな内容だった。そんなものがある場所ってどこかにあったっけ・・・・・・?

 

と、ハッとしたちゆが思い出したように口を開く。

 

「ソーラーパネルを設置してる工場がある・・・!!」

 

「それだ・・・!!」

 

このすこやか市には工場があり、何を作っているかはともかく、その工場の屋根にはソーラーパネルが付いている工場がある。彼女はそこが狙われたんじゃないかと察した。

 

「・・・・・・・・・」

 

体調が悪くなったラテを不安そうに見つめる精霊の女性。

 

「お願い、精霊さん・・・」

 

のどかの言葉にハッとしたように顔を上げる。

 

「ラテの言葉、ちゃんと聞いてあげてね」

 

そう言って聴診器を彼女に手渡す。精霊の女性は彼女を見つめていた。

 

「ね?」

 

「・・・わかりました」

 

のどかの優しい笑みに、精霊の女性は頷いた。

 

「行こう!」

 

「うん!!」

 

ひなたの言葉に、皆は頷き、のどかたちとヒーリングアニマルたちはメガビョーゲンの元へと駆け出していくのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第55話「急成長」

前回の続きです。


 

「とう!!」

 

「うわぁぁぁ!!!」

 

フードの少女は、ヘバリーヌが足から放った竜巻に吹き飛ばされ、地面を転がる。

 

「うぅ・・・!!」

 

「キミ弱いねぇ~♪ そんなんじゃ、ヘバリーヌちゃんは気持ちよくならないよ~?」

 

ヘバリーヌは倒れ伏したフードの少女へと近づくと、その場にしゃがむ。

 

「ほらほらぁ~♪ 立ち上がって、そのステッキでヘバリーヌちゃんを気持ちよくしてよぉ~♪」

 

「ひっ・・・!?」

 

フードの少女は、自分に妖艶な微笑みを浮かべるヘバリーヌに怯えた表情で見る。

 

彼女から感じる狂気・・・そして、得体の知れない力・・・フードの少女はまるで敵う気がしなかった・・・。

 

「その表情、クルシーナお姉ちゃんが好きな顔だね~♪」

 

ヘバリーヌはフードの少女の顔をじっと見つめながら、笑みを浮かべる。愛しのクルシーナお姉ちゃんが大好きな恐怖に怯えた表情、苦しむ表情、その全てがその顔に表れていた。

 

「あ・・・あぁ・・・・・・」

 

フードの少女は恐怖からその視線を反らすことができない。話した瞬間にやられる・・・そう心の中で感じていた。

 

「メガァ・・・・・・」

 

「あ・・・!」

 

ふとメガビョーゲンの声が聞こえて、そちらを振り向く。どうやら怪物はここら辺一帯を蝕み終えて、場所を移動しようとしている。

 

あの怪物から泣いている声が聞こえる。泣くのは良くない・・・早く泣き止ませないと・・・!

 

「うぅ・・・!!」

 

フードの少女は力を振り絞って立ち上がる。

 

「おぉ? 立ち上がってくれるの~? なら早く、ヘバリーヌちゃんをーーーー」

 

ヘバリーヌはフードの少女が再度立ち上がったことに機嫌良くすると、自分を攻撃してくれると期待したが・・・・・・。

 

ふとフードの少女はメガビョーゲンの方へと飛び出していく。

 

「えっ・・・?」

 

ヘバリーヌは訳がわからないという顔をした。あの少女は先ほどまでヘバリーヌちゃんを相手にしていたのに、突然自分が生み出した怪物の方に向かったのだから。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

フードの少女は飛び上がると、持っているステッキの先から黒い光の紐を鞭のように振るう。

 

「メガァ?」

 

メガビョーゲンは背中に何かが当たるのを感じ、こちらを振り向く。どうやら怪物にこの攻撃も通用していないようだった。

 

「はぁ!! やぁ!!!」

 

それでもなお光の紐を振るうフードの少女。

 

「メガ・・・メガァ!!!」

 

鞭のような攻撃はメガビョーゲンの顔に当たるが、右目を顰めたぐらいで大したダメージにはなっていない。メガビョーゲンは鬱陶しく感じたのか、赤い球体のようなものを出現させるとそこから強力な赤い風を吹き付けた。

 

「くっ・・・あぁぁぁ!!!」

 

黒い光の鞭は赤い風に吹き飛ばされ、それを振るっていたフードの少女も風に飲み込まれる。

 

吹き飛ばされて地面へと落ちるフードの少女。

 

「メッガァ!!!!」

 

「あ・・・!? うわあぁぁぁぁぁ!!!!」

 

さらにメガビョーゲンは赤い球体を禍々しく光らせるとそこから赤黒いレーザーを放つ。爆発に巻き込まれたフードの少女はさらに吹き飛ばされて、建物の壁に叩きつけられる。

 

「がぁっ・・・!!」

 

背中から思い切り打ち付けた少女は押し出されるように空気を吐き出し、その場に落ちて倒れ伏した。

 

「もぉ~、ヘバリーヌちゃんを無視するからそういうことになるんだよぉ~♪」

 

そこにヘバリーヌが近くへと降りてきて、フードの少女に近づく。

 

「うっ・・・あ・・・!?」

 

倒れ伏したまま呻く少女に、ヘバリーヌは彼女の顔を両手で添えるように自分の顔へと向かせる。

 

「よく見るとキミの顔も可愛いねぇ~♪ 気持ちよくしちゃいたいくらい♪」

 

「あ、あぁ・・・」

 

ヘバリーヌはそう言いながら、怯えるフードの少女の首に手をかけようとした。その時だった・・・・・・。

 

「!?」

 

ヘバリーヌはハッと目を見開き、何かを察したであろう方向に振り向く。

 

「この気配って・・・もしかして・・・!!」

 

何だか懐かしい気配を感じる。あの時とは反応が異なるが、この気配はもしかして・・・!?

 

ヘバリーヌはフードの少女から手を離すと、瞳をキラキラとさせながら笑顔を溢れさせると立ち上がり、その場から姿を消す。

 

「うっ・・・・・・」

 

一人残されたフードの少女は倒れ伏したまま呻く。メガビョーゲンとヘバリーヌ、両方から受けたダメージが大きいせいか立ち上がることができない。

 

(助かった・・・のか・・・?)

 

そんな中でフードの少女は、ヘバリーヌが別の何かを気にして自分の前から姿を消したことに安堵していた。

 

それと同時に両手をグッと強く握るように締める。あの3人と一緒で、彼女に言い寄られたことによる恐怖、自分がそれしか抱けなかったことに、自分の力では足元にも及ばないことに悔しい気持ちを抱いていた。

 

無力感を抱いていたが、まだ全部が終わったわけではない。

 

「メガァ・・・・・・」

 

メガビョーゲンはここ一帯を蝕み終えているため、フードの少女には目もくれずに移動しようとしていた。

 

あの怪物はまだ泣いている・・・。泣き止ませなければ、泣き止ませないと、なんだかわからないが、この街は大変なことになってしまう・・・!!

 

この街はよくわからないが、あの怪物を泣かせたままにするのはよくない気がした。

 

「くっ、うぅ・・・!!」

 

フードの少女は建物の壁を支えにし、体を震わせながら懸命に立ち上がる。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・くっ・・・!!」

 

息を切らしながらも、体をボロボロにしながらも、少女はメガビョーゲンを追っていく。あの怪物に泣き止んでもらうために・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラテを精霊の女性に任せて、メガビョーゲンがいると思われる工場へと向かうのどかたち。

 

「いた!! メガビョーゲン!!」

 

急いで走って向かっていき、工場が見えてくると、ソーラーパネルのような体にケーブルのような触手、太陽のような顔をしたメガビョーゲンが暴れる姿が見えた。

 

「ビョーゲン!!」

 

メガビョーゲンはケーブルのような触手から電気を放って、工場の屋根のソーラーパネルを赤い靄に染めていく。

 

「まずいラビ!!」

 

メガビョーゲンはまだ成長していないが、着実にこの場所を蝕んでいる。早くなんとかしなければ・・・・・・!!

 

のどかたちはこれ以上やらせないために、プリキュアへと変身していく。

 

「「「スタート!」」」

 

「「「プリキュア、オペレーション!!」」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

 

「「「キュアタッチ!!」」」

 

ラビリン、ペギタン、ニャトランがステッキの中に入ると、のどか、ちゆ、ひなたはそれぞれ花のエレメントボトル、水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

そして、肉球にタッチすると、花、水、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、水色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ちゆは水色、ひなたは黄色へと変化する。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「「「地球をお手当て!!」」」

 

「「「ヒーリングっど♥プリキュア!!」」」

 

3人は変身を終えて、すぐにメガビョーゲンへと立ち向かう。

 

「メガァ~、ビョーゲン!!!」

 

メガビョーゲンは片方の触手から電撃を放つ。フォンテーヌは飛び上がってかわす。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「メガァ!!」

 

フォンテーヌは空中で回転しつつ踵を落とすも、メガビョーゲンはケーブルで攻撃を防ぐ。

 

「やめなさい!! メガビョーゲン!!」

 

「メガァ!!」

 

「きゃあぁ!!」

 

フォンテーヌがそう叫ぶも、メガビョーゲンのケーブルに跳ね返されてしまう。

 

「フォンテーヌ!!」

 

そこへグレースが飛び上がって手を伸ばす。何かを察したフォンテーヌはグレースの手を伸ばして掴み、空中で回転させる。

 

「ビョーゲン!!」

 

そこへメガビョーゲンがケーブルを伸ばして攻撃する。

 

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

「メガァ!!」

 

それをスパークルがぷにシールドを展開して、ケーブルを防ぐ。

 

「今だよ!!」

 

体を翻したスパークルの足に、グレースとフォンテーヌが踏み台にし、スパークルが押すように蹴る。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

「メガァ!?」

 

そのまま二人はメガビョーゲンの背中に足を叩きつけて怯ませ、怪物は地面に倒れ伏す。

 

「やった!!」

 

メガビョーゲンに功をなしていると確信するプリキュアたち。

 

しかし、その怪物の隣には、その様子を先ほどから見ていたバテテモーダの姿が。

 

「ふむ・・・・・・」

 

自分の手に持っている緑色のかけら、すなわちメガビョーゲンのかけらを見つめる。これはキングビョーゲンの娘である三人からもらった大事なもの、どうせだったらお嬢たちのためにも利用したいが・・・。

 

プリキュアと戦うメガビョーゲンとその緑色のかけら、その両方を見やるとバテテモーダは確証はないが、一つの考えに思い至る。

 

もしかしたら、こいつは使えるかもしれないと・・・・・・。

 

バテテモーダは早速、倒れ伏した怪物のそばに現れる。

 

「・・・あいつはまだか」

 

みたところ、プリキュアはさっきまでクルシーナのメガビョーゲンに敗北していた弱い三人だけ。あの颯爽と現れたあの先代似のプリキュアはまだ来ていない。

 

でも、まあいい。この緑色のかけらを使えば、奴は現れるかもしれない。

 

「とりま、試してみるか・・・」

 

そう言いながら、バテテモーダは緑色のかけらをメガビョーゲンの中へと押し当てて埋め込む。

 

「ガァ・・・!?」

 

すると、メガビョーゲンの様子が変わった。

 

「メ、メメメ、メガァァァァァァ!!!!!」

 

苦しむような声を上げながら、メガビョーゲンの体から禍々しいオーラが溢れ出し、膨大な力に満ちていく。

 

そして・・・・・・。

 

「ビョーゲン・・・!!」

 

足元のケーブルが無数に増え、先ほどよりも数倍もの大きさに巨大化したメガビョーゲンの姿があった。それは先ほど生み出したクルシーナの生み出したメガビョーゲンと同じくらいなほど。

 

「「「!!??」」」

 

突然のメガビョーゲンの変化に驚くプリキュアたち。

 

「メ~~~~ガァ~~~~~~」

 

巨大化したメガビョーゲンは、体のソーラーパネルを光らせると片目に禍々しいエネルギーを溜め始め・・・・・・。

 

「ビョーゲン!!!!」

 

ビィィィィィィ!! ドォォォォォォォォォン!!!!

 

そして、その目からドス黒いレーザーを発射し、着弾して大爆発を起こした。

 

メガビョーゲンの攻撃を受けて、地面へと落ちたプリキュアたち。しかし、彼女たちはいまだに解せなかった。

 

「どういうこと・・・!?」

 

「急にでっかくなったんだけど・・・!?」

 

目の前のメガビョーゲンが大きくなったことに疑問が拭えない三人。まだ、周囲は大して蝕んでいないはずなのに、急にメガビョーゲンがここまで成長することなんてありえただろうか?

 

「フヒャハハハハハハ!!!」

 

そこへ笑い声が聞こえ、屋根の上を見上げるとバテテモーダの姿が。

 

「実験大成功!! どうです!? キングビョーゲン様!! お嬢!!! 自分発見しちゃいました!! 簡単にメガビョーゲンを急成長させる方法を!!!!」

 

空に向かって叫び声をあげながら、歓喜の声を上げるバテテモーダ。お試しだったが、こんなにも簡単にメガビョーゲンを成長させることができようとは。これで自分の株も上がっただろうと。

 

「メガァ、ビョーゲン!!!」

 

メガビョーゲンは成長して太くなった両腕のケーブルに電気を纏わせながら、プリキュアに向かって叩きつける。

 

「フハハハハハハハ!!! さあさあ、こいこい!! 正体不明の紫プリキュアちゃん!!!」

 

成長させたメガビョーゲンを利用して、先代似のプリキュアをおびき出そうと目論むバテテモーダ。

 

そんなメガビョーゲンの強力な攻撃をかわすプリキュアたち。

 

「めっちゃ強いんだけど!?」

 

強力になったメガビョーゲンに困惑するプリキュアたち。それを尻目にメガビョーゲンはドシンドシンと地面を響かせながら侵攻していく。

 

「いいよぉいいよぉ!! このまま地球全土を蝕みにいっちゃってぇ~!!」

 

プリキュアが全く歯が立たないと確信するメガビョーゲンに、歓喜の声を上げるバテテモーダ。

 

そこへ風を切ったような声が聞こえてきたかと思うと、聞いたことのある猫なで声が聞こえてきた。

 

「モーダちゃん、すごいことしてるねぇ~♪」

 

「うわぁっ!? ヘバリーヌ嬢!? どうしてここに・・・!?」

 

現れたのは狙っていたプリキュアではなく、ヘバリーヌの姿だった。

 

「ん~、なんか懐かしい気配がしたからこっちに来ちゃったんだけどぉ~、おかしいなぁ~、この辺だと思ったのに~・・・」

 

ヘバリーヌはちょっと寂しそうな表情を見せている。確かに懐かしい気配をこっちに感じてきたのだが、どうも懐かしいものは何もない。なんか間違った場所に来てしちゃったのかな?

 

「まあいいや~。それにしてもぉ・・・・・・」

 

まあ、それはさておくと太陽のような顔のメガビョーゲンを見やる。禍々しくとても気持ちの良さそうなメガビョーゲン。これは簡単に地球を蝕むことができるんじゃないかな?

 

「モーダちゃん、さっきのメガビョーゲンに何してたの~?」

 

「ん? あぁ。メガビョーゲンにかけらを埋め込んだんっすよ。そしたら、この通り、簡単にメガビョーゲンを成長させることができたわけっすよ!!」

 

「かけら? かけらってなあに~?」

 

バテテモーダは喜々して話すも、ヘバリーヌはあまり理解していないようだった。

 

「メガビョーゲンのかけらっすよ。あれ? ヘバリーヌ嬢は持ってないんっすか?」

 

「持ってないよぉ~、っていうかぁ・・・」

 

ヘバリーヌはムッとした顔をすると、その表情をそのままバテテモーダに近づける。

 

「またヘバリーヌちゃんに内緒でそんなことしてぇ~!! ずるいずるい~!!!!」

 

「そ、そそ、そんなこと言われましても・・・」

 

ヘバリーヌは不満そうな口調でそう言いながら、首をブンブンと振り回す。バテテモーダは駄々っ子のような彼女の発言に困惑するしかなかった。

 

「いいも~ん!! ヘバリーヌちゃんは懐かしい気配に会えれば、それでいいんだも~ん!!」

 

ヘバリーヌは不満をたらたら言いながらもしゃがみ込んで、プリキュアとメガビョーゲンの戦闘を見やることにした。

 

「メガァ、メガァ、メガァ!!」

 

メガビョーゲンは両腕のケーブルに電気を纏わせて何度も叩きつける。

 

プリキュアたちはその度に飛んでかわすを繰り返すも、先ほど以上に暴れるメガビョーゲンに近づくことができない。しかも、叩きつけられた地面が赤い靄に染まって傷んでいく。

 

おまけに避け続けたのと、今日これまでに戦ったメガビョーゲンとの体力もあまり回復していないせいもあって、消耗していく・・・・・・。

 

「これじゃあ、キリがないわ・・・!!」

 

メガビョーゲンに善戦したものの、パワーアップしたメガビョーゲンに一転して劣勢になるプリキュアたち。

 

「メガァ、メガァ!!」

 

そんなプリキュアたちにお構いなしに、電気を纏った両腕のケーブルを叩きつけるメガビョーゲン。

 

とはいえ、怪物も生きているものには変わりはない。その両腕の攻撃も段々と遅くなっていく。

 

プリキュアたちは避け続けることで、メガビョーゲンの動きにこちらが攻撃できる隙ができたことを見逃さない。

 

「葉っぱのエレメント!!」

 

「雨のエレメント!!」

 

「火のエレメント!!」

 

三人はそれぞれが所持しているエレメントボトルをステッキにはめ込む。

 

「「「はぁぁぁぁ!!!!」」」

 

そして、それぞれのステッキからそれぞれの色に合った光線をメガビョーゲンに向かって放つ。

 

「メガァ・・・」

 

メガビョーゲンは両腕のケーブルを交差させて、光線を防ぐ。

 

ドカァァァァン!!!

 

「メガァ・・・!!」

 

メガビョーゲンに着弾した光線は爆発を起こし、それによってメガビョーゲンの体勢が少しよろけた。

 

「チャンスラビ!!」

 

「このまま一気に・・・!!」

 

これはチャンスだ。このまま三人の合体技で浄化を・・・!!

 

「ンフフ~♪ プリキュアちゃん♪」

 

背後から聞こえた猫撫で声にプリキュアたちが振り返ると、ヘバリーヌがスケートのように地面を滑りながら迫っていた。

 

「とぉ!!」

 

ヘバリーヌは片足をふるって風のような斬撃を放つ。

 

「「「きゃあぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

攻撃を受けて吹き飛ばされ、地面へと叩きつけられるプリキュアたち。

 

「プリキュアちゃん♪ ヘバリーヌちゃん退屈なの~、もっと遊んでぇ♪」

 

メガビョーゲンの前に立つヘバリーヌは、振り向いて少女のような笑顔を見せる。

 

「ヘバリーヌ・・・!」

 

「な、なんで・・・あんたも、いたの・・・?」

 

バテテモーダしかいないはずのこの場に、ヘバリーヌが現れたことに動揺する三人。

 

「悪いねぇ・・・まだ終わらせるわけにはいかないんっすよ・・・!!」

 

「バテテモーダも・・・!」

 

そこへバテテモーダも現れて、不敵な笑みを浮かべる。

 

「さあ、どうする? プリキュア!!」

 

「メガァ・・・!!」

 

バテテモーダの言葉をよそにメガビョーゲンは体を光らせて、再び片目にエネルギーを溜め始める。倒れ伏しているプリキュアたちにトドメを刺すつもりのようだ。

 

「フハハハハハハ!!!」

 

「ンフッフ~♪」

 

笑い声をあげるバテテモーダ。不敵な笑みを浮かべるヘバリーヌ。

 

「くっ・・・!!」

 

悔しそうにするグレース。プリキュア三人はこれまでに受けたダメージが蓄積していて、なかなか立ち上がれない。

 

もはや、これまでか・・・・・・。

 

その時だった・・・・・・。

 

「お待ちなさい!!」

 

聞こえてきた声にハッとするプリキュアたち。

 

「メガァ・・・?」

 

メガビョーゲンも思わず、声の主に振り向く。

 

そこに立っていたのは、金髪のロングヘアの姿をした女性。右手には紫色に光るボトル、左手にはラテが抱かれていた。

 

「ラテ!! 精霊さん!!」

 

「ん? まさか、あいつ・・・」

 

「・・・あれって・・・もしかして・・・?」

 

グレースたちやバテテモーダがそれぞれの反応をする中、ヘバリーヌはただ一人異なるような反応で、目を見開いて彼女を呆然と見つめている。

 

あの女性から懐かしい気配、そして目の前にいるプリキュアちゃんと同じだけど異質な気配。この気配はどこかで感じたことがある。あれは、そうだ、間違いない・・・!!

 

「ラテ様」

 

「ワン!!」

 

「参りましょう!!」

 

精霊の女性は手に持っていた風のエレメントボトルを構える。

 

そして、ラテの首輪にはめ込む。すると、オレンジ色になっているラテの額のハートマークが神々しく光る。

 

「スタート!!」

 

「プリキュア、オペレーション!!」

 

「エレメントレベル上昇ラテ!!」

 

「「キュアタッチ!!」」

 

キュン!!

 

ラテと精霊の女性が手を取り合うと、白い翼が舞い、ラテが舞ったかと思うとハートの中から白い白衣のようなものが飛び出す。

 

その白衣を身に纏い、ラテが降りてきたかと思うとハープが飛び出し、さらに精霊の女性は紫色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

衣装にチェンジした後、ハープを手に取り、その音色を奏でる。

 

「「時を経て繋がる、二つの風!」」

 

「キュアアース!!」

 

「ワン!」

 

精霊の女性は、風のプリキュア、キュアアースへと変身した。

 

「・・・・・・!」

 

「あれは・・・!!」

 

キュアグレースがラテをパートナーに変身した女性を呆然と見つめる。

 

「お姉さん・・・お姉さんだぁ~!! あの時の!!」

 

ヘバリーヌはプリキュアに変身を遂げた女性を見つめ、喜びの感情が芽生える。

 

あれは間違い無く、ヘバリーヌちゃんが病気だった頃に見た、あのプリキュアだ。まさか、あの懐かしい気配にこんなところで会えるなんて、思いもしなかった・・・!!

 

「ラテ様、後はお任せを」

 

アースはラテをゆっくりと地面に下ろす。

 

「このキュアアース、ラテ様の想いを受け、お手当ていたします!!」

 

キュアアースはプリキュアとビョーゲンズに向き直り、そう言い放ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メガァ・・・!!」

 

ヘバリーヌが発生させたメガビョーゲンは、すこやか市の街中の商店エリアを襲っていた。赤い球体のようなものから赤い空気を噴射して、建造物一帯を病気に蝕んでいく。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

そこへフードの少女が黒いステッキのようなものをメガビョーゲンに向かって振り下ろす。

 

ガキン!!

 

「メガァ・・・?」

 

「くっ・・・!」

 

やはり効いていない・・・そう思わざるを得ない少女は悔しさに歯を食い縛る。

 

「メガァ!!」

 

「あぁ・・・!!」

 

メガビョーゲンはその場で高速回転をさせて、フードの少女を吹き飛ばす。建物の壁に叩きつけられて、少女は地面へと落ちる。

 

「うっ・・・!!」

 

少女は諦めようとはせずに立ち上がり、メガビョーゲンへと向かおうとするも、膝をついてしまう。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

息を切らしながらも、フードの少女は辺りを見渡す。まるで怪物に対抗できるような手段がないか、探している様子。

 

「はぁ・・・あっ・・・!」

 

ふと少女は近くに蛇口があるのを発見する。なんだかよく分からないが、あそこから自然の力を感じる気がする。

 

「うっ・・・くっ・・・!」

 

少女はなんとか立ち上がると、足を引きずりながらその蛇口の前に近づく。

 

そして、その蛇口の前で体を光らせると、蛇口の方も彼女に呼応するかのように光り始める。

 

「水の力よ!!!」

 

少女はそう叫ぶと、なんと蛇口から水が呼ばれたかのように飛び出してくる。そして、少女が黒いステッキを掲げるとその力が集まっていく。

 

パァ・・・!!!!

 

そして、そのステッキが青く光ったかと思うと、少女の黒いフードが暗い水色に変わっていき、フードから見えている金髪が水色の髪に変わっていく。

 

さらにステッキも暗い水色に変わっていき、その先端には水色の玉のようなものが取り付けられていた。

 

「よし!!」

 

フードの少女はうまくいったと言わんばかりに言うと、自身に背を向ける怪物に体を向ける。ボロボロで傷ついていたはずの体は、先ほどの力なのか何事もなかったかのように治っている。

 

少女は地面を蹴るとメガビョーゲンへと飛び出していく。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ステッキをメガビョーゲンに向けて構えると、ステッキの先から青黒い水流を放つ。

 

「メ・・・メガァ・・・!?」

 

水流が不健康そうな顔にかかり、顔を顰めさせるメガビョーゲン。動きが止まるという隙を見つけた少女はメガビョーゲンに向かって飛び上がる。

 

「ふっ!!!」

 

「メガァ・・・!?」

 

少女は水色の光に包まれた足を光らせながら、メガビョーゲンに向かって蹴りを入れる。吹き飛ばされたメガビョーゲンは建物の壁に叩きつけられる。

 

「メガァ・・・!!」

 

メガビョーゲンはすぐに立ち上がると、赤い球体を出現させて、そこから強力な赤い風を少女に向かって噴射する。

 

「ふっ・・・!!」

 

地面に着地した少女はすぐに飛び上がって風をかわすと、建物の壁に蹴りを入れて再度メガビョーゲンへと飛び出していく。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「メッ、ガァ・・・!?」

 

少女はステッキを振り上げると、メガビョーゲンに向かって振り下ろす。水の力と光の力が合わさった攻撃を受けて、メガビョーゲンは地面に叩きつけられた。

 

「よし、今のうちに・・・!!」

 

フードの少女は顔の前にステッキを掲げると、体中から青いオーラを迸らせる。黒いステッキが青いオーラに包まれ、青く力を注がれていく。

 

そして、目を見開くとその瞳はオーラと同じように青く光っていた。

 

「泣き止め!! はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

少女はそう叫ぶと青く光らせたステッキを前へと突き出し、その先端から暗い青色のエネルギーを放つ。

 

「メガァビョーゲン・・・!!??」

 

チュドォォォォォン!!!!

 

エネルギーはメガビョーゲンに直撃し、爆発を起こした。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

少女は息を切らすと同時に青いオーラが消滅し、暗い青色のフードは元の暗い色へと戻り、水色だった髪は金髪へと戻った。ステッキも黒色に戻っている。

 

「はぁ・・・はぁ・・・やったか・・・?」

 

少女はメガビョーゲンが倒れていた場所を見つめる。どうやら怪物は沈黙したようだった。

 

少女は泣き止む声がなくなったことに、安堵した。

 

・・・・・・しかし、そう思ったのはその一瞬だけだった。

 

「メガァ・・・!!!」

 

爆発の煙が吹き飛び、そこには少しボロボロになったメガビョーゲンが宙に浮いていた。

 

「な、何・・・!?」

 

少女は愕然とした。自分が発したあの力は、よく分からないがこの星の健康的なものを吸収して、自分の力へと変える渾身の技だ。

 

それがこの怪物に通用していないなんて・・・・・・!!!!

 

少女の心はすでに絶望へと染まっていた。

 

「メッガァ・・・!!!!」

 

メガビョーゲンは赤い球体を禍々しく光らせるとそこから赤黒いレーザーを放つ。

 

「!? あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

放心していた少女は、当然防御体制なんか取れるはずもなく、レーザーの直撃を受けて吹き飛ばされる。

 

「がっ、はぁ・・・!?」

 

背中から体を打ち付け、その痛みに口から空気を吐き出す少女。そのまま地面へと落ちて倒れ伏してしまう。ステッキも自分の手を離れ、地面へと落としてしまう。

 

「うぅ・・・!!」

 

少女は痛みに呻き、震わせながら顔を上げると怪物が自身に背中を向ける姿が映っている。しかし、先ほどの体の打ち所が悪かったのか、頭に痛みを感じ、その視界はだんだんとぼやけてきていた。

 

「ま、ま・・・て・・・!」

 

少女は自分から離れていくメガビョーゲンに手を伸ばすも、怪物には敵わないことを悟った彼女にはもう立ち上がる力は残っていなかった。

 

「あ・・・ぁ・・・」

 

少女は怪物から感じる泣いている声を止めることができないことに絶望しながら、伸ばした手を地面へと落とし、意識を闇に落としていくのであった・・・・・・。

 

「メガァ・・・!!」

 

メガビョーゲンはそんな少女に目もくれずに、そのまま次の場所を蝕もうと侵攻していくのであった・・・・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第56話「奇跡」

前回の続きです。
次回からオリストになります。

今年も終わりですね。
皆様は良いお年をお過ごし下さい。


 

ラテの想いを受けて、グレースたちと一緒にお手当てをすることを決意した精霊の女性、キュアアース。

 

最初はラテ様を守るために、ヒーリングガーデンへと連れ帰り、そこで一緒に暮らすことが彼女を守ることだと思っていた。

 

しかし、自分と同じプリキュアの少女たち、そして彼女たちのパートナーであるヒーリングアニマルたちにそれは違うことを言われる。

 

ヒーリングガーデンの女王、テアティーヌはそんなことを言っていないし、ラテを自分たちに託してこの地球にやってきたんだと。ヒーリングガーデンに帰られては、自分たちのいる意味もなくなると・・・。

 

しかし、精霊の女性はわからなかったのだ。わざわざ地球の病気が残ってしまう彼女を、どうして地球にいさせる意味があるのか?

 

この反応に怒ったラビリンたちと一悶着になりそうになったところを、のどかという少女に諌められ、ラテの気持ちをちゃんと汲み取って欲しいと。精霊の女性はそう言われた。

 

そして、メガビョーゲンと戦う彼女たちの元に行きたいことを聴診器から知った精霊の女性は、ちゃんと彼女の意図も汲み取って一緒に怪物の元へと駆けつけた。

 

『ラテ様・・・これ以上は危険です・・・』

 

『クゥ~ン・・・クゥ~ン・・・』

 

これ以上近づくとメガビョーゲンの攻撃に巻き込まれるから近づくわけにはいかないと諭すも、ラテは鳴き声をあげる。

 

何かを言いたいのだと思い、精霊の女性はのどかに渡された聴診器を当ててみると・・・。

 

(ラテはここにいたいラテ・・・ヒーリングガーデンには帰りたくないラテ・・・)

 

『ラテ様・・・』

 

それは女性にとっても、思いがけない一言だった。

 

『お母様には会いたくないのですか・・・?』

 

(会いたいラテ・・・でも、ラテはここにいるけど、ラテもみんなと一緒に、お手当てしてるラテ・・・!!)

 

確かにお母さんには会いたい・・・本当はものすごく会いたいのだ。でも、精霊の女性に連れられているとはいえ、自分の使命を投げ出すわけにはいかない。

 

自分だって、のどかたちとやり方は違うけど・・・一緒にお手当てをしているんだ。ラテはそう言いたかったのだ。

 

『!! あの方たちと一緒に・・・?』

 

精霊の女性は困惑するも、ラテは女性の膝から飛び降りて、ふらつく体を起こして歩き出す。しかし、その場ですぐに倒れてしまう。

 

『いけません・・・!! 私はお手当てよりも、ラテ様の方が大切なのです・・・!!』

 

精霊の女性は、ラテを守って欲しいというテアティーヌの願いから生まれたのだ。お手当てをして危険な目に合わせるわけにはいかないと、ラテを諭そうとする。

 

『ラテ様をお守りしたいのです・・・!!』

 

精霊の女性はそう訴えかけるも、ラテの決意は固かった。何よりも・・・・・・!!

 

(そのお顔で、そんなことを言わないでラテ・・・!)

 

『!!??』

 

ラテから言われたその言葉に動揺する精霊の女性。

 

(精霊さん、ママのお手当てのパートナー、そっくりラテ・・・。なのに、そんなことを言われたら悲しいラテ・・・)

 

ラテはふらつく体を再び起こしながら、涙目になりながら言う。テアティーヌのパートナーで共にお手当てをした先代の女性にそっくりな彼女に、お手当てを否定して欲しくなかった。

 

ママが慕っていた彼女を、そっくりな彼女自身に否定して欲しくなかったのだ。地球なんかどうでもいいと言われているみたいで、先代の顔でそんなことを言わないでほしいと、ラテは訴えた。

 

(地球さんが泣いてるの、ラテはわかるラテ・・・それしかできないけど、頑張りたいラテ・・・!!)

 

『!!』

 

ラテの言葉を聞いて、精霊の女性はなんだかわからない強い何かを感じた気がした。

 

そして、ラテは精霊の女性に歩み寄って、肉球のついた手を差し出す。

 

(お願いラテ・・・地球さんからもらったパワー、ラテを守ることより、お手当てに使って欲しいラテ・・・!!)

 

ラテの涙ながらの訴え、そして決意・・・・・・。

 

『これは・・・何でしょう・・・? 心が・・・? 私の中で、地球のパワーが高鳴り・・・渦巻き・・・!!』

 

『ワウ?』

 

ラテは精霊の女性が胸を押さえているのに、心配の声を上げる。

 

『いえ、苦しいのではありません。よくわかりませんが・・・ただ、それでも・・・』

 

精霊の女性は聴診器を外すと、伸ばしたラテの手を握る。

 

『あなたの手を取りたいと、どうしようもなく思ったんです』

 

『・・・!!』

 

きっとこれは、運命なのだと・・・彼女と共にいたいという気持ちがあるのだと・・・精霊の女性はよく分からない感情をそのように思った気がした。

 

すると、二人の手が光り出し、そこから紫色のエレメントボトルが飛び出した。

 

精霊の女性は現れたエレメントボトルを手に取る。そして、一つの決意を口にしたのであった。

 

『ラテ様・・・あなたをお守りするためにこの力・・・あなたの願いのために・・・使わせていただけますか?』

 

『ワン!!』

 

ラテは元気に返事をする。繋がりあった心と心、これも何かの縁なのだと、ラテはそう感じたのであった。

 

精霊の女性は暖かい思いを秘めながら、意を決したような表情になるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このキュアアース、ラテ様の想いを受け、お手当ていたします!!」

 

そう言いながら怪物へと向き直るアース。そして、アースはそこから飛び上がって工場の屋根に着地する。

 

そして、屋根の上を素早く駆けながら、メガビョーゲンへと迫っていき・・・・・・。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「メガァ・・・メガビョーゲン・・・!?」

 

その勢いに動揺したメガビョーゲンは両腕を交差して、防御体制に入るもアースはメガビョーゲンの顔面に蹴りを入れ、背後へと倒す。

 

「何!?」

 

バテテモーダは急成長させて強力になったはずのメガビョーゲンがあっさり倒されたことに動揺する。プリキュア三人があれほど苦戦していたメガビョーゲンを蹴り一発でよろつかせるとは・・・!!

 

「おぉ~!!」

 

「すごい!!」

 

感嘆するプリキュアたちの前に、アースが立つ。

 

「みなさんはメガビョーゲンを。これは私が引き受けます」

 

グレースたち三人にメガビョーゲンを任せて、自分はバテテモーダとヘバリーヌを受けようとするアース。

 

「・・・うん!!」

 

一瞬放心したグレースたちだが、頷くとメガビョーゲンの方へと向かう三人。

 

「これって・・・言ってくれるじゃないっすかぁ!!!!」

 

挑発されたバテテモーダはアースへと飛び出し、爪を振るう。しかし、攻撃を当てたはずのアースの姿が消える。

 

「!?」

 

「名前など、知る必要はありません」

 

いつの間にか背後に回っていたアースは、バテテモーダの言葉を切り捨てる。

 

「今は、この場で浄化しますので」

 

「っ・・・!!」

 

アースのその言葉に怒りを覚えたバテテモーダは爪を当てようと何度も振るう。

 

「貴様!! 一体、何者だ!? はるか昔、キングビョーゲン様とやりやったっていうのはマジなのか!!??」

 

バテテモーダは叫びながら爪を振るうも、アースは難なくその攻撃を避け、姿を消す。

 

「!?」

 

「私ではありませんが、その力によって私は生まれました」

 

上から声がして見上げると、アースは体を翻しながらバテテモーダに迫っていた。

 

「!? ,消えーーーー」

 

そして、再度姿を消したかと思うと・・・・・・。

 

ドゴッ!!!!

 

「がぁっ!!??」

 

背後へと回っていたアースがバテテモーダの腹部に蹴りを入れ、吹き飛ばす。

 

「ぐわぁぁぁ、はぁぁぁ!!??」

 

吹き飛ばされたバテテモーダは地面を転がり、倒れ伏す。

 

「な、なんてスピードだ・・・!」

 

バテテモーダは明らかに自分よりも実力が上、とても敵うやつではないと確信した。

 

「ンフフ~♪ お姉さん♪」

 

「!!」

 

そこへ横から現れたヘバリーヌが蹴りを入れようと駆け出してくるも、気づいたアースは足を繰り出してその蹴りを防ぐ。

 

「久しぶりだね~、お姉さん♪ 会うのは何年ぶりかなぁ~?」

 

「・・・あなたは、誰ですか?」

 

歓喜の声を上げるヘバリーヌに、アースは冷静に疑問の声で問う。

 

「ん~、覚えてない? あの街でヘバリーヌちゃんの様子を見にきてくれたでしょ~?」

 

「あの街とは、何のことでしょうか?」

 

アースは疑問を投げかけると、ヘバリーヌの蹴りを跳ね返す。ヘバリーヌは空中で一回転すると、後方へと着地する。そして、彼女も疑問に顎に手を当てる。

 

「ん~、忘れちゃってるのかなぁ? 気持ち良くすれば思い出すかも?」

 

「はぁぁぁ!!」

 

考え込んでいるヘバリーヌに、アースが駆け出してくる。

 

「ンフフ~、とぉ!!」

 

ヘバリーヌはその様子に不敵な笑みを浮かべると、足から黒い竜巻をアースに向けて放つ。アースはその黒い竜巻の中を突っ込んで進んでいくと、一気にヘバリーヌへと迫り・・・・・・。

 

「はぁ!!」

 

「よっ、と・・・!」

 

アースは蹴りを入れようとするも、ヘバリーヌは両手で跳び箱を飛ぶように足を乗っけるとアースの背後へと飛ぶ。

 

「はっ! ほぉ!! やぁっ!!!!」

 

ヘバリーヌは振り向きざまにアースに向かって風の斬撃を複数放つ。

 

「っ・・・!!」

 

アースは両腕を交差させて斬撃を防ぐも、当たっているために衣装は少しボロボロになる。そして、その隙を狙おうとヘバリーヌはスケートのように地面を滑ってこちらに迫ってくる。

 

「そーれっ!!!!」

 

ヘバリーヌは両手に風を纏わせると、それを合わせるようにして大きな風をアースに向かって放つ。

 

「ふっ!!」

 

アースはそれを飛び上がってかわす。

 

「よっ!!」

 

ヘバリーヌは竜巻から飛び出すと、壁を蹴って飛び上がり、空中へと飛んだアースへと迫る。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ヘバリーヌは体を回転させると、竜巻のような姿となってアースへと突撃していく。

 

「やあぁぁぁぁぁ!!!!」

 

それに対して、アースは空中で体を回転させると蹴りのモーションへと入る。

 

ドゴォォォォォォ!!!

 

そして、二つの力がぶつかり合い、爆発のようなものが起きる。

 

「あぁぁぁぁぁん!!!!」

 

「っ・・・!!」

 

お互いに吹き飛ばされ、ヘバリーヌは地面を転がってバテテモーダの横に倒れ伏し、アースは足をブレーキにして倒れないように支える。

 

「へ、ヘバリーヌ嬢!?」

 

バテテモーダはヘバリーヌが吹き飛ばされたことに驚く。もしや、キングビョーゲンの娘ですらも敵わないほどの相手なのか・・・?

 

「ンフフ・・・・・・」

 

しかし、そんな倒れ伏すヘバリーヌから笑い声が聞こえる。そして、彼女はダメージなど受けてもいないかのように、すくっと立ち上がる。

 

「最高!最高だよぉ!! やっぱりお姉さんはお姉さん!! 強さはそのままだよぉ~!! とーっても気持ちよかったもん♪」

 

ヘバリーヌは瞳をキラキラとさせながら、喜びの声を上げる。

 

そんな彼女を、アースは冷静な態度で見つめていた。

 

「あなたの言うお姉さんとは、別人なのではないですか? 私と似ているとか・・・」

 

思わず浄化すべき敵に疑問を投げかけてしまうアース。ヘバリーヌはそれを聞くと一転して目を丸くさせ、顎に手を当てて考える。

 

「ん~、そうなのかなぁ? でも、お姉さんはお姉さんだし、力も気配も全然同じだし~♪」

 

ヘバリーヌは少し訳がわからなくなってきたように感じる。お姉さんがお姉さんじゃない? じゃあ、ヘバリーヌちゃんがあの街で会ったことがあるお姉さんは誰なのか? でも、あのお姉さんに外見もプリキュアとしての力もそっくりなのだ。

 

これは一体、どういうことなんだろう~?

 

ヘバリーヌがそんなことを考えている一方、メガビョーゲンの相手をしているプリキュアたちは・・・・・・。

 

「「キュアスキャン!!」」

 

グレースが肉球に一回タッチして、ステッキをメガビョーゲンに向ける。ラビリンの目が光り、怪物の左肩にいるエレメントさんがいるのを見つけた。

 

「いた!!」

 

「太陽のエレメントさんラビ!!」

 

エレメントさんは見つけた。あとはメガビョーゲンを浄化するだけだ。

 

「メガァ・・・!!」

 

メガビョーゲンは抵抗をするために、再び片目に禍々しいエネルギーを溜めて、ドス黒いレーザーを放つ。

 

「「「きゃあぁぁぁぁ!!!!」」」

 

メガビョーゲンの攻撃を受けて吹き飛ばされてしまうグレースたち。

 

ヘバリーヌが圧倒され、自分はボロボロにされている。こうなったら・・・!!

 

バテテモーダは立ち上がると、メガビョーゲンの方を振り向く。

 

「来い!! メガビョーゲン!! こいつも潰すぞ!!」

 

「メガァ・・・」

 

バテテモーダの指示を受けたメガビョーゲンは、電気を纏わせた両腕のケーブルを構える。

 

「ビョーゲン!!!」

 

「一発逆転!! 下克上だぁ!!!」

 

多勢に無勢と言わんばかりに、メガビョーゲンとバテテモーダは同時にアースへと襲いかかる。

 

「あ~! ずるい~!! ンフフ・・・」

 

勝手に飛び出していこうとするバテテモーダに、ヘバリーヌは不満そうな表情をしてそう言うと、一転して恍惚な表情を浮かべて両腕を広げる。すると、彼女の体から風が巻き上がり、ヘバリーヌの体を包む。

 

「おねえ~さん♪ ヘバリーヌちゃんをもっと気持ちよくしてぇ~!!!!」

 

ヘバリーヌはその勢いのまま俊足で飛び出し、アースへと迫っていく。

 

アースは三者を見やると、両手を祈るように合わせ、目を開く。

 

一枚の紫色の羽が、ハープのような武器へと姿を変える。

 

「アースウィンディハープ!!」

 

そう呼ばれたハープに、風のエレメントボトルがセットされる。

 

「エレメントチャージ!!」

 

アースはハープを手に取って、そう叫ぶとハープの弦を鳴らして音を奏でる。

 

「舞い上がれ! 癒しの風!!」

 

手を上に掲げると彼女の周りに紫色の風が集まり始め、ハープへとその力が集まっていく。

 

「プリキュア! ヒーリング・ハリケーン!!!」

 

アースはハープを上に掲げてから、それを振り下ろすとハープから無数の白い羽を纏った薄紫色の竜巻のようなエネルギーが放たれる。

 

そのエネルギーは一直線にメガビョーゲンへと向かい、直撃する。

 

竜巻のようなエネルギーはメガビョーゲンの中で二つの手へと変化し、太陽のエレメントさんを優しく包み込む。

 

メガビョーゲンをハート状に貫きながら、光線はエレメントさんを外に出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていく。

 

そして、エネルギーはバテテモーダにも襲いかかる。

 

「俺の野望がぁぁぁぁぁぁ!!! ヒーリングッバァ~イ!!!!」

 

バテテモーダはキングビョーゲンに取り付けた約束、そしてお嬢たちのそばに並べないことの無念を叫びながら、薄紫色のエネルギーの中へと消えていった。

 

さらに光線はヘバリーヌにも襲いかかり・・・・・・。

 

「いやいやいやいやぁぁぁぁぁぁぁん!! 激しいぃぃ、激しいよぉ~!! こんな幸せな気持ちになれるなんてぇ~、ヘバリーヌちゃん、もう最高ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

ヘバリーヌは頬に手を当てて今まで以上に嬉しそうな表情を浮かべながら悶え、叫び声をあげると薄紫色のエネルギーの中に飲み込まれていった。

 

そして、メガビョーゲンによって蝕まれた地面や屋根は元の姿へと戻っていく。

 

「・・・お大事に」

 

アースは祈りを捧げるような格好を解いた後、そう呟いた。

 

「3体一気に・・・!?」

 

「めっちゃ凄い・・・!!」

 

プリキュアの三人はキュアアースの実力に驚きを隠せない。

 

そんな様子を伺っていた4つの影があった。

 

「ふん、野望か・・・」

 

バテテモーダの作戦とその末路、一部始終を見ていたグアイワルは不敵な笑みを浮かべると姿を消した。

 

「・・・・・・・・・」

 

「はぁ・・・やっぱり見に行って正解でしたね」

 

「あのプリキュア、侮れないやつなの」

 

そして、さらにそれを見つめるのはクルシーナ、ドクルン、イタイノンのビョーゲン三人娘。ドクルンとイタイノンは無表情で見下ろしながら呟き、クルシーナに至っては無言のままだ。

 

あのプリキュアは自分たちにとっては脅威になる。そう感じざるを得ない。自分たちの父親が忠告していたのだから、間違いない。

 

「それにしても、この娘のマイペースさには呆れますね・・・」

 

「メガビョーゲンを生み出しているんだから、管理しておけなの・・・」

 

ドクルンとイタイノンが呆れたように言いながら見つめているのは、アースの必殺技に巻き込まれて消えたはずのヘバリーヌの姿だった。

 

「ンフ・・・ンフフ・・・へへへ・・・」

 

ヘバリーヌは体中が焼け焦げたようにボロボロになっているのにも関わらず、ビクンビクンと体を痙攣させながらも、まるで幸せな夢でも見ているかのように恍惚な表情を浮かべていた。

 

彼女はクルシーナの手下の小さなコウモリに体を持ち上げられている。

 

実は必殺技に巻き込まれる直前で、クルシーナがコウモリの手下を飛ばし、ヘバリーヌが巻き込まれた後の彼女をあのエネルギーの中からコウモリが小さな体で触れ、こちらに転移をさせたというわけだ。その結果、ヘバリーヌは体内のビョーゲンを浄化されずに、無事に彼女たちの元にいるというわけだ。

 

そのせいか、小さなコウモリの体からもプスプスと煙が出ていて、ボロボロになっている。

 

それにしても・・・・・・。

 

「幸せそうに寝てますね・・・」

 

「全く・・・クルシーナが助けに来なかったら、どうなってたと思ってるの・・・?」

 

ため息をつくしかないドクルンとイタイノン。そんな彼女たちの感情も毛ほども知らず、ヘバリーヌは笑みを漏らしながら眠っているだけだ。

 

そんな中、クルシーナは集まっているプリキュアの中、その一人であるキュアアースの姿を見つめていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

「クルシーナ?」

 

「・・・・・・ふん」

 

クルシーナはイタイノンの呼びかけにも応じず、そのまま背後を向けると歩いていく。

 

「さてと、あの街の様子はどうなってるだろうね」

 

クルシーナはそう言うと、ヘバリーヌを連れて姿を消した。

 

「まあ、今は機嫌が悪いのでしょう。とりあえず、様子を見ましょうか」

 

「・・・・・・・・・」

 

ドクルンが肩に手を置きながらそう言うと、イタイノンはなんとも言えないような表情を浮かべる。そして、彼女たちもそのまま姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プリキュアたちは戦闘を終えた後、変身を解き、工場に聴診器を向けていた。

 

『ありがとうございます! みなさんのおかげで助かりました!』

 

太陽のエレメントさんはそう言うと、工場の中へと戻っていった。

 

「よかったラビ!!」

 

エレメントさんが無事だったことに安堵するのどかたち。メガビョーゲンを急成長させられ、また前みたいな後遺症が残るのかと思ったが、なんともないようで安心した。

 

エレメントさんの診察を終えると、精霊の女性へと向き直る三人。

 

ところが、問題はこれで終わりではなかった・・・・・・。

 

「クゥ~ン・・・」

 

「ラテ様・・・!?」

 

ラテの体調がいまだに戻っていないのだ。額のハートマークはいまだに黄色に点灯している。

 

「「「ラテ様!?」」」

 

ヒーリングアニマルたちがラテの症状が改善していないことに驚きの声を上げる。

 

「え・・・?」

 

「どういうこと・・・!?」

 

「なんで!? メガビョーゲンを浄化したから、元に戻るんじゃ・・・!?」

 

本来ならメガビョーゲンを浄化すれば、元に戻るはずの体調が戻る様子がない。これは一体どういうことなのか・・・? また、ビョーゲンズとは関係ない体調不良が再発したのか?

 

「クゥ~ン・・・」

 

すると、ラテは何かを訴えるように弱々しく鳴いている。

 

もしかして・・・まさか・・・!?

 

のどかたちは顔を見合わせると、ラテに聴診器をあてる。

 

(街の方で、空気が泣いてるラテ・・・)

 

「「「!!??」」」

 

「ラテ様・・・?」

 

その言葉に驚きを隠せない三人。街の方・・・? 街の方って・・・?

 

「!!!!」

 

まさか・・・・・・!!!!

 

ハッとしたのどかたちは林の中へと駆け出していき、すこやか市の街の様子を見に行くために向かっていく。

 

「あ、みなさん・・・!」

 

精霊の女性は叫ぶも、ラテの方を見つめると彼女たちの後を追うべく駆け出していく。

 

のどかたちは林の中へと駆けていき、街がよく見渡せる丘の上へと向かっていく。

 

そして、そこから見えた光景は・・・・・・。

 

「「「!!??」」」

 

目の前に広がっている街の光景に驚きを隠せない。その表情は、呆然・・・愕然・・・絶望・・・そのどれにも取れるような顔だ。

 

「え・・・!?」

 

「どういうことラビ・・・!?」

 

驚愕・・・信じられないと言ったような表情で見るのどかとラビリン。

 

「何・・・これ・・・!?」

 

「ちゆたちの、街が・・・!?」

 

呆然・・・これはどういうことなのかと言いたげな表情で見るちゆとペギタン。

 

「あたしたちの、街が・・・!?」

 

「ありえねぇよ!! こんなの・・・!!」

 

愕然・・・ありえないと言った表情で街を見つめるひなたとニャトラン。

 

みんながみんな、かすれたような声で呟く。

 

「まるで、病気の街、みたいです・・・・・・」

 

「クゥ~ン・・・」

 

精霊の女性も険しい表情で街の様子を見やる。

 

彼女たちの目の前に広がる光景は、すこやか市の街に赤い靄のようなものが広範囲にかけて広がっている光景だった・・・・・・。

 

そう。戦いはまだ、終わっていなかったのだ・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う・・・うぅ・・・うっ、んん・・・!!」

 

商店街の建物の横で倒れているフードの少女。眠っているようだが、その表情は顰められており、苦しんでいる様子だった。

 

「うぅぅ・・・うぅんんん・・・!!!」

 

少女はまるでもがくように首を振り、瞑っている目をピクピクとさせる。

 

ーーーーうぅ・・・んぅ・・・んん・・・。

 

ドクン、ドクン、ドクン

 

胸を押さえて苦しむマゼンダ色の髪の少女。

 

ーーーーはぁ・・・はぁ・・・くっ・・・うっ・・・!!

 

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン!!

 

ーーーークゥ~ン

 

ーーーーだ、大丈夫、だよ・・・ラテ、早く、帰ろう?

 

子犬を抱えながら、苦しいのに作り笑顔を見せるマゼンダ色の髪の少女。

 

ーーーーはぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・

 

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン!!

 

重そうに体を引きずりながら、懸命に歩いていくマゼンダ色の髪の少女。

 

ーーーーう・・・あ・・・。

 

おぼつかない足を躓かせ、倒れ込んでしまう少女。

 

ーーーーあ・・・あ・・・。

 

倒れて、誰も見つけてくれない状況に絶望する少女

 

ーーーー助けて・・・ちゆちゃん・・・ひなたちゃん・・・。

 

ーーーーお母さん・・・お父さん・・・。

 

ーーーーラビリン・・・・・・。

 

「!!?? はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

フードの少女は目を見開き、息を切らす。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・うぅ・・・!」

 

傷ついた体を起こし、息を整える。周囲を見渡せば、そこはすでに赤い靄で包まれていた。

 

「あぁ・・・ああ・・・!」

 

ただただ呆然、絶望するしかない。少女は無力な自身の両手を見つめる。そして、ギュッと握りしめる。

 

「・・・・・・のどか」

 

辛そうな、悔しそうな顔をしながら名前をつぶやく少女。

 

・・・そうだ。私はあの娘の体内で成長して、外の世界で生きてみたいと、自分の意思で生きてみたいと、そう思っていたんだ。

 

でも、私はそれによって彼女を苦しめ、彼女のお友達にも迷惑をかけてしまった。私はどうしてだか、それだけが罪悪感があって仕方がない。

 

「のどかぁ・・・!!」

 

少女は目から暖かい何かをポロポロとこぼしながら、名前を呼ぶ。それは、まるで誰かに助けを求めるかのよう。

 

しかし、少女は誰も来るはずがないとわかっていたように、握りしめていた両腕を下ろす。

 

少女はふと自分が戦っていた怪物のことを思い出す。怪物からはまだ泣いている声が聞こえてくる。

 

「・・・追わないと」

 

少女はそう思い、近くに落ちていたステッキを拾う。

 

「私が少しでも泣いている声を止めないと・・・!!」

 

怪物に勝てる見込みは全くない。でも、自分がが立ち向かえば、この街の被害は最小限にとどまり、泣いている声が少しでも泣き止むかもしれない。

 

「うっ・・・くっ・・・!」

 

少女はステッキを杖代わりにして、傷ついた体を懸命に立ち上がらせる。

 

そして杖をつきながら、ゆっくりとその泣いている声を辿りながら、怪物を止めるために向かっていくのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第57話「侵蝕」

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。

前回の続きです。
今回からオリストになります。


 

バテテモーダたちビョーゲンズを浄化して、一安心していたのどかたち。

 

しかし、ラテの体調が治らないことをきっかけに、彼女たちは街の様子を見に行ったことで恐ろしい光景を目撃することになるのであった。

 

それは、赤い靄で広範囲に蝕まれたすこやか市の街の姿だった。

 

「嘘・・・?」

 

「どういうことなの、これは・・・!?」

 

「なんで!? だって、メガビョーゲンはさっきので全部浄化したはずだよね!?」

 

のどかたちはそれぞれの言葉を言いながら、呆然と街を見つめている。

 

「でも、これは・・・あの怪物の仕業ですね・・・」

 

険しい表情で街を見ながら、そう分析する精霊の女性。

 

街はすでに真っ赤に染まっているわけではないが、かなり広範囲が赤い靄に染まっている。すこやか市のここから見える海も赤くなっていて、麓の町も、流れる川も、ここから見える木々も、道路も、何もかもがと言えるほどに赤く染め上げられていた。

 

これはどう見ても、メガビョーゲンがあちらこちらに移動して暴れたということだ。しかし、ここからはメガビョーゲンの姿が見えてはおらず、探すことさえ困難だろう。

 

「・・・もしかして」

 

のどかとひなたが呆然と見やる中、一人冷静になったちゆは考えを口にしようとする。

 

「あの時、メガビョーゲンは3体じゃなくて、4体だったんじゃないかしら・・・?」

 

「「えぇっ!?」」

 

ちゆの推測に、のどかとひなたが驚きの声を上げる。

 

「で、でも・・・SNSには、3体しか写ってなかったんだよ・・・!?」

 

「その盲点を突かれたのかもしれないわ・・・」

 

「どういうことニャ・・・?」

 

「SNSを発信するのは写真を撮った人でしょ? 例えば、人気のない場所でメガビョーゲンを現れたとしても、周りに人がいなければ写真を撮って発信するものもいないってこと。ビョーゲンズはそこを狙ってきたんだと思うの・・・。それにラテの体調が悪くて、地球の不調を察知できなかったから」

 

ちゆが分析するには、SNSは人の手で発信しなければ情報を得ることはできない。つまり、人があまり通りかからないような場所でメガビョーゲンを出されてしまえば、それを発信することができないので、いくらSNSを見ようとメガビョーゲンが出ることはわからない。

 

しかも、ラテが体調不良で察知できないタイミングを狙われたものだから、プリキュアたちは誰もメガビョーゲンに気づくことができなかった。

 

「要するにペエ・・・?」

 

「私たちはあの三人の罠に引っかかったってことよ」

 

「そ、そんな・・・!!」

 

「じゃあ、最初からこうするためにあいつらは動いてたってことラビ!?」

 

「おそらくそうよ・・・」

 

ちゆは、もう少し早く気づくべきだったと感じた。クルシーナ、ドクルン、イタイノン、メガビョーゲンを同時に発生させたビョーゲンズの三人は浄化されても大して悔しそうな顔をせずに去っていったことを。あの三人は幹部の誰かが発生させたもう一体のメガビョーゲンを気づかせないように、目を向けさせたということを・・・・・・。

 

「くっ・・・!!」

 

やられた・・・!! 最初からあいつらはすこやか市の街全体を狙っていたのだ。私たちを陽動して、本当の作戦に気づかせないために。改めて三人娘の卑劣で、他人を苦しめるような作戦に憤りを覚える。

 

「あぁ・・・」

 

「うぅ・・・」

 

のどかやひなたも、こうなってしまえばエレメントさんはまた消滅寸前になっており、怪物の居場所もはっきりしない以上、間に合わないかもしれないと絶望感を抱いていた。

 

3人には三人娘たちに奪われたあの街の悪夢が蘇る。ここまでなってしまえば、いずれあの街のようになってしまうのではないかと。

 

「こんなの、こんなのってないラビ・・・!!」

 

「ペエ・・・・・・」

 

「くそー!! あいつら!! なんでこんなひでぇことができるんだよ!!」

 

ヒーリングアニマルたちも悲しみ、怒りといったような感情を抱く。

 

「みなさん・・・」

 

そんな感情を抱くプリキュアたちに声をかけたのは、ラテを抱いている精霊の女性だった。

 

「まだお手当てはできるんじゃないでしょうか・・・?」

 

精霊の女性の声に、のどかたち三人は振り向く。

 

「あなた方からはお手当てを諦めたくない、そのような思いを感じます。ラテ様からも先ほど、お手当てをしたいという熱い思いを感じました。みなさんの諦めないという思いさえあれば、この状況を打破できるのではないでしょうか?」

 

精霊の女性はよく分からないが、ヒーリングガーデンに帰そうとしたラテの決意からお手当てをしたいという感情を感じた。そして、メガビョーゲンを必死に食い止めようとするのどかたちからは諦めないという感情を感じた。

 

そういう強い気持ちが失われない限り、この街は消えない。ビョーゲンズに蝕まれることもないと、精霊の女性は確かではないが、そのように感じたのだ。

 

思ったことを話しただけの精霊の女性だが、のどかはそんな彼女の言葉に今まで自分が聞いてきて、言ってきた言葉を思い出す。

 

「・・・そうだよ。あの街にいたメガビョーゲンだって、私たちが諦めてたら終わってたかもしれない。でも、私たちが諦めなかったから、エレメントさんも消えずに救うことができたんだ。諦めなければ、少しでも希望はあるんだ。だから、私たちはどんな時でも立ち止まっちゃいけないんだよ」

 

のどかはちゆとひなた、そして相棒のヒーリングアニマルたちに向き直る。

 

「行こう、みんな! 私たちはどんな時があっても諦めない! どんなに絶望があったとしても、立ち止まっちゃいけない! 救いたいという思いが消えない限り、私たちは戦わなくちゃ!」

 

みんなは少し呆然と見ていたが、のどかの言葉に少しずつ希望を取り戻していく。

 

「そうね。私たちはあの時からお手当てを諦めないって決めてたじゃない。だったら、私たちができることを進んでやるべきよ!」

 

「そうだよね! あたしたちはまだ戦えるし、希望はあるし! 頑張ればこの街だって取り戻せるもんね!」

 

「ラビリンは諦めないラビ!! ビョーゲンズがどんなに酷いことをしても!!」

 

「僕たちは、お手当てを続けるだけペエ!!」

 

「そうだよな!! なんだって、俺たちはお手当てに選ばれたプリキュアなんだもんな!!」

 

それぞれが言葉を紡ぐ。精霊の女性はその様子を見て、なんだかよく分からないが、自然と笑みがこぼれた。

 

そして、のどかたちは意を決したような表情に変え、すこやか市の街を見やる。

 

「絶対、私たちがお手当てをするんだから・・・!!」

 

「行きましょう・・・!!」

 

「うん!!」

 

のどかたちは皆で頷くと、すこやか市の街へと降りるためにすこやか山を降りていく。

 

「私たちも行きましょう、ラテ様」

 

「ワン!」

 

精霊の女性も、抱いているラテに頷くとのどかたちの後を追っていく。

 

その頃、街中では・・・・・・。

 

「くっ・・・・・・」

 

建物などが赤い靄で染まる中、フードの少女がステッキを杖代わりにしながら、メガビョーゲンを探していた。

 

体はメガビョーゲンのせいでボロボロだ。ダメージが溜まっているせいもあって、うまく体を動かすことができず、こうして支えて歩かないと動けないのだ。

 

「早く行かないと・・・泣いている声はどっちだ・・・?」

 

フードの少女は、泣いている声を辿りながら進む。時折、分かれ道があるが、泣いている声は聞こえるので、容易にたどることができる。

 

「どこからか力を借りるべきか・・・?」

 

フードの少女は傷だらけの姿を見て考えた。この状態のまま立ち向かっても、結局はメガビョーゲンにボコボコにされるだけだ。だったら、どこからか力を借りて傷を回復するべきなのではないかと。

 

「・・・・・・・・・」

 

しばらく、自分の傷を見つめる少女。手は動かしてみれば動くし、足もトントンと踏むことができる。

 

見つめているうちに、後先のことを考えているうちに、気が進まないと言ったような表情になってきた。

 

「いや、あれも結構疲れるんだ。自分の力で解決しないと・・・!!」

 

少女は力を借りようという考えを取っ払い、杖を突いて歩いていく。

 

「・・・・・・?」

 

しかし、少女は少し歩いたところで足を止め、別の方向を向く。

 

「なんだ・・・? 何か、別の力が近づいてきているような・・・?」

 

その方向に、あいつらではない別の何かの気配を感じるのだ。しかし、これはメガビョーゲンのような泣いている気配ではなく、どことなく希望に満ち溢れている・・・?

 

なんだか、暖かいような気もする・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

フードの少女は、何かを感じたように、まるで見とれるかのようにぼーっと虚空を見やる。

 

そして、しばらくするとハッとしたように我に帰る。

 

「早く、泣いている声を止めないと・・・!!」

 

フードの少女は、ステッキを杖代わりに突きながら、メガビョーゲンの気配を辿っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メガァ・・・!!」

 

ヘバリーヌが生み出したメガビョーゲンはすこやか市のほとんどの街を赤い靄で染めており、現在はすこやか市の端にある海沿いにあたりを蝕んでいた。

 

メガビョーゲンは赤い球体のようなものを出現させて、そこから赤い空気を噴射してそこの植物たちを病気へと蝕む。

 

あと一歩ですこやか市の街の侵攻が完了する。今のメガビョーゲンはそういう状態だった。

 

「フフフ・・・順調ね。これであの街同様にこの街もビョーゲンズのもの・・・」

 

その様子を眺めていたのは、ビョーゲン三人娘の一人・クルシーナだった。

 

まもなく、ここ一帯はあの街同様に生きてるって感じがなくなって、ビョーゲンズのものになる。珍しくお父様ーーーーキングビョーゲンも褒めてくれるだろう。

 

それをよそにクルシーナは、自分の横で寝そべっている後輩を見やる。

 

「・・・自分で生み出しておいて、のんきに寝てるとか。どんだけマイペースなんだか、こいつは・・・」

 

寝ているヘバリーヌを、クルシーナは呆れたように言う。

 

「ん・・・あぁ・・・お姉ちゃん♪」

 

さぞかし良い夢を見ているのだろうと、人の苦労も知らない後輩。あの時、先代プリキュアに似て、あの街に現れたやつに似たプリキュアのあの技から助け出さなかったら、どうなっていたことやら。

 

こいつが勝手な行動をとったせいで、メガビョーゲンを生み出せる貴重なテラビョーゲンが一人いなくなるところだったのだ。バテテモーダは残念だったが、こいつを助け出せただけでもよしとしたい。

 

「さてと、プリキュアどもは来ないのかしらねぇ?」

 

クルシーナはヘバリーヌからメガビョーゲンに視線を移すと、メガビョーゲンに特に変わった様子はなく、一帯を赤い靄に蝕んでいるのみだ。見た感じ的に言うのであれば、メガビョーゲンは先程よりも大きく成長を遂げているぐらいだ。

 

そして、クルシーナにはもう一つ気にしていることもあった。

 

「あと、あのフードの女も・・・」

 

山中でわざわざ崖から落ちて逃亡したフードの少女。それは自分の父親、キングビョーゲンに脱走者と言われていたやつだ。あいつもきっと現れるだろうとクルシーナは踏んでいた。

 

それは三人娘がバテテモーダの元へ行く前の話だ。

 

ーーーー脱走者を放置とはどういうことだ? クルシーナ。

 

キングビョーゲンはクルシーナの提案に、険しい表情を浮かべる。今にも淀んだ顔がフルフルと震わせそうな雰囲気だ。

 

ーーーー言った通りの意味よ。あいつは放置でいいってこと。

 

クルシーナは当然のようにキングビョーゲンに言い放った。

 

ーーーーお前はいつからそんな我の命令を逆らうようになったのだ・・・!?

 

ーーーーまあまあ、落ち着いてよ。考えはあるっての。

 

淀んだ顔を歪ませるが如く近づけて怒るキングビョーゲン。しかし、クルシーナは少しも動じることなく、自分の父親に適当に返す。

 

ーーーー考えも何も、捕まえられてない時点で考えも何もないの。

 

ーーーーそうですよ。お父さんが珍しく怒ってるではないですか。

 

イタイノンとドクルンが冷たい目をしながら言うも、クルシーナは特に相手をすることをしない。

 

ーーーーそのお前の考えとやらを聞かせてもらおうか・・・!!

 

ーーーーあいつはアタシが生み出した失敗作。でも、おそらくあいつの能力はーーーー。

 

クルシーナはキングビョーゲンに、脱走者の能力の詳細を話す。

 

ーーーーだから、プリキュアどもにくっつけちゃえば少しは役に立つんじゃないかってこと。

 

ーーーーほう・・・それは面白い考えだ。

 

ーーーーでしょ? まあ、最悪あいつをこっちに引き戻すってこともできるしね。

 

クルシーナの考えを聞いたキングビョーゲンは興味深いと言ったように話す。

 

ーーーーその能力に確証はあるの?

 

ーーーーどう聞いても憶測にしか聞こえませんが?

 

イタイノンとドクルンは疑問に思っていた。何も見ていないのに、そう言う能力があることがわかること自体疑問だ。

 

ーーーーあるわよ。それはね・・・。

 

クルシーナはその確証を持てる現象の詳細をここにいる者たちに話す。それは自分の手下のコウモリたちにも調査させたということも合わせて話す。

 

ーーーーそう言うことなの。

 

ーーーーよく見ていますね。

 

ーーーーアタシの観察眼を甘く見ないでほしいわね。というわけでお父様、あいつはうまく利用するってことでいいかしら?

 

クルシーナは余裕の笑みを浮かべながら言った。

 

ーーーーよかろう。目障りなプリキュアをどうにかできるかもしれぬしな・・・。

 

キングビョーゲンは、クルシーナにその作戦を承諾したのであった。

 

そして現在・・・・・・メガビョーゲンに病気を蝕ませる一方で、すこやか市の街があるであろう場所をクルシーナは見つめていた。

 

「あいつも来てれば、好都合だけど」

 

クルシーナは笑みを浮かべながらそう呟く。

 

そんな大惨状とも言える場所に、口で噂をした奴らの気配にクルシーナは振り向く。

 

「ふーん、噂をすれば・・・」

 

不敵な笑みを深くする。プリキュアたちがやってきたのだ。しかも、金髪の先代似のプリキュアになるであろう女性の姿もある。

 

「いたわよ!! メガビョーゲン!!」

 

「うぇぇ!? 今までのメガビョーゲンよりもはるかにでかいよ!?」

 

「あぁ・・・!?」

 

のどかたちは今までにない大きさのメガビョーゲンに驚く。それはあの街で合体したメガビョーゲンと同じくらいの大きさだ。

 

「あらあら、やっと来たんだ・・・?」

 

「クルシーナ!!」

 

そんな彼女たちの前にクルシーナが姿を現す。その表情は余裕の笑みを浮かべていた。

 

「気づくのが遅いんだよ。そんな弛んでるお前らにこのメガビョーゲンを止められるのかしらねぇ?」

 

思わず心が折れそうになるくらいだが、三人はすこやか市の街を救うという気持ち、お手当てをしなければならないという気持ちは変わらなかった。

 

「止めるよ、絶対に・・・!!」

 

「そうよ、私たちはビビってなんかいられない・・・!!」

 

「あたしたちは、お手当てを続けないとね!!」

 

「ラビ!!」

 

「ペエ!!」

 

「ニャ!!」

 

のどかたちも、相棒のヒーリングアニマルたちも、ビョーゲンズから街を救うという決意は変わらない。

 

「ラテ様、私たちも参りましょう」

 

「ワン!」

 

ラテの願いのためにお手当てをすることを決めた精霊の女性も、体調が悪そうなラテもメガビョーゲンに怖気付くことはない。

 

「「「「スタート!」」」」

 

「「「「プリキュア、オペレーション!!」」」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

「エレメントレベル、上昇ラテ!!」

 

「「「「キュアタッチ!!」」」」

 

ラビリン、ペギタン、ニャトランがステッキの中に入ると、のどか、ちゆ、ひなたはそれぞれ花のエレメントボトル、水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

そして、肉球にタッチすると、花、水、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、水色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ちゆは水色、ひなたは黄色へと変化する。

 

一方、ラテと精霊の女性が手を取り合うと、白い翼が舞い、ラテが舞ったかと思うとハートの中から白い白衣のようなものが飛び出す。

 

その白衣を身に纏い、ラテが降りてきたかと思うとハープが飛び出し、さらに精霊の女性は紫色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

衣装にチェンジした後、ハープを手に取り、その音色を奏でる。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「「時を経て繋がる、二つの風!」」

 

「キュアアース!!」

 

「ワン!」

 

精霊の女性は、風のプリキュア、キュアアースへと変身した。

 

「「「「地球をお手当て!!」」」」

 

「「「「ヒーリングっど♥プリキュア!!」」」」

 

プリキュアに変身した4人。アースを除く三人は、変身して早々飛び上がる。

 

「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 

「メ・・・ガ・・・ガァ・・・!?」

 

蹴りのモーションとなってメガビョーゲンへと突っ込む三人。三人分の蹴りが次々と直撃し、三発目で後方へと吹き飛ばされるメガビョーゲン。

 

しかし、あまり聞いていないのか、すぐに体勢を立て直すと禍々しい赤い球体のようなものを複数出現させる。

 

「メガァ・・・!!」

 

そして、その球体から赤く禍々しい空気をプリキュアにめがけて噴射する。

 

「「「きゃあぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

ものすごい質量の風を受けて、吹き飛ばされる三人。それと入れ替わるようにアースが飛び出し、メガビョーゲンへと駆け出す。

 

「ふっ!」

 

アースはメガビョーゲンの前で飛び上がると、体を縦に回転させる。

 

「はぁ!!」

 

「メガ・・・!?」

 

そして、宙に浮いているメガビョーゲンに踵を落として、地面へと叩きおとす。

 

キュン!

 

「キュアスキャン!!」

 

グレースは肉球を一回タッチすると、ステッキをメガビョーゲンへと向ける。ラビリンの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを発見する。

 

「空気のエレメントさんラビ!!」

 

「!? また、消えかかってる・・・!?」

 

顔の下あたりにいる模様だが、エレメントさんはぐったりしていて、ノイズが走っているような状態。これは、もはや仮死状態である証拠だ。

 

「大変! 早く気力を戻さないと・・・!!」

 

「でも、どうやってやんの!?」

 

フォンテーヌがそう言うも、スパークルは困惑したように言う。あの合体メガビョーゲンの時はやられる寸前で力が流れ込んできて、無意識でやっていたので三人はやり方を知らないのだ。

 

その様子を見ていたクルシーナは・・・・・・。

 

「ふん、やっぱりあのプリキュアにはやられっぱなしか・・・」

 

クルシーナは、キュアアースにメガビョーゲンが相手になっていないことに顔を顰める。キュアグレースたち三人は相手にならないだろうから、まだいい。だが、アースに執拗に攻められて、浄化されてしまってはこの作戦の意味もなくなる。

 

ヘバリーヌはのんきに眠っているし、こうなったら自分があいつを引き離すように出て行くしかないか・・・。

 

「メガビョーゲン!! そのプリキュアはいいから、そこのピンクと青と黄色のプリキュアを潰せ」

 

「メガァ・・・!!」

 

クルシーナの指示を受けて、地面から起き上がったメガビョーゲンは再び宙に浮かび上がると体を高速回転させる。

 

「メメメメメメメメ!!!」

 

メガビョーゲンはアースの横を逸れて、そのままグレースたち三人の方へ突っ込んでいく。

 

「お待ちなさい!!・・・!?」

 

アースはメガビョーゲンの後を追おうと飛び出すも、その前にクルシーナが瞬間移動で姿を現す。アースはとっさに後方へと飛びのいて、クルシーナと距離を取る。

 

「お前の相手はこのアタシよ」

 

「っ!!」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべながら、アースを見据える。

 

「「「っ・・・あぁぁ!!」」」

 

高速回転しながら突っ込んでくるメガビョーゲンに、ぷにシールドを展開するグレースたち三人。しかし巨体な分、攻撃の勢いが強く、ぷにシールドごと吹き飛ばされてしまう。

 

しかし、三人は大勢を立て直すとそれぞれのエレメントボトルを取り出す。

 

「実りのエレメント!!」

 

「雷のエレメント!!」

 

「氷のエレメント!!」

 

「「「はぁっ!!」」」

 

三人はステッキから一斉にそれぞれの色の光線を放つ。

 

「メガァ・・・!!」

 

メガビョーゲンは赤い球体を出現させると、そこから強力な赤い空気を噴射する。光線は赤い空気の中に入っていくと、徐々に勢いを弱めていき、そのまま消えてしまった。

 

「あぁ・・・!?」

 

「嘘・・・!?」

 

「ものすごく成長していて、エレメント技が通用してないペエ・・・!!」

 

「メーガァー・・・!!」

 

呆然とする三人。そんな間も無くメガビョーゲンは、頭から赤い霧のようなもの噴射していく。赤い霧は空高く上がっていくと、そこから水玉のようなものが降り注いで、プリキュアの上へと落下する。

 

ドカン!! ドカン!! ドカン!!!!

 

水玉は地面に着弾して爆発を起こしていく。

 

「くっ・・・!!」

 

プリキュア三人はぷにシールドを展開して爆発を凌ごうとするも、絶え間なく落ちてくる水玉のせいで動くことすらかなわない。

 

ドカン!! ドカン!! ドカン!! ドカン!! ドカン!!

 

「うっ・・・一体、どうしたら・・・!?」

 

「くっ・・・!!」

 

「うぅ・・・!!」

 

次第に大きくなっていく爆発の規模。プリキュアたちも苦しい顔をしていく。

 

「メー・・・!!」

 

そんな中、メガビョーゲンは体の中を禍々しく光らせて何かを溜めていく。そして、メガビョーゲンの体が三層に割れたかと思うと、その溜めた光はその一番上の割れたところから露出していく。

 

そこで一層、その禍々しい光を輝かせたかと思うと・・・・・・。

 

「ガァ・・・!!!!」

 

ビィィィィィィィィィィィィ!!!!

 

ドカァァァァァァン!!!!

 

四方向に禍々しい赤いレーザーを放ち、着弾したところに大爆発を起こした。

 

「はぁっ!!」

 

「ふん!!」

 

その頃、アースとクルシーナの蹴りがぶつかり合う。二人は互いに距離をとると、アースが駆け出していき、クルシーナは目からピンク色のビームを次々と放つ。

 

ビィィ! ビィィ! ビィィ!!

 

ドカァン!! ドカァン!! ドカァン!!

 

アースはビームを避けながら、クルシーナへと迫る。

 

「はぁっ!!」

 

「ふっ!!」

 

アースはクルシーナめがけてミドルキックを繰り出すも、クルシーナは両腕を交差させて蹴りを防ぐ。

 

「ふん!!」

 

「っ!!」

 

クルシーナは交差されている両腕を払って、アースの足を弾く。そしてその瞬間、クルシーナの姿が消える。

 

「!? はぁ!!」

 

背後に気配を感じたアースはとっさに肘を背後に出して、クルシーナの拳を防ぐ。

 

「っ・・・!!」

 

「強さはあの時と変わってないねぇ」

 

不敵な笑みを浮かべながらクルシーナは拳を押しのけようとする。

 

「あなたも、あのビョーゲンズと同じことを・・・!?」

 

「いやぁ? アタシはお前とあいつは別人だと思ってるけど、力も姿もそっくりで、あの時と同じように興奮しちゃった♪」

 

「くっ・・・!!」

 

「ふん!!」

 

「あ・・・!?」

 

クルシーナは拳を開いて肘をつかみ、アースの右肩をもう片方の手で掴むと背負い投げをするかのように放る。アースは体勢を立て直すも、そこへクルシーナは片手から次々とピンク色の光弾を放つ。

 

「っ・・・!!」

 

ドォン!! ドォン!! ドォン!!

 

光弾は着弾して爆発し、アースは両腕を交差して防御体勢をとる。

 

シュイン!!

 

「!?」

 

「ふっ・・・」

 

クルシーナはアースの目の前に瞬間移動をして、不敵な笑みを浮かべた後、禍々しいオーラを溜めていた片手をアースに目掛けて構え、そこから黒みがかかった赤色のエネルギー波を近距離で放った。

 

「メガァ・・・!!」

 

ビィィィィィィィ!!! ドカァァァン!!!!

 

「うわあぁぁ!!!」

 

メガビョーゲンは強力な赤いレーザーを放って、爆発でスパークルを吹き飛ばす。

 

ビィィィィィィィ!!! ドカァァァァァン!!!

 

「あぁぁ!!!!」

 

ビィィィィィィィ!!! ドカァァァァァン!!!

 

「きゃあぁ!!!!」

 

さらにフォンテーヌとグレースにもレーザーを放ち、こちらも爆発で吹き飛ばされる。

 

「うぅぅ・・・」

 

「グレース! しっかりするラビ!!」

 

倒れ伏したグレースは立ち上がろうとするが、ダメージが蓄積していて起き上がることすらできない。

 

「ダメ・・・攻撃が全然通用して、ないんだけど・・・」

 

「さっきからエレメント技を試しても、全然聞いてねぇし!」

 

「私たちじゃ、無理なの・・・?」

 

「ペエ・・・!」

 

スパークルもフォンテーヌも、これまでのダメージが回復して切っていないのと、このメガビョーゲンから攻撃を受けているのも重なって、なかなか立ち上がれない。

 

「ふんっ!!!」

 

「うぅっ・・・!!」

 

クルシーナの蹴りを両腕を交差させて防ぐも、吹き飛ばされるアース。それでもなんとか足をブレーキにし、倒れないように踏ん張る。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「もう疲れてんの? もっとアタシを楽しませろよ」

 

余裕の表情を浮かべるクルシーナに対し、アースは息が上がっていて、体が少しボロボロになってきている。

 

「ふっ・・・!!」

 

「!・・・あぁぁ!!!」

 

クルシーナは片手からピンク色の光弾をアースへに次々と放っていく。アースは走って避けながらクルシーナへと駆け出すも、先ほどよりも動きが鈍っていたのか、光弾の直撃を受けて吹き飛ばされてしまう。

 

「っ・・・」

 

「どうしたの? 動きが散漫になってるけど?」

 

倒れ伏すアースを見下ろすクルシーナ。

 

「っ・・・ふっ!!」

 

「おっと・・・!」

 

アースはすぐに立ち上がってフラッシュキックを繰り出すも、クルシーナは体を反らすだけで交わし、その流れでアースはバク転をして後ろへと飛び退く。

 

クルシーナから距離をとって、再び構えるアース。

 

「ふん!!」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべて、片足を地面に叩きつけると地面を掘り進むかのように何かが移動し、アースの背後から二本の黒いバラのようなものが生え、そこから短めのビームを次々と放った。

 

ビィィィィ!!

 

「!? ふっ・・・はっ・・・!!」

 

アースは飛び退きながら、バク転をしながらビームを交わすも、クルシーナは飛び上がって植物の種のような黒いものを宙に複数出現させると片足を振るって蹴り飛ばす。

 

「オラァッ!!!」

 

「あぁぁ!!!!」

 

アースは気づくも宙に浮いていたところを狙われたために防御体勢が遅れ、そのまま直撃を受けて爆発を起こし、吹き飛ばされてしまう。受け身を取ることができず、地面に叩きつけられるアース。

 

「くっ・・・!!」

 

体を震わせながらも、立ち上がろうとするアース。そんな彼女にクルシーナが近づく。

 

「もう終わり? まだやれるでしょうよ」

 

ドカァァァァァァァァン!!!!

 

「「「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 

「!?」

 

悲鳴が聞こえて、アースが振り向くとグレースたち三人がメガビョーゲンの攻撃を受けて、吹き飛ばされて宙を舞う姿が見えた。

 

「あ・・・みなさん・・・!!」

 

アースはグレースたちがメガビョーゲンにやられている姿を見て動揺を隠せない。なぜだろうか・・・よくわからないが、あの三人の無残な光景を見て、自分の中にあるものが乱れているような感じがする。

 

ラテのためにとお手当てを誓ったあの瞬間、あの時とは違う何かが自分に流れ込んでいる。

 

「うぅぅ・・・」

 

「くぅぅ・・・」

 

「うぅぅ・・・」

 

グレースたち三人は、メガビョーゲンの攻撃を受けてボロボロになっており、立ち上がる気配もなく、意識が朦朧としている状態だ。

 

「あっちも、もう終わりかしらね?」

 

クルシーナはグレースたち三人が倒れているのを見て、不敵な笑みを浮かべる。

 

「クゥ~ン・・・ウゥ~ン・・・!!」

 

「ん?」

 

どこからか犬の鳴き声が耳に入り、クルシーナはその方向を向くとそこには体調を悪そうにしながらも、不安げな声を上げるラテの姿があった。

 

「ついでだから、あいつを先に片付けておこうかしら。やれ、メガビョーゲン!!」

 

「メガァ・・・!!」

 

クルシーナはメガビョーゲンに攻撃するように指示を出す。あの子犬は目の前にいる厄介な新入りのプリキュアを変身させるのに必要な存在のようだし、あいつがいるとメガビョーゲンに支障が出る。今のうちに始末しておいて、あいつらの戦力を削いでおくのもいいだろう。

 

メガビョーゲンはレーザーを放つべく、一番上の別れた部分に禍々しいエネルギーを溜め始める。

 

「や、やめて・・・うぅ・・・あ・・・!!」

 

ラテに撃とうとしていることを察したグレースは立ち上がろうとするが、ダメージが積み重なり、意識が朦朧としている状態では腕に力が入らなかった。

 

「ダ、ダメ・・・!!」

 

薄眼を開けながら叫ぶフォンテーヌの声はどこか弱々しかった。

 

「ラテ、逃げてぇ・・・!!」

 

スパークルも手を伸ばそうとするも、その手は弱々しくラテには届かない。

 

「!! ラテ様・・・!! あぁ!!」

 

「お前の相手はこのアタシだって言ったはずだろ?」

 

アースはラテを助けようと動くも、彼女の目の前にクルシーナが瞬間移動をして、蹴りを入れる。アースもクルシーナに阻まれて助けに行くことができない。

 

そんな三人の行動もむなしく、無情にもメガビョーゲンの禍々しいエネルギーは溜まっていく。

 

そして・・・・・・・・・。

 

ビィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!

 

メガビョーゲンから極太のレーザーが放たれる。それはラテに迫っていき・・・・・・。

 

ドカァァァァァァァァァァン!!!!

 

着弾して爆発を起こした。

 

「あ・・・あぁ・・・」

 

グレースはその光景に絶望の表情を浮かべるしかなかった。

 

「そ、そんな・・・」

 

「ラテ・・・!!」

 

フォンテーヌとスパークルも絶望に近い言葉を発していた。

 

「ラテ、様・・・?」

 

アースは絶望の表情をしながら、がくりと膝を地面に落とす。自分はラテ様を守るために生まれてきたのに、守れなかった・・・?

 

「フフフ・・・」

 

クルシーナがその様子を受けて、不敵な笑みを浮かべていた。あの攻撃を受けてはラテも無事では済まないだろうと。

 

大きな音と共に煙が晴れていく。そこには攻撃を受けて倒れているラテの姿は・・・・・・存在しなかった。

 

「!?」

 

クルシーナはラテが倒れていないことに目を見開く。体調が悪く動きが鈍っているあの子犬が、素早く動いた? いや、そんなことがあるはずがない。

 

「ラテ・・・?」

 

「ラテがいない・・・!?」

 

「消えちゃったの・・・!?」

 

グレースたち三人もその光景に戸惑いを隠せない。

 

「ラテ様・・・どこに・・・!?」

 

アースはラテが消えたことに戸惑い、焦ったようにキョロキョロと辺りを見渡す。すると、何やら一つの影が立っているのが見えた。

 

「あ、あれを見るラビ!!」

 

ラビリンが何かを見つけたようで叫ぶ。グレースたち三人が視線を向けるとそこに立っていたのは、黒いフードを被った少女の姿だった。

 

「誰なの・・・!?」

 

「わ、わからないペエ・・・」

 

「ビョーゲンズ、じゃ、ねぇよな・・・?」

 

「見たこともないんだけど・・・?」

 

「あ・・・ラテ・・・!!」

 

突然現れた見慣れない人物に戸惑いの声を上げるフォンテーヌとスパークル。そして、そんな彼女の手にはラテを抱いているのが見えた。

 

どうやらラテをメガビョーゲンのレーザーから助け出したのは、あのフードの少女のようだった。

 

「キミ、怪我はないか・・・?」

 

「ワン!」

 

「そうか・・・よかった」

 

フードの少女の気遣うような声をかけると、ラテは元気に返事をする。フードの少女はそれを見て口元に優しい笑みを浮かべると、彼女をゆっくりと地面に下ろす。

 

そして、ラテに手を伸ばして頭を優しく撫でる。

 

(なんだろう・・・まるでのどかたちに優しくされているみたいラテ・・・)

 

ラテはフードの少女にのどかたちに優しくされているのと同じような気持ちを感じた。暖かいような、冷たいような感覚。でも、優しい感覚・・・・・・。

 

フードの少女はラテから手を離すと立ち上がり、メガビョーゲンの方を睨む。

 

「ふーん、やっと出てきたのねぇ、脱走者!!」

 

クルシーナは待っていたとでも言いたげな加虐な笑みを浮かべながら、フードの少女を見つめていたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第58話「不屈」

前回の続きです。
今回で長編は最後になります。


 

数分前・・・・・・。

 

「いろんな何かが交差しているが、泣いている声は、こっちから聞こえたな・・・」

 

フードの少女は、メガビョーゲンの気配をたどってトンネルの中を突き進んでいた。ステッキを突き、足を引きずりながらも、そこに行かなくては行かなきゃと前へと進んで行く。

 

自分はどうして、泣いている声をたどっているのだろうかと疑問に思うことがある。なぜそんな声を追って、泣き止ませる必要があるのか。

 

よくわからないが、私の中でそれらを止めなくてはならないという何かが、それは良くないという何かが自分の中に溢れ出してやまないのだ。

 

それは自分の意思なのか、本能的な何かなのか?

 

自分がどうして生まれたのかはわからない。気がついたときには無機質な部屋にいて、殺風景とも言えるような部屋にいて、そこがどこなのかも皆目見当がつかない。

 

しかし、そこにいてはいけないと、なんだか自分の中の何かがそう感じたような気がした。だから、私はなぜか出来る瞬間移動をして、あそこから逃げてきたのだ。そして、なんだか空気がきれいなこの街へとやってきたのだ。これも本能の一つなのだろうか?

 

この街に来て、空気が苦しいと感じたその時、何やら泣いているような声が聞こえ、自分はわからないが、この体とは別に苦しい何かが自分の中に流れ込んできたのだ。

 

でも、今この時だけはわかる。

 

これは、自分の意思であると・・・。それだけは間違いないと言い聞かせる。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

トンネルの距離が長く感じる。それでもフードの少女は息を切らしつつも、歩いていく。

 

すると、トンネルの中に赤い靄みたいなものが侵食しているのが見えた。

 

「!! これは・・・ついさっきできたもの。ということは、本当にこの先に泣いているものが・・・?」

 

トンネルの壁に付いている赤い靄を見て、これは先ほど侵食したものだと見受けられる。触ってみると新しいと感じさせるくらいできたばかりの病気で、生暖かく感じる。

 

ということは、泣いている声はその先に・・・・・・。

 

「行くぞ・・・・・・!!」

 

少女はステッキをつきながら、赤い靄の先へと進んで行く。

 

トンネルを抜けて外に出ると、そこにはあの怪物が蝕んだと見られる赤い靄が広がっているのが見えた。

 

別に驚きはしない。なぜだかわからないが、驚きはしなかった。

 

少女はキョロキョロと見渡すとそこに巨大な怪物の姿があった。

 

「いた、あそこ!! っ!?」

 

怪物の姿を見た少女だが、その傍らにコスプレをした3人の少女が倒れ伏しているのが見えた。

 

「まずいな・・・早く助けて、泣き止ませないと・・・!!」

 

少女は今にも飛び出していきたいが、体がボロボロのままではまた返り討ちにあうだけだ。どうにかして回復させないといけない。何か手を貸せるものはないかと辺りを見渡す。

 

ふと彼女が見たのは、ここが海に面している場所だということ。まだ、赤く汚されていない海があるのが目に見える。

 

「よし、あれを使えば・・・!!」

 

少女はステッキを突きながら、海の方へとゆっくりと向かっていくと杖代わりにしていたステッキを海に向かって構える。

 

少女は目を瞑ると彼女の周囲がブワッと風が吹き、体が光り始める。すると、海の方も彼女に呼応するかのように光っていく。

 

「水の力よ!!」

 

少女はそう叫ぶと、海の水がまるで呼ばれたかのように飛び出してくる。そして、少女が黒いステッキを掲げるとその力が集まっていく。

 

パァ・・・!!!!

 

そして、そのステッキが青く光ったかと思うと、少女の黒いフードが暗い水色に変わっていき、フードから見えている金髪が水色の髪に変わっていく。

 

さらにステッキも暗い水色に変わっていき、その先端には水色の玉のようなものが取り付けられていた。

 

「よし! 癒しよ!!」

 

少女はそう叫びながらステッキを真上に掲げると、ステッキから呼ばれたかのように水が少女の体を包み込む。

 

「っ・・・こぽっ・・・」

 

少女は傷が染みているのか、顔を少し顰め、水が体を痛めつけて苦しく感じていたが、水球に包まれた形となった少女のボロボロになっていた傷がみるみるうちに回復していく。

 

少女の傷が完全に傷が癒された時、水球は弾けるように散開し、そこには水も滴る女性と言わんばかりの、そして傷がきれいさっぱりと無くなった生まれ変わったような少女の姿があった。

 

「最初からこうすればよかったな・・・」

 

少女は水の力を使えば癒すこともできたはずなのに、なんで思いつかなかったのかと感じた。

 

「よし、あの娘たちを助けて・・・っ!?」

 

少女はコスプレ姿の少女たちを助けようと向かうが、ふと怪物が別の方向を向いているのを見て、そこに視線を向けるとそこには子犬の姿があった。

 

「あの怪物・・・あの子犬に攻撃しようとしているのか・・・!?」

 

少女はそれに気づくとその子犬を助けようと飛び出していき、その場から姿が消える。

 

怪物ーーーーメガビョーゲンはレーザーを放つべく、一番上の別れた部分に禍々しいエネルギーを溜め始める。

 

「や、やめて・・・うぅ・・・あ・・・!!」

 

ラテに撃とうとしていることを察したグレースは立ち上がろうとするが、ダメージが積み重なり、意識が朦朧としている状態では腕に力が入らなかった。

 

「ダ、ダメ・・・!!」

 

薄眼を開けながら叫ぶフォンテーヌの声はどこか弱々しかった。

 

「ラテ、逃げてぇ・・・!!」

 

スパークルも手を伸ばそうとするも、その手は弱々しくラテには届かない。

 

「!! ラテ様・・・!! あぁ!!」

 

「お前の相手はこのアタシだって言ったはずだろ?」

 

アースはラテを助けようと動くも、彼女の目の前にクルシーナが瞬間移動をして、蹴りを入れる。アースもクルシーナに阻まれて助けに行くことができない。

 

そんな三人の行動もむなしく、無情にもメガビョーゲンの禍々しいエネルギーは溜まっていく。

 

そして・・・・・・・・・。

 

ビィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!

 

メガビョーゲンから極太のレーザーが放たれる。それはラテに迫っていき・・・・・・。

 

そのラテの背後に少女は姿を現し、彼女はラテを抱えると再び姿を消す。

 

ドカァァァァァァァァァァン!!!!

 

そして、誰もいない場所にレーザーは着弾して爆発を起こした。

 

煙が晴れていき、そこには攻撃を受けて倒れているラテの姿は・・・・・・存在しなかった。

 

「!?」

 

クルシーナはラテが倒れていないことに目を見開く。体調が悪く動きが鈍っているあの子犬が、素早く動いた? いや、そんなことがあるはずがない。

 

「ラテ・・・?」

 

「ラテがいない・・・!?」

 

「消えちゃったの・・・!?」

 

グレースたち三人もその光景に戸惑いを隠せない。

 

「ラテ様・・・どこに・・・!?」

 

アースはラテが消えたことに戸惑い、焦ったようにキョロキョロと辺りを見渡す。すると、何やら一つの影が立っているのが見えた。

 

「あ、あれを見るラビ!!」

 

ラビリンが何かを見つけたようで叫ぶ。グレースたち三人が視線の先には、黒いフードを被った少女の姿があった。

 

「誰なの・・・!?」

 

「わ、わからないペエ・・・」

 

「ビョーゲンズ、じゃ、ねぇよな・・・?」

 

「見たこともないんだけど・・・?」

 

「あ・・・ラテ・・・!!」

 

突然現れた見慣れない人物に戸惑いの声を上げるフォンテーヌとスパークル。そして、そんな彼女の手にはラテを抱いているのが見えた。

 

少女は間一髪で瞬間移動を使い、ラテを助け出したのであった。

 

「キミ、怪我はないか・・・?」

 

「ワン!」

 

「そうか・・・よかった」

 

フードの少女の気遣うような声をかけると、ラテは元気に返事をする。フードの少女はそれを見て口元に優しい笑みを浮かべると、彼女をゆっくりと地面に下ろす。

 

そして、ラテに手を伸ばして頭を優しく撫でる。

 

(なんだろう・・・まるでのどかたちに優しくされているみたいラテ・・・)

 

ラテはフードの少女にのどかたちに優しくされているのと同じような気持ちを感じた。暖かいような、冷たいような感覚。でも、優しい感覚・・・・・・。

 

フードの少女はラテから手を離すと立ち上がり、メガビョーゲンの方を睨む。

 

「ふーん、やっと出てきたのねぇ、脱走者!!」

 

クルシーナは待っていたとでも言いたげな加虐な笑みを浮かべる。少女は倒れているプリキュア3人の前に瞬間移動をして現れる。

 

「メガビョーゲン!! これ以上はこの私が許さないぞ!!」

 

少女はそう言いながら、水色に変化したステッキをメガビョーゲンに構える。

 

「お前のような失敗作に、この成長したメガビョーゲンを止められるのかしら?」

 

クルシーナは完全に少女を見下すように言い放つ。その言葉では少女の表情は睨みつけたまま変わらない。

 

「たとえ何度やられても、私は諦めない!! 私はお前の泣き止む声を止めるだけだ!!」

 

「ふん。やれ、メガビョーゲン」

 

「メガァ・・・・・・」

 

少女の揺るがない声に、クルシーナは鼻で笑うとメガビョーゲンに指示を出す。メガビョーゲンは赤い球体を前に出して、そこから赤い空気を噴射する。

 

少女は駆け出してその攻撃を交わすと、メガビョーゲンへと飛び出していく。

 

「メガァ・・・メガァ・・・!!」

 

メガビョーゲンは次々と空気を噴射していくも、少女はその度に瞬間移動をしながらかわしていく。

 

そうだ。私も必死になれば、あいつだって止められるはずだ・・・。

 

そう考えながら、メガビョーゲンの攻撃をかわしつつ迫っていく。

 

「ふっ!!」

 

そして、少女は怪物との距離がわずかという場所で飛び上がる。

 

「メガァ・・・!!」

 

ビィィィィィィィィィィ!!!!

 

「はぁ!!」

 

メガビョーゲンは一番上の分かれた部分に禍々しいエネルギーを溜め、それをレーザーとして飛んだ少女に向けて放つ。少女はステッキを振るって、水を帯びたシールドを展開するとそれを防ぐ。

 

しかも、そのレーザーはそのシールドに吸収されていく。

 

「え・・・!?」

 

「あれって、ぷにシールドラビ・・・!?」

 

「しかも、攻撃を吸収してる・・・!?」

 

シールドはよく見ると自分たちも使うぷにシールドにそっくりだ、あれほど強力だったレーザーを防いだ上に、それをシールドに吸収していくという状況にプリキュアたちは驚きを隠せない。

 

「あの吸収の力は、アタシの能力と似ているわね。ますます興味深いわ」

 

「あいつってクルシーナと同族ウツ・・・?」

 

「アタシが生んだのには間違いないわね」

 

クルシーナはその光景を見て、不敵な笑みを浮かべる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

少女はそのステッキを振り上げた後に、振り下ろすと極太の暗い青色のエネルギーを放つ。

 

「メ、メ、ガァ・・・!?」

 

直撃を受けて耐えようとするメガビョーゲンだが、徐々に押されていき、そのまま光線と共に地面へと叩きつけられた。

 

「ステッキから光線を出した・・・!?」

 

「もしかして、あの娘もプリキュアなの・・・!?」

 

「でも、ぷにシールドにあんな力見たことないペエ・・・!!」

 

「それに格好もプリキュアじゃないよな・・・?」

 

自分たちと似たような技を使う少女に驚くスパークルとフォンテーヌ。しかし、格好はどう見てもプリキュアじゃないし、フードを被っていて顔などはよく見えず、彼女たちは戸惑うばかりだ。

 

地面へと着地をする少女は、舞い上がる煙を見つめる。

 

「メガァ・・・!!」

 

ビィィィィィィィィィ!!!

 

「っ・・・!!」

 

煙の中からレーザーが放たれ、驚いた少女はとっさに飛びのいてかわす。

 

「メガァ・・・」

 

煙が晴れて、宙に浮いたメガビョーゲンの姿が現れる。

 

「くっ・・・まだ、ダメか・・・!」

 

決定的なダメージを与えられていないことを感ずる少女はなんとかしなければと周りをキョロキョロと見渡す。

 

ハッと彼女は倒れているプリキュアたちに目が入る。

 

そうだ、メガビョーゲンの中にいる何かが泣き止んでいるのは、さっき別の形ではあるが、あの怪物と戦っていた彼女たちのおかげなのかもしれない。彼女たちの力を借りれば、もしかしたら・・・。

 

そう思い、少女はプリキュアたちの方向を向く。

 

「キミたち!! 手を貸してくれないか!?」

 

「「「??」」」

 

少女の叫びを受けて、グレースたちは呆然とする。突然、現れた正体不明の人物の登場でもびっくりしたのに、その彼女に助けを求められていて考えが追いついていない。

 

「キミたちがあの怪物を泣き止ませているのだろう? だったら、力を貸して欲しい! 私はもうあの泣いている声を聞くのは嫌なんだ!! 頼む!!」

 

少女の顔は見えていないが、何やら必死になっていることが伝わる言葉だ。グレースはそう感じて、傷ついた体をゆっくりと動かしながら、体を震わせながらも立ち上がっていく。

 

それに彼女はラテを助けてくれたのだ。協力しない理由はないし、もとより自分たちはメガビョーゲンを止めるつもりで戦っている。

 

そんなグレースの姿に鼓舞されたのか、フォンテーヌとスパークルもゆっくりと立ち上がる。

 

「みんな、行こう・・・!!」

 

「私も、そのつもりよ・・・!!」

 

「うん・・・!!」

 

グレースたち3人はそう言いながら、フラフラとしながら駆け出しつつも、少女の横に並ぶ。

 

「メガァ・・・!!」

 

メガビョーゲンは上の分かれた部分からレーザーを放つ。

 

「「「「っ!!」」」」

 

4人はレーザーを飛びのいてかわす。

 

「!あっ・・・!?」

 

スパークルが着地した先で体をよろつかせてしまい、倒れそうになる。どうやらダメージは相当なものだったようで、体も限界のようだった。

 

(目が霞んできて・・・!!)

 

視界もピントがうまく合わないかのように、ぼやけたりクリアになったりを繰り返しており、意識を保っているのもやっとのようだった。

 

「メガァ・・・!!」

 

そんな状態でもメガビョーゲンは容赦なく、スパークルに目がけてレーザーを放つ。

 

「スパークル・・・!!」

 

「くっ・・・!!」

 

そこへフォンテーヌが駆け出していき、スパークルの前でぷにシールドを展開してレーザーを防ぐ。

 

「うっ・・・」

 

しかし、フォンテーヌも体力の限界なのか、レーザーを抑えきれずに徐々に押されていく。

 

「まずい、あの二人がピンチだ・・・なんとかしないと・・・!!」

 

少女はキョロキョロと見渡すと、道にあった街灯に目を移す。あれはまだ赤い靄に蝕まれていない様子。

 

あそこからなら、別の力を・・・!

 

少女はそう思い、ステッキを街灯に向ける。

 

「光の力よ!!」

 

少女はそう叫ぶと、点いていない街灯の光が点き、光がまるで呼ばれたかのように飛び出してくる。そして、少女が黒いステッキを掲げるとその力が集まっていく。

 

パァ・・・!!!!

 

そして、そのステッキが黄色く光ったかと思うと、少女の黒いフードが暗いオレンジ色に変わっていき、フードから見えている金髪がオレンジ色の髪に変わっていき、瞳は金色に変わる。

 

さらにステッキが暗いオレンジ色に変わって二本になり、その先端にはビームサーベルのようなものが生えていた。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

少女はメガビョーゲンに向かって飛び出し、レーザーを吐いている隙をついて両手にあるステッキを振るう。

 

「メガァ・・・メガァ・・・!?」

 

「はぁっ!!!」

 

「メ、ガァ・・・!?」

 

少女が右左と振るうビームサーベルの攻撃でメガビョーゲンの体がよろけ、最後はクロスさせて振るう。攻撃を受けたメガビョーゲンはそのまま地面へと墜落する。

 

「大丈夫か!? 二人とも!!」

 

「うぅ、助かったわ・・・」

 

「あ、ありがと・・・っていうか、また何か変わってる・・・?」

 

少女は膝をついているフォンテーヌとスパークル、二人の近くに降りてその身を案じる。スパークルは少女の攻撃が変わっているのが気になっている。

 

「メガァ・・・!!」

 

「「っ・・・!?」」

 

「っ!!」

 

メガビョーゲンは宙に一気に飛び上がって、赤い球体を前に配置する。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「メガァ・・・!?」

 

そこへグレースが横からドロップキックを食らわせて吹き飛ばす。

 

「うっ・・・」

 

しかし、キュアグレースは着地した途端に体をフラフラさせ、膝をついてしまう。

 

「おい、キミも大丈夫か!?」

 

少女はグレースに駆け寄りながら言う。グレースもダメージのせいで体が限界を迎えており、立っているのもやっとの状態のようだった。

 

「三人がそんなに疲弊しているとは思わなかった・・・すまない・・・!! ここは少し休んでくれ・・・!!」

 

「っ!! く、うぅ・・・!!」

 

少女はそう言って彼女たちの身を案ずるが、グレースは無理して立ち上がろうとしている。

 

「私は、お手当てを諦めたくない・・・!! やめるわけにはいかないの・・・体が動く限りは続けるんだ・・・この素敵な街が、みんなが、苦しんでいるのを見るのは、もう嫌だから・・・!!」

 

グレースは体を震わせながらも、立ち上がりながらそう叫びを口にしていた。

 

「そう、ね・・・私たちはお手当てを止めるわけにはいかないもの・・・!! 設楽先生が住んでいたあの街、みたいに、これ以上、この綺麗な地球を奪われるわけにはいかないわ・・・!!!」

 

「あたしたちが、頑張らない、と・・・何も救えないし・・・何も助けてあげられないし・・・!! だから、やらないといけないんだよ・・・!! もう誰かを失うなんてことは、あっちゃダメなんだよ・・・!!」

 

そんな彼女に鼓舞されたかのようにフォンテーヌとスパークルも体をよろつかせながら立ち上がり、戦う意思を見せようとしている。

 

「キミたち・・・どうしてそこまで・・・?」

 

少女は体がボロボロになってまで、そんな状態でどうして戦おうとするのかわからなかった。立ち向かったとしても、メガビョーゲンを泣き止ませられる保証なんてないというのに・・・。

 

「だって・・・私たちは・・・」

 

「「「この街やみんなが大好きだから!!!!」」」

 

グレースたち三人は、メガビョーゲンにステッキを構えつつも少女に向かってそう言った。

 

三人がプリキュアとして戦えるのは、すこやか市という街を大切だと思っているから、そして守りたいものがたくさんあるからだ。その思いがあるからこそ、どんなに強敵が相手でも彼女たちはお手当てを諦めないのだ。

 

「それと・・・」

 

グレースは少女の方を振り向く。

 

「ラテを守ってくれてありがとう・・・」

 

「・・・!!」

 

グレースは少女に向けて満面の笑みを見せた。少女はそれに顔を赤らめて、何やら体の中に熱い別の何かを感じるような気がした。

 

「何よ、あの三人は満身創痍じゃない。そこまでしてお手当てしようとするなんてバカじゃないの?」

 

クルシーナはボロボロで疲弊している彼女たちを見て、バカにしたような口ぶりをしていた。

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

「!!」

 

そこにアースが飛び出して蹴りを入れようとするも、クルシーナは飛び上がってかわす。

 

「そういえば、お前と戦ってたの忘れてたわねぇ」

 

「私も・・・」

 

「は・・・?」

 

アースは何か胸のうちにある言葉を吐くように何かを紡ごうとしていた。

 

「私も、なんだかお手当てをしたくなりました。よくわかりませんが、あの三人を見ていると胸が熱くなって、心が熱くなって、お手当てをもっとやりたいという気持ちになるのです・・・!!」

 

アースはどうやらあの三人に鼓舞されたようで、お手当てをしたいという気持ちになっていた。なんだかよくわからない感情、それはラテ様のあの決意を聞いた時と同じだった。

 

自分はそれを作られたものではない、嘘の気持ちではないと感じ、プリキュアとして目の前にいる敵を浄化すると決めたのだ。

 

「ふん、何を訳のわかんないこと言ってんだか。燃えろ!!!」

 

クルシーナはアースの言葉の意味を理解する気にもならず、目からピンク色のビームを放つ。

 

「ふっ!! はぁぁぁぁぁ!!!!」

 

アースは飛び上がってビームをかわすと、そのままクルシーナに向かって駆け出す。

 

ビィィィィィ!! ビィィィィィ!! ビィィィィィィ!!!

 

クルシーナは次々とビームを放つも、アースは避けながらクルシーナはへと迫っていく。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

そして、彼女に迫った時、アースは渾身の拳を繰り出す。

 

「オラァァァ!!!!」

 

ドゴォォォォォォォン!!!!

 

クルシーナも拳を繰り出し、二人の拳がぶつかり合い、彼女たちを中心に大きく土煙が舞い上がる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

フォンテーヌは飛び上がって、メガビョーゲンに蹴りを入れる。しかし、怪物には全く通用しておらず、赤い球体をフォンテーヌの前に出す。

 

「メガァ・・・!!」

 

「きゃあぁぁぁ!!!」

 

球体から強力な赤い空気を噴射され、フォンテーヌは吹き飛ばされる。

 

「葉っぱのエレメント!!」

 

「火のエレメント!!」

 

「「はぁっ!!」」

 

グレースとスパークルは持っているエレメントボトルをステッキにセットすると、ステッキの先から光線を放つ。

 

「メッガァ、ビョーゲン・・・」

 

メガビョーゲンは少し苦しそうにするも、すぐに体を高速回転させて光線を弾く。

 

「っ・・・やっぱり攻撃が効いてない・・・!!」

 

「というよりも、私たちの力が入っていないのかもしれないわ・・・!!」

 

「うぇぇ!! どうすんの!?」

 

グレースたち三人は、メガビョーゲンへの攻撃の勢いがなくなっていることを感じ始めていた。啖呵を切ったはいいものの、とはいえ体力も体も限界だ。このままではいずれまた、メガビョーゲンに押されてしまうだろう。

 

そんな彼女たちの前に少女が飛び出す。

 

「私に任せろ!! キミたちはその隙に泣き止ませる準備を・・・!!」

 

「な、泣き止ませるって何!?」

 

少女の放ったある言葉に思わず聞き返してしまうスパークル。

 

「いいから早くやってくれ!!」

 

少女は特に意味を言うこともなく、メガビョーゲンへと再び飛び出していく。

 

「ラテが『泣いてる』っていうから、きっと浄化しようとしてるんじゃないのかな・・・?」

 

「そ、そうね・・・よくわからないけど、そうかもしれないわ・・・」

 

「な、なるほど・・・」

 

グレースの推察に、一応納得するフォンテーヌとスパークル。そうしている間に少女はメガビョーゲンへと駆け出していく。

 

「メガァ・・・メガァ・・・!!」

 

メガビョーゲンはレーザーを次々と放つも、少女は飛んで避けたり、ステッキを振るってシールドを展開して防ぎながら、怪物へと迫っていく。

 

「はぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「メガァ・・・!?」

 

少女は飛び上がって飛び蹴りを食らわせて、メガビョーゲンを吹き飛ばす。

 

「ふっ!!!」

 

少女は地面に着地した後、両手のステッキを振ってその先から光の鎖みたいなものをメガビョーゲンに放つ。そのまま鎖はメガビョーゲンをぐるぐる巻きにして縛る。

 

「メ、ガ・・・!?」

 

「はぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「メッガァ・・・!!!???」

 

少女は体から光を発光させて、それをステッキに伝わせると先にある鎖を通し、光がメガビョーゲンに直撃する。メガビョーゲンはその光に苦しみ始め、さらには怪物の内部で変化が起きていた。

 

それは中にいるエレメントさんの姿が、透けていてノイズが走って今にも消えそうになっていたものから、透明感がなくなり、生気を少し取り戻したのだ。

 

「エレメントさんが元に戻ったラビ!!」

 

「あの娘、すごい・・・!!」

 

グレースは仮死状態も同然だったエレメントさんを回復させたことに驚くばかりだ。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「メッガァー・・・!!!???」

 

少女はそのままステッキを思いっきり振りかぶって投げとばす。向かっていた先はアースとクルシーナが戦っている場所であった。

 

「アース!!!」

 

フォンテーヌが叫ぶと、アースは声に気づいてこちらを振り向く。

 

「!?」

 

その光景に目を見開いたクルシーナは、その場から飛びのいて戦線を離脱する。

 

「!! ふっ!!」

 

一方のアースは、飛んで体を回転させながらメガビョーゲンへと向かっていく。

 

「はぁぁぁぁ!!!!」

 

「メガァ・・・!?」

 

アースはメガビョーゲンの顔面に渾身のパンチを食らわせて吹き飛ばす。メガビョーゲンは地面に叩きつけられて、土煙を立たせる。

 

アースはそのまま少女の隣へと降りると、彼女を不思議そうに見る。

 

「あなたは・・・一体、誰なのですか?」

 

「わ、私は・・・」

 

アースがこちらを顰めるように見て、突然質問をしたことに言い淀む少女。

 

「メ、ガァ・・・」

 

「!! はぁっ!!」

 

「ビョーゲン・・・!?」

 

メガビョーゲンが起き上がろうとしていることに気づいた少女は、ステッキから黄色いエネルギーを放ち、着弾したメガビョーゲンに爆発を起こす。

 

「アース!! 今ならやれるよ!!」

 

「お願い!!」

 

「・・・わかりました。行きましょう」

 

そこへプリキュア3人の声が聞こえたことで、アースはとりあえずメガビョーゲンの浄化を優先させようとする。

 

アースは両手を祈るように合わせる。一枚の紫色の羽が舞い降り、ハープのような武器へと姿を変える。

 

「アースウィンディハープ!!」

 

そう呼ばれたハープに、風のエレメントボトルがセットされる。

 

「エレメントチャージ!!」

 

アースはハープを手に取って、そう叫ぶとハープの弦を鳴らして音を奏でる。

 

「舞い上がれ! 癒しの風!!」

 

手を上に掲げると彼女の周りに紫色の風が集まり始め、ハープへとその力が集まっていく。

 

「プリキュア! ヒーリング・ハリケーン!!!」

 

アースはハープを上に掲げてから、それを振り下ろすとハープから無数の白い羽を纏った薄紫色の竜巻のようなエネルギーが放たれる。

 

そのエネルギーは一直線にメガビョーゲンへと向かい、直撃する。

 

竜巻のようなエネルギーはメガビョーゲンの中で二つの手へと変化し、空気のエレメントさんを優しく包み込む。

 

メガビョーゲンをハート状に貫きながら、光線はエレメントさんを外に出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていく。

 

「お大事に」

 

そして、メガビョーゲンに蝕まれた場所が元に戻っていき、すこやか市の街や商店街なども元の色合いを取り戻していく。

 

「ワゥ~ン!」

 

体調不良だった子犬ーーーラテも額のハートマークが黄色から水色に戻り、元気になった。

 

「あーあ、やられちゃった・・・。まあ、いいわ。もう今日は疲れたし、それにこいつもどうにかしないといけないしね・・・」

 

クルシーナはメガビョーゲンが浄化されてしまったのを残念に見やりつつも、特に気にしていないような口ぶりで言うと、呆れたような表情でまだ眠っているヘバリーヌを見やる。

 

「あぁん・・・お姉ちゃん・・・♪」

 

「・・・ふん」

 

なんだか気持ちよさそうにしていて、いい夢でも見ているようなヘバリーヌの赤らめた寝顔。クルシーナはそれを見て、そっぽを向くように鼻を鳴らす。

 

そして、そのまま二人は姿を消した。

 

「やったよ!! アース!!」

 

「ええ、みなさんのおかげです」

 

4人は集まって互いの健闘を褒めあう。

 

「ラテ様も無事でよかったです」

 

「ワン!」

 

アースはラテを抱き上げて、無事であることに安堵する。

 

グレースたち3人は自分たちもお手当てを諦めないことが功をなしたが、それとは別に、何よりも評価してほしい人物がいた。

 

「だって、さっきいたあの娘のおかげで・・・あれ?」

 

スパークルはそう言いながら振り向くも、そこに少女の姿はなかった。

 

「あの娘、どこ行っちゃったの・・・!?」

 

「もっと、お礼を言いたかったのに・・・」

 

フォンテーヌやスパークルが辺りをキョロキョロするも、少女の姿は消えていてどこにもいない。

 

「ウゥ~ン・・・」

 

「? どうしましたか? ラテ」

 

ラテが何か言いたげな鳴き声を発していることに気づいたアースが声をかける。

 

「ラテ、どうしたの?」

 

とっさにグレースが聴診器をラテに当てて、彼女の心の声を聞く。

 

(さっきの子、まるでのどかみたいだったラテ・・・)

 

「私みたいって・・・どういうことなのかな・・・?」

 

「ラビリンは、よくわからないラビ・・・」

 

ラテが心の声で発した意味深な台詞に首をかしげるグレース。

 

「・・・・・・・・・」

 

そして、アースはどこかわからない虚空を見つめながらも、その表情は険しい顔をしていたのだった。

 

一方、その様子をその少女はどこか高いところで見つめていた。

 

少女の姿はフードは普通の暗い色に戻っており、髪はすでにオレンジ色から金髪に戻っていた。

 

「泣き止んで、よかった・・・」

 

少女はそう呟くと薄っすら笑みを浮かべながら、その光景に背を向けて去っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・・・・」

 

廃病院の中の自室、クルシーナはベッドに寝転がりながらため息をついていた。

 

自分が考えているのは、古のプリキュア似た存在とあのフードを被ったあの女の存在だ。古のプリキュアについては、自身の退屈しのぎになりそうなやつではある。しかし、あいつはメガビョーゲンを簡単に負かすばかりか、今後の作戦の邪魔になるかもしれない。何か方法を考えなくてはいけない。

 

それと、お父様・キングビョーゲンが脱走者と称するあの女。あれは、自分が植物園で生み出したやつに間違いはないだろうが、あいつは立派な失敗作だ。でも、あいつも使いようによっては使えるかもしれない。それをどうしたものか。

 

お父様にはああ言って放置することにしてもらったが、いかにしてあいつらを貶めるための道具として利用するか。

 

そして、クルシーナは自身のポケットから弄って何かを取り出す。それは自身が生み出したあのメガビョーゲンが手に入れた緑色のかけらのようなものだ。

 

「・・・・・・・・・」

 

禍々しい赤色の何かを澱ませるそのかけらはまるで生きているかのように蠢く。こいつも何かに使えそうだと持ち帰ったが、一体何に使えるのか自分にもわからない。一度、検証してみないといけない。

 

地球を蝕むための課題は山積みだ。そう思うと何だかかったるくて、やる気がなくなってくる。

 

「はぁ・・・」

 

クルシーナは緑色のかけらをほっぽり出すと、ベッドに横になる。

 

こういう時は、眠って全てを忘れてやるのに限る。

 

そう思いながら、クルシーナは目を閉じようとするが・・・・・・。

 

「クルシーナ! クルシーナ!!!!」

 

「・・・何よ?」

 

扉をバンバンと叩く音と同時に呼ぶ声が聞こえ、その扉が開かれる。クルシーナは不機嫌な口調で、声の主であるドクルンに聞き返す。

 

「お父さんが呼んでますよ。何やら緊急招集のようで・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

そんな緊急収集になるようなことが起きているだろうか? 自分にはそうなるような思い当たる節はないが・・・・・・。

 

とはいえ、クルシーナはベッドから起き上がると立ち上がって、地べたに放置しているヘバリーヌに近づく。

 

「ほら、起きろ!!」

 

「あぁぁぁぁぁん♪・・・あれ? クルシーナお姉ちゃん?」

 

クルシーナはヘバリーヌの腹を蹴り飛ばすと、その小娘から甘い声が大きく発したかと思うと、目をパチクリとさせながら目を覚ます。

 

「・・・消されそうになったくせに、呑気なやつね」

 

クルシーナは呆れたような表情で見つめながらそう言うと、ため息をつく。

 

「お父様の招集。さっさと来い」

 

クルシーナはそう言うとドクルンの後をついていくように部屋を後にする。

 

「あぁん♪ お姉ちゃんたち、待ってぇ~♪」

 

ヘバリーヌも猫なで声を漏らしながら、彼女たちを後をついていくべく部屋を後にする。

 

そして、部屋の中には赤く淀んだ何かがあるかけらだけが残されたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第59話「少女」

原作第21話がベースです。
謎の少女がプリキュアに接触します!


 

マグマに満たされた世界、ビョーゲンキングダム。そこにはグアイワルが報告がある事項の下、幹部たちがビョーゲンズの主である、キングビョーゲンに召集されていた。

 

まず、この前の一部始終を見ていたグアイワルが報告を行った。

 

「何・・・バテテモーダが・・・?」

 

キングビョーゲンに知らされたのは、バテテモーダがプリキュアに浄化させられたということだ。

 

余談ではあるが、バテテモーダはキングビョーゲンにわざわざ約束までを取り付けた挙句、意気揚々と出撃して行った。ちなみに、このことは三人娘以外は誰も知らない。

 

「はっ、しかとこの目で」

 

目の前でバテテモーダの末路を見ていたグアイワルは間違いないと報告。

 

「そうですね。しかも、もうあれでは消えてなくなっているでしょうねぇ」

 

目撃者の一人であるドクルンも同じように肯定し、バテテモーダは完全に消滅していることを確信として伝える。

 

「いやだぁ~、バテテモーダのやつ、浄化されちゃったのぉ~?」

 

それを聞いていたシンドイーネはまるで邪魔者がいなくなったと言わんばかりに嬉しそうだ。

 

「私たちの仲間が一人消えたっていうのに、不謹慎なやつなの」

 

その様子を見ていたイタイノンが軽蔑の目でシンドイーネのことを見やる。

 

もとよりバテテモーダは他人に媚びを売るようなやつだったので、ダルイゼンらはともかく、三人娘からもそんな好かれたようなやつではなかったが。

 

「まだまだ使えたものを・・・」

 

キングビョーゲンは残念だと言わんばかりの惜しむような様子で話す。

 

「もぉ~!! プリキュアの奴ら、許せませんよね!! キングビョーゲン様!!」

 

と、主が仲間のことを惜しいと感じていると察すると、シンドイーネは一転して態度を変える。

 

「お前はどっちが本心なの・・・?」

 

イタイノンはシンドイーネを心底呆れたような様子で見る。

 

「ちぇ・・・せっかく人手が増えたと思ったのに・・・」

 

間接的に活発的なやつに押し付けていたダルイゼンは面倒くさそうに言う。

 

「ふん、所詮は出てくんのが早すぎたんだよ。あの古のプリキュアに似たやつの前にはね。なのに一人勝手に突っ走っちゃってさ」

 

クルシーナは惜しいとも思わない冷たい口調でそう言った。

 

「普段はいい子だったんですけどねぇ・・・」

 

ドクルンはメガネを上げながら言う。

 

「出世なんか考えないで、後輩ぶってたほうが幸せだったに違いないの」

 

イタイノンは興味のない言い方をしながらも、もう少し考えていれば消滅はしなかったのではないかと少しは惜しむような発言はしていた。

 

「モーダちゃん、消えちゃったんだ~・・・もっと遊びたかったのになぁ~・・・」

 

ヘバリーヌは遊び相手がいなくなってしまい、年頃の子供のようなつまらなそうな表情をしていた。

 

「新しく現れたプリキュアは、力は受け継いではいるものの、テアティーヌのパートナーとは別人かと・・・」

 

「力を、受け継いでいる・・・?」

 

それぞれが反応を示す中、グアイワルは古のプリキュアに似てはいるものの、ヒーリングガーデンの女王・テアティーヌと共に、キングビョーゲンに挑んできたプリキュアとは別人ではあると明言。

 

「要するにアタシたちが襲った街に現れたやつとか、大昔にお父様が戦ったやつとか、それとは全部違う別の存在だってことよ。気配や力は似ていたけど、似ているだけであいつとは違ったわね」

 

「ぬぅ・・・・・・」

 

クルシーナが補足して説明すると、キングビョーゲンが唸り始める。

 

「そんな目障りなやつ、このシンドイーネにおまかせください!! 見事、消しとばしてやりますから!! キングビョーゲン様ぁ!!」

 

「実力もわかっていないのに、どうやって戦うの? 自信たっぷりに突っ込んだところで、お前もバテテモーダの二の舞になるだけなの」

 

えらく上機嫌なシンドイーネに、イタイノンが注意をするかのように諭す。

 

「まあ、とにかく、今後はその新しく現れたプリキュアにも警戒しつつ、私たちはいつも通りに地球を蝕むという活動をしていくということでいいんじゃない?」

 

クルシーナがそう結論付けると、キングビョーゲンは一応納得したような反応を示したようで。

 

「・・・よかろう。ところで、例の脱走者の件だが・・・」

 

「脱走者?」

 

「あ~、そのこと?」

 

キングビョーゲンが話題を切り替えると、その話にダルイゼンらが疑問を持つ中、クルシーナは面倒臭そうな表情で頭をかく。

 

「それだったら、問題ないわよ。あいつは今、地球であのプリキュアどもが住んでる街にいて、絶対に合流するはずだし」

 

「・・・そもそも、脱走者って何? 俺、そんなこと聞いていないけど?」

 

クルシーナが状況を説明すると、ダルイゼンが疑問を持つ。

 

「・・・パパ、こいつらに話してないの?」

 

その様子を見ていたイタイノンがキングビョーゲンに問う。

 

「あの時は極秘だったからな。クルシーナ、ドクルン、イタイノンにしか話していない」

 

「キングビョーゲン様ぁ!! そういうのは話してくれれば、私もそいつもあっという間に消しとばしてみせますのに・・・」

 

キングビョーゲンがそう言うとシンドイーネが話に割り込んで、不満を漏らす。

 

「消し飛ばす必要はないわよ。あいつは保険だからね」

 

「保険とはどういうことだ?」

 

クルシーナの意味深な発言に、グアイワルが疑問を吐露する。

 

「それはあいつのある能力にあるわけ。前、あいつを追跡して逃げた跡を見てみたんだけど、その周りの生き物の生気が少し減ってたの。それを利用すれば、プリキュアを一人始末できるんじゃないかなって思ってね。まあ、あいつは無自覚だろうけどさ」

 

不敵な笑みを浮かべながら話すクルシーナ。幹部たちは特に感情を出すこともなく、黙って聞いていた。

 

「だから、そいつがプリキュアと合流しても特にこちらには支障はなし。むしろ、それも作戦の一つだし、始末に失敗しても最悪そいつをこっちに引き込めばいいしね」

 

「なるほどね・・・」

 

特に興味がなさそうに聞いていたダルイゼンが淡々と返す。

 

「では、お前たち、今後の活動も期待しているぞ」

 

「「「はっ!」」」

「はーい」

「わかりました」

「・・・わかったの」

「はーい!」

 

幹部7人のそれぞれの返事を聞くと、キングビョーゲンは姿を消していった。

 

そして、幹部たちは解散した後、三人娘は珍しく一緒になって席を囲んでいた。

 

「さてと、これの事だけど」

 

クルシーナは懐から緑色のかけらを取り出す。これは先日、自分のメガビョーゲンが残したとされる、いわばメガビョーゲンのかけらみたいなものだ。

 

「まだ不明確ですけどね、これに関しては・・・」

 

ドクルンもこれが何なのかを調べていないため、首をかしげながら言う。

 

「この前、バテテモーダがやっていた、メガビョーゲンを急成長させるということはわかっているの」

 

イタイノンは手に持っている自分の緑色のかけらを見ながら言う。

 

今現在、三人が持っている緑色のかけらはクルシーナが7個、ドクルンが7個、イタイノンが3個とバテテモーダに一個ずつ与えたのみだ。

 

その結果、バテテモーダは一つ使用し、メガビョーゲンをあっという間に急成長させる方法を発見した。

 

「まあ、他にも使い方はありそうだけど、あいつらにとっての対抗手段になり得ることは確かね」

 

緑色のかけらは他にもいい使い方はあるはず。それ次第によっては、プリキュアを撃ち負かせるほどの力とキュアアースを圧倒できるほどの力をつけさせることができるかもしれない。

 

「それは少しずつ検証していくとしましょうかしらね」

 

クルシーナは緑色のかけらを懐にしまってから立ち上がり、二人の前から歩き去っていく。

 

「行ってくるんですか?」

 

「当然でしょ」

 

「いってらっしゃいなの・・・」

 

ドクルンとイタイノンは、クルシーナに手を振りながら見送るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平光アニマルクリニック。そこは、すこやか市にある平光てるひこが院長として経営する動物病院である。

 

その病院の末っ子の娘であるキュアスパークルに変身する、平光ひなたは散歩でもしようと外を歩いていた。

 

「ん~、いい天気だよね~!」

 

「そうだな~、こういう天気だといいことの一つぐらいはありそうだぜ」

 

体を伸ばしながらテクテクと歩いていくひなた。そんな彼女の肩にはパートナーのニャトランが一緒についてきている。

 

「そういえば、のどかっち大丈夫だったのかなぁ?」

 

「もしかして、アスミのことか?」

 

「うん・・・引き受けるって言ってたし・・・」

 

ひなたはのどかのことを心配していた。杞憂だとは思っているが、本当に何もわからない彼女のことをフォローできているのだろうか?

 

ここでひなたの言う彼女というのは、キュアアースに変身する精霊の女性のことだ。彼女には名前が無かったため、彼女の方からつけてくれるようにお願いし、現在はのどかたちがアスミという名前をつけている。

 

そのアスミは地球で生まれたばかりのため、帰る家も寝るところも知らない。それどころか地球全体が家と言い、終いにはどこでもいいと言わんばかりに地面の上で寝そべろうとする始末。

 

それを見かねて三人は話し合いの末、のどかが自分の家に彼女を住ませてあげることにしたのだ。その理由はニャトランからも聞かされたが、彼女はラテのパートナーであることからのどかの家で一緒に住んだ方がいいということだった。

 

そんなのどかがアスミを相手に苦労していないだろうか、親になんて説明をするんだろうとか、彼女と仲良くやれているんだろうかとか、いろいろと心配になった。

 

「まあ、のどかなら大丈夫じゃね? めげないし、強いからさ」

 

「うん、そうだよね!」

 

ひなたはニャトランの言葉を聞いて、二人は大丈夫だろうと安心していた。

 

そんな二人は山のあたりを差し掛かったところを歩いていると、そこに見覚えのある人物が。

 

「ん? あれって・・・?」

 

「? どうかしたのかニャ?」

 

ひなたは足を止めるとそこには黒いフードを被って歩いている人物の姿が見えた。しかも、どこかで見たことがあるフードの人物だったから気になった。

 

杖代わりにして利用しているステッキはよく見るとあの時のメガビョーゲンで使用したステッキによく似ている。人物はよく見ると、ステッキのようなものを杖代わりにして歩いている。しかし、その動きはほとんど進んでおらず、まるで引きずるような歩き方だ。

 

訝しみながら見ているとその人物は足を踏み出そうとして、地面へと倒れるのが見えた。

 

「ああ!?」

 

ひなたはそれに動揺し、フードの人物へと駆け出していく。

 

「ねえ、大丈夫!?」

 

ひなたは倒れたフードの人物の近くにしゃがみ、体を仰向けにして上半身を起こすような体制にすると人物の体を揺さぶる。

 

その拍子にハラリと被っていたフードが剥がれ、金髪の少女の顔が見えてくる。その髪には二つの黒いリボンが対となって付けられている。

 

「えっ・・・女の子・・・!?」

 

「うぅぅ・・・・・・」

 

フードの人物が少女だということに戸惑うひなた。すると、少女が呻るような声を出し、顔が苦しむような表情へと変わる。

 

「あ・・・キミ、大丈夫!?」

 

「うっ・・・私、は・・・もう、ダメ、だ・・・」

 

ひなたが声をかけるも、少女は体を震わせながらかすれた声を出している。

 

「うぇぇ!? えっと、えっと・・・ニャトラン! こういう時ってどうすればいいの~!?」

 

「ニャ!? お、俺に聞かれても・・・!」

 

ひなたはどうしたらいいかわからずに、ニャトランに助けを求めるも振られた彼も困惑していた。

 

「と、とりあえず病院に・・・って、病院ってどっちだっけ!?」

 

パニックになっているひなたは病院の場所もわからなくなるほど混乱していた。

 

「わ、私、は・・・・・・」

 

少女が表情に力を無くしていき、そのピクピクとした動きも弱々しくなっていく。そして、そのまま力尽きる・・・その時だった。

 

ギュルルルルルルルルルルルル!!!!!

 

「・・・・・・へっ?」

 

突然、獣が唸っているかのような大きな音が彼女から鳴り響く。ひなたは思わず、目を丸くしたなんとも間抜けな表情になる。

 

ギュゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

 

また、大きな音が鳴り響く。しかも、その音はよく耳を澄ませると倒れている少女のお腹から聞こえているようだった。

 

「大きな音が、さっきから、聞こえ、て・・・それで体や、あた、ま、がクラクラ、して・・・目が・・・見えなくなって、きて・・・私は、もう・・・ダメ、だ・・・」

 

少女は苦しそうにしていた表情から一変して、目をぐるぐると回したような表情になっていた。というよりも、本当に目を回していた。

 

「・・・・・・えっと?」

 

「・・・もしかして、お腹が空いているのかニャ?」

 

どうやら少女は空腹で倒れただけのようだったことを知り、ひなたとニャトランは戸惑いながらも冷静になっていた。

 

とりあえず、自分の家に連れて帰ることにした。

 

ひなたは空腹でフラフラな少女を支えながら歩き、散歩で進んでいた道を引き返していく。

 

懸命に彼女を運ぶように歩いていくと自分の家でもある平光アニマルクリニックが見えてきた。

 

「あっ・・・お姉! お姉!!」

 

ひなたはテラス席のテーブルを拭いている自身の姉・めいを呼ぶように声をかける。

 

「あら、ひなた・・・って、その娘どうしたの?」

 

「この娘、空腹で倒れてたの・・・! 何か食べるものを・・・!!」

 

「??」

 

めいは振り返ると妹がフードの人物を抱えているのを見て訝しげな表情になる。慌てるように叫ぶひなたの言葉にも、首を傾げるばかりだった。

 

そして、少女は黄色いワゴン車の近くのテラス席に座らされている。

 

「・・・・・・・・・」

 

少女は疲労が溜まっているのか、椅子にもたれかかりながらぐったりとしている。

 

その様子をひなたと、どうしたらいいかわからないという理由で彼女が呼び出したちゆが見つめている。

 

「・・・ねえ、ひなた」

 

「何?」

 

「この娘って、あの・・・?」

 

「うん・・・この前、メガビョーゲンの浄化に協力してくれた娘だと思うんだけど・・・」

 

ひなたとちゆは隣同士で、目の前の少女に聞こえないような声で話す。正直、あの時は意識も朦朧となりかけていたので、はっきりと見れなかったが、このフードによく似た人物だったような気がする。

 

「はい、どうぞ!」

 

「っ!!」

 

そんな彼女の前にカラフルなお皿に乗った、ピンク色のハートの包装紙に包まれたお菓子が差し出される。それはすこやかフェスティバルにも出店した際に出したこともあるパンケーキだ。

 

少女はそれに気づくとぐったりとさせていた表情を元に戻して、じっくりとそのパンケーキを見る。

 

「・・・・・・・・・」

 

じっくりとじっくりとそのパンケーキを見る。まるで怪しいものを見るかのように。

 

「・・・これは、なんだ?」

 

少女は差し出してくれた女性ーーーめいの方を見ながら言う。

 

「うちの店の特製のパンケーキよ。見たことない?」

 

「うん・・・見るのは初めてだ・・・」

 

「外国の方なのかしら? でも、それにしては日本語は上手だし、外国にもパンケーキはあるもんね」

 

「外国ってなんだ? そんなところがあるのか?」

 

「????」

 

めいは少女の言動に困惑して、ますます首をかしげるばかりだ。

 

「あ・・・お、お姉!! ありがと!! もう仕事に戻っていいから・・・!!」

 

「え、でも・・・!!」

 

「き、きっと彼女はお腹が空きすぎて、落ち着いていないんだと思います・・・!!」

 

「そ、そうそう!! だから、もう心配しないでいいから!!」

 

少女と向かい側の席に座っていたひなたとちゆがその様子を見かねて、めいに仕事に戻るように言う。めいは余計に訝しむが、二人は上手いことを言い、ごまかすように黄色いワゴンの方に押しやる。

 

そんな三人の様子を不思議そうに見つめつつも、少女は再びパンケーキに向き直る。

 

「・・・・・・・・・」

 

茶色の円盤みたいなものが二つ重なっている、それは彼女にとっては見たこともない謎の物体。少女は息を呑むと恐る恐る包み紙ごと手に取り、それをもっと見えるように顔に近づける。

 

触ってみるとふわふわとした感触がし、生暖かいものが赤い手袋越しに伝わってくる。鼻でスンスント嗅ぐが、特に危険な香りをしてはいない。しかし、紙に包まれているということは、手で触れてはならないものにも見える。

 

これは、食べられるのか・・・?

 

少女はただのパンケーキに在らぬ疑いを持っていた。

 

「あ、あのさぁ・・・」

 

「??」

 

「食べないの?」

 

「!?」

 

少女が全く手に持っているだけで食べてくれないことを見かねたひなたが声をかける。そんな彼女の言葉を聞いて、少女は驚いたような表情を浮かべる。

 

「こ、これは、食べれるのか・・・!?」

 

「当たり前じゃん!! なんだと思ってたの!?」

 

「で、でも、私はこんなもの見たこともないし・・・」

 

少女の仰天な発言にひなたがツッコミを入れる。食べれるものだとわかっていても、少女は不安そうにパンケーキを見つめる。

 

今度はそれを見たちゆが声をかける。

 

「食べてみて」

 

「っ・・・」

 

「誰だって見たことがないものには戸惑うわよね。でも、ひなたはいい子よ。人を騙すなんてことしないわ。だから、彼女を信じて」

 

ちゆが穏やかな表情でそう言うと、少女は彼女の顔とパンケーキを交互に見つめる。

 

ギュルルルルルルルルル!!!!

 

「っ・・・」

 

自分の腹部からまた大きな音が鳴った。それと同時に体がフラつくように感じる。

 

この大きな音、フラつきとうまく動けないのを収めるためにはこのパンケーキを口にするしかないのだろう。

 

そう思った瞬間、今までのしがらみが解けた少女は思い切ってパンケーキにかぶりつく。

 

「!!??」

 

少女はその瞬間、衝撃を受けた。この円盤のような物体が食べたことないのに、美味しく感じられるなんて・・・!!

 

「あむ!あむ!!ん~!!!!」

 

少女は瞳をキラキラとさせながら、パンケーキをほうばっていく。その様子を見ていたひなたとちゆは・・・。

 

「す、すごい喜んでるし・・・」

 

「え、ええ、見ているこっちがまぶしくなっちゃうくらいにね・・・」

 

あまりにも様子の変わった彼女に少し戸惑いの表情・声をあげながらも、二人はお互いに顔を見合わせて笑みを浮かべる。

 

「ジュースも飲む?」

 

「ん?」

 

ひなたに声をかけられると少女は食べている手を止めて、ごっくんと飲み込む。

 

「ジュース? それも美味しいのか?」

 

「うんうん! 美味しいよ!!」

 

「ふわぁ~!! それは飲んでみたいなぁ!!」

 

ひなたの返答を聞いて瞳をキラキラとさせる少女。なにやら年頃の少女のようにワクワクしている。

 

ーーーーのどかみたいだったラテ・・・

 

(本当に、のどかに雰囲気が似ているような気がするわ・・・)

 

そんな中、ラテの言葉を思い出したちゆは確かにその感受性が豊かそうなところが彼女に似ていると感じた。

 

「はい!お待たせ!!」

 

そして、少女はひなたによってピンク色のカップのジュースを差し出される。

 

「・・・この黄色い動物の足みたいな形のものはなんだ?」

 

「それはね! グミっていうの!!」

 

「グミ?」

 

「そう! このジュースはね、あたしが考えたメニューで、そのグミと一緒に飲めば幸せな気持ちになるんだよー!!」

 

「おぉ~!! それは素敵だなぁ!!」

 

少女がカップの中に入っている黄色いグミに疑問を持つと、ひなたは嬉々しながら説明する。すると、少女も表情をキラキラとさせていた。

 

少女は早速、その素敵なジュースをストローですする。

 

「ん~、ぷはぁ! 美味しい~!! よくわかんないけど、口の中がさっぱりするなぁ~!!」

 

少女は瞳をキラキラとさせながら、ジュースを存分に味わう。

 

そんな笑顔になっている少女に対し、ちゆはこんなことを聞いてみた。

 

「ねえ、あなた・・・」

 

「ん?」

 

「あなたって何者なの?」

 

ちゆは気になったことを聞いてみると、少女はジュースをテーブルの上に置くと、高潮していたテンションを下げるように表情を俯かせる。

 

そして、彼女は口を開いた。

 

「それが、よくわからないんだ・・・」

 

「えっ?」

 

「私は気がついたら変な場所にいて、そこがなんだか怖くなって、ここへと逃げてきたんだ。この格好だって気がついたらしていたし・・・」

 

少女はどこからかステッキを手に持って掲げる。

 

「このステッキもなんで持っていたかわからない・・・あの怪物を止めようと思った時にいつの間にか持っていたんだ・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「で、でも、自分が誰なのかはわかるよね?」

 

アスミンじゃあるまいし、と心の中で言葉を押し留めつつも、ひなたは問う。しかし、少女は首を振った。

 

少女の反応を見て、ちゆは困ったような、悲しそうな顔をする。そんな彼女の耳元にひなたが声をかける。

 

「ねえ、この娘、アスミンと同じなのかな・・・?」

 

「どうしてそう思うの・・・?」

 

「だって、あたしたちと女の子してるのにパンケーキやグミも知らないんだよ? それに自分の名前もわからないのはおかしくない?」

 

「記憶を失っているだけってこともあるんじゃないかしら? 何かあって、自分の名前を思い出せないだけかもしれないってこともあるんじゃない?」

 

「うーん・・・・・・」

 

ちゆの言葉にひなたは考え込んでしまう。自分たちと同い年ぐらいの女の子なのに、食べ物の名前を知らないのはおかしい。それに名前も家もないなんて、アスミと同じ系統なのではと思ってしまう。

 

しかし、ちゆの言っていることも一理あるのだ。記憶を失っていれば、自分の名前をわからないのは確かだし、食べ物の名前も忘れているだけかもしれない。そういうこともありうるのだ。

 

お腹が空いているということもわかっていないようなのが気になるが、どう判断したものか・・・。

 

「あの・・・・・・」

 

「「??」」

 

「私のこと、何か知ってるのか・・・?」

 

そんな二人の会話に、少女が声をかけてくる。

 

「い、いや! わかんないけど・・・!!」

 

「あ・・・そ、そうか・・・・・・」

 

ひなたが慌てたように否定すると、少女はわかりやすいくらいに落ち込む。

 

「でも、これだけはわかるわ」

 

「??」

 

「あなたは好奇心旺盛で優しい人。さっき食べているものに嬉しそうにするし、怪物が現れた時には恐れないで立ち向かう。そういう人に見えるわ」

 

「!?」

 

ちゆの微笑みながら言ったことに、少女は目を見開いて頬を紅潮させる。

 

「そうか・・・・・・」

 

少女は足をモジモジとさせながら呟く。よくわからないが、自分の中に暖かい何かを感じた。

 

「へへ」

 

「ふふふ」

 

ちゆとひなたは少女が嬉しそうな顔を浮かべたことに、笑みを浮かべた。

 

「ところで・・・」

 

「「??」」

 

「キミたちはどうして怪物を知っているんだ? 戦ったことがあるのか?」

 

「「!?」」

 

少女の問いに二人は動揺する。そういえば、彼女は自分たちがプリキュアだということを知らないのだ。

 

「い、いや! それは・・・!!」

 

「か、怪物を近くで見たことがあるの・・・!! もちろん、私たちも逃げてるけど・・・!!」

 

「??」

 

少女は、ひなたとちゆの慌てたような反応に首をかしげるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、今日はどうしようかしらね」

 

その頃、町ではクルシーナが地球を蝕むべく素体を探していた。

 

「この辺は殺風景ね・・・まあ、でもこういう場所がおあつらえ向きなのかしら」

 

クルシーナがいるのは山や小川が近くにある建物よりは、畑や田んぼなどがありそうな場所。人目もあまり気にする必要がないので、特に怪しまれることもなく活動ができる場所だ。

 

そのあたりに素体がないかどうかを確認していると、彼女の視界に映る人物が。

 

「? ダルイゼン」

 

「? クルシーナか・・・」

 

クルシーナが声をかけると、ダルイゼンは特に動じることなく答える。

 

「アンタもこの辺にいたんだ?」

 

「いたら悪いの?」

 

クルシーナの言葉に、ダルイゼンは面倒くさそうに答える。

 

ダルイゼンはクルシーナの解答を特に待たずに、ある花へと近づく。それは複数の花弁が付いているのが特徴の黄色い花、マリーゴールドだ。

 

「ねえ」

 

ナノビョーゲンを取り憑かせようとするところで、クルシーナが声をかけたので動きを止める。

 

「アンタはどう思ってんの?」

 

「・・・何が?」

 

「バテテモーダのことよ。人手が増えたとかなんとか言ってたけど、本当のところはどうなわけ?」

 

クルシーナが質問したのは、古のプリキュアに似たあいつに浄化されたバテテモーダのことだ。人手が減ったことに残念に思っていたが、他人に興味のないこいつがそんなことを思うはずがない。

 

ダルイゼンは少しの沈黙の後、口を開いた。

 

「興味ないよ。誰かが増えようが減ろうが、俺は特に何も気にしないし、やることも変わらない」

 

「あっそ・・・過去は振り返らないっていう考えなわけ? っていうか、アンタに過去なんかあったっけ?」

 

「・・・・・・・・・」

 

まるで気にも止めないという言い方をするダルイゼン。しかし、その言い方にクルシーナは不機嫌そうに顔を顰める。

 

「・・・まあ、別にいいけど。アタシもあいつなんかに思入れなんかないし、小賢しい自惚れ屋だったってだけだし」

 

「・・・そうなの?」

 

解答に興味のないクルシーナはそっぽを向きながらも、バテテモーダの消滅には何の感情も湧かないことを話す。ダルイゼンは返しつつも、まるで興味もない感じだった。

 

「とりあえず、仕事したら? アタシもやるけど」

 

「お前に言われなくても」

 

クルシーナとダルイゼンはお互いに背を向けて、目的のために動き出す。

 

クルシーナはまっすぐ歩いていくと、畑にスイカがたくさんあるのが見えた。

 

「フフフ・・・今の季節といえば、これだもんねぇ」

 

クルシーナはそのスイカの一つに目をつけると、不敵な笑みを浮かべる。

 

その場で手のひらを広げるとそこに息を吹きかけ、黒い塊のようなものを出現させる。

 

「進化しろ、ナノビョーゲン」

 

「ナーノー」

 

生み出されたナノビョーゲンが鳴き声を上げながら、畑のスイカへと入っていく。農家の人によって作られているであろう、スイカが病気へと蝕まれていく。

 

「・・・!?・・・!!」

 

スイカに宿るエレメントさんが病気に蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガビョーゲン!」

 

スイカのような体に両手・両足が生え、頭から蔓のようなものをたくさん生やした一頭身のようなメガビョーゲンが誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビョーゲンズたちによって、そんなことが行われる中、カフェワゴンでは・・・・・・。

 

「ねえ、思い出せないんだったら、名前考えない? せっかく会ったのも縁だしさ、名前わかんないのなんか嫌じゃん?」

 

「そうね。名前を考えれば、少なくとも自分には困らないと思うわ」

 

「そうだな・・・じゃあ、名前はキミたちがつけて・・・・・・」

 

近くのテーブルで三人が、少女の名前について話そうとしていた。少女は名前をつけられることに損はない。だから、自分では思いつかないから名前をつけてもらおうと思った、その時だった・・・・・・。

 

ドクン!!!!!!

 

「!!??」

 

少女は自分の中の鼓動が鳴り、そして何かの声が聞こえてくるのを感じ、椅子から立ち上がる。

 

「え、なに!? どしたの!?」

 

「どうかしたの・・・?」

 

突然、少女が立ち上がったことに戸惑いを隠せないちゆとひなた。少女は虚空を見つめていた。

 

「泣いている声が、聞こえる・・・」

 

「泣いている、声・・・?」

 

少女が呟いた言葉に、ひなたは疑問を抱くも、少女はその言葉を気にせずに意を決したような表情をすると走り出す。

 

「あ、待ってよ・・・!!」

 

「泣いている声って、もしかして・・・!!」

 

少女が突然走り出したことにひなたが叫ぶ。ちゆは少女の声に引っかかるものを感じ、ある推測にたどり着いた。

 

「みんなー!!!!」

 

そこへもう一つの叫ぶ声が聞こえてきた。それはのどかのパートナーであるラビリンだ。

 

「メガビョーゲンラビ!!」

 

「えっ!?」

 

「やっぱり・・・!!」

 

ひなたは少女が何かに気づいたとき、ラビリンからメガビョーゲンが現れたことに驚く。ちゆは察していたことが的中したと錯覚。

 

「行きましょう!!」

 

「うん!!」

 

ちゆはひなたに声をかけると、メガビョーゲンの出現場所に向かうべく走り出した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第60話「仲間」

前回の続きです。
今回で謎の少女の名前を発表します。


 

「メッガァ・・・!!!!」

 

ダルイゼンが生みだした黄色い花弁のような毛で覆われた四速歩行のメガビョーゲンが、口から禍々しい光線を吐き出し、地面を蝕んでいく。

 

「メガビョー!!!!」

 

ドカン!! ドカン!! ドカン!! ドカン!!

 

その近くでは、クルシーナが生み出したメガビョーゲンが両手の小さなスイカのようなものから禍々しい赤い光線を大量に噴射し、さらに一緒に流れてきた黒い種を爆発させて広範囲の地面を蝕んでいく。

 

「うわあぁぁぁぁぁ!?」

 

近くにいた人々は怪物の出現に逃げ惑う。

 

「いいわよ、その調子」

 

クルシーナは偶然近くにいた人々が恐怖している姿を見て不敵な笑みを浮かべる。この場所が赤くなっていくのもそうだが、人間たちの苦しむ姿の方が格別だ。

 

そんな中、その二体のメガビョーゲンが発見したことに歓喜している人物がいた。

 

「おぉ! いたぞ!! お誂え向きなメガビョーゲンが二体!!」

 

それはこの前、バテテモーダから緑色のかけらを二つ事実上強奪したグアイワルだった。

 

「だが、しかし、かけらは二つしかないしな・・・どちらでやったものか・・・」

 

出現した二体のメガビョーゲン、どちらでかけらを試そうか考えていた。ここで二つも使うとすぐになくなってしまうので、それはあまり良くない。どちらの方が埋めやすいか・・・・・・。

 

「よし、とりあえず、あっちのメガビョーゲンでやってみるか」

 

どちらで検証するか決めたグアイワルはそう言いながら、懐から緑色のかけらを一つ取り出すとそのメガビョーゲンへと近づく。

 

「ん?」

 

ダルイゼンはなぜかグアイワルが現れたことに疑問を抱く。

 

「あいつ、何しに出てきたわけ? っていうか、あれって・・・」

 

クルシーナは誰かの気配を察して振り返ってみるとグアイワルが視界に映り、さらに手に持っている緑色のかけらを見て目を細める。

 

グアイワルはそんな二人の視線に気づくこともなく、メガビョーゲンに近づき、緑色のかけらを埋め込んだ。

 

「メガッ!? ガッ、ガガガガガガガガァ!!!! メッガビョーゲーン!!!!」

 

メガビョーゲンは禍々しいオーラに包まれると、巨大化した上に二足歩行になった。さらにその余波なのか、周囲の広範囲の地面を蝕んでいく。

 

グアイワルが埋め込んだのは、ダルイゼンが生みだしたメガビョーゲンであった。

 

「おぉ!! やはりメガビョーゲンのパーツ、略してメガパーツさえあれば、急激に成長できる!!」

 

グアイワルが、以前のバテテモーダが試したようにメガビョーゲンを急成長させることができることに感嘆する。

 

「ククク・・・!! バテテモーダのやつ、いいことを教えてくれたものだ!!」

 

グアイワルは残り一個の緑色の欠片ーーーーメガパーツを見つめながら不敵な笑みを浮かべる。

 

「へぇ・・・面白い発見じゃん」

 

「!?」

 

余韻に浸っていたグアイワルの背後から声が聞こえ、振り返ると何やら面白いものを発見したような表情のダルイゼンが立っていた。

 

「なっ、ダルイゼン!? なぜここに!?」

 

「メガビョーゲン作ったの、俺だし」

 

「えっ!? そうか!?」

 

グアイワルはダルイゼンがいるとは思っていなかったようで、えらく驚いていた。

 

「ちなみにアタシもいるわよ」

 

「っ!? クルシーナもいたのか!?」

 

「当たり前じゃん。仕事で来てるんだから」

 

自分がいるとも思わなかったグアイワルに、クルシーナは心底呆れたような表情で見る。

 

「それとさあ、なんでアンタがメガビョーゲンのかけらを持ってんの? アタシたち、アンタにあげた覚えはないんだけど?」

 

「な、そ、それは・・・!」

 

「まさか、バテテモーダから奪ったんじゃないだろうな・・・?」

 

あげた覚えのないメガパーツをグアイワルが持っていることに対して、睨みを利かせるクルシーナ。さらに彼女が詰め寄るとグアイワルはバツが悪そうな顔をする。

 

「素直に言えばあげんのに・・・まあ、いいけど」

 

クルシーナはため息を吐きながら言うと、特に興味はなさそうに返して彼から離れていく。

 

「メガビョー!!!!」

 

自身が生み出したスイカ型のメガビョーゲンは、赤い光線を噴射して周りの木々をも蝕み始めていた。

 

「一応、アタシもやっておこうかしらね」

 

クルシーナは手に持っているメガパーツを見つめながらそう言うと、自身のメガビョーゲンの近くへと飛ぶ。そして、手に持っているメガパーツをメガビョーゲンに埋め込む。

 

「ビョッ!? メ、ガガガガガガガガガガァ!!!!」

 

メガビョーゲンは苦しむような声を上げながらも、その体から禍々しいオーラが溢れ出し、膨大な力に満ちていく。

 

そして・・・・・・。

 

「メガァ、ビョーゲン!!!!」

 

メガビョーゲンは巨大化しただけでなく、一頭身の体からスイカの玉のような足、つるのような手が伸び、頭から生えているつるがさらに成長した姿となった。

 

「ふーん、本当に成長するんだ・・・これなら進化を待たなくてもいいし、便利だけど」

 

クルシーナはもう一つのメガパーツを取り出して見つめながら、不敵な笑みを浮かべる。

 

「あっ!?」

 

「ん?」

 

何やら別の声が聞こえたので振り向いてみると、そこには自らの父が脱走者と称する金髪の少女が立っていた。少女はクルシーナの姿には気づいていない模様。

 

「あら、脱走者も来たのね」

 

カモがネギをしょってきたかのように面白い輩が現れたことに、クルシーナは笑みを浮かべた。

 

「やめろ!!」

 

少女は片手に黒いステッキを持つと、スイカ型のメガビョーゲンへと向かっていく。

 

「メガビョー!!! ゲン!!」

 

メガビョーゲンは少女に目がけて、口から黒い種のようなものを吐き出していく。種は着弾して爆発するも、少女はそれを避けながら迫っていく。

 

「はぁ!!!!」

 

少女は飛び上がるとメガビョーゲンに向かって、黒いステッキを振り下ろした。

 

「メガァ、ビョーゲン!!」

 

一方、もう一体のメガビョーゲンも暴れ出そうとしていた。

 

「いたぞ!! しかも二体いる!!」

 

そこへプリキュアたちも到着する。ニャトランが言う二体はいつものパターンだからいい。しかし、気になるのは・・・。

 

「うぇぇ!? あっちもこっちも、なんかまたいきなりでっかくない!?」

 

「時間はそんなにかかってないはずよ!!」

 

メガビョーゲンは明らかに先日、すこやか山に現れたメガビョーゲンよりも大きくなっていた。しかし、みんなは出現に気づいてからここに駆けつけるまで時間は経ってないはず。なのに、どうしてもうこんなに大きくなっているのか?

 

「昨日のバテテモーダみたいに、誰かがなんかやったのかもしれないペエ!!」

 

ペギタンは昨日、バテテモーダが何かをしたように、この二体のメガビョーゲンも誰かの手によって何かしらの施しをされた可能性があると推測する。

 

「うわあぁぁぁ!!!!」

 

そこへ悲鳴が聞こえてきたかと思うと、少女がプリキュアたちの前に吹き飛ばされてくる。

 

「あ・・・キミ、大丈夫!?」

 

「もぉ、一人で突っ走って・・・!!」

 

少女を知っているちゆとひなたは彼女に駆け寄って体を起こす。

 

「あなたは、この前の・・・?」

 

「!!」

 

そこへ彼女のことがよく分からないのどかが声をかける。しかし、その姿を見たことはある。この前、お手当てを一緒に手伝ってくれたフードの少女だった。

 

「き、キミは・・・!?」

 

少女はそんなのどかの姿を見て、目を見開く。

 

彼女は自分の夢の中に出てくる、苦しむ少女・・・自身が彼女の中にいることで苦しめた少女・・・戦おうとする彼女の意思を無視して、窮地に陥れてしまった少女・・・・・・。

 

私は、やっと会えたのか・・・・・・?

 

「メガビョー!!!!」

 

そこへスイカ型のメガビョーゲンが両手のスイカから赤い光線を噴射する。

 

「っ!? はぁ!!!!」

 

そんな少女たちに目がけて放ったことに気づいた少女はステッキを向けて、そこからシールドを展開して光線を防ぐ。

 

「と、とにかくお手当てラビ!!」

 

少女のことは気になるが、今はメガビョーゲンをなんとかすべきだと発破をかけるラビリン。

 

「ラテ、アスミちゃん、いい?」

 

「クゥ~ン・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

アスミが背負うバッグの中で調子が悪そうなラテが返事をするが、アスミは険しい表情で金髪の少女の顔を見つめている。

 

「アスミちゃん?」

 

「あ・・・はい!」

 

のどかがアスミの様子がおかしいことに気づいて声をかけると、ハッとしたアスミは返事をした。

 

「「「スタート!」」」

 

「「「プリキュア、オペレーション!!」」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

 

「「「キュアタッチ!!」」」

 

ラビリン、ペギタン、ニャトランがステッキの中に入ると、のどか、ちゆ、ひなたはそれぞれ花のエレメントボトル、水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

そして、肉球にタッチすると、花、水、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、水色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ちゆは水色、ひなたは黄色へと変化する。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

そして、アスミは風のエレメントボトルをラテの首輪にはめ込む。すると、オレンジ色になっているラテの額のハートマークが神々しく光る。

 

「スタート!!」

 

「プリキュア、オペレーション!!」

 

「エレメントレベル上昇ラテ!!」

 

「「キュアタッチ!!」」

 

キュン!!

 

ラテとアスミが手を取り合うと、白い翼が舞い、ラテが舞ったかと思うとハートの中から白い白衣のようなものが飛び出す。

 

その白衣を身に纏い、ラテが降りてきたかと思うとハープが飛び出し、さらにアスミは紫色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

衣装にチェンジした後、ハープを手に取り、その音色を奏でる。

 

「「時を経て繋がる、二つの風!」」

 

「キュアアース!!」

 

「ワン!」

 

アスミは風のプリキュア、キュアアースへと変身した。

 

「「「「地球をお手当て!!」」」」

 

「「「「ヒーリングっど♥プリキュア!!」」」」

 

4人は変身を終えて、すぐにメガビョーゲンへと立ち向かう。

 

「!? キミたちは・・・!?」

 

少女はちゆたちがあのコスプレ姿に変身を遂げたことに驚きを隠せなかった。

 

「「「「はぁぁぁぁぁ!!!」」」」

 

「メガァ!?」

 

4人は同時に蹴りを放ち、メガビョーゲンを背後へ押し倒す。

 

「おっ、来たか!プリキュア!!」

 

グアイワルはメガビョーゲンが倒されたことでプリキュアが来たことに気づく。その中にはバテテモーダを浄化した、あの紫のプリキュアの姿もあった。

 

「へぇ・・・あの紫の新入りもいるんだ」

 

不敵な笑みを浮かべるダルイゼンの隣に、クルシーナが飛び降りてくる。

 

「それと、あの脱走者もいるわよ」

 

「ふーん・・・あれが脱走者なのか・・・」

 

クルシーナが指摘すると、ダルイゼンは視線をずらして金髪の少女を見る。

 

「俺には普通の人間にしか見えないけど?」

 

「ビョーゲンズとして不完全な状態だから、アタシたちとは格好も違うんじゃないかしら」

 

ダルイゼンは普通の人間の少女にしか見えないことに疑問を持つ。クルシーナは失敗作が故に、ビョーゲンズとして不完全だという推測をダルイゼンに教えた。

 

「メガァ・・・」

 

メガビョーゲンは立ち上がるとアースを見据える。

 

「速やかに浄化しましょう」

 

アースはそう言うとメガビョーゲンへと飛び込んでいく。

 

「メッガァ!!」

 

メガビョーゲンはアースに向かって拳を振り下ろすも、アースの姿が消える。

 

「ビョーゲン!? メガァ!! メガ、メガァ!!」

 

アースはいつの間にか自身の真上に移動しており、それに気づいたメガビョーゲンは飛ぶ彼女を捕まえようとするも、なかなか捉えられない。

 

「メメ!?」

 

「ふっ!」

 

アースはメガビョーゲンの頭を踏み台にして飛ぶと、背後に着地する。

 

「メーガァ!!」

 

「はぁ!!!」

 

「ビョーゲーン!!??」

 

メガビョーゲンはそんなアースへと駆け出していくも、アースはその行動を読んだかのようにミドルキックを食らわせ、メガビョーゲンを吹き飛ばす。

 

「さすが、アース!!」

 

「メガビョーゲンが大きくても関係なしニャ!!」

 

メガビョーゲンをものともしないアースに、スパークルたちの方も余裕が出てきた。

 

「メガビョー!!!!」

 

そこへもう一体のスイカ型のメガビョーゲンが両手から赤い光線を放ってくる。

 

「「「!!」」」

 

グレースたち3人はそれに気づくと、赤い光線を交わす。

 

「氷のエレメント!!」

 

フォンテーヌはステッキに氷のエレメントボトルをはめ込む。

 

「はぁ!!!」

 

スイカ型のメガビョーゲンに目がけて、冷気をまとった青い光線を放つ。

 

「メ、メガビョ・・・?」

 

光線が直撃したメガビョーゲンは足元が凍りついていく。

 

「火のエレメント!!」

 

スパークルはステッキに火のエレメントボトルをはめ込む。

 

「実りのエレメント!!」

 

グレースはステッキに実りのエレメントボトルをはめ込む。

 

「「はぁ!!!!」」

 

「メガビョーゲン!?」

 

氷漬けになっているメガビョーゲンに目がけて、スパークルは火をまとった黄色の光線、グレースはピンク色の玉のような光弾を放つ。二つの攻撃を同時に食らい、メガビョーゲンが爆発を起こす。

 

「メガァ!!! メッガァ!!!」

 

しかし、爆発の煙からメガビョーゲンが飛び出し、頭から生やしているつるを振り回して、プリキュアたちに向かって振るう。

 

「「ふっ!!!」」

 

グレースとスパークルはその攻撃を飛んで交わす。

 

「メッガ、ビョビョビョビョ!!!!」

 

メガビョーゲンは空中に逃げたグレースとスパークルに目がけて、口から種を吹く。

 

「ぐっ、あっ、痛っ・・・!!!」

 

「イタタタタタタタ!!」

 

「メガァ!!!!」

 

「「あぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

とっさに防御して防ぐ二人だが、種攻撃は高速で飛んできているために苦痛を感じ、そこへさらにメガビョーゲンがつるを振るって、二人を吹き飛ばす。

 

「グレース!! スパークル!!」

 

「メッガァ!!」

 

叫ぶフォンテーヌだが、メガビョーゲンはスイカの玉のような拳をフォンテーヌへと振るう。

 

「ぐっ・・・!!」

 

「!! あなた・・・!!」

 

その拳を防いだのは、金髪の少女だった。両腕をクロスさせて叩きつけてくる玉のような拳を防いでいる。

 

「今のうちに・・・!!!」

 

「!! ええ!!」

 

少女の言葉にフォンテーヌは頷くと、抑えられている拳の上に乗っかって飛び出していく。

 

「はぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「メッガァ!?」

 

そして、メガビョーゲンの顔面に飛び蹴りを食らわせ、背後へと押し倒す。

 

「よし!!」

 

少女はうまくアシストできたことに感嘆の声を上げる。

 

「はぁ!!!!」

 

「メガァ!? ビョーゲン・・・!!!」

 

ダルイゼンのメガビョーゲンも立ち上がってはアースに立ち向かっているようだが、すぐに吹き飛ばされて押し倒されていた。

 

「こっちも大丈夫そうだな・・・」

 

少女はアースがもう一体も牽制してくれていることにも安堵の声を漏らす。

 

「よし、今のうちに!!」

 

「ええ!!」

 

キュン!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

グレースの言葉に頷くとフォンテーヌはステッキの肉球を一回タッチして、スイカ型のメガビョーゲンに向ける。ペギタンの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを発見する。

 

「実りのエレメントさんペエ!!」

 

エレメントさんは右胸のあたりにいる模様。

 

「こっちも花のエレメントさんを見つけたニャ!!」

 

そして、マリーゴールド型のメガビョーゲンからは花のエレメントさんを発見。左胸あたりにいる模様。

 

「確認しました」

 

アースはエレメントさんがいることを確認し、浄化の準備に入ろうとする。

 

「メガビョー、ゲン!!!!」

 

しかし、メガビョーゲンは負けじと四つん這いになると背中に覆われている無数の花びらを飛ばしてきた。

 

「「っ!!」」

 

「うっ・・・!!」

 

攻撃は広範囲に及び、突然の攻撃にぷにシールドが間に合わないグレース、フォンテーヌ、スパークル、そしてアースも両腕を交差させながら防御体制になる。

 

「メガメガメガメガァ!!!!」

 

「「きゃあぁぁ!!!」」

 

さらにメガビョーゲンは四つん這いで歩行しながらパンチを繰り出し、グレース、スパークル、アースの3人を吹き飛ばした。

 

「メッガ、ビョーゲン!!!!」

 

もう一体のメガビョーゲンも、頭から生えているつるから複数の小さなスイカの玉を出現させると、それを振るって飛ばす。

 

それは3人から離れていたフォンテーヌの方へと飛んできていた。

 

「あ!?」

 

金髪の少女はそれに気づくとすぐに飛んでいき、フォンテーヌの目の前に立つとステッキを向けてシールドを展開して、爆発に備える。

 

ドカン!! ドカン!! ドカァァァァン!!!!

 

「うっ・・・くっ・・・!!」

 

凄まじい爆発に吹き飛ばされそうになるも、なんとか持ちこたえる少女。

 

「メッガァー!!!」

 

メガビョーゲンはさらに両手についているスイカをロケットパンチのように飛ばす。

 

「ぐっ・・・うぅぅ・・・うわあぁぁぁ!!!」

 

「きゃあぁぁぁ!!!!」

 

展開し続けているシールドで一発目は耐える少女だったが、そこへもう一本のロケットパンチが飛んできて、シールドごと吹き飛ばされてしまう。しかも、守っていたフォンテーヌも巻き込まれてしまう。

 

「「はぁっ!!」」

 

「ふっ!!」

 

グレース、スパークル、アースは体制を立て直して、メガビョーゲンへと飛び出していく。

 

「ふっ!!」

 

「ふっ!! はっ!!」

 

一方、一緒に吹き飛ばされた少女は地面に足でブレーキをかけて自分を止め、背後のフォンテーヌはバク転をしながら着地する。

 

そして、二人はスイカ型のメガビョーゲンへと駆け出していく。

 

「そう簡単には終わらせてくれないみたいね!!」

 

「だったら、少しずつ、着実に!!」

 

成長している分、大きくなったメガビョーゲンは体力も有り余っていて打たれ強い様子。ならば少しずつメガビョーゲンの動きを押さえ込んでいくまでだ。

 

「メガァ・・・」

 

「はぁ!!」

 

「ゲン!?」

 

「やあっ!!」

 

「メガァ!?」

 

メガビョーゲンは立ち上がるも、そこへ右肩にスパークルが蹴りを入れ、さらにアースが右胸にパンチを食らわせてけん制する。

 

「メッガァー!!」

 

スイカ型のメガビョーゲンは両手のスイカを再びロケットパンチのように飛ばす。

 

「はぁぁぁぁ!!!!」

 

「ふっ!! はぁぁぁぁぁ!!!!」

 

フォンテーヌは飛んできたロケットパンチの一つを蹴りで上に弾く。金髪の少女はもう一つのロケットパンチに飛び乗るとそのままステッキを噴射口に突き刺して縦に一回転すると、それを横に振り回してロケットパンチをメガビョーゲンへと飛ばす。

 

「メッガァ!?」

 

自身の返ってきたロケットパンチが顔面に直撃してよろけるメガビョーゲン。

 

「ふっ!!」

 

そして、金髪の少女はしゃがみこむとそこへ背後から走ってきたフォンテーヌが彼女の肩を踏み台にして飛ぶ。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「メガビョー!!??」

 

飛び上がったところから急降下した蹴りを胸に食らわせて、スイカ型のメガビョーゲンを背後へと倒す。

 

「あの金髪、なかなかやるわね。失敗作は取り消してやろうかしら?」

 

クルシーナは金髪の少女がなかなかに奮闘している様子に珍しく感嘆していた。

 

一方、自分のメガビョーゲンの様子を見ていたダルイゼンは・・・・・・。

 

「メガパーツか」

 

「ん?」

 

ダルイゼンは気になっていた。グアイワルが使用したメガビョーゲンのかけら、メガパーツを。いいものを持っていると感じた彼はどうやって手に入るのか考えていた。

 

ふと自身のメガビョーゲンの背中を覆っている黄色い花びらのようなものを見つめる。そして、不敵な笑みを浮かべた。

 

「・・・いいこと思いついた」

 

「ダルイゼン・・・?」

 

ダルイゼンはそう言うとクルシーナの疑念の言葉をよそに駆け出し、メガビョーゲンの背中に飛び乗る。

 

「ダルイゼン!?」

 

驚いたグレースが振り向くとダルイゼンの姿が映った。それをよそにダルイゼンはメガビョーゲンの背中を探るように動かし、その一部を4つほどむしり取ると空中へと放る。

 

そして、メガビョーゲンから地面へと降りると、その一部を手にする。

 

「おぉ!? その手があったか!!」

 

その行動にグアイワルは感嘆の声を上げる中、ダルイゼンの持つかけらはクルシーナやグアイワルが持つようなメガパーツへと変化を遂げた。

 

「ふーん、なるほどねぇ」

 

その様子を見ていたクルシーナは不敵な笑みを浮かべると、自身のメガビョーゲンに視線を向ける。メガパーツはメガビョーゲンの一部、要するにメガビョーゲンから採取すれば簡単に手に入るというわけだ。

 

「じゃあ、アタシもやってみるとしましょうか」

 

「メッガァ・・・」

 

メガビョーゲンが立ち上がると、クルシーナはその場からメガビョーゲンの近くへと瞬間移動する。そして、両手からピンク色のビームサーベルのようなものを出す。

 

「あいつは・・・!?」

 

「クルシーナ!? 何をする気なの・・・!?」

 

警戒する少女とフォンテーヌをよそに、クルシーナは両手のビームサーベルをメガビョーゲンに向かって振るう。

 

「ふっ!! はぁ!!」

 

ビームサーベルから斬撃が放たれ、メガビョーゲンーーーー正確にはメガビョーゲンの頭から生やしているツタについている葉っぱのようなものの先っぽが切断される。

 

「ウツバット!!」

 

「ウツゥ!!」

 

飛び退いて帽子になっていたウツバットに指示を出すと、ウツバットはコウモリの姿に戻って素早く切断された葉っぱの一部を回収していく。

 

そして、クルシーナの元へと戻ると、ウツバットは回収したその一部をクルシーナの手元に出す。

 

「フフフ・・・いただき」

 

クルシーナが不敵な笑みを浮かべるとその葉っぱの一部は自身が持っているメガパーツと同じようなかけらへと変化を遂げた。ウツバットはすぐに帽子へと戻った。

 

そんなダルイゼンとクルシーナの背後にグレースが立つ。

 

「ダルイゼン!! クルシーナ!!」

 

グレースに名前を呼ばれた瞬間、無表情になるダルイゼンとクルシーナ。

 

「何を企んでるラビ!?」

 

「さあね・・・」

 

「お前らに教えると思ってんの?」

 

グレースは問い詰めると、ダルイゼンとクルシーナは淡々とそう答える。すると、ダルイゼンはグレースの方に向き直り、駆け出して攻撃を仕掛けてくる。

 

グレースはダルイゼンの攻撃を回避して、後方に飛んで避ける。しかし、ダルイゼンは一気に距離を詰めてパンチを繰り出す。

 

バシッ!!!

 

「ぐっ・・・うぅぅ・・・!!」

 

ダルイゼンのパンチを左手で受け止めたグレースが痛みに顔を歪めて、動きを止めてしまう。

 

「あ!?」

 

「!?」

 

アースはそれに気づいた。実は、グレースはここに来る前にアスミを守るために左の掌に傷を負ってしまい、その手で防いでしまったのだ。

 

それを見ていた金髪の少女も目を見開いていた。

 

「うっ・・・くっ・・・!」

 

グレースは受け止めた掌の傷を抑える。

 

「ふっ・・・」

 

それを見ていたダルイゼンは不敵な笑みを浮かべると、隙ありと言わんばかりに足を振り上げて攻撃を仕掛けようとする。

 

バシッ!!

 

しかし、そこへアースがグレースの前に立ち、両腕でダルイゼンの足を受け止めた。

 

「ちっ・・・!!」

 

「はぁ!!」

 

アースはダルイゼンの足を押すと、彼の体に蹴りを入れて後方へと退かせる。

 

「やっぱりあのプリキュアは目障りね。まとめてアタシが・・・!!」

 

クルシーナはグレースとアースに目がけて、右手から禍々しい赤いオーラを集約させていく。

 

「させるか!!」

 

そこへ金髪の少女が走りながらステッキから黒い光線を放ってくる。

 

「ウツゥゥゥゥゥ!!!」

 

その光線の前に帽子状態のウツバットが立ちはだかり、光線を口の中へと飲み込んでいく。

 

「ゲップ・・・」

 

「ふっ!!」

 

「ウツゥ!?」

 

少女は動揺せずにげっぷをしたウツバットを踏み台にして飛びあがる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

そして、クルシーナに目がけて黒いステッキを振り下ろす。

 

「ふん!!」

 

クルシーナは右手のオーラの集約を止めると、その右手でステッキの攻撃を受け止める。

 

「ふっ!!」

 

「あぁ・・・!!」

 

クルシーナはその状態のまま、左手からイバラビームを放って少女を吹き飛ばす。少女は体制を立て直して、地面に着地する。

 

その隙を狙って飛び出し、こちらへ駆け出してきたクルシーナが少女に向かって拳を繰り出す。

 

「っ・・・!!」

 

少女は両手を使って拳を防ぐも、徐々に押されそうになる。

 

「はぁっ!!!!」

 

「!!」

 

そこへフォンテーヌがクルシーナに向かって、急降下の飛び蹴りを繰り出す。それに気づいたクルシーナは拳を引っ込めて、後方へと退避する。

 

「ふーん、少しはやるみたいだけど、まだまだね」

 

クルシーナは金髪の少女にそう言うと、ウツバットの帽子が頭に装着されるとその場から下がっていった。

 

「大丈夫!?」

 

「あ、ああ・・・また、助けられてしまったな・・・」

 

少女はまた助けられてしまったことにバツが悪そうな表情を浮かべる。

 

「いいのよ。困った時はお互い様でしょ」

 

「・・・そうか、困った時は、か・・・」

 

少女はある記憶を思い返して、頬を紅潮させて微笑んだ。

 

「雷のエレメント!!」

 

スパークルはステッキに雷のエレメントボトルをセットする。

 

「はぁぁぁぁ!!!!」

 

「メッガ、ビョ・・・!?」

 

スパークルは黄色い光線をメガビョーゲンに向けて放ち、直撃した黄色い花のメガビョーゲンの体勢がフラつく。

 

「メッガァ!!」

 

スイカ型のメガビョーゲンは両手から赤い光線を噴射しようと構える。

 

「!! はぁっ!!」

 

フォンテーヌに目がけて放とうしていることに気づいた少女は阻止すべく、ステッキを振って黒い光線を放つ。

 

「メッガ・・・!?」

 

黒い光線はメガビョーゲンの片手に着弾し、噴射を防ぐ。

 

「雨のエレメント!!」

 

フォンテーヌは雨のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「はぁ!!!!」

 

「ビョー・・・!?」

 

フォンテーヌはステッキから雨粒をまとった光線を放ち、メガビョーゲンのもう片方の手に着弾させる。

 

「ふっ!! はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「メガァ・・・!?」

 

それを見ていたアースが追い打ちと言わんばかりに飛び出していき、急降下からの強烈な攻撃を食らわせて吹き飛ばす。

 

「アース! 行けるわよ!!」

 

フォンテーヌの言葉に、アースは頷くと両手を祈るように合わせる。一枚の紫色の羽が舞い降り、ハープのような武器へと姿を変える。

 

「アースウィンディハープ!!」

 

そう呼ばれたハープに、風のエレメントボトルがセットされる。

 

「エレメントチャージ!!」

 

アースはハープを手に取って、そう叫ぶとハープの弦を鳴らして音を奏でる。

 

「舞い上がれ! 癒しの風!!」

 

手を上に掲げると彼女の周りに紫色の風が集まり始め、ハープへとその力が集まっていく。

 

「プリキュア! ヒーリング・ハリケーン!!!」

 

アースはハープを上に掲げてから、それを振り下ろすとハープから無数の白い羽を纏った薄紫色の竜巻のようなエネルギーが放たれる。

 

そのエネルギーは一直線にメガビョーゲンへと向かい、直撃する。

 

竜巻のようなエネルギーはメガビョーゲンの中で二つの手へと変化し、実りのエレメントさんを優しく包み込む。

 

メガビョーゲンをハート状に貫きながら、光線はエレメントさんを外に出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていく。

 

「こっちも行こうよ!!」

 

「うん!!」

 

「ええ!!」

 

グレースたち3人はミラクルヒーリングボトルをステッキにセットする。

 

「「「トリプルハートチャージ!!」」」

 

「「届け!」」

 

「「癒しの!」」

 

「「パワー!」」

 

グレース、フォンテーヌ、スパークルの順で肉球にタッチしていき、ステッキを上に掲げる。すると、花畑が広がっていき、背後には自然豊かな森が広がっていく。

 

「「「プリキュア! ヒーリング・オアシス!!」」」

 

3人は一斉にメガビョーゲンへとステッキを構え、ピンク・青・黄色の3色の光線が螺旋状になって放たれる。螺旋状の光線は混ざり合いながら一直線にメガビョーゲンに直撃する。

 

螺旋状になった光線はそれぞれの色の手へと変化して、3本の手が花のエレメントさんを優しく包み込んでいく。

 

3色に光るハート状にメガビョーゲンを貫きながら、光線はエレメントさんをメガビョーゲンから外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンたちは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「「「「「お大事に」」」」」」

 

それぞれのエレメントさんが宿っていたものに戻っていくと、蝕まれた場所は元に戻っていく。

 

「ワフ~ン♪」

 

体調不良だったラテも額のハートマークが黄色から水色に戻り、元気になった。

 

「ちぇー・・・今回もしてやられたわね・・・」

 

「・・・まあいいや。いいもん手に入ったし」

 

「・・・それもそうね。おかげでいいことも分かったし」

 

クルシーナは不満そうな顔をしていたが、ダルイゼンの言葉に同調し、笑みを浮かべる。

 

ダルイゼンとクルシーナはそれぞれ4個のメガパーツを手にして姿を消した。グアイワルもそんな2人を見やりつつも、自身も撤退した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

騒動後、のどかたち4人は花のエレメントさんを診察した後、実りのエレメントさんを診ていた。

 

「みなさんのおかげで助かりました! ありがとうございます!」

 

実りのエレメントさんが無事な様子を見て、のどかたち4人は微笑み合う。

 

「ふっ・・・」

 

少女はそんな様子を遠目で見守り、笑みを浮かべた後、その場から背を向けて立ち去ろうとする。

 

「あ・・・待って!!」

 

そんな自分を背後から呼ぶ声が聞こえ、思わず足を止める。彼女に声をかけたのはのどかだった。

 

「また、私たちを助けてくれたよね。あの時のお礼が言えてなかったの。ありがとう」

 

「・・・・・・・・・」

 

のどかの笑顔の言葉に、少女はしばらく沈黙していた。その場に立ったまま、彼女は動かない。

 

しかし、唐突に踵を返して駆け出すとのどかの体を強く抱きしめる。

 

「えっ・・・?」

 

「「ええっ!?」」

 

「っ・・・!!」

 

のどかは何が起こったかわからず、放心するばかりだ。その行動にはちゆやひなたも驚きを隠せない。

 

「うぅ・・・よかった、本当によかったぁ・・・!!」

 

少女はのどかを抱きしめたまま、体を震わせていた。その声はどこか泣きそうな声になっている。

 

「のどかがビョーゲンズのせいで痛そうな顔をした時、ぞっとした・・・気がおかしくなりそうだった・・・!!」

 

少女は嗚咽を漏らしながら吐露していたが、のどかは気になっていることがあった。

 

「えっ・・・なんで、私の名前を知って・・・?」

 

「なんともなくてよかったぁ・・・本当によかったぁ・・・!」

 

のどかはこの娘がなぜ話したこともないのに自分の名前を知っているのか疑念を抱いていたが、少女は気にせずに嗚咽を漏らして体を震わせるだけだ。少し抱きしめる力も強くなった気がする。

 

「あ、あのさ・・・のどかっちが苦しそうだから離してあげて・・・」

 

「あ・・・!!」

 

ひなたに指摘された少女はハッとなると慌てて体を離す。

 

「す、すまない・・・!! 痛くなかったか・・・!?」

 

「あ、うん・・・大丈夫・・・」

 

少女はそわそわとしながらも気遣うような声を出し、のどかも若干戸惑ったような感じで二人の間になんとも言えないような空気が流れる。

 

「あ・・・えっと・・・」

 

「うぅ・・・・・・」

 

二人は何か言いたいのだが、お互いに顔を紅潮とさせていて、恥ずかしいと思っているのか下を向いて言葉を紡ぐのを躊躇する。

 

「あ、そうだ・・・!! 確か、キミの名前決めてなかったよね・・・!?」

 

「そ、そうね・・・!! 名前がわからないとお互いに呼びづらいでしょ・・・!?」

 

気まずそうな空気にひなたが思い出したように声をあげ、ちゆが賛同の声をあげる。

 

「そ、そうだね・・・!!」

 

「あ、ああ・・・えっと・・・」

 

のどかと少女は二人の言葉に賛同の声を出し、少女はごまかすように名前を考え始める。

 

「・・・!!」

 

少女はハッとしてその動きを止めた。自分の頭の中に何かが流れ込んでくる。そして、微笑みながら頭に思い浮かんだ言葉を発した。

 

「かすみ・・・」

 

「「「??」」」

 

突然、少女が発した言葉にのどかたちは疑問符を抱くも、少女はしっかりとそんな4人の顔を見ながら笑顔を見せる。

 

「かすみだ・・・私の名前は、かすみ・・・!!」

 

少女は自分の名前をつぶやき、年頃の少女のように後ろで腕を組む。

 

のどかたちはしばらく放心していたが、やがてその名前に微笑む。

 

「かすみ・・・いい名前じゃん!!」

 

「そうね、花にもあるような素敵な名前ね・・・!」

 

ちゆとひなたがその名前に笑顔になる中、のどかは少女に近づいて手を取る。

 

「私、のどか。花寺のどか!」

 

「ちゆ・・・沢泉ちゆよ」

 

「平光ひなた! ひなたって呼んで! よろしくね、かすみっち!!」

 

「!!」

 

のどかが名前を名乗ったことを皮切りに、ちゆとひなたも名前を名乗る。3人にとっては新たな仲間と友達ができたような感じだ。

 

少女はそんな彼女たちの様子を見て微笑む。

 

「ああ、よろしく頼む・・・」

 

少女改め、かすみはこの日出会った初めての仲間の手を、そっと握り返した。

 

「よーし!! 新しい仲間と出会ったことだし!! お姉のお店でジュースパーティーしない!?」

 

「ジュースって、あのジュースか・・・?」

 

「そうだよ!! あのジュースを誓い、じゃないけど、そんな感じでみんなで飲むの!!」

 

かすみはテンションの高いひなたのその言葉を聞いて、瞳をキラキラと輝かせる。

 

「おぉ!! それはいいな!! あのジュースは最高だしなぁ!!」

 

「でしょでしょ!? じゃあ、早速レッツゴー!!」

 

「おっ! うぉぉぉぉ!?」

 

ひなたはかすみの手を取るとすぐにワゴンハウスの元へと走り出す。

 

「あ、ちょっと待ってよ! ひなたちゃん!!」

 

のどかやちゆたちも二人の後を追うべく走り出す。

 

「・・・・・・・・・」

 

そんな様子を、アスミは一人険しい表情で見つめていたが、4人の後を追うべく歩き出していく。

 

そして、ひなたの家の近くのワゴンカフェ、5人は近くのテラス席のテーブルを囲んでいた。皆はそれぞれひなたが用意したグミ入りのジュースを手にしている。

 

「いい? 二人とも、コップをこうやってそっと合わせるんだよ」

 

「わかりました」

 

「わかった」

 

のどかのあるレクチャーにアスミとかすみは肯定する。

 

「じゃあ、アスミが無事にのどかの家で暮らせるのと・・・」

 

「かすみっちが新たな仲間になったということで!! カンパーイ!!」

 

「カンパイ・・・」

 

「カ、カンパイ・・・」

 

ちゆとひなたがそう言って、皆はコップを合わせる。そして、みんなはジュースを飲み始める。

 

「あっ、これ新しい味ね!!」

 

「んん~? これはまた違う味がして、おいしいな!!」

 

「そうそうそう!!」

 

どうやらジュースは新作のようで、ちゆ、ひなた、かすみは笑顔になっていた。

 

「あれ? そういえば、かすみっちってどこに住んでるの?」

 

「山の中に住んでいるが・・・?」

 

「「「「ええ!?」」」」

 

ひなたがなんとなく聞いた質問に、かすみは爆弾発言をして仰天させる。

 

「や、山の中ペエ・・・?」

 

「マジかよ・・・?」

 

ペギタンとニャトランもその答えを聞いて唖然としていた。

 

「ああ。山の中にいると森の声が聞こえるから、安心するんだ」

 

かすみは当然のように答えるが、それよりも気になることがあった。

 

「た、食べ物とかはどうしてたの?」

 

「お風呂は!?」

 

ちゆとひなたがそれぞれ聞くと、かすみはハッとしたような顔をする。

 

「あ・・・そういえば、そんなことは考えてなかったな・・・」

 

かすみは主に食べ物に関して、何も考えていなかったことをバツが悪そうにする。食べるということをわかっていなかったが、それをしないとあのように倒れてしまうことも経験済みだ。一体、どうすればいいのか?

 

「ダ、ダメダメ!! かすみっちは女の子なんだから、そんな野宿するなんて・・・!!」

 

「そ、そうだが・・・」

 

ひなたに詰め寄られて、動揺するかすみ。とは言っても、どうすればいいのか生まれたばかりの自分は思いつかない。

 

「そうだ! あたしの家に住んでいきなよ!! お姉に事情を話してみるし!!」

 

「そ、そんな・・・!! 申し訳ないぞ!! ひなたの家の人に迷惑がかかるだろう・・・?」

 

ひなたの提案に、かすみは両手を振りながら遠慮しようとする。さっきも二人に迷惑をかけたのに、さらに迷惑をかけるのは本当に申し訳ない。

 

「大丈夫大丈夫!! うちの家族めっちゃ優しいし!!」

 

「だ、だが・・・!」

 

ひなたが笑顔で言っても、かすみの顔は申し訳なさそうだ。

 

「とは言ってもよー、ひなたン家は部屋が一つしかねぇだろ? かすみを止めるのは難しいんじゃねぇの?」

 

「あ、そっか・・・」

 

ニャトランに指摘されると、ひなたはテンションが下がったように落ち込む。

 

そんな中、口を開いたのはちゆだった。

 

「じゃあ、うちに済まない?」

 

「えっ・・・?」

 

「私の家は旅館だし、部屋も余っているところがあるから、そこに住むといいわ」

 

ちゆが自分の家に住むことを提案。部屋も余っているから、そこをかすみに貸してあげることで彼女の家として使ってもらおうとしているのだ。

 

「だ、だが、ちゆの家の人には・・・!」

 

「大丈夫。私が事情を話すし、なんとかしてかすみを住まわせてもらうわ。もう友達で仲間なんだから、遠慮なんかしなくていいのよ」

 

「!!」

 

ちゆのその言葉を聞いて、かすみは心の中で申し訳ないという気持ちが溶けていくような感じがした。

 

「・・・わかった。すまないな。これから世話になるよ」

 

「そんなに固くならなくていいわよ。それに、困った時はお互い様でしょ」

 

「そう、だな。じゃあ、これからもよろしく」

 

かすみはそう言って赤い手袋をした手を差し出すと、ちゆは笑顔でその手を握った。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第61話「心配」

原作第22話がベースです。
かすみを登場させたことによって話が多くなって大変になって、話を考えるのも苦労してます。
でも、頑張って書いていきます。


 

マグマに満たされた世界、ビョーゲンキングダムーーーーそこでは、シンドイーネが何やら寂しそうにしている様子だった。

 

「はぁ〜・・・」

 

シンドイーネは岩場を指でなぞりながら、ため息を吐いていた。

 

「どうして私はキングビョーゲン様が好きなのかしら? ずっとお会いできないまま・・・思いは報われないのかしら・・・」

 

シンドイーネは最近、キングビョーゲンに会っていないことを悲しく思っていた。

 

思えば愛しのキングビョーゲンに仕えて数ヶ月が経とうしているが、いまだに主人は自分のことを振り向きすらもしない。本当はキングビョーゲンは、自分のことをなんとも思っていないのではないかと感じてしまう。

 

内なる思いが膨れ上がって、そのプレッシャーに押しつぶされそうだった。

 

「単純な話なの。働きもしない奴にパパが姿を現すわけがないの」

 

そんな彼女の背後にいるイタイノンが背を向けて足をブラブラとさせながら、嫌味のように言う。

 

「なんですって!? あんたも大して働いてないじゃないの!!」

 

シンドイーネが岩場に拳をたたきつけながら、怒りの声を返す。

 

「私はお前と違って要所要所で動いているからいいの。パパの駒であるお前とは扱いが違うの」

 

「っ〜〜〜〜!!・・・はぁ・・・」

 

イタイノンはそんな怒りをさらっと受け流して淡々と言葉を返す。シンドイーネは心底悔しそうにすると、相手をするのが疲れたと言わんばかりに冷めて岩場に突っ伏す。

 

「こういう時、キングビョーゲン様の癒しが欲しいわ〜!!」

 

シンドイーネは駄々をこねる子供のような大きな声で言う。

 

コン!コン!

 

「っ・・・??」

 

そんな悲しそうなテンションの彼女の前に、二つのあるものが投げ込まれるように置かれる。それは自分が生まれて初めて見るような緑色のかけらだった。

 

「これは・・・?」

 

シンドイーネが緑色の禍々しい物体を拾い上げて疑問を抱いていると、上から声が聞こえてきた。

 

「メガパーツ」

 

声の持ち主を見上げてみれば、そこにはダルイゼンとクルシーナの姿があった。

 

「それを使えば、メガビョーゲンをすぐに成長させられるわよ」

 

クルシーナが緑色のかけらーーーーメガパーツの特徴を律儀に教える。

 

「おいおい!! それは!?」

 

そこへ別の場所からグアイワルが姿を現して抗議の声を上げた。

 

「キングビョーゲン様に会いたいんなら、これでもっともっと地球蝕んじゃえば?」

 

「そうよ。成果を少しでも出せれば、お父様は会いに来てくれるどころか、喜んでくれるかもね」

 

ダルイゼンとクルシーナは珍しく穏やかな笑みを浮かべながら、シンドイーネを諭す。

 

「・・・そうね。キングビョーゲン様を復活させて、この思いをぶつけて見せるんだから!!」

 

何やら自信のついたシンドイーネは嬉々して、地球を蝕むべくその場から姿を消した。

 

「全くもって単純なやつなの」

 

クルシーナの隣に移動したイタイノンがそう言う。

 

「おい!ダルイゼン!! クルシーナ!! 大事なものを何勝手に渡してるんだ!?」

 

グアイワルが二人に対して抗議の声を上げる。

 

「・・・さっさと蝕むために使えるものはどんどん使えばいい。隠す必要とかある?」

 

「大体、あれはアタシとダルイゼンのメガパーツよ。アタシたちのものをどうしようとアンタには関係ないだろ?」

 

「くっ・・・!」

 

ダルイゼンとクルシーナは不敵な笑みを浮かべながらそう言い放ち、グアイワルは顔を顰めながら睨みつけていた。

 

「でも・・・メガビョーゲンばかりに使ってるのも勿体無い気がするのよねぇ」

 

クルシーナはメガパーツの一つを見つめながら呟く。メガビョーゲンに使用してせっかく巨大化させても、アースには全く通用していないことがわかっているので、出撃するたびにこれではいつもと変わらないだけだ。

 

急成長させる以外にも、もっと有効的な使い方があるはず・・・。クルシーナはそう考えていた。

 

「・・・ふん」

 

イタイノンも同じように手に入れたメガパーツの一つを見つめていたが、すぐに懐にしまい込むと幹部たちに背を向けて歩き出す。

 

「どこ行くの?」

 

「・・・仕事なの」

 

背後から声を掛けるクルシーナに、イタイノンは淡々と答えると地球に向かうべく歩いていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーうぅ・・・んぅ・・・んん・・・。

 

ドクン、ドクン、ドクン

 

胸を押さえて苦しむマゼンダ色の髪の少女。

 

ーーーーはぁ・・・はぁ・・・くっ・・・うっ・・・!!

 

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン!!

 

ーーーークゥ~ン

 

ーーーーだ、大丈夫、だよ・・・ラテ、早く、帰ろう?

 

子犬を抱えながら、苦しいのに作り笑顔を見せるマゼンダ色の髪の少女。

 

ーーーーはぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・

 

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン!!

 

重そうに体を引きずりながら、懸命に歩いていくマゼンダ色の髪の少女。

 

ーーーーう・・・あ・・・。

 

おぼつかない足を躓かせ、倒れ込んでしまう少女。

 

ーーーーあ・・・あ・・・。

 

倒れて、誰も見つけてくれない状況に絶望する少女

 

ーーーー助けて・・・ちゆちゃん・・・ひなたちゃん・・・。

 

ーーーーお母さん・・・お父さん・・・。

 

ーーーーラビリン・・・・・・。

 

「ああ!?・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

かすみは眠っている布団の上から飛び起きる。息を切らせており、その額や頬にも汗が滲んでいる。

 

「ま、また・・・あの夢か・・・」

 

額の汗を拭いながら呟くかすみ。

 

彼女たち、グレースたちプリキュアと出会う前、メガビョーゲンの猛攻で意識が落ち、その際に見た夢。自分が取り憑いていた少女の中に存在し、苦しめていた自分・・・。あれがのどかたちと出会った今でも、こうして悪夢としてみるのだ。

 

それはまるで、彼女に贖罪として償えと訴えかけているかのように。

 

「のどか・・・・・・」

 

自分の手を見つめながら、彼女の名前をつぶやく。

 

それはそうと、周囲を見渡すとそこは襖で囲まれている部屋だった。

 

「ここは・・・?」

 

かすみは自分の記憶の中を思い返し、ここがどういう場所なのかを思い出そうとする。

 

「あ、そうか・・・ここは、ちゆの家だ・・・」

 

家族との接見をこなし、ちゆが襖に囲まれている部屋に案内されて、その部屋に泊まっていいと言われた気がする。

 

ーーーーおかえり、ちゆ。? その娘は?

 

ーーーーえっと・・・かすみよ。風車かすみっていうの。

 

ーーーーは、始め、まして・・・。

 

ーーーーあ、あのね、お母さん。彼女をしばらくホームステイさせて欲しいの。

 

ちゆは自分を家へと連れてきた際に、彼女の母親らしき人に私を紹介してくれた。でも、その母親は不思議そうにちゆを見ていた。

 

かすみ自身も辿々しくなりながらも答える。ちゆの言った「風車」・・・という言葉には引っかかるが、自分を家に泊まるための虚言なのだろうと思った。

 

本当はちゆがとっさにつけた名字なのだが・・・。

 

ーーーーしばらくってどういうこと?

 

ーーーーえっと、ね・・・かすみはね、外国から日本に帰ってきたばっかりなの・・・!

 

ーーーーえっ?

 

ーーーー日本に帰ってきたのはいいんだけど、元々住んでいた場所がなくなってて、困っていたところを私が見つけたの。放っておけなかったから、家がないならうちに来たらって誘ったの・・・!

 

いろいろわからない言葉が気になるが、ちゆは必死に取り繕うとしているのはわかる。

 

すると母親らしき人は怪しむような目をしながら、自分に顔を近づけてきた。

 

緊張して、背中に嫌な汗をかきそうだった。

 

ーーーーあ、あの・・・。

 

ーーーーかすみちゃんって言ったかしら? ホームステイという割には、ちゆと同い年ぐらいの子で、日本人みたいな名前なのね。

 

ーーーーに、日本人・・・?

 

ーーーーそれに荷物も持ってないし、どうしちゃったのかしら?

 

日本人みたいな名前・・・? 声には出さなかったが、その言葉の意味がわからなかった。なぜならそんな言葉は生まれて初めて聞いたから。

 

ーーーーそ、そうなの!! 外国に長い間住んで勉強してたの!! それで、お金がなくなって路銀が尽きてしまったのよ・・・!! それに荷物がないのも、誰かに盗まれちゃったんですって!!

 

ちゆが慌てたように説明する。これも自分を家に泊めるためなのであろうということはわかる。

 

ーーーー・・・・・・。

 

ーーーーあ・・・えっと・・・。

 

ーーーー・・・そう、わかったわ。

 

ちゆの母親らしき人は顔を離すと、穏やかな優しい笑みを浮かべる。

 

ーーーー歓迎するわ。ようこそ、かすみちゃん。日本に帰ってきて早々、災難にあって大変だったわね。

 

ーーーー・・・!!

 

ーーーー困った時はお互い様だし、こんな可愛い子を追い返すのは可哀想だものね。

 

かすみはその言葉を聞いた瞬間、なんだかよく分からない暖かいものが流れてきたような気がした。でも、それは悪い気はしないということは理解できた。

 

ーーーーよ、よろしく、お願い、します・・・。

 

こうしてかすみは晴れて沢泉家で暮らせるようになったのであった。その際に隣にいたちゆが息を吹いていたのを見て、まずいことは特にないというのはなんとなく察した。

 

その家で暮らしていることをかすみは思い出し、穏やかな笑みを浮かべる。

 

とりあえずは着替えて、みんなのところに行くことにする。

 

ちゆから着ていいともらった寝巻きを脱いで畳んだ後、枕の横に置いてあった自分の本来の服を着る。袖無しの白いワイシャツのようなものに袖を通し、ベルトがついた赤いスカートを履く。

 

そして、足紐の付いた黒いストッキングを履き、両手に籠手のようなものをつけて、その上から赤い手袋をする。最後にシャツにアスコットタイをして、頭の金髪に黒い二つのリボンを両サイドにつける。

 

ちゆに教えてもらった鏡という、自分の姿が見える道具で自分の姿を見つめる。ちゃんと自分がつけていたものは身につけているのかを。

 

「うん・・・!!」

 

かすみは鏡の自分を見て頷いた後、襖の扉を開けて部屋の外に出るとみんながいる場所へと向かっていく。

 

「おはよう、かすみ」

 

「おはよう、ちゆ」

 

途中、自分の部屋を出てきたちゆに挨拶をして、一緒に食卓へと向かっていく。

 

「おはよう、ちゆ、かすみちゃん」

 

「おはよう、お母さん」

 

「お、おはよう・・・ございます・・・」

 

かすみは若干緊張しながら、食卓の中へと入る。手をモジモジとさせながら、顔を少し紅潮させていた。

 

そして、ちゆの家族たちも起床して食卓へと並び、テーブルには色とりどりの献立が並べられる。

 

「おぉ〜!! 私が知らないような、美味しそうなものがいっぱいだ〜♪」

 

食卓の料理に目を輝かせるかすみ。鰆の西京焼き、ナスのお味噌汁、出し巻き卵、きゅうりや大根の浅漬け、そしてホカホカの白いご飯。どれもかすみにとっては見たことのない食べ物だ。

 

「えっ・・・かすみお姉ちゃん知らないって・・・日本の普通のご飯だよ?」

 

その言葉を聞いていたちゆの弟・とうじが疑問を抱く。

 

「が、外国にずっと住んでいたから、こういう料理をあまり見たことがないのよ・・・!!」

 

「あら、そうなの・・・?」

 

焦ったちゆがそう説明すると、なおが再度かすみに聞き返す。日本人という程なのに、ここで日本の料理を素で知らないなんて言ったら、日本人じゃないのが丸わかりだ。まあ、そもそも格好は日本人ではないが・・・。

 

しかも、外国自体もわからないと言ったら、ますます家族から怪しいと疑われるだろう。

 

「その外国というのがよく、んんっ!?」

 

「ちょっとかすみ・・・私に話を合わせて・・・!!」

 

ちゆの予想が当たったかのように不用意な発言をしようとしたため、隣に座るちゆがかすみの口を塞いで、耳元で小さな声で囁く。

 

そして、かすみにこう言って欲しいと耳元で伝えると彼女は頷く。ちゆは彼女の口からその手を離すと彼女は話し始める。

 

「そ、そうなんだ・・・! 外国、から帰ってきたばかりで、しかもずっと外国、ぐらしだったから、あまり日本の食べるものを見たことがないんだ・・・!!」

 

かすみはなんだか申し訳ない気持ちになりつつ、顔を引きつらせながらなおの質問に答える。

 

ちゆもかすみも、なんとも苦しい理由だったが・・・。

 

「あらまあ。だったら、遠慮しないでたくさん食べるといいわ」

 

「い、いいのか・・・!?」

 

「もちろんよ。だって、かすみちゃんはもう家族の一員だもの」

 

「そうだぞ! それに育ち盛りの子は食べないと大きくなれないからな!!」

 

なおとちゆの父・りゅうじの言葉に、かすみは目をキラキラとさせる。

 

「あ、ありがとう・・・! じゃあ、早速・・・!!」

 

かすみはそう言って、用意された箸に手をつけようとするが・・・・・・。

 

「かすみさん!!」

 

「おぉ!? な、なんだ・・・!?」

 

ちゆの祖母・はるこがキリッとした声を出し、かすみはびっくりして動きを止める。

 

「ご飯をいただくときは手を合わせて『いただきます』を言うんですよ。外国でもやっていたはずでしょ?」

 

「あ・・・・・・」

 

「っ!? げほっげほっ・・・!!」

 

はるこの厳しい指摘に、かすみは頭が白くなり、ちゆがビクッとして食べ物を喉に詰まらせそうになる。ここでもごまかさないと怪しさ倍増である。

 

「かすみ・・・!!」

 

ちゆはなんと言えばいいかわからないかすみの耳元に口を近づけるとコショコショと告げる。

 

「そ、そうだな・・・長旅、で疲れていて忘れていた・・・!」

 

かすみはちゆに伝えられたことを言うと、姿勢を正して赤い手袋をした手を合わせる。ちょっとごまかすには無理があるような気はするが、はるこは特に怪しみはしなかったようだ。

 

「いただきます」

 

かすみはそう返事をすると、箸を手に取り、まずはナスの味噌汁の入ったお椀を手に取る。そして、お椀を自分の口元に傾けて汁をすする。

 

「っ!? お、おいしい・・・」

 

かすみはその汁を口にした瞬間、なんだかわからないが、ほっこりとした何かが体の中に流れてくるのを感じた。まるで、体が喜んでいるかのよう。

 

かすみは衝動的に味噌汁をすすり、中のナスを食す。

 

「ん〜♪」

 

「おいしいよね! だって、おじいちゃんの特製だもんね」

 

恍惚とした表情を見せるかすみに、とうじがそう声をあげると祖父であるきよしは何も言わずに食事を進める。

 

「ハハ・・・」

 

かすみは味噌汁を食べ終えると、次は茶碗の白いご飯を食す。

 

「んんん〜!! この食べ物もツヤがあって、ふっくらしておいしいな!!」

 

「この魚もおいしいわよ〜」

 

「ふわぁ〜、本当か!? この世界の食は本当に進んでいるな!! 生きてるって感じだ!!」

 

かすみは、なおにそう言われるとますます瞳をキラキラとさせる。

 

「ふぅ・・・・・・」

 

ちゆはその様子を見て、一安心といった感じで息を吐く。

 

正直、ヒヤヒヤした・・・。かすみが自分の言うことに言ってくれなかったら、融通の利かない子だったらと思うと気が気でなかった。

 

そういえば、アスミも何もわかっていないというのをのどかが一生懸命にごまかしていたと聞く。その気持ちが今ならわかる気がする。

 

ちゆは朝ご飯に夢中になり、そしてとうじを始めとした自分の家族と交流をするかすみを微笑ましく見ていた。

 

「・・・この白いご飯、もっと、食べたいな・・・」

 

かすみは空になった茶碗を突き出して、辿々しくしながらも白いご飯を要求していた。

 

「私がよそうわ」

 

「本当か!! ありがとう!!」

 

ちゆはかすみから茶碗を受け取ると、ご飯をよそって彼女に渡す。

 

「はむはむ・・・んん〜!! 最高だな!!」

 

ちゆや彼女の家族はその様子を微笑ましく見つめていた。

 

「じゃあ、行ってきます!」

 

制服姿のちゆはカバンを持って、今日も出かけていく。

 

「ちゆ、どこに行くんだ?」

 

「学校よ」

 

「学校?」

 

ちゆは最後に再びかすみに耳元でコショコショすると、襖を開けて出て行く。

 

「行ってきます!!」

 

ちゆはそれだけ答えると、かすみの疑問を残したまま、家を後にしていく。

 

「あ、待ってくれ・・・!」

 

かすみは慌ててご飯を口の中に掻っ込むとお茶碗と箸を置く。

 

「ごちそうさま、でした! 待ってくれ! ちゆ!!」

 

かすみは手を合わせながらそう言うと、席を立ち上がりちゆの後を追っていく。

 

「よく食べる子ね」

 

なおはかすみの席に置いてあった空になった食器を見て、作りがいがあると微笑ましく感じたのであった。

 

そして、学校へと登校していくちゆ。その後ろをかすみが走ってきていた。

 

「ちゆー!!」

 

「? かすみ」

 

後ろから呼ぶ声が聞こえて、振り向いて立ち止まる。かすみが自分と並ぶと再び歩みを進めて、一緒に並んで歩く形となる。

 

「あなたまで学校に着いてくることはないのに・・・」

 

「すまない・・・家にいても、何をしていいのかわからなくてな・・・」

 

ちゆの言葉に、かすみは肩身が狭い思いをしながらわかりやすく落ち込んでいた。

 

「学校とは、どういうところなんだ?」

 

かすみはその表情から一変して、明るい表情を見せながら言う。

 

「学校はね、勉強するところなのよ。のどかとひなたもいるわ」

 

「のどか・・・!!」

 

かすみはのどかも学校に来ているということを聞き、顔を紅潮させる。

 

「私も学校に行っていいか!?」

 

「え・・・ちょっ・・・顔が、近い・・・!」

 

かすみは次の瞬間、ちゆの両手を握ると瞳をキラキラとさせながら、顔を近づけてきて、ちゆは彼女を落ち着かせるように努める。かすみはハッとした後、彼女から顔を離していく。

 

「かすみは生徒じゃないんだから、学校に入っちゃだめよ。それにその格好じゃ、怪しい人と思われちゃうでしょ」

 

「私は、そんなに怪しいのか・・・!?」

 

「そうじゃないけど・・・かすみは私と同じ年頃の少女にしか見えないから、学校の校舎内をうろうろすると先生に怒られちゃうってこと・・・!」

 

「そ、そうか・・・この時代の女の子たちは学校というところに通っているんだな・・・」

 

ちゆがその申し出を拒否すると、かすみは再び落ち込んだ。ちゆは彼女の発した言動が少しずれていると思いつつも、敢えてツッコまないことにした。

 

「はぁ・・・私ものどかと一緒に学校に行ければなぁ・・・」

 

かすみはため息をつく。そして、悲しそうな表情を浮かべていた。

 

(かすみは、のどかと一緒にいたいのかしら?)

 

ちゆはかすみの今の表情を見て、そう考えた。そういえば、この前メガビョーゲンを浄化して、彼女に会った時も思いっきり抱きしめていたような気がする。

 

ちゆはそんな困った顔のかすみは放っておけないと思い、どうすればいいか考える。

 

「ねえ、かすみ」

 

「?・・・なんだ?」

 

ちゆに声をかけられたかすみは俯いていた顔を彼女に向ける。

 

「学校が終わったら、一緒にのどかの家に行きましょう。終わった後にいけば、のどかと一緒に帰れるはずだから、家に行くこともできるわよ」

 

「本当か・・・!?」

 

「ええ!」

 

かすみは表情を明るくさせると、再びちゆの両手を握る。

 

「ありがとう、ちゆ! ちゆは優しいなぁ・・・!!」

 

「こ、困っている人を放っておけないだけよ・・・」

 

かすみが瞳をキラキラさせて再び顔を近づけてきたことに、表情を引きつらせながらも答えるちゆ。

 

なんやかんやで校舎の門の前に着く二人。

 

「じゃあ、また後でね」

 

「ああ。またな」

 

学校の校門へと入っていくちゆを、かすみは手を振りながら見送った。

 

「・・・・・・はぁ」

 

ちゆの姿が見えなくなった後、かすみはため息をつく。

 

「早くのどかに会いたいな・・・」

 

かすみはのどかに対する思いが溢れつつも、今は我慢することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

のどかたちの中学校の休み時間・・・・・・・・・。

 

「ふふっ、アスミちゃん、今朝は嬉しそうだったなぁ〜」

 

のどかは今朝の出来事を思い出し、嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 

それはのどかの両親がアスミに部屋を与えてくれたことだ。アスミはこの日、家族の一員になれることに嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

「そりゃそうでしょ! あたしも自分の部屋をもらえた時、めっちゃ嬉しかったし!」

 

「だね♪」

 

のどかとひなたは楽しそうに会話をしていたが、そんな中、一人心配そうにしていたのはちゆだった。

 

「・・・アスミ、大丈夫かしら? 家に一人でいるんでしょ?」

 

「あ、そう言われると・・・」

 

ちゆのその言葉に、のどかは一転して心配そうな声をあげる。お父さんとお母さんは仕事で家を出たし、自分も今は学校だ。もしかして、何かやってしまっているのではないか?

 

「ラビリンもラテもいるんだし、1人じゃないって! 心配ないない♪」

 

「まあ、それもそうね・・・」

 

楽観的な発言をするひなたに、ちゆもアスミのことは心配していた。

 

「そう言うちゆちーこそ、かすみっちは大丈夫なの?」

 

「それも心配よ。さっきも、私の登校に着いてきてたりして・・・?」

 

ちゆはその質問に疲れたような顔をしながら答えて説明しようとして言葉を止める。窓の向こうに何かが動いているのが見えたのだ。

 

「? ちゆちー、どうしたの?」

 

ひなたが呼ぶ声にも構わず、ちゆは窓の人物を見つめる。

 

様子をよく見てみると、タイツのような靴下に、金髪のような髪が映る。それは窓から見える木の上に登っているようで、そこからこちらを覗いている。しかも、その視線は不安そうに窓の方を見ているのどかから見えないところで、顔を赤らめながら彼女を見つめている。

 

その人物はこちらに気づくと「あっ」とでも言いたげな反応をし、彼女に向かって引きつったような笑みを浮かべながら手を振る。

 

「かすみ!?」

 

「うぇっ? かすみっち!?」

 

「かすみちゃん!?」

 

ちゆは目を見開くと思わず立ち上がって彼女の名前を叫ぶ。のどかとひなたも呆然としていたが、かすみの姿を見た途端に驚いたような表情をする。

 

かすみは引きつった笑顔で見ていたが、突然彼女の体が傾き、落っこちていくのが見えた。

 

「あぁ!?」

 

「木から落っこちたんじゃないの!?」

 

「行こう!!」

 

のどかたち3人はかすみが木から落ちたと推測し、席から立ち上がって校舎裏へと向かった。

 

一方、そのかすみは・・・・・・。

 

「痛たぁ・・・まさか、枝が折れるとは・・・」

 

かすみはお尻を打ったようで痛みに呻きながら、お尻をさすっていた。

 

「かすみー!!!!」

 

そこへちゆの呼ぶ声が聞こえてくる。

 

「あ・・・ちゆ、みんな・・・」

 

かすみは声が聞こえた方に振り向くと、ちゆたち3人がこちらに向かってくるのが見えた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・かすみちゃん、大丈夫? ケガはない?」

 

「も・・・もう、かすみっち、ヒヤヒヤさせないでよ・・・!」

 

「す、すまない・・・ちょっと油断してた・・・」

 

走ってきたのか息を切らしている3人。心配をさせてしまったことにかすみは謝罪する。

 

「かすみ・・・なんで学校に入ってきちゃったの? そんな格好で入ったら怪しまれちゃうじゃない・・・」

 

「私のこの格好は、変なのか・・・?」

 

ちゆの指摘に、かすみは自分の服装を見ながら言う。

 

「そ、そうじゃないけど、私たちと格好も違うのに、入ってきたらみんながおかしいと思うでしょってこと・・・!!」

 

ちゆは意味を歪曲しているかすみにちゃんと説明する。制服姿ではない人間姿のかすみが校舎内をうろつくと、その格好なだけに不審な人物に見えてしまうということを言いたいのだ。

 

「そ、そういうものなのか・・・?」

 

「そうなの・・・!」

 

かすみの質問にもきっぱりと返してあげる。ここではっきり言わないと彼女はまた同じ過ちを繰り返すだろう。

 

「じゃあ、この服を脱いでしまえば・・・」

 

かすみはそう言いながら、自分の着ている服に手をかけようとすると、3人は慌て始めた。

 

「ス、ストップーーーー!!!!」

 

「か、かすみちゃん!? 何をしようとしてるの!?」

 

ひなたとのどかがかすみの手を押さえる。こんなところで服を脱がれたりしたら、余計問題になってしまう。

 

「何って、この格好が怪しいから身につけないようにしようとーーー」

 

「そういう問題じゃないの!!!」

 

「脱いだら全部丸見えになっちゃうし!!!」

 

「・・・それの何が問題なんだ?」

 

かすみはキョトンとしながら言う。どうやらこの場で服を脱ぐことがどんなに不味い状況かわかっていない様子。

 

のどかたち3人は思った。この娘は、ある意味アスミよりも大変な娘だと・・・。

 

服を脱ぐことの何が問題なのか、説明をすると長くなりそうなので・・・。

 

「と、とにかく服は脱いじゃダメだよ!!!」

 

「もっと怪しい目で見られちゃうから!!」

 

「わ、わかった・・・すまない・・・」

 

のどかとひなたに押されて、かすみは服から手を離した。

 

「かすみ・・・」

 

ちゆはかすみに近づくと彼女の右腕を取る。

 

「あなた、ケガしてたでしょ?」

 

「あ・・・いつの間に・・・」

 

かすみは取られた腕をよく見ると、枝で切ったような傷があるのが見えた。

 

「私、あなたが木から落ちた時、心臓が止まるかと思ったんだから」

 

ちゆはかすみにそう言いながら、ポケットから何かを取り出そうとしていた。その間、かすみは顔を俯かせた。

 

「だって・・・のどかに会いたかったから・・・」

 

「私に・・・?」

 

「うん・・・本当は我慢しようと思ったんだが、いつまでも出てこないから心配で見に来てしまったんだ・・・」

 

かすみは悲しそうな声で言った。自分の大切な人であるのどかに早く会いたかった。ただ、それだけなのに、近くにいて会いたくても会えない、そんなもどかしさも積もったのだ。

 

のどかはそんな落ち込んでいる様子のかすみの手を握る。

 

「・・・そうだったんだ。ごめんね、気づかなくて。あとで一緒に遊ぼう。私の家で」

 

「!!!! い、いいのか!?」

 

かすみはその言葉を聞いた瞬間、顔を上げて驚く。

 

「もちろんだよ。だって、かすみちゃんは友達だもん」

 

「ああ・・・!!!」

 

かすみはその言葉を聞いた途端、ぱあっと明るい表情になった。

 

「約束だぞ・・・のどか・・・!!」

 

「う、うん・・・!」

 

かすみが顔を近づけてくることに苦笑しつつも笑みを見せるのどか。ちゆとひなたはその様子を見て、なんとも言えない表情を見せていた。

 

しかし、その日の放課後のこと・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

ずーん・・・・・・。

 

かすみは、ちゆやひなたと帰路についていた。しかし、そこには花寺のどかの姿はない。彼女は暗いオーラを出しながら、フラフラとしながら歩いていた。

 

「のどかっち、慌てて帰っちゃったね・・・」

 

「私、余計なこと言ったかしら・・・?」

 

ちゆはなんだか申し訳ないというような表情をしていた。

 

ーーーーあ、のどか・・・!

 

ーーーーご、ごめん! かすみちゃん!! 私、急いでいるから!!

 

ーーーーあ、えっ・・・?

 

校門の前で待っていたかすみは、そこから出てくるのどかを迎えたが、彼女は何やら慌てたように駆け出し、かすみを素通りして行ってしまった。

 

かすみは何だかわからなかった。のどかに置いて行かれた・・・のどかと一緒に帰れなかった・・・のどかは自分に何も話してくれずに走って行った・・・。

 

もしかして、私・・・・・・のどかに嫌われた・・・? 一緒に彼女の家に行くって、約束したのに・・・。

 

ーーーーそ、そんな・・・。

 

かすみはすっかり落ち込んでしまい、遅れて出てきたちゆとひなたと一緒に歩いており、現在に至るという感じである。

 

「・・・・・・・・・」

 

「かすみっち、元気出してよ〜。のどかっちは別に嫌になったとかそういうんじゃないから・・・!!」

 

「そ、そうよ・・・! ちょっと急用を思い出しただけだから・・・!!」

 

「・・・それは私と遊ぶことよりも大切なのか?」

 

ひなたとちゆが落ち込んでいるかすみを宥めようとしているが、彼女は涙目の虚ろな瞳でこっちを見てきた。

 

「そ、それは・・・!」

 

「多分、アスミンのことじゃない!? アスミンが心配だから家に急いで戻ったんだよ!!」

 

「ご、ごめんなさい・・・!! 私が、のどかを心配させるようなことを言ってしまったから・・・!!」

 

ちゆとひなたは気を遣って、かすみの心を傷つけないようにするも、かすみは暗いオーラを出したままだ。

 

「・・・いいんだ。ちゆはのどかのために言ってくれたんだろう?」

 

「え・・・?」

 

「のどかがそれで笑顔になってくれるなら、それでいい。でも・・・」

 

かすみはそう言うと自分の胸に手を当てる。

 

「なんだか、胸が、ジクジクと痛むんだ・・・これは一体、何なんだ?」

 

かすみは体を震わせ、目元もよく見るとじんわりと涙がこぼれそうになっていた。それにこの胸が痛くなるという現象がよくわかっていない様子。

 

ちゆとひなたはそんなかすみの様子を見て、悲しそうな表情を浮かべていた。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

「まぁ〜、あれ何〜?」

 

「もしかして、幽霊〜・・・?」

 

「「「??」」」

 

3人は通り過ぎた二人のおばさんが、何やらボソボソと話していたのが気になった。そして、前を向くと・・・・・・。

 

「何、この子・・・?」

 

二人のサラリーマンみたいな男性が、何かを不思議そうに見ていた。

 

その視線の先にいたのは・・・・・・体が透けている、金髪の女性・・・・・・。

 

「うぇぇ!?」

 

「アスミ!?」

 

「何で、体が透けているんだ・・・?」

 

3人はその正体がアスミだということに気づいて驚く。彼女は一体、どうしたというのだろうか・・・?

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第62話「好き」

前回の続きです。
アスミが透けていたわけとは?
そして、かすみもいろいろと学びます。


 

「なっ!? あれ、どういうこと!?」

 

ひなたとちゆは驚愕の現場を目撃していた。それは、なんとアスミが体の透けた状態で道を歩いていたのだ。今にも消えてしまいそうな状態で。しかも、彼女の周囲には人が集まっており、不思議そうな様子で彼女を見ている。

 

このままでは町中から人が集まって、騒ぎになってしまう。

 

「あのままではまずいのか・・・?」

 

「そうよ、大騒ぎになっちゃう・・・! ひなた、周りの人を引きつけて! 私はアスミを連れて行くから! かすみは私についてきて!!」

 

「へっ!? オ、オッケ~!!」

 

「わ、わかった・・・!」

 

ひなたはそう言うと二人の男性の間に割って入る。

 

「えぇぇ!? 嘘嘘嘘!? すんごい美少女発見!! 美少女すぎて透明感やばすぎ!! ほら、透明感♪ 透明感♪」

 

少しわざとらしいところもあったが、ひなたは演技をして二人の男性の視線を自分へと移させる。

 

「アスミ、行くわよ!!」

 

「こっちに来てくれ!!」

 

二人の男性が彼女に気を取られている隙に、ちゆとかすみはアスミを連れてその場を立ち去っていく。

 

場所は変わって、沢泉家・・・・・・。

 

「その体、どうしたの?」

 

「今にも消えてしまいそうな姿をしているぞ・・・!」

 

ちゆは自分の部屋へとアスミを連れてきて、彼女に話を聞いていた。かすみもちゆの隣に座っている。

 

「はぁ・・・」

 

「??」

 

「実は私、ラテに避けられているようなのです・・・」

 

アスミは悲しそうに息を吐きながら訳を話す。

 

「ちゆ、ラテって誰だ?」

 

「彼女と一緒に居る小さなパートナーよ。かすみは、確かあの時、助けてくれたでしょ」

 

「ああ・・・! あの子か・・・!!」

 

かすみはラテが誰なのかがわからず、ちゆに尋ねるとこの前、自分が助けた子犬のような姿をした小さな子であることを知り、かすみはその出来事を思い出す。

 

「もうどうしていいかわかりません・・・」

 

「それが原因で体が消えちゃいそうペエ・・・!?」

 

「そういうことなの。地球の神秘ね・・・」

 

アスミは自分がどうしていいのか判断できず、それが原因で消えそうになっていることにちゆとペギタンは感嘆していた。

 

「その、ラテに避けられていると聞いたが、何をしたんだ・・・?」

 

「・・・・・・・・・」

 

ここでかすみが、アスミにラテに避けられている理由を探ろうと聞くも、アスミはこちらを険しそうな、悲しそうな顔で見つめる。

 

「私は、ラテ様のためにご飯をたくさんあげたり、毛布をたくさんかぶせてあげたり、外でには出ないようにと、いろいろとつくしていただけなのに・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

アスミはようやく口を開くとラテに何をしたのかが次々と出てくる。ちゆはラテを想いすぎるあまり、少し構いすぎているんじゃないかなと思った。

 

「私は、もうこのまま、本当に消えてしまいたい・・・」

 

アスミは悲しそうな声でそう呟いた。

 

「そんなに悲しいのね、アスミは・・・」

 

「「悲しい?」」

 

ちゆがそう言うと、アスミとかすみは同時に疑問を抱いた。

 

「そう。今のその気持ちを『悲しい』っていうのよ」

 

「そう、ですか・・・」

 

「そう、なのか。アスミはラテに避けられて、悲しい、んだな・・・」

 

「・・・!!」

 

ちゆから今、抱いている感情が悲しいということを知るアスミ。さらにかすみが思っていることを伝えるとアスミはこちらを悲しそうな表情で見つめた後に顔を俯かせた。

 

「お姉ちゃーん!!」

 

「!!??」

 

「お母さんがおやつどうぞー、だって!!」

 

襖の外から彼女の弟であるとうじの声が聞こえてきた。どうやらおやつを届けにこちらへとやってきた模様。

 

ちゆはその声にドキッとする。部屋の中には体が透けているアスミとかすみだけだが・・・。

 

「ま、まずいわ・・・アスミのこんな姿見られたら・・・!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

ちゆはそう思い、慌て始める。アスミの姿を見た途端に、自分の弟はきっと怪しむだろう。そうなれば、家中が騒動になってしまう・・・。

 

かすみはちゆのそんな表情を見やると、すくっと立ち上がる。

 

「私が、とうじくんの相手をしよう・・・」

 

「!! え、ええ・・・頼んだわ・・・」

 

かすみはそう言って、襖の扉を開けて外に出ると部屋の中を見られないように襖を閉じる。

 

「あ、かすみお姉ちゃん・・・」

 

「とうじくん、そのお皿に乗っているのはなんていうんだ・・・?」

 

かすみはとうじが持ってきたお皿に乗っている笑顔が描かれている物体を指差しながら問う。

 

「えっと、おやつのすこやかまんじゅうだけど・・・」

 

「それは、おいしいのか・・・?」

 

「う、うん・・・」

 

かすみは瞳をキラキラとさせると、とうじは少し顔を引きつらせながら答える。かすみはハッとすると、咳払いをして冷静さを保とうとする。

 

「では、私がもらうとしよう。ありがとう、とうじくん」

 

「!! うん・・・」

 

かすみが笑顔で受け取ると、とうじは少し顔を紅潮させながら頷いた。かすみはそのままちゆの部屋の中へと戻っていったのであった。

 

かすみの笑顔に少しときめいてしまったのは、とうじにとっては一つの秘密である。

 

閑話休題。三人の前には、お皿に乗ったすこやかまんじゅうとそれぞれのお茶が置かれる。

 

「これは・・・?」

 

「おやつのすこやかまんじゅうよ。どうぞ、召し上がれ」

 

「私も食べるのは初めてだ。おいしい!とさっきとうじから聞いたからな!」

 

三人はそれぞれすこやかまんじゅうを手に取る、アスミとかすみはそのまますこやかまんじゅうを口に入れようとして・・・。

 

「うわあぁぁ!?」

 

「あぁ!?」

 

「「??」」

 

ちゆとペギタンは大きな声を出すと、アスミとかすみはまんじゅうを持った手を止める。

 

「な・・・どうした、ちゆ?」

 

「その周りの包みは取ってから、食べるの。ほら」

 

すこやかまんじゅうは包みに包まれている。食べられないのに、そのまま食べようとする二人を止めたのだ。

 

ちゆはアスミとかすみの前で、包みを取って見せる。

 

「包みは、食べられないんだな・・・なるほど」

 

「・・・!」

 

アスミとかすみはちゆがやって見せたように、まんじゅうの包みを剥がしていく。

 

「あーむ・・・」

 

そして、二人はまんじゅうをほぼ同時に口に含む。

 

「! おいしい・・・!!」

 

「本当だ・・・!! おいしいなぁ!」

 

二人は今、手に持っているまんじゅうを口にほうばると、皿に乗っているまんじゅうに手を出し、同じように包みを取って食べる。

 

「ん~~!! おいしいぞ!!」

 

「~♪」

 

かすみは瞳をキラキラとさせ、悲しそうな表情だったアスミが自然と笑顔になっていく。

 

その後も、アスミとかすみは次々とまんじゅうに手を伸ばしていき・・・・・・。

 

「ん~!! フフフ・・・」

 

「~~~~♪」

 

「・・・・・・!」

 

その様子に、ちゆとペギタンは驚いていた。そうしているうちに、透けていたアスミの体が元に戻っていく。

 

そして遂に・・・皿の上に乗っているすこやかまんじゅうは空になった。

 

「二人ともたくさん食べるペエ・・・」

 

すこやかまんじゅうを食べきった二人に、ペギタンは感嘆の声をあげる。

 

「よかった、アスミは甘いものが好きなのね。かすみもよく食べるわよね」

 

「ああ・・・とても美味しいからな!!」

 

ちゆがそう言うと、かすみの表情も笑顔になっていた。

 

「これでのどかと一緒に食べれれば・・・・・・あ・・・」

 

かすみは想いを馳せるも、先ほどのどかに素通りされてしまった時のことを思い出してしまう。

 

「うぅぅ・・・」

 

ずーん・・・・・・。

 

「ちょっ、かすみ!?」

 

床に両手と膝をついたような格好で、暗いオーラを出しながら体を震わせるかすみ。ちゆはその様子に慌てたような声を出す。

 

「のどか、私を相手にしてくれなかった・・・のどかは私が嫌なのだろうか・・・」

 

「そ、そんなことないわよ!! のどかも本当は遊びたかったけど、外せない用事ができただけよ!!」

 

わかりやすいくらい落ち込むかすみに、ちゆは励まそうとし、ペギタンもうんうんと頷いていた。

 

かすみはそんな中、こんなことを思っていた。のどかに相手にされなかった時に感じるこの思いも、『悲しい』というのではないかと。

 

(かすみは、のどかのことが好きなのね・・・)

 

宥めているちゆはかすみのこの反応から彼女がのどかが『好き』なのだろうと感じた。

 

「・・・『おいしい』ことを『好き』っていうのですか?」

 

「「・・・!!」」

 

アスミが聞いてきたことに、ちゆとかすみは顔を上げる。

 

「そうね」

 

「私も、食べるものを前にすると体がほっこりとするんだ。これも『好き』なのか・・・?」

 

ちゆが肯定すると、かすみも聞いてくる。食べることを前に、暖かくなるのは感情の一種なのだろうかと。

 

「そうかもしれないけど・・・でも『好き』はそれだけじゃないわ。例えば・・・そうね」

 

ちゆは二人に『好き』に関する説明をするために、ある場所へと向かった。

 

それは沢泉旅館の中にあるペットと一緒に入ることができる温泉だ。今、アスミは温泉の中に足を入れて、足湯のように浸からせている。

 

「温かい・・・!」

 

アスミはなんとも言えない感覚に不思議そうにしている。

 

「こ、この中に足を入れて大丈夫なのか・・・?」

 

黒い紐がついたタイツを脱いでいるかすみは、何かを感じて怯えていて、足を一歩温泉の中に入れることができずにいた。

 

「大丈夫よ。普通の温泉だから。怖いんだったら、ゆっくりと足を入れてみて」

 

ちゆは諭すようにアドバイスをする。かすみはゴクリと息を飲んだ後、ゆっくりと足を温泉の中に入れていく。

 

「っ~~~!! な、なんだか体の芯からプルプルと何かが湧き上がってきたぞ・・・!」

 

かすみは足先から頭の先へとなんとも言えない感覚が伝わってきて不思議そうにする。そして、もう一方の足も入れると、縁に座って足湯のように足を浸からせる。

 

「それになんだか、いい気分だな・・・」

 

かすみは温泉の中に何かを感じるように足をわきわきと動かしていたが、それでも顔を紅潮させて顔を安心したようにさせていた。

 

「心も体もポカポカするペエ・・・」

 

その横ではペギタンが小さな温泉に体を浸からせて、気持ちよさそうにしている。

 

「これも私は、『好き』よ」

 

ちゆはこの温泉のことも好きだということを話す。

 

「美味しくて、温かいもの・・・『好き』というのはいいものですね」

 

「これが、『好き』って感覚なのか・・・」

 

アスミは不思議そうにしつつも、そう答える。

 

「フフフ、『好き』はいいものばかりじゃないかも。時には辛いけど、でも『好き』を止められないものもあるわ」

 

ちゆは好きにもいろいろなものがあるということを説明する。

 

「それは、随分難しい・・・」

 

アスミはそれを理解するにはまだ足りないということを理解する。

 

「かすみは、のどかが『好き』なのね」

 

「・・・!!!」

 

ふとちゆがかすみにそう語りかけた。その言葉にかすみはドキッとする。

 

「そ、そそそ、そうだが、この『好き』というのではどう違うんだ・・・?」

 

かすみは顔をリンゴのように赤くしながら答えるも、この感情もよくわからない。これも『好き』という感覚なのか、この好きとはどう違うんだろうかと考える。

 

「この『好き』はいい気分になれるってことの『好き』、そしてかすみが思っているのどかの『好き』は、人を想っている、ずっと考えていることの『好き』だと思うわ。でも、それも『好き』ばかりじゃないわ」

 

「うーん・・・」

 

ちゆはそう説明するも、かすみはイマイチわからずに考え込んでしまう。

 

「人のことを考えて辛いっていうのもあるけど、人のことを考えているから『好き』っていうのもあるわ。まあ、この辺は難しいかしらね・・・」

 

「よく、わからないな・・・のどかのことは『好き』だ。でも、彼女を前にするとドキドキしたり、避けられてるって思うと胸がチクチクと痛むんだ・・・これも『好き』なのかな・・・」

 

「『好き』なのかもしれないけど、『悲しい』も入ってるんじゃないかしら」

 

ちゆでも説明するのが難しく、苦笑しながら答える。

 

「そうだ! 二人とも、今度、私のハイジャンプの練習を見に来て! 今、私が一番好きなものよ」

 

「い、いいのか? 勝手に学校に入ってきて・・・ちゆは私のこと怒っただろう・・・?」

 

ちゆがそう言うとかすみはバツの悪そうな顔をしながら答える。

 

「あれは突然だったからびっくりしちゃっただけよ。別にいいわ。あなたにも私の好きなもの、見に来て欲しいから」

 

「・・・わかった」

 

「アスミもいいわよね?」

 

「はい・・・」

 

かすみとアスミはそれぞれ返事をし、ちゆも笑顔になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、ちゆはのどかに電話をかけていた。

 

『今日はありがとう』

 

「気にしなくていいわ。アスミの様子はどう?」

 

『今はラテと一緒にいるよ』

 

二人が話しているのは、アスミのこと。ラテに避けられていることやちゆの家にいたことも二人は知っている。

 

『かすみちゃんはどう? 今日は悪いことしちゃったから・・・』

 

「かすみも大丈夫だと思うわ。ちょっと落ち込んじゃったりしてたけど、すぐに元気になったわ」

 

『そうなんだ・・・』

 

「明日、かすみにもちゃんと会ってあげて。なんか一緒にいたそうにしていたから」

 

『うん、わかった』

 

そして、かすみのことも話した。のどかは今日、かすみと一緒に帰れなかったため、彼女に申し訳なさそうにしていたのだ。

 

「今、アスミはきっと、この世界のことや自分に起こるいろいろな気持ちを一辺に吸収しようとしているのね。かすみも私、ううん、私たちとの生活に馴染もうと少しでも努力してる。この感情が何なのかを知りたがっていたわ。そんな二人を少しでも手助けできればいいのだけど・・・」

 

ちゆは少し心配そうな表情でそう話す。

 

『アスミちゃんとかすみちゃんなら大丈夫だよ。アスミちゃんはきっとラテとも仲良くできるし、感情が何なのかも理解できる。かすみちゃんは私たちと仲良くなろうとしているんだよね。その努力はきっと自分の身になっていくと思うよ』

 

「だと、いいんだけど・・・」

 

のどかの言葉に、ちゆは苦笑しながらもそう答えた。

 

一方、寝間着姿のかすみは縁側で夜空を見上げていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

片手を空へとかざしながら見つめ、時折ぶらぶらとさせる。

 

「のどか・・・・・・・・・」

 

自分が想っている人物の名前をつぶやく。あの時、避けられてしまった彼女・・・自分のことをどう思っているのだろうか。衝動的に抱きしめてしまったから、彼女は自分のことを嫌だと思っているのだろうか。

 

そう考えていると悲しい気持ちになってくる・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

かすみは縁側から立ち上がると自分の部屋の中へと戻っていく。

 

白い物体がその様子を見ていたことに気づくことはなかった。その白い物体は夜の空へと飛んでいき、その場から姿を消す。

 

場所は変わって、夜の廃病院。その近くに白い物体が姿を現し、廃病院の中へと入っていく。その中のある部屋へと入っていくと、そこにはゴシックロリータの格好をした少女の姿があった。

 

それは、ビョーゲン三人娘の一人、イタイノンだった。

 

「ネムレン? どこへ行っていたの?」

 

イタイノンは手に持っていたメガパーツを見つめていたが、部屋に入ってきたネムレンに気づくと視線を移す。

 

「えっと・・・脱走者のところネム・・・」

 

「・・・お前、地球に行っていたの?」

 

ネムレンのその言葉に、イタイノンは懐疑的な表情になる。自分が出撃していないのに、勝手に地球へといっていた・・・?

 

「わ、私は、少しでも脱走者の正体を探ろうとしていたんだネム・・・!」

 

「ふーん・・・それで、何かわかったの?」

 

「えっと・・・・・・」

 

イタイノンの睨むような視線は変わらず、ネムレンに問いかけると視線をそらすように背ける。

 

「あの青いプリキュアの家に泊まっていたネム。人間じゃないのに、人間っぽい生活をしていたネム・・・」

 

「青いプリキュア・・・? ああ・・・」

 

ネムレンが言う青いプリキュア、それはキュアスパークルと一緒にいることが多いあのプリキュアのことだろう。脱走者がそいつと一緒にいた・・・?

 

プリキュアと合流したことはクルシーナから聞いていたが、あいつがどのように生活していたかまでは知らない。自分の相棒の報告を聞いていると見ると・・・。

 

「随分と人間みたいな生活をしているみたいなの。人間でもないくせに」

 

イタイノンはネムレンからメガパーツに視線を戻す。

 

「同族の私が、あいつに本当の生活を教えてあげるの」

 

不敵な笑みを浮かべたイタイノンは、そいつの様子を見に行こうと考える。

 

脱走者・・・自分たちと同じ存在のくせに、私たちと行動することを嫌がり、プリキュアどもと一緒にいることを選んだ。そんな思い上がっているあいつに、絶望でも味あわせてやろうじゃないかと。

 

「ところで・・・」

 

イタイノンは再び視線をネムレンへと戻す。それはもうジト目に近いぐらいの睨みで見つめる。

 

「お前、本当は何をしてたの?」

 

「えっ・・・だ、だから、私は脱走者を探ろうとーーーー」

 

「嘘なの! 私からいなくなったと思ったら、随分と戻ってくるのが遅くて、今頃になって帰ってきたの。本当は何か別のことをしてたんじゃないの・・・?」

 

「し、してないネム・・・!! 本当に・・・!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

あくまでもシラを切るつもりのネムレンに、イタイノンは顔を近づけて睨みつづける。ネムレンの体から冷や汗がダラダラと流れる。

 

「・・・・・・・・・」

 

イタイノンはさらに顔を近づけて睨みを利かせる。

 

「うぅぅ・・・・・・」

 

ネムレンは負けそうになるのを抑えて必死に話すのを我慢する。

 

「・・・まあ、いいの。別にお前がどうしてようと私は興味ないの」

 

イタイノンはネムレンに背を向けるとそのまま自分のベッドへと横になる。とりあえず、今は脱走者のこと、古のプリキュアに似たあの女性のことだ。少し様子を伺う必要があるだろう。

 

「ふぅ・・・・・・」

 

ネムレンはようやく顔を離してくれたことに息を吐きながら、額の汗を拭っているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日、中学校の放課後、校庭では陸上部の選手の練習が行われようとしていた。

 

のどかとひなた、アスミ、かすみは校庭のベンチでそんな選手たちの姿を見に来ていた。選手たちは思い思いの練習をしていたが、彼女たちが見に来たのはハイジャンプの選手の練習だ。

 

「・・・・・・・・・」

 

そんな中、かすみは隣に座っているのどかをちらちらと見ていた。それはもう悲しそうな表情を浮かべながら。彼女が自分のことをどう思っているのかが気になって仕方ないのだ。

 

「・・・・・・・・・」

 

アスミは自分の隣に座るかすみを、険しそうな表情で見ていた。

 

「次、ちゆちゃんだよ」

 

「「!!」」

 

のどかのその言葉に、アスミとかすみは彼女が見ている方向を振り向く。今まさにちゆがハイジャンプを行おうとしていた。

 

二つの棒のような柱にバーがかけられ、ハイジャンプの準備は完了だ。

 

「ちゆちゃん、バーを高めにしてる?」

 

「チャレンジチャレンジだね!」

 

ちゆがいつもよりバーの位置を高めにしていることに気づく二人。

 

そんな中、ちゆが走っていき、バーの前で後ろ向きに飛び上がる。しかし、ジャンプの高さが足りず、バーが背中に当たって落ちてしまう。

 

「っ・・・」

 

ちゆはそれを見て悔しそうにしていた。

 

「ああ~!! 惜しい!!」

 

のどかたちが見守る中のジャンプ、1回目は失敗・・・。バーをもう一度かけなおして、再度ジャンプを行おうとする。

 

しかし、やはりジャンプの高さが足りずに足が引っかかり、バーを落としてしまう。

 

めげずに3回目も挑戦。今度は成功したかに見えたが、バーに足は当たり、少し揺れた後に落ちてしまう。

 

「うわぁ! 今、ギリOKじゃない!?」

 

「うーん・・・でも、バー落ちちゃったし・・・」

 

ちゆはそれでもバーを飛び越えようと走っていく。自分の記録を、自分の限界を超えるために。

 

「・・・どうして?」

 

アスミは失敗しているのに、何度も飛ぼうとするちゆを理解できなかった。

 

「のどか・・・」

 

「? なぁに?」

 

かすみが隣にいたのどかに声をかける。

 

「あれは本当に、ちゆの『好き』なのか? あれを飛び越えるのに何度もできていないのに、辛そうな顔をしているのに・・・あれでも『好き』なのかな?」

 

ちゆの行動が理解できないかすみは、のどかにそう尋ねた。あんなに辛いならやめればいいのに、なんであんなに飛ぼうとするのか。かすみにはまだ理解できなかった。

 

「・・・うん。ちゆちゃんにとっての『好き』、かな。でも、私もひなたちゃんも『好き』でもあるんだ」

 

「のどかとひなたにとっての、好き?」

 

かすみはのどかの言葉に首を傾げる。そこへちゆが戻ってくる。

 

「あ・・・・・・」

 

それに気づいたのどかがちゆへとタオルを持っていく。

 

「お疲れ様、ちゆちゃん」

 

「ありがとう」

 

ちゆはのどかからタオルを受け取って、顔の汗を拭く。

 

「ちゆ・・・・・・」

 

アスミがちゆに声をかけ、二人が彼女の方を振り向く。

 

「なぜ失敗ばかりなのに、そんなに何度も飛ぶのですか?」

 

「そうだ・・・辛い顔をするならやらなければいいのに・・・」

 

アスミに同調して、かすみも不安そうにそう呟いた。

 

「それは・・・私がハイジャンプを好きだから・・・」

 

「好き・・・?」

 

「でも、美味しくも、ほっこりもしない・・・こういうのがちゆは、好きなのか・・・?」

 

ちゆははっきりとそう答えるも、アスミとかすみはよくわからなかった。

 

「ええ。練習はハードだし、失敗もするけど、でも私は・・・ハイジャンプが好き」

 

ちゆはかすみの隣に座り、アスミとかすみにそう話した。

 

「どうしたらうまく飛べるのか、もっともっと高く跳びたいって、いつも考えてる。この気持ちは止めようと思ってても、止められない。『好き』って、きっとそういうものよ」

 

どうやったら跳べるのか、一生懸命になれるから好き・・・それで高く跳べることができたら、自分がやり遂げたという気持ちになれるから好き、ちゆはそういうことを二人に話した。

 

「じゃあ、ハイジャンプ以外のことをしている、周囲の人間も、『好き』だからやっているのか?」

 

「ええ。みんな、そうだと思うわ」

 

周囲の部活動をやっている生徒たちも、好きだからやっているに違いないとちゆははっきりと答えた。

 

「そのことばかり考える・・・止められない気持ち・・・」

 

アスミはなんとも言えないような表情で虚空を見つめる。

 

「うん。アスミの心にもあるんじゃないかしら。そんな『好き』って気持ちが」

 

アスミにそう告げると、ちゆはかすみの方の顔も見る。

 

「もちろん、かすみにだってあると思うわよ」

 

「そうなのか・・・?」

 

「だって、かすみは、のどかが好きでしょ?」

 

「!!」

 

「えっ・・・かすみちゃん、そうなの・・・?」

 

「そ、そうなのだろうか・・・?」

 

ちゆや驚いたようなのどかがそういうも、かすみにはよくわからない感情だ。顔が熱くなって、胸がドキドキする・・・これも好きなのだろうか?

 

「だって、のどかのことを考えているときのかすみ、生きてるって感じがするもの・・・」

 

「生きてるって、感じ・・・」

 

ちゆがそう言うとかすみは顔を赤らめながら手をモジモジとさせ始める。

 

それに気づいたちゆは微笑むとベンチから立ち上がる。

 

「ほら、のどかの隣に座ってみて。一緒に話してみるといいわ」

 

「で、でも・・・!」

 

「大丈夫よ。のどかは優しい子だから、かすみのことも受け入れてくれるわよ」

 

ちゆはかすみを立ち上がらせると、のどかの隣に座らせようと彼女を押す。かすみはそのまま流されるがままにのどかの隣へと座り込む。

 

「のどか・・・あ、あのな・・・」

 

「なぁに? かすみちゃん」

 

「!?・・・っ~~~」

 

のどかに声をかけるかすみだが、彼女に言葉を返されるとまたモジモジとさせ始める。

 

のどかは不思議そうな表情でそれを見ていたが、微笑むとかすみに手を伸ばして抱きよせる。

 

「えっ?」

 

「お返し。この前、抱きついたことのお返しだよ」

 

突然の彼女の行動にビックリした表情で呆然となるかすみ。気のせいか、顔が熱くなってきたような感じがする。

 

「あの時は、嫌だったの、か・・・?」

 

『お返し』という言葉にかすみはのどかがあの時は心底嫌だったんだろうかと考えていた。

 

「ううん。あの時はビックリしちゃったけど、嫌な感じはしなかったよ。なんて言えばいいのかな・・・なんか、生きてるって感じだなって」

 

「・・・のどかは私が、嫌じゃないのか?」

 

「嫌じゃないよ。私はかすみちゃんが好き。こういうのも『好き』っていうんじゃないのかな」

 

「そ、そうか・・・」

 

かすみは安心した。のどかは私が嫌じゃない。むしろ、好きなのだと。

 

かすみは顔を赤くしながらも、ゆっくりとのどかの体に手を伸ばして抱きしめる。お互いに何とも言えないような気持ちになる。

 

「なんだかほっこりする・・・これも『好き』、なんだな・・・」

 

「だと思うよ。私もなんだか暖かくて、いい気持ち・・・」

 

お互いに言葉を呟きながら抱きしめ合う二人。その顔はお互いに受け入れたかのように、紅潮とさせていた。

 

「うっ・・・・・・」

 

「!?」

 

少し経つとのどかから呻くような声が聞こえ、慌てて体を離すかすみ。

 

「す、すまない! 苦しかったか・・・?」

 

「う、ううん・・・大丈夫・・・」

 

かすみは明らかに動揺したような感じながらものどかの体を気遣うが、のどかは何ともないと返す。

 

「「あ・・・」」

 

その時、彼女たちはお互いに見てしまったのだ。顔が赤くなった相手の顔を・・・。

 

「「!?」」

 

そう自覚した二人は、慌てたようにお互いに背を向ける。手をモジモジとさせるかすみ、そして平静を装っていたのどかもなんだか恥ずかしくなってしまった様子。

 

「「あ、あの・・・!!」」

 

お互いに振り向いて声をかけるも言葉は続かず、リンゴのように顔が赤くなる二人。

 

「なんだか、こっちまで恥ずかしくなってきたわね・・・」

 

「えっと、かすみっちの『好き』ってもしかして・・・?」

 

ちゆはかすみを焼き付けたとはいえ、もどかしい感じの二人になんとも言えない表情を見せていた。ひなたは何かを察したような言葉を漏らしていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

アスミはそんな様子を見て、表情を険しくさせていた。かすみから何かを感じているかのように。

 

一方、別のグラウンドの場所では・・・・・・。

 

「いやぁ~ね~。ああいうキラキラした感じ、見てて本当にイラッとするわ・・・!」

 

シンドイーネが陸上部の選手の練習風景を見ながら、不快感をあらわにしていた。

 

「私はお前の本心がわからなくて、イライラするの・・・」

 

「!?」

 

そこへ声が聞こえてきたので振り向くと、イタイノンがメガパーツを見つめていた。

 

「何? アンタもいたの?」

 

「蝕みに来たんだから、当たり前なの」

 

不機嫌そうな表情でシンドイーネがそう言うと、イタイノンは淡々と当然のように返答する。

 

「で、お前の本心はどっちなの?」

 

「本心ってなんのことよ?」

 

「バテテモーダのことなの。お前、この前のパパの収集の際に喜んだり、怒ったりしてたけど、本当のところあいつのことはどう思ってたのかと聞いているの・・・!」

 

イタイノンは冷ややかな視線を向けながら問う。この前のシンドイーネはバテテモーダが浄化されて消滅したと聞いた際には嬉しそうにしたり、かと思えば許せないと言いながら怒ったりと、どちらか本心かわからないような発言を繰り返しており、彼女はそれに対して苛立ちを覚えていたのだ。

 

シンドイーネは髪をかきあげながら口を開いた。

 

「あんなヤツ、いなくなって清々したわよ。愛しのキングビョーゲン様の前で媚び売ったり、ヘラヘラしながら私に近づいてきたりと、本当に鬱陶しくてしょうがなかったわ」

 

「・・・それがお前の本心なの?」

 

「そうよ。そう言えば、満足? 私が欲しいのはキングビョーゲン様の愛だけなんだから♪」

 

シンドイーネはバテテモーダのやり取りを思い出して不機嫌そうに言った。新人ビョーゲンズは本当に目障りで仕方なかったというのが彼女の見方。浄化された時はライバルが一人いなくなってすっきりした。

 

そして、シンドイーネは頬に手を当てながら自分の願望を語る。イタイノンは呆れたように振り向いて見ていたが、すぐにそっぽを向いて口を開く。

 

「私は自分だけの場所を確保するために、あいつは利用できればそれでよかったし、古のプリキュアに浄化されて消えたところで、そいつがその程度だったとしか思えないの」

 

「何が言いたいのよ?」

 

「あいつなんか消えても惜しくはなかったっていうこと、なの。ぽっと出の新入りのくせに私たちを差し置いて出世しようだなんて生意気な存在だったの」

 

イタイノンが不敵な笑みを貼り付けた顔を近づけて言い、シンドイーネは少したじろぐ。イタイノンは仲間が消えて喜ぶシンドイーネを不謹慎だと思いつつも、結局はクルシーナと同様、特に思入れもなく消えたところで何の感情も湧かなかったことを暴露したのだ。

 

何もわかっていない新入りの分際で私たちを押しのけて出世しようだなんてできるわけがないし、私たちと並ぶ存在になれるわけがない。笑わせるにもほどがある。

 

「ちょっ、ちょっと!! 近いわよ、アンタ!!」

 

「そいつは悪かったの・・・」

 

イタイノンは冷ややかな表情に戻すとシンドイーネから顔を話すと、彼女と同じ位置から下へと飛び降りる。

 

「お前の本心が聞けてすっきりしたの。今日もこの辺一帯を蝕んでやるの」

 

イタイノンはそう言うと体育館がある校舎あたりを歩いていく。

 

「・・・自分だけ憑き物が取れたような顔しちゃって、なーんかムカつくんですけどぉ」

 

シンドイーネはその様子を不機嫌そうに見つめていた。

 

一方、イタイノンは部活動の練習で盛り上がる中を歩きながら、屋根が円のような形の建物に向かっていた。

 

「人間たちの騒がしい声は、生き生きしていて本当に不愉快なの・・・」

 

サッカーの練習試合をする生徒たち、テニスの素振りをする生徒たち、陸上で走り込みを行っている生徒たち、いろんな人たちがキラキラしていて本当に不愉快だ。イタイノンはこの辺一帯を病気に蝕むべく、とりあえずは素体をキョロキョロ探していた。

 

それにやらなければいけないこともある。古のプリキュアに似た女と脱走者の件だ。あいつらもプリキュアと一緒にいるということはこの辺に現れるはず。それを確かめなくては・・・。

 

ふとイタイノンはテニスコートの近くにまだ使われていないものがあるのを発見した。

 

それは、テニスのボールを打ち出す際に使われるピッチングマシンだ。テニス部の生徒たちが練習に使うつもりのようだ。部員たちは素振りの練習に夢中でイタイノンの接近に気づいていない。

 

「これはこれで面白いもの、なの」

 

イタイノンはいいオモチャを見つけたかのような不敵な笑みを浮かべる。そして、両腕の袖を払うかのような動作をして黒い塊のようなものを出現させ、右手を突き出すように構える。

 

「進化するの、ナノビョーゲン」

 

「ナノナノ~」

 

生み出されたナノビョーゲンは、ピッチングマシンへと取り憑く。中学校のテニス部で使用されているピッチングマシンが病気へと蝕まれていく。

 

「・・・!?・・・!!」

 

ピッチングマシンに宿るエレメントさんが病気に蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガビョーゲン!!」

 

シャトルマシンのような胴体にと噛み合わさった車輪のような頭部、筒のような両手を持った3本足のメガビョーゲンが誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなことが行われている頃・・・・・・。

 

「っ・・・・・・・・・」

 

「うぅ・・・・・・」

 

のどかとかすみは恥ずかしそうにお互いに背を向けてモジモジとさせていた。

 

「かすみ! 頑張って会話して! 仲良くなりたいんでしょ!?」

 

「だ、だが・・・恥ずかしい顔を見られてしまった・・・のどかの顔を見れないよぉ・・・」

 

ちゆが近くにいてアドバイスをするも、顔が完全に赤くなっている彼女は勇気を出せずにいた。

 

「のどかっちも、なんで恥ずかしがってんの!? 女の子同士じゃん!!」

 

「そ、そうなんだけど・・・なんか、病院時代を思い出して、恥ずかしくなっちゃったの・・・」

 

「え・・・なにそれ・・・!?」

 

のどかは病院時代に、一緒に治そうと決めたあの子に抱きつかれたことを思い出していた。格好は明らかに違っていて、別人だったけど、まるでその子に抱かれているあの感覚と似ている。それを思い出して、恥ずかしくなってしまったのだ。

 

ひなたは何を言っているのかさっぱりわからず、ポカンとするばかりだ。

 

と、そんな時だった・・・・・・。

 

ガサガサガサ・・・・・・。

 

近くの草むらが揺れ、中から4人の動物のような小さな妖精たちが飛び出してきたのだ。

 

「!? あれ・・・みんな来てたんだ!」

 

ひなたがそう声を上げると5人はそちらの方に振り向く。のどかたちそれぞれのパートナーであるラビリン、ペギタン、ニャトラン、そしてラテたちヒーリングアニマルたちだ。

 

「お散歩の途中だったラビ」

 

ラビリンがそう説明する。

 

「それにしてもよぉ、いいもん見ちゃったぜぇ。のどかとかすみがまさか『あれ』だったとはなぁ・・・!」

 

「「??」」

 

ニャトランがからかうように言う言葉に、のどかとかすみは言っている意味がわからなかったが、お互いに顔を見合わせると・・・・・・。

 

「「!!」」

 

二人は何かを察したかのように、すぐに顔がリンゴのように真っ赤になった。

 

「ニャ、ニャトラン!! へ、変なこと言わないでくれ!!」

 

「そ、そうだよ!! 私とかすみちゃんはそういうんじゃないから!!」

 

「っ!?」

 

顔を真っ赤にして否定する二人だが、のどかの言葉を聞いたかすみが胸をトゲで貫かれたかのようなショックを受ける。

 

ずーん・・・・・・。

 

「のどかと私は、そういうんじゃない・・・そういうんじゃない・・・のどかはやっぱり、私が嫌なのか・・・」

 

かすみははっきりと否定されたことに、黒いオーラを漂わせながら顔を俯かせてわかりやすいくらいに落ち込む。

 

「!? わ、わわわ!? ち、違うの、かすみちゃん!! 私は嫌だったんじゃなくて!!」

 

のどかはかすみが落ち込んでいることに気づいて慌て始める。二人がどうとかそういうわけではないが、嫌いではない、そう言いたかっただけなのに言葉足らずで落ち込ませてしまったようだ。

 

「か、かすみ!! のどかは嫌いだから否定したわけじゃないのよ!! ちょっと恥ずかしくなっちゃっただけだから、ね!?」

 

「もう~! のどかっち、何やってるの~!? ニャトランも余計なこと言わないの!!」

 

「だ、だってぇ~!」

 

「えぇ!? 俺のせいかよ!?」

 

「ニャトランは空気を読まなさすぎなんだペエ・・・」

 

「俺は思ったことを言っただけじゃねぇか!!」

 

「それがよくないラビ!!」

 

かすみが落ち込んだことで大騒ぎになっている中、アスミは一人やってきたラテのことを見つめていた。

 

「!! クゥ~ン・・・!!」

 

ラテはアスミがこちらを見ているのに気づくと、彼女から少し離れて嫌そうな表情で見ていた。

 

「ラテ・・・・・・」

 

ラテに避けられている・・・ラテに嫌われている・・・。

 

アスミはそう考えると再び俯き始め、また体が透け始めてしまった。

 

「アアア、アスミ~ン!! ダメダメ!! アスミンまで落ち込んじゃ!! えっと、二人になんか楽しいことは~・・・あ、そうだニャトラン、なんか楽しいことして!!」

 

「えっ!? 無茶振りすんなよ!!」

 

「かすみっちがヘコんでるのはニャトランのせいなんだから、何とかしてよー!!」

 

「えええ!? えっと、そ、そうだな・・・ニャァ、ニャニャニャ、ニャニャニャァ~・・・!!」

 

慌て始めたひなたがなんとかしようとニャトランに振ると、ニャトランまでが慌て始める。そんなまとまらない思考でやり出したのは即興での踊りだった。

 

「・・・はぁ」

 

「のどかは私が・・・私が・・・」

 

しかし、そんな努力もアスミとかすみには伝わらず、二人は落ち込むだけだった。

 

「もっともっと~!!」

 

「えぇ!? ニャニャニャニャニャ・・・!!!」

 

ひなたがもっとやるように指示を出すも、ニャトランは即興での踊りを早くするしか思いつかない。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

ドクン!!!!

 

「!!??」

 

かすみは自分の中の鼓動がなり、何かの声が聞こえてくるのを感じた。彼女は落ち込んでいた姿からハッとしたような表情にすると、すくっと立ち上がって虚空を見つめる。

 

「あ!? かすみっち、元気になったの!?」

 

ひなたは立ち上がったかすみを見て、ニャトランで元気になったと思い喜ぶ。しかし、実際はそうではなく・・・。

 

「泣いている声が、聞こえる・・・」

 

「泣いている声・・・?」

 

「!?」

 

「!! もしかして!!」

 

かすみの呟いた言葉に、のどかはよくわからなかったが、以前に彼女のそのような姿を見ていたひなたとちゆはハッとしたように顔を合わせる。

 

そして、それを合図にしたかのように・・・・・・。

 

「クチュン!! クチュン!!」

 

「ニャニャ!?」

 

ラテが二回くしゃみをして、体調が悪くなる。

 

「ビョーゲンズ!!」

 

のどかたちはビョーゲンズが現れたと思い立ち上がる。そして・・・・・・。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「「「!?」」」

 

グラウンドの方から生徒たちの悲鳴が聞こえてきた。

 

「やっぱり、そうなの・・・」

 

「そうなのって、何が?」

 

ちゆは確信を持ったように口にすると、まだわからないのどかが疑問を持つ。

 

「かすみよ。かすみはビョーゲンズの活動を察知することができるんだわ」

 

「!! そうなんだ・・・!」

 

「そうだったよね! あたしたちがかすみの後を追っていったら、本当にビョーゲンズがいたんだもんね!!」

 

ちゆがそう説明すると、のどかは感嘆したように言い、ひなたも嘘ではないことを証明するかのように話す。

 

そうとわかれば、ビョーゲンズの元にいかなければ・・・。しかし、3人はアスミの方を見つめる。

 

アスミは顔を俯かせて落ち込んでおり、さらにはラテと仲違いをしていて変身できそうな状態ではなかった。

 

「アスミは無理そうね・・・」

 

「!!」

 

ちゆがそう言うと、それを聞いていたかすみがハッとしたような顔になる。

 

「3人はメガビョーゲンを止めてくれ・・・!!」

 

「でも、かすみちゃんは・・・」

 

かすみはぐったりしているラテを抱きかかえ、そう言いながらアスミのそばによる。それをのどかが心配そうに呟く。

 

「メガビョーゲンは2体いるんだ!! 狙われるかもしれないのに、プリキュアになれないアスミを一人にするわけにはいかない!! 私はアスミを安全な場所に避難させるから、3人はメガビョーゲンを!!」

 

かすみは意を決したような表情で3人に言うと、のどかたちもかすみの意思を汲み取ったように覚悟を決める。

 

「わかったわ・・・ここは3人で行きましょう・・・!!」

 

「「うん!!」」

 

ちゆの言葉に二人は頷くと、のどかはもう一度かすみの方を向く。

 

「かすみちゃん! アスミちゃんとラテをお願い!!」

 

「ああ!!」

 

のどかたちはアスミをかすみに任せて、ビョーゲンズの元へと駆け出していく。

 

「・・・・・・・・・」

 

そんな彼女たちを見つめるかすみを、アスミは悲しさと険しさが入り混じったような複雑な表情で見つめているのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第63話「友情」

前回の続きです。
今回で22話ベースはラストになります。


 

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「メッガァ! メッガァ!!」

 

生徒たちが悲鳴をあげて逃げ回る中、シンドイーネが生みだした頭に蛇口のハンドル、両手に蛇口の口がついているメガビョーゲンが暴れまわっていた。

 

メガビョーゲンは両手の蛇口から赤い水を噴射して、校庭を病気に蝕んでいく。

 

「メッガァ! メッガァ!!」

 

「その調子よ、メガビョーゲン」

 

その様子をシンドイーネが校舎の上から見下ろしていた。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

一方、体育館付近では、イタイノンの生みだしたメガビョーゲンが暴れていた。

 

「メガ!! メガメガ!!!!」

 

筒のような両腕の口から赤い球体のようなものを発射し、着弾した場所が病気に蝕まれていく。

 

「メガメガメガ!!!!」

 

「きゃあ!!」

 

「いやぁ!!!」

 

さらにメガビョーゲンは逃げ惑う生徒にも赤い球体を乱射して、生徒たちから悲鳴を上げさせつつ、地面を病気へと蝕んでいく。

 

「いいのいいの!! 今日はなんか、いつになく楽しいの・・・!!」

 

体育館のある建物から座りながら、その様子を見下ろすイタイノンが不敵な笑みを浮かべている。もちろん、恐怖に怯える人間たちの姿も堪能済みだ。本当に心地がいい・・・!!

 

しかも、今回はプリキュアと同じであろう年頃の女共であるから、その悲鳴が可愛くて最高だ。

 

それはそうと、同じようにメガビョーゲンを暴れさせているシンドイーネの方を見やる。

 

「プリキュア・・・今日は来るのが早いの・・・」

 

イタイノンは無表情でプリキュア3人がシンドイーネの方に駆けてくるのを見下ろす。そういえば、ここはあいつらの中学校だったなと思い出す。

 

メガビョーゲンはまだ全く成長していない。ここ一帯を蝕むのにはまだ時間がかかるだろう。最悪、メガビョーゲンから取れたメガパーツを使うしかない。

 

・・・だけど、そういえば・・・シンドイーネもメガパーツを持っていたはず。あれを使えば、メガビョーゲンを成長させ強化することができる。プリキュアたちがそちらに向かったということは、しばらくこちらに被害はないということだ。

 

イタイノンはそう考えながら瞑目する。

 

「シンドイーネが相手をしている間に、私たちは蝕むとするの。メガビョーゲン」

 

「メガァ・・・!!」

 

これはチャンスと言わんばかりに、メガビョーゲンに指示を出して、あいつらから離れたところで病気に蝕むべく行動を起こしていく。

 

一方、のどかたちは・・・・・・。

 

「シンドイーネラビ!!」

 

「変身ペエ!!」

 

「ええ!!」

「うん!!」

「OK!!」

 

変身できないアスミとラテをかすみに任せ、メガビョーゲンを阻止するべくプリキュアに変身しようとしていた。

 

「「「スタート!」」」

 

「「「プリキュア、オペレーション!!」」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

 

「「「キュアタッチ!!」」」

 

ラビリン、ペギタン、ニャトランがステッキの中に入ると、のどか、ちゆ、ひなたはそれぞれ花のエレメントボトル、水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

そして、肉球にタッチすると、花、水、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、水色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ちゆは水色、ひなたは黄色へと変化する。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「「「地球をお手当て!!」」」

 

「「「ヒーリングっど♥プリキュア!!」」」

 

3人は変身を終えて、すぐにメガビョーゲンへと立ち向かう。

 

「・・・!!」

 

かすみと一緒にいたアスミはハッとするとプリキュアたちの方に駆け寄ろうとする。

 

「!? アスミ!!」

 

パシッ!

 

「!!」

 

かすみはラテを抱きかかえながら、そんなアスミの片手を掴む。思わずかすみの方を振り向くアスミ。

 

「あっちに行ったら危ないぞ!」

 

「っ・・・!!」

 

かすみはそう言うも、アスミはその表情を険しくさせた後、かすみの握る手を振り払って走り出す。

 

「あ、待ってくれ!! アスミ!!」

 

かすみは叫びながら、アスミの元へと走る。そっちはプリキュアとメガビョーゲンが戦闘を行っている。近づくのは巻き込まれる可能性があり、危険だ。

 

アスミが駆け寄るとプリキュアとメガビョーゲンによる戦いが始まっていた。

 

「メッガァ!!」

 

「「「っ!!」」」

 

メガビョーゲンは両手の蛇口から赤い水を噴射し、飛び上がってこちらに向かってくる3人を押し返す。

 

「はぁ!!」

 

「メッガァ!?」

 

しかし、フォンテーヌはメガビョーゲンの攻撃をすり抜けて、頭部のハンドルにかかとを落とす。

 

「「ふっ! たぁぁぁぁ!!!!」」

 

「ビョーゲン!?」

 

さらにフォンテーヌに気を取られている隙を狙って、グレースとスパークルがメガビョーゲンの足に蹴りを入れ、メガビョーゲンをうつ伏せに転倒させる。

 

「ふん、こっちにはこれがあるのよ」

 

その戦いを見ていたシンドイーネは、手に持っていたメガパーツをメガビョーゲンに目掛けて放る。

 

「あれは・・・!?」

 

それはプリキュアたちも、前回の戦いで見ていた見覚えのある代物であった。

 

「この前、ダルイゼンとクルシーナが取っていった・・・!!」

 

メガビョーゲンの中にメガパーツが入り、メガビョーゲンが禍々しい赤いオーラに包まれていく。

 

「メェ~、メメメメメメメメメメガァ!!!! ビョーゲン!!!」

 

メガビョーゲンから膨大な力が満ちていき、急成長して巨大化し、パワーアップを遂げた。

 

「やぁだ~、本当に成長したじゃない! 使えるわ~、メガパーツ!」

 

シンドイーネはその様子を見て喜びの声をあげていた。

 

「メガパーツ?」

 

「前のメガビョーゲンのかけらね・・・! あれを使って、成長を早めていたんだわ!!」

 

プリキュアたちはこの前、たどり着いたのにもうメガビョーゲンが大きくなっていることに対して、謎が解けた。ビョーゲンズたちはメガパーツをメガビョーゲンに埋め込むことによって、急成長させてパワーアップをさせていたのだ。

 

「だから、この前のメガビョーゲンはあんなに大きかったのか・・・!!」

 

かすみは握る拳を震わせながら、そう呟いた。

 

「? シンドイーネ、メガパーツを使ったの・・・?」

 

シンドイーネから離れた場所の学校を蝕んでいたイタイノンは、メガビョーゲンの力が急に大きくなったのを感じて、後ろを振り向いた。

 

「メェ~ガァ~! ビョーゲン!!!!」

 

メガビョーゲンは腕に蛇口から膨らむほどの膨大な量の赤い水を溜めると、それを巨大な水玉を放った。

 

「「「っ!!」」」

 

プリキュア3人に目がけて放たれた水玉を避けると、まるで大砲が着弾したかのような水しぶきを上げ、その場所の広範囲が病気に蝕まれた。

 

「メェ~ガァ!!!!」

 

さらにメガビョーゲンはもう片方の腕からも水球を放つ。それは戦いを見ていたアスミとかすみの方へと向かっていた。

 

「!? 危ない!!!」

 

「っ!?」

 

かすみはラテを脇に抱えるように持つと、即座にアスミをもう片方の手で掴んで飛び上がる。そこへ水球が着弾し、広範囲が病気に蝕まれていく。

 

「っ・・・アスミ、こっちだ!!」

 

かすみは地面に着地をすると抱えていたラテを頭に乗せ、アスミを下ろして手を引きながら、離れた安全な場所へと走っていく。

 

「っ・・・!」

 

アスミはそれを見て呆然としたような表情を浮かべていた。なぜ、この少女は自分を助けてくれるのか・・・?

 

「あら? あれは例の脱走者じゃない。逃げちゃうわけ? 別にいいけど」

 

シンドイーネはメガビョーゲンから離れていくかすみを見ながらそう言った。

 

「メェガァ!! メェガァ!!!!」

 

「っ・・・・・・」

 

メガビョーゲンはさらに片方ずつ水球を乱射し、サッカー部が練習をしていたグラウンド、さらにかすみたちの頭上を通ってテニスコートへと着弾させて、その場所を病気へと蝕んでいく。

 

「っ・・・あれは・・・!」

 

かすみに手を引かれながら、蝕まれていく様を見ていたアスミはある様子を思い出す。

 

「あの方たちの『好き』・・・」

 

それは、先ほどまで部活に励んでいた生徒たちの姿。あんなに一生懸命で生きている感じだったのに、今はもうその面影すらもなくなっていく。

 

「っ・・・ここも蝕まれているのか・・・!?」

 

かすみたちは体育館のある建物の木の近くへとやってきたが、ここ一帯も建物を含めてすでに真っ赤に染まっていた。もう一体のメガビョーゲンはどこにいるのか?

 

「みんなの道具を蝕むなんて!!」

 

一方、グレースたちはメガビョーゲンへと向かっていくも、そこへメガビョーゲンが放った巨大な赤い水球が襲いかかる。

 

「「「きゃあぁぁぁ!!!」」」

 

直撃を受けたグレースたちは赤い水に押し流され、地面へと倒れてしまう。

 

「つ、強いラビ・・・!」

 

メガビョーゲンはプリキュアにとどめを刺そうと移動しようとする。

 

「ああ・・・!? っ・・・!」

 

その様子を見ていたアスミは顔を歪ませると、掴まれている手を振りほどこうとする。

 

「アスミ・・・!?」

 

「は、離して・・・」

 

「ダメだ! 今、あっちは・・・!」

 

「離してください! みなさんが・・・みなさんの好きが・・・!!」

 

アスミは握られている手を解いてまでグレースたちの元へ行こうとしているが、かすみがその手を離さない。

 

「プリキュアに変身できないのにどうやって戦うんだ!?」

 

「でも・・・でも・・・!! このままでは、みなさんが・・・!!」

 

かすみが叫ぶも、アスミは止まらない。アスミはラテと仲違いをしているために、プリキュアに変身することができない。今の彼女は精霊といえども、普通の女性と変わらない。メガビョーゲンに立ち向かっても、あっという間に潰されてしまうだろう。

 

しかし、アスミはかすみがいくら呼びかけても止まろうとしない。このままでは危険だと判断したかすみは・・・・・・。

 

「アスミ!!!!」

 

かすみが大きな声で叫ぶと、驚いたような表情をしてアスミが動きを止める。

 

「私の顔を見てくれ!」

 

かすみがそう叫ぶとアスミは困惑したような表情を見せながらも、かすみの顔を見る。

 

「アスミは、やらなくてはいけないことがあるだろう? このままではこの学校も、プリキュアたちも、『好き』も守れない。自分が今、何をするべきなのかを考えるんだ」

 

「私が、何をするべきか・・・?」

 

アスミがそう呟くと、かすみが頷く。

 

「そうだ。メガビョーゲンは私が何とかする。その間にアスミはするべきことをするんだ」

 

かすみはそうアスミに言い聞かせると、抱えていたラテを地面へと下ろす。

 

「ラテ、アスミと一緒に大人しくできるか?」

 

「ワン!」

 

「よし! いい子だ!」

 

ラテは返事をすると、かすみは笑顔でそう返すと立ち上がる。どこからか黒いステッキを取り出すと暴れているメガビョーゲンの方へと向く。

 

「プリキュア、待っててくれ。今、私がーーーー」

 

「メガァ!!」

 

「!?」

 

かすみが向かおうとしたその時、別の方向からメガビョーゲンの声が聞こえ、何かが発射されたような音が響く。

 

かすみはハッとしたような表情をすると、声がした方向に振り向きざまに、ステッキからシールドを展開して飛んできた攻撃を防ぐ。

 

「・・・!?」

 

シールドを解除し、煙が晴れていくとそこに見えた光景にかすみは驚愕する。

 

「もう一体の、メガビョーゲン・・・?」

 

かすみの目の前には、シャトルマシンのようなメガビョーゲンの姿があった。

 

「・・・シンドイーネのやつ、派手にやってくれたの」

 

さらに別の方向からも声が聞こえ、振り向くと体育館のある建物の屋根の上にイタイノンの姿があった。

 

「お前は・・・!」

 

「久しぶりなの、脱走者。あの時、もう死んでたかと思ったの」

 

睨むような表情のかすみに対し、不敵な笑みを浮かべるイタイノン。そのビョーゲンズは、ラテのそばにいるアスミを見やる。

 

「お前、まさか、新入りのプリキュアなの? 今日は変身しないの?」

 

「っ・・・」

 

「もしかして、変身できないの?」

 

イタイノンは笑みを浮かべながら煽り、アスミは悲しそうな、困惑したような表情を浮かべる。その反応を見るとこれはチャンスだと言わんばかりの表情を浮かべる。

 

そんなアスミに立ちはだかるようにかすみが前に立つ。

 

「私が相手だ! アスミには指一本触れさせないぞ!!」

 

「・・・邪魔するならお前でも容赦しないの・・・!!」

 

イタイノンがその行動に顔を顰めると、それを合図にメガビョーゲンが地響きを立てながら前に出る。

 

「メガァ!! メガメガメガ!!!!」

 

メガビョーゲンは両腕の筒から赤い玉のようなものをかすみに目がけて乱射する。かすみはとっさに避けながら、メガビョーゲンへと迫っていく。

 

「メガァ!!!」

 

「ふっ!! はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「メガァ!?」

 

「ふぅぅぅ!!!」

 

放たれた一発を避けると同時に飛び上がり、メガビョーゲンの頭部へとステッキを振るう。そして、そのままメガビョーゲンを押しのけてバランスを崩させる。

 

「メ、メガァ・・・!?」

 

「やぁぁ!!!」

 

「ビョーゲン!?」

 

かすみはメガビョーゲンの背後へと飛び、地面を蹴ってメガビョーゲンの背中へと蹴りを入れて吹き飛ばした。

 

「・・・少しはやるみたいなの」

 

イタイノンはその様子を見て、不愉快そうな表情を浮かべる。

 

「覚悟しろ怪物!! この好きが溢れるこの場所は汚させはしないぞ!!」

 

かすみはステッキを構えながらそう叫んだ。

 

「そう簡単にうまくいくと思うな、なの・・・!」

 

屋根の上に座っていたイタイノンがメガビョーゲンのそばへと飛び降り、手に持っていたメガパーツを取り出す。

 

「あれは・・・!?」

 

「お前相手ならこれぐらいが十分なの」

 

かすみが驚いたような表情をする傍ら、イタイノンは倒れているメガビョーゲンにメガパーツを押し当てて埋め込む。

 

「メガァ!? メガメガメガメガメガメガァ~!!!!! ビョーゲン!!」

 

メガビョーゲンは苦しみながらも、体中が禍々しいオーラに包まれていき、膨大な力が満ちていくと巨大化して、パワーアップを遂げた。さらに両手の筒と頭部の車輪が少し大きくなっている。

 

「おぉ、本当に大きくなったの・・・!!」

 

イタイノンは急成長を遂げた自身のメガビョーゲンを見て驚く。

 

「お前も持っていたのか・・・!!」

 

「切り札は後にとっておくものなの。これはゲームでも常識なの」

 

かすみが睨みながら言うと、イタイノンは不敵な笑みを向ける。

 

「メガビョーゲン、潰すの」

 

「メーガァ!!!!!」

 

メガビョーゲンは片手の筒を向けると大砲のような音を立てながら、先ほどよりも少し大きい赤い玉を発射する。

 

「っ・・・!!」

 

大砲のようなスピードで放たれた赤い玉に、かすみはとっさに飛んで避ける。

 

「メェェェェェ~ガァッ!!!!」

 

メガビョーゲンは頭部の二つの車輪を回転させると、その車輪の間に赤いエネルギー弾を球体状にし、弾丸のようなスピードでかすみへと放った。

 

ドォォォォォン!!!!

 

「メガァ!! メガァ!! メガァ!! メガァ!!!!」

 

ドォォォン!! ドォォォン!! ドォォォォォォン!!!!

 

かすみが飛んで避ける度に、赤い玉は地面や草木に着弾し、病気へと蝕んでいく。

 

「ああ!?」

 

「!?」

 

空中にいたかすみはその赤い玉の一つがアスミとラテに向かっているのに気づき、その場から瞬間移動をしてアスミの前へと飛び出す。

 

ドォォォォン!!!

 

「うわあぁぁぁぁ!!!!!」

 

直撃を受けてしまい、地面を勢いよく転がるかすみ。

 

「かすみさん・・・!!」

 

アスミは怯えたような表情をしながら叫ぶ。

 

「キヒヒヒ、自分から攻撃を庇うなんてバカなやつなの」

 

「ぐっ、うぅぅぅ・・・!!」

 

イタイノンの嘲るような言葉が聞こえる中、かすみはステッキを杖代わりにして立ち上がる。

 

「メガメガメガメガァ!!!!」

 

「っ・・・!?」

 

メガビョーゲンは筒から赤い玉を連射し、かすみは痛みに呻きながらもアスミの前に立ち、ステッキからシールドを展開する。

 

「うぅぅ・・・!!」

 

「メガメガメガメガメガメガメガメガァ!!!!!」

 

「ぐっ、うぅ・・・!!」

 

かすみはシールドで防いでいるが、メガビョーゲンは追い詰めようと赤い球を連射していき、かすみが先ほどのダメージもあって痛みに顔を歪め、押されそうになっている。

 

「お前が何でそいつを庇う必要があるの? 私たちと同族のお前が、守る必要なんかどこにもないの」

 

「ふ、ふざ、けるな・・・!! 私は、お前たちとは、違う・・・!!!!」

 

イタイノンがそう言うと、かすみは苦しい顔をしながらも否定する。

 

「一緒なの、お前は。どんなにお前が否定しても、その事実は消せないの」

 

「!・・・戯言を、ほざくな!!!!」

 

イタイノンがさらに煽ると、かすみは怒りの叫びと共にシールドを大きくする。

 

「かすみさん・・・!!」

 

「アスミ・・・ラテを連れて、逃げるんだ・・・! このままでは、私もアスミも・・・!!」

 

「!!」

 

心配そうな声をあげるアスミに、かすみは苦しそうにそう叫ぶ。

 

「・・・どうして」

 

「っ・・・?」

 

「どうして私を守ろうとするのですか・・・? 私は、あなたから嫌な気配がしたのに・・・」

 

困惑しているアスミは、必死にシールドを展開するかすみに問う。アスミは前々からかすみからは嫌な気配を感じており、彼女のことを敵だと認識していた。しかし、かすみはそれなのにも関わらず、プリキュアを、この場所を守ろうとしている。その理由がわからなかった。

 

かすみは振り向いて苦しい表情を見せながらも答える。

 

「私は、誰にどう思われようと構わない・・・!! 私は、自分が好きなものを守りたい・・・!! みんなの『好き』を守りたい・・・!! それとーーーー」

 

かすみは口元に笑みを浮かべながらこう言った。

 

「私の好きな、アスミとラテは、大切な仲間で、友達だから・・・!!」

 

「!!!!」

 

アスミはその言葉に驚きの表情を浮かべる。なんだかよくわからないが、暖かくて受け入れてもいい何かが胸の中に溢れてきた気がした。

 

そして、先ほどちゆに言われた言葉を二人は思い出していた。

 

ーーーーアスミの心にもあるんじゃないかしら。そんな『好き』って気持ちが。

 

ーーーーもちろん、かすみにだってあると思うわよ。

 

「っ!・・・そのことばかりを考える・・・止められない気持ち・・・」

 

アスミはちゆのその言葉が頭をよぎるとラテに向き直る。

 

「ラテ・・・私はラテのことが好き。いいえ、大好きなのです。だから、少々心配しすぎてしまったようです」

 

「ワフ・・・」

 

アスミはラテに避けられたあの、朝のお世話の出来事を思い出しながら言う。あの行動が意味することは彼女ことが大好きだから。だから、あんなに彼女を気にしすぎてしまったのだ。

 

でも、これは自分の止めることのできない気持ちの一つ。アスミは今日のちゆたちの会話でそれを理解したのだ。

 

「これからは、ラテの気持ちを第一に考えて、ずっとお側にいたいと思います」

 

「ワン!」

 

アスミが自身の心情を吐露すると、ラテは笑顔になり、彼女へと駆け寄る。アスミは彼女を抱きしめ、透けていた体が元の色を取り戻していった。

 

かすみはアスミとラテのそんな様子を見て安堵していた。二人が仲直りができてよかったと。

 

「メェェェェェ~ガァッ!!!!」

 

そこへ連射を止めたメガビョーゲンが頭部の車輪を回転させてやや大きな赤い球体を作り出して放った。

 

「っ!!」

 

ドォォォォォォォォン!!!!

 

「うあぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

着弾した球は威力が強く、かすみはシールドごと吹き飛ばされてしまい、地面へと転がる。

 

「かすみさん!!」

 

アスミはかすみの元へと駆け寄る。

 

「!? かすみちゃん!!」

 

倒れていたグレースが立ち上がってその場から飛び、かすみへと駆け寄る。

 

「あ、そうだ。メガパーツを取っておかないとなの」

 

イタイノンはメガビョーゲンに近づき、怪物の尻尾を掴むと弄る。

 

「これでいいの? おぉ、メガパーツになったの」

 

イタイノンは疑問を抱きながら尻尾から肉片を二かけらほど毟るとそれが緑色のかけらとなり、それに驚く。メガパーツを二つ手に入れた形となった。

 

「うぅ・・・!」

 

「かすみちゃん!!」

 

「かすみさん、大丈夫ですか!?」

 

イタイノンがそうしている間、地面に突っ伏すかすみが顔を上げると、ラテを抱いているアスミとグレースの姿が見えた。彼女はアスミの姿を見て微笑む。

 

「よかった・・・二人が仲直り、できて・・・」

 

「私のことより、かすみさんのことです!」

 

心配そうに見つめるアスミをよそに、かすみは体を震わせながらも立ち上がろうとする。

 

「私、は・・・大丈夫・・・メガビョーゲンを止めなければ・・・!」

 

かすみは立ち上がって、ステッキを構えるとアスミに向かって言う。

 

「・・・うん!!」

 

グレースはかすみが動けるとわかると返事をし、メガビョーゲンに構える。

 

「わかりました。参りましょう、ラテ」

 

かすみが無事なことにアスミは安心すると、メガビョーゲンの方へと向き直る。

 

アスミは風のエレメントボトルをラテの首輪にはめ込む。すると、オレンジ色になっているラテの額のハートマークが神々しく光る。

 

「スタート!!」

 

「プリキュア、オペレーション!!」

 

「エレメントレベル上昇ラテ!!」

 

「「キュアタッチ!!」」

 

キュン!!

 

ラテとアスミが手を取り合うと、白い翼が舞い、ラテが舞ったかと思うとハートの中から白い白衣のようなものが飛び出す。

 

その白衣を身に纏い、ラテが降りてきたかと思うとハープが飛び出し、さらにアスミは紫色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

衣装にチェンジした後、ハープを手に取り、その音色を奏でる。

 

「「時を経て繋がる、二つの風!」」

 

「キュアアース!!」

 

「ワン!」

 

アスミは風のプリキュア、キュアアースへと変身した。

 

アースは、グレースとかすみの前へと降り立つ。

 

「お前が新入りのプリキュアの姿・・・」

 

イタイノンは無表情でアースのことを見つめながら言う。

 

「ふん、お前がどれほどなのか見ておきたいの。メガビョーゲン!!」

 

「メガァ!!!」

 

メガビョーゲンはイタイノンに指示を受け、頭の車輪を回転させて三人に向ける。

 

「アース、グレース、一緒に行くぞ!!」

 

「はい!!」

「うん!!」

 

かすみが呼びかけて、アースとグレースが返事をし、三人はメガビョーゲンに構える。

 

「メェェェェェ~ガァ!!!!」

 

メガビョーゲンはやや大きな赤い玉を三人に目がけて放った。

 

「「「ふっ!!」」」

 

アース、かすみ、グレースはその場から飛んでかわすと、メガビョーゲンへと駆け出していく。

 

「メガメガメガメガメガメガメガ!!!!」

 

メガビョーゲンは両手の筒から赤い球を連射していくも、グレースはぷにシールドを展開しながら、アースとかすみは避けながら迫っていく。

 

「メガ!?」

 

そして、メガビョーゲンとの距離が縮まった時、かすみとグレースは飛び上がる。

 

「「はぁぁぁぁ!!!」」

 

「メガァ・・・!?」

 

二人はそれぞれの両腕の筒を横に蹴り飛ばし、メガビョーゲンは放とうと思っていた赤い玉をあらぬ方向へと発射してしまった。

 

「はぁっ!!」

 

「ビョーゲン!?」

 

さらにそこへアースが飛んで、メガビョーゲンの顔面に強烈な蹴りを入れ、メガビョーゲンの体は大きく吹き飛ばされる。

 

「・・・むぅ、少しはやるみたいなの」

 

イタイノンはその様子を見て不機嫌そうな表情を浮かべていた。

 

一方、あらぬ方向へと高速で飛んできた赤い玉は、シンドイーネのメガビョーゲンの方へ・・・。

 

カンッ!!

 

「メガァァァァァ~!!??」

 

メガビョーゲンの頭のハンドルに当たり、メガビョーゲンは体ごと回転する。

 

「よしっ! チャンス!!」

 

それを見ていたスパークルが飛び上がり、メガビョーゲンの頭部へと近づく。

 

「はぁっ!!」

 

「メガァァァァァァァァァ~・・・!!??」

 

メガビョーゲンのハンドルを蹴り、さらに回転の勢いをあげる。

 

「えっ、えぇぇぇぇ!?」

 

シンドイーネが動揺する中、強烈な勢いで回されたメガビョーゲンは目を回してしまう。その隙にフォンテーヌが飛び上がる。

 

キュン!

 

「「キュアスキャン!」」

 

フォンテーヌはステッキの肉球を一回タッチして、スイカ型のメガビョーゲンに向ける。ペギタンの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを発見する。

 

「水のエレメントさんペエ!!」

 

エレメントさんはメガビョーゲンの左胸にいる模様。

 

「メェェェェェ~・・・・・・!!!!!」

 

一方、再び立ち上がったイタイノンのメガビョーゲンは頭部の車輪を回転させて、やや大きな赤い玉を放とうとしていた。

 

「また来るラビ・・・!!」

 

「ガァッ!!!!」

 

ラビリンが警戒して言う中、メガビョーゲンの頭部からやや大きい赤い玉が放たれる。

 

「ぷにシールド!!」

 

「はぁっ!!」

 

グレースとかすみが前に出て、同時にシールドを展開して赤い玉を受け止める。

 

「「くっ・・・!!」」

 

ドォォォォォォォン!!!!

 

二人は苦しい顔をしながら抑えようとするも、威力が強くシールドごと押し返される。

 

地面へと倒れる二人は、体をすぐに起こしてメガビョーゲンを見る。

 

「あの玉を打ち出すのを止められれば・・・!!」

 

「あいつの玉の発射を止めればいいんだな・・・?」

 

グレースの言った言葉にかすみはそう返すと、周囲を見渡し始める。ふと、まだ蝕まれていない一本の木があるのを見つける。

 

かすみは立ち上がるとその木の元へと駆け出す。

 

「かすみちゃん! どこに行くの!?」

 

グレースは突然走り出したかすみに向かって叫ぶ。

 

「グレースとアースはメガビョーゲンを引きつけてくれ!! 私があの玉を止める!!」

 

そう言うかすみに、グレースは彼女が何か考えがあるのだろうということを察する。

 

「わかった・・・!!」

 

「行きましょう、グレース!」

 

グレースは立ち上がると、アースと共にメガビョーゲンへと駆け出す。

 

「メガ!! メガ!! メガァ!!!」

 

メガビョーゲンはそんなグレースに向かって両手の筒から赤い玉を連射する。

 

「ふっ!!」

 

グレースはぷにシールドを展開し、赤い玉を防ぎながら駆け出す。

 

「メガ!! メガ!! メガメガメガ!!」

 

ドォン!! ドォン!!!

 

メガビョーゲンはさらに赤い玉を連射していくも、二人は止まらずに迫っていく。

 

「ふっ!! はぁぁ!!」

 

「メガァ!?」

 

メガビョーゲンとの距離が縮まったところで、アースが飛び上がり、メガビョーゲンの頭部に掌底を放ってバランスを崩させる。

 

「実りのエレメント!!」

 

グレースはステッキに実りのエレメントボトルをはめ込む。

 

「はぁ!!」

 

「ビョーゲン!?」

 

グレースはステッキからピンク色のエネルギー弾を放ち、胴体に直撃したメガビョーゲンは背後にひっくり返って倒れる。

 

その頃、一本の木へと移動したかすみは目を瞑って体を光らせる。すると、木が彼女に呼応するように光っていく。

 

「木の力よ!!」

 

少女はそう叫ぶと、木から緑色の光がまるで呼ばれたかのように飛び出してくる。そして、少女が黒いステッキを掲げるとその力が集まっていく。

 

パァ・・・!!!!

 

そして、そのステッキが緑色に光ったかと思うと、少女の髪が緑色に変わっていき、手袋も緑色になる。ステッキも暗い鮮やかな緑色に変わっていく上に、ステッキの枝が3本に分かれたような状態になった。

 

「よし!!」

 

かすみは力を借りることに成功すると、二人の元へと戻っていく。

 

「メェェェェェ~ガァッ!!!!」

 

メガビョーゲンは頭部の車輪を回転させてエネルギーを溜め、やや大きな赤い球を放つ。

 

「うぅぅ・・・!!!」

 

「くっ・・・!!!」

 

着弾を受けて吹き飛ばされる二人だが、すぐに態勢を立て直して地面に着地する。なかなかメガビョーゲンを止める決定打は与えられず、このままでは体力を消耗するだけだ。

 

ビュン!!!

 

そこへかすみがメガビョーゲンに向かって飛び出していく。

 

「はぁぁぁ!!!」

 

「メガァ!?」

 

かすみは一回転して胴体に飛び蹴りを食らわせて吹き飛ばすも、メガビョーゲンは倒れないように踏ん張る。

 

「待たせたな!!」

 

かすみは振り返って、二人に叫ぶ。

 

「髪型が変わってる・・・?」

 

「それにそのステッキも、なんだか地球の気配を感じます・・・!!」

 

グレースとアースはかすみの変わりように驚く。

 

「っ、あの脱走者・・・不愉快な気配なの・・・」

 

イタイノンはかすみが変わったこと、その気配の元に不機嫌そうな表情を浮かべる。

 

「メガメガメガメガメガ!!!」

 

メガビョーゲンは両手の筒から赤い球を連射していく。

 

「はぁ!!」

 

かすみはそれに気づくと緑色のシールドを展開して赤い球を防ぐ。その煙の中からグレースとアースが飛び出していく。

 

「「はぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

「メガ・・・?」

 

グレースとアースは同時にメガビョーゲンの肩にかかとを落として、メガビョーゲンを怯ませる。そこへさらにステッキに緑色のオーラを纏わせたかすみが高く飛び上がって、体をクルクルと回転させる。

 

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

かすみはステッキを振り上げた後に、振り下ろすとステッキから三日月のような緑色の斬撃が放たれる。斬撃はメガビョーゲンの頭部を貫通する。

 

ガギンッ!!!!

 

「メガビョー!!??」

 

メガビョーゲンの頭部の車輪は砕けたような音が響くと、合わさっていた車輪が離れて位置がずれる。頭部を壊されたようで、動揺するメガビョーゲン。

 

「ふっ!!」

 

アースはメガビョーゲンの肩を押して、後方へと飛び退き、その手を背後にいたかすみが手に取る。

 

「やぁっ!!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「メガァ!?」

 

かすみはそのまま体を回転させて放ると、勢いをつけたアースが強烈なドロップキックを食らわせる。顔面にまともに食らったメガビョーゲンは背後へと倒れた。

 

「ちっ・・・あの脱走者の能力、厄介なの・・・!」

 

イタイノンはかすみのことを忌々しそうに見る。

 

「グレース、今ラビ!!」

 

「うん!!」

 

キュン!

 

「「キュアスキャン!」」

 

地面へと降りたグレースがラビリンを合図に、ステッキの肉球を一回タッチすると、メガビョーゲンへと向ける。ラビリンの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを発見する。

 

「雷のエレメントさんラビ!!」

 

エレメントさんはメガビョーゲンの右手の筒の先端あたりにいる模様。

 

「三人ともやるじゃん!!」

 

「あっちは大丈夫そうね」

 

その様子を見ていたスパークルとフォンテーヌが感嘆の声を上げる。

 

「メェ~ガァ!!」

 

めまいから回復したメガビョーゲンが再び膨大な赤い水を噴射する。

 

「「うっ・・・!!!」」

 

相変わらずの水しぶきに思わず目を覆う二人。

 

「こっちも止めなきゃ・・・!!」

 

「フォンテーヌ、ここは氷のエレメントボトルを使うペエ!」

 

「了解!! 氷のエレメント!!」

 

フォンテーヌはペギタンのアドバイスを受け、氷のエレメントボトルをステッキにはめ込む。

 

「メェ~ガァ~・・・!!」

 

メガビョーゲンは再び膨大な赤い水を噴射しようとする。

 

「はぁ!!!」

 

そこを狙ってフォンテーヌはステッキから冷気をまとった青い光線を放つ。

 

「メェ!?」

 

青い光線は右腕に直撃して氷漬けに。腕を封じられたメガビョーゲンは水を噴射することができなくなった。

 

「もぉ~!! 私は大好きなキングビョーゲン様にお会いしたいだけなのに~!!!!」

 

シンドイーネが地団駄を踏んで悔しがっていると、その近くにアースとかすみが降り立つ。

 

「大好き?」

 

「そうよ! 大好きよ!! 悪い!?」

 

シンドイーネの『大好き』にアースが反応し、シンドイーネが言い放つ。

 

「いいえ。大好きは悪くありません・・・ですがーーー」

 

「その『大好き』のために、私やアースの、そして他のみんなの『大好き』を汚すこというのは、この私が許さないぞ!!!」

 

シンドイーネに対し、アースとかすみはそう言い放つ。

 

「アース、あとは頼む・・・!」

 

「はい・・・!」

 

かすみはアースにあとを託し、アースは両手を合わせるように祈り、浄化の準備へと入る。

 

一枚の紫色の羽が舞い降り、ハープのような武器へと姿を変える。

 

「アースウィンディハープ!!」

 

そう呼ばれたハープに、風のエレメントボトルがセットされる。

 

「エレメントチャージ!!」

 

アースはハープを手に取って、そう叫ぶとハープの弦を鳴らして音を奏でる。

 

「舞い上がれ! 癒しの風!!」

 

手を上に掲げると彼女の周りに紫色の風が集まり始め、ハープへとその力が集まっていく。

 

「プリキュア! ヒーリング・ハリケーン!!!」

 

アースはハープを上に掲げてから、それを振り下ろすとハープから無数の白い羽を纏った薄紫色の竜巻のようなエネルギーが放たれる。

 

そのエネルギーは一直線にメガビョーゲンへと向かい、直撃する。

 

竜巻のようなエネルギーはメガビョーゲンの中で二つの手へと変化し、雷のエレメントさんを優しく包み込む。

 

メガビョーゲンをハート状に貫きながら、光線はエレメントさんを外に出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていく。

 

「お大事に」

 

そして、グレースたちもミラクルヒーリングボトルをステッキにセットする。

 

「「「トリプルハートチャージ!!」」」

 

「「届け!」」

 

「「癒しの!」」

 

「「パワー!」」

 

グレース、フォンテーヌ、スパークルの順で肉球にタッチしていき、ステッキを上に掲げる。すると、花畑が広がっていき、背後には自然豊かな森が広がっていく。

 

「「「プリキュア! ヒーリング・オアシス!!」」」

 

3人は一斉にメガビョーゲンへとステッキを構え、ピンク・青・黄色の3色の光線が螺旋状になって放たれる。螺旋状の光線は混ざり合いながら一直線にメガビョーゲンに直撃する。

 

螺旋状になった光線はそれぞれの色の手へと変化して、3本の手が水のエレメントさんを優しく包み込んでいく。

 

3色に光るハート状にメガビョーゲンを貫きながら、光線はエレメントさんをメガビョーゲンから外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンたちは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「「「「「お大事に」」」」」」

 

それぞれのエレメントさんが宿っていたものに戻っていくと、蝕まれた場所は元に戻っていく。

 

「ワフ~ン♪」

 

体調不良だったラテも額のハートマークが黄色から水色に戻り、元気になった。

 

「キュアアース、脱走者・・・今度は簡単には行かないわよ・・・!!」

 

メガパーツを手に持ったシンドイーネは後ずさりながらそう言うとその場から姿を消した。

 

「・・・ふん、いくら豪語しても、脱走者のお前は私たちと同族なの」

 

イタイノンはメガパーツを持ちながらそう吐き捨てると、彼女たちに背を向けてその場から姿を消していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

騒動後、のどかたちはテニスのピッチングマシンに宿る雷のエレメントさんを診察していた。

 

「ありがとう! 私は元気です!」

 

雷のエレメントさんはなんともないことをのどかたちに言う。

 

「「「ふふっ♪」」」

 

「ハハ♪」

 

エレメントさんが無事であることを確認し、のどかたちは笑みを浮かべた。

 

その後、5人は学校を出て帰路についていた。

 

「・・・ラテ様は、アスミに怒られちゃうと思ってたラビ」

 

「そうだったのですね・・・」

 

「じゃあ、避けてたのはラテの勘違いだったってことか?」

 

「そうラビ」

 

ラビリンが、ラテのことに関してアスミに事情を話していた。ラテはアスミがやりすぎていても、親切にしてくれるのはわかっていた。しかし、その好意を無下にしてしまったため、アスミに叱られてしまうかと思い、逃げていたのだ。

 

「私も病気のとき、お母さんにすごく心配されてたけど、それだけ大切に思ってくれてたってことだよね?」

 

「それはつまり・・・」

 

のどかは自分の病院での経験を元に言うと、アスミは察したかのように言う。

 

「『好き』、ということよ」

 

「『好き』・・・」

 

ちゆがそう言うと、アスミは自分の知らない感情があるということを感じる。それも『好き』ということの現れであるということを。

 

「かすみちゃん、今日は本当にごめんね! 私、かすみちゃんが嫌いだから避けたんじゃないの。アスミちゃんが放っておけなかったから!!」

 

「いいんだ、もうわかってるから。のどかが私を嫌いじゃなくて、よかった」

 

のどかが申し訳なさそうに謝ると、かすみは安心したように彼女に笑顔を向ける。

 

「あっ・・・」

 

話しながら歩いていると、彼女たちの前に夕日が見えてきた。のどかたちは暫し、その場で立ち止まる。

 

「・・・綺麗だな。あれは、なんだ?」

 

「夕日だよ」

 

「夕日?」

 

「日が暮れると、太陽があんな風に綺麗に見えてくるんだよ」

 

かすみは見たことのなかった綺麗な風景に、目を見開き瞳を潤ませる。何なのか知らないかすみに、のどかは夕日だということを教えてあげる。

 

かすみの中にほっこりとした何かが溢れてくる。

 

「これも『好き』、なのかな?」

 

「きっとそうよ」

 

かすみは自分の胸に手を当てながら呟くと、ちゆがそう言う。

 

「この世界にも、私の心の中にも、まだまだ知らないことがたくさんありそうですね」

 

アスミは夕日を見ながらそう呟くと、次にかすみへと向き直る。

 

「かすみさん」

 

「? どうした?」

 

「これからも、仲間として、友達として、よろしくお願いしますね」

 

「!!」

 

アスミは笑顔でそう呟くと、かすみは目を見開く。そして、その表情に笑みを浮かべる。

 

「・・・ああ、よろしくな、アスミ」

 

かすみはそう言うと赤い手袋をした手を差し出す。

 

「? これは・・・?」

 

「握手。仲良しの証にやるんだ」

 

アスミが不思議そうに見つめていると、かすみがそう言う。

 

説明されたアスミは笑みを浮かべながら、その手を握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人娘のアジトである廃病院、その地下の奥にある部屋にクルシーナが現れていた。

 

彼女は扉を開けて中へ入った場所は、一面が赤く薄汚れていて、たくさんのロッカーのようなものが壁一面に並んでいて、そこに古びた病院のベッドが一つ置かれているという無機質な部屋。

 

クルシーナはそのベッドへと近づいて、そこに横たわる人物を見つめる。それは赤い靄に包まれている一人の少女。その外見はモデルのような顔立ちをしている。

 

「おはよう。会いに来てやったわよ」

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナはその少女に向かって声を掛けるも、少女は何も答えない。苦しんではおらず、無表情で眠っている。

 

「アタシたちと一緒に目覚めたはずなのに、つい最近入った新入りそっくりのあのプリキュアにやられて眠りこけてるなんて、本当に油断するやつだったわね」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべながら、返事が返ってくるはずもない少女に声をかける。

 

そして、懐からメガパーツを取り出して、彼女へと向ける。

 

「このアタシが、アンタの復活を早めてあげようと思うの。まあ、ちょっとした検証だけど、試させてもらうわ。感謝しろよ」

 

クルシーナはそう言って少女の体にメガパーツを押し当てる。すると、すぐにメガパーツは少女の体の中へと入り込んでいく。

 

ズォォォォォォォォォン!!!!

 

「!!」

 

その瞬間、少女の体から建物が揺れるぐらいの膨大なオーラが溢れていく。その勢いにクルシーナは思わず、少し後ずさるぐらいに驚く。

 

やがて激しく放っていたオーラは大人しくなり、少女の体は元の落ち着きさを取り戻していく。

 

クルシーナはベッドを覗き込んでみるも、少女は眠ったままで起きる気配はない。

 

「・・・ふん。まだ馴染むのに時間がかかるのかしらね? まあ、アタシたちと同じようにお父様の力で生まれたからかな。それか、メガパーツが全然足りないか・・・?」

 

クルシーナは少女を見つめながら言う。こいつは自分たちと同じようにお父様の力で生まれた、人間ベースのテラビョーゲンだ。まだ、メガパーツ1個ぐらいでは足りないのか、それとも馴染むのにまだかかるのか。

 

しかし、メガパーツを埋め込んだ時のオーラは消えていないから、少女の体に何らかしらの変化は起きているのだろう。ヘバリーヌのときも相当な時間がかかったはずだから、おそらくそういう感じのはずだ。

 

「少し様子を見るとしましょうかしらね。また、来るわ、お姉様」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべながらそういうと、部屋を後にした。

 

その直後、眠っていて指一つ動きを見せないはずの少女の口元に、薄っすらと笑みが浮かんだ・・・・・・・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第64話「可愛い」

原作23話がベースになります。
アスミとかすみ、可愛いを知る話です。


 

ビョーゲンキングダムーーーーそこは、ビョーゲンズたちだけの世界。

 

そんな場所に幹部たちが珍しく集合していた。ダルイゼン、シンドイーネ、グアイワルの3人は囲んで背中合わせで座り込んでおり、その周囲のそれぞれの岩場にはクルシーナ、ドクルン、イタイノン、ヘバリーヌがいる。

 

「・・・せっかく俺がメガパーツを分けてやったのに、無駄にするとはなぁ」

 

「うっさいわね! そもそもあんたからはもらってないですぅ~!」

 

グアイワルの煽り言葉に、シンドイーネが不機嫌そうに返す。

 

「っ! ふん・・・あれを使えるのは俺のおかげということを忘れるなよ?」

 

「・・・元はと言えば、クルシーナたちの発見だろ?」

 

「ぐっ・・・!!」

 

グアイワルが偉そうに言うと、ダルイゼンに図星を当てられて明らかに動揺する。

 

「そうよ。何、お前の手柄みたいに言ってんのよ」

 

寝そべっていたクルシーナが嫌味たらしく返す。

 

「もっと言えば、大きくする方法を見つけたのはバテテモーダなの」

 

イタイノンは携帯ゲーム機を操作しながら淡々と返す。

 

「大体、私たちはあなたにメガパーツをあげた覚えはないんですけどねぇ」

 

「ぐっ・・・!!」

 

ドクルンは手に持っているメガパーツを小さなスコープのような道具で覗きながら、ニヤリと笑みを浮かべながら言う。

 

「いいなぁ~・・・ヘバリーヌちゃんも欲しい~・・・!!」

 

ヘバリーヌは三人娘がメガパーツを持っているのを羨ましがっていた。

 

「プッ・・・なぁ~に? 人があげたものを奪って、手柄を横取りした挙句、自慢~? 最悪~♪」

 

ダルイゼンと三人娘に指摘されたグアイワルを、シンドイーネがバカにして笑う。

 

「ぐぬぅぅぅ・・・手柄を横取りされたのはこっちだ!!」

 

グアイワルは悔しそうな顔しながら怒鳴る。

 

「ヘバリーヌ・・・」

 

「なぁ~に~? ノンお姉ちゃん」

 

声をかけてきたイタイノンにヘバリーヌが返事をすると、彼女の横にメガパーツが一つ投げられる。

 

「それ、やるの」

 

「えっ、いいの~? ノンお姉ちゃんのメガパーツでしょ~?」

 

「どうせ試しに手に入れてみただけなの。たくさんあってもあれだからお前にやるの」

 

イタイノンの計らいに、ヘバリーヌは瞳をキラキラとさせる。

 

「ありがと~! ノンお姉ちゃん、だーいすき♪」

 

「・・・ふん」

 

ヘバリーヌはメガパーツを拾い上げて笑顔を見せると、イタイノンは鼻を鳴らしてゲームをやり込む。

 

「だから、そんな大切なものを勝手に渡すな!!」

 

「お前には関係ないの・・・!!」

 

抗議の声を上げるグアイワルに、イタイノンは睨みながら言う。

 

「大体、なんでお前にそんなこと言われなきゃいけないの? 私のものをどうしようと私の勝手なの・・・!!」

 

イタイノンはゲームに視線を移しながらそう言い放った。

 

「そ、それは・・・!!」

 

「おい」

 

正論を言われてなおも食い下がろうとするグアイワルに、クルシーナの冷たい声が響く。

 

「アタシたちはお前の戯言にあとどのぐらい付き合えばいいんだ・・・??」

 

グアイワルが振り向けば、クルシーナがこちらを睨みつけているのが見えた。その威圧感にグアイワルは思わずたじろぐ。

 

これ以上いえば、間違いなく消されると・・・グアイワルは直感で判断した。

 

「そこでボケッと座ってる暇があるんだったら、地球の一か所でも蝕んでこいよ、アタマデワル。そこにいる他の二人とは頭の出来が違うんじゃないのか・・・? メガパーツもアタシたちよりうまく使えるんだろ? バテテモーダからわざわざ奪ったぐらいだしなぁ・・・」

 

クルシーナが不敵な笑みを浮かべながらそう言う。ダルイゼンとシンドイーネはその様子を呆然と見ていた。

 

「くっ・・・今に見てろ・・・!!」

 

グアイワルは悔しそうな声を上げると、立ち上がって単身地球へと向かっていった。

 

「ふん・・・・・・」

 

クルシーナは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

 

「行っちゃった・・・」

 

「ふん、いいのよ。いっつも偉そうなんだから、あれだけ言わせておけば」

 

ダルイゼンがグアイワルの背中を見つめながら言うと、シンドイーネは不機嫌そうに返す。

 

そんな中、クルシーナは自身のメガパーツを取り出して見つめる。

 

「ねえ、ドクルン」

 

「なんですか?」

 

「あの街を襲ったアタシたち以外のテラビョーゲン、あと一人いたわよね?」

 

クルシーナは唐突にドクルンへと質問を飛ばす。それを聞くとドクルンは冷めたような表情になる。

 

「・・・いましたね、確かに。それがどうかしたのですか?」

 

「別に。あと器は何人集めればいいのかって、聞きたかったってだけ」

 

クルシーナはメガパーツを眺めながら言う。キングビョーゲンの娘、もといその器となれるテラビョーゲンをあと何体増やせばいいかを聞きたかったのだ。

 

ドクルンは作業の手を止めると考えるように少し間を置いたあと、口を開いた。

 

「・・・あと三人ですね。あなたの言うその一人は病院で眠っているのでしょう?」

 

「そうね。試しにそいつにメガパーツを与えてやったんだけど、目覚めなかったわね。時間をかけて馴染ませないといけないのか、もっとたくさん集めないといけないのか・・・」

 

クルシーナは昨日の成果を報告する。

 

「・・・そのテラビョーゲンのダメージの回復次第ではないですか? なんせあのプリキュアに一度浄化されかけたぐらいですからね」

 

ドクルンは懐にメガパーツをしまうとその場から立ち上がる。

 

「行ってくるの?」

 

「ええ。ちょっと試したいこともありますからね」

 

背後から尋ねるイタイノンにドクルンはそう言うと地球へ向かうべく、その場を後にする。

 

「いってらー」

 

クルシーナはドクルンの方を見向きもせずに手を振りながらそう言うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見て見て!! 可愛いよ~!!!」

 

ひなたの自宅である平光アニマルクリニック。その彼女の部屋で、ひなたが何かをお披露目しようとしていた。

 

「ふわぁ・・・!!」

 

「わぁ・・・!!」

 

「「おぉ・・・!!」」

 

のどかとちゆ、ヒーリングアニマルたちがそれを見て感嘆の声を上げる。

 

「ジャジャーン!!」

 

ひなたがそう言いながら見せたのは、黒い革ジャン姿に身を包んだアスミ。そして、ボーダー柄ニットに白いズボン、サングラスをしていたかすみの姿があった。

 

「アスミちゃんとかすみちゃん、そういう格好も似合うね!!」

 

「素敵!!」

 

「カッコイイラビ!!」

 

かすみはみんなにそう言われると顔を紅潮とさせる。

 

(のどかは褒めてくれたのかな。ちょっと嬉しい・・・)

 

かすみは大切な存在と認識しているのどかに褒めてもらえたことをとても嬉しく感じていた。

 

「ふふふん♪ まだまだ~!!」

 

ひなたはそう言うと二人を更衣室へと連れていく。

 

そして出てきたのは、トリマー風のエプロン姿に変わっていたアスミと、ピンク色のナース姿をしたかすみだった。

 

「可愛い!!」

 

「似合ってるペエ!!」

 

さらにひなたは二人を更衣室へと連れ込んで、コーディネート。

 

アスミは紫色の猫の着ぐるみパジャマを着せ、かすみには茶色のモコモコのパジャマを着せた。

 

「キャワイイ~!!!!」

 

ひなたは興奮しながらアスミとかすみを交互に頬ずりする。

 

「どこで売ってんだ・・・?」

 

ニャトランはその様子を呆れたように見ていた。

 

「アスミン、これ!絶対可愛いから、持ってみて!!あとかすみっちもこれつけてみて!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

「あ、ああ・・・・・・」

 

アスミはひなたから猫の口元を模したようなマスクを受け取り、不思議そうに見ながらそれを口元に持ってくる。かすみは戸惑いつつも、クマの耳がついたモフモフの帽子を受け取り、頭につけてみる。

 

「・・・ひなたはさっきから『可愛い』とおっしゃいますが、可愛いとはなんですか?」

 

「えっ・・・?」

 

アスミが言葉に純粋な疑問を持ち、ひなたに尋ねる。

 

「可愛いというのは、よくわからないな・・・それも好きってことなのか?」

 

「へっ・・・?」

 

かすみもよく意味が分かっておらず、この前に教わった『好き』と同じであると考える。

 

「アスミとかすみはこの前、『好き』って感情を学んだの」

 

「はい。『好き』は美味しくて、暖かく譲れない思いです」

 

「そして、ほっこりとして、その人を大切だって思うような、そんな感じだ」

 

ちゆがそう言うと、アスミとかすみが学んだことを話し始める。

 

「では、『可愛い』はなんですか?」

 

「好きと同じなの、かな・・・?」

 

アスミとかすみは素朴な疑問をもう一度問う。

 

「・・・可愛いは可愛いだよ。ねっ?」

 

「う~ん、よく考えると『可愛い』と『好き』は似てるよね。でも、なんとなく違うっていうか・・・」

 

ひなたに問われたのどかは、説明が難しくなんとなく考え込んでしまう。

 

「可愛いと好きになるラビ!!」

 

「それ、可愛いか・・・?」

 

お気に入りのラベンだるまちゃんを抱きしめながら言うラビリンに、ニャトランは呆れたような様子だ。

 

「好きだから可愛く見えちゃうペエ!」

 

「好き・・・可愛い・・・好き・・・」

 

「あっ、可愛いと抱きしめたくなる!!」

 

のどかたちが話しているのを、アスミとかすみは一緒にキョロキョロしながら聞いていたが、具体的な回答は得られない。やがて難しい顔をして困った顔になっていく。

 

「ますます、わかりません・・・・・・」

 

「えっと、可愛いから好きで、好きだから可愛い、でも好きは好きなわけだから・・・つまり、どういうことだ・・・?」

 

二人はますます考え込んでしまう。そんな二人に口を開いたのは、ちゆだった。

 

「アスミとかすみも、可愛いを実感できたらわかるんじゃないかしら」

 

「あっ、そうだ!!」

 

ひなたは何かを思いつくと、アスミとかすみを普段の服装に着替えさせて、アニマルクリニックの方へと向かう。

 

ラテをひなたの姉であるめいにお願いして、トリートメントをしてもらう。

 

「はい。できた!」

 

「ワン♪」

 

ラテの姿はツヤツヤになっていて、桃色の可愛いフリルのついたカチューシャとリストバンドがされている。

 

「ラテ、可愛い!!」

 

のどかはその姿を見て喜び、ラテを自分の手元に抱く。

 

「お姉、急だったのにありがと~!」

 

「時間があれば、もっと可愛くできたんだけど、今日はここまでね、ラテちゃん」

 

「ワン♪」

 

めいがそう言ってラテを撫でると彼女は笑顔を見せた。

 

「ねっ、可愛いって思うっしょ?」

 

アスミとかすみは、ひなたにそう言われると綺麗になったラテを見つめる。すると、かすみが目を輝かせているラテを見つめていると・・・。

 

「あ、あぁ・・・!」

 

かすみも瞳をキラキラとさせ始める。そして、自分の中に何か熱い何かがこみ上げてくるのを感じ、胸に手を当てる。その顔は何かを感じたかのように頬を紅潮させていた。

 

一方、アスミは・・・・・・。

 

「ラテをこんなに喜ばせてくださって、感謝いたします」

 

「は、はぁ・・・」

 

アスミはめいの手を取りながら、お礼を言うとめいは困惑する。

 

「あはは・・・・・・」

 

その様子を見たのどかたちは困惑したり、苦笑いをしたりしていた。

 

「な、なあ・・・のどか」

 

「ん? どうしたの、かすみちゃん」

 

そこへかすみがのどかに声をかけた。かすみは手をモジモジとさせながら顔を紅潮とさせている。

 

「わ、私も、ラテを抱いてもいいか?」

 

「うん、いいよ・・・」

 

かすみの言葉に疑問を持ちつつも、のどかはラテを差し出すと彼女はゆっくりと抱き始める。

 

「あぁ・・・」

 

かすみは抱いているラテを見つめる。ラテは屈託のない笑みを浮かべながらこちらを見ている。かすみはますます胸が熱くなるのを感じた。

 

「っ・・・・・・」

 

かすみはゆっくりとラテの頭に手を伸ばし、彼女の頭を撫でる。

 

「ワン♪」

 

「あぁ・・・ああ・・・!!!!」

 

かすみは笑顔を見せてくれるラテに、瞳を潤ませながら言葉にならない声を上げる。そして、顔を少しずつ、彼女へと近づけていく。

 

「ふふ、ふふふ・・・」

 

「ワン♪」

 

かすみは自分の頬を近づけて、頬ずりをした。ラテは嬉しそうで、それをしているかすみ本人も自然と笑顔になっていた。

 

「かすみっち、嬉しそうだね!」

 

「・・・はっ!?」

 

ひなたの声が聞こえて、我に返ったように目を見開き、ラテから顔を離す。

 

「あ、ありがとう・・・のどか・・・」

 

「う、うん・・・」

 

かすみは顔を真っ赤にして、ラテをのどかに手渡す。のどかがラテを受け取ると、かすみは顔を隠すように壁に近づき、彼女たちに背を向けてしまった。

 

「こ、これが、可愛いって、こと、なのか?」

 

歯切れの悪そうな声でかすみが言う。そんな彼女の耳をよく見ると真っ赤になっており、気のせいか頭から煙が出ているようにも感じる。

 

「えっと、それはね・・・・・・」

 

「確かに、可愛いって思ったけど・・・」

 

(それは、恥ずかしいってことだと思うわ・・・)

 

ひなたは戸惑ったように声をあげ、のどかは苦笑いをしながら言う。ちゆは心の中で可愛いと異なる感情であると考え始めた。

 

(なんだろう・・・なんだかわからないけど、消えたい気分だ・・・!!)

 

かすみは顔を真っ赤にしながらも、そんなことを考えている。『可愛い』というのはよくわからない・・・・・・。

 

「?」

 

アスミはその様子を見て、首を傾げているのであった。

 

まあ、それはさておき・・・・・・。

 

「めいさんは、カフェもやっていましたよね?」

 

「ええ」

 

アスミがそう尋ねると、めいは答える。

 

「お姉、器用なんだ~!」

 

「「ふふふ♪」」

 

ひなたは顔を紅潮とさせながら笑顔で答える。それにはのどかとちゆも笑みを浮かべる。

 

コンコンコン!

 

「「「「!!」」」」

 

ふとドアがノックされて、のどかたちが視線を向けると、横に開かれてそこから一人の青年が現れる。ひなたの兄である、ようただ。

 

「ひなた、そろそろいいかな?」

 

「っ! やばっ・・・ごめんみんな!! この後、用事があるんだった!!」

 

ようたがそう言うと、ひなたは慌てて思い出したように謝る。

 

「この人は、誰だ・・・?」

 

「ひなたのお兄さん、ようたさんよ」

 

かすみが疑問を問うと、ちゆがかすみとアスミに紹介する。ようたは微笑んで見せた。

 

ひなたは犬用のキャリーバックを持って、ようたについていくと、のどかたちも一緒に行くことに。

 

「確かお兄さんは、獣医さんでしたね」

 

「犬を大事にしてくれると聞いたぞ」

 

「うん! パパもだよ!」

 

アスミとかすみが、ひなたと話していると、みんなはひなたの父であるてるひこが診察をしている医務室へ。

 

そこでは、てるひこが猫の首あたりを触診していて、飼い主である少年が心配そうに見つめていた。

 

「うーん、ちょっと緊張しているね~。最近、妹さんが生まれたんだよね?」

 

「はい・・・あっ!」

 

「急に新しい家族が増えて、緊張しているんだよ。なぁ?」

 

てるひこがそう言って猫の顎を撫で、猫は気持ちよさそうに喉をゴロゴロと鳴らしていた。

 

「なぜ、あそこまでわかるのでしょう? 言葉を交わしているわけでもないのに・・・」

 

その様子を見て、アスミは素朴な疑問を抱いていた。

 

「相手のことを知りたーいって思って、よーく見るとわかっちゃうんだって。パパ、言ってたよ」

 

不思議そうにてるひこを見つめているアスミに、ひなたがそう話した。

 

「そうか・・・それは、私も、わかるな・・・」

 

「えっ・・・?」

 

かすみがふとそんなことを言うと、ひなたたちは彼女の方を向く。

 

「私にも聞こえるんだ。自然の森の声・・・森に住む動物たちの声・・・森に咲く植物たちの声・・・私は、それを聞くと、寂しくないって思えるんだ・・・」

 

かすみは胸に手を当てながらそう答える。

 

「かすみっちには、あの猫ちゃんは、どう見えてるのかな?」

 

ひなたがそう尋ねてみると、かすみは猫の表情を見やる。

 

「あの男の子と一緒にいて、動物を理解してくれるお父さんと一緒にいて、喜んでいるような感じがするんだ・・・」

 

かすみがそう答えると、のどかたちは微笑んでみせる。

 

「連れてきたよ」

 

そこへようたが戻ってきた。その手には黒い毛に白い丸の眉のような模様が特徴の小さな柴犬であった。

 

「ふわぁ~♪」

 

「あ・・・ああ・・・!!」

 

のどかはそれを見て感嘆したように声を上げ、かすみは瞳を潤ませて言葉にならない声を上げる。

 

「うちで預かってる保護犬のポチットだよ♪」

 

「ポチじゃなくて、ポチット?」

 

「眉毛がポチッとしてるから!!」

 

ひなたはようたから小さな柴犬ーーーーポチットを受け取りながら答える。

 

「ポチット、楽しんでこいよ?」

 

ようたはポチットを撫でながら、ひなたに預けるとその場を後にした。

 

「ひなたちゃん、少し触ってもいい?」

 

「うん、いいよ♪」

 

「わ、私も、いいか・・・?」

 

「かすみっちも、もちろんだよ!!」

 

のどかとかすみがそう言うと、ひなたは許可を出す。

 

「ふわぁ・・・♪」

 

「っ・・・・・・」

 

「あ、ただ、この子・・・」

 

「!・・・キャンッ!!」

 

のどかとかすみが触ろうとポチットへと手を伸ばすが、その瞬間ポチットはひなたの手から抜け出して彼女の後ろへと隠れてしまった。

 

「え・・・・・・」

 

かすみはその様子を見て、手を伸ばした状態のまま呆然とする。そんなポチットは気のせいか、かすみを見て怯えたような感じになっていた。

 

「ごめん! 驚かせちゃった!?」

 

「違う違う、この子、あたしたち以外には臆病で・・・」

 

ひなたは話をしながら、ポチットを自分の手元に抱きよせる。

 

「大丈夫だよ~♪ みんな可愛いポチットと仲良くなりたいだけ♪」

 

ひなたはそう言いながらポチットを頬ずりしながら安心させてあげ、ポチットも笑顔になる。

 

「可愛い?」

 

アスミはひなたの発した『可愛い』という言葉に反応する。彼女はまだその言葉の意味がよくわからなかった。

 

「なあ・・・」

 

「「「「??」」」」

 

ようたがいなくなったことでようやく顔が出せるニャトランが声を出す。

 

「さっきから、かすみが動いてねぇんだけど・・・?」

 

ニャトランの言葉に、みんなはかすみを見ると、彼女は立った状態のまま真っ白になっていた。

 

「か、かすみちゃん!?」

 

「立ったまま気絶してるラビ!!!」

 

のどかがかすみの顔を見て仰天した。かすみは呆然とした表情のまま、瞳は虚ろになっていて、体全体が真っ白になっていたのであった。

 

「かすみ!! しっかりして!!」

 

「そ、そうだよ!! ポチットはかすみっちを嫌がったわけじゃなくて・・・!! 元々ーーーー」

 

「??」

 

のどかたちが、必死にかすみを宥めようとしているが、彼女のショックは治りそうな様子はあまりなかった。アスミはその様子を、首を傾げながら見つめているのであった。

 

結局、かすみが動くようになるまでには、30分ぐらいかかった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとね。あたしの用に付き合ってくれて」

 

「ううん。ラテもいつもと違うドッグラン、楽しいと思うから」

 

「でも、ポチット、怖がらないかしら・・・?」

 

「大変だと思う。でも少しずつ、いろんなことに慣れていってほしいから。パパとお兄にも相談して決めたんだ♪」

 

のどかたちは話しながら、ひなたたちの動物病院で併設されているものよりも大きなドッグランへと向かおうとしていた。ひなたの持つペット用のキャリーケースの中にはポチットが入っている。

 

ズーン・・・・・・。

 

「はぁ・・・・・・」

 

かすみはため息をつきながら、暗いオーラを出しながらわかりやすいくらい落ち込んでいた。

 

「かすみっち、元気出してよ~・・・ポチットは嫌がったわけじゃなくて、のどかっちにも行ったけど、あたしたち以外には臆病なんだよ~」

 

「・・・でも、私のことを避けてるように見えたぞ・・・私は、森の動物たちにも避けられたことがなかったのに・・・・・・」

 

ひなたがそう擁護しようとするが、かすみは悲しそうな虚ろな目で見つめてくる。

 

「わ、私もだったけど、ポチットくんはかすみちゃんに驚いちゃっただけで、怖かったわけじゃないと思うよ!!」

 

「・・・体を震わせているように見えたが?」

 

「あ、えっと・・・」

 

ポチットを見ていたかすみは暗い声でその励ましを一蹴すると、のどかは励ますことが思いつかずに考えてしまう。

 

「き、きっと人に慣れてないだけなのよ!!」

 

「・・・ひなたには懐いているのにか?」

 

「うっ・・・えっと、それは・・・!」

 

ちゆの言葉も、かすみには通用せず正論を返されてしまい、戸惑うちゆ。

 

「はぁ・・・やっぱり、ポチットは私のことが嫌いなんだ・・・」

 

のどかたちから確信が持てるような言葉を得ることができず、かすみはため息をついて暗いオーラを出し続けるだけだった。

 

「ま、まあ、ドックランに行けばワンちゃんいっぱいいるから大丈夫だって!! ポチットもきっと慣れてくるって~!!」

 

「・・・本当かぁ?」

 

「大丈夫大丈夫!! あたしに任せてって!!」

 

「・・・わかった、信じる・・・」

 

かすみはひなたの言葉に、まだ暗い顔のままだったが、少しは元気を取り戻した。

 

「ひなた、最近病院のお手伝いをしてるんだぜ!!」

 

「すごいわね!ひなた!!」

 

「お手伝いって言っても、ほんの少しだよぉ・・・」

 

ニャトランがそう言うとちゆは感心したような声を出し、ひなたは顔を紅潮とさせて照れる。

 

「前は絶対無理だーって思ってたけど、今は、あたしにもできることがあるかもって思えて・・・」

 

ひなたは顔を紅潮とさせながらも答える。

 

かつては自分の姉や兄にコンプレックスを抱いていた自分、でものどかたちが励ましてくれたから、自分にも自信が持てるようになり、自分でもできることがあると思えるようになったのだ。

 

のどかたちはその様子に微笑んでみせる。

 

「私もポチットくんと仲良くなりたいなぁ♪」

 

「ラビリンもラビ!!」

 

のどかとラビリンは笑顔でそう言った。

 

「ワン♪」

 

「ラテも仲良くなりたいのね♪」

 

ちゆは笑顔で返事をするラテを見てそう理解した。

 

「私も、ポチットと、仲良くなれるの、かな・・・?」

 

かすみは心配そうな顔でそう言った。ラテは自分に懐いているが、普通の犬であるポチットは自分を怖がって懐いてくれない。そんな自分がドックランに来て大丈夫かと思ってしまう。

 

そんな彼女の手をひなたが手に取った。

 

「なろうよ! あのドッグランで慣れるように一緒に遊べば、絶対に仲良くなれると思うよ!!」

 

「!!」

 

ひなたがそう言うとかすみは驚いたような顔をする。

 

「私も仲良くなりたいし、かすみちゃんと一緒だったら仲良くなれると思う♪」

 

「っ!!」

 

のどかにもそう呼ばれると、かすみは不安そうな表情から眉はハの字にはしつつも、口元で笑みを見せていく。

 

「そ、そうだな・・・仲良く、したい、な・・・」

 

かすみはたどたどしい口調ながらも、ポチットと仲良くしたいことを話した。それを見てのどかたちは微笑みかける。

 

「俺はもう仲良いんだぜ~!」

 

「ニャトランは友達を作るのがうまいペエ」

 

「まっ、可愛いもの同士だからニャー♪」

 

「ポチットはね、ボールで遊ぶのが大好きなんだよ~♪」

 

ひなたたちが楽しそうに話しながら、ドッグランへと歩いていく。

 

「・・・・・・・・・」

 

そんな中で、かすみはその言葉にまだ引っかかるものがあった。

 

「なあ・・・・・・」

 

「「??」」

 

「結局、『可愛い』ってどういうことなんだ?」

 

かすみがひなたが言っていたよくわかっていないことをここで問う。

 

「うーん、そうだよね・・・難しいよね~」

 

「どう説明すればいいのかなぁ・・・?」

 

のどかとひなたは歩きながらも、根本的な言葉の意味の説明に戸惑ってしまう。

 

「めいさん、だったか、綺麗にされたラテを抱いて見たときに、ほっこりとは違う何か熱いものが、胸の中に溢れたような気がしたんだ。これが、そういうこと、なのかな・・・?」

 

かすみは自分の胸に手を当てながら話す。ラテを抱いていたときに湧き上がった感情、これはかわいいということなのだろうか。

 

「きっと、そうなんじゃないかな」

 

「!!」

 

「人それぞれだと思うけど、さっきのラテを見て何かを感じたなら、きっとそうなんだと思うよ」

 

「そうなの、かな・・・」

 

のどかがそう推測するも、かすみはまだよくわからなかった。これは自分が感じていた『好き』にも似ていたからだ。これは好きなのか、可愛いのか・・・?

 

「可愛いって思ってるに決まってるよ~!!」

 

「えっ・・・?」

 

「だって、あのラテを見て可愛いって思えない人なんかいないもん!!」

 

「可愛いって、思う・・・?」

 

ひなたが興奮気味にそういうも、かすみはわかりそうでわからないといったような感じだった。

 

「俺たちだって可愛いものだから、かすみが俺たちを見ればそれがわかるんじゃね?」

 

「そうかな・・・?」

 

「極端じゃないペエ・・・?」

 

ニャトランがそう言うと、かすみは疑問に思いつつも彼らの顔を見つめる。

 

じー・・・・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

「ニャァ」

 

まずはニャトランの姿をじっと見つめる。

 

じー・・・・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

「ペエ・・・・・・」

 

次にペギタンの表情をじっくりと見ると、彼は緊張したかのように顔を強張らせている。

 

じー・・・・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

「ラビ?」

 

その次にのどかの頭の上に乗っているラビリンの姿を見る。ラビリンは笑みを浮かべながらこちらを見ていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

かすみは3匹のヒーリングアニマルの姿を順番に、繰り返し見ていく。

 

「うーん・・・・・・」

 

「どう・・・?」

 

「なんか感じたか?」

 

難しそうな顔をするかすみに、のどかとニャトランが尋ねると、かすみは胸に手を当てながら口を開いた。

 

「・・・・・・何も感じないな」

 

「ズコー!!」

 

かすみのストレートな発言に、ニャトランがこけそうになる。

 

「なんでだよ!? 俺たちは可愛いだろ!?」

 

「うん、可愛い・・・可愛い、と思うけど、胸が熱くなるような感じがしないんだ・・・」

 

ニャトランが焦ったように言うと、かすみは両手に胸を当てながらそう言い、そして考え込んでしまう。

 

「かすみにはまだわかんないのかもしれないペエ・・・」

 

ペギタンはかすみにはまだわからない次元の話ではないかと推測する。

 

「そのうちわかるようになるって~!! ドックランには可愛いワンちゃんがいっぱいいるからね~!!」

 

「可愛い、ワンちゃん・・・」

 

ポジティブなひなたの発言にも、かすみは考え込んでしまう。

 

「ひ、人それぞれっていうのは各自いろいろって意味で!! 大丈夫!! そのうちわかるわよ・・・!!」

 

「「「??」」」

 

そんな時、一緒に歩いているはずのちゆの声が背後から響き、のどかたちは振り向く。アスミの方をよく見ると、なんだか彼女の体が透けていた。

 

(アスミも『可愛い』で悩んでるんだな・・・私も、理解できるのだろうか・・・)

 

かすみはアスミも自分と同じようにわからないことを気にしている様子で、それを感じたかすみもその気持ちを理解できるのか不安になっているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ドクルンはトウモロコシがたくさんなっている畑へと姿を現した。

 

「さてと、今回はどれから行こうかしらねぇ」

 

ドクルンはそう言いながら周囲を見渡すも、周り一面はトウモロコシだらけ。他に目につけるものとすれば、畑の真ん中に立っている案山子ぐらいか。

 

「まあ、あのぐらいでもいいか・・・」

 

ドクルンはつまらなそうな表情でそう言い捨てると、ナノビョーゲンを発生させようとする。

 

シュイーン! グシャ!!

 

「・・・?」

 

すると、その直後に誰かが瞬間移動をして案山子の頭を踏み潰す。ドクルンは突然の出来事にやろうとしていた動作を止めてしまう。

 

「ふん! このグアイワルの凄さをとことん見せてやる!!」

 

先ほど、ビョーゲンズたちに煽られて出撃していったグアイワルだった。どうやらいつも以上に息巻いている様子。

 

「だが、最後のメガパーツを使ってしまうのは惜しいな・・・こいつがもっとあれば・・・」

 

グアイワルは自身が持っているメガパーツを見ながら、どうやって増やせばいいか悩んでいた。

 

「そのトウモロコシたちを利用すればいいのでは?」

 

「?・・・なっ!?」

 

ドクルンがその背後から声をかけると、グアイワルが振り向いてこちらを驚いたような表情をする。

 

「ドクルン!? なんでお前がここに!?」

 

「私も蝕みに来たに決まってるじゃないですかぁ。たまたま場所が被っただけです」

 

ドクルンはメガネを上に上げながら、ニヤけた表情のまま言った。

 

「ふん、まあいい。今からこの俺の凄さを見せてやるんだからな!!」

 

「頑張ってください。私は別の場所に行ってますから」

 

ドクルンはそう言いながら、ここでメガビョーゲンを発生させるのは諦めて移動しようとする。

 

「お、おい待て!!!」

 

なぜかグアイワルが慌てたような様子で、こちらを呼び止める。

 

「なんですか? あなたの戯言に付き合ってるほど暇じゃないのですが」

 

「戯言かどうかは俺の活躍を見ればわかる。俺が一番メガパーツを使いこなせるってことをな!!」

 

ドクルンは振り向きざまに面倒臭そうな表情を浮かべながら言うと、グアイワルはなぜか不敵な笑みを浮かべながらそう豪語してくる。

 

「・・・バテテモーダから奪っておいて、何を言ってるんですか?」

 

ドクルンは冷ややかな表情でそう言い放った。相手から取るという姑息な行為をしておいて、何が活躍だ、何か使いこなせるだ・・・全く期待できない。

 

「お、俺は盗んでない!! あいつから預かっただけだ!!」

 

「泥棒はみんなそう言うんですよ」

 

グサッ!!!

 

「ぐっ・・・!」

 

グアイワルは否定するも、ドクルンは動揺することなく反撃し、グアイワルの胸に棘が刺さったようなダメージを与える。

 

「大体、筋トレしてるくせに、メガビョーゲンに戦闘を任せておいて、自身は全く戦わないとか、舐めてるんですか?」

 

グサッ!!!

 

「ぐはぁ!!」

 

「そんな無駄な筋肉を鍛えるくらいなら、いっその事デブの方がまだ魅力がありますよ」

 

グサッ!!! グサッ!!!!

 

「ぐぉぉ!!! あ、あぁ!?」

 

グアイワルの心にさらにダメージを与え、さらに案山子の上から地面へと落ちる。

 

ドクルンはそれに面白がるような笑みを浮かべる。

 

「もういいですか? 私はあなたの雑談に付き合ってる暇はないので」

 

ドクルンはそう言って前を向くと手を振りながら歩き去っていく。

 

「覚えてろ、ドクルン!! 今に吠え面をかかせてやる!!!!」

 

グアイワルが何か叫んでいるが、ドクルンはニヤけた表情を崩さないまま、足早に去っていく。

 

トウモロコシ畑を後にし、自然の中の道を歩いていく。

 

「グアイワルもからかったことですし、そろそろ仕事をしようかしらねぇ」

 

そう言いながら歩いていくと、見えてきたのは芝生が一面に広がっていて、木の柵で囲まれている中でトンネルやトラックがあり、そこでは大勢の人が犬たちと戯れている姿があった。

 

「犬か・・・」

 

ドクルンはそう呟いた途端に、ある記憶が甦る。

 

ーーーーりょう!! 見て!! かわいいわよ!!

 

ーーーーあぁ・・・本当、かわいい・・・!!

 

キュアフォンテーヌーーーーちゆと一緒に隣町のペットショップに行って、犬を見ていた気がする。その時は、自分は瞳をキラキラさせて、その無垢な瞳を見つめていた気がする。

 

「ふふふ・・・ワンちゃん・・・ワンちゃん・・・ふふふ・・・」

 

その姿を思い出した瞬間、ドクルンの顔はだらしなくヘラヘラと笑みを浮かべていた。

 

「ドクルン? ドクルン!!」

 

「・・・はっ!?」

 

スタッドチョーカーになっているブルガルが呼びかけると、ドクルンは我に返る。

 

「何をぼうっとしてるブル?」

 

「ごめんなさい、少し取り乱しました」

 

ドクルンはメガネを上に上げながらそう言うと、もう一度ドックランを見つめる。

 

人間と戯れている犬たちの姿を見つめ、ドクルンは不敵な笑みを浮かべる。

 

「まあ、少し様子を見てみようかしら」

 

ドクルンはドックランへと向かうべく、木の階段を降りていくのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第65話「遊戯」

前回の続きです。
今回はドッグランで、犬たちと戯れます。


 

「ふわぁ~!!」

 

「わぁ~!!」

 

「ふわぁ・・・!!」

 

目の前の光景にのどかとラビリンは喜びの声を上げ、かすみは瞳を潤ませながら感嘆としていた。

 

のどかたちが来ているのはドックラン。そこでは広がる草原・・・4方向に広がる平均台のような板・・・芝に設置されているトンネルといった遊具・・・そして、その周囲にはたくさんの飼い主と可愛がられている犬が遊んでいる姿があった。

 

「ワンちゃんがいっぱいだぁ~♪」

 

「す、すごいなぁ・・・!」

 

のどかとかすみはその光景を見て、感動を覚える。

 

「っ・・・・・・」

 

特にかすみは犬たちも気になっていて、胸に手を当てる。何か胸に熱いものが溢れてきそうになっていた。

 

「ラテ、それじゃあ遊ぼっか♪」

 

「ワン♪」

 

「ポチット、友達いっぱいいるよ?」

 

のどかはラテをバッグから降ろし、ひなたはポチットに声をかけた後、キャリーバッグを降ろしてケージを開ける。

 

「ワフワフ♪ ワフワフ♪」

 

ラテは笑顔で芝生の上をテクテクと歩く。しかし、彼女が後ろを振り返ると・・・・・・。

 

「クゥ~ン・・・・・・」

 

ポチットはケージの中で、背中を向けたまま体を震わせていた。どうやらケージの外に出るのが怖いようだ。

 

「やっぱりまだ怖いよな・・・」

 

「ふふっ♪」

 

心配するニャトランに対し、ひなたは微笑むとポチットをケージから出して、自分の手元へと抱きかかえる。

 

「大丈夫♪ あたしやニャトランがいるし、可愛いお友達いっぱいだよ♪」

 

ひなたはそう言いながら、不安な表情を見せるポチットを落ち着かせようとする。

 

「ほら、ポチットくん、うちのラテ。怖くないよ~♪」

 

「クゥ~ン・・・・・・」

 

のどかはラテを抱くと、ひなたの抱くポチットへと近づけてあげる。しかし、ポチットは不安そうな表情だ。

 

その後も、このドックランでのどかたちは遊び、他の犬たちとも交流を深めたりして過ごした。

 

ラテと一緒に、ちゆ、アスミが一緒に走っていく。

 

「ふふふふ♪」

 

「ワン♪」

 

「・・・・・・・・・」

 

しかし、途中で足の速いちゆがスピードを出してしまい、ついていけなくなったラテとアスミは足を止めてしまう。

 

「ごめんなさい!! 私が気合入れすぎたわね・・・!!」

 

「ワフ♪」

 

「・・・・・・・・・」

 

二人が追ってこないことに疑問に思ったちゆが気づいて、二人に謝ったりする一面もあった。

 

ある時は、のどかとかすみがラテと一緒に他の犬と交流した。

 

「ラテだよ~、よろしく♪」

 

「お友達ができたね~♪」

 

のどかと飼い主の少女がお互い、ラテと犬を対面させて笑い合う。

 

「そのワンちゃんに、触ってもいいか・・・?」

 

「うん、いいよ♪」

 

かすみが緊張気味に問うと、飼い主の少女は笑顔で答える。かすみは許可をもらうと白くて大きな犬にそーっと手を伸ばして撫でる。

 

「あぁ・・・ああ・・・!!」

 

かすみは瞳をキラキラとさせながら、犬を撫でる。犬に無垢な表情で見つめられた瞬間、かすみは胸から熱い何かが溢れてくるような感じがした。

 

「ふふっ♪」

 

かすみは自然と笑顔になり、それを見ていたのどかと飼い主の少女も笑顔になった。

 

その様子をひなたは笑みを浮かべながら、微笑ましく見つめていた。

 

「「・・・・・・・・・」」

 

その頃、ぬいぐるみのフリをしているラビリンとペギタンには大勢の犬が集まり、匂いを嗅がれたりペロペロと舐められたりして、我慢できずに正体がバレないかどうかヒヤヒヤしていた。

 

「あ・・・犬たちが・・・」

 

「わ、私にも来るぞ・・・!」

 

「きっと二人と仲良くしたいんだよ~♪」

 

アスミとかすみにも他の犬たちが集まってきており、ひなたはその理由を推測する。犬たちも二人と遊んで欲しいのではないかと。

 

中でもアスミよりも背の低いかすみに大型の犬たちが集まってきた。

 

「お、おい・・・集まりすぎだ・・・! そんなに来られても構いきれ、うわぁぁぁ!?」

 

そのまま一斉に犬たちが体に寄りかかってきたためにかすみはそのまま押し倒された。

 

「かすみっち、大丈夫!?」

 

「ひっ、や、やめ・・・くすぐった、あはははは!!!」

 

犬たちは寄ってたかって、かすみの顔を舐めまくり、そのくすぐったさに笑ってしまう。ひなたは慌てて駆け寄ったが、ただ犬たちが戯れているだけだとわかり、その様子を微笑ましく見る。

 

そんな時間を過ごしていく中、のどかとかすみはまだ怯えているポチットに対し、鈴のついた玩具を使って一緒に遊ぼうとする。

 

かすみは玩具を持って、ポチットに見せる。

 

「ポチット、一緒に遊ぼう・・・」

 

「ポチットくん♪」

 

二人はポチットを怖がらせないように声をかけていく。

 

「クゥ~ン・・・」

 

すると、ポチットが少しずつではあるが、かすみとのどかの方に近づいてくるようになった。

 

「ああ・・・!!」

 

かすみはその姿を見て微笑み、のどかたち3人も笑顔になった。

 

それから、しばらく経ち・・・・・・アスミは自分の周りにいる飼い主と犬たちを見つめていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

「よ~し♪ よ~し♪ いっぱい遊んだね~♪」

 

帽子を被った中年の男性が犬を嬉しそうに抱いている。

 

「あっちまで競争だよ~♪ あはは♪」

 

別に視線を移せば、先ほどのどかやかすみと触れ合っていたリボンをつけた少女が自身の犬と走りっこをしている。

 

そんな、犬と遊ぶいろんな人たちの様子を見つめているアスミ。

 

「アスミ」

 

「?」

 

「ここにいたのか」

 

そこへ声をかけ、側に寄ってくるのはひなたとニャトラン、そしてかすみだった。

 

「どうしたんだ?」

 

「ニャトランとひなたとかすみは、ここにいる犬たちのどれが可愛いと思いますか?」

 

アスミは犬たちを見渡しながら、3人に尋ねる。可愛いを感じれない彼女は、どれが可愛いのかよくわかっていない。

 

「えっ、全員可愛いよ~」

 

「全員ですか?」

 

「うん! みーんな可愛い♪」

 

ひなたは犬たちを見渡しながらそう答えた。

 

「可愛いはよくわからないが、私はそう思っているんだと、思う・・・・・・」

 

かすみは自分の胸に手を当てながら言う。

 

「かすみっちもちょっとわかってきたんじゃない?」

 

「私がか?」

 

「うん! だって、私も可愛いって思うと、胸が熱くなってくるもん♪」

 

「ひなたも、か・・・」

 

ひなたの言葉に、かすみは自分が感じているこの熱い気持ち、それが『可愛い』なのではないかと考えるようになる。

 

「ひなたはすごいですね。たくさん可愛いを知っていて」

 

「そうだな。私は、まだ全然わかってない・・・」

 

アスミは感嘆しながら、かすみは自分に不安を抱きながら言う。

 

「すごいのはアスミンとかすみっちだって♪ だって、二人ともわんこたちいっぱい好かれてたじゃん♪」

 

「アスミはやっぱ地球の一部だからか? かすみは森に住んでたからじゃねぇか?」

 

ひなたが逆に褒め返すと、ニャトランはアスミとかすみが人間ではない特別な何かがあるからではないかと推測する。

 

「どうなのでしょう?」

 

「私は、元々動物たちとは一緒にいたからな。寄り添いやすいのかもしれない・・・」

 

アスミはよくわかっていなかったが、かすみは森に住んでいた経験から動物たちが寄ってくるのではないかと考える。

 

「いいなぁ~。あたしもそういうのがあれば、ポチットともっと仲良くなれたのに~」

 

ひなたはアスミとかすみの体質を羨ましいと感じる。

 

「ポチットとは仲良しですよね?」

 

「今は、ね・・・」

 

「どういうことだ?」

 

アスミとかすみはポチットとはあんなに仲良しなのに、そのような言葉に疑問を抱く。

 

「はじめの頃は大変だったんだよ~」

 

ひなたはポチットと初めて預かることになった日のことを思い出す。

 

ーーーーキャンキャン!!

 

ーーーーこらー!!!

 

ポチットの体が汚れていたのでお風呂に入れてあげたところ、ポチットは逃げ出してしまう。

 

ーーーーポチット~、隠れてないで出ておいでよ~。

 

机の下のポチットに声をかけるも、ポチットは怯えて出て来ようともしなかった。

 

ーーーーキャウン!!

 

ーーーーああ~!! もぉ~!! ポチット~!!!

 

犬用のご飯皿に餌をあげようとしても、怖がって蹴飛ばしてしまい、そのまま逃げて行ってしまったこともあった。

 

「・・・全然心開いてくれなくて、逃げるし避けるし。可愛くなーいって思ってたな~」

 

ひなたは昔を思い返して、少し苦笑しながら語る。

 

「それがどうして『可愛い』になったんだ?」

 

「・・・なんでかなぁ」

 

ひなたは遠くを見つめながら、また昔を思い返していた。

 

カゴの中で心を開こうとしないポチット。ひなたは何度も訪れては、どう励まそうかと考えたり、変顔をしてみたり、寝る前に声をかけたり・・・そうしているうちにひなた自身はポチットを・・・・・・。

 

「・・・どうしたら仲良くなれるかなぁっていっぱい考えてたら、いつの間にか『可愛い』って思ってた!!」

 

「いつの間にか?」

 

「!!」

 

アスミは疑問を抱いていたが、かすみは何かを察したように目を開く。

 

「相手を知りたいという気持ちを、持ち続けたからじゃないかしら」

 

そこへラテを抱いたちゆと、ポチットを抱いたのどかが合流する。どうやらポチットは人にだいぶ慣れた様子で、表情は元気そうだった。

 

「ずっと考えてたんだけど、『可愛い』って相手を見ているうちに思わず守りたくなる、そんな気持ちだと思うの」

 

「そっかぁ~、だから抱きしめたくなっちゃうのかも」

 

「ラビ♪」

 

「さっすが、ちゆちー♪」

 

ちゆがそう考えると、のどかはぽつりと呟く。

 

「!! だったら、私に溢れてくるこの胸の熱さも・・・?」

 

「たぶん、そうだと思う。かすみの中に守りたいという気持ちや、抱きしめたいという気持ちがあるからだと思うわ」

 

「・・・そうか。そう、なんだな」

 

かすみは微笑みながらそう話すと、のどかの方に向き直る。

 

「のどか」

 

「?」

 

「私もポチットを抱いても、いいか?」

 

「もちろんだよ~♪」

 

のどかから許可をもらうと、かすみは顔を紅潮とさせながらもポチットに近づく。怖がらせないようにゆっくりと近づき、のどかからポチットを受け取る。

 

ポチットはかすみを怖がることなく、静かに彼女を受け入れる。

 

「はぁ・・・!」

 

かすみはポチットが自分を見つめる無垢な瞳に、言葉にならない声を上げる。

 

「ウゥ~ン」

 

「あぁ・・・あぁぁぁ・・・!!!」

 

ポチットがあげる鳴き声に、かすみは胸の中に熱いものが急激に流れ込んでくるような感じがした。

 

かすみはゆっくりとポチットに顔を近づけ、ゆっくりと頬ずりをする。

 

「!!・・・ふふふっ・・・!」

 

頬ずりを受け入れるかのように笑顔になったポチットに、かすみは胸の中にほっこりとした何かが芽生え、いつの間にか笑顔になって頬ずりをしていた。

 

「ポチットと仲良くできて、かすみっち嬉しそ~♪」

 

「さっきまではあんなに落ち込んでたのにニャ♪」

 

ひなたとニャトランがその様子を微笑ましく見つめ、のどかとちゆも笑顔になった。

 

「なるほど、『可愛い』はまず興味を持って、相手を見ることからなのですね」

 

スタタタタタタタタ!!!!

 

アスミはそう考えると素早く動き、かすみに抱きかかえられたポチットに近寄る。

 

「ひぃっ!?」

 

かすみはアスミが異様な速さで近づいてきたことに、思わず小さな悲鳴をあげて驚く。

 

「失礼いたします」

 

「!? キャウン! キャン!!」

 

「あ、うわぁ!?」

 

突然、顔を近づけてきたことにポチットは驚き、かすみの手から抜け出すと彼女の足元へと隠れるようにうずくまってしまった。

 

「?? よく見せてもらえません・・・」

 

アスミは左右に動きながらポチットの顔を見ようとしていたが、ポチットは体を震わせて怯えている。

 

「うん・・・まあ・・・そりゃ、そうだろ・・・」

 

「あはは・・・」

 

ひなたとニャトランはその様子を苦笑しながら見つめていた。

 

「アスミ!! またポチットが怖がってるじゃないか! 私も驚いたぞ・・・!?」

 

「でも、相手をよく見て知っておかないと・・・」

 

「私もよくわからないが、たぶんそういうことを言ってるんじゃないと思うぞ・・・!!」

 

「??」

 

思わず心臓が止まるかもしれないと思うほど驚いたかすみがアスミを諭す。

 

アスミがまだまだ、言葉の意味を理解するにはもうちょっとかかるだろうと思うのどかたちなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

のどかたちがそんなことをしている頃、ドックランから少し離れた建物のそばにドクルンの姿があった。

 

ドクルンはドックランで遊んでいる飼い主と犬たちの様子を眺めている。

 

「ふふふ・・・可愛いワンちゃんたちがたくさんいるわねぇ」

 

ドクルンは不敵な笑みを浮かべながら、犬たちの方を見つめる。

 

「私も、あの中に入って、あのモフモフを触れたら・・・はぁぁぁぁぁ・・・!!!」

 

ドクルンは自分が犬を撫でてる様子を想像したのか、恍惚とした表情になる。しかも、その表情のまましばらくの間、固まってしまう。

 

「ドクルン!! ドクルン!!!!」

 

「・・・っ!? んっんー・・・!」

 

スタッドチョーカーのブルガルが叫びをあげると、ドクルンは我に返って咳払いをする。

 

「さっきからボーッとしすぎブル。いつも冷静なお前がどうかしたのかブル?」

 

ブルガルが冷静にそう言い放つ。先ほどからドクルンは動物たちを見るなり、様子がおかしい。何か変な想像をしては、気の抜けたような表情をして固まっている時が多い。

 

「動物というのは不思議な魔力があるわねぇ。ついそれに吊られてしまいました」

 

「・・・何だ、それ?」

 

「ブルガルにはわからないことですよ」

 

ドクルンは冷静を装いながらそう言うも、ブルガルには一つも理解できそうになかった。

 

「さてと、あのモフモフを持ち帰るためにはどうすればいいのかしら?」

 

「目的が違ってるブルよ・・・」

 

「いいえ、違ってないわ。私はあのモフモフをお持ち帰りしたいのよぉ」

 

ドクルンは両手を頬に当てながら悶えている。その表情は先ほどと同じように恍惚としたものになっている。

 

「ついでに、自然豊かなこの場所も蝕んで、さらに欲を言えば、メガパーツもどうにかして手に入れれば、一石三鳥ね」

 

「ビョーゲンズにモフモフはいらないブル。ドクルン、さっきから目的がいろいろとまとまってないブル」

 

ドクルンが得意げな感じで言っているも、ブルガルは呆れてばかりである。今日のドクルンはやはりおかしいと。

 

「じゃあ、まとめてあげるわ。地球を病気に蝕んで、モフモフとメガパーツを手に入れる、3つとも全部やってみせるってことよ」

 

「そういうことを言っているんじゃないブル」

 

なんとなく作戦をまとめただけのドクルンに、ブルガルは呆れを崩さない。しかし、ドクルンはブルガルの言葉など気にせずにメガビョーゲンにする素体を探し始める。

 

ふと、屋根の下のにある木のテーブルの上に小さな冷蔵庫が置かれているのに目をつける。どうやらあの飼い主の中の誰かの私物のようだ。

 

「あれならうまくいくかしらねぇ」

 

ドクルンはベンチの近くの芝生に飛び降りて、その小さな冷蔵庫へと近づく。

 

「まあ、凍らせてしまえばいけるんじゃないか?ブル」

 

「氷像にしてしまえば可愛いワンちゃんたちをそのまま保存できるわねぇ。そうすれば、私はその氷像を眺めながら・・・はぁぁぁぁぁぁ・・・!!!!!」

 

ドクルンはそのことを想像して、恍惚とした表情のまま、また固まってしまう。

 

「ドクルン!! またぼうっとしてるブル!!」

 

「・・・はっ!?」

 

ドクルンはブルガル再度叫ぶと、また我に返った。

 

「ワンちゃんたち・・・なんという魔力なの。恐ろしいわね・・・」

 

「ドクルンが単に浮かれているにしか見えないブル・・・」

 

ドクルンは意外そうな感じでそういうと、ブルガルはまたまた呆れるばかりだ。

 

「これ以上トリップする前にさっさと仕事をしましょうかしらねぇ」

 

「・・・もうどうにでもなれブル」

 

ドクルンはいつもの調子で不敵な笑みを浮かべながらそういうも、ブルガルは呆れて返す言葉もないほどだった。

 

ドクルンは指をパチンと鳴らし、黒い塊を出現させる。

 

「進化してください、ナノビョーゲン」

 

「ナノデス~」

 

生み出したナノビョーゲンが鳴き声を上げながら、テーブルの上の小さな冷蔵庫へと取り憑く。飼い主の私物の小さな冷蔵庫が病気へと蝕まれていく。

 

「・・・!?・・・!!」

 

冷蔵庫の中に宿るエレメントさんが病気へと蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガビョーゲン・・・」

 

大小の二つの扉がついた冷蔵庫のような胴体、氷のような両手両足を持ったメガビョーゲンが誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクン!!!!

 

「!!??」

 

かすみは心臓のような音が聞こえたかと思うと目を見開く。そして、明後日の方向を振り向く。

 

「かすみちゃん、どうしたの?」

 

かすみの様子が突然変わったことに、疑問に思ったのどかが尋ねる。

 

「泣いている声が聞こえる・・・!」

 

「「「「!?」」」」

 

「ペエ!?」

 

「ラビ!?」

 

かすみのその言葉を聞くと、のどかたち3人と相棒のヒーリングアニマルたちは驚く。もしや・・・・・・!!

 

そう思った、その瞬間・・・・・・。

 

「クチュン!! クチュン!!」

 

ちゆが抱いているラテが2回くしゃみをして、ぐったりし始めた。

 

「ラテ・・・!!」

 

「やっぱりビョーゲンズだ!!」

 

アスミもラテの様子が変わったことに驚く中、ニャトランはかすみとラテの反応からビョーゲンズの仕業であると察知する。

 

「こっちだ! バレない場所は!!」

 

かすみは、正体がバレないようにのどかたちみんなを隠れられるような場所へと走る。それを察したみんなはかすみへと着いて行く。

 

少し離れた場所にある建物の裏で、ちゆが抱いているラテにアスミが聴診器を当てて診察をする。

 

(近くでトウモロコシさんが泣いてるラテ・・・近くで小さな冷蔵庫さんが泣いてるラテ・・・)

 

「! そういえば、近くにトウモロコシ畑があったよね!!」

 

「小さな冷蔵庫って、何だ・・・?」

 

ひなたがそう言う。どうやら狙われたのはこのドックランの近くに有る畑のトウモロコシと、その小さな冷蔵庫のようだった。

 

「「うわあぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

遠くで誰かの悲鳴が聞こえてきた。もしかすると、トウモロコシ畑の農家のおじさんかもしれない・・・・・・。

 

「みんな!!」

 

のどかが号令をかけると、みんなは頷き変身アイテムを出す。

 

「「「スタート!」」」

 

「「「プリキュア、オペレーション!!」」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

 

「「「キュアタッチ!!」」」

 

ラビリン、ペギタン、ニャトランがステッキの中に入ると、のどか、ちゆ、ひなたはそれぞれ花のエレメントボトル、水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

そして、肉球にタッチすると、花、水、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、水色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ちゆは水色、ひなたは黄色へと変化する。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

そして、アスミは風のエレメントボトルをラテの首輪にはめ込む。すると、オレンジ色になっているラテの額のハートマークが神々しく光る。

 

「スタート!!」

 

「プリキュア、オペレーション!!」

 

「エレメントレベル上昇ラテ!!」

 

「「キュアタッチ!!」」

 

キュン!!

 

ラテとアスミが手を取り合うと、白い翼が舞い、ラテが舞ったかと思うとハートの中から白い白衣のようなものが飛び出す。

 

その白衣を身に纏い、ラテが降りてきたかと思うとハープが飛び出し、さらにアスミは紫色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

衣装にチェンジした後、ハープを手に取り、その音色を奏でる。

 

「「時を経て繋がる、二つの風!」」

 

「キュアアース!!」

 

「ワン!」

 

アスミは風のプリキュア、キュアアースへと変身した。

 

「「「「地球をお手当て!!」」」」

 

「「「「ヒーリングっど♥プリキュア!!」」」」

 

変身を終えた4人はポチットとラテを木陰のそばに置く。

 

「クゥ~ン・・・・・・」

 

「二人とも、ここで隠れててね」

 

「すぐに、戻るからな」

 

不安そうな顔をするポチットを、スパークルは撫で、かすみは優しく励ます。

 

そして、5人はメガビョーゲンがいる場所に向かおうとするが・・・・・・。

 

「メェ~~~~ガァッ!!!」

 

トウモロコシのメガビョーゲンは、畑から土煙を上げながら飛び上がると、なんとドッグランのそばへと飛来してきた。

 

「ビョ~~~~ゲンッ!! ゲンッ!! ゲンッ!!!」

 

メガビョーゲンは口から赤い玉のような光弾を発射し、ドッグラン内を攻撃し始める。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

突然の攻撃に犬と飼い主は慌てふためき、悲鳴をあげて逃げ始めた。

 

「メェー・・・ガァッ・・・!!」

 

パキパキパキパキパキパキッ!!!!

 

冷蔵庫型のメガビョーゲンは胴体の扉を開けると冷気を放ち、自身の周囲の広範囲を氷漬けにして蝕み始めた。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

犬と飼い主たちは氷漬けになっていく地面に恐怖して逃げ出していく。

 

「いいですよぉ、そのままここ一帯を蝕んでしまいなさい」

 

ドクルンは不敵な笑みを浮かべながら、メガビョーゲンに指示を出している。

 

ふと、建物の方向へと見ると、そこには4人のプリキュアと脱走者の姿が。

 

「今日は随分と早いわね・・・まさか、ここにいたとか?」

 

ドクルンはあまりにも来るのが早すぎるプリキュアたちに、今日はこのドックランを訪れていたのであろうと推測し、笑みを浮かべる。

 

クゥ~ン・・・・・・。

 

「ん?」

 

何やら声がするのを微量に感じ取ったドクルンは訝しげな表情を浮かべながらその方向へと振り向く。そこには建物の裏に生きていると感じられるものが二つ。

 

しかも、そのうち一匹は・・・!

 

「!! ふふふ・・・」

 

ドクルンは驚いた表情の後に不敵な笑みを浮かべながら、その方向へと歩いていく。

 

「メガビョーゲンは2体いるぞ。どうする?」

 

一方、メガビョーゲンの様子を見ていたかすみはプリキュアのみんなに指示を仰ぐ。

 

「私とグレースで、1体のメガビョーゲンを食い止めるわ! アースはもう1体のメガビョーゲンを食い止めて!! その間にスパークルとかすみはみんなを安全な場所へ!!」

 

「「わかった」」

「OK!」

「わかりました」

 

フォンテーヌの指示を受けて、みんなは頷き、それぞれの持ち場へと急ぐ。

 

「うわあぁぁぁん!!」

 

白い犬の飼い主の少女はあまりの恐怖にへたり込んで泣いており、その場から動けずにいた。

 

「メガビョーゲン」

 

トウモロコシのメガビョーゲンはその少女に尻尾を伸ばして襲いかかろうとする。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「メガァ!?」

 

そこへフォンテーヌが尻尾を蹴り上げて、少女に到達するのを防ぐ。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ビョーゲン!?」

 

さらに背後にいたグレースが駆け出し、パンチを食らわせてメガビョーゲンを吹き飛ばす。

 

「メェーガァッ!!!」

 

別の方向から冷蔵庫型のメガビョーゲンが上の小さな扉を開けて、そこからやや大きな氷の塊を少女に目がけて発射する。

 

「はぁっ!!」

 

少女のそばへと駆け寄ったかすみが氷の塊を蹴り上げて上に飛ばす。

 

「ふっ!!!」

 

そこへアースが飛び上がり、渾身の蹴りを加えて氷の塊をメガビョーゲンへと返す。

 

「ビョーゲン!?」

 

氷の塊はメガビョーゲンの顔面へと当たり、背後へと倒れていく。

 

「さあ、キミ。今のうちに逃げよう!」

 

「うん・・・」

 

かすみは少女の体を抱える。アースはメガビョーゲンの攻撃が再びこちらに来た時に備えて構える。

 

「ワン!!」

 

「「!!」」

 

少女の飼い主はかすみを見つめ、白い犬はアースとかすみを見つめる。まるで、助けてくれてありがとうと言ってくれているかのようだ。

 

アースとかすみはその犬に何らかの思いを感じたような気がした。

 

「・・・アース、頼んだぞ」

 

「あ、はい!」

 

かすみはアースにその場を任せると、少女を白い犬と共に安全な場所へと届けるために走る。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

スパークルは腰を抜かしてしまった中年の男性を背負って安全な場所へと駆け出していた。

 

一方、トウモロコシのメガビョーゲンと戦うグレースとフォンテーヌは・・・。

 

「氷のエレメント!!」

 

フォンテーヌは氷のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「はぁぁぁぁ!!!」

 

「メェガァ・・・?」

 

冷気を纏った光線を放ち、メガビョーゲンを足元から凍らせる。

 

「実りのエレメント!!」

 

グレースは実りのエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「はぁっ!!」

 

「メガビョー!?」

 

ピンク色の光弾をステッキから放ち、メガビョーゲンに直撃させる。

 

「メェガァ、メガァメガァメガァ・・・」

 

冷蔵庫型のメガビョーゲンは上の小さな扉を開いて、やや大きな氷の塊を次々と発射する。アースは駆け出していきながら、片なく避けていく。

 

「ふっ!! はぁぁぁぁ!!!!」

 

「メガ・・・ビョーゲン!?」

 

アースはメガビョーゲンに一定まで近づくと、飛び上がって渾身の蹴りを繰り出す。メガビョーゲンは両腕の氷で防ぐも、威力を抑えきれずに再び地面へと倒される。

 

「何よ・・・あっさりとやられてるじゃない。このままだと私の目的が潰えそう・・・」

 

ドクルンはその様子を不機嫌そうな表情で見つめていた。

 

「あの新入り、意外と侮れないわね・・・」

 

ドクルンは自分のメガビョーゲンを相手にするアースを見つめながら言う。

 

「少し遊んでやらないとダメかしら」

 

ドクルンは不敵な笑みを浮かべると、片足を振り上げて地面へと叩きつけた。

 

「速やかに浄化しましょう」

 

アースはそのまま浄化の構えへと入ろうとする。しかし・・・・・・。

 

ドドドドドドドドドッ!!!!!

 

「!!」

 

そこへ氷柱のような氷の線が迫っていき、アースが飛び上がって避けると立っていた場所に氷の柱が伸びた。

 

「そんな簡単にはやらせませんよ、新入りさん」

 

アースが氷の迫ってきた方向を見やると、建物がある丘の上にドクルンが立っていた。

 

「っ・・・!!」

 

「ふっ・・・」

 

アースは敵が出現したことに構えるも、ドクルンは不敵な笑みを浮かべるとその場から姿を消す。

 

「!? あぁ・・・!!」

 

アースの横へと現れたドクルンはミドルキックを繰り出し、とっさに気づいたアースは防ぐも威力を殺せずに吹き飛ぶ。

 

吹き飛んだアースは倒れないように踏ん張って耐える。その隙にドクルンはメガビョーゲンの緑色のかけら、メガパーツを取り出す。

 

「メガビョーゲン、こいつを与えてやりますから、プリキュアを倒しなさい」

 

ドクルンはメガパーツを宙へ放り投げてキャッチすると、それを自身のメガビョーゲンに目がけて放り投げた。メガパーツは倒れているメガビョーゲンに当たると、その体に飲み込まれていく。

 

「メッ、ガァ!? ビョビョビョビョビョビョビョビョー・・・!!!!」

 

メガビョーゲンは苦しむ声を上げながらも、その体は禍々しいオーラに包まれていき、膨大な力へと満ちていく。

 

「メガ、ビョーゲン・・・!!!!」

 

メガビョーゲンは巨大化してパワーアップし、さらに両手両足の氷も数倍に大きく巨大化を遂げた。

 

パキパキパキパキパキパキパキパキパキパキ・・・!!!!!!

 

さらにその余波なのか、かなりの広範囲が氷漬けにされて、蝕まれていく。

 

「ほほぉ~・・・確かにメガパーツは急成長を促進させるようねぇ」

 

ドクルンは急成長したメガビョーゲンに愉快そうな表情を浮かべながら言った。

 

「!?」

 

アースは飛び上がって、その余波を交わし、氷漬けになった地面へと着地する。

 

「かなり危険な感じがします・・・!」

 

アースはパワーアップしたメガビョーゲンの様子により一層の警戒心を抱く。

 

「!? な、なんだ・・・!?」

 

かすみは安全圏に避難させている途中で振り向き、地面の氷漬けが迫ってきたことに驚く。

 

「メガァ!?」

 

「な、なんだこれは!?」

 

しかも、それはグアイワルが投げたメガパーツでパワーアップさせたメガビョーゲンのところまで氷漬けになり、メガビョーゲンとグアイワルが突然の出来事に驚く。

 

「どういうこと・・・!?」

 

「なんで地面が氷漬けに・・・!?」

 

飛びのいて交わしたフォンテーヌとグレースも、このような事態に驚きを隠せなかった。

 

「うわぁぁぁ~、追いつかれる~!!!」

 

スパークルも逃げ遅れた人を背負っている途中で、地面の氷漬けが迫り、スピードを速めていた。ようやく安全圏へと避難させて人をおろし、ドッグランの方向を振り向く。

 

「嘘・・・ドックランが一面、氷の世界じゃん・・・!?」

 

スパークルはドックランが何もかも氷漬けになったことに驚きを隠せなかった。

 

「急いで浄化をしなければ・・・!!」

 

アースは立ち上がったメガビョーゲンに構える。

 

「メェェェェェェェ・・・・・・」

 

冷蔵庫型のメガビョーゲンは、上の小さな扉を開けるとそこに禍々しいオーラを溜めていく。

 

「ガァァァ・・・!!!!」

 

ビィィィィィィィィィィ!!!!

 

そして、それを青色のレーザー状にしてアースに目がけて放った。

 

「!?」

 

アースはとっさに横に飛びのいて交わす。

 

ドォォォォォォォン!!!!

 

しかし、地面へと一直線に放たれたレーザーは直前状で爆発を起こし、ドックランだけでなく、その遠くにある木や自然までも氷漬けになって蝕まれていく。

 

「っ・・・!」

 

「私もいるのを忘れていませんか?」

 

「!! あぁぁぁ!!!」

 

ドクルンがアースの背後へと出現しており、彼女がこちらを振り向いた瞬間に腹部に足を入れ、そのまま押し出すように蹴り飛ばした。

 

「メェッガァ・・・!! メェガァ・・・!!!!」

 

メガビョーゲンは遠方にレーザーを放って爆発を起こし、その場所を氷漬けにして蝕んでいく。

 

「私のメガビョーゲンは大丈夫そうねぇ。あとは・・・」

 

ドクルンはその様子を見て笑みを浮かべると、懐からあるものを取り出す。

 

「クゥ〜ン・・・ウゥ〜ン・・・」

 

「活動に邪魔なこいつをどうするか、かしらねぇ」

 

それは、アースのパートナーであるラテであった。

 

「!! ラテ!!」

 

倒れないように踏ん張ったアースは、ドクルンの手元にあるラテの姿を見て驚愕する。見つからない場所に隠しておいたはずなのに、いつの間にか囚われていたとは・・・!

 

「おっと、動かないでくださいよ。そこから少しでも動いたらこいつを氷漬けにしますからねぇ。ああ、それかあのメガビョーゲンの中に入れてやるのもいいですねぇ」

 

ドクルンは不敵な笑みを浮かべながら、オーラを集中させた指先をラテに向ける。また、別の案が思いついてメガビョーゲンの方に視線を向ける。

 

「くっ・・・なんて卑怯な・・・!!」

 

「なんとでも言ってください。痛くもかゆくもありませんからねぇ」

 

アースはラテを人質に取られていてその場から動くことができない。その様子を見てドクルンはさらん笑みを深くする。

 

「メェェェェ〜ガァ・・・!!!」

 

「っ・・・!!」

 

メガビョーゲンはその動けないアースに目がけて、やや大きな氷の塊を放つ。アースは目を瞑り、両腕をクロスさせて防御をしようとする。

 

「はぁぁぁぁ!!!!」

 

「ぷにシールド!!!」

 

そこへ間一髪でかすみとスパークルがシールドを展開する。氷の塊はシールドに着弾して爆発を起こす。

 

二人はシールドを解除して、アースへと振り向く。

 

「アース、どうしたんだ!?」

 

「そうだよ!! いつもならメガビョーゲンなんかあっという間じゃん!!」

 

かすみとスパークルはアースが苦戦を強いられているのを信じられない様子でいた。

 

「ラテを、あのビョーゲンズに・・・!」

 

「っ!! ラテ!!」

 

「ラテ様!!」

 

かすみとニャトランは、ドクルンの手の中にいるラテを視線に移すと叫ぶ。

 

「おやおや、遅かったですねぇ」

 

「ドクルン、この野郎!! ラテ様を離せ!!」

 

不敵な笑みでこちらを見据えるドクルンに、ニャトランが怒りの声を上げる。

 

「簡単に切り札を見す見す手離すとでも思っているのですか?」

 

「ラテを離さないと、許さないぞ・・・!!」

 

かすみが怒りの声をあげて、黒いステッキを構える。

 

「許さないからなんなのですか? それに許さないのはこっちの方です。メガビョーゲン、こいつらを倒してしまいなさい」

 

「メガァ・・・!」

 

ドクルンが笑みから冷たい表情へと変えると、メガビョーゲンに指示をし、メガビョーゲンは前に出る。

 

「っ・・・行くぞ、スパークル・・・!!」

 

「OK!」

 

かすみとスパークルは、お互いを鼓舞しながらメガビョーゲンへと構えた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第66話「黒化」

前回の続きです。
バトルがメインです。
あと気になるところも何点か入れているので、注目してみてください。


 

「メェーガァ!!!!」

 

グアイワルが生み出したトウモロコシ型のメガビョーゲンは、自身の体から赤い光弾を複数生み出して、周囲へと放つ。

 

「「!!」」

 

グレースとフォンテーヌは、その場から飛び退き、赤い光弾は地面に着弾して爆発を起こす。

 

「この氷・・・おそらくドクルンだな。ここ一帯を氷地帯にされたときは驚いたが、俺の作戦に支障はない・・・!!」

 

ドッグランは一面がドクルンのメガビョーゲンによって蝕まれた氷の世界へと変わっている。驚いたグアイワルは冷静に分析していたが、こちらは特に問題はないので気にしないことにした。

 

「メッガァ!!!」

 

「あ・・・!」

 

「うぅ・・・!!」

 

メガビョーゲンが頭のツルを伸ばして、空中へと逃げたグレースとフォンテーヌを拘束する。

 

「やれ!! メガビョーゲン!!」

 

「メガァ!!」

 

グアイワルの指示を受けて、メガビョーゲンは高く飛び上がる。

 

「ビョーゲン!!!」

 

「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

そして、身体を回転させて勢いをつけると、そのままグレースとフォンテーヌを地面へと叩きつける。

 

「グレース!! フォンテーヌ!!」

 

アースはメガビョーゲンにやられた二人を見て叫び、飛び出そうとするが・・・。

 

「動くなと言ったでしょう・・・?」

 

「クゥ~ン・・・・・・」

 

「っ・・・・・・」

 

そこへドクルンがアースを牽制するかのように、指先をラテに近づける。アースはラテを氷漬けにさせられる可能性もあって、その場から動くことができない。

 

「なぜ、こんなことをするのです・・・!?」

 

「何のことですかぁ?」

 

「こうやってみんなの場所を病気にして、危険な状態にすることです・・・!!」

 

アースは怒りの形相でドクルンに問う。なぜ、以前来たクルシーナやイタイノンもそうだが、こんなひどいことができるのか・・・。

 

「決まっているではないですか。この方が私たちにとっては居心地がいいからですよ」

 

ドクルンは不敵な笑みを浮かべながら当然のように言う。

 

地球の環境はビョーゲンズにとっては居心地が悪い。だから、メガビョーゲンを利用して病気で蝕んでしまえば、自分たちにとって都合のいい場所になり、自分たちが住めるような環境になるためにやっているのだ。

 

「それは、犬やあの人たちの居場所を奪ってまで行うことなのですか・・・!?」

 

「そりゃここの環境は悪いですからねぇ、居場所を奪わざるを得ないでしょう」

 

アースの非難の声に、ドクルンは首を振りながら当然のように答える。

 

「メェェェェ~ガァ・・・!!」

 

一方、冷蔵庫型のメガビョーゲンは上の小さな扉を開いて、氷の塊を次々と放つ。かすみとスパークルは飛んでかわし、メガビョーゲンの方へと飛び出す。

 

「メガ、メガ、メガ、メガ、メガ、メガ・・・!!!!」

 

メガビョーゲンはこちらへ向かってくる二人に向かって、氷の塊を発射していく。

 

「はぁっ!!」

 

かすみはシールドを展開して、氷の塊を弾き、その上にスパークルが乗って一気にメガビョーゲンへと飛ぶ。

 

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

「メガァ・・・!?」

 

スパークルは閉じたメガビョーゲンの扉を蹴りつけて、メガビョーゲンをよろけさせる。

 

「メェェェガァァァ・・・!」

 

しかし、メガビョーゲンはすぐに上の扉を開いて、青い禍々しいオーラを溜め始める。

 

「!?」

 

「っ!? 危ない!!」

 

地面に着地したかすみは再び飛び上がるとスパークルの前へと飛び出す。

 

「ビョーゲン・・・!!」

 

メガビョーゲンは青色のレーザーを二人に目がけて放つ。

 

「はぁっ!!」

 

かすみはとっさにシールドを展開してレーザー攻撃に備える。

 

「ぐっ、うぅ・・・うわぁぁぁ!!!」

 

「あぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ドォォォォォォン!!!!

 

レーザーの威力を殺しきれずにそのまま吹き飛ばされてしまい、地面に着弾して爆発を起こした。

 

「スパークル!! かすみさん!!」

 

アースは叫ぶも、ドクルンにラテを人質に取られている状態ではどうすることもできない。

 

ドカァァァァン!!!!

 

と、そこへ遠方から爆発音が響き、アースがそちらに視線を向けると倒れているグレースとフォンテーヌの姿があった。

 

「うぅ・・・!」

 

「くっ・・・!」

 

「グレース!! フォンテーヌ!! ぐっ・・・!」

 

倒れているスパークルが、二人に向かって叫ぶ。二人は先ほどのトウモロコシのメガビョーゲンの切れたツルに拘束されたまま、動けずにいた。

 

「プリキュアも所詮はこの程度ですか。そこの新入りもこいつをこっちに持ってればどうしようもありませんねぇ」

 

ドクルンが自身のメガビョーゲンの側へと姿を現わす。

 

「ドクルン・・・!!」

 

「!? ラテ!! どうして!?」

 

グレースはラテがドクルンの手に入ることに疑問を抱く。

 

「建物の裏で氷漬けになりそうだったので、私が身を預かったんですよぉ」

 

「そ、そんな・・・!!」

 

ドクルンはメガネをあげながら、ニヤけた表情のまま言う。

 

「ハッハハハハ!! どうだ!? プリキュア!!」

 

「そちらも片付きそうな感じですねぇ」

 

そこへグアイワルが笑い声をあげながら姿を現し、そちらに二人のプリキュアが倒れている様子を見てドクルンも不敵な笑みを浮かべる。

 

「グアイワル!! ドクルン!! ここは人と動物がみんなで遊ぶ場所なの!!」

 

「お前たちの来る場所じゃない!!」

 

スパークルとかすみがそのように叫ぶ。

 

「ああ、そうですか。ですが、私には関係ありません。それにここ一帯が蝕まれたぐらいで何を吠えてるんです?」

 

「そうだ。それに人間と動物が遊ぶ? 下等生物ごときにかまけているなどくだらん・・・!!」

 

ドクルンとグアイワルは見下した言葉を言う。特にグアイワルの言った言葉に反応したものが二人いた。

 

「下等生物、だと・・・? あんなに人間のことを理解できる動物のどこが下等だというんだ!! そういうのを理解できないお前たちの方がよっぽど下等だ!!」

 

かすみは信じられないと言った表情をした後、怒りの形相をしながら反論する。

 

ドクルンは驚いたような表情でそれを聞くと、ため息をつく。そして、冷めたような表情へと変える。

 

「・・・私と同族のあなたが何を言っているのですか? 地球の生物と遊びすぎて、情でも沸いたんですかね」

 

「私はお前と同族じゃない!! お前と私を一緒にするな!!!」

 

「一緒ですよ、あなたは私たちと。自分が普通でないことに気づいていないんですか?」

 

かすみとドクルンが口論する中、アースもグアイワルの言葉に反応を見せていた。

 

「下等生物・・・?」

 

アースの頭の中には、犬を抱いて可愛がる中年男性、大きな白い犬と戯れる少女・・・そんな飼い主と犬たちが楽しく過ごしているときを思い出す。

 

それらを下等生物と蔑むビョーゲンズ・・・アースは自分の中に言い知れぬ感情が芽生えてくるのを感じた。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

「キャン!キャン!・・・ウゥゥゥゥ・・・」

 

アースが気付いて視線を戻すと、なんと隠れていたはずのポチットがスパークルたちとグアイワル、ドクルンの間に立ちはだかっている。

 

ポチットは怯えた表情をしながらも、果敢にスパークルたちを守ろうとしていた。

 

「ポチット? 危ないよ、ポチット!!」

 

「逃げろ、ポチット!!」

 

スパークルとかすみは驚いたような表情をしながらも、ポチットに向かって叫ぶ。

 

「・・・!!」

 

アースは、そのポチットに何かを感じるかのように見つめていた。

 

「クッフフフフフ、アッハハハハ!! いいですねぇ・・・本当は怖いくせに自ら身を乗り出してプリキュアたちを庇うなど、本当に可愛い・・・!!」

 

ドクルンは驚いたような表情だったが、何かを感じたかのように笑い声をあげ、不敵な笑みを浮かべる。

 

「その態度に免じて、氷漬けにしてやるとしましょう。メガビョーゲン、やりなさい」

 

「メェェェ~・・・!!!!」

 

ドクルンはポチットを持ち帰ろうと、メガビョーゲンに攻撃するように指示を出す。メガビョーゲンは上の扉を開けると、そこに青色のオーラを収束させていく。

 

「ポチット!!」

 

フォンテーヌは逃げるように叫ぶも、ポチットはその場から唸ったまま動かない。

 

ドクン!!!!

 

「や、やめろ・・・」

 

かすみはその様子を怯えたように見つめ、そう呟く。

 

ドクン!!!!

 

そんなかすみの中に言い知れぬような感情が湧き出ていく。そして、黒い何かが彼女の体から放出されていく。

 

「逃げてっ!!」

 

グレースが叫ぶも、ポチットは体を震わせたまま動くことができない。

 

ドクン!!!!

 

「やめろ・・・!!」

 

かすみの中の言い知れぬ感情が大きくなる。それと同時に黒い何かの放出も止まらなくなる。

 

ドクン!!!!

 

「っ・・・!!」

 

「おっと、あなたは動いてはいけませんよぉ」

 

「くっ・・・!!」

 

アースは飛び出して助けようとしたが、ドクルンがオーラを収束した指先をラテに近づけたため、動くことができなかった。

 

ドクン!!!!

 

「やめてくれ・・・!!」

 

かすみの中の言い知れぬ感情がさらに大きくなる。それと同時に黒いオーラがかすみの体全体を侵蝕していく。

 

ドクン!!!!

 

「ガァ・・・!!!」

 

プリキュアたちの叫びも虚しく、メガビョーゲンは集約したオーラをビームにして放った。

 

「クゥ~ン・・・!!」

 

ポチットは迫ってくるビームに体を震わせており、その場からあまり動くことができない。

 

ドクン!!!!

 

「ダメェェェェ~!!!!!!」

 

スパークルは叫びながら、助けようとポチットに手を伸ばす。

 

ドクン!!!!

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

かすみの言い知れぬ感情が爆発し、黒いオーラが大量に放出される。そして、その瞬間・・・かすみの力が抜けて無気力な状態になったかと思うと、その場から彼女の姿が消える。

 

そして・・・・・・。

 

ドォォォォォォォォォォン!!!!

 

ビームが着弾して爆発を起こし、白い煙に包まれる。

 

「ああ・・・・・・」

 

スパークルはそれを見ると同時に絶望の表情になる。ポチットはメガビョーゲンの攻撃を受けてしまったのか・・・。

 

「ふふふ・・・」

 

ドクルンは不敵な笑みを浮かべながら、その様子を見る。

 

白い煙が晴れた時、そこには氷漬けになったポチットの姿・・・・・・は、なかった。

 

「っ!?」

 

ドクルンは氷漬けになっているはずのポチットの姿がないことに目を見開く。あんな状態で急いで逃げれるわけがない。一体、どういうことなのか・・・!!

 

すると、グレースとフォンテーヌの背後からかすみが姿を現わす。その手の中にはポチットがあった。

 

「あ、かすみっち!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

スパークルは背後にいたかすみに声を掛けるも、彼女は何も答えない。それに彼女の体から黒いオーラが放出されている。

 

かすみは背後を向いてしゃがみこむと、ポチットをゆっくりと地面に下ろす。

 

「お前はここで、大人しくしてろ」

 

「クゥ~ン・・・?」

 

かすみはポチットにそう声を掛けるも、彼女の声はいつもより低く、ポチットも彼女の様子に違和感を感じていた。

 

ポチットの心配する声を気にせず、その場から姿をしたかと思うと、スパークルの横に姿を現わす。

 

「かすみっち・・・?」

 

スパークルは様子のおかしいかすみに声をかける。

 

「かすみちゃん・・・?」

 

「何か、様子がおかしいわ・・・!」

 

グレースとフォンテーヌも異変を感じ取ったようで、そう口にしていた。

 

「かすみさん・・・何だか、邪な気配を感じます・・・!」

 

アースも何かを感じ取ったようで、それに険しい表情をしていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

かすみは周囲から声を発していても、黙ったままだ。

 

「・・・脱走者、それは何なんですか?」

 

ドクルンは先ほどの笑みはなく、かすみに冷たい表情を向けながら言った。

 

「ドクルン、あれが例の脱走者か? 何だか様子が違うようだが・・・」

 

グアイワルはそばにいたドクルンに声をかける。脱走者のことは噂に聞いていたが、何やら様子がおかしいことを感じ取っているようで、彼女に問うていた。

 

「私の・・・!」

 

かすみは今までにないくらいの低い声を出す。そして、今までに見たことがない怒りの形相をビョーゲンズに向ける。その瞳は赤く染まっていた。

 

「私の大切なものの命を・・・この場所を・・・!!」

 

かすみの周囲に風でも吹いているのか、彼女の金髪がゆらゆらと揺れる。それは何か禍々しいものを放出しているかのようだった。

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・!!!!

 

さらに地面が揺れ始め、かすみの黒いオーラが増えていく。

 

「これ以上、傷つけるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

ゴォォォォォォォォォォォ!!!!

 

かすみが絶叫したその瞬間、体から膨大なオーラが溢れ、彼女の体がそれに包まれていく。

 

「うぅ・・・ど、どうなってんの!?」

 

「かすみ・・・どうしたの!?」

 

「かすみちゃん!!」

 

スパークルはかすみから発生した衝撃波に思わず腕で顔を覆うも、かすみの異変に戸惑いの声を上げ、フォンテーヌとグレースは叫び声をあげる。

 

「あれは、もしかして・・・!!」

 

アースはかすみの様子を見て、険しい表情をしていた。

 

「! あれは、メガビョーゲンの出すオーラと同じですね・・・」

 

ドクルンは目を見開いてかすみを見るも、冷静に分析する。あの膨大なオーラはメガビョーゲンにメガパーツを埋め込んで、発生するあの光景に似ていると。

 

というふうに見ると、やはりあの脱走者は・・・!

 

ドクルンはかすみに対して何か確信を持てたように、口元に笑みを浮かべた。

 

膨大なオーラに包まれたかすみは、その中で自然の力を借りた時と同じような、ある変化を遂げていた。金色の髪は銀色に変化するも赤く禍々しいオーラが漂うものになり、頭の二つのリボンが赤く染まる。さらに赤い手袋が黒く変化し、両手に持っている黒いステッキは色こそ変わらないものの、禍々しい赤色のオーラに包まれていく。

 

そして、その変化がすべて終わった時、彼女の周囲を纏っていたオーラは晴れて、かすみがその姿をプリキュアとビョーゲンズに晒した。

 

「かすみっち・・・?」

 

スパークルは豹変した様子のかすみを見て戸惑いの声を漏らす。

 

プリキュア3人が彼女がどうして変貌したのか考える様子もなく、かすみはその場から姿を消えたかと思うとドクルンの横へと姿を表す。

 

「!?」

 

ドクルンが気付いた時にはすでに遅く、睨みつけた様子のかすみが黒いステッキを向けてその先から黒いオーラを収束させて、光線を放った。

 

「くっ、うぅ・・・!!」

 

ドクルンはとっさにラテを掴んでいない方の手で氷のシールドを広げるも、威力が強く押されそうになる。しかし、それでも吹き飛ばされないように踏ん張り、光線を相殺する。

 

ドクルンは氷のシールドを解いて、前方を警戒するもそこにいるはずのかすみの姿は消えていた。

 

「っ・・・どこに・・・!?」

 

ドクルンは周囲を見渡してかすみを探すも、その瞬間に腹部に衝撃が走る。

 

「あ・・・!?」

 

「ふんっ・・・!!」

 

ドクルンが下を見ると、なんとかすみがいつの間にか懐に入ってパンチを食らわせていたのだ。かすみはそのまま拳を押しやってドクルンを吹き飛ばす。

 

突然の行動に思わずドクルンが離したラテを、かすみはとっさに自身の手に収めるとその場から姿を消し、動けないままのアースのそばに現れる。

 

「かすみさん・・・あなたは・・・?」

 

アースはかすみのことを驚いたような表情で見ていたが、かすみは彼女の言動に何も返さないまま、ラテをゆっくりと地面へと下ろす。

 

「アース、もう動けるだろ・・・?」

 

「!!」

 

かすみは黒いステッキをメガビョーゲンに向けて構え、冷めたような声でアースに声をかける。

 

アースはかすみから底知れない何かを感じていたが、彼女は暴走することなく、アースと共に戦おうとしていることに驚き、意を決したような表情になる。かすみがドクルンからラテを取り戻してくれたおかげでアースもようやく動くことができる。

 

「聞きたいことはありますが、今は速やかに浄化しましょう」

 

アースはかすみの横に並び、戦闘態勢になる。

 

「ふん、そんな下等生物たちを守って何の意味がある・・・!!」

 

グアイワルはかすみの行動を見下す。

 

「下等生物ではありません。彼らは人間と共に生き、笑い、互いを思い合っている。その姿はとても・・・とても抱きしめたくなる姿です・・・!」

 

アースは凛とした声でグアイワルに言い返す。

 

「それを何も知らないお前たちが、貶していい存在じゃない・・・! この地球の生き物を、人間をバカにするなッ!!!!」

 

かすみはアースに便乗するかのように怒鳴り返す。

 

「くっ・・・メガビョーゲン!!!」

 

「メガ~・・・!!」

 

かすみに威圧されたグアイワルはメガビョーゲンに指示を出して、攻撃するように指示を出す。メガビョーゲンは頭のツルを伸ばして、アースを捉えようとする。

 

ツルが届く瞬間、かすみはその場から姿を消し、アースは空中に飛び上がってメガビョーゲンが振るうツルをパンチで弾いたり、受け止めて上へ飛んだり、迫ってくるツルを瞬間移動して交わすなどして華麗にさばいていく。

 

「なっ、なんだと!?」

 

グアイワルが驚いていると、そのメガビョーゲンの背後に迫るものがいた。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「メッガァ・・・!?」

 

かすみがアースに気を取られているメガビョーゲンの背中に強烈なドロップキックを繰り出し、メガビョーゲンはその巨体をよろけさせる。

 

その隙にアースはメガビョーゲンの背後へと移動し、右手を振るって強力な風を起こす。

 

「ぬおっ!?」

 

「メガァ・・・ビョーゲン!?」

 

その風はグアイワルを吹き飛ばし、メガビョーゲンの巨体を倒れさせた。

 

「ふっ・・・!!」

 

かすみはグレースとフォンテーヌの背後に現れると、黒いステッキを振るって斬撃を放ち、縛られている二人のツルを切って解放する。

 

「かすみちゃん・・・!!」

 

「かすみ・・・!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

立ち上がったグレースとフォンテーヌがかすみを心配して近寄るも、かすみは何も話そうとしない。

 

「メェ~ガァ・・・!!」

 

「っ!!」

 

そこに冷蔵庫型のメガビョーゲンが上の扉を開いて氷の塊を放つ。かすみはそれに気づくと黒いステッキからシールドを展開して攻撃を防ぐ。

 

「ふん!!」

 

さらにドクルンが自分の周囲に氷塊を出現させると、それを次々とかすみに目がけて放つ。

 

ドォン!! ドン!! ドォォン!!!!

 

「くっ・・・!! うぅ!!」

 

かすみはシールドを展開しつづけるも、威力をいつまでも殺し続けることはできずにグレースたち3人と一緒に吹き飛ばされる。

 

「あっ・・・!!」

 

「かすみっち、大丈夫なの・・・!?」

 

「なんか、嫌な気配を感じるわ・・・!!」

 

吹き飛ばされるも立ち上がる4人。しかし、3人はかすみを心配し、中でもフォンテーヌは異様な気配を感じていた。

 

これはまるで、ビョーゲンズのような・・・!!

 

「アッハハハハ・・・!!!!」

 

そこにドクルンの笑い声が響き、プリキュア3人とかすみは声がした方に振り向いてステッキを構える。

 

「私を突き飛ばすとはなかなかやりますねぇ・・・私より後に生まれたものとしては上出来です」

 

「黙れ!!!!」

 

ドクルンの余裕そうな態度に、怒鳴り声をあげるかすみ。

 

「ふふふ・・・とてつもない力が溜まってますねぇ。もっと怒らせたらどうなるんでしょうか? メガビョーゲン、やりなさい」

 

「メェェェェ~・・・!!」

 

ドクルンは面白いものを見るかのようにそういうと、メガビョーゲンに攻撃を指示。メガビョーゲンは上の扉に青い禍々しいオーラを収束させていく。

 

「また、来るよ・・・!!」

 

グレースたちは攻撃に備えて、防御体制を取ろうとする。

 

「スパークル」

 

「な、何? かすみっち・・・」

 

かすみの低い声にビクつくスパークル。

 

「何かマークが描かれたボトルがあっただろ? それをステッキにはめ込んで、その光線を私に撃ってくれ」

 

「かすみちゃん!?」

 

「何を言っているの・・・!?」

 

「そんなことしたら、かすみっちが・・・!!」

 

かすみの提案に、グレースたち3人は驚きを隠せない。メガビョーゲンに放つことはあるエレメントの力だが、それを自分に向かって撃てというのは聞いたことがない。

 

「いいからやってくれ!! もう人も動物も・・・あの怪物からも・・・泣いている声は聞きたくない・・・!!」

 

かすみはスパークルに向かってそう叫ぶ。振り向きながら言うその眼差しは睨んだような瞳ながらも、その目には決意のような何かを宿していた。

 

「・・・わかったよ。火のエレメント!!」

 

スパークルはかすみのその表情に何かを感じると、覚悟を決めたようにステッキに火のエレメントボトルをはめ込む。

 

「はぁぁぁぁぁ!!!!」

 

スパークルはかすみに向かって火を纏った黄色の光線を放つ。

 

「ふっ!!」

 

かすみは黒いステッキで黄色の光線を受け止め、自身のステッキにそのエネルギーを貯めていく。

 

「!? 吸収してる!?」

 

「・・・そうか。きっとあのステッキに力を集約させて放とうとしているのよ・・・!!」

 

驚くスパークルに、かすみの能力を分析するフォンテーヌ

 

「っ・・・!!」

 

そんな中、かすみは黄色の光線と自身の黒いエネルギーをステッキに収束させながら、メガビョーゲンに照準を向ける。

 

「ガァ・・・!!!!」

 

メガビョーゲンは青色のレーザーを放った。

 

「はぁっ!!!!」

 

かすみも黒いステッキから火を纏った赤黒い禍々しい太めの光線を放った。

 

二つの光線はぶつかり合うも、メガビョーゲンの方が強力なのか徐々にかすみが押されていく。

 

「くっ・・・!!」

 

かすみは苦しい表情を見せながらも、レーザーを押し返そうとする。

 

「いい加減諦めたらどうです? あなたが動物たちを庇う必要など、どこにもないのです。同族であるあなたが守れるわけがないし、所詮は病気に蝕まれて終わるんですから」

 

ドクルンが苦戦しているかすみを煽るかのように言い放つ。

 

「黙れと、言っている・・・!!」

 

かすみはそんなドクルンの言葉を一蹴する。

 

「お前の、お前らの戯言なんか聞きたくもない・・・!! 私は私だ!! お前らと同族でもなければ、一緒にされる筋合いもない・・・!! 私はグレースたちにいろいろと教わり、これからも一緒にいる・・・!! そんな私の名前は、風車かすみだー!!!!!」

 

かすみがそう叫ぶと黒いステッキから放出される光線が太さを増し、メガビョーゲンのレーザーを押し返した。

 

「ビョー・・・!?」

 

「っ・・・!?」

 

これにはドクルンだけでなく、メガビョーゲンもびっくりだった。そして、そのままなすすべもなくメガビョーゲンに光線が迫り・・・・・・。

 

ドカァァァァァン!!!!

 

メガビョーゲンへと着弾し、怪物はそのまま背後へと倒れた。

 

「よし!!」

 

キュン!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

スパークルはメガビョーゲンに近づいて、ステッキの肉球を一回タッチしメガビョーゲンへと向ける。ニャトランの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを見つける。

 

「いたぞ!! 氷のエレメントさんだ!!」

 

グレースたち3人はそのまま浄化に移ろうとする。

 

「メッガァ・・・」

 

そこへトウモロコシ型のメガビョーゲンが立ち上がり、胴体の中心部に力を溜め、こちらに目がけて光弾を連続で放つ。

 

「っ!! はぁ!!」

 

かすみはメガビョーゲンの前に立つとシールドを展開して、光弾を防ぐ。

 

「「「はぁぁぁぁ!!!!」」」

 

爆発の煙から飛び出したグレースたち3人はメガビョーゲンに向かって同時に蹴りを放つ。

 

「ビョーゲン!?」

 

そのままメガビョーゲンは背後へと数メートルほど吹き飛ばされる。

 

「はぁっ!!!」

 

「メガァァァ!?」

 

さらにアースから渾身の蹴りを顔面に受け、今度こそ地面へと倒れていくメガビョーゲン。

 

シュウゥゥゥゥゥゥ・・・・・・。

 

「あ・・・!」

 

その時、かすみの髪の色が銀髪から金髪へと元に戻り、彼女は力を使い果たしたかのように膝をついてしまう。

 

「かすみさん!!」

 

それに気づいたアースはかすみのそばへと飛んで駆け寄る。

 

「大丈夫ですか・・・!?」

 

「うぅ・・・あ、アース・・・大丈夫だ・・・ちょっと力を使いすぎただけだ・・・」

 

かすみは呻いていたが、心配するアースの表情を見て眉をハの字にしながらも微笑んでみせる。

 

「メガァ・・・!!」

 

そこへ冷蔵庫型のメガビョーゲンが立ち上がる。上の小さな扉の生成装置が破壊されているものの、懲りずに襲いかかろうとする。

 

「・・・あとは私に任せてください」

 

「ああ、よろしく頼む・・・」

 

アースはその場から立ち上がると、メガビョーゲンへと体を向ける。

 

「今、助けに参ります!!」

 

アースは両手を合わせるように祈り、浄化の準備へと入る。

 

一枚の紫色の羽が舞い降り、ハープのような武器へと姿を変える。

 

「アースウィンディハープ!!」

 

そう呼ばれたハープに、風のエレメントボトルがセットされる。

 

「エレメントチャージ!!」

 

アースはハープを手に取って、そう叫ぶとハープの弦を鳴らして音を奏でる。

 

「舞い上がれ! 癒しの風!!」

 

手を上に掲げると彼女の周りに紫色の風が集まり始め、ハープへとその力が集まっていく。

 

「プリキュア! ヒーリング・ハリケーン!!!」

 

アースはハープを上に掲げてから、それを振り下ろすとハープから無数の白い羽を纏った薄紫色の竜巻のようなエネルギーが放たれる。

 

そのエネルギーは一直線に冷蔵庫型のメガビョーゲンへと向かい、直撃する。

 

竜巻のようなエネルギーはメガビョーゲンの中で二つの手へと変化し、氷のエレメントさんを優しく包み込む。

 

メガビョーゲンをハート状に貫きながら、光線はエレメントさんを外に出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていく。

 

「お大事に」

 

そして、グレースたちもミラクルヒーリングボトルをステッキにセットする。

 

「「「トリプルハートチャージ!!」」」

 

「「届け!」」

 

「「癒しの!」」

 

「「パワー!」」

 

グレース、フォンテーヌ、スパークルの順で肉球にタッチしていき、ステッキを上に掲げる。すると、花畑が広がっていき、背後には自然豊かな森が広がっていく。

 

「「「プリキュア! ヒーリング・オアシス!!」」」

 

3人は一斉にメガビョーゲンへとステッキを構え、ピンク・青・黄色の3色の光線が螺旋状になって放たれる。螺旋状の光線は混ざり合いながら一直線にトウモロコシのメガビョーゲンに直撃する。

 

螺旋状になった光線はそれぞれの色の手へと変化して、3本の手が実りのエレメントさんを優しく包み込んでいく。

 

3色に光るハート状にメガビョーゲンを貫きながら、光線はエレメントさんをメガビョーゲンから外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンたちは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「「「「「お大事に」」」」」」

 

それぞれのエレメントさんが宿っていたものに戻っていくと、蝕まれた場所は元に戻っていく。

 

「ワフ~ン♪」

 

体調不良だったラテも額のハートマークが黄色から水色に戻り、元気になった。

 

「ちっ・・・まあいい、今回はこれを手に入れるのが目的だからなぁ」

 

舌打ちをするグアイワルだが、不敵な笑みを浮かべて見るその手元には両手に抱えるほどの大量のメガパーツがあり、彼はそれを持ったままその場から姿を消した。

 

「ふん・・・まあ、いいわ。可愛いものは今後に取っておきましょう。それにーーーー」

 

ドクルンは氷が音を立てて消えていくのを無表情で見つめながらそう呟くと、不敵な笑みを浮かべながら手を広げる。

 

「メガビョーゲンが攻撃をすれば、その場所から採取できることもわかったしね」

 

そういうドクルンの手の上には、8個ほどのメガパーツが宙に浮いていた。プリキュアが苦戦している間に、氷漬けになった地面の氷柱からメガパーツを手に入れていたのである。

 

メガパーツの今後の使い方も考えなくてはいけないが、彼女にはまだ気になることもあった。

 

「それにしても・・・」

 

ドクルンはしゃがみ込んでいるかすみに視線を向ける。

 

「あの脱走者、明らかに私たちと同じ気配だったわねぇ・・・ふふふ、どうなるのか楽しみ♪」

 

ドクルンは笑みを深くしながらそう呟くと、その場から姿を消した。

 

「ふぅ・・・よかっ、た・・・」

 

蝕まれた場所が元に戻っていくのを見て安堵したかすみはそのまま地面へと倒れてしまう。

 

ーーーー!? かすみっち!!

 

ーーーーかすみちゃん!!!!

 

ーーーーかすみ、しっかりして!!

 

ーーーーかすみさん!!

 

意識を闇へと落とす前、プリキュアの4人が自分の方へと駆け出してくるのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん・・・あ・・・」

 

木陰で寝かされていたかすみは数分後に目を覚ました。その目の前には彼女のことを心配するのどかたちの姿があった。

 

「あ、気がついたよ!!」

 

「かすみっち〜!!」

 

ひなたが瞳を潤ませながら、横になっているかすみに抱きついた。

 

「あ・・・ひなた・・・?」

 

「もう〜、心配させないでよぉ〜!! 心臓止まるかと思ったんだから〜!!」

 

泣きついてくるひなたに、かすみはそっと頭の後ろに手を置いて撫でる。

 

「すまなかったな・・・でも、ありがとう・・・」

 

かすみは安堵したように微笑みながらそう言った。

 

「大丈夫なの? かすみ」

 

ちゆが心配そうな表情をしながら言う。

 

「ああ・・・大丈夫だ。ちょっと力を使いすぎたのかな・・・」

 

(でも、なんだ・・・さっきのお手当て、何も憶えてないな・・・)

 

かすみは先ほどの戦闘を反省しようとするが、メガビョーゲンと戦ったときの記憶が朧げだ。なぜ倒れるくらいになったのかあまり覚えていない。

 

「ひ、ひなた・・・苦しいぞ・・・」

 

「ああ、ごめん!!」

 

ひなたは慌てて体を離す。

 

「無茶しないでください、かすみさん。そんなことをしたら私は悲しいです・・・」

 

同じく心配そうな表情をしながらアスミがそう言うと、なぜかアスミの体が透け始めた。

 

「ああ・・・!! アスミ、体が・・・!!」

 

「アスミちゃん、落ち着いて!! かすみちゃんは大丈夫だから!!」

 

「そ、そうだよ!! かすみっちも反省してるし、大丈夫だって!!」

 

「アスミは気にすることないわ!! おかげでポチットとも仲良くなれたじゃない!!」

 

アスミの姿にあわあわとし始めるのどかたち3人。かすみはその姿を微笑ましく見つめていたが、あることを思い出してハッとする。

 

「ポチットは!?」

 

かすみは体を起こして叫ぶ。自分が朧げだが、守っていたポチットが無事かどうかを見ていない。どうなったか心配になったのだ。

 

「ポチットくんは無事だよ」

 

のどかに視線を移すと手元にちゃんとポチットが抱かれているのが見えた。

 

「! ポチット・・・!!」

 

かすみは見た瞬間に安堵したような表情をし、ポチットに手を伸ばそうとして手を止めた。

 

「クゥ〜ン・・・」

 

「? ポチットくん、どうしたの? かすみちゃんだよ」

 

「・・・・・・・・・」

 

ポチットはかすみの顔を見て怯えたような表情をして震えていた。のどかはかすみが怖がっている理由を分からなかったが、かすみはなんとなく察していたようで顔を俯かせる。

 

「そうか・・・そうだよな・・・あんなに怖がらせちゃったもんな・・・」

 

メガビョーゲンとの戦闘は朧げであまり覚えていない。ただその時のお手当てで自分がポチットを怖がらせてしまったのだろうと考えていた。

 

「すまなかったな・・・ポチット・・・」

 

「かすみちゃん・・・」

 

そう呟くかすみの声はどこか悲しげな様子だった。のどかもその様子を見て不安そうな様子だった。

 

その後、のどかたちはドックランを離れて、ひなたの家へと戻っていた。のどかたちはラビリンたちがポチットと共に遊んでいる姿を見守っている。

 

「・・・ポチットくん、新しい家族が決まったんだよね」

 

「うん、来週迎えに来るんだぁ・・・」

 

「新しい家族とも、きっと仲良くなれるわ」

 

ポチットは近いうちに新しい家族に貰われることになっており、みんなは寂しげな様子でそれを見ていた。

 

「でも、お別れするのは寂しいですね・・・」

 

「「「えっ?」」」

 

「・・・えっ」

 

アスミはポチットがいなくなるのを一番寂しそうにしており、のどかたちは驚きの声を上げる。

 

「アスミンが『寂しい』って言うなんて・・・」

 

「初めてじゃないかしら・・・!」

 

ひなたたちがアスミの様子に驚いている。

 

「ワンワン♪」

 

「キャンキャン♪」

 

すると、ラテとポチット、ラビリンたちが駆け寄ってくる。

 

「ウゥ〜ン・・・」

 

ポチットはアスミの前でどうかしたの?と言わんばかりに首を傾げている。そんなアスミはポチットに近づくと目の前でしゃがみこむ

 

「ポチット・・・今更ですが、私はあなたとお友達になりたいと思っています。人とは違う味ですが、仲良くしてくれませんか?」

 

アスミはポチットにそう言い聞かせながら、彼に手を差し出す。

 

ポチットはしばらくその手を見つめていると・・・・・・。

 

ペロッ

 

「!!」

 

それを受け入れるかのように彼女の手を舐めた。それに驚くアスミ。

 

「アスミン、ポチットも仲良くしたいって!!」

 

ひなたたちが喜ぶ中、アスミはポチットに手を伸ばして頭を優しく撫でる。

 

「クゥ〜ン♪」

 

ポチットはそれに喜んで、尻尾を振っていた。

 

「あ・・・可愛い・・・!!」

 

アスミは顔を紅潮させながらそう呟くと、ポチットを手元に抱いてひなたたちの方を見る。

 

「ひなた、不思議ですね。私の中で『可愛い』がどんどん膨らんでいきます・・・!!」

 

「可愛いに限界はないんだよ♪」

 

「ふふっ♪」

 

「キャン♪」

 

ひなたの言葉を聞いたのどかたちやラビリンたちは笑みを浮かべ、アスミはこの日一番の笑顔を浮かべていた。

 

「ふっ・・・」

 

かすみはその様子を微笑ましながらも、どこか寂しそうに見つめると再び顔を俯かせる。そして、その場を歩き去っていこうとする。

 

「? かすみっち!!」

 

それに気づいたひなたが、かすみに声をかけて駆け出していく。かすみはそれに足を止める。

 

「どこに行くの?」

 

「ちゆの家に帰るよ・・・」

 

かすみは寂しそうな声でそう答えた。

 

「ポチットのこと、気にしてんの?」

 

ひなたはドックランでポチットがかすみを見て怖がっており、彼女がそれを気にしていると思ったのだ。

 

「別にいいんだ。ポチットが新しい家族に拾われて、幸せにさえなってくれれば・・・」

 

かすみはひなたに背を向けながらも、その寂しそうな声は変わらない。

 

「大丈夫だよ!! ポチットはメガビョーゲンのせいで怯えてただけだって!! また、仲良くなれるよ〜!!」

 

ひなたは寂しそうな背中にそう声をかけるも、かすみは振り向くことをしない。

 

「・・・のどかには、抱かれてたのにか?」

 

「あ、そ、それは・・・」

 

「私が近づいて、また怖がって、それで人間を怖がるようになったら嫌だろう? だから、もういいんだ・・・」

 

かすみはそう反論し、ポチットのことを諦めようとしていた。せっかく人間慣れしてきたのに、人間にそっくりな私が怖がらせて、また臆病に逆戻りしたらこれまでの努力が水の泡だ。だから、かすみはポチットから離れようとしていたのだ。

 

「かすみさん・・・?」

 

「!!」

 

そこへポチットを抱いたアスミがこちらに近づいてくる。かすみはそれに気づくとハッとして振り向く。そこには無垢な顔をしたポチットの姿が。

 

かすみは胸の中に熱いものを感じていたが、表情は寂しそうにしながらも笑みを浮かべる。

 

「ポチット・・・新しいところに行っても幸せにな」

 

かすみはそう呟くと再び歩みを進めて、その場から歩き去って行った。

 

「あ・・・かすみっち!!」

 

ひなたは呼び止めようとしたが、かすみはそのまま立ち止まることはなかった。

 

「どうしたの?」

 

そこへちゆとのどかがこちらに駆け寄ってくる。

 

「かすみっちが、ポチットのことはもういいって・・・」

 

ひなたが事情を話すと、ちゆは歩き去っていくかすみの後ろ姿を不安そうに見つめる。

 

「かすみちゃん・・・」

 

のどかもかすみの寂しそうな後ろ姿を見つめるしかなかったのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第67話「自然」

原作第24話がベースです。
今回は大自然と触れ合う、そしてビョーゲンズにも動きが・・・。


 

ビョーゲンズたちだけの世界ーーーービョーゲンキングダム。そこは彼ら以外の生物たちや人間が住んでいくことができない閉鎖的な場所。

 

その岩場の一つに、クルシーナが寝そべりながら手に持っているメガパーツを眺めていた。その隣にはイタイノンが足をぶらぶらとさせながら座っている。

 

「メガパーツ・・・他に使い道はないのかしらねぇ。まあ、メガビョーゲンを大きくできるのは悪くないことだけど」

 

クルシーナはメガパーツをどう使えばいいのか困っているようだった。このかけら一つでメガビョーゲンを成長させられるのはいいことだ。しかし、それではあの新入りのプリキュア、キュアアースと言ったか、あいつには全く通用していないことはこの前の出撃で検証済みだ。

 

この前は、廃病院で眠っているあのビョーゲンズにメガパーツを入れたことはあったが、目が覚める様子はなかった。もしかしたら、メガパーツが足りないせいかもしれないが、単純に私たちと同じ父である、キングビョーゲンによって生まれた存在であるせいなのかもしれない。だから、そういう問題ではないのかもしれない。

 

「クルシーナ」

 

「・・・何か用?」

 

「メガパーツを眺めてたってしょうがないと思うの」

 

「・・・わかってんの。こいつをどう利用してやろうものかと思っただけ」

 

「ふーん・・・あ・・・」

 

イタイノンはそれを聞くと何か思い出したかのようにポケットを弄る。

 

「・・・何よ?」

 

「そういえば、こいつを持っていたの忘れてたの」

 

イタイノンが取り出したのは黒い電気をバチバチとさせているクリスタル。これは以前、憎き相手であるキュアスパークルの体から取り出した自分の病気だ。

 

「・・・ああ、そんなもの持ってたわね」

 

クルシーナはチラッとそれを見てそういうと、すぐにメガパーツへと視線を戻す。

 

「これってどうやって使うの?」

 

イタイノンはそう呟く。クルシーナは再び彼女の方を振り向く。

 

「知るかよ、アタシが。アンタの力でも注いで見ればいいんじゃないの?」

 

「・・・なるほどなの」

 

クルシーナは不機嫌そうな表情でそういうと、イタイノンは妙に納得したように返す。あの時、種にオーラを注ぎ込んだクルシーナの真似をすればいいのかと。

 

イタイノンは手から赤く禍々しいオーラを注ぎ込む。すると、赤いクリスタルからクモのような4本足が生えるとイタイノンの手元から離れてカサカサと動き出す。

 

「おぉ・・・動き出したの」

 

「あっそ・・・よかったわね」

 

驚いているイタイノンに対し、興味がなさそうに適当に返すクルシーナ。

 

イタイノンから離れるようにカサカサと動いていたクリスタルは、白いワープホールのようなものを出現させるとその中に飛び込んで姿を消していった。

 

「どっかに消えたの」

 

「また、適当な誰かに入り込んでいくでしょ」

 

イタイノンはクリスタルが消えた場所を見つめながらそういうと、クルシーナは視線を動かさずに答える。

 

「うーん・・・・・・」

 

メガパーツを見つめながら唸るクルシーナ。彼女はあのビョーゲンズにメガパーツを入れたときのことを思い出す。あの時は、入れた瞬間にあのビョーゲンズの力が膨れ上がった。

 

メガパーツはメガビョーゲンの一部・・・バテテモーダを生み出したあの種もメガビョーゲンの一部・・・そして、お父様の娘である自分たちが生まれたのは・・・。

 

ということは、このメガパーツを利用すると・・・・・・。

 

「!! ふふふ・・・」

 

クルシーナは何かを思いついたようで不敵な笑みを浮かべる。

 

「何をニヤニヤ笑っているの・・・?」

 

「いやぁ? やる価値はあるかな~って思っただけよ」

 

「何がなの・・・?」

 

「秘密よ」

 

「むぅ・・・」

 

クルシーナは何やら自信満々にそういうとメガパーツを懐にしまう。イタイノンはクルシーナのその問いにムスッとしたような顔をする。

 

そういえば、メガパーツの使い方を悩んでたヤツが約一名、いたわよね。

 

クルシーナはそう思うと立ち上がって、岩場から飛び上がり、辺りを見渡す。そして、気配がした方向に向く。

 

「いたいた・・・」

 

クルシーナは岩場の側面の窪みにビョーゲンズの一人がいるのを見かける。その人物とはダルイゼンだった。

 

「・・・・・・・・・」

 

ダルイゼンは以前手に入れた3つのメガパーツを見つめていた。

 

思い出すのはこの前の出撃。グアイワルがメガパーツを使って、自身が生み出したメガビョーゲンを急成長させていた。クルシーナも同じことをしていたのを見ている。

 

「メガビョーゲンを成長させるのはいいけど、何かもう少し面白い使い方・・・」

 

ダルイゼンは何かいい方法がないかを考える。メガビョーゲンを急成長させるよりも、もっと有効的な使い方・・・・・・。

 

「ダルイゼン」

 

「?」

 

ダルイゼンが聞こえてきた声に視線を移すと、窪みの屋根の上にクルシーナが立っているのが見えた。

 

「・・・なんだよ、クルシーナ」

 

ダルイゼンはだるそうな口調に対し、クルシーナは不敵な笑みを浮かべている。

 

「メガパーツの使い方に悩んでるの?」

 

「・・・そうだけど?」

 

「アタシたちが生まれた起源って何だったかしら?」

 

クルシーナがそのように聞くと、ダルイゼンはメガパーツを見つめる。

 

「!! そうか・・・」

 

ダルイゼンは何か思い出したようで、不敵な笑みを浮かべる。

 

「まあ、実験しなきゃわかんないけど、試す価値はあるわよね」

 

「そうだな」

 

ダルイゼンはそう返すと持っているメガパーツを仕舞って立ち上がる。

 

「ねえ」

 

「・・・何?」

 

「アタシもアンタと同じこと考えてると思うんだけど、付き合ってもいい?」

 

「?」

 

クルシーナが不敵な笑みを浮かべながらそういうと、ダルイゼンは意外そうな表情を浮かべる。

 

「・・・ンフフ♪」

 

その様子を高所の岩場から見ていたヘバリーヌが妖艶な微笑みを浮かべていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはすこやか市にあるのどかの家、そこではのどか、ひなた、ちゆ、アスミ、かすみの5人とヒーリングアニマルたちが集まっていた。

 

「見て見て!! このカフェ、めっちゃ人気なんだって!!」

 

ひなたが雑誌を広げて、のどかたちに見せながら言う。

 

「『注目カフェ特集』?」

 

「おおらか市にあるのね」

 

「遠いの?」

 

「電車で2時間以上かかるかしら?」

 

のどかたちが見ているのは雑誌に載っていたカフェの記事だ。そこにはいろんな場所にあるカフェの特集記事が組まれているが、ひなたが見せたのは今話題になっているというおおらか市のカフェだった。

 

「今度の日曜、みんなで行こうよ!! ねっ? ねっ?」

 

「私もですか?」

 

「私も、行くのか・・・?」

 

「もっちろん♪」

 

ひなたがみんなで一緒に行こうと誘い、特にアスミとかすみの二人に顔を近づけながら言う。

 

しかし、かすみは右肩を掴みながら顔を俯かせる。その体からは暗いオーラが放出されていた。

 

「・・・私は、そんな気分じゃない、かなぁ・・・」

 

「えっ? なんで落ち込んでんの!?」

 

かすみが目に見えて落ち込んでいるのを理解し、慌て始める。

 

「も、もしかして、あの時のこと、まだ気にしてるの・・・!?」

 

「・・・・・・・・・」

 

コクコク

 

ちゆはこの前のことをまだ気にしているんだろうと指摘すると、かすみは頷く。

 

あの時というのは、この前のひなたの家で預かっていたポチットのことだろう。ドックランではかすみに慣れていたポチットだが、メガビョーゲンの戦闘後に怯えられることになってしまった。ポチットに嫌われたことを大分、心の傷になっているのだろう。

 

「わかってる、わかってるんだ・・・でも・・・はぁ・・・・・・」

 

「か、かすみちゃん!! そんなに落ち込まないで!! 今度の日曜日、気分転換も兼ねて一緒に行こう!!」

 

「そ、そうよ!! かすみの気持ちが沈んでちゃポチットも浮かばれないわ!!」

 

かすみはため息を吐いて落ち込み、のどかとちゆはあわあわとしながらも励まそうとする。

 

「か、かすみっちも、一緒に行こう!! ほ、ほら、こういうところ好きそうじゃない!? 」

 

ひなたも慌てながらも雑誌のページを開いて彼女に見せる。

 

「?・・・っ!」

 

「あっ」

 

かすみは涙目の瞳で雑誌に視線を向けると、何か思い当たったかのように目を見開く。そして、ひなたから雑誌を手に取ると、そのページを一心に見つめる。

 

「こ、ここは・・・!?」

 

かすみはページをマジマジと見つめている。そこには綺麗な湖があり、森が豊かな大自然が写っていた。

 

「おおらか市街から5キロ、山の中に広がる湖畔・・・」

 

かすみの様子が気になったのどかが雑誌のページに目をやると、どうやらかすみが気になっているのはおおらか市の街の外にある森のようだった。

 

「あぁ・・・♪」

 

かすみは元気をなくしていた表情から一変して、どんどん笑顔になっていく。

 

「私、ここに行きたい!! いいよな!? アスミは、どうだ!?」

 

かすみはカフェよりもこの森に行きたいということを主張する。アスミにもそれを問うと、彼女は驚いたような表情をした後に微笑む。

 

「私も、そう思います」

 

「ああ・・・♪」

 

パァァ・・・!!

 

アスミがそう返事をすると、かすみは表情を明るくさせた。

 

「ふふ♪」

 

のどかはその様子を見て微笑む。

 

「ねえ、ここに行こうよ!」

 

「「「「「えっ?」」」」」

 

のどかの言葉に、ちゆとひなた、ヒーリングアニマルたちは驚いたような表情をする。

 

「え・・・カフェは・・・」

 

「どれどれ? おぉ~!! めっちゃ大自然って感じだな!!」

 

「めっちゃ人気の・・・」

 

「綺麗な湖ペエ~!!」

 

ヒーリングアニマルたちもひなたが行こうと思っていたカフェよりも、大自然の記事の方に興味を示し始めた。

 

「みんなで遠くに行くの楽しみだし、アスミちゃんとかすみちゃんの行きたいところにしない?」

 

「いいんじゃない?」

 

「賛成ラビ♪」

 

「ワン♪ ワン♪」

 

のどかの意見に、ちゆもラビリンも、そしてラテも賛成のようだった。

 

「・・・!!」

 

パァァァァ・・・!!!

 

その様子にかすみは瞳を潤ませて、表情を明るくさせていく。

 

「どうかな? ひなたちゃん」

 

「お弁当を持ってハイキング♪」

 

のどかとちゆがそう言うと、ひなたは表情を明るくさせる。

 

「それめっちゃ楽しそ~!! 行く!!」

 

ひなたもそれを聞いて、森の方に行くのに賛成の様子だった。

 

「ありがとう♪」

 

のどかはその言葉に笑顔になる。しかし、それよりももっと喜んでいたのが隣にいた。

 

「のどかぁ~!!」

 

「え、ふ、ふわぁ~!?」

 

のどかは突然、抱きついてきたかすみに押し倒される。

 

「のどか~、ありがとう♪ 私、嬉しいぞ♪」

 

「あ、あはは・・・かすみちゃんが元気になってよかった・・・」

 

笑顔で言うかすみの様子に、のどかは苦笑しながらも安心した。

 

「じゃあ、早い時間の方が人も少なそうだし、駅に朝6時集合でどう?」

 

「「!?」」

 

ちゆが集合時間を決めた際、ひなたとニャトランの表情は青ざめた。

 

「ろ、ろ、ろく・・・!?」

 

「6時」

 

「まだ夜ニャ~!!」

 

「朝ラビ!!」

 

「うぇぇ!? 朝6時ってことはいつもより早く起きないとダメってことだよね~!?」

 

そんなに早く起きたことあったっけ? ひなたは起きれるかどうか心配になってきたのであった。

 

「かすみちゃん」

 

「あ、あぁ・・・すまない・・・!!」

 

かすみはのどかから慌てて体を離すと、のどかは体を起こす。そして、かすみとアスミの方を見る。

 

「楽しみだね♪ 日曜日」

 

「!! そうだな・・・ふふ♪」

 

「ふふふ♪」

 

のどかの言葉に、かすみとアスミは笑顔を浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして日曜日、おおらか市の街の外にある湖畔へとやってきたのどかたち。

 

「「「「「わぁ・・・」」」」」

 

そこに広がっているのは広がっているよく澄んだ綺麗な湖、その奥に広がる自然豊かな森、湖の近くに咲く綺麗な花、湖を泳ぐ元気なカモたちをはじめとした動物たち、本当に人の手を借りることのない大自然豊かな風景が広がっていた。

 

「ふわぁ~♪ 素敵♪」

 

「来てよかったぁ~・・・♪」

 

「本当ね・・・!」

 

のどかたち3人はその風景に喜ぶと、湖畔の近くへと駆け寄っていく。

 

「あぁ・・・ふふふ♪」

 

アスミはのどかたちやその風景に笑みを浮かべる。

 

「ワンワン♪」

 

楽しそうにしているラテも遊びたいようで、アスミは彼女をバッグから降ろすとラテは湖畔へと駆け出していく。

 

「はぁ・・・!」

 

かすみはその広がる光景に目を見開き、瞳を潤ませる。そして、自分の手を胸に当てる。

 

森の中にいるのに、息苦しさを感じないし、心の中に残る不快感もない。のどかたちと同じように純粋に風景を楽しむことができる。

 

「ふふ♪」

 

かすみはそう思うと顔を紅潮とさせて微笑む。そして、アスミの方を向く。

 

「アスミ、行こう♪」

 

「はい♪」

 

アスミとかすみは一緒に、のどかたちの元へと歩み寄っていく。

 

「すぅ~・・・はぁ~・・・め~っちゃ気持ちいい~!!!!」

 

「ふふっ、ひなたちゃん、声大き過ぎ♪」

 

「う~ん・・・でも、ここにいるとなんだか気持ちいいなぁ~・・・」

 

「「ふふふ♪」」

 

「ふふふ、あはは♪」

 

「ふふ♪」

 

のどかたちはそう言いながらお互いに笑い合った。

 

「はぁ・・・母なる地球、その懐にすごく慈しまれて抱かれているような気持ちペエ・・・」

 

「詩人ね・・・」

 

ペギタンは湖畔を泳ぎながらポエムのような台詞を言い、ちゆはそれを微笑みながら見守っていた。

 

「まだ人もいないし、これならラビリンたちも思いっきり遊べるね♪」

 

「ラビ♪」

 

朝早くから来たおかげで、この湖畔には人もおらず、ヒーリングアニマルたちも元気に遊ぶことができる。のどかとラビリンはそれを喜んだ。

 

「ラテ様、あの木まで競争だ! それ~っ!!」

 

「ワンワン♪」

 

「ラビ♪」

 

ニャトランの言葉を合図にかけっこを開始、ラテとラビリンはニャトランと一緒に駆け出していく。

 

「ラテも楽しそうでよかったです」

 

「そうだな」

 

アスミとかすみも、ラテの様子を見て笑みを浮かべていた。

 

「よーし♪ たくさん遊んで~、お弁当食べるよ~♪」

 

ひなたもこの湖畔で一緒に遊ぼうとしていた。

 

「ひなたちゃん、かすみちゃん、私たちも競争だよ♪ それ~!!」

 

「ああ~!!」

 

「負けないぞ~!!」

 

足踏みをするのどかの言葉を合図に、ひなたとかすみも駆け出していく。

 

「待てぇ~♪ のどかっち~、かすみっち~♪」

 

「あははは♪」

 

「ひなた、遅いぞ~♪」

 

のどか、ひなた、かすみの3人が笑顔で競争しているとその横をちゆとアスミが走っていく。

 

タタタタタタタ・・・!!!

 

「「えっ?」」

 

3人を追い抜き、彼女たちはその速度に足を止める。どうやら2人は本気で競争をしているようだった。

 

「ふっ♪」

 

その様子をかすみは口元に笑みを浮かべると、その場から姿を消す。

 

ちゆとアスミはほぼ同時に走っていると・・・・・・。

 

ビュンッ!!!

 

「「!?」」

 

その間をかすみが二人以上の速度で通り過ぎていき、目に止まらないほどの速さでラテ達のいる木の近くに到着し、木をタッチする。

 

「かすみ・・・早いラビ・・・!」

 

「見えなかったぞ、今・・・!」

 

「ふふ♪」

 

ラビリンたちが驚いていると、かすみは笑みを浮かべる。

 

「はぁ・・・はぁ・・・かすみ、早いわね・・・」

 

「走る姿が見えませんでした・・・」

 

「私も本気を出せばこんなに走れるんだ♪」

 

「「「ふふふ♪」」」

 

走り終えた3人は、お互いに笑い合う。

 

「ふふ、ふふふっ、あはははは♪」

 

「ふふふっ、あはははは♪ かすみっちったら本気出しすぎだって~!!」

 

それを見ていたのどかとひなたは楽しそうに笑い、かすみはハッとした後に顔を赤らめていた。

 

その後も、のどかたちは湖畔でいろんなことをして遊んでいた。

 

「ほ~ら、捕まえちゃうよ~♪」

 

「うわぁ~、ラテ様~♪」

 

「ワンワン♪」

 

のどかはラビリンやラテと一緒に追いかけっこをしている。

 

「ラテ~♪」

 

「ワンワン♪ ワンワン♪」

 

「ラテ様をお守りするニャ~! うぉう! うぉう!!」

 

「うぉわぁ~! やったな~ニャトラン!!」

 

「あぁ~、やられたぁ~!」

 

ひなたはラテに水をかけて遊んで、ラテははしゃぎまわっており、そこへニャトランも加わって一緒に水かけして遊んでいる。

 

「ふぅ・・・気が安らぐな・・・」

 

かすみは近くの木の下に座りながらそよ風を感じ、気持ちよさそうにしていた。

 

チッチッ

 

「??」

 

すると、頭の上から鳴き声が聞こえ、上を見上げてみるとそこには一頭のリスがいた。リスは木から降りてかすみの近くへとやってくる。

 

「お前もここで元気に生きてるんだな・・・生きてるって感じだ♪ ふふっ♪」

 

かすみは微笑みながら、自分の肩の上に乗ってきたリスを撫でる。

 

「ふわぁ~、かわいいリスさんだ~♪」

 

のどかはかすみの近くに寄ってきたリスを見て喜んでいた。

 

「かすみっちって本当に動物に好かれるよね~♪」

 

「生まれた時からこういう体質だったのかもしれないな」

 

かすみはリスを撫でながらそう言った。

 

「みんな~! お昼にするわよ~!!」

 

「「は~い!」」

 

ちゆの呼ぶ声が聞こえてくる。のどかとひなたはそれに気づくと駆けていき、かすみは肩に乗っていたリスを地面へと降ろすとゆっくりと歩き出す。

 

パカッ・・・。

 

みんなで座るレジャーシートの上、最初にちゆが持ってきた重箱を開く。すると・・・・・・。

 

「ふわぁ~♪」

 

「おぉ~♪」

 

「すげぇ~ニャ~!!」

 

ちゆのお弁当には、おにぎりやいなり寿司、エビフライや唐揚げ、オレンジやリンゴといった色とりどりの具材が入っていて、のどかたちは感嘆の声をあげる。

 

「かすみも手伝ってくれたのよね」

 

「あ、ああ・・・そうだ。おにぎりってやつをちょっと、な」

 

ちゆがそう言うとかすみは顔を少し赤くしながらも肯定する。

 

「豪華~♪」

 

「写真写真~♪」

 

ひなたは持っていたスマホで写真を撮る。

 

続いては、のどかのお弁当。バスケットの中を開けると、そこには色とりどりのサンドイッチが入っている。

 

「どう?」

 

「おいしそ~♪」

 

「おいしそ~ペエ!」

 

「おいしそ~ニャ!!」

 

「ああ・・・おいしそうだ・・・!!」

 

のどかのサンドイッチを見て、みんな揃ってそう言った。かすみに至っては瞳をキラキラと輝かせていた。

 

そして、ひなたは・・・。

 

「ジャーン!! お姉のスペシャルジュース♪」

 

「「やったー♪」」

 

「おぉ・・・!!」

 

ひなたが持ってきた水筒を見て、のどかたちは喜んだ。

 

「ラテ、どうぞ♪」

 

「ワンワン♪」

 

アスミはルームバッグからラテのご飯を取り出して、目の前に置いてあげる。

 

「のどか・・・」

 

「ん? なぁ~に?」

 

「私の作ったおにぎりを、食べて欲しいな・・・」

 

みんなが思い思いの弁当を食べる中、かすみは手をモジモジと恥ずかしそうにしながらのどかに問う。

 

「うん、いいよ♪」

 

「・・・!!」

 

パァァァァァァァ・・・!

 

のどかが笑顔でそういうと、かすみの表情が明るくなる。

 

「じゃあ、私のサンドイッチ一つと交換だね♪」

 

「ああ♪」

 

のどかとかすみは自分の作ったおにぎりとサンドイッチを取り替え、お互いにそれぞれを食した。

 

「うん、美味しいな!!」

 

「かすみちゃんのも美味しいよ♪」

 

「ほ、本当か・・・!?」

 

「うん♪」

 

「ああ・・・!!」

 

かすみは自分が作ったおにぎりをのどかに褒められ、作ってよかったと思うのであった。

 

その後、皆は楽しいお昼ご飯を過ごした。

 

そして、お昼ご飯を食べ終えた頃・・・・・・。

 

「ん~、満足満足♪」

 

「って言いながら、グミ食べてるじゃない」

 

「別腹別腹~♪」

 

ひなたはお腹いっぱいと言いながらも、ジュースのグミを食べ、ちゆはそれに冷静なツッコミを入れていた。

 

一方、アスミとかすみは湖畔一帯に吹き抜けてくる風、その近くに立って自然の音に耳を澄ましていた。

 

「アスミちゃんとかすみちゃん、なんか自然とお話をしてるみたい。言葉がわかるの?」

 

そこへのどかが声をかける。

 

「いいえ。思いが伝わってくるのです」

 

「私はこうしていると、自然の思いが聞こえてくるんだ」

 

「思い? 草や木、自然の?」

 

のどかの問いに、アスミとかすみは頷く。

 

「土や花、そして湖のーーーー」

 

「いろんな自然の気持ちが私の中に伝わってくるんだ」

 

「ふわぁ・・・」

 

のどかは二人の問いに笑みを浮かべる。

 

「ここはとても気持ちいいよね。生きてるって感じ」

 

「ああ・・・生きてるって感じだ」

 

のどかはそう言いながら、吹いてくる風を心地よく感じていた。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

ピィ、ピピピピ

 

「!!」

 

「「??」」

 

どこからか声が聞こえてきたかと思うと、かすみがハッと目を見開く。アスミとのどかもそれに気付き、3人は声がした方向を振り向く。それは茂みの森の中から聞こえたようだった。

 

3人は声がした方向へと歩いていき、森の中で別れて探すことに。すると・・・・・・。

 

「あ、いた・・・!!」

 

「「!!」」

 

のどかは小さな小鳥がいるのを発見し、近くにしゃがみこむ。アスミとかすみもそこへ近づく。

 

「巣から落ちちゃったのかな? 怪我してるのかも・・・」

 

のどかはそう言いながら、雛鳥を触ろうと手を伸ばす。

 

「あっ・・・」

 

「のどか、ダメだ!!」

 

のどかの行動を、かすみは声をあげて止めようとする。

 

「ダメ!!!!」

 

すると、誰かが声をあげてのどかを止め、ラビリンたちは慌てて木の陰へと隠れる。

 

「触っちゃダメよ!」

 

「えっ・・・?」

 

現れたのは作業服を身につけ、カバンを背負った少し色黒の女性だった。

 

女性は小鳥の前にしゃがみこむ。

 

「この子は多分、巣立ちの時なんだよ。今はまだ、うまく飛べないだけ」

 

「あ・・・」

 

女性はのどかにそう説明する。

 

「どうしたの?」

 

「あ、ヒナだ♪ 可愛い♪」

 

そこへちゆとひなたも駆けつける。

 

「親鳥が近くで見ているかもしれない。人間が勝手に連れて行ってはダメよ」

 

「え・・・どこ? 親鳥、なんで助けに来ないの?」

 

女性がそう注意すると、ひなたはきょろきょろと辺りを見渡し始める。彼女の言う通り、親鳥の姿はどこにも見えないが・・・・・・。

 

「私たちがいるから、親鳥も助けに来れないんだよ・・・!」

 

「そう。人が近くにいること自体、野生の雛にとっては大きなストレスなの」

 

かすみのその言葉に女性は笑みを浮かべると立ち上がり、軍手を手にはめると雛を優しく拾い上げ、近くの木の根元へと置いてあげた。

 

「さあ、すぐにここを離れましょう」

 

女性がそう言うとのどかたちも連れるようにその場から離れていく。

 

「!!」

 

すると、かすみが目を見開くと雛鳥の方を振り向く。

 

「どうしたの? かすみちゃん」

 

「・・・鳥の声が」

 

のどかが足を止めて聞くと、かすみはそう呟く。すると、その直後・・・・・・。

 

ピィ!! ピィ!!

 

どこからか雛鳥とは違う鳴き声が聞こえてきた。

 

「近くに親鳥が来たようです」

 

「うん、雛鳥を迎えに来たんだよ」

 

きょろきょろと辺りを見渡すのどかたちに、アスミとかすみがそう言う。

 

「そうだね」

 

「大丈夫よ。行きましょう」

 

のどかたちと女性はそのまま森を離れていったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森の中から離れ、湖畔へと戻って来たのどかたち。

 

「野生の鳥や動物はさ、人に感染する病気を持っている場合もあるから素手で触っちゃダメだよ」

 

「そうなんですね」

 

女性はこの湖畔の周辺の動物の説明をしながら、のどかたちはそれを真剣に聞きながら彼女の後を着いていく。

 

湖の近くまで戻ると、女性は空のペットボトルのゴミを拾い始める。

 

「あの・・・ありがとうございました」

 

「ん?」

 

「あそこで止めてくれなかったら、雛を連れて行っちゃうところでした」

 

のどかは女性の頭を下げてお礼を言う。

 

「ああ、いいのよ。わかってもらえれば」

 

「「「ああ・・・♪」」」

 

女性は笑顔でそう言うと、のどかたちも笑顔になる。

 

「あの、お姉さんは獣医さんですか?」

 

のどかは、女性は湖畔の植物の葉を見ている女性に聞く。

 

「樹サクヤよ。おおらか市で樹木医をやってるの」

 

女性は答えながら鞄を下ろすと、金槌で木を叩き始める。

 

「樹木医?」

 

「木のお医者さんね」

 

「えぇ~! お医者さん!? 木の!? サクヤさん、木を治せるの!?」

 

「そうよ」

 

サクヤの職業を知ると、ひなたは興奮し始める。

 

「ふわぁ~♪ すご~い♪」

 

「そうか・・・だから、ここの木たちはみんな気持ちよさそうなんだな」

 

のどかも感嘆し、かすみはいつもより自然の声がいいことに納得する。

 

「うぇ? どうすんの、どうすんの!? だって、木しゃべれないし!!」

 

「あははは♪ 木の様子を診て、診断をして、何か問題があれば、処置をしてあげるの」

 

「うぇぇ、かっこいい!!」

 

「あははは♪」

 

木の様子を診ているサクヤの周囲をうろちょろしながらひなたが聞くと、サクヤは笑いながら答えた。そして、木にできた傷を見たり、薬みたいなものを塗って治す。

 

「サクヤさんは、なんで樹木医になったんですか?」

 

「えっ、う~ん・・・」

 

ちゆが質問をすると、サクヤは少し考えながら湖の方を見る。

 

「小さい頃からここによく来ててね。友達と、家族と、一人でもよく来たな。ここにいると心が休まるの。私の、大好きな場所。だから、ここの木や自然を、守りたいと思ったの」

 

サクヤのその答えに、アスミやかすみは真剣な眼差しで見つめている。

 

「木は大地に根を張って、つながっているでしょ? 地球と。木が枯れたり、元気がないのは地球の悲鳴なんだって、私は思ってる」

 

サクヤはのどかたちの方を振り向きながら答えると笑みを浮かべる。

 

「サクヤさんは木だけじゃなくて、地球もお手当てしてるんですね」

 

「地球のお手当て? そんな大袈裟なものじゃないけど」

 

のどかがそう言葉を発すると、サクヤは苦笑しながらも答える。

 

「あっ・・・」

 

「!!」

 

すると、風が吹き抜けて木がそよぐ。それにサクヤが気づくと耳を澄ませ始める。かすみもそれに気づくと森の方を振り向く。

 

「木が、話してる・・・」

 

サクヤは風が吹き抜け、それによって鳴る木々の音を聞きながらそう呟く。

 

「うん、私にも、聞こえるぞ・・・」

 

かすみもサクヤと同じように耳をすませながらそう言った。

 

「風が吹いただけでしょ?」

 

「そう。でも、話してるよ、木が。お互いに『元気?』って声を掛け合ってる」

 

よくわかっていないひなたがそう言うと、サクヤがそう話す。

 

「ひなた、風だけど、私には聞こえる・・・サクヤが言った言葉と、『樹木医さん、いつもありがとう』って・・・」

 

「・・・!!」

 

かすみは耳をすませながらそう言うと、彼女の言葉にサクヤは反応する。

 

「・・・いつも、ありがとう、か。あなたにも自然の声が聞こえてるのね」

 

「私は森と触れ合って生きてきたから、自然の声がよくわかるんだ」

 

かすみがそう話している間、アスミも自然の声に耳をすませていた。

 

「風は、自然の声や想いを届ける力がある・・・そんな、気がするんだ・・・」

 

「・・・そうかもしれないわね。私の思い込みかもしれないけどね♪」

 

風が吹き止むと、サクヤは笑みを浮かべながらそう言う。

 

「そんなことはありません」

 

「えっ」

 

サクヤに対し、アスミが答える。

 

「サクヤさんは、本当に自然の想いがわかる。いえ、わかろうとしている」

 

「そうだ。そうでなければ、お手当てなんかできるわけがないんだ」

 

「ここの自然が美しいのはきっとサクヤさんがいるからです」

 

「この森だって、湖だって、みんなみんな喜んでいるんだよ」

 

アスミとかすみがそれぞれ答える。サクヤが抱く自然への思いは本物だ。だから、風が思いを伝えるというのは思い込みではない、本当のことだ。だって、自分たちがそう感じたから。

 

「私はここの自然が大好きです」

 

「私も好きだ。元気な森が、ここの自然が私は好きなんだ」

 

「・・・ありがとう♪」

 

アスミとかすみのその思いに、サクヤは笑顔でお礼を言った。

 

そうこうしているうちに日が暮れ、のどかたちは帰る時間になり、サクヤとも別れの時が来た。

 

「サクヤさん、すこやか市にも来てくださいね♪」

 

「自然がたくさんあります」

 

「街も素敵だから、きっと楽しいぞ♪」

 

「えぇ。いずれきっと」

 

のどか、アスミ、かすみがそれぞれそう言うと、サクヤもそう答える。

 

そして、のどかたちとサクヤは手を振りながら別れ、のどかたちはすこやか市へと帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、おおらか市の湖畔・・・森の中が赤く光ったかと思うと、二つの人影が姿を現した。

 

人影はどこへ向かうというわけでもなく、森の中を歩いていく。

 

「なーんか、とーっても不愉快な場所に来ちゃったんだけど・・・」

 

「はぁ・・・すごく空気悪っ、こういうところ嫌いだな・・・」

 

現れたのは中折れハットを被っている少女と、赤いジャケットを羽織っている少年。クルシーナとダルイゼンだ。

 

「アンタの意見には同感だけど、もっと別の場所あったんじゃないの?」

 

「俺の勝手だろ・・・大体お前も地球の人間のいい場所がいいって賛成したじゃないか」

 

「そりゃそうだけどさ・・・」

 

クルシーナとダルイゼンはお互いに嫌気がさしたような感じを出しながら言う。

 

ピィ、ピィ。

 

すると、どこからか鳥の鳴き声が聞こえ、その方向を振り向くと少し大きな鳥が飛び立ち、その木陰には先ほどの鳥よりも小さな鳥が地面にいた。

 

「雛鳥じゃない。巣から落ちたのかしらね。可哀想に、親鳥は見捨てて逃げたとか?」

 

クルシーナは周囲をキョロキョロと見渡しながらも、哀れむような小馬鹿にしたような口調で言う。

 

ダルイゼンはそれに笑みを浮かべると、メガパーツを自分の手のひらに出す。

 

「ちょうどいい・・・」

 

「こいつに使っちゃうの? もっといい素体があるんじゃない?」

 

「・・・まあ実験だし、何も成功を期待しているわけじゃない」

 

「あっそ、まあいいけど・・・」

 

クルシーナがもったいないと思いながら言う。こんな素体じゃまともなものは作れないと忠告しているのだが、ダルイゼンはただの実験だと称して取り合わない様子。

 

クルシーナは諦めたように返すと、周りの木々を見渡す。

 

「!!」

 

何かに気づいたクルシーナは宙に浮かび上がると、木の中枢あたりまで飛んで動きを止める。そこにあるのは木の中の空洞。その中に生き物の気配がしたのだ。

 

「ふっ・・・」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべると、右手を広げてそこからイバラビームを穴に目がけて放つ。

 

チィ!! チィ!!

 

穴の中から大きな鳴き声が聞こえ、彼女が穴の中に手を突っ込んで掴み出すとそれは一匹のリスであった。

 

「いい感じの素体があったわね。これだったら、バテテモーダみたいなテラビョーゲンを生み出せるかも」

 

チィ!! チィチィ!!

 

クルシーナの手の中にいるリスは暴れながら、その拘束から逃れようとしているも、クルシーナはしっかりと握って離さない。

 

そんなリスにクルシーナは懐からメガパーツを取り出して、リスへと向ける。

 

「それじゃあ、実験を始めるとしましょうかしらね」

 

クルシーナはそのままメガパーツをリスの中へと埋め込む。すると、リスはぐったりして動かなくなった。そして、そのリスを地面へとそっと横たわらせる。

 

「ふふふ・・・ダルイゼン、そっちはどう?」

 

クルシーナはダルイゼンの方向に振り向きながら呼びかける。

 

「こっちもOKだ」

 

ダルイゼンも不敵な笑みを浮かべながら、クルシーナに答える。

 

「さてと・・・どんなテラビョーゲンが生まれるのかしらねぇ?」

 

クルシーナは笑みを浮かべたまま、ぐったりしているリスを見つめる。そのリスの体の中には赤く禍々しいオーラが淀んでいる。

 

「ンフフ♪」

 

そしてその二人の様子を、遠くからヘバリーヌが見つめていたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第68話「変種」

前回の続きです。
今回は新たなビョーゲンズが登場です!
オリジナルも登場します。


のどかたちが湖畔に遊びに行った日の、翌日・・・。

 

ドクン!!!!

 

「!?」

 

ハート型の灯台の上にやってきたのどかたち。しかし、かすみが突然何かを感じて目を見開くと、遠くの景色を見つめ始める。

 

「かすみちゃん?」

 

「泣いている声が、聞こえる・・・」

 

「! もしかして・・・!!」

 

疑問に思ったのどかが聞くと、かすみがそう呟く。ちゆは何かを察したようだった。

 

その答え合わせをするかのように、その直後・・・・・・。

 

「クチュン!!」

 

そこで突然、ラテがくしゃみをして、ぐったりし始めたのだ。

 

「ラテ!!」

 

「やっぱりビョーゲンズ・・・!!」

 

のどかが聴診器をラテに当てて、彼女の心の声を聞く。

 

(この前、遊んだおっきなお水さんが泣いてるラテ・・・)

 

「この前、遊んだおっきな水・・・?」

 

「湖・・・?」

 

「ひょっとして、おおらか市・・・?」

 

のどかたちはラテの言葉から、大きな水が湖畔と推測し、そこから昨日遊んだおおらか市の街の外にある湖にビョーゲンズが現れたと察する。

 

「しかも、この泣いている声、普通じゃない・・・なんか、泣き叫んでいるというか・・・とにかく、これは普通じゃないぞ・・・!」

 

「普通じゃないってどういうこと・・・!?」

 

「よくわからないけど、ビョーゲンズが力をつけたとか・・・?」

 

かすみは今回のビョーゲンズが普通じゃないということを声から察し、のどかたちに教える。のどかとちゆはそれを聞いて驚いたような表情をする。

 

「大変大変!! これ見て!!」

 

ひなたが慌てたようにのどかたちの方に駆けつけ、スマホの画面を見せる。のどかたちがそれを見てみると・・・・・・。

 

『おおらか市上空を飛び回った謎の飛行物体は、山中の湖の方へ飛び去って行きました!!』

 

その画面はニュースとなっており、おおらか市の山林付近に鳥のような謎の生物が現れたことが報道されていた。

 

そこへレポーターの背後を走りながら山へと駆けていく、一人の人物の姿が・・・・・・。

 

「見て!!」

 

「「「あっ!」」」

 

「!!」

 

ちゆの言葉に、見ていたのどかたちは驚きの声をあげる。なんと走っていた女性は、昨日のどかたちが出会った樹木医のサクヤだった。

 

『危ないぞ!!戻れ!!』

 

サクヤは警官の制止も聞かずに、一人山の方へと駆け出していく。

 

「サクヤさん・・・!」

 

のどかたちが不安そうな声をあげる中、アスミは一人険しい表情をしていた。

 

一方、湖畔の近くでは・・・・・・。

 

「ふーん、進化途中だとメガビョーゲンみたいに蝕む力が残るのか・・・」

 

ダルイゼンは木に寄りかかりながら、飛び回る飛行生物を観察していた。その飛行生物には翼が生えており、その羽から病気が漏れ出していた。ダルイゼンが手を施し、生まれたばかりのその飛行生物は、出てきて早々おおらか市を蝕み始めた。彼の言う通り、メガビョーゲンと同じ力が残ってしまっている。

 

「何、あいつ。どう見ても、失敗作に見えるけど?」

 

そこへクルシーナが現れ、飛行生物を見上げながらそう呟く。

 

「生まれて出てきてはいるさ。でも出てくるのが早かったと思ってる・・・」

 

「でも、あいつからはナノビョーゲンを生み出す力もなければ、あの新入りのプリキュアとまともに戦えるような力を持っているようなやつとは到底思えないんだけど・・・?」

 

ダルイゼンが目を瞑りながら答えると、クルシーナは不機嫌そうな表情で答える。メガビョーゲンを作れないようなやつでは失敗作も同然だろう。ダルイゼンは何を重宝しようとしているのか、さっぱりわからない。

 

「そう言うお前の方はどうなんだよ?」

 

「・・・まだ出てきてないわね。アタシが動物に埋め込んだメガパーツは、まだ成長を続けてるみたいだし」

 

ダルイゼンが逆に質問をすると、クルシーナは目を瞑りながら答える。リスに埋め込んだメガパーツは、まだリスの体の中で成長を続けている、外に出てくるのはまだ時間はかかるだろう。

 

「お前ら、何か楽しいことをしているの」

 

「っ・・・イタイノン・・・」

 

「そういうお前こそ、何でここに?」

 

そこへイタイノンが姿を現し、クルシーナは顔を顰めながら言い、ダルイゼンもだるそうに返す。

 

「私がキュアスパークルから取り出したメガビョーゲンの一部、その気配をたどったらここに来ていたの」

 

「・・・ああ、この前のあれね」

 

イタイノンが説明すると、クルシーナは不機嫌な口調ながらも納得したように返す。

 

「それよりも・・・あいつは何? なの」

 

イタイノンは上空を飛び回る影を見ながら言う。

 

「俺が生み出したやつだし」

 

「・・・何のために?」

 

「種の繁栄・・・っていうのは建前で、俺たちの他にもメガビョーゲンを作れるやつがいればと思ってね、クルシーナと検証をしていたのさ」

 

ダルイゼンが説明をすると、ふーんと言いながらその影を観察する。

 

「アンタ、簡単にこいつに教えていいわけ?」

 

「・・・別に」

 

それをクルシーナが不機嫌そうな表情で言うも、ダルイゼンは特に意にも返さなかった。

 

「・・・!!」

 

3人が話している中、おおらか市の街から走ってきた湖畔へとサクヤが駆けつけ、その惨状に目を見開く。湖は少し赤く染まり始めていた。

 

さらに飛行生物が湖に沿って飛び、湖をさらに病気へと蝕んでいく。

 

「やめて!! 木が泣いてる!! 湖も泣いてる!!!!」

 

サクヤは飛行生物にそう叫んだ。

 

「うるさいなぁ・・・」

 

「!?」

 

飛行生物は鬱陶しそうにそう呟くと、湖の上で静止してサクヤの方を見る。飛行生物は、黒いカラスのような体に黄色の鶏冠のような髪、ビョーゲンズの幹部のような赤い服を着た鳥人の姿であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行かなきゃ・・・! ビョーゲンズが湖を、あそこの自然を病気にしてるんだよ・・・!!」

 

「うん。でも、おおらか市までだいぶ時間がかかるよ・・・どうしよう・・・」

 

おおらか市の湖畔一帯の自然を蝕まれていることを知ったのどかは急いでおおらか市に行こうとする。しかし、ひなたの言う通り、ここからおおらか市までは2時間ほどかかるのだ。これではそこへたどり着く前に自然一帯が病気で蝕まれるのも免れないだろう。

 

「急がないとまずいラビ!!」

 

「うん、とにかく行こう!」

 

のどかの言葉を合図に、ちゆやひなたもとにかくおおらか市へと向かおうとする。

 

「・・・? アスミ? かすみ?」

 

ちゆはアスミとかすみが駆け出してこないことに足を止めて振り返る。二人は遠くの景色を真剣に見つめていた。

 

(サクヤさん・・・・・・)

 

(サクヤ・・・・・・)

 

アスミとかすみが考えていることは、自然を大事にするサクヤのことだった。

 

ーーーーここの木や自然を、守りたいと思ったの。

 

ーーーー木が枯れたり、元気がないのは、地球の悲鳴なんだって、私は思ってる。

 

(助けます、サクヤさんを・・・)

 

(そして、あの素敵な自然を、守りたい・・・)

 

同じことを考えていたかすみはふと、アスミの手を取る。

 

「!!」

 

「アスミが助けたいって気持ち、守りたいって気持ち、伝わってくる・・・」

 

ハッとなってこっちを見るアスミ。そんな彼女にかすみはそう言いながら両手で握り、その想いを感じ取る。

 

アスミはそれを見つめていたが、微笑むとかすみの手を両手で握る。

 

「私も、伝わってきます・・・かすみさんの、助けたいという、守りたいという強い想いを・・・」

 

「なら私たち・・・両想いだな・・・」

 

「はい・・・!!」

 

かすみとアスミはお互いに笑顔を向けながら、額を近づける。すると、二人を中心に風が吹き始め・・・・・・。

 

パァァァァァァァ・・・!!!

 

「「「あ・・・!!!」」」

 

のどかたちが驚く中、二人の体が紫色の光に包まれ始めた。それを機に二人の周囲を風が巻き起こり始める。

 

そして、かすみの体にも変化が起きた。

 

金髪の髪型はアスミがプリキュアに変身したキュアアースと同じ紫色の髪型となり、赤い手袋は紫色、赤いスカートは青紫色、黒いリボンは白色へと変化した。さらに緑色の碧眼は赤紫色になり、持っているステッキの色が鮮やかな紫色へと変化した。

 

「かすみちゃん、その姿・・・!」

 

のどかは姿が変化したかすみを見て驚く。ビョーゲンズと戦っている時に何度か変化したことはあるが、それを間近で見るのは初めてだ。

 

「うん・・・風が私に力をくれたみたいだ・・・」

 

かすみはのどかに向かって答えると、再度アスミと額を合わせながら祈る。

 

風は自然の声や想いを届ける力がある・・・かすみはそう信じてサクヤのことを考える。

 

(風よ、私の想い・・・)

(風の力よ、私の想い・・・)

 

(サクヤさんのところまで運んで・・・!!)

(サクヤのところまで運んでくれ・・・!!)

 

お互いがそう願いを込めると二人が中心に風が舞い上がっていき、空へと打ち上がると風の渦のようなものが出現し、その中にはすこやか市ではない景色が見えてきた。

 

「うぇぇぇぇぇ!? なにあれ!?」

 

「おおらか市の湖!?」

 

ひなたとちゆたちは、宙に浮かび上がった風の中の景色に驚いていた。そこに映っていたのは、自分たちも知っているおおらか市の湖畔だったからだ。

 

「あれを通れば、湖へと行けるぞ」

 

「「「!!」」」

 

かすみの言葉に、のどかたちは2人の方へと振り向く。

 

「行きましょう! 地球のお手当てに!!」

 

アスミとかすみは、片方の手はお互いを握ったまま、もう一つの手をのどかたちの方へと差し出す。

 

「「「うん!!」」」

 

のどかたちは頷くと3人で手をつないだ後、二人の手をつなぐ。すると・・・・・・。

 

「「「あぁぁ・・・!?」」」

 

円になるようにつないだ5人は紫色の光に包まれ、宙へと浮かび上がっていく。そして、宙に浮いている風の渦の中へと入っていくと、その場から風の渦は消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てぇぇぇぇい!!!」

 

「あぁ・・・!!」

 

鳥人は片手から風を吹き起こし、サクヤを吹き飛ばす。木に叩きつけられた彼女はそのまま気を失ってしまう。

 

「サクヤさん!!」

 

「サクヤ!!」

 

そこへ風を通ってきたのどかたちが現れ、アスミとかすみはサクヤへと近づく。

 

「なんだぁ、お前たち・・・?」

 

「あなたこそ誰なの!?」

 

鳥人の男は突然現れたのどかたちに威圧的な態度で接するも、のどかも逆に聞き返す。

 

「オイラはネブソックって言うんだぞ!!」

 

「ビョーゲンズね!」

 

名前を名乗った人物からして、ビョーゲンズであることを察するちゆ。

 

その間、アスミは気を失ったサクヤを地面へと横たわらせる。その表情は怒りを示したような険しいものとなっていた。

 

「サクヤさんが守っている大切な自然を・・・許せません!!」

 

アスミは鳥人の男、もといネブソックを睨みつける。

 

「お前、メガビョーゲンじゃないな・・・あいつらと同じか。たとえ怪物じゃなくても、ここを汚すのなら容赦しない!!」

 

かすみは鮮やかな紫色に変化したステッキを取り出すと、ネブソックに目がけて構える。

 

「行こう!!」

 

のどかの言葉を合図に、4人はプリキュアへと変身する。

 

「「「スタート!」」」

 

「「「プリキュア、オペレーション!!」」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

 

「「「キュアタッチ!!」」」

 

ラビリン、ペギタン、ニャトランがステッキの中に入ると、のどか、ちゆ、ひなたはそれぞれ花のエレメントボトル、水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

そして、肉球にタッチすると、花、水、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、水色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ちゆは水色、ひなたは黄色へと変化する。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

そして、アスミは風のエレメントボトルをラテの首輪にはめ込む。すると、オレンジ色になっているラテの額のハートマークが神々しく光る。

 

「スタート!!」

 

「プリキュア、オペレーション!!」

 

「エレメントレベル上昇ラテ!!」

 

「「キュアタッチ!!」」

 

キュン!!

 

ラテとアスミが手を取り合うと、白い翼が舞い、ラテが舞ったかと思うとハートの中から白い白衣のようなものが飛び出す。

 

その白衣を身に纏い、ラテが降りてきたかと思うとハープが飛び出し、さらにアスミは紫色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

衣装にチェンジした後、ハープを手に取り、その音色を奏でる。

 

「「時を経て繋がる、二つの風!」」

 

「キュアアース!!」

 

「ワン!」

 

アスミは風のプリキュア、キュアアースへと変身した。

 

「「「「地球をお手当て!!」」」」

 

「「「「ヒーリングっど♥プリキュア!!」」」」

 

4人が変身を終えてネブソックに立ち向かおうとした時・・・・・・。

 

「またお前たちか・・・本当にどこにでも現れるな」

 

「あら、奇遇ね。こんなところまでご苦労さんだこと」

 

「どこまでも鬱陶しい奴らなの」

 

茂みの中からダルイゼン、そしてその反対方向からクルシーナとイタイノンが姿を現わす。

 

「ダルイゼン!! クルシーナ!!」

 

「イタイノン、あんたも!?」

 

グレースはビョーゲンズの幹部三人が現れたことに声を上げる。今回の首謀者はこの二人だったようだ。

 

「兄ちゃん!! 姉ちゃんたち!! こいつら何だぁ!?」

 

「いっつも兄ちゃんと姉ちゃんの邪魔をするんだ・・・」

 

「この地球に長く生きる茶色い虫よりも、目障りなお邪魔虫よ」

 

空を飛んでいたネブソックが、ダルイゼンとクルシーナたちに聞くと、ダルイゼンが腕を組みながら、クルシーナは不機嫌そうに答える。

 

「?」

 

ネブソックは紫色の髪となっているかすみを見て疑問を抱く。

 

「なぁー! あいつは一体何なんだー? 何であいつらと一緒にいるんだぁ!?」

 

「あいつは脱走者さ・・・」

 

「そう。しかもアタシたちと同じ種族のね」

 

ネブソックは再度二人に聞くと、ダルイゼンとクルシーナは適当に答える。

 

「同じ種族だったらこっちじゃないのかー?」

 

「いろいろと理由があんのよ。まあ、邪魔なら痛めつける程度でもいいけど?」

 

「私は別にどっちだっていいの・・・」

 

ネブソックは同じビョーゲンズがなぜ小娘たちと一緒にいるのか疑問だったが、クルシーナは不敵な笑みでそう答えた。イタイノンはさほど興味もなさそうに言った。

 

「じゃあ、あいつら、倒しちゃっていいぃ〜? 倒したら褒めてくれよな〜、兄ちゃん、姉ちゃんたち」

 

「ふっ・・・・・・」

 

「・・・さっさとやったら?」

 

「さっさとやれ、なの」

 

嬉々しながら言うネブソックにダルイゼンはどうぞと言わんばかりに手を合図し、クルシーナとイタイノンは同時に素っ気なく返した。

 

「ギャハハハハハハ!!!」

 

「「「きゃあぁ・・・!?」」」

 

許可をもらったネブソックは笑い声をあげながら、風を巻き起こしてプリキュアたちへと高速で突っ込んできた。3人は突風に吹き飛ばされる。

 

「えぇぇい!!」

 

「ふっ!!」

 

ネブソックは右手の翼を振るって攻撃し、アースはそれを交わす。

 

「ふぇぇい!!」

 

「くっ・・・!!」

 

さらにもう一方の翼を振るって攻撃し、かすみはシールドで防ぐも数メートル吹き飛ばされる。

 

「弱ぇ〜! 楽勝!!!」

 

ネブソックは飛び回りながらそう言うと、再び吹き飛ばした3人の方へと向かってくる。

 

「はぁ!」

 

「てい!!!」

 

「きゃあぁ!?」

 

グレースはパンチで応戦しようとするも、ネブソックは掻い潜って翼を振るって攻撃する。

 

「てぇぇぇい!!」

 

「あぁ!?」

 

さらに同じように翼を振るって攻撃し、フォンテーヌを吹き飛ばす。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

「えぇい!!」

 

「うわぁ!?」

 

スパークルは駆け出して攻撃しようとするも、逆にネブソックは足の爪を振るい、スパークルを吹き飛ばして転がす。

 

そして、ネブソックは次に立っていたアースを見据える。

 

「ギャハハハハハハ〜!!」

 

ネブソックはこいつもやれると言わんばかりに笑い声をあげながら向かっていく。

 

「はぁ!!!」

 

「ぐわぁ!? がぁ!?」

 

その気を取られて油断していたところをかすみがステッキを振るって風を纏った光線を放ち、ネブソックはその攻撃に飲み込まれて怯む。

 

「ふっ!!」

 

「ごぉ!?」

 

そして、その隙をついて突っ込んできたところをアースが回し蹴りを振るって吹き飛ばし、ネブソックは湖へと落下した。

 

「言うほど大したことないじゃん・・・」

 

「だから、あんなひ弱な素体を使うのはどうなのって言ってんのよ。まあ、それか、あいつかあの脱走者が強すぎんのか、かもね・・・」

 

「あいつが弱いだけじゃない? なの」

 

「っ・・・」

 

その様子を見ていたダルイゼンががっかりだと言わんばかりの言葉を放ち、クルシーナはそっけないながらも素体が悪いのか、アースと脱走者がそれ以上に強いのかと二人を見比べながら言った。イタイノンはネブソック自体大したことがないと言い放つ。

 

そして、クルシーナにはもう一人見ておかないといけない人物がいた。

 

「あの脱走者・・・前に比べればだいぶ強くなってるわね。やっぱりプリキュアのところに置いたのは正解ね」

 

クルシーナは先ほどの戦いから脱走者を分析をする。前に比べれば、だいぶ強くなっており、動きにキレが出てきたような気がした。もう少しあいつらのそばに置いておけば、それでプリキュアを脅かすような存在になるであろう。

 

それにしても、あいつは周囲の生命力を奪うように成長しているのだろうか・・・?

 

「ちょっと試す必要があるかもね」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべながら、自分が目をつけているキュアグレースの方を見た。

 

「っ!! あっちも成長が終わったみたいねぇ♪」

 

クルシーナは森の中に視線を向けると笑みを浮かべる。その手には赤いかけらのような何かが握られていた。

 

「ぶはぁ!! なんだよ、お前!? お前も!!」

 

ネブソックは余裕な表情から激怒して怒鳴るも、アースとかすみはその表情を崩さない。

 

「であ!! あっちゃちゃ!!!」

 

ネブソックは両手の翼を振るいながら、自身の黒い羽を飛ばしてきた。

 

「はぁ!!!」

 

かすみはアースの前に出て、紫色のシールドを展開する。

 

ズドン!! ズドン!! ズドン!!! ズドン!!!

 

「くっ・・・!!!」

 

翼は地面などに着弾して爆発を起こし、防いでいるかすみも表情を歪ませる。

 

「たぁ!! とらぁ!! やぁぁぁぁ!!!」

 

ネブソックは叫び声をあげながら、羽を乱射する。

 

「うぅ・・・!!」

 

「あぁ・・・!!」

 

「うぅぅ・・・!!」

 

グレースたちは高速で放たれる羽の前に回避ができず、その場で両腕をクロスさせて防御し耐えようとする。

 

メキ、メキメキメキ・・・!!

 

すると、羽が一本の木へと着弾し、その木が音を立てて倒れ始める。そこには横たわるサクヤの姿があり、そこへと倒れようとしていた。

 

バシッ・・・!!

 

「くっ・・・うぅ・・・!!」

 

「アース!!」

 

その倒れかかった木をアースがなんとか受け止めていた。かすみは彼女の元へと駆け寄る。

 

「私は、大丈夫です・・・早く、サクヤさんを・・・!」

 

「・・・あぁ、わかった」

 

かすみは倒れているサクヤを担ぐと、その場から離れようとする。しかし・・・・・・。

 

「そのまま動くなよ!!」

 

ネブソックは身動きが取れないアースの隙をついて、そこへ無数の羽を飛ばす。

 

「ふっ!! くっ、うぅ・・・!!」

 

「グレース!!」

 

グレースがアースの前へと飛び出し、ぷにシールドを張って羽攻撃を耐えしのぐ。すると、その横にクルシーナが現れ・・・・・・。

 

「グレース! 後ろです!!」

 

「!?」

 

アースがそれに気づいて叫び、グレースが後ろを向くとそこには彼女の肩に手をかけたクルシーナの姿があった。

 

「ふっ・・・」

 

キュイーン!

 

クルシーナが不敵な笑みを浮かべると、なんと二人はその場から姿を消した。

 

「雷のエレメント!!」

 

そんなことが起こっているのも知らず、スパークルはその前へと飛び出して、雷のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「はぁ!!」

 

牽制するようにステッキから電気を纏った黄色い光線を複数放つも、ネブソックは横へ、上へと飛んでそれをかわす。

 

かすみはその間に担いでいたサクヤと共にフォンテーヌの元へと向かい、アースは受け止めていた木を地面へと降ろす。

 

「グレース! グレース!! どこに行ったのですか!?」

 

焦ったアースはきょろきょろと見渡して、グレースの姿を探す。しかし、彼女は何の証拠も残さないままに姿を消していた。

 

「どうしたの、アース!? 」

 

「あれ? グレースは!?」

 

そこへフォンテーヌとスパークルが駆け寄るも、グレースの姿がなくなっていることに気づく。

 

「っ!? アース!! グレースはどうしたんだ!?」

 

「かすみ、落ち着いて!!」

 

かすみはそれに動揺すると、アースの肩を掴んで揺らす。フォンテーヌはかすみを抑えるように叫ぶ。

 

「・・・グレースは私を守っていたのですが・・・そこへ・・・」

 

「キィィィィィィィ〜!!!」

 

アースは何が起こったのかを話そうとしたが、そこへネブソックの激怒したような声が響く。

 

「もう少しで兄ちゃんと姉ちゃんに褒めてもらえたのに〜!!!!」

 

悔しがっている様子のネブソック。あれだけ羽を乱射したのにプリキュア一人誰も倒されていない。あのままやられている姿があれば、ダルイゼンお兄ちゃん、クルシーナお姉ちゃんに褒めてもらえないというのに。

 

「あれ、キュアグレースがいないじゃん・・・」

 

ダルイゼンはグレースの姿が消えたことに疑問を抱いていた。ふと、横を見るとクルシーナの姿が消えているのも確認できた。

 

「クルシーナがやったのか・・・まあ、いいけど」

 

ダルイゼンは特に興味を示すことなく、特に大した活躍もできていないネブソックの戦いを見つめることにした。

 

「クルシーナ・・・」

 

イタイノンは突然行動に出たクルシーナに複雑な表情で見つめていた。

 

一方、グレースは・・・・・・。

 

キュイーン!

 

「ふん!」

 

「きゃあぁ!!」

 

クルシーナは掴んでいたグレースから手を離すと蹴りを入れて吹き飛ばす。そこは湖畔から何メートル、山を越えてだいぶ離れている森の中であった。

 

「うぅ・・・・・・」

 

「こうやって一対一で対峙するのは初めてかしらねぇ?」

 

グレースは体を起こすと、そこにクルシーナが降りてきて彼女の目の前に立つ。

 

「クルシーナ・・・!!」

 

「おぉ、怖い怖い・・・そんな生きてるっ感じの顔しちゃってさ」

 

グレースが睨むと、クルシーナはおどけたように軽視しながら言う。グレースは立ち上がってステッキを構え直す。すると・・・・・・。

 

ササササ・・・ササササ・・・!

 

「?」

 

茂みをかけるような音が聞こえてくる。

 

「!? きゃあぁ!!」

 

何かの影がグレースに体当たりを仕掛け、グレースは吹き飛ばされる。

 

「うぅ・・・なに!?」

 

「グレース、あれはなにラビ!?」

 

「えっ・・・?」

 

ラビリンに言われ、影の正体を突き止めようと振り向くと、そこにはリスのような姿の獣人が二本足で立っていた。彼はビョーゲンズと同じように赤い服を纏っていた。

 

「ふふふ・・・ようやく生まれたのね、アンタ・・・」

 

「はい、クルシーナ様」

 

クルシーナがその獣人に近づいて声をかけると、獣人は紳士的な態度で接する。

 

「アンタ、名前は?」

 

「私、コリーノでございます」

 

「そう」

 

コリーノと名乗った獣人は鼻をヒクヒクとさせると、グレースの方を見る。

 

「あなた、臭いますね。とても不快な健康の臭いが」

 

「くっ・・・!」

 

「グレース、気をつけるラビ! そいつもクルシーナたちと同じような気配がするラビ!!」

 

「うん!!」

 

コリーノがそう言うと、グレースは立ち上がってステッキを構える。ラビリンも彼女にアドバイスをする。

 

「コリーノ、やっちゃってくれる?」

 

「かしこまりました」

 

クルシーナの指示に、ハリーノはお辞儀をするとグレースへと向き直るのであった。

 

一方、そこから数メートル離れた同じ森の中にヘバリーヌがいた。

 

「お姉ちゃん、楽しそうだったなぁ〜、ダル兄なんかと一緒にいて〜」

 

ヘバリーヌは森の中を歩きながら、クルシーナのことを考えていた。

 

「私も〜、一緒に遊びたいなぁ〜♪」

 

そんなことを言いながら、メガビョーゲンにできそうな素体を探しているのであった。

 

「この森の中、ピリピリするなぁ〜。とーても気持ちよくできそ〜♪」

 

さらには体を抱くように悶えながらクネクネと動かしている。こんな感じで百面相をしているヘバリーヌ。

 

「おぉ?」

 

すると、ヘバリーヌが何かを見つけたようでその方向を振り向く。ヘバリーヌはゆっくりと歩きながらその場所へと近づく。

 

そこには他の木と連なっていない、一本だけポツンと立っていた切り株があった。

 

「なーんか、ここだけ〜、気持ちよくなりたーいっていうのがあるねぇ〜♪」

 

切り株から、何らかの理由で切られてしまった木の切り株から、何かの生命力を感じた。

 

「ンフフ〜♪」

 

ヘバリーヌは妖艶な微笑みを浮かべると、バレリーナのようなポーズを2回取りながら、それぞれ手を叩いて黒い塊のようなものを出現させる。そして、バレエのように体をクルクルと回転させる。

 

「進化しちゃってぇ~、ナノビョ~ゲン♪」

 

「ナノォ~♪」

 

生み出されたナノビョーゲンが鳴き声を上げながら、その切り株へと飛び込んでいくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁぁぁぁぁ!!!!」

 

プリキュアが誰もやられていない、これではダルイゼンやクルシーナに褒めてもらえないことに激怒したネブソックは高速で飛び出し、体を回転させて勢いをつけながら両足を前に突き出しながら突っ込んだ。

 

ドゴォォォォォォォォ!!!!

 

プリキュアたちとかすみは、サクヤを抱えながら間一髪でそのストンピング攻撃を飛びのいてかわす。気づくとネブソックの叩きつけた地面がクレーターのように抉れていた。

 

「すごいパワーだわ・・・!!」

 

「あれ、まともに食らったらヤバくない・・・!?」

 

「あいつらじゃなくても、油断はできないな・・・!」

 

フォンテーヌ、スパークルはネブソックのパワーに驚き、かすみはそれを冷静に見ていた。

 

「ナハハハハハハハ!!! あ・・・?」

 

笑い声をあげるネブソックは、ドヤ顔しながらダルイゼンの方に視線を向ける。

 

「・・・その程度か」

 

ガーン・・・!!

 

「!?」

 

しかし、ダルイゼンは首を振りながら、興味がないと言わんばかりに冷たく言い放ち、ネブソックはショックを受ける。そして、イタイノンに救いを求めるかのように見るが・・・・・・。

 

「・・・お前のパワーがすごいのはわかったの。でも、相手に当たんなきゃ意味ないの。バカなの?」

 

ガガガーン・・・!!!

 

イタイノンもそっぽを向きながら辛辣なコメントを放ち、ネブソックはさらにショックを受ける。二人の辛辣な評価を受けて、涙目になったネブソックは・・・・・・。

 

「ん〜〜〜〜っ!!! 次で決めるもんね〜っ!!!!」

 

ネブソックは再び上空へと飛び出す。今度は先程よりも空高く飛んで、攻撃を仕掛けようとする。

 

プリキュアたちは先程よりも強い攻撃が来ると踏んで備えるが・・・・・・。

 

「うわぁ〜・・・・・・!!!!」

 

ネブソックはなぜか攻撃してこずに、頭を抱えて怯えるような声をあげながらゆっくりと空から降りてきて、音を立てて地面へと着地する。

 

「ひぃ・・・ひぃぃ・・・!!」

 

「な、なんだ・・・?」

 

なぜか顔を手で覆いながら、ビクビクと震えているネブソック。攻撃を仕掛けて来ず、彼の様子がおかしいことにかすみはそう呟く。

 

すると・・・・・・・・・。

 

「おおおおおぉ、おっかねぇ〜!!!!!!」

 

・・・・・・・・・・・・。

 

「「「「・・・えっ?」」」」

 

そう叫んだネブソックに、思わずあっけにとられるプリキュアたち。

 

「・・・・・・は?」

 

イタイノンはその様子を見て、思わず気の抜けたような声が出てしまう。

 

「たっけーところ〜!!! 超〜おっかねぇ〜!!!!!!」

 

「・・・高いところ、怖いのか?」

 

「・・・飛べるのに?」

 

なんとネブソックは高いところが怖いらしい。いわゆる高所恐怖症だ。それにかすみとスパークルは目を丸くしていた。

 

「・・・ふぅ」

 

「はぁ・・・・・・」

 

ダルイゼンはそのありさまに呆れており、イタイノンに至ってはため息をついていた。

 

「う、う、うるせぇやい!!!!」

 

ムキになったネブソックは、翼を広げてプリキュアたちに襲いかかろうとする。

 

「ネブソック、こい!!!」

 

「私たちが相手です!!」

 

かすみとアースは自身の中にある風の力を解放させる。

 

そこへネブソックが突っ込んでくるも、かすみとアースは高速で飛び出してかわす。

 

「やぁぁぁ!!!」

 

ネブソックは方向転換して、すぐに二人へと飛び出していく。

 

しかし、アースは突っ込んでくるネブソックの背中に手を置いて反対側へと飛ぶ。

 

「はぁぁっ!!」

 

「がぁ!?」

 

そこへ風を纏ったかすみが飛び蹴りを食らわせて吹き飛ばす。ネブソックがすぐに大勢を立て直すと、自分に後ろを向けて駆け出すアースとかすみの姿が見え、二人を追いかけていく。

 

駆け出しているアースとかすみが背後を見ると、ネブソックが地面を駆けながらこちらに向かってくる。

 

「逃げるな! 逃げるなっ!! 倒すっ!!!」

 

ネブソックはそう叫びながら駆け出していく。

 

「アース!!」

 

「かすみっち!!」

 

「!!!」

 

フォンテーヌとスパークルが呼ぶ声に気付いたかすみはアースよりもスピードを上げて、一足早く二人の元へとたどり着く。そして、かすみ、フォンテーヌ、スパークルは3人で手で足場を作り、アースがこちらに来るのを構える。

 

「ふっ!!!」

 

アースは3人が作った手の足場に飛び乗って、空高く飛び上がる。

 

「絶〜対っ!! 倒す〜っ!!!!!」

 

そこへネブソックもアースに追いつこうと空高く飛び上がる。

 

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!・・・あ・・・?」

 

夢中になって追いかけ、叫んでいたネブソックはふと我に返って周囲を見渡す。そこは自身が苦手とする高い場所・・・・・・。

 

「ひぃ、たっけぇぇぇぇぇぇぇ!!!! おっかねぇ〜っ!!!!!」

 

高所恐怖症のネブソックは思わず顔を覆って、その勢いを無くして地面へと落下していく。

 

「「「はぁぁぁぁぁっ!!!!」」」

 

落下した先にはかすみ、フォンテーヌ、スパークルがおり、3人は同時にネブソックを蹴り上げて上空に吹き飛ばす。

 

「ひぃぃぃぃぃぃ・・・・・・!?」

 

悲鳴をあげながらアースに向かって吹き飛んでいく。

 

「アース、今だ!!!」

 

「はい!!!」

 

かすみの言葉を合図に、アースは両手を合わせるように祈り、浄化の準備へと入る。

 

一枚の紫色の羽が舞い降り、ハープのような武器へと姿を変える。

 

「アースウィンディハープ!!」

 

そう呼ばれたハープに、風のエレメントボトルがセットされる。

 

「エレメントチャージ!!」

 

アースはハープを手に取って、そう叫ぶとハープの弦を鳴らして音を奏でる。

 

「舞い上がれ! 癒しの風!!」

 

手を上に掲げると彼女の周りに紫色の風が集まり始め、ハープへとその力が集まっていく。

 

「プリキュア! ヒーリング・ハリケーン!!!」

 

アースはハープを上に掲げてから、それを振り下ろすとハープから無数の白い羽を纏った薄紫色の竜巻のようなエネルギーが放たれる。

 

そのエネルギーは一直線にネブソックへと向かい、直撃する。

 

「ヒーリン、グッバイ・・・」

 

ネブソックは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていく。

 

「お大事に」

 

ネブソックが蝕んだ場所が元の色を取り戻していく。

 

「やれやれ・・・やっぱり出てくるのが早すぎたね・・・」

 

「どうせ私たちと同じようになれないのは、わずかに見ただけでもわかってたの」

 

戦いを見届けていたダルイゼンとイタイノンはそう呟きながら、森の中へと消えていく。

 

「さて・・・クルシーナの方はどうかな?」

 

ダルイゼンはふと足を止めて、別の方角を見る。

 

「??」

 

逆にイタイノンは別の方角を見ていた。

 

「イタイノン、何見てんの?」

 

ダルイゼンがそんなイタイノンに声をかける。

 

「・・・・・・私、ちょっと用事ができたの」

 

イタイノンは答えようとはせずに、ダルイゼンにそう返すと茂みの中へと入っていく。

 

「・・・何だ、あいつ?」

 

ダルイゼンはその背中を呆れるように見つめた後、クルシーナの元に向かうためにその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早くグレースを助けに行こう!!」

 

ネブソックを撃破したプリキュアたち。しかし、かすみは気が気でない様子で走り出そうとしていた。

 

「ちょっ、ちょっと待ってよ!! 探すって言ったってどうやって!? どこに連れ去られたのかもわからないんだよ!?」

 

スパークルはかすみにそう叫ぶ。

 

「アース、何が起こったのか説明してくれる?」

 

その様子を見ていないフォンテーヌは、アースに問う。

 

「・・・私がサクヤさんから木を庇った際に、あのビョーゲンズが攻撃してきました。その時にグレースが守ってくれたのですが、そこにクルシーナが現れて、二人とも姿を消してしまったのです」

 

アースは状況を説明する。グレースはアースを守ろうとしたその一瞬の隙を突かれて、クルシーナにどこかへと連れて行かれたというものだ。

 

フォンテーヌはそれを聞いて表情を青ざめさせる。

 

「まずいわ・・・クルシーナと二人きりにさせたら・・・!!」

 

フォンテーヌは以前3人で水族館に行ったことを思い出す。あの時もビョーゲンズが襲撃し、シンドイーネとクルシーナが現れた。シンドイーネのメガビョーゲンを浄化している間に、クルシーナによってのどかが病気に冒されてしまい、危うく自分たちもやられるところだったのだ。

 

そんなことがあって、グレースをクルシーナと二人きりにさせたら・・・あいつはまた、何かをしでかすに決まっている・・・!!

 

「急いでグレースを探しましょう・・・!!」

 

「だ、だからどうやって・・・!?」

 

しかし、この森の中でグレースをどうやって探せばいいかわからない。クルシーナがどこに行ったのかわからないのだ。

 

「そんなものは、私が泣いている声を辿れば・・・!!」

 

ドクン!!!!

 

「!?」

 

かすみが能力を使おうとしたとき、彼女は何かを感じて目を見開く。そして、その気配が感じる方向へと振り向く。

 

「泣いている声が、聞こえる・・・」

 

「「!?」」

 

かすみがそう呟くとフォンテーヌとスパークルは驚く。かすみが向いている方向は森のある山の中だ。こんな深そうな森の中にビョーゲンズがまだいるというのだろうか・・・?

 

「でも、あっちと、あっちにいる・・・」

 

「二つあるの・・・!?」

 

かすみが苦い顔をしながら、首を二つの場所へと交互に視線を向ける。泣いている声の気配は二つあるというのだ。

 

「クチュン!! クチュン!!」

 

「ラテ・・・!!」

 

すると、アースが抱いていたラテがくしゃみを2回する。彼女は聴診器を当てて、ラテを診察する。

 

(あっちの山の向こうで半分の木が泣いてるラテ・・・あっちの森の中で泣いてるラテ・・・)

 

「半分の木・・・?」

 

「きっとあの森の中よ! 行きましょう!!」

 

「ああ・・・行こう!! 私に着いてきてくれ!!」

 

かすみは泣いている声を辿りながら先行して進み、プリキュアたちはその後をついていきながら森の中へと入っていくのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第69話「思い出」

前回の続きです。
今回はオリストですね。ビョーゲンズ二戦目です。


 

「メガァ・・・・・・」

 

森の中、切り株のような姿のメガビョーゲンが地面から根っこを出すとそれを伸ばして、周囲の自然を病気へと蝕んでいく。

 

「いいよいいよ~、どんどんこの森を気持ちよくしてぇ~♪」

 

ヘバリーヌはメガビョーゲンが周囲の自然が病気になっていくのを見ながら喜ぶ。

 

そんな彼女には気になるものがあった。それは、この前イタイノンにもらったメガパーツだ。

 

「これってどういう風に使えばいいのかなぁ~?」

 

彼女にもらったはいいものの、その使い方がいまいちわからずに両手の指を頭に当てながら考え込むヘバリーヌ。

 

「メガビョーゲンに当てればいいのかなぁ~?」

 

ふとメガビョーゲンの方を見てそう考える。お姉ちゃんたちによれば、メガビョーゲンから採取したその一部だという。だから、メガビョーゲンに当てれば使えるのでは?

 

「まあ、いっか~。メガビョーゲン、もっともっと気持ちよくしちゃってぇ~♪」

 

「メガビョーゲン・・・・・・」

 

ヘバリーヌの指示を受け、メガビョーゲンはさらに蝕む範囲を広げるべく根っこを伸ばし始めた。

 

一方、プリキュア3人は森の中で、かすみの泣いている声を辿りながらビョーゲンズの居場所を探っていた。

 

「泣いている声は、あっちに・・・!!」

 

「「「!!」」」

 

かすみの感じるという気配を追っていくと、皆は目の前に見えてくる光景に驚く。赤い靄に蝕まれている自然の木が見えてきたからだ。

 

「サクヤさんが守っている木が・・・!!」

 

「もしかしたら、この先に・・・!!」

 

「!?」

 

プリキュアたちはこの先にビョーゲンズがいるであろうと睨むが、その直後・・・・・・。

 

ズドドドドドドドドドン!!!!

 

なんと木の根っこのようなものが地面から音を立ててこちらに向かってきたのだ。

 

「うわぁ!! な、なんだ!?」

 

かすみは驚きながらも、向かってくる根っこを横に飛んでかわしたり、飛び乗って踏んづけたりして根っこをいなしていく。

 

「これって、何の、攻撃!?」

 

スパークルは戸惑いながらも、襲い来る根っこをパンチなどで弾きながら進んで行く。

 

「きっと、この先にビョーゲンズが、いるのよ!!」

 

フォンテーヌも青い光線などで牽制しつつ、根っこを避けながら進んで行く。

 

「ふっ!! 早く行きましょう!! はぁっ!!!!」

 

アースはパンチやキックなどで捌きつつ、前へと進む。

 

一方、ヘバリーヌとメガビョーゲンは・・・・・・。

 

「メ!? ガガ、ガ・・・!?」

 

「ん~? どうしたの~? メガビョーゲン?」

 

根っこを伸ばして蝕んでいるメガビョーゲンがなぜか苦しみ出したことに、疑問を抱くヘバリーヌ。

 

「いたぞ!! メガビョーゲンが!!」

 

「ん~?」

 

聞こえてきた声に振り向くと、そこに現れたのはヘバリーヌにとってはいつぞやの金髪の少女とプリキュアたちの姿があった。しかも、その中には・・・・・・。

 

「あぁー!! お姉さんだぁ~♪」

 

ヘバリーヌはあの時に会った女性と同じ人物にまた会えたことに歓喜の声を上げる。

 

「お、お前は・・・!?」

 

「ヘバリーヌ!!」

 

かすみは以前コテンパンにされた白鳥の衣装を着たバレリーナのような幹部に会ったことに動揺し、フォンテーヌはヘバリーヌがいることに意外そうな声を上げる。

 

「あれぇ~? 青と黄色のプリキュアちゃんもいたのぉ~? そ・れ・に、あの時の金髪の娘もいるねぇ~♪」

 

アース以外のプリキュア二人とかすみのことを見ながら、ヘバリーヌは妖艶な微笑みを浮かべながら言う。

 

「グレースはどこだ!?」

 

「グレース~? ピンクのプリキュアちゃんのこと~? 知らないよ~。あ、よく見れば一人いないね♪」

 

かすみがヘバリーヌを睨みながら言うも、彼女はおどけたような明るい調子でそう言う。ピンクのプリキュアには会ったこともないし、今日は顔を見たこともない。

 

「もしかして、隠してんじゃないよね!?」

 

「だから知らないってばぁ~、プリキュアちゃんたちがはぐれたんじゃないの~?」

 

スパークルが問い詰めようとするも、ヘバリーヌはちょっと不満そうな表情をしながら言う。どうやら本当にグレースのことを知らないようだ。

 

(って、ことは・・・もうひとつの泣いている声の方にいるのか・・・!?)

 

かすみは心の中でグレースの居場所を考える。と、なるとおそらくもう一箇所の、クルシーナの方にいるだろう。大変だ・・・早く助けに行かないと・・・!!

 

「それよりもお姉さん、ヘバリーヌちゃんのところに遊びに来てくれたの~?」

 

ヘバリーヌはどうやらアースに向かって声をかけているようで、無邪気そうな声で言うその言葉を聞いていたアースは・・・・・・。

 

「そうではありません!! この森をお手当てをしに来たのです!!」

 

アースはヘバリーヌの声をきっぱりと否定し、彼女のことを険しい表情で見る。

 

「お手当てよりも~、ヘバリーヌちゃんと遊ぼうよぉ~♪」

 

ヘバリーヌはそういうとアースに向かって、足を振るって風の斬撃を放ってきた。

 

「ふっ!! はぁっ!!」

 

「よーっと!!」

 

「うぅ、くっ・・・!!」

 

アースは攻撃を最小限の動きで交わすが、そこへヘバリーヌが飛び蹴りを繰り出してきたので、両腕をクロスさせて攻撃を受け止める。

 

「「「アース!!」」」

 

「おぉ? そっちも待ちきれないって顔だね~♪」

 

ヘバリーヌは叫んだプリキュアの2人とかすみを見て、不敵な笑みを浮かべる。そして、片方の足を前に出して蹴ると、背後へと一回転して着地する。

 

「メガビョーゲ~ン!! あの3人を気持ちよくさせてあげて~♪」

 

「メガビョーゲン・・・」

 

ズドドドドドドドドド!!!!

 

ヘバリーヌは指示をすると、メガビョーゲンは地面から根っこを3人の周囲へと出して襲わせる。

 

「「「ふっ!!!」」」

 

3人は飛び上がって、その攻撃をかわす。

 

「はぁっ!!」

 

かすみは着地した後に、根っこへと飛び出してドロップキックを食らわせる。

 

「やぁっ!!」

 

スパークルは根っこの中枢部分へと飛び出すとそこをパンチで攻撃する。

 

「メ!? ガ、ガァ・・・!?」

 

「はぁっ!!」

 

「ビョー、ゲン・・・!?」

 

メガビョーゲンはその攻撃に切り株の体を反らして怯み、その顔面にフォンテーヌが蹴りを食らわせた。

 

「あぁ~もぉ~!! これじゃあ、この森が全然気持ちよくできないよぉ~!!」

 

その様子を見ていたヘバリーヌは不満そうな声を漏らした。

 

「何かないかなぁ~? 何かないかなぁ~?」

 

「はぁっ!!」

 

「!! おっと~!!」

 

ヘバリーヌがその状況をどうにかしようと考えていると、そこにアースが隙をついて飛び蹴りを入れてくる。しかし、ヘバリーヌはそれに気づいて片なくかわす。

 

「お姉さん、無粋だよぉ~? 考えている最中に攻撃するなんてねぇ~♪」

 

「お手当てに無粋も何もありません!!」

 

ヘバリーヌが嘲りの入った明るい口調でそう言うも、アースは相手をすることもなく、ヘバリーヌに攻撃をしようと飛び出す。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「はしゃいじゃってぇ~、もぉ~♪」

 

アースは連続で蹴りを放っていくものの、ヘバリーヌは不敵な笑みを浮かべながら涼しい顔をして首を動かすだけでかわしていく。

 

隙をついて両腕を頭上でクロスさせて足を受け止める。

 

「・・・あぁ~、そっかぁ~。お姉ちゃんからもらったのを使えばいいんだぁ~♪」

 

ヘバリーヌは何かを思いついたようで、抑えているアースの足を両腕で挟むようにして掴み、体を反時計にして回転させるとアースの上へと飛び上がる。

 

「!?」

 

「ほれっ!!」

 

「あぁぁ・・・!?」

 

ヘバリーヌはその最中に右手から黒い竜巻をアースに目がけて放つ。アースは回避ができず、防御体制を取りながらで耐えようとする。

 

その間にヘバリーヌはアースの後ろ側へと綺麗に着地すると、その手にはメガパーツが握られていた。

 

「そ~れっ!!」

 

ヘバリーヌは自身が生み出した切り株のメガビョーゲンに目がけてメガパーツを投げる。一直線に向かっていったメガパーツはメガビョーゲンの体に当たるとその中に飲み込まれていく。

 

「メ!? ガガガガガガガガガガ!!!!」

 

メガビョーゲンは苦しむ声を上げると、体から膨大なオーラを溢れさせていく。

 

ズドォン!! ズドォン!! ズドォォォォォン!!

 

「メガビョーゲンッ!!!」

 

すると、メガビョーゲンはその場から根っこを地面から出して立ち上がれるようになり、さらには巨大化してパワーアップを遂げた。

 

「うわぁっ!! メガビョーゲンが動き出したんだけど!?」

 

スパークルはメガビョーゲンの動きに変化が現れたことに驚く。

 

「おぉ~!! メガビョーゲンがおっきくなった~!! これならも~っと地球を気持ちよくできるね♪ メガパーツすご~い!!」

 

ヘバリーヌは自分のメガビョーゲンが急成長したことに腕を振り回しながら興奮していた。

 

「ヘバリーヌもメガパーツを持っていたのか!?」

 

「うん、そうだよ~。お姉ちゃんからもらったの♪」

 

かすみの動揺する声に、ヘバリーヌは当然のように答える。

 

「あっ、そうだ♪ お姉ちゃん取れるって言ってたよね~♪」

 

ヘバリーヌは思い出したかのように言うと、自身のメガビョーゲンの横に瞬間移動をする。

 

「それっ!!」

 

ヘバリーヌは足から風の斬撃を放って、地上から出ている一部の根っこの先を切り落とす。落ちた根っこの一部は地面へと落ちると、それは緑色になって3個のメガパーツとなった。

 

ヘバリーヌはそれを見て笑みを浮かべると、メガパーツへと近づく。

 

「っ、ダメ!!!」

 

フォンテーヌはメガパーツを拾おうとするヘバリーヌに気づき、阻止しようとする。

 

「メガァ・・・!!」

 

しかし、メガビョーゲンがフォンテーヌの前に無数の根っこを地中から出して妨害する。

 

「メガパーツ、ゲット~♪」

 

その間にヘバリーヌは4個のメガパーツを拾って笑みを浮かべる。

 

「メガァ!!!!!」

 

そして、メガビョーゲンはそれを見届けた後のように両腕の指をツルのように伸ばして攻撃をしてきた。

 

「はぁ!!」

 

「ぷにシールド!!」

 

かすみは紫色のシールド、スパークルは肉球型のシールドを展開して攻撃を受け止める。

 

「くっ・・・!!」

 

「やっぱり、でかいとタチが悪いぜ・・・!!!」

 

かすみとスパークルが張っていたシールドはメガビョーゲンの攻撃に押されていた。

 

「メガ!!!!」

 

バシュッ!!!!

 

「「あぁぁ!!!」」

 

メガビョーゲンは指先から禍々しい赤い光線を放って二人を吹き飛ばした。

 

「かすみ!! スパークル!!」

 

「メガビョーゲン!!」

 

「っ・・・!!」

 

フォンテーヌが叫ぶも、メガビョーゲンは地中から出した根っこを伸ばしてくる。

 

「っ! ふっ! っ・・・!!」

 

フォンテーヌは襲い来る根っこを飛び退きながら避けていき、空中へと飛び上がる。

 

「メガ!!」

 

「!! あぁっ・・・!!」

 

しかし、メガビョーゲンが空中に逃げたフォンテーヌに目がけて地中から根っこを複数伸ばし、無防備なフォンテーヌを捕らえた。

 

「ぐぁ・・・あぁっ・・・!!」

 

そのままメガビョーゲンに締め上げられ、苦しみの声を上げるフォンテーヌ。

 

「フォンテーヌ!!」

 

「お姉さんはヘバリーヌちゃんと遊んでね~♪」

 

「くっ・・・!!」

 

アースが気づくも、瞬間移動をしたヘバリーヌがそこへ蹴りを入れようとし、アースはそれを防ぐ。ヘバリーヌが邪魔をしてそちらに向かうことができない。

 

「火のエレメント!!」

 

スパークルは火のエレメントボトルをセットする。

 

「はぁっ!!」

 

火を纏った黄色い光線をフォンテーヌを縛っている根っこに目がけて放つ。

 

「メェ!?」

 

光線が直撃したその熱さに動揺したメガビョーゲンがフォンテーヌを解放し、そこをかすみが助ける。

 

「フォンテーヌ、大丈夫か!?」

 

「ええ・・・大丈夫」

 

かすみに支えながらフォンテーヌは立ち上がる。

 

「もぉ~! 全然メガビョーゲンに近づけないよ~!!」

 

「根っこが厄介だな・・・あれをなんとかできればいいんだが・・・」

 

スパークルがぼやき、かすみは冷静に邪魔なものをどうしようかと考えながら言う。

 

「メガ!!!!」

 

メガビョーゲンは複数の根っこを自分の元に縮めると、上空へと掲げ、3人に目がけて赤い光線の雨を噴射する。

 

「「「ふっ!!」」」

 

3人は散らばって光線を避ける。

 

「やぁ!! ほっ!! はっ!!」

 

「うっ・・・!!」

 

一方、アースはヘバリーヌに蹴りの応酬で攻められ、防戦一方の状態。

 

「そーれっと!!」

 

「うぅぅぅ・・・!!!!」

 

ヘバリーヌが足を振り上げた渾身の蹴りを食らい吹き飛ばされるも、倒れないように持ち堪える。

 

「お姉さん、どうしたの~? もっと一緒に遊ぼうよ~♪ 昔みたいにさぁ~♪」

 

ヘバリーヌは無邪気な子供のような口調で言う。

 

「昔とは何のことですか!? 私はあなたなど知りません!!」

 

アースはヘバリーヌのことをきっぱりと否定する。自分にはヘバリーヌと前に会ったこともなければ、遊んだこともないはず。このビョーゲンズは何を言っているのだろうか?

 

「またまたとぼけちゃってぇ~、一緒に遊んでくれたじゃん。えーっと・・・あれ?何だったっけ? でも、まあこういうことしたよね~?」

 

ヘバリーヌは明るい声を崩さずに言うも、この女性と遊んだはずの記憶が思い出せない。でも、多分こういうことはしていただろうと考えながら言う。

 

アースは構えを解くと、冷静な眼差しでヘバリーヌを見つめる。どうやらこのビョーゲンズは自分とそっくりの別人と勘違いしているのだろうと。正しておかないとこちらの心がやられかねない。

 

「・・・ヘバリーヌ、私はあの時にあなたと対峙して出会ったのが初めてです。あなたと遊んだことはないのです」

 

アースの言葉に、ヘバリーヌは明るい表情から段々と目を丸くしたような表情になっていく。

 

「・・・え? だって、私が遊んだお姉さんはお姉さんだったし、今ここにいるお姉さんもあの時のお姉さんだし、え?え? どういうこと?」

 

ヘバリーヌは過去の出来事とここにいる人物、二つの記憶を思い出そうとするも、どちらも見た目が一致している。しかし、アースの言った自分はあれとは違う人物・・・ヘバリーヌの頭の中は混乱していく。

 

「だ、だって、あの時のお姉さんはお姉さんで、ここにいるお姉さんもお姉さんで・・・え?え?え?どういう、こと・・・わかんないよぉ・・・」

 

ヘバリーヌは頭を抱えながらしゃがみ込んで体を震わせる。

 

「違うのです!! ヘバリーヌ!! あなたはおそらく、見た目は一緒でも、別の人と勘違いをしているのです!! 私にはあなたと遊んだ記憶は、どこにもありません!!」

 

アースはヘバリーヌに訴えかける。いつまでも勘違いしているということを止めさせるために、自分もヘバリーヌもこれ以上混乱させないために。

 

すると、ヘバリーヌの震えが止まる。アースは表情が窺えず、険しい表情を見せていたが、ふとヘバリーヌが口を開いた。

 

「・・・嘘だ」

 

「??」

 

ヘバリーヌから発せられる声、それはいつもの彼女とは思えない冷たい声だった。

 

「嘘だ・・・嘘だよ!!! 声も一致してるし、しゃべり方もそんな感じだったし、姿も似ているし、お姉さんはお姉さんだよ!!!! あの時も今も全然違わない!!! お姉さんは遊んでくれたお姉さんだよ!!!!!」

 

そして、何か爆発したかのようにヘバリーヌが叫び散らす。いつものような明るい口調も、抑揚のある口調もない・・・普通の少女の叫びだった。

 

「違います!! 私はあなたとは何の関係も・・・!?」

 

アースが反論をしようとするが、彼女の顔の横スレスレで黒い竜巻が飛び抜け、背後にある一本の木に当たったかと思うと、音を立てて地面へと倒れた。

 

ヘバリーヌが片手からアースにわざと当てないように放ったのだ。

 

「お姉さん? お姉さんはお姉さんなんだよ。私に優しく接してくれたお姉さん、私に遊べる喜びを教えてくれたお姉さん、私に気遣ってくれたお姉さん、みんなみんなお姉さんなんだよ。そんな私とお姉さんの思い出を貶すなら・・・たとえお姉さんでも許さないよ・・・?」

 

ヘバリーヌは顔を上げながらアースに向かって言い放った。その目はこちらを敵視するように睨みつけられていた。

 

「わ、私は・・・そんなつもりは・・・!!」

 

「うるさいうるさーい!! お姉さんの嘘なんか聞きたくなーい!!!!」

 

思わず動揺してしまったアースに、ヘバリーヌは首を振りながら拒絶し、表情は変えずに両手に風を纏わせるとそこから黒い竜巻を放ってきた。

 

「くっ・・・やむを得ません・・・!! はぁっ!!!!」

 

アースは自身の風の力を解放すると、右腕を振るって風を放つ。黒い竜巻と風はぶつかり合って爆発を起こす。

 

「っ・・・!?」

 

アースは思わず顔を覆うも、ふと前を見るとヘバリーヌが迫ってくるのが見えた。

 

「やあぁぁぁ!!!!」

 

「っ、うぅぅ・・・!!」

 

飛び蹴りモーションでこちらに突撃してくるヘバリーヌを、アースは受け止めるもとてつもない力にアースの表情が歪む。

 

「ほらっ!!!」

 

「っ!? あぁぁぁぁ!!!!!」

 

ヘバリーヌは片足を受け止められた状態のまま、もう片方の足で黒い竜巻を放つ。巻き込まれたアースはそのまま大きく吹き飛ばされ、背後の木に叩きつけられ、地面へと落ちる。

 

ヘバリーヌはよろつきながらも立ち上がるが、そこにヘバリーヌが猛スピードで迫っていき、右足を繰り出して背後にある木を蹴りつける。それはアースの顔スレスレに繰り出されていた。

 

「ねえ、謝ってよ。私とお姉さんの思い出を嘘だなんて言ったこと」

 

「っ・・・」

 

アースに謝罪を要求するヘバリーヌ。その表情は鋭い眼差しで、その声はいつもより冷たく呟かれていた。

 

「ヘバリーヌ・・・あいつもいたの?」

 

その近くの木にはイタイノンが隠れながら様子を伺っていた。

 

メガビョーゲンの一部であるかけらが虫のように歩きながら向かっていくのが見えたイタイノンは、ダルイゼンと別れてそれを追っていたのだが、ヘバリーヌがいるとは思わなかった。

 

「あながち、クルシーナに着いて行ってここに来たって感じなの」

 

クルシーナは最近、メガパーツの使い方に試行錯誤をしていて、ヘバリーヌを全く相手にしていない。退屈な彼女はそれでクルシーナに着いてきて、一緒に地球を蝕む遊びをしたかったのだろうとそう推測していた。

 

「まあ、地球を蝕むのに決まりなんかないの」

 

イタイノンは特に興味がないという感じでそう言う。

 

カサカサカサ・・・カサカサカサ・・・。

 

「!!」

 

茂みから音が聞こえて振り向くと、自身が歩かせるようにしたメガビョーゲンのかけらが歩いていくのが見えた。

 

「早く追わないと見失うの・・・!!」

 

イタイノンはヘバリーヌのことは放置して、そのかけらを追うべく歩き去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドン!! ズドォォォォォォン!!!!

 

メガビョーゲンが地中から、地上から複数の根っこを伸ばしてフォンテーヌたちに襲いかかる。

 

「っ!! はぁっ!!」

 

フォンテーヌは地中から伸びてきた根っこを交わして飛び上がり、地上から伸びてきた根っこを蹴りで牽制する。

 

「うぅぅ!! うわぁっ!!!」

 

スパークルは地上から伸びてきた根っこを飛びのいてかわすも、後ろにある地中からの根っこに当たりそうになってよろけて倒れてしまう。

 

そこへ地上の根っこが地中を進んで顔を出すと、禍々しいビームを放った。

 

「はぁっ!!」

 

かすみがスパークルの前に出て紫色のシールドを張り、ビームを防ぐ。

 

「ありがとう、かすみっち・・・!!」

 

「ああ・・・それにしても、はぁっ!!」

 

かすみはビームを放った複数の根っこへと飛び出すと足を伸ばして高速回転し、根っこを薙ぎ払う。

 

「もぉ~! 攻撃しても攻撃してもキリがないんだけど~!!!」

 

スパークルはぼやきながらも、背後の根っこに光線を放って攻撃する。

 

その一方で、アースは・・・・・・。

 

「早く謝ってよ、お姉さん」

 

冷たい表情でアースに謝罪を要求するヘバリーヌ。自身の思い出の中の女性を否定されたことによって、ヘバリーヌは怒りの感情を抱いているのだ。

 

「っ・・・・・・」

 

「ねえ、早くぅ~・・・」

 

ヘバリーヌの不機嫌そうな声。そんな彼女をアースは切なそうに見つめる。

 

自分は正そうと思っただけなのに、敵とはいえ、こんなにも彼女の心を傷つけてしまったのか。

 

アースは目をつむって考える。この状況で自分はどうするべきか。自分にも精霊で生まれたばかりではあるが、のどかたちとの楽しい思い出がある。その中にいるのは自分が一度避けていたかすみだ。

 

今ではかすみは自分の友人だ。最初、彼女からはあまり良くない気配を感じたのが原因だが、そんなものは関係ない純粋で優しい人物であることを知り、自分のことを友達だと言ってくれた。それを今でも本物だと思っている。

 

それを偽物だと言われたら、自分はどういう感情を抱くだろうか。目の前にいるビョーゲンズもそう考えているかもしれない。でも・・・・・・・・・。

 

思考を終えたアースは目を開いた。

 

「ヘバリーヌ・・・」

 

「ん~?」

 

「あなたの言うお姉さんは私かもしれません。もしかしたら、私が覚えていないだけかもしれませんし、別人かもしれません。でも、あなたの思い出は偽物ではないと思います。それを傷つけたことは謝ります」

 

「・・・・・・・・・」

 

「でも・・・!!」

 

アースはヘバリーヌが伸ばしている足を掴む。そして、強い眼差しを秘めた目でヘバリーヌのことを見る。

 

「そのために、他のものを傷つけるような遊びをすることは、私が許しません!!!!」

 

「!?」

 

アースは腕に力を入れてヘバリーヌの足を払いのける。彼女に足を動かされたことで動揺が生まれた。

 

「はぁっ!!」

 

「っ!!!!」

 

その隙を逃さずに、アースはミドルキックを放ち、ヘバリーヌもとっさに両手で足を受け止めてダメージを殺すも、背後へと吹き飛ぶ。

 

「あぁっ!?」

 

そのまま木へと背中から叩きつけられるヘバリーヌ。その瞬間・・・・・・。

 

ザザザ・・・ザザザ・・・。

 

ヘバリーヌの頭の中にある映像が蘇る。

 

ーーーー風香、ママは一緒にいられないの。ごめんね・・・。

 

病室のベッドに横になる自分に話しかけてくる女性。

 

「っ!?」

 

ザザザ・・・ザザザ・・・。

 

それはアースの頭の中にも流れていた。

 

ーーーーキャハハッ、キャハハハハ♪

 

ーーーー風香さん、こっちですよ♪

 

ーーーーつーかまーえた♪

 

ーーーーうふふ・・・。

 

ーーーーお姉さんがいれば、私、寂しくないよ♪

 

病院の遊びのスペースで、金髪の女性ーーーーお姉さんと戯れる自分。

 

ザザザ・・・ザザザ・・・・・・。

 

「・・・ンフフ♪」

 

ヘバリーヌは思い出に笑みを浮かべながら、倒れないように踏ん張る。

 

「お姉さーん!! もっと遊ぼ~!!!!」

 

ゴォォォォォォォォォ!!!!

 

ヘバリーヌはいつもの調子を取り戻し、自身の風の力を爆発させるとアースへと突っ込んでいく。

 

「・・・そうなのですね。ヘバリーヌ、あなたは・・・」

 

あるはずのない記憶が流れ、アースは何かを察したようにそう呟く。なんだかよくわからないが、このビョーゲンズを救わなければならない気がする。

 

その顔は覚悟を決めたような表情になっていた。

 

「ヘバリーヌ、あなたを浄化して、元のあなたを取り戻してみせます!!」

 

アースは風の力を解放し、ヘバリーヌへと飛び出す。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

 

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

 

ドォォォォォォォォン!!!!

 

アースとヘバリーヌの風の力が衝突し、周囲が吹き飛ぶと言わんばかりの衝撃波が起こる。

 

ズドォン!! ズドォォォン!!

 

「ふっ!! はぁ!!」

 

かすみはバク転をしながら地上から襲い来る根っこを避け、フォンテーヌとスパークルに合流する。

 

「これじゃあ、キリがないぞ・・・!!」

 

「もぉ~!! どうしたらいいの~!?」

 

かすみとスパークルが倒しても姿を表す根っこにぼやく。その一方、フォンテーヌは飛び出している根っこと顔がある切り株のメガビョーゲンを交互に見つめる。

 

根っこはあの本体のような部分が操ってる・・・根っこは本体と繋がっている・・・ということは・・・!!

 

「スパークル、かすみ」

 

「??」

 

「どうした?」

 

「私に考えがあるの。協力してくれる?」

 

フォンテーヌの言葉を聞いたスパークルとかすみは頷く。

 

「二人は根っこを引きつけて欲しいの。私はあの切り株の本体に迫るわ」

 

「うん!!」

 

「わかった!!」

 

3人はお互いに頷きあうと、メガビョーゲンの切り株の方へと走り出す。

 

「メガァ・・・!!」

 

メガビョーゲンは根っこを縮めてから、3人に目がけて伸ばしてきた。走り出す3人の前に根っこの一部が飛び出してくる。

 

「はぁっ!!」

 

スパークルは木へと飛ぶとそれを蹴って、根っこの一部にまとめて蹴りを入れて静止させる。その間にフォンテーヌとかすみは根っこの脇を掻い潜って走り出す。

 

「メ、メガ・・・!?」

 

それに動揺したメガビョーゲンは根っこの一部をフォンテーヌとかすみの周囲に伸ばして襲わせる。根っこの中に包まれる二人だが・・・・・・。

 

パァァァァァ・・・!!!!

 

「はぁっ!!!!」

 

かすみが自分の中にある風の力を解放して、根っこを吹き飛ばす。そして、フォンテーヌの腕を掴むとグルグルとスイングし・・・・・・。

 

「行けっ!! フォンテーヌゥゥ!!!!」

 

かすみはフォンテーヌを切り株の本体に目がけて投げ飛ばした。

 

「メ!? メガァァ・・・!?」

 

さらに動揺したメガビョーゲンが残った根っこを飛んでくるフォンテーヌへと伸ばす。

 

「はぁっ!!」

 

「メ!? メ、ガ・・・!?」

 

かすみが羽の舞った風を纏った紫色の光線を放つ。残りの根っこに直撃し、メガビョーゲンが怯む。

 

「氷のエレメント!!」

 

フォンテーヌはその隙に氷のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「はぁぁぁぁっ!!!」

 

氷を纏った青い光線を切り株のメガビョーゲンの本体に目がけて放つ。

 

「メ、ガ、ガ・・・!?」

 

本体に光線をまともに受けたメガビョーゲンは氷漬けになり、それに加えてメガビョーゲンが飛び出させていた根っこも一緒に氷漬けになった。

 

「やったぞ!!」

 

かすみはフォンテーヌの作戦がうまくいったことに歓喜の声をあげる。

 

「よーし!!」

 

キュン!

 

「キュアスキャン!!」

 

好機と見たスパークルはステッキの肉球に一回タッチして、メガビョーゲンに向ける。ニャトランの目が光り、切り株のちょうど真ん中あたりにエレメントさんがいるのを発見した。

 

「見つけたぞ!! 木のエレメントさんだ!!」

 

一方、ヘバリーヌと戦っているアースは・・・・・・。

 

「ん? あぁ!? メガビョーゲン!!」

 

アースと取っ組み合いをしていたヘバリーヌは思わずメガビョーゲンの方に振り向くと、氷漬けになっているのを見て驚く。

 

「かすみさんとフォンテーヌたちがやったみたいですね」

 

「あぁん♪」

 

アースはそれを見てそう言うと、ヘバリーヌの隙をついて両腕を振りはらう。

 

「はぁっ!!」

 

「あぁっ♪」

 

アースが右腕を振るって風を巻き起こし、ヘバリーヌを吹き飛ばす。そして、アースはフォンテーヌたちの方へと飛んで合流する。

 

「アース、頼む!!」

 

「はい!!」

 

アースは両手を合わせるように祈り、浄化の準備へと入る。

 

一枚の紫色の羽が舞い降り、ハープのような武器へと姿を変える。

 

「アースウィンディハープ!!」

 

そう呼ばれたハープに、風のエレメントボトルがセットされる。

 

「エレメントチャージ!!」

 

アースはハープを手に取って、そう叫ぶとハープの弦を鳴らして音を奏でる。

 

「舞い上がれ! 癒しの風!!」

 

手を上に掲げると彼女の周りに紫色の風が集まり始め、ハープへとその力が集まっていく。

 

「プリキュア! ヒーリング・ハリケーン!!!」

 

アースはハープを上に掲げてから、それを振り下ろすとハープから無数の白い羽を纏った薄紫色の竜巻のようなエネルギーが放たれる。

 

そのエネルギーは一直線にメガビョーゲンへと向かい、直撃する。

 

竜巻のようなエネルギーはメガビョーゲンの中で二つの手へと変化し、木のエレメントさんを優しく包み込む。

 

メガビョーゲンをハート状に貫きながら、光線はエレメントさんを外に出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていく。

 

「お大事に」

 

メガビョーゲンが蝕んだ自然の木が元の色を取り戻していく。

 

「あ~あ、終わっちゃった~。でも・・・ヘバリーヌちゃんは満足だもん♪」

 

ヘバリーヌは嬉しそうにそう言うと、アースの方を見据える。

 

「お姉さん、また遊んでね♪」

 

ヘバリーヌは彼女に聞こえない声でそう呟くと、メガパーツを抱えたまま、その場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、フォンテーヌとスパークルは素体元の切り株に聴診器をあてて、エレメントさんの様子を見ていた。

 

「エレメントさん、大丈夫?」

 

「危ないところをありがとうございました!私は元気です!!」

 

エレメントさんはプリキュアたちに無事であることを伝えるとそのまま切り株の中に戻って行った。

 

「さあ、早くグレースの元に!!」

 

フォンテーヌの言葉に、かすみやスパークル、アースは頷く。

 

「かすみっち、泣いている声の場所、わかるんだよね?」

 

「ああ・・・あっちだ!!」

 

スパークルはかすみに声をかけると、かすみは進むべき方向を指さす。

 

「行きましょう!!」

 

アースの言葉を合図に、4人はグレースがいるであろう場所へと駆け出していく。

 

「・・・・・・・・・」

 

その最中、アースは一人、険しい表情をしていた。

 

「? アース、どうしたの?」

 

それに気づいたスパークルが声をかける。

 

「みなさん・・・私は、本当はあの娘にあったことがあったのでしょうか?」

 

「あの娘って、ヘバリーヌのこと?」

 

「どういうことだ?」

 

「私は正したかっただけなのに、あの娘を逆に傷付けてしまいました。敵とはいえ、胸が痛くなったんです。私は何か間違ったことをしてしまったのでしょうか?」

 

アースは暗い声でそう言った。自分は頭が混乱するという理由で、敵の娘を意図せずに傷つけてしまった。それに関することで胸を痛めているのだ。自分は取り返しのつかないことをしてしまったのではないかと。

 

「でも、アースは謝ったんでしょう?」

 

「はい・・・謝りました・・・」

 

「自分のためにというのはわかるわ。でも、それで相手を傷つけて、謝らないというのはもっといけないことよ。アースは謝るというのを自分が正しいと思ったことをやったのでしょう? なら、それでいいのよ」

 

フォンテーヌの言葉に、アースは彼女の方を向く。

 

「いいの、ですか?」

 

「ええ」

 

フォンテーヌはアースに笑顔で頷く。

 

「いいじゃん!! あたしも、自分が悪いって思ったらすぐ謝るし!!」

 

「スパークルの場合は謝りすぎだと思うけどニャ・・・」

 

スパークルの言葉に、ニャトランは呆れたように言う。

 

「私も、自分に過失があったら、謝る。だって、誰も傷ついてほしくないからな・・・」

 

「かすみさん・・・」

 

スパークル、かすみの言葉にアースは笑顔になる。

 

「元気、出たか?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

かすみの気を遣う言葉に、アースは笑顔で言う。そして、みんなは真剣な表情になる。

 

「よし!! 早くグレースを助けに行くぞ!!」

 

「OK!!」

「ええ!!」

「はい!!」

 

かすみの言葉にみんなは返事をし、4人は気持ちを新たにグレースの元へと向かうのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第70話「風」

前回の続きです。
今回で第24話ベースはラストとなります。

そして、ビョーゲンズにも不穏な動きが・・・・・・。


 

フォンテーヌとかすみたちが、ヘバリーヌとメガビョーゲンと交戦している中・・・・・・。

 

シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!

 

「うっ! きゃあぁ!!」

 

木から木へと高速に飛び移り、グレースへと迫っていくコリーノ。グレースはコリーノの動きを捉えられず、彼が近接で振るう爪攻撃を食らっていく。

 

「遅い、遅いですなぁ。それでは私は捉えられませんよ」

 

シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!

 

「くっ・・・うぁっ! あぁっ!!」

 

高速で動く影に翻弄されて爪攻撃を喰らい、体当たりを受けて転がされるグレース。

 

「うぅ・・・!!」

 

「動きが速すぎて、どこから来るのか全然わからないラビ!!」

 

グレースは諦めずに立ち上がり、ステッキをコリーノに向けて構えようとする。

 

シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!

 

「くっ・・・!」

 

シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!

 

「あぁ・・・!」

 

シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!

 

「ふぬぅ!!!!」

 

「!? きゃあぁぁ!!!」

 

グレースは高速で移動するコリーノにステッキを向けようとするも、速さに追いつけず結局は背中に飛び蹴りを受けて、地面へと押し倒されてしまう。

 

コリーノは素早く動いて飛び上がると、地面へと着地する。

 

「いくらステッキで追っても無駄です。私の速さには追いつけませんよ」

 

コリーノは見下しながら言うと再び木へと高速で移動し、木から木へと高速で移動する。

 

シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!

 

「っ・・・」

 

グレースは再び立ち上がると、辺りをキョロキョロしながら警戒する。

 

「グレース! 目で追ってちゃダメラビ!! 気配をたどるラビ!!」

 

「そ、そんなこと言われても・・・あぁっ!?」

 

ラビリンの言葉に困惑している間にも、コリーノはグレースに高速で迫り攻撃を加え、再び木へと戻る。

 

「くっ・・・!」

 

グレースは再びステッキを構える。

 

「ふーん、思ったほどやるわね。でも、あの新入りと脱走者相手にはどうかしらね?」

 

クルシーナはその様子を見ながら呟く。

 

コリーノというビョーゲンズはメガビョーゲンのような蝕む能力はなく、逆に素早い動きで相手を翻弄する能力を持っているようだ。でも、あまり強くないグレースを相手にしているからそう見えるだけで、アースとかすみ相手にはあれが通用するかどうかの話だ。

 

「へぇ・・・あいつやるじゃん」

 

そのクルシーナの横にダルイゼンが姿を表す。

 

「まだわかんないわよ。あのキュアグレースが単純に弱いだけでしょ。あいつ相手に通用するのかって話ね」

 

クルシーナは瞑目しながら答えると、再びグレースとコリーノの戦いを見つめる。すると・・・・・・。

 

「ケホケホッ・・・」

 

グレースは攻撃を受けたわけでもないのに、何やら咳き込んでいる様子が見えた。

 

(あいつ、確実に弱くなってるわねぇ)

 

クルシーナはグレースを見つめながら、彼女の生命力が少し減っていることに笑みを浮かべる。

 

「おい」

 

「・・・何よ?」

 

「お前、キュアグレースの体に何か埋めただろ?」

 

ダルイゼンがこちらを見ながら言った。

 

「あら、気づいちゃった?」

 

「嫌でも気づく。キュアグレースから微量な俺たちの気配を感じたからな。それにいつもより調子が悪そうだし」

 

クルシーナはおどけたような口調で言い、ダルイゼンは素っ気なく返す。

 

「それはねぇ、これよ」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべながら、ツインテールの自分の髪をいじるようにクルクルと回して見せる。

 

「っ!! へぇ・・・面白いことしたじゃん」

 

ダルイゼンはハッと目を見開くも、クルシーナが何を入れたのかを察してすぐに不敵な笑みを浮かべた。

 

「実りのエレメント!!」

 

グレースは実りのエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「はぁっ!!」

 

「ふむ・・・」

 

ステッキからピンク色の光弾を放つも、コリーノは木から木へと素早く動いて光弾を避ける。

 

「ふっ!! はぁっ!!」

 

グレースは光弾を放っていくも、コリーノには全く当たる気配はなく、逆にコリーノはグレースに迫っていく。

 

「グレース!! 無闇に狙ってもやられるだけラビ!!」

 

「でも・・・どうしたらいいの・・・?」

 

ラビリンがグレースにアドバイスをしようとするが、彼女はこの状況をどう切り抜ければいいかわからない。

 

シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!

 

「ふぬっ!!」

 

「!! うっ・・・あぁ!?」

 

コリーノは通り過ぎざまに爪を伸ばすと斬撃を放ち、グレースは爆発に吹き飛ばされる。

 

「うぅぅ・・・!」

 

グレースは立ち上がろうとするが、コリーノから受けた小さなダメージが蓄積したせいか、膝をついてしまう。

 

コリーノは木から降りて地面に着地すると、グレースへと近づいていく。

 

「おやおや、もう終わりですか? あっけないですねぇ」

 

コリーノは嘲笑しながら言う。

 

「所詮、小さなお嬢さんには早かったのでは?」

 

「まだ、戦えるよ・・・!!」

 

コリーノの挑発に、グレースは自分を奮い立たせて立ち上がると、ステッキからピンク色のオーラを剣状にする。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

そのままステッキを振るって斬撃を放つ。

 

「っ・・・ふぬっ!!!」

 

コリーノは爪からオーラのようなものを伸ばすと、それを振るって斬撃を飛ばす。

 

ドカン!!ドカン!!!! ドカン!!!

 

オーラ同士がぶつかって爆発を起こして、煙が舞う。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「っ!? ぬっ・・・!!」

 

その煙からグレースが飛び出してパンチを喰らわせようとし、コリーノは完全に油断していたものの、両腕で片なく防ぐ。

 

「なかなかやりますなぁ。お見それしましたぞ・・・!!」

 

「あなたに、褒められても、嬉しくない・・・!!」

 

グレースは拳を押しやるも、コリーノは後ろへと受け流して飛び退き、再び目に見えぬ速さで動く。

 

シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!

 

「では、これはどうですかなぁ?」

 

シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!

 

「ぬぅ!!!!」

 

「っ! うっ!!」

 

コリーノはグレースの周囲を素早く動き回り、横から拳を繰り出す。グレースは間一髪で気づき、片手で拳を受け止めるもコリーノのパワーは強く、苦しい表情だ。

 

押し合いをしていると再びコリーノの姿が消える。

 

シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!

 

シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!

 

グレースはコリーノの動きを追わずに周囲を警戒する。

 

「ふぬぅ!!!!」

 

「!! はぁっ!!」

 

正面から飛び出してきたコリーノの爪を、グレースはとっさにぷにシールドを展開して受け止める。

 

「ふっ・・・」

 

「? きゃあぁ!?」

 

コリーノがそれに不敵に笑うと、その反応に疑問に思ったグレースがなぜか背中から吹き飛ばされて地面へと転がる。

 

実はコリーノは先程よりも高速に動くことで分身をしていて、正面から防いだグレースの油断を誘って背後から別の分身が攻撃したのだ。

 

グレースは再度立ち上がるも・・・・・・。

 

シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!

 

「ふぬっ!!」

 

「うぁ!?」

 

シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!

 

「ぬぅ!!」

 

「あぁぁ!?」

 

シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!

 

「ふんっ!!」

 

「うぅぅ!!」

 

「はぁっ!!」

 

「うあぁ!!!!」

 

グレースは明らかに体をよろつかせており、その隙を狙ってコリーノが次々と攻撃を仕掛けていく。

 

「ふん、ぬぅ、はぁっ!!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

コリーノは高速で動きながら爪のオーラの斬撃を3回振るい、グレースに全て直撃させた。

 

「あ・・・ぁ・・・」

 

グレースはそのまま地面に膝をついて倒れ伏してしまう。

 

「うぅ・・・」

 

グレースはダメージが蓄積して起き上がることができず、そのまま体をピクピクと震わせることしかできない。

 

「もう終わりですかぁ。他愛がないですなぁ」

 

「ぐっ・・・!」

 

自身を見下ろしてくるコリーノを、悔しそうに見上げるグレース。

 

「コリーノ!! そいつを気絶させろ。アタシが連れて行く」

 

「・・・かしこまりました」

 

クルシーナの命令が聞こえてくると、コリーノは紳士的に返事をし、再度倒れ伏すグレースに向き直る。

 

「では、今はゆっくりとお眠りなさい」

 

コリーノは禍々しいオーラを纏った爪を出すと、それをグレースに向かって振おうとする。

 

「っ・・・!!」

 

グレースは逃れられない攻撃に目を瞑る。

 

その時だった・・・・・・・・・。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「!? ぐおぉっ!?」

 

一つの黒い影が駆け出していき、コリーノに膝蹴りを食らわせる。コリーノは吹き飛んで木へと激突し、土煙が舞った。

 

「グレースに何をするんだ!!」

 

その影は吹き飛ばしたことコリーノに向かって叫ぶと紫色のステッキを構える。コリーノを吹き飛ばしたのはかすみだった。

 

「「グレース!!」」

 

「グレース! 大丈夫ですか!?」

 

「う、うん・・・」

 

そこへフォンテーヌとスパークル、アースも駆けつけ、アースがグレースに駆け寄って彼女の体を起こす。

 

「あぁ!! 何者ですか? あなた方は?」

 

コリーノが土煙を吹き飛ばし、プリキュアとかすみたちを睨む。

 

「あれもビョーゲンズなの?」

 

「さっきのカラスみたいなやつと同じ・・・?」

 

フォンテーヌとスパークルがコリーノを見ながら口々に言う。

 

「おっと、これは失礼しました。私、コリーノと申します。これから地球を蝕ませていただきます、以後お見知り置きを・・・」

 

コリーノは紳士的いおじぎをしながら、丁寧に自己紹介をする。

 

「なんか紳士的なやつだな・・・」

 

「さっきのネブソックとは全く違うペエ・・・」

 

ニャトランとペギタンもコリーノの態度に少し戸惑う。

 

「感心してる場合じゃないラビ!! どんな性格でもビョーゲンズはビョーゲンズラビ!! 早く浄化するラビ!!」

 

ラビリンはそんな二人に檄を飛ばす。どんな態度でもビョーゲンズであることは変わらないのだ。浄化以外の選択肢はどこにもない。

 

「おい!お前、グレースを傷つけたな!! 許さないぞ!!」

 

「私は丁重にお相手をしていただけのことです。許さないというのであれば、あなた方もそれに相当な力を持って私にかかってきなさい・・・!! 5人でも卑怯とは言いません!!」

 

コリーノが戦闘の構えを取ったことに、プリキュアもステッキを構えて戦闘態勢になる。

 

「ふぬぅっ!!」

 

コリーノがこちらに向かって飛び出して来る。

 

「はぁっ!!・・・!?」

 

スパークルはパンチで迎えようとしたが、なぜかコリーノには当たらずにすり抜ける。

 

「えっ・・・あぁぁ!?」

 

スパークルが愕然としたその直後、彼女の体は前から吹き飛ばされる。

 

「ククク・・・」

 

「「「!?」」」

 

コリーノは笑みを浮かべるとその場から姿を消す。プリキュアたちは驚くときょろきょろと探す。すると・・・。

 

「!! フォンテーヌ、後ろ!!」

 

「ぬぅ!!!!」

 

「っ!! はぁっ!!」

 

グレースはコリーノの姿を視認して叫ぶと、フォンテーヌはとっさにパンチで応戦して攻撃を受け止める。しかし・・・・・・。

 

「きゃあぁ!!」

 

なぜかフォンテーヌの体が横へと吹き飛び、バウンドして転がる。

 

シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!

 

「!?」

 

風を切るような音が響いたかと思うと、グレースの目の前にコリーノが姿を表す。

 

「ふっ・・・!!」

 

「っ!! はぁっ!!」

 

笑みを浮かべるコリーノに、グレースは拳を振るうも首を傾けるだけであっさりとかわされ、オーラの爪を振るおうとする。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「ぬおぉぉぉっ!?」

 

そこへかすみが飛び蹴りを放って、コリーノを吹き飛ばす。コリーノは空中で身体を翻すと、4本足で着地をする。

 

「グレースに触るな!!」

 

かすみは怒りの形相で叫ぶ。そして、彼女を守るように片手を横に広げる。

 

「フッフッフッフッフッ・・・なかなかやりますなぁ」

 

コリーノはかすみの攻撃を受けて、不敵に笑う。

 

「では、これはどうですかなぁ?」

 

コリーノのその言葉を合図に、コリーノは複数に分裂してグレースとかすみを囲む。

 

「増えた!?」

 

「うぇぇ! そんなのあり~!?」

 

「いや、偽物を作っただけだ」

 

グレースとスパークルは驚くも、かすみは周囲を見ながらも冷静に分析する。分裂したコリーノは一体ずつその場から姿を消していく。

 

まず一体が、アースの背後へと現れて飛び掛かろうとする。

 

「!! ふっ!!」

 

アースはそれに気づいて片足を振るうも、コリーノは足が触れた瞬間に霧散して消える。

 

「はぁっ!!」

 

コリーノの2体がグレースへと襲いかかり、彼女はそのうちの一体に拳を振るうも霧散する。

 

「!? きゃあ!!」

 

グレースは呆然としたその隙を突かれて、横から現れたもう一体に蹴り飛ばされる。

 

シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!

 

かすみを狙っている3体のコリーノは木と木を飛び回りながら、攻撃の機会をうかがっていた。

 

「ふぬっ!!」

 

「!! はぁっ!!」

 

一体が飛びかかるも、かすみはすぐさまに気づいてステッキから黒い光線を放つ。光線はコリーノを貫き、霧散する。

 

その隙を狙って、もう一体がかすみのその背後から襲い掛かる。

 

「!!」

 

気づくかすみだが、それに乗じてもう一体も横から襲い掛かる。

 

「っ!! はぁっ!!!」

 

襲い来る2体のコリーノを両方交互に見ながら、かすみは右手を振るって、風を放って2体まとめて吹き飛ばし、霧散させる。

 

「ふっ!! はぁっ!!」

 

フォンテーヌは次から次へと襲い来るコリーノをパンチやキックでいなしていたが、どれも霧散して手応えがない。

 

「うわぁ!? たぁ!! ひぃ!! 次から、次へと!!」

 

スパークルはコリーノの攻撃を間一髪で避け続け、その度に拳を振るい、ステッキから光線を放つも、キリのないコリーノにぼやき始める。

 

コリーノが放つ偽物、言わば分身を捌いていくプリキュアとかすみたち。やがて分身は全ていなくなるが・・・・・・。

 

「あれ? 本物は!?」

 

「どこに・・・!?」

 

分身は全て倒したが、肝心のコリーノ本人の姿が見当たらない。プリキュアとかすみたちがキョロキョロと探していると・・・・・・。

 

チュドン!! ドォン!! ドォォォォン!!!

 

「「うっ・・・!」」

 

「っ・・・な、何!?」

 

突然飛んできた赤く禍々しい色をした爪の斬撃が飛んできたかと思うと着弾して爆発を起こし、皆は顔を覆う。

 

すると、そこへコリーノがスパークルの横に姿を現し・・・・・・。

 

「きゃあぁ!!」

 

スパークルはコリーノがいたことに気づかずに横からコリーノに蹴られて大きく吹き飛ばされ、木に叩きつけられる。

 

「ふっ・・・」

 

「!? あぁぁ!?」

 

そうかと思うとフォンテーヌの前にいつの間にか現れ、彼女に爪を振るって攻撃し大きく吹き飛ばし、フォンテーヌも同じように木へと叩きつけられた。

 

「あぁぁ!?」

 

さらにアースの頭上を目に止まらない速さで飛んだかと思うと、木からアースへと突進する。アースは防御体制を取るも大きく吹き飛び、彼女もまた木へと激突した。

 

「!? グレース!!」

 

「!!」

 

かすみはコリーノの動きを追っていたが、グレースの背後に立ったのが見え、彼女の前へと飛び出していく。グレースもそれに気づいて背後を振り向くも、コリーノは自身の尻尾をこちらへと振るっていた。

 

かすみはグレースの前へと飛び出すのには間に合うが・・・・・・。

 

「うわぁぁ!!」

 

「きゃあぁ!!」

 

シールドを張る間もなく、コリーノの尻尾攻撃を喰らってグレース諸共吹き飛ばされ、木へと背中から激突した。

 

「ぐっ・・・ケホッケホッ!!」

 

「あ・・・グレース、大丈夫か!?」

 

グレースは背中を木に激しく打ち付けたのか咳き込み、かすみは動揺しつつもグレースの背中をさする。

 

「う、うん・・・大丈夫だよ・・・」

 

「すまない・・・! 私なんかを庇ったばっかりに・・・!」

 

「かすみちゃんは悪くないよ・・・私が守りたかっただけだから・・・」

 

かすみは自分のせいでグレースがダメージを受けたと思い、泣きそうな声で謝罪の声を漏らす。グレースは表情を顰めつつも、かすみのその言葉に問題ないということを伝える。

 

「フッフッフッフッフ・・・遅い!遅いですなぁ・・・!! その程度では私は捉えられませんよぉ~?」

 

コリーノは自信たっぷりな発言をしながら、プリキュアたちを見やる。

 

「・・・ふーん、意外とやるじゃん」

 

「そう? あいつもテラビョーゲンだけど、メガビョーゲンは作れないやつよ。バテテモーダの後釜にはなれないわね・・・」

 

ダルイゼンはアースとかすみを打ち負かしているコリーノに珍しく感嘆の声を漏らすも、クルシーナはメガビョーゲンを作れない輩だと知っており、あまりいいとは思っていない様子だ。

 

「うぅ・・・もぉ~、あいつすばしっこいんだけど~!」

 

「相手が見えないから攻撃が全然当たらないニャ!」

 

スパークルは痛みに呻きながらもぼやく。

 

「ぐっ・・・追いつこうとしても、逆に追いつかれてしまうわ・・・!」

 

「あの速いのをどうにかしないといけないペエ・・・」

 

フォンテーヌもダメージを負いながらそう言い、ペギタンは分析しようとする。

 

「・・・・・・」

 

かすみはコリーノをよく見やる。コリーノは目に止まらない速さでこちらに接近して、攻撃を加えてくる。しかも、どの方向からも攻撃できる。ということは・・・!!

 

「・・・・・・!!」

 

かすみは何かを閃いたようで、背後にいるグレースと他のプリキュアたちに声をかける。

 

「なあ、みんな」

 

「「「「??」」」」

 

「私に考えがある・・・!!」

 

「!!・・・うん!!」

 

「・・・わかったわ」

 

「OK!!」

 

「かすみさんを、信じます!」

 

かすみの表情から何かを察したプリキュアたちは再び立ち上がる。

 

「おや? まだやるというのですか。勇ましい限りですなぁ・・・!!」

 

コリーノはプリキュアたちが戦えることに歓喜の声をあげ、再びその場から姿を消す。

 

「みんな!! お互いに背中合わせになってくれ!!」

 

それにかすみが声を出すと、それを合図にプリキュアたちは頷いてお互いに背中合わせになる。そして、その真ん中にかすみが入るというフォーメーションになる。

 

「ほぉ? その手で来ましたか。でも、その程度でも私の速さは捉えられませんよ?」

 

コリーノはプリキュアたちに声を投げかける。その声色はまだ余裕そうな様子だ。

 

プリキュアたちは周囲を警戒し、かすみは目を瞑りながら何かをしようとしている。

 

「ふぉぉ!!」

 

そんな中、コリーノの一体がスパークルの側から飛び出してきた。

 

「!! はぁっ!!」

 

スパークルはそのコリーノに目がけて光線を放ち、霧散させる。

 

次に別のコリーノが一体ずつグレースとアースに襲いかかる。

 

「ふっ!!」

 

「はぁっ!!」

 

グレースはステッキから光線を放ち、アースは片手から風を放ち、コリーノを霧散させる。

 

さらにフォンテーヌの方にも別の2体が同時に襲い来る。

 

「はぁっ!!!」

 

「ふっ!!!」

 

フォンテーヌとスパークルが同時にステッキから光線を放ち、2体のコリーノを霧散させる。

 

(やつの気配・・・やつの声・・・そして、泣いている声・・・それを辿っていくと・・・!!)

 

かすみは目を瞑りながら、本物のコリーノの居場所を探ろうとしていた。彼女にはビョーゲンズやメガビョーゲンを察知できる能力を持っている。それを逆に利用しようと考えたのだ。

 

「・・・・・・!!」

 

かすみは目を見開くと空を見上げる。上空から禍々しいオーラを自身の爪から出しながら、こちらに向かって飛んでくるコリーノの姿が。

 

「上だ!!」

 

「「「「!!」」」」

 

かすみがそう叫ぶと、プリキュアたちは上空を見上げる。

 

「実りのエレメント!!」

 

グレースは実りのエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「雷のエレメント!!」

 

スパークルは雷のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「「はぁっ!!」」

 

グレースとスパークルは、ピンク色の光弾、雷を纏った黄色い光線を上空に向かって放つ。

 

「!? 何っ!?」

 

二つの攻撃はコリーノに直撃してダメージを与える。

 

「ふっ・・・はぁぁぁぁっ!!」

 

「ぐぉぉぉっ!?」

 

そこにかすみがコリーノの位置よりも高く飛び上がり、そのまま下にいたコリーノに目がけて飛び蹴りを放ち、彼を下へと叩き落とした。

 

土煙が起こって、そこからかすみが飛び出し、プリキュアたちのところに飛びのいて戻ってくる。

 

「やったじゃん!! かすみっち!!」

 

「ああ・・・作戦は成功だ・・・!!」

 

「これは背中合わせになることで、私たちの死角をなくして、かすみが気配を追ったっていう作戦ね!」

 

「すごいよ!! かすみちゃん!!」

 

「・・・みんなの息が良かっただけだ」

 

かすみはプリキュアたちに作戦成功を喜ばれ、顔を赤く紅潮させる。

 

「・・・何よ。あっさり攻略されちゃってるじゃない」

 

クルシーナはプリキュアたちとコリーノの戦いを見て不機嫌そうな表情を浮かべる。

 

すると、土煙の中から爪のオーラのような斬撃がこちらに向かって飛んでくる。

 

「!! はぁっ!!」

 

かすみはそれに気づくと紫色のシールドを展開し、斬撃を防ぐ。

 

「ふぉっ!!!」

 

「!! ぐっ・・・!!」

 

そこへ飛び出してきたコリーノが飛びかかってきた。かすみはシールドをそのまま展開するも、コリーノの腕力での攻撃に背後へと押されていく。

 

「かすみちゃん!!」

「かすみっち!!」

「かすみ!!」

「かすみさん!!」

 

プリキュアたちはそれぞれの三人称で叫ぶ。

 

「なかなかやりますなぁ・・・だが、この程度では甘い!!!!」

 

「くっ・・・! ふっ!!」

 

不敵な笑みを浮かべながら押しのけるコリーノ。かすみは前足を蹴ると背後へと飛び、シールドをしまってコリーノと距離を取ろうとする。

 

しかし、コリーノは間髪入れずにこちらへ一気に詰め寄り、襲いかかってくる。

 

「っ・・・あぁ!!」

 

かすみはコリーノの拳での攻撃を防ぐも、背後へと吹き飛ばされる。しかし、かすみは背後に木があるとわかると体制を立て直して、木の側面に足をつける。

 

「ふっ!!」

 

風の力を解放しながらそのまま木を蹴って、ロケットのようにコリーノへと飛び出していく。

 

「私と真っ向勝負をしようと言うのですかぁ? 面白い!!!!」

 

コリーノは笑みを深くすると、その場から見えなくなるくらいの速度で飛び出していく。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!」

 

かすみとコリーノのお互いの拳がぶつかり、周囲に衝撃波を放ちながら押し除け合う。

 

「うわぁっ!?」

 

「すごい力の押し合いです・・・!!」

 

「かすみちゃん、頑張って!!」

 

プリキュアたちはあまりの衝撃に驚くも、グレースの応援を河切りに他のみんなも応援し始める。

 

「くっ、うぅぅ・・・!!」

 

「フッフッフッフッフ・・・」

 

かすみは苦しそうな表情をしているが、コリーノは余裕の表情だ。

 

「あなたはクルシーナ様と同種族の割には力がないですねぇ。まだ未完成なのですかなぁ?」

 

「何を、言っている・・・!?」

 

「フッフッフッフッフ・・・クルシーナ様より格下であるのならば、私が負けるはずがない!!」

 

コリーノが他のビョーゲンズと同じようなことを言い始めたことに、かすみは険しい表情を浮かべていく。

 

「前にも言ったはずだ・・・私は風車かすみ、お前たちなんかとは違うと!!」

 

「なっ、この私が・・・押されている・・・?」

 

かすみは想いと共に拳を徐々に押していき、コリーノはそれに驚愕していく。

 

「私は守るんだ・・・! 大切な仲間を、この街を、私の大切な友達も、この美しい自然も、全部全部守るんだぁぁぁーーーーーーーーー!!!!」

 

かすみは叫び声をあげると彼女の体から風の力が強まり、コリーノの拳を押し返して吹き飛ばし、同時に拳から放たれた竜巻に打ち上げられていく。

 

「バカなぁぁぁぁぁぁぁ!!?? 」

 

コリーノは絶叫を上げながら、竜巻によって上空へと飛ばされる。

 

「やったー!!」

 

「かすみっち、すごーい!!」

 

コリーノを打ち破ったかすみにグレースとスパークルが感嘆の声を上げる。

 

「これはついでよ!! 氷のエレメント!!」

 

フォンテーヌは氷のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「はぁっ!!」

 

ステッキから冷気を纏った青い光線をコリーノに目がけて放つ。

 

「な、な、に!? あ、がが・・・!」

 

コリーノは青い光線が直撃して、全身が氷漬けになり地面へと落ちていく。

 

「あとは頼む!!」

 

「うん!! みんな!!」

 

かすみはプリキュアたちに任せ、グレースの言葉を合図にミラクルヒーリングボトルをステッキにセットする。

 

「「「トリプルハートチャージ!!」」」

 

「「届け!」」

 

「「癒しの!」」

 

「「パワー!」」

 

グレース、フォンテーヌ、スパークルの順で肉球にタッチしていき、ステッキを上に掲げる。すると、花畑が広がっていき、背後には自然豊かな森が広がっていく。

 

「「「プリキュア! ヒーリング・オアシス!!」」」

 

3人は一斉にメガビョーゲンへとステッキを構え、ピンク・青・黄色の3色の光線が螺旋状になって放たれる。螺旋状の光線は混ざり合いながら一直線にコリーノに直撃する。

 

「ぐ・・・ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! 申し訳ありません、クルシーナ様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! ヒーリン、グッバァァァァァァァイ!!!!!」

 

コリーノは生み出した主人に対する謝罪の絶叫を残しながら、光に包まれて消えていった。

 

「「「「「「お大事に」」」」」」

 

「ワフ~ン♪」

 

コリーノが倒されたことにより、体調不良だったラテも額のハートマークが黄色から水色に戻り、元気になった。

 

「・・・結局、使えないじゃん」

 

「・・・もう、動物の素体はやめね」

 

ダルイゼンは冷めたようなコメントを返すと、クルシーナは不機嫌そうな口調で返す。二人はそのままその場から姿を消していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

のどかたちはその後、湖畔で寝かせているサクヤの元へと戻ってきた。

 

「サクヤさん、サクヤさん!!」

 

「うぅ・・・あっ!?」

 

アスミが声をかけると、サクヤは目を覚ました。そして、ハッとしたように起き上がる。

 

「大変!! 湖が!! 森が!!」

 

「もう、大丈夫だ」

 

サクヤが慌てたような言葉に、かすみが穏やかな表情で言う。

 

「えっ・・・あなた・・・あ・・・」

 

サクヤはよくわかっていない様子だったが、かすみが笑みを浮かべながら見るその湖畔の景色や豊かな森はすでに元の色を取り戻しており、風の音も穏やかになっていた。

 

そして、先ほど彼女たちが助け出した雛は近くにいた親鳥と共に飛び立っていく。また、かすみと一緒にいたリスも森の中へと帰っていく。

 

「あぁ・・・」

 

「伝わりますよね?」

 

アスミがそう言うと、サクヤは彼女の方を向く。

 

「気持ちいい風・・・!」

 

「本当・・・!!」

 

「最高~!!」

 

のどかたちは湖畔にそよぐ風を感じながら、口々に心地よさを感じていた。

 

「サクヤが気がついて喜んでいるんだ。木も、草花も、湖も・・・」

 

「えっ・・・」

 

「私の思い込みかもしれませんけど♪」

 

「ふふ・・・そうね・・・」

 

アスミとかすみは微笑みながら言うと、サクヤも微笑みながら言った。

 

その後、サクヤと再び別れたのどかたちは森の中を進んでいた。

 

「アスミ! かすみ! 帰り道よろしくラビ♪」

 

「えっ・・・」

 

「何のことだ・・・?」

 

ラビリンにそう言われるとよくわからないような口調のアスミとかすみ。

 

「ほら、ここまで来たトンネル!」

 

ニャトランにそう言われるとアスミとかすみは思い出したように「ああ」とつぶやく。

 

「あれはもうできないんだ・・・」

 

「「「「「「えっ・・・?」」」」」」

 

かすみが苦笑しながらそう言うと、のどかたちが立ち止まる。そういえば、かすみの姿も金髪に戻っていて、いつものかすみに戻っている。

 

「あれはとても力を使うので、続けてはできないんです。それにあの時はかすみさんも一緒にやりましたから、かなり力を使ってしまいましたし」

 

「えっ・・・じゃあ、かすみだけでもーーーー」

 

かすみはまだ使えるのではと思ったニャトランがそう言うが・・・。

 

「実はあの時に風の力を使い果たしてしまったんだ・・・すまない! みんな!!」

 

アスミはラテを抱えて歩きながら言い、かすみも一緒に歩きながら手を合わせて申し訳なさそうに言った。かすみはコリーノとのぶつかり合いに全力を出した結果、風の力をなくしてしまったという。

 

「えぇぇぇぇ!?」

 

「うぇぇ!? じゃあ、電車で帰るの!?」

 

みんなが驚く中、アスミとかすみは森の中を進んでいく。

 

「電車賃・・・足りるかなぁ・・・?」

 

「私、おつかい頼まれてたんだけど・・・」

 

「あ、せっかくならカフェ寄ってかない?」

 

「行ってみたーい!!」

 

「それどころじゃないでしょ!?」

 

のどかたちはそんな話をしながら歩き出していく。すると・・・。

 

「クチュン!!」

 

歩いていたのどかが突然、くしゃみをしだしたのだ。

 

「え、のどかっち・・・?」

 

「大丈夫?」

 

「う、うん・・・ちょっと体が冷えたのかな・・・?」

 

「大変ラビ! 早くお家に帰るラビ!!」

 

「大丈夫だよラビリン。私、運動だってしてるんだし」

 

「のどかはいっつもそうやって油断するラビ!!」

 

過保護な母親のようにのどかを心配するラビリンの声が響く。

 

「っ・・・・・・・・・」

 

かすみはその様子を見て、心配そうな表情を浮かべているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が暮れた頃・・・・・・おおらか市の森を抜けた道路の側に、クルシーナとダルイゼンが現れていた。

 

「やれやれ・・・結局、失敗しちゃったな・・・なんでだろう?」

 

「動物なんかを素体にして使ったからじゃない? 特にアンタは雛鳥に使ったから、あんな弱点ばかりのテラビョーゲンが産まれちゃったのよ」

 

ダルイゼンとクルシーナは先ほどのことについて反省会を行っていた。今回はこの不愉快な自然の森を舞台に、メガパーツを使ってテラビョーゲンを生み出す実験を行った。

 

しかし、ダルイゼンのものもクルシーナのものも、メガビョーゲンを作り出すまでには至らず、動物の素体を使ったせいか不完全なテラビョーゲンが生まれてしまった上に、プリキュアには簡単に倒されてしまった。

 

でも、一つわかったことがあった・・・・・・。

 

「まあ、生き物にメガパーツを入れればテラビョーゲンが生まれるっていうのはわかったわよね。あとはどういう素体がテラビョーゲンに適しているのかを考えないといけないわねぇ」

 

「・・・そうだな。まあ、俺はどいつが生き生きしているかわからないから当てずっぽでしかないけど」

 

二人は、今後はあまりひ弱な動物の素体を使わないということで反省は終わった。

 

「ん?」

 

そのままビョーゲンキングダムへと帰ろうとしたが、何かの気配を感じてその方向を向く。そこにはイタイノンが森から出て、何かを追いかけているのが見えた。

 

「どうしたの? クルシーナ」

 

「・・・イタイノン、何してんのかしら?」

 

「イタイノン? あいつ、俺と別れてどこに行ったのかと思ったら」

 

クルシーナはダルイゼンの疑問には答えず、イタイノンの動向が気になっていた。ダルイゼンは顰めたような表情で、遠くへと歩くイタイノンを見つめる。

 

クルシーナは宙へと飛び上がると、イタイノンの後をつけていく。ダルイゼンもジャンプで飛び移りながら、一緒に追いかけていく。

 

一方、場所は変わって、おおらか市の外れにあり、森の近くに存在する古ぼけた建物。廃屋のようだが、それは教会のような形をしていた。

 

ザッ・・・ザッ・・・。

 

そこへ水色のロングヘアをした少女が木の棒を杖のように付き、体をよろつかせながらも歩き、その建物の前に立つ。

 

ゲホッ、ゲホッ・・・!!

 

少女は口を押さえて咳き込む、その押さえた手には吐血したのか血の跡が付いていた。少女はそれを呆然と見つめるも、建物に何か救い求めるかのように入っていく。

 

そのあとを、電気をバチバチとさせた赤いクリスタルがその姿を視認すると、都合のいい相手が見つかったかのようにゆっくりと少女へと近づいていく。

 

教会のような建物へと入っていく少女。彼女は体をガクガクと震わせながらも、礼拝堂のようなものの中にある教壇の前へと歩いていく。

 

ゲホゲホゲホ・・・!!

 

少女は木の棒をその場へと落とすように手を離すと、しゃがみ込んで再び咳き込む。少女はそれに呻きながらも、震える手を合わせるようにして祈る。

 

ーーーーいなくなった昔の友達に、会えますように。

 

そんな祈りを捧げる少女。しかし、その背後には彼女の後ろをつけていた赤いクリスタルの姿があった。

 

赤いクリスタルはいることを悟られないよう、そんな少女の背後へと近づくと・・・・・・。

 

「・・・? !!!!」

 

赤いクリスタルは飛び上がって赤い靄のようなものに変化するとそのまま少女へと一直線に襲いかかる。ふと気配に気づいた少女は背後を振り返ると赤い靄を視認し、なぜか受け入れるかのように手を広げて笑みを浮かべる。

 

そして、赤い靄は彼女の体の中に入り込む。少女はそのまま操り人形から糸が切れるかのように背後に倒れこんだ。

 

「確か・・・この辺に・・・!?」

 

その教会の中に入ってきたのは、赤いクリスタルを追っていたイタイノンだった。彼女はキョロキョロと見渡し、赤い靄に包まれている少女の姿を発見し驚く。

 

「これは・・・あのメガビョーゲンのかけらが入り込んだの?」

 

イタイノンはその光景を見たことがある。それはヘバリーヌが誕生する前、ベッドに昏睡同然に眠っていた彼女に自身やクルシーナたちのメガビョーゲンの一部を取り憑かせたことがある。

 

つまり、これは新しい仲間が生まれるかもしれないという兆しだ。

 

「これは・・・!?」

 

「どうかしたのか・・・!?」

 

そこへイタイノンをつけていたクルシーナとダルイゼンが入ってきて、彼女と同じように少女の有様を見て驚愕する。

 

ダルイゼンとクルシーナはお互いに目を合わせる。そして・・・・・・。

 

「フフフ・・・」

 

「ああ・・・」

 

お互いに笑う、これはメガビョーゲンを作ることのできる新しい幹部が生まれると。

 

「イタイノン」

 

「・・・?」

 

クルシーナはイタイノンに声をかけると彼女の懐に指をさす。その中に入っているのは、メガパーツだ。

 

イタイノンはクルシーナの表情をもう一度見る。そして、不敵に笑う。

 

「そうか・・・その手があったの」

 

イタイノンはメガパーツを手に持つと、その少女に近づく。少女はピクピクと痙攣させている状態だ。

 

そして、そんな彼女にイタイノンはメガパーツを押し当て中に埋め込む。

 

「!?!!!???」

 

少女から膨大なオーラが溢れ出したかと思うと、少女の目が大きく見開かれる。その目は赤く染まっていた。

 

そして、少女の体は悪魔のツノが生え、サソリの尻尾、人肌が変化したりと、人でないものに変貌していくのであった・・・・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第71話「眠り」

今回はオリストになります。2〜3話ぐらい投稿予定です。
ビョーゲンズに新たなメンバーが加わります!


 

「コホン、第二回!! プリキュア緊急ミーティングを始めるラビ!!」

 

ラビリンが突然、ベッドの上でヒーリングアニマルたちと共にそう言い始めた。

 

その日、のどかの家にはちゆ、ひなた、アスミ、かすみが集まっていた。今日はラビリンが、プリキュアのみんなに話があると言い、ちゆやかすみたちを呼び出したのだ。

 

「今回の議題は?」

 

「ズバリ、かすみラビ!!」

 

ちゆが聞くと、ラビリンはかすみのことを見る。

 

「わ、私か・・・!?」

 

かすみが驚きながら言うと、ラビリンは頷く。

 

「今回は、かすみが持っている不思議な力についてペエ」

 

ペギタンが代わって、のどかたちに今回の概要を説明する。

 

「まあ、確かにかすみっちって・・・いろいろと不思議だな~って思うところがあるよね」

 

ひなたもこれまでのかすみの姿を思い出しながら言う。

 

「ビョーゲンズやメガビョーゲンの居場所を察知したり・・・」

 

「この前は、アスミちゃんと同じ風の力を使ってたよね」

 

「そうですね・・・あれは確かに私と同じ力でした」

 

ちゆとのどかも思い当たる部分があり、アスミも思い返してみる。

 

「なあ、かすみってどうしてこんな力を持っていたんだニャ?」

 

ニャトランはかすみに聞くも、彼女は少し困ったような顔を見せる。

 

「前も言ったが、私は自分のことがわからないんだ。気づいた時にはここにいて、こんな能力を持っっていたんだ。なんでこんな能力を持っていたかなんか、私にはわからない・・・」

 

「そうなんだね・・・」

 

かすみはニャトランやプリキュアたちにそう説明する。自分は好きでこんな能力を持っていたわけでもないし、望んで手に入れていた能力という訳でもない。いつの間にか持っていただけ。

 

どうしてこんな能力を持っているかなんて想像がつかない。

 

「まあ、それは置いておくとすると、まず俺たちはかすみの不思議な力についてはあまりよくわかってない。でも、かすみと一緒に戦っているうちにいろんなことがわかっただろ?」

 

「そうね・・・かすみは私が見る限りでは、ビョーゲンズに対抗できる力を持っていると思うの」

 

「持っているステッキもあたしたちに結構似てるもんね~・・・」

 

「ああ・・・これのことか?」

 

かすみは黒いステッキを取り出して彼女たちに見せる。確かによく見れば、パートナーが入るようなハートマークもあり、エレメントボトルを差し込むような場所があるのが見える。先っぽの光線を出す部分もハートマークなので、プリキュアたちが使うステッキに似ていることは確かだ。

 

「本当に似ているわね・・・」

 

「色が黒いだけだもんね」

 

「確かに・・・よく似ているな・・・」

 

ちゆとのどかは自分のステッキを出して見比べながら言った。

 

「えっと、それで・・・僕たちはかすみを見て考えたペエ。かすみのことを知っておけば、今後のお手当てもうまく行くようになるんじゃないかと思ったペエ」

 

「なるほどですね・・・」

 

ペギタンの説明に、アスミは半ば納得する。

 

「で、また特訓するの? あたしたちに特訓は必要ないんじゃなかったっけ?」

 

「まだ何もないけど・・・今日は特訓じゃないニャ」

 

ひなたはまた特訓をするのだろうと考えてそう言ったが、ニャトランはそれを否定する。

 

「今回はかすみを知るために、かすみに知ってもらうためにこんなのを考えたラビ!!」

 

ラビリンのその言葉を合図に、ペギタンとニャトランが幕を広げ、ラビリンがその前へと飛ぶ。

 

「題して、お互いを知ってお手当てを効率良くしていきましょう作戦ラビ!!」

 

「「「「「??」」」」」

 

ラビリンたちの提案に、のどかたちが呆然としていると・・・・・・。

 

「・・・えっと、私がのどかたちとどうすればいいんだ?」

 

かすみは首を傾げながら苦笑したような表情でラビリンたちに聞く。

 

「うーん、でもかすみちゃんとは仲良くしてるけどなぁ・・・」

 

のどかもどうすればいいかよくわかっていないようで、顎に手を当てて考え込んでしまう。

 

「仲良くはなってると思うけど、お互いをもっと知ることでもっと仲良くなって、お手当ての際の連携を強くするっていう狙いがあるんだニャ!」

 

ニャトランが説明すると、プリキュアたちは少しは理解ができたようで・・・・・・。

 

「お互いに知らないことを話して、もっと結束力を強くしていけば、今後のお手当ても効率よくいけると考えてるペエ!」

 

「なるほど・・・」

 

ニャトランとペギタンの説明に、納得したようにちゆが頷く。

 

「でもさあ、相手が自分の知らないことってあんまり打ち明けづらくない?」

 

「そうね・・・中には事情があって言えなかったり、恥ずかしいことだってあるかもしれないものね・・・」

 

ひなたとちゆが心配そうな感じでそう言う。

 

「かすみ、何かやましいことでもあるラビ?」

 

「いや・・・それはないが・・・」

 

二人の言葉を受けてラビリンがかすみに問うも、かすみはなんとも言えない表情で返す。

 

「だったら問題ないラビ!! 早速のどかと正面切って、話してみるラビ!!」

 

「えぇ・・・」

 

ラビリンの言葉に、呆れたような口調で返すかすみ。まだ、賛成したわけでもないのになし崩しに変なことをやらせる羽目になってしまった。

 

のどかとかすみは対面するように座り直し、お互いの顔を見つめる。

 

「「・・・・・・・・・」」

 

二人は、困ったような表情をして沈黙していた。正直、面と向かって話したことは一度もない。

 

「ぅぅ・・・・・・」

 

のどかの顔を見つめていたかすみの顔が紅潮していく。大好きなのどかがこちらを見つめてくることに何だか恥ずかしくなってくる。

 

「っ・・・・・・」

 

のどかも少し顔を赤くしていく。暑いわけでもないのに、変な緊張からか汗が出てしまう。

 

「・・・二人とも、何も話さないの?」

 

「だ、だって・・・!!」

 

ひなたの呟いた言葉に、顔を赤くしたかすみがこっちを向いて言う。

 

「ほら二人とも!! 早くお話をするラビ!!」

 

「お、お話って・・・何を話せばいいんだ・・・!?」

 

「そ、そうだよ、ラビリン!! かすみちゃんと何を話していいかわかんないよ・・・」

 

ラビリンが催促するも、かすみとのどかは困惑するばかりだ。そもそもまともに二人きりで話したことがないので、どういう話題を振ればいいのかわからない。

 

「そんなの自分で考えるラビ!!」

 

「えぇぇ・・・そんなこと言われても・・・」

 

のどかはますます困惑しても、ラビリンは何も言ってくれず、再びかすみの表情を見る。

 

「っ・・・・・・」

 

「ぅぅ・・・・・・」

 

しかし、のどかもかすみも顔を俯かせながら、手をモジモジとさせている。

 

「もどかしいね・・・」

 

「それどころか、変な空気になっちゃってるけど・・・」

 

ひなたとちゆも微妙な感じで見つめている。

 

「これが、知る方法へとつながるのですか?」

 

「多分、違うと思うニャ・・・」

 

アスミがニャトランに問うと彼も困ったように言う。

 

「ああもう!! じれったいラビ!!」

 

先ほどから何も話さない二人に業を煮やしたのか、ラビリンがのどかの背中を押し始める。

 

「ラ、ラビリン!? 何を!?」

 

「距離感を間違えているのなら、もっと近づいてみるラビ!!」

 

「ちょっ、ちょっと待っーーーーふわぁ!?」

 

ラビリンが強く押したために、困惑しているのどかの体がかすみに急激に接近する。

 

「ふわぁっ!?」

 

かすみはのどかがいきなりよろけて倒れてきたことに困惑する。

 

「「あ・・・・・・」」

 

気づいた時には二人の顔はもはや目と鼻の先と言えるほどに近づいていた。

 

それで一番動揺したのは、かすみだった。

 

のどかの顔が私の近くに・・・近くに・・・近くに!!??

 

「あぁ・・・あぁ・・・」

 

かすみの顔が真っ赤なリンゴのように染まっていく。そして、のどかの顔が急接近したその恥ずかしさに耐えきれなくなったかすみは・・・・・・。

 

「ふわぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

ゴーン!!

 

「あ痛っ・・・!」

 

かすみは明らかにパニックになり、勢い余ってのどかの額にぶつかってしまう。

 

「ふわぁぁ・・・ふわ、ふわぁ・・・ぁぁ・・・」

 

かすみは立ち上がって距離を取ろうとするが、体をフラフラとさせており、真っ赤な顔をしているその目はグルグルと回していた。そして・・・・・・。

 

ドタン!!!!

 

そのまま背後へと倒れてしまった。

 

「「「「あぁっ!?」」」」

 

「ペエ!?」

 

「ニャ!?」

 

「ラビ!?」

 

かすみが倒れたことにのどかたちは驚いて、かすみへと駆け寄る。

 

「かすみっち、大丈夫!?」

 

「しっかりしてください!!」

 

「か、かすみちゃ~~ん!!」

 

「ふわぁぁぁぁ・・・・・・」

 

「気絶しちゃってる・・・!?」

 

のどかたちが彼女の体を起こすも、かすみはすっかり目を回して気絶してしまっていた。

 

「・・・ラビリン」

 

「ラ、ラビリンは何も悪くないラビ!!」

 

ニャトランの冷めたような表情を見て、ラビリンはそっぽを向きながら返したのであった。

 

「ふわぁ~・・・・・・」

 

そして、なんとなくかすみの表情が少し幸せそうにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビョーゲンキングダムーーーーそこではクルシーナ、イタイノンがキングビョーゲンに報告があるとのことで、幹部たちが集結していた。

 

「何用だ? クルシーナ、イタイノン」

 

キングビョーゲンが呼び出した本人である二人に問う。クルシーナは不敵な笑みを浮かべる。

 

「お父様に会わせたい奴がいるの」

 

「私たちの新しい同志なの」

 

「同志・・・?」

 

「あんた、また新しいやつを生み出してきたの?」

 

クルシーナとイタイノンに、グアイワルとシンドイーネが詰め寄る。グアイワルは冷静だが、シンドイーネは面倒臭そうな顔をしている。

 

「ほう・・・? そやつは今、どこにいる?」

 

キングビョーゲンがそう言うと、クルシーナはその幹部がいるであろう方向を向く。

 

「出てきていいわよ」

 

クルシーナは遠くにいる影に呼びかける。

 

・・・・・・・・・・・・。

 

「誰も現れないよ~?」

 

「っ・・・」

 

しかし、影は現れる気配がなく、ヘバリーヌが気の抜けたように言うとクルシーナは不機嫌そうに顔を顰めると、イタイノンの方を見る。

 

「イタイノン」

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナは冷めたような声で、イタイノンに名前で命令する。彼女は目を細めると影がいる方向へと近づいていく。

 

すると数分も経たないうちにイタイノンが何かを背負って戻ってくる。そして、それを乱暴に地面へとドサリと落とす。

 

それは藍色のシスター服を着込んでいる一人の少女だった。しかし、姿は明らかに人ではなく、水色の肌に頭のベール越しにツノが出ており、サソリのような尻尾も生えている。

 

「すぅ・・・すぅ・・・」

 

そんな少女は周囲の状況も知らずに、スヤスヤと安らかな寝息を立てながら眠っている。

 

「こいつが新しいやつなの?」

 

「寝てますし・・・・・・」

 

シンドイーネとドクルンが呆れたような様子で言う。

 

「っ・・・おい、お前起きるの!! パパの目の前なの!!」

 

イタイノンは顔を顰めると、少女の体を起こして肩を激しく揺さぶる。

 

「ん、んぅ・・・ふわぁ~・・・」

 

少女はその行いによって瞑っていた目を開けるとあくびをした後に、イタイノンの顔を見る。

 

「・・・おはようございますぅ、お姉様~」

 

「おはよう、じゃないの!! 今、どういう状況なのかわかってるの!?」

 

「??」

 

呑気なセリフを満面の笑みで言う少女に、イタイノンは険しい表情で叫ぶ。少女はそれに疑問符を付けると、周囲を見渡し始める。

 

「みなさん、どうかしましたかぁ?」

 

少女は周囲にいる幹部たちに不思議そうな表情でそんなことを言う。

 

「いや、どうかしましたかって・・・」

 

「ちょっと驚いちゃってるんだよね~」

 

ドクルンは目頭を押さえながら言い、ヘバリーヌはなんとも言えないような顔ながらもいつもの口調で言った。

 

「・・・・・・・・・」

 

「はぁ・・・・・・」

 

ダルイゼンは呆れたような様子で、クルシーナはため息をつく。自分たちは仲間を増やすために行動しているのは確かだ。だが、扱いづらい幹部が生まれてくるとなると、仕事以上に労力がかかるのではないかと心配になってくる。

 

クルシーナは無言で少女に見えるように親指を背後にいるキングビョーゲンへと突き立てる。

 

「・・・はっ!?」

 

少女はクルシーナが指した方向を見ると、顔のようなものが空に浮かんでいるのを視認してハッとなる。

 

そして、イタイノンからゆっくりと体を離すと、青色のロングヘアをかき分けてから静かに頭を下げる。

 

「お父様、フーミン、お父様に会いに来ましたぁ~」

 

「・・・少し心配ではあるが、よくぞここまで来たな、フーミン」

 

フーミンと名乗った少女は満面の笑顔でそう言うと、キングビョーゲンは寛大に返す。

 

「今、こいつもお父様って言った?」

 

「そうね。こいつもお父様の器の一人だからねぇ」

 

ダルイゼンが気になることを問うと、クルシーナは淡々と返す。

 

「イタイノンお姉様ぁ・・・」

 

「っ・・・おい、フーミン・・・!」

 

フーミンはイタイノンの腕を抱き締めながら寄り添うにもたれかかると、イタイノンは嫌そうに困惑する。

 

「すぅ・・・すぅ・・・すぅ・・・」

 

「えぇ!? 寝てるの!!??」

 

なんとフーミンはイタイノンにくっついたまま、いつの間にか眠っていた。

 

「こいつ、本当に大丈夫なの・・・?」

 

「とてもキングビョーゲン様のお役に立つとは思えないんですけど・・・」

 

あまりにも怠惰な性格に、ダルイゼンやシンドイーネからは呆れたような声が上がる。

 

「おい、寝るななの!! ちゃんと起きろなの!!」

 

「んぅ・・・? あ・・・!!」

 

イタイノンが激しく揺らしながら言うと、フーミンは寝ぼけた頭を覚醒させる。フーミンはイタイノンからゆっくりと体を離すと、キングビョーゲンに向き直る。

 

「お父様ぁ。私もお父様やお姉様たちと同じように、地球を蝕んでお役に立ちたいですぅ♪」

 

フーミンは天使のような明るい笑顔でそう宣言する。

 

「それは構わんが・・・」

 

「では、早速行ってきま・・・すぅ・・・」

 

キングビョーゲンがそう言うとフーミンは出撃しようとするが、歩いている最中で前のめりに倒れてしまう。しかも・・・・・・。

 

「お、おい!!?」

 

「歩いている最中に寝ちゃったよ~?」

 

これにはグアイワルとヘバリーヌも驚きを隠せない。

 

「イタイノン」

 

「??」

 

「フーミンのバックアップをしてやれ。一緒に彼女の活動をサポートしてやるのだ」

 

すぐ眠ってしまう癖を心配になったキングビョーゲンはイタイノンにも一緒に出撃してもらうことを命じた。

 

「な、なんで私が・・・!?」

 

イタイノンはそれを聞いて不満そうに叫ぶ。

 

「別にいいじゃない。アンタが生みの親なんだし」

 

「責任はちゃんと取るべきだと思いますけどね」

 

クルシーナとドクルンから野次馬のような言葉が飛ぶと、イタイノンは悔しそうに歯ぎしりする。そんな表情はしつつも、眠っているフーミンへと近寄る。

 

「おい、いい加減にしろなの!! 蝕みに行くのか、寝るのかどっちなの!?」

 

「んぅ・・・蝕みに行きますぅ・・・でも、眠いですぅ・・・」

 

「~~~っ!!」

 

イタイノンは胸ぐらを掴んで揺さぶると、フーミンは反応する。しかし、フーミンは顔を上に上げたまま、顔を起こそうとしない。

 

イタイノンはそれを見て、イライラするように唸り、体をガクガクと震わせる。結局、彼女が地球へと連れて行く羽目になるのであった。

 

「・・・本当に大丈夫なの?」

 

クルシーナは二人が出撃する最後まで呆れたように言葉を返していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって、のどかたちはすこやか市の街を歩いて向かっていた。

 

「かすみちゃん、大丈夫?」

 

「っ!?・・・っ!!」

 

のどかが声をかけると、かすみはドキッとする。彼女はのどかの心配するような表情を見て、またドキッとして目を逸らす。

 

「だ、大丈夫だ・・・ちょっと顔が熱いだけで・・・」

 

「顔が熱い? もしかして、熱があるのかな・・・?」

 

そう言ってのどかはかすみに顔を近づけようとすると、かすみの顔が赤く染まっていく。

 

「うわぁぁぁ~っ!?」

 

「痛っ!!」

 

かすみは悲鳴をあげると勢い余って頭突きを食らわせてしまい、のどかは額を押さえ始める。

 

「っ・・・!!」

 

かすみはハッとすると、のどかに背を向ける。その顔を相変わらず赤くなっており、両手は恥ずかしそうに頬に当てられていた。

 

「ほ、ほほほ、本当に、なんでもないんだ!! き、気にしないでくれ・・・!!」

 

「でも、心配だよ~・・・」

 

「だ、大丈夫だと言ってるだろ・・・!!」

 

かすみはパニックになりながらそういうも、のどかは彼女に気を遣おうとして「大丈夫だ」「心配ない」と何度も連呼する。

 

「なんかさっきので、のどかっちとかすみっちが微妙な空気になっちゃってるんだけど・・・?」

 

「かすみさん、あれからのどかと全く目を合わせようとしていませんね・・・」

 

ひなたとアスミが二人には聞こえないように、みんなに声をヒソヒソさせながら言った。

 

「顔を近づけられたっていうか、ラビリンが無理やりのどかの背中を押したからああなったんじゃねぇの?」

 

「あ、あれは、悪かったラビ・・・」

 

ニャトランが指摘すると、ラビリンはバツの悪そうな表情をしながら言った。

 

「余計に話しづらくなっちゃったわね・・・」

 

「先が不安ペエ・・・」

 

ちゆとペギタンも心配そうに二人を見つめている。

 

グゥ~!!!

 

「っ!?」

 

突然、どこからか音が鳴ったかと思うと、かすみの目が見開かれ自身のお腹を押さえ始める。どうやら先ほどの音はかすみのお腹の音のようだった。

 

かすみはのどかから背を向けた状態のまま、さらに距離をとる。

 

「あ、かすみちゃん・・・!」

 

「聞いたな?」

 

「えっ?」

 

「聞いただろっ、私の体から鳴る音を・・・!!」

 

「近くにいるんだから聞こえるよ~!」

 

「聞かれた・・・聞かれたぁ・・・うぅぅぅ・・・顔が、熱い・・・!」

 

のどかとかすみは口論になっていくが、途中でかすみが再び背を向け、頭を抱えてしゃがみこんでしまった。

 

「ペエ・・・」

 

「うずくまっちゃったぞ・・・?」

 

ペギタンとニャトランがかすみを見ながら言う。はたから見れば、痴話喧嘩をしているようにも見えなくはないが・・・・・・。

 

「お腹が空いているから、イライラしちゃってるんじゃないかしら・・・?」

 

ちゆが心配そうにその様子を見つめる。

 

「うーん・・・じゃあ・・・」

 

何かを考えたひなたはのどかとかすみの二人に近づく。

 

「ねえ、二人とも」

 

「?」

 

「ぅぅ・・・?」

 

ひなたが呼びかけるとのどかと蹲っていたかすみが振り向く。

 

「お昼、食べに行かない?」

 

ひなたの提案に、二人は少し呆然と見ていたのであった。

 

5人は、場所を変えて近くのファミレスへとやってきた。5人で座れる席へと案内され、メニューを見ていたかすみは・・・・・・。

 

「おぉぉ~・・・何だ・・・これは・・・!! 知っている料理が一つもない!!」

 

かすみは瞳をキラキラと輝かせながら、嬉しそうな表情で言う。

 

「そ、そうなの・・・?」

 

「ああ、そっか・・・かすみっちもアスミンと同じだったよね~・・・」

 

ちゆとひなたは苦笑しながら言った。かすみはファミレスというものを知らず、もちろんこのお店で出されている料理は一つも見たことがないのだ。

 

「この、ビーフカレーというのはどんな料理だ・・・?」

 

かすみは『お肉たっぷりのビーフカレー』を指差しながら問う。

 

「カレーよ」

 

「カレーだよ~」

 

ちゆとひなたはストレートに答える。

 

「カレーってなんだ?」

 

かすみはそもそものカレーについて問いかける。

 

「様々なスパイスを使って味をつけた料理のことよ」

 

「から~い食べ物なんだよ」

 

「そうなのか・・・?」

 

ちゆとひなたがちゃんと説明してあげると、かすみは感嘆の声を上げる。

 

「じゃあ、これはこのビーフっていうのは何だ?」

 

「牛のお肉よ」

 

「カレーに牛のお肉が入ってるんだよ」

 

かすみにビーフという言葉の意味も、ちゆとひなたはちゃんと教えてあげる。

 

「この、チーズハンバーグは?」

 

「これも牛のお肉。こねて焼いて作ってるのよ」

 

「ハンバーグの中に、とろ~っとしたチーズが入ってて美味しいんだよ~♪」

 

かすみは次にメニューのチーズハンバーグを指して問うと、ちゆとひなたもわかりやすく教えてあげる。

 

パシッ!

 

「なんでも知ってるんだな!!」

 

かすみがちゆとひなたの手を握って、まぶしいぐらいの笑顔を向ける。

 

「え、ええ・・・」

 

「な、なんでも聞いてよ・・・」

 

「わかった!!」

 

ちゆとひなたが戸惑いながら言うと、かすみは手を離すとメニューへと戻す。

 

「これは、どんな食べ物なんだ??」

 

「豚肉を油で揚げた料理よ」

 

「サクサクでジューシーで美味しいんだよね〜♪」

 

かすみはとんかつ定食を指差す。ちゆとひなたはわかりやすく説明と表現をする。

 

「これは??」

 

「味の付いたご飯に、卵を焼いたものを上に乗せた料理よ」

 

「味の付いたご飯・・・?」

 

かすみがオムライスを指差すと、ちゆが説明する。ちゆが言う味の付いたご飯に、かすみが食いつく。

 

「ケチャップの付いたご飯よ」

 

「ケチャップ・・・ああ、朝に出てくるあの丸っこい食べ物につけたものか・・・!」

 

「そうそう。あの赤い調味料ね」

 

かすみはちゆの朝ごはんに出てきたソーセージにつけていた調味料を思い出す。

 

「で、これはね、ふわふわとろとろしてて、ケチャップとの相性がたまらないんだよね〜♪」

 

「ふわぁ〜♪ 美味しそうだな!!」

 

ひなたが味の表現を説明して、かすみが瞳をキラキラとさせる。

 

「これは??」

 

かすみは次にイクラ丼御膳を指差す。

 

「サケっていう魚がいるんだけど、その卵を醤油に漬けたものをご飯にかけた料理よ」

 

「プチプチは結構苦手だけど・・・慣れるとすごい美味しいんだよ〜♪」

 

ちゆとひなたがしっかりと説明してあげる。

 

「これは??」

 

かすみは次にマグロの兜御膳を指差す。

 

「マグロっていう魚がいるんだけど、その頭を煮込んだ料理よ」

 

「身がほろほろしてて、とーっても美味しいんだよ〜♪」

 

「ふわぁぁ〜!!」

 

かすみとひなたはお互いの手を取り合う。

 

「ここの食べ物はね〜、みーんな美味しいんだよ〜!!」

 

「ふふふ・・・美味しいものばかりで幸せだぁ〜・・・」

 

「かすみっちは本当に食べるのが好きなんだね〜♪」

 

二人は何かが通じ合ったかのように、その空間だけを輝かせて二人だけの世界に浸っていた。

 

「あ、あはは・・・」

 

「私たちにはわからないような何かがあの二人に現れてるわね・・・」

 

のどかとちゆはそんな二人の様子を困ったような感じで苦笑していた。

 

グゥ〜!!

 

「!!」

 

かすみのお腹から音がなり、彼女は恥ずかしさから顔を紅潮させて俯く。

 

「そろそろ食べよっか・・・」

 

「うん・・・」

 

ひなたはかすみのお腹が空いていることを察すると、彼女を始めとしたみんなに声をかけた。

 

のどかはオムライス、ちゆはとんかつ定食、ひなたはチーズハンバーグ、アスミはイクラ丼御膳を選んだ。そして、かすみが選んだのはビーフカレーだった。

 

テーブルに色とりどりの料理が並べられていく。

 

「ははっ・・・♪」

 

かすみはそれを見て喜びの表情を浮かべると、スプーンを手に取ってご飯とカレーをすくって口へと運ぶ。

 

「んん〜!! これは、これで、驚くほどに美味しい・・・!!」

 

かすみがカレーの美味しさに喜んでいると・・・・・・。

 

「はい♪」

 

「えっ・・・あむ」

 

ひなたがフォークに刺したハンバーグをかすみの口の中へと運ぶ。

 

「これも美味しいでしょ〜? 美味しいものはみんなで食べたほうが美味しいよ〜♪」

 

「っ・・・!!」

 

かすみは口の中でもぐもぐとハンバーグを食べると、ひなたのその言葉に表情を暗くさせていく。

 

「そうだな・・・確かに美味しい・・・素晴らしい料理だ、こんなに素晴らしい料理・・・この街に来なかったら知る所以もなかった・・・」

 

「かすみちゃん・・・?」

 

かすみは気落ちしたような声で言うと、のどかがそんな彼女の姿を心配になる。

 

かすみは顔をさらに俯かせるが・・・・・・。

 

「すこやか市の技術力は、本当に素晴らしいな!!!」

 

途端に顔を上げると、瞳をキラキラとさせながらそう言い放った。

 

「それは違うと思うわ・・・」

 

「なんかあたしも、それはちょっとずれてるって感じる・・・」

 

ちゆとひなたはかすみのその言葉に呆れたように苦笑しながら返した。

 

「じゃあ、私も・・・!」

 

かすみはカレーをすくって取ると、それをひなたへと差し出す。

 

「くれるの?」

 

「こうやると美味しくなるんだろう? 私の料理を食べて欲しい・・・!」

 

ひなたはかすみの言葉に、彼女の顔をじっと見た後に笑みを浮かべる。

 

「うん!!」

 

ひなたは頷くとかすみのカレーを一口食べる。

 

「ん〜、美味しいし!!」

 

ひなたはほっぺたが落ちそうに感じるくらい自分の手を当てながら喜ぶ。

 

「みんなで食べると美味しいのですか? では、私も」

 

アスミは自身のイクラ丼をスプーンですくって、かすみに差し出す。

 

「!! ふふふっ・・・あーむ♪」

 

かすみはアスミが自分の分をくれたことに笑みをこぼすと、口の中へと運ぶ。

 

「ん〜!! その料理も美味しいぞ♪」

 

かすみは頬を手に当てながら、その味を噛み締めていた。

 

「なら、私もこれをアスミに」

 

かすみはカレーを一口すくって、アスミの口へと運んでいく。アスミはそれを口の中へと入れる。

 

「どうだ・・・?」

 

かすみは口をもぐもぐとさせるアスミを見て呟く。そして、ごくんと喉に通した後、口を開く。

 

「不思議な感覚、です・・・でも、なんだか、悪い感じは致しません」

 

アスミは自分の中に何か熱いものが溢れてくるような感じがした。かすみとひなたはそれを見て微笑んだ。

 

のどかとちゆはその様子を微笑ましく見つめていた。

 

「っ!? っ・・・」

 

ふとのどかの視線に気づいたかすみがハッとすると、顔を赤くして俯かせる。

 

「あ、あはは・・・」

 

のどかはその様子を見て苦笑いをするしかなかったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、すこやか市の街の中では・・・・・・。

 

「さてと、今日もいい素体はないものか、なの」

 

イタイノンは商店のある場所付近でキョロキョロとさせながら、メガビョーゲンにさせる素体を探していた。

 

その傍らでは・・・・・・。

 

「すぅ・・・すぅ・・・・・・」

 

フーミンが地面の上で横になりながら、スヤスヤと寝息を立てながら眠っている。

 

「っ・・・」

 

イタイノンはその様子を視界に移すと顔を顰めさせた後、彼女に近寄る。

 

「寝るななの!! お前もメガビョーゲンにできる素体を探すの!!」

 

「んぅ・・・眠いですぅ・・・」

 

「知らないの!! お前の体調の都合なんか!!」

 

イタイノンが胸ぐらを掴んで揺さぶっても、フーミンは全く動く気配すらない。パパにあんなに啖呵を切っておきながら、何も行動しないとはどういう了見だろうか。

 

「んぅ・・・んん・・・わかったですぅ・・・私も探すですぅ・・・」

 

フーミンは目をこすりながらも、渋々といった感じで素体を探しに行こうとする。

 

「お前を一人にさせると心配だから、私も着いていくの」

 

「私は、一人でも探せますよぉ・・・」

 

「嘘をつけ、なの・・・」

 

どうせすぐに眠ってしまうに決まっている・・・・・・。今までの行動から、イタイノンはフーミンを監視することにした。

 

「素体・・・素体・・・」

 

フーミンはブツブツと言いながら、街中をきょろきょろと歩く。

 

「・・・・・・・・・」

 

イタイノンはそれを睨むような視線で彼女の背後を見つめていた。彼女が突然倒れないか、心配だからだ。またあんな風にして仕事を放棄されても困るからだ。

 

「素体・・・そ、た、い・・・」

 

「あぁっ!?」

 

案の定、フーミンは突然前かがみになると地面へと倒れていく。イタイノンはそれにハッとなるとすぐに彼女の体を腕で抱きとめる。

 

「やっぱり監視して正解だったの・・・」

 

イタイノンはフーミンのことを呆れたような様子で見やる。

 

「なんでフーミンは眠っちゃうネム?」

 

「私が知るはずがないの・・・生まれた時から眠ってたし、面倒な輩だとは思ったの・・・」

 

ネムレンの言葉に、イタイノンは淡々と返した。フーミンはあのおおらか市で誕生した直後から、横になって眠っていた。自分から動こうとしなかったので、生みの親であるイタイノンが連れて行かなかったら、あのまま眠っていたままだったのかもしれない。

 

「起きるの、フーミン・・・! 何度も言わせるな、なの・・・!!」

 

「んぅ・・・」

 

イタイノンが再度注意をしても、フーミンは顔を顰めるだけで全く起きる感じがしない。

 

「・・・・・・はぁ」

 

こんな状態にイタイノンはため息をつくしかない。自分が生み出したとはいえ、本当に面倒くさいやつだ。これだったらヘバリーヌを相手にした方がよっぽどマシだ。

 

ジャンジャンジャンジャンジャ〜ン♪

 

「??」

 

「っ!?」

 

対処に困っているとどこからともなく音楽のようなものが響き始め、するとフーミンの目がパッチリと開いた。

 

「あっちにいい素体のものがいるですぅ・・・」

 

「!? おい・・・!!」

 

フーミンはおもむろに立ち上がるとその場から姿を消してしまう。イタイノンは突然、いなくなった後輩に慌てるも、音がする方向を向くとフーミンはそこにいた。

 

「っ・・・いきなり消えるな、なの・・・!!」

 

イタイノンはイライラしてフーミンに当たり散らそうとしたが、彼女は音に耳を傾けているのか反応をしようとしない。

 

フーミンは目の前にある音を出すものを見つめる。それは・・・・・・弾き語りを行っている男性と彼が手に持っているアコースティックギターだった。

 

「おい、聞いてるの!? フーミーーーー」

 

「私、地球を蝕むですぅ・・・」

 

抗議をしようとしたイタイノンの言葉を遮って、フーミンは唐突に口を開く。

 

「・・・は?」

 

「素体を見つけたの・・・だから、地球を蝕むですぅ・・・」

 

イタイノンが訳がわからないように返すも、フーミンは生きてるって感じがするものを見つけたようで、先ほどと同じことを宣言する。

 

イタイノンはそれを聞くと、段々と表情を落ち着かせる。

 

「ふーん・・・じゃあ、やってみればいいの」

 

「やってみるですぅ・・・」

 

イタイノンが素っ気なく言うに対し、フーミンは満面の笑みを浮かべながら言った。

 

フーミンは再び男性の方を見ると、アコースティックギターをその場においてどこかへと向かおうとしているのが見えた。

 

「・・・ふふふ」

 

フーミンはそれを見届けた後、狙いをつけたものに対し笑みをこぼす。

 

「ふわぁ・・・」

 

フーミンはあくびをしながら開いた口を3回叩き、黒い塊を出現させる。

 

「進化するですぅ、ナノビョーゲン」

 

「ナノォ・・・」

 

生み出したナノビョーゲンが鳴き声をあげながら、アコースティックギターへと取り付く。男性が大切にしているであろう、アコースティックギターが病気へと蝕まれていく。

 

「・・・!?・・・!!」

 

アコースティックギターの中に宿るエレメントさんが病気へと蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メッガ、ビョーゲーン!!」

 

ギターのような体に両手、両足を持ったメガビョーゲンが誕生したのであった。

 

「??」

 

そこへ男性が戻ってくるが、その場所に異変を感じて駆け寄ってくる。

 

「!?」

 

「メガ、ビョーゲン!!」

 

「うわぁぁぁぁっ!!!!」

 

男性はメガビョーゲンの姿に驚くと、恐怖から逃げ惑う。

 

「メガビョーゲン、あなたの素敵な音色でここ一帯を蝕んでくださいですぅ・・・」

 

「メガァ!!」

 

フーミンは天使のような笑顔を向けながら、メガビョーゲンに蝕むように指示を出した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第72話「羞恥」

前回の続きです!


 

ビョーゲンズが活動を開始する、ちょっと前の話。

 

のどかとかすみたちはファミレスの外を出て街をぶらりと歩いていた。

 

「美味しかったなぁ・・・ファミレス最高だ!!」

 

かすみはファミレスで食べたお昼ご飯の味を忘れられないでいた。

 

「よかった~・・・かすみっち食べるの大好きだもんね♪」

 

「あぁ・・・とても美味しかった・・・!!」

 

ひなたが喜んでいると、かすみは表情を明るく瞳をキラキラとさせながら言った。

 

「特にあのドリンクバーってやつはすごいな・・・!! あの機械からいろんなジュースが出てくるなんて、興奮したぞ・・・!!」

 

「そうだよね~、すごいよね~、だって飲み放題だもん♪」

 

「ちぇ~・・・俺たちもあの中に参加したかったなぁ~」

 

ひなたとかすみはファミレスのドリンクバーの話で盛り上がっていた。

 

ドリンクバーとはファミレスでジュースが飲み放題になるサービスで、ジュースを取りに行こうとしたかすみだが、見たこともない機械の使い方がわからずに、ひなたに助けを求めたところ・・・・・・。

 

『こ、このボタンを押すのか?』

 

『ちょっ、かすみっち!! ボタンを押す前にコップをーーーー』

 

ブシャアァァァァァ!!!

 

『あ、ジュースが・・・ふわぁ〜!?』

 

『うわぁ〜!?』

 

ひなたの説明を受けている最中にかすみは勝手にボタンを押し、ジュースが出てしまったのでその噴射口を抑えたところ、ジュースが飛び散って二人にかかってしまったのだ。

 

『うぅぅ・・・冷たい・・・』

 

『・・・ぷふっ。あははははは♪』

 

『もぉ〜!! かすみっち、何笑ってんのぉ〜!?』

 

髪にジュースがかかって濡れたひなたを見てかすみが吹き出し、ひなたはそれに憤慨するも、その二人はどこか和やかな雰囲気になっていた。

 

「かすみ、随分と楽しそうだったわね」

 

「見守っているこっちが参加したくなる感じだったペエ」

 

そんな様子を思い出したちゆとペギタンは二人の様子を微笑ましく見守っている。

 

「かすみ、みんなと仲良くやってたラビ・・・その調子ラビ!!」

 

企画の立案者であるヒーリングアニマル3人の中でも中心的なラビリンも、その様子を見てうんうんと頷いている。

 

「・・・・・・・・・」

 

そんな中、かすみを不安そうに見つめていたのは、彼女から先ほどから自分を避けているように感じているのどかだった。

 

「のどか? どうかしたラビ?」

 

「えっ・・・う、ううん、なんでもない・・・」

 

のどかの方を見ていたラビリンが悲しい顔を気にかけて声をかけるも、のどかは口元に笑みを浮かべながら答えた。

 

そして、彼女はかすみの後ろ姿へと視線を戻す。その視線に感づいたのか、かすみは後ろへと振り向く。

 

「っ!?」

 

のどかの視線だと気づくと、かすみはドキッとして背けるように前を向く。そんな彼女の耳は赤く染まっていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

それに気づかないのどかは、その反応をなんとも言えないような表情で見つめているのであった。

 

その後は、みんなですこやか市の街を回ることになった。

 

「ここはこのすこやか市の名物、すこやかまんじゅうのお店よ」

 

沢泉旅館のお手伝いをしているちゆがお客に街を観光するかのように案内していく。

 

「すこやかまんじゅうって、この前一緒に食べたお菓子のことか? とうじくんが持ってきてくれた」

 

「そう、そのまんじゅうをここで売っているのよ」

 

かすみは見覚えのあるまんじゅうを目にして、ちゆの家でアスミと一緒に食べたことを思い出しながら言った。

 

このお店ですこやかまんじゅうを購入し、アスミとかすみは一個ずつ手に取り、以前やったように包みを剥がして一口かじる。

 

「美味しいです・・・!!」

 

「うん!! ほっぺたが落ちそうだ・・・!!」

 

「「ふふっ♪」」

 

アスミとかすみはお互いに顔を見合わせて笑顔になる。

 

「うーん・・・・・・」

 

続いて、場所が変わってのどかたちは可愛いお土産屋さんにやってくる。

 

かすみは可愛い小物をどれにしようかと真剣に見ている。

 

「はい♪」

 

「??」

 

そんな彼女の後ろから、ひなたが持ってきた麦わら帽子をかぶせる。

 

「ほらほら、こっちこっち♪」

 

ひなたはそう言うとかすみの背中を押して、全身鏡の前へと連れていく。

 

「あぁ・・・ぁぁ・・・!!」

 

「かわいいでしょ~? この帽子」

 

「そう、だな・・・素敵な帽子だ・・・」

 

帽子をかぶる自分の姿を見たかすみは胸の内に何かが湧き上がってくるのを感じた。ひなたに背中から声をかけられるとかすみは顔を紅潮とさせた。

 

続いては、自然がいっぱいの公園へとやってきた。

 

「ふわぁ~・・・綺麗な花だな・・・!」

 

噴水の周囲にある色とりどりの花を見て、かすみは瞳をキラキラと輝かせる。

 

「・・・・・・・・・」

 

そんな彼女の後ろにのどかが不安そうな表情で見つめるも、意を決したように彼女へと近づいていく。

 

「本当に素敵だよね~♪」

 

「!?」

 

のどかはかすみの視線に合わせてしゃがみ込んでそう言うも、かすみは横から聞こえてきたのどかの声にドキッとすると、振り向いたときに顔が近くがあることを認識し、顔がリンゴのように赤く染まっていく。

 

かすみはそれに耐えきれなくなって、体をプルプルと震わせる。

 

「ふわぁぁぁぁ~!!」

 

「あ、かすみちゃん・・・!!」

 

かすみは逃げるようにその場から走り去って行ってしまった。その姿を見てのどかは寂しそうにその背中を見つめるしかなかったのであった。

 

続いて、やってきたのはかつてのどかたちがやってきていたハーブガーデン。

 

「ここは?」

 

「前にのどかとラビリンがぬいぐるみを手に入れるために来ていたハーブ園ラビ!!」

 

「前に来たところね」

 

ひなたの疑問に、ラビリンが説明する。

 

「ワンワン!!」

 

「ラテ!! こっちだ!!」

 

かすみはハーブガーデンの中にある草原で、ラテと追いかけっこをしている。

 

ビュン!!

 

「??」

 

その横をちゆが走って駆け抜けていく。かすみはそれに気づくと、笑みを浮かべてスピードを上げていく。

 

「ちゆ!!」

 

「!! えぇっ!?」

 

ちゆは陸上部で行っている速度で走っているのだが、その後ろをかすみが追いつきそうになっていき、思わず驚きの声を上げる。

 

そして、かすみはちゆを捕まえるために一気に詰めるように俊足で動くが、勢い余って出し過ぎてしまう。

 

「ふわぁっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

「っと、っと、っと~・・・!?」

 

ちゆの背中に思い切りぶつかってきたような感じになり、かすみは倒れないように踏ん張ろうとする。

 

しかし、そこへかすみを追いかけてきたラテが迫ってくる。

 

「あ、ラテ・・・!?」

 

「ワフ~ン!!」

 

「ふわぁ~!?」

 

「きゃあぁ~!?」

 

捕まえたと言わんばかりにかすみの顔にラテが飛びつき、そのまま二人は重なるようにして倒れてしまう。

 

「ワン!!」

 

「「・・・ふふっ♪ あははははは♪」」

 

ラテはそんなかすみの背中の上に乗って笑顔で鳴く。その様子を見ていた二人は思わず吹き出し、一緒になって笑い出すのであった。

 

「ラテ・・・楽しそうですね♪」

 

「かすみも楽しそ~♪」

 

アスミとひなたはその様子をレジャーシートの上で微笑ましそうに見守っていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

のどかはハーブティーを啜りながらも、その表情は暗かった。

 

そして、最終的にハート型の灯台の前にみんなはやってきていた。

 

「ここがすこやか市の全景を見渡せる、ハート型の灯台よ」

 

「ここは、来たことあるぞ」

 

ちゆの説明を受けて、かすみはそう言う。みんなはハート型の灯台の上へと昇り、展望台からすこやか市の街を見渡す。

 

「ふわぁ〜、いつ来てもいいところだよね♪」

 

「ああ。この街は本当にいいところだ・・・」

 

のどかとかすみがそれぞれそう呟き、その後にかすみが「ハッ!?」と驚く。そして、のどかが隣にいたことに気づき、顔を赤くすると彼女と距離を置こうとし始めた。

 

「あ・・・!!・・・」

 

のどかはそれを見ると顔を俯かせ始める。

 

「のどかとかすみ、全然話してないペエ・・・」

 

「やっぱ、距離を感じるよなぁ・・・ラビリンがあんなことするから」

 

「ラ、ラビリンのせいラビ!?」

 

ペギタンとニャトランがその様子を見て不安そうな表情になる。ニャトランが冷めたような視線をラビリンに向けると、彼女はムキになり始める。

 

「のどかっちが話をしようとしてるのに、かすみっち、なんか避けてるもんね」

 

「のどかが混ざろうとしても、かすみさんは私たちと遊んでいることの方が多かったですね・・・」

 

「何か、後ろめたいことがあるんじゃないかしら・・・?」

 

アスミとひなた、ちゆもその様子を見て話す。

 

「だから、ラビリンが無理矢理くっつけようとするからーーーー」

 

「そうじゃないわ。それも否定できないけど、なんか別の理由で避けているように感じるのよ・・・」

 

ちゆは別の理由があって、かすみがのどかを避けているのであろうと分析していた。

 

「顔を近づけたときのかすみっち、顔赤かったよね?」

 

「そうだったかぁ・・・?」

 

ひなたは遊んでいる様子を見ていたりもするが、ニャトランはあまり覚えていない様子。

 

「公園で見たときも顔が赤くなってたわね」

 

「そのまま逃げてたペエ」

 

ちゆとペギタンは公園での出来事を覚えていて、その詳細を出した。

 

「なんでかすみさんは顔が赤くなっていたのでしょうか?」

 

アスミがかすみの顔が赤くなっているのを純粋に疑問に思う。

 

「恥ずかしいからじゃないかしら?」

 

「恥ずかしい・・・?」

 

「人って恥ずかしいと人の顔を見られなかったり、目を背けちゃったりすることがあるの。それで言いづらかったり、その場所に居づらかったりしてもどかしい感じになっちゃうのよ」

 

ちゆがかすみの顔が赤くなっている理由を説明してあげる。

 

「そういえば、ひなたも顔が赤くなったことあるもんなぁ」

 

「えっ・・・?」

 

「ほら、この前、ゆめぽーとに遊びに行った時に、のどかに『好き』って言われてーーーー」

 

「っ!?」

 

「むぐぐぐ・・・」

 

「ちょっとぉ〜!! 思い出させないでよ、そんなこと〜!!!」

 

ニャトランがひなたをからかうように言うと、思い出したひなたが顔を赤くしながらニャトランの口をふさぐ。

 

「ということは、かすみさんは今顔が赤いですし、恥ずかしいということなのですか?」

 

「そういうことになるペエ・・・・・・」

 

ペギタンがちゆの説明を元に、あまり感覚がわかっていないアスミに答える。

 

「ん? って、言われてみると・・・」

 

ひなたがアスミの言葉を受けて考え始める。かすみの顔が赤いということは、かすみには恥ずかしい何か、のどかに何か言えない何かがあるんじゃないかと。

 

「かすみっちってのどかに言えないことがあるんじゃないの!?」

 

「きっとそうね・・・!!」

 

「っていうか、よく見たらわかるじゃねぇか・・・」

 

ひなたとちゆがお互いにそう言い合うと、ニャトランがまるで正論のように言い放った。

 

「かすみちゃん・・・!!」

 

「こ、来ないでくれ・・・!! な、何だかわからないけど、のどかと一緒にいると自分が冷静じゃいられなくなるんだ・・・!!」

 

「かすみちゃん、私の話を聞いてよ・・・!!」

 

「嫌だ!! 聞きたくない・・・!! のどかの声を聞くだけでも、胸の中が苦しくなるんだ・・・!! とても気持ち悪くて、耐えられない・・・!!」

 

のどかとかすみが距離を詰めつつ、離しつつの言い合いをしているが、全くもって埒があかない。

 

そんな時、かすみの後ろにいつの間にかちゆが立っていた。

 

「かすみ」

 

「? な、何だ・・・?」

 

「自分の気持ちに正直になってみたらどうかしら? このままじゃ、のどかといつまでたってもこじれたままよ」

 

ちゆはそのようにかすみを諭すも、彼女は顔を俯かせて赤い手袋の指をモジモジと動かし始めた。

 

「うぅぅ・・・そんなことを言われても、のどかの前だと顔が熱くなって辛いんだ・・・!!」

 

「誰かをそれほど思っているってことよ。ここで言わないと、あとが辛いわよ」

 

「ん〜〜〜・・・!!!」

 

かすみからお湯が沸いている音が聞こえてくるのではと思うほど、頭から湯気を出して顔をリンゴのように真っ赤にさせる。

 

「かすみちゃん・・・」

 

「!!??」

 

のどかの方を振り向けば、彼女はまるで切ないものを見るような儚げな表情でこっちを見てくる。そんな表情にかすみの体からドクドクと音が自分の中に聞こえてくるような気がした。

 

困ったようにちゆの方を向けば、彼女は微笑みながらこちらを見ている。まるで、逃げることは許さないと言っているかのような表情で。

 

双方を交互に見て、体をプルプルと震わせ始めるかすみ。

 

「わかったよ!! 話せばいいんだろ!? 話せば!!」

 

とうとうムキになって叫び出す。かすみはのどかと向き合うことにしたようだ。

 

顔をリンゴのように真っ赤にさせながら、のどかに向き直るかすみ。

 

「かすみちゃん・・・」

 

「の、のどか・・・」

 

緊張する・・・自分が守りたいと思っている少女に向き直ることになるなんて・・・そんな彼女が愛しそうに見つめてくるから、先ほどから胸の中のドクンドクンという音が止まらない。緊張で汗もびっしょりと出てくる。

 

かすみは何かを言おうと口を小さくパクパクとさせるが、なかなか声が出てこない。

 

のどかもかすみにどのようなことを言えばいいかわからず、体をプルプルとさせるかすみを不安そうに見るだけだ。

 

「ぅぅ・・・・・・」

 

ただ言葉を言えばいいのに言いたいことがなかなか口から出てこない。徐々にその場が恥ずかしいところを見られているかのように居た堪れなくなってくる。

 

でも、ここで言わないと・・・言わなければ、きっと後悔する・・・!

 

かすみは口から息を吸って吐き出すと、意を決したように口を開き始める。

 

「の、のどか・・・」

 

「ど、どうしたの・・・?」

 

「わ、私は・・・」

 

あと一言、次の一言をしっかりと伝えればいいだけ。なのに、こんなところで言い淀む。胸の中の音が余計に早くなってきた気がした。

 

かすみは口を一生懸命動かし、声を張るように出そうとする。

 

「わ、私は、のどかのことが・・・!!」

 

そんな時だった・・・・・・。

 

ドクン!!!!

 

「!!??」

 

胸の中に響く音とは違う何かの気配に、かすみは目を見開く。そして、彼女はすこやか市の景色を見始めた。

 

「かすみちゃん?」

 

「どうしたの? もしかして恥ずかしさの方が・・・」

 

「泣いている声が聞こえる・・・」

 

「「「「!!」」」」

 

かすみの行動にのどかとちゆが疑問に思うも、彼女のその一言にみんなが驚く。

 

「クチュン!!」

 

「ラテ!!」

 

ラテがくしゃみをして体調を崩し始め、抱いていたアスミがそれに気づく。

 

「ビョーゲンズが現れたラビ!!」

 

のどかはラテに聴診器で診察し、彼女の心の声を聴いてみる。

 

(街で楽器さんが泣いてるラテ・・・)

 

どうやらビョーゲンズはすこやか市の街で暴れている模様。

 

「早く行かないと!!」

 

のどかたちはビョーゲンズの活動を阻止すべく、急いですこやか市の街へと戻っていく。

 

「・・・・・・・・・」

 

かすみはのどかたちの後を追わずに、顔を俯かせる。

 

「また・・・言えなかった・・・」

 

あの場で勇気を出して、言いたいと思ったことを言えなかった。どうやら彼女はそのことで気落ちをしているようだ。

 

「かすみちゃん!?」

 

「!! あ、ああ・・・!!」

 

のどかの呼ぶ声が聞こえてくると、かすみは顔を上げると一緒に向かうべく走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

すこやか市の街では悲鳴が聞こえ、そんなギターの姿をした怪物・メガビョーゲンが暴れている。

 

「メガ〜!!」

 

ギュイ〜ン!!

 

メガビョーゲンは弦を鳴らして音を奏でると、五線譜のような波動を飛ばして着弾させ、建物を赤く染めていく。

 

「キヒヒヒヒ・・・その調子なの・・・!!」

 

イタイノンは自分がメガビョーゲンを生み出したわけではないが、悲鳴をあげて逃げ惑う人間の姿を見て笑い声をあげていた。

 

こてん・・・

 

「っ・・・」

 

「すぅ・・・すぅ・・・」

 

そんな彼女にフーミンが自分の肩にもたれかかってスヤスヤと寝息を立てていた。

 

「本当によく寝るやつなの・・・」

 

イタイノンはその様子を呆れたように見ていた。そんな彼女は片手に電気を纏わせる。

 

「ほら、起きるの・・・!!」

 

「!? ひゃっ・・・!?」

 

それをフーミンのお尻に触れさせて電気を流し、思わず彼女は飛び上がる。

 

「お姉様、痛いですぅ・・・!!」

 

「ふん・・・お前が寝てるのが悪いの・・・」

 

今ので完全に目が覚めたフーミンはお尻をさすりながら抗議の声をあげ、イタイノンは鼻を鳴らしてそっぽを向く。

 

「いたわよ!! メガビョーゲン!!」

 

叫び声が聞こえてきたので、そちらを向いてみると毎度おなじみ邪魔をしてくるプリキュアの面々だった。

 

「ちっ・・・またやってきたの・・・!!」

 

イタイノンは舌打ちをすると、忌々しそうに呟く。

 

「イタイノンラビ!!」

 

「それとあいつの隣にいるやつ、誰だ・・・?」

 

ニャトランが見覚えのない少女の姿を見て訝しむ。知っているイタイノンの隣にいたのはダルイゼンやクルシーナではなく、姿を現したことのないシスター服を着ている人物だった。

 

「ふわぁ・・・」

 

フーミンはそんな視線を気にせずに、呑気にあくびをし始める。

 

「見たことないよね、あの娘!!」

 

「もしかして、新しいビョーゲンズ!?」

 

ひなたとちゆは見たことがない少女の姿を視認する。お互いに新たなビョーゲンズが生まれてしまったのかと思い、動揺する。

 

「ふわぁ〜・・・あっ・・・・・・」

 

フーミンはあくびをしていたが、のどかたちの姿を確認するとあくびを止めてゆっくりとこっちに向き直る。

 

「あなたたちがプリキュアですぅ・・・?」

 

「そ、そうだよ・・・!!」

 

スローペースかと思うぐらいの喋りに、ひなたが思わずその質問に答える。すると、フーミンはまるで天使のような笑顔を向ける。

 

「はじめまして・・・私は新しくお父様の娘として生まれたフーミンですぅ・・・よろしくお願いしますぅ・・・」

 

フーミンはお辞儀をしながら自己紹介をする。その様子にプリキュアたちは呆気に取られる。今までのビョーゲンズは明らかに悪意があるが、彼女はあまりにも異質すぎる。

 

「・・・あなた、本当にビョーゲンズなの?」

 

「そうですよぉ・・・イタイノンお姉様の手によって誕生した立派なビョーゲンズですぅ・・・」

 

ちゆが恐る恐る聞くと、フーミンは笑顔で答える。

 

「あのさ・・・フーミン、だっけ? 目的はなんなの?」

 

「それはもちろん・・・お父様のために地球を蝕んで私たちのものにすることですぅ・・・」

 

ひなたももしかしたらと思って聞いてみると、フーミンは口元を途端に裂けたような邪悪な笑みに変えて答えた。

 

「やっぱり、あなたもビョーゲンズなのね!!」

 

どんなに雰囲気が違っていても、ビョーゲンズであることには変わりはない。そう認識したのどかたちは彼女を睨みつける。

 

「どんな姿をしていても、あいつらはあいつらだ!!」

 

かすみは黒いステッキを取り出して、彼女へと構える。

 

「・・・?」

 

フーミンはかすみの姿を見ると、笑顔を崩して彼女を不思議そうに見る。なぜ自分と同じ雰囲気をしているものがプリキュア側に着いているのか・・・?

 

「お喋りはそこまでなの。フーミン、あとはお前に任せるの」

 

「お姉様ぁ・・・期待しててくださいですぅ・・・」

 

そんな疑問を誰かが答えるまでもなく、イタイノンはそう言って戦いを見届けるために建物の上へと飛び退く。フーミンは彼女に笑顔で手を振ると、改めてプリキュアたちに向き直る。

 

「さあ、メガビョーゲン・・・プリキュアを倒して、ここ一帯を蝕んでですぅ・・・」

 

「メガ〜!!」

 

フーミンはゆったりとした口調で指示すると、メガビョーゲンはギュイ〜ンと弦を鳴らすと五線譜のようなエネルギーを飛ばし、建物に着弾させて蝕んでいく。

 

「みんな、行くよ!!」

 

のどかの言葉を合図に、4人はプリキュアに変身する。

 

「「「スタート!」」」

 

「「「プリキュア、オペレーション!!」」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

 

「「「キュアタッチ!!」」」

 

ラビリン、ペギタン、ニャトランがステッキの中に入ると、のどか、ちゆ、ひなたはそれぞれ花のエレメントボトル、水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

そして、肉球にタッチすると、花、水、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、水色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ちゆは水色、ひなたは黄色へと変化する。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

そして、アスミは風のエレメントボトルをラテの首輪にはめ込む。すると、オレンジ色になっているラテの額のハートマークが神々しく光る。

 

「スタート!!」

 

「プリキュア、オペレーション!!」

 

「エレメントレベル上昇ラテ!!」

 

「「キュアタッチ!!」」

 

キュン!!

 

ラテとアスミが手を取り合うと、白い翼が舞い、ラテが舞ったかと思うとハートの中から白い白衣のようなものが飛び出す。

 

その白衣を身に纏い、ラテが降りてきたかと思うとハープが飛び出し、さらにアスミは紫色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

衣装にチェンジした後、ハープを手に取り、その音色を奏でる。

 

「「時を経て繋がる、二つの風!」」

 

「キュアアース!!」

 

「ワン!」

 

アスミは風のプリキュア、キュアアースへと変身した。

 

「「「「地球をお手当て!!」」」」

 

「「「「ヒーリングっど♥プリキュア!!」」」」

 

4人は変身を終えると、すぐにメガビョーゲンへと立ち向かう。

 

「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」

 

プリキュアたちは飛び上がると、メガビョーゲンに向かって蹴りを入れようとする。

 

「メガ〜!!!」

 

ギュイ〜ン!!

 

メガビョーゲンは弦を鳴らすと、音符のような五線譜のようなものを横に伸ばしてプリキュアのキックを防ぐ。

 

プリキュアたち4人は地面へと着地すると同時に、かすみがメガビョーゲンへと飛び出す。

 

「メガ〜!!!」

 

メガビョーゲンは音符の形をした弾を宙に出現させると、かすみに向かって投下していく。

 

かすみはメガビョーゲンを撹乱するように高速で動き、弾も同時にかわしながらメガビョーゲンへと迫る。そして、近くまで来た時に飛び上がる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「メガ〜!?」

 

かすみは胸に向かって飛び蹴りを放ち、メガビョーゲンを突き飛ばす。

 

「雷のエレメント!!」

 

スパークルは雷のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「はぁっ!!」

 

電気を纏った黄色い光線をステッキから放ち、メガビョーゲンに命中させる。

 

「メガガガガガガガ!?」

 

メガビョーゲンは電気に痺れて動けなくなる。

 

「「はぁぁぁぁっ!!!」」

 

「ビョーゲン!?」

 

その隙をついてグレースとアースが蹴りのモーションで飛び出し、足に命中させてメガビョーゲンを転倒させる。

 

「よし! 今のうちペエ!!」

 

「えぇ!!」

 

フォンテーヌはメガビョーゲンが倒れている間を狙って、キュアスキャンをしようとする。

 

ビュンッ!!!!

 

「!? きゃぁっ!!!!」

 

しかし、そこに白い何かが高速で迫り、フォンテーヌは吹き飛ばされて建物に叩きつけられた。

 

「「フォンテーヌ!!」」

 

フォンテーヌが突然、攻撃を受けたことに叫ぶグレースとスパークル。

 

ビュンッ!! ビュンッ!!!

 

「あぁぁ!!!!」

 

「きゃあっ!!!!」

 

そんなグレースとスパークルにも白い何かが迫り、防御体制が取れずに直撃をくらい、フォンテーヌ同様に建物へと吹き飛ばされた。

 

「グレース!! スパークル!!」

 

「!?」

 

アースが二人が吹き飛ばされたことに叫び、メガビョーゲンと対峙していたかすみは振り向いて驚いたような顔をする。

 

ビュンッ!! ビュンッ!!!!

 

「!!」

 

アースにも白い何かが迫り、飛びのいて避けようとするが、その白い何かは一つだけではなく複数あるようで、それが空中に逃げたアースへと迫っていく。

 

「うぅぅ・・・あぁっ!!」

 

アースは迫ってきた白い何かを交差させて防ぐも、そこへ白い何かが集まっていき、力不足により吹き飛ばされてしまう。

 

「はぁっ!!」

 

その白い何かはかすみにも迫っていた。かすみはステッキからシールドを展開して、白い何かを防ぐも力が強く容易に押されていく。

 

「うぅぅぅ・・・!?」

 

かすみは苦しい顔をしていたが、その白い何かをよく見ようとし、その正体に驚愕する。

 

(白い、翼・・・・・・!?)

 

かすみの目には天使のような白い翼がこちらを攻撃しているように見えた。っていうか、光の力でできたような白い翼のようだった。

 

そんなこと分析をしているうちに、かすみのシールドにヒビが入っていく。

 

「!? そ、そんな・・・うわぁぁぁっ!!!」

 

かすみはそれに呆然としていると、白い翼はシールドを突破してかすみに強烈な一撃が直撃させ、彼女は大きく吹き飛ばされた。

 

「うっ・・・な、何・・・?」

 

「痛ぁ・・・なんなの? 今の攻撃・・・?」

 

フォンテーヌとスパークルは痛みに呻きながらも、突然の攻撃に戸惑いを隠せない。

 

「うぅぅぅ・・・メガビョーゲンじゃなかったよね・・・?」

 

「とても強力な攻撃でした・・・」

 

グレースとアースも痛みに顰めながら、立ち上がろうとしていた。

 

「うぅぅぅぅ・・・!!」

 

かすみは体を起こしてその正体を探ろうとする。そして、その攻撃した何かの正体を発見した。

 

「みんな、見ろ!! あそこだ!!」

 

「「「「!!!!」」」」

 

かすみが指を指す方向に、プリキュアたちが視線を向けるとその正体に驚く。

 

「あいつ・・・あんな能力を持っていたの・・・?」

 

その様子を見ていたイタイノンは驚きを隠せなかった。

 

「ふわぁ・・・・・・」

 

フーミンがあくびをしたかと思うと、その白い翼を自分の方へと縮ませていく。そんな彼女の背中には2対6枚の白い翼のようなものが生えていた。

 

「あ・・・・・・」

 

彼女はプリキュアたちがこちらを見ているのを視認するとあくびを止めて、こちらをゆっくりと向きながらその翼に似合うような笑顔を見せる。

 

「お父様の邪魔をするのは許さないですぅ・・・ふふ♪」

 

フーミンは満面の笑みでそう言い放ったのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第73話「天使」

前回の続きです。今回でオリストは最後になります。
次回は原作に戻ります。


 

すこやか市の街でメガビョーゲンと交戦するプリキュアたち。

 

そんな彼女たちを吹き飛ばしたのは、フーミンの背中から生えた6枚の白い翼だった。

 

「お父様の邪魔をするのは許さないですぅ・・・」

 

天使のような満面の笑みを浮かべながらそう言い放つフーミン。

 

「今、あの娘がやったの!?」

 

「メガビョーゲンが特殊な攻撃をしてきたのかと思ったぜ」

 

スパークルとニャトランが信じられないような声をあげて張本人を見る。

 

「全然見えなかった・・・!」

 

「何が起こったのかわからなかったペエ・・・!」

 

フォンテーヌとペギタンは全く白い翼の攻撃に気付けなかったこと自体に驚いていた。

 

「あいつ・・・ああいう雰囲気してても、かなり強いぞ・・・!!」

 

かすみはフーミンがただ気怠い感じのものではないと察知する。

 

「ふーん・・・あいつ、結構やるみたいなの」

 

イタイノンはその様子を冷静に見て、懐からメガパーツを取り出す。

 

「少しは手を貸してやるの」

 

これを使ってもメガパーツはまだある。だから、奴らがフーミンを気を取られているうちに成長させてしまおうとイタイノンは考えた。

 

イタイノンは転倒して起き上がろうとしているメガビョーゲンの上からメガパーツを放る。

 

メガビョーゲンにメガパーツが入り、怪物の体から禍々しいオーラが溢れていく。

 

「メガ〜〜〜〜〜〜〜!!!! ビョーゲ〜〜ン!!!!」

 

禍々しいオーラが晴れていくと、巨大化したメガビョーゲンが姿を現した。

 

「うぇぇ!?」

 

「メガビョーゲンがまた大きくなったぞ!?」

 

スパークルとかすみはメガビョーゲンが巨大化したことに驚く。

 

「んぅ? なんでメガビョーゲン大きくなったのぉ・・・?」

 

フーミンはいきなり自分の生み出したメガビョーゲンが大きくなったことに疑問を抱く。

 

「キヒヒ・・・フーミン、私からのプレゼントなの。それで存分に蝕めばいいの」

 

イタイノンは残る一つのメガパーツを片手で宙に放ってキャッチしながら言った。

 

「お姉様がやってくれたですかぁ・・・ありがとうございますぅ・・・」

 

フーミンは建物の上にいるイタイノンに満面の笑みを浮かべた。

 

「まだメガパーツを持ってたのね・・・!!」

 

フォンテーヌはメガビョーゲンを急成長させた張本人であるイタイノンの方を睨みながら言った。

 

「メ〜〜〜ガァ!!!」

 

メガビョーゲンはギターのヘッドの部分を上へと向けると、そこから大きな音の弾を放つ。音の弾は高いところで炸裂すると、無数の音の弾となって街に降り注いだ。

 

ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!

 

「っ・・・」

 

「うわぁっ!!」

 

「くっ・・・!!」

 

「うぅぅ・・・!!」

 

音の弾は着弾して爆発し、街の建物のほぼ全体を蝕んでいくだけでなく、プリキュアたちがいる場所にも降り注いでいく。プリキュアたちはそれぞれ攻撃を回避するために、飛びのいたり、ぷにシールドを張ったりする。

 

グレースとかすみはシールドを上に張りながら、シールドを張ることができないアースの前で耐え凌ごうとする。

 

フォンテーヌとスパークルは弾幕から抜け出そうと、空中へと飛び上がる。

 

「メガ〜〜!!」

 

その空中に逃げたフォンテーヌとスパークルに目がけて、メガビョーゲンがヘッドの部分からギターの弦のようなものを伸ばす。

 

「あぁ!?」

 

「うっ!!」

 

フォンテーヌとスパークルは突然の不意打ちに気づくのが遅れ、弦に捕らわれてしまう。

 

「メ〜〜〜〜ガァ〜〜!!!」

 

メガビョーゲンは体を回転させると拘束した二人を振り回して地面へと投げ飛ばす。

 

「「きゃあぁっ!!!!」」

 

大きな音を立ててフォンテーヌとスパークルは地面へと叩きつけられた。そして、そのままギターのヘッドの部分に括りつけられた。

 

「フォンテーヌ!! スパークル!!」

 

「っ・・・許せない!!」

 

捕らわれたフォンテーヌとスパークルを助け出そうとメガビョーゲンへと走るグレースとかすみ。

 

「メガァ〜!!!」

 

メガビョーゲンは自分の周囲に大きな音の弾を作り出して、二人へと放つ。

 

「「っ!!」」

 

ドォォォン!!!

 

グレースとかすみが二手に分かれて避けると、音の弾はドームが出現したかと思うくらいの赤く禍々しい色の爆発を起こす。

 

「メガァ!! メガァ!!!!」

 

メガビョーゲンはさらに大きな音の弾を作って、二人にそれぞれ放った。

 

ドォォォン!!! ドォォォォン!!!!

 

「っ・・・!!!」

 

「これじゃあ近づけないぞ・・・!!」

 

グレースとかすみは音の弾を避け続けるも、メガビョーゲンに近寄ることができない。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

アースが大きく飛び上がってメガビョーゲンに蹴りを入れようとする。

 

しかし、そこへフーミンが飛び上がって背中の6枚の翼のうち、2枚の翼を投下する。衝突し合う蹴りと翼、お互いに押し返して背後へと飛び退く。

 

アースは地面へと着地するも、そこへフーミンが上空から迫る。

 

「ふわぁ・・・」

 

「っ!?」

 

フーミンは広げた翼から赤い禍々しい球体のオーラを出現させると、それを光線状にして放った。

 

ドォォォォン!!!!

 

「うぅぅ・・・!!」

 

アースは両手をクロスさせて防御体制をとるも、爆発のせいでボロボロになっていく。

 

ビュン!!!!

 

その隙にフーミンは拘束でアースの背後へと移動し、6枚の翼を全てアースへと投下した。

 

「!? あぁっ!!!」

 

高速で放たれた翼に対応できず、まともに食らって商店街の外へと大きく吹き飛ばされるアース。

 

「ふわぁぁ・・・」

 

フーミンはそれを見届けた後に大きくあくびをし始めた。

 

「っ、アース!!」

 

「あのプリキュアと同じように吹き飛ぶですぅ・・・!!」

 

アースがフーミンにやられたのを見たかすみが叫んで、そちらに向かおうとするが、フーミンがいつの間にか瞬間移動をしていて、6枚の翼を一気にかすみへと投下する。

 

「はぁっ!! ぐっ・・・!!」

 

かすみはシールドを張って白い翼を防ごうとする。シールドは白い翼を受け止め、守ったように見えたが、すぐさまシールドにヒビが入り始め・・・・・・。

 

「うわぁぁぁぁっ!!!!」

 

白い翼はすぐにシールドを突破して、かすみを建物へと吹き飛ばした。

 

「かすみちゃん!!」

 

「ふふっ♪」

 

やられたかすみに叫ぶグレースの横に、満面の笑みを浮かべながらフーミンが現れる。

 

「っ!!」

 

グレースはそれに気づくと振り向き、そこへフーミンが翼を広げて赤い禍々しい球体を光線状にして放った。

 

「ぷにシールド!!」

 

ラビリンが叫ぶとグレースの前に肉球型のシールドが展開され、光線を防ぐ。

 

「今のうちにメガパーツでもいただいておくの」

 

イタイノンはプリキュアがフーミンに気を取られている隙にメガビョーゲンへと近づく。メガビョーゲンの尻尾を手で弄って毟る。

 

「キヒヒ・・・・・・」

 

笑うイタイノンの手には尻尾の欠片があり、それが3個のメガパーツへと変化していく。

 

「実りのエレメント!!」

 

グレースは実りのエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「はぁっ!!」

 

お返しにピンク色の光弾をステッキから放つ。

 

「ふふ・・・」

 

フーミンは翼を大きく広げると自分を包むように覆わせる。そこへピンク色の光弾が直撃して、爆発を起こす。

 

「やったラビ!!」

 

光弾が直撃してダメージを与えたと思い込むグレースとラビリン。

 

「くっ、うぅぅぅ・・・!?」

 

建物に激突した苦痛に呻くかすみが、体を起こそうと震わせていると黒い煙の方を見てハッとする。

 

「グレース、危ない・・・!!!!」

 

かすみは痛みも忘れて体を起こしてすぐにグレースの前へと飛び出す。そこへ煙から白い翼が2枚投下され、グレースを襲う。

 

「っ!?」

 

グレースは突然現れた白い翼に呆然とした表情になる。かすみはそんなグレースの目の前へと飛び出し、彼女を抱きしめるように庇う。

 

ドスッ!!!!

 

「ぐぅっ!?」

 

かすみは背中に白い翼の一撃を受けてしまう。

 

「うぅぅぅ・・・あ、ぁぁっ・・・・・・」

 

白い翼の攻撃にかすみは呻くと、ダメージを受けた体にその激痛に耐えられずに、その場にドサリと倒れ込んでしまう。

 

「っ!! かすみちゃん、かすみちゃん!!!」

 

それを見たグレースは動揺し、倒れたかすみの体を揺さぶる。

 

「ふふっ・・・仲間の盾になるなんて仲間想いな人ですねぇ・・・素敵ですぅ・・・」

 

フーミンは満面の笑みを浮かべながら、何やらかすみの行動に好感を持っている模様。

 

「うっ、ぅぅぅ・・・」

 

「かすみちゃん、しっかりして・・・!!」

 

グレースは体を揺さぶっているも、かすみはダメージが蓄積して体を起こすことがfできない。

 

「うぅぅ・・・グレー、ス・・・」

 

かすみは痛みに顰めながらも言葉を紡ぐ。

 

「!! かすみちゃん!!」

 

「グレース・・・さっきは、すまない、な・・・」

 

グレースの叫びに、かすみは声がかすれながらも謝罪の言葉を口にする。

 

「どうして謝るの・・・!?」

 

グレースはこの場で謝らなければいけない意味がよくわからなかった。かすみはグレースを守ってくれているだけなのに、なぜ彼女は自分が悪いと思わないといけないのだろう。

 

「だって・・・私が変な反応をした、から・・・グレースにも顔を合わせづらく、なって・・・変な空気に、なっちゃって・・・これも、私が、グレースを、好きにならなければ・・・こんなことには、ならな、かった・・・のに・・・」

 

かすみはどうやら先ほど街をぶらりした際の自分への態度を謝っているようだった。のどかの家にいた時に変な空気になってしまい、それが原因でのどかに顔を合わせづらくなってしまったと思っていた。

 

グレースはそれを聞いて呆然とした後、目を瞑って首を振る。

 

「悪いのはかすみちゃんじゃないよ。私もかすみちゃんと仲良くしようと焦って、ちょっと詰め寄りすぎちゃったよね・・・私こそ、ごめんね・・・」

 

「グレースは、悪くないよ・・・私が勇気を持てなかったのが、悪いんだ・・・!!」

 

「かすみちゃんも悪くない・・・私が積極的すぎたから・・・!!」

 

グレースとかすみは互いに悪くないと言い合っていて、埒があかない。

 

「だったら、どっちも悪い・・・!!」

 

「えっ・・・?」

 

「お互いが悪いって譲らないなら、どっちも悪かったってことで。それならいいでしょ?」

 

グレースの提案に、かすみは呆然とした表情を見せるが、すぐに笑みを浮かべる。

 

「そう、だな・・・どっちも悪いってことはお互いに痛み分けで、仲良しだな・・・!!」

 

「それは違うと思うけど・・・」

 

かすみの的外れのような言葉にグレースは呆れるも、二人はお互い表情を見た後に笑みを浮かべる。

 

「「ふふっ♪」」

 

二人は満面の笑みを浮かべた。ようやく二人仲直りができて、ようやく話すことができた。それらをすることができたことの喜びの笑みだ。

 

「ほら、かすみちゃん」

 

「ああ・・・!!」

 

かすみはグレースが伸ばす手を掴み、その場から立ち上がった。

 

「行こう!!」

 

「早く止めなきゃな!!」

 

グレースとかすみはメガビョーゲンを止めるべく走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メガ〜!!」

 

メガビョーゲンは別の場所で音の弾を放って、建物を病気に蝕んでいた。

 

「素敵ですよぉ・・・どんどん赤く染まっていきますぅ・・・ふわぁ〜・・・」

 

フーミンはその様子を満面の笑みで見つめつつも、あくびをし始めていた。

 

キリキリキリ・・・!!

 

「うぅぅぅぅ・・・!! 止めなきゃ、いけないのに・・・!!」

 

「動けないよぉ・・・!!」

 

フォンテーヌとスパークルは拘束を振りほどこうとしているが、体をグルグル巻きにされていて力を入れても拘束は緩まず、足をバタつかせることしかできない。おまけに苦しいくらいに締め付けられているために、表情は苦痛に歪んでいた。

 

「ジタバタしてても、疲れるだけですよぉ・・・?」

 

フーミンはそんな二人を不思議そうに見つめていた。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」

 

「メガァ〜!?」

 

そこへ飛び出してきたグレースとかすみが同時にメガビョーゲンの横から顔面に蹴りを放って転倒させる。

 

「うぅぅ・・・グレース!!」

 

「かすみっち!!」

 

フォンテーヌとスパークルがグレースとかすみが来てくれたことに表情を明るくさせる。

 

「? また来たですかぁ?」

 

「どこまでもしつこい奴らなの」

 

フーミンとイタイノンが気付いてゆっくりとグレースとかすみのほうを見ながら言う。

 

「来たよ!!」

 

「これ以上、お前たちの好きにはさせないぞ!!」

 

二人は強気な口調で言いながら、ステッキを構える。

 

「ふわぁ〜・・・メガビョーゲン、プリキュアを倒すですぅ・・・」

 

「メガ〜!!!」

 

あくびをしながら指示をするフーミンの言葉を受け、メガビョーゲンはヘッドの部分から大きな音の弾を二人に目がけて放つ。

 

グレースとかすみの二人は飛び上がってかわす。

 

「ふっ!! はぁぁぁぁっ!!」

 

かすみは空中に逃げた後に、蹴るようにして飛び出し、パンチを喰らわせようとする。

 

しかし、ここでメガビョーゲンが拘束したフォンテーヌとスパークルを盾にして利用しようと、ギターの体に括り付けていたのを伸ばして前に出す。

 

「!?」

 

「メガァ!!」

 

「うわぁっ!!」

 

かすみが動揺した隙をついて、メガビョーゲンが逆にパンチを繰り出す。

 

「かすみさん!!」

 

「!! アース!!」

 

そこへ大きく遠くに吹き飛ばされていたアースが飛んできて、こちらの手を伸ばしたのが見えた。それに気づいたかすみは手を伸ばしてアースの手を掴む。

 

「ふっ!!!」

 

遠心力を利用して、そのままアースをメガビョーゲンの方へと投げる。

 

「はぁっ!!」

 

「メガァ!!?」

 

アースは猛スピードで接近し、手をメガビョーゲンの体に当てると強烈な掌底を放って突き飛ばす。

 

「あぁ・・・あんだけ吹き飛ばしたのにもう戻ってきたですぅ・・・?」

 

フーミンはアースが戻ってきたことに、珍しく膨れたような表情を見せながら言った。

 

「実りのエレメント!!」

 

グレースは再び実りのエレメントボトルをステッキにセットし、ステッキの先にピンク色のエネルギーの刃を出現させる。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

ステッキからピンク色の斬撃を振るって、弦を切断しフォンテーヌとスパークルを拘束から解放する。

 

「ありがとう、グレース」

 

「よーし!! さっさと浄化しちゃおう!!」

 

プリキュアたちはメガビョーゲンを浄化しようと立ち向かおうとする。

 

ビュンッ!!

 

「!? ぐっ・・・!!」

 

そこへフーミンが白い翼を放ち、かすみはそれを受け止めるも、傷をつけたのかかすみの顔が苦痛に歪む。

 

「かすみちゃん!!」

「かすみ!!」

「かすみっち!!」

「かすみさん!!」

 

「私は、いいから・・・みんなはメガビョーゲンを・・・!!」

 

かすみは痛みに顔を顰めながらも、プリキュアたちにメガビョーゲンを浄化するように言う。

 

「ごめんね!! かすみちゃん!!」

 

プリキュアたちは頷くと、申し訳ないと思いながらもメガビョーゲンの方へと飛んでいく。

 

「いくらあなたが私の翼を受け止めても・・・無駄ですよぉ・・・?」

 

フーミンは不思議そうにこちらを見つめながらも、さらに残った5枚の翼を投下する。

 

ドスッ!! ドスドスッ!!!

 

「ぐっ、うぅぅぅ・・・!!」

 

白い翼を次々と体に突き刺され呻き声を上げるかすみ。それでも必死に押さえ込んでいるが、徐々に背後に押されていく。

 

「無駄なことが、あるものか・・・!! 私は、のどかたちと一緒に過ごして、いろいろと学んだ・・・いろいろと知ったんだ・・・みんなのことを・・・楽しかったことも・・・!! だから、やって無駄なことなんか、何一つないんだ!!!!」

 

かすみはフーミンの言葉に、強気な口調で反論する。

 

「んぅ・・・言ってることがよくわかりません・・・」

 

フーミンは困ったような表情をしながらも、かすみを徐々に翼で押しのけていく。

 

「ぐっ・・・ぅぅぅ・・・!!!!」

 

かすみは白い翼によって余計に体を抉られ、呻き声が大きくなっていく。そんなとき、その側にまだ蝕まれていない花があるのが見えた。

 

かすみは震える手でステッキを懐から取り出して、その花に向ける。

 

「うぅぅ・・・花の、力よ・・・!!」

 

かすみはそう叫ぶと、花からピンク色の光がまるで呼ばれたかのように飛び出してくる。そして、かすみの持つ黒いステッキにその力が集まっていく。

 

パァ・・・!!!!

 

そして、そのステッキが緑色に光ったかと思うと、かすみの髪が桃色に変わっていき、手袋も白がベースの桃色の花模様が浮かび上がる。ステッキも暗い鮮やかなピンク色に変わっていく。

 

「!!・・・姿が、変わったぁ・・・?」

 

フーミンは突然、かすみが姿を変えたことに驚く。

 

「はぁっ!!!」

 

かすみは自分の周囲に花のエフェクトのようなものを出現させると、そこから波動を放って白い翼を吹き飛ばす。

 

「ぁぁ・・・?」

 

フーミンが白い翼が吹き飛ばされたことに動揺するも、そこへかすみが駆け出してくる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「っ!!」

 

かすみはフーミンに駆け寄ってパンチを振るう。フーミンは伸ばした白い翼を自分の方へ戻すと覆うように包み、パンチを防ぐも後方へと吹き飛ぶ。

 

フーミンは地面に着地して、守っていた白い翼を広げるとその場から猛スピードを出して、一気にかすみの前に詰め寄る。

 

「ふっ・・・」

 

「はぁっ!!」

 

フーミンは片方の翼を叩きつけるように振るうと、かすみも足にピンク色のオーラを込めて振り上げ、キックで応戦する。

 

「!?」

 

花の力が白い翼を弾き飛ばし、それに動揺するフーミン。そこへかすみが体にステッキを向けて花のエフェクトを出現させる。

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

「っ!! ひゃっ!!」

 

ドカァァァァン!!!!

 

花のエフェクトからピンク色のエネルギー波を放ち、フーミンに直撃させた。

 

吹き飛ばされたフーミンは白い翼を後ろに広げると、建物の壁への衝突を回避して地面に着地する。しかし、その場でへたり込んでしまう。

 

「・・・・・・・・・」

 

フーミンはかすみの姿を不思議そうに見つめていた。

 

「あいつ、段々と強くなってるの。クルシーナも言ってたけど、作戦はうまくいってるの?」

 

イタイノンは戦いの様子を見ながら、以前クルシーナが言っていた作戦を呟いていたが、作戦が進んでいるのかよくわからなかった。

 

「メガ〜!!」

 

ギュイーン!!

 

メガビョーゲンは弦を弾いて音を鳴らすと、五線譜のような波動を飛ばす。プリキュア4人はその場から飛び上がってかわす。

 

「メガ〜〜〜〜!!」

 

メガビョーゲンは空中に逃げたプリキュアに、再びヘッドから弦を放った。

 

「同じ手は・・・!!」

 

「食わないよ!!」

 

フォンテーヌとスパークルはこちらに伸びてきた弦をそれぞれ手で掴み、そのまま勢いに任せて落下する。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」

 

「メガァ〜!?」

 

ターザンロープのように弦を掴んで流れるように降り、同時にメガビョーゲンへ蹴りを食らわせる。

 

「はぁっ!!」

 

「ふっ!!」

 

「ビョ〜〜〜!?」

 

そこへグレースがピンク色の光線、アースが片手から風を放ってメガビョーゲンに命中させる。よろけるメガビョーゲンだが、倒れないように体制を整え直す。

 

「メガ〜!!!」

 

メガビョーゲンはヘッドの部分から再び音の弾を放とうとする。

 

「させないわよ!! 氷のエレメント!!」

 

フォンテーヌは氷のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「はぁっ!!」

 

ステッキから冷気を纏った青い光線をメガビョーゲンのヘッドに目がけて放つ。

 

「メガ〜!?」

 

メガビョーゲンはヘッドだけでなく、ギターの体全体を氷漬けにされたことに動揺する。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「ビョ〜ゲン!!??」

 

そこへかすみが飛んできて、足に花のエフェクトを出現させるとそのまま飛び蹴りを放つ。メガビョーゲンは大きく吹き飛ばされ、建物の壁に激突して倒れる。

 

「かすみちゃん!!」

「かすみ!!」

「かすみっち!!」

「かすみさん!!」

 

「今のうちだ!!」

 

かすみが無事だったことを確認するプリキュアたち。かすみはメガビョーゲンが倒れているうちに浄化するように促す。

 

「うん!!」

 

キュン!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

グレースがステッキの肉球に一回タッチして、メガビョーゲンに向ける。ラビリンの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを見つける。

 

「音のエレメントさんラビ!!」

 

「アース!! お願い!!」

 

グレースの合図に、アースは頷くと両手を合わせるように祈り、浄化の準備へと入る。

 

一枚の紫色の羽が舞い降り、ハープのような武器へと姿を変える。

 

「アースウィンディハープ!!」

 

そう呼ばれたハープに、風のエレメントボトルがセットされる。

 

「エレメントチャージ!!」

 

アースはハープを手に取って、そう叫ぶとハープの弦を鳴らして音を奏でる。

 

「舞い上がれ! 癒しの風!!」

 

手を上に掲げると彼女の周りに紫色の風が集まり始め、ハープへとその力が集まっていく。

 

「プリキュア! ヒーリング・ハリケーン!!!」

 

アースはハープを上に掲げてから、それを振り下ろすとハープから無数の白い羽を纏った薄紫色の竜巻のようなエネルギーが放たれる。

 

そのエネルギーは一直線にメガビョーゲンへと向かい、直撃する。

 

竜巻のようなエネルギーはメガビョーゲンの中で二つの手へと変化し、音のエレメントさんを優しく包み込む。

 

メガビョーゲンをハート状に貫きながら、光線はエレメントさんを外に出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていく。

 

「お大事に」

 

音のエレメントさんがアコースティックギターへと戻ると、メガビョーゲンが蝕んだ街の建物が元の色を取り戻していく。

 

「ワフ~ン♪」

 

メガビョーゲンが浄化されたことにより、体調不良だったラテも額のハートマークが黄色から水色に戻り、元気になった。

 

「負けちゃったですぅ。ふわぁ〜・・・すぅ・・・すぅ・・・」

 

フーミンはメガビョーゲンが浄化されたことを惜しむようなこともなく、まるで興味がないというようにあくびをするだけ。そして、そのまま横になって眠ってしまった。

 

「本当にどこまでも寝るやつなの・・・!!」

 

イタイノンは懐にメガパーツをしまうと、そのまま建物から飛び降りるとフーミンを抱え、その場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メガビョーゲンを浄化した後、のどかたちは置かれていたアコースティックギターに宿る音のエレメントさんを診ていた。

 

「エレメントさん、大丈夫ですか?」

 

『はい!みなさんのおかげです!ありがとうございました!!』

 

「「ふふっ♪」」

 

音のエレメントさんは自信が無事であることを伝える。のどかとかすみは互いに見て笑みを浮かべた。

 

その後、日も暮れる中、のどかたちは帰路についていた。

 

「今日は楽しかったね〜」

 

「そうね。作戦とか言ってたけど、なんだかんだで遊んじゃったわね」

 

「私もそれなりに良かったです♪」

 

ひなたとちゆとアスミが話している中、かすみが足を止める。

 

「? どうしたの? かすみちゃん」

 

それに気づいたのどかが声をかける。かすみは顔を俯かせていて、何やら言いたげな様子だった。

 

そんなかすみの顔は赤くなっていた。言わなきゃ・・・言わないと・・・かすみは先ほど言えなかったことで胸がいっぱいだった。

 

かすみは両手をギュッと握りしめると意を決したように顔を上げる。

 

「のどか!!」

 

「な、何?」

 

「聞いてくれないか・・・!?」

 

「う、うん・・・」

 

かすみは緊張から思わず大声をあげてしまう。のどかはたじろぎつつも、真剣に話を聞こうとする。

 

「わ、私は・・・」

 

かすみはその先のセリフを言おうとして口ごもる。まだ恥ずかしさが勝っているが、なんとか負けないように手を握り、口を開く。

 

「わ、私は・・・のどかのことが・・・!!」

 

かすみは思い切ってのどかに告白しようとする。

 

ところが・・・・・・・・・。

 

グゥ〜!!!!

 

・・・・・・・・・・・・。

 

「「・・・・・・・・・」」

 

かすみのお腹が鳴り響き、二人の間にいたたまれない沈黙が包み込む。

 

「・・・・・・・・・!!!!」

 

しばらくの沈黙の後、かすみは顔をリンゴのように真っ赤にさせていく。

 

「う、う、う、うぅぅ、うわぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!!!!!」

 

「か、かすみちゃ〜ん!!!」

 

かすみはあまりの恥ずかしさから逃げるように走っていき、のどかはそんな彼女に思わず手を伸ばして叫んでいた。

 

「うわぁっ!? かすみっち!?」

 

「ど、どうしちゃったの・・・!?」

 

「何か恥ずかしいことでもあったのでしょうか・・・?」

 

前を歩く3人の間もゼロ距離で走り去って行き、それを見た3人も訳も分からず呆然と見ているしかなかった。

 

「なあ、ラビリン。これ成功なのかよ?」

 

「この作戦、そんな意味もなかったような気がするペエ・・・」

 

ニャトランは冷めたような様子で、ペギタンは疲れたような様子でラビリンに問い詰める。今回の作戦はのどかとかすみたちはただ遊んでいるだけで、あまり意味をなしていないような気がしたからだ。

 

「うぅぅ・・・まだまだこれからラビ!!!! これからも交流を続けて、お手当てを効率よくしていくラビ!!!」

 

ラビリンは作戦はまだまだ終わっていないと、これからもこの作戦は続けていくものだとムキになって主張した。

 

(言えなかった・・・また言えなかった・・・うぅぅ・・・私のバカぁ・・・)

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ〜!!!!」

 

かすみは涙目になりながら考えると、泣き叫びながら走り去って行ってしまうのであった。まだまだ、のどかに想いを伝えるのは、先の話のようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ビョーゲンキングダムでは、イタイノンとフーミンがキングビョーゲンと対面していた。

 

「初仕事は楽しめたか? フーミン」

 

帰ってきた自身の新たな娘に、キングビョーゲンは問いかける。そんな当の本人は・・・・・・。

 

「すぅ・・・すぅ・・・」

 

イタイノンの肩に寄りかかりながら眠っていた。

 

「っ!! 起きるの!!」

 

イタイノンはその様子に顔を顰めると、片手に電気を纏わせると彼女のお尻にあてがう。

 

「ひゃっ!?」

 

フーミンはすぐに覚醒して飛び上がる。その拍子に数歩前へと出たフーミンはまっすぐに立って、キングビョーゲンを見る。

 

「はいぃ・・・蝕むのも大切ですけどぉ、プリキュアとの戦いも楽しくなりそうですぅ・・・♪」

 

フーミンは片手はお尻を摩りながらも、満面の笑みでキングビョーゲンに答えた。

 

「実際、アンタから見てフーミンはどうだったの? イタイノン」

 

一緒にその場にいたクルシーナがキングビョーゲンの代わりに問う。

 

「・・・強いとは思うの。でも、すぐに寝てしまうのが玉に瑕なの」

 

「そう・・・」

 

イタイノンが淡々と答えると、クルシーナは特に興味がなさそうな感じで言う。

 

「では、眠らない方法を考えないといけませんねぇ・・・」

 

同じくその場にいたドクルンはメガネを上げながらニヤリと笑みを浮かべて言った。

 

「いいな〜! ヘバリーヌちゃんも一緒に気持ち良くなりたかったなぁ〜」

 

ヘバリーヌはよくわからないことを言いながら、なんだか羨ましそうにしていた。

 

「あの古のプリキュアにそっくりなやつと戦えるとは・・・バテテモーダと以上に使えそうだ。これからもお前の活躍には期待しているぞ、フーミン」

 

「ありがとうございますぅ・・・」

 

キングビョーゲンに評価され、満面の笑みを浮かべながら返した。

 

「もちろん、お前たちも、フーミンを見習ってさらなる活動を期待しているぞ・・・!!!」

 

「はーい」

「わかりました」

「わかったの」

「はーい!」

 

娘たちが返事を返すと、キングビョーゲンはそのまま蜃気楼のように姿を消していった。

 

「イタイノン」

 

「・・・何?なの」

 

「アンタが取ってきたメガパーツ、一個貸してくれる?」

 

クルシーナが淡々とそう言うと、それを受けたイタイノンは黙って懐からメガパーツを一個取り出すと彼女へと放る。

 

「・・・なんかやけに素直ね」

 

「あいつのところに行くんだろ?なの」

 

「まあね・・・・・・」

 

イタイノンはどこに行くのかを察しているようで、クルシーナは笑いながら答えるとそのままその場から立ち去っていく。

 

「さてと・・・そいつはどうするんですかぁ?」

 

ドクルンはいつの間にか横になっているフーミンを指差す。

 

「すぅ・・・すぅ・・・」

 

「ハッ!? また寝てるの!?」

 

イタイノンはびっくりしたように驚くと、すぐにフーミンに駆け寄って体を起こす。

 

「おい、お前!! 寝るななの!!!!」

 

「んぅ・・・眠いですぅ・・・」

 

イタイノンが怒鳴りながら叫んでいると、フーミンが眠そうに答える。どうやら彼女は寝てはいないようだが、全くその場から動こうとしない。

 

「起きてるならアジトに案内してやるから、立てなの・・・!!」

 

「さっき力を使ったから、いつもより眠いですぅ・・・」

 

イタイノンはその場から動くように命じるも、フーミンは全く動かない。

 

「どうやらエネルギー切れみたいな感じのようですねぇ・・・ここで喚いても動きませんからおんぶして運んであげましょうか。イタイノン、よろしくお願いしますねぇ」

 

ドクルンはそう言いながらアジトへと帰っていく。彼女のその一言に、イタイノンは驚愕の表情を浮かべる。

 

こいつを、私がアジトまで運ばないといけない、だと・・・?

 

「〜〜〜っ!! ふざけんななの!!!!」

 

イタイノンは睨むような表情になった後に怒鳴り声を上げる。そう言いつつも、フーミンを背中におんぶしてアジトへと帰ろうとする。

 

「私はこいつの従者じゃないの・・・!!」

 

イタイノンはブツブツ文句を言いながらも、アジトへと歩いていく。

 

「すぅ・・・すぅ・・・すぅ・・・」

 

そんなフーミンは、イタイノンの背中で呑気に眠っているのであった。

 

一方、先にアジトについていたクルシーナは、眠っているもう一人のビョーゲンズが安置されている地下の奥にある部屋へとやってきていた。

 

ビョーゲンズは赤い靄に包まれ、眠っている少女の体。クルシーナはそれに先ほどイタイノンから借りたメガパーツを入れる。

 

ズォォォォォォォォォォォン!!!!

 

その瞬間、その体から溢れるばかりのオーラが放出させる。

 

「・・・・・・・・・」

 

その様子をクルシーナは黙って見つめていた。

 

激しく放っていたオーラは大人しくなると、少女の体は元の落ち着きを取り戻す。

 

クルシーナはベッドを覗き込むも、少女の様子はあまり変わっていない。ただ眠っているだけだ。

 

「・・・・・・はぁ」

 

それを見てクルシーナはため息をつくと、自分が持っているメガパーツを取り出す。

 

「まだ起きないわね。アタシの持っているメガパーツを全部投下すれば目覚めそうだけど、今はお父様の娘となる器も集めないといけないしね」

 

クルシーナはビョーゲンズの様子を見ながら言う。そして、懐にメガパーツをしまうと再度少女を見つめる。

 

「また来るわね、お姉様」

 

クルシーナは少女にそう投げかけるとその部屋を後にした。

 

ピクッ・・・・・・。

 

部屋が静まり返った後、動くはずのない少女の片手の指がわずかに動いた・・・・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第74話「家出」

原作第25話がベースです。
今回はペギタンがいなくなってしまうお話ですね。


 

「ゴクリ・・・」

 

その日のかすみは緊張から息を飲むように喉を鳴らしていた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

街の中を、1組の若い男女が何かから逃げるように走っている。

 

「はぁ・・・はぁ・・・あっ、あぁぁ!?」

 

路地を曲がった先で行き止まりになっており、男女がそこで立ち止まっていると・・・・・・。

 

ガウ!!!

 

「っ!!」

 

「ヒィッ!!」

 

そこに目に傷のある大型の犬のような怪物が、二人を狩らんとするような目つきで唸りながらこちらを見ている。

 

「っ・・・ヒィィ!!」

 

「っ!!」

 

男性の方はその怪物に怯えて女性の後ろに付いていたが、女性は地面に鉄パイプのようなものが落ちているのを見つけて拾いあげる。

 

「かかってきなさい!!」

 

女性は拾った鉄パイプを構えて、怪物を見据えながら睨みつける。そして、怪物は大きく吠えながら、牙を光らせて女へと襲いかかった・・・・・・!!

 

「ペェェェェェェェ~!!!」

 

「っ・・・!!!!」

 

・・・という、映像を見ながらペギタンが悲鳴を上げ、かすみはビビったようにドキッとしていた。

 

その後・・・・・・・・・。

 

「あ~、面白かった♪」

 

ちゆが部屋の窓を開けて、そう言いながら体を伸ばしていた。

 

「あ、ああ・・・そ、そう、だな・・・・・・スマホで、見ているのに、迫力があった、な・・・」

 

かすみはそう言いつつも、顔を青くして体をプルプルと震わせている。

 

「うぅぅ・・・」

 

ペギタンはスマホの前で頭を抱えながら、カタカタと体を震わせていた。

 

かすみとペギタンは、ちゆと一緒に彼女の部屋で暗くしながら、スマホである海外のホラーものであるドラマの鑑賞を行っていたのだ。

 

「ド、ドラマというのは、こんなにすごいものなのか・・・?」

 

「すごいっていうか、楽しめるものがいっぱいあるの。さっき見たもののように怖かったり、面白かったり、泣けたりするものもあって、人の気持ちを揺さぶるものもあるのよ」

 

「お、奥深いな・・・」

 

かすみは顔を青くしながらの問いに、ちゆが答えると彼女は感嘆したように答える。

 

かすみはスマホの前で怯えているペギタンの方に視線を向ける。

 

「ペギタンも、怖かったのか・・・?」

 

「さっき悲鳴を上げてたくらいだからね。ふふっ♪ だから見ないほうがいいって言ったのに」

 

ちゆも一緒にペギタンの方を見ると、彼女は笑みを浮かべながらそう言った。

 

カタカタカタカタ・・・・・・。

 

ペギタンは頭を抱えて震えながら、何も答えない。

 

「お~い、ペギタ~ン・・・?」

 

「ペギタン? 大丈夫か?」

 

「うぅぅぅ・・・ハッ!?」

 

ちゆとかすみが一緒になって声を掛けると、ペギタンは我に返ってこちらを振り返った。

 

「平気?」

 

「顔色が悪そうだが・・・」

 

「へ、平気ペエ!! ぜぇ~んぜん怖くなかったペエ!! 顔色が悪いのは元から体が青いからペエ!! それにしても、さっきのドラマ、犬のCGがイマイチペエ。いきなりババンって大きな音を出すのは怖いんじゃなくて驚いただけペエ。それにそれに・・・」

 

ペギタンは言動がしどろもどろになっており、明らかに怖がっているのが丸わかりなのだが、それでも必死に誤魔化そうとする。

 

それを見ていたちゆは思わずペギタンの頭に手を置いて、優しく撫でる。

 

「ふふっ、可愛い♪」

 

「っ!?」

 

ガーン・・・!!!!

 

ちゆのその何気ない一言が原因で、ペギタンはかなりのショックを受けてしまう。

 

「ちゆは、どうしてあれを見た後に笑顔でいられるんだ・・・??」

 

かすみはまだ顔色が悪いままで、そんなちゆの後ろ姿を複雑な心境で見つめていた。自分は今でも足が寒いかのように震えるのに、ちゆはどうしてなんともないのか。人間はよくわからない・・・。

 

「ちゆ~、かすみちゃ~ん。ちょっと手伝ってくれる~?」

 

「あっ、は~い!!」

 

「ああ、わかった・・・!!」

 

そんな時に、ちゆの母のなおが部屋の外から声をかけ、ちゆとかすみはそれに答える。ちゆは部屋を出ようとするが・・・・・・。

 

「ま、待ってくれ・・・!!」

 

「? どうしたの?」

 

引き止めるかすみに、ちゆが振り向く。かすみは依然、座り込んだままだ。

 

「手を、貸してくれないか・・・? その・・・体が持ち上がらなくてな・・・」

 

「もしかして、腰が抜けちゃったの・・・!?」

 

ちゆはそう察するとかすみが伸ばした手を掴んで引っ張り、彼女を立たせる。

 

「うわぁ!?」

 

かすみは前によろけて、ちゆの胸の中にもたれかかって倒れ込んでしまう。

 

「っ!?」

 

かすみは抱き合うようになっている格好に目を見開くと、ちゆの肩を掴んで体を離す。

 

「す、すまない・・・!!」

 

「え、ええ・・・」

 

かすみが謝罪の言葉を述べるも、二人の間に微妙な空気が流れる。が、その空気を最初に壊したのはちゆの微笑だった。

 

「手伝いはいいわよ、私が一人で行くから」

 

「そ、そんなわけにはいかない・・・!! せっかくこの家にお世話になっているんだから、何もしないというわけには・・・!!」

 

「さっきのドラマ、かすみも怖かったんでしょ? だから、腰が立たなくなってーーーー」

 

「べ、べべべべ別に、怖いわけではない!! ただちょっと大きな音や悲鳴とかにビビってしまっただけで・・・!!」

 

ちゆはかすみの調子を崩しているのを考慮してそう言ったが、かすみはムキになって否定する。特に先ほどのドラマのことを指摘すると、顔を真っ赤にし始めたのだ。

 

すると、ちゆは笑顔でかすみの頭に手を置くと撫で始める。

 

「かすみも可愛い♪ 思わず抱きしめたくなっちゃう♪」

 

「は、恥ずかしいからやめてくれ・・・!!」

 

ちゆのこの行動にかすみは顔を余計に真っ赤にしていく。

 

「本当は怖いのに、怖くないってムキになるなんて♪」

 

「べ、別に私は強かったわけじゃないからな・・・!! おいっ、ちゆ!! 私の話を聞いているのか!?」

 

部屋の外へと出てなおのところに向かっていくちゆに、かすみはギャーギャー言いながら彼女の後をついていく。

 

その後、しばらくして夕方5時ぐらいになった時、ちゆはペギタンとかすみの分のおやつと飲み物を持って、かすみと一緒に部屋へと向かっていた。

 

「次は笑えるやつ見よっか♪」

 

「私は別に、さっきのドラマと同じでいいのだが・・・まあ、笑えるやつも、興味はあるし・・・」

 

「うふふ♪ 強がっちゃって♪」

 

「ちゆっ!!!!」

 

ちゆはかすみの強がりに笑みを零し、その反応にかすみは憤慨する。そんな会話をしているうちに、ちゆの部屋へとたどり着く。

 

「ペギタ~ン、お待たせ~♪」

 

「おやつを持ってきたぞ~♪」

 

部屋に入りながら、ちゆとかすみはペギタンに声をかけた。

 

しかし、スマホの前にいるはずのペギタンの姿がない。

 

「ペギタン・・・?」

 

ちゆは部屋で待っているはずの自身のパートナーの名前を呟いた。

 

「いないぞ・・・?」

 

「ペギタン? ペギタ~ン!」

 

かすみも誰もいない部屋にそう呟く。突然、ペギタンがいなくなったことに不安を抱き始めたちゆは声をかけながら彼の名前を呼ぶ。

 

しかし、返答は何も返ってこない・・・・・・。

 

「どこかに、隠れてるのか・・・?」

 

「それだったら返事をしてるはずよ。ペギタ~ン! ペギタ~ン!!」

 

ちゆはかすみの疑問を否定すると、不安をあらわにするかのように大きな声で叫び始めた。

 

それでも、この部屋にいるはずのペギタンからの返答はない・・・・・・。

 

「もしかして・・・家を出ちゃったのか・・・!?」

 

「どうして・・・?」

 

「うーん・・・なんでだろうな・・・?」

 

ちゆが切なそうな顔でこちらを見るので、かすみは家を出てしまった理由を考える。

 

ペギタンは今日、自分たちと一緒に怖いドラマを見ていた。ペギタンは悲鳴をあげて、ドラマが終わった後には怯えていた。ペギタンが強がっていて、ちゆのある一言にショックを受けていた・・・・・・。

 

一連の出来事からかすみが考えてみると・・・・・・。

 

「っ!!」

 

かすみは何か思い当たることがあるのか、目を見開く。

 

「ちゆ」

 

「??」

 

「あの後、ペギタンに何か言ったよな?」

 

「ペギタンに・・・っ!?」

 

かすみに訊ねられると、ちゆはハッとした。彼女の記憶から思い出されるのはホラーものを見終わった直後の会話。

 

ーーーーふふっ、可愛い♪

 

ーーーーっ!?

 

ちゆは怯えるペギタンに思わず、こんなことを言ってしまい、彼はとてつもないショックを受けていたのだ。

 

「あの時のペギタンの反応・・・もしかして、可愛いって言ったのを気にして・・・ということは、私のせいで・・・!!」

 

ちゆは自分のせいでペギタンが家を出てしまったのではと思い、その表情には不安の色が濃く見え始めた。

 

「落ち込んでても仕方がない。とにかく、ペギタンを探しに行こう。まだ遠くまでは行ってないはずだ。私はのどかやひなたたちにも声をかけて協力を頼む。だから、そんな悲しい顔をしないでくれ・・・」

 

「・・・うん、ありがとう」

 

かすみはちゆの肩に両手を置いてそう主張する。ちゆはかすみの気遣いに薄っすらと笑いを浮かべながら言う。

 

こうして、いなくなってしまったペギタンを探すために、ちゆとかすみは外へ出ることにした。

 

「・・・ペギタン、どこ?」

 

ちゆは家の近くを捜索していた。

 

歩いていると、近くの公園に差し掛かり、ちゆは遠くから公園内を見てみる。しかし、遊具の上にもベンチにもペギタンの姿はどこにも見当たらない。

 

ちゆの表情には不安だけが募っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビョーゲンキングダムーーーービョーゲンズたちしか存在しないその世界で、幹部たちが集まって何やら鑑賞会が行われている様子。

 

『アゥゥゥ・・・』

 

『ふぅ・・・・・・』

 

『わあぁぁぁっ!! 僕を一人にしないで、ジェニファー!! 怖いんだ・・・こんなところにはもう、一秒だっていられない・・・!!』

 

投影された映像に映し出されているのは、地球で流行っているホラー物であり、大型犬を倒した女性に男性が泣きながら縋り付いていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

イタイノンは投影された映像を黙って見ていたが・・・・・・。

 

「むぅ・・・・・・うっざっ!!!」

 

「っ・・・・・・」

 

シンドイーネは男の姿を見てイライラしていた。その反応にイタイノンが顔を顰める。

 

「・・・だったら見なきゃいいだろ」

 

「毎回毎回、何なの!? あのヘタレ彼氏は!!!」

 

「いや、俺に聞かれても・・・」

 

文句を言うシンドイーネはグアイワルに突っ掛かり、彼は肩をすくめながら言う。

 

「お前らうるさいの!! 静かに見てんだから、邪魔するな、なの・・・!!」

 

ホラー物を見ながらいちいちうるさい二人に、抗議の声を上げる。

 

「何よ!! あんたはムカつかないの!? あんなヘタレ男の姿なんか!!」

 

「あんな男に興味なんかないの。魅力的なのは、あの犬の化け物の方なの」

 

「~~~~っ!!!」

 

シンドイーネとイタイノンが口論をしていると、投影された映像が乱れる。

 

「そこっ!! 動かない!! 電波が乱れる!!」

「そこっ!! 動くななの!! 電波が乱れるの!!」

 

「なんでお前らは喧嘩してるくせに、そういう時だけ息ぴったりなんだよ!? っていうか、俺はアンテナか!?」

 

グアイワルは二人に文句を言おうとしたが・・・・・・。

 

「ぐぬぬぬ・・・っ!!!!」

 

「・・・電波の通りが良いようにしてやろうか?なの」

 

シンドイーネの凄まじい剣幕と、イタイノンが威圧しながら電気を帯電させているのが見え、それに押されたグアイワルは直立不動の体制を続ける。

 

「グアイワルも大変ねぇ・・・」

 

二人から離れたところで映像を見ていたクルシーナが呆れたように二人を見やる。

 

「それにしても、こんな映像のどこが面白いんだか・・・ただ男女の人間が犬に追われてるだけじゃない」

 

クルシーナは投影された映像を見ながらそう呟く。

 

「ふん・・・このホラーものの良さがわかってないの。登場するあの怪物の厳つさ、かっこよさ、あの迫力さ・・・とても素敵だし、あの怪物がガブガブと人間を食うシーンとか、怪物を恐れて逃げ惑う姿とか、いろんなものがおかしくてたまらないの・・・!」

 

「あっそ・・・」

 

その声を耳に通していたイタイノンは珍しく紅潮とさせながら、瞳をキラキラと輝かせながら言う。クルシーナは素っ気なく返すと、横にいるフーミンの姿を見る。

 

「すぅ・・・すぅ・・・すぅ・・・」

 

「こいつは、退屈で寝ちゃってるけどね・・・」

 

フーミンは横になって眠っており、クルシーナはそれを呆れたように見ていた。

 

「わんちゃん、痛そ~。ヘバリーヌちゃんもあんな風に殴られたいなぁ~♪」

 

「そっちの変態は、訳わかんないこと言ってるし・・・」

 

さらにその横にいるヘバリーヌは意味不明なことを言っていて、クルシーナは理解したくもない様子だ。

 

「どうせお前らなんかにホラーものの良さなんか理解できないの」

 

「いいわよ、理解できなくたって」

 

イタイノンが投影した映像を見つめながらそう返すと、クルシーナは興味がないといった風に冷たく返す。

 

「でもまあ、怖がってるところはちょっと良かったけど、アタシはそんなものよりも、人間共が病気で苦しんでる姿を見られる方が一番いいし。ねえ~、ドクルン」

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナはドクルンに同意を求めようとしたが、フーミンとは反対方向にいるはずのドクルンの声が聞こえてこない。

 

「ドクルン?」

 

「ブツブツブツブツ・・・・・・」

 

明らかに様子のおかしいドクルンの姿に、クルシーナが彼女の方を向く。ドクルンはよく見ると顔を俯かせており、黄緑色の顔を青ざめさせていた。

 

「ちょっと、ドクルン?」

 

「心霊写真・・・お化け・・・ゾンビ・・・そんなものは人間が作り出した妄想・・・つまりあの犬の化け物は人間が作り出した紛い物・・・全てはプラズマやメイクで証明できる・・・」

 

クルシーナが呼ぶように声を上げるも、ドクルンはブツブツと呟いていて反応を示さない。

 

「おい、ドクルンってば!!」

 

「目の錯覚よぉぉー!!!!!」

 

「うおぉ!?」

 

あまりにも反応しないドクルンに苛立ったクルシーナが怒鳴り声に近い声を上げようとする矢先に、ドクルンが急に叫び出したので、思わずたじろぐ。

 

そして、数秒フリーズしたドクルンはそのまま後ろへとひっくり返ってしまった。

 

「え、ドクルン? ドクルン!? ドクルン!!! ちょっとしっかりしてよ、ドクルン!!!!」

 

クルシーナはドクルンが卒倒したのを見て驚き、彼女の肩を掴んでぐらぐらと揺らす。

 

「ドクルンお姉ちゃん、なんで大きな声出したのかなぁ~?」

 

「んぅ・・・わからないのぉ・・・」

 

ヘバリーヌがドクルンの反応に疑問を抱き、フーミンは寝言をつぶやくかのように答える。

 

「人が楽しんで見てるのに、静かにできないやかましい奴らなの・・・!」

 

イタイノンが顔を顰めながら、視線を後ろに向けながら言った。

 

「あぁんもう!! このストレス、景気良く地球を蝕まないと解消にできそうにない!! じゃあ、行ってくるっ!!!」

 

完全にイライラしているシンドイーネはストレスを解消しに、スタスタと歩きながら地球へと向かっていく。

 

「ドクルン、起きなさいよ!! 起きろってば!! 起きろっつってんの!!」

 

クルシーナは揺さぶっても起きないと見ると、彼女の頬にビシバシとビンタをし始めた。

 

「・・・ハッ!!??」

 

するとドクルンが意識を取り戻して、スクッと立ち上がる。

 

「んっ、んん~・・・随分と刺激の足りないドラマですねぇ・・・」

 

ドクルンは咳払いをしながら、自分が気絶したことをごまかそうとする。

 

「地球へ行って、もっと刺激のあることをするといたしましょうかねぇ・・・フーミン、行きますよ・・・」

 

「すぅ・・・すぅ・・・」

 

ドクルンは眠っているフーミンの袖を引きずりながら、スタスタと歩いて地球へと向かっていく。しかし、その足取りはどこかフラついていて、すぐにでも気絶して倒れそうな感じだ。

 

「行ってらっしゃ~い・・・・・・」

 

その二人の様子を岩場で寝そべっていたダルイゼンが気だるそうに見送っていた。

 

「大丈夫なの、あいつ・・・?」

 

「なんでフーちゃんを連れて行ったのかなぁ~?」

 

クルシーナはそれを呆然と見つめていて、ヘバリーヌはドクルンがフーミンを連れて行ったことに疑問を抱く。

 

「知らないの、そんなの。グアイワル動くな、なの!! 楽しく見てるんだから!!」

 

「なんでこの俺が・・・!?」

 

「黙って止まってろなの・・・!!」

 

イタイノンは二人に淡々と返すと、直立しているグアイワルに怒鳴り、彼は不満を漏らしていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日も暮れ始めた頃、ちゆやかすみの呼び掛けに応じたのどかとひなたは一緒にペギタンを探していた。

 

「ペギタ~ン?」

 

のどかは自動販売機の隙間やゴミ箱など、ペギタンが隠れられそうな場所を探していた。

 

「ペギタ~ン!! ペギタ~ンッ!!!!」

 

ひなたはメガホンを使いながら、ペギタンにも届きそうな声を出しながら呼びかけていた。

 

「ペギタ~ン!! どこだ~!! ペギタ~ン!!!!」

 

かすみは電信柱や家の屋根の上に昇りながら、叫ぶようにペギタンを呼びかける。

 

「どこ~? ペギタ~ン!」

 

「ペギタ~ン、返事をして~!」

 

「どこだ~!? ペギタ~ン!!!」

 

それぞれ3人が捜索しても、いまだにペギタンは見つからない。

 

「・・・・・・・・・」

 

みんながペギタンを捜索している中、ちゆは俯きながらペギタンが外に飛び出す原因となった自身の思い当たる言動を思い返していた。

 

ーーー可愛い♪

 

必死に自分をごまかすペギタンを撫でながら、思わず発してしまった言葉。本当に自分のあの言動で出て行ってしまったとしたら・・・・・・ちゆはそう思うと瞳を潤ませ、余計に思い詰めて不安の色を一層強くした。

 

「ちゆちゃん・・・」

 

「ダメ? いない?」

 

「いなかったのか・・・?」

 

「ん・・・」

 

ひなたやかすみに、ちゆは黙ってコクリと頷く。

 

「ったく・・・パートナーに心配かけるなんて・・・何やってんだ、ペギタンのやつ」

 

ニャトランの言葉に、ちゆは首を横に振る。

 

「・・・悪いのは私よ」

 

ちゆが呟くように答える。ちゆやかすみから事情を聞いていたのどかやひなたはかける言葉が見つからず、顔を見合わせる。

 

「ただいま戻りました」

 

そこへラテと一緒に捜索していたアスミが戻ってくる。

 

「待ってましたラビ! 嗅覚探偵ラテ様、華麗に登場ラビ!!」

 

「ペギタンの足取りは、追えたのか・・・?」

 

「はい。ですが・・・」

 

「クゥ〜ン・・・」

 

かすみに聞かれると、足取りは追えたはずなのにアスミとラテの表情はあまりいいものではなかった。

 

のどかたちはアスミへと着いていき、やってきたのは公園のベンチがある場所だ。

 

「クンクン・・・クンクン・・・」

 

のどかに抱かれているラテは鼻を動かしながら、ペギタンの足取りを探る。そんな彼女にアスミが聴診器で彼女の心の声を聞く。

 

(ここで匂いがなくなっているラテ・・・きっと誰かに連れていかれちゃったラテ・・・・・・)

 

ラテがそう言うと、みんなはペギタンがいたとされるベンチを見つめるしかない。

 

「かすみちゃんの能力で、どうにかならないの・・・?」

 

「・・・私の能力は、ビョーゲンズやメガビョーゲンの気配を辿れるだけだ。特定の人間やヒーリングアニマルの動きまではわからない・・・」

 

ふと思いついたのどかがかすみにそう聞くも、かすみは暗い表情でそう呟いた。

 

「っ・・・・・・」

 

ちゆは不安が入り混じったような表情で、ペギタンがいたとされる場所を見つめていた。

 

「もう日が暮れるな・・・今日はもう帰ろう。明日、また改めてペギタンを探そう」

 

「そう、だね。あたしたちも学校が終わったら、また探しに行こうよ」

 

かすみの言葉にのどかたちは頷き、今日はもう解散することにした。

 

「ちゆちゃん、大丈夫?」

 

「えぇ、大丈夫よ・・・・・・」

 

のどかが気遣う言葉を言うと、ちゆは元気のない表情で薄く笑いを浮かべながら答えた。そこへかすみが肩を手に置く。

 

「あまり無理はするな・・・泣きたいときは泣いたっていいんだ・・・」

 

「・・・ありがとう、かすみ。でも私は、大丈夫だから」

 

かすみも気を使うようにそう言うと、ちゆは微笑みながらそう言った。かすみはそんなちゆを不安そうに見つめていた。

 

そして太陽が沈み、夜も更けてきた頃・・・・・・。

 

「ペギタン、私・・・あなたを、傷つけてしまったの・・・?」

 

家へと戻ったちゆは自分の部屋で眠りにつこうとしていたが、ペギタンがいない心細さと寂しさを感じていた。その上、自分の言動が原因でもあることを感じていて、一人涙目になりながら、虚空を見つめていた。

 

ちゆは掛け布団を顔まで被せたところ、自身の部屋の外から歩く音が聞こえてきた。

 

「ちゆ・・・起きてるか・・・?」

 

部屋の外からこちらを呼ぶ声が聞こえてきたかと思うと、ちゆは掛け布団から顔を出して部屋の扉を見つめる。

 

「開けるぞ」

 

そう声が聞こえてたかと思うと、部屋の扉が開かれる。中に入ってきたのは手に枕と掛け布団を持っていた、パジャマ姿のかすみだった。

 

「かすみ・・・?」

 

「ふっ・・・」

 

ちゆがかすみの顔を見ると、かすみはちゆに微笑んで見せる。

 

「どうして・・・?」

 

「えっと・・・ちゆが寂しそうにしていると思ってな。今日は、一緒に寝ようかと・・・」

 

ちゆが理由を聞くと、かすみは頬をポリポリと掻きながらそう言った。

 

かすみはちゆの布団の横に枕を置いて、そこで横になると掛け布団を自分の方にかけた。

 

「私が一緒に寝れば、寂しさも紛れるだろう?」

 

「かすみ・・・グスッ・・・」

 

かすみが自身に気を使ってくれていることに、ちゆは溜まっていた涙をポロっと溢す。

 

「元気、出してくれ・・・ちゆが落ち込んでいると、私まで辛い・・・」

 

「わかってる・・・わかってるのよ。でも、私のせいでペギタンが出ていっちゃったんじゃないかと思ったら・・・私は・・・」

 

かすみは不安そうな表情で言うと、ちゆも不安そうな表情で自分を責めるようなことを呟く。

 

かすみはそんなちゆを見ると薄く微笑み、ちゆの布団の中へと入ってきた。

 

「かすみ・・・?」

 

「さっきも言ったけど、泣きたいときは泣いたっていいんだぞ。泣いて全部吐き出しちゃえば、少しは楽になると思うから・・・」

 

「・・・!!」

 

かすみのその言葉に、ちゆは驚いたように目を見開く。そして、その言葉でダムが決壊したかのように、ちゆの表情が泣きそうな表情になり・・・・・・。

 

トンッ・・・・・・。

 

ちゆは思わずかすみに寄って、彼女の胸の中に顔を埋めた。

 

「ヒック・・・グスッ・・・うぅぅぅ・・・ヒック・・・」

 

「辛かったよな・・・?」

 

自身の胸の中ですすり泣くちゆを、かすみは彼女の頭を撫でながらゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

「私は・・・グスッ、そんなつもり・・・なかった、の・・・ヒック・・・ただの、冗談のつもり、だったの・・・グスッ・・・ペギタンを傷つける・・・ヒック・・・つもりも、なかったのに・・・こんなことに、なる、なんて・・・グスッ・・・」

 

「わかってる・・・わかってるよ。ちゆは優しいから、そんなつもりもないってこともわかってる。明日、ペギタンを見つけたら・・・謝りに行こう・・・?」

 

「ヒック・・・グスッ・・・うん・・・ヒック・・・ヒック・・・」

 

泣きながら心情を吐露するちゆに、かすみは優しい言葉をかける。

 

かすみはちゆが泣き止むまで、彼女の頭を撫でながら慰め続けていた。

 

そして、ちゆがようやく泣き止んだ頃・・・・・・・・・。

 

「ちゆ、落ち着いたか・・・?」

 

「ええ・・・」

 

ちゆはそう答えると、かすみの胸から顔を話して彼女の顔を見る。

 

「ありがとう・・・少しは、気が楽になったわ・・・」

 

「いいんだ。私は誰かが寂しい思いをしているのを、見てられないからな・・・」

 

「かすみは、優しいのね・・・」

 

ちゆは微笑んでそう答えると、かすみもその様子に安堵の笑みを浮かべる。

 

「今日は一緒にいるから。お昼に見たドラマがこ・・・っ、なんでもない・・・」

 

かすみは途中で目を反らすように何かを口走りそうになり、顔を少し赤くする。

 

「お昼に見たドラマがどうしたの?」

 

「いや、なんでもないんだ!! 別に怖かったわけじゃ!!」

 

ちゆが不思議そうにかすみの言ったことを追求すると、かすみはなぜか慌て出した。

 

「・・・ふふっ♪ かすみもあのドラマが怖かったのね♪」

 

「ち、違うぞ・・・!! あんな怪物、私にかかればギタギタに・・・!!」

 

「無理しなくていいのよ。全部吐けばいいじゃない。本当は怖かったから、私の部屋に来たって♪」

 

「本当に違う!! 私はただ純粋にちゆが寂しそうにしてたから来たのに・・・!!」

 

ちゆはその様子を見て笑みをこぼすと、かすみをからかうように言ってあげる。かすみは慌てるように否定すると、顔をだんだんと真っ赤にしていき・・・。

 

「もぉ、知らない・・・!!」

 

「冗談よ、かすみ。わかってるから、ね?」

 

かすみが拗ねたようにちゆに背を向けると、ちゆは彼女の背中にそう呼びかけた。

 

こうして、ちゆとかすみは一緒に一時を過ごし、眠りについたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、そんな夜のすこやか市では・・・・・・。

 

「随分と静まり返る街ですねぇ・・・・・・」

 

「すぅ・・・すぅ・・・・・・」

 

ドクルンが夜のすこやか市の街を、少し顔色を悪くしながら徘徊しているのに対し、連れ出したフーミンはウトウトしながら、ドクルンの後ろを歩いて来ていた。

 

「フーミン、ちゃんと起きてますよね・・・?」

 

「すぅ・・・んぅ・・・すぅ・・・」

 

ドクルンが後ろを振り向きながら言うと、フーミンは前へとコクリコクリと揺れながら答えた。

 

「・・・本当に起きてるんですよね?」

 

「んぅ・・・すぅ・・・んぅ・・・」

 

目をつぶりながら言っているので、疑っているドクルンは再び尋ねるとフーミンはコクリコクリと体で答えた。

 

「・・・・・・・・・」

 

ガシッ!!

 

「んぅ・・・?」

 

ドクルンはその様子に顔を顰めさせると、フーミンへと近づいて瞼を無理やり開かせる。フーミンはその行動に寝ぼけながらも疑問を抱く。

 

「起きてますね、ちゃんと・・・」

 

「起きてますぅ・・・」

 

「だったらちゃんと、起きてなさい・・・!!」

 

「痛い・・・痛い・・・痛いですぅ・・・ドクルンお姉様・・・!」

 

ドクルンは寝ているか起きているか紛らわしいフーミンの目を覚まさせてやろうと、こめかみに拳を当ててグリグリとさせる。

 

「全く・・・・・・!」

 

一頻り痛めつけた後、ドクルンは頭を掻きながらやれやれといったような反応をしていると、一人の女性が一件の寮の一室へと入っていくのが見えた。

 

「フーミン、ちょっと来てください」

 

「んぅ・・・?」

 

ドクルンはそれにニヤリと笑みを浮かべると、フーミンを連れて宙へと浮かび上がると寮の裏にある窓から部屋の中を覗こうとする。

 

ワウッ!! ワウッ!! ワウッ!!!!

 

「ひぃっ!!??」

 

ドクルンは吠えるような声を聞いて小さく悲鳴をあげて青ざめ、声がした方に振り向くと下に3匹のドーベルマンたちが吠え立てているのが見えた。

 

「っ!!!」

 

ドクルンは怯えたような表情をしていたが、犬だということが分かると顔を怒りで顰めさせ、自分の周囲に氷塊を出現させて犬たちへと放る。

 

っ!?

 

「驚かさないでよ・・・!!」

 

キャン!! キャン!! キャン!!

 

ドーベルマンたちは氷が落ちて来たことに驚いて避け、ドクルンはそのままドーベルマンたちを睨み付けるとそのただならぬ雰囲気に恐怖を覚えたドーベルマンたちは逃げていく。

 

「ふん・・・全く・・・」

 

ドクルンはやれやれというような反応をしていると・・・・・・。

 

何、今の音・・・? 誰か、窓の外にいるのかしら?

 

「!?」

 

「んぅ・・・?」

 

ドクルンは女性に気づかれたことを悟ると、フーミンと一緒にそのままこの寮の屋根の上へと飛び、隠れてやり過ごそうとする。

 

ガラガラガラ・・・・・・。

 

窓が開いた音がし、女性が顔を出して覗いているのが屋根の上から見えた。

 

「ブルガル・・・」

 

「了解ブル」

 

ドクルンはスタッドチョーカーのブルガルに名前で指示を出すと、チョーカーからオオカミの妖精の姿になって、女性にバレないように部屋の中に侵入する。

 

「? 気のせいかしら・・・?」

 

女性はそう呟くと窓を再び閉めた。

 

「はぁ・・・・・・」

 

ドクルンは息を吐くと、フーミンの方を見る。

 

「バレそうだったのに、よく寝てられますよね・・・」

 

ドクルンは横になっているフーミンを呆れたように見る。今、自分は震えるくらいに恐ろしいというのに、寝ていられるとは賞状をあげたくなってくる。

 

「様子を伺ってきたブル」

 

「ひぃっ!?」

 

背後からブルガルが突然声をかけ、ドクルンが悲鳴をあげる。彼女の顔は自身の肌よりも青ざめていた。

 

バッと振り向いて、ブルガルだと認識すると息を吐く。

 

「な、なんだブルガルですか・・・驚かさないでください・・・!」

 

「そんなつもりはなかったブル」

 

「それよりも、中の様子は・・・?」

 

ドクルンは冷静さを取り戻して、ブルガルに調査結果を尋ねる。

 

「あの青いやつについているペンギンが中にいたブル。中にいた子供に抱かれてたブル」

 

「ペンギン? あぁ、あのヒーリングアニマルですか」

 

ブルガルはペギタンを見つけたことを話すと、ドクルンはキュアフォンテーヌについているペンギンのことを思い出す。

 

「なぜ、ここにいるのかしらね・・・?」

 

「知らないブル。あいつ、見た目が可愛いから人間に連れ去られたんじゃないかブル?」

 

「ふぅん・・・」

 

ブルガルがそう推測すると、ドクルンは納得したように息を漏らす。

 

「まあ、いいわ。ありがとうございます」

 

「ブル」

 

ブルガルは小さなオオカミのような姿から、ドクルンの首のスタッドチョーカーに戻る。

 

「さてと・・・どうしたものかしらね」

 

ドクルンは屋根の上で足をプラプラとさせながら、どうしたものかと様子を伺っているのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第75話「女児」

前回の続きです!
ペギタンがいなくなって騒動になっている一方、ビョーゲンズの方の動きも。

そして、かすみに異変が・・・・・・。


 

翌日のすこやか中学校、のどかとちゆ、ひなたはいつものよう学校へと登校していたが・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

現在は理科の授業が行われているのだが、ちゆは授業に集中できておらず、ノートの上で鉛筆を転がしたりしていた。

 

「ぁ・・・・・・・・・」

 

のどかとひなたはそれを心配そうに見つめていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

さらに木の上からかすみが授業の様子を覗いていた。しかし、その表情は微笑ましく見守っているものとは程遠く、不安そうに見つめている表情だ。

 

「ちゆ、まだ落ち込んでいるな・・・・・・」

 

かすみはその中でもちゆの様子を伺っていた。昨日、落ち込んで泣きそうになっていたちゆを慰め、一緒に寝て一時を過ごしたかすみ。少しは気が安らいだちゆだったが、その翌日・・・・・・。

 

『ちゆ! 調子が悪いなら休めばいいんじゃないか?』

 

『ありがとう、かすみ。でも、友達がいなくなったから気落ちしてたなんて、休む理由にはならないもの・・・私は学校に行くわ』

 

『でも・・・・・・!』

 

『大丈夫。私は元気だから・・・』

 

かすみが調子の上がらないちゆを引きとめようとした。ペギタンがいなくなった日は夕食に手すらもつけようとしなかったが、今日の朝食はそれがありえないほどに食していた。それは明らかにどう見てもおかしいと・・・・・・。

 

しかし、ちゆはかすみに微笑んで見せると、そのまま学校へと行ってしまった。

 

そして、かすみが心配してちゆのクラスを覗いて見るとご覧の有り様である。ちゆは全く授業に集中できていない。

 

かすみは視線を下にして顔を俯かせる。

 

「どうして・・・どうして、ちゆは・・・苦しいときに苦しいって、寂しいのに寂しいって言わないんだ・・・私たちは、友達じゃ、なかったのか・・・?」

 

かすみはちゆが本音を吐露してくれないことに、寂しさを覚えていた。自分とかすみは友達であるはずなのに、どうして何も言ってくれないのか。ちゆが私に向かって言った言葉、『大丈夫』はどこか異常さを感じていて、ある意味怖かった。

 

ちゆが私に話してくれない。正直、悲しい・・・。ちゆは本当に追い詰められたときにしか本当のことを言ってくれないのだろうか。

 

もしかしたら、もっと追い詰めれば・・・病気にしてしまえば、話してくれるのでは・・・?

 

「っ・・・!!??」

 

かすみは黒い感情に支配されそうになるが、すぐハッとして首を横に振る。

 

「私は、今、何を考えたんだ・・・!?」

 

かすみは頭の中に流れてきた邪な考えに体を抱くように抱えて体を震わせ、呆然とする。今、自分は普段から考えてもいないようなことを、考えようとしていた・・・?

 

一瞬だけ、自分が自分でないような感情に支配された・・・?

 

かすみはそれを考えると寒くないはずなのに、余計に体が震える。

 

「いや・・・ここで私まで怯えたらちゆは元気にならない。今日もペギタンを探そう・・・!」

 

かすみはのどかやちゆたちとの楽しい思い出を思い出しながら、平常心を保ち、ちゆのためにペギタンを探そうと誓った。

 

とりあえず、かすみは授業中の間、一人でペギタンを捜索しようと考えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「1人で寂しくない? 怖くない?」

 

「すぅ・・・すぅ・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

ペギタンがいるとされる家を張り込むようにしているドクルンとフーミンは、玄関で誰かと話しているであろう少女の声を聞いていた。

 

「そっか・・・早く帰ってくるからね♪ じゃあ、行ってきま~す!!」

 

元気な声が聞こえてくると、少女が家から出てくる。しかし・・・・・・。

 

「あ・・・!!」

 

少女は何かを思い出したかのように、家へと戻ると扉を開ける。

 

「お昼はあそこ、食べてね♪」

 

玄関にいるペギタンに伝えたであろう少女は、今度こそ学校へと駆け出していった。

 

「フーミン」

 

「・・・!」

 

ドクルンに声をかけられたフーミンは閉じていた目をパチッと開かせる。

 

「張り込み、頼みましたよ」

 

ドクルンはそう言いながら、フーミンに水筒を手渡す。

 

「これはぁ・・・?」

 

「眠気覚ましのペパーミントのハーブティーです。冷やしてあります。張り込みで寝てはいけませんからねぇ。ちゃんと飲んで、目を覚ましておいてくださいね♪」

 

フーミンが受け取りながら聞くと、ドクルンは笑みを浮かべながら答える。

 

「では、私はあの娘を追いますね」

 

「はい・・・ありがとうございますぅ・・・」

 

少女を追うべく歩いていくドクルンに、フーミンは頭を下げてお礼を言う。

 

フーミンはドクルンに渡された水筒の蓋を開けて、匂いを嗅ぐ。

 

「んぅぅ・・・いい香りがするぅ・・・なんだか体がゾクゾクしますぅ・・・」

 

匂いを嗅いだ瞬間、体の芯から震えるような何かが走ったのを感じた。いろいろとボケているフーミンでもこれはわかる・・・間違いなく、これは目が覚めると・・・・・・。

 

フーミンは水筒に口をつけると、上に顔を向かせて水筒の中のハーブティーを流し込む。

 

「んぅ、んぅ、んぅ、んぅ・・・・・・」

 

ハーブティーを少しずつ飲み下していくフーミン。いい香りのする液体を入れた瞬間に、体の中がゾクゾクする。まるで体の中に電撃が走ったように体が震える。

 

「んぅ、んぅ・・・!!??」

 

フーミンは何かが体の中に流れてきたように、目をパッチリと見開く。

 

「眠くないですぅ・・・これはいいですぅ・・・」

 

フーミンは水筒を見つめた後、懐にしまい込む。

 

カチャン・・・ガチャッ・・・。

 

「!!」

 

ドアの開く音と鍵をかける音が聞こえ、玄関の様子を見てみるとペギタンが箱みたいなものに鍵を入れ、家から飛び出していくのが見えた。

 

「追わないとぉ・・・」

 

目が覚めているフーミンは2枚の翼を広げると飛び上がり、ペギタンのあとを追う。

 

ペギタンはどこかへと向かい、誰かをきょろきょろと探しているようだが・・・・・・。

 

「僕のパートナーはちゆ、りりちゃんじゃないペエ。帰る、お家に帰るペエ・・・!!」

 

ペギタンは一人叫びながらも、誰かを探すのをやめて飛んで行こうとする。

 

「どこに向かってるのぉ・・・?」

 

フーミンはきょろきょろしたり、それをやめたりしたペギタンの行き先に疑問を抱いていた。

 

「・・・!!」

 

するとペギタンが動きを止め、急にこちらが視界に写るように振り向いたため、フーミンは驚いて咄嗟にペギタンの背後へと瞬間移動する。

 

ペギタンはフーミンが近づいていることに気づいておらず、目下を見下ろしていた。

 

「ふぅ・・・危なかったぁ・・・あ・・・」

 

フーミンは胸に手を当てて安心すると、ペギタンが目下の建物へと降りていくのが見えた。

 

「通り過ぎたり、立ち止まったり・・・よくわからないペンギンですぅ・・・」

 

フーミンはそう呟きながら、ペギタンを追って降りていく。どうやら降りて行った先は子供たちが遊んでおり、小学校のようだ。

 

「・・・??」

 

フーミンはペンギンを追っていると、ふと小学校の校舎の窓の近くに見覚えのある人物の姿があった。どうやら校舎の中を覗いている様子。

 

その人物によく見てみると、それはドクルンだった。ペギタンを追うのをやめて、彼女へと近づいていく。

 

「ドクルンお姉様ぁ・・・?」

 

「!?」

 

フーミンが間延びしたような口調で声をかけると、ドクルンがビクッと固まってこちらを振り向く。

 

「な、なんだフーミンですか・・・」

 

ドクルンは知っている顔だと認識すると、冷静を取り戻しながらメガネを上に上げる。

 

「お姉様・・・何してるですかぁ・・・?」

 

「見ての通り、あの娘の張り込みですよ」

 

ドクルンは教室の中にいる一人で右の隅の机に座っている少女の姿を見ながら答える。

 

「あなたはヒーリングアニマルを張り込んでいたはずでは?」

 

「ヒーリングアニマルを追ってたらここにきたですぅ・・・」

 

ドクルンはサボっているのかと言わんばかりの目付きで問うと、フーミンはペンギンを追っていたら小学校に着いたことを話す。

 

「・・・なんですって?」

 

ドクルンがフーミンのその言葉に疑念を持っていると・・・・・・。

 

「やめて!! 私のペンギンなの!! 痛そうにしてるでしょ!? 離してあげて!!」

 

「??」

 

教室の中から大声が聞こえ、覗いて見るとペギタンが襟首を男子生徒に掴まれている様子であり、少女が強気に話している様子だった。

 

「おや、本当にいますねぇ、あのヒーリングアニマル」

 

「だから追っかけてきたって言ったですぅ・・・」

 

「それにしても、あのヒーリングアニマルはキュアフォンテーヌのパートナーのくせに、なぜあの小娘のことを気にしているのでしょうか? パートナーが違うでしょうに」

 

ドクルンはペギタンが自分を誘拐同然に攫っていったあの少女をどうして気にかけているのか、全く理解できないようだった。キュアフォンテーヌのパートナーなのだから、そちらを気にすればいいというのに。

 

「情でも湧いたんじゃないですかぁ・・・?」

 

「そうかもですね。本当、どいつもこいつも甘いヤツら・・・」

 

フーミンがそう答えると、ドクルンは口元をニヤリとさせながら言う。

 

「怖かったでしょ? 大丈夫?」

 

「ペエ・・・ペエ♪」

 

話し込んでいるとどうやらペギタンは男子生徒から解放されたようで、少女の手へと収まっていた。すると、その様子を見ていた女子生徒が少女へと集まってくる。

 

「ねえ。その子、ジョセフィーヌっていうの?」

 

「えっ?」

 

「めっちゃ可愛い♪」

 

「えっ、えっと・・・」

 

「撫でてもいい? りりちゃん」

 

ペギタンに興味を持ったらしい女子たちが次々と話しかけてきて、少女ーーーーりりは困惑して、ペギタンの顔を見ると、りりは笑顔でペギタンを女子たちに渡した。

 

「うんっ♪」

 

「「「わぁ~♪」」」

 

「ちっちゃ~い!」

 

「可愛い~♪」

 

それを見ていた別の女子たちが次々とりりの元に集まってきて、みんなでペギタンを愛で始める。

 

「ジョセフィーヌ? あのヒーリングアニマルは男の子じゃないですかぁ・・・?」

 

「・・・・・・・・・」

 

フーミンがふわふわとした声で聞いてくるが、ドクルンは見つめたまま黙っている。

 

「ドクルンお姉様ぁ・・・?」

 

フーミンは全く反応しないドクルンに声をかけるが、彼女は答えない。

 

そんな彼女の頭の中には、過去の出来事が思い出されていた。

 

ーーーーねえ、りょうの作ったものもっと教えて! 私、すごい興味があるの・・・!

 

ーーーーべ、別にいいですよ、あなたになら特別に・・・

 

ーーーー! ありがとう! 私、沢泉ちゆ!

 

ーーーー・・・毒島りょう、大した名前ではありませんけど・・・よろしくです

 

ある少女に初めて会ったときの出来事、ドクルンはそれを鮮明に思い出していた。

 

「ドクルンお姉様ぁ・・・!!」

 

フーミンが声をかけるも、ドクルンは答えないままに窓から顔を離すと校舎に背を向ける。

 

「どこ行くですかぁ・・・?」

 

「もう十分です。張り込みは終わりましょう」

 

ドクルンはそう言い残すと空中に飛び上がり、どこかへと飛び去って行く。

 

「??」

 

フーミンは訳が分からず首を傾げるも、ドクルンの後をついて飛んで行く。

 

ドクルンたちは小学校から離れると、何かを探すようにどこかへと飛んでいた。

 

「ヒーリングアニマル、なんとかしないですかぁ・・・?」

 

「いえ、むしろいいことを思いついたんですよ」

 

放置をしようとしているにしか見えないドクルンに、フーミンは問うと彼女はニヤリとしながらこちらを見る。

 

そうしているうちに、小さな神社があるのが見えた。

 

「ふむ・・・・・・」

 

「んぅ・・・?」

 

ドクルンは笑みを浮かべるとその神社へと降りていき、首を傾げるフーミンも後を追って降りて行く。

 

神社の入り口に降り立つときょろきょろと当たりを見渡す。どうやらこの神社にはまだ誰もいない様子だ。

 

「ここならいいものがありそうですねぇ」

 

「・・・なんかこの場所、イライラするぅ」

 

ドクルンは笑みを浮かべながら言ったが、フーミンは不機嫌そうに顔を顰めていた。

 

「何よ、あんたたちもいたの?」

 

背後から声をかけられ、振り向いていると同僚のシンドイーネの姿があった。

 

「おや、奇遇ですねぇ。たまたま場所が被るなんてぇ」

 

「あたしは全然面白くないわよ。あんたがいるとキングビョーゲン様のために貢献できないじゃない」

 

ドクルンはニヤニヤしながら言うのに対し、シンドイーネは不機嫌そうな表情を向けるだけだ。

 

「一緒にやればいいじゃないですかぁ。どうせやってることは同じなんですし」

 

「断じてお断りよ。あたしがキングビョーゲン様の為に尽くすの。他の奴らはいらないわよ」

 

「おや、悲しいこと言いますねぇ・・・」

 

ドクルンが煽るような口調で言い、それはシンドイーネに冷たく返されてもその余裕を崩さない。

 

「でも、私も譲る気はありませんよ。お父さんの娘であるこの私が、駒のあなたに遅れを取るなんていうのはあり得ないですからね」

 

「その駒っていう言い方やめなさいよ!! あたしはキングビョーゲン様に仕えている身なの。ポッと出のあんたとは違うんですぅ~!」

 

「言ってくれますね。大して手柄を立てられたわけでもないくせに」

 

「なんですってぇ!!」

 

ドクルンは真面目な口調となってそう言うも、慇懃無礼な言い方にシンドイーネが怒り、口論になる。

 

「本当のことでしょうに。大体、出撃する理由がくだらないドラマでストレスが溜まったから蝕みに行く? あなた、仕事を舐めてるんですか?」

 

「~~っ!!」

 

ドクルンがさらに尊大な言い方をすると、シンドイーネは悔しそうに唸り出す。なんだか余計にストレスが溜まった様子だ。

 

「あのぉ・・・蝕まないんですかぁ・・・?」

 

「・・・そうですね。シンドイーネと話して、無駄な時間を過ごすところでした」

 

フーミンが諭すように言うと、ドクルンが剥き出しの態度でそう言うとシンドイーネから離れていく。

 

「あんた、後で覚えてなさいよ!!」

 

「はいはい・・・」

 

シンドイーネが悔しそうにそう言うと、ドクルンは右手を振りながら素っ気なく返すと神社の中に入っていく。

 

ドクルンは神社の赤い鳥居を通り、そこから少し歩いたところで足を止めて横に視線を向ける。そこには灯籠が立ち並んでいるのが見えた。

 

「まあ、これでもいいでしょう」

 

「お姉様・・・やるですかぁ・・・?」

 

「ええ・・・フーミンは見てるか、適当にしてて構いませんよ」

 

ドクルンはフーミンを自由にするかのような発言をすると、灯籠へと近づいていく。

 

指をパチンと鳴らし、黒い塊を出現させる。

 

「進化してください、ナノビョーゲン」

 

「ナノデス~」

 

生み出したナノビョーゲンが鳴き声を上げながら、灯篭の一つに取り憑く。神社の入り口の灯でもある灯籠が病気へと蝕まれていく。

 

灯篭の中に宿るエレメントさんが病気へと蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガビョ~~~ゲン!!」

 

不健康そうな顔の頭に瓦でできた屋根のようなものを被り、そこから下は灯篭のような体をした3本足のメガビョーゲンが生み出されたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの~、青いペンギンを見なかったか・・・?」

 

「ペンギン? 見たことないなぁ・・・」

 

「小さくて見た目が可愛いやつなんだが・・・?」

 

「知らねぇな・・・すまねぇ、お嬢ちゃん」

 

「別にいいんだ・・・」

 

かすみはちゆたちが学校にいる間、すこやか市の住民にペギタンのことを聞き回っていた。

 

「小さなペンギンを見なかったか?」

 

「見てないわねぇ・・・」

 

「猫なら見かけるけど、ペンギンはわからないなぁ・・・」

 

「力になれなくて、すまねぇな・・・」

 

「わかった・・・ありがとう・・・・・・」

 

しかし、訪ねても不発ばかりで誰も見かけていないと言う。聞き込みをしていても手がかりは見つからず、時間だけが過ぎていく。

 

そして、午後になり時計を見る。時計の針は3時を差しており、そろそろちゆたちの学校が終わり、下校する時間だ。

 

「でも・・・私は諦めないぞ・・・」

 

かすみはそれでもペギタンを見つけることを諦めなかった。

 

その後も、すこやか市の街じゅうを走り回って、ペギタンの情報を聞いて回った。

 

そして、すこやか小学校の下校を見送っている女性に聞いたところ・・・・・・。

 

「あ・・・そういえば・・・」

 

「何か、知ってるのか・・・?」

 

「下校している小さな女の子がペンギンみたいな動物を抱えてるのを見たわよ」

 

「!! ほ、本当か・・・!?」

 

ペンギンみたいな動物・・・・・・もしかすると・・・!!

 

いや、間違いない・・・!! このすこやか市に野生のペンギンはいないはず・・・きっと、そのペンギンがペギタンに違いない・・・・・・!!

 

「ええ」

 

「その娘は、どこに・・・??」

 

「えっと・・・お友達と別れて、一人公園の方に向かっていくのが見えたわね・・・」

 

ということは・・・あの公園に行けば、ペギタンがいるはず・・・・・・!! かすみはそう確信した。

 

「わかった、ありがとう・・・!!」

 

かすみは有益な情報を掴むと、すぐにちゆの家である沢泉旅館へと走っていく。

 

「ちゆ!!」

 

「?? かすみ?」

 

かすみはちゆの部屋をノックもせずに開ける。どうやらちゆは今、帰ってきたばかりのようだった。

 

「ペギタンの居場所がわかった」

 

「!? 本当!?」

 

「ああ・・・・・・」

 

かすみのその報告にちゆの表情が明るくなる。

 

かすみは、ちゆに女の子がペンギンを連れて歩いていたこと、そしてその娘が公園へと向かっていったことを話した。

 

「急いで行こう!! 今ならいるかもしれない!! のどかたちも一緒に!!」

 

「ええ・・・!!」

 

ちゆはすぐにのどかやひなたたちに連絡し、制服から私服へと着替えると、かすみと一緒に家へと飛び出した。

 

「かすみちゃ~ん!!」

 

「ペギタンが見つかったって本当!?」

 

以前、ペギタンの匂いが消えた公園へと向かおうとした途中でのどかやひなたたちと合流し、すぐさま公園へと向かっていく。

 

そして、その公園に着いたとき、楽しそうに話す少女の声が聞こえてきた。それが聞こえたのは、ペギタンがいなくなったとされるベンチの辺り、そこに少女とペンギンのような姿が。

 

「!!」

 

それを見たとき、ちゆは確信した。あれは間違いなく、いなくなってしまったパートナーのペギタンだと・・・・・・。

 

ちゆはゆっくりと少女とペギタンに近づいていく。

 

「・・・ペギタン?」

 

「?・・・あっ」

 

そして、ちゆは声をかけるとペギタンはこちらを振り向き、ちゆやのどかたちが集まっていることに気づく。

 

「『ホシは必ず現場に戻ってくる』・・・テレビドラマでデカ長が言っていたとおりですね」

 

「ワン!!」

 

「・・・それ、どこのドラマなんだ?」

 

自信ありげに話すアスミの言葉に、かすみは呆れたようにつぶやく。

 

「っていうか、こんなチビッコが犯人? もぉ~、全く最近の若者は~・・・」

 

「あははは・・・私たちも若者なんじゃ・・・」

 

ひなたの発言に、のどかがツッコミを入れながら苦笑いをする。

 

「よかった・・・無事だったのね・・・」

 

ちゆは目に涙を溜めながら、ペギタンを見つめていた。ちゆの目元が赤くなっていることから、余程心配していたことが伺える。

 

「本当の・・・飼い主さん・・・?」

 

「ぺ・・・ペエ!!」

 

少女ーーーーりりはちゆたちが現れたことに驚き、ペギタンは再会できた喜びに瞳を潤ませながら彼女の元へ飛んで行こうとした。

 

しかし・・・・・・。

 

ガシッ!!

 

「ペエッ!?」

 

なんとりりはペギタンを掴んで抱えると、ランドセルを持ってその場を逃げるように一目散に走り去ってしまう。

 

「「あっ・・・!?」」

 

「あっ・・・待って!!!」

 

「ちゆ、追わないと!!」

 

逃げていくりりを追いかけようとした。そんなときだった・・・・・・。

 

ドクン!!!!

 

「!? 泣いている声が・・・!」

 

「「「!?」」」

 

かすみは気配を感じて目を見開くと、悔しそうに顔を顰める。のどかたちが驚いていると・・・・・・。

 

「クチュン!! クチュン!!」

 

「「ビョーゲンズ!?」」

 

「くそっ・・・こんな時に・・・!!」

 

最悪のタイミングでラテがくしゃみをして体調を崩し、ビョーゲンズが地球を蝕み始めたことを察知する。

 

「ちゆちゃんとかすみちゃんはあの娘を追いかけて!!」

 

「メガビョーゲンは任せるラビ!!」

 

「ペギタンを頼んだぜ!! ちゆ!! かすみ!!」

 

のどか、ラビリン、ニャトランはちゆとかすみに追いかけるように言う。体力のある二人の方がりりとペギタンを追いかけられると判断したのだ。

 

「・・・わかったわ!」

 

「すまない・・・!!」

 

ちゆとかすみは二人を追うべく走り出した。

 

「みんな、行こう!!」

 

残ったのどかたちは走っていくちゆとかすみを見送り、のどかの言葉を合図にアイテムを構えた。

 

「「スタート!」」

 

「「プリキュア、オペレーション!!」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

 

「「「キュアタッチ!!」」」

 

ラビリン、ニャトランがステッキの中に入ると、のどか、ひなたはそれぞれ花のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

そして、肉球にタッチすると、花、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ひなたは黄色へと変化する。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

そして、アスミは風のエレメントボトルをラテの首輪にはめ込む。すると、オレンジ色になっているラテの額のハートマークが神々しく光る。

 

「スタート!!」

 

「プリキュア、オペレーション!!」

 

「エレメントレベル上昇ラテ!!」

 

「「キュアタッチ!!」」

 

キュン!!

 

ラテとアスミが手を取り合うと、白い翼が舞い、ラテが舞ったかと思うとハートの中から白い白衣のようなものが飛び出す。

 

その白衣を身に纏い、ラテが降りてきたかと思うとハープが飛び出し、さらにアスミは紫色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

衣装にチェンジした後、ハープを手に取り、その音色を奏でる。

 

「「時を経て繋がる、二つの風!」」

 

「キュアアース!!」

 

「ワン!」

 

アスミは風のプリキュア、キュアアースへと変身した。

 

3人は変身後、すぐさまメガビョーゲンの出現場所へと向かっていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ・・・・・・」

 

ペギタンを抱えて逃げるように走り出すりり。

 

家へと駆け出していく中で、りりは本当はわかっていた。ジョセフィーヌを本当は元の飼い主であるあの藍色の髪の女性に返さなければいけないと・・・。

 

でも、ジョセフィーヌを渡したくない・・・ジョセフィーヌと別れたくない・・・ジョセフィーヌともっと一緒にいたい・・・ジョセフィーヌがいないと私は一人になってしまう・・・!!

 

そういう思いが、りりにペギタンを返すということを躊躇させていた。

 

もうすぐ家へとたどり着く。そんな時だった・・・・・・。

 

りりの目の前に一人の人物がゆっくりと歩いて横切ろうとする。

 

「!? あっ・・・!!!」

 

「ペエ!?」

 

よそ見をしていたりりは咄嗟に気づいたために避けることができずに、その人物にぶつかって後ろに弾かれてしまい、思わずペギタンも手放してしまう。

 

「おやおや・・・何をそんなに急いでいたのですかぁ?」

 

「痛ぁ・・・?」

 

聞こえる女性の声・・・・・・りりが顔を上げるとそこには彼女を見下ろすように見るドクルンの姿があった。

 

「ひっ・・・!?」

 

りりは明らかに人でない姿の彼女に悲鳴を上げ、怯えたような表情になる。

 

「ふふ・・・」

 

「ペエ・・・ペエッ!?」

 

ドクルンは不敵な笑みを漏らすと、傍に倒れているペギタンを見ると彼に近づくと片手で拘束するように掴み上げる。

 

「ペエ・・・!?」

 

「ふふふ・・・♪」

 

ド、ドクルン!?

 

ペギタンは相手がビョーゲンズのドクルンであることに驚き、彼女は笑みを漏らす。そして、もう一度りりのほうを見る。

 

「これ、あなたのペットではありませんよねぇ?」

 

「あぁ・・・ぁぁ・・・」

 

ドクルンに問い詰められるが、りりは怯えるように声を出すことしかできない。

 

「人のペットを持って行こうとするなんて、なんて悪い子なんでしょうかねぇ」

 

その反応を肯定と見たドクルンがわざとらしく首を横に振るようにそうつぶやく。

 

「これは、お仕置きをしないといけませんねぇ。まあ、これはこれでちょうどいい・・・」

 

「ひっ・・・!?」

 

ドクルンは不敵な笑みを浮かべながら、りりへと近づきながら、ペギタンを持っていない方の手で懐から何かを取り出そうとする。りりは小さく悲鳴を上げながら、彼女から離れようと尻餅を着いた状態のまま、這うように後ずさっていく。

 

「ペエェェェ!! ぺェェェェェ!! が、ぁっ・・・!?」

 

ペギタンはドクルンが何かをしようとしていることに気づき、叫び声を上げる。りりがいるために喋ることができず、叫んでいるようにしか見えないが、ドクルンは足を止めてそんな彼を強く握った。

 

「うるさいペットですねぇ・・・!」

 

「ぺ、ェ・・・ェッ・・・!」

 

ドクルンは冷めたような口調をしながら、ペギタンを握りしめた。

 

「ぁ、ダ、メ・・・傷つけ、ないで・・・!」

 

りりは体が震えながらも、言葉を紡ごうとする。ドクルンはその声に反応してりりを見る。

 

「おや? 泥棒のくせに生意気ですねぇ」

 

「ひっ!?」

 

ドクルンに細い目で見られ、か細い悲鳴をあげるりり。そんな彼女をよそに、ドクルンが懐から取り出したのはメガパーツだった。ドクルンは再びりりへと近づいていく。

 

「ひっ・・・あぁ・・・ぁぁ・・・」

 

りりは後ずさるも、二人の距離は一向に広がらず、むしろ縮まっているように見える。

 

「あ、あぁ・・・あ・・・!?」

 

りりは涙目になりながら後ずさるも、それを嘲笑うかのように背中が壁に当たってしまい、壁際へと追い込まれてしまった。

 

そんな彼女を無情にも、メガパーツをこちらに伸ばして近づけてくるドクルンが迫る。

 

「さあ、もう逃げられませんよ? 実験を始めましょうか・・・」

 

「あぁ・・・ああ・・・・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

メガパーツを近づけた瞬間、りりの口から大きな悲鳴が上がったのであった。

 

そんな頃・・・・・・・・・。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・ペギタン!! どこなの!?」

 

「そんなに遠くには行ってないはずなんだが・・・!!!」

 

ちゆとかすみは近くの住宅街を駆け回りながら、りりとペギタンを探していた。

 

せっかく再開できたのに・・・謝りたいことがあるのに・・・このまままた会えなくなるなんて・・・絶対に嫌だ!!!!

 

ちゆはそんな思いから足を止めずに無我夢中で探し回り続け、かすみもそれに応えるかのようにペギタンの名前を呼び続ける。

 

しかし、そんな気持ちとは裏腹に、体の方は悲鳴を上げていく・・・・・・。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「あぁ・・・ちゆ!!!」

 

長い時間走り続けていたせいで体力が落ちたのか、徐々にスピードが落ちて歩き始め、ちゆはついに膝に手をついてその場で足を止めてしまう。

 

「ちゆ・・・大丈夫か・・・?」

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

かすみはちゆの体を気遣うように肩をおき、ちゆは息を整える。

 

「うっ・・・うぅぅ・・・ヒック・・・」

 

「っ、ちゆ・・・」

 

すると、ちゆが瞳を潤ませ始め、嗚咽を漏らし始めた。それに気づいたかすみがちゆを自分の胸へと抱き止める。

 

「・・・もう・・・会えないの、かしら・・・うぅぅ・・・グスッ・・・」

 

ちゆは顔を俯かせ、もうこのままずっと会えないのでは・・・そう思うちゆの心はすでに壊れかけており、彼女の顔には諦めの色が出てきていた。

 

かすみはそれを辛そうに見つめると、意を決したようにちゆの肩に手を置く。

 

「・・・まだ諦めるのには早い。あの娘はまだそんなに遠くには行ってないはずだ」

 

「っ・・・かすみ」

 

「まだ会えないなんて決まったわけじゃない。パートナーのちゆが諦めてどうするんだ。諦めずに探し続ければ、ペギタンには会える。だから、もう一度探そう?」

 

ちゆは顔を上げて、かすみの諦めていない眼差しを見る。ちゆはそれを見るとかすみから体を離して、目の涙を拭い始める。

 

「ごめんなさい・・・情けないところばかり見せちゃってるわね・・・」

 

「いいんだ・・・それがちゆの本当の心だろう?」

 

「・・・そうね、私は本当は弱いのかもしれないわね」

 

ちゆは恥ずかしいところを見せたことを謝罪し、かすみはそれがちゆの心なんだろうと指摘する。ちゆはそう言われれば、そうかもしれないと思う。

 

「ペギタンを、探しましょう・・・今度は諦めずに・・・」

 

「ああ・・・・・・」

 

二人がそう決意した。

 

・・・・・・その時だった。

 

「あなたたちの探し物はこいつですかぁ・・・?」

 

「「!?」」

 

そんな時、聞き覚えのある声が響き、二人はそちらを振り向く。

 

「ドクルン!!」

 

「!! ペギタン!!」

 

「随分と臭い芝居をしていますねぇ。ふふっ♪」

 

現れたのは笑みを浮かべたドクルンと、その彼女の手にはぐったりとしているペギタンの姿があった。

 

「ぁぁ・・・・・・」

 

そして、彼女の右肩にはペギタンを連れて行った少女ーーーーりりがピクリとも動かず、彼女に担がれていたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第76話「取引」

前回の続きです!


 

りりという少女に連れて行かれたヒーリングアニマル、ペギタンを追って駆け出したちゆとかすみ。そんな彼女たちの前に現れたのは片手に拘束するように掴み、りりを肩に担いだビョーゲンズのドクルンだった。

 

そのりりは指一本動かす様子はなく、ペギタンもぐったりとさせたまま気を失っているように見える。

 

「お前・・・その娘とペギタンに何をした・・・?」

 

かすみは睨みつけた表情のまま、警戒しながら問う。

 

「何って、この小娘が持っていたこのヒーリングアニマルを預かっただけですよぉ?」

 

ドクルンは近くの壁にりりを下ろして寄りかからせると、ペギタンを握ったまま不敵な笑みでこちらを見る。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 

りりは肩で息をしながら、汗を浮かばせながら苦悶の表情を浮かべている。顔色もあまりよくなく、すでに顔面蒼白だ。

 

「そうじゃない!! なんでその娘の体調が悪そうなんだと聞いている!! お前が何かやったんだろう!?」

 

はぐらかすような感じで言うドクルンに、かすみが怒りながら問う。

 

「お仕置きですよ。泥棒のね」

 

ドクルンに不敵に笑いながら言う。

 

「お仕置き、だと・・・?」

 

「ええ。この小娘は人のヒーリングアニマルを勝手に持ち去った挙句、返そうともせずに逃げ出したわけですから。これは立派な泥棒でしょうに」

 

かすみが呆然としたように呟くと、ドクルンはりりを見下ろしながら答える。かすみは俯いて何も言葉が出てこない。

 

「だからってここまでやる必要があるの!? 相手はまだ幼い子供なのに!!」

 

ちゆが震える声で批難するように言った。ペギタンを持って行こうとしたとはいえ、相手は自分たちよりも小さな子供なのだ。それなのにここまでのことをする必要があるのか。

 

「何を怒っているのですか? せっかくあなたのヒーリングアニマルを取り返してやったというのに」

 

ドクルンは冷めたような口調になり、首を横に振りながら答えた。

 

(そうか・・・そう、だな・・・この娘はペギタンを持って行こうとしたんだ。だから、こうやって苦しんでいてもおかしく・・・)

 

「っ!?」

 

かすみは心の中に芽生えてきた邪な感情に目をハッと見開くと、考えを払いのけるように頭を振る。

 

「白々しい!! ちゆに返す気なんてないくせに・・・!!」

 

かすみはごまかすように声を上げ、ドクルンを睨みつけながら叫ぶ。

 

「・・・全く血の気の多い奴らです。本当に勢いだけの正義感ね」

 

ドクルンはやれやれといったような感じでそう呟くと、背後を振り向く。

 

「フーミン、このうるさい奴の相手をやりなさい」

 

「わかったですぅ・・・ドクルンお姉様ぁ・・・!」

 

ふわふわしたような声が聞こえてきたかと思うと、ドクルンの背後から6枚の翼を生やしたフーミンが飛び上がり、翼を一斉にかすみへと投下した。

 

「っ、はぁっ!!」

 

かすみは黒いステッキを取り出すと、前方にシールドを張って翼の攻撃を防ぐも、やはり力負けしてどんどん押し返される。

 

「かすみ!!」

 

「わ、私のことはいいから・・・! ちゆはペギタンを・・・!!」

 

「でも・・・プリキュアに変身できない私じゃ・・・!!」

 

攻撃されて苦しそうに表情を歪めるかすみにちゆが叫ぶ。かすみはフーミンの相手をしている間に、ドクルンからペギタンを取り返すように言うが、そもそもペギタンは向こうにいる。プリキュアに変身できない自分では、取り返すことができるようには思えない。

 

「ちゆは自分が正しいと思ったことをやるんだ!! プリキュアにならなくてもちゆならわかるはずだ!!」

 

「っ・・・・・・」

 

かすみは受け止めながらも、ちゆを励まそうとする。しかし、彼女の顔には不安の表情が拭えない様子だった。

 

「何をよそ見してるですかぁ・・・?」

 

「ぐっ・・・!!」

 

その様子を不快に思ったフーミンは自分の周囲に赤い禍々しい球体を出現させると、それを光線状にして放った。

 

「はぁっ!!」

 

かすみは黒いステッキから展開していたシールドをさらに大きくして、光線を防ごうとするが・・・・・・。

 

「ぐぅっ・・・あぁぁ!!」

 

翼による攻撃、光線による二つの攻撃でシールドを突破され、かすみは吹き飛ばされてしまう。

 

しかし、かすみは体勢を立て直して着地すると、フーミンへと飛び出す。

 

「はぁぁぁっ!!」

 

「っ!!」

 

一気に詰め寄ってパンチを繰り出すかすみに、フーミンは両手を使って受け止める。

 

「んぅ!!」

 

「っ!!」

 

フーミンは両手でかすみの拳を押し返すと、口を開いて何やら禍々しいエネルギーを溜め始める。

 

「っ!?」

 

かすみはそれに気づいて驚いたような表情をした直後、フーミンは口から赤い波動のような光線を放った。

 

「うぅぅぅ・・・!!!」

 

波動に飲み込まれたかすみは不快な音に耳を塞ぎつつも、とっさに押されていく。地面に倒れないように着地すると、波動が収まったかと思うと・・・・・・。

 

「んぅっ!!」

 

「っ!!」

 

フーミンが一気に詰め寄ってパンチを繰り出し、かすみはとっさに気づいてジャンプでかわす。見かけや雰囲気によらず、地面を砕くほどの強力なパンチが繰り出されていた。

 

空中へと逃げたかすみを、フーミンは翼を広げて速度を上げて突っ込む。

 

「うわぁっ!?」

 

かすみは体当たりを避けて地面へと着地し、フーミンは間髪入れずに翼を投下する。

 

「っ! はぁっ!!」

 

かすみはそれも飛んで避け、壁を足で蹴ってステッキから黒い光線を放つ。

 

「んぅぅ!!」

 

フーミンは光線を飛び上がってかわすと飛び蹴りのモーションで急降下し、かすみへと突っ込む。

 

「っ!! はぁっ!!!」

 

かすみはすかさずパンチを繰り出し、フーミンの蹴りとぶつかり合った。

 

「かすみ・・・」

 

ちゆはその戦いを不安そうに見つめていた。プリキュアに変身できれば、彼女の元へと駆けつけることができるのに・・・。

 

「さてと、こっちもそろそろ始めましょうかねぇ」

 

ドクルンの声が聞こえてくるとちゆは彼女の方を振り向く。彼女は懐からメガパーツを取り出す。

 

「それは、メガパーツ・・・!?」

 

ちゆが声を上げる。その様子にドクルンはふんと笑うように鼻を鳴らす。

 

「前々から試してみたかったんですよね。ヒーリングアニマルにメガパーツを埋め込んだらどうなるのかを」

 

ドクルンはニヤリと笑みを浮かべながら、ペギタンへとメガパーツを近づける。

 

「ぅぅ・・・!? ペェェェェ!!!」

 

その時、ペギタンがゆっくりと目を見開くと、目の前にメガパーツが迫っているのが見え、悲鳴に近い叫び声をあげる。

 

「おや、起きてしまいましたか。まあ、でも、こいつを入れることには変わりありませんけどねぇ」

 

ドクルンはペギタンが目を覚ましたことに一瞬手を止めるも、構わずにメガパーツを近づけていく。

 

「ぺ、ペェ・・・」

 

ペギタンは近づいてくるかけらを恐怖で目が離せずに、体を震わせる。

 

「っ、やめて!!」

 

その様子に声を張り上げたのはちゆだった。ドクルンは声が聞こえると寸前でその手を止めて、ちゆの顔を見る。

 

「っ! ちゆ!!」

 

ペギタンはまさに自分を捕まえているドクルンの前に立つちゆを目にして叫ぶ。

 

「これ以上、ペギタンに酷いことしないで!!」

 

ちゆは声は震えつつも、慎重になって言葉を紡いでいく。

 

「・・・やめて欲しいですか? 返して欲しいですか?」

 

ドクルンが目を細めながら冷静に問う。ちゆは敵である彼女に頷き返す。実質的な人質として捕らえられているペギタンを救うためだ。

 

「いいでしょう。こちらが出してくれることをやっていただければ」

 

「・・・いいわ、なんでもするから。ペギタンを傷つけないで」

 

ちゆは険しい表情をしながら、そう答えるとドクルンはふふっと笑みを浮かべると懐にメガパーツをしまい、代わりに赤いかけらを取り出すとそれをちゆの前に放る。

 

「それをあなたの体の中に入れてください」

 

「これは・・・メガパーツ・・・じゃ、ないわね・・・」

 

ちゆはメガパーツに似た得体の知れないものに寒気を覚えつつも、それはメガパーツではないと察する。

 

「察しがいいですね。それは私の体の一部であるかけら、まあテラパーツだとでも言っておきましょう」

 

「テラ、パーツ・・・」

 

「そうです。もちろんメガパーツよりは遥かに強力で利便性のあるものです。それをあなたの体の中に入れるだけでいいんです。そうしたら大人しくペギタンは返してあげます」

 

ドクルンは笑顔でテラパーツについて説明すると、ちゆは頬に一筋の汗を流しつつもゴクリと息を飲む。

 

「こんなものを、私の中に入れたら・・・」

 

「タダでは済まないでしょうね。でも、あなたがやらなければ私はメガパーツをこのヒーリングアニマルの中に入れます。そっちの方が面白そうですしね」

 

「ち、ちゆ!! 僕のことは気にしちゃダメペエ!!」

 

ちゆは得体の知れないものを自分の中に入れることを想像してゾッとする。これを入れたら無事で済むという保証はないし、もしかしたら死んでしまうかも知れない。そういう想像力がちゆに選択を躊躇させていた。

 

ドクルンは笑みを浮かべ、ペギタンを見つめながら言う。ドクルンに不穏な何かを感じたペギタンはちゆに叫ぶ。

 

「・・・わかったわ」

 

ちゆは意を決して、恐る恐る足元に落ちている赤いかけらーーーーテラパーツを拾い上げる。それを見てペギタンが驚いたように目を見開く。

 

「ダ、ダメペエ!! そんな得体の知れないものを入れたら、がぁっ・・・!?」

 

「あなたは黙っていなさい」

 

ドクルンが叫ぼうとしているペギタンを握りしめて黙らせる。

 

「ペギタン!!」

 

「どうしたんですか? 早くやってください」

 

ちゆは痛めつけられているペギタンに叫ぶも、ドクルンは冷淡な口調で催促する。

 

「わ、わかってるわ・・・!」

 

ちゆはテラパーツを見つめるも、手が小刻みに震える。額と頬には緊張から汗が滲んでいた。

 

「んぅ!!」

 

「っ、ぐっ・・・!!」

 

その傍らではかすみがフーミンの翼の振り下ろしによる攻撃をステッキで防いでいたが、ふとちゆの方を見てみると彼女が赤いかけらのようなものを入れようとしているのが見えた。

 

もしかしてあれは・・・メガパーツか・・・!?

 

「っ!! ダメだ、ちゆ!! それは・・・うわぁっ!!」

 

「よそ見をしている場合ですかぁ・・・?」

 

かすみはちゆに呼びかけるがあまり防御が疎かになり、フーミンの翼に吹き飛ばされてしまう。

 

「・・・本当に、ペギタンを返してくれるのね?」

 

「心外ですね。私はちゃんと約束は守る女ですよ?」

 

ちゆがもう一度険しい表情でドクルンを見るも、彼女はまるで貼り付けたような笑顔をしたまま話す。

 

ちゆはそれを確認すると、もう一度テラパーツを見つめる。

 

「っ・・・」

 

ちゆは恐怖を押し殺すかのように目をぎゅっと瞑り、両手でテラパーツを抱くように持つと、そのまま恐る恐る自分の胸へと近づけていく。その様子をドクルンは笑みを浮かべながら見つめている。

 

「ち、ゆ・・・・・・」

 

逆にペギタンは彼女を不安そうに見つめている。

 

「・・・・・・!」

 

そうしている間に、ちゆの胸にテラパーツが触れる。ちゆは心の中でとてつもない恐怖感に襲われ、これ以上先にテラパーツを進めることを躊躇する。

 

ちゆの中にはいまだかつてない緊張感が襲いかかっていた。

 

「どうしたんですか? 今更、怖くなったとか?」

 

「っ・・・」

 

全く手を動かそうとしないちゆに、しびれを切らしたドクルンが冷たい声で口出しする。

 

「できないのなら、私が手伝ってあげましょうか?」

 

「・・・できるから、心配は無用よ」

 

ドクルンの施しを突っぱねると、ちゆはぎゅっと目を瞑る。彼女の額には先ほどよりも汗が滲み出ており、その緊張感が最高潮になっていることを物語っていた。

 

そして、ちゆは意を決したように体の震えを止めると・・・・・・。

 

「っ・・・!」

 

ガッ・・・ズズズズッ・・・!!

 

ちゆは両手で押し込むようにテラパーツを自分の胸に触れさせた。すると、テラパーツがちゆの体の中に飲み込まれていく。

 

「うっ・・・っ・・・!!」

 

ちゆは迫り来るともしれない恐怖に自身の体を抱いて大きく震わせる。そんな彼女の体からは赤く禍々しいオーラが発言していた。

 

自分にやってくるのは一体なんなのか? 病気? それとも、体が変質してしまうのか?

 

「ちゆー!!!」

 

ペギタンはテラパーツを自分の体の中に入れてしまったちゆに向かって叫ぶ。

 

「ふっ! はぁ!・・・!?」

 

かすみはフーミンの繰り出すパンチをいなしていたが、ちゆの方を見て驚愕する。

 

「ふふふっ♪」

 

ドクルンはちゆの体に微量のオーラが溢れていることに笑みを漏らす。

 

「は、ぁ・・・ふっぅ・・・」

 

ちゆはしゃがみこんで体を震わせていたが、やがて赤く禍々しいオーラは彼女に飲み込まれるように静かに消えていく。

 

「??」

 

・・・何も・・・起きない・・・?

 

ちゆは自分に何も痛みや苦しみが襲ってこないことに目を見開く。手を頭や尻にやって見るが、ツノは生えておらず、尻尾も生えているわけではないため、体に何も変化がおきていない。これは一体、どういうことなのか?

 

(ふむ・・・まだ何かが起きるには時間がかかるということなんでしょうね・・・。とりあえずはいいでしょう)

 

「テラパーツを中に入れましたね。では、約束どおり、このヒーリングアニマルは返しましょう。さっきも言いましたが、私はちゃんと約束を守る女なので」

 

ドクルンは心の中でそう分析した後、笑みを浮かべながらそう言うとペギタンを掴んでいる手を離す。

 

「っ、ちゆーーー!!!!!」

 

ドクルンから解放されたペギタンは急いでちゆの元へと飛ぶ。

 

「ペギタン!!」

 

ちゆは涙目になりながら、飛び込んできたペギタンを優しく抱き止める。

 

「ちゆ、なんともないペエ?」

 

「ええ・・・でも、なんでなのかしら?」

 

ペギタンはちゆの中にテラパーツが入ったことを心配して言うも、ちゆはむしろ何故なんともないのか疑問で仕方なかった。

 

「メガァ!!!!」

 

そこへ灯篭のような姿のメガビョーゲンが歩きながら現れ、口から病気を吐いてこちらへと徐々に蝕んできているのが見えた。

 

「メガビョーゲン!!」

 

ちゆはドクルンの背後から現れた、そのメガビョーゲンの姿に気づく。

 

「おや、もうここに来てしまいましたか」

 

メガビョーゲンが現れたことにドクルンは不敵な笑みを浮かべる。自身が神社で生み出したときよりも、さらに大きくなっている気がする。

 

「ちゆ、行くペエ!!」

 

「ええ!!」

 

ペギタンの言葉を合図にちゆは変身ステッキを持った。

 

「スタート!」

 

「プリキュア、オペレーション!!」

 

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

 

「キュアタッチ!!」

 

ペギタンがステッキの中に入ると、ちゆは水のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

そして、肉球にタッチすると、水をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまとい水色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、水色へと変化する。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身した。

 

「はぁっ!!」

 

「メガァ!?」

 

フォンテーヌはすぐにメガビョーゲンへと飛び出し、顔面に蹴りを食らわせた。

 

「さてとあっちの戦いも気になるけど、こっちはどうなるのかしらね」

 

ドクルンはぐったりしているりりの隣へと移動すると、メガビョーゲンを見つつも彼女の様子も見る。

 

「うぅぅ・・・・・・」

 

りりは体をぐったりとさせながらも、苦しみながら呻いている。

 

「ふふっ♪」

 

ドクルンはその様子を見ながら、りりの頭に手をゆっくりと置いて優しく撫で始める。

 

「メガァ!メガメガ!!!」

 

メガビョーゲンは灯篭の扉から火の玉のようなものを次々と放つ。

 

「ふっ!! はっ!!」

 

フォンテーヌはバク転をしながら放たれる火の玉を交わしていく。

 

「雨のエレメント!!」

 

その中でステッキに雨のエレメントボトルをセットする。

 

「はぁっ!!」

 

大粒の水を纏った水色の光線をステッキから放つ。

 

「メ、メガァ・・・!?」

 

光線を体に受けて怯むメガビョーゲン。

 

「はぁぁぁっ!!」

 

「ビョーゲン!?」

 

フォンテーヌはそこへ立て続けに蹴りを入れて、メガビョーゲンを転倒させる。

 

キュン!

 

「「キュアスキャン!」」

 

転倒している間に、フォンテーヌは肉球を一回タッチして、メガビョーゲンに向ける。ペギタンの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを発見する。

 

「火のエレメントさんペエ!!」

 

エレメントさんは顔の上、屋根の真ん中部分にいる模様。

 

フォンテーヌが浄化の動作に移ろうとしている一方で、かすみは・・・・・・。

 

「っ・・・くっ・・・!!」

 

かすみはフーミンの翼による攻撃をステッキでいなしているものの、攻撃に移ることができずに防戦一方だった。

 

「あっ・・・!」

 

その時、フーミンの翼が手を直撃し、ステッキを弾き飛ばされてしまう。

 

「!! んぅぅ!!!」

 

フーミンはその隙をついて、左右の翼を交互に動かして羽を飛ばして行く。

 

「くっ・・・ぐっ、うわぁぁぁぁ!!!」

 

ステッキを失ったかすみは腕を交差して耐え凌ごうとするも、羽は強力な爆発を起こし、その羽が運悪く次々と腕に着弾したかすみは吹き飛ばされてしまう。

 

吹き飛んだかすみはフォンテーヌの横に転がされて、倒れ伏す。

 

「かすみ!!」

 

「うぅぅ・・・」

 

フォンテーヌがボロボロになったかすみに駆け寄る。

 

「メッガァ・・・!!」

 

「!・・・!!」

 

そのフォンテーヌの隙をついて、メガビョーゲンは転倒から起き上がってしまう。

 

「メガァ!!!」

 

メガビョーゲンは口から燃えるような赤い光線を放つ。

 

「ぷにシールド!!」

 

かすみの前にフォンテーヌが立ってペギタンがそう叫ぶと、肉球型のシールドが展開され、燃えるような光線を防ぐ。

 

「うぅぅ・・・熱っ・・・!!」

 

赤い光線はかなりの高熱を帯びていて、フォンテーヌはその熱さに顔を顰める。

 

「ぐっ・・・!?」

 

かすみは起き上がろうとしているが、その隙にフーミンが自分たちの背後にいるのに気づく。フーミンは口に禍々しいオーラを溜めていた。

 

「っ・・・!!」

 

かすみはそれがフォンテーヌに放とうとしていることに気づくと、痛みを押して立ち上がり、フォンテーヌの方へと駆け出す。

 

「!? かすみ!?」

 

振り向いて驚くフォンテーヌをよそに、かすみは彼女へと駆け出して突き飛ばす。そこへフーミンが小さく圧縮させた赤い波動を放った。

 

さらにメガビョーゲンの赤い光線がぷにシールドを突破して、かすみへと迫る。

 

「!? うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「っ!! かすみぃ!!」

 

かすみはメガビョーゲンとフーミンの攻撃を同時に食らってしまい、フォンテーヌが悲痛な叫びをあげる。

 

かすみは膝から崩れ落ちて、地面へと倒れ伏す。

 

「かすみ!!!!」

 

フォンテーヌは傷ついてボロボロのかすみに駆け寄る。

 

「かすみ!! しっかりして!! かすみ!!!!」

 

フォンテーヌはかすみを仰向けにしてあげると、激しく揺さぶる。しかし、かすみは意識が朦朧としているのか、弱々しい呻き声しか漏らさない。

 

「おやおや、随分と動きにキレがないみたいだけど?」

 

ドクルンはその様子を見ながら、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「・・・ん?」

 

ふと何やら近くで気配を感じたドクルンが、りりの方を見る。なんとりりの体から禍々しい赤いオーラが漏れ出しており、今にも何かが体から離脱しそうな様子だった。

 

「うっ、うぅぅ・・・ぐっ、うぅぅ・・・」

 

りりは手を胸に押さえつけるようにし、そのうめき声を大きくさせながら、首を振ってもがくように動き始めた。その顔には汗がかなり滲んでいた。

 

「そろそろ、何か出てきそうですねぇ・・・」

 

ドクルンはりりの中に入れたメガパーツが順調に成長していることに不敵な笑みを浮かべ、その体から新たなテラビョーゲンが誕生しそうなことを察していた。

 

「うぅぅぅぅぅ、うぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

りりの体の中の赤黒い靄が蠢いて、彼女はさらに苦しみ、やがて悲鳴に近い叫び声をあげると激しく蠢き始める。

 

そして、赤く光ったかと思うと、りりの体内から赤黒い靄が勢いよく飛び出し、まるで逃げるかのように屋根を飛び移って行くと山の方へと消えていく。

 

「おや? 行っちゃったわね。まあ、いいか」

 

ドクルンもその様子に目を丸くして呟くも、すぐに肩をすくめながらそう呟いた。

 

りりは先程までの苦悶の表情が嘘のように消え、安らかな寝息を立てていた。

 

「ぅぅぅ・・・・・・」

 

「かすみ!!目を覚まして!!」

 

かすみはフォンテーヌの声に答えることができず、弱々しく呻き続けている。

 

「ダメだわ・・・全く起きる気配がない・・・!!」

 

フォンテーヌはその状況に焦りが生まれ始めていた。

 

「ペエ・・・・・・」

 

ペギタンもその様子を見て、困ったような表情を浮かべていた。

 

「メガァ!!!!」

 

そんな状況をよそにメガビョーゲンはこちらを気にすることなく、口から赤い光線を放って病気を蝕むことを再開させていた。

 

「っ!! メガビョーゲンを止めないと!! でも・・・このままだとかすみも・・・!!! 一体、どうすれば・・・!!!!」

 

フォンテーヌはメガビョーゲンとかすみを交互に見やりながらも、どちらへ向かえばいいのかわからずにいた。そういった状況に陥ったことで焦りに焦りが生まれ、冷静な判断ができなくなっていた。

 

「フォン、テーヌ・・・」

 

「!! かすみ!!」

 

そんな時、かすみがかすれたような声で呼びかけ、フォンテーヌの手を弱々しく握る。表情に力が入っておらず、今にも意識を失ってもおかしくない状態だ。

 

「なんとも、ないか・・・? さっきの、攻撃、も・・・体の中の、かけら、も・・・」

 

「それよりもかすみのほうよ!! いつも無茶ばかりして・・・!!」

 

かすみは弱々しい声ながらも、フォンテーヌを心配していた。フーミンの攻撃が当たってないか、先ほどのドクルンのテラパーツを入れられた体の調子も。しかし、フォンテーヌはボロボロになっているかすみの方が重傷で、目も当てられない状態だった。

 

「すまない、な・・・いつも、私、は、何の役にも、立ってない・・・」

 

「なんで自分を卑下するの・・・?」

 

フォンテーヌは瞳を潤ませながらそう言うと、彼女の手を引っ張って立ち上がらせる。

 

「かすみは、頑張ってるじゃない・・・!! 他人を助けようとしてるじゃない・・・!!だって、霞がいなかったらペギタンとずっと離れ離れになってたかもしれない・・・かすみが勇気付けてくれなかったら、私は諦めてたかもしれない・・・!! 私はかすみに助けられたのよ!!」

 

「ちゆ・・・・・・」

 

強い口調で訴えるフォンテーヌに、かすみは複雑な心境で見つめる。

 

「だから、自分を卑下しないでよ。かすみが役に立ってないなんて、ないんだから。私たちのことを考えてくれているんだから」

 

かすみはフォンテーヌの言葉に少し考えるように俯くと、涙目になって顔をあげる。

 

「ちゆ・・・私は・・・!」

 

かすみは瞳を潤ませると、フォンテーヌの胸に顔を埋める。

 

「私は、ちゆが信用してくれてないと思ってた・・・!!」

 

「えっ・・・?」

 

「だって、ちゆ、私に話してくれなかった・・・ペギタンがいなくなったときも、私に笑顔でごまかして学校に行こうとした・・・寂しいなら寂しいって言えばいいのに、本当のことを言ってくれない・・・。ちゆは友達なのに、なんで話してくれないんだって思った・・・ちゆは、私が嫌いになったのか・・・?」

 

かすみは泣きそうな表情でフォンテーヌに告白する。ちゆは寂しいときは寂しいと言えばいいのに、感情を抑え付けているような感じがする。それを私に言ってくれないなんて、ちゆは私のことが嫌いになってしまったのだろうか。

 

フォンテーヌはかすみの姿を見て察した。自分は相手を心配させないつもりでいても、彼女を余計に心配させて、苦しい思いをさせてしまったことに。

 

「・・・ごめんなさい。かすみがそこまで思い詰めてるなんて思わなかったの。あのとき、素直に言っていれば、かすみがここまで無茶をしなかったかもしれなかったのに」

 

フォンテーヌはゆっくりとかすみの頭に手を置いて撫で始めた。その光景はまるで妹を慰めている姉のようだった。

 

「もう隠したりしないから、ね? 辛いときは辛いってちゃんと話すわ。だから、もう泣かないで・・・かすみ・・・」

 

「フォンテーヌ・・・」

 

フォンテーヌがそう言うと、かすみは涙が出そうなくらいに瞳を潤ませる。

 

と、そこにフーミンが翼を広げて赤い光線を放ってくる。

 

「ふっ!」

 

それに気づいたフォンテーヌがぷにシールドを展開して光線を防ぐ。

 

「もぉ・・・何を和んでるですかぁ・・・!!」

 

フーミンが膨れたような顔をしながら、こちらを睨みつけている。

 

「かすみ、まだ戦える?」

 

「ああ、なんとか・・・」

 

かすみはちゆから体を離すとフーミンへと向き直る。

 

ステッキは遠くへと弾かれてしまったが、なんとかいけるか・・・。かすみはそう考えるとフォンテーヌの方に視線を向ける。

 

「フォンテーヌ、なんでもいいからそのボトルの力を私に打ってくれないか?」

 

「・・・スパークルが一緒の時にやったことね。でも、ステッキは?」

 

「なくても大丈夫だ。私を信じて、打ってくれ!!」

 

「・・・わかったわ」

 

かすみは以前スパークルに打たせたように、フォンテーヌにも打たせるように指示。フォンテーヌはステッキがあったからできたんじゃないかと心配するが、かすみは強い口調でそう言うとフォンテーヌも覚悟を読み取った。

 

「氷のエレメント!!」

 

フォンテーヌは氷のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「はぁっ!!」

 

ステッキから放たれる氷を纏った光線をかすみに向かって放つ。

 

「氷の力よ!!」

 

かすみは手を後ろへと伸ばすと、青い光線を自分の体内へと吸収していく。

 

パァ・・・・・・!!!!

 

かすみの体が青白く光ると、彼女の髪型が青白い色に変わっていき、手袋も青白いになる。黒いフードが青色へと変わり、服装が水色のスカートになり、瞳が青色へと変わった。

 

「姿が変わってるペエ!!」

 

「綺麗・・・!」

 

かすみの神秘的な姿に、フォンテーヌとペギタンは思わず見惚れる。

 

「姿がまた変わってるですぅ・・・でも、私だってすごいですぅ・・・!!!!」

 

フーミンは6枚の翼を一気にかすみへと投下する。

 

かすみは両腕に氷を纏ったブレードへと変化させると、その6枚の翼を受け止める。

 

「っ・・・!!」

 

「ぐっ・・・はぁっ!! ふっ!! はぁっ!!!」

 

かすみは氷のブレードで6枚の翼を弾き返すと、襲い来る翼をブレードでいなしていく。

 

「!?」

 

「ふっ!! はぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

驚くフーミンをよそに、かすみは彼女へと近づいていくと後ろへ飛び上がって背後へと着地し、振り向きざまにブレードの腕を振るって斬撃を放つ。斬撃はフーミンの背中の翼の根元を直撃して、フーミンの翼全体が凍りついていく。

 

「!? ひゃっ!!!」

 

フーミンは悲鳴をあげて、吹き飛ばされて尻餅をつく。

 

「・・・・・・?」

 

彼女は吹き飛んだことに驚いていて、呆然と虚空を見つめていた。しかし・・・・・・。

 

「んぅ・・・眠くなってきたですぅ・・・」

 

途端にハーブティーの効果が切れたのか、そのまま彼女は横になって眠りについてしまった。

 

「よし・・・!!」

 

かすみはフーミンが戦闘を放棄したことを確認すると、すぐそばにあったステッキを拾ってメガビョーゲンへと駆け出す。

 

「メガァ!! メガァ!!!!」

 

そのメガビョーゲンは火の玉のようなものをフォンテーヌに目掛けて放つ。

 

「ふっ!!! はぁっ!!」

 

フォンテーヌは火の玉を交わして、最後に放った一つにステッキから青い光線を放って飛び込む。火の玉へと包まれるフォンテーヌ。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

しかし、フォンテーヌは包まれる火の玉をすぐに払い除けて空中でクルクルと回転すると、メガビョーゲンへと飛び込み顔面に蹴りを入れる。

 

「メ、ガァ・・・!?」

 

怯んだメガビョーゲンは思わず背後へとよろける。

 

「はぁぁぁっ!!!」

 

そこへ駆けつけてきたかすみがステッキから冷気を纏った太い光線を放つ。

 

「メ!? ガガッ・・・!!?」

 

太い光線に包まれたメガビョーゲンは全身を凍りつかせたと同時に、横へと倒れた。

 

「かすみ!!!」

 

「今だ、フォンテーヌ!!」

 

かすみの叫ぶ声を合図に、フォンテーヌは水の模様が描かれたヒーリングボトルをステッキへとかざす。

 

「エレメントチャージ!!」

 

そう言いながら光るステッキの先をハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「ヒーリングゲージ上昇!!」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングストリーム!!」

 

キュアフォンテーヌはそう叫びながら、ステッキをメガビョーゲンに向けて、水色の光線を放つ。光線は螺旋状になっていた後、メガビョーゲンに直撃した。

 

その光線はメガビョーゲンの中に入ると、螺旋状のエネルギーは手へと変化して、火のエレメントさんを優しく包み込む。

 

水型状にメガビョーゲンを貫きながら、光線はエレメントさんを外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「お大事に」」

 

火のエレメントさんは、神社の灯篭の中へと戻り、蝕んだ箇所も元に戻っていく。

 

「まあ、いいわ。目的はすでに果たしたし」

 

ドクルンはフーミンの側に移動しながらそう言うと、二人はその場から姿を消していった。

 

「やったな!! フォンテーヌ!!」

 

「ええ、かすみのおかげよ」

 

かすみとフォンテーヌはお互いの顔を見合わせて微笑む。

 

「あ!? そうだった!!」

 

かすみはペギタンを連れて行った少女ーーーーりりのことを思い出し、壁に横たわって眠っているりりに近寄る。

 

「キミ、大丈夫か・・・?」

 

「すぅ・・・すぅ・・・」

 

かすみはりりに声をかけるも、彼女は安らかな寝息を立てながら眠っている。

 

「もう大丈夫みたいね、その娘」

 

「そうだな・・・」

 

フォンテーヌはりりがなんともないことに安堵し、かすみはそれを見てホッとした。

 

「フォンテーヌ! もう一体のメガビョーゲンも浄化しないとペエ!」

 

「そうね」

 

ペギタンがそう声をかけると、フォンテーヌは頷く。そして、かすみの方を向く。

 

「かすみはその娘を家まで届けてあげて。おそらくこの近くだと思うわ」

 

「え・・・私がか?」

 

「ええ、だってかすみはどんな相手にも手を差し伸べる優しい友達だもの」

 

かすみはいきなりりりを任されることに戸惑うも、フォンテーヌは優しく微笑んでそう言う。

 

「・・・わかった。なんとかしよう」

 

「うん、頼んだわ」

 

フォンテーヌはそう言って、もう一体のメガビョーゲンを浄化するべく駆け出して行った。

 

かすみはフォンテーヌが走り去っていくのを見届けると、りりの方を見る。

 

「フォンテーヌ・・・たまに無茶なことを言うよな・・・」

 

かすみは少し呆れたような声を漏らしつつも、りりを背中に乗っけておんぶすると歩き出す。

 

「さてと、家はどうやって探そうか・・・・・・」

 

かすみは何のヒントもないまま、りりの家を探そうと奔走し始めるのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第77話「心声」

前回の続きです。
今回は後日談的な話として書いているので、いつもよりは短めです。
かすみの様子も・・・・・・。


 

「メガ!! メガ!!」

 

ドォン!! ドォン!!!!

 

メガビョーゲンが出現した神社内にて、シンドイーネが生み出した狛犬型のメガビョーゲンと交戦中のグレースたちプリキュア3人。

 

しかし、メガビョーゲンが口から放つ黒い光弾のせいで、メガビョーゲンに近づけずにいた。

 

「っ・・・」

 

「避けてるだけじゃどうにもならないラビ!!」

 

「今は良くても、そのうちに疲れて攻撃を受けてしまうかもしれません・・・」

 

「くっ・・・!」

 

「ええい!! ちょっとでも隙があれば、こんなやつ!!」

 

プリキュアたちも避け続けてばかりで防戦一方、体力が削られるのも時間の問題であった。

 

「オーッホッホッホッホッホ!! やっぱり3人じゃ無理だったわね!!」

 

余裕の表情を見せるシンドイーネは高笑いしながらそう言う。

 

「これで4人よ!!」

 

「っ!?」

 

その時、叫ぶ声が聞こえてきたかと思うと、フォンテーヌがこちらへと飛んできた。

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「メガァ!?」

 

フォンテーヌは急降下しながら、メガビョーゲンの顔面に蹴りを入れる。

 

「チャーンス!!」

 

フォンテーヌが来たことで余裕が出てきたプリキュアたち。攻撃されたことでできた隙を見逃さず、スパークルとアースが飛ぶ。

 

「はぁっ!!」

 

「ガァ!?」

 

「はぁっ!!」

 

「メガァ!?」

 

スパークルとアースは、メガビョーゲンの体に続けて蹴りを入れてよろつかせる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「ビョーゲン!!??」

 

最後にグレースが渾身の蹴りを食らわせて、メガビョーゲンを地面へと倒した。

 

キュン!!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

グレースがすかさず肉球を一回タッチして、メガビョーゲンに向ける。ラビリンの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを見つける。

 

「宝石のエレメントさんラビ!!」

 

エレメントさんはメガビョーゲンの首の部分にいる模様。

 

そして、アースは両手を合わせるように祈り、浄化の準備へと入る。

 

一枚の紫色の羽が舞い降り、ハープのような武器へと姿を変える。

 

「アースウィンディハープ!!」

 

そう呼ばれたハープに、風のエレメントボトルがセットされる。

 

「エレメントチャージ!!」

 

アースはハープを手に取って、そう叫ぶとハープの弦を鳴らして音を奏でる。

 

「舞い上がれ! 癒しの風!!」

 

手を上に掲げると彼女の周りに紫色の風が集まり始め、ハープへとその力が集まっていく。

 

「プリキュア! ヒーリング・ハリケーン!!!」

 

アースはハープを上に掲げてから、それを振り下ろすとハープから無数の白い羽を纏った薄紫色の竜巻のようなエネルギーが放たれる。

 

そのエネルギーは一直線にメガビョーゲンへと向かい、直撃する。

 

竜巻のようなエネルギーはメガビョーゲンの中で二つの手へと変化し、宝石のエレメントさんを優しく包み込む。

 

メガビョーゲンをハート状に貫きながら、光線はエレメントさんを外に出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていく。

 

「お大事に」

 

宝石のエレメントさんが狛犬の像の中へと戻ると、メガビョーゲンが蝕んだ神社が元の色を取り戻していく。

 

「ワフ~ン♪」

 

メガビョーゲンが2体浄化されたことにより、体調不良だったラテも額のハートマークが黄色から水色に戻り、元気になった。

 

「ちっ・・・!! 帰ってドラマの続き見ないといけないから、今日はこの辺にしといてあげる!」

 

シンドイーネは悔しそうに舌打ちをして、そう言い放つとその場から姿を消した。

 

「終わった、終わった~!」

 

スパークルはお手当てが無事に終わったことに嬉々している。

 

「かすみちゃんは?」

 

「あの娘を家まで届けに行ったわよ」

 

「あの娘って、ペギタンを連れて行った娘・・・?」

 

グレースがかすみの行方を聞くと、フォンテーヌはそう答え、スパークルの質問にも頷く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プリキュアが戦っている最中、かすみはりりをおんぶして彼女の家を探すために、歩きながらきょろきょろと目線を動かしていた。

 

「どこなんだろうな・・・この娘の家・・・」

 

しかし、どこもかしこも家だらけで、彼女の家がどこなのかがわからない。

 

「そもそも私、この娘には初めて会ったし、家なんか知らないし・・・」

 

かすみはおんぶしているりりに視線を向けながら言った。この娘には初めて会った上に、家にすら行った事がない。それでどうやって家を探せと?

 

「それにしても・・・・・・」

 

かすみはりりの眠っている表情をよく見る。ちゆたちよりは小さいとは言え、整った顔立ちをしている。

 

(可愛いな・・・のどかやちゆ、ひなたにもこういう時があったんだろうか?)

 

かすみは人間というものをよく知らない。でも、人間が成長して大きくなるということはなぜか知っている。のどかたちにもこんな可愛い姿があったのだろう。

 

可愛い・・・可愛いな・・・。ちょっと愛でたくなる・・・・・・。

 

すると、かすみは急に足を止める。そして、眠っているりりをおんぶしているとはいえ、じっと何かを観察するように見つめる。

 

(病気で苦しんでいた時の顔・・・可愛かった・・・他の誰かも蝕めば、こんな可愛い顔を・・・)

 

かすみの頭の中にこんな考えが生まれる。彼女の瞳はなぜか虚ろに黒く濁っていた。

 

「ん・・・」

 

「っ!?」

 

かすみはりりが気がついたことに驚くと、瞳の色が戻り、慌てて前を向いて歩き始める。

 

「ん・・・あれ・・・?」

 

「気がついたか・・・?」

 

りりは誰かにおぶられている感覚に疑問を持ち、かすみはこちらを向かずに声をかける。

 

「私・・・・・・」

 

「疲れてたんじゃないか? 道端で倒れていたんだ」

 

かすみはビョーゲンズのことを説明せずに、りりが疲れて倒れていたことだけを説明した。

 

「あ、お姉さん・・・!!」

 

「気にするな。困った人を助けるのに、理由なんか必要ないだろ」

 

「そ、そうじゃなくて・・・!!」

 

かすみは謝ろうとしているのかと考えてそう声をかけたが、りりはどうやら違った様子。

 

「ジョ、ジョセフィーヌは・・・?」

 

(ジョセフィーヌ? もしかして、ペギタンのことか・・・?)

 

かすみはペギタンのことを尋ねられたと考える。

 

しかし、この娘は大事にペギタンを持っていたはず、慎重に発言をしなければ・・・・・・。

 

「・・・その子は、元の飼い主のところに帰ったよ」

 

「!! そ、そうですか・・・」

 

かすみはペギタンがヒーリングアニマルだとバレないように、彼女を傷つけないように慎重に答えた。りりはそれを聞くと、表情を暗くさせて俯く。

 

かすみはりりの表情が気になって振り向くと、再び前を向いて歩き出す。

 

「私、その飼い主と友達なんだ」

 

「えっ・・・?」

 

「その娘が会いたいって言ってたって、お願いしてみようか?」

 

「ほ、本当ですか・・・?」

 

りりは驚いたような反応をして、かすみに尋ねる。

 

「もちろんだ。ペギ・・・ジョセフィーヌに親切にしてくれたしな・・・」

 

「・・・!! ありがとうございます・・・」

 

りりはかすみのその言葉を聞くと泣きそうな表情で瞳を潤ませる。

 

「!? ど、どうした!? 私、変なこと言ったか・・・!?」

 

かすみはりりの表情を見て慌て始める。何か、彼女を傷つけるようなことを言ってしまったのではないかと。

 

「う、ううん、違います。ジョセフィーヌにまた、会えるんだなって・・・思って・・・」

 

かすみはりりが瞳から涙を潤ませている表情を見て、ちゆに教わったことを思い出し始める。人間は本当に嬉しいときは泣くこともあると。

 

そういえば、ペギタンにやっと会えたときのちゆも泣きそうになっていたことを思い出す。

 

かすみはその表情と記憶を思い出すと、りりのその表情はそうなのだろうと安堵する。

 

「そうか・・・」

 

かすみはそう呟くと、再び前を向いて歩き始める。

 

「あ、あの・・・! 私、もう自分で歩けます・・・!!」

 

「ダメだ・・・! キミは道端で倒れていたんだぞ。また倒れたりしたら大変だ。私がキミの家まで運んでやる」

 

りりはかすみのおんぶから降りようとお願いしたが、かすみはすぐに却下した。なぜなら先ほどドクルンにメガビョーゲンのかけらを入れられていて相当苦しんでおり、それが治ったばかりなので体に不調が残っているかもしれない。だから、せめて家の前まで運びたいと思っているからだ。

 

「あ、はい・・・」

 

りりはそれを聞くと言葉に甘えるかのようにかすみの背中に身を委ねる。

 

「ところで・・・」

 

「? どうしましたか・・・?」

 

かすみは何やら言いづらそうな声を出すと、りりはそれに反応する。

 

「キミの家は、どこにあるんだ・・・?」

 

「・・・はい?」

 

かすみが振り向きながら苦笑しながら言うと、りりは目を丸くしたままそう呟いた。

 

結局、りりに道を案内してもらい、ようやく家にたどり着くことができた。かすみはりりを彼女の家の前で降ろした。

 

「案内をさせてしまってすまなかったな・・・」

 

「い、いえ! いいんです!! お姉さんには倒れたところを助けてもらいましたし、おあいこです」

 

かすみは申し訳なさそうに頭を下げ、りりは慌てたように手を振る。

 

「そ、そうか・・・」

 

「はい、だから、気にしないでください!」

 

りりがそう言うとかすみは何やら照れ臭そうに言った。かすみは気を取り直した後、りりの顔を見る。

 

「ジョセフィーヌには絶対に会わせる。約束だ」

 

「いいんですか? 私が勝手に持って行っちゃったのに・・・」

 

「いいんだよ。りりちゃんはジョセフィーヌを大切にしてくれたじゃないか。それだけでもりりちゃんは優しいし、私は悪いとは思わない。きっと、会わせるから」

 

かすみは微笑みながらそう言うと、りりも暗かった表情を明るくさせた。

 

「それに・・・・・・」

 

「??」

 

「りりちゃんはもう、一人じゃないかな。自分の友達もちゃんといる気がする。顔を見てるとそんな気がするんだ。私の思い違いかもしれないけど」

 

「!!」

 

りりは、かすみのその言葉に目を見開くと、今日学校に通ってた時のことを思い出す。ジョセフィーヌがいるおかげで話すことができた、転校して初めての友達ができた。そういえば、もう一人じゃない気がする。

 

「そう、か・・・私はもう一人じゃない・・・一人じゃないんだね・・・」

 

りりはジョセフィーヌのことを思い出して、笑みを浮かべ一人瞳を潤ませる。かすみはその様子を見て、微笑むと踵を返す。

 

「じゃあ、またな・・・」

 

かすみは別れの言葉を言うと、りりの家を後にしようとする。

 

「さようなら。ありがとうございました・・・」

 

りりは去っていくかすみの背後に頭を下げて別れの言葉を告げた。

 

(りりちゃん、可愛かったな・・・もう、病気に蝕んでやりたいぐらい・・・)

 

りりの家を離れていくかすみは、微笑みながらも・・・・・・瞳を虚ろに、黒く濁らせながらそんなことを考えていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズル・・・ズル・・・ズル・・・・・・。

 

すこやか市の山の中、りりという少女から離脱した赤い靄の塊はそこへと逃げ出していた。ズルズルと体をスライムのように地面を引きずりながら、どこかへと向かうように歩いていく。

 

山を降りるように下っていくと、その赤い靄に見えてきたのは一件の病院であった。立っている看板には「すこやか総合病院」と書かれていた。

 

赤い靄はそれを立ち止まっているように見つめていたが、よく見ると換気のためなのか、2階部分の窓が一箇所だけ空いているのが見えた。

 

赤い靄はその場で種のような4本足の蜘蛛のようなものに姿へと変えると、それを見つけたと言わんばかりに病院に近づき、建物の壁を登るように進んでいき、窓の中へと入り込んでいく。

 

入った先は病室であり、そこには4台のベッドが並んでいて、そのうち2台に誰かが眠っているようだった。

 

種は誰かをきょろきょろと見渡すように動くと、まるで何かを決めたのかの如く、そのうちの1台のベッドへと近づいていく。

 

カサカサ・・・カサカサ・・・。

 

「ん・・・誰か、いるの・・・?」

 

ベッドの主が音に目を覚ましたようで、外に声をかけてきた。その低めの少女のような声に種はそれに動きを止めるも、すぐにベッドへと移動を進めていく。

 

種はベッドの手前の縁の部分へとよじ登ると、横になっている患者を見据えるように立ち止まる。

 

カサカサ・・・カサカサカサ・・・・・・。

 

「ん・・・?」

 

呻くような声にも構わず、種はその患者が認識する暇もなくと飛び上がり・・・・・・・・・。

 

「!? う・・・っ!!??」

 

驚いたように目を見開く患者に襲いかかるように赤い靄へと変わり、その体の中に入り込んでいく。患者は苦しそうな呻き声をあげると、そのまま操り人形から糸が切れるかのように動かなくなる。

 

ビクン・・・ビクン・・・。

 

そのまま患者の体は痙攣するかのように動く。そして、その患者の体の中には赤く淀んだ何かが蠢いているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、りりはすっかり仲良くなった女子生徒の友達と一緒に下校していた。

 

「じゃあ~ね~♪」

 

「また明日♪」

 

りりは笑顔で手を振りながら友達と別れ、家へと着いた。

 

トントントン・・・。

 

1人家へと帰宅したりりは夕食の支度をしていた。魚肉ソーセージを包丁で切って下ごしらえをしていると、思わず手を止める。

 

そういえば、ジョセフィーヌにおやつとしてあげていたなと、彼女の頭の中にわずかとはいえ過ごしていた日を思い出す。

 

また、会いたいな・・・・・・。

 

りりはあの日々を思い返すと、まるで楽しかったと思うのと、寂しく思うのが混じり合って複雑な気分になっていた。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

ピンポーン!

 

「あ・・・はーい・・・」

 

インターフォンが鳴ったことに気づき、りりは手を拭いた後に玄関へと向かう。その扉を開けると・・・・・・。

 

「こんにちは」

 

そこには昨日会ったちゆと、彼女の手元にはジョセフィーヌこと、ペギタンの姿があった。

 

「あ・・・あの・・・ご、ごめんなさーーーー」

 

「あなたに!」

 

りりはペギタンを勝手に連れていったことを謝ろうとしたが、その言葉を遮ってちゆがペギタンを差し出す。

 

「会いたいって聞かなくって♪」

 

ペギタンを手に取るりり。

 

「やあ! また会ったね、りりちゃん♪」

 

「かすみお姉さん・・・!?」

 

ちゆの横からかすみが姿を現し、りりはそれに驚く。

 

「言っただろ。絶対に会わせてあげるって」

 

かすみは微笑みながら言う。

 

「ねえ、ときどき遊びに来ても構わない?」

 

「わぁ・・・!!」

 

パァ・・・・・・!!

 

りりはちゆからそれを聞くと瞳を輝かせ、笑顔になった。りりはペギタンを抱きかかえると頬ずりし始めた。

 

「「ふふっ♪」」

 

ちゆとかすみはお互いに顔を見合わせて、笑みを浮かべる。

 

「「「ふふっ♪」」」

 

遠くでそれを見守っていたのどか、ひなた、アスミもお互いに笑みを浮かべる。

 

(りりちゃん、元気になってくれてよかったな・・・)

 

かすみは心の中でりりが元気になってくれたことに安堵の感情を抱く。しかし、それと同時になぜか名残惜しさを感じていた。

 

(でも、惜しいな・・・病気で蝕まれた姿を、見たかったような気がする・・・・・・)

 

「っ!?」

 

かすみはそこまで考えて目をハッと見開き、手に胸を当て始める。

 

(わ、私は・・・今、なんてことを、考えた・・・!!??)

 

かすみは自分の中に邪な感情が流れてきたことに、戸惑いを隠せない。今までだって、こんな考えをすることなんか一度もなかったのに、最近の自分はどうしてしまったのだろうか。

 

「? どうしたの? かすみ」

 

「い、いや、なんでもない・・・ちょっと、疲れたのかもしれない・・・先に家に戻ってるよ・・・」

 

「??」

 

かすみの様子がおかしいことに気づいたちゆが尋ねると、かすみは話そうとせずに適当な理由をつけてその場を離れていく。

 

「かすみちゃん?」

 

「かすみっち?」

 

「かすみさん?」

 

「・・・ふっ♪」

 

のどかたちが家から離れようとするかすみに疑問を覚えて声をかけるも、かすみは笑みを浮かべて見せた後、そのまま歩いて行ってしまった。

 

「どうしちゃったのかな?」

 

「わかんない・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

のどかとひなたはその様子を心配そうに見つめていたが、アスミは彼女の様子をなんとも言えない表情で見つめていた。

 

一方、かすみは・・・・・・。

 

「っ・・・」

 

のどかたちから見えなくなるところまで歩いて行った後、壁にもたれかかる。かすみはそこで手を再び胸に当てると、ギュッと握るように力を入れる。

 

(私は、一番考えちゃいけないことを考えてた。しかも、あいつらと似たようなことを・・・)

 

かすみは悔やんでいた。りりという少女の目の前で、邪な考えに至ったことに。彼女を蝕んでみたいと考えるなんて、まるでビョーゲンズのあいつらのようだと。

 

ーーーーアタシたちと同族の気配がするんだよ、お前からは。

 

ーーーー私たちと同族のあなたが何を言っているのですか?

 

ーーーー私たちと同族のお前が、守る必要なんかどこにもないの。

 

「っ!? 違う・・・違うッ!!!! 私があいつらなわけ、ない・・・!!!!」

 

三人娘が言い放った言葉が記憶として思い出され、それを拒絶するかのように頭を抱え、首を振って否定する。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・!!」

 

まるで毒のように精神を蝕み、それに伴って呼吸が乱れ、汗が吹き出してくる。そんなはずがない・・・私が、あいつらと同族なわけが・・・・・・!!!

 

ーーーーお前の居場所なんかどこにもないの。

 

ーーーー自分が普通じゃないってことに気づいてないんですか?

 

「うっ・・・うぅぅぅぅぅ!!! 違う!! 違う!!!!」

 

三人娘の言葉が心を乱す槍のように突き刺さってくる。その度にかすみは首を振って否定する。

 

・・・そうだ、楽しかった思い出を・・・のどかたちとの楽しい思い出を・・・!!

 

ドッグランで一緒に犬と戯れたこと、おおらか市の大自然で一緒に遊んだこと、のどかたちと一緒にジュースで乾杯したこと、ファミレスで一緒に興奮したこと・・・・・・。

 

それを思い出していくと、乱れた精神が少し緩和するような気がした。自分はあいつらなんかじゃない・・・私は私であると・・・!!

 

かすみは少しずつ精神を落ち着かせ、フラフラと歩きながらちゆの家である沢泉家と戻っていく。

 

「少しずつだけど、あいつはいい感じに成長してるわね」

 

その様子を家の屋根の上からクルシーナが見ていた。かすみーーーー脱走者はプリキュアたちのそばにいるおかげで確実に成長して行っており、おそらく何らかの変化を遂げているようだが、自分の中の何かに気づいておらず、それを否定して苦しんでいるようだ。

 

肉体的に苦しんでいないのがあれだが、精神的に苦しんで顔を歪めているのもまた格別ね。見てて面白い・・・・・・。

 

それはそうとして、そろそろ頃合いかもしれないわね・・・。

 

「ふふふ・・・♪」

 

クルシーナはその場から去っていくかすみを不敵な笑みを浮かべながら見送ると、その場から姿を消した・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギュイィィィィィン!!! ギュィィィィィィィィィィン!!!!!

 

『キャアァァァァァァァ!!!!』

 

『ぐわぁぁぁぁぁ!!!!』

 

「ひぃぃ・・・!!??」

 

三人娘がアジトとする廃病院、そこではキングビョーゲンの娘たちだけで鑑賞会が行われていた。クルシーナはどこかに行ってしまったので、現在はイタイノン、ドクルン、ヘバリーヌ、フーミンの4人で鑑賞を行っている。

 

今、映像に映っているのは、怪物のような顔をした大男がチェーンソーを振りかぶって男性を切り刻み、女性が悲鳴をあげているシーンである。

 

先ほどからビクビクしていたドクルンはそのシーンを見た瞬間に悲鳴を上げ、顔を青ざめさせる。

 

「キヒヒ・・・!!! チェーンソーでバラバラなの!! 体がミンチなの!!!」

 

イタイノンはそのシーンを見て大喜びし、あまりのリアルなシーンに興奮していた。

 

「あ〜あぁ〜、この男性キャラ死んじゃったね〜。あの女性を逃がそうとするなんて、カッコよかったんだけどなぁ〜」

 

ヘバリーヌはある意味好みであった男性が殺されたことに、名残惜しそうにしていた。

 

「んぅ・・・うるさいですぅ・・・騒ぐせいで眠れないですぅ・・・」

 

脱走者との戦いでエネルギー切れのフーミンは、目を擦りながらそう呟く。

 

「ん? ドクルンお姉ちゃん、どうしたの? 膝なんか抱えちゃって」

 

ヘバリーヌが悲鳴以来、ずっと黙っているドクルンを見ると、彼女は膝を抱えて俯いていた。

 

「ありえない・・・ありえないわ・・・!! あんな怪物、この世に存在するわけがない・・・!! あの顔はメイク、そうメイクよ・・・ああやって服の赤い跡だって、絵の具をやっているからに違いない・・・男性をチェーンソーで切り刻むのだって、悪党を罰しているからよ・・・ハハハ、ハハハハハハハ・・・!!!!」

 

ドクルンは恐怖のあまりなのか、顔を青ざめさせながらブツブツと何かを呟いており、さらには笑っていて気が動転しているようだった。

 

「ドクルン、うるさいの!!!!」

 

イタイノンはブツブツとうるさいドクルンに黙るように叫ぶ。

 

「あれ〜? この女性の仲間ってもう一人いたよね〜? どこに行っちゃったのかなぁ?」

 

「ぃっ!?」

 

ヘバリーヌは女性の仲間が現れないことに、考え込むかのように疑問を抱いていた。その声に反応したドクルンが急に立ち上がる。

 

「お化けに連れ去られたなんて絶対にウソ!!!! この世に存在しないし、あんな化け物いるわけ無いわ!!! あぁぁぁ・・・非科学的〜・・・」

 

ドクルンは恐怖をごまかすように叫び声を上げると、そのままフラついてひっくり返ってしまった。

 

「ドクルンお姉様ぁ・・・?」

 

「はぁ・・・・・・」

 

フーミンはドクルンが倒れたことに疑問を呟く。イタイノンは振り向いてドクルンのそんな様子を見て、やれやれと首を振りながらため息を吐いていた。

 

「ネムレン、ヘバリーヌ」

 

「ネム?」

 

「なぁ〜に?」

 

「ドクルンを部屋まで運んでやるの」

 

「わかったネム」

 

「はーい!」

 

ネムレンはカチューシャから茶髪の三つ編みツインテールの、メガネをかけた人間の姿へと変化するとヘバリーヌと一緒に担架をドクルンの側へと持ってくる。そして、卒倒した彼女を二人で担いで担架に乗せるとそのまま二人で運びながら、ドクルンの部屋へと向かって行った。

 

「ふぅ・・・・・・」

 

イタイノンはその姿を見届けると、呆れたように声を漏らしながらテレビへと視線を戻す。

 

『キャアァァァァァァァァ!!!!!!』

 

ギュィィィィィィィィン!!!!!!

 

車に乗って逃げようとした女性の背後から、男がシートごとチェーンソーで貫くシーンを真剣に見つめる。

 

「ドクルンも、こんなのが怖いなんてビョーゲンズとして恥ずかしいの」

 

この廃病院には、ビョーゲンキングダムには、怪物よりも恐ろしい存在がいるというのに・・・・・・。

 

イタイノンは先ほどのドクルンの反応に呆れながら、残りの映画を見ようと思うのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第78話「秘密」

原作第26話がベースです。
この話は総集編的な話ですが、一部のビョーゲンズも登場します。



 

夏休みのある日、のどかたちはみんなで遠くに出かけようとバスに乗って、すこやか市から離れていたバス停へと到着していた。

 

「ひなたちゃん、まだかなぁ〜?」

 

メンバーは揃っていたのだが、ひなただけはまだ来ていなかった。

 

「ここに現地集合だって自分から言ったのに、本人が来てないってどうなんだ?」

 

かすみは険しい顔をしながら、ひなたがいないことに不満を漏らしていた。

 

「寝坊してるのかしら? ちょっと電話してみる?」

 

ちゆはそう言いながら、持っている携帯で電話をかけようとした。その時だった・・・。

 

「わぁ〜!!!!!」

 

「「「「!!??」」」」

 

「「??」」

 

バス停の陰に隠れていたひなたとニャトランが背後から大きな声を出し、のどかたちは声を上げた。

 

「もぉ〜! ひなた!! ニャトラン!!」

 

「びっくりしたラビ・・・!!」

 

「えへへ〜、サプライズ、サプライズ〜♪」

 

みんなは驚いた様子で、ひなたのサプライズは成功した。

 

「まあ、お二人とも遅かったですね」

 

「遅いぞ、ひなた。みんな、キミを待ってたんだぞ・・・!」

 

と思いきや・・・アスミは表情がまるで変わっておらず普通に接し、かすみはひなたが来るのを知っていたかのように不満を言うだけであった。

 

「あれ? なんで、アスミンとかすみっち、驚かないの〜!?」

 

「驚きましたよ?」

 

「全然わかんないし〜!」

 

アスミは笑顔でそう答え、戸惑うひなたは腕を振りながらツッコミを入れる。

 

「キミのいたずらなんか何度も見てるんだから驚くもんか。気配が丸出しだったぞ」

 

「かすみっち〜! そんな特殊能力は使わなくていいんだよぉ〜!!!」

 

「気配は能力じゃない!! 体質だ!」

 

かすみが不満そうな表情で冷たくあしらうと、二人はギャーギャーと喚き始める。

 

「のどかたちぐらいびっくりしてくれないと、脅かし甲斐がないんだよなぁ〜」

 

二人にだけ脅かしが不発に終わったことで、ニャトランはつまんなそうな様子でそう言った。

 

「そうなのですね。私もそれくらいビックリしてみたいですね〜」

 

「できるものならやってほしいもんだな」

 

アスミは微笑みながら答え、かすみはそっぽを向いたような態度で言った。のどかたちはキョトンとした表情で、二人を見ていた。

 

「ん? ふふふ・・・♪」

 

一方、ひなたは何かを思いついたのか、ニヤリと笑みを浮かべ、のどかたちと顔を合わせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビョーゲンキングダムーーーーマグマに満たされていることで、そこは真っ赤な景色が広がっている世界。

 

そこではクルシーナが一人邪魔されることなく寝そべり、フーミンが壁に寄りかかりながら眠りについていた。

 

「はぁ・・・やることない暇人ってこういうことを言うのかねぇ・・・」

 

クルシーナは答えもしない空に向かって、こんなことを呟いていた。

 

「すぅ・・・すぅ・・・」

 

「新入りはのんびり寝てるし・・・」

 

横になって眠っているフーミンに視線を向けると、淡々とした口調で言う。

 

「んぅ・・・すぅ・・・」

 

「・・・いや、眠ってんのか起きてんのかわかんないやつだったわね」

 

フーミンがコクリコクリとしている中、一瞬だけ目を開いて目を閉じる姿にクルシーナは呆れたように見る。

 

「・・・とりあえず、こいつを引っ張り回しましょうかね。新入りの教育も必要だしね」

 

クルシーナはそう言って起き上がると、フーミンへと近づく。

 

「フーミン、起きて」

 

目を瞑っているフーミンの頬をペチペチと叩く。すると浅い眠りだったようで、フーミンが顔を顰め始める。

 

「んぅ・・・クルシーナお姉様ぁ・・・?」

 

「ちょっとアタシに付き合ってくれない? アンタにいろいろと教えたいこともあるし」

 

「??」

 

フーミンは眠たそうな目を擦りながら言うと、クルシーナが笑みを浮かべながらそう言った。

 

「んぅ・・・・・・」

 

しかし、話を聞けているかどうかもわからないフーミンはコクっと顔を前に倒して、寝ようとしていた。

 

「っ・・・おーきーろー!!!!」

 

「うぅ・・・あぁ・・・んぅ〜・・・」

 

クルシーナはそれを見て顔を顰めると両手で頬を強く、リズムカルに叩き始める。フーミンは可愛い呻き声をあげると、再び目を開けて目を擦りながらも立ち上がる。

 

そして、懐からドクルンからもらった水筒を出すと、その中にあるハーブティーを飲み干す。

 

「んっ!!??」

 

体の中をチクチクとさせる刺激物がフーミンの体中に回り、まるで悪寒のように体全体がビクッとなり、フーミンの目が見開かれる。

 

「目が覚めたですぅ・・・」

 

「あっそ。ならアタシについてきな」

 

クルシーナは呆れた様子で淡々と呟くと、フーミンに背を向けて歩き始める。フーミンもその背後をついていく。

 

「アンタ、プリキュア共がいるあの街についてよくわかってないでしょ? アタシが案内してあげようと思ってね」

 

「はぁ・・・・・・」

 

「ついでに地球を蝕んでやろうと思うの」

 

「ふぅ・・・・・・」

 

「・・・って、聞いてんの? アンタ」

 

フーミンはどこ吹く風のように適当な返事をし、説明しているクルシーナは不機嫌そうな口調になる。

 

「聞いてますよぉ・・・?」

 

「随分と興味のなさそうな反応ね。まあ、いいけど・・・」

 

どこか腑に落ちないような反応をしつつも、クルシーナはフーミンと共に地球へと向かっていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜・・・気持ちいいなぁ〜・・・」

 

沢泉家では、かすみが一人温泉へと浸かっていた。

 

さっきまではちゆの母、まおのお手伝いをしていて、それが終わった後に日頃の疲れを癒そうと入っているのである。

 

「それにしても・・・ちゆ、一体どこに行ったんだ・・・?」

 

かすみは家を後にしたちゆの行動に疑念を抱いていた。いつもなら自分を誘ってくれるのに、今日に限っては違う行動を取るなんて・・・・・・。

 

それは、数分前のこと・・・・・・。

 

『ちゆ、出かけるのか・・・?』

 

『ええ、ちょっと用事をね。外におつかいに行ってくるだけだから』

 

ちゆはそう伝えると、かすみは何か困っているのだろうと考える。

 

『なら、私も一緒にーーーー』

 

『だ、大丈夫よ!! 一人でもいけるから。かすみは家で大人しく留守番してて』

 

『だが・・・・・・』

 

『ほ、本当に大丈夫だから!! ありがとう、その言葉だけでも嬉しいわ』

 

かすみは自分がついていこうとすると、なぜかちゆの言動がおかしくなり、かすみは首を傾げる。

 

かすみは追求しようとしたが、ちゆは押し切った上でそのまま家を後にしてしまったのである。気のせいだと思うが、何やら心に焦りがあったような気がする。

 

「・・・何か怪しいな。ちゆは私に隠しごとをしているのか?」

 

温泉から出たかすみはシャンプーで頭をゴシゴシとしながら考える。

 

・・・友達なのに、隠し事? 何か言いたくないことでもあるのだろうか?

 

かすみはそんな風に少しネガティブに考えてしまったが、ちゆが言えない恥ずかしいことがあるなら仕方がないと考えた。

 

かすみはシャンプーを洗い流すと、再び温泉に浸かり始める。

 

「でも、気になるなぁ・・・聞いちゃダメなんだろうけど、なぜか隠されると尚更聞きたくなってしまう・・・」

 

かすみは聞かれたくないことを理解しつつも、どうしても気になるというジレンマから頭がモヤモヤしてしまう。

 

ピィピィッ!! ピピピ!!

 

「!!」

 

そこへ鳥の鳴き声が聞こえてきて、そちらに振り向くと一羽の小鳥が塀の上に止まっているのが見えた。

 

あれはこの辺の公園でも見かけるヒヨドリだろうか。その小鳥はかすみの方をじっと伺うように見ている。

 

「おいで。一緒に温泉に入らないか?」

 

かすみはそう言いながら小鳥に手を差し伸べるかのように前に出す。

 

ピピピッ!!

 

小鳥は特に警戒することなく、鳴きながらこちらへと飛んできた。かすみは自分の指で止まり木のように一本だけ伸ばしてあげると、ヒヨドリはその指に止まってきた。

 

ピピピッ

 

「ふふっ♪」

 

かすみは指に止まった小鳥を慎重に撫でてあげると、笑みをこぼす。

 

「なあ、聞いてくれないか。ちゆったら、私に何か言えないことがあるらしいんだ。何だと思う?」

 

答えてくれるとは思えない小鳥の頭を撫でながら、かすみはそう問う。温泉に入って癒されていても、こうして動物と戯れていても、やっぱり気になって仕方がない。

 

ピィピィ!

 

まるで質問に答えてあげているかのように小鳥はかすみに向かって鳴き出す。それを見てかすみはきょとんとしたような表情になりつつも、再び微笑む。

 

「ふふっ・・・そうだよな。自分で聞かないと、わからないよな」

 

かすみはまるで小鳥の考えを読んだかのように納得した。小鳥に聞いてもわからない、だったら自分で聞かないといけないなと。

 

ピピピッ!!

 

「あ・・・」

 

小鳥はかすみの指から離れるように青い空へと飛び去っていく。かすみはその様子を見て笑みを浮かべる。

 

「よし! じゃあ、ちゆを探さないとな」

 

かすみは温泉から出ると脱衣所へと戻っていく。温泉に浸かって濡れた髪や体をバスタオルで拭いていく。

 

「そういえば、昨日ひなたが何か企んでいるような顔をしていたな。ちゆの行動と関係あるのかな」

 

かすみは昨日出かけた際のひなたの顔を思い出しながら、脱衣所で脱いだ自分の服、袖無しの白いシャツを羽織り、アスコットタイを着ける。ベルトがついた赤いスカートを履き、足紐がついた黒いストッキングを履き込むと、頭に黒いリボンを身につける。

 

そして籠手と赤い手袋を身につけると、脱衣所を後にし、外へ出るために玄関へ。

 

「お母さん、ちょっと出かけてくる!」

 

「いってらっしゃい!!」

 

かすみは受付の中にいるであろう、まおに声をかけて、黒いブーツを履く。

 

「あ・・・・・・」

 

ここでかすみはちゆの言っていた言葉を思い出す。

 

ーーーー家で大人しく留守番してて。

 

「・・・まあ、気になって仕方がないし、家にいたってやることもないし、そんなことをしていられないな」

 

かすみはそう自分に言い聞かせ、沢泉家を出ていった。

 

「ちゆ・・・どこにいったのかな?」

 

かすみはちゆがどこにいったのかは見当もついていないため、とりあえずはキョロキョロと歩き回りながら探していた。

 

「こういう場合、どこに行けばいいんだ・・・?」

 

かすみは場所を知っている人に尋ねればいいと思うが、正直町の人とはあまり会話したことがないため、誰を尋ねればいいのか・・・・・・。

 

「そうだ! のどかに聞いてみよう!」

 

と、ここでかすみはのどかに会うことを思いつく。ちゆはのどかの友達で、自分にとっても友達だ。3人はいつも揃っているし、彼女の居場所を知っているはず。

 

早速、のどかの家に向かうことにした。

 

以前、ちゆに教えられた道を通って、のどかの家にたどり着き、自宅のインターホンを押す。

 

ピンポーン♪

 

「はーい」

 

インターホンを鳴らした後、しばらくするとのどかが玄関のドアを開けてきた。

 

「あ、かすみちゃん」

 

「のどか、おはよう。遊び来ちゃった♪」

 

かすみはのどかに挨拶し、笑顔を見せる。

 

家の中へと通されたかすみは、のどかと一緒に彼女の自宅の庭へと出て来る。

 

「えへへ〜♪」

 

庭ではラビリンで、植木鉢に植えた何かに水をあげている様子だった。

 

「おはよう、ラビリン♪」

 

「かすみ、おはようラビ!!」

 

かすみが近づいて声をかけると、ラビリンがそれに気づいて挨拶をかわす。

 

「かすみさん、いらしていたんですね。おはようございます♪」

 

「アスミ、おはよう♪ ちゆの家にいるのが暇だから、遊びにきたよ♪」

 

そこへアスミが家から出てきたのを見て、かすみが挨拶をする。

 

「えへへ〜♪」

 

「ラビリンはさっきから何をやっているんだ?」

 

「朝顔に水をあげているラビ〜♪」

 

「のどかも何かをやっていますが、何をしているのですか?」

 

「学校の宿題♪ 朝顔の観察日記を書いているんだよ〜」

 

かすみやアスミが二人の行動に疑問を覚えると、それぞれが答える。のどかは朝顔の観察日記をノートにつけており、アスミとかすみがそのノートを見る。

 

「朝顔の成長を毎日観察して、その様子を記録するの」

 

のどかは日記をめくりながら、観察日記を二人に見せてあげる。

 

「成長の記録ですか・・・・・・」

 

「花は咲いていないけど、種はあるみたいだな・・・」

 

「最初に蒔いた朝顔はもう枯れちゃったけど、種が取れるようになったラビ♪」

 

アスミとかすみが観察している花の様子を見てみると、花は咲いていないようだが、種になっていることから順調に成長はしていっている様子。

 

「朝顔の成長は早いですね」

 

「本当、月日が経つのはあっという間ラビ♪」

 

「そっかぁ〜、私たちが出会って随分経つんだね〜」

 

月日という言葉を聞いて、ここでかすみが気になることを聞いてきた。

 

「そういえば、のどかとラビリンはどうやって出会ったんだ?」

 

かすみはのどかにそう尋ねた。ラビリンはヒーリングアニマルで、のどかは人間、この二人は住む世界も違うはずだ。なのに、どのようにして出会ったのか。前々からかすみは知りたかった。

 

「私がここに引っ越してきたばかりの頃だったなぁ。この街を散歩しようといろんな場所に行って、そこでメガビョーゲンが現れて、私がなんとかしなくちゃって思ったんだ。そしたら、ワンちゃんが取り残されてるって聞いて、そこにいたのがラビリンたちだったの」

 

のどかはラビリンと出会ったばかりのことを話し始める。

 

「のどかが最初にプリキュアになったのですよね? ラビリンはどうしてのどかを選んだのですか?」

 

「それはーーーー」

 

アスミに尋ねられ、ラビリンが答えようとすると・・・・・・。

 

「あ・・・私、そろそろ行かないと・・・」

 

「おでかけですか?」

 

「うん、ちょっと学校に用事があって・・・」

 

のどかが突然そう言うと、かすみは外に出ていた目的を思い出す。

 

「あ、そうだ・・・!! のどかぁ!!」

 

「ごめんね! 早く行かないと遅れちゃうから・・・」

 

かすみはちゆの居場所を尋ねようとしたが、のどかはぎこちない様子で謝罪する。

 

「それじゃあ、行ってきま〜す」

 

「あ・・・のどか!!」

 

のどかはアスミとかすみ、ラビリンを残してその場を後にしていく。かすみはのどかが話を聞いてくれず、アスミはそれが気になってついて行こうとするが、ラビリンに阻まれてしまう。

 

「のどかのことは気にしなくていいラビ!!」

 

「でも、のどかにーーーー」

 

「話の続きラビ!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

(ラビリン、何を隠してるんだ・・・? のどかも私も話を聞いてくれないし・・・)

 

ラビリンは先ほどの話の続きをしようと話し始め、腑に落ちないかすみはのどかやラビリンを怪しみつつも、とりあえずはラビリンの話を聞こうとする。

 

「のどかたちとの出会いは、ラビリンたちが人間界に出た時ラビ。ラビリンは、のどかの言葉で心の肉球がキュンとして、ヒーリングステッキが生まれたラビ」

 

ラビリンはそう言うと、初めてのどかと一緒にプリキュアに変身したときのことを思い出す。

 

「そして、プリキュアに変身して、一緒にメガビョーゲンを浄化したラビ!」

 

「そうか・・・ラビリンはいいパートナーを見つけたってことなんだな。その、心の肉球がキュンと来て・・・」

 

「そうラビ!! のどかはいつも一生懸命で優しいラビ!!」

 

ラビリンは自慢のパートナーであるような感じの笑顔で話す。

 

「私もそう思います」

 

「そうだな、のどかはいつも誰に対しても親切だもんな」

 

アスミとかすみは笑みを浮かべながら、それぞれそう言った。

 

「・・・さてと、ラビリンは出かけるから、アスミはラテ様とお留守番をお願いラビ。かすみもここで大人しくしているラビ」

 

「えっ、なんで私もーーーー」

 

ラビリンの言葉に納得がいかないかすみは言い返そうとしたが・・・・・・。

 

「絶対に家にいるラビよ・・・?」

 

「う・・・あ・・・うん・・・」

 

かすみに顔を近づけて、ものすごい剣幕で念を押すように言うラビリンにかすみはたじろいで頷くしかなかった。

 

ラビリンはそのままどこかへ飛び去って行ってしまったのであった。

 

「のどか・・・ラビリン・・・」

 

かすみは出て行った二人が何か隠していることが腑に落ちず、不安そうな表情になる。

 

「皆さん、今日はお忙しいのですね。私たちは何をしましょうか?」

 

アスミはそう呟いて、ラテの方を見る。そして、先ほどまでのどかが日記をつけていた朝顔の方を見る。

 

「あ!そうだ!」

 

「ワウン?」

 

「ど、どうした・・・アスミ・・・!?」

 

大きな声を出すアスミに、かすみもびっくりして振り返る。

 

「私も、ラテの成長日記を作ります。となると・・・私の生まれる前の出来事について、ちゆたちに話を聞かないといけませんね」

 

「・・・そうだな。私ものどかやちゆたちが、どうやって出会ったのか、何をしていたのか気になる・・・さっきのラビリンの話で興味が湧いた・・・」

 

アスミの言葉にかすみは不安げな顔をしつつも、苦笑しながらもっとのどかたちの出来事を知りたいと思う。

 

「!?・・・っ!!」

 

それを見ていたラテは、何かまずいものを見るかのような顔をすると二人から離れて何かを持ってくる。

 

「「??」」

 

「ワン、ワン♪」

 

ラテが二人の前に持って来たのは鈴のついたおもちゃだった。どうやら二人にここで遊んでもらいたいと考えているようだが・・・・・・。

 

「これで遊びたいのですか? ではお散歩がてら、これを持ってみなさんに会いに行きましょう」

 

「このおもちゃだったら、外に行っても遊べるし、みんなと遊んだほうが楽しいしな♪」

 

「はい♪」

 

「・・・クゥ〜ン」

 

アスミはおもちゃを持って、ラテを抱えるとのどかの家を出発。かすみも一緒にいる方が効率よく見つけられると思い、一緒に同行。

 

しかし、ラテの表情はどこか浮かない顔をしていたのであった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな頃、ハート形の灯台の上で、クルシーナとフーミンが姿を現していた。

 

「ここがあいつらの住んでいる街の全景よ」

 

「んぅ・・・随分と小さいですぅ・・・」

 

クルシーナは案内をするかのように灯台から見える全景を見せ、フーミンはそれをきょとんとしたような表情で見ていた。

 

「アタシも最初に出撃したときは驚いたわ。こんな小さな街ごときが、アタシたちにとって不快のある感じがするとは思わなかったしね」

 

「でも、お姉さまはよくこの街を蝕もうとしてるですぅ・・・」

 

「当たり前じゃない。この街は地球上で一番蝕みがいのある場所だからねぇ」

 

クルシーナは当たり前のような感じで言う。

 

自然豊かな森・・・きれいな川・・・元気に遊ぶ子供たち・・・この街に澄み渡る快適な空気・・・。

 

その全てにおいて、自分たちビョーゲンズが気に入らない要素のオンパレードだ。だからこそ、この街は蝕みがいがあるのだ。

 

「さてと、じゃあ街に降りてみようかしら」

 

「はいですぅ・・・・・・」

 

クルシーナとフーミンはその場から姿を消すと、すこやか市の商店街があるエリアへと入って来た。

 

二人はその場で指を鳴らして、自分の肌を人間と同じような肌色に、悪魔のツノとサソリの尻尾を隠して、人間に擬態することを忘れない。

 

変身が完了した後、クルシーナは辺りをキョロキョロと見渡すも、お店は開いている気配がなく、それどころかあまり人が歩いている気配を感じない。

 

「そういえば、今は夏休みだっけ」

 

「夏休みぃ・・・?」

 

「ええ。人間どものこのクソ暑い日のお休みのことよ。そういうところでよく浮かれたりするのよねぇ」

 

フーミンに夏休みの意味を適当に教えると、クルシーナは適当にブラブラと歩き始める。

 

「おまんじゅうのお店、開いてるウツ?」

 

「後にしろ。今はこいつを引っ張り回してんだから」

 

帽子になっているウツバットは、どうやらすこやかまんじゅうのお店に行きたいようだが、クルシーナは不機嫌そうな口調で素っ気なく返した。

 

「足湯・・・お土産ショップ・・・個性的なものが多いですぅ・・・」

 

「人間どものセンスがわからないくらいにねぇ。最初にきたときは驚いたわ」

 

フーミンはきょろきょろしながら建物に書かれている文字を興味深そうに読む。一方のクルシーナは肩をすくめながら、つまらなそうに返した。

 

「ウツバットの言っている、まんじゅうのお店ってなんのことですかぁ・・・?」

 

「ん? あぁ、すこやかまんじゅうのこと?」

 

フーミンが珍しく質問をしてきたので、クルシーナはあのことだろうと察する。

 

「あれは人間どもの作ったものにしては、よくできてるものだったわね。この前、あいつらにも振る舞ったら、喜んで食べてたわね」

 

「ここで妙なお祭りがやっていたときに、それを食べてハマったウツ♪」

 

クルシーナとウツバットは、妙なお祭りーーーーすこやかフェスティバルに潜入して、すこやかまんじゅうを食べた時のことを思い返す。

 

『・・・ふーん』

 

『いらっしゃい、お嬢ちゃん! すこやかまんじゅう、どうだい!?』

 

『これって、何でできてんの?』

 

『おお、興味があるのかい? このすこやか市の名物である、すこやかまんじゅうはなぁ、6種類の野菜を使っててねぇ。イチゴにカボチャに、コマツナに、どれも美味しくて体にいいんだ!』

 

『ふーん・・・』

 

『僕も食べたいウツ~!!』

 

『変な声が聞こえたな・・・?』

 

『気のせいでしょ。それよりも、そのすこやかまんじゅうとやらを頂戴。全種類4個ずつね』

 

『まいど!!』

 

『!! ん~!! 美味しい~!! 最高ね♥』

 

『ほっぺたが落ちそうウツ~!!』

 

あそこで食べた饅頭は妙に美味しかった。人間の作ったものにしては最高だった。

 

「んぅ・・・私も食べてみたいですぅ・・・」

 

「あっそう? じゃあ、あそこに行ってみようかしらね」

 

フーミンがすこやかまんじゅうに興味を示したため、それを気に入ったクルシーナは彼女と一緒にすこやかまんじゅうを作っているお店に行くことに。

 

人間界の夏休みでありながら、そのお店は開いていたため、クルシーナはすこやかまんじゅうをすんなりと買うことができた。

 

「あ〜む・・・ほぉ・・・!!??」

 

パァ・・・・・・!!!!

 

フーミンはすこやかまんじゅうの包みを剥がして、一口かじってみる。すると、口の中に甘さとうまさが伝わってくるのを感じ、フーミンの表情が嬉しさで紅潮していく。

 

「んむ、んむ、美味しいですぅ・・・」

 

「ねぇ? あいつの作ったものにしては、マシな方でしょ? あむ・・・んぅ〜♪」

 

パクパクと摘んでいくフーミンをよそに、クルシーナはそう言いながらすこやかまんじゅうを一個食べるのであった。

 

「僕も欲しいウツ!!」

 

「はいはい、わかってるわよ」

 

帽子のウツバットが駄々をこね始めたので、クルシーナは苛立ちつつも、まんじゅうの包みを剥がすとウツバットの口の中に放り込む。

 

すると・・・・・・。

 

「すこ中ー、ファイ!」

 

「オー!」

 

「ファイ!」

 

「オー!」

 

「??」

 

何やら掛け声が聞こえてきたかと思うと、生徒らしき隊列が走っていくのが見えた。

 

「あら。あそこの中学校の奴らかしらね」

 

「あのジャージ姿は間違いないウツ」

 

「人間たち、なんで隊列で走ってるですぅ・・・?」

 

フーミンは生徒たちが走っている理由が理解できないので、クルシーナに問う。

 

「部活の練習、って奴らしいわよ。元気すぎて、本当に静かにさせたくなるくらいな・・・!!」

 

クルシーナはフーミンに説明をしようとすると、あの時のことを思い出して説明を止め、目を見開く。

 

「・・・そうだ。あそこにも行ってみようかしら」

 

「どこですかぁ・・・?」

 

「プリキュアどもが通っている中学校よ」

 

疑問を持つフーミンに、クルシーナは不敵な笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はとてもいい天気ですね」

 

「そうだな。こんな日だと外で遊びたくなってしまうな」

 

アスミとかすみはのどかの家を出て、両脇に木々が生い茂る道へと歩いていた。

 

「ん?」

 

「あれは、なんだ・・・?」

 

すると、二人の目の前を一本の竹が通り過ぎようとしていた。竹はなぜか飛ぶように浮いていて、まるで生き物のようだ。

 

アスミとかすみはそれを見て、互いに目を見合わせるとアスミはその竹を掴んで上へと引っ張り上げる。

 

「ぺェェェェェェ〜!?」

 

「ペギタン?」

 

竹の中にいたのはなぜか頭にねじり鉢巻をしているペギタンだった。

 

「こんなところで何をしているのですか?」

 

「た、竹を運んでいただけで特に怪しいことは何も・・・!!!」

 

「なんで竹を運んでいたんだ・・・?」

 

「そ、それは・・・あ、ラテ様。今日は晴れてよかったペエ」

 

「・・・・・・??」

 

どこかぎこちない様子のペギタンに、ラテへの挨拶で誤魔化されたかすみは疑念の目を向けていた。

 

と、そこへアスミが腰を屈めてペギタンと同じ位置で目線を合わせた。

 

「あの、ペギタン。ちゆとの出会いについて教えていただけますか?」

 

「あ、それは私も気になるな」

 

「どうしてペエ?」

 

「ラテの成長日記を作るのです。今までのご様子を綴って、いつかテアティーヌにお見せしようと思いました」

 

きょとんとしていたペギタンに、アスミがそう説明する。

 

「それはテアティーヌ様も喜ぶペエ♪ 僕も協力するペエ♪」

 

「よろしくお願い致します・・・!!」

 

アスミは興味津々で手帳を取り出すと、ペギタンの話を聞こうと耳を貸す。

 

「初めて人間界に来た時、僕は自信がなくて、パートナーもうまく探せなかったペエ・・・そんな時・・・僕に勇気を与えてくれたのがちゆだったペエ」

 

「ちゆは、自分からプリキュアになったんだ・・・」

 

ペギタンの話を聞くと、かすみはちゆが自分の意思でプリキュアになってお手当をしようとしたと思い、感嘆の声を漏らす。

 

「僕は最初は自分の力不足で、ちゆを危険に晒すかもしれなかったからパートナーにできなかったペエ・・・でも、ちゆが僕に自信を、いや二人で一緒にやればきっとできると思ったペエ。そんなちゆに心の肉球がキュンと来たペエ」

 

「ちゆが勇気を与えてくれたんだな・・・やっぱりちゆは、優しいな・・・」

 

ペギタンの話を聞くたびに、ちゆの優しさにかすみは微笑んでいく。

 

「ちゆはいつでもどこでもカッコいいペエ〜♪」

 

ペギタンは頬に手を当てながら顔を赤らめながら、思いを馳せていた。

 

「ありがとうございました」

 

「って、ちゆの話をしてたら思い出した!! ちゆに会わないといけなかったんだ!! アスミ、行こう!!」

 

「ええ、ちゆにもお話を聞きたかったですし」

 

かすみはハッと思い出して、アスミに声をかけて向かおうとしたが・・・・・・。

 

「え!? ちゆのところに行くペエ!? 今日はダメペエ!!!!」

 

「なんでだ!? 私はちゆにいろいろと聞きたいことがあるのに・・・!!」

 

「と、とにかくダメペエ!!」

 

「なんで会っちゃいけないんだ!!?? あっ、ペギタン、もしかして私に何か隠してるだろ・・・??」

 

「うっ・・・!!」

 

ペギタンがなぜかそれを必死に止めようとしていて、かすみはムキになるが、逆に何かを隠しているんじゃないかと怪しむような目で見つめる。

 

「と、とにかく話を聞くなら、ひなたの家に行くといいペエ!!」

 

「そうですか・・・」

 

「アスミ、何を納得してるんだ!? 私の話はまだ終わってないんだぞ・・・!!」

 

ペギタンは誤魔化そうとしてそう言うと、アスミは納得し、かすみは苛立ったような感じで叫ぶ。

 

「まあまあ、かすみさん。ペギタンがそう言っていますし、ひなたの家に行きましょう」

 

「だが・・・!」

 

「かすみさんが怒ったら、私は悲しいです・・・!」

 

アスミが優しく説得しても、かすみは食い下がろうとしたが、アスミは悲しそうに彼女を見つめる。

 

かすみはアスミが悲しい気持ちになると消えかかったような感じになるのを思い出し、振り上げていた手を下ろす。

 

「・・・わかった。すまなかったな」

 

かすみは納得していない表情だったが、謝罪の言葉を述べる。アスミも手帳をしまうとペギタンに頭を下げ、二人はひなたの家に行くために歩き始めた。

 

それを見送ったペギタンは・・・・・・。

 

「ペエ・・・今日のかすみ、なんだか怖かったペエ・・・」

 

ペギタンはその場で息をつく。今日のかすみはなんだか機嫌が悪そうだった。その前にはのどかの家にいることを知っていて、さっき聞いてきたことを答えなかったからだろう。

 

(ごめんペエ・・・かすみ・・・)

 

ペギタンは心の中でかすみに謝罪すると、その場から何処かへと飛んで行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか今日、みんな冷たいな・・・・・・」

 

「そうでしょうか・・・?」

 

「だって、ちゆのところに行くなって普通は言わないだろ? 今日に限って、そんなことを言うなんて・・・みんなおかしいよ・・・」

 

「きっと事情があるのですよ」

 

かすみがアスミに不満をぶちまけつつも、二人はひなたの家に向かって歩いていく。

 

そして、家の近くまで着いた時・・・・・・。

 

「んじゃ、よろしく〜!」

 

ひなたが家から出て走っていくのが見えた。

 

「あ、ひなた・・・!!!」

 

「遅刻遅刻〜!!」

 

かすみはひなたに声をかけようとしたが、彼女はそれに気づかずに走って行ってしまった。

 

そこへニャトランが見送るために、道沿いへと出てきた。側にいたアスミとかすみの姿に気づかずに・・・・・・。

 

「ニャトラン?」

 

「あれ!? アスミ!?」

 

「なんでひなたは走って行ったんだ・・・?」

 

「おい、かすみもかよ!?」

 

アスミが声をかけると、ニャトランは二人の存在にようやく気づいた。

 

「今日のひなたは忙しそうですね・・・」

 

「そ・・・そうそう〜・・・」

 

「なぜ忙しいんだ? 昨日まで遊んでたじゃないか・・・」

 

「あ・・・あいつはいっつもバタバタしてるからさあ・・・!!」

 

「だから、なぜ・・・」

 

さっきのペギタン同様に、ぎこちない様子のニャトランにかすみはやはり疑念を抱く。

 

「出会った時から、忙しいのですか?」

 

アスミの言葉にニャトランはきょとんとした様な顔になる。

 

「出会った時・・・? そうだなぁ〜、えへへ♪ あん時もバタついてたなぁ〜!」

 

ニャトランはひなたがバス停で忘れ物をしていた時のことを思い出していた。

 

「俺がしゃべる猫だって素直に受け入れてさあ〜、プリキュアを初めて見た時だって、あんな状況ではしゃぐんだもんなぁ〜」

 

ひなたがうっかり喋ってしまった自分をあっさりと受け入れ、プリキュアを見たときも怪物が暴れている状況で目をキラキラとさせるという、忘れられないあの反応も思い返す。

 

「そんなひなただったからこそ、俺は組みたいって思ったんだぁ・・・」

 

そして、一緒にプリキュアをやって、一緒に戦い、メガビョーゲンを浄化した。この時、そう思った、自分たちは最高のパートナーであると。

 

「ひなたってゆるいところがあるけどぉ、そこがノリ良くていいんだよなぁ〜」

 

「ひなたは私たちが生まれる前から、ずっと変わってない気がするな」

 

「ええ、そうかもしれませんね」

 

アスミとかすみは、ニャトランの話を聞いて、お互いにそう言い笑みを見せる。

 

「まあ、この俺がついてりゃ・・・って!! 話し込んでる場合じゃなかった!! そんじゃ、またニャ〜!!」

 

ニャトランはなぜか話を途中で打ち切って、そのまま急いでどこかへと飛んで行ってしまった。

 

「ああ!? ニャトラン!!!」

 

かすみはちゆの場所を聞こうと引き止めようとしたが、ニャトランはそのまま行ってしまった。

 

「二人は似た者同士ですね♪」

 

「あぁ・・・」

 

アスミは微笑みながら見送ったが、かすみは手を伸ばして切なそうに見つめていた。

 

二人はそのままクリニックがある敷地内へと入っていく。

 

「それにしても・・・今日はなんだか皆さん、お忙しそうですね・・・」

 

「絶対、何か隠してるな・・・さっきのペギタンとニャトランの話がやけにぎこちなかったし・・・」

 

「まあ、ラテ少し休憩しましょうか。かすみさんも・・・」

 

「むぅ・・・・・・」

 

かすみは二人の言動を怪しんでいて、何かこそこそやっていると睨んでいたが、アスミに諭されて納得が行かない顔をする。

 

グゥ〜!!

 

「っ!?・・・っ」

 

その時、かすみのお腹から音が鳴り、彼女は顔を赤く染める。

 

二人で敷地内のワゴンの近くにあるテラスで休憩をすることにした。

 

「はい、どうぞ♪」

 

「ありがとうございます」

 

「かすみちゃんには、これね♪」

 

「ありがとう」

 

注文したジュースとパンケーキを持ってきてくれたひなたの姉・めいに、アスミとかすみはお礼を言った。

 

「ゆっくりしていってね。さ〜て! 今日は忙しいぞ〜!!」

 

「っ!!」

 

「めいさんもお忙しそうですね・・・今日は何かあるのですか?」

 

「そ、そうだ・・・! ちゆやひなたも忙しそうにしてたし、でも私たちには教えてくれないし・・・」

 

めいの言った忙しいという言葉に反応するかすみ。彼女より先に尋ねたのはアスミだった。

 

「ふふっ♪ 花火大会があるのよ♪」

 

「花火大会・・・?」

 

「なんだ、それは・・・?」

 

「!?・・・ウゥ〜ン・・・」

 

アスミとかすみはきょとんとしたような顔をしていたが、ラテはその場で気まずそうに耳で顔を隠していたのであった・・・・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第79話「追想」

前回の続きです。
総集編でこんなに長く作るとは思いませんでした。
でも、次回でこのエピソードは終わると思います。


 

アスミとかすみがひなたの家の敷地内にいる頃、すこやか中学校では・・・・・・。

 

「ここがあいつらの通っている中学校よ」

 

「んぅ・・・・・・」

 

クルシーナとフーミンは正門の近くに姿を現していて、学校の敷地内に侵入していく。

 

「アタシが初めてこの人間界に出撃したときに、メガビョーゲンを生み出したのはこの学校だったの。人間どもがいっぱいいて、悲鳴もたくさん聞こえてたわ」

 

「ふぅ・・・お姉様の、起源・・・?」

 

「・・・正確に言うなら、出撃の原点ね」

 

クルシーナが説明をしている中で、フーミンは頓珍漢なことを言い出し、クルシーナは冷静に間違いを指摘して訂正する。

 

「ここでさっきの皆さん、走り込んだりしてたですぅ・・・?」

 

「本当に煩わしくて、蝕みたくなるくらいにね・・・」

 

フーミンの疑問に、クルシーナが淡々とした口調で言う。学校には夏休みで部活をやっている運動部の連中が、走ったり練習をしたりしているのだろう。そういう奴らを見ると、本当にイライラしてくる。

 

「えっと、この辺のはずだけど・・・」

 

「お姉様ぁ・・・何を探してるですぅ・・・?」

 

「アタシが最初にメガビョーゲンの素体にした奴よ。確かこの辺にあったと思うけど」

 

クルシーナは学校の奥の校舎まで歩いていくと、その場できょろきょろとし始めた。この辺に最初に出撃した際に、ここでメガビョーゲンを作り出したのだ。

 

「お! あった・・・」

 

クルシーナは校舎と校舎の間に立っている一本の木を見つけて、それに近づく。

 

「これがお姉様が最初にメガビョーゲンにした木ですかぁ・・・?」

 

「そう。この学校の中ではこいつが一番生き生きしてたからねぇ」

 

クルシーナは木を見つめながら、最初に出撃した時のことを思い出していた。

 

『クルシーナ、この木がどうしたウツ』

 

『黙ってて』

 

ーーーーーーーードクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン

 

『いい感じじゃない。生きてるって感じがして』

 

そして、クルシーナはこの木にナノビョーゲンを取り憑かせ、メガビョーゲンを作り出し、この学校を襲わせたのだ。

 

『ひどい・・・・・・』

 

そんな中、木の前にはあのマゼンダ色の少女ーーーー後にキュアグレースになる少女が立っていたのだ。

 

しかも、そのキュアグレースになる前の少女の、思い出して吹いてしまう奇行が一つあった。

 

『メガビョーゲン、あっちよ』

 

さらに蝕む範囲を広げるべく、メガビョーゲンと移動しようとした時だった。

 

『こっちだよ!メガビョーゲン!』

 

先ほどの少女が、剣道の防具を纏って、両手にラケットと何やら紐らしきものを持っていたのだ。

 

『メガ?』

 

『あなたなんか怖くないんだからー!』

 

『あれ、何ウツ?』

 

『さあ~ね』

 

少女はメガビョーゲンを阻止しようとしたが・・・・・・。

 

『メガ、ビョーゲン!!』

 

『あっ、きゃあぁぁぁぁぁ!!』

 

メガビョーゲンは少女を木へと吹き飛ばした。

 

『きゃは!あう・・・・・・』

 

『アハハ!! あんた、それでどうにかできると思ったわけ? バッカじゃないの?』

 

今思えば、本当に間抜けなことをしていたな、というのを少女から感じていた。

 

「アッハハハハ! あんなことでメガビョーゲンを止められるわけがねぇのにさ!」

 

「普通の少女が、メガビョーゲンを止められるわけがないですぅ・・・」

 

クルシーナはあの時のことを思い出して笑い、フーミンは見下すような言い方をする。

 

「・・・でも、あの後してやられたのよね。あいつが本当にプリキュアになって」

 

クルシーナは途端に不機嫌な顔になり、あの後の出来事を思い返す。

 

メガビョーゲンはプリキュアに変身した少女にあっさりと圧倒されてしまう。そして、キュアグレースは花の模様が描かれたヒーリングボトルをステッキへとかざす。

 

『エレメントチャージ!!』

 

『ヒーリングゲージ上昇!!』

 

『プリキュア!ヒーリングフラワー!!』

 

『ヒーリングッバイ・・・』

 

そして、メガビョーゲンはあっさりと一人のプリキュアに浄化されてしまったのであった。

 

クルシーナはあの時のように木を手に当てて、音を聞いて見る。

 

ーーーーーーーードクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン

 

「・・・やっぱりいいねぇ。生きてるって感じ。あの時と全然変わってない」

 

クルシーナは木から手を離すと、不敵な笑みを浮かべながら言った。

 

「お姉様ぁ・・・そろそろ私、蝕みたいですぅ・・・」

 

ここでフーミンがクルシーナの袖をくいくいと引っ張りながら言った。

 

「・・・まあ、もういいかしらねぇ。そろそろ仕事始めましょうか」

 

クルシーナはそう言うと木から手を離して、その木から離れていく。

 

「?? この木を素体にしないですかぁ・・・?」

 

「それよりももっといい素体を歩く途中で見つけたの。そっちに行くわよ」

 

「んぅ・・・?」

 

フーミンはその行動に疑問を覚えて声をかけるも、クルシーナの言葉にまた首を傾げる。

 

クルシーナとフーミンは歩いた先を戻って行くと、その道の途中でヒマワリ畑が広がっているのが見えた。彼女たちはその目の前で足を止める。

 

「ふぁ・・・太陽みたいな花がいっぱいですぅ・・・」

 

「黄色く輝いていて不愉快でしょ? でも、生きてるって感じの輝きなのよね」

 

フーミンが目をキラキラとさせながら言うことに、クルシーナは淡々とした口調で返し、辺り一面のひまわりを見据える。

 

「ふふっ♪」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべると、手のひらに息を吹きかけると黒い塊を出現させる。

 

「進化しろ、ナノビョーゲン」

 

「ナーノー」

 

生み出されたナノビョーゲンが鳴き声をあげると、ヒマワリの中へと取り憑く。ヒマワリが病気へと蝕まれて行く。

 

「・・・!?・・・!!」

 

ヒマワリに宿るエレメントさんが病気に蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガ、ビョーゲン!」

 

ヒマワリの花に似た頭部に、サソリのような形状の足を持つ、どこか見たことがあるメガビョーゲンが誕生したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数分前、アスミとかすみはカフェを離れて町の中を歩いていた。

 

「空に大きな花が咲く花火・・・一体、どのような状態なのでしょう?」

 

「花は空では咲かないはずだが・・・なんで大きな花と言われているんだ?」

 

二人はめいに教えられたまだ見たことがない花火のことを考えていた。どのように空へと花が出るのか、想像つかない。だからこそ、気になって仕方がなかった。

 

「今日の花火大会、楽しみだね♪」

 

「うん。ふふふ♪」

 

ふと二人の視界に浴衣を着た女性たちが、足湯に浸かりながら話す様子が見えた。

 

「なんだか楽しそうですね」

 

「そうだな・・・」

 

そんな様子を見てアスミは笑みを浮かべるが、かすみは少し寂しそうな表情を浮かべていた。

 

そんな彼女たちの背後から・・・・・・。

 

「・・・アスミ? かすみも?」

 

(おかしいわね・・・アスミは家にいるはずじゃ・・・かすみも留守番しててって言ったのに・・・!)

 

ちゆはなぜ二人が外にいるのかを疑念に思っていたが、とりあえず二人に近づいた。

 

「あら、アスミ、かすみ」

 

「??」

 

「!!」

 

「こんなところで何をしているの?」

 

かすみは声に気づくと振り向き、これがちゆの声だと察してすぐに振り向いた。

 

「まあ♪ ちゆ、会えてよかったです。今、ラテの成長日記を作るために、皆さんにお話を聞いて回っていて・・・」

 

「ちゆ、やっと見つけたぞ・・・!!」

 

アスミは笑顔で話すも、その言葉を打ち切るように大声を出し、ちゆへと詰め寄る。

 

「か、かすみ・・・!?」

 

「何をしていたんだ・・・私に話してもらおうか・・・!!」

 

「ち、近い・・・! 近いわよ・・・!!!」

 

かすみはちゆに顔を近づけて問い詰めようとしたが、あまりの剣幕にちゆはビクビクしながらも戸惑ってしまう。

 

「まあまあ、かすみさん。そんなに怒ってはちゆも困ってしまいますよ」

 

「お、怒ってなどいない!! 私はみんなが何をしているのか気になっているだけで・・・!!」

 

アスミはかすみをちゆから引き剥がすも、かすみは彼女へと食い下がろうとしていた。

 

「落ち着いてください、かすみさん。ここで喧嘩などしたら、私は悲しいです・・・」

 

「っ!!・・・わかった」

 

アスミに寂しそうな表情で言われ、かすみは大人しくせざるを得ないのであった。

 

「ふぅ・・・あ、あぁ~、ペギタンもそんなことを言ってたわね」

 

かすみから顔が離れたちゆは一息つくと、アスミの言っていたことに反応して返す。

 

「? ペギタンと一緒ではないのですか? 先ほどお会いしましたが・・・」

 

「別の準備で忙しいのよ」

 

ちゆがそう言うと、かすみの表情が険しくなる。

 

「? 別の準備?」

 

「・・・怪しいぞ」

 

「あっ、いつも一緒ってわけじゃないのよ? たまにいなくなるし・・・」

 

アスミが疑問を抱き、かすみが怪しむようにこちらを睨むと、ちゆはぎこちない様子で話した。

 

「うーん・・・確かに前はいなくなったが・・・その前もあったんだな」

 

「そうよ・・・」

 

かすみは以前いなくなってしまったことを思い出し、ちゆは苦笑しながらそれ以前にもあったことを思い返す。

 

「水族館で迷子になったりね・・・でも、そのおかげでひなたと仲良くなれたし、結果オーライってところかしら」

 

「仲良くなかったのですか?」

 

「三人で力を合わせるうちに、自然と距離が縮まったのよ」

 

「三人で力を合わせて・・・」

 

ちゆは水族館でのどかやひなたと仲良しになったことを思い返しながら話す。アスミは何かを考え始めた。

 

「じゃあ、私そろそろ行くわね」

 

ちゆはそう言って、二人に背を向けて歩いて行こうとする。

 

「待て」

 

「!?」

 

かすみがいつもよりも低い声で言いながら、ちゆの肩を掴む。

 

「まだ話は終わってないぞ・・・!!」

 

「な、なんのことかしら・・・?」

 

「とぼけるな!! またそうやってごまかして、何も教えないつもりだろ?」

 

「え、えっと・・・か、かすみが、知ってもいいことはないと思う、わ・・・」

 

かすみはまたちゆに顔を近づけて、先ほど同じような剣幕で見る。ちゆはぎこちない様子で話しながら、何とかその場をごまかそうとしていた。

 

「っ・・・!!!」

 

かすみはますます睨むような表情でこっちを見て、ちゆはうっかりバレてしまわないかという緊張から汗をダラダラと流し始める。

 

「のどか、ラビリン、ペギタン・・・ニャトランにもごまかされた・・・もう、私はごまかされないぞ・・・!! ちゃんと私に話してくれ・・・!! 友達じゃないのか・・・!?」

 

「うぅ・・・」

 

かすみが険しい表情から悲しそうな表情へと変えていき、ちゆはそれを見て心を痛める。ひなたには内緒にするように言われているため、ちゆは話すことができない。

 

「ちゆ・・・!!」

 

「う、あ・・・」

 

かすみに詰め寄られたことで、ちゆは良心の呵責に耐えられなくなり・・・・・・。

 

「ご・・・ごめんなさい!! 私、急がないといけないから!! 二人とも暗くなる前には帰るのよ!!」

 

「あ・・・ちゆー!!!!」

 

ちゆはかすみを自身の体から離し、そのまま謝罪の言葉をしたまま叫ぶと、背を向けて走り去って行ってしまった。

 

かすみは手を伸ばしながら、それを切なそうに見た後、暗そうに顔を俯かせる。

 

「今日はみなさん、お忙しそうですね・・・」

 

アスミは去っていくちゆの後ろ姿を見ながらそう呟く。

 

「・・・ちゆ、なんで・・・なんで、話してくれないんだ・・・私たちは、友達じゃ・・・なかったのか・・・?」

 

かすみは顔を俯かせながら、プルプルと震わせる。声も先ほどから泣きそうな声になっている。

 

なぜちゆは、隠そうとするのか・・・なぜみんなは、何も言ってくれないのか・・・?

 

かすみは泣きそうになりながら思考すると、ある一つのネガティブな考えに至ってしまう。

 

「もしかして・・・私たち二人を除け者にして、みんなで楽しんでるとか・・・」

 

「そんなはずは・・・あ、のどかたちが花火大会・・・」

 

かすみは自分たちに内緒で何かを楽しもうとしていると思い込んで暗くなり、アスミはそんなことはしないと言いかけたところで、もしやと思い、先ほどの女性たちの方を見てそう呟いた。

 

「・・・・・・っ」

 

「あ、かすみさん・・・!」

 

かすみはトボトボとどこに行くわけでもなく歩き始め、アスミも少し不安を抱きつつ、彼女の後を歩いて行く。

 

「・・・・・・??」

 

と、そこに何やらひなたの姿が見えた。何か袋を持っていて、スマホで電話をしようとしている模様。

 

「うん・・・うんっ、バッチリバチバチで可愛い浴衣見つけたよ♪」

 

ひなたは紙袋から紫色の浴衣を出しながら、誰かと電話をしていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

かすみはひなたへと歩き出すと、暗そうな表情で彼女の背後に立つ。その後ろからアスミもついていく。

 

「これで花火・・・っ!?」

 

ひなたは何やら寒気がするような不穏な気配を感じて、ゆっくりと振り返る。

 

「うぁ!? か、か、かすみっち!? アスミン!? い、いつからそこに!?」

 

「ひ~な~た~? みんなして何を隠してるんだ~・・・?」

 

「ち、ちか!近いよ!! かすみっち・・・!!!」

 

かすみがこちらを恨みがましい目で見ていることに、ひなたが驚いてこちらを振り返る。かすみは顔をかなりの至近距離で、ひなたの顔に近づけていた。

 

「かすみさん・・・!!!」

 

「っ・・・!!」

 

アスミはかすみをひなたから引き剥がすと、ひなたが持っているものをみる。

 

「素敵なお召し物ですね。のどかたちと花火大会に行くのですか?」

 

「っ!? そうなのか、ひなた・・・!?」

 

アスミは微笑みながら言い、かすみはひなたを睨みながら言う。

 

「え、いや・・・これは違うし・・・浴衣だけど、違うし・・・!!!!」

 

アスミとかすみに問われたひなたはぎこちなさげに答えて、ぐいっと顔を近づける。

 

「浴衣って言っただろっ・・・今・・・!!」

 

「浴衣だけど・・・浴衣ではない・・・?」

 

「意味がわからないぞ・・・!!」

 

かすみは逆に顔を近づけ返しながら言い、アスミがひなたの言動に疑問を抱く。

 

「あ、それより・・・あたしたちのことが知りたいんだって・・・?」

 

「・・・また、ごまかしたな」

 

「うっ・・・あ、あたしがプリキュアを辞めそうになった話は?」

 

ひなたがごまかそうとしたことに、かすみは冷たい口調で言う。ひなたはそれに苦しげに反応しつつも、自分たちの話をしようとする。

 

「あの時はちょっと心折れかけててさあ~、そんな時にビョーゲンズに襲われてもうダメだ~って思ったの。でも、のどかっちやニャトラン、みんなが励ましてくれて、病気にも負けずに、諦めずにやろうって思ったの。そして、大好きなみんなを助けるためにも、頑張ろうって思えたんだよね!」

 

ひなたはその時のことを思い返しながら話す。

 

「で、のどかっちとちゆちーとのコラボ技で、見事浄化したって訳!! どうどう? いい話でしょ?」

 

「三人とのコラボ技、なんだか羨ましいです」

 

「・・・ひなたたちは、いつも一緒で、いいな」

 

ひなたの話を聞いて、アスミとかすみは三人を羨ましく思う。

 

「羨ましいって・・・またまた~、アスミンとかすみっちは一人でも十分強いっしょ?」

 

「っ? 一人でも・・・??」

 

「っ・・・!!」

 

ひなたのその一言に、アスミは寂しげにし、かすみは目を見開いた後、顔を俯かせた。

 

「・・・そうか、だから3人とも、隠していることを、私たちには何も教えてくれないんだな」

 

「かすみっち・・・?」

 

「一人がどれだけ寂しいかわかるか・・・?」

 

かすみは暗い口調でそう言い、ひなたも彼女の様子がおかしいのか呟くように声を出す。

 

「・・・行くぞ、アスミ」

 

「あぁ・・・」

 

「ああ、かすみっち・・・!!」

 

かすみはアスミの手を引きながら、ひなたの横を通り過ぎるように歩き、彼女の叫ぶ声も聞かずにそのまま歩き去って行ってしまった。

 

「・・・あたし、何か変なこと言ったのかな?」

 

ひなたはそんな二人の様子を不安そうに見つめていた。

 

一方、かすみはアスミの手を引きながらも、足は逃げるかのように早足になっていた。

 

「かすみさん・・・!!」

 

アスミはそんな彼女に向かって叫ぶも、かすみは耳に入れずに足を止める様子もない。

 

かすみはある程度歩くとアスミの手を離し、そのままそこに立ち尽くしていた。その両手は何かを握るようにプルプルと震わせていた。

 

「・・・私、わかったんだ、みんなの反応や様子を見て。のどかたちは、私たちに内緒で花火大会を楽しもうとしているんだ。除け者にしていることを言えないから、あんなふうに不穏だったんだ・・・友達だと思ってたのに・・・!!」

 

「そ、そんなはずは・・・!!」

 

かすみは震える声でそう話す。アスミは優しいはずの彼女たちがそんなことをするはずがないと、それを否定しようとするが、それを遮るかのようにかすみの顔は涙目で、怒ったような顔だった。

 

「だってそうだろ!? 何もやましいことがないんだったら、私たちに話してくれるはずだ!! それなのにわざわざ隠し事なんかして!!・・・!?」

 

かすみは以前、みんなと遠くへ遊びに行こうとした際に、バス停で脅かそうとして驚かなかったことを思い出す。

 

「・・・ああ、そうか。あの時、驚かなかったから、みんなは軽蔑してるんだ。私たちが普通じゃないから・・・」

 

「!?」

 

かすみはひなたのサプライズに驚かなかったことが原因だと考える。きっとのどかたちみたいに驚くのが普通だったのだ。みんなはそれが気に入らなくて、除け者にしているんだと。

 

アスミはかすみの言葉に、どんどん不安そうな表情になっていく。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

ドクン!!!!

 

「っ!!」

 

かすみは何かを感じて目を見開くも、泣きそうな表情をし始める。

 

「かすみさん・・・?」

 

「泣いている、声が・・・でも、私も泣きたいんだ・・・!!」

 

「!!」

 

アスミはかすみの反応からもしやというような反応をする。それに気づいた時・・・。

 

「クチュン!!」

 

「っ!? ラテ!!」

 

突然ラテがくしゃみのような症状を出して、体調不良になったのだ。

 

アスミはのどかから借りていた聴診器をして、ラテを診察する。

 

(おひさまのようなお花さんが泣いてるラテ・・・)

 

「おひさまのようなお花さん・・・」

 

アスミは考えようとするも、まだよくわかっていないもので皆目検討がつかない。

 

「かすみさん!! のどかたちにも知らせましょう!」

 

「・・・・・・・・・」

 

アスミはのどかたちにも知らせることを話すが、かすみはしばらくの沈黙の後、口を開いた。

 

「・・・いや、いいよ」

 

「!? どうしてですか!?」

 

「・・・のどかたちは忙しいんだ。花火大会のために。だから、私たちで行こう。私なら泣いている声を辿れる」

 

かすみは暗い声でアスミの提案を拒否して、自分たちで行くことを提案する。アスミはその解答に不安を隠せない。

 

「どこにいるかわからないんだ。早く行かないとメガビョーゲンが・・・」

 

「!!・・・っ、わかりました」

 

かすみは的を得ているような発言をしつつも、暗い声でそう言う。アスミもその言葉を受けて、心の中で葛藤していたが、結果的には彼女たちに気を遣って、二人で行くことにした。

 

「行こう・・・」

 

かすみはそう言いながら、泣いている声の反応を辿りながら向かって行く。

 

「・・・・・・・・・」

 

アスミはかすみの後をついていきつつも、彼女の寂しそうな背中を見て、不安そうな表情が拭えないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メガァ・・・ハァ・・・・・・」

 

ひまわりから生み出されたメガビョーゲンは口から赤い光線を吐きながら、辺り一帯を自然を蝕んでいた。

 

「よしよし。蝕みは順調ね」

 

クルシーナは離れたところで見ながら、不敵な笑みを浮かべる。

 

「・・・あ、そういえば、あのメガビョーゲン、あの時のダルイゼンが作ったものにそっくりね」

 

「あんな形だったですかぁ・・・」

 

「ええ。プリキュアたちは勝てもしないのに立ち向かってボロボロにされてたわね」

 

クルシーナは森のあった花畑でダルイゼンがメガビョーゲンを発生させていたことを思い返す。

 

『メー!!』

 

『あっ!!』

 

『グレース!』

 

『メーガー!!』

 

『はぁぁぁぁぁ!!!』

 

『ガー!? メガー!!』

 

『ああっ!!』

 

プリキュアたちはダルイゼンが生み出したメガビョーゲンに立ち向かうも、その成長した大きさに致命的なダメージを与えるに至っておらず、しまいには強大な力に返り討ちにされていた。

 

「全く滑稽だったわね。勝てもしないのに立ち向かうなんて、ウマがライオンに立ち向かうみたいなものよ」

 

「はぁ・・・・・・」

 

クルシーナが思い出しながら笑みを浮かべるも、フーミンはあまり興味がなさげな息を漏らす。

 

「ん? 来たわね」

 

ザッザッザッと走る音がこちらへ聞こえたかと思うと、不敵な笑みを浮かべるとそちらに振り向くといつものプリキュアたちが来るのが見えた。

 

「メガビョーゲン!!」

 

脱走者ーーーーかすみは駆けつけると黒いステッキを取り出して構える。

 

「速やかに浄化しましょう・・・」

 

アスミがメガビョーゲンを睨みつけて、風のエレメントボトルを構える。

 

「あら、今日は二人だけ? いつものあいつらはいないんだ・・・? 大丈夫なの?」

 

クルシーナがプリキュア1人と脱走者しかいない状況に笑みを崩さない。

 

「こんなメガビョーゲン、私たちだけで十分だ!!」

 

「あっそ」

 

かすみの強気な発言に、クルシーナは不機嫌そうな声で淡々と呟く。

 

「行きます!!」

 

「クゥ〜ン・・・」

 

アスミの言葉を合図に、体調が悪そうなラテも変身の構えに入る。

 

アスミは風のエレメントボトルをラテの首輪にはめ込む。すると、オレンジ色になっているラテの額のハートマークが神々しく光る。

 

「スタート!!」

 

「プリキュア、オペレーション!!」

 

「エレメントレベル上昇ラテ!!」

 

「「キュアタッチ!!」」

 

キュン!!

 

ラテとアスミが手を取り合うと、白い翼が舞い、ラテが舞ったかと思うとハートの中から白い白衣のようなものが飛び出す。

 

その白衣を身に纏い、ラテが降りてきたかと思うとハープが飛び出し、さらにアスミは紫色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

衣装にチェンジした後、ハープを手に取り、その音色を奏でる。

 

「「時を経て繋がる、二つの風!」」

 

「キュアアース!!」

 

「ワン!」

 

アスミは風のプリキュア、キュアアースへと変身した。

 

「はぁぁぁっ!!!!」

 

「メガァ!!」

 

「っ!!」

 

アースは変身完了後、攻撃するために飛び出そうとするが、メガビョーゲンは緑色のツルのようなものを伸ばす。アースはそれに気づいてツルを蹴り上げる。

 

「メガッハァー・・・!!!」

 

その隙をついて、メガビョーゲンは種のような形の赤い弾をひまわりの形をした両手から放つ。

 

「ふっ!!!」

 

そこへアースの前にかすみが飛び出し、ステッキからシールドを展開して弾を防ぐ。

 

「はぁっ!!」

 

さらにかすみはシールドを閉じると、ステッキをさらに振るって黒い光線を放つ。

 

「メガ・・・」

 

メガビョーゲンは両手で光線を受け止めると吸収し始める。すると、メガビョーゲンの首回りについているひまわりのような花弁が時計回りに赤く黒く光り始めた。

 

「ふっ!! はぁっ!!」

 

「メッガ・・・!?」

 

黒い光線を放つかすみに乗じて、アースが飛び出して両手をメガビョーゲンの両手へと触れさせ、そこから衝撃波を放つ。メガビョーゲンは耐えるも、アースの方が強かったのか相殺しきれずに後方へと押される。

 

「・・・相変わらずやるわね。あの時もしてやられたけど」

 

クルシーナは戦いの様子を見ながらも、アースとかすみが登場していた時のことを思い出す。

 

『ん? うおっ!? どわはぁ!?』

 

『メガ!?』

 

『っ!?』

 

あの時もどこからか風が吹き荒れ、バテテモーダを吹き飛ばした。

 

『へぇ・・・こんなところでまた会えるなんてねぇ』

 

『ラテ様。あなたの望み、私が叶えましょう』

 

『地球を蝕む邪悪なものよ。最後の時です。清められなさい』

 

キュアアースは自身にとっては懐かしい存在で、忌々しい存在だった。アースは子犬のヒーリングアニマルを救出すると、瞬く間にメガビョーゲンを圧倒し、浄化したのであった。

 

そして、かすみは・・・・・・。

 

『おい』

 

『!?』

 

『さっきアタシの邪魔をしたの、お前か? そもそもお前は誰だ? 見たところプリキュアでも無さそうだし、何よりもアタシたちと同族の気配がするんだよ、お前からは』

 

『ふっ!!』

 

ビィィィィィィィィ!!!!

 

『へぇ・・・アタシとやろうってわけ?』

 

ラテの排除を妨害した黒い光線、それを辿ると邪魔をしたのは見覚えのない一人の少女だった。しかも、それが自分たちと同じ気配をしているから気に入らなかった。

 

かすみはその後、崖から飛び降りて逃亡したが、再び姿を現したのはヘバリーヌが生み出したメガビョーゲンでプリキュアたちを追い詰めている時だった。

 

『キミ、怪我はないか・・・?』

 

『ワン!』

 

『そうか・・・よかった』

 

ラテを始末しようとしたところで、あいつが現れたのだ。

 

『たとえ何度やられても、私は諦めない!! 私はお前の泣き止む声を止めるだけだ!!』

 

そう言い放つかすみを鼻で笑い、始末しようと目論むも、かすみは満身創痍のプリキュアと共闘し、自身の詰めの甘さも合間って、メガビョーゲンを浄化されてしまったのであった。

 

「・・・ふん」

 

クルシーナはあの出来事を思い出して顔を顰めた後、そっぽを向くように鼻を鳴らす。

 

「はぁっ!!!」

 

「メガァ・・・!!」

 

かすみは黒い光線を放ち、メガビョーゲンは両手で防ぎ、同時に首回りにある花弁が時計回りに順番に赤く光っていくのが見えた。

 

「はぁぁぁぁっ!!!」

 

「メ、ガ・・・!?」

 

アースは顔面にドロップキックを食らわせ、メガビョーゲンを地面へと押し倒した。

 

「よし!! 今のうちにあれを・・・!!」

 

「あれとは・・・?」

 

「あれはあれだよ・・・! 中にいるエレメントさんを探すあれだ・・・!」

 

「!!!!」

 

かすみは、いわゆるキュアスキャンをやることを頼んだのだが、ここでアースが重大なことに気づく。

 

「かすみさん、ごめんなさい・・・」

 

「え?」

 

「私、エレメントさんを見つける能力は、できないんです・・・!!」

 

「・・・・・・え?」

 

かすみはアースのその発言を聞いて目を丸くする。

 

・・・そういえば、アースはステッキを持っていない。持っていないということは、エレメントさんを見つけることができない・・・すなわち、これでは浄化が・・・・・・!!

 

「!? そ、そうだった・・・!!!!」

 

かすみは忘れていた事実に気づき、頭を抱える。アースは確かにプリキュアだが、そもそもグレースやフォンテーヌのようなステッキを持っていない。要するにキュアスキャンができないということだ。エレメントさんの居場所がわからず、浄化をすることができないということになる。

 

かすみはのどかやちゆに対する不満のせいで、そのことをすっかり忘れていたのだ。

 

「何? 何か問題でも発生したの? だから言ったじゃない。本当に大丈夫なのって」

 

その様子を見ていたクルシーナが様子がおかしいことに気づいて、声をかける。しかし、それは気遣いではなく、単なる嘲笑のための煽りだった。

 

「まあ、今更気づいても遅いけどね。やっちまいな、メガビョーゲン」

 

「メガァ・・・!!!」

 

ズォォォォォォォォォォ!!!

 

首の周りの全ての花びらを赤く光らせていたメガビョーゲンは、その瞳に禍々しいオーラを溜め込み始める。

 

瞳が禍々しい赤に染まっていくと・・・・・・。

 

「メェ、ガッァァ!!!」

 

「「!!??」」

 

ビィィィィィィィィィィィ!!!!

 

ドカァァァァァァァァァァァァン!!!!!!

 

その瞳から強力なビームが放たれ、凄まじい大爆発を起こしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、メガビョーゲンの出現に気づいていないのどかは・・・・・・。

 

「じゃあ、打上くん、よろしくね〜♪」

 

すこやか中学校で父親が花火職人である学校の生徒・打上に特製花火の発注を引き受けていたのであった。

 

「おーい、のどかっち!!」

 

「ひなたちゃん?」

 

そこへひなたがそちらに駆け寄ってきた。

 

「アスミンとかすみっち、見なかった・・・?」

 

「? 見てないけど・・・」

 

「かすみっちがなんか落ち込んでる様子で、どっかに行っちゃったんだよ〜。それが気になって・・・」

 

「二人ともー!!」

 

ひなたはどうやら二人を探していたようだが、そこへ買い物を終えたちゆもやってくる。

 

「ちゆちゃん!」

 

「ちゆちー!!」

 

「二人はこっちに来てないわよね・・・? バレて欲しくないから思わず、かすみから逃げちゃって、私、傷つけちゃったんじゃないかって・・・!!」

 

ちゆもアスミとかすみを心配して、こっちに走って来た模様。

 

そんな時だった・・・。

 

ゴォォォ・・・・・・!!

 

「っ!?」

 

「え、な、何・・・!?」

 

「地震・・・!?」

 

遠くから何やら音が響いたと思いきや、地面が揺れた。もしかして、地震が起こったのか・・・?

 

やがて揺れが収まると3人は一安心するも、これは明らかに普通の揺れではなかった。まるで、どこかで爆発が起こったような・・・そんな感じの揺れだった。

 

「みんなぁ〜!!」

 

「な、何が起こったペエ・・・!?」

 

「なんかすげぇ音が聞こえたよな!?」

 

そこへ先ほどの不穏な音を聞いた、ラビリンたちがのどかたちの方へと飛んで来た。

 

街のみんなが戸惑っている中、のどかたちは音がしていた方向を向いていた。

 

「・・・ちゆちゃん、ひなたちゃん・・・あっちに行ってみよう!」

 

「うん!!」

 

「ええ!!」

 

のどかは何かが起こっていると察したのか、ちゆやひなたに声をかけ、二人はそれに頷くとみんなは音があった場所へと向かっていくのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第80話「花火」

前回の続きになります。
今回で原作第26話はラストになります。

この話にかすみに関する不穏な一文を入れていますが・・・・・・どうなっていくんでしょうかねぇ?


 

クルシーナの生み出したメガビョーゲンと戦う、アスミとかすみ。しかし、肝心なエレメントさんを見つける能力を持っているものがおらず、そこをメガビョーゲンに攻撃されてしまう。

 

二人はそんなメガビョーゲンに苦戦を強いられていた。

 

「メッガァ!!!」

 

メガビョーゲンは目から赤い光線を放つ。

 

「っ!!」

 

ドカァァァァァン!!!!

 

かすみは赤い光線を飛び退いてかわす。

 

「メガァ!!!」

 

「っ!!!」

 

メガビョーゲンはさらにアースに目掛けて、赤い光線を放ち、アースも飛び退いてかわす。

 

「くっ・・・どうすればいいんだ・・・!?」

 

「このままだと、体力を消耗してしまいます・・・」

 

かすみとアースは打開策を見出せず、メガビョーゲンのなすがまま。一方的に、攻撃を受けて体力を削られるのも時間の問題であった。

 

「メガァ・・・」

 

そんな中、メガビョーゲンはツルのようなものをかすみに向かって伸ばす。

 

「! しまった・・・あぁ!!」

 

ツルはかすみの右足に巻きつき、引っ張られたかすみは転倒してしまう。

 

「かすみさん!! っ!!」

 

アースがかすみに向かって叫ぶも、アースの右腕にもツルが飛んで来て巻きつく。

 

「っ・・・はぁっ!!」

 

「メガァ!!」

 

かすみはメガビョーゲンに引き寄せられながらも、黒い光線を放つ。しかし、光線はひまわりの形をした両手に防がれてしまう。

 

「っ、ふっ!!」

 

アースは逆にメガビョーゲンへと迫り、飛び上がって攻撃を加えようとする。

 

「メガァ!!」

 

「!? あぁ!?」

 

メガビョーゲンはそれを視認すると、かすみを空中で逆さ吊りのような感じで持ち上げる。

 

「メェェェガッァ!!!」

 

「うぅぅ、うわぁぁぁぁぁ!!??」

 

「!! あぁっ!?」

 

メガビョーゲンはそのままアースに向かってかすみを投げつけ、アースは直撃を受けて、二人はそのまま地面へと叩きつけられてしまう。

 

「うっ・・・!」

 

「くっ・・・!」

 

「メガァ!!!」

 

「「!!」」

 

二人はなんとか立ち上がろうとするが、メガビョーゲンはさらに両手から種のような弾を放って、着弾して爆発させる。

 

煙が晴れた頃には、その場に倒れ伏している二人の姿があった。

 

「あらぁ? いつもの威勢はどこに行っちゃったのかしら?」

 

「くっ・・・!」

 

「うぅぅ・・・」

 

クルシーナが二人の姿を見て嘲笑し、アースとかすみは体を起こして立ち上がろうとしていた。

 

「なんでやられてんのか知らないけど、まあいいや」

 

今なら二人まとめて倒すチャンスだと踏んだクルシーナはメガビョーゲンの方に振り向く。

 

「メガビョーゲン、とっととトドメ刺しちゃって」

 

「メガァ・・・!!」

 

クルシーナの指示を受けて、メガビョーゲンは目に禍々しいエネルギーを溜め始める。

 

「うぅっ・・・!!」

 

かすみは悔しそうな表情でメガビョーゲンを見やる。

 

「あぁ・・・!!」

 

アースは呆然とした様子でメガビョーゲンを見る。

 

「ふふふ・・・♪」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべながら、絶望することしかできない二人のことを見つめる。

 

「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」

 

「メ、ガァッ!?」

 

光線を放とうとしたメガビョーゲンの顔面に、3色の蹴りが同時に炸裂し、メガビョーゲンは背後へと倒れる。

 

「っ!!」

 

「あぁ・・・!?」

 

クルシーナはそれに顔を顰め、かすみは、アスミと自分の前に立つ3人の姿を見て、呆然としたような表情を浮かべる。

 

「何ぃ? 結局、来たのぉ~・・・?」

 

クルシーナは面倒臭そうな様子で呟いた。

 

「気づくのが遅れてごめん!!」

 

「まさか、ビョーゲンズが来てるとは思わなかったわ!!」

 

「すぐ浄化してーーーー」

 

3人はそれぞれアースとかすみに話すように言ったが、かすみは・・・・・・。

 

「・・・いいよ」

 

かすみの声はどこか暗くなっているような顔だった。

 

「かすみちゃん・・・?」

 

「みんな、事情があったんだろ・・・? 遅れたってしょうがないさ・・・」

 

かすみはプリキュアたちの前に出るとそう呟き、黒いオーラに包まれていく。

 

「っ!? かすみ!! ダメェ!!」

 

「また暴走しちゃうよ!!!!」

 

フォンテーヌはその様子を察して叫び、見たことがあるスパークルは叫ぶもすでに遅く、かすみはオーラの中で変化を遂げ、晴れた際には変貌した姿を晒した。

 

金色の髪は銀色に変化した赤く禍々しいオーラが漂うものになり、赤く染まった頭の二つのリボン。赤い手袋が黒く変化し、両手に持っている黒いステッキは色こそ変わらないものの、禍々しい赤色のオーラに包まれている。

 

かすみはまたあの姿へと変貌してしまったのだ。

 

「へぇ〜、それがドクルンが言ってた噂の姿ってワケ?」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべながら、そう察する。

 

かすみはそれに答えることなく、その場から姿を消すと、いつの間にかメガビョーゲンの顔の横に移動し・・・・・・。

 

「メガァ!?」

 

メガビョーゲンの顔面に強烈な蹴りを食らわせて吹き飛ばし、地面へと着地する。

 

「メェッガァ!!!」

 

メガビョーゲンはすぐに立ち上がって、目から禍々しい赤色のビームを放つ。

 

「・・・・・・・・・」

 

かすみはまたその場から姿を消すと、再びメガビョーゲンの眼前に姿を現す。

 

「メ、メガァ〜!?」

 

驚いたメガビョーゲンはとっさにひまわりの形の両手を合唱するように挟む潰そうとするが、かすみは両手を横に広げて防ぐ。

 

「メ、ガァ〜・・・」

 

「っ・・・」

 

かすみはメガビョーゲンの攻撃を抑えつつ、そのまま地面へとゆっくりと降りていく。メガビョーゲンは潰してやろうと力を入れるも、かすみの力も緩む気もなく、メガビョーゲンは苦しい表情を浮かべているのに対し、かすみは感情のない表情でどこ吹く風で押さえつけている。

 

「っ!! かすみだけにやらせちゃいけないわ!!」

 

「そ、そうだね!!」

 

「うん!!」

 

プリキュアたちはかすみをこれ以上戦わせてはいけないと判断し、エレメントボトルを取り出す。暴走させてしまうときっと悪いことが起きる、それはドックランで起こったあの時から察していたからだ。

 

「葉っぱのエレメント!!」

 

「雨のエレメント!!」

 

「火のエレメント!!」

 

三人はそれぞれのエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「「「はぁっ!!!!」」」

 

そして、同時にメガビョーゲンに向かって放つ。

 

「メ・・・メッガ・・・!?」

 

それぞれの力を載せた三色の光線はメガビョーゲンに直撃し、怪物は苦しそうに呻く。

 

「私も参ります!!」

 

アースもその場からメガビョーゲンの頭の上に飛び上がる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「メガァッ・・・!?」

 

そこから急降下してメガビョーゲンの上に踵を落とし、怪物を怯ませた。

 

「ふん・・・っ!!」

 

「メ、メ、メガァ・・・!?」

 

かすみはメガビョーゲンの両手の力が弱まったことを見計らって、片手を逆に掴み上へと持ち上げる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ、あぁぁっ!!!!!」

 

「メガビョ〜〜〜ゲン・・・!?」

 

そして、そのまま体を回転させるとメガビョーゲンを振り回し、そのまま投げ飛ばした。ものすごい音を立てて、メガビョーゲンは地面へと叩きつけられた。

 

「す、すごい・・・!」

 

「メガビョーゲンを投げ飛ばしちまったぜ・・・!?」

 

それを見ていたスパークルとニャトランは驚いていた。

 

「ふ〜ん、やるじゃない。着実に強くなってるわね」

 

クルシーナはかすみの様子を見てそう呟いた。その表情には特に悔しさそうにしている感じは見受けられず、冷静に見ている。

 

「プリキュアァ!!」

 

かすみはメガビョーゲンが完全に伸びていることを見て、プリキュアたちに呼びかける。

 

キュン!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

それに答えるように頷くとグレースはステッキの肉球に一回タッチして、メガビョーゲンに向ける。ラビリンの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを見つける。

 

「花のエレメントさんラビ!!」

 

グレース、フォンテーヌ、スパークルはミラクルヒーリングボトルをセットする。

 

「「「トリプルハートチャージ!!」」」

 

「「届け!」」

 

「「癒しの!」」

 

「「パワー!」」

 

グレース、フォンテーヌ、スパークルの順で肉球にタッチしていき、ステッキを上に掲げる。すると、花畑が広がっていき、背後には自然豊かな森が広がっていく。

 

「「「プリキュア! ヒーリング・オアシス!!」」」

 

3人は一斉にメガビョーゲンへとステッキを構え、ピンク・青・黄色の3色の光線が螺旋状になって放たれる。螺旋状の光線は混ざり合いながら一直線にメガビョーゲンに直撃する。

 

螺旋状になった光線はそれぞれの色の手へと変化して、3本の手が花のエレメントさんを優しく包み込んでいく。

 

3色に光るハート状にメガビョーゲンを貫きながら、光線はエレメントさんをメガビョーゲンから外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンたちは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「「「「「お大事に」」」」」」

 

花のエレメントさんが宿っていたひまわりに戻っていくと、蝕まれた場所は元に戻っていく。

 

「ワフ〜ン♪」

 

体調不良だったラテも額のハートマークが黄色から水色に戻り、元気になった。

 

「・・・・・・まあ、いいや。帰ろっと」

 

クルシーナがそう呟くと、フーミンと一緒にその場から姿を消した。

 

「今日もうまくいったね〜!! イェイ!! イェイ!!」

 

スパークルはそう言いながらグレースとフォンテーヌハイタッチをして、自分たちを讃えた。

 

「・・・・・・私も、皆さんと一緒に、お手当てをしたいです」

 

アースは変身を解いてアスミに戻ると、三人を見ながら寂しげにそう呟いた。

 

「・・・・・・・・・」

 

かすみは髪を銀髪から金髪へと戻った後、グレースたち3人を悲しそうな表情で見つめる。

 

「・・・行こう、アスミ」

 

かすみはアスミの手を取りながらそう言うと、その場から歩き去ろうとする。

 

「あぁ・・・!!」

 

「三人水入らずを邪魔しちゃ野暮だ。私たちは大人しく家に戻ろう」

 

アスミは三人の方を振り向きながら気にするも、かすみは振り向かずにそのまま前を向いて歩く。

 

「あ、かすみちゃん、待って・・・!!」

 

「来るな!!!!」

 

引き止めようとしたグレースに対し、かすみは大声で拒絶する。

 

「もう、追求したりしないから・・・三人で楽しんで来い・・・」

 

「そ、それは・・・」

 

かすみは冷静な口調に戻してそう言う。グレースは違うと言おうとして、スパークルに止められる。それを言ってしまえば、あることをバラしてしまうことになるからだ。

 

かすみはそのままアスミを連れて歩き去っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が落ちてきた頃、かすみとアスミはのどかの家にいた。

 

アスミは自分の部屋で日記を書き記していた。その横でかすみは膝を抱えて座りながら、太ももの間に顔を埋めていた。

 

アスミは「ラテさま日記」と書かれた日記を閉じると、窓の外を見つめる。

 

「ワン! ワンワン! ワンワン!!」

 

「っ?」

 

と、そこにラテがアスミとかすみの様子を気にして声をかける。

 

「すみません、少々考え事を・・・」

 

「・・・ラテ、のどかたちはいいよな。学校のお友達と一緒に楽しんでいるんだろうな」

 

「クゥ〜ン・・・」

 

かすみがラテに気づくと、彼女は寂しげに微笑みながら頭を撫でる。ラテは元気のなさげな彼女を心配した面持ちで鳴いていた。

 

「あ、そういえば気になったんだが、アスミとラテはどうしてパートナーになったんだ?」

 

かすみはラテの頭から手を離すと、アスミにそう問いかける。

 

「あっ、そうでした。私とラテのことも書かないといけませんでしたね」

 

アスミはかすみの言葉で思い出すと、ラテを自身の膝に置いて話し出した。

 

「私が誕生したきっかけは、テアティーヌの願いを聞いた地球が私を生み出しました。私は最初、病気で元気のないラテをヒーリングガーデンに帰せば不調は治ると思っていました。でも、ラテは私に一緒にお手当てをして欲しいという願いを受けて、私はのどかたちとお手当てをすることにしました」

 

「そうだったんだな。今のアスミがいるのは、ラテやのどかたちのおかげか・・・」

 

「はい♪」

 

アスミはかすみに微笑みながらそう言うが・・・・・・。

 

「私はラテをお守りするために生まれました。私はラテがいれば、それで十分なのです・・・」

 

「クゥ〜ン・・・」

 

そう呟くアスミの表情はどこか寂しげだった。ラテもどこか心配な様子で鳴く。

 

「・・・本当にそうか?」

 

「え・・・?」

 

「だって、さっきからアスミは寂しそうな顔をしている。それはちゆから教わった悲しいっていうことなんじゃないのか? 本当は、のどかたちと一緒に遊びたかったんじゃないのか?」

 

かすみは険しい表情をしながら言うも、その顔にはどこか寂しげな様子が見えていた。

 

「・・・すみません。私、本当は・・・のどかたちと一緒に花火大会に行きたかったのです・・・」

 

アスミが悲しそうな顔を隠さずに吐露すると、かすみは体をプルプルと震わせ始めた。

 

「私も、そうだ・・・! 本当はのどかたちと一緒に行きたかった・・・でも、みんな、私たちに隠して行っちゃうなんて・・・友達だと、思っていたのに・・・!!」

 

かすみは瞳をウルウルと潤ませ、いまにも泣きそうな表情だった。

 

(のどか・・・どうしてだ・・・私は、みんなが好きなのに・・・)

 

かすみは心の中でそう考える。すると、かすみの瞳が黒く虚ろになっていき、黒いオーラを発し始める。

 

(みんなは、私たちが嫌いなんだ・・・だから、私を仲間外れにするんだ・・・そんな奴らなんかいっそのこと病気で苦しんでしまえば・・・!!??)

 

かすみの心に邪な考えが宿っていく。かすみはそれにハッとなると、首を振って否定する。

 

「違う違う・・・!! のどかたちにもきっと事情があって・・・!!」

 

「かすみさん・・・どうしたんですか!?」

 

アスミは突然、頭を抱え始めたかすみを心配して駆け寄る。しかし、かすみは突然体をプルプルと震わせるのを止めると、アスミの方を見た。

 

「アスミこそどうしたんだ? また半透明になっているぞ・・・」

 

「悲しいけど、かすみさんが辛そうにしているのも悲しくて・・・」

 

「何を言っているんだ? 私は辛くはないぞ・・・」

 

かすみはそう言いつつも、その瞳は涙目になっていた。

 

コンコン・・・。

 

「アスミちゃん、かすみちゃん、いるかな?・・・開けるよ?」

 

そこへ帰ってきたのどかが声をかけて、扉を開けた。

 

「アスミちゃ・・・アスミちゃん!? かすみちゃん!?」

 

「ぁ・・・・・・」

 

「っ・・・のど、か・・・?」

 

部屋に入るなりのどかは驚いた。アスミの体は半透明になっていて、かすみは瞳を虚ろにしながらも、その瞳は涙目になっていたからである。

 

そんな二人を心配してのどかは急いで、彼女たちを連れ出した。

 

外はすっかり暗くなっており、すでに夜だ。のどかは二人に目を瞑るように言い、二人は目を瞑り、のどかの手を取りながら歩いていた。

 

「足元、気をつけてね」

 

「はい・・・」

 

「でも、どこに連れて行かれるんだ?」

 

のどかは二人に声をかけながら移動し、やがてある場所へとやってくると二人をその前に立たせる。

 

「もういいよ。目を開けてみて」

 

「はい・・・え・・・?」

 

「なんだ、これは・・・?」

 

驚いた二人の目の前にあったのは、水の入った木の桶のスイカ、竹で作られた台、そして、ちゆとひなた、妖精たちが待ち構えていた。

 

「ふふっ♪」

 

「「「「サプラ〜イズ!!」」」」

 

のどかは二人の目の前に立つと、みんなと一緒にそう叫ぶ。

 

「みなさん!?」

 

「これは・・・?」

 

二人が驚きの声をあげた、その時だった。

 

ヒュゥ〜〜〜〜〜〜、ドォン!!

 

二人の背後に光の玉が打ち上がり、夜空に綺麗な黄色と紫色の花を咲かせた。

 

「っ、あれは!!」

 

「花、火・・・?」

 

「やったぁ〜!! アスミンとかすみっちが驚いたぁ〜♪」

 

「「・・・え?」」

 

二人が驚きの声をあげると、ひなたが後ろから二人を抱きしめた。

 

「アスミちゃんとかすみちゃんを驚かせるために、みんなでこっそりと準備してたんだよ♪」

 

「驚いてみたいって言ってたでしょ?」

 

のどかとちゆの言葉に、きょとんとしていたアスミとかすみだったが、全て自分へのドッキリだと認識すると・・・・・・。

 

「ふふっ。そういうことでしたか♪」

 

アスミは笑みを浮かべ、半透明だった体も元に戻った。

 

(私たちに黙って楽しんでたんじゃなかったんだ・・・全ては私たちのために・・・)

 

「・・・全く、お茶目なことをするなぁ♪ 三人とも♪」

 

かすみは口では皮肉を言いつつも、その表情には満面の笑みが浮かんでいた。

 

「ラテもアスミちゃんやかすみちゃんを引き止めようとしたんだけどね・・・」

 

「まぁ、ラテも知っていたのですか?」

 

「そうだったのか・・・」

 

ラテも一緒にのどかたちの計画に参加していたことを知って、驚くアスミとかすみ。

 

「俺たちも流しそうめんの組み立てに苦労したんだぜ〜」

 

「ラビリンたちの力作ラビ!!」

 

「竹を集めるのは大変だったペエ〜」

 

ヒーリングアニマルたちは流しそうめんの台を作るのに協力していた。

 

「ふふっ♪ 本番はこれからよ」

 

「えへへ♪」

 

ひなたが笑みを浮かべながら取り出したのは、昼間、彼女が持っていた紙袋に入っていた浴衣だった。

 

「あ、それ・・・」

 

のどかたちはみんな、自分たちの思い思いの浴衣を着た。

 

のどかは薄いピンク生地に花柄の模様がある浴衣で、前髪の一部を編み込みしている。ちゆは白池に青色の金魚の模様の入った浴衣で、髪はお団子にまとめている。ひなたは青地にピンク色の花火の模様が入った浴衣で、髪は左側に寄せて盛り、黄色と白の髪飾りでまとめている。

 

そして、アスミの浴衣は紫地に水色の風車の模様が描かれた浴衣で、髪は三つ編みにまとめて右に垂らしており、かすみの浴衣は黒地に白い葉っぱと花の模様が描かれた浴衣で、髪はハイツインテールにして、そこに黒いリボンを付けている。

 

「の、のどか・・・に、似合っているぞ・・・」

 

「ふふっ♪ かすみちゃんも似合ってるよ♪ カワイイ♪」

 

「っ・・・・・・」

 

かすみは恥ずかしそうにモジモジとさせながら言い、のどかも彼女の姿を見てそう言うとかすみは顔を真っ赤にさせた。

 

「それじゃあ、流すペエ!」

 

台の上にホースから水を流した台の上から、ペギタンがそうめんを流していく。

 

「これが、流しそうめん・・・!」

 

「楽しそうだな・・・!!」

 

アスミとかすみは初めて見る流しそうめんに目を輝かせる。

 

「ふふっ・・・こうして食べるのよ」

 

「「「「おぉ〜!!!」」」」

 

ちゆがお手本としそうめんのうまく箸で掴み、麺つゆにつけて食べ方を教えると、のどかたちは拍手を送った。

 

「ふふっ♪」

 

かすみはお椀を持つと、流してくれるそうめんを箸で掴む。

 

「おっと・・・よし!」

 

箸で掴んだそうめんを落としそうになりつつも、お椀の中にうまく入れる。

 

「あむ・・・ズルズル・・・おぉ!! 美味しいなぁ!!」

 

「「「ふふっ♪」」」

 

かすみは生まれて初めて食べた流しそうめんに目をキラキラと輝かせる。のどかたちはその様子を見てお互いに笑みを浮かべた。

 

その後は流しそうめんを皆で食べ始め、楽しんでいると・・・・・・。

 

ヒュ〜〜〜〜〜〜、ドォン!!!

 

「ふわぁ〜!!」

 

「「あはは♪」」

 

「おぉ〜!!」

 

また空に花火が上がったと思うと、空に浮かんだのはラテの顔を模した花火であった。

 

「ラテが空に!!」

 

「打ち上がったなぁ・・・!!!」

 

「私たちの学校の生徒の打上くんのお父さんが花火師さんなの♪」

 

「特別に作ってもらったんだ〜♪」

 

「あぁ・・・・・・」

 

流しそうめんに加えて、打ち上げられたラテの花火に、アスミは心奪われていた。

 

「どう? アスミちゃん、かすみちゃん。たくさんびっくりできた?」

 

「ええ♪ 私・・・びっくりが大好きになりそうです♪」

 

「うん♪ 記憶に残る、びっくりになりそうだよ♪」

 

アスミとかすみも笑顔でそう言った。

 

(私は、まだここにいていいんだ。のどかたちとこうして楽しい日々を過ごせるのなら)

 

かすみは心の中で、自分に安堵した。邪な考えなんか関係ない、こうやって楽しいことをしていければ、それで満足だと・・・・・・。

 

こうして、のどかたちは楽しい夜を過ごすのであった・・・・・・。

 

のどかたちと出会い、彼女たちの元で友達として過ごし、楽しい毎日を過ごすかすみ。

 

しかし、ビョーゲンズが起こしたとある事件をきっかけに抗えない運命を辿ることになろうとは、彼女自身はまだ気づくこともなかったのであった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キングビョーゲンの娘がアジトとしている廃病院、その屋上でクルシーナとフーミンは下界の街に飛び回るある物を見ていた。

 

「ふーん・・・仲間を増やしたからストームビョーゲンも増えてるのね」

 

「お姉様、あれ、なんですかぁ・・・?」

 

クルシーナが興味深そうに見つめていると、フーミンが疑問を抱いてクルシーナに問いかけてきた。

 

「あれはストームビョーゲン、簡単に言うなら核に集まっているナノビョーゲンの軍勢ね。この街にのさばらせておいて、永遠に病気になるようにしてくれているのよ」

 

「んぅ・・・プリキュアの住む街に出せばいいんじゃないですかぁ・・・?」

 

クルシーナがそう説明すると、フーミンはすこやか市に出撃させればいいのではと提案をする。

 

「そんなに簡単じゃないわよ。制御も難しいし、下手したらアタシたちまで取り込まれちゃうから、簡単にこの街からは出せないのよ」

 

「そうなんですねぇ・・・」

 

クルシーナが面倒臭そうに説明すると、フーミンは一応納得する。

 

「それにしても、あいつら、段々とお手当てができるようになってる。まあ、誰かに助けられて、だけどね・・・」

 

クルシーナは不機嫌そうな顔でストームビョーゲンを見つめながら、プリキュアがパワーアップしたときのことを思い出す。

 

ダルイゼンのメガビョーゲンにプリキュアたちは全く叶わず、回転攻撃の一撃で終わるはずだった。その時だった。

 

パァァァァァァァ・・・!!!

 

『『!!??』』

 

突然、何かが光り出し、その姿を見たダルイゼンとクルシーナは驚愕した。その光のもとは吹き飛ばされたプリキュアの3人からだった。光の柱が上がり3人が立ち上がると、その手にはハートに花と水と光の装飾がついた、エレメントボトルが握られていた。おそらく、自然界に宿っているエレメントどもが力を貸したのであろう。

 

そして、プリキュアたちはあの技を繰り出したのだ。

 

『『『トリプルハートチャージ!!』』』

 

『『届け!』』

 

『『癒しの!』』

 

『『パワー!』』

 

グレース、フォンテーヌ、スパークルの順で肉球にタッチしていき、ステッキを上に掲げる。すると、花畑が広がっていき、背後には自然豊かな森が広がっていく。

 

『『『プリキュア! ヒーリング・オアシス!!』』』

 

3人は一斉にメガビョーゲンへとステッキを構え、ピンク・青・黄色の3色の光線が螺旋状になって放たれる。螺旋状の光線は混ざり合いながら一直線にメガビョーゲンに直撃する。

 

3色に光るハート状にメガビョーゲンを貫き、あれだけプリキュアを苦戦させたメガビョーゲンはあっさりと浄化されてしまったのであった。

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナはそれを瞑目しながら思い出す。そして、忘れてはいけないのはあの出来事だ。

 

「そして、あいつらは・・・この街にも来た・・・!!」

 

クルシーナはプリキュアどもがこの街に来たことも思い出す。間接的にこちらの世界に引き込んだとはいえ、プリキュアをこの世界に連れて行ったのだ。

 

プリキュアたちを散り散りにし、地球はすでに奪われているという絶望を突きつけてやろうと考えた。お前たちのお手当ては何をやっても無駄だということを・・・・・・。

 

しかし、あいつらは決して諦めなかった。自分たち三人娘が融合させたメガビョーゲンに対しても、勝てないと分かっておきながら立ち向かおうとし、最後まで希望を捨てなかった。

 

いや正確にいえば、絶望を与えたのだ。プリキュアたちは確かに絶望していた。それを止めさせたのは、あの設楽という自分たちを救わなかったヤブ医者がいたからだった。

 

だから、プリキュアをストームビョーゲンを使って消そうと考え、次いでに消そうと考えた設楽を葬り去ることに成功した。その結果、キュアグレースは絶望し、自分に恐怖を抱かせることに成功したが、結果的にエレメントさんの邪魔が入ってあいつらを消すことは叶わず、逃げられてしまった。

 

「・・・もうあいつらはここには来させない・・・あの街で絶望させて、苦しめてやる・・・お前らの頑張りなんか無駄だってこともな・・・!!!!」

 

クルシーナは睨むような表情で街を見つめながら、そう呟いた。

 

「お姉様ぁ・・・? 何をブツブツ言ってるですかぁ・・・?」

 

「・・・なんでもないわよ。さあ、あいつらのところに戻ってすこやかまんじゅうでも食べるとしましょうかしらね」

 

クルシーナはきょとんとしているフーミンにそう言うと立ち上がり、彼女を連れて廃病院の中に戻っていく。

 

(そろそろ、あの脱走者も迎えないといけないわね・・・アタシたちビョーゲンズの仲間として。さて、どうしようかしら・・・?)

 

「ふふふ・・・♪」

 

クルシーナはそう心の中で考えると、不敵な笑みを漏らすのであった・・・・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第81話「気球」

原作第27話がベースになります。
気球大会の話ですが、この話ではちょっと気になる描写を入れています。
そこを気づいてもらえると、この後の話が楽しめると思います。


ビョーゲンキングダムーーーーそれは、ビョーゲンズたちにとっては楽園のような場所、と言っても過言ではないのかもしれない。

 

「透明な水・・・黒い水・・・」

 

グアイワルは、透明な水を入れたフラスコと、黒い液体を入れた試験管を持って何かをしていた。

 

フラスコの中の水に、試験管の黒い水を注ぐ。彼がフラスコの中の水を覗いてみると・・・・・・。

 

「黒くなった♪」

 

グアイワルは妙に明るい声でそう言うと、まだ無数にある試験管の黒い水の一本をまたフラスコの中の水に注ぐ。

 

「おぉ〜!! もっと黒くなった!!」

 

グアイワルはさらにフラスコの水に、黒い水を注ぐという行為を繰り返す。

 

「入れれば入れるほど黒くなっていく!! つまり!! メガパーツをたくさん入れれば、もっともっと強くなるということ!!」

 

どうやら黒い水を注ぐと濃くなるということを、メガパーツの例えとして持ち出している様子。

 

「へっ! これで俺が、ナンバーワンだ!!フッフフフフフ、フッフフフフ、フッハーッハッハッハッハッハ!!!!」

 

グアイワルはメガパーツをたくさん使えば、天下が取れると確信し、高らかに笑い声をあげる。

 

「はぁ? うるっさっ」

 

「・・・一体、何を一人でバカみたいに笑っているの?」

 

「黒い水が濃くなるというのを、メガパーツを加えれば強くなるって確信してるみたいですよ。黒はいくら注いでも黒でしょうに・・・」

 

その近くにいたシンドイーネは不快感を覚え、その様子を見ていたドクルンとイタイノンは呆れたように見ていた。

 

「ほっときゃいいのよ、そんな奴。バカ騒ぎしようが興味ないし」

 

そこにやってきたクルシーナがそれを聞いて、不機嫌そうに言った。

 

「シンドイーネ、クルシーナ、ドクルン、イタイノン」

 

「??」

 

「何よ?」

 

「どうしたんですか?」

 

「何なの?」

 

クルシーナの隣にいたダルイゼンが、隣にいるクルシーナと3人に声をかける。

 

「自分の宿主って覚えてたりする?」

 

「はぁ? そんなの覚えてるわけないじゃない」

 

ダルイゼンが質問すると、シンドイーネはあっさりと答える。

 

「・・・まっ、そうだよね。クルシーナたちはどうなの?」

 

「っ・・・」

 

ダルイゼンは次に三人娘に問うと、クルシーナだけは険しい表情を浮かべていた。

 

「アンタらと一緒にしないでくれる? つーか、生まれ方も全然違うでしょっ」

 

「私たちはお父さんの娘は人間そのものがビョーゲンズになったんです」

 

「ダルイゼンやシンドイーネみたいに、宿主から生まれたのとは違うの」

 

三人娘は口々にそれぞれの感情でそう言い放つ。

 

「・・・じゃあ、その時のことは覚えてんの?」

 

ダルイゼンは追加で質問を投げかける。

 

「んなこと知ってどーすんのよ? アンタに得でもあるワケ?」

 

「・・・・・・別に」

 

「どうでもいいじゃない、そんなこと。無駄な話をしてる暇があるなら、一人でも仲間を増やしに行くわよ」

 

クルシーナは不機嫌そうな態度でそう言うと、スタスタと歩き、ダルイゼンもクルシーナの後をついていくように、二人はその場を歩き去っていく。

 

「えぇっ? ちょっと!・・・ったく、どいつもこいつも・・・」

 

シンドイーネは質問するだけしたダルイゼンと、途中で話を切り捨てるように打ち切ったクルシーナの後ろ姿を呆れたように見つめていた。

 

「クルシーナにとっては、どうでもいいんですよね。昔のことなんか」

 

「私も思い出したからって何なの?って話なの。私がキュアスパークルと何かあったとか、別にどうでもいいの」

 

ドクルンは無表情でそう呟き、イタイノンはどうでもいいと吐き捨てるとその場を立ち上がって歩き去っていく。

 

そして、一緒に歩いているクルシーナとダルイゼンは・・・・・・。

 

「どうしたら、もっと強いの作れんのかなぁ・・・フーミンは強かったけど、使い勝手が悪そうで、面倒臭そうだし・・・」

 

「一応、ドクルンには克服できるようにしてもらってるけどね。それでも面倒なのには変わりないわね」

 

クルシーナとダルイゼンは、以前イタイノンが誕生させたフーミンについて思い出しながら話していた。フーミンは確かに強い、だがどこにでもすぐ寝る癖があり、幹部としては扱いづらい。その癖はドクルンによって克服はできているが、それでもその効力が切れた時には余計深い眠りに落ちることが判明したため、もっと面倒な感じになる。

 

もっともっといい仲間を増やしていかないといけないと考えていた。

 

「宿主の問題じゃないの? ヒナみたいな貧弱なヤツじゃなくて、もっと生命力の高そうな宿主に埋め込んで見ればいいんじゃない? 例えば、生きてるって感じのやつにさぁ」

 

「生きてるって感じのやつ、ねぇ・・・」

 

クルシーナの助言に、ダルイゼンは考え込む。生命力の高そうな宿主・・・生きてるって感じのやつ・・・まあ、そんなものは簡単に見つかれば苦労しないわけで。

 

二人はそうやって話しながら、地球へと向かっていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プルルルルル、プルルルルルル!!

 

カチャッ

 

「もしもし・・・」

 

ちゆの家で、かすみは自宅の子機電話を取って、電話に出る。

 

「っ、のどかぁ・・・!」

 

電話に出たのはのどかで、かすみの声が明るくなる。

 

「気球大会? のどかのお父さんの学校の生徒がやってるもの?」

 

のどかはどうやらお父さんの学生時代に所属していたサークルが参加している大会を見にいっていることを伝えたかったが、かすみはあまり理解しきれていない様子。

 

しかし、かすみはきょとんとした表情でそれを聞いた後、笑みを浮かべる。

 

「なんだかわからないけど、面白そうだな・・・!! 私も行くよ・・・!! 河川敷・・・あそこか・・・! ちゆを連れてすぐにそっちに向かうからな・・・!!」

 

かすみはのどかに場所を教えてもらった後、嬉々しながらそう言うと電話を切った。そして、ちゆも連れて行こうと彼女の部屋に向かう。

 

「ちゆ、いるか? のどかのお父さんの大会を見に行こうと誘われたんだが・・・あれ?」

 

かすみは彼女に教わったドアノックをした後に襖を開けるが、そこにちゆの姿はなかった。かすみはきょろきょろと彼女の部屋を見渡す。

 

「ちゆ・・・? 部屋にはいないのか・・・」

 

かすみはちゆの部屋を後にすると、菊の間や梅の間といった客室、温泉がある浴場、庭の外と探し回った。しかし、ちゆは見つからなかった。

 

そこで、受付をしているちゆの母親のまおに聞いてみた。

 

「ちゆならおつかいに出かけてるわよ」

 

「そうか・・・・・・」

 

「ちゆに何か用があったの?」

 

「ああ・・・友達のお父さんの部活、のサークル、が参加する大会に出るから、一緒に見に行こうと思ったんだ」

 

かすみがまおにそう伝えると、彼女はふふっと笑いをこぼす。

 

「な、何か、おかしいか・・・?」

 

「ふふふ、いいえ・・・ちゆと仲良くしてくれてるんだなと思ってね。とうじとも仲良くしてくれてるんでしょう?」

 

「ああ・・・とうじくんとはよく遊ぶな」

 

まおが笑ったことにかすみは動揺したような反応を見せると、まおはそう言ってかすみを落ち着かせる。

 

「ちゆには伝えておいてあげるから、先に行ってきなさい♪」

 

「いいのか・・・?」

 

「構わないわよ。かすみは大事なうちの家族でもあるからね♪」

 

「あ・・・ありがとう・・・!! 行ってくる・・・!!!」

 

まおがそう言うと、かすみは瞳をキラキラと輝かせながら、ちゆの家を後にし、気球大会へと向かったのであった。

 

「河川敷は確か・・・街外れのところにあるって言ってたな・・・」

 

かすみはのどかが伝えてくれた場所を思い出しながら歩いていく。

 

ふと、平光アニマルクリニックを歩いていたところで、見覚えのある黄色いワゴン車が走っていくのが見えた。

 

「あ、あれは・・・」

 

かすみがそれに立ち止まると、ワゴン車は少し進んだ後で止まり、そこからひなたが顔を出した。

 

「あれ〜? かすみっち?」

 

「ひなた。あ、そうか、あのワゴン車だもんな」

 

ひなたが顔を出したことと、黄色いワゴン車からグミジュースとパンケーキを提供してくれるお店であることを思い出す。

 

「あら、かすみちゃん。久しぶり♪」

 

「めいさん・・・こんにちは♪」

 

かすみはワゴン車を運転していた、ひなたの姉・めいに挨拶をする。

 

「何してんの〜?」

 

「のどかのお父さんの部活、が参加する大会を見に行くんだ」

 

「それってもしかして・・・気球大会のこと?」

 

「そうだが・・・」

 

かすみが窓から顔を出しているひなたに近づいて説明すると、ひなたは笑みを浮かべる。

 

「それ、あたしたちも行こうとしてたところだよ〜!!」

 

「本当か!? ん? たち・・・?」

 

かすみはその言葉に笑顔を見せるも、複数人を表すその言葉に疑問符をつける。

 

「あ〜、お姉も一緒に行くんだ♪ あたしはお姉の手伝い。うちのワゴンカフェの出張販売だよ〜♪」

 

「おぉ〜!! ワゴンカフェってそんなこともできるのか〜!! すごいぞ〜!!!!」

 

ひなたが経緯を説明すると、かすみはなぜか興奮して目をキラキラとさせる。

 

「かすみっちも乗りなよ〜、一緒に行こ♪ お姉、乗せてもいいよね〜?」

 

「もちろんよ、ひなたの友達なら尚更ね♪」

 

「いいのか?」

 

「何言ってんの〜、友達じゃん♪ あたしたち♪」

 

「ありがとう・・・」

 

ひなたにワゴン車に乗るように誘われ、かすみは喜んでワゴン車の中に乗車した。

 

「一人で行くつもりだったの?」

 

「いや、ちゆも誘おうとしたんだが、お母さんのお手伝いで留守でな。一応、伝えてはあるんだが・・・待てないから先に行ったんだ」

 

「そうだったんだね〜♪」

 

ワゴン車の中でひなたとかすみが会話をする。こうして、二人はのどかの父・たけしが所属していたサークルが参加する、気球大会の会場である河川敷に向かって行く。

 

「ひなたに会えてよかった・・・」

 

「え? なんか言った?」

 

「な、なんでもない・・・!!!」

 

かすみはボソリと呟くと、ひなたが聞き取れなかったのか聞き返すと、かすみは赤面しながらごまかした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、気球大会の会場である河川敷では、出場するみんなが大会の準備をしていた。

 

のどかの父・たけしが大学時代に所属していたサークルで、その後輩に当たるカズのチームも機械を使って、気球に熱を送っていた。

 

「まず、炎で温めた空気を気球の中に入れます」

 

「暖かい空気は軽いから、気球は空に浮かび上がる。あとは風に運んでもらって、ターゲットを目指すんだ」

 

カズが作業をしながら、たけしは様子を見守りながら、のどかたちに説明をする。

 

「風まかせってこと?」

 

「そっ。気球は上がることと下がることしかできないから、車や飛行機みたいに自由にコントロールができないんだ」

 

「それじゃあ、どうやって目的地に行くの?」

 

たけしがそう説明すると、のどかは気球の移動の仕方に疑問を抱く。

 

「風の流れを読むんです」

 

「風の流れ・・・?」

 

その質問にはカズが作業をしながら答えた。

 

「うん。風は空の高さによって流れが違うから、気球を上げたり下げたりして行きたい方向の風に載せるんだよ」

 

「ふわぁ〜♪」

 

「・・・でも、どうしてこんな朝早くにやるの?」

 

のどかがはしゃぐ中、のどかの母・やすこは小さくあくびをした後にそう訊ねた。

 

「昼間は地面が暖まって上昇気流が生まれる、それが気球を飛びにくくして、危険だからなんだ」

 

「まぁ。とても面白い乗り物ですね」

 

「ワン♪」

 

たけしが説明すると、のどかだけでなく、アスミやラテも興味を抱いた様子で作業を見ていた。

 

「そう。だから僕らも気球に夢中になって、熱心にできるんだ」

 

「・・・熱心で夢中・・・それって『好き』ということですか?」

 

「そうだね、『好き』ってことだね」

 

「・・・ふふっ♪」

 

アスミはカズや他のメンバーの熱心で、夢中な様子で気球に真剣に取り組んでいる様子を微笑みながら見ていた。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

「すぅ・・・ふわぁ〜、何だか甘い風〜♪」

 

のどかの元に甘い香りが風に乗ってきて、のどかはそれを心地よく感じていた。その香りの元を探ろうと辺りを見渡していると・・・・・・。

 

「お〜い、のどか〜!!」

 

「ア〜スミ〜ン!!」

 

聞こえてくる二つの声、のどかとアスミが声がする方向に振り返ると、そこにはかすみとひなたがこちらに向かって手を振る姿があり、後方にはワゴンカフェがあった。

 

「あっ、かすみちゃ〜ん! ひなたちゃ〜ん!!」

 

のどかはかすみたちに手を振ると、ひなたはバケットを持ってかすみと一緒にのどかたちの元へと歩いて行く。

 

ひなたは持っているバケットをのどかたちに差し出す。

 

「これ、あたしが練習で作ったヤツだから、みんなどんどん食べちゃって♪」

 

「わぁ♪ ありがとう♪」

 

「私も食べていいか?」

 

「もっちろん♪」

 

「ふわぁ、ありがとう♪」

 

のどかたちは早速パンケーキをひなたからもらい、もちろんかすみにもあげる。

 

「あれ? かすみちゃん、ちゆちゃんは?」

 

「あぁ〜・・・お母さんにおつかいを頼まれてるみたいなんだ・・・。お母さんには言ってあるから、来てはくれると思うんだが・・・」

 

「あ、そうなんだね〜」

 

かすみの話を聞いた後、のどかたちはパンケーキを食べ始めた。

 

「みんなでお出かけってここだったんだ〜♪」

 

「はむはむ・・・とても美味しいです♪」

 

「うむ、ほっぺたが落ちそうだ♪」

 

「えへへ♪ そろそろ〜、売り物になりそうだよねん♪」

 

美味しそうに食べるアスミとかすみに、ひなたは笑みを浮かべる。

 

「よかったら、どうぞ♪」

 

次は作業をしているカズにもパンケーキを差し出す。

 

「あっ、ありがとう。でも、気球で勝ってからゆっくりとごちそうになります」

 

「えぇっ!?」

 

「そんなぁ!! こんなに美味しいのにな・・・」

 

ひなたの差し入れを受け取らないカズに、アスミとかすみは驚く。

 

「はむはむはむはむ・・・!!!!」

 

「おぉ!? は、早いなぁ〜・・・」

 

アスミは手に持っているパンケーキを瞬時に食べ、あまりの早さにかすみは驚いていた。

 

「こんなに暖かくて美味しいもの・・・つまり、誰もが好きであろうパンケーキを断るなんて・・・」

 

「ア、アスミちゃん・・・?」

 

「私がラテを好きなように、みなさんはよほど気球が好きなんですね」

 

「ワウ♪」

 

「ならば私も、全力で皆さんを応援しましょう!!」

 

「ワンッ!!」

 

いつもより気合の入ったアスミとラテ。のどかはその様子に戸惑うようにきょとんとしていた。

 

「あ、ありがとう・・・」

 

カズはそれに気圧されながらも、お礼を言った。

 

「アスミってあんなに強気でいう子だったのか・・・?」

 

「いいじゃん♪ なんか面白そうだし〜♪」

 

かすみはアスミの気迫に戸惑うように、ひなたはその様子を面白そうに見ていた。

 

『さぁ!続々と気球が立ち上がって来ました!!』

 

そして、いよいよアナウンス共に気球の競技大会が始まり、様々な気球が次々と地面を立ち上がって来た。

 

カズたちの気球も立ち上がり、表面には雲と空、そして上部分には太陽の描かれたデザインがお目見えした。

 

「うわぁ・・・めっちゃデッカい! めっちゃ可愛い〜♪」

 

「よく見ると、気球ってこんなに大きいんだな・・・」

 

「俺も乗って見てぇなぁ〜!」

 

のどかたちは少し離れたところで見ており、ひなたやかすみが驚いたり、ニャトランがはしゃいだりしていた。

 

そして、みんなが見守る中・・・いよいよカズたちの気球が空へと浮かび上がり始めた。

 

「僕らも行こう」

 

「うん!」

 

「はい!」

 

「かすみっちは行って来なよ。あとで結果聞かせてね♪」

 

「ああ、わかった・・・」

 

かすみはたけしの元へと歩くと、頭を下げる。

 

「よろしく頼む・・・」

 

「えっと、君は・・・?」

 

「風車かすみだ。のどかの学校の転校生で、仲良くさせてもらってる」

 

「ああ・・・よろしくね」

 

かすみはたけしに自己紹介をし、互いに挨拶をかわす。

 

ひなたと別れたのどか・かすみたちは車に乗り、気球が向かう先である地面でテープでバツ印が書かれた場所へと移動した。

 

「あの印に一番近づけたチームが優勝するっていう競技なんだ」

 

「早さを競う訳じゃないんだ・・・」

 

「そう」

 

たけしがそう説明すると、やすこが興味深そうに見る。

 

「あ、どんどん来るぞ」

 

競技の説明を受けているうちに、先頭グループの気球が続々と印へと向かって来ていた。

 

「ふわぁ♪ 近づいて来たぁ〜!!」

 

「? でもあれは、カズさんたちのチームではありませんね・・・」

 

多くの気球は来ているものの、カズたちのチームの気球は姿が見えず、その間にも他のグループがゴールへと近づいて来た。

 

「よし来い!! いいぞ、いいぞ!! 焦るな・・・落ち着いて・・・」

 

近づいて来たグループ、気球に乗っていた人は紐のついた袋を地面へと向かって投げる。袋はバツ印の真ん中付近へと落ちた。

 

「やった〜!!!」

 

袋をうまく落としたことで、グループからは歓声が上がる。

 

「ふわぁ・・・すごい近くに落としてる!!」

 

のどかがその様子を見て驚く。

 

「っ! あれじゃないか?」

 

「? そうだね。あれがカズくんたちの気球だね」

 

「本当?」

 

「・・・そうですね。カズさんのチームです」

 

ふとかすみが空を見上げると、ようやくカズたちの気球が見えて来た。

 

「頑張れぇ〜!だね!」

 

「頑張れ〜、頑張れ〜!!」

 

「アゥ〜ン、アゥ〜ン!!」

 

「頑張れ〜!! 頑張れ〜!!」

 

やすこの言葉を受け、アスミやラテ、かすみは気球に向かって声援を送る。

 

「私も・・・頑張れ〜!!!!」

 

のどかも三人には負けない大きな声で声援を送った。

 

一方、その気球に乗っているカズは・・・・・・。

 

『少し上に、アプローチに使える東風がある!』

 

「了解。もう少し上か・・・」

 

地上にいる同じメンバーの天野と無線で連絡を取り合い、風はもう少し上にあると聞かされると火の出力を上げて上昇させる。

 

しかし・・・・・・。

 

「っ・・・まずい・・・逆に流され始めてる・・・!」

 

地上でその様子を見ていた天野の言う通り、気球はゴールとは逆方向に流されて行ってしまっていた。

 

『ストップ! 上は西に流され始めてる!』

 

「えっ!?」

 

天野の無線を聞き、カズはなんとか元の進路に戻そうとするのだが・・・・・・。

 

「頑張れ〜、頑張れ〜!!」

 

「あ、気球が逆方向に行っちゃってるぞ・・・??」

 

「えっ??」

 

「これってまずいよね・・・?」

 

アスミが声援を送っている中、かすみとのどかは異変に気付く。その間にも、気球はどんどん西へと流され続けていた。

 

「あぁ〜・・・残念だけど、これ以上は寄せられないかもしれないなぁ・・・」

 

「そんな・・・」

 

のどかたちは心配した様子で、気球を見守り続けるしかなかった。

 

その間にも、他のグループは次々とゴールし、紐をつけた袋をうまく落とせると喜んでいた。

 

「・・・ムムム、です」

 

「アスミちゃん?」

 

アスミは眉をひそめて険しい表情を浮かべており、異変に気づいたのどかが声をかける。

 

「ウゥ・・・」

 

「っ・・・」

 

「ラテ? かすみちゃん?」

 

すると、ラテも同じように眉をひそめて険しい表情を。そして、かすみは険しい表情をしながら、握りこぶしを震わせていた。

 

「・・・なんでしょう・・・この気持ち・・・なんとも言えない、この・・・」

 

「なんだろう・・・この、モヤモヤするような感じは・・・?」

 

アスミとかすみは自身の中になんとも言えないような感じが沸き起こり、険しい表情を崩さなかった。

 

その後、カズたちのチームもようやくゴールをすることができた。

 

「すみません・・・せっかくみなさんが見にきてくださったのに・・・」

 

「ドンマイドンマイ! 午後の競技は1位目指して頑張ってよ」

 

「そうですね・・・あははは・・・」

 

申し訳なく思うカズにたけしが励ますと、カズは頭を手にやりながら力なく笑う。

 

「んっ・・・?」

 

「っ・・・!!」

 

それを見ていたアスミとかすみは、再び眉をひそめて険しい表情を浮かべていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、かすみっち♪」

 

「・・・ありがとう」

 

かすみはワゴンカフェで、ひなたのパンケーキを受け取る。その表情はひなたに向けたときは苦笑していたが、受け取って後ろを向いた途端に険しい表情を浮かべていた。

 

「あーむ・・・むぅ・・・」

 

「どうしたの・・・?」

 

ひなたがいつもと様子のおかしいかすみに問いかける。

 

「私とアスミが応援していたサークルチームが負けてしまってな・・・」

 

「ああ・・・まあ、そんな時もあるって」

 

「むぅ・・・」

 

かすみが不満を口にしてひなたがそう言うも、パンケーキを食べるかすみの険しい表情は晴れなかった。

 

「かすみ〜!!」

 

「あ・・・!!」

 

そこへ自分が呼ぶ声が聞こえて顔を向けると、それはちゆだった。

 

「ちゆ・・・待ってたぞ!」

 

「わお!ちゆちー!!」

 

「お待たせ♪」

 

苦笑しながら言うかすみと喜ぶひなたに、ちゆは笑顔で答える。

 

「むぅ・・・」

 

「? かすみ、どうしたの?」

 

「・・・私たちの応援しているチームが勝てなくてな。なんだかモヤモヤするんだ・・・」

 

険しい表情をしているかすみに、ちゆが声をかける。かすみは表情を崩さずに心情を吐露する。

 

「さっきから機嫌悪そうなんだよね、顔が・・・」

 

「そうだったのね・・・」

 

ひなたが状況を説明すると、ちゆは納得しながら言う。

 

「こっちはもう大丈夫よ。お客さんも落ち着いてきたし」

 

「ありがとう!お姉♪」

 

めいから許可が出て、ひなたは外に出るべくワゴンカフェの奥へと入っていく。

 

「あ、ちゆちゃ〜ん! 来れたんだね!」

 

「ええ!」

 

「かすみちゃん、ここにいたんだ〜」

 

「ちょっと小腹が空いてな・・・」

 

そこへのどかがカフェにいるちゆたちの元へと駆け寄って来る。かすみは険しい表情をしたまま、パンケーキを食べていた。

 

「これで全員集合だね!」

 

「・・・アスミはどこいったんだ?」

 

ひなたがそう言うも、かすみは一人いないことに気づいて問いかける。

 

「そういえばいないわね・・・」

 

「そうそう。私、アスミちゃんとかすみちゃんを探してて、かすみちゃんは見つかったんだけど・・・」

 

「うぇ? アスミンって迷子ちゃん・・・?」

 

「とりあえず、探しに行かないか・・・?」

 

4人はアスミを探すべく、河川敷周辺を捜索し始めた。

 

一方、人気のない河川敷では・・・・・・。

 

「はぁ・・・・・・」

 

カズは一人座り込んでため息をついていた。

 

「・・・どうしてなのですか?」

 

そこへ声をかけられ振り向いて見ると、それは険しい表情を浮かべたアスミだった。

 

「どうして、大好きな気球がうまく行かなかったのに・・・先ほど『ははは』と笑ったのですか?」

 

「いや・・・それは・・・」

 

アスミの問いに、カズは顔を俯かせる。

 

「ずっと練習してるんだけど、僕は昔から本番に弱いって言うか・・・こう言う競技でもうまくいった試しかがなくて・・・だから、なんていうか・・・諦めの笑い、かな? ははは・・・」

 

力なく笑うカズを、アスミとラテは眉を潜めて険しい表情で見ていた。

 

「私とラテは、みなさんを懸命に応援して負けてしまった時、とてもこう・・・モヤモヤした気持ちになりました・・・」

 

「ワウン!」

 

「あ・・・・・・」

 

「っ・・・このムムムな気持ちは一体・・・?」

 

アスミは自分の中のなんともいえない気持ちを吐露する。そのラテを抱いている右手はピクピクと震えていた。

 

「私も・・・!!!」

 

「「っ!!」」

 

そこへアスミたちを見つけた、かすみが同じように険しい表情をしながら声をかけた。

 

「私も、自分の中にあふれてしまいそうなこのモヤモヤとした気持ち・・・なんだか気持ち悪くて、怒りが湧き上がって来るような感じになる・・・」

 

かすみは両手をぎゅっと震えるくらいに握りながら吐露する。

 

「パンケーキを食べても晴れていかない・・・この感情は、一体・・・なんなんだ・・・?」

 

かすみが顔を俯かせながら体を震わせていると・・・・・・。

 

「それはズバリ『悔しい』っていう気持ちよ」

 

そんなかすみたちに声がかけられ、二人が振り向くとちゆたち3人が立っていた。

 

「・・・『悔しい』?」

 

「ええ。私もハイジャンプの試合で負けた時、とても悔しい思いをしているわ・・・」

 

ちゆがアスミとかすみに起こっている気持ちを説明してあげる。

 

「・・・これが悔しいという気持ち」

 

「このモヤモヤして、すっきりしないこの感覚が・・・悔しい・・・」

 

「悔しいのをどうにかするには・・・勝って貰うしかないっしょ!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

カズはそんなちゆたちを見つめながら話を聞いていた。

 

「カズ〜!!!」

 

「っ!?」

 

「大変だ!! 天野が貧血で倒れちまって!!」

 

「えっ!?」

 

そんな時、チームメイトの浮間から天野が倒れたことを聞かされて立ち上がる。

 

「あいつ、昨日遅くまで準備してたから・・・!!」

 

「そんな!! うちじゃ天野が一番風が読めるのに・・・!!!!」

 

同じチームメイトの天野が午後の部に出られないことを知ったカズは再び落ち込む。

 

「クゥ〜ン!! ウゥ〜ン!!」

 

「ラテ?」

 

「何か言いたいみたいだな・・・?」

 

その時、ラテが何かを訴えるかのように鳴き始める。

 

5人はカズから少し離れて囲むようにしゃがみ込むと、聴診器を当ててラテの心の声を聞いてみる。

 

(アスミが風さんのこと、教えてあげるラテ)

 

「っ、それです!!」

 

ラテの助言に頷いたアスミは聴診器を外して、カズたちの方をみる。

 

「その役目、私が引き受けましょう!!」

 

「「ええっ!?」」

 

「私は、風を読むことができるのです!!」

 

驚くカズたちの前に、アスミはそう宣言するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと・・・ここに生命力の高そうないい素体があるのかねぇ?」

 

河川敷の近くの森の中に姿を表していた、クルシーナは森の中を歩きながらキョロキョロと探していた。

 

ダルイゼンとは一緒に来ていたのだが、いい素体をお互いに見つけるために、ここは分かれて探すことにしたのだ。

 

「周りを見渡しても、木と葉っぱしかなさそうだけど? 動物なんか住んでんの?」

 

クルシーナは立ち止まって周囲を見渡すも、周りは木がそびえ立っているばかりで動物が住んでいる様子がない。

 

周囲を再度キョロキョロと見渡した後、はぁとため息をつく。

 

「ちょっとあれを使って見るか・・・」

 

クルシーナは手のひらである種を生成すると、それを地面へと放る。すると、地面から巨大な花のようなものが生え、ピンク色の香りのようなものを放出する。

 

「こいつの臭いに誘われて、動物どもがいるなら出てくるはず・・・まあ、最悪街に行って死にそうな人間を見繕えばいいし」

 

クルシーナはラフレシアのような花を見ながらそう言って、木へと寄りかかって昼寝を決め込もうとする。

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナは寝そべりながら、ダルイゼンが言った言葉を思い返していた。

 

ーーーー自分の宿主って覚えてたりする?

 

「・・・自分の宿主、か・・・そういえば、あいつらってそうやって生まれてるんだっけ?」

 

宿主を介して生まれているビョーゲンズ・・・ダルイゼンもその一人だ。シンドイーネとグアイワルもそうだ。獣のような姿のバテテモーダもそうだ。

 

ヘバリーヌやフーミンは、宿主そのものにビョーゲンズの力が宿って生まれた人間ベースのビョーゲンズだ。新たに構成された人物として生まれているはずだから、宿主としての記憶はなくなっているはずだ。

 

自分や廃病院の地下室で眠っているお姉様、ドクルン、イタイノンも人間ベースのはず・・・だから、ダルイゼンたちとは生まれ方も勝手も違う・・・。

 

そう考える中、気になるようで大したことがないことがあった。

 

「・・・別にどうでもいいけど、アタシってどうやって生まれたんだっけ?」

 

今日に至るまでいろんなことがあったし、心底どうでもいいと思っていたから、自分が生まれた経緯も、ビョーゲンズになる前の記憶すらもあまり覚えていない。特にビョーゲンズとしての活動に支障がないので、これまでも変な映像が流れては無視し続けてきたが・・・・・・。

 

しかも、その変な映像には、決まってキュアグレースの姿が映っているのだ。アタシとあいつは、どこか関係があるのだろう。

 

ーーーー逃げないでよ。アタシとお前の仲でしょ? いつも一緒だったじゃない

 

ーーーー嫌・・・嫌ぁ・・・!

 

怯えていたキュアグレースに対して、なんとなく発したあの言葉。でも、キュアグレースも自分を見ても何も覚えていないようだった。

 

一体、自分はどういう人物?? 今のこの姿は、果たしてフェイクなのか?

 

そんなことを考えていても、クルシーナの頭の中には何も浮かばなかった。

 

「・・・ふん、くだらない」

 

クルシーナはそう呟くと寝返りを打つように横になる。

 

「アタシがビョーゲンズじゃなかったとか、どうでもいいし。例えこの姿がフェイクだったとしても、アタシはアタシよ。過去も未来も知ったこっちゃないわよ」

 

やめやめとクルシーナは考えるのをやめ、動物が寄ってくるまで寝て待つのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第82話「我慢」

前回の続きです!
気球大会の続きですが、かすみに再び異変が・・・・・・。


 

『さあ!午後の競技がスタートして、気球が離陸し始めました!!』

 

アスミをカズたちのチームのメンバーに加えた気球大会の午後の部、アナウンスが流れると共に多くの気球が再び空へと飛び立った。アスミはカズたちと同じジャケット着て、ラテ共にチームメイトとその様子を見つめていた。

 

「よし!行こう!!」

 

浮間の言葉を合図に、アスミたちはゴールへと先回りをしようと移動し始めた。

 

そして、のどかたち4人は先にゴール近くの橋の上で、飛んでくる気球を見つめていた。

 

「アスミンってば大丈夫かな・・・?」

 

「大丈夫。だってアスミは風のエレメントの力から生まれたんだもの」

 

「正確にいうなら、地球が生み出した風の力ってところかな・・・私と同じ人間じゃないし、大丈夫だと思うぞ」

 

「頑張って・・・アスミちゃん・・・」

 

のどかたちはみんなアスミを応援しながら見守っていた。

 

そんなアスミは車で移動しながら、カズが乗る気球と空の両方を見ていた。

 

アスミは鳥が上へと上がっていく様子を見て、何かが見えたようだが・・・・・・。

 

その近くで、不穏なある影が動いていた。

 

「はぁ・・・今日のここはやけに人間が多いの・・・」

 

「空に気球という乗り物を飛ばす大会をしてるからネムね」

 

イタイノンがげっそりしたような顔をしながら、空に浮かぶ気球を見上げていた。

 

「ふん、くだらないの。そんなしょうもないお祭り潰してやるの・・・!!」

 

イタイノンは不機嫌そうな声を出しながら、素体となるものを探そうとする。

 

「熱い空気を感じる・・・俺の実験にぴったりだ」

 

「・・・?」

 

そこへ声がしたかと思い振り向くと、グアイワルの姿があった。

 

「グアイワル・・・?」

 

「んぅ? その声はイタイノンか?」

 

ボソリと呟くイタイノンに気づいたグアイワルがそちらを振り向く。

 

「実験って、ビョーゲンキングダムでやってたあれ、なの?」

 

「そうだ。水を黒くすれば黒くなる、黒くなったものを黒くすればさらに黒くなる、つまりはメガパーツをたくさん入れれば、メガビョーゲンも強くなっていくということだ!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

グアイワルの主張にイタイノンは呆れたように見ていた。

 

「成長することが強いとは限らないの。デカくても使えなきゃ役に立たないのと一緒なの」

 

「ふん、言っているがいい!! お前もこの俺のほうが正しかったと言うことになるぞ!!」

 

「・・・浄化されてもお断りなの。忠告はしてやったの」

 

尊大な態度のグアイワルに、イタイノンはそれだけ吐き捨てると彼から離れた場所に移動する。

 

会場がある場所へと歩いていくと、車や人がどんどんとイタイノンとは反対方向に移動していくのが見えた。

 

「なんだか人が向こうに移動しているネム」

 

「ということは、この方向に歩いていけば、人はいないの」

 

イタイノンは自分の歩く方向に人がいないと確信してどんどん歩いていく。

 

ようやく河川敷の下の会場と思われる場所を見ると人はいるが、入りづらいというわけではない。イタイノンは河川敷の下へと降りていく。

 

キョロキョロと辺りを見渡しながら、素体となるものを探していく。

 

「気球なんかは風に流されて役に立たなくなるの。だから、それ以外にするの」

 

「風に流されたらおしまいネムね」

 

イタイノンは敢えて気球を狙わずに、他の使えそうな素体を周辺を歩いて探していく。

 

すると・・・・・・。

 

「っ! あれならいいの・・・!」

 

イタイノンがそう言いながら目をつけたのは、アウトドアでバーベキューを楽しんでいる家族の姿、その中にあるものだ。

 

その家族は離れてアウトドアテーブルの椅子に着き、食材が焼かれるのを楽しみに待っている。イタイノンはその隙に炭が燃えているバーベキューコンロに近づく。

 

「キヒヒヒヒ・・・・・・」

 

イタイノンは不敵な笑みを浮かべると、両袖を払うかのような動作をして黒い塊のようなものを出現させ、右手を突き出すように構える。

 

「進化するの、ナノビョーゲン」

 

「ナノナノ〜」

 

生み出されたナノビョーゲンはバーベキューコンロの下にある炭に取り憑く。燃えている炭が病気へと蝕まれていく。

 

「・・・!?・・・!!」

 

石炭に宿るエレメントさんが病気へと蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガビョーゲン!!」

 

バーベキューグリルのような黒い胴体に炭の棒のような両腕と車輪のような3本足、頭に宝石のような飾りのついたメガビョーゲンが誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなビョーゲンズたちの活動に気づいていないアスミ達は、車でゴール付近へと到着した。

 

「ターゲットの少し手前についた。風はね・・・ちょっと今、見てるから待ってて。どう?」

 

「う〜ん・・・よくわかんない・・・。やり直してみる」

 

チームメイトの浮間と吹田が風を読むのに苦戦する中、アスミは一人近くの木々や草むらを見渡していた。

 

その頃、カズの乗る気球はゴール近くに来てはいるものの、午前中と同じように進路からずれ始めていた。

 

「進路がずれてきてる・・・」

 

不安な表情を浮かべるカズ。

 

『・・・そのまま進んでください』

 

と、そこに無線からアスミからの強い声が聞こえてきた。

 

「でも、それじゃあもっと外れて・・・?」

 

「大丈夫。この風は、あの後あちらのターゲットへ向かいます」

 

「ワン!」

 

力強く答えるアスミ。カズはそんなあすみを信じて気球を調整し始め、浮間たちもアスミを信じるように互いに頷きあった。

 

気球はしばらく進んでいたが、逆にゴールから離れて行ってしまっていた。

 

「やっぱりダメか・・・くっ・・・」

 

また午前中と同じように失敗する・・・カズがそう諦めかけた、その時だった・・・!!

 

ビュゥゥゥゥ!!!

 

「うわぁ!? か、風が・・・!?」

 

カズが思わず帽子を飛ばされないように抑えるほどの風が吹く。すると、気球が進路から戻るように動き始めたのだ。

 

『絶対に・・・私もラテも、勝ちを諦めませんので・・・!!!!』

 

「・・・うん、よし!」

 

無銭からのアスミの声に気持ちを取り戻したカズは、ゴールに印をつけるための準備を始めた。

 

その時だった・・・!!

 

「クチュン!! クチュン!!」

 

「っ、ラテ!?」

 

「クゥ〜ン・・・」

 

ラテが2回くしゃみをした後、ぐったりし始めたのであった。

 

一方、のどかたちは・・・・・・。

 

「近づいてきた!!」

 

「よし!行けるぞ!!」

 

カズたちの気球がゴールに近づいてきたことに、のどかやかすみが気づく。

 

「頑張れ〜!!」

 

「頑張れ〜!!!!」

 

「頑張れぇ〜!!」

 

のどか、かすみ、ひなたは声援を送り始める。

 

「よし来い・・・来い!!」

 

ゴール付近で待つ浮間も声援を送りながら、カズが紐のついた印を投げるのを待っている。

 

「頑張れ〜!! 頑張ーーーー」

 

ドクン!!!! ドクン!!!!

 

「っ!?」

 

かすみは声援を送り続けていたが、その最中に何か気配を感じ取って目を見開く。

 

「かすみ? どうしたの?」

 

「泣いている声が・・・」

 

急に声援を止めたかすみが気になって声をかけたちゆに、かすみがそうつぶやく。

 

そして、カズがゴールに狙いを定めて袋を投げようとした、その瞬間・・・!!!!

 

ドカァァァァァァン!!!!!

 

「「「「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」」

 

「「「!?」」」

 

突如離れたところから爆発が起こり、驚いてのどかたちや皆がその方向を振り向く。

 

立ち込めた煙の中が晴れていくと・・・・・・。

 

「メガァ〜〜」

 

気球のような姿にツノの生えたメガビョーゲンが姿を現し、それを見ていた人々はその場から逃げ始めた。

 

「ビョーゲンズよ!!」

 

「めっちゃいいとこだったのに!!!」

 

「っ〜〜!!!」

 

現れたメガビョーゲンにひなたやかすみが怒りを露わにしていると、そこへたけしとやすこが駆けつけてきた。

 

「大変だ!!」

 

「のどかはみんなと先に逃げて!!」

 

「わかった・・・!」

 

やすこの言葉を受けて、のどかはそう答えるとみんなと一緒に場所を移動し、人のいない橋の下へと避難する。

 

「みなさん!!」

 

「アスミちゃん!!」

 

そこへアスミもラテを連れて合流する。

 

「メガビョーゲンは二体いるぞ!! 泣いている声が2ヶ所聞こえる!!」

 

「わかりました。行きましょう!!」

 

かすみの言葉にアスミはそう答えると、みんなは彼女の言葉を合図に変身ステッキを持つ。

 

「「「「スタート!」」」」

 

「「「「プリキュア、オペレーション!!」」」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

「エレメントレベル、上昇ラテ!!」

 

「「「「キュアタッチ!!」」」」

 

ラビリン、ペギタン、ニャトランがステッキの中に入ると、のどか、ちゆ、ひなたはそれぞれ花のエレメントボトル、水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

アスミは風のエレメントボトルをラテの首輪にはめ込む。すると、オレンジ色になっているラテの額のハートマークが神々しく光る。

 

のどかたち3人は、肉球にタッチすると、花、水、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、水色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ちゆは水色、ひなたは黄色へと変化する。

 

ラテとアスミは手を取り合うと、白い翼が舞い、ラテが舞ったかと思うとハートの中から白い白衣のようなものが飛び出す。

 

その白衣を身に纏い、ラテが降りてきたかと思うとハープが飛び出し、さらにアスミは紫色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

衣装にチェンジした後、ハープを手に取り、その音色を奏でる。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「「時を経て繋がる、二つの風!」」

 

「キュアアース!!」

 

「ワン!」

 

アスミは風のプリキュア、キュアアースへと変身した。

 

「「「「地球をお手当て!!」」」」

 

「「「「ヒーリングっど♥プリキュア!!」」」」

 

4人が変身を完了すると、かすみが声をかける。

 

「私はもう一体のメガビョーゲンの方に向かうから、みんなは現れたメガビョーゲンを対処してくれ!!」

 

「一人で大丈夫なの・・・!?」

 

「私は平気だ。少しでも病気の進行を食い止める!! だからそっちも!!」

 

心配するひなたをよそに、かすみはステッキを持ちながら力強い声で言う。

 

「わかった・・・!! 気をつけてね!!」

 

「そっちも油断するなよ!!」

 

お互いに激励の声を掛け合いながら、かすみは現れているであろうもう一体のメガビョーゲン、そして4人は現れたメガビョーゲンの前に立ちはだかるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メッ、ガガガガガガガァ!!!」

 

「「「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」

 

イタイノンが生み出したメガビョーゲンは口から石炭を発射すると、周囲に着弾させて赤い靄へと蝕ませていく。怪物の姿を見た人々は悲鳴を上げながら、逃げ出し始める。

 

「キヒヒヒヒ・・・人間の悲鳴、久しぶりに食らえるの・・・!」

 

イタイノンはそれを河川敷の上から眺めながら、不敵に笑っていた。

 

「メガガガ!! メガガガガガ!!!!」

 

「うわぁっ!!」

 

「嫌ぁっ!!」

 

メガビョーゲンは石炭を逃げ惑う人々にも発車し、恐怖を煽りながら地平を蝕んでいく。

 

「やめろぉぉっ!!!!」

 

「メガァ・・・??」

 

そこへ叫び声がしたかと思うと、何かが飛び出しメガビョーゲンの顔面に蹴りを加える。しかし、あまりダメージを受けた様子はない。

 

イタイノンがその影を見ると、脱走者ことかすみだった。

 

「随分と来るのが早いの・・・」

 

イタイノンはいつもより早く妨害するものが現れたことに顔を顰める。

 

「もう少しで勝てそうだったのに・・・邪魔をするなんて許さない!!!!」

 

かすみはいつにも増して険しそうな表情をしながらメガビョーゲンを睨む。

 

「ん? 今日はお前一人なの? プリキュアどもはいないの?」

 

イタイノンは脱走者しか来ていないことに見下したような笑みを浮かべる。グアイワルがメガビョーゲンを発生させているのは先ほどの轟音から明らかだ。でも、敢えてバカにするために聞いて見た。

 

「こんなメガビョーゲンぐらい、私一人で十分だ!!!」

 

「ふん・・・メガビョーゲン、やれなの」

 

「メッガァ!!!!」

 

やけに感情的になっているかすみに、イタイノンは不機嫌さを隠そうともしない口調でメガビョーゲンに指示を出す。メガビョーゲンは炭の棒のような片手をかすみに振るう。

 

「ふっ!! はぁぁぁぁぁっ!!」

 

「メガ・・・?」

 

かすみは飛んで交わした後に、棒の上に乗るとそこから駆け上がるように迫り、メガビョーゲンの顔面にパンチを食らわせて飛び退く。しかし、メガビョーゲンはビクともしていない様子。

 

「メガァ!!!」

 

メガビョーゲンは地面に着地したかすみに向かって石炭を吐き出す。

 

「っ!! はぁっ!!」

 

「メガァ・・・??」

 

かすみは飛んで交わし、今度は反対側に飛び移るとメガビョーゲンの肩に蹴りを繰り出して飛び退く。それでも、メガビョーゲンにはビクともしていない様子。

 

「うっ・・・硬いっ・・・!!」

 

かすみはパンチした片手やキックした足に痛みを感じて顔を顰めていた。メガビョーゲンが思ったより硬かったのだ。

 

「メガガガガガガ!!!!」

 

「っ、はぁっ!!」

 

かすみはメガビョーゲンが吐き出す石炭をステッキから出すシールドで防ぐ。

 

「メェ〜〜〜ガァッ!!!!」

 

「ふっ!!!」

 

メガビョーゲンが足元の車輪を動かしてこちらへと駆け、炭のような両手を振るう。かすみは空中でとっさに翻して交わし、逆に伸ばして来た腕を掴む。

 

「ふっ・・・んんんんんん〜〜〜〜っ!!!!」

 

「メ、メガァ・・・!?」

 

かすみは顔を赤くしながらも地面を踏ん張って力を入れ、メガビョーゲンを持ち上げる。

 

「はっ、あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「メガァ〜〜〜!?」

 

そして、すぐに開けた場所へと放り投げ、メガビョーゲンは背中から地面へと叩きつけられる。

 

「なんて馬鹿力なやつなの・・・?」

 

「メガビョーゲン、負けそうネム・・・」

 

イタイノンは重量はありそうなメガビョーゲンをかすみが持ち上げたことに驚く。

 

「少し手を貸してやるの・・・」

 

ため息をつきながらそう言うと、イタイノンは倒れているメガビョーゲンの側へと移動する。

 

「はぁ・・・はぁ・・・っ? させないぞ!!」

 

息を整えているかすみはイタイノンに気づいて彼女の行動を阻止しようとする。その片手にはメガパーツが握られていた。

 

「・・・ふんっ!」

 

「っ!? うっ・・・!!」

 

イタイノンはメガパーツを持っていない手で電撃を放ち、駆け出したかすみはそれに動きを止めてしまう。

 

その隙にイタイノンはメガパーツをメガビョーゲンに押し当てて埋め込む。

 

「メガ!? メガガガガガガガガガガガァッ!!!!!!」

 

メガビョーゲンが苦しみ出すも、その体は禍々しいオーラに包まれていく。

 

「メェ〜ガァ〜!!!!」

 

オーラが晴れるとメガビョーゲンは先ほどよりも数倍に巨大化した。

 

「っ!!」

 

「メッガァ!!!」

 

かすみが驚く間も無く、メガビョーゲンは両手の炭のような棒を燃えるように赤くしていくと、地面へ叩きつけた。

 

「っ!? あぁぁっ!!!」

 

地面から熱が噴き出しながら迫り、かすみは飛んで交わそうとするも、飛んだ足元から熱風が襲い、吹き飛ばされる。

 

「っ・・・!!」

 

「メガガガガガガガ!!!!」

 

かすみはすぐに体制を立て直して着地するも、メガビョーゲンは大粒になった石炭を口から乱射して、周囲に着弾させる。河川敷の周囲がさらに病気へと蝕まれていく。

 

「っ、やめろっ!!!!」

 

かすみは怒りの叫びを上げながら、メガビョーゲンへと駆け出していく。

 

「メェ〜ガァッ!!!!」

 

メガビョーゲンは赤い炭のような棒を地面へと叩きつける。熱風を地面から噴き出させながら迫るも、かすみは足元から大きく噴き出す瞬間を狙ってジャンプで飛び上がる。

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

かすみは空中での回転で勢いをつけながら、黒いステッキを振りかぶる。

 

「っ、なにぃ!?」

 

「メガァ!!!」

 

「うわぁぁっ!!!!」

 

攻撃は金属のような音がしただけで聞いておらず、動揺した隙を突いてメガビョーゲンは体を回転させてかすみを吹き飛ばした。

 

地面へと叩きつけられ、転がっていくかすみ。

 

「ぐぅぅ・・・っ!?」

 

「メガガ!!!!」

 

痛みに呻いているかすみに目掛けて、メガビョーゲンが大粒の石炭を放ち、爆発を起こした。

 

煙が晴れるとかすみは傷つきながらも、立ち上がろうとしていた。

 

「キヒヒ・・・やっぱりお前相手にはメガパーツで一つで十分なの」

 

イタイノンはかすみの様子を見て不敵な笑みを浮かべる。

 

「うっ・・・よくも・・・よくも邪魔してくれたな・・・勝てそうだったのに・・・!!!!」

 

かすみはメガビョーゲンを暴れさせたイタイノンに怒りの言葉を吐く。

 

「勝てそう? 気球大会のことなの? あんなものやったって意味なんかないの」

 

イタイノンは気球大会のことを冷酷に吐き捨てる。

 

「ふざけるな・・・!!! カズさんたちが、せっかくチームの気持ちがまとまって・・・いいところを見せるところだったのに・・・お前たちが全部邪魔したんだ・・・!!!! 許せない!!!!」

 

「チームなんかくだらないの。足を引っ張って恥をさらすくらいなら、一人でいたほうがマシなの」

 

かすみは怒りの感情が膨れ上がっていくが、イタイノンはそれを否定して主張する。

 

「はぁ〜っ・・・はぁ〜っ・・・はぁ〜っ・・・!!!」

 

かすみは怒りの感情が落ち着かずに息が乱れてきており、黒いオーラが纏い始める。それはまるであのドックランの時のようなよくわからない黒々とした感情・・・・・・。

 

しかし、自身がネガティブな感情に駆られていることに気づいたかすみはハッとした表情になると、首を振って落ち着かせようとする。

 

「ダ、ダメだ・・・!! あの力を使ったら・・・!!!」

 

ポチットの時みたいに、また怖がられてしまう・・・そんな恐怖心からかすみは感情を落ち着かせようとすると、黒いオーラが薄まっていく。

 

「どうしたの? もっと怒ればいいの。一人でいれば、好きなだけ怒ることだってできるの」

 

イタイノンはかすみを挑発して怒らせようとするが、かすみは耳を通さずに心を落ち着かせようとしていた。

 

「ふぅ・・・ふぅ・・・!!」

 

ちゆに緊張したときや我を忘れそうになった時は、息を吸って吐いてを繰り返す、こうすることで気持ちを落ち着かせることができると教わったかすみは、それを試して感情に駆られないようにする。

 

「・・・ふん。メガビョーゲン、こいつは無視して会場をめちゃくちゃにしてやるの」

 

「メェ〜ガァ〜!!」

 

イタイノンはかすみの様子にすっかり興が醒め、メガビョーゲンにもっと周囲を病気に蝕むように指示を出す。

 

「ふぅ・・・っ!? やめろって言ってるだろ!!!!」

 

かすみはそれを聞くと、怒りの叫び声を上げながら駆け出すが、途中で立ち止まってしまう。また自身の体の黒いオーラが濃くなっていったからだ。

 

「うっ・・・ダ、メ・・・あの力は、ダメ、だ・・・!」

 

胸を手で抑えながら飲み込まれそうになる力に苦悶しながらも、必死で押さえつけようとするかすみ。

 

「何を我慢しているの? 怒りたければ怒ればいいの。溜め込んだって苦しくなるだけなの」

 

「う、あ・・・!」

 

「・・・・・・・・・」

 

イタイノンは再度挑発して煽ろうとしたが、かすみは苦しそうにしていた。イタイノンはその様子をしばらく見ていたが、その場から瞬間移動をすると・・・・・・。

 

バチバチバチ・・・!!!

 

「・・・ふんっ」

 

ドゴォッ!!!!

 

「っ!?」

 

かすみの前に瞬時に現れ、彼女の腹部に雷撃を含めた赤いオーラを纏わせた鉄拳を食らわせる。彼女の体の中に赤いオーラが注ぎ込まれていく。

 

「あっ・・・カ、ハッ・・・!」

 

かすみは腹部への激痛に大きく息を吐き出すと、そのまま膝から崩れ落ちて地面へドサリと倒れてしまった。

 

「ぅぅ・・・・・・」

 

無防備なところにダメージを受けたのか、かすみはビクンビクンと震わせながら地面に倒れ伏し、その場から立ち上がることができない。

 

「・・・体がガラ空きなの。我慢してるからそうなるの」

 

イタイノンは倒れたまま立ち上がらないかすみを見下ろしながら吐き捨てる。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「ぁ・・・ぁ・・・・・・」

 

「・・・ちょっとやり過ぎたの。まあ、こいつが我慢してるのが悪いの」

 

かすみが弱々しい声を上げながら、痛みなのか体をビクンビクンと痙攣させている。イタイノンはその様子をしばらくの間見下ろした後、頬をぽりぽりと掻きながら、かすみの近くにズカズカと歩き寄る。

 

倒れているかすみを片手で持ち上げて担ぎ上げる。

 

「・・・風がなんだか不愉快なの」

 

少し強くなってきた風に不快感を口にしながら、自身の生み出したメガビョーゲンの元へと歩いていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、グアイワルはメガパーツを3個投入させた巨大なメガビョーゲンと交戦中のプリキュアたちのところには突風が吹き始めていた。

 

気球型のメガビョーゲンはふわふわと浮き始め、風に流され始めた。

 

「風がメガビョーゲンを動かしています」

 

「っ! アース、お願い!!」

 

「承知しました」

 

アースは頷くとアースウィンディハープを取り出し、弦を軽く弾いて音を奏でる。すると、風のリングが飛び出し、アースはそれを手に取る。

 

さらに手に取った風のリングをメガビョーゲンのサイズに合わせて大きくする。

 

「はぁっ!!」

 

そして、風のリングを投げてメガビョーゲンに引っかかるように足元に仕掛けると、そこから強烈な竜巻が吹き荒れ、メガビョーゲンを包みながら高く浮かび上がらせた。

 

「メガァ〜!?」

 

「あぁ〜っ!? 踏ん張れ!! 踏ん張るんだ!!」

 

動揺したグアイワルは檄を飛ばす。

 

「ふっ!!」

 

「メガァ〜〜〜〜〜!?」

 

アースが弦を弾いて、右手を空へと掲げるとその動きに合わせてメガビョーゲンが空中へと飛ばされ、地面へと叩きつけられた。

 

「いっちゃえ! アース!!」

 

アースはスパークルの言葉に無言で頷くと浄化の構えに入る。

 

「アースウィンディハープ!」

 

アースはそのまま風のエレメントボトルをハープにセットする。

 

「エレメントチャージ!!」

 

アースはハープを手に取って、そう叫ぶとハープの弦を鳴らして音を奏でる。

 

「舞い上がれ! 癒しの風!!」

 

手を上に掲げると彼女の周りに紫色の風が集まり始め、ハープへとその力が集まっていく。

 

「プリキュア! ヒーリング・ハリケーン!!!」

 

アースはハープを上に掲げてから、それを振り下ろすとハープから無数の白い羽を纏った薄紫色の竜巻のようなエネルギーが放たれる。

 

そのエネルギーは一直線にメガビョーゲンへと向かい、直撃する。

 

竜巻のようなエネルギーはメガビョーゲンの中で二つの手へと変化し、空気のエレメントさんを優しく包み込む。

 

メガビョーゲンをハート状に貫きながら、光線はエレメントさんを外に出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていく。

 

「お大事に」

 

エレメントさんが気球の中に戻ると、このメガビョーゲンが蝕んだ場所が元に戻る。

 

「ちぃっ!! まだ諦めんぞ!!」

 

グアイワルは悔しそうに言うと、その場から姿を消していく。

 

「あとはかすみちゃんのところにいるメガビョーゲンだけだよ!」

 

ドォォォォン!!!!

 

「「「「!!」」」」

 

グレースの言葉に皆は頷いて駆け出して行こうとすると、テントのあった会場のあたりから爆発音が響き渡る。

 

「あれは・・・!?」

 

「もしかして、もう一体のメガビョーゲンが・・・!?」

 

「嫌な予感がします・・・!!」

 

メガビョーゲンが起こした爆発であると察知したプリキュアたち。その中でもアースは不穏な気配を感じてそう呟いた。

 

「あ・・・! アース!!」

 

アースはスパークルが叫ぶのも気に留めずに、一人メガビョーゲンの元へ走り出していく。

 

「私たちも行きましょう!!」

 

フォンテーヌの言葉に、グレースとスパークルは頷くと彼女の後を追って駆け出していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その爆発音が起きた場所では・・・・・・。

 

「メガガガガガガガガガ!!!!」

 

メガビョーゲンが大粒の石炭を口からマシンガンのように吐き出しながら、周囲を病気へと蝕んでいた。

 

「メガガガガガガガガガガ!!!!」

 

さらに川の方にも石炭を吐き出していき、赤い液体へと染めていく。

 

「ふむ・・・邪魔が入ったけど、メガビョーゲンは順調なの」

 

イタイノンは丘の上からその様子を見ていた。その側にはメガビョーゲンとイタイノンの攻撃で意識を失ったかすみの姿がある。

 

「ぅぅ・・・・・・」

 

かすみは意識がないにも関わらず、呻き声を漏らしており、体もフルフルと震わせていた。

 

「こいつ、本当に眠ってるの? さっきから声はしてるし、体が動いてるの」

 

イタイノンはかすみが本当に意識を失っているのか怪しんでいた。先ほどから彼女の体から自分と同じ赤いオーラに包まれていて、それを拒絶するかのように体が動いている。

 

「かすみさーん!!!!」

 

「!!」

 

そこへかすみを呼ぶ声が聞こえてきたかと思うと、イタイノンが振り向くと紫色のプリキュアーーーーキュアアースがこちらに駆けてくるのが見えた。

 

「っ!? これは・・・!?」

 

足を止めたアースが河川敷のあまりの惨状に驚いて言葉を失う。

 

「嘘・・・会場が・・・!?」

 

「あんなに病気が広がってる・・・!!」

 

そこへ後を追ってきたスパークルとフォンテーヌがその惨状を見て絶句する。

 

「キヒヒヒ・・・随分と遅かったの、プリキュア」

 

「イタイノン!!」

 

イタイノンが笑いながら声をかけると、プリキュアたちがこちらを振り向く。

 

「!? かすみちゃん!!」

 

かすみがその側で倒れているのを見て、叫ぶグレース。

 

「こいつ、今日は調子が悪そうだったの。メガビョーゲンの相手には全くならなかったの」

 

「うっ・・・」

 

イタイノンはかすみを足で踏みつけながら、不敵な笑う。

 

「かすみさんに酷いことをしないでくださいっ!!」

 

「・・・ふん」

 

友人を足蹴にされたアースが怒りの声を上げるとイタイノンに飛びかかろうとする。しかし、イタイノンはパンチが到達する前に瞬間移動をして、かすみから離れる。

 

「やれなの、メガビョーゲン」

 

「メガガガガガガ!!!!」

 

メガビョーゲンの側に移動したイタイノンは指示を出すと、メガビョーゲンはアースとかすみに目掛けて石炭を吐き出す。

 

「っ!!」

 

「「「ぷにシールド!!」」」

 

グレースたち3人はアースの前に飛び出すと、肉球型のシールドを展開して石炭を防ぐ。

 

「アースはかすみちゃんをお願い!!」

 

「メガビョーゲンはあたしたちに任せて!!」

 

「・・・わかりました」

 

アースが返事をすると、グレースたち3人はメガビョーゲンへと立ち向かっていく。

 

「はぁっ!!」

 

「メガ・・・?」

 

「たぁっ!!」

 

「メガァ・・・!?」

 

「やぁっ!!」

 

「メガァ〜!?」

 

フォンテーヌがメガビョーゲンに顔面に蹴りを入れるも、ビクともしなかったが、そこへスパークル、グレースの順に立て続けに蹴りを入れ、よろけたメガビョーゲンは地面に倒れる。

 

「っ・・・やっぱり3人集まると厄介なの」

 

イタイノンはその様子を見て、顔を顰める。紫のやつは脱走者を見ているから動けないとして、それでも3人揃ってメガビョーゲンを攻撃されるのは厄介だ。

 

「!!・・・そうだ、ついでにあれもやってみるの」

 

ピンクのやつと青いやつから感じる微量の自分と同じ気配、そこからクルシーナとドクルンが何かをやっていたことを唐突に思い出すと、イタイノンは自身のポニーテールを前に出して見つめる。

 

キュン!

 

「キュアスキャン!!」

 

スパークルはメガビョーゲンが倒れている隙に、ステッキの肉球を一回タッチしてメガビョーゲンに向ける。ニャトランの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを見つける。

 

「宝石のエレメントさんが、右腕のあたりにいたぞ!!」

 

エレメントさんの居場所を特定したものの、その間にメガビョーゲンが立ち上がる。

 

「メェ〜ガァ!!」

 

メガビョーゲンは赤く燃えた右手を地面へと叩きつける。地面から熱が吹き出しながらグレースたちに迫る。

 

「っ!!」

 

グレースたちの地面から熱風が放出され、寸前で空中へと逃げる3人。

 

「ここは氷のエレメントで動きを止めるペエ!!」

 

「ええ!! 氷のエレメント!!」

 

ペギタンの助言を受けて、フォンテーヌはステッキに氷のエレメントボトルをセットする。

 

「はぁっ!!」

 

「メ、メガァ・・・??」

 

ステッキから冷気を纏った青い光線が放たれ、メガビョーゲンに直撃し氷漬けになっていく。

 

「よし!! 今のうちに浄化を!!」

 

グレースたち3人はそのまま浄化技の構えに入ろうとしたが、そこへイタイノンが背後から姿を表す。

 

「そうはさせないの!!」

 

「「「きゃあぁぁぁっ!!!」」」

 

イタイノンは片手からグレースたちに向かって雷撃を放って吹き飛ばす。

 

「っ、イタイノン・・・!!」

 

「私が相手になってやるの・・・!!」

 

体に電気を帯電させたイタイノンはニヒルな笑みを浮かべながらそう言うとその場から姿を消し、フォンテーヌの横へといつの間にか姿を表す。

 

「っ!?」

 

「っ!!!」

 

「あぁぁぁぁ!?」

 

そのまま電気を纏った掌底をフォンテーヌの腹部に食らわせて吹き飛ばす。

 

「「フォンテーヌ!!」」

 

「よそ見してる場合なの・・・?」

 

「「っ!!」」

 

フォンテーヌを心配するグレースとスパークルの間に、イタイノンが現れる。

 

「「きゃあぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

イタイノンは両手を二人に向けて広げると、そのまま手から雷を纏った赤く禍々しいエネルギー波を放って吹き飛ばす。

 

「はぁ・・・はぁ・・・うぅぅ・・・!?」

 

フォンテーヌは腹部の痛みに呼吸が乱れながらも立ち上がるも、氷漬けになっていたメガビョーゲンから湯気が立っているのが見えた。

 

ピキピキピキピキ・・・パリーン!!!

 

「メガァ〜!!!!」

 

そして氷にヒビが入った後、体中が熱で燃えるように赤く染まったメガビョーゲンが氷漬けから解放されてしまった。

 

「そんなっ・・・!!」

 

「氷のエレメントの力が・・・!!」

 

氷漬けから脱したメガビョーゲンに動揺するフォンテーヌとペギタン。

 

「メガガガガガガァ!!!」

 

その隙をついてメガビョーゲンが赤く燃えた大粒の石炭を吐き出す。

 

「っ!! フォンテーヌ!!」

 

イタイノンの攻撃からなんとか立ち上がったグレースはフォンテーヌの前に飛び出す。

 

「ぷにシールド!!」

 

「うっ・・・うぅぅ・・・あぁぁぁっ!!!」

 

「きゃあぁぁぁ!!!!」

 

グレースは肉球型のシールドを展開するも、体中に熱を帯びて強力になった石炭攻撃の前に、シールドは3発で粉砕され、フォンテーヌ共々爆発に巻き込まれてしまう。

 

「みなさん・・・!!!」

 

アースはその戦いの様子を見て、3人を心配する。

 

「うっ・・・ぅぅ・・・」

 

「!!」

 

そんな中、アースが体を起こしながらも見ているかすみが苦痛に歪めながら呻き声を上げる。その体からは赤いオーラが放出されていた。

 

「うぅぅ・・・嫌だ・・・嫌だぁっ・・・私は、あの力を使いたくない・・・!!」

 

「かすみさん!! かすみさん!! 目を覚ましてください!!!!」

 

アースが必死に呼びかけるも、苦しむように唸るかすみの体からは赤いオーラが放出され続け、髪が金髪から銀髪へと点滅を繰り返しているのであった・・・・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第83話「素直」

前回の続きです。今回で原作第27話は終わりです。
そして、運命の時が・・・・・・。


 

「??」

 

かすみは気がつくと、真っ暗な空間の中にいた。

 

「ここは、どこだ・・・??」

 

かすみは疑問に思いながら、周囲を見渡すも辺り一面が真っ暗闇で何も見えてこない。

 

「私は確か・・・メガビョーゲンと戦っていたはず・・・もう、夜になっちゃったのか・・・?」

 

かすみはここにいる理由が本当にわからない。自分はさっきまでイタイノンというビョーゲンズが生み出したメガビョーゲンと戦っていた。もしかして、プリキュアたちが浄化してくれたのか・・・?

 

かすみは考えていると、そこにマゼンダ色の髪の少女がこちらを見ているのが視認できた。

 

「! のどか・・・!!」

 

キュアグレースに変身する自分にとって愛しい友達の、花寺のどかだ。さらに周囲に次々と人の姿が現れる。

 

「ちゆ! ひなた! アスミ! みんな・・・いたのか!?」

 

「「「「・・・・・・・・・」」」」

 

かすみはいきなり姿を現した友達にそう呼びかけるも、のどかたち4人は何も答えない。

 

「みんな・・・??」

 

かすみはみんなが黙ったままでいることに、疑問を抱く。すると、のどかたちは微笑むとそのままかすみに踵を返して歩いて行こうとする。

 

「あ・・・待ってくれ・・・! 私も一緒に・・・!!」

 

かすみはのどかたちの元へと駆け出そうとする。しかし、なぜか歩いているのどかたちに追いつくことができない。それどころか、彼女たちからどんどん離されている。

 

「!? なんで・・・なんでだ・・・!?」

 

なぜ追いつけない・・・? なぜ走っても離れていく・・・?? そんな疑念が彼女の頭の中に生まれ、かすみの中に焦りが生まれる。

 

「待ってくれ!! のどかぁ!! ちゆぅ!! ひなたぁ!! アスミぃ!!」

 

取り残される恐怖から、かすみは名前を叫びながら駆け出すも、のどかたちは全く止まってくれず、むしろどんどん引き離されていく。

 

「なんで止まってくれないんだ!? 待ってぇ!! 待ってよぉ・・・!!!」

 

かすみの涙声が遠方に響く。しかし、のどかたちの姿がどんどん見えなくなっていく。

 

「あっ・・・!」

 

かすみは自分の足に躓いて転び、見えない地面に倒れてしまう。

 

「うぅぅぅ・・・・・・」

 

足の痛みに呻き、のどかたちが自分を置いていった悲しみに体を震わせる。

 

「うぅぅぅ、うぁぁぁぁぁ・・・!!! どう、して・・・どうしてだよ・・・!! 私たち、は・・・友達じゃ、なかった、のか・・・!!」

 

かすみは涙をポロポロとこぼしながら咽び泣く。友達だと思ってたのに・・・友達なはずなのに・・・のどかたちは、私を置いていくはずがないのに・・・!!!!

 

かすみが悲しんでいる、そんな時だった・・・・・・。

 

トントン

 

「っ!?」

 

誰かに肩を叩かれて、その人物を見ようと振り向くと、クルシーナ、ドクルン、イタイノン、ヘバリーヌ、フーミンの姿、つまりはビョーゲンズの面々だった。

 

「お、お前たちは・・・!?」

 

かすみが呆然として見ている中、クルシーナは悪意のない微笑を浮かべながらこちらを見ている。

 

「あ、あぁ・・・!?」

 

かすみは立ち上がって、クルシーナたちから後ずさりをしようとするが、何かが背中に当たった。

 

びっくりして振り返ると、そこに立っていたのは、銀髪で赤い目の自分の姿だった。

 

「あ、あぁ・・・・・・」

 

かすみは怯えたような表情をしながら、彼女からも後ずさろうとする。しかし、銀髪の自分は不敵な笑みを浮かべながら、ゆっくりとこちらへと歩み寄っていく。

 

「や、やめろ・・・来るなぁ・・・!」

 

何なのかを察しているかすみは声を震わせながら拒絶の言葉を叫び、銀髪の自分から遠ざかろうとする。

 

しかし、その両肩を誰かに触れられる。それは先ほど見たクルシーナだった。

 

「嫌だ・・・嫌だぁ・・・やめてくれ・・・!!!」

 

かすみは首を振りながら言うも、クルシーナは微笑んだまま何も動きを見せない。そこへ無情にも銀髪の自分が迫ってくる。

 

両肩に手を置いているクルシーナを振りほどこうと暴れるかすみだが、ガッチリと掴まれていて話すことができない。

 

「私は、あの力はもう使いたくない・・・使いたくないんだ・・・!!!! やめろ・・・やめてくれ・・・来るなぁ・・・!!!!」

 

かすみがいくら拒絶の言葉を叫んでも、銀髪の自分は足を止めてくれない。

 

そして・・・・・・もう一人の自分は、かすみの頬に手を触れさせる。

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉ・・・!!!!!!」

 

真っ暗闇の中にかすみの絶叫だけが響いていた・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫌だ・・・嫌だぁっ・・・私は、あの力を使いたくない・・・!!」

 

「かすみさん!! かすみさん!!!!」

 

悪夢にうなされているであろうかすみをアースが必死に呼びかけるも、彼女は起きる気配がなく、赤いオーラに包まれて苦しんでいる表情を見せている。髪も金髪から銀髪に点滅し始めている。

 

「うぅぅぅ・・・ぅぅぅぅ・・・来るな・・・来るなぁ・・・!!!!」

 

「かすみさん!! 起きてください!!!! かすみさんっ!!!!!!」

 

ガタガタと体を震わせるかすみに、アースは体を揺さぶって声をかける。

 

「うぁぁぁ・・・あっ!?」

 

かすみは苦しみの声をあげてギュッと目をつむったあと、突然目を見開いた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・!!!!」

 

「かすみさん、大丈夫ですか!?」

 

「はぁ、ア、はぁ、アー、ス、はぁ、はぁ・・・っ!?」

 

かすみは激しく肩で息をしながら必死で言葉を紡ぐが、再び自分の中に何かが湧き上がってくるのを感じる。

 

「あぁ・・・うぁぁぁ!!!」

 

「あぁっ!?」

 

かすみは怯えたような表情をすると、なぜかアースを突き飛ばした。そして、かすみは四つん這いになりながらその場から離れようとする。

 

「うぅぅ・・・ぐぅぅぅ・・・!!」

 

かすみは胸を抑えながら、体をよじらせてその場から逃げようとしていた。

 

「かすみさん、待ってください!!!」

 

「来るなぁ!!!!」

 

駆け寄ろうとしていたアースだが、かすみが叫び声を上げ、動きを止めてしまう。

 

「嫌だ・・・嫌なんだ・・・また、あの姿を見せて・・・みんなに、嫌われるのが・・・嫌なんだぁ・・・嫌だぁ・・・嫌だよぉ・・・!!!」

 

かすみは胸に手を当てながら、ドックランで暴走したあの力を使うことを拒絶する。しかし、苦しみの声を漏らしていて、それに耐えきれずに声が涙声になってきていた。

 

「かすみさん・・・・・・」

 

アースはその様子をなんとも言えない表情で見ているしかなかった。

 

一方、メガビョーゲンと戦うグレースたちは・・・・・・。

 

「うっ・・・ふっ・・・うん・・・!!」

 

スパークルはイタイノンと戦っていたが、彼女の繰り出す拳や蹴りの応酬で防戦一方だ。

 

「ふんっ・・・!」

 

「ぐっ・・・!」

 

イタイノンが振り上げて落としてきた踵を交差してガードするも、表情は苦しそうだ。

 

「どうしたの? スパークル。動きがいつもより鈍いの」

 

「うっ・・・うる、さいっ・・・!」

 

イタイノンの挑発に、スパークルは叫びながら交差した両腕を開いて踵を弾き飛ばす。

 

「キヒ♪」

 

イタイノンはその瞬間にその場から姿を消す。

 

「あれ? どこいったの!?」

 

スパークルは姿を消したイタイノンを探そうとキョロキョロとする。背後にいるかもしれないと思い、踵を返して振り向く。

 

その瞬間・・・・・・!

 

キュイーン!

 

「っ!?」

 

「ふっ!!」

 

「あぁぁ!!??」

 

イタイノンが横から飛び出した状態のまま姿を現し、スパークルは気づいてそちらを振り向くも、イタイノンは彼女の腹部に掌底を食らわせて吹き飛ばす。

 

「ぐっ・・・うっ・・・!?」

 

スパークルは倒れないように踏ん張るも、腹部の痛みに顔を顰める。

 

「やったの・・・!!」

 

なぜか嬉しそうにするイタイノンがそう言いながら飛び出して、電気を纏わせた片手を繰り出す。

 

「っ・・・!」

 

スパークルは痛みでぎこちない動きながらも、イタイノンの叩きつけた片手をなんとか交わす。

 

「メガガガガガガ!!!」

 

一方、グレースとフォンテーヌはメガビョーゲンが吐き出す、熱を帯びて強力になった大粒の石炭攻撃を交わし続けており、近づくことができない。

 

「雨のエレメント!!」

 

そんな中、フォンテーヌは雨のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「はぁっ!!」

 

水を纏った青い光線をメガビョーゲンに向かって放つ。

 

シュウゥゥゥ〜〜!!!

 

「メェ〜〜ガァ〜〜!!!」

 

しかし、メガビョーゲンから湯気が大きく上がるだけでビクともしておらず、メガビョーゲンは逆に頭部の宝石部分から熱を帯びた光線を放つ。

 

「っ!? きゃあぁぁぁ!!!」

 

フォンテーヌは熱を帯びた光線を受けて吹き飛ばされる。

 

「葉っぱのエレメント!!」

 

グレースは葉っぱのエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「はぁっ!!」

 

エレメントの力を注いだピンク色の光線をメガビョーゲンに向かって放つ。

 

「メッガァ!!」

 

「っ、そんなぁ!? あぁぁぁ!!!!」

 

メガビョーゲンは赤く燃えた炭の棒で光線を防ぐと同時に、グレースに向かって叩きつけて吹き飛ばす。

 

「はぁ・・・はぁ・・・私たちの技が、はぁ、通用してないわ・・・はぁ・・・」

 

「ことごとく体で防がれちゃうペエ・・・」

 

「はぁ・・・はぁ・・・やっぱり、はぁ・・・アースがいないと・・・はぁ・・・」

 

「あ、諦めるのは早いラビ!! アースが戻るまでになんとか食い止めるラビ!!」

 

グレースとフォンテーヌは体力を消耗しており、かなり成長したメガビョーゲンに苦戦を強いられて弱音を吐き始めていたが、ラビリンが檄を飛ばして奮い立たせようとする。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

二人はその言葉になんとか立ち上がるが・・・・・・。

 

「メェ〜ガァ!!!」

 

メガビョーゲンは赤く燃えた炭の棒を振るう。

 

「ぷにシールド!!」

 

「うっ・・・きゃあぁ!!!」

 

グレースは肉球型のシールドで防ぐも、あっけなく突破されて攻撃を受けてしまう。

 

「はぁっ!!」

 

「メガ!!!」

 

「あぁぁっ!?」

 

飛び上がってかわしていたフォンテーヌはステッキから光線を放つも、メガビョーゲンが口から放った大粒の石炭に打ち消され、そのまま直撃を受けて吹き飛ばされてしまう。

 

「あぁ・・・」

 

「うっ・・・」

 

二人はボロボロになりながらもめげずに立ち上がろうとするが・・・・・・。

 

「メェガァ!!!!」

 

「「きゃあぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

メガビョーゲンの頭部から熱を帯びた光線を二人まとめて受けてしまう。

 

「ぐっ・・・うぅぅ・・・!!」

 

「・・・ふん」

 

「うぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

イタイノンの拳を受け止めるスパークル。しかし、表情は苦痛に歪んでおり、その隙をついてイタイノンがもう片方の手から雷撃を放って吹き飛ばした。

 

「「「あっ・・・!?」」」

 

メガビョーゲンに吹き飛ばされるグレースとフォンテーヌ、イタイノンに吹き飛ばされるスパークル。ほぼ同時に吹き飛ばされた3人は背中合わせで激突してしまう。

 

「やっぱり三人だと大したことないの・・・キヒヒヒ♪」

 

イタイノンが不敵な笑みを浮かべながら三人を見下す。

 

「うぅぅ・・・このままやられちゃうの・・・?」

 

「諦めるわけにはいかない、のに・・・!」

 

「これって、めっちゃピンチ・・・?」

 

三人は痛みに呻きながら、絶望的な状況に弱音を吐き始めていた。メガビョーゲンに至ってはエレメント技やぷにシールドが通用しないまでに強化されてしまっており、おまけにイタイノンが攻撃を仕掛けて来るために三人でお手当てをすることもできない。どうやっても八方塞がりだった。

 

やっぱり・・・アースがいないと、ダメなのか・・・?

 

そんな、アースは・・・・・・。

 

「うぅぅ・・・うぁぁ・・・使いたくない・・・使いたくないぃ・・・!!!!」

 

「かすみさん・・・」

 

胸を抑え、赤いオーラを放出し続けて苦しむかすみを見つめていた。

 

かすみが言う使いたくないというのは、おそらくドックランで暴走したあの力なのかもしれない。以前、怖がられてしまったポチットのことを余程気にしているのであろう。そのせいでかすみは湧き上がる感情を抑え付けて、苦しんでいるのかもしれない。

 

アースもかすみのその姿を見て、モヤモヤとした感情を抱いていた。気球大会を妨害されたのもそうだが、かすみをこんな苦しみを与えたビョーゲンズに対しても、怒りに近い何かが湧き上がっていた。

 

アースは意を決すると、かすみへと近づいていく。

 

「かすみさん・・・」

 

「っ・・・く、来るなぁ・・・」

 

かすみはそれを見て拒絶の意思を示すも、その手は弱々しくアースを払い除けるには至らない。

 

「私、怖いんだ・・・あの力を使うことが・・・! また嫌われるかもしれない・・・怖がられるかもしれない・・・あんな思いはゴメンなんだ・・・!! だから・・・使うのは、嫌だぁ・・・!」

 

かすみは暴走したあの力を使いたくないと心情を吐露する。

 

「・・・わかっています。かすみさんがあの力を使いたくないことも、それによって恐れられてしまう恐怖も」

 

「だったらーーーー!!」

 

「でも、かすみさんはそれで戦うことから逃げるのですか?」

 

アースの発したこの一言に、かすみはゆっくりと彼女の顔を見る。

 

「私は、気球大会で応援したチームを邪魔された時、自分の中のものすごい不愉快な何かを感じました。でも、私はそれに逃げることなく、自分よりもそのチームの気持ちだと思ってお手当てをしたんです。かすみさんはそれから逃げようとしています。周りが傷ついているかもしれないのに、かすみさんはそんなことで戦うことを止めるのですか?」

 

「でも・・・そのせいでみんな怖がった・・・私を人でないものだと思い込んで見たっ・・・! 私は、もうあんな思いを味わいたくない・・・!! この力を使ったら、絶対みんなが怖がるに決まってる・・・!!!」

 

かすみはポチットやみんなを守るために使った力を解放して、その結果みんなに怖がられたことを恐れていた。あの力を使えば、またみんなに怖がられるに決まっている。そう思い込んで、勇気を出せなかったのだ。

 

アースはかすみのその言葉に動じることなく、しっかりと彼女の顔を見据えていた。

 

「私は、かすみさんを怖がったりなんかしません・・・!!!!」

 

「っ!!!」

 

アースがそう叫ぶとかすみの泣いている声が止まる。

 

「私はかすみさんがあの力を使っても、かすみさんを怖がったりしませんし、軽蔑したりしません!! それはグレースやフォンテーヌたち、ラテだって一緒のはずです!!! それはかすみさんだってわかってるはずです!! かすみさんを軽蔑するような人がいたら、私やみんながかすみさんはああなっても人を守る人だと言います!! 人や自然を傷つけることがない優しい性格の持ち主だと言います!! だから・・・! もう我慢しないでください・・・!!!!」

 

「っ!!!!」

 

かすみはアースのその言葉に目を見開く。

 

「自分の気持ちに・・・素直になってください・・・!!!!」

 

ドクン!!!!

 

アースのその一言に、かすみは躊躇するような気持ちがなくなったような気がした。それどころか心にキュンと来た気がした。

 

体は赤いオーラを放出し続けていたが、かすみは震わせていた体を止め、しばらく沈黙していた。そして、肩に手を置いたアースの手をゆっくりと離して立ち上がると、アースに背を向けて歩く。

 

「・・・ありがとう、アース」

 

「かすみさん・・・!」

 

かすみは静かにお礼を言うと、赤いオーラの放出を強くする。

 

「私、アースやみんなを信じるよ・・・」

 

かすみは振り向きざまにそう言う。その表情は何か憑きものが取れたかのように微笑んでいた。

 

そして、オーラに包まれていくと金色の髪は銀色に変化した赤く禍々しいオーラが漂うものになり、赤く染まった頭の二つのリボン。赤い手袋が黒く変化し、両手に持っている黒いステッキは色こそ変わらないものの、禍々しい赤色のオーラに包まれている。

 

オーラが晴れていくと、ドックランでなっていたあの姿へと変身を遂げた。

 

「行こう、アース!」

 

「・・・はい!!」

 

手を差し伸べるかすみに、アースはゆっくりとその手を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろトドメを刺してやるの♪」

 

「メェ〜ガァ〜〜!!!」

 

イタイノンのその言葉を合図に、メガビョーゲンは頭部の飾りから赤く禍々しい熱エネルギーを溜め始める。

 

「くっ・・・!」

 

グレースたちは来るであろう攻撃に目をギュッと瞑る。

 

そして、メガビョーゲンが光線を発射しようとした、その時だった・・・・・・。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

ドゴォン!!!!

 

「メッガァ・・・!?」

 

そこへアースとかすみが飛んできて、二人で同時に強烈なキックを食らわせる。グレースたちの蹴りを受けてもビクともしなかったメガビョーゲンは、あまりの一撃に地面へと押し倒される。

 

「何っ、なの・・・!?」

 

イタイノンはあれほど攻撃が効かなかったメガビョーゲンが体をよろつかせたことに動揺する。

 

「アース!! かすみちゃん!!」

 

「っ!? かすみ、その姿は!?」

 

「また暴走しちゃってるの!?」

 

グレースたちは二人が戻ってきたことに喜ぶも、かすみの銀髪の姿を見て驚いていた。また、力を解放させて暴走させてしまったのかと・・・・・・??

 

「いいえ、かすみさんはその力に勝ったのです」

 

「アースのおかげだ。アースがいてくれなかったら、私は一人でこの姿にはなれなかった」

 

アースはそれをきっぱりと言うと、かすみは微笑みながらそう言った。

 

「お前、自分の力を受け入れたの・・・?」

 

「ああ、そうだ。私はこの力で、これからもこの地球を守るんだ!!」

 

イタイノンがそう問うと、かすみは強い口調でそう言い放った。

 

「・・・ふん、口だけだったらなんとでも言えるの」

 

イタイノンは不機嫌そうにそう言うと、体に電気を帯電させて片手から雷撃を放った。

 

「っ!!」

 

かすみはステッキから赤いシールドを展開し、イタイノンの雷撃を防ぐ。

 

「はぁっ!!!!」

 

かすみはすぐにシールドをしまうと、ステッキを振るって赤黒い光線を放つ。

 

「っ・・・!!」

 

イタイノンはそれを最小限の動きでかわすと、足を前に踏み出してかすみへと突っ込む。

 

「!! はぁぁぁぁっ!!!!」

 

対してかすみも飛び出して、イタイノンへと突っ込んでいく。そして、互いと互いの拳がぶつかり合う。

 

「かすみさん・・・っ!!」

 

「メェ〜ガァ〜!!!」

 

アースはかすみの様子を伺うも、そこへ熱を帯びた光線をメガビョーゲンが放ってきた。

 

「アースとグレースたちは、メガビョーゲンを・・・!!!!」

 

「・・・わかりました!」

 

かすみがイタイノンと交戦しているうちに、アースはメガビョーゲンへと飛び出す。

 

「メガガガガガガ!!!!」

 

「・・・ふっ!!」

 

そんなアースに、メガビョーゲンは大粒の石炭を放つ。しかし、アースは空中で翻すようにして交わしていき、風の力を体中から解放し、スピードを落とさずにメガビョーゲンへと突っ込んでいく。

 

「メッガァ!!」

 

「っ!!」

 

メガビョーゲンは迫ってくるアースに燃えたような炭の棒を振るうも、アースはそれを両手で受け止める。

 

「っ・・・はぁっ!!」

 

「メガァ〜!?」

 

手から湯気が出るほどの高熱に顔を顰めるも、アースは受け止めた棒に掌底を放つ。すると、メガビョーゲンが体をよろけさせた。

 

「ふっ!! はぁぁぁぁっ!!」

 

「メガァ〜!!??」

 

アースはその隙に棒の上に飛び移ると、飛び出して顔面に強烈な蹴りを食らわせた。メガビョーゲンはそのまま足に押されるように地面へと倒れた。

 

「すごい・・・!!」

 

「やっぱりアースは強いペエ!!」

 

「よ〜し! あたしたちも!!」

 

メガビョーゲンの強力な攻撃をものともしないアースに、フォンテーヌとペギタンが驚く中、スパークルは自分たちも負けていられないと二人に発破をかけ、自身はエレメントボトルを取り出す。

 

「雷のエレメントボトル!!」

 

スパークルは雷のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「はぁっ!!!!」

 

「メェ〜・・・メガァッ!!??」

 

立ち上がろうとしていたメガビョーゲンに電気を纏った光線が胴体に直撃し、メガビョーゲンが痺れ出す。

 

「やったよ!!」

 

「ああ、そっか・・・胴体は金属だものね・・・」

 

「金属は電気を通すニャ!!」

 

「今のうちだよ!!」

 

フォンテーヌがそう分析する中、グレースの合図でフォンテーヌと二人で飛び出す。

 

「「はぁぁぁぁっ!!」」

 

「メガ!? メェ〜〜〜!?」

 

痺れて動けないメガビョーゲンに二人同時に蹴りを加えて突き飛ばした。

 

「あぁっ!?」

 

「よし・・・あっちは大丈夫みたいだな・・・!」

 

拳と拳、攻撃と防御の応酬をしていたイタイノンとかすみ。メガビョーゲンがやられていることにイタイノンは動揺し、かすみは笑みを浮かべていた。

 

「っ!!!! あぁっ!!!!」

 

「ふっ、はぁっ!!!!」

 

イタイノンはかすみから距離を取ると口から雷撃砲を放ち、かすみはさらに力を解放してステッキから太く赤黒い光線を放った。

 

ドカァァァァン!!!!

 

「っ!!」

 

雷撃砲と光線がぶつかり合って爆発を起こし、イタイノンは手を思わず覆う。

 

「氷のエレメント!!」

 

フォンテーヌは氷のエレメントボトルをステッキに再びセットする。

 

「はぁっ!!」

 

「メガァ!?」

 

メガビョーゲンの両腕の棒に目掛けて氷を纏った光線を放ち、棒自体を氷漬けにする。

 

「「はぁぁぁっ!!!」」

 

「メガビョ〜!? メ、メガ、ガ・・・!?」

 

そこへグレースとスパークルが同時に胴体に飛び蹴りを放って、メガビョーゲンを突き飛ばす。飛ばした先で車輪に躓いて転びそうになる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「ビョーゲン!?」

 

そこへアースが蹴りを放ったことで、車輪が滑りメガビョーゲンはひっくり返った。

 

「やったー!!」

 

「今のうちに浄化を!!!!」

 

グレースの言葉を合図に、アースは頷くと両手を祈るように合わせる。一枚の紫色の羽が舞い降り、ハープのような武器へと姿を変える。

 

「アースウィンディハープ!!」

 

そう呼ばれたハープに、風のエレメントボトルがセットされる。

 

「エレメントチャージ!!」

 

アースはハープを手に取って、そう叫ぶとハープの弦を鳴らして音を奏でる。

 

「舞い上がれ! 癒しの風!!」

 

手を上に掲げると彼女の周りに紫色の風が集まり始め、ハープへとその力が集まっていく。

 

「プリキュア! ヒーリング・ハリケーン!!!」

 

アースはハープを上に掲げてから、それを振り下ろすとハープから無数の白い羽を纏った薄紫色の竜巻のようなエネルギーが放たれる。

 

そのエネルギーは一直線にメガビョーゲンへと向かい、直撃する。

 

竜巻のようなエネルギーはメガビョーゲンの中で二つの手へと変化し、宝石のエレメントさんを優しく包み込む。

 

メガビョーゲンをハート状に貫きながら、光線はエレメントさんを外に出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていく。

 

「お大事に」

 

エレメントさんが石炭の中に戻ると、メガビョーゲンによって蝕まれた場所は元の色を取り戻していく。

 

「・・・・・・今日はもう帰るの」

 

イタイノンはそれだけ呟くと、その場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、気球に宿っていた空気のエレメントさんにエレメントボトルを分けてもらい、ラテをその力で元気にした後、続いてバーベキューコンロの下にある石炭に宿っている宝石のエレメントさんを診察していた。

 

「エレメントさん、大丈夫ですか?」

 

『はい!大丈夫です!! みなさんのおかげです!!』

 

アースが聴診器を石炭に向けながら話していると、エレメントさんは無事であることを伝える。

 

「「「「「ふふっ♪」」」」」

 

かすみを含めたのどかたち5人はそれを聞くと、お互いに微笑んだ。

 

「エレメントボトルがだいぶ集まったね♪」

 

「ふわぁ♪ あと少しで棚が一杯だね♪」

 

空気のエレメントボトルが加わり、ルームバッグ内にあるエレメントボトルの棚がほとんど埋まっていた。

 

「ここ全部埋まったら、なぁんか良いことあったりして♪」

 

のどかたちは全部集まったら何が起こるのか、そういう期待を膨らませながら話す。

 

日が暮れる頃・・・のどかやたけしたちはカズたちのチームと一緒にいた。ビョーゲンズの襲撃により大会は中止になってしまい、残念ながらカズたちは優勝することはできなかった。

 

「次こそはきっと優勝できるさ!!」

 

「はい!!頑張ります!!」

 

カズたちのチームは誰も落ち込んでいるものはおらず、やる気に満ち溢れていた。

 

「もう・・・笑わないのですか?」

 

アスミの問いに、カズは頷く。

 

「自分の気持ちに逃げないことにしたんだ。悔しい気持ちをごまかしてたら、いつまでも勝てないから!」

 

「次は絶対勝つぞ!!」

 

「ええ!!」

 

カズは自分の気持ちをごまかすことなく受け入れることにしたようで、チームメイトの浮間や吹田もやる気にあふれていた。

 

「その意気です!」

 

「きっと勝てるよ! その気持ちさえあれば!」

 

「ワン♪」

 

そんな活気にあふれているチームを見て、アスミやかすみも笑みを浮かべていた。

 

「アスミちゃんやかすみちゃん、ラテの悔しい気持ちがみんなに伝染したんだね♪」

 

「ふふっ」

 

のどかがそう言うと、カズたちも笑みを浮かべた。

 

「はいは〜い!! ワンダフルパンケーキ、ひなたバージョンだよ♪」

 

そこへひなたやめいがパンケーキを配って回り、のどかたちはパンケーキを片手に談笑を始めた。

 

そんな中・・・・・・。

 

「アスミ」

 

「??」

 

かすみはアスミに声をかけた。

 

「さっきは、ありがとう。アスミがあんな風に言ってくれなかったら、私・・・気持ちをごまかしてた・・・アスミのおかげで素直になれたんだ」

 

かすみのお礼の言葉に、アスミは笑みを浮かべる。

 

「そんなことはありません。かすみさんが自分で心の枷を外したおかげです。素直な気持ちは自分で出さないと伝わらない・・・そんな風にちゆに教わったことがあります」

 

「でも・・・それも、アスミがいなかったらできなかった・・・」

 

「では、私たち二人のおかげですね♪」

 

「そうだな♪」

 

「「ふふっ♪」」

 

かすみとアスミはパンケーキを片手に笑みを浮かべていた。

 

「ふふっ♪」

 

のどかは二人の様子を一人微笑ましく見ていた。

 

・・・・・・そんな時だった。

 

カァ〜・・・カァ〜!!

 

「?? 今、何か・・・?」

 

「聞こえたラビ」

 

響くような不穏なカラスの鳴き声が聞こえてきたことに、のどかとラビリンは反応する。聞こえてきたのは近くにある森の中からだった。

 

気になった二人は頷くと、鳴き声が聞こえた森の中へと向かっていく。

 

「?? のどか?」

 

かすみはふと振り向くと、のどかとラビリンが森の方へと向かって行くのが見えた。

 

「どこに行くんだ・・・?」

 

かすみはのどかたちのことが気になり、パンケーキを口の中に掻っ込むと彼女たちの後を追っていく。

 

一方、森の中を入っていったのどかとラビリンは・・・・・・。

 

「あれは・・・!!!」

 

森の中を走っていくと、見覚えのある赤いジャケットの人物が見えていた。

 

のどかとラビリンはお互い頷きあうと、その森の中に二人だけで入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数分前・・・・・・。

 

「何よ・・・結局、甘い香りに誘われてきたのはこいつだけ・・・??」

 

クルシーナは一羽のカラスに不機嫌そうな表情を向けている。

 

数時間前から生命力の高そうな森の動物をメガパーツの素体にしてやろうと、クルシーナ自身が生み出した種から咲かせた花の甘い香りで動物をおびき出して捕まえるという策だったのだが、日が暮れて起きる頃には甘い香りに誘われてきた動物はこれ一体だけだった。

 

あまりの成果に、こんな森なんかを選んだダルイゼンをシバきたくなる。

 

「この森、動物いなさ過ぎっ・・・っていうか、こんな汚い鳥しか来ないってどういうことよ?」

 

クルシーナが不満を垂れていると、そこへ歩いてくる人影が。

 

「クルシーナ、何か見つかったのか?」

 

それは先ほどまで歩いて素体を探していたダルイゼンだった。

 

「なんにもっ。それどころかこいつしか現れなかったし、どうなってんのよ? この森」

 

「俺に言うなよ。でもまあ、こいつも生きてるって感じじゃん?」

 

愚痴を吐くクルシーナに、ダルイゼンは冷たく軽くあしらうと、一羽のカラスを見て口元に笑みを浮かべる。

 

「・・・そう? まあ、別にいいけど・・・」

 

「そんじゃあ、許しも出たところだし、次はこいつで試してみるか」

 

納得はいかないが、もうどうでもいいという感じで言うクルシーナ。ダルイゼンは手に持っているメガパーツを両手で転がしながら歩み寄っていく。

 

「はぁ・・・ん?」

 

ため息をつくクルシーナだが、その直後に森の方を振り向く。

 

「どうしたの?」

 

「誰か、こっちに来るわね」

 

クルシーナは人の気配を感じて振り向いた様子で、その方向へと向き直ってみる。こっちにやってきているのは、人間と小さな動物・・・そして・・・・・・。

 

「・・・ふふっ」

 

もう一つの気配を感じた時、クルシーナは不敵な笑みを浮かべる。

 

まさか・・・こっちからやってくるなんて思わなかった・・・・・・。

 

「ちょっと様子見てくる」

 

クルシーナはダルイゼンにそう言うとズカズカと森の中へと入っていく。

 

その一方、のどかとラビリンを追って森の中へと入っていったかすみは・・・・・・。

 

「のどか・・・どこに行くつもりだ・・・?」

 

かすみはのどかの跡をつけるように歩いていた。一人で森の中に入るのは危険なのになと思いながら、のどかがそんな思いをしないようにともしもの時は助けるつもりでいた。

 

(のどか・・・なんで私たちに言わずに行っちゃうんだ・・・?)

 

それとのどかの行動に疑念を抱いていた。友達だったら、ちゃんと言うはず・・・でも、のどかは何も相談せずに一人、正確にはパートナーと二人で行こうとした。

 

(いや、ネガティブに考えちゃダメだ。のどかはみんなに心配をかけないように行ったんだ)

 

かすみはそんな風にポジティブに考えようとする。そんな時、のどかが何かを見つけたかのように走り出した。

 

「あっ・・・!?」

 

早く追わないと・・・!! そう考えながら自身も走ろうとした・・・・・・その時だった。

 

キュイーン!

 

「おやおや、わざわざこっちから来てくれるなんてねぇ・・・」

 

空気を裂くような音が聞こえたかと思うと、背後から声が聞こえ、振り向くとそこに立っていたのはクルシーナだった。

 

「お前は・・・!?」

 

「・・・ふっ」

 

かすみが睨みつけながら叫ぶも、不敵な笑みを浮かべたクルシーナはかすみへと手を伸ばした・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ダルイゼンはクルシーナが戻ってくるのも気にせず、メガパーツをまさにカラスの中に入れようとするが・・・・・・。

 

「待って!!」

 

叫び声がしたかと思うとダルイゼンはそちらを振り向き、その隙にカラスは飛び去っていく。

 

駆けつけたその相手とは、変身したキュアグレースだった。

 

「何をしようとしていたの!?」

 

グレースはダルイゼンを睨みながら問う。

 

「・・・はぁ、やれやれ、またお前か」

 

実験の邪魔をされたダルイゼンは息をつく。せっかくクルシーナが見つけ出してくれた実験台を、逃げられてしまっては実験すらできない。まして、邪魔してきたのはいつも目障りなプリキュアだ。

 

「あ〜あ、実験台が逃げちゃった・・・せっかくアタシが誘い出したのになぁ」

 

そこへ無機質な声が聞こえてきたかと思うと、林の中からクルシーナが姿を現す。

 

「クルシーナ!!」

 

「あら、お前もいたの? 本当にどこにでも現れるやつね」

 

グレースを見つめるクルシーナは不敵な笑みを浮かべながら、ダルイゼンの隣へと歩いていく。

 

「せっかくの素体を・・・これじゃあ、実験が・・・??」

 

ダルイゼンが不満を漏らそうとしたその直後、クルシーナが肩を叩く。

 

「実験台ならいるじゃない」

 

「??」

 

クルシーナの言葉に疑問符を付けるダルイゼン。クルシーナはダルイゼンに耳打ちをする。その視線はチラチラとグレースの方を向いていた。

 

「・・・そうか」

 

耳打ちで伝えられた言葉に、ダルイゼンは笑みを浮かべる。そして、横目でグレースを見つめる。

 

「なあ、キュアグレース・・・お前を使って育ててみるってのはどう?」

 

「?・・・何を企んでーーーー!!」

 

ダルイゼンの言っていることがわからないグレースは、何かを企んでいると思い、止めようと駆け出そうとした。

 

・・・・・・その時だった。

 

キュイーン!

 

「っ!!??」

 

突然背後から何者かが現れ、グレースが羽交い締めにされる。グレースがその人物を見ようと振り向くと・・・・・・。

 

「かすみちゃん!!??」

 

なんと、自分の身動きを取れなくしているのは、一緒に戦っているはずのかすみだった。

 

なぜかどうかなのかを考える間も無く、そこにダルイゼンがメガパーツを手に迫り・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガッ!!!!

 

グレースの腹部にメガパーツを押し当てた。

 

ズズズズッ・・・・・・

 

メガパーツが触れたところから、メガパーツがゆっくりと飲み込まれて行く。

 

「っ!!」

 

グレースの目が見開かれた、その瞬間・・・・・・!!

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

グレースの中から禍々しい赤黒いオーラが溢れ始めた。

 

「グレース!?」

 

「うぅっ・・・・・・」

 

ラビリンが叫ぶも、グレースはステッキを落とし、かすみが羽交い締めにした手を離すと、そのまま地面へと崩れ落ちるように倒れてしまった。

 

「かすみ!! どういうことラビ!?」

 

「・・・・・・・・・」

 

ラビリンは味方であるはずのかすみに向かって叫ぶも、かすみは無表情で黙ったまま何も答えない。

 

「・・・ふっ」

 

「フッ・・・ふふふふふ♪」

 

倒れたグレースの様子を見てダルイゼンは不敵な笑みを浮かべ、クルシーナはその様子を見て笑い声をあげる。

 

「うっ・・・うぅぅ・・・」

 

「グレース!!」

 

「うぅぅぅ・・・・・・」

 

ラビリンはグレースに向かって叫ぶも、グレースは呻いたまま何も答えない。

 

「うっ・・・うぅっ・・・」

 

「グレース!! グレースゥゥゥ!!!!」

 

グレースは表情を苦痛に歪めながら、呼びかけに応じずに苦しんでいる。その間、ラビリンの呼びかける声だけが森の中で響いていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

かすみは赤く染まった瞳で、そんなグレースの姿を無表情で見つめているのであった・・・・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第84話「慰め」

原作第28話がベースになります。
この話を機にかすみの物語が大きく変わったり、今まで伏線にしていたいろんな謎が明らかになっていくと思います。


 

「うっ・・・うぅぅ・・・」

 

苦しい・・・・・・体中が激痛に苛まれる・・・・・・。

 

体が動かなくなっていくのがわかる・・・・・・。

 

グレース!!

 

ラビリンの声だ・・・・・・。

 

「うっ・・・うぅぅ・・・」

 

体を動かそうにも、まるで固まったかのように動かない・・・・・・。

 

苦しい・・・・・・呼吸もうまくできない・・・・・・。

 

グレース!!

 

ラビリンの声がまた聞こえてくる・・・・・・。

 

「うぅぅぅ・・・・・・」

 

でも、動かない・・・・・・体が動かない・・・・・・。

 

グレース!! グレース!!!!

 

ラビリンの声がまた聞こえる・・・・・・今度は何回も・・・・・・。

 

でも、立ち上がることができない・・・・・・体の中を何かが抉っているような感じだ・・・・・・。

 

・・・あれ? こんなこと・・・こんな感覚・・・前にもあったような・・・・・・。

 

浮かぶのは、一人で遊んでいたあの花畑での出来事・・・・・・。

 

・・・・・・・・・。

 

・・・・・・ああ、そうか・・・そうなんだ・・・・・・。

 

・・・・・・私の病気はーーーー。

 

・・・・・・????

 

なんだか、見たことのある女の子の姿が・・・・・・。

 

あれは・・・・・・しんら、ちゃん・・・??

 

なんでしんらちゃんが、私の前に・・・・・・??

 

・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

のどかがビョーゲンズたちに襲われる数分前・・・・・・。

 

気球サークルのチームたちとちゆたちは変わらず、パンケーキを片手に談笑していたが・・・・・・。

 

「あれ? のどかは?」

 

「かすみちゃんの姿も見えないぞ・・・?」

 

「「「??」」」

 

のどかの両親である、たけしとやすこはのどかとかすみがいつの間にかいなくなっていることに気づく。

 

「そういえば、どこに行ったんだろう・・・?」

 

「かすみまでいなくなるなんて・・・」

 

ひなたとちゆはどこかへ行ってしまったのどかとかすみを心配していた。

 

「クゥ~ン・・・ウゥ~ン・・・」

 

すると、ラテが何かを訴えるように鳴きながら、森の方を見ていた。

 

「どうしたのですか? ラテ」

 

アスミはラテが気になり、聴診器で心の声を聞いてみる。

 

(あの森から、嫌な気配がするラテ)

 

「嫌な感じ? まさか・・・!?」

 

ラテの言った言葉にアスミは目を見開く。

 

「嫌な予感がするわ・・・!」

 

「もしかして、のどかっちとかすみっちに何かあったんじゃ・・・!?」

 

「行きましょう!!」

 

妙な胸騒ぎを感じたちゆとひなた。アスミの言葉を合図に、ラテが向けていた方向にある森の中に向かおうとする。

 

「? みんな、どこに行くの??」

 

その様子を見たやすこはアスミたちに疑問を投げかける。

 

「のどかたちはどうやら森の中に入って行ってしまったみたいなんです・・・!」

 

「私たちが連れ戻しに行ってきます!」

 

ちゆとアスミは、のどかの両親にそう説明する。

 

「そうなのかい? じゃあ、僕たちも」

 

「いいえ、お二人はここにいてください! 私たちが連れ戻しに行きます!」

 

たけしとやすこも一緒について行こうとしていたが、アスミがそれを制する。もしかしたら、ビョーゲンズがその場所にいるかもしれない。そうなれば二人を危険にさらすばかりか、自分たちの秘密もバレてしまう必要がある。連れて行くわけにはいかなかった。

 

「そう? でも気をつけてね・・・」

 

やすこは心配そうな顔をしながら、たけしと一緒に森へ向かうのを踏みとどまった。

 

ちゆ、ひなた、アスミの3人は嫌な気配を感じながら森へと向かっていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その森の中・・・・・・。

 

「うっ・・・くっ、うっ・・・ぅぅ・・・」

 

ダルイゼンにメガパーツを入れられてしまったキュアグレースは、地面に倒れ伏して苦しんでいる。そんな彼女の体を赤く淀んだ何かが侵蝕していき、全体を覆い尽くし、グレースは変身が解けてしまった。

 

「のどか!!のどかっ!!」

 

ラビリンはのどかを心配して呼びかけるも、のどかは倒れ伏したまま動かない。

 

「早く出て行くラビ!!!!」

 

ラビリンはのどかの背中を叩いてメガパーツを追い出そうとしたが・・・・・・。

 

「無駄だよ」

 

「っ!?」

 

「いつ出てくるかはメガパーツとの相性次第、自分の意思じゃ取り出せない」

 

ダルイゼンは笑みを浮かべながら答える。

 

「ふふふっ♪ あ〜あ、可哀想に・・・一人で出しゃばるからそうなるんだよ」

 

クルシーナは不敵に笑いながら、バカにするようなことを言う。仲間を連れてくればよかったのに、一人と一匹が変な正義感で首を突っ込むからそうなる、人間というのはどこまでも愚かな存在だと思う。

 

「ヒーリングアニマルにできるのは、せいぜい心配することぐらいさ」

 

ダルイゼンがラビリンを嘲笑するように吐き捨てる。

 

しかし、ラビリンにはのどかが倒れたことと同じぐらい信じられないことがあった。

 

「かすみ・・・!! これはどういうことラビ!?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「なんで!! どうしてラビ!? どうして、かすみがビョーゲンズなんかの味方を・・・!?」

 

「・・・・・・・・・」

 

ラビリンが瞳をウルウルと潤ませながら叫ぶ。そう、今まで一緒にいて、仲間であるはずのかすみだ。

 

かすみはまるでグレースの身動きを取れなくして、ダルイゼンにメガパーツを入れやすくするような状況を作った。それはどう考えても、ビョーゲンズの味方をするかのような行動だった。

 

当の彼女は、力に飲み込まれたような状態ではないが、瞳を真っ赤に染めており、ラビリンの叫びに応えることなく、無表情で見つめている。

 

「黙ってないで・・・答えてほしいラビ・・・!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

ラビリンの泣きそうな悲痛な叫びにも、かすみは黙って見つめたままだ。まるで心を無くしているかのようだった。

 

「アタシが教えてあげよっか?」

 

「っ??」

 

「その脱走者はねぇ、アタシたちと同じビョーゲンズの仲間だからよ」

 

「っ!?」

 

クルシーナがラビリンに向かって無常とも言える言葉を言い放った。

 

ラビリンは衝撃を隠せなかった。かすみがビョーゲンズの仲間・・・・・・?

 

「・・・そいつ、お前が生み出したやつだったんだ?」

 

「そうよ。アタシが育てている植物園があるんだけど、そこでキュアグレースから成長させた病気の花を埋めた鉢植え、その花から生まれ落ちたみたいなんだよね」

 

「へぇ・・・キュアグレースのねぇ」

 

ダルイゼンはクルシーナの言葉に反応し、キュアグレースが関わっていると知るとより関心を持ったように呟く。

 

「そ、そんなのウソラビ!! だってかすみはラビリンやのどかたちと一緒に楽しく遊んでたラビ!! 地球や自然を大事にしようとしてたラビ!! そんな優しいかすみがビョーゲンズなわけがないラビ!!!!」

 

ラビリンはクルシーナの言ったことが信じられず、叫び声をあげる。かすみはつい先日まで、自分たちと遊び、共に戦い、共に笑いあっていたのだ。そんなかすみがビョーゲンズの一員・・・? にわかに信じられることではなかった。

 

「本当よ。だって、そいつはアタシが生み出したんだから。大体お前、そいつの姿を見ておかしいと思わなかったの? あいつが解放した力の、その禍々しいオーラはアタシたちとおんなじオーラ。しかも、自然の能力を吸収するとかも、アタシと同じ能力。これらを聞いて、どこがビョーゲンズの仲間じゃないって言えるワケ?」

 

「やめるラビ!!!! お前の話なんか聞きたくないラビッ!!!!」

 

ラビリンはクルシーナの話を拒絶する。

 

「ハッ、そうやっていつまでも目から背けてれば? 全部事実なんだからね」

 

クルシーナは見苦しいラビリンを見て嘲笑の言葉をかける。

 

「っ!!・・・うっ・・・!」

 

すると、かすみの瞳が赤色から元の色へと戻り、頭を抑えて顰め始めた。

 

「っ、かすみ!!」

 

「あ、ラビリン? 私、何を・・・・・・確か、森でのどかとラビリンを追いかけて・・・」

 

ぼんやりとしたように呟くかすみ。まるで眠っていたかのように森に入った後の記憶がない。

 

「・・・っ!?」

 

そして、かすみは自身の足元を見て驚愕の表情を浮かべる。そこには俯せで倒れ伏したまま、苦しんでいるのどかの姿があったからだ。

 

「のど、か・・・?」

 

かすみは理解が追いつかなかった。いつの間に森の中に来ていたと思ったら、自分の愛しい人物が倒れ、苦しんでいる・・・。

 

それを理解した時、彼女の中のある感情が弾けた。体中から恐怖や焦りが湧き出し、汗が吹き出してくる。

 

「のどかぁ!! のどかぁっ!!!!」

 

「うっ・・・うぅぅ・・・くっ・・・」

 

「のどかぁ!! しっかりしろ!!」

 

かすみは完全に取り乱した様子でのどかに駆け寄り体を揺さぶる。のどかは苦しそうに呻いたまま、かすみには反応しない。

 

「そんなぁ・・・どうして・・・!?」

 

さっきまでは元気にパンケーキを一緒に食べていたのに、気がついたらのどかが倒れているなんて信じられないことだった。かすみは顔を伏せたまま体を震わせる。

 

「お前がやったんだろ?」

 

「っ!!」

 

そんな彼女をあざ笑うかのようなクルシーナの言葉が聞こえてくる。

 

「お前が、プリキュアなんかの味方をしたせいで、キュアグレースはそうなったのよ」

 

「っ!?」

 

「だって、お前の目の前にそいつが倒れてるってことは、お前がなんかやった、そういうことでしょ?」

 

「ウ、ウソだ・・・私が、のどかに、手を掛けただなんて・・・?」

 

クルシーナの責め立てるような言葉に、かすみは動揺して心を乱されていく。信じられない・・・私が大好きなのどかを手にかけるわけがないと否定しても、彼女の中から動揺は消えてくれない。

 

「かすみ!! クルシーナの言葉に耳を貸しちゃダメラビ!!!」

 

「何よ、アタシはウソは一つも言ってないわ。だって、手を貸したのは本当じゃない」

 

「ウソだぁ・・・そんなのウソだぁっ・・・!!!!」

 

ラビリンがかすみに向かって叫ぶも、クルシーナはそれに反する言葉を言い放ち、逆にかすみを追い詰める。

 

「ああ・・・あぁぁ・・・」

 

「かすみ!! かすみっ!!」

 

かすみは苦しむのどかを見つめたまま、絶望の表情で声にもならない声をあげ、ラビリンの叫びにもまるで反応していない。

 

その様子を見て、ラビリンはクルシーナをキッと睨む。

 

「お前がかすみに何かしたんだラビ!! 一体、何をしたんだラビ!!??」

 

「さあねぇ。お前に教えると思ってる? 現実から目を反らすようなお前に」

 

ラビリンはかすみが自分の意思でそんなことをするわけがないと怒りの叫びを上げるも、クルシーナはただ単に不敵に笑うだけだった。

 

「のどか!! かすみ!!」

 

「ん?」

 

「おぉ?」

 

そこへここにいる誰でもない声が聞こえてくる。ビョーゲンズの二人がそちらに向くと、フォンテーヌとスパークルが飛んできていた。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 

フォンテーヌとスパークルは共にダルイゼンとクルシーナに向かってキックを放つが、二人はその場から飛んで避けた。

 

彼女たちに続いてアースも駆けつけ、のどかとかすみに寄り添う。

 

「ふっ、遅かったね」

 

「グレースと役にも立たない脱走者を残したまま、何をしてたのかしらぁ?」

 

ダルイゼンとクルシーナがそう言うと、二人はのどかとかすみの方を振り向く。

 

「っ、大丈夫!?」

 

「かすみっち! 何があったの!?」

 

「あぁ・・・ああぁ・・・・・・」

 

「かすみさん、しっかりしてください!!」

 

かすみはスパークルの問いにも、アースの呼びかけにも反応しておらず、涙をポロポロとこぼしている。

 

「キュアグレースにメガパーツを入れてやったのさ」

 

「「「!?」」」

 

その問いに代わりに答えるように、降り立ちながらダルイゼンが答える。その言葉にプリキュアの3人は驚愕していた。

 

「なんで!? 意味わかんないし!!」

 

「どうしてそんなことを!!??」

 

スパークルとフォンテーヌは怒りの叫びを上げる。

 

「アタシが進言してやったのよ。キュアグレースにメガパーツを入れればってね。プリキュアだから失敗しないか心配だったけど、やっぱりプリキュアも人間ね。割と簡単にうまくいったわ。しかも、そいつのおかげでねぇ」

 

同様に降り立ったクルシーナが嘲笑うかのように答え、かすみを指差す。

 

「え・・・何・・・?」

 

「かすみさんのおかげってどういうことですか・・・!?」

 

クルシーナの言っていることが理解できなかった。かすみは自分たちプリキュアの味方なはず、なのにどうしてかすみのおかげだと言うのか・・・?

 

「言った通りの意味よ。そいつが、キュアグレースにメガパーツを入れられるように協力してくれたの」

 

「っ・・・ああぁ・・・ああぁぁ・・・・・・」

 

クルシーナは傷口に塩を塗り込むように笑みを浮かべながらそう言うと、かすみは頭を抱えながら絶望の声を漏らす。

 

「デタラメ言わないでっ!!!」

 

「かすみさんがそんなことをするわけがありません!!!」

 

フォンテーヌとアースが叫ぶような声で否定する。

 

「事実よ、全部。アタシはウソなんか一つも言ってない。つーか、お前らそいつのこと知らなすぎでしょ。少しは足りない頭で考えた方がいいんじゃないの? そこのグレースみたいに寝首を掻かれる前にさぁ」

 

クルシーナは二人の言葉を吐き捨てるように言うと、彼女たちに背を向ける。

 

「一旦帰ろ、ダルイゼン」

 

クルシーナはダルイゼンの肩に手を置いてそう言う。

 

「ああ・・・じゃ、頑張ってよ、キュアグレース」

 

「お大事に」

 

クルシーナとダルイゼンはそう言うと、その場から姿を消して去っていった。

 

「のどか!! しっかりするラビ!! のどかぁ!!」

 

ぐったりとした苦痛の表情のまま目を覚まさないのどかに必死に呼びかけるラビリン。

 

「のどか・・・のどか・・・のどか・・・」

 

「かすみさん、気をしっかり持ってください!!」

 

かすみは動揺した表情のまま、のどかを見つめて彼女の名前をブツブツと呟くだけだ。戦意を喪失したように放心した状態の彼女がに気づいているアースは彼女に呼びかける。

 

「かすみ、しっかりして!!」

 

「かすみっち!!」

 

「あぁ・・・っ!? あぁぁ・・・あぁ・・・あぁぁぁっ!!!!」

 

「「あっ!?」」

 

フォンテーヌとスパークルもかすみに駆け寄って声をかけるも、彼女は手をかけられた途端、体がビクンと震わせる。そして、先ほどの出来事がビジョンとして蘇ったかすみは体をブルブルと震わせると、二人を突き飛ばして立ち上がり距離を取る。

 

かすみは自分の肩を抱くように抱え、体を小刻みに震わせていた。

 

「触らないでくれ・・・!! 私は・・・私はぁ・・・!!」

 

「かすみ、落ち着いて!!」

 

「っ!?」

 

フォンテーヌが諫めるように叫ぶと、それにかすみは目を見開いて頭を抱え、再び地面に膝をつく。

 

「あぁ・・・違う・・・違うんだ・・・! 私は、私は・・・二人が嫌いなんじゃなくて・・・でも・・・でも、のどかを、のどかを・・・私がのどかに手を掛けて・・・違う・・・あぁ・・・違う・・・二人が嫌なんかじゃなくて・・・でも、のどかに・・・嫌だ、嫌だ・・・来ないで・・・でも、嫌いなんかじゃなくて・・・でも、来ないで・・・触らないで・・・嫌だ、来ないで・・・うあ・・・あぁ・・・」

 

「かすみっち・・・」

 

かすみは涙を流しながら呟いている。クルシーナの言い放った言葉と、仲間の手を払いのけたこと、そして克服したはずの自分の力、この三つがない交ぜになって彼女を苦しめていた。いつしか仲間に手を掛けてしまうのではないか、でも自分は愛しい人を手にかけるはずがないと。

 

フォンテーヌとスパークルはそれを呆然と見ているしかなかった。

 

「かすみさん!!」

 

「っ!?」

 

そんな彼女をアースが後ろから抱き止める。

 

「嫌だ・・・嫌だ・・・触らないでくれ・・・離せ!!!!」

 

「かすみさんっ!!!」

 

アースから逃れようとジタバタと暴れるかすみ。そんな彼女を離さないようにギュッと抱きしめる。

 

「嫌だ!! 嫌だよぉ!! 離して!! 触らないでくれ!!! 触るなぁ!!!!」

 

ゲシッ・・・ゲシッ・・・

 

「うっ・・・ぐっ・・・!」

 

しかし、そんなことでかすみの心は穏やかにならなかった。かすみはついには背後にいるアースを肘で叩き始め、腹部に受けたアースは苦痛に呻く。

 

それでも彼女はかすみを離さなかった。いろいろとわからないこともあるが、少なくとも言えることは、彼女は大切な仲間だから。

 

そして、しばらく抱きとめていると、かすみの様子が段々と落ち着いてくる。

 

「うぅぅ・・・うぅぅ・・・あぁぁ・・・!」

 

かすみは肘でど突いていた手をやっと止めると、辛そうな表情を浮かべた後、体から力を抜きアースに体を委ねた。

 

「うっ・・・落ち着き、ました・・・? かすみさん」

 

アースは滲んだ汗と苦痛の表情をしながらも、口元に笑みを浮かべながら言う。

 

「アースゥ・・・すまない・・・すまない・・・スパークルも・・・フォンテーヌも・・・すまない・・・私が・・・私が、のどかを・・・!」

 

「かすみさんのせいではありません。かすみさんはのどかを守ろうとしたではないですか」

 

「そうよ、かすみがのどかをあんなことにするわけがないもの」

 

「悪いのはあいつらだよ!! のどかっちだけじゃなく、かすみっちにまで酷いことして!!」

 

泣きじゃくるかすみに、アースは寄り添い、フォンテーヌはのどかに寄り添いながら、かすみに優しく声をかける。スパークルは二人を酷い目に合わせたビョーゲンズに怒りを露わにした。

 

「とりあえず、のどかのお母さんとお父さんのところに戻りましょう。二人が心配するわ」

 

フォンテーヌはここにいても仕方がないと諭し、みんなは森の外へと向かっていく。その間、フォンテーヌはぐったりとしたのどかを担ぎ、アースはかすみに寄り添いながら歩いていく。

 

「・・・・・・・・・」

 

かすみはのどかの様子を見ながらも、まだその心は晴れていないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

ビョーゲンズ二人の襲撃後、のどかを連れて戻ったアスミたち。容体が悪くなり、肩で苦しそうに息をしているのどかをたけしの車に乗せた。

 

「すまない、のどかのお父さん、お母さん・・・私は、何もできなかった・・・」

 

「そう落ち込まないで、かすみちゃん。みんなが一緒にいてくれたおかげで、怪我とかはせずに済んだんだから」

 

「でも・・・私が森に行くのを止めていれば・・・のどかの具合が悪くなることもなかったんだ・・・!!」

 

「そう自分を責めないで。かすみちゃんのせいじゃないわ。のどかを一人にした私たちにも責任はあるもの」

 

顔を俯かせていたかすみは自分自身を責め立てるも、たけしとやすこはそんな彼女を優しく励ます。

 

「みんな、ありがとう・・・とにかく病院に連れて行くから・・・」

 

「アスミとラテは、うちに泊まってもらうのでご心配なく・・・」

 

「お二人はのどかのそばについていてあげてください・・・」

 

「ありがとう・・・」

 

ちゆたちの気遣いにやすこが礼を言う中、たけしは車の中で苦しそうにしているのどかを見つめる。

 

「どうか・・・再発じゃありませんように・・・」

 

「っ!?」

 

「え・・・再発って・・・?」

 

たけしが呟いた言葉に、ひなたとかすみが反応する。このような状態が、今までもあったと言うのだろうか?

 

「前の病気の時と様子が似てるの・・・原因不明でね。ただ、見守るしかできなかった・・・」

 

「今でもどうして治ったんだか、わからなくてね・・・あんなのはもう、二度とゴメンだ・・・」

 

のどかをやすことたけしが見つめる中、ちゆたちも心配する面持ちで見ていた。

 

「っ・・・・・・・・・」

 

かすみはのどかを見つめながら、歯ぎしりをするほどに悔しさをにじませ、握っている両手を震わせていた。

 

やすことたけしはのどかを病院に連れて行くため、先に車で帰っていく。それを見送ったちゆたち・・・・・・。

 

「ねえ! メガパーツのせいって言わなくていいのかな・・・?」

 

「それは・・・・・・」

 

「言ってどうするんだ・・・??」

 

ひなたの言葉にちゆが困ったように返していると、そこにかすみの淡々とした声が聞こえてくる。

 

「得体の知れない怪物のせいだって言って、のどかのお父さんやお母さんを余計に心配させる気か? そんなことになったら、二人に申し訳ないよ・・・」

 

「かすみの言う通り・・・言ったって余計に心配させるだけペエ・・・」

 

「知ったところで、治せるわけじゃないからな・・・」

 

「あぁ・・・そっか・・・」

 

かすみの暗い声に、ペギタンやニャトランも反応して答える。

 

みんな、のどかのことを心配して話をする中、かすみは拳をギュッと握りしめたまま、顔を俯かせて立っているだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、沢泉家に帰ってきたかすみは床についていたが、のどかのことが心配で眠れずにいた。

 

「のどか・・・・・・」

 

彼女の名前を天井に呟くも、特に彼女の声が返ってくるわけでもない。でも、のどかのことを思うと何もない天井に声を出したくなる。

 

「私は・・・どうしたらいいんだ・・・?」

 

かすみは心配気な表情で、虚空を見つめていた。私はあの時、きっとのどかに手を掛けてしまった。ビョーゲンズの仕業だとしても、自分がやったことに変わりはない。守るどころか、敵の見方をしてしまうなんて、私はどのような顔をしてのどかに会えばいいのか。かすみはわからなかった。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

「かすみ? もう寝ちゃった?」

 

「かすみさん」

 

襖の外からちゆとアスミの声が聞こえてくる。

 

「起きてるぞ」

 

かすみは体を起こすと襖に向かって起きていることを呼びかける。そうすると襖の扉が開かれ、枕を持ったちゆとアスミ、そしてラテの姿が見えた。

 

「どうしたんだ・・・?」

 

「うん、私も眠れなくてね」

 

「私も・・・」

 

「・・・・・・そっか」

 

「ワン!」

 

「ラテも眠れないんだな・・・」

 

疑問に思うかすみに、ちゆとアスミは笑みを浮かべながら言う。ラテもアスミの手からかすみの方に駆け寄り、かすみはそのラテに微笑みながら頭を撫でる。

 

ちゆとアスミは、かすみを両サイドから囲むように横になった。

 

「むぅ・・・・・・・・・」

 

かすみはその状態にムッとしたような表情をする。ちゆとアスミは自分に触れるか触れないかの近さで横になっている。

 

「なんだか寝にくいのだが・・・・・・」

 

「あら、いいじゃない。どうせ離しても眠れないでしょう?」

 

「私は、かすみさんのそばでもっと眠りたいです」

 

かすみは寝苦しさを呟くも、ちゆとアスミは楽観的な言葉を呟き、かすみも特に否定はしなかった。

 

三人はその後、しばらく会話もないまま、沈黙していたが・・・・・・。

 

「ちゆ、アスミ、まだ起きてるか?」

 

「起きてるわ」

 

「なかなか寝付けないですね・・・」

 

寝付けないかすみは互いに隣になっているちゆとアスミに声をかけると、二人は返事をする。三人が眠れないのは無理もないことだ。なぜなら三人が考えているのはビョーゲンズの策略で病気になってしまったのどかのことだからだ。

 

「のどか・・・大丈夫かしら・・・」

 

ちゆはのどかに対する不安を口にした。

 

「私が、ちゃんと守れていれば・・・・・・」

 

その言葉にかすみは瞳を潤ませながら呟いた。

 

「かすみさんのせいではありません。私たちも、もう少し早く気づいていればよかったんです」

 

アスミは辛そうな表情をしながら言った。

 

「のどかは・・・本当に、私が手を掛けてしまったのか・・・?」

 

「え・・・どういうこと・・・?」

 

かすみが悲しそうな表情で呟いた言葉に、ちゆが反応して疑問の声を漏らした。

 

「森の中に入っていったのどかを追っていたのに、気がついたら目の前にのどかが倒れていて、ビョーゲンズの奴らが、私がやったって言ったんだ・・・本当に私がやってしまったのだろうか?」

 

「・・・・・・・・・」

 

かすみは暗い表情で自分がどうしていたのかという経緯を話す。ちゆとアスミはその言葉に何も言えなかった。

 

「なあ、二人とも・・・」

 

「「??」」

 

「二人には私がどう見えてる? 人間? 人でないもの? それとも、別の何か? 外見も・・・二人にはどう見えてるんだ・・・?」

 

かすみがそう尋ねる。二人はかすみがどういう経緯でこのようなことを聞いているかはわからなかったが、しばらく考えた後、ちゆから口を開いた。

 

「・・・かすみは、人間よりも人間らしいと思うわ。誰よりも気遣いができるし、大切なもののために守ろうとしてる。たまに不思議な現象に戸惑うこともあるけど、かすみは私たちの大切な友達よ」

 

「ちゆ・・・・・・」

 

ちゆは心情を吐露すると、かすみは目を見開いて彼女を見つめる。

 

「それに、かすみがのどかに手を掛けただなんて、私は信じない。だって、かすみはのどかのことが大好きなんだもの。好きな人を手に掛けたなんてあり得ないわ」

 

「だ、だ、だだだ、大好き!? ち、違うぞ・・・!! わ、私はのどかが、か、可愛いと思っているだけで、好きっていうわけでは・・・!!」

 

ちゆの言った『好き』という言葉にかすみは顔を真っ赤にしながら否定し、そこからボソボソと小さい声で恥ずかしそうに呟く。

 

「私もかすみさんが手を掛けたなんて信じられないです」

 

「アスミ・・・」

 

「かすみさんは自分の力を受け入れることができる優しい方です。この前も自分の力を受け入れて、共にメガビョーゲンを倒しました。そんなかすみさんがのどかを傷つけるわけがないんです」

 

「・・・・・・・・・」

 

(自分の力を受け入れることができる・・・・・・)

 

かすみは、アスミのその言葉を聞くと真面目な表情になった。

 

ーーーー自分が誰なのか、何者なのかを知らないといけない・・・・・・。

 

かすみはそう心の中に決意を秘めていた。

 

でも、何よりもまずは・・・のどかのことを気にしなくてはいけない。

 

「アスミ・・・ちゆも・・・ありがとう。少し元気・・・出た」

 

「私もかすみと話してたら、少し気持ちが軽くなったわ・・・」

 

「私も・・・のどかのことは心配ですが・・・悲しい気持ちが少しは薄れたと思います」

 

かすみはちゆとアスミの言葉に、少し救われたような気持ちになる。ちゆとアスミも辛そうにしながらも、口元に笑みを浮かべるほどには気持ちが軽くなった。

 

「私・・・明日、のどかのところに行ってくる。少しでものどかのためにできることをしたい」

 

「・・・そうね。でも、できることなんてあるのかしら?」

 

「きっとかすみさんにはあるはずです・・・私は、かすみさんを信じています・・・」

 

かすみはそう決意の言葉を呟くと、ちゆは心配そうに、アスミはかすみを信頼する言葉を話す。

 

「二人とも、もし私が・・・いや、なんでもない・・・・・・」

 

「「??」」

 

かすみは何かを伝えようとしたが、それを取りやめて掛け布団を深く被る。ちゆとアスミはかすみが何かを言おうとして辞めたことに疑問を抱きつつも、今はのどかのことを考えようと忘れることにしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ビョーゲンキングダムでは、戻ったダルイゼンとクルシーナ、そしてビョーゲンズの幹部たちが集まって話をしていた。

 

「ダルイゼン、クルシーナ・・・最近、地球を蝕むことが疎かになっているようだが・・・?」

 

「心外ね、アタシはちゃんとやってるわよ。ダルイゼンは知らないけど」

 

キングビョーゲンの言葉に、クルシーナはあっけらかんと返す。

 

「俺たちはちょっとした実験をね。俺たちみたいなテラビョーゲンがもっといれば、メガビョーゲンを作れる人が増える。前のフーミンもそうだけど、そういう仲間がいれば結果的に捗ると思ってね」

 

「そうそう、そうすれば、地球を蝕む効率性も上がるでしょ」

 

「進化を待たずに増やそうということか・・・」

 

ダルイゼンとクルシーナがそう説明する。

 

「だからって・・・まさか、プリキュアを宿主に選ぶとはね・・・」

 

「面白そうでしょ? プリキュアとは言っても所詮は人間、メガパーツを入れるのなんて簡単よ。それにあいつらからどんなテラビョーゲンが生まれるのか、結構楽しみになると思うけどね」

 

「ふん、クルシーナはともかく、ダルイゼン、全てにおいて興味がなさそうなお前が珍しい・・・」

 

「どういう風の吹き回し? なの・・・」

 

「・・・別に。ただの気まぐれさ」

 

「・・・まあ、そのプリキュアからバテテモーダみたいに立派なテラビョーゲンさえ生まれてくれれば、私たちも少しは仕事がしやすくなるでしょうね」

 

「その子は痛くしてくれるのかなぁ〜、気持ちよくしてくれるのかなぁ〜? 楽しみだねぇ〜♪」

 

「ふわぁ〜・・・地球を蝕めればなんでもいいですぅ・・・」

 

ダルイゼンとクルシーナの話に、他のビョーゲンズたちの反応はマチマチである。

 

「・・・よかろう。好きにやってみるがいい」

 

キングビョーゲンは承諾するような感じで、ダルイゼンとクルシーナの話を終えた。

 

「ところで、我の娘たちよ・・・クルシーナでもいいのだが・・・」

 

「どうしたの?」

 

「・・・クラリエットの様子はどうだ?」

 

キングビョーゲンは次に娘たち、特にクルシーナに別の話をし始める。話がわかっているのか、クルシーナは「ああ〜」と声を漏らす。

 

「アジトの地下室で眠ってるわよ。メガパーツを入れたり、いろいろ試してはいるんだけど、全く起きる気配がないのよねぇ・・・」

 

クルシーナは両手をすくめながら、つまらなそうに答える。

 

「・・・まあ、あれだけやられた状態ではねぇ」

 

「起きないのも無理はないの・・・」

 

ドクルンとイタイノンも思い出してきたのか、口々に答える。

 

「お姉ちゃん、クラリエットって誰〜?」

 

「ふわぁ〜・・・聞いたこともない名前なのぉ・・・」

 

そもそも三人娘よりも後に生まれていて、話をよくわかっていないヘバリーヌとフーミンが尋ねる。

 

「・・・アタシたちと同じ場所で生まれたテラビョーゲンよ」

 

その質問にはクルシーナが答えた。それも嫌そうな顔で・・・・・・。

 

「お姉ちゃんと・・・?」

 

「ふわぁ・・・?」

 

「私たち4人は元々同じ場所でテラビョーゲンとして生まれたんです。その後に私たちがアジトにしている街、あそこを襲撃して私たちのものにしたのですが、現れたあの紫の、そっくりのプリキュアに倒されかけましてね・・・」

 

「アタシが手下を使って助けなかったら、どうなってたことやら・・・まあ、おかげで完全にビョーゲンズとして消え去ることなく、今は地下室で眠ってるわけだけどね」

 

「そいつ、偉そうだったから、別に起こさなくていいと思うの。そのせいで油断してやられたってこともあるの・・・」

 

三人娘が口々に、もう一人のビョーゲンズに対して説明をしていく。イタイノンに限っては文句だけだったが・・・・・・。

 

「ふ〜ん、おバカなのかなぁ? そのクラリエット、お姉ちゃん・・・?」

 

「ふわぁ〜・・・口先だけにしか聞こえないですぅ・・・」

 

「そうね・・・でも、あれでも、悔しいけど、アタシたちより強くはあるんだけどねぇ・・・」

 

ヘバリーヌとフーミンはさりげなく酷いことを言うが、クルシーナは目を反らしながらそう言った。

 

「一応、仲間を増やしたり、メガパーツの数を増やして入れたりしてるんだけど、それでもあいつは起きる気配がないのよね・・・」

 

「ふむ、そうか・・・まあ、よい、引き続き頼むぞ・・・」

 

「はーい・・・」

 

クルシーナの報告にキングビョーゲンはそう言い残し、幹部たちの前から姿を消していったのであった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、廃病院の地下室に眠っているビョーゲンズの一人は、特に変わった様子もなく眠り続けていた。赤い靄に包まれたまま、少女は微動だにしない。

 

ズォォォォォ・・・・・・。

 

すると、炎が吹き出すかのように赤い靄が蠢く。そこから何かが飛び出しかと思うと、それはカラスのような黒い羽であった。

 

その黒い羽が無機質な地面へと落ちると、それは赤い靄へと変化して小さな鳥のような姿を形成していく。その姿は一羽の黒い九官鳥のような姿だった。

 

黒い九官鳥は鳴くことなく、そのまま扉へと近づく。しかし、扉は硬く閉ざされていて、この姿では開けることができない。

 

すると、黒い九官鳥は再度赤い靄へと変化すると、ドアノブの下にある鍵穴の中へと入り込み部屋から出ていく。そして、落ちた先の地面で黒い九官鳥のような姿へと変えると、その場から飛び去っていく。

 

そして、部屋の中で眠っている少女は・・・・・・。

 

「・・・・・・フフ」

 

眠っているはずだが、赤い靄が飛び出していくと同時に、口元に笑みを漏らしていたのであった・・・・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第85話「後悔」

前回の続きです。
のどかが病気になるのを心配する一方、ビョーゲンズの方も暗躍、そしてのどかの元にはある人物が・・・。


 

のどかの容体が悪化し、病院に運ばれた日から翌日・・・・・・。

 

のどかはすこやか市にあるすこやか総合病院にある病室のベッドで眠っていた。

 

昨日よりも容体は落ち着いているが、依然として予断を許さない状況だ。顔色はいまだに悪いままで、眠っている表情も苦しそうにしている。

 

「のどか・・・・・・」

 

「お父さんたちがついているからな・・・・・・」

 

のどかの両親である、やすことたけしは昨日から付きっきりでのどかに寄り添い、彼女の手を取っていた。

 

そんな時・・・・・・。

 

コンコンコンッ。

 

扉をノックした音が聞こえてきたかと思うとゆっくりと扉が開き、のどかの担当医師が顔を見せた。

 

「花寺さん」

 

「あっ・・・先生!」

 

「よろしいですか?」

 

「・・・お願いします」

 

やすこと頷きあったたけしはそう答え、担当医師に連れられて病室を後にし、診察室へと向かう。

 

その途中・・・・・・。

 

「あっ・・・・・・」

 

「かすみちゃん・・・」

 

病院の通路内でかすみと出会った。かすみはやすこと目が合った途端に、辛そうな表情で目を反らす。

 

「すまない・・・心配で来てしまった・・・のどかには合わせる顔もないのに・・・」

 

「いいえ、来てくれて嬉しいわ・・・まだ目は覚めてないけどね・・・」

 

「合わせる顔がないなんて、そんなことはないさ・・・のどかは気にしてないよ・・・」

 

「っ・・・」

 

かすみはのどかの両親に悔しそうに言うと、二人はかすみに慰めの言葉をかけた。しかし、かすみの表情は暗いまま晴れなかった。

 

「思い出すわね。前ものどかを心配して、病室に来てくれた女の子を・・・」

 

「女の子・・・?」

 

「いたのよ。のどかが入院生活で友達ができたよって喜んでて、その子とお互い寄り添いながら、一緒にいてくれたわ」

 

「のどかの容体が急変した時も、一緒に手を握ってくれたな・・・」

 

やすことたけしはのどかの入院生活で、彼女と一緒にいた少女のことを思い出しながら語った。かすみはその少女のことはわからなかったが、きっとのどかにとっては大切な存在だったのだろう。

 

「私たちは先生と話してくるから、のどかの傍にいてあげて? 喜ぶはずよ」

 

「・・・わかった、ありがとう」

 

やすこの言葉にかすみは暗い声を崩さないまま言うと、のどかのいる病室に向かっていき、やすこたちは診察室へと向かっていく。

 

そして、診察室で担当医師からのどかの容態を聞く。

 

「体温、脈拍・・・共に低いですが、決定的な異常は・・・見つかりませんでした・・・」

 

「それって、つまり・・・」

 

「・・・以前と同じ、原因不明です」

 

「っ・・・!?」

 

「くっ・・・!!」

 

先生の診断結果を聞き、やすこは驚きのあまり手で口を覆い、たけしはギュッと拳を握った。やはり、以前かかった病気の再発だというのか・・・?

 

「引き続き原因の特定に努めます。どうか、諦めないでください・・・!!」

 

「諦めません!! だって前も治ったんだもの!! 今度だって・・・今度だって・・・!!」

 

「・・・神様、どうかのどかを助けてください・・・!!」

 

やすこはそう言いながら祈るように手を握る。そんなやすこを、たけしは肩に手を置きながら、空をあおいでそう祈った。

 

その頃、のどかの病室へと向かったかすみは・・・・・・。

 

「っ・・・・・・」

 

のどかの病室の扉の前で顔を俯かせるも、意を決して顔をあげた後、病室の扉をノックして開ける。

 

「のどか・・・?」

 

かすみは扉を開けて、愛しの人物の名前を呼ぶ。のどかは左奥のベッドで横たわっており、かすみの呼ぶ声には答えない。

 

「のどかぁ・・・」

 

そんな彼女の横には、ラビリンが瞳を潤ませながら心配そうに見守っていた。

 

「ラビリン?」

 

「っ、かすみ・・・」

 

かすみが声をかけると、ラビリンはその声に反応してこちらに振り向いた。

 

「・・・・・・・・・」

 

その様子を開いている窓の外から見ているものがいた。

 

「・・・育つのにはまだ時間がかかるのかしらね?」

 

クルシーナは病院の向かいにある木の上から、のどかの様子を伺っていた。メガパーツは着実にのどかの体を蝕んで育っていたが、まだ出てくるのには早いようだった。

 

「まあ、いいわ。ダルイゼンに・・・っ?」

 

ダルイゼンに報告しようと背を向けるクルシーナだが、顔を顰めると呟いていた言葉を途中で打ち切って振り向く。

 

「なんか気になるわね。キュアグレースの中以外にも、アタシたちと同じ気配がするなんて。しかも、この病院の中から、二つ・・・?」

 

気になったクルシーナは再度踵を返すと、気配がする場所を見つめる。それはなんと、のどかの病室とは反対方向のもう一方の部屋、そしてもう一つはよくわからない場所からだった。

 

クルシーナは黙って見つめていると木の上から飛び降り、病院へと近づいていくとそこから高くジャンプして窓へと宙に浮いて飛ぶ。

 

窓と同じ高さまで着くとゆっくりと窓を開け、その一つを見つけようと病院の中を覗く。

 

「っ!!」

 

気配がしたある物を見て目を見開く。

 

ピコン・・・ピコン・・・ピコン・・・。

 

鳴る機械音・・・そこにいたのは、人工呼吸器のようなものを口元に付けていて、ベッドに横たわる少女の姿。ベッドサイドのモニターには心拍数が映し出されているようだった。

 

そんなことよりも、クルシーナが気になるのは別のことだった。その少女は、フーミンが誕生した時と同じ、体中が赤い靄に包まれていたのだ。

 

「・・・へぇ、誰がやったかは知らないけど、ここにもアタシたちの新しい仲間が育ってたんだぁ・・・?」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべながら呟き、病室の中へと入っていく。誰がメガパーツを埋め込んだのはわからないが、ドクルンかイタイノンのどっちかだろう。まさか、赤い靄がこんなところで患者を宿主に取り憑いているとは思わなかった。

 

見つめていたクルシーナだが、何かに気づいたのか顔を顰める。

 

「これって、あいつの・・・・・・」

 

この少女の中にある淀む赤い靄、ドクルンでもイタイノンでもなく、ましては今活動しているビョーゲンズの誰のもの気配、一部も一致しない。しかも、地下室で眠っているあいつの気配がする。

 

どうやらメガパーツを埋め込まれたものではないと、そう推察する。その上で気になることもあった。

 

「もしかして、本当は起きてんのか・・・??」

 

狸寝入りをしているのか、本当は目を覚ましているのか・・・クルシーナは地下室のあいつを不愉快そうに感じながらも思い返す。

 

「まあ・・・でも、これはこれで好都合ね」

 

あとでもう一度そいつの様子は見に行くとして、人間の誰かに取り憑いているのであれば、あいつを復活させるための仲間を増やせるかもしれない。急成長させてすぐに起こしてあげよう・・・。

 

そう考えたクルシーナは、懐からメガパーツを取り出すとその少女へと近づいていく。

 

「さてと、どんなテラビョーゲンになるのかしらぁ・・・?」

 

不敵な笑いを浮かべながら、クルシーナはその少女にメガパーツを押し当てる。メガパーツは少女に触れると、その体の中に飲み込まれていく。

 

「!!??・・・!???」

 

少女は目を見開きながら体を大きく仰け反らせる。そのような状態が数秒続いたあと、果てたと言わんばかりに腰が落ち、少女はぐったりするように横たわった。

 

「まだ時間がかかるのかしら? まあ、いいわ。誕生を楽しみにしておきましょうかね」

 

クルシーナはそう呟くと、もう一つの気配がある方にも振り向く。様子を見に行こうと病室の扉を開いて、廊下へと出て行く。

 

誰もいない廊下を歩き、その気配をきょろきょろと辿る。もう一つの気配は、どうやらこの近くにあるようだ。

 

「っ!!・・・?」

 

と、病院の左奥にある病室から気配が大きくなるのを感じた。その一方で、誰かの気配を感じて首を傾げる。

 

とりあえず、中に入って確かめようと躊躇なく扉を開け放つと、その病室の左手前にはさっきの少女と同じように人工呼吸器を付けていて、ベッドに横たわるまるで男性のような美形の少女と・・・・・・。

 

「ドクルン?」

 

「? クルシーナ?」

 

「何やってんのよ? こんなところで」

 

そのベッドの横の椅子に、ドクルン座ってその少女の様子を伺っていた。

 

「この前、私は人間の女の子にメガパーツを入れましてね。それが飛び出した先を追っていたのですが、こんな少女の中に入り込んでいたんですねぇ・・・」

 

ドクルンはメガネをクイッと上げながら話す。

 

「ここで・・・」

 

懐からあるものを取り出す。それはメガパーツとは違う、黒い氷のような禍々しいかけら。

 

「それって、あの青いやつから抜いた病気の・・・?」

 

「そうです。キュアフォンテーヌから抜いた私の病気の種です。こいつをこの娘に投与しようと思いましてね・・・」

 

ドクルンはそう言いながら、赤いオーラを手に持った黒い氷のかけらに込める。すると、黒い氷から雲のような4本足が生えて自立歩行し、その少女へと近づく。

 

そして・・・・・・。

 

「・・・!!!???」

 

黒いクリスタルは赤い靄のようなものに変化して、人工呼吸器の下の容器の中へと侵入する。そして、そこから繋がっている患者の口の中から体内へと入り込んだ。

 

少女は言葉にならない声を漏らすと、体が浮くぐらいに大きく弓ぞりに逸らしながら痙攣する。

 

「・・・フフフ♪」

 

笑みを漏らしたドクルンはさらに懐からメガパーツを取り出すと、ベッドの少女へと入れ込む。

 

「!!!!!?????」

 

少女は苦しそうに大きく目を見開くと、ベッドが揺れるくらいにガクガクと体を震わせる。

 

「へぇ・・・楽しみねぇ」

 

クルシーナはそれを見て、不敵な笑みを浮かべると踵を返す。

 

「見ないんですか? 誕生の瞬間を・・・あと数分ぐらいで目覚めると思いますが?」

 

「もうわかってるからいいわ。ダルイゼンに報告しなくちゃ」

 

クルシーナは笑みを浮かべるなら問いに答えると病室の扉を閉め、その場を跡にする。そして、少女の痙攣した体は尽き果てたと言わんばかりにベッドに腰をつけるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ちゆ、ひなた、アスミの三人はひなたの家の近くのワゴンカフェに来ていた。

 

しかし、楽しそうな雰囲気ではない。のどかがまだ治っていないということを聞き、みんな暗い表情をしていた。

 

「元気出して・・・って、言っても無理か」

 

「はい、難しいです・・・」

 

「でも、ありがとうございます・・・」

 

そこにひなたの姉のめいがジュースを差し出すも、三人は笑顔にはならず、顔を俯かせたままだった。

 

「のどかちゃん・・・早く元気になるといいわね」

 

「ウゥ〜ン・・・」

 

めいはアスミの膝の上にいるラテと、同じ高さになりながら彼女にそう言うとワゴンの中へと戻っていった。

 

「・・・かすみっち、のどかっちのお見舞いに言ってるんだよね?」

 

「ええ・・・そうよ。早く起きて病院へと向かっていったわ・・・」

 

「かすみさんはかなり責任を感じていました。自分がのどかを守れなかった、そのことをかなり後悔していたような感じでした・・・」

 

ひなたがこの場にいないかすみのことに関して尋ねると、ちゆとアスミは答えた。

 

「それにしても、のどかの前に掛かっていた病気も、メガパーツが原因だったのかしら・・・?」

 

と、ここでちゆがのどかの病気に関して考える。のどかの母・やすこから聞いた前の病気の時と症状が似ているということ、ビョーゲンズにメガパーツを入れられたことで再発したということは、前の病気もビョーゲンズの仕業なのではないかと推測できる。

 

「・・・可能性はあるペエ」

 

「テアティーヌ様が元気だった頃も、メガビョーゲンを全て浄化できたわけじゃなかったからな・・・」

 

「そうなのですか?」

 

そこにペギタンとニャトランがそれも一理あるという感じで説明をし出す。

 

「初期段階で浄化できないまま育って、進化しちゃう個体も時々いるペエ」

 

「それがキングビョーゲンだったり、ダルイゼンやシンドイーネ、グアイワル、クルシーナ、ドクルン、イタイノン、バテテモーダ、ヘバリーヌ、ネブソック、フーミン・・・あの辺の知性を持った奴らなんだ」

 

「うぇぇぇぇっ!? あいつら元々メガビョーゲンなの!? メガビョーゲンの何がどうなってああなっちゃう訳ぇ〜っ!!??」

 

ペギタンとニャトランの説明に、ひなたは取り乱したように驚いていた。

 

「シ〜ッ!! ひなた、シ〜ッ!!」

 

そんなひなたをニャトランが制する。ここで騒ぐと周囲の人、特にめいなどにバレてしまう可能性があるからだ。

 

「そのあたりは僕たちもまだわからないペエ・・・」

 

「うぇっ!? もう何ぃ〜!? 全然わからないことだらけじゃん!! 怖い、怖いぃ〜!!」

 

ひなたは近くにいたニャトランを抱きしめながら叫ぶ。

 

「・・・それにのどかっちもどうなっちゃうか、わかんないしさ・・・」

 

ひなたが不安げな心情を口にする。すると、ちゆは暗い表情をしながら俯いた。

 

「・・・・・・・・・」

 

「クゥ〜ン・・・?」

 

「? アスミ、どうしたの?」

 

ビョーゲンズに関する事実を聞いていた、アスミが顔を俯かせながら険しい表情をする。それを心配したラテが鳴き、ちゆが尋ねた。

 

「・・・違和感があるんです」

 

「??」

 

「私、ビョーゲンズと相対したことはあるのですが、その中でもクルシーナやドクルン、イタイノン、ヘバリーヌからは邪悪な気配とは別に・・・人間のような気配もしたのです・・・」

 

「「「っ!?」」」

 

「え、アスミン、どういうこと・・・!?」

 

アスミが感じたことを告白するとちゆとひなた、ヒーリングアニマルたちは驚く。クルシーナやドクルンたちから、人間の気配がした・・・・・・?

 

「私の推察でしかないかもしれませんが、もしかしたら、彼女たちは人間からテラビョーゲンになったんじゃないかって、思うのです・・・」

 

「そんなことがあり得るの・・・??」

 

「わ、わからないペエ・・・」

 

「聞いたことねぇよ・・・そんなこと・・・」

 

アスミがそう推察を述べると、ちゆたちは信じられないといった反応だった。ペギタンとニャトランもそんな人間ではない彼らが、そのようなことで発生したというのは聞いたことがなかった。

 

「あ〜!? そういえば!!」

 

「ペエ!?」

 

「な、なんだよ・・・急に大声出して!!」

 

ひなたが、ペギタンとニャトランがびっくりするぐらいの大声で、思い出したように叫ぶ。

 

「忘れてたけど・・・ヘバリーヌは、設楽先生の娘だったんだよね!?」

 

「っ!! そういえば、クルシーナが前に言ってたわね・・・」

 

「ああ・・・そう考えると、アスミの言っていることも、間違っちゃいねぇのか・・・?」

 

「納得はいくと思うペエ・・・でも、なんでそんなことが起きるのか・・・」

 

ひなたが思い出したことを話すと、ちゆも考え始める。そういえば、ヘバリーヌは設楽先生の娘だとクルシーナが暴露していた。設楽先生も人間だったから、その娘も人間だったはず。そう考えると、人間からテラビョーゲンに変化するというのもあながちあり得ないことでもないかもしれない。

 

しかし、ダルイゼンらの誕生のメカニズムがいまだにわかっていない中では、推測の域でしかないわけだが・・・・・・。

 

そして、気になることはもう一つあった。

 

「あいつら・・・かすみっちのこと知らなさすぎって言ったけどさ、かすみっちは優しいじゃん・・・それ以外に何を知らないって言うのよ・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

ひなたがそう呟くのは、クルシーナが発した言葉にあった。

 

ーーーーお前らそいつのことを知らなすぎでしょ。少しは足りない頭で考えたほうがいいんじゃないの?

 

彼女は自分たちの仲間であるはずのかすみを全然わかってないと言い放ったのだ。ちゆたちにわかることは不思議な力を持っているということと、誰に対しても優しいということ、それだけわかれば十分なはずなのに、他に何を知れと言うのか?

 

「・・・もしかして」

 

「アスミン?」

 

「どうしたんだ・・・?」

 

アスミが険しい表情をしながら思い返そうとし、気になったひなたたちが彼女の方を振り向く。

 

「私、かすみさんと友達じゃなかった時があったと思います」

 

「そんな時なんか、あったっけ・・・?」

 

「・・・あったわ。最初にかすみと会ったときは、全く話してなかったものね」

 

アスミに思い出されるのはかすみと初めて会ったときだ。そのときは、アスミはかすみを遠ざけるような態度を取っていたのだ。

 

「私はあのとき、かすみさんを避けていたんです。それは彼女からなんというか、嫌な気配を感じたからなんです・・・」

 

「嫌な気配ペエ・・・?」

 

「はい・・・・・・」

 

そして、アスミは一番考えたくなかったことをこの場で発することになる。

 

「もしかしたら、アスミさんは・・・その・・・ビョーゲンズと何か関係があるのではないかと・・・」

 

「「「「っ!!??」」」」

 

アスミの放った推察に、ちゆたちは目を見開いた。

 

「かすみが、ビョーゲンズ・・・?」

 

「マジかよ・・・」

 

「ペエ・・・・・・」

 

「そ・・・そんなわけない!!! かすみっちがビョーゲンズだなんて、絶対にあり得ないよぉ!!!!」

 

ちゆたちが驚いている中、ひなただけは首を振りながら否定していた。

 

「あくまでも可能性としての話です・・・!! 私だって、かすみさんがビョーゲンズだなんて、思いたくはありません・・・!!!!」

 

「でも、可能性としては、否定できないペエ・・・」

 

「もしそうだとしたら、どうしてかすみは、あんな性格をしているのかわからないニャ・・・」

 

アスミも思いの丈を叫びながら、その推察を否定しようとする。しかし、どうしても彼女がビョーゲンズではないということを拭い去るような考察が出てこないのだ。仮にそうだとしても、どうして彼女には他のビョーゲンズと同じような邪悪さがどこにもないのか?

 

アスミの疑念やのどかの病気のこと、そしてかすみのこと、いろいろと考えなければいけないことはあるが・・・・・・。

 

「・・・のどかに、会いにいきましょう」

 

アスミは立ち上がってみんなにそう提案した。考えられることはあるが、まずはのどかの心配をするべきだと考えたのだ。

 

「えっ・・・でも・・・・・・」

 

「ご家族が動揺されているのにお邪魔するのは・・・それに、私たちがお手当てをしてあげられるわけでもないのに・・・」

 

ひなたとちゆがその提案に戸惑う。プリキュアとはいっても、のどかの体内にあるメガパーツをどうにかできるものではない。それにまだ助ける方法もないのに、病院に行ったところで自分たちができることなんてないと感じていた。

 

それに、のどかの両親がまさかの事態に精神状態が危ういときに来るのもその人に不謹慎だろう。

 

「でも、皆さんも不安で、心配なのですよね」

 

「・・・そうだな」

 

「ラビリンのことも心配ペエ・・・」

 

「ラテものどかに会いたがっています・・・そして、私も・・・かすみさんのことが心配です・・・」

 

「ワウン・・・」

 

アスミがそう諭すと、ニャトランとペギタンは会いに行かない理由がないとテーブルから飛び上がる。

 

ちゆとひなたはお互いに見ると、意を決したような表情をして頷く。

 

「・・・行きましょう!」

 

「のどかっちに会いに!!」

 

二人も席から立ち上がると、皆はかすみを追って、のどかのいる病院へと向かい始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、かすみはのどかの病室へと訪れ、ラビリンと目を合わせていた。

 

「・・・ラビリンは、かすみがやっただなんて、思ってないラビ」

 

「・・・・・・・・・」

 

ラビリンは潤ませた目を反らしながらも、かすみがのどかに手を掛けたことを疑ってはいなかった。クルシーナが暴露したことには動揺してしまったが、かすみがのどかを大好きなことを十分に理解しているラビリン。そんな彼女が、のどかを害するようなことをするとはとても思えなかったからだ。

 

かすみはその様子に目を反らして辛そうな表情をすると、それには黙ったままのどかのベッドの横にある椅子へと座る。

 

それから数分経っても、かすみとラビリンはそばで見守っていたが、のどかはいまだに目を覚まさずにいた。

 

「のどか・・・ごめんラビ・・・。ラビリンはヒーリングアニマルなのに、どうしたらいいかわかんないラビ・・・何もしてあげられないラビ・・・。巻き込んで、ごめんラビ・・・ヒック・・・ラビリンがのどかを、パートナーに選んだからぁ・・・」

 

ラビリンは目に見えて別れるくらいに耳を垂らしながら落ち込んでいた。

 

「・・・なんで・・・なんで・・・ラビリンが謝るんだよ・・・!」

 

かすみは泣きそうな掠れた声で、ボソリとラビリンに呟く。

 

「一番に謝らなければいけないのは私だ・・・!! 危険だと思って、のどかとラビリンの跡をついていって・・・でも、私は・・・何もできないどころか・・・ビョーゲンズに手を貸してしまったんだ・・・!! もう合わせる顔もないと思い込んでた・・・でも、会わなきゃ謝ることもできない・・・!!」

 

「っ・・・・・・」

 

かすみは涙をポロポロとこぼしていた。どうなっていても、自ら行動した以上、のどかにどんなことがあっても全部自分のせい、そう心の中で思い込んでいた。

 

「こんなことに、なるんだったらぁ・・・グスッ・・・私なんか・・・のどかと・・・出会わなければよかったのにぃ・・・ヒック・・・」

 

かすみは嗚咽を漏らしながら、その体は震わせていた。

 

「かすみは何も悪くないラビ・・・!! ラビリンが、のどかを一人で行かせたのが悪かったラビ・・・あの時、ちゆとひなたたちも連れていけばよかったんだラビ・・・ラビリンが代われるものなら、代わりたいラビぃ・・・のどかぁ・・・のどかぁぁぁ・・・」

 

ラビリンも涙をポロポロと流し始め、泣きじゃくっていた。かすみもラビリンも、自分たちが最初から出会わなければよかったと、そうすれば苦しむこともなかったと、そう思い込んでいた・・・。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

「ラビリン・・・かすみちゃん・・・」

 

「「っ!!」」

 

のどかは目を覚まして、こちらに首を向けていた。

 

「のどかぁ・・・」

 

「っ・・・・・・」

 

「二人とも・・・泣かないで・・・大丈夫だから・・・」

 

のどかは手を弱々しく動かしながらも、指でラビリンとかすみの涙を拭いながら笑顔を見せる。

 

「っ・・・どこが・・・どこが大丈夫なんだよ・・・!!」

 

「そうラビ・・・!! 全然・・・全然・・・大丈夫じゃないラビ・・・!!!」

 

「苦しいなら・・・苦しいって言ってくれよ・・・!!!!」

 

かすみとラビリンは涙をこぼしながらもそう叫び、伸ばしてきたのどかの手を互いに取る。どうみても顔色は悪く、表情も苦しそうだ。こっちに気を遣っていることはわかるが、二人はどうなってしまうのか気が気でなく、楽観的にはなれなかった。

 

しかし、のどかは苦しそうにしながらも、そんな二人に笑みは崩さなかった。

 

「・・・前はね・・・原因がわからないまま・・・ずっとずっと苦しいのが続いて・・・体も心も、不安で辛いままだったけど・・・今は、ビョーゲンズのせいだって、知ってるもん・・・」

 

「のどか・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

のどかは弱々しい声で話しながら、もう片方の手でも二人の手を取る。

 

「体はやっぱり辛いけど・・・でもね、心は頑張れる・・・だってね・・・ラビリンがいてくれるもん・・・かすみちゃんも・・・一緒にいてくれるから・・・ラビリンと出会って・・・ビョーゲンズと戦う力をもらったもん・・・毎朝ランニングもしてるもん・・・かすみちゃんとも出会って・・・元気になれる気持ちをもらえてるもん・・・」

 

「・・・そうラビ。のどかは強くなったラビ・・・」

 

ラビリンは涙目ながらも笑顔を見せてそう言った。しかし、かすみは違った。

 

「私は、のどかに何もできてない・・・何もしてやれてない・・・何も、与えてやれてない・・・守れてすらいない・・・!! 私はただ単に他人を傷つけて・・・良いように利用されて・・・こうやって苦しむ人を前に・・・何も、できてない・・・・・・のどかが、大好きなのに・・・!! 私は・・・友達、失格だよぉ・・・ぅぅ・・・」

 

かすみは泣きそうな顔をしながら謙遜した言葉を吐露する。自分はのどかのそばに居ただけ、何もしていない。かすみの口からはネガティブな言葉しか出なくなっていった。

 

「そんなこと、ないよ・・・」

 

「っ・・・・・・」

 

「かすみちゃんがいてくれたから・・・私も元気付けられたし、健康なままでもいられたんだよ・・・かすみちゃんがいて傷ついたなんて思ってない・・・誰にでも優しいかすみちゃんが何かしたなんて、私は信じてない・・・だって、かすみちゃんは私の、大切な・・・友達、だから・・・」

 

「っ、のどかぁ・・・」

 

「だから、もう・・・泣かないで・・・」

 

かすみはそんな姿になってまでそう言ってくれるのどかの手を強く握り返した。手を掛けたのであれば、のどかはきっと自分のことを恐れていただろう。でも、のどかはそんなことを気にせずに自分にそんな言葉かけてくれる。かすみは少し心の中で安堵していた。

 

「ありがとう・・・のどか、大好きだよ・・・」

 

「私も・・・かすみちゃんのことが、大好き・・・」

 

かすみは眉を下げながらも笑顔で答え、のどかも笑顔でそう答えた。

 

「私・・・まだ諦めてないもん・・・絶対負けないよ・・・」

 

「のどか・・・!!」

 

のどかは生きるということを、治るということをまだ諦めていなかった。ラビリンはそういうのどかを見て、涙ながらも笑顔を見せていた。

 

「・・・思い出すなぁ・・・私と、一緒に病気を治そうと約束した・・・お友達・・・」

 

「お友達・・・?」

 

懐かしそうに呟くのどかに、疑問を抱くラビリン。

 

「・・・・・・・・・」

 

そんな中、かすみは顔を俯かせて黙っていると、やがて口を開いた。

 

「のどか・・・ラビリン・・・もし、私が・・・・・・」

 

「「??」」

 

かすみは何かを言おうとして呟き、のどかとラビリンがこちらを見る。かすみは口を開いて言おうとして言葉を詰まらせ、口を閉じる。

 

「・・・いや、やっぱりなんでもない」

 

「かすみちゃん・・・?」

 

「かすみ・・・?」

 

のどかとラビリンは、何かを言おうとして辞めたかすみに疑問を抱いていた。

 

その時だった・・・・・・。

 

コンコンコン

 

「「「っ!!」」」

 

誰かが病室の扉をノックしたようだった。もしかして、ちゆたちが様子を見にきたのだろうか?

 

そう思い込んでいると・・・・・・。

 

「ごめんください。入っていいですか?」

 

「「「っ!?」」」

 

扉越しの声は明らかに別人の声だった。三人、中でもラビリンはその声にドキッとすると、のどかから手を離して慌ててベッドの下に隠れる。

 

のどかはゆっくりとかすみからも手を離して背を向けるように横向きになり、かすみは病院のシーツを少しかけてあげる。

 

ガラガラガラ・・・。

 

「失礼します」

 

その時、病室の扉が開かれ、そこに人物が入ってくる。その人はのどかのベッドへと近づく。

 

「のんちゃん」

 

「っ!!??」

 

のどかはその言葉に大きく目を見開いた。聞いたことのある声・・・そして、自分をその名前で呼ぶのは・・・・・・!

 

のどかは動くのが辛い体をゆっくりと動かして、その人をよく見ようとする。そこにはツインテール姿に、白いワンピース姿の少女、手にはお見舞い品なのか白い花の入った透明なボトルがある。

 

服装は違うが、その顔は紛れもなく、忘れるはずのない少女の顔・・・・・・。

 

「しんら・・・ちゃん・・・?」

 

「久しぶり、のんちゃん♪」

 

のどかの病院時代の友人、来栖しんらがのどかに笑顔を向けていたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第86話「旧友」

前回の続きです。
のどかの元に一人の旧友が現れます。しかし・・・。


 

「久しぶり、のんちゃん♪」

 

笑顔で見つめるのどかの病院時代の友人、来栖しんら。

 

「しんら・・・ちゃん・・・?」

 

のどかはそんなしんらを信じられないという目で見ていた。しんらにはすこやか市に引っ越したということを伝えず、あの病院で別れたはず・・・なんでここにいるのか?

 

「驚いた?」

 

「なん、で・・・?」

 

「アタシの両親がのどかのお母さんとお父さんから連絡を受けて、のどかがまた病気になったって聞いて。だから、急いで病院に駆けつけちゃった♪」

 

しんらは笑顔でそう言った。自身の両親から電話を受け、会いたかったしんらは急いで病院へと駆けつけたのだという。

 

「そう、なんだ・・・・・・」

 

のどかはそれを聞いて安堵していた。自分の両親が電話をして駆けつけたのであれば、ここに来るのもおかしなことではない。確か、自分の両親としんらの両親は会っているのを見た気がするから。

 

「のんちゃん、また病気になったなんて、どうしたの? 再発?」

 

「えっと・・・ちょっと、ね・・・無理、しすぎちゃったから、かな・・・」

 

「元気になったと思ってはしゃいでだんでしょ~。病気はいつ襲われるかわからないから油断しちゃダメだよ」

 

「うん・・・そうだね・・・」

 

のどかはぎこちないながらも答える。この病気がビョーゲンズの仕業だとしんらに言えるわけがない。無理が祟って体が動かなくなったと言うしかなかった。

 

「しんらちゃん、病気、治ってたんだね・・・」

 

「うん。ちょっと辛かったけど、なんとか治したよ♪」

 

しんらは垂れた白い花ーーーースノードロップのハーバリウムをのどかのベッドの横にあるデスクに置くと笑みを向ける。

 

ふと、しんらはベッドの横の椅子に座るかすみに視線を向ける。

 

「あ・・・その子は、お友達?」

 

「うん・・・そうだよ・・・この街でできたお友達・・・かすみちゃんだよ・・・」

 

しんらはのどかにそう言われると、かすみの方を向く。

 

「はじめまして。のどかが前の病院に居た時の友人だった、来栖しんらよ。よろしく」

 

「ああ・・・風車かすみだ・・・よろしく・・・」

 

しんらが自己紹介をすると、かすみは戸惑いを覚えながらも答える。

 

「のんちゃんとはどう出会ったの?」

 

「えっと・・・私は外国生まれでな・・・この街に住む際に、ステイホームとしてやってきたんだ。そこでのどかと出会って、仲良くなったって感じだ」

 

「ふーん、素敵な出会いね♪ でも、外国に住んでいたのに日本人みたいな名前ね」

 

「うっ・・・!」

 

かすみはちゆが家族にごまかしていたことを思い出しながら、しんらの問いにそう答えると、彼女は笑顔でそう答えた。しかし、名前のことについて指摘されるとかすみは言葉を詰まらせる。

 

「に、日本に生まれたんだが、すぐに海外に留学になってな・・・日本に戻って勉強したいと思って、戻ってきたんだ・・・」

 

「そうなの。素敵なことじゃない♪ のんちゃんともっと仲良くしてあげてね♪」

 

「ああ・・・もちろんだ・・・」

 

かすみはちゆに教えられたことを記憶から絞り出しながら、なんとか答える。しんらはそれに笑みを浮かべながらそう返した。

 

コンコンコン、ガラガラガラ・・・

 

「のどか、かすみ」

 

「っ! ちゆ、ちゃん・・・」

 

「ちゆ・・・」

 

そんな中、ドアがノックされ扉が開かれると、そこからちゆの姿が見えた。

 

「のどかっち! かすみっち!!」

 

「のどか・・・かすみさん・・・」

 

「ひなたちゃん、アスミちゃん・・・」

 

さらに彼女の後ろからはひなたとアスミの姿もあった。

 

「ん? っ!! 他の人もいたのね・・・!」

 

「こんにちは♪」

 

ちゆはのどかとかすみ以外にいることに驚くが、しんらは笑みを浮かべて挨拶する。

 

「のどかっち、そのめっちゃ可愛い子は誰・・・?」

 

「えっと、この子はね・・・」

 

ひなたが尋ねると、のどかは答えようとするが、その前にしんらは椅子から立ち上がる。

 

「はじめまして、アタシは来栖しんら。のんちゃんとは前の病院でお世話になったわ」

 

「ああ! のどかっちの!!」

 

ひなたはのどかの前の友人であると察すると、病室の中へと入ってとっさにしんらの手を取る。

 

「あぁっ・・・!!」

 

「あたし、平光ひなた!」

 

「私は、風鈴アスミと申します」

 

「よろしくね~、しんらっち♪」

 

「し、しんらっち・・・?」

 

しんらが自己紹介をすると、のどかの病気で尋ねたとは思えないほどのテンションで挨拶をかわすひなたとアスミ。しんらは思わずたじろいでいた。

 

「来栖、しんら・・・?」

 

ちゆはその名前を聞くと、何かが引っかかるように考え始める。その名前はどこかで聞いたことがあるような気がしたからだ。

 

「? どうしたの、ちゆちー?」

 

「え・・・ううん、なんでもない」

 

ぼーっとしているちゆにひなたが声をかけると、ちゆはごまかすように言い、しんらに近づく。

 

「私、沢泉ちゆ」

 

「ちゆさん・・・みんなは、のんちゃんのお友達?」

 

ちゆが自己紹介すると、しんらは三人に尋ねた。

 

「ええ、そうよ」

 

「のどかっちの、大大大親友だよ!!!!」

 

「私は、のどかの家に住まわせてもらっています」

 

「のんちゃんの家に住んでる・・・って、どういうこと?」

 

しんらはアスミの言葉が気になって尋ねてみる。

 

「言った通りの意味です♪」

 

「え、でも、のんちゃんの名字って『花寺』だよね? アスミさんは『風鈴』・・・え、どういうこと・・・?」

 

「ア、アスミは!! ラテのバックパッカーということで住んでるのよね!!」

 

「そ、そうそう!! つまりアスミンは・・・えっと、ラテの飼い主ってこと!!」

 

「アスミとラテは旅の途中ではぐれちゃったことがあって、のどかが拾って、家で預かってたの!! そこにようやくアスミがやってきて、その、この街の勉強のために残ってるのよ!!!」

 

アスミの言葉に混乱しているしんらに、怪しまれていると思ったちゆとひなたが慌てるように説明する。

 

「あ、そうなんだ・・・なるほどね、ワンちゃんもいい飼い主を見つけたね♪」

 

「ウゥ~ン・・・ウゥ・・・」

 

「っ!!」

 

しんらは納得したように言うと、アスミのバッグに入っているラテに笑顔を向けながら撫でようとしたが、ラテは何故だかしんらを怯えるように見ていた。

 

「ラテ?」

 

「ああ・・・怖がらせちゃったのかな、ごめん・・・」

 

ラテの様子にアスミが疑問に思っていると、しんらは慌てたように手を離して謝る。

 

「うぅぅ・・・うっ・・・」

 

そんな時だった・・・ベッドに横たわるのどかが苦しそうな呻き声をあげたのだ。

 

「っ!! のどかぁ!!」

 

「「「!!」」」

 

かすみが叫びながら彼女の手を取り、それに気づいたちゆたちものどかに寄り添う。

 

「のどか!! 大丈夫!?」

 

「のどかっち!!」

 

「のどかさん!!」

 

ちゆたちは心配して声をかける。のどかの容体が急変したのだろうか・・・そんな心配でいっぱいだった。

 

「だ、大丈夫・・・ちょっと苦しくなっただけ・・・」

 

のどかは顔を顰めながらも微笑んで見せる。ちゆたちを心配させないようにしているのだろう。

 

「全然、大丈夫そうに見えないよぉ・・・!!!」

 

「のどか! 本当は苦しいのでしょう!? 苦しいって言ってください!!」

 

「大丈夫・・・私は大丈夫だから・・・」

 

ひなたとアスミが余計に心配するも、のどかはあくまでも微笑んで見せた。

 

すると・・・・・・。

 

ボゥ・・・。

 

のどかとかすみが握り合っている手に白い光が灯り始めた。

 

「・・・っ!? うっ・・・うっ・・・!!」

 

のどかはまるでその光を拒絶するかのように、体を震わせながら苦しみ始めた。

 

「っ、のどか!?」

 

「ど、どうしたの!?」

 

「のどかっち!!・・・のどかっち!!」

 

「のどか!!」

 

「あっ、あぁっ・・・ぁぁっ・・・ぁぁっ・・・うっ・・・うっ・・・!!」

 

かすみは起こった異変に驚き、ちゆやひなたたちは戸惑いながらも、のどかに必死に呼びかけるも、彼女は苦しむ声を上げていて何も答えない。

 

「のんちゃん!!」

 

パシッ!!

 

すると、さっきまで後ろにいたしんらがのどかの手を取る。

 

「うっ・・・うぅっ・・・あっ・・・あぁっ・・・!!」

 

「のんちゃん、しっかりして!! 意識をしっかりと保つの!! アタシも、ちゆさんたちもちゃんとそばにいるんだから!!」

 

「うぁっ・・・ぁぁっ・・・うっ・・・うっ・・・うぅっ・・・!!!!」

 

しんらも必死に呼びかけていたが、それでものどかは苦しみの声を上げ続ける。

 

「一体、どうしたって言うの・・・!?」

 

「どうなってんの・・・!? なんで急に苦しみ出して・・・!? っていうか、なんで手が光ってんの・・・!?」

 

ちゆやひなたはのどかの急変に戸惑いを隠せない。自分たちが来るまではなんともなかったのに、しんらと談笑している少しの間にのどかはまるで容体が悪化するかのように苦しみ出したのだ。

 

「かすみさん、しんらさんと話している間に、何があったんですか!?」

 

「わからないんだ・・・!! 私は、のどかを見てただけなのに・・・!!」

 

のどかのそばにいたかすみにアスミが問いかけるも、かすみは困惑するばかりで何もわからない。

 

すると、のどかの手を握っているかすみとしんらの手の光は強くなる。

 

「うっ・・・うあぁぁぁっ・・・!!」

 

「「「のどか!!」」」

「のどかっち!!」

「のんちゃん!!」

 

のどかはさらに声をあげて苦しむと、片手は胸を抑え、もう片方の手はかすみとしんらの手をしっかり取り、離さずにいた。

 

「私たちが、付いてるからな!! この手は絶対に離さないぞ!!!」

 

「アタシも離さない!! だって、のんちゃんは親友だから!!」

 

かすみも目をギュッと瞑りながらも、のどかの手をギュッと握ってそう言う。しんらも力強い表情でのどかの手を離そうとはしなかった。

 

「っ!!」

 

その様子を見ていたラテはあることに気づいていた。かすみの体が白いオーラに包まれており、しんらからも赤いオーラが発光されているということを。

 

「ワンワンっ!!」

 

「? ラテ・・・?」

 

ラテは何かを訴えるように鳴くと、アスミはしんらもいる手前、正体を悟られないように背後を向きながら聴診器を当ててみる。

 

(のどかの中のビョーゲンズが蠢いているラテ・・・かすみとあの娘からオーラを感じるラテ・・・)

 

「っ!! ちゆ・・・ひなた・・・!」

 

「「??」」

 

アスミはそれを聞くと聴診器を外し、小さな声でちゆとひなたに声をかける。しんらがいて大きな声で話せないので、二人をこっちに来るように手招きをする。

 

「かすみとしんらさんから、オーラが・・・!?」

 

「それでのどかっちの中のメガパーツが動いてるってこと・・・!?」

 

「ええ・・・もしかしたら・・・」

 

アスミはかすみとしんらの発しているオーラが、のどかの中にいるビョーゲンズが動かしているのだという。

 

「のどかの中のメガパーツが苦しんで、出て行こうとしてるのかもしれないペエ・・・!」

 

「そうかもしれねぇな・・・!」

 

ペギタンとニャトランはしんらに聞こえないような声で話し、そう推察する。

 

「のどか・・・頑張れ!!!」

 

「のんちゃん・・・頑張って!! みんなもそばにいるんだから!!」

 

かすみとしんらは二人で手を握りながら、のどかを励まし続ける。

 

「のどかっち、いけるよ!!」

 

「のどか、頑張って!!」

 

「かすみさんとしんらさんも頑張ってください!!」

 

ちゆやひなた、アスミもみんなを励ます。

 

「ぐぅ・・・ぐっ、うぅぅ・・・うぅぅ、ぁぁっ・・・うぁぁぁ・・・うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

しかし、のどかの体の震えは大きくなり、彼女は余計に苦しみだし、片手は胸をギュッと抑えたまま、表情は苦痛に歪んでいて、呻く声も大きくなる。

 

そして、のどかの口から悲鳴のような叫び声が上がったその瞬間・・・・・・。

 

「「「っ!!」」」

 

のどかの体内から赤い靄のようなものが勢いよく飛び出していき、窓の外から逃げるように病院から飛び出していく。

 

「今の何・・・?」

 

「もしかして、メガパーツか!?」

 

ひなたとニャトランを始め、突然の出来事に皆は驚いていた。

 

「のんちゃん? のんちゃん!!」

 

「のどかぁ!!」

 

しんらとかすみの叫ぶ声が聞こえ、皆はのどかの方を見る。のどかの体からメガパーツが出て行ったはずなのだが・・・・・・。

 

「うっ・・・ぅぅ・・・」

 

のどかの表情はいまだに苦しげに歪んでいた。口からうめき声が漏れており、顔色も先ほどよりも悪くなってしまっているようだった。

 

「え・・・なんで!? のどかっちからメガパーツは出ていったんだよね!? なんで治ってないの!?」

 

「私に言われてもわからないわよ!! のどか!! のどかっ!!」

 

「ぅ・・・ぅぅ・・・」

 

ひなたは信じられないような表情を浮かべて呆然としており、ちゆはのどかに必死に呼びかけるも、のどかは苦しげに呻きながら彼女の声には反応しない。

 

「そ・・・そんな・・・メガパーツは出ていったんじゃないのか!? なんで・・・のどかが・・・元気にならないんだ・・・!?」

 

かすみはずっと手を握りしめたまま、泣きそうな声で思いの丈を叫んでいた。のどかは手には僅かに握り返しているようだが、その力は明らかに弱々しかった。

 

「さっきの赤い靄は、何・・・?」

 

一方、しんらは不安そうな表情でのどかの体から出ていった赤い靄が飛び出した方向を見つめていた。病人の体からあんなものが出てくるなんて聞いたことがないし、見たことがない。あれは一体何なのか・・・??

 

「ねえねえ!! どうすればいいの!? これって看護師さん呼んだほうがいい!? それともぉ・・・!?」

 

「だから、私に言わないでってば!!」

 

ひなたは慌てたように叫び、ちゆも混乱しているようで叫ぶように返していた。

 

「ち、ちゆさんたち落ち着いて・・・!!」

 

ひなたとちゆが言い争っているように見えたしんらは、彼女たちを諫めようとしていた。

 

「ちゆ、ひなた、かすみさん!! 赤い靄を追いましょう!! あれがのどかの体力や元気を吸い取ってしまったのかもしれません!!」

 

ちゆやひなたたちがピリピリとした空気になる中、アスミは病室のドアを指差して叫ぶ。メガパーツが何かをしたことが原因であれば、あれを浄化すればのどかの元気は戻るかもしれない。

 

「ええ、そうね・・・早く行きましょう!!」

 

「早くのどかっちを元気にしないと!!」

 

「メガパーツめ、許せない・・・!!!!」

 

ちゆたちは思い思いにそう言うと、病室の扉へと駆け出していく。

 

「え・・・みんな、どこに行くの・・・?」

 

しんらは病室を後にしようとするちゆたちの背中に疑問を投げかける。

 

「あの赤い靄を追うのです・・・!」

 

「あれが元気を奪った原因かもしれないから・・・!」

 

「でも、危ないよ・・・! ちゆさんたちがどうなるかもわからないのに・・・!」

 

アスミとちゆがそう答えると、しんらは心配そうな声を出す。どうやら得体の知れないものに関わって危険な目に遭うかも知れないちゆたちを引き止めようとしてくれているようだ。

 

「しんらっち、ありがと・・・優しいね。でも、あたしたちは行かないと」

 

「友達ののどかを、助けるためだから!!」

 

「・・・・・・そっか」

 

ひなたとかすみがそう言うと、しんらは顔を俯かせて沈黙した後、そう呟いた。

 

「しんらさんはのどかのそばにいてあげて!!」

 

「任せたよ、しんらっち!!」

 

「のどかを頼む・・・!!」

 

「うん・・・みんな、気をつけてね・・・」

 

4人はしんらにのどかを託すと、一目散に病室から飛び出しメガパーツを追っていった。

 

「・・・・・・・・・」

 

しんらは病室の扉をしばらく見つめた後、踵を返してベッドの上にいるのどかのそばに歩み寄る。

 

「うぅ・・・は、ぁ・・・ぁぁ・・・」

 

苦しそうに呻いているのどかをじっと見つめる。そして、彼女のベッドの横にある椅子の上に座って彼女の表情を見つめる。

 

「のんちゃん、アタシが側にいるよ・・・」

 

しんらはのどかに話しかけながら、彼女の手をしっかりと取る。

 

「だからーーーー」

 

「っ!!?? か、はっ・・・ぁぁ・・・」

 

しんらとかすみが握っている手が黒く光り始めると、なぜかのどかの腰が弾かれたように浮き上がる。

 

そして、彼女の体がベッドに着くと・・・・・・。

 

「う、ぐぅぅ・・・うっ・・・んっ、うぅぅ・・・うぅぅぅぅ・・・!!!」

 

のどかは先ほどと同じようにうめき声を上げながら苦しみ、さらには首を左右に振って身をよじらせ、苦痛から逃れるようにもがき始めた。

 

「アタシが、もっと苦しめてあげる・・・フフフ♪」

 

そんな彼女を見つめるしんらの表情は不敵な笑みを浮かべていたのであった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実は、しんらが病室に入る数分前に遡る・・・・・・。

 

とある山の木の上で昼寝を決め込んでいるダルイゼン。そこにクルシーナが姿を現す。

 

「もう、戻ってきたのか・・・」

 

「様子見に行っただけじゃん、悪いか?」

 

あんまりなダルイゼンの態度に、クルシーナは不機嫌そうな口調で言う。

 

「で、キュアグレースの様子はどうだった?」

 

「・・・昨日とそんなに変わってない。中のメガパーツも出てくる様子はないし、大分かかるんじゃないの?」

 

「そうか・・・」

 

クルシーナの報告に、ダルイゼンは素っ気なく答えると木の上で昼寝をしようとする。

 

「なあ・・・・・・」

 

「・・・・・・何?」

 

「クルシーナってどうやって生まれたの?」

 

ダルイゼンの突然の問いに、クルシーナはきょとんとする。そして、顰めたような表情をする。

 

「・・・そんなこと知ってどうすんのよ?」

 

「単純な興味だけど?」

 

「っ・・・」

 

ダルイゼンの淡々とした言葉に、クルシーナは不機嫌な態度を余計に不機嫌にさせる。

 

「覚えてないわよ、そんなこと。そもそもそこまでの記憶なんか持ってない」

 

「あっそ・・・」

 

「っ・・・聞いてきといてなんだよ、その態度は。お前だって覚えてないだろ? 自分の宿主なんか」

 

イラっとしたクルシーナが攻撃的な口調になる。

 

「覚えてないね。別に思い出さなくてもいいし・・・」

 

「・・・ふん」

 

ダルイゼンの興味なさげな様子に、クルシーナは鼻を鳴らしてそっぽを向く

 

「・・・ここに居たってイライラするだけだし、あっち行ってるわ」

 

クルシーナはそう吐き捨てると、その場から姿を消す。

 

病院へと戻ったクルシーナは自分がメガパーツを入れた少女の様子を確認するために、病院の窓から侵入して様子を伺う。

 

「・・・ふむ、まだ起きる様子はないわね」

 

クルシーナは赤い靄に包まれている少女を見てそう言った後、病室から廊下へ出て、キュアグレースがいるであろう病室の方へと歩いていく。

 

すると・・・病室から声が聞こえてきた。

 

『っ・・・どこが・・・どこが大丈夫なんだよ・・・!!』

 

『そうラビ・・・!! 全然・・・全然・・・大丈夫じゃないラビ・・・!!!』

 

『苦しいなら・・・苦しいって言ってくれよ・・・!!!!』

 

ドアから聞こえてくる脱走者とキュアグレースのそばにいるヒーリングアニマルの声、それが耳に通り、クルシーナは足を止める。

 

『・・・前はね・・・原因がわからないまま・・・ずっとずっと苦しいのが続いて・・・体も心も、不安で辛いままだったけど・・・今は、ビョーゲンズのせいだって、知ってるもん・・・』

 

『・・・・・・・・・』

 

クルシーナは黙ったまま、扉の近くの壁に背中を預けてよく聞こうとする。

 

『体はやっぱり辛いけど・・・でもね、心は頑張れる・・・だってね・・・ラビリンがいてくれるもん・・・かすみちゃんも・・・一緒にいてくれるから・・・ラビリンと出会って・・・ビョーゲンズと戦う力をもらったもん・・・毎朝ランニングもしてるもん・・・かすみちゃんとも出会って・・・元気になれる気持ちをもらえてるもん・・・』

 

『・・・そうラビ。のどかは強くなったラビ・・・』

 

キュアグレースの弱々しい声、ヒーリングアニマルの涙声・・・・・・それを聞いても、クルシーナは何も動じることなく聞いている。

 

『私は、のどかに何もできてない・・・何もしてやれてない・・・何も、与えてやれてない・・・守れてすらいない・・・!! 私はただ単に他人を傷つけて・・・良いように利用されて・・・こうやって苦しむ人を前に・・・何も、できてない・・・・・・のどかが、大好きなのに・・・!! 私は・・・友達、失格だよぉ・・・ぅぅ・・・』

 

『そんなこと、ないよ・・・かすみちゃんがいてくれたから・・・私も元気付けられたし、健康なままでもいられたんだよ・・・かすみちゃんがいて傷ついたなんて思ってない・・・誰にでも優しいかすみちゃんが何かしたなんて、私は信じてない・・・だって、かすみちゃんは私の、大切な・・・友達、だから・・・』

 

『っ、のどかぁ・・・』

 

『だから、もう・・・泣かないで・・・』

 

「っ・・・」

 

脱走者の嘆く声、クルシーナはその言葉に眉を顰め始めた。

 

『ありがとう・・・のどか、大好きだよ・・・』

 

『私も・・・かすみちゃんのことが、大好き・・・』

 

「くっ・・・!!!」

 

クルシーナはキュアグレースと脱走者の愛の告白のような言葉に、歯をギリギリと食いしばる。

 

「・・・・・・ムカつく」

 

イラっとした気持ちを表すかのように、クルシーナは無機質な声でボソリと呟いた。彼女の心の中には、この病室の中にいる奴らを不幸にさせてやりたいという感情が湧いてきていた。

 

『・・・思い出すなぁ・・・私と、一緒に病気を治そうと約束した・・・お友達・・・』

 

「っ!!??」

 

その直後、クルシーナはキュアグレースが発した言葉に驚いたように目を見開く。

 

もしかして、あいつ・・・あの時のこと、覚えてて・・・??

 

でも・・・・・・・・・。

 

「うざっ・・・」

 

クルシーナはそれだけ吐き捨てるように言うと、中折れハットを外して、その本人であるウツバットと目を合わせる。

 

「ウツバット・・・どっか遊んでて」

 

「ウツ? でも・・・」

 

「いいからどっか行ってろっ・・・!!」

 

ウツバットは急にクルシーナがやり出すことに疑問を抱いていたが、クルシーナが怒りの声をあげる。なにやらクルシーナはイライラしたような様子だった。

 

「・・・・・・わかったウツ」

 

ウツバットはクルシーナの意図を察すると、帽子からコウモリの姿に戻るとどこかへ飛び去っていく。

 

それを見届けたクルシーナは指をパチンと鳴らすと、悪魔のツノとサソリの尻尾を隠し、人間の姿へと変える。そして、マジシャンのような衣装を白いワンピースへと変え、手に水の入ったビンのようなボトルを取り出すとその中に垂れ下がったような白い花ーーーースノードロップを生み出して入れる。

 

そう準備を整えると、クルシーナはキュアグレースの病室の前に立つと、扉をノックして中に入ったのであった。

 

そう・・・つまりはのどかの病室に入ってきたしんらはクルシーナがなりすました姿だったのだ。正しくは、過去の自分の記憶を元にその姿を真似ただけとも言えるだろう。

 

クルシーナはしんらを装いながらも、何かを虎視眈々と伺っていた。のどかに挨拶をかわしながらも、彼女の中のメガパーツを様子を見ていた。

 

(まだ出てくる気配はないわね。待ってんのも面倒だし、隙を見つけてどうにかするか・・・)

 

クルシーナはメガパーツをどうにかして外に出そうと目論んでいたが、そこへタイミングが悪く、ちゆたちプリキュアの面々が来てしまったのだ。

 

(なんで、ここに来るんだよ、あいつらが・・・。まあ、適当に仲良くしておくか・・・)

 

クルシーナはそう考えながら適当に挨拶を交わし、人の良い人物を演じた。青いやつが何か違和感を感じたり、新入りに抱かれている子犬のヒーリングアニマルが何やら怯えているのが気になった。

 

(この青いやつと、この子犬・・・アタシの正体に気づいてるか? 見透かされても、厄介だな・・・)

 

ここでビョーゲンズだとバレるのはまずいと感じていたが、黄色のプリキュアに変身する茶髪のツインテールが話を逸らしてくれたのは好都合だった。新入りの話で余計に反らせたのも好都合だろう。

 

そんな時、キュアグレースが苦しみだし、脱走者の握っている手から白い光が出始めたのだ。

 

(こいつ・・・そうか・・・! やっぱりな・・・!!)

 

脱走者から白いオーラを発しているのも見えたクルシーナは心の中でほくそ笑んだ。まさか、こいつにそのような能力があるとは・・・・・・もう間違いないだろう。

 

(とりあえず、メガパーツをどうにかするなら今だな・・・)

 

脱走者のことも気になるが、とりあえずはキュアグレースの中のメガパーツをどうにかするべく、心配を装ってかすみと一緒に手を握り、彼女に赤いオーラを注入しメガパーツを活性化させる。

 

そして、キュアグレースの体内のメガパーツは、赤い靄となって窓から飛び出していった。彼女の心配する演技をしながら、メガパーツが出ていった窓の外を見つめる。

 

(よし、メガパーツは大丈夫そうだな・・・キュアグレースは・・・フフフ、まだ苦しんでるわね・・・)

 

一方で、キュアグレースを見つめると彼女は全く元気を取り戻していなかった。クルシーナはすでに彼女の中からあるものがないことを察していたため、心の中で笑みを浮かべていた。

 

さらにはキュアグレースのその体を再び、赤い靄が侵食しているのも見えていた。

 

そして、それに気づかないプリキュアたちと脱走者は、何も知らない自分にキュアグレースを託すとメガパーツを追って病室へと飛び出していく。

 

(出ていったわね・・・今、この部屋にいるのはアタシとあいつだけ・・・フフフ・・・)

 

自分が誰なのかも気づかず、自分に託すなんてなんともバカな奴らだ。

 

プリキュアたちが出ていった後、クルシーナはそう思いながら、隠していた不敵な笑みを浮かべ続けていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、のどかの体内から飛び出していったメガパーツを追って、飛び出していったちゆたち。病院の裏にある山の方へと赤い靄が向かっていったのが見えて、追うように駆け出していた。

 

と、そんな時だった・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

かすみがふと足を止めて、背後を振り向く。

 

「? かすみ?」

 

それに気づいたちゆが足を止めて、かすみに声をかける。彼女の表情は眉をハの字にしていて、何か引っかかることがあるような様子だった。

 

それは、あのしんらという少女だった。のどかの病院時代の友人で、一緒に前の病気を一緒に治していたと呟いていた。

 

かすみが違和感を感じていたのは、しんら自体ではなく、彼女の持っていたスノードロップのハーバリウム。その中からわずかな・・・・・・。

 

それにしんらの手から微量な・・・・・・。

 

「っ!?」

 

かすみはもしかしてと言わんばかりに目を見開くと、すぐに険しい表情へと変わる。

 

「かすみ、どうしたの・・・?」

 

「・・・ちゆ、先に行ってくれ」

 

「え・・・?」

 

ちゆの疑問の声も気にせずに、かすみは病院へと引き返していく。

 

「ちょっ、待って!! かすみ!!」

 

ちゆは突然、病院へと戻っていったかすみに叫びながら手を伸ばした。

 

「ちゆちー!!」

 

「急ぎませんと・・・!!」

 

「っ・・・・・・」

 

そこへひなたとアスミの声が聞こえてくる。かすみはどうしたのだろうと気になるが、今はのどかの元気を奪ったであろうメガパーツを追わないと・・・!!

 

ちゆはそう思いながら、かすみのことも心配しつつ、後ろ髪を引かれながらも山の方へと駆け出していく。

 

(あの、しんらというやつ・・・もしかして!!!)

 

かすみは嫌な予感を感じつつ、のどかと彼女がいるであろう病室へと駆け出していくのであった・・・・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第87話「絶望」

前回の続きです。
メガパーツを追うちゆたちと、しんらの正体を確かめようとするかすみは・・・。


 

「うっ・・・うぅぅ・・・ぐっ、うぅぅぅ・・・!!!」

 

「フッフフフ♪」

 

しんらに擬態したクルシーナは不敵な笑みを浮かべながらのどかの手を取り、そこから黒い光が発しており、のどかは身をよじらせながら苦しみの声をあげていた。

 

「うぅぅ・・・うぅぅぅ・・・あぁ・・・ぁぁぁぁ・・・!!」

 

「苦しい? もっと苦しめばいいのよ、お前は。病気になった自分の気持ちはわかっても、病気になった他人の気持ちなんかわかんないもんなぁ・・・?」

 

クルシーナは笑みから憎しみを込めたような睨むつけた表情で変えながら言った。のどかはその声には反応せず、片手で胸を抑えながら苦しみの声を上げ、首を左右に振りながら苦しむ。

 

「うぅぅ・・・うっ・・・!!」

 

のどかは胸を抑えていた手を動かして、ナースコールに手を伸ばそうとするが、動きがガクガクと震えていて弱々しい。さらにその手をクルシーナが握っていない方の手で掴むと、両手を合わせるようにして抑え込む。

 

「ぐっ、ぅぅぅ・・・くっ・・・苦・・・し・・・や・・・や・・・め・・・」

 

「やめてあげない。苦痛に歪んでいる人間が苦痛から解放されるのを見ると、もっと苦しめたくなっちゃうのよねぇ」

 

のどかは苦しみを訴えながら握る手を振りほどこうとしていたが、力が入らずに弱々しく、クルシーナもギュッと握ったまま離さない。

 

「ぁ・・・ぁぁ・・・い、き・・・でき・・・な・・・」

 

「フフフ♪」

 

のどかはどうやらうまく呼吸ができていないようで、それを訴える様子にクルシーナは不敵な笑みを漏らした。

 

のどかぁ!! のどかぁぁぁぁ!!!!

 

「っ・・・!」

 

ふと、彼女の名前を叫ぶ声が病室のドア越しから聞こえてくる。クルシーナはそれに顔を顰めて舌打ちをすると、しんらを装うべく心配そうな表情を作り上げる。

 

「のどかぁ!!」

 

病室の扉が開かれ、現れたのは脱走者ーーーーかすみだった。

 

「のんちゃん!! のんちゃんっ!!!!」

 

「ぅぅぅ・・・ぅぁ・・・あっ・・・ぁぁ・・・!」

 

クルシーナはのどかの名前を叫びながら、しんらを装う。のどかは苦しみながら握られている両手を離そうと無意識にもがいているが、クルシーナが握っているために離すことができない。

 

「のんちゃん、しっかりして!!」

 

「ぁぁ・・・ぁっ・・・!」

 

必死に呼びかけるが、のどかの動きは徐々に弱っていく。そして、かすみの方を見る。

 

「かすみさん!! のんちゃんが・・・のんちゃんが苦しそうなの!! 早く誰か、医者を!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

しんらに扮しながらそう叫ぶも、その様子を見ていたかすみは顔を俯かせる。そして・・・・・・。

 

「・・・離せ」

 

「っ? かすみさん・・・?」

 

「のどかを離せっ・・・!」

 

かすみは今までにないくらいの冷たい声を発し、しんらはその様子に困惑する。しかし、かすみの口調は変わらなかった。

 

「かすみさん? 何を言って・・・?」

 

「のどかを離せと言っているんだ!! ビョーゲンズ!!」

 

顔を上げたかすみの表情は険しいものになっており、しんらを睨みつける。

 

「ビョ、ビョーゲンズ? 何それ・・・何を言ってるの?」

 

「とぼけるな!! お前の持ってきたそこにある白い花のボトル・・・そこからわずかにお前らの気配がしているんだ!!」

 

かすみはのどかの脇の机に置かれているハーバリウムを指しながら言った。かすみの感じた違和感、それはその中に入っている白い花、見た感じは普通の花と変わらないが、そこからビョーゲンズの気配がしたのだ。

 

「・・・フフッ、フフフフフフ♪」

 

しんらはそれを指摘されたことに顔を俯かせる。そして、不敵な笑い声をあげる。

 

「お前は誰だ!? 正体を現せ!!!!」

 

かすみは正体を現すように怒鳴り、それを受けたしんらは不敵な笑みを崩さないまま立ち上がるとのどかの握った手のうちの片方を離し、指をパチンと鳴らす。すると、しんらの人肌が薄いピンク色の肌へと変化し、彼女の頭から悪魔のようなツノが生え、サソリのような尻尾を生やして、ビョーゲンズ・クルシーナとしての正体を現す。

 

「クルシーナ!!」

 

「さすがね、脱走者。気づかれないようにしていたつもりだったんだけどね。いつから気づいてたのかしら?」

 

クルシーナは正体を見破ったかすみを褒め称えると、ツインテールをくるくると弄りながら問う。

 

「・・・のどかが苦しみ出した時だ。お前が一緒に私とのどかの手を握った時、最初は勘違いかと思った。でも飛び出したメガパーツとその白い花から微量なビョーゲンズの気配を感じて、それがお前の手からのビョーゲンズの気配と一致したんだ」

 

「・・・へぇ、あのわずかからアタシらの仕業だと? すごいわね、アンタ。さすがは、アタシが生み出したビョーゲンズなだけあるわ」

 

かすみの推理に、クルシーナは彼女をますます褒め称える。

 

「黙れ!! 早くのどかから離れてもらおうか!!」

 

かすみは激しい剣幕で怒ると、黒いステッキを取り出して構える。

 

「アタシとやろうってワケ? いくら強くなってきてるとはいえ、お前がアタシに勝てると思ってんの?」

 

「やってみなきゃわからないだろ!!」

 

クルシーナが挑発すると、かすみは感情のままに黒いステッキを振るって黒いビームを放つ。

 

「・・・ふん」

 

クルシーナはのどかの手を取ってない方の手を広げると、バラのようなものを手のひらに生み出し、黒いビームを受け止めて吸収する。

 

「っ!!」

 

「ふっ!!!」

 

「ぐぁっ!!」

 

クルシーナは黒く染まったバラから赤黒いビームを放ち、それを受けて吹き飛ばされたかすみは病室の壁に背中から叩きつけられる。

 

「フフッ♪」

 

「!? うぁぁぁ・・・ぁぁぁぁぁ・・・!!!!」

 

クルシーナは笑みを浮かべながら、のどかを握っている手を黒く光らせる。すると、のどかが再び苦しみ始め、濁ったような呻き声をあげ始める。

 

「っ、やめろ!!!!」

 

背中の痛みに呻きながら立ち上がろうとしていたかすみが顔を上げると叫び、その場からクルシーナの上へ瞬間移動して蹴りを入れようとする。

 

「ふん!」

 

「っ!?」

 

クルシーナは特に動揺することなく、かすみの足をあっさりと掴む。

 

「暴れちゃダメでしょぉ? 病院で。他の患者も寝てるんだからさぁ!」

 

「ぐっ・・・が、はっ・・・!!」

 

クルシーナはそのまま地面へと放り、背中から叩きつけられたかすみは痛みに空気を漏らす。

 

「ぐっ、うぅぅ・・・!!」

 

「なんでお前がこいつを守る必要があるんだよ。ビョーゲンズのくせに」

 

かすみが痛みに呻きながら立ち上がる姿を見ながら、クルシーナは嘲笑する。

 

「私は、ビョーゲンズじゃない・・・脱走者でもない・・・!! 風車かすみだ!!」

 

「お前がなんと言おうと、ビョーゲンズはビョーゲンズなんだよ」

 

「うるさい・・・黙れ!!!!」

 

挑発するクルシーナに、かすみは怒りの声をあげながらステッキを振り向きざまに横に振るう。しかし、クルシーナはそれを最低限の動きで交わす。

 

「ふっ!!」

 

「っ、がぁっ・・・!?」

 

クルシーナはステッキを振るったかすみの腕を掴むと、自分の方に引き寄せて蹴りを叩き込んだ。腹部に命中したことでかすみは痛みで息を吐き出し、吹き飛ばされて地面を転がる。

 

「あ、あぁっ・・・!」

 

「どうしたの? アタシをキュアグレースから引き剥がすんじゃなかったの? あの時の力を使ったらぁ? そうじゃないとアタシには勝てないんじゃないの?」

 

床に倒れ伏して苦痛に呻くかすみに、クルシーナは更なる挑発の言葉を浴びせる。

 

「うっ、うぅぅ・・・!!」

 

「ほら、早く攻撃しないと、こいつはもっと苦しむハメになるわよ?」

 

クルシーナは不敵に笑いながら、のどかの握っている手を赤黒く光らせた。

 

「うっ・・・うぁぁぁぁ・・・ぁっ・・・ぐっ、うぅぅ・・・!!」

 

のどかは苦しみの声をあげながら、首を左右にふってもがく。握った手を本能的に振りほどこうとしているが、その手は弱々しくピクピクと指を痙攣させるだけだった。

 

「っ!! うぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

かすみはそれを見て怒りに叫ぶと立ち上がって飛び出し、クルシーナに目掛けてパンチを繰り出す。しかし、それもわずかな動きだけでかわされる。

 

「ふんっ!!」

 

「ぐっ、ぁ!?」

 

クルシーナはすれ違いざまに肘を打ち据え、かすみの背中に命中させる。

 

「おらぁっ!!」

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

怯んだかすみにミドルキックを食らわせて横に吹き飛ばし、のどかの向かいのベッドの壁へと叩きつける。

 

「くっ・・・はぁぁぁぁ!!!!」

 

地面に落ちたかすみは再び立ち上がってクルシーナへと向かっていく。

 

「ふんっ!!」

 

「うぁぁっ!!」

 

クルシーナは向かってくるかすみを裏拳で吹き飛ばして転がす。

 

「ぐっ・・・あぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ふっ!!」

 

「うわぁっ!!」

 

「はぁっ!!」

 

「あぁぁっ!!」

 

「おらっ!!」

 

「がぁっ・・・!?」

 

「そらっ!!」

 

「ぐぁぁぁ!!!」

 

その後もかすみは諦めずにクルシーナに立ち向かうも、彼女に攻撃は呆気なくかわされ、殴られ、蹴られ、吹き飛ばされたりするばかりで、体がどんどんボロボロになっていく。

 

そして・・・・・・。

 

「ぐっ・・・うぁぁぁ!!!」

 

「ふんっ!!」

 

ドゴォッ!!!

 

「うっ・・・がぁっ・・・か、はぁっ・・・!?」

 

クルシーナはかすみに強烈なパンチを腹部に叩き込み、あまりの激痛に耐えられなくなったかすみはその場に倒れ伏してしまう。

 

そんな彼女の背中をクルシーナは踏みつけて足蹴にし見下ろす。

 

「諦めろ、いい加減。どうせお前じゃ、アタシに勝てやしないんだよ」

 

「うっ・・・」

 

見下げたように見つめるクルシーナと、蓄積されたダメージと痛みのあまり立ち上がることができないかすみ。

 

「うっ・・・うぅぅぅ・・・ぁっ・・・ぁぁ・・・ぁ・・・」

 

そして、のどかはその間も苦しみの声をあげており、遂には体を蝕む苦しさに限界を迎えたのどかは苦悶の表情のまま、顔を横に倒して意識を失った。

 

「あぁ・・・のど、か・・・」

 

「あーあ、気絶しちゃった。ちょっとやりすぎちゃったかなぁ? でも、まあ、こいつにはこのぐらい当然ね」

 

かすみはのどかのその様子に絶望の声を漏らし、クルシーナはその様子を嘲笑いながら握っていた手を離す。

 

「よくも・・・のどかを・・・!!」

 

「・・・ふっ」

 

「あぁ!?」

 

のどかは自身の上のクルシーナに恨みがましく睨むも、クルシーナは鼻で笑うと地面に伏せるかすみを蹴り飛ばして転がせる。

 

「許さない・・・許さないからな・・・!!!」

 

「別に許しを請うてもらう必要ないし」

 

かすみは睨むつけながら恨みのこもった言葉を吐くも、クルシーナは笑みを浮かべながら受け流す。

 

「大体、まだそいつは死んでないわよ。今はね。下手したら死んじゃうかもだけど」

 

「お前が・・・お前が、のどかに・・・!!」

 

「ええ。キュアグレースの中にあるテラパーツを活性化させるためにねぇ。ちょっとこいつには苦しんでもらったわ。やっぱり人間は苦しいと感じているときが、生きてるって感じね♪」

 

「やっぱり・・・お前が、のどかに・・・変なものを・・・!!!」

 

クルシーナは嘲りながらのどかにテラパーツを埋め込んだことを暴露した。かすみはおおらか市の自然でのどかから変な違和感を感じていた。ちゆがドクルンに強要されてテラパーツを自ら埋め込んだときと気配が似ていたのだ。なんとなくの勘だったが、クルシーナの言葉で確信に変わった。

 

「気づいてたんだぁ? さすがは、よく育ったビョーゲンズなだけあるわね」

 

「私は、ビョーゲンズじゃない!!」

 

かすみは叫びながらクルシーナの言葉を否定する。その様子に笑みを浮かべていたクルシーナがふと無表情に戻して、顔をかすみに近づけた。

 

「・・・本当にそう思ってんの?」

 

「あ、当たり前だ・・・私は、のどかやアスミ、ラビリンたちと一緒に戦ってきたんだ・・・友達なんだ・・・!! だから・・・私はビョーゲンズなわけがない・・・!!!!」

 

「・・・ふーん」

 

クルシーナの冷たい声にかすみは動揺するも、自分があくまでもビョーゲンズではないと主張する。

 

クルシーナはその言葉につまらなそうにそう返すと・・・・・・かすみから顔を離し、入れ替わり自身のに手をかすみに伸ばす。

 

「っ!? あ・・・」

 

かすみの顔を掴むと彼女は目を見開いたかと思うと、その瞳が真っ赤に染まる。そして、彼女から驚いたような表情が消えていく。

 

そして、クルシーナが彼女から手を離すと、そこには・・・感情を無くしたかすみが立っていた。

 

「・・・キュアグレースをやれ」

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナはそんなかすみの耳元にそう囁くとかすみは無言のまま、のどかのベッドへとゆっくりと近づき、気を失っている彼女の上に馬乗りになる。

 

「・・・・・・・・・」

 

そして、のどかの首へと両手を伸ばした。

 

ギュゥゥ・・・・・・。

 

かすみはのどかの首を掴むと、ゆっくりと絞め始める。

 

グググググ・・・・・・。

 

「うっ・・・ぐぅぅぅ・・・・・・」

 

すると、再びのどかの表情が徐々に苦痛に歪み始める。

 

「・・・・・・・・・」

 

「くっ・・・うぅぅ・・・うっ、うぅぅぅ・・・や・・・やめ・・・て・・・!」

 

「・・・・・・・・・」

 

「うぅぅ・・・あぁ・・・ぁっ・・・苦・・・しい・・・助・・・け・・・!!」

 

かすみはそんな彼女の苦しみの声に答えることなく、無表情で無言のまま首を絞め続ける。のどかは気を失っているはずだが、その手はかすみの手に掛けられて外そうともがいていた。

 

「あぁっ・・・あぁっ、あぁっ・・・くっ・・・ぐっ・・・ぅぅぅ・・・!」

 

「・・・・・・・・・」

 

「うっ・・・うぅっ・・・あぁっ・・・ぁぁぁ・・・!!」

 

しかし、かすみの力は異様に強く、首を絞めている手をガッチリと離さない。首を振ってもがいても外れることはなく、やがて飲み込めなくなった彼女の口から涎が垂れ始めた。

 

「・・・フフフッ♪」

 

クルシーナはその様子を見ながら、邪悪に笑う。のどかの病気による苦しみを食らい、仲間の手で殺されかける苦しみを食らう。彼女にとってこれほど愉快なものはなかった。

 

「ぁぁ・・・ぁっ・・・」

 

のどかの声が弱々しくなり、もうすぐ呼吸が止まる・・・その時だった・・・。

 

「っ!! うっ・・・!」

 

かすみの瞳が元の色を取り戻し、彼女が頭痛に呻く。

 

「私は、何を・・・っ!?」

 

「ぅぅ・・・ぁ・・・」

 

頭がぼんやりしているかすみは状況を確かめようとすると、自身の手がのどかの首に掛けられていることに気づく。のどかは表情に力が入っておらず、窒息寸前だった。

 

「うわぁぁぁっ!?」

 

「うぅぅ・・・! かはっ、ケホッ、ゲホッ、ケホッ!!!!」

 

かすみは動揺して慌ててのどかの首から手を離し、彼女は激しく咳き込む。

 

「あぁぁ・・・なんで・・・なんで!!??」

 

かすみは自分の手を見つめながら、取り乱したように叫ぶ。自分はクルシーナに打ち負かされて地面に倒されていたはずなのに、なぜのどかに手を掛けているのか・・・?

 

それにのどかの首を絞めていたという感触が手に残り、それを脳に感じて吐き気がしてくる。

 

「・・・ふっ」

 

「あぁぁ!?」

 

そこへクルシーナが彼女の服の襟を掴んで、後ろへと引っ張りベッドから床へと倒す。

 

「・・・これでわかっただろ? お前はビョーゲンズなんだ。相手を苦しめようという衝動には、抗えないんだよ」

 

クルシーナは見下ろしながらそう言い放った。

 

「・・・をした・・・」

 

「??」

 

「私に何をしたッ!!!???」

 

かすみは恐怖を感じながらも、それをごまかすように激昂した叫びを上げる。

 

「お前の体を構成するものを活性化させてやっただけよ。お前がビョーゲンズだっていう自覚を持ってもらうためにねぇ」

 

「ふ、ふざけるなッ!!! 私は、ビョーゲンズじゃないッ!!!! のどかに手を掛けて楽しいわけがない!!!!」

 

クルシーナは無表情で見下ろしながらそう言う。かすみは体の震えが止まらない、それをごまかすかのように叫び続ける。

 

「・・・まだ、そんなこと言うんだ? キュアグレースの体力と元気を奪ったのはお前だってのにさぁ」

 

「っ!?」

 

クルシーナは不機嫌そうに表情を顰めると、かすみの前でそう言い放ち、彼女は驚愕の表情を浮かべる。

 

「な・・・なん、だと・・・?」

 

「だから、キュアグレースの元気を奪ったのはお前だよ。メガパーツじゃない、お前が奪ったんだよ」

 

かすみはクルシーナから暴露された言葉に、ただ呆然と彼女を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、すこやか市の病院の裏の山で待機しているダルイゼンは・・・・・・。

 

「??」

 

病院に再度行ったクルシーナの報告を待っていたが、そこに赤い靄がこちらへ向かってくるのが見えた。

 

それはキュアグレースの体に埋め込んだメガパーツのようだった。

 

「早いな・・・もう出てきたのか。これじゃあ、またネブソックやコリーノみたいな未成熟なやつかな?」

 

ダルイゼンは離れた木の下の辺りで止まり蠢いている赤い靄を見つめながら言った。前のネブソックや、クルシーナが生み出したコリーノも早めに出てきてしまったし、メガビョーゲンを生み出す力を持っているわけではなかった。

 

また、実験は失敗なのか・・・。

 

今回もそんな諦めの色が見えている頃、そこへやってきたのは・・・・・・。

 

「ダルイゼン!!」

 

「先ほど抜け出したメガパーツもいます!!」

 

ちゆ、アスミ、ひなたの憎っくきプリキュアたちだった。3人は赤い靄を険しい表情で見つめる。

 

「・・・キュアグレースはいないのか。まあ、ちょうどいい。お前たちも一緒に見なよ。キュアグレースの中で育ったメガパーツが、一体どんなテラビョーゲンに進化を遂げるのか」

 

「進化・・・?」

 

ダルイゼンはのどかがいないことを気にしつつも、変化していく赤い靄を見つめる。ちゆたちも身構えながら赤い靄に構える。

 

そして、赤い靄はうねうねと人の大きさへと盛り上がっていき、人型のテラビョーゲンへと変化していく。

 

「・・・えっ?」

 

「あれって・・・?」

 

赤い靄が変化し、姿を成したテラビョーゲンを見て、ちゆたちはもちろん、ダルイゼンも驚いていた。

 

その理由は、その外見がダルイゼンにそっくりだったからだ。しかし、ダルイゼンに比べると背丈は小さく、赤いチョッキのようなものを着ていた。

 

「・・・からだ、うごく。ぼく、しんかした・・・?」

 

「ダルイゼンに似てるペエ!!」

 

ペギタンがそう叫ぶと、ボソボソと呟いていたテラビョーゲンはそれに反応する。

 

「・・・ダルイゼン、ちがう・・・ぼく、ケダリー・・・しごと、ちきゅうをびょうきにする・・・」

 

ケダリーと名乗ったテラビョーゲンはそう言いながら両手を構えると、赤い光弾を放った。それによって周りの木や植物が侵食され、赤い靄に包まれる。

 

すると・・・・・・。

 

「クチュン!!」

 

「ラテ!!」

 

ラテがくしゃみをして、体調を崩し始める。

 

「と、とにかく、お手当ニャ!! のどかとラビリンはいねぇけど、俺たちだけでも!!」

 

「うん!!」

 

ニャトランの言葉を合図に、ちゆとひなたは頷くと変身ステッキを構え、アスミも風のエレメントボトルを構える。

 

「「「スタート!」」」

 

「「「プリキュア、オペレーション!!」」」

 

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

「エレメントレベル、上昇ラテ!!」

 

「「「キュアタッチ!!」」」

 

ペギタン、ニャトランがステッキの中に入ると、ちゆ、ひなたはそれぞれ水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

アスミは風のエレメントボトルをラテの首輪にはめ込む。すると、オレンジ色になっているラテの額のハートマークが神々しく光る。

 

ちゆとひなたは、肉球にタッチすると、水、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまとい水色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、ちゆは水色、ひなたは黄色へと変化する。

 

ラテとアスミは手を取り合うと、白い翼が舞い、ラテが舞ったかと思うとハートの中から白い白衣のようなものが飛び出す。

 

その白衣を身に纏い、ラテが降りてきたかと思うとハープが飛び出し、さらにアスミは紫色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

衣装にチェンジした後、ハープを手に取り、その音色を奏でる。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「「時を経て繋がる、二つの風!」」

 

「キュアアース!!」

 

「ワン!」

 

アスミは風のプリキュア、キュアアースへと変身した。

 

その間、ケダリーは手から赤い光弾を放って、徐々に地球を蝕んでいた。

 

「はぁっ!!!」

 

「ぷにシールド!!」

 

そこへスパークルが飛び出し、肉球型のシールドを張って赤い光弾を防ぐ。

 

「・・・じゃま」

 

ケダリーはボソリとそう呟くと空中に飛び上がり、両手から赤い光弾を放とうしていた。

 

「「「はぁぁぁぁぁっ!!!」」」

 

プリキュア三人も空中へと飛んで、ケダリーを阻止しようとする。

 

プリキュアたちはそれぞれ3方向からパンチやキックを繰り出すも、ケダリーは滑らかな動きで翻しながら悠々とかわしていく。

 

「「「きゃあぁ!!」」」

 

さらに空中で回転しながら、再び向かってきたプリキュアたちを蹴散らして地面へと落とす。

 

「うぅぅ、凄まじい柔軟性です・・・」

 

「もぉ〜!! タコじゃないんだから〜!!!!」

 

プリキュアたちが地面についてぼやいていると、そこにケダリーが降りてくる。

 

「プリキュア・・・じゃまする・・・さき、しまつする・・・」

 

ケダリーは機械的にそう言うとまずはプリキュアを倒そうと、こちらへと飛び出しパンチを繰り出す。

 

「「ぷにシールド!!」」

 

「「ぐっ・・・!!」」

 

フォンテーヌとスパークルは肉球型のシールドを展開するも、ケダリーの強力なパンチに後ろへと押されていく。

 

「強い・・・!!」

 

「メガビョーゲンからさらに進化しただけのことはあるぜ・・・!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

バシュッ!!!!

 

「「あぁぁぁっ!!!」」

 

フォンテーヌとニャトランがそう呟く中、ケダリーはパンチの手を広げてそこから禍々しい光弾を放って、フォンテーヌとスパークルを吹き飛ばす。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

そこへアースが連続で蹴りを放っていくが、ケダリーはスルスルとその蹴りをかわしていき、隙をついて足を受け止める。

 

「・・・・・・・・・」

 

「あぁっ!!」

 

そして、そのまま勢いよく押し返して吹き飛ばした。

 

ケダリーはアースが吹き飛んだのを見ると、立ち上がろうとしているフォンテーヌとスパークルの方を見る。

 

彼は体を向き直すと、二人に向かって飛び出してきた。

 

「来るぞ!!!!」

 

「っ、はぁっ!!!!」

 

ニャトランの叫ぶ声を合図に、フォンテーヌはステッキを振るって青い光線を放つ。

 

「・・・・・・・・・」

 

しかし、ケダリーは柔軟な体を翻して光線を掻い潜り、二人へと迫る。

 

「「っ!!」」

 

「・・・・・・・・・」

 

そして、ケダリーは赤く禍々しい光弾を二人に目掛けて放った。

 

「・・・・・・・・・」

 

そんな戦いの様子をダルイゼンは木の下で寄りかかりながら見つめていた。

 

「・・・あいつ、なんで俺に似てるんだ? 髪型も姿も俺と変わらないな」

 

ダルイゼンはあまりにも似ているケダリーを見ながら疑問に思っていた。ケダリーは、勘違いでなければキュアグレースに埋め込んだメガパーツから生まれたテラビョーゲンだ。あのプリキュアから生まれたテラビョーゲンが、なぜ自分と似ているのか・・・?

 

「キュアグレース・・・」

 

ダルイゼンは自身が個人的に興味を持っているプリキュア、キュアグレースの顔を思い出す。しかし、何も浮かんでこない。今度はあいつがプリキュアに変身する前の姿を思い出す。

 

浮かぶのは、イチゴを育てていた農園で女性を突き飛ばした後、あいつが怒っている姿と、メガパーツを入れた直後にプリキュアの変身が解け、地面に倒れ伏して苦しむ姿・・・・・・。

 

すると・・・・・・。

 

「っ!? あいつ・・・」

 

キュアグレースの姿を頭に浮かべていたダルイゼンに突然、自身の過去が甦ってきた。

 

『のどか・・・!!』

 

『のどか・・・しっかりして!!』

 

自身がまだ赤い靄だった頃、暗闇の中で聞こえてくる男性と女性の声・・・・・・。

 

『大丈夫・・・?』

 

ある時、病院でのどかが人工呼吸器を付けるほどの危篤になった時、病院時代の友人・しんらは手を握って彼女を支えていた。

 

そんな時に自身の溢れた赤い靄の一部がのどかの体から・・・・・・。

 

『地球上にいるビョーゲンズたちよ・・・我はキングビョーゲン。時は満ちた・・・この星をビョーゲンズのものにするため、今こそ忌々しきヒーリングアニマルを滅する! さあ、我の元に集うがいい!!!』

 

ある時、聞こえてきたのはキングビョーゲンの声だった。その声に導かれるように自身はその光へと体を伸ばしていく。

 

そして、自身はのどかの体から分離していき、病院の窓から飛び出す。病院の近くの外で現在のような姿へと変貌を遂げたのだ。

 

「・・・・・・・・・」

 

ダルイゼンはさらに記憶を甦らせていく。

 

『ふわぁ〜、いろんなお花さんがある〜♪』

 

メガビョーゲンが吐き出した種のような一部だった時、クモのような4本足で宿主を探してまわり、とある森の近くの原っぱで幼い少女を発見ーーーーそれは花寺のどかだった。

 

その種は気づかないのどかの背後から、自身の体を開かせて赤い靄のようなものを放出し、のどかの体の中に取り憑いたのであった。

 

「そうか・・・そういうことか・・・」

 

自身の宿主に寄生していた頃の記憶を全て思い出したダルイゼンは笑みを浮かべると、彼女がいる病院を見つめる。

 

「あいつ・・・俺も起源だったんだな」

 

ダルイゼンは一緒に行動しているビョーゲンズが、靄だった頃の自分と関わっていると察し、再びプリキュアとケダリーの戦いを見つめるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が、のどかの元気を・・・奪った・・・??」

 

かすみはクルシーナが暴露した言葉に、ただ呆然と彼女の顔を見つめている。

 

「そうよ、キュアグレースの元気と体力を奪ったのはお前なの」

 

「ウ・・・ウソだ・・・! 私にそんな力が、あるわけが・・・!!」

 

クルシーナの言ったことが信じられず、かすみは震える声で否定する。

 

「・・・まさか、自分の力に気づいてないワケ? ハッ、こいつはお笑い種ねぇ」

 

クルシーナは呆れたような口調でそう言うと、彼女は再びかすみに顔を近づける。

 

「事実よ。キュアグレースの体力と元気はお前の中にあるの。お前がキュアグレースの手を握った時に、無意識にお前は体力と元気を吸い取ってたの。お前から不愉快なオーラを感じたし、あいつが苦しんでたのはそういうことでしょうね。アタシは元々キュアグレースの体の中にあるメガパーツを活性化させて外に出すためにこの病室に侵入しただけだし、メガパーツは全く体力や元気を奪ってない。ここまで考えると、奪ったのはお前だってことだよ、脱走者」

 

「あぁぁ・・・あぁぁぁぁ・・・」

 

クルシーナがそう説明すると、かすみは絶望の声を漏らしていく。

 

「それにお前の吸い取る力は、アタシの能力に似てるのよ」

 

「っ!!な・・・な・・・」

 

かすみは震えの治らない体で、クルシーナの言ったことに反応する。

 

「この際だから教えてあげる。お前はね、キュアグレースの体の中に植え付けたアタシの病気の種、それがあいつの中で成長した病気の花、それからアタシが生み出したビョーゲンズなのよ」

 

「あぁ・・・あぁぁ・・・」

 

「プリキュアの持つステッキにそっくりなのも、キュアグレースがプリキュアとしての力を持っているからだし、生きる力を吸い取る能力を持っているのも、アタシの持つ吸収の能力にちょっと違うけど、似ているからだと思うし、アタシの病気から生まれたからじゃないかしらね?」

 

「ち、違う・・・」

 

次々と暴露されるかすみの秘密、それをクルシーナの口から明かされるたびにかすみの口から震えたような絶望の声しか漏らさず、それでも否定しようとする。

 

「皮肉なもんねぇ。自分が守ろうとしてたやつなのに、自分から生きる力を奪っちゃうなんてねぇ・・・おかしなもんだけど?」

 

「や・・・やめろ・・・」

 

「お前は元々プリキュア側につくべきじゃなかったのよ。アタシの勘だけど、お前は今人間を蝕みたいっていう気持ちもあるんじゃない? そこにいる可愛いキュアグレースをもっと蝕みたいっていう気持ちをさぁ?」

 

「やめろ・・・!」

 

かすみの泣きそうな、怯えるような震えた声を気にも留めず、クルシーナは心のない言葉を口々に吐く。

 

「・・・あぁ、そうか。キュアグレースが好きだっていうのも、彼女を蝕みたいほど好きっていう気持ちの表れなのかもねぇ!!」

 

「やめろぉっ!!!!!」

 

クルシーナの冷酷な煽りに耐えられず叫んだ。このまま聞き続けていると、自身の体や心は壊れてしまう。だから、叫んで紛らわせるしかなかったのだ。

 

「やめろぉ・・・やめてくれぇ・・・! 頼む・・・頼むからぁ・・・!!」

 

かすみは涙をポロポロと零し、遂には嗚咽を漏らしながら懇願する。それを見るとクルシーナは「ふん」と不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 

「・・・どうせお前がプリキュアどもと一緒にいたところで、あいつらを傷つけて苦しめるだけなのよ」

 

クルシーナは立ち上がってかすみを見下ろしながらそう吐き捨てると、のどかが横になっているベッドへと近づく。そして、意識を失っているのどかを抱えあげると、そのまま病院の窓へと向かっていく。

 

「はぁ・・・ぁぁ・・・」

 

「可哀想に・・・こんな病院なんかよりも、アタシのそばにいさせてあげる。そして、アタシがもっと苦しさを教えてあげる♪」

 

クルシーナはのどかの眠りながらも苦しそうな表情を見ながら笑みを浮かべる。

 

「待て・・・どこに連れてくつもりだ・・・!?」

 

かすみは体を震わせながらも立ち上がろうとしていた。

 

「・・・お前には関係ないだろ?」

 

クルシーナは顔を向きながらそれだけ言うと、病院の窓へと向かう。

 

「待てぇ!!!」

 

ドスッ!!!!

 

かすみはクルシーナを飛びかかろうとするも、彼女のすぐに振り向いて蹴りを繰り出した足が腹部に突き刺さる。

 

「が、あっ・・・!?」

 

かすみはそのまま病院の床へと崩れ落ち、激痛に体を震わせる。

 

「お前にこいつを守ることなんかできやしないんだよ。言っただろ? お前がいたって、みんな傷つくし、苦しむだけだって」

 

「うっ、うぅぅ・・・・・・」

 

クルシーナは諦めの悪いかすみに対して、そう吐き捨てる。

 

「あぁ、そうそう。こいつも連れていくからね」

 

そう言ってクルシーナが宙に浮かせてかすみに見せつけたのは、のどかのパートナーであるラビリンだった。植物のツタに体全体と口を縛られており、何やら元気を奪われたかのようにぐったりして意識を失っている様子。

 

「あっ、ラビリン・・・!!」

 

「ベッドの下に隠れてたみたいだから、ついでに捕まえといたの。こいつがいるといろいろと厄介だからねぇ」

 

ラビリンはしんらが現れたことで隠れていたはずだが、そのしんらに成りすましていたクルシーナに見つかってしまっていたのだ。大したことは何もできずに拘束されてしまい、口を塞がれて助けを求めることもできなかったのだろう。

 

かすみはそんなラビリンに向かって手を伸ばす。しかし、立ち上がることができないかすみの手は彼女に届くことはなかった。

 

「じゃあね♪ お疲れ様」

 

クルシーナはのどかを抱えたまま別れの挨拶をすると、窓の縁へと立ち、そのまま病院の外へと飛び出していった。

 

「うぅぅぅ・・・うぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・!!!!!」

 

かすみは伸ばした腕を床へと落とし、倒れ伏したまま握り拳を震わせる。クルシーナ相手に何もできなかったこと、のどかを無意識に傷つけてしまったこと、そしてビョーゲンズの欲に屈してしまったことに悔しさと悲しさを滲ませていた。

 

ビョーゲンズは敵であるはずなのに、今は自分の心の防衛のためにお願いまでしてしまった。大好きなのどかを守りきれずに、クルシーナに連れ去られてしまった。ちゆたちと分かれて引き返した手前、彼女たちに合わせる顔がない・・・・・・。

 

今までプリキュアと関わりを踏みにじられ、貶され、全否定されたかすみの精神は限界であった。そのあまりの悲しみに涙をポロポロと流し、嗚咽を漏らしながら拳を床に叩きつける。

 

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

そして、かすみの口から悲しみの絶叫が、病院の窓の外の空に響き渡ったのであった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、クルシーナの意図を察して、彼女から離れていたウツバットは、のどかの病室とは反対側の部屋にいた。

 

「クルシーナ・・・そろそろ戻っていいウツよね?」

 

ウツバットはクルシーナの帰りが遅いことに不安を感じていた。自身の推測だが、こんだけ時間が経っていればもう終わっているし、そろそろ戻ってもいいだろうと考えていた。

 

ウツバットはそう頭の中に入れながら、クルシーナの元へと向かおうとしたが・・・・・・。

 

「・・・ウツ?」

 

何やら禍々しい気配を背中に感じ、ゆっくりと振り返ってみると・・・・・・。

 

「ウツゥ!?」

 

なんと、先ほどクルシーナがメガパーツを入れ込んだ少女のベッドから異変があった。彼女を包んでいる赤い靄がうねうねと蠢くように膨れており、その中にいた少女が開いた目を赤く光らせていた。

 

その少女の頭から悪魔のようなツノを生やし、サソリのような尻尾が生えてくる。さらに、人間の肌は人ではない色へと変化していく。

 

そして・・・・・・。

 

「ウツゥゥゥ!? うわぁっ!?」

 

少女の赤い靄は浮かび上がるとそのまま、ウツバットが思わず驚くほどの勢いで病院の窓の外から飛び出していった。

 

自分の羽で頭を伏せていたウツバットは、赤い靄が飛び出していった窓の外を見つめる。

 

「い、今のは・・・テラビョーゲン・・・ウツか・・・?」

 

ウツバットはあの光景を見たことがある。あれはクルシーナたち三人娘が生まれた時と同じようなものであると・・・。

 

そして、その赤い靄はどうやら病院の裏の山へと飛び出していったようだ。

 

「ク、クルシーナに報告ウツ!!」

 

新たなテラビョーゲンが誕生しそうだと考えたウツバットはクルシーナを探すために、大慌てで窓の外へと飛び出していく。

 

そして、病室の少女が横になっていたベッドは、もぬけの殻となっていたのであった・・・・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第88話「決断」

前回の続きです。
ケダリーに続いて、新たなビョーゲンズが登場!
そして、かすみは・・・・・・?


 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナは病気に苦しむのどかを抱えたまま、病院の裏の山の中へと入っていた。プリキュアたちと遭遇すると面倒なことになるので、別のルートから山の中を歩いていた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「フフフ♪」

 

クルシーナは、苦しそうに呼吸をするのどかに笑みを浮かべる。連れて行かれていることに気づかないことから、意識は朦朧としている様子。元気や体力がないせいで、症状が重くなっているのは確かだが、容態は安定しているので、今のところ問題はないと踏んでいた。

 

それも、自身が体に埋め込んだテラパーツのおかげなのだが・・・・・・。

 

ダルイゼンと合流しようと考え、ゆっくりと歩いていると・・・・・・。

 

「クルシーナァァァァァー!!!!」

 

「っ・・・」

 

聞き覚えのある叫び声に顔を顰めるとその場で立ち止まり、首を横に倒す。クルシーナの首スレスレで何かが通り過ぎ、自身の立っていたところの前に何かが地面に衝突した。

 

クルシーナは首を戻すと衝突した場所を不機嫌そうな表情で見つめる。

 

「ウツバット、危ないじゃないの!! 猛スピードで来なくてもいいっての!!」

 

「ウツゥ・・・」

 

顔面を打ったのか顔を抑えるウツバットをよそに、叱責するような言葉を吐くクルシーナ。

 

「ゥゥゥ・・・それはごめんウツ・・・あっ!?」

 

ウツバットは配慮が足りなかったと謝るが、それと同時にあることを思い出して顔をあげる。

 

「それどころじゃないウツ!! 新しいテラビョーゲンが生まれそうウツ!!」

 

「っ!?・・・それは本当?」

 

「本当ウツ!! プリキュアの向かい側にある部屋の窓から赤い靄が飛び出して行ったのを見たウツ!!」

 

ウツバットの報告に、目を見開くクルシーナ。窓から飛び出して行ったというのであれば、それは本当だろう。

 

それにしても、生まれるのがやけに早い。このキュアグレースの中にいたメガパーツを活性化させたのと同じすぐに出てきた。あいつの赤い靄の力なのか、それともメガパーツを入れたからか・・・?

 

ネブソックやコリーノみたいに感じて、正直期待はできないが、とりあえずは見にいくのもいいだろう。

 

「・・・そいつは、どこに行った?」

 

「この病院の裏山に飛んで行ったウツ。多分、山の奥にいると思うウツ」

 

「・・・わかった。とりあえず、行ってみるか。帽子に戻れ」

 

クルシーナはテラビョーゲンとなる赤い靄を追ってみることにし、ウツバットから聞いた彼女はそう指示を出すと、ウツバットは中折れハットに変身してクルシーナの頭におさまる。

 

クルシーナは特に速度を変えることはなく、ゆっくりといつものペースで歩いていく。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「・・・あれ? こいつ、確かのプリキュアの」

 

ウツバットはクルシーナに抱えられているのどかを見て、声をあげる。

 

「気づくの遅いんだよ。さっきからいただろうが」

 

「なんでこいつがいるウツ? しかも、苦しそうだし・・・」

 

クルシーナは不快感を隠さずに言うと、ウツバットは彼女を心配そうな口調で言う。

 

「アタシが連れ出してやったのよ。もっと苦しみを味あわせてやるために」

 

「なるほどウツ・・・・・・」

 

クルシーナが不機嫌そうに説明すると、ウツバットは気の進まなそうな声を出す。

 

「・・・何、その声。アタシのやり方に文句あるわけ?」

 

「い、いや!! クルシーナの気持ちを考えたら当然ウツ!! 昔、そういう目に遭ったなって思ったら、辛くて・・・」

 

クルシーナが反応してこちらを睨みつけてきたので、ウツバットは昔の話を思い出しながら肯定する。

 

「・・・・・・忘れたわよ、昔のことなんか」

 

クルシーナはそう吐き捨てると、歩くスピードが速くなっていく。

 

しばらく歩いていくと、山の奥の開けた場所へと出てきた。そこには一本の木が立っているのが見えた。

 

そして、その木の側には、何やら赤い靄の塊のようなものが見えた。

 

「・・・あれだな」

 

クルシーナは真ん中に立っている一本の木にのどかを降ろして寄りかからせると、うねうねと蠢いている赤い靄に近づいていく。よくみると着地してしゃがみ込んだままの体勢の少女が中にいるのが見えた。

 

「・・・この生まれ方」

 

クルシーナは、テラビョーゲンの誕生の仕方に何か引っかかるような感じがした。そういえば、自分はどのようにして生まれたのかと。

 

そんなことを考えているうちに少女はゆっくりと立ち上がり、赤い靄が静かに薄れていく。

 

少女の姿は、長い金髪の髪を縦ロールに、白いレースの入ったピンク色のドレスを着込んだ格好をしており、肌はクルシーナと同じような薄いピンク色の肌をしていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

少女は自分の手を見ながら、握ったり開いたりを繰り返していた。

 

「ワタクシの、体・・・ちゃんと、動きますわ・・・」

 

少女は体全体を見ながらそう言った。

 

「アンタが、新しいテラビョーゲン?」

 

「っ!!」

 

そこへクルシーナが背後から話しかけると、少女は反応してこちらを振り向く。

 

少女は自分の後ろにいたクルシーナの笑みを見ると、自身も笑みを返し、体をそちらに向き直すと両手でドレスの裾を掴み、片足の膝を軽く曲げると腰を曲げて頭を下げた。

 

「お初にお目にかかりますわ、クルシーナ様。ワタクシ、シビレルダと申しますわ。以後、お見知り置きを」

 

「・・・随分と礼儀正しいのね」

 

シビレルダと名乗ったテラビョーゲンは自己紹介と挨拶を交わすと、クルシーナは感嘆とした声を出す。まるで、以前生み出したコリーノのようだった。

 

挨拶を終えると、シビレルダは周囲をきょろきょろと見渡す。そして、その表情を不快に顰めさせていく。

 

「・・・ここ一帯、全くもって不愉快ですわ。こんなところ、1秒たりともいたくないですの。クルシーナ様もそう思いますわよね?」

 

どうやらシビレルダは周囲の自然に不快感を覚えている様子、こちらに共感してもらおうと質問を投げかけてきた。

 

その様子を見たクルシーナは不敵な笑みを浮かべる。

 

「だったら、病気に蝕んでやればいいのよ。自分好みの空間に染めちゃえば、アンタも快感を覚えるはずよ」

 

「・・・そうですわね。それはいいアイデアですわ! では、早速ーーーー」

 

シビレルダはクルシーナの考えに共感すると、どこからかレースの入ったいかにもお嬢様っぽい日傘を取り出して差す。

 

「ワタクシ、クラリエット様とクルシーナ様のために、地球を病気に染め上げて差し上げますわ」

 

「っ!!・・・クラリエット?」

 

シビレルダは笑みを浮かべながらそう言うと、すぐに何かを探し始めた。しかし、クルシーナはクラリエットという名前を聞いて顔を不機嫌そうに顰める。

 

やっぱり、こいつ・・・クラリエットの差し金か・・・。赤い靄だったときの気配からして、そうだとは思っていたが・・・・・・。

 

あいつ、もう起きているのでは・・・? そうでなければ、いくら強いあいつでも赤い靄をこんなところにわざわざ飛ばす力があるわけがない。

 

どちらにしろ、アジトに戻って地下室を確認する必要はあるだろう。

 

とりあえず、まずはこいつをどう使うか・・・・・・。

 

「まあ! 随分と生き生きしてて不愉快ですこと。でも、これはこれで使えますわ」

 

クルシーナがそんなことを考えているうちに、シビレルダは気になるものを見つけたようだ。それはこの山で生えているであろうアケビだった。

 

「あいつ・・・もしかして・・・!」

 

クルシーナはシビレルダの取る行動が気になっていた。ネブソックは自分で自然を蝕み、コリーノには戦うばかりで蝕みもしなかった。なのに、このテラビョーゲンは素体となるものを探している・・・? ということは・・・?

 

クルシーナの驚きをよそに、シビレルダは自身の髪を手で掻き分けるように動かし、黒い塊のようなものを出現させる。

 

「進化くださいまし、ナノビョーゲン」

 

「ナノ〜・・・」

 

生み出されたナノビョーゲンがアケビに取り憑く。山になっている生き生きとしたアケビが病気に蝕まれていく。

 

「・・・!?・・・!!??」

 

アケビの中に宿っているエレメントさんが病気に蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガ、ビョーゲン!!」

 

枝のような足を4本生やし、アケビのようなものを生やしたツルのような腕を4本生やしたメガビョーゲンが誕生した。

 

「メガビョーゲンを作れるのね・・・」

 

「やっと当たりを引いたウツね」

 

「ええ・・・アタシの力だけじゃないけど・・・」

 

シビレルダはメガビョーゲンを作ることができるテラビョーゲンであった。その事実を知るが、それは自分の力だけじゃなく、あいつの力が入っていることに不快感を感じていた。

 

「メガァ〜!!!」

 

メガビョーゲンは口から赤い光線を吐き出して、周囲の自然を病気に蝕ませていく。

 

「ここはちょっと様子を見ておこうかしらねぇ」

 

クルシーナはのどかのそばに移動すると、そのお手並みを拝見しようと見物を決め込むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クルシーナに責め立てられ、自責の念に駆られて病院から逃げ出したかすみは、森の中をさまよっていた。別にどこに行くわけでもなく、誰の元に向かっているわけでもなかった。

 

その表情は虚ろになっており、瞳に光が灯っていない。足元はフラフラとさせながら、一歩一歩踏みしめるかのように歩いていた。いや、おもちゃのように動かしていると言った方が正しいかもしれない。

 

「・・・・・・・・・」

 

ーーーーお前に守ることなんかできやしないんだよ。

 

ーーーーみんな傷つくし、苦しむだけ。

 

頭を空っぽにして歩いていても、クルシーナの言った言葉が呪詛のように響く。みんなを自分を置いていき、ビョーゲンズに寄り添われるあの時の悪夢が現実感を帯びてくる・・・・・・。

 

それが聞こえ、見えてくるたびに、目の中から何かが湧き上がってくる。

 

それは・・・・・・涙だった・・・・・・。

 

「私は・・・ビョーゲンズ・・・ビョーゲンズ・・・」

 

まるで機械のように無機質な声が口から出てくる。自分はこういう声を出せたのかと不気味に思う。

 

クルシーナによってビョーゲンズだということを彼女自らの口で暴露されたかすみ。それは否定しようのない事実だった。のどかを助けるどころか側にいて苦しめ、クルシーナによって変な洗脳すらされてしまった。いくら否定しようとしても、ビョーゲンズだということを拭い去ることができない。

 

否定ができない・・・そうか・・・・・・私は、ビョーゲンズの一人だったのか・・・。

 

かすみはその事実をクルシーナに思い知らされ、絶望に打ちひしがれていた。

 

かすみはちゆたちの元へ戻ることができず、ましてのどかと一緒に来なかったことで何か言われることを恐れていた。連れていかれたなどと言えるわけがない。

 

裏切り者・・・信じていたのに・・・あなたが側にいながら・・・どうして一緒にいなかったの・・・?

 

そんな言葉を彼女たちから言われることを恐れ、彼女たちに対する罪悪感も余ってかすみは病院から逃げ出してきたのだ。

 

のどかの両親には、側にいてあげてと言われていたのに・・・彼女たちにも迷惑をかけてしまった。連れ去られたなんて言えるわけがない、自分がやったって言われるに決まっている・・・。

 

こんなことを彼女の両親から聞きたくなかった・・・だから、誰にも会うことのない森の中へと逃げ出したのだ。

 

自分が住んでいた場所は、元々森だった。だから、ここで会えなくても、一人になったとしても、どうせ最初に戻るだけだ。森の中で暮らしていれば・・・暮らしていれば・・・何も気に病むことはない。

 

しかし、いくら森の中にいても彼女の心は晴れなかった。

 

かすみはしばらく歩いていると疲れてしまったのか、森の一本の木に寄りかかり座り込んだ。

 

何も・・・考えたくない・・・何も考えたくない・・・何も考えなければ・・・いずれ、全部忘れて・・・。

 

ピィピィッ!

 

「っ!」

 

そんな時、一羽の鳥が足元でこちらを見ているのが見えた。それは温泉に入っていたときにかすみに懐いていたいつかのヒヨドリであった。

 

かすみはそれをきょとんと見つめた後、微笑みそのヒヨドリへと手を伸ばした。しかし、ヒヨドリはなぜかこちらに飛んで来ない。

 

「っ・・・怪我、してるのか・・・?」

 

何かにぶつけたのか、足を怪我している様子だった。

 

「・・・待ってろ。何か応急処置できるもの・・・!」

 

かすみはすぐに服を弄って怪我を処置できるものを探す。ポケットの中に手を入れてみると・・・・・・。

 

「あ・・・これは・・・」

 

それは、ちゆが持っているように渡された白いハンカチだった。

 

「っ・・・!」

 

かすみはすぐに白いハンカチを紐になるように千切ると、ヒヨドリを片手で掬い上げ、それを負傷している足に傷を塞ぐように結びつけた。

 

「よし、これで大丈夫・・・」

 

かすみは応急処置を完了させると、ヒヨドリを地面へと降ろす。

 

ピィ!ピィピィピィ!!

 

「そうか・・・よかった・・・っ!!」

 

ヒヨドリはこちらを見ながらお礼を言っているようで、かすみはそう返事をした。そのときだった・・・かすみの中にある思い出が甦る。

 

ーーーーかすみちゃんが元気になってよかった・・・。

 

ーーーー私のサンドイッチと一つ交換だね♪

 

ーーーーありがとう、かすみちゃん、大好きだよ。

 

甦るのどかの笑顔。それはまるで太陽のように眩しかった。

 

かすみはそれを思い出し、彼女の瞳から涙をウルウルと潤ませる。

 

「のどかぁ・・・・・・」

 

愛しの少女の名前を呟く。おおらか市で一緒にお弁当を食べた時のあの笑顔は、もう見ることはできないのか・・・・・・。

 

心の底から大好きだって、言いたかった・・・。

 

ーーーーかすみは私たちの大切な友達よ。

 

ーーーー誰よりも気遣いができるし、大切なもののために守ろうとしてる。

 

ちゆの言ってくれた言葉を思い出し、いろんなことを聞き、いろんなことを学んだ。

 

「ちゆぅ・・・・・・」

 

森しか居場所のない自分に住むところを与えてくれた少女の名前。彼女からは本当にいろんなことを教わった・・・・・・。

 

ーーーーもぉ〜! かすみっち、何笑ってんの〜!?

 

ーーーーかすみっちが新たな仲間になったということで!! カンパーイ!!

 

ファミレスでひなたとはしゃいだ思い出。そして、ひなたのワゴンカフェが出すジュースで、一緒に歓迎会なるものをやってくれた。

 

「ひなたぁ・・・・・・」

 

ひなたの名前を呟く。いつも元気で明るく、ある時は一緒に遊んでくれたひなたの方が優しかった・・・・・・。

 

ーーーー私はかすみさんを怖がったりなんかしません!!

 

ーーーーそれはグレースやフォンテーヌ、スパークルだって一緒のはずです!!

 

ーーーーかすみさんは自分の力を受け入れることができる優しい方です。

 

ーーーー仲間として、友達として、よろしくお願いしますね

 

アスミがあの時に言った言葉が甦る。最初は自分を避けていたが、徐々に打ち解けていき、しまいには自分のことを大切な友達だと認めてくれた。

 

「アスミぃ・・・・・・」

 

仲良くなり、自分をフォローしてくれたアスミの名前を呟く。もっと仲良くしたかったけど、きっとそれも叶わないだろう。

 

「ラビリン、ペギタン、ニャトラン、ラテぇ、みんなぁ・・・・・・ヒック・・・グスッ・・・」

 

そして、彼女たちの相棒のヒーリングアニマル、特訓はよくわからなかったけど、いい思い出を作れたのは彼らのおかげだと、言いたかった・・・・・・。

 

ポロポロと涙がこぼれ・・・やがて、かすみの瞳に光が戻ってきた。彼女たちの言葉、思い出を思い出し、自分がどういう存在なのか再認識したのだ。

 

かすみはしばらくその場ですすり泣いた。気が済むまで泣いた。今までの悲しみを、洗い流すために。

 

やがて泣き声が収まると、かすみは涙を拭う。そして、彼女は立ち上がった。自分の選択をするために。

 

しかし、私はビョーゲンズ・・・そんな自分が彼女たちのためにやれることは・・・・・・。

 

かすみは意を決して、ある人物に会うために、気配のする病院の裏山へと走っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ケダリーと交戦中のフォンテーヌたちは苦戦を強いられていた。

 

スパン!! スパンスパン!!

 

「うっ・・・うぅぅ・・・!!」

 

鞭のように腕をしならせながら高速で振るい、防戦一方のフォンテーヌへと隙を見せない攻撃を仕掛けるケダリー。

 

「きゃあぁっ!!」

 

フォンテーヌは吹き飛ばされたが、背後からスパークルが彼女を受け止めた。

 

「うっ・・・」

 

「フォンテーヌ!!」

 

「っ、あの動きを封じられれば・・・!!」

 

「・・・やってみます!」

 

フォンテーヌの言葉に、アースが彼女たちの前に出る。

 

「空気のエレメント!!」

 

アースは空気のエレメントボトルをアースウィンディハープにセットする。

 

「はぁっ!!」

 

駆け出してくるケダリーに、ハープから空気の弾を連続で放つ。

 

ケダリーはそれを素早く動いて避けていったが、その弾の一つがケダリーの近くで破裂すると、その弾は空気の膜のようになって、ケダリーを包み込む。

 

「っ!? ふっ!! っ!!」

 

空気の膜の中に閉じ込められたケダリーは中で暴れるも、膜を打ち破って出ることができなくなった。

 

「やったー!!」

 

「そのまま一気に・・・!!!」

 

スパークルとフォンテーヌが動きを封じることに成功して喜ぶ中、アースはそのまま風のエレメントボトルを取り出す。

 

「アースウィンディハープ!」

 

風のエレメントボトルをハープにセットする。

 

「エレメントチャージ!!」

 

アースはハープを手に取って、そう叫ぶとハープの弦を鳴らして音を奏でる。

 

「舞い上がれ! 癒しの風!!」

 

手を上に掲げると彼女の周りに紫色の風が集まり始め、ハープへとその力が集まっていく。

 

「プリキュア! ヒーリング・ハリケーン!!!」

 

アースはハープを上に掲げてから、それを振り下ろすとハープから無数の白い羽を纏った薄紫色の竜巻のようなエネルギーが放たれる。

 

そのエネルギーは一直線に空気の膜に包まれたケダリーへと向かい、直撃する。

 

「うっ・・・うぁぁぁっ!! ぼく、きえるっ・・・ヒーリン、グッバ〜イ・・・」

 

ケダリーは自分が敗北したことを悟りながら、そのまま光のエネルギーに包まれて消えていった。

 

「お大事に」

 

ケダリーが浄化されたと同時に、彼が蝕んだ自然が元の色を取り戻していく。

 

「・・・ケダリーは浄化したわ!!」

 

「へぇ・・・やるじゃん」

 

フォンテーヌがそう叫ぶと、ダルイゼンは感心したような口調でそう言う。

 

「っ? あっちでクルシーナが何かやってるみたいだな」

 

ダルイゼンは山の奥に視線を向けると不敵な笑みを浮かべた。

 

「なんですって!?」

 

「クルシーナがやってるって、どういうこと!?」

 

「さあな・・・お前たちの目で確かめたら?」

 

険しい表情でそう叫ぶフォンテーヌとスパークルに、ダルイゼンはそう言い放つとそのまま姿を消した。

 

「みなさん・・・!」

 

そこへラテを抱えてアースが戻ってくる。

 

「ラテ・・・!?」

 

「え、なんで戻ってないの・・・!?」

 

「どうやら・・・まだ終わっていないようです・・・」

 

ラテが元気になっていないことをフォンテーヌとスパークルが動揺している中、アースは険しい表情で聴診器をかざして、彼女の心の声を聞くことに。

 

(山の奥で割れる木の実さんが泣いてるラテ・・・山の奥で何かが泣いてるラテ・・・)

 

「何かって、何・・・?」

 

「わかりません・・・」

 

「かなり曖昧な表現ね・・・」

 

スパークルは疑問を抱くも、アースとフォンテーヌには心当たりがない。

 

「クゥ〜ン・・・ウゥ〜ン・・・」

 

「? どうしたのですか?」

 

ラテが何かを訴えるように鳴くと、アースはさらに聴診器をかざす。

 

(のどかとラビリンがピンチラテ・・・)

 

「「「っ!?」」」

 

プリキュアの3人は驚愕した。なんと、病室にいるはずののどかとラビリンに何かあったというのだ。

 

「え、なんで・・・のどかっちにはかすみっちがいるんじゃないの!?」

 

「のどかとかすみに何かあったんじゃ・・・!?」

 

「行きましょう!! もしかしたら、この山の奥にいるのかもしれません!!」

 

プリキュア三人は嫌な予感を感じ、とりあえずはビョーゲンズがいると思われる山の奥に急いでいくことにしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メガァ〜!!」

 

シビレルダの生み出したメガビョーゲンは山の奥で赤い光線を吐き出しながら、開けた場所の自然を蝕み続けていた。

 

「おーっほっほっほっほ!! その調子ですわ!! どんどん蝕んでしまいなさい!」

 

シビレルダはメガビョーゲンが順調に病気を侵攻させていっていることに高笑いをしていた。

 

「この辺は大方、蝕んできたわねぇ。そろそろ場所を移動したらどう?」

 

「えぇ、そのつもりですわ。メガビョーゲン!! あっちに行きますわよ!!」

 

「メガァ・・・!」

 

クルシーナのアドバイスに、最初からそのつもりだったシビレルダはメガビョーゲンに指示を出して、クルシーナが来た道とは別の道から他の場所へと向かっていく。

 

「クルシーナ様はいかないんですの?」

 

「アタシはちょっとね。こいつもいるし、やることがあるから。任せるわ」

 

「・・・こいつって、もしかしてこの人間はプリキュアですの?」

 

シビレルダはクルシーナにそう尋ねると、投げやりな返事が返ってきたので、クルシーナの横で苦しそうに呼吸をしているのどかを見やる。

 

「ええ、そうよ。まあ、今は変身できないけどね。ヒーリングアニマルは捕らえてるし、こいつもこんな状態じゃあねぇ」

 

クルシーナは不敵に笑いながらそう言うと、シビレルダは険しい表情をし始める。

 

「・・・もしやれるのであれば、ここでやっておくべきではありませんの? 今のうちに邪魔な芽は積んでおくべきだと思いますわ」

 

シビレルダはどうやらそのプリキュアを始末すべきだと、クルシーナに進言しているようだ。

 

「まあ、待ちなさいよ。こいつは意外と使えんの、どうせ他のプリキュアどももこっちに来るだろうから、ちょっと利用してやろうと思ってね。そうすれば、こいつだけじゃなくて、そいつらもまとめて始末できると思うけど?」

 

「ですけど・・・!!」

 

「・・・アタシの作戦に、なんか文句あんの?」

 

クルシーナはシビレルダを制しながらそう言うも、食い下がろうとする彼女に脅すような低い声を発する。

 

クルシーナが考えているのは、このキュアグレースを人質にして、あいつらの牽制と戦力低下に使おうというもの。一人欠けたプリキュアなど自分の敵でもないし、シビレルダとそのメガビョーゲンに足止めをしてもらって体力を消耗させれば、こっちが優勢に働くであろうということだ。

 

「・・・クルシーナ様がそう言うのであれば、ワタクシは何も言いませんわ」

 

身が震えたシビレルダは一応納得しておくと、ここに来るであろうプリキュアたちを迎え撃つためにメガビョーゲンと一緒に移動していった。

 

「ふん!」

 

クルシーナはその様子を見て、不機嫌そうに鼻を鳴らす。そもそもあいつは、地下室に眠っているクラリエットが放った赤い靄が病院の患者に取り憑いてビョーゲンズとして進化したのだろう。そのクラリエットが元になっているというだけでも気に入らない。

 

「・・・・・・・・・」

 

シビレルダが向かっていくのを見送った後、クルシーナは木に寄りかかって昼寝を決め込もうとしたが、その直後に険しい表情を浮かべる。

 

「・・・そこにいんだろ?」

 

さっきから感じていた気配の方を向き、不機嫌そう叫びをあげる。

 

そして、見つめている木の陰から出てきたのは、脱走者ことーーーーかすみだった。

 

「クルシーナ・・・・・・」

 

かすみは観念して出てくると、クルシーナの前へと歩いて出ていく。

 

「アタシに何の用? あんだけ言ったのに、のこのこ出てくるなんてさぁ」

 

クルシーナは不機嫌そうな様子でそう言った。ビョーゲンズだという自覚のないやつはムカつくだけだし、むしろここで吸収して消滅させてやりたい気分だ。

 

「・・・お前に話がある」

 

「どうせアンタの話なんか面白くもなんともないし。キュアグレースを返せだとかいうくせに。聞く前からお断りだっつーの」

 

かすみは真剣な表情でいうが、クルシーナはあっちにいけと言わんばかりにシッシッと手を払うような動作をする。

 

「違う!! 頼むから聞いてくれ・・・!!!!」

 

かすみは叫びながら懇願する。話を聞いてくれなければ、今度こそのどかは助からないかもしれない。だからこそ、クルシーナと慎重に話さないといけないと感じていた。

 

「何よ、その言い方、アタシが生み出した存在程度の分際で。それが人にモノを頼む態度なのかしらねぇ?」

 

クルシーナは嫌味っぽく吐き捨てると、さらにそっぽを向き始める。正直、こいつの話は聞きたくない。だからこそ、人に頼むなどというできもしない誠意を要求する。どうせできないだろうけど。

 

「っ・・・!!」

 

かすみはクルシーナのその反応に歯を食いしばりながら悔しそうにすると、怒る気持ちを落ち着かせて冷静になる。そして、口を開いた。

 

「クルシーナ様、どうか私の話を聞いてください・・・!!!!」

 

かすみは精一杯の誠意のある言葉で、クルシーナに懇願した。これものどかを助けるために・・・・・・。

 

クルシーナはその言葉に片目を開けるという反応を見せると、かすみに向き直る。

 

「そこまで言うんだったら、聞いてやらなくもないけど?」

 

誠意を見せたことに内心驚いているクルシーナは、かすみの話を聞いてやることにした。どうせこいつは、聞いてやらないと引かないだろうし、仕方なく聞いてやるのだ。お願いを聞くかは別だが。

 

かすみは考えるようにしばらく沈黙した後、彼女の前で膝をつき、両手と頭を地面につけた。

 

そして・・・・・・・・・。

 

「お願いします。のどかを、これ以上苦しめないでください!!!!」

 

断腸の思いを持って、クルシーナに向かってそう叫んだのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第89話「涙」

前回の続きです。
かすみの選んだ道とは・・・・・・?


 

のどかとラビリンがいると信じ、山の奥へと向かうフォンテーヌたち。

 

そんな彼女たちがその道中で見たのは・・・・・・。

 

「いたよ!! メガビョーゲン!!」

 

「まだ大きくはなってないみたい・・・!」

 

「速やかに浄化しましょう!」

 

枝のような足を生やし、アケビのようなものを生やしたツルのような腕を4本生やしたメガビョーゲンが、赤い光線を吐き出して木々を病気に蝕んでいる光景だった。

 

プリキュアたちはメガビョーゲンを阻止しようと駆け出すが・・・・・・。

 

バジュッ!!

 

「「「っ!!」」」

 

どこからともなくピンク色の光弾が放たれ、それに気づいたプリキュアたちは飛び退く。

 

「せっかく順調に蝕んでいますのに、邪魔させるわけにはいかなくってよ?」

 

「っ、誰!?」

 

プリキュアたちは声がする方向に振り向くと、木の上に日傘を構えたシビレルダが立っているのが見えた。

 

「あれって、テラビョーゲン・・・?」

 

「ケダリーの他にもいたの!?」

 

フォンテーヌとスパークルはケダリーの他にもテラビョーゲンが生まれていたことに驚いていた。

 

「あら、それは失礼いたしました」

 

シビレルダは構えていた日傘を下ろすと、木の上から飛び降りる。

 

「ワタクシ、シビレルダと申しますわ。以後、お見知り置きを。クラリエット様とクルシーナ様のために、地球を真っ赤に蝕んで差し上げますわ」

 

シビレルダは持っていた日傘を差しながら、ドレスの裾を持ちながら丁寧にお辞儀をする。

 

「クラリエット・・・って、誰?」

 

「クルシーナ・・・やっぱり、あいつも生み出してたのね・・・!!」

 

スパークルは聞いたことのない名前に疑問符をつけるも、フォンテーヌは険しい表情でそう言った。

 

「のどかとかすみさんは、どこにいるのですか!?」

 

アースも険しい表情をしながら、シビレルダにそう問いかける。

 

「のどか? かすみ? 誰だか存じ上げませんけど、あなたのお仲間だというプリキュアはこの奥にいらっしゃいますわよ」

 

「っ! やっぱり、連れ去っていたのね!!」

 

フォンテーヌはシビレルダの言葉に険しい表情で睨みつける。

 

「もっとも、もう死にそうな感じでしたけど?」

 

「っ!? 死にそうって・・・ウソだよね・・・!?」

 

さらにシビレルダの言い放った言葉に、スパークルが体を震わせる。

 

「言った通りの意味ですわ。早くいかないと、あのプリキュアはもう体が持たなくってよ?」

 

「そんな・・・!!」

 

スパークルはシビレルダの言葉に凍りつく。

 

「かすみさんが、いない・・・?」

 

アースは、のどかしかいないことに疑念を抱く。のどかが連れ去られているのであれば、やられたことを考えるとかすみもいるはずだが、彼女がいない・・・・・・?

 

「かすみをどこにやったの!? のどかと一緒にいたはずよ!!」

 

「だから、そのかすみっていうのは誰ですの? いるのはプリキュア一人ですわよ」

 

アースの代わりにフォンテーヌが睨みつけながら問うも、シビレルダは苛立ったように答えた。

 

「かすみっち、もしかしてあいつらにやられちゃったんじゃ・・・?」

 

「考えちゃダメよ!! かすみがなんでいないのかわからないけれど、まずはのどかを助けるのが先決だわ!!」

 

弱気な発言をするスパークルに、フォンテーヌは強い口調でそう言った。

 

「そうです! まずはのどかを助けましょう!!」

 

アースも強い口調で、シビレルダにそう言い放った。

 

「行かせるとお思いまして? クルシーナ様の邪魔はさせませんわ!!」

 

シビレルダは日傘を閉じて構えながらそう言った。

 

「なら、あなたとメガビョーゲンを浄化して、私たちはそこを通らせてもらうわ!!」

 

フォンテーヌの言葉を合図に、フォンテーヌとスパークルはステッキを構え、アースは腕を構えて浄化しようと臨戦体勢になる。

 

「メガビョーゲン、やっておしまい!!」

 

「メガァ・・・!!」

 

シビレルダに指示されたメガビョーゲンは口から赤い光線を吐きつける。

 

「「ぷにシールド!!」」

 

フォンテーヌとスパークルは肉球型のシールドを展開して、赤い光線を防ぐ。

 

その間をアースが横から現れてメガビョーゲンへと駆け出していく。

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「メガァ!?」

 

アースは二人に気を取られているメガビョーゲンの横から膝蹴りを食らわせて後ろへと倒す。

 

「あの紫のプリキュア、結構なお相手だとお見受けしますわ」

 

シビレルダはアースの戦闘を見て、不敵な笑みを浮かべた。

 

キュン!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

フォンテーヌはメガビョーゲンが倒れている隙に、ステッキの肉球に一回タッチしてメガビョーゲンに向ける。ペギタンの眼が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを発見する。

 

「実りのエレメントさんペエ!!」

 

エレメントさんはツルについているアケビの根元部分にいる模様。

 

「よし、今のうちに浄化を・・・」

 

フォンテーヌは浄化の構えを取ろうとした、その時だった・・・・・・。

 

バジュッ!!

 

「っ! きゃあぁっ!!」

 

フォンテーヌは横から飛んできたピンク色の光弾に当たってしまい転がる。

 

「「フォンテーヌ!!」」

 

「ワタクシもいるんですわよ? そう簡単に浄化なんかさせませんわ!」

 

横を見ると、シビレルダが畳んだ日傘を構えており、どうやらそこからピンク色の光弾を放った模様。

 

シビレルダはそう言い放つと、その場から姿を消すとスパークルの背後へと移動していた。

 

「!? スパークル!!」

 

「!!」

 

シビレルダが日傘をスパークルに振るおうとし、それに気づいたアースが両腕を交差させて受け止める。

 

「アース!!」

 

「お二人は早くメガビョーゲンを・・・!!」

 

アースは抑え込んでいるうちに、メガビョーゲンを浄化するように言う。

 

「わかったわ!!」

 

「アース、ごめんね!!」

 

フォンテーヌとスパークルは今のうちに、メガビョーゲンを浄化しようとする。

 

「邪魔ですわ」

 

「ぐっ・・・!!」

 

シビレルダは日傘をアースから離すと横に薙ぎ払う。アースは左手で防ぐも力負けして吹き飛ばされるが、倒れないように踏ん張る。

 

そこへシビレルダが飛び出して、日傘を槍のように振るう。アースは避けつつ、受け止めつつで攻撃を防いでいく。

 

シビレルダはその勢いに任せて日傘を開いた状態で、アースの顔に投げつける。

 

「!? うっ・・・」

 

アースは顔に飛んできた日傘に視界を塞がれつつ振り払うも、目の前にいたシビレルダの姿がない。彼女を探そうと当たりを警戒していると・・・・・・。

 

「こっちですわよ!」

 

「!! ふっ!!」

 

宙に舞った日傘からシビレルダが現れ、日傘を閉じるとアースの上から振るう。アースも負けじとキックを振るい、日傘とキックがぶつかり合う。

 

日傘とキックが互いに押し合って、シビレルダは再び宙へと飛ぶと日傘を瞬時に閉じてその先にピンク色の禍々しいエネルギーを溜め込み、アースに目掛けて放つ。

 

「!?」

 

アースはその場から飛びのいて、ピンク色のエネルギー砲を避ける。

 

「うふふ♪」

 

「凄まじいパワーです・・・!」

 

笑みを浮かべるシビレルダに対し、アースは険しい表情を浮かべていた。

 

「メガビョーゲン、そっちに行きましたわよ!!」

 

シビレルダは二人を見て、メガビョーゲンに指示を出す。

 

「メッガァ〜!!」

 

メガビョーゲンは4本のツルに付いているアケビを二人に向けると、そこから同じ大きさのアケビを二人に向かって放った。

 

「「ふっ! はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

フォンテーヌとスパークルはアケビを避けながら駆け出して行くと、飛び上がると蹴りを食らわせようとする。

 

「メッガ・・・!」

 

メガビョーゲンは枝のような4本の足を地面へと埋める。そこへ二人の蹴りが直撃するが・・・・・・。

 

「メェッガァ!!!!」

 

「「あぁぁっ!!」」

 

メガビョーゲンは二人の蹴りに耐え抜くと、そのまま反動を利用して二人を吹き飛ばす。

 

「メガァ・・・!!」

 

メガビョーゲンは何やら枝のような足に何かを注ぎ込むように体を動かすと、そのメガビョーゲンの周りから広範囲が赤い靄に蝕まれていく。

 

「あぁ!?」

 

「まだそんな力が残っていたの・・・!?」

 

「早く浄化しなきゃ・・・!!」

 

スパークルとフォンテーヌは地面が一気に蝕まれたことに対し、すぐにメガビョーゲンを浄化しなくてはと思う。

 

「火のエレメント!!」

 

スパークルは火のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「氷のエレメント!!」

 

フォンテーヌは氷のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「「はぁっ!!」」

 

二人は同時にそれぞれの属性を纏った色の光線を放つ。

 

「メッガァ〜!!」

 

メガビョーゲンはツルに付いているアケビを4つに分けるようにパックリと割ると、飛んできた二つの光線を受け止める。

 

「「っ・・・!?」」

 

「メッガァ!!」

 

メガビョーゲンはそのままその割れたアケビから種のような禍々しい光弾をマシンガンのように放つ。

 

ドカン!!ドカン!!ドカン!!

 

種は着弾して爆発を起こし、さらに地面を赤い靄に包んでいく。

 

二人は避けた後、再度メガビョーゲンに飛び出していく。

 

「メッガァ!! メガァ!! メガァ!!」

 

メガビョーゲンはアケビから種のような光弾を次々と放つ。

 

「きゃあぁ!!」

 

スパークルは避けながらも向かっていたが、光弾が当たって吹き飛ばされてしまう。

 

「はぁっ!!・・・っ! あぁぁっ!!」

 

フォンテーヌはぷにシールドを張ったステッキを向けながら駆け出し、防ぎながら接近するも、足元に放った光弾の爆発に巻き込まれてしまう。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「はぁ・・・何か・・・はぁ・・・また、強くなっちゃってるし・・・」

 

フォンテーヌとスパークルは息を切らしながらも、特に大きさの変わっていないメガビョーゲンに疑問を抱いていた。

 

「あぁぁっ!!」

 

そこへアースが吹き飛ばされ、フォンテーヌとスパークルの近くで踏ん張って着地する。

 

「「アース!!」」

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

アースもケダリー、シビレルダとテラビョーゲンの連戦で疲労が見えていた。

 

「大分育ちましたわね。このままうまくいけば、クラリエット様とクルシーナ様のお望みを叶えられそうね」

 

いつの間にかメガビョーゲンの近くに姿を現したシビレルダがそう言った。

 

「クラリエットって、誰なの!?」

 

スパークルは先ほどからシビレルダが口にしている名前が気になって問う。

 

「あなた方が知る必要がありまして? 他人の苦しみも理解しないあなた方に」

 

「他人の、苦しみ・・・?」

 

「そうですわよ。あのプリキュアの女、病気みたいでしたけど、あなた方は助けに行くと言いながらも、その病気になった人の苦しみなんか理解していらっしゃらないのですよね。そんな輩は苦しんで当然のことですわ」

 

シビレルダはスパークルの言葉を不愉快に感じたのか、冷淡な口調でそう言い放った。病気の苦しさを理解しないようなやつは、病気に苦しんでいたほうがいいと。

 

「そんなことないわ!! 私たちだって、病気になれば苦しいって気持ちになるし、他人が苦しんでるのを見れば辛い気持ちになるわ!! 確かに病気になった人をかわいそうだとは思うけど、だからと言って他人を苦しめていいっていう理由にはならないわ!!」

 

「そんなものはあなた方の理屈ですわ。本当に病気になったっていう人の発言ではないですの」

 

フォンテーヌが反論すると、シビレルダはそれをきっぱりと切り捨てる。

 

「言っていることは難しくてわかんないけど・・・あたしはのどかっちの友達なの!! 友達を放ってなんかいけないよ!!」

 

「っ・・・何が友達ですの・・・!! ワタクシは、友達なんかできたこともないですのに・・・!!!!」

 

スパークルの言葉に、余裕の表情をしていたシビレルダが一変して険しい表情へと変える。

 

「何はともあれ、これ以上他人を傷つけるのは許しません!!」

 

アースはシビレルダを睨みつけながら、強い口調でそう言い放った。

 

「っ・・・メガビョーゲン!! やってしまいなさい!!」

 

「メッガァ〜!!」

 

シビレルダは怒りながらメガビョーゲンに命令すると、ツルに付いたアケビをプリキュアたちに向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「のどかを、これ以上苦しめないでください!!」

 

一方、かすみは敵であるクルシーナに向かって頭を下げていた。クルシーナの側には、病気で苦しんでいるのどかの姿があった。

 

のどかや友達を、これ以上傷つけたくないし、苦しめたくない・・・そんな想いからかすみはクルシーナに頼み込むしかないと考えたのだ。

 

クルシーナはかすみのそんな姿を無表情で見つめていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナは無言でかすみの前に歩み寄ると、その場にしゃがみ込んで彼女を見下ろす。

 

「・・・お前のその頼みを聞いたとして、アタシに何のメリットがあるわけ?」

 

「っ・・・」

 

「ビョーゲンズのアタシにそれを言うってことは、アタシに生きるのをやめろと言っているようなもんよ。わかってる?」

 

「・・・・・・・・・」

 

かすみはこう言われることは想定の上だった。このビョーゲンズにとっては、のどかを苦しめられないなら、誰を苦しめればいいんだという話。しかし、この街の住民や友達を差し出すわけにはいかない。

 

だったら、どうすればいいか・・・・・・相手を出すことができないのであれば・・・・・・。でも、それではもしかしたらのどかたちと敵対することになってしまう。それでも、彼女たちを苦しめるくらいなら・・・・・・!!

 

かすみは意を決して、口を開いた。

 

「だったら、私を苦しめてください!!」

 

「・・・?」

 

その発言にクルシーナはきょとんとしたような表情をした。

 

「・・・どういうこと?」

 

「私をビョーゲンズのところに連れて行って、私を苦しめればいい!! 私はのどかの体内で成長した、のどかの生き写しみたいなもの、私を苦しめるということは、のどかを苦しめるのと同じことだ。だから、私を連れて行けば、お前にとっても都合がいいだろう・・・?」

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナはその言葉に少し間を置いた後、しゃがんだ状態から立ち上がった。

 

「お前はビョーゲンズで、あいつは人間だ。苦しませ方の次元が違う。まして、お前なんかを苦しめたところでアタシは何の価値も見出せない。だって、お前とあいつじゃ、似てても全然違う。そんなお前があいつの代わりになる? 冗談は顔だけにしてほしいね。あいつを助けたいからそういうことを言ってんだろ?」

 

「お前は他人で苦しめることができればそれでいいんだろ? だったら、私でも例外じゃないはずだ。病気で苦しめられないんだったら、別のことで私を苦しめればいい。私もビョーゲンズなら、他人を苦しめることができるはずだ。他人の苦しみは私の苦しみ、その苦しみはお前への快楽。悪いことは何もないはずだよ」

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナはかすみのいつの間にかタメ口を無くしたその言葉に口を閉じる。そして、のどかとかすみの両方を見やった後、もう一度口を開く。

 

「お前、それがどういうことかわかってる? お前はアタシたちに従ってビョーゲンズの一員となって、お前が関わった人間との付き合いも全部否定することになんのよ。それがたとえプリキュアの連中であってもね。それでもいいっての?」

 

「私は構わない・・・!!!」

 

「そこにいるキュアグレースとも一緒にいられなくなるのよ。それでもいいっての?」

 

「私はのどかを傷つけないためなら、それでもいい・・・!!!!」

 

クルシーナが忠告のような言葉を言うが、かすみはそれに動揺することなく強い口調で言った。それもわかった上での発言だった。このまま、のどかやちゆたちを傷つけるくらいなら・・・。

 

「ふふっ、ふふふふふふ・・・」

 

「何がおかしいんだ・・・!?」

 

「い〜や? キュアグレースを守るとか言ってるけど、ビョーゲンズの一員になるってことは結局はあいつらを傷つけることになるって思ってねぇ。言ってることが矛盾してるわよね? それが面白くってね」

 

かすみを笑うクルシーナはそこまで指摘すると、彼女に顔を近づける。

 

「いいわ。お前がアタシたちのところに来るかわりに、あいつを苦しめないであげる、今回はね。元気も元に戻してあげるし、テラパーツから放出された赤い病気も抜いてあげる」

 

「ほ、本当か・・・・・・??」

 

クルシーナが頼みを聞いてくれたことに、安堵したような表情をするかすみだが、クルシーナは一変して無表情に変える。

 

「ただし、お前にはビョーゲンズの一員として活動すると同時に、その理由を誰にも言わないこと、たとえプリキュアであってもね。もし歯向かったら・・・わかってるわよね?」

 

「・・・・・・わかった、約束する」

 

「・・・ふふっ♪」

 

無表情だったクルシーナは、考えるように間を置いたかすみの言葉に笑みを浮かべた。

 

「立て。いつまでも地面に這いつくばってないでさ」

 

クルシーナがそう命令すると、かすみはゆっくりと立ち上がった。そして・・・・・・。

 

ドスッ!!!!

 

「がぁっ・・・!?」

 

「・・・交渉成立ね」

 

突然、クルシーナはかすみの腹部を突き破るようにして中に入れ、そう言った。かすみはあまりの激痛に体をくの字に曲げて息を吐いた。

 

「がっ・・・な・・・な、に・・・を・・・??」

 

「安心しろ。アンタの中にあるあいつの元気を抜くだけだから」

 

「ぐっ・・・が、ぁ・・・!」

 

かすみは激痛に呻きながら突然の行動に狼狽するも、クルシーナは耳元でそう言い聞かせながら手を弄るように動かし、その度にかすみは苦痛に呻く。

 

「あ゛っ・・・がぁぁ・・・ぁっ・・・」

 

体を弄られる激痛が頭に断続的に続き、かすみの体が悲鳴をあげ、気が狂いそうになる。それでも、かすみは苦痛で顔を歪めながらも、クルシーナの首に手を回して痛みに耐えようとする。

 

その行いが数分間続いた後・・・・・・。

 

ズボッ!!!

 

「あ・・・あぁ・・・!」

 

クルシーナは何かを掴むとかすみの体から手を引っこ抜き、激痛を味わっていたかすみはその場から崩れ落ちた。そして、痛みを緩和させるかのように体を丸めて小刻みに震わせる。

 

「大袈裟ね、たかがこの程度で。人間もそうだけど、アンタも辛抱がないのね」

 

痛みに震えるかすみを見下ろしながら、クルシーナは不敵な笑みで嘲笑の言葉を浴びせる。その手には白く光る何かがあった。

 

「ぐっ・・・それ、は・・・?」

 

かすみは痛みで飛びそうな意識を保ちながら、クルシーナの手に持っているものを見る。

 

「あいつの元気よ。っ・・・全く生き生きと輝いていて、本当不愉快だわ。とっととこいつに戻すか」

 

手に持っているものに不愉快そうな顔をしたクルシーナは早く手放したいと言わんばかりに、ぐったりしているのどかに近づいていく。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

のどかは顔を土気色に変えており、呼吸も荒くなっていてそろそろ限界のようだった。

 

(・・・呼吸が止まる前触れの呼吸してる。もう少しあいつと話してたら危なかったわね)

 

クルシーナはのどかを見つめながらそう考えると、空いているもう一方の手でのどかに手を伸ばす。

 

「しんら、ちゃん・・・苦しい、よ・・・たす、けて・・・」

 

「っ!!」

 

のどかは朦朧とした意識なのか、過去の夢でも見ているのか、朧げに弱々しい声で旧友に助けを求めた。

 

それを聞いたクルシーナは手を止めるも、何やらズキリと頭の中に痛みを感じた。先ほどのシビレルダがテラビョーゲンになった瞬間を目撃した時と同じように、何かが引っかかった。

 

しかし、そんなの知るかと言わんばかりに険しい表情になると、躊躇なくのどかの体に手を突っ込んだ。

 

「ぐっ・・・!? か、か・・・はぁっ・・・!」

 

その瞬間、のどかの目が大きく見開かれ、痛みで息を大きく吐き出すが、クルシーナはすぐに何かを掴むとそれを引きずり出すように引っ張る。それはこれまでの赤い靄とは全く違う、紫がかったような赤い靄だった。

 

「うっ・・・うぁぁ、ぁっ・・・!」

 

「っ・・・!」

 

クルシーナによって徐々に引きずり出されていく赤い靄。それによって身体中に激痛が走り、その苦しみの声をあげるのどか。しかし、クルシーナはそんな彼女の声もおかまいなしに赤い靄を引っ張っていく。

 

「あ゛ぁぁっ・・・あ゛ぁぁぁぁぁ・・・!!!」

 

「ふふっ・・・いい感じの赤い靄の塊ねぇ。キュアグレースの苦しみがピリピリと伝わってくるわぁ♪」

 

のどかは苦しみながら、濁ったような声をあげる。クルシーナは苦しそうな声を聞いて笑みを浮かべつつも、彼女の中で成長した赤い靄を見ていた。

 

クルシーナは恍惚としたような感情に浸りながら、赤い靄をさらに引っ張り出していく。

 

「ぐぅぅ、あ゛ぁぁぁぁっ・・・が、ぁぁぁぁぁぁ・・・!!!!」

 

「何か引っかかってんのかしら? テラパーツの塊が中々出てこないわねぇ・・・」

 

「ぐっ、うぅぅぅ・・・ぐ、が、ぁぁっ・・・!!」

 

クルシーナは赤い靄を引っ張り出そうとするも、のどかの体から引っ張り出てこない。濁った苦しみの声を上げていたのどかだが、クルシーナが無理に引っ張り出そうとすると、もがくように首を左右に振りながら体を震わせて苦しむ。

 

「うぅぅぅぅ・・・」

 

その様子を辛そうに見つめていたかすみは、痛む体に鞭を打ちながら立ち上がりよろついた足取りでクルシーナに近づき、彼女が掴んでいる赤い靄を掴む。

 

「っ?」

 

「私にも・・・手伝わせて、くれ・・・」

 

かすみは苦悶の顔が残っていながらも、強い眼差しでそう言った。ぐったりしたように息も絶え絶えだが、そこにはのどかを助けたいという気持ちが宿っていた。

 

「・・・ふん、好きにしたら?」

 

クルシーナは不機嫌そうな表情ながらもそう言うと、二人は一緒に赤い靄を引っ張る。

 

「ぐ、ぁぁぁぁぁ・・・ぐぁっ、がぁ・・・!!!!」

 

のどかが獣のような声をあげる中、赤い靄は二人の力でなのかどんどん引きずり出されていく。

 

「うっ、ぐっ、ぁぁぁぁぁ・・・!!」

 

「か、はぁ・・・ぐっ、がぁぁぁぁ・・・!!!!」

 

「がっ、ぐっ、ぅぅ・・・ぐが、ぁぁぁぁぁ・・・!!!」

 

のどかは赤い靄が引っ張り出される度に、濁った声を上げ、苦しみ、時には首を左右に振りながらもがく。それでもクルシーナは約束のため、かすみはのどかを助けるために引っ張ることを諦めなかった。

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナはそんな中、彼女を無表情で見つめ、先ほどの頭痛を思い出す。何かを思い出しそうだったが・・・・・・。

 

「うぅぅぅぅ・・・うぁっ!! うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

のどかが一際大きな悲鳴のような絶叫をあげ、赤い靄が完全に彼女の体が引きずり出される。クルシーナとかすみはその勢いで尻餅をつくも、クルシーナの手には赤い靄が掴まれていた。

 

「よし、いい感じにテラパーツから発した赤い靄が成長したわね」

 

クルシーナは紫がかった禍々しい赤い靄を見つめながらそう言うと、立ち上がってもう片方の白く光るのどかの元気を彼女の体へと押し当てる。光はゆっくりと彼女の体の中へと入っていく。

 

すると・・・・・・。

 

「すぅ・・・すぅ・・・すぅ・・・」

 

あれだけ苦しみの表情を浮かべていたのどかの顔が安らかな表情になり、顔色も土気色から元の肌色を取り戻し、呼吸も安定して静かな寝息を立てている。

 

「・・・終わったわよ」

 

「っ、のどか!」

 

クルシーナは淡々とそれだけ言うとのどかから離れ、入れ替わりにかすみがのどかのそばに駆け寄る。

 

「・・・少し時間やるから、別れの挨拶ぐらいしてきたら? こいつも連れていけ」

 

「・・・ありがとう」

 

「礼なんかいらねぇよ」

 

クルシーナは二人に背を向けながらそう言うと、捕らえていたラビリンも放る。かすみはラビリンをキャッチするとその場でお礼を言い、そのままのどかを抱っこしながら病院へと向かっていく。

 

クルシーナはかすみが離れると、背後からその場を歩き去ろうとするかすみ、そして担がれるのどかの様子を見る。

 

「・・・キュアグレース」

 

クルシーナはかすみ、そして彼女に担がれているのどかの名前を呟きながら見つめる。

 

ズキン、ズキン・・・・・・。

 

「っ・・・」

 

すると、クルシーナの頭の中にまた痛みが走る。それも先ほどよりも大きな痛み・・・何かが引っかかる。

 

かすみの後ろ姿が、自分を小さくしたかのような少女の後ろ姿に見えてきていた。

 

「なんだ・・・私は、あいつを・・・担いだことがある・・・?」

 

頭痛に呻きながらも、何か思い出せそうな感じを出していたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シビレルダと、そのメガビョーゲンと交戦中のフォンテーヌ、スパークル、アース。

 

「メガァ〜!!」

 

メガビョーゲンは4つのツルに付いているアケビを伸ばして、拳のように叩きつけて攻撃する。

 

「はぁぁっ!!」

 

フォンテーヌは襲い来るアケビ攻撃を掻い潜りながらメガビョーゲンに迫り、蹴りを繰り出す。

 

「っ! きゃあぁっ!!」

 

しかし、地面を足に埋めているせいで踏ん張る力を強くしたメガビョーゲンのアケビ攻撃を食らってしまう。

 

「やあぁっ!!」

 

「メガァ・・・!!」

 

「っ!! うっ・・・あぁっ!!」

 

入れ替わりにスパークルも飛び出していくが、メガビョーゲンはアケビから種のような光弾を次々と放ち、スパークルは避けていくが、光弾の直撃を受けてしまう。

 

「メガビョーゲン!!」

 

次にアースが低く飛びながら迫っていき、メガビョーゲンはアケビを伸ばしていくも、アースはアケビに乗っかりながら避け、さらに飛んでくるアケビを華麗に避けてメガビョーゲンへと接近する。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!!」

 

メガビョーゲンの顔面に蹴りを繰り出そうとした時・・・・・・。

 

「ふっ・・・!」

 

バジュッ!!

 

「!? っ!! あぁ!!」

 

そこへ先を読んだようなシビレルダのピンク色の光弾が迫り、アースは間一髪で避けるが、そこへアケビが迫ってアースを捕らえ、そのまま地面に叩きつけて吹き飛ばす。

 

「はぁ・・・はぁ・・・ちょっと・・・休憩したいかも・・・」

 

「はぁ・・・ダメよ・・・はぁ・・・ここで・・・止まったりなんかしたら・・・」

 

スパークルが弱音を吐き始めるも、フォンテーヌが諭す。のどかを助けるという気持ちが奮い立たせてはいたものの、フォンテーヌとアースも額に汗が滲んで息が上がっており、動きも鈍くなり始めていた。

 

「どうしたんですの? 許さないと息巻いた割には、動きが疎かになっているようですが?」

 

シビレルダがそんなプリキュアたちを嘲笑しながら言った。

 

「ふーん・・・あいつも新しいテラビョーゲンか」

 

その様子を彼女たちから見えない木の上からダルイゼンが静観していた。

 

「メガビョーゲンは作れるみたいだけど、クルシーナやイタイノンほどのものじゃない。でも、進化させさえすれば、いろいろと使えるのかもな」

 

ダルイゼンは、シビレルダを見ながらそう分析していた。

 

「あのアケビと、シビレルダをどうにかできれば・・・!」

 

「・・・やってみましょう!!」

 

アースは前に出て、アースウィンディハープを取り出す。

 

「空気のエレメント!!」

 

アースはハープに空気のエレメントボトルをセットする。

 

「はぁっ!!」

 

無数の空気の弾をメガビョーゲンに向けて発車する。

 

「メガァ・・・!?」

 

空気の弾はメガビョーゲンの前で爆発すると、ツルに付いているアケビを包み込み、その攻撃を封じた。

 

「今よ!!」

 

「OK!!」

 

攻撃が封じられた今が好機だと踏んだフォンテーヌとスパークルが飛び上がる。

 

「させませんわよ!!」

 

「それはこっちの台詞です!!」

 

「っ!! きゃあぁ!!」

 

シビレルダは光弾を放とうと日傘を二人に構えるも、そこへアースが腕を振るって風を起こし、シビレルダの行動を封じる。

 

「火のエレメント!!」

 

スパークルは再度、火のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「はぁっ!!」

 

ステッキから火を纏った黄色い光線をメガビョーゲンの足元に目掛けて放つ。

 

「メェ!? メガ、ガ・・・!?」

 

地面が光線で熱せられたことでメガビョーゲンが苦しみ出し、熱さのあまり枝のような足を出しそうになる。

 

「はぁぁぁっ!!」

 

「ビョーゲン!?」

 

そこへフォンテーヌがドロップキックを顔面に放ち、地面から枝のような足が引っこ抜けたメガビョーゲンは吹き飛ばされた。

 

「よし、今だペエ!!」

 

「早く浄化するニャ!!」

 

ペギタンとニャトランの言葉を合図に、フォンテーヌとスパークルは頷くと水のエレメントボトル、光のエレメントボトルを取り出し、ステッキにはめる。

 

「「エレメントチャージ!!」」

 

そう言いながら光るステッキの先をハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「「ヒーリングゲージ上昇!!」」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングストリーム!!」

 

「プリキュア!ヒーリングフラッシュ!!」

 

フォンテーヌとスパークルはそう叫びながら、ステッキをメガビョーゲンに向けて、青色の光線と黄色の光線を同時に放つ。光線は螺旋状になって混ざっていった後、メガビョーゲンに直撃した。

 

その光線はメガビョーゲンの中に入ると、螺旋状のエネルギーは手へと変化して、4本の手が実りのエレメントさんを優しく包み込む。

 

水型状に、菱形状にメガビョーゲンを貫きながら、光線はエレメントさんを外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「「「お大事に」」」」

 

実りのエレメントさんが山のアケビへと戻っていくと、赤い靄に包まれた山が元の色を取り戻していく。

 

「くっ・・・クルシーナ様の元に退却ですわ!!」

 

シビレルダは後ずさりをしながらそう言うと、プリキュアたちに背中を向けて飛びながら逃げ去っていこうとする。

 

「あ、待ちなさい!!」

 

「コラァー!! 逃げるなー!!!!」

 

「逃がしはしませんよ!!」

 

プリキュアたちはそう言いながら、シビレルダのことを走って追っていく。

 

「なんだ・・・案外大したことないじゃん」

 

一部始終を見ていたダルイゼンは失望したようにそう言うと、クルシーナの元へ行くべくその場から姿を消す。

 

一方、クルシーナは・・・・・・。

 

「ん?」

 

蝕んでいた辺りの木が戻っていくのを見ていた。

 

「何よ、もう終わったの? やっぱりあいつの差し金でも、大したことないわね」

 

クルシーナは呆れたようにそう呟く。メガビョーゲンをあっさりと浄化されるくらいなら、シビレルダというテラビョーゲンもその程度なのだろう。もはや期待するに値しない。

 

「クルシーナ様ぁ・・・!!」

 

「っ・・・・・・」

 

そこへ逃げてきたシビレルダ、そしてその後を追ってきたグレース以外のプリキュアたちの姿が見えた。

 

クルシーナはシビレルダを見て、不機嫌そうな表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「のどか・・・・・・」

 

かすみはのどかの病室へと戻ってきていた。その側にはベッドでスヤスヤと眠るのどかの姿があり、その枕元にはラビリンの姿が。

 

「私は、キミと一緒で・・・楽しかった・・・一緒にサンドイッチを食べたことも、犬と戯れたことも・・・私にとっては、いい想い出だった・・・」

 

かすみは眠るのどかに儚げな表情を浮かべながらそう呟く。

 

「私は・・・・・・のどかのことが・・・大好きだよ・・・・・・」

 

かすみは瞳をウルウルと潤ませながら言う。その時だった・・・・・・。

 

「んん・・・んぅ・・・・・・」

 

「っ!!」

 

のどかがゆっくりとその目を開けた。意識を回復させたのだ。

 

「あ、かすみちゃん・・・・・・」

 

「のどかぁ!!」

 

「きゃっ」

 

かすみは目を覚ましたのどかに思わず、彼女の体に乗っかって抱きしめた。

 

「私は、気がどうにかなりそうだった・・・! メガパーツが抜けたのに、のどかがまだ治ってないということに・・・のどかの体調が悪化して意識が戻らなくて・・・!!」

 

かすみは嗚咽を漏らしながら心情を吐露した。のどかはきょとんとしていたが、すぐに笑みを浮かべて彼女の頭を撫でた。

 

「あ!! ちゆちゃんたちは!?」

 

のどかは自身の中のメガパーツを追っていったであろう友人の行方を案じて尋ねた。

 

「・・・まだ、戻ってない。多分、戦ってるんだろう・・・」

 

「っ!! ラビリン!! ラビリン!!!!」

 

のどかはそれを聞くと、枕元で眠っていたラビリンを揺すって起こす。

 

「ぅぅ・・・ラビ? あれ、ラビリンは・・・」

 

ラビリンは目を覚ますと辺りを見渡し始める。どうやら自分がいつの間にか眠っていたことに気づいていなかったようだ。

 

「ちゆちゃんたちを追わなきゃ!! 」

 

「え・・・だ、大丈夫ラビ!? のどか!!」

 

「うん、もう大丈夫。なんだかさっきよりも元気になったみたい」

 

「っ・・・わかったラビ」

 

ラビリンはのどかを心配していたが、彼女のその言葉を聞いて納得し、二人はベッドから立ち上がる。

 

「かすみちゃんも一緒に!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

のどかは意を決した表情で、かすみに手を差し伸べるが、彼女は暗い表情をして顔を背けた。

 

「かすみちゃん・・・?」

 

「・・・のどかは先に行っててくれ。私はちょっと探したいものがあるから」

 

疑問に思うのどかに、かすみは暗い声でそう告げた。

 

「でも、かすみちゃんが・・・」

 

「のどか!! 行くなら早く行かないと大変なことになるラビ!!」

 

のどかはそんなかすみに声をかけようとしたが、ラビリンが時間を争うと言わんばかりにのどかに催促する。

 

「・・・わかった。かすみちゃん、来てね!! 私、信じてるから!!」

 

「っ!!」

 

のどかはかすみにそう言い残して病院の外へと駆け出していく。かすみはその言葉に目を見開いた後、瞳をウルウルと潤ませる。

 

「のどかぁ・・・」

 

かすみは嗚咽を漏らしながら、彼女の名前を呟く。その言葉は、きっと彼女には届いてないだろう。

 

かすみの目からは涙がポロポロと溢れてくる。

 

「ちゆぅ・・・ひなたぁ・・・アスミぃ・・・みんなぁ・・・」

 

もう、私はキミたちの側にはいられない・・・・・・だって、きっとまた私は、キミたちを傷つけてしまうから・・・・・・。

 

私がもし、ビョーゲンズの一員になっても・・・許してくれるよね・・・? だって、みんな・・・優しいんだもん・・・。

 

一緒にいたいよ・・・のどか・・・・・・いつまでも、一緒に・・・・・・。

 

でも、きっとそれも叶わない。だったら、せめて最後は・・・・・・。

 

・・・・・・そうだ、ちゆが言ってた。笑顔でいないと・・・。

 

かすみは涙を自分の腕で拭うと、儚げな微笑みを浮かべ始める。目についた涙は残ったままだけど。

 

「のどか・・・・・・」

 

もうみんなのところへと向かってしまった。その少女が出ていったところを見つめる。

 

「みんな・・・すまない・・・ありがとう・・・・・・」

 

キミたちから離れることを許してほしい、そしていろんな想い出をくれたことに感謝したい。

 

「さようなら・・・・・・」

 

かすみは満面の笑みを浮かべながらそう言った。悔いはないよという意思を顔に現すかのように。しかし、その目からは我慢しきれなかった涙が流れていた。

 

そして、かすみはその場から姿を消した・・・・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第90話「怪物」

前回の続きです。
プリキュアから逃げ帰ってきた、シビレルダだったが・・・・・・。

原作第28話がベースの話は、あと2話ぐらいで完結予定です。


 

「クルシーナ様ぁぁぁ!!!」

 

クルシーナは目の前の光景に、不機嫌そうな表情を浮かべていた。なぜなら、地球を蝕むと豪語していたシビレルダが逃げ帰って来た上に、プリキュアの連中を連れて来たからだ。

 

「クルシーナ様、この小娘たちが寄ってたかっていじめようとするんですの〜、なんとかしてくださいまし!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

シビレルダがクルシーナの背後に回って、庇ってもらおうとするが、不機嫌そうなクルシーナは無言だった。

 

「クルシーナだ!!」

 

「あぁ〜!!あんた、のどかっちとかすみっちをどこにやったのよ!?」

 

「のどかとかすみさんはどこにいるんですか!? 早く解放しなさい!!」

 

プリキュアたちはクルシーナの姿を視認すると、のどかとかすみを返してもらおうとする。

 

「・・・お前らバカなの? 見りゃわかんだろ。あいつらはいないよ」

 

「のどかとかすみをどこにやったの!?」

 

かすみに渡したことを知らないプリキュアたちはクルシーナを問い詰めようとする。

 

「お前らに教える義務なんかあると思う? アタシは今、機嫌が悪いんだからさぁ」

 

シュイーン!

 

「あ・・・」

 

ゲシッ!!!

 

「あぁぁ!?」

 

クルシーナは不機嫌そうな声でそう言うと、シビレルダの背後へと瞬間移動をすると彼女の背中を蹴り飛ばす。

 

「・・・アンタ、テラビョーゲンなんだろ? 進化したアンタがプリキュアごときに遅れを取るはずなんかないと思うけど?」

 

「で、ですが、クルシーナ様・・・ワタクシは・・・!」

 

クルシーナが威圧しながらそう言うと、シビレルダは体をガタガタと震わせる。何やらプリキュアと戦うことに怯えているようだが、そんなことをビョーゲンズの幹部であり、娘でもあるこの女が許すはずもなかった。

 

「戦えないって・・・? ハッ、最近生まれたばかりのビョーゲンズですら戦えるのに?」

 

「違います!! でも、ワタクシは・・・」

 

「言い訳なんていらねぇんだよ。とっととプリキュアを倒せ!! メガビョーゲンがダメならお前がやるんだよ」

 

「っ・・・」

 

「やれないなら、お前をアタシと一つにするけど? その代わりお前の存在と自我は無くなるけどね」

 

シビレルダの話の途中で遮りながらクルシーナは高圧的な口調で言う。お前が戦えないなら、お前を吸収して自分の力とするしかない。脅しのような発言だが、クルシーナの目は本気だった。

 

シビレルダは身を震わせるが、断れば自分が消されてしまうため、やらないと言うわけにはいかなかった。

 

「・・・わかりましたわ。ワタクシがプリキュアを倒して見せます」

 

「・・・ふん」

 

シビレルダからその言葉を聞いたクルシーナは、特に何も答えずに木に寄りかかって静観を始めた。

 

「ちょっと!! あんた、そういう言い方ってあんの!?」

 

「酷すぎます・・・!!」

 

「あなたが相手をすればいいじゃない!!」

 

プリキュアたちはあんまりな行いに怒りを露わにする。彼女が戦えなければ、クルシーナ本人がやればいいのに、それを脅して無理矢理やらせようとするなんて、無慈悲にもほどがある。

 

「そいつを浄化できたら相手をしてやるよ。ほら、シビレルダ!」

 

クルシーナはそれをどこ吹く風で聞き流し、シビレルダに命令する。

 

「お覚悟!!」

 

シビレルダはその場から立ち上がると、プリキュアたちは警戒して構える。振り向きざまに日傘を構え、ピンク色の光弾を放つ。

 

「「ぷにシールド!!」」

 

フォンテーヌとスパークルは、肉球型のシールドを展開して光弾を防ぐ。しかし、そんなプリキュアたちの背後にシビレルダが現れる。

 

「「「っ!!」」」

 

「ふっ!!!」

 

「「「あぁっ!!」」」

 

シビレルダは日傘を薙ぎ払うように振るい、三人を吹き飛ばす。三人は転がされるも、なんとか立て直して踏ん張る。

 

「っ!?」

 

「はぁっ!!」

 

シビレルダはまずアースに狙いをつけ、日傘を構えるとピンク色の光弾を次々と放つ。アースはそれを交わしつつ、シビレルダへと迫っていく。

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

「っ・・・!」

 

アースはパンチを繰り出し、シビレルダはそれを片手で受け止める。

 

「「はぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 

そこへフォンテーヌとスパークルが蹴りを放つが、シビレルダは日傘を開いて盾のように防ぐ。

 

「みんな、邪魔ですわ・・・!!!!」

 

「「「きゃあぁぁ!!!!」」」

 

シビレルダはそうぼやくと、それぞれの方向に受け流して体を回転させて三人を吹き飛ばす。

 

「っ、強い・・・!」

 

「やっぱり、テラビョーゲンですね・・・」

 

「でも、負けるわけにはいかないし・・・!!」

 

プリキュアたちはそう言いながらも立ち上がるが、シビレルダは閉じて日傘を構えるとピンク色の光弾を連続で放ち、爆発を起こす。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

「っ!!」

 

その爆発の煙からフォンテーヌが飛び出してパンチを繰り出すも、シビレルダは受け止めて後ろへと受け流す。

 

「やぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「っ、はぁっ!!」

 

「っ・・・!」

 

次にスパークルが蹴りを放つも、シビレルダは日傘を彼女の腹部に挿して吹き飛ばす。

 

「空気のエレメント!!」

 

アースが取り出したハープに空気のエレメントボトルをセットする。

 

「ふっ!!」

 

ハープから無数の空気の弾がシビレルダに向かって発射される。

 

「ふん!」

 

シビレルダは日傘を開くと、高速で回転させて赤い風を起こし、空気の弾を吹き飛ばした。

 

「っ!! あぁっ!?」

 

それに驚いたアースはそのまま放たれた赤い風に飲み込まれる。

 

「「アース!!」」

 

二人はアースを心配するが、そのフォンテーヌの近くへシビレルダが一気に詰め寄る。

 

「はぁっ!!」

 

「うっ!?」

 

シビレルダは閉じた日傘を腹部へと刺突させ、隙を突かれたフォンテーヌは目を見開いて苦痛に呻く。

 

「きゃあぁぁ!!」

 

そこへシビレルダはさらに回し蹴りを放って、フォンテーヌを吹き飛ばした。

 

「フォンテーヌ!! 許さない!!」

 

シビレルダへと怒ったスパークルが飛び出し、パンチと蹴りの応酬を繰り出す。しかし、シビレルダはパンチを手で受け流したり、蹴りを避けたりと最小限の動きでいなしていく。

 

「はぁっ!!」

 

「っ・・・ふっ!!」

 

「あぁっ!?」

 

スパークルは踵を落とすも、シビレルダは日傘で受け止め、さらに持っていない方の手でピンク色の光弾を放って吹き飛ばす。

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナはその戦いの様子を黙って静観していた。その表情は不機嫌そうな表情だが、真剣に見ていた。

 

特にシビレルダを見ていて、何かを思い出しそうな感じだった。

 

シュイーン!

 

「!!」

 

と、そこへ風を切ったような音が聞こえてきたかと思うと、振り向けばダルイゼンの姿があった。

 

「・・・何しにきたワケ?」

 

「お前のテラビョーゲンの様子を見に来ただけだけど?」

 

「正確に言えば、アタシのじゃないけどね。アタシが促進させてやったけど」

 

ダルイゼンはクルシーナの隣に近づきながらそう言うと、彼女は不機嫌そうな表情を崩さずに言った。

 

「・・・どういうこと?」

 

「話してたか覚えてないけど、アタシらは元々キングビョーゲンの娘として4人同時に生まれて、一緒に配下になるはずだったの。クラリエットお姉様、アタシ、ドクルン、イタイノンのね。あいつはおそらく、そのクラリエットお姉様の赤い靄が患者の女に取り憑いて生まれた存在だと思ってんの。アタシは単にそれをメガパーツで成長が早く終わるように促進させてやっただけってこと」

 

「・・・ああ、そういうこと」

 

ダルイゼンが尋ねると、クルシーナは説明する。

 

「・・・・・・・・・」

 

二人は話を終わらせると、再びプリキュアとシビレルダの戦いを傍観する。

 

「キュアグレースはここにいないんだな」

 

「・・・脱走者が連れてったわよ。まあ、もう脱走者でもないけどね」

 

「脱走者って、この前のあの女のことか。俺たちと同じ気配の」

 

ダルイゼンはキョロキョロと見渡してキュアグレースがいないことを呟くと、クルシーナが淡々と話す。

 

「ええ。今日からアタシたちの仲間になるのよ」

 

「でもあいつ、メガビョーゲンは作れるのか?」

 

「作れないけど、作れるようにしてやるさ。あ・・・!!」

 

クルシーナは淡々と答えていたが、すぐにハッと思いついたように反応した。

 

「そうだ。あいつにもちゃんと名前を与えてやらないとねぇ」

 

脱走者にもしっかりとしたビョーゲンズとしての名前をくれてやろうと不敵な笑みを浮かべた。

 

「氷のエレメント!!」

 

フォンテーヌは氷のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「はぁっ!!」

 

ステッキから氷を纏った青い光線をシビレルダに向かって放つ。

 

「ふっ!!」

 

シビレルダは日傘を開いて回転させて、光線を受け止める。

 

「雷のエレメント!!」

 

スパークルは雷のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「はぁっ!!」

 

ステッキから電気を纏った黄色い光線を放つ。

 

「っ・・・ぐぅっ!!」

 

シビレルダは同じように日傘で受け止めるが、そこから通して自身が痺れてよろけ出す。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

そこへアースが飛び上がってこちらに蹴りを繰り出す。

 

「うぅぅぅ・・・!!!!」

 

シビレルダは咄嗟に同じように日傘で受け止めるが、力を殺しきれずに背後へと吹き飛ぶ。

 

「いけるよ!!」

 

「ええ!!」

 

スパークルとフォンテーヌは、徐々にシビレルダを押していっていると確信を得ると、二人で同時に飛び上がり、飛び蹴りを繰り出す。

 

「っ! きゃあぁ!!!!」

 

シビレルダは咄嗟に日傘を構えるが、力を抑えきれずに日傘ごと吹き飛ばされて転がる。

 

「アース、今よ!!」

 

フォンテーヌの言葉を合図に、アースが浄化の構えを取る。

 

「アースウィンディハープ!」

 

持っていたハープに風のエレメントボトルがセットされる。

 

「エレメントチャージ!!」

 

アースはハープを手に取って、そう叫ぶとハープの弦を鳴らして音を奏でる。

 

「舞い上がれ! 癒しの風!!」

 

手を上に掲げると彼女の周りに紫色の風が集まり始め、ハープへとその力が集まっていく。

 

「プリキュア! ヒーリング・ハリケーン!!!」

 

アースはハープを上に掲げてから、それを振り下ろすとハープから無数の白い羽を纏った薄紫色の竜巻のようなエネルギーが放たれる。

 

そのエネルギーは一直線にシビレルダへと向かっていく。

 

「っ・・・!!」

 

シビレルダは迫り来るエネルギーに目をギュッと瞑るが・・・・・・。

 

キュイーン!

 

その間にクルシーナが割って入り、エネルギーを片手で受け止める。

 

「? クルシーナ様・・・?」

 

「・・・ふん」

 

クルシーナは自分の後ろで膝をついているシビレルダに鼻を鳴らすと、手のひらにバラのような花を生み出すと目の前のエネルギーを吸収していく。

 

風のエネルギーは少しずつ吸収され、小さくなっていく。

 

「そ、そんな・・・!!」

 

「アースの浄化技が・・・!!」

 

「吸収されていくニャ・・・!」

 

アースは浄化技をクルシーナに吸収されていくことに動揺する。そうしている間に、風のエネルギーはバラの中に収まっていき、遂には消えてしまった。

 

「やっぱり、あいつには普通の浄化技は・・・!」

 

「全く通用してないペエ・・・・・・」

 

フォンテーヌは以前、クルシーナに完敗を喫したことを思い出す。あの時も、自分たちの浄化技を吸収され、倍にして返されたのだ。

 

「・・・・・・・・・」

 

アースの浄化技を吸収したクルシーナは手のひらのバラを消滅させると、自分の腕を振りながら見つめる。

 

「クルシーナ様・・・!」

 

「っ・・・・・・」

 

そこへシビレルダの声が聞こえ、クルシーナは顔を顰めた。

 

「助けてくださったのですね!! ワタクシ、感無量ーーーー」

 

ドスッ!!!!

 

「・・・・・・え?」

 

シビレルダが嬉しそうな声を出すが、それを遮るかのように彼女の体が揺れた。一瞬、彼女は何が起きたのかわからなかったが、衝撃を受けた場所を見てみる。

 

すると、クルシーナがシビレルダの胸にメガパーツを押し当てていた。

 

それを見てシビレルダは動揺して、ガクガクと動かしながらクルシーナの顔を見る。

 

「ク・・・クルシーナ、様・・・?」

 

「・・・ふん」

 

声を震わせながら言うシビレルダに、クルシーナは不敵に笑う。そして、まるで押し込まれるかのようにメガパーツがシビレルダの体の中に入っていく。

 

ドックン!!!!

 

「うっ!? ぐっ・・・うぅぅ!!」

 

シビレルダはその直後、胸を押さえて苦しみ始め、後ずさりをし始める。

 

「い、一体・・・なに、を・・・??」

 

「見りゃわかんでしょ。アンタにメガパーツを入れてやったのよ」

 

「な・・・な、ぜ・・・?」

 

シビレルダは苦しみながらも問いかけると、クルシーナは不敵に笑いながら答える。シビレルダは理解できなかった。なぜメガパーツを自身の体に入れる必要があったのか。

 

「・・・アンタが使えないからに決まってんだろ。プリキュア一人まともに倒せないし、メガビョーゲンも大したことない。そんなアンタでも、せめてアタシの実験の役には立てよ」

 

「そ・・・そん・・・な・・・・・・ぐっ・・・う、うぅぅぅ・・・!!!!」

 

クルシーナの冷酷な言葉に、シビレルダは絶望の表情を浮かべる。そして、それに呼応するかのように彼女の体から紫色の禍々しいオーラが溢れ出す。

 

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

シビレルダが耐えきれなくなって悲鳴のような絶叫をあげると共に、彼女の体が紫色の禍々しいオーラに包まれていく。

 

「っ・・・一体、何が起こってるの!?」

 

「クルシーナが、メガパーツをあいつに入れて・・・?」

 

フォンテーヌやスパークルが凄まじい轟音に驚く中、禍々しいオーラに変化が起きていた。シビレルダを包むオーラは等身大の大きさから、さらに大きくなっていき、メガビョーゲンほどの大きさになる。

 

そして・・・・・・。

 

「ウゥゥゥ・・・ウゥゥゥゥゥゥ・・・!!!!!」

 

禍々しいオーラが晴れると、現れたのは赤い翼のようなものを生やし、姿はそのままに怪物と化したシビレルダであった。

 

「うぇぇ!? でっかくなった!?」

 

「メガパーツの力に耐えられなくなって、暴走しているんだわ・・・!!」

 

スパークルとフォンテーヌは怪物となったシビレルダを驚いたように見ている。

 

「ウァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

シビレルダは雄叫びのような咆哮を上げると、ドリルのような髪型を上に突きあげてそこから赤い光線を発射した。すると、それは周囲の木々に当たって赤い靄に包んでいく。

 

「ふーん・・・テラビョーゲンにメガパーツを入れるとああいうふうになるのね。まあ、こいつの場合は力に耐えきれなかったからだと思うけど、まあ、あいつはどうせ失敗作ね・・・」

 

クルシーナは怪物と化したシビレルダの様子をつまらなそうに見ていた。

 

「失敗作ですって!?」

 

「ひどいじゃん!! そんな言い方!!!!」

 

「なぜあんなことをするのですか!? あなたを慕っていたビョーゲンズを、あんな姿にするようなことを!?」

 

クルシーナの冷酷な言葉に、プリキュアたちは口々に怒りの声をあげる。シビレルダがまともに戦えないにしても、あそこまでする必要があったのか。

 

「心外ね。アタシはあいつを役立てようとしているだけよ。ああいう姿になっちゃえば、少しは力も増すってもんでしょ。運が良かったわね、あいつも」

 

クルシーナは不敵に笑いながらそう答えた。

 

「仲間をあんな風にしておいて、なんてこと言うの!?」

 

「ふーんだ。それよりもあいつをお手当しなくていいの? 放っておいたら取り返しのつかないことになるけど?」

 

フォンテーヌの咎めるような声も、クルシーナは平然と受け流し、不敵に笑いながらそう言った。

 

「フォンテーヌ!! 今はシビレルダを止めましょう!! クルシーナたちはその後です!!」

 

「くっ・・・わかったわ・・・!」

 

アースの言葉に、フォンテーヌは納得がいかない感情を抱きつつも、3人でシビレルダを止めるために向かった。

 

「クルシーナ!!」

 

クルシーナはその背後を無表情で見つめていると、今度はダルイゼンの声が聞こえてくる。

 

「お前、何をやってるんだ!? せっかく生まれたテラビョーゲンをあんな風にして!!」

 

「・・・あら、普段は何の興味も持たないようなアンタが、そんな声も出せるんだ?」

 

ダルイゼンの咎めるかのような声に、クルシーナがどこ吹く風で意外そうな感じで言った。

 

「お父様の快楽を満たせないような奴なんか必要ないわよ。メガビョーゲンを生み出せても、使えない奴はいたって邪魔なだけよ。だったら、アタシが都合よく利用してやろうと思ってね。まあ、ちょっとした実験もあったし」

 

「っ・・・これじゃあ、俺たちがやってる意味が全くないだろうが・・・!!」

 

クルシーナの言葉に、ダルイゼンは拳を握りしめ、悔しそうな表情になりながらそう言う。

 

そんなダルイゼンに、クルシーナは笑みを浮かべながら肩に手を置く。

 

「安心しなさいよ。ドクルンにも密かに協力はしてもらってるから、もっと強くて有能なテラビョーゲンを生み出すための作戦をね」

 

「っ・・・ふん!」

 

ダルイゼンは何か納得がいかないと言ったような反応をすると、これ以上は何も言わずに引き下がって、プリキュアとシビレルダの戦いを傍観し始める。

 

「ウァァァァァァァァァァ!!!!」

 

シビレルダは咆哮を上げながら、赤い光線を周囲にはなって、赤い靄へと蝕んでいく。どうやら完全に正気を失っている様子だ。

 

「シビレルダ、やめなさい!!」

 

そこへプリキュアたちが駆けつけ、フォンテーヌが咎めるように叫ぶ。

 

「ウゥゥ? ウァァァァァ!!!」

 

唸り声を上げるシビレルダは大きな日傘を生み出すと、それを閉じた状態のまま向け、そこから赤ピンク色の禍々しい巨大な光弾を放つ。

 

プリキュアの3人は飛んで避けると、着弾した光弾は凄まじい爆発を起こす。

 

「「はぁぁっ!!」」

 

フォンテーヌとスパークルはステッキからそれぞれの色の光線を放つ。

 

「ウゥゥゥ、ウァァ!!!」

 

シビレルダは両腕でガードすると、それを振り払うように交差して腕を広げる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

アースは高い位置から飛んで、シビレルダに向かって蹴りを放つ。

 

「ウゥゥ!? ウァァァァァァァァァ!!!!」

 

蹴りはシビレルダの胸に直撃するも、少し後ろによろけただけで、シビレルダはすぐに咆哮を上げるとドリルのような髪を逆立てて、小さな日傘のようなものを複数生成するとそれをプリキュアにめがけて放つ。

 

「「ぷにシールド!!」」

 

「うっ・・・!!」

 

「うぅぅぅ・・・!!!!」

 

フォンテーヌとスパークルは肉球型のシールドを展開するも、激しい攻撃に吹き飛ばされそうになる。

 

「うっ・・・・・・」

 

シールドを張れないアースは両腕を交差させて耐えようとするも、体はボロボロになっていく。

 

「ウァァァァァァァァァ!!!!」

 

「「きゃあぁぁ!!!」」

 

その隙をついてシビレルダは背中の翼を広げて、フォンテーヌとスパークルへと飛び出すと拳を叩きつけて二人を吹き飛ばす。

 

「フォンテーヌ!! スパークル!!」

 

「ウゥゥゥゥゥゥゥ・・・ウァァ!!」

 

アースが二人を心配して叫ぶも、それに気づいたシビレルダが口から赤とピンクが入り混じった禍々しい光線を放つ。

 

「っ!? きゃあぁぁぁ!!!!」

 

アースは為す術もなく赤い光線に飲み込まれて吹き飛ばされてしまう。

 

「うぅぅ・・・あいつ、強くなってるし・・・!」

 

「っ・・・テラビョーゲンからさらに進化したから、パワーも増しているわ・・・!」

 

スパークルとフォンテーヌはぼやきながらも立ち上がり、シビレルダに立ち向かおうとする。

 

「いい加減諦めたら? お手当て続きでもう体力のないお前らに浄化なんか不可能よ」

 

そこへクルシーナが挑発して煽る。

 

「まだ疲れてないし!! 全然やれるもん!!」

 

「私たちは諦めないわ!!」

 

その言葉に二人は強気な口調で返す。プリキュアたちはお手当てを諦めようという意思はどこにもなかった。

 

「雨のエレメント!!」

 

フォンテーヌは雨のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「火のエレメント!!」

 

スパークルは火のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「「はぁっ!!」」

 

「ウゥゥゥ、ウゥゥゥゥゥゥ・・・!!」

 

二人は同時にステッキから光線をシビレルダに向かって放つ。シビレルダは大きな腕で光線を防ぐように動かす。

 

「はぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ウァァ!?」

 

そこへアースが勢いよく飛び上がって蹴りを放ち、腕に直撃するとシビレルダは数メートル吹き飛ばされる。

 

「ウァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

しかし、シビレルダは倒れることなく踏ん張るとさらなる咆哮を上げ、翼を広げて飛び出し、三人に向かって両手を叩きつける。

 

「「はぁっ!!」」

 

三人はそれを飛び上がってかわすと、フォンテーヌとスパークルはそれぞれの色の光線を放つ。

 

「ふっ!!」

 

アースは空中で腕から風を放って、シビレルダの動きを抑制しようとする。

 

「ウァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

シビレルダは口から先ほどよりも大きな赤とピンクが入り混じった光線を放ち、三人の攻撃を吹き飛ばす。

 

「きゃあ!!」

 

「うわぁっ!!」

 

「あぁっ!!」

 

その波状攻撃に思わず三人は目を覆う。そして、その隙にシビレルダはいつの間にかプリキュアの頭上へと姿を現していた。

 

「ウァァァァァァァ!!!!」

 

「あぁぁっ!!??」

 

シビレルダは手のひらを開いて種のような光弾をスパークルに向かって放つ。スパークルは降り注ぐ光弾の直撃を受けて吹き飛ばされ、地面へと叩きつけられた。

 

「スパークル!!」

 

「ウゥゥゥゥゥゥウァァァァァ!!!!」

 

「きゃあぁっ!!」

 

フォンテーヌがスパークルを心配する間も無く、シビレルダは急降下して蹴りをフォンテーヌに食らわせ、そのまま地面へ踏み潰すように叩きつけた。

 

「スパークル!! フォンテーヌ!!」

 

「ウァァァァァァッ!!!!」

 

「っ!? うっ・・・!!」

 

心配するアースに、シビレルダは日傘のようなものを出現させて放つ。アースは両腕を交差させて攻撃に耐え抜くのが背一杯だ。しかし、その隙にシビレルダが目の前にいて手が迫っていた。

 

「!! あっ!?」

 

アースは逃げる動作もできずに、シビレルダの巨大な手に捕まる。そして、そのまま地面へと放り投げ、アースは地面に叩きつけられた。

 

「「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」」

 

「はぁ・・・はぁ・・・うぅぅ・・・はぁ・・・」

 

プリキュアの三人は体を震わせながらも立ち上がるが、すでに呼吸は乱れていて、表情にも疲れが見えていた。

 

それでも三人は諦めずに、シビレルダに立ち向かおうとするが・・・・・・。

 

「ウァァァァァァァァ!!!!」

 

「「「きゃあぁっ!!」」」

 

「ウァァァァァァ!!!!」

 

「あぁぁっ!!」

 

シビレルダは巨大な拳を振るってフォンテーヌとスパークルの二人を吹き飛ばし、口から赤とピンクの禍々しい光線を放ってアースを吹き飛ばした。

 

「ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・ウァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

シビレルダはまるで勝利を確信したように大きな咆哮を上げる。しかし、完全に自制心を無くしている彼女はどう見ても暴走状態だ。

 

「うっ・・・」

 

「あぁ・・・」

 

「あぁぁ・・・・・・」

 

プリキュアの三人はこれまでのダメージが蓄積しているのか、倒れ伏して呻いたまま動かない。

 

「ふふふ、もう限界なんじゃないの? いい加減現実を受け入れなよ。お前らがどんなに努力をしたところで、それが結果なんだってさぁ?」

 

クルシーナは傷ついて倒れているプリキュアに向かって嘲笑の言葉を浴びせる。どんなにお手当てを諦めないと言っても結果がこの通りでは、努力など何の意味も無い。それがこいつらはどうしていつまでたっても理解しないのか?

 

そんなクルシーナの考えとは裏腹に、プリキュアの三人の顔は諦めの色を見せなかった。

 

「私は、絶対に諦めないわ・・・だって、4人とかすみとの5人で誓ったんだもの・・・どんなに絶望的な状況に陥ろうとも、絶対にやめたりなんかしないって!!」

 

「だって、あたしたちが諦めたら・・・楽しいことも、いろんな思い出も作れなくなっちゃう・・・だから、あたしたちがやめたら、何も守ることなんかできないんだよ!!!」

 

「私は、ラテやみんなのために頑張らなくてはならないのです・・・この素晴らしい地球や人々のため、そして友達のかすみさんやのどか、ちゆ、ひなたのためにも、このお手当てをやめるわけにはいきません!!!!」

 

プリキュアは動かない体とは裏腹に、強い口調でクルシーナの言葉に反論した。三人はどんなに困難な状況でも、諦めないことが重要だと、その力のおかげでこれまでの危機を乗り越えられると、だからお手当てを諦めるわけにはいかないと、そう信じているのだ。

 

「・・・もう聞き飽きたんだよ、そんな言葉」

 

「ウゥゥ・・・ウァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

クルシーナのつまらなそうに吐き捨てる言葉、それに呼応するかのようにシビレルダが雄叫びをあげた。

 

「ほら、こいつもそんな言葉が嫌いみたいねぇ・・・」

 

クルシーナは何かを察しているかのように言う。

 

「ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・!!!!!」

 

まるでその通りかのように、シビレルダは三人にトドメを刺そうと口から赤とピンクの入り混じった禍々しいオーラを溜め始める。

 

プリキュアの三人は先ほどの口調とは別に、疲労とダメージで動けずにいた。

 

そして、まさに口から光線を放とうとした・・・・・・その直後だった・・・・・・。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

「ウァァァ!?」

 

そこへ誰かが飛び蹴りを放ち、シビレルダの顔面に直撃する。完全に集中力を乱されたシビレルダはオーラの溜め込みを中断させられただけでなく、そのままよろけて押し倒された。

 

「っ?」

 

「今のは・・・」

 

「っ!! やっときたか・・・」

 

スパークルとフォンテーヌは何が起こったのかわからず、クルシーナはその人物の煙で隠れた影を見て、あいつが来たことを察した。

 

「みんな!! 遅れてごめん!!」

 

土埃が晴れ、そこから姿を表したのはのどかが変身したキュアグレースだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第91話「真実」

前回の続きです。
シビレルダとの決戦です。そして、クルシーナにある変化が・・・。

次回で原作第28話がベースの話は最後になります。


「グレース!!」

 

「無事だったんですね!!」

 

「もう大丈夫なの!?」

 

怪物と化したシビレルダに大苦戦し、大ピンチのプリキュア三人の前に駆けつけたのは、キュアグレースだった。

 

三人はグレースに声をかけ、特にフォンテーヌはその体を心配していたが・・・・・・。

 

「うん! もう大丈夫だよ!! なんだか前より元気になったみたい!!」

 

グレースは三人に笑顔を向けながら言う。

 

「キュアグレース・・・・・・」

 

「!! ダルイゼン!! クルシーナ!!」

 

グレースは呼ぶ声に反応して振り向くと、そこにはダルイゼンとクルシーナの姿があった。

 

「やっぱりアンタも来たんだ。病室で大人しく待ってるのかと思ったけどね」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべながら言う。

 

「待ってなんかいられないよ!! 確かに病気は苦しかったけど、私はちゆちゃんやかすみちゃん、しんらちゃんに励まされたの!! 今度は私がみんなを助ける番だよ!!」

 

グレースは強い口調でクルシーナに反論する。

 

「っ・・・病気になって、チヤホヤされたぐらいで浮かれてんじゃねぇよ。それで病気になった奴らを理解したつもりかよ」

 

クルシーナはその言葉に一転して不機嫌そうな表情になり、攻撃的な口調で批判する。

 

「難しいことはわからないけど、私は病院になった医者や支えてくれたみんなに感謝してるの。私はその人のためにも恩返しがしたい!! だから、私は、私を支えてくれた、みんなが生きる地球を守りたい!!!!」

 

グレースは負けじと反論し、その強い意志を持った眼差しを崩さない。

 

「それに・・・・・・しんらちゃんにも会えて、私は嬉しかった。顔を見られただけでもよかったと思ってる。ここでお手当てをして、もう一度しんらちゃんに会いたい!! あの日の約束を、綺麗な自然を一緒に見にいきたい!!!!」

 

ズキン、ズキン、ズキン!!

 

「っ!!??」

 

グレースが旧友にも会えたという喜び、そして成し遂げたいというその叫びを聞いた直後、クルシーナの頭にまた痛みが走った。今度は普通では、ごまかすことができないほどの。

 

クルシーナは思わず、顔を顰めて頭を手で抑える。失われていたはずの何かが、頭の中に甦ってくる。

 

「ウゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・ウァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

シビレルダは起き上がって空中へと飛び上がると両手を広げる。そこから木の実のエフェクトのようなものが出現すると、そこから種のような光弾を次々と放った。

 

「ぷにシールド!!」

 

ステッキのラビリンがそう叫ぶと、肉球型のシールドが展開され、種のような光弾を防ぐ。

 

「ふっ!!」

 

そして、そのまま飛び上がってシビレルダへと突っ込んでいく。

 

「ウァァァァァァァァ!!!!」

 

シビレルダは飛び出してくる、グレースに対して巨大な拳を繰り出す。

 

「うっ・・・・・・きゃあぁっ!!!!」

 

グレースはシールドごと突っ込もうとしたが、拳のほうが威力が強く打ち破られてしまう。

 

「「グレース!!」」

 

吹き飛ばされたグレースを、少し疲労が回復したのかなんとか立ち上がったフォンテーヌとスパークルが背後から受け止める。

 

「ありがとう、二人とも。大丈夫なの?」

 

「なんとかね・・・」

 

「ちょっと休んだぐらいだけど・・・戦えるよ!!」

 

グレースはボロボロになっている二人の身を心配していたが、二人はそれを吹き飛ばすように強い口調で返した。

 

「はぁっ!!」

 

そこにハープの奏でる音が聞こえると、風で作り出された輪がシビレルダの足元へと放られる。

 

「ウゥゥ? ウゥゥゥゥゥゥウァァァァァァァ!!??」

 

シビレルダの足元から強烈な風が発生し、シビレルダは耐えようとしていたが、耐えきれずに空中へと飛ばされ、そのまま地面へとひっくり返った状態のまま、叩きつけられる。

 

「私も動けます」

 

ハープを持って、先ほどの攻撃を行ったアースが前に出てそう言った。

 

「早く、シビレルダを浄化してあげましょう!」

 

アースの言葉に、グレースたち3人も頷くとステッキを構える。

 

ドゴォォォォォン!!!!

 

「ウァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

シビレルダは轟音を立てながら起き上がると、翼を広げて宙へと飛び上がる。

 

「ウァァァァァァァァァッ!!!!」

 

シビレルダはそのまま急降下して両手を地面へと叩きつける。プリキュア4人は飛び上がって交わす。

 

「「「はぁっ!!!」」」

 

グレースたち三人はステッキを振るってそれぞれの色の光線を放ち、シビレルダの顔に直撃させる。

 

「ウゥゥゥ・・・ウゥゥゥゥゥゥ!!!!」

 

「はぁっ!!」

 

「ウゥゥ!?」

 

シビレルダは顔を顰めながら苦しみの声をあげ、その隙を狙ってアースが頬に蹴りを加えて再び後ろへと倒す。

 

「ウァァァァ!!!!」

 

しかし、シビレルダはすぐに翼を広げて土煙を吹き飛ばすと、空中へと飛び上がる。

 

「アァァァァァァァァ!!!!!!」

 

シビレルダは口から赤とピンクが入り混じった光線を放つ。プリキュアたちは前へ飛んでかわし、そのままシビレルダへと突っ走っていく。

 

「ウァァァァァァァ!!!!」

 

シビレルダは小さな日傘のようなものを生成すると、プリキュアに向かって飛ばす。

 

プリキュアたちは横に避けたり、日傘を蹴り飛ばして弾いたりするなどしてシビレルダへと迫っていく。

 

そんな中、フォンテーヌは木へと飛び移り、木から木へと飛び移って近いところからシビレルダへと飛び出す。

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「ウゥゥゥ!!」

 

シビレルダの顔面に向かって蹴りを繰り出し、シビレルダは巨大な腕でガードする。

 

「はぁっ!!!」

 

「グゥゥゥゥゥ!? グァァァァァァ!!!!!」

 

そこへアースがシビレルダの背後から蹴りを入れてよろつかせるも、シビレルダは振り払うように腕を動かす。

 

「「はぁぁっ!!」」

 

「グゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 

アースが飛びのいて避けると、グレースとスパークルがシビレルダの背中に向かって光線を放つ。

 

「ウァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

「「あぁっ!?」」

 

「「きゃあぁ!?」」

 

シビレルダは苛ついたのか、再び雄叫びをあげながら周囲に衝撃波を放つ。プリキュアたちは吹き飛ばされるも、地面に着地して踏ん張る。

 

「攻撃の手を緩めちゃダメラビ!!」

 

「こうなったら、ひたすらに!!!!」

 

「動きを鈍らせていくしかないペエ!!」

 

ヒーリングアニマルたちは鼓舞するように叫び、プリキュアたちはそれに奮い立たせて立ち向かっていく。

 

「まだまだ、行けるよ!!」

 

「こうなったら、動けなくなるまで力を振り絞るしかないわね!」

 

「あたしたちの持ってる力をあいつにぶつけようよ!!!!」

 

「ええ。私たちの有り余っている力を、全部絞り出して行きましょう!!」

 

プリキュアたちも自分を鼓舞しながら、シビレルダへと向かっていく。

 

クルシーナはその様子を、特にキュアグレースを無表情で注視して見つめていた。

 

「キュアグレース・・・あいつ・・・・・・」

 

あのピンクのプリキュアを見ていると、頭が痛くなる。だが、この頭痛が今後の活動に支障が出てくるかもしれない。そのために解決しておこうと考え、彼女を見ておくのだ。

 

キュアグレースは、さっきまでは病気に苦しんでいて、自分の手元にいた。そして、脱走者が味方になることを引き換えに、あいつを苦しめるのを諦めて回復させ、連れていかせた。

 

その際に、激しい頭痛が発せられ、何かを思い出しそうになった。

 

そして、気に食わないシビレルダを実験で怪物にした後、キュアグレースがやってきた。そいつに問答した後、あいつは自分の旧友の名前を出して、約束を叫んだのだ。

 

この時も、激しい頭痛に襲われ、何かを思い出しそうになったのだ。

 

そんなことを考えながら、キュアグレースのことを見つめるクルシーナ。

 

「・・・・・・・・・」

 

キュアグレースは他の3人と一緒に、シビレルダに対応し、攻撃をかわしつつ、光線を放ち、吹き飛ばされても体勢を立て直して蹴りを入れようとしている。

 

ーーーー苦しい、よ・・・たす、けて・・・。

 

なぜか頭の中に甦るのは病気で苦しみ、助けを求めるキュアグレースの姿。

 

そして・・・・・・。

 

「っ・・・・・・!!!」

 

クルシーナは再度頭痛に襲われると、突然驚いたように目を見開いた。

 

「ぁぁ・・・あぁ・・・・・・!」

 

「?? クルシーナ?」

 

ダルイゼンが不審に思い、声をかけることも聞かず、クルシーナの頭の中にある映像が甦った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『しんらちゃん、ごめんね・・・本当は病気のあなたのところにいてあげたいんだけど・・・』

 

『大丈夫。お父さんは気にしないで仕事してきて』

 

それは人間だった頃の記憶・・・父親と思われる女装の男性が心配そうに見つめるも、しんらは笑顔でそう答えた。

 

『・・・花を見にきたの?』

 

『え・・・?』

 

『・・・花を見にきたの?』

 

『・・・・・・』

 

コクコク

 

『おいで』

 

『あ、ま、待って・・・』

 

入院している病院の中、キュアグレース、つまりは花寺のどかに出会ったのだ。

 

『しんらちゃ~ん!!』

 

『のんちゃん・・・!』

 

『今日も来ちゃったぁ!』

 

花寺のどかを、のんちゃんと呼ぶようになり、病院内で親しくなった。

 

『へぇー、その自然ってそんなに綺麗なんだ』

 

『そうだよ。もっと小さな頃に一緒に行ったの。綺麗だったなぁ~。とても空気が澄んでたよ』

 

『アタシもそんな自然見に行きたいな』

 

『見に行こうよ! 一緒に!!』

 

『あ・・・』

 

『お互い病気を治して、退院できたら一緒に行こうよ!! その自然に!!』

 

一緒に病気を治したら、綺麗な大自然を見に行こうと約束したこと。

 

『のんちゃん!! しっかりして!!』

 

『はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・』

 

『待ってて!! 今、看護師さんに・・・!!』

 

『しんら、ちゃん・・・苦しい、よ・・・たす、けて・・・・・・』

 

『誰かぁ!! 誰かいないのー!!??』

 

『はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・』

 

『っ・・・私が運ばなきゃ・・・!!!』

 

病院の外を連れ回していたら、突然のどかは倒れ、しんらは助けるために担いで運んでいったことがある。

 

そのあとは、彼女にとっては辛い出来事だった。

 

『残念だけど・・・あなたの娘さんの、病気は・・・!!』

 

『嘘よ・・・嘘言わないで!! そんなことあるはずないわ!! うちの娘が治らないんて・・・!!』

 

『お父さん、落ち着いてくれ・・・!!』

 

『!?』

 

設楽という医者が、自分のお父さんと対面し、その話を聞いてしまった。自分の病気はどうやっても治らないということ、そしてそれを否定するように逃げ出したこと。

 

『ぅぅぅ・・・ぁぁぁ・・・・・・』

 

その数ヶ月後・・・眠る気力も起きず、生きる気力もなくなり、体も動かない・・・夢も希望も湧かない。そして、彼女の頭の中は歪んだ思考で支配された。この世界がなくなってしまえばいいと、みんなみんな苦しんでいればいいと・・・!!

 

そう怨みを抱いていた時、あいつの声が頭の中に響いた。

 

『苦しいのか? 辛いのか?』

 

・・・・・・誰? 誰なの?

 

苦しいわよ・・・辛いわよ・・・生きているのに、動けないことが・・・!!

 

『自由に走り回りたいか?』

 

・・・自由に動きたい。自由に生きたい。鳥籠のようなこんな場所なんか嫌。

 

全部、壊してやる・・・病気にしてやりたい・・・!! 全ての人間を・・・医者を・・・苦しめてやりたい・・・!!!!

 

『いい憎しみだ。まるで地球を憎んでいるとも思える』

 

嫌いよ、こんな世界。私を拒絶する世界なんかいらない・・・!!!!

 

『我が全て楽にしてやろう。自由に行動できるように力を与えてやる』

 

本当・・・? 本当なの? それ・・・。

 

『その代わり、我のために働き、我のために尽くすのだ』

 

何だっていい・・・自由に動けるなら・・・何だってする・・・!!!!

 

『地球を我らの住む世界のような、快適な環境にするために・・・私の大切な娘としてな』

 

快適な環境・・・? あなたの住む世界・・・?

 

誰なの? あなたは、誰なの・・・?

 

『・・・我が名は、キングビョーゲン。今からお前を娘とする、ビョーゲンズの支配者である』

 

そう、キングビョーゲン・・・自身のお父様が話しかけてきたのだ。

 

『・・・!!』

 

そして、ハッとしたように目を覚ます。相変わらず、ベッドに横たわるこの体は動かない。

 

すると何か物音がし、病院の窓から何かがすり抜けるように入ってくる。その紫がかったような赤黒い靄はしんらが横になっているベッドの下へと素早く移動する。そして・・・・・・!!

 

ズオォォォォォォォォォォォ!!!!!

 

『っ!!?? あぁ・・・!』

 

ベッドの下から赤黒い靄がしんらを包み込むように襲いかかる。しんらは一瞬驚きの表情をするも、それを受け入れるかのような恍惚とした表情になった。

 

赤黒い靄は無抵抗のしんらを包み込む。しんらは視界が赤く染まっていくも、不思議と苦しさを感じない。一体、どうなっているのか・・・??

 

そんなことを考える間も無く、しんらの意識は闇へと落ちていった。

 

そして、自身が気がついた時には、再びあの声が響いていた。

 

『地球上にいるビョーゲンズたちよ・・・我はキングビョーゲン。時は満ちた・・・この星をビョーゲンズのものにするため、今こそ忌々しきヒーリングアニマルを滅する! さあ、我の元に集うがいい!!!』

 

その声が聞こえると同時に、目の前に光が見えていた。しんらはそれに救いを求めるかのように手を伸ばした。

 

そして、ベッドに眠っているしんらの瞳が大きく見開かれた。周囲から赤い靄を見ている人でもわかるように赤く光らせながら。その姿はすでに人の肌ではなく、悪魔のようなツノとサソリのような尻尾が生えていた。

 

やがて赤黒い靄はしんらごと浮かび上がると、そのまま勢いよく窓の外へと飛び出していく。

 

病院からは他の場所からも3つの赤い靄がその近くへと飛び出していったが、その一人であるしんらは病院の近くの地面へと赤黒い靄に包まれたまま、着地したしゃがみ込む姿勢のまま静止する。

 

そしてゆっくりと立ち上がると、赤い靄が静かに薄れていき、その姿を晒した。

 

薄いピンク色のような明らかに人ではない肌に、白を基調としたようなマジシャンのような衣装、頭には悪魔のようなツノとお尻にはサソリのような尻尾が生えている。ビョーゲンズの一人、クルシーナの誕生であった。

 

クルシーナは背後を振り向くと、自分以外の3人の仲間が視界に写ったが、何よりも気になるのがその3人の後ろに立っている病院であった。

 

『・・・・・・ふっ♪』

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべると、その場から姿を消す。

 

『嘘・・・患者がいない・・・!? 大変!! 早く院長に・・・!!!』

 

たまたま病院内を見回りに来ていた看護師が物音に気づいたのか、病室に入ると患者の姿が消えていた。看護師は大慌てでその病院の院長に電話をしようとするが・・・・・・。

 

『・・・その必要はないわ』

 

『・・・え?』

 

看護師の背後から声が聞こえてくると、看護師は疑問に思う。そして、ゆっくりと振り返るとそこには人でないものーーーークルシーナが立っていた。

 

『・・・ふふっ♪』

 

『っ・・・きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!!』

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべると、手のひらを広げて赤い光弾を発射し、看護師から悲鳴が上がるのであった。

 

そして・・・クルシーナにまた別の映像が甦る。

 

『だいじょうぶ・・・?』

 

ベッドの上で危篤になるのどかを見ていた、しんらはそう呟いて彼女の手を握る。

 

『のどかを心配してくれるの?』

 

『うん・・・・・・』

 

のどかの母親が微笑みながら聞いてきたので、そう肯定した。

 

『私が連れ回したりなんかしたから、のんちゃんはあんなことになったんだ・・・』

 

『君のせいじゃないよ。君はのどかと一緒にいてくれたんだろ?』

 

『私たちは恨まないわ。だってあなたのおかげで、一人悲しそうな顔をしてたあの子が笑顔になったんだから・・・』

 

『・・・・・・・・・』

 

のどかが眠った後、しんらは彼女の両親に申し訳ないと思っていた。しかし、父親も母親もしんらのせいじゃないと励ましてくれた。そんな言葉は、彼女の心を晴れやかにすることはできなかった。

 

『病室に、戻ります・・・・・・』

 

しんらは悲しそうにそう呟くと、のどかのいる病室から離れていった。

 

『うっ・・・おかしいなぁ・・・さっきまで、なんともなかった、のに・・・』

 

しかし、病室へと戻っていくしんらの表情は苦しそうな顔をしていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナは放心したような表情をしていたが、いつの間にかズキズキしていた頭痛も消えてなくなっていた。

 

彼女はそのような状態が数秒続いた後、口元に笑みを浮かべる。

 

「・・・ふふっ、そうか・・・そうだったのね」

 

クルシーナは何かを悟ったかのようにそう呟く。まるで何か憑き物が取れたかのような、そんな状態だった。

 

「私、人間だったのね・・・そして、ビョーゲンズ・・・クルシーナになった。ふふっ、ふふふふふふ♪」

 

「クルシーナ、どうした??」

 

自身がビョーゲンズになるまでの記憶を取り戻したクルシーナは笑みをこぼすと、心配になったダルイゼンが声をかける。

 

「ふふふ♪ い~や? なんでもないわ」

 

クルシーナは笑いながらそう答えると、再びプリキュアとシビレルダの戦いを見つめ始めた。

 

「のんちゃん・・・・・・」

 

そして、キュアグレースを見つめながらそう呟いた。

 

「ウゥゥゥゥゥゥ、ウァァァァァァァ!!!!」

 

シビレルダは宙に浮かび上がると、ドリルのような髪を周囲に逆立たせて、そこから赤い光線を放つ。

 

「ふっ!!」

 

「「「「はぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」」」

 

「ウァァァ!?」

 

激しい戦いにお互い疲弊しつつも、プリキュアたちはその光線を掻い潜りながら飛んでいくと、同時に4方向から飛び蹴りを食らわせ、ダメージを受けたシビレルダは地面へと落下していく。

 

「よし!! このまま一気に!!」

 

グレースたちが浄化の体勢に入ろうとした、その時だった・・・・・・。

 

「ウゥゥゥ・・・ナンデ・・・ナンデデスノ!!??」

 

「「「「っ!?」」」」

 

どこかで少し意思を取り戻したのか、唸り声しか上げていなかったシビレルダが言葉を発し始めたのだ。

 

「ワタクシハ・・・ワタクシハ・・・!! タダ、ゲンキデイタカッタダケデスノニ!!!! ナンデワタクシガ、ビョウキニナラナケレバナラナインデスノ!!??」

 

「あ・・・・・・」

 

グレースはよく見ると、シビレルダの左右の瞳から赤い涙がこぼれているのが見えた。

 

「ダイキライ!! ミンナ、ダイキライデスノ!!!! ニンゲンモ・・・ケンコウテキナヤツラモ・・・チキュウモ・・・ミンナミンナキエテシマエバイイデスワ!!!!」

 

「シビレルダ・・・・・・」

 

怒りの咆哮を上げているシビレルダは再び口から赤とピンクが入り混じったようなオーラを溜め始める。

 

「ねえ、みんな・・・・・・あいつ、泣いてるよね・・・?」

 

「ええ・・・私にもよく見えるわ・・・」

 

「私もしっかりと見えます・・・あれを見てると、なんだか胸が、苦しくなるのです・・・」

 

スパークルの言葉に、フォンテーヌとアースも肯定し、心を痛め始めていた。

 

「私、わかるよ、その気持ち・・・」

 

「ウゥ!!??」

 

そんな中、グレースははっきりと声を出す。それに反応したシビレルダは目を見開いた。

 

「私も、何で病気になったんだろうって、何で動かないんだろうって、病院のベッドで横になったときにそう思ってた。心細くて、不安で、しょうがなかった。でも、友達やお母さん、お父さん、そして病院のみんなが支えてくれたおかげで、病気に向き合うこともできたし、生きる希望も持てたの。だから、わかるの、あなたのその気持ち・・・!!」

 

「ウゥゥゥゥゥゥ、ウゥゥゥゥゥゥ、ウァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

グレースのその心情を吐露したことで心を乱したのか、シビレルダは拒絶するかのように苦しみ出す。

 

「だから、今度は私が救いたい!!! 病気になっている人を・・・病気で苦しんでいる人を・・・!!! そのために私は、これからもラビリンとお手当てを続けるんだよ!!!!」

 

グレースは睨みつけるようなキリッとした表情でそう主張した。自分は病気になったことがあるからこそ、苦しむ人を救いたい。だから、自分はお手当てを続けるんだと・・・!!!!

 

「ウゥゥゥゥゥゥ・・・ウァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

シビレルダはその言葉を否定するかのように、口に溜めていた赤とピンクの入り混じったオーラを光線状にして放った。

 

光線は着弾して爆発を起こし、大きな土煙が上がる。その中から飛び出してきたのは、間一髪で避けたプリキュアたちだった。

 

「みんな!!」

 

「ええ。もう、楽にしてあげましょう・・・!」

 

「あの子の苦しむような叫び声なんか、もう聞きたくないもん!!」

 

「この胸の痛みは・・・きっとシビレルダの痛みかもしれません。私は、あの方を救いたい!!」

 

グレース以外のプリキュアたちも鼓舞されたのか、強い口調で口々にそう言った。

 

「クルナ・・・!クルナァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」

 

シビレルダは拒絶するような怒りの叫び声を上げながら、小さな日傘のようなものを無数に作り出して一斉にプリキュアたちへと投下した。

 

「空気のエレメント!!」

 

アースはハープに空気のエレメントボトルをセットする。

 

「ふっ!!!!」

 

ハープから無数の空気の塊を発射し、小さな日傘を次々と空気の中へと包んでいく。その間にグレースたち3人はシビレルダへと飛んで向かっていく。

 

「シビレルダ・・・もう、こんな辛いこと・・・終わりにしてあげる!」

 

グレースのその言葉を合図に、3人はミラクルヒーリングボトルをステッキにセットする。

 

「「「トリプルハートチャージ!!」」」

 

「「届け!」」

 

「「癒しの!」」

 

「「パワー!」」

 

グレース、フォンテーヌ、スパークルの順で肉球にタッチしていき、ステッキを上に掲げる。すると、花畑が広がっていき、背後には自然豊かな森が広がっていく。

 

「「「プリキュア! ヒーリング・オアシス!!」」」

 

3人は一斉にメガビョーゲンへとステッキを構え、ピンク・青・黄色の3色の光線が螺旋状になって放たれる。螺旋状の光線は混ざり合いながら一直線に怪物と化したシビレルダに直撃する。

 

「ウゥゥゥ、ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・ワ、ワタクシ、ハ・・・ワタクシハ・・・!!! ウゥゥゥゥゥゥ、ウァァァ、ァァァ・・・!!! ウァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!」

 

光線を受けたシビレルダは、絶叫を上げると光に包まれていく・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おとうさまぁ!!』

 

『麗子!!』

 

『ワタクシ、おおきくなったらおとうさまのようなひとをすくえるひとになりたいですわ!!』

 

『いい夢だな・・・きっとなれるさ、麗子なら・・・!!』

 

あれ・・・? これって・・・??

 

『麗子!! 大丈夫か!?』

 

『はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、おとう、はぁ、さま・・・!』

 

『大丈夫だ!! 今、病院の人が見てくれる!!』

 

ワタクシの、お父、様・・・・・・?

 

『麗子・・・ごめんよ・・・お父さんは無力だ・・・』

 

『・・・・・・・・・』

 

『お前が目を覚まさないのはわかってる・・・でもせめて、お父さんが側にいてやるからな・・・』

 

・・・・・・・・・。

 

『麗子様。ご主人は忙しいので、私が来てあげましたよ』

 

『・・・・・・・・・』

 

『目はまだ覚まさないのですね。でも、私も、ご主人も、あなたが起きてくるのを待っておりますぞ』

 

・・・・・・・・・。

 

『麗子!!』

 

『・・・・・・・・・』

 

『麗子、起きて!! 麗子!!』

 

『母さん、止めるんだ!!』

 

『でも、麗子が・・・麗子が!!』

 

ワタクシの、お母様・・・??

 

・・・・・・・・・。

 

・・・ああ、そうでした・・・・・・思い出しましたわ・・・・・・。

 

手を握ってくれた、支えてくれた・・・・・・あの暖かい、気持ち・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

プリキュア・ヒーリング・オアシスが直撃し、シビレルダは絶叫を上げると、メガパーツを入れられる前の元の小さな姿へと戻っていく。彼女の体の中の禍々しいオーラが抜けていき、徐々に元の姿へと戻っていく。

 

「ヒーリン・・・グッバイ・・・・・・」

 

完全にテラビョーゲンとしての姿へと戻ったシビレルダは、穏やかな表情を浮かべてそう言うと、ヒーリング・オアシスの癒しの光へと包まれていった。

 

「「「「「「お大事に」」」」」」

 

シビレルダが浄化されたことによって、彼女が怪物となった際に蝕んでいた箇所が元の色を取り戻していく。

 

「ワフ~ン♪」

 

体調不良だったラテも額のハートマークが黄色から水色に戻り、元気になった。

 

ドサッ!!

 

「「「「っ!!」」」」

 

その直後、地面に何か落ちたような音が聞こえ、プリキュアたちが振り向くとそこにはシビレルダが倒れていた。

 

「え・・・あれって、シビレルダだよね? 何で消えてないの・・・?」

 

スパークルは浄化技を受ければ消えるはずのシビレルダが消えていないことに驚く。

 

「・・・・・・・・・」

 

一緒に見ていたアースが警戒しながら近づき、体を起こしてみると確かにシビレルダだが、その様子はすっかりと変わっていた。

 

薄いピンク色だった肌は、人の肌に戻っており、悪魔のようなツノやサソリのような尻尾は生えていない。ピンク色のドレスも患者服に戻っており、その表情は安らかな寝息を立てていた。

 

「これは・・・人間です・・・!」

 

「「えぇっ!?」」

 

アースが呟いた言葉に、グレースとスパークルは驚く。

 

「そうだったのね・・・! シビレルダは人間から進化させられたテラビョーゲンだったんだわ!!」

 

「!! 本当にいたんだ・・・・・・」

 

フォンテーヌは病院に行く前のアースの言葉を思い出し、確信を得ていた。メカニズムはわからないまでも、人間からビョーゲンズに進化していたテラビョーゲンは実在していたと、これで本当のことだとわかったのだ。

 

パチパチパチ・・・・・・。

 

「「「「っ!!」」」」

 

プリキュアたちが見ている中、拍手の音が聞こえ、振り向くとそれはクルシーナだった。

 

「・・・ふっ♪」

 

木から背中を離していたクルシーナは不敵な笑みを浮かべながら、こちらを見ている。

 

「クルシーナ・・・!!!!」

 

彼女を見た途端、フォンテーヌの中に怒りの炎が燃え上がる。

 

「あいつ、許せないし!!」

 

「数々の非道な行い・・・見過ごすわけにはいきません!!」

 

スパークルもアースも同じように、クルシーナを睨みつけながらそう言った。

 

「今のラビリンたちならできるラビ!! この勢いで、クルシーナも、浄化するラビ!!!」

 

「うん!!」

 

ラビリンが鼓舞するように叫ぶと、グレースたちは頷く。あんなに苦戦したシビレルダを浄化できたのだから、クルシーナも浄化できるはずだ。プリキュアたちはそう信じていた。

 

それを見ていたクルシーナは不敵な笑みをさらに深くした。

 

「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」」」」

 

プリキュアたちは一斉に、クルシーナに向かって飛び出した。

 

「・・・ふふっ♪」

 

クルシーナは笑みをこぼしてその場から飛び出して姿を消すと、一瞬でプリキュアたちの前に現れ、背中から面積の広い、長い葉っぱのようなものを伸ばし、同時に片手を突き出すように構える。

 

そして、葉っぱからラフレシアのような花を生やすと、それらと片手からピンク色の禍々しいオーラを溜め始める。それは先ほど吸収したアースの浄化技、そして自分の持っている力・・・その二つが合わさり・・・・・・。

 

ズドォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!

 

「「「「きゃあぁぁぁぁぁ!!!!」」」」

 

同時に禍々しいピンク色の極太な光線が放たれ直撃し、着弾して凄まじい轟音を立てたところからピンク色の禍々しいオーラの光の柱が浮かび上がった。

 

やがてその光の柱も幻のように消えていき、宙にかなり舞っていた土煙が晴れ始める。

 

完全に土煙が晴れた時、そこにあったのは極太な光線を受けてできた巨大なクレーターと、その中にプリキュアの変身が解除されてしまったのどかたちが倒れ伏していた。

 

「うぅぅぅ・・・・・・」

 

「あ・・・変身が・・・!」

 

「うっ・・・!?」

 

のどかは呻いていて、ちゆは自分たちがプリキュアの変身解除されてしまったことに気づく。そして、のどかが顔を上げると、そこにはダルイゼンが無表情で立っていた。

 

「あ・・・!?」

 

「のどか!!」

 

「ちょっと!! またのどかっちに何かしたら!!」

 

ちゆたちがそう叫ぶ中、ダルイゼンはのどかの前にしゃがみ込む。

 

「思い出したよ」

 

「え?」

 

「俺を育てたのは、キュアグレース・・・お前だって」

 

「・・・・・・え?」

 

ダルイゼンは不敵な笑みを浮かべながらそう告白すると、のどかは呆然と彼を見つめる。自分がダルイゼンを育てた・・・? 一体、どういうこと・・・?

 

「メガビョーゲンの一部だった俺は、お前の中で成長して、この姿になったのさ」

 

「!?」

 

のどかはそのダルイゼンの言葉を告げられ、表情が凍りついた。

 

「ラビ・・・!?」

 

「「「えっ・・・!?」」」

 

このことはラビリンやちゆたちも信じられないような目でこちらを見ていた。その反応を見たダルイゼンは不敵な笑みを浮かべると、その場から立ち上がる。

 

「お前にはもう一人、懐かしい奴がいるだろ?」

 

「え・・・どういう・・・?」

 

怯えた表情のままののどかは震えた声で尋ねようとすると・・・・・・。

 

「のんちゃん♪」

 

「!!??」

 

背後からのどかの耳に囁く声。それを聞いたのどかは驚きに目を見開いた。この声、忘れもしない声だった。

 

「久しぶり♪ 元気にしてたぁ?」

 

優しそうな甘い声で囁くとその人物はのどかの目の前にゆっくりと歩いて立つ。のどかがガクガクと首を向けながらその人物を追うと、そこには先ほどお見舞いに来ていたワンピース姿の人物だった。

 

「しんら・・・ちゃん・・・?」

 

「ふふっ、覚えてたんだ。嬉しいなぁ」

 

目の前に立つ少女ーーーーしんらは笑顔だったが、のどかは呆然とした表情だった。

 

「なんで・・・しんらちゃんが、ここに・・・?」

 

しんらはこの場所にはいないはず、なのになぜこの場に姿を表したのか? ダルイゼンの誕生だけでも混乱しているのどかは思考が追いつかなかった。

 

「あれ? まだ気づかないの?・・・ふっ」

 

しんらは目を丸くしながら彼女を見ると、その直後に不敵な笑みを浮かべる。そして、片手の指をパチンと鳴らすと人肌は薄いピンク色へと変わり、悪魔のようなツノとサソリのような尻尾が生え、頭上から飛んできた中折れ帽子が彼女の頭へと収まり、ビョーゲンズのクルシーナとしての姿を露わにした。

 

「・・・ふふっ♪」

 

「ぇ・・・クルシー、ナ・・・? しんらちゃんが、クルシー、ナ・・・?」

 

「そうよ、のんちゃん。私がしんらよ、来栖しんら」

 

クルシーナは自分の胸に手を当てながら、自分がしんらであることを明かした。

 

「しんらっちが、クルシーナ・・・? え・・・なんで・・・!?」

 

「来栖・・・!!??」

 

ひなたはお見舞いに訪れたしんらがビョーゲンズだったことに戸惑いを隠せない。ちゆはクルシーナが発した苗字が引っかかり、ハッとしたように目を見開く。

 

ーーーー本当は名前を教えちゃいけねぇが、来栖、毒島、板井、あと他にも2人の患者を任された。

 

そう。来栖というのはあの世界に行った時に、設楽先生が話していたのだ。

 

「思い出したわ・・・!! 来栖さんは、設楽先生の話していた患者の名前・・・!! その一人がクルシーナだったんだわ!!!!」

 

「うぇぇ!? じゃあ、設楽先生が救えなかったって言ってた患者って・・・!?」

 

「えぇ・・・クルシーナたちのことだったのよ・・・!」

 

思い出したちゆはそう話すと、ひなたも驚きを隠せなかった。

 

「すっかり元気になっちゃって、私、嬉しいわ。だって、病気から治って元気になった奴ほど蝕みがいがあるんだもの♪」

 

クルシーナは甘い声を保ちながらも、物騒なことを言う。のどかは震えていた。

 

「ウソ、だよ・・・ウソだよっ!! しんらちゃんが、ビョーゲンズになってるなんて・・・テラビョーゲンになっちゃってるなんて・・・!!!」

 

のどかは目の前にいる友人が地球を蝕もうとする敵に変わったことが信じられず叫ぶ。病院時代に一緒に治そうと誓っていた友人がビョーゲンズとなっているなんて、のどかには到底信じられることではなかった。きっと、このビョーゲンズがしんらに化けているのであろうと思い込んでいた。

 

クルシーナはそんなのどかを見て、彼女の前でしゃがみ込み顔を近づける。

 

「・・・ねえ、のんちゃん。病院で会った時のこと、覚えてる? 一緒にお花に水あげたよね? 綺麗な自然を見に行こうって約束したよね? 病院の外を抜け出して、一緒に花火を見に言ったじゃない。忘れちゃった?」

 

クルシーナは昔を思い出しながら話す。のどかが初めてしんらに会った時、花を見せてもらった。一緒に花にお水をあげたのだ。一緒に自然を見に行こうという約束もしたし、病院の外を二人でこっそり抜け出して、山の上で花火を見に行ったりもした。これはのどかとしんらしか知らないことであった。

 

「ど、どうして・・・それを・・・!?」

 

クルシーナの言葉に動揺したのどかが震える声で尋ねる。

 

「だから、言ってるじゃない。私がしんらだって」

 

クルシーナは立ち上がって優しく微笑みながらそう答えた。

 

「ウソだ・・・ウソだぁ!! そんははずないよぉ!!! なんで・・・なんでしんらちゃんが・・・しんらちゃんが・・・・・・」

 

のどかはあまりのショックに体をフラつかせ、瞳から光が消えて背後に倒れそうになる。親友のしんらちゃんがテラビョーゲンになった、そんな悪夢のような出来事が目の前で起きている。

 

これは夢だ・・・早く覚めてほしい・・・。

 

のどかの思考は考えられなくなるほどに、止まりかけていた。

 

「「のどか!!」」

「のどかっち!!」

 

ちゆたち3人は倒れそうになるのどかを背後から支える。

 

「大丈夫!? のどかっち、しっかりして!!」

 

「しんらさん!! どういうことなの!? しんらさんがテラビョーゲンになったって!?」

 

「のどかを傷つけるために言ってるなら許しませんよ!!」

 

心配してのどかの体を揺さぶるひなた。そして、ちゆとアスミは険しい表情でクルシーナに問いかける。

 

「・・・そんなことして何のメリットがあんのよ? まあ、いいわ。お前らだけに教えてやるよ」

 

クルシーナは話し相手が変わった途端に一転して冷たい口調に戻り、彼女たちの視線を意に介さず話し始める。

 

「私はビョーゲンズとして生まれ変わったの。お父様と、彼のおかげでね」

 

クルシーナはダルイゼンを指しながら言った。

 

「ダルイゼンのおかげって・・・どういうこと??」

 

ひなたは眉を顰めながら尋ねる。ダルイゼンが、しんらをクルシーナにしたことに何の関係があるのか?

 

「私ね、のんちゃんが危篤になった時に手を握ったことがあったの。その時に、のんちゃんの中にいたダルイゼンの一部が私に流れ込んできたワケ。そうでしょ? ダルイゼン」

 

「ああ・・・お前の始まりも俺だったな。それも思い出したぜ」

 

クルシーナは同意を求めると、ダルイゼンもそう肯定する。

 

「私は最初、急に体調が悪くなって苦しくなったの。ダルイゼンの一部が私を侵食してね。病院も移動になっちゃったし、そこにいた設楽っていうヤブ医者にも治せないって言われちゃったし、私は絶望したわ。一生、動けないんだ、って。そんな時、お父様の声が聞こえてきて、私は察したの」

 

クルシーナは説明の途中で、プリキュアたちに歩み寄って顔を近づける。

 

「病気が、私に微笑みかけてくれた、って」

 

その言葉にちゆたちは言葉を失う。それも構わずにクルシーナは顔を離すと再び話し始める。

 

「私はお父様を、病気を受け入れたの。そしたら、苦しさなんかあっという間になくなって、最高の気分になったの!! こんな快楽はないって!! こんなに動ける喜びはないって!! お父様とダルイゼンには感謝しないとね」

 

クルシーナは笑みを浮かべながらそういうと、立っているダルイゼンの横に並び、彼の腕に抱きつく。

 

「なっ・・・おい!!」

 

「別にいいじゃない。ダルイゼンには感謝してるんだから、もちろんお父様にもね。私は、ダルイゼンが大好きよ、お父様もそうだけど」

 

ダルイゼンは戸惑ったように叫ぶと、クルシーナは乙女のような表情でそう言った。

 

すると、段々と冷静になったダルイゼンもその場を楽しもうと笑みを浮かべる。

 

「ああ・・・一生、そばにいてやるさ」

 

「嬉しい♪」

 

嬉しそうな声を出すクルシーナ。その光景をちゆたちは呆然と見つめている。

 

「ぁ・・・し、しんら、ちゃん・・・・・・」

 

のどかは光の灯らない瞳でその光景を見つめていた。そして、二人が何をしているのかを彼らの今の状況から認識すると・・・・・・。

 

「っ・・・しんらちゃんから離れてっ!!」

 

のどかは睨みながらそう叫んだ。大事な親友に触れていることが気に入らず、のどかは叫ぶ声をあげたのだ。

 

「・・・ふっ」

 

「・・・ふふふ♪」

 

クルシーナとダルイゼンは、のどかのそんな姿を見ると不敵な笑みを浮かべる。睨む瞳は虚ろで、どう見ても壊れているようにしか見えない。

 

「のどかっち!?」

 

「のどか、落ち着いて!! 彼女はクルシーナなのよ!!」

 

「そうです!! 正気に戻ってください!!」

 

のどかの様子があまりにもおかしいと感じたちゆたちが心配して声をかける。

 

「ふふふ。のんちゃんったら、可愛いんだから♪」

 

クルシーナはその様子を見て、優しく微笑む。

 

「全く面白い・・・ますます気に入ったよ、キュアグレース。俺を育てただけじゃなく、大切な友人を間接的にテラビョーゲンにするとはな・・・?」

 

ダルイゼンは笑みを浮かべながらそう話す。

 

「ダルイゼン、そろそろ帰ろ?」

 

「ああ、そうだな・・・面白いものも見れたし」

 

クルシーナは甘えたような声でそう言うと、ダルイゼンも満足したようにそう言った。

 

「キュアグレース・・・また会おうぜ」

 

「のんちゃん、また遊ぼうね♪」

 

ダルイゼンとクルシーナはそう言い残すと、その場から去っていった。

 

「ぁぁ・・・しんら、ちゃん・・・」

 

のどかは手を伸ばしてそう呟くと、そのまま倒れて動かなくなってしまった。

 

「っ、のどか!! のどかぁ!!」

 

「のどかっち、しっかりしてよぉ!!」

 

ちゆとひなたは心配しながら声を掛け続けるも、全く反応を示さず、のどかの絶望に満ちたような表情には一筋の涙が溢れていたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第92話「軍門」

前回の続きです。
エピローグ的な話なので、今回は短めです。

今回で原作第28話ベースの話は終わりになります。
次回より、それぞれの新たな物語が始まっていきます。


 

「本当か!?」

 

「本当の本当に、なんともないの!?」

 

「うんっ!! 元気元気〜♪」

 

「もう一度、検査は必要だが・・・確かに顔色も見違えるようだ・・・」

 

病院へと戻ったちゆたち。のどかの両親や担当の先生はつい先ほどとは違って、元気になっているのどかを見て唖然としていた。

 

「へへっ♪ お騒がせしました!!」

 

「「「・・・・・・・・・」」」

 

しかし、その様子を察していて、心配そうに見つめているのは入り口付近で見守っていたちゆたちだった。先ほどまでクルシーナの正体が友人であることを知ってショックを受け、精神が壊れる寸前だったのに、現在は先ほどとは打って変わって高いテンションになっている。

 

どう見ても・・・ちゆたちにはのどかの様子がそれにしか見えなかったのだ。

 

「のどか!!」

 

やすことたけしは、愛する娘のことを抱きしめる。

 

「お父さん・・・お母さん・・・私、もう大丈夫だから」

 

のどかはそう言うが、二人は彼女を抱きしめたまま離さない。

 

「お父さん? お母さん?」

 

「・・・心配なんだ」

 

「今回はこれで済んだけど・・・また、いつか倒れるかと思うと・・・!!」

 

やすことたけしは心情を吐露する。大丈夫とは言っても、また娘が苦しい目に遭うかもしれない。そう思うと、のどかのことが心配で気が気でない・・・・・・。

 

「・・・・・・大丈夫」

 

「「??」」

 

「「「・・・!!??」」」

 

両親に向かってそう呟き、両親に抱きつくのどか。しかし、ちゆたちは気づいてしまったのだ。微笑むのどかの表情が虚ろになっていることに・・・・・・。

 

「もしものときは・・・また、戦う・・・一緒に戦ってくれるお友達も、たくさんできたの・・・何度倒れても、私は負けない・・・・・・」

 

のどかは両親から体を離すと強い口調でそう言った。虚ろな表情を二人に隠したまま。

 

「のどか・・・!!」

 

のどかとやすことたけしは、お互いを抱きしめ合った。両親二人の見えていないところで、のどかの表情はまた虚ろになっていた。

 

「「「・・・・・・・・・」」」

 

ちゆたちはお互いに目を合わせながら、心配そうな表情で見つめていた。

 

のどかの両親と担当医師が病室をあとにした後、ちゆたちが病室の中へと入る。のどかは窓の方を向けながらラジオ体操のような動きをしていた。

 

「のどか・・・・・・」

 

ちゆが前に出て心配そうに声をかけると、のどかは気づいてこちらに振り向く。その瞳は虚ろになっていたが、のどかは笑顔を見せた。

 

「あ、ちゆちゃん♪ 私、もう少しで退院できるの。嬉しいなぁ♪ あんなに苦しかったのに、こんなに動けるようになるなんて、本当に生きてるって感じだよね〜♪ まるで、さっきのしんらちゃんみたい♪」

 

「のどか」

 

のどかは笑顔を向けながら長々と話し始め、ちゆは彼女の名前を呼ぶ。

 

「そういえば、しんらちゃんに会って苦しくなった後の記憶がないの。なんだか誰かに抱かれているような感覚はして、まるでお母さんみたいに感じたんだ♪ 本当に誰だったんだろうね〜♪」

 

「のどか・・・!!」

 

しかし、のどかはその呼びかけに反応せず、構わずに話し始める。ちゆは少し語気を強くした。

 

「かすみちゃんもどこかに行っちゃったけど、きっとこっちに戻ってくるよね〜♪ だって、友達だもん♪ もしくは今頃、ちゆちゃん、しんらちゃんの家で私たちの帰りをーーーー」

 

「のどかっ!!!!」

 

のどかは一方的に話を続けようとし、ちゆは耐えきれなくなって叫んだ。

 

「? どうしたの・・・? ちゆちゃん。あ・・・」

 

首を傾げながらそう言うのどかに、ちゆは自身の両手を彼女の肩に置く。

 

「のどか・・・もう、逃げるのはやめましょう・・・?」

 

ちゆは心配そうな表情で、のどかを見つめながら言った。

 

「なんで? 私、逃げてなんかいないよ・・・? だって、しんらちゃんが・・・」

 

「ウソよ!!! だって、のどかの目には私のことが見えてないもの・・・!! クルシーナ・・・しんらさんのことばかり考えてる・・・!!」

 

ちゆは泣きそうな表情になりながら、そう訴えた。先ほどからのどかの言葉を支離滅裂になっていて、この場にいるはずのないしんらのことを考えている。明らかに普通ではなかった。

 

そして、その言葉に乗じるかのようにひなたとアスミも前に出る。

 

「そうだよ、のどかっち!! もういい加減現実を見ようよ!! しんらっちは、クルシーナだって!!」

 

「のどか、正気に戻ってください!! しんらさんはここにはいないのです!! しんらさんはビョーゲンズになってしまったのですから!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

二人がそう訴えると、のどかは放心したようにみんなを見つめる。

 

「っ・・・うぅぅ・・・うっ、うぅぅ・・・!!!!」

 

のどかは現実を突きつけられたかのように、頭を抱えながら泣きそうな表情をし始める。

 

「ウソだ・・・しんらちゃんはビョーゲンズになってない・・・しんらちゃんはクルシーナじゃない・・・クルシーナじゃないの・・・ビョーゲンズになんかなってないの・・・!!!!」

 

のどかはブツブツと呟きながら、クルシーナがしんらであることを否定する。先ほどのショックが甦り、またのどかの心は崩壊しそうになる。

 

「・・・のどか。私はのどかとしんらさんがどのように過ごしたかはわからないけど・・・明らかにのどかしか知らないことを話してた。それはクルシーナが、しんらさんである証拠よ」

 

「あぁ・・・あぁぁぁ・・・!!!!」

 

ちゆは苦渋の思いで、のどかに現実を向けさせようと話していく。その度にのどかは体をガクガクと震わせる。

 

「しんらっちが病院に居たってことは・・・クルシーナは人間だったってことだよね? ヘバリーヌが先生の娘だっていうのもホントみたいだし、さっきのシビレルダも人間だったから、合ってはいるよね?」

 

「あぁぁぁぁぁ・・・!!!!」

 

ひなたが思っていることを言うと、のどかの震えが大きくなった。

 

「のどか!! また苦しいのであれば、私たちに話してください! 私たち、友達ではないですか・・・!!!!」

 

「うぅぅぅ・・・うぅぅぅぅぅ・・・!!!」

 

「のどか!! ラビリンもその気持ちは一緒ラビ!! ちゃんと話してほしいラビ!!」

 

アスミとラビリンの訴えるような叫びに、のどかは表情を歪める。そして・・・・・・。

 

のどかはちゆの胸に顔を埋めた。そして、嗚咽を漏らし始める。

 

「ごめん・・・ヒック・・・ごめんね・・・! ちゆちゃん・・・ひなたちゃん・・・アスミちゃん・・・ラビリン・・・私、ショックだったの・・・一緒に病気を治そうねって約束してくれたしんらちゃんが・・・ビョーゲンズになってるなんて・・・認めたく、なかった・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「病気を治して、一緒に自然を見に行こうって約束したのに・・・私だけ、先に治って・・・退院して・・・しんらちゃんは一人ぼっちに・・・・・・もしかしたら、私のせいで・・・!!!」

 

泣きながら心情を吐露するのどかに、ちゆたちは何も声をかけることができなかった。そして、のどかはしんらがビョーゲンズ、クルシーナになったのは自分のせいじゃないかと責め始めたのだ。

 

ちゆたちもその時だけは何かを言うことができた。

 

「・・・のどかのせいじゃないわ」

 

「ぇ・・・?」

 

「しんらさんがクルシーナになったのは、ビョーゲンズの仕業よ。ビョーゲンズの誰かがしんらさんを唆して、彼女をビョーゲンズにしてしまったに違いないわ」

 

「そうだよ!! それに、さっきのシビレルダも人間だったんだよね? だったら、しんらっちも浄化すれば、人間に戻すことはできるよね!?」

 

「そうです。のどか、まだしんらさんはいなくなったわけじゃないんです。変わってしまっただけです。私たちが元の人間に戻せば、取り戻すことはできるはずです」

 

ちゆたちはそれぞれのどかに励ましの言葉をかける。奪われただけで失われたわけじゃない。取り戻すことさえできれば、また自分たちのところに友人として戻ることも可能なはずなのだ。シビレルダとの戦いで、その希望は見えていた。

 

「のどか・・・のどかは優しいから抱え込んじゃうのもラビリンは見てるラビ・・・ラビリンはのどかが救いたいと思うなら、その意思を尊重するラビ。のどかの大切な友人なら尚更ラビ!」

 

ラビリンは複雑な気持ちを抱きつつも、そう言った。自分たちの故郷を襲撃したビョーゲンズを救おうとするのは正直言ってやりたくない。でも、のどかが友達を助けるというのは間違ったことじゃない。内心は複雑だが、それでものどかの言うことを尊重して行動することにしたのだ。

 

「みんな・・・うん、そうだね・・・まだしんらちゃんは消えてない・・・取り戻せるんだもんね・・・」

 

希望が見えたのどかはちゆから体を離すと涙を拭う。

 

「よーし!! 私、もっとお手当て、頑張んないと!!」

 

のどかは気合の入った言葉を口にしながら笑顔で答えた。

 

「悲しむ時間は終わったか?」

 

「そうだね!」

 

「僕たちも、ビョーゲンズになった人間を元に戻す方法を考えてみるペエ!」

 

「ええ、そうね。私たちも強くならないとね」

 

「ワン♪」

 

「私も、のどかたちとお手当てをしていきたいです」

 

ちゆたちはそれぞれ思い思いを口にしていく中、のどかは心の中であることを考えていた。

 

(・・・クルシーナ、しんらちゃんのこともそうだけど・・・ダルイゼン。あなたを育てたのが私なら・・・私が何とかしなくちゃ・・・しんらちゃんも取り戻さないと!)

 

のどかは一人、静かにそう決意を固めていた。

 

「ん? あれ? そういえば、かすみっちは・・・??」

 

「「「え・・・・・・??」」」

 

そして、ひなたの言葉により、のどかたちはかすみがその場にいないことに気づくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ふん。そんなに単純なことじゃないのよ」

 

クルシーナは病院の近くの木の上で、のどかたちの様子を見て、会話を聞きながら不機嫌そうにそう言った。

 

「ふふっ♪ のんちゃんが元気になってくれた。よかった♪ これでまた遊べるね」

 

途端にクルシーナはしんらだったときの優しい笑顔を貼りつけながらそう言うと、その場から姿を消し、森の中の開けた場所へと現れた。

 

「・・・やっとお戻りね」

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナが話しかけるようにそう言うと、ザッザッと地面を踏むような音が聞こえたかと思うと、フードを被ったかすみが姿を現わす。

 

「プリキュアには見つからないようにしてくれたみたいね」

 

「・・・ああ。思わず飛び出しそうになったけどな。それにしてもーーーー」

 

クルシーナは感心したように言うのに対し、かすみは警戒しているような低い声だ。

 

「あそこまでやる必要があったのか? のどかが壊れたらどうするつもりなんだ?」

 

「別に壊すつもりなんかなかったわよ。動揺してるみたいだったから、苦しめてやりたかっただけ。結果的に元に戻ったんだからいいでしょ? お仲間のおかげで」

 

「っ・・・」

 

かすみは険しい表情で問いかけるも、クルシーナはどこ吹く風で答える。かすみはあっけらかんとしたクルシーナの答えに顔を顰める。

 

シュイーン!

 

「おや、ここにいましたか」

 

「ドクルン」

 

風を切るような音が聞こえてきたかと思うと、二人が振り向いた先にはドクルンの姿があった。

 

「アンタが見てたテラビョーゲンはどうしたの?」

 

「まだ目は覚めてはいませんが、調整はしましたし、大丈夫でしょう。あとは自力でビョーゲンキングダムにたどり着くはずです」

 

「あら、そう・・・」

 

クルシーナは淡々と尋ねると、ドクルンは答える。

 

「・・・なんだか私と同じ、憑き物が取れたような顔をしていますねぇ?」

 

「はぁ? どこをどう見たらそう見えんのよ?」

 

「いえ、そんな感じがしただけなので♪」

 

「・・・ふんっ!」

 

何かを見透かしたようなドクルンの笑みに、クルシーナは不機嫌そうな表情になる。

 

「おや? そちらの脱走者は?」

 

「ああ〜、今日からアタシたちの仲間になるやつよ」

 

「・・・いつの間にかそんなことを。どんな裏ワザを使ったんですか?」

 

「大したことしてないわよ。こいつから懇願してきたの。キュアグレースを苦しめたくないんだって」

 

ドクルンがかすみの存在に疑問を提示すると、クルシーナはあっけらかんと答える。

 

「そうだよ、悪いか・・・?」

 

「・・・あまり合理的ではありませんが、まあいいでしょう」

 

かすみは険しい表情を崩さずに答える。ドクルンは何やら腑に落ちないような感じだったが、とりあえずは納得することにした。

 

かすみちゃーん!!!!

 

かすみー!!! どこなのー!!??

 

かすみっちー!!!! どこ行っちゃったのー!?

 

「ちっ・・・あいつら探りに来たわね・・・」

 

かすみを探す声が聞こえてくる。プリキュアどもだろう。見つかったらややこしいことになると、クルシーナは舌打ちをした。

 

「のどか・・・・・・」

 

かすみは悲しそうな表情で声のする方向を向きながら、愛しの少女の名前を口にする。

 

かすみさーん!!!!

 

叫ぶ声が大きくなる。どうやらこっちに近づいてきているようだ。

 

「見つからないうちに早く退散するわよ」

 

クルシーナはそう言うと、手を突き出すように構える。すると、楕円の形のゲートが出現し、その中は空が赤色の世界が広がっていた。

 

「いくわよ、『カスミーナ』」

 

「っ、カスミーナ・・・・・・」

 

クルシーナは脱走者に名付けた名前を呼びながら、ゲートの中に入っていく。かすみは後ろ髪を引かれる思いを抱きつつも、ドクルンの後を続いてゲートの中へと入り、人間の世界を後にした。

 

「ここは・・・・・・」

 

「ビョーゲンキングダム。私たちの世界です」

 

ドクルンは微笑みながら答えると、さっさと前へ進んでいくクルシーナの後をついて行くようにへと歩いていく。かすみは辺りをきょろきょろとしつつも、二人の後をついて行く。

 

「ああーもう! 今日はめちゃくちゃ最悪。あのお姉様、余計な行動ばっかり起こして・・・後で見にいってみるけどね」

 

「復活させたくない気持ちはわかりますが、やらないと復活のための器が揃いません。それにお父さんに怒られてしまいますしね」

 

「わかってんのよっ、そんなこと」

 

クルシーナはシビレルダを思い出して不機嫌になっているようで、ドクルンが諫めようとしていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

かすみはそんな様子をなんとも言えない表情で見つめていた。

 

そして、幹部たちが待つ場所へと辿り着き、赤い空にはキングビョーゲンの靄が浮かび上がり、その下には幹部たちが全員集合していた。

 

クルシーナとドクルンは前に出て、かすみはそこで待つように指示され立ち止まる。

 

「ただいま帰ったわよ、お父様」

 

「ドクルン、戻りました、お父さん」

 

二人は赤い空に浮かび上がる自分たちの父親に挨拶をする。

 

「クルシーナよ、また何か紹介したいものがいると聞いたが・・・・・・」

 

「ええ、今日からビョーゲンズの新しい仲間になるテラビョーゲンよ」

 

キングビョーゲンの問いに、クルシーナはあっけらかんとした感じで答える。

 

「何よ・・・また邪魔な奴が増えるの・・・!?」

 

「・・・ふむ、クルシーナが連れてくる奴は、少し興味が湧くがな」

 

シンドイーネは顔を顰めながらそう言い、グアイワルは真面目な表情をしつつも、興味深そうにしていた。

 

「・・・まあ、鬱陶しくないならなんでもいいの」

 

「うるさくないなら、いいですぅ・・・すぅ・・・」

 

イタイノンは然程興味もなさそうに言い、フーミンはその彼女の肩に寄りかかりながら眠っていた。

 

「どんな仲間なんだろうね〜? それはヘバリーヌちゃんを痛めつけてくれるのかなぁ〜♪」

 

「・・・お前は少し黙ってろなの」

 

ヘバリーヌが想像したのか悶えながら言うと、イタイノンが顔を顰めながら諌める。

 

「見て驚くと思うわよ。出てきなさい」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべながら、背後にいるかすみに声をかける。地面を踏む足音が聞こえてきたかと思うと、そこからフードを被ったかすみがビョーゲンズの幹部たちへとお披露目された。

 

「・・・其奴は」

 

キングビョーゲンは神妙そうな声を上げて呟いた。顔はわからないのであれだが、実際は驚いているのだ。

 

「っ!? こいつって・・・!?」

 

「例の脱走者だと・・・!?」

 

シンドイーネとグアイワルもその姿を見て驚いていた。プリキュアと一緒にいたはずの脱走者だったからだ。

 

「嘘ぉ〜!? お姉さ〜ん!?」

 

「っ!! 私たちの邪魔したやつですぅ・・・!?」

 

「っ・・・まさか、こいつがそうなの・・・?」

 

ヘバリーヌはもちろん、フーミンも目が覚めてしまうほどに驚き、イタイノンは一人不快そうな表情を浮かべていた。

 

「ええ、今日からアタシたちの仲間よ。ほら、お父様に自己紹介して」

 

クルシーナは幹部たちにそう明言すると、かすみにキングビョーゲンに挨拶するように言う。かすみは幹部たちをきょろきょろと見つめると、目の前に浮かぶキングビョーゲンの前に片膝をついてしゃがみ込む。

 

「・・・キングビョーゲン様、私はカスミーナと申します。以後、あなたと、他のビョーゲンズたちのために地球を蝕んでご覧に入れましょう」

 

かすみは複雑な心境を内心に抱きつつ、キングビョーゲンに忠誠を誓う。

 

「クルシーナ、これは・・・?」

 

「仲間に引き入れたのよ、プリキュアの一人を利用してね。まあ、こいつは自分からアタシの元に来たいって言ってたんだけどね」

 

キングビョーゲンの厳かな声にも、クルシーナは平然とした口調で答える。

 

「カスミーナよ。お前にはビョーゲンズとして、我に忠誠を誓う覚悟はあるか・・・?」

 

キングビョーゲンに問われると、かすみは少し考える。ビョーゲンズに信用してもらうためにはどうすればいいか? 自分にはナノビョーゲンを出す力もなければ、特別な力を持っているわけではない。

 

本当はこんなことを言いたくないが、自分の身のため仕方がない。そう思ったかすみは口を開いた。

 

「・・・私は、人間が嫌いです。快適なはずの世界から私を拒絶した人間を許せません。地球を汚し、環境を破壊しようとする人間を、それらを守ろうとするプリキュアたちも理解できない。私はあいつらを苦しめてやりたい、そのためにキングビョーゲン様、ビョーゲンズに魂を売る覚悟です・・・!!!!」

 

かすみは苦渋の思いでそう叫んだが、その言葉に口を開いたものがいた。

 

「口だけだったら、いくらでも言えるの・・・!!」

 

かすみの言葉が気に入らないイタイノンはその場から姿を消すと、彼女の前に現れて右拳に電撃を纏って殴りかかろうとする。

 

かすみはその右拳を視界に捉えると・・・・・・。

 

「ふっ!!!!」

 

パシッ!!!!

 

「っ!?」

 

かすみはその拳を片手で受け止め、イタイノンはそれに驚いた。拳から電気がいっているというのに、かすみが平然と受け止めたことが意外だった。

 

「・・・ふーん、実力はあるってわけね」

 

「イタイノンの拳を受け止めるとは、あの女はなかなかだな」

 

シンドイーネは顰めつつも実力は認めるようなことを口にし、グアイワルは思ったほど強いことに関心を覚えていた。

 

イタイノンの拳の電気がおさまった後も、かすみは平然と立っていた。

 

「っ・・・いつまで掴んでるの・・・!」

 

「・・・すまない」

 

イタイノンは不愉快そうに顰めながら言うと、かすみは謝罪の言葉を口にしながら手を離す。

 

「お姉さん、いつの間にか強くなったの〜?」

 

「イタイノンお姉様の攻撃を受け止めるなんて・・・許せないですぅ・・・」

 

ヘバリーヌは意外そうな表情をしていたが、フーミンは面白くないのか、不快そうに顰めていた。

 

「まあ、あとでこいつの肉体はいじるし、いいでしょ? お父様。アタシたちが面倒みるからさ」

 

クルシーナは娘が父にお願いをするかのような雰囲気で話す。

 

「・・・まあ、よかろう。好きにやってみるがいい。カスミーナはお前に任せるぞ、クルシーナ」

 

「ありがと♪」

 

キングビョーゲンから許可を出され、クルシーナは笑顔でお礼を言う。

 

「ああ、お父さん。あとテラビョーゲンがもう一人、今育っていますので、誕生したら紹介しますね」

 

「ほう・・・楽しみにしているぞ、ドクルン」

 

「はい♪」

 

ドクルンは笑みを浮かべながらそう言い、キングビョーゲンは寛容に返す。

 

「・・・・・・・・・」

 

一方、一人静観していたダルイゼンはクルシーナを意味ありげな様子で見つめていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キングビョーゲンとの接見の後、クルシーナたち、キングビョーゲンの娘たちはあの街にある廃病院を模した自分たちのアジトへと来ていた。

 

「ここがアタシたちのアジトよ」

 

「ふわぁ・・・・・・廃病院という割には綺麗だな・・・」

 

「・・・お前、来たことあるだろ、なの」

 

「あ・・・そうだったか・・・?」

 

「だって、あなたが生まれた場所でしょうに」

 

「怖すぎて覚えてないんだよな・・・」

 

かすみはまるで初めて来たような発言をし、イタイノンとドクルンに突っ込まれる。廃病院の中へと入っていく娘たちに続いて、かすみも中へと入っていく。

 

あとは適当に散開し、クルシーナ、ドクルン、イタイノンの三人娘はかすみの新たな活動の拠点として、いろんな場所へと案内をしようとしていたが・・・・・・。

 

「あ・・・・・・!」

 

「・・・どうしました?」

 

「アタシ、よらなきゃいけないところあったわ。二人とも、カスミーナを適当に案内しといて」

 

クルシーナはそう言いながら一人、3人から離れてどこかへと向かっていく。どこへ行くのかわかっているドクルンとイタイノンは特に引き止めもせずに、とりあえずかすみのために用意した部屋へと向かっていく。

 

病室の一つである一室の部屋の前にたどり着くと、ドクルンはそこの扉を開ける。

 

「ここがあなたの部屋です」

 

「ふわぁ・・・・・・」

 

かすみは中を見ると、よく綺麗にされている部屋に驚く。

 

「別に驚くほどの部屋でもないの」

 

「い、いいだろ! こんなに綺麗な部屋は初めてなんだから!!」

 

イタイノンに突っ込まれた、かすみは顔を赤らめながらも答えた。

 

かすみはそのまま部屋に入り、ベッドの上で寝ようとしていたが・・・・・・。

 

「おっと!! その前に」

 

「っ!?」

 

突然大声を出したドクルンに、かすみは心臓が飛び出すのではないかというほどに驚いた。

 

「あなたには私の部屋に来てもらえますか?」

 

「??」

 

かすみは首を傾げながらも、ドクルンへと着いていき、途中でイタイノンとは別れるも、彼女の部屋へとやって来た。

 

「はい、これ」

 

「っ!? こ、これは・・・!?」

 

かすみはドクルンに手渡されたものを見て驚く。それは、メガビョーゲンの一部でもあるメガパーツだったからだ。

 

「あなたには私のちょっとした実験にも付き合ってもらいます。これをあなたの体の中に入れてください」

 

「こ、これを中に入れるのか・・・!?」

 

ドクルンの発言に、かすみは動揺を崩さない。のどかがメガパーツを埋め込まれて苦しんでいたことも思い出してしまい、体が震える。

 

「大丈夫でしょう。だって、あなたはビョーゲンズなんですから♪」

 

「そ、そういう問題なのか・・・!?」

 

ドクルンは満面の笑顔を貼り付けながらそう言うも、かすみは狼狽しながら言った。実はシビレルダにメガパーツを埋め込んだ後の暴走も見ているため、これを入れたら自分もああなるのではと危惧していた。

 

かすみがメガパーツを入れるのを躊躇していると、ドクルンが歩み寄って彼女の片手を掴む。

 

「怖いのなら私も手伝いますよ・・・!」

 

「や、やめろ!! わ、わかった!! わかったから・・・!!!! 自分でできるから!!!!」

 

ドクルンがかすみの手に持っているメガパーツを無理矢理押し込もうとしたため、動転したかすみは彼女を諌め、メガパーツを入れることを承諾する。

 

「では、早くしてください。待つのはあまり好きではないので」

 

ドクルンはそう言いながら手を離して、かすみに委ねることにした。

 

(ええい! もう一か八かだ!!)

 

ビョーゲンズの仲間になると言った以上、彼女との関係を拗らせるわけにはいかない。そう考えたかすみは心の中で叫びながらメガパーツを入れることにした。

 

かすみは手に持たされたメガパーツをゆっくりと体に近づけていく。緊張のせいか、体が震えて額から汗が滲み出てくる。

 

「うぅぅ!!!!」

 

目をギュッと瞑り、思い切ってメガパーツを体へと押し当てた。

 

ズズズズズ・・・・・・。

 

かすみの体に触れたメガパーツが、ゆっくりとかすみの体の中へと入り込んでいく。

 

そして・・・・・・。

 

ドックン!!!!!

 

「うっ・・・!?」

 

かすみの目が大きく見開かれ、彼女の体に激痛が走った。

 

「ぐっ・・・うっ、ぅぅぅ・・・!!!!」

 

かすみは胸を押さえながらよろよろした足取りで後ずさっていき、部屋の壁に背中をぶつける。

 

「うっ・・・ふ、ぅっ・・・くっ・・・!!」

 

「あなたの中に入ったメガパーツが体に馴染もうとしているんですよ。しばらく経てば治ります」

 

かすみは苦しそうに唸っている中、ドクルンは笑みを浮かべながら眺めていた。

 

そして・・・・・・!!!!

 

「ぐっ・・・うぅぅぅ・・・うぁぁっ!!!!」

 

かすみは体を後ろに仰け反らせると、体を震わせながらある変化を遂げていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、クルシーナは地下室で眠っているクラリエットのところへとやってきていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナは手に持っていた、のどかの体の中で育っていたテラパーツの赤い靄の一部をクラリエットに与える。

 

すると、クラリエットの包まれている赤い靄がうねうねと激しく動き始めた。

 

「・・・おい」

 

ふと、クルシーナが不機嫌そうな口調で眠っているクラリエットに叫ぶ。

 

「本当は起きてんだろ? お前の名前を言っていたテラビョーゲンが一人いたぞ。お前が何かしなければ、名前なんか呼ばないと思うんだけど。なあ、どうなんだよ・・・?」

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナはそう問いかけるも、クラリエットの周りの赤い靄が動いているだけで、彼女自身は何も口を開かない。

 

何も話さない、正しくは話そうとしていないのか、クルシーナは顔を顰めて右手からピンク色のオーラを迸らせる。

 

「ここで攻撃ぶっ放してやってもいいんだぞ。おい!」

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナはオーラを迸らせた片手を突き出して問いかける。あくまでも喋らないなら実力行使に及ぶしかない。

 

しかし、クラリエットは何も答えようともせず、脅しにも反応しなかった。

 

「ちっ」

 

クルシーナは舌打ちをすると、片手のオーラを納めて下に降ろす。

 

「目を覚ましたら覚えてろよ、クソお姉様」

 

クルシーナは不機嫌そうな口調でそう言うと、地下室を後にしていった。

 

その直後、赤い靄がうねうねと動いたかと思うと・・・・・・。

 

「・・・・・・フフ♪」

 

眠っているはずのクラリエットの口元に薄っすらと笑みが浮かぶのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第93話「切迫」

原作第29話ベースになります。
今回からビョーゲンズ視点も増えてくるようになります。


 

「ふっ、ふっ・・・えへへ♪」

 

「ふわぁ〜・・・・・・」

 

のどかが病院を退院してから数日、のどかはえらく張り切った様子でランニングのためのウォーミングアップをしており、それを一緒にするラビリンは眠そうにしていた。

 

「のどか?」

 

「っ!?」

 

そこへのどかの母・やすこが声をかけ、ラビリンは慌ててのどかのバッグの中に隠れた。

 

「あ、おはよう。お父さん、お母さん」

 

「「おはよう」」

 

「今朝も、こんな早くから走るの?」

 

「最近、ちょっと走りすぎじゃないか・・・?」

 

のどかはここ最近、必要以上にランニングに打ち込む時間が増えており、のどかの両親は先日の娘が病気になった件も相まって心配そうにしていた。

 

「だいぶ走るの慣れたし、もっと遠くまで行けるといいなぁ〜って」

 

「だったら、お父さんが途中まで車で送ってあげよう」

 

のどかの父・たけしは娘を心配して車の鍵を取り出すと一緒に出ようとする。

 

「それじゃ意味ないよ〜。今は体力つけたいんだも〜ん♪ いってきま〜す」

 

のどかはそう言って玄関を出ると、そのままランニングしに外へと走っていってしまった。

 

「え・・・うわっ、まっ!?」

 

「無理しないでね〜!」

 

「は〜い♪」

 

たけしは動揺して転んでしまったが、やすこはのどかにそう声をかけると、のどかは返事をして走っていった。

 

「・・・・・・・・・」

 

「クゥ〜ン・・・・・・」

 

その様子をベランダからアスミとラテが心配そうに見つめていた。そして、アスミ自身も俯いて暗そうな表情をする。

 

「・・・・・・かすみさん、どこに行ってしまったのでしょうか」

 

「ウゥ〜ン・・・・・・」

 

その理由は自分たちの前から姿を消してしまったかすみのことだ。のどかの病院での騒動があった後、全く姿を消してしまった。のどか、ちゆ、ひなたの3人で一緒に探したが、見つかることはなかったのだ。

 

「・・・のどか、あれからずっと落ち込んでましたし、急に元気になっているところを見ると・・・心配です・・・・・・」

 

クルシーナが旧友だと知ったときは心が壊れる寸前だったが、自分たちがなんとか支えてのどかは気持ちを持ち直した。しかし、今度はかすみがいなくなったことを知って、のどかはえらく落ち込んでいたが、急に元気を取り戻したので、アスミは気が気でないのだ。

 

「クゥ〜ン・・・・・・」

 

ラテはアスミの言葉に呼応するかのように鳴き、のどかを心配そうに見つめていた。

 

一方、その頃ちゆは・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

家族と一緒に朝食を食べていたが、味噌汁のお椀を手にしているちゆの表情は暗かった。

 

「かすみお姉ちゃん、どこに行っちゃったの・・・?」

 

弟のとうじも座っていない席を見つめながら悲しそうな表情を浮かべていた。

 

「っ・・・・・・・・・」

 

ちゆも同じように誰も座っていない席を見つめていた。そこに一緒に朝食を食べているはずのかすみの姿はない。みんなで一生懸命に探したが、見つかっていない。

 

いつもかすみに遊んでもらっていたとうじには、言葉をかけてやることができなかった。

 

「ちゆ、とうじ、早く食べなさい」

 

「うん・・・・・・」

 

「ええ・・・・・・」

 

ちゆの母・なおがご飯の手が進まない二人にそう促す。返事はしつつも、二人は席を見つめたまま手が動かなかった。

 

「そのうち帰ってくるわ・・・だって、私の、私たちの大切な家族なんだもの」

 

「・・・・・・うん」

 

「そうね・・・・・・」

 

何かを察しているなおはそう励ますが、二人は学校へ登校していくまで、暗い表情のままなのであった。

 

のどかはその頃、すこやか市のとある公園の前でランニングをしていたが・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

そののどかの表情は眉をハの字にしていて、なんだか暗そうな表情であった。

 

「・・・のどか?」

 

「えっ?」

 

「どうしたラビ? 前を見て走らないと危ないラビ」

 

「うん・・・・・・」

 

そこへカバンの中から顔を出してラビリンが声をかけるも、よそ見をしていたのどかは前を向いて走り出す。しかし、それは先ほどの両親に聞かせた声とは違い、落ち込んだような暗い声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マグマで満たされた世界、ビョーゲンキングダム。この前はカスミーナことかすみが加わり、世界は騒がしくなりつつあった。

 

そんな中、グアイワルは煮えたぎった液体の中に唐辛子を数本入れて、液体を赤く染めていた。それに笑みを浮かべると、それを木のスプーンで少し掬うと口の中に入れる。

 

「ん!? ゴホッ!! ああ!! あぁぁぁ!!! 辛い!!!!」

 

当然ながら唐辛子のスープを飲んだグアイワルは顔を真っ赤にしながらそう叫ぶ。

 

ドカァァァァァァン!!!!

 

すると、同時に後ろにあるマグマが大きな音を立てて噴火した。

 

「うるっさいわね!!! マグマ噴火させんじゃないっての!」

 

轟音をやかましく感じたクルシーナが怒りながら叫ぶ。

 

「普通ならここまでだが・・・・・・」

 

グアイワルはそう言いながら、さらに大量の唐辛子を鍋の中に入れる。すると液体にさらに赤みが増す。そして、その液体を少し掬って口の中に入れる。

 

「うっ・・・はっ、はっ、はぁぁぁぁぁっ!!??・・・かっらぁーーーーーい!!!!!」

 

ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!

 

グアイワルはさらに顔を真っ赤にさせて叫び声をあげ、マグマが先ほどよりも大きく噴火した。

 

「がぁっ!?」

 

「うるさいつってんのよ!!!!」

 

そこにグアイワルに目掛けて石が飛んできて、クルシーナの怒鳴り声が聞こえてくる。

 

「やひゃりな・・・ひれればひれるほど、はらくなふ・・・!!! はらはにへんはいはない!!!!」

 

「いや、何言ってるかわかんないんだけど・・・」

 

辛さのせいでたらこ唇にしながら言うグアイワルを、ダルイゼンは呆れたように見ていた。

 

「メガパーツは入れれば入れるほど、スーパー強くなるということだ!!! 俺の持論は合っていたのだ!!! ふはーっはっはっはっはっはっは!!!! ぐわぁっ!?」

 

グアイワルがメガパーツを取り出しながらそう結論づけていた。高笑いをしていると、そこにお鍋の蓋が飛んできて、顔面に直撃する。

 

「うるさいっつってんのが、聞こえねぇのかよ!! 脳筋頭!!!!」

 

「いてぇ・・・何をするんだ、クルシーナ!?」

 

ドカァァァァン!!!!

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

そこに容赦なくクルシーナのピンク色の光弾を放たれ、爆発が直撃したかと思うとグアイワルは吹き飛んでいった。

 

「ったく・・・・・・」

 

クルシーナはそれを確認すると、腹ただしそうに頭を掻く。

 

「お、おい・・・あそこまでやる必要があったのか? 確かに私もうるさかったが・・・」

 

そこへかすみの咎めるような声が聞こえてくる。

 

「いいのよ。あんな辛い液体を飲んで叫んでいるようなバカは・・・」

 

「やかましくて、見るのも嫌なの」

 

「あんなのはよそでやってほしいですねぇ」

 

「よ、容赦ないな・・・・・・」

 

三人娘が口々に毒のある言葉を言うと、かすみは少し顔を引きつらせながらそう言った。

 

「ワル兄、いいなぁ~、ヘバリーヌちゃんもあんな風にぶっ飛ばされた~い!」

 

「すぅ・・・すぅ・・・すぅ・・・」

 

「お前たち二人は、マイペース過ぎないか・・・」

 

ヘバリーヌはグアイワルを羨ましそうに見ていて、フーミンは彼女の近くでスヤスヤと眠っていた。

 

「相手にしなくていいわよ、その二人は。さてと、そろそろ煮えてきたかしら?」

 

かすみに諭すようにそう言うと、割り箸を割って目の前のものに視線を向ける。

 

「湯気は出てきたの」

 

イタイノンがそう呟く中、クルシーナは箸を鍋の中に突っ込むと摘まみ上げる。その中に入っていたのは紺色の板のような食べ物、こんにゃくだった。

 

「あーむ、はぁ、はぐいはぐい、はぐはぐ・・・」

 

クルシーナは口の中にそれを含むと熱さに口を動かしつつも、冷ましつつ咀嚼し飲み込む。

 

「うん、悪くないわね・・・・・・」

 

「ねぇ、クルシーナお姉ちゃん、これ何~?」

 

食べたクルシーナが微妙な顔でそう言うと、ヘバリーヌが不思議そうに鍋を覗きながらそう問いかける。

 

「地球の人間が食べてるおでんってやつね。今、旬なんでしょ?」

 

「そうらしいですね。でも、なぜカスミーナの歓迎会をわざわざここでやるんですか? しかも、おでんを囲むなんて・・・」

 

クルシーナがそう答えると、ドクルンがそもそもの疑問を指摘する。アジトである廃病院でもいいはずだが、どうして幹部たちが集まるビョーゲンキングダムを選んだのか。

 

「いいでしょ、別に。廃病院で鍋とか雰囲気ないからここにして見ただけよ」

 

「ここでやってもそんな雰囲気ないの・・・・・・」

 

クルシーナは不快そうな感じでいうと、イタイノンがそれに突っ込む。

 

「うるさい。いいからアンタらもおでん摘めよ。カスミーナも・・・」

 

「はぁぁぁぁぁ・・・・・・!」

 

クルシーナは不機嫌そうにそう告げるとカスミーナの方をみる。彼女はおでんを見ながら瞳を輝かせていた。

 

「これ、食べていいのか・・・!?」

 

「当たり前でしょ。っていうか、食べろ」

 

クルシーナに許可、というよりも命令されたかすみは持っていた割り箸をその場で割ると、鍋に突っ込んで掴み上げる。上がったのはちくわだった。

 

「あーむ。んん~!!! 美味いな~!!!」

 

かすみは、のどかたちと一緒に食べた時と変わらない、頬を赤らめながら言った。

 

「「「「「・・・・・・・・・」」」」」

 

それをキングビョーゲンの娘たちは、呆気にとられたように見ていた。

 

「ん、これも美味いな~、具材にお汁が染みていて!! あむ、おぉぉぉ!! これも美味いぞ!!!! この細長いやつと似ているのに、もちもちとした食感だ!! ふわぁ、この袋みたいなやつはなんだぁ~!? ん、中に餅が入ってるのかぁ!? これもこれでいいなぁ~!!!」

 

かすみはおでんを次々と摘みながら、独り言のように感想を述べていく。それ故に娘たちは声をかけづらい状況にあった。

 

「・・・あのさぁ」

 

「??」

 

「そんなにはしゃぐほど美味しい?」

 

「ああ・・・美味しいぞ」

 

クルシーナの呆れたような問いかけに、かすみは瞳をキラキラとさせながら答えながら、再び具材を食べ始める。

 

「・・・つーか、フードぐらい取ったら?」

 

「っ!? んぐぅ!? んっ!んっ!んぅぅぅ!!」

 

クルシーナの不意を突かれたような言葉に、動揺したかすみは口の中に入れた食べ物を胸に詰まらせ、顔を青ざめさせながらも胸をトントンと叩きながら飲み込む。

 

「ぷはぁっ・・・いきなり何だ!?」

 

「いきなりも何も、フードぐらい取れつってんの。ご飯を食べてる乙女の顔じゃないし」

 

かすみはそう叫ぶも、クルシーナは淡々としながら答える。すると、かすみの体が汗がダラダラと垂れ始める。

 

「・・・・・・い、嫌だ」

 

「は?」

 

「は、恥ずかしいんだもん・・・姿を晒すの・・・」

 

かすみは口ごもりながらも申し出を拒否すると、クルシーナは何を言ってんだとでも言いたげな表情になる。

 

「今更、何を言ってるんですか? ビョーゲンズのくせに」

 

「人間じゃない肌は慣れていないんだ!! 晒すなんて耐えられない!!」

 

「何を恥ずかしがっているの・・・・・・」

 

ドクルンがおでんを突きながら呆れたように言うと、かすみは羞恥心で叫び、イタイノンも呆れたように呟く。

 

「・・・ヘバリーヌ」

 

「何~?」

 

「カスミーナのフードを引っぺがしてやって」

 

「わかった~♪」

 

クルシーナはヘバリーヌにそう命じると、彼女はおでんを食べる手を止めて、かすみの後ろへと移動する。

 

「ひっ・・・!?」

 

「お姉さん、ヌギヌギしようねぇ~?」

 

「や、やめろ!! お、おい!! 引っ張るなぁ!!」

 

肩に手を置かれて悲鳴をあげたかすみに、ヘバリーヌは妖しい笑みを浮かべて手をワキワキとさせると、フードに手をかける。かすみはあくまでも見られたくないのか、ヘバリーヌの手を掴んで抵抗する。

 

「なんで、そんなに嫌なの~? お姉さんの顔を見たいだけなのに~!」

 

「恥ずかしいと言っただろ!! 自分の顔が変に映ってると思うと見せられるか!!」

 

「全然変じゃないじゃ~ん。可愛いよ~?」

 

「変だ、変!! 鏡を見てそう感じたんだ!!!」

 

かすみはヘバリーヌに反論しながら、脱がさせようとしない。意地でも顔を見られるのが嫌な様子。脱がせまいとするかすみと脱がそうとするヘバリーヌのいたちごっこが続いていた。

 

そんな様子を呆れたように見つめていたクルシーナは見かねて口を開く。

 

「・・・アタシは可愛いと思うわよ」

 

「・・・・・・え?」

 

クルシーナの告白に、かすみは動きを止め彼女の方を向く。

 

「可愛いって言ったのよ、アンタの顔。そういう興味津々なところも、反応も病院にいた頃ののんちゃんにそっくりだしね」

 

「っ!!!!」

 

可愛い・・・・・・そう言われたかすみの動きは止まり、ヘバリーヌに抵抗なくフードを剥がされる。

 

顔を赤らめたままのかすみの姿は、クルシーナと同じように薄いピンク色の肌をしており、頭にはビョーゲンズ特有の悪魔のようなツノが生えていた。

 

「尻尾も出しなさいよ」

 

「っ!?」

 

クルシーナに指摘されてかすみが動揺の顔をしていると、ヘバリーヌが不思議そうにかすみのお尻部分を見つめる。

 

「?? スカートの中がもっこりしてるね~?」

 

「あ、あぁ・・・や、やめ、ひっ・・・うひぃぃぃ!?」

 

ヘバリーヌがペタペタとお尻周りの肌を触り、かすみが止める間も無く、彼女のスカートの中に手を突っ込み、中にあるサソリの尻尾を引き摺り出し、かすみは悲鳴をあげた。

 

「あら、随分と可愛い姿に、可愛い悲鳴じゃない」

 

「み、見ないでくれ・・・聞かないでくれ・・・!!!」

 

クルシーナが反応を面白がるかのように言うと、かすみは赤らめた顔を覆いながら言う。あまりにも恥ずかしいし、穴があったら入りたい気分だ。

 

「ドクルン、こいつにメガパーツを使ったの?」

 

「ええ。ビョーゲンズとして活動をさせるためには、進化して新たな力を手に入れさせる方が手っ取り早いと思いましてね」

 

「・・・シビレルダのときは失敗だったのにねぇ。そう思うとカスミーナはアタシたちと同じ存在かもね」

 

クルシーナが尋ねるとドクルンは肯定し、クルシーナはシビレルダのときは怪物と化して失敗していたことを思い出す。おまけにネブソックのように地球を蝕む力も残ってしまっていたので、幹部としては失敗作だと判断したのである。

 

でも、かすみの場合はどうやら成功したようだ。怪物にもならず、ましてや拒絶反応を起こして死んだわけでもない。かすみはもしかしたら、自分たちと同じ究極の存在かもしれない。

 

「・・・体が捩れるかと思ったぞ、私は」

 

恥ずかしさから冷静になったかすみがジト目をしながら言う。

 

「体が崩壊もせず、クルシーナの言う怪物にもならずに済んでいるんですからいいでしょう。メガパーツの力に負けないだけいいと思いますよ」

 

「死ぬほど痛いし、苦しかったんだが!!??」

 

ドクルンが平然としたような口調で言うと、かすみは突っ込みを入れた。メガパーツを自分に入れて激痛が走った時は、はっきり言って死ぬかと思った。簡単な実験に付き合ったとはいえ、そんな軽い話で済まされるようなものでは決してない。

 

「メガパーツを入れたぐらいで喚かないで欲しいの・・・」

 

「ヘバリーヌちゃんは苦しかったけど、すぐに気持ち良くなれたよ~♪ カスミーナお姉さんも慣れるって~♪」

 

「ふわぁ〜・・・病気は最高です・・・」

 

「お前ら、トラウマとかPTSDという言葉を知ってるか!!?? そんなの慣れたくない!!!!」

 

かすみは思いの丈を叫ぶ。苦しいものは何を超えたって苦しいのだ。それをいつまでも味わいたいとはとても思えない。勘弁してくれと思う。

 

「まあ、いいじゃない。ほら、もっと食べなさいよ。アタシが装ってあげるから」

 

クルシーナは適当に話を流すとかすみのお椀を手に取り、おでんの中の具を次から次へと入れてかすみに差し出す。

 

「あ、ありがとう・・・・・・」

 

かすみはてんこ盛りになったお椀にたじろぎつつも、それを受け取った。

 

「それ、私が狙ってたたまごなの・・・!!」

 

「ケチケチすんじゃないわよ、食べ物ごときで。大体、取られたくないんだったらさっさと食べればいいでしょ」

 

イタイノンが狙ってた食べ物を取られて抗議の声を上げるも、クルシーナは正論を言って反論する。

 

「フーミン・・・食べながら寝ないでください。はしたないですよ」

 

「んぅ・・・おでん食べたら眠くなってきたですぅ・・・」

 

ドクルンはおでんを食べながら、食事中にうつらうつらするフーミンを注意する。

 

「お姉さん、それ食べてもいい?」

 

「あ、ああ・・・いいぞ・・・」

 

ヘバリーヌはかすみのお椀に盛っている油揚げの巾着を要求し、かすみは戸惑いつつも彼女に与える。

 

「・・・・・・・・・」

 

おでんを囲んで談笑しているキングビョーゲンの娘たち。かすみはそんな様子を見て、なんとも言えない表情を浮かべていた。

 

そんな中・・・・・・。

 

「・・・さてと、そろそろビョーゲンズの仕事をするとしましょうか?」

 

「っ・・・!!」

 

「カスミーナ、私についてきてください」

 

ドクルンはおでんをある程度食べ終え、その場から立ち上がるとかすみに手招きをする。かすみは緊張した面持ちでその場から立ち上がる。

 

しかし、かすみは下を向いたまま歩こうとしない。これから地球を蝕むための活動をするかと思うと胸が苦しくなる。

 

「・・・どうしたのですか?」

 

「・・・なんでもない。わかった」

 

ドクルンが振り向いて冷徹な声を出すと、かすみはそう言って彼女の後ろをついていく。

 

ドクルンはそれを確認すると笑みを浮かべ、そのまま人間界へと歩いていく。かすみはその後ろをゆっくりとついていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうぞ」

 

「ワン♪」

 

ランニングを終えたのどかが学校に行った頃、アスミはヒーリングルームバッグから哺乳瓶を取り出して、ラテにミルクを与えていた。

 

その傍らでは、ラビリン、ペギタン、ニャトランが話をしていた。

 

「のどかがランニングに熱心なのは良いことじゃねぇの?」

 

「だって! ついこの間ラビ!! メガパーツのせいで苦しんだのは・・・ハードな運動はまだ心配ラビ・・・・・・」

 

最近ののどかは激しい運動を繰り返している。ラビリンはそれをすごく心配していた。

 

つい先日まで、ダルイゼンにメガパーツを入れられてしまい、それにのどかは苦しみ、病院へと入院していた。退院したとはいえ、まだ病み上がりなのだ。のどかが無理をして、いつ倒れてしまうかヤキモキしている。

 

「おまけに・・・かすみが突然いなくなって、大分落ち込んでもいたのに、今日は明るく振舞ってたラビ・・・そういう面で心の方も心配ラビ・・・・・・」

 

「かすみ・・・どこに行っちゃったんだペエ・・・?」

 

さらには病院の入院中にかすみも姿を消した。のどかはそれに対しても、落ち込んだ様子を見せていた。ランニングの時も木にぶつかりそうになったことは何度かあり、その度にラビリンが注意を促したこともあったのだ。

 

「それにしても・・・驚きだよな。テラビョーゲンがさぁ」

 

ニャトランはそれに関連して、先日の戦いも思い出していた。のどかが出て行ったメガパーツが、ケダリーというテラビョーゲンに進化したのだ。

 

「ビョーゲンズが生き物を宿主にして進化したものだったなんて」

 

「僕は、ダルイゼンとのどかの方が驚いたペエ・・・・・・」

 

そして、ダルイゼンが暴露したあの言葉。なんと彼はのどかの体から成長して生まれたビョーゲンズだった。それにみんなは驚きを隠せなかったのだ。

 

「それだけじゃないラビ!! シビレルダが人間そのものが進化したテラビョーゲンだったラビ・・・・・・」

 

「それも驚いたよなぁ・・・。それとクルシーナが・・・のどかの病院時代の友達だったなんてな・・・」

 

ケダリーとは別に誕生したテラビョーゲン、シビレルダはすこやか病院の患者がテラビョーゲンになった姿であった。更にはクルシーナが、のどかの友人であるしんらがテラビョーゲンと化した姿であるという驚愕の事実も発覚したのだ。

 

「のどか、ショックだったと思うペエ・・・・・・」

 

「この前なんか壊れる寸前だったラビ・・・だから、元気に明るくしているのを見ると余計に心配になってくるラビ・・・・・・」

 

ダルイゼンが成長させたのは自分であったこと、クルシーナの正体が自分の病院の友人だったこと、そしてかすみが姿を消したこと、この3つのショッキングな出来事が重なって、実は相当心に参っているであろうのどかを、ラビリンは人一倍心配していた。

 

「そのことと、のどかがランニングに熱心なことと関係はないのでしょうか?」

 

「僕だったら、落ち込んで走れないペエ・・・・・・」

 

「落ち込んでるようには見えるけど、何か隠しているような気がするラビ・・・・・・」

 

「俺だったら、ダルイゼンを怒りたくなるけどな・・・・・・」

 

アスミの言葉に、ヒーリングアニマルたちが口々に言う。

 

「っ!! それだ!!」

 

「「??」」

 

ニャトランが何かを思いついたようで叫ぶ。

 

「いろいろあってストレスや不安が溜まってるんだよ。だから、発散とか紛らわせるために走ってるんじゃないか?」

 

「なるほどラビ!!」

 

ニャトランはいろんな出来事が重なって、のどかも参っているのだろう。それを発散するためにランニングをしているのだと推測する。ラビリンは考えると、納得した。

 

「クゥ〜ン」

 

「どうしました? ラテ」

 

ラテが何かを言いたげな様子でアスミに向かって鳴く。アスミは聴診器を近づけて、彼女の心の声を聞く。

 

(のどかを元気にしてあげたいラテ・・・)

 

ラテもどうやらのどかが心配で、彼女を元気付けてやりたいようだ。

 

「じゃあ、走らなくてもいいストレス発散方法を、みんなで考えるラビ!!」

 

「「「おぉ!!」」」

 

ヒーリングアニマルたちは、のどかを元気づけるべく行動を起こすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃、のどかたちの通う学校では・・・・・・。

 

「ふ、わぁぁぁ〜・・・・・・」

 

のどかたち3人は音楽の授業のために移動をしていて、のどかは大きなあくびをした。

 

「昨日、夜遅かったの?」

 

「ううん、早かったよ」

 

その様子を見てちゆが声をかけると、のどかはそう答える。

 

「うぇ!? 昨日のドラマ見なかったの!? めっちゃ急展開だったんだよ〜!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

ひなたはいつものようにテンションは高かったが、前を歩くちゆの顔は表情が暗かった。

 

「ちゆちー、どうしたの? そんな暗い顔して・・・?」

 

「っ・・・いえ、なんでもないの」

 

ひなたがそれを見て声をかけると、ちゆは暗い顔から笑みを浮かべる。

 

「・・・もしかして、かすみっちのこと?」

 

「っ!!・・・そうね」

 

ひなたは何かを察したように暗い顔でそう言うと、ちゆも同じようにそう答えた。

 

「かすみっち、どこ行っちゃたんだろうね・・・ちゆちーの家にも帰ってなかったんでしょ?」

 

「かすみの部屋には、誰もいなかったわ。昨日の夜になっても、今日の朝になっても、姿は見えなかったわ・・・」

 

ひなたの言葉に、ちゆは頷いてそう答えた。3人は再び暗い表情になる。

 

そんな中、音楽室へと向かっていると・・・・・・。

 

「おい。落としたぞ」

 

3人の背後からかけられる青年の声。3人は振り向くと、その青年の手にはリコーダーが握られていた。

 

「え・・・うわっ、ヤバっ、ごめんごめん!! ありがとう」

 

ひなたは自分の手元にリコーダーがないことに気づき、青年に駆け寄る。

 

「大事にしろよ。傷一つで音が変わる。それと、廊下を塞ぐように歩くの、やめてくれないか?」

 

「わぁ、ごめんなさい!」

 

青年はひなたにリコーダーを渡し、3人に注意を促すと踵を返して立ち去っていく。

 

「ひぃ・・・やっぱり怖いわ、吹奏の王子様・・・」

 

「水槽?」

 

のどかはそれに水槽の中に入れられた王子の姿を想像する。

 

「水槽の王子様?・・・人魚?」

 

「くっ・・・ふふっ・・・」

 

「違う!!違う!!」

 

のどかの見当違いな無意識な一言に、ひなたはツッコミを入れる。その傍らではちゆが吹き出しそうになっていた。

 

「すいそうって、吹奏楽部の『吹奏』。今のは菅原ゆうとくんって言って、楽器の演奏が上手くてうちの学校じゃ有名なんだよ〜」

 

「そうなんだ・・・!」

 

「でも、クールでストイックで、同じクラブのメンバーからも怖がられてるって話・・・・・・」

 

ひなたが、のどかにそう説明をしていると・・・・・・。

 

「それだけ音楽に対して、熱心ってことだよ!!」

 

「ことえっち」

 

「金森さん」

 

背後から話しかけてきたのは編み込んだツインテールの少女ーーーー金森ことえだった。

 

「そっかぁ・・・ことえっちも吹奏楽部だったね」

 

「うん、トランペット担当で、菅原くんはトランペットのパートリーダーなんだ」

 

「・・・金森さん、先週まで休んでいたけど、もういいの? 確か、風邪を拗らせたって先生が」

 

ひなたとことえがそう話していると、ちゆがそう尋ねる。

 

「ああ、もう大丈夫! 定期演奏会前なのに、体調を崩しちゃって最低だよ。ふあぁぁぁ〜・・・・・・ああ、ごめん・・・」

 

ことえは笑みを浮かべながらそう言うと、先ほどののどかと同じように大きなあくびをし始めた。

 

「寝不足?」

 

「ちょっとね・・・花寺さんは眠くないの?」

 

「え・・・?」

 

ことえのこの一言に、のどかは疑問の声をあげる。

 

「あんな時間、私だけだと思ったから驚いちゃった」

 

「・・・えへへ♪」

 

ことえは練習していた公園でのどかが走る姿を目撃していたのだ。それを知ったのどかは照れ臭そうに笑ったのだった。

 

一方、その頃・・・・・・。

 

「ふーむ、学校の雰囲気が違いますねぇ、服装が変わったからでしょうか」

 

「・・・・・・・・・」

 

ドクルンと、彼女に連れられたかすみが校舎の中を歩き回っていた。かすみは、きょろきょろと何かを探すように顔を動かしていて落ち着かない様子だ。

 

「それとも秋という季節だからでしょうかねぇ。こうのどかだと、何かを蝕むたくなります」

 

「っ、のどか・・・?」

 

ドクルンの呟いた言葉に、かすみが反応して振り向く。

 

「?? どうかしたのですか?」

 

「・・・いや、なんでもない」

 

ドクルンが振り向いて問いかけると、かすみは顔を赤らめてそう言った。ドクルンはそれを聞くと無言で前を向いて歩き始める。

 

校舎の階段を降りていると・・・・・・。

 

「っ、止まってください」

 

「・・・・・・?」

 

ドクルンが何かを察したようで、かすみに後ろで止まるように指示する。彼女の視界の先にはプリキュアの3人と一人の少女がどこかへ向かうところだった。

 

「まあ、いますよね・・・・・・」

 

「? 何がいたんだ?」

 

「プリキュアですよ。ここはあの3人の学校でしょう」

 

「っ! のどかぁ・・・」

 

ドクルンはプリキュアを見つけてそう言うと、かすみは儚げそうな表情を浮かべる。

 

「・・・ふふ。あの娘は病気の匂いがしますねぇ。治ったばかりなのが丸わかりです」

 

そんな中、ドクルンはプリキュアの3人に付いているツインテールの少女に目をつけていた。

 

「ふむ・・・クラリエット姉さんを復活させるための糧を、プリキュアたちから手に入れたいところですが、どうしましょうかねぇ・・・」

 

ドクルンは彼女を利用して、プリキュアからクラリエットを復活させるための何かを手に入れようとしていた。

 

クルシーナの報告によると、キュアグレースから抜いた病気の苦しみを十分に吸った赤い靄は、クラリエットの復活に大きな影響を及ぼしたと聞いている。ならば、次はキュアフォンテーヌか黄色いやつから奪うべきだが・・・・・・。

 

「ふむ・・・・・・」

 

ドクルンは少し考え込んだ後、かすみの方を向く。

 

「カスミーナ、少し手伝っていただけますか?」

 

「っ・・・・・・・・・」

 

ドクルンにそう問われたかすみは、彼女の顔を黙って見つめる。

 

「・・・私はビョーゲンズだ。でも、まだ勝手もわからない。あなたの指示に従おう、ドクルン」

 

「ふふっ、いい子ですねぇ」

 

かすみは険しい表情で覚悟を決めたかのようにそう言うと、ドクルンは優しい微笑みを浮かべたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第94話「圧力」

前回の続きです。
ドクルンが打ち立てる、かすみを利用した作戦とは?


 

音楽の授業が終わった後のお昼休み、のどかたち3人は中庭のベンチにいた。

 

みんなでお弁当を食べようとしていたが、のどかのお弁当は・・・・・・。

 

「でっか!! めっちゃサイズアップしてない!?」

 

「いっぱい食べると元気になるって言うでしょ?」

 

「そりゃそうだけど・・・・・・」

 

ちゆとひなたのお弁当に対し、のどかのお弁当はその二人と比べて倍のサイズをしていた。普段は二人と変わらない大きさのお弁当のはずなのだが、なぜか今回はいつもより多くなっている。

 

ちゆとひなたは、そんなに食べようとするのどかを心配そうに見つめていた。

 

♪〜、♪♪〜、♪♪〜♪〜♪〜

 

「ん?」

 

「この音は・・・?」

 

そんな中、突然聞こえてきたトランペットの音に二人は反応する。

 

♪~、♪♪~、♪♪~♪~♪~

 

「・・・・・・はぁ」

 

ことえは近くのベンチでトランペットの練習をしており、一通り吹いた彼女は一息ついた。

 

パチパチパチパチ・・・・・・。

 

「金森さん、凄いね♪」

 

「昼休みに練習なんて、大変ね」

 

見つけたのどかたちは、そんなことえに拍手を送っていた。

 

「自主練なんだ・・・休んでた分、取り戻したくて・・・」

 

ことえはそう答えて、再びトランペットを構えて吹く。

 

♪~、♪♪~、♪♪~♪~♪~

 

すると・・・・・・。

 

「金森・・・」

 

そこへ吹奏楽部のゆうとが近づいてくる。

 

「昼休み、ここでの練習はクレームが来るから禁止されてるの、知ってるだろ?」

 

「ああ、そっか!! ごめんなさい!!」

 

「音楽室で他のメンバーと練習しろよ」

 

「でも・・・感がまだ戻らないから・・・みんなの練習の足を引っ張るわけには・・・」

 

ゆうとが静かにそう注意するも、ことえは不安そうな表情をする。

 

「・・・放課後は奥の庭なら演奏しても平気だから」

 

「うん・・・ありがとう・・・・・・」

 

ゆうとはそう言うと静かにその場を後にし、彼の背中にことえは俯きながらお礼を言った。

 

「ことえっち・・・あんなに練習してるのに・・・」

 

のどかたちもことえの側から離れた後、ひなたは彼女のことが気になっていた。

 

「金森さんたちは演奏会に向けて、高いレベルを目指しているのよ」

 

「頑張ってる人って応援したくなるね♪」

 

「だね♪」

 

「ふふっ♪」

 

3人はお互いに笑みを浮かべると、食事を終えて教室へと戻っていく。

 

そんな中、ことえは不安そうな表情を隠さなかったのであった。

 

それから、学校の下校時刻になった頃・・・・・・。

 

「のどかにぴったり・・・のどかにぴったり・・・」

 

アスミとヒーリングアニマルたちはのどかのストレス解消のための方法を探していたが、さっきまでいた海辺で考えてもあまりいい案が見つからずにいた。

 

そんな彼女たちは、のどかの学校の近くを歩いている。

 

「そろそろ帰るペエ・・・?」

 

「ラビ・・・」

 

ペギタンとラビリンは帰ろうと考えていたが・・・・・・。

 

「私は、もう少し探してもいいですか・・・?」

 

「ニャ?」

 

「のどかはいつも一生懸命です。だから、のどかのために私も頑張りたい・・・」

 

アスミはまだ諦めず、のどかのためにと思い探そうと考えていた。

 

「あれ? みんな・・・」

 

「のどか、ちゆ、ひなた・・・・・・」

 

十字路に差し掛かったところ、のどかたちとアスミたちは鉢合わせをした。アスミはのどかの元へと駆け寄る。

 

「のどか、気分転換にどんなことをしたいですか?」

 

「・・・えっ?」

 

「聞いちゃうのかよ!?」

 

アスミはのどか本人に尋ねようとして、ニャトランに突っ込まれる。

 

「どうしたの? いきなり」

 

疑問に思ったひなたがアスミに尋ねる。

 

「のどか、最近ランニング頑張りすぎラビ・・・!!」

 

「少し控えて、楽しく気分転換をしたほうがいいペエ・・・!」

 

「・・・え?」

 

隠れていたラビリンとペギタンが不安そうな顔でそう言う。

 

「どのぐらい走ってるの!? 急に増やすと体に悪いわよ!!」

 

「えぇ!?」

 

「あっ! 急にお弁当が大きくなったのもそのせい!?」

 

のどかが無茶をしていると知ったちゆとひなたは彼女を問い詰める。あくびをしているといい、お弁当が大きいといい、最近ののどかは様子がおかしい。二人はそう感じていたが、ラビリンとペギタンの言葉で怪しいとますます感じたのだ。

 

「あわわ・・・あ、あの。でもね・・・単にもっと鍛えなきゃって思っただけで・・・!」

 

のどかが慌てながら弁解しようとしていると・・・・・・。

 

♪~、♪♪~、♪♪~♪~♪~

 

「「「「??」」」」

 

また、どこかでトランペットの音が聞こえてきた。音がする方向に振り向いてみると、ことえとゆうとが昼休み中に言っていた学校の奥の庭で練習をしていた。

 

♪~、♪♪~、♪♪~♪~♪~

 

「今のところ、ダメだ。焦りすぎ」

 

「はい!」

 

「もう一度、ここから」

 

♪~、♪♪~、♪♪~♪~♪~

 

ゆうとがことえに指導しつつ、再び二人はトランペットを吹き始める。

 

「意外すぎ・・・吹奏王子が練習に付き合うとか・・・」

 

その様子を意外そうに見ながら、ひなたはそう呟いた。

 

♪~、♪♪~、♪♪~♪~♪~

 

二人はある程度演奏を終えると、ことえは申し訳なさそうな表情をする。

 

「ごめんね、上手くできなくって・・・」

 

「焦りすぎ」

 

「うん、気をつけます・・・」

 

「じゃなくて・・・風邪なんか誰でも引くんだから、気にしすぎ」

 

「え・・・?」

 

「一人で頑張ればどうにかなるほど、吹奏楽は甘くないよ」

 

ことえはそう言ったが、ゆうとは静かにそう返す。ことえが遅れていることは彼も気にかけており、気にするなという意味で声をかけていたのだ。

 

「・・・うん!」

 

「じゃあ、頭から」

 

♪~、♪♪~、♪♪~♪~♪~

 

ゆうとの言葉に元気を取り戻していくことえ。二人は再び練習のため、トランペットを吹き始めた。

 

「「ふふっ・・・♪」」

 

その様子を見ていたちゆとひなたは笑みを浮かべる。

 

「焦り・・・・・・」

 

ゆうとの言った言葉が気になったアスミは、のどかのことを見る。そんな彼女は二人を真剣な眼差しで見つめているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あの青年と少女、すごく仲がいいな。いいことだ」

 

その二人の練習風景を、どこかの柱の上でかすみが見てそう呟いた。彼女はその中でも、病気から回復したばかりのツインテールの少女ーーーーことえに目をつけていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

かすみはそれを悲しそうに見つめる。あの娘を病気で蝕まなければならないとなると、心が痛くなる。

 

『私は素体を探してくるので、あなたはあの少女の様子を監視して、少女を孤立させてください』

 

『・・・一人にするだけでいいのか?』

 

『大丈夫です。プリキュアに嗅ぎ付けられると厄介なので、見つからないように。最悪なら適当にメガビョーゲンを生み出して、暴れさせても構いません』

 

『だが、私にメガビョーゲンを生み出す力は・・・』

 

『できますよ。あなたはメガパーツで進化したんですから、同じビョーゲンズであればできるはずです』

 

ドクルンから告げられた作戦、それはかすみ自身がことえを一人にさせて、病気を蝕む状況を作りやすくさせること。終わったら、あとは自分がやるとも言っていた。

 

心配なのは、私にメガビョーゲンを作ることができるのかということ。もし作れてしまえば、私は完全にビョーゲンズになったということだ。でも、まだ他人を病気に蝕みたいという気持ちが湧かないということ、人間を慈しむという気持ちがあることから、どうやらまだ人の心は残っているようだ。

 

かすみは自身の赤い手袋をした手を見つめ、ギュッと握りしめる。

 

「でも、私がやらなきゃ・・・・・・のどかが・・・・・・」

 

本当はやりたくない。でも、クルシーナにこんなことも言われていた。

 

『のんちゃんの中にはテラパーツが入ってるの。アタシの体の一部をね』

 

『アタシの合図一つでテラパーツを活性化させて、すぐにのんちゃんをメガパーツを埋め込んだのと同じように病院送りにできるわよ。アンタが逆らったり、裏切ったりしないうちはあいつを苦しめないであげる。もし反するようなことをしたら・・・わかってるわよね?』

 

クルシーナにそう忠告されているかすみ。カスミーナが少しでも歯向かうような素振りを見せたら、のどかを再び苦しめると言われているかすみは従わざるを得なかった。

 

愛しののどかを、助けるために・・・・・・。

 

かすみは改めて意を決したような表情になった後、ことえを一人にするタイミングを伺う。

 

しかし、そこに・・・・・・。

 

「っ、のどか・・・・・・」

 

そこへのどかたち4人が二人の様子を見にやってきたのだ。なぜか学校に通っていないアスミの姿もある。

 

これではことえに手を出せないばかりか、4人に見られてしまうかもしれない。それだけは避けないといけない。

 

二人はトランペットの練習をしていて、プリキュアの4人はそれを見ている。

 

この状況で、プリキュアの気を逸らせるものはないものか・・・・・・。

 

そう考えながら状況を見つめていると、プリキュアの4人がその場から離れていくのが見えた。4人はどうやら帰路についている様子。

 

プリキュアたちが離れたのを見てフードを深く被り、かすみはチャンスとばかりに飛び出して行こうとするが、その近くに別のビョーゲンズの気配が。

 

それはドクルンでも、クルシーナでもない。でも、知っている気配だ。

 

気配を探ってきょろきょろしていると、遠くにグアイワルの姿があるのを視認した。どうやら彼は、二人に目をつけている様子。

 

かすみは邪魔されると思い飛び出そうとするが、それは杞憂だった。

 

グアイワルは両腕を鳴らして、握り拳を合わせると黒い塊を出現させる。

 

「進化しろ!ナノビョーゲン!!」

 

「ナノー!」

 

そう叫びながら胸を逸らすようなポーズをするとナノビョーゲンが生み出され、青年ーーーーゆうとの持っているトランペットへと取り憑く。

 

「うあぁっ!?」

 

ゆうとはその拍子に思わずトランペットを落としてしまい、トランペットは病気に蝕まれていく。

 

「・・・!?・・・!!」

 

トランペットの中に宿るエレメントさんが病気に蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガビョォォォォォーゲェェェェェン!!」

 

管楽器のような姿のメガビョーゲンが誕生した。

 

「グアイワル・・・メガビョーゲンを作り出したか・・・・・・」

 

かすみはグアイワルを見て険しい表情を浮かべる。ドクルンが生み出せると言うから生み出そうとしたが、思わぬ伏兵が入ったようだった。

 

それは自身にとって妨害になるかと思っていたが・・・・・・。

 

「っ、トランペットが!!」

 

「今は逃げないと!!」

 

ゆうとがトランペットに手を伸ばそうとするが、ことえに押される形でその場から避難していく。

 

かすみはそれを見つめると柱の上から飛び降りて、グアイワルへと近づく。

 

「グアイワル・・・・・・」

 

「ん? お前はカスミーナか・・・」

 

かすみは険しい表情でグアイワルを見つめた後、彼に背を向けると口を開いた。

 

「・・・・・・感謝する」

 

「何の話だ・・・? っておい!!」

 

かすみはそれだけ言うが、グアイワルは何のことだかわからず聞こうとするも、かすみの姿はすでに消えていた。

 

「ふん・・・まあ、いい。さらに進化しろ! メガビョーゲン!!」

 

グアイワルは気を取り直して5個のメガパーツ、前回よりも多めにメガパーツをメガビョーゲンに投入した。

 

一方、その頃・・・ゆうととことえの二人は学校から離れるように逃げ出そうとしていた。

 

キュイーン!

 

「「!?」」

 

すると、そこへフードを被ったかすみが二人の目の前に姿を現す。

 

「っ・・・誰だ!?」

 

ゆうとはことえの前に出て、かすみを警戒する。

 

「・・・・・・お前には用はない」

 

かすみはそう呟くとその場から姿を消して、一気にゆうとへと詰め寄る。

 

「っ!? うわぁぁっ!!」

 

胸倉を掴まれて投げ飛ばされ、壁へと叩きつけられるゆうと。彼はそのまま意識を失ってしまった。

 

「菅原くん!!」

 

ことえがゆうとが心配するも、彼が倒れるのを見つめていたかすみがことえの方を見る。

 

「ひっ・・・!?」

 

ことえは小さく悲鳴を上げて後ずさるも、かすみはズカズカと歩み寄って距離を詰められる。

 

ドガッ!!

 

「うっ!? あぁ・・・・・・」

 

ことえはそのままかすみに腹部を殴られ、意識を失ってしまう。そして、前のめりに倒れ、かすみがその体を受け止める。

 

「・・・・・・すまないな」

 

かすみは眉をハの字にしながらそう呟くと、ことえを肩へと担ぐ。

 

「・・・・・・・・・」

 

そして、同じく倒れているゆうとの姿を見つめた後、その場からことえと一緒に姿を消した。

 

一方、ドクルンは・・・・・・。

 

♪~、♪♪~、♪♪~♪~♪~

 

学校の音楽室の中におり、椅子の一つに座りながらチューバを吹いていた。彼女の前には譜面とその上に楽譜があり、それを見ながら音を奏でていた。

 

♪〜、♪〜、♪〜・・・・・・・・・

 

そのうちに何かを思うかのように吹くのをやめる。

 

「・・・・・・ふむ。音楽というのは退屈ね」

 

ドクルンはつまらなそうな表情で、楽譜を見つめながら呟く。

 

シュイーン!

 

と、そこへことえを連れ去ったかすみが姿を現す。

 

「・・・どうでしたか?」

 

ドクルンが彼女が現れることを察知したかのように、かすみの方を向いて声をかける。

 

「・・・上手くいった。とりあえずこの娘を連れてきた」

 

「・・・・・・孤立させろとは言いましたが、まさか連れ去ってくるとは、私の想像を遥かに超えてますねぇ」

 

「楽器で遊んでただけのお前に褒められても嬉しくない」

 

かすみは険しい表情をしながら答えると、ドクルンは不敵な笑みを浮かべながら言う。かすみはそれに不快感を覚えながらも、眠っていることえを椅子に座らせる。

 

「心外ですね。私は活き活きしているものか吟味していただけです」

 

「どうだかな・・・・・・」

 

ドクルンは皮肉の言葉に平然と返すと、かすみは険しい表情でそう呟く。

 

「メガビョーゲンを使ったのですか?」

 

「・・・いや、その前にグアイワルがいた」

 

「グアイワル・・・? 彼は何をしているのでしょうか? さっきも器の中に唐辛子を入れて煮立たせていましたが・・・まあ、いいでしょう」

 

グアイワルも出撃していたことに疑問を持つドクルン。ビョーゲンキングダムで何やらバカな実験をしていたが、思い出す価値もないので忘れることにした。

 

「・・・さてと」

 

ドクルンは椅子から立ち上がると懐からメガパーツを取り出す。それをゆっくりとことえと近づけていく。

 

「っ・・・・・・」

 

かすみはその様子に顔を顰め、ゴクリと唾を飲み込む。

 

「彼女には可哀想ですが、もう一度苦しんでもらいましょう。病気になった人間ほど、良いテラビョーゲンが生まれますからねぇ」

 

ドクルンは不敵な笑みを浮かべながら、メガパーツをことえの体へと近づけていく。そして、ことえにメガパーツが押し当てられる。

 

ズズズズズ・・・。

 

メガパーツがことえの体の中へと入っていく。すると・・・・・・。

 

ドックン!!!!

 

「っ!? うっ・・・い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ことえの目が見開かれたかと思うと、彼女の体が仰け反って悲鳴が上がる。胸から禍々しい赤いオーラが吹き出されたかと思うと、ことえは再び意識を失った。

 

彼女の顔色は悪くなっており、時折眉をピクピクと動かすだけだ。

 

「ふむ・・・私が以前メガパーツを埋めたあの少女よりは全然苦しんでますねぇ。まあ、問題はないでしょう」

 

ドクルンはことえの体がメガパーツの力に耐えきれないのではないかと懸念しつつも、そうなった時はそうなったと言わんばかりに踵を返す。

 

「・・・すまない。私には、何もできない・・・」

 

かすみはそんなことえの様子を悔しそうに顰めながらそう言った。自分だって本当はこんなことをしたくない。でも、やらなきゃ自身の大切な友達がまた苦しむことになる。だから、やるしかないんだと・・・・・・。

 

「あなたにやれることはありますよ」

 

「っ・・・!!」

 

ドクルンがそう声をかけると、かすみは顔を顰めて睨みつけた。

 

「これをちょっとお借りしましょうかねぇ」

 

彼女が触れているものは先ほど吹いていた二つのチューバだった。

 

「ふむ・・・・・・カスミーナ」

 

「・・・・・・何だ?」

 

ドクルンの声に、かすみは苛立っているような低い声で返す。

 

「このチューバのうちの一つにナノビョーゲンを打ち込んでみてください。今のならあなたならできるはずです」

 

「まだメガビョーゲンを出す気なのか!? グアイワルが出しているんだからいいだろ!?」

 

かすみはドクルンのその提案に反論する。グアイワルが足止めになっているのだから、これ以上はメガビョーゲンを出す必要はない。かすみはそう考えていたのだ。

 

ドクルンはかすみのその言葉を聞くと、笑みを消して無表情になる。

 

「・・・カスミーナ、自分の立場をお分かりで?」

 

「っ・・・・・・」

 

「あなたはビョーゲンズで、人間ではありません。人間を庇おうなんて考えているのであれば、その行いは論理的ではないのですよ。プリキュアを助けるためにビョーゲンズに入ろうだなんて、どう考えてもおかしいでしょう? 結局は苦しめる羽目になるんですから」

 

「私は・・・・・・」

 

ドクルンの低い声で言われ、かすみは言葉を詰まらせて何も言うことができない。かすみの中にはまだ地球を蝕むことに迷いがあるのだ。プリキュアを守るためにビョーゲンズの軍門に下ったが、結局それでプリキュアを苦しめては何の意味もない。何のためにビョーゲンズに入ったのかわからなくなるのだ。

 

ドクルンはその様子を見かねて、かすみへと近づくと耳に囁いた。

 

「クルシーナに忠告はされたんですよね? 歯向かったらどうなるかって・・・」

 

「っ!!」

 

かすみはその明言に目を見開く。クルシーナの忠告はドクルンにも理解されていた。つまりは逆らえば、のどかが・・・・・・。

 

「・・・内側から苦しめる方と、外側から苦しめる方、どっちがマシですか?」

 

かすみはドクルンにそう尋ねられ、思わず想像してしまう。内側、つまりは体の中・・・外側、つまりは体の外、周り・・・・・・。

 

かすみは瞑目しながら、考えてはいけないことを考えた結果・・・・・・。

 

「・・・・・・わかった」

 

かすみは目を開けてしっかりとした口調でそう言うと、覚悟を決めたのかドクルンから離れチューバの一つへと近づいていく。

 

そして・・・・・・。

 

かすみはクルシーナと同じように掌に息を吹きかけ、黒い塊を出現させる。そして、自身の前を漂うそれを掴んで何かを込めるように握ると、その手を突き出すように開く。

 

「進化しろ、ナノビョーゲン!!」

 

「ナノー・・・!」

 

かすみから生み出されたナノビョーゲンは鳴き声を上げながら、チューバへと取り憑いていく。

 

「ふふっ♪ さてと、私も・・・」

 

ドクルンは音楽室の外へと出ると、すぐに素体になりそうなものに目をつけた。それは赤い箱の中に入っているもの。

 

「ふふっ・・・♪」

 

赤い箱の中の扉を開け、中に入っている消火器を確認すると、不敵な笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ラテがぐったりしたことからビョーゲンズが現れたことを察知したプリキュアたちは学校へと引き返していた。

 

「あそこだ!!」

 

「参りましょう、みなさん!!」

 

ひなたが奥の庭にいるメガビョーゲンを発見、アスミの言葉を合図にのどかたちはそれぞれ変身アイテムを手にして構える。

 

「「「「スタート!」」」」

 

「「「「プリキュア、オペレーション!!」」」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

「エレメントレベル、上昇ラテ!!」

 

「「「「キュアタッチ!!」」」」

 

ラビリン、ペギタン、ニャトランがステッキの中に入ると、のどか、ちゆ、ひなたはそれぞれ花のエレメントボトル、水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

アスミは風のエレメントボトルをラテの首輪にはめ込む。すると、オレンジ色になっているラテの額のハートマークが神々しく光る。

 

のどかたち3人は、肉球にタッチすると、花、水、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、水色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ちゆは水色、ひなたは黄色へと変化する。

 

ラテとアスミは手を取り合うと、白い翼が舞い、ラテが舞ったかと思うとハートの中から白い白衣のようなものが飛び出す。

 

その白衣を身に纏い、ラテが降りてきたかと思うとハープが飛び出し、さらにアスミは紫色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

衣装にチェンジした後、ハープを手に取り、その音色を奏でる。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「「時を経て繋がる、二つの風!」」

 

「キュアアース!!」

 

「ワン!」

 

アスミは風のプリキュア、キュアアースへと変身した。

 

「「「「地球をお手当て!!」」」」

 

「「「「ヒーリングっど♥プリキュア!!」」」」

 

4人はプリキュアへの変身を完了した。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

メガビョーゲンが出現したことにより、逃げ惑う学生たち。その中をプリキュアの4人はメガビョーゲンに向かって駆け出していく。

 

「うわっ、デッカ!!」

 

スパークルはまた大きく成長しているメガビョーゲンを見て驚く。

 

「アースはみんなの避難を、私たちはメガビョーゲンを!!」

 

「わかりました」

 

フォンテーヌはそう指示を伝えると、メガビョーゲンへと飛び出していく。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「メェ・・・ガァッ!!!!」

 

「ぐっ・・・きゃあぁぁ!!!」

 

フォンテーヌは蹴りを入れようとしたが、メガビョーゲンのピストンのような左手で受け止め、そのまま押し返すように吹き飛ばした。

 

「火のエレメント!!」

 

スパークルは火のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「はぁっ!!」

 

ステッキから火を纏った黄色い光線をメガビョーゲンに目掛けて放つ。

 

「メガビョーゲェェェェェェェ〜ン!!!!」

 

メガビョーゲンは肩に生えていたトランペットの先端を向けるとそこから音波のようなものを放ち、光線を打ち消してしまった。

 

「嘘っ!?」

 

「デカイだけじゃニャいぞ、あいつ!!」

 

「いつも通りではダメってこと!?」

 

「ビョォォォォォォォォ〜!!!!」

 

メガビョーゲンの攻撃に驚いている中、メガビョーゲンは肩の先端部分を頭上に向けると音波を発射する。すると大多数の波長のような光弾が地面へと向かって降り注ぐ。

 

フォンテーヌとスパークルは飛び上がって光弾を交わしていく。光弾は着弾して爆発を起こしていく。

 

「っ・・・!!」

 

グレースがそんな爆撃の中を駆け出し、メガビョーゲンへと向かっていく。

 

「グレース!! 危ないラビ!!」

 

「危なくても・・・動いていれば、何かきっかけが見えてくるはず!!」

 

グレースはラビリンの制止も聞かずに、爆撃を駆け抜けてメガビョーゲンへとそのまま突っ込んでいく。

 

「葉っぱのエレメント!!」

 

グレースはステッキに葉っぱのエレメントボトルをセットする。

 

「はぁっ!!」

 

「メガビョォォォ〜ゲェン!!」

 

ステッキからピンク色の光線を放つも、メガビョーゲンの肩の先端部分から放つ音波によってかき消されてしまう。

 

(っ・・・少しでも突破口を・・・!!)

 

「近づきすぎてはダメっ!!」

 

フォンテーヌが制止をかけるも、グレースは聞かずに走り続け、メガビョーゲンの足元に近づき飛び上がった。

 

キュン!

 

「キュアスーーーー」

 

肉球を一回タッチして、メガビョーゲンに向けようとしたその時だった・・・・・・。

 

「メッガ、ビョォォォォォォ!!!!」

 

ブォォォォォォォォ!!!!

 

「っ!? きゃあぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「うぁぁ!?」

 

「うっ・・・!!」

 

「メガァ!?」

 

「うぉぉぉ!? な、何だ!?」

 

横からとてつもない勢いの音波が襲い、グレースは吹き飛ばされ、フォンテーヌやスパークルも顔を顰め、メガビョーゲンとグアイワルがその力に驚いた。

 

「い、一体何なの・・・!?」

 

「あのメガビョーゲンの攻撃じゃなかったよね!?」

 

フォンテーヌとスパークルは突然の攻撃に戸惑う。今の攻撃は目の前にいるメガビョーゲンの攻撃ではない。

 

「うっ・・・うぅ・・・!?」

 

グレースは倒れながらもその攻撃の正体を突き止めようと向くと、そこには・・・・・・。

 

「メガビョーゲン!?」

 

「うぇっ!? 何!? もう一体いたの!?」

 

目の前にいるメガビョーゲンとは、別のメガビョーゲンだった。そのことに驚くフォンテーヌとスパークル。

 

「邪魔だ、プリキュア。グアイワル、ここを通るぞ」

 

「通るって・・・・・・おい!?」

 

「メェェェェ・・・ガァァァァ・・・」

 

同じ管楽器のような姿のメガビョーゲンの肩の上に乗るフードの人物はそれだけつぶやくと、グアイワルが話そうとするのも聞かずに歩き去っていく。

 

「うぅ・・・あ・・・!?」

 

グレースは通り過ぎていくメガビョーゲン、その上にいるフードの人物を見てハッとした。あの姿は、会ったばかりのかすみの姿に似ていると。

 

もしかしたら・・・あの人物は・・・・・・??

 

「うっ・・・ま、待って・・・!!」

 

グレースは痛む体を起き上がらせて、メガビョーゲンを追っていく。

 

「グレース!?」

 

「どこへ行くの!?」

 

グレースは、フォンテーヌとスパークルの言葉を聞かずにメガビョーゲンの方へと駆け出していく。

 

「グレース!! 一人で無茶しちゃダメラビ!!」

 

(あの娘は・・・あのフードは・・・!?)

 

グレースは嫌な予感がしつつ、ラビリンの叫び声も聞かずに追いかけていく。

 

「・・・・・・・・・」

 

フードの人物は追いかけてくるグレースを冷徹な眼差しで見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メガァ!!!!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

校舎内では、消火器のような姿に黒いホースのような両腕、赤い格納庫のような両足をを持ったメガビョーゲンが暴れ、生徒たちが悲鳴を上げながら逃げ惑っていた。

 

メガビョーゲンは両腕のホースから赤い液体を噴射し、校舎や木を泡だらけにして赤く蝕んでいく。

 

「ふふふ・・・まずまずね。時間稼ぎにはちょうどいいわ」

 

その様子を校舎の屋根の上から見ていたドクルンは笑みを浮かべる。

 

そして、ドクルンは隣に視線を見やる。そこには・・・・・・。

 

「うっ・・・うぅ・・・」

 

メガパーツを入れられたことえが、顔色を悪くして苦しんでいた。

 

「まるで生気がないわねぇ・・・病み上がりなのか、元々この娘は病気に強くないのか・・・」

 

ドクルンは無表情で見つめながらそう分析している。この前、小さな少女に入れた時は然程苦しんではいなかったが、この娘は病み上がりの体のせいなのか生命力が弱いように感じる。

 

「早めにメガパーツを成長させて、出したほうがいいかしら」

 

ドクルンはそう考えると、ことえの体に触れて赤いオーラを注ぎ込む。

 

「!? うっ・・・あぁ・・・ぁ・・・!」

 

ことえの目が一瞬見開かれたかと思うと苦しむような声を上げ、体を震わせ始めた。彼女の中にあるメガパーツが活性化され始めているのだ。

 

「ふふっ・・立派に育って、いいテラビョーゲンになってくださいね♪」

 

「うっ・・うぅぅぅ・・・!! うぁ・・・ぁぁ・・・!!」

 

ドクルンがそう言いながら囁くも、ことえは苦しみの声を上げながら体を震わせる。

 

「カスミーナの方は大丈夫かしら? 時間稼ぎの囮になるって言ってたけど」

 

一方で、かすみがメガビョーゲンと歩き去った方向を向きながら、ドクルンはそう呟く。

 

「・・・まあ、グアイワルも自信家のくせに、肝心なところで役に立たないこともあるしねぇ。うどの大木も使いようで、二人と二体いれば大丈夫ね」

 

ドクルンは笑みを浮かべながら、そう言ったのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第95話「焦り」

前回の続きです。
ビョーゲンズとして行動するかすみは・・・・・・。


 

プリキュアが駆けつける数分前のこと・・・・・・。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「うわあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「メガァ!!」

 

ドクルンの生み出したメガビョーゲンが手始めに、両腕のホースから赤い液体を噴射し、中庭の植物や木を泡だらけにして赤く蝕んでいた。

 

「メガァァァァァ~!!!!」

 

かすみの生み出したメガビョーゲンは、ドクルンのメガビョーゲンとは逆の方向を肩のチューバのような先端部分から音波を放っていたが、木や自然がそよぐだけで特に変化は起こっていない。

 

「・・・カスミーナ」

 

「・・・何だ?」

 

「あなたのメガビョーゲン、蝕んでいませんよね? 失敗作ですか?」

 

「・・・・・・・・・」

 

ドクルンはメガビョーゲンが音波を飛ばしているだけの行いに疑問を抱いていた。かすみは確かにメガビョーゲンを召喚することができた。しかし、メガビョーゲンは音波を放つだけで蝕んでいるような様子はない。

 

もしかして・・・カスミーナの力がまだ馴染んでいないのか、それとも別の理由があるのか??

 

ドクルンに問われたかすみはどうしてかと考えてた後、持ってきているもう一つのチューバに目をつける。

 

「・・・もしかしたら、もう一体メガビョーゲンを出さないとダメなんじゃないか?」

 

「・・・どういうことですか?」

 

かすみは考えたことを一言いうと、ドクルンの疑念は深まる。かすみはドクルンに近づいて囁くように話す。

 

彼女から内容を聞かされると、ドクルンは・・・・・・。

 

「・・・なるほど。でも、そんなことが起こり得るのですかねぇ?」

 

「私の推測だ。気にするな。でも、私はもう一体メガビョーゲンは召喚できる・・・」

 

ドクルンがそう尋ねると、かすみは素っ気なく返し、自身のメガビョーゲンの方をみる。メガビョーゲンはドクルンの邪魔にならないところを、広い範囲で音波を浴びせていた。

 

「メェェェェェェ~ガァァァァァァァァァ~!!!!」

 

校庭やその周辺の植物、学校の外の建物など、あらゆるものに音波を轟かせていく。

 

「そろそろ、範囲を広げよう・・・・・・」

 

十分に音波を行き届かせたと判断したかすみは、自身の生み出したメガビョーゲンの肩の上に飛び乗る。

 

「私が最悪、時間稼ぎの囮になる。ドクルンはその間にその女のメガパーツを成長させてくれ」

 

「・・・・・・わかりました」

 

「メガビョーゲン、木がいっぱい生えてるあっちに行くぞ」

 

かすみはドクルンにそれだけ告げると、木が多く存在する学校の奥の庭へと行こうとする。

 

「メェェェ~ガァァァァァ・・・!」

 

指示を受けたメガビョーゲンは、その方向に向かって歩いていく。

 

「・・・ふふっ。まだ甘さはありますが、可愛いですねぇ♪」

 

ドクルンはかすみの後ろ姿を見つめながら笑みを浮かべるのであった。

 

ドクルンと別れたかすみは、学校の奥の庭へと直進していた。

 

「・・・・・・・・・」

 

かすみは険しい表情で周囲を見渡していく。メガビョーゲンを呼び出したと言うのにかなり冷静だ。躊躇していた自分が怖くなる。でも、のどかを傷つけるのはもっと怖い・・・・・・。

 

しかし、不思議と震えも感じないし、焦燥感も感じない。自分は一体、どうしたというのだろうか?

 

これは自分の行いが、正しいと思っているからなのだろうか? だから、罪悪感を感じていないし、申し訳ないと思っているわけではない。

 

自分が気持ち悪く感じるが、今はのどかを苦しめないために仕方のないことだ。

 

「・・・・・・!」

 

そんなことを考えながら歩いていると、学校の奥の庭の前へときた。そこにはグアイワルが出したメガビョーゲンと、プリキュアの3人が戦っていた。

 

「・・・メガビョーゲン、邪魔なら吹き飛ばせ」

 

「メガァァァ~!」

 

メガビョーゲンは指示を叫び声で返事しながら、音波を周囲に放ちつつ移動していく。

 

かすみはグアイワルのメガビョーゲンへとグレースが駆け出していき、何かをしようとしたのを視認する。

 

「キュアスーーーー」

 

「メッガ、ビョォォォォォォォォ!!!!」

 

「っ!? きゃあぁぁぁぁぁ!!!!」

 

メガビョーゲンが音波を放った先にグレースがおり、音波を受けた彼女が吹き飛ばされる。

 

「っ・・・!!」

 

かすみはグレースが飛ばされたことに動揺しつつも、平静さを保とうとする。

 

「うぁぁ!?」

 

「うっ・・・!!」

 

「メガァ!?」

 

「うぉぉぉ!? な、何だ!?」

 

その勢いにフォンテーヌとスパークルが顔を顰め、グアイワルとそのメガビョーゲンは驚いた。

 

「うっ・・・うぅ・・・」

 

「っ・・・・・・!」

 

かすみは倒れているグレースを見つめながら心を痛めるも、感情を押し殺していた彼女は心を鬼にして険しい表情を装い、逸らすように正面を見る。

 

「邪魔だ、プリキュア。グアイワル、ここを通るぞ」

 

「通るって・・・・・・おい!?」

 

「メェェェェ・・・ガァァァァ・・・」

 

かすみは素っ気なくそれだけ言うと、グアイワルが文句を言うのも構わずに去っていこうとする。

 

「・・・・・・メガビョーゲン、あっちだ」

 

「メェェガァァァァ・・・」

 

学校の奥の庭に開けた場所があるのが見えてきたかすみはメガビョーゲンにそこに行くように指示をする。

 

「ま、待って・・・!!!」

 

「っ??」

 

背後からグレースの声が聞こえてきたかと思うと、反応したかすみが振り向くとグレースが追いかけてきているのが見えた。

 

「っ・・・・・・」

 

かすみはそれに顔を顰めると、黒いステッキを取り出すと振り向きざまに振るって黒い光線を放つ。

 

「ぷにシールド!!」

 

グレースは走りながら、ステッキから肉球型のシールドを展開し、黒い光線を防ぐ。

 

「・・・・・・・・・」

 

かすみはそれを確認すると、特に声を発することなく前を向く。彼女に対する感情を押し殺すかのように。

 

開けた場所へとようやく着いたとき、かすみはメガビョーゲンの肩から飛び降りる。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・ま、待って・・・!!」

 

そこへ息を切らせながらようやく追いついたグレースが引き止める。かすみは森の方へと動かしていた足を止めると振り向く。

 

「かすみちゃん・・・かすみちゃんだよね・・・!?」

 

「・・・・・・・・・」

 

グレースが自身に向かってそう呼びかけてくる。かすみはそれには黙ったまま何も答えない。

 

「今までどこに行ってたの・・・? みんな、みんなかすみちゃんを心配していたんだよ・・・?」

 

「・・・・・・・・・」

 

泣きそうな表情でそう話すグレース。かすみはその言葉にも黙って見つめたままだ。

 

「ねえ、何か言ってよぉ・・・!」

 

「・・・・・・・・・」

 

グレースは何も話してくれないかすみに向かって叫ぶ。かすみはその様子を黙って見つめていると、まるで逸らすように前を向く。

 

そして、一言・・・こう言ったのだ。

 

「・・・メガビョーゲン、プリキュアを倒せ」

 

かすみはグレースを攻撃するように命ずると、周りにある木のうちの一本へと歩いていく。

 

「あ・・・ま、待って・・・きゃあぁぁ!!」

 

グレースは一瞬固まってしまい、かすみを引き止めようとするが、メガビョーゲンの音波攻撃を受けて吹き飛ばされる。

 

「グレース!! まずはメガビョーゲンをどうにかしなきゃラビ!!」

 

「っ・・・・・・」

 

(かすみちゃんと、どう話したらいい・・・・・・? 何か方法が・・・・・・)

 

ラビリンがそう叫ぶも、グレースは起き上がりながらも自身がかすみだと推測するであろう彼女の後ろ姿を気にしていた。

 

「グレース!!」

 

「っ! うん!!」

 

ラビリンが叫ぶように呼びかけると、我に返ったグレースは頷いてメガビョーゲンにステッキを構える。

 

「メェェェェェェ~ガァァァァァァァァァァ~!!」

 

「ぷにシールド!!」

 

「っ、あぁぁぁぁぁ!?」

 

メガビョーゲンは肩にあるチューバの先端部分から音波を放つ。グレースは肉球型のシールドを展開するも、音波が大きすぎてシールドごと吹き飛ばされてしまう。

 

「っ・・・!」

 

グレースは体制を立て直して、メガビョーゲンへと駆け出していく。

 

「メガァァァァァ~!!!!」

 

メガビョーゲンは金管楽器の先端のような5本の指から赤いビームを発射する。グレースはその弾幕を駆け抜けながら、メガビョーゲンに突撃していく。

 

「グレース!! 無闇に突っ込んじゃダメラビ!!」

 

(何か突破口があるはず・・・何か打開策を・・・!!)

 

グレースは焦りからか、ラビリンの制止も聞かずにメガビョーゲンへと突っ走る。

 

「実りのエレメント!!」

 

実りのエレメントボトルを取り出し、ステッキにセットする。

 

「はぁっ!!」

 

「ビョーゲェェェェェェェン!!!!」

 

グレースはビームを掻い潜りながらステッキから光弾を放つも、メガビョーゲンは肩にある先端部分から音波を放って吹き飛ばす。

 

(私が、なんとかしないと・・・・・・!!)

 

「グレース!! 危ないラビ!!」

 

グレースはラビリンの言葉が聞こえておらず、飛び上がってメガビョーゲンに突っ込んでいく。

 

「はぁっ!!」

 

「メガァァァァァァァァ~!!!」

 

「っ!? きゃあぁぁぁ!!」

 

グレースはステッキを振るおうとしたが、それよりも早くメガビョーゲンがビームを発射してグレースを吹き飛ばした。

 

「あう!! うぅ・・・!!」

 

グレースは地面へと叩きつけられ、痛みに呻く。

 

「・・・・・・・・・」

 

かすみは険しい表情でその様子を木に寄りかかりながら見ていた。グレースを痛めつけるのは心が本当に痛むが、これもグレースのためなのだ。自身は苦しめないまでも、彼女たちを追い詰めるしかない。

 

「ぐっ、うぅぅ・・・・・・」

 

グレースは体をふらつかせながらも立ち上がり、ステッキを構えて立ち向かおうとする。

 

「グレース!! 一回落ち着くラビ!!」

 

「はぁっ!!」

 

ラビリンの呼び止める声も構わず、グレースはステッキを振るってピンク色の光線を放つ。しかし、メガビョーゲンの金管楽器のボディにははね返されるだけであった。

 

「メガァァァァァ~!!!!」

 

「っ、あぁぁぁぁ!!!」

 

メガビョーゲンはお返しに金管楽器の先端のような5本の指からビームを放つ。動揺していたグレースはそのままビームでダメージを受けてしまう。

 

「・・・・・・・・・」

 

グレースに責任感があるのはわかっている・・・でも、今回はあまりにも焦りが見えている気がする。なぜ冷静になれていないのか・・・?

 

かすみはそれとは別に違うことも考えていた。彼女は懐から黒色で花のマークの描かれたボトル、灰色で水のマークが描かれたボトル、紫色で星のマークが描かれていたボトルの3つ。プリキュアが持っているのとそっくりなボトルであった。

 

どうやらプリキュアたちが持っているものと色違いのようだ。

 

『実験に付き合ってくれたお礼にこれを差し上げます』

 

『これは・・・・・・』

 

メガパーツの痛みに耐えながら、ドクルンから受け取ったのは3つのボトルだった。

 

『プリキュアたちの持っていた道具を元に作ってみました』

 

『・・・・・・・・・』

 

『私からのビョーゲンズの仲間入り祝いみたいなものです。これを使えば、あなたはわざわざ自然から力を吸収しなくても、その力を使うことができます』

 

かすみはドクルンの説明を耳に入れながらも、3つのボトルを黙って見つめていた。

 

『あ・・・・・・』

 

『私はなんだか、あなたに愛着があるんです。まるで放っておけないような、そんな感じがするのです・・・・・・』

 

ドクルンはかすみの手を握りながら、彼女のことを笑顔で見つめる。

 

『期待していますよ、カスミーナ。私はあなたを家族だと思いたい』

 

ドクルンは頬を赤く染めながらそう言った。その表情はまるで心を許した仲間のようだった。

 

「あのときのドクルンの顔・・・なんだか・・・・・・」

 

かすみは自分に優しくしてくれることやあの時の悪意のない笑顔にほっこりとした気持ちが忘れられない。それとは別にビョーゲンズとして活動を行わないといけないことに複雑な気持ちを抱いていた。

 

「きゃあぁぁぁ!!!!」

 

「っ!!」

 

グレースの悲鳴が聞こえたかと思うと、かすみは懐にボトルをしまって、グレースとメガビョーゲンの戦いを見つめる。グレースがメガビョーゲンに吹き飛ばされて地面に叩きつけられているようで、すでにボロボロになっていた。

 

「うぅぅぅ・・・・・・」

 

「グレース!! フォンテーヌたちを連れてきた方がいいラビ!!」

 

傷ついて倒れ伏しているグレースに、ラビリンがそう呼びかける。

 

「ダメ・・・だよ・・・・・・」

 

「一人で立ち向かっても全然勝ててないラビ!! 仲間を呼んで一緒に戦うのが先決ラビ!!」

 

提案を拒否しようとするグレースを、ラビリンは説得しようとする。あまり思いたくはないが、今日のグレースはなんだかおかしい。行動に精彩を欠いていて、見当違いの攻撃を加え、逆に返り討ちにあっている。

 

「だって・・・その間にこの辺りを蝕まれたらどうするの? 取り返しのつかないことになったらどうすればいいの? 私は絶対に離れない・・・離れたくない・・・!!!!」

 

「グレース!!」

 

グレースはラビリンの提案に反論して再度立ち上がり、メガビョーゲンへと駆け出していく。

 

「メガァァァァァ~!!!!」

 

メガビョーゲンは再度金管楽器のような5本の指からビームを放つ。

 

「っ・・・!!」

 

「もっと冷静に判断するラビ!! 守れなきゃ、どっちにしたって同じラビ!!」

 

ラビリンの叫び声も聞こえず、グレースはビームの弾幕の中を掻い潜って接近する。

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

グレースは飛び上がってパンチを繰り出そうとする。

 

「メェ~ガァッ!!」

 

「あぁぁぁっ!!!!」

 

しかし、メガビョーゲンはもう片方の手を振るってグレースを吹き飛ばした。再度地面へと叩きつけられるグレース。

 

「ぐっ、うぅぅぅぅ・・・!!!!」

 

「グレース!! グレース!!!!」

 

グレースは体をガクガクと震わせながらも、諦めずに立ち上がろうとする。

 

「・・・・・・時間の問題だな」

 

その様子を見つめていたかすみはそう呟くと、強奪してきたもう一つのチューバに目をやるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ビョォォォォォ〜!!!!」

 

「「ああっ!!」」

 

メガビョーゲンは肩のトランペットを空中に向け音波を放ち、無数の光弾を落としてフォンテーヌとスパークルにダメージを与える。

 

「いいぞ、メガビョーゲン!! カスミーナが来た時は、出鼻を挫かれたが・・・俺の作戦に問題はない!! まずはそいつから始末しろ!!」

 

グアイワルは、まずは倒れ伏したフォンテーヌを倒そうとし、メガビョーゲンは足を上げてフォンテーヌを踏み潰そうとする。

 

「っ・・・!!」

 

「ぷにシールド!!」

 

「くっ・・・うぅぅ・・・!!」

 

何とか肉球型のシールドで防ぐフォンテーヌだが、メガパーツを5個も入れたメガビョーゲンの攻撃は強力で、徐々に押されていく。

 

「フォンテーヌ!!」

 

スパークルが叫ぶも、ダメージのせいかなかなか立ち上がることができない。

 

「ふはははははは!! いいぞ、メガビョーゲン!!」

 

勝利を確信し、調子付いたことで高笑いをし始めるグアイワル。

 

「・・・ん?」

 

しかし、突然メガビョーゲンの動きが止まったことに疑問を抱く。メガビョーゲンの足元を見てみると・・・・・・。

 

「っ・・・・・・」

 

「っ! あいつ・・・いつの間に・・・!!」

 

学生を避難させていたアースがこちらに戻って来ていて、瞬時にメガビョーゲンの足元に入り込んで支えていた。

 

「「アース!!」」

 

その様子を見たスパークルとフォンテーヌは安堵の声を漏らす。

 

「っ・・・はっ!!!」

 

「メガ!? ガッ・・・!!」

 

アースは手に力を込めて足を押し返し、メガビョーゲンのバランスを崩す。

 

「はぁっ!!」

 

「メガッ!?」

 

そして、アースは素早くメガビョーゲンの背後に回ると、バランスを取っていたもう一方の足の膝裏に蹴りを入れ、メガビョーゲンを地面に倒した。

 

「なにぃぃぃぃぃぃ!?」

 

メガビョーゲンが倒されて驚いたグアイワルがメガビョーゲンに駆け寄る。

 

その間にアースはフォンテーヌへと歩み寄って、彼女の手を取って体を起こさせる。

 

「大丈夫ですか? フォンテーヌ」

 

「ええ・・・ありがとう・・・」

 

助けてくれたアースにお礼を言うフォンテーヌ。しかし、その表情は不安そうな顔になっていて、グレースが走っていた庭の奥へと向いていた。

 

「グレースはどこに行ったのですか?」

 

「・・・もう一体メガビョーゲンが現れて、それを追いかけていったわ」

 

「・・・・・・・・・」

 

アースがそう尋ねると、フォンテーヌはそう答える。それを聞いたアースは険しい表情になっていた。

 

グレースはどう考えても、先ほどの少女ーーーーことえと同じように『焦り』を感じている。

 

彼女に教えてあげなければ、きっと無茶をするだろう・・・・・・。

 

キュン!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

メガビョーゲンが倒れている隙を狙って、スパークルがステッキの肉球を一回タッチしてメガビョーゲンに向ける。ニャトランの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを見つける。

 

「音のエレメントさんはあそこだ!!」

 

エレメントさんは左胸のあたりにいる模様。

 

「・・・わかりました。速やかに浄化して、グレースを追いましょう!!」

 

アースはそう言うと両手を合わせるように祈り、浄化の準備へと入る。

 

一枚の紫色の羽が舞い降り、ハープのような武器へと姿を変える。

 

「アースウィンディハープ!!」

 

そう呼ばれたハープに、風のエレメントボトルがセットされる。

 

「エレメントチャージ!!」

 

アースはハープを手に取って、そう叫ぶとハープの弦を鳴らして音を奏でる。

 

「舞い上がれ! 癒しの風!!」

 

手を上に掲げると彼女の周りに紫色の風が集まり始め、ハープへとその力が集まっていく。

 

「プリキュア! ヒーリング・ハリケーン!!!」

 

アースはハープを上に掲げてから、それを振り下ろすとハープから無数の白い羽を纏った薄紫色の竜巻のようなエネルギーが放たれる。

 

そのエネルギーは一直線にメガビョーゲンへと向かい、直撃する。

 

竜巻のようなエネルギーはメガビョーゲンの中で二つの手へと変化し、音のエレメントさんを優しく包み込む。

 

メガビョーゲンをハート状に貫きながら、光線はエレメントさんを外に出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていく。

 

「お大事に」

 

エレメントさんがトランペットの中に戻ると、このメガビョーゲンが蝕んだ場所が元の色を取り戻していく。

 

「ちっ・・・メガパーツがまだ足りなかったか・・・!!」

 

グアイワルは悔しそうにそう言い残すとその場から姿を消した。

 

メガビョーゲンを浄化した後、中央に集まるプリキュアの3人。

 

「ウゥ〜ン・・・・・・」

 

「ラテが全然良くならないよぉ・・・?」

 

「もしかしたら、メガビョーゲンがまた何体か出て来てるんじゃねぇか!?」

 

スパークルとニャトランがぐったりしているラテを見て心配そうな表情で見つめる。

 

アースはメガビョーゲンの居場所を探ろうとラテに聴診器を当てる。庭のここよりも奥にメガビョーゲンが行ったのはわかっている・・・だが・・・・・・?

 

(・・・あっちの方で、白いお水さんが泣いてるラテ)

 

「え・・・この奥じゃないの・・・?」

 

「あっちって・・・校舎・・・・・・?」

 

庭の奥だと思っていたメガビョーゲンは、ラテによると校舎の方で暴れているらしい。

 

しかし、何かがおかしい・・・・・・そういえばさっきのメガビョーゲンはこの辺りを蝕んでいただろうか・・・?

 

「メガビョーゲンはきっと二体いるんだペエ!!」

 

「だよな!! だって、俺たちだって奥の庭にメガビョーゲンが来たのを見たはずだろ!?」

 

ペギタンはメガビョーゲンは二体現れたことを推測。そうでなければ、先ほど自分たちが見たメガビョーゲンと、ラテの心の声が一致しない。

 

「でも、辺りが蝕まれていないのが気になるわ・・・・・・」

 

フォンテーヌはなぜラテがメガビョーゲンに反応しなかったのと、メガビョーゲンが通ったにも関わらずラテの向いた方向が蝕まれていないのかが気になり、不安そうな表情になる。

 

「ど、どうすんの・・・!?」

 

スパークルはフォンテーヌとアースに呼びかける。

 

「・・・私がグレースを追います。二人は校舎にいるメガビョーゲンをお手当てしてください!」

 

「そうね・・・二人で一体をやったほうが効率がいいものね」

 

「行こう!!」

 

こうして、アースはグレースの元へ、フォンテーヌとスパークルは校舎にいるメガビョーゲンを止めるべく動き出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、グレースは焦りのせいで動きに精彩を欠き、メガビョーゲンに苦戦を強いられていた。

 

「メガァァァァァァァ〜!!!!」

 

「ぐっ・・・うぅぅ・・・・・・!!」

 

メガビョーゲンはそんなグレースに五本の指から赤い光線を放つ。グレースは焦るあまりぷにシールドを出すタイミングを作れず、両腕で覆って耐え凌ぐしかない。

 

「メェッガァ!!」

 

「っ! きゃあぁ!! あうっ!!」

 

そこへメガビョーゲンがもう片方の拳を振るい、グレースを吹き飛ばして木に叩きつけた。

 

「うぅぅ・・・ぁぁ・・・」

 

「グレース!! しっかりするラビ!!」

 

グレースは倒れ伏したまま起き上がろうとせず、ラビリンの声にも反応せずに呻いている。

 

「・・・・・・・・・」

 

かすみはその様子を黙って見つめていた。グレースがいたぶられるという光景を目の前に心を痛めながらも、険しい表情で見ていた。

 

「グレース・・・なんで諦めないんだ・・・・・・」

 

かすみは愛しのグレースに呼びかけるような感じで、ボソリと呟いた。その表情は少し顔を強張らせていて、頬に少し汗が浮かんでいた。

 

あのグレースを見ているのは辛い。本当は助けに行きたい。でも、ここで助けに出てもビョーゲンズから裏切りとみなされ、結局はグレースを、のどかを危険な目に合わせることになる。それだけは避けなくてはいけない。

 

そうでなければ、自分がビョーゲンズの一員になった意味がないのだ。

 

「メガァ〜!」

 

メガビョーゲンはノッシノッシと歩きながら、倒れ伏すグレースへと迫る。

 

「グレース!! グレース!!」

 

「ぅぅ・・・ぅぅぅ・・・・・・」

 

意識が朦朧としているのか、ラビリンの必死の呼びかけにも答えず、グレースは倒れ伏したまま呻いているだけであった。

 

そんな彼女の目の前にメガビョーゲンの巨体が近づいていく。

 

「メェェェェェ〜」

 

メガビョーゲンはその場で立ち上がると足を上げ・・・・・・。

 

「ガァァァァァ〜!!」

 

そのままグレースに向かって足を振り下ろした。このままグレースはメガビョーゲンに踏み潰される・・・・・・。

 

と、思ったその時だった・・・・・・。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「メッガァ!?」

 

そこへ駆けつけたアースが飛び出し、メガビョーゲンの胸に飛び蹴りを食らわせて後ろへと倒す。

 

「グレース!!」

 

アースはメガビョーゲンが倒れたのを確認すると、倒れ伏しているグレースへと駆け寄る。

 

「うぅぅ・・・ぅぅぅ・・・・・・」

 

「グレース!! しっかりしてください!!」

 

アースはグレースの体を起こすと彼女に呼びかける。すでに彼女の体はボロボロだった。

 

「ぅぅ・・・ア、アース・・・・・・」

 

グレースはアースが来たことに気づくと、抱きおこす彼女を払いのけてふらつく体を無理矢理起こしてステッキをメガビョーゲンに構える。

 

「私が・・・やらなきゃ・・・!!」

 

グレースはそう言うも、その目は霞んできていてメガビョーゲンにピントが合わずにいた。

 

「待ってください! グレース!!」

 

「っ・・・ダメ、私が・・・もっと、頑張らない、と・・・」

 

アースは彼女の背後から呼びかけるも、グレースはそれを否定してメガビョーゲンに向かって行こうとする。しかし、体がフラついていて体力も限界なグレースはバランスを崩してそのまま倒れそうになる。

 

「グレース!!」

 

アースはそのグレースの背中を受け止めた。

 

「ぅぅ・・・アー、ス・・・・・・」

 

「・・・・・・グレース」

 

顔を顰めながらもアースを見るグレース。そんなアースの表情は不安そうな顔を隠せなかった。

 

「・・・どうして焦るのです?」

 

「っ・・・!!」

 

「自分でも焦っていると気づいているのでしょう・・・?」

 

アースの言葉にハッとした表情を浮かべたグレースは口をつぐむと、顔を少し俯かせた。

 

「っ・・・だって、私がダルイゼンを生み出しちゃったから・・・しんらちゃんをクルシーナにしちゃったから・・・かすみちゃんもどこかにいなくなっちゃったし・・・このままだと地球が・・・・・・」

 

「っ!!」

 

「だから、私が何とかしなくちゃ・・・もっと頑張らなきゃ・・・・・・!!」

 

手を握りしめるようにしてそう話すグレースの言葉に、ラビリンは少し表情を暗くした。

 

「・・・グレースは、テラビョーゲンを作りたいと思ったのですか? クルシーナ、しんらさんをテラビョーゲンにしたいと思ったのですか?」

 

「っ・・・そんなこと、思わないよ!!」

 

アースの言葉にグレースは顔を上げて答えた。自分はテラビョーゲンを作りたいと思ったことはないし、一緒に病気を治そうとしてきた大事な友人をテラビョーゲンにしたいと考えたことは一度もなかった。

 

「そうですよね・・・あなたはそんなことを望みませんよね。金森さんの風邪と一緒です」

 

アースはそう言うと拳を強く握りしめたグレースの手を取り、彼女が倒れないように立たせる。

 

「全部あなたのせいではありません。だから、自分を責める必要も、あなたが傷つく必要もないのです。かすみさんのこともそう・・・私もいなくなった彼女のことは心配です。でも、だからこそ、いなくなった彼女の分は私たちがみんなで頑張ればいいのですよ」

 

「っ・・・!!」

 

「だから、私たちと一緒に頑張りましょう。一人で抱え込むことはなく。だって私たち、友達ではないですか」

 

アースにそう言われたグレースは握った拳を緩め、少しだけ彼女に微笑みかけた。

 

「・・・ありがとう、アース」

 

グレースはそうお礼を言うと、しっかりと立ち上がった。

 

「ふっ・・・・・・」

 

かすみはその様子を見て、密かに口元に微笑んだ。アースやみんなさえいれば、グレースは安心だと・・・そう確信したのだ。

 

そして、口元の笑みを隠すとメガビョーゲンに歩み寄る。

 

「メガビョーゲン!! さっさと立ち上がって、プリキュアを倒せ!!」

 

「メッ、ガ・・・・・・!」

 

かすみはそう命令すると、メガビョーゲンは巨大な体を起こす。

 

メガビョーゲンが立ち上がったことに気づいたグレースとアースは構える。

 

「メガァァァァァ〜!!」

 

メガビョーゲンは五本の指から赤いビームを放つ。グレースとアースはそれを飛んでかわす。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 

「メガ!?」

 

二人は同時に蹴りを放って、メガビョーゲンを吹き飛ばす。

 

「メガビョォォォォォォ〜!!」

 

メガビョーゲンは肩の先端部分を上に向けて、音波を放つと無数の光弾を降り注がせる。

 

「ぷにシールド!!」

 

グレースはそれに気づくとアースの前に出て、肉球型のシールドを展開して着弾に備える。

 

ドォン、ドォン、ドォン、ドォンドォォォォォォォォン!!!!

 

光弾は着弾すると爆発を起こし、黒い煙が上がる。

 

爆発が収まり、一瞬静かになったと思うと・・・・・・。

 

「実りのエレメント!! はぁっ!!」

 

黒い煙の中からそう声が聞こえてくると、ピンク色の光弾が飛び出してくる。

 

「メェ〜!? メガァ!?」

 

不意をつかれたメガビョーゲンは肩の先端部分を使おう間もなく、光弾の直撃を受けた。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「メェ〜!? メガ、ガッ・・・!?」

 

さらに黒い煙の中からアースが飛び出して胸に蹴りを入れると、メガビョーゲンは後ろによろけて倒れそうになる。

 

「ふっ!!」

 

「ビョッ、ビョビョビョ〜!?」

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

「ビョーゲン!?」

 

その隙にグレースがメガビョーゲンの体を使って背後へと飛ぶと、支えていた足の膝裏を蹴り、メガビョーゲンを背後へと倒した。

 

「・・・・・・倒されるのも時間の問題だな。次のフェーズに移ろう」

 

その様子を見ていたかすみはあのメガビョーゲンの役目は終わったと判断し、もう一つの持ってきていたチューバに目をつけた。

 

キュン!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

グレースはメガビョーゲンが倒れている隙にステッキの肉球をタッチして、メガビョーゲンに向ける。ラビリンの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを見つける。

 

「音のエレメントさんはあそこラビ!!」

 

エレメントさんは右肩部分にいる模様。場所は分かった、あとは浄化するだけだ。

 

アースは両手を合わせるように祈り、浄化の準備へと入る。

 

一枚の紫色の羽が舞い降り、ハープのような武器へと姿を変える。

 

「アースウィンディハープ!!」

 

そう呼ばれたハープに、風のエレメントボトルがセットされる。

 

「エレメントチャージ!!」

 

アースはハープを手に取って、そう叫ぶとハープの弦を鳴らして音を奏でる。

 

「舞い上がれ! 癒しの風!!」

 

手を上に掲げると彼女の周りに紫色の風が集まり始め、ハープへとその力が集まっていく。

 

「プリキュア! ヒーリング・ハリケーン!!!」

 

アースはハープを上に掲げてから、それを振り下ろすとハープから無数の白い羽を纏った薄紫色の竜巻のようなエネルギーが放たれる。

 

そのエネルギーは一直線にメガビョーゲンへと向かい、直撃する。

 

竜巻のようなエネルギーはメガビョーゲンの中で二つの手へと変化し、音のエレメントさんを優しく包み込む。

 

メガビョーゲンをハート状に貫きながら、光線はエレメントさんを外に出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていく。

 

「お大事に」

 

アースはメガビョーゲンを浄化した後、グレースへと駆け寄る。

 

「あとは校舎にいるメガビョーゲンだけです! 行きましょう!!」

 

「あぁ・・・ぁぁ・・・・・・」

 

アースはそう言うが、グレースはなぜか呆然とした表情のまま動かない。

 

「グレース!? どうしたのですか!?」

 

「ア・・・アース・・・・・・」

 

グレースは震える声で呟くように言うと、向いている方向に指を震わせながらも差す。

 

「あ、あれを見て・・・・・・」

 

「え・・・・・・!?」

 

アースはグレースの言う通りに振り向くと、その表情は驚愕に包まれた。

 

周囲を見渡してみると、多くの木や地面が真っ赤に染まっており、病気に蝕まれていたのだ。

 

「な、何なのですか・・・これは・・・!?」

 

「どういうことラビ・・・!?」

 

アースやラビリンは驚きを隠せなかった。メガビョーゲンは確かに浄化したはず・・・なのに、どうして周りが病気に蝕まれているのか・・・!?

 

グレースとアースは思考が追いつかずにいると・・・・・・。

 

「あの程度で私に勝ったつもりか?」

 

「「っ!!」」

 

声がする方向に振り向くと、そこにはフードの少女ーーーーかすみと・・・・・・。

 

「メガビョォ〜・・・!!」

 

そこには微量な音波を放っている、先ほど浄化したのと同じように、金管楽器のような体に、両肩からそれぞれ3本の先端部分、真ん中から先端部分から顔を出しているようなメガビョーゲンの姿があった。

 

かすみは二人が一体のメガビョーゲンに気を取られているうちに、もう一体メガビョーゲンを生み出していたのだ。

 

「・・・音楽というものではこう言うんだったかな?」

 

かすみはそう言った後、息を少し吸い込んだ後にこう口を開いた。

 

「第二楽章の始まりだ」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第96話「誰?」

前回の続きです。
二手に分かれたプリキュアたちの、お手当て大作戦が始まります。


 

一方、その頃・・・・・・校舎へと向かっているフォンテーヌとスパークルは・・・・・・。

 

「っ!? 何!?」

 

「どうなってるの・・・!?」

 

向かっている途中で、急に周囲が真っ赤に染まり、病気で蝕まれ始めたことに驚く二人。

 

「さっきまでは何ともなかったのにニャ・・・!!」

 

「急に、病気に蝕まれ始めたペエ・・・!」

 

ニャトランとペギタンもその様子に驚いていた。

 

「急ぎましょう!!」

 

「うん!!」

 

二人は校舎にいるであろうビョーゲンズが何かをしたのかと思い、走って向かっていく。

 

「あ・・・あそこじゃない!?」

 

学校の中へと入り、校舎の近くまで来るとスパークルが赤い泡が付着しているのを発見した。

 

「そうね・・・行ってみましょう!!」

 

フォンテーヌはそれに頷くと、二人は赤い泡を辿っていこうとする。

 

「メガァ!!」

 

その校舎の裏にある庭では、メガビョーゲンが両腕のホースから赤い液体を噴射して泡を付着させながら、着実に病気に蝕んでいた。

 

「っ! カスミーナのメガビョーゲンも動き出したみたいですねぇ」

 

ドクルンは気づいたら、先ほどのメガビョーゲンで音が触れた場所が一瞬で赤く染まったことに驚くも、すぐに不敵な笑みを浮かべた。

 

「いたわよ!! メガビョーゲン!!」

 

「な、なんかいつもより、周りが病気に蝕まれてない・・・!?」

 

そこへメガビョーゲンの元にたどり着いたフォンテーヌとスパークルが現れるも、スパークルは周りの赤い靄が分布がいつもより広いことに戸惑っている。

 

「おや? やっときましたか。でも、少し遅かったですねぇ」

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

ドクルンが笑みを浮かべながら見つめ、その隣には苦しそうに呼吸することえの姿があった。

 

「ことえっち!!」

 

「金森さんに何をしたの!?」

 

フォンテーヌは険しい表情で問い詰める。

 

「ちょっと実験に付き合わせているだけですよ。病み上がりの人間にメガパーツを入れるとどんなテラビョーゲンが生まれるのかのねぇ」

 

「っ!!」

 

ドクルンは不敵な笑みを浮かべながらそう言う。フォンテーヌは怒りの炎を燃やしそうになるが、テラビョーゲンについての性質を思い出しながら冷静になる。

 

(ドクルンも、クルシーナと同じ、元は人間なのよね・・・?)

 

以前、クルシーナことしんらが人間からテラビョーゲンになったことを知ったプリキュアたち。フォンテーヌは設楽先生の言葉を思い出し、彼が言っていた患者の誰かではないかと考えたのだ。

 

ドクルンも、同じように人間からテラビョーゲンになったのではないかと・・・・・・。

 

「どうして、こんなことをするの・・・!?」

 

「何の話ですか?」

 

「そうやって、無関係の人間にメガパーツを入れたり、周囲を病気で蝕んで苦しめたりすることよ・・・! あなたも元は人間だったのよね!? しんらさんみたいに・・・!!」

 

「っ・・・!!」

 

フォンテーヌが沈痛したような表情で言うと、ドクルンは笑みを消して顔を顰める。

 

「・・・・・・クルシーナが何かしたみたいね」

 

「答えなさい!! どうしてこんなことを・・・!?」

 

ドクルンは呟くように言う中、フォンテーヌは問い詰めようとする。

 

「・・・そんなに知りたいですか?」

 

ドクルンが冷たい声で言うと、フォンテーヌは頷く。

 

「・・・そのメガビョーゲンを浄化できたら一つだけ教えてあげますよ、少しだけね。メガビョーゲン、もっと辺りを蝕みなさい」

 

「メガァ!!」

 

ドクルンはそう答えると、メガビョーゲンに命令を出す。

 

「フォンテーヌ!! 早く浄化しなきゃ!!」

 

「わかってるわ!!」

 

スパークルがそう促すとフォンテーヌは頷いて、二人でメガビョーゲンへと駆け出す。

 

「メェ、ガァ!!!」

 

二人に気づいたメガビョーゲンは両腕のホースを向けて、そこから赤い液体を噴射する。二人はその場から分かれるように飛んでかわす。

 

「ふっ、はぁぁっ!!」

 

フォンテーヌは飛んだ近くにあった木をキックして飛び出すと、メガビョーゲンに蹴りを繰り出す。

 

「メガ!!」

 

「っ、あぁぁ!!」

 

しかし、消火器の固いボディのせいなのかビクともしていないメガビョーゲンは、逆に腕のホースを振るってフォンテーヌを吹き飛ばす。

 

「雷のエレメント!!」

 

スパークルは雷のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「はぁっ!!」

 

ステッキから電気を纏った黄色い光線をメガビョーゲンに目掛けて放つ。

 

「メ!? ガガッ・・・!?」

 

消火器のボディに感電したのか、メガビョーゲンの体が仰け反る。

 

「今だニャ!!」

 

「フォンテーヌ!!」

 

攻撃のチャンスと言わんばかりのニャトランの言葉を合図に、スパークルは飛ぶ。

 

「ふっ!!」

 

フォンテーヌも空中で体勢を立て直すと、再び学校の壁を蹴って飛び出す。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 

「メッガ・・・!?」

 

二人は同時に蹴りを繰り出し、メガビョーゲンは背後へと倒される。

 

キュン!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

倒れている間にフォンテーヌがステッキの肉球に一回タッチして、メガビョーゲンに向ける。

 

「泡のエレメントさんが、右腕にいるペエ!!」

 

ペギタンの目が光り、メガビョーゲンの右腕の付け根辺りにいるエレメントさんを発見する。

 

「メガビョーゲン!!」

 

その直後、メガビョーゲンはすぐに立ち上がると、足の格納庫のような部分を開いて、そこから赤い玉のようなものを無数発射する。

 

「「っ!!」」

 

「メガァ!!」

 

フォンテーヌとスパークルは飛んでかわすと、メガビョーゲンはそこを狙ってホースの腕を振り回す。

 

「「ぷにシールド!!」」

 

背中合わせになって肉球型のシールドを展開し、振り回されるホースの腕を弾き飛ばしていく。

 

「ふん。さてと・・・!」

 

ドクルンはプリキュアとメガビョーゲンの戦いの様子を見て鼻を鳴らすと、目線を苦しんでいることえへと向ける。

 

「うっ・・・うぅ・・・」

 

「ふふふ・・・♪」

 

ドクルンは不敵な笑みを浮かべながらことえへと近づくと、彼女の手を握る。すると、ことえの手から黒い光を放ち始めた。

 

「!? う、うあぁぁぁぁぁ・・・!!!」

 

途端に一瞬目を見開くと、悲鳴のような声をあげてことえは体を震わせながらさらに苦しみ始めた。

 

「あぁっ・・・あ、あぁ・・・!!」

 

「この娘の中のメガパーツをもっと育ててあげないとねぇ」

 

ドクルンは無意識に振りほどこうとしていることえの手を離さないように握りながら、彼女を見つめる。

 

「っ!! ことえっち!!」

 

「メガァ!!」

 

スパークルはことえの悲鳴が耳に入り、危機に陥っているのを見て叫ぶ。それを隙ありと言わんばかりに足の格納庫から赤い玉を放つ。

 

「スパークル、前!!」

 

「っ!!」

 

「危ない!!」

 

ニャトランが叫ぶも、スパークルはとっさの行動が取れなかった。そこをフォンテーヌが突き飛ばすようにして一緒に飛んで避けたので、赤い玉を食らわずに済んだ。

 

「ご、ごめん、フォンテーヌ・・・・・・!」

 

「早く浄化して金森さんを助けましょう・・・!!」

 

友人が痛めつけられるのが気になるのは仕方がないが、どうしてもそれでメガビョーゲンとの戦いに集中できていない。ならば、早く浄化して助けようとフォンテーヌは考えた。

 

スパークルは頷くと、二人はステッキを構える。

 

「メガァ!!」

 

メガビョーゲンは両腕のホースから白い液体を噴射する。

 

「ぷにシールド!!」

 

スパークルは肉球型のシールドを展開して、白い液体を防ぐ。

 

「氷のエレメント!!」

 

フォンテーヌはその隙に氷のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「はぁっ!!」

 

氷を纏った青い光線をメガビョーゲンに目掛けて放つ。

 

「メガ・・・ビョーゲン・・・!?」

 

光線が消火器のボディに命中し、メガビョーゲンは全身が氷漬けになっていく。

 

「そろそろ、こっちも仕上げに入りましょうかねぇ」

 

「う、うぁぁ・・・ぁぁ・・・! うっ、うぅぅ、うぅぅぅ・・・!! うぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ドクルンは握っていることえの手を黒く光らせると、彼女はもっと苦しみ始め呻き声をあげる。体をガクガクと震わせると、悲鳴のような絶叫をあげる。

 

ことえの中の赤い靄が蠢いたかと思うと、彼女の体内から赤黒い靄が勢いよく飛び出す。

 

「よっと・・・! 今度は逃さないわよ」

 

ドクルンはその赤い靄を素手で捕まえて掴み上げる。すると、赤い靄はドクルンの手の中で一つの赤い氷へと姿を変えた。

 

「ふむ・・・大人しくなったわね。まあ、いいわ」

 

ドクルンは赤い氷を見ながらそう言うと、プリキュアとメガビョーゲンの方を見る。

 

フォンテーヌとスパークルはステッキに水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをセットする。

 

「「エレメントチャージ!!」」

 

そう言いながら光るステッキの先をハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「「ヒーリングゲージ上昇!!」」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングストリーム!!」

 

「プリキュア!ヒーリングフラッシュ!!」

 

フォンテーヌとスパークルはそう叫びながら、ステッキをメガビョーゲンに向けて、青色の光線と黄色の光線を同時に放つ。光線は螺旋状になって混ざっていった後、メガビョーゲンに直撃した。

 

その光線はメガビョーゲンの中に入ると、螺旋状のエネルギーは手へと変化して、4本の手が泡のエレメントさんを優しく包み込む。

 

水型状に、菱形状にメガビョーゲンを貫きながら、光線はエレメントさんを外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「「「お大事に」」」」

 

泡のエレメントさんは消火器の中へと戻っていく。

 

「まあ、いいでしょう。目的は達したし、あとはカスミーナに任せましょう」

 

ドクルンは手に持っている赤い氷を見ながらそう言うと、踵を返す。

 

「待って!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

その時、背後から呼び止める声が聞こえ、ドクルンは無言で背後を振り向く。

 

「メガビョーゲンは浄化したわ!! 質問に答えて!!」

 

「・・・ああ、そうでしたね」

 

フォンテーヌが険しい表情で言い、ドクルンは睨むような顔で思い出したかのように呟く。正直、イライラしているようで、心の中で自分が驚くくらい声は冷たかった。

 

「あなたは、一体誰なの・・・・・・?」

 

「・・・・・・・・・」

 

フォンテーヌの問いにドクルンは無言で睨むも、心の中ではため息をついていた。

 

わざわざメガビョーゲンを浄化しておいて、聞きたかったことがそれか、と・・・・・・。

 

ドクルンはそう考えた後、口を開いた。

 

「・・・賢いあなたならわかるはずよ、ちゆ」

 

「っ!? ど、どうして、私の名前を・・・!?」

 

ドクルンはいつもと口調を変えてそう言うと、名前を呼ばれたフォンテーヌは激しく動揺する。

 

「・・・・・・さあね、自分で考えたらどうですか? それよりも周りを見た方がいいんじゃないですか?」

 

約束どおり、一つだけ質問に答えたドクルンはそう言うと姿を消したのであった。

 

「・・・え、なんで? メガビョーゲン、浄化したはずなのに・・・なんで、元に戻ってないの・・・?」

 

「おかしいニャ・・・どうしてだ・・・!?」

 

スパークルとニャトランは周りを見渡して戸惑いの声を上げていた。メガビョーゲンを浄化したはずなのに、周囲はまだ病気に蝕まれており、それどころか濃く蝕まれているようにも感じる。一体、どうしてなのか・・・??

 

「ねえ、フォンテーヌ・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

困惑したスパークルはフォンテーヌに声をかけるも、彼女はそれに答えずに顔を俯かせていた。

 

(ドクルンが、私の名前を・・・? もしかして、あの娘は、私の知っている人・・・??)

 

何かを忘れている気がする。そんな風に感じたフォンテーヌは、自身がこれまでに関わっていた人を思い出そうとする。そんな中、思い浮かんだのは・・・・・・。

 

もしかして・・・ドクルンは・・・・・・。

 

フォンテーヌの頭の中には考えたくもない最悪な考えが浮かんでいた。もしかしたら、自身が記憶喪失になるぐらいに忘れていた・・・私の友人の・・・・・・。

 

「フォンテーヌ!! フォンテーヌッ!!!!」

 

「っ・・・ご、ごめんなさい・・・どうしたの・・・?」

 

「どうしたの?じゃないよ!! 周りを見て!!」

 

「??・・・っ!?」

 

答えてくれないフォンテーヌに不安を感じたスパークルが叫ぶと、反応したフォンテーヌが振り向く。スパークルにそう指摘されて周りを見て、同じように動揺した。

 

「ど、どういうことなの!? これは!?」

 

「まだこの辺が蝕まれたまま、元に戻ってないペエ・・・」

 

フォンテーヌは信じられないといった表情で見る。ペギタンは気づいていたようで、困ったようにそう答えた。

 

「っ!! もしかしたら、まだ奥の庭にいたメガビョーゲンがやったんじゃ・・・!?」

 

「っ、そ、そうだよね・・・それしか考えられないよね・・・!?」

 

ニャトランがそう考えると、スパークルはまるで忘れていたことを思い出したかのように答えた。

 

「あ・・・金森さん・・・!!」

 

「あぁ!! ことえっちのこと忘れてた!!」

 

二人はドクルンに捕まっていたことえのことを思い出し、辺りを見渡すと地面に倒れているのを発見した。

 

「すぅ・・・すぅ・・・すぅ・・・」

 

二人は倒れていることえに駆け寄ると、彼女は安らかな寝息を立てながら眠っている。

 

「・・・大丈夫そうね」

 

「よかったぁ・・・!」

 

フォンテーヌとスパークルはそれぞれ安堵の声を漏らすと、ことえを担いで彼女を近くにあるベンチの上に寝かせる。

 

「早く行こうよ、フォンテーヌ!!」

 

「ええ、行きましょう・・・!!」

 

フォンテーヌとスパークルはお互いに頷くと、グレースとアースが戦っているであろうメガビョーゲンの元へと駆け出していく。

 

「ねえ、フォンテーヌ・・・」

 

「??」

 

「あいつ・・・フォンテーヌの名前を読んでたよね・・・?」

 

「っ・・・そうね・・・・・・」

 

二人は先ほどのドクルンの言葉を思い出していた。口調も変わった上に、フォンテーヌのことをちゃんと「名前」で呼んでいた。

 

(ドクルン・・・あなたは、誰なの・・・? 私の・・・何・・・?)

 

フォンテーヌはドクルンのことを考えつつも、グレースやアースの元へと走っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フォンテーヌとスパークルが校舎にたどり着く数分前・・・・・・。

 

「メガビョォォォ・・・・・・」

 

かすみが新たに生み出した二体目のメガビョーゲンは、微量な音波を周囲に放ち、一気に周囲を病気へと蝕んだ。

 

「まさか・・・二体目も生み出していたなんて・・・!!」

 

アースは信じられない様子でメガビョーゲンと、近くにいるフードの少女を見る。普通は一体のみを召喚するビョーゲンズが、今回は二体目も生み出した。もうないと思っていたアースたちには考えられないことだった。

 

「しかも、さっきのメガビョーゲンよりも数段大きいラビ・・・!!」

 

「広範囲が蝕まれたせいだよね・・・?」

 

グレースとラビリンも驚いたように見ている。メガビョーゲンは先ほど浄化したものよりも、更なる大きさへと成長していた。

 

「やはりか・・・一体目のメガビョーゲンは予備動作、二体目のメガビョーゲンで完成する感じみたいだな・・・・・・」

 

かすみはメガビョーゲンを見つめながらそう言う。自分の予測は当たっていた。一体目のメガビョーゲンの音波を周囲に当てることによって病気の兆しを作り出し、今誕生させた二体目のメガビョーゲンが音波を放つことによって、一体目が音波を当てた場所を共鳴させて病気に蝕むという感じなのだ。

 

ドクルンにもそう話したが、自身の考えたことがこんなに全部当たるとは思ってもいなかった。

 

「クゥ〜ン・・・・・・」

 

「っ、驚いている場合ではありません。速やかにメガビョーゲンを浄化しましょう」

 

ラテの辛そうな鳴き声が聞こえたことで、アースは我に返り、二人はメガビョーゲンへと構える。

 

「・・・・・・メガビョーゲン、奴らを潰せ」

 

かすみは二人のその様子をみると、メガビョーゲンに倒すように指示する。

 

「メガァァァァ〜・・・・・・!!!!」

 

メガビョーゲンはそれを受けると、口から音波を放つ。

 

「ぷにシールド!!」

 

「うっ・・・っ!? きゃあぁぁぁ!!!! あうっ!!」

 

グレースは前に出て肉球型のシールドを展開して防ぐも、なぜか音波攻撃はシールドを掻い潜ってグレースの体に作用し、彼女は思いっきり吹き飛ばされ、木に叩きつけられてしまう。

 

「グレース!!」

 

そのまま地面へと倒れ伏したグレースを、アースが心配して叫ぶ。

 

「そういえば、お前も音波を浴びていたな、キュアグレース・・・」

 

「うぅぅぅ・・・げほげほっ!!」

 

かすみが思い出したかのように呟く。背中を思いっきり打ち付けたのか、グレースは激しく咳き込む。

 

「グレース、大丈夫ですか!?」

 

「ぐぅぅ・・・だ、大丈夫・・・」

 

「メガビョォォォォォォ・・・・・・」

 

アースが駆け寄ってグレースの体を起こすも、そこへメガビョーゲンが両肩のに2対6本の先端部分から赤いビームを放つ。

 

「っ!!」

 

アースはグレースを担いで飛び、ビームを避ける。そして、グレースをその場に置くと一人メガビョーゲンへと突っ込んでいく。

 

「メガビョォォォォォォォォ・・・!!!!」

 

メガビョーゲンは先端部分から次々とビームを放っていく。アースはビームを掻い潜りながら、メガビョーゲンへと迫る。

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「メッ、ガァ〜・・・!!」

 

アースは飛び上がってパンチを繰り出し、メガビョーゲンも片手のチューバのような先端部分で応戦する。二つの攻撃はぶつかり合い、お互い弾き返す。

 

「ふっ!!」

 

「メガァァァァァ〜!!!!」

 

アースが着した直後、メガビョーゲンは顔を上に向けると音波を放ち、そこから無数の光弾が降り注いでいく。

 

アースは駆け出していき、メガビョーゲンへと再度迫る。

 

「空気のエレメント!!」

 

アースは取り出したハープに空気のエレメントボトルをセットする。

 

「はぁっ!!」

 

ハープから無数の空気の弾がメガビョーゲンに目掛けて発射される。

 

「メガビョォォォォォ・・・・・・」

 

メガビョーゲンは両肩と片手にある先端部分からビームを一斉に照射し、空気の弾を打ち消す。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「メェ!?」

 

そこへアースが飛び出して胸に強烈な蹴りをお見舞いし、仰け反るメガビョーゲンだが・・・・・・。

 

「メガァァァァァ〜!!!!」

 

「っ!?」

 

ドカァァァァン!!!

 

メガビョーゲンはすぐに体勢を立て直すと、胸にもあった6本の先端部分からエネルギーを溜め、アースに目掛けて強力なビームを放った。

 

「アース!!」

 

一人戦うアースを心配して叫ぶグレース。そこにかすみが歩いて近づいてくる。

 

「お前はいかないのか? キュアグレース」

 

「っ・・・・・・」

 

かすみは険しい表情でグレースを見つめている。グレースからはフードで表情が見えないが、自分たちを見下しているように見えてしまう。

 

「アースに任せっきりか? 別にいいけど」

 

かすみは見下したような言葉を放つ。そんな心の中では、グレースに酷いことを言ったと心を傷める。

 

そんなかすみに、正体を知らないグレースは意を決して声を掛ける。

 

「ねえ、あなた・・・」

 

「??」

 

「あなた・・・かすみちゃんだよね? そのフードの色といい、黒いステッキといい、そうなんでしょ??」

 

「・・・・・・・・・」

 

グレースの問いかけに、かすみは沈黙する。ここで正体を明かすわけにもいかないため、ごまかすための言葉を考える。

 

そして、考えついた言葉をこの場ではく。

 

「・・・・・・あと二人はどうしたんだ? 二人がいれば、アースには有利になるだろ?」

 

「答えて!! 私の質問に!! あなたは、かすみちゃんなの!?」

 

「・・・・・・・・・」

 

誤魔化しきれていない。グレースの話を反らすどころか、余計に苛立たせてしまっているようだ。

 

こうなったら、バレるのを覚悟で名前を言うしかない。プリキュアに付けられた名前ではなく、ビョーゲンズに付けられた名前に・・・・・・。

 

「・・・・・・私はカスミーナ。それ以上でも、それ以下でもない、ただのビョーゲンズだ」

 

「カスミーナ・・・・・・?」

 

かすみはそれだけ呟くと、グレースの考える時間を与える間も無く、その場から離れていく。

 

(カスミーナ・・・かすみちゃんじゃない・・・?)

 

グレースはその名を聞いた途端、フードの少女がかすみではないと思い込む。しかし、何やら奇妙な引っかかりを覚える。

 

「あぁぁっ!?」

 

そんな中、応戦していたアースはメガビョーゲンに吹き飛ばされて、地面に叩きつけられる。

 

「アース!! うっ・・・!」

 

グレースは痛む体を動かして立ち上がり、アースへと駆け寄る。

 

「アース!!」

 

「はぁ・・・はぁ・・・グレース・・・もう体力が・・・・・・」

 

アースは息を荒くしながらも立ち上がるが、動きに精彩を書き始めており、体力も尽きそうになっていた。

 

「メガァァァァァ〜!!!!」

 

メガビョーゲンは体にある先端部分から赤いビームを次々と放っていく。

 

「ぷにシールド!!」

 

グレースはアースの目の前に出て、肉球型のシールドを展開してビームを防ぐ。

 

「メガァァァァァ・・・・・・」

 

「うっ・・・うぅ・・・!!」

 

ビームを次々と放っていくメガビョーゲンに苦しい表情をするグレース。ぷにシールドにはヒビが入り始めていた。

 

「メェェェェ〜ガァァァァァァ〜!!!!」

 

メガビョーゲンは両肩、胸、片手にある先端部分にエネルギーを溜め、一斉に太めのビームを放った。

 

「「きゃあぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

太めのビームはヒビの入ったぷにシールドを簡単に突破し、二人はビームの直撃を受けてしまう。

 

煙が晴れるとそこには倒れ伏している二人の姿があった。

 

「・・・もう終わりか? 早くしないと取り返しのつかないことになるんじゃないのか?」

 

かすみはメガビョーゲンの側によると、二人に投げかける。心の中では二人に立って欲しいと思い込んでいる。

 

「うぅぅ・・・・・・」

 

「あぁぁ・・・・・・」

 

しかし、二人はダメージも大きく、体力も限界のようでなかなか立ち上がることができない。

 

「・・・・・・メガビョーゲン、やれ」

 

「メガビョォォォォォォ・・・・・・!!!」

 

かすみが冷静な声でそう指示すると、メガビョーゲンは再び体にある先端部分にエネルギーをチャージし始める。

 

「うぁ・・・あぁ・・・・・・」

 

グレースは顔だけでも上げると、無情にもメガビョーゲンのエネルギーが溜められていく。

 

「くっ・・・うぅぅ・・・・・・」

 

アースは体をフラつかせながらも立ち上がるが、攻撃は間に合わず、もはやなす術がない。

 

メガビョーゲンがトドメを刺そうと赤い太めのビームを発射する。そんな時だった・・・・・・。

 

「雷のエレメント!! はぁっ!!」

 

そこへ叫び声が聞こえてきたかと思うと、遠方から電気を纏った黄色い光線が飛んでくる。

 

「メガァ〜・・・・・・!?」

 

メガビョーゲンに直撃し、感電して動きが鈍る。

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「ビョ〜・・・!?」

 

さらに飛び出してきたフォンテーヌが肩に蹴りを入れ、メガビョーゲンを背後に倒す。

 

「二人とも大丈夫!?」

 

「ええ・・・私は大丈夫です・・・・・・」

 

スパークルの言葉に、アースはなんともないことを伝える。

 

「グレース!!」

 

「あ・・・ありがとう・・・・・・」

 

グレースに駆け寄るフォンテーヌが彼女の手を取って立たせる。

 

「・・・ようやく4人揃ったか」

 

その様子を見ていたかすみがそう声を投げかける。

 

「っ、あれって、かすみっちじゃないの・・・!?」

 

「どう見てもかすみよね・・・?」

 

「なんでフード被って、あそこにいんの!?」

 

フォンテーヌとスパークルが姿を見て驚く。どう見てもかすみだが、どうしてメガビョーゲンと戦わず、しかもそばにいるのか・・・??

 

「もしかして・・・校舎が病気に蝕まれたまま戻らなかったのは、かすみの・・・!?」

 

フォンテーヌはその様子にかすみの仕業だと推測し始めるが、グレースがそれに首をふる。

 

「・・・違うみたい。あの娘はかすみちゃんじゃなくて、カスミーナで、かすみちゃんとは別人みたい・・・自分で名乗ってた・・・」

 

「え・・・でも、どう見てもかすみっちだよね・・・?」

 

「もしかして・・・かすみの偽物なのかしら??」

 

グレースはフォンテーヌのその考えを否定するも、どう見てもかすみにしか見えない。もしかしたら、ビョーゲンズが生み出した偽物なのかもしれないと考えた。

 

「メガァァァァァ〜!!!!」

 

そうしている間に、メガビョーゲンは口から音波を放っていく。

 

「今は考えるよりも、メガビョーゲンを・・・!!」

 

「・・・・・・そうね、考えるのはあとにしましょう」

 

アースがそう諭すように言うと、グレースたち三人は頷き、暴れるメガビョーゲンを止めようと構えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、のどかが入院していたすこやか総合病院の病室で異変が起きていた。

 

それはメガビョーゲンの一部である種が取り憑いた患者。それはドクルンにメガパーツを埋め込まれて成長を促進させられた少女であった。

 

赤い靄に包まれながら眠る中・・・・・・段々とメガビョーゲンの一部と、メガパーツと馴染んできたのか、少女の体は人間のような肌から人ではない肌へと変化を遂げていく。

 

次に頭の上に悪魔のようなツノのようなものが生えていく。また、お尻からはサソリの尻尾のようなものが伸びていく。

 

そして・・・・・・少女の目が見開き、その目を赤く光らせた。

 

赤い靄は少女と一緒に浮かび上がると、そのまま開いていた病室の窓から勢いよく飛び出していく。

 

そして、病室にはもぬけの殻のベッドが残されていた・・・・・・。

 

その日、病室に入った看護師によって患者が一人いなくなったということが知らされ、病院内は騒ぎになったのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第97話「信頼」

前回の続きです。今回で原作第29話は完結です。
次回はオリストを挟みます。そのあとに原作第30話に入りたいと思っております。


 

正体を気取られていないかすみが生み出したメガビョーゲンと対峙するプリキュアたち。

 

「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」」」

 

「メガァァァァァ〜・・・・・・!!!!」

 

メガビョーゲンに一斉に飛びかかるプリキュアたち。メガビョーゲンは頭上を見上げると音波を放ち、無数の光弾を降り注がせる。

 

「「うっ・・・・・・!!」」

 

「「あぁぁ・・・・・・!!」」

 

4人はそれぞれ光弾を飛ぶようにかわしていくと、一旦背後へと飛び退き、地面に着地をすると息もつかずにメガビョーゲンへと駆け出していく。

 

「メガビョォォォォォォ・・・・・・!!!!」

 

メガビョーゲンは両肩、胸、片手にある先端部分から赤いビームを照射していく。

 

4人は赤いビームを走りながら避けていき、メガビョーゲンヘと迫っていく。

 

「雨のエレメント!!」

 

フォンテーヌは雨のエレメントボトルをセットする。

 

「はぁっ!!」

 

フォンテーヌは走りながら、雨粒を纏った青い光線をメガビョーゲンに目掛けて放つ。

 

「メガァ・・・ビョォォォォ〜・・・!!!!」

 

メガビョーゲンは右手で光線を防ぐと、左手の先端から赤いビームを放つ。

 

「っ・・・!!!」

 

フォンテーヌは赤いビームを飛んでかわす。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「メガ・・・!?」

 

その隙を狙ってアースが右肩に蹴りを入れてよろつかせる。

 

「やぁっ!!!」

 

「ビョ、ビョーゲン・・・・・・!?」

 

さらにスパークルが黄色い光線を顔面に放って、メガビョーゲンを怯ませる。

 

「ふっ・・・はぁぁぁぁっ!!」

 

「メッガァ!? メガァァァ〜!!!」

 

グレースはその間にメガビョーゲンの背後へと飛んで、脇腹に蹴りを入れるも、メガビョーゲンはグレースに目掛けて口から音波を放つ。グレースは直撃する前に、瞬時に飛んでかわす。

 

「はぁぁぁっ!!!」

 

「メガァ・・・!?」

 

背後にまわったフォンテーヌが背中から蹴りを入れ、メガビョーゲンを吹き飛ばすも、踏ん張ったメガビョーゲンは振り向きざまに口から音波を放っていく。

 

「やぁぁぁぁぁっ!!!」

 

そこへスパークルが音波を掻い潜って、メガビョーゲンヘと飛び、拳をお見舞いしようとする。

 

「メガァ!! ビョーゲン・・・!!!」

 

「あぁぁっ!!!」

 

メガビョーゲンは拳で応戦し、スパークルを力任せに吹き飛ばす。

 

「スパークル!!」

 

音波を避けたフォンテーヌが吹き飛ばされたスパークルを背後から受け止める。入れ替わりにグレースとアースが飛び出していく。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

「メガァ・・・!?」

 

二人は同時に飛び蹴りを放って、胸に直撃させられたメガビョーゲンはさらに吹き飛ばされる。

 

「メガビョォォォォ〜・・・!!!!」

 

しかし、メガビョーゲンは倒れないように負けじと踏ん張り、さらに赤いビームを放っていく。

 

「うっ・・・・・・!!」

 

「あぁっ・・・・・・!!」

 

「うわぁっ!!」

 

「うぅぅ・・・・・・!!」

 

プリキュアたちはぷにシールドを張るなりして、ビーム攻撃を耐え凌ぐ。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「随分とタフなメガビョーゲンだな・・・!!」

 

「あんまりダメージ通ってないとかないよね・・・!?」

 

プリキュアたちは連戦で体力を消耗しており、息も絶え絶えだった。そんな中、ニャトランとスパークルがそうぼやいた。今日、今まで戦ったメガビョーゲンよりも大きいので、成長した分、強力になっているかもしれない。

 

「でも、やらないとペエ・・・・・・!!」

 

「そうよ・・・! 一緒にやれば、少しでも突破口はあるんだから・・・!!!!」

 

フォンテーヌとペギタンは闘志を失ってはいなかった。

 

「バラバラで立ち向かってもダメなら、一緒に力を合わせるラビ!!」

 

「うん!!」

 

ラビリンの言葉に頷くグレース。

 

「私も参ります!!」

 

アースはハープを構えながらそう言った。

 

「実りのエレメント!!」

 

「氷のエレメント!!」

 

「雷のエレメント!!」

 

「空気のエレメント!!」

 

プリキュアの4人はそれぞれ持っているエレメントボトルをセットする。

 

「「「はぁっ!!!!」」」

 

アース以外の三人はメガビョーゲンを三方向に囲むように立つと、一斉にそれぞれの色の光線を放った。

 

「メガァビョォォ!?」

 

光線は同時にメガビョーゲンに直撃し、爆発を起こす。

 

「ふっ!!!!」

 

そこへアースがハープから大きな空気の弾を放つ。

 

「メガァ〜・・・・・・ビョォォ!?」

 

メガビョーゲンは背中に当たった空気の弾によって空中に打ち上げられ、割れたと同時に地面へと落下した。

 

キュン!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

グレースが肉球を一回タッチして、メガビョーゲンに向ける。ラビリンの目が光り、地面に倒れているメガビョーゲンの中にいるエレメントさんを見つける。

 

「音のエレメントさんはあそこラビ!!」

 

エレメントさんはメガビョーゲンの右胸あたりにいるのを発見した。

 

「メッガァ・・・メガァァァァ〜!!!!」

 

メガビョーゲンは上半身だけ起き上がらせると口から音波をプリキュアに目掛けて放つ。

 

「うっ・・・うぁぁ!!!」

 

「ぐっ・・・あぁぁ!!!」

 

「うっ・・・きゃあぁ!!!」

 

音波はプリキュアに当たると攻撃が体に作用し、プリキュア三人の体は大きく吹き飛ばされる。

 

しかし、諦めない三人は吹き飛ばされた勢いを利用して、一回転すると木を蹴ってメガビョーゲンヘと飛ぶ。

 

「メガァ・・・・・・!!」

 

メガビョーゲンは両肩、胸、片手にある先端部分をそれぞれ向けて赤いビームを放つ。

 

「っ・・・うっ・・・!!」

 

「ふっ・・・はっ・・・!!」

 

「うわぁっ・・・よっ・・・!!」

 

三人は空中で体を動かしながら、赤いビームを避けてメガビョーゲンへと飛んでいく。

 

「はぁっ!!!!」

 

「メッ、ガ・・・ガァ・・・!?」

 

それを止めようとアースがメガビョーゲンの足元へと駆け出し、背後へと回ると膝裏を蹴りを入れてバランスを崩させる。

 

「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」」

 

「ビョーゲン・・・!?」

 

そこへグレースたち三人が同時に飛び蹴りを放ち、メガビョーゲンを再び背後へと蹴り倒す。

 

「今です!!皆さん!!」

 

アースの言葉を合図に、グレースたち三人はミラクルヒーリングボトルをステッキにセットする。

 

「「「トリプルハートチャージ!!」」」

 

「「届け!」」

 

「「癒しの!」」

 

「「パワー!」」

 

グレース、フォンテーヌ、スパークルの順で肉球にタッチしていき、ステッキを上に掲げる。すると、花畑が広がっていき、背後には自然豊かな森が広がっていく。

 

「「「プリキュア! ヒーリング・オアシス!!」」」

 

3人は一斉にメガビョーゲンへとステッキを構え、ピンク・青・黄色の3色の光線が螺旋状になって放たれる。螺旋状の光線は混ざり合いながら一直線にメガビョーゲンに直撃する。

 

螺旋状になった光線はそれぞれの色の手へと変化して、3本の手が音のエレメントさんを優しく包み込んでいく。

 

3色に光るハート状にメガビョーゲンを貫きながら、光線はエレメントさんをメガビョーゲンから外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンたちは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「「「「「お大事に」」」」」」

 

音のエレメントさんが宿っていたチューバへと戻っていくと、蝕まれた場所は元に戻っていく。

 

「・・・・・・・・・ふん」

 

かすみはその様子を見て何も言わずに踵を返して立ち去ろうとする。

 

「待って!!!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

そこへグレースの引き止める声が聞こえ、足を止めて振り向くとそこにはプリキュアの4人が立っているのが見えた。

 

「カスミーナ・・・いや、かすみちゃん。本当はかすみちゃんなんだよね?」

 

「っ・・・・・・」

 

グレースの困ったような笑みを浮かべた問いかけに、かすみは顔を顰める。

 

「みんな、心配してたのよ・・・あなたのことを・・・!」

 

「かすみっち、一緒に帰ろうよ・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

フォンテーヌとスパークルは悲しそうな表情を浮かべながらそう言うも、かすみは黙って彼女たちを見つめていた。

 

どうやら自分がかすみだということを察している様子。やはり姿を見せたのはあまりいいことではなかった。フード姿はどうせ見られているし、顔を隠せばわからないと思っていたが、この4人は自分がわかっているかのようなことを言っている。

 

こうなったら徹底的に突き放すしかないと、かすみは考える。

 

かすみはプリキュアたちの言葉に何も答えず、再び前を向くと歩き去ろうとする。

 

「っ、待ってよ!!!」

 

「っ・・・!!」

 

「!? あぁ!!」

 

グレースは駆け寄ろうとしたが、かすみは振り向きざまに黒いステッキをプリキュアに向ける。突然向けられたことで、グレースは尻餅をついてしまう。

 

「か、かすみちゃん・・・?」

 

「・・・邪魔をするな、プリキュア」

 

グレースは戸惑いの声を上げ、対するかすみは睨むながら冷たい声でそう言った。

 

「ど、どうして、かすみちゃん・・・・・・」

 

「私はカスミーナだ。プリキュア、次はこうは行かないぞ」

 

震える声でそう呟くグレースに、かすみはそう言い放つとステッキを引っ込めて踵を返して歩き去ろうとする。

 

「かすみさん!! どうしてですか!? どうしてこんなことを!? 私たちは、友達ではなかったのですか!?」

 

かすみの行いに心を痛めたアースは、思いの丈を耐えきれずに叫ぶ。しかし、かすみはそれに答えることなく歩いていく。

 

「かすみ!!」

「かすみっち!!」

 

「・・・私は、カスミーナだ・・・!!」

 

フォンテーヌとスパークルが叫ぶも、かすみはプリキュアたちに聞こえない声でそう呟くとその場から姿を消していった。

 

「かすみちゃん・・・・・・どうして・・・??」

 

「かすみ・・・・・・」

 

グレースは泣きそうな声でそう呟き、フォンテーヌも心を痛めながらそう呟く。他の二人もかすみが去った後を呆然と見つめるしかなかったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

のどかたちの学校の校舎を後にしたかすみは、キングビョーゲンの娘たちがいるアジトへと帰ってきていた。

 

フードを取り、病院の外に立っているかすみ。すると、急にかすみは膝をついて顔を手で覆い始める。

 

「ヒック・・・グスッ・・・のどかぁ・・・のどかぁ・・・」

 

嗚咽を漏らし、愛しののどかの笑顔を浮かべながら彼女の名前を呼ぶ。本当はあんなこと言いたくなかったのに・・・本当は彼女の手を取りたかったのに・・・・・・。

 

「すまない・・・すまない・・・!!」

 

かすみはのどかたちに謝罪の言葉を呟きながら、しばらくは声を震わせて泣いていた。

 

数分後、ようやく泣き止んだかすみは流した涙を拭うと、ビョーゲンズにかっこ悪いところは見せられないと険しい表情を浮かべ、廃病院の中へと入っていく。

 

「ご苦労様です、カスミーナ」

 

「・・・・・・ああ」

 

廊下で歩いているとドクルンと出会い、適当に挨拶を交わすと自身の部屋へと戻っていこうとする。

 

「ああ、ちょっと」

 

「・・・・・・何だ?」

 

ドクルンの手が自身の肩を置かれると、かすみは立ち止まって振り向く。

 

「私に、ちょっと付き合ってくれませんか?」

 

「・・・・・・実験か?」

 

「いいえ、あなたに渡したいものがあるんです」

 

「??」

 

ドクルンが笑みを浮かべながらそう言うと、かすみは首を傾げた。

 

かすみはそのままドクルンの部屋へと連れて行かれ、丸い椅子に座らされていた。辺りを見渡すと小学校にある理科室の机のような長い机に、棚には不気味なものがたくさん置かれていた。

 

「お待たせしました」

 

「ドクルン、渡したいものは何なんだ?」

 

「今から渡します。手のひらを出してください」

 

かすみの問いに、躊躇なく答えるとドクルンは彼女の手の上に渡すものを落とす。

 

「? これは・・・?」

 

「ミサンガです」

 

「ミサンガ・・・?」

 

かすみが不思議そうに見つめていると、ドクルンがそう答えた。

 

「まあ、言わば編み物みたいなものです。人間の世界では縁起担ぎのために身につけるものらしいですよ」

 

「・・・そうなのか?」

 

「ええ・・・紐が切れたら、願いごとが叶うというジンクスがあるんです」

 

ドクルンはわかっていないかすみに説明してあげる。自身も人間だった時に、ある友人にもらったことがある。縁起を担ぐという意味で、ドクルンが思い出してかすみのために作ったのだ。

 

「よくわかったが・・・なぜ私に・・・??」

 

「・・・あなたとの縁を切りたくないんです」

 

「?? っ!?」

 

かすみはなぜこれを私にくれるのか? そう疑問に思っていると、ドクルンはそう呟いてかすみを優しく抱きしめた。

 

「な、何を・・・!?」

 

「あなたは大変素晴らしいビョーゲンズです。私よりも優秀で、誰よりも真面目です。そんなあなたがどこかへ行ってしまいそうな気がして・・・・・・任務中も寂しかったんです。あなたと離れるのが・・・・・・」

 

かすみは突然の行動に戸惑うも、ドクルンは何とも言えないような表情を浮かべながら、心情を吐露する。

 

「私と・・・私たちと・・・いつまでも一緒にいてください、カスミーナ。あなたは、私たちの大切な仲間なんですから・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

かすみはキングビョーゲンの娘を・・・ビョーゲンズを嫌いなはずなのに、ドクルンを引き剥がすことができなかった。それどころか彼女からは暖かさすらを感じる。

 

大切な仲間・・・・・・それを聞いた途端、かすみの中に何かほっこりとした何かを感じた。

 

ビョーゲンズと接して、こんな感情を抱くことになるなんて・・・・・・。

 

かすみは好きと嫌いが入り混じったような複雑な感情を抱き、表情も困ったような悲しいものになっていた。

 

「あ・・・ごめんなさいね。つい私も感情的になって・・・!!」

 

ドクルンは苦笑いを浮かべながら、かすみの体から離れる。

 

「付き合ってくれてありがとうございます。今日はゆっくりと休んでください」

 

満足したドクルンは踵を返すと部屋へと変えるように促し、かすみから離れていく。

 

「っ・・・・・・・・・」

 

そんなドクルンの背中が、かすみには寂しそうに感じたのであった。

 

ドクルンの部屋を後にし、部屋へと戻ったかすみはベッドの上で考え事をしていた。

 

「ドクルン・・・・・・」

 

あの時のドクルンの寂しそうな笑顔が忘れられない。今までダルイゼンやシンドイーネといった他のビョーゲンズには見られなかった顔だ。

 

「あいつ・・・寂しそうだったな・・・・・・」

 

かすみは眉をハの字にしながらそう呟く。ドクルンは仲間と、クルシーナと一緒にいるはずなのに、何だか寂しそうだ。みんなと一緒にいるのに、一人でいるような感じがする。

 

「ドクルンはミサンガを知ってた・・・もしかして、約束してた人がいたのか・・・??」

 

ミサンガは縁起を担ぐようなもので、切れれば願いが叶うと説明してくれた。縁を切りたくないから、かすみにミサンガを渡した。それを知っているということは、彼女からそれが渡されたということは、ドクルンは誰かと約束してた人がいたんじゃないか、そう考える。

 

・・・まあ、所詮は私の推測だ。気にすることはない。

 

「・・・・・・今日はもう寝よう」

 

かすみは考えるのをやめ、体を横にすると眠りに落ちていくのであった。

 

一方、自身の部屋にいるドクルンは・・・・・・。

 

「・・・カスミーナ、寂しそうだったわね。私と一緒で」

 

地球を蝕みに行った際に、あの学校の生徒から抽出した赤い靄を使って、何かを作ろうとしていたが、一方でかすみのあの様子も考えていた。

 

実は、ドクルンは病院の外でかすみが泣いている姿を見ていたのだ。クルシーナやイタイノンでさえ、あんな様子を見せたことはない。ビョーゲンズなのに、あんなに嘆いて、あんなに落ち込んでいる姿を見るのは、同種族の中で見るのは初めてだ。

 

「そりゃそうよね。元々一緒にいた仲間と離れることになったんだから。でも、私たちとプリキュアは相容れぬ運命。どうせ合うわけがないのよ」

 

ドクルンはぶつぶつと独り言を呟きながら手を動かす。

 

「・・・あの娘には、寂しくならないようにもっと支援してあげないとね」

 

ドクルンはそう言いながら、手に持っている何かにそっくりなボトルを製成し始めているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

朝のランニングに出ようとしているのどかは俯きながら、スニーカーの紐を締めていた。

 

「・・・・・・かすみちゃん」

 

この場にはいない、友達の名前を呟く。その声は少し暗めだった。

 

「のどか・・・大丈夫ラビ・・・?」

 

「っ! う、うん・・・大丈夫だよ・・・」

 

ラビリンがバッグから顔を出しながら心配すると、のどかの声は眉をハの字にしつつも、笑みを浮かべて答えた。

 

「かすみは・・・何か事情があったに違いないラビ。そうでなかったら、ビョーゲンズのような行いなんかするわけがないラビ・・・」

 

ラビリンは不安そうな表情をしながらそう答える。優しいかすみが何の理由もなく、メガビョーゲンを召喚するわけがないと・・・のどかたちプリキュアを攻撃するわけがないと・・・そう信じたいのだ。

 

「・・・うん、そうだね」

 

のどかはラビリンの励ますような言葉に、少し笑みを浮かべる。パートナーのラビリンの言葉には、いつも心を洗われているような気がした。

 

「時間、前と同じに戻したんだね」

 

「っ!?」

 

そこへのどかの父・たけしが声をかけ、ラビリンは慌ててバッグの中に隠れる。たけしの側にはラテを抱いた母・やすこの姿もあった。

 

「うん! ちゆちゃんが私にぴったりのランニングメニューを考えてくれたの♪」

 

のどかはそう答える。ちゆがのどかのためにと思って、無理のない朝のランニングメニューを考案してくれたのだ。現在は時間を元に戻して、ランニングを続けようとする意向だ。

 

「ひなたちゃんにおすそ分けしてもらった、果物とレシピでジュースを作って待ってるから♪」

 

「ふわぁ〜、楽しみ♪」

 

やすこは笑みを浮かべながらそう言う。ひなたものどかのために栄養がつくようなジュースを考え、レシピをのどかに渡してくれたのだ。

 

「のどかは友達に恵まれてるな」

 

「うん! とっても♪」

 

たけしの言葉に、のどかは笑顔で答える。

 

「では、行きましょうか♪」

 

「はーい♪ お待たせ♪」

 

外で待っていたアスミが呼びかけると、のどかは返事をして外に出る。

 

「・・・・・・のどか」

 

「ん?」

 

「かすみさんのことは・・・・・・」

 

アスミは暗い表情で、敵となってしまったかすみのことを言おうとする。

 

「・・・わかってるよ」

 

「っ?」

 

「私は友達を信じたい・・・だって、かすみちゃんは一緒に戦った大切な仲間だもん。訳もなくビョーゲンズになるわけがない。かすみちゃんが優しいのは私も知ってるもん。あのときは頭の中が真っ白になっちゃったけど・・・それでも私はかすみちゃんを信じたい」

 

「っ!!」

 

アスミはのどかが落ち込んでいるであろうと考えていたが、どうやら杞憂だったようだ。のどかはかすみを信じることにして、前に進もうとしていた。

 

実は、ちゆとひなたものどかに対して似たような言葉を発していた。

 

『私は・・・かすみが敵になったなんて認めないわ・・・!! きっと何か事情があるはずよ!! 友達を信じられないなんて、友達失格だものね・・・!!』

 

『かすみっちは、あたしと笑ってくれる大切な友達だもん!! そんなかすみっちがビョーゲンズの仲間になるなんて思いたくないし!! 例えビョーゲンズだとしたって、かすみっちはかすみっちだよぉ!!』

 

のどかが自分を信じたのと同じように、ちゆやひなたも自分のことを信じた。いつまでも立ち止まらず、前に進むために・・・・・・。

 

アスミはそんなのどかに安堵の笑みを浮かべる。

 

「そうですね。私もかすみさんは信じたいです。かすみさんは、避けていた私を友達だと信じていた大切な仲間です。私も、のどかたちと一緒に前を進まなくてはならないのかもしれませんね」

 

「ふふっ♪」

 

アスミはそう言うと、お互い笑みを浮かべて微笑んだ。

 

「さあ、一緒に走りましょう♪」

 

「うん、今日からよろしくね♪」

 

「はい♪ 無理をしないで、一緒に頑張りましょう♪」

 

アスミもトレーニングウェアに着替えていた。のどかが無理をしないように、アスミがサポートすることで一緒に頑張ろうと考えたのだ。

 

のどかとアスミは一緒にすこやか市の街を駆け出していく。

 

(かすみちゃん・・・・・・私、信じてるから。かすみちゃんが人を苦しめるような悪いことをするのを望んではいないって・・・!)

 

のどかはランニングをしながらそう考える。思いつくのはかすみのこと、そして・・・・・・。

 

(しんらちゃん・・・私、もっと強くなって・・・絶対に取り戻してみせるから・・・!!)

 

そして、ビョーゲンズになったしんらを取り戻すことを誓った。

 

(かすみさん・・・あなたは今、何を思っていますか?)

 

アスミはビョーゲンズと一緒にいるであろう、かすみに思いを馳せるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ビョーゲンキングダム・・・・・・ビョーゲンズだけしかいない世界に、一人の来訪者が現れていた。

 

「相変わらず、赤い空が広がっているだけの閑散とした世界だねぇ・・・美しくない・・・・・・」

 

その人物はどうやら不快感をあらわにしているようで、心底この世界に来たくないというような声を出していた。

 

「みんな、僕のように美しくあればいいのに・・・!! でも、あいつらみたいな醜い連中は、美しさどころか反吐が出る・・・!!」

 

誰のことを言っているのかは知らないが、その人物はあいつらに会いたくない・・・そんな嫌悪感を感じるような言葉を言っている。

 

「その中で、キミだけは誰よりも美しいよ・・・・・・クルシーナ」

 

その人物はクルシーナの名前を呟き、まるで彼女の顔を思い浮かべたかのように目をキラキラとさせる。

 

「キングビョーゲン様も美しいけど・・・クルシーナ、キミはもっと素敵さ・・・!!」

 

その人物はフラフラと踊りながら、ある場所へと向かっていく。赤く広がっていく世界を進んで行きながら、クルシーナに想いを馳せながら、ワクワクしたように向かっていく。

 

「愛しの姫・・・・・・今すぐに、会いにいくよ・・・!!」

 

広がる赤い空に彼女を思い浮かべながら、そう呟いた。

 

一方、廃病院のアジトでは・・・・・・。

 

「っ!!?? うっ・・・」

 

ゾゾッ・・・!! ブルブルブル・・・・・・。

 

テレビを見ていたクルシーナが急に顔を青ざめさせて、両手で体を抱きしめた。その体はカタカタと凍えるかのように震えている。

 

「・・・どうしたの?」

 

彼女の隣でテレビを見ていたイタイノンが異変に気付いて声をかける。

 

「な・・・なんか、寒気がしたんだけど・・・・・・」

 

「??」

 

「誰かがアタシの名前を連呼しながら、気持ち悪いことを言っている気がする・・・・・・」

 

クルシーナは体を震わせながらそう言う。どこからか強烈な悪寒がし、それを体で感じ取ったのだ。

 

「クルシーナの感は鋭いから当たるけど・・・・・・」

 

「・・・・・・たまに変な電波を受信することがあるの」

 

それをカチューシャのネムレンが呟き、イタイノンは呆れたように見ていた。

 

「・・・もう今日は部屋に戻るわ」

 

「お気に入りの昼ドラ、もうすぐ始まるの。見ないの?」

 

立ち上がってその場を去ろうとするクルシーナに、イタイノンは声をかける。

 

「寒気のせいでそんな気分じゃないわ。もう寝る・・・・・・」

 

クルシーナは振り向いてそれだけ言うと、その場から歩き去っていった。

 

「・・・・・・・・・」

 

イタイノンはその様子を何とも言えない表情で見つめていた。

 

「・・・・・・もしかして、あいつが帰ってきたんじゃないかウツ?」

 

「思い出させんな!! あいつの顔なんか考えたくもないんだからさ!!」

 

帽子のウツバットが思いついたことを呟くと、クルシーナは怒って話を打ち切ろうとする。

 

(まさか・・・・・・本当に来たわけ・・・・・・?? まさかね・・・・・・)

 

とはいえ、クルシーナもこの悪寒からそう考えていたが、その人物の顔やことを一ミリも思い出したくないし、考えたくもない彼女は気のせいだと思い込んでしまったのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第98話「王子」

今回はオリストになります。
前回、登場したビョーゲンズの正体とは??

オリスト書くのって大変ですね。


 

マグマに満たされた世界ーーーービョーゲンキングダム。その世界で、キングビョーゲンに収集されているクルシーナたちは、歩いて自分の父親の元に向かっていた。

 

「お父様・・・急に収集するなんて、何事なわけ?」

 

「特に大したことは起こしていないはずですが、私の育てたテラビョーゲンがここに来たのでしょうか・・・?」

 

クルシーナは不機嫌そうな表情を浮かべながら言うと、ドクルンは何かを考えるように顎に手を当てながら呟いていた。

 

「・・・私は、もう少しゲームをしていたかったの」

 

「ノンお姉ちゃんは、いっつもやってるよね~?」

 

「お前は余計なことを言わずに黙ってるの・・・!」

 

イタイノンがかったるそうに言うが、ヘバリーヌが思ったことを言うと睨んで言い返す。

 

「すぅ・・・すぅ・・・すぅ・・・」

 

「お前は寝るか、歩くかどっちかにするの・・・!!」

 

寝ながら歩いているフーミンに、イタイノンはツッコミを入れる。

 

「寝ながら歩けるってある意味すごいわね・・・」

 

「本当に天の才能だと思いますよ。しかも、ぶつかってないし・・・」

 

クルシーナとドクルンは、驚いたような呆れたような感情でそう言った。

 

「・・・なあ、いつもこいつはそうなのか?」

 

「そうなのよ。こいつは隙さえあれば、すぐに眠れる天才ビョーゲンズなのさ・・・」

 

「・・・すごいな」

 

かすみは呆れの入った言葉で問いかけるも、クルシーナは律儀に答えるとフーミンをじっと見つめる。

 

「私も参考にしたい・・・!」

 

「いや、お前は何を言ってるの・・・?」

 

かすみの唐突な言葉に、イタイノンは呆れたような調子でツッコミを入れる。

 

「・・・やめときな。バカが移るだけよ」

 

「え・・・でも、天才なのだろう??」

 

「言葉が足らなかったわね。そいつみたいなのを、バカの天才って言うのよ」

 

「そ、そうなのか・・・??」

 

「そうなの」

 

クルシーナが不機嫌そうな表情で諭すと、かすみはきょとんしたような表情になる。訂正した言葉を言うと、かすみは目をパチクリとさせるのであった。

 

「もうそろそろ着きますよ」

 

「わかってるっての。・・・ん?」

 

ドクルンが諌めるかのようにそう言うと、クルシーナは不機嫌そうに答える。すると、何かが見えたようで顔を顰める。

 

「誰かいるわね・・・?」

 

クルシーナの目には赤い空に浮かぶお父様の顔と、彼と一人話す人影があった。

 

「こっちの任務はもう完璧さ。もう美しいくらいにねぇ」

 

「っ!!??」

 

そこにいたのは、クルシーナにとっては会いたくない人物であった。

 

「な、なんであいつがここに・・・!?」

 

クルシーナはその人物を見た途端に、激しく動揺した。その水色の肌をしている、タキシードの王子のような貴族風の衣装を身につけている人物は変な美的感覚を持っている気持ち悪いやつだからだった。

 

「どうしたんですか? クルシーナ。早くお父さんの元にいかないと・・・って、なんで歩こうとしないんですか?」

 

「前を見ればわかんでしょ!! 前を見れば!!」

 

「・・・ああ、ヒエール王子ですか」

 

クルシーナが騒ぎ立てるように言うと、ドクルンは納得したような反応をする。

 

「ねぇ~ねぇ~、お兄さんお兄さん~♪」

 

「っ!!!!」

 

すると、個人的な興味を持ったのかヘバリーヌがいの一番に駆け出して、その人物に近づいた。その様子にクルシーナはさらに動揺する。

 

「な、なんだキミは!? 気安く僕に話しかけて!! 美しさのカケラも無い!!」

 

「美しさなんかわかんないも~ん。どういうのが美しい・・・ヘバリーヌちゃんをもっと罵倒してくれることぉ~??」

 

「ええい!! あっちに行け!! 醜い!!」

 

「あぁ~ん♪ そんなに罵ってくれるなんて・・・ヘバリーヌちゃん感激~!! でも、クルシーナお姉ちゃんの方がもっと素敵だけどね~♪」

 

ドクルンがヒエールと呼ぶ青年と、ヘバリーヌはなぜか小競り合いの喧嘩をしていた。ヒエールの方が嫌悪感を露わにしていて、ヘバリーヌに対しまるでハエを追い払うかのような動作で手を動かす。

 

「クルシーナ姫・・・? っ!!」

 

ヘバリーヌがボソリと言ったヒエール。ハッとなって視界を動かすと、クルシーナの姿が映った。

 

「げっ」

 

「おお!! 何とクルシーナ姫!!」

 

「あぁん♪」

 

クルシーナが不味ったような声を出すと、ヒエールは近くにいたヘバリーヌを突き飛ばして歩み寄ってきた。

 

「いつ見てもあなたは何て清らかで美しいんでしょう!!」

 

「ふんっ!!」

 

「あぁっ・・・!!」

 

クルシーナはそう言いながら近づいてくるヒエールを蹴り飛ばす。

 

「お、おい・・・! なんで仲間を突き飛ばしたんだ・・・!?」

 

それを咎めるかすみが諭すような口調で言うと、クルシーナは不機嫌そうな表情を向ける。

 

「こいつは、ビョーゲンズのくせに美しいものや、生きてるって感じのものを愛する変態よ・・・!!」

 

クルシーナは嫌悪感を一つも隠さずにそう言い放った。

 

「そんなことをおっしゃらずに、姫・・・私たちは愛を誓い合った仲ではありませんか・・・!!」

 

「誓ってねーよ、そんなもん!! っ、ちょっと!!離せ!! この変態!!!」

 

ヒエールはすぐに立ち上がると、クルシーナを体を抱き締める。彼が嫌いなクルシーナは顔を両手で押し付けながら引き剥がそうとする。

 

「はいはい、じゃれ合うのはいいですが、お父さんの目の前ですよ・・・!!」

 

ドクルンは全く進展がなく、ドタバタし合う二人にそう注意するのであった。

 

クルシーナとヒエールが落ち着いた頃、キングビョーゲンの娘たちとヒエールは父親である彼の前に集まっていた。

 

「今日は戦力の一つとして、ヒエールに来てもらった。ダルイゼンが蝕む以外の行動をしている間、ヒエールにしてもらおうという魂胆だ」

 

「・・・それでヒーリングガーデンにいるはずのこいつが来たわけね」

 

キングビョーゲンの元に来たヒエールについて説明を受けていた。ダルイゼンと代わる戦力として、ヒーリングガーデンで任務中の彼を収集したのだ。

 

「美しいキミにも会いたくなったからね・・・♪」

 

「気持ち悪いからやめろ」

 

ヒエールの口説き文句に、クルシーナは不快感を隠さずに淡々と切り捨てた。

 

「ヒエール、任務そのものの進捗はどうなのですか? うまく行っているのですか?」

 

「・・・・・・僕は昔のことは振り返らない主義なんだ。そう言うのは醜いもののやることだからね」

 

「うまく行ってないなら、うまく行ってないって言えばいいの・・・・・・」

 

ドクルンが尋ねるとヒエールは遠い目でみるような感じで虚空を見つめ、イタイノンは呆れ気味に呟いた。

 

「でも、君たちは醜いわけでもなく、むしろ美しい!! キングビョーゲン様の娘はいつ見ても素敵だからね!!」

 

「はいはい・・・どうもありがとうございます・・・」

 

「褒めたって何も出ないの・・・」

 

ヒエールは調子のいいことを言って、ドクルンとイタイノンの双方を呆れさせている。

 

「その中でも特に美しいのはキミだよ、クルシーナ!! キミは本当にバラのように華やかで、小川のように清らかで、カナリアのさえずりのように美しい・・・・・・!!」

 

「気持ち悪いんだよ・・・・・・!!」

 

ヒエールの口説く言葉に、不快感を露わにするクルシーナ。いつ見ても気色悪いし、言動がどう聞いても気持ち悪い。それしか感じなかった。

 

「随分と・・・愉快なやつだな・・・・・・」

 

「何言ってるかわかんないなぁ〜」

 

「すぅ・・・すぅ・・・すぅ・・・」

 

かすみはその様子を呆れたように見つめ、ヘバリーヌはいつもの調子で、フーミンは眠っていたりとマイペースな反応を見せていた。

 

「ヒエールよ。これから好きにやっているダルイゼンの代わりに、地球を蝕んでもらいたい。お前には期待しているぞ・・・」

 

「おまかせください。ビョーゲンズのためにも、地球を赤く美しく染め上げて差し上げますよ」

 

「・・・・・・ふん」

 

キングビョーゲンの期待を背負って、ヒエールはそう豪語する。その様子をクルシーナは不機嫌そうに鼻を鳴らしていた。

 

「・・・クルシーナ、お前もついて行ってやれ。ヒエールの手助けをしてやるのだ」

 

「えぇぇ!? こいつと行くのぉ〜!?」

 

キングビョーゲンから発せられた思わぬ言葉に、クルシーナは動揺して指を差しながら叫ぶ。

 

「どうしたんですか? クルシーナ。あなたの婚約者ではないですかぁ。サポートをしてあげないのですか?」

 

「違うわ!! 誰が婚約者よ!!!!」

 

ドクルンがからかい半分でそう言うと、クルシーナは憤慨する。

 

「・・・イチャイチャするんだったら、他でやって欲しいの」

 

「これのどこがイチャイチャしてるって言うのよ!?」

 

イタイノンは淡々とそう言い、クルシーナはツッコミを入れる。

 

「クルシーナ・・・何か不満か・・・?」

 

「っ・・・・・・!!!!」

 

キングビョーゲンが詰め寄ると、クルシーナは険しい表情で言葉を詰まらせる。そして・・・・・・。

 

「わかった!! わかったわよ!! 行きゃいいんでしょ!! 行きゃ!!」

 

「嬉しいよ・・・! クルシーナ姫。さあ、僕と一緒に地球を美しく染め上げよう」

 

クルシーナが周りからの圧に耐えられなくてそう叫び出すと、ヒエールは承諾をもらったかのようにクルシーナの腕を掴む。

 

「あ、ちょっ・・・手を離しなさいよ!! 自分で歩けるっての!!」

 

「僕とキミはいずこへと・・・!!」

 

「意味わかんないっての!! 離せ!! はーなーせー!!!!」

 

ヒエールが引っ張りながら連れ出そうとし、クルシーナはその手を振りほどこうとする。

 

「なんというか・・・あいつを見ていると私も不快な気分になるな・・・」

 

かすみは険しい表情でヒエールを見つめながらそう言った。

 

「ちょっとカスミーナ!! お前も来るんだよ!!」

 

「わ、私もか・・・う、うわぁぁぁっ!?」

 

クルシーナの呼ぶ声にかすみは困惑するも、クルシーナが伸ばした植物のツタにグルグル巻きにされ、強引に連れて行かれるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビョーゲンキングダムでそんなことが起きている頃・・・・・・のどかたちはすこやか市の山へとやってきていた。

 

「う〜ん! 気持ちいいなぁ〜!!」

 

のどかは山の展望台があるところから景色を見ながら、体を伸ばしていた。今日ののどかはいつもの私服ではなく、赤色のニット帽とキャンプ用のピンクの衣装を身につけている。

 

「のどかっち〜! テント張るの手伝ってよ〜!!」

 

「あ、は〜い!」

 

ひなたの呼ぶ声が聞こえ、のどかは返事をするとその場から歩いて戻っていく。

 

のどかが戻るとちゆとひなたの二人で作業をしていて、白いポールのようなものを布に通しているところであった。

 

「あれ? 私は何を手伝えばいいの?」

 

「のどかは手伝わなくても大丈夫よ。私とひなたでやってるから」

 

「そ、そうそう!! のどかっちはキャンプを楽しんでていいんだよ!!」

 

のどかが戸惑っていると、ちゆは優しく微笑みながらそう言い、ひなたも慌てたように言っていた。

 

「そう言いながら、ひなたは手伝わせようとしてたでしょ? 言ったじゃない、今日はのどかのために、私たちがリフレッシュできるようにするって」

 

「わ、忘れてなかったけどさ〜! このテント張るのすごい面倒臭いんだも〜ん!」

 

「文句言わないの。一緒に組み立てれば終わるはずよ」

 

「もっと楽なのあったじゃ〜ん!! 広げるだけで立つテントとか、ワンタッチで骨組みを簡単に組み立てられるテントとか・・・!!」

 

ひなたがうんざりしたようにそう言うと、ちゆが諭すように言ったが、ひなたは引き下がらずに文句を言っていた。

 

「別にいいじゃない。苦労して組み立てたほうが、その後の達成感もかなりあるはずよ」

 

「ぶぅ〜」

 

ちゆがそう利点を説明すると、ひなたは顔を膨らませながら手を動かしていた。

 

「アスミちゃんはどこに言ったの?」

 

「そういえば、アスミがいないわね・・・」

 

のどかとちゆはきょろきょろとアスミを探し始める。

 

「なんか、魚取ってくるって言って、川の方に行ったよ〜」

 

「食料はここにあるんだけど・・・・・・」

 

ひなたが呑気な声でそう言うと、ちゆは食料がいっぱい詰まったクーラーボックスを見て苦笑いをしながらそう言った。

 

今日は週末のお休みの日、のどかたちは山へとキャンプにやってきていたのだ。ビョーゲンズが起こした事件からのどかが回復し、ちゆたちが考えてくれたメニューで日頃のトレーニングも欠かさず行っている。

 

そんな頑張っているのどかのために、ひなたが日頃の疲れをリフレッシュをさせてあげようとのどかに内緒でみんなで考え、自然豊かなすこやか山でキャンプをすることになったのだ。

 

「アスミちゃんも頑張ってるんだね♪」

 

のどかは笑みを浮かべながらそう言った。

 

一方、紫色のサンバイザーをつけているそのアスミは川の前で釣竿を持ちながら構えていた。

 

「釣りとは・・・一に己の直感を感じ・・・二に魚の動きを感じ取り・・・そして、三で一気に釣り上げる・・・それが奥深い釣りの人道・・・!!」

 

アスミは瞑想しながら意味深なセリフを呟くとキリッとした目を見開き・・・・・・。

 

「ふっ・・・!!!」

 

釣竿を一気に放って、釣り針を川の中へと沈み込ませ、魚がかかるのをじっと待つ。

 

「かっこいいラビ!!」

 

「ちゆもよく見てる『釣りマスターシロー』のセリフペエ・・・!!」

 

「ワン♪」

 

ヒーリングアニマルたちはその様子を見守りながら、それぞれ口々にそう言った。

 

バチャ!! バチャバチャ!!

 

「うおぉぉ!! お魚がいっぱいいるニャ〜!!」

 

ニャトランは川の中にいる魚に興奮していて、川面を叩きながらはしゃいでいた。

 

「ニャトラン、うるさいラビ!!」

 

「お魚が逃げちゃうペエ・・・・・・」

 

釣りをしているアスミのことを気にせずに、はしゃぐニャトランに注意するラビリンとペギタン。

 

「いやぁ、なんかよぉ・・・猫の本能っていうやつ? なんか魚を見ると興奮しちまうんだよなぁ〜」

 

「卑しいことを考えてるラビ・・・」

 

ニャトランが照れ臭そうにそう言うと、ラビリンは呆れたように見ている。

 

「ラビリンたちはヒーリングアニマルラビ!! そんな卑猥なことを考えちゃダメラビ!!」

 

ラビリンがニャトランを注意するが・・・・・・。

 

「何だとー!! そういうラビリンだって、ニンジンにうつつを抜かしてんじゃないのかよ!?」

 

「ラビリンはそんなことしないラビ!! 常に地球をお手当てすることを考えてるラビ!!」

 

「どうかなー?? この前だって、なんか変なアニメにハマってたの見たぞー」

 

「そ、それは・・・ち、地球のお手当てに関係があるから見ているだけラビ!! かっこいいだなんて思ってないラビ!!」

 

「思ってんじゃねぇか!! 俺のこと言えねぇだろうが!!」

 

「ニャトランと一緒にしないで欲しいラビ!!」

 

「一緒じゃねぇかよ!!」

 

「「〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!」」

 

ちょっとしたことからラビリンとニャトランが口論を始めてしまい、しまいには睨み合う二人。

 

「お二人とも静かに!!!!」

 

「「っ!!??」」

 

そこへアスミの珍しく大きな声が響き、ラビリンとニャトランがビクッとして振り向いてみるとそこには険しい表情をしたアスミがこちらを見ていた。

 

「うるさくて集中ができません。静かにしていただけますか・・・??」

 

「で、でも・・・」

 

「静かにしていただけますか??」

 

「は・・・はいラビ・・・」

「は・・・はい・・・」

 

アスミは一転して怖い笑みを浮かべてそう言うと、ラビリンが言い訳をしようとしたが、彼女に威圧されて二人とも押し黙った。

 

「アスミ・・・ちょっと怖かったペエ・・・・・・」

 

ペギタンは彼女の気迫にプルプルと体を震わせていた。

 

アスミは正面を向いて目を瞑ると、魚の動きを感じるように読もうとしていた。それはまるで、自身が見ていたアニメの主人公、シローのよう・・・・・・。

 

すると周辺は静かになり、川の音と風で木の葉がそよぐ音だけが聞こえてくる。

 

アスミはその中、じっと目を瞑ってそのタイミングを伺っていた。ヒーリングアニマルたちは緊張感を持ちながらも、固唾を飲んで見守っていた。

 

木の葉がゆっくりと川へとヒラヒラと舞い落ち、飛び出す魚がぴちょんと水音を立てた、その時・・・・・・。

 

「っ!! はぁっ!!!!」

 

ザッパァァァァン!!!!

 

釣竿がぐいっと曲がり、アスミは目を見開くと釣竿を思いっきり引っ張り上げた。

 

「「おぉぉぉ!!!」」

 

「ペエ・・・!!」

 

「ウゥゥン・・・!!」

 

その気迫にラビリンとニャトランは思わず声をあげ、ペギタンとラテはすごいものを見るように見ていた。

 

ところが・・・・・・。

 

「あぁ・・・・・・」

 

釣竿を引き上げたアスミの表情はそんなにいいものではなかった。

 

「魚に逃げられてしまいました・・・・・・」

 

「「ズコー!!」」

 

アスミは何もかかっていない釣り針を見ながらそう言うと、ラビリンとニャトランは思わずコケそうになる。

 

「釣りというのは難しいものですね・・・・・・」

 

「普通にリールを巻き上げれば釣れると思うペエ・・・」

 

「えっ・・・そうなのですか・・・??」

 

アスミは何とも言えない表情をしていたが、ペギタンに指摘されて驚いたような表情になる。どうやらアニメだけの知識で得たようで、そこまでは知らなかったようである。

 

「でも、シローはあんな風に簡単に釣り上げていました」

 

「あれはアニメだからできることなんじゃねぇの・・・?」

 

「食料集めの先が思いやられるラビ・・・・・・」

 

アスミが見ていたアニメを思い出してそう言うも、ラビリンもニャトランもその様子を見て呆れたような感じになっていた。

 

「食料はちゆが用意しているはずペエ・・・でも、みんな楽しそうだから黙っておくペエ」

 

ペギタンはその様子を困ったように見ていたが、みんなは楽しそうなので言わないことにしたようである。

 

「諦めずに、もう一回釣りますよ・・・!! せいっ!!」

 

アスミは決意を秘めたかのような表情をすると、もう一度竿を振って釣り針を川の中へと放る。

 

「今度はしっかりと釣ってほしいラビ・・・!!」

 

「ワンワン♪」

 

アスミに立派な大物を手に入れてほしいと願いつつ、ヒーリングアニマルたちは彼女を見守る。

 

一方、のどかたちは・・・・・・。

 

「あぁ〜、やっと終わったぁ〜・・・・・・」

 

時間をかけながらもようやくテントを設営し終え、ひなたは座り込んでヘトヘトになっていた。

 

「まだよ、ひなた。まだバーベキューの支度が残ってるでしょ?」

 

「うぇぇ〜!! もう疲れたぁ・・・休憩しようよ〜・・・!!」

 

持ってきた食料の準備をしているちゆがそう促すと、疲れているひなたは不満を垂れる。

 

「言い出しっぺでしょ。ほら、のどかのために準備するの!!」

 

「うぅぅぅ・・・キャンプがしたいなんて言わなきゃよかったぁ・・・・・・」

 

ちゆにそう諭され、ひなたは自分が提案したことに後悔の言葉を言いつつ、彼女と一緒に食事の準備をするために立ち上がった。

 

「ひなたちゃん、お願い! ちゆちゃんたちと一緒に頑張ろうよ!! 私のためなんだよね?」

 

「っ・・・!!」

 

そんなひなたにのどかは彼女の手を取ると、キラキラした瞳でそう言った。顔が赤くなるひなただが・・・・・・。

 

「そ、そうだよ・・・あたしが提案したんだもん・・・! のどかっちのために、あたしが頑張んないとダメだし〜!! 疲れてるけど〜、もっと張り切っちゃうよ〜♪」

 

ひなたはのどかのその姿に好感を覚えたのか、急にやる気を出して走って行く。

 

「ちゆちー、あたし、カボチャ切るね。ちゆちーはバーベキューの火の準備をしてくれる?」

 

「急に元気になったわね・・・・・・えっと、炭はどこにあったかしら?」

 

ひなたはあまりの代わりように呆れながら見つつも、火の準備をしようと木炭を探し出す。

 

「ふふっ♪」

 

のどかはその様子を笑顔で見守った後、彼女たちから離れて近くの草原へと歩き出し、その場に座ると寝転がり始めた。

 

そんなのどかにまるで寄り添うかのように、風がそよいで草原の草木をなびかせる。

 

「んん〜、やっぱり気持ちいいなぁ〜♪」

 

のどかは草原の上で思いっきり体を伸ばしながらそう言った。

 

「こうやることがないと、なんかやりたくなっちゃうよね」

 

のどかは少し退屈していた。自分を気遣っているとはいえ、ちゆやひなたは手伝わなくていいと言ってくれている。でも、何もしないとなると何かをやりたくなってしまう。

 

「あ、そうだ。アスミちゃんの様子でも見に行こうかな?」

 

のどかはそう言って立ち上がると、この近くにある川へと向かうことにした。

 

茂みを掻き分けながら進んで行くと、川の流れる音が聞こえてきた。そして、アスミが釣りをしている様子と、そこにヒーリングアニマルたちがいるのが見えた。

 

「アスミちゃーん!!」

 

のどかはアスミに声をかけようとしたが・・・・・・。

 

「静かに!!」

 

「ふわぁ!? ア、アスミちゃん・・・?」

 

アスミは大きな声をあげると、のどかはビクッとして立ち止まり、困惑したような表情になる。

 

「魚釣りは静かな中で行うもの・・・大きな声を出されると集中ができません!」

 

「は・・・はぁ・・・?」

 

アスミがしっかりとした声でそう説明すると、のどかはなんともいえないような声を漏らす。

 

「アスミは今、極限の中にいるラビ・・・話しかけてはダメラビ・・・!」

 

「よ、よくわかんないけど・・・私のために食料集めをしてくれているんだよね・・・?」

 

ラビリンが真面目な顔でそういうと、のどかは戸惑いを隠さない声で言う。

 

「そのはずペエ・・・でも・・・・・・」

 

「なんか趣旨が変わっちまってるみてぇなんだよなぁ・・・」

 

ペギタンは不安そうに見ていて、ニャトランは呆れたように見つめていた。

 

「はぁっ!!!!」

 

そんな中、アスミは再び釣竿を振り上げる。すると・・・・・・。

 

「うっ・・・うぅぅぅ・・・・・・!!」

 

なぜかアスミの手元に釣り針は戻って来ず、それどころかアスミ自身が引っ張るのに苦戦している。

 

「アスミちゃん!?」

 

「どうしたんだ!?」

 

「ワンワン!!」

 

アスミの異変に気付いたのどかとニャトランが呼びかける。

 

「な、なんだか・・・竿が重くなって・・・何かに引っ張られているような・・・うっ・・・!!」

 

「っ!! 魚がかかったんだラビ!!!! アスミ!! リールを巻いて引き上げるラビ!!」

 

アスミが引っ張られる竿を必死に引っ張っていると、ラビリンは魚が釣り針にかかったことを察知して叫ぶ。

 

「っ、はい!!」

 

アスミは返事をすると釣竿についているリールを巻いて糸を引き上げようとする。

 

「うぅぅぅ・・・!!!!」

 

しかし、魚も激しく抵抗しているようで、アスミは引っ張られそうになる。

 

「アスミちゃん、頑張って!!」

 

「頑張るラビ!! アスミ!!」

 

「アスミ、頑張れ〜!!」

 

「うっ・・・くっうぅぅぅぅぅ・・・!!!!」

 

のどかやラビリン、ニャトランたちの応援を受けながら、逃げられないように必死に魚と格闘をするアスミ。

 

「うっ、うぅぅぅぅぅぅ・・・・・・!!!」

 

魚は釣り針から逃れようと必死に動き回り、アスミも顰めつつも負けじと応戦する。

 

パシャパシャ!!

 

「結構大きいラビ!!」

 

「もしかして、主を釣ってんじゃねぇのか!?」

 

川から一瞬水音を立てると魚の姿が見えた。結構、大きな鮭の姿が見えており、川の主を釣っているのではないかというくらいの大きさだ。

 

「うっ・・・うぅぅ・・・もうすぐ釣れそう、です・・・!!!」

 

アスミは手応えを感じたのかそう言い、リールを掴んで糸を巻き上げる。魚の力は相変わらず強いが、アスミも順応できるようになっていく。

 

アスミはゆっくりと慎重に糸を巻き上げ、そして・・・・・・。

 

「せいっ!!!!」

 

釣竿を思いっきり引っ張り上げ、釣り針を川から出した。

 

「ふわぁ〜!!!」

 

「ラビ・・・!!」

 

「ニャ・・・!!」

 

「ペエ・・・!!」

 

のどかたちの上空を飛ぶように出された釣り針には1メートルぐらいの鮭がかかっていた。

 

「アスミちゃん、やったね・・・!!!」

 

「ええ。根気強く釣りをしていたおかげです。みなさんの応援も♪」

 

「「ふふっ♪」」

 

のどかとアスミは互いに喜び、笑みを浮かべた。

 

「なぁーなぁー!! 早速食べようぜ!!」

 

「ニャトラン、お行儀が悪いラビ!!」

 

「しっかりと下処理しないとダメペエ・・・・・・」

 

「わかってんだよ、そんなこと!!」

 

猫の姿故なのか、魚を食べることを急かすニャトランに、ラビリンとペギタンが咎める。

 

「さあ、これをちゆたちの元へと持っていきましょう♪」

 

アスミはそう言うと魚を網の入れ物のようなものに入れる。

 

「あれ? 一匹だけでいいの?」

 

「ちょっとシローの気分を味わいたかっただけです。釣りは本当に奥深いですね♪」

 

「そうなんだ♪」

 

のどかとアスミはそんな会話をしながら、ヒーリングアニマルたちと一緒にちゆとひなたの元へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃・・・・・・ハート型の灯台の上にある人影があった。

 

「ん〜、なんて美しい町なんだろう。あの辺もこの辺も、全部僕のものにしたい気分だ」

 

そう言いながらすこやか市の街の風景を見ているのはビョーゲンズのヒエールであった。

 

「そう? アタシは何もかも不愉快な気分になるけどね・・・・・・」

 

一緒に行きたくもない奴に無理矢理連れて行かれて、不機嫌なクルシーナは同じようにすこやか市の街を見ながら、不快さを隠さずに言った。

 

「ヒエールは、美しいものが好きなのか・・・?」

 

そこへかすみがヒエールに尋ねる。

 

「当然さ。僕はヒーリングガーデンを見て、とても美しいと思った。そこからだね、僕が美しさに目覚めたのは・・・。あんなに綺麗なものを見ていると自分のものにしたくなる。だから・・・僕のものにしようと思ってね。もっと綺麗に、美しく染め上げてね♪」

 

「・・・・・・そうか」

 

ヒエールが流暢に答えると、かすみは静かにそう呟いた。

 

ヒエールはかすみの姿を見つめると何を思ったのか、彼女に近づいて片手で彼女の顎に当てるとグイッと上げさせる。

 

「でも、よく見るとキミも美しいね。まるで人間の苦しみから生まれた宝石のようだねぇ」

 

「な・・・なんだ・・・??」

 

微笑みながら答えるヒエールに、かすみが困惑していると・・・・・・。

 

ズガンッ!!!!

 

「あぁ〜・・・!」

 

彼の横からクルシーナが蹴りを食らわせて吹き飛ばす。

 

「・・・・・・アタシたちの所有物に触らないでくれる?」

 

「うぅっ・・・相変わらず、姫は素直じゃないなぁ」

 

クルシーナが不機嫌そうにそう言うと、ヒエールは埃を払いながら、むしろ喜んでいるような笑みを浮かべながらそう呟く。

 

「ちっ・・・・・・で、どうすんのよ?」

 

気障りなセリフに舌打ちをすると、クルシーナは本題に戻そうとする。

 

「ふふっ、もちろん作戦は考えているさ。そこのフードの美しいキミにも協力してもらうよ」

 

「私か・・・?」

 

ヒエールはかすみを指差しながらそう言うと、かすみは驚いたように目を開く。

 

「そうさ。キミと同じように、このすこやか市を街に染め上げるためのね・・・♪」

 

ヒエールはそう言いながら、不敵な笑みを浮かべるのであった。

 

「・・・・・・ふん」

 

その様子にクルシーナは不機嫌そうに鼻を鳴らした。はっきり言って自分たちの大事な仲間を、こいつなんかの作戦に利用されるのが気に入らない。

 

かすみはヒエールの言葉を受けて、クルシーナの方を見る。どうやら許可をもらおうとしているようだが、クルシーナは彼女の顔を見て表情を顰める。

 

「・・・・・・クルシーナ」

 

「好きにしたら? アタシは今回、やらないからね」

 

名前を呟くかすみに、クルシーナはそっぽを向きながらもそう言い放つ。

 

「では、一緒に行こうか・・・えっと・・・?」

 

「・・・・・・カスミーナだ」

 

「そうそう、カスミーナ。僕と一緒に、踊ってくれ。赤く舞う病気の上で」

 

「・・・・・・・・・」

 

ヒエールはかすみに向かってそう呟くと、かすみは彼の顔をじっと見つめていたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第99話「暗雲」

前回の続きです。
ちゆたちがキャンプのご飯の支度を進める中、動き出すヒエールの作戦とは??


 

のどかとアスミたちが川での釣りで盛り上がっている中・・・・・・。

 

「うん〜〜〜・・・!!」

 

バーベキューの食事の準備をしているちゆとひなた。ひなたは固いカボチャを包丁で切るのに苦戦していた。

 

「大丈夫? ひなた」

 

「これ・・・全然、切れないんだけど・・・!!」

 

他の食材を切っているちゆが心配して見ると、ひなたは唸りながら手に力を入れようとしているが、なかなか包丁が進んでいない様子。

 

「んん!!んん!! んん!!」

 

「ちょっ、ひなた!! 危ないわよ!!」

 

ひなたはカボチャが刺さったままの包丁をドンドン叩き、それを見たちゆは慌てて静止する。

 

「こういう時は、上のヘタの部分から行かないで、ここを避けて半分に切るのよ」

 

ちゆは説明しながら、ひなたが全く切れなかったカボチャを真っ二つに切る。

 

「すごい・・・!」

 

「こうしてから、ヘタの部分を三角形になるように切って取るの」

 

ひなたが感嘆とする中、ちゆは器用に包丁を使ってカボチャのヘタを削ぎ落とす。

 

「あとはスプーンで中にあるワタや種を取り除いてから、カボチャの繊維に沿って薄切りにしていけばいいの」

 

ちゆはスプーンでカボチャの中にあるものを取り除くと、包丁でスライスする。

 

「ちゆちー、包丁使うの慣れてるよね〜・・・」

 

「旅館でよくお手伝いしてるから、それで慣れちゃってるのかな。この前のお弁当も、私がほとんど一人で作ってたしね」

 

「そうなんだ・・・・・・」

 

ひなたがそう呟くと、ちゆは少し照れ臭そうに笑いながらそう答えた。

 

「何か、他に切るものある?」

 

「そうね・・・・・・じゃあ、タマネギを切ってくれる?」

 

「OK!!」

 

ひなたは他にやることがないか聞くと、ちゆはそう答え、ひなたは意気揚々とタマネギの皮を剥き始める。

 

そして、ひなたは包丁を構えると・・・・・・。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

ものすごい勢いで包丁を動かして、タマネギを刻み始めた。

 

「っ! ひなたストップ!!!!!!」

 

「っ!? うぇ? 何??」

 

「タマネギはみじん切りにするんじゃなくて、くし形切りにするのよ。みじん切りだとバーベキューで焼けないでしょ?」

 

ちゆは大声を出してひなたを制止すると、切り方が間違っていることを指摘する。細かいタマネギではバーベキューにならないと言いたかったのだが・・・・・・。

 

「みじん? くし形? 何それ・・・?」

 

「・・・・・・・・・」

 

そこから教えないといけないのか・・・・・・。ちゆは心の中でため息を吐きながらそう思った。

 

「みじん切りは食事を細かく刻む切り方、くし形切りは櫛のように切る、要するに髪を梳かす櫛、あるでしょ? あのような形に切ることを言うのよ」

 

「へぇ〜・・・そうなんだ」

 

「私が教えてあげるから、一緒にやってみましょう」

 

ひなたはそう答えるもあまりピンと来ていない様子で、ちゆと一緒にやることになった。

 

「まずはタマネギを半分に切るの」

 

「こう?」

 

ひなたは言われた通りに、タマネギを包丁で半分に切る。

 

「ここで登場するのが、これよ」

 

「? つまようじ?」

 

ちゆが取り出したつまようじに、ひなたは疑問を抱く。

 

「これをまず真ん中に刺して、それから間を空けながら一本ずつ刺していくの」

 

「こんな感じ?」

 

「そんなものね」

 

ちゆからつまようじを受け取ると、ひなたはそれを真ん中に刺し、あとは一本一本を短い間隔で刺していく。

 

「あとはそのつまようじとつまようじの間を包丁できれば、焼いても崩れないタマネギの下ごしらえができるのよ」

 

「おぉ〜、すごーい!!!!」

 

ひなたは瞳をキラキラとさせながら、タマネギを言われた通りに切っていく。これで焼いても崩れないタマネギの具材の下処理が完了だ。

 

「ちゆちー、すごいねー!! どうやってこれを学んだの!?」

 

「家族に連れて行ってもらったことが、その時のお手伝いで学んだのよ」

 

ひなたがちゆのアイデアに感嘆を覚えていると、ちゆはそう説明した。

 

その後も、ちゆとひなたは少しずつ食材の準備を進めていると、ひなたがふとこんなことを話して来た。

 

「ねえ、ちゆちー」

 

「どうしたの?」

 

「のどかっちのことなんだけどさ・・・今、元気になってるけど、本当はしんらっちやかすみっちのことで気落ちしてるんじゃないのかなって思って・・・・・・あたしたちに心配させたくないから元気なフリしてるのかなって・・・・・・」

 

ひなたは少し暗い表情をしながら尋ねると、ちゆは包丁の手を止める。

 

「だから、キャンプに行こうって言って、のどかをリフレッシュさせようと思ったのね」

 

「そうだよ・・・のどかっち、元気になってるのかな・・・?」

 

ちゆがそう推察すると、ひなたは不安を口にした。のどかはきっとクルシーナやかすみのことで気落ちしているはず。自分たちも少し落ち込んだが、悲しんではいられないと思い、元気を出した。

 

でも、のどかはどうなんだろか・・・・・・一度、病院で心が壊れるほどにおかしくなったばかりだ。心の底では、まだ悲しみを抱えているのかもしれない。

 

「・・・・・・のどかなら大丈夫よ。私たちが諦めかけた時だって、励ましてくれたじゃない。本当は心が強いの。しんらさんがビョーゲンズになったことや、かすみがビョーゲンズに行ってしまったことも、気持ちで必死に戦ってると思うわ」

 

「そう、だよね。あたし、ちょっと心配しすぎなのかなぁ〜、って思ったんだよね」

 

ちゆがそう言うと、ひなたは不安が緩和されたようで笑顔でそう答えた。

 

「ちゆちゃ〜ん! ひなたちゃ〜ん!」

 

話していると、のどかの呼ぶ声が聞こえてきた。どうやらこちらに戻ってきたようだ。

 

「大きな魚が取れたラビ!!」

 

「捌いてバーベキューの食材にしようぜ〜!!」

 

「楽しみです♪」

 

ニャトランとアスミは早くバーベキューを食べたくてしょうがないようで、そのようなことを言いながらこちらへと向かってきていた。

 

アスミの頭の上には、1メートルもある鮭の姿が・・・・・・。

 

「うぇ!? でかくないそれ!?」

 

「捌くのが大変ね・・・・・・」

 

それを見てひなたは驚いたような反応を見せる一方で、ちゆは困ったような表情を浮かべていた。

 

「これでいっぱい美味しいもの作れるラビ!!」

 

「・・・やっぱりラビリンも卑しいじゃねぇか」

 

「健康のためにいっぱい食べるんだラビ!! 鮭には栄養がいっぱいラビ!!」

 

ニャトランがブツブツそういうと、ラビリンは聞こえていたのか健康のために食べると宣う。

 

「ふふっ♪ そうね。私、いい料理を思いついたから、みんな手伝ってくれる?」

 

「OK!!」

 

「任せてラビ!!」

 

「俺も手伝うぜ!!」

 

「僕も行くペエ!!」

 

ちゆが笑いながらそう言うと、ひなたとヒーリングアニマルたちは彼女の元に集まっていく。

 

「私たちはラテと一緒に遊んでいましょうか♪」

 

「うん、そうだね♪」

 

「ワン♪」

 

アスミはのどかをリフレッシュさせようと、持ってきていたボールを使って遊び始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃・・・・・・。

 

「ん〜、山も赤い色が増えてきていて、美しい! まさに僕を飾るのに、ふさわしい色をしている」

 

「・・・・・・はぁ、帰りたい」

 

のどかたちがいる場所とは反対側のすこやか山で、ヒエールは踊りながら自然の景色を見つめていて、クルシーナはため息をついていた。

 

「なあ・・・クルシーナ」

 

「・・・何よ?」

 

「ヒエールは元々別の任務で行っていたと言っていたが・・・・・・」

 

そこへかすみがヒエールのことについて、クルシーナに尋ねてきた。

 

「・・・・・・ヒーリングガーデンに行ってたの」

 

「ヒーリング、ガーデン・・・・・・?」

 

「アタシたちの活動に邪魔なヒーリングアニマルたちの住んでいる世界よ」

 

クルシーナは淡々とそう説明し出すと、かすみは聞き慣れない言葉に呟きはじめる。

 

「あいつは元々ダルイゼンやアタシたちと同時に生まれたビョーゲンズなの。人間から進化したアタシたちとは違って、あいつもメガビョーゲンの一部から人間の中で成長して生まれたやつよ。元々あいつはお父様がヒーリングガーデンを壊滅させた後に、そこでテアティーヌを探す任務についていたの」

 

「・・・・・・何のために?」

 

「女王の抹殺のために決まってるでしょ。でも、テアティーヌが巧みに自分を隠してるみたいで、見つかってないみたいだけどね」

 

クルシーナはかすみに律儀に説明してあげる。別にヒエールのことを話したところで、こちらにとっては特に損にもならないので、話すことは簡単だった。

 

「ああ・・・そうだ。アンタに渡すものがあるんだった」

 

「??」

 

クルシーナはヒエールに渋々ついていく中で、何かを思い出したかのようにそう言うと、かすみに近寄る。

 

そして、かすみの手を掴むと彼女の手に何かを握らせるように渡す。

 

「・・・・・・クルシーナ?」

 

「手のひら開けて見てみな」

 

かすみが疑問に思いながら手のひらを開くと、そこには黒い花の髪飾りがあった。

 

「これは・・・・・・?」

 

「あげる。ただの髪飾り、アンタへのプレゼントよ」

 

クルシーナはそれだけ告げると、踵を返してヒエールの元へと歩いていく。それはクルシーナの髪にもついている、黒いチューリップの髪飾りにそっくりであった。

 

「クルシーナの髪についているものにそっくりだな・・・」

 

かすみは手に持っている髪飾りを見つめながらそう言う。

 

「・・・一体、どういうつもりなんだ?」

 

かすみは不審に思いつつ、ドクルンに抱いたのと同じような複雑な感情が渦巻いていた。

 

「あれもこれも美しいねぇ。一日中ここにいたい気分だ」

 

「・・・一生いたら? アタシたちの本拠地にも戻ってこなくていいさ」

 

ヒエールは恍惚としながら言うと、クルシーナは素っ気なく吐き捨てる。

 

「相変わらず姫はつれないなぁ。でも、そう言う済ましたところも美しいけどね」

 

「・・・・・・ふん」

 

ヒエールはそう言うと、クルシーナは相手にせずに鼻を鳴らしただけだ。

 

「まあ確かに、この辺は今でも十分に美しいけど、もっと美しくなると思うんだよねぇ」

 

ヒエールは周囲を見渡しながら、不敵な笑みを浮かべながらそう呟く。

 

「うん?」

 

そこへ聞こえてくる水のような音・・・・・・ヒエールはそれに疑問を抱くと耳をすませる。

 

「この音は・・・あっちからかい?」

 

ヒエールは何かに導かれるかのように、その水音がするところへと歩いていく。

 

「あ、ちょっと!! どこ行くのよ!?」

 

クルシーナは咎めるかのように怒鳴ると、フラフラ行くヒエールの後を追っていく。

 

茂みの中に入り、草木を掻き分けながら進んで行くと、開けた場所へと出た。そこには・・・・・・。

 

「おぉぉ!!」

 

ヒエールは目の前にあるものを見た瞬間、簡単に瞳を輝かせた。彼の目の前に広がっているのは、水が透き通っている山の川であった。

 

「これは美しい!! 水が透き通っていて全く汚れていない!! しかも、陽の光を浴びて綺麗に輝いている!! これは、ヒーリングガーデンと同じくらい素晴らしいものだ!!!」

 

陽の光で輝き、水がきれいに透き通っている川を見て、ヒエールは興奮したような叫びをあげた。ビョーゲンキングダムでは見られないこの光景、ヒーリングガーデンでしか見たことがない酷く美しいもの・・・・・・ヒエールは叫ばずにはいられなかった。

 

と、そこへガサガサと音がして、茂みの中からクルシーナが出てきた。

 

「何騒いでんのよ・・・?」

 

体中についた葉っぱを払いながら、いきなり大声を出して何事か、と思うぐらいの疑問を抱きながらクルシーナが問う。

 

「姫・・・この川は、僕が出会った中で一番美しいよ・・・!!」

 

「あっそ・・・で、それがどうかしたわけ?」

 

ヒエールがまたも恍惚な表情を浮かべると、クルシーナは呆れたように尋ねる。

 

「さっきも言ったろ? もっとこの辺りを美しくしたいって。だから、この川を使えば、もっと美しくなるだろうね・・・!!!」

 

「どうだかね・・・アタシには何の感動も湧かないけど?」

 

ヒエールはさらに尊大に騒ぎながら言うも、クルシーナは辺りを見渡しながら呆れた表情を崩さない。

 

「じゃあ、まずは小手調べとして、この川を使おうか」

 

「・・・・・・さっさとやったら?」

 

前振りの長いヒエールに、クルシーナはしびれを切らしたようにつぶやく。正直言って、ヒエールと一緒に居たくないのでさっさと仕事を終えて帰りたい。なんなら今、ここでプリキュアが現れてお手当てに来て欲しい。そんなおかしな願いすら望んでいた。

 

ヒエールは自身の髪を手で掻き分けると、黒い塊のようなものが出現する。

 

「進化したまえ、ナノビョーゲン」

 

「ナノ・・・・・・」

 

生み出されたナノビョーゲンがすこやか山の川へと取り憑く。水が透き通っていて、陽の光を浴びたきれいな川が病気に蝕まれていく。

 

「・・・!?・・・!!」

 

川の中に宿っているエレメントさんが病気に蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガビョーゲン!!」

 

下半身が魚のような姿のメガビョーゲンが誕生した。

 

「う〜ん、外見はあまり美しくないが・・・・・・まあ、周りを美しく染められるからいいか」

 

ヒエールはメガビョーゲンの外見になんとも言えないような表情はしたものの、周囲を自分好みに染められる怪物なので一応納得しておいた。

 

「メガ・・・・・・!」

 

メガビョーゲンは空中を泳ぎながら、口から赤い光線を吐き出して草木を蝕んでいく。

 

「・・・メガビョーゲンに美しさも何もないっつーの」

 

クルシーナはメガビョーゲンの活動と、ヒエールの言動を比べながらそう吐き捨てた。そして、木の上の枝を飛び移って、上へと登っていく。

 

「姫? どこにいくんだい?」

 

「アタシは見えないところで高みの見物してるから。言ったでしょ、今回は手を下さないって」

 

疑問に思うヒエールが尋ねると、クルシーナは淡々とそう答えながら木の天辺へ登る。

 

右指を鳴らしてコウモリの妖精のような手下を呼び出すと、彼らは女王が座るような椅子を空中に置く。そして、クルシーナはそこへ足を組みながら座り込む。

 

「さてと、どうなるのかしらねぇ」

 

クルシーナは無表情でヒエールとメガビョーゲンの様子を見つめながらそう呟いた。

 

「やっぱり姫はつれないねぇ・・・でも、そういうところが美しい・・・!」

 

ヒエールは笑みを浮かべながらそう言うと、メガビョーゲンに向き直る。

 

「さぁ、メガビョーゲン!! ここ一体を美しく染め上げたまえ!!」

 

「メガビョーゲン・・・!!」

 

ヒエールの指示を受けて、メガビョーゲンは空中を泳ぎながら口から赤い光線を吐きつけて、着実に周囲を病気で蝕んでいく。

 

「ヒエール、始めたか・・・・・・」

 

それを遠くから見ていたかすみは、彼らとは離れた場所でそう呟いた。

 

「私も、そろそろ準備をしないとな・・・・・・」

 

かすみは踵を返すと何かの準備をすべく、彼らとは反対方向の山へと向かっていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなことが起こっている一方、のどかとアスミはラテと一緒にボールで遊んでいた。

 

「よっ!」

 

「ふっ!」

 

「ワン!!」

 

のどかとアスミがキャッチボールを繰り返し、その間でラテがボールにアタックをして飛ばす。それを繰り返して3人で遊んでいるのだ。

 

楽しく遊んでいる、その時だった・・・・・・。

 

「クチュン!!」

 

ラテが突然くしゃみをして、体調を崩し始めた。

 

「「ラテ!!」」

 

のどかとアスミはラテへと駆け寄る。二人はお互いに頷くとアスミは彼女を抱きかかえ、一緒にちゆたちの元へと戻る。

 

「みんなー!!」

 

「メガビョーゲンが現れました!!」

 

「「「「「っ!!!」」」」」

 

のどかとアスミがそう呼びかけると、バーベキューの準備中だったちゆたちは二人に駆け寄る。

 

ヒーリングルームバッグから聴診器を取り出すと、ラテを診察して心の声を聞く。

 

(山のあっちの方で、川が泣いてるラテ・・・・・・)

 

「川って、この近くじゃなくて・・・?」

 

ひなたがそう呟く。川であれば、この近くにあるはずだ。それをこの場所とは向かい側の山であるとラテは言ったのだ。

 

「向かい側にも川があったはずよ・・・!!」

 

「行ってみましょう!!」

 

ちゆが自分たちがいる場所の反対側に川があることを思い出し、アスミの言葉にみんなは頷くと駆け出して向かっていく。

 

のどかたちは山の反対側に向かうべく森の中へと入り、駆け出して進んでいく。

 

「反対側って大分遠かったわよね・・・??」

 

「うぇぇ、じゃあ、向かっている間に大きくなっちゃうんじゃ・・・!?」

 

「そしたら、またお手当てが大変になっちまうニャ・・・!!」

 

ちゆが呟いた言葉に、ひなたとニャトランは皆が危惧しているであろうことを叫ぶ。

 

「それでも、行くしかないよ!!」

 

「大きくなっても、やることは一緒ラビ!!」

 

のどかとラビリンはみんなを鼓舞するようにそう言った。

 

一方、すこやか山の反対側ではメガビョーゲンが暴れていた。

 

「メガァ!!!」

 

メガビョーゲンは宙を泳ぎながら、口から赤い光線を吐きつけ、辺りを病気で蝕む。

 

「う〜ん、この辺も大分蝕まれてきたねぇ。美しい・・・・・・」

 

ヒエールは草木や地面が赤く蝕まれてきたことに恍惚とした表情を浮かべる。

 

「ふむ・・・・・・短時間で結構、蝕まれてきたわね」

 

高みの見物を決め込んでいるクルシーナは、その様子を見て顔を顰めていた。ヒエールの病気で蝕む技術が巧みなのはクルシーナも知っている。

 

「・・・・・・こんなに蝕めるんだったら、テアティーヌもあっさり見つかってんじゃないの?」

 

クルシーナはヒエールを見ながらぼやく。この程度であれば、ヒーリングガーデンでテアティーヌを見つけることだって難しくはないだろう。なのに、なぜあいつはそれができていないのか? クルシーナには甚だ以て疑問だった。

 

「ん?・・・やっときたみたいね」

 

クルシーナがふと遠くを見つめると、4つの人影が映ったのが見えた。どうやらプリキュアどもがここに駆けつけてきたようだ。

 

「いたわよ!! メガビョーゲン!!」

 

その一人であるちゆはメガビョーゲンを見つけると、そう指摘する。

 

「メェガァ・・・!」

 

「「「「っ・・・!!」」」」

 

メガビョーゲンは宙を泳ぎながら、彼女たちの目の前で威嚇するように見つめる。4人と怪物の間に緊張感が走る。

 

そして、メガビョーゲンはスルーするかのように再び泳いでいく。

 

「行こう!! みんな!!」

 

のどかの言葉を合図に、4人は変身するためのアイテムを構える。

 

「「「「スタート!」」」」

 

「「「「プリキュア、オペレーション!!」」」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

「エレメントレベル、上昇ラテ!!」

 

「「「「キュアタッチ!!」」」」

 

ラビリン、ペギタン、ニャトランがステッキの中に入ると、のどか、ちゆ、ひなたはそれぞれ花のエレメントボトル、水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

アスミは風のエレメントボトルをラテの首輪にはめ込む。すると、オレンジ色になっているラテの額のハートマークが神々しく光る。

 

のどかたち3人は、肉球にタッチすると、花、水、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、水色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ちゆは水色、ひなたは黄色へと変化する。

 

ラテとアスミは手を取り合うと、白い翼が舞い、ラテが舞ったかと思うとハートの中から白い白衣のようなものが飛び出す。

 

その白衣を身に纏い、ラテが降りてきたかと思うとハープが飛び出し、さらにアスミは紫色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

衣装にチェンジした後、ハープを手に取り、その音色を奏でる。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「「時を経て繋がる、二つの風!」」

 

「キュアアース!!」

 

「ワン!」

 

アスミは風のプリキュア、キュアアースへと変身した。

 

「「「「地球をお手当て!!」」」」

 

「「「「ヒーリングっど♥プリキュア!!」」」」

 

4人はプリキュアへの変身を完了した。

 

「おや? 見慣れない子たちがいるねぇ・・・・・・」

 

そこへメガビョーゲンと行動を共にしていたヒエールが近づいて声をかける。

 

「っ、お、お前は・・・!?」

 

その姿を見たラビリンが驚愕の叫びをあげ、ヒエールを睨みつける。

 

「ラビリン、知ってるの・・・?」

 

「ビョーゲンズのヒエールラビ・・・!!」

 

怒りを露わにしたラビリンにグレースが尋ねると、ラビリンはそう答える。

 

「あいつは、キングビョーゲンと一緒にヒーリングガーデンを襲ったビョーゲンズの一人だ!!」

 

「テアティーヌ様との戦いの後に、姿見えなくなったけど、まさかここに戻ってくるとは思わなかったペエ・・・・・・」

 

ニャトランとペギタンもそう説明する。ヒエールはキングビョーゲンと故郷を襲撃した、言わばヒーリングアニマルたちの仇なのだ。

 

「おぉぉ! キミたちがキングビョーゲン様から聞かされている、噂のプリキュアってやつかい? なんと美しい・・・! 」

 

「あ、あいつ・・・何言ってんの?」

 

ヒエールが見惚れていると、スパークルは気色悪いものを見ているかのような顔でそう話す。

 

「ビョーゲンズなのに・・・美しいものが好きなのですか?」

 

「ええ、そうですとも。美しいものは私にとっては美、名声、思いそのものです。この自然や、この山、この街・・・どれも彼も美しいものだ。素晴らしい・・・!! そして、キミたち!! その衣装に、その容姿・・・・・・まるで生きているかのように輝いている・・・!! 最高に美しいよ・・・!!」

 

「ビョ、ビョーゲンズが美しさを語ってるなんて・・・気持ち悪いんだけど・・・!?」

 

アースが思わず尋ねると、ヒエールはクルクルと踊りながらそう話す。スパークルはますます気色悪さが増し、体を思わず抱えている。

 

「美しさを語ってたって、ビョーゲンズはビョーゲンズラビ!!」

 

「早くメガビョーゲンを止めないと・・・!」

 

ラビリンはそう断言し、ペギタンは暴れているメガビョーゲンのことを危惧する。

 

「そうね。私もあんまり・・・ああいうのは好きじゃないわ・・・・・・」

 

フォンテーヌも苦々しい表情を浮かべながらそう言った。

 

「つれないところも、また美しさだ。だが、美しくなろうとしているのをやめさせるわけにはいかない。僕たちも美しさを持ってお相手しよう。メガビョーゲン!!」

 

ヒエールはプリキュアを自己評価した後にそう言うと、メガビョーゲンに指示を出す。

 

「メガァ!!!」

 

「来るよ!!」

 

「「「っ!!」」」

 

メガビョーゲンは宙を泳ぎながら勢いよくこちらに突っ込んできた。グレースの言葉に、プリキュアたちはメガビョーゲンの攻撃を避ける。

 

「はぁっ!!」

 

「ふっ!!」

 

「はぁっ!!」

 

「メガ!! メガ!! メガァ!!」

 

グレースたち3人はそれぞれの色の光線をステッキから放つも、メガビョーゲンはすばしっこく光線をあっさりと避けてしまう。

 

「メガ、ビョーゲン!!」

 

お返しにメガビョーゲンは腹の下の部分から赤い球のようなものを覗かせると、体を勢いよく回転させて飛ばした。

 

「っ、きゃあぁ!!」

 

「「スパークル!!」」

 

赤い球はとっさに避けられなかったスパークルに直撃し吹き飛ばされる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「メガ!!」

 

そこへアースが頭上が急降下して蹴りを食らわせようとするも、メガビョーゲンは素早く動いてかわす。

 

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

「メガ、ビョーゲン!!」

 

「あぁぁぁっ!?」

 

さらにフォンテーヌが飛んで蹴りを入れようとするも、メガビョーゲンは横へ避けると体を回転させて尾びれ部分を振るい、フォンテーヌを地面へと落とした。

 

「フォンテーヌ!!」

 

「メガァ!!!!」

 

「っ!!」

 

グレースは地面へと叩きつけられたフォンテーヌを心配するも、そこへメガビョーゲンが真正面からこちらに突っ込んでくる。

 

「ぷにシールド!!」

 

「うぅぅっ!!!」

 

グレースは肉球型のシールドを展開するも、猛スピードで突っ込んできたメガビョーゲンにシールドごと突き飛ばされ地面を転がる。

 

「速い・・・!!」

 

「動きについていけなかったペエ・・・!」

 

「全然攻撃が当たらないんだけど・・・!?」

 

「あのメガビョーゲン、結構強いぞ・・・!!」

 

フォンテーヌとスパークルはまだそれほど大きくなっていないメガビョーゲンと言えども、只者ではないということを察する。

 

「メッガァァァァ!!!」

 

「っ・・・ふっ!!!」

 

その言葉を尻目に、メガビョーゲンはアースにも正面から襲いかかった。アースは突っ込んでくるメガビョーゲンを両手で受け止める。

 

「ふっうぅぅぅ!!」

 

「メッガ・・・??」

 

「ふっ!! はぁっ!!」

 

「ビョーゲン!?」

 

アースは片なくメガビョーゲンを押し返すと、そのまま回し蹴りを加えて吹き飛ばし、地面へと転がる。

 

「おぉ!!」

 

「やっぱりアースは強い・・・!!」

 

スパークルが驚き、グレースがそうつぶやく。アースがメガビョーゲンを相手に圧倒するということに改めて驚きを隠さない。

 

「うむ・・・あの紫のプリキュア、なかなかやるみたいだね。あの美しさ、僕の手で受け止めたい・・・!!」

 

ヒエールはアースがメガビョーゲンを圧倒した姿を見てそうつぶやく。

 

「メッガァ!!」

 

メガビョーゲンはすぐさま復帰して、アースを威嚇するように見据える。

 

「ふっ!!」

 

アースはメガビョーゲンへと駆け出していき、さらなる攻撃を加えようとするが・・・・・・。

 

シュイーン!

 

「っ!?」

 

彼女の目の前にヒエールが現れ、思わず後ろにバク転をして飛びのく。

 

「美しい僕が相手になるよ・・・!!」

 

ヒエールはそう言いながら、そのままアースへと飛び出していく。

 

「っ・・・はぁっ!!」

 

アースはヒエールの振るう拳を交わすと、彼に拳を振るおうとする。しかし、ヒエールはどこからかステッキを出してアースの拳を受け止める。

 

「ふん・・・!! はぁ!!!」

 

ヒエールはステッキで押し返して距離を取ると同時に、ステッキに赤いオーラを輝かせるとXの字に振るって斬撃を飛ばす。

 

「っ!?」

 

アースはそれに驚くと横に前転をして斬撃をかわし、ハープを取り出す。

 

「音のエレメント!!」

 

ハープに音のエレメントさんから授かった、音のエレメントボトルをセットする。

 

「ふっ!!!」

 

アースがハープを奏でると、小さな円形の音波を出現させるとそこからレーザーを放つ。

 

「ふん!!」

 

ヒエールは動揺することなく、ステッキでレーザーを受け止める。そのままレーザーを打ち消すが、その間にアースはヒエールの横へと移動し、彼へと飛び出す。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「っ、ふぅん!!!!」

 

アースは飛び蹴りを繰り出し、ヒエールはステッキで防ぐも、力を抑えきれずに背後へと突き飛ばされる。

 

「やるね・・・キミ。美しいよ・・・」

 

「あなたに褒められても、嬉しくはありません・・・!」

 

ヒエールはアースの戦闘力を評価するも、アースは険しい表情でこちらを睨む。

 

「じゃあ、これはどうだい・・・!?」

 

ヒエールは再びステッキに赤いオーラを溜めると、それを空へと掲げる。すると空に黒い雲が出現し、そこからステッキへと赤い雷が落ちる。

 

「はぁぁっ!!!!」

 

ヒエールはそのままアースへと目掛けてステッキを振るうと、ステッキの雷がアースへ襲いかかる。

 

「っ!?」

 

アースは思わぬ力に驚くも、雷を飛んでかわす。地面に雷が当たり、草原が焼き焦げていく。

 

「雷!?」

 

「っていうか、あいつ・・・黒い雲出したよね!? あんなに晴れてた空に!?」

 

「なんて力なの・・・!?」

 

グレースたちはヒエールの能力に驚きを隠せなかった。一瞬のうちに黒い雲を出現させ、ステッキに雷を受け止めてそれを振るうなど、規格外にもほどがある。

 

「っ・・・・・・」

 

「油断は禁物だよ」

 

アースが焼け焦げた地面を見つめていると、ヒエールが彼女と同じ高さに飛ぶ。

 

「はぁっ!!」

 

ヒエールはステッキを横に振るうと、螺旋状の赤い風がアースに向かって放たれる。

 

「っ、うっ・・・!!!」

 

空中に逃げていたアースは両腕を交差させて防御態勢に入り、そこへ赤い風が直撃した。

 

「な、なんという力・・・!!」

 

アースは赤い風に苦しめられながらもそう呟いた。

 

やがて赤い風が消えていき、アースが防御体制を解くと・・・・・・。

 

「隙あり・・・!!!!」

 

「っ!!??」

 

「ヒエールスラッシュ!!!」

 

いつの間にかヒエールがアースの背後に移動しており、気づいたアースは振り向くも、時すでに遅し。ヒエールはそう叫びながら、赤いオーラを纏ったステッキを3回振るう。

 

「うっ、ぐっ、あぁぁぁ!!!!」

 

斜め右、斜め左、上から振るうステッキを食らったアースは悲鳴を上げながら地面へと落下した。

 

「「「アース!!」」」

 

「おっと・・・美しいキミたちを退屈にさせてしまっているようだね。メガビョーゲン!!」

 

グレースたちが地面に叩きつけられたアースを心配する中、ヒエールはメガビョーゲンをけしかける。

 

「メガァ!!」

 

「「ぷにシールド!!」」

 

メガビョーゲンはグレースたちに向かって赤い光線を吐きつける。グレースとスパークルが前に出て、肉球型のシールドを展開して光線を防ぐ。

 

「氷のエレメント!!」

 

フォンテーヌはその間に、メガビョーゲンの動きを止めようと氷のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「はぁっ!!」

 

「メガ!!」

 

氷を纏った光線をメガビョーゲンに向かって放つも、赤い光線を吐くのを中断してメガビョーゲンは上に泳いでかわす。

 

「くっ・・・やっぱり当たらない・・・!!」

 

「すぐ避けられちゃうペエ・・・・・・」

 

フォンテーヌとペギタンはメガビョーゲンに光線が当たらないことをつぶやく。

 

「メッガァ!!!」

 

「「「きゃあぁぁぁぁ!!!」」」

 

メガビョーゲンは一旦後ろへ泳ぐとすぐに方向転換してスピードをあげて突っ込み、曲がる勢いを利用して蹴散らすように尾びれを振るい、グレースたちを吹き飛ばす。

 

「あうっ! うっ・・・!!」

 

グレースは木へと叩きつけられて地面へと落ちる。背中が痛むが、それでも立ち上がって戦う意思を無くさない。

 

フォンテーヌとスパークルも立ち上がり、諦めずにステッキを構えた・・・・・・その時だった・・・・・・。

 

「クチュン!!」

 

「「「っ!!??」」」

 

安全なところで待機していたラテがくしゃみをし出したのだ。

 

「ラテ・・・!?」

 

「まさか・・・!!」

 

「嘘・・・別の場所にメガビョーゲンが・・・!?」

 

グレースたち3人は、どこかにもう一体メガビョーゲンが出現したことに対して動揺する。

 

「ほう・・・もしかして・・・」

 

ヒエールは頼んでいる美しいあの娘が、動き出したことに笑みを浮かべる。

 

「ふーん、あの子犬がさらにぐったりしたってことは・・・ふふっ♪」

 

クルシーナもこの場所の反対側で、メガビョーゲンの反応があることに不敵な笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プリキュアがヒエールたちと激闘を繰り広げている頃・・・・・・その場所の反対側の山では・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

誰かがバーベキューの支度をしているであろう場所に、かすみの姿があった。

 

確証はないが、おそらくはのどかたちであろう。この山にキャンプをするために、おそらくご飯であるバーベキューの用意をしていたのだろう。

 

「羨ましいな・・・・・・」

 

かすみは無表情ながらも、見つめながらそう呟く。私がプリキュアを救えるような未熟者でなければ、のどかたちとキャンプを楽しめたかもしれない。

 

でも、きっとのどかは自分たちを許してはいないだろう。どうせ叶わぬ願いだ。

 

「感傷に浸っている場合じゃないな・・・・・・」

 

かすみは悲しいという感情を振り払うかのように険しい表情を浮かべると辺りを見渡し、食材のクーラーボックスの側に置いてあった小さなガスボンベに目が行く。

 

ヒエールの作戦を実行しなければ・・・・・・かすみはのどかとの楽しい思い出よりも、仕事をしなければならないという思いに気持ちを塗り替えていく。

 

私はビョーゲンズのカスミーナとして・・・・・・ここ一帯を、蝕む・・・!!

 

かすみは手のひらに息を吹きかけると、黒い塊を出現させ、漂うそれを掴んで込めるように握ると、その手を突き出すように開く。

 

「進化しろ、ナノビョーゲン!」

 

「ナノー・・・・・・!」

 

生み出されたナノビョーゲンは鳴き声を上げながら、ガスボンベと取り憑く。ガスボンベが病気へと蝕まれていく。

 

「・・・!?・・・!!」

 

ガスボンベに宿るエレメントさんが病気へと蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガ!!ビョーゲン!!」

 

かすみが見つめる中、メガビョーゲンが誕生したのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第100話「覚悟」

前回の続きです。
カスミーナ(かすみ)の新たな力を一部、お披露目いたします。


 

ヒエールと彼の出したメガビョーゲンと交戦中のプリキュアたち。しかし、ラテが再度くしゃみをし出したことで、不利な状況の中、メガビョーゲンがもう一体現れたことを察してしまうのであった。

 

「クゥ〜ン・・・・・・」

 

「急いで診察ラビ・・・!!」

 

「うん・・・!」

 

ラテが何かを訴えるように弱々しく鳴く中、ラビリンはそう指示を出すとグレースは頷いてラテに駆け寄る。

 

そして、聴診器を取り出すとラテを診察し、彼女の心の中の声を聞く。

 

(あっちの山のほうで、火の空気さんが泣いてるラテ・・・・・・)

 

「火の空気・・・・・・?」

 

ラテがグレースたちが先ほど歩いてきた方向に目をやりながら伝えるが、グレースは火の空気が何か分からずにいた。

 

「火の空気・・・ガス・・・ガスボンベ!?」

 

「嘘・・・あたしたちのキャンプの場所じゃん!!」

 

フォンテーヌは火へとつながるものを思い浮かべ、ハッとしたような表情でガスボンベが狙われたと推測する。それを聞いたスパークルも、持ってきていた覚えのあるものを思い出して動揺する。

 

どうやらメガビョーゲンが現れた場所は、自分たちのキャンプをしている場所のようだった。

 

グレースは想像してしまった。ちゆたちが自分のために設営したキャンプ場が、バーベキューの場所が・・・・・・メガビョーゲンによって赤く染め上げられてしまう光景を・・・。

 

「っ・・・ダメ・・・! 早く止めにいかないと・・・!!」

 

グレースはそれを恐れて、来た場所を戻ろうとする。

 

「待ってグレース!! ここのメガビョーゲンはどうすんの!?」

 

「一人じゃ危険よ!!」

 

スパークルとフォンテーヌが呼び止めようとするも、グレースは走って行ってしまう。

 

「っ・・・!!」

 

それに気づいたアースがなんとか立ち上がり、グレースの方へと駆け出す。

 

「私が追います!! 二人はメガビョーゲンを!!」

 

グレースを一人行かせるのが心配なアースは二人にそう言うと、グレースを追って行った。

 

「おやおや、仲間割れかな? 美しくないねぇ」

 

「「っ・・・」」

 

ボソリとそう呟くように言うヒエールに、フォンテーヌとスパークルは険しい表情でステッキを構える。

 

「まあ、いいか。美しいキミたちは美しい僕の相手にふさわしい」

 

「だから、何言ってんの!?」

 

ヒエールは笑みを浮かべながらそう言うと、気持ち悪さからスパークルが嫌悪感を露わにする。

 

「ふっ!!」

 

ヒエールが持っているステッキに赤いオーラを纏わせて空へと掲げる。すると、フォンテーヌとスパークルの頭上に黒い雲が立ち込める。

 

「「っ、きゃあぁぁぁ!!!!」」

 

そして、その黒い雲から赤い雷が降り注ぎ、プリキュアの二人へと落ちる。

 

「チャンスだ! メガビョーゲン!!」

 

「メッガァ!!」

 

ヒエールがそう指示すると、メガビョーゲンは腹の下の部分から出ている赤い球を体を振り回して飛ばす。

 

赤い球はプリキュアへと目掛けて飛び、黒い煙の中へと入っていく。

 

「「ぷにシールド!!」」

 

叫び声が聞こえてくると、煙の中からフォンテーヌとスパークルがぷにシールドを張ったまま駆け出してくる。

 

「っ!! ふっ!!!」

 

ヒエールはその光景に目を見開くと、ステッキをXの字に振るって斬撃を飛ばす。

 

フォンテーヌとスパークルは二手に分かれて斬撃をかわし、真っ先にフォンテーヌが飛び出していく。

 

「はぁっ!! ふっ!!」

 

「っ・・・!!」

 

フォンテーヌとヒエールのステッキがぶつかり合い、お互いに牽制し合う。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

そこを横からスパークルが飛び出して拳を繰り出そうとするが、その直前でヒエールは自分のステッキを押し返して飛び退く。

 

「メガァ!!」

 

ヒエールと入れ替わりに、メガビョーゲンが赤い光線を吐き出してくる。

 

「っ!!」

 

スパークルはすぐさまぷにシールドを展開し、赤い光線を防いだ。

 

「メッガァ!!!!」

 

そこへメガビョーゲンが泳ぎながら、こちらに体当たりを仕掛けてくる。

 

「はぁっ!!」

 

「メガァ!?」

 

「ふっ!!」

 

「ビョーゲン!?」

 

フォンテーヌはスパークルの前へと飛び出し向かってくるメガビョーゲンの顎を蹴り上げて怯ませる。さらに回し蹴りを食らわせてメガビョーゲンを吹き飛ばし、近くの木へと叩きつけた。

 

「ヒエール!! 俺たちは絶対にお前なんかに負けねぇぞ!!!!」

 

「パートナーを得た僕たちの力を見せてやるペエ!!」

 

ニャトランとペギタンはヒエールに向かって強気な口調で言い返した。

 

「無粋なヒーリングアニマルの力など、僕の前では無意味だよ・・・!!」

 

ヒエールはそんな彼らを見下すように見ていた。

 

プリキュアとヒエールが牽制しあっている中、クルシーナはメガビョーゲンへと近づく。

 

「とりあえず、取っておくか・・・・・・」

 

クルシーナは地面に倒れ込んでいるメガビョーゲンの尾びれの部分を掴むと毟り始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、自分たちのキャンプ場に引き返したグレースと彼女を追ったアースは、森の中を突き進んでいた。

 

「急いで・・・急がないと・・・!!」

 

グレースは山道で疲れる体を必死に言い聞かせながら走っていた。

 

「グレース、待ってください!!」

 

アースはどんどん前へと走っていくグレースを呼び止めようとするが、必死になっているグレースは止まろうとしない。

 

アースはそれを見て走るスピードを上げ、グレースの横へと並ぶ。

 

「グレース」

 

「っ・・・!!」

 

「忘れましたか? 一人で焦ってはダメと、前にも言いましたよね」

 

「!!」

 

横から声をかけたアースはそう言うと、グレースはハッとしたような表情をした後、顔を俯かせる。

 

「ごめんなさい・・・また、焦っちゃった・・・・・・せっかく、ちゆちゃんやひなたちゃん、アスミちゃんが私のために用意してくれたことなのに、それが病気になるのが耐えられなかったの・・・・・・」

 

「・・・・・・それは私も同じです。私も、みんなの場所を汚されてしまったら悲しいです。でも、一人で突っ走っていては何も解決しません。だから、私も行きます!!」

 

グレースは行動を反省していると、アースは一緒に行くと断言し、お互いに頷く。

 

そんな会話をしているうちに、キャンプをしている場所へと戻ってきた。そこでは・・・・・・。

 

「っ、いました!!」

 

「メガ!」

 

ガスボンベのような体をしたメガビョーゲンが、顔の上にあるバーナーのような部分から火のようなものを噴射して病気で蝕んでいた。

 

「っ? ようやく来たか」

 

そして、その側にはフードを被った人物ーーーーかすみの姿があった。

 

「かすみちゃん・・・・・・」

 

「カスミーナだ。今日は二人だけか? いや、あっちにいるのか」

 

グレースは辛そうな表情をしながら名前を呟く。かすみが悪いことをしない子だというのは仲間にいた時からわかっている。しかし、この惨状をかすみが作り出したかとも思うと、心が痛くなる。

 

かすみは顔を顰めながらそう訂正すると何かを察したようにそう呟いた。

 

「かすみさん!! あなたたちは一体何を企んでいるのですか!?」

 

アースはかすみに向かって問いかける。彼女は仲間なのは確かだが、今はビョーゲンズの一員だ。敵である以上はこちらも油断するわけにはいかない。

 

「カスミーナだと言っているだろ。私の作戦じゃない、ヒエールの作戦だ。彼の強力なメガビョーゲンでお前らを引き付けておいて、私の単純なメガビョーゲンで蝕もうという作戦さ」

 

かすみは名前を訂正した後、険しい表情のまま平然と答える。

 

「そんな作戦が・・・・・・!!」

 

「他のビョーゲンズも思いつきそうな作戦だろ? でも、お前たちが来たことでもう失敗に近いけどな」

 

かすみは険しい表情を崩さないまま、そう吐き捨てた。

 

「まあ、私はいつも通り、ここ一帯を蝕んでやるだけさ」

 

「っ、そんなの許しません!! あなたの凶行を、私たちが止めてみせます!!」

 

かすみは平然とした声でそう言うと、アースは強い口調でそう言った。

 

「行きますよ、グレース!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

「グレース!?」

 

「あ・・・ご、ごめんね・・・行くよ!!」

 

アースがグレースに呼びかけるも、彼女は俯いたままだった。かすみがビョーゲンズとして活動をしていることに心を痛めているのか、その表情は辛そうだった。

 

反応しないアースが呼ぶように声をかけると、グレースは我に返ってステッキを構える。

 

「調子が悪いのなら、お手当てをしないほうがいいんじゃないのか? お互いに傷つかずに済むぞ」

 

かすみがグレースの反応を見てそう言った。願わくば戦いたくない。そこにずっと立ったまま、この惨状が終わるのを見ていてほしい。かすみの心もズキズキと痛んでいた。

 

「そうは行かないよ!! 私は戦えるもん!!」

 

「そうか・・・・・・なら、もう話は無用だな。メガビョーゲン!! プリキュアを倒せ!!」

 

しかし、グレースは強い口調でそう言い返し、それを聞いたかすみは覚悟を決めたようにメガビョーゲンに指示を出した。

 

「メガ!」

 

メガビョーゲンは右手のバーナーから禍々しい炎を噴射する。二人はそれを飛んでかわす。

 

「「はぁっ!!」」

 

そして同時に蹴りを繰り出すが、メガビョーゲンの体は頑丈なのか攻撃に耐えた。

 

「メガ!」

 

「きゃあぁ!!」

 

「ビョーゲン!」

 

「あぁ!!」

 

メガビョーゲンは左腕の拳と、右腕のバーナーを振るって吹き飛ばす。二人は倒れないように、すぐに態勢を立て直す。

 

「音のエレメント!!」

 

アースはハープに音のエレメントボトルをセットする。

 

「ふっ!!!」

 

ハープを奏でて、メガビョーゲンに向かって音波を放つ。

 

「メ、メガ・・・メガ、ガ・・・??」

 

音波を浴びたことでメガビョーゲンの動きが少し鈍くなった。

 

「実りのエレメント!!」

 

グレースはステッキに実りのエレメントボトルをセットする。

 

「はぁっ!!」

 

ピンク色の光弾をステッキからメガビョーゲンに目掛けて放つ。

 

「メガ・・・ガ・・・????」

 

光弾はメガビョーゲンの顔に直撃しダメージを与える。

 

「これでは前と一緒だな・・・・・・」

 

かすみは険しい表情をしながらそう言うとあるものを取り出した。

 

キュン!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

グレースはステッキの肉球に一回タッチして、メガビョーゲンに向ける。ラビリンの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを見つける。

 

「火のエレメントさんラビ!!」

 

エレメントさんは右腕のバーナーの部分にいる模様。

 

アースが浄化の準備に入ろうとした、その時だった・・・・・・。

 

「っ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

どこからともなく雷を纏った黒い光線がアースを直撃し、感電させられた彼女は悲鳴をあげてそのまま地面へと崩れ落ちた。

 

「アース!!」

 

グレースは黒い光線が飛んで来た先をみると、黒いステッキを構えているかすみの姿があった。それにステッキをよくみると赤黒いオレンジ色のボトルのようなものがセットされている。

 

「エレメントボトル!?」

 

「なんでかすみが持っているラビ!?」

 

「・・・私のビョーゲンズの仲間入り祝いにもらった」

 

驚いているグレースとラビリンにかすみは平然と答えると、ボトルを外して別のボトルをセットする。今度は暗いピンク色のボトルだった。

 

「・・・はぁっ!!!」

 

かすみはステッキを構えると、そこから黒い光弾をグレースに目掛けて放った。

 

「っ・・・」

 

グレースは飛んで回避すると、止まっている暇もなく飛ばしてくる光弾を走ってかわしていく。

 

すると、グレースの距離と近くなったかすみは光弾を放つのを止めると、ステッキから黒い刀身を伸ばしてグレースへと飛び出して来た。

 

「っ!?」

 

グレースは実りのエレメントボトルをセットしていたこともあって、とっさにピンク色の刀身を伸ばしてかすみの刀身を受け止める。

 

「うっ・・・!!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

カキン!! カキンカキン!!! カキン!!!

 

グレースは顔を顰めて辛そうにしているのに対し、かすみは険しい表情で平然と押し返している。ぶつかり合う刀身と刀身、再び二つは鍔迫り合いになる。

 

「くっ・・・!!!」

 

「メガビョーゲン!! 今のうちにここ一帯を蝕め!!」

 

「メガ!」

 

かすみはメガビョーゲンの方に振り向いて指示を出すと、メガビョーゲンは再び右腕のバーナーから炎を噴射して病気に蝕み始めた。

 

「っ・・・ダメ・・・!!!」

 

グレースはメガビョーゲンがまだ蝕まれてない場所へと向かっているのを見てそうつぶやくと、かすみのステッキを押し退けて駆け出していく。

 

「ふっ!!!」

 

「メガ・・・??」

 

グレースはステッキを振るって斬撃を飛ばし、メガビョーゲンの足元に直撃すると前のめりに転んで倒れる。

 

「っ!?」

 

グレースはメガビョーゲンが倒れる方向を見て目を見開いた。そこにはちゆやひなたちゃんが準備してくれたテント、バーベキューの場所があったからだ。

 

「ダメー!!!!」

 

絶叫したグレースはとっさに飛び出してその場所の前に立ち、メガビョーゲンが倒れてぶつからないように下から受け止める。

 

「うぅ・・・うぅぅぅ・・・!!!」

 

固い体のせいか、あまりの重さに顔を苦しそうに歪ませながらも必死で支えるグレース。

 

「メ、メガ・・・?」

 

「っ、あぁぁ!!!」

 

起き上がったメガビョーゲンはグレースを視認すると、その仇を返すかのようにグレースを右腕のバーナーを振るって殴り飛ばす。

 

「グ・・・グレース・・・!」

 

その様子を見ていたアースは立ち上がろうとするが、かすみの攻撃で痺れているせいか立ち上がることができない。

 

「うっ・・・!!」

 

「・・・そんなにその場所が大事か?」

 

かすみがグレースが吹き飛んだ先に姿を現す。グレースは背後に気づくも、その行動はもう遅かった。

 

「はぁっ!!!!」

 

「っ、きゃあぁ!!!」

 

かすみはステッキの刀身を振るって黒い斬撃を飛ばし、直撃したグレースは吹き飛ばされる。

 

「っ・・・!!」

 

グレースは自分の体がバーベキューのところへと落ちると察して、その場で体を横に動かして衝突を回避したが、そこへかすみが迫る。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「きゃあぁぁぁぁ!!!!」

 

かすみは空中で体を回転させて蹴りを食らわせ、グレースを地面へと吹き飛ばす。勢いよくぶつかったグレースはそのまま転がり、木へと激突した。

 

「・・・・・・・・・」

 

「うっ・・・!!」

 

「っ・・・・・・」

 

かすみは倒れているグレースと感電して動けないアースのそばに近づく。

 

「泣いても悲しんでも、私は止まらないぞ。何を迷っているのか知らないが、私程度をどうにかできないのであれば、お前がお手当てをする資格なんかない」

 

「っ!!」

 

かすみは険しい表情でそれだけ言って踵を返すと、自分のメガビョーゲンのところへと戻っていく。アースはその言葉に目を見開くと、何かを察したように言うことをきかない体を這いながら、グレースのそばへといく。

 

「グレース!! グレース!!! 起きてください!!!」

 

「うぅぅぅぅ・・・・・・ア、アース・・・・・・」

 

アースが呼びかけると、グレースは落ちそうになる意識を必死で紡ぎながらアースの方を向く。

 

「グレース!!」

 

「アース、私・・・前に進まなきゃって思ってたけど・・・本当は、全然吹っ切れてなかった・・・かすみちゃんがビョーゲンズだってこと・・・まだ、認めたくなかったんだ・・・・・・だって、かすみちゃんは友達だもん・・・一緒に戦った、仲間だもん・・・・・・ビョーゲンズだってわかってても・・・戦うなんて・・・私には、できないよ・・・・・・!」

 

グレースは涙を流しながらそう吐露した。かすみが敵になったのはわかっている。でも、友人のかすみを敵と思うなんて、これまでの思い出から彼女と戦うなど、傷つけることなどできなかったのだ。

 

「・・・グレース、気持ちはわかります。私だって本当はかすみさんとは戦いたくないです。でも、今戦わなければ地球は蝕まれてしまいます。ここ一帯がビョーゲンズのものになってしまいます。それでもいいのですか?」

 

「っ・・・嫌だ・・・そんなの嫌だよ・・・!!止めなきゃ・・・でも、かすみちゃんとどう向き合えば・・・・・・」

 

アースがそう叱咤するも、グレースはかすみとの対面の仕方に迷いが生じていた。

 

「・・・友達が悪いことをしたら、グレースはどうするんですか?」

 

「え・・・?」

 

「友達が悪いことをしたら、グレースはやりたいようにやらせるのですか? やらせて黙って見ているだけなのですか? 私は違うと思います。友達だったら悪いことをしたら止めるべきだと思います。やめさせるべきだと思います。例えその思いがわがままであっても、押し売りであっても、友達の曲げた道は止めるべきではないですか?」

 

「っ!!!!」

 

グレースはアースの言葉に目を見開いた。友達だと思っているなら、仲間だと思っているなら、その人がやっているいけないことは止めるべきだと、アースは諭したのだ。

 

「グレースは、かすみさんとは友達ではないのですか?」

 

「っ・・・かすみちゃんは友達だよ!! 最初に出会って、一緒にお手当てした頃からそうだよ!!」

 

アースの言葉に、グレースは首を振りながら答える。そして、グレースは軋む身体を動かしながらゆっくりと立ち上がる。

 

「止めなきゃ・・・友達が悪いことしたなら止めないと・・・・・・!!」

 

「・・・私も、一緒に止めます。止めて見せます!!」

 

アースも関電から回復して立ち上がり、グレースのそばに並ぶ。そして、二人はかすみとメガビョーゲンを止めるために動き出す。

 

一方、そのかすみは・・・・・・。

 

「メガ!」

 

「・・・・・・・・・」

 

メガビョーゲンは変わらず右腕のバーナーから炎を噴射して病気に蝕んでいた。かすみはそれを喜ぶわけでもなく、悲しむわけでもなく険しい表情で見つめ続けていた。

 

「・・・・・・何しに戻ってきた?」

 

かすみは振り向くまでもなく、背後に気配を感じてそう呼びかける。

 

「お手当てをしにきたに決まっているラビ!!」

 

「お前には無理だ。私と戦うことに迷いのあるやつに、私を止められるものか」

 

ラビリンがそう主張すると、かすみは冷淡に吐き捨てる。

 

「止めるよ、私は。かすみちゃんも、メガビョーゲンも、止めてみせる!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

グレースが強気な口調でそう言うと、かすみは後ろを振り向いた。その表情は覚悟を決めたものの顔であると察した。

 

かすみは険しい表情を崩さないまま、こちらに体を向けた。

 

「・・・そうか。なら私を制して止めてみせろ!!」

 

かすみはそう叫びながらグレースにステッキを向ける。

 

「メガビョーゲン!! 続けろ!!」

 

「メガ!」

 

背後にいるメガビョーゲンに指示を出しながら、グレースと睨み合う。

 

「メガビョーゲンは私が・・・!!」

 

「っ・・・ふっ!!」

 

「っ!?」

 

アースは睨み合っている隙にメガビョーゲンの元に行こうとしたが、それに気づいたかすみはステッキを振るって黒い光線を放つ。アースはそれによって動きを止められてしまう。

 

「行かせると思うか・・・?」

 

「っ・・・・・・」

 

かすみはアースを睨みつける。アースもこちらを険しい表情で見つめる。

 

お互いに睨み合う二人と一人。その間にかすみは暗いピンク色のボトルをステッキにセットする。さらにメガビョーゲンも徐々に病気で蝕んでいく。

 

周囲に風が吹き、周辺の草木や草原を揺らしていく。三人の間に緊張感が走る。

 

そして・・・・・・風が吹く音が収まった・・・・・・その瞬間・・・・・・。

 

「ふっ!!」

 

「はぁっ!!」

 

カキン!!!!

 

かすみとグレースが同時に飛び出し、ステッキと刀身がぶつかり合う。

 

「っ・・・・・・」

 

「くっ・・・・・・」

 

二人はお互いにステッキを押し合い、つばぜり合う。

 

「はぁっ!!」

 

「っ・・・ふっ!!!」

 

「うっ・・・!!」

 

そこへアースがかすみに拳を振るおうとするが、かすみはそれに気づくとグレースの腹を蹴って吹き飛ばし、飛び出してくるアースにステッキの斬撃を飛ばした。

 

「!! はぁっ!!」

 

アースは間一髪で避けると拳を振るう。かすみは当たる直前にその場から飛び退いて避ける。

 

そして、後ろに一回転して着地すると、かすみは猛スピードでアースへと突っ込む。

 

「っ・・・うぅぅ!!」

 

「はぁっ!!」

 

「あぁぁっ!!」

 

そのまま拳を振るい、アースは受け止めるも勢いよく飛んできたパンチに押され、さらにかすみはその場で蹴り上げてアースを上空へ吹き飛ばす。

 

「実りのエレメント!!」

 

グレースはその間に実りのエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「はぁっ!!」

 

ステッキからピンク色の光弾をかすみに目掛けて放つ。

 

「ふん!!」

 

かすみは回し蹴りで光弾を蹴り飛ばすと、お返しにステッキから黒い光線を放つ。

 

「ぷにシールド!!」

 

グレースはステッキから肉球型のシールドを展開し、黒い光線を防いだ。

 

かすみはステッキから再び刀身を生やすとグレースへと飛び出す。

 

「っ・・・うっ・・・!!」

 

グレースもとっさにステッキから刀身を放つと、かすみの攻撃を受け止める。

 

「・・・・・・・・・」

 

「うっ・・・はぁっ!!」

 

かすみは表情を全く変えずにグレースを押しやろうとし、グレースは苦しい表情をしながらもかすみを逆に押し返す。かすみは同時に後ろへと飛び退いて距離を取る。

 

「・・・・・・・・・」

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

かすみは平然としていたが、グレースは息があがってきていて、もう体力が限界のようだった。

 

「・・・どうした? かかってこい。私を止めるんだろう?」

 

かすみはステッキを向けながら、グレースを挑発する。

 

「グレース!! こうなったらあれをやるラビ!!」

 

「えっと・・・あれだよね!!」

 

グレースは変身アイテムでもある花のエレメントボトルを取り出し、ステッキにセットする。

 

「エレメントチャージ!!」

 

キュン!キュン!キュン!

 

グレースはステッキでハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「「ヒーリングゲージ上昇!!」」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングフラワー!!」

 

グレースはそう叫びながらステッキからピンク色の光線を放つ。光線は螺旋状になりながら、一直線に向かっていく。

 

「・・・・・・・・・」

 

それを見たかすみは黒色の花のマーク描かれたボトルを取り出すと、それをステッキにセットする。

 

「エレメントチャージ・・・・・・」

 

パン!パン!パン!

 

かすみはステッキで逆さハートの模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「イルネスゲージ上昇・・・・・・」

 

ステッキのハートに黒い光が集まっていく。

 

「ビョーゲンズ! イルネスフラワー!」

 

かすみそう叫びながらステッキを向けると黒い花のエフェクトが出現し、そこから黒い光線が放たれた。光線は螺旋状になりながら一直線に向かっていく。

 

グレースの放ったピンク色の光線、かすみの放った黒い光線、二つの光線がぶつかり合う。

 

「うぅぅぅ・・・・・・!!」

 

「っ・・・・・・!!」

 

グレースは苦しい顔をしながら、かすみは顔を少し顰めながら、お互いの光線を押しやっていく。

 

「ぐっ・・・うぅぅぅ・・・・・・!!」

 

「っ・・・っ!!!」

 

体力的な問題なのか、徐々にグレースの方が押され始め、かすみはどんどん押しやっていく。

 

「やっぱり限界じゃないのか? 無理しないで休んでたほうがお前の身のためだぞ」

 

「っ!!」

 

かすみは光線がぶつかり合う中、グレースを挑発するが、彼女は諦める様子を見せない。

 

「わ、私は・・・止めるんだ・・・かすみちゃんを・・・しんらちゃんを止めて・・・!! みんな・・・みんな・・・助けるんだぁー!!!!」

 

グレースがそう叫ぶとピンク色の光線が大きくなって、逆に黒い光線を押し始める。

 

「っ!? 私だって、譲れないものがあるんだ!! こんな・・・こんなところで・・・やられてたまるかぁーッ!!!!」

 

かすみもそう叫ぶと黒い光線が太くなり、ピンク色の光線を止め、両者の光線は互角の押し合いになる。

 

ぶつかり合うピンクと黒の光線・・・・・・そして・・・・・・。

 

チュドォォォォォォォン!!!!

 

「あぁぁぁぁっ!!!!」

 

「うわあぁぁぁぁっ!!!!」

 

光線は押し合いの末に大爆発を起こし、グレースとかすみはお互いに吹き飛ばされ地面へと転がる。

 

「うっ・・・うぅぅ・・・・・・!!」

 

「ぐっ・・・ぅぅぅぅ!!!!」

 

グレースとかすみは呻きながらも立ち上がってステッキを構え、戦う闘志を崩さない。

 

「はぁっ!!」

 

「メガ・・・??」

 

その間にメガビョーゲンは、アースによって地面に倒されていた。

 

「っ、しまった・・・!!」

 

かすみはグレースとの戦いに夢中になるあまり、アースを見逃すという失態を冒してしまったことに気づいた。

 

アースは両手を合わせるように祈ると、一枚の紫色の羽が舞い降り、ハープのような武器へと姿を変える。

 

「アースウィンディハープ!!」

 

そう呼ばれたハープに、風のエレメントボトルがセットされる。

 

「エレメントチャージ!!」

 

アースはハープを手に取って、そう叫ぶとハープの弦を鳴らして音を奏でる。

 

「舞い上がれ! 癒しの風!!」

 

手を上に掲げると彼女の周りに紫色の風が集まり始め、ハープへとその力が集まっていく。

 

「プリキュア! ヒーリング・ハリケーン!!!」

 

アースはハープを上に掲げてから、それを振り下ろすとハープから無数の白い羽を纏った薄紫色の竜巻のようなエネルギーが放たれる。

 

そのエネルギーは一直線にメガビョーゲンへと向かい、直撃する。

 

竜巻のようなエネルギーはメガビョーゲンの中で二つの手へと変化し、火のエレメントさんを優しく包み込む。

 

メガビョーゲンをハート状に貫きながら、光線はエレメントさんを外に出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていく。

 

「お大事に」

 

火のエレメントさんが宿っていたガスボンベの中へと戻っていくと、蝕まれた場所は元に戻っていく。

 

「・・・・・・・・・」

 

かすみはそれを見つめると悔しがる様子を見せることなく、黒いステッキをしまうと何も言わずに踵を返して歩き出す。

 

「かすみさん!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

アースはそんなかすみの背中を呼び止める。かすみは立ち止まってプリキュア二人の方を振り返る。

 

「・・・・・・また会おう、プリキュア」

 

かすみは淡々とした声でそれだけ呟くと、その場から姿を消していった。

 

「グレース・・・!」

 

「・・・大丈夫だよ、アース」

 

アースはグレースに駆け寄り、彼女の伸ばした手を取ってグレースを立たせる。

 

「私はかすみちゃんとも戦う。もう・・・覚悟はできてるから・・・」

 

「・・・はい!」

 

グレースの意を決したような表情に、アースは微笑みながら返事をした。

 

「行こう!!」

 

二人はもう一体のメガビョーゲンを浄化すべく、すこやか山の反対側へと向かうのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第101話「不要」

前回の続きです。
ヒエールとの激闘の行方は??

オリストは一回、これで終わります。


 

「プリキュア!ヒーリングストリーム!」

 

「プリキュア!ヒーリングフラッシュ!」

 

フォンテーヌとスパークルはそう叫びながら、ステッキをメガビョーゲンに向けて、青色の光線と黄色の光線を同時に放つ。光線は螺旋状になって混ざり合い、一直線に向かっていく。

 

「ふっ・・・・・・♪」

 

ヒエールは不敵に笑うと、持っていたステッキに手をかざして黒い水色のオーラを溜める。

 

「ヒエールショット!!」

 

ヒエールはステッキを横に振るい、水色の三日月状の斬撃を飛ばした。

 

螺旋状に混ざり合った光線と三日月状の斬撃はぶつかるも、斬撃は光線を呆気なく突破し、そのまま二人へと向かっていく。

 

「「あぁぁぁぁ!!!!」」

 

斬撃は二人へと着弾し、爆発を起こしてダメージを与えた。

 

「うっ・・・!!」

 

「うぅぅ・・・!!!」

 

攻撃を受けて倒れ伏すプリキュアの二人。ここまでグレースとアースの二人が来るまでに耐え抜いてきたが、メガビョーゲンやヒエールの攻撃を受けてすでにボロボロで、体力の限界もあって立ち上がることができない。

 

「無様だねぇ! キミたちが美しくても、それ以上に美しい僕には敵わなかったか」

 

ヒエールはプリキュア二人を見下ろしながら笑いそう呟く。

 

「うる、さい・・・気持ち悪い・・・!」

 

「まだ、負けてない、わよ・・・!!」

 

スパークルとフォンテーヌはなんとか口を開いて反論し、まだ心は負けていないようだった。

 

「諦めないというその闘志、本当に美しい。キミたちのそれに免じて、苦しまないように美しくトドメをさしてあげよう!」

 

ヒエールはそういうと、ステッキをXの字を描くように振るい斬撃を飛ばす。

 

一直線に倒れ伏すフォンテーヌとスパークルへと向かう・・・・・・その時だった・・・。

 

「ぷにシールド!!」

 

二人の前に肉球型のシールドが展開され、斬撃を防いだ。

 

「何!?」

 

ヒエールは目の前で技を防がれたことに驚きを隠せない。目の前にいる二人はダメージが蓄積して動けないはず、どうやってやったのか?

 

「フォンテーヌ!! スパークル!!」

 

「遅れてごめん!!」

 

そこへグレースとアースが駆けつける。すこやか山の反対側にいるメガビョーゲンを対処して、戻ってきたのだ。

 

「おやおや、誰かと思ったら二人を捨ててどこかへ行った美しくないキミかい?」

 

ヒエールはグレースの姿を視認すると、見下したような笑みを浮かべながら言う。

 

「グレースはメガビョーゲンを対処するために離れたのです。フォンテーヌとスパークルを信じているから、できたことなのです!」

 

「・・・・・・そうか、カスミーナがやられたのか」

 

アースの言葉から、ヒエールは遠いところでメガビョーゲンを発生させていたであろうカスミーナが失敗したと察した。

 

「でも離れたのは事実だろう? 僕には逃げたように見えたけどね」

 

「・・・・・・逃げないよ」

 

ヒエールが精神的に追い詰めようと侮蔑の言葉を発するも、グレースはそう呟く。

 

「私はもう逃げない。かすみちゃんからも、しんらちゃんからも。私はビョーゲンズで苦しんでいる友達を、道を曲げた友達を救うって決めたの。それが例えわがままと言われてもいい、鬱陶しいと言われてもいい。私は私が信じる道を進むだけだから!!」

 

グレースは強い口調で言い返した。アースが勇気をくれた、敵となった友達に向き合う勇気を。そして、自分には自分を助け、支えてくれる友達がいる。その思いや力を持って、自分は戦うのだと。

 

「その美しさ・・・またよし! でも、僕の美しさには勝てるかな?」

 

ヒエールはグレースの勇気を賞賛すると、メガビョーゲンの方を振り向く。

 

「メガビョーゲン!! 僕らも美しく行くよ!!」

 

「メガァ!!」

 

「「ふっ!!」」

 

ヒエールにそう言われたメガビョーゲンは口から赤い光線を吐きつける。二人はそれを飛び上がってかわす。

 

「「はぁっ!!」」

 

「メガァ!!」

 

グレースとアースが同時に蹴りを繰り出し、メガビョーゲンは尾びれを振るい、蹴りと尾びれがぶつかり合う。

 

「僕も美しくーーーー」

 

「氷のエレメント!!」

 

「っ!」

 

ヒエールもステッキを構えて飛び出そうとしたが、そこへ叫び声がしたかと思うと氷を纏った光線が飛んでくる。ヒエールは光線を片なく避ける。

 

「行かせないわよ・・・!!」

 

「おや? まだ動けたのかい? 罪な美しさだねぇ」

 

「意味わかんないし!! っていうか、グレースとアースが頑張ってんのに倒れてらんないっての!!」

 

立ち上がったフォンテーヌとスパークルがこちらを険しい表情で見ており、ヒエールの言葉にスパークルが強気に言い返す。

 

「そうか・・・ならば、美しく清めてあげよう!」

 

ヒエールは尊大な態度でそう叫ぶと赤いオーラを纏ってステッキを上に掲げる。すると、フォンテーヌとスパークルの上空が黒い雲に覆われ、そこから赤色の雷が降り注ぐ。

 

「来るわ!!」

 

「ぷにシールド!!」

 

フォンテーヌが叫ぶと同時に、スパークルが肉球型のシールドを展開し雷を凌ぐ。

 

「ぐっ・・・うぅぅぅ・・・フォンテーヌ!!」

 

「ええ!!」

 

スパークルは激しい攻撃に苦しそうにしながらも防ぎ、それを合図にフォンテーヌが駆け出す。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「っ!?」

 

そんなフォンテーヌは降り注ぐ雷の中を駆け出していき、ヒエールはその光景に驚く。

 

「やぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「っ!!!」

 

フォンテーヌはジャンプして蹴りを繰り出し、ヒエールはステッキで防ぐもよろつかせる。

 

「っ、ヒエールスラッシュ!!」

 

「うぅぅっ・・・あぁぁぁ!!!」

 

ヒエールは斜め右、斜め左、縦とステッキを振るい、フォンテーヌは両腕で防ぐも耐えきれずに吹き飛ばされる。

 

「フォンテーヌ!!」

 

スパークルは駆け出して飛び上がると、一回転して両足を突き出すように構える。

 

「っ!!」

 

「やぁぁぁぁ!!!」

 

フォンテーヌはそれに気づくと体勢を立て直して、スパークルの両足を合わせ、それを彼女が蹴ってヒエールへと飛ばす。

 

「っ!!!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「ぐぅぅぅぅっ!!」

 

フォンテーヌは上空で回転して勢いをつけると、ヒエールに目掛けて上空から蹴りを振るう。ヒエールは腕で防いだが、勢いに負けて後ろへと数メートル押される。

 

「やあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「っ、うぁぁぁぁ!!」

 

そこへスパークルも飛び出して勢いのつけたパンチを振るう。ヒエールは防御体勢も取れずにそのまま吹き飛ぶも、倒れないように踏ん張った。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」

 

「ぐぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

さらに着地したフォンテーヌとスパークルは同時に飛び出すと二人でパンチを繰り出した。怒涛の攻撃にヒエールは吹き飛ばされて地面に転がる。

 

それでも立ち上がるヒエールだが、ダメージが響いたのか膝をついてしまう。

 

「っ、バカな・・・!! 僕はキングビョーゲン様に認められ、ヒーリングガーデンを征服するほどの力を持っているはず・・・それなのになぜ・・・美しくないヒーリングアニマルたちなどに・・・!!!」

 

ヒエールは理解ができなかった。キングビョーゲンに見出され、強いはずの自分。なぜ自分たちに抵抗することのできないヒーリングアニマルたちが、人間のパートナーを得ただけで自分を押しているのか・・・?

 

「人間のパートナーに出会ったことで、これまでの俺たちになかったものができたんだよ!!」

 

「僕たちは人間に出会って、いろんなことを学んだペエ!! 地球のこと、フォンテーヌのこと、お手当てのこと、そして何よりも一人では何もできなくても、みんなでやればできるんだってことを知ったんだペエ!!」

 

「人間とヒーリングアニマル、あたしたちの友情があって・・・!!!!」

 

「私たちにしかない力を生み出したの!!」

 

「僕たちと人間の絆と・・・!!」

「俺たちと人間の絆と・・・!!」

 

「「美しい乙女の力を」」

 

「甘く見るなニャ!!」

「甘く見るなペエ!!」

「「甘く見ないで!!」」

 

ニャトランとペギタンの主張、そしてフォンテーヌとスパークルは強い口調でヒエールに言い返した。

 

それを見ていたヒエールは彼女たちに輝いている何かを感じ取った。

 

「おぉ・・・絆の力か・・・美しい・・・!!」

 

ヒエールは見とれているのだ。フォンテーヌとスパークル、そしてヒーリングアニマルたちの生き生きとした友情と絆の輝きを。

 

「そうラビ!!」

 

「私たちの絆は誰にも打ち破れないよ!!」

 

「お二人の言う通りです!!」

 

それを聞いていたラビリン、グレースとアースもそう主張する。

 

「メガァ!!!!」

 

対するメガビョーゲンは猛スピードで宙を泳ぎ、グレースとアースに突っ込む。二人はそれを飛び上がってかわす。

 

「メガァァァ!!!」

 

しかし、メガビョーゲンはUターンをして、再度こちらへと突っ込んでくる。

 

「っ・・・はぁっ!!!」

 

「メ、ガァ・・・!?」

 

それを見たアースは構えの姿勢を取り、メガビョーゲンとの距離が縮まる中、タイミングを見計らって蹴り上げた。顎に直撃したメガビョーゲンは仰け反るように体を曲げさせる。

 

「やぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「ビョー・・・ゲン・・・!?」

 

そこへグレースが飛び出して腹部に蹴りを入れ、そのままメガビョーゲンを地面にひっくり返すように蹴り倒した。

 

キュン!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

メガビョーゲンから距離を取ったグレースは、ステッキの肉球を一回タッチしてメガビョーゲンに向ける。ラビリンの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを発見する。

 

「水のエレメントさん、発見したラビ!!」

 

エレメントさんはメガビョーゲンの腹部にいるのを発見した。

 

「その美しさ・・・僕のものにしたい・・・! こうなれば・・・メガビョーゲン!!」

 

「メガァ!!!」

 

ヒエールがそう叫ぶと倒れていたメガビョーゲンが宙に浮かび上がる。そして、ヒエールはそのメガビョーゲンの背中へと飛び乗る。

 

「僕とお前の力で、その美しさを我が物に・・・!!!!」

 

「メガビョーゲン!!!」

 

ヒエールは赤いオーラを纏わせながらステッキを前方に掲げ、メガビョーゲンは口から赤い禍々し

オーラを溜め込み始めた。

 

「私たちの絆、見せてあげる!!!!」

 

その言葉を合図にグレースたち3人はミラクルヒーリングボトルを取り出し、ステッキにセットする。

 

「「「トリプルハートチャージ!!」」」

 

「「届け!」」

 

「「癒しの!」」

 

「「パワー!」」

 

グレース、フォンテーヌ、スパークルの順で肉球にタッチしていき、ステッキを上に掲げる。すると、花畑が広がっていき、背後には自然豊かな森が広がっていく。

 

「「「プリキュア! ヒーリング・オアシス!!」」」

 

3人は一斉にメガビョーゲンへとステッキを構え、ピンク・青・黄色の3色の光線が螺旋状になって放たれる。

 

さらにアースは両手を合わせるように祈ると、一枚の紫色の羽が舞い降り、ハープのような武器へと姿を変える。

 

「アースウィンディハープ!!」

 

そう呼ばれたハープに、風のエレメントボトルがセットされる。

 

「エレメントチャージ!!」

 

アースはハープを手に取って、そう叫ぶとハープの弦を鳴らして音を奏でる。

 

「舞い上がれ! 癒しの風!!」

 

手を上に掲げると彼女の周りに紫色の風が集まり始め、ハープへとその力が集まっていく。

 

「プリキュア! ヒーリング・ハリケーン!!!」

 

アースはハープを上に掲げてから、それを振り下ろすとハープから無数の白い羽を纏った薄紫色の竜巻のようなエネルギーが放たれる。

 

グレースたち3人とアースによって放たれた技、その二つの力は混ざり合い、4つの螺旋状の光線がヒエールとメガビョーゲンヘと向かう。

 

「ふっ!!!!」

 

ヒエールがステッキを突き出すように向けると、黒い雷が放たれる。

 

「メェェェェェガァ!!!!」

 

メガビョーゲンは口から赤く禍々しい太めの光線を放った。

 

プリキュアの光線と、ビョーゲンズの攻撃・・・・・・両者の力がぶつかり合う。

 

そして、プリキュアの光線はビョーゲンズの攻撃を突破し、ヒエールとメガビョーゲンに直撃する。

 

螺旋状の光線はメガビョーゲンの中で4つの手へと変化し、水のエレメントさんを優しく包み込む。

 

ハート状にメガビョーゲンを貫きながら、光線はエレメントさんを外に出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていく。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!! 美しい、絆の力には・・・勝てませぇぇぇぇぇぇぇん!!!!」

 

癒しの光に包まれたヒエールは絶叫を上げながら、遥か彼方へと吹き飛んでいった。

 

「「「「「「「お大事に」」」」」」」

 

水のエレメントさんが宿っていた川の中へと戻っていくと、蝕まれた場所は元の色を取り戻していく。

 

「ワフ~ン♪」

 

体調不良だったラテも額のハートマークが黄色から水色に戻り、元気になったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プリキュアの変身を解いた後、のどかたちは水のエレメントさんの様子を見るためにすこやか山の川へと来ていた。

 

「エレメントさん、お加減はいかがですか?」

 

『みなさんのおかげで助かりました! ありがとうございます!』

 

のどかが尋ねると、エレメントさんは元気な声で答えた。

 

「「「「ふふっ♪」」」」

 

それを聞いたのどかたちは互いに笑みを浮かべるのであった。

 

そして、一行はキャンプ場へと戻り、バーベキューの準備を進めた。そして日も暮れる頃、楽しいバーベキューが始まる。

 

「じゃあ、焼いてくよ〜♪」

 

ひなたが合図をして、トレーの中に入っている仕込まれた具材を火を入れたコンロで焼いていく。

 

ジュウ〜という具材が焼かれている音が鳴り、湯気が立っていく。

 

「ふわぁ〜、美味しそ〜♪」

 

「早く食べたいラビ!!」

 

のどかとラビリンは美味しそうな具材に瞳をキラキラとさせていた。

 

「食べるのはまずのどかからだろ?」

 

「わかってるラビ!!!」

 

ニャトランが指摘すると、ムキになったラビリンがそう言う。

 

お肉が焼き上がったところで、のどかが箸を持って自分の取り皿に取る。そして、タレを付けて口の中へと持っていく。

 

「ん〜!! 美味しい〜!!」

 

お肉を食べたのどかは瞳をキラキラとさせながら喜んだ。

 

「タマネギも全然バラバラになってないね!」

 

「人間の知恵の賜物ね♪」

 

それを機にひなたとちゆも話しながら食べ始める。

 

「これは・・・何なのでしょうか・・・?」

 

アスミもお肉などを食べていく中、アルミホイルに包まれているものを見て不思議そうに呟く。

 

「ああ、もう焼けてると思うわ。それ、一つ取って、その包みを開けてみて」

 

「??」

 

ちゆがそう言うと、アスミはアルミホイルに包まれているものを取り皿に取ると包みを開けようとする。

 

「あぁ〜!? アスミン、ストップ!!」

 

「そのまま触っちゃダメよ!!」

 

「?? そうなのですか?」

 

アスミが素手で開けようとしていたため、ひなたとちゆは慌てて静止させる。

 

「手で触ったら火傷しちゃうわ。こういう場合は鉄箸を使って開けるのよ」

 

「こう・・・ですか・・・?」

 

ちゆは説明しながら鉄箸を渡すと、アスミは少しずつアルミホイルを開けていく。すると・・・・・・。

 

「あぁ・・・・・・」

 

アルミホイルの中には、アスミが先ほど釣ってきた鮭の切り身が入っていた。

 

「鮭のバターホイル焼きよ。バターがあったから、作ってみたの」

 

「美味しそうですね・・・・・・」

 

アスミはそれをキラキラとしたような様子で見つめる。アスミは箸を手に取ると、鮭の切り身を崩し口へと運ぶ。

 

よく噛みながらゴクリと飲みこむ。

 

「どう・・・?」

 

それを緊張した様子で見つめていたちゆが尋ねる。

 

「・・・はい、美味しいです!」

 

「!! よかった♪」

 

アスミは笑顔でそう答えると、ちゆも安心したように笑顔になる。

 

「普通に食べているだけなのに不思議な気分です。なんだか満たされていくような・・・・・・」

 

「それはアスミが苦労して釣ってきたからよ。達成感もあった分、普通よりも美味しく感じたの」

 

「そうそう!! アスミンが頑張って釣ってきたんだから、まずいわけないもん!!」

 

アスミは感じたことのない不思議な感覚を味わっていると、ちゆやひなたが説明してあげる。

 

「達成感・・・ですか・・・・・・。これが達成感というんですね・・・!!」

 

アスミはまた一つ感情を学んだことに笑みを浮かべた。

 

「うぉ!? うまそうだな〜!! なあなあ!! 俺も俺も!!」

 

「ラビリンも食べてみたいラビ!!」

 

「はいはい! あたしが取り皿によそってあげるね♪」

 

ニャトランとラビリンが早く食べたいとゴネると、ひなたは二人の取り皿にホイル焼きを取ってあげる。

 

「僕も、少しだけ・・・・・・」

 

「ペギタンは私が取ってあげる」

 

「ありがとうペエ・・・・・・」

 

ペギタンも恥ずかしがりながらそう言うと、ちゆが取り皿を持ってそう言った。

 

「はい、ラテ」

 

「ワンワン♪」

 

ひなたたちが盛り上がる中、のどかはヒーリングルームバッグからラテのご飯を出してあげていた。

 

「のどか」

 

そこへアスミが背後から声をかける。

 

「ひなたが考えたキャンプ、楽しめてますか?」

 

「うん! 楽しいよ! 本当はかすみちゃんやしんらちゃんがいてくれれば、もっと楽しかったんだけど・・・・・・」

 

のどかは笑顔でそう言うと、ここにいない友達の姿を思い浮かべながら眉をハの字にした。

 

「のどか・・・絶対に取り戻しましょう。そのためには私たちが心身ともに強くなるべきです」

 

「・・・そうだね。私、もっと強くならなきゃ・・・!!」

 

のどかはゆっくりと立ち上がると、アスミの方へと向き直る。

 

「アスミちゃん、私、もう迷わないよ。かすみちゃんも止めて見せるし、しんらちゃんも取り戻して見せる。そのためなら、私は・・・・・・戦うよ」

 

のどかは決意を口にすると、アスミはゆっくりと頷いた。

 

「のどかっち〜!! アスミ〜ン!! 何やってんの〜?!」

 

「早くしないと、お肉なくなっちゃうぜ〜!!」

 

そこへひなたとニャトランの呼び声が聞こえる。そこにはひなたとニャトラン、ちゆ、ペギタン、そしてパートナーのラビリンも一緒にいる。

 

「行きましょう、キャンプはまだ始まったばかりですよ」

 

「うん!!」

 

のどかとアスミは互いに笑顔を向けながら、ちゆたちの元へと駆け寄っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃・・・・・・遥か彼方に吹き飛ばされたヒエールは、すこやか山の端にある草原の上で倒れ伏していた。

 

「うぅぅ・・・・・・!」

 

ヒエールは意識はあるようだが、立ち上がれずにいた。すでにボロボロで、しかもその体から赤い粒子のようなものが放出されながら溶けるように消えていくのが見える。

 

そこへヒエールに近づく足音があった。

 

「うっ・・・!! 姫!!」

 

キングビョーゲンの娘、クルシーナだった。クルシーナは微笑みながらヒエールの前まで歩くと、片手から何かを取り出す。それは先ほどヒエールのメガビョーゲンから毟り取ったメガパーツだった。

 

「っ!? それは!? 噂に聞く、メガパーツ・・・!!」

 

ヒエールは瞳をキラキラとさせると、体を起こし膝立ちになりながらもメガパーツを見つめる。

 

「お願いです、姫。それを僕に・・・!!」

 

ヒエールはクルシーナにそう懇願する。メガパーツさえあれば、先ほど美しい自分を打ちのめしたプリキュアにも対抗できる。これを使えばもっと美しい自分になって、プリキュアに仕返しをする・・・・・・そう考えたのだ。

 

しかし、そんな浅はかな考えを見透かしているようにクルシーナはメガパーツを掲げたまま渡そうとしない。そして、微笑んだような表情から一転して、顔を顰め不機嫌そうな表情へと変えた。

 

「ヒエール・・・・・・アンタはここに来るべきじゃなかったのよ。お父様に招集されて来るべきじゃなかった。ヒーリングガーデンで弱っているテアティーヌを潰してたほうが楽だったんじゃない?」

 

パリン!!

 

「あぁ・・・!?」

 

クルシーナは淡々とそう告げると、メガパーツを持った手を逆さにするとその手を開く。そして、地面に落ちたメガパーツをそのまま履いているブーツで踏み砕いた。

 

それだけで唖然とした哀れなヒエールをもう一度見つめると、クルシーナは踵を返して彼に背を向ける。

 

「・・・・・・ビョーゲンズに美しさなんか不要よ」

 

クルシーナは髪を掻き分けながらそれだけ言い放つと、そのまま彼から離れるように歩いていく。

 

「あっ・・・姫・・・!!」

 

クルシーナに突き放されたヒエールはボロボロの体で寄ろうとするが、体が前に出るだけで膝をつき、赤い粒子のようなものの放出が増える。その間にクルシーナはどんどんヒエールから離れていく。

 

「そ・・・それでもあなたは・・・美しい・・・・・・!!」

 

ヒエールは再度立ち上がりながらそう言うと、再び地面へと倒れ伏す。体から赤い粒子の放出が加速すると、そのまま彼の体は赤い粒子となって消えていった。

 

クルシーナに恋をし、美しいものを愛したビョーゲンズは、最後まで彼女を美しいと評しながら果てた。

 

「・・・・・・お大事に」

 

歩みを止めて振り返り、ヒエールが消滅したのを見届けたクルシーナはそう呟くと前を向いてその場から姿を消していったのであった。

 

その頃、キングビョーゲンの娘たちのアジトでは、一足先に戻ってきたかすみが病院内のキッチンで何かをしているようだった。

 

土鍋を火にかけ、何かを煮ているようだった。そして、煮立ったのか火を止めると土鍋の中のものをしゃもじで皿に盛る。

 

そして、それを水で濡らした手で触ろうとする。

 

「熱!!」

 

白いものを触ろうとして熱かったのか反射的に手を離し、息を吹きかけたり手で仰ぐようにして冷ますような行動を取った後、手に取って何かをかけるとそれを握っていく。

 

そして、握ってできたものを皿の上に9つほど載せる。

 

「よし・・・・・・!!」

 

「何が、『よし』なの?」

 

「っ!!??」

 

かすみがそう呟くと背後から声が聞こえ、びっくりしたかすみは慌てて振り向く。

 

「ク、クルシーナ!? 戻ってたのか!?」

 

「アタシたちのアジトなんだから、当たり前でしょ」

 

「そ、そうか・・・・・・!」

 

テンパっているかすみに対し、クルシーナは淡々と答える。

 

「で、アンタは何してんのよ?」

 

「・・・・・・お、おにぎりを作ってたんだ」

 

クルシーナが怪しみながら尋ねると、かすみは顔を赤らめながらそう答える。

 

「何のために?」

 

「あ、えっと・・・その・・・ビョーゲンズのみんなと・・・クルシーナに・・・食べて欲しくてな・・・」

 

「・・・ふーん」

 

クルシーナがさらに聞くと、かすみはもじもじとさせながらそう答える。

 

「アタシにこんなお粗末なものを食べろと?」

 

「い、いいだろ!! 別に!! 私だって少しは気を遣いたいんだ・・・!!」

 

クルシーナがお皿の上のおにぎりを見つめながら冷淡に言い放つと、かすみがムキになってそう反論する。

 

「あっそ・・・・・・」

 

「嫌なら食べるな!!」

 

あいもかわらず淡々とした声のクルシーナに、かすみは憤慨してお皿を持ち去ろうとするが、その前にクルシーナが彼女の腕を掴む。

 

「待てよ。嫌なんて言ってないし、食べないなんて言ってないでしょ?」

 

「言い方がそう聞こえるんだ!!」

 

クルシーナは顔を顰めながらそう言うと、かすみも負けじと言い返す。

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナはかすみの腕を離すと、おにぎりを一つ乱暴に掴み上げると口へと運ぶ。

 

「お、おい!!??」

 

かすみが咎めるように叫ぶも、クルシーナはそのままおにぎりを咀嚼する。

 

かすみは全く訳がわからなかった。あんなにおにぎりに嫌なことを言っておいて、おにぎりを食べるなんて・・・・・・胸の中にはモヤモヤしたような不快感しかなかった。

 

クルシーナはごっくんとおにぎりを飲み込む。すると・・・・・・。

 

「・・・・・・しょっぱすぎ」

 

「え?」

 

クルシーナは表情を変えるわけでもなく、そう評価した。

 

「アンタ、塩をどのぐらい入れたの?」

 

「20回ぐらい塩を振って入れたんだが・・・・・・?」

 

「・・・・・・バカじゃないの?」

 

かすみがかなり塩を入れたという趣旨の発言を聞くと、クルシーナはそう淡々と呟く。

 

「塩はそんなに入れなくていいっつーの。大量に入れたら、食えなくなっちゃうでしょ」

 

クルシーナはかすみにアドバイス的なことを言いながらも、手に残っているおにぎりを全部口の中に入れる。

 

「そ、そうなのか!? 私、これが美味しいと思っていたから・・・!!」

 

「アタシ以外の奴らもそう言うと思うわよ?」

 

「あぁ・・・そんなぁ・・・」

 

驚いているかすみにクルシーナはそう告げると、かすみは膝をついて落ち込み始めた。手料理を振る舞おうと思っていたが、クルシーナに現実を突きつけられ、料理は失敗していたようだ。想像以上に悲しいという感情が胸の中に溢れてくる。

 

そんなクルシーナはかすみの様子を見つめると、歩み寄って同じ目線になる。

 

「落ち込むことないじゃない。アンタの頭で学んで、また作ればいいでしょ?」

 

「!! そ、そう、だな・・・また作ればいいか・・・・・・」

 

クルシーナが笑みを浮かべながらそう言うと、かすみはあっさりと元気を取り戻した。

 

「?? カスミーナ」

 

ふとクルシーナはかすみを見て気になる部分があって、そこを見つめながら呼ぶ。

 

「なんだ?」

 

「アンタ、アタシがあげた髪飾りは?」

 

「あ・・・・・・まだ、つけてないな・・・」

 

クルシーナに問い詰められると、かすみは思い出したようにそう答えた。

 

「なんですって!?」

 

「ひっ・・・!?」

 

クルシーナの憤慨する声と共に腕を掴まれ、かすみが二重の意味で小さな悲鳴をあげる。

 

「ちょっと、アタシの部屋に来て」

 

「う、うわぁ!? ちょ、ちょっと待ってくれ!!!!」

 

クルシーナに無理やり腕を引っ張られ、かすみはバランスを崩してこけそうになりながらも、クルシーナに連れられていく。

 

部屋に連れてこられたかすみは大鏡の前の椅子に座らされる。その後ろにはクルシーナが立っている。

 

「さっきあげた髪飾りを出せ」

 

「っ・・・・・・」

 

クルシーナに命令されるとかすみは懐から髪飾りを出して、クルシーナに手渡す。

 

そして、クルシーナは髪飾りを手に持ってかすみの金髪の髪を触り出す。

 

「な、何を・・・!?」

 

「つけてあげようとしてんの。ほら、動くな」

 

かすみが戸惑っているとクルシーナが制するように言い、かすみは渋々大人しくなる。

 

クルシーナは優しく、かすみの髪に髪飾りを通すとパチンとしっかりと閉じる。そして、ちゃんと傾かないように綺麗に調節してあげる。

 

「ほら。可愛くなったでしょ?」

 

「ふわぁ・・・・・・」

 

クルシーナに言われて鏡を見ると、かすみは写っている自分の姿を見て瞳をキラキラとさせ始める。

 

「もうちょっと髪をいじらせて」

 

「今度は何をするんだ?」

 

「・・・・・・ふふっ♪」

 

クルシーナはその間に引き出しの中から櫛を取り出すと、かすみに向かって笑みをこぼす。そして、彼女の髪を優しく梳かし始める。

 

「女の子は可愛くなくっちゃね。髪型一つでも、印象は変わるもんよ」

 

「あぁ・・・・・・」

 

クルシーナは先ほどとは一転して優しく声をかけながら髪を梳かし、綺麗に整えていく。

 

先ほどとは全く態度の違うクルシーナ・・・・・・意地悪な発言とは違い、優しく気遣ってくれる様子・・・・・・ビョーゲンズは悪い奴、特にクルシーナには散々殴られ、蹴られ、吹き飛ばされた。それなのに今はまるで、姉のように・・・いや、のどかと同じように優しくしてくれている。

 

かすみは何やらほっこりとしたようなものを感じ始めていた。それはまるで、この前、孤独にはさせないと言ってくれたドクルンと同じような感覚だ。

 

(私は・・・・・・何か、勘違いしてる・・・のか・・・・・・?)

 

かすみは頭の中でそういう考えが芽生え始めていた。

 

「ああ、そうそう。アンタのおにぎり、また食べさせなさいよ。今度はちゃんと食べれるものにしてよね」

 

「あ、ああ・・・・・・」

 

かすみは複雑な心境を抱きながらも、クルシーナにはそう答えたのであった。

 

「クルシーナ」

 

「何? つーか、ノックしろっての」

 

そこへドクルンが扉を開けて呼ぶ。クルシーナは文句を交えながらも聞き返す。

 

「お父さんが呼んでますよ」

 

「・・・・・・今、行く」

 

クルシーナは思い当たるような節があるなと感じながら答えると、櫛を机の上に置いて部屋の外へと出ようとする。

 

「クルシーナ・・・・・・!」

 

「・・・また、今度ね」

 

クルシーナは笑みを浮かべながらそう答えると扉をぴしゃりと閉めた。

 

「・・・・・・・・・」

 

かすみは頬を赤く染めながらも、なんとも言えないような様子で扉を見つめていたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第102話「暗殺者」

今回もオリストを挟みます。
また新たなビョーゲンズが登場します。


 

ビョーゲンキングダムーーーーそこでは、クルシーナ、ドクルン、イタイノンのビョーゲン三人娘がキングビョーゲンに招集されていた。クルシーナの後ろにはかすみの姿もある。

 

「何用ですか? お父さん」

 

「また呼び出してきたかと思ったら・・・何なの?」

 

「・・・・・・・・・」

 

ドクルンはいつもの調子で、クルシーナは不機嫌そうな様子で自らの父親に問う。すると、数分の沈黙の後、キングビョーゲンが口を開いた。

 

「・・・また我が呼び出したやつが来ている」

 

「またなの・・・?」

 

「今度はどういうやつですか?」

 

キングビョーゲンの告白に、クルシーナは呆れた様子で返し、ドクルンは一応聞いておこうと問いかける。ヒエールは期待外れだったし、少しも期待できないと思っている。

 

そう考えていた、その時・・・・・・。

 

パスンッ、パシュッ!!

 

「っ・・・!?」

 

空気が発射されたような音が耳元に付くとイタイノンの顔の横、髪スレスレを何かが当たって髪が舞い上がる。目を見開いたイタイノンは背後を振り向いて、相手の姿を探ろうとするも、その姿はどこにもない。

 

「??」

 

「どうしたんですか? イタイノン」

 

状況をわかっていないクルシーナとドクルンが声をかけていると・・・・・・。

 

パスン、パスン!! パシュッ!! パシュッ!!

 

「っ・・・っ!!」

 

空気の発射音を察するようにイタイノンが最小限の動きを見せると、地面が小さく欠けて岩が飛び散る。どうやら遠距離から狙われている模様。

 

「っ!! ふん!!」

 

何かが見えたイタイノンは電気を全身に帯電させると一気に飛び出す。

 

「・・・ふふっ」

 

その反対側からも何か飛び出して、イタイノンに迫っていく。

 

飛び出し合う一人と一人、それは一気に両者は距離を詰めていき・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・ふっ」

 

お互いに手と足を顔に近づけたような状態で、動きを止めた。なぜならお互いは、同じ種族で見知った両者だったからだ。

 

無表情のイタイノンに対して、不敵に笑う薄い水色の肌の少女。

 

「・・・・・・カユイザ」

 

「久しぶりですね、イタイノン」

 

イタイノンにカユイザと呼ばれた少女は、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「何よ、アンタも来たの?」

 

「わざわざヒーリングガーデンからご苦労様です」

 

「ええ、そうです。プリキュアがヒエールを倒したっていう噂を聞きましてね」

 

クルシーナとドクルンが二人の元に集うと、カユイザはそう告げた。

 

そして、三人娘とカユイザはキングビョーゲンと一緒に対面する。

 

「よくぞ来た、カユイザ」

 

「カユイザ、今ここに参りました」

 

キングビョーゲンの前で、カユイザは片膝をつきながらその忠誠心を見せる。

 

「お父様、こいつも呼び出したのはどういう経緯?」

 

「あんな地球のために、わざわざヒーリングガーデンから招集をかけるのは得策ではないと思いますが・・・・・・」

 

クルシーナやドクルンは主人の行動に疑問を持ちつつも、気の進まなさそうな感じで尋ねた。

 

「・・・・・・プリキュアの抹殺だ」

 

「プリキュアの抹殺・・・・・・?」

 

「地球を蝕むのが最優先じゃないの?」

 

キングビョーゲンがそう告げると、クルシーナとイタイノンはその言動に疑問を持つ。今まではプリキュアよりも、地球を蝕んで父親を復活させることを優先事項としていたはず。なのに何故今頃になって、プリキュア打倒のためにカユイザを呼び出したのか。

 

「ヒエールがプリキュアに倒されたことで少し考えたのだ。地球を蝕むためには、プリキュアの存在が邪魔だと」

 

「そんなの今更じゃない。バテテモーダがやられたり、プリキュアが4人に増えた時点で判断できたことでしょ?」

 

そんなことは最初からわかりきっていることだ。プリキュアという邪魔な存在のせいで、地球を蝕むことそのものはうまく言っていないことを。でも、それだったら古のプリキュアにそっくりな紫のあのプリキュアが現れた時点で、その考えは最初からあったはず。

 

それなのに何故今頃になって、プリキュアが目障りだと認識し始めたのか。クルシーナにとっては理解し難いことだった。

 

「そうではない。ヒエールがやられたことによって、少しは考えを改めないといけないということを認識せざるを得ない状況だと思い当たったのだ。考えなければならんと我の復活も遅れざるを得ない。そのためには新たな作戦が必要だと思ってな」

 

「それでカユイザを呼び出したの・・・・・・?」

 

キングビョーゲンが告げた内容に、イタイノンは不愉快そうな顔をしていた。

 

そんな中、ため息をついていたのはドクルンだった。

 

「・・・お父さん、忘れたんですか? カユイザはヒーリングガーデンを襲撃した時も、メガビョーゲンを出せる癖に、ロクに蝕みもせずにただヒーリングアニマルを痛めつけて、苦しむのを楽しんでいるだけのビョーゲンズだったんですよ。お父さんがテアティーヌと相打ちになった時も、こいつは援護すら来なかった。そんなのを新たな戦力に加えるとか・・・・・・本気なんですか?」

 

カユイザの性質を知っていたドクルンが難色を示す。ヒーリングガーデンを襲った時も、この女はヒーリングアニマルを襲ってばかりで、ロクに仕事をしなかったのだ。そんな女を頭数に加えることで戦力になるとはとても思えない。

 

「構わん。私は少しでも地球を我が物にするための戦力を持っておきたい」

 

「ああ・・・そうですか・・・・・・」

 

キングビョーゲンがあっさりと肯定すると、ドクルンはもう何も言わないと引き下がった。

 

「ヒエールは私の相棒でしてねぇ。そいつをやられて黙ってるわけにはいかねーんですよ」

 

「アンタ自身の私怨もあるわけね・・・・・・」

 

カユイザがそう告白すると、クルシーナはそれをなんとも言えない表情で見ている。

 

「まあ、私だけが出撃してもいいんですが・・・・・・」

 

カユイザは気取ったような態度でそう言うと、突然イタイノンを指差す。

 

「どうせなら私と勝負しましょう、イタイノン」

 

「な、なんで・・・私が?なの」

 

いきなり勝負を挑まれ、戸惑うイタイノン。

 

「協力なんかするよりは、勝負にしてしまったほうが効率が良いではないですか。お互いに相手を蹴落とそうと張り合って、蝕む場所もどんどん増えていく。画期的だと思いませんか?」

 

「別に思わないの・・・・・・」

 

イタイノンが淡々とそのように返すと、カユイザはため息をつく。

 

「・・・これだから引きこもりのお子様は。戦いから逃げて楽になれば、自分の居場所が手に入るとでも思っているわけですからね。キングビョーゲンの娘だからといって、なんでも守ってくれると思っているわけで」

 

「っ・・・聞き捨てならないの」

 

カユイザは首を振りながら見下した調子で言うと、イタイノンは顔をムッとさせて不快感を露わにする。

 

「そこまで言うなら受けてやるの。お前のその気取った態度を、すぐにへし折ってやるの・・・!!」

 

「無理なら無理で、受ける必要はないんですよ? だってひきこもり如きが、暗殺者の私に叶うわけないんですから」

 

イタイノンはそう攻撃的にはなるが、カユイザの態度は依然として変わらないままだ。

 

「イタイノン・・・どうせだったらカスミーナも連れていったら?」

 

「っ!? ク、クルシーナ!! 勝手に何を言うんだ!?」

 

「っ!!!!」

 

クルシーナがそう言うと、かすみは不意を突かれて叫び出し、イタイノンは不機嫌そうな表情になる。

 

「そんな怪しいやつ、誰が引き連れて歩くか、なの・・・!!」

 

「っ!?」

 

イタイノンはそう吐き捨てるとその場から歩き去っていく。拒否されたかすみはショックを受けたようで、膝と両手をついたポーズになる。

 

「あ、怪しい・・・わ、私は・・・・・・怪しいのか・・・・・・??」

 

かすみはそう言いながら落ち込み出す。赤いオーラが全身から放出され、彼女の中に『悲しい』という感情が湧き上がっているようだ。

 

「誰です? こいつ。見慣れないビョーゲンズですね」

 

その様子を見ていたカユイザがかすみに近づいて尋ねる。

 

「そいつはアタシたちの部下、カスミーナよ」

 

「ふーん・・・・・・」

 

カユイザは興味ありげな声を漏らしながら、かすみを見つめる。

 

「なんだか、強そうな感じがしますね・・・・・・ああ! そうです!!」

 

カユイザはそう呟きながら何かを考え始める。そして、何かを思いつくと口元に笑みを浮かべるとかすみの腕を掴む。

 

「っ!? な、なんだ・・・!?」

 

「あなた、根暗なイタイノンに変わって使ってあげます」

 

「えぇぇっ!?」

 

とことん落ち込んでいて周りが見えていなかったかすみは腕を掴まれて戸惑う。そして、カユイザはそんな彼女を連れ回すことを告げ、驚きの声をあげる。

 

「ちょっと!! そいつはアタシたちのしょゆーーーむぐっ!!」

 

「ん? 何か言いました?」

 

クルシーナは勝手にかすみを連れて行こうとすることに抗議の声をあげようとして、ドクルンに口を塞がれる。

 

「なんでもありませんよ」

 

「むぐぅ!! むぐぐ!! むぐぐぐんぐ!! むぐぐ〜!!!(ちょっ、ドクルン!! 何すんだ、離せー!!!!)」

 

ドクルンに抗議の声をあげようとするクルシーナはくぐもった叫びにしかならなかったのであった。

 

「むぅ・・・あの女、イタイノンお姉様に向かって、生意気ですぅ・・・!!」

 

一方、その様子を岩場の陰から覗いていたフーミンが不満そうな表情を浮かべていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人間界で言うところの休日の日、のどかたち4人は図書館へとやってきていた。

 

「ここが図書館・・・というところですか?」

 

「そうよ。いろんな種類の本が置いてあるの」

 

興味津々で見つめるアスミに、ちゆが説明してあげる。

 

「ふわぁ〜、大きい〜!」

 

「すごいラビ・・・!!」

 

のどかとラビリンは図書館の大きさに驚きの声をあげる。ゆめポートほどの広さではないが、その建物と同じくらい大きい。

 

「ごめんね〜、みんなぁ・・・せっかくの学校のお休みに、あたしの宿題に付きあわせちゃって・・・・・・」

 

「いいのよ。ひなたがこうなるってことはわかってたから、友達として手伝いたかっただけ。私もちょっと煮詰まっていたところだったの」

 

「私もこの町の図書館に興味があって、行こうと思ってたし・・・ついでにひなたちゃんと一緒に本も読みたかったしね」

 

「友達を気遣うのは当然のことですよ、ひなた」

 

「ありがとう・・・みんな、優しいなぁ〜・・・」

 

ひなたは申し訳なさそうに手をもじもじとさせると、他の3人は口々に彼女を気遣いながら言い、ひなたはその心遣いに感謝した。

 

のどかたちのクラスには宿題が出されていた。それは読書の秋ということで、学校では文学に向き合う『秋の読書週間』なるものがイベントとして行われていた。そこでクラスに出されたのは文学小説を一冊読んで、感じたことや興味を覚えたことを感想文にして提出するというものであった。

 

しかし、ひなたは自分の部屋には漫画しか置いておらず、兄に本を借りたものの、難しくて眠くなってしまい、結局落ちてしまって宿題を全くすることができなかった。

 

そこでちゆたちに助けを求め、せっかくなのでのどかたちも誘って一緒に日曜日に宿題をやることになったのだ。

 

「じゃあ、早速中に入って、ひなたにもわかりやすい本から探しましょう」

 

ちゆの先導により、早速のどかたちは図書館の中へと入っていく。

 

自分たちが読書をするための場所を確保し、のどかたちはそれぞれ読書をするための本を探すために図書館の中を探っていく。

 

「中はこうなっているのですね。とても静かで、落ち着きます」

 

「そうね。それと図書館の中では、静かにしないとダメなのよ」

 

「そうなのですね。図書館では騒いではいけないと」

 

図書館が初めてのアスミは雰囲気を気に入りながら、ちゆと一緒に本を探していた。

 

「この本は、何と言うのですか?」

 

アスミは表紙に写真のようなもの写っている本を見つける。

 

「それは、図鑑って言うの」

 

「図鑑・・・・・・?」

 

「こんな感じで生き物の生態や特徴とかが載っている本なの」

 

ちゆはアスミから本を手に取ると、ページを開きながら説明してあげる。

 

「まあ、これは読書の感想文には向かないんだけどね・・・」

 

ちゆはそう言いながら、図鑑を元の棚へと戻した。

 

「まあ・・・では、別の本を探してみますね」

 

アスミはそう言うとちゆと別れて、他の本を探し始めた。

 

「ふふっ♪」

 

「ちゆ・・・・・・」

 

「どうしたの? ペギタン」

 

ちゆは笑みを浮かべながら彼女と別れて探そうとすると、ペギタンが肩からひょっこりと顔を出して声をかけてくる。

 

「僕も何か本を選びたいペエ。地球のいろんなことを知りたいんだペエ」

 

「ええ。一緒に読みたい本を探しましょう♪」

 

ちゆは笑みをこぼしながら、本を探ろうとすると・・・・・・。

 

「ちゆ!!」

 

「ペエ!?」

 

「うぁ!? 早い!!」

 

その間も無くアスミは本を持って戻ってきた。ちゆとペギタンはその速さにびっくりする。

 

「これなんかはどうですか?」

 

「・・・・・・それも感想文で書く本ではないわね」

 

アスミが持ってきた料理の本に、ちゆは苦笑いをしながら答えたのであった。

 

「ラビリン、何か読みたい本ある?」

 

「うーんと、えーと、どれが一番面白いラビ?」

 

のどかはラビリンに読みたい本を聞いていたが、ラビリンはどの本がいいのかを決めかねていた。

 

「そうだな〜・・・どれも面白そうだけどね」

 

のどかは本の棚を眺めながらそう言った。正直、幼少期の頃から病院生活でほとんど読んだことのないものばかりだ。でも、本の側面のタイトルを見ていると、どれも面白そうに見えてくる。

 

「じゃあ、これにするラビ!!」

 

ラビリンはどの本にするか決めたようで、のどかの背丈よりも高い位置にある棚から本を抜こうとするが・・・・・・。

 

「う〜ん!! ふぅ〜ん!! 抜けないラビ・・・!!!」

 

どうやらパンパンに本が入っているようで、小さなラビリンの力では抜けなくなっているようだ。

 

「あぁ〜、私も手伝うよ・・・!! えーっと・・・・・・」

 

のどかは辺りを見渡して脚立を見つけるとそれを持ってきて、ラビリンの抜こうとしている本の棚と同じ高さへと上がると、一緒に本を引っ張り始める。

 

「うーん!! ふーん!! ホントに、固くて抜けない・・・!!」

 

「ふにゅう〜!! ラビリンは、これが読みたいラビ〜・・・!!!」

 

のどかとラビリンが本を引っ張っていくと、徐々に本は抜けていき、やがて本棚から取ることができた。

 

「取れた〜!!!!・・・・・・あれ?」

 

「あ、のどか!!!」

 

のどかは喜びの声を上げるも、何か違和感を覚え、それを見たラビリンが慌て出す。なぜなら、のどかの体は背中から下へと向かっていたからだ。

 

「ふ、ふわぁぁぁ〜!!??」

 

「あ、危ないラビ・・・!!!!」

 

のどかが背中から落ちそうになり、ラビリンは急いで彼女の下へと周り、倒れないように支えようとする。

 

「ふ、ふにゅぅ〜〜〜・・・!!!!!」

 

「ラ、ラビリン・・・!?」

 

のどかが心配する中、ラビリンは下から力を入れようとするが、段々と下へと下がっていき・・・・・・。

 

ドシン!!!!

 

結局、落下するのどかを支える力を失い、二人揃って床へと落ちてしまった。

 

「いったぁ〜・・・・・・」

 

「きゅぅ〜・・・・・・」

 

「あ、ラビリン!! ごめんね!! 大丈夫!?」

 

ラビリンのおかげで頭から落ちずに、尻もちをつく程度で済んだのどか。しかし、肝心のラビリンはのどかのお尻に潰されて目を回していたのであった。

 

そして、課題が一番進んでいない問題のひなたは・・・・・・。

 

「うーん、どれがいいのかな・・・・・・?」

 

児童文学のコーナーで、どの本がいいのか困っていた。

 

「心にキュンと来たやつがいいんじゃないか? ひなたの心によぉ」

 

「それがなかなか来ないから、困ってるんじゃん・・・・・・」

 

ニャトランのまるで他人事のような発言に、ひなたは顔を膨らませながら言う。正直、漫画しか読まないので、文学小説に関しては一度も触れたことがない。前に一冊触って見たことがあるが、頭が痛くなってほとんど手がつけられなかったことがある。

 

でも、今回は漫画などではダメだと言うことがわかっている。どうせ提出するんだったら、間違ってもいいから書いて怒られようと、そう考えているのだ。

 

ひなたはとりあえず、本棚の本のうちの一冊を開いて、本をパラパラとめくってみる。

 

「うわっ、文字がいっぱい・・・・・・!!!!」

 

しかし、文字が多い上に、字が細かいのを見て、嫌そうな顔になる。しかも、この本には挿絵すら入っていない。

 

ひなたは辟易して本をすぐに棚へと戻した。そして、隣にある本を出してめくるが・・・・・・。

 

「これも文字がいっぱい・・・・・・!!!」

 

ひなたはすぐに本を閉じて、棚へと戻してしまった。

 

その後も本をいくつか取って広げるも、文字の多さに嫌になって閉じてしまい、自分がピンと来るような本はいつまで経っても見つからない。

 

「うわ〜ん、全然読めるような本が見つからないよ〜・・・!!」

 

ついにひなたはその場にしゃがみ込んで頭を抱えてしまう。

 

「元々、漫画しか読んでねぇしな・・・・・・」

 

ニャトランは部屋にいるひなたが漫画以外で本を読んだことがないことを思い返しながら言った。

 

「あぁ〜ん、どうしよぉ〜・・・・・・」

 

「だったらここじゃなくて、別の場所行って本を見つけようぜ!! きっとひなたにも読める本はあるはずニャ!!」

 

すっかりヘコんでいるひなたに、ニャトランは助け舟を出し、ここの小説以外の本を探そうと提案した。

 

「でも・・・そこでも見つかんなかったら・・・・・・」

 

「まだ見てないのに決めつけんニャ!! 行ってみなきゃわかんねぇだろ!?」

 

後先に悪い結果を考えてしまうひなた。ニャトランは励ますようにそう言った。

 

「・・・そうだね。行ってみよう」

 

ひなたは不安になりつつも、立ち上がって気を取り直し、自分が読める本を探そうとする。

 

別のジャンルが置いてあるコーナーの本棚に移動しようとしていると・・・・・・。

 

「??」

 

「どうした? ひなた」

 

ひなたは移動している最中に、足を止めて本棚を見つめていた。そこは子供が読むような絵本のコーナーであった。

 

「あっ・・・!」

 

ひなたは何かに気づくとその本の中から一冊を出して表紙を見る。

 

「これ懐かしい・・・!!」

 

「これがどうしたんだ?」

 

ひなたは顔を綻ばせながら見つめる本。その本のタイトルは『弱虫おばけと少女』という絵本であった。

 

「これ、昔大好きでね〜。小さい頃、パパに買ってもらって〜、飽きるくらいに読んでたんだ〜!」

 

ひなたは思入れのあるという絵本について語り始める。この絵本は、おばけが苦手な少女と人間が怖い弱虫おばけが友達になっていくという物語だ。ひなたは小さい頃、この絵本が大好きで夢中になるくらい読んでいたというのだ。

 

「へぇー、そうなんだな〜。面白いのか? これ」

 

「面白かったよ。お互いに勇気を出して、おばけと女の子が一緒に遊ぶところとか! もう友達と一緒に・・・・・・」

 

ひなたはさらに語ろうとして、その言葉を途中で止めてしまう。なぜなら、その友達との思い出が一切頭の中に浮かんで来なかったからだ。

 

「ひなた?」

 

「あれ? あたし、友達と・・・これ、読んだっけ・・・?」

 

不審に思ったニャトランが声をかける。ひなたは何かが引っかかっているようで、しかし、何かノイズが発生しているかのようにその友達の顔が思い浮かばない。

 

ひなたはもう一度、絵本をじっと見つめる。

 

ズキン!! ズキン!!

 

「うっ・・・・・・!!」

 

「ひなた! おい、ひなた!!」

 

なぜか頭痛を感じていて、表情を痛みに顰めていた。

 

ザザ・・・・・・ザザザ・・・・・・。

 

頭の中にひなたの小さい頃の映像が蘇るが、確かに友達と絵本を一緒に見ている。しかし、隣にいる子はノイズが走っていて、誰なのかを認識することができない。

 

やがて頭痛が治まって落ち着いた頃、ひなたは抑えていた頭を離すともう一度絵本を見つめる。

 

「ひなた!!!!」

 

「っ!! あ、ごめん・・・!!」

 

「どうしたんだよ・・・? 急に黙っちまって・・・」

 

「ううん、なんでもない。これちょっと持ってって、読んでみようかな・・・・・・」

 

ぼーっとしているひなたにニャトランが声をかけると、我に返ったひなたが言葉を返す。そしてもう一度本を見つめ、気になることができたひなたは持っていくことにした。

 

「そりゃいいんだけどさ・・・肝心な感想を書くための本はどうするんだ・・・?」

 

「あぁぁ!! それも選ばないと〜!!」

 

ひなたは急いで別のコーナーへと移動し、読書感想文のための本を何冊か選びに動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、図書館の外では・・・・・・。

 

「地球にはこんなデカい建物があるんですね。人間ってセンスないんでしょうかね?」

 

カユイザは大きな図書館の建物を見ながらそう酷評する。

 

「それでカスミーナ、プリキュアたちは確かにこの建物に入ったんですね?」

 

「・・・ああ、間違いない。ピンク色のウサギが入っていくのを見た」

 

カユイザは一緒に連れてきていたかすみに問うと、彼女はそう答えた。

 

「それは、ヒーリングアニマルですね。なるほど、ヒーリングガーデンから生き残ってたやつがいたんですね・・・・・・」

 

「・・・・・・ああ」

 

カユイザは顎に手を当てながら言うと、かすみは肯定する。ヒーリングガーデンのヒーリングアニマルどもはほとんど私が再起不能にしたはず、それでも逃れていたヒーリングアニマルたちがプリキュアのパートナーになった・・・・・・カユイザはそう考えていた。

 

「まあ、いいでしょう。カスミーナ、あなたには図書館の外で、メガビョーゲンを生み出しておいて、暴れさせてもらいます。それで外に出てきて、地球を蝕んでいることに気を取られているプリキュアを私が倒します、痛めつけて苦しめてね。うまくいけばすぐに終わります。すごい完璧な作戦だと思いませんか?」

 

「・・・・・・私にはわからないが、プリキュアだったらメガビョーゲンを発生したら外に出てくるはずだから、そいつらがプリキュアだってこともわかるはずだ」

 

嬉々した表情で語るカユイザに、かすみはさらなるアドバイスをする。

 

「・・・・・・人間にそんな力などあるのですか? メガビョーゲンの発生など、騒ぎがなければ気づかないのでは?」

 

「あいつらにはヒーリングガーデンの女王の娘がついている。地球を蝕もうとすれば、そいつが察して私たちの活動がバレバレになるということだ。つまりはプリキュアに気づかれるということ」

 

「・・・テアティーヌの娘、ですか。そのヒーリングアニマルも逃げ果せてたんですね」

 

カユイザは下等な人間にそんなことができることに疑問を抱いていたが、かすみがそう説明すると納得したように呟くも、その表情は不機嫌そうだった。

 

「まあ、でも、作戦は予定通り遂行します。私は図書館の建物、もしくは他の場所で自分のポジションにつきます。カスミーナも予定通り、囮になってくださいね」

 

「・・・・・・了解した」

 

不機嫌そうな表情を戻したカユイザは自分の能力なら問題はないと告げ、かすみにそう指示すると了解を取った彼女と別れる。

 

「さてと、どこで待ち構えていましょうかね?」

 

カユイザは不敵な笑みを浮かべながら、作戦遂行に最適な場所を探しにいく。

 

一方、かすみはメガビョーゲンにするための素体を探そうとしていた。

 

「・・・・・・なかなか素体にできそうなものがないな」

 

かすみはキョロキョロと辺りを見渡すものの、周りは図書館の建物以外には道や森しかなく、素体にできそうなうまいものが見当たらない。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

「これでも食らえ〜!!」

 

「やったなぁ〜!!」

 

「??」

 

かすみの耳に子供の声が聞こえてくる。何やら争っているようだが、声は妙に明るかった。

 

「何か、戦いが起こっているのか・・・・・・? 物騒だな・・・・・・」

 

戦いを起こしていると勝手に自己解釈をしつつも、かすみはその声を辿ってみる。やがて姿見えてくるとそこは図書館の外に併設された遊び場で、子供たちが水鉄砲を使って遊んでいるところであった。

 

「水を飛ばして・・・何をしているんだ・・・・・・?」

 

かすみは子供が銃から水を飛ばして掛け合っているようにしか見えない。本来ならこれは遊びなのだが、かすみはいまいち遊びだということをわかっていない。

 

ふとベンチの上を見ると、水を入れたままであろうウォーターガンが置いてあった。

 

「これも、水を発射するのか・・・?」

 

見たことのないウォーターガンに興味津々のかすみだったが、背後を向いてカユイザのことも気にし始める。

 

「・・・とりあえず、こいつで行ってみるか」

 

かすみは再度ウォーターガンを見つめた後、手のひらに息を吹きかけて黒い塊を出現させ、漂うそれを掴んで込めるように握ると、その手を突き出すように開く。

 

「進化しろ、ナノビョーゲン!」

 

「ナノー・・・・・・!」

 

生み出されたナノビョーゲンは鳴き声を上げながら、ウォーターガンに取り憑いていくのであった。

 

一方、図書館から数メートル離れた場所にはイタイノンの姿があった。

 

「はぁ・・・あいつの勝負に付き合わないといけないなんて面倒臭いの」

 

ため息と愚痴を吐きながらも、イタイノンは目の前にある建物を見つめている。そこには『すこやか発電所』と書かれている。

 

「はぁ・・・・・・」

 

イタイノンはもう一度ため息を吐くと、ゆっくりと歩きながら発電所に入ろうとする。

 

バチバチバチバチ!!! ドシャン!!!

 

発電所の扉を電気で浴びせて壊し、蹴り飛ばして倒す。建物の中へと侵入すると、よくわからない機械の類がたくさんあり、どれも機械音を立てて動いている。

 

そんな中、イタイノンが目をつけたのはいろんな菅が複雑に絡むように繋がっている大きなタンクのような機械、発電機であった。

 

「・・・キヒヒ♪ これなら広範囲を蝕めそうなの」

 

発電機を見た途端に、何やら今までに見たことのない生き生きした感じを感じ取ると、イタイノンは不敵な笑みを浮かべた。

 

「・・・・・・まあ、あいつとの勝負はついでぐらいに思っておけばいいの」

 

カユイザが喧嘩を売ってきたわけだが、勝負ではなく仕事として割り切ってやろうと考える。

 

イタイノンは両袖を払うかのような動作をして黒い塊のようなものを出現させ、右手を突き出すように構える。

 

「進化するの、ナノビョーゲン」

 

「ナノナノ~」

 

生み出されたナノビョーゲンは鳴き声を上げながら、電気がたっぷり溜められているであろう発電機に取り憑いていくのであった。

 

一方、図書館にいるカユイザは・・・・・・。

 

「さてさて・・・・・・私のポジション取りはOKです」

 

カユイザは図書館の屋上へとやってきていて、辺りの景色を見渡していた。そして、入口から出てくるであろうプリキュアをここで痛めつけて、苦しめてやろうと位置情報の確認をする。

 

「まあ、あの正面の入り口から出たところを狙えばいいですね」

 

カユイザは正面の入り口から出てくるであろうプリキュアを待ち構えることにする。

 

「それにしても・・・・・・地球ってこんなに不愉快な場所だったんですね。ヒーリングガーデンにいすぎた弊害でしょうか」

 

カユイザはヒーリングガーデンで自身が行っていた仕事を思い出す。地球を蝕むことに興味のないカユイザはキングビョーゲンの襲撃に乗じて、ただ単にヒーリングアニマルを襲って痛めつけ、苦しむのを眺めていた。

 

わざと急所は当たらないように正確に攻撃を当て、逃げ惑うのを楽しむ。しかし、そんな矢先にキングビョーゲンはテアティーヌと相打ちになって力を失ってしまった。カユイザはそんなテアティーヌを痛めつけてやろうとヒエールと共に任務をしていたわけだが・・・・・・。

 

「テアティーヌ・・・・・・どこに逃げたんでしょうかね?」

 

カユイザは憎っくきヒーリングガーデンの女王を思い出しながら、その表情は不機嫌そうに顰められていた。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「うわあぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

そこへ悲鳴が上がったのが聞こえ、カユイザが見下ろしてみると人間たちが逃げ惑っているのが見えた。

 

「カスミーナ、おっ始めましたか。意外と早いですね」

 

カユイザはかすみが予想よりも早く動き始めたことに、感嘆を持って呟く。

 

「じゃあ、私もーーーー」

 

カユイザはそう呟くと図書館の正面入り口方面へと歩み、右手を開いて突き出すようにして構え始める。

 

「楽しい狩猟(かり)を始めましょうかね・・・・・・!」

 

プリキュアを狙う暗殺者は獲物を待ち構えながら、一人不敵な笑みを浮かべているのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第103話「水弾」

前回の続きです。
プリキュアとかすみが再び激突します。そして、一人離れているひなたは・・・?


 

ビョーゲンズが活動を開始する、数分前・・・・・・。

 

「もぉ〜! のどかは危なっかしいラビ!!」

 

「ごめんってば・・・!」

 

ラビリンは先ほどののどかの無茶振りを憤慨していて、のどかは謝りをしていた。

 

「でも、読む本はなんとか決められたよね」

 

「ラビリンも読みたい本がいっぱい見つかったラビ!!」

 

そう言うのどかの手元には持てるぐらいの数冊の本が抱えられている。その中には自分が読む本もそうだが、ラビリンの読みたい本も入っている。

 

「あれ? まだみんな来てないのかな?」

 

「きっとまだ決めてるラビ」

 

「じゃあ、待ってよっか」

 

のどかがみんなで確保した席へと戻ると、そこにはまだ誰もいなかった。まだみんなは本を探していると思った二人は座って待っていることにした。

 

そんな頃、ちゆとアスミは小説のジャンルのところで本を探していた。

 

「文字が多いですね・・・・・・」

 

「小説ってそういうものよ」

 

「それだけで読み手に伝わるものなのでしょうか?」

 

「じっくり読んでいけば、この小説を書いた人の思いを感じ取ることができるはずよ。文字だけで物語を表現するのはかなり難しいものなの」

 

小説を興味深そうに見ているアスミに、ちゆが説明してあげる。

 

「書き手の気持ち、知りたいですね。私もこれを読みたいと思います!」

 

「じゃあ、これにしましょうか。のどかたちも待っているでしょうから、そろそろ戻りましょう」

 

「読む前から熱い何かが、ジンジンと伝わって来ます・・・!!」

 

アスミが小説を選ぶと、すでに本を選び終えていたちゆが提案し戻ることにした。その間、アスミは早く読みたくてワクワクしていた。

 

「ひなた・・・ちゃんと決めてるのかしら・・・?」

 

ちゆはその一方で、本を一人で決めようとしているひなたを不安そうな表情をしていた。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

「クチュン!! クチュン!!」

 

「「っ・・・ラテ!!」」

 

アスミが連れていたラテが2回くしゃみをして体調を崩し始めた。これは言わずもがな、ビョーゲンズが現れた証だ。

 

二人はラテの異変に気付き、お互いに顔を合わせて頷くと確保した席へと戻る。

 

「あ、ちゆちゃんとアスミちゃんだ・・・??」

 

先に席で待っていたのどかは二人が戻って来たことに気づくが、二人の険しい表情に疑問を抱く。

 

「ビョーゲンズが現れました!!」

 

「「っ!!」」

 

のどかとラビリンはアスミの言葉にハッと目を見開くと険しい表情になる。三人は人目の付かない場所へと移動する。

 

ヒーリングルームバッグから聴診器を取り出してラテを診察、彼女の心の声を聞く。

 

(あっちの方で水が出るおもちゃが泣いてるラテ・・・あっちの方でビリビリな機械が泣いてるラテ・・・・・・)

 

「メガビョーゲンが2体現れたみたい・・・!!」

 

「水が出るおもちゃ・・・・・・水鉄砲ですか?」

 

「そしてもう一つは、この近くに発電所があったはず・・・そこが狙われたんじゃないかしら・・・!!」

 

ラテの声からのどかがそう考えると、アスミはそう推測し、この周辺をよく知っているちゆは狙われた場所を推測した。

 

「どうする・・・?」

 

「とりあえず、発電所だってわかっているところからーーーー」

 

2体メガビョーゲンが現れた以上、どうするのか。ちゆは発電所というわかっている場所から浄化しに行こうと提案しようとした、その直後だった・・・・・・。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「「「!!」」」

 

図書館の外で悲鳴が響き渡る。三人はそれに気付き、中でものどかは駆け出そうとするが・・・・・・。

 

「待って!! ひなたは一緒じゃないの・・・?」

 

「まだ本を探してると思う・・・ちゆちゃんたちとは一緒じゃなかったんだ・・・・・・」

 

ちゆが呼び止めてひなたが一緒にいないことを問うも、のどかは心配そうな表情で話した。

 

「ここで迷っていても仕方ありません!! ひなたもこの騒ぎでは気づいているでしょう! 行きましょう!!」

 

ひなたがいないことに迷うのどかとちゆをアスミは叱咤し、二人はそれに頷くと図書館の外へと駆け出す。

 

一方、図書館の外では・・・・・・。

 

「メガガガガガァ!!!!」

 

銃のような外見のメガビョーゲンが頭の上のガトリング砲のような先端を回しながら水の弾を発射し、辺りの草木や地面を濡らして病気に蝕んでいた。

 

「・・・・・・・・・」

 

かすみはその様子を険しい表情のまま黙って見つめていた。ふとクルシーナが付けてくれた髪飾りに触ってみる。

 

何かが仕掛けてあるのではないかと触って確かめてみるも、普通の髪飾りであること以外は特に変わったような感じはない。普通に両端を押すようにすると、取ることもできた。本当に普通の髪飾りのようだった。

 

(あいつ、私を制限するために渡したんじゃない・・・? じゃあ、普通にプレゼントのつもりで・・・? でも、一体どうしてなんだ・・・??)

 

かすみは嫌いであるはずのクルシーナのことを考え、その行動に内心戸惑っていた。何やらよくわからない感情が自分の中に渦巻く。

 

「っ、かすみちゃん!!」

 

「っ・・・・・・!」

 

と、そこへのどかたち三人が駆けつけ、メガビョーゲンと彼女の前に立ちはだかる。

 

「また来たか・・・プリキュア・・・・・・」

 

かすみは険しい表情を崩さないまま、プリキュアの方を振り返る。

 

「?? 今日は3人だけか?」

 

しかし、1人いないことに気づいてそれを指摘する。

 

「私たちだけでも、かすみさんを止めます!!」

 

「ええ!!」

 

「みんな、行くよ!!」

 

アスミはそれに強気な口調で返すと、のどかたちは変身アイテムを取り出す。

 

「「「スタート!」」」

 

「「「プリキュア、オペレーション!!」」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ラテ!!」

 

「「「キュアタッチ!!」」」

 

ラビリン、ペギタンがステッキの中に入ると、のどか、ちゆはそれぞれ花のエレメントボトル、水のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

アスミは風のエレメントボトルをラテの首輪にはめ込む。すると、オレンジ色になっているラテの額のハートマークが神々しく光る。

 

のどかとちゆは、肉球にタッチすると、花、水をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、水色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ちゆは水色へと変化する。

 

ラテとアスミは手を取り合うと、白い翼が舞い、ラテが舞ったかと思うとハートの中から白い白衣のようなものが飛び出す。

 

その白衣を身に纏い、ラテが降りてきたかと思うとハープが飛び出し、さらにアスミは紫色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

衣装にチェンジした後、ハープを手に取り、その音色を奏でる。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

「「時を経て繋がる、二つの風!」」

 

「キュアアース!!」

 

「ワン!」

 

アスミは風のプリキュア、キュアアースへと変身した。

 

「・・・・・・やれ、メガビョーゲン」

 

「メガァ!! メガガガガガガァ!!!!」

 

かすみは瞑目しながら指示を出すと、メガビョーゲンは頭の上の先端部分から赤い水の弾を発射する。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「メガァ・・・!!!!」

 

3人は飛び上がって避けると、アースは上空から蹴りを繰り出し、メガビョーゲンは頭の先端部分で受け止める。

 

「「やあぁぁぁぁぁ!!!」」

 

「ビョーゲン!?」

 

その隙をついてグレースとフォンテーヌが同時にスライディングを繰り出して、メガビョーゲンを前のめりに転倒させる。

 

「・・・・・・あいつに雇われている以上は仕事をしないとな」

 

かすみはその戦いの様子を見てそう呟くと、懐から暗い朱色のエレメントボトルを取り出して黒いステッキにはめ込み、その場から姿を消す。

 

キュン!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

フォンテーヌはメガビョーゲンが倒れている間に、ステッキの肉球を一回タッチしてメガビョーゲンに向ける。ペギタンの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを発見する。

 

「水のエレメントさんは、頭の上の先端部分にいるペエ!!」

 

フォンテーヌは今のうちに浄化の準備に入ろうとするが、その横からかすみが姿を現す。

 

パン!! パン!!

 

「ふっ!!!!」

 

かすみは二つの肉球を交互にタッチして、ステッキの後ろを手刀で叩き、黒い音の波動を放った。

 

「う、うぁぁぁぁ・・・・・・!!」

 

「うっ・・・こ、これは・・・!?」

 

「音のエレメントの・・・力・・・・・・!?」

 

プリキュア3人は音波攻撃に動きが止まってしまい、その不快音に表情を苦痛に歪ませる。

 

「メガァ〜!!!!」

 

その間にメガビョーゲンは起き上がってしまい、両腕の銃を機関銃のように照射する。

 

「「「あぁぁぁ!!」」」

 

高速で打ち出された水の弾が直撃して、3人は吹き飛ばされる。

 

「っ・・・・・・!!」

 

グレースは転がされるも、なんとか体勢を立て直すが、そこへかすみが目の前に現れる。

 

「はぁっ!!」

 

「ぐっ・・・!!」

 

かすみは空中で回し蹴りを繰り出し、グレースは苦しそうな表情をしながらも両腕でなんとか防ぎ、弾き飛ばす。

 

かすみは空中で翻して地面に着地すると、高速移動で一気にグレースへと迫る。

 

「ふっ!!!!」

 

「くっ・・・!!」

 

かすみはグレースに目掛けてパンチを繰り出し、グレースは間一髪で拳を手で受け止めた。

 

かすみは拳を押して後ろへと下がると、赤黒いオレンジ色のボトルをステッキにセットする。

 

「はぁっ!!!!」

 

ステッキを振るって雷を纏った黒い光線をグレースに目掛けて放つ。

 

「ぷにシールド!!」

 

グレースは肉球型のシールドを展開し、黒い光線を防いだ。

 

「っ・・・!!」

 

「はぁっ!!」

 

「やぁっ!!」

 

シールドを閉じるとそこにステッキに黒い刀身を生やしたかすみが突っ込んでくる。グレースはとっさに実りのエレメントボトルをセットしてステッキから刀身を生やして受け止めた。

 

「メガガガガガガガ!!!」

 

メガビョーゲンは頭部の先端部分から水の弾を高速で放つ。

 

「はぁっ!!」

 

フォンテーヌはぷにシールドを展開しながらメガビョーゲンへと駆け出していく。

 

その後ろからアースが飛び出し、地面を高速で動いて水の弾を掻い潜りながらメガビョーゲンへと迫る。

 

「メガァ!!」

 

「はぁっ!!」

 

「ビョーゲン!?」

 

メガビョーゲンは腕の銃を振るうも、抑止力にはならず呆気なくアースに蹴り上げられる。

 

「やぁぁぁぁっ!!」

 

「メガァ!?」

 

そして、アースが横へと逸れるとフォンテーヌがメガビョーゲンの腹部に蹴りを入れて数メートル吹き飛ばした。

 

「メガァ・・・メガァァァァ!!!!」

 

しかし、メガビョーゲンは倒れずに踏ん張り、とてつもない形相で頭部の先端部分を回転させて、6つの穴全てを光らせるとそこから強力な赤い水のようなビームを放った。

 

「ぷにシールド!!」

 

「ぐっ・・・うぅぅぅ・・・!!!」

 

フォンテーヌはとっさにぷにシールドを展開して防ぐも、ビームの勢いは強くフォンテーヌが押され始める。

 

「フォンテーヌ!!」

 

アースが押されそうになっているフォンテーヌの背後から体を支える。

 

「メェェェェェェェェェガァァァァァァァァァ!!!!!」

 

しかし、メガビョーゲンは叫び声と共に、さらにビームの放つ勢いを強くした。

 

「うっ、うぅぅぅぅぅ、きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

フォンテーヌは耐えしのごうとするも、ビームは徐々に推していき、最終的にぷにシールドを敢え無く突破し、フォンテーヌとアースに直撃した。

 

カキン!! カキン!! カキン!!

 

グレースとかすみの刀身がぶつかり合い、再びつばぜり合いになる。

 

「・・・・・・少しはいい動きをするようになったな」

 

「当然、だよ・・・かすみちゃんは、私たちが、止めるんだもん・・・!!」

 

かすみは余裕を持って淡々と呟き、対してグレースは少し苦しそうにしながらも強い口調で主張する。

 

「・・・・・・でも、あいつらはピンチみたいだけどな」

 

「え・・・・・・?」

 

かすみにその呟きに、グレースはふとフォンテーヌとアースの方をみる。

 

「メガガガガガガ!!!!」

 

メガビョーゲンは再び頭部の先端部分から水の弾を発射する。

 

「うっ・・・きゃあぁぁ!!!!」

 

「くっ・・・あぁぁぁ!!!!」

 

ダメージで動きが鈍ったのか、フォンテーヌとアースはかわそうとしても高速で打ち出される水の弾でダメージを受けてしまう。

 

「メガァァァァァ〜!!」

 

「「あぁぁぁぁぁっ!!!!」」

 

さらにメガビョーゲンは頭部の先端部分から水のビームを発射して攻撃を放ち、ダメージを与える。

 

「フォンテーヌ!! アース!!」

 

「・・・・・・よそ見してる場合か?」

 

「っ・・・・・・」

 

グレースが二人の戦いを心配するが、かすみがその間に徐々に押していく。

 

「っ、ふっ!!!!」

 

「あぁっ!!!!」

 

かすみが刀身を押し飛ばすと、袈裟懸けに一閃してグレースにダメージを与える。

 

「ふっ、はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「うっ、きゃあぁぁぁぁ!!!!」

 

かすみは一歩下がって勢いをつけると、グレースの懐に飛び込んで腹部に蹴りを加え、彼女を建物に叩きつけた。

 

「まともにはなったが、まだ弱いな・・・・・・」

 

「うっ・・・・・・」

 

かすみが険しい表情でそう呟き、グレースは腹部に痛みを感じながらも少しずつ立ち上がる。

 

「あ、諦めないよ・・・絶対にかすみちゃんを、止めるんだもん・・・!!!」

 

グレースはそう言うともう一つのエレメントボトルを取り出す。

 

「そうよ・・・・・・地球を、蝕ませたりしない・・・!!!!」

 

「友達の悪行を・・・許すわけにはいきませんからね・・・!!!!」

 

倒れ伏していたフォンテーヌとアースはなんとか立ち上がって、メガビョーゲンにステッキを構える。

 

「そんなことをして、傷つくのはお前たちだけだぞ・・・・・・?」

 

かすみも黒いステッキを構え、冷徹にそう告げる。

 

「かすみちゃんだって、こんなことしたくないんだよね・・・?」

 

「っ!!」

 

グレースが悲痛な思いで叫ぶと、かすみは驚きに目を見開く。

 

「ビョーゲンズの一員になってるのだって、きっと何か理由があるんだよね? だって、私たちと一緒にいたかすみちゃんが、人のためを思って行動していたかすみちゃんが、何の事情もなくこんな酷いことするわけないもん!! そうなんでしょ!? かすみちゃん!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

グレースの言葉に、かすみは顔を俯かせる。グレースの言う通り、自分はこんなことを望んでいるわけではない。しかし、自分はビョーゲンズである以上、クルシーナやダルイゼンたちを裏切ることはできない。さらに事情を話せば、のどかを危険に晒すことになる。

 

だから、彼女を苦しませるくらいなら・・・・・・クルシーナの期待を裏切るくらいなら・・・・・・!!

 

「・・・・・・だとしてもーーーー」

 

苦しむのは自分だけでいいと・・・・・・!!

 

「お前たちには、関係ない・・・!!!!」

 

かすみは怒りを混ぜながら叫ぶと、黒色の花のマークが描かれたボトルを取り出すとステッキにセットする。

 

「エレメントチャージ・・・!!!!」

 

パン!パン!パン!

 

かすみはステッキで逆さのハートの模様を空中に描き、肉球部分に3回タッチする。

 

「イルネスゲージ上昇・・・・・・!!!!」

 

ステッキのハートに黒い光が集まっていく。

 

「っ・・・!!」

 

「避けたら図書館に当たるラビ・・・!!」

 

「だったら、私も・・・!!!」

 

避ければ周り、いわば後ろに当たると考えたグレースは意を決して、花のエレメントボトルを取り出す。

 

「ビョーゲンズ! イルネスフラワー!!!!」

 

かすみはそう叫ぶながらステッキを向けると黒い花のエフェクトが出現し、そこから黒い光線が放たれた。光線は螺旋状になりながら一直線に向かっていく。

 

「エレメントチャージ!!」

 

キュン!キュン!キュン!

 

グレースは花のエレメントボトルをステッキにセットし、ハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「「ヒーリングゲージ上昇!!」」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングフラワー!!」

 

グレースはそう叫びながらステッキからピンク色の光線を放つ。光線は螺旋状になりながら、一直線に向かっていく。

 

かすみの放った黒い光線、グレースの放ったピンク色の光線、二つの光線がぶつかり押し合う。

 

「うぅぅぅぅ・・・・・・!!」

 

「っっっっ・・・!!!!」

 

お互いは苦しそうにしながら、光線を押しやろうとする。

 

「っ、ふぅぅぅぅぅ!!!!」

 

かすみはステッキをさらに前に出し、黒い光線の勢いを強くしていく。

 

「ぐっ、うぅぅぅぅぅ・・・!!!!」

 

「グレース!!」

 

「うっ・・・・・・!!!」

 

ピンク色の光線が押され始め、グレースは苦しい表情をし始め、ラビリンが心配して叫ぶ。

 

「私は、負けない・・・かすみちゃんを、しんらちゃんを・・・取り戻すまで、絶対に負けない・・・!!!!!!」

 

グレースは両手でしっかりとステッキを持って、思いの丈を叫ぶ。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

そして咆哮のような叫びをあげて、体に力を入れるとピンク色の光線が、黒い光線のそれ以上に大きくなる。

 

「っ!!??」

 

かすみがそれを見て驚愕に包まれる。彼女の黒い光線はグレースのピンク色の光線に飲み込まれていく。

 

「ぐっ、うぅぅ・・・うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

そして、ピンク色の光線は黒色の光線を完全に打ち消し、かすみに直撃して土煙を巻き上げた。そのまま土煙の中からかすみは吹き飛び、地面へと叩きつけられる。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「うっ・・・・・・」

 

グレースは荒い呼吸をしながら、倒れ伏すかすみを見つめる。かすみはダメージが大きかったのか、立ち上がることができなかった。

 

「グレース!! 早くメガビョーゲンを!!」

 

「はぁ・・・はぁ・・・うん・・・!!」

 

ラビリンに諭され、グレースは頷くともう一度かすみを見る。

 

「かすみちゃん、ごめんね・・・!!」

 

グレースは謝罪の言葉を残すと、倒れ伏すかすみを後にしてフォンテーヌとアースの援護へと向かう。

 

「くっ・・・・・・!!」

 

(そうだ・・・それでいいんだ・・・・・・)

 

かすみは顔を上げてグレースの背後を悔しそうに見ていたが、心の中ではグレースのその覚悟に安堵していた。

 

「はぁっ!!」

 

「ふっ!!」

 

フォンテーヌは雨のエレメントボトルをセットした水を纏った青い光線、アースは右手を振るって風をメガビョーゲンに向かって放つ。

 

「メ、ガ・・・!? メガァ!!! メッガァ!!!」

 

二つの攻撃は直撃するも、意外とタフなメガビョーゲンは耐え抜いて頭部の先端部分と両腕の銃のような先端部分から一斉に赤い水のような光線を放つ。

 

「「っ・・・!!」」

 

「ぷにシールド!!」

 

二人へと迫る光線を前に、グレースが前に出てぷにシールドを張って光線を防ぐ。

 

「うっ・・・・・・!!」

 

黒い煙が上がって威力を相殺しきれなかったのか、グレースが少し吹き飛ばされる。しかし、グレースは倒れないように踏ん張る。

 

「「グレース!!」」

 

「二人とも、行くよ!!」

 

グレースの言葉に、二人は頷くとメガビョーゲンを見据える。

 

「メガァ〜・・・・・・」

 

メガビョーゲンは再び先端部分から光線を放とうとしていた。

 

「氷のエレメント!!」

 

それをさせまいとフォンテーヌが氷のエレメントボトルをセットする。

 

「はぁっ!!!!」

 

「メガビョ・・・!?」

 

氷を纏った光線が頭部の先端部分に命中して氷漬けになり、メガビョーゲンはそこから光線を放つことができなくなった。

 

そこへアースが高速で飛び出していく。

 

「メガ!? メガガガガ!!」

 

それでも抵抗を続けるメガビョーゲンは両腕の銃のような部分から赤い水の弾を高速で放つ。

 

アースは高速で水の弾を避けつつ駆け出して行き、メガビョーゲンの懐に入る。

 

「メガ!? メガァ!!??」

 

近づかれたことで遠距離攻撃が不可能になったメガビョーゲンは焦ったかのように両腕を振り下ろすも、アースにあっさりと受け止められる。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」

 

「ビョーゲン!?」

 

そこへグレースとフォンテーヌが同時に飛び出して無防備になった体に飛び蹴りをお見舞いし、メガビョーゲンは背後へと倒された。

 

「よし!!」

 

「今のうちに浄化をーーーー」

 

グレースとフォンテーヌがそれぞれそう言った。その直後だった・・・・・・。

 

スパンッ!!!!

 

「がはぁっ・・・!?」

 

突然、フォンテーヌの体が胸を突き出るようにして少し吹き飛ぶ。フォンテーヌの口から空気を吐くような声が鳴ると同時に、彼女の体は地面に倒れ伏した。

 

「「フォンテーヌ!!」」

 

「うっ・・・・・・!」

 

突然倒れたフォンテーヌに二人は駆け寄るが、フォンテーヌは倒れ伏したまま動かず、痛みに呻き声を上げている。

 

「フォンテーヌ!! どうしたの!?」

 

「今のはもう一体のメガビョーゲンの仕業ラビ・・・!?」

 

グレースはフォンテーヌの体を起こそうと揺さぶり、ラビリンは何かがわかっていないまま、メガビョーゲンがやったのではないかと推測する。

 

「わかりません。でも、目の前のメガビョーゲンではなく、別の方向から何かが来たようにも感じました」

 

「い、一体、何が起こったペエ・・・?」

 

アースもよくわかっていないまでも、冷静にメガビョーゲンがやった攻撃ではないと考え、ペギタンは突然の出来事に戸惑いを隠せない。

 

「メガ・・・メガァ・・・!!」

 

動揺している間にメガビョーゲンは再び起き上がろうとしていた。

 

「っ、今は目の前の敵を浄化しましょう!」

 

アースはそう言うと両手を祈るように合わせる。一枚の紫色の羽が舞い降り、ハープのような武器へと姿を変える。

 

「アースウィンディハープ!!」

 

そう呼ばれたハープに、風のエレメントボトルがセットされる。

 

「エレメントチャージ!!」

 

アースはハープを手に取って、そう叫ぶとハープの弦を鳴らして音を奏でる。

 

「舞い上がれ! 癒しの風!!」

 

手を上に掲げると彼女の周りに紫色の風が集まり始め、ハープへとその力が集まっていく。

 

「プリキュア! ヒーリング・ハリケーン!!!」

 

アースはハープを上に掲げてから、それを振り下ろすとハープから無数の白い羽を纏った薄紫色の竜巻のようなエネルギーが放たれる。

 

そのエネルギーは一直線にメガビョーゲンへと向かい、直撃する。

 

竜巻のようなエネルギーはメガビョーゲンの中で二つの手へと変化し、水のエレメントさんを優しく包み込む。

 

メガビョーゲンをハート状に貫きながら、光線はエレメントさんを外に出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていく。

 

「お大事に」

 

水のエレメントさんが宿っていたウォーターガンの中へと戻っていくと、蝕まれた場所は元に戻っていく。

 

「・・・・・・それでいい、それでこそプリキュアだ」

 

ダメージが回復して立ち上がったかすみは、メガビョーゲンを浄化したプリキュアを見てそう評した。

 

「カユイザのやつ、動くのが遅いぞ・・・!!」

 

かすみはフォンテーヌへと攻撃が飛んできた方向へ険しい表情を向けてそう言うと、その場から姿を消した。

 

「フォンテーヌ!!」

 

アースはメガビョーゲンの消滅を確認した後、二人に駆け寄る。フォンテーヌはグレースに肩を貸してもらい、一緒に立ち上がった。

 

「うっ・・・・・・!!」

 

「フォンテーヌ、大丈夫ペエ・・・!?」

 

「だ、大、丈夫・・・・・・」

 

ペギタンが心配の声をかけると、フォンテーヌは激痛に顰めながらも、なんとか言葉を紡ぐ。

 

「フォンテーヌを襲った攻撃・・・どこから来たラビ・・・?」

 

「わからない・・・でも・・・近くじゃないのは確かだよね?」

 

ラビリンは疑問を抱く中、グレースは話しながらフォンテーヌを木へと寄りかからせた。

 

その時だった・・・・・・。

 

スパンッ!!!!

 

「っ!? うぁぁぁぁ!!!!」

 

空気がぶつかったような音が聞こえるとグレースはなぜか悲鳴を上げ、左腕を抑え始める。

 

「グレース!?」

 

「グレース!! どうしたのですか!?」

 

ラビリンとアースが突然の声に動揺の声をあげる。アースが駆け寄って、グレースの抑えている左腕をみると痣ができていた。

 

「うっ・・・な、何か・・・何かが当たって・・・!!」

 

「何かが当たった・・・?」

 

苦痛に顰めながら言うグレースに、アースが引っかかるような言葉を呟くように言う。

 

スパンッ!!!!

 

「っ!? あぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

また空気がぶつかったような音が鳴ると、今度はフォンテーヌから絶叫が上がった。

 

「フォンテーヌ!!」

 

「あぁっ・・・あ、足が・・・・・・!!」

 

フォンテーヌは苦痛に表情を歪ませながら、太ももを両手で抑えていた。

 

「一体、どこから・・・・・・っ!?」

 

アースは周囲を見渡しながら犯人を探そうとするが、わずかに空気が鳴った音を耳に入れるとフォンテーヌの前に出る。

 

「はぁっ!!!!」

 

アースはその場で回し蹴りを繰り出す。

 

「アース! どうしたラビ!?」

 

「誰かが攻撃を仕掛けてきているようです。何かを蹴り飛ばしました」

 

異変に思うラビリンがそう言うとアースは話しながら周囲を警戒し、攻撃の構えを取る。

 

「っ!! はぁっ!!!!」

 

アースはわずかな空気の音を聞き取ると蹴りを繰り出す。やはり何かが足にあたり、それを蹴り飛ばした。

 

スパンッ!!!!

 

「あぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「「アース!!!」」

 

しかし、回し蹴りの後の隙を狙ったかのように見えない何かがアースの肩に直撃し、後ろへと少し吹き飛んで地面へと倒れる。

 

その様子を見たグレースとフォンテーヌが叫び声を上げた。

 

一方、そのプリキュアたちを狙った犯人は・・・・・・。

 

「ふむ・・・・・・あの紫のプリキュア、私の攻撃に感づいてますね。っていうか、古のプリキュアにそっくりですね。まあ、抹殺対象には変わりありません」

 

カユイザは今、誰もいない図書館の中で右手を突き出すように構え、こちらから見えているプリキュアを狙う。

 

「私の攻撃は空気を圧縮したものを銃の弾のように高速で打ち出します。弾は小さい上に、音はほとんど無音です。なので、相手にも気取られずに敵を仕留められるわけです」

 

一人説明しながらプリキュアたちに狙いを定めるカユイザ。すでにメガビョーゲンの戦いに気を取られている間にフォンテーヌを撃ち抜いて倒しており、浄化された後もグレースにダメージを与え、フォンテーヌを痛めつけるために撃ち抜いている。

 

「・・・それなのに、あの古のプリキュアは何かに気づいています。見るからして、風の力を使うプリキュアで、わずかな小さな音で見極めていますね。しかし、こちらの場所もわからないようでは、私の敵ではありません」

 

アースはどうやら空気の弾を気づいているようだが、こちらの撃つ間隔を狭めた発砲には気づいておらず、三発目でようやくアースを撃ち抜くことに成功している。

 

「イタイノン・・・勝負は貰いましたよぉ〜・・・??」

 

敵を痛めつけることに悦びを覚える暗殺者は嬉々した表情で、プリキュアに目掛けて弾を撃ち放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

のどかたちがビョーゲンズに気づいて向かった数分前・・・・・・図書館の中にいたひなたは・・・・・・。

 

「うぇ!? な、何!?」

 

「なんだなんだ!?」

 

図書館の外から騒がしい音が響き、何事かと驚くひなたとニャトラン。

 

「も、もしかしてビョーゲンズが!?」

 

「そうかもしれないニャ!!」

 

ひなたはこれまでの経験からしてビョーゲンズが暴れているのだろうと推測する。しかし・・・・・・。

 

「えっと・・・・・・出口、どこだっけ・・・?」

 

「ニャニャ!? あっちじゃねぇのか!?」

 

「わかんな〜い!! この図書館、広いんだも〜ん!! 同じとこばっかでどこから出たのかわかんないよ〜!!!!」

 

ひなたは図書館のあまりの広さに自分が戻ってきた場所がわからない。というよりも、ひなたが忘れっぽさが原因で、彼女は元来た道を忘れてしまったということもあったのだ。

 

「どっち〜!?」

 

「俺が先導してやるから、ついてくるニャ!!」

 

不安になりつつあるひなたを、ニャトランが先に行くことで出口へと向かうことに。

 

「お〜い・・・・・・これマジでわかんねぇぞ・・・!」

 

「うぇぇぇ〜!? ニャトラン、何とかしてよ〜!!!!」

 

「わかってるって!! 今、どうにか探してるニャ!!」

 

ニャトランが愚痴を漏らすと、弱気なひなたはすぐに訴え始めたため、ニャトランは若干苛立ちながらもそう制した。

 

「おぉ!? 出入り口、あったぞ!!」

 

「本当!?」

 

なんとか出入り口を見つけたニャトランとひなたはそこから建物の外に出るのだが・・・・・・。

 

「・・・ここ、どこだ?」

 

「こんなところから入ったことないよ・・・・・・?」

 

しかし、そこは別の出入口だったようで、森ばかりの全く違う風景が広がっていた。

 

「もぉ〜!! ニャトラン、ちゃんと探してよ〜!!!!」

 

「ったく、文句ばっかりだなぁ〜!!」

 

ひなたが涙目になりながら文句を言って来たため、ニャトランは少し呆れ気味になって来ていた。

 

建物の中に戻ろうと思った、その時だった・・・・・・。

 

ズキン!! ズキン!!

 

「・・・っ!?」

 

森を見つめていたひなたは突然、頭痛がし始めた。頭を抑えるほどではないが、少し顔を顰めるくらいにズキズキと痛んだ。

 

「ひなた・・・・・・?」

 

「なんだろう・・・ここっぽい場所に、来たことある・・・・・・?」

 

不審に思うニャトランに対し、ひなたは森を見つめながらそう呟く。

 

ズキン!! ズキン!! ズキン!!

 

「うっ・・・!!」

 

「お、おい!! どうしたんだよ!? ひなた!!」

 

今度は我慢ができないぐらいの頭痛がひなたを襲う。ニャトランが心配そうにする中、ひなたの頭の中にある映像が甦る。

 

『私が見てくるから、お前はここで待ってるの』

 

『で、でも、こんな中入ったら危ないよぉ・・・危険だよぉ・・・・・・』

 

『怖いならここにいるの。大丈夫なの。必ず、お前の落としたリボンを探してくるの』

 

幼少期だった頃の自分・・・・・・姿はノイズがかかっていたが、その人物が森に向かおうとしてひなたが引き止めるも、心配するなと言わんばかりにそう言うと人物は森の中へと入っていく。

 

『うっ・・・うっ・・・!』

 

『ーーーー!! 大丈夫!? しっかりしてよぉ・・・!!!』

 

『うっ・・・お前の、大事な・・・うっ・・・!!』

 

『あぁ・・・どうしよう!! どうしよう!!!!』

 

『落ち着くの・・・バカ!! 冷静に、なって・・・ママも・・・呼べ、なの・・・・・・!』

 

『そ、そうだよ・・・お姉やお兄、パパを呼ばないと・・・・・・!!』

 

いつまで経っても戻って来ず、ひなたが中に入ってみるとそこには倒れているその人物の姿が。探し物は見つかったようだが、その人物は調子を悪くし、ひなたが泣きそうになると、冷静に諭してひなたを向かわせたのだった。

 

やはりここでも、人物にはノイズがかかっていて見ることはできなかった。

 

頭痛が治るとひなたは頭を抑えていた手を離すと、再び森の奥を見つめる。

 

「ダ・・・ダメだ・・・! 中に行って、助けに行かないと・・・!!」

 

「助けるって誰をだよ・・・!?」

 

ひなたが朧げに突然わからないことを言い出して、ニャトランは問いかける。しかし、ひなたはニャトランの問いかけには答えず、森の奥へと走っていく。

 

「あ、おい!! 待てよ、ひなた!!!!」

 

ニャトランは叫びながら、何かに導かれるように走っていくひなたの後をついていくのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第104話「記憶」

前回の続きです。
森の中へ一人向かっていったひなた。そこで見たものは・・・?


 

「ひなた!! どこにいくんだよ!?」

 

「こっちに・・・こっちに、何かいる気がするの・・・!!!!」

 

頭痛で何かの映像が甦ったひなたは他に何かを思い出せると思い、何かがいるんだと思い、森の中をひたすらに走っていた。

 

自身が失われている記憶があると察したひなたは先ほどから図書館の絵本を持って行ったりもしていた。幼い頃に友人と読んでいたはずなのに、思い出せない。だから、持っていけば思い出せるかもしれないと、そう感じたのだ。

 

さらにビョーゲンズを追うために図書館の中を彷徨い、違う入り口を出てしまった。しかし、ここでもこの森っぽい場所を見て、過去の記憶の映像が甦った。

 

だから、この先を行けば・・・・・・何かを思い出せるような気がする・・・・・・。

 

そんな思いを胸に、ひなたは森の中を駆け出していく。

 

「っ・・・!!」

 

やがて、明るく開けた場所が見えてくる。あそこに何かがあると思い、ひなたはそれを信じて駆けていく。

 

そして、光の中を抜けていく・・・・・・。

 

「・・・・・・っ!?」

 

「うぉ!? 結構蝕まれてるぞ!! この辺!!」

 

「うぇ!? この辺にメガビョーゲンがいるってこと!?」

 

その出た先には発電所があり、その建物が赤い靄に侵されているのが見えた。

 

「っ、おい!! あそこ見ろ!!」

 

「? っ、イタイノン!!」

 

ニャトランが見つけた先には、イタイノンと発電機のような頭にロボットのようなボディをしたメガビョーゲンがいた。

 

「メッガメガァ!!!」

 

メガビョーゲンは頭についている2本のアンテナのようなものから電気を放って痺れさせながら、病気で蝕んでいく。

 

「っ、ちょっと!!」

 

「? なんだ、お前なの」

 

ひなたは駆け寄ってイタイノンに怒鳴ると、彼女は振り返ってそう言った。

 

「また何てことしてくれてんの!?」

 

「・・・・・・相変わらず、うるさいやつなの」

 

ひなたの咎めるかのような声に、イタイノンは不快感を露わにする。

 

「メガメガァ!!」

 

その間にメガビョーゲンは電気を放って病気に蝕んでいく。

 

「ニャトラン! 行くよ!!」

 

「ちょっと待てよ!! のどかたちをここに連れて来た方がいいって!!」

 

「で、でも・・・・・・そんなことをしている間に、この場所が・・・・・・!!」

 

ひなたはステッキを構えて変身をしようとするが、ニャトランが制止する。ここはグレースたちも連れて来て共に戦った方がいいと、そう提案したのだ。

 

そうしている間にこの辺一帯が病気で取り返しのつかないことになると思い込んだひなたは戦おうとしたが、以前ゆめポートで一人立ち向かってボコボコにされた過去を思い出して震える。

 

「そ、そうだね・・・・・・のどかっちたちを連れてこなきゃ・・・!!」

 

ひなたはそう思いながら今来た場所を引き返そうとしたが・・・・・・。

 

「メッガメガ!!」

 

「っ・・・・・・!!」

 

逃がさないと言わんばかりに、メガビョーゲンはひなたが逃げようとしている方向に電気を放ち、ひなたは動きを止めてしまう。

 

「何をする気か知らないけど、余計なことはさせないの・・・!!」

 

イタイノンがこちらを険しい表情で見つめていた。

 

「うっ・・・・・・!!」

 

「っ、仕方ねぇ・・・やるしかねぇよ!!」

 

「うん!!」

 

この場を離れさせてくれないと見た二人はなんとか自分たちでやり遂げようとする。

 

「スタート!」

 

「プリキュア、オペレーション!!」

 

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

 

「キュアタッチ!!」

 

ニャトランがステッキの中に入ると、ひなたは光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

ひなたは、肉球にタッチすると、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまとい、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もイメージをしたようなものへと変わり、黄色へと変化する。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「メッガメガメガ!!!」

 

スパークルの蹴りと、メガビョーゲンのロボットハンドのような手がぶつかり合う。

 

「メガメガメガァ!!!」

 

「っ・・・!!」

 

メガビョーゲンはそこへ頭部のアンテナから電気を放ち、スパークルは前に転がって避ける。

 

「やぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「メガァ・・・!? メガ、メガ・・・!!」

 

スパークルは素早く動いて、メガビョーゲンの腹部に蹴りを入れてよろけさせる。

 

「少しはやるみたいなの・・・・・・」

 

イタイノンはその様子を無表情で見つめる。

 

「メッガメッガァ〜!!!」

 

メガビョーゲンは頭部のアンテナから電撃を上空に目掛けて放つ。すると、スパークルの上から雷のように降り注ぎ始めた。

 

「うぇ!? うぁ!? うわぁぁぁぁ!?」

 

スパークルは悲鳴を上げながら、雷を間一髪で避けていく。

 

「〜〜〜っ、こっちも〜!!!!」

 

あんまりな不意打ち攻撃に怒ったスパークルは火のエレメントボトルを取り出す。

 

「火のエレメント!! はぁっ!!」

 

スパークルはステッキにボトルをセットして、火を纏った黄色い光線を放つ。

 

「メッガメガ!!」

 

メガビョーゲンは頭部のアンテナから電撃を放って光線を相殺する。

 

「ふっ!! やぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

スパークルはその隙に木へ飛んで蹴って勢いをつけると、そのままメガビョーゲンの顔面にパンチを食らわせて押し倒す。

 

「・・・・・・あいつに手こずってる場合じゃないの」

 

イタイノンはそう呟くとその場から姿を消す。

 

キュン!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

スパークルはステッキの肉球を一回タッチしてメガビョーゲンに向ける。ニャトランの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを見つける。

 

「雷のエレメントさんだ!!」

 

エレメントさんは右肩にいる。スパークルはそれを確認して浄化しようとエレメントボトルを取り出そうとしたが・・・・・・。

 

「っ、あぁぁ!?」

 

いつの間にかそばに移動していたイタイノンが肩を蹴って、横に突き飛ばす。

 

「相変わらず、私に対しては鈍いやつなの」

 

イタイノンは無表情のまま淡々とした様子で話した。そして、電気を纏わせてスパークルへと飛び出していく。

 

「っ・・・!!」

 

スパークルは体勢を立て直して着地するも、そこへイタイノンが電気を纏わせた手を叩きつける。スパークルはとっさに飛び退いて避ける。

 

「・・・・・・・・・」

 

「っ・・・やぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

間髪入れずにイタイノンはスパークルへと飛んでパンチを食らわせようとし、スパークルも負けじと拳を繰り出し、二つの拳がぶつかり合う。

 

それからスパークルとイタイノンは拳や蹴りを出し合い、防ぎ合いの応酬が続く。

 

「なんで、こんな、酷いこと、すんの!? 毎回、毎回・・・!!!!」

 

「私は、一人になりたいだけなの。自分の場所を作りたいだけなの。それをお前たちプリキュアに邪魔されることが、腹立たしくてしょうがないの・・・・・・!!!!」

 

「そのせいでみんなが苦しんで、迷惑を被ってるってわかんないの!?」

 

「誰かがどうなろうと関係ないの!!!! 私以外の奴らなんか、一生苦しんでればいいの!!!!」

 

スパークルとイタイノンはラッシュを繰り広げながら言い合いを繰り返す。

 

「なんでよ!! あんたはクルシーナと同じで、元々人間じゃないの!!??」

 

「っ、黙れなの!!!!」

 

ひなたのこの反論に怒りを大きくしたイタイノンが拳をスパークルの腹部へと叩き込む。

 

「うっ・・・きゃあぁぁ!!」

 

スパークルは吹き飛ばされて地面に転がり、その表紙に一冊の本が落ちた。それはひなたが図書館で探していた懐かしいとされる絵本『弱虫おばけと少女』だった。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・??」

 

イタイノンは息を荒くしていたが、落ちた絵本に気づくとそれに近づいていく。

 

「これは、何?なの」

 

「あぁ!? それは・・・!!」

 

イタイノンが本を拾い上げると、スパークルは取り返そうとするかのように手を伸ばす。

 

「お前、こんな幼稚なものが好きなの? 全くもって笑えてくるの」

 

「っ!? やめて!!」

 

イタイノンはあざ笑うかのように言うと電気を持っている手に帯電させる。スパークルは彼女が本を灰にしようと考えたのか、悲痛な声で叫び出す。

 

「ふん、お前の言うことなんか誰がーーーー」

 

ズキン!!

 

「っ!?」

 

電気で絵本を灰にしようとしたイタイノンだが、突然頭に痛みが走る。これは顔を顰めるくらいの頭痛だった。目を見開いた彼女は絵本を見つめる。

 

ズキン!! ズキンズキン!!

 

「っ!! あっ・・・あぁ・・・!!」

 

すると、イタイノンが頭を抑え出して苦しみ始める。今度はハンマーで叩かれたかのような耐えきれない痛み。

 

『ねえ、この絵本のおばけとこの娘、らむっちとあたしの関係だよね!』

 

『どこがなの。どっちもどっちで全然似てないの』

 

『えぇぇぇ、似てるよぉ〜。この怖がりながらも友達になろうとしている娘、らむっちじゃん!』

 

『どっちかと言えばひなたなの。弱虫なこのおばけとダブルパンチなの』

 

『それって、あたしが弱虫で、怖がりってこと!? ひど〜い!!!』

 

「っ!? うっ・・・うぅぅぅ・・・!!!」

 

イタイノンの頭に映像がフラッシュバックしハッとするも、再び苦しみの声をあげる。

 

「え・・・な、何・・・?」

 

「どうなってんだ・・・?」

 

その様子を見つめるスパークルとニャトランは戸惑いの声をあげる。

 

「うぅぅ・・・うぁぁっ・・・あぁぁぁぁ!!!!」

 

イタイノンは頭痛に苦しめられながら、その元凶とも言える本を捨てるように放り投げた。

 

「メッガメガ!!」

 

その先には赤く蝕む行為を続けているメガビョーゲンの姿が。そして、メガビョーゲンがそこに電気を放とうとして・・・・・・。

 

「っ!? ダメー!!!!!!」

 

スパークルはとっさに起き上がって飛び出し、絵本を掴み守るように体の中に抱え込む。そこへメガビョーゲンの雷撃が迫る。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

 

雷撃がスパークルに直撃して感電し、スパークルが絶叫をあげる。

 

「メガメガァ!!」

 

「うぁぁぁぁぁ!!!!」

 

メガビョーゲンが邪魔だと言わんばかりに、ロボットハンドのような腕を振るってスパークルを吹き飛ばす。

 

「がはっ・・・!!」

 

スパークルは発電所の壁に叩きつけられ、後頭部を強打してしまう。

 

ザザ・・・ザザザ・・・ザザザザザザ・・・・・・。

 

電気を浴びたことなのか、頭をぶつけたことなのか、そのショックでスパークルの頭の中に先ほどの映像が甦る。

 

(あれ? この記憶って・・・・・・)

 

それはスパークルにとっては見たことのある光景だった。それは先ほども見た絵本を一緒に読んだという記憶であった。

 

そのひなたの隣で話している人物のノイズが晴れていく。

 

(??・・・あの娘の姿が出てきて・・・!?)

 

スパークルはその少女の顔を見たときに驚愕した。なんとその人物の顔は・・・・・・イタイノンそっくりだったからだ。

 

(う、嘘・・・?? あの娘って・・・!?)

 

スパークルが呆然と映像を見ていた、その直後・・・・・・。

 

「あぁ!? うっ・・・・・・」

 

「ひなた!! 大丈夫か!?」

 

現実に戻されたスパークルは地面に叩きつけられ呻き声を漏らす。ニャトランの心配する声が聞こえる中、スパークルは体を起こそうとしていた。

 

「だい、じょうぶ・・・!」

 

スパークルはなんとか声を絞り出す。そして、先ほどの映像を思い出していた。

 

(あたし・・・・・・何か、忘れてる・・・・・・?)

 

スパークルが改めて自身の記憶を思い返し、それに違和感を感じ始めた。

 

「うっ・・・・・・!!!」

 

その時、スパークルの胸ぐらが掴まれて持ち上げられる。スパークルが苦しみながらも正体を確かめると、そこには頭痛で頭を抑えながらこちらを怒りの形相で見ているイタイノンだった。

 

「っ・・・お前は、誰なの・・・!? 痛い・・・痛いの・・・!! 頭が痛くて・・・ズキズキして・・・そしたらお前が出てくるの・・・!!!! お前は、何、なの・・・私のことを、知ってるの・・・!!??」

 

「ぐっ・・・うぅぅぅぅ・・・!!!!」

 

イタイノンは痛みに顰めながらも、スパークルをさらに持ち上げて問い詰める。掴まれていることによって首が締まり、スパークルはさらに苦しむ。

 

「っ・・・答えろ・・・なの・・・!!! お前は、私の・・・何なの・・・!!??」

 

「うぁぁ・・・あぁぁぁ・・・!!」

 

イタイノンはさらに腕に力を入れてひねるように動かし、それによってさらに首が締まっていき、スパークルは呼吸が困難になって遂には足をバタバタと動かしながら苦しみ始める。

 

「スパークル!! おいやめろよぉ!!!」

 

「っ・・・・・・」

 

「あっ・・・あ、あっ・・・かはっ・・・」

 

ニャトランがそう訴えるも、イタイノンはスパークルを睨んだままその手を止めようとしない。イタイノンはよくわかっていない頭痛、スパークルは絞め上げられ、二人はお互いのことで苦しんでいる。

 

「メッガメガ、メガァ!!!」

 

「っ!?」

 

そんな時、メガビョーゲンの声が聞こえてイタイノンは我に返る。

 

「この程度で・・・負けるわけにはいかない、の・・・!!!!」

 

「きゃあぁぁ!!!!」

 

イタイノンは侵略活動を続けるメガビョーゲンを見てそう声を絞りながら、掴んでいたスパークルを投げ捨てるように放る。

 

「げほげほげほ!! かはっ!! はぁ、はぁ、はぁ・・・!!」

 

「スパークル!!!!」

 

地面に叩きつけられたスパークルは喉を抑えながら咳き込み、息を整える。

 

「ま・・・ま、って・・・!!」

 

「っ!!」

 

よろよろとフラつかせながらメガビョーゲンの方に向かおうとするイタイノンに、スパークルは酸欠で体をよろけさせながらも背後からタックルするように捕まえる。

 

「スパークル!?」

 

「あんたも、知ってるの・・・? あたしの、こと・・・・・・」

 

「っ・・・・・・!!」

 

「あたしにも、出てくるんだ・・・アンタが・・・・・・」

 

「っ!!??」

 

突然の行動にニャトランが動揺する中、スパークルは声を絞り出して呟くように言う。自身の頭の中にイタイノンが現れると、正確にはイタイノンそっくりの女の子が出てくると。

 

それを聞いたイタイノンは頭痛も忘れて目を見開く。やはり、こいつは自分を知っていると・・・・・・。

 

「っ、うぅぅぅぅ・・・痛い、痛いぃ・・・!!!!」

 

「!? あぁぁぁぁぁ!!!!」

 

その瞬間、またイタイノンを頭痛が襲った。イタイノンは痛みを誤魔化そうとするかのように体から電気を放電し、スパークルはそれに吹き飛ばされてしまう。

 

「うっ・・・・・・」

 

スパークルは地面に転がりながらも、震える体を必死に立ち上がらせる。

 

「うぅぅぅぅ・・・痛いぃぃ・・・痛いのぉぉぉ・・・・・・!!!!!」

 

イタイノンは頭を両手で抑えながら苦しみ、バチバチバチと放電を繰り返す。そのせいで周囲の木々が焼き切れ、それが発電所の壁に直撃して壊れようとしていた。

 

「っ・・・と、止めなきゃ・・・・・・!!」

 

このままでは周りが被害に遭ってしまうと考えたスパークルは体の痛みを我慢しながら空中に飛び上がる。

 

「やぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

バチバチバチバチバチ!!!!

 

「っ、あぁぁぁ!!!」

 

イタイノンに目掛けて蹴りを加えようとしたが、放電する雷に当たってしまい、地面へと落下する。

 

「うっ・・・これじゃあ、近づけない・・・・・・!」

 

「どうする・・・・・・?」

 

イタイノンが電気を放出し続けるせいで近づくことができず、ニャトランの言葉でスパークルは考える。

 

イタイノンは頭を抑え始めた時に、電気を放出していたはず・・・・・・だから、あの電気を全て放電させれば頭痛は治まるのでは・・・・・・。

 

スパークルは意を決してもう一度イタイノンへと駆け出す。

 

「ぐっ・・・ぐぅぅぅぅぅ・・・・・・!!!!」

 

イタイノンの雷がスパークルへと向かうも、彼女は雷を避けてイタイノンへと近づいていく。

 

「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

スパークルは飛び込むようにして迫り、イタイノンを抱きしめた。

 

「ぐっ!? う、うぅぅぅぅぅぅ・・・・・・!!!」

 

「っ!! な、何をする、の・・・?」

 

スパークルは自身に流れてくる電気に激痛を覚えつつも耐えようとする。それにイタイノンは驚いて戸惑いの声をあげる。

 

「はな、せ・・・! 離せなの・・・!!!!」

 

「ぐっ・・・いや、だ・・・はなさ、ない・・・はなさないん・・・だから・・・・・・!!!!」

 

人が嫌いなイタイノンに耐えられるものではなく、スパークルを振りほどこうとする。しかし、スパークルは激痛に顰めながらもイタイノンを離そうとしない。

 

「離せぇぇぇ・・・・・・!!!!!」

 

バチバチバチバチバチバチバチ・・・ビィィィィィィィィィィ!!!!!!

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

イタイノンはそれに怒り、電気の柱ができるぐらいの放電を放たれる。スパークルは耐えきれずに絶叫をあげた。

 

しかし、その手は離れるどころかむしろ強く掴もうとしていた。

 

「ぐっ、うぅぅぅ・・・・・・!!!!」

 

「スパークル!! 無茶すんなよ!!!」

 

「っ、はな、さない・・・ぜったいに、はなさないんだから・・・・・・!!!!」

 

ニャトランの制止も聞かずに、スパークルはイタイノンをしっかりと掴んでいた。

 

「いい加減、離すの・・・!!!!!!」

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

イタイノンがさらに放電を強く放つと、スパークルからさらに絶叫が響く。

 

そして・・・・・・・・・・・・。

 

ドカァァァァァァァァァァァァン!!!!!!

 

電気の柱がさらに太くなると大爆発したような音が響き渡り、黒い煙が舞い上がった。

 

黒い煙が晴れてくると、そこには巨大な大穴が空いており、そこにスパークルとイタイノンの姿が消えていたのであった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スパークルとイタイノンが交戦する数分前・・・・・・。

 

スパン!!! スパン!!!!

 

「うっ!! あぁぁぁ!!!」

 

遠くから狙ってくる謎の襲撃者に、周りを伺っていたアースは左肩と横っ腹に見えない攻撃が命中し、吹き飛ばされてしまう。

 

「「アース!!!」」

 

「っ・・・・・・!!」

 

吹き飛ぶアースを心配するグレースとフォンテーヌ。それをよそにアースは立ち上がり、周囲を警戒する。

 

「っ!! はぁっ!!!!」

 

アースは横から飛んできた見えない攻撃を蹴りで弾き、飛んできた方向を見る。

 

「音のエレメント!!」

 

すかさずハープを取り出すと、音のエレメントボトルをセットする。

 

「ふっ!!!」

 

攻撃が飛んできた方向にハープの音を奏でて、紫色の音波を飛ばす。

 

しかし・・・・・・。

 

スパン!!! スパン!!!

 

「あっ!? きゃあぁぁ!!!!」

 

別の方向から見えない攻撃がハープを弾き飛ばし、さらにまた正面から飛んできた攻撃が腹部に当たって吹き飛ばされてしまう。

 

「遠距離攻撃とは考えましたね。でも、私には通用しません。こっちには瞬間移動もありますから、場所を変えてしまえば無意味なこと」

 

どこかに隠れて狙っているカユイザは遠くから聞こえていない声で呟きながらほくそ笑む。音のエレメントの攻撃を避けて別の場所に移動し、アースを撃ち抜いたのだ。

 

「っ・・・ラビリンたちも加勢するラビ!!」

 

ラビリンの言葉に、グレースは頷くとアースに駆け寄る。

 

「フォンテーヌ、大丈夫ペエ・・・??」

 

「ええ・・・なんとか、戦えるわ・・・・・・」

 

フォンテーヌも痛みを堪えながらなんとか立ち上がり、同じようにアースに駆け寄っていく。

 

三人は背中合わせになって、周囲を警戒する。

 

「背中合わせになって私への死角をなくすという算段ですか。頭を使いましたね。まあでも、そんなことをしても無駄なことですが」

 

その様子を見ていたカユイザはプリキュアに目掛けて片手を突き出して構え、そこから空気の弾を発射した。

 

見えない攻撃はフォンテーヌへと迫り、彼女の足の脛を直撃した。

 

「あっ!? ぐっ・・・・・・!」

 

フォンテーヌは足に走った激痛にしゃがみ込んで抑える。

 

「「フォンテーヌ!!」」

 

グレースとアースがフォンテーヌを心配で見ていると・・・・・・。

 

スパン!!!!

 

「あっ・・・うっ・・・・・・」

 

見えない攻撃は次にグレースの左肩に当たり、痛みに肩を抑え出す。

 

「グレース!!」

 

アースはグレースを心配して見た後、周囲を警戒して構える。

 

「っ!! はぁっ!!!!」

 

アースは正面から飛んでくる見えない攻撃を蹴り飛ばす。

 

スパン!!! スパン!!! スパン!!!!

 

「うっ・・・ぐっ・・・あぁぁぁ!!!!」

 

しかし、すぐに見えない攻撃が体に二回あたり、最後に胸に当たって吹き飛ぶ。

 

「「アース!!」」

 

「うっ・・・・・・立ち止まっててはダメかもしれません・・・!!」

 

吹き飛んだアースは体を起こすと、立ち止まって周囲を警戒するだけではダメと考える。

 

「でも・・・どうやって・・・・・・??」

 

「・・・・・・・・・」

 

周囲を見ているだけではダメ・・・・・・しかし、こちらから遠距離攻撃をしていても相手がどこにいるかがわからない以上、行っても意味がない。では、どうすればいいのか・・・・・・?

 

「・・・もしかしたら、場所を移動してるんじゃないかしら?」

 

「どういうことでしょう?」

 

「あっちはこちらに場所を気取られないように狙って攻撃を仕掛けている・・・っていうことは、さっきの音のエレメントの攻撃を交わして、すぐに移動して別の場所からアースを狙い打ったんだと思うわ」

 

「そんなことをできるのがビョーゲンズに・・・?」

 

フォンテーヌが二人に推測を話す。敵は自分の居場所を探られないように移動しながら狙い撃ち、アースの攻撃をかわしてさらに移動し、別の場所から狙い撃ったのではないかと。

 

「そうだとしか考えられないわ・・・・・・」

 

フォンテーヌはしっかりと断言する。

 

「私の力でなんとかしてみましょう」

 

アースはそう言うと祈るように両手を合わせる。すると、彼女の周囲に風が集まるように纏い始める。

 

すると、アースの体に風が纏わりつくように流れていき、周囲の草木がざわめき始める。

 

アースは目を瞑って聴覚を研ぎ澄ませる。風や空気の流れを味方に取って、敵がどこから攻撃してくるのかを探ろうとしているのだ。

 

「何をしているのでしょうか? ついに諦めましたかねぇ。これはこれで狙いやすいですけどぉ」

 

カユイザはほくそ笑みながらアースに狙いを定めて、手を突き出す。すると・・・・・・。

 

「・・・っ!! はぁっ!!!」

 

アースが何かに気づいたように目を開くと、なんと自分の方に腕をふるって風を飛ばしてきたのだ。

 

「っ!? うっ!!!」

 

風を受けたカユイザは手で顔を覆うようにしながら、その場から姿を消す。

 

「アース、どうしたの・・・?」

 

「向こうに誰かいたラビ・・・?」

 

アースの行動にグレースとラビリンが動揺したように問いかける。

 

「・・・向こうの遠くに淀んだ空気の流れを感じました。今さっきそこに敵はいました・・・!!」

 

アースは風を飛ばした方向に敵がいると確信した。

 

(まさか・・・・・・私の居場所に気づいて・・・・・・??)

 

カユイザは珍しく動揺していた。これまで会った敵、もといヒーリングアニマルの中には自分を倒せる相手はいなかったはず。それをあいつは平然と、あんな方法で居場所を探るなんて普通じゃないと。

 

しかしそう思うと、余計にあいつを潰したいと笑みを浮かべ始める。

 

(これは、狙い甲斐がありますね・・・・・・!!!!)

 

カユイザは再びアースに狙いを定める。

 

「はぁっ!!!!」

 

アースは再びこちらに向かって、風を飛ばしてきた。しかし、カユイザも負けじとそこから姿を消して移動する。

 

カユイザは瞬時に他の場所に身を潜めると、すぐに手を構えて空気の弾を発砲した。

 

「っ! はぁっ!!!!」

 

アースはすぐに気づいて見えない攻撃を蹴り返し、風の力を再び飛ばす。カユイザも瞬時に別の場所へと移動。

 

その後は、一進一退の攻防が続いた・・・・・・。

 

そして・・・・・・・・・。

 

「っ、しまった・・・!!!」

 

「出てきたわ・・・!!!」

 

カユイザは瞬間移動を繰り返していた結果、平衡感覚を失ってプリキュアの前に出てきてしまった。

 

「はぁっ!!!!」

 

「っ・・・!!!!」

 

アースはカユイザに向かって腕をふるって風を放つ。カユイザはとっさにその場から瞬間移動をして避け、風を避ける。

 

「カユイザ!!!」

 

「あら、誰かと思えば弱虫の見習いヒーリングアニマルではありませんか?」

 

ラビリンが現れたビョーゲンズを前に叫び、カユイザは見下したような笑みを浮かべる。

 

「知り合いなの・・・?」

 

「あいつもヒーリングガーデンを襲ったビョーゲンズの一人ラビ!!」

 

「仲間たちをたくさん痛めつけられて、病気にさせられたペエ・・・・・・」

 

グレースが問いかけると、ラビリンは険しい表情を浮かべながら答え、ペギタンはどこか怯えたような表情をしていた。

 

「あなたが私たちを狙っていたのですね・・・!!!!」

 

「はい。メガビョーゲンに夢中の間抜けなあなたたちを狙うのは楽しかったですよぉ?」

 

アースは険しい表情をしているのに対し、カユイザはあっけらかんと答える。

 

「許せません・・・!! ここで今、引導を渡してあげます・・・!!!!」

 

アースは怒りの声を持って構えの体勢を取り、そこへグレースとフォンテーヌが横に並ぶ。

 

「私たちもやるよ!!」

 

「やられっぱなしじゃ終われないもの・・・!!」

 

グレースとフォンテーヌはステッキを構えながらそう言う。

 

「行きましょう・・・!!!!」

 

アースはそう頷くと目の前にいるカユイザを見据える。

 

「何人来ようと返り討ちです」

 

カユイザは不敵な笑みを浮かべながら、片手を突き出すように構えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メッガメガァ!!!!」

 

発電所周辺。イタイノンが不在のまま、メガビョーゲンは頭部のアンテナから電気を放って病気で蝕む行為を続けていた。

 

「あれは、イタイノンのか? 念のため様子を見に来たけど、あいついないな・・・・・・」

 

そこには一時撤退したはずのかすみの姿があった。カユイザの協力を適当に済ませた後、イタイノンの様子が気になってやってきたのだ。

 

いるはずのプリキュアの姿も見当たらない。まだたどり着いていないのか、どこか遠いところで戦っているのか・・・・・・。

 

かすみが発電所周辺を捜索していると・・・・・・。

 

「っ!! なんだ? この大穴・・・・・・」

 

発電所の前に、マンホール・・・いや、それとは比べ物にならないほどの大きな穴が空いているのを見つけた。それにその周辺は地面や木々が少し焼き焦げており、明らかに何かが起こってできたような大穴であった。

 

「周りに誰かがいたわけでもないし、もしかしてイタイノン・・・この穴の中にいるのか?」

 

かすみは辺りを見渡しても、人はすでに逃げ果せているようで、だとしたらこの穴の中にいると考えるのが妥当だ。

 

そういえば、さっきの戦闘もスパークルだけがいなかった。もしかしたら、この中にいるのかもしれないが・・・・・・。

 

かすみは少し大穴を見つめて考えた後、大穴へと近づいていく。

 

「降りてみるか・・・・・・」

 

かすみはそう呟くと懐からダークグリーン色のエレメントボトルを取り出し、黒いステッキにセットする。

 

「ふっ!!!!」

 

黒いステッキの先から空気の塊が出てきて、球体のような空気の塊を作り出される。

 

かすみはその空気の塊の上に飛び乗ると、そのままゆっくりと大穴の中へと降りていく。

 

「スパークル・・・イタイノン・・・・・・」

 

かすみは二人の表情を思い出しながら、大穴の中へと降りていくのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第105話「二人」

前回の続きです。
イタイノンとひなた、そしてプリキュアとカユイザの戦いの行方は??


 

「ん・・・うん・・・・・・」

 

暗い闇の中、倒れていたイタイノンは目を覚ます。目を開くとそこには暗い闇が広がっていた。

 

「ここは・・・・・・?」

 

イタイノンが周りを見渡すと、その近くに茶髪の少女ーーーーひなたが倒れているのが見えた。

 

「こいつ・・・・・・!」

 

イタイノンは顔を顰めていた。この女は確かキュアスパークルに変身前の姿だったはず。今は変身が解けていて、意識を失っているようだ。それと彼女の辺りにあるはずの変身アイテムがどこにもない。

 

自身の計略を度々邪魔されたことを思い出し、今ここでやってしまおうかとイタイノンは体を起こして立ち上がると彼女に手を構えるように突き出す。

 

「っ??」

 

しかし、帯電して出るはずの電気が出てこないことに気づく。能力は全く発動せず、頭の中でどうして?と考える。

 

・・・・・・もしかしたら、頭痛で苦しんだ際、スパークルに放電しすぎたせいで電池切れみたいなことを引き起こしているのかもしれない。

 

本当にこいつは、いっつも自分の邪魔ばかりしてくれる・・・・・・!!

 

「まあ、電気を使わなくともこいつは倒せるの」

 

イタイノンは能力ではなく、倒れているひなたに近づいて手を掛けようとする。

 

「・・・・・・・・・」

 

しかし、イタイノンは途中で足を止めてしまう。思い出したのは頭痛を引き起こした際に、流れてきた映像のことだ。こいつは自分のことを絶対何か知っている。映像の中にはっきりとこいつの姿が映っていたのだ。それを知れずに、ここで始末するのは惜しい。

 

「はぁ・・・・・・」

 

イタイノンはため息をつくと手を下ろし、とりあえずはどういう状況に陥っているのかを確かめようする。

 

周りの景色をよく見てみると地面には濡れた土が広がっていて、上を見上げれば何かの管が遠くまで伸びていた。どうやらここは発電所の近くの地面の下だろうと推測する。

 

そして、落ちた先を見上げると大穴の上は闇のように暗く、地上が全く見えない。

 

「・・・・・・・・・」

 

イタイノンは倒れているひなたを無表情に見下げる。このぐらいであれば、自分一人でも上がれないこともない。自身には浮いて飛ぶこともできるし、瞬間移動してビョーゲンキングダムやアジトに戻ることも可能だ。地上に戻って、メガビョーゲンの様子を伺うことも可能だ。正直こいつは、ここに置き去りにしてやってもいい。

 

しかし、そうしてしまえば、こいつがいなくなってしまえば、また頭痛が起きることになる。それだけは防がなければ、避けなければ今後の仕事にも影響する。

 

とりあえず、こいつが起きるのを待つとしよう・・・・・・。

 

イタイノンは倒れているひなたの隣に座って、彼女が目を覚ますのを待つことにした。

 

ひなたの姿をじっと見ているイタイノン。先ほどの記憶は甦ったようで、その映像を思い返す。私はこいつの何で、こいつは私の何なのか? 何かがわからなければ、またあの時のことが起こる気がする。

 

だから、じっくりと待つのだ。元々自分は人と関わるのが苦手だし・・・・・・。

 

しかし数分後、ひなたはまだ起きる気配がなかった。

 

(よく眠るやつなの・・・・・・)

 

イタイノンはひなたを呆れたように見つめていた。そろそろ起きている頃だとは思うが、まさか頭を強打して致命傷を負っていたりしている??

 

そう思い込んでしびれを切らしたイタイノンは立ち上がってひなたへと近づく。

 

「おいお前・・・・・・いつまで寝てーーーー」

 

「ぅ・・・・・・ぅぅ・・・・・・」

 

ひなたをたたき起こそうとした時、わずかだが、何やら呻き声が聞こえたような気がした。

 

首を傾げたイタイノンは顔を見ようとひなたの正面に回ると・・・・・・。

 

「うっ・・・・・・うぅっ・・・・・・」

 

なんとひなたの表情は苦痛に歪んでいて、苦しそうにしていたのだ。

 

「・・・・・・どういうことなの?」

 

イタイノンは無表情で見つめながらも疑問に思い、ひなたの体をよく見てみる。すると・・・・・・。

 

「っ! 私のテラパーツが赤黒い靄を生み出してるの」

 

ひなたの体内は赤い靄で覆われていた。そういえば、気球大会という行きたくもないイベントでメガビョーゲンを生み出した際に、こいつにテラパーツを埋め込んだやったのを思い出す。

 

なぜだかわからないが、普段は息を潜めるようにキュアスパークルの中にあるテラパーツが今は彼女の体を蝕んでいる。そういえば、クルシーナがキュアグレースに埋め込んだテラパーツも活性化して苦しめたと聞いたことがある。

 

これはこれで好都合だが、これではこの女から自分が本当は誰なのかを聞き出すことができない。状態をみるからに、すでに喋れなくなっているほどの苦痛を味わっているだろうと考える。

 

「うっ・・・うぅ・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

イタイノンは苦しんでいるひなたを黙って見つめていると、唐突にひなたを持ち上げると平らなところへと移動し、どういうわけかその場に座り込んで膝枕をさせ始めた。

 

顔を見つめると顔色は悪くて元気がない。それに額には汗が滲んでいて、相当苦しいのだろうということがわかる。

 

そして、なぜかひなたの頭を無表情でゆっくりと撫で始める。

 

「くっ・・・うぅ・・・・・・」

 

しかし、撫でたところで容態が変わるわけではなく、ひなたは苦しむ声をあげるだけだ。顔色も悪い状態で全く変わっていない。それでもイタイノンはまるで様子を見るかのように撫で続けた。

 

(私・・・何をやってるの・・・・・・?)

 

憎っくき敵のはずなのに、その女を始末することをせずに寝かせて頭を撫でてるだけ。自分の行いに疑問を問いたくなる。

 

そんな意味のある行動かもわからないことを続けていると・・・・・・。

 

「うぅ・・・・・・う、あ・・・?」

 

何か違和感を感じたのか、苦しんでいたひなたが目を開けてこちらを見た。

 

「あ、起きたの・・・・・・」

 

「ひっ・・・イ、イタイ・・・ノン・・・・・・?」

 

イタイノンは撫でるのをやめてボソリとそう呟くと、ひなたは怯えた表情を浮かべると小さく悲鳴を上げ、言うことを聞かない体を動かして彼女の膝枕から逃げるように降りる。

 

「どこへ行くの・・・・・・?」

 

「いや、だ・・・い、やだ・・・ニャトラン・・・ニャト、ラン・・・・・・!!」

 

ひなたは地面を這うようにしか動けず、その状態でイタイノンから逃れようとし、パートナーの名前を呟く。イタイノンは余裕で追い付き、彼女に合わせるよう歩いていた。

 

「お前のパートナーなんかここにはいないし、どこにも逃場なんかないの」

 

「ニャトラン・・・ニャト、ラン・・・・・・っ!!」

 

イタイノンの言葉も聞かずに、うわごとのように呟きながら助けを求めるかのように地面を這い回る。しかし、そこでひなたは記憶を思い出す。

 

(あ・・・そうだ。途中でニャトランを庇って、ステッキ投げ捨てちゃったんだ・・・・・・)

 

放電でダメージを受けたショックで忘れていたが、ひなたはニャトランを巻き込まないためにステッキを投げ捨て自分だけあの爆発に巻き込まれたのであった。

 

そう思い返していると・・・・・・。

 

「ぐっ・・・・・・ひっ・・・!?」

 

イタイノンがひなたに馬乗りになり、彼女の顔の頬を背後から両手で触ってきた。

 

「や、やめて・・・やめて・・・やめてぇ・・・!!!」

 

ひなたは無防備な自分に何かをされるのではと恐怖が湧き上がって振りほどこうとするも、その力は弱々しくイタイノンを払いのけることができない。

 

「落ち着くの・・・!!!!」

 

「い、いやだ・・・いやだ・・・いやだぁ・・・・・・!!!!」

 

イタイノンはひなたを落ち着かせようとするも、パニックを起こしているひなたの耳には通らない。

 

「ちっ・・・・・・!!」

 

パンッ!!!!

 

顔を顰めて舌打ちをすると、馬乗りから降りるとひなたの正面に出て両手を広げ、思いっきり頬を挟むように叩いた。

 

「・・・・・・落ち着けなの」

 

「ぁぁ・・・・・・」

 

「お前なんか痛めつけたって面白くもなんともないの。それに、今私はなぜか能力が使えないの、ほら・・・・・・」

 

イタイノンは無表情ながらそう言い聞かせると、何もない場所に手を突き出して電気を放とうとするが、今は何が原因か出てこない。

 

「ぁ・・・・・・」

 

ひなたはそれを見ると気絶するかのように倒れ伏してしまう。

 

「はぁ・・・・・・」

 

イタイノンはため息を吐くと、ひなたを再び持ち上げる。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

イタイノンにお姫様抱っこされているひなたは壁のあるところにもたれかかるように置かれるも、苦しそうに呼吸をしている。

 

「おいお前、起きてるの?・・・しっかりするの・・・・・・!!」

 

ペチペチペチ・・・・・・。

 

「はぁ・・・はぁ・・・うっ・・・・・・?」

 

イタイノンは苦しそうにしているひなたの顔を手で叩く。すると、ひなたは顔を少し顰めるとゆっくりと瞼を開けてこちらを見る。

 

「お前、本当に筋金入りのバカなの。私の放電を止めようとして抱きつくなんて自殺行為にもほどがあるの」

 

「はぁ・・・はぁ・・・だって・・・とっさにこういう行為しか・・・思いつかなかったんだし・・・はぁ・・・」

 

イタイノンが先ほどの無謀な行為を指摘するも、ひなたは苦しそうにしながらそう答える。

 

「はぁ・・・・・・・・・」

 

改めて考えるとこんな考えなしのバカが私の怨敵だったとは・・・・・・イタイノンは心の底からため息を吐くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この数分前・・・・・・。

 

パシュ!! パシュ!! パシュ!! パシュ!!

 

カユイザは両腕を構えると、プリキュアに目掛けて空気の弾を放つ。3人は各々散りながら、空気の弾を走って避けていく。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ふっ・・・・・・」

 

「がはっ!! きゃあぁ!!!」

 

フォンテーヌはパンチで反撃しようとすると、カユイザは瞬時に避けて懐に入って肘打ちのカウンターをお見舞いすると、さらに回し蹴りを放って吹き飛ばす。

 

「やあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

そこへカユイザの背後からグレースが攻撃しようとするが、カユイザはその場から姿を消す。

 

「!? あぁぁ!!!」

 

グレースが着地したその瞬間、横から空気の弾が命中してグレースは吹き飛ばされる。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

アースはそこへ駆け出してパンチを繰り出す。カユイザは両腕を交差させてパンチを防ぐも、背後へと押される。

 

「ふふ・・・・・・」

 

「っ!?」

 

しかし、カユイザは不敵に笑いながら両腕で勢いよく押し返して弾くと、その一瞬で彼女の眼前に来る。

 

「うっ!! あぁぁぁ!!!」

 

胸に掌底を食らわせて怯ませた後、ミドルキックを繰り出して地面へと転がる。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

グレースとフォンテーヌは両サイドから同時にパンチを繰り出そうとする。

 

「ふっ・・・・・・」

 

「っ!! うわぁっ!!」

 

「きゃあぁ!!」

 

カユイザは特に動じることなく、その場から飛び上がって避けると二人の肩を踏みつけるように同時に蹴って転がす。

 

「はぁっ!!」

 

アースは片腕から風を放って攻撃する。カユイザは左腕の手首の部分からまるで弓矢を引くようにもう片方の腕を引くと、それを放つように手を離した。

 

「あぁぁぁ!!!」

 

すると、普通に撃つよりも圧縮された空気の弾が高速で放たれ、アースの放った風を貫いてアースに直撃した。

 

「ふふふっ・・・・・・」

 

他人に致命傷を与えることなく痛めつける、その快感にカユイザは不敵な笑いを浮かべた。

 

「うっ・・・・・・!!」

 

「早いです・・・!!!!」

 

「それだけじゃないわ・・・あいつ、強い・・・!!!」

 

カユイザがかなりの手練れであることを痛感させられるプリキュアの3人。

 

「どうしたのですか? 伝説の戦士というのはこんなにも弱いのですか?」

 

カユイザは髪を掻き分けながら、グレースたちを挑発する。

 

「まだ負けてないわよ・・・・・・!!」

 

フォンテーヌは強気に言い返すと、懐からエレメントボトルを取り出す。

 

「雨のエレメント!! はぁっ!!」

 

雨のエレメントボトルをステッキにセットし、雨粒を纏った青い光線を放つ。カユイザは体を捻るようにして避け、光線の上に腕を突き出す。

 

「っ!? かはっ!!」

 

空気の弾が発射されると、フォンテーヌの胸の真ん中に直撃し、空気を吐きながらフォンテーヌが吹き飛ぶ。

 

「「フォンテーヌ!!」」

 

「げほげほっ!!」

 

地面へと倒れるフォンテーヌを心配する二人。フォンテーヌは肺にまでダメージが到達したのか、激しく咳き込む。

 

「許せない・・・・・・!!」

 

グレースは怒りの表情をしながらカユイザを見据える。

 

「実りのエレメント!! はぁっ!!」

 

実りのエレメントボトルをセットし、ピンク色の光弾を放つ。

 

「ふっ!!」

 

「っ!? そんな!!」

 

「弾き飛ばしたラビ!!」

 

カユイザは余裕で回し蹴りで光弾を蹴り飛ばし、グレースとラビリンは驚く。

 

「じゃあ、お返しに」

 

カユイザはお返しと言わんばかりに、右手から水色の禍々しい光弾を放つ。

 

「ぷにシールド!!」

 

「っ、きゃあぁぁ!!」

 

グレースはすぐさまぷにシールドを貼るも、光弾は防御を突破してグレースに直撃し吹き飛ばされる。

 

「空気のエレメント!!」

 

「っ・・・・・・」

 

アースの叫ぶ声が聞こえ、カユイザがその方向を向くとアースはハープに空気のエレメントボトルをセットしていた。

 

「はぁぁぁぁっ!!!!」

 

ハープから空気の弾が連続してカユイザに目掛けて放たれる。

 

「ふん・・・・・・」

 

パシュパシュ!! パシュパシュパシュ!! パシュパシュ!!

 

カユイザは両手を突き出すように構えると、襲い来る空気の弾を次々と割っていく。動作が追いつかないものに関しては飛んで避けていき、回避が間に合わないものは空気を圧縮した弾で破壊していく。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「!! っ・・・!!」

 

その隙をついてアースが蹴りを繰り出し、カユイザはとっさに両腕でガードするも吹き飛ばされる。しかし、倒れないようにうまく着地して踏ん張った。

 

「そちらのプリキュアの方は、なかなかやりますね。私も少し本気を出しましょうか・・・!!!」

 

カユイザはそう言うと高速移動をして、アースの眼前へと一瞬で迫る。

 

「ふっ・・・!!」

 

「うっ・・・!」

 

アースが動揺している隙を狙ってパンチを繰り出し、アースはとっさに腕で防ぐ。

 

「あっ・・・!!」

 

「はぁっ・・・!!!」

 

「あぁぁぁ!!!!」

 

カユイザは前足を振り上げてハープを弾き飛ばすと、アースの腹部に両手を当てて空気の弾をゼロ距離で撃ち放つ。体をくの字に曲げたアースは吹き飛ばされて、木に叩きつけられる。

 

「ふふふ・・・!!」

 

「っ・・・・・・!」

 

カユイザはさらにそこへ飛び蹴りを放つが、アースはとっさに避ける。

 

「はぁっ!!」

 

飛び退いたアースは片手から風を放って、自身も同じ速度でカユイザへと駆け出していく。

 

「っ!!」

 

カユイザは風とアースを交互に見て、その場から飛び上がるとアースの背後へと着地する。

 

「やぁっ!!!!」

 

「っ!? ぐっ・・・!!!」

 

アースは振り向きざまにパンチを繰り出し、カユイザは対応しきれずにパンチを受けて吹き飛ばされる。しかし、それでも倒れはせずに地面に着地して踏ん張る。

 

「ふふっ・・・・・・」

 

カユイザは両腕を解いて不敵な笑いを浮かべると、その場から姿を消す。

 

「っ!! あっ・・・!?」

 

その瞬間、懐に姿を現していたカユイザが腹部に掌底をお見舞いして、真っ直ぐに吹っ飛ばす。

 

「はぁっ!!」

 

「あぁぁぁ!!!!」

 

カユイザは飛んできた方向に瞬間移動して、アースを蹴り上げて打ち上げる。

 

「ふっ!!!」

 

「きゃあぁ!!!!」

 

打ち上げた方向へと瞬間移動したカユイザが両手を振り下ろして背中を打ち据え、吹き飛ばされたアースは地面へと叩きつけられて思いっきり転がる。

 

パシュ!! パシュ!! パシュ!! パシュ!!

 

カユイザはさらに地面へと素早く移動して、片手を突き出すと空気の弾を連続で発射して追撃し、アースに当たると土煙を巻き上げた。

 

土煙が晴れると仰向けで倒れるアースの姿があった。

 

「ふふっ、少しはやるみたいですが、まあこの程度でしょうね」

 

カユイザがアースを見つめながらそう答える。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

グレースとフォンテーヌは同時に飛び出して蹴りをお見舞いしようとするが、カユイザは二人を見つめもせずにその場から姿を消す。

 

「っ!?」

 

「こっちですよ」

 

「っ!! きゃあぁ!!!」

 

グレースが消えたことに動揺していると、声をかけた方向から腕を捕まれ、引いた勢いそのままに蹴りを食らって吹き飛ぶ。

 

「っ、きゃあぁぁぁぁ!!!!」

 

吹き飛ばされたグレースはフォンテーヌも巻き込み、二人揃って地面へと叩きつけられた。

 

カユイザは地面へと着地すると倒れている三人へと近づく。

 

「プリキュアの力はこの程度ですか。恐るるに足らないですね」

 

首をポキポキと鳴らしながら、つまらなそうな様子で三人を見下す。

 

「全く攻撃が効いてない・・・・・・!」

 

「どうするラビ・・・!?」

 

「バラバラに攻撃するのはダメね・・・・・・!」

 

「ここは三人で力を合わせるペエ・・・・・・!!」

 

「息を合わせれば勝機は見えるはずです・・・!!」

 

グレースたち三人はそう会話を交わすとお互いに頷き、体を起こして立ち上がると再びカユイザに対して構える。

 

「まだ立てるんですね。でも、それだけで私に勝てるなら甘いですよ・・・!!」

 

カユイザは片手を突き出して、空気を圧縮した少し大きめの弾を放った。

 

「「ぷにシールド!!」」

 

「うっ・・・・・・!!」

 

「くっ・・・・・・!!」

 

グレースとフォンテーヌは前に出て肉球型のシールドを展開して空気の弾を防ぐ。顔を顰めるほどの痛みが腕に走ったが、なんとか持ち堪えた。

 

「音のエレメント!! ふっ!!!!」

 

アースがグレースとフォンテーヌの後ろから飛び上がって、音のエレメントボトルをセットしたハープを奏でて音波を放つ。

 

「っ・・・うっ・・・!」

 

カユイザは音波を受けると顔を顰めて動きが止まる。

 

「今です!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「っ!! うっ・・・!!!!」

 

アースの言葉を合図に、グレースが飛び出してパンチを繰り出す。カユイザは両腕で防ぐも、勢いに負けて数メートル飛ばされる。

 

「やあぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ぐっ・・・・・・!!!!」

 

次にフォンテーヌが蹴りを繰り出して、両腕を弾き飛ばしてカユイザのガードを崩す。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・!!!!!!」

 

フォンテーヌが横へ避けるように飛ぶと、アースが低く飛びながら体を回転させて飛び蹴りのモーションで突っ込む。カユイザの腹部に直撃し、彼女をさらに大きく退かせた。

 

「な・・・なんですか、これは。こいつらのどこにそんな力が・・・!!??」

 

カユイザは動揺していた。先ほどまでこちらが余裕だったはずなのに、プリキュアどもが結託した瞬間にこっちが押されているのだ。

 

「いつも一人でいたお前にはわからないことラビ!!!」

 

「お手当てと同じだよ!! 私には病気に寄り添ってくれる人がいた、一緒に戦ってくれる仲間がいた、その思いだけで私は、もっと強くなれる!!!」

 

「僕たちは人間界に来て、のどかやみんなと出会って、ちゆというパートナーにも出会っていろんなことも学んだペエ!! 一人で出せない勇気も、みんなといれば一歩踏み出せるペエ!!」

 

「私たちは一人で戦っているんじゃない、みんなと共に戦っているの!! その思いが一つになれば、私たちはどんなに困難だって乗り越えられる!!!」

 

グレースやラビリンたちは強い口調でそう主張する。

 

「その絆の力、今ここで受けていただきます!!!!」

 

アースはそう叫ぶと、風のエレメントボトルを取り出す。

 

「アースウィンディハープ!!」

 

風のエレメントボトルをハープにセットする。

 

「エレメントチャージ!!」

 

アースはハープを手に取って、そう叫ぶとハープの弦を鳴らして音を奏でる。

 

「舞い上がれ! 癒しの風!!」

 

手を上に掲げると彼女の周りに紫色の風が集まり始め、ハープへとその力が集まっていく。

 

「プリキュア! ヒーリング・ハリケーン!!!」

 

アースはハープを上に掲げてから、それを振り下ろすとハープから無数の白い羽を纏った薄紫色の竜巻のようなエネルギーが放たれる。

 

「この!!」

 

カユイザは表情を怒りに染めつつも、大きな風の弾を放つが、エネルギーはあっさりと打ち消し、そのままカユイザに直撃する。

 

「ク・・・ク、ソ・・・!! い、いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

カユイザは悲鳴のような絶叫を上げると、光のエネルギーに包まれて消えていった。

 

「お大事に」

 

「「やった!!」」

 

グレースとフォンテーヌはアースがカユイザを打ち倒したことに喜ぶ。

 

「さあ、急ぎましょう!! あともう一体のメガビョーゲンを!!」

 

「ええ、そうね!!」

 

「メガビョーゲンとカユイザを浄化するのに時間がかかったから、だいぶ成長しているはずペエ・・・!! 油断はせずに浄化するペエ・・・!!」

 

三人はお互いに頷いていると・・・・・・。

 

「「「!!」」」

 

何やら突然光が立ち、三人が見やると電気の柱が立ち上っていくのが見えた。そして・・・・・・。

 

ドカァァァァァァァァァァァァン!!!!!!

 

「「「!?」」」

 

地に響くような大爆発が起こり、三人が見やると何やら遠くの方で黒い煙が巻き上がっているのが見えた。

 

「な、何・・・・・・!?」

 

「なんかピカって光って・・・!!」

 

「爆発したペエ・・・・・・!!」

 

グレースとラビリン、ペギタンは突然起きた出来事に驚いていた。

 

「っ!! あっちは発電所の方向よ!!」

 

「ひなたのことも心配です・・・!!!」

 

フォンテーヌとアースがそう言うと、三人は目を合わせた後、行く先に顔を向ける。

 

「行こう・・・!!!!」

 

グレースたち三人は意を決して、発電所の方角へと駆け出していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ク、ソ・・・クソ・・・・・・!!」

 

その頃、光線を受けながらも辛うじて逃げ果せたカユイザは悔しそうな表情をしながら、足を引きずっていた。

 

「あのプリキュアどもめ・・・許しません・・・!! 次に会ったときは必ず・・・!!!!」

 

カユイザは怒りの声を漏らしながら歩いていると・・・・・・。

 

「果たしてあなたに次があるんでしょうかねぇ・・・??」

 

「っ!!」

 

そこへ背後から掛けられる声が聞こえ、驚いて振り向くとそこには貼り付けたような笑顔のドクルンの姿があった。

 

「・・・なんだ、ドクルンですか。びっくりさせないでください」

 

「そんなつもりはなかったんですけどねぇ」

 

カユイザが不愉快そうに言うと、ドクルンはそう返す。

 

「それよりも、見てましたよ。あなたの活動っぷり、優勢だったのが劣勢になっていく姿、見ていて無様なものですねぇ」

 

「うるさいですね・・・ちょっと油断しただけです・・・!! 次はこうは・・・」

 

ドクルンが笑顔を貼りつけながら痛いところを突くと、カユイザは不快感を露わにしながら反論しようとして口を止める。

 

何か違和感を感じた。出し抜けに言われた言葉に。

 

「ドクルン、さっきのはどういう・・・っ!!??」

 

ドスッ!!!!

 

カユイザが振り向いて問いかけようとすると、目の前に迫っていたドクルンが片手を変化させた氷の刃で貫いた。

 

驚いた表情をしていたカユイザが顔を上げて表情を見ると、そのドクルンの顔は氷のように冷たくなっていた。

 

「あなた・・・キュアフォンテーヌを傷つけましたよね? 私の獲物を」

 

「あ、が・・・ぁ・・・・・・」

 

「困るんですよね・・・そんなことを勝手にされちゃ。プリキュアを抹殺するとか言っていて、心配だったので様子を見にきましたが、はっきり言って不愉快でした。私はあなたがこうなるのを待っていたんですよ」

 

ドクルンはいつもよりも冷たい声でそう発するも、カユイザは腹部への激痛に呻いていた。そんな彼女の体はゆっくりと赤い粒子のようなものを放出しながら溶けるように消えていく。

 

「このまま消すのも惜しいですね。どうせだったら私のために消えてください」

 

ドクルンは眼鏡を上にあげながら、そう言い放つ。

 

「あな、た・・・後悔、しますよ・・・! こんな、ことを・・・して・・・・・・!!!!」

 

「なんとでも言ってください」

 

カユイザは怒りの形相で苦痛に呻きながらそう言うと、ドクルンはそれを一蹴して返した後、氷の刃を引き抜く。すると、カユイザの足元から凍りついていく。

 

「っ・・・・・・!!」

 

パシュ!!!

 

カユイザは抵抗と言わんばかりに手を突き出すと、圧縮された空気の弾を放つ。しかし、ドクルンは首を傾けるだけでそれを避けた。

 

「ドクルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッッッッ!!!!!!!!」

 

カユイザは怨嗟の叫び声を上げ、そのまま全身が氷漬けになって動かなくなった。

 

ピキ、ピキピキピキ、パキーン!!!!!

 

そして、氷漬けになったカユイザにヒビが入っていき、粉々に砕け散った。

 

ドクルンは振り向くと粉々になったかけらを冷たい目で見つめる。そのかけらは中で赤い靄のようなものが蠢くと赤い色の禍々しい色へと染まった。

 

「ちゆは、私のものよ・・・誰にもやるつもりはないわ・・・!!!」

 

そう呟くように言った後、ドクルンは禍々しいかけらを集め始める。その数、なんと7個ぐらいあり、メガパーツのようになっているものもあれば、細かくなっているものもある。

 

「さてと・・・さっき爆発音がありましたが、イタイノンは大丈夫なのかしら」

 

ドクルンは手に抱えるだけのかけらを手に持ちながら、発電所のあろう方向を向きながらそう呟いた。

 

「イタイノンお姉様ぁ・・・・・・」

 

ドクルンがカユイザを抹殺する瞬間を陰で見ていたフーミンは、爆発がある方向を見て心配しながらそう呟くと天使のような翼を生やしながら飛んでいくのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第106話「特別」

前回の続きです。
メガビョーゲンの元へと駆けつけたプリキュアたち。そして、ひなたとイタイノンの行方は??


「メッガメガァ!!!!」

 

メガビョーゲンはまだ発電所近くで暴れていた。アンテナから雷を放って、ここから数メートル離れた町を感電させて病気に蝕んでいた。

 

「メガメガァ!!!!」

 

メガビョーゲンはさらにアンテナから雷を上空へと放ち、街中に激しい雷が降り注がれる。

 

「きゃあぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「うわあぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「みんな!! こっちだ!!」

 

「逃げろー!!!!」

 

雷鳴によって恐慌状態になり、逃げ惑う人々。悲鳴をあげて逃げている男女や避難誘導をしているもの、雷を恐れて逃げ出す人々もいた。

 

「っ、メガビョーゲン!! やめてぇ!!!」

 

そこへプリキュアの三人が駆けつけ、グレースの叫び声と同時に飛び上がる。

 

「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 

「メガメガ? メッガァ!!」

 

三人は同時に蹴りを繰り出すも、気づいたメガビョーゲンはロボットアームのような腕で受け止める。

 

お互いは同時に攻撃を押し返し、メガビョーゲンは少し押され、プリキュアは大きく退く。

 

すると・・・・・・・・・。

 

「うわぁ!? う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「「グレース!!」」

 

地面を踏ん張って倒れないようにした瞬間、グレースが足を取られて後ろへと倒れそうになる。フォンテーヌとアースが間一髪で腕を掴んで引っ張ったことで、倒れずに済んだ。

 

「大丈夫!?」

 

「うん・・・なんか落ちそうになって・・・っ!?」

 

「「!?」」

 

フォンテーヌが心配してそう言うと、グレースは違和感がして後ろを振り向くと驚愕し、フォンテーヌとアースも後ろを見て驚きの表情を浮かべた。

 

「ラビ!? な、何ラビ!? この大きな穴・・・!!」

 

ラビリンも後ろにできた大穴を見て驚く。

 

「こんな深そうな穴、落ちたら大変だったペエ・・・!」

 

「っ、さっきの爆発で空いた穴なのかしら・・・!?」

 

「凄まじい威力です・・・・・・!!」

 

グレースがもう少し下がったら危なかったとペギタンは安堵し、フォンテーヌとアースは爆発の凄まじさに驚いていた。

 

アースはふと周囲を見渡してあることに気づいた。

 

「ひなたがいませんね・・・??」

 

「もしかしたら・・・この穴の中にいるんじゃ・・・!?」

 

「そんな・・・・・・!!」

 

プリキュアとして戦っているはずのひなたの姿が見えないのだ。もしかしたら、爆発に巻き込まれてこの穴の中に落ちたのかもしれない。

 

「ひなたちゃーーーーーーん!!!!!」

 

「ひなたーーーーーーーーー!!!!!」

 

グレースとフォンテーヌは深そうな穴に向かって叫ぶ。しかし、音は反響するばかりでひなたの返事は返ってこない。

 

「おーーーーい!! みんなーーーーー!!!!」

 

「っ!! ニャトラン!!」

 

その代わりに姿を現したのは、ヒーリングステッキを持ったニャトランだった。

 

「みんな無事か・・・!?」

 

「なんとかね・・・・・・」

 

ニャトランはみんなを心配していたが、フォンテーヌからその言葉を聞いて安堵していた。

 

「って、うお!? なんだ、このでっかい穴!!」

 

ニャトランはふと視線にはいった穴に驚く。

 

「ひなたはどこにいったんだペエ・・・!?」

 

「それがわかんねぇんだ・・・あいつ、とっさにステッキをどこかに放り投げてイタイノンにしがみ付いて・・・爆発が起きたその後にはどっか遠く飛ばされちまってよぉ・・・やっとの想いでここに戻ってきたんだ・・・」

 

ペギタンが問うと、ニャトランが経緯を説明する。ビョーゲンズとの戦闘中に、ひなたの捨て身とも言える行為で離れ離れになってしまったのだ。

 

「もしかしたら、この穴に落ちたのかもしれない・・・!!」

 

「ニャ、ニャンだって!?」

 

グレースが穴の方を向きながら言うと、ニャトランは仰天する。

 

「おーーーい!! ひなたーーーーー!!!!」

 

ニャトランは大声で穴に向かって叫ぶも、やはり反響するばかりで何も返ってこない。

 

「っ・・・!!」

 

「グレース!? 何をする気ラビ!?」

 

するとグレースが立ち上がり、まさかと感じながらもラビリンが問いかける。

 

「この穴を降りて、ひなたちゃんを探す!!」

 

「おい、やめとけよ!!」

 

「無茶ラビ!! この穴がどれだけ深いのかもわからないラビ!!」

 

「でも、ひなたちゃんが危険な目に遭ってるかもしれない・・・!! それなのにここで待ってるなんて、私にはできないよ・・・!!!!」

 

グレースはそう言うとニャトランとラビリンは諭すように言う。この穴に落ちるのは正直、自殺行為だ。得体が知れない以上、この穴の中に入るのは危険すぎるとグレースにそう訴えたかったのだ。

 

しかし、グレースはその言葉を聞いて戸惑う。心配そうな表情を浮かべながら、泣きそうな声でそう言った。

 

「落ち着いてください、グレース。ひなたはまだ危険な目に遭ってると決まったわけではありません」

 

「でも・・・・・・!!」

 

「ひなただってプリキュアよ。自分の身は自分で守れるはずだもの」

 

アースやフォンテーヌが優しい声で諭しても、グレースは困ったような表情を浮かべている。穴の中にいるひなたが心配で仕方がないのだ。

 

「メッガメガァ!!メガァ!!」

 

そこへメガビョーゲンがアンテナから雷を何発も飛ばす。

 

「はぁっ!!!!」

 

フォンテーヌはぷにシールドを張って、被弾する雷を防ぐ。

 

「まずは目の前のメガビョーゲンをどうにかしないと、この辺一帯がそれこそ取り返しのつかないことになります」

 

「っ・・・・・・!!」

 

「大丈夫です。ひなたは反省もできる強い子です。そんな簡単に負けるわけがありません」

 

グレースはなおも心配していたが、アースは彼女にそう告げた。

 

「そう、だね・・・・・・ひなたちゃんを信じなくちゃダメ、だよね・・・・・・」

 

グレースは心配そうな表情はするものの、そう呟くと意を決してステッキを構える。

 

「ひなたは俺が探してくる!! その間にグレースたちはメガビョーゲンを!!」

 

「わかった!!」

 

ニャトランはそう言うと大穴の中へと飛び込んでいく。そして、グレースたち三人はメガビョーゲンに立ち向かっていく。

 

(ひなた・・・・・・無事でいてくれよ・・・!!!!)

 

ニャトランはひなたを心配しつつ、深い穴の中へと潜っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

壁にもたれながら苦しそうに呼吸をするひなた、その横で無表情で虚空を見つめるイタイノン。人間とビョーゲンズである二人が隣同士になって座っていた。

 

(私は・・・一体、何をしているの・・・??)

 

ふとひなたを見つめながら、イタイノンはそう思う。こんな病気に勝てる力もない人間など、その気になればすぐに始末できるはず・・・・・・なのに、自分はそれをしようとしない。

 

でも、こいつはなぜか倒せないのだ。なんだか倒すと後悔するような気がして・・・・・・。

 

「っ!?」

 

イタイノンはふと思ってしまったことに目を見開くと首を振り、その考えを振り払う。

 

「おい、お前・・・・・・」

 

「はぁ・・・はぁ・・・??」

 

イタイノンが顔を顰めながら呼ぶと、ひなたは力なく反応する。

 

「お前、私の何なの? さっきも言ったけど、私の中にお前がいたの。お前は私の何で、私はお前の何なの?」

 

「わ・・・わかん、ないよ・・・でも、あたしの中にも、あんたが出てくるの・・・!!!」

 

「そう・・・・・・」

 

イタイノンが問いかけると、ひなたは苦しそうにしながらもなんとか言葉を紡ぐ。

 

「あたしたち、いつも一緒にいたんじゃ、ないかな・・・・・・」

 

「??」

 

「だって、いろいろ一緒にいたこと、あったから・・・絵本読んでた、ときも・・・森でリボンをなくした、ときも・・・あんたがいたんだ・・・・・・」

 

「っ・・・・・・それ、本当なの??」

 

ひなたのその言葉を聞いたイタイノンが詰め寄ると、ひなたは弱々しく頷く。

 

「きっとあたしたち・・・仲良しだったんだじゃ・・・ない、かな・・・・・・?」

 

「っ・・・・・・」

 

「仲良しじゃなきゃ、一緒にいないし・・・笑顔でいないと、思うんだ・・・・・・」

 

ひなたがそう呟くとイタイノンは目を見開く。記憶がないからイタイノン似の少女が誰なのかはわからない。でも、これだけは言える・・・・・・友達だったと。

 

イタイノンはその言葉を聞くと、ひなたから目をそらすように前を向く。

 

「・・・・・・そんなの知らないの。お前と仲良しだったなんて、考えただけで虫酸が走るの」

 

「うぇぇ・・・ひどいよ〜・・・さっきだって、あたしのこと、気にしてくれたじゃん・・・・・・」

 

「あれは・・・・・・たまたまお前が哀れだったからいてあげただけなの・・・!! 別に深い意味はないの・・・・・・!!」

 

「こんなに優しい、のに・・・・・・」

 

「調子に、乗るななの!!」

 

イタイノンがそう呟くと、ひなたは苦しいながらも茶化し始め、イタイノンはそれにムキになる。

 

「ふん・・・・・・そういう態度してていいの? 私はその気になればお前をここに置き去りにして帰れるの。そうしたらお前は一人になるの。誰にも最後を気取られずに、なの・・・!!」

 

茶化されたことに憤慨するイタイノンは高慢な態度でそう言う。あまり調子に乗っていると、お前を見捨てることもできるということをひなたに主張した。

 

「・・・あんたは、そんなこと・・・しない、でしょ・・・??」

 

「っ・・・・・・!!!!」

 

「だって・・・あたしに構ってくれるほどに・・・優しいんだもん・・・・・・」

 

ひなたが儚げな声でそう言うと、イタイノンの心が乱される。何を言っているんだろうか、こいつは。自分が優しい? そんなこと思ったことなんて一度もない。

 

「ふ・・・ふざけるのも大概にするの!! 私は優しくなんかないし・・・お前のことなんかこれっぽちも気にしてないの・・・!!!!」

 

イタイノンは立ち上がって憤慨しながらそう言うと、ふとひなたがそんなイタイノンの手を震えながら取る。

 

「っ!!??」

 

「優しいよ・・・・・・だってこうやって、話して、くれるじゃん・・・・・・」

 

「っ・・・!!」

 

驚いているイタイノンにひなたは弱々しく首を振りながら答える。イタイノンはそれに気持ち悪さを覚えて彼女の手を振り払う。そして、ひなたから後ずさるように離れる。

 

「ね・・・・・・?」

 

「・・・・・・・・・」

 

手を振り払うなどの扱いをされても、動じようとしないひなたにイタイノンは困惑の表情を浮かべる。

 

そして、その微笑みが自分の中に現れるこの女そっくりの笑顔に重なり・・・・・・。

 

「!! っ・・・うっ・・・!」

 

すると、イタイノンは急に頭を抑え始める。

 

「?? どうし・・・たの・・・・・・?」

 

ひなたが心配して声をかける中、イタイノンの頭の中にある映像が甦った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・・・・・・』

 

『ぅ・・・うっ・・・・・・』

 

『・・・・・・・・・おい』

 

『うぇ!? な、何・・・!?』

 

『お前、組む相手がいないの? 私が一緒になってやるの』

 

『ぇ・・・ほ、本当・・・・・・?』

 

『嘘はついてないの・・・・・・』

 

ダンス教室に通っていた際、二つのリボンをつけている少女が孤立しているのを見て、自分が誘った。

 

『お前・・・名前は・・・・・・??』

 

『ひ・・・平光、ひなた・・・・・・』

 

『らむ・・・板井らむ・・・よろしくなの・・・・・・』

 

そして、映像が切り替わると別のシーンの映像になる。

 

『ねえ、この絵本のおばけとこの娘、らむっちとあたしの関係だよね!』

 

『どこがなの。どっちもどっちで全然似てないの』

 

『えぇぇぇ、似てるよぉ~。この怖がりながらも友達になろうとしている娘、らむっちじゃん!』

 

『どっちかと言えばひなたなの。弱虫なこのおばけとダブルパンチなの』

 

『それって、あたしが弱虫で、怖がりってこと!? ひど~い!!!』

 

二人で絵本を見ながら、互いに茶化しながら笑い合う。

 

『あ・・・・・・』

 

『どうしたの?』

 

『お姉からもらった大事なリボン・・・・・・』

 

『もしかして、途中で落としたの??』

 

『うぅぅぅ・・・お姉からの大切なリボン、なのに・・・・・・』

 

森から帰って来たときに、ひなたがリボンを落としたことに気づき、泣きそうに瞳が潤む。

 

『私が見てくるから、お前はここで待ってるの』

 

『で、でも、こんな中入ったら危ないよぉ・・・危険だよぉ・・・・・・』

 

『怖いならここにいるの。大丈夫なの。必ず、お前の落としたリボンを探してくるの』

 

そして、らむは森の中でひなたの大事なリボンを探して彷徨う。

 

『確か・・・この辺のはずなの・・・・・・』

 

らむはひなたと一緒に遊んだ場所を思い出しながら、その辺りにある草むらを掻き分けて探していく。

 

その時だった・・・・・・。

 

ガサガサ・・・ガサガサ・・・・・・。

 

らむの背後に忍び寄る影がいた。それは花の種のようなものに蜘蛛のような4本足がついた謎の物体だった。

 

その種はゆっくりとらむに気づかれないように近づいていき、彼女からある一定の距離を保つと・・・・・・。

 

『あった! やっと見つけたの!!』

 

らむが喜ぶのを尻目に、種は自分の体を開き赤い靄となってらむへと迫っていく。

 

『??・・・・・・っ!?』

 

その気配に気づいてらむが振り向いたときには、もうすでに遅かった。

 

『ら・・・らむっち!!』

 

『うっ・・・うっ・・・!』

 

戻らないらむを心配して森の中に入ったひなたが入っていくと、倒れて呻いているらむの姿を発見した。

 

『らむっち!! 大丈夫!? しっかりしてよぉ・・・!!!』

 

『うっ・・・お前の、大事な・・・うっ・・・!!』

 

らむは苦しみながらも、見つけたリボンをひなたの前に差し出す。

 

『あぁ・・・どうしよう!! どうしよう!!!!』

 

『落ち着くの・・・バカ!! 冷静に、なって・・・ママも・・・呼べ、なの・・・・・・!』

 

『そ、そうだよ・・・お姉やお兄、パパを呼ばないと・・・・・・!!』

 

ひなたは助けを呼ぶために、今来た森を戻っていく。そのまま救急車に運ばれたらむは病院で入院することになった。

 

そして・・・・・・・・・。

 

『やめろ!! やめろなの!!!!』

 

『大人しくしなさい!!!!』

 

らむは複数の医者に抑えられ、ベッドへと寝かされようとしていた。抵抗も虚しく、らむはベッドにベルトで縛られて拘束されてしまう。

 

『ひっ・・・・・・!!』

 

『安心しなさい。お前は絶対に私が治してやる・・・!! だから、少しの辛抱だ』

 

『い、いやなの・・・!! やめろ、やめてくれなの!! そ、そんなの刺したくなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 

主治医が持つ注射器に悲鳴を上げ、らむは体をバタつかせるも、無駄な努力にしかならずそのまま注射器を刺されて絶叫を上げた。

 

そして・・・・・・・・・。

 

『・・・・・・・・・』

 

らむはベッドに寝かされていたが、その表情は虚ろに目が見開かれ、口もポカリと空いている。まるで何も見えておらず、心を壊されてしまったかのような状態だ。

 

いやだ・・・もう嫌だ・・・・・・こんな仕打ち・・・・・・。

 

ひなた・・・・・・ひなた・・・また、お前に会いたいの・・・・・・。

 

なんで・・・・・・なんで会えないの・・・・・・?

 

そうだ。この病院が悪いんだ・・・・・・この病院が私をひなたと引き離した・・・・・・。

 

許せない・・・・・・許さないの・・・・・・!!

 

でも、怖い・・・・・・怖いの・・・・・・。

 

怖い奴らなんか・・・・・・みんな消えてしまえばいいの・・・・・・!!

 

らむは壊れたままの心で呪詛のように呟くと、ふと声が聞こえてきた。

 

『・・・痛いのか? 辛いのか?』

 

誰? 誰なの??

 

『自由に走り回りたいか?』

 

自由に動きたい・・・・・・動きたいの・・・・・・!! そして、私をこんな姿にした奴らを同じ目に遭わせたいの・・・・・・!!!!

 

『いい憎しみだ。まるで地球を憎んでいるとも思える。人間も憎んでいるとは、よほど復讐がしたいように見えるな』

 

許せない・・・許せないの・・・!!!! 人間なんか、みんな大嫌いなの・・・!!!!

 

『我が全て楽にしてやろう。自由に行動できるように力を与えてやる。その代わり、我のために働き、我のために尽くすのだ。地球を我らの住む世界のような、快適な環境にするために。我の大切な娘としてな』

 

誰なの?? 私にそんな声をかけてくるのは・・・・・・??

 

『我はキングビョーゲン。今からお前を娘とする、ビョーゲンズの支配者である』

 

そんならむの憎しみに呼応するように、声をかけたのはキングビョーゲン・・・後に自身の父親となる存在であった。

 

病室の中、何か物音がし、病院の窓から何かがすり抜けるように入ってくる。その紫がかったような赤黒い靄はらむが横になっているベッドの下へと素早く移動する。そして・・・・・・!!

 

ズオォォォォォォォォォォォ!!!!!

 

『っ!!??』

 

ベッドの下から赤黒い靄がらむを包み込むように襲いかかる。らむは一瞬驚きの表情をしたまま、呆然としていたが、その意識は闇へと落ちていったのであった。

 

そして、自身が再び気がついた時には、あの声が響いていた。

 

『地球上にいるビョーゲンズたちよ・・・我はキングビョーゲン。時は満ちた・・・この星をビョーゲンズのものにするため、今こそ忌々しきヒーリングアニマルを滅する! さあ、我の元に集うがいい!!!』

 

その声が聞こえると同時に、目の前に光が見えていた。らむはそれに導かれるように手を伸ばしていった。

 

そして、ベッドに眠っているらむの瞳が大きく見開かれた。周囲から赤い靄を見ている人でもわかるように赤く光らせながら。その姿はすでに人の肌ではなく、悪魔のようなツノとサソリのような尻尾が生えていた。

 

やがて赤黒い靄はらむごと浮かび上がると、その勢いのまま病室の窓の外へと飛び出していく。

 

病院からは他の場所からも3つの赤い靄がその近くへと飛び出していったが、その一人であるらむは病院の近くの地面へと赤黒い靄に包まれたまま、着地したしゃがみ込む姿勢のまま静止する。

 

そしてゆっくりと立ち上がると、赤い靄が静かに薄れていき、その姿を晒した。

 

雪のような白い肌に、ゴシックロリータのような衣装、頭には悪魔のツノのようなもの、お尻にはサソリの尻尾のようなものが生えていた。

 

ビョーゲンズの一人、イタイノンの誕生であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その回想が終わったとき、抑えていた頭からはいつの間にか頭痛は無くなっていた。

 

(私は・・・人間・・・・・・人間だったの・・・・・・)

 

イタイノンは呆然と虚空を見つめながらそう考えた後、ひなたの姿を見やる。彼女は顔色を悪そうにしながらも、こちらを心配そうに見つめている。

 

それを見たイタイノンは両手を下に降ろすと、よろよろと歩きながらひなたの隣へと座る。

 

「大、丈夫・・・・・・?」

 

ひなたは苦しそうにしながらも、イタイノンを心配して声をかける。イタイノンはゆっくりと顔をひなたの方へと向ける。

 

イタイノンは呆然とした表情から顔を顰めると唐突に手を伸ばす。

 

ペチペチペチペチ!!

 

「い、痛い・・・痛いぃ・・・!!」

 

「お前に心配される筋合いはないの。自分の顔を見てから言えなの」

 

ひなたの頬に強めにビンタをして、素っ気なく返すとイタイノンは再び前を向いて押し黙った。

 

「何、だよ・・・せっかく、心配してる、のに・・・・・・!!」

 

「私はお前の方が心配なの」

 

「え・・・・・・??」

 

「っ!?」

 

ひなたがムッとしたような感じで言うと、イタイノンはそう答える。それにひなたがキョトンとすると、イタイノンはハッとしたようにそっぽを向く。

 

「な、なんでもないの・・・!!!!」

 

(私は、一体・・・何を言ってるの・・・・・・??)

 

イタイノンは自分の敵であるこの女のことを、反射的に変なことを言ったことに戸惑いを隠せなかった。

 

そして、その後は二人して何の会話も無いまま、数分間が過ぎた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・うぅ・・・」

 

(体調がどんどん悪くなってるの・・・・・・)

 

イタイノンは呼吸が荒くなっていくひなたを見つめていた。ひなたの顔は少しずつ土気色になり始めており、段々と表情に力が入らなくなっていた。

 

「おい、大丈ーーーー!?」

 

イタイノンはひなたに手を伸ばそうとしてその動きを止めた。

 

自分は今、何をしようとしていた? もしや、敵であるこいつを、気遣おうとした???? 助けようとした????

 

イタイノンはハッとすると、すぐにもう片方の手で抑え込むように引っ込める。

 

(私、どうしたの・・・?? こいつなんか大嫌いだし、消したい存在のはずなのに・・・・・・)

 

イタイノンは自分の手のひらを見つめながら動揺する。いつもだったらこんなやつ、すぐに痛めつけられるのに、それをしようとしない自分に恐ろしさを覚える。

 

「うっ・・・んぅ・・・・・・今なら・・・わかる、な・・・・・・」

 

「??」

 

「のどかっちも・・・病気に、なって・・・こんなに・・・・・・苦しかったん、だね・・・・・・」

 

ひなたは苦しそうに呻きながらも、イタイノンに向かって微笑んで見せる。その顔色はすでに土気色に近づいてきていた。

 

「お前・・・なんで苦しいのに笑ってられるの・・・・・・??」

 

「・・・・・・・・・」

 

「苦しいのに笑うとか、意味がわからないの。お前、おかしいの・・・!!」

 

「そう・・・なのかな・・・・・・」

 

イタイノンは理解が追いつかなかった。こいつは病気で苦しいのに、どうしてこうもヘラヘラしてられるのか。頭がおかしいとしか思えない。

 

「でも、笑ってないと・・・みんなに、暗い気持ちに・・・させる、から・・・・・・笑ったほうがいいんじゃない、かな・・・・・・?」

 

「病気になって暗くなるのは当たり前なの!! 病気になって、いつ死ぬかわからない・・・いつ苦しくなるかわからない・・・いつ体に痛みが来るかわからない・・・そういうわからない気持ちを抱きながら過ごすものなの!! お前は全然わかってないの!!!!」

 

こんな時でもそういうことを言うひなたは、イタイノンにとっては能天気そうに聞こえる。それに彼女はイライラして声を荒げた。

 

「わかん、ないし・・・だって、こんな苦しい気持ち・・・なったこと、ないもん・・・・・・」

 

ひなたはそう言いながらも苦笑いのような表情を浮かべて微笑んで見せる。

 

「お前、本当は怖いの・・・?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「怖いから笑ってごまかしてるの・・・!! 本当は怖いんだろう、なの・・・!! 怖いなら怖いって言え、なの・・・!!!」

 

イタイノンは絶対にこいつは恐怖をごまかすために笑っている、病気になったやつが笑顔になれるわけがないと、そうひなたの心を煽ろうとしていた。

 

しかし、ひなたはそれでもイタイノンに笑みを崩すことはなかった。

 

「怖く、ないよ・・・・・・!」

 

「どうして・・・!!??」

 

ひなたのこの答えに、イタイノンはさらに動揺する。怖いなら怖いといえばいいのに、どうしてこの女は言ってくれないのか・・・・・・?

 

「だって・・・一人じゃないもん・・・あんたが一緒にいるもん・・・見てくれてるもん・・・・・・だから、怖く、ないよ・・・・・・」

 

「っ!!!!」

 

イタイノンはこの言葉に衝撃を受け、少し後ずさるとその場に膝をついた。

 

「私はそんなつもりじゃ・・・・・・!」

 

自分はお前を苦しめて、痛めつけて、絶望を味合わせるために、今までそう思い込んでいたのに・・・・・・どうして私は心が揺れているのか・・・・・・?

 

「はっ、ぁ・・・はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

ひなたの表情が苦痛に歪み始め、まるで自分の周囲だけ酸素が薄くなったかのように呼吸が荒くなっていく。顔色はすでに土気色になっており、もう限界のようだった。

 

「イタイ・・・はぁ、はぁ、ノン・・・はぁ、はぁ」

 

「っ!! もうこれ以上喋るななの!! 死ぬの、お前!!」

 

ひなたはなんとか言葉を発して何かを伝えようとしたが、ハッとしたイタイノンがそう叫ぶ。

 

「イタイノン、はぁ、はぁ、は、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、ビョー、はぁ、はぁ、ゲンズ、はぁ、はぁ、でも、はぁ、はぁ、あたしに、はぁ、はぁ、とって、はぁ、はぁ、特別、はぁ、はぁ、なのかも、はぁ、はぁ、しれない、ね、はぁ、はぁ、最初から、はぁ、はぁ、こうやって、はぁ、はぁ、話してれば、はぁ、はぁ、よかったなぁ・・・はぁ、はぁ、はぁ」

 

懸命に言葉を伝えるひなたの視界は歪んでいく。苦しそうな呼吸も荒くなっていき、ひなたの体はうまく酸素を取り込めず力がなくなっていく。

 

「・・・・・・・・・」

 

『あたしに構ってくれるほどに・・・優しいんだもん・・・・・・』

 

イタイノンの頭の中にひなたの言葉が甦ってくる。

 

「お前が・・・・・・」

 

『こうやって、話して、くれるじゃん・・・・・・』

 

バチバチバチバチ・・・・・・バチバチバチ・・・・・・。

 

それと同時にイタイノンの中の能力が再開したかのように電気が溢れていく。

 

「私は・・・お前が・・・・・・!!!!」

 

『一人じゃないもん・・・あんたが一緒にいるもん・・・見てくれてるもん・・・・・・だから、怖く、ないよ・・・・・・』

 

バリバリバリバリバリ・・・・・・バリバリバリバリバリ・・・・・・!!!!!

 

イタイノンは体をプルプルと震わせ、電気の帯電が大きくなっていく。

 

バリバリバリバリバリ・・・・・・!!!!!

 

「お前が死んだら、面白くないのッッッ!!!!」

 

イタイノンは苛立ちにも似た叫び声をあげると、ひなたへと飛ぶように近づく。

 

「っ・・・っ!!!!」

 

そして、ひなたの背中を抱くように持ち上げると、そのままもう片方の手を伸ばして彼女の体へと手を突っ込んだ。

 

「っ!!?? あ゛ぁっ・・・かはっ・・・!!」

 

その瞬間、ひなたの目が見開かれ、そのまま激痛に声をあげる。

 

「あ゛ぁ・・・あ゛っ・・・・・・が、あ゛ぁ・・・!!」

 

「どこなの!? どこを掴むの!!??」

 

イタイノンは手で体の中を弄るように動かし、ひなたはその度に激痛で声を上げていく。手を体の中に入れられただけでも激痛なのに、弄られるとなると相当な苦しみと激痛のはずだ。

 

「っ!! ふんっ!!!」

 

「うっ!? か、かはぁ・・・・・・!!」

 

イタイノンは何かを掴むと、それを躊躇なく引っ張る。ひなたは痛みから口から空気を大きく吐き出す。

 

「っ!! っ!!!!」

 

バリバリバリバリ!!!!

 

イタイノンは紫がかった赤い靄のようなものを引きずり出すと、電気を浴びせながら引っ張り出していく。

 

「おーーーい!!! イタイノン!!!!」

 

「っ??」

 

そこへ穴の中へと入り込んできたかすみが駆けつけてくる。イタイノンは顔をあげて視認すると驚いたような顔をする。

 

「無事だったんだな!!」

 

「お前、どうして・・・!?」

 

「ドクルンに様子を見てきてくれと頼まれたんだ!!」

 

「そう・・・・・・」

 

よりにもよって話したくもない奴が駆けつけてきた。イタイノンはかすみを見ながらそう思った。かすみから事情を聞くとイタイノンは顔を顰めながらボソリとそう呟いた。

 

「うぅぅぅ・・・うぁぁぁ、あぁぁぁ・・・!!!!」

 

「っ、ひなた!?」

 

苦しみに呻くような声に反応したかすみが足元を見てみると、ひなたの姿を視認して驚く。

 

「あぁ・・・そういえば、お前の元仲間だったの」

 

「何をしたんだお前!!??」

 

「別に・・・痛めつけるためにやってるわけじゃないの」

 

かすみとイタイノンがそう口論をしていると・・・・・・。

 

「ひなたに何してんだ、お前ら!!!」

 

「「!!」」

 

そこへ聞こえてくるもう一つの叫び声、かすみとイタイノンがそこを向くとそこにはこちらを睨みつけているニャトランの姿があったのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第107話「信念」

前回の続きです。
一触即発な雰囲気になりそうな前回、その行方は??


 

発電所の近くの大穴の中で、見据えあうかすみとイタイノン、そしてニャトラン。ニャトランはひなたに触れているイタイノンに怒りの形相で睨んでいた。

 

「ひなたに何してんだ、お前ら!!!!」

 

ニャトランはイタイノンに向かって怒りの叫びをあげる。

 

「・・・見ればわかるの。倒れたこいつの中にあるものを取り出そうとしているの」

 

「うぅぅぅぅ・・・うぁぁぁぁ、あ゛ぁぁぁぁ・・・・・・」

 

イタイノンは開き直ったようにひなたから赤い靄を引っ張り出し、ひなたは苦しそうな声をあげる。

 

「それってメガパーツか!? お前、いつの間にそれを!!!」

 

「気づかないお前が悪いの」

 

ニャトランが非難の声をあげると、イタイノンは淡々と返しながらも赤い靄を引っ張り出そうとする。

 

「うぁぁぁぁ・・・あぁぁぁぁ・・・!!!」

 

「っ・・・・・・!!!」

 

引きずり出される度に、ひなたは苦しみの声をあげる。かすみは同じようになった愛しののどかのことを思い出して、辛そうな表情をしていた。

 

「っ、やめろよ!!! っ!?」

 

ニャトランはひなたが苦しんでいるのを見て飛びつこうとしたが、かすみがとっさに彼を抑え込む。

 

「かすみ!? 何すんだよ!?」

 

「大人しくしていろ・・・・・・!!」

 

「離せ!! 離せよぉっ!!!!」

 

ニャトランは阻止しようと抱きしめるかすみを見て驚き、その手から逃れようとジタバタする。かすみはそれを見て険しい表情をしながらも、内心では心を痛めていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

「うっ・・・うぅぅぅぅ・・・うぁぁ、ぁぁ・・・!!」

 

イタイノンは二人の方をチラチラと見つめながら、ひなたの赤い靄に電気を浴びせる。ひなたは赤い靄が掴まれているせいで抵抗され、そのために絶え間ない激痛が走っており、首を左右に振りながら苦しんでいる。

 

「かすみ、なんでだよ!? なんでだよぉ!!??」

 

「っ・・・! 頼むから・・・大人しくしててくれ・・・・・・!!!!」

 

ニャトランは足掻くのをやめてかすみに問いかける。その悲痛な叫びにかすみは心を抉られるような感覚に陥って辛そうにしながらも、そう訴える。反らしたその表情からは懇願が入り混じったような辛そうな顔をしていた。

 

「うっ、うぅぅぅぅ・・・・・・ニャ・・・ニャト・・・ラン・・・・・・」

 

「っ、ひなたぁ!!」

 

「大・・・丈夫・・・・・・だいじょう・・・ぶ・・・・・・だか・・・ら・・・・・・」

 

ひなたが激痛を堪えながら紡いだ言葉に、ニャトランが反応する。ひなたは苦痛に歪めながらも、ニャトランにぎこちない微笑みを見せている。

 

「ひなた・・・・・・」

 

ニャトランはそんなパートナーの姿を見て、心配そうな表情を浮かべていた。

 

「大丈夫だ、ニャトラン」

 

「っ!!」

 

「ひなたは、助かるから・・・・・・」

 

周囲に聞こえないような囁く声でニャトランに伝えるかすみ。ニャトランはかすみの顔を見て、イタイノンの姿を見てなんとも言えないような表情だった。

 

「っ・・・・・・!!」

 

バリバリバリ・・・バリバリバリ・・・・・・!!!

 

「ぐっ、うぅぅぅぅ・・・うぁぁぁ、ぐぁぁぁぁぁ・・・・・・!!!!」

 

イタイノンは電気を浴びせながら少しずつ赤い靄を取り出していく。ひなたは苦痛に呻きながら、苦痛の声を上げながらも、なんとか意識を保って耐えようとしていた。

 

「っ・・・いい加減出てくるの!!!!」

 

バリバリバリバリバリバリバリ!!!!!

 

「ぐっ・・・ぐぁぁぁぁぁ、がぁ・・・がぁぁぁぁぁ・・・あぁぁぁぁぁ・・・!!!!」

 

苛立ったイタイノンは電気の威力を強くしながら、赤い靄をさらに引っ張る。ひなたからスムーズに赤い靄が抜けていき、ひなたの苦痛の声がさらに大きくなった。

 

「うぁぁぁぁぁぁ・・・ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・!!!!」

 

「っ!! くっ!!!!」

 

「あぁぁぁぁぁぁ・・・うぅぅぅ、うぁぁぁぁぁぁ・・・・・・!!!!」

 

「くっ・・・うぅぅぅ!!!!!」

 

「ぐぁぁぁぁぁ、ぐぁぁぁぁぁ!!!! うぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・!!!!!!」

 

少しずつ取り出される赤い靄、その度に苦しみの声を上げていくひなた。顔は苦痛に歪み、痙攣するように体をプルプルと震わせる。

 

「っ・・・!!」

 

パートナーの苦しむ姿を見ていることしかできないニャトランは辛そうに見つめる。でも、かすみも一緒に辛そうに見ているのを見て、ひなたを痛めつけてはいないということを察する。

 

心の中では、ひなたには助かって欲しいと願う。ニャトランにできるのはそのくらいだった。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

ドォォォォォォォォォォン・・・・・・!!

 

「っ!? な、なんだ・・・!?」

 

突然轟音が響いて、穴の中の地面が揺れ始める。

 

「地上でメガビョーゲンが暴れてて、それで揺れてんのか・・・!?」

 

「ここも少し・・・崩れるんじゃないのか・・・・・・!?」

 

ニャトランとかすみの心に焦りが生まれ始める。発電所の近くの地面であるこの場所は、崩れてしまうのではないかと・・・・・・。

 

そんな二人の悪い予感は的中してしまう・・・・・・。

 

ガラガラガラガラ、ドシャーン!!!

 

「っ!!??」

 

「っ、危ない!!!!」

 

イタイノンの上から崩れる音が響き、彼女が気づいたときには落盤が迫っていた。とっさにかすみはニャトランから手を離して、走り出すとステッキから大きなシールドを展開する。

 

ズシャーン!!!!!

 

落盤が激突して穴の中に土煙が舞う。穴の中全体に土の臭いが充満して中が見えなくなる。

 

土煙が晴れた頃、イタイノンは片手で顔を覆うようにして目をギュッとつむっていたが、自身の体には服が土で汚れた以外は何も怪我は起きていない。

 

「ぐっ、うぅぅぅ・・・・・・!!」

 

「カスミーナ、お前・・・!!!!」

 

「やっと・・・名前を呼んで、くれたな・・・!!」

 

呻くような声がしたかと思うとイタイノンがそこに視線を向けると、かすみがシールドで落盤を受け止めていた。

 

「お前、どうして・・・・・・!!??」

 

イタイノンは理解ができない状況に驚いていた。散々ひどい目に合わせて、ひどいことも言ったのに、どうしてこいつは私を助けようとするのか・・・・・・??

 

「何を言ってるんだ・・・私たちは、仲間だろう・・・・・・?? 同じビョーゲンズの」

 

「っ!!!!」

 

「ひなたも仲間だけど、イタイノン・・・お前も私にとっては大切な仲間なんだ。仲間を助けるのに、これ以上の理由なんかいるか・・・?」

 

かすみは落盤を抑えながらも、なんとか言葉を伝える。ひなたも大切だが、イタイノンも数少ない大事な存在なのだ。仲間を助けない理由なんかあるのだろうかと。

 

「ぐっ・・・早く、その場から移動を・・・・・・!!」

 

かすみは思ったよりも重い落盤に押されそうになっていた。シールドにもヒビが入り始めており、これが壊れてしまえば、かすみとイタイノンは落盤の下敷きだ。

 

「っ・・・!!!!」

 

イタイノンはカスミーナを呆然と見ていたが、プリキュア側についていたときに痛めつけ、仲間入りをしたときも素っ気なく無視していたことを思い出し、キリッと顔を顰める。

 

「っ・・・くっ・・・!!」

 

イタイノンはその場から逃げずにかすみへともう片方の手を伸ばす。ひなたを抱きながらやっているため、スムーズには動かなかったが、なんとか手を伸ばしていく。

 

「ぐっ・・・うぅぅ・・・・・・!!」

 

かすみがさらに落盤に押され、シールドにもさらにヒビが入り始める。同時にイタイノンが手を伸ばしていく。

 

そして・・・・・・。

 

ズシャーン!!!!!!

 

かすみが支えていた落盤は地面へと落ち、土煙が再び舞う。

 

「っ、ひなた!! かすみ!!!! イタイノン!!!」

 

ニャトランは落盤に巻き込まれた三人の名前を呼ぶ。土煙が晴れていくと、そこに映っていたのは崩れた瓦礫と落盤の跡であった。

 

「お、おい・・・嘘だろ・・・!? ひなた!!! かすみ!!!! イタイノン!!!! 誰か返事しろよ!!!!!!」

 

ニャトランは落盤の跡へと飛んで、三人の名前を叫ぶ。しかし、彼らから返事が一切帰ってこない。もしかして、落盤に押しつぶされてしまったのか・・・・・・?

 

「そんなぁ・・・・・・嘘だよ!!! こんなの嘘だ!!!!! お前ら生きてるんだろ!!?? 返事してくれよぉ!!!!」

 

ニャトランは落盤の山をどかそうと瓦礫を引っ張るも、ビクともしない。

 

「あ・・・あぁ・・・うっ・・・うぅぅ・・・・・・みんなぁ・・・・・・!!」

 

瓦礫を動かせないニャトランは絶望の声をあげると、地面に膝をついてむせび泣く。まさか、こんなことでパートナーや仲間とお別れだなんて・・・・・・。

 

ニャトランが泣いていた、その時だった・・・・・・。

 

「穴の中で騒いでうるさいの・・・!!!!」

 

「っ!!!!」

 

そこへ荒げたような声が聞こえ、ニャトランが涙目で振り返るとそこには、ひなたを肩に担ぐイタイノンと尻餅をついて荒い息をつくかすみの姿があった。

 

「ひなた!! みんな無事だったのか!!??」

 

「見ればわかるの、そんなの・・・!!」

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

ニャトランが安堵の表情を浮かべてそう言うに対し、イタイノンは顔を顰めながらそう言った。

 

「はぁ・・・す、すまない・・・イタイノン・・・・・・」

 

「別に謝らなくていいの」

 

かすみは息をつきながらそう言うと、イタイノンはそっぽを向いて赤らめながらボソリと言う。

 

ドゴォォォォォォォォォォォン!!!!

 

「っ、ここも時間がなさそうなの・・・!!」

 

「早くひなたを・・・!!!!」

 

「わかってるの・・・!!」

 

しかし、またさらに揺れて天井が崩れそうだった。かすみは早くひなたの赤い靄を取り除くように促し、イタイノンはひなたから出ている赤い靄を掴んで引っ張る。

 

「イ・・・イタイ・・・ノン・・・・・・」

 

「黙ってるの・・・・・・!!」

 

「うっ・・・うぁぁぁ・・・ぐぁぁぁぁぁぁ・・・!!!!」

 

自分の名前を呼ぶひなたの赤い靄を引っ張るのを再開すると、ひなたは再び苦痛の声を上げ始めた。

 

「私も手伝う・・・!!!!」

 

かすみはそう言ってイタイノンの持つ赤い靄を一緒に掴んで引っ張る。

 

「あぁぁぁ・・・あぁぁぁぁ・・・ぐ、ぁぁぁ・・・あぁぁぁぁ・・・!!!!」

 

ひなたの表情は再び苦痛に歪み、体をプルプルと震わせる。時折、首を左右に動かしてもがく。

 

「ひなた、頑張れよ・・・!!!!」

 

「うぁぁぁぁ・・・ぐぁぁぁ・・・あぁぁぁ・・・・・・!!!!」

 

そこへニャトランも駆けつけて彼女の手を握る。今の自分にできることはこれしかないが、少しでもひなたの力になれると感じていた。

 

「テラパーツ・・・ひなたの体から出ていけ・・・!!!!」

 

「これ以上ひなたを・・・苦しめるなぁ・・・!!!!」

 

「っ・・・! ふんっ!!!!」

 

かすみ、ニャトラン、イタイノンはそれぞれの思いを持ちながら、赤い靄が出ていくように願う。

 

「うぅぅぅぅ、うぁぁ・・・あぁぁぁ、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

ひなたから一際大きい絶叫が上がると、赤い靄がひなたの体から引き摺り出される。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・と、取れたの・・・!!」

 

イタイノンは息を荒くしながらも、自分の手の中にある紫がかった赤い靄を見つめる。

 

「ひなた!!!!」

 

ニャトランはひなたの顔を見つめる。すると、彼女の顔から苦痛の表情が抜けて、スヤスヤと安らかな寝息を立てていた。

 

「大丈夫みたいだな。よかった・・・!!」

 

ひなたの容態がなんともないことを、かすみとニャトランは安堵した。

 

ドゴォォォォォォォォォン!!!!

 

「っ!!」

 

そんなのもつかの間、揺れが大きくなって天井がガラガラと崩れ始めているようだった。

 

「安心している暇じゃないの!! とっととここから出るの!!」

 

イタイノンはひなたをお姫様抱っこのように持つと、二人にそう呼びかける。かすみが頷くと、イタイノンは宙に浮いて元々落ちた穴から飛び上がっていく。

 

「はぁっ!!!!」

 

かすみはダークグリーン色のエレメントボトルを取り出して黒いステッキにセットすると、ステッキの先から球体のような空気の塊を作り出す。そして、その上に乗ろうとするが・・・・・・。

 

「っ・・・・・・」

 

ふと彼女の横をニャトランが通り過ぎる。かすみは俯いてなんとも言えない表情を浮かべると、目をギュッと瞑る。そして・・・・・・!!

 

「ニャトラン・・・!!!!」

 

「っ!! わぁっ!! か、かすみ!?」

 

かすみは駆け出して叫びながらニャトランを抱きしめると、その勢いのまま空気の塊の上に乗り、もと来た穴へと飛んでいく。

 

「っ・・・すまない・・・すまない・・・・・・」

 

「かすみ・・・・・・?」

 

ニャトランをギュッと抱きしめながら体を震わせて呟くかすみに、ニャトランは疑問を抱いていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃、地上では・・・・・・。

 

「メッガメガァ!!!」

 

メガビョーゲンはアンテナから上空へと電気を飛ばし、雷を降り注がせる。

 

「くっ・・・ふっ・・・・・・!!」

 

「っ・・・はっ・・・・・・!!」

 

グレースとフォンテーヌは雷の弾幕を避けながら、メガビョーゲンへと駆け出す。

 

「ふっ・・・はぁぁぁぁっ!!」

 

「メガメガァ!!」

 

その後ろからアースが高く飛んで回し蹴りを繰り出す。メガビョーゲンはロボットアームのような手で蹴りを防ぐ。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

「メッガァ!? メガメガメガァ!!??」

 

その隙をついてグレースとフォンテーヌが同時に腹部に蹴りを入れ、メガビョーゲンを背後によろつかせる。

 

「ふっ!!!!」

 

「メガメェ・・・!!??」

 

アースは腕の上に登ると、そこから飛んでメガビョーゲンの顔面に飛び蹴りを食らわせ、背後へと倒す。

 

「よし!!」

 

「今のうちに浄化を!!!」

 

グレースとフォンテーヌの言葉にアースは頷くと、浄化の構えに入ろうとするが・・・・・・。

 

ビュンッ!!!!

 

「っ、あぁぁぁぁ!!!!」

 

突然、そこへ白い何かが飛んでくるとアースへと直撃する。

 

「「アース!!」」

 

グレースとフォンテーヌが心配してみる中、地面を転がるアースはなんとか体勢を立て直して着地する。

 

「っ! フーミン!!」

 

アースが飛んで来た方向を見据えると、そこには6枚の翼を生やしたフーミンが上空へ飛んでいた。

 

フーミンは地上へと降りて翼を畳むと、プリキュアの三人を見据える。その表情は怒りで満ち溢れていた。

 

「イタイノンお姉様をどこにやったですぅ・・・??」

 

「イタイノン・・・・・・?」

 

「じゃあ、あの穴はイタイノンが・・・!?」

 

グレースは疑問を持つが、フォンテーヌは光っていたのを見ているため、あれはイタイノンの電気の仕業ではないかと推測する。

 

「お姉様を返すですぅ・・・・・・!!!!」

 

フーミンは怒りの声を上げながら、翼を広げて赤い光の禍々しい球体を展開すると、それを光線状にしてアースに目掛けて放つ。

 

「ふっ・・・・・・!」

 

アースは低く飛びながらフーミンへと迫っていく。

 

「んぅ!!」

 

フーミンは翼を広げて6枚の翼を一気に、アースへと投下する。

 

「ふっ!! はぁっ!!!!」

 

アースは体を翻して攻撃を避け、さらに迫ってくる翼を掴んで上へと飛ぶ。

 

「はぁぁぁ!!!!」

 

「っ・・・!!」

 

アースはフーミンに目掛けて蹴りを繰り出す。フーミンは翼を瞬時に自分の元に戻すと、自分を覆うようにして包み、アースの蹴りを防ぐ。

 

フーミンは翼を広げてアースを押し返し、口から不快音波をアースに向けて放つ。

 

「っ!!!!」

 

アースは着地をして、瞬時に音波を飛んで避ける。

 

「音のエレメント!!」

 

アースはハープを取り出すと、音のエレメントボトルをセットする。

 

「ふっ!!」

 

ハープの弦を弾いて音を奏でると、心地よい音波が放たれる。

 

「んぅ・・・!!! っ・・・!!!!」

 

バサバサ!! バサバサ!!

 

フーミンは翼を思いっきり羽ばたかせると、羽音で生じる衝撃波でアースの音波が相殺される。

 

「お姉様をどこにやったですかぁ・・・? さっさと出すですぅ・・・!!!!」

 

フーミンはふわふわとした口調ながらも、怒りのような声をあげて要求する。

 

「・・・イタイノンは恐らく穴の中です」

 

「穴ぁ・・・・・・?」

 

アースの言葉に首を傾げるフーミン。正直、愛しのイタイノンの姿が見えないのはメガビョーゲンと戦っていたプリキュアたちの仕業だと知って怒りに震えていたため、穴に関しては眼中になかった。

 

「私たちの仲間とイタイノンに何かがあって、あのような大穴ができたのでしょう。あの穴の中にいると私は見ています」

 

「・・・・・・・・・」

 

アースにそう説明されると、フーミンはぼーっと彼女の顔を見つめる。そして、何かを思考したように口を開く。

 

「つまりは、そのプリキュアが関わっているってことですかぁ・・・・・・?」

 

「確かに関わってはいますが・・・・・・」

 

「なら、お前たちも同罪ですぅ・・・!!!!」

 

フーミンはそのプリキュアがイタイノンの姿が見えなくなったことをアースから聞くと、再び翼を広げると前方へと振って無数の羽を飛ばした。

 

「っ!!」

 

アースは突然の攻撃にジャンプして避ける。羽は地面に着弾すると爆発を起こした。

 

「っ・・・!!!!」

 

「んぅぅぅぅぅぅ・・・!!!!」

 

「くっ・・・!!!!」

 

空中へと逃げたアースを追撃しようと、フーミンが翼を広げると一瞬でアースの目の前に現れる。フーミンはそのまま横薙ぎに翼を振り下ろす。アースはとっさに腕で防いだ。

 

「んぅ・・・!!!!」

 

「うっ、うぅぅぅぅぅぅぅ・・・!!!!」

 

フーミンはその隙をつくように不快音波を近距離で浴びせる。まともに直撃したアースは頭の中に不快な音波が響き、その痛みに頭を抑える。

 

「っ・・・・・・!?」

 

「にはさないえふぅ・・・!!」

 

「ぐっ・・・うぅぅぅぅぅ・・・・・・!!!!」

 

フーミンは逃れようとするアースの体を拘束し、不快な音波を浴びせ続ける。アースは固定させられたまま音波を直に浴びせ続けていることになり、表情を苦痛に歪ませながら苦しむ。

 

「っ・・・んぅ!!!!」

 

「あぁぁぁぁ!!!!」

 

フーミンは音波を浴びせるのを止めると、とっさに翼を伸ばしてアースを放り、戻した後に2枚の翼を投下してアースにぶつける。アースは吹き飛ばされて地面に叩きつけられる。

 

フーミンは地面へと降りて翼を仕舞うと、倒れ伏しているアースへと歩み寄り、彼女の胸ぐらをつかんで持ち上げる。

 

「うっ・・・・・・!!」

 

「お姉様を汚した罪は思いですぅ・・・このまま消してやるですぅ・・・・・・!!!」

 

胸を絞めあげられて苦しむアースに、フーミンは再び6枚の翼を生やすとアースに目掛けて構えた。

 

一方、メガビョーゲンと対峙するグレースとフォンテーヌは・・・・・・。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「メッガメガァ!!!」

 

フォンテーヌは蹴りを繰り出すも、メガビョーゲンはロボットアームのような腕で攻撃を受け止める。

 

「はぁっ!!!」

 

そこへグレースが隙を突こうとメガビョーゲンに蹴りを繰り出すが・・・・・・。

 

「メガメガ、メガァ!!!!」

 

「っ、きゃあぁぁぁぁ!!!!」

 

「あぁぁぁぁ!!!!」

 

メガビョーゲンは頭のアンテナから電気を放って、フォンテーヌを感電させて吹き飛ばし、グレースも巻き添いになって二人は地面へと叩きつけられる。

 

「メッガメガァ!!!!」

 

メガビョーゲンはさらに上空に電気を放って、二人に雷が降り注いだ。

 

「っ!!」

 

「ぷにシールド!!」

 

それに気づいたフォンテーヌはとっさに立ち上がってぷにシールドを上空に向けて展開する。

 

「うっ・・・!!!!」

 

フォンテーヌは降り注ぐ雷をなんとか防ぎ、その間にグレースが起き上がる。

 

「実りのエレメント!!」

 

ステッキに実りのエレメントボトルをセットし、メガビョーゲンに構える。

 

「ふっ!!」

 

「メガァ!?」

 

グレースはピンク色の光弾を放ち、メガビョーゲンに直撃させた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「はぁ・・・はぁ・・・これ以上長引くと・・・きついわね・・・」

 

二人は疲れからか息を荒くしており、フォンテーヌはこれ以上の戦闘は危険と判断する。

 

「メガメガァ!!!」

 

メガビョーゲンは黒い煙を振り払うと、二人に頭のアンテナに電気を溜めて放つ準備を始めていた。

 

「っ、させないわ!!」

 

フォンテーヌはメガビョーゲンが再び攻撃しようとしていることに気づくと、そうはさせまいと氷のエレメントボトルを取り出す。

 

「氷のエレメント!! はぁっ!!」

 

「メ・・・メガメガ!?」

 

エレメントボトルをステッキにセットすると、冷気を纏った青色の光線を放ち、メガビョーゲンのアンテナを氷漬けにする。

 

「よし!!」

 

「今のうちに浄化を・・・!!!」

 

グレースとフォンテーヌはメガビョーゲンが攻撃できない隙に、浄化技を放つためのエレメントボトルを取り出そうとする。

 

ドガッ!!!

 

「あぁぁぁぁ!!!!」

 

しかし、そこへアースが吹き飛ばされてくる。

 

「「アース!!」」

 

グレースとフォンテーヌが目の前に飛ばされて来たアースに気を取られていると・・・・・・。

 

ビュンッ!!!!

 

「きゃあぁぁ!!!!」

 

「あぁぁぁ!!!!」

 

グレースとフォンテーヌにそれぞれ翼が迫り、直撃を受けた二人は吹き飛ばされた。

 

「フフフ・・・疲れてるですかぁ・・・? あの時のような覇気がないですぅ・・・・・・」

 

アースの飛んで来た方向から不敵な笑みを浮かべながら、フーミンが姿を現した。

 

「フ、フーミン・・・・・・」

 

「んぅ・・・・・・!!」

 

顔を顰めてこちらを見るグレースをよそに、フーミンは不快な音波をメガビョーゲンに向かって放つ。

 

ピキピキ、パリーン!!!!

 

「あっ・・・そんな!!」

 

「氷のエレメントの力が・・・!?」

 

メガビョーゲンの氷漬けになっていたアンテナは音を立てて砕け解放される。フォンテーヌは信じられないといったような表情をする。

 

「そんなものでは私たちは縛れないですぅ・・・・・・」

 

「メガメガァ!!」

 

「さあ、往生するですぅ・・・・・・!!」

 

フーミンは不敵な笑みを浮かべてそう言うと、攻撃ができるようになったメガビョーゲンは再びアンテナに電気を溜め始める。

 

「諦め、ないよ・・・・・・!!」

 

「??」

 

グレースは言葉を紡ぐと、ゆっくりと立ち上がる。

 

「だって、ひなたちゃんが頑張ってるかもしれない・・・あの穴の中で戦っているかもしれない・・・・・・だから、私たちも、お手当てを諦めちゃいけないんだ・・・!!!!」

 

グレースは強い口調で、フーミンにそう言い返す。その言葉を始めとして、フォンテーヌとアースも起き上がっていく。

 

「そうね・・・・・・ひなたは調子がいいけど、誰よりも元気が取り柄な子だもの。私たちが立ち向かわなくちゃ、ひなたも浮かばれないわよね・・・!!!!」

 

「私も、本当はひなたが心配です。グレースにあんなことを言っても、本当は心配です。でも、それと同じくらい・・・ひなたを信じているんです・・・!!!!」

 

フォンテーヌとアースも次々と主張し、自身を奮い立たせていく。

 

「だから、私たちはーーーー」

 

「「「絶対に諦めない!!!!!!」」」

 

三人はフーミンを睨みつけながら、きっぱりとそう言い放った。ひなたのために、地球のために、自分たちはどんなに追い込まれても諦める気持ちは到底なかった。

 

「んむぅ・・・・・・うるさくて耳障りですぅ・・・私の目の前から消えるですぅ!!!」

 

「メガメガァ・・・・・・!!」

 

フーミンは三人の言葉に不快感を露わにして叫ぶと、メガビョーゲンが呼応するかのように電気をさらに溜めていく。

 

「っ・・・・・・!!」

 

グレースたちはメガビョーゲンの攻撃のタイミングを伺う。ここで失敗したら三人まとめてやられることになる。

 

「メガァ・・・メガメガァ!!!!」

 

メガビョーゲンはアンテナにチャージした電気を一気に放電した。

 

「「ぷにシールド!!」」

 

グレースとフォンテーヌは大きめのぷにシールドを展開して、雷の波状攻撃に立ち向かう。

 

「くっ・・・・・・!!」

 

「うっ・・・・・・!!」

 

シールドに雷が当たり、そのあまりの勢いに押されそうになる。

 

「音のエレメント!!」

 

アースはハープに音のエレメントボトルをセットする。

 

「ふっ!!」

 

グレースとフォンテーヌのシールドの隙間から、ハープを奏でて音波を放つ。

 

「メェ・・・メガ・・・!? メガガ・・・!?」

 

メガビョーゲンが音波を浴びて苦しみ始め、電気の放出が悪くなる。

 

「今よ!!」

 

フォンテーヌの言葉を合図に、グレースとフォンテーヌがシールドを張りながら飛び出していく。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

「メガメガァ!? メガァッハ・・・!?」

 

そのまま飛び上がってアンテナにシールドを同時にぶつける。

 

バチバチバチバチ・・・・・・ドカァァァァァン!!!!

 

「メガァ・・・・・・!?」

 

シールドによって押さえつけられた電気がアンテナの中で過充電となり、メガビョーゲンのアンテナは爆発を起こした。

 

「今だよ!!」

 

二人は地面に着地し、グレースはみんなへと呼びかける。

 

グレースは花のエレメントボトル、フォンテーヌは水のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

そう言いながら光るステッキの先をハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「「ヒーリングゲージ上昇!!」」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングフラワー!!」

 

「プリキュア!ヒーリングストリーム!!」

 

グレースとフォンテーヌはそう叫びながら、ステッキをメガビョーゲンに向けて、ピンク色の光線と青色の光線を同時に放つ。

 

「アースウィンディハープ!!」

 

アースは風のエレメントボトルをハープにセットする。

 

「エレメントチャージ!!」

 

アースはハープを手に取って、そう叫ぶとハープの弦を鳴らして音を奏でる。

 

「舞い上がれ! 癒しの風!!」

 

手を上に掲げると彼女の周りに紫色の風が集まり始め、ハープへとその力が集まっていく。

 

「プリキュア! ヒーリング・ハリケーン!!!」

 

アースはハープを上に掲げてから、それを振り下ろすとハープから無数の白い羽を纏った薄紫色の竜巻のようなエネルギーが放たれる。

 

ピンク、青、竜巻のようなエネルギー、3種類のエネルギーが混ざり合い、メガビョーゲンに直撃する。

 

光線はメガビョーゲンの中で腕へと変化すると、6つの腕が雷のエレメントさんを優しく包み込む。

 

メガビョーゲンをハート状に貫きながら、光線はエレメントさんを外に出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていく。

 

「「「「「お大事に」」」」」

 

雷のエレメントさんが発電所の発電機の中に戻っていくと、蝕まれた場所は元に戻り、本来の色を取り戻していく。

 

「ワフ〜ン♪」

 

ラテの額のハートマークが水色に戻り、ラテは元気になった。

 

「んむぅぅぅぅぅぅ・・・・・・こうなったら、私の手でやるですぅ・・・!!!!」

 

フーミンは翼を広げるとプリキュアに向かって構える。

 

「「「っ・・・・・・!!」」」

 

プリキュア三人もフーミンに向かって構え、両者は再び戦闘状態に。

 

すると・・・・・・・・・。

 

ビュンッ!!

 

「「「っ!!!!」」」

 

突然、風を切ったような音が聞こえてくると、まだ消えていない大穴の中から何かが飛び出してきた。

 

「・・・・・・??」

 

フーミンも何なのかと思い、その正体を見上げてみる。それはゴスロリの服を着た・・・・・・。

 

「っ・・・・・・!!」

 

パァァァァ・・・・・・!!!!

 

彼女はその姿を見て、その表情が喜びへと変わっていく。

 

「お前ら、何を騒いでるの・・・??」

 

その者は両者の間にゆっくりと降り立つと、きょろきょろと見ながら言う。

 

「っ、イタイノン!!」

 

大穴の中から飛んで脱出したイタイノン、そして彼女の手の中にはスヤスヤと眠っているひなたの姿があったのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第108話「らむ」

前回の続きです。
今回は後日談的な話なので、短めです。

オリストはこれで終わりです。次回より本編に戻っていきます。お楽しみに。


 

「イタイノン!!」

 

プリキュア三人とフーミン、両者の間に現れたイタイノン。

 

「ひなた!!」

 

フォンテーヌが見据えるその彼女の手にはひなたの姿があった。

 

そして、その背後から空気の塊に乗ってきたかすみが現れ、そこから降りてイタイノンの側に並ぶ。

 

「っ、かすみちゃん・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

グレースに名前を呼ばれたかすみはゆっくりと彼女の姿を見据える。

 

イタイノンはその間に近くにある木へと移動すると、ひなたにもたれかからせるように置く。

 

「・・・・・・・・・」

 

「ひなた!!!!」

 

イタイノンは眠っているひなたを黙って見つめる。そこにかすみから解放されたニャトランが彼女に寄り添う。

 

「ひなたぁ〜、よかったぁ〜!!!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

ニャトランが泣きながら彼女に抱きつく中、イタイノンは何も声をかけずに目を瞑ると彼女に踵を返して歩いていく。

 

「ま・・・待って・・・・・・」

 

「・・・・・・!」

 

背後からひなたの声が聞こえきたため、イタイノンが背後を振り返るとひなたはいつの間にか意識を取り戻して、こちらに手を伸ばしていた。

 

「待ってよぉ・・・・・・らむっち・・・・・・」

 

「っ!!??」

 

ひなたからそう聞いて、イタイノンは驚愕した。そんな兆しなどなかったはず、どうしてこいつは自分の人間の頃の名前を知っているのか・・・・・・??

 

「また一緒に・・・遊ぼうよぉ・・・・・・一緒に山で虫取りに行ったり、おしゃれをしたりしてさぁ・・・・・・」

 

「っ・・・・・・!!」

 

ひなたが儚げな声で自分に呼びかけてくる。イタイノンは一瞬呆然としていたが、拳を握りしめて歯を食いしばった後、再び顔を前に向け歩き出す。

 

「帰るの!! フーミン、カスミーナ・・・!!!」

 

「はいぃ・・・お姉さまがいるなら幸せですぅ・・・・・・」

 

「・・・・・・ああ」

 

イタイノンは声を荒げながら、フーミンとかすみに叫ぶ。フーミンは嬉しそうに微笑みながら、かすみはひなたを見ながらもイタイノンについていく。

 

(ひなた・・・・・・)

 

イタイノンは心の中でひなたのその言葉に対する返答を返していた。

 

「おい、待てよ!!!! なんでひなたを助けたんだよ・・・!?」

 

ニャトランが背後から問いかけるように叫ぶ。すると、イタイノンは再び足を止めると口を開く。

 

「・・・別に、そいつが死んだら面白くないだけなの」

 

イタイノンはそれだけ淡々と告げると、フーミンやかすみと共にその場から姿を消した。

 

「らむっちぃ・・・・・・」

 

ひなたは三人がいなくなったその場所に、泣きそうな儚い声でそう呟いた。

 

「「「・・・・・・」」」

 

グレースたち三人はその様子をなんとも言えない表情で見つめていた。

 

その後、プリキュアの変身を解いた三人とひなたは発電所の発電機に聴診器をかざし、雷のエレメントさんの様子を伺っていた。

 

「エレメントさん、大丈夫ですか?」

 

『はい! 私はもう大丈夫! 元気です!!』

 

ちゆが尋ねるとエレメントさんはなんともないということを告げる。

 

「・・・・・・・・・」

 

同じように聴診器をしていたひなたは俯いた状態のまま、表情は悲しそうな色をしていた。

 

「ひなたちゃん・・・・・・?」

 

それに気づいたのどかはそう呟きながら、ひなたの表情を伺っていた。

 

その後、図書館へと戻るためにのどかたちは来た道を歩いていた。

 

「すっかり遅くなっちゃったわね・・・・・・」

 

「まだ全然、本を読んでません・・・!」

 

ちゆの言う通り、空はすっかり夕陽が見えていて、もうすぐ帰らなきゃいけない時間だった。

 

「私もまだ全然読んでな〜い・・・!」

 

のどかも内心アワアワしていた。ビョーゲンズに対処していて課題が全く進んでおらず、それにもうすぐ門限の時間も迫っている。

 

「それじゃあ、選んだ本は借りて帰りましょうか」

 

「ふわぁ〜、それいいね〜」

 

ちゆがそう提案すると、のどかは笑顔で賛成していた。

 

「図書館の本は持ち出せるのですか?」

 

「ええ。専用のカードがあるから、本と一緒に受付に出せば借りることができるの」

 

「っ!! 図書館の物語を、家でも・・・!!」

 

ちゆがアスミにそう説明すると、彼女は瞳をキラキラと輝かせた。

 

「本を読み放題ラビ!!」

 

「でも、図書館の本を借りれる数は決まってて、普通は一人4冊か5冊ぐらいまでなの」

 

「そうなのペエ・・・??」

 

「全部持って行けるわけではないのですね・・・・・・」

 

「えぇ〜! 全部一気に借りられないラビ〜!?」

 

「そもそも、図書館のあんな量の本読み切れないわよ・・・・・・」

 

喜ぶラビリンに、ちゆがさらに補足的な説明をするとアスミとペギタンは理解する。ラビリンは不満を口にしていたが、ちゆは苦笑しながら答える。

 

みんながそんなお話に盛り上がる中、ひなただけは俯きながら歩いていた。

 

「ひなたちゃん?」

 

「うぇ? え? どうしたの??」

 

それに気づいているのどかがひなたに声をかけると、彼女はハッとしたように答える。

 

「ひなたこそどうしたの? 元気ないみたいだけど・・・」

 

いつもはテンションの高いひなたが話に加わってこないことが気になり、ちゆが尋ねる。

 

「・・・・・・・・・」

 

ひなたは一瞬顔を俯かせるように考え、みんなの方を見て口を開く。

 

「あのね、イタイノンのことなんだけど・・・・・・」

 

「??」

 

「あの娘、らむっちなの・・・あたしの小さい頃の幼馴染・・・・・・」

 

「・・・・・・え?」

 

ひなたはイタイノンが自分の小さい頃の友人だと告白すると、のどかは唖然とした表情になる。

 

「どういうこと・・・・・・!?」

 

「ひなたのお友達だったのですか・・・!?」

 

ちゆとアスミが戸惑ったように問いかけると、ひなたは頷く。

 

「あたし思い出したの・・・小さい頃に一緒にいた友達のらむっちのこと・・・・・・口調も一緒だったし、服装もあの時とそっくりだった。だから多分、イタイノンはらむっちなんだよ・・・!!!!」

 

「そっくりさんってことはねぇのかよ・・・!?」

 

ひなたが記憶を頼りに告白すると、ニャトランは勘違いではないのかと推測する。しかし、ひなたは首を振ってその可能性を否定する。

 

「あたし、わかるの・・・あれがらむっちだって・・・!! よくわかんないけど、わかるの・・・・・・!!」

 

ひなたはどうやらで錯覚で友人だと思っている様子。でも、それでもイタイノンが友人だということを否定はできなかった。

 

「しんらちゃんと一緒だ・・・!!」

 

「イタイノンも人間だったのはわかってたけど・・・・・・」

 

「まさか、ひなたの友達だったなんて思わなかったペエ・・・・・・」

 

のどかとちゆたちは互いに顔を見合わせる。しんらがクルシーナになったのも驚いたが、まさかのひなたの友人がビョーゲンズになっているのも意外だった。

 

「らむっち・・・なんでビョーゲンズになっちゃったのかな・・・? あたし、昔何か酷いことしちゃったのかな・・・? それが原因でらむっちは・・・!!」

 

「落ち着いてひなた!!!」

 

ひなたがネガティブな思考になって、自分が原因でビョーゲンズになったと思い込もうとしたため、ちゆが静止する。

 

「ひなたはその、らむさんに何かひどいことをしたって思い当たる節はあるの?」

 

「ない、けど・・・・・・」

 

「だったら思い込んじゃダメよ!!」

 

「でも・・・・・・!」

 

ちゆはそう諭そうとするが、ひなたの不安は解消されている様子はない。

 

「救おうよ!!!」

 

「っ・・・・・・!!」

 

「どんなことがあっても、私はしんらちゃんを救うって決めたの。そのために私は前に進むことを決めたの。ひなたちゃんもそのらむちゃんが悪さをしているんだったら、止めなきゃ・・・!!!!」

 

「あたしに・・・できるのかな・・・・・・??」

 

のどかの言葉にも、ひなたは迷っていた。自分が原因でビョーゲンズになったかもしれないのに、そんな自分に友達を救うことができるのだろうか・・・・・・??

 

「できます!!!」

 

「っ!!」

 

「私たちはプリキュアです。あらゆる地球の自然や生きとし生けるものをお手当てをするために戦っています。人間でも・・・友達でも・・・救いたいという気持ちがあれば救うことができるはずです!!!」

 

アスミの力強い言葉に、ひなたの心は揺れる。そして、そんなひなたの手をのどかが取った。

 

「だから一緒に戦おう!! 4人で!! 大切なものを取り戻すためにも!! 私たちなら、きっとできるよ!!!!」

 

のどかは満面の笑みでひなたにそう伝えた。

 

「・・・・・・ありがとう、みんな。優しいね、らむっちと一緒で」

 

ひなたはのどかに微笑み返しながらそう言った。

 

「さあ! 早く本を借りて課題をやりましょう!!」

 

ちゆは手をパンパンと叩きながらみんなをまとめると図書館に行こうとするが、ふと公園が近くにあり、その時計に目が入る。

 

「あぁぁ!? 大変!! 早く戻らないと図書館が閉まっちゃうわよ!!!!」

 

「「「「えぇぇぇ!!??」」」」

 

ちゆがそう言うと、アスミ以外のみんなが驚く。時計はすでに図書館が閉館する数分前を指していたのだ。

 

「早く走って!!」

 

「急ぐラビ!!」

 

「借りないと宿題ができないよ〜・・・・・・!!!!」

 

「あたしも、一人で宿題ができるかわかんないんだけど〜・・・!!!!」

 

「宿題は普通そういうものよ!! 手伝ってもらわないで一人でやるのよ!!!」

 

「でも、本をどこに置いたっけ〜!?」

 

みんなは急いで、選んでいた本を借りるために図書館へと走っていくのであった。

 

(あれ? そういえば・・・あの時の絵本、どこにいったっけ?)

 

ひなたはそんな中、心の中で持っていたはずの絵本がないことに疑問を抱いていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何?? カユイザが・・・??」

 

「ええ、プリキュアにやられてしまいましたね。私、見てました」

 

その頃、ビョーゲンキングダムでは三人娘とフーミン、かすみが今回の作戦でカユイザが消滅したことをキングビョーゲンに報告した。本当は報告したドクルンが独断で始末したのだが、そのことは黙って置いた上でキングビョーゲンに話した。

 

「ぬぅ・・・ヒエールに続いて、カユイザまでやられたか・・・・・・」

 

「あいつら、ヒーリングガーデンでも単体で地球を癒せるヒーリングアニマルを病気に侵すぐらいの精鋭だったわよね」

 

キングビョーゲンが悔しさを隠さずに話すと、クルシーナは思い返したように話す。

 

「ふん・・・あいつは私に鬱陶しく絡んできたからいい気味なの」

 

「戦いはお姉様の勝ちですぅ・・・!!!!」

 

「・・・・・・おふざけをしているのではないのですよ」

 

イタイノンはそっぽを向きながら淡々と切り捨て、二人が争うことを知っていたフーミンが調子付いて言うと、ドクルンは冷淡に諭す。

 

「でもさぁ、あいつらまでプリキュアにやられちゃったってなると少し考えないといけないんじゃないの? アタシの見立てでも、プリキュアどもは確実に強くなってるわよ」

 

「ふむ・・・そうだな。こちらも体制を整えなければならぬかもな」

 

「まあ、アタシたちもちょっとは考えるけどね」

 

クルシーナはいつも通りに行ったところで同じことの繰り返しになると懸念を話すと、キングビョーゲンはそのことに同調する。

 

実のところ、ヒエールはクルシーナが見捨てたために消滅したわけだが、その話には敢えて触れていない。

 

「こちらも少しは善処しよう。我の復活にも影響するかもしれぬからな」

 

「はーい」

「わかりました」

「・・・わかったの」

「はいですぅ・・・・・・」

「はっ!!」

 

キングビョーゲンの娘たちとかすみが返事をしたところで、今日の会合はお開きになった。

 

その後、廃病院のアジトへと戻ってきたイタイノンはクラリエットの眠る地下室へとやってきていた。

 

イタイノンは手に持っているひなたの体の中で育っていたテラパーツの赤い靄の一部をクラリエットに与える。すると、クラリエットを包んでいる赤い靄がうねうねと激しく蠢く。

 

「・・・・・・・・・」

 

イタイノンはそれを黙って見つめると、踵を返して背を向ける。そして、懐から何かを取り出す。

 

それは、ひなたが持っていたはずの絵本だった。

 

「・・・・・・・・・」

 

イタイノンは絵本を見つめながら、ある記憶を思い返していた。それはひなたと人間だった自分が一緒に笑い合っている姿だ。

 

『また一緒に・・・遊ぼうよぉ・・・・・・一緒に山で虫取りに行ったり、おしゃれをしたりしてさぁ・・・・・・』

 

自分が立ち去る寸前に、ひなたが手を伸ばしながら言っていた言葉。あの様子を見て彼女は完全に記憶を取り戻している、そうしか見えなかった。

 

イタイノンは一瞬顔を顰めると、絵本を懐にしまうと地下室の部屋を後にしていく。

 

「ひなた・・・・・・もう、遅いの・・・・・・遅すぎたの・・・・・・」

 

イタイノンはそう呟きながら、自分の部屋へと戻ろうとしていた。

 

「あっ・・・・・・」

 

しかし、そのとき何かを思い出したかのようにとある部屋へと方向転換した。

 

一方、かすみは自身の部屋のベッドで寝転がり、天井を見ていた。

 

「ふぅ〜・・・・・・」

 

かすみは今日の疲れを表すかのように、深く息をはいた。

 

今日も大変だった。カユイザの作戦に付き合わされ、一緒に地球を侵略活動。そこにプリキュアが現れ、キュアグレースと一対一の戦いに持ち込んだ。あの時は本気を出していなかったとはいえ、キュアグレースには敗北。

 

結果的にカユイザの思惑通りにことが進んだが、そのあとにイタイノンの様子を見に行って欲しいと頼まれ、向かった先には大穴があって、中に入ると病気で苦しんでいるひなたとイタイノンの姿があった。

 

いろいろなことがあったから、今日はもう寝ようと横に寝返りを打って目を瞑ろうとした。

 

コンコンコンコン。

 

「??」

 

ドアをノックする音が聞こえ、ベッドから起き上がって入口の扉を開ける。

 

「イタイノン?」

 

そこにはこちらを無表情で見つめるイタイノンの姿があった。

 

「カスミーナ、ちょっと付き合え、なの」

 

「??」

 

イタイノンから言われた唐突な言葉に、かすみは首を傾げつつも彼女についていく。

 

連れて来られたのは病院の外にあるテラス席であった。

 

かすみとイタイノンは向かい合うように座ると、イタイノンは箱を取り出すとテーブルの上に置きフタを開ける。

 

「っ・・・これは!!」

 

中に入っていたのは笑顔が焼印されている様々な色のまんじゅうーーーーすこやかまんじゅうであった。

 

「これ、お前にやるの」

 

「ほ、本当か・・・・・・!?」

 

「・・・・・・嘘ならお前にはやらないの」

 

イタイノンはかすみにまんじゅうを食べるように言うと、かすみは瞳をキラキラとさせる。

 

「じゃ、じゃあ・・・お言葉に甘えて・・・・・・」

 

かすみは恐る恐るまんじゅうを手に取ると、ビニールの包みを剥がして一口かじる。

 

「うんぅ〜、美味しい〜!!!!」

 

かすみは興奮するほどに感嘆すると、手に持っているまんじゅうを口に頬張ると、箱に入っている次のまんじゅうに手を伸ばす。

 

包みを剥がしてまんじゅうを口に入れて頬張ると、また次のまんじゅうに手を伸ばす。

 

「・・・・・・・・・」

 

イタイノンは次から次へとまんじゅうへと手を伸ばすかすみを呆然と見ていた。

 

「はむ、はむ・・・んぅ〜、この味も最高だな〜!!!!」

 

それを他所にかすみは御構い無しに、すこやかまんじゅうを食べ続ける。

 

「お前・・・少しは遠慮するの・・・!!」

 

「んむぅ? 食べていいと言ったのはイタイノンだろ?」

 

「ぐっ・・・・・・!」

 

あまりにもハイスピードで食べるかすみにそう諭すイタイノンだが、かすみが指摘すると悔しそうな表情を見せる。

 

「ふんっ・・・!!」

 

だが、すぐにそっぽを向いて鼻を鳴らした。

 

「さっきのお礼か? 私はいらなかったぞ。だって、仲間を助けるのは当然だろ?」

 

「っ・・・・・・!!」

 

バッ!

 

「あっ・・・!?」

 

「だったら、もうやらないの・・・!!!」

 

かすみのその言い方に怒りを覚えたイタイノンは箱を取り上げてそう言い放つと、テラス席を立ち上がって廃病院へと戻っていく。

 

「そ、そんな・・・ま、待ってくれ・・・!! 悪かった・・・悪かったから・・・もっと食べさせてくれ・・・!!!!」

 

かすみはその言葉に呆然とした表情を浮かべると、涙目になりながらイタイノンを追いかけていく。

 

「お前はもう十分食ってるの・・・!!!」

 

「まだ足りない・・・足りないんだぁ・・・だから頼む、もっと食べさせてくれ・・・!!!!」

 

「あとは私の分なの・・・!!!!」

 

「食べかけでもいいからぁ・・・!!」

 

「やかましいのっ!!!!」

 

かすみが懇願して、イタイノンが拗ねたように拒否するという和やかな会話を繰り広げながら二人は廃病院の中に戻っていく。

 

「ふふふっ・・・・・・♪」

 

「イタイノ〜ン、頼むよ〜・・・・・・!!」

 

イタイノンは笑いを零しながら、その背後を泣きそうな声のかすみが追いかけていたのであった。

 

一方、同じく戻ってきたドクルンの部屋では・・・・・・。

 

「さて・・・これらの使い方をどうしようかしら?」

 

ドクルンが見つめるデスクの上には、カユイザを始末して回収した大量のメガパーツのようなものがあった。

 

「これは私たちの一部がパーツになったということでいいのかしらね? テラパーツってことかしら?」

 

カユイザを氷漬けにしてバラバラにした際に、その氷が赤い靄に侵食されて自分たちが生み出したテラパーツと同じような色となったことから、これはテラパーツで間違いないだろうと考える。

 

ドクルンはテラパーツの一つを手に取ると、それを見つめる。

 

「どういう使い方が・・・・・・」

 

ドクルンは自分たちがテラパーツをどのように使用していたのかを思い返す。プリキュアの三人にこのテラパーツを埋め込んだ。確認ではキュアグレースがクルシーナ、キュアスパークルがイタイノン、そして自分がキュアフォンテーヌに埋め込んでいる。それ以外では全く使用していない。

 

「ふむ・・・・・・」

 

他の使い方を考える。テラパーツは色が違えども、メガパーツに形は似ている。メガパーツのときは人に埋め込んだり、メガビョーゲンを急成長させるのに利用した。

 

だが、その使い方では面白くない気がする。せっかくのテラパーツをそのようなことで無駄遣いしたくはない。

 

ふと考え付いたのは、あまりビョーゲンズらしくないかすみを進化させるためにメガパーツを使用したことだ。その結果、かすみは進化を遂げてメガビョーゲンを召喚できるようになった。

 

この際、相手ではなく自分に使うというのはどうだろうか。その反面、クルシーナからは生み出したばかりのテラビョーゲンに埋め込んだ結果、怪物のような姿になったことも聞いている。

 

だが、そういうスリルを味わうのも悪くはないかもしれない。究極の存在である自分がこのテラパーツを埋め込んだらどうなるのか。

 

「ふふっ、ものは試しね♪」

 

ドクルンは不敵な笑みを浮かべながらそう呟くと、手に持っているテラパーツを躊躇なく自分の体に押し当てる。

 

ズズズズズズ・・・・・・。

 

自身に当てたテラパーツがドクルンの体の中に入り込んでいく。そして・・・・・・。

 

ドックン!!

 

「ぐっ・・・・・・!?」

 

その瞬間、ドクルンの体に激痛が走り、彼女は胸を抑えて始める。

 

「なる、ほどね・・・カスミーナも、こんな苦しみを味わってた、のね・・・・・・」

 

カスミーナも感じていた死ぬほどの痛みと苦しみ、今は自分がそれらを味わっている。

 

ドクルンが表情を苦痛に歪める中、彼女の体から禍々しいオーラが溢れ出していく。

 

「ぐっ、うぅぅぅ・・・うっ・・・!! うああああああああっ!!!!!」

 

そして、ドクルンの絶叫が上がったと共に禍々しいオーラが大量に溢れ出し、包まれていくのであった・・・・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第109話「趣向」

原作第30話がベースです。
今回は動物園のお話です。そして、いろんな動きがあるかと・・・・・・。


 

ビョーゲンキングダムーーーービョーゲンズたちの楽園で、幹部たちがキングビョーゲンに召集されていた。

 

「グアイワル、ダルイゼン、クルシーナ・・・メガパーツを使った試みはどうだ?」

 

今回はメガパーツの実験による、幹部たちの報告のため。キングビョーゲンはそれを行なっている三人の幹部の進捗を話すように命じる。

 

「少しずつ、結果が出ているところです・・・・・・」

 

「こっちもそんな感じかなぁ・・・・・・」

 

「まあ、上々ってところね。なかなか種が増やせないのが腹立つけど」

 

グアイワル、ダルイゼン、クルシーナはそれぞれの成果を報告する。侵略作戦は上手くは行っていないが、メガパーツの応用を効かせることはできているので、実験に関してはうまくいっていると言ってもいいだろう。

 

「ふっ・・・・・・お前たちもなかなか知恵をつけ始めたようだな・・・・・・」

 

キングビョーゲンは三人の報告を受けて、ほくそ笑んでいるかのような話し方をする一方で、気になることも指摘する。

 

「? ドクルンはどうした??」

 

そう。幹部は全員召集されているはずなのに、ドクルンの姿だけが見えなかったのだ。

 

「そういえば、あいつ、どこ行ったの?」

 

「さあね。少なくとも自分の部屋にはこもってたはずだけどね」

 

ダルイゼンはクルシーナに尋ねると、彼女はあっけらかんとした態度で答える。

 

「私が呼びに行ったときも部屋にはいなかったぞ。それどころか部屋の中が散乱していて、完全にもぬけの殻だった」

 

「それってぇ〜、どっかに行っちゃったってことぉ〜??」

 

かすみがドクルンに招集をかけようとした時のことを説明すると、ヘバリーヌがそれに反応するように首を傾げる。

 

「ぬぅ・・・奴もメガパーツの実験を行なっていたから報告を聞きたかったのだが・・・・・・」

 

「まあ、いないんじゃ仕方ないんじゃない?」

 

キングビョーゲンは神妙な様子で言うと、クルシーナはそう答える。

 

「はぁ〜い♪ キングビョーゲン様ぁ♪ ドクルンなんかよりも、私もメガパーツを使ってーーーー」

 

シンドイーネも報告をしようと声をあげるが・・・・・・。

 

「まあよい・・・・・・お前たちの活発な活動には期待している。特にダルイゼンとクルシーナ、お前たちのテラビョーゲンを増やすという試みは実に興味深い・・・・・・」

 

キングビョーゲンはシンドイーネには眼中がなく、ダルイゼンとクルシーナに話を続ける。

 

「はいは〜い!! このシンドイーネも、キングビョーゲン様のために・・・!!!!」

 

「期待しているぞ・・・ダルイゼン、クルシーナ・・・・・・」

 

「りょうか〜い・・・・・・」

 

「はーい」

 

シンドイーネの言葉には耳を傾けずに、ダルイゼンとクルシーナの淡々とした返事を聞くとキングビョーゲンは霧のように姿を消していった。

 

「お、お待ちください!! キングビョーゲン様ぁ!! 私とのお話がまだぁ〜・・・・・・!!!」

 

叫ぶシンドイーネだが、すでにキングビョーゲンは消えた後であった。

 

「はぁ、そんなぁ・・・・・・」

 

「お前、うるさいから相手にされなかっただけなんじゃない? なの」

 

「すぅ・・・すぅ・・・シンドイーネ、うるさいですぅ・・・・・・」

 

落ち込むシンドイーネに、イタイノンは冷淡に毒のような言葉を吐き、眠っているフーミンも同調するように反応する。

 

「何よ!! アンタも大したことやってないでしょ!?」

 

「別に私はどっちでもいいの。この地球を病気に蝕みさえすればそれで十分なの」

 

シンドイーネのムキになったような発言に、イタイノンは素っ気なく返す。

 

「ふっ・・・・・・役に立たない者の姿は、キングビョーゲン様には見えないようだな、シンドイーネ」

 

「そういえば、シンドイーネだけ何もやってないわねぇ」

 

「くっ・・・・・・」

 

グアイワルとクルシーナは嫌味を言い、シンドイーネは悔しそうな顔をする。

 

「さてと・・・・・・期待はさておき、またメガパーツを取りに行くか」

 

「アタシも付き合うわよ、カスミーナも」

 

「私もか・・・・・・」

 

ダルイゼン、クルシーナ、かすみの三人は地球に向かうべく、その場から姿を消した。

 

「キィィィ〜ッ!!! 悔しい〜!!!! こうなったら私もとんでもない発見をして、あいつらを見返してやるんだからぁ!!!!」

 

シンドイーネは地団駄を踏みながらそう言い放つと、その場から姿を消す。

 

「ふぅ・・・・・・やっとうるさい奴が消えたの」

 

イタイノンはその場に座り込むと、携帯ゲーム機を取り出してピコピコし始める。ようやく誰にも騒がれずに、一人だけの時間を過ごせるからだ。

 

「んぅ・・・イタイノンお姉様ぁ・・・・・・」

 

「っ・・・くっつくな、なの・・・・・・」

 

しかし、眠っていたフーミンが寄りかかり始め、イタイノンは不快な表情をしつつも退かそうとはしなかった。

 

「おい、イタイノン」

 

「・・・何?なの」

 

「お前は実験をしなくていいのか? もっとキングビョーゲン様に貢献すべきだろ」

 

そこへグアイワルが話しかけると、イタイノンは顔を顰めながら振り向く。

 

「別に、私はどうだっていいの。私は一人になれるところがあれば、それで十分なの」

 

「ふん・・・引きこもりは向上心も上達もないということか・・・・・・」

 

「お前だって本当にそう思ってるの? パパのために貢献するとか・・・・・・」

 

イタイノンはそれに淡々と返して、グアイワルが嫌味を言うと彼女は反論する。

 

「ふん・・・・・・!」

 

グアイワルはその問いには何も答えずに、その場から姿を消す。

 

「はぁ・・・・・・」

 

イタイノンはその行動にため息をつくと、目の前のゲーム機の操作を再開する。

 

トントントン。

 

「っ・・・今度は何なの・・・っ!?」

 

「こんにちは、イタイノン」

 

不意に肩を叩かれて苛立ったイタイノンが振り返るとそこにはドクルンがいたが、その姿に目を見開くイタイノン。

 

「お前、その姿は・・・!?」

 

「ふふふ・・・♪」

 

イタイノンが驚いている中、ドクルンは満面の笑みを浮かべる。

 

「これのおかげですよ。さあ、あなたも♪」

 

ドクルンはそう言いながら、持っていたテラパーツを一つ、イタイノンの手に渡す。

 

「これは・・・・・・」

 

イタイノンはドクルンから渡された赤い禍々しいかけらを不思議そうに見つめているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある週末・・・・・・・・・。

 

ガルアァァァァァァァァァァ!!!!

 

「「「「わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」」」

 

のどかたち4人は目の前で吠える虎の迫力に驚いていた。

 

「すごい迫力です・・・・・・!」

 

「うん! やっぱり動物園って楽しいね〜♪ ありがとう、ひなたちゃん♪」

 

「もぉ〜、いいっていいってぇ! あたしもお兄からチケットもらっただけだし!」

 

「うふふ♪ 今日はめいいっぱい楽しみましょう♪」

 

のどかたち4人とヒーリングアニマルたちは週末の休みで、すこやか動物園へと遊びにきていた。ひなたの兄・ようたがもらったもので4人分あったため、せっかくなのでみんなで一緒に行こうと計画したのだ。

 

現在はみんなで虎のいるエリアをみんなで来ている。

 

「俺の仲間は最高にワイルドだぜ♪」

 

「え? 虎と猫って仲間なわけ??」

 

「っていうか、そもそもニャトランは猫じゃ・・・・・・」

 

ニャトランが虎の迫力に興奮していると、そもそもニャトランは猫か虎なのかという議論になろうとしていたが・・・・・・。

 

「お姉さん、全然知らないんだな」

 

「「「っ!!」」」

 

そこへ小学生位の男の子が現れ、ラビリンたちヒーリングアニマルは急いで、パートナーが持っているそれぞれのカバンに隠れた。

 

「虎と猫は同じネコ科の動物だって」

 

「へぇ〜、そうなんだ〜」

 

「ちなみにそいつは、アムールトラのオス。トラの中では一番でかい種類なんだ」

 

「ふわぁ〜、よく知ってるね♪」

 

男の子の説明に、ひなたとのどかが興味を抱く。

 

「あのアムールトラは体重が250キロにもなるのね」

 

ちゆはガイドブックのアムールトラの説明を見ながらそう言った。

 

「虎がお好きなのですか?」

 

「猫と一緒ってなると、虎も可愛いよね〜♪」

 

アスミとひなたも男の子の情報を興味深そうにしていた。

 

「ははっ・・・なんかバラバラでウケる」

 

「ふぇ?」

 

「あっ・・・ううん」

 

男の子がそう呟きに、のどかが首を傾げると彼は何でもないという風に首を振る。

 

「もしかしてお姉さんたち、ここに来るの初めて?」

 

「うん。この動物園、すっごく広いよね♪」

 

「広すぎて、どこから見たらいいのかめっちゃ迷う〜」

 

男の子がそう尋ねると、のどかとひなたがそう言う。

 

「しょうがねぇな〜・・・だったら俺が案内してやるよ!!」

 

男の子は自分に任せてと言わんばかりの元気な声でそう言った。

 

「この動物園は、世界の地域別にいろんなゾーンに別れていて、今いるのはこの真ん中あたり」

 

「「「「うんうん」」」」

 

「で、次はどの動物が見たいの?」

 

「「「「う〜ん・・・・・・」」」」

 

男の子に尋ねられるも、のどかたちはどの動物を見たいのか迷う。

 

「そういえば、あなたは一人で来てるの?」

 

「いや、お父さんとーーーー」

 

ちゆが気になったことを尋ね、男の子が答えようとしていると・・・・・・。

 

「こうたー!!!!」

 

「あっ、こっちこっち!!」

 

そこへ男の子を呼ぶ声が聞こえてきた。みんながそれに振り向くと、のどか、ちゆ、ひなたには見覚えのある人物だった。

 

「ま、丸山先生・・・!?」

 

のどかたちの通う中学校の先生である担任の丸山先生であった。

 

「「「こんにちは!」」」

 

「こんにちは。君たちも来てたのか」

 

のどか、ちゆ、ひなたは先生に挨拶をする。そして、ひなたには気づいたことが・・・・・・。

 

「ふぇ? もしかして二人、親子っていうこと!? 全然似てな〜い」

 

「ひなた!!!」

 

ストレートな物言いのひなたに、咎めるような声を出すちゆ。実はこの男の子は丸山こうたと言って、丸山先生の息子だったのだ。

 

「初めまして。私、風鈴アスミと申します」

 

「あっ、私たちのお友達です」

 

「初めまして、彼女たちの担任の丸山です」

 

挨拶をしたアスミをのどかが紹介すると、丸山先生も自己紹介をする。

 

「お姉さんたち、お父さんの生徒なんだ」

 

男の子は不思議な縁もあるものだと思っていた。

 

「すまんねぇ、うちのこうたが何か迷惑かけてなかったかなぁ?」

 

「「「い、いえ!!」」」

 

「その反対で、動物園を案内してくれて!!」

 

丸山先生がそう言うと、のどかたち3人は何やら慌てたように言う。

 

「そういうこと! 次はどこ行きたいの?」

 

「「「「う〜ん・・・・・・」」」」

 

男の子に尋ねられても、のどかたちはどこに行こうかまだ迷っていた。そこでそれぞれの行きたいところを言ってみる。

 

「キリン!! 絶対キリン!!」

 

「私はハシビロコウが見たいわ!!」

 

「動物と触れ合えるところに行ってみたいなぁ〜」

 

「私はどこでも構いません」

 

「・・・って、行きたいとこバラバラじゃん・・・」

 

ひなたはキリン、ちゆはハシビロコウ、のどかは動物の触れ合いの場所、アスミは行けるならどこでもいいと意見はバラバラであった。

 

「だったら、端から順番に見ていくか」

 

「う〜ん・・・じゃあ、とりあえずこっち!!」

 

「「「わーい♪」」」

 

丸山先生の提案で、とりあえず近いところから見ることにし、こうたの案内でそこに向かうことにしたのであった。

 

目的の場所に向かう中、こうたがこんなことを話した。

 

「それにしてもお姉さんたち、本当にキャラがバラバラじゃない?」

 

「キャラ?」

 

「うん。話し方とか雰囲気とか。なのに、よく仲良くできるよね。俺だったら絶対無理」

 

「こら、こうた!! この子たちはバラバラなのがいいんだよ」

 

キャラの異なる人の仲を軽視するこうたに、丸山先生が咎める。

 

「そんなの意味わかんないし・・・!」

 

丸山先生の言葉に、こうたはなぜか不機嫌な様子だった。

 

「実はあいつ、友達喧嘩してね。今日も本当はその子の家族と一緒に来るはずだったんだが・・・・・・」

 

「別にいいよ!! あんなやつ!!」

 

丸山先生がその理由を話すと、こうたはその友人を思い出したかのように不機嫌そうに言った。

 

「あんなやつというのは、つまり嫌いなのですか?」

 

「・・・っていうか、面倒臭い。喧嘩とかも面倒臭いから、俺もう友達いらねぇ」

 

気になったアスミが尋ねると、こうたは不機嫌そうに答える。その様子をのどかたちは顔を見合わせながら、心配そうにしていた。

 

そうこうしているうちに、一行はひなたの要望であるキリンのところにたどり着いた。キリンは食事中のようで、草を食している。

 

「長っ!! やっぱ長っ!!」

 

ひなたは興奮しながら、自身のスマホでキリンを撮影していた。

 

「本当♪ キリンって首が長いよね♪」

 

「首じゃなくて、まつ毛♪ めちゃめちゃ長くて羨ましい〜♪」

 

「ひなたらしいですね」

 

ひなたは首の長さよりもまつ毛の長さが気になっているようで、アスミはひなたの好みらしい独特な感性を感じていた。

 

「キリンはあのまつ毛で、光や埃から目を守ってんだぜ?」

 

「長いだけじゃないのね」

 

のどかたちはそうしてキリンについて話していると、視線に気づいたのかこちらの方を見る。

 

「あっ、こっち見た!」

 

「「「「可愛い〜♪」」」」

 

キリンの無垢な視線に、のどかたち女性たちは興奮する。

 

「あっ・・・・・・!?」

 

ちゆがハッと何かを思い出したかのように記憶が甦る。

 

『キリンは首やまつげだけじゃなくて、舌も長いのよ』

 

『へぇー、そうなんだ〜』

 

『そこの筒から食べ物を与えてればわかるわよ』

 

『本当・・・!?』

 

幼馴染のりょうと一緒に動物園に行った際に、キリンについての知識を教わったのを思い出す。

 

「そういえばキリンって、噂によると舌も長いのよね?」

 

「ああ・・・そうだぜ。より高いところの葉っぱを食べるために舌が長くなったんだよ」

 

「へぇー、それ見てみたいなぁ〜」

 

「あそこに餌を与えるところがあるから、ニンジンとかでやってみなよ」

 

こうたが指す先にはキリンに外部の一般客が餌を与えてもいいような筒が設置されている。

 

のどかは持っていたニンジンを筒の中に入れながら差し出す。すると、そこへキリンが筒へと近づいていき、筒の中のニンジンに舌を伸ばしていく。

 

「ふわぁ〜、本当に舌が長いね〜♪」

 

「ああやって舌を伸ばして、口では届かないところの草を食べるんだぜ」

 

「めっちゃ可愛いね!!」

 

キリンの舌を伸ばして餌を食べる様子に、のどかたちは恍惚とした表情になった。

 

続いては、ちゆの要望であるハシビロコウのところへとやってきた。そこで鋭い目付きのハシビロコウを目の当たりにする。

 

「カッコいい〜♪」

 

「わかる!」

 

ちゆは瞳をキラキラとさせながら、こうたもうんうんと頷いていた。

 

「なんか、話そうな顔をしてるね」

 

「うん♪ 例えば・・・・・・コホン」

 

のどかがハシビロコウの顔を見ながらそう言うと、ひなたは想像し始める。

 

「『はじめまして、お嬢さん。私はおまんじゅうが食べたいんですよ』」

 

「いやだ、ひなたったら♪」

 

ひなたはハシビロコウの言いたげな言葉を代弁するかのようにアテレコをすると、ちゆが微笑む。

 

「まぁ・・・おまんじゅうが好きなのですか?」

 

「マジレスウケる」

 

「「「あははは〜!!」」」

 

ハシビロコウが本当にそんなことを考えていると思ったアスミに、こうたが突っ込むとみんなは笑いに包まれた。

 

続いて向かったのは、のどかの要望である動物と触れ合えるコーナー。のどかはウサギにニンジンを与えていた。

 

「ふわぁ〜、食べた〜♪」

 

「やっぱりウサギはキュートラビ♪」

 

のどかとラビリンはウサギたちを眺めながら笑みを浮かべる。

 

「メェェェェェ〜!!!!」

 

「ヤギって随分大きな鳴き声なのね・・・・・・」

 

「びっくりしたペエ・・・・・・」

 

ちゆとペギタンはヤギの大きな鳴き声に驚いていた。

 

「モコモコだよ〜♪ モッコモコ〜♪」

 

「やっべぇ〜な。可愛すぎるだろ〜♪」

 

ひなたは小さなモルモットたちを撫でながら恍惚とした表情を浮かべていた。

 

ピヨピヨピヨピヨ♪

 

「なんて愛くるしいのでしょう♪ もちろんラテには及びませんが」

 

「ワン♪」

 

アスミは小屋の中のひよこを手のひらに乗せながら眺めている。

 

「こんな大きな動物園にも、ふれあいコーナーなんてあるのね〜」

 

「ここ最高〜♪」

 

のどかたちはとにかく動物とのふれあいを楽しんでいた。

 

「っ・・・・・・」

 

そんな中、のどかは犬とふれあっていたかすみの楽しそうだった表情を思い出す。

 

「・・・・・・かすみちゃんと一緒に来れたらよかったなぁ」

 

「「・・・・・・・・・」」

 

のどかがボソリと呟いた言葉に、ちゆとひなたも反応して振り向いた。

 

「結局、4人とも全部行くところ楽しんでんじゃん・・・・・・」

 

「だろう? こうたの言う通り、あの子たちは雰囲気がバラバラに見えて、でもなぜだかとても仲が良くてね」

 

「・・・・・・変なの」

 

こうたと丸山先生はゾウガメを愛でる中、先生の言葉にこうたは暗い表情をしながらそう呟いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふれあいコーナーを離れたのどかたちは、こうたの案内で別の場所へと来ていた。

 

「こいつはケープハイラックス、ウサギでもネズミでもない、ちょっと珍しい動物なんだ」

 

「全然動かないね〜。お昼寝かな〜?」

 

「置物みたい・・・・・・」

 

仲間と密集したまま動かないケープハイラックスを、のどかとちゆは不思議そうに眺める。

 

「めっちゃキュート♪」

 

「本当にとっても可愛いです♪」

 

ひなたは携帯で写真を撮りながらそう言い、アスミも笑みを浮かべながらそう答えた。

 

「えへへ♪ あいつら、餌のときは動くんだけどな」

 

こうたが嬉々とした表情で説明していると・・・・・・。

 

「こうた・・・・・・」

 

「??」

 

自分の名前を呼ぶ声に振り向くと、そこにはこうたと同じくらいの少年と父親らしき男性の姿があった。

 

「やあ、こんにちは」

 

「・・・・・・・・・」

 

男性は挨拶をするが、少年の方は顔を顰めたままだった。

 

「きっと、あれが喧嘩したお友達ね」

 

「仲直りのチャンスじゃん」

 

ちゆはこうたの喧嘩した少年であると察し、ひなたはこの状況を楽観的に見ていた。

 

「どうも、丸山さん」

 

「どうもどうも、いつもこうたが仲良くしてもらってーーーー」

 

こうたと少年の父親は気さくに話していたが、こうたと少年は睨み合っていた。

 

「別に仲良くしてねぇし!!」

 

「おい、こうた!」

 

「そうですよ! 僕はもう友達やめたんです!」

 

「こら、修一!」

 

こうたと少年ーーーーしゅういちは言い合いになり、お互いの父親が咎めるが、二人は目を逸らし合ったままだ。

 

「だって!! こうたが絶対トラとか言って!!」

 

「「トラ?」」

 

「お前こそ!! ライオンライオンって!!」

 

「「ライオン?」」

 

こうたとしゅういちがお互いに何やら主張し始めると、首をかしげるのどかたち。

 

「絶対ライオンの方が強い!!」

 

「トラの方が強いに決まってる!!」

 

「ライオンの牙はすごいんだぞ!!」

 

「トラの爪の方がすごい!!」

 

「ライオンは頭がいい!!」

 

「トラは力が強い!!」

 

「「「・・・・・・・・・」」」

 

こうたとしゅういちの言い争いに困惑するのどかたち。

 

「やれやれ、ですね・・・・・・」

 

「はい・・・・・・」

 

丸山先生としゅういちの父親もお互いの主張のやり合いを見て、困ったように頭を掻いている。

 

「あっ・・・・・・!」

 

二人の光景を見ていたひなたにある記憶が蘇った。

 

『こっちのほうが可愛いよ〜』

 

『いいや、こっちのほうが可愛いの・・・!』

 

『子犬のこういう尻尾を振る姿がいいんだって!!』

 

『子猫のゴロゴロしている姿の方がキュートなの!!』

 

『子犬だってば!!』

 

『子猫なの!!』

 

昔、らむと子犬と子猫のことで言い争いをしたこともあった。

 

(そういえば、らむっちとあんな喧嘩したことあったっけ・・・今思うと恥ずかしいな・・・)

 

ひなたは頬を指でぽりぽりとかきながら、心の中でそう思った。

 

「「〜〜〜〜っ・・・!!!!」」

 

お互いに一歩も譲らず、睨み合う二人の少年。

 

「・・・はぁ、やめたやめた!! あぁ、めんどくせぇ!!」

 

「僕だって!!」

 

「さあ! 次行こうぜ!! 次!!」

 

こうたとしゅういちは言い争いを止めるとすれ違うように離れようとする。

 

「・・・・・・・・・」

 

しかし、こうたは父親と一緒に歩き去っていくしゅういちの後ろ姿を振り向いて気にしていた。それもすぐにやめて暗い表情で次の場所へと向かおうとする。

 

「っ!!」

 

「そろそろご飯にしない? 私、お腹すいちゃった」

 

「う、うん・・・・・・」

 

そんなこうたの肩にのどかは手を置くとお昼を食べようと提案した。そんな中でも、こうたはしゅういちのことが気になっていたのであった。

 

そして、のどかたちはそこから近くにある食堂へとやってきた。

 

「「「「「いただきまーす!!」」」」」

 

それぞれの料理が運ばれてきたところで全員は挨拶をして、食べ始める。

 

のどかが注文したのはハンバーグランチ。ハンバーグをナイフとフォークを使って切り分け、口に運ぶ。

 

「ふわぁ〜♪ 美味しい〜♪」

 

のどかはハンバーグの美味しさに目を輝かせるほどであった。

 

「ん〜♪ 幸せ〜♪」

 

ちゆが選んだのはエビやイカなどが乗っているピザだ。その味に舌鼓をしている。

 

「めっちゃ卵ふわふわぁ〜♪」

 

ひなたはオムレツを選び、ふわふわ卵の味に目をキラキラとさせていた。

 

「みなさん、美味しそうですね」

 

アスミはそんなのどかたちの美味しそうに食べている様子を見ているよそで、顔が隠れるほどの大きなハンバーガーにかぶりついた。

 

「「「大きい〜!!!」」」

 

のどかたちはそのハンバーガーの大きさに驚いた。

 

そのテーブルの下の足元ではヒーリングアニマルたちがのどかたちから分けてもらったものを食べていた。

 

「おぉ〜、飲んでる飲んでる〜」

 

「ワン♪」

 

丸山先生はラテに哺乳瓶でミルクを与えていて、ラテは喜んでいた。

 

「って、やっぱりお姉さんたちはメニューもバラバラだし・・・」

 

「言われてみれば・・・・・・」

 

「バラバラね・・・・・・」

 

こうたに指摘されると、のどかたちは改めて自身の選んだ料理を見ながら言った。

 

「ねっ、ねっ、のどかっちの一口ちょ〜だい!!」

 

「うん♪ 私、ちゆちゃんのピザ食べてみたい♪」

 

「ええ、どうぞ♪」

 

「私のポテトもたくさんあるので、召し上がってください♪」

 

ひなたの言葉をきっかけに、のどかたちはお互いの食べ物をシェアし始めた。

 

「・・・・・・・・・」

 

こうたはその様子が気になるようで、のどかたちを見つめていた。

 

「美味しい〜♪」

 

「ンフフ♪」

 

「バラバラだといいね♪」

 

「そうね♪ いろんな料理が楽しめるもの♪」

 

のどかたちはお互いの分け合った料理を美味しそうに食べ始めた。

 

「あっ・・・・・・」

 

そんな中、のどかの頭の中にある記憶が蘇る。

 

『しんらちゃん、ニンジン嫌だ・・・食べてぇ・・・』

 

『そのぐらい自分で食べなさいよ。病気がよくならないわよ?』

 

『だって、甘くて嫌なんだもん・・・・・・』

 

『もぉ・・・しょうがないわね・・・あっ・・・・・・』

 

『どうしたの?』

 

『ナスなんてどこがいいのよ。じゃあ、のんちゃんこれ食べて』

 

『ナス美味しいのに・・・・・・』

 

『私は粘土を食べてる気分だけどね・・・!』

 

病院時代、病院で出された食事を嫌いなものではあるが、シェアしたことを思い出す。

 

(しんらちゃんと自分の嫌いなものを分け合って食べたこともあったな〜・・・・・・)

 

のどかは小さい頃の思い出を懐かしく思う。

 

「バラバラ、だと・・・・・・?」

 

「キャラが違うからこそ、楽しいってこともある。興味のなかった動物を見たり、いつもなら注文しない料理を美味しいって感じたり。相手がいるから自分の世界が広がる、友達はいいもんだ」

 

こうたがのどかたちを見つめていると、丸山先生は友達の良さを説く。

 

「・・・・・・俺は別に」

 

素直になれないこうたはその気持ちを誤魔化すかのようにカレーを食べ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

一方その頃、動物園から遠く離れたビルの上では、イタイノンがドクルンから受け取ったテラパーツを見つめていた。

 

「あいつ・・・・・・」

 

ドクルンは恐らく、自分に進化して欲しいからこのテラパーツを与えたのだろうと思う。あの姿になっているということは、自身にパーツを使って進化したということだ。

 

『まさか・・・自分にメガパーツを使ったの・・・!?』

 

『それは少し違いますね。正確に言うのであれば、テラパーツです』

 

『テラパーツ・・・??』

 

イタイノンはドクルンがパーツを使ったことに驚いていたが、何よりも唖然としたのが自分からはそんなに無尽蔵に生み出せるわけがないテラパーツを使ったということだ。

 

『一体、どうやってテラパーツを・・・!?』

 

『簡単ですよ。カユイザを抹殺したんです』

 

『!! あいつがやられたのはそういうことだったの・・・』

 

『当然の報いですよ。私のちゆを傷つけるようなことをして・・・傷つけていいのは私だけなんですから』

 

ドクルンはカユイザを抹殺して、彼女からテラパーツを手に入れたという。

 

『クルシーナたちにも後で渡しますが、まずはあなたに。さあ、それを使って進化して、新たな力を手に入れてください。もう悠長なことを言っている事態ではないのですよ?』

 

ドクルンは自分に進化するように促した後、アジトで実験があると言って帰っていった。

 

「・・・・・・・・・」

 

イタイノンは手に持っているテラパーツをじっと見つめる。

 

「進化・・・・・・」

 

悠長なことを言っている場合ではない・・・・・・それはどういうことなのか? それが進化とどう関係があるのか??

 

イタイノンがそう考えていると・・・・・・。

 

「・・・・・・私だって、キングビョーゲン様に褒められたいのに・・・!!」

 

「っ??」

 

どこからかシンドイーネの声が聞こえてくる。辺りを見渡すとビルの縁の上に腰をおろしているのが見えた。

 

「どうしたら、もっとキングビョーゲン様のお役に立てるのかしら・・・・・・?」

 

シンドイーネは少し俯いて考え事をしているようだった。

 

「役に立ちたいんだったら、今までにない力を見せてやればいいの」

 

「っ!!」

 

イタイノンはそんなシンドイーネに声をかける。

 

「イタイノン!! あんた、何でここに!?」

 

「仕事に決まってるの」

 

「・・・・・・アンタも自主的にやることがあるのね」

 

「ビョーゲンズなんだから当たり前なの」

 

シンドイーネとイタイノンは顔をあわせるなり、嫌味の応酬を繰り返す。

 

「アンタは貢献しないわけ?? キングビョーゲン様に」

 

「・・・・・・別に。私は一人になれればそれでいいの。人間も生き物も誰もいない場所を作れればそれでいいの」

 

「あっそ・・・いっつもそうよね、アンタって。向上心もないし、誰かに尽くそうっていう気もない・・・・・・そういうのなんかイライラしてくるのよね・・・!」

 

このシンドイーネの言葉に、イタイノンも表情を顰める。

 

「そう言うお前はどうしてそこまでしてパパに褒められたいの? どうせパパは自分のことしか考えてないし、それは人間や医者どもと一緒なの。支えるしかない駒のくせにどうしてそこまで・・・?」

 

「決まってんでしょ。私は、キングビョーゲン様を心から愛してるの。初めて会った時だって、その美しさに惚れたんだから。だから、私は振り向いてもらうためならなんだってするわよ・・・!!」

 

シンドイーネの言う自分の父親を愛するという行為に、イマイチ理解できないイタイノン。

 

そんな頃、動物園の食堂の中では・・・・・・。

 

「はむ、はむ、はむ・・・!!」

 

「ふん・・・生きてるって感じばかりで不愉快ね、ここの動物園」

 

かすみがスタミナ丼を口の中にかっ込む中、クルシーナは窓を覗きながら不快そうに見つめる。

 

「そういう活気のいい場所なら、いいメガビョーゲンが生まれるんじゃないか?」

 

「・・・そうね。アンタにしては、まともなことを言うじゃない?」

 

「思ったことを言っただけだ。はむ、はむ、はむ・・・」

 

かすみは口に食べ物を入れながら話すと、クルシーナは珍しく彼女を褒める。

 

「・・・で、アンタはいつまでそれ食ってるのよ? さっさと行くわよ」

 

「もぐもぐ・・・すまない。もうすぐ食べ終わるから」

 

「はぁ・・・・・・・・・」

 

一刻も早くこの場所を蝕みたいのに、かすみが悠長にご飯を食べている姿を見てため息をつく。

 

「もぐもぐ・・・ふぅ、ごちそうさま。待たせたな」

 

「遅いのよ・・・! 行くわよ」

 

「ああ・・・・・・」

 

クルシーナはイライラしながらそう言うと、かすみと一緒に食堂を出る。

 

「アンタがお腹空いたって言うから食わしてるんだから、アタシに合わせて食べなさいよ、全く!!」

 

「だから、謝っているじゃないか・・・!」

 

クルシーナとかすみは言い合いながら、素体となるものを探している。すると・・・・・・。

 

「っ・・・・・・!!」

 

かすみが突然、その場で足を止める。そして、自身の胸のあたりに手を添え始める。

 

「?? どうしたのよ?」

 

かすみが足を止めたことに気づいたクルシーナが問いかけるも、かすみはその場に静止したまま何も答えない。そして・・・・・・。

 

「・・・すまない、クルシーナ。先に行っててくれ」

 

「はぁ? 何言ってんのよ??」

 

「いいから行ってくれ!!」

 

「あっ! ちょっと!!」

 

訳がわからない様子のクルシーナだが、かすみは強引に押し通すとそのまま走り去ってしまう。

 

「ったく何なのよ、あいつ・・・」

 

クルシーナは不機嫌そうにかすみの後ろ姿を見つめると、素体を探そうときょろきょろと辺りを見渡す。

 

すると、その近くにパンダの檻があるのを見つける。

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナは黙ったままパンダの檻へと近づいていく。その中ではパンダが食事中のようで、中に生えている笹を自分で取って食べていた。

 

そんなパンダの食べている笹をクルシーナは目につける。

 

「動物なのに生き生きしちゃって、生きてるって感じね。まぁ、あれでいいか」

 

クルシーナはそう言うと、パンダの檻の塀へと飛び上がる。そして、手のひらに息を吹きかけると黒い塊を出現させる。

 

「進化しろ、ナノビョーゲン」

 

「ナーノー」

 

ナノビョーゲンが鳴き声をあげると、パンダの檻の中の笹へと取り憑く。笹が病気へと蝕まれていく。

 

「・・・!?・・・!!」

 

笹の中に宿るエレメントさんが病気に蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガビョーゲン・・・・・・!!」

 

細い竹のようなボディに、鋭い刃のような笹の葉を持った複数の腕、枝のような4本足を持ったメガビョーゲンが誕生した。

 

そして、ビルの上のイタイノンとシンドイーネは・・・・・・。

 

「っ・・・あれは、ダルイゼンとクルシーナ!?」

 

「あいつら・・・始めたみたいなの」

 

動物園の二ヶ所でメガビョーゲンが誕生したのを見ていた。

 

「またキングビョーゲン様に褒められようと思って・・・!!」

 

「多分、違うと思うの・・・・・・」

 

シンドイーネは二人が株を上げようと勘違いしているようだが、ビョーゲンキングダムで話を聞いていたイタイノンはわかっていた。あの二人はメガパーツを手に入れるためにやっていると。

 

「とりあえず、近くまで行ってみるの」

 

「あっ・・・ちょっと!!」

 

イタイノンは二人の近くまで行ってみようとビルから飛んでいく。

 

「あぁ〜ん、もう!!!!」

 

シンドイーネもイライラしながら、イタイノンを追うように走っていくのであった。

 

一方、そんなことが起きている頃、クルシーナと別れたかすみは・・・・・・。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

林の中で息を整えており、同時に自身の胸に手を当てていた。

 

「っ・・・うっ・・・!!」

 

かすみは一瞬目を見開くと、痛みに顔を顰め始める。

 

「まだだ・・・まだ目覚めるな・・・・・・!」

 

何かを我慢するかのようにそう呟く。目覚めるな・・・まだ早い・・・まだ早いんだと・・・・・・。

 

「うっ・・・ぁ・・・・・・」

 

しかし、かすみは再び襲ってきた痛みに顔を顰め、それも先ほどより強くなった。すると、かすみは近くにある一本の木に近づくとそれに手を触れる。

 

「すまない・・・少しもらうぞ・・・・・・」

 

断りを入れながら、その木から元気を吸い取っていくと彼女の体が赤い光に包まれ、たちまちかすみから痛みが引いていく。

 

「よし・・・クルシーナのところに戻らないとな・・・・・・」

 

落ち着いたかすみは一本の木から離れ、歩いて元来た道を戻って行こうとする。

 

しかし、クルシーナの元へ歩いて向かおうとする彼女の瞳は、緑色の碧眼から赤い色、赤い色から緑色の碧眼と点滅を繰り返しているのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第110話「覚醒」

前回の続きです。
原作第30話はここまでですが、まだまだ戦いは続きます。
そして、遂にかすみが・・・さらにイタイノンが・・・・・・。


 

ビョーゲンズが動き出していることを知る由もないのどかたちは・・・・・・。

 

「ふふっ♪ お腹いっぱ~い♪」

 

「次はどこ行こっか~? ねっ、オススメないの~?」

 

のどかたちが次のエリアに向かおうとしていた、その時だった・・・・・・。

 

「クチュン!! クチュン!!」

 

ラテが2回くしゃみを起こし、体調を崩し始めた。

 

「これは・・・・・・?」

 

ラテのこの反応は間違いない・・・ビョーゲンズが現れたという証拠だ。のどかたちはお互いに顔を見合わせて頷く。

 

「先生すみません!! 今日はここで失礼します!!」

 

ちゆは丸山先生にそう伝えると、のどかたちは彼らから離れて駆け出していく。

 

「・・・・・・え?」

 

「こうたくん、今日はありがとう!! 先生さようなら!!」

 

のどかがごまかすように挨拶をすると、足早に4人は駆け出していく。

 

「・・・急にどうしたんだろう?」

 

こうた親子はその様子を見て、呆気にとられていた様子だった。

 

一方、のどかたちは人目のつかないところでヒーリングルームバッグから聴診器を取り出し、ぐったりするラテを診察して心の声を聞く。

 

(あっちで葉っぱさんが泣いてるラテ・・・・・・あっちの方で尖った葉っぱさんも泣いてるラテ・・・・・・)

 

「やっぱり!!」

 

「すぐ行くラビ!!」

 

やはりビョーゲンズの仕業であることを確認したのどかたちは、ラテの心の声をヒントにビョーゲンズの元へと駆け出していく。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「怪物だぁ〜!!!!」

 

その頃、鋭い葉に包まれたメガビョーゲンが暴れていて、多くの人々が逃げ回っていた。

 

「まずい!! こうた、帰るぞ!!」

 

怪物が暴れていることに気づいた丸山先生とこうたもその場から離れていく。

 

「メェ〜ガ、メガメガ、メガビョーゲン!!!」

 

「ふっ・・・・・・」

 

メガビョーゲンの近くには、動物の形をした植物の上にダルイゼンが座っていた。

 

「あら、ダルイゼン」

 

「・・・クルシーナか」

 

そこへクルシーナが自分のメガビョーゲンを引き連れて、こちらへとやってきた。

 

「そっちは順調?」

 

「まあね」

 

クルシーナは同じようにダルイゼンの隣に座り込み、メガビョーゲンの様子を眺め始めた。

 

「メガビョー、ゲン!!」

 

クルシーナの笹型のメガビョーゲンは口から赤い光線を吐き出しながら、辺りを病気に蝕んでいく。

 

「? カスミーナがいないじゃん」

 

「ああ。なんか知らないけど、アタシから離れてっちゃったのよね」

 

(もしかして・・・・・・もしかするのかしら・・・・・・?)

 

ダルイゼンがいつも引き連れているかすみがいないことを問いかける。クルシーナは不機嫌そうな様子でそう答えるも、心の中ではかすみに何かが起こっていることを考えていた。

 

そこへラテの示した方向から駆けつけてきたのどかたちが現れる。

 

「あら? 随分と早いわねぇ。呑気に遊んでたとか?」

 

「っ、ダルイゼン!! しんらちゃん!!」

 

クルシーナが不敵な笑みで声をかけると、のどかたちが振り向いてこちらを睨みつける。

 

「行きましょう!!」

 

ちゆの言葉を合図にのどかたちは頷き、変身アイテムを取り出す。

 

「「「「スタート!」」」」

 

「「「「プリキュア、オペレーション!!」」」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

「エレメントレベル、上昇ラテ!!」

 

「「「「キュアタッチ!!」」」」

 

ラビリン、ペギタン、ニャトランがステッキの中に入ると、のどか、ちゆ、ひなたはそれぞれ花のエレメントボトル、水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

アスミは風のエレメントボトルをラテの首輪にはめ込む。すると、オレンジ色になっているラテの額のハートマークが神々しく光る。

 

のどかたち3人は、肉球にタッチすると、花、水、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、水色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ちゆは水色、ひなたは黄色へと変化する。

 

ラテとアスミは手を取り合うと、白い翼が舞い、ラテが舞ったかと思うとハートの中から白い白衣のようなものが飛び出す。

 

その白衣を身に纏い、ラテが降りてきたかと思うとハープが飛び出し、さらにアスミは紫色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

衣装にチェンジした後、ハープを手に取り、その音色を奏でる。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「「時を経て繋がる、二つの風!」」

 

「キュアアース!!」

 

「ワン!」

 

アスミは風のプリキュア、キュアアースへと変身した。

 

「「「「地球をお手当て!!」」」」

 

「「「「ヒーリングっど♥プリキュア!!」」」」

 

4人はプリキュアへの変身を完了した。対するメガビョーゲンは二体だ。

 

「来たね、プリキュア・・・!」

 

「ふふっ♪ 遊んでやんな!! メガビョーゲン!!」

 

「メガメガメガ!!」

 

「メガビョーゲン!!」

 

ビョーゲンズの二人は不敵な笑みを浮かべると、メガビョーゲンに命令を下す。

 

その頃、動物園の入り口では人々が逃げていく中、丸山先生とこうたは・・・・・・。

 

「よし、真っ直ぐ行けば出口だ。お父さんは残っている人を助けてくる。お前は先に行って待ってろ」

 

「わかった・・・!!」

 

丸山先生はこうたに避難するように言い、自分は来た道を引き返して園内を駆けていく。

 

「お父さん、気をつけて!!」

 

こうたは円山先生の背中を見送り、避難をしようとする。

 

「??」

 

「っ・・・!」

 

そんな時、自分の目の前にしゅういちが転んでいるのを見つけた。

 

「しゅういち!!」

 

「こうた・・・・・・」

 

「しゅういち、一緒に行くぞ!!」

 

「いや・・・僕、足遅いから・・・・・・お前は先に・・・・・・」

 

こうたが駆け寄ってそう言うも、しゅういちは先ほどのこともあって気が引けている様子だった。

 

「いいから!! 行くぞ!!」

 

「う・・・うん・・・・・・」

 

「立てるか・・・・・・?」

 

しかし、こうたは週一の持ち物を拾うとしゅういちに肩を貸して一緒に立ち上がり、出口へと駆け出す。

 

「あのさぁ・・・俺たちってさ、全然キャラ違うじゃん。お前はすげぇ勉強できるし、俺は勉強イマイチだけど、スポーツ得意だし・・・」

 

「まあな・・・・・・」

 

「でもさ・・・キャラが違うと、いいってのもあるのかも・・・今日見たお姉さんたちはさ、キャラがバラバラだけど、すげぇ楽しそうで・・・・・・だから、そういうのもありかなぁって」

 

こうたは自分と性格や趣向の違うことが面倒で嫌だと思っていた。しかし、のどかたちが性格も趣向もバラバラなのに仲良く、動物園を楽しんでいる様子を見て、そういうのもいいと思えるようになったのだ。

 

「・・・そっか」

 

こうたの話を聞いたしゅういちは笑みを浮かべた。

 

「あっ、でもライオンよりトラの方が絶対強いけどな!」

 

「いいや、ライオンの方が絶対強い!!」

 

「「ふふふ・・・あははははは!!!!」」

 

トラとライオンで再び張り合うこうたとしゅういち。しかし、先ほどの険悪さはなく、むしろ楽しそうに笑っていたのだった。

 

「・・・・・・・・・」

 

そして、そんな二人を通り過ぎて、逆方向へとフラフラと歩くかすみ。その口元には二人とは異なり、笑みはなかった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「キュアスキャン!!」」」」

 

グレースとフォンテーヌはステッキをそれぞれのメガビョーゲンに向ける。ラビリン、ペギタンの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを探す。

 

「葉っぱの根元のところに、エレメントさんがいるペエ!!」

 

ダルイゼンが生み出したメガビョーゲンの中にいる葉っぱのエレメントさんを見つけるペギタン。

 

「こっちも体のど真ん中にエレメントさんを見つけたラビ!!」

 

同じくラビリンも、クルシーナが生み出したメガビョーゲンの中に葉っぱのエレメントさんを発見した。

 

「オーケー!!」

 

「わかりました!!」

 

それを聞いたスパークルとアースはメガビョーゲンと駆け出す。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

スパークルは鋭い葉に包まれたメガビョーゲンへと駆け出す。

 

「メェメェメェメガァ!!」

 

「あぁぁっ!!」

 

メガビョーゲンは葉っぱを伸ばし、鞭のようにしならせる攻撃にスパークルは吹き飛ばされる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「はぁっ!!」

 

「メガッ!?」

 

フォンテーヌとグレースは前後から駆け出していき、まずフォンテーヌがパンチを繰り出すとメガビョーゲンは避け、その背後をすかさずグレースが蹴りを浴びせて怯ませる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「メガァ!?」

 

そこへスパークルが飛びかかって、踵を落としてダメージを与える。

 

「メガメガァ!!」

 

一方、笹型のメガビョーゲンは自分の両腕部分の笹を振るって、無数のカッター状のエネルギーとして飛ばす。

 

「ふっ・・・はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「メガァ!?」

 

「はぁっ!!」

 

アースはそれを体を翻しながら交わして、メガビョーゲンの胴体に膝蹴りを食らわせてよろつかせ、さらに回し蹴りを放って怯ませる。

 

「はぁっ!!」

 

「ふっ!!」

 

「やぁっ!!」

 

「メガガガッ・・・ガッ・・・!?」

 

グレース、フォンテーヌ、スパークルはメガビョーゲンに攻撃を繰り出していき、着実にダメージを与えていく。

 

「ふっ!!!」

 

「メガァ・・・!?」

 

アースも攻撃を繰り出して、メガビョーゲンを着実に追い詰める。

 

「やれやれ・・・あれじゃ、メガビョーゲンが育たない・・・」

 

「はぁ・・・全くしょうがないわね・・・・・・」

 

メガビョーゲンが追い詰められているその様子を見ていたダルイゼンとクルシーナはそう言うと、その場から姿を消す。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! っ!?」

 

「ふっ・・・・・・!」

 

アースはメガビョーゲンさらに追撃をしようとするが、その目の前にダルイゼンとクルシーナが現れる。バク転をして後ろへと下がるアースだが、クルシーナは右手から禍々しいオーラを溜め込み、それをピンク色のビームにして放った。

 

「っ!! ふっ!!」

 

アースはそれを横に転がるようにして、なんとかかわす。

 

「相手になるよ・・・!!」

 

「遊びましょう・・・プリキュア」

 

ダルイゼンとクルシーナはそう言うと、ダルイゼンは再びその場から姿を消し、クルシーナはアースへと飛びかかる。

 

「「きゃあぁぁぁっ!!!!」」

 

フォンテーヌとスパークルの間に現れると、両腕を広げ衝撃波を放って吹き飛ばす。

 

「フォンテーヌ!! スパークル!!」

 

グレースが叫ぶと、ダルイゼンはそれに反応するようにこっちをみる。

 

バサッ!!

 

「っ!! うっ!!」

 

飛び上がったクルシーナは背中からコウモリのような翼を生やすと、滑空しながらアースにパンチを繰り出す。アースは両腕を交差して防御するが、勢いが強いのか腕を弾き飛ばされる。

 

「かぁっ・・・・・・」

 

「うっ・・・くっ・・・あぁぁ!!」

 

防御を弾いたその隙をついてクルシーナは口から無数のコウモリの妖精のようなものを吐き出し、アースは体当たりに耐えようとするも、吹き飛ばされて転がる。

 

「アース!!」

 

グレースは再び叫ぶと、その声に反応したクルシーナがこちらを見て不敵に笑い、ダルイゼンとクルシーナは再びその場から姿を消す。

 

グレースはジャンプして距離を取って身構える。

 

「・・・・・・・・・っ」

 

どこからか攻撃がやってくるわからない状況。グレースは隙を見せないようにゆっくりと身構える。

 

「っ!! はぁぁぁっ!!!」

 

後ろに気配を感じたグレースは自分の後ろに肘打ちを放つ。すると、クルシーナが現れてそれを拳で受け止めた。

 

「ふふふっ・・・のんちゃん、元気にしてた?」

 

「しんらちゃん・・・・・・」

 

「少しは反応がよくなったね♪ でも、まだ甘いよ?」

 

クルシーナは不敵に笑いながらそう言い、グレースは険しい表情をする。プリキュアとビョーゲンズによる肘と拳の押し合い・・・・・・。

 

「ふっ・・・・・・」

 

「っ!! きゃあぁ!!」

 

そこへダルイゼンがグレースの目の前に現れ、紫色の光弾を放った。クルシーナは飛び上がった瞬間に、グレースに直撃して吹き飛ばされる。

 

その時、やられていた二体のメガビョーゲンが、それぞれダルイゼンとクルシーナへ轟音を立てながらと近づく。

 

「メガァ、ビョーゲン!!」

 

「メガビョーゲン・・・・・・」

 

「オーケー。いい感じに育ったね」

 

「こっちもいい感じね♪」

 

だいぶ成長した様子のメガビョーゲンに、二人はそれぞれそう言うと、ダルイゼンは腕から斬撃を、クルシーナはビームサーベルのようなものを出して三日月型の斬撃を飛ばして、メガビョーゲンの葉っぱの先を切り落とす。

 

それは地面に落ちると緑色のメガパーツへと変化した。

 

「これでよしと・・・・・・」

 

「まあ、こんなもんでしょ」

 

二人はメガパーツを拾い上げながらそう言った。

 

そんな戦いの様子を影から見ているものが二人いた。

 

「ダルイゼン、クルシーナ・・・作戦は順調みたいなの」

 

イタイノンは二人の様子を見ながらそう呟く。

 

「でも、カスミーナがいないの・・・あいつ、どこに・・・・・・?」

 

いつもクルシーナに付き添っているかすみがいないことに気づき、きょろきょろと見渡す。

 

そんな仲間のことよりも、人一倍闘志を燃やしているもう一人がいた。

 

「ダルイゼンとクルシーナなんかに・・・負けてたまるもんですか!!」

 

その様子を悔しそうに見ているのはシンドイーネだ。彼女は二人が愛しのキングビョーゲンに褒められたいと勘違いしており、全く相手にされていない彼女は嫉妬心を燃やしていたのだ。

 

「何かあるはずよ・・・あいつらを出し抜けるようなメガパーツの使い方が・・・!!!」

 

シンドイーネはその焦りから、二人を出し抜くための考えを巡らせる。

 

「シンドイーネ・・・・・・キヒ♪」

 

その様子を見ていたイタイノンは途端に口元に邪悪な笑みを浮かばせた。

 

「キヒヒヒヒ・・・お前、そんなにあの二人を出し抜きたいの?」

 

「当たり前よ!! キングビョーゲン様は私にだけ振り向いて欲しいの!! 誰にも渡してやるつもりはないわよ!!!!」

 

イタイノンがそう問いかけると、シンドイーネは思いの丈を叫ぶ。

 

「お前は分かっているはずなの。あいつらを出し抜ける方法を・・・・・・」

 

「?? どう言う意味よ・・・?」

 

イタイノンのその意味深な言葉に、シンドイーネは問いかける。それをよそにイタイノンは先ほどのテラパーツを懐から取り出す。

 

「っ、アンタのそのメガパーツ・・・!!」

 

イタイノンが出したテラパーツを見て、自分が持っているメガパーツと色が違うことに驚く。

 

「私だったら、こうする、の!!!」

 

イタイノンはそう言いながら手に持っているテラパーツを自身の手に躊躇なく押し当てる。

 

ズズズズズズ・・・・・・。

 

イタイノンの中にテラパーツが飲み込まれていく。そして・・・・・・。

 

ドックン!!!!!!

 

「っ!? ふっ、うぅぅぅぅぅぅ・・・・・・」

 

イタイノンの体に激痛が走るも、彼女は息を吐きながらその痛みに耐える。そして、彼女の体の中から禍々しいオーラが溢れ出す。

 

「うぅぅぅぅぅぅ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

イタイノンは空に向かって咆哮を上げると、禍々しいオーラが大量に溢れ出し、イタイノンの体を包んでいく。

 

それを見ていたシンドイーネは自身の持っているメガパーツを見つめ、口元に笑みを浮かべる。

 

「・・・そうね。その手があったわね・・・!!! 何が起こるかわからないけど、私はキングビョーゲン様の一番になれるのなら・・・どうなったって構わない・・・!!!!」

 

シンドイーネは一人想いを叫んだ。キングビョーゲン様のためなら、キングビョーゲン様に褒められるためなら、振り向いてもらえるためなら、どんな姿になっても構わないと。

 

「私がなるのよ!!! キングビョーゲン様の一番に・・・!!!!!」

 

シンドイーネはそう叫んで、躊躇なく自身の体にメガパーツを押し当てた。

 

「っ!!!! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

その瞬間、シンドイーネの咆哮と共に体から禍々しいオーラが溢れ、そのまま彼女の体を包み込んでいったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、メガビョーゲンと戦っているプリキュアたちは・・・・・・。

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

フォンテーヌはメガビョーゲンによる葉っぱ攻撃を避けながら、キックを放つ。

 

「メガ?」

 

「えっ・・・きゃあぁぁぁっ!!」

 

しかし、当たったはずの攻撃は聞いておらず、逆にメガビョーゲンから攻撃を受けて吹き飛ばされた。

 

「っ・・・くっ・・・うぅっ!!」

 

「メガメガァ!!」

 

「あぁぁぁ!!!」

 

次にスパークルも葉っぱによる攻撃を避けていくも、素早く伸ばされた葉っぱに拘束され、そのまま地面に叩きつけられて吹き飛ばされる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「メガ、メガメガメガ・・・!!!」

 

グレースは低く飛びながら、笹型のメガビョーゲンへと迫る。メガビョーゲンも両腕の笹を振るって斬撃を次々と飛ばす。

 

「っ・・・うっ・・・くっ・・・きゃあぁぁぁぁ!!!」

 

グレースも避けながら迫っていくも、避けきれずに斬撃の一つに当たってしまう。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「メガァ!!」

 

入れ替わりにアースがメガビョーゲンへと飛び出し、キックを繰り出す。メガビョーゲンは体についている笹のような腕で自分の顔が見えなくなるくらいに覆ってキックを防ぐ。

 

「はぁ・・・はぁ・・・さっきよりもパワーアップしちゃってるし・・・・・・」

 

グレースたちは戦いが長引いてるせいで、息を切らして体力も消耗し始めていた。

 

「ここは、私が・・・・・・」

 

アースが状況を打開しようとまず厄介な鋭い葉で覆われているメガビョーゲンへと駆け出す。

 

「メェ〜ガ、メガメガァ!!!!」

 

メガビョーゲンは再び葉っぱを伸ばして攻撃を繰り出す。

 

「はぁっ!! はぁっ!!!!」

 

アースは飛んで避け、メガビョーゲンの葉っぱの上に乗るとそこへ飛んできた葉っぱも片なく交わしていく。

 

「音のエレメント!!」

 

再び飛び上がるとハープを取り出し、音のエレメントボトルをセットする。ハープを手で奏でて、紫色の音波を放つ。

 

「メェ!? ガ、ガガガ・・・!?」

 

音波を浴びたメガビョーゲンは動きを止めて苦しみ始める。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「メガァ!!??」

 

その隙をついてアースが勢いを乗せたドロップキックを繰り出して、メガビョーゲンを数メートル吹き飛ばす。

 

「メェ・・・ガァ・・・!!」

 

「いける!!」

 

「「うん!!」」

 

この攻撃に怯んだメガビョーゲンの様子を見て、グレースたち三人はミラクルヒーリングボトルを取り出し、ステッキにセットする。

 

「「「トリプルハートチャージ!!」」」

 

「「届け!」」

 

「「癒しの!」」

 

「「パワー!」」

 

グレース、フォンテーヌ、スパークルの順で肉球にタッチしていき、ステッキを上に掲げる。すると、花畑が広がっていき、背後には自然豊かな森が広がっていく。

 

「「「プリキュア! ヒーリング・オアシス!!」」」

 

3人は一斉にメガビョーゲンへとステッキを構え、ピンク・青・黄色の3色の光線が螺旋状になって放たれる。螺旋状の光線は混ざり合いながら一直線にメガビョーゲンに直撃する。

 

螺旋状になった光線はそれぞれの色の手へと変化して、3本の手が葉っぱのエレメントさんを優しく包み込んでいく。

 

3色に光るハート状にメガビョーゲンを貫きながら、光線はエレメントさんをメガビョーゲンから外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンたちは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「「「「「お大事に」」」」」」

 

葉っぱのエレメントさんが宿っていた植物へと戻っていくと、このメガビョーゲンによって蝕まれた場所は元に戻っていく。

 

「ふっ・・・じゃあ、俺はお先に」

 

「ええ・・・お疲れ様」

 

ダルイゼンは大量のメガパーツを持ちながらクルシーナにそう声をかけると、互いに挨拶を交わしてダルイゼンはその場から姿を消した。

 

「あともう一体だよ!!」

 

グレースの言葉に、みんなは頷くと身構えるが・・・・・・。

 

「っ!!?」

 

そこへ黒色の光線が放たれ、グレースたちはとっさに避ける。

 

「っ、かすみちゃん・・・!」

 

飛んできた方向を見てみると、そこには険しい表情を浮かべたかすみがこちらにステッキを向けながら歩いてきていた。

 

「・・・またビョーゲンズの邪魔をしたな? プリキュア」

 

「当たり前だよ!! 地球をビョーゲンズに蝕ませないためだもん!!」

 

かすみは低い声でそう言うと、グレースが反論する。

 

「遅いのよ、アンタ!!! どこ行ってた!!??」

 

「・・・すまないな。ちょっと野暮用だった」

 

「っ・・・!」

 

クルシーナはかすみに向かって怒鳴るも、かすみは淡々と謝罪をしてそう返した。そんなクルシーナはかすみの顔を見て、あることに気づいた。

 

(目が緑? 赤? あいつにやっぱり何か起こってる・・・もしかするのかしらね)

 

かすみの目をよく見ていると、瞳が緑から赤に点滅を繰り返している。もしかしたら、かすみの中に何かが起きつつあるのだろうか・・・・・・?

 

「これ以上邪魔をするのなら、容赦はしない!!!!」

 

かすみはステッキに暗いピンク色のボトルをセットして、ステッキから黒い刀身を伸ばすとプリキュアに向かって斬りかかってきた。

 

「っ!! 実りのエレメント!!」

 

グレースは実りのエレメントボトルをステッキにセットして、ピンク色の刀身を伸ばして前に出てかすみの攻撃を受け止める。

 

「っ・・・・・・!!」

 

「ここは私が・・・みんなは早くメガビョーゲンを・・・!!」

 

「わかったわ・・・!!!!」

 

グレースはフォンテーヌたちにメガビョーゲンの相手をするように言い、三人はメガビョーゲンの元へと飛んでいく。

 

ガキン!! ガキンガキン!!!!

 

「っ・・・!!」

 

「うっ・・・!!!!」

 

ガキンッ!!!!

 

グレースとかすみの剣がぶつかり合い、押し合いをしながらもかすみは剣を弾いて距離を取ると、ダークグリーン色のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

すると、かすみの刀身がさらに伸びて紐のようにしなる。

 

スパンッ!!!

 

「っ・・・??」

 

「ふっ!!!!」

 

「っ!! ぐっ・・・うっ・・・!!!!」

 

かすみは刀身を鞭のようにしならせると、それをグレースに向かって数回に分けて振るう。グレースはそれを刀身で防ごうとするが、一撃一撃が重く、グレースはその度に体をよろつかせ、時には体に当たってダメージを受ける。

 

「はぁっ!!!」

 

「あっ!?」

 

かすみはさらに振るうと、伸ばされた刀身はグレースの持っていたステッキの先を絡め取り、引っ張られそうになる。

 

「っ・・・!!」

 

「うぅぅ・・・!!!」

 

かすみはステッキを引き寄せるように引っ張り、グレースは抵抗するも徐々に引き寄せられていく。二人は拮抗した状態が続いていたが・・・・・・。

 

「っ・・・!!!!」

 

「っ!? かすみちゃん・・・!?」

 

その時、かすみの体から黒いオーラが溢れ出し、グレースはその光景に驚く。

 

「ふっ!!!!」

 

「っ、きゃあぁ!!??」

 

その瞬間、急に力の上がったかすみは力を入れて引っ張り、グレースは空中へと投げ出されてしまう。

 

「っ、はぁっ!!!!」

 

「ぐっ・・・!? あぁぁぁぁ!!!!!!」

 

かすみは右足に黒いオーラを纏わせると、回し蹴りを繰り出す。グレースの腹部に蹴りが命中し、彼女は吹き飛ばされる。

 

「っ、はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「うっ・・・っ!!!」

 

そこへかすみがさらに追撃しようと飛び上がって飛び蹴りを繰り出し、グレースはよろけながらもとっさに避ける。

 

「っ・・・あっ・・・!?」

 

グレースは転がって立ち上がろうとするが、その直後に膝をついてしまう。

 

「あ、あれ・・・??」

 

「グレース!? どうしたラビ!?」

 

「な、なんか力が抜けて・・・?」

 

グレースは自身の体に違和感を覚える。かすみから受けたダメージとは違うと思うが、急に体がガクンとふらついたのだ。

 

「っ・・・はぁぁっ!!!!」

 

「うっ・・・あっ・・・あぁぁぁぁ!!!!」

 

そんなことなど知る由もないかすみは、グレースに容赦なく刀身を鞭のように振るい、防御する暇もなかった彼女は吹き飛ばされてしまう。

 

倒れ伏すグレースに、かすみがゆっくりと近づいていく。

 

「あいつ・・・・・・なんか様子がおかしいわね。急に強くなったし、それに急にのんちゃんが弱くなってる」

 

その様子を見たクルシーナは違和感を覚える。グレースとほぼ対等の力を持っているはずのかすみの力が急に上がり、逆にグレースから力が消失していっているのだ。

 

「もしかして、あいつの中のビョーゲンズが・・・?」

 

クルシーナはかすみの体の中にある変化が起きていることを感じざるを得ないのであった。

 

一方、メガビョーゲンと交戦するフォンテーヌたちは・・・・・・。

 

「メッガ、メメメメェ!!!!」

 

笹型のメガビョーゲンは両腕の笹を振るって、斬撃を次々と飛ばす。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

フォンテーヌは斬撃を掻い潜って、メガビョーゲンにキックを繰り出す。

 

「メガァ・・・・・・」

 

「っ、きゃあぁぁぁ!!!」

 

メガビョーゲンは無数の腕についている笹で自分の顔が隠れるほどに覆い、フォンテーヌの攻撃を緩和させると、逆に彼女を残っている笹を振るって吹き飛ばす。

 

「やぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「メガメメメメ!!!!」

 

「っ・・・くっ・・・あぁぁぁ!!!!」

 

続いてスパークルが向かっていくも、縦横無尽に襲い来る笹に避けきれず攻撃を受けてしまう。

 

「ふっ!!!」

 

「メェ〜ガァ!!!」

 

アースも駆け出していくと、メガビョーゲンは無数の笹をアースに目掛けて振り下ろす。アースはそれをジャンプでかわす。

 

「はぁっ!!!!」

 

「メガ!?」

 

アースは飛び蹴りを繰り出し、メガビョーゲンの胴体に直撃するも、怪物はまだ倒れる様子がない。

 

「はぁ・・・はぁ・・・結構キツイよ、これ・・・」

 

「はぁ・・・次で決めましょう・・・!!!!」

 

「私も、行きます・・・!!」

 

フォンテーヌとスパークルは連戦で体力も尽きかけていた。次の攻撃で決めることを宣告し、フォンテーヌは氷のエレメントボトルを取り出す。その間にアースは再びメガビョーゲンへ駆け出していく。

 

「メガメメェ!!!」

 

メガビョーゲンは自分の体についている笹の腕を一斉に投下していく。アースは片なくそれをジャンプで避ける。

 

「氷のエレメント!! はぁっ!!!!」

 

フォンテーヌはステッキに氷のエレメントボトルをセットし、その隙を狙って胴体に目掛けて氷を纏った青い光線を放つ。

 

「メ!? ガガガ・・・!?」

 

直撃を受けたメガビョーゲンはその場で氷漬けになった。

 

「今がチャンス!!」

 

それを見たスパークルはそう叫ぶとジャンプして飛び上がる。

 

「やぁぁぁぁっ!!」

 

「メェ!?」

 

「はぁっ!!」

 

「ガァ!?」

 

スパークルが蹴りを放って顔面に直撃し、さらにアースの蹴りが胴体に直撃する。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「メガガ!?」

 

そこへフォンテーヌが体を回転させて勢いをつけた蹴りをお見舞いし、メガビョーゲンは吹き飛ばされた。

 

「アース、今よ!!」

 

フォンテーヌの言葉を合図に、アースは祈りを捧げるように手を合わせる。

 

「アースウィンディハープ!!」

 

そう呼ばれたハープに風のエレメントボトルをセットする。

 

「エレメントチャージ!!」

 

アースはハープを手に取って、そう叫ぶとハープの弦を鳴らして音を奏でる。

 

「舞い上がれ! 癒しの風!!」

 

手を上に掲げると彼女の周りに紫色の風が集まり始め、ハープへとその力が集まっていく。

 

「プリキュア! ヒーリング・ハリケーン!!!」

 

アースはハープを上に掲げてから、それを振り下ろすとハープから無数の白い羽を纏った薄紫色の竜巻のようなエネルギーが放たれる。

 

そのエネルギーは一直線にメガビョーゲンへと向かい、直撃する。

 

竜巻のようなエネルギーはメガビョーゲンの中で二つの手へと変化し、葉っぱのエレメントさんを優しく包み込む。

 

メガビョーゲンをハート状に貫きながら、光線はエレメントさんを外に出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていく。

 

「お大事に」

 

葉っぱのエレメントさんが宿っていた笹の中へと戻っていくと、蝕まれた場所は元に戻っていく。

 

「・・・まあ、こんなもんか」

 

メガビョーゲンが浄化される様子をつまらなそうに見たクルシーナは、グレースとかすみの方に目を向ける。

 

「うぅぅ・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

かすみはグレースの体を踏みつけると、彼女にステッキを向ける。

 

「「「グレース!!」」」

 

「っ・・・!!」

 

そこへフォンテーヌたち三人の叫びが聞こえ、かすみは表情を顰める。

 

「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

フォンテーヌたち三人は同時に蹴りを繰り出すも、かすみはその場から飛び上がって距離を取る。

 

「グレース、大丈夫!?」

 

「う・・・うん、なんとか・・・・・・」

 

フォンテーヌはグレースの体を起こして心配するも、グレースはなんともないと答える。

 

「・・・メガビョーゲンがやられたか」

 

かすみは悟ったように言うと黒いステッキをしまい、踵を返す。

 

「待ってよ、かすみっち!! なんでこんなひどいことすんの!?」

 

そんな彼女の背後からスパークルの怒った声が聞こえてくる。かすみは足を止めると、冷たい表情で彼女たちに振り向く。

 

「私はビョーゲンズなんだから、その敵を阻むのは当然のことだろう?」

 

「でも、かすみさんは・・・!! 私たちと仲良くしたり、一緒にひなたのジュースを飲んだり、犬たちと遊んだりして、楽しい日々を過ごしていたではないですか!! ビョーゲンズの侵略からも一緒に戦ってくださったのに・・・どうして、こんなことを・・・・・・!?」

 

かすみが冷たい声で切り捨てると、アースが悲痛な声で訴える。

 

「・・・私がプリキュアと仲良くした? 一緒にジュースを飲んだ? 犬と遊んだ?」

 

かすみはアースから聞いた言葉を呟くと、口元に笑みを浮かばせる。

 

「ふ、ふふふ・・・ふふふふふ!!! あははははははははは!!!!!」

 

かすみにはその言葉が滑稽に見えた。自分たちが敵と仲良くした? 敵と一緒にジュースを飲んだ? 敵と一緒に犬と遊んだ? どれも聞いて滑稽でしょうがない・・・!!!!

 

「何で、笑ってるの・・・!?」

 

突然笑い出すかすみに、グレースたちは戸惑いを隠せなかった。

 

「あははは・・・ふぅ・・・すまないな。『前の私』のやっていたことがあまりにも面白くてなぁ・・・」

 

かすみは笑いを止めると笑みを浮かべながらそう言い、プリキュア三人に向き直る。

 

「・・・・・・一応聞くが、それは目覚める前の、偽りの私がやっていたことか?」

 

「偽りの、私・・・・・・?」

 

「何、言ってんの・・・・・・?」

 

かすみの言っていることが理解できず、思わず聞き返すスパークル。

 

「あなた・・・かすみじゃないわね・・・!! 一体、誰なの!?」

 

フォンテーヌは明らかに口調はかすみだが、かすみらしくない言動をする彼女に険しい表情をして問いかける。

 

「ん? 私か? 私はなぁ・・・・・・」

 

かすみが能面のような表情に笑みを浮かべる。それと同時に黒いリボンが赤く染まっていき、金髪の髪型が銀髪へと変化を遂げていく。

 

緑色だった瞳は赤色に染まり、赤い手袋やスカートは漆黒へと染まっていく。

 

そして彼女は邪悪な笑みを浮かべながら、その名前を呟いた・・・・・・。

 

「私は、真なるビョーゲンズの『カスミーナ』だ・・・・・・!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、こうたとしゅういちは無事避難でき、入り口でしゅういちの父親と合流していた。

 

「転んだところ、まだ痛いか?」

 

「もう平気」

 

こうたは転んだしゅういちを心配していたが、しゅういちはなんともない様子だった。

 

「こうたくん、家まで送って行こうか?」

 

「いや。お父さん、後から来るし、大丈夫です」

 

しゅういちのお父さんは気を遣ってこうたを送ろうとしていたが、こうたは丸山先生を置いていくわけにもいかないので、断った。

 

「・・・じゃあ、先に行くな」

 

「じゃあな〜!! バイバ〜イ!! バイバ〜イ!!!!」

 

しゅういちは心配そうな表情をしつつも、父親と一緒に動物園を去っていき、こうたはそれに手を振って見送った。

 

「っていうか、まだかな・・・お父さん」

 

こうたは丸山先生の戻りが遅いことを心配しつつも、待つことにした。

 

そんな少年に迫る影が二つあった。その一つは入り口の壁付近に降り、去っていくしゅういちたちを見つめる。

 

「キヒヒヒヒ・・・・・・」

 

その影は笑みを浮かべると、その場から姿を消す。

 

そして、動物園から離れたしゅういちとその父親は・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

「どうした?」

 

「こうた・・・大丈夫かな?」

 

「あの子にはお父さんもいるし、大丈夫だろ」

 

しゅういちは後ろ髪を引かれるかのように背後を振り向きこうたを心配していた。父親はそんな彼を安心させるように諭す。

 

キュイーン!!

 

「・・・こんにちは、なの」

 

「「っ!?」」

 

そんな親子の目の前に、イタイノンが現れる。しかし、その外見は以前より大きく変わっていた。

 

悪魔のツノは山羊のような長いものと羊のような反り返ったものに変わって4本になっており、頭のヘアバンドは網掛けのついた派手なものに変わり、顔の装飾に額に雷のようなマークがある。堕天使のような2対4枚の翼を生やし、ゴシックロリータの服は紫と白を基調としたものに変化しており、両腕やスカートのようなフリルの部分には無数のリボンがついている。足は網掛けのタイツを身につけ、紫色のヒールの靴を履いている。

 

「誰だい、キミは・・・・・・?」

 

「・・・・・・キヒヒ」

 

しゅういちの父親が警戒しながら問いかけるも、イタイノンはその質問には答えずに笑うだけでその場から姿を消すと、一瞬でしゅういちの父親の前に姿を現す。

 

「ぐあぁぁぁ!!」

 

父親はそのままなすすべなく、右手の雷撃でイタイノンに吹き飛ばされてしまった。

 

「お父さん!!」

 

気絶をしてしまったのか、動かなくなったしゅういちが心配して叫ぶも、その声に反応したイタイノンがそちらを振り向き、しゅういちへと近づいて行く。

 

「ひっ・・・あ、あぁ・・・・・・」

 

「進化した力がどんなものなのか、お前で試してやるの」

 

しゅういちは怯えた表情を見せながら後ずさるも、イタイノンはゆっくりとこちらに近づく。

 

「うわぁっ!!」

 

しゅういちは距離を取ろうとしたが、足の怪我で躓いて尻餅をついてしまう。

 

「キヒヒヒヒ、どうせ逃げられやしないの・・・!!」

 

「あぁ・・・ああ・・・・・・た、助けて・・・お父さん・・・こうた・・・・・・」

 

不敵な笑みを浮かべるイタイノンに、しゅういちは父親と動物園で別れた友人に助けを求める。しかし、父親は転がされて気絶しており、こうたとはすでに距離も離れており、声は届かなかった。

 

そんなことをよそに、イタイノンは両腕の袖を払うかのような動作をして黒い塊のようなもの出現させ、右手を突き出すように構える。

 

「進化するの、ナノビョーゲン」

 

「ナノナノ〜」

 

生み出された禍々しいオーラを纏ったナノビョーゲンは鳴き声を上げながら、しゅういちへ向かって飛んでいく。

 

そして・・・・・・・・・。

 

「う、うぁぁぁ!! うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「キヒヒヒヒ・・・・・・!!!!」

 

ナノビョーゲンはしゅういちに取り憑き、絶叫を上げた彼を蝕みながら取り込んで行くのであった・・・・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第111話「強敵」

原作第31話がベースです。
遂に覚醒したかすみ、そしてあの怪物も登場です。

そんな中ですが、新キャラも登場します。


 

プリキュアたちの前に再び現れたかすみ。しかし、以前とは違って不敵な笑みを浮かべながらこちらを見ている。外見も変わっていて、一層の不気味さを感じさせる。

 

そして、彼女は改めて名前を名乗った・・・・・・。

 

「カス、ミーナ・・・・・・?」

 

「そうだ。私は『カスミーナ』だ・・・!!」

 

なんだかよくわかっていないアースはボソリと呟くも、対するかすみは邪悪な笑みを浮かべている。

 

「そうか、アンタが『カスミーナ』ってわけね」

 

「そうです。クルシーナ様」

 

そこへクルシーナが近づいて声をかけ、かすみは彼女を様付けで呼びながら肯定する。

 

「どういう、こと・・・?」

 

「かすみちゃんじゃなくて、カスミーナ・・・?」

 

スパークルとグレースもイマイチ状況が掴めていない様子で、呆然と見ている。

 

「・・・あなた、かすみをどこにやったの!?」

 

フォンテーヌも頭が追いついていないが、目の前にいる人物がかすみじゃないことは確かで、なりすましているのだろうと思い込み、彼女に問いかけた。

 

「かすみ? 偽りの私の姿はそう呼ばれていたのか・・・」

 

「どういうことなの!?」

 

「簡単なことだ。プリキュアと仲良くしている『前の私』など、偽りの存在に過ぎない。私は目覚めたのだ。この体で・・・! 偽りの私が使っていた、この体でな!!」

 

フォンテーヌの問いかけに、かすみは大きく体を広げながら答えた。

 

「かすみっち・・・身も心も悪いヤツになっちゃったってこと・・・!?」

 

「そんな・・・・・・かすみちゃん!! 嘘だよね!?」

 

かすみの言っていることが信じられず、グレースが悲痛な声で訴える。

 

「言っただろ? 私は目覚めたと!! そして、これからは・・・クルシーナ様、ビョーゲンズの姫様・・・そして、キングビョーゲン様のために地球を病気で蝕み、我らのものにするのだ!!」

 

そんな言葉を意に介さず、かすみは能面のような表情に笑みを浮かべて答える。

 

「かすみ!! 冗談で言ってるなら許さないわよ!!」

 

「目覚めたってどういうことなんですか!? かすみは今、目の前で起きているではありませんか!!」

 

フォンテーヌとアースは険しい表情で問いかける。今の言葉はかすみが思っていることとは真逆のことだ。そんなことを友人であるかすみが思うはずがないと。

 

「まだ気づかないわけ? 今、お前らと話しているこいつが、本物のカスミーナなのよ」

 

「っ!?」

 

「おかしいと思ったのよねぇ。ビョーゲンズのくせにプリキュアの味方をするとか、お父様の意思に反することをしてるんだもの。アタシ、こいつと取引をした時に思ったのよ、こいつの中の本当のビョーゲンズは、まだ目覚めてないってね」

 

「「「っ!!??」」」

 

目の前にいるのが本当のかすみ・・・・・・?? クルシーナの言葉にフォンテーヌは驚きを隠せないが、みんなはかすみがクルシーナと取引していたことにはそれ以上の衝撃を受けていた。

 

「取引・・・? かすみが・・・!?」

 

「どうして・・・そんなことを・・・!?」

 

フォンテーヌとグレースは信じられない様子だった。かすみがビョーゲンズと取引をしていた? 一体、何のために・・・・・・??

 

すると、クルシーナはグレースを指差した。

 

「あいつはお前を守ろうとしてたんだよ。のんちゃん・・・お前をね」

 

「っ、かすみちゃんが・・・!?」

 

「そう。お前、ダルイゼンにメガパーツを埋め込まれたことがあったでしょ? その時だよ、かすみがアタシと取引をしたのは。のんちゃんを助ける代わりに、ビョーゲンズの仲間にしてくれと言ったのさ、アタシの前で土下座をしてね」

 

「そんな・・・・・・じゃあ、かすみは最初からのどかを助けるために・・・!?」

 

クルシーナの告白に、グレースとフォンテーヌは衝撃を受けた。かすみはのどかを守るために、ビョーゲンズに入ったのだと。

 

「ええ。でも、意味わかんないわよねぇ。のんちゃんを守るためにビョーゲンズに入って、結局はお前らを傷つけてるんだから変わんないのにねぇ」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべながらそう言った。

 

「あなたがかすみにそうやらせるように指示したんでしょ!? それをさもかすみがやったかのように言うのはやめて!!」

 

「事実でしょ。それに、アタシが命令しようが、あいつが意図してやろうが、やってることは変わんないじゃん」

 

フォンテーヌの非難するような言葉に、クルシーナは全く悪びれることなく答える。

 

「お喋りが過ぎたな。さてと、このままこの辺一帯を再び病気にーーーー」

 

かすみーーーーカスミーナはナノビョーゲンを取り憑かせる素体を探し始める。

 

「待ちな、カスミーナ」

 

「??」

 

「アンタには調整が必要だ、プリキュアに対抗するためのね。一回戻るよ、アジトに」

 

「・・・・・・かしこまりました」

 

しかしクルシーナがその活動を制止し、退却するように促す。それを聞いたカスミーナは思考すると素直に命令に従った。

 

「かすみちゃん、待って!!!!」

 

その場から立ち去ろうとする二人に、グレースが叫ぶ。

 

「・・・・・・またな、キュアグレース」

 

カスミーナは顔だけ振り向いて不敵な笑みを浮かべると、二人はその場から姿を消した。

 

「かすみー!!!!」

 

フォンテーヌは悔しさを滲ませながら叫び、地面に膝をついてステッキを持っていない拳を握りしめながら叩きつける。

 

「ああ・・・あぁ・・・・・・」

 

グレースは絶望の表情を浮かべながら、去っていったのを見届けるしかなかった。

 

「かすみさん・・・・・・」

 

「かすみっち、どうして・・・・・・??」

 

アースとスパークルはその様子を呆然と見つめ、力なく項垂れたのであった。

 

その後、植物へと戻っていった葉っぱのエレメントさんの体調を確認するプリキュアの4人。

 

「葉っぱのエレメントさん、体調はいかがですか?」

 

『ありがとう。皆さんのお陰ですっかり元通りです』

 

「・・・・・・・・・」

 

葉っぱのエレメントさんは元気に答えたが、プリキュア4人の表情は暗いままだった。

 

『皆さんは、元気がないですね・・・・・・』

 

「っ、そんなことないです! ただ一度にいろんなことが起こって・・・・・・」

 

エレメントさんの指摘に、フォンテーヌは否定するもその表情は何かを考えるかのように不安そうだった。

 

『私たちにできることは少ないですが、決して負けないでください! そして、自分を信じて!! その想いさえいつまでも持っていれば、奇跡は起こるはずです!』

 

「・・・・・・ありがとう、エレメントさん」

 

エレメントさんの励ますような言葉に、スパークルは力なく答えるとエレメントさんは植物の中に戻っていった。

 

「かすみっち、本当に悪い奴になっちゃったのかな・・・・・・?」

 

スパークルは不安そうな表情でみんなに問いかける。

 

「わからないわ・・・・・・でも、かすみに何か大変なことが起こっているのは事実よ・・・・・・」

 

フォンテーヌは辛そうな顔をしながら答えた。

 

「あっ・・・・・・!?」

 

『すまない・・・すまない・・・・・・』

 

『かすみ・・・・・・?』

 

ーーーー今までウソをついて、すまない・・・・・・。

 

ニャトランはかすみが謝っていたことを思い出す。そして、その言葉の意味をここで知った。

 

「思い出したぜ!!」

 

「ニャトラン、どうしたの?」

 

「かすみ、俺に謝ってたんだよ!! ウソをついてすまないって・・・・・・もしかしたら、このことだったんじゃねぇかって・・・!!」

 

「「「「っ!!」」」」

 

ニャトランの告白に、プリキュアたちは驚く。かすみがそんなことを言っていたとは知らず、それにそれを話していたということはかすみがこうなることがわかっていたのであろうと察した。

 

「え? ってことは、あれはかすみっちのーーーー」

 

スパークルが何かを言いかけた、その時だった・・・・・・。

 

「クチュン!! クチュン!!」

 

「っ、ラテ?」

 

治ったはずのラテが再びくしゃみをして、体調が悪くなってしまった。

 

「さっきお手当て終わったのに・・・また・・・??」

 

不審に思ったグレースは聴診器をラテに当てる。すると・・・・・・。

 

(あっちで先生が泣いてるラテ・・・あっちで子供が泣いてるラテ・・・・・・)

 

「先生・・・と、子供ですか・・・??」

 

「もしかして、円山先生と、こうたくんのこと・・・??」

 

アースが不思議そうに言い、フォンテーヌが尋ねるとラテは苦しそうにしながらも頷いてみせる。

 

「先生とあの子が泣いてるの?」

 

「どういうこと?」

 

「転んだんじゃないか?」

 

「先生と子供が転んだからって、ラテ様は反応しないラビ」

 

グレースとスパークルはよくわからず、ニャトランが勝手な推測を話すも、詳細は全くわからなかった。今までにラテの反応にはない言葉だったため、プリキュアたちは戸惑いを隠せなかった。

 

「とにかく行ってみるペエ」

 

詳しいことはよくわからないが、苦しんでいれば放っておけないとプリキュアたちはその場所へと向かうことにしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラテが示した場所へと向かったプリキュアたちは、そこであるものを目撃する。

 

「っ、いたラビ!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

その視線の先には、二体の怪物がいた。頭部には3つの形の違うメガネ、上半身には白い半袖シャツ、下半身にも半ズボンとメガネのようなバックル、背中には2つの大きな丸型フラスコを持ったメガビョーゲン。

 

そして、上半身には青いシャツ、下半身にはジーパン、背中にはランドセルのようなものを持ち、両腕に図鑑のようなものを持っているメガビョーゲンがいた。

 

「なーんだ、普通にメガビョーゲンじゃん」

 

「いつも通り二体いるわね」

 

スパークルとフォンテーヌは二体のメガビョーゲンを見ながら話した、その時だった・・・・・・。

 

「ギガ、ビョーゲン!!!!」

 

メガビョーゲンは低く唸ると、丸型フラスコを持ったメガビョーゲンは頭部、両腕、バックルにあるメガネから禍々しい赤い光線を照射する。

 

「ギガギガギガ!!!!」

 

そして、ランドセルを背負ったもう一体のメガビョーゲンは両腕、頭のてっぺん、両足についている図鑑を開くとそこからトラやライオンといった動物の形をした禍々しいエネルギーを放った。

 

「「「「!?」」」」

 

その凄まじい力に、プリキュアたちは目を覆う。そして、二体のメガビョーゲンの放った光線とエネルギーは広大な動物園の敷地、そして園の外の街や自然にまで及び、広範囲を病気で蝕んだ。

 

「一気にあんなに蝕めるペエ!?」

 

「しかも二体ともかなり広範囲を蝕んだわよ!? お手当てを急がないと!!」

 

「ラテはここでお待ちください」

 

フォンテーヌたちは底知れない力に警戒し、アースは木陰の安全なところに避難させた。

 

「ラビリン!!」

 

「ラビ!!」

 

「ニャトラン!!」

 

「OK!!」

 

キュン!!

 

「「「「キュアスキャン!!」」」」

 

グレースとスパークルはステッキを構え、肉球をタッチしてそれぞれのメガビョーゲンに向ける。ラビリンとニャトランの目が光り、メガビョーゲンの体内を見る。

 

すると・・・・・・。

 

「っ、先生!?」

 

「こっちは、こうたくんのお友達だよね!?」

 

「えぇ!?」

 

なんとメガネをかけているメガビョーゲンの中には円山先生が、そしてランドセルを背負っているメガビョーゲンの中にはこうたと喧嘩をしていた少年ーーーーしゅういちの姿があったのだ。

 

「メガビョーゲンの中に先生と、こうたくんのお友達が!?」

 

「なんで!? エレメントさんじゃないの!?」

 

「ラビリン、ペギタン、ニャトラン、今までこんなことがあったのですか・・・!?」

 

「いや・・・・・・」

 

「ラビリンたちも初めてラビ!!」

 

メガビョーゲンの中にいるのはエレメントさんじゃなくて、先生と子供・・・・・・いつもとは違うこのメガビョーゲンに驚きと戸惑いを隠せない一行。

 

「ギガ、ビョーゲン!!」

 

そうしている間に、メガネをかけているメガビョーゲンは頭部のメガネから禍々しい赤い光線を放つ。

 

「「「っ!! ぷにシールド!!」」」

 

グレースたちはとっさに前に肉球型のシールドを張って、防御体制になる。

 

「ギガギガギガァ!!!!」

 

そこへランドセル型のメガビョーゲンが両腕の図鑑を開いて、禍々しいライオン型のオーラを放った。

 

ドカァァァァァァン!!!!!

 

二つのメガビョーゲンの攻撃は直撃し、大爆発を起こした。

 

黒い煙が晴れると、そこには倒れ伏しているプリキュアの姿があった。

 

「アーッハハハハハハハ!!!!」

 

「キヒヒヒヒヒヒヒ・・・愉快愉快なの!!!!」

 

そこへ聞こえてくる二つの笑い声。倒れているプリキュアたちが聞こえてくる方向に視線を向けると、食堂の屋根の上にシンドイーネとイタイノンの姿があった。

 

「うっふふふ・・・」

 

「キヒヒ・・・・・・」

 

「シンドイーネ・・・!?」

 

「らむっち・・・!?」

 

「その姿は!?」

 

プリキュアたちは明らかに以前とは二人の姿が変わっていることに気づく。

 

「どぉ? プリキュア。新種の私とイタイノンが生み出した力、ギガビョーゲンの力は?」

 

「ギガビョーゲン!?」

 

「メガビョーゲンじゃないペエ!?」

 

目の前に立っている怪物はメガビョーゲンではなく、その上を行く怪物・ギガビョーゲンだったのだ。それを知ったラビリンたちは驚きを隠せない。

 

「そうなの。私たちは進化したの。この地球を蝕めるような新たな力を求めて、なの」

 

「この体に、メガパーツを取り込むことによってね!!」

 

シンドイーネとイタイノンは、メガパーツとテラパーツ、それぞれを自分の体に取り込んだ上で進化をすることに成功し、以前とは変わった姿となり、上位種の怪物を生み出すことに成功したのである。

 

「そんな・・・メガパーツを自分に!?」

 

グレースたちは二人がしたことに信じられないような様子だった。

 

「私たちは地球上の生き物を使って、ギガビョーゲンを生み出せるようになったのよ!!」

 

「「「「っ!?」」」」

 

「ニャンだとぉ!?」

 

「クゥ〜ン・・・・・・」

 

グレースたちはシンドイーネのこの発言に戦慄する。ただでさえお手当てが大変になってきているというのに、彼女たちによってこのような怪物が生み出されると思うと、恐怖でしかない。

 

「あんたらとは違うのよ。この体もキングビョーゲン様への愛も・・・!!!」

 

シンドイーネは恍惚とした表情を浮かべながらそう主張する。

 

「キヒヒ・・・人間が自分たちの住む星を自分で病気にするなんて笑えるの。しかも、こいつが学校の先生と非力な子供だと思うと、ますますおかしいの・・・!!!!」

 

一方の、イタイノンは不敵に笑いながらそう言った。

 

「らむっち!! あたしにあんなに優しくしてくれてたじゃん!! なのに、なんでこんなひどいことすんの!? もう地球を苦しめるのはやめてよ!!」

 

「やかましいの!! お前に指図される筋合いはないの。それはそれ、これはこれ、なの。私がビョーゲンズとして活動することはこれからも変わらないの・・・!!!」

 

スパークルの悲痛な訴えを、イタイノンは一蹴する。

 

「安心しろ、なの。この地球上の生き物が死んだら、私としては面白くないの。お前らも、この地球の奴らも等しく苦しめて生かしておいてやるから、感謝するの・・・!!!!」

 

「らむっち・・・・・・!」

 

イタイノンの嬉々したような言葉に、スパークルは泣きそうな表情になる。

 

「さあやるの!! ギガビョーゲン!!」

 

「お前の力を見せてやりなさい!!」

 

「ギガァァァァァァァァ!!!!」

 

メガネのギガビョーゲンはプリキュアへと駆け出すと、腕を振り上げて攻撃を仕掛ける。4人はその場から飛びのいて攻撃をかわす。

 

「っ・・・」

 

「ギガギガ!!!」

 

「!? あぁぁぁっ!!」

 

グレースはステッキから光線を放とうとしたが、死角から現れたランドセルのメガビョーゲンが体を振り回してランドセルをぶつけ、グレースは地面に叩きつけられる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「ギガァ!!!!」

 

「っ・・・くっ!!」

 

そこへフォンテーヌが攻撃を仕掛けるも、割り込んできたメガネのメガビョーゲンが拳で反撃し、フォンテーヌはなんとか着地するも、その一撃は自分よりもかなり重かった。

 

「やあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

フォンテーヌと入れ替わるように、スパークルが空中で体を回転させて勢いをつけた回し蹴りを仕掛け、命中させる。

 

「ギガァ!!!!」

 

「あぁぁぁっ!!!!」

 

しかし、ギガビョーゲンには通用しておらず、逆に攻撃を受けてしまう。

 

「ヤバい!!!!」

 

「なんて攻撃力!!!!」

 

「これまでのメガビョーゲンとは段違いです・・・!!!! 簡単には近づけません!!!!」

 

「しかも二体いるから、タチがわりぃぞ!!!!」

 

ギガビョーゲンから繰り出される一撃一撃の力がとてつもない。これまでにない怪物と対峙して、改めてギガビョーゲンの恐ろしさを思い知らされるプリキュアたち。

 

そんな中、グレースは一人飛び出して、攻撃を仕掛けようとする。

 

「先生を、返して・・・!!!!」

 

「ギガァ!!!!」

 

ギガビョーゲンの拳をジャンプでかわして、ギガビョーゲンに迫るグレース。

 

「ギガギガァ!!!!」

 

「きゃあぁぁぁ!!!!」

 

そこへランドセルのギガビョーゲンが放ったトラ型のオーラを受けて吹き飛ばされてしまう。

 

「あぁぁ!!!」

 

「ギガァ!!!!」

 

「っ・・・!!!」

 

そこへメガネ型のギガビョーゲンが拳で追撃し、グレースは地面に叩きつけられながらもなんとかかわし、バク転をしながら距離を取ろうとする。

 

「っ・・・うぁっ!?」

 

しかし、グレースは地面に着地した瞬間、体がよろけて倒れそうになり、膝をついてしまう。

 

「グレース!? どうしたラビ!?」

 

「な、なんか・・・体の力が抜けて・・・・・・??」

 

ラビリンが心配して声をかけるも、グレースは息を荒くしていて額の汗がすごかった。

 

「ギガ、ギガァ!!!」

 

「っ・・・うっ・・・あぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

そこへギガビョーゲンが光線を放つ。グレースはそれでも避けながら迫ろうとするも、赤い光線の直撃を受けてしまい、地面を転がりながら森の中へと消えていく。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

立ち向かうフォンテーヌも、ランドセル型のメガビョーゲンの拳で吹き飛ばされ、森の中へ落下していく。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

スパークルも空中から突っ込んでいったが、逆にメガネ型のギガビョーゲンの張り手を受けて、同じように森の中へと落下していった。

 

三人はそれぞれバラバラの方向へと吹き飛ばされてしまったのだ。

 

「グレース!! フォンテーヌ!! スパークル!!」

 

「あとはお前だけなの!!」

 

「っ・・・!!」

 

アースは吹き飛ばされた仲間を心配して方向を見ていると、そこへランドセル型のギガビョーゲンがライオン型のオーラを放つ。

 

アースはそれをジャンプしてかわすが・・・・・・。

 

「ギガァ!!!!」

 

「あぁぁぁっ!!!!」

 

そこへランドセルを振り回したギガビョーゲンの攻撃が直撃し、同じように転がりながら森の中へと消えていったのであった。

 

「アーッハハハハハハハ!!!! やった!! やったわ!!!! 遂に手に入れたのよ!!! 私たちは、プリキュアさえ凌駕するほどの力を!!! アーッハハハハハハハ!!!!」

 

自分が生み出したギガビョーゲンがプリキュアに勝利し、高笑いをするシンドイーネ。

 

「・・・何か不完全燃焼で面白くないの。まあ、死んでないから別にいいの」

 

イタイノンは何やら面白くなさそうな顔をしていた。プリキュアに勝ったのは嬉しいが、あまりにも実力の差が大きすぎて全く面白くない。それに、人間たちが逃げ出していってしまっているため、肝心の悲鳴や恐怖も聞けていない。

 

これならクルシーナたちと組み手をしてた方がマシだとさえ思った。

 

「あっ、そうだ!! 新しい私を、早くキングビョーゲン様に見ていただかなきゃ・・・!!!」

 

シンドイーネはイタイノンの偶然とはいえ、自身が進化した姿を見てもらおうとしていた。

 

「お前、結構派手な格好なの。まるで、女王様みたいなの」

 

そこへイタイノンがシンドイーネの姿を見ながら言う。

 

「そういうアンタはちょっと変わりすぎじゃないの?? ちょっと変よ・・・!!」

 

シンドイーネもイタイノンの姿を見て返す。肌の色は変わりないが、他があまりにも変わりすぎていて、本当にイタイノンなのか疑いたくなるぐらいの変貌ぶりだ。

 

「変でもいいの。この地球を私のものにできる力さえあれば、どんな外見だろうと構わないの」

 

「・・・まあ、とりあえず一旦帰りましょうか。ギガビョーゲン、ついてらっしゃい」

 

「ギガァ・・・・・・」

 

「ギガギガ・・・・・・」

 

シンドイーネがそう命じると、イタイノンとシンドイーネはギガビョーゲンを連れてその場から姿を消した。

 

ビョーゲンズとギガビョーゲンたちが去った後、森の中では・・・・・・。

 

「クゥン、クゥ〜ン・・・・・・」

 

ラテは弱っている体を動かし、吹き飛ばされたアスミの元にやってきていた。

 

「・・・うっ・・・ラテ、私は大丈夫です。ですが・・・・・・」

 

アスミは傷つきながらもラテを安心させるために撫で、そして周りが蝕まれている現状に目を向けて表情を曇らせる。

 

また、別の場所では・・・・・・。

 

「ペギタン・・・大丈夫・・・?」

 

「ぼ、僕は、大丈夫ペエ・・・ちゆは・・・?」

 

「私も、なんとかね・・・・・・」

 

合流したちゆとペギタンは傷つきながらも、お互いを心配しあっていた。

 

「ひなた・・・無事か!?」

 

「うん・・・大丈夫・・・・・・」

 

ひなたとニャトランも傷ついてはいたが、お互いの無事を確認していた。

 

「うっ・・・・・・!」

 

「のどか、大丈夫ラビ!? のどかぁ!!」

 

「だ、大丈夫・・・だよ・・・・・・」

 

突っ伏して呻いていたのどかはラビリンの心配する声を受けて、微笑んでみせた。体がなぜかだるさを感じるが、立てないというわけではない。

 

のどかは合流すべく、なんとか立ち上がって仲間の捜索を始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ビョーゲンキングダムへと戻ってきていたシンドイーネとイタイノンは、早速キングビョーゲンに報告を行っていた。

 

「ほぅ・・・ギガビョーゲン」

 

「はいっ♪ このシンドイーネが、自ら進化を遂げてこの怪物を生み出す力を得たんです。いかがですかぁ? キングビョーゲン様ぁ〜♪」

 

「この進化した力を使えば確実なの。このギガビョーゲンさえ生み出しておけば、プリキュアたちは足元にも及ばないの」

 

シンドイーネとイタイノンは自分かメガパーツを使用して進化したこと、そしてギガビョーゲンを生み出してプリキュアを打ち負かし、地球を確実に蝕んでいることを話す。

 

「進化? ふっ、面白い・・・! 素晴らしい成果だ、シンドイーネ、イタイノン」

 

「っ!・・・はい!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

キングビョーゲンに褒め言葉をもらったシンドイーネは嬉しそうだったが、イタイノンは特に表情も変わらなかった。自分勝手な他人に言われても、嬉しいと感じないからだ。

 

「お前たちの忠誠心は必ず、我の助けとなろう・・・・・・」

 

「っ! いや〜ん♪ 愛してるなんてそんなぁ〜♪」

 

「・・・そんなこと一言も言ってないの」

 

キングビョーゲンの言葉を都合のいいように解釈するシンドイーネに、イタイノンが淡々としたツッコミを入れる。

 

「しかし、まさかメガパーツを自分の体内に取り込むとはな・・・・・・」

 

「よくやったよね? 自分が無事で済むかどうかわからなかったのに・・・・・・」

 

「正直掛けだったの。これまで通りにやっても何も変わらないし、何も進展しない。だから、もうこの方法しかなかったの。自分が進化するしかないって」

 

グアイワルとダルイゼンが淡々と問うと、イタイノンも同じように返す。

 

「でも、滑稽よねぇ。地球に住んでいる生き物が、自分たちの住んでいる地球を苦しめようとするなんて。これはこれで面白いと思うわ」

 

「・・・・・・キヒヒ」

 

クルシーナはギガビョーゲンを見ながら、笑みを浮かべてそう言い、目が合ったイタイノンも不敵な笑みを浮かべた。

 

「シンド姉、イタイノンお姉ちゃんカッコいいよ〜! その姿で私をもぉ〜っと気持ちよくしてほしいなぁ〜♪」

 

「すぅ・・・すぅ・・・イタイノンお姉様・・・素敵ですぅ・・・・・・」

 

「・・・・・・ふん」

 

ヘバリーヌとフーミンが二人を囃し立て、イタイノンも満更でもない様子だった。

 

「ふふっ・・・ギガビョーゲンさえいれば、もう何もいりません。一気に蝕んで、キングビョーゲン様のお身体を取り戻して見せます」

 

「・・・行ってくるの、パパ」

 

「ふむ・・・・・・では、任せるとしよう。期待しているぞ・・・」

 

キングビョーゲンの言葉を受けたシンドイーネとイタイノンは、ギガビョーゲンたちと共に再び出撃すべく姿を消した。ダルイゼンとグアイワルもそれぞれ別の場所へと歩いていく。

 

「ところでクルシーナよ。ドクルンの所在はわかったか?」

 

「ああ〜そうそう。あいつなら・・・・・・」

 

娘たちだけが残ったところで、キングビョーゲンに問われたクルシーナはそれに答えようとすると・・・・・・。

 

「私ならここにいますよ」

 

「っ!!」

 

ドクルンがその場に現れ、その姿を見たクルシーナは驚いたような表情をした。

 

ドクルンは頭には従来の悪魔のツノはそり返っていて、狼の耳のようなツノと4本生やしており、髪の色は黒から雪のような白へと変わり、顔の装飾は頬に氷のような青色のメイクがある。服装も研究員のような服装とは大幅に変わり、青いポンチョを身につけて黒いベルトをして、水色のズボンを履いたカウボーイを思わせる外見となっている。

 

「何よ、アンタも進化してたの・・・?」

 

「ええ、自分にビョーゲンズの力を取り入れるとどうなるかと思いましてね」

 

クルシーナが顔を不機嫌そうに顰めながら言うと、ドクルンは不敵な笑いを崩さずに言った。

 

「ほぅ・・・お前も進化を遂げていたか、ドクルン・・・・・・」

 

「先日はすみませんでした、お父さん。この進化した体の調整に手こずっておりまして、会合には参加できなかったのです」

 

「まあよい・・・・・・お前とイタイノンのその姿も我にとってはいい成果だ」

 

ドクルンがこの前の会合に参加できなかったことを謝罪するも、キングビョーゲンは責め立てはせずに逆にドクルンのあまりにも変わりすぎな外見を評価した。

 

「・・・ドクルンの所在もわかったんだからいいでしょ。今日はもうお開きで」

 

「冷たいですねぇ。せっかく進化した私をもっと見せたいのに・・・」

 

「はいはい、わかったわよ。アジトで好きなだけ見てやるっての」

 

クルシーナとドクルンはそう話しながら、踵を返して帰ろうとする。

 

「ちょっと待つがいい・・・クルシーナ、ドクルン・・・・・・」

 

「・・・・・・何よ?」

 

「どうしましたか?」

 

「少し話がある。ヘバリーヌとフーミンも聞くがよい・・・・・・」

 

「何々〜??」

 

「んぅ・・・??」

 

クルシーナとドクルンは足を止めると、キングビョーゲンの話を聞き始める。それは自身の父親の復活のための、重要な話だった。

 

それを聞いたキングビョーゲンの娘たちは、不敵な笑みを浮かべる。

 

「なるほど・・・そっちの方が容易いですけどねぇ」

 

「まあ、その手もアタシは考えてたけどね」

 

「ヘバリーヌちゃんたちでもぉ〜、パパのためになるんだったらねぇ〜♪」

 

「すぅ・・・フフフ・・・」

 

「そこでお前たちにも協力してもらいたい。ダルイゼンたちには、次の会合で話す。その準備をしておいてもらいたいのだ」

 

娘たちはそれぞれの反応を示し、キングビョーゲンはそんな彼女たちに命じる。

 

「はーい」

 

「かしこまりました」

 

「りょ〜か〜い♪」

 

「すぅすぅ・・・・・・」

 

一人眠っている人を除いて、キングビョーゲンの娘たちは返事を返した。

 

「・・・・・・??」

 

「? どうしたの、ドクルン」

 

すると、ドクルンが突然あらぬ方向へと向き、気になったクルシーナが声をかける。ドクルンは何かを察すると、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「ふむ・・・どうやらあいつがいるみたいですねぇ」

 

ドクルンは不敵な笑みを浮かべると、地球に向かうべくその場から姿を消したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メェェェェェェ・・・・・・

 

のどかとラビリンはみんなを捜索する中、ふれあいブースに差し掛かるとそこには蝕まれたブースト怯えている小動物たちの姿があった。

 

「ひどい・・・動物園中が被害に・・・・・・」

 

「とにかく、ちゆたちと合流するラビ・・・」

 

動物園の惨状は心配になるが、ラビリンはとりあえずみんなと合流するように話した。

 

グワワワワワワワワワワ!!!!

 

「みんな怯えてる・・・・・・」

 

「動物は自然の変化に敏感ペエ・・・きっと、余計に怖いペエ・・・・・・」

 

ちゆとペギタンが差し掛かったハシビロコウも、鳴き声を上げて怯えていた。

 

「そんな・・・可哀想だよ・・・・・・」

 

(らむっち・・・こんなことがしたかったことなの・・・・・・?)

 

ひなたはキリンたちを見ながらそう言い、内心では助けてくれたのにも関わらず、こんな惨状を作り出したイタイノンのことが気になっていた。

 

ガルルルルルル・・・・・・!!!

 

「殺気立ってますね・・・急ぎましょう」

 

「クゥ〜ン・・・・・・」

 

アスミは怯えたように警戒しているトラたちを見てそう言い、その場を後にする。

 

そして・・・・・・。

 

「あっ、みんな!!」

 

「あっ、のどかっち!!」

 

のどかたちはみんな、動物園内の広場で無事に合流することができた。

 

「ラテはどう?」

 

「今は落ち着いています・・・・・・」

 

ラテはぐったりしていたが、今は容態的にも落ち着いていた。

 

「でも、またギガビョーゲンが現れて活動を再開したら危ないペエ・・・・・・」

 

「この短い時間で、動物園中がこのザマだからな・・・・・・」

 

「こんなところまで蝕まれてるなんて・・・・・・!!」

 

のどかたちは改めてギガビョーゲンの脅威を感じざるを得なかった。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

ガサガサ・・・・・・。

 

「っ!!」

 

「うぅ・・・・・・」

 

近くで物音が聞こえ、子供の怯えるような声が聞こえてきた。気づいたのどかがその方向に駆け寄ってみる。

 

「こうたくん!!」

 

「「!?」」

 

動物の形をした植物のアートの影の中に、こうたがうずくまっていたのが見えた。

 

「あっ、お姉さん」

 

「大丈夫? 怪我はない??」

 

ちゆが心配する中、こうたが立ち上がってのどかたちに近づく。

 

「うわぁ、擦りむいてるじゃん・・・!!」

 

両膝をよく見ると怪我をした後があった。

 

「手当てしなくちゃ・・・!!」

 

「まずは綺麗な水で洗わないと・・・!!」

 

「でも、この辺りの水は・・・・・・」

 

のどかたちは傷を治そうと辺りを見渡すが、ここ一帯はすでに蝕まれており、綺麗な水はどこにもない。

 

「こんなのなんでもないよ・・・・・・」

 

そういうこうたは目に涙を浮かべていて、体をプルプルと震わせていた。

 

「お父さんが・・・・・・」

 

「っ?」

 

「お父さんが・・・怪物に食べられて・・・・・・うっ、うぅぅぅぅ・・・・・・!!」

 

こうたは涙をポロポロと零す。変な女性が現れて小さな化け物を飛ばしてきて、それを自分の父親が庇って小さな怪物に取り込まれてしまったのを見てしまったのだ。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

「おーい!!!!」

 

「っ、しゅういちの、お父さん・・・??」

 

そこへ帰っていったはずのしゅういちの父親がこちらに駆け寄ってきた。こうたは恥ずかしいところを見せられないと涙を拭う。

 

「こうたくんはいたのか。よかった、なんともなくて・・・・・・」

 

「お父さん、どうしてここに・・・??」

 

父親はこうたを心配して駆け寄ってきたようだが、こうたは帰っているはずの彼がなぜここにいるのかが理解できなかった。

 

「あ、そうだ。しゅういちを見なかったか・・・??」

 

「え、一緒にいたんじゃないんですか?」

 

「それが・・・帰る途中に仮装したようなおかしな少女に襲われて、気がついたらいなくなってたんだよ・・・!!」

 

しゅういちの父親とこうたの会話を聞いて、何かに気がつくようにハッとするアスミ。それは先ほどラテが聴診器で伝えていた言葉だった。

 

あっちで子供が泣いている・・・・・・。

 

「え・・・もしかして、そいつに誘拐されたとか・・・??」

 

「わからないんだ・・・・・・でも、その可能性が高いかもな・・・・・・」

 

しゅういちの父親は心配そうな顔をしていた。

 

こうたも悲しそうな顔をしていて、しゅういちの父親は暗そうな顔をしている。

 

「お父さん・・・しゅういち・・・・・・俺、嫌だよ・・・!!! みんな・・・みんな、あんなままだなんて、いなくなったままなんて・・・俺は嫌だ!!!」

 

こうたは涙をポロポロとこぼしながら、泣き叫ぶ。

 

「うっ・・・うぅぅぅぅ・・・・・・」

 

「っ・・・・・・こうたくん、泣かないで・・・きっとお父さんも、しゅういちくんも助かるよ・・・ねっ?」

 

「そうよ・・・今まで、何度も怪物は現れたけど・・・いつも最後は元通りだったでしょ?」

 

のどかとちゆは内心は辛そうにしていたが、泣いているこうたを微笑みながら励まそうとしていた。きっと、プリキュアがこの惨状をどうにかしてくれると・・・苦しんでいる人を助けてくれると・・・・・・。

 

「・・・それって、プリキュア?」

 

「うん、そう! って、なんで知ってるの?」

 

「お父さんがくれたすこ中ジャーナルを読んで・・・・・・」

 

「あぁ・・・・・・」

 

こうたの話を聞いたひなたはそれを作った益子道男のことを思い出して苦笑いをしていた。

 

「お父さんのことも、しゅういちさんのことも、きっとそのプリキュアが助けます」

 

「この動物園もね!」

 

「本当に・・・?」

 

「うん・・・お父さんも、しゅういちくんも、まだ怪物の中で戦ってるはずだよ・・・だから、希望を捨てないで・・・・・・ねっ?」

 

アスミやひなた、のどかは悲しい表情をしているこうたを励ましの言葉をかけ続ける。

 

「うん・・・わかった・・・・・・」

 

こうたは涙を拭うと、のどかたちのおかげで少し元気を取り戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、動物園近くの街では・・・・・・。

 

「はぁ・・・この地球は空気が澄んでいるな、気持ち悪い・・・・・・」

 

そこには髪型をボブカットのショートヘアにした少年のような人物が辺りを見渡しながら、不快感を露わにしていた。

 

歩いていくと、ギガビョーゲンによって蝕まれた場所が見えてきた。

 

「それに比べて・・・この辺りは心地がいい・・・・・・素敵だ・・・・・・」

 

蝕まれていなかった場所と比べ、恍惚とした表情を浮かべていた。

 

「あそこも・・・この光景のようになればいいんだけどな・・・・・・」

 

少年のような顔の人物は、先ほどの気持ち悪い場所も、このような居心地のいい場所になればいいとそう考えた。

 

シュイーン!!

 

「ここにいましたか」

 

「っ!!」

 

背後から風の切るような音が聞こえたと共に、こちらを呼びかける声が聞こえた。少年のような人物は振り返ると、そこにはドクルンの姿があった。

 

少年のような人物は笑みを浮かべると、指を鳴らして人間だった体を変化させながら、こちらに体を向ける。

 

「やぁ、ドクルン姉さん」

 

「ハキケイラ、あなた何故ビョーゲンキングダムに来ないのですか?」

 

悪魔のツノ、サソリのような尻尾を生やし、薄い青色の肌へと変化させ、服装も袖口の長い白いブラウスに青いケープ、ニッカーぼっカーのような半ズボン、シルクハットを被った少年のような顔の人物ーーーーハキケイラは気さくに挨拶をかわすが、ドクルンはその悪びれもしない態度に問いかける。

 

「地球を観察していたのさ。ビョーゲンズである僕の体に、この地球環境は適しているのかをね」

 

「・・・・・・確かめなくても一目瞭然でしょうに」

 

「そうだね。でも、そう気を悪くしないでくれ、姉さん。そんな中で地球に住む生き物たちに着目しているんだよ」

 

ビョーゲンズに適正かどうか、地球を観察していた? そんな観察しなくても出るような答えに、ドクルンは白々しいと言わんばかりに顔を顰める。ハキケイラは意にも介さずに、王子みたいな話し方を崩さない。

 

「地球に住む生き物、ですか・・・・・・」

 

「そうさ。どういう地球の生き物がより良い病気に変えていくのか、僕は知りたかっただけ」

 

ハキケイラはその口調を崩さすにそう答えると、ドクルンはため息をつく。

 

「・・・まあ、いいでしょう。それよりもーーーー」

 

ドクルンはハキケイラに歩み寄って、肩に手を置く。

 

「それを調べていたあなたにぜひ見て欲しいものがあるんですよぉ」

 

「??」

 

ニヤリとした笑みを浮かべながら答えるドクルンに、ハキケイラは首を傾げた。

 

その頃、動物園近くの港町では・・・・・・。

 

「さーて、今度はこの辺りなんてどぉ〜?」

 

「・・・人間が全然いないの。面白くもなんともないの」

 

倉庫の建物の上にシンドイーネとイタイノンがおり、シンドイーネは嬉々していたが、イタイノンはあまり気が乗っていない様子。

 

「面白さなんかどうだっていいでしょ!! 私はキングビョーゲン様のために、早く体を取り戻してあげたいの!!」

 

「あっそう、なの・・・・・・」

 

シンドイーネが叱る大人のように言っても、イタイノンは気怠そうな態度だった。

 

「はぁ・・・・・・まあ、いいの。ここだったら、効率よく蝕めそうなの」

 

「でしょ〜?」

 

「でも、お前の観点だから怪しさ千倍なの」

 

「ふん、言ってなさいな。私はここをやるから。ギガビョーゲン!!」

 

シンドイーネはイタイノンの嫌味を受け流し、手で合図を出して掲げる。

 

ビィィィィィィィィィィィ!!!! ザッパァァァァァァァン!!!!

 

「ギーガー、ビョー、ゲン・・・・・・」

 

海の中から赤く禍々しい一本のビームが照射されると、そこからメガネをかけたようなギガビョーゲンが姿を表した。

 

「・・・・・・お前もやるの、ギガビョーゲン」

 

イタイノンも自身のギガビョーゲンに指示を出す。

 

ドカァァァァァァァァァン!!!!

 

「ギガギーガ・・・・・・」

 

倉庫の一つが爆発したかと思うと、そこに隠れていたギガビョーゲンが姿を表したのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第112話「お手当」

前回の続きです。
今回で原作第31話は終わります。
のどかたちはギガビョーゲンたちにどのように立ち向かうのか? そして、遂にプリキュアにあの力が登場!

そして、ビョーゲンズの方も不穏な動きが。。。


 

「とりあえず、綺麗な水で洗ったし」

 

「これでよし!」

 

「ありがとう・・・・・・」

 

のどかたちは病気に蝕まれていない水を見つけて、こうたの膝の怪我を洗い、絆創膏を貼ってお手当てをした。

 

こうたがそのことにお礼を言った、その時だった・・・・・・。

 

「クチュン!! クチュン!!」

 

「「「「っ!!」」」」

 

再びラテがくしゃみをしてぐったりさせた。これはビョーゲンズが現れたということだ。

 

4人はお互いに頷くと、その場から立ち上がった。

 

「こうたくん。私たち、他にも困っている人がいないか、見に行ってくるわ」

 

「ここは安全です。あなたはここにいてください」

 

「お父さんも、しゅういちくんも、きっとプリキュアが助けてくれるからね」

 

「わかった・・・・・・」

 

ちゆとのどかとアスミは、こうたを不安にさせないようにそう声をかけると、4人はその場から離れた。

 

ラビリンたちとも合流し、4人は人目のつかないところに移動すると、聴診器でラテを診察し始めた。

 

(あっちのお船のいるところで、先生と子供が泣いてるラテ・・・・・・)

 

「お船のいるところって、港・・・・・・?」

 

「先生と子供が泣いてるってことは、さっきと同じギガビョーゲンってことだよね」

 

どうやらギガビョーゲンはこの近くの港で暴れているようで、この前敗北を喫したギガビョーゲンたちが現れた模様。

 

「みんな、行くラビ!!」

 

ラビリンの言葉を合図に、みんなは変身アイテムを取り出した。

 

「「「「スタート!」」」」

 

「「「「プリキュア、オペレーション!!」」」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

「エレメントレベル、上昇ラテ!!」

 

「「「「キュアタッチ!!」」」」

 

ラビリン、ペギタン、ニャトランがステッキの中に入ると、のどか、ちゆ、ひなたはそれぞれ花のエレメントボトル、水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

アスミは風のエレメントボトルをラテの首輪にはめ込む。すると、オレンジ色になっているラテの額のハートマークが神々しく光る。

 

のどかたち3人は、肉球にタッチすると、花、水、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、水色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ちゆは水色、ひなたは黄色へと変化する。

 

ラテとアスミは手を取り合うと、白い翼が舞い、ラテが舞ったかと思うとハートの中から白い白衣のようなものが飛び出す。

 

その白衣を身に纏い、ラテが降りてきたかと思うとハープが飛び出し、さらにアスミは紫色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

衣装にチェンジした後、ハープを手に取り、その音色を奏でる。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「「時を経て繋がる、二つの風!」」

 

「キュアアース!!」

 

「ワン!」

 

アスミは風のプリキュア、キュアアースへと変身した。

 

「「「「地球をお手当て!!」」」」

 

「「「「ヒーリングっど♥プリキュア!!」」」」

 

4人はプリキュアへの変身を終えると、すぐにギガビョーゲンのいる港へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギガビョーゲン・・・・・・」

 

その頃、メガネ型のギガビョーゲンは赤い光線を放って港町の広範囲を病気へと蝕んでいた。

 

「ギガ・・・ギーガァ・・・・・・」

 

一方、子供のような外見のギガビョーゲンは両腕、頭のてっぺん、両足についている図鑑のようなものを開き動物の形状をしたオーラを放つと、反対に海の広範囲を病気へと蝕んで行く。

 

そこへちょうどプリキュアの4人が駆けつけてきた。

 

「っ・・・!!」

 

屋根の上を駆け出すグレースは飛び上がるも、そこへグレースを発見したメガネ型のギガビョーゲンが光線を次々と放つ。

 

「ギーガ・・・・・・」

 

「てい!!!」

 

グレースはギガビョーゲンの頭の上を飛び越え、その隙にスパークルが腹部へと蹴りを繰り出す。

 

「っ・・・きゃあぁぁ!!!」

 

しかし、やはりギガビョーゲンには通用しておらず、スパークルは距離を取ろうとしてギガビョーゲンの張り手を受けてしまう。

 

吹き飛ばされたスパークルをアースが受け止め、入れ替わりにフォンテーヌが飛び出す。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!! っ!!!」

 

フォンテーヌはギガビョーゲンの横から攻撃を繰り出すも、気づいたギガビョーゲンは薙ぎ払うように腕をふるう。フォンテーヌはとっさに防いだが、ダメージが大きく顔を顰める。

 

「あーらぁ、プリキュアちゃん。また来ちゃったのぉ〜??」

 

「ギガビョーゲンに敵わないくせに、ここまで来てご苦労様なの」

 

シンドイーネは小馬鹿にするような態度をとり、イタイノンは淡々とした様子で煽る。

 

「うるさいなぁ!!」

 

「今度こそ絶対に引かないわ!!!」

 

「必ずギガビョーゲンを浄化してみせます!!!」

 

「約束したの!! プリキュアが先生を助けるって!!」

 

「っ・・・!!!!」

 

プリキュア4人はそのような言葉にも屈しなかった。必ずプリキュアとして、先生やしゅういちを助けると誓ったから。

 

その言葉にイタイノンは不機嫌そうに顔を顰めた。

 

「だったらその思いごと潰されてしまえばいいの!!!」

 

「ギガギーガァ・・・・・・」

 

イタイノンの苛立ったような怒りの叫びが飛ぶ。その言葉に呼応するかのようにランドセル型のギガビョーゲンは図鑑から一斉に動物型のオーラを放つ。

 

「ギーガ・・・・・・!!」

 

メガネ型のギガビョーゲンも、光線を次々と放っていく。

 

「ふっ!!!!」

 

「っ!!!」

 

スパークルは側転をしながら、フォンテーヌは屋根を飛び移りながら動物型のオーラをかわす。

 

「ふっ!!!」

 

アースは空中へ飛んで、体を回転させながら光線を交わしていく。

 

「ギーガ・・・・・・」

 

「はぁっ!!!」

 

メガネ型のギガビョーゲンへと接近したグレースが脇腹に向かって蹴りを繰り出す。

 

「ギガァ・・・・・・」

 

それでも余裕なギガビョーゲンはグレースに向かって再び光線を放つ。

 

「ギガギガァ・・・!!」

 

「やぁっ!!!! っ・・・!!」

 

ランドセル型のギガビョーゲンへと接近したスパークルは攻撃を繰り出し、ギガビョーゲンの繰り出したパンチとぶつかり合うも、パワーは敵の方が一枚上手でスパークルは苦痛に顔を顰める。

 

「ギガ・・・・・・!」

 

「はぁっ!!!!」

 

その隙にフォンテーヌがギガビョーゲンの腕へと駆けていき、顔面に蹴りを繰り出す。

 

「ギーガァ・・・!!!」

 

「「っ・・・!!」」

 

ランドセル型のギガビョーゲンもあまり効いていない様子で、図鑑から動物型のオーラを放つ。スパークルはその場から飛び上がり、フォンテーヌは空中で体を翻しながら交わしていく。

 

「ギガビョーゲンの攻撃は強力ラビ!!!!」

 

「まともに食らうと復帰するのに時間がかかる!!!!」

 

「だからとにかく避けることが大事ペエ!!!!」

 

「その上でちょっとずつ、少しでも体力削って、一気にヒーリング・オアシスと、ヒーリング・ハリケーンに持ち込むラビ!!!!」

 

それでもプリキュアたちは、ヒーリングアニマルたちは攻め続けた。少しでも突破口を切り開けるように、少しでも浄化ができるように動き回りながら。

 

「・・・・・・ふん」

 

そんな中、イタイノンが見ていたのはスパークルだった。

 

バチバチバチバチバチ・・・バジュッ!!!!

 

イタイノンは両手を構えると、そこから赤く禍々しい大きな電気の球をスパークルに目掛けて放った。

 

「っ・・・あぁぁ!!!!」

 

駆け出す軌道を予測して狙ったため、電気の球はスパークルに直撃して煙が上がった。

 

イタイノンは両手を下ろすと、煙を無表情で見つめる。

 

「らむっちぃー!!!!」

 

「っ・・・!!!!」

 

煙の中からスパークルが飛び出すと拳を振るおうとし、イタイノンはスパークルから距離をとって拳を避ける。

 

屋根の上で距離を置きながら睨み合う二人。

 

「これがあんたのやりたかったことなの!?」

 

「・・・だとしたら、何なの??」

 

「っ・・・そんなことさせないし、許さないんだからね!!!!」

 

「お前に許されて欲しいだなんて思ってないの!!!!」

 

二人は同時に飛び出して拳を繰り出し、お互いの拳がぶつかり合う。その後はパンチ、蹴り、パンチと二人の攻撃の応酬が続き、二人は戦い合った。

 

「はぁぁぁぁっ!!!!」

 

「ふんっ!!!!」

 

イタイノンはスパークルの繰り出した拳を片手で受け止める。

 

「っ・・・!!!!」

 

イタイノンはもう片方の手から電気の球を近距離から次々と放ち、とっさにスパークルも距離を取って飛びながら交わしていく。

 

そこへイタイノンが背中に堕天使の翼を生やして飛んでくる。スパークルはそれに気づいてステッキから黄色い光線を放っていくも、イタイノンはかわしながら接近していく。

 

「っ!!!!」

 

「っ・・・ぐっ、うっ・・・!!!!」

 

イタイノンはパンチを二発繰り出し、スパークルはなんとか片手で防ぐが、一撃一撃のパワーが強くスパークルは押され始める。

 

「っ!!!!」

 

「うわぁ!!!!」

 

イタイノンはその場でオーバーヘッドをして、スパークルの片腕を蹴りで払ってよろつかせる。

 

「っ、ふっ!!!!」

 

「ぐっ・・・!!!!」

 

その隙にイタイノンは距離を取ると、頭突きのような構えでスパークルへと再び突撃する。スパークルはなんとか彼女のツノを掴んで抑え、足をブレーキにしてこれ以上押されないように動きを止めた。

 

「っ・・・!!!!!」

 

「っ、ふっ!!!」

 

「え、う、うわぁぁぁ!!!!」

 

押され押し合いが続く中、イタイノンは頭に力を入れてスパークルを上へと持ち上げる。

 

「〜〜〜〜っ、ふっ!!!!」

 

「あぁぁぁぁ!!!!」

 

そのまま頭をグルグルと振り回して、スパークルを投げ飛ばす。

 

「ギガビョーゲン!!!」

 

「ギガギーガ・・・!!!!」

 

すかさずギガビョーゲンに指示を出し、ギガビョーゲンは図鑑型のオーラを飛ばす。

 

「っ!!」

 

スパークルはそれに気づくと体勢を立て直して、敢えて下へと降りてオーラをかわす。

 

「ギガァ・・・・・・」

 

その後も放ってくる動物型のオーラを避けながら、スパークルは後退していく。

 

「火のエレメント!! はぁっ!!!」

 

スパークルは火のエレメントボトルをセットすると、火を纏った黄色い光弾を放っていく。

 

「ギガァ・・・・・・!」

 

ギガビョーゲンは手で顔を覆いながら、その光弾を防ぐ。

 

「音のエレメント!!」

 

一方、アースはハープに音のエレメントボトルをセットして、ハープを奏でて音波を放つ。

 

「ガ・・・ガッ・・・??」

 

動きが少し鈍ったメガネ型のギガビョーゲンはアースに襲いかかろうとするが、そこへグレースとフォンテーヌがピンクと青の光弾を連続で放って追撃する。

 

「ギ・・・ギガ・・・!!!!」

 

それでもギガビョーゲンは負けじと張り手を繰り出す。

 

「ぷにシールド!!」

 

「うぅぅ・・・・・・!!!!」

 

すかさずグレースは肉球型のシールドを張る。シールドは張り手であっさりと粉砕されたが、ダメージを軽減してなんとか倒れずにとどまる。

 

「あっ・・・ぐっ・・・!!!!」

 

グレースはまた体をフラつかせるも、なんとか倒れずにその場を飛ぶ。

 

「雨のエレメント!! はぁっ!!!!」

 

フォンテーヌは雨のエレメントボトルをステッキにセットし、水を纏った青い光弾を連続で放つ。

 

「ギガ・・・・・・」

 

ギガビョーゲンに連続して辺り、ギガビョーゲンの動きが遅くなる。

 

「実りのエレメント!! はぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「ガガ・・・??」

 

空中にいるグレースは実りのエレメントボトルをステッキにセットし、ピンク色の光弾を連続で放つ。光弾はギガビョーゲンの頭上へと辺り、怪物を怯ませた。

 

そこへアースがギガビョーゲンに接近して、飛び上がる。

 

「空気のエレメント!! ふっ!!!!」

 

「ギガー!?」

 

アースは空気のエレメントボトルをハープにセットし、近距離で空気の弾をギガビョーゲンの腹部に命中させて吹き飛ばす。

 

とうとうギガビョーゲンを一体、追い詰めたのだ。

 

「あぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「っ!?」

 

そこへもう一体のギガビョーゲンの攻撃を受けたスパークルが吹き飛んでくる。フォンテーヌは飛び上がって、スパークルを受け止めて着地する。

 

「ありがとう、フォンテーヌ・・・・・・」

 

「あともう一体いるのよね・・・・・・」

 

スパークルがフォンテーヌにお礼を言いつつも、残るギガビョーゲンは一体だ。

 

「ギガギガギガ・・・・・・」

 

考える間も無く、ランドセル型のギガビョーゲンは図鑑から動物型のオーラを次々と放つ。

 

4人は飛んでくるオーラを交わして、もう一体のギガビョーゲンへと接近していく。

 

「雷のエレメント!! はぁっ!!!!」

 

スパークルは空中へと飛んで雷のエレメントボトルをステッキにセットすると、雷を纏った黄色い光線を顔面に向かって放つ。

 

「ギギ・・・ギガ・・・・・・」

 

ギガビョーゲンは同じように顔を手で覆って攻撃を防ぐ。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ギガ・・・ギガァ・・・・・・!!」

 

そこへフォンテーヌが隙のある腹部へ向けて蹴りを放ち、ギガビョーゲンはよろつかせるも倒れるには至らず、フォンテーヌにランドセルを振るう。フォンテーヌは飛び上がって避ける。

 

「葉っぱのエレメント!! はぁっ!!!!」

 

少しでも隙を見逃すまいとグレースは葉っぱのエレメントボトルをセットし、少し太めのピンク色の光線を放つ。

 

「ギガ・・・・・・??」

 

光線はギガビョーゲンの腹部に当たり、怪物の動きが少し鈍くなる。

 

「ふっ!! はぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「ギ、ガ・・・??」

 

アースはそれを狙ってギガビョーゲンの背後へと飛んですかさず蹴りを放ち、ギガビョーゲンを前へとよろつかせる。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」

 

「ギーガ・・・!?」

 

そこへ左右から挟むように飛んできたフォンテーヌとスパークルが同時に飛び出して、腹部にパンチ

を繰り出し、ギガビョーゲンはもう一体のギガビョーゲンの前へと吹き飛ばされた。

 

遂に二体のギガビョーゲンを追い詰めた。

 

「今ラビ!!」

 

ラビリンの言葉を合図に、グレース、フォンテーヌ、スパークルの三人はミラクルヒーリングボトルをセットする。

 

「「「トリプルハートチャージ!!」」」

 

「「届け!」」

 

「「癒しの!」」

 

「「パワー!」」

 

グレース、フォンテーヌ、スパークルの順で肉球にタッチしていき、ステッキを上に掲げる。すると、花畑が広がっていき、背後には自然豊かな森が広がっていく。

 

「「「プリキュア! ヒーリング・オアシス!!」」」

 

3人は一斉にメガビョーゲンへとステッキを構え、ピンク・青・黄色の3色の光線が螺旋状になって放たれる。螺旋状の光線は混ざり合いながら一直線にギガビョーゲンへと向かっていく。

 

「アースウィンディハープ!!」

 

そう呼ばれたハープに風のエレメントボトルをセットする。

 

「エレメントチャージ!!」

 

アースはハープを手に取って、そう叫ぶとハープの弦を鳴らして音を奏でる。

 

「舞い上がれ! 癒しの風!!」

 

手を上に掲げると彼女の周りに紫色の風が集まり始め、ハープへとその力が集まっていく。

 

「プリキュア! ヒーリング・ハリケーン!!!」

 

アースはハープを上に掲げてから、それを振り下ろすとハープから無数の白い羽を纏った薄紫色の竜巻のようなエネルギーが放たれる。

 

そのエネルギーは一直線にメガビョーゲンへと向かっていく。

 

これでギガビョーゲンを浄化できるのは時間の問題と思われた。

 

しかし、4人はまだ知らなさすぎたのだ。この怪物は今まででいけるほどに甘い怪物ではなかったということを・・・・・・。

 

「ギガ・・・・・・」

 

ランドセル型のギガビョーゲンは前かがみになって背負っているランドセルが開くと、そこからヤマタノオロチのように8体のヘビのオーラが飛び出し、ヒーリング・オアシスとヒーリング・ハリケーンを受け止める。

 

そして、なんとヘビのオーラは吸収し始め、その光線とエネルギーはどんどん小さくなっていく。

 

「「「っ!!??」」」

 

「そんな・・・!?」

 

その光景に呆然とする4人。考える間も無く、8本のヘビは吸収が終わると赤く禍々しいオーラを集め、それを極太のビームとして放った。

 

「ギガァ・・・・・・」

 

さらにその背後にいたギガビョーゲンも背中のフラスコに赤く禍々しいオーラを溜めると、それを光線にして放った。

 

「「「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」

 

ギガビョーゲンの二つの攻撃がプリキュアに直撃し、悲鳴と共に大爆発を起こして煙を巻き上げた。

 

「うぅぅぅ・・・・・・」

 

「くっ、うぅ・・・・・・」

 

「うっ、うぅぅ・・・・・・」

 

「うっ・・・・・・」

 

煙が晴れた時、そこにいたのは4人の呻きながら倒れ伏したプリキュアたちだった。

 

「そ、そんな・・・・・・」

 

「ヒーリング・オアシスと、ヒーリング・ハリケーンを弾き飛ばすニャンて!!」

 

ヒーリングアニマルたちは信じられなかった。強力なメガビョーゲンすら浄化したあの浄化技を、ギガビョーゲンは逆に自らの攻撃で返したのだ。

 

「ふん、プリキュアどもは相変わらず詰めが甘いの。言ったの、私たちは進化したって!! そんな攻撃がいつまでも通用すると思うな、なの・・・!!」

 

「これでわかったんじゃない? ヒーリングアニマルやら人間やら、雑魚がいくら集まったって進化した私たちには太刀打ちできないって!!」

 

「うっ・・・くっ・・・・・・!!」

 

イタイノンとシンドイーネが先ほどの猛攻をあざ笑うかのように言う。そんな中、グレースは立ち上がろうとしたが、大ダメージのせいでなかなか立てず、力も入らなかった。

 

「お前ら、カスミーナは助けて欲しいって言ってたの?」

 

「「「「っ・・・!!!!」」」」

 

「でもあいつは、お前らなんかに助けを求めてないの。お前らの頭でそう思っているならそれは単なる思い上がりなの、驕りなの。世の中には病気になったって、放っておいてほしい生き物はいっぱいいるの。なのに余計なお節介をして首を絞めるのはお前らの方なの。少しは考えてみろなの、お前らの行為なんか迷惑でしかないって!!」

 

そんなイタイノンの頭にはある映像が甦っていた。治して欲しくないのに、無理矢理ベッドに押さえつけられて注射を打たれたこと。診察室になんか行きたくないのに、抱え上げられて強制的に連れていかれ、診察を受けさせられたこと。

 

病気なんか治りたくないのに、やりたくないのに、その全てをされたことを、イタイノンはその恨みを言葉を紡いだのだ。

 

「お前らはそこで這い蹲ってればいいの。そうしてれば、喜ぶやつだっているの」

 

イタイノンはそれだけ吐き捨てると、プリキュアなどに目もくれずに別の場所を蝕みに行こうとするギガビョーゲンを追っていく。

 

「ちょっとイタイノン!! そっちはあたしが蝕むんだから!!」

 

シンドイーネは先走ろうとするイタイノンに憤慨しながら、自身のメガビョーゲンと一緒に追う。

 

「ギガビョーゲン・・・・・・」

 

「ギガギーガ・・・・・・!!」

 

そこからはギガビョーゲンたちの一方通行だった。メガネ型のギガビョーゲンは赤い禍々しい光線を放って、山全体を病気に蝕み、ランドセル型のギガビョーゲンは図鑑から動物型のオーラを放って、残りの街を病気へと染め上げていく。

 

なすすべなく赤い病気で染まっていく街・・・・・・。

 

「そんな・・・・・・これほどまでに力の差があるとは・・・・・・」

 

アースはその光景を呆然と見ているしかなかった。ギガビョーゲンを後一歩まで追い詰めたが、それは紛い物で、実際は自らの浄化技も通用せず、逆に貶められていたのは自分たちだった。

 

恐怖・・・恐怖・・・絶望・・・絶望・・・・・・アースの頭の中にはそれらの感情が渦巻いていた。

 

「クゥ〜ン・・・・・・」

 

「申し訳ございません、ラテ・・・私ではこれ以上、お役に立てそうにありません・・・・・・」

 

ラテが体調を悪そうにしながらもアースに歩み寄るも、彼女にはもはや絶望しかなく、先ほどの大ダメージも起因してか、立ち上がることができなかった。

 

さらにあることも、アースを苦しめていた・・・・・・。

 

「かすみさんも・・・あんな風になってしまって・・・・・・私は、どうしたら・・・??」

 

豹変してしまったかすみの存在だ。かすみは自分にとって友達になろうとしていた一人の人物だった。ビョーゲンズと共に戦い、共に遊びやいろんなことを学んできた。

 

しかし、今はビョーゲンズの一員となって、どういうわけか地球を苦しめようとしており、遂には悪いことを好むような存在になってしまったのだ。それによってもはや、大切な友人を取り戻したいという希望すらも奪われたアースには絶望しかなかったのだ。

 

「「「「アース!!」」」」

 

「やめてよ!! アースが無理なら、あたしなんか・・・・・・もう・・・・・・」

 

そんなアースの弱気な発言に、スパークルが叫ぶ。

 

「ですが・・・・・・これほど絶望に満ちた気持ちを・・・私は感じたことがありません・・・・・・かすみさんも、もう元のかすみさんには・・・・・・」

 

それでもアースは絶望の叫びを吐き出し、その言葉にフォンテーヌもスパークルも弱気になりかけ始めていた。

 

しかし、それでも立ち上がろうとしていたものがいた。

 

「「それでも・・・・・・」」

 

「私は諦めたくない・・・・・・!!」

 

「ラビ・・・・・・!!」

 

グレースとラビリンは諦めずに、ダメージを負った体に鞭を打って立ち上がろうとしていた。

 

「先生の、ビョーゲンズのせいで苦しむ人の気持ち・・・・・・わかるから・・・・・・」

 

「その、大切な人の無事を祈るこうたくんの気持ち・・・わかったラビ・・・!!」

 

先生はきっと諦めていない・・・こうたも諦めていない・・・苦しい目にあったとしても、きっと戦っている。それは自分が病気になったことがあったから、わかることだと。諦めたらそこで終わりだと・・・・・・!!

 

「治されたくないって言ってたって・・・本当は病気で、苦しんでるはず・・・・・・私は、例え拒絶するような人がいても、その人に手を差し伸べなきゃいけない・・・その人と向き合わなきゃいけない・・・・・・!!」

 

「かすみだって、きっと助けて欲しいって思ってるラビ・・・・・・人間からビョーゲンズになったクルシーナたちだって、本当は救われたいと思ってるって、そう思いたいラビ・・・・・・!!!!」

 

イタイノンの言った言葉、助けられて迷惑に思う人もいる・・・・・・でも、本当は怖いだけで、助けを求めているはず・・・・・・だから、私たちは助けるのだ。例え、助けを拒絶する人がいても、その子を見捨てるわけにはいかないと・・・・・・。

 

グレースとラビリンは鼓舞しながら、グレースはゆっくりと立ち上がっていく。

 

「ギガビョーゲンが・・・どんなに強くても・・・・・・」

 

「放っておくわけにはいかないラビ・・・・・・!!!!」

 

グレースとラビリンはそう叫びながら、ついに立ち上がって見せた。

 

その姿を見ていたフォンテーヌは笑みを浮かべると、彼女もまた立ち上がった。

 

「先生たちだけじゃないわ・・・・・・地球をビョーゲンズに奪われたら、たくさんの生き物たちが苦しむって・・・・・・よくわかった・・・・・・」

 

「そうペエ・・・エレメントさんも、みんな苦しむペエ・・・!!!!」

 

大勢の生き物たちが苦しむことになる、地球を支えてきたエレメントさんたちも苦しむことになる。それだけは止めないといけない。フォンテーヌとペギタンはそう考えた。

 

「ふふふ・・・・・・」

 

「スパークル?」

 

「なんか、先生の言った通りだなって・・・・・・」

 

スパークルもまたグレースの言葉を受けて、笑みを浮かべて立ち上がる。

 

「あたしたち・・・キャラがバラバラだからいいんだって話・・・・・・」

 

「誰かがくじけかけても、誰かが立ち上がる・・・・・・そうしたらこうして、次々と勇気が湧いてくる・・・!!!!」

 

例え誰かが諦めたとしても、誰かは諦めていない・・・・・・その誰かの言葉によって、みんなが立ち上がる。キャラがバラバラだから、そういうことができるのだと、スパークルとニャトランは考えた。

 

「アース。私たち、まだ頑張れるよ・・・!!!!」

 

「ラビリンたちヒーリングアニマルと、人間のパートナー、それに地球と風から生まれたアース!!!!」

 

「そして、いろんなエレメントさんから力を預かってるペエ!!!」

 

「こんなにたくさんの人の、たくさんの力が集まっているんだもの・・・!!!!」

 

「まだまだいけるよ・・・!!!! そんな気、してこない?」

 

グレースたち三人は、アースへと手を差し伸べる。

 

「でも・・・・・・かすみさんは・・・・・・」

 

アースは、まだかすみのことが気がかりだった。あんな豹変してしまったかすみは、以前の優しさを見せることはないのであろうかと。

 

「かすみなら大丈夫だぜ!! さっき言いそびれちまったけどよ・・・!」

 

「かすみっちは、きっと本意じゃないよ。ビョーゲンズになったのは」

 

「あんなに優しいかすみちゃんが、あんなことで消えるはずないもん。だって、私を守ろうとしてたんだから!!」

 

「きっと、取り戻せるラビ!!!」

 

「私たちで本当のかすみを、取り戻しましょう!!」

 

「僕たちは、まだ諦めないペエ!!」

 

グレースたちの力強い声がアースに響く。かすみはまだ消えていない。私たちが信じていれば、きっと取り戻せるはずだ。

 

「クゥン・・・・・・」

 

ラテも心配ないよと言うように、アースに笑みを見せる。

 

「・・・はい!」

 

元気を取り戻したアースは三人の手を取って立ち上がった。

 

「みんなで手を取り合えば必ず・・・!!!」

 

「行こう!!」

 

「「「うん!!」」」

 

4人は手を取り合い、誓った。先生を、地球を、かすみを、絶対に取り戻すと!!!!

 

一方、メガネ型のギガビョーゲンは光線を放ちながら、ランドセル型のギガビョーゲンは動物型のオーラを放ちながら前進していた。

 

そこへ青、黄色、ピンクの光線が背中に直撃し、さらにプリキュアの4人が飛んで、ギガビョーゲン二体の前に立ちはだかる。

 

「ふん・・・しつこいのね」

 

「・・・諦めの悪い連中なの」

 

シンドイーネとイタイノンは、諦めようとしないプリキュアたちを見ながら言う。

 

「「「「はぁっ!!」」」」

 

プリキュアの4人はギガビョーゲンたちへと駆け出し、同時に飛び上がる。

 

「「「「私たちは、お手当てを諦めない!!!!」」」」

 

プリキュア4人とパートナーのヒーリングアニマルたち。その言葉が、その想いが、ギガビョーゲンへと向かっていく。

 

「「「「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」

 

パァァァァァァァァァ・・・・・・!!!!

 

4人は同時にギガビョーゲンにぶつかると、そこが七色に輝き出した。

 

「ギガァ・・・!?」

 

「な、何・・・・・・!?」

 

「何事なの・・・??」

 

ギガビョーゲンと、シンドイーネたちは突然の光に戸惑いの声をあげる。

 

「「「「っ・・・!?」」」

 

それはなんとグレースの花のエレメントボトル、フォンテーヌの水のエレメントボトル、スパークルの光のエレメントボトル、アースの風のエレメントボトルが輝き出した。

 

さらにケースに入っていた残りのエレメントボトルたちも輝きだし、持っていた全てのエレメントボトルが浮かび上がり集まって一つになっていくと、ハートのマークが描かれたエレメントボトルに変わった。

 

「新しいエレメントボトル!?」

 

「今まで集まったエレメントさんの力が、一つになったラビ!!」

 

全く新しいエレメントボトルが生み出されたことに驚きを隠せないグレースたち。

 

さらに・・・・・・。

 

「ワフーン・・・!!!!」

 

「ラビ!?」

 

「ペエ!?」

 

「ニャ!?」

 

ラテが大きく鳴き声を上げたと思うと、ラビリン、ペギタン、ニャトランの装身されたヒーリングステッキ、アースのハープが集まっていく。そして、注射器を模したようなアイテムが現れた。

 

そのアイテムの先端には、ラビリンたちの顔がついた4面のダイヤルと弓のような飾りが装着されている。

 

「「「「ええ〜っ!?」」」」

 

突然の変化に驚くプリキュアの4人。

 

「ラテ様が僕たちの力も一つにまとめてくれたペエ!!」

 

「さすがヒーリングガーデンの王女様だぜ!!」

 

「ワン♪」

 

「グレース!! みんなの力で浄化するラビ!!」

 

「うん!!」

 

グレースは力強く頷くと、ハート形のエレメントボトルを注射器のアイテムにセットする。

 

「「「「ヒーリングアニマルパワー全開!!!!」」」」

 

ヒーリングアニマルたちのダイヤルが回転し、その注射器型のアイテムが4つに別れるとグレースにはラビリン、フォンテーヌにはペギタン、スパークルにはニャトラン、アースにはラテの部分で止まり、グレースたち4人の服装が変化し始めた。

 

グレースは髪のボリュームが増えて、衣装の丈が伸びて長袖へと変わり、胸元にピンクのフリルが加わり、背中に緑色のリボンが加わる。靴はバラと黄色のリボンのついたハイヒールに変わった。

 

フォンテーヌは髪のボリュームが増えて、ティアラの形が少し変わって、イヤリングも少し大きくなり、紺色の服が追加されて、衣装の丈が長くなって長袖へと変わる。水色のフリルと背中に薄い紺色のリボンが加わり、靴はロングブーツからミドルブーツへと変わった。

 

スパークルはツインテールが伸びて、ティアラに黄緑と薄緑のフリルが加わり、イヤリングに四芒星が加わる。衣装の丈が伸び、伸びた先にポンポンが付き、ノースリーブのトップスからフリル付きのトップスへと変わり、黄緑のフリルが追加されて後ろのリボンが大きくなった。オーバーニーソックスが無くなり、ロリータパンプスから白い四芒星のついた黄色とオレンジのムートンブーツへと変わった。

 

アースは髪のボリュームがアップし、ティアラに黄色のフリルと赤紫のハートが加わる。衣装の丈が伸び、アシンメトリーのドレスはシンメトリーへと変わり、薄紫のフリルが両方についた。オープンショルダーの長袖になり、くるぶしにあったりんぐも左右対称となってピンクと水色の飾りがつき、靴は紫のハイヒールへと変わる。

 

そして、4人には背中に翼が生え、新しい姿へと変わった。

 

「「「「アメイジングお手当て、準備OK!!!!」」」」

 

4人は手に持っている注射器のレバーを引くと、虹色のエレメントパワーがチャージされる。

 

「「「「OK!!!!」」」」

 

そして、パートナーのヒーリングアニマルたちがダイヤルから光となって飛び出し、思念体の状態になって現れ、パートナーに寄り添った。

 

「「「「プリキュア!ファイナル!! ヒーリングっど♡シャワー!!!!」」」」

 

プリキュアたちがそう叫ぶと、レバーを押して4色の螺旋状の強力なビームを放った。4色のビームは螺旋状になって混ざり合いながら、ギガビョーゲンへと向かっていき光へと包み込んだ。

 

ギガビョーゲンの中で4色の光は、それぞれの手になって中に取り込まれていた円山先生を優しく包み込む。

 

ギガビョーゲンをハート状に貫きながら、4色の光線は円山先生を外に出した。

 

さらにもう一体のギガビョーゲンにも向かっていき、光へと包み込む。4色の光は、再度それぞれの手になって中に取り込まれていたしゅういちを優しく包み込み、同じように貫きながら外に出した。

 

「「ヒーリン、グッバイ・・・・・・」」

 

二体のギガビョーゲンたちは、安らかな表情を浮かべながら消えていった。

 

「「「「「「「お大事に」」」」」」」

 

「ワフ〜ン♪」

 

ギガビョーゲンが消えたと同時に、動物園、港町で広範囲に渡って蝕まれていた場所が嘘のように、元の色を取り戻していく。

 

「嘘でしょ!? あんなに蝕んだのに・・・!!?? あぁっ!!!」

 

シンドイーネは悔しそうにしながら、その場から姿を消した。

 

「・・・・・・まあいいの。十分楽しめたの」

 

イタイノンは逆に微笑を浮かべながらそう言い、去っていこうとする。

 

「らむっちぃ!!!!」

 

「っ・・・・・・」

 

そんな背後から叫んだスパークルの声に、イタイノンは顔を顰める。

 

「あたしは絶対に、あんたを止めてみせる!! あんたを取り戻してみせるから!!!!」

 

「・・・・・・私は助けられても、感謝しないの!!」

 

スパークルの決意を秘めたような言葉に、イタイノンは怒りのまま吐き捨てながらその場から姿を消した。

 

「あ〜あ、結局失敗しちゃっているわね・・・・・・それに、プリキュアに余計な力を与えちゃったみたいだし」

 

その光景を見ていたドクルンはため息を吐きながらそう呟く。

 

「・・・プリキュアか」

 

「??」

 

一緒に見ていたハキケイラの言葉に、ドクルンが反応する。

 

「面白い子たちだねぇ・・・!!!!」

 

「・・・・・・はぁ」

 

ハキケイラは不快になるどころか、ワクワクするように瞳を輝かせていた。ドクルンはその様子にため息をつく。

 

そして、二人はその場から姿を消したのであった。

 

ビルの上に立つ新たな姿のプリキュア4人。そんな彼女たちを太陽の光は優しく照らしていた。

 

そして・・・・・・。

 

「ん、んん・・・・・・」

 

動物園から離れた場所で円山先生が意識を取り戻し、起き上がった。

 

「こうた? こうたは無事か??」

 

円山先生は自分の息子を探そうときょろきょろし始めるも、そこは全く知らない場所であった。

 

「うっ・・・うぅ・・・・・・」

 

「っ!! しゅういちくん!!」

 

同じく円山先生の近くで倒れていたしゅういちが意識を取り戻して起き上がり、円山先生が駆け寄る。

 

「キミは、無事だったか!!」

 

「あ・・・こうたのお父さん・・・・・・?」

 

「よかった・・・・・・」

 

円山先生はしゅういちがなんともないことに安堵の声を漏らした。

 

「ここは、どこ・・・・・・?」

 

「ん〜、ここは、どこなんだろうな・・・・・・」

 

とりあえず、先生としゅういちは一緒に動物園へと帰ることになった。

 

そして、時刻は日が暮れる頃になり、動物園ではこうたが両手を握りながら父親の帰りを待ち、その近くでしゅういちの父親も自分の息子が帰ってくるのを信じて待っていた。

 

そこへ・・・・・・。

 

「こうたぁぁぁぁー!!!!」

 

「お父さーん!!!!」

 

自分を呼ぶ声が聞こえ、二人は声がした方向へと振り向くと、こちらに駆け寄ってくる円山先生としゅういちの姿があった。

 

「っ・・・しゅういち!!!!」

 

「ああ・・・・・・あぁ・・・・・・!!!!」

 

しゅういちの父親は顔を綻ばせ、こうたは目に涙を溜めながら駆け寄る。

 

「こうたぁ!!!」

 

「お父さーん!!!!」

 

円山先生とこうたはお互いに駆け寄り、抱き合った。

 

「しゅういちー!!!!」

 

「お父さーん!!!!」

 

しゅういちもお父さんに抱きついて、駆け寄りお互いに涙を流して喜んだ。

 

「うぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」

 

「ごめんな・・・心配かけて・・・・・・」

 

こうたは円山先生の服に顔を埋めて大声で泣き、円山先生は安堵の表情をしていた。

 

「よかったぁ、しゅういち・・・・・・」

 

「うっ、うぅぅぅぅぅ・・・・・・・・・」

 

しゅういちも自分の父親の中で泣いていたのであった。

 

「円山さんも無事でしたか」

 

「そちらも息子さんが大事にならなくてよかった・・・・・・」

 

しゅういちの父親と円山先生は、お互いの無事を確認できて喜び合った。

 

「無事に再会できてよかったラビ」

 

「そうだね」

 

のどかたちは親子二組の光景を見守りながらそう言った。

 

「それにしても、新しいプリキュアの服!! すごくなかった!? ゴージャス盛り盛りでさあ!!」

 

「羽まで背負っちゃってなぁ!!」

 

ひなたとニャトランは先ほどのプリキュアの衣装に興奮していた。

 

「もぉ、ファッションショーじゃないのよ?」

 

「地球から新たな力を託された象徴ペエ」

 

ちゆとペギタンはそんな呑気な二人に、そう言った。

 

「これは、『スペシャルヒーリングっどボトル』と名付けるラビ」

 

「これがあれば、またギガビョーゲンが出てきても、みんなを助けられる! ありがとう、地球さん」

 

ラビリンからそう名付けられたエレメントボトルを受け取ると、のどかは改めて地球の力、想いに感謝した。

 

「これからもみんなで力を合わせて、お手当てを続けましょうね♪」

 

4人はこれからも、地球のために、みんなのためにお手当てを続けることを誓った。

 

「あっ・・・・・・!?」

 

そんな時、のどかの足の力が抜け、地面に膝をついた。

 

「っ!? のどか、どうしたラビ!?」

 

「多分、疲れちゃったのかな・・・・・・?」

 

突然、倒れそうになったのどかにラビリンが寄り添う。のどかはそんな彼女を心配させまいと笑顔を見せる。

 

「動物園でいっぱい遊んだし、大変なお手当てもあったし、いろいろ疲れちゃったもんね」

 

「もうすぐ暗くなるし、そろそろ帰りましょう」

 

「そうだね・・・・・・」

 

のどかたちは今日の疲れもあって、動物園から帰ることにしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな頃、病院のアジトでは・・・・・・。

 

「さて、どこからアンタを調整しようかしら?」

 

ちょうど帰ってきたドクルンと一緒に彼女の部屋へと入り、覚醒したばかりのカスミーナに調整を加えようとしていた。

 

「私は別に、調整してもらわなくとも病気で蝕むことはできるのですが・・・・・・」

 

カスミーナは、自分たちの上司であるクルシーナとドクルンに謙遜しながら言う。

 

「っ・・・んっ・・・!!」

 

しかし、カスミーナは心臓の鼓動が大きくなったと思うと顔を顰め、胸を押さえて苦しみ始める。そして、瞳の色が赤から緑色へと点滅し始めていた。

 

「どうしたの??」

 

「いや・・・どうやら『偽りの私』が、私の中でまだ抵抗しているようです・・・・・・」

 

クルシーナが問いかけると、カスミーナは抑え込みながらなんとか答える。

 

「ふーん、じゃあ今までのあいつはまだ消えてないってことね」

 

「では、気休めかもしれませんが、これでも入れておきますか?」

 

ドクルンは懐からメガパーツを一つ取り出す。これを埋め込むことによって、カスミーナの力を上げて中にいるもう一つの人格を抑え込むという提案だ。

 

「・・・まあ、それでなんとかなるなら」

 

「ふふふ・・・・・・♪」

 

カスミーナの答えにドクルンは笑みをこぼすと彼女に近づき、メガパーツの胸の中に入れた。

 

「うっ!? うぅぅ・・・・・・!!」

 

カスミーナの体から黒いオーラが溢れ出すと痛みが走る。しかし、その痛みが落ち着くと黒いオーラの放出がなくなり、同時にかすみの苦痛も治まった。

 

「・・・なんとかなったようです」

 

「それはよかった。ああ、あとあなたに使って欲しいものもあるんですよ」

 

カスミーナの不調が治まったことにドクルンは微笑むも、何かを思い出したかのように言うとテーブルに置いてあったものを手に取る。

 

「それは・・・・・・?」

 

「まあ、使ってみてのお楽しみですよ。ふふふ♪」

 

疑問に思うカスミーナと、満面の笑みを浮かべるドクルン。そんな彼女の手には、丸い円の中に噴水のように分かれた3枚のプロペラのようなマークが描かれた病気のような赤色のエレメントボトルのようなものがあった。

 

「・・・で、さっきからこっちを気持ち悪い目で見てるこいつは誰なの?」

 

クルシーナはそんなカスミーナよりも、扉の前に立っている王子様風の人物ーーーーハキケイラが気になっていた。

 

「酷いなぁ、クルシーナ姉さん。僕もお父様の娘の一人なのに・・・・・・」

 

「はぁ? じゃあ、もしかしてこいつ・・・!?」

 

「そのもしかして、ですよ」

 

ハキケイラの告白に、驚くクルシーナ。それをよそにドクルンがハキケイラの横に立つ。

 

「クルシーナとカスミーナの二人だけに紹介します。彼女はお父さんの娘のーーーー」

 

「ハキケイラだ。よろしくね、姉さんたち」

 

ドクルンが紹介するよりも前に、ハキケイラは丁寧にお辞儀をしながら挨拶を交わしたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第113話「歓待」

原作第32話がベースとなります。
今回はドクルンがメインスポットとなります。


 

ビョーゲンキングダムーーーー最近では、シンドイーネ、ドクルン、イタイノンが進化を遂げたばかりだったが、今回は幹部全員が召集されていた。

 

「お父さん」

 

「・・・どうした?」

 

「私の育てていたテラビョーゲンがようやく到着しました。あなたの新しい娘です」

 

まずはドクルンが報告を行う。自分が地球の病院で育てていたテラビョーゲンがようやく到着し、ここでお披露目ができることを話した。

 

「何よ〜!! また余計な奴が増えるのぉ〜!?」

 

「・・・別に仕事をしてくれるなら誰だっていいけど」

 

「それはヘバリーヌちゃんを、痛めつけてくれるのかなぁ〜??」

 

「・・・そんなわけないの」

 

新しいビョーゲンズが増えることを聞いた、幹部たちの反応は人それぞれであった。

 

「ほう・・・見せてみるがよい」

 

「かしこまりました。ハキケイラ」

 

キングビョーゲンに命じられ、ドクルンは背後を向いて名前を呼ぶと、ハキケイラは前に出てくる。そして、貴族のようなお辞儀をし始めた。

 

「初めまして、お父様。ハキケイラだよ」

 

「ようやく来たか・・・ハキケイラ」

 

ハキケイラは丁寧に自身の父親に挨拶を交わす。

 

「来るのが遅くなってすまない。地球で人間のフリをして潜入調査を行っていたんだ」

 

「ほう・・・それで、今の地球はどうだ?」

 

キングビョーゲンにそう問われると、ハキケイラは不快そうな表情をした。

 

「・・・・・・最悪だね。環境もよくないし、人間も自分勝手な奴らばっかりだ。僕の手で美しく染め上げれば、人間も環境も等しく綺麗になると思うんだ」

 

ハキケイラは地球を見てきたことの思いの丈を述べる。自分にとっては環境が不愉快だし、人間も生き生きしていて鬱陶しい。そんな命はいっそ病気で赤く染めれば、美しくなっていくだろうと考えている。

 

「ふむ・・・・・・今後のお前の活躍にも期待しよう。頼んだぞ、ハキケイラ」

 

「もちろんさ」

 

ハキケイラの思いを聞いたキングビョーゲンはそう言うと、彼女は笑みを浮かべながら答えた。

 

「ところで・・・お前たちに命じたいことがある」

 

キングビョーゲンはハキケイラとの接見を終えたところで、本題へと入った。

 

「え、俺たちもメガパーツを?」

 

「ヘバリーヌちゃんたちにも進化しろってことぉ〜?」

 

「シンドイーネとイタイノンがあれほどの成果を得られたのだ。お前たちもメガパーツを取り込み、後に続くがよい・・・」

 

キングビョーゲンは幹部や娘たちにメガパーツを使って進化することを命じた。シンドイーネとイタイノンが進化し、強力な力を得たことによってギガビョーゲンを生み出すこともできた。はっきり言ってそれが一番の成果だった。

 

他のビョーゲンズも進化することによって、今後の侵略活動を活発にして欲しいという命令であった。

 

「えぇ〜!? 進化は私一人で十分だと思いますぅ〜!! 大体、このグアイワル、ダルイゼン、クルシーナ、ヘバリーヌ、フーミン、カスミーナにギガビョーゲンは扱えないかと・・・!!」

 

「それはアンタの意見でしょうが」

 

シンドイーネは反対しているようだが、それに口を挟んだのはクルシーナだった。

 

「アタシを誰だと思ってんだよ? アンタができることをアタシらができないとでも思ってんの? むしろアンタら以上のことをできるけどね」

 

「っ・・・・・・」

 

クルシーナは手に持っているテラパーツを空中に放ってキャッチを繰り返しながら、不機嫌そうに返す。

 

「少し褒められたぐらいで調子に乗んなよ。結局は地球を病気に蝕めなきゃ意味ないんだからさ」

 

「わかってるわよ、そのくらい!!!」

 

「まあまあ、二人ともそのくらいに」

 

攻撃的な口調を崩さないクルシーナに図星を突かれて、ムキになるシンドイーネ。そんな二人をドクルンが諌めるように言う。

 

「ちなみに私はもう進化を終えています」

 

「お前、ドクルンだったのか・・・」

 

「あんた、いつの間に・・・!!!!」

 

「・・・格好、変わりすぎじゃない?」

 

「それだけすごいということですよ、進化は。あなた方も経験して見ればわかります」

 

ドクルンのあまりにも変わりすぎな外見に、グアイワルとダルイゼンは彼女とは気づかなかったようで二人とも驚いている。

 

「よいか、グアイワル、ダルイゼン、クルシーナ、ヘバリーヌ、フーミン・・・わかったな?」

 

キングビョーゲンは再度進化を促すと、その場からスッと消えていった。

 

「ふっ・・・言われなくても、最初から進化するつもりだったさ」

 

「ふむ・・・グアイワルはもう行きますか」

 

グアイワルはその場から立ち上がりながらそう言うと、持っていたメガパーツを取り出した。

 

「ふんっ、私とイタイノンとドクルンはたまたま体が持ったけど、あんたたちがメガパーツを取り込んで、ただで済むって保証はないんですからねぇ!!」

 

「だよねぇ・・・・・・」

 

シンドイーネの妙な忠告に、ダルイゼンが躊躇する。本当は進化してほしくないだけだが・・・・・・。

 

「お前たちに出来たことが、この俺に出来ぬ訳が無い!! ふんっ!!!!」

 

そんな中、グアイワルはメガパーツを上に掲げて、躊躇なく自分の体の中に突っ込んだ。

 

ドックン!!!!

 

「ぐっ・・・ぐあっ!! ぐぅ・・・ぬうあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

その瞬間、グアイワルの体から禍々しいオーラに包まれて苦しむ声が聞こえてくる。ダルイゼンやクルシーナたちはその様子を見つめていた。

 

「ぐぅぅぅぅぅ・・・うおあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

グアイワルは雄叫びを上げながらオーラを振り払うと、そこには姿の変わったグアイワルが立っていた。

 

シンドイーネと同じように背中には黒い翼が生え、ツノが大きく反り返って枝分かれして4本になっており、髪が胸元まで伸びている。顔には両目に涙のような装飾がついている。服装は色濃く華やかになり、両肩には鎧のようなものを身につけていた。

 

「どうだ!俺も・・・俺も進化したぞ!!」

 

「おぉ〜!! ワル兄カッコイイ〜!!!!」

 

グアイワルが変貌した姿を見て、大興奮のヘバリーヌ。そして、彼女もドクルンからもらっていたテラパーツを取り出す。

 

「じゃ〜あ〜、私もぉ〜・・・・・・」

 

「すぅ・・・すぅ・・・・・・」

 

ヘバリーヌがそう言ってテラパーツを掲げた直後、フーミンの眠っている声が近くから聞こえてきたので、顔を向けると足元にフーミンが眠っていた。

 

「フーちゃん、寝てないでさ〜、進化しよぉ?」

 

「んぅ・・・わかったれすぅ・・・・・・」

 

ヘバリーヌがペチペチとフーミンの顔を叩きながら言うと、彼女は目を擦って立ち上がりつつも、同じくもらっていたテラパーツを取り出す。

 

「いくよぉ〜?」

 

「んぅ・・・・・・」

 

ヘバリーヌとフーミンは、ほぼ同時に躊躇なくテラパーツを自分の体へと突っ込んだ。

 

ドックン!! ドックン!!!

 

「あっ・・・あぁぁぁぁ〜!!!! 痛い・・・痛い、気持ちいいぃ〜!!!! あぁ〜ん、激しいぃ〜!!!!」

 

「うっ・・・はぁっ・・・んぅ・・・んん・・・!!!!」

 

二人の体が禍々しいオーラに包まれていき、ヘバリーヌは体中を巡る激痛に喜びを感じているようだが、フーミンは呻き声を上げていた。

 

そして・・・・・・。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!」

 

「んぅっ・・・んんんんんんんんぅ!!!!」

 

一際大きな甘い声と、呻き声が聞こえてくると包んでいたオーラが晴れていき、そこから二人の姿は大きく変わっていた。

 

ヘバリーヌは、白を基調としていた白鳥のような羽を生やしていたバレリーナのような格好は、黒を基調とした黒鳥のような羽を生やした姿になり、金髪は銀髪へと変化して、頭の上のティアラはフェニックスのような両翼がついた派手なものになった。顔の装飾は目の周りにシャドウと、両頬に風のようなグルグルのマークがあり、頭の悪魔のツノも枝分かれして4本になっている。

 

フーミンは、藍色のシスター服がワインレッドのような鮮やかな色になり、髪が更に伸びてウェーブになっており、頭のツノは猫の耳のようなツノと悪魔のようなツノの4本がベール越しに見えている。顔の装飾は目に逆さ音符の装飾が両目で対になるようにされており、背中の天使のような翼は堕天使のような黒い翼へと変わった。

 

「見てみてぇ〜! ヘバリーヌちゃんも大へ〜んし〜ん!!!!」

 

「すぅ・・・進化したですぅ・・・・・・」

 

ヘバリーヌは両手を大きく広げて自慢するように披露し、フーミンは眠そうにしながらも自身の姿をお披露目する。

 

「むぅ・・・・・・ふんっ!!」

 

シンドイーネはその様子を不機嫌そうに視線を逸らした。

 

「みんな、あっさり進化できるものなのね」

 

「さすがは、幹部たちとお父さんの娘たちは違いますねぇ」

 

クルシーナやドクルンは感心するかのように言った。

 

「・・・まあ、別に何人進化したところで困るものはないの」

 

イタイノンはそれを見ながら、淡々と他の仲間が進化することを肯定する。

 

「はぁぁぁ・・・身体中に力が漲ってくる・・・早速この力でひと暴れしてきてやる!! ふっふっっふ、わ〜っはっはっは!!!!」

 

進化したグアイワルはそう言うと、早速単身地球へと向かっていった。

 

「むぅ・・・ヘバリーヌちゃんも遊びたいなぁ〜・・・」

 

「私は進化して、疲れたから眠るですぅ・・・・・・」

 

「フーちゃん、それならアジトに帰ろぉ〜?」

 

グアイワルを見て羨ましそうしていたヘバリーヌだが、フーミンが眠そうにしているのを見て、気が変わってフーミンを連れてアジトへと帰っていく。

 

「さて、クルシーナとダルイゼンは進化しないんですかぁ?」

 

ドクルンのニヤけた視線を向けられる中、クルシーナとドクルンはテラパーツとメガパーツをそれぞれ見つめる。

 

「アタシはここではやらない。アンタらに見せつけるほど暇じゃないの。ちょっとアイツのところに行ってくるわ」

 

「クラリエットのところですか?」

 

「決まってんでしょ。アイツが最後の一人なんだから」

 

クルシーナはこの場での進化を拒否すると、そのままアジトへと向かうべく姿を消す。

 

「ダルイゼンは?」

 

「いや・・・したくないわけじゃないけど、しばらく様子を見るよ」

 

「・・・・・・・・・」

 

ダルイゼンのその言葉を聞いた、ドクルンはニヤけた表情を消して無表情で見つめる。

 

「・・・・・・ちゃんと進化してくださいね。お父さんに目をつけられる前に」

 

「・・・・・・わかってるさ」

 

ドクルンはそう淡々と言うと、ハキケイラを連れてその場から姿を消したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、のどか、ひなたは数名のクラスメイトたちと一緒に、学校の職業体験に沢泉家へとやってきていた。のどかとひなたの女子たちは制服を、男子生徒たちは半纏を身につけて行うことになっている。

 

旅館の若娘である、ちゆの指導の元、弟のとうじも参加の上で職業を勉強することになったのであった。

 

ちなみにアスミも来ており、この活動の様子を治めるべく、撮影係として手伝ってもらうことになっている。

 

「お客様がお部屋から見たときに、気になるところが無いか注意して、掃除してみてください」

 

「お客様からみて綺麗に・・・・・・」

 

「やってみるね!」

 

「はい」

 

ちゆはクラスメイトに中庭の掃除のやり方を教えて、他の場所の様子を見にいく。

 

アスミはその様子をカメラで撮影して収める。

 

「ラテは少しお昼寝をしていてくださいね?」

 

「フワゥ・・・・・・」

 

そして、腕に下げているバッグの中で眠っているラテに声をかけた。

 

「客間はお客様が過ごす大切なスペースです。小さな汚れも見逃さないよう、気をつけてください」

 

「はい!」

 

「わかりました」

 

「OK!!」

 

ちゆに客間の掃除のやり方を教えると、のどかとひなたととうじは早速掃除に取り掛かった。

 

「よ〜し、じゃんじゃん吸い込んじゃうよ!!」

 

「あっ、ひなたちゃん。ちょっとストップ」

 

掃除機を置いてかけようとしたひなたを静止し、のどかは手に持っていたハタキを見せる。

 

「まずはこれで埃を落とさないと。掃除機は最後でいいかも」

 

「なるほど・・・・・・」

 

「そうね。掃除は上から下へが基本よ。ひなたは洗面所をお願い」

 

「かしこまりー♪」

 

のどかやちゆがアドバイスをしてもらうと、ひなたは掃除機を置いて洗面所へ向かった。

 

「僕はこれを干してくるね〜」

 

「ええ、お願いね」

 

とうじは客間の中にある座布団を全て重ねると、部屋の外へと持っていく。

 

「よし・・・頑張るぞ!!」

 

とうじは部屋を出てそう言い、座布団を干す場所へと向かっていく。

 

「・・・・・・・・・」

 

その様子をペギタンが一人で隠れながら見守っていた。

 

パタパタ、パタパタ・・・・・・。

 

「あとは床の間の・・・・・・」

 

のどかはハタキで上の方の埃を下に落として、真剣に掃除をしていた。

 

「なかなかやるじゃない、のどか」

 

「えへへ♪」

 

ちゆに褒められて、嬉しそうにするのどか。

 

「すみませ〜ん。掃除機、先に隣で使いますね〜」

 

隣の客間を掃除していた従業員が、のどかたちにそう言って掃除機を持っていった。

 

「わぁ、もうちょっと急がなきゃだね」

 

のどかはそう言って改めて部屋の掃除を再開し始める。

 

「大丈夫。まだ時間はあるし、お部屋を丁寧に掃除することは、お客様への大切なおもてなしだわ」

 

「うん。じゃあ、念入りに!」

 

ちゆからアドバイスをもらったのどかは真剣に、ゆっくりと掃除し始める。

 

その様子をアスミがカメラで写真に収める。

 

「のどかはきちんとやって偉いラビ!」

 

「ひなたも見に行こうぜ!!」

 

そんなアスミの制服の袖から顔を出したラビリンとニャトラン。次にひなたの様子を見に行くことにした。

 

「はい、これね」

 

「ありがとうございます」

 

女性の従業員から雑巾とバケツを受け取って、ひなたが元気にお礼を言っていた。

 

「まあ、いい返事ね」

 

「えへへ♪ 返事だけはいいってよく言われちゃってぇ〜」

 

「素敵、笑顔も大切なおもてなしよ」

 

「・・・あ、そっか、ありがとうございます」

 

女性の従業員に褒められて、ひなたは改めて満面の笑みでお礼を言った。

 

そんな元気なひなたの様子をアスミがカメラに収める。

 

「さすが、ひなた! ナイススマイルだぜ!!」

 

「みんな、頑張っていますね♪」

 

ニャトランとアスミはひなたの様子を見ながらそう言った。

 

そんな中、アスミは辺りをきょろきょろとし始める。

 

「・・・ところで、ペギタンはどちらへ?」

 

この場に一匹だけいないペギタンのことを探していたのであった。

 

一方、そのペギタンは見つからない場所で、とうじのことを見守っていた。

 

「これを運んじゃえば・・・終わりっ・・・・・・」

 

「ちょっと頑張りすぎペエ・・・・・・」

 

とうじは偉く張り切った様子で、客間にある座布団を10枚も重ねて運んでいた。座布団をこんなに重ねたら小さなとうじには重いはず、ペギタンはそんな彼を心配そうに見つめていた。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

「うわぁっ!?」

 

とうじは足をがもたついて転倒してしまい、運んでいた座布団もバラバラになってしまった。

 

「とうじ!!」

 

そこへちょうどちゆが通りかかり、とうじを心配して駆け寄る。

 

「もしかして、二部屋分をいっぺんに・・・?」

 

「ぱぁっ、そのほうが早く終わると思って・・・・・・」

 

バラバラになった座布団の中から顔を出したとうじがそう答える。

 

ちゆととうじは二人で座布団を広い、分けて運び始めた。

 

「張り切るのはいいけれど、少しずつ分けて運んだ方がいいわ。客間の座布団は、それでなくても大きめだから」

 

「はい・・・・・・」

 

「・・・・・・やれやれペエ」

 

ちゆに指摘されたとうじは少し落ち込み、見ていたペギタンも掛けていたサングラスを外しながら息をついた。

 

座布団を運び終わった後、とうじはちゆの指示で温泉の床をデッキブラシで掃除をしていた。

 

「お風呂掃除で挽回しなきゃ・・・・・・!!」

 

「失敗しないかこっちが心配ペエ・・・・・・」

 

熱心に床をこする様子をペギタンは先ほどの失敗もあって、心配した様子で見守っていた。

 

キャン♪

 

そこへ一匹の子犬が浴場の入り口の前にきていた。

 

「あれ? 今は入浴時間じゃないけど・・・迷い込んで来ちゃったかな・・・?」

 

とうじが見ながらそう言っていた、その時だった・・・・・・。

 

キャンキャン♪

 

中を見ていた子犬が浴場の中へと入ってきた。そして、一直線に温泉の淵へと飛び移って温泉を覗き込んだ。

 

「あ、ダメダメ! 飼い主さんと一緒じゃないと危なーーーー」

 

クゥーン♪

 

とうじはその子犬を連れ戻そうと近づいていくが・・・・・・。

 

「わぁ、ダメだって!! うわぁっ!!!!」

 

ドボーン!!!!

 

「大変ペエ・・・・・・!!」

 

とうじは捕まえようとして、子犬はその場から移動したため、捕まえ損ねたとうじは温泉へと落ちてしまった。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「どうしたの!?」

 

そこへ物音を聞きつけて、従業員の川井とちゆが駆けつける。

 

「ふわぁ、大変!!」

 

「ずぶ濡れじゃん!!」

 

さらに騒ぎを聞きつけて、のどかとひなたも駆けつけた。温泉へと落ちたとうじの半纏はすっかりびしょ濡れになってしまっていた。

 

「あの・・・・・・」

 

「大丈夫よ、とうじ。ここは任せて、濡れた服を着替えてきて」

 

「・・・・・・ごめんなさい」

 

「ペエ・・・・・・」

 

ちゆにそう言われるも、とうじは先ほどよりもさらに落ち込んだ様子で浴場を後にしていく。ペギタンはそれを心配そうに見つめていた。

 

「二人は、ここの掃除をお願いできる?」

 

「わかった♪」

 

「まっかせといて〜♪」

 

「ありがとう♪ 私は客室をチェックしてくるわ」

 

ちゆはのどかとひなたにそう指示を出すと、客室の様子を見に向かっていく。

 

「ふわぁ〜、さすがちゆちゃん♪ 突然のことにも慌てずに、この場を仕切って」

 

「うんうん♪ ハイジャンのちゆちーもカッコいいけど、旅館のちゆちーもめっちゃカッコいい〜♪」

 

「そりゃあ、ちゆさんはこの旅館の未来の女将ですから!!」

 

のどかとひなたは冷静に対処するちゆに感嘆の声を出していた。二人もちゆには負けていられないと、浴場の掃除を始めた。

 

ちゆはその後、従業員たちと一緒に客間のチェックを行っていた。

 

「すべてチェックOKですね!」

 

「はい♪」

 

全ての客間のチェックを終わり、ちゆたちはその場を後にしようとしていた。

 

「・・・・・・!」

 

ふとちゆが何かに気づいて立ち上がって近づいていく。それは花瓶に挿している花で、少し傾いているのが見えた。

 

それが気になったちゆはその花の傾きを直して見栄えをよくする。

 

「これでよし・・・!」

 

「よく気がついたわね」

 

「・・・!!」

 

ちゆは笑みを浮かべて呟くと、そんな彼女に声をかけたのは祖母のはるこであった。

 

「沢泉に来てくださったお客様に、笑顔になっていただきたいから・・・・・・」

 

「いい心がけね。これからもいろいろなことに気を配れるようにね、ちゆ」

 

「・・・はい!」

 

はるこの言葉に、少し嬉しげにちゆが返事をすると、二人は客間を後にした。

 

清掃などの一仕事を終えたのどかたちは休憩を行っていた。

 

「はい、あ〜ん」

 

「ハムッ。モグモグ・・・ワン♪」

 

「「可愛い〜♪♪」」

 

ひなたの友人である、さりなとみづきの二人はラテの食事を与え、笑顔になるその可愛さに悶える。

 

「ふわぁ〜、美味しい〜♪」

 

「甘いのが沁みる〜って感じ♪」

 

のどかとひなたはすこやかまんじゅうを摘みながら、その美味しさに舌鼓を打っていた。

 

そんな中、とうじは・・・・・・。

 

「・・・・・・はぁ」

 

先ほどの失敗を気にしていて、ため息をついていた。

 

「ねっ、一緒に食べようよ〜♪ めっちゃウマだよ〜♪」

 

「・・・・・・いいです」

 

そんなとうじにひなたが声をかけるも、とうじは俯いたまま力なく答えた。

 

「とうじくん・・・?」

 

「よく、失敗ばかりで・・・・・・それを全部お姉ちゃんに助けてもらって・・・・・・同じ姉弟なのに、どうしてうまくできないんだろう・・・・・・」

 

「・・・そんなこと」

 

「わかる!! それ!! すっごいできる兄妹いると、なんか焦るの!! めっちゃわかる!!」

 

「ぁ・・・・・・」

 

落ち込んでいたとうじに、似た境遇のひなたがそう言うと彼は顔を上げた。

 

「でも・・・・・・あんまり焦らなくて、いいと思うよ」

 

のどかは笑顔ですこやかまんじゅうを差し出しながらそう言うと、とうじも少しだけ笑みを浮かべてそれを受け取った。

 

「ペエ・・・・・・」

 

その様子を、ペギタンは心配そうに見つめていた。

 

その後、とうじは一人で旅館内を歩き始めた。

 

「・・・・・・はぁ」

 

とうじはのどかに慰められたものの、先ほどの失敗を完全に吹っ切れてはおらず、ため息をついていた。

 

「おっ? 大丈夫か? 少年」

 

「?・・・っ!! お、お客様!!」

 

その時、前から声をかけられてとうじが顔を上げると黄色い服を着たかなりガタイのいい筋肉質の男性がおり、その人がここに泊まっている客だとわかっていたとうじは驚いた。

 

「力様!! 大変、失礼いたしました」

 

そこへちゆが通りかかり、力と呼ばれた男性に頭を下げて謝罪する。

 

「いやいや! 若いうちは悩みもあるさ!! 元気出せよ!!」

 

「すみませんでした!!」

 

力は笑いながら、肩をポンと叩いて励ましの言葉を言うとその場から歩き去って行った。とうじは改めて謝罪をし、ちゆも一緒に頭を下げた。

 

「・・・・・・とうじ、ちょっとこっちへ」

 

力の姿が見えなくなると、ちゆはとうじと共に旅館の外へと出る。

 

「ミスは仕方ないけれど、お客様の前でため息なんて・・・おもてなしの心をなくすのだけは見過ごせないわ・・・・・・」

 

「うん・・・・・・」

 

「落ち着くまで、少し休んでいなさい・・・・・・ねっ、とうじ・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

ちゆに叱られたとうじは何も言わずに背を向け、俯いたまま歩いて行ってしまう。ちゆはそんな当時の背を心配そうに見守っていた。

 

うちに住んでいたかすみがいなくなってしまったことで、元気をなくしていたとうじはそれに落ち込んでいるのもあるかもしれない。でも、それはそれ、これはこれ。だからと言って大事なお客の前での、あの態度はさすがに許せなかった。

 

とうじがこれ以上落ち込まないかどうか、心配だ。

 

「ちゆさん!! ちょっとお願い!!」

 

「あっ、はい!!」

 

そんな間も無く従業員から呼ばれ、ちゆはその場から駆け出して行った。

 

「ペエ・・・・・・・・・」

 

ペギタンはとうじの寂しそうな背中を心配そうに見つめていた。

 

その時だった・・・・・・。

 

「おやおや? ヒーリングアニマルがパートナーと離れて、こんなところで何を?」

 

「ペエ??」

 

後ろからかけられた声にペギタンが振り向くと、そこには見たこともない姿の人物が立っていた。

 

「ふふふ・・・♪」

 

その人物は片手で氷の剣を作り出すと、その手を振り上げる。

 

「ペ、ペエ!? ペエェェェェェェェェェェ!!??」

 

ペギタンの動揺すると同時に絶叫をあげると、その氷の刃は無情にも振り下ろされたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、のどかたちが休憩している間、アスミはデジカメで中庭などを写真に納めて廻っていた。

 

「・・・・・・ふふっ♪」

 

納めた写真を見て、笑顔になっていると・・・・・・。

 

ェェェェェェェ・・・・・・

 

「っ?? ペギタンの声でしょうか?」

 

かすかに聞こえたペギタンの声に、アスミは振り向いた。

 

「ペギタン、どうしたラビ??」

 

「何かあったのか??」

 

「行ってみましょうか」

 

アスミはラビリンやニャトランと共に、その声のところへと向かっていく。

 

一方、その頃・・・・・・。

 

「・・・・・・はぁ」

 

ちゆに叱られたとうじは客のいない浴場内のベンチに元気なく腰を下ろして、ため息をついていた。

 

「どうしたら、お姉ちゃんみたいになれるのかな・・・・・・」

 

とうじは先ほどの失敗を気にしていた。同じ家族に生まれた姉弟なのに、能力の差は全然違う。ちゆは未来の女将としてちゃんとしているし、心遣いもできている。

 

それなのに自分はどうだ。張り切りすぎて失敗ばかりだ。先ほども心の油断を招いて、お客様に迷惑をかけてしまった。

 

どうしたら・・・どうしたら、姉のように慣れるのだろうか・・・・・・。とうじは落ち込むと同時に、焦りが生まれていた。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

「とうじくん・・・・・・?」

 

「っ!!」

 

背中からかけられた声、とうじはそんな声に目を見開いた。この声はどこかで聞いたかは覚えていないが、昔知っている懐かしい声だ。

 

とうじはゆっくりと後ろを振り向くと、そこに立っていたのは・・・・・・。

 

「やっぱり、とうじくんよね? 少し見ないうちに大きくなったわね!」

 

緑色のショートパンツに、白のブラウスを着て、水色のコートを羽織っている少女だった。

 

「りょうお姉ちゃん・・・・・・?」

 

「そう。私が、りょうよ。ちゆの親友の」

 

とうじは微笑みながらこちらを見る、この少女を覚えていた。この人物がお姉ちゃんの親友だということを、幼い頃に家で一緒に三人で遊んだこともあるということを。

 

「りょうお姉ちゃん!!」

 

「っ・・・!?」

 

とうじは立ち上がって、彼女の体に抱きついた。

 

「会いたかったよぉ!! りょうお姉ちゃん!!」

 

「はいはい、いくつになっても甘えん坊なのは変わらないわね」

 

りょうに抱きついて涙をこぼすとうじ、そんな彼をりょうは優しく頭を撫でてあげる。

 

「ふふふ・・・♪」

 

しかし、その行動とは裏腹に、とうじの見えないところでりょうは不敵にほくそ笑んでいたのであった。

 

一方、その頃・・・・・・旅館の外では・・・・・・。

 

「さてと、僕の餌食になるのにふさわしい、生きているものはいないかなぁ?」

 

ハキケイラは旅館の屋根の上で、怪物にする素体にすべきものを探していた。

 

「まあ、この旅館でもいいんだけどねぇ。でも、それじゃあ面白くない」

 

正直、この旅館ごと蝕んでもいいが、それではあっさりしすぎて面白くない。どうせ蝕むのであれば、スリリングな方法を探さなければ・・・・・・。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

キャンキャン!!

 

「??」

 

ふと犬の鳴き声のようなものが響き、ハキケイラは首そ傾げるとその屋根の上から飛び降りる。辺りをきょろきょろと見渡してみると・・・・・・。

 

スンスンスン、キャン!!

 

犬が何やら鼻で匂いを嗅ぎながら、探し回っていた。

 

「ふーん・・・・・・まあ、あれでもいいか」

 

ハキケイラはあの子犬に生き生きとしていることに不快さを覚え、あの動物を利用することを考えた。

 

パンパンパン!! パンパンパン!!

 

早速、ハキケイラはフラメンコのように3回手拍子をし、黒い塊が生成される。

 

「進化したまえ、ナノビョーゲン」

 

「ナノ〜・・・・・・」

 

生み出されたナノビョーゲンは鳴き声を上げながら、子犬へと飛んでいく。

 

キャインキャインキャインンンンン!!!!!!

 

無垢な子犬は悲痛な鳴き声を上げながら、ナノビョーゲンに取り込まれていく。

 

その取り込んだ子犬を主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてその素体を模倣する様々なものが姿として現れていき・・・。

 

「グガ!! ヴォーゲン!!!」

 

犬のような吠え声をあげる、ブラックドッグのような姿のギガビョーゲンが誕生したのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第114話「りょう」

前回の続きです。
とうじの目の前に現れた、りょうは何者なのか?


 

ビョーゲンズが活動を開始する数分前、何年か振りの再会を果たしたとうじとりょうは浴場のベンチに一緒に腰を下ろしていた。

 

とうじは浴場で落ち込んでいたわけをりょうに話していた。

 

「そう・・・・・・ちゆに叱られたのね」

 

「うん・・・・・・僕も、頑張ってはいるんだけどね。でも、なかなかうまくいかなくて・・・・・・」

 

とうじはりょうに力なく答えた。ちゆと同じように頑張っているのだが、張り切りすぎて空回りして失敗ばかりしているのだ。

 

「私もいろいろと失敗したわ。とうじくんにも話してたわよね? 私がモノ作りをしてるって」

 

「うん・・・・・・」

 

「モノを作るってなると、いろいろと失敗して、また一から作って、作り直して、ようやく完成するものよ」

 

「そうなんだ・・・・・・」

 

「だからとうじくん、失敗してもいいのよ。失敗は成功の元って言うでしょ?」

 

りょうはとうじにそう言い聞かせるも、とうじの表情は暗いままだ。

 

「でも、僕は何も持ってないや・・・・・・お姉ちゃんは持ってるのに、りょうお姉ちゃんも・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

りょうは昔の頃の記憶から、思い出しているある記憶の映像を引っ張り出す。そして、再びとうじに声をかける。

 

「昔、ちゆが言ってたわ。とうじくんにもいいところがあるって」

 

「え・・・?」

 

「例えばねーーーー」

 

『とうじはね・・・不器用なところもあるけど、とても一生懸命で優しいのよ』

 

「・・・って言ってたわよ」

 

りょうはちゆが言っていた言葉を、とうじに話した。

 

「僕が一生懸命で、優しい・・・??」

 

「そう。ちゆがそう言ってたの。頑張ってる姿を見ている人はいるのよ、あなたを」

 

りょうはとうじの方に向き直ると、彼の肩を掴む。

 

「自分を他の誰かなんかと比べる必要はないのよ。とうじくんが頑張っている姿を見ている人はちゃんといるはず。あなたには良いところもあるし、できることもあるの。それは必ず周りの誰かを助けることに繋がるはずよ。だから、まずは自分にできることを見つけましょう。頑張るのはそれからでも、遅くないわ」

 

(ちゆだって・・・とうじくんだって・・・良いところはたくさんあるもの・・・可愛くて、かっこいい・・・・・・だから、必ず私のものにしたい・・・・・・)

 

りょうはとうじに諭しながらも、心の中では口に出せない何かを考えていた。

 

「りょうお姉ちゃん・・・・・・ありがとう」

 

とうじはりょうからそういった話を聞いて、少しずつ元気を取り戻していったのであった。

 

そんな、とうじやりょうを浴場の様子を見に行っていたちゆは隠れながら見つめていたが・・・・・・。

 

「嘘・・・・・・!?」

 

(ど、どういうこと・・・?? なんでりょうがここに!? 彼女はここにはいないはず・・・!!!!)

 

ちゆは二人の様子、特にとうじと一緒にいたりょうの姿に驚愕していた。りょうは思い出した記憶なら、数ヶ月前に行方が分からなくなっているはず。なのにどうしてりょうがこの場にいるのか・・・??

 

それに加えて、ちゆはあることが気になっていた。

 

(そういえば、ペギタンはどこに行ったの・・・??)

 

とうじを見守っていたはずのペギタンの姿がどこにもない。ペギタンがとうじを見ていたことはちゆ自身も気づいている。しかし、そのペギタンの姿がない。一体、どこに行ったのだろうか?

 

「ペギタン? ペギタ〜ン!!!!」

 

ちゆはみんなに気づかれないように叫ぶも、当然ペギタンの声は聞こえてこない。

 

「っ・・・!!」

 

「あれ? お姉ちゃんの声だ・・・どうしたんだろう・・・??」

 

りょうは聞こえてきたちゆの声に顔を顰め、とうじはなぜちゆが叫んでいるのか疑問に思っていた。

 

りょうはそんなとうじの肩を掴んで、顔を近づける。

 

「ところでとうじくん、ちょっと行きたいところがあるの。一緒に来てくれる?」

 

「うん・・・いいけど・・・・・・?」

 

りょうのお願いに、とうじはどうしたんだろうと疑問に思いながらも、二人はどこかへと歩いていく。

 

そして、りょうはなぜかとうじの見えないところで何かを取り出すと、それを温泉へと捨てるように放った。2人は一緒に歩き去っていく。

 

「っ・・・・・・!!」

 

二人の姿が見えなくなった頃、ちゆは飛び出して温泉の中に手を突っ込んで掴み、取り出してみると・・・・・・。

 

「っ、ペギタン!!!!」

 

それは、少し体に氷がついたペギタンだった。

 

「うぅぅ・・・ち、ちゆ・・・・・・?」

 

「大丈夫!? ペギタン!! 何があったの!?」

 

少し体を動かせるようになったペギタンが弱々しく呻くと、ちゆはペギタンに問いかける。どうして、りょうの投げ捨てたものがペギタンだったのか、ちゆは甚だしく疑問だった。

 

「み・・・見たことがない人が襲って来て・・・僕を切りつけてきたペエ・・・! そしたら、体が氷ついて動かなくなって・・・・・・!」

 

「見たことがない人・・・? でも、あなたはりょうの体の中にいて・・・!?」

 

ちゆはペギタンにそう言われて何かに気づいてハッとする。もしかしたら、あのりょうは誰かがなりすましているのではないかと、ビョーゲンズがなりすましているのかもしれないと・・・・・・。

 

「と、とうじを追わないと・・・!!!!」

 

「ペエ・・・!!」

 

ちゆとペギタンは共に、りょうに連れて行かれたとうじを探すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、アスミとペギタン以外のヒーリングアニマルたちは・・・・・・。

 

「確か、ペギタンの叫び声が聞こえたのはこの辺ですね・・・・・・」

 

「でも、誰もいないラビ・・・・・・」

 

「あいつ、どこ行っちまったんだ・・・?」

 

ペギタンの叫び声を遠くから聞いて、聞こえてきたところまでやってきていたのであるが、彼の姿はない。どこかに行ってしまったのか、何かあったのか・・・・・・。

 

1人と3匹が周囲を探そうとした、その時だった・・・・・・。

 

「クチュン!! クチュン!!」

 

「っ、ラテ!?」

 

突然、バッグの中に連れて歩いていたラテの具合が悪くなる。アスミは聴診器を取り出して、ラテに当てる。

 

(近くで黄色い服のお兄さんが泣いてるラテ・・・・・・近くで茶色の子犬さんが泣いてるラテ・・・・・・)

 

この反応・・・・・・ギガビョーゲンが二体暴れている模様。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

その時、旅館の近くから人々の悲鳴が聞こえ始めた。

 

「まずい!!」

 

「のどかやひなたたちを連れてこないとラビ!!」

 

ラビリンとニャトランは急いでのどかとひなた、ちゆを呼びに向かい、アスミはその後に続いて浴場を飛び出していく。

 

「お客様、すぐに裏手へ・・・!!!」

 

「こちらです!!!!」

 

その頃、なおや従業員たちが協力してお客を避難させていた。

 

一方その頃・・・・・・ちゆは・・・・・・。

 

「とうじー!!! とうじー!!! どこなのー!?」

 

「どこにもいないペエ・・・・・・!!」

 

ちゆはペギタンと一緒に、りょうについていったとうじのことを探していた。

 

「ちゆー!!!!」

 

「っ!!」

 

そこへちゆを呼ぶ声が聞こえてきて、そちらを振り向く。

 

「ビョーゲンズが現れたラビ!!」

 

「っ・・・・・・!?」

 

ちゆはラビリンの報告を受けて驚く。とうじの行方が分からないこんな時に限って、ビョーゲンズが現れるなんて・・・・・・!!

 

「ちゆ、行くペエ!!」

 

「っ・・・・・・」

 

ペギタンがビョーゲンズの元へと向かおうと促すも、ちゆはとうじが見つかっていないことを気にしており、行くのに戸惑っていた。

 

「ちゆ・・・・・・」

 

「わかってる・・・わかってるのよ・・・でも・・・!!!」

 

ちゆはプリキュアとしてビョーゲンズを止めなくてはならないことはわかっている。でも、りょうになりすましているであろう人物に連れて行かれた弟のことも気になっている。

 

ちゆはそれが原因で、ビョーゲンズの元へと向かうことに躊躇していた。

 

「ちゆ、急ぐラビ!! 先に行ってるラビ!!」

 

ラビリンはそう言うと他の仲間も呼ぶべく、その場から飛んでいった。

 

「ちゆ・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

ペギタンがちゆの様子を心配そうに見るも、ちゆはその場から動けずにいた。ちゆは拳をギュッと握りしめた後、再び力なく開いた。

 

「・・・ごめんなさい、行きましょう」

 

「大丈夫ペエ・・・??」

 

「大丈夫よ・・・・・・」

 

ちゆは少し辛そうな顔をしつつも、ペギタンにそう言い聞かせ、少し不安そうな表情を覗かせながらも一緒にビョーゲンズの元へと向かった。

 

のどかとひなた、アスミ、ちゆはお互いに合流し、旅館の外を出る。すると、入口付近からこちらへと向かってくる黄色いシャツを着たガタイのいい怪物の姿を視認する。

 

「あれは・・・ギガビョーゲン!!」

 

こちらへと向かってくる一体のギガビョーゲンをとりあえずどうにかしようとする4人。すると・・・・・・。

 

「グウォォォォォォォ〜!!!!!!」

 

「「「「っ!?」」」」

 

別方向から遠吠えのような叫び声が聞こえてきたかと思うと、そちらを振り向くともう一体の犬のようなギガビョーゲンがこちらへと向かってくるのが見えた。

 

「もう一体もこっち来てるよ!!」

 

黄色いシャツのような人型のギガビョーゲンと、犬のような姿のギガビョーゲン、合計で二体のギガビョーゲンが旅館に向かっているのを確認する。

 

「・・・・・・行きましょう!」

 

ちゆの言葉を合図に、他の3人は頷くと変身アイテムを取り出す。

 

「「「「スタート!」」」」

 

「「「「プリキュア、オペレーション!!」」」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

「エレメントレベル、上昇ラテ!!」

 

「「「「キュアタッチ!!」」」」

 

ラビリン、ペギタン、ニャトランがステッキの中に入ると、のどか、ちゆ、ひなたはそれぞれ花のエレメントボトル、水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

アスミは風のエレメントボトルをラテの首輪にはめ込む。すると、オレンジ色になっているラテの額のハートマークが神々しく光る。

 

のどかたち3人は、肉球にタッチすると、花、水、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、水色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ちゆは水色、ひなたは黄色へと変化する。

 

ラテとアスミは手を取り合うと、白い翼が舞い、ラテが舞ったかと思うとハートの中から白い白衣のようなものが飛び出す。

 

その白衣を身に纏い、ラテが降りてきたかと思うとハープが飛び出し、さらにアスミは紫色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

衣装にチェンジした後、ハープを手に取り、その音色を奏でる。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「「時を経て繋がる、二つの風!」」

 

「キュアアース!!」

 

「ワン!」

 

アスミは風のプリキュア、キュアアースへと変身した。

 

「「「「地球をお手当て!!」」」」

 

「「「「ヒーリングっど♥プリキュア!!」」」」

 

4人は変身後、まず近くにいる黄色いシャツのギガビョーゲンの前に立ちはだかった。

 

「来たな、プリキュア!」

 

そのギガビョーゲンの脇からグアイワルが姿を現す。

 

「っ、グアイワルじゃん!」

 

プリキュアたちはグアイワルが現れたことによって身構える。

 

「面白そうじゃん。僕も混ぜてくれ」

 

「グウォォォォォォォォ!!!!」

 

そこへ美少年のような声が聞こえてきたかと思うと、犬の姿のギガビョーゲンが飛んできて、黄色いシャツのギガビョーゲンの横へと立ちはだかる。

 

「っ! 誰か乗ってるぞ!!」

 

「「「「っ!!」」」」

 

ニャトランの言葉に、みんなが犬の姿のギガビョーゲンの背中に注目する。そこには貴族風の衣装を着て、シルクハットを被った中性的な顔立ちの人物が座り込んでいた。

 

「誰・・・!?」

 

「まさか、新しいテラビョーゲンですか・・・!?」

 

「その通りさ」

 

グレースとアースがそう呟くと、その人物は肯定してギガビョーゲンから降りて来た。

 

「僕はハキケイラ、お父さんの娘さ」

 

「お父さんの娘って・・・!?」

 

「キングビョーゲンラビ!?」

 

「他に誰がいるというんだい?」

 

ハキケイラが丁寧にお辞儀をしながら自己紹介をすると、グレースとラビリンはキングビョーゲンの娘だということを知り驚く。

 

「ハキケイラ、お前もか・・・・・・」

 

「そうだけど?」

 

「進化してないお前がどうしてギガビョーゲンを作れる!?」

 

「僕はもう進化を済ませているんだよ。とっくの昔にね」

 

グアイワルは、ハキケイラにギガビョーゲンを作れたことを指摘する。彼女にはメガパーツを入れた描写もなければ、そういう進化を遂げた気配もない。そんな彼女が何故ギガビョーゲンを作れるのか。

 

ハキケイラはグアイワルの問いに当然のように答えた。

 

「ふっ・・・まあいい、とにかく俺の生み出したギガビョーゲンのパワーをお前らで試してやる!!」

 

「ギガビョーゲンって!! あいつもシンドイーネやイタイノンみたいな力をつけちまったのかよ!?」

 

グアイワルも、シンドイーネやイタイノンと同じように進化して新たな力を見せている。しかも、今回はそれだけではない。

 

「あの娘も、進化している様子もないのにギガビョーゲンを生み出してるわ!!」

 

「あんなに、見た感じ普通なのに・・・?」

 

「その分、何か底知れない力があるのかもしれません・・・!!」

 

スパークルはギガビョーゲンを作れる割には普通の格好をしていると思っているのに対し、アースはその普通な分、未知の力があるのではないかと警戒する。

 

「ペギタン」

 

「ペエ!」

 

キュン!

 

「ニャトラン!」

 

「わかった!」

 

キュン!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

フォンテーヌとスパークルはそれぞれステッキの肉球に一回タッチして、二体のギガビョーゲンにそれぞれ向ける。ペギタンとニャトランの目が光り、ギガビョーゲンの中にあるものを見つける。

 

フォンテーヌがキュアスキャンをした黄色いシャツ型のギガビョーゲンの、中心部分に黄色いシャツを来た筋肉質の男性の姿があった。

 

「あれは・・・力様!?」

 

落ち込んでいたとうじに話しかけた旅館の男性客の一人であった。

 

そして、スパークルがキュアスキャンした犬型のギガビョーゲンは、胴体のお尻の部分に赤いスカーフをした茶色の子犬の姿。

 

「あれって・・・子犬?」

 

「人間じゃなくて・・・?」

 

スパークルとグレースは、犬型のギガビョーゲンの中に人間ではなく、子犬がいたことに意外そうな表情をする。

 

「ギガビョーゲンを生み出せるのは人間だけじゃないよ。生き物だったら、なんだって生み出せるのさ」

 

ハキケイラは不敵な笑みを浮かべながら、片手を広げる。

 

「やれ、ギガビョーゲン!! この辺りを蝕め!!」

 

「ウガァァァァァァ!!!!」

 

ハキケイラが指示を出すと、犬型のギガビョーゲンは口から禍々しい光線を吐き出す。

 

「っ、させないわ!!」

 

フォンテーヌがそう言うと、前に出てきたグレースとスパークルと共に前に出てぷにシールドを張ってその攻撃を防ぐ。

 

「こちらもだ、ギガビョーゲン!! そのパワーでここ一帯を蝕みまくってやれ!!」

 

「ギガッハァ!!!」

 

グアイワルの指示を受け、黄色いシャツのギガビョーゲンも口から禍々しい光線を吐き出す。

 

しかし、ギガビョーゲン二体の放たれた赤い光線の威力は凄まじく、攻撃の余波で周囲の木々が病気に蝕まれていく。

 

「っ、やはりギガビョーゲン、パワーが桁違いですね・・・!!!!」

 

改めてギガビョーゲンのパワーを思い知らされるプリキュアたち。

 

「でも・・・負けない!!!!」

 

「「はぁっ!!!」」

 

「ギガァ!?」

 

グレースはそう言い、光線を防いだままのシールドを出したまま飛んでいき、それと同時にフォンテーヌとスパークルは黄色いシャツのギガビョーゲンの両肩に蹴りを入れて、押し倒した。

 

「はぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ウガァ!!」

 

一方、アースは犬型のギガビョーゲンに蹴りを繰り出し、対するギガビョーゲンは前足の爪を繰り出して攻撃がぶつかり合う。

 

4人はそのまま木へと着地する。

 

「ウガァァァァァ!!!!」

 

倒れていない犬型のギガビョーゲンは再び口から禍々しい光線を吐き出す。

 

「やらせないっての!!」

 

グレースとスパークルはシールドを木で覆うほどに大きくし、ギガビョーゲンの光線を再び防ぐ。

 

すると・・・・・・。

 

「うわぁっ!? か、怪物・・・!?」

 

「っ!?」

 

そこへ聞こえてくる男の子の悲鳴。フォンテーヌが思わず振り向くとそこには、りょうに連れられるとうじの姿があった。

 

「こっちよ・・・!!!」

 

りょうはそう言うととうじの手を引っ張って、ギガビョーゲン二体とは反対の方向へと走って行く。

 

「あ、待って!! とうじ!!!!」

 

フォンテーヌはりょうに連れられるとうじに手を伸ばして叫ぶ。

 

「フォンテーヌ、どうしたのですか!?」

 

「とうじが・・・とうじが・・・!!!!」

 

只ならぬ様子のフォンテーヌにアースが問いかけると、フォンテーヌが連れられるとうじの方を見ながら言う。

 

「とうじさんがどうしたのですか・・・? 安全なところに避難をしようとしているだけのようですが・・・」

 

「っ・・・・・・」

 

アースは避難しているだけで特に危険はないだろうと判断するも、フォンテーヌはりょうの正体を知っているために気が気でない。

 

「よそ見とは余裕だな!!」

 

「ギガッハァ・・・」

 

グアイワルの叫びに呼応するように、黄色いシャツのギガビョーゲンが再び口から赤い光線を吐き出そうとする。

 

「フォンテーヌ!!」

 

「っ・・・!!」

 

アースの叫ぶような言葉に、フォンテーヌは後ろ髪を引かれつつも共に飛び出す。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

「ギガァァァァ!?」

 

口から赤い禍々しい光線を吐き出す寸前で、フォンテーヌとアースは同時に両肩を蹴って暴発させ、再びギガビョーゲンを地面へと倒した。

 

「ウガァァァァァァァ!!!!」

 

「くっ・・・うぅ・・・・・・」

 

一方、犬型のギガビョーゲンは赤い光線を勢いをさらに強め、グレースとスパークルは押され始める。

 

「ふっ、はぁっ!!!!」

 

「ウガァ!!」

 

そこへ地面へと着地したアースが低く飛んで蹴りを食らわせようとするが、ギガビョーゲンは光線を吐き出すのを止め、飛んで避ける。

 

「っ・・・はぁぁぁぁぁ!!!!」

 

フォンテーヌが木の上に飛び移って、追撃をしようと蹴りを繰り出す。

 

「ウガァ!!!」

 

「うっ・・・きゃあぁぁぁ!!!!」

 

ギガビョーゲンはその場から前足を振り上げて、爪をフォンテーヌに向かって振り下ろし、力負けしたフォンテーヌは地面をバウンドして吹き飛ばされる。

 

「「フォンテーヌ!!」」

 

「ギガ!!」

 

「っ、あぁぁぁ!!!!」

 

「ギガァ!!!!」

 

「うあぁぁぁぁ!!!!」

 

グレースとスパークルは心配して叫ぶが、そこへ倒れていた黄色いシャツのギガビョーゲンが起き上がって左右の腕を振るって、二人を吹き飛ばす。

 

バシッ!!!!

 

「っ!?」

 

さらにギガビョーゲンが振るったパンチが木に当たって吹き飛び、それは倒れているフォンテーヌに直撃しそうになる。

 

それに気づいたアースはフォンテーヌの前に飛び出して、彼女を庇うように抱き止める。

 

ドガァッ!!!

 

「うっ・・・う、ぁ・・・・・・!」

 

アースの背中に木が直撃し、そのダメージによりアースは膝をついて倒れ伏してしまう。

 

「アース!!!!」

 

「だ、大丈夫、です・・・・・・早く、ギガビョーゲンを・・・・・・!」

 

ダメージを負ったアースを心配するフォンテーヌだが、アースは痛みに顔を顰めつつも立ち上がる。

 

「全く・・・攻撃を庇うなんてらしくないね」

 

ハキケイラはその様子を呆れつつも、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「ウガァァァァァ!!!!」

 

そんな二人に犬型のギガビョーゲンが再び赤い禍々しい光線を吐き出す。

 

「っ・・・!!!」

 

フォンテーヌは前に出て、再びシールドを張って赤い光線を防ぐ。

 

「うっ・・・っ・・・!!!!」

 

アースは体をよろつかせながらも空中へと飛び上がり、アースウィンディハープを取り出す。

 

「音のエレメント!! ふっ!!」

 

ハープに音のエレメントボトルをセットすると、弦を奏でて音波を放つ。

 

「ウガァ・・・ガガァ・・・!?」

 

音波攻撃を受けたギガビョーゲンは赤い光線を吐くのを止めて、動きが鈍くなる。

 

「ふっ!! はぁっ!!!!」

 

「ウガァ!?」

 

その隙を見逃さず、フォンテーヌはシールドを解除して飛び出し、ギガビョーゲンの顎に蹴りを食らわせてよろつかせる。

 

「っ、はぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ウガァァァ!?」

 

さらにアースが横からギガビョーゲンの頬に蹴りを食らわせて倒した。

 

「アース、ごめんなさい・・・!! 私が油断して・・・!!」

 

「話はあとで聞きましょう。まずはギガビョーゲンを・・・!!」

 

フォンテーヌは先ほどの攻撃を庇ってもらったことを謝罪するも、アースはまず目の前の怪物を浄化することを先決するべきだと諭す。

 

「ギガァ!!」

 

「「きゃあぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

一方、グレースとスパークルは黄色いシャツのギガビョーゲンを阻止しようと腕を掴んでいたが、その場ですぐに振り払われてしまう。

 

グレースとスパークルは地面に着地し、フォンテーヌとアースと合流する。そこへ黄色いシャツのギガビョーゲンが迫る。

 

「フォンテーヌ!! 氷のボトルを使うペエ!!」

 

「ええ!!」

 

ペギタンのアドバイスを受け、フォンテーヌは氷のエレメントボトルを取り出す。

 

「氷のエレメント!! はぁっ!!!!」

 

ステッキに氷のエレメントボトルをセットして、冷気を纏った青い光線を放つ。

 

「ギガッハァ!!!!」

 

対するギガビョーゲンも口から赤く禍々しい光線を吐きつけ、二つの光線がぶつかり合う。

 

「ウガァァァァ!!!!」

 

そこへ起き上がった犬型のギガビョーゲンが飛び上がって、前足の爪による攻撃を繰り出し、3人は飛んで避ける。

 

「はぁっ!!!!」

 

「ふっ!!!!」

 

「ウガガァ!!!!」

 

空中でグレースとスパークルはステッキからそれぞれの色の光弾を連続で放ち、ギガビョーゲンの動きを鈍らせる。

 

「私は、こんなところでぐずぐずなんかしてられないのよ!!!!」

 

フォンテーヌが強く叫ぶと、冷気を纏った光線の勢いが強くなり、黄色いシャツのギガビョーゲンの赤い光線を押し返していく。

 

「私も参ります!!」

 

ハープを持ったアースがフォンテーヌの横へと出ると、空気のエレメントボトルを取り出す。

 

「空気のエレメント!! ふっ!!」

 

「ギ!? ギガァ・・・!?」

 

ハープに空気のエレメントボトルをセットし、空気の塊を放つ。赤い光線を吐いているギガビョーゲンの口に直撃し、空中へと浮いて遠くへと投げ出されたかと思うと爆発を起こし、ギガビョーゲンは地面へと落下した。

 

「何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 

自分の生み出したギガビョーゲンが劣勢になっているのを見ていたグアイワルは驚愕する。

 

「ウガァァァァァァ!!!!」

 

「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

一方、犬型のギガビョーゲンは赤い光線を吐きつけて、グレースとスパークルの二人を吹き飛ばす。

 

「グレース!!」

 

「スパークル!!」

 

吹き飛ばされた二人を、フォンテーヌとアースがそれぞれ受け止める。

 

「ウガァ!!!」

 

「っ・・・うっ・・・!!」

 

「くっ・・・・・・!!」

 

そこへ間髪入れずに、犬型のギガビョーゲンがグレースとフォンテーヌに飛びかかる。爪攻撃をシールドで防ぐ二人だが、あまりの力に押し負けそうになる。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

その隙をついて、スパークルとアースが同時にギガビョーゲンへと飛び出す。

 

「ウガァァァァァァ!!!!」

 

ギガビョーゲンは首だけ振り向くと、二人に目掛けて赤い光線を吐き出す。

 

「っ・・・!!」

 

スパークルとアースはとっさに体を翻して光線を避け、ギガビョーゲンへと迫っていく。

 

「雷のエレメント!!」

 

スパークルは雷のエレメントボトルを取り出し、ステッキにセットする。

 

「はぁっ!!!!」

 

「ウガガ、ガァ・・・!!!」

 

電撃を纏った光線を顔面に放ち、ギガビョーゲンを怯ませる。

 

「今だよ!!」

 

「せーのっ!!!」

 

「「やあぁっ!!!!」」

 

「ウガァ・・・!?」

 

その隙にグレースとフォンテーヌが同時にシールドを押し返して、ギガビョーゲンをフラつかせる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ガァァァァァァァ!?」

 

そこへアースの強烈なドロップキックが直撃し、ギガビョーゲンを遠くへと大きく吹き飛ばした。

 

「ふーん、やるじゃないか」

 

ハキケイラは逆に自身のギガビョーゲンを追い込んでいることに感心を持っていた。

 

「みんな!!」

 

「はい!!」

 

「ええ!!」

 

「うん!!」

 

今がチャンスとプリキュアの4人はギガビョーゲン二体の頭上へと飛ぶ。

 

「ラテ、お願いします!!」

 

「ワウ〜ン!!」

 

アースの言葉に、ラテが大きく鳴き声を上げる。

 

「「「「ヒーリングっどアロー!!!!」」」」

 

4人がそう叫ぶとラテがステッキとハープ、エレメントボトルの力を一つにまとめた注射器型のアイテム、ヒーリングっどアローが出現する。

 

その注射器型のアイテムに、ハートの模様が描かれたエレメントボトルをセットする。

 

「「「「ヒーリングアニマルパワー!! 全開!!」」」」

 

ヒーリングアニマルたちのダイヤルが回転し、その注射器型のアイテムが4つに別れるとグレースにはラビリン、フォンテーヌにはペギタン、スパークルにはニャトラン、アースにはラテの部分で止まり、グレースたち4人の服装や髪型などが変化し始める。

 

そして、4人の背中に翼が生え、いわゆるヒーリングっどスタイルへと変化を遂げる。

 

「「「「アメイジングお手当て、準備OK!!!!」」」」

 

4人は手に持っている注射器のレバーを引くと、虹色のエレメントパワーがチャージされる。

 

「「「「OK!!!!」」」」

 

そして、パートナーのヒーリングアニマルたちがダイヤルから光となって飛び出し、思念体の状態になって現れ、パートナーに寄り添った。

 

「「「「プリキュア!ファイナル!! ヒーリングっど♡シャワー!!!!」」」」

 

プリキュアたちがそう叫ぶと、レバーを押して4色の螺旋状の強力なビームを放った。4色のビームは螺旋状になって混ざり合いながら、ギガビョーゲンへと向かっていき光へと包み込んだ。

 

ギガビョーゲンの中で4色の光は、それぞれの手になって中に取り込まれていた力を優しく包み込む。

 

ギガビョーゲンをハート状に貫きながら、4色の光線は力を外に出した。

 

さらにもう一体のギガビョーゲンにも向かっていき、光へと包み込む。4色の光は、再度それぞれの手になって中に取り込まれていた子犬を優しく包み込み、同じように貫きながら外に出した。

 

「ヒーリン、グッバイ・・・・・・」

 

「ヒーウォン、グッヴァイ・・・・・・」

 

二体のギガビョーゲンたちは、安らかな表情を浮かべながら消えていった。

 

「「「「「「「お大事に」」」」」」」

 

「ワフ~ン♪」

 

ギガビョーゲンが消えたと同時に、広範囲に渡って蝕まれていた木々が元の色を取り戻していく。

 

「ふんっ・・・今度はもっと強いギガビョーゲンを出してやる!!」

 

「本当に、もっと面白くなりそうだねぇ・・・・・・」

 

グアイワルは悔しそうにそう言い、ハキケイラは不敵な笑みを浮かべながら言う。

 

「ハキケイラ、帰るぞ!!」

 

「・・・・・・僕に指図しないでほしいな」

 

グアイワルは先に撤退し、ハキケイラも彼の態度に不快感を露わにしながら、その場から続くように姿を消していった。

 

「はっ・・・! とうじ!!」

 

フォンテーヌはふと連れて行ったとうじのことを心配し、去っていった方向を振り向く。しかし、二人は姿は当然ながらすでに消えていた。

 

「とうじ・・・っ・・・・・・」

 

「フォンテーヌ、どうしたのですか?」

 

突然取り乱したフォンテーヌを不審に思ったアースが声をかける。

 

「とうじが・・・連れて行かれたの・・・!!」

 

「?? とうじさんは一緒に避難していたではないですか?」

 

アースはギガビョーゲンとの戦闘中に一瞬ではあったが、とうじの姿を見ている。しかし、二人がどう見ても避難しているようにしか見えていないアースはそう答えるも、フォンテーヌは首を振る。

 

「違う・・・違うの! とうじと一緒にいたのは・・・!!」

 

「フォンテーヌ、どうしたの・・・?」

 

「え、全部解決したんじゃないの・・・??」

 

フォンテーヌが瞳を潤ませながら答えようとすると、グレースとスパークルも不審に思って声をかけた。

 

「とうじが大変なの!! とうじが・・・・・・!!」

 

「フォンテーヌ、落ち着いて!!」

 

フォンテーヌは焦っているせいかうまく話せず、グレースがなだめようとする。

 

「何があったのか、落ち着いて話して・・・!」

 

グレースはフォンテーヌの両肩に手を置いて、まっすぐ彼女の目と合わせながら言う。

 

その真剣な眼差しと言葉に、フォンテーヌは焦る気持ちを落ち着かせようと深呼吸をすると、ゆっくりと口を開いた。

 

「3人ともよく聞いてくれる? とうじがねーーーー」

 

フォンテーヌは落ち着いてゆっくりと話そうとした、その直後だった・・・・・・。

 

「クチュン!!」

 

「「「「っ!?」」」」

 

元気になっていたラテが再び体調を崩して、ぐったりとさせ始めたのだ。

 

「ラテ!!」

 

「また・・・どこかでビョーゲンズが・・・!?」

 

「あの二人で終わりじゃないの!?」

 

ビョーゲンズを撃退した直後に、再びビョーゲンズが現れた・・・・・・ここまではいつものことだったが・・・・・・。

 

「まさか・・・・・・!?」

 

察しの良いフォンテーヌだけが、声を震わせる。頭の中に最悪のシナリオを描いていて、表情を青ざめさせたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その少し前、りょうに連れられたとうじは・・・・・・。

 

「りょうお姉ちゃん、どこまで行くの?」

 

「・・・・・・・・・」

 

とうじは手を引っ張って連れていくりょうに問いかける。それもそのはず、りょうが来た場所は人気のない山の森の中だったからだ。

 

りょうは何も言わずに、森の奥へと入っていく。

 

と、りょうは開けたところで足を止め、とうじから手を離す。

 

「りょうお姉ちゃん・・・・・・?」

 

「・・・・・・・・・」

 

りょうはその場で立ち止まり、とうじは戸惑いながらも声をかける。

 

「ねえ、とうじくん・・・・・・」

 

「何?」

 

りょうは神妙な様子で口を開き、とうじは返事を返した。

 

「・・・・・・何で私がここにいるのか、疑問に思わないの?」

 

「え・・・・・・?」

 

りょうは逆にとうじへと問いかけた。首を傾げるとうじをよそに、りょうの口元は薄く笑みが浮かんでいた。

 

「ちゆから聞いてない? 私は病院にいたって」

 

「聞いてない、けど・・・・・・」

 

「あ、そうなんだ・・・・・・」

 

ちゆはどうやらとうじには話していないそうで、りょうは口元の笑みを消す。

 

「私、数ヶ月前に病院から行方不明になっているのよ。ここにいるっておかしいって思わない?」

 

「だって、りょうお姉ちゃんでしょ? 僕は思わないけど・・・・・・」

 

「そう・・・・・・」

 

りょうは改めて自分の詳細について説明して質問を促すが、とうじは戸惑いながらもおかしさを否定する。

 

「・・・・・・なんで私がここにいるかわかる?」

 

「りょうお姉ちゃん・・・どうしたの・・・?」

 

りょうはとうじの方を向いて問いかける。その表情は不敵に笑みが浮かべられていた。さすがに不審に思ったとうじが逆に問いかける。

 

「質問に質問で答えるのはなしよ。私の質問に答えてからね」

 

「えっと・・・わからない、けど・・・・・・」

 

とうじの戸惑ったような問いに、りょうが更に笑みを深くする。

 

「・・・・・・それはね」

 

パチン!!

 

りょうはその場で指を鳴らすと、彼女の姿が変化していく。

 

人間だった肌が薄い黄緑色の肌へと変わり、髪の色が雪のような白へと変わり、狼の耳のようなツノと反り返った悪魔のツノが4本生えてくる。顔の装飾は頬に氷のような青色のメイクがつき、服装が青いポンチョを身につけて黒いベルトをして、水色のズボンを履いたカウボーイを思わせる外見へと変貌した。

 

「ふふふ・・・・・・♪」

 

「りょうお姉、ちゃん・・・・・・?」

 

とうじはりょうが変貌を遂げていくことに、瞳に若干怯えの表情をのぞかせた。

 

「私が、こういう姿だからよ・・・!」

 

りょうはドクルンとしての姿、ビョーゲンとしての本来の姿を見せたのだ。

 

「あぁ・・・ぁぁ・・・・・・!!」

 

「とうじくんって本当に可愛い♪ ちゆ共々、私のものにしちゃおうかしら?」

 

とうじはこちらに歩み寄ってくるドクルンに、後ずさって距離を取ろうとする。

 

「っ・・・!!」

 

とうじはドクルンに背を向けて逃げようとするが・・・・・・。

 

「うわぁっ・・・!!」

 

いつの間にか足元に生えていた氷に躓いて転んでしまう。

 

「・・・ふーん、私から逃げるのね」

 

ドクルンは口元に浮かべていた笑みが嘘のように、無表情となりとうじを見つめた。

 

「ぁぁ・・・お姉ちゃん、助、けて・・・・・・」

 

「だったら、逃がさないようにこうするしかないわ」

 

とうじは恐怖で震えて大きい声が出せない。そんなとうじに、ドクルンは片手の指をパチンと鳴らして、黒い塊を出現させる。

 

「進化してください、ナノビョーゲン」

 

「ナノデス〜」

 

生み出されたナノビョーゲンは鳴き声を上げながら、とうじへと飛んでいく。

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

その瞬間、とうじの絶叫が森の中に響いたのであった・・・・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第115話「姉弟」

前回の続きです。
今回で原作第32話は終わります。

そして、次回の原作話はキーエピソードになります。お楽しみに。


 

その頃のプリキュアたち。フォンテーヌは体調不良になったラテに聴診器を当てていた。

 

(あっちの方でちゆの弟さんが泣いてるラテ・・・・・・)

 

「っ・・・嘘・・・とうじ・・・!!」

 

「とうじが・・・・・・ギガビョーゲンペエ・・・!?」

 

「そんな・・・!!」

 

フォンテーヌが察した通り、ギガビョーゲンにされたのは弟のとうじだった。

 

「とうじー!!!!」

 

「あ、待って・・・フォンテーヌ!!」

 

フォンテーヌは居ても立っても居られず、とうじが行った先へと駆け出していく。

 

「とうじ・・・とうじ・・・!!」

 

「落ち着いてください!! フォンテーヌ!!」

 

アースはフォンテーヌを引きとめようとするが、フォンテーヌはすっかり冷静さを欠いていて、駆け出す足を止めようとしない。

 

仕方なくグレース、スパークル、アースも先へと駆けていくフォンテーヌへと着いていく。

 

「さっき一瞬見えたけど、とうじくんを連れて行ったのはビョーゲンズだったのかな・・・・・・?」

 

「あたしには普通の女性に見えたけど・・・・・・」

 

「そのフォンテーヌの言うりょうという女性が、ビョーゲンズになりすましていたと考えられますね」

 

グレースたち3人はフォンテーヌを追う中、ほんのわずかだけ見ていたとうじと彼と一緒にいた女性について考えていた。

 

とうじの方向へと走っていくと・・・・・・。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「グレース?」

 

「ちょ・・・ちょっと待って・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

グレースが少し走っただけで息を切らし始め、それを不思議に思ったラビリンが声をかけると、グレースは3人を静止して足を止めてしまう。

 

「え? グレース、まだ少ししか走ってないよ?」

 

「はぁ・・・はぁ・・・お、おかしいな・・・毎日、走って・・・体力つけてるのに・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

スパークルが疑問に思ったことを、グレースは疑問に思っていた。毎日欠かさず、朝はランニングしているのに、少し走っただけで疲れを見せている。

 

ギガビョーゲンとの戦闘のせいなのか、それとも旅館で張り切りすぎただけなのか、そのどちらかはわからなかった。

 

「グレース、フォンテーヌが行ってしまいます・・・!!」

 

弟のことで頭がいっぱいのフォンテーヌは、グレースの静止も聞かずにどんどん先に行ってしまう。

 

「はぁ・・・後からついていくから・・・フォンテーヌを追って・・・はぁ・・・」

 

「・・・・・・わかりました」

 

「ちゃんと着いてきてよ!」

 

グレースがそう言うと、スパークルとアースはそれぞれそう言いながらフォンテーヌを追って行った。

 

「グレース・・・どうしたラビ?」

 

「わかんない・・・わかんないけど・・・追わなきゃ・・・!」

 

グレースは少しずつ息を整えつつも、3人の後を追っていく。

 

一方、一人走って行ったフォンテーヌは・・・・・・。

 

「っ・・・!?」

 

森の近くへと差し掛かっており、その森が赤く染まっているのが見えた。この近く、もしくは森の中にビョーゲンズととうじがいると、フォンテーヌは焦る頭でそう踏んだ。

 

フォンテーヌは止まらずに森の中へと突き進んでいく。

 

「フォンテーヌ、大丈夫ペエ・・・・・・?」

 

「っ・・・・・・・・・」

 

「ペエ・・・・・・」

 

ペギタンは焦っている様子のフォンテーヌに声をかけるも、彼女は耳を傾けているのかわからないほどに必死で駆けていた。

 

その様子を見ると、ペギタンはなんだか心配になってくる。

 

そんなことをしている間に、開けた場所へとたどり着く。そこには・・・・・・。

 

「っ!?」

 

「ギガァ!!!!」

 

フォンテーヌの目の前には、半纏を羽織った従業員のような姿のギガビョーゲンが口から禍々しい光線を吐きながら、周囲の自然を病気に蝕んでいる光景だった。

 

「とうじー!!!!」

 

フォンテーヌは居ても立っても居られずに、ギガビョーゲンへと駆け出していく。

 

「フォンテーヌ!! 一人じゃ無茶ペエ!!」

 

ペギタンは一人で突っ込むのは無謀だと静止を掛けようとするが、フォンテーヌはその場でジャンプをして飛び出してしまう。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ギガァ・・・?」

 

「うっ・・・!!」

 

蹴りを繰り出そうとするフォンテーヌの背後に気がついたギガビョーゲンは振り向きざまにパンチを繰り出し、フォンテーヌを吹き飛ばして叩きつける。

 

フォンテーヌは傷つきながらも、立ち上がってステッキを構える。

 

「おやおや? あなたですか」

 

「っ!!」

 

そんなギガビョーゲンの脇から、進化態の姿をしたドクルンが姿を現した。

 

「ドクルン!!」

 

フォンテーヌは弟をギガビョーゲンにした張本人を睨みつける。

 

「フォンテーヌ!!」

 

「あれってドクルン!?」

 

「やっぱりあいつも進化してたのか!!」

 

そこへアースとスパークルも駆けつけ、スパークルとニャトランはドクルンの姿を見て、彼女が進化をしたと察する。

 

「ちっ・・・余計な奴が来ましたね。まあ、いいでしょう」

 

ドクルンは顔を顰めながら言いつつも、すぐに不敵な笑いに戻す。

 

「許せない!! よくも私の弟をギガビョーゲンに!!!!」

 

「私から離れようとするのが悪いんですよ。私を一人にしようとしたから」

 

フォンテーヌは怒りに任せて叫ぶも、ドクルンは笑みを消して悪びれもせずに言う。

 

「大体あなたも、そんなに大切ならどうして一人にしたんですかぁ?」

 

「っ、そ・・・それは・・・・・・」

 

ドクルンは怒っているような、無表情になっているような顔でそう指摘すると、フォンテーヌは動揺する。

 

「大切な存在なら、側にいるべきでしょ? いないってことはどうでもいいと思っていることですよ」

 

「違うわ・・・!! どうでもいいなんて思っているわけがない!! とうじは大切な弟よ!!」

 

ドクルンの煽るような言葉に、フォンテーヌは否定して反論する。

 

「そんなこと口ではいくらでも言えます。重要なのはあなたの行動でしょう。あなたが大切な存在と一緒にいたかどうか。本当は弟のことなんか好きでもないくせに」

 

ドクルンはフォンテーヌの言葉を逆に否定してそう言う。

 

「あなたはいつもそうです。そうやって本当のことを話さないで、自分を隠してばっかり。その癖他人のことばかりは気にしていて、ある一定の人の顔は見えなくなる、本当にムカつく・・・!!」

 

「何を、言っているの・・・・・・?」

 

ドクルンはそこまで話すと顔を俯かせ、フォンテーヌは彼女の言葉に戸惑う。

 

「言ったらどうなんです? 本当はとうじくんのことなんか、なんとも思ってないって」

 

「本当に何を言ってるのよ!? 私はとうじのことを大切に思ってるわ!! あなたに何がわかるって言うの!?」

 

ドクルンが再び煽るように言うと、フォンテーヌは反論して怒りの声をあげる。

 

「ふん・・・まあいいです。彼に証明してもらいますよ。ギガビョーゲン!! プリキュアを倒して、ここ一帯を蝕んでやりなさい!!」

 

ドクルンは不機嫌そうに鼻を鳴らすと、ギガビョーゲンに指示を出す。

 

「ギガ・・・ビョーゲン!!」

 

ギガビョーゲンは4本の腕についている布団のシーツのようなものを伸ばして攻撃を繰り出す。プリキュア3人は飛んで回避し、フォンテーヌはシーツの上を駆け上がってギガビョーゲンの顔に迫る。

 

「とうじ、やめて!!」

 

フォンテーヌは悲痛な叫びを上げながら、ギガビョーゲンへと飛ぶ。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

フォンテーヌはギガビョーゲンの顔面に蹴りを繰り出す。

 

「ギガァ・・・!!」

 

「っ、あっ!?」

 

「ギガァ!!!」

 

「あぁぁぁぁぁ!!!!」

 

しかし、ギガビョーゲンはとっさにシーツを顔の前に持ってきて蹴りを防ぐと、そのままフォンテーヌをシーツで包み込んで地面へと叩きつけた。

 

「やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

一方、スパークルもシーツの上を駆け出して、ギガビョーゲンに迫っていくが・・・・・・。

 

「ギガァ!!」

 

「っ、うっ!!」

 

「ギガギガ!!」

 

「きゃあぁぁ!!」

 

ギガビョーゲンのシーツ攻撃に、スパークルは避けていくも、避けきれずに拘束されてしまい、ギガビョーゲンはそのまま遠くへと投げ飛ばした。

 

「はっ!! ふっ!! はぁぁ!!!!」

 

アースはシーツ攻撃を掻い潜りながら避けていき、空中へと飛び上がる。

 

「音のエレメント!! ふっ!!」

 

アースウィンディハープを取り出し、音のエレメントボトルをセットすると弦を奏でて音波を放つ。

 

「ギガ・・・・・・!!」

 

ギガビョーゲンはとっさに全てのシーツを自分の前に持ってくると、音波攻撃を相殺して無効化する。

 

「そんな・・・!!」

 

「ギガビョー・・・ゲン!!」

 

アースが呆然とする中、ギガビョーゲンはシーツのような触手を引っ込めると、周囲に雑巾のような形をした赤く禍々しいものを生み出すと、それを一斉に放った。

 

「っ・・・くっ・・・あぁぁぁぁ!!!」

 

アースは空中に飛び出して避けようとするが、雑巾はブーメランのようにクルクルと回りながら飛んでいき、その変則的な動きに避けきれずに当たってしまう。

 

「ギガァ!!!」

 

「うっ・・・!!!!」

 

さらにギガビョーゲンはシーツを伸ばしてアースをグルグル巻きにして切り離し、そのまま地面へと転がせた。アースは首から下をシーツに包まれて、身動きが取れなくなってしまった。

 

「アース!!」

 

「ギーガァ!!!!」

 

フォンテーヌが心配して見るも、ギガビョーゲンはさらに追撃をすべく雑巾のようなものを飛ばす。

 

「っ、はぁっ!!!!」

 

フォンテーヌはとっさにアースの前に出て、ぷにシールドを張って防ぐ。

 

「っ・・・くっ・・・っ・・・!!」

 

ブーメランのように舞う雑巾攻撃は思いの外、威力が高くシールドに当たる度にフォンテーヌの手がジンジンと痺れ、フォンテーヌが顔を顰める。

 

「っ・・・!!」

 

その雑巾の一つがフォンテーヌの後ろへと迫っていく。

 

「フォンテーヌ!!」

 

そこへスパークルが飛び出して背後に立ち、同じようにシールドを張って防ぐ。

 

しかし、雑巾のブーメランは止む気配がなく、容赦無く二人を攻め立てる。

 

「ちょっと、これ・・・キツくない・・・??」

 

「あのギガビョーゲン、結構強いぞ・・・!!!!」

 

スパークルもニャトランもとうじが変貌させられたギガビョーゲンの強さを感じざるを得ない。

 

「ギガァ・・・・・・!!」

 

ギガビョーゲンは両肩についているバケツのようなものを向けるとそこから赤く禍々しい強力なビームを発射し、フォンテーヌの張ったシールドを撃ち抜いて直撃させた。

 

「うっ・・・強い・・・・・・!」

 

「攻撃をしても、あの触手で全て防がれちゃうペエ・・・・・・」

 

フォンテーヌとスパークルはダメージを負いながらも立ち上がる。

 

「ギガァ!!!!」

 

そこへギガビョーゲンは再びシーツの様な触手を伸ばしてくる。二人は散開して避けるが、触手は蛇のように襲い来る。

 

「うっ・・・っ・・・きゃあぁっ!!!」

 

フォンテーヌはシーツをかわしていくが、唐突にギガビョーゲンの拳を受けて吹き飛ばされる。

 

「フォンテーヌ!! くっ・・・うっ・・・うぁぁ!?」

 

スパークルは心配してフォンテーヌの方を見るも、彼女にもシーツが襲っており、避けきれずに上空へと吹き飛ばされてしまう。

 

「ギガァ!!!!」

 

「うっ!!!」

 

ギガビョーゲンはシーツを伸ばして、スパークルをアース同様にグルグル巻きにして、地面に転がせた。

 

「うーん・・・動けないぃ〜・・・!!!!」

 

アースと同じように首から下をシーツに包まれたスパークルは体に力を入れるも拘束は抜け出せず、身動きが取れなくなってしまった。

 

「スパークル!!」

 

こうして動けるのはこの場では、フォンテーヌしかいなくなってしまった。グレースは今だに到着していない。

 

「いいですね! あとはあなただけですねぇ」

 

「くっ・・・・・・!!」

 

「でも、一人いないみたいですねぇ。どこに行ってしまったんでしょうか?」

 

ドクルンが木の上で足をブラブラさせながらそう言い、一方のフォンテーヌは表情が強張って緊張感が走っている。

 

「「キュアスキャン!!」」

 

フォンテーヌは肉球を一回タッチして、ギガビョーゲンに向ける。ペギタンの目が光り、胴体の腹の部分に、膝を抱えて意識を失っているとうじの姿が見えた。

 

「とうじ・・・・・・!!」

 

フォンテーヌは焦りの心は生まれていても、弟を助けようとする意思は失われていなかった。自分の詰めの甘さが原因で、ビョーゲンズにつけ入れる隙を与えてしまい、ギガビョーゲンにされてしまった大事な弟。

 

そんな彼が怪物となって、地球を病気で蝕んでいるなんて聞いただけで、フォンテーヌは頭がどうにかなりそうだった。

 

「ギガァ!!!!」

 

「っ・・・・・・!!」

 

しかし、そんな意思とは裏腹にギガビョーゲンは躊躇なく両肩のバケツから赤い光線を放つ。フォンテーヌはそれを避けて、空中へと飛ぶ。

 

「はぁっ!!!」

 

フォンテーヌは空中で、ステッキから青い光弾をギガビョーゲンに目掛けて連続で放つ。

 

「ギガァ!!!」

 

ギガビョーゲンはシーツのような触手を自分の前に持ってくると光線を防ぐ。

 

「っ・・・・・・!!」

 

「ギガ・・・ビョーゲン!!」

 

「うっ・・・ふっ・・・!!」

 

顔を顰めるフォンテーヌを他所に、ギガビョーゲンは防御に使った触手をそのままフォンテーヌへと伸ばしていく。フォンテーヌは必死にそのシーツを避けていく。

 

「っ・・・くっ・・・うっ・・・!? きゃあぁ!!!!」

 

その後もシーツはしつこくフォンテーヌに襲いかかり、その度に避けていたが、ふとシーツがフォンテーヌの足に巻きつき、地面へと落とされてしまう。

 

「ギガァ!!!!」

 

ギガビョーゲンはそこへ両肩のバケツから赤い光線を放つ。

 

「っ・・・・・・!!!!」

 

フォンテーヌは対抗しようととっさにエレメントボトルを取り出す。

 

「雨のエレメント!! はぁっ!!」

 

ステッキに雨のエレメントボトルをセットし、雨粒を纏った青い光線を放ち、ギガビョーゲンの光線とぶつかり合う。

 

しかし、青い光線は赤い光線に呆気なく突破されてしまう。赤い光線は着弾して爆発し、黒い煙が舞う。

 

「「フォンテーヌ!!」」

 

スパークルとアースは叫びながら心配するも、フォンテーヌからの返事はない。しかし、黒い煙が晴れると、そこにはボロボロになりながらも立ち上がっているフォンテーヌの姿があった。

 

「くっ・・・・・・!!」

 

しかし受けたダメージが蓄積しているのか、少し体がフラついており、立っているのが辛そうな状態であった。

 

「もう限界じゃないですか? 諦めたらどうです?」

 

ドクルンが不敵な笑みを浮かべながら、小馬鹿にしたように言う。

 

「いいえ・・・私は諦めないわ!! 絶対にとうじを助けて見せるんだから!!」

 

「っ・・・・・・」

 

フォンテーヌの救う意思をなくさないことに、ドクルンは顔を顰める。彼女の頭の中にあることを思い出していたからだ。

 

『場所が離れても、私はあなたに会いに行くわ。約束よ』

 

『うん。約束・・・』

 

そう言ったはずのちゆ、しかし彼女は会いに来なかった。会いに来るって約束したのに・・・・・・!!

 

「勝負はついているくせに・・・・・・私は・・・・・・あなたのそういう煮え切らないところが大嫌いなのよ!! ちゆ!!」

 

「っ!?」

 

ドクルンはプリキュアの前で、滅多に見せない感情をあらわにする。その発言にフォンテーヌは驚いていた。

 

「ギガビョーゲン!! 潰してしまいなさい!!」

 

「ギガァ!!」

 

「っ・・・・・・!!」

 

ドクルンの怒りが篭った指示を受け、シーツの触手を再び伸ばしてきた。

 

「っ・・・ふっ・・・っ・・・!!」

 

フォンテーヌは迫り来るシーツを後退しながら避けていた。しかし、シーツはまるで生き物のように動きながら、フォンテーヌへと迫っていく。

 

「ふっ・・・くっ・・・!!!」

 

フォンテーヌは避けきれないシーツを蹴りで弾き返し、避けれるものは避けていくも、シーツの勢いは止むことがなく、フォンテーヌは追い詰められていく。

 

「っ・・・うっ・・・あぁぁ!?」

 

そして、シーツはフォンテーヌの背後を囲むように覆って逃げ場をなくした後、正面からのシーツでフォンテーヌの首から下をぐるぐる巻きにして拘束した。そして、そのまま地面へと叩きつけた。

 

「ギガビョーゲン・・・・・・」

 

ギガビョーゲンは拘束したフォンテーヌを持ち上げる。

 

「っ・・・うっ・・・!」

 

捕まってしまったフォンテーヌは苦痛に呻く。どんなに体を動かしても、全く身動きが取れない状態だ。

 

「「フォンテーヌ!!」」

 

「ふふふふふふ・・・!! とうとう捕まえたわよ!!」

 

ドクルンはプリキュア2人の表情とは逆に、満面の笑みを浮かべている。

 

「くっ・・・・・・!!」

 

「もう動けないでしょう? 頼みの二人も地面に転がってるし、もう一人はもう来ないみたいですし、私にとっては好都合ですねぇ・・・!!」

 

ドクルンはフォンテーヌを見下すように、見下ろすように言った。

 

「っ・・・!!!!」

 

「・・・あら、随分と反抗的な目ですね。痛めつけたら大人しくなりますかねぇ」

 

フォンテーヌは悔しそうな表情でドクルンを睨みつけると、ドクルンは小馬鹿にするような笑みを浮かべながら、ギガビョーゲンに片手で指示を出す。

 

キリキリキリ・・・!!!!

 

「ぐっ・・・うぅぅぅぅ・・・!!!!」

 

ギガビョーゲンはフォンテーヌを拘束しているシーツを締め上げ、フォンテーヌの顔が苦痛に歪み、さらなるうめき声をあげる。

 

「ふふふ・・・クルシーナの気持ちも少しはわかるわねぇ♪」

 

「うっ・・・くっ・・・っ・・・!!!」

 

ドクルンが笑みを浮かべながらぼそりと呟いている間にも、フォンテーヌはシーツで締め付けられて苦痛に呻いている。

 

「フォンテーヌ!! やめてください!!!!」

 

「フォンテーヌにひどいことしないでよ!!!!」

 

「・・・うるさいですね。負けた奴は黙ってなさい・・・!!」

 

スパークルとアースが非難の声をあげるも、ドクルンは不愉快そうな顔をして一蹴する。

 

「さてと、ギガビョーゲン。ここ一帯もそろそろ全部蝕んでやりなさい」

 

「ギガァ!!!!」

 

ドクルンに指示されたギガビョーゲンは、額のブラシのような部分から赤く禍々しい光線を放って、山一帯の木々をあっという間に病気に蝕んでいく。

 

「ふふふ・・・やっぱり病気に染まったところは眺めがいいですねぇ♪ さすがはとうじくん、生き生きとしてます♪」

 

恍惚としたような表情を浮かべるドクルン。しかも、ギガビョーゲンをとうじと重ねていて、一緒に病気を蝕んでいる感じがして、心地よかった。

 

「な・・・なん、で・・・・・・」

 

「ん?」

 

「なんで・・・とうじを、ギガビョーゲンに・・・したの・・・? りょう・・・!!」

 

「っ・・・・・・!!」

 

フォンテーヌは締め付けに苦しみながらも、弟を怪物にした理由を問いかける。その時に名前を言われたドクルンは顔を顰める。

 

「「「えっ・・・!?」」」

 

「ドクルンが、りょうペエ?」

 

スパークルとアースも驚いていたが、一番驚いていたのはペギタンだった。ちゆはいつの日か、自分に幼馴染のことを話してくれた。その彼女がまさか、ビョーゲンズになっているとは思わなかったのだ。

 

「・・・・・・気づくのが遅いのよ」

 

ドクルンは先ほどとは打って変わって、冷淡な口調になっていた。

 

「ちなみに聞くけど、いつ気づいてたの・・・・・・?」

 

「あなたが・・・とうじと、話してた、時よ・・・・・・。りょうが、いるわけがないと思って・・・見てたの・・・・・・とうじが連れて行かれて・・・ギガビョーゲンになってから、確信したの・・・ドクルンはりょうだって・・・・・・!」

 

フォンテーヌはギガビョーゲンがもう一体現れたことから、とうじを連れて行ったりょう、すなわちドクルンがりょうであると確信したのだ。

 

「本当に気づくのが遅いわ・・・・・・!!」

 

ドクルンはそれを聞くと、さらに不快そうに顔を顰めた。

 

「ねえ、ちゆ・・・最初に会ったとき、一緒にペットボトルのロケットを打ち上げたよね? 覚えてる??」

 

「っ・・・・・・!」

 

「一緒にお揃いのミサンガを買ったり、永遠の大樹で友情を誓ったりしたよね? それも忘れてない??」

 

「っ・・・・・・」

 

ドクルンはりょうのときの思い出を次々と話すも、フォンテーヌは目をそらして答えようとしない。後ろめたい気持ちがあるのか、今の彼女の顔を見たくないのか。

 

「っ、なんとか言いなさいよ!!!!」

 

キリキリキリキリキリ・・・・・・!!!!

 

「ぐっ、うぅぅぅぅ!!! うっ・・・くっ、うぅぅぅぅぅ・・・!!!!!」

 

ドクルンが睨みつけながら叫ぶと、その怒りに呼応するかのようにギガビョーゲンが先ほどよりも強く締め付け、フォンテーヌが苦痛の声を大きくする。

 

「ふん・・・まあ、いいわ。とうじくんをギガビョーゲンにした理由だっけ? 私から逃げようとしたからよ」

 

ドクルンが先ほどのフォンテーヌの質問に答え始める。

 

「逃げて離れたりしたら寂しいじゃない。だから、こうやって怪物にしたほうが、離れていかないでしょ?」

 

「まさか・・・それだけのためにとうじくんを・・・!?」

 

「そんな・・・信じられません・・・!!!!」

 

ドクルンがとうじをギガビョーゲンに変えた動機を、スパークルとアースは信じられないという反応を見せる。

 

「ゆる・・・さない・・・許さない、わよ・・・りょう・・・!!! 私の大事な家族に・・・手を、出すなんて・・・!!!!」

 

「許さない・・・・・・?」

 

フォンテーヌはドクルンを睨みつけながらそう言うも、ドクルンはある言葉に反応して再び顔を顰める。

 

「許さないのは私の方よ!!! あなたみたいな裏切り者に・・・!!!!」

 

「っ・・・!」

 

「大体、そんな格好で何ができるっていうわけ? 身動き一つ取れないじゃない。強がるんだったら、バカにだってできるのよ!!!」

 

ドクルンは思いの丈を叫ぶと、フォンテーヌが辛そうな表情をする。自分はりょうに何かひどいことをしてしまったのか、それを思い出せないのが余計に心を痛めていた。

 

そんなドクルンは静かになった途端、口元に笑みを浮かべる。

 

「でも私は寛容だから、あなたのそんな態度にしつこく怒ったりしないわ。許してあげる。あなたのその身一つでね」

 

ドクルンはそう言うと指をパチンと鳴らす。

 

「ギガァ・・・!!!!」

 

キリキリキリキリキリ・・・・・・!!!!

 

「くっ・・・うっ・・・ぅっ・・・ぁ・・・・・・!!」

 

するとギガビョーゲンは絞め殺さんばかりの強い力で締め上げ、フォンテーヌの表情は再び苦痛に歪み、呻き始めた。

 

「ふふふ・・・♪」

 

「うぁ・・・ぐっ・・・くっ・・・うっ・・・ぁ・・・ぁ・・・!!」

 

キリキリキリキリキリキリキリ・・・・・・!!!!

 

「ぁ・・・あぁ・・・くっ・・・ぅぁ・・・ぁ・・・ぁっ・・・」

 

ドクルンが不敵に微笑む中、ギガビョーゲンは容赦無くフォンテーヌを締め付ける。フォンテーヌは苦痛に耐えていたが、あまりの苦しさに表情から力が抜け始めた。

 

「っ、やめてください!!!!」

 

「フォンテーヌが死んじゃうよ!!!!」

 

スパークルとアースがギガビョーゲンを止めるように叫ぶも、ドクルンは冷たい目で二人を見下ろした。

 

「あなたたちは地面に這いつくばってなさい。ちゆはもうすぐで私のものになるんだから・・・・・・」

 

ドクルンは二人の言葉を払いのけると、再びフォンテーヌに視線を向ける。

 

「ちゆ・・・苦しいでしょうけど、すぐ楽になるわよ」

 

「うぅぅ・・・ぁっ・・・ぁ・・・ん・・・んぅっ・・・くっ・・・」

 

ドクルンにそう声をかけられるフォンテーヌはすでに顔に力がなくなっていて、弱々しい呻き声しかあげていない。意識も朦朧としている模様。

 

(とう・・・・・・じ・・・・・・)

 

フォンテーヌは薄めを開けながらも、視界のピントが合わずにギガビョーゲンがはっきりと見えない。それでも弟のことを思い続ける。

 

このまま絞め落とされるのも時間の問題かと思われた。その時だった・・・・・・。

 

「実りのエレメント!! ふっ!!」

 

「「っ!!」」

 

グレースの叫びが聞こえてきたかと思うと、スパークルとアースの拘束されていたシーツが破られて、拘束から解放される。

 

「「グレース!!」」

 

「はぁっ!!」

 

さらにグレースはピンク色の刃を飛ばして、フォンテーヌが拘束しているシーツが切り、解放されたフォンテーヌが力なく落ちていく。

 

そんなフォンテーヌを拘束から解放されたアースが受け止める。

 

「フォンテーヌ!! 大丈夫ですか!?」

 

「うっ・・・ケホケホッ・・・だ、大丈夫、よ・・・!!」

 

アースが心配して声をかけると、フォンテーヌは咳き込みながらも微笑みながらそう言った。

 

「っ・・・随分と遅かったじゃないですか・・・!!!!」

 

ドクルンはその様子に睨みつけつつも、口調は冷静を保っていた。

 

「っ・・・うぅ・・・!」

 

グレースは三人を助け出した後、その場に膝をついてしまった。

 

「グレース、大丈夫!? ちょっ、すごい汗なんだけど・・・!?」

 

「はぁ・・・はぁ・・・だ、大丈夫だよ・・・私は・・・まだ、戦える・・・・・・」

 

スパークルが近寄って気遣うも、グレースは手で静止してなんとか立ち上がる。その額には玉のような汗がポツポツと出ていた。

 

「グレース、ありがとう・・・少し休んでて、あとは私たちが・・・!!」

 

フォンテーヌはゆっくりと起き上がって立ち上がり、ステッキを構えながらそう言うが、グレースもフォンテーヌの隣に立つ。

 

「大丈夫・・・一緒に、とうじくんを助けよう・・・?」

 

「グレース・・・・・・」

 

グレースは強い意志を持ってそう言う。フォンテーヌはグレースの方をみると、彼女はお手当てをする意志を無くしていない表情だった。

 

フォンテーヌはその意志を感じ取ると、目の前のギガビョーゲンを見据える。

 

「・・・わかったわ。でも、無理はしないでね」

 

「うん・・・・・・」

 

二人はお互いの意思を確かめ合うと、改めてギガビョーゲンを見据える。

 

「そうやって他の女性にうつつをぬかして!! 私はそう言うあなたが大嫌いなのよ!! ちゆ!!」

 

ドクルンはグレースと絡んでいたことが気に入らなかったのか、怒りに任せてそう言うと手を広げる。

 

「ギガビョーゲン!! 余計なやつを潰してしまいなさい!!」

 

「ギガァ!!!」

 

ドクルンに指示されたギガビョーゲンは、両肩のバケツから赤い光線を放ってくる。

 

「葉っぱのエレメント!!」

 

グレースは葉っぱのエレメントボトルをステッキにセットすると、エレメントの力を纏ったピンク色の光線を放った。

 

ピンク色の光線と赤い光線がぶつかり合い、互いの光線を押し合う。しかし、明らかにギガビョーゲンの光線が強く、すぐに押し返されていく。

 

「ぐっ、うぅぅぅぅぅ・・・!!!!」

 

「押し返されるラビ・・・!!!」

 

グレースは謎のだるさが原因で光線を押し返すことができず、苦しそうな表情をする。

 

「火のエレメント!! はぁっ!!!」

 

スパークルが火のエレメントボトルをセットし、ステッキから火を纏った光弾を連続で放つ。

 

「ギ・・・ギガ・・・??」

 

ギガビョーゲンの顔面に光弾が当たり、怪物は嫌そうに顔を顰める。

 

「今ラビ!!」

 

「っ・・・はぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ギ・・・ギガァ・・・!?」

 

ラビリンの言葉を合図に、グレースは残る力を振り絞って光線の勢いを強くし、赤い光線を押し返していく。

 

「空気のエレメント!! はぁっ!!!!」

 

「ギガァ!?」

 

アースはその隙間に入って、空気のエレメントボトルをハープにセットし、空気の弾を放ってギガビョーゲンを空中に吹き飛ばす。

 

「氷のエレメント!! はぁっ!!」

 

フォンテーヌは氷のエレメントボトルをセットして、氷を纏った光線を放った。空中にいたギガビョーゲンに命中し、氷漬けになって地面へと落下した。

 

「っ〜〜〜・・・!!」

 

ドクルンは珍しく悔しそうな表情を見せていた。

 

「ギガァ!!!!」

 

しかし、ギガビョーゲンは氷漬けから解かれるとすぐに起き上がって、こちらへと再び向かってきた。

 

「沢泉は・・・家族は・・・私が守る!!!! ラテ、お願い!!」

 

「ワウ〜ン!!」

 

フォンテーヌの言葉を合図に、ラテが大きく鳴き声を上げる。

 

「「「「ヒーリングっどアロー!!!!」」」」

 

4人がそう叫ぶとラテがステッキとハープ、エレメントボトルの力を一つにまとめた注射器型のアイテム、ヒーリングっどアローが出現する。

 

その注射器型のアイテムに、ハートの模様が描かれたエレメントボトルをセットする。

 

「「「「ヒーリングアニマルパワー!! 全開!!」」」」

 

ヒーリングアニマルたちのダイヤルが回転し、その注射器型のアイテムが4つに別れるとグレースにはラビリン、フォンテーヌにはペギタン、スパークルにはニャトラン、アースにはラテの部分で止まり、グレースたち4人の服装や髪型などが変化し始める。

 

そして、4人の背中に翼が生え、いわゆるヒーリングっどスタイルへと変化を遂げる。

 

「「「「アメイジングお手当て、準備OK!!!!」」」」

 

4人は手に持っている注射器のレバーを引くと、虹色のエレメントパワーがチャージされる。

 

「「「「OK!!!!」」」」

 

そして、パートナーのヒーリングアニマルたちがダイヤルから光となって飛び出し、思念体の状態になって現れ、パートナーに寄り添った。

 

「「「「プリキュア!ファイナル!! ヒーリングっど♡シャワー!!!!」」」」

 

プリキュアたちがそう叫ぶと、レバーを押して4色の螺旋状の強力なビームを放った。4色のビームは螺旋状になって混ざり合いながら、ギガビョーゲンへと向かっていき光へと包み込んだ。

 

ギガビョーゲンの中で4色の光は、それぞれの手になって中に取り込まれていたとうじを優しく包み込む。

 

ギガビョーゲンをハート状に貫きながら、4色の光線は力を外に出した。

 

「ヒーリン、グッバイ・・・・・・」

 

「「「「「「「お大事に」」」」」」」

 

「ワフ~ン♪」

 

ギガビョーゲンが消えたと同時に、広範囲に渡って蝕まれていた山の木々が元の色を取り戻していく。

 

「ふん・・・・・・」

 

ドクルンはその様子を見届けたあと、不機嫌そうに鼻を鳴らすと踵を返す。

 

「りょう!!」

 

「っ・・・・・・」

 

そこへ聞こえてくるフォンテーヌの声、ドクルンは足を止めて振り向いた。

 

「私は、あなたには負けないわ!! 私が必ず!! 元の優しいあなたに戻して見せるから!!」

 

「私を・・・元に戻す・・・? ふふふふふふ・・・あはははは!!!!」

 

フォンテーヌの決意を込めた叫びに、ドクルンは笑い声を上げる。

 

「やれるもんならやってみなさいよ。ちゆ・・・・・・私は諦めないからね・・・・・・」

 

ドクルンは淡々とそう言い放つと、その場から姿を消した。

 

浄化を終えて、変身を解いたのどかたち。ちゆは意識を失って倒れていたとうじを見守っていた。

 

「とうじ!! とうじ!!!!」

 

「っ・・・うっ・・・」

 

ちゆはとうじの体を揺らして声をかける。すると、とうじが顔を顰めてゆっくりと目を開ける。

 

「あれ、お姉ちゃん・・・?」

 

「・・・!!!!」

 

とうじは目を覚ますと、ちゆはとうじを抱きしめた。

 

「よかった・・・!! 本当に、よかった・・・!!!!」

 

「お・・・お姉ちゃん・・・苦しいよ・・・・・・!」

 

ちゆは涙を流しながら、とうじを助けることができたことを喜んだ。

 

「「「ふふふっ♪」」」

 

その様子をのどかたち3人はお互いに微笑んだ。

 

「帰りましょう・・・」

 

「・・・うん」

 

ちゆは優しく微笑みながら、とうじも少し頬を赤く染めていた。

 

旅館への帰路、とうじがこんなことを話していた。

 

「りょうお姉ちゃん・・・どこに行っちゃったのかな・・・?」

 

「っ・・・・・・!」

 

ふと呟かれた言葉に、ちゆは辛そうな表情をする。どうやらとうじはギガビョーゲンにされる数分前の記憶がないようだ。

 

しかし、りょうが実はビョーゲンズになっているだなんて、彼に言えるわけがない。だからと言って、このままとうじを心配させるのも酷だ。

 

「・・・・・・とうじ」

 

「??」

 

ちゆは少し考えた後、足を止めてとうじに声をかける。

 

「りょうは病院に戻ったわ。私、りょうと話をしたの。まだ治療の最中で、体調が好転したからここに戻ってきたんだって。今度はもっと元気になって、このすこやか市に戻ってくるって」

 

「りょうお姉ちゃんがそんなことを・・・?」

 

ちゆはそんなことを言いつつも、内心では心を痛めていた。今、言っているのはとうじを安心させるための嘘だ。こんな純粋なとうじに嘘をつかなければならないとなると、心が痛くなる。

 

そして、ちゆはとうじの肩に手を置く。

 

「だから、心配しなくていいわ。りょうは病気と必死で戦っているのよ。私たちが信じてあげないと、りょうも浮かばれないわ」

 

「・・・うん。そうだね。りょうお姉ちゃんも頑張ってるんだもんね」

 

ちゆのその言葉を聞いたとうじは笑みを浮かべる。どうやら彼女の言葉で心配が薄れてきたようだ。

 

「よ〜し!! 僕も、お客様のために、自分にできることを精一杯やって・・・いつかお姉ちゃんみたいになって、りょうお姉ちゃんに自慢できるようになって見せる!!」

 

とうじはそう話すと一目散に旅館へと駆け出していく。

 

(りょう・・・私は、あなたを絶対に元に戻す・・・!! とうじのためにも・・・)

 

そんな中、ちゆはりょうをビョーゲンズから解放することを誓ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、廃病院のアジトでは、クルシーナが地下で眠っているクラリエットの様子を見に来ていた。

 

クラリエットを包む赤い靄は、うねうねと生きているように激しく動いていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

そんなクラリエットの異常がないことよりも、クルシーナが気になっているのはドクルンから受け取ったテラパーツだった。

 

「お父様も無茶苦茶なのよね・・・計画とはいえ」

 

クルシーナはキングビョーゲンが発した命令を思い返しながらそう呟いていた。進化を遂げろという命令、シンドイーネやイタイノン、ドクルンが進化したことから思いついた計画。

 

今までのダルイゼンや自分、グアイワルの成果を無視したかのように言い放ち、正直手柄を取られたような気分で面白くない・・・・・・。

 

「別にアタシは、こんなもの使う必要ないんだけどなぁ・・・・・・」

 

それに自分はこんなものを体に入れなくても、特に問題はない。私は姿を変化させなくても、ギガビョーゲンを生み出すことができるのだから。

 

「・・・・・・・・・」

 

でも、お父様も最近はうるさいし、他にだしぬける方法が思いつかない以上はこのテラパーツを中に入れるしかない。逆にいえば、人間を怪物にして地球を病気で蝕むのも面白そうだ。

 

クルシーナは再びクラリエットの方を見る。

 

「・・・クラリエットお姉様、アタシは正直いらないけど、進化するわ。別にアンタのためじゃなければ、お父様の為でもない。アタシ自身の目的のためよ」

 

クラリエットから返事は相変わらず返ってこないが、クルシーナはそう呼びかけた。

 

「まあ、いい加減お父様を痺れを切らしているみたいだしね」

 

クルシーナはそう言いながら、テラパーツを躊躇なく体の中に入れた。

 

ドックン!!!!

 

「っ!!!!」

 

その瞬間、クルシーナの体に激痛が走り、彼女の体から禍々しいオーラが溢れ出す。

 

「なるほどね・・・!! あいつらもこんな痛みを・・・でも、アタシはそんなのに屈しないわよ・・・!!!! アタシはビョーゲンズの、お父様の娘のクルシーナなんだから・・・!!!!」

 

クルシーナは顔を顰めつつも、強気にそう言い放った。

 

「ぐぅぅぅぅぅぅぅ・・・うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

そのまま口から咆哮をあげると、クルシーナの体は禍々しいオーラに包まれていき、その変化を遂げていく。

 

「っ・・・はぁぁぁあぁ!!」

 

そして、自らオーラを振り払うとクルシーナは進化した姿を晒した。

 

「ふふ・・・ふふふふふふ・・・!!!!」

 

自分の変化した姿を見ながら、クルシーナは含んだ笑いをこぼす。

 

「じゃあ、また来るわ・・・クラリエットお姉様」

 

クルシーナはそう挨拶を交わすと、部屋を後にしていく。

 

「フッ・・・・・・」

 

そして、眠っているはずのクラリエットの口元には笑みが浮かんでいたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第116話「先生」

原作第33話がベースです。
物語のキーとなる、オリジナルの新キャラが登場します。

今回は話の導入部分を書いたので、いつもよりは短いです。
次回から、いろんなことが明らかになります。


 

ビョーキングダムーーーーそこでは、ダルイゼンが呼び出しを受けていた。

 

「どうした? ダルイゼン・・・我はお前にも進化しろと命じたはずだ」

 

「・・・・・・・・・」

 

ダルイゼンが問われていたのは、いまだにメガパーツを自分の中に入れて進化をしていないことだ。以前、キングビョーゲンはメガパーツを入れて進化するように幹部や娘たちに命じた。グアイワル、ヘバリーヌ、フーミンは進化を遂げたが、ダルイゼンだけは様子を見ようとしていなかったのだ。

 

今回、ダルイゼンが呼び出しを受けたのはそのことだ。なぜまだ進化を遂げていないのか? それをキングビョーゲンに詰め寄られているのだ。

 

「クルシーナはとうに終わらせているぞ? もしや、怖気ついたか?」

 

「そういうわけじゃ・・・・・・」

 

詰め寄るキングビョーゲンに対し、ダルイゼンがそう言うと・・・・・・。

 

「ならばわかっているな!!??」

 

「っ・・・・・・」

 

今まで見たことがない気迫のキングビョーゲンに押されて、思わずダルイゼンも黙って頷く。

 

「進化をして更なる力を得るのだ、ダルイゼン・・・!! 期待しているぞ・・・!!」

 

キングビョーゲンはそう言い放つと、霧のようにすっと消えていった。

 

キュイーン!

 

そこへ風の切るような音が聞こえてくると、背後からクルシーナとカスミーナが現れた。

 

「ダルイゼン、お父様に命令されてるでしょ? メガパーツを入れて、進化しろって」

 

「・・・それがどうかしたの?」

 

「早く入れなさいよ。お父様もいい加減アタシたちの活発な活動の進まなさに、痺れを切らしてるのよ」

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナとダルイゼンが淡々と会話をすると、ダルイゼンはメガパーツを見つめる。そして、クルシーナの進化した新たな格好も見る。

 

髪型はワインレッドになっていて、頭には牛の形のようなツノと悪魔のツノの4本生えている。服装はマジシャンのような衣装から肩が露出した黒いフリルがついているドレス姿で、足には黒いタイツを履いており、背中にはコウモリのような羽が4枚生えている。顔の右頬部分には逆さまのハートマークがあり、両目はピンク色のアイシャドウがついている。

 

「・・・・・・お前のその格好にはなりたくないな」

 

「なんとでも言ったらぁ? 早く進化しろ」

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナは嫌味を受け流して詰め寄ると、ダルイゼンは再度メガパーツを見つめる。

 

「・・・・・・カスミーナ」

 

「はい」

 

痺れを切らしたクルシーナがカスミーナに命じると、彼女はダルイゼンに近づいていく。

 

「やめろ!!!!」

 

ダルイゼンが珍しく怒鳴り声を上げる。カスミーナはそれに歩みを静止させた。

 

「何よ? アンタが躊躇してるから、手伝ってやろうと思ったのにさ」

 

「・・・いや、大丈夫だ。自分でいける」

 

クルシーナは不機嫌そうな表情を向けながら言うと、ダルイゼンは手を貸さなくてもできると主張する。

 

「でも、別にこれはキングビョーゲンのためじゃない。これは・・・俺のためだ」

 

「だったらさっさと入れな」

 

ダルイゼンはメガパーツを見ながら、そう言うと静かにメガパーツを自分の体の中に入れた。

 

ドックン!!!!

 

「・・・っ、ぐっ!? うぅ・・・うあぁぁぁぁぁ!!!! あぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

その瞬間、ダルイゼンから禍々しいオーラが溢れ出して苦しみ出し、やがて彼の口から絶叫が上がった。

 

「ふふふ♪ まあ、ダルイゼンの進化は楽しみにしておきましょうかね」

 

「そうですね・・・・・・」

 

クルシーナとカスミーナはそう言いながら、その場を後にしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン・・・♪

 

「それじゃあ、今日はこれまで。気をつけて帰れよ?」

 

ある日、いつものように学校の授業が終わり、担任の円山先生がそう言うと、生徒たちは下校をしたり、部活動に行ったりと散らばり始めた。

 

「ねぇねぇ、ちゆちー。今日部活?」

 

「ううん。朝練だけよ」

 

「じゃあ、夢ポート行かない? セール始まったんだよね・・・50%オフ。のどかっちも行こっ?」

 

ひなたは夢ポートに行くために、ちゆやのどかを誘い始めた。

 

「ごめんね。私、今日は約束があるんだ・・・・・・」

 

のどかが他の用事があると知り、ゆめポートに行くのを取りやめて下校し始めた。

 

「それで一日、ソワソワしてたのね」

 

「うん・・・・・・」

 

「何々〜? 家族でどこか行くの〜??」

 

「あのね・・・大好きな人に会えるの♪」

 

「大好きな人?」

 

「何それ〜? 恋バナ!?」

 

のどかたちが楽しげに会話をしながら歩き、正門付近までやってくる。すると・・・・・・。

 

「お〜い! のどかちゃ〜ん!!」

 

「「「っ??」」」

 

正門の外で、のどかを呼ぶ声が聞こえてその方向をみると、そこには1人の男性と女性が立っていた。

 

「蜂須賀先生!!」

 

「「?・・・えっ!?」」

 

のどかは目の前に立つ男性を見て喜んだが、ちゆとひなたは逆に驚いていた。

 

「誰??」

 

「先生と言っていたけど・・・?」

 

ちゆとひなたはお互いに顔を見合わせながら、もしやと思いながら男性を見ていた。

 

「? 先生・・・この人は?」

 

のどかは隣にいるポニーテールの若い女性を、蜂須賀先生に尋ねてみた。

 

「ああ、この人はね・・・・・・」

 

蜂須賀先生が説明をしようとすると、若い女性は自ら前に出る。

 

「そう言えば・・・のどかちゃんは私と話すのは初めてだったかしら?」

 

「あれ? なんで私の名前を知ってて・・・・・・?」

 

微笑みながらそう言う若い女性に、のどかは疑問を抱く。自分を病院時代にお世話をしてくれた先生はたくさんいたが、こんな綺麗な若い女性は見たことがない。

 

「私も、あなたが入院していた病院で、蜂須賀先生と勤務していました。中島と言います。よろしくね、のどかちゃん」

 

中島と名乗った若い女性は、のどかにそう微笑みながら見つめていた。

 

のどかたちは蜂須賀先生、中島先生と話す前に一旦帰宅。アスミを連れてハート型の展望台へと行き、そこに来ていたワゴンカフェに集まった。

 

そこでちゆとひなた、アスミはのどかから蜂須賀先生の話を聞く。

 

「へぇ♪ のどかっちのお医者さん!!」

 

「うん。入院してたとき、診てくれた先生なの♪ えっと、中島先生は・・・・・・」

 

のどかが中島先生のことを話そうとしたとき、中島先生は笑みを浮かべるとコートのポケットから一枚の写真を取り出してテーブルに置き、のどかたちに見せる。

 

「「「「??」」」」

 

のどかたちはその写真を見ると、そこには中島先生とその中に一人の少女が写っていた。少女は口元に微笑んでいたが・・・・・・。

 

「「「っ!?」」」

 

アスミ以外の3人はそれを見た途端に、驚いてお互いに顔を見合わせ始めた。この少女・・・・・・忘れるはずもないあの娘にそっくりだったのだ。

 

「「「えっ・・・!?」」」

 

「こ、この娘って・・・!?」

 

「?? この娘を知ってるの?」

 

のどかたちが思わず声を出したことに、中島先生は首を傾げる。

 

「ん? この少女はクルーーーーんっ??」

 

「そ、その・・・この娘は大昔の友達に似ていたから、びっくりしちゃったんです!!」

 

一人驚いていないアスミがその名前を出しそうになったとき、ちゆが慌てて口を塞いで静止しそう言うと、のどかとひなたもうんうんと頷く。

 

「あらそうなの? 私ね・・・この娘の主治医をやってたの」

 

中島先生はそう納得すると、写真に写っている少女について話した。

 

(中島先生って・・・・・・!?)

 

(しんらちゃんの主治医だったんだ・・・!?)

 

(なんか、話しづらいなぁ・・・・・・)

 

のどかたちは心の中で中島先生が来栖しんらの主治医であることに驚いていた。三人はしんらがクルシーナというビョーゲンズの一員になっていることを知っている。だから、思わず本当のことを口走ってしまいそうで、話しづらかった。

 

「お二人はどうして、こちらに来られたのですか?」

 

「纏ったお休みが取れることになってね。元気になったのどかちゃんの顔が見たくなったんだ。そしたら、中島先生ものどかちゃんのことを聞いて、その町に行くと言ってね・・・・・・」

 

「ええ。私ものどかちゃんが元気に過ごしているか見たかったの。私、この娘ーーーーしんらちゃんの主治医をやってたけど、病院で二人が仲良くしているのをよく見てたのよ」

 

「そ・・・そうだったんですか・・・・・・」

 

アスミが尋ねると、蜂須賀先生と中島先生はそう話し、聞いていたのどかは表情を暗くしながら答えた。

 

「お二人は、どういう関係なんですか?」

 

「病院の同僚さ。中島先生は素晴らしい先生でね。お互いに患者を対応して、一緒に病気を直していた中だよ」

 

「やめてください、蜂須賀先生。私は先生なんかより全然経験なんかないですよ。まだ主治医を勤められるようになったばかりの、駆け出しの医者です」

 

今度はちゆが尋ねると、蜂須賀先生が話し始め、中島先生は照れ臭そうに謙遜しながら言った。

 

「のどかはあの人とずっと手紙のやり取り続けてたんだろ?」

 

「ラビ。それで今晩、のどかの家族と一緒に食事をすると言ってたラビ」

 

その様子をハート型の展望台の上からラビリンたち、ヒーリングアニマルが見守っていた。

 

「早く着いたから、のどかちゃんが学校生活を送っているところを見たかったんだ」

 

「制服、似合ってたわよ、のどかちゃん」

 

「ふふふっ♪」

 

「仲良しの友達もたくさんできたんだって?」

 

「そうなの!!」

 

のどかと蜂須賀先生、中島先生が楽しく話している。

 

「初めまして。私、風鈴アスミと申します」

 

「ああ、君が!」

 

「こちらはラテです♪」

 

「ワン♪」

 

「こんにちは〜♪」

 

のどかが紹介するよりも先に、アスミが自ら先生たちに自己紹介を行った。

 

「同じクラスの沢泉ちゆです」

 

「あなたが沢泉のお嬢さんね♪」

 

「僕たちの宿は、沢泉にしたんだよ」

 

「そうだったんですね! ありがとうございます!」

 

ちゆは先生たちが止まることを知り、笑みを浮かべながら例を言った。

 

「ってことは、君が平光ひなたさんだ」

 

「うぇっ!? なんで知ってるの?」

 

「ははは。のどかちゃんの手紙に書いてあったからね」

 

「蜂須賀先生の手紙で、私たちはのどかちゃんが元気だってことを知ったのよ。元気でやっているみたいで、先生と一緒に安心していたわ」

 

ひなたが驚くと、蜂須賀先生と中島先生はそう話す。

 

「あっ!?」

 

「ワンワン!ワン!」

 

すると、ラテが蜂須賀先生の腕から離れて辺りを走り出した。

 

「ラテ!?」

 

「どうしたの〜!?」

 

そのラテをのどかとアスミが追いかけて行く。

 

「あははは♪ 先生抱き方下手なんだも〜ん!」

 

「いやぁ〜。ははは・・・・・・」

 

「先生は人の扱いは慣れていても、動物の扱いは慣れていませんもんね♪」

 

蜂須賀先生は苦笑しながら、ラテやのどかたちの方を見つめる。

 

「ラテ、お待ちください!!」

 

「ワンワン♪」

 

「もぉ〜、追いかけっこしたいの〜?」

 

辺りを駆け回るラテを見て、のどかたちはラテと一緒に追いかけっこを始めた。

 

「あははは♪ 待て待てー♪」

 

「待てー♪」

 

そこへひなたも参戦して、みんなで一緒に追いかけっこで遊んだ。

 

「のどかちゃんは元気そうね・・・・・・しんらちゃんもあんな風に元気だったらいいんだけど・・・・・・」

 

中島先生はのどかたちの方を見ながら、その表情はどこか寂しそうだった。

 

「・・・・・・・・・」

 

ふと中島先生の方に視線を向けた蜂須賀先生は、そんな彼女を静かに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、沢泉の旅館では、のどかの両親と、家で世話になっているアスミ、蜂須賀先生、中島先生が客間で会食を行なっていた。

 

「ふふふっ、みんな美味しい〜♪」

 

「あーむ、モグモグ、ふわぁ、これも美味しい〜♪」

 

「本当、さすが沢泉ね!」

 

「素晴らしく上品で、繊細な味ですね」

 

のどかたちは旅館の料理に舌鼓をしていた。

 

「ちゆちゃんのおじいさんが板前なの!」

 

「おっ? 自分が褒められたみたいに〜」

 

「だってぇ〜」

 

「「「あはははは!!!!」」」

 

「・・・・・・・・・」

 

のどかたちが楽しく会話している中、中島先生だけは浮かない顔をしていた。

 

「あの・・・私がこんなところにいていいんでしょうか? せっかくの家族とお世話になった医者との水入らずなのに・・・・・・」

 

「気にする必要はないよ。僕の病院仲間だしね」

 

「そうですか・・・・・・」

 

中島先生は明らかな場違いにいることを話すも、蜂須賀先生は特に気にしていない様子だった。

 

そんな頃、ちゆの部屋ではちゆがラテにご飯を与えていた。

 

「ラテ、美味しい?」

 

「ワン♪」

 

ラテはちゆが与えてくれたご飯を食べて、満足げであった。

 

「ラビリンものどかと一緒にご馳走食べたかったラビ・・・・・・」

 

「今日は仕方ないペエ」

 

ラビリンは家族がいるために、沢泉の料理を食べることはできず、羨ましそうにしていた。

 

「お客様と同じものは無理だけど、みんなにも後で何か用意するわ」

 

「っ! やったぁ〜!! ラビ♪」

 

「ご飯が目的だったペエ・・・??」

 

ちゆがそう言うと、ラビリンはご飯が食べれると喜び、ペギタンは苦笑いしながら見ていた。

 

「それにしても・・・中島先生がしんらさんの主治医なのは驚いたわ・・・・・・」

 

「クルシーナにも、あんなに優しそうな先生がいたラビ・・・・・・」

 

「でも、なんでクルシーナになってしまったペエ・・・?」

 

ちゆたちは中島先生の話をし出し、あんなに優しい先生からどうしてしんらがクルシーナになってしまったのかと考えていた。

 

それからしばらく経ち、のどかたちは・・・・・・。

 

「モグモグ・・・ん〜♪ お腹いっぱいなのに食べらちゃう。どうしよ〜♪」

 

「すごい食欲ね。まだ食べれるくらいなんじゃないの♪」

 

のどかは料理をお腹いっぱいに食べた後、食後のデザートを美味しそうに食べている。中島先生はそう言いながら驚き、それ以外のみんなはそんな彼女を微笑ましげに見つめていた。

 

「? なぁ〜に?」

 

「うん。元気になったんだなって思ってね」

 

「うん!私ね、今と〜っても、生きてるって感じ♪」

 

のどかは蜂須賀先生の言葉に対して、生き生きしたような笑顔で元気に答え、のどかの両親はそれに微笑みながら見ていた。

 

「蜂須賀先生」

 

「??」

 

「改めて、本当にありがとうございました」

 

のどかの両親は蜂須賀先生に頭を下げながらお礼を言った。

 

「あっ・・・いいえ!僕は何も!!」

 

「先生が・・・根気よく見てくださったから、のどかは今、笑顔でいられるんです」

 

「こちら側からお礼に行かなきゃいけないところ、わざわざお越しいただいてーーーー」

 

「っ・・・・・・」

 

のどかの両親がそう言うと、蜂須賀先生は何やら少し顔を俯かせて、浮かない顔をしていた。

 

「実は・・・今日は休暇じゃないんです・・・・・・」

 

「と、いうと・・・・・・?」

 

「僕、病院を辞めました・・・・・・」

 

「「えっ・・・!?」」

 

「っ!?」

 

蜂須賀先生の告白に、みんなは驚き、特にのどかは動揺を隠せずにいた。

 

「・・・私も・・・・・・一緒に辞めました。数ヶ月前に・・・・・・」

 

中島先生も辛そうな表情で、言いづらそうにそう告白した。

 

「それはまた、どうして・・・・・・?」

 

「なんというか・・・・・・のどかちゃんの病気については、最後まで何一つわからずじまいで・・・・・・僕は医者でありながら、結局何もできませんでした・・・・・・」

 

「っ・・・それは・・・・・・!?」

 

蜂須賀先生の言葉に、のどかは先生のせいじゃない、病気は別の原因があるということを説明しようとしたが、あれがビョーゲンズの仕業であると言うことができず、口をつぐんだ。

 

「・・・・・・??」

 

中島先生はその様子を不思議そうに見つめている。

 

「それで、あまりの自分の無力さを痛感しまして・・・・・・」

 

「違うよ!!」

 

「えっ?」

 

「私、先生がいたから!! 先生が励ましてくれたから頑張れたのに!!」

 

蜂須賀先生のその言葉に、のどかはそんなことないと言う。

 

「ありがとう・・・・・・でも、励ますだけなら、医者じゃなくてもできると思うんだ」

 

「っ・・・・・・!!」

 

「だからねーーーー」

 

「違う・・・違うの!! 待って!! 私、聞いてくる!!」

 

のどかはそう言って勢いよく立ち上がると、客間を飛び出していく。

 

「のどかちゃん!?」

 

「えっ・・・?」

 

「のどか・・・・・・?」

 

「聞いてくるって、誰に・・・・・・?」

 

「・・・・・・・・・」

 

みんなが不思議そうな反応をする中、中島先生はのどかのことが気になっていた。

 

「っ・・・・・・・・・」

 

きっと・・・彼女は何かを知っている。自分が病気になった原因を・・・・・・。

 

そう考えた中島先生は瞑目すると、その場から立ち上がる。

 

「蜂須賀先生」

 

「??」

 

「私が・・・のどかちゃんのことを見てきます」

 

「あ、あぁ・・・・・・」

 

中島先生は蜂須賀先生にそう断りを入れると、客間の外へと出ていった。

 

「うぅぅ・・・・・・げっぷ」

 

「ごちそうさまペエ・・・・・・ぎっぷ・・・ニャトランにも食べさせてあげたかったペエ・・・・・・」

 

「そうね。また今度ーーーー」

 

その頃、ラビリンとペギタンはちゆの出してくれた料理を食べて、お腹が膨れるほどにいっぱい食べていて、床に転がっていた。

 

「ちゆちゃん、私だよ・・・!!」

 

そんな時、部屋の外からのどかの声が聞こえてきた。

 

「のどかラビ・・・!!!!」

 

「どうぞ」

 

ちゆの言葉に、のどかが勢いよく襖を開けて入ってきた。

 

「ラビリン!! ビョーゲンズのこと、蜂須賀先生に話しちゃダメかな?」

 

「「「えっ・・・!?」」」

 

「どういうこと・・・!?」

 

「先生、何もできなかったって思ってるの・・・ビョーゲンズの生でどうしようもなかったのに。それで先生がお医者さんを辞めちゃうなんて・・・そんなの、そんなのダメだよっ・・・!!」

 

「のどか・・・・・・」

 

のどかがラビリンに向かって、必死にそう訴える。しかし、そんなラビリンたちの表情はあまりいいものではなかった・・・・・・。

 

のどかが瞳を潤ませる中、ラビリンとペギタンはお互いに顔を見合わせた。

 

「お願い・・・ラビリン・・・!! 先生は何も悪くないって、私、伝えたいっ・・・・・・!!」

 

「・・・・・・事情はわかったラビ。でも・・・・・・」

 

「今すぐは無理ペエ・・・・・・」

 

「っ・・・・・・」

 

「テアティーヌ様に相談しないと、ラビリンたちだけでは決められないラビ・・・・・・」

 

「そんなっ・・・・・・」

 

ラビリンたちの答えを聞いたのどかは顔を俯かせて、悲しげな表情を浮かべていた。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

「のどかちゃん、そこにいるの?」

 

「「「「っ・・・・・・!?」」」」

 

部屋の外から声が聞こえてくる。それは、のどかを追ってきた中島先生の声だった。

 

ラビリンたちは見られたらまずいため、慌てて部屋のどこかに隠れる。

 

「どうぞ・・・!!」

 

ちゆがそう言うとゆっくりと襖が開かれ、中島先生が部屋の中に入ってくる。

 

「中島先生、どうしてここに・・・・・・!?」

 

「あなたの様子がおかしいから、心配になって追いかけてきたのよ」

 

のどかが驚いていると、中島先生はのどかへと近づく。

 

「のどかちゃん」

 

そのままのどかの視線と一緒になるように座り込むと、彼女の肩に手を置く。その表情は真剣そのものだった。

 

「自分の病気について、何か知ってるの・・・・・・?」

 

「っ!?」

 

「知ってるなら、私に話してくれないかしら?」

 

「・・・・・・・・・」

 

中島先生が聞いてきたのはのどかの病気のことだった。のどかは驚いて目を見開くも、先生に話して困惑させるわけには行かず、先生から辛そうに目をそらした。

 

中島先生はそれを見ると、自分から口を開いた。

 

「・・・・・・私ね、自分の担当の娘、しんらちゃんの面倒を見ていたんだけど、あなたと同じで原因がわからなかったの」

 

「!!!!」

 

「しんらさんが、ですか・・・・・・!?」

 

中島先生がそう告白すると、のどかは驚いて先生の方を見る。ちゆもそう返すと、中島先生は彼女の方を見る。

 

「あなたも、何か知ってるのね・・・・・・」

 

「っ・・・・・・はい・・・・・・のどかから聞いてます・・・・・・」

 

中島先生がそう言うと、ちゆは観念したように肯定する。中島先生はそう聞くと、再びのどかの方を見る。

 

「私が病院を辞めた日はね、しんらちゃんが別の病院に移動した日なの・・・・・・」

 

「えっ・・・・・・?」

 

中島先生が俯きながらそう告白すると、のどかは再び驚く。しんらちゃんの病院が移動になった・・・・・・? そんなことは、設楽先生からも聞いていない情報だ。

 

「のどかちゃん・・・・・・あなたには、私を責める権利があるわ・・・・・・」

 

中島先生は寂しく微笑みながらそう呟いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなちゆの部屋の窓から一匹の小さなコウモリの妖精が夜空に向かって飛んでいく。

 

そのコウモリは旅館からハート型の灯台の方へと戻っていくと、その上に登っている一人の人物の肩へと止まった。

 

それは、進化を遂げていたクルシーナだった。プリキュアどもがいるコウモリの妖精を飛ばして、その様子を偵察させていたのだ。

 

コウモリはクルシーナに耳打ちするように近づける。

 

「・・・・・・あの先生、来てたんだ」

 

クルシーナは特に感情を変えることなく、淡々とそう呟く。あのプリキュアの青いやつが住んでいる旅館、その部屋の中にのどかと一緒にいた一人の女性ーーーー中島先生のことであった。

 

「ふん・・・今更何よ。のんちゃんのヤブ医者なんかと一緒にいてさ」

 

クルシーナは不機嫌そうにそう呟くと、コウモリの妖精の方を見る。

 

「引き続き、偵察を続けろ。何かあったら、また報告しろ」

 

クルシーナの命令に、コウモリの妖精は頷くように体を動かすと、再び旅館の方へと飛んで行った。

 

手下が飛んでいくのを見届けた後、クルシーナは灯台の上で寝そべり始めた。

 

「クルシーナ・・・・・・」

 

「・・・・・・何よ?」

 

「中島先生に、会わなくていいウツ・・・・・・? ビョーゲンズになってるけど・・・・・・」

 

帽子になっているウツバットが、クルシーナにそう問いかける。

 

「はぁ? 会いにいくわけないでしょ。向こうもどうせアタシのことなんか忘れてるわよ」

 

「そうとは限らないウツ・・・・・・中島先生は、クルシーナーーーーしんらのことを大切に面倒を見ていたウツ。そんな彼女が忘れるとは思えないウツ・・・・・・」

 

ウツバットの言葉に、クルシーナが不機嫌になり始める。

 

「お前はあいつのなんなわけ?」

 

「ウ、ウツ・・・・・・」

 

「大体・・・大切に思ってるなら、なんであんなことをしたんだって話よ。治す気なんかなかったってことでしょ? 医者なんか信用できるか」

 

クルシーナの気迫に、ウツバットは言葉を詰まらせる。言いたい放題言うと、そのままクルシーナは眠ろうと体を横向きにし始めた。

 

「・・・・・・・・・」

 

そんな時、何かを思いついたように目を見開くと、クルシーナは口元に笑みを浮かべる。

 

「まあ、でも・・・・・・会ってみるのもいいかもねぇ・・・・・・」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべながら、そう言ったのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第117話「罪と罰」

前回の続きです。
中島先生にあった、しんらとの出来事とは・・・・・・??


 

沢泉の旅館の廊下で、中島先生はのどかとちゆを連れて話をしていた。

 

「のどかちゃん、ちゆちゃん、ごめんね・・・いろいろと心配させちゃったみたいで・・・・・・」

 

「いえ! 私は特に気にしてないですよ!」

 

「・・・・・・・・・」

 

中島先生がそう言いながら謝罪をすると、ちゆは気にしないでという様子で話す。そんな中、のどかは顔を俯かせていた。

 

「中島先生・・・・・・」

 

「どうしたの?」

 

「『あなたには責める権利がある』って、どういうことですか?」

 

のどかが意を決したように、中島先生に問いかけた。すると、中島先生は寂しげな表情を浮かべながら、旅館の窓を見上げる。

 

「のどかちゃん・・・しんらちゃんはあなたの親友よね?」

 

「はい。しんらちゃんは一緒に治そうと誓った友達です」

 

「っ・・・・・・・・・」

 

中島先生が逆に聞くと、のどかは迷いなくしっかりと肯定する。それを聞いた中島先生は言葉を詰まらせながらも、口を開いた。

 

「・・・・・・私では、しんらちゃんの病気は治せなかったの。さっきも言ったけど、のどかちゃんとおんなじで、しんらちゃんの病気も原因がわからなかったの。いくら調べても、検査を行っても、病気がわからないままで、ずっと彼女を治せずにいたの」

 

「っ・・・・・・・・・」

 

中島先生がそう話すと、のどかも悲しそうに彼女を見つめる。

 

「そんな時ね・・・一本の電話があったの。それはね、私が助手だった頃に、世話になった先生ーーーー」

 

「っ・・・それって・・・!!」

 

中島先生の話に、ちゆは思い当たることがあって話を遮る。

 

「それって・・・設楽先生、ですか・・・・・・?」

 

「っ! 設楽先生を知ってるの・・・!?」

 

「会ったことがあります。ある街で危なくなったところを、彼に助けられました」

 

「そう、なの・・・・・・」

 

ちゆがその名前を出したことに、中島先生は驚く。ビョーゲンズによって奪われた街、そこで一人で戦っていた医者だ。

 

中島先生はちゆから会っていたという話を聞くと、何やら安堵したような表情を浮かべていた。

 

「・・・・・・設楽先生はね、私が助手時代にお世話になっていた先生なの。医者のノウハウや心得とかは、彼にいろいろと教わったわ」

 

「そうだったんですね・・・・・・!」

 

「話を戻すとね・・・・・・その設楽先生から電話があったの。しんらちゃんを最新鋭のあるそっちの病院を移すって。私はどうにかして移すことなく、病気をどうにかしたかったけど・・・・・・設楽先生からはお前にはまだ無理だ、って、言われたの・・・・・・」

 

中島先生は辛そうにそのことを話していた。初めての担当医としてしんらちゃんという患者を診察していた決意。しかし、病気を治せると確信したわけでもなく、設楽先生を説得することはできなかったのだ。

 

「私は・・・そのことで、自分に一人の患者を治せなかったって、今でも後悔してて・・・・・・それで、私は・・・・・・医者を辞める決意をしたの・・・・・・」

 

「・・・それほどに責任感が強かったってことですよね」

 

ちゆがそう言うと、中島先生は静かに頷く。

 

「私はその後も、しんらちゃんの身を心配して、設楽先生には何度も電話をかけたわ。でも、しんらちゃんを送ってから1ヶ月後に、連絡は取れなくなったの・・・・・・」

 

「そう・・・なんですか・・・・・・」

 

のどかは力なく呟いた。その連絡が取れなくなったということは、その時に彼女がビョーゲンズとなってしまったのだろうと考えていた。

 

「でも・・・・・・設楽先生は生きているのね!! 先生は、どこに・・・?」

 

「「っ・・・・・・」」

 

中島先生は表情を明るくしながら問いかけるが、逆にのどかとちゆの表情は暗かった。

 

「・・・のどかちゃん? ちゆちゃん?」

 

「・・・・・・設楽、先生は」

 

「・・・・・・私たちの前から姿を消しました。会ったと思ったら、いつの間にかいなくなっていたんです」

 

中島先生がなかなか答えようとしない二人に疑問に思うと、二人は辛そうな声で話した。本当は、設楽先生はビョーゲンズ、三人娘によって消滅させられてしまったのだが、彼女の前でそんなことは言えなかった。中島先生を心配させたくなかったのだ。

 

「そう、なの・・・・・・先生は、いなくなってしまったのね・・・・・・でも、先生がいるということがわかって、安心したわ・・・・・・」

 

「「っ・・・・・・・・・」」

 

中島先生に本当のことを言うことができず、肩身の狭い思いをする二人。

 

「しんらちゃんは、いた・・・・・・?」

 

「・・・・・・見て、ないです」

 

「っ・・・・・・・・・」

 

中島先生はその街で入院しているはずのしんらについても尋ねたが、のどかは言いづらそうな表情でそう答えた。その答えに中島先生は泣きそうな表情になる。

 

「・・・・・・しんらちゃん、まだ治って、ないのね」

 

中島先生の呟いた言葉に、二人は何も言うことができなかった。

 

「のどかちゃん・・・・・・私はね、しんらちゃんを治すことができなかったの・・・・・・そのまま、彼女を他の病院に引き渡してしまった・・・・・・だから、あなたには・・・私を責める権利があるわ・・・・・・」

 

中島先生は寂しそうな表情をしながら、のどかに呼びかける。

 

「私は、あなたの友達を・・・・・・あなたが治そうと誓っていた友達の、あなたを裏切ったの・・・・・・私は、罰を受けるべきだと思ってるの・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

中島先生の言葉に、のどかは少し考えるように黙った後、口を開いた。

 

「・・・・・・私は、責めません」

 

「っ?」

 

「私は、何があっても中島先生のことを責めたりなんかしません。私が病院に入院していたとき、しんらちゃんは笑顔だった・・・・・・しんらちゃんは楽しそうだった・・・・・・そんなしんらちゃんを笑顔にした中島先生が、責められるようなことをしたとは思えない・・・!!!」

 

「でも・・・・・・それはのどかちゃんと出会ったからかもしれないし・・・私は、しんらちゃんにはいつも逃げられてたわ・・・・・・結果的に、他の病院に送ってしまったから、私が悪いのは変わらないわ・・・・・・」

 

のどかは中島先生の責めることに否定し、逆に自分の言葉を主張する。しかし、中島先生の表情は変わらなかった。

 

「しんらちゃん・・・・・・私に話してたんです・・・・・・」

 

『私ね・・・・・・病院なんか嫌いだし、先生も好きじゃないの』

 

『え・・・・・・?』

 

『でもね、今私を見てくれている先生はね、嫌いなはずなのに、暖かくて、ほっこりとしていて、安心するの・・・・・・だから、なんか・・・・・・突き放せないんだ・・・・・・』

 

のどかはしんらが吐露していたことを話す。元々しんらは病院嫌いで、医者も毛嫌いしていた。中島先生も例に漏れず毛嫌いしていたが、他の先生とは違って逃げ出すばかりで避ける程度だったという。

 

「しんらちゃんが・・・・・・そんなことを・・・・・・」

 

「はい・・・・・・しんらちゃんは中島先生のことは信頼していたと思います。医者が嫌いって言ってたしんらちゃんが、そんなことを話していたから・・・・・・だから、先生のやっていることは決して、間違ってない・・・!!! 誰にも責任なんてないんです・・・!!!!」

 

のどかは中島先生は悪くないと、そう主張する。

 

「設楽先生がそう言って、中島先生が送ったのは仕方ないことだったんだと思います。先生は、病気で苦しむ人を見捨てない人でした。しんらさんのことも見捨てなかったと思います。中島先生が、精一杯やっていたことは、病院にいなかった私にも伝わります・・・責められることなんか何もないと思います・・・!!!!」

 

ちゆも中島先生にそう訴えかける。設楽先生は中島先生を信頼していないわけではなく、苦渋の決断だったと彼女は信じたかったのだ。中島先生はしんらのために頑張った、それだけで十分だと。

 

「・・・ありがとう、のどかちゃん、ちゆちゃん・・・二人のおかげで、少しは元気が出たわ・・・・・・」

 

中島先生は二人に微笑みながらそう答えた。

 

「のどか・・・ここにいたのですね」

 

「アスミちゃん・・・・・・」

 

「先生が呼んでいますよ」

 

そこへアスミがやってきて、蜂須賀先生の呼び出しがあると聞くとのどかは先生の元へと戻っていく。

 

のどかと蜂須賀先生の2人は沢泉の外に出て、近くの川沿いの道を歩いていた。

 

「ごめんね。なんだかすごく心配させちゃったみたいだね。のどかちゃん、僕はのどかちゃんにお礼を言いたくて来たんだよ」

 

「えっ・・・・・・?」

 

「僕が病院を辞めたのはね・・・実は、外国の研究機関に転職を決めたからなんだ」

 

「転職・・・・・・?」

 

「そう。病院で患者さんを治療することだけが、医者じゃないからね」

 

蜂須賀先生の言葉に顔を上げるのどか。

 

「それと、中島先生は、僕には着いていかない。このすこやか市の病院に勤めることになってる。僕が推薦状を出してね」

 

「中島先生が・・・ですか・・・・・・?」

 

蜂須賀先生のその告白に、のどかが驚いたような表情をした。

 

「先生、この街の病院に勤めるんですか・・・?」

 

「そうなの。蜂須賀先生からこのすこやか市の病院に推薦を出したって聞いてね。私、しんらちゃんを治せなかったあの日から医者を辞めようと思ってたの。でも、そこの病院に推薦して、選ばれたってことは、私が何かできることがあるんじゃないかって思ったの。こんな私でも、患者のために何かを・・・・・・」

 

中島先生は、一人になったちゆにそんなことを話していた。

 

「私・・・・・・しんらちゃんが他の病院に行ったことを、ずっと後悔してた。でも、二人がそういうことを言ってくれたから、私も少しは自信が持てそうなの」

 

中島先生はそう言うと、懐から一枚の紙を取り出す。

 

「これは・・・・・・?」

 

「しんらちゃんが、私に書いていた手紙よ」

 

ちゆがその手紙を取って、開いてみるとそこにはこんなことが書かれていた。

 

ーーーー中島先生へ

 

いつも、私のことを見てくれてありがとう。

 

病院生活は辛いし、食事もそんなに美味しくないけど、先生の笑顔だけは暖かいわ。

 

私、それを見ていると安心するの。

 

これからも、よろしくね。

 

来栖しんらーーーーー

 

そこには、しんらから中島先生への純粋な感謝の気持ちが書いてあった。

 

「私ね、少し励みになったの。医者をやってよかったって・・・・・・」

 

「先生・・・・・・しんらさんが、こんな感謝の気持ちを持っているなら、先生は全然酷い先生じゃありませんよ。しんらさんの病気が治っていなくても、しんらさんは笑顔だった。それだけで十分だと思います」

 

「ありがとう、ちゆちゃん・・・・・・私、もう少し頑張れそうよ」

 

中島先生は、微笑みながらちゆに感謝の言葉を述べたのであった。

 

その後、ちゆと中島先生はのどかと蜂須賀先生の様子を見に外へ出た。すると、橋の上で話している二人の姿が見えた。

 

「私・・・私ね・・・・・・ずっと助けてもらってばっかりで・・・グスッ・・・何も、できなくて・・・・・・グスッグスッ・・・そのせいで、先生がお医者さんを辞めちゃうなんて・・・酷いことしちゃったって・・・思って・・・・・・」

 

「僕に、前に進む決意をさせてくれたのはのどかちゃん、君だよ。ありがとう」

 

のどかは蜂須賀先生の話を聞き、涙を流しながら答えていた。蜂須賀先生はのどかにお礼を言いながら、右手をそっと差し出した。

 

「私・・・ちょっとだけ、先生の役に立ててたのかな?」

 

「ちょっとじゃないよ。すっごくだ!!」

 

蜂須賀先生にそう言われたのどかは明るい表情を見せる。

 

「ありがとう、先生・・・・・・」

 

「こちらこそ・・・・・・」

 

のどかと蜂須賀先生はお互いに握手を交わして、微笑み合う。

 

「のどかちゃん・・・よかった・・・・・・」

 

「ワン♪」

 

そんな様子を、ちゆとアスミ、そして中島先生が離れたところから見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、沢泉を出ようと準備を進める蜂須賀先生を、のどかは両親や中島先生と共に見送りに来ていた。

 

「それじゃあ、行きます」

 

「新しいお仕事、頑張ってください」

 

「忙しくなるでしょうけど、よかったらまた遊びに来てください」

 

「はい、ぜひ」

 

「先生、またお手紙書きます!」

 

「うん」

 

「そして、もう少し大人になったら・・・私が先生に会いに行きます!」

 

「ありがとう。楽しみにしているよ」

 

のどかは微笑みながら、蜂須賀先生と挨拶をかわす。

 

「蜂須賀先生、私・・・もう少し頑張りますね。このすこやか市で、少しでもみんなが笑顔になれるように・・・・・・」

 

「ああ。先生も頑張って・・・! すこやか病院の方には僕から連絡しておいたから」

 

「ありがとうございます・・・先生もお気をつけて。また、連絡しますね・・・!!」

 

中島先生と蜂須賀先生はそう挨拶をかわす。そして、蜂須賀先生は車に乗って、沢泉を去っていった。

 

「では、私もすこやか病院に挨拶に行ってきます」

 

「中島先生も頑張ってください」

 

「よかったら、のどかのことも見に来てください」

 

「はい!」

 

中島先生もそう言いながら、沢泉を離れて街の方へと向かっていった。

 

そんな中、すこやか市の街を出るトンネルに差し掛かった頃・・・・・・。

 

「・・・・・・ん?」

 

目の前に人影が見え、蜂須賀先生がクラクションを鳴らすも、その人影は道脇に退くことなく歩き続ける。

 

「あんまり実感ないけど・・・・・・」

 

蜂須賀先生の目の前を歩く、その人はそう呟きながら自身の手を見つめながら歩き続ける。

 

人物はその場に立ち止まると、その後ろを蜂須賀先生が車を止めると外へ出る。

 

「おい君! 真ん中歩いてちゃ危ないよ・・・!」

 

蜂須賀先生はその人物に注意をするが、人物は獲物を見つけたとでも言わんばかりに口元に笑みを浮かべる。

 

「試してみるか・・・・・・?」

 

「えっ・・・・・・?」

 

蜂須賀先生は不気味に笑うその人物に、不審感を抱いたのだった。

 

一方、その頃、のどかは・・・・・・。

 

「ナカッチ先生も、ハッチ先生も帰っちゃったんだぁ・・・・・・」

 

「ナカッチ先生・・・・・・?」

 

「ハッチ先生・・・・・・?」

 

「中島先生は、このすこやか市の病院に勤務する予定なんだよ」

 

ちゆやアスミと一緒に、ひなたの家の前のワゴンカフェで話をしていた。ひなたの年下らしくない名前の呼び方が気になりつつも、のどかは中島先生のことを話した。

 

「それマジ!? じゃあ、ナカッチ先生とはいつでも会えるね!!」

 

「ひなた・・・・・・その呼び方・・・・・・」

 

ひなたが驚いていると、ちゆは先生に対する呼び方に対して突っ込む。

 

「でもさぁ・・・のどかっち、ハッチ先生と別れて寂しい・・・・・・?」

 

「ちょっとね・・・でも、たくさん元気もらったから」

 

先生のことを思い出しながら、話すのどかを、ひなたたちは微笑みながら見つめる。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

「クチュン!!」

 

「「「「「「!!??」」」」」」

 

「ラテ様!!」

 

「ビョーゲンズですね・・・・・・」

 

突然ラテがくしゃみをして、体調が悪くなるのを見たアスミは聴診器を取り出して、ラテに当てた。

 

(あっちで、のどかのお医者さんが泣いてるラテ・・・・・・)

 

「「「「「「えっ!!??」」」」」」

 

なんと、ビョーゲンズの被害を受けているのは蜂須賀先生だった。それを聞いたのどかたちは驚きを隠せなかった。

 

「みんな、急ぐラビ!!」

 

「「うんっ!!」」

 

ラビリンの言葉を合図に、皆は変身アイテムを取り出す。

 

「「「「スタート!」」」」

 

「「「「プリキュア、オペレーション!!」」」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

「エレメントレベル、上昇ラテ!!」

 

「「「「キュアタッチ!!」」」」

 

ラビリン、ペギタン、ニャトランがステッキの中に入ると、のどか、ちゆ、ひなたはそれぞれ花のエレメントボトル、水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

アスミは風のエレメントボトルをラテの首輪にはめ込む。すると、オレンジ色になっているラテの額のハートマークが神々しく光る。

 

のどかたち3人は、肉球にタッチすると、花、水、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、水色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ちゆは水色、ひなたは黄色へと変化する。

 

ラテとアスミは手を取り合うと、白い翼が舞い、ラテが舞ったかと思うとハートの中から白い白衣のようなものが飛び出す。

 

その白衣を身に纏い、ラテが降りてきたかと思うとハープが飛び出し、さらにアスミは紫色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

衣装にチェンジした後、ハープを手に取り、その音色を奏でる。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「「時を経て繋がる、二つの風!」」

 

「キュアアース!!」

 

「ワン!」

 

アスミは風のプリキュア、キュアアースへと変身した。

 

「「「「地球をお手当て!!」」」」

 

「「「「ヒーリングっど♥プリキュア!!」」」」

 

4人は変身後、蜂須賀先生の元へと向かったのであった。

 

その頃、中島先生はすこやか市の病院に向かって歩いていた。

 

新しい病院で、少しでも皆の笑顔になれるような医者を目指したい。中島先生は再出発の気持ちで、病院へと赴いていた。

 

そんな彼女は道の道中で、ある人影が歩いて行くのが見えた。

 

「っ!! あれは・・・あの娘は・・・??」

 

その姿は忘れもしない・・・・・・自分が主治医として、初めて担当した患者の女の子だ。

 

「しんらちゃん・・・・・・!!」

 

その女の子ーーーーしんらの名前を呼んだ中島先生は駆け出して行くが、女の子は気付かずに歩いていく。

 

中島先生は見失わないように懸命に駆け出し、しんらのその背中を捉えた。

 

「しんらちゃん、待って!!!!」

 

中島先生は叫ぶように呼び、彼女の背中を追う。ゆっくりと歩いて行くしんらとの距離が縮まって行く。

 

そして・・・・・・しんらがようやく気づいて背後を振り返った。

 

「っ・・・・・・!?」

 

しかし、中島先生が我に帰ると、それは人間ではない姿のしんらーーーークルシーナであった。

 

「久しぶりね、中島先生」

 

クルシーナは口元に笑みを浮かべながらそう言った。

 

「しんらちゃん・・・姿は違うけど、しんらちゃんよね・・・??」

 

「・・・そうよ。私がしんらよ」

 

「久しぶりね・・・しんらちゃん・・・!!!!」

 

中島先生は瞳を潤ませながらも、その表情は明るかった。自分が担当していた大切な患者が、目の前に現れたからだ。その一方で、クルシーナは不機嫌そうな表情で目を逸らした。

 

中島先生とクルシーナは、近くの公園へと場所を移動した。

 

「元気でよかった・・・・・・私、あの時・・・あなたにしてしまったことで、後悔ばかりが募ってて・・・・・・!!」

 

「・・・・・・別にそれはいいわよ。もう過ぎたことだし」

 

中島先生が申し訳なさそうに言うと、クルシーナは不機嫌そうな表情を崩さないまま素っ気なく言う。のどかたちに励まされたものの、中島先生は完全に吹っ切れてはいなかったのだ。

 

「それよりもさぁ、申し訳ないって本当に思ってるの? 私をあんな地獄へと送り込んでおいてさぁ?」

 

「っ・・・・・・思ってるわ。私の力不足が原因で、あなたを他の病院に送ってしまったんだもの。私は・・・あなたに裁かれてもいいと思ってる・・・・・・」

 

クルシーナは顔を顰めながらそう言うと、中島先生が申し訳なさそうに言い、クルシーナがさらに顔を顰める。

 

すると、クルシーナは中島先生に背を向け始める。

 

「ねぇ、先生・・・・・・私が別の病院に送られた後、どんな地獄を見たか知ってる? 病気は治らないって言われたのよ。それを先生に突きつけられた私が、どんな思いをしたかわかる?」

 

「っ・・・あぁ・・・ぁぁ・・・・・・!!」

 

中島先生はクルシーナの言ったその言葉にショックを受ける。しんらはその病院に送られても、病気が改善していなかったのだ。やはり、あの病院に送ったことは間違いだったのだ。

 

(あぁ・・・やっぱり、私は・・・・・・)

 

中島先生は、そんなことを言ったクルシーナがどうしてこの街に来ているのか疑問に思うこともできないぐらい、精神的にダメージを受けていた。

 

「ねぇ先生、申し訳ないと思ってるなら、態度で示してくれない? 言葉だけだったらいくらでも言えんのよ、そんなこと・・・!!!!」

 

「っ・・・・・・・・・」

 

そうすると中島先生はクルシーナに近づくと、彼女の手に触れる。

 

「・・・!!!!」

 

クルシーナはそれに顔を顰めるも、中島先生はそれを自分の首の方に持ってきた。

 

「さあ、しんらちゃん・・・私を・・・・・・」

 

「っ・・・!!!!!!」

 

「あっ・・・!?」

 

自分に首を絞めてくれと言われたクルシーナは目を見開くと、その手を弾き飛ばす。勢い余って、中島先生は地面へと倒れてしまう。

 

「バカなんじゃないの!!?? 本当に相手に首を絞めさせるようなヤツがいるかっての!!!!」

 

クルシーナは中島先生を見下ろしながら、珍しく激昂する。何か情が残っていたのか、気持ち悪くなったクルシーナは思わず彼女を突き飛ばしたのだ。

 

「でも・・・・・・治らなかったなんて聞いて、私はどうしたら・・・・・・」

 

中島先生は悲しそうな声でそう言いながら、再び立ち上がるとクルシーナの手に肩を置く。

 

「しんらちゃん・・・・・・私、自分のしてきたことが重くのしかかって、苦しいの・・・・・・ねえ、私に罰を与えて・・・・・・」

 

「ちょっと、先生・・・・・・!!」

 

「早く、私に罰を与えて!! あなたを治すって約束も守れなかったんだから、嘘つきって言って!!!」

 

「っ・・・・・・!!!!」

 

「早くしてよ!!!! 私は・・・自分の罪を背負ったまま・・・生きれるほど・・・・・・強い女性じゃないの・・・・・・!!!!」

 

中島先生はクルシーナに詰め寄っていき、クルシーナは戸惑いの声をあげる。クルシーナが珍しく躊躇していると、中島先生は激しくすがりついて声も大きくなり、最後には嗚咽を漏らし始めた。

 

「っ・・・・・・・・・!!」

 

「きゃっ!?」

 

クルシーナは困ったような表情をしながら俯かせるも、両手を震わせると中島先生を突き飛ばした。

 

「ああ、そうかい・・・そんなに罰を与えて欲しいんだったら、望み通りにしてやるよ!!!!」

 

「っ・・・あぁ・・・これで、私も・・・・・・」

 

「っ・・・・・・・・・」

 

クルシーナは真面目に怒りの声をあげると、中島先生は安堵の表情を浮かべて立ち上がり、目を瞑りながら受け入れるかのように腕を大きく広げる。

 

どこに情があったのか、躊躇して顔を俯かせるクルシーナ。やがて、目をギュッと瞑って体を震わせると、もう覚悟を決めたように目を見開いた。

 

手のひらに息を吹きかけて黒い塊を出現させる。

 

「進化しろ、ナノビョーゲン」

 

「ナーノー」

 

生み出されたナノビョーゲンが鳴き声を上げると、中島先生へと飛んでいく。

 

「・・・・・・・・・」

 

中島先生は何も悲鳴を上げず、受け入れるような体勢のままナノビョーゲンに取り込まれていく。

 

その取り込んだ中島先生を主体として、巨大な怪物がかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてその素体を模倣する様々なものが姿として現れていき・・・。

 

「ギガビョーゲン!!」

 

聴診器を首から下げた看護師のような姿のギガビョーゲンが誕生した。

 

「っ・・・・・・・・・」

 

中島先生がギガビョーゲンになったのを見た、クルシーナはスッキリしたような様子がなく、何とも言えない表情を浮かべているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数分前、すこやか市の外れにある岬・・・・・・その周辺では・・・・・・。

 

「ギィ・・・ギィ・・・!!!」

 

額には額帯鏡、両手にはゴム手袋、腹部には無影灯のようなものを身につけ、白衣を纏った医者のような姿をしたギガビョーゲンが額からビームを放ち、辺りを蝕んでいた。

 

「へぇ・・・凄いじゃん。確かに・・・進化したみたいだね・・・・・・」

 

その様子を見つめる人物は、笑みを浮かべていた。

 

「ダルイゼン様」

 

「っ? カスミーナじゃん。何しに来たの?」

 

そこへ現れたカスミーナが声をかけ、人物ーーーーダルイゼンは背後を振り向く。

 

「クルシーナ様に援護をしてこいと言われました。一人で行動したいからと・・・・・・」

 

「・・・・・・あいつ、余計なことして。まあいいけど・・・・・・」

 

カスミーナから事情を聞くとダルイゼンは顔を顰めつつも、特に気にしないことにした。

 

すると、そこへ・・・・・・。

 

「「「「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」」」

 

「ギガ・・・?」

 

上空から現れたプリキュアたちが同時にギガビョーゲンの背中にキックをは放ち、そのまま地面に着地する。

 

「・・・来たね、プリキュア」

 

「また、邪魔をしに来たのか・・・・・・!!!!」

 

「はっ・・・ダルイゼン!!」

 

「かすみっち!!」

 

ダルイゼンとカスミーナが後方から声をかけ、グレースたちが振り向く。

 

「っ・・・ダルイゼン、あなた!!!」

 

その中の一人、ダルイゼンの姿が変わっていることに気づいたグレースが驚きの声をあげる。

 

進化前よりも赤黒くなったコート、背中に生えた黒い翼、左目付近にはピンク色の模様といったように、進化したシンドイーネやグアイワルのような姿になっていた。

 

「嘘っ・・・ダルイゼンまで進化しちゃったの!?」

 

「邪悪な力が増しているのを感じます・・・・・・!!」

 

「とにかく、ギガビョーゲンを止めないと・・・・・・!!!!」

 

グレースたちはダルイゼンからギガビョーゲンの方へと向き直ると・・・・・・。

 

「「「「っ・・・・・・!!!」」」」

 

彼女たちの前に黒い光弾が連続して放たれ、発生する土埃に彼女たちが思わず顔を覆う。そして、カスミーナが4人の前に姿を現し、こちらを睨みつける。

 

「・・・させると思うか?」

 

「かすみちゃん・・・・・・!」

 

「ビョーゲンズに仇なす者に、私が引導を渡してやる・・・・・・!!!!」

 

カスミーナはそう言うと、手のひらに息を吹いて黒い塊を作り出す。

 

「ナノ・・・・・・」

 

生み出されたナノビョーゲンは素体ではなく、カスミーナが持っているステッキに取り憑く。

 

「えっ・・・・・・?」

 

「ナノビョーゲンが、かすみのステッキに入ったラビ・・・!?」

 

グレースとラビリンが戸惑う中、カスミーナは次に懐からボトルのようなものを取り出す。それは以前、ドクルンにもらった丸い円の中に噴水のように分かれた3枚のプロペラのようなマークが描かれた病気のような赤色のボトルであった。

 

「っ・・・あのボトルは!?」

 

「今まで見たことがないボトルペエ・・・!!!」

 

「何やら、とてつもない邪悪な力を感じます・・・!!!!」

 

プリキュアたちはカスミーナが持っているエレメントボトルに警戒心を強める。

 

そして・・・・・・。

 

「プリキュア、インフェクション・・・・・・」

 

カスミーナはナノビョーゲンが取り憑いたステッキに持っているエレメントボトルをかざす。すると、かすみのステッキのエネルギーが上昇していく。

 

「イルネスレベル、上昇・・・・・・」

 

ステッキのエネルギーが上昇して、赤黒く光っていく。

 

「キュアタッチ・・・・・・」

 

ナーノー!!

 

カスミーナは肉球にタッチすると、紫色がかった赤い靄が放出され、カスミーナの体を包み込む。

 

すると、髪型は大きくのびてロングヘアーとなり、ダークパープルのような色へと変わり、リボンの色は銀色になり、前髪に黒色の楕円のようなカチューシャが付けられ、赤黒いバラのようなイヤリングが付けられる。

 

服装も赤い靄に包まれたところから変化していき、胸に逆さハートの飾りをあしらったパフスリーブのダークパープルのワンピースへと変わり、手袋は黒色になり、足元は赤黒いショートブーツへと変わった。

 

ナーノー!!

 

「淀み合う二つの災厄!! キュアハザード!!」

 

カスミーナは病気のプリキュア、キュアハザードへと変身を遂げたのであった。

 

「嘘・・・・・・!?」

 

「かすみが、プリキュアになった、だと・・・!?」

 

「そんな・・・・・・!!」

 

「プリキュアは、心にキュンと来るパートナーがいないと変身できないはずラビ!!」

 

スパークルとニャトラン、グレースとラビリンが信じられない様子でプリキュアになったカスミーナを見る。

 

「・・・ふん、プリキュアがお前たちだけの専売特許だと思うなよ」

 

カスミーナは口元に笑みを浮かべながらそう言った。

 

「きっと・・・りょうの仕業ね・・・!! りょうはいろんなものを作るのが趣味だったから、きっとビョーゲンズの力でエレメントボトルを作り出して、かすみに与えているに違いないわ・・・・・・!!!」

 

フォンテーヌはかすみがビョーゲンズに入って力を得たのは、友人であるりょうーーーードクルンが生み出したものだと推測するも、その表情は緊張感に溢れていた。

 

「いくぞ・・・・・・!!!」

 

カスミーナはこちらを睨みながら、ゆっくりと禍々しいオーラを放つ黒いステッキをこちらに構えたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第118話「危険」

前回の続きです。
悪のプリキュア戦士、キュアハザードの実力とは?


 

「はぁっ!!!!」

 

カスミーナが変身したプリキュア、キュアハザードは黒いステッキを振るって光弾を連続で放つ。

 

「「「ぷにシールド!!」」」

 

グレース、フォンテーヌ、スパークルの三人はステッキからシールドを展開して光弾を防ぐ。

 

「アース!! 今のうちにギガビョーゲンを!!」

 

「はい!!」

 

グレースの呼びかけに、アースがギガビョーゲンへと飛び出していく。

 

「行かせるか!!」

 

ハザードは光弾を発射するのをやめると、その場から姿を消してアースの前に姿を表す。

 

「っ!?」

 

「はぁっ!!」

 

「あぁっ!!!!」

 

ハザードはキックを繰り出して、アースを吹き飛ばす。

 

「やぁぁぁぁっ!!」

 

「っ・・・・・・!!」

 

そこへグレースがハザードへと飛び出して、肩を掴み共に地面へと落下していく。

 

「ふっ!!」

 

「っ・・・!!」

 

ハザードは地面へと叩きつけられた流れで、蹴り上げて背後へと吹き飛ばす。グレースは地面へと着地して、ハザードへと向き直る。

 

「やはり、お前を倒さないとビョーゲンズの祈願は達成できないようだな・・・!!!」

 

ハザードもステッキを構えてそう言うと、懐から暗いピンク色のエレメントボトルをセットして、ステッキから黒い刀身を伸ばす。

 

「実りのエレメント!!」

 

それを見たグレースは実りのエレメントボトルをステッキにセットして、ピンク色の刀身を伸ばす。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」

 

両者は同時に飛び出して刀身を振るい、刀身と刀身がぶつかり合う。

 

「みんな・・・今のうちに、ギガビョーゲンを・・・・・・!!」

 

「うん!!」

 

「ええ!!」

 

グレースはハザードを抑えつけながら、フォンテーヌとスパークルにそう言うと二人はギガビョーゲンへと飛び出していく。

 

「っ・・・・・・!!!!」

 

ガキン!! ガキンガキン!! ガキン!!!!

 

刀身と刀身を振るい合い、激しい音を立てていく。

 

「ふっ!! はぁっ!!!!」

 

「っ!! やっ!! はぁっ!!!!」

 

刀身の応酬とそれを避けつつの、途中で蹴りを織り交ぜた攻撃をしつつ、二人は激しくぶつかり合う。

 

「っ・・・はぁぁぁっ!!!!」

 

「っ!? ふっ!!!」

 

するとハザードは距離を取って刀身を地面に突き刺すと、そこからグレースに向かって黒色のオーラが放たれる。グレースは足元でオーラの柱が上がる前に、空中へ飛んで避ける。

 

シュイーン!!

 

「はぁっ!!!」

 

「っ・・・うっ・・・!!」

 

そこへ空中へと瞬時に現れたハザードが黒いオーラを纏ったパンチをグレースに繰り出す。グレースはとっさに腕を交差させて防ぐも、吹き飛ばされる。

 

「喰らえ!!!」

 

「っ、きゃぁっ!!!」

 

地面に着地をするグレース、そこへハザードが黒い刀身を振るって三日月状にして飛ばし、グレースは刀身で防ぐも爆発を起こして、ダメージを受けてしまう。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・」

 

「どうした? もう息が上がってるのか?」

 

グレースは片膝をついて息を荒くしており、それを余裕のハザードが不敵な笑みで見つめる。

 

「グレース、大丈夫ラビ・・・!?」

 

「はぁ・・・はぁ・・・まだ・・・戦えるよ・・・!」

 

ラビリンが心配するも、グレースはゆっくりと立ち上がる。まだ数分しか戦っていないのに、もう息が上がってきた感じだ。

 

「仲間を一人、こっちに呼んだほうがいいんじゃないのか?」

 

「はぁ・・・はぁ・・・バカにしないで・・・!!」

 

挑発するハザードに、グレースは反論するとエレメントボトルを取り出す。

 

「葉っぱのエレメント!! はぁっ!!」

 

グレースは葉っぱのエレメントボトルをステッキにセットすると、ピンク色の光弾を連続で発射する。

 

「ふん・・・・・・」

 

ハザードは鼻を鳴らすと暗い朱色のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「ふっ・・・!!!!」

 

ステッキから放たれる黒い音の波動に光弾は、なんと吸い込まれていき、逆に音波が大きくなっていく。

 

「嘘・・・・・・?」

 

「エレメントの力を吸収したラビ・・・!?」

 

グレースとラビリンはその光景に信じられない表情を浮かべる。

 

「っ・・・あ、ぐっ・・・・・・」

 

その呆然とした隙に音波を受けてグレースは動きが止まってしまい、不快音に表情を苦痛に歪ませる。

 

「はぁっ!!!!」

 

「っ!? ぐっ・・・・・・!!!」

 

そこへハザードが低く飛んでキックを繰り出す。グレースはそれに気づいて間一髪で、腕で防ぐも威力が強く、苦しい表情を見せる。

 

グレースは距離を取って着地し、再びハザードへと駆け出す。

 

「はぁぁぁっ!!!!」

 

「ふっ!!!」

 

グレースはパンチを繰り出し、ハザードは回し蹴りを放ち、手と足がぶつかり合う。

 

「ふっ!! はっ!! やぁっ!!!!」

 

「うっ・・・くっ・・・うぅ・・・!!!」

 

ハザードはこことぞばかりにもう片方の足で蹴りを繰り出し、左右とパンチを連続で繰り出す。グレースは蹴りはとっさに回避するも、パンチは避けきれずに受け止めて呻く。

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「うぅぅぅぅ・・・!!!!」

 

ハザードはミドルキックを腹部に目掛けて繰り出し、グレースはその攻撃に大きなうめき声をあげて吹き飛ぶ。なんとか着地するが、グレースは腹部を抑えながら苦痛の表情を浮かべる。

 

「はぁっ!!!!」

 

「っ、うぅぅぅ・・・!!!!」

 

そこへハザードは容赦なく更にパンチを繰り出し、グレースを吹き飛ばして地面に転がせた。

 

一方、ギガビョーゲンに立ち向かうフォンテーヌとスパークルは・・・・・・。

 

「ギガァ・・・・・・」

 

「はぁっ!!」

 

フォンテーヌは額帯鏡から光線を放とうとしたギガビョーゲンの顎に蹴りを食らわせる。

 

「あぁぁっ!!」

 

しかし、ギガビョーゲンは仰け反るだけで効いておらず、逆に右手でフォンテーヌをはたき落とす。

 

「ギィ・・・・・・」

 

「はぁっ!!!!」

 

そこへスパークルが高速で移動して、攻撃を浴びせる。

 

「ふっ!!!!」

 

更にハザードに吹き飛ばされていたアースも合流し、同じようにギガビョーゲンに攻撃を浴びせる。ギガビョーゲンに何度も攻撃を与えていく二人。

 

「ふっ!!!」

 

そこへフォンテーヌも加わって、連続で攻撃を浴びせて、ギガビョーゲンの動きを止める。

 

「おぉぉぉぉりゃぁ!!!!」

 

スパークルはギガビョーゲンの頭に踵を落とすが・・・・・・。

 

「うぅ、うわぁぁ!!!!」

 

ギガビョーゲンには効いておらず、逆に顔を動かしただけで弾かれてしまう。

 

「フォンテーヌ!!」

 

「ええ!!」

 

キュン!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

フォンテーヌはステッキの肉球に一回タッチして、ギガビョーゲンに向ける。ペギタンの目が光り、ギガビョーゲンの腹部に蜂須賀先生がいるのが見えた。

 

「先生はあそこペエ!!」

 

「フォンテーヌ、行きますよ!!」

 

アースの言葉にフォンテーヌは頷くと、アースは凄まじい竜巻を起こして、自身とフォンテーヌを包み込む。それはギガビョーゲンも思わず、顔を覆うほどの風圧だ。

 

そして・・・・・・。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」

 

風の勢いを利用して、二人は竜巻きの中から飛び出し、同時に回し蹴りを放った。

 

しかし、それすらもギガビョーゲンに効いていない様子で、ギガビョーゲンは空中の二人に視線を向けて、額の額帯鏡から禍々しい光線を放つ。

 

フォンテーヌは即座にシールドを張って防ぎ、地面に着地する。

 

「・・・・・・打たれ強いのね」

 

フォンテーヌはギガビョーゲンを見つめながらそう言う。

 

「ギガ!!」

 

すると、ギガビョーゲンは両手から青白く光る爪のようなものを出す。

 

「何あれ!? 危ないじゃん!!」

 

「ギガァ!!!!」

 

フォンテーヌたちが警戒する中、ギガビョーゲンはその爪を一斉に投擲する。

 

アースはうまく避けて地面へと着地する。

 

「っ、ふっ!! うわぁっ!!!! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

スパークルも避けて地面に着地するが、距離を取ろうとしたところを続けざまに放たれた爪攻撃を受けてしまい、崖の下の海へと落下してしまう。

 

「スパークル!!!!」

 

「ガ・・・・・・!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

フォンテーヌが心配して見る中、ギガビョーゲンは腹部の無影灯を伸ばして機関銃のようにミサイルを放ち、それを食らったフォンテーヌも海へと落下していった。

 

そして、ギガビョーゲンは一人残ったアースに襲いかかろうとする。

 

「ふっ!!!!」

 

ギガビョーゲンの繰り出すパンチを瞬時に避け、空中でハープを奏でて風の刃を連続で放つ。

 

「っ・・・!!」

 

しかし、それもギガビョーゲンには通用しておらず、ギガビョーゲンはアースを掴むとそのまま地面へと投げ飛ばした。

 

「っ!! はぁっ!!!!」

 

「うっ・・・くっ・・・うぅぅ・・・・・・!!!!」

 

グレースは容赦のないハザードのパンチの応酬を受けて、防戦一方だった。

 

「うっ・・・はぁっ!!!!」

 

グレースは首を傾けて避け、その繰り出した隙を狙って、パンチで応戦しようとするが・・・・・・。

 

「ふん・・・はぁっ・・・!!!!」

 

「うっ!?」

 

「っ!!!!!!」

 

「あぁぁぁっ!!!!」

 

ハザードは逆にそれを体を動かすだけで片なく避けると、腹部に膝蹴りを食らわし、更に回し蹴りを繰り出して吹き飛ばす。

 

「っ・・・はぁっ!!!!!」

 

ハザードは更に攻撃を加えようと、ステッキを右から左に回すと4つの赤く禍々しい光弾を出現させると、グレースに目掛けてステッキを振るうと同時に赤く禍々しい光線を放った。

 

直撃を受けたグレースは更に吹き飛んで、地面へと転がった。

 

「うっ・・・うっ・・・!」

 

グレースはボロボロで呻き声を上げながらも、立ち上がろうとしていた。

 

「ふっ・・・そろそろ諦めたら?」

 

その様子を見ていたダルイゼンが笑みを浮かべながらそう言う。

 

「バラバラのお前たちなんかに勝ち目などないと思うが?」

 

同じようにハザードも、不敵な笑みを浮かべながらそう言った。

 

「はぁ・・・はぁ・・・絶対に、諦めない・・・!!」

 

「っ・・・!!!!」

 

息を荒くしながらも再び立ち上がってそう言うグレースに、ハザードは顔を顰める。

 

「絶対に・・・助ける・・・!! 先生に、もっとたくさんの人を助けてもらうために・・・!!!!」

 

「ふん・・・馬鹿馬鹿しい・・・! 自分のことだけ考えていた方が気楽だろうに・・・!!」

 

グレースの言葉に、ハザードは不機嫌そうな表情でそう言う。

 

「カスミーナ・・・あなたには、わからないかもしれない・・・でも、人は人と支え合うから・・・生きていけるの・・・・・・!!!!」

 

「っ・・・その言葉をお前らが言うかっ!!!!」

 

グレースの強気な主張に、激昂するハザード。

 

「いいだろう。お前のその言葉と、私の力・・・・・・どっちが強いか決めようじゃないか・・・!!!!」

 

ハザードはそう言いながら、先ほど変身に使ったエレメントボトルを取り出して、黒いステッキにセットする。

 

すると、黒いステッキに弦のようなものが現れて、手持ちの部分が曲がってボウガンのような形になる。

 

「エレメントチャージ・・・・・・」

 

ナノー、ナノー、ナノー!!!!

 

ハザードはボウガンになったステッキの先で逆ハートマークの模様を空中に描き、ナノビョーゲンの顔を三回タッチする。

 

「イルネスゲージ上昇・・・・・・」

 

ステッキのハートマークに黒い光が集まっていき、ボウガン部分に矢のようなものが形成されていく。

 

「プリキュア・・・イルネス・ストライク!!!!」

 

ナノー!!!!

 

カスミーナはそう叫びながら、狙いを定めて引き金を引くと先が矢のような形となったエネルギー波が発射され、一直線にグレースへと飛んでいく。

 

「グレース、こっちもラビ!!」

 

「うん!!」

 

ラビリンの言葉を受け、グレースも花のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「エレメントチャージ!!」

 

キュン!キュン!キュン!

 

グレースは花のエレメントボトルをステッキにセットし、ハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「「ヒーリングゲージ上昇!!」」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングフラワー!!」

 

グレースはそう叫びながらステッキからピンク色の光線を放つ。光線は螺旋状になりながら、一直線に向かっていく。

 

かすみの放った矢のような黒い光線、グレースの放ったピンク色の光線、二つの光線がぶつかり押し合う。

 

「うっ・・・・・・!」

 

「・・・・・・・・・」

 

グレースは苦しそうにしていたが、ハザードは表情を全く変えずにその先を見据えている。

 

「私は・・・負けない・・・!! 先生を、助けるんだ・・・!!!!」

 

「・・・・・・ふん!!」

 

グレースはそう叫びながらピンク色の光線の勢いを強くし、ハザードは鼻を鳴らしながら光線の勢いを強くする。

 

そのエネルギーが大きくなっていくと同時に、大爆発を起こす。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

グレースとハザードは同時に駆け出しながら、実りのエレメントボトル、暗いピンク色のエレメントボトルをセットし、刀身を作り出す。

 

そして・・・・・・・・・。

 

ガキン!!!!!!

 

お互いに刀身を振るって、すれ違いざまに一線しあう。

 

「「・・・・・・・・・」」

 

ステッキを振り抜いた状態のまま、動かない二人。そして・・・・・・・・・。

 

「っ・・・・・・・・・」

 

その二人のどちらかが、膝をついたのであった。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

アースは叩きつけられた地面から飛び出して拳を繰り出し、ギガビョーゲンの拳に防がれながらも懸命に攻撃をし続ける。

 

渾身の一発もギガビョーゲンに防がれ、アースが距離を取ろうと下がるも、ギガビョーゲンが額から光線を放つ。アースはジャンプをして光線を避ける。

 

「ギガァ!!!!」

 

「うっ・・・・・・!!」

 

しかし、ギガビョーゲンは立て続けに両手から青白い光の爪のようなものを投擲し、アースは攻撃を受けてしまう。

 

「ギガ・・・・・・」

 

「っ・・・・・・」

 

倒れ伏すアースに、ギガビョーゲンは再度両手の爪を出してトドメを刺そうとした。

 

「雷のエレメント!! はぁぁぁぁっ!!」

 

「ビョビョビョビョビョ!?」

 

海に落ちていたスパークルが復帰し、雷のエレメントボトルをステッキにセットし、ギガビョーゲンに目掛けて雷を纏った黄色い光線を放ち、感電させる。

 

ザッパァ・・・・・・。

 

「はぁぁぁぁぁ!!!!」

 

大きな水飛沫を上げてフォンテーヌも復帰し、水のエレメントボトルをセットしたステッキを上にかがけてギガビョーゲンの周囲に水蒸気を発生させて視界を遮る。

 

その隙にフォンテーヌとスパークルは、アースの元に駆け寄る。

 

「行け!! アース!!」

 

ニャトランの言葉を合図に、アースはハープに音のエレメントボトルをセットする。

 

「音のエレメント!!」

 

「ギガ・・・・・・」

 

ギガビョーゲンは水蒸気の中で、プリキュアを見失ったようで辺りを見渡して探していた。

 

アースはその隙にハープの弦を指で弾くと、ギガビョーゲンの周囲に小さな円のようなゲートを無数に出現させると、そこからビームを連続で発射される。

 

「ギ・・・ギギ・・・ギガ・・・!?」

 

ギガビョーゲンはこの連続攻撃によって、動きを封じられた。

 

「っ・・・あいつらまだ!!??」

 

ダルイゼンはやられたと思っていたプリキュアたちを信じられない様子で見ていた。

 

「みんな、遅れてごめん!!」

 

そこへハザードと戦っていたグレースが合流し、プリキュア4人が揃った。

 

「行くラビ!!!!」

 

ラビリンの言葉を合図に、ラテが大きく鳴き声を上げる。

 

「「「「ヒーリングっどアロー!!!!」」」」

 

4人がそう叫ぶとラテがステッキとハープ、エレメントボトルの力を一つにまとめた注射器型のアイテム、ヒーリングっどアローが出現する。

 

その注射器型のアイテムに、ハートの模様が描かれたエレメントボトルをセットする。

 

「「「「ヒーリングアニマルパワー!! 全開!!」」」」

 

ヒーリングアニマルたちのダイヤルが回転し、その注射器型のアイテムが4つに別れるとグレースにはラビリン、フォンテーヌにはペギタン、スパークルにはニャトラン、アースにはラテの部分で止まり、グレースたち4人の服装や髪型などが変化し始める。

 

そして、4人の背中に翼が生え、いわゆるヒーリングっどスタイルへと変化を遂げる。

 

「「「「アメイジングお手当て、準備OK!!!!」」」」

 

4人は手に持っている注射器のレバーを引くと、虹色のエレメントパワーがチャージされる。

 

「「「「OK!!!!」」」」

 

そして、パートナーのヒーリングアニマルたちがダイヤルから光となって飛び出し、思念体の状態になって現れ、パートナーに寄り添った。

 

「「「「プリキュア!ファイナル!! ヒーリングっど♡シャワー!!!!」」」」

 

プリキュアたちがそう叫ぶと、レバーを押して4色の螺旋状の強力なビームを放った。4色のビームは螺旋状になって混ざり合いながら、ギガビョーゲンへと向かっていき光へと包み込んだ。

 

ギガビョーゲンの中で4色の光は、それぞれの手になって中に取り込まれていた蜂須賀先生を優しく包み込む。

 

ギガビョーゲンをハート状に貫きながら、4色の光線は蜂須賀先生を外に出した。

 

「ヒーリン、グッバイ・・・・・・」

 

「「「「「「「お大事に」」」」」」」

 

「ワフ~ン♪」

 

ギガビョーゲンが消えたと同時に、岬に広範囲に渡って蝕まれていたその周辺が元の色を取り戻していく。

 

「・・・・・・ふん」

 

ダルイゼンは静かにその場から退却していった。

 

「なんとか浄化できたわね・・・・・・」

 

周辺が元に戻ったことに、フォンテーヌが安堵しながらそう呟いた。

 

・・・・・・その時だった。

 

「うっ・・・ぁ・・・・・・」

 

グレースが突然崩れ落ちてそのまま地面へと倒れ伏し、プリキュアの変身が解けてしまった。

 

「「のどか!!」」

 

「のどかっち!!」

 

突然の出来事に驚いた3人はのどかへと駆け寄る。

 

「のどか!! 大丈夫ラビ!? のどか!!!!」

 

ラビリンが必死に呼びかけるも、のどかは目を瞑って呻いたまま返事を返さない。

 

「なんで!? カスミーナには、勝ったんだよね・・・!?」

 

スパークルはグレースがハザードに勝利して、こちらに駆けつけてきたと思い込んでいたため、倒れたのどかを見て戸惑いを隠せなかった。

 

「うっ・・・・・・ごめん、ね・・・・・・負け、ちゃった・・・・・・」

 

のどかはわずかに反応すると、3人に謝罪の声を残してそのまま意識を失った。

 

「のどか!! のどかぁ!!!!」

 

ラビリンが動揺して、のどかに必死に呼びかける。

 

「どうやら・・・限界だったようだな・・・・・・」

 

「「「っ!!!」」」

 

そこへ掛けられる声、プリキュアの3人は振り向くとそこには腹部を抑えながらこちらを見るカスミーナの姿があった。

 

実はグレースとハザードは最後の一閃で相討ちとなっており、これまでのダメージも蓄積していたグレースはギガビョーゲンを浄化した後に、力尽きて倒れてしまったのだ。

 

「助けると言った割には・・・弱いな・・・・・・」

 

カスミーナは傷の痛みに顔を顰めながらも、笑みを浮かべてのどかをあざ笑う。

 

「かすみっち、なんてこと言うの!?」

 

「私はカスミーナだ・・・かすみなどという偽りの存在ではない・・・!!!!」

 

スパークルに非難されたカスミーナは逆に反論して訂正する。

 

「いいえ、あなたはかすみよ。誰がなんと言おうと、あなたはかすみなのよ!!!!」

 

「黙れ!!!!」

 

フォンテーヌに睨まれながらそう言われた、カスミーナは激昂する。

 

「・・・ふん。何とでも、そう言っているがいいさ。またな・・・プリキュア・・・・・・」

 

カスミーナはすぐに冷静さを取り戻しながらそう言うと、その場から姿を消していった。

 

「ねぇ、のどかっち、どうするの!?」

 

「とにかく、まずは家まで運んで・・・・・・!」

 

慌てるスパークルに、フォンテーヌが冷静にそう言った、その時だった・・・・・・。

 

「クチュン!!」

 

「「「「「えっ!?」」」」」

 

突然、ラテがくしゃみをして再び体調が悪くなり、それを見たフォンテーヌたちが驚きの声をあげた。

 

「また・・・どこかで別のビョーゲンズが・・・!?」

 

「っ・・・こんな時にかよ・・・!!!!」

 

アースはすぐに聴診器を取り出して、ラテに当てる。

 

(街で、先生が泣いてるラテ・・・・・・)

 

「「「っ!!??」」」

 

フォンテーヌたちはラテの心の声を聞いて、中島先生がギガビョーゲンにされたことを知るのであった。

 

しかしそれを聞いても、のどかは目を瞑ったままだった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、すこやか市の病院近くの街では・・・・・・。

 

「ギーガー・・・・・・」

 

クルシーナの生み出した看護師姿のギガビョーゲンが、ナースキャップを被っている頭部の2本の注射器から赤い光線を打ち出して、辺りを病気に蝕んでいく。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ギガビョーゲンの近くにいた人々が悲鳴をあげて逃げ惑う。

 

「・・・・・・・・・」

 

そんな惨状が起こっている中、クルシーナは高台の上でギガビョーゲンを見つめていた。その表情は嬉々したものではなく、むしろ寂しそうな表情であった。

 

「ギーガー・・・・・・」

 

ギガビョーゲンはそんなクルシーナの気持ちとはお構いなしに、頭部の注射器から赤い光線を放って広範囲を蝕んでいく。

 

「・・・・・・・・・」

 

『しんらちゃん、お加減はどう?』

 

『ご飯はちゃんと食べないと、元気になれないわよ?』

 

『辛かったらいつでも私に言ってね。力になれると思うから・・・』

 

クルシーナの頭の中に浮かぶのは笑顔の中島先生。自分を叱ったこともあったが、あの女性の顔が心に暖かく思えてくる。忘れたはずなのに、忘れられない・・・そんな感情を抱いていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

自分の胸に手を当て始めるクルシーナ。今まで感じたことのないものがそこに現れていた。

 

「・・・なんで」

 

クルシーナは顔を俯かせながら、体を震わせ始める。

 

「なんで・・・なんでよ!? なんでこんなに・・・・・・苦しいのよ・・・・・・!?」

 

ビョーゲンズになってから、感じないと思っていた気持ち・・・・・・クルシーナはせっかく楽になれたのに、またこんな気持ちを抱き始めた自分に苛立ちを覚えていた。

 

そうだ・・・あいつだ。あの女がいるから・・・・・・悪いんだ・・・・・・!

 

そう感じたクルシーナは振り払うように首を振ると、再びギガビョーゲンの方を見る。

 

「ギガビョーゲン!! ここ一帯を徹底的に蝕みな!!!!」

 

「ギーガー・・・・・・」

 

クルシーナは苛立ち任せに指示を出し、それを受けたギガビョーゲンは注射器から光線を放って次々と蝕んでいく。

 

「ねぇ、クルシーナ・・・・・・」

 

「・・・・・・何よ?」

 

「中島先生をギガビョーゲンにしたこと、後悔してるウツ?」

 

ウツバットはクルシーナにそう問いかけた。先ほどから中島先生に会った時のクルシーナの様子がどう見てもおかしい。ギガビョーゲンを生み出す前も躊躇している一面を見せており、中島先生をギガビョーゲンにした際も怪物を切なそうに見つめていた。

 

クルシーナが嫌いな医者とは言え、恩人でもある彼女をギガビョーゲンにしたことを悔やんでいるのではないかと思ったのだ。

 

「・・・まさか! アタシを苦しめる奴なんか、苦しんでればいいのよ」

 

「っ・・・・・・・・・」

 

クルシーナは冷淡な態度を取るも、ウツバットは絶対に本心じゃないと悲しそうな表情を浮かべる。

 

「さてと・・・場所を移動するか・・・・・・ギガビョーゲン、あっち行くよ」

 

「ギー・・・ガー・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナはここ一帯は完全に蝕めたと判断し、海のある方向へと向かって行く。しかし、その表情はウツバットに取った言動とは逆に、複雑な表情を浮かべていたのであった。

 

一方、プリキュアたちは、のどかの家へと戻ってきていた。

 

「とりあえず、ベッドには寝かせたけど・・・・・・」

 

一旦プリキュアの変身を解き、のどかを自身の部屋のベッドの上に寝かせる。苦しんでいる様子はないが、彼女はまだ目を覚ましていない。

 

「かすみっちに負けて、ダメージを受けただけだと思うんだけど・・・・・・」

 

「でも、さっきも息を荒くしていたから・・・・・・心配ラビ・・・・・・」

 

ひなたは特に大きな大病を患ったわけではないので大丈夫だと思いつつも、パートナーのラビリン同様に心配な様子で見ていた。

 

「のどかには一旦休んでもらいましょう。ラビリン、私たちはもう一体のギガビョーゲンを・・・!!」

 

「みんな、気をつけてラビ・・・!!」

 

ちゆはそう言うと、ラビリンも無茶をしないようにという激励をし、三人は頷くと暴れているギガビョーゲンを止めるべく、のどかの家を飛び出していく。

 

「のどかぁ・・・・・・」

 

ラビリンは眠っているのどかを心配そうに見つめていたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第119話「胸痛」

前回の続きです。
傷ついたのどかを家に置き、3人でギガビョーゲンを止めようとするプリキュアたちだが・・・・・・。


 

のどかを家へと残し、ギガビョーゲンの元へ向かうために駆け出したちゆたち3人。街の中へと駆け出し、ギガビョーゲンが暴れたと思われる場所が見えたので行ってみると・・・・・・。

 

「ひどい・・・・・・!」

 

「これ全部、ギガビョーゲンの仕業なの・・・!?」

 

病院近くの木々などが赤い病気に染められており、ちゆたちはその光景に心を痛めていた。

 

「ラテ、お疲れのところすみません。ギガビョーゲンはどこにいますか?」

 

アスミはギガビョーゲンの場所を探るため聴診器をつけて、ラテに当てる。

 

(先生は、あっちの方で泣いてるラテ・・・・・・)

 

ラテは海の方向を向きながら、そう心の声を発した。

 

「ギガビョーゲンはあっちです・・・!!」

 

「行きましょう!!」

 

アスミがラテが示した方向を指差すと、ちゆたちはその方向へと駆け出していく。

 

「ギーガー・・・・・・」

 

ギガビョーゲンは頭部の注射器から禍々しい光線を放って、海周辺を病気に蝕んでいく。

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナはそのギガビョーゲンの様子を複雑な心境で見つめていた。

 

「カスミーナに、ついてもらえばよかったかな・・・・・・」

 

クルシーナは空を見上げながら、ボソリとそう呟いた。

 

「いたわよ!! ギガビョーゲン!!」

 

「っ・・・!!」

 

そこへ声が聞こえてきたかと思うと、クルシーナはその方向へと振り向く。それを見てクルシーナは笑みを浮かべる。

 

「あら、やっと来たんだぁ?」

 

「クルシーナ!!」

 

「あんたも進化しちゃってたの!?」

 

クルシーナが進化して変貌した姿に、みんなは驚きの声を上げる。

 

「悪い? アタシだって、新たな力を得たいもんね」

 

座りながらそう言ったクルシーナは何かを思いついたように立ち上がる。

 

「ちょうどいいわ・・・相手してくんない? さっきからイライラして辛抱ならなかったのよね・・・!!」

 

クルシーナは黒いピンク色のオーラを放出させながらそう言った。

 

「何でしょう・・・さっきのダルイゼンよりも邪悪というか・・・寒気がします・・・・・・」

 

アスミは先ほどのダルイゼンが進化した時よりも、邪悪な気配を感じており、少し武者震いをしていた。

 

「みんな、とにかく行くぞ!!」

 

ニャトランの言葉を合図に、みんなは変身アイテムを構えた。

 

「「「スタート!」」」

 

「「「プリキュア、オペレーション!!」」」

 

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

「エレメントレベル、上昇ラテ!!」

 

「「「キュアタッチ!!」」」

 

ペギタン、ニャトランがステッキの中に入ると、ちゆ、ひなたはそれぞれ水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

アスミは風のエレメントボトルをラテの首輪にはめ込む。すると、オレンジ色になっているラテの額のハートマークが神々しく光る。

 

ちゆとひなたは、肉球にタッチすると、水、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまとい水色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、ちゆは水色、ひなたは黄色へと変化する。

 

ラテとアスミは手を取り合うと、白い翼が舞い、ラテが舞ったかと思うとハートの中から白い白衣のようなものが飛び出す。

 

その白衣を身に纏い、ラテが降りてきたかと思うとハープが飛び出し、さらにアスミは紫色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

衣装にチェンジした後、ハープを手に取り、その音色を奏でる。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「「時を経て繋がる、二つの風!」」

 

「キュアアース!!」

 

「ワン!」

 

アスミは風のプリキュア、キュアアースへと変身した。

 

「・・・ふん。ギガビョーゲン、やっちまいな」

 

「ギーガー・・・・・・」

 

クルシーナの指示を受けたギガビョーゲンは頭部の注射器から赤く禍々しい光線を放ち、さらに辺りを病気に蝕んでいく。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

フォンテーヌが空中へと飛び出し、ギガビョーゲンに目掛けてキックを繰り出す。

 

「ギガ・・・・・・」

 

「っ、あぁぁぁ!!!!」

 

ギガビョーゲンは手に持っていたカルテのような手で防ぎ、逆にフォンテーヌをはたき落とした。

 

「ギー・・・ガー・・・・・・」

 

「やぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ギガビョーゲンは再び注射器から赤い光線を放つ。スパークルが光線を避けながら、ギガビョーゲンの顔面にパンチを繰り出す。

 

「ギー・・・・・・」

 

「っ・・・・・・あぅ!!」

 

しかしギガビョーゲンには通用しておらず、スパークルを片手で掴むと地面へと放り投げて叩きつけた。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ガー・・・・・・」

 

アースは強い風を纏って飛び出し、ギガビョーゲンへとキックを繰り出す。ギガビョーゲンはカルテのような手を振り回して防ぐ。

 

「っ・・・・・・」

 

「ギーガー・・・・・・」

 

ギガビョーゲンはアースへと視線を向けると、頭部の注射器から赤い光線を放つ。アースは寸前で空中へと逃げる。

 

「っ、あぁぁぁ!!!!」

 

しかし、ギガビョーゲンは連続で赤い光線を放ち、アースは避けきれずに当たってしまう。

 

「雷のエレメント!! はぁっ!!」

 

「ギガ・・・ガー・・・・・・?」

 

スパークルは雷のエレメントボトルをセットし、ステッキから雷を纏った光線を放つ。ギガビョーゲンはその攻撃によって、動きを止めた。

 

キュン!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

フォンテーヌはその隙に肉球を一回タッチして、ギガビョーゲンへと向ける。ペギタンの目が光り、ギガビョーゲンの胸の部分に中島先生がいるのを発見した。

 

「中島先生・・・絶対に、助けます!!」

 

フォンテーヌはギガビョーゲンへと向かって飛び上がり、そこへスパークルとアースも続く。

 

「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 

3人は同時にギガビョーゲンに目掛けてパンチを繰り出す。

 

「っ、きゃあぁぁぁ!!!!」

 

それでもギガビョーゲンには通用しておらず、スパークルは顔を動かしただけで弾き飛ばされてしまう。

 

「やあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

フォンテーヌは空中へと飛び出して、ギガビョーゲンの顔面にキックを放つ。

 

「ギーガー・・・・・・」

 

「っ・・・きゃあぁぁぁ!!!!」

 

ギガビョーゲンは顔を顰めただけで、すぐにフォンテーヌを片手のカルテのようなもので吹き飛ばした。

 

その後ろをアースが受け止め、地面へと着地する。

 

「っ・・・やっぱり、強い・・・!!」

 

ギガビョーゲンの強さを再び思い知らされるフォンテーヌ。

 

「ギガ・・・・・・・・・」

 

そんなギガビョーゲンはつけている聴診器のようなものの先端を浮かせると、そこから周辺に赤く禍々しいビームを広範囲に放つ。

 

「きゃあぁぁぁぁぁ!?」

 

「うわあぁぁぁぁぁ!?」

 

着弾したビームの爆発を凄まじく、フォンテーヌとスパークルが思わず悲鳴をあげてしまうほどであった。

 

「うぇ・・・あんなの食らったらヤバイじゃん・・・!!??」

 

スパークルが攻撃の激しさに体を震わせていると・・・・・・。

 

「ギーガー・・・・・・」

 

「っ・・・・・・!!」

 

ギガビョーゲンは聴診器からのビームを連続して放つ。プリキュアたちは放たれるビームを各人避けていく。

 

「ギガー・・・・・・」

 

「あっ・・・!?」

 

するとギガビョーゲンはもう片方の手のように形成された包帯のようなものを解くと、空中へ逃げたスパークルを拘束する。

 

「ギー・・・・・・!!」

 

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ギガビョーゲンはそのまま勢いをつけて放り投げ、近くの海へと拘束したまま投げ飛ばした。

 

「ギガー・・・!!!」

 

さらにギガビョーゲンは解かれた包帯のところからメスのようなものを突出させると、それを赤く光らせ、それを振るって三日月型の斬撃を放つ。

 

「っ・・・あぁぁぁぁぁ!!!!」

 

フォンテーヌはバク転してそれを避けるも、続けざまに放たれた斬撃を避けきれずに食らってしまい、吹き飛ばされて地面に転がる。

 

「音のエレメント!!」

 

アースはハープに音のエレメントボトルをセットして弦を奏でる。ギガビョーゲンの周りに円状のゲートが開き、そこからビームが連続で発射される。

 

「ギ・・・ガ・・・・・・?」

 

この攻撃によって、ギガビョーゲンは動きを封じられる。

 

「氷のエレメント!! はぁっ!!」

 

その隙を狙ってフォンテーヌが氷のエレメントボトルをセットし、頭部の注射器に目掛けて氷を纏った光線を放つ。

 

「ギガ・・・・・・?」

 

注射器は完全に凍りついて、ギガビョーゲンは光線を放てなくなった。

 

「よし!!」

 

フォンテーヌは完全にギガビョーゲンの攻撃を封じたとそう思った。

 

「・・・・・・ふんっ」

 

「っ!? あぁぁぁ!!!!」

 

そこへクルシーナが人差し指からピンク色の禍々しいレーザーを放ち、アースは直撃を受けて吹き飛ばされてしまう。

 

「アース!!!!」

 

「アタシもいるってこと、忘れてない・・・?」

 

フォンテーヌはアースを心配してみるも、クルシーナが空中へと飛びながら4つの赤く禍々しい球を出現させると、それらを全てフォンテーヌへと投擲した。

 

「っ!!!」

 

フォンテーヌはとっさにぷにシールドを張って、投擲された弾を防ぐも、地面に着弾したものは凄まじい爆発を起こす。

 

シュイーン!

 

「ふん!!」

 

「っ!? きゃあぁぁぁぁ!!!!」

 

その背後からクルシーナが現れ、キックを繰り出してフォンテーヌを吹き飛ばす。

 

フォンテーヌはすぐに地面へと着地して立て直すも、そこへクルシーナがピンク色の禍々しいオーラを手に纏わせて追撃しようと飛びかかる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「っ・・・うっ!!!!」

 

「ふんっ!!!!」

 

クルシーナはオーラを纏ったパンチを繰り出し、フォンテーヌは腕で防ぐも少し吹き飛び、さらに手を広げてピンク色の光弾を連続で放つ。

 

ザパァ・・・・・・!!

 

「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

海の中から復帰したスパークルがギガビョーゲンへと飛びかかり、かかと落としを放とうとする。

 

「ギーガー・・・・・・」

 

「っ・・・あっ!?」

 

すると、ギガビョーゲンは片方のカルテのようなものを引っ込めると、入れ替わりにピンセットのようなものに変えるとスパークルに向かって突き出して、繰り出した足を掴む。

 

「ガー・・・・・・」

 

「うわぁぁぁぁっ!!!!」

 

「ギガー・・・・・・」

 

ギガビョーゲンはスパークルを投げ飛ばすと、もう片方のメスのようなものから斬撃を放って追撃する。

 

「空気のエレメント!! はぁっ!!」

 

そこへアースが飛び出して、ハープに空気のエレメントボトルをセットして空気の塊を放ち、斬撃を相殺する。

 

「っ・・・・・・!!」

 

スパークルは地面へと着地すると、エレメントボトルを取り出す。

 

「火のエレメント!! はぁっ!!!!」

 

ステッキに火のエレメントボトルをセットして、火を纏った光弾を連続で放つ。

 

「ギガー・・・・・・」

 

ギガビョーゲンは片手のピンセットを引っ込めると、カルテを出して光弾を防ぐ。

 

「〜〜っ、攻撃が当たんない・・・!!」

 

「これは厳しいですね・・・・・・」

 

「ギーガー・・・・・・」

 

焦るスパークルとアースに、ギガビョーゲンはカルテを引っ込めて、メスのようなものへと変えると両手の二つのメスを頭上で合わせる。すると、大きな禍々しい赤いオーラの塊が生成される。

 

「うぇ!? 何あれ!?」

 

「ギガァ・・・!!!!」

 

スパークルが慄いている中、ギガビョーゲンはその赤いオーラの塊を投擲する。

 

「「あぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」

 

二人は赤いオーラの塊を避けきれずに、直撃を受けて吹き飛ばされてしまう。

 

「くっ・・・うっ・・・くっ・・・・・・!!」

 

クルシーナは片腕から生やすイバラの茎を鞭のように何度も振るって攻撃し、防御するフォンテーヌは苦痛に呻く。

 

「はぁっ!!!!」

 

「きゃあぁ!!!!」

 

防戦一方のフォンテーヌに対して、クルシーナは強烈なキックを繰り出して吹き飛ばす。フォンテーヌはなんとか踏ん張って倒れないようにしたが、膝をついてしまう。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「どうした? こんなもんってわけ? アタシはまだまだ相手して欲しいんだけど?」

 

息を荒くしているフォンテーヌに対し、クルシーナは余裕の表情で見つめる。

 

「フォンテーヌ、無理しちゃダメペエ・・・・・・!」

 

「でも、ここで抑えないと・・・この街が・・・・・・!」

 

ペギタンが心配してそう言うも、フォンテーヌはなんとか立ち上がってステッキを構える。

 

「っていうか、今日はキュアグレースはいないのね」

 

「グレースがいなくても、私たちが食い止めるわ・・・!!!!」

 

クルシーナはプリキュアがもう一人いないことを指摘するも、フォンテーヌは強い口調で言い返す。

 

「わざわざこんな先生を助けるために必死になるなんて、バッカみたい」

 

クルシーナは不機嫌そうな表情でプリキュアたちの行動をバカにすると、手のひらを広げて薔薇のような花びらを放出させると、舞っているそれらを全てフォンテーヌへ投擲する。

 

「くっ・・・うぅぅぅ・・・あぁぁぁ!!!!」

 

花びらはカッターのような切れ味で高速で襲いかかり、防御が取れなかったフォンテーヌをボロボロにして吹き飛ばしていく。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「きゃあぁぁぁぁ!!!!」

 

クルシーナは空中へ飛んでフォンテーヌへと飛び蹴りを繰り出し、直撃を受けたフォンテーヌはそのままクルシーナと一緒に地面へと叩きつけられるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ねえ、のんちゃん・・・・・・』

 

『どうしたの? しんらちゃん』

 

『アタシたちの病気って・・・なんで治らないのかな・・・?』

 

『わかんないよ。私も突然体がうまく動かなくなって、苦しくなって・・・・・・』

 

『そうだよね・・・・・・』

 

病院時代、幼い頃ののどかとしんらは自身の病気について話していた。

 

『お医者さん・・・治す気ないのかな・・・・・・?』

 

『そ、そんなこと・・・ないと思う・・・・・・』

 

『だって、私の病気・・・数ヶ月経っても治らないんだもん。お医者さん、治して見せるって言っておいて、私に嘘ついてる・・・・・・?』

 

『それは、違うよ・・・!!!!』

 

そう叫んだのどかにしんらの動きが止まり、ゆっくりとこちらを向き始める。その姿はクルシーナへと変えていた。

 

「しんら、ちゃん・・・・・・?」

 

のどかの姿もいつの間にか現在の姿に戻っており、真っ暗な空間の中、クルシーナがこちらに両手を伸ばしてこちらに歩いてくる。

 

そして、伸ばされたクルシーナの手はのどかの首へといき、彼女の首を掴んだ。

 

「ぐっ・・・ぁ、うっ・・・・・・!」

 

ーーーー助けると言った割には・・・弱いな・・・・・・。

 

「う、あぁ・・・や、やめ、て・・・・・・」

 

のどかはクルシーナの腕を掴んで引き剥がそうとすると、頭の中にカスミーナの声が流れ込んできた。

 

ーーーー自分のことだけ考えていた方が気楽だろうに・・・・・・。

 

「うっ、やめて・・・・・・!!」

 

ーーーー助けるなどという言葉を、お前らが言うか!!!!

 

「やめてぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

のどかがそう叫ぶと真っ暗な空間が急に明るくなり、家の天井が目に映った。

 

「のどか!? のどかぁ!! 大丈夫ラビ!?」

 

「ぇ・・・わ、私は・・・・・・?」

 

心配する表情のラビリンが視界に入るも、状況がよくわかっていないのどかはふと体を起こす。

 

「あっ、ぐっ・・・・・・!」

 

「あっ、動いちゃダメラビ!! 怪我をしているラビ!!」

 

「っ・・・・・・?」

 

その瞬間に体に痛みが走り、表情を苦痛に歪ませるのどか。ラビリンが心配してのどかに寄り添う。気がつくと右腕、頭部と腹部には包帯が巻かれており、自分が怪我をしていることを察する。

 

「あ・・・そうか・・・・・・私、かすみちゃんに負けて・・・・・・でも、ギガビョーゲンを止めないといけないって思ったら、体が動いて・・・・・・!」

 

「のどかは本当に無茶しすぎラビ!! あのままギガビョーゲンの浄化に向かって、倒れたときには胸が痛くてどうなるかと思ったラビ!!」

 

のどかは自分がカスミーナ、キュアハザードに敗北を喫したことを思い出す。ラビリンはそんな彼女に抱きついて叫び、涙を流していた。

 

「ラビリン・・・ごめんね・・・・・・」

 

のどかはラビリンを心配させてしまった自分を反省し、ラビリンを抱きしめながら謝罪した。

 

「あ・・・ちゆちゃんたちは・・・!?」

 

「3人で現れたもう一体のギガビョーゲンを止めに行ったラビ・・・・・・」

 

「っ!!!!」

 

のどかはこの場にいないちゆたちのことをラビリンから聞くと、目を見開くとベッドから飛び起きようとする。

 

「あっ・・・うっ・・・!!」

 

「のどかぁ!! 安静にしてなきゃダメラビ!!」

 

のどかは足に痛みが走って膝をついてしまい、ラビリンは行かないように諭す。

 

「行かなきゃ・・・! 行かないと・・・ちゆちゃんたちが・・・・・・!!」

 

「怪我している状態で、戦ってもさっきと同じラビ!! どうしてか体力が落ちているのも心配なのに・・・・・・!」

 

のどかはちゆたちの元へ行こうと足を動かした。ギガビョーゲンは4人でないと浄化できない。自分があの場にいないことで、ちゆたちが足止めしかできず危ないと、のどかは瞬時に考えたのだ。

 

しかし、ラビリンは怪我をしている状態ではやられるだけだと、のどかを安静させようと諭そうとする。それに反してのどかは足を引きずりながらも、ギガビョーゲンの元へと行こうとしていた。

 

「のどか・・・・・・・・・」

 

ラビリンは一人行こうとするのどかを心配そうに見つめていたが、のどかの意思を優先することにして彼女の後をついて行く。

 

のどかは自分の家を飛び出して、街へと向かっていく。

 

「のどか! ラビリンはのどかの選んだことに従うラビ!! でも、体が苦しくなったらすぐに言うラビ!!」

 

「・・・うん。ありがとう」

 

追いついたラビリンがそう言うと、のどかは微笑みながらそう言った。

 

「うっ・・・行こう!!」

 

のどかは体を懸命に引きずりながらも、ラビリンと共にギガビョーゲンの元へと向かっていく。

 

その途中、街の中でギガビョーゲンによって蝕まれた場所へと差し掛かる。

 

「これは・・・・・・」

 

「ギガビョーゲンはきっと、この先にいるラビ!!」

 

「・・・・・・早く元に戻さなくちゃ」

 

のどかは小さく呟きながらそう言うと、ラビリンが指し示す方向へと向かっていく。

 

「行くよ! ラビリン!!」

 

「ラビ!!」

 

のどかはステッキを取り出しながら、ラビリンにそう呼びかけた。

 

「スタート!!」

 

「プリキュア、オペレーション!!」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

 

「キュアタッチ!!」

 

ラビリンがステッキの中に入ると、のどかは花のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

そして、肉球にタッチすると、花をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンクを基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もイメージをしたようなものへと変わり、ピンク色へと変化する。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身したのであった。

 

一方、ギガビョーゲンと交戦中のプリキュア3人は、状況を覆せず苦戦を強いられていた。

 

「プリキュア!ヒーリング・ハリケーン!!!」

 

「プリキュア!ヒーリング・フラッシュ!!!」

 

アースはアースウィンディハープから、スパークルはステッキから必殺技を繰り出す。

 

「ギーガー・・・・・・」

 

ギガビョーゲンはメスになっている両腕を頭上で合わせると、赤く禍々しいオーラの球を生成するとそれを投擲する。

 

オーラの球とアースとスパークルの必殺技がぶつかり合うが、やはりギガビョーゲンの攻撃は強く、二人の必殺技は呆気なく突破される。

 

「「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

そのままオーラの球は二人へと直撃してダメージを与えた。

 

「っ・・・やぁっ!! おらっ!!!」

 

「ふっ・・・うっ・・・くっ・・・!!!!」

 

フォンテーヌはクルシーナにパンチで責められて、防御するのが精一杯だ。

 

「はぁっ!!!!」

 

「っ・・・・・・!!!」

 

クルシーナは回し蹴りを繰り出して、フォンテーヌを地面へと吹き飛ばす。

 

「うっ・・・っ・・・!!!!」

 

「くっ・・・・・・!!!!」

 

スパークルとアースは体を震わせながらもなんとか立ち上がる。

 

「うっ・・・くっ・・・!!!!」

 

フォンテーヌも同じようになんとか立ち上がるが・・・・・・。

 

「ギーガー・・・!!」

 

「「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

「・・・・・・ふん」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ギガビョーゲンは二本のメスの腕を赤く光らせると、斬撃を放ってスパークルとアースを吹き飛ばし、クルシーナは人差し指からピンク色の禍々しいレーザーを放ってフォンテーヌを吹き飛ばした。

 

「うっ・・・・・・!!」

 

「くっ・・・・・・!!」

 

「あぁ・・・・・・!!」

 

ギガビョーゲンとクルシーナに追い詰められ、ボロボロにされたプリキュア3人。皆、体に力が入らず、意識が混濁していて立つことができない。

 

「パワーアップしたプリキュアの力ってこんなもんなの? ダサっ。少しは期待できると思ったんだけどなぁ」

 

クルシーナは倒れている3人を見下ろしながらそう言った。しかし、その表情に晴れやかな様子はなく、むしろ不機嫌そうな表情だった。

 

「くっ・・・まだ、終わりじゃ・・・ないわよ・・・・・・!!」

 

「諦めたりなんか・・・しないんだから・・・・・・!!」

 

フォンテーヌとスパークルは強気に返しながらも、体を起こせるだけで立つことができない。

 

「医者なんか助けて何になるのよ? 患者に都合のいいことばっかり言って、いつまで経ってもその患者の病気を治してくれない、そんな奴を助けて誰のためになんだっての!!」

 

クルシーナは不機嫌そうな表情で、少々怒りを交えたように語気を強めて言う。

 

「大体そいつはね、自分から罰を与えるようにお願いしてきたのよ。アタシの姿を見るなりして、泣きそうな顔ですがりついてねぇ」

 

「・・・!?」

 

クルシーナの告白に、フォンテーヌが信じられない表情をする。

 

「そんな・・・・・・中島先生が、クルシーナに・・・・・・!」

 

「嘘です!! そんなの・・・・・・!!」

 

「まぎれもない事実よ。アタシが治ってないって言ったら、自分から手を掛けるぐらいにヤバい状態だったわ」

 

フォンテーヌが衝撃に言葉を失い、アースは強い口調で反論するが、クルシーナは肯定して突き返す。

 

「あんたが・・・治ってないって言ったから、先生が落ち込んじゃったんじゃないの・・・!?」

 

「だって、本当に治ってないし。治ってないのに、治ったなんて言うわけないでしょ」

 

スパークルが非難に近い言葉を言うも、クルシーナは悪びれもせずに言い返す。

 

「先生が罰を与えてくれって言ってたんだから、ここで先生を助け出すのは先生のためにならないんじゃないの? それに先生も助かったところで、落ち込んだままになるだろうし、余計なおせっかいだって思うんじゃない? 感情のないギガビョーゲンにしておけば、悲しみもしないわよ」

 

「それは違うわ!! それで放っておいていい人なんているわけないじゃない!!」

 

クルシーナの言葉に反論しようとする、フォンテーヌだが・・・・・・。

 

「何が違うのよ? 先生は助けてって言ったの?」

 

「そ、それは・・・・・・!」

 

「言ってないでしょ? 助けてとも言わないのに、いい迷惑になる奴だっているでしょうに」

 

クルシーナに反論する前に、次々と切り捨てられる。

 

「でも・・・だからって、悲しんでていい人なんているわけないじゃん!! 先生だって、本当はこんなことを望んでいるわけじゃ・・・!!」

 

「お前にアタシと先生の何がわかるってのよ!? 重い病気にもなったこともないくせに!!」

 

スパークルの言葉に、苛立ったような怒りの声で主張するクルシーナ。

 

「先生はアタシに罰を与えて欲しいって言ったのよ!! それが全てなの!! だから、これは正当な行いなのよ!!!! 先生のことをそんな風に言う奴はアタシが許さない!!!!」

 

クルシーナは強い口調に、フォンテーヌたちは何も言うことができなかった。彼女がここまで言うということは、中島先生は本当に願ったのだろう。クルシーナに蝕まれることを・・・・・・。

 

「っ・・・・・・・・・」

 

クルシーナの声が聞こえていたのか、ギガビョーゲンの中で意識を失っているはずの中島先生の眉がピクピクと動いた気がした。

 

「・・・・・・好きなんだね、先生のことが」

 

「っ!!??」

 

背後から聞こえる声にクルシーナはビクッとする。声がする方を振り向くと、そこには表情を曇らせたグレースの姿があった。

 

「「「グレース!!」」」

 

フォンテーヌたちはようやく到着したグレースを見て叫ぶ。

 

「しんらちゃん・・・本当は、先生のことが好きなんだよね・・・・・・」

 

「っ・・・・・・」

 

「だって、ギガビョーゲンを見ていたしんらちゃん、悲しそうな顔をしてた。本当はギガビョーゲンなんかにしたくなかったんでしょ? 私、友達だから・・・・・・わかるもん」

 

「!!??」

 

グレースがそう訴えかけると、クルシーナは動揺する。

 

私が・・・・・・先生のことが好き・・・・・・? 本当は怪物にしたくなかった・・・・・・?

 

・・・・・・痛い・・・!! 胸が痛い・・・・・・!!

 

クルシーナはまた感じないはずの、胸に痛みと苦しみを受け始めた。

 

「違う・・・違うッ!!! アタシは医者なんか大嫌いだ!! 医者なんか、嘘つきで・・・いつまでも病気を直してくれなくて・・・病院に患者をいつまでも縛りつけようとする酷いやつらだッ!!!! そんなの、苦しんで当然なんだよ!!!!」

 

クルシーナは頭を振りながら激昂し、医者に対する憎しみの言葉を吐く。

 

「確かに、医者は治すのは遅いかもしれない。私も、どうしていつまでも治らないのかなと、ずっと病院にいるのかなって、ずっと不安で仕方なかった。でも、先生の優しさがあったから、いつまでも支えてくれたから、私はここにいるんだよ・・・しんらちゃん・・・・・・」

 

グレースはクルシーナの言葉に反論し、優しい微笑みを見せる。クルシーナにはそれが、中島先生の優しい微笑みと重なった。

 

「やめろ・・・・・・・・・」

 

『しんらちゃん、きっと治してあげるわ・・・・・・』

 

「やめろ・・・・・・・・・!!」

 

『辛かったらいつでも私に言ってね。力になれると思うから・・・』

 

「やめろ・・・やめろやめろぉぉぉぉぉッ!!!!!」

 

クルシーナはその微笑みを思い出して、それが胸に突き刺さるように痛くなり、頭を抱えて完全に錯乱していた。彼女はその状態のまま、手のひらを突き出すとピンク色の光弾を連続してグレースに放った。

 

「うっ・・・あぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

とっさに出た攻撃に、グレースはまともに食らって吹き飛ばされてしまう。

 

「ギガビョーゲン!!!! その忌々しい笑顔を、今すぐに潰せッ!!!!」

 

「ギー・・・ガー・・・・・・」

 

クルシーナは怒りのままにギガビョーゲンに指示を出し、それを受けた怪物はゆっくりとグレースに近づく。

 

グレースはゆっくりと立ち上がると、静かにギガビョーゲンを見据える。不思議と痛みや苦しみ、だるさを感じなかった。

 

「みんな・・・立てる!?」

 

「「「!!」」」

 

グレースがフォンテーヌ、スパークル、アースに問いかけると3人はお互いに顔を合わせた後、同時に頷く。そして、ゆっくりと立ち上がってグレースの元へと駆け寄る。

 

「中島先生・・・・・・聞こえますか? 私が、必ず助けます・・・!!!!」

 

グレースはギガビョーゲンを睨みながら、そう叫びステッキを構える。

 

「・・・・・・・・・」

 

中島先生は、ギガビョーゲンの中で先ほどのクルシーナの声を聞くかのように、表情は悲しそうにしていたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第120話「大事」

前回の続きです。今回で原作第33話は終わります。
プリキュアたちは中島先生を助けられるのか??

そして、カスミーナの方にも動きが・・・・・・。


「ギー・・・ガー・・・・・・」

 

ギガビョーゲンは両腕のメスを赤く光らせると、プリキュアたちに赤い斬撃を放つ。プリキュアたちは散開して斬撃を避ける。

 

「先生・・・聞こえてますか? 聞こえてるなら、聞いてください・・・!!!!」

 

「ギガー・・・・・・」

 

グレースは駆け出しながら中島先生に思いを伝えようとすると、ギガビョーゲンは氷の溶けた頭部の2本の注射器から赤い光線を放ち、グレースはそれを避けながら進んでいく。

 

「私たちは、あなたを助けたい・・・!! しんらさんのことを大切に思っていた先生の思いを、守りたい・・・・・・!!!!」

 

フォンテーヌも訴えかけるように叫び、ギガビョーゲンはフォンテーヌの方に視線を向けて赤い光線を放つ。

 

「しんらっちと何があったかは見てないけど・・・先生の悲しいという気持ちや苦しいという気持ち、しんらっちを大事にしてたって気持ち・・・あたしにもわかるよ・・・・・・!!!!」

 

「ギガァ・・・・・・」

 

そこへスパークルもシールドを張りながら、先生に思いの丈を叫び、ステッキから黄色い光弾を次々と放って、ギガビョーゲンを足止めする。

 

「患者の病気が治らないのを悲しんでいても、何もありません。無粋なことは言えませんが、私たちはどんなに辛くても進むべきなのです! それでも苦しいなら・・・・・・せめて、しんらさんの笑顔を思い出してください・・・!!!!」

 

「ギガ・・・??」

 

アースは中島先生に語りかけながら飛び出し、ギガビョーゲンの顔面に蹴りを加えるが、やはりギガビョーゲンには通用していない模様。

 

「ギー・・・・・・」

 

「くっ・・・・・・!」

 

ギガビョーゲンは右腕のメスをカルテに変えると、そのままアースを弾き飛ばす。

 

「アース!!」

 

「っ!! はい!!」

 

アースはそこに飛んできたグレースを視認すると体勢を立て直し、グレースはアースの肩を踏み台にしてギガビョーゲンへと迫る。

 

「先生・・・しんらちゃんは幸せだった・・・・・・先生といれてよかったって思ったんです・・・しんらちゃんは先生のことを恨んでなんかいないんです・・・!! だから・・・自分に自信を持ってください!!!!」

 

「ギー・・・ギガー・・・!?」

 

グレースは足にピンク色の光りを込めた蹴りを繰り出すと、ギガビョーゲンが一瞬だけ怯んだ。

 

「っ・・・・・・しんら・・・ちゃん・・・・・・」

 

ギガビョーゲンの中にいる中島先生は眠っているようだが、瞑っている目元をピクピクとさせるとそこから一筋の涙を流した。

 

「先生・・・・・・・・・」

 

クルシーナはギガビョーゲンを切なそうに見つめていた。

 

「クルシーナ・・・本当は、中島先生が・・・・・・」

 

「・・・・・・黙れ、それ以上言うな」

 

ウツバットはクルシーナの悲しそうな表情を見ながらそう言うと、クルシーナは静かな声でそう言った。

 

「いけるわ!!」

 

「ギガビョーゲンがよろめきました!」

 

フォンテーヌとアースはようやく手応えを掴んだと察する。

 

「よーし!!」

 

それを見て気合が入ったスパークルは空中へと飛んでギガビョーゲンへと接近する。

 

「雷のエレメント!! はぁっ!!」

 

「ギィ・・・ギガァ・・・・・・??」

 

ステッキに雷のエレメントボトルをセットして雷を纏った黄色い光線を放ち、ギガビョーゲンの動きを止めた。

 

「氷のエレメント!! はぁっ!!」

 

「ギ・・・ギガァ・・・・・・」

 

フォンテーヌは氷のエレメントボトルをセットして、冷気を纏った光線を放つとギガビョーゲンはメスのような片腕を使って光線を防ぐも、怪物は完全に防戦一方だった。

 

「音のエレメント!!」

 

アースはハープに音のエレメントボトルをセットして、弦を奏でると円状のゲートがギガビョーゲンの上空に出現し、そこからビームを連続で発射させる。

 

「ギ・・・ガ・・・ビョー・・・・・・」

 

スパークルの雷のエレメント、フォンテーヌの氷のエレメント、アースの音のエレメントの力によってギガビョーゲンは完全に動きを停止させられた。

 

「「「グレース!!!」」」

 

「今です!!」

 

光線やビームを放ち続ける3人はグレースへと同時に呼びかける。

 

「実りのエレメント!! はぁぁぁぁぁっ!!!」

 

グレースは実りのエレメントボトルをセットして、ピンク色のエネルギーをチャージして光弾を放つ。

 

「ギガー・・・ビョーゲン・・・・・・!?」

 

光弾の直撃を受けたギガビョーゲンは背中から地面へと倒れる。プリキュアたちは遂にギガビョーゲンを追い詰めることに成功した。

 

「みんな、ラテ、行くよ!!!!」

 

「ワフ〜ン!!」

 

グレースがみんなに向かって叫び、ラテが大きく鳴き声を上げる。

 

「「「「ヒーリングっどアロー!!!!」」」」

 

4人がそう叫ぶとラテがステッキとハープ、エレメントボトルの力を一つにまとめた注射器型のアイテム、ヒーリングっどアローが出現する。

 

その注射器型のアイテムに、ハートの模様が描かれたエレメントボトルをセットする。

 

「「「「ヒーリングアニマルパワー!! 全開!!」」」」

 

ヒーリングアニマルたちのダイヤルが回転し、その注射器型のアイテムが4つに別れるとグレースにはラビリン、フォンテーヌにはペギタン、スパークルにはニャトラン、アースにはラテの部分で止まり、グレースたち4人の服装や髪型などが変化し始める。

 

そして、4人の背中に翼が生え、いわゆるヒーリングっどスタイルへと変化を遂げる。

 

「「「「アメイジングお手当て、準備OK!!!!」」」」

 

4人は手に持っている注射器のレバーを引くと、虹色のエレメントパワーがチャージされる。

 

「「「「OK!!!!」」」」

 

そして、パートナーのヒーリングアニマルたちがダイヤルから光となって飛び出し、思念体の状態になって現れ、パートナーに寄り添った。

 

「「「「プリキュア!ファイナル!! ヒーリングっど♡シャワー!!!!」」」」

 

プリキュアたちがそう叫ぶと、レバーを押して4色の螺旋状の強力なビームを放った。4色のビームは螺旋状になって混ざり合いながら、ギガビョーゲンへと向かっていき光へと包み込んだ。

 

ギガビョーゲンの中で4色の光は、それぞれの手になって中に取り込まれていた中島先生を優しく包み込む。

 

ギガビョーゲンをハート状に貫きながら、4色の光線は中島先生を外に出した。

 

「ヒーリン、グッバイ・・・・・・」

 

「「「「「「「お大事に」」」」」」」

 

「ワフ~ン♪」

 

ギガビョーゲンが消えたと同時に、街や海辺などに広範囲に渡って蝕まれていたその周辺が元の色を取り戻していく。

 

「クルシーナ・・・先生が戻ってよかったウツね」

 

「・・・・・・ふんっ。??」

 

その様子を見届けていたクルシーナは、ウツバットにそう言われると不機嫌そうに鼻を鳴らした後、ブーツに何かが当たったのを感じ、足元を見ると一枚の紙が落ちているのが見えた。

 

クルシーナはそれを拾い上げ、表にしてみるとそれは人間だった頃の自分が書いた手紙であった。

 

ーーーー中島先生へ

 

いつも、私のことを見てくれてありがとう。

 

病院生活は辛いし、食事もそんなに美味しくないけど、先生の笑顔だけは暖かいわ。

 

私、それを見ていると安心するの。

 

これからも、よろしくね。

 

来栖しんらーーーーー

 

どうやら中島先生から落ちたようで、それを見たクルシーナは何とも言えない表情をしていた。

 

「何よ・・・いつまでも持ってんじゃないわよっ・・・こんなもの・・・!!」

 

クルシーナは手紙を持っている手を震わせながらそう言うと、プリキュアに救出され、側で眠っている中島先生の姿が目に入る。

 

先生のそばに歩み寄って、コートの外ポケットに手紙をそっと差し込む。そして、眠っている先生の顔を見つめた後、その場を後にしようとする。

 

「しんら・・・・・・ちゃん・・・・・・」

 

「っ!!!!」

 

すると弱々しい中島先生の声が耳に入り、クルシーナが振り向くとそこには中島先生が体を起こして、こちらを微笑んでいるのが見えた。

 

「お大事に・・・・・・・・・っ」

 

「っ・・・・・・」

 

中島先生がそう言うとクルシーナは少しの間俯くと、再び顔を上げた。

 

「先生も・・・私みたいにならないでよ・・・・・・」

 

「「「っ・・・!!」」」

 

クルシーナは珍しく切なそうに微笑みながらそう言うと、プリキュアの3人は驚いていた。ビョーゲンズである彼女が、あんな表情を見せたのは初めてだったからだ。

 

「しんらちゃん・・・・・・」

 

グレースはしんらの姿を見て、普段は敵には向けない安堵の表情を浮かべていた。

 

「ふふふ・・・大好き・・・・・・」

 

クルシーナと中島先生は少しの間、目を合わせて微笑み合う。

 

そして、クルシーナは撤退していったのであった。

 

「ふぅ・・・・・・・・・」

 

グレースはここで安心したのか、息を吐くとその場から膝をつき、しまいにはプリキュアの変身が解けてしまった。

 

「のどか!!!!」

 

後ろに倒れそうになったのどかをフォンテーヌが背中から支える。

 

「フォンテーヌ・・・スパークル・・・アース・・・やったね・・・・・・先生を・・・助けられたよ・・・!」

 

「もぉ! 無茶ばっかりして・・・!!」

 

のどかが瞳を潤ませながらも微笑んで言うと、フォンテーヌは安堵の表情をしつつも、のどかの無事を喜ぶ。

 

「のどかは本当に無茶しすぎラビ!! プリキュアに変身して立っていたけど、本当はいつ倒れてもおかしくなかったラビ!!」

 

「のどかっち〜、あたしたちにのどかっちのお手当てまでさせないでよぉ〜」

 

「のどかは一生懸命ですが、少しは休むということを覚えたほうがいいと思います」

 

「ふぇ!? 私のせいなのぉ〜!?」

 

ラビリンがぷりぷり怒ったように言うと、便乗するかのようにスパークルとアースもからかいの言葉を言ったりする。それでも4人は楽しそうに笑っていた。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

「のどかちゃん・・・・・・?」

 

「「「「っ!!??」」」」

 

そこに中島先生の言葉が聞こえ、4人は固まる。そういえば、忘れていたのだ。クルシーナに話しかけていた中島先生が、もう目を覚ましていたということに・・・・・・。

 

「な、なんで・・・のどかちゃんが、プリキュアからのどかちゃんに・・・? それにピンクのウサギが宙に浮いて、喋って・・・・・・??」

 

「え、えっと・・・こ、これはですね、せ、先生・・・・・・!!!!」

 

戸惑う中島先生にフォンテーヌはごまかしの言葉を言おうとして、表情が明らかに動揺している。

 

「し・・・しまったラビ〜・・・・・・!!」

 

ラビリンはのどかの背中に隠れていたが、激しく動揺していた。なんとも間の悪いタイミングでグレースの、のどかの変身が解けてしまい、あまつさえそれを中島先生に見られてしまうとは・・・・・・このままでは・・・・・・!!

 

フォンテーヌとスパークル、ラビリンはこの場から逃げることを考えたが、三人が慌て出す中でのどかは一人冷静だった。

 

「ちゆちゃん、ひなたちゃん、アスミちゃん」

 

「のどか!?」

 

「のどかっち!?」

 

「なんでしょうか・・・?」

 

プリキュア名ではなく、実名を呼び出したことにフォンテーヌとスパークルは動揺する。

 

「のどか!! 何を考えているラビ!?」

 

「・・・・・・いいから」

 

激しく動揺するラビリンに、のどかが静かにそう言うともう一度3人を見る。

 

「三人とも、プリキュアの変身を解いて」

 

「何を言っているの!?」

 

「そんなことしたら、あたしたちの正体が・・・!?」

 

「・・・・・・わかりました」

 

「「えぇっ!?」」

 

のどかが出したお願いに、フォンテーヌとスパークルは驚くも、アースが素直に変身を解いて、二人はさらに驚いた。

 

「アスミちゃん・・・・・・?」

 

中島先生は紫色のプリキュアの正体が、アスミであることを知った。

 

「二人ともお願い・・・! もう・・・先生に心配させたくないから・・・・・・」

 

「・・・・・・のどかがそう言うなら」

 

「まあ、もうバレちゃったし、しょうがないよね・・・・・・」

 

のどかがお願いをすると、フォンテーヌとスパークルも観念して変身を解いた。

 

「ちゆちゃん・・・? ひなたちゃんも・・・・・・??」

 

「先生・・・黙っててごめんなさい・・・・・・」

 

「あたしたち・・・地球をお手当てするプリキュアなんだ・・・・・・」

 

驚いた様子の中島先生に、ちゆとひなたは申し訳なさそうな様子で話した。

 

「うっ・・・・・・こんなこと、前代未聞ラビ〜・・・・・・」

 

ラビリンがそう言うとのどかの背中から姿を現し、ペギタンとニャトランも出てきた。

 

「ウサギさんと・・・ペンギンさんとねこさんも宙を飛んでいるのね・・・・・・可愛い♪」

 

中島先生は宙に浮くラビリンたちを不思議そうに見ると、その姿に微笑んだ。

 

そして、のどかたちはプリキュアとしての秘密を中島先生に話すことになるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、蜂須賀先生が推薦を出したすこやか病院に勤務することになった中島先生は診察室にいた。

 

「では、お薬を出しておきますね♪」

 

「ありがとうございます・・・・・・」

 

「いいえ。お大事になさってください♪」

 

すこやか市に住む老婆にそう言うと、老婆は嬉しそうな顔をしながら、診察室の部屋を出た。

 

「ふぅ・・・・・・」

 

中島先生が一仕事を終えて、休憩室でコーヒーを飲んでいると・・・・・・。

 

「中島先生!!」

 

「あ、のどかちゃん」

 

そこへかけられた声に中島先生が振り向くと、のどかたちが会いにやってきた。

 

「先生、元気にやってるんですね!」

 

「ええ。蜂須賀先生が選んでくれた病院だもの。私は医者として、これからも頑張らなきゃね」

 

のどかが憑き物が取れたような中島先生を見て嬉しく思い、中島先生も笑みを浮かべながらそう言った。

 

「それに、ここで負けてたら、しんらちゃんに面目が立たないものね・・・・・・」

 

「そう、ですね・・・・・・」

 

中島先生は少し眉をハの字にしながらそう言うと、ちゆも少し辛そうな表情になる。

 

「先生、しんらちゃんは・・・私たちが絶対に取り戻します!! なので先生も、これからも患者のために頑張ってください!!」

 

「・・・ありがとう。もう大丈夫よ。しんらちゃんを担当したあの日のことを思い出しながら、これからも頑張るわ」

 

のどかの励ましの言葉に、中島先生はそう言うとのどかの手を取る。

 

「だから、あなたたちも・・・負けないで・・・!!」

 

「はい!!」

 

中島先生の激励の言葉に、のどかは元気に返事を返した。

 

「選んでも、後悔しないような道を選んでちょうだい。それが、自分が信じた道だから。後ろを振り返らずに、ゆっくりと前を向くのよ。私も、前を向いて進むから・・・・・・」

 

「私は・・・私たちは、絶対に後悔しません! 自分が信じた道を、突き進んで見せます!!」

 

中島先生がそう話すと、のどかは強い意志を持ってそう答える。中島先生はそれを聞いて、優しい笑みを浮かべたのであった。

 

「ふふふ・・・強いのね。さすがはプリキュアだわ」

 

「先生・・・!!」

 

中島先生が笑みを浮かべながらそう言うと、ドキッとしたラビリンが飛び出してくる。

 

「プリキュアのことは秘密にして欲しいラビ・・・!!!!」

 

「もちろんよ。あなたたちがプリキュアだってことは、誰にも言わないわ。でも、それにしてもーーーー」

 

プリキュアのことを知ってしまった中島先生にラビリンがそう釘を刺しておくと、先生はそう答え、ラビリンをじっと見つめると両手でがしっと掴んだ。

 

「本当に可愛いわね〜♪ スリスリとなでなでをしてあげたいくらい♪」

 

「ちょっ・・・やめるラビ!! く、苦しいラビ・・・!!!!」

 

中島先生はラビリンを頬ずりしたり、なでなでと擦ったりしながら愛で始める。のどかたちはその様子を見ながら、苦笑していた。

 

「あぁ〜・・・・・・なんか俺とひなたみたいだなぁ・・・・・・」

 

「何々?? 何のこと〜??」

 

「な、なんでもないニャ!!」

 

ニャトランがその光景を見ながらそう呟くと、ひなたが聞いてきてそれを誤魔化した。

 

「あ、いけない! 私、そろそろ戻らないと・・・!」

 

中島先生は腕時計を見つめてびっくりしたように言うと、ラビリンを離してあげる。

 

「先生、行っちゃうの〜?」

 

「ええ。もう診察に戻らないとね」

 

ひなたが何やら名残惜しそうな感じで言うと、中島先生は笑みを浮かべながら言う。

 

「先生、頑張ってください!!」

 

「お大事にね、のどかちゃんたち」

 

中島先生はそう言ってその場を離れ、のどかがそう言うと先生は手を振りながら戻っていく。

 

「先生、大丈夫そうね・・・・・・」

 

「うん」

 

「憑き物が取れたような顔をしていました」

 

「元気になってよかったね〜!」

 

のどかたちはみんなでそんなことを話しながら、病院を後にしていく。

 

(先生・・・私たちは先生のためにも、ビョーゲンズに勝ちます。だから、先生もーーーー)

 

のどかは病院を振り返りながら心の中でそう考えたのであった。

 

「ふぅ・・・・・・」

 

のどかたちと別れた中島先生は、診察室へと戻ると席に座って息をつく。そして、机の上に立てかけてある写真立てに入っている、笑顔のしんらと中島先生の写真を手に取って見つめる。

 

そんな中島先生の頭の中には、先日の去る前のクルシーナの笑みが浮かんでくる。

 

「しんらちゃん・・・・・・」

 

しんらは、彼女はビョーゲンズのあんな姿になってしまったが、あの時に見せた笑みは本物だった。それは先生の勘でわかる。嬉しく思った、あの日担当したことは間違いなかったと・・・彼女の笑顔が見れてよかったと・・・・・・!

 

中島先生は写真をそんな風に愛おしそうに少し見つめた後、仕事しないとと言わんばかりに写真立てを元の場所に戻すと机の上に患者のカルテを開いて、ペンで書き始めた。

 

「次の方、どうぞー!」

 

そして、次の患者を呼ぶべく、扉に向かって声を発したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、キングビョーゲンの娘たちのアジトである廃病院前・・・・・・。

 

「うっ・・・・・・くっ・・・・・・」

 

先の戦いでグレースと相打ちになり、ダメージを負っていたカスミーナは足を引きずりながら歩いていた。

 

しかも、このタイミングになって心臓の鼓動が大きくなっており、瞳の色が赤色から緑色へと点滅し始めていた。どうやらまたカスミーナの中のかすみが抵抗をし始めている模様。

 

「こんな・・・・・・時に・・・・・・ぁ・・・・・・」

 

カスミーナは忌々しそうに自分の胸をみるも、ダメージの痛みと胸の痛みが相まって、カスミーナは膝から崩れ落ち・・・・・・地面に床をついた。

 

その瞬間、髪の色が金髪に戻り、瞳の色が緑色へと戻る。かすみが体の主導権を取り戻したのだ。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・くっ・・・・・・!」

 

かすみは息を荒くしつつも、なんとか足を支えて立ち上がる。そして、自身の片方の腕を抑えながら、手のひらを握ったり開いたりする。

 

「体は・・・動くな・・・・・・」

 

かすみは自身の体が、自分の意思で動くことを確認する。久しぶりに動ける体、しかしそれとは別の違和感も抱えていた。

 

かすみは胸に手を当てると、目を瞑り始める。そして、何かに気づいたように辛そうな表情で目を開ける。

 

「っ・・・また、強くなってる・・・・・・のどかの体力と元気が・・・・・・?」

 

自分の体の中にのどかの元気が入っていたことを確認する。もしかしたら、動物園でグレースと戦闘中に入れ替わってしまい、あの時に攻撃したのが原因なのか。

 

かすみは俯きながら暗い表情をする。

 

「やはり、私がこの世界にいる限り・・・のどかは・・・・・・」

 

ーーーーお前がいたって、みんな傷つくし、苦しむだけ

 

「っ・・・・・・」

 

ビョーゲンズの一員になって、のどかたちから離れていても、結局は・・・・・・。クルシーナが言い放った言葉も、痛みとなって心に突き刺さる。

 

泣きそうになったが、グッと堪えて声が出ないように押し殺し、かすみはある決意をしたかのように前を向く。

 

ある人物と話をするために廃病院へと駆け出し、中へ入るとその人物の部屋へと入る。

 

「ドクルン!!」

 

「・・・? おや、カスミ・・・っ!」

 

現れたかすみの方を向くとドクルンはこちらを向いて、名前を呼ぼうとして止めた。かすみの姿が覚醒前と比べて元に戻っていたからだ。

 

それに『様』を付けていない。これらのことを見ると・・・・・・。

 

「・・・・・・あなた、もう一人のカスミーナですか?」

 

「ああ・・・あいつは眠っているから今はな。でも、あいつが起きたら、私はまた体を奪われるだろうな・・・・・・」

 

かすみが真面目な表情でそう言うと、ドクルンはそれを聞いてため息をついた。

 

「・・・名前、どっちもカスミーナで面倒臭いですね。えっと、あなたはプリキュアどもにはかすみって呼ばれてましたっけ。もう、それで呼びます」

 

「それはどうでもいいんだ・・・・・・!!」

 

かすみはそう言いながら、ドクルンに歩み寄ると彼女の手を取る。

 

「っ・・・?」

 

「もう戻るまで時間がないかもしれない・・・・・・お前に、頼みがあるんだ・・・!!」

 

「??」

 

ドクルンは必死な表情のかすみに首をかしげる。しかし、かすみが伝えたある頼みを聞くと・・・・・・。

 

「・・・・・・それはあなたに何のメリットがあるんですか?」

 

「いいんだ・・・・・・私は、自分のやるべきことを・・・のどかを守れれば・・・!!!!」

 

「っていうか、私がそれを行っても、私にメリットはないでしょう。頼みを聞く理由がありません」

 

ドクルンが真面目な顔でそう問いかけると、かすみはそうしてくれるように懇願する。しかし、ドクルンは自分が得しない一蹴しようとする。

 

のどかを守れるなら・・・・・・かすみは地面に膝をついて、両手と頭を床についた。

 

「頼む!! 一回だけでいい!! 頼むよ・・・!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

かすみは土下座をしながら懇願した。ドクルンはその様子を特に面白がることなく見つめると、静かにため息をつく。

 

「・・・・・・どうなっても知りませんよ」

 

「すまない・・・ありがとう・・・・・・!!」

 

「お礼なんて言わなくていいです、こんなことに。あなたには働いて、ちゃんと返してもらいますから」

 

ドクルンはそう話しながら、自身の部屋の棚から瓶に入れて保存していた赤い靄を取り出して、何かを作るための作業を始めた。

 

「・・・・・・・・・のどか、私は・・・決めたよ・・・・・・」

 

かすみは頭を下げながらも、隠れているその表情は決意を秘めたような様子なのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第121話「思い」

原作第34話がベースです。
今回は珍しく、この二人にスポットを当てます。


 

「・・・・・・・・・はぁ」

 

「・・・・・・・・・」

 

キングビョーゲンの娘たちがアジトとする廃病院、その屋上ではクルシーナが何かをするわけでもなく、空を見上げていた。

 

その隣にはイタイノンがゲーム機をピコピコと動かしていたが、あまり集中できていないようで時折止まっていたりしていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

そんな空をナノビョーゲンの軍勢が群れを作りながら、飛び回っている。三人娘が主に使役しているストームビョーゲンというものだ。

 

クルシーナはその軍勢を眺めながら、何やら曇った表情をしていた。

 

ーーーーしんらちゃん、お加減はどう?

 

「っ・・・・・・はぁ」

 

中島先生の笑顔を思い出すと、悩ましそうにため息をついた。

 

唐突に見上げるのをやめると、コンクリートの上に寝そべり始める。

 

「・・・・・・・・・」

 

イタイノンはクルシーナの側でゲーム機の操作を変わらず続けていたが、時に手を止めて何か考え事をするかのように表情を曇らせる。

 

それを紛らわそうとゲーム機を動かすも、結局はその手を止めてしまう。さっきからそれをずっと繰り返しているのだ。

 

ーーーーらむっち~。

 

「っ!?」

 

なぜかイタイノンの頭の中にひなたの笑顔が映り、ハッとしたイタイノンは首を振って否定する。

 

ふと隣で寝そべっているクルシーナの方を見ると、何やら悩んでいるような表情をしていた。

 

「・・・・・・クルシーナ」

 

「っ?・・・何よ?」

 

イタイノンが声をかけると、クルシーナは淡々としたいつもの調子の声で言った。

 

「何か悩んでるの・・・・・・?」

 

「・・・・・・は?」

 

話しかける前の顔を見てイタイノンがそう言うと、クルシーナが不機嫌そうな顔をする。

 

「何言ってんの? アンタは」

 

「顔が暗そうだったの。帰ってきた後のクルシーナ、なんか変なの」

 

「っ、そんなわけないじゃん。見間違いよ」

 

イタイノンが指摘すると、クルシーナは素っ気なく否定する。

 

「そういうアンタも、ゲームに集中できてないでしょ」

 

「っ、相手が強すぎて不愉快なだけなの・・・!」

 

「嘘つけよ。アンタに限ってそんなことで、ゲームの手を止めるわけないでしょ。絶対に何かあったに決まってる・・・!」

 

「とにかくそうなの・・・!!!!」

 

「・・・・・・あっそ。アタシの考えすぎかもね」

 

クルシーナとイタイノンはお互いに言い合うと、クルシーナは背を向けて寝返り、イタイノンはゲーム機に視線を釘付けにした。その後は、何も話すことはなかったが・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

「っ・・・・・・・・・」

 

クルシーナも、イタイノンも、何だか寂しそうな表情へと変わっていた。

 

「「・・・・・・・・・」」

 

その様子を屋上の扉の開いた隙間から、ヘバリーヌとフーミンが見つめていた。二人はお互いに顔を見合わせると、ゆっくりと屋上の扉を閉める。

 

「クルシーナお姉ちゃん、ノンお姉ちゃん・・・元気なさそうだったね~」

 

「なんだか悩んでいるようにも見えてたですぅ・・・・・・」

 

「お姉ちゃんたちの悩みって何かなぁ~?」

 

ヘバリーヌとフーミンはそんなことを話しながら、廃病院の廊下を歩いていた。

 

「フーちゃん、なんだと思う~?」

 

「地球を蝕むことがうまくいってない、とかですかぁ・・・?」

 

「でも、それはいつものことだよねぇ~?」

 

ヘバリーヌが問いかけてみると、フーミンはそう答える。でも、それがうまくいってないのはいつものことだから、別のことで悩んでいると考えてしまうのだ。

 

「んぅ・・・・・・イタイノンお姉様のことがわからないなんて・・・・・・!」

 

「フーちゃん・・・本当になんなんだろうねぇ~?」

 

「私たちにできることは、ないですかぁ・・・?」

 

ヘバリーヌとフーミンは一緒に考え始めた。

 

「やぁ、二人とも」

 

「あ、ケイラちゃん!」

 

「むぅ・・・・・・」

 

そこへ正面からハキケイラが現れ、ヘバリーヌとフーミンは想い想いの反応を返す。

 

「何を悩んでいるんだい?」

 

「それがね~・・・・・・」

 

ヘバリーヌはハキケイラに素直に考えていることを話す。

 

「なるほど、クルシーナ姉さんと、イタイノン姉さんがね・・・・・・」

 

「うん。何か力になれないのかなぁ~・・・・・・」

 

「私も、お姉様たちの力になりたいですぅ・・・・・・」

 

「それだったら、様子を見るよりは直接聞いたほうがいいんじゃないか? そのほうが早いだろう」

 

ハキケイラはそれを聞いて、どうしようか悩むヘバリーヌとフーミンに対して真剣に答える。

 

「でも~、お姉ちゃんたち、あれだと言ってくれなさそうなんだよねぇ~・・・・・・」

 

「さっきもクルシーナお姉様と喧嘩してたですぅ・・・・・・」

 

「う~ん・・・・・・」

 

ハキケイラのアドバイスはあまり参考にならず、三人はその場で悩み始めてしまった。何も答えてくれない姉たちに、どうすれば悩みを解決できるのか。

 

「あなたたち、ここにいたんですか」

 

「ドクルン姉さん!」

 

「ドクルンお姉ちゃん!」

 

「ドクルンお姉様・・・!」

 

「お父さんが呼んでますよ。進化した私たちの様子を伺いたいんですって」

 

と、そこへドクルンが現れ、キングビョーゲンの招集が掛かっていることを伝えるのであった。

 

場所は変わって、ビョーゲンキングダム。そこにはキングビョーゲンの招集の元、幹部全員とカスミーナが集まっていた。

 

「・・・皆、新たな力を得たようだな。さらに一歩抜き出るのは・・・誰か?」

 

キングビョーゲンがそう話す。進化したビョーゲンズたちの中で、一体誰が成果を上げてくるのか、今回の議題はそういうことであった。

 

「それはもう、このシンドイーネでございますっ。何しろ最初に新たな力を得たのは、この私でございますから♪」

 

「進化したっておばさん頭なのは変わんないの」

 

「誰がおばさんですってぇ!!??」

 

「前よりも怒りっぽくなってるの。立場が危うくなって、焦ってる証拠なの」

 

前に出るシンドイーネに対して、イタイノンはいつも以上の皮肉を返すと、二人は言い争いあう。

 

「それだけ必死になってるってことは、何か抜かれたくない何かがあるんじゃないの?」

 

「っていうか、焦ってるだけだろ」

 

クルシーナとダルイゼンは冷ややかな表情を見せながらそう言う。

 

「シンド姉、いつもより落ち着きないよね~」

 

「焦ってる・・・焦ってるですぅ・・・・・・むにゃむにゃ・・・・・・」

 

「僕はそういう女は好みじゃないんだけどなぁ」

 

ヘバリーヌはフーミンやハキケイラに投げかけると、それぞれの反応を返した。

 

「な、何よ・・・どいつもこいつも焦ってるって!!」

 

言い返すシンドイーネだが、イタイノンやダルイゼン、ヘバリーヌが言うように焦っているようにも見えてしまう。

 

「俺たちを出し抜いて、新たな力を得たつもりだったのかな?」

 

「ふ、ふざけないでよ!! 私のどこが焦ってるっていうのよ!!??」

 

「だって、いつもよりムキになってるよ~」

 

「焦ってる・・・焦ってるですぅ・・・すぅ・・・・・・」

 

「アタシたちが進化したから焦ってんだよ。焦りが顔に書いてあるもんね」

 

シンドイーネがムキになると、他のメンバーも次々に皮肉を漏らす。

 

「う、うるさいわよ!! 少なくとも、あんたらなんかには負けやしないわ!! ふんっ!!」

 

シンドイーネは怒りの声でそう言うと、その場から姿を消していった。

 

キングビョーゲンとの接見を終え、二人で一緒にいるヘバリーヌとフーミン。

 

「シンド姉、何焦ってんだろ~? シンド姉らしくないよね~」

 

「んぅ・・・知らないですぅ・・・・・・」

 

二人は先ほどのシンドイーネのことを思い出しながら話していた。

 

「あっ・・・お姉ちゃんだ~!」

 

「っ! イタイノンお姉様もいるですぅ・・・!!」

 

そんな二人の視線にクルシーナ、イタイノンの姿が見えた。フーミンはイタイノンを見るなり、目が覚めたように声をあげる。

 

「はぁ・・・ふぅ・・・・・・」

 

クルシーナはビョーゲンキングダムの暗い空を見上げながら、ため息をつき、自身の手に胸を当てていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

イタイノンはゲーム機をピコピコしていたが、時折手を止めてしまう。

 

「先生・・・・・・」

 

「あぁ~もぉ~・・・・・・イライラするの・・・・・・!!!!」

 

クルシーナは切なそうな表情をしながらそう呟き、イタイノンはゲーム機を地面に叩きつけながら頭を掻きむしっていた。

 

「お姉ちゃんたち、やっぱり元気ないよね~・・・・・・」

 

「んぅぅ・・・・・・」

 

二人はお互いに目を見合わせて、困ったようにそう呟いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある週末の日、すこやか市にある陸上競技場では「秋の対抗陸上大会」が開かれている。そこでは多くの選手が競い合っており、その中にはもちろんちゆの姿もあった。

 

「・・・・・・・・・」

 

ハイジャンプの選手であるちゆの出番が丁度やってきたところであった。

 

「ちゆちゃ~ん!!」

 

「いっけぇ~!! ちゆち~!!」

 

のどかたちは、観客席からちゆを見守りながら応援していた。

 

「ちゆちゃーん、頑張ってぇー!!」

 

そこには病院がお休みの中島先生も一緒に観戦しに来ていた。

 

「ちゆ~!! 行くぺェェェェェ!!!!」

 

「ペギタン、ダメラビ!!」

 

「落ち着けって!!」

 

ラビリンたちヒーリングアニマルたちもこっそりと応援していたが、ペギタンが大きな声をあげて応援しようとしていたため、ラビリンとニャトランがとっさに抑えた。

 

「ふふふっ、元気なのね♪」

 

中島先生はペギタンの大きな応援の声を聞いて、笑みを漏らした。

 

ちゆは高く備えられた棒へと駆け出し始め、助走をつける。そして・・・・・・。

 

「・・・っ!!」

 

棒の上を華麗に飛び、無事にハイジャンプを成功させた。

 

「「っ、クリア~!!」」

 

「ワンワ~ン♪」

 

ちゆが成功したのを見て、のどかやひなたは喜び、アスミや中島先生は拍手を送った。

 

「やったあ!お姉ちゃ~ん!!」

 

「良いぞ~、ちゆ~!!」

 

「ちゆ~! 県大会の記録更新だよ~!!」

 

応援に来ていた弟・とうじや父・りゅうじも喜び、同じ部員であるりょうこは声援を送った。

 

計測員が先ほど跳んだ高さよりも高い位置に棒をセットする。

 

「・・・西中、高美ツバサさん」

 

「はいっ!!」

 

計測員に名前を呼ばれたすこやか西中の選手であるツバサが跳ぶことになり、ツバサは駆け出して助走を付けると、飛び上がった。

 

しかし・・・・・・。

 

「っ・・・くっ!」

 

跳び越えたと思った瞬間、足が棒に引っかかってしまい、ツバサはハイジャンプに失敗してしまう。

 

「まぁ、惜しかったわね・・・!!」

 

「こ、これって・・・ちゆちーが飛べたら優勝じゃん!?」

 

「ふわぁぁぁ・・・ドキドキするよぉ・・・!!!!」

 

「お姉ちゃん、頑張れ・・・!!」

 

「ちゆ、跳べるぞ・・・絶対に跳べる!!」

 

ツバサの後は、ちゆの番であり、これを跳ぶことができれば優勝だ。それがわかるとのどかたちはハラハラした様子で見守る。

 

「ちゆぅ・・・しっかりペエェ・・・・・・」

 

ペギタンも声援を送っていたが、なぜか後ろ向きで目を手で隠していた。

 

「ペギタン・・・見ないのですか・・・!?」

 

「心配で見てられないペエェ・・・・・・!」

 

「パートナーがそんなに大切だってこと、わかるわ・・・・・・!」

 

アスミが見ると、ペギタンは後ろを向いたまま地面に顔を伏せており、中島先生は本当にちゆが大事なんだということを知った。

 

そんな中・・・・・・。

 

「・・・すこやか中、沢泉ちゆさん」

 

「はいっ!!」

 

そして遂に、ちゆの番がやってきた。ちゆは一旦呼吸を整えると勢いよく駆け出す。そして・・・・・・。

 

バッ・・・・・・ドサッ!!

 

ちゆは棒を跳び越え、それを見ていた審判は成功を示す白旗をあげた。

 

ワァァァァァァァァァァ!!!!

 

それを見ていた会場は盛り上がって、大歓声が上がった。

 

「やったぁ~、ちゆちゃ~ん!!!!」

 

「優勝だよぉ~っ!!!!」

 

「素晴らしいジャンプでした♪」

 

「ワウワウワーン♪」

 

「よく頑張ったわね! ちゆちゃん!!」

 

のどかたちはその大健闘に、みんなが喜ぶ。

 

「はっ!? ち、ちゆは!? ちゆは!?」

 

ペギタンは終わった後に顔を上げ、自分のパートナーの結果を気にし始めた。

 

「優勝です♪」

 

「あなたのパートナーはやったのよ、ペギタン♪」

 

「はぁっ♪ やったペエェェェ~!!!!」

 

アスミや中島先生が笑みを浮かべながらそう言うと、ペギタンは飛び上がりながら大喜び。それをラビリンとニャトランが阻止した。

 

「お姉ちゃん跳んだよ~!! 優勝だよぉ~!!!!」

 

「跳んだねぇ・・・優勝だねぇ・・・・・・!!!」

 

「りょうお姉ちゃんにも、見せてあげたかったなぁ・・・・・・!」

 

とうじもそれを見て喜んでおり、りゅうじは嬉し泣きをしながら喜んでいた。そんな中、とうじは姉の友人であるりょうのことを思い出していた。

 

「・・・跳んだんだ、私」

 

日本記録を超える高さを跳ぶことに成功したちゆだが、いまだに実感できておらずにマットの上で空を呆然と見つめていた。

 

「・・・沢泉さん」

 

「・・・!」

 

そこへツバサが歩み寄ってきて、ちゆは体を起こした。

 

「・・・やられちゃったわね、おめでとう」

 

「・・・っ、ありがとう!」

 

ツバサから称えられて手を差し伸べられ、ちゆは笑顔で彼女の手を取った。

 

「ふわぁ~♪」

 

「おぉ~! ライバル同士の友情みたいな?」

 

「ああいうの、良いわね♪」

 

そのツバサとちゆの様子をのどかたちはみていて、そう話していた。

 

「次は・・・世界で戦いましょ?」

 

「・・・えっ?」

 

ちゆはツバサのその言葉に困惑するが、ツバサは手を離してその場から離れていく。ちゆはしばらくその場に立ち尽くしていた。

 

「っ、ちゆ~!!」

 

「わっ! ふふふっ」

 

そこへ同じ部員のりょうこが嬉しさのあまりちゆに抱きつき、ちゆ自身も笑みを浮かべた。

 

「「「「かんぱ~い!!!!」」」」

 

のどかたちはちゆの優勝を祝ってひなたの家の近くのワゴンカフェで、グミジュースで乾杯をしていた。

 

「優勝おめでとう!」

 

「感動しました♪」

 

「だよねだよね~♪」

 

「ありがとう!!」

 

のどかたちはちゆの優勝を称え、ちゆは彼女たちに笑顔を見せる。

 

「すこ中で優勝したのハイジャンプだけでしょ? すご~い♪」

 

「いえ、そんな・・・!」

 

「今日はお祝いに、私の奢り♪」

 

「やったぁ~! ありがと~! お姉~っ♪」

 

「ありがとうございます!!」

 

ひなたの姉・めいが奢ってくれると言うと、ひなたは喜び、ちゆはお礼を言った。

 

「中島先生もどうぞ♪」

 

「いいんですか? 私は学校の先生じゃないのに・・・」

 

「いいんですよ。ひなたたちの知り合いですから、そのぐらいは気にしません♪」

 

「そうですか・・・じゃあ、遠慮なく・・・・・・」

 

「ナカッチ先生! お姉のジュースおいしいんだよ~! アイデアはあたしだけど♪」

 

「・・・確かに、おいしいわ」

 

中島先生にも奢ると言うと、先生は戸惑うが、めいがそう言うと先生はジュースを飲み始めた。

 

(りょうにも、私のハイジャンプ・・・見せたかったなぁ・・・・・・)

 

ちゆはふと親友の顔を思い出しながら、顔を少し俯かせる。

 

そんな中、近くの茂みでは・・・・・・。

 

「ち~ゆぅ~! 頑張ったぺェェェェ・・・・・・」

 

「いい加減泣き止めよ・・・・・・」

 

「競技場からず~っとラビ・・・・・・」

 

ペギタンが自分のジュースを持ちながら嬉し泣きしており、ニャトランとラビリンは呆れていた。

 

「うぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」

 

「ワンワン♪」

 

そんな彼をラテが慰めようと擦り擦りするも、ペギタンは泣き止むどころか余計に泣き出すのであった。

 

「ちゆちーさぁ、ハイジャンプの選手とか目指さないの?」

 

「あぁ♪ 世界の陸上大会に出るとか?」

 

「世界・・・・・・」

 

ひなたやのどかにそう言われたちゆは去り際のツバサの言葉を思い出していた。

 

『次は・・・世界で戦いましょ』

 

ツバサが今度は世界で戦おうと宣戦布告。しかし、ちゆは首を振る。

 

「考えたことないわ」

 

「うぇ? 目指せばいいのに~・・・・・・」

 

「どうして目指さないのですか?」

 

「・・・・・・私よりも凄い人、いっぱいいるもの」

 

ちゆは振り払うかのようにそう言うと、ジュースを啜る。

 

「・・・・・・・・・」

 

中島先生はちゆの言動がどこかぎこちないことを気にしていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日・・・・・・。

 

「おはよう、ちゆちゃん」

 

「おっは〜♪」

 

「おはよう」

 

朝、のどかたちはいつものように投稿し、門を通る手前でちゆと出会って挨拶を交わした。

 

「おはようございます!!」

 

「うわあっ!?」

 

そんなちゆの背後を何者かが挨拶し、驚いたちゆが振り返るとクラスメイトの益子道男の姿であった。

 

「うわっ・・・出た、新聞部」

 

「すこ中ジャーナル・・・編集長兼敏腕ジャーナリストの益子道男ですっ!!」

 

ひなたが新聞部の登場に、嫌そうな顔をする。

 

「ちゆちゃんに、何か用?」

 

「取材ですよ!独占取材!!」

 

「取材? 私に?」

 

のどかがそう問いかけると、益子はちゆに取材に来たと言い、ちゆは目を丸くする。

 

「オフコース!! 昨日の対抗陸上大会で、我が校唯一の優勝者、沢泉ちゆさん!! その特集号を組むことになりましたっ!! タイトルはズバリ!!『すこやか中のハイジャンプリンセス! 大空を飛ぶ華麗なるその姿は鳥か!? はたまた蝶か!? ちゆ沢泉!! すこやかに舞う!!』!!」

 

「ふわぁ・・・長いタイトルだね・・・・・・」

 

「そして・・・ダサっ・・・」

 

「っ!? 失敬ですねっ!!」

 

益子がそう主張すると、のどかは少し驚いていて、ひなたは冷ややかな表情をしていた。ひなたのその反応に益子が反論をしようとすると・・・・・・。

 

「「「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ〜♪」」」」

 

「うぇっ!?」

 

大勢の女性たちがちゆの元に集まり、益子は突き飛ばされる。

 

「沢泉先輩!! 昨日のジャンプ見てました!! 素敵ですぅ〜!!」

 

「次の大会も頑張ってください!!」

 

「負けないでくださいね!!」

 

「あ・・・ありがとう・・・・・・」

 

女性たちはちゆを褒め称え、応援の言葉を残すと校舎へと走り去っていった。

 

そしてその日の放課後・・・陸上部が部活を行なっているグラウンドの周りには、すこやか中の生徒だけではなく、多くの他校の生徒が集まっていた。

 

「すごい見学の数だね〜」

 

「ちゆちー人気、すご〜い!!」

 

のどかとひなたはちゆの見学に来たその人数の多さに驚いていた。

 

そして、当の本人はベンチの上で・・・・・・。

 

「すると・・・旅館のお手伝いをしながら、家ではどのようにハイジャンプを?」

 

「基本、家では跳んでないけど・・・・・・」

 

益子の新聞部の取材を苦笑しながら受けていた。

 

「沢泉さん」

 

「??」

 

「明日の放課後、『週刊陸上TOP』がインタビューをしたいんですって」

 

「えっ? 私にですか?」

 

そこへ陸上部の顧問の先生から他の新聞への取材があることを聞き、ちゆは驚く。

 

「ふわぁ〜♪」

 

のどかは驚きつつも、喜びの声をあげていた。

 

「すご〜い!!」

 

「未来を担う期待の陸上界のホープっていうことで、西中の高美ツバサとのダブルインタビューになるそうよ」

 

先生からそう言って雑誌を差し出されるが、ちゆは何やら浮かない様子。

 

「・・・・・・陸上界の未来を担うなんて」

 

ちゆは雑誌の記事を見ながら、不安そうな表情を浮かべていたのであった。

 

そして、翌日の放課後・・・・・・陸上競技場でのインタビューが始まった。

 

「それじゃあ、柔軟している写真を撮りながらインタビューしますね」

 

「「はい!!」」

 

「高美さんがハイジャンプを始めたきっかけは?」

 

ちゆは西中の高美ツバサとインタビューに臨み、2人の様子をカメラマンが撮りつつ記者がインタビューを始めていく。

 

「・・・小さい時、地面を蹴って飛び上がったら、どんどん高く跳べる様な気持ちになったのが始まりです。私に翼は無いけど・・・空へ高く跳びたいって思ってます」

 

ツバサは陸上競技に、ハイジャンプに掛ける思いを話す。

 

「なるほど・・・沢泉さんは?」

 

「私は・・・小さい時に、空を泳ぎたいって思ったのがきっかけです」

 

「へぇ~、跳びたいじゃなくて泳ぎたいだったの?」

 

「えぇ、そうなの」

 

ちゆも同じように思いを話し、ツバサがそれに反応した。

 

「面白いわ。あなたは空を泳ぎたい、私は跳びたい・・・案外似てるのかもね、私達」

 

「ふふっ・・・友達になれそうで嬉しい」

 

「・・・ライバル、でしょ?」

 

「? え・・・えぇ・・・」

 

ライバル・・・・・・ちゆは友達だと思っていたが、ツバサからはそう言われ、少し困惑した表情を見せる。

 

「そういえば・・・高美さんは来週から海外に行くんでしたね?」

 

「えっ・・・?」

 

「はい。親の仕事の都合で・・・国内での大会は先日が最後で絶対に優勝したかったんですけど、沢泉さんに負けちゃいました・・・でも、これをバネに頑張りますっ」

 

「期待していますよ」

 

「・・・・・・・・・」

 

ツバサが海外へと行く。ちゆは記者が触れて、それに答えたツバサをじっと見つめていた。

 

しばらくして、無事にインタビューを終えたちゆとツバサはロッカールームで帰り支度をしていた。

 

「楽しかったわ、沢泉さん」

 

「私も」

 

「世界の大会であなたと会えるのを・・・楽しみにしてるっ」

 

「・・・・・・・・・」

 

ちゆはそのツバサの言葉に答えられなかった。なぜなら・・・自分は・・・・・・。

 

「・・・・・・高美さん」

 

「うん?」

 

「ごめんなさい。私は世界とか考えてないの・・・・・・」

 

「・・・・・・えっ?」

 

ちゆは自身のそんな思いを告げると、ツバサはショックを受けたような表情を見せた。

 

「ハイジャンは好きだし、高校でも続けようと思ってる・・・でもその先は・・・」

 

ちゆのそんな言葉を聞いたツバサの反応は・・・・・・。

 

「・・・・・・はぁ、ガッカリ」

 

「えっ・・・?」

 

失望の声だった。ツバサは先ほどまでとは違い、顔をちゆから背けていて、少し苛立っているようにも見えた。

 

「あなたのハイジャンへの思いって、そんなもんだったんだ・・・・・・」

 

「・・・どういうこと?」

 

「大会で優勝したら『はいそこまで』って事?・・・あんな凄いジャンプして、嬉しかったらそこから先は別に良い?」

 

「っ、別に良いなんて思ってないわ!!」

 

ガシャン!!!!

 

「っ・・・・・・!!」

 

ちゆが言葉を返そうとしたが、ツバサはそれを遮るかのようにロッカーの扉を閉めた。

 

「あなたに負けて悔しかった・・・・・・悔しくて悔しくて眠れなかった・・・・・・でも、自分よりも高く跳ぶ人がいたっ。だから、私はもっと高く跳べる様に練習しようって!! 私は世界を目指して真剣にやってるのに、あなたはっ!! 一瞬でもライバルと思ったなんて・・・・・・っ」

 

「高美さん!! っ!?」

 

ツバサは自分のその思いを吐露して去っていこうとする。ちゆはそれを止めようとしたが、頭の中にある人物がフラッシュバックした。

 

『あなたのそういう煮え切らないところが大嫌いなのよ!!』

 

以前、とうじをギガビョーゲンにしたドクルンこと、りょうだった。ギガビョーゲンと戦っている際に怒りを露わにしたりょう、その姿がツバサと重なった。

 

「・・・私、大会の後、必死に練習して・・・あなたの記録より高く跳んだわよ」

 

「っ!?」

 

「さようなら・・・せいぜいお遊びのハイジャンで頑張るといいわ」

 

「っ、高美さん!!」

 

肩越しにこちらを振り向いてそう告げたツバサは、ちゆを睨むように見た後、そのままロッカールームを去っていってしまった。

 

『強がるんだったら、バカにだってできるのよ』

 

ここでもりょうの言葉がフラッシュバックしたが、それと並んでちゆの頭の中にはある言葉も残っていた。

 

「・・・私のハイジャンが・・・・・・お遊び?」

 

自分のハイジャンはお遊び・・・・・・ツバサにそう言われた、ちゆは顔を俯かせたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜、お姉ちゃんのために何かできないのかなぁ〜・・・?」

 

「すぅすぅ・・・なんとかしたいですぅ・・・・・・」

 

その頃、ヘバリーヌとフーミンは人間に擬態して街の中を歩きながら、考え事をしていた。それはクルシーナとイタイノン、最近この二人は何やら元気のない様子だ。彼女たちのためになんとかしてあげたいと考えている。

 

ヘバリーヌは頭に両手の指を突き立てながら首を振り、フーミンはウトウトしながら考える。

 

「・・・あっ、そうだぁ! すこやかまんじゅうを買ってあげるのはどうかな〜?」

 

「んぅ・・・あれは美味しいですぅ・・・・・・」

 

ヘバリーヌは元気な声で提案すると、フーミンは美味しいと言いつつも、なんだか浮かない様子だ。

 

「でも、それで元気になるなら・・・とっくに元気になってるですぅ・・・?」

 

「う〜ん・・・そうかぁ〜・・・・・・」

 

フーミンはその提案を却下すると、ヘバリーヌは困ったように考え始める。

 

「あっ・・・ヘバリーヌちゃんたちもせっかく進化したんだし、この力を使って一気に地球を気持ちよくしちゃうっていうのはどぉ〜??」

 

「・・・それいつもやってることれすぅ」

 

「むぅ〜・・・・・・」

 

ヘバリーヌは再び提案するが、フーミンはそっけなく否定し、ヘバリーヌは頬を膨らませ始める。

 

「フーちゃんも考えてよ〜!! さっきから寝てばっかじゃ〜ん!!」

 

「すぅ・・・すぅ・・・・・・考えてるれすぅ・・・・・・!」

 

ヘバリーヌはプリプリ怒ると、フーミンはうとうとしながらも反論する。

 

「ん〜・・・・・・・・・」

 

「すぅ・・・・・・・・・」

 

二人はそのまま立ち止まったまま、足を止めて考え込み始めてしまった。でも、アイデアはあまり出なさそうな様子だ。

 

「・・・・・・っ!!」

 

「ん? 何々〜フーちゃん。何か思いついたぁ〜??」

 

フーミンがハッとするように寝ぼけ目を見開くと、ヘバリーヌが反応して詰め寄る。

 

「だったら・・・プリキュアの関係者を狙えばいいですぅ・・・・・・」

 

「ん〜? なんで〜??」

 

フーミンが口元に笑みを浮かべながらそう言うと、ヘバリーヌは首を傾げる。はっきり言うと、さっきのヘバリーヌの提案とそんなに変わっていないが・・・・・・。

 

「プリキュアは活き活きしててイライラするですぅ・・・なら、その関係者も活き活きしているはずですぅ・・・・・・その人をギガビョーゲンに変えて蝕めば一気にいけるはずですぅ・・・プリキュアの心に攻撃することもできるですぅ・・・・・・」

 

「おぉ〜!! フーちゃん、さすが!! アッタマいい〜♪」

 

フーミンが説明すると、ヘバリーヌはフーミンを褒め称える。正直、どこがさすがなのかは皆目見当もつかないのだが・・・・・・。

 

「で、その関係者はどこにいるのかなぁ〜?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・フーちゃん?」

 

ヘバリーヌが再び問いかけるが、フーミンからの返事はない。変に思ったヘバリーヌがフーミンに声をかける。すると・・・・・・。

 

コクン。

 

「すぅ・・・すぅ・・・すぅ・・・・・・」

 

フーミンは唐突に首を前に倒す。ヘバリーヌが近づくと、フーミンは寝息を立てていた。

 

「フーちゃん、寝ないでよぉ〜!!」

 

「眠いですぅ・・・・・・」

 

「フーちゃん!! フーちゃーーん!!!!」

 

ヘバリーヌはフーミンの肩をぐわんぐわん揺らすも、フーミンは眠いと言って起きる気配がない。

 

「もぉ〜・・・フーちゃんったら〜・・・ヘバリーヌちゃんを焦らしてるのぉ? なんだかもどかしくて、気持ちいいなぁ〜・・・・・・!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

ヘバリーヌは頬を膨らませたかと思ったら、妙に声を明るくして悶え始める。しかし、フーミンはリアクションをせずに眠ったままだ。

 

ポーズで固まったままのヘバリーヌはそれを崩すと、フーミンを見つめる。

 

「・・・・・・つまんない」

 

ヘバリーヌは立ったまま眠っているフーミンを見つめながら言った。

 

「いいもーん!! ヘバリーヌちゃんはいつも通り地球を気持ちよ〜くするんだもん!! ヘバリーヌちゃんたちが頑張って活動すれば、お姉ちゃんだって喜ぶんだからぁ〜!!」

 

「すぅ・・・すぅ・・・すぅ・・・・・・」

 

ヘバリーヌはムキになったり、頬に手を当てて恍惚とした表情を浮かばせながら、眠るフーミンを引きずって再び二人で歩き出すのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第122話「跳ぶ」

前回の続きです。
ちゆのハイジャンプへの思い、そしてビョーゲンズの魔の手が。。。


 

翌日、みんなはのどかたちの家に集まっていた。その中には中島先生の姿もあった。

 

中島先生は医療バッグから聴診器を取り出すと、のどかの体に当てたり、体を触ったりして異常がないか調べたりしていた。

 

「うん、今日も異常なしね♪」

 

「ありがとうございます♪」

 

中島先生は笑みを浮かべながらそう言うと、のどかも笑顔で返した。

 

「ナカッチ先生~、今日は病院お休みなの~?」

 

「ええ。だから、のどかちゃんの様子を見にきたのよ♪」

 

「私、すごく元気だからよかったのになぁ~」

 

「ダメよ。元気だと思って油断しているとすぐに不調が起こるわ。こういうのは定期的に診てあげないとね」

 

ひなたがそう聞くと、中島先生は笑顔で返した。のどかは特に担当ではないのだが、プリキュアだと知ったよしみから診断には休診である日にしてあげているのだ。

 

そんなのどかよりも、声をかけたほうがいい人物が一人いた。

 

「・・・・・・・・・」

 

ズズ・・・ズズズ・・・・・・。

 

先ほどからマグカップの飲み物を啜っているちゆだ。何やら考え事をしている模様で、マグカップの中身が空になっていることに気づいていない。

 

ツンツン。

 

「・・・・・・っ!?」

 

ひなたが指でそんなちゆの頬を数回つつくと、ちゆは驚いたような声を出して我に返った。

 

「ちゆちー??」

 

「えっ、あっ・・・何?」

 

「ちゆちゃん、さっきからボーッとしてるわよ?」

 

「どうしたの?」

 

「何かあったのですか?」

 

のどかたちが心配して、ちゆの方を見ながら問いかける。

 

「う、ううん・・・別に何も・・・・・・あっ・・・・・・」

 

ちゆはなんでもないとごまかして、再びジュースの入っていたコップを口に持っていくが、そこでジュースがないことに気づいた。

 

「ちゆちゃん・・・・・・」

 

「はい・・・・・・」

 

「嘘はよくないわよ。私にはあなたの顔を見ればわかるわ、何かあったって。なんでもないわけないでしょ?」

 

中島先生は少し怒ったような顔をしながらも、優しい声でそう指摘する。先ほどからちゆが浮かない顔をしていたのと、いつも以上に何かを気にしていることに気づいていたのだ。

 

「・・・・・・鋭いんですね、先生」

 

ちゆは図星だったのか、顔を俯かせて少し表情を曇らせた。

 

「先生、すご~い! よくわかったね!」

 

「ふふっ、私一応、心療内科もやっていたから。人が悩んでいるのは顔を見ればわかるのよ」

 

ひなたが中島先生に感嘆の声をあげると、先生は笑顔で答えた。

 

「ちゆ・・・何があったのか答えてくれますか?」

 

「・・・・・・・・・」

 

先生の言葉を受けて、アスミが改めて問うとちゆはマグカップを静かにテーブルに置いた。

 

「・・・高見さんに・・・私のハイジャンはお遊びって言われたの・・・・・・」

 

「えっ・・・・・・?」

 

「あの西中の子? 何それ~!?」

 

「私だって、真剣にやってる!! 負けたら悔しい!! でも、私は・・・・・・海と空が溶け合う青い世界に近づきたい。その思いでやってるの!! それのどこがいけないの!?」

 

ちゆが思いを打ち明ける。自分のハイジャンプへの思いを高美さんに否定された。自分はただその思いを持ってやっていることのどこがいけないというのか・・・・・・。

 

「いけなくない! いけなくない!!!」

 

「「「ウンウンッ・・・・・・」」」

 

「ワン!!」

 

ひなたは首を振りながら否定し、妖精たちも同調するように頷いた。

 

「ちゆちゃん・・・冷静になってみて。自分がどうしてそういうことを言われたのか、思い出してごらん」

 

「どうして言われたか・・・・・・?」

 

中島先生にそう諭されたちゆはツバサにどうしてそんなことを言われたのか考え始める。

 

「っ・・・彼女、海外に行くから・・・日本ではもう私と戦えないって・・・・・・それで私がハイジャンプで世界を考えてないって言ったから・・・・・・」

 

ちゆはツバサが言っていたことを思い出しながら言うと、中島先生は微笑みながら頷く。

 

「私だったら、その高美さんの気持ちはわかるけどね」

 

「そうか・・・高美さん、本当にちゆちゃんとまた戦いたかったんだね。世界で」

 

「っ!!」

 

中島先生はツバサのその気持ちに同調しながら言うと、のどかはわかったようにそう呟く。ちゆはそれらを聞いてハッとしたような表情を浮かべる。

 

「わかった? ちゆちゃん」

 

「先生・・・・・・」

 

「私から言えることは一つよ。ちゆちゃんはちゆちゃんの思いで跳べはいいのよ。ちゆちゃんにはちゆちゃんが考えがあるんだから、誰もあなたを否定なんかできないわ。ちゆちゃんのやりたいようにすればいいの」

 

中島先生がそう言うと、ちゆは何か憑き物が取れたような表情をしていった。

 

「ちゆは思ったように跳べばいいペエ」

 

「そうそう♪」

 

「最初の思いを大切にすればいいラビ」

 

「『初心忘れるべからず』・・・って言うしな!」

 

「まあ、ニャトラン。よく知っているのね。能天気そうだから、何も考えずに生きてると思ったわ♪」

 

「にゃあ!? どういう意味だよ先生ぇ!!」

 

「ふふふ♪」

 

「「あははははっ!!」」

 

妖精たちがそう言い出すと、茶々を入れた中島先生も笑みを浮かべ、パートナーも皆笑みを浮かべた。

 

「ふふっ・・・・・・」

 

ちゆもようやく落ち着いた様子でそれを見守り、天井を見上げる。

 

「私は、私の思いで跳ぶ・・・・・・そうよね・・・・・・」

 

そして、ちゆはもう一度先生の方を見る。

 

「ありがとうございます、先生」

 

「頑張ってね♪ ちゆちゃん」

 

ちゆは中島先生にお礼を言うと、先生はそう言いながらマグカップのジュースを啜ったのであった。

 

そんなことがあった日の夜・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

ちゆは中庭で夜空を見上げながら、ある記憶を思い出していた。

 

『・・・さぁ、ちゆ。跳べるかな』

 

『っ・・・えいっ!!』

 

幼い頃のちゆは父のりゅうじが木に結んで一直線に伸ばした紐を飛び越えた。

 

『はぁ♪ とべたっ♪』

 

『ふふっ。じゃあ、今度はここだ』

 

喜ぶちゆを見ながら、りゅうじは腕を少しあげて先ほどよりも跳ぶ位置を高くした。

 

『えぇ~? むりだよぉ~』

 

『お父さんは飛べるぞ~? ほ~らっ』

 

身長も低かったちゆにとっては明らかに無理な高さであったが、りゅうじはそれを跨ぐようにして紐の上を越えてみせる。

 

『むぅ~・・・私もとぶっ・・・!』

 

それを見ていたちゆは頬を膨らませて、なんだか悔しそうにしていた。

 

『よ~し、頑張れ!!』

 

『はぁ♪・・・っ!!』

 

りゅうじにそう言われたちゆはその高さの走り高跳びに挑戦してみた。

 

「・・・・・・・・・」

 

そのことを思い出していたちゆは、さらに別のことも思い出していた。

 

『・・・・・・っ!!』

 

ちゆが小学生になった頃、陸上の部活で走り高跳びに挑戦していた。コートに設置された棒をちゆは跳び越え、マットの上に着地した。

 

パチパチパチパチ

 

『っ?』

 

『よかったわよ、ちゆ。今日もナイスジャンプね』

 

『ありがとう♪』

 

そこに拍手が聞こえたかと思うとりょうが現れ、彼女にスポーツドリンクとタオルを持ってきた。

 

『ちゆは大会を目指さないの?』

 

『私は・・・・・・』

 

『ちゆのハイジャンプだったら、充分通用すると思うんだけどなぁ』

 

りょうがふとそんなことを聞くと、ちゆは考え始める。

 

『私よりもいい人は・・・・・・いっぱいいるわ』

 

『そんなことないわよ。ちゆもきっとそのすごい人に入ると思うわ』

 

『そんなことは・・・・・・』

 

『そんなことあるのっ。親友の私が言ってるんだから』

 

ちゆがそう謙遜すると、りょうは否定するように主張する。

 

『自信を持ってよ。自分を信じれば、どんな世界の枠でもあなたは跳べるわ』

 

『りょう・・・・・・』

 

『そしたら、私に見せてよ。あなたの誰にも負けないハイジャンプをね♪』

 

りょうはちゆを笑顔で見つめながらそう言ったのであった。

 

「・・・・・・・・・」

 

昔の記憶を懐かしく思ったちゆは笑みを浮かべていた。

 

「りょう、私は跳ぶわ・・・・・・・・・」

 

そして、思い出のその木を見つめていたちゆは何かを決意したように呟いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の放課後、すこやか中学校のグラウンドでは陸上部が練習に励んでいた。

 

「ちゆ~、高さここでいい?」

 

部員のりょうこが棒の高さを尋ねると、ちゆは歩いてその場所へと近づく。

 

「・・・初めて跳んだのは、この高さ」

 

「えっ・・・・・・?」

 

「りょうが見て、跳べた時はこの高さ」

 

膝ぐらいの高さを示しながらそう呟くちゆに、りょうこは首を傾げるとちゆは次に腹の部分に自分の手を持ってくる。そして、自身の身長よりも高い位置にある棒よりも、少し高めのところに持ってきた。

 

「・・・・・・ここ」

 

「えっ・・・この前の大会の記録より5センチ高いよ!?」

 

「ここで・・・行きます・・・!!」

 

それはこの前達成した新記録よりも高い位置、棒はそこに上げられ、りょうこを初めとする部員たちは心配する中、ちゆはそのまま挑んでいく。

 

カシャン・・・カシャン・・・カシャン・・・!!

 

しかし、失敗するばかりで棒が落ちる音が聞こえてくるだけだ。

 

「あぁ・・・また失敗・・・!!」

 

「「あっ!!」」

 

生徒たちが心配する中、人だかりが気になったのどかとひなたが駆けつける。

 

「またって・・・ずっと失敗してるの・・・!?」

 

「うん・・・一回も跳べてない・・・・・・」

 

「・・・行きますっ!!」

 

のどかがりょうこと話している間、ちゆは再び駆け出して、棒を飛び越えようとジャンプをする。

 

カシャン!!

 

しかし、結果は変わっておらず、棒は落ちて失敗してしまった。

 

「どうして? ちゆちー。また前みたいに跳べなくなっちゃったのか?」

 

「この前の新記録よりもさらに高くしてるから、簡単には跳べないだろうけど・・・何か今日のちゆ、すごい気迫で・・・」

 

「何かボロボロだよぉ・・・・・・」

 

何度も失敗しながら、果敢に挑むちゆ。しかし、その様子は見ている者には結構辛いものがあった。

 

そんな中・・・・・・。

 

「・・・でも、ちゆちゃん、すごく楽しそうだよ?」

 

のどかだけは、ちゆの様子を見て微笑んでいた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・」

 

ーーーーちゆちゃんは、ちゆちゃんの思いで飛べばいいのよ

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・」

 

ーーーー自分を信じれば、どんな世界の枠でもあなたは跳べるわ

 

「はぁ・・・・・・ふふっ・・・・・・」

 

ちゆの頭の中に思い出される中島先生とりょうの言葉・・・・・・それが頭に浮かぶとちゆ自身の険しい表情が少し緩んだ。

 

「・・・行きます!!」

 

ちゆはそう言って、再び駆け出しながら目の前を見据える。すると・・・・・・。

 

「・・・・・・っ!!」

 

目の前に自分の新記録を超えて跳んでいるツバサの幻が見えた。それでもちゆは足を止めずに駆け出していき、棒の前へと近づく。そして・・・・・・。

 

「っ・・・・・・」

 

ちゆの体は宙を舞い、棒に引っかかることなく跳び越えるとそのままマットへと落ちた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

跳び越えたちゆは空を見上げ、目の前にある跳び越えた棒とその先にある青空を見つめる。

 

「跳んだっ・・・!!」

 

「跳んだ・・・跳んだよね!?」

 

「ちゆ・・・クリア!!」

 

ちゆが成功した様子を見て、のどかとひなたは手を取り合いながら喜び、りょうこは笑みを浮かべてそう叫んだ。

 

「はぁ・・・はぁ・・・伝えなきゃ・・・!!」

 

ちゆはそう呟くとその場から駆け出して、学校を飛び出していってしまった。

 

「・・・ちゆ?」

 

「「・・・・・・・・・」」

 

その行動にりょうこや部員たちは戸惑う中、のどかとひなたは頷きあってちゆの後を追いかけ始めた。

 

(私が跳べたのは・・・私がこんなに、熱くなったのは・・・!! 伝えなきゃ・・・伝えなきゃ!!)

 

ちゆはそう思いながら必死に走り、向かった先はすこやか西中であった。

 

「えっ・・・帰った・・・?」

 

「ええ。ツバサなら今日出発するって挨拶にきて・・・ついさっきよ」

 

しかし、ちゆは会おうとしていた翼と入れ違いになってしまい、部員から話を聞いたちゆはすぐに西中を飛び出した。

 

「ちゆちゃん、どうしたの!?」

 

そこへ追いかけてきたのどかが走っていくちゆに声をかけた。

 

「っ、高美さんを、追いかける!!」

 

「どこに行ったかわかるのぉ~!?」

 

ちゆはそう言いながら走っていき、のどかたちも先を行くちゆの後を追いかけていく。

 

「ありがとうございました!!」

 

その頃、陸上競技場に来ていたツバサは、誰もいない競技場の中でお辞儀をしながらそう言い、目の前に広がる競技場の中をしっかりとした眼差しで見つめた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・きっと・・・あそこ・・・!!!」

 

ちゆは赤信号で立ち止まりながらそう呟き、目の前に見えて来た陸上競技場を見ていた。

 

「・・・ちゆ?」

 

「どうしたペエ?」

 

そこへラビリンたちと一緒にラテの散歩をしているアスミが通りかかって、ペギタンがちゆに近寄る。

 

「ま・・・待って~・・・ちゆち~・・・」

 

「ふわぁぁぁ・・・・・・」

 

追いかけてきたのどかとひなたが息を荒くしながらも追いつき、みんなでちゆと一緒に競技場へと向かう。

 

一方、競技場では・・・・・・。

 

「もっと高く・・・跳んで見せる・・・・・・!」

 

去ろうとしていたツバサがそう呟き、再び競技場内を見つめていた。

 

そんな、ツバサを見下ろす影が・・・・・・彼女の真上にいた。

 

「ねえ、フーちゃん」

 

「何ですぅ・・・・・・?」

 

「あの子って、青いプリキュアちゃんと一緒にいた子だよねぇ?」

 

「そうですぅ・・・・・・」

 

「じゃあ、あの子をやればいいよね~? 結構、健康的でパワーもありそうだし」

 

ヘバリーヌとフーミンが、ツバサを見下ろしながらそんなことを話していた。

 

「・・・と、思ったけどさ~、焦ってるなら手柄を譲ってあげるよ~、シンド姉?」

 

「だから、焦ってないって言ってるでしょ!!!!」

 

同じようにツバサを見ていたシンドイーネが、ヘバリーヌに茶化されて憤慨する。

 

「あんたが見つけたんだから、あんたがやればいいじゃない?」

 

「いいよ~。だって、ヘバリーヌちゃん、もう一人いいものを見つけたも~ん!」

 

「いいものって何よ?」

 

「ひ・み・つ♪ フーちゃん行こ~」

 

「はいですぅ・・・・・・」

 

シンドイーネが情けをかけられた気分で気に入らなかったのか、ヘバリーヌに押し返そうとするが、彼女はそんなことを話しながら、フーミンと共にその場から姿を消す。

 

「あっ、ちょっとぉ!? あぁ~ん、もぉ!!!」

 

シンドイーネは勝手に消えた二人に憤慨しながらも、見下ろすツバサを見つめるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クチュン!!」

 

「ラテ!?」

 

「ビョーゲンズです!!」

 

それから少し経った頃、ラテの体調が悪化し、のどかはアスミが抱えるラテに聴診器を当てた。

 

(あっちで、お姉さんが泣いてるラテ・・・・・・)

 

そう話すラテの向いている方向は、ちゆたちが目指していた競技場であった。

 

「あっちは競技場・・・っ、まさか!!」

 

「行こう!!」

 

のどかの言葉を合図に、みんなは変身アイテムを取り出した。

 

「「「「スタート!」」」」

 

「「「「プリキュア、オペレーション!!」」」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

「エレメントレベル、上昇ラテ!!」

 

「「「「キュアタッチ!!」」」」

 

ラビリン、ペギタン、ニャトランがステッキの中に入ると、のどか、ちゆ、ひなたはそれぞれ花のエレメントボトル、水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

アスミは風のエレメントボトルをラテの首輪にはめ込む。すると、オレンジ色になっているラテの額のハートマークが神々しく光る。

 

のどかたち3人は、肉球にタッチすると、花、水、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、水色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ちゆは水色、ひなたは黄色へと変化する。

 

ラテとアスミは手を取り合うと、白い翼が舞い、ラテが舞ったかと思うとハートの中から白い白衣のようなものが飛び出す。

 

その白衣を身に纏い、ラテが降りてきたかと思うとハープが飛び出し、さらにアスミは紫色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

衣装にチェンジした後、ハープを手に取り、その音色を奏でる。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「「時を経て繋がる、二つの風!」」

 

「キュアアース!!」

 

「ワン!」

 

アスミは風のプリキュア、キュアアースへと変身した。

 

「「「「地球をお手当て!!」」」」

 

「「「「ヒーリングっど♥プリキュア!!」」」」

 

4人は変身後、競技場の中へと入っていったのであった。

 

その数分後・・・・・・。

 

「っ・・・情報によると、ここに沢泉ちゆさんがいるはずですが・・・・・・!」

 

ちゆたちがいた場所に、なんと益子道男が現れていた。陸上大会の記録をさらに更新したという話を聞きつけたことで、ちゆに取材をしようと思い、すこやか西中、その生徒にも聞いて陸上競技場に行っただろうと追いかけてきたのだ。

 

「陸上大会の記録をさらに超えたというのはビッグスクープ!! 敏腕ジャーナリストの僕としては、今すぐに取材をしなければ・・・!!!!」

 

益子はいつもよりも気合いが入っていて、ちゆを見つけたら取材をする気満々であった。

 

そんな彼を見下ろす影が二つ、競技場近くの木の上で見つめていた。

 

「あのメガネのお兄さんも結構、気合入ってるよね~」

 

「気合が入りすぎて逆に鬱陶しいぐらいですぅ・・・・・・」

 

「生き生きはしてるし、いいんじゃないかな~。もぉ、決めた!! ヘバリーヌちゃん、あのお兄さんにしよ~っと♪」

 

ヘバリーヌとフーミンはそんなことを話しながら、ヘバリーヌは益子をターゲットにすることにした。

 

早速、バレリーナのようなポーズを2回取りながら、それぞれ手を叩いて黒い塊のようなものを出現させる。そして、バレエのように体をクルクルと回転させる。

 

「進化しちゃってぇ~、ナノビョ~ゲン♪」

 

「ナノォ~♪」

 

生み出されたナノビョーゲンは鳴き声を上げながら、益子へと飛んで行った。

 

「っ・・・・・・!?」

 

益子は鳴き声に気づいてその方向を振り向くも、時すでに遅く直後にナノビョーゲンに取り込まれた。

 

その取り込んだ益子道男を主体として、巨大な怪物がかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてその素体を模倣する様々なものが姿として現れていき・・・。

 

「ギガギガ!! ビョォォォォゲン!!」

 

胸に丸いレンズのようなものを覗かせた新聞記者のような姿のギガビョーゲンが誕生した。

 

「やったぁ~!! ヘバリーヌちゃんにもできたよ~! ギガビョーゲン!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

ヘバリーヌが喜びながらフーミンの方を見るが、彼女はまた首を前に倒していた。

 

「フーちゃん!!」

 

「すぅ・・・すぅ・・・すぅ・・・・・・」

 

ヘバリーヌはその光景に頬を膨らませるが、フーミンは寝息を立てるだけだ。

 

「フーちゃんも何かやってよ~! 焦らしプレイは気持ちいいけどさぁ、ノンお姉ちゃんのためにやるんじゃないの~!?」

 

「・・・・・・っ!?」

 

ヘバリーヌがそう言うと、フーミンはバッと目を見開く。彼女の頭の中にはイライラしている様子のイタイノンが再生された。

 

「そういえば、言ってたですぅ・・・・・・あいつが頭の中に出てきた・・・・・・」

 

「フーちゃん・・・・・・?」

 

フーミンは思い出した、元気のない様子のイタイノンがそんなことを言っていたことを、元気がない理由はもしかしたらそれが原因ではないかと。

 

「あいつ・・・・・・っ!!」

 

フーミンはさらに思い出すと怒ったように顔を顰める。あいつというのは、おそらくフーミンも見ていたが、イタイノンがお姫様抱っこのように持っていた茶色のツインテールの女、あいつは確かプリキュアの一人だった。

 

もしかして、あいつのせいでイタイノンお姉様はおかしくなったのか・・・・・・!?

 

そう考えた瞬間、フーミンの心の中に何かが燃え上がり、彼女の体から黒いオーラを放出させ始めた。

 

「どうしたの? フーちゃん」

 

「許せない・・・許せないですぅ・・・あの女・・・・・・!!」

 

さすがに異変を感じたヘバリーヌが声をかけるが、フーミンは虚空を睨みつけたまま答えようとせず、いつもよりも低い声でそう呟いている。

 

すると、フーミンは黒い翼を背中に広げると・・・・・・。

 

「あの女・・・潰してやるですぅ・・・・・・!!」

 

「あっ、ちょっと待って!! フーちゃん!!」

 

ヘバリーヌの制止も聞かずに、そのまま陸上競技場へと飛んで行ってしまった。

 

「もぉ~!! ギガビョーゲン、行くよ~!!」

 

「ギガギガギガ・・・・・・」

 

ヘバリーヌも彼女を追いかけるべく、ギガビョーゲンに指示を出すと共にフーミンの後を追うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、競技場へと向かったプリキュアたちは・・・・・・。

 

「ギギィ~!! ギギギギィ~!!!!」

 

「うわぁ!? なんか跳んでる!?」

 

競技場内で陸上選手のような格好をしたギガビョーゲンがバネのような足で跳びはねて暴れまわっていた。

 

「来たわね、鬱陶しい奴ら!!」

 

「ギガビョーゲン!!」

 

そして、競技場の屋根の上にはシンドイーネの姿があった。

 

キュン!!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

フォンテーヌはすぐさま肉球に一回タッチして、ギガビョーゲンに向ける。ペギタンの目が光り、ギガビョーゲンの体の中心部にツバサの姿を見つけた。

 

「っ、高美さん!!」

 

「あ~ら、あなたのお友達?」

 

「いいえ、ライバルよ!!」

 

「ライバルぅ?」

 

フォンテーヌの発言を聞いて、シンドイーネは小馬鹿にしたような笑みを浮かべると、フォンテーヌはそう主張してシンドイーネに向かって駆け出していく。

 

「高美さんを返しなさい!!」

 

「お断りよ!!」

 

キックを放つフォンテーヌに対し、シンドイーネも自ら飛び出して自身もキックで応戦する。

 

そして、残りのメンバーはギガビョーゲンへと立ち向かっていく。

 

「ギッガァ~!!!!」

 

グレースたちは攻撃を当てようとするが、ギガビョーゲンはその場から素早く飛び上がって攻撃を回避する。

 

「うわぁ!? すっごい、ギガジャンプ・・・!!」

 

スパークルがそう驚いていると・・・・・・。

 

ビュンッ!!!!

 

「っ!? あぁぁぁ!!」

 

そこへ突然黒い翼が猛スピードで横から飛んで来て、スパークルは観客席に叩きつけられた。

 

「「スパークル!!」」

 

「っ・・・ギッガ~!!」

 

グレースとアースはスパークルを心配するも、その隙にギガビョーゲンが飛び上がって両腕をバッと広げると大きなバネのようなものを地面に放つ。グレースとアースは回避しようとするが・・・・・・。

 

ズドドドドドドン!!!

 

「「あぁぁぁ!!!!」」

 

落ちたバネは地面に弾み、不規則な動きでグレースたちへと襲いかかり、直撃を受けてしまう。

 

「みんなっ!!」

 

フォンテーヌはギガビョーゲンに立ち向かった皆を心配しながら叫ぶ。

 

「うっ・・・っ!!」

 

一方、観客席に叩きつけられたスパークルは呻きながらも、翼の正体を確かめようとすると・・・・・・。

 

「もぉ~、フーちゃんったら、勝手に一人で行っちゃうんだからぁ~」

 

「・・・・・・・・・」

 

そこに自身が生み出したもう一体のギガビョーゲンを引き連れたヘバリーヌと、地面に降りてただならぬ雰囲気でスパークルを睨みつけるフーミンの姿があった。

 

「うぇ!? ギガビョーゲンが、もう一体・・・・・・!?」

 

「ヘバリーヌ、あいつも生み出してたのか・・・!!!」

 

スパークルとニャトランは姿を現したもう一体のギガビョーゲンに驚きを隠せない。

 

「嘘・・・・・・」

 

「あらぁ? どこに行ってたのかと思ったら」

 

フォンテーヌはそう呟き、シンドイーネは余裕そうな表情で見る。

 

「フーミンもいます・・・!!!!」

 

「でも、なんだろう・・・なんだか、怖い・・・・・・」

 

アースとグレースはそれぞれ呟くも、フーミンから発せられる凍りつくような黒いオーラに動揺していた。

 

「っ・・・んぅ!!!!」

 

フーミンは自身の黒い翼を再度広げると、音符のマークが入ったような禍々しい赤い弾を複数出現させて、スパークルに目掛けて光線状にして放った。

 

「っ!?」

 

「ぷにシールド!!」

 

「うっ・・・・・・!」

 

スパークルはぷにシールドで光線を防ぐも、あまりにも強力な光線に押されそうになっていた。

 

「? あいつ・・・様子がおかしいわね」

 

シンドイーネはフーミンの様子が明らかにおかしいことに異変を感じていた。

 

「ぐっ、うぅぅぅ・・・これちょっと、ヤバっ・・・・・・!!」

 

スパークルは徐々に光線に押されてきており、ステッキを持つ手が震えていて、表情も苦しさを見せていた。

 

「潰すですぅ・・・・・・!!」

 

「えっ・・・!?」

 

フーミンの口から聞こえる底冷えするような声、スパークルはそれに動揺の声を上げていた。

 

「お前を・・・・・・潰してやるですぅ・・・!!!!」

 

フーミンは怨嗟のように呟きながら、スパークルをまっすぐと睨みつけたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第123話「翼」

前回の続きです。
今回で原作第34話は終わります。

次回は正直言って番外編みたいなエピソードだと思ってます。
お楽しみに。


 

「んぅぅぅ・・・!!!!」

 

「うっ、くっ、ぅぅぅぅぅぅ・・・・・・!!!!」

 

黒い翼をはためかせて赤い光線を押し込もうとするフーミン。それに対して、ぷにシールドで防ぐも苦しそうに呻いているスパークル。実力差はどう見ても明らかであった。

 

「ぐっ・・・きゃあぁぁ!!!!」

 

ぷにシールドにヒビが入っていき、赤い光線はそれを突破するとスパークルに直撃した。

 

「んぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 

「うっ・・・!? っ・・・!!」

 

それを見たフーミンはとっさに黒い翼を広げるとスパークルへと迫り、追い打ちをかけるかのようにパンチを繰り出す。攻撃に呻いていたスパークルもそれに気づくとなんとか防いで飛びのく。

 

「「スパークル!!」」

 

そんなスパークルを、グレースとアースは援護をしようとするが・・・・・・。

 

「おねぇ~さ~ん!!」

 

「っ・・・!!」

 

そこへヘバリーヌが急降下してアースに蹴りを繰り出し、アースは腕を交差させて受け止める。

 

「久しぶりにヘバリーヌちゃんと遊ぼ♪」

 

「っ・・・・・・」

 

ヘバリーヌとアースはお互いに押し返して、ヘバリーヌは後退するように下がって地面に着地する。

 

「よっと!!」

 

「っ、はぁっ!!」

 

ヘバリーヌは直後に片足から黒い竜巻を放ち、アースもハープを取り出して弦を奏でると無数の風の刃を放って、黒い竜巻を相殺する。

 

「おぉ~!! お姉さん、そんなこともできるんだねぇ~!」

 

「ヘバリーヌ!! もうこんなことはやめてください!!」

 

「なんでぇ? ヘバリーヌちゃんは楽しいのになぁ~」

 

「私は、楽しくありません!!」

 

能天気な発言をするヘバリーヌに、アースは訴えるも、ヘバリーヌにはどこ吹く風だ。

 

「そ~れっ!!!」

 

「っ!! はぁっ!!!!」

 

ヘバリーヌは高く跳び上がると、体をクルクルと回転させながら黒い竜巻を纏ってスクリューキックのようにアースへと突っ込む。アースも応戦しようと飛び上がって、蹴りを繰り出すが・・・・・・。

 

「ぐっ、あぁぁぁ!!!!」

 

回転がかかっている分、ヘバリーヌの方が強く押し負けて吹き飛ばされてしまう。

 

「よっ、とぉ!!!」

 

ヘバリーヌはそのまま地面に突っ込んで着地し飛び上がると、空中へと吹き飛んだアースの方へと飛ぶ。

 

「やぁぁぁ!!!」

 

「うっ、あぁぁ・・・!!!!」

 

ヘバリーヌは両手に風を纏うと、そこから黒い竜巻を放ってアースを観客席へと吹き飛ばした。

 

「アース!!!」

 

「ギガギガギガ・・・!!!!」

 

グレースが心配して叫ぶも、そこへ新聞記者のギガビョーゲンが片手の手のひらを突き出すと、そこにある丸いレンズのようなものからカメラ音と共に光線を放って周囲を蝕む。

 

キュン!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

グレースはギガビョーゲンにされた人を確かめるべく、ステッキの肉球を一回タッチしてギガビョーゲンへと向ける。ラビリンの目が光り、ギガビョーゲンの右肩部分にいたのは・・・・・・。

 

「っ!? 益子くん!?」

 

グレースはギガビョーゲンの内部にいた人に驚いた。それはすこやか中の新聞部の益子道男だったからだ。

 

「くっ・・・うぇ!? なんで、新聞部が・・・!?」

 

スパークルはフーミンと拳の応戦をしつつ、同じように驚いていた。新聞部の益子がどうしてギガビョーゲンにされているのか・・・・・・。

 

「なんかね~、生き生きしていたのがいたから、その子をギガビョーゲンにしてあげたの~。そしたら、すっごい気持ちよ~くしてくれそうなギガビョーゲンになってくれたんだよぉ~!」

 

「もしかして・・・ちゆちーを追ってきてたりとか・・・?」

 

「益子くんの一生懸命な気持ちをギガビョーゲンに変えるなんて・・・・・・」

 

ヘバリーヌがそう話すと、スパークルはちゆを追ってきたんだろうと推測し、グレースは益子の気持ちを利用したことに心を痛める。

 

「・・・感傷している場合じゃないラビ!! 早く元に戻すラビ!!」

 

「うん!!」

 

ラビリンが叱咤すると、グレースは頷いてギガビョーゲンを止めようと駆け出していく。

 

「はぁっ!!!!」

 

「ギガギィ・・・?」

 

グレースから背後から飛んで蹴りを食らわせるが・・・・・・。

 

「っ・・・あぁぁ!!」

 

やはり一人では無謀なのか、ギガビョーゲンには通用しておらず、逆にギガビョーゲンからの振り向きざまの張り手を受けてしまう。

 

「ギギギガ・・・・・・!!」

 

パシャ!! パシャ!! パシャ!!

 

ギガビョーゲンは胸のレンズを伸ばすと片手で持って構え、カメラのシャッター押すような音を出したと同時にレンズから赤いリングのようなものをグレースに放つ。

 

「っ・・・ふっ、はぁっ!!」

 

グレースは着地をすると同時にそれに気づいて、リングをパンチや蹴りで弾き飛ばし、攻撃が間に合わないものはジャンプでかわす。

 

「ギギギガ・・・ギガギガ・・・!!」

 

パシャ!! パシャ!! パシャ!! パシャ!! パシャ!!

 

ギガビョーゲンはさらにシャッター音を鳴らすとレンズからさらに赤いリングを放つ。

 

「ふっ・・・くっ・・・うぁぁぁ!?」

 

グレースは赤いリングを弾いてはいるものの、次々と放出される上に縦横無尽に飛び回るリングに防戦一方で、遂には複数のリングがグレースの体を囲み、拘束してしまった。

 

「ギガギガ・・・!!!!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁ!!!!」

 

その隙をついてギガビョーゲンは片手のレンズから赤い光線を放って、防御ができないグレースを吹き飛ばした。

 

「んぅぅぅぅ・・・!!!!」

 

「はぁぁぁっ・・・!!!!」

 

一方、スパークルとフーミンは互いの拳がぶつかり合い、さらに目に見えないほどの高速で動いて、お互いに攻撃をぶつけ合う。

 

「雷のエレメント!! はぁっ!!!」

 

スパークルは距離を取って雷のエレメントボトルをステッキにセットし、雷を纏った黄色い光線を放つ。

 

「っ・・・んぅぅぅ!!!!」

 

「うぅぅぅ・・・・・・!!!!」

 

フーミンは翼を広げて光線を飛んでかたなく避けると、左右の翼を羽ばたかせて無数の黒い羽を飛ばす。羽は着弾して爆発を起こし、スパークルは思わず腕で顔を覆って防御する。

 

そんなスパークルの背後に、フーミンが口を開いて禍々しいエネルギーを溜める。

 

「っ!? ぐっ、うぅぅ・・・うぁぁぁぁぁぁぁ・・・!!!!」

 

スパークルは背後に気づいて振り向くも、その直後にフーミンは口から赤い音波のような光線を放ち、それをまともに浴びたスパークルはその不快音に耳を塞ぐも、苦痛に耐えきれずに悲鳴をあげてしまう。

 

「んぅ!!」

 

「っ、あぁぁぁぁ!!!!」

 

フーミンは口から音波を放つのを止めると、間髪入れずに片方の3枚の黒い翼を振り下ろしてスパークルを吹き飛ばした。

 

「んぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 

「っ・・・!?」

 

スパークルを転がしたのも束の間、フーミンはすぐに飛び上がって左右の翼を投下し、スパークルはなんとか立ち上がって間一髪で避ける。

 

「な、なんか攻撃のペースが激しすぎるんだけど・・・!?」

 

「全然こっちが攻撃できないニャ!!」

 

スパークルがフーミンにしては攻撃のペースが早すぎることに戸惑う。まるで自分に恨みを晴らすかのような容赦のない攻撃だ。嵐のように仕掛けてくる攻撃に正直、怖くて叶わない。

 

「んぅぅぅぅぅっ!!!」

 

「っ・・・うっ!!!!」

 

そんなことを考える余裕もなく、フーミンがこちらに高速で突っ込んできた。スパークルはとっさにぷにシールドを展開して防ぐも、勢いが強くシールドごと吹き飛ばされて、競技場の壁に叩きつけられた。

 

「ぐっ・・・・・・!」

 

「スパークル、大丈夫か!?」

 

「う、うん・・・なんとか・・・・・・」

 

ニャトランが心配する中、スパークルは顔を顰めつつも返事を返す。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

一方のフーミンは息が荒くなっており、それでもスパークルのことを変わらずに睨みつけていた。

 

「ねぇ、ちょっとだけ、話し合わない・・・?」

 

「っ、お前と話すことなんかないですぅ!! 目障りなお前なんか、潰してやるですぅ!!」

 

「なんで、そんなことがしたいの・・・・・・?」

 

スパークルはフーミンを落ち着かせようとするが、フーミンは首を振りながら拒絶し、今でも飛びかかってきそうな様子だ。スパークルはその理由を問いかける。

 

「お前の・・・お前のせいでイタイノンお姉さまがおかしくなったですぅ・・・!!!!」

 

「っ、らむっちが・・・!?」

 

「お姉様はゲームをしている時に全く集中できてないですぅ・・・その度にイライラして、いつも呟いているのがお前の名前ですぅ・・・!!!!」

 

「らむっち・・・・・・」

 

スパークルはフーミンの言葉を受けて考えていた。らむは、イタイノンは明らかに自分のことで苦しんでいる。だから、もしかしたら、らむを元の姿に戻すことができるのかもしれない。

 

「っ、何を安心してるですぅ・・・!!?? お前がお姉様の代わりに苦しめばいいですぅ・・・!!!!」

 

フーミンはスパークルの様子に怒り出すと、6枚の黒い翼を一気にスパークルに投下する。

 

「っ!! はぁっ!!!」

 

「っ・・・あんたの仲間、みんなやられちゃってるみたいだけどぉ〜?」

 

「っ・・・・・・」

 

一方、フォンテーヌはシンドイーネと交戦していた。シンドイーネは拳をぶつけ合いながらも挑発的な態度を取るが、フォンテーヌは意に返さず距離を取る。

 

「ツバサさんの思いを、パワーをこんなことに使わせない!!」

 

フォンテーヌはシンドイーネの方を見ながら叫んだ。

 

「ライバルならちょうどいいじゃない。いなくなったほうがさぁ?」

 

「違う!!」

 

フォンテーヌはそう呟いてシンドイーネにキックを放つと、彼女はそれを両腕で防いだ。

 

「彼女がいてくれるから、かつての友の思いがあるから、私はもっと跳べるの!!」

 

「ライバルなんて、邪魔で目障りでムカつくだけよ!! 使えるような奴は利用できるけど、ライバルなんか消えりゃいいのよ!!!! それに何よ、友の思いって? そんなのは最初からありなんかしないのよ!!!!」

 

シンドイーネは叫びながら両腕でフォンテーヌを弾き飛ばすと、すかさず襲いかかる。

 

「っ・・・!?」

 

「はぁっ!!!!」

 

「あああぁ!!」

 

フォンテーヌはシンドイーネの攻撃を避けると、そのまま回し蹴りを放ってシンドイーネを吹き飛ばした。

 

「ほら〜、やっぱり焦ってるじゃ〜ん・・・・・・」

 

ヘバリーヌはシンドイーネのその様子を呆れたように見ていた。いつものシンドイーネであれば、あんな感情的に襲いかかるようなことはしないだろう。

 

ビュンッ!!

 

「ふっ!!」

 

「おぉ?」

 

そこへ復活したアースが飛び出してキックを繰り出し、ヘバリーヌはそれを足で受け止める。

 

「お姉〜ちゃん! まだ遊んでくれるんだぁ〜?」

 

「遊びではありません。これはお手当てです!!」

 

「ンフフ♪」

 

睨みつけるアースに対し、嬉しそうな表情を浮かべるヘバリーヌ。二人の攻撃が再びぶつかり合う。

 

「ギガァ〜!!」

 

そんな中、ギガビョーゲンがフォンテーヌの背後に迫っていき、パンチを放つとフォンテーヌは上空へと跳んで回避する。

 

するとギガビョーゲンもフォンテーヌを追って飛び上がった。

 

「・・・もっと・・・もっと、高く・・・・・・っ」

 

フォンテーヌはそう呟きながら空高く飛んでいくと、一定の高さへと来たところで自身の体を180度回転させた。

 

「雨のエレメント!! はぁぁぁ!!!!」

 

「ギ・・・・・・ギガ・・・・・・!?」

 

フォンテーヌはステッキに雨のエレメントボトルをセットすると、上空から水色のエネルギー派を勢いよく放ち、ギガビョーゲンをその勢いのまま地面へと叩き落とした。

 

一方、フーミンとスパークルは・・・・・・。

 

「・・・・・・っ!?」

 

「うっ・・・・・・!!」

 

スパークルは顔を顰めながらもぷにシールドと手で全ての黒い翼を受け止めており、その光景にフーミンは驚愕した。

 

「ど、どこにそんな力が・・・・・・!?」

 

「ぐっ・・・わかんない・・・わかんないけど・・・・・・らむっちを助けたいって考えたら、とっさに受け止めることができたの・・・・・・!!」

 

「っ・・・お姉様のことを引き合いに出すなですぅ!!!」

 

スパークルの発言にますます苛立ったフーミンは全ての黒い翼を一旦戻すと、一気に叩きつけるように振り下ろした。スパークルは横に跳ぶようにして避ける。

 

「雷のエレメント!! はぁっ!!!!」

 

「っ・・・!? うっ!!」

 

スパークルはステッキに雷のエレメントボトルをセットすると、雷を纏った黄色い光線をフーミンに目掛けて放つ。フーミンは黒い翼を戻すが、間に合わず攻撃に顔を顰める。

 

「はぁぁっ!!!」

 

「っ・・・!? あぁぁぁ!!!!」

 

スパークルはその隙を見逃さずに横飛びで蹴りを放ち、フーミンを壁へと叩きつけた。

 

「はぁっ! ふっ!! やぁっ!!!!」

 

「ほっ!! よぉ!! とぉ!!!!」

 

ヘバリーヌとアースはお互いにパンチとキックの応酬を繰り返していた。

 

「ンフフ〜、お姉〜さん!楽しいね〜!!」

 

「っ、ふっ、はぁっ!!!」

 

そんな中、ヘバリーヌは喜びを口にする。アースはそんな言葉に耳を貸さずに、パンチとキックの攻撃と防御を繰り返す。

 

「っ・・・・・・はぁっ!!!!」

 

「おっと・・・・・・やぁっ!!!!」

 

お互いにパンチとキックで弾き飛ばされ、それでも尚二人は駆け出し、お互いの渾身の蹴りが空中でぶつかり合い、二人の周りに風が吹き荒れる。

 

そんな中・・・・・・。

 

「っ、なにすんのよ!!!!」

 

フォンテーヌに吹き飛ばされたシンドイーネが起き上がり、両手をフォンテーヌの方に突き出して、攻撃するためのエネルギーを溜めるのが見えた。

 

「っ・・・・・・!?」

 

「おぉ・・・?」

 

アースはそれに気づくととっさに足を弾き飛ばして、後ろに下がるとハープを取り出す。弦を奏でて周囲に風を巻き起こし、ヘバリーヌに竜巻を放つ。

 

「そ〜れっ!!!!」

 

ヘバリーヌは片足を横薙ぎに振って黒い竜巻を放ち、二つの風がぶつかり合って爆発を起こす。

 

「お姉〜さん!・・・あれっ?」

 

ヘバリーヌはアースに声をかけようとしたが、煙が晴れた時にアースの姿はない。そんな時、ヘバリーヌの上空を何かが飛んでいくのが見えた。

 

「あ〜!? お姉さん!! もっと遊ぼ〜よ〜!!!!」

 

自身から離れてフォンテーヌの元に向かおうとするアースに、ヘバリーヌはプリプリと不満を垂れる。

 

「空気のエレメント!!」

 

「うっ! あぁぁっ!?」

 

アースは空気のエレメントボトルをハープにセットして、凄まじい風を放つとシンドイーネに直撃させて、上空へと吹き飛ばした。

 

「ふっ!!」

 

「ギガギガ・・・ギガギガ・・・ギガギガギガギガ!!!!」

 

一方、グレースも復帰して飛び出すと、ギガビョーゲンは胸のレンズからシャッター音と共に赤い光弾を放つ。

 

「実りのエレメント!! はぁっ!!!!」

 

「ギギギ・・・ギガ!?」

 

グレースは避けながら実りのエレメントボトルをセットして、ピンク色の光弾を放つとギガビョーゲンの胸のレンズに命中させて、爆発と共にヒビを入れる。

 

「ふっ!! はぁっ!!!!」

 

「ギギギ・・・ガガガ・・・!?」

 

グレースは地面に降りて駆け出して観客席に飛び移ってからギガビョーゲンへと跳ぶと、そのまま胸のレンズへとキックを繰り出し、レンズを破壊した。

 

「氷のエレメント!! はぁっ!!!!」

 

「ギ、ガァ・・・ギガギガ!?」

 

そこへフォンテーヌが氷を纏った光線を地面に放ち、凍った地面に足を滑らせたギガビョーゲンはそのまま後ろ向きに転倒しそうになる。

 

「火のエレメント!! はぁっ!!!!」

 

「ふっ!!!」

 

さらにスパークルが火のエレメントボトルをセットして火を纏った光弾を放ち、アースが弦を奏でて強力な風を起こしたことで、ギガビョーゲンは地面へと転倒した。

 

「みなさん、今です!!」

 

「ワウ〜ン!!!!」

 

アースの言葉を合図に、ラテが大きく鳴き声を上げる。

 

「「「「ヒーリングっどアロー!!!!」」」」

 

4人がそう叫ぶとラテがステッキとハープ、エレメントボトルの力を一つにまとめた注射器型のアイテム、ヒーリングっどアローが出現する。

 

その注射器型のアイテムに、ハートの模様が描かれたエレメントボトルをセットする。

 

「「「「ヒーリングアニマルパワー!! 全開!!」」」」

 

ヒーリングアニマルたちのダイヤルが回転し、その注射器型のアイテムが4つに別れるとグレースにはラビリン、フォンテーヌにはペギタン、スパークルにはニャトラン、アースにはラテの部分で止まり、グレースたち4人の服装や髪型などが変化し始める。

 

そして、4人の背中に翼が生え、いわゆるヒーリングっどスタイルへと変化を遂げる。

 

「「「「アメイジングお手当て、準備OK!!!!」」」」

 

4人は手に持っている注射器のレバーを引くと、虹色のエレメントパワーがチャージされる。

 

「「「「OK!!!!」」」」

 

そして、パートナーのヒーリングアニマルたちがダイヤルから光となって飛び出し、思念体の状態になって現れ、パートナーに寄り添った。

 

「「「「プリキュア!ファイナル!! ヒーリングっど♡シャワー!!!!」」」」

 

プリキュアたちがそう叫ぶと、レバーを押して4色の螺旋状の強力なビームを放った。4色のビームは螺旋状になって混ざり合いながら、ギガビョーゲンへと向かっていき光へと包み込んだ。

 

ギガビョーゲンの中で4色の光は、それぞれの手になって中に取り込まれていたツバサを優しく包み込む。

 

ギガビョーゲンをハート状に貫きながら、4色の光線はツバサを外に出した。

 

さらにもう一体のギガビョーゲンにも向かっていき、光へと包み込む。4色の光は、再度それぞれの手になって中に取り込まれていた益子道男を優しく包み込み、同じように貫きながら外に出した。

 

「ヒーリン、グッバイ・・・・・・」

 

「「「「「「「お大事に」」」」」」」

 

「ワフ~ン♪」

 

ギガビョーゲンが消えたと同時に、競技場内に広範囲に渡って蝕まれていたその周辺が元の色を取り戻していく。

 

「あ〜あ、終わっちゃった〜。いけると思ったんだけどなぁ〜」

 

ヘバリーヌは残念そうに呟くと、吹き飛ばされたフーミンの元へと飛ぶ。

 

「フーちゃん、帰るよ〜・・・」

 

「んぅぅ・・・悔しいですぅ・・・!!!!」

 

ヘバリーヌがそう声をかけると、起き上がったフーミンは怒りの表情で悔しそうにしていた。

 

「シンド姉〜!!」

 

そして、シンドイーネにも声をかけるが・・・・・・。

 

「っ、あんたたちが一番目障りで邪魔なのよ・・・!!!!」

 

シンドイーネはヘバリーヌに返事をせず、プリキュアを睨みつけながら呟いて、お先に帰ってしまった。

 

「・・・シンド姉ったら変なの。すっごくつまんない」

 

「・・・・・・ふん」

 

ヘバリーヌがつまらなそうに呟き、フーミンが不機嫌そうに鼻を鳴らす。そして、フーミンはスパークルのことを見据える。

 

「・・・・・・・・・」

 

スパークルを睨みつけるように見た後、フーミンはヘバリーヌと共に撤退していったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・っ、うっ・・・あっ」

 

「あっ・・・よかった・・・!」

 

気を失って横になっていたツバサが目を覚ますと近くにはちゆが立っていて、安堵の表情を浮かべていた。

 

「・・・どうしてここに?」

 

ツバサは体を起こしながら、ちゆに尋ねた。

 

「あのままさよならできないもの・・・ライバルとは・・・」

 

「っ・・・あ、あのっ・・・この前はごめんなさい。あんな酷いこと言って、あなたが世界を目指さないからって、私にあなたを責める資格なんてないわ・・・でも、これだけは信じて欲しいの!! 私、本心からあなたと・・・・・・」

 

ツバサが謝る中、ちゆは彼女に手を差し伸べた。

 

「次は世界で・・・!!」

 

「えっ・・・・・・?」

 

「私も世界を目指すわ!! もっともっと高く跳ぶ! あなたには負けないわよ、ツバサ!」

 

「っ・・・ちゆ」

 

ツバサは差し伸べられたちゆの手を取って立ち上がった。

 

「ふふっ」

 

「次は・・・世界で!!」

 

ちゆとツバサはお互いに笑みを浮かべて握手を交わす。

 

「「「ふふふっ」」」

 

その様子をのどかたちは離れた場所から見守っていた。

 

一方、その頃・・・・・・。

 

「う〜ん・・・はっ!? こ、ここは!? 僕は一体何を・・・!?」

 

同じように目を覚ました益子は訳も分からず、あたりをキョロキョロとしていたのであった。

 

ツバサが旅立った、その翌日・・・・・・。

 

すこやか中学の陸上部の練習。高い位置に立てられる棒、その前にちゆは立っていた。

 

「・・・すぅ・・・はぁ・・・・・・」

 

跳ぶ前に呼吸を整えたちゆは、前を見据えて駆け出し、今日も走り高跳びを練習していた。

 

(跳んで見せる・・・・・・世界へ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キングビョーゲンの娘たちがアジトとする廃病院、そこにはヘバリーヌとフーミンが帰還していた。

 

「あ〜あ・・・結局、何もできなかったねぇ〜・・・・・・」

 

「悔しいですぅ・・・あんな考えなしのプリキュアに負けるなんて・・・・・・!」

 

クルシーナとイタイノンのために出撃はしたものの、結局失敗して戻ってきた二人は悔しい思いを胸に廊下を歩いていた。

 

「お姉ちゃんになんて言おう〜・・・・・・?」

 

「合わせる顔もないですぅ・・・・・・」

 

二人はすっかり気落ちした様子であった。特に地球を蝕めたわけでもなければ、成果を得たわけでもない、完全に無駄な時間を過ごした気分だ。

 

と、そこへ・・・・・・・・・。

 

「な〜に、落ち込んでんの?」

 

「「っ!!」」

 

背後からかけられる声に振り向くと、そこには普段通りのクルシーナとイタイノンがいた。

 

「お姉ちゃん・・・・・・?」

 

「お姉様もいたですかぁ・・・?」

 

「いるに決まってんでしょ。アタシたちのアジトなんだから」

 

「お前たち、今日は疲れてるの・・・休んだほうがいいの・・・・・・」

 

目を丸くする二人に、クルシーナは訝しげな様子で言い、イタイノンはいつものように淡々と言うと、二人を抜いて先へと歩いていく。

 

「クルシーナお姉ちゃん!! ノンお姉ちゃん!!」

 

「「??」」

 

ヘバリーヌが真面目なトーンを呼ぶと、足を止めて振り向く。

 

「お姉ちゃんたちは・・・なんともないの・・・・・・?」

 

「・・・・・・何がよ?」

 

「だって、お姉様たち・・・最近、様子もおかしくて、元気のない様子だったですぅ・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「最近、上手くいってなかったから・・・お姉ちゃん、落ち込んでるんじゃないかなって・・・・・・」

 

ヘバリーヌとフーミンがそう言うと、クルシーナとイタイノンはお互いに顔をあわせる。

 

「落ち込む? アタシが?」

 

「・・・・・・ふっ」

 

クルシーナとイタイノンはお互いに不敵な笑みを浮かべると、ヘバリーヌとフーミンへと向き直る。

 

「まさか! アタシたちが落ち込む出来事があるわけないでしょ? ビョーゲンズなんだから」

 

「思い違いにもほどがあるの・・・・・・」

 

「「っ??」」

 

クルシーナとイタイノンが笑みを浮かべながらそう言うと、ヘバリーヌとフーミンは首をかしげる。そんな二人にクルシーナは近づいていく。

 

「っ・・・お姉ちゃん?」

 

「んぅ・・・・・・」

 

「そりゃあアタシやイタイノンだって、ビョーゲンズとして活動をしていれば感傷の一つぐらいは浸るわよ。元々は人間なんだからさぁ。アンタたちは気に病む必要は無いの」

 

クルシーナは二人をワシワシと撫でながらそう言う。

 

「そもそも、アンタらなんかに心配される筋合いなんかないし」

 

クルシーナはそれだけ言うと、二人から手を離して元いた道を歩いていく。

 

「お前たち、これやるの。美味しいものを食べれば元気が出るの」

 

入れ替わりにイタイノンが優しい微笑を浮かべながら近づき、二人にすこやかまんじゅうを一個ずつ手渡す。そして、同じように踵を返しながらクルシーナと合流し、歩き去っていく。

 

「「・・・・・・・・・」」

 

ヘバリーヌとフーミンは渡されたまんじゅうを呆然と見つめた後、前にいる二人の背中をみる。

 

「お姉ちゃん!! ヘバリーヌちゃん、今日もいっぱい活動したよ!! 地球を病気に蝕んで、い〜っぱい気持ちよくしたんだよ!! 失敗はしちゃったけど・・・・・・」

 

ヘバリーヌは二人の背中にそう叫ぶと、また足を止めて振り返る。

 

「・・・・・・そう。これからも頑張りなさいよ」

 

「・・・・・・ふっ」

 

クルシーナは優しい笑みを浮かべながら、イタイノンは微笑を浮かべる。

 

「さーてと、明日からどんどん蝕んでやるわよ!!」

 

「お前のそのやる気、暑苦しいだけなの・・・・・・」

 

「なんですってぇ!? 逆にアンタは寒気がするわね!!」

 

「どういう罵倒なの・・・・・・?」

 

二人は喧嘩をしながらも、今度こそ前を向いて二人の前から歩き去っていった。

 

「・・・・・・・・・」

 

二人の背中を見つめる中、ヘバリーヌは撫でられた頭に触れる。

 

そんな彼女の頭の中にある映像がフラッシュバックされる。病院生活中、自分が誰かに撫でられるような、そんな温もり・・・・・・その手は大人の女性の手であった。

 

「ヘバリーヌちゃん・・・・・・誰かに撫でられたことがある・・・・・・?」

 

ヘバリーヌは真面目なトーンで、そう呟いたのであった。

 

「・・・・・・・・・」

 

そして、フーミンの頭の中にもある映像がフラッシュバックした。笑顔を向ける少女たち、その二人はクルシーナとイタイノン、ハキケイラに容姿がそっくりな子だった。

 

「んぅ・・・・・・?」

 

もしかして、自分はどこかで彼女たちと会ったことがあるのだろうか・・・・・・?

 

ヘバリーヌとフーミンは、覚えているようで覚えてない、何やら頭の中に靄がかかっている。そんな煮え切らない思いにしばらくの間、戸惑っていたのであった・・・・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第124話「休暇」

原作第35話がベースです。
今回は番外編と言ってもいいくらいの話になると思います。


 

「ふわぁ〜・・・・・・・・・」

 

大きなあくびをしながら、ビョーゲンキングダムの赤い世界を歩いているクルシーナ。

 

「随分と大きなあくびですねぇ?」

 

「こいつ、夜中までドラマを見てたの。姑と嫁の醜い罵り合いのドラマなの」

 

「クルシーナはそういうのが好きですねぇ」

 

「悪いかよ・・・??」

 

クルシーナのこのあくびの原因をイタイノンは遅くまで起きてドラマを見ていたからだと説明。ドクルンが不敵な笑みを浮かべながらそう言うと、クルシーナは不機嫌そうに答える。

 

お父様ーーーーキングビョーゲンから呼び出しを受けたビョーゲン三人娘は会うためにビョーゲンキングダムへとやってきていた。きっと例の作戦の進捗について聞きたいのだろうと思ってきたのだが・・・・・・。

 

キングビョーゲンから聞かされたのは意外な発言だった。

 

「それにしてもお父様ったら、どういう風の吹き回しなのかしら? アタシたちにたまには休暇を取れとか言うなんてさぁ・・・・・・恐ろしさしかないんだけど・・・・・・」

 

「怪しすぎて逆に怖いの。むしろ地球を蝕みに行った方がマシとすら感じるの・・・・・・」

 

「今まで厳しくて、怖くした分・・・お父さんも良心の呵責に耐えられなかったんでしょうかねぇ・・・・・・」

 

三人娘は自分の父親に対する勝手なことを言いながら話していた。キングビョーゲンは三人娘、もとい娘たちに休暇を言い渡したのだ。最近のキングビョーゲンは復活に焦っているせいなのか、自分達には厳しい態度を持っている。その中での、例の発言だ。

 

今までのことがある以上、その休暇って言葉は逆に怪しい。でも、せっかく与えられたのであれば、自分たちが生み出した妹たちとどこかで過ごしたいなと思っていた。

 

「まあ、これも日頃の行いの成果だと思って過ごしてもいいのかね」

 

「致し方ありませんね。お父さんが言うのであれば」

 

「暇なのも、逆に辛いの・・・・・・」

 

三人娘は話しながら歩いていると、岩場に腰掛けて考えている様子のグアイワルとその隣に岩を背にして寝転がっているダルイゼンの姿が見えた。

 

「むぅぅぅぅぅ・・・・・・」

 

グアイワルは何やら唸りながら考えごとをしている模様だが、ダルイゼンはそれに不快感を露わにしていた。

 

「アンタら、何やってんの・・・・・・?」

 

「適当に過ごしてるだけだけど・・・・・・」

 

クルシーナが近づいて声をかけると、ダルイゼンは顔を崩さずに淡々と答える。

 

「むぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・!!!!」

 

「・・・ねぇ、こいつうるさいんだけど? どうにかしてくれない?」

 

「・・・関わりたくないわよ。そいつがそうなってるとロクな目に合わないし」

 

唸り声をやかましく感じたダルイゼンがそう訴えると、クルシーナは素っ気なく返す。

 

「どうせまた変なこと考えてるの。作戦自体、頭が悪すぎなの」

 

「同感ですね。載るだけ無駄ですしね」

 

イタイノンは淡々とそう言い、ドクルンは口元に笑みを浮かべながらそう言った。

 

「うるさいぞ貴様ら・・・俺様は今、実に高度な悩みを抱えている・・・・・・」

 

「・・・・・・どんな悩みなの?」

 

「進化したグアイワル様にふさわしい、豪快で天才的・・・かつ繊細な地球の蝕み方は何かということだ・・・・・・」

 

「・・・言っている意味が良くわかんないんだけど」

 

「豪快で繊細って・・・そんなの無理でしょ」

 

グアイワルの悩みを聞いたあと、クルシーナは顔を顰めながらそう言い、ダルイゼンはそのまま起き上がって何処かへと行ってしまった。

 

「ふっ・・・お前らには無理だろうな。だが・・・進化したグアイワル様なら・・・出来るっ!!!」

 

「・・・・・・はぁ」

 

「・・・・・・真面目に聞いてた私がバカだったの」

 

「やっぱり脳筋は頭も固いんでしょうね・・・・・・」

 

グアイワルの強い意気込みに、クルシーナはため息を吐くと、そう言ったイタイノンとドクルンと一緒にその場から去ろうとする。

 

「そうだ!!」

 

「「「??」」」

 

グアイワルが突然、叫び出したことに三人娘は振り返る。

 

「お前たちにも特別に見せてやろうっ。俺様の豪快で天才的な蝕み方をな・・・!!」

 

「・・・お前のことなんか見たって面白くないの」

 

「自分自慢をしたいだけでしょ」

 

グアイワルが指をさしながらそう主張すると、イタイノンとドクルンは即座に切り捨てる。こいつと一緒に付き合ったところで時間の無駄だと考えたのだ。

 

そんな中・・・・・・。

 

「・・・・・・いいわよ」

 

「「えっ!?」」

 

クルシーナだけは微笑を浮かべながら承諾し、その意外な返事に二人は驚きの声を上げる。

 

「どうせ暇だし、キングビョーゲンの娘として、駒のアンタがどう考えて地球を蝕んでるのか気になるしね」

 

「おぉ!! お前もようやくこのグアイワル様の良さを理解したか!!」

 

「はいはい・・・そうね・・・・・・」

 

グアイワルが嬉しそうにそう言うと、クルシーナは棒読みで適当に返事をする。

 

「クルシーナ、何考えてるの・・・・・・?」

 

「バカに付き合ったってロクなことないって言ってたではないですか・・・・・・」

 

イタイノンとドクルンはそう抗議するが、クルシーナは余裕の笑みを浮かべる。

 

「いいじゃない、別に。どうせアンタらも暇だし、ノープランでしょ。そのバカに茶々を入れて、面白くなるんだったらそれこそいい暇つぶしになるわよ」

 

クルシーナはヒソヒソと二人に話す。どうせやりたいこともないし、たまには幹部の働きぶりを見るのもいい暇つぶしになるだろうと考えた。

 

「まあ・・・クルシーナがそう言うなら・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

ドクルンは一応納得したが、イタイノンだけは不満そうな表情をしていた。

 

「よーし!! お前たち、着いて来い!!」

 

グアイワルは三人娘にそう言うと、一足お先に地球へと向かっていく。

 

「私は別に・・・・・・ひぃっ!?」

 

「いいからアンタも来んの!!」

 

「ふふふっ♪」

 

クルシーナはあくまでも渋ろうとするイタイノンの耳を引っ張りながらそう言うと、三人娘は地球へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日、とある島の砂浜にゲートらしきものが出現し、そこから荷物を持ったのどかたちが姿を現した。

 

「ふわぁ~♪本当に南の島だぁ~♪」

 

「ビーチが綺麗ラビ~♪」

 

「日差しめちゃ強~、UVカットクリーム、効くかなぁ」

 

南の島へ到着するとのどかは目を輝かせ、ひなたは手を空にかざしながら空を仰いだ。

 

「ありがとう。連れてきてくれて」

 

「お礼はラテに言ってください。帰りは夕方になりますよ」

 

「ワン♪」

 

ちゆが島に連れてきてくれたことにお礼を言うと、アスミがそう答え、ラテは嬉しそうにしていた。

 

「私も来ちゃってよかったのかしら? せっかくのお友達同士のビーチなのに・・・・・・」

 

そんな中、中島先生だけは中学生がいる中で、大人である自分がこの場にいることに申し訳なさそうにしていた。

 

「いいんですよ。日頃、先生には助けてもらってますから」

 

「ナカッチ先生も一緒に遊ぼうよ〜♪」

 

「私たちはのどかの件で仲良くなった仲間です。子供とか大人とか関係ありませんよ」

 

のどか、ひなた、ちゆは中島先生にそう言う。

 

「ワン♪」

 

「ラテも遠慮しないでって、言ってますよ」

 

「・・・・・・そうね。せっかくのビーチなんだし、大人でも楽しまなきゃね♪」

 

アスミもそう言うと、中島先生はラテを撫でながら笑みを浮かばせた。

 

今回はラテが頑張っているみんなのために、南の島でビーチすることを提案。週末の休日にみんなを誘って、アスミの力で無人島へとやってきたのだ。

 

「「うわぁ〜・・・」」

 

「波だ波だ〜♪」

 

「いっぱい泳ぐペエ〜!」

 

ペギタンとニャトランは波打ち際ではしゃいでいた。すると・・・・・・。

 

「「っ!?」」

 

突如海の中から青白い光の玉が現れ、ニャトランたちの前にやってきた。その光は次第に弱まっていき、中から波のような姿をしたエレメントさんがいた。

 

「海のエレメントさんペエ!!」

 

「まぁ! 随分と可愛い妖精さんね♪」

 

「エレメントさんと言うラビ!! この地球の自然いっぱい存在していて、地球を守ってきているラビ!!」

 

「あぁ・・・この子が話していたエレメントさんね♪」

 

中島先生も可愛く思う中、ラビリンは説明しながら海のエレメントさんに聴診器を当てる。

 

『この無人島にヒーリングアニマルさんが来るなんて珍しいですね!!』

 

「あの! 今日一日、ここで遊ばせてくださいラビ!!」

 

『もちろん! 賑やかなのは嬉しいです♪』

 

ラビリンはそうお願いすると、海のエレメントさんは笑顔で許しを出す。

 

『ところで、プリキュアじゃない人間さんもいるんですね♪』

 

「うん。この人も一緒に遊びに来たんだよ〜」

 

「立派な医者なんですよ♪」

 

『そうなんですね♪』

 

「な、何を話しているのか知らないけど・・・恥ずかしいわ・・・・・・」

 

海のエレメントさんは中島先生について指摘すると、ひなたとのどかがそう話す。中島先生にはエレメントさんの声は聞こえていないが、話している内容を想像して顔を赤くしていた。

 

「「「「今日一日、よろしくお願いします!!」」」」

 

それはともかく、のどかたちは会釈をしながら頭を下げるのであった。

 

のどかたちはオレンジ色のテントを立てた後、水着で着替えて集まった。

 

のどかは赤い水着の上に、ピンク色のシャツと花の描かれた緑色のショートパンツを身につけ、髪は両側に2つ結びにしている。

 

ちゆは紺色と黄緑色のスポーティーな水着で、髪も普段とは違って後ろで1本にまとめている。

 

ひなたは黄色と緑色の可愛いデザインのフリル付きの水着で、髪はいつもより短くまとめている。

 

アスミは紫色の水着に、腰には紫色のパレオを巻いている格好だ。

 

「1、2、3、4、5・・・1、2、3、4、5・・・」

 

のどかたちはみんな砂浜でちゆの号令の元、準備運動をしていた。

 

「ふふふ♪」

 

中島先生はオレンジ色のテントの中で、その様子を優しく見守っていた。そんな彼女はリボンとフリルの付いた白のビキニに、下には黒色のパレオを身につけていて、頭には麦わら帽子を被っている。

 

「なぜ、準備運動が必要なのですか?」

 

「いきなり身体を動かすと、足が攣ったりして危ないのよ。さっ、おしまい」

 

一緒に準備運動をしているちゆが、アスミにそう説明する。

 

「よぉ〜し、泳ぐぞ〜・・・・・・」

 

準備運動を終えて、ひなたは早速海へと入ろうとした、その時だった・・・・・・。

 

ピピィ〜ッ!!!!

 

「ぉ〜っ??」

 

そこへ不意に聞こえて来たホイッスルに動きを止めてしまう。

 

「「「えっ?」」」

 

のどかたちが向いた方向にいたのは、宙に浮かびながらホイッスルを首から掲げていたラビリンだった。

 

「・・・これより!! ビーチバレー合宿を始めるラビ!!」

 

「「「ええっ!?」」」

 

「ラビリンのことはコーチ!! ラテ様のことは監督と呼ぶラビ!!」

 

突然の合宿宣言にのどかたちが驚く中、ラビリンは砂浜の上に降り立った。そんな彼女の隣には、海と書かれている帽子をかぶり、顎には髭のようなものを生やしたラテの姿があった。

 

パチパチパチパチ・・・・・・。

 

「ラビリン、ラテ・・・まさに『燃えよビーバレ』のコーチと監督みたいです」

 

「え〜へへへ♪」

 

「ワン! ワン!」

 

アスミは拍手しながらそう話すと、ラビリンとラテは喜んでいる様子だった。

 

「燃えよビーバレ?」

 

「ビーチバレーを題材にした、スポ根アニメよ」

 

「あぁ〜、最近ラビリンたちが欠かさず見てるっていう、あれ?」

 

「そうラビ!! みんなとビーチで青春をするのが夢だったラビ〜♪」

 

「ふわぁ〜! 青春〜!!」

 

ひなたはピンときていないようだったが、ちゆとのどかは知っている模様で、ラビリンが言った青春という言葉にのどかは瞳をキラキラとさせる。

 

「・・・青春アニメなの?」

 

「青春スポ根アニメね」

 

「ん〜〜!! スポ根!! 何だかどっちも生きてるって感じ〜!!」

 

よくわかっていないひなたにちゆがそう言う。のどかは相も変わらず瞳をキラキラとさせていた。

 

「さぁ、コーチに付いてくるラビ!!」

 

「はいっ、コーチ!!」

 

のどかとラビリンがそう言いながら砂浜に駆け出していくと、ちゆとアスミもその後をついていくように駆け出していく。

 

「うぇぇ〜!? ちょっと海は〜!? もぉ〜、待ってよ〜!!」

 

あまり乗り気でないひなたは駆けていくみんなの背を見るも、一人置き去りにされるのは嫌なのか頬を膨らませながらもみんなのあとを駆け出していく。

 

「ふふふ、青春ね♪」

 

中島先生はそんなみんなの姿を見守りながら、笑みをこぼしていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

豪快で天才的、かつ繊細な地球の蝕み方を求め、地球へと姿を現すグアイワルと、その暇つぶしと称して彼に着いてきた三人娘。

 

「さて・・・豪快で天才的で・・・ん? あとは・・・まぁいい。とにかく俺様に相応しい蝕み方を考えなくては!!」

 

「言ってること、もう忘れてるの・・・・・・」

 

大きな木の上にグアイワルと三人娘がいるが、自分の言ったことすら覚えていないグアイワルにイタイノンは呆れたように見ていた。

 

「それで? この辺りにアンタらしい蝕み方があるわけ? ただ子供が遊んでいるだけにしか見えないんだけど?」

 

「だから!! それは・・・その・・・ここからその蝕み方を考えるのだ!!!!」

 

「・・・・・・ノープランかよ」

 

クルシーナが辺りを見渡しながらそう問いかけても、グアイワルからは曖昧な答えしか返って凝らず、クルシーナはつまらなそうにしていた。

 

「ん? あら、とうじくんがいますねぇ」

 

そんな中、ドクルンは木の下を見下ろしていると、その近くでちゆの弟であるとうじの姿があるのを見つけた。

 

「赤道直下で編み出した必殺技。激熱!! 直下サ~~~ブ!!!!」

 

「うわぁっ!!??」

 

とうじが何やら技の名前を叫びながら、スパイクを放つ。するとそれは凄い勢いで飛んで行き、思わずとうじの友人は横に避ける。そして、ボールは勢いそのままに地面でバウンドして跳ね返ると・・・・・・。

 

何故かビョーゲンズの4人の方へと飛んできた。

 

「っ!!??」

 

「?? ぶぅっ!!??」

 

それに驚いたドクルンは頭を下げると、目の前へ飛んできたボールはそのスレスレを通過し、そちらに顔を向けたグアイワルの顔面に直撃してしまった。

 

「?? 何やってんのよ?」

 

「なんでグアイワルがひっくり返ってるの?」

 

何の騒ぎがとクルシーナとイタイノンがこちらを向きながら言った。

 

「ボ、ボールがこっちに飛んできたんですよ・・・とうじくん、すごいですね・・・・・・」

 

「はぁ?」

 

ドクルンが冷や汗をかきながらも笑みを浮かべながら言うが、クルシーナはよくわかっていない模様。

 

「危ないだろ、とうじ!!」

 

「あっ、ごめん・・・でも、激熱だから・・・・・・」

 

「関係ないだろ・・・・・・」

 

一方、とうじと友人たちは気づくことなく飛んで行ったボールを探しに行った。

 

「・・・お前、大丈夫なの?」

 

「ぐぅ・・・・・・この俺様に当てるとは・・・・・・!」

 

イタイノンが呆れたように見る中、グアイワルはボールを当たった頬を摩りながら、憎たらしげにとうじたちを見ていた。

 

「なんか何もなさそうね・・・他の場所に行かない?」

 

クルシーナが別の場所へ行こうと提案を出そうとすると・・・・・・。

 

「ん? 悪くない・・・悪くないぞ!! あれだ!!」

 

ふとグアイワルは何かを思いついたかのような表情になった。

 

「あれって、何なの・・・・・・?」

 

「さっきのガキが放ったあれだ!! あれこそ豪快で・・・え~、ん~と、何だっけ?」

 

「変なものが当たったせいで、また自分が言ったことを忘れてるの・・・・・・」

 

グアイワルは何やら良い方法を思いついたようだが、自分の言った目的すら覚えていないイタイノンはさっきのボールがぶつかった衝撃でバカになったのだろうとため息をついた。

 

「さっきよりも、重症ですねぇ・・・・・・」

 

「まぁいい!! あれこそが俺様にふさわしい!! ふっははははは!!!!」

 

「・・・・・・はぁ」

 

高笑いをするグアイワルだが、ドクルンとクルシーナは呆れたように見ている。

 

「・・・・・・で、一体どうすんのよ?」

 

「ふっ・・・・・・俺様には考えがある・・・!!!」

 

「・・・さっき自分が言ったことも忘れている癖にですか?」

 

「どうせ頭の悪い作戦しか考えてないの」

 

「ええい!! うるさい!!!! お前たちは俺にただついてくればいいのだ!!!! 本当にいい考えを思いついたんだからなぁ!!」

 

「「「・・・・・・・・・」」」

 

グアイワルのその発言に、三人娘は怪訝そうに見つめていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迷走しそうなグアイワルに三人娘が付き合わされている中、無人島では・・・・・・。

 

「っ!!」

 

「ふっ」

 

「はぁっ!!」

 

ちゆとアスミのビーチバレー対決が繰り広げられていた。運動神経抜群のちゆと、元々身体能力もあるアスミ、二人は互角の勝負をしていてラリーを続けており、それをのどかとひなたは見守っていた。

 

「ふわぁ♪ 二人共カッコいい〜!!」

 

「っ・・・弟が好きで、時々一緒にやるのよ」

 

のどかが歓声をあげると、ちゆがアスミの打ってきたボールを打ち返しながらそう話した。

 

「ふっ!!」

 

「っ!!」

 

ちゆの打ち返したボールに、アスミがスパイクを放ち、それを返そうとするちゆだが間に合わず、ボールはコートの中に落ちてしまい、ちゆも地面に倒れた。

 

「っ・・・あぁ、やっぱり悔しいわね」

 

「すみません、話していたのに、ボールを返してしまって・・・・・・」

 

悔しがりつつも楽しそうなちゆに、アスミは手を差し伸べるとちゆはその手を取って立ち上がった。

 

「ううん。手加減するのはアスリートとして恥ずべきことよ」

 

申し訳なさそうに言うあすみに、ちゆはそう言った。

 

「ラビ。ちゆとアスミに教えることは何もないラビ・・・コーチ感無量ラビ♪」

 

「ワン♪」

 

「青春ね♪」

 

その様子を離れた場所で、ラビリンとラテ、中島先生は見守っていた。

 

「よ〜し・・・私ももっと頑張ろ〜!! ひなたちゃん、お願〜い!!」

 

「オッケー、行くよ〜!!」

 

ちゆとアスミの試合を見て、やる気になったのどかとひなたもビーチバレーをし始める。ひなたは軽くボールをのどかの方へ打ち出した。

 

「はわわわわわわ・・・・・・ふっ!!」

 

ネットを越えて飛んできたボールを返そうと、のどかは腕を突き出すが失敗し、ボールは砂浜にそのまま落下した。

 

「のどか!! いいラビ? オーバーハンドパスで大事なのは、ボールの落下位置に素早く移動することラビ!! それからボールを受ける瞬間、重心はできるだけ下げるラビ!!」

 

そこへラビリンがやってきてのどかに打ち返し方を教えてあげる。

 

「ふわぁ・・・・・・すみません、コーチ」

 

「でも、これでさっきより上手くなったラビ。ドンマイラビ!!」

 

「はぁ♪ はいっ!!」

 

ラビリンの指導と励ましに、のどかは力強く答えた。

 

「・・・なんか意外〜。スポ根のコーチって、もっと怖いと思ってた・・・・・・『根性出せー!!』とか『やる気が足りな〜い!!!!』とか、怒鳴ってそう・・・・・・」

 

「ふふん・・・そんなコーチはもう時代遅れラビ!!」

 

「・・・・・・と、ビーバレでも言ってましたね」

 

ラビリンが得意げに話していると、アスミが近くにやってきて話した。

 

「初心者にはスポーツの楽しさを教えるラビ!!」

 

「・・・・・・と、ビーバレでも言ってましたね」

 

「楽しければ自然とやりたくなるラビ!!」

 

「・・・・・・と、ビーバレでもーーーー」

 

「ふふふっ、全部アニメからの受けおりなのね♪」

 

ラビリンのこの言葉はそのアニメから覚えたようで、中島先生は笑みを零しながらそう言った。

 

「ビーチバレー楽しいよ♪ すっごく・・・生きてるって感じっ♪」

 

「ふふっ・・・それはビーバレでは言っていませんでした」

 

のどかはすごく楽しそうにそう言い、アスミは笑みを浮かべた。

 

「よ〜し!! 今度はのどかとアスミが組んで、ちゆとひなたのペアと試合するラビ!!」

 

「「はいっ!!」」

 

のどかとアスミ、ちゆとひなたは二手に別れて試合を始めるのであった。

 

一方その頃、島の反対側では・・・・・・。

 

ズズズズズ・・・・・・。

 

「ぷはぁ・・・・・・ん〜、悪くないわね」

 

クルシーナがビーチベッドに寝転がりながら、ジュースを啜っていた。

 

「姉さん、こんな感じでいいかい?」

 

「そうそう、そういう感じで丁寧に、あぁ〜そうそう、いい感じですねぇ」

 

ドクルンはハキケイラに日焼け止めクリームを背中に塗ってもらい、気持ち良さそうに日光浴をしていた。

 

「はぁ〜・・・・・・暑いの・・・・・・」

 

イタイノンはパラソルで日向を避けながらも、ビーチベッドの上でゲームと洒落込んでいた。

 

「フーちゃん、気持ちいいね〜」

 

「んぅ・・・すぅ・・・んぅ・・・・・・」

 

ヘバリーヌとフーミンは海の上で浮き輪に乗りながらプカプカと浮かんでいた。

 

「カスミーナ、ちゃんと扇ぎな」

 

「これでいいか・・・??」

 

「そうそう、あぁ〜気持ちいいわね〜♪」

 

そして、クルシーナの横にはかすみが大きな葉っぱでクルシーナを仰いでいた。

 

こんな感じで秋なのだが、すっかり夏気分のキングビョーゲンの娘たちは無人島の小さな浜辺ではあるが、ビーチを楽しんでいた。無論、全員水着姿で人間の肌になっている。

 

クルシーナは赤色のビキニと下半身に黒色のパレオを身につけており、ドクルンは青色のレースアップのワンピース水着、イタイノンは紫色のワンピースのような水着を着ている。

 

ハキケイラは白と紺の競泳水着、ヘバリーヌは黒色のフィットネス水着にショートパンツを身につけ、フーミンはいつものベールを脱ぎ捨ててシースルーの白い水着にスカート風のパンツ、頭には白い帽子を被っている。

 

そして、かすみも紫色の水着を身につけていた。

 

ズズズズズズ・・・・・・。

 

「ぷはぁ・・・・・・で、そこの筋肉バカは何をしているわけ?」

 

クルシーナはジュースを空にした後、岩場の上に立っているグアイワルの姿を不機嫌そうに見ていた。

 

「ふっ・・・・・・赤道直下にふさわしい赤道直下具合だ」

 

「何を言っているのかさっぱりわからないの・・・・・・」

 

「暑い場所だって素直に言えばいいのに」

 

辺りを見渡すグアイワルがそう言うと、ドクルンとイタイノンはその言動に茶々を入れる。

 

「わーい、気持ちいい〜!!」

 

バシャバシャバシャバシャバシャバシャ!!!!

 

「ぶっ!!??」

 

ヘバリーヌが足を思いっきりバタつかせると、間欠泉が吹き出したと言わんばかりの凄い勢いの水しぶきがグアイワルに降りかかり、あっという間に体がビショビショになった。

 

「水も滴るいい男って言うけど、これは水も滴るマッチョだね」

 

「避ければいいのに、あいつはバカなのか・・・・・・?」

 

ハキケイラが面白おかしくそう言い、かすみは怪訝そうな表情を浮かべながらも呆れた言葉を返した。

 

「ぷるぷるぷるっ!! うるさいぞっ、お前たち!! っていうか、俺様を差し置いてビーチで遊んでるんじゃないっ!!!!」

 

「アンタの都合なんか知らないわよ。それにアタシたちはお父様公認の休暇なの。文句言われる筋合いはないし」

 

グアイワルは体を振って水しぶきを飛ばしてから文句を言うと、クルシーナは意に返す事なく切り捨て、手下の小さなコウモリに空のカップを渡してジュースを入れるように命じる。

 

「くっ・・・まあいい!!」

 

悔しそうにしていたグアイワルだが、放っておくことにして、目の前に生えているヤシの木に目をつけた。

 

「とりあえずあれで行くか・・・・・・」

 

グアイワルは早速、両腕を鳴らして黒い塊を出現させる。

 

「進化しろ!ナノビョーゲン!!」

 

「ナノー!」

 

握り拳を合わせながらそう叫ぶと胸を逸らすようなポーズをする。そこからナノビョーゲンが生み出され、ヤシの木へと取り憑いていく。

 

「・・・!?・・・!!」

 

ヤシの木の中に宿るエレメントさんが病気に蝕まれていく。

 

そのエレメントさんを主体として、巨大な怪物がその姿をかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてそれを模倣する様々な自然のものが姿として現れていき・・・。

 

「メガビョーゲ〜ン・・・・・・!」

 

バレー選手のような姿をした、やや小型のメガビョーゲンが誕生した。

 

「あれ? メガビョーゲンなの?」

 

「なんで今更?なの・・・・・・」

 

その光景を見ていたクルシーナとイタイノンは、ギガビョーゲンではなくメガビョーゲンを生み出したことに目を丸くしていた。

 

「メェェ・・・・・・」

 

メガビョーゲンは早速辺りを蝕もうと、口内にエネルギーを溜めていくが・・・・・・。

 

「バッキャロォォォォォォ〜!!!!」

 

「ガァァァァァァ!?」

 

「「「・・・・・・はぁ?」」」

 

「「えっ・・・・・・?」」

 

「??」

 

「んぅ・・・!?」

 

グアイワルは突然メガビョーゲンにビンタを放って吹き飛ばし、それを見ていたキングビョーゲンの娘たちとかすみは驚きを隠せなかった。

 

「何やってんの、アンタ・・・バカなの??」

 

「黙って見てろ!! いいか!! お前の必殺技を完成させるんだ!!」

 

「メガァ?」

 

「早速・・・・・・」

 

クルシーナが心底呆れたように返すと、グアイワルはそれを一蹴して、メガビョーゲンにコーチのように叫び出す。そして・・・・・・。

 

「これから・・・・・・特訓じゃい!!!!」

 

格好までコーチ風に変わり、竹刀まで持って特訓を始めると言い出したグアイワル。

 

「・・・はぁ、くっだらねぇ。カスミーナ、もう仰ぐの止めていいから、ヘバリーヌやフーミンと一緒に海で遊んで来ていいわよ」

 

「あ、ああ・・・・・・じゃあ、遠慮なく・・・・・・」

 

クルシーナはもはや呆れ返ったようにため息を吐くと、かすみにそう命じて昼寝をし始める。かすみはグアイワルの行動に戸惑いつつも、ヘバリーヌとフーミンがいる海へと向かって行く。

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナはそんなことをしつつも、薄眼を開けてグアイワルとメガビョーゲンの様子を見ようとする。

 

「メガビョーゲンを特訓とか、聞いたことないの・・・・・・」

 

「なんだか面白くなりそうですねぇ・・・・・・ハキケイラも遊んでてください。もうこちらは大丈夫なので」

 

「わかったよ、姉さん・・・・・・」

 

イタイノンも呆れたように見ており、ドクルンは口元に笑みを浮かべつつも、ハキケイラにそう命じる。ハキケイラはグアイワルを冷たい目で見つつ、同じように浜辺へと向かっていくのであった。

 

「行くぞ!!」

 

「メ・・・・・・メガァ!!!!」

 

そして、特訓を開始したグアイワルを、三人娘は呆れながらも見守るのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第125話「青春」

前回の続きです。
ビーチバレーを楽しむのどかたちと、ビーチを楽しむクルシーナたち、ここからどうなっていくのか?


 

「ワ~~フ? ワフ? ワン!」

 

ラテは何やら眠くないのにあくびが出始め、違和感を覚えたが、特に気にしなかった。

 

「ラテ様、危ないラビ!!」

 

「ワン?」

 

ラビリンが声を上げると頭上からバレーボールが落下してきていた。

 

「ワウ!!」

 

「っ・・・えいっ!!」

 

とっさにのどかがラテの前に出て、落ちてくるボールを勢いよく弾いたが、ボールはヤシの木に当たって跳ね返り・・・・・・。

 

「うあ!?」

 

運悪くのどかの頭上に直撃して、地面に勢いよく倒れ込んでしまい、砂ほこりが舞った。

 

「うん・・・ラテ、大丈夫?」

 

「ワン!」

 

「あはっ♪ お揃いだ♪」

 

のどかもラテも怪我はなかったが、頭や顔には砂がかかっていて、のどかはラテのそんな顔を見て笑みを浮かべた。

 

「のどかちゃん、大丈夫!? 怪我はない!?」

 

「はい、なんともないです」

 

それを見ていた中島先生が駆け寄って心配するも、のどかはそう答える。

 

「申し訳ありません、私のサーブミスです・・・・・・」

 

「お~い、大丈夫~?」

 

「のどかちゃん、ちょっと疲れてきたんじゃないかしら?」

 

「一旦、休憩にしましょうか」

 

のどかに疲れが行動と表情に少し見えてきているようなので、ちゆの提案で休憩を挟むことにした。

 

「ふふふ♪ ニャトラ~ン!! ペギタ~ン!!」

 

「待ってたぜっ!!」

 

中島先生が笑顔でニャトランとペギタンを呼ぶと、不意にニャトランの声が聞こえ、のどかたちがそちらを振り向くと二人がおり、そこにはコンロで焼かれたバーベキューが用意されていたのだ。

 

「いつでもオッケーペエ~!!!!」

 

「私たちで準備したのよ」

 

「ふわぁ~♪」

 

中島先生がそう言うと、のどかは瞳を輝かせた。

 

串に刺さっているお肉や野菜はしっかりと焼けていたので、のどかたちはみんなお昼休憩で、早速バーベキューをいただくことにした。

 

「モグモグ・・・ん~、美味し~! すっごく生きてるって感じっ♪」

 

「いっぱい運動したものね」

 

「うんっ♪ でも、試合に負けちゃったのは悔しいなぁ・・・・・・」

 

のどかとちゆはバーベキューを食べながらそう話した。

 

「モグモグ・・・やっぱ、試合すると楽しいね♪」

 

「真剣勝負はシナリオのないドラマ・・・ドキドキします・・・・・・」

 

「ビーバレで言ってた通りラビ♪」

 

「みんな、遊ぶ時は怪我をしないように気をつけてね」

 

「「「「はい!!」」」」

 

ひなたやアスミ、中島先生もそう言い、みんなで楽しそうに話しながらバーベキューを楽しんだ。

 

「「「「「ごちそうさまでした!!」」」」」

 

「みんな、よく食べたわね♪」

 

しばらくしてバーベキューは終わり、みんなは砂浜に座り込んで休憩し始めた。中島先生はその間にバーベキューの後片付けをし始める。

 

「えへへ♪ 次は何する~?」

 

ひなたがそう言うと、のどかはラビリンの方を向き・・・・・・。

 

「コーチ、お願いがあります・・・!!!!」

 

「ラビ?」

 

「「「・・・・・・?」」」

 

のどかは正座をしながらラビリンを見ると、みんなはそんなのどかとラビリンを見る。

 

「私、もっとラリーを続けたいです・・・・・・特訓してください!!」

 

「? ラリーを続けるのが、苦手なのですか?」

 

「ううん・・・・・・苦手というよりも好きなの。手から手へボールが繋がれていくの、すごく面白くて・・・ボールを落とさない限り、ずっと続いていくんだもん。だから・・・ちゃんと受け止めて、ちゃんと返せるようになりたいの♪」

 

のどかがラビリンやみんなにそう話すと・・・・・・。

 

「っ~!!嬉しいラビ~!! のどかがビーチバレーを好きになってくれて~♪」

 

のどかのその言葉を聞いて嬉しくなったラビリンはのどかに頬ずりをした。

 

「任せるラビ!! このコーチが、立派な選手にしてあげると約束するラビ!! あの・・・・・・海にかけてっ!!!!」

 

「はい、コーチ!!!!」

 

青春により熱の入ったラビリンが沖に見えている岩を指しながら宣言すると、タイミングよく波が岩を打った。のどかもよりビーチバレーにやる気を見せた。

 

「・・・・・・これが青春なのですね」

 

「これはもう、スポ根だと思う・・・・・・!!!!」

 

「・・・・・・どっちでも良いんじゃない?」

 

「ふふふっ、良いわね〜♪」

 

アスミとちゆがのどかの姿の様子を見て燃えている中、ひなただけはそのノリについていけない様子だった。中島先生は笑みを零しながらそう言った。

 

一方、無人島の反対側では・・・・・・。

 

「かすみお姉ちゃん、行くよ〜!!」

 

「ま、待ってくれ・・・・・・心の準備が・・・・・・」

 

バシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャ!!!!!

 

「うぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」

 

「う、うわぁっ、う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

緊張したような表情をするかすみのその声も聞かずに、ヘバリーヌは勢いよくバタ足をして彼女が乗る浮き輪を押していく。水しぶきを上げながらものすごいスピードで移動する浮き輪に、かすみは怯えた表情をしながら絶叫をあげる。

 

浮き輪は縦横無尽に海を滑走し、その度にバタ足の水飛沫を撒き散らしていく。

 

「ふぅ・・・・・・海で浮かぶのも悪くないものだね」

 

「んぅ・・・・・・すぅ・・・・・・」

 

ハキケイラとフーミンは海の上に浮かばせた浮き輪ベッドの上に寝転びながらそう言っていた。

 

「うぅぅぅぅぅわぁぁぁぁぁぁぁ!!!! ヘバリーヌ、スピードを落とせぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

「えぇ〜!? 楽しくないじゃん、それじゃあ〜!!」

 

「怖い怖い!! 落ちる落ちるぅぅぅぅ〜!!!!」

 

沖の方ではかすみが何かを訴えているようだが、ヘバリーヌは面白くないと却下してそのままのスピードで海の上を滑走する。

 

「・・・・・・なんだか、あっちは騒がしいなぁ」

 

「んぅ・・・・・・ベッドの上、気持ちいいですぅ・・・・・・」

 

ハキケイラはそんな二人が気になっているが、フーミンは気にせずにベッドの感触を満喫していた。

 

と、そこへ・・・・・・・・・。

 

バシャバシャバシャバシャバシャバシャ!!!!

 

「二人とも、どけどけどけぇぇぇぇぇぇ!!??」

 

「っ!!??」

 

「・・・・・・??」

 

かすみの乗った浮き輪が猛スピードでこちらに向かってきて、それを見たハキケイラとフーミンが慌てて体を起こすが・・・・・・・・・。

 

「うわぁっ!?」

 

「っ!?」

 

その瞬間、浮き輪が二人の浮き輪ベッドに激突し、浮き輪から投げ出されたかすみはハキケイラとフーミンを巻き込んで共に海へと落下した。

 

「あれ〜? かすみお姉ちゃん?」

 

ヘバリーヌが疑問に思って浮き輪の上へと昇って覗いてみると、そこにはひっくり返った浮き輪ベッドが浮かんでいた。

 

ブクブクブクブクブク・・・・・・。

 

すると、かすみが落ちたところから泡が立ち始め・・・・・・。

 

「ぷはぁっ!! ゲホゲホゲホ・・・!!!」

 

「かすみお姉ちゃん〜!」

 

「ヘバリーヌ・・・!!!!」

 

かすみが海の中から顔を出して、浮き輪ベッドに捕まるとむせこみながら突っぷす。呑気なヘバリーヌに珍しく怒って抗議の声を上げるかすみ。

 

「ぷぁっ!! 随分と大胆なことをするね・・・!!」

 

「す、すまない・・・! ヘバリーヌが言うことを聞かなくてな・・・・・・」

 

ハキケイラも海の中から顔を出して浮き輪ベッドにしがみ付くとかすみに少し笑みを浮かべたが、目は笑っていなかった。かすみは自分の責任だと思いながら謝罪する。

 

「まあ、こういうのも面白いからいいけどさ」

 

「本当にすまない・・・・・・」

 

ハキケイラは髪を掻き分けながらそう言うも、気にし過ぎのかすみは変わらずに謝っていた。

 

「・・・あれ? フーミンはどこだい?」

 

「あっ・・・そう言えば・・・・・・」

 

ハキケイラの言葉でフーミンの姿が見えていない二人は辺りを見渡し始める。

 

「フーちゃんなら、そこに浮いてるよ〜」

 

「「っ・・・?」」

 

ヘバリーヌが指を指す方向を見ると、そこにフーミンが背面で海に浮いているのが見えた。

 

「すぅ・・・すぅ・・・気持ちいいですぅ・・・・・・」

 

「フーミンは呑気だなぁ・・・・・・こうなっても状況を楽しめるなんて、少しは見習いたいくらいさ」

 

「呑気というレベルを超えていると思うんだが・・・・・・」

 

ぶつかったことをまるで気にしていない様子のフーミンに、ハキケイラがそう言うとかすみは呆れたように聞いていた。

 

「誰かヘバリーヌちゃんの浮き輪に乗る〜??」

 

「今度は僕を乗せてくれないかい? あのスピードは楽しそうだ」

 

「いいよ〜!」

 

「わ、私は・・・もういい・・・・・・疲れた・・・・・・」

 

ヘバリーヌが誘うとハキケイラが自身を乗せるように要求、ヘバリーヌは承諾してハキケイラは泳いで浮き輪の上に自身の体を乗り上げる。一方、かすみは疲れた様子でそう言うとひっくり返った浮き輪ベッドをもとに戻すと、その上にうつ伏せで横になり始めた。

 

「うぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

「イィィィィィヤッホォォォォォォォォー!!!!」

 

その沖ではヘバリーヌが浮き輪に乗ったハキケイラをジェットボートのように走らせており、ハキケイラはかすみと違って楽しそうだった。

 

ザッパァァァァァァン!!!

 

「っ? うわっぷ!?」

 

そんなかすみにどこからか水飛沫が降りかかり、かすみは再び海へと落ちてしまう。

 

「ぷはぁ・・・・・・おい、フーミン!!」

 

「んぅ・・・これでも食らうですぅ・・・・・・」

 

「や、やめろ!! 私はもう疲れているんだ!!」

 

「嘘ですぅ・・・!! ビョーゲンズが疲れるなんてあり得ないですぅ・・・!!」

 

かすみが海から顔を出して、水を浴びせかけた張本人であるフーミンに抗議の声を上げるとフーミンは少し顔を膨れさせながらこっちを見ていた。

 

「これでも食らうですぅ・・・!!」

 

「こら! やめないか!! このぉ・・・!!!!」

 

「ぷっ・・・わっぷ・・・!!」

 

フーミンは再び大量の水をかけると、かすみは怒ってステッキにダークブルーのエレメントボトルをセットするとそこから勢いよく水を発射する。

 

「なんかうるさいの・・・向こう・・・・・・」

 

「まぁ、元気なことはいいことじゃないですか・・・・・・」

 

そんな海で遊ぶ4人の様子を見て、イタイノンとドクルンはそんなことを話していた。

 

ズズズズズズ・・・・・・。

 

「ぷはぁ・・・・・・で、こっちはなんかボロボロになってるんだけど?」

 

クルシーナがジュースを啜った後に、視線を向けるとそこには膝をついているグアイワルと倒れているメガビョーゲンの姿があった。その周りには焦げたヤシの実のようなものが砂浜に散乱している。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・完成だぁ・・・ついに・・・必殺技が完成したぞ・・・!!!」

 

「何よ、必殺技って?」

 

「メガビョーゲンの必殺技なんか聞いたことがないの・・・・・・」

 

グアイワルもメガビョーゲンも何やら技を完成させたようだが、それを理解できないクルシーナとイタイノンはそう言った。

 

「何かピンと来たんですか?」

 

「あぁ・・・さぁ・・・お前の力を見せてやれ!!!!」

 

「メェッガ・・・ビョーゲェェェェン!!!!」

 

グアイワルの言葉にメガビョーゲンは立ち上がって雄叫びのような声を上げると、近くの木へと駆け出し・・・・・・。

 

「メッガァ・・・!!!!」

 

先ほどと同じように口から赤い光線を吐き出して、赤く染めて蝕み始めた。

 

「ククク・・・・・・」

 

グアイワルがその様子を見て笑みを浮かべている。

 

「ぐぁっ!? どわぁ!? ぐはっ!!!!」

 

そんなグアイワルの頭上から3台のビーチベッドが次々と飛んできた。

 

「さっきの特訓はなんだったのよ!? 普通に蝕んでるじゃないっ!!」

 

「今まで見せられた時間を返せなの!!!!」

 

「怒るべきじゃないんでしょうけど、ちょっとイラっとしましてねぇ・・・・・・!!」

 

ビーチベッドをそれぞれ吹き飛ばした本人たちである三人娘が怒りの声を上げていた。

 

「ぐっ・・・特訓の成果は出ている!! この俺様のみっちりとした特訓のおかげでなぁ!!」

 

「どこに特訓が活かされてんだよっ!?」

 

「ふっ、これだから早とちりの素人は・・・・・・まだ本領は見せていない!! まずは着実に蝕むのだ!!!! 本領発揮はそれからだ!!」

 

「っ・・・・・・はぁ」

 

立ち上がったグアイワルがそう主張すると、クルシーナは怒りを落ち着かせてため息をついた。

 

「まぁ・・・見てみようではありませんか、その特訓の成果というものをねぇ」

 

「見ても無駄な気がするの・・・・・・」

 

「・・・・・・失敗したら、そのツノへし折ってやるからな」

 

ドクルンが鉾を収めるように言うと、イタイノンは疲れたようにそう言い、クルシーナは脅しのような言葉を不機嫌そうに吐いた。

 

「まあ、見ていろ・・・・・・このグアイワル様の勝利をな・・・!」

 

そんな言葉を意に返さず、グアイワルは妙に自信たっぷりにそう言ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・クチュン!!」

 

「「「ラテ様!?」」」

 

その頃、ラテが突如具合が悪くなり、アスミが帽子を取るといつものように額のハートマークが黄色になっていた。

 

これはまさに・・・・・・ビョーゲンズが現れた証拠だ。

 

「まさか、すこやか市にビョーゲンズ・・・・・・?」

 

「困ったわね・・・・・・アスミの力は戻りきってないのに・・・・・・」

 

「まぁ! それは大変ね・・・・・・」

 

ひなたとちゆはすこやか市にビョーゲンズが現れたと思い、困っていた。先ほど風でワープした力をアスミは使ったばかりだ。夕方ぐらいにならなければ再び使うことができない。

 

「とりあえず、どこに現れたのか聞いてみよう・・・・・・!!」

 

のどかはそう言いながらラテに聴診器を当てる。すると・・・・・・。

 

(あっちで、ヤシの木さんが泣いてるラテ・・・・・・)

 

「? あっちって・・・・・・」

 

「島の反対側でしょうか・・・・・・?」

 

ラテは弱々しくのどかたちの後ろの方を指し示し、のどかたちは疑問に思いながらも向かうことにした。

 

「う〜ん・・・・・・こっちでいいのかな?」

 

「この辺りは蝕まれてるけど・・・・・・」

 

「ビョーゲンズの姿はないわね・・・・・・」

 

しかし、そこには焦げたヤシの木が散らばっているだけで人やビョーゲンズの姿はどこにもない。

 

「この島を動き回ってるんじゃないかしら?」

 

「聞いてみましょう」

 

中島先生が考えながらそう言うと、アスミは居場所を聞こうとラテに聴診器を当てる。

 

(今度は向こうラテ・・・・・・)

 

「えぇ〜っ!?」

 

「またあっち戻んの!?」

 

「行ってみましょう・・・!!!」

 

すると今度はラテが島の反対側を指し示した。どうやら相手は移動しているようで、とにかくみんなは向かうことにした。

 

一方、その島の反対側では・・・・・・。

 

「メガビョ〜ゲン!!!!」

 

メガビョーゲンがそこで口から赤い光線を撒き散らしながら、辺りの木や砂浜を蝕んでいた。

 

「なぁ・・・本当に特訓の成果なんか出てんの?」

 

「うるさい!! 黙ってみてれば分かる!!!!」

 

「黙ってみてるけどちっともわかんないの・・・!!!!」

 

クルシーナとイタイノンが、グアイワルに不満を垂れている。それもそのはず、先ほどからメガビョーゲンはいつも通りの蝕み方をしているだけ。先ほどの特訓のどこにそれが活かされているのかわからないので、イライラしているのだ。

 

「・・・グアイワル、温厚な私もいい加減怒りますよ・・・??」

 

「ええい、辛抱のない奴らめ!! 黙ってみていろと言っているのだ!!!!」

 

ドクルンが右手に冷気を溜めだし、グアイワルは少しビビりながらも強気に言い返した。

 

と、そこへ・・・・・・・・・。

 

「「「「「「「えぇ〜っ!!??」」」」」」」

 

島の反対側から戻ってきたのどかたちが驚きの声を上げた。そんな中、メガビョーゲンが狙いを定めたのは先ほどのどかたちが使っていたコートだった。

 

「「あぁっ!?」」

 

「メガビョ〜ゲン・・・!!!!」

 

制止の声も虚しく、コートや砂浜は赤い光線によって病気に蝕まれてしまった。

 

「ラビ〜・・・・・・ラビリンたちの青春が・・・・・・」

 

「まぁ、大変・・・!!」

 

「みんなっ!」

 

ラビリンがそれに気落ちする中、のどかの呼びかけで、みんなは頷き変身アイテムを構えた。

 

「「「「スタート!」」」」

 

「「「「プリキュア、オペレーション!!」」」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

「エレメントレベル、上昇ラテ!!」

 

「「「「キュアタッチ!!」」」」

 

ラビリン、ペギタン、ニャトランがステッキの中に入ると、のどか、ちゆ、ひなたはそれぞれ花のエレメントボトル、水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

アスミは風のエレメントボトルをラテの首輪にはめ込む。すると、オレンジ色になっているラテの額のハートマークが神々しく光る。

 

のどかたち3人は、肉球にタッチすると、花、水、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、水色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ちゆは水色、ひなたは黄色へと変化する。

 

ラテとアスミは手を取り合うと、白い翼が舞い、ラテが舞ったかと思うとハートの中から白い白衣のようなものが飛び出す。

 

その白衣を身に纏い、ラテが降りてきたかと思うとハープが飛び出し、さらにアスミは紫色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

衣装にチェンジした後、ハープを手に取り、その音色を奏でる。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「「時を経て繋がる、二つの風!」」

 

「キュアアース!!」

 

「ワン!」

 

アスミは風のプリキュア、キュアアースへと変身した。

 

「「「「地球をお手当て!!」」」」

 

「「「「ヒーリングっど♥プリキュア!!」」」」

 

みんなは変身を終えると、メガビョーゲンの前に立ちはだかった。

 

「っ?? なんでプリキュアどもがここにいんのよ??」

 

「本当にどこにでも現れる奴らなの・・・・・・!」

 

「なるほど・・・ビーチバレーのコートがここにあるから誰なのかと思ったら、プリキュアでしたか」

 

クルシーナとイタイノンはプリキュアが無人島にいることに不快そうな顔をし、ドクルンは疑問が解決したようで納得したような反応をしていた。

 

「うぇっ、クルシーナたちまでいたの!?」

 

「休暇で来てたのよ、悪いぃ??」

 

スパークルがそう言うと、クルシーナは不機嫌そうな声でそう言う。

 

「ちっ・・・・・・こんな所まで追いかけてくるとは・・・・・・メガビョーゲン、特訓の成果を見せてやれ!!!!」

 

「特訓ラビ・・・・・・?」

 

ラビリンが特訓という言葉が気になっている中、メガビョーゲンは頭に生えているヤシの木からヤシの実をむしり取って目の前に構える。

 

「赤道直下で編み出した必殺技・・・・・・食らえ!!!!」

 

「メェェガァ・・・・・・!!!!」

 

グアイワルが叫び、メガビョーゲンはヤシの実を上に放り投げ、その場から飛び上がる。

 

「あぁ・・・・・・特訓ってそういうこと・・・・・・おっ? 面白いこと思いついちゃったぁ・・・・・・」

 

「? クルシーナ、何を考えてるの?」

 

「また良からぬことですか?」

 

「アンタらはどうみてんのよ、アタシのこと・・・!! この休暇で暇つぶしできるようなことだよ・・・!!」

 

クルシーナが特訓という言葉にようやくピンと来た後、何かを思いついたように不敵な笑みを浮かべた。

 

「激熱!! 赤道直下ーーーー」

 

「待ちな!!!!」

 

メガビョーゲンはグアイワルの声に合わせて、ヤシの実をスパイクで放とうとした時、クルシーナが叫ぶ。

 

「メガ・・・? ビョッ!? ゲン・・・・・・」

 

メガビョーゲンはその声によそ見をした結果、自分の頭に落下したヤシの実が直撃し、地面に倒れてしまった。

 

「えっ・・・何・・・・・・?」

 

「邪魔をするな!! クルシーナ!!!!」

 

「まぁまぁ、いいからいいから・・・・・・」

 

戸惑った声を上げるグレースと、せっかくの攻撃のタイミングを邪魔されたグアイワルが怒ると、クルシーナは余裕そうな表情でそう言う。

 

「ここの砂浜・・・・・・このコート・・・・・・ちょうどいいじゃない。ねぇ、プリキュア・・・どうせならさぁ、アタシたちと勝負しない? ビーチバレーで」

 

「「「「えっ!?」」」」

 

クルシーナはピンク色の禍々しい球体を生み出して、人差し指でクルクルと回しながらそう言うと、プリキュアたちは驚きの声を上げる。

 

「おい! 何を勝手に!!??」

 

「お前は、黙ってろっ!!!!!!!!」

 

「・・・・・・は、はい」

 

(なぜ俺様が怒られなくてはならんのだ・・・・・・!?)

 

グアイワルが抗議しようとすると、クルシーナは赤く目を光らせながら睨み、萎縮したグアイワルは小さい声でそう言った。

 

「ふ、ふざけないで!! どうせ何か企んでるんでしょ!?」

 

「そうだよ!! ビョーゲンズは地球を蝕むことしかしないんでしょ!?」

 

当然、フォンテーヌとスパークルはその提案を下げようとする。ビョーゲンズは何を考えているかわからないので、迂闊に乗ると罠にはめられる可能性がある。そんな思いをこれまでもクルシーナたちによって味合わされたことか・・・・・・。

 

「ふーん・・・自信ないんだぁ? アタシたちに勝つって」

 

「・・・・・・なんですって?」

 

するとクルシーナは小馬鹿にしたような笑みでそう挑発すると、フォンテーヌが反応した。

 

「そりゃそうよねぇ、だってお前はハイジャンプしかできないもんねぇ? それ以外の競技に自信がないのも、仕方ないわよねぇ〜? アッハハハハハハハ!!!!」

 

「っ・・・・・・・・・!!!!」

 

クルシーナのバカにしたような態度に、フォンテーヌの内なる心に火がついた。

 

ダンッ!!!!

 

「・・・いいわよ!! やってやろうじゃないの!!!!」

 

「「「フォンテーヌ!?」」」

 

「な、何言っちゃってんの!?」

 

フォンテーヌは思いっきり足を叩きつけるとそう言い、他の三人は驚いた。

 

「あんなこと言われて黙っていられると思う!? アスリートを馬鹿にするあいつらを見返してやらないと気が済まないわ!!!!」

 

「まぁ・・・ちゆちゃんのアスリート魂に火が付いちゃったのね・・・・・・」

 

フォンテーヌは睨みながらそう言い、中島先生がそう説明する。

 

「マジ・・・・・・?」

 

「これでは、止めるわけには行きませんね・・・・・・」

 

スパークルとアースも困ったように、フォンテーヌを見ていた。

 

「うーん、でも・・・・・・私も一度ぐらいはラリーをしたい!! 受けるよっ、その勝負!!」

 

「グレースまで!?」

 

そんなフォンテーヌに感化されたかのように、グレースも妙なやる気を出し始め、スパークルはさらに困惑する。

 

「ふふふっ、面白くなりそうねぇ・・・・・・」

 

グレースとフォンテーヌの様子を見たクルシーナはいい暇つぶしになると不敵な笑みを浮かべた。

 

こうしてクルシーナの思いつきの提案で、ビーチバレーで対決をすることになるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、プリキュアとクルシーナたちと離れて、海で遊んでいる残りのビョーゲンズは・・・・・・。

 

「ふぅ・・・・・・やっとゆっくりできるなぁ・・・・・・」

 

「い〜っぱい、遊んだねぇ〜!!!!」

 

「こういうのもたまには・・・・・・悪くないかな・・・・・・」

 

かすみ、ヘバリーヌ、ハキケイラは三人乗りできる浮き輪に捕まりながら、海の上をプカプカと浮かんでいた。

 

「ケイラちゃん、楽しかった〜?」

 

「スピードは出しすぎだったけど・・・・・・楽しくはあったかな?」

 

「わ〜い!! じゃあ、ヘバリーヌちゃん、もっと弾けちゃおうかなぁ〜!!!」

 

ヘバリーヌが先ほどの浮き輪の乗り物の感想を聞くと、ハキケイラは良くも悪くもない感想を述べると、ヘバリーヌは嬉しそうにバタ足をしようとする。

 

「やめろっ!! この浮き輪まで動かすのは!!!!」

 

「しないよ〜、かすみお姉ちゃんはビビリだなぁ〜」

 

「お前ならやりかねない・・・・・・!!!」

 

それを制止しようと叫ぶかすみに、ヘバリーヌは悪戯っ子のような笑みを浮かべ、かすみは顔に手を当てて疲れたような表情をする。

 

「ところで、フーミンはどこに行ったんだい?」

 

「フーちゃんなら、あっちの砂浜で寝てるよ〜」

 

「あぁ。そう言えば、イタイノンが用意したシートの上で寝てたな」

 

ハキケイラがフーミンの様子を伺うと、ヘバリーヌとかすみはそう話した。

 

一方、そのフーミンは砂浜の上に敷いたシートの上で横向きになりながら眠っていた。

 

「すぅ・・・すぅ・・・すぅ・・・・・・」

 

海で遊んで疲れたのか安らかな寝息を立てながら、気持ちよく眠っているフーミン。すると、そこに一匹の小さなカニが横歩きでやってくる。

 

「んぅ・・・・・・」

 

もぞもぞと体を動かすフーミンに、カニが彼女の顔へと近づいていく。

 

「んっ・・・・・・」

 

そんなカニの横にフーミンの動いた腕が迫り、その手が近くに落ちる。そして、その手でカニを自分の顔へと引き寄せた、その結果・・・・・・。

 

「・・・・・・っ!?」

 

顔に一瞬走る痛みに目を覚ましたフーミンは目をパッチリと開く。体を起こして目線を下に下げてみると、そこにはカニが自身の鼻をハサミで挟んでいるのが見えた。

 

「んぅ〜・・・・・・!!!!」

 

フーミンはその様子に顔を不快に顰めさせて頬を膨らませると、右手のデコピンでカニを吹き飛ばす。カニは砂浜の上でひっくり返って、ジタバタとさせていた。

 

「んむぅ〜、よくも眠りの邪魔したですぅ・・・・・・!!」

 

フーミンは珍しく目を覚ました様子で、カニを睨みながら歩み寄っていく。

 

「そんな奴は・・・こうしてやるですぅ・・・!!!!」

 

フーミンはカニを見据えて睨み付けながらそう言った。

 

「ふわぁ・・・・・・」

 

フーミンはあくびをしながら開いた口を3回叩くと、黒い塊がそこから飛び出す。

 

「進化するですぅ、ナノビョーゲン」

 

「ナノォ・・・・・・」

 

生み出されたナノビョーゲンが鳴き声をあげながら、ひっくり返っているカニを取り込んでいく。

 

そのカニを主体として、巨大な怪物がかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてその素体を模倣する様々なものが姿として現れていき・・・。

 

「ギガ、ビョーゲン!!」

 

巨大なカニのような姿のギガビョーゲンが誕生した。

 

「?? なんだか海の質が変わってないか・・・・・・?」

 

「っ、確かに・・・海の色ではなくなっているな・・・・・・」

 

「赤いよ〜??」

 

かすみが海に異変を感じていると、ハキケイラとヘバリーヌもそれに気づいて口々に言う。

 

「ギガァァァ!!!」

 

「「っ!!」」

 

そこへ砂浜の方向から声が聞こえ、三人が振り向いてみると・・・・・・。

 

「フーミン!?」

 

「ギガビョーゲンのせいだったのか・・・・・・」

 

「フーちゃん、どうしちゃったのぉ〜?」

 

かすみとヘバリーヌが唐突に現れたギガビョーゲンに驚く中、ハキケイラは納得したようにそう呟く。どうやらフーミンが生み出したギガビョーゲンが海を蝕んだのが原因のようだった。

 

今日は休暇と言われているはずなのに、フーミンによる唐突なビョーゲンズとしての活動・・・・・・一体、どうしたと言うのか・・・・・・?

 

「ギガァァ!!!!」

 

ギガビョーゲンは口から赤い泡のようなものを噴射して、砂浜を泡だらけにして病気に蝕んでいく。

 

「ふふふっ、悪いカニさんは・・・お仕置きですぅ・・・・・・♪」

 

それをフーミンは悪意のなさそうな満面の笑みで、そう呟いたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第126話「対決」

前回の続きです。
プリキュアVSビョーゲンズのビーチバレー対決開幕!!


 

クルシーナの提案で唐突に始まったビーチバレー対決、両者にとっては不本意ながらもプリキュアチームと、ビョーゲンズチームに分かれてビーチバレーで対決することになった。

 

プリキュアチームのコートには、グレース、フォンテーヌ、スパークル、アースの4人、ビョーゲンズチームのコートには、メガビョーゲン、ドクルン、イタイノン、そしてクルシーナになんの前触れもなく呼び寄せられたヘバリーヌの姿があった。

 

そして、提案者のクルシーナは・・・・・・。

 

カァン!!

 

「さぁ!! いよいよ始まるよ!! プリキュアとビョーゲンズのビーチバレー対決!! 秋の涼しさに負けないくらいの、熱いバトルを繰り広げるよぉ!! 実況はアタシ、クルシーナがお送りしまーす!! そして、解説は・・・・・・!」

 

「医者の中島です。試合を見て話せばいいの? しんらちゃん?」

 

「そうそう!! 好きに話していいわよ。よろしくね、ふふふっ♪」

 

コートの側にいつの間にか長テーブルとイスが設置されており、そこにクルシーナと中島先生が二人で座っている。しかも、中島先生が隣にいる際のクルシーナは穏やかな表情を浮かべていて嬉しそうだった。

 

「うぇっ!? ちょっと!!??」

 

「なんでお前、勝手に実況役になってるの!?」

 

「チッ・・・うるっさいなぁ・・・・・・!!」

 

そこへコートへと立っているスパークルとイタイノンが抗議の声を上げるとクルシーナは不快そうに顰める。

 

「しんらちゃんは、やらないの? ビーチバレー・・・・・・」

 

「自分から勝負を吹っかけてきておいて・・・!!!!」

 

「アタシがやるなんて一言も言ってない。だから、アタシが試合に出ようが、実況してようがアタシの勝手じゃない」

 

グレースとフォンテーヌがそう呼びかける。特にフォンテーヌはクルシーナのことを睨んでいたが、クルシーナはどこ吹く風と言わんばかりに勝手な持論を述べる。

 

「なんて奴だ・・・・・・」

 

「まあ、クルシーナはこういう性格ですからね・・・・・・」

 

それを試合には参加せずに見守るグアイワルと、試合に参加しているドクルンは呆れたように見ていた。

 

「お姉ちゃんがやらないなら〜、ヘバリーヌちゃんがやっちゃうよぉ〜」

 

「ほら、ヘバリーヌがやる気満々よ。なのにお前らと来たら、文句ばっかじゃん」

 

「お前が言うななの!!」

 

「アンタが言うな!!」

 

「あなたが言わないの!!」

 

体を弾ませながらワクワクとしているクルシーナがそう言い放つと、イタイノン、スパークル、フォンテーヌは同時にツッコミを入れる。

 

「うるさいっ、さっさとやれ。初っ端からつまんねーもん見せてんじゃねーよっ。まぁ、面白いか知らないけど」

 

「言うに事欠いて・・・・・・!!!」

 

クルシーナが不機嫌そうにそう言うと、フォンテーヌは非難の視線を向けながら言う。

 

「えっと・・・・・・どうやれば、いいのかな・・・あははは・・・・・・」

 

そんな中、グレースだけは律儀にビーチバレーの対決の仕方を聞いていた。よくみると特にビーチボールがあるわけでもなければ、それを出してくれるわけでもないのだ。

 

「・・・・・・あぁ、言うの忘れてたわね」

 

「相変わらず適当ウツ・・・ふぎゃぁ!?」

 

クルシーナが思い出したかのように言うと、ウツバットが茶々を入れ、その直後に顔面にクルシーナのパンチが入った。

 

「ルールは簡単・・・5ポイントで1セットを先に取った方の勝ち。ボールは自分たちの力を使って生み出した丸い球体を使うこと」

 

「生み出した球体・・・・・・?」

 

「例えば、そこにいるメガビョーゲンだったらヤシの木に付いているヤシの実を使うっていう感じよ、これなら理解できるでしょ?」

 

「私たちだったら、エレメントさんの力を使うっていうことかしら?」

 

「そうそう、そういうこと。それをサーブで打って、ボールを打ち返すというラリーをするってこと」

 

クルシーナは律儀に説明していき、スパークルとフォンテーヌの疑問にもちゃんと答える。

 

「ボールの代わりに、それで打つってことですよね?」

 

「そうよ、っていうかそう説明したでしょ。こんな感じで出して、こう打てばいいわけ!!」

 

アースが質問をすると、クルシーナは手のひらを広げてピンク色の禍々しい球体を作り出して見せ、それを上に打ち上げて球体をスパイクのように打つ。

 

ビュンッ!!!!

 

「ひぃっ!?」

 

ピンク色の球体はスパークルの顔スレスレを通過し、思わず悲鳴を上げる。球体は海へと飛んでいくと、着弾して大きな水しぶきを上げた。

 

「まぁ、こんな感じね」

 

「ちょっとぉ!! 今、あたしに当たりそうになったんですけど!?」

 

「別に当たってないんだからいいじゃない。狙って打ったわけじゃないんだからさぁ?」

 

スパークルが不満の声を上げると、クルシーナはそれを一蹴する。

 

「いや、そういう問題じゃないし!!」

 

「とにかく当たってないからいいのよ・・・!!」

 

「いや、だからぁーーーー」

 

「ごちゃごちゃ言うなっ!!!!」

 

やめようとしないスパークルの抗議の声に、クルシーナが怒鳴って黙らせる。

 

「ねぇ〜、もう始めようよ〜!! そこの黄色のプリキュアちゃんのせいで面白くな〜い!!」

 

「あたしのせいなの!?」

 

ヘバリーヌが顔を膨らませながら不満の声を漏らす。

 

「しんらちゃん、そろそろ始めないの?」

 

「あっ・・・そうだったわね。それじゃあ、試合開始!!」

 

カァン!!!!

 

中島先生にそう言われたクルシーナは咳払いすると、席に付いてハンマーでゴングを鳴らす。

 

「・・・・・・なんで、ゴングなの?」

 

格闘技ではないのに、そんなものを使われることに突っ込まずにはいられないイタイノン。

 

まず最初にサーブを打つのは、メガビョーゲンだ。

 

「メガビョーゲン!! 今度こそ、お前の特訓の成果を見せてやれ!!」

 

「メガァ・・・・・・!!」

 

観客席となっているグアイワルが叫ぶと、メガビョーゲンは頭に生えているヤシの木を一つ取り、目の前に構える。

 

「「「「っ・・・・・・!!」」」」

 

プリキュアの4人は手を前に構えて飛んでくるサーブに備える。

 

「さあ、まずはメガビョーゲンのサーブ!! ヤシの木の怪物が先手を決めるんでしょうか!?」

 

「気合いが入ってるわね!! そのメガなんとかくん♪」

 

「・・・・・・メガビョーゲンね、先生。あと『くん』付けいらないから」

 

クルシーナと中島先生は楽しそうに実況と解説をしている。

 

「赤道直下で編み出した必殺技を、受けてみろ!!!!」

 

「メェェェェェガァ・・・・・・!!」

 

グアイワルがそう叫ぶと、メガビョーゲンはヤシの実を上に放り投げてその場から飛び上がると・・・・・・。

 

「激熱!! 赤道直下サ〜ブ!!!!」

 

「ビョ〜〜〜〜ゲェン!!!!」

 

グアイワルの声に合わせてスパイクのような要領で放つと、放たれたヤシの実は炎を纏ってプリキュアたちへと向かっていく。

 

「出ました!!! メガビョーゲンの赤道直下サーブ!!!!」

 

「うわぁっ!!??」

 

放たれたサーブをスパークルは思わず避けると、ヤシの実は地面に当たって凄まじい砂埃を上げた。

 

「何、今の!?」

 

「すっげぇ威力ニャ!!!!」

 

メガビョーゲンの打つサーブのあまりの威力にスパークルとニャトランは驚く。

 

「ヤシの実は見事にコートにイン!! ビョーゲンズに1点入りましたー!!!!」

 

「1−0ね」

 

メガビョーゲンがサーブを決めたことにより、ビョーゲンズ側に1点入った。

 

「ちょっと!! あんなサーブ打てるわけないし!?」

 

「また文句ですかぁ?」

 

「いちいちうるさい奴なの・・・・・・」

 

スパークルが飛び出した抗議の声に、ドクルンとイタイノンは辟易している様子だ。

 

「伝説の戦士だったらそのぐらい打ち返せるでしょ。いちいち文句言わない!! 次、お前らの番よ。早くサーブを打ちなさいな」

 

「っ・・・・・・!!」

 

クルシーナが実況の声をやめて不機嫌そうな声でそう言うと、プリキュアたちにサーブを打ち返すように促す。それにスパークルは少し悔しそうな顔をしていた。

 

「ひなたちゃん、喧嘩しちゃ、めっ!よ♪」

 

「先生までぇ〜・・・そんなぁ〜・・・・・・」

 

中島先生にも叱られたスパークルは落ち込んだような反応を見せる。

 

「先生・・・・・・状況を楽しみ始めてるでしょ?」

 

「ふふふっ♪ ダメ?」

 

クルシーナが少し呆れたようにそう言うと、中島先生は笑みをこぼしながらそう言った。

 

「私が行くわ!! 水のエレメント!!」

 

フォンテーヌはそう言うと水のエレメントボトルをステッキにセットして、ステッキの先から水色の球体を作り出す。

 

「さて対するプリキュアもサーブを打ちます。何やら青い球体を作り出したようですが・・・・・・」

 

「あれがサーブの球なんじゃないかしら?」

 

「・・・・・・まあ、誰がどう見てもそうよね」

 

クルシーナと中島先生がそんな風に見ながら言う中、フォンテーヌは水色の球体を打ち上げ・・・・・・。

 

「ふっ!!!!」

 

飛び上がりながらスパイクのように打った。

 

「っ・・・ふっ!」

 

ボールの落下地点の近くにいたドクルンがレシーブを打つ。

 

「・・・・・・っ!!」

 

イタイノンが素早く移動すると両手を顔の前に出して、トスをする。

 

「メェェェェガァ!!!!」

 

そして、メガビョーゲンが飛び上がってスパイクを放った。

 

「っ、やぁっ!! あっ!?」

 

飛んできた球体をスパークルがなんとかレシーブで打ち上げるも、ボールは後ろへと行ってしまう。

 

「任せてください!! ふっ!!!!」

 

それをアースが駆け出して、ボールの着地点へと走り、両手を前に突き出してコートへと戻してフォローする。

 

「はぁっ!!!!」

 

ネットの近くへと飛んで来た球体をフォンテーヌが飛び上がって、スパイクで打ち返した。

 

「っ!!!!」

 

「とぉっ!!!!」

 

イタイノンは素早く移動して球体にレシーブを打って横に飛ばし、ヘバリーヌがトスをして打ち上げる。

 

「それっ!!!!」

 

ドクルンが手に冷気を纏って、球体にスパイクを放つ。すると凍り付いた球体がプリキュアのコートに放たれる。

 

「っ、あぁぁぁ!!!!」

 

グレースはそれをレシーブで返すかのように受け止めるも、氷漬けで威力が増した球体に吹き飛ばされてしまう。

 

「「「グレース!!!!」」」

 

三人は吹き飛ばされたグレースを心配して見る。

 

「ここで何か出ましたよー!!!! ドクルンの冷気スパイクゥ!!!! これはプリキュアも返せなーい!!!!」

 

「2−0ね」

 

「冷気スパイクですか・・・・・・いい名前ですねぇ!」

 

「どこがなの・・・・・・」

 

クルシーナが何やら熱く実況していると、ドクルンが反応し、イタイノンが淡々と返した。

 

「っ・・・・・・私は、打ち返したい・・・・・・!!」

 

グレースは立ち上がると球体を迎え撃つべく構える。

 

「メェェェェェガァ・・・!!!!」

 

「また放たれたよー!!!! メガビョーゲンの赤道直下サーブ!!!!」

 

メガビョーゲンは再びヤシの木を取ってスパイクのように放った。

 

「きゃあぁぁぁぁぁ〜!!!!」

 

グレースは再び打ち返そうとしたが、レシーブを受け止めたのにも関わらず力負けして吹き飛ばされてしまう。

 

「おっとグレース!! これは打ち返せない!!!!」

 

「3−0よ」

 

「くっ・・・・・・!!」

 

またビョーゲンズに点数が入ってしまう。グレースは傷つきながらも立ち上がり、闘う意志を失くさない。

 

「グレース、今のよかったラビ!! もう少しでレシーブできるラビ!!」

 

「うん・・・でも、なんて強いサーブなの・・・・・・?!」

 

「ククク、どうだこの威力!! この必殺ワザを生み出すために、地獄の強化特訓をしたからな!!」

 

グアイワルはそう言いながら、自身が行った特訓を話し出した。

 

メガビョーゲンはタイヤで括って腰に巻いたまま、グアイワルを乗せたまま走らせたり、長い距離をうさぎ跳びさせたり、特訓で根をあげたり弱気になっていると、グアイワルは水をかけたり、竹刀で威嚇したりと喝を入れて行く。

 

さらに・・・・・・。

 

「オラオラオラオラッ!!!!」

 

「メガガガ・・・メガァ!!!!」

 

「ひぃっ・・・おい!! こっちにも飛んで来たのっ!!!」

 

トドメにはグアイワルが連続でヤシの実をメガビョーゲンにぶつけまくり、さらにはイタイノンの近くにまで飛んで来て当たりそうになり、怒りを見せていた。

 

「ビッシビシ鍛えてやったぞ!!!!」

 

「メガァ・・・・・・」

 

「メガビョーゲン、顔が疲れてな〜い?」

 

「あんな顔のメガビョーゲン初めて見たの・・・・・・」

 

「それだけ嫌だったんですね、わかります」

 

自慢をするかのようにグアイワルが話を終えると、メガビョーゲンはとても嫌そうな顔をしており、コートにいるビョーゲンズの三人は哀れむような様子で見ていた。

 

「そんな鬼コーチ、時代遅れラビ!! 選手の未来を潰しちゃうラビ!!」

 

「ひどい・・・・・・!!」

 

「引くわぁ・・・・・・」

 

ラビリンとグレースが怒る中、スパークルはその特訓内容に顔を引きつらせていた。

 

「大体、メガビョーゲンに特訓っていうのが間違ってんのよ」

 

「そうなの? しんらちゃん」

 

「・・・・・・先生は反応しなくていいわよ」

 

クルシーナは冷めた様子でその言葉を呟き、よくわかっていない中島先生が反応したため、クルシーナは目を瞑りながらそう言った。

 

「そんな歪んだ指導を・・・アスリートとして認めるわけにはいきません!!」

 

「恐怖が支配する特訓なんて、無意味だということをここで証明して見せるわ!!!!」

 

「なんかえらく熱が入ってるの・・・・・・」

 

「何かの見過ぎな気がしますけどね・・・・・・」

 

アースやフォンテーヌが怒ってそう言うと、イタイノンとドクルンは呆れたような様子だった。

 

「よ〜し!! みんな行こう!!!!」

 

グレースがそう叫ぶと、プリキュアの4人は集まって円陣を組むと真ん中で手を重ねた。

 

「ふんっ、ごちゃごちゃとうるさいわ!!!!」

 

「うるせぇのはお前の声だよ・・・!!!!」

 

「まぁまぁ、しんらちゃん、試合を続けましょう♪」

 

「そうね、さぁ次のサーブはプリキュアの番よ」

 

グアイワルの声に不快感を露わにしていたクルシーナだが、笑顔でそう言う中島先生に気持ちを撮り直して、プリキュアチームにサーブを促す。

 

「じゃあ、行くよ〜!!!! 光のエレメント!!」

 

サーブを打つのはスパークル、ステッキに光のエレメントボトルをセットして、黄色の球体を作り出す。

 

「そ〜れっ!!!!」

 

スパークルは球体を打ち上げると飛び上がり、スパイクのように打ち返した。すると・・・・・・。

 

「メガァ!!??」

 

「おーっと、プリキュアの打ったサーブがメガビョーゲンの顔面に直撃〜!!!!」

 

「これで3−1になったわね」

 

黄色の球体はメガビョーゲンの顔面に直撃してボールはあらぬ方向へと飛んでいき、プリキュア側の初得点になった。

 

「よしっ!!!!」

 

「いいぞ、スパークル!!」

 

「すごいサーブだったわ!!」

 

スパークルはガッツポーズをし、ニャトランとフォンテーヌはそのサーブに感心する。

 

「メガビョーゲン、何してる!!! お前ならもっとやれるはずだ!!!!」

 

「メ・・・メガァ・・・・・・!!」

 

グアイワルの言葉にメガビョーゲンは再び立ち上がると、頭部のヤシの実を1つむしって構える。

 

「食らえ!! 赤道直下サ〜ブ!!!!」

 

「メガビョ〜・・・・・・ゲンッ!!!!」

 

メガビョーゲンは再びプリキュア側に目掛けてサーブを放った。

 

「っ・・・・・・!!」

 

それを見てグレースは単身走り出して、サーブされたヤシの実へと向かっていく。

 

「ボールを返すときに大事なことは・・・!!!!」

 

「落下位置に、素早く移動することラビ!!!!」

 

グレースはサーブの落ちる位置に素早く移動して、受け止める体勢で構えた。

 

「そして重心は・・・!!!!」

 

「できるだけ下げて!!!!」

 

「両手をあげるラビ!!!!」

 

「はい、コーチっ!!!!」

 

「ぷにシールド!! トスっ!!!!」

 

「はぁぁぁぁぁ!!!!」

 

グレースはシールドを広げてサーブを受け止めると、そのまま上空へはじき返した。

 

「おっと!! キュアグレース、赤道直下サーブを打ち返したー!!!!」

 

「すごいわ!! のどかちゃん!! ラビリンの特訓が活かされたわね〜!!」

 

クルシーナと中島先生がそういう中・・・・・・。

 

「今よ!! 氷のエレメント!! はぁっ!!!!」

 

フォンテーヌは氷のエレメントボトルをセットし、ステッキから氷を纏った光線を放って、打ち上がったヤシの実を氷漬けにした。

 

「ふっ!!!!」

 

「はぁっ!!!!」

 

フォンテーヌはそのヤシの木をトスで打ち、アースがスパイクで打ち返した。

 

「メガァ・・・・・・!?」

 

メガビョーゲンはそれをスレスレのところで避けた。その結果・・・・・・。

 

「おっとメガビョーゲン、球を避けたぞ!! しかも、コートにインしたよ!」

 

「3−2ね」

 

クルシーナが少し呆れたように実況する中・・・・・・。

 

「避けた・・・・・・!?」

 

「勝負しないとは・・・卑怯です!!」

 

「アスリートとして恥を知りなさいっ!!!!」

 

「いや、アスリートじゃないの・・・・・・」

 

「メガビョーゲンですし・・・・・・」

 

「うんうん、そうだよね〜・・・・・・」

 

アースの返した球体を返さなかったことで、アースとフォンテーヌが指を差しながら指摘すると、ビョーゲンズの三人は静かにツッコミを入れる。

 

「うるさいっ!!行けっ!!!!」

 

「メガァ・・・・・・」

 

グアイワルはサーブを放つように指示をし、メガビョーゲンは頭部に手を伸ばすが・・・・・・。

 

「メガ?」

 

「ん? なっ!! 球切れ!?」

 

なんとメガビョーゲンの頭部にヤシの木は残っておらず、グアイワルは驚いていた。

 

「えぇ〜! もう打てないのぉ〜!?」

 

「使えないメガビョーゲンなの・・・!!!!」

 

ヘバリーヌも一緒に驚いていて、イタイノンは冷めた目で見ていた。

 

「ほら、どけなの!! 私がやるの!!」

 

「メガァ!?」

 

「お前は前にいろなの!!」

 

「メガァ・・・・・・」

 

イタイノンはメガビョーゲンの顔面に蹴りを入れて吹き飛ばすと、前に行くように命令する。顔を抑えながらもメガビョーゲンはイタイノンのいた前の位置に出る。

 

バチバチバチバチバチ・・・・・・!!!!

 

イタイノンは手のひらを広げると、雷の球を作り出す。

 

「ふっ・・・っ!!!!」

 

それを上に放り投げて飛び出すと、スパイクを放ってプリキュアへと打ち込む。

 

「うぇっ!?」

 

「落ち着け、スパークル!! さっきのグレースの方法だニャ!!」

 

「あっ・・・そっか!」

 

「ぷにシールド!! レシーブ!!」

 

スパークルはバチバチと光る雷の球体に驚くも、ニャトランが諭すとスパークルは両手を前に出し、シールドを展開して受け止める。

 

「っ・・・はぁっ!!」

 

スパークルは凄まじさに顔を顰めるも、なんとか上へと打ち上げる。

 

「ぷにシールド!! トスペエ!!」

 

「ええ!! はぁっ!!!」

 

フォンテーヌもシールドを展開すると雷の球を打ち上げて、コートの前へと持ってくる。

 

「グレース!!」

 

「うん!!」

 

「ぷにシールド!! スパイクラビ!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

ラビリンの指示もあって、グレースはシールドを展開するとそのまま駆け出してスパイクを放った。

 

「させませんよっ、ふっ!!!!」

 

ドクルンが駆け出して球体を片手で上手く弾く。

 

「ほいっ!!!!」

 

そのドクルンがフォローした球をヘバリーヌがトスをして打ち上げる。

 

「メガァ!!!!」

 

その球をメガビョーゲンが飛び出してスパイクを放って、プリキュアへと打ち返す。

 

「っ・・・・・・あぁっ!!!!」

 

その球はアースへと飛んできたが、彼女は受け止めた途端に感電して吹き飛ばされつつも、なんとか打ち返すも球体は思いっきり後ろへと下がる。

 

「おっと、キュアアース!! 雷の球をうまく打ち返せず後ろへ!!!!」

 

「私に任せて!!」

 

それを見たフォンテーヌはかなり飛んだ球体の元へ持ち前の運動能力を活かして駆け出す。

 

「ぷにシールド!!」

 

「はぁっ!!」

 

フォンテーヌはシールドを張りつつ飛び出し、片手を伸ばして球体を前へと戻した。

 

「スパークル!! スパイクだ!!」

 

「OK!! やあぁっ!!」

 

スパークルは戻ってきた球体を飛び上がってスパイクを放って、ビョーゲンズのコートへ。

 

「メガガガガガ・・・ガァ!?」

 

球体はメガビョーゲンの顔に当たって感電し、メガビョーゲンは吹き飛んだ。

 

「これで3−3ね」

 

「さぁ!! プリキュアチーム追い上げてきた!! 試合も面白くなってきたわよ!!」

 

クルシーナは面白くなったのか、少し興奮気味な実況をし始めた。

 

「くっ・・・私はまだ、負けませんよ!!!!」

 

ドクルンは少し悔しそうな顔をしながらそう言う。

 

「グレース、実りのエレメントボトルラビ!!」

 

「はいっ!! 実りのエレメント!!」

 

グレースはラビリンの指示に従って、実りのエレメントボトルを使い、エネルギーを空中へと放つ。

 

「ラビラビラビラビ!! ど根性ラビ〜!!!!」

 

ラビリンが力を使って、実りのエレメントボトルの力をピンク色の球体へと変え、パワーを貯めていく。

 

「これでサーブを打つラビ!!」

 

「はい、コーチ!!」

 

「サーブは前へと打ち上げて、なるべく自分の手を持っていくように打つラビ!!」

 

「はいっ!!」

 

グレースはピンク色の球体を手に持って構える。

 

「っ、はぁっ!!!!」

 

ラビリンの教えてあげたとおりに、グレースは球体を上へと投げると飛び上がり、自分の手を持って行きながらスパイクのように打った。

 

「メガァァァァ〜!?」

 

メガビョーゲンは放たれた球体を受け止めるも、耐えきれずにそのまま空中へと吹き飛んだ。

 

「これは凄まじい威力だ!! メガビョーゲン!! グレースの放った球体で吹き飛んだ!!」

 

「まぁ!! のどかちゃんったらすごいのね!! 3−4よ!」

 

「さぁ! プリキュアチーム、マッチポイントです!!」

 

中島先生は先ほどよりも感嘆の声をあげ、そしてプリキュアチームは次に点を入れれば勝ちになった。

 

「みんなぁ!! あと1点だよ!!」

 

「気合を入れていくわよ!!」

 

「最後までアスリート魂を強く持ちましょう!!」

 

「えっ・・・もうメガビョーゲン浄化していいんじゃ・・・・・・」

 

プリキュアの3人は気合いが入っていたが、スパークルはメガビョーゲンを浄化できるのではと疲れ切った顔で言っていた。

 

「っ〜〜、本当にグアイワルと同じで使えないメガビョーゲンなの・・・!!!!」

 

「製作者と似てますねぇ・・・・・・」

 

「ええい!! うるさいぞ、お前たち!! メガビョーゲン立て!! お前の力はそんなものじゃないはずだ!!」

 

「メ・・・メガァ・・・・・・」

 

イタイノンとドクルンが生み出したグアイワル共々メガビョーゲンを貶し始め、それにヤケになったグアイワルはメガビョーゲンにそう命令するが、メガビョーゲンの体は震えていて立ち上がるのもやとだった。

 

「どうせ負けでしょうけど、最後までやりますよ。今度は私がサーブを打ちますよ」

 

ドクルンは手のひらで青い禍々しい球体を作り出して、宙へと放り投げる。

 

「はぁっ!!!!」

 

そして、放り投げた球体をスパイクのように放ち、プリキュアのコートへ。

 

「来るよ!!」

 

「えぇ!! スパークル!!」

 

フォンテーヌは落ちて来る球体をスパークルの方へと打ち上げる。

 

「うぇぇっ!! グレース!!」

 

スパークルも飛んできた球体をグレースへと繋げる。

 

「うんっ!!」

 

グレースは頷くと球体の飛んでいく方向へと駆け出していく。

 

「みんなが繋いだボールを・・・!!!!」

 

グレースは言いながら飛び上がり、ボールへと迫る。

 

「届ける!!!!」

 

そして、球体をスパイクするように放った。グレースのスパイクを受けて飛んで行ったボールは・・・・・・。

 

「メ・・・メガァ・・・・・・メガァァァァァ!!!!」

 

再度メガビョーゲンの顔面へと直撃し、大きな砂埃を立てながら着弾した。そして、砂埃が晴れていくと・・・・・・。

 

そこには倒れているメガビョーゲンの姿があった。

 

「はい!! ゲームセット!! この勝負、プリキュアチームの勝利だー!!!!」

 

「やったわね!! みんな!!」

 

クルシーナはいつも以上に興奮してそう叫んだ。ビョーゲンズが負けたのにも関わらず、中島先生と一緒にいるクルシーナは楽しそうだった。

 

「やったー!! やりましたよ!! コーチ!!」

 

「ラビ!! もうグレースに教えることは何もないラビ!!」

 

グレースとラビリンは勝利をお互いに喜び合う。

 

「あ〜あぁ〜、負けちゃったぁ・・・でも、楽しかったぁ〜!」

 

「別に負けても悔しくないの・・・・・・」

 

「クルシーナに付き合わされただけですからね・・・・・・」

 

ヘバリーヌは悔しく思いつつも心底楽しそうな顔をし、イタイノンとドクルンは淡々とした様子だった。

 

「クゥ〜ン・・・・・・」

 

「あっ、そうでした!! グレース、メガビョーゲンの浄化を・・・!!」

 

「あ、うん!!」

 

キュン!!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

ラテが苦しそうにしているのを見たアースに指摘され、グレースはステッキの肉球に一回タッチし、メガビョーゲンに向ける。ラビリンの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを見つける。

 

「あそこだ!!」

 

「うんっ!!」

 

背中の左側あたりに木のエレメントさんを発見し、グレースは花のエレメントボトルを取り出してステッキにセットする。

 

「エレメントチャージ!!」

 

そう言いながら光るステッキの先をハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「ヒーリングゲージ上昇!!」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングフラワー!!」

 

キュアグレースはそう叫びながら、ステッキを上空へと飛んでいるメガビョーゲンに向けて、ピンク色の光線を放つ。光線は螺旋状になっていた後、メガビョーゲンに直撃した。

 

その光線はメガビョーゲンの中に入ると、螺旋状のエネルギーは手へと変化して、木のエレメントさんを優しく包み込む。

 

花状にメガビョーゲンを貫きながら、光線は水のエレメントさんを外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「お大事に」」

 

木のエレメントさんがヤシの木へと戻ると、蝕まれたコートや砂浜、木々が元に戻っていく。

 

「もっとレシーブの特訓をすればよかった・・・・・・」

 

グアイワルはそう言いながら姿を消していった。

 

「はぁ・・・・・・今日はくたびれただけなの・・・・・・」

 

「クルシーナ、私は疲れたから先に帰りますからね・・・・・・」

 

「プリキュアちゃんたち、またね〜!!」

 

イタイノン、ドクルン、ヘバリーヌはそれぞれそう言うとその場から姿を消していった。

 

「はぁ〜、楽しかった! そろそろ帰るか・・・先生、またね♪」

 

「しんらちゃんもお大事に♪」

 

クルシーナはテーブル席から立ち上がって砂浜へと飛ぶと、中島先生にそう言ってお互いに笑みを浮かべながら手を振ると、そのまま海の方へと駆け出していった。

 

ビョーゲンズが去ったその後・・・・・・。

 

「助けてくれてありがとうございます。皆さん、ビーチバレーお上手ですね♪」

 

「いやぁ〜、それほどでも〜」

 

「うちの選手はみんな優秀ラビ!!」

 

変身を解いたのどかたちは救出した木のエレメントさんと話をしていた。そんな中・・・・・・。

 

「クゥ〜ン・・・・・・」

 

「どうしてでしょう・・・? ラテが元気にならないのです・・・・・・」

 

「うぇっ、なんで!? メガビョーゲンは浄化したんじゃ・・・・・・」

 

なぜかラテの体調が戻っておらず、額のハートマークは黄色いままだった。これはまだどこかでビョーゲンズが活動している証だ。

 

「っ、診察してみましょう・・・!!」

 

何かを思いついたちゆは聴診器を持ってラテを診ることに。すると・・・・・・。

 

(海の方で、カニさんが泣いてるラテ・・・・・・)

 

「カニさん・・・・・・?」

 

「やっぱり・・・・・・!!!!」

 

ちゆは考えていたことが一致したとそう言い、ビョーゲンズがいると思われる海の方を見る。

 

「やっぱり、そういうことだったのね・・・!!!!」

 

「どういうことペエ・・・・・・?」

 

「私たちをビーチバレーの試合に夢中にさせて、そのうちにここ一帯を病気に蝕むつもりだったのよ!!」

 

「「「「「えぇっ!!??」」」」」

 

ちゆが怒りを見せながらそう言うと、それ以外のみんなは驚きの声を上げる。

 

「また騙されたの〜!?」

 

「ひどい・・・!!」

 

「許せないです・・・!!!!」

 

ひなた、のどか、アスミはそれぞれの反応を見せる。その中には落ち込みや悲しさ、怒りの感情で溢れていた。

 

「ラビリンたちの青春を利用するなんて許せないラビ!!」

 

「行くわよ!! みんな!!」

 

妙に怒りに満ちているラビリンとちゆ、アスミは海の方へと駆け出していく。

 

「ちょっと待ってよ〜・・・もう疲れたってばぁ〜・・・・・・」

 

「わ、私も〜・・・・・・」

 

先ほどのビーチバレー対決で疲れた様子ののどかとひなたはみんなより遅れて追いかけていくのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・何、これ?」

 

帰ろうとかすみたちを迎えにいったクルシーナは呆然とするような光景を目にする。

 

「ギガガガ、ギガギガギガギガ・・・!!!!」

 

海近くの砂浜は広範囲が赤く蝕まれており、そこにはギガビョーゲンが横歩きで走り回りながら、口から赤い泡を撒き散らしていた。

 

「なんで、ギガビョーゲンが・・・・・・?」

 

クルシーナはそう呟きながらもポカンとした表情になる。今日は確か休暇のはずだが・・・・・・?

 

「・・・・・・今日は休暇じゃなかったのか?」

 

「僕にもさっぱりだよ・・・・・・あぁ、姉さん」

 

「ちょっと!! これ何よ!?」

 

近くでそう話しているかすみとハキケイラに、クルシーナが問い詰める。

 

「フーミンの仕業だ。こんなことになったのは・・・!!」

 

「砂浜でカニに眠りを妨げられたからといって、そのカニをギガビョーゲンに変えたのさ」

 

「アタシたちは休暇で来てんのに、なに勝手なことしてんのよ!?」

 

「私にもわからないんだ・・・・・・!!」

 

「フーミンが勝手に始めたんだよ。僕たちの責任じゃない」

 

「っ・・・・・・はぁ・・・・・・」

 

かすみとハキケイラはクルシーナにそう答えると、クルシーナは怒り出すが、意図してやったことではないと知るとため息をつき始める。

 

「これ・・・どうお父様に説明すればいいわけ? しかも、プリキュアがまた来るし・・・・・・」

 

クルシーナは暴れるギガビョーゲンを見ながら困ったような表情をする。この後、本当に面倒なことが起こりそうだと辟易した様子だった。

 

「ギガギガギガギガギガギガギガ!!!!」

 

「すぅ・・・すぅ・・・すぅ・・・すぅ・・・」

 

そんな3人の困った様子も露知らず、フーミンはそんなギガビョーゲンの背中でスヤスヤと眠っているのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第127話「楽しい」

前回の続きです。今回で原作第35話は終わります。
ほとんどおまけみたいなものなので、今回は短めです。


メガビョーゲンを浄化したのにも関わらず、体調が改善しないラテ。その理由はビョーゲンズが別の場所に怪物を発生させたことが発覚し、プリキュアに変身したちゆたちはその場所へと向かっていた。

 

「「「「・・・・・・・・・」」」」

 

たどり着いたちゆたちが呆然と見ている理由には訳があった。

 

「ちょっと、フーミン!! 待ちなさいよ!!!!」

 

「寝てないで起きろー!!!!」

 

「なんで僕までこんなことをやらされるんだ・・・!!!!」

 

「すぅ・・・すぅ・・・すぅ・・・・・・」

 

クルシーナ、かすみ、ハキケイラが横歩きで暴走するギガビョーゲンを追いかけ回していたからだ。そんな中、フーミンだけはギガビョーゲンの背中の上でスヤスヤと眠っていた。

 

「えっと・・・・・・どういう状況だ・・・・・・?」

 

「結構蝕まれてるけど・・・なんでクルシーナたちがギガビョーゲンと追いかけっこしてんの・・・・・・?」

 

ニャトランとスパークルはその様子を見ながら、よくわからない様子でいる。ビョーゲンズたちがギガビョーゲンに蝕ませている光景はあったが、今回はどうしてビョーゲンズ同士が仲間割れのような感じになっているのか?

 

「しんらちゃんたちー、喧嘩はダメよー!!」

 

「先生・・・・・・そういうことじゃないと思います・・・・・・」

 

中島先生がそう言うと、フォンテーヌが冷静なツッコミを入れる。

 

「・・・・・・とにかくギガビョーゲンを止めましょう!!」

 

「先生は、安全なところにいてください!!」

 

「わかったわ!!」

 

アースの言葉にみんなが頷くと、グレースは先生にそう促してみんなはギガビョーゲンへと駆け出していく。

 

「っ・・・・・・あぁ~もぉ~、プリキュアが来ちゃったじゃん!!!!」

 

クルシーナはこちらに向かってくるプリキュアの姿が見えて頭を抱えたくなった。

 

「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」

 

「ギガガガ・・・・・・ギガギガ!!」

 

プリキュア4人は同時に飛び出して、ギガビョーゲンに蹴りを食らわせて吹き飛ばす。ギガビョーゲンは倒れずにうまく着地した。

 

「んぅ・・・? 誰ですかぁ・・・私の眠りの邪魔をするのは・・・・・・!?」

 

フーミンが目をこすりながら目を覚まして起き上がる。

 

「あんたたち!! よくも騙したわね!!」

 

「私たちの青春を利用するなんて、なんてひどい・・・・・・!!」

 

「最初っからこのつもりだったのね・・・許せない・・・!!」

 

スパークル、グレース、フォンテーヌが怒りや悲しさといった人それぞれの反応を見せる。

 

「アタシじゃないわよっ!!!! フーミンが勝手に暴走して、ギガビョーゲンを生み出しちゃったのよ!!!!」

 

「嘘おっしゃい!! じゃあ、なんでここ一帯がこんなに蝕まれているのよ!? 時間を掛けないとこうはならないはずだわ!!」

 

「それは僕たちじゃなくて、ギガビョーゲンに乗ってる奴に聞いてくれ・・・・・・!!」

 

クルシーナが怒鳴るも、フォンテーヌも同じように怒りを見せ、しまいにハキケイラはそれをフーミンに責任を押し付ける。

 

「かすみちゃん・・・そんなことする人じゃないと思ったのに、ひどいよ・・・・・・」

 

「もうグレースに近づくなラビ!!」

 

「ち、違うっ・・・違うんだぁ・・・・・・!」

 

「遊ぶなっ!! お前ら!!」

 

グレースとラビリンに誤解されたかすみは悲しそうな表情をし、クルシーナはその様子に怒る。

 

「んぅ、うるさいですぅ・・・!!!! 眠りの邪魔なんですぅ!! みんな潰してやるですぅ!!」

 

「ギガギガギガギガギガァァ!!!!」

 

「きゃっ!!!!」

 

「うわぁっ!?」

 

フーミンが怒りの声を上げると、ギガビョーゲンが横歩きで走り出し、プリキュアに目掛けて突進してきた。プリキュアは散開してなんとか避ける。

 

「はぁ・・・・・・フーミンの癇癪が始まってしまったな」

 

「毎回、眠りを邪魔されると不機嫌な時に限って、ああやって怒り出すのよね、あいつ・・・・・・」

 

「イタイノンでないと吹っ飛ばしてくるから、僕では起こせないのさ・・・・・・」

 

クルシーナとハキケイラの二人がアジトでフーミンに辟易しながらそう言った。

 

「やあぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

フォンテーヌは駆け出してギガビョーゲンに蹴りを繰り出す。

 

「ギガギギギ・・・・・・」

 

「っ・・・あぁぁぁ!!!!」

 

ギガビョーゲンはハサミを使って蹴りを防ぐと、もう一方のハサミでフォンテーヌを吹き飛ばす。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!! うっ・・・・・・!」

 

直後にグレースはギガビョーゲンの背後からパンチ攻撃を仕掛けるも、甲羅の硬さに顔を顰める。

 

「ギガギギ・・・!!!!」

 

「きゃぁぁぁ!!!!」

 

しかもギガビョーゲンには通用しておらず、体を旋回されただけで吹き飛ばされてしまう。

 

キュン!!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

離れたところで様子を伺っていたスパークルはステッキの肉球を一回タッチして、ギガビョーゲンに向ける。ニャトランの目が光り、胴体の部分に小さなカニの姿があった。

 

「うぇっ、本当にカニじゃん!!」

 

「これ、この前の旅館の客の犬がギガビョーゲンにされたときと一緒だぜ・・・!!」

 

スパークルはラテの言った通り、本当にカニがギガビョーゲンにされていることに驚く。

 

「速やかに浄化しましょう・・・!!!!」

 

アースはそれを聞いて一人ギガビョーゲンへと駆け出す。

 

「ギガギガギガギガギガ!!!!」

 

ギガビョーゲンは口から赤い泡を放つ。アースは避けながらギガビョーゲンへと迫り、飛び上がって攻撃を仕掛けようとすると・・・・・・。

 

「んぅぅぅぅぅぅ・・・・・・!!!!」

 

「うっ・・・・・・!!!!」

 

背中に乗っていたフーミンがアースを睨みながら、口から音波攻撃を放ち、アースは不快音に耳を塞いで動きが止まってしまう。

 

「ギガァ!! ギガギガァ!!!!」

 

「あぁぁぁぁぁ!!!!」

 

その隙をついてギガビョーゲンはアースをハサミで掴み上げると、そのまま海へと投げ飛ばした。

 

「私の眠りを邪魔するものは許さないですぅ・・・!!!!」

 

「ギガギガギガァ!!!!」

 

「「「きゃあぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 

フーミンの怒りに呼応するかのように、ギガビョーゲンは二つのハサミから赤い光線を放ってグレース、フォンテーヌ、スパークルの三人を吹き飛ばした。

 

「ギッガビョ~ゲェェェェェェン!!!!」

 

「「「あぁぁっ!!!!」」」

 

さらにギガビョーゲンはその場から高く飛び上がると、倒れている三人の体にのし掛かった。

 

「うっ・・・・・・!!」

 

「お、重い・・・・・・!!」

 

「潰れるぅ・・・・・・!!」

 

ギガビョーゲンにのしかかられた三人は表情を苦痛に歪める。体を起こそうとしても、その重さによって起き上がることができない。

 

「ふふふっ、いい気味ですぅ♪ そのままそこで這いつくばってるがいいですぅ。ふわぁ~・・・・・・」

 

フーミンは見下ろしながら満面の笑みで嘲笑うとあくびをし始める。

 

「ギガギガギガギガ!!!!」

 

ギガビョーゲンはプリキュアにのしかかった状態のまま、口から泡を吐き出して蝕まれていない場所を赤く染めていく。

 

「ふふふっ・・・ふわぁ~・・・・・・」

 

フーミンはその光景を見て笑みをこぼした後、横になって眠りにつこうとしたが・・・・・・。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ギガギギギ・・・!?」

 

「ひゃっ・・・!?」

 

そこへ海から復帰したアースが強烈な蹴りをお見舞いして、ギガビョーゲン諸共フーミンを吹き飛ばす。

 

「「「アース!!」」」

 

「みなさん、大丈夫ですか?」

 

「うん、ありがとう!!」

 

重みから解放されたグレース、フォンテーヌ、スパークルはアースへと並びギガビョーゲンを見据える。

 

「ギガギギギ・・・・・・」

 

「んぅぅぅ・・・私は眠りたいだけなのにぃ~・・・・・・邪魔をするなら容赦しないですぅ!!」

 

「ギガガァ!!」

 

怒り心頭のフーミンはそう言うと、ギガビョーゲンはハサミから赤い光線を放つ。

 

「「「ぷにシールド!!」」」

 

グレース、フォンテーヌ、スパークルの三人はシールドを展開して赤い光線を防ぐと、その脇からアースが姿を出す。

 

「空気のエレメント!! ふっ!!!」

 

アースはアースウィンディハープに空気のエレメントをセットすると、空気の塊をギガビョーゲンに目掛けて放つ。

 

「んぅぅぅぅぅぅ・・・!!!!」

 

それを見たフーミンが口から音波攻撃を放ち、空気の塊と音波がぶつかり合う。

 

「くっ・・・・・・!!」

 

プリキュア三人は赤い光線を防ぎ続けているが、少し表情が辛くなってきた。

 

「うっ・・・・・・!!」

 

「んぅぅぅんぅぅぅぅぅぅぅ・・・!!!!」

 

アースもフーミンも押し合いを続けているが、お互いに表情が苦しそうだった。

 

「っ・・・・・・!!」

 

ドカァァァン!!!!

 

「ギガギ・・・!?」

 

「ひゃっ・・・!!」

 

と、そこへ黒い光弾のようなものがギガビョーゲンの足元に直撃し、フーミンとギガビョーゲンは動揺して攻撃をやめてしまう。

 

「「「「っ!?」」」」

 

その光景にプリキュア4人も動揺し、攻撃した相手に視線を向けた。

 

「もうやめろ!! フーミン!! 気が済んだだろう? 私はもう疲れてるんだ!!」

 

かすみは暗いピンク色のボトルをステッキにセットして光弾を放ったかすみがそう訴える。

 

「かすみちゃん!?」

 

「ラビ・・・どうなってるラビ・・・?」

 

グレースはかすみが攻撃したことに驚き、ラビリンも少し戸惑っていた。

 

「っ・・・あなたも邪魔するですぅ・・・!?」

 

「違う!! そんなに眠りたいならここに居なくてもいいと言っているんだ!! もう帰ろう・・・!!」

 

「邪魔する奴はあなたでも容赦はしないですぅ・・・!!!!」

 

「ギガギガギガ・・・!!!!」

 

かすみは無人島から帰ろうと促すも、フーミンは話を聞かずにそう言い放ち、ギガビョーゲンは飛び上がってかすみに襲いかかった。それをかすみは飛んで避ける。

 

「そうか・・・・・・そっちがその気なら!!」

 

かすみは地面に着地をした後、手のひらに息を吹きかけて黒い塊を作り出す。

 

「ナノ・・・・・・」

 

生み出されたナノビョーゲンはかすみが持っている黒いステッキに取り憑く。そして、ドクルンからもらったハザードマークの赤色のボトルを取り出す。

 

「プリキュア、インフェクション・・・・・・」

 

かすみは黒いステッキにエレメントボトルをかざし、ステッキのエネルギーを上昇させる。

 

「イルネスレベル、上昇・・・・・・」

 

ステッキの先のハートマークが赤黒く光っていく。

 

「キュアタッチ・・・・・・」

 

ナーノー!!

 

カスミーナは肉球にタッチすると、紫色がかった赤い靄が放出され、カスミーナの体を包み込む。

 

すると、髪型は大きくのびてロングヘアーとなり、ダークパープルのような色へと変わり、リボンの色は銀色になり、前髪に黒色の楕円のようなカチューシャが付けられ、黒色のバラのようなイヤリングが付けられる。

 

服装も赤い靄に包まれたところから変化していき、胸に逆さハートの飾りをあしらったパフスリーブのダークパープルのワンピースへと変わり、手袋は黒色になり、足元は赤黒いショートブーツへと変わった。

 

ナーノー!!

 

「淀み合う二つの災厄!! キュアハザード!!」

 

カスミーナは病気のプリキュア、キュアハザードへと変身を遂げたのであった。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ギガギー!?」

 

「んぅぅぅぅぅ!!!」

 

ハザードはすぐに飛び出すとギガビョーゲンの顔面に飛び蹴りを入れて吹き飛ばす。

 

「ギガギガギガ!!!!」

 

ギガビョーゲンは倒れずに着地をすると、ハサミから赤い光線を放つ。

 

「っ・・・ふっ!!」

 

ハザードは高速で移動して赤い光線を掻い潜っていき、ギガビョーゲンの前で飛び上がる。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ギガ!?」

 

「やぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ギガギギ・・・!!??」

 

「ひゃぁぁぁぁ!!!!」

 

ギガビョーゲンの顔面にパンチを食らわせて怯ませ、さらに蹴り上げて吹き飛ばし、ギガビョーゲンは地面にひっくり返った。振り落とされそうになって悲鳴を上げたフーミンはそのままギガビョーゲンの下敷きに。

 

「ギガギギギギギギギ・・・・・・!?」

 

「うぅ〜・・・・・・」

 

ギガビョーゲンは起き上がろうと足をばたつかせてもがいており、フーミンは目を回していた。

 

「プリキュア!! 今のうちだ!!」

 

ハザードはグレースたち4人にそう呼びかける。

 

「えっと・・・こんなんでいいのかな?」

 

「なんか・・・俺たちの立場がないよな・・・・・・」

 

「あんなにあっさりと倒されちゃうとね・・・・・・」

 

「自信を失くすペエ・・・・・・」

 

「自分の非力さを思い知らされます・・・・・・!」

 

スパークル、フォンテーヌ、アースはハザードが時間を掛けずにあっさりとギガビョーゲンを倒したことに戸惑いを隠せない。

 

「ヘコんでいる場合じゃないラビ!! みんな行くラビ!!!!」

 

「ラテ、お願い!!」

 

「ワフ〜ン!!」

 

グレースがみんなに向かって叫び、ラテが大きく鳴き声を上げる。

 

「「「「ヒーリングっどアロー!!!!」」」」

 

4人がそう叫ぶとラテがステッキとハープ、エレメントボトルの力を一つにまとめた注射器型のアイテム、ヒーリングっどアローが出現する。

 

その注射器型のアイテムに、ハートの模様が描かれたエレメントボトルをセットする。

 

「「「「ヒーリングアニマルパワー!! 全開!!」」」」

 

ヒーリングアニマルたちのダイヤルが回転し、その注射器型のアイテムが4つに別れるとグレースにはラビリン、フォンテーヌにはペギタン、スパークルにはニャトラン、アースにはラテの部分で止まり、グレースたち4人の服装や髪型などが変化し始める。

 

そして、4人の背中に翼が生え、いわゆるヒーリングっどスタイルへと変化を遂げる。

 

「「「「アメイジングお手当て、準備OK!!!!」」」」

 

4人は手に持っている注射器のレバーを引くと、虹色のエレメントパワーがチャージされる。

 

「「「「OK!!!!」」」」

 

そして、パートナーのヒーリングアニマルたちがダイヤルから光となって飛び出し、思念体の状態になって現れ、パートナーに寄り添った。

 

「「「「プリキュア!ファイナル!! ヒーリングっど♡シャワー!!!!」」」」

 

プリキュアたちがそう叫ぶと、レバーを押して4色の螺旋状の強力なビームを放った。4色のビームは螺旋状になって混ざり合いながら、ギガビョーゲンへと向かっていき光へと包み込んだ。

 

ギガビョーゲンの中で4色の光は、それぞれの手になって中に取り込まれていたカニを優しく包み込む。

 

ギガビョーゲンをハート状に貫きながら、4色の光線はカニを外に出した。

 

「ヒーリン、グッバイ・・・・・・」

 

「「「「「「「お大事に」」」」」」」

 

「ワフ~ン♪」

 

ギガビョーゲンが消えたと同時に、海や砂浜などに広範囲に渡って蝕まれていたその周辺が元の色を取り戻していき、無人島はすっかりと元どおりになっている。

 

「さぁ、帰るわよ」

 

「やっと大人しくなったよ・・・・・・」

 

「うぅ〜・・・・・・」

 

クルシーナとハキケイラは目を回しているフーミンの両手を掴んで担ぎながらそう言う。

 

「ふぅ・・・・・・」

 

ハザードは一息つくと変身を解いて、元のかすみへと戻る。

 

「かすみちゃん・・・・・・」

 

「っ!!」

 

そこへグレースが彼女に声をかけてきたので、かすみは振り返る。

 

「えっと、その・・・・・・ありがとう・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

グレースによくわかっていないまでも助けられたお礼を言い、かすみはそれを黙って聞いていた。

 

「今回はたまたまだ・・・今日は休暇だからな」

 

かすみはグレースに背を向けながらそう言った。

 

「カスミーナ、帰るわよ!!」

 

「ああ!! わかった!!」

 

クルシーナはそう叫ぶと、かすみは返事をして歩いていこうとする。

 

「かすみちゃん・・・・・・」

 

「・・・・・・またな」

 

かすみはグレースに少し寂しそうな笑みを浮かべてそう言うと、クルシーナ共々その場から姿を消していったのであった。

 

ビョーゲンズが去った後、ギガビョーゲンから解放された一匹のカニはそのまま海の中へと去っていく。

 

のどかたちはその後もしばらく遊び、気がつけば太陽は沈んでいた。

 

「綺麗・・・・・・」

 

「はちゃめちゃだったけど、これ見れたからいいかなぁ・・・・・・」

 

「みんな、よく遊んでたわね♪」

 

「ワン♪」

 

のどかたちは砂浜に座って、地平線に沈んでいく太陽を見つめていた。

 

「それにしても・・・・・・クルシーナたちは本当に休暇だったのかなぁ?」

 

「どうしてそう思うんだ・・・・・・?」

 

「最初は悪いことしに来たのかなと思ったけど・・・かすみっちがギガビョーゲンを止めてくれたから、本当はそんな気がなかったんじゃないかって思ったんだよね・・・・・・」

 

「そうね・・・・・・単に遊びに来ただけだったのかもしれないわね」

 

「でも、グアイワルは完全にその気だったラビ!! クルシーナたちも怪しいラビ!!」

 

ひなたたちは思えばクルシーナたちが作戦を立てたのは誤解だったのではないかと考え始めた。そう思えたのはかすみがビョーゲンズ側にいながら、ギガビョーゲンの行動を阻止したことにある。しかし、グアイワルは完全に蝕む気満々だったので、どっちなのかと思えてしまう。

 

「・・・・・・悪いことしに来たんじゃないと思うよ」

 

「ラビ?」

 

「しんらちゃんも先生も楽しそうだったし、かすみちゃんは意図して悪いことをするような人じゃないもん。単純に遊んでただけだったと、私は思いたいな」

 

のどかはクルシーナたちをフォローするかのようにそう言う。

 

「のどからしいと言えば、のどからしいラビね」

 

「そうね、私も楽しかったし♪」

 

「「「「ふふふ♪」」」」

 

ラビリンが微笑みながらそう言い、中島先生は満面の笑みを浮かべながらそう言うとみんなで笑みを浮かべた。

 

「・・・ねぇ? もう一回、あれやらない?」

 

「? あれって、どれペエ?」

 

「これっ♪」

 

のどかはそう言って、すっと手の甲を上にして差し出した。これは先ほどやった円陣だった。

 

「・・・はぁっ♪ ラビ♪」

 

「えへへ♪」

 

ラビリンが理解すると笑顔で手に添え、ちゆたちも自分たちの手を重ねた。

 

「プリキュア〜〜!!!!」

 

「ファイ!!」

 

「「「「「「「オ〜!!!!」」」」」」」

 

のどかたちは声を出しながら手を高く掲げ、しばらくの間笑い合っていた。

 

「ふふふっ♪」

 

中島先生はその様子を笑みを浮かべながら、見守っていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜・・・疲れた・・・・・・」

 

廃病院のアジトへと戻ったクルシーナは自分の部屋のベッドで横になっていた。

 

「もうあいつらとは二度と海なんか行くもんか・・・・・・」

 

今日の無人島でのビーチを思い出し、不快感を露わにすると寝返りを打って横になった。休暇は散々だったとしか言いようがなかった。グアイワルの作戦についていっても面白いことは一つもなかったし、おまけにフーミンが暴走してそれを止めるのに走り回されたりもした。

 

だから、ビーチバレー対決を思いつくしかなかったし、かすみがプリキュアに変身して止めざるを得ない状況へと陥ったのだ。あいつら、特にグアイワルとフーミンらといると本当にろくなことがないと思った。

 

「・・・・・・・・・」

 

しかし、そんな中でもクルシーナは中島先生の顔を思い出していた。ビーチバレー対決で、先生もいるから無理して実況役を務めたのだが、隣に中島先生もいた。

 

思い出すのは中島先生の笑顔、解説役をやらせたが、本当に楽しそうだった。

 

「・・・・・・ふふふ♪」

 

クルシーナはそのことを思い出して、心の底から穏やかな笑みをこぼさずにはいられなかった。

 

「クルシーナ・・・何、笑ってるウツ? 気持ち悪いウツ。ふぎぎぎっ!?」

 

「うるさいっ、楽しい思い出に浸ってんのに邪魔すんな♪」

 

クルシーナは笑顔でウツバットを掴むと、両手で顔を強く引っ張る。

 

「ふふふふふふ♪」

 

「ふぎぎぃっ、ふぎぃ〜!! 顔が、顔が伸びるウツ〜!!!!」

 

ウツバットの苦痛の訴えも聞こえていないほど、クルシーナは乙女のような笑みを浮かべていたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第128話「危機感」

原作第36話がベースとなります。
今回はイタイノンがメインスポットとなります。

ちなみに最後はかすみの状況も少し入れていますが、今回の話とは関係ないです。


「イタっち?」

 

「・・・・・・・・・」

 

ビョーゲンキングダムーーーーそこでシンドイーネが誰かの名前を呼んでいるようだが、誰もそれに反応するものはいない。

 

岩の柱の下にはグアイワルが筋トレ道具を作っており、その周囲にはイタイノンが大きな岩の上に座りながらゲームをしている。

 

「ちょっと、イタっち・・・!!!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・イタっち!!!!」

 

「っ? もしかして、私なの・・・・・・?」

 

シンドイーネはどうやらイタイノンを呼んでいたようで、彼女が声を大きく上げてやっと反応を返した。

 

「・・・それ、取ってくれる?」

 

「・・・・・・・・・」

 

シンドイーネはそう言って目先にある孫の手のようなものに指をさすと、イタイノンはを黙ってシンドイーネをじっと見つめる。

 

「・・・・・・自分で取れなの。私はお前の召し使いじゃないの」

 

「何よ~・・・ケチ~・・・!!」

 

イタイノンはすぐに視線をゲーム機に戻すと冷たく言い放ち、シンドイーネは顔を膨らませながら不満を口にする。

 

「じゃあ、ワルっち・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

シンドイーネは変わった呼び方でグアイワルを呼ぶも、彼も自作の筋トレ道具を作るのに夢中で気づかない。

 

「ワルっち・・・!!!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・ワルっちってば!!!!」

 

「っ!? 俺か!?」

 

シンドイーネが大きく声をあげると、グアイワルは自分が呼ばれているだろうことにようやく気づいた。

 

「イタっちがそれ取ってくれないから、代わりに取ってくれる?」

 

シンドイーネは先ほどと同じものを指差すと、グアイワルは少し唸った後にそれを手に取って、シンドイーネに渡した。

 

「って、そうではない!! 何故俺をワルっちと呼ぶ!?」

 

「お前、どうしたの? とうとう相手の名前を覚えられないほどバカになったの?」

 

危うく釣られそうになったグアイワルがそう言い、イタイノンが面倒臭そうに聞いてくる。

 

「そうじゃないわよ!! 今日はキングビョーゲン様にお会いできなくて、テンションが上がらないのよ・・・・・・だから、あんたたちの名前なんて呼ぶのも面倒臭い」

 

「・・・・・・そんなに長々と喋っといて、何が面倒臭いの?」

 

「そうよ。こっちからしてみれば、アンタの方が面倒臭いわよ」

 

「むぅ・・・・・・」

 

シンドイーネの話を聞いていたダルイゼンとクルシーナがそう言うと、シンドイーネは顔を顰めて唸る。

 

「ふんっ。キングビョーゲン様と呼ぶ方が長いわ」

 

「私はパパと呼んでいるから面倒臭くないの」

 

「キングビョーゲン様はいいんですぅ~!! あんたなんかもう『グ』で良いわよ!! この『グ』!!」

 

「なんだと!? ならばお前は『キングビョーゲン様に1ミリも相手にされてなイーネ』だ!!」

 

「はあぁ!?」

 

グアイワルが言い返すと、シンドイーネは近くにあった岩に足をかけてグアイワルを見下ろした。

 

「わたしは!! 『カッコイーネ』だし!! 『アコガレルーネ』だし!! 『スタイルも性格も最高、モテモテで困っちゃう~ネ』だし!! 『いつかキングビョーゲン様とラブラブ~ネ』ですぅ~♡」

 

「・・・・・・・・・」

 

「はぁ・・・・・・もう付き合ってらんないの・・・・・・」

 

「行こ行こ、『メンドクサイーネ』から離れましょ」

 

明らかに自分の世界に入っているシンドイーネに、グアイワルは呆れてその場を離れ、イタイノンとクルシーナは絡むのも面倒になってその場を離れる。

 

「もう名前ですらないし・・・・・・」

 

一人残ったダルイゼンは小さくそう呟いていた。

 

「全く、シンドイーネは相変わらずね」

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・イタイノン?」

 

クルシーナが歩きながらそう話すも、イタイノンは何か考え事をしているかのように黙っている。

 

「・・・そう言えば、変な名前で呼んでくるやつがいたの」

 

「ん? あぁ~、あの黄色いヤツ? 前、アタシのことをしんらっちって呼んでたけどね」

 

クルシーナは、キュアスパークルでもあるひなたがイタイノンを人間時代の名前を文字って『らむっち』という変わった名前で呼んでくること、自分のことも同じように『しんらっち』と呼んでいたことを思い出していた。自分が人間だった頃もそう呼んでいたが・・・・・・。

 

実はひなたの他にも自分を変わった名前で呼ぶ人は、もう一人いた。イタイノンが思い出していたのはその娘だった。

 

「違うの。昔、キュアスパークルと一緒にいた女なの」

 

「いや、誰よ? 女って言われてもわかんないっての」

 

イタイノンはそう言うも、全く見覚えのないクルシーナはそう答える。

 

「どうせお前に言ったってわかんないの。だって、私とキュアスパークルの知り合いなの」

 

「あっそ。別にわかりたくもないけど」

 

そう言いながら離れていくイタイノンに、クルシーナは不機嫌そうな表情で見つめているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日、のどかたちのすこやか中学校では・・・・・・。

 

キーンコーンカーンコーン♪

 

「次の小テストは3日後です。Understand?」

 

「「「「「えぇ~!!??」」」」」

 

「あはは・・・See you」

 

のどかたちのクラスでは英語の授業で行った小テストを返され、さらには3日後だと聞かされた生徒たちは嫌そうな声を出し、先生は苦笑いをしながら教室を後にした。

 

授業が終わった後・・・・・・。

 

「・・・・・・前よりちょっとだけ上がったっ」

 

のどかは返ってきた小テストの結果を見てそう呟く。結果は84点だ。

 

「よーし!! 次はもっと・・・!」

 

次の小テストも頑張ろうとやる気を見せていたのどかがふとちゆの席の方を見る。

 

「・・・・・・・・・」

 

ちゆの机の上には100点満点のテスト用紙が置かれていた。

 

「ふわぁ~!! ちゆちゃんすごい!! 部活も大変でしょ? もしかして、徹夜・・・?」

 

「ふふっ、まさか、授業を真面目に聞いていれば、徹夜なんてしなくても・・・・・・」

 

余裕のあるちゆがのどかにそう話していると・・・・・・。

 

「・・・・・・不公平だぁっ」

 

「ん?」

 

ちゆの前から声が聞こえ、見てみるとひなたがどんよりしたようなオーラを漂わせながら、まるでゾンビのようにぬっと這い出るように顔を出した。

 

「・・・・・・夜中まで勉強してもダメだった、可哀想な子もいるんですよぉ~?」

 

ひなたが死んだ目のような顔をしながらそう言う。そんな彼女の目元にはクマが出来ていた。その表情にのどかとちゆは少し引いていた。

 

「あぁ・・・・・・」

 

「ひなたちゃんは何点だったの・・・・・・?」

 

苦笑いしながらのどかが恐る恐る聞くと、ひなたはちゆの机の上に自身のテスト用紙を静かに置く。結果は32点、のどかやちゆよりも明らかに低かった。

 

「あぁ・・・ま、まぁ、次こそ頑張ればいいのよ!!」

 

「そ、そうだよ! それに勉強が全てじゃないよ! ひなたちゃんは歌も上手いし、洋服のセンスもいいし!!」

 

ちゆやのどかはひなたを励ますが、彼女はクマができたような顔で虚空を見つめていた。まるで生気がないとでも言いたげな表情だった。

 

そんなひなたは昔のことを思い出していた。

 

『明日のテスト全然勉強してないよ〜!! どうしよぉ〜!!!!』

 

『そんなのお前が前もって勉強してないのが悪いの。私はとっくに準備はできてるの』

 

『らむっち〜、なんとかしてよぉ〜!!!!』

 

『この前、教えたって全然できてなかったの。どうせお前には無理なの。諦めるの』

 

『えぇ〜、そんなぁ〜!!!!』

 

「っ・・・・・・」

 

小学校の頃、小テストのための勉強をしていないひなたがらむに泣きつくも、冷たく突っぱねられたことだった。しかも、過去の言葉の一つ一つが今のひなたの心にグサリと突き刺さる。

 

「うぅ〜、嫌なこと思い出しちゃった〜・・・・・・」

 

「嫌なことって・・・・・・?」

 

「昔、全く勉強できなくてらむっちに泣きついたのに、テストが赤点だったこと・・・・・・その次のテストも泣きついたけど、らむっちに見捨てられたことだよぉ・・・・・・」

 

「「あぁ・・・・・・」」

 

ひなたは顔を伏せて泣きそうな声でそう言うと、のどかとちゆは少し引いたような表情をしていた。

 

「あの時はお姉に怒られて、お小遣い減らされたっけなぁ・・・・・・」

 

「えっと・・・ひなた・・・・・・?」

 

「ひなたちゃん・・・・・・?」

 

「っ、あぁ〜!!!!」

 

「「・・・!?」」

 

「これから友達と会う約束してるんだったぁ〜♪」

 

遠い目をしていたひなたにちゆやのどかが声をかけると、ひなたは急に大声を出し、二人は驚いて固まってしまう。

 

「小学校の時に引っ越しちゃった親友でぇ・・・らむっちと一緒に遊んだこともあるんだぁ〜、あっはは♪ め〜っちゃ楽しみ〜っ♪ じゃあ、シ〜ユ〜♪」

 

ひなたは机の上の小テストを取り上げると、えらく上機嫌になって教室を出て行ってしまった。

 

「・・・・・・立ち直り、早いね」

 

「慰める必要・・・・・・無かったわね・・・・・・」

 

残ったのどかとちゆは、帰っていったひなたを呆然と見つめていたのであった。

 

一方、その頃・・・・・・すこやか市の公園にあるベンチには・・・・・・。

 

「はぁ・・・・・・相変わらず、時間守んないし・・・・・・」

 

一人の少女が腰かけてスマホを見た後に、ため息をついていた。

 

「エリザベス〜〜っ!!!!」

 

私服姿のひなたが少女のことをエリザベスと呼びながら駆け寄ってくる。

 

「久しぶり〜!! あっ、それ可愛い〜♪ っていうか、最近どお〜? 元気にしてた〜? お腹空いてない? はいこれ!!」

 

「・・・・・・久しぶり」

 

「えへへ・・・・・・久しぶりっ♪」

 

ひなたは妙に明るく、怒涛の勢いで話しかけた後、持ってきたパンケーキを渡すと少女は少し戸惑う。

 

それから二人はベンチに腰掛けるなり話を始めたのだが・・・・・・。

 

「あ〜ぁ・・・毎日毎日小テスト・・・中学生も楽じゃないよね〜? やる気はあるんだよ? でもやりたいこともありすぎてさぁ〜・・・1つのことに集中できるのは5分が限界だよ・・・・・・」

 

「・・・・・・ふ〜ん」

 

ひなたが一方的に話しているだけで、少女は相槌を打つばかり。若干反応も冷たく感じる。

 

「あっ、ごめん。せっかく会えたのに愚痴っちゃった。で、引越し先どう? 友達できた? 私が最近仲良くしてるのは・・・・・・じゃん♪」

 

ひなたはそう言いながらスマホに保存されていた写真を見せる。

 

「こっちがのどかっちで、こっちがちゆちー♪ えへへっ♪ 友達の写真とかあったら、エリザベスも見せてっ♪」

 

「・・・・・・あのさぁっ!!」

 

「・・・・・・えっ?」

 

「・・・・・・エリザベスってやめない? もう小学生じゃないし、えりこって名前あるし・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

自慢げに話していたひなたの話を打ち切って、エリザベスーーーーえりこはスカートの裾を握りしめながらひなたに言う。

 

「・・・・・・それにさぁ、ラモーナ・・・らむはどうしたの?」

 

「っ・・・らむっち、は・・・・・・」

 

えりこがこの場にいないらむの話をし出すと、ひなたは目を見開いた後に、辛そうに顔を俯かせる。

 

「らむ・・・まだひなたのところにいるはずだよね・・・?」

 

「・・・・・・病院に入院してるんだ・・・・・・ずっと、長い間」

 

「すこやか市の病院・・・・・・?」

 

「ううん、別の町の、病院だよ・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

ひなたが言葉を詰まらせながらも話す。らむがビョーゲンズのイタイノンになったと言えるわけがなかった。なので、病院に入院している程で彼女に話すしかなかった。

 

「・・・・・・ねぇ、なんで教えてくれなかったの?」

 

「っ・・・・・・」

 

「ひなたもらむも、友達でしょ? なんで・・・・・・?」

 

「・・・・・・エリザベスを・・・悲しませたくなかったから・・・かな・・・・・・」

 

「っ・・・・・・!」

 

ひなたのその言葉を聞いたえりこは少し顔を顰めた。

 

「・・・そろそろ用事を済ませてくるわ。じゃあ・・・元気でね・・・・・・」

 

「う、うん・・・・・・」

 

えりこはベンチから立ち上がってそう言って去っていく。

 

「またね〜・・・・・・」

 

ひなたはそう言いながら手を振って見送る。

 

「なんだあいつ? ノリ悪ぃなぁ〜・・・・・・」

 

少し離れたところでニャトランがひょっこりと顔を出してそう言う。

 

「・・・・・・エリザベス」

 

去っていくえりこの背を見ながら、かつて呼んでいたあだ名を呟いたひなたの表情はどこか寂しげだった。

 

「・・・ふん、相変わらず愛想のないやつなの」

 

その様子を離れたところで、パンケーキを摘みながらイタイノンがたまたま見つめていた。

 

「あれも・・・イタイノンの人間時代のお友達ネム?」

 

「・・・・・・昔の話なの」

 

ネムレンがそう尋ねると、イタイノンは瞑目しながら淡々と話し始めた。

 

『これお前にやるの』

 

『えっ・・・これって?』

 

『見ればわかるの。私が持ってる髪飾りなの。同じの持ってるからお前にやるの』

 

『い、いいの・・・・・・?』

 

『っ、いいから黙って受け取ってろなの・・・!!』

 

『・・・・・・ありがとう、ラモーナ』

 

『っ・・・べ、別に大したことじゃないの!!』

 

えりこが引っ越す前、二つの緑色の四角い形とハート型の形がついた髪飾りをプレゼントしたのだ。その時に自分は「ラモーナ」という変わった名前で呼ばれていた。

 

「あいつ・・・あの髪飾りを今も付けてたの。そんなの捨てればいいのに、なの」

 

「イタイノンのことをまだ友達だと思ってるネムよ」

 

「・・・・・・私に友達なんかいらないの」

 

イタイノンはネムレンの言葉に素っ気なく返すと、そのまま背を向けてその場を後にしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

翌日、学校でひなたはのどかたちに昨日の出来事を話し、学校の机に突っ伏していた。

 

「そっかぁ・・・・・・久しぶりにあったお友達がそんな感じだったんだ」

 

うつ伏せのひなたにのどかがそう話すと、ひなたが急に顔をあげた。

 

「・・・・・・私、勉強する」

 

「えっ・・・・・・?」

 

「また唐突に・・・・・・」

 

「時の流れは残酷だから・・・・・・もし・・・・・・もし、あたしたちが別々の高校に進学したら・・・・・・」

 

ひなたがそう言うとのどかとちゆは少し驚いたような顔をすると、ひなたは自身の未来を想像し始めた。

 

『ハロ〜、ちゆちゃ〜ん!』

 

『あら、のど〜か。高校生らしく英語で挨拶なんて、トレビアンね』

 

『そういうちゆちゃんはフランス語?』

 

『『オ〜ッホホホホホ!!』』

 

高校生のような格好にメガネをかけた2人はそう言いながら笑っていた。

 

『おっはよ〜!』

 

そこへ抜けた様子のひなたが現れると、華やかな空気が一変した。

 

『・・・・・・誰?』

 

『ほら、中学の頃仲良しだったけど・・・聞いたことのない高校に進学した・・・ひ、ひな、ひ、ひな・・・・・・名前なんだっけ?』

 

『あー、そんな人もいたねぇ・・・・・・』

 

『すっかり忘れてたわ・・・・・・さっ、行きましょ?』

 

『そんなぁ〜・・・・・・待ってぇ、待ってよぉ〜〜・・・・・・』

 

ひなたを置いて去っていくのどかとちゆに、ひなたは涙ながらに呼び止めようとするが、二人は無視してそのままスタスタと去っていってしまった。

 

・・・という、未来をひなたは想像した。

 

「・・・きっとあたしたち、友達でいられなくなっちゃうよぉ〜!!!!」

 

「・・・無いっ!」

 

「そうだよ・・・そんな未来あり得ないよ!! 一生友達って約束したでしょ?」

 

ひなたが頭を抱えるとちゆは顔をしかめながら断言し、のどかもその未来を否定した。

 

「でも、エリザベス・・・じゃなかった。えりこには5年会わないだけで、すっかり他人になっちゃったし・・・・・・らむっちもあたしの前からいなくなっちゃったし、今は悪いやつになってるし・・・・・・」

 

「「・・・・・・・・・」」

 

不安げな様子のひなたを見て、のどかとちゆは顔を見合わせる。えりこはひなたにそっけなくなっていたし、らむに至ってはビョーゲンズのイタイノンになってしまっている。

 

友達がいなくなってしまう・・・・・・ひなたには不安しかなかった。

 

すると、ひなたは勢いよく机を叩いて立ち上がった。

 

「だから決めた!! あたし・・・のどかっちたちと一緒の高校に行く!! そのためなら勉強頑張れる!! あたし、今度こそ本気出す!!!!」

 

目に炎を灯しながらやる気を見せるひなたはその日から勉強をすることにした。

 

そして・・・・・・放課後のひなたの部屋・・・・・・。

 

「必勝ぉ〜〜〜っ!!!!」

 

頭に「必勝」と書かれた鉢巻を巻いて、ひなたはそう叫びながら勉強し始め、ニャトランはそれを見守っていた。

 

ところが、数分後・・・・・・。

 

「えへ、えへへへ・・・・・・」

 

ひなたはベッドに寝転がりながら、漫画を読んでいた。その時間は明らかに勉強時間よりも長かった・・・・・・。

 

ーーーーおい!漫画なんか読んでるんじゃないの!!

 

「ひぃっ!? ダメだぁ〜!!!!」

 

「っ!?」

 

らむの怒鳴られる声が聞こえてきそうな気がしたひなたは小さく悲鳴を上げて飛び起きながら叫び出し、それにニャトランがびっくりするほどだった。

 

「必勝ぉぉぉぉぉ!!!!」

 

ひなたは再び机に向かいながら勉強を始めた。

 

ところが、またその数分後・・・・・・。

 

「・・・・・・星5のカード、全然出ないなぁ」

 

ひなたは机に座ったまま、だらけきった様子でスマホのゲームで遊んでいた。

 

ーーーー勉強はどうしたの・・・・・・?

 

「っ!!?? 集中集中!!!!」

 

らむの光の灯ってない目をした顔が目の前に浮かんだ気がしたひなたは驚くと、今度は自身の周りにあるスマホや漫画、雑誌などを段ボールに詰め込んでいく。

 

「・・・・・・これでよしっと!!」

 

しっかりとガムテープで開けられないように閉じ、勉強を始める・・・・・・。

 

「はぁ〜、ちょっとだけ寝よ〜っと♪」

 

・・・・・・なのかと思いきや、ひなたはベッドに横になって寝ようとしていた。

 

「ダメだこりゃ・・・・・・」

 

その様子を見てニャトランは呆れるばかりであった。

 

ーーーいい加減にしろなのっ!!!!

 

「うわぁぁぁぁっ!!! ごめんなさ〜い!!!!」

 

らむの激怒したような声が聞こえてきた気がしたひなたは飛び起きて、慌てて机と戻って行くのであった。

 

一方、そんなひなたの部屋の窓から覗くものが・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

羊の妖精姿になっていたネムレンはその様子を少し引いたような顔で見ていた。

 

そして、屋根の上へと飛んでいき、そこにいたイタイノンの元に戻る。

 

「・・・・・・どうだったの?」

 

「勉強ちっともできてないネム・・・・・・」

 

「・・・・・・はぁ」

 

ネムレンの報告を聞いたイタイノンはため息をつき始める。本当に小さい頃から何をやっても続かないことは全然変わってない。

 

イタイノンは夜空を見つめながら、昔のことを思い出していた。

 

『・・・・・・おい』

 

『っ!? な、何・・・?』

 

『勉強はどうしたの・・・・・・?』

 

『えっと、これは、その・・・休憩で・・・・・・』

 

『さっきも休憩してたの。ちっとも勉強が捗ってないの。漫画ばっかり読んでんじゃないの!!』

 

『あっ・・・・・・!?』

 

『この問題ができるまでお預けなの』

 

『えぇ〜、そんなぁ〜・・・・・・』

 

小学生の頃、人間時代のイタイノンはひなたに勉強を教えていた。ところが、ひなたの姉のところにジュースを取りに行った後、目を離したひなたは漫画を読んでいたのだ。問題には一つも手をつけずに・・・・・・。

 

少し苛立ったので、ひなたから漫画を取り上げて、勉強するように促したのだが・・・・・・。

 

『ここはこう解いて・・・・・・ん?』

 

『すぅ・・・すぅ・・・すぅ・・・』

 

『・・・・・・・・・』

 

バシッ!!!!

 

『いったぁ! うぇっ? 何・・・!?』

 

『寝るななの!! 私が解き方を教えてるのに・・・!!!!』

 

解き方を教えている最中も、ひなたはテーブルに突っ伏して眠っており、顔を顰めながら彼女を叩き起こしたこともある。

 

『ぐ〜・・・・・・』

 

『っ・・・・・・いい加減にしろなのっ!!!!』

 

『ひぃっ!?ごめんなさ〜い!!!!』

 

しまいにはいびきをかいて寝ていたため、何度も勉強に手をつけないことを繰り返すひなたに堪忍袋の緒が切れて怒鳴り、ひなたは悲鳴を上げていたのであった。

 

「・・・・・・・・・」

 

今、思い返せば、ひなたとの勉強はロクな思い出がなかったと遠い目をする。こんなのではあいつが過去に受けていた習い事も続かないわけで・・・・・・。

 

あの時から、勉強を教えるのも諦めた・・・・・・気がする・・・・・・。

 

「・・・・・・はぁ」

 

「イタイノンも苦労していたネムね・・・・・・」

 

イタイノンは再度ため息をつくと、ネムレンは同情するかのように言う。

 

「あいつの勉強を教えることなんか、苦労しかないの。達成感がまるでなしで、くたびれただけなの・・・・・・」

 

イタイノンはそう呟いていた。

 

その後もネムレンは様子を見ていたが、ひなたは勉強をしようとして、だらけるばかりの繰り返しなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、のどかたちのクラスは体育の授業でグラウンドにおり、自分たちの番が来るまで待機していた。

 

「・・・・・・・・・」

 

そんな中、ひなたは昨日よりも落ち込んだ様子で膝を抱えており、のどかたちはそれを心配な様子で見ていた。

 

「・・・・・・大丈夫?」

 

「うぅぅ・・・・・・」

 

のどかが声をかけるも、ひなたは膝に顔を埋めたまま辛そうに唸っている。結局、勉強しようとしたが長続きはせず、しかも徹夜になったために元気もない様子だった。

 

「やる気はある・・・でもやり方がわからないって感じ?」

 

「・・・うん・・・・・・それかも・・・・・・」

 

ちゆの問いに、ひなたはそう答えた。

 

「ちなみに・・・どんな参考書を使ってるの?」

 

そんなちゆの問いは、のどかたちの体育の授業が終わった後の休み時間でわかった。

 

のどかとちゆはひなたの持つ参考書を見てみると・・・・・・。

 

「記憶力が良くなるお料理レシピ・・・・・・?」

 

「試験で緊張しない呼吸法・・・・・・」

 

「運を磨いて三択問題に勝つ・・・・・・」

 

「鉛筆転がしの極意・・・・・・」

 

机の上に広げられた参考書を見て呆然とするのどかたち。どれも勉強では役に立ちそうにないものだが・・・・・・。

 

「ふわぁ〜、これ面白そ〜♪」

 

「でしょ〜?」

 

「・・・・・・・・・」

 

のどかが鉛筆転がしの極意の本に興味を持ち、ひなたが相槌を打つとちゆはそれを呆れたように見つめる。

 

「どれも役に立たないわよ・・・この参考書・・・・・・」

 

「うぇっ、そうなの・・・!?」

 

ちゆは言いにくそうに呟くと、ひなたは驚く。

 

「・・・・・・こうなれば、もうみんなでひなたに教えるしかないわね」

 

「じゃあ、今日は学校が終わったらひなたちゃん家で勉強会だね」

 

「そうね。それで行きましょう」

 

「ありがとう、みんなぁ〜っ!!!!」

 

ちゆがそう提案すると、のどかもそれに賛同し、ひなたは感激の声を発した。

 

こうして、放課後、みんなでひなたの家で勉強を教えることになったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃・・・・・・廃病院のアジトでは・・・・・・。

 

「かすみ」

 

「っ?なんだ・・・・・・?」

 

「お父さんがあなたを呼んでいます」

 

「私をか・・・・・・?」

 

ドクルンがかすみの部屋の扉を開いてそう告げると、かすみは少し困惑したような反応を見せていた。

 

「えぇ、行きますよ」

 

「・・・・・・わかった」

 

ドクルンが来るように手招きをすると、かすみは部屋の外へと出ようとする。

 

「!? うっ・・・くっ・・・・・・!」

 

その時、かすみの瞳が緑色から赤色に点滅が始まり、かすみは片膝をつくと胸を抑えて苦しみ始めた。

 

「?どうしたんですか?」

 

「うっ・・・・・・そろそろ・・・あいつが・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

ドクルンが振り向いて聞くと、かすみはなんとか言葉を紡いで答えるとドクルンは無表情でかすみを見据える。

 

「ドクルン・・・・・・」

 

「なんですか?」

 

「例のものは・・・・・・出来たのか?」

 

「・・・・・・・・・」

 

かすみはそう尋ねるとドクルンは黙って少し見つめた後、かすみに近づく。

 

「・・・・・・手を出してください」

 

ドクルンは淡々とそう言うと、かすみは胸を抑えていない方の手を差し出す。ドクルンはそこにあるものを渡す。

 

それはピンク、水色、紫色の禍々しい色に輝くかけらのようなものだった。

 

「私たち三人の力を練りこんで作ったテラパーツです。これであなたの中のカスミーナの動きを抑制できるでしょう。例え表に人格が現れたとしても・・・・・・」

 

「すまない・・・・・・ドクルン、この借りは・・・・・・」

 

「結構です。私には本当に何のメリットもないですから。早くそれを自分の中に入れてください。もう起きる頃なんでしょう?」

 

かすみのお礼の言葉を突っぱねると、早くそれを入れるように催促するドクルン。

 

「よし・・・・・・これで・・・・・・っ・・・!!」

 

かすみは動かなくなりそうな体をなんとか動かして、自分の胸の中にそのテラパーツを埋め込む。

 

「・・・・・・さぁ、行きますよ。モタモタしてるとお父さんもうるさいですから」

 

「あぁ・・・わかってる・・・・・・」

 

ドクルンはそれを見届けると先へと歩いていき、かすみも胸を抑えながら立ち上がってドクルンのあとをついていく。

 

そんなかすみの瞳は緑色から赤へと変わりつつあった。これはカスミーナが目を覚まして、再び人格を取り戻そうとしている予兆だ。

 

(カスミーナ・・・・・・お前に好き勝手はさせないぞ・・・・・・!!!!)

 

それでもかすみの表情からは戦うという意思は無くなっていないのであった。これも全てはのどかを守るために・・・・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第129話「勉強」

前回の続きです。
勉強を始めるひなた、えりことの話し合い、そして・・・・・・。


 

その日、のどかたちは学校の放課後、ひなたに勉強を教えることになり、アスミと一緒にひなたの家へと向かった。

 

「あぁ・・・・・・」

 

「あはは・・・・・・」

 

「むぅぅぅぅぅ・・・・・・」

 

のどかとちゆは苦笑いをし、ひなたは恥ずかしそうに顔を赤くしていた。

 

「あっはっはっは♪」

 

その中には、ひなたの父親であるてるひこが笑顔でいたのだ。

 

「ひなたのテスト勉強に付き合ってくれるんだって? 自分の勉強だってしなくちゃいけないのに、悪いね~、はははっ♪」

 

「こちらこそ、突然押しかけちゃってすみません・・・・・・」

 

「一緒の方が、私も捗るので・・・・・・」

 

「ふふっ、うちのひなたは勉強は苦手だけど、友達を作る才能はあるんだよなぁ~♪ 昔、友達に扱かれてたけど、あんまり成績は振るわなかったんだよなぁ・・・・・・」

 

のどかとちゆに、てるひこは嬉しそうな表情でそう語る。

 

「パパ!! 余計なこと言わないでよっ!! ほら出てって!! しっしっ!!」

 

「はいはい。ちょっとごめんね」

 

「? ワン♪」

 

ひなたは恥ずかしそうに部屋を出て行くように指示をすると、てるひこは膝に乗っていたラテに降りてもらい、立ち上がって部屋を出て行こうとする。

 

「・・・・・・じゃあねっ♪」

 

「シャ~~~っ!!!!」

 

てるひこは部屋を出る前にピースでキメ顔をすると、ひなたは威嚇するような仕草を見せててるひこを追い出した。

 

「はぁ・・・・・・」

 

ひなたはため息をつきながらも、のどかたちと勉強会を始めた。

 

「・・・・・・それで、わからないところはどこ?」

 

「っ・・・わからないところがわからない!!」

 

「? わからないところがわからないってどういうことなのかがわからないんだけど・・・・・・」

 

「うぇっ? わからないところがわからないのがわからないってのがわかんないし・・・・・・」

 

「どうしてっ!? わからないところがわからないっていうのがわからないのがわからない方がわからないわ・・・・・・!?」

 

ちゆとひなたは勉強をするどころか、お互いにちょっと変わったような、終わりそうにない言い合いになっていた。

 

「・・・これいつまで続くラビ?」

 

「あはは・・・・・・」

 

ラビリンが冷めたような表情でそう言うと、のどかは苦笑いをするしかなかった。

 

「あぁ・・・あれじゃあ、いつまで経っても終わらないネム・・・・・・」

 

その様子を窓から覗いていたネムレンは一人心配そうな表情で見つめていた。

 

その後、少し暗くなり始めた頃・・・・・・。

 

「・・・・・・例えばね。この『Satisfaction(サティスファクション)』って単語を見ると、サティスさんっていう外国の人が、『ファクション』ってくしゃみをしているビジュアルが思い浮かばない?」

 

「えぇ・・・・・・?」

 

のどかの英単語を教えていたが、その方法が独特なものだったためにちゆは少し戸惑う。

 

「浮かぶ!! めっちゃ浮かぶ!!」

 

「えっ・・・・・・!?」

 

ひなたがそれがわかったように納得しており、ちゆは驚いた。

 

「でね。くしゃみをすると、すっきり満足するでしょ? だから、satisfactionは満足って覚えられるよ♪ サティスさん、お大事に」

 

「お大事にぃ~・・・って、そんなやり方で本当に覚えられんのかよ!?」

 

のどかがそう教えると、ニャトランもノリツッコミを入れる。

 

「・・・覚えられるっ。のどかっち式連想暗記法、め~っちゃ、あたし向きかも!!」

 

「本当に!? じゃあ、このhundred(ハンドレッド)。百って単語を覚えてみよう?」

 

「うんっ!」

 

ひなたはそう答えると、のどかの指摘した単語をのどかの暗記法で実践して見ることにした。

 

「hundredで思い浮かぶビジュアルといえば・・・?」

 

「ハンド、手♪」

 

「うん♪」

 

「手といえば、指が5本!」

 

「うん♪」

 

最初までは良かったのだが・・・・・・?

 

「ゴホンといえば、風!」

 

「うん・・・・・・」

 

「風邪といえば、熱!」

 

「う、うん・・・・・・?」

 

「熱といえばお湯、お湯といえばお風呂、お風呂といえばシャンプー! シャンプーといえばコンディショナー、コンディショナーといえばトリートメント! トリートメントといえば~!!!!」

 

ひなたは途中から連想するような単語を言っているだけ・・・・・・しまいには・・・・・・。

 

「あれ? 何の話をしてたんだっけ?」

 

「ひなたぁ!!」

 

「ごめんごめん!!」

 

本来の目的すら忘れてしまい、ちゆは咎めるように叫ぶとひなたは平謝りをした。

 

「う~ん・・・・・・・・・」

 

その様子を窓から見ていたネムレンは呆れたような表情となっており、屋根の上へと飛んでいく。

 

「・・・・・・・・・」

 

「プリキュア同士でも、上手くいってないネム・・・・・・」

 

「・・・・・・はぁ。やっぱりあいつに教えるのは時間の無駄なの・・・・・・」

 

言わずもがなといった感じでイタイノンがネムレンをみると、ネムレンはそう言い、イタイノンは首を振りながらそう呟くしかなかったのであった。

 

その後、勉強会を終えたのどかたちはひなたの家で泊まることになり、ひなたの部屋で布団を敷いていた。

 

「・・・・・・そもそものお話になってしまうのですが・・・・・・」

 

「・・・うん?」

 

「別々の学校に通うと、本当に友達ではいられなくなってしまうのでしょうか?」

 

ふとアスミは眠るラテを膝に乗せながら、寝る準備をしていたひなたにそう尋ねた。

 

「・・・結局、そこに戻るのよね」

 

「でもエリザベス、じゃなくてえりこはさぁ・・・・・・あっ、そうだ! のどかっちは転校前の学校の友達と、今でも仲良しだったりする?」

 

ひなたがのどかにそう尋ねる。

 

「私は、あんまり学校にいけなかったからなぁ・・・でもね? 病院で出会ったみんなとは、今でも時々お手紙のやりとりしてるよ♪」

 

「・・・・・・それはしんらっちともやってたの?」

 

「っ・・・うん、本当はお見舞いに行きたかったんだけどね」

 

楽しそうに思い出しながら話をするのどかだが、ひなたにしんらのことを指摘されると一転して寂しそうな表情をし出した。

 

「でも退院した後に、すぐに引っ越すことになって・・・それっきりなんだ・・・しんらちゃんとは・・・・・・」

 

「あっ・・・ごめん。辛いことを思い出させちゃってっ」

 

「ううん・・・いいの・・・・・・しんらちゃんには今も会えてるから、ビョーゲンズとしてだけど・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

辛そうに話すのどかにひなたが謝罪すると、のどかは首を振りながら答えた。

 

「あたしも・・・えりこがいなくなった後、らむっちと一緒にいたけど、急に具合が悪くなって、それっきり別れちゃって・・・・・・で、今、ビョーゲンズになってた・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「それで、別れたらもう友達じゃなくなるんじゃないかって思って、でもあたしは今でも友達だと思っててっ!! えりこもそうだけど、らむっちもそう!! でもえりこも変わってて・・・らむっちも敵になってて・・・・・・」

 

ひなたが心配そうな表情で話していると、そんな彼女の肩にちゆが手を置く。

 

「ひなた・・・・・・らむさんがビョーゲンズになったのはひなたのせいじゃないし、誰も悪くないわ・・・・・・」

 

「ぁ・・・・・・」

 

「それに勉強も大事だけど、いまはえりこさんときちんと話す方がいいんじゃないかしら?」

 

「メールを送ってみたらどうラビ?」

 

「ん・・・・・・」

 

ちゆはひなたにそう言うと、ラビリンと一緒に提案するが、ひなたはどうやら連絡を取ることに迷っている模様。

 

「グジグジ考えたって仕方ねぇだろ? 俺がえりこにメールしてやる!!」

 

ニャトランはそう言いながら、ひなたのスマホをいじり始めた。

 

「あっ!? ちょっ、待って!!!!」

 

「へへ~っ♪」

 

ひなたはそんなニャトランを止めようとするも、ニャトランは頭の上にスマホを乗せながら空中を飛んで逃げ回る。ひなたもそれを追って室内を走り回り始めた。

 

「待って待ってぇ!!」

 

ドタン!!!!

 

「わぁっ!!」

 

「ニャトラン、無理無理っ。返してっ!!」

 

「へへ~ん♪」

 

物音を立てながら動き回り、ちゆはびっくりしてしまう。

 

「ラテ様が起きちゃうペエ・・・・・・」

 

そんな二人にペギタンは注意をし始めた。その時だった・・・・・・。

 

ピロリロ♪ ピロリロ♪

 

「ニャ?」

 

ひなたのスマホが鳴り出して、ニャトランが動きを止める。その隙にひなたはスマホを取り返して、画面を見てみた。

 

「・・・・・・えりこからだ」

 

「えっ・・・・・・?」

 

「何て・・・・・・?」

 

「『明日、用事があってまたそっち行く』って・・・・・・」

 

「それで・・・・・・?」

 

「『時間があえば会おう』・・・っ・・・・・・」

 

ひなたはえりこから送られてきたメールを読み、その言葉が止まった。

 

「どうした・・・・・・?」

 

ひなたに異変を感じたニャトランが尋ねると、ひなたは寂しそうな表情をしながらも次の文を読んだ。

 

「・・・・・・『ラモーナのことも聞かせて』って・・・」

 

「ラモーナ・・・・・・?」

 

「もしかして、らむさんのこと・・・・・・?」

 

ちゆにそう聞かれて頷くと、ひなたは昔のことを思い出す。

 

『うぅぅぅ・・・バイバイ、ナターシャ、ラモーナ』

 

それはらむと二人でえりことお別れした日のこと、えりこは涙ぐみながらひなたとらむの二人の手を取り、笑顔でそう言った。

 

そして、くるりと背を向けて駆け出し、そのまま家族の乗る車へと乗り込むと、その車は静かに走り出していく。

 

『エリザベスとナターシャは、えいえんにしんゆう~!!!!』

 

ひなたも涙を溜めながら笑みを浮かべて手を振り、去っていくえりこを見送った・・・・・・。

 

『・・・・・・・・・』

 

一人背を向けていたらむは少し顔を振り向かせると、口元に薄く笑みを浮かべながら『またね』と口パクで言いながら手を振った。

 

「・・・・・・・・・」

 

昔のことを思い出したひなたは・・・・・・。

 

「・・・・・・あたし、もう1回会ってみる。エリザベスとナターシャ、らむっちは永遠だもんっ!! らむっちのことはあまりよく言えないけど・・・それでも会うもん!!」

 

「「・・・・・・ふふっ」」

 

ひなたはもう一度えりこに会ってみることを決意し、それを聞いたのどかたちは微笑んだ。

 

「お話がまとまりましたね」

 

「ありがとっ、アスミン♪」

 

ひなたはアスミにお礼を言った。

 

「ところで、ナターシャというのは誰のことですか?」

 

「・・・・・・えっ?」

 

アスミはナターシャがひなたのことだとわかっていなかったようであった。

 

「・・・・・・・・・」

 

ネムレンはその様子を見た後、屋根の上にいるイタイノンの上へと飛んでいく。

 

「・・・・・・・・・」

 

「えりこさんと会うみたいネム・・・・・・」

 

「そう、なの・・・・・・」

 

ネムレンの報告に、イタイノンは然程興味もなさそうにそう呟いた。ネムレンはその様子を心配そうに見つめていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、学校が終わって、ひなたはえりこに会いに以前から待ち合わせていた公園へと向かった。

 

気になっていたのどかたちは木の影に隠れて見守っていたが・・・・・・。

 

「「・・・・・・・・・」」

 

ひなたとえりこはベンチに座ってから、何も話す様子がない。

 

「えっ、え〜っと・・・・・・もう、こっちの用事って済ませたの?」

 

「・・・・・・まだ」

 

「そ、そっかぁ・・・あははは・・・・・・」

 

ひなたから話を切り出そうとするも、会話はすぐに終わってしまい、中々本題に入れずにぎこちない様子だ。

 

「き、気まずい空気ペエ・・・・・・」

 

「えりこのやつ、話すことないならどうしてひなたをよびだしたんだよ〜!! これじゃあ、ひなたが可哀想だぜ!!」

 

「し〜っ・・・!!」

 

ひなたたちの様子を見てペギタンやニャトランがそういうと、のどかが静かにするように静止した。

 

その頃、二人は・・・・・・。

 

「らむは、入院してるんだよね・・・・・・」

 

「そ、そうだよ・・・・・・」

 

「・・・・・・この場に一緒に居られればよかったのに」

 

「っ・・・・・・」

 

次はえりこかららむの話を持ち出すも、今度はえりこがボソリと呟いた言葉に二人が暗くなる。

 

「らむのこと、なんで話してくれなかったの?」

 

「うぇっ、えっと、それは・・・・・・」

 

「私たちって、友達じゃなかったの?」

 

「うぅぅぅぅ・・・・・・」

 

少し険しい顔をしたえりこがひなたに問い詰めると、ひなたは頭を抱え出す。ビョーゲンズのことをえりこに言えるわけがないし、病院に入院をしているとしか言い訳をするしかなかった。

 

「それは・・・・・・えりこを心配させたくなかったから・・・・・・」

 

「・・・・・・それ本当?」

 

「えっ・・・・・・」

 

「だって、入院したんだったら、私にすぐ連絡はできるよね? どうして、しなかったの?」

 

「うぅ・・・あぁ、えぇ・・・・・・」

 

ひなたは言い訳をするも、えりこに正論を言われて余計に辛そうな表情をする。

 

「何か、悪い雰囲気ですね・・・・・・」

 

「クゥ〜ン・・・・・・」

 

「イタイノンのことだなんて言えないとなるとなぁ・・・・・・」

 

アスミとラテ、ニャトランは二人の仲が良からぬ方向に行っていることに心配そうに見つめていた。

 

(ダメだ・・・・・・やっぱりあたしたち、もう終わっちゃったんだぁ・・・・・・)

 

ひなたは雰囲気が暗くなるにつれ、仲直りをするのを諦めてしまっていた。

 

「ごめん・・・やっぱ、あたし帰る・・・・・・!」

 

「えっ・・・!?」

 

ひなたはその場から立ち上がって帰ろうとし、えりこは驚いた表情を見せた。

 

帰ろうとするひなたを見て、のどかたちが心配そうに見つめていると・・・・・・。

 

「・・・・・・クチュン!!」

 

「「「「「「・・・・・・!?」」」」」」

 

ラテの体調が悪くなり、のどかたちはハッとしたような表情でラテを見つめる。

 

「っ、待ってーーーー」

 

ズドォォォォォォン!!!!

 

「うわっ!?」

 

それと同時に地響きがひなたとえりこの近くで鳴り響き、二人が見上げると・・・・・・。

 

「あっ!!」

 

「メガ、ビョ〜ゲ〜ン!!!!」

 

ウサギのような頭部と松の木のような体をしたメガビョーゲンが姿を現した。

 

「キングビョーゲン様にお会いするためにも、思いっきり蝕んじゃいなさい!! メガっち!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

「ん? ほらメガっち!!!!」

 

「メッ、メガッ・・・!?」

 

メガビョーゲンの足元にいたシンドイーネは、メガビョーゲンを変わった名前で呼ぶが、メガビョーゲンは自分のことを呼ばれたと思っていたなかったようで、困惑するような反応を見せた。

 

「何あれ・・・!?」

 

「こんな時に・・・・・・!!」

 

「メガビョーゲェェェン!!!!」

 

ひなたたちが見つめる中、メガビョーゲンは口から赤い光線を吐き出して公園の木々を蝕み始めた。

 

「ナターシャ、こっち!!」

 

「うぇっ?」

 

すると、えりこはひなたの手を取って共に公園から避難し始める。メガビョーゲンはなんとひなたたちが逃げた方向へと進み始めた。

 

「ニャッ!? ヤバい!!」

 

「みんな!!」

 

のどかが声を上げるとみんなは頷き、変身アイテムを取り出す。

 

「「「スタート!」」」

 

「「「プリキュア、オペレーション!!」」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ラテ!!」

 

「「「キュアタッチ!!」」」

 

ラビリン、ペギタンがステッキの中に入ると、のどか、ちゆはそれぞれ花のエレメントボトル、水のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

アスミは風のエレメントボトルをラテの首輪にはめ込む。すると、オレンジ色になっているラテの額のハートマークが神々しく光る。

 

のどかとちゆは、肉球にタッチすると、花、水をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、水色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ちゆは水色へと変化する。

 

ラテとアスミは手を取り合うと、白い翼が舞い、ラテが舞ったかと思うとハートの中から白い白衣のようなものが飛び出す。

 

その白衣を身に纏い、ラテが降りてきたかと思うとハープが飛び出し、さらにアスミは紫色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

衣装にチェンジした後、ハープを手に取り、その音色を奏でる。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「時を経て繋がる、二つの風!」」

 

「キュアアース!!」

 

「ワン!」

 

アスミは風のプリキュア、キュアアースへと変身した。

 

プリキュアに変身したひなたとえりこを助けるべく、メガビョーゲンの阻止へと向かった。

 

一方、ひなたとえりこの二人は・・・・・・。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

えりこはひなたの手を引っ張って走っていく。

 

「メガァ〜!!!!」

 

そこへメガビョーゲンが向かっていく。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「メガッ・・・!?」

 

そこへグレースがメガビョーゲンの顔面にキックを放ち、メガビョーゲンを地面へと倒した。

 

「今のうちに!!」

 

「ありがと!!」

 

グレースが指示をすると、ひなたはお礼を言い、えりこは遠くへと避難していく。

 

「メガビョーゲェェェェン!!!!」

 

直後に起き上がったメガビョーゲンはグレースに目掛けて木のような両手から松の葉を弾丸のように飛ばす。

 

「っ・・・!!!!」

 

「メッガ!!!!」

 

「あぁ・・・!!」

 

グレースはそれによって体勢を崩してしまい、メガビョーゲンは右腕を振り下ろしてグレースを地面に叩きつけるも、グレースはなんとか体勢を立て直して地面に着地する。

 

「あっはっは♪ どこまでやれるのかしらね? アリキュア」

 

「? アリキュア?」

 

「っ、アリみたいにちっぽけって意味!! さぁ、踏み潰しちゃいなさい!!」

 

「メガ! ビョーゲン!!!!」

 

メガビョーゲンは踏みつぶそうと右足を振り上げ、一気に振り下ろした。

 

「「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

そこへフォンテーヌとアースが現れ、共にキックを放ってメガビョーゲンの体勢を崩す。

 

「はぁっ!!!!」

 

さらにアースはハープを取り出して音色を奏でると、風を吹き起こしてメガビョーゲンを怯ませる。

 

「今です、グレース!!」

 

キュン!!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

アースの声を受けて、グレースはステッキの肉球を一回タッチしてメガビョーゲンに向ける。ラビリンの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを見つける。

 

「木のエレメントさんラビ!!」

 

エレメントさんはメガビョーゲンの首付近にいるのを発見した。

 

「アース、お願い!!!!」

 

グレースはそう言うと、アースは頷くと両手を合わせるように祈り、浄化の準備へと入る。

 

一枚の紫色の羽が舞い降り、ハープのような武器へと姿を変える。

 

「アースウィンディハープ!!」

 

そう呼ばれたハープに、風のエレメントボトルがセットされる。

 

「エレメントチャージ!!」

 

アースはハープを手に取って、そう叫ぶとハープの弦を鳴らして音を奏でる。

 

「舞い上がれ! 癒しの風!!」

 

手を上に掲げると彼女の周りに紫色の風が集まり始め、ハープへとその力が集まっていく。

 

「プリキュア! ヒーリング・ハリケーン!!!」

 

アースはハープを上に掲げてから、それを振り下ろすとハープから無数の白い羽を纏った薄紫色の竜巻のようなエネルギーが放たれる。

 

そのエネルギーは一直線にメガビョーゲンへと向かい、直撃する。

 

竜巻のようなエネルギーはメガビョーゲンの中で二つの手へと変化し、木のエレメントさんを優しく包み込む。

 

メガビョーゲンをハート状に貫きながら、光線はエレメントさんを外に出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていく。

 

「お大事に」

 

木のエレメントさんが松の木へと戻ると、メガビョーゲンが蝕んだ公園周辺が元の色を取り戻していく。

 

「覚えてらっしゃい、ちりキュア!!」

 

シンドイーネは捨て台詞を吐いて去っていく。

 

「・・・・・・あっ、ちりのようにちっぽけって意味よ」

 

・・・・・・かと思いきや、一旦戻ってきて説明した後に今度こそ姿を消したのであった。

 

浄化が終わると、グレースたちは松の木に宿っている木のエレメントさんの様子を見ていた。

 

「・・・・・・体調はいかがですか?」

 

「ありがとう、元気になりました。お友達とお話ししているところを邪魔してしまって、御免なさい・・・・・・」

 

「いいえ、大丈夫です」

 

木のエレメントさんは謝罪の言葉を残すと、松の木の中へと戻っていった。

 

「ひなたちゃんとえりこさんは無事かな・・・?」

 

「遠くへと逃げていったみたいだけど・・・・・・」

 

グレースとフォンテーヌが心配そうにひなたが逃げていった方向を見ていると・・・・・・。

 

「クチュン!!」

 

「「っ!!??」」

 

「ラテ!?」

 

ラテが再びくしゃみをしてぐったりし始め、プリキュアの3人は驚いた表情をする。

 

「また、このパターンラビ・・・?」

 

「診察してみよう・・・!」

 

ラビリンは再び繰り返される別の場所へのビョーゲンズの出現に戸惑うも、グレースは聴診器を取り出して、ラテを診察する。すると・・・・・・。

 

(あっちで、ひなたの友達が泣いてるラテ・・・・・・)

 

「「「っ・・・・・・!!??」」」

 

プリキュア3人はギガビョーゲンが現れたことに驚きを隠せないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数分前、メガビョーゲンから逃げていったひなたとえりこは・・・・・・。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・ここなら・・・大丈夫のはず・・・・・・」

 

「エ・・・エリザベス・・・・・・」

 

メガビョーゲンからようやく逃れて、えりこは息を荒くしていて、ひなたはそんな彼女を心配に見ていた。

 

「二人とも・・・・・・」

 

「「っ!!」」

 

と、そこへ二人にとっては聞き覚えのある声、二人がそれに視線を向ける。

 

「ラモーナ・・・・・・?」

 

「っ・・・・・・!!」

 

えりこは驚いたようにその人物を見て、ひなたは複雑な表情を向けていた。

 

「久しぶりなの、エリザベス」

 

「っ・・・私のことをそう言うのはナターシャと、ラモーナだけ・・・・・・あなた、ラモーナだよね? 姿は全然違うけど・・・・・・」

 

「そうなの、お前の知ってるラモーナなの」

 

口元に笑みを浮かべながらこちらを見るイタイノンに、えりこは前に出て問いかけると、イタイノンはそう答える。

 

「エ、エリザベス・・・そいつはね・・・・・・」

 

「ラモーナでしょ? 私たちの友達の」

 

「そ、そうだけど・・・・・・」

 

ひなたはえりこに説明しようとするが、ビョーゲンズの一員であると説明することができずに言葉を詰まらせる。

 

「ラモーナ、私、あなたに話したいことがいっぱいあるの・・・!!」

 

「奇遇なの。私もお前に言いたいことはいっぱいあるの」

 

えりこはそう呼びかけると、イタイノンはそう言いながらえりこに近づいて、顔を近づける。

 

「ラ、ラモーナ? あっ・・・・・・」

 

「キヒヒ・・・・・・」

 

戸惑うえりこをよそに、イタイノンは笑みを浮かべながら口を近づける。

 

「っ、ダメー!!!!」

 

「あっ・・・・・・?」

 

「っ・・・・・・!」

 

何か良からぬことを企んでいると踏んだひなたは二人を突き飛ばして引き離す。

 

「ナターシャ・・・・・・!?」

 

「今のらむっちはエリザベスに触んないで・・・!!!!」

 

「っ・・・・・・!!」

 

突然の出来事に戸惑うえりこの前にひなたが立って睨みつけると、イタイノンも立ち上がって服の埃を払った後にひなたを睨みつける。

 

「もう少しだったのに・・・なの」

 

「エリザベスに悪いことしようとしたでしょ!? いくららむっちでもさせないよ!!」

 

「ナターシャ・・・どういうことなの・・・?」

 

イタイノンは忌々しそうに呟くと、ひなたはイタイノンのやろうとしたことを咎める。えりこは状況をわかっていない様子だ。

 

「エリザベス、これはね・・・・・・」

 

ひなたはこの状況を説明しようとすると・・・・・・。

 

「単純な話なの。私はビョーゲンズで、そいつはプリキュアなの。私たちは敵同士ってわけなの」

 

「えっ・・・ビョーゲンズ? プリキュア? ナターシャとラモーナが敵同士?」

 

イタイノンはひなたが隠そうとしていたことをネタバラシするも、えりこは戸惑いを隠せない様子だ。

 

「病院に行ってたって話は、嘘なの・・・・・・?」

 

「うっ・・・・・・」

 

「どうなの!? ナターシャ・・・・・・!!!!」

 

「っ・・・・・・・・・」

 

えりこはひなたが嘘をついていたことを問い詰めると、ひなたは辛そうな顔をする。

 

「病院に行ってた? そんなの大嘘なの。私はずっとビョーゲンズとして地球を蝕むためにいるの。この汚れきった地球を私たちのものにするために」

 

イタイノンは不敵な笑みを浮かべながらそういうと、そのまま二人の間に割って入るように現れる。

 

「っ、あっ!!!!」

 

そして、そのままひなたを片手で突き飛ばして、えりこから引き離す。

 

「ナターシャ・・・っ!?」

 

「キヒヒヒ・・・・・・」

 

吹き飛ばされたひなたを心配するえりこだが、イタイノンがこちらを振り向きビクッとした反応を見せる。

 

「ラモーナ、ナターシャになんてことするの!?」

 

「お前、こいつに嫉妬してるんだろ? なの。こいつと一緒にいるピンクと青髪のやつに、なの」

 

えりこはイタイノンを咎めるも、イタイノンはそれを無視してえりこの本心を突くようなことを言う。

 

「そ、そうだよ・・・それがどうかしたの・・・!?」

 

「あいつらを、どうにかしたいだろ? なの」

 

「そ、そんなわけないじゃん!! 私はただ嫉妬してただけで・・・!!」

 

イタイノンのその言葉にえりこは強く否定すると、イタイノンは口元から笑みを消す。

 

「・・・ふん、まあいいの。そんなのお前の体に聞けばわかるの」

 

イタイノンはそう言うとえりこへと向き直り、両袖を払うかのような動作をして黒い塊のようなものを出現させ、右手を突き出すように構える。

 

「進化するの、ナノビョーゲン」

 

「ナノナノ~」

 

生み出されたナノビョーゲンは鳴き声をあげながら、えりこに向かって飛んでいく。

 

「い、いやっ・・・いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

えりこは悲鳴を上げながら、ナノビョーゲンに取り込まれていく。

 

そのえりこを主体として、巨大な怪物がかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてその素体を模倣する様々なものが姿として現れていき・・・。

 

「ギガビョーゲン!!」

 

背中に4本の鉛筆と1本の筆のようなものを生やし、三つ編みツインテールにメガネをかけて、女子中学生の制服を着込んだ姿のギガビョーゲンが誕生した。

 

「あぁ・・・エリザベスゥゥゥ!!!!」

 

えりこがギガビョーゲンにされたのを見たひなたは悲痛な叫びをあげる。

 

「ギガァ・・・・・・!!」

 

ギガビョーゲンは空中に無数の球体を出現させてそこから赤い光線を放ち、周辺の広範囲を蝕んでいく。

 

「キヒヒヒ・・・久々にいい気分なの・・・!!!!」

 

イタイノンはギガビョーゲンの様子を見て、笑い声をあげる。

 

「許さない・・・許さないよ、らむっち!!!!」

 

「ふん、お前に許しなんか請う必要はないの。私は私のやるべきことをやるだけなの」

 

「やるべきことって何!!?? エリザベスをギガビョーゲンに変えること!?」

 

「違うの。お前、ヒーリングアニマルから聞かされてないの? 地球を蝕んでパパのために貢献してやることなの。相変わらず忘れん坊なところは変わらないの」

 

イタイノンのやったことに怒りを見せるひなた。しかし、イタイノンはなんでもないかのようにひなたの言葉を冷たくあしらう。

 

「ひなたぁー!!!!」

 

「っ・・・ニャトラン!!」

 

そこへニャトランが飛んで駆けつけてくる。

 

「うぉっ!? ギガビョーゲンかよ!?」

 

「ニャトラン、変身するよ!!」

 

驚くニャトランをよそに、ひなたはプリキュアへの変身を促す。

 

「いや、待てよ!! グレースたちを連れてきた方がいいって!!」

 

「エリザベスが・・・エリザベスが苦しんでるんだよ!! 助けなきゃ!! お願い、ニャトラン!! あたしは、せっかく会えた友達に苦しめたくないの!!!! 今度は無茶しないから!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

ニャトランはギガビョーゲンとは明らかな戦力差があり、グレースを連れてくることを提案するも、ひなたの必死な思いを聞くと悩むように顔を俯かせる。そして・・・・・・。

 

「・・・・・・わかった。正直、時間稼ぎにしかならねぇけど、なんとか止めよう」

 

「っ・・・ありがとう、ニャトラン」

 

ニャトランはひなたの言葉を承諾し、ひなたはお礼を言うとステッキを持ってギガビョーゲンに向き直る。

 

「行くよ!!」

 

「あぁ!!」

 

「スタート!」

 

「プリキュア、オペレーション!!」

 

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

 

「キュアタッチ!!」

 

ニャトランがステッキの中に入ると、ひなたは光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

肉球にタッチすると、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまとい黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、黄色へと変化する。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身したのであった。

 

「ギガァ・・・・・・」

 

ギガビョーゲンは空中に出現させた球体から赤い光線を放って、赤く蝕む行為を繰り返していた。

 

「エリザベス・・・今、助けるからっ・・・!!」

 

スパークルは友達を助けると決意し、ギガビョーゲンへと駆け出していくのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第130話「一緒」

前回の続きです。今回で原作第36話は終わります。
最終決戦までもうすぐです・・・・・・。


キュン!!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

スパークルはステッキの肉球を一回タッチして、ギガビョーゲンに向ける。ニャトランの目が光り、胴体の真ん中辺りにえりこの姿があった。

 

「エリザベス・・・・・・!!!!」

 

スパークルは苦しそうな顔をしているえりこの姿を見て、居ても立っても居られずに飛び出して行く。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ギガァ・・・・・・?」

 

「っ、あぁぁぁ!!!!」

 

スパークルはギガビョーゲンの背中に蹴りを入れる。しかし、ギガビョーゲンには通用しておらず、振り向きざまに張り手を受けてしまう。

 

それでもスパークルは体勢を立て直して着地すると、遊具の上に飛び乗って駆け出し、ギガビョーゲンの前に出る。

 

「やぁぁぁぁぁ!!!!」

 

スパークルはジャンプをして、パンチを繰り出そうとするが・・・・・・。

 

「ギガァギィ・・・・・・!」

 

「・・・あっ!! きゃあぁぁぁ!!!!」

 

ギガビョーゲンは手のひらに数字の「1」のようなものを浮かばせると、それをスパークルへと投げつける。スパークルのパンチは数字に当たると、その数字は爆発してスパークルを吹き飛ばした。

 

「ギガァ・・・!!!!」

 

ギガビョーゲンはさらに数字を生み出して、スパークルに目掛けて投げつけて爆発させる。

 

「雷のエレメント!! はぁっ!!!!」

 

スパークルは煙の中から雷のエレメントボトルをセットして、ステッキから雷を纏った黄色い光線を放つ。

 

「ギガァ・・・ギギギィ・・・!!!!」

 

ギガビョーゲンは背中の筆を一本抜き取ると、それで空中にマイナスを描いて撃ち放つ。マイナスが黄色い光線に当たると、その光線は徐々に薄まっていき、しまいには消えてしまった。

 

「っ・・・そんな・・・!!」

 

「エレメント技が無効化されるニャ・・・あの武器をなんとかしないと・・・・・・!!!!」

 

「っ・・・うん!!」

 

スパークルのその光景に驚くも、ニャトランのアドバイスを受けて心を持ち直し、ギガビョーゲンの周囲を駆け出す。

 

「ギーガァ!! ギガァ!!!!」

 

ギガビョーゲンは次々と数字を生み出して投擲していく。スパークルは着弾する数字をかわしていきながら、攻撃のタイミングを伺おうとする。

 

「ギガァ!!」

 

「っ・・・はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ギガビョーゲンが投げた数字がスパークルに落ちて爆発するも、煙の中から不意をついて飛び出して片手に持っている筆を蹴り落とそうとする。

 

「ギガ・・・ギガギギィ!!!」

 

「うっ・・・あぁぁぁぁ!!!!」

 

しかし、ギガビョーゲンは少しも動揺せずに、その蹴りを避けると筆を持っていない方の手でパンチを繰り出して吹き飛ばした。

 

「あっ・・・ぐっ・・・・・・!」

 

「スパークル、大丈夫か!?」

 

背中から遊具に叩きつけられ、倒れながらその痛みに呻くスパークル。それをニャトランが心配そうに声をかける。

 

「キヒヒヒ・・・いいの、ギガビョーゲン。そのままそいつを叩き潰すの・・・!!!」

 

「ギガァ!!!!」

 

笑い声をあげながらイタイノンが指示を出すと、筆を持っていない方の手を振り下ろした。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

そこへ間一髪グレースとフォンテーヌが同時に蹴りを入れて阻止する。

 

「はぁっ!!!!」

 

「ギガ・・・・・・?」

 

同じく飛んできたアースが強烈なキックを食らわせ、ギガビョーゲンを数メートル後ろへと押しやる。

 

「スパークル、大丈夫!?」

 

「うん・・・それよりも、エリザベスが・・・・・・!」

 

「やっぱり、えりこさんだったのね・・・・・・!」

 

スパークルはそう言うと立ち上がって、ギガビョーゲンを見据える。

 

「ちっ・・・シンドイーネ、大した時間稼ぎにもならなかったの。ギガビョーゲン、潰してやるの!!」

 

「ギガギィ・・・・・・!!」

 

イタイノンは4人集まったプリキュアを忌々しそうにみると、ギガビョーゲンに指示を出す。ギガビョーゲンは眼鏡から赤く禍々しい光線を放つ。

 

「「ぷにシールド!!」」

 

グレースとフォンテーヌはシールドを張って赤い光線を防ぐ。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」

 

防いでいる無防備なギガビョーゲンに目掛けて、スパークルとアースがかかと落としを繰り出す。それと同時にギガビョーゲンの赤い光線も止まるが・・・・・・。

 

「ギガァ・・・??」

 

「っ、あぁぁぁ!!!!」

 

ギガビョーゲンには通用していないようで、顔を動かしただけでスパークルは弾かれてしまう。

 

「空気のエレメント!! はぁっ!!」

 

アースはハープを取り出して空気のエレメントボトルをセットすると、ハープから空気の塊を放つ。

 

「ギガギギィ・・・・・・!!」

 

ギガビョーゲンは持っていた筆でバツ印を空中で描くと、それをアースに目掛けて放った。

 

「っ!? あぁぁぁぁ!!!!」

 

バツ印はなんと空気の塊を呆気なく無効化し、そのままアースへと直撃して近くの遊具へと叩きつけられる。

 

「「「アース!!」」」

 

グレースとフォンテーヌ、立ち上がったスパークルが心配して見る中、煙が晴れるとそこには遊具に張り付けの状態でバツ印に拘束されたアースの姿があった。

 

「うっ・・・くっ、うぅぅ・・・う、動けません・・・!!!」

 

アースは体を捩らせてもがくも、拘束された体はビクともしない。

 

「ギガァ・・・・・・!!!!」

 

ギガビョーゲンは屈むように背中の4本の鉛筆を向けると、それをミサイルのように放った。

 

「っ・・・・・・!!」

 

「くっ・・・・・・!!!!」

 

「ギガギギィ・・・!!!!」

 

グレース、フォンテーヌ、スパークルは飛び上がって避けるも、鉛筆は二人を追尾するかのように向かってくるため、凌ぐのに苦戦し、さらにギガビョーゲンは鉛筆を次々と放つ。

 

「っ・・・うっ・・・きゃあぁぁぁぁ!!!!」

 

グレースはピンク色の光線を放ったり、パンチで防いだりしていたが、凌ぎきれずに鉛筆の爆発に吹き飛ばされてしまう。

 

「ギガァ・・・!!!!」

 

「あぁぁぁっ!!!!」

 

ギガビョーゲンはそれを見逃さずに筆でバツ印を描いて放ち、グレースを地面へと叩きつけて拘束した。

 

「グレース!! くっ・・・!!!!」

 

「これキリないんだけど・・・!!!!」

 

フォンテーヌとスパークルは心配していたが、次々と放たれる鉛筆に行く手を阻まれてしまう。

 

「ギーガァ・・・!!!!」

 

ギガビョーゲンはさらに三つ編みツインテールを振りかぶると、そこについている定規が手裏剣のように飛んでいく。

 

「っ、きゃあぁぁ!!!!」

 

「うぅぅぅぅ・・・!!!!」

 

鉛筆に気を取られていた二人は定規の直撃を受けてしまい吹き飛ばされる。

 

「ギガギギィ・・・・・・!!」

 

ギガビョーゲンは持っていた筆で再度バツ印を描くとそれを放った。

 

「ふっ!!!!」

 

吹き飛ばされたフォンテーヌは体勢を立て直して、青色の光線を放つが、バツ印には通用しておらず、そのまま一直線に向かっていく。

 

「そんなっ・・・きゃあぁぁぁぁ!!!!」

 

フォンテーヌはそれに驚いていたが、バツ印が直撃してしまい、木へと叩きつけられて同じように拘束されてしまう。

 

「アース!!グレース!! フォンテーヌ!!」

 

スパークルはギガビョーゲンの攻撃で拘束されてしまった三人の名前を叫ぶ。残るは自分一人だけだ。

 

「キヒヒヒ・・・これで鬱陶しいヤツはいなくなったの・・・!! あとはお前だけなの・・・!!」

 

「っ・・・・・・!!」

 

イタイノンはその様子を見て笑い上げると、スパークルに指を差しながらそう言う。スパークルは気を張りつめたような緊張した面持ちで見つめていた。

 

「ギガギギィ・・・!!!!」

 

ギガビョーゲンは手のひらで数字を生み出すとそれを投擲する。

 

「っ・・・・・・!!」

 

スパークルは数字を避けると、攻撃の隙を伺おうとギガビョーゲンの周囲を駆け出す。

 

「ギガァ・・・ギガギギィ・・・!!!!」

 

ギガビョーゲンは眼鏡から赤く禍々しい光線を放っていく。スパークルは止まらないように駆け出して、赤い光線を避けていく。

 

「っ・・・全然近づけないんだけど・・・!!!!」

 

「エレメントの力も全部無効化にされちまうニャ・・・!!!!」

 

スパークルはギガビョーゲンの攻撃を避けるも、近づけずに攻撃をできずにいた。

 

「ギガァ・・・!!!!」

 

ギガビョーゲンは背中から鉛筆をミサイルのように放っていく。

 

「うっ・・・くっ・・・あぁぁぁぁ!!!!」

 

スパークルは飛んで避けたり、パンチで吹き飛ばしたりして鉛筆をいなすも、防ぎきれずに爆発に巻き込まれて大きく吹き飛ばされてしまう。

 

「ギガギィ・・・!!!!」

 

さらにギガビョーゲンは周囲に赤い球体を出現させると、そこから赤い光線を放ち、スパークルの吹き飛んだ先から赤い爆発を起こした。

 

そして、ギガビョーゲンとイタイノンの視線の先にはボロボロになって倒れ伏しているスパークルの姿があった。

 

「うぅぅっ・・・・・・」

 

「「「スパークル!!!!」」」

 

「・・・キヒヒヒ、プリキュア一人じゃギガビョーゲンの前には大したことないの」

 

拘束されている三人がスパークルを心配して見る中、イタイノンは嘲笑いながらそう言う。

 

「・・・・・・っ!!」

 

「うっ・・・くっ・・・・・・!」

 

スパークルは傷つきながらも戦おうとしていて、イタイノンはその光景に口元から笑みをなくした。

 

「・・・まだやる気なの? どうせお前には無理なの。諦めたほうが痛い思いをしなくて済むの」

 

「あき、らめない・・・諦めたくない・・・!! エリザベスを、助けて・・・らむっちも止める・・・!! だって、二人は、あたしの大切な・・・親友だもん・・・!!!」

 

イタイノンはそう言うも、スパークルは反論しながら少しずつ立ち上がっていく。

 

「っ・・・手を焼かせる友達ならいないほうがマシなの・・・!! お前だって、人に勉強を教わったり、縋ったりなんかして、都合のいいように利用しているに決まってるの・・・!!!!」

 

「違うよ!!!! あたしはそんな風にエリザベスとらむっちを思ってない!! エリザベスは小学生の頃からの親友、らむっちは意気地なしだったあたしを変えてくれた親友だもん!! その思いは、小さい頃から、変わってないんだよぉ!!!!」

 

「・・・!!??」

 

イタイノンはそう言い放つも、スパークルはそう訴える。すると、イタイノンは初めて動揺の表情を見せた。

 

らむっちは自分を変えてくれた親友・・・・・・。

 

イタイノンはそんな言葉を信じられず、頭を抱えながら首を振り始める。

 

「黙れ・・・! 黙れなのっ・・・!!!!!! 私は友達なんかいらないのっ・・・!!!!一人でいたほうが、気楽なの・・・!!!!!!」

 

「・・・・・・らむっち、どうしてそんなこと言うの?」

 

「!!」

 

イタイノンは怒りの声を漏らすも、スパークルは悲しそうな声で訴え、イタイノンはハッとしてスパークルを見る。

 

そんな彼女の顔は悲しみに包まれており、瞳はうるうると潤んでいた。

 

「あたしが小学校の授業で困ってた時、話しかけてくれたのはらむっちだったよね? そこからだよね、あたしとらむっちが友達になったの。あたしは友達だと思ってたのに、らむっちは違ったの・・・?」

 

「・・・・・・やめろ、なの」

 

「そのあとエリザベスと友達になって、みんなで一緒に遊んだよね? クラスだって一緒だったし、家で一緒に遊んだじゃん。エリザベスが引っ越しちゃった時だって、一緒に見送ったよね・・・・・・あれも、嘘だったの・・・・・・?」

 

「やめろなの!!!!」

 

スパークルが昔のことを思い返しながら訴えかけるも、イタイノンは拒絶の言葉を吐く。そんな彼女の頭にはひなたと遊んだ時の記憶が甦っていた。

 

「あたしが、プリキュアだから・・・いけないの・・・・・・?」

 

「やめろって言ってるの!!!! ギガビョーゲン、そいつを黙らせるの!!!!」

 

スパークルが再度訴えかけると、イタイノンは首を振って否定し、耐えられなくなった彼女はギガビョーゲンに指示を出した。

 

「ギーガァァァァ!!!!」

 

「っ・・・はぁぁぁぁ!!!!」

 

ギガビョーゲンは筆を持っていない方の手でパンチを繰り出し、スパークルもそれを見て同じようにパンチでぶつかり、二人の力が押し合う。

 

「ぐっ・・・うぅぅぅぅ・・・・・・!!!!」

 

「ギガァァァァ・・・・・・!!!!」

 

スパークルは顔を顰め、ギガビョーゲンはそんな彼女を拳で押しやっていく。

 

「「スパークル!!」」

 

「スパークル、頑張ってください!!」

 

拘束されているグレース、フォンテーヌ、アースはギガビョーゲンと押し合いをするスパークルに応援の言葉を送る。

 

「あたしは、決めたの・・・!! エリザベスを助けて・・・らむっちを取り戻す!! あんなに、仲良しだったんだ・・・!! あたしたちの友情は嘘なんかじゃない!! 嘘なんかじゃないんだよ!!!! あたしはそのためにも・・・この地球をビョーゲンズから守って、エリザベスやらむっちの思いも守るんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

スパークルがそう叫ぶと、彼女の体が光り出す。

 

「ギ・・・ギガガ・・・!?」

 

「っ・・・・・・!?」

 

すると、ギガビョーゲンの拳を徐々に押しやっていき、イタイノンはそれを信じられないように見る。

 

そして・・・・・・・・・。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

「ギ、ギガァ・・・!!??」

 

スパークルはギガビョーゲンの拳を押し返し、ギガビョーゲンをよろけさせた。

 

「雷のエレメント!! はぁっ!!!!」

 

スパークルは雷のエレメントボトルをセットして、ステッキの先にエネルギーをチャージして電撃を纏った黄色い光線を放った。

 

「ギガギィィィ・・・・・・!?」

 

ギガビョーゲンは光線を受けて感電すると、その場から後ろへと轟音を立てて倒れた。

 

「みんな!!」

 

スパークルはその隙にパンチと蹴りでバツ印を砕いて、三人を拘束から解く。

 

「ありがとう、スパークル!!」

 

「すごかったわよ、さっきのパンチ・・・!!」

 

「離れても、敵になっても、友を思う気持ち・・・伝わってきました・・・!!」

 

グレース、フォンテーヌ、アースがスパークルを称えると、彼女は頷く。

 

「行こう!! みんな!!」

 

「ワフ〜ン!!」

 

スパークルの言葉を合図に、ラテは大きく鳴いた。

 

「「「「ヒーリングっどアロー!!!!」」」」

 

4人がそう叫ぶとラテがステッキとハープ、エレメントボトルの力を一つにまとめた注射器型のアイテム、ヒーリングっどアローが出現する。

 

その注射器型のアイテムに、ハートの模様が描かれたエレメントボトルをセットする。

 

「「「「ヒーリングアニマルパワー!! 全開!!」」」」

 

ヒーリングアニマルたちのダイヤルが回転し、その注射器型のアイテムが4つに別れるとグレースにはラビリン、フォンテーヌにはペギタン、スパークルにはニャトラン、アースにはラテの部分で止まり、グレースたち4人の服装や髪型などが変化し始める。

 

そして、4人の背中に翼が生え、いわゆるヒーリングっどスタイルへと変化を遂げる。

 

「「「「アメイジングお手当て、準備OK!!!!」」」」

 

4人は手に持っている注射器のレバーを引くと、虹色のエレメントパワーがチャージされる。

 

「「「「OK!!!!」」」」

 

そして、パートナーのヒーリングアニマルたちがダイヤルから光となって飛び出し、思念体の状態になって現れ、パートナーに寄り添った。

 

「「「「プリキュア!ファイナル!! ヒーリングっど♡シャワー!!!!」」」」

 

プリキュアたちがそう叫ぶと、レバーを押して4色の螺旋状の強力なビームを放った。4色のビームは螺旋状になって混ざり合いながら、ギガビョーゲンへと向かっていき光へと包み込んだ。

 

ギガビョーゲンの中で4色の光は、それぞれの手になって中に取り込まれていたえりこを優しく包み込む。

 

ギガビョーゲンをハート状に貫きながら、4色の光線はえりこを外に出した。

 

「ヒーリン、グッバイ・・・・・・」

 

「「「「「「「お大事に」」」」」」」

 

「ワフ~ン♪」

 

ギガビョーゲンが消えたと同時に、公園とその周囲の木々といった広範囲に渡って蝕まれていたその周辺が元の色を取り戻していく。

 

「・・・・・・ふん」

 

イタイノンはそれを無表情で見届けると、その場から立ち去って行こうとする。

 

「らむっち、いやラモーナ!!」

 

「っ・・・・・・」

 

背後からスパークルの呼ぶ声が聞こえ、イタイノンは無言で振り返る。

 

「エリザベスとラモーナとナターシャは、永遠に親友・・・でしょ!!」

 

「っ・・・・・・!!」

 

イタイノンはそれを聞いて顔を顰めるが、ふと足元を見ると、何かが落ちているのに気づき、拾い上げる。

 

そして、ある記憶が甦った。

 

『エリザベスとラモーナとナターシャは、えいえんにしんゆう!!!!』

 

『ラモーナとナターシャとエリザベスは、えいえんにしんゆう!!!!』

 

『ナターシャとエリザベスとラモーナは、えいえんにしんゆう・・・なの』

 

『『それをえいえんに、ちかいます!!』』

 

『えいえんに、ちかう・・・の・・・!!』

 

『ラモーナ・・・こえがちいさいよ・・・・・・?』

 

『ほら、もっとげんきにいおうよぉ・・・!』

 

『わたし、こういうのにがてなの・・・!!』

 

『もぉ・・・それじゃあ、いみないじゃん・・・ほら、はずかしいならあたしもいってあげるよ・・・・・・ほら、せーの!!』

 

それはひなたとえりことらむが永遠の大樹で一緒に友情を誓い合ったことだった。

 

イタイノンはスパークルから発せられたあの日の言葉を聞かされ、顔を俯かせて体を震わせる。

 

「・・・・・・私は、お前もエリザベスも・・・・・・大嫌いなのっ!!!!」

 

「っ・・・ラモーナ・・・・・・」

 

イタイノンは顔を上げながらそう叫んだ。そんな彼女の顔はいつものような怒りではなく、目に涙を溜めて悲しそうな表情を浮かべていた。スパークルもその表情を見て心を痛めていた。

 

「うっ・・・ぐすっ・・・・・・」

 

イタイノンは顔を両手で覆って、再び背を向けるとそのまま姿を消していった。

 

ビョーゲンズが去った後・・・・・・ひなたは、まだ意識が戻らないえりこに膝枕をしていた。

 

「うんっ・・・・・・」

 

「っ!! エリザベス!!」

 

「あれ? 私は・・・・・・ナターシャ・・・?」

 

「よかったぁ!! よかったよぉ〜!!!!」

 

「っ・・・・・・!?」

 

えりこが目を覚ますとその視界には心配そうに見つめるひなたの姿があった。ひなたはえりこがなんともないことを確認すると、彼女を抱きしめた。

 

えりこは少し戸惑いつつも、冷静になってひなたを抱きしめた。

 

「ナターシャ、ごめんね・・・本当はいっぱい話したいことあったのに・・・!! 久しぶりに会ったから緊張しちゃって・・・!! ナターシャがもっと仲良い子を見つけたから、楽しそうに新しい友達のことを話すから、その・・・ヤキモチ妬いちゃって・・・・・・!!」

 

「エリザベスゥゥゥ・・・・・・」

 

「無事で良かった・・・・・・!」

 

「あたしなんかよりも、エリザベスの方が心配だったよぉ〜!! 急に倒れちゃうんだも〜ん!!」

 

えりこが本心を、その思いを吐露していたが、ひなたはずっと泣きながら話していた。

 

「あっ・・・ラモーナは!?」

 

「っ・・・・・・!!」

 

えりこはらむのことを思い出して、ひなたの体を引き剥がして彼女に訪ねると、ひなたは少し寂しそうな表情をした。

 

「・・・・・・ラモーナは帰ったよ、病院に」

 

「えっ・・・でも、病院にはいないんじゃ・・・ナターシャも突き飛ばされて・・・!?」

 

「エリザベス、悪い夢でも見てたんだよ。ラモーナはそんなこと言ってないし、してないよ。病気が治って動けるようになったから、すこやか市に来たんだって。エリザベスとナターシャのためにも、絶対に治すって言ってたよ」

 

ひなたはそう説明するとえりこは信じられない顔をしていたが、ひなたが詳しく説明するとえりこは顔を俯かせる。

 

「・・・・・・そっか」

 

えりこはそう呟くとゆっくりと立ち上がる。そして、ひなたの方を振り向いた。

 

「じゃあ、ラモーナが帰って来れるように、私たちも仲良しでいないとね♪」

 

「・・・・・・うんっ♪」

 

えりこは笑みを浮かべながらそう言うと、ひなたも笑みを浮かべながらそう言い、笑い合う二人。

 

「「「ふふっ♪」」」

 

そんな二人を、のどかたちは離れたところから微笑みながら見守っていた。

 

(ラモーナ・・・泣いてたなぁ。あたしが、その悲しいことを無くしてあげたい・・・・・・!)

 

そんな中、ひなたはらむを取り戻そうと改めて決意を示した。

 

一方で、その翌日・・・・・・そんなのどかたちの英語の小テストの結果は・・・・・・。

 

のどかは84点、ちゆは言わずもがな100点、そして、ひなたは・・・・・・。

 

険しい表情で見せつけた点数は、25点だった・・・・・・。

 

「なんで!? なんで下がるの!?」

 

「一緒に勉強したわよね!?」

 

しかも、なぜか前回の小テストよりも点数が下がっており、のどかとちゆは驚くしかない。

 

「勉強も大事・・・でも、今はエリザベスの方が大事って言ったのちゆちーじゃん!!」

 

「そ、それはそうだけど・・・・・・」

 

「あの後エリザベスとめ〜っちゃ盛り上がってさぁ〜!! 一緒にいられなくても友情は壊れないって確信したっ。だから勉強するのもうや〜めた♪」

 

「「えぇぇ〜・・・・・・!?」」

 

ひなたは窓の外を見ながらそう宣言すると、のどかとちゆは驚きの表情を浮かべた。すると・・・・・・。

 

「・・・・・・な〜んて♪」

 

ひなたは振り向きながら取り出したのは「受験に約立つ英語問題」と書かれた参考書であった。

 

「のどかっちたちと一緒の高校に行きたい。その気持ちは変わらないもん♪ あはは♪」

 

そう言いながら三人で笑い合うひなたの机の上のスマホの待受画面には、ひなたやのどかたちに加えて、えりこが楽しそうにしている写真が映し出されていたのであった。

 

いつかはらむやしんらたちと一緒に、笑い合える日が来るために・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃・・・・・・。

 

「イタイノン? イタイノン!!!!」

 

廃病院のアジトでは、クルシーナがイタイノンの部屋の扉をドンドンと叩きながら呼んでいた。

 

「アンタの好きなドラマ始まるわよ。見るんじゃないの? ちょっとイタイノン!!」

 

「ほっといてくれなのっ!!!!」

 

「っ・・・・・・・・・」

 

クルシーナが少し怒り口調になりながら扉を叩き続けると、扉から泣き叫ぶような声が聞こえてき、クルシーナは顔を顰める。

 

「何なのよ、アンタ・・・帰ってきたと思ったら、泣きながら部屋に閉じこもって・・・。プリキュアどもに何かされたんだろ? 違うの!?」

 

「うるさいっ!!あっち行けなのっ!!!!」

 

クルシーナはそう呼びかけるも、イタイノンの態度は変わらず門前払いするだけであった。

 

「あっそ!! 勝手にしろよ!! ったく・・・!!」

 

クルシーナは扉を叩くのをやめてそう吐き捨てると、イタイノンの部屋の前を後にする。

 

「何なのよ、アイツ・・・っていうか、なんでアタシがアイツのために呼びに行かないと行けないワケ?」

 

廊下を歩いている間も、クルシーナはイライラしながら不満を垂れていた。

 

「クルシーナ」

 

「ん? ドクルンか・・・何よ?」

 

「ビョーゲンキングダムに来てもらえますか? お父さんが呼んでますよ」

 

「お父様が・・・・・・?」

 

その背後から声をかけたドクルンがそう話すとクルシーナが疑問に思いつつも、背を向けて歩くドクルンのあとをついていく。

 

「・・・・・・・・・」

 

そんなイタイノンはゲーム機に手をつけることもなく、ベッドの上で掛け布団をすっぽりと頭まで埋めて顔を伏せていた。何も考えたくない・・・・・・そんな雰囲気を出しながら・・・・・・。

 

『らむっち・・・・・・大丈夫?』

 

『こんなの大したことないの・・・・・・すぐに治って、戻ってくるの・・・・・・』

 

『じゃあ、退院できたら一緒にもっと遊ぼ!! あたし、かわいいものに憧れてるんだ♪ 治ったら一緒にらむっちもここに遊びに行こうよぉ!!』

 

『・・・楽しみにしておいてやるの』

 

病院に入院していた頃、ひなたがお見舞いに来てくれて、治ったら一緒にここーーーー動物園に行こうと言ってくれた。あの言葉は少し暖かった・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

それを思い出したイタイノンは体を震わせ始める。

 

「ぐすっ・・・ひっく・・・・・・ナターシャぁ・・・・・・」

 

イタイノンはむせび泣きながら、枕の上を涙で濡らした。心までこんなに痛くなったのは、ビョーゲンズになって初めてであった。

 

一方、ビョーゲンキングダムでは・・・・・・。

 

「カスミーナよ。お前の調整は終わった・・・我の力によってな・・・もうすぐお前はビョーゲンズとして完成する・・・・・・」

 

「ありがとうございます。キングビョーゲン様・・・・・・」

 

カスミーナがクルシーナやドクルンと共にキングビョーゲンと接見をしていた。瞳の赤色を輝かせながら、キングビョーゲンにお礼を言っていた。

 

「今、お前はプリキュアの一人の力を持っているであろう? ビョーゲンズとして完成させるためにはそれを完全に奪い取ることが必要だ。そのプリキュアの力を奪い取り、完全に消滅させるのだ」

 

「わかりました。このカスミーナ、キングビョーゲン様のために完全な存在になりましょう」

 

キングビョーゲンに命じられたカスミーナはすぐにお辞儀をしながらそう答えた。

 

「それで、アタシに何か用なの? ただコイツのビョーゲンズとしての補完を見せびらかしに来たわけじゃないでしょ?」

 

「そうだな・・・・・・クルシーナよ。お前にはこれを与えておこう」

 

「??」

 

クルシーナは不機嫌そうな表情をしながら問いかける。キングビョーゲンはそう言うと、クルシーナの体が赤黒く光る。なんだか体に違和感を感じ、ムズムズする自身の右手を見てみると・・・・・・。

 

「っ!?」

 

右手の甲に今のキングビョーゲンと同じ顔が浮かび上がるのを見て驚くも、その手の甲はすぐにスーッと消えてしまった。

 

「・・・・・・お父様、今の何?」

 

「我の分身だ。お前の体の中に潜ませて、ゆっくりと成長させていくのだ。ドクルンにも埋め込んである。時が来れば、すぐにわかるぞ・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「ふふっ♪」

 

クルシーナが問いかけると、キングビョーゲンはそう説明し、クルシーナは何も言わずにドクルンの方を見る。ドクルンは笑みを浮かべながら、赤黒いオーラを発して手の甲のキングビョーゲンの顔を見せた。

 

「つまり、アタシたちは保険ってわけね、はいはい・・・わかったわよ・・・・・・」

 

父親の考えることを理解したクルシーナは適当に返事をする。

 

「・・・・・・ところで、イタイノンはどうした?」

 

「・・・・・・知らない。アイツのことなんか知ったこっちゃ無い。ただ様子がおかしいとしか言いようがない」

 

「そうか・・・・・・」

 

キングビョーゲンが逆に問いかけると、クルシーナは冷たく返事をしつつも、状況を話す。

 

「では、ほとぼりが冷めたら我のところに来るように伝えよ。クルシーナとドクルンと同じようなことを施したい」

 

「・・・・・・なんでアタシが」

 

キングビョーゲンがそう命じるとクルシーナはボソリと不満を呟く。なぜか知らないが、今のアイツを見ているとイライラする・・・・・・。

 

「どうした・・・・・・?」

 

「・・・・・・なんでもない。わかったわよ」

 

キングビョーゲンが少し険しそうな声で言うと、クルシーナは素っ気なく返事をしてその場から立ち去っていく。

 

(プリキュア・・・・・・そろそろ潰しておくべきか・・・・・・?)

 

クルシーナは歩きながらも、イタイノンのことを惑わせたであろうプリキュアに対して、そんなことを考えていたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第131話「秋」

原作第37話がベースです。
今回は中島先生とヒーリングアニマルのこんなお話。
そして、カスミーナの方も動きが・・・・・・。


 

ある日のビョーゲンキングダムーーーーそこでは、シンドイーネが鏡の前で顔の手入れをしていた。

 

「実りの秋って気候が良くってやぁね・・・化粧のりも悪くなるわぁ・・・・・・」

 

シンドイーネは愚痴をこぼしながら、自分の顔の肌を見ていた。

 

「シンド姉〜!! 何してるのぉ〜??」

 

「見ての通り、キングビョーゲン様に好かれるために女を磨いているのよ」

 

「それって面白いの〜??」

 

「面白さのためにやってるんじゃないの!! 私はキングビョーゲン様の一番になるためには、顔も肌も綺麗にしないとね」

 

そこにヘバリーヌが近づいて構ってくると、シンドイーネはそういう風に説明する。

 

「うるさいぞ・・・お前たち。読書でもして知識を実らせたらどうだ?」

 

そう二人に話すグアイワルは何やら分厚い本を見ていた。

 

「すぅ・・・すぅ・・・すぅ・・・」

 

「秋といえば、芸術の秋でもあるよね」

 

そして、ハキケイラは岩場で眠っているフーミンを見ながらキャンパスに彼女の絵を書いていた。

 

「ハキケイラは、何を書いてるのよ?」

 

「見ての通り、そこにいる眠り姫さ」

 

「いや、フーミンでしょ・・・・・・」

 

興味を持ったシンドイーネがハキケイラに詰め寄ると、ハキケイラはそう説明するが、シンドイーネは冷静なツッコミを入れた。

 

「ワル兄が本なんて珍しい〜、何読んでるのぉ〜?」

 

「ふっ、お前には分かるまい。めちゃくちゃ難しい学術書だからな」

 

「だから、何読んでるのぉ〜?!」

 

「だから、お前にはわからんと・・・あっ!?」

 

ヘバリーヌが興味を持って聞くも、本を見たまま言葉を返して教えてくれないグアイワルに、ヘバリーヌはしびれを切らして本を取り上げる。

 

「何をするっ!!」

 

「う〜ん?文字なんか一つもな〜い、ただの写真が乗ってるだけだよ〜?」

 

「どれどれ〜? ふふっ、何よこれ? こんなのが難しい学術書なわけ・・・??」

 

ヘバリーヌは不思議そうに本を見つめながらそう言うと、そこにシンドイーネもヘバリーヌから本を取って覗くとあまりのおかしさに笑った。グアイワルが見ている学術書というのは、ボディービルダーの写真集なのであった。

 

「うるさい!! 返せ!!」

 

「ほ〜ら、ヘバリーヌ!!」

 

「ほ〜い!! 託されたよ〜、シンド姉から〜!!」

 

「おい、遊ぶな!! 返せと言ってるだろ!!!!」

 

「シンド姉、パ〜ス!!」

 

「よっと!! ほ〜ら、アタマデワルさん、こっちですぅ〜♪」

 

グアイワルはシンドイーネから本を返そうとするが、ヘバリーヌに本をパスし、グアイワルがそちらに向かうとヘバリーヌはシンドイーネに本をパスするなどして、グアイワルになかなか返そうとしなかった。

 

「何をやっているんだろうね・・・あの三人は・・・・・・」

 

「すぅ・・・すぅ・・・すぅ・・・・・・」

 

ハキケイラはそんな三人を見て呆れたように言い、キャンパスに視線を戻してずっと眠っているフーミンを再び描き始めた。

 

「のんきな奴らね・・・・・・実りの秋なんかに毒されちゃって。少しは地球を蝕みにいかないワケ?」

 

「さぁね・・・・・・」

 

「本人たちにやる気がないのではねぇ・・・・・・」

 

その様子をクルシーナ、ダルイゼン、ドクルンは近くでくつろぎながら見ていた。クルシーナの横にはカスミーナの姿もいる。

 

「そういえば・・・イタイノンはどうしたの?」

 

「・・・・・・引きこもってるわよ、あいつは。この前の出撃から帰ってきてから、一歩も部屋から出てないのよ。なんかプリキュアに惑わされて、泣かされちゃったって感じね」

 

「あいつが、そんな目にねぇ・・・・・・」

 

ダルイゼンがこの場にいないイタイノンのことを聞くと、クルシーナはそう話す。

 

「まあ、そのうち出てきてもらわないと困るんですけどね。お父さんの呼び出しにも応じていないらしいですし」

 

「完全な職務放棄じゃん・・・まあ、俺はどうでもいいけど」

 

ドクルンが本を見ながら話すと、ダルイゼンはあまり興味がなさそうに話す。

 

「さてと・・・めぼしい奴でも探しに行くか・・・・・・クルシーナ、行く?」

 

「付き合うわよ。カスミーナ、行くよ」

 

「わかりました」

 

ダルイゼンはそう言いながら、クルシーナと一緒に歩いていき、その後をカスミーナが淡々と着いていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日ののどかの家では、中島先生がのどかの出張診察へとやってきていた。

 

中島先生は聴診器をのどかの胸に当て、喉や顔などの触診を行なっており、ラビリンはその側でラテのお世話をしている。

 

そんな中・・・・・・。

 

「・・・・・・アルバイト?」

 

「何のお仕事を始めるラビ?」

 

「おまんじゅう屋さんの販売員です」

 

のどかとラビリンが聞くと、アスミがバイトをすることを聞かされる。

 

「そっかぁ!! 行楽シーズンだもんね♪」

 

「・・・行楽シーズン?」

 

「気候が良いからお出かけする人が多いんだよ♪ 美味しいものや楽しい行事もたくさんあるし・・・・・・」

 

「それは、お出かけしたくなりますね♪」

 

「ワン♪」

 

のどかの話を聞いて、アスミも楽しそうな表情を見せる。

 

「楽しそうね♪ でも、秋は肌寒いから、ちゃんと防寒できるものを着て出かけるのよ。はい! 特に異常はないわね。健康そのものよ」

 

「ありがとうございます! 先生」

 

中島先生はアドバイスをしながらのどかの診察を終えると、のどかは笑みを浮かべながrお礼を言った。

 

「そうラビ!! 明日はラビリンたちもラテ様と一緒に秋を巡るツアーをするラビ♪」

 

「それは素敵なご提案ですね」

 

「楽しそうね♪」

 

「うんうん。楽しそ〜♪」

 

ラビリンがそう提案すると、のどかたちは楽しそうな反応をする。

 

「でも、ラビリンたちだけで一緒に行かせるのも心配ね・・・・・・」

 

中島先生はそれと反対に考え込むようなに首を傾げる。

 

「大丈夫ラビ!! ラビリンたちは立派なヒーリングアニマルだから、ラテ様のお手当ても自分たちでできるラビ!!」

 

「ダ〜メ。ヒーリングアニマルと言っても、まだ見習いでしょ? 子供みたいなものじゃない。あなたたちを見守る大人の人が必要よ」

 

「ラビリンは子供じゃないラビ〜!!」

 

ラビリンがそう胸を張って言うも、中島先生は諭すように言うと、ラビリンは本当に子供のような反応を見せる。

 

「ラビリ〜ン、まだそんなこと言うのぉ〜? そういう子には〜・・・・・・」

 

中島先生はラビリンに険しい顔を近づけてじっと見つめると、ガシッとラビリンを抱きしめた。

 

「抱きしめの刑よ〜!! スリスリ〜!!」

 

「ぐっ、うぅぅ・・・やめるラビ!! 苦しいラビ〜!!!!」

 

中島先生は顔で頬ずりをしながらスリスリし、ラビリンがもがきながらそう訴える。

 

「わ、わかったラビ〜!! 中島先生も、一緒に行くラビ〜!!!!」

 

「いい子ねぇ〜!! 本当可愛い〜!! もっとスリスリしちゃう〜!!」

 

「や、やめるラビ〜、潰れるラビ〜・・・!!」

 

ラビリンが観念してそんなことを言っても、中島先生は可愛さ余ってやめようとせず、ラビリンが苦しむ羽目になる。

 

「中島先生は凄いですね・・・あんなに意地を張っていたラビリンが言うことを聞きました・・・!!」

 

「・・・・・・ただ可愛がりたかっただけじゃないかなぁ」

 

アスミが感心したように言うと、のどかは苦笑いをしながらそう言った。

 

「ラビィ!! はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「まぁ! 恥ずかしがり屋さんねぇ〜♪」

 

ラビリンは拘束からなんとか抜け出して息を整え、中島先生はそれを笑顔で見つめる。

 

「はぁ・・・ふぅ・・・ラテ様、明日はラビリンたちにお任せくださいラビ!!」

 

「楽しいツアーにしましょうね♪」

 

「ワンっ♪」

 

ラビリンと中島先生がラテにそう言うと、ラテはとても楽しみな様子で元気よく鳴いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ヒーリングアニマルたちと付き添いの中島先生はラテと共に秋を巡るツアーへとやってきていた。

 

「ニャ〜♪ 秋といえば、やっぱスポーツの秋だよな〜♪」

 

今はチーム分けをして、広い草むらでキックベースをしようとしていた。

 

「スポーツは苦手ペエ・・・・・・」

 

ラビリンたちのチームが守りでニャトランがピッチャーをし、ペギタンは一塁の守り、ラビリンは三塁の守りをしている。

 

「ワンッ!」

 

一方、打席に入ったラテは以前のビーチバレーの時のように目が燃えていたのであった。

 

「ラテちゃん、頑張って♪」

 

そんなニャトランたちの近くでレジャーシートを敷きながら、病院の診療がオフでハイキングウェアを着込んだ中島先生が楽しそうに見守っていた。

 

「ラテ様・・・いっくぜ〜!!!!」

 

ニャトランも気合い十分で、ボールを持って振りかぶる。しかし・・・・・・。

 

ヒュォォォォ〜!!!!

 

「っ!! うわっ!?」

 

ニャトランがボールを投げようとした時に、どこからかビニール袋が飛んできてニャトランの顔に張り付き、ニャトランが投げたボールは投げられずに転がっていってしまう。

 

「ワウ〜ン!!!!」

 

そんなボールをラテはヘディングをし、一塁へと走って行く。

 

「ペエェェェェ〜!! こっちに飛んできたペエ〜!!??」

 

ボールが飛んできたことで慌てふためき、狼狽え始めるペギタン。

 

「任せるラビ!!」

 

そこへラビリンが飛び出して、飛んできたボールを空中でキャッチする。

 

「ありがとう、ラビリン!!」

 

「二人とも危ないわ!!」

 

「「ん??」」

 

ラビリンがフォローしてくれた頃にお礼を言うペギタンだが、そこに中島先生の声が響く。そして・・・・・・。

 

カンッ!!

 

「ラビ!?」

 

「ペエ!?」

 

草むらの奥から転がってきたのは古びた空き缶であり、ラビリンとペギタンはとっさのことで避けられずに缶が直撃してしまう。

 

その間にラテは塁を回ってホームへと帰ってきた。

 

「ワン♪・・・ワフン?」

 

「もご・・・もごご・・・!?」

 

「ラビィ〜・・・・・・」

 

「ペエ〜・・・・・・」

 

「三人とも大丈夫・・・!?」

 

嬉しげに帰ってきたラテが振り向くと、そこにはニャトランがビニールを剥がそうと苦戦していて、空き缶が直撃して伸びたラビリンとペギタンの姿があった。

 

そこへ中島先生が駆け寄って、ニャトランのビニール袋を剥がして、ラビリンとペギタンの側の空き缶を拾い上げる。

 

「ありがと、先生〜・・・ってなんだこれ!? ゴミかよ!!」

 

「なんでここに空き缶があるラビ?」

 

中島先生が持っているビニールと空き缶を見ながら、ニャトランとラビリンがそう言う。

 

「・・・・・・それだけじゃないわ。あっちを見て」

 

「っ!!!」

 

中島先生が空き缶が飛んできた方向を見ながらそう言うと、ペギタンが草むらを掻き分けて奥を見てみる。すると、そこには・・・・・・。

 

「よく見たら、いろいろ落ちてるペエ!!」

 

「何でこんなにゴミが・・・・・・」

 

「・・・きっとここにピクニックに来た人たちが片付けをしないでそのままにしたのね」

 

中島先生は少し悲しそうな表情をしながらそう言った。

 

「??」

 

すると、ニャトランの近くに葉っぱのエレメントさんが近づき、何か言いたそうな様子で跳ねる。

 

ニャトランが聴診器を当ててみると・・・・・・。

 

『この辺は、ピクニックで訪れる観光客さんが多くて・・・ゴミを置いて帰ってしまう人がいるのです・・・・・・』

 

「クゥ〜ン・・・・・・」

 

「ポイ捨てかよ、ひどいな・・・・・・」

 

ゴミが不法投棄されていることを葉っぱのエレメントさんから聞かされて、ラテは悲しそうな表情を見せ、ニャトランは険しそうな表情で怒りを見せていた。

 

「身勝手な人間も多いのよ・・・この地球にはね・・・・・・」

 

中島先生は人生で経験したことを思い出しながら、悲しそうな表情でそう言った。

 

「でも・・・町の職員さんが、ああやって毎日ゴミ拾いに来てくれていますので、職員さんのおかげで、草木がいつも元気でいられます」

 

葉っぱのエレメントさんが示す通り、ニャトランたちの目先では多くの清掃員らしき人たちが熱心にゴミをゴミ袋に集めていた。

 

「ゴミは地球に優しくないペエ!!」

 

「ラビリンたちもこっそりお手伝いするラビ!!」

 

ラビリンたちは人知れず、町の職員たちの手伝いをすることにした。

 

「そうね、ポイ捨ては良くないものね」

 

中島先生はいつの間にか軍手をして、近くにあるゴミをゴミ袋に集め始めた。

 

ラビリンたちは早速観光客の様子を見守ることにした。すると、草むらに寝転がっている2人の男性観光客の一人が空き缶を草むらに放り投げた。

 

ラビリンはすかさず空き缶を男性たちの近くに投げ返した。

 

「ゴミはゴミ箱にラビ!!」

 

「えっ!?」

 

「今、誰かいたよな・・・・・・?」

 

草むらに隠れているラビリンが声をあげてそう言うと、男性たちは驚き辺りを見渡した。

 

「あなたたち〜・・・・・・?」

 

「「っ!?」」

 

今度は前から声が聞こえてきて、向き直るとそこに怖い笑顔を貼り付けていた中島先生の姿があった。

 

「ゴミはゴミ箱に捨てなきゃダメでしょ〜・・・? 目の前に空き缶のゴミ箱があるのに〜・・・・・・」

 

「ひぃっ!? は、はい。すみません!!!!」

 

中島先生が笑みを浮かべながらそう言うと、悲鳴を上げた男性はすぐに空き缶をゴミ箱に入れて、もう一人の男性と共にその場から逃げるように去っていった。

 

「全く、いい大人なのにね・・・・・・」

 

中島先生はそんな男性たちを険しい表情で見つめていた。

 

「ありがとうございます。不法投棄を注意していただいて」

 

「いいえ♪ このぐらいは当然ですよ♪」

 

職員の一人にそう言われた中島先生は笑みを浮かべながらそう言い、しばらくはゴミ拾いを続けた。

 

「ラビ♪」

 

「ペエ♪」

 

「ニャ♪」

 

ラビリンたちはゴミ箱の陰でそれをこっそり見つつ、他に不法投棄をしていない人がいないかしばらくは見廻りにいったのであった。

 

一方、その頃・・・・・・のどかたちの中学校。のどかたちのクラスは美術室で三人一組になって、互いの顔を描き合っていた。

 

「アスミちゃん、アルバイト楽しんでるかな・・・?」

 

のどかは絵を描くひなたの絵を真面目に描きながらそう話す。

 

「後で覗きに行ってみよ? すこやかまんじゅうも食べたいしぃ♪」

 

ひなたはそう話しながらちゆの似顔絵を描いていたが、その絵は少し漫画チックであたりにはキラキラのエフェクトを描き、その右上にはすこやかまんじゅうも描いていた。

 

「ひなた、ここにおまんじゅうはないわよ? 見ているものを描かないと、デッサンにならないでしょ?」

 

ひなたの絵を覗き込んで、そう言うちゆ。そんな彼女は自分の椅子に戻りながら、のどかの似顔絵を描いており、その絵は三人の中ではかなりうまく描けていた。

 

「いいのいいの♪ アートはイルミネーションが大事っしょ!」

 

「イマジネーションね」

 

そう言うひなたに対し、ちゆは苦笑しながらそう言う。

 

「ふふっ♪ ラビリンたちも中島先生と一緒に楽しんでるかなぁ?」

 

のどかは笑いながら、窓の外を見つめるのであった。

 

「ペエ・・・・・・芸術の秋にふさわしい景色ペエ」

 

一方、ゴミ処理の手伝いを終えたラビリンたちヒーリングアニマルと中島先生は、次にお花畑にスケッチブックを持ってやってきており、特にペギタンはその綺麗なお花畑に目を奪われていた。

 

ラビリンたちはその後そんなお花畑の前で、花のエレメントさんをモデルに絵を描き始めた。

 

「ふんふふんふ〜ん♪」

 

ニャトランは鼻歌を歌いながら絵を描いていくが、その絵はどこを描いているのかわからず、決してうまいと言えるものではなく・・・・・・。

 

「もっと真剣に書くペエ!!」

 

「個性的でいいだろ〜?」

 

「個性なら負けないラビ♪」

 

ラビリンはそう言いながら自信満々に自分の絵を見せた。

 

「確かに個性は強いペエ・・・・・・」

 

ラビリンが描いていたのは花のエレメントさん・・・のはずだが、その姿は明らかにラビリンが気に入っていたラベンだるまそのものだった。

 

「ワン♪」

 

「あら〜、ラテちゃん上手ね♪」

 

中島先生もデッサンしつつ、ラテの絵を除きながらそう言った。

 

「ラビ?」

 

「ラテ様もできたペエ?」

 

「見せてくださいラビ!!」

 

それに気づいたラビリンたちがラテの絵を見てみると、ラテはペンを持てないかわりに肉球を上手く使って、花のエレメントさんを描いていた。

 

「肉球に描いてあるラビ♪」

 

「素晴らしい才能ペエ」

 

「心の肉球に響くラビ〜♪」

 

「これぞアート!!」

 

「ワン♪」

 

みんながラテの絵を褒めると、ラテ自身は嬉しそうにしていた。

 

「ふふふっ♪」

 

中島先生はその様子に笑みを浮かべながら、スケッチブックに絵を描いていた。その絵はラビリンたち三人がお花畑で仲良く絵を描いている光景で、その中にラテも一緒に描かれており、その絵は周囲から見ても上手いと言えるほどに綺麗に描けていた。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

ザザッ・・・・・・。

 

「っ!? 誰か来たラビ!!」

 

「三人とも、私のそばに隠れて!!」

 

突如足音が近づいてきて、ラビリンたちは中島先生のそばに素早く身を隠す。

 

しばらくして現れたのは町の職員たちであった。彼らは辺りに咲く花に水をやり始めた。

 

「あの人たちは・・・さっきの職員さんたちと同じ人たちかしら?」

 

「ワウン?」

 

中島先生は先ほどのゴミを片付けていた職員たちと同じジャケットを着ていることに気づき、そう推測する。

 

「これは時間がかかりそうペエ・・・・・・」

 

「そうね・・・・・・さすがにここでスケッチはできないかしらね・・・・・・」

 

職員たちが来たことでスケッチが中断されてラビリンたちが困っていると、そこに花のエレメントさんが目の前にやって来た。

 

ラビリンたちが聴診器を当ててみると・・・・・・。

 

『もうしばらくお待ちください。手間暇をかけてくれるからこそ、綺麗なお花が咲いているのです。この美しい景色を保てるのは、あの人たちのおかげです♪』

 

「それなら邪魔しちゃ悪いラビ・・・・・・」

 

「私には何を言っているかわからないけど、ここの職員さんたちは重要なのよね」

 

花のエレメントさんがそう説明すると、ラビリンは止むを得ないと判断し、中島先生は自分なりに何を言っているのか理解に努めようとする。

 

「次の秋を満喫しに行くラビ!!」

 

「スポーツ・・・芸術・・・と、来れば、あれよね!!」

 

ラビリンたちと中島先生は話しながら、次の場所へと移動を開始するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ・・・・・・本当にこの辺は自然豊かで不愉快ねぇ・・・・・・」

 

その頃、森の中へとやってきていたクルシーナは不機嫌そうな顔をしながら歩き回っていた。

 

「クルシーナ様。こんな森の中に人間がいるとは思えませんが・・・・・・」

 

「そうかしらね? この辺にハイキングしている奴がいれば、そいつをギガビョーゲンにできるわよ? そうすれば、こんな不愉快な自然ごときを赤く染めてやれるのにね」

 

そんな彼女の後を着いてきているカスミーナは淡々とそう言うも、クルシーナは楽観的な態度でそう言った。森の中に人間の姿があれば、そいつにナノビョーゲンを飛ばしてやれる。そうすればここ一帯を一気に蝕むことができるのだ。適当に人間を見つければいいとそう思っていた。

 

「そう言うアンタはどうなの? こんなところにいたって決着なんか付けられないでしょ? キュアグレースとの」

 

「わかっていますよ。だからこそ、あなたの近くにいれば奴らは絶対に現れます」

 

クルシーナは立ち止まって振り向きながら聞くと、カスミーナは不敵な笑みを浮かべながらそう話す。

 

「ふーん、自分の目的のためにアタシらを利用しようってワケ? 幹部以下のくせに随分と生意気なことするじゃない」

 

クルシーナは口元に笑みを浮かべながらそう言う。

 

「・・・・・・いけませんか?」

 

「いいわよ、別に。探しに行くよりも、それが正解でしょ」

 

カスミーナが笑みを浮かべながらそう言うと、クルシーナはその行為を容認した。

 

「・・・っ・・・!!」

 

クルシーナが歩き出すと同時に、カスミーナは後を着いていこうとするが、歩こうとしたところで胸に手を当て始めた。

 

「・・・・・・偽物め・・・まだ抵抗するか」

 

カスミーナは自分の中にまだいる人格に忌々しそうな表情をする。

 

「? どうしたの?」

 

クルシーナは着いてこようとしないカスミーナに疑問を持ち、再度立ち止まって呼びかける。

 

「いえ・・・なんでもありません・・・・・・」

 

カスミーナはそう言ってごまかすと、クルシーナの後を着いていく。

 

(あいつの中に元のあいつがいるわけね・・・・・・まあ、アタシはどっちでもいいけど)

 

クルシーナは歩きつつもカスミーナに視線を向けながら、そんなことを考えていた。

 

「っ・・・・・・」

 

そんなクルシーナにはもう一つ気になっていたことがあった。木の上で寄りかかったまま、何もしようとしないダルイゼンだ。

 

「目ぼしいもんは見つかったの〜?」

 

「・・・・・・別に。まあ、そのうち見つかるだろ」

 

「・・・・・・相変わらずのだらけっぷりね」

 

「お前だってそうだろ?」

 

クルシーナはダルイゼンと話しながら、その隣の木へと飛び移って座り込む。

 

「アタシは最初に行動して、あとはなんとかなれってタイプなの。最初から何もしてないアンタとは違うの」

 

「・・・・・・どう違うんだよ、そんなに変わらないじゃん」

 

クルシーナはそう主張すると、ダルイゼンは淡々とそう返す。

 

「ダルイゼン様、クルシーナ様、誰か来ますよ・・・・・・」

 

「「??」」

 

カスミーナも同じように木の上に飛び移りながらそう告げると、ダルイゼンとクルシーナは視線を同時に向ける。

 

そこへやってきていたのは・・・・・・・・・。

 

「ツアーのメインイベント!! 収穫祭ラビ!!」

 

「栗がいっぱいね、たくさん獲りましょう♪」

 

ラビリンたち妖精と中島先生は森の中で落ちている栗拾いを行なっていた。

 

「いっぱい落ちてて楽しいペエ♪」

 

「あら、これおっきいわね♪」

 

「おぉ!! いっぱい食えるな〜!!」

 

みんなはそんなことを話しながら、栗を集めていく。

 

「ワンっ♪」

 

「おぉ!! ラテ様も大収穫!!」

 

「ぶどうなんか落ちてたの? 一体どこで・・・・・・?」

 

口に咥えてぶどうを持ってきて楽しんでいたラテに対し、この辺りにぶどうが落ちていたことが疑問でならない中島先生。

 

「あっ・・・・・・そういうことなのね」

 

中島先生は柵を挟んだ向こうに、ぶどうや柿といった他の秋の果物があることに気づいた。

 

「実りのエレメントさん、良い場所を教えてくれてありがとうラビ」

 

ラビリンが穴場を教えてくれた実りのエレメントさんにお礼を言うと、それに答えるようにぺこりとお辞儀をした。

 

「おっ!! あっちにも秋のフルーツがいっぱいあるぜ!!」

 

「あれも採って良いラビ?」

 

ニャトランも柵の向こうのフルーツを見つけると、ラビリンが実りのエレメントさんに尋ねる。

 

「ダメよ、二人とも。これはきっと農家さんのもの。他人のものを勝手に採っちゃいけないわ」

 

先に中島先生がそう言うと、実りのエレメントさんはそれに同調するように首を縦にふる。

 

『そこのお姉さんの言う通り・・・あちらは農家さんが管理してる農園なので・・・・・・』

 

「そっか・・・だったら、採っちゃダメだよな・・・・・・」

 

「これもちゃんと農家さんに返しましょう」

 

「ワン!」

 

実りのエレメントさんがそう言うと納得し、中島先生はラテが持ってきた果物も返そうと拾い上げる。

 

『でも、この手前の森なら野生動物に解放されているので、ご安心ください』

 

「了解ラビ♪」

 

「あの森だったら良いって言ってるのね。わかったわ♪ のどかちゃんたちのためにもいっぱい獲ってあげましょう♪」

 

ラビリンたちはそう言い、のどかたちのために多くの果物を取ろうとする。

 

すると・・・・・・。

 

「あっ、栗だ!! たくさん落ちてる〜!!」

 

「「「「っ!!」」」」

 

「三人とも隠れて!!!!」

 

不意に声が聞こえて誰かがやってくるのを感じた皆。中島先生は妖精たちに隠れるように言い、彼女の側に隠れた。

 

「・・・危ないラビ」

 

「子供がいたのね・・・・・・」

 

「見つかったら大変ペエ・・・・・・」

 

ラビリンとペギタンはこのまま子供がいなくなるのを待とうとするが・・・・・・。

 

「大丈夫。こっそり行けばバレないって!!」

 

「ダメラビ!!!!」

 

「二人とも危ないわよ!!」

 

そんな中、ニャトランは単身中島先生の側から飛び出し、ラビリンはそんなニャトランを止めようと追いかける。そんな二人を止めようとする中島先生だが・・・・・・。

 

ザクッ。

 

「っ!!?? あぁぁぁぁぁぁ〜!!!! ラビィィィィ〜!!!!」

 

ラビリンはニャトランを追いかけるのに夢中になって、足元にあった毬栗を踏んでしまい、痛みから叫び声をあげてしまった。

 

「あっ、うさぎ!!」

 

「ラ、ラビィィィ〜!!!!」

 

「待て〜!!」

 

しかもそのことで少女に見つかってしまい、追いかける羽目になってしまったラビリンは逃げ回り始めた。

 

「ワフン・・・!!」

 

「ペエ・・・!!!」

 

「やっべぇ・・・・・・!!!!」

 

「もぉ!!!!」

 

ペギタンとニャトランはその様子を見て慌て始め、中島先生は二人を止めるべく駆け出す。

 

「ラビリン!! こっち!!!!」

 

「っ!! ラ、ラビィィィ!!!!」

 

中島先生は横からラビリンに声をかけ、ラビリンはこちらへと駆け出す。そして・・・・・・。

 

「よっと・・・大丈夫? ラビリン。足に怪我はない?」

 

「ラビ〜・・・・・・」

 

中島先生がラビリンをうまく受け止めて抱き止める。

 

「あっ・・・ごめんなさい・・・・・・」

 

「大丈夫よ♪ よかったわ、誰も怪我はなかったし。でも、動物を追いかけちゃダメよ。動物って怖がりなんだから」

 

少女が申し訳なさそうにそう言うと、中島先生は笑顔でそう言いながら、しっかりと少女にも注意する。

 

「その人の言う通りだよ」

 

「「??」」

 

そんな二人に声をかけるものがいた。中島先生と少女は振り向くと、そこにいたのは帽子を被った農家の男性だった。

 

「野生の動物は怖がりだから、触ろうとすると逃げちゃうんだ。その子は飼い主がいるみたいだけどね」

 

「そうなんだぁ・・・・・・」

 

「でも、仲良くなる方法はあるよ」

 

男性はそう言うと、近くの木に置かれた小さな小屋みたいなものの前に葡萄を置くと、そこから一匹のリスが顔を出して、その葡萄を食べ始める。

 

「わぁ。可愛い♪」

 

少女は現れたリスに目を奪われている様子で、ラビリンのことは気にしていない様子だった。

 

「ごめんなさい。あなたの土地の近くで騒いでしまって・・・・・・」

 

「いえ、気にしてないですよ。それよりもーーーー」

 

中島先生は頭を下げてその男性に謝罪をすると、男性は笑顔でそう言って取り出したのは細かく切られた果物を小皿に載せて差し出した。

 

「えっ・・・・・・?」

 

「これをあなたの動物たちと一緒にいただいてください」

 

「そんな・・・悪いですよ・・・!!」

 

「いいんですよ。動物を大切にしてくれるあなたにも笑顔になって欲しいですから。では・・・・・・」

 

中島先生は遠慮しようとしたが、男性は小皿を手渡すとその場から離れていった。

 

中島先生とラビリンがそんな男性を見守っていると、隠れていたペギタンたちが近寄ってくる。

 

「優しい農家さんペエ・・・・・・」

 

「きっとあのリスの小屋も農家さんが作ったんだなぁ・・・・・・」

 

「いい人でよかったわね♪」

 

「ラビ。じゃあ、みんなでありがたくいただくラビ♪」

 

中島先生とラビリンたちは男性から貰った果物を持って移動し、中島先生が敷いたレジャーシートの上で早速みんなでそれを食べ始めた。

 

「っ、美味しい・・・!!!!」

 

「めっちゃウマイ!!!!」

 

「凄く甘くてジューシーペエ・・・♪」

 

瑞々しい果実に中島先生やラビリンたちは笑みを浮かべて舌鼓を打っていた。

 

『自然を大事にしている農家さんだからこそ、実りも豊かでおいしいものができるのです』

 

「この街は地球に優しい人たちでいっぱいラビ♪」

 

「ワンっ♪」

 

「俺たち的にもありがたいな!!」

 

実りのエレメントさんの言葉に、ラビリンたちは笑みを浮かべながらそう言った。

 

『それでは、ゆっくりと秋を楽しんでください♪』

 

「案内ありがとうラビ〜♪」

 

実りのエレメントさんはそう言いながら近くの栗の木の中へと戻っていった。その後も中島先生とラビリンたちは実りの秋を満喫していた。

 

その様子を木の上から見下ろしていたクルシーナたちは・・・・・・。

 

「実りの秋ねぇ・・・・・・」

 

「・・・ふん、何が実りの秋よ、くだらない」

 

ダルイゼンはボソリと呟き、クルシーナは不機嫌そうにそう言うと、再び中島先生を見る。

 

「・・・先生ったら、あんな奴らと浮かれちゃって」

 

クルシーナは中島先生がラビリンたちと一緒に遊んでいる姿を見て、不機嫌そうな顔を余計に顰めた。

 

「・・・・・・あの女の人って知り合いなの?」

 

「そうよ。なんか文句ある・・・・・・?」

 

「・・・・・・別に」

 

ダルイゼンがふとそんなことを聞くと、クルシーナは不機嫌さを隠そうともせずに言う。

 

「クルシーナ様、不愉快なのであれば潰せば良いのでは?」

 

「うるっさいわね、アンタは余計なことを言わなくていいのよ・・・!!」

 

クルシーナの様子を見ていたカスミーナがそう助言するも、クルシーナは同じように不機嫌そうな声で反論する。

 

「お前はあれを見て不愉快に思わないのかよ。同じ同僚どもがあんなヘラヘラ笑っててさぁ。一応、仲間だったんだろ?」

 

「僕はあんな泣き虫ウサギなんか知らないウツ。浮かれて使命なんか忘れてればいいウツ」

 

「チッ・・・ああそうかい・・・・・・」

 

クルシーナは帽子になっているウツバットに投げかけると、ウツバットは素っ気なく返し、クルシーナは舌打ちをすると・・・・・・。

 

ドスッ!!!!

 

「ウツッ!?な、何するウツ!?」

 

「ムカついたから殴っただけ・・・・・・」

 

「逐一そんなことされたら、身が持たないウツよ!!」

 

「うるっさい!!!!」

 

「ふぎゃぁ!?」

 

クルシーナはイライラしたのかウツバットをど突き、それに抗議したウツバットにパンチを食らわせて黙らせた。

 

「・・・・・・・・・」

 

ウツバットが静かになると、クルシーナは再度中島先生を見つめる。笑顔の中島先生に何とも言えないような感情を抱いていたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第132話「使命」

前回の続きです。
ツアーを楽しむラビリンたちに、ビョーゲンズの魔の手が迫ります。
そして、グレースVSハザード再び・・・・・・その時、かすみは・・・・・・?


 

「紅葉が綺麗ね・・・・・・」

 

「・・・・・・秋ももう終わりだな」

 

「月日が経つのは早いラビ・・・・・・」

 

食事を終えたラビリンたちはみんなで紅葉を見ており、中島先生が綺麗な紅葉に感動する中、ニャトランとラビリンがふとそう呟いた。

 

「僕たち、少しは成長したペエ・・・・・・?」

 

「してるしてる!! ビョーゲンズにだって負けてねぇし!!」

 

「ラビ。のどかたちのおかげラビ♪」

 

「ちゆたちに会えて本当に良かったペエ」

 

「ワン♪」

 

「まさに最高のパートナーだよなっ♪」

 

「のどかちゃんたちとラビリンたちとの付き合いはわからないけど、相当長く付き合ってるってわかるわ」

 

みんなが笑みを浮かべながら話していると、ペギタンは不意に表情を暗くして顔を俯かせた。

 

「・・・・・・ちゆたちとも秋を満喫したかったペエ」

 

「来年またみんなで来ようぜ?」

 

「でも・・・来年もみんなと一緒にいられるとは限らないペエ」

 

「お手当てが終わったら・・・僕たち、人間界にいる必要がなくなるペエ・・・・・・」

 

「「っ!!」」

 

ペギタンの言葉にハッとするラビリンとニャトラン。いつかはのどかたちと別れる時が来る・・・・・・そう考えた、ラビリンたちは・・・・・・。

 

「そっか・・・・・・」

 

「ラビ・・・・・・」

 

「クゥ〜ン・・・・・・」

 

「そうね・・・いつかは別れなきゃいけないものね・・・・・・」

 

妖精たちはわかってはいるが、寂しさから表情を暗くし、中島先生もそれに同情するかのように寂しそうな表情を浮かべた。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

「・・・・・・だったらお手当てなんかしなきゃいいじゃない」

 

「「「「!!」」」」

 

上の方から聞いたことのある声が聞こえた。ラビリンたちと中島先生が顔を上げると目の前の木の枝の上にクルシーナとダルイゼン、カスミーナの姿があった。

 

「ダルイゼン!!」

 

「クルシーナとかすみもいるぞ!!!!」

 

「しんらちゃん!?」

 

「プリキュアがいないけど、お前たちだけ?」

 

ダルイゼンは辺りを見渡しながらそう言う。

 

「だったらなんだってんだよ!!!」

 

ニャトランがそう言うと、ダルイゼンたちは木の上から飛び降り、ダルイゼンは笑みを浮かべながら妖精たちに向かって手のひらをかざした。

 

「・・・・・・ここで片付けちゃってもいいかなって」

 

ダルイゼンはそう言いながら、ラテに向かって手のひらをかざした。

 

「ラビ・・・!!」

 

「ペエ!!」

 

「ニャッ!!!!」

 

ラビリンはラテを庇うように立ち、ペギタンとニャトランは共にダルイゼンを食い止めようと飛びかかった。

 

「ちびっ子だけでどうする気? っていうか、来たのは俺一人じゃないってわかってるよね?」

 

ダルイゼンが笑みを浮かべながらそう言うと、クルシーナが不機嫌そうな表情を向けながら無言でラテに向かって手のひらをかざし、ピンク色の光弾を作り出す。

 

「ワン!! ワン!!」

 

「ラテ様ダメラビ!! ラビっ!!!!」

 

それを見て応戦しようとしてするラテを抑えたラビリンは、自身がクルシーナに飛びかかった。

 

「・・・ウツバット!」

 

「ウツゥ・・・!!」

 

「っ、うわぁっ!!!!」

 

クルシーナは帽子のウツバットに命じると、ウツバットは顔のような部分の口から小さなコウモリの妖精を放って襲わせ、ラビリンは身動きが取れなくなってしまう。

 

その間にクルシーナはラビリンを通り過ぎて、手のひらをかざしながらラテへと迫っていく。

 

「ラテ様!!逃げるラビ!!!!」

 

コウモリの妖精たちを払いのけられずにいるラビリンはラテにそう促す。

 

「ふんっ!!」

 

「っ・・・キャン!!」

 

そんな言葉を尻目にクルシーナはピンク色の光弾を放った。ラテは間一髪で避け、その場から駆け出していく。

 

「・・・・・・逃げたって無駄なのにウツ」

 

ウツバットがラテを見ながらそう言い、クルシーナはラテを追うべく歩き出していく。

 

「追わせないラビ!!!!」

 

ペギタンは追わせないと言わんばかりに、飛びかかろうとするが・・・・・・。

 

「っ!!」

 

「ぐっ!! うわぁぁぁぁぁ!!!!」

 

クルシーナは腕から植物のツルのようなものを出現させると背後のラビリンに向かって放ち、グルグル巻きにするとそのまま近くの木へと叩きつけた。

 

「うっ・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

ラビリンが倒れて体を震わせているのを見たクルシーナは特に意を返すことなく、ラテの後を追おうとする。

 

「ラビィィィィィィィ!!!!」

 

ラビリンは傷つきながらも立ち上がると、再びクルシーナに飛びかかろうとする。

 

「・・・・・・!」

 

「ラビ!? うっ・・・!!」

 

クルシーナは顔を顰めると振り向きざまにラビリンを掴み上げる。

 

「うぅぅぅ・・・あぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

クルシーナは少しラビリンを手で締め上げた後に、地面へと放り投げピンク色の光弾を放った。光弾は着弾して爆発を起こし、黒い煙が上がった。

 

「っ、ラビリン!!!!」

 

ダルイゼンを食い止めようとしているニャトランが突然の爆発に心配して振り向く。

 

「あぁ・・・・・・ぁ・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

ラビリンはすでにボロボロで地面に倒れ伏しており、そこへクルシーナが近寄り、足を振り上げて踏み潰そうとする。

 

「っ・・・・・・!!」

 

すると、そんな彼女に待ったをかけるように目の前に立ったのは中島先生だった。

 

「・・・・・・・・・」

 

「しんらちゃん・・・こんな酷いことやめて!! ラビリンたちやラテちゃんが何をしたって言うの!?」

 

「っ・・・・・・!!」

 

中島先生がそう言うと、クルシーナは顔を顰める。

 

「先生・・・何も知らないくせにそいつらを庇わないでよ。アタシとそいつらは敵なんだから、戦い合うのは当たり前じゃない。先生には関係ないでしょ」

 

「関係あるわ・・・!!! 私は、のどかちゃんのことを知って、あなたと関わってプリキュアのことやヒーリングアニマルのことを知ったの・・・・・・私にもできることはないかって思って、ラビリンたちと一緒にいるの・・・・・・もちろん、あなたのことも助けたい・・・!!!! そのためには私はプリキュアのことやあなたたち地球を汚すもののことも知りたいって思ったの・・・!!!! なのに、傷つけ合うなんて、私は黙って見てられないわ・・・!!!!」

 

「っ・・・・・・!!!!」

 

クルシーナが淡々とそう返すと、中島先生はそう反論する。自分がのどかたちーーーープリキュアやヒーリングアニマルたちと関わっているのは、医者として自分ができることはないかと、病気にするものになってしまったしんらを助けたいと、そう思ったからなのだ。

 

しかし、その言葉を聞いたクルシーナは余計に顔を顰める。その表情には怒りというよりは、憎しみという感じに近かった。

 

「またそんなウソつくの? アタシを助けたいだなんて。騙されないわよ、医者のそんな世迷言なんか・・・・・・!!」

 

「ウソじゃないわ!! 本当よ!! 私は今でもあなたのことを思ってる・・・!! あなたを本当の意味で、助けたいから・・・!!!!」

 

「黙れっ!!!!!!」

 

中島先生は反論するも、その言葉がカンに触ったクルシーナは激昂する。

 

「言葉だったらいくらでも言えんだよ、そんなこと!! 先生から担当が変わった設楽というヤブ医者だってそう言ってたぞ!! お前を助けたい、必ず治してやる、心配するな、って!!! 私は信じたのに、待ってたのに・・・結局は治らなかった!!!! 医者なんかみんなウソつき・・・大ウソつきだぁっ!!!!!」

 

「っ・・・!!!!」

 

クルシーナが怒りの言葉で長々とそう言い放つと、中島先生は心を痛める。しんらが移送された病院、そこでもしんらは治らなかった・・・・・・その事実が知らされているとは言え、その一つ一つが心に突き刺さるのだ。

 

「しんら、ちゃん・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

中島先生はクルシーナの言葉に何も言えず、声を詰まらせながら名前を呼ぶ中、クルシーナは冷静になると再び先生に向き直る。

 

「先生・・・傷つけ合うのを見るのが嫌なら、こうしてあげる・・・・・・」

 

プシュー・・・・・・。

 

「うっ・・・あっ・・・・・・ぁぁ・・・・・・」

 

クルシーナは無表情で淡々とそう言うと、中島先生の顔の前に手のひらにチューリップのようなものを生やしてかざすと、そこからピンク色のガスを放つ。ガスを正面から浴びた中島先生は目がトロンとした後に、前のめりに倒れていく。

 

そんな彼女をクルシーナは自身の手で優しく受け止め、お姫様抱っこのような持ち方をするとそのままどこかへと歩いていこうとする。その表情はどこか寂しげだった。

 

「っ、先生!!」

 

ラビリンはなんとか立ち上がって、クルシーナを止めようと飛んでいく。

 

「先生をどこに連れて行くラビ!?」

 

「っ・・・懲りないやつね・・・!!」

 

クルシーナはまだ飛びかかろうとするラビリンに不機嫌そうに顔を顰める。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

クルシーナは振り向きざまに目からピンク色のビームを放って、ラビリンに直撃させる。ラビリンはそのまま地面へと落ちて、再び倒れ伏してしまう。

 

「先生がせっかく拾ってあげたんだから、感謝しなさいよ。アタシらなんかよりも、あっちを気にした方がいいと思うけど?」

 

「うぅぅぅ・・・・・・ラビィ・・・・・・」

 

「アンタらに恨みはないけど、そっちがこっちを恨むんだったら自分の非力さを恨むんだね。見習いとしての自分のね」

 

クルシーナが不敵な笑みを浮かべながらそう言うと、ダルイゼンと取っ組み合っているペギタンとニャトランの方を見て促すと、ラビリンに対する嘲笑の言葉を残してそのまま背を向けながら歩いていく。

 

「カスミーナ、この場はアンタに任せるわ」

 

「・・・・・・わかりました」

 

クルシーナは近くにいたカスミーナにそう声をかけるとその場を後にしていく。カスミーナはそんな彼女の背中をじっと見つめていた。

 

「せ、先生・・・・・・!」

 

ラビリンは体を起こしながらも、その場を離れていくクルシーナの姿を見ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アスミちゃ〜ん」

 

一方その頃、のどかたち三人はおまんじゅう屋にアルバイト先として働くアスミの様子を見にきていた。

 

「みなさん、来てくださったのですか?」

 

「ふわぁ、働く人って感じ♪」

 

「中々様になっているわね」

 

「ありがとうございます」

 

割烹着姿のアスミを見て、のどかたちがそう言うとアスミもそう答えた。

 

その時だった・・・・・・。

 

「ワンワンっ!!」

 

そこへラテが駆け寄って来て、何かを訴えるように吠え始める。

 

「ラテ、ラビリンたちは・・・・・・?」

 

「ワンワンっ!!」

 

そう尋ねるのどかに、ラテは尋常ではない様子で訴えかけていた。

 

その頃、森の中では・・・・・・。

 

「ペエェェェェェェェェェ!!!!」

 

「うわぁっ!!」

 

「相変わらず、威勢だけはいいね・・・・・・」

 

ダルイゼンを抑えていたペギタンとニャトランは振り払われてしまう。

 

「くっ・・・先生、ラビリンたちは、どうしたらいいラビ・・・??」

 

ラビリンはボロボロになりながらも立ち上がるも体をフラつかせており、悔しそうな表情をしていた。しかも、先生を連れ去っていったクルシーナ、自分たちを始末しようとするダルイゼン、どちらを優先すればいいのか迷いが生じていた。

 

そんなラビリンに気づいたダルイゼンは、笑みを浮かべながらラビリンに近づいていく。

 

「どうしたの、お前? あいつらと違って、さっきまでの威勢がないみたいだけど?」

 

「うっ・・・・・・」

 

「クルシーナもどっか行っちゃったみたいだけど・・・まあ、いっか・・・・・・どうせお前もここで消えるんだからさ」

 

ダルイゼンは手のひらをかざして、ラビリンに目掛けて紫色の光弾を放とうとしていた。

 

「君、止めなさい!! 動物をいじめたらダメだよ!!」

 

「ん?」

 

そんなダルイゼンの背後から農家の男性が現れて呼び止める。

 

「人間は、黙っていろ・・・・・・!!」

 

「っ!? うわぁ!!」

 

すると男性の背後から声が聞こえてきたかと思うと、カスミーナが姿を現して農家の男性を蹴り飛ばして、木へと叩きつけた。

 

「あっ・・・・・・くっ・・・・・・!」

 

ラビリンは信じられない様子で何とか宙を飛び、農家の男性へと近寄る。

 

「早く、逃げな・・・さい・・・・・・」

 

「あぁぁ・・・・・・!!」

 

農家の男性は気を失ってしまい、それを見て目を潤ませたラビリンはカスミーナを見据えた。

 

「かすみ!! 優しい農家さんになんてことするラビ!!??」

 

「知るか。それに私は、カスミーナだ・・・・・・!!!!」

 

ラビリンがそう避難すると、カスミーナは冷たい声でそう言い放った。

 

「へぇ、そんなに優しいんだ・・・・・・」

 

ダルイゼンはニヤリと笑みを浮かべると、手で髪をなびかせて黒い塊を出現させる。

 

「進化しろ、ナノビョーゲン」

 

「ナノ・・・・・・」

 

生み出されたナノビョーゲンは鳴き声を上げながら、気を失った農家の男性へと飛んでいき、その体を取り込んでいく。

 

その農家の男性を主体として、巨大な怪物がかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてその素体を模倣する様々なものが姿として現れていき・・・。

 

「ギガ、ビョ〜ゲン!!」

 

背中に木々を生やした農家のような姿をしたギガビョーゲンが誕生した。

 

「ギィィガァァァァ!!」

 

ギガビョーゲンは低く唸ると、木の先端についた木の実のような部分からビームを一斉に放ち、辺りを蝕み始める。それにより森の動物たちは逃げ出していく。

 

「優しい農家さんのおかげで、いい感じに育ったねぇ」

 

「「「っ!!」」」

 

「ギガ、ビョーゲン!!!」

 

ダルイゼンはその様子を見ながら笑みを浮かべ、ラビリンたちはギガビョーゲンを見据えた。

 

その頃、ラテの案内で森の方へと向かっていたのどかたちは・・・・・・。

 

「っ! クゥ〜ン・・・・・・」

 

「ラテっ・・・・・・!!」

 

道案内したラテが何かを察したように立ち止まり、アスミがそれを心配する。

 

「クチュン!!」

 

ラテはくしゃみをして、体調を悪くする。それをアスミが抱き抱えた。

 

「あ〜!! あそこ!!」

 

何かを見つけたひなたが指を差した先には、ビョーゲンズが蝕んだとされる赤い靄が見えた。

 

そんな頃、ギガビョーゲンは・・・・・・。

 

「果樹園に向かってるペエ!!!!」

 

「そっちはダメラビ!!!!」

 

地響きを立てながら農家さんの果樹園へと向かおうとしており、ラビリンたちはギガビョーゲンを食い止める。

 

「あれぇ? プリキュアと別れたくないんだろ?」

 

「「「っ!?」」」

 

気がつくとダルイゼンとカスミーナは木の上に立っており、ダルイゼンの言葉を聞いたラビリンたちは足を止める。

 

「だったらお手当てをやめれば、お前たちの望みが叶うんじゃない?」

 

「ダルイゼン様の言う通りだ。お手当てをしていれば、一緒にいる時間も短くなるぞ・・・・・・」

 

「っ・・・それは・・・・・・!!」

 

ダルイゼンやカスミーナの甘い言葉に、ラビリンたちは顔を顰めると・・・・・・。

 

「それは違うラビ!!!!」

 

「・・・・・・皆で過ごす時間は失いたくない。でも、守りたいのはそれだけじゃない!!!!」

 

「お手当ては少し怖かったけど・・・みんなで過ごす人間界には、優しい人がたくさんいて・・・今はちゆたちだけじゃなくみんな大事ペエ!!!!」

 

「大好きなみんなを守るためにラビリンたちはここにいるラビ!! だから・・・・・・だから、安易を言われようと、絶対にっ!! お手当ては止めないラビっ!!!!」

 

ラビリンたちは反論し、声をあげてそう言う。のどかたちと過ごす時間は失いたくない、でも・・・今はそれだけじゃなくて、この世界には優しい人はたくさんいた。楽しい時間を作ってくれた。だから、そんな時間を失いたくためにお手当てをやめるなんて言語道断だ。絶対にやめるわけにはいかないと・・・・・・。

 

「まあ、俺たちがプリキュアを潰せば・・・一生、会えなくなるけどね」

 

それを聞いたダルイゼンは口角を上げてそう呟いた。

 

「そうか・・・そこまでして、私たちの邪魔をしたいか・・・・・・愚かな奴らめ・・・なら今ここで、全部消しとばしてやる!!!!」

 

カスミーナは木の上から飛び降りて、そう言うと黒いステッキを取り出して構える。

 

そんなカスミーナの体の中では・・・・・・。

 

「一緒に過ごす時間は失いたくない・・・・・・でも、大好きなみんなを守るため、か・・・・・・」

 

目を覚まして抵抗しているかすみは、ラビリンたちの言葉が響き、考えるように顔を俯かせる。

 

と、そこへ・・・・・・。

 

「ん?」

 

「っ・・・・・・」

 

足音が聞こえ、ダルイゼンたちがその方向を見るとやってきたのはのどかたちであった。

 

「ラビリン!!」

 

「ペギタン!!」

 

「ニャトラン!!」

 

「「「みんなっ!!!!」」」

 

「ワンっ!」

 

みんなはお互いに頷くと、のどかたちは変身アイテムを構えた。

 

 

「「「「スタート!」」」」

 

「「「「プリキュア、オペレーション!!」」」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

「エレメントレベル、上昇ラテ!!」

 

「「「「キュアタッチ!!」」」」

 

ラビリン、ペギタン、ニャトランがステッキの中に入ると、のどか、ちゆ、ひなたはそれぞれ花のエレメントボトル、水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

アスミは風のエレメントボトルをラテの首輪にはめ込む。すると、オレンジ色になっているラテの額のハートマークが神々しく光る。

 

のどかたち3人は、肉球にタッチすると、花、水、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、水色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ちゆは水色、ひなたは黄色へと変化する。

 

ラテとアスミは手を取り合うと、白い翼が舞い、ラテが舞ったかと思うとハートの中から白い白衣のようなものが飛び出す。

 

その白衣を身に纏い、ラテが降りてきたかと思うとハープが飛び出し、さらにアスミは紫色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

衣装にチェンジした後、ハープを手に取り、その音色を奏でる。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「「時を経て繋がる、二つの風!」」

 

「キュアアース!!」

 

「ワン!」

 

アスミは風のプリキュア、キュアアースへと変身した。

 

「「「「地球をお手当て!!」」」」

 

「「「「ヒーリングっど♥プリキュア!!」」」」

 

みんなは変身を終えると、それぞれステッキを構える。

 

「果樹園の農家さんが取り込まれてるラビ!!」

 

ラビリンがグレースたちにそう話していると、ギガビョーゲンは木の先端からビームを放ち、4人は咄嗟にその場から回避した。

 

「「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

グレースとスパークルは同時に飛び出して、ギガビョーゲンの体に蹴りを入れる。

 

「「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

しかしギガビョーゲンには通用しておらず、逆に跳ね飛ばされてしまう。

 

「全然聞いてない・・・・・・!!」

 

二人は着地をして、グレースはそう呟く。

 

「音のエレメント!!」

 

アースはアースウィンディハープに音のエレメントボトルをセットし、弦を奏でて音波を飛ばす。

 

「ギギ・・・・・・?」

 

それによりギガビョーゲンの動きが鈍くなった。

 

「これなら効きます・・・・・・!」

 

「じゃあ・・・・・・」

 

エレメント技が有効と見たフォンテーヌはエレメントボトルを取り出す。

 

「氷のエレメント!! はあぁっ!!!」

 

「ガッ・・・ガガッ・・・・・・」

 

氷のエレメントボトルをセットして、ステッキから冷気を纏った青い光線を放ち、ギガビョーゲンを氷漬けにした。

 

「ラビリン!!」

 

「ラビ!!」

 

キュン!!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

その隙にグレースはステッキの肉球を一回タッチして、ギガビョーゲンに向ける。ラビリンの目が光り、ギガビョーゲンの左胸辺りに農家の男性がいるのを発見した。

 

「農家さんはあそこラビ!!」

 

農家の男性を見つけ、ギガビョーゲンの浄化に入ろうとするが・・・・・・。

 

「っ、あぁぁぁぁ!!!!」

 

そこへどこからか黒い光弾が飛んできてグレースに直撃してしまい、地面へと転がった。

 

「私たちもいるってこと、忘れてないか・・・・・・?」

 

「ふっ、相変わらず、甘いね・・・・・・」

 

「っ・・・カスミーナ・・・ダルイゼン・・・!」

 

グレースが体を起こして飛んできた方向を見てみると、ステッキを構えたカスミーナがこちらを見ており、その後ろの木の上にはダルイゼンがいた。

 

「さぁ、決着を付けよう・・・キュアグレース・・・!! 私はお前を倒して完全なビョーゲンズになるんだ・・・・・・!!!!」

 

「完全な、ビョーゲンズ・・・・・・?」

 

不敵な笑みのカスミーナの言葉に疑問を持つグレースだが、カスミーナは手のひらに息を吹きかけて黒い塊を作り出す。

 

「ナノ・・・・・・」

 

生み出されたナノビョーゲンはカスミーナが持っている黒いステッキに取り憑く。そして、ハザードマークの赤色のボトルを取り出す。

 

「プリキュア、インフェクション・・・・・・」

 

かすみは黒いステッキにエレメントボトルをかざし、ステッキのエネルギーを上昇させる。

 

「イルネスレベル、上昇・・・・・・」

 

ステッキの先のハートマークが赤黒く光っていく。

 

「キュアタッチ・・・・・・」

 

ナーノー!!

 

カスミーナは肉球にタッチすると、紫色がかった赤い靄が放出され、カスミーナの体を包み込む。

 

すると、髪型は大きくのびてロングヘアーとなり、ダークパープルのような色へと変わり、リボンの色は銀色になり、前髪に黒色の楕円のようなカチューシャが付けられ、黒色のバラのようなイヤリングが付けられる。

 

服装も赤い靄に包まれたところから変化していき、胸に逆さハートの飾りをあしらったパフスリーブのダークパープルのワンピースへと変わり、手袋は黒色になり、足元は赤黒いショートブーツへと変わった。

 

ナーノー!!

 

「淀み合う二つの災厄!! キュアハザード!!」

 

カスミーナは病気のプリキュア、キュアハザードへと変身を遂げたのであった。

 

「っ・・・・・・!!」

 

グレースは立ち上がってハザードへとステッキを構えるが、その瞬間ハザードは一瞬のうちにグレースの前に瞬間移動をし、パンチを繰り出す。

 

「うっ・・・はぁっ・・・!」

 

「っ・・・ふっ・・・はぁぁぁ!!!!」

 

グレースもパンチで応戦し、二人はパンチでの応戦を繰り返す。

 

「「「グレース!!」」」

 

フォンテーヌ、スパークル、アースの三人はグレースを心配して見る。

 

ピキピキピキ・・・パキィィィン!!!!

 

「ギガビョーゲン!! ギガァ!!!!」

 

「「!!」」

 

その間に氷漬けにされていたギガビョーゲンが復活し、両手をツルのようにフォンテーヌとアースへと目掛けて伸ばしてきた。

 

「火のエレメント!! はぁっ!!」

 

そこへやらせまいとスパークルが火のエレメントボトルをセットし、火を纏った光線を放ち、ツルのような触手を消滅させる。

 

「よし!!」

 

「ギガァ・・・・・・ビョォッ!!」

 

スパークルは歓喜したのも束の間、ギガビョーゲンは両腕をすぐに再生させてしまう。

 

「うぇっ!? そんなのアリっ!?」

 

スパークルはそんなギガビョーゲンに驚きながらも、三人は次の攻撃に備える。

 

「っ・・・葉っぱのエレメント!! はぁっ!!」

 

グレースはハザードから距離を取って、葉っぱのエレメントボトルをセットし、飛びながらピンク色のエネルギーを放つ。

 

「・・・・・・・・・」

 

しかし、ハザードはそれを高速で移動しながら避け、黒いステッキから黒い光弾を連続で放つ。

 

「うっ・・・はっ・・・・・・!!」

 

グレースもなんとか光弾を避け、ハザードへと飛び出す。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ハザードに目掛けて蹴りを繰り出すも、ハザードはステッキからシールドを展開してその蹴りを防ぐ。

 

「っ!!」

 

「ぷにシールド!!」

 

「うぅぅぅ!!!!」

 

ハザードはその場から瞬時にグレースの横へと瞬間移動をして、ステッキを半円を描くように動かして赤い球体を複数出現させると、光線を一斉に照射する。

 

咄嗟に肉球型のシールドを展開するも、光線の勢いが強く逆に押されてしまい、地面へと吹き飛ばされる。

 

「うっ・・・っ!?」

 

なんとか倒れないように着地したグレースだが、そこへハザードが右手に黒いオーラを込めながら高速で走りながら迫る。

 

「っ・・・ぐっ・・・・・・あっ!?」

 

カスミーナは目の前に迫ってパンチを繰り出し、グレースは手を交差させて防ぐも、吹き飛ばされて木へと叩きつけられてしまう。

 

「ぐっ・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「っ!!」

 

グレースは痛みに呻くも、ハザードは容赦無くステッキから黒い光線を放ち、グレースは耐えながらも飛んで避ける。

 

「実りのエレメント!! はぁぁぁぁっ!!!!」

 

グレースは実りのエレメントボトルを取り出してセットし、ステッキにピンク色の刀身を伸ばしてハザードへと振り下ろす。

 

「・・・・・・ふん」

 

ガキン!!!!

 

ハザードは少しも動揺することなく、暗いピンク色のボトルをセットすると刀身を生やして、グレースの刀身を受け止める。

 

「っ・・・・・・!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

グレースとハザードは互いに剣を押しあって鍔迫り合いの状態となる。

 

「かすみちゃん・・・いるんでしょ!? 聞こえてるなら、こんなことやめさせて!!!!」

 

「・・・誰と話している? お前はバカか? 偽物に声など届くものか・・・!!!!」

 

グレースはハザードの中にいるかすみに呼びかけようとするが、ハザードはその行いを嘲笑し、刀身を横薙ぎに振るって薙ぎ払う。

 

ガキン!! ガキンガキン!!!!

 

グレースとハザードの刀身がぶつかり合い、激しい斬り合いとなる。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

「っ・・・・・・あっ・・・・・・!?」

 

ハザードと斬り合いを続けていたグレースの体が再びガクンと傾きそうになる。

 

「はぁっ!!!!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ハザードはその隙を見逃さず、赤黒いオレンジ色のボトルをセットして、雷を纏った黒い光弾を空に放ち、ドス黒い雲が出現するとグレースに目掛けて黒い雷が落ちて直撃し、感電して絶叫を上げたグレースはその場に倒れ伏してしまう。

 

「うっ・・・・・・・・・」

 

「グレース!!」

 

ラビリンは倒れて呻くグレースに声をかけるも、グレースは体が痺れて起き上がることができない。

 

「グレース!!!!」

 

ハザードの中にいるかすみも、そんな戦いの様子を見て叫ぶ。

 

「戦いに集中していないから、そういうことになるんだ・・・・・・」

 

「うっ・・・・・・!」

 

ハザードはそんな声を意に介さず、グレースを嘲笑いながら近寄ると彼女の体を踏みつけてステッキを向ける。

 

「ギガビョ〜、ゲェン・・・!!!!」

 

そんな頃、ギガビョーゲンは身体の枝を前方に向け、先端にエネルギーを溜め始めた。

 

「ニャア!! 農家さんの果樹園が!!」

 

「させないわ!!!!」

 

しかも、ギガビョーゲンが構えた先には農家さんの果樹園があり、避けると当たってしまう。フォンテーヌ、スパークル、アースは森の間にある柵の前に立ち、その瞬間にギガビョーゲンはエネルギー波を放った。

 

「「ぷにシールド!!」」

 

ペギタンとニャトランはそう叫び、最大出力でシールドを張って防ぐ。

 

「ギガァ・・・・・・!!」

 

しかし、ギガビョーゲンは攻撃の威力を上げて、シールドを押し始める。

 

「うっ、強っ! 押し返される!!」

 

「くっ・・・・・・!!」

 

スパークルとアースは苦しい表情をし始め、アースがサポートをしようと前に出る。

 

「空気のエレメント!!」

 

アースは空気のエレメントボトルをセットして、空気の塊を放った。

 

「ギガビョォ・・・・・・ゲェェェン!!!!!」

 

しかし、ギガビョーゲンは口からの光線でそれを打ち消し、自分の攻撃の威力をさらに上げた。

 

「うっ、うぅぅぅぅぅ・・・・・・!!!!」

 

「くっ、うぅぅぅぅぅ・・・・・・!!!!」

 

攻撃を押されて顔を顰めるフォンテーヌとスパークル。ペギタンとニャトランもうめき声を上げながら防ぐが、シールドにはヒビが入り始めていた。

 

「みんなぁ!!!! ぐっ・・・!!!!」

 

「他人の心配をしている暇があるのか・・・・・・?」

 

「くっ・・・がはっ!!??」

 

グレースはそんな状況を見て叫ぶも、ハザードは淡々とそう言いながら踏む力をさらに強くし、捻るように踏み込むとグレースは痛みで目を見開き、口から空気を吐いた。

 

「ぐっ、ぅぅぅぅ・・・・・・!!」

 

ハザードはグレースから足を退けると今度は胸倉を掴んで持ち上げ、体から黒いオーラを発する。

 

「さて・・・そろそろお前を消して、完全になるか・・・・・・」

 

「ぅぅぅぅ・・・っ!? ぐっ、うっ、うぅぅぅぅぅ!!!!」

 

ハザードは黒いオーラをさらに強く発すると、グレースの体が白いオーラに包まれ、そのオーラがハザードへと移っていく。すると、グレースが苦しみ始めた。

 

「グレース!! グレース!!!!」

 

「ぅぅぅぅぅ・・・・・・」

 

ラビリンはグレースに呼びかけるが、ラビリンの声が聞こえないくらいに苦しんでいた。

 

「ふふふっ・・・・・・」

 

ハザードはその様子を見て、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「うぅぅぅ・・・・・・!!」

 

「ぐぅぅぅぅぅ・・・・・・!!」

 

「んぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・!!!!」

 

『・・・・・・だったらお手当てなんかしなきゃいいじゃない』

 

『お手当てをやめれば、望みが叶うんじゃない?』

 

ラビリン、ペギタン、ニャトランはクルシーナとダルイゼンの言葉を思い出し、その目には涙が浮かんでいた。

 

「くそっ・・・・・・私は、どうすればいいんだ・・・・・・!?」

 

かすみは地面に手を叩きつけながら、悔しそうに叫ぶ。このままではグレース、のどかが消されてしまう。抵抗しても主導権も取り返せない自分は、一体どうすればいいのか・・・・・・?

 

「・・・・・・だったら、お前がもっと抗えばいい」

 

「っ!? 誰だ!!??」

 

すると、かすみの頭の中に声が響き、かすみは立ち上がって辺りを見渡す。

 

「私はここだ・・・・・・」

 

「っ!!」

 

声がした方向に振り向くと、自分と同じ姿だが、カスミーナと同じような姿の少女が不敵に笑みを浮かべながら立っていた。

 

「誰だ、お前は・・・・・・!?」

 

「お前は私だよ、お前の中の闇さ。お前が本来持つはずだったビョーゲンズとしての本能さ・・・・・・お前が入れたメガパーツがそうさせたのさ・・・・・・」

 

かすみが動揺したように叫ぶと、カスミーナ似の少女はそう説明する。

 

「それよりも、お前はあのプリキュアを助けたいんだろ? だったらもっとお前が利用して、抗えばいい」

 

「何だ、お前は・・・・・・どうして、私にそんなことを言う・・・・・・?」

 

かすみがそう言うと、少女は口元をさらにニヤリと歪める。

 

「私はお前のことを気に入っているからだよ・・・・・・」

 

「何・・・・・・?」

 

「本当はお前を内側から操ってビョーゲンズと同じようにしようとしていた。だが、それすらも抗ってプリキュアのために動くお前に感心した。実に面白い・・・・・・!」

 

「っ・・・・・・!!」

 

少女はそう話すと、かすみは睨みつけながら警戒する。

 

「どうだ? 私はお前に力を貸すことができる・・・・・・お前がまだ抗うのを諦めていないというのであれば、お前に力を与えてやろう・・・・・・」

 

「ふ、ふざけるな!! お前はビョーゲンズなんだろう? カスミーナと同じなんだろう? そんな奴の言うことなんか信じられるか!!!!」

 

少女はそう言ってかすみへと手を差し伸べると、かすみは首を振りながら拒絶しようとする。

 

「信じるも信じないもお前次第だ。だが、このままではあのプリキュアは消えるのではないか?」

 

「っ・・・・・・!!」

 

「意地を張って助けられないくらいなら、私の手を取って少しでも助けたほうがマシだと思うがな・・・・・・」

 

少女がそう言うと、かすみは反論できず悔しそうな顔をする。そして、再びグレースの姿を見る。

 

『うぅぅぅぅぅ・・・・・・!!!!』

 

このままではグレースが・・・・・・そう考えたかすみは葛藤する・・・・・・。

 

そして・・・・・・・・・。

 

「・・・・・・わかった。今だけお前の力を借りたい。助けてくれ」

 

「・・・ふふふふふふっ」

 

かすみはグレースを助けるために少女に力を貸すように求め、手を差し伸べる。少女は笑い声をあげると、かすみの手を取る。

 

バサッ!!!!

 

「っ!!」

 

その瞬間、少女の背中から悪魔のような黒い翼が広がって、黒く神々しい漆黒のオーラが発せられる。その姿を見たかすみは驚きに目を見開き、見とれていたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第133話「理想」

前回の続きです。
かすみの行方・・・そして、次なる戦いが始まります・・・!!


 

プリキュアとビョーゲンズが激闘を繰り広げている中・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナはダルイゼンやカスミーナと離れ、中島先生を連れて森のどこかを歩いていた。

 

ふと見つけた切り株の上に、眠っている中島先生をゆっくりと優しく載せる。

 

「クルシーナ・・・・・・仕事しなくていいウツ?」

 

「・・・・・・これからするのよ」

 

ふとウツバットが声をかけると、クルシーナは中島先生を見つめながらそう言った。

 

「先生・・・・・・私は先生のことが好きよ。医者は嫌いだけど、先生のことは好き・・・・・・」

 

クルシーナは優しい笑みを浮かべながらそう言うと、懐からメガパーツを取り出す。

 

「だから、先生をビョーゲンズの世界に連れて行きたい・・・・・・おいでよ。そしたら、先生にも病気の素晴らしさ、わかると思うから♪」

 

クルシーナはそう言いながら、中島先生にメガパーツを近づけていく。

 

そんな時だった・・・・・・・・・。

 

「そこの君!!」

 

「っ!!」

 

クルシーナの背後から声が聞こえ、振り向いてみるとそれは町の職員の男性だった。男性の背後を見ていると、町の職員たちがゴミ掃除を行っており、この男性はその一人のようだった。

 

「眠っている女性に何をする気なんだい・・・・・・?」

 

「っ・・・・・・・・・」

 

男性はどうやら咎めようとしているようで、クルシーナは顔を顰めるとメガパーツをゆっくりと懐にしまい込むと、その場から姿を消すと・・・・・・。

 

「っ!? うわぁっ!!!!」

 

クルシーナは瞬時に男性の目の前に現れ、片手で突き飛ばして地面に倒した。

 

「・・・・・・ムカつくのよねぇ、お前らみたいな偽善者。環境のためだとか、地球のためだとか、なんだか知らないけど、意味のわかんないことしちゃってさぁ」

 

「うっ・・・・・・」

 

クルシーナは呻く男性を見下ろしながら、不機嫌そうな表情でそう言い放つ。

 

「あっ、そうだ・・・・・・先生をビョーゲンズにすることよりも、いいこと思いついちゃった♪」

 

クルシーナは何かを思いついたようにハッとしたような表情をすると、不敵な笑みで男性を見据える。

 

「先生に病気の喜びを知ってもらうんだ・・・・・・あの美しさをね。だから、目を覚ましてもいいようにこの辺一帯を赤色で染め上げないとねぇ・・・・・・あの紅葉みたいに」

 

「な、何を、言って・・・・・・・・・?」

 

クルシーナはそう呟くと、痛みに呻く男性の疑問を尻目に、手のひらから息を吹きかけて黒い塊を作り出す。

 

「進化しろ、ナノビョーゲン」

 

「ナーノー」

 

生み出されたナノビョーゲンが鳴き声を上げると、倒れている職員の男性へと飛んでいく。

 

「あっ・・・・・・あぁぁ・・・・・・」

 

職員の男性は悲鳴も上げられずに、ナノビョーゲンに体を取り込まれていく。

 

その職員の男性を主体として、巨大な怪物がかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてその素体を模倣する様々なものが姿として現れていき・・・。

 

「ギガァ、ビョーゲン!!」

 

両肩にポリバケツのようなもの、両手に送風機のようなものが付き、ゼッケンを身につけた職員のような姿をしたギガビョーゲンが誕生した。

 

「ギーガァァァァ!!!!」

 

ギガビョーゲンは両肩のポリバケツから上空に目掛けて、赤い球を次々と放って地上へと降り注がせる。すると、着弾して大きな爆発を起こしたところの広範囲の地面がゴミまみれとなって病気へと蝕まれていく。

 

「ふーん・・・ようやくアタシららしいギガビョーゲンが生まれたわねぇ♪」

 

クルシーナはそのギガビョーゲンの様子を見て、不敵な笑みを浮かべる。

 

「ギガァギィ・・・!!!!」

 

「「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 

「「「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 

ギガビョーゲンの姿に気づいた町の職員たちが悲鳴を上げて逃げ出していく。

 

「ギーガァァァ!!!!」

 

ギガビョーゲンはさらに両肩のポリバケツを前に向けると赤い光弾を大量に放ち、職員たちがゴミ拾いをした場所も次々とゴミまみれにして蝕む。

 

「ふふふふふふ♪ ゴミを片付けている職員が地球を蝕む怪物になるなんて滑稽ね。その調子♪」

 

クルシーナは笑いながらも、再び中島先生を見つめる。

 

「待っててね、先生・・・・・・目を覚ましたら、素敵な世界が広がってるから♪」

 

クルシーナは中島先生に近づけると、彼女に聞こえるような声でそっと耳元に囁いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数分前・・・・・・・・・。

 

ドサッ!!!!

 

「うっ・・・・・・う・・・・・・??」

 

胸倉を掴まれていたグレースは突然それから解放されて地面に倒れ伏す。呻き声を上げながらも顔を上げてカスミーナを見上げると、その表情は驚愕に目を見開かれていた。

 

「なっ・・・なん、だと・・・・・・」

 

カスミーナの視線には、ステッキを持っていない方、グレースの胸倉を掴んでいたはずの片手が急に手を離した光景が映っていた。しかも、それはカスミーナの意図ではなく、手が勝手に動いたのだ。

 

ガシッ

 

「な・・・なん、だ・・・・・・これは・・・・・・!!」

 

さらにステッキを持っていた手は、もう片方の手を掴んで抑えようとしていた。

 

「のどかに・・・手を出すな・・・・・・!!! 貴様、偽物の分際で・・・!!!!」

 

カスミーナの目はよく見れば片方が緑色に戻っており、カスミーナに敵うはずのないかすみが人格を半分取り戻して抵抗しようとしていることがわかる。一方の、カスミーナは体を渡すまいと抵抗を払いのけようとし、結果カスミーナの体は震える。

 

「えっ・・・・・・?」

 

「何が、どうなってるラビ・・・・・・?」

 

そんな光景をグレースとラビリンは、カスミーナに何が起こっているかわからず、呆然と見つめるだけだ。

 

「言っ、ただろ・・・お前に、好き勝手は・・・させないと・・・!!!! 邪魔をするな!! 死に損ないめ!!!!」

 

かすみはそう言いながら、片方の手を胸に当てようとし、カスミーナはその手を押さえつけて阻止しようとする。

 

そうこうしているうちに、かすみは苦戦しつつも、ようやく自分の手を胸に当てる。

 

「お・・・おい・・・何をする気だ・・・!!??」

 

カスミーナが顔を顰めながら言う言葉には、動揺が感じられた。なぜなら自身の体がピンク色、水色、黄色の三色のオーラに包まれ始めていたからだ。

 

「な・・・何ラビ・・・・・・!?」

 

「かすみちゃんの体が、光って・・・・・・?」

 

グレースとラビリンはかすみの様子を驚きながらも、じっと見つめていた。

 

「カスミーナ・・・私の悪い人格よ・・・・・・私の中から、出て行け・・・・・・!!!!」

 

かすみは表情が苦痛に歪みながらも、そう叫ぶと背中から悪魔のような黒い翼を生やし、体の光も強くなっていく。

 

「ぐっ・・・ぐぁぁぁ・・・うあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!! こ、この・・・・・・!!!!」

 

カスミーナは苦痛の叫びを上げ始めるも、憎々しげにかすみが胸に当てた手を引き剥がそうとする。

 

「うぅぅぅぅぅぅ・・・の、のどか・・・・・・今の、うちに・・・・・・私に攻撃を・・・・・・!!!!」

 

「っ・・・・・・・・・」

 

かすみはグレースの方をみるとそう言い、グレースはその様子を見て動揺する。もしかして、かすみは自分に浄化技を使えと言っているのだろうか・・・・・・?

 

「で、できない・・・・・・できないよ・・・・・・!!!! かすみちゃんに、浄化技を・・・打つなんて・・・・・・!!!!」

 

グレースは怯えた表情をしながら首を横に振る。もしかしたら、かすみも一緒に浄化してしまうかもしれない。敵になってしまったとはいえ、友達を消滅させるなど、グレースには耐え難いことだった。

 

「早く、しろ!! 農家の人の農園が、どうなってもいいのか!!??」

 

「っ!!!!」

 

「大、丈夫だ・・・私は、並程度では、やられん・・・・・・!!!!」

 

渋るグレースに、かすみが苦痛に歪ませながらも発破をかけるとグレースはハッとする。友達を失うのは怖い・・・・・・でも、ここで自分がやらなければラビリンが世話になった農家さんの果樹園が病気にされてしまう・・・・・・。

 

「グレース!!」

 

「っ?」

 

「ラビリンはかすみを信じたいラビ!! グレースは、かすみを信じられないラビ・・・?」

 

ラビリンは躊躇するグレースにそう声をかける。浄化技を撃つのは躊躇いがちだが、友達をこれ以上苦しめたくない・・・だから、ラビリンはかすみを信じて撃つことを決めたのだ。

 

それを聞いて、グレースは首を振った。

 

「私は・・・かすみちゃんの友達だもん!! もう誰かが、苦しむのは見たくない・・・!!!! だから、私はかすみちゃんを、助ける・・・!!!!」

 

グレースはゆっくりと立ち上がると、花のエレメントボトルを取り出す。

 

『・・・・・・だったらお手当てなんかしなきゃいいじゃない』

 

『お手当てをやめれば、望みが叶うんじゃない?』

 

「っ・・・・・・・・・!!」

 

ラビリンの頭の中に再びクルシーナとダルイゼンの言葉が甦る。ラビリンは少し顔を顰めるも、すぐに首を振ってその言葉を振り払った。

 

「絶対に・・・・・・負けないラビ!!!!」

 

ラビリンがそう叫ぶと同時に、グレースは花のエレメントボトルをステッキにセットする。

 

「エレメントチャージ!!」

 

そう言いながら光るステッキの先をハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「ヒーリングゲージ上昇!!」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングフラワー!!」

 

キュアグレースはそう叫びながら、ステッキを上空へと飛んでいるメガビョーゲンに向けて、ピンク色の光線を放つ。光線は螺旋状になっていた後、かすみへと飛んでいく。

 

「離、せ・・・離せ!!!! この偽物ごときが!!!! 離すか・・・絶対に離すものかっ・・・のどかを苦しめたお前だけは絶対に離さないっ!!!! な、なぜだ・・・なぜ私がこいつを、引きはがせない・・・!? なぜだ!!??」

 

カスミーナは胸に当てている手を懸命に引き剥がそうとするが、かすみの気迫と体の中の力のせいか引き剥がすことができない。

 

そして・・・・・・・・・光線がかすみの体に直撃した。

 

「ぐっ・・・ぐぅぅぅぅぅぅ・・・!!!!!」

 

光線はかすみの体の中へと入っていき、カスミーナが苦しみ始める。

 

「い、いいのか、お前・・・・・・私の中の偽物も、消えることになるぞ・・・・・・!!!!」

 

カスミーナはかすみを盾にして、グレースをけん制しようとするが・・・・・・。

 

「私、決めてるの!! 絶対にかすみちゃんを助けるって!! かすみちゃんが私を信じて撃ってって言ったの!! だから、私は友達の、かすみちゃんを信じる!!!! あなたなんかに、好き勝手はさせないっ!!!!!!」

 

グレースはカスミーナの脅しのような言葉にも強気に反論し、光線の勢いを強くした。

 

「ぐっ、うぅぅぅぅぅぅ・・・ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

カスミーナは耐えることができず、かすみの体ははるか遠くへと吹き飛んでいった。

 

「俺たちは絶対に負けねぇ!!! 底力を見せてやろうぜ!!!!」

 

「ビョーゲンズの思い通りには、させないペエ!!!!」

 

一方、ギガビョーゲンの攻撃を防いでいるフォンテーヌとスパークル。ニャトランたちがそう声を上げると、2つのシールドは1つになって強化され、そのままギガビョーゲンの攻撃を押し返していく。

 

「っ、ギ、ギガァァァァ・・・!?」

 

遂にはギガビョーゲンの攻撃は打ち消され、ギガビョーゲンは後方へと吹き飛んだ。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・や、やった・・・・・・!!」

 

「かすみ・・・・・・・・・」

 

「っ・・・・・・・・・」

 

グレースはカスミーナに勝ったことに喜びつつも、吹き飛んでいったかすみのことを切なげに見つめていた。

 

「っ・・・落ち込んでいる場合じゃないラビ!! 早くギガビョーゲンを!!」

 

「!! うん!!」

 

ラビリンはまだ終わっていないことにハッとすると、グレースに呼びかけ、フォンテーヌたちの元へと走る。

 

「遅れてごめん!!」

 

「グレース!!」

 

「グッドタイミングだよ!!」

 

駆けつけてきたグレースが無事だとわかり、フォンテーヌは安堵の声を漏らし、スパークルは親指を突き立ててそう言った。

 

「ラテ様、行くラビ!!」

 

「ワフ〜ン!!」

 

ラビリンの言葉を受けて、ラテは大きく鳴いた。

 

「「「「ヒーリングっどアロー!!!!」」」」

 

4人がそう叫ぶとラテがステッキとハープ、エレメントボトルの力を一つにまとめた注射器型のアイテム、ヒーリングっどアローが出現する。

 

その注射器型のアイテムに、ハートの模様が描かれたエレメントボトルをセットする。

 

「「「「ヒーリングアニマルパワー!! 全開!!」」」」

 

ヒーリングアニマルたちのダイヤルが回転し、その注射器型のアイテムが4つに別れるとグレースにはラビリン、フォンテーヌにはペギタン、スパークルにはニャトラン、アースにはラテの部分で止まり、グレースたち4人の服装や髪型などが変化し始める。

 

そして、4人の背中に翼が生え、いわゆるヒーリングっどスタイルへと変化を遂げる。

 

「「「「アメイジングお手当て、準備OK!!!!」」」」

 

4人は手に持っている注射器のレバーを引くと、虹色のエレメントパワーがチャージされる。

 

「「「「OK!!!!」」」」

 

そして、パートナーのヒーリングアニマルたちがダイヤルから光となって飛び出し、思念体の状態になって現れ、パートナーに寄り添った。

 

「「「「プリキュア!ファイナル!! ヒーリングっど♡シャワー!!!!」」」」

 

プリキュアたちがそう叫ぶと、レバーを押して4色の螺旋状の強力なビームを放った。4色のビームは螺旋状になって混ざり合いながら、ギガビョーゲンへと向かっていき光へと包み込んだ。

 

ギガビョーゲンの中で4色の光は、それぞれの手になって中に取り込まれていた農家の男性を優しく包み込む。

 

ギガビョーゲンをハート状に貫きながら、4色の光線は農家の男性を外に出した。

 

「ヒーリン、グッバイ・・・・・・」

 

「「「「「「「お大事に」」」」」」」

 

「ワフ~ン♪」

 

ギガビョーゲンが消えたと同時に、果樹園近くに広範囲に渡って蝕まれていた木々が元の色を取り戻していく。

 

「ふっ・・・・・・残された時間をせいぜい楽しむんだね」

 

プリキュアたちの方を見ながらダルイゼンはそう呟くと、次に虚空を見つめ始めた。

 

「クルシーナ・・・・・・・・・」

 

人間の女性を連れ去ったクルシーナのことを気にしつつも、ダルイゼンは撤退していった。

 

「なんとか止めたラビ・・・・・・でも、まだ終わってないラビ・・・・・・!!」

 

「? どういうことなの、ラビリン?」

 

ラビリンは安心していない様子でそう言うと、グレースがそう尋ねる。

 

「クゥ〜ン・・・クゥ〜ン・・・・・・」

 

「ラテ、どうしたのですか?」

 

ラテも何やら言いたげな様子で鳴いており、アースがそう声をかける。

 

「中島先生が、攫われたラビ・・・・・・」

 

「「「「っ!?」」」」

 

ラビリンが言いにくそうな様子で告白すると、グレースたちは驚いた。

 

「中島先生が・・・・・・?」

 

「攫われた・・・・・・?」

 

「どういうことなの・・・・・・!?」

 

「実はクルシーナもいて、目の前で攫われたラビ・・・・・・ラビリンを庇って・・・・・・ラビリンは止めようとしたけど、全く敵わなかったラビ・・・・・・」

 

グレースたちにラビリンは落ち込んだ様子でそう話す。

 

「ラビリンが、もう少し強ければ・・・・・・先生は攫われなかったのにぃ・・・・・・先生には本当に申し訳ないラビ・・・・・・今日のツアーだって連れてこなければよかったラビ・・・・・・本当はラビリンが攫われればよかったのに・・・・・・」

 

「ラビリン・・・・・・」

 

ラビリンは瞳をうるうるとさせながら話し、グレースも悲しそうな表情で見つめる。

 

そんな時だった・・・・・・・・・。

 

「クチュン!!」

 

「っ!? ラテ!!」

 

ラテがくしゃみをして、再び具合が悪くなる。アースが抱き抱えて、取り出した聴診器でラテを診察してみると・・・・・・。

 

(あっちの方で、職員のお兄さんが泣いてるラテ・・・・・・)

 

「職員の、お兄さん・・・・・・?」

 

「っ! きっとゴミ掃除をしてくれてた職員の一人だぜ!!」

 

スパークルがあまりピンとこない感じで言うと、ニャトランが先ほどゴミ拾いをしてくれていた職員の人だということを思い出す。

 

「ラビリン、しんらちゃんはどこに行ったの?」

 

「向こうの方ラビ・・・・・・」

 

グレースがそう問いかけると、ラビリンはクルシーナが去っていった方向を向く。

 

「まだ行けば、先生が見つかるかもしれないよ」

 

「ラビ・・・・・・?」

 

「ラビリン、ラビリンは何も悪くないよ? だって、ラビリンは先生を助けようとしてくれたんだよね? ラビリンは偉いよ。私はそんな優しいラビリンがパートナーでよかったと思ってる」

 

「グレース・・・・・・」

 

グレースは少し希望のあることを話すと、ラビリンに思いの丈を話した。それを聞いたラビリンは瞳をうるうると潤ませた。

 

「そうだよ。行った場所がわかってるなら、まだ助けられるよね?」

 

「だったら、早く助けに行こうぜ。俺も先生のことは好きだからよぉ」

 

「もしかしたら、ギガビョーゲンを呼び出したのはしんらさんかもしれないわ」

 

「場所さえわかれば、見つかるはずペエ」

 

「ラビリンのやったことは、無駄にはならないと思います」

 

「ワン♪」

 

スパークルとフォンテーヌたちも、ラビリンを励ますようにそう言う。

 

「みんなぁ・・・・・・」

 

ラビリンはそんなグレースたちの気遣いに泣きそうになる。

 

「早く助けに行こう? 先生も待ってるはずだよ」

 

「グスッ・・・・・・ラビ!!」

 

ラビリンは涙を振り払って返事をすると、グレースたちはギガビョーゲンの元に向かうべく走り出したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふわぁ〜・・・・・・ギガビョーゲンの仕事が完了するのを待っているとはいえ、退屈ねぇ・・・・・・」

 

一方、クルシーナはギガビョーゲンが周囲を蝕むのを眺めながらそう呟いていた。ふと中島先生の方を見るも、中島先生はスヤスヤと眠っている。

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナは少し先生の寝顔を見つめた後、再びギガビョーゲンの方を見る。

 

すると・・・・・・・・・。

 

「ん?」

 

何かこちらに飛んでくるのが見えた。それは何やら人のようなもののようだが・・・・・・。

 

それはクルシーナの頭上を通り過ぎると、クルシーナの後方数メートル通り過ぎたところに落ちていった。

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナは気になって、その場から立ち上がってその落ちたものを見に行くことにした。

 

ギガビョーゲンや先生から離れて、その落ちたであろう場所へと向かっていくと・・・・・・。

 

「? カスミーナ?」

 

そこにはカスミーナが倒れており、その背後の木がへし折れて倒れているのが見えた。

 

「・・・・・・?」

 

カスミーナに近づいていくと、その体が赤い靄に包まれており、その表情は苦しそうな顔をしていた。

 

そして・・・・・・赤い靄はカスミーナの体から飛び出していくと、ものすごい速さで森の中へと消えていく。すると、カスミーナの髪が銀髪から金髪へと戻り、赤だった瞳を緑色になり、漆黒の手袋やスカートは赤色へと戻っていった。

 

「はぁ・・・・・・戻っちゃったか・・・・・・まあ、いいけど・・・それに新しい何かがこいつの中にあるみたいだけど、こっちが本物かしらね」

 

クルシーナは自分と対立していた人格のカスミーナに戻ってしまったことを悟り、でも気にしない様子でそう呟くと、指を鳴らして手下の小さなコウモリの妖精たちを呼び出す。

 

「こいつをアジトまで運んでいけ。お父様から呼び出しもあると思うけど、とりあえずベッドに寝かせておきな」

 

クルシーナは黒いゲートを出現させてそう指示をすると、小さなコウモリの妖精たちは皆でカスミーナーーーーかすみの体を持ち上げて、そのまま黒いゲートの中へと入っていった。

 

「さてと、出ていった方はどうなのかしらねぇ・・・まあ、あんまり期待してないけど」

 

クルシーナはかすみの体から飛び出していった赤い靄の行方を気にしつつも、ギガビョーゲンと先生の元へと戻っていく。

 

「ギーガァァァァ・・・・・・」

 

「ギガビョーゲンの方は順調ね」

 

クルシーナが笑みを浮かべながら、両肩のポリバケツから赤い光線を撒き散らすギガビョーゲンを見据える。

 

「先生ー!!!!」

 

「っ・・・・・・」

 

そこへ聞こえてくるグレースの声を聞いて、クルシーナは顔を顰める。

 

「しんらちゃん・・・・・・!!」

 

「ギガビョーゲンを生み出していたのは、やっぱりあなただったのね・・・・・・!」

 

「来たか・・・プリキュア・・・・・・!」

 

グレースとフォンテーヌがこちらを見ながら言うと、クルシーナは忌々しそうに呟く。

 

「アタシは先生に理想の世界を見せたいんだ。邪魔をするなら潰すわよ・・・!!!!」

 

黒いオーラを発せながらそう言うクルシーナに、緊張した面持ちになるプリキュアたち。

 

「先生がそんな世界を望むわけがないよ!!!!」

 

「そうだよ!! しんらっちのことを治そうとしたナカッチ先生が、そんな病気だらけの世界を望むわけないじゃん!!!!」

 

「先生はあなたを助けようとして、あなたのために尽くしたのよ・・・・・・そんな先生がビョーゲンズに支配された世界なんて望むはずがーーーー」

 

「黙れ!!!!」

 

グレースたちは怯まずにそう言い返すも、三人の言ったことが癇に障ったのか怒鳴り声を上げて一蹴する。

 

「もういいのよ、そんな無意味な議論は・・・! アタシはビョーゲンズ、お前らはプリキュア、争う理由はそれで十分なのよ。それに・・・わかってくれないなら、理解してもらうだけなんだから・・・!!!!」

 

クルシーナはそう言うと再びメガパーツを取り出して、中島先生に近づく。

 

「っ、やめて!!!!」

 

何をしようとするかわかったグレースはとっさに飛び出してクルシーナを阻止しようとするが、クルシーナは片手で指を鳴らして、手下の小さなコウモリの妖精たちをけしかける。

 

「っ、きゃあ!! うっ・・・!!」

 

グレースはまとわりつくコウモリの妖精たちのせいで、先に進むことができず、クルシーナに近づくことができない。

 

「「「グレース!!」」」

 

「・・・・・・やれ、ギガビョーゲン」

 

心配して叫ぶフォンテーヌたちは同じように阻止しようと飛び出すが、クルシーナはギガビョーゲンに指示を出す。

 

「ギーガァァァァ!!!!」

 

「「「っ・・・・・・!!」」」

 

ギガビョーゲンは両手の送風機から赤い竜巻ごと光線を放つ。フォンテーヌたちはそれを散開して避ける。すると、プリキュアが踏んでいた地面がゴミまみれになって赤く蝕まれる。

 

「ふん・・・・・・・・・」

 

クルシーナは鼻を鳴らしてそれを見ると、再び中島先生を見つめる。

 

「先生・・・・・・一緒にアタシたちの世界に行こ・・・・・・」

 

クルシーナは優しいような、歪んだような笑みを浮かばせながら眠っている先生にメガパーツを近づける。

 

「はぁっ!!」

 

「っ!! ちっ・・・・・・!」

 

しかし、クルシーナの持っていたメガパーツは、小さなコウモリの妖精を振り払ったグレースがステッキから放った光線に弾かれ、光線が放たれた方向を見たクルシーナは顔を顰めながら舌打ちする。

 

「先生をビョーゲンズになんかさせないラビ!!!!」

 

「しんらちゃん・・・・・・私は止めるよ。先生を、地球のみんなを守るために!!!!」

 

「ふん、言ってろ・・・・・・テアティーヌの犬ごときが・・・・・・!」

 

グレースとラビリンが睨みながらそう言うと、クルシーナも睨み返しながらそう言い、片手に禍々しいピンク色のエネルギーを溜め始める。

 

睨み合う二人・・・・・・そして・・・・・・。

 

「ふんっ!!」

 

「実りのエレメント!! はぁっ!!」

 

クルシーナの放った禍々しいピンク色の光弾と、グレースの実りのエレメントボトルをセットして放ったピンク色の光弾がぶつかり合う。

 

先生を受け入れさせようとするもの、先生を助けようとするもの、因縁の対決が始まろうとしていた。

 

一方、かすみの体から出ていった赤い靄は・・・・・・・・・。

 

ズル・・・ズル・・・ズル・・・・・・。

 

赤い靄は地面を引きずりながらも森の中を進んでいく。辺りはギガビョーゲンの襲撃によって、病気に蝕まれており、健康的なものは一つもなかった。

 

赤い靄は心なしか黒いオーラに包まれており、周囲が凍りつくほどの私怨のようなものに包まれていた。

 

すると、赤い靄は何かを見つけたかのようにその動きを止める。目の前には奇跡的に蝕まれていない一本の木が立っているのがあった。

 

シュッ・・・・・・・・・!!!!

 

赤い靄は物凄いスピードで一本の木へと飛び付くと、その中に入り込む憑依する。すると、その木は赤い靄に包まれていく。

 

オノレッ・・・ニセモノ!! キュアグレース!!!! ユルサン・・・ゼッタイニユルサンゾッ・・・!!!!!!

 

一本の木から聞こえてくる怨嗟、恨みの言葉。その力によってなのか、一本の木が巨大な怪物へと徐々に姿を変えていく。

 

そんな包んでいる赤い靄からは、カスミーナの憎悪の表情が浮かび上がっていたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第134話「巨木」

前回の続きです。
クルシーナとの対決!! そして、あいつとの最終決戦です!!


 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

ギガビョーゲンと交戦中のフォンテーヌたち。フォンテーヌとスパークルは同時にキックを繰り出す。

 

「ギガァァァァ」

 

「「あぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

しかし、ギガビョーゲンには通用しておらず、ギガビョーゲンの両肩のポリバケツから大きなゴミを食らって地面へと吹き飛ばされる。

 

「音のエレメント!!」

 

アースは音のエレメントボトルをセットして、ハープから音波を放つ。

 

「ギーガァァァァ!!!!」

 

「っ!?」

 

ギガビョーゲンは両手の送風機から赤い竜巻と光線を放って、音波を打ち消しそのままアースも吹き飛ばす。

 

「うっ・・・やっぱり普通の攻撃が効いてない・・・・・・」

 

「エレメント技も消されてしまいます・・・・・・」

 

「こうなったら根気強く攻撃して、隙を見つけるしかないわね・・・・・・」

 

ギガビョーゲンに吹き飛ばされた三人はギガビョーゲンを見据えながらそう言い、再び立ち上がる。

 

「ギガァァァァ!!!!」

 

ギガビョーゲンは両肩のポリバケツからゴミを放ち、三人は同時に飛び上がる。

 

「ふっ!! やぁっ!!!!」

 

「はぁっ!!」

 

「ふっ!!」

 

三人は空中で飛んでくるゴミを蹴りやパンチで弾き飛ばしていく。

 

「氷のエレメント!! はぁっ!!」

 

フォンテーヌは氷のエレメントボトルをセットして、冷気を纏った光線をゴミの一つである玉のようなものに目掛けて放ち、氷漬けにする。

 

「スパークル!!」

 

「OK!! はぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「ギガァ・・・・・・!?」

 

フォンテーヌはそのままそれをスパークルへと蹴り飛ばし、スパークルは思いっきり蹴りを入れてギガビョーゲンに命中させて怯ませる。

 

キュン!!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

フォンテーヌは地面に着地して、ステッキの肉球を一回タッチしてギガビョーゲンに向ける。ペギタンの目が光り、胸の部分に職員の男性がいるのを見つけた。

 

「職員の男性はあそこペエ!!」

 

ギガビョーゲン内の職員の男性を捕捉したプリキュアたち。あとは浄化に移るだけだが・・・・・・。

 

「ギーガァァァァァァァァ」

 

復帰したギガビョーゲンは両肩のポリバケツを上に向けると複数の赤い球体を上空に目掛けて放つ。すると、それらの赤い球体から無数の光線が降り注いだ。

 

「きゃあぁっ!!!!」

 

「あぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「なんと無茶苦茶な・・・・・・!!!!」

 

プリキュアたちは広範囲の不意を突かれたような攻撃に、驚きつつもなんとか避ける。

 

「ギーガァァァァ・・・・・・!!!!」

 

ドカン!!ドカン!!ドカン!!!!

 

「あぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

さらにギガビョーゲンが黄色い目を光らせると、なんとまき散らされたゴミが爆発を起こし、スパークルは巻き込まれて吹き飛ばされてしまう。

 

「スパークル!!」

 

「ギガァァァァ・・・・・・!!!!」

 

「っ・・・・・・!!」

 

フォンテーヌはスパークルを心配して叫ぶが、ギガビョーゲンは両手の送風機から竜巻きを放つ。フォンテーヌはとっさにシールドを張って防ぐも押されて木々の方へと吹き飛ぶ。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ギガ・・・・・・?」

 

そこへ横からアースがキックを繰り出して怯ませるが、ギガビョーゲンはすぐに片方の送風機から光線を放ち、アースは飛んで避けた。

 

「空気のエレメント!!」

 

アースはハープに空気のエレメントボトルをセットし、空気の塊を放つ。

 

「ギガァァァァ・・・・・・!!!!」

 

ギガビョーゲンは送風機から竜巻を放って、空気の塊にぶつけて相殺した。

 

一方、グレースは・・・・・・・・・。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

グレースとクルシーナはお互いにパンチやキックを繰り出し、その応酬を繰り返していた。

 

「っ!! あぁっ!!」

 

クルシーナは隙をついてグレースの腹部に手を当てがうと、そこからピンク色の光弾を放って吹き飛ばす。グレースは着地して倒れないようにするが、そこへクルシーナが駆け出す。

 

「・・・・・・・・・」

 

「っ!!」

 

クルシーナは蹴りを繰り出し、グレースはそれを避けつつパンチを繰り出そうとするが、クルシーナはそれを片手で受け止める。

 

「っ・・・・・・・・・」

 

「ふん・・・・・・・・・」

 

「っ!? あっ!?」

 

グレースはパンチを押し込もうとするも、クルシーナはグレースを持ち上げて後方へと放り投げ、さらにピンク色の光弾を連続で放つ。グレースはうまく受け身を取って、シールドを張り光弾を防ぐ。

 

「お前らにアタシらを阻止しても無意味だと思うけどね」

 

「そんなこと、ないもん!!」

 

クルシーナは不機嫌そうな表情で挑発するが、グレースはそれに反論してエレメントボトルを取り出す。

 

「実りのエレメント!! はぁっ!!」

 

実りのエレメントボトルをセットし、ステッキから木の実型のエネルギー弾を放つ。

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナは片手を前に出すとそのエネルギー弾を受け止め、自分の口元へとそのエネルギー弾を持っていき吸収していく。

 

「っ・・・・・・!!」

 

「エレメントの力が・・・・・・!?」

 

グレースとラビリンは驚いたようにクルシーナの様子を見る。

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナは4つの禍々しい球体を出現させて、それらを全てグレースへと投擲していく。

 

「っ・・・うっ・・・・・・!!」

 

グレースはシールドを張って弾を防ぐも、炸裂した際の爆発が凄まじくグレースは顔を顰める。

 

「ふん・・・・・・・・・っ!!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

クルシーナはさらに人差し指からピンク色の禍々しい光線を放ち、シールドを打ち砕いてグレースを吹き飛ばした。

 

「っ!?」

 

「ふっ・・・・・・♪」

 

「あぁぁっ!!!」

 

吹き飛ばされたグレースの背後にクルシーナが瞬間移動をして現れ、そのまま片手からイバラのようなビームを放って打ち上げる。

 

「っ!!!!」

 

「うっ・・・っ!!」

 

クルシーナはさらに打ち上げた先に瞬間移動して、両手を組んでハンマーを作るとそれをグレースに振り下ろし、地面へと叩きつけた。

 

「・・・・・・この程度なわけ?」

 

「うっ・・・・・・」

 

「はぁ・・・呆れた。この程度で先生を助けようと息巻いてるなんて、本当にダサっ」

 

クルシーナは倒れ伏しているグレースに挑発の言葉を吐くと、グレースへと近づいてその場で地面に手を叩きつける。すると、イバラのような植物が地面から生えてくる。

 

「っ、ぐっ・・・痛っ・・・!! あっ・・・あぁ・・・・・・!!」

 

植物はグレースを磔のようにして拘束すると、彼女を持ち上げる。イバラが手や体に食い込み、グレースが苦痛に呻く。さらにグレースから白い光が発せられ、イバラの植物の方へと流れていく。

 

「そのままお前の元気を吸い取ってあげる、のんちゃん。そうすれば、また一緒にいられるでしょ? 大好きな先生と一緒にね♪」

 

「あぁ・・・・・・ぁぁ・・・・・・」

 

クルシーナは不敵な笑みを浮かべながら、先生が眠る切り株へと腰掛けてグレースの姿を眺める。グレースは体から力が抜けて行くのを感じ、瞼が重くなっていくのを感じるようになっていく。

 

ドカァァァァァァァン!!!!

 

「ん?」

 

そこへ爆発音が響き、クルシーナが視線を向けるとそこにはボロボロになって倒れているフォンテーヌとスパークル、そして息を荒げながらも立ち上がっているアースの姿があった。

 

「ほら、あっちも終わりみたいだし。大丈夫よ、死なせはしないから。死んだら悲しいでしょ?」

 

「ぁぁ・・・・・・ぁ・・・・・・」

 

グレースは視線を向けて言葉を失い、絶望を覚えた。

 

「せん・・・せい・・・・・・」

 

グレースは自身の体からだるさを感じながら、ゆっくりと目を閉じていく。

 

『農家さんの農園がどうなってもいいのか!!??』

 

『大丈夫だ、私は並程度ではやられん・・・!!!!』

 

「っ!!!!!!」

 

その時だった、あの時のかすみが言い放った言葉が頭の中に甦る。かすみは生きることを諦めていなかった、あんな状態になっても自分を守ろうとしていた。

 

「・・・まだ、だ・・・・・・」

 

「??」

 

「まだ、諦めたく、ない・・・いや・・・諦めちゃ、ダメだ・・・!! 私はかすみちゃんを助けて・・・先生を助けて・・・しんらちゃんを救うんだ・・・!!!! こんな、ところで・・・諦めるわけにはいかない・・・!!!!!!」

 

グレースは睨みながら力強く叫ぶと、グレースの発せられるオーラが強くなる。そのオーラはグレースから元気を吸い取ろうとした植物へと注ぎ込まれ、そして・・・・・・・・・。

 

「っ・・・・・・!!!!!」

 

「っ!! なんですって・・・・・・!?」

 

勢いよくオーラを発すると植物は消滅していき、グレースは拘束から解かれた。これにはさすがのクルシーナも目を見開いて、驚きの声をあげた。グレースの背中には白い天使のような翼が生えていたからだ。

 

「そうよ・・・・・・私たちは諦めるわけにはいかないわ・・・・・・!!」

 

「だって、もう諦めないって決めたんだもんね・・・・・・!!!!」

 

「二人とも、行きましょう!!」

 

フォンテーヌとスパークルも自分たちが言っていたことを思い出して再び立ち上がり、ギガビョーゲンを見据える。アースはその様子に笑みを浮かべると、ギガビョーゲンへと構えた。

 

「しんらちゃん!!!!」

 

「っ・・・!!!!」

 

グレースはそのまま低く飛ぶとクルシーナへと迫り、勢いを乗せたパンチを繰り出す。クルシーナはその拳を交差させた腕で受け止めるも、クルシーナは背後へと押されていく。

 

「何よ・・・どこにそんな力が・・・!?」

 

クルシーナはグレースの予想外の力に驚きつつも、交差させた腕を解いて弾き飛ばす。

 

「っ・・・ふん!!!!」

 

クルシーナは距離を置いて周囲に球体を出現させると、それらを全て再びグレースへと投擲する。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

グレースは翼を羽ばたかせて少し飛び上がると、上空から蹴りを繰り出す。それを赤い球体が阻もうとするが、発せられたオーラの力で全てを消滅させていく。

 

「っ!!?? っ!!!!!!」

 

クルシーナは咄嗟に足を叩きつけて樹木の壁を作り出すも、グレースの蹴りは壁を打ち砕き、クルシーナはその勢いで吹き飛び、背中から木へと叩きつけられた。

 

「グレース!! まずはギガビョーゲンを!!」

 

「うん!!」

 

クルシーナをひとまず撃退したグレースはラビリンにそう促されると、フォンテーヌたちの元へと向かっていく。

 

「ギーガァァァァァァ!!!!」

 

「「ぷにシールド!!」」

 

ギガビョーゲンは両手の送風機から竜巻と光線を放ち、フォンテーヌとスパークルは同時にシールドを張って防ぐ。

 

「音のエレメント!!」

 

アースは音のエレメントボトルをセットして、ハープの弦を奏でてゲートのようなものをギガビョーゲンの周囲に出現させ、そこからビームを連続で発射する。

 

「ギ・・・ギガ・・・・・・」

 

その攻撃にギガビョーゲンは攻撃の手を止め、動きも止まる。

 

「今ペエ!!」

 

「一気に畳み掛けるぞ!!!!」

 

「雨のエレメント!!」

 

「雷のエレメント!!」

 

「「はぁっ!!!!」」

 

ペギタンとニャトランの声に頷くフォンテーヌとスパークルはそれぞれ雨のエレメントボトル、雷のエレメントボトルをセットし、同時にギガビョーゲンの頭上に放つ。すると、黒い雲が出現し、稲光を発生させると真下にいるギガビョーゲンへと雷を落とした。

 

「ギガ・・・ガガガガ・・・!!??」

 

ギガビョーゲンに雷が直撃し、ギガビョーゲンは感電して痺れた。

 

「お待たせ、みんな!!」

 

「ラテ、お願いします!!」

 

「ワフ〜ン!!」

 

そこへグレースが合流しみんなは頷くと、アースが呼びかけたことでラテは大きく鳴いた。

 

「「「「ヒーリングっどアロー!!!!」」」」

 

4人がそう叫ぶとラテがステッキとハープ、エレメントボトルの力を一つにまとめた注射器型のアイテム、ヒーリングっどアローが出現する。

 

その注射器型のアイテムに、ハートの模様が描かれたエレメントボトルをセットする。

 

「「「「ヒーリングアニマルパワー!! 全開!!」」」」

 

ヒーリングアニマルたちのダイヤルが回転し、その注射器型のアイテムが4つに別れるとグレースにはラビリン、フォンテーヌにはペギタン、スパークルにはニャトラン、アースにはラテの部分で止まり、グレースたち4人の服装や髪型などが変化し始める。

 

そして、4人の背中に翼が生え、いわゆるヒーリングっどスタイルへと変化を遂げる。

 

「「「「アメイジングお手当て、準備OK!!!!」」」」

 

4人は手に持っている注射器のレバーを引くと、虹色のエレメントパワーがチャージされる。

 

「「「「OK!!!!」」」」

 

そして、パートナーのヒーリングアニマルたちがダイヤルから光となって飛び出し、思念体の状態になって現れ、パートナーに寄り添った。

 

「「「「プリキュア!ファイナル!! ヒーリングっど♡シャワー!!!!」」」」

 

プリキュアたちがそう叫ぶと、レバーを押して4色の螺旋状の強力なビームを放った。4色のビームは螺旋状になって混ざり合いながら、ギガビョーゲンへと向かっていき光へと包み込んだ。

 

ギガビョーゲンの中で4色の光は、それぞれの手になって中に取り込まれていた職員の男性を優しく包み込む。

 

ギガビョーゲンをハート状に貫きながら、4色の光線は職員の男性を外に出した。

 

「ヒーリン、グッバイ・・・・・・」

 

「「「「「「「お大事に」」」」」」」

 

「ワフ~ン♪」

 

ギガビョーゲンが消えたと同時に、周囲に広範囲に渡って蝕まれていた木々や地面が元の色を取り戻していく。

 

「くっ・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・しんらちゃん」

 

ギガビョーゲンを浄化後、木に寄りかかりながら呻くクルシーナへと近づくプリキュアの4人。グレースが声をかけると・・・・・・。

 

「・・・・・・何?」

 

「先生は病気で蝕まれた世界なんか望まないよ。先生は誰よりもしんらちゃんのことを気にしてた。それはしんらちゃんもわかってるはずだよ」

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナは不機嫌そうに淡々と言うと、グレースは先生が思っていることをそう訴える。それを聞いたクルシーナは黙って目を逸らす。

 

「・・・・・・お前らに先生とアタシの何がわかるっていうのよ?」

 

「わかるラビ!! 先生はクルシーナに対して甘いラビ!! だから、先生はクルシーナのことを大切に思っているラビ・・・・・・例えクルシーナがビョーゲンズだとしてもラビ・・・!!!!」

 

「見習いのヒーリングアニマルごときにそんなことを語られるなんてねぇ・・・ふふふ♪ お前も少しは成長したってことかねぇ?」

 

クルシーナは顔を顰めながら言うと、ラビリンがそう訴え、クルシーナは笑いながらそう言った。

 

「しんらちゃん、私は・・・・・・」

 

「いいからさっさとやったら? でも、アタシは諦めないからね・・・!!!!」

 

グレースが何かを言おうとして、クルシーナはそれを許さないと言わんばかりに遮って、自身を攻撃するように促す。

 

「っ・・・・・・・・・!!」

 

「グレース・・・・・・・・・」

 

何も抵抗しようとしないクルシーナに、グレースは顔を俯かせて躊躇する。そんなグレースにラビリンが声をかける。

 

グレースはラビリンに視線を向けて、優しく微笑んだ。

 

「ラビリン・・・私は大丈夫・・・・・・」

 

不安そうなラビリンにグレースはたった一言、それだけを言うと再びクルシーナに向き直る。クルシーナを浄化しようと花のエレメントボトルを取り出そうとすると・・・・・・。

 

ゴォォォォォォォォォォォォ!!!!!!

 

「っ!! あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

そこへ突然、赤く禍々しいコウモリのような形をした集団がプリキュアに目掛けて襲いかかり、4人は吹き飛ばされて転がる。

 

「?・・・・・・何?」

 

クルシーナはなんだかよくわからないといったような表情をし、飛んできた方向を見てみると・・・・・・。

 

「・・・・・・何よ、あれ?」

 

そこには巨大な木の姿をした怪物が宙に浮いていた。頭の赤く禍々しく生い茂った木の周りには無数の、よくみればナノビョーゲンのような姿をしたものが飛び回っており、枝のような長い腕が4本生えていて、下を見てみると蛇のような長い尻尾のようなものが生えていた。

 

顔はどう見てもキングビョーゲンと同じような顔だが、あれはキングビョーゲンではない。しかし、あれはギガビョーゲンでもなければ、テラビョーゲンらしき姿でもない。

 

「キュアグレースゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!」

 

巨木の怪物は上空に向かって恨みが篭ったような雄叫びをあげる。

 

「うっ・・・・・・な、何、あの怪物・・・!?」

 

「ギガビョーゲンじゃないみたいだけど・・・・・・?」

 

「なんだか邪悪な気配を感じます・・・・・・!!」

 

「なんか、私のことを叫んでる・・・・・・?」

 

プリキュアたちも突然、現れた巨木の怪物に戸惑っている様子だった。

 

「カスミーナ・・・・・・暴走してるわね・・・・・・」

 

「カスミーナ!?」

 

「あれが、カスミーナなの!?」

 

「外見が全然違うんだけど・・・!?」

 

クルシーナがボソリと呟くと、あの巨木の怪物がカスミーナだということにますます驚く。

 

「ユルサン!! ユルサンゾ!!!! ブッツブシテヤル!!!!!!」

 

巨木の怪物ーーーーカスミーナはそう叫びながら周囲に赤く禍々しい球体を出現させると光線を放ち、元に戻っていた木々を再び病気へと蝕んでいく。

 

「クチュン!!」

 

「ラテ!!」

 

すると、地球の危機を感じることができるラテがくしゃみをして体調を崩し始めた。

 

「カスミーナを止めなきゃ!!」

 

グレースの言葉に、プリキュアのみんなは頷くとカスミーナへと駆け出していく。

 

「ふぅ・・・・・・・・・」

 

プリキュアがカスミーナを阻止しようと向こうへといったため、ようやく一人になったクルシーナは一息つく。

 

シュイーン!!

 

「??」

 

「・・・・・・心配して来てみたけど」

 

「・・・・・・ふん、心配なんかしてないくせに」

 

空気の裂くような音が聞こえて来たかと思うと、クルシーナの目の前にダルイゼンが現れた。

 

「何、あれ?」

 

「カスミーナよ、あいつ。プリキュアに負けて、体から飛び出して来ちゃったみたい」

 

「・・・・・・俺がキュアグレースに入れたメガパーツみたいなものか」

 

「そうね。カスミーナは元々メガパーツよ。アタシでもわかる。自分で入れたメガパーツによって、カスミーナができたんでしょ」

 

「・・・・・・でも、体から離れてあんなことになる?」

 

「・・・・・・知らないわよ。そこにある適当なものにでも取り憑いたんじゃない? それか、あいつからは邪な気配を感じるけど、それが暴走してるんじゃないの?」

 

クルシーナとダルイゼンはプリキュアと交戦する巨木の怪物を見ながらそう話していた。すると、ダルイゼンがクルシーナに近づき・・・・・・。

 

「え・・・ちょっ、何のつもりよ・・・・・・?」

 

「お前を連れて帰るだけ。なんか問題?」

 

「よりによって、何でその持ち方なのよ・・・・・・!?」

 

ダルイゼンがお姫様抱っこしたことに戸惑いつつも、クルシーナは視線を逸らす。その表情は少し恥ずかしさのせいか、頬に赤みがかっていた。

 

「キュアグレース・・・次は絶対に潰すからね・・・・・・」

 

クルシーナはグレースを見つめながらそう言うと、そのままダルイゼンと共に姿を消していった。

 

「ウアァァァァァ!!!!!!」

 

「「「「っ!!」」」」

 

怪物と化したカスミーナはプリキュアに襲い掛かる。プリキュアたちは突っ込んできたカスミーナを飛んで避ける。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

スパークルは避けてからカスミーナへと飛ぶと、顔面にキックを繰り出す。

 

「っ・・・ジャマダアァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

「あぁぁぁ!!!!」

 

しかし、カスミーナには通用しておらず、蛇のような尻尾でスパークルを吹き飛ばした。

 

「実りのエレメント!! はぁっ!!」

 

グレースは実りのエレメントボトルをセットして、ピンク色の光弾をステッキにチャージして放つ。

 

「ムダダッ!!」

 

カスミーナは口からナノビョーゲンのような姿をした赤く禍々しいコウモリを無数吐き出すと、それらを全てグレースに目掛けて飛ばした。

 

「っ・・・うっ・・・・・・あぁぁ!!」

 

飛んで来たコウモリはピンク色の光弾を打ち消し、そのままグレースへと襲い掛かる。シールドを張れなかったグレースは腕を交差して防御するも、そのまま背後へと吹き飛んで転がる。

 

「グレース!! スパークル!!」

 

「アァァァァァァァァ!!!!」

 

フォンテーヌが吹き飛ばされたスパークルを心配する中、カスミーナは雄叫びを上げながら周囲に赤く禍々しい球体のようなものを出現させて、そこから赤いビームを放ち、着弾したところから赤い爆発を起こしていく。

 

すると、その爆発を起こしたところが赤く蝕まれていく。

 

「くっ・・・・・・早く止めないと・・・!!」

 

「氷のエレメントを使うペエ!!」

 

フォンテーヌは暴れるカスミーナを見上げながら言い、ペギタンの助言に従ってエレメントボトルを取り出す。

 

「氷のエレメント!! はぁっ!!」

 

氷のエレメントボトルをセットして、冷気を纏った青い光線を放つ。

 

「キクカァッ!!!!」

 

「っ・・・!!!!」

 

光線は頭の生い茂った葉に直撃するが、葉の部分が凍りついただけで聞いておらず、カスミーナはお返しに頭を揺らして赤い木の実を振り落として、爆発させる。フォンテーヌは飛んで避ける。

 

「ハァァァァァァァ!!!!」

 

「っ!? きゃあぁぁぁ!!!!」

 

しかし、飛んだ先にいつの間にかカスミーナが降り、頭突きを食らって吹き飛ばされてしまう。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「っ!! コノォッ!!!!」

 

「っ・・・・・・!!」

 

アースは横から蹴りを入れてカスミーナを怯ませるも、怒り任せにアースを振り払うように腕を動かし、アースは飛び退いて距離を取る。

 

「ハァァァァァァァァ!!!!」

 

「っ・・・ふっ!!」

 

カスミーナは4本の腕から花のようなエフェクトを出現させると、そこから一斉に赤色の光線を放つ。アースはそれらを避けて、再びカスミーナへと向かっていく。

 

「音のエレメント!!」

 

アースは音のエレメントボトルをハープにセットして、弦を奏でて音波を放つ。

 

「グッ・・・・・・!」

 

「これなら・・・!!」

 

音波を浴びてカスミーナの動きが止まり、アースはこれなら通用すると思った。

 

「・・・・・・ダト、オモッタカ??」

 

「っ!? あっ!! ケホケホッ!!」

 

しかし、実際は通用していないカスミーナは余裕の口調でそう言うと、口から赤い粉のようなものを吐き出し、アースへと浴びせた。

 

「っ・・・・・・!!」

 

そこへカスミーナが上空からアースへと突っ込み、アースはそれに気づいて飛んで避ける。すると・・・・・・。

 

「っ!?」

 

突然、アースの視界の焦点が合わずに歪み、ピントが合わなくなる。

 

「っ!! しまっ・・・あぁぁぁぁ!!!!」

 

そこへ不意に背後から現れた蛇のような尻尾を食らい、地面へと叩きつけられてしまう。

 

「はぁ・・・はぁ・・・うっ・・・・・・!」

 

グレースは何とか立ち上がるも、すでに連戦で体力もなくなってきており、息を荒くしていた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・もう、体力が・・・・・・」

 

「はぁ・・・はぁ・・・諦めちゃ、ダメよ・・・まだ、終わってないんだから・・・・・・」

 

フォンテーヌとスパークルの二人も、同じように息を荒くして体力も限界のようだった。

 

「キュアグレースゥゥゥゥゥ」

 

「っ!!!!」

 

そこへグレースに恨みがましいような唸り声を上げながら上空に現れ、グレースはステッキを構える。

 

「オマエダケハユルサン!! ワタシハモウスコシデビョーゲンズトシテカンセイシタノニ!! ソレヲフミニジッタオマエトニセモノハゼッタイニユルサナイ!! クルシメテツブシテヤル!!!!」

 

「ビョーゲンズとして完成・・・・・・?」

 

「どういうことラビ・・・・・・っ、来るラビ!!」

 

「ハァァァァァァァァ!!!!」

 

カスミーナの言葉に疑問を抱くグレースに、間髪入れずにカスミーナが突っ込み、グレースは飛んで避ける。

 

「っ!! な、何・・・? ケホケホッ!! クチュン!!」

 

すると地面に叩きつけた衝撃でカスミーナの頭の生い茂った部分から赤い粉が放出され、頭上を飛んだグレースは赤い粉を浴びてしまう。

 

「な、何なの、これ!? ケホケホッ!!!! クチュン!!」

 

「赤い、粉・・・? でも、何か・・・・・・クチュン!!」

 

その赤い粉は近くにいたフォンテーヌとスパークルにも降りかかって同様に浴びてしまう。スパークルは吸い込んでしまったようだが、フォンテーヌは片手で鼻や口を抑える。しかし、くしゃみが出てきた。

 

この赤い粉は一体何なのか・・・・・・?

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

そこへアースがカスミーナに目掛けて飛び蹴りを繰り出す。

 

「ハズレテルゾ・・・??」

 

「っ?? あぁっ!!」

 

しかし、カスミーナからずれて繰り出されており、逆に木の腕のパンチを受けて吹き飛ばされる。

 

「アース!!」

 

「ヨユウダナ? ズイブン・・・!!」

 

「っ、クチュン!! きゃあぁぁぁ!!!!」

 

フォンテーヌはアースを心配するも、そこにカスミーナが頭突きを繰り出す。フォンテーヌは避けようとしたが、くしゃみが出て思うように動けず、頭突きを受けてしまう。

 

「フォンテーヌ!! クチュン!! な、なんでくしゃみが・・・クチュン!!」

 

「ウガァァァァァ!!!!」

 

「っ、あぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

スパークルはフォンテーヌを心配するが、くしゃみのせいで集中力が途切れており、そこをカスミーナの振り回した蛇のような尻尾に吹き飛ばされてしまう。

 

「フォンテーヌ!! スパークル!!」

 

「アトハオマエダッ!! キュアグレースゥゥ!!」

 

カスミーナは無数の赤い花を出現させると、そこから光線を連続で放つ。

 

「ぷにシールド!!」

 

「っ・・・こ、粉が・・・ケホケホケホッ!! クチュンクチュンクチュン!!!!」

 

グレースはシールドを展開して防ぐも、着弾して爆発したところから赤い粉が舞い、それを吸い込んだグレースは咳き込み、連続してくしゃみが出てしまう。

 

「ウガァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

「クチュン!!クチュン!! っ、きゃあぁぁぁぁぁ!!!!」

 

それにより集中できないグレースはシールドごと頭突きで吹き飛ばされ、背中から木へと叩きつけられる。

 

「フン・・・ドイツモコイツモドウシタァ? ズイブントチョウシガワルイミタイダガ・・・?」

 

カスミーナは体を震わせながらも立ち上がろうとしているプリキュアたちを見下ろす。

 

「くっ・・・クチュン!! クチュン!! はぁ・・・はぁ・・・」

 

「うっ・・・ケホケホッ、クチュン!! はぁ・・・はぁ・・・」

 

「クチュン!! クチュン!! ケホケホケホッ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

グレース、スパークル、フォンテーヌは赤い粉のせいでくしゃみや咳をしていて、息も荒くしていた。さらにそれで咳き込みも激しくなって、顔に脂汗をにじませていた。

 

「きっと、あれは花粉ね・・・・・・ケホケホケホケホッ!!!! 私たち・・・あれを吸って、ケホケホケホッ、体に異変を起こしてるんだわ・・・クチュンクチュン!!」

 

フォンテーヌは咳やくしゃみに苦しみながらも、赤い粉の正体が花粉であることを見つけ出す。

 

「え・・・クチュン!! じゃあ、この咳もくしゃみも・・・ケホケホケホケホケホッ!!」

 

「この花粉が原因なのですか? っ・・・・・・!!」

 

スパークルは驚きながらも咳やくしゃみに苦しみ、アースはぼやける視界を花粉のせいなのではと解釈しつつ、再び視界がぼやける。

 

「クチュン!!クチュン!! ケホケホケホケホケホケホケホッ!! はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・!」

 

グレースはくしゃみや咳を繰り返し、汗を滲ませながら息を荒くさせていた。

 

「ソウカ、ワタシノカフンヲアビタンダナァ? ナラバ、モットアビセテヤロウ・・・!!」

 

カスミーナは歪んだ笑みを浮かべたような表情を浮かばせると、そのまま口から赤い粉を吐き出して、周囲の花粉の濃度を濃くする。

 

「うっ・・・ケホケホケホ、ゲホゲホゲホゲホゲホッ!!!! クチュンクチュン!! はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・ゲホゲホゲホゲホッ!!!!」

 

「ゲホゲホゲホゲホゲホゲホッ!! ちょっ、そんなに濃くしたら、苦し・・・ケホケホケホケホケホ、カハッ・・・!!」

 

「ゲホゲホゲホゲホ!! ゲホゲホゲホゲホゲホゲホゲホッ!!!! カハッ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ、ァッ・・・ハァ・・・」

 

それによって口や鼻を手で抑えるプリキュアたちだが、咳やくしゃみが酷くなり、止めることができない。それによって呼吸にも影響を及ぼしていた。

 

「うっ・・・・・・っ!! 目が痒いです・・・!!」

 

一方の、アースは花粉の濃度が濃くなったことによって、目が余計にぼやけ始め、涙が出始めた。

 

「フハハハハハハ!! クルシメクルシメ!! コノママココイッタイゴトケシテヤル・・・!!!!」

 

カスミーナは笑いながらそう言うと上空へ高く飛び、4本の腕を天に掲げると赤い球体のようなものを溜めはじめた。その球体はチャージするごとに大きくなっていく。

 

「おいおい、あれはまずいんじゃないか・・・・・・!?」

 

「農家さんの果樹園だけじゃなくて、職員のみんなが手入れしているお花畑やゴミ拾いをしている自然が大変なことになるペエ・・・・・・!!」

 

「止めないとラビ!! グレース、大丈夫ラビ!?」

 

「ケホケホケホッ!! クチュン!!クチュン!! うん・・・咳やくしゃみは止まらないけど・・・クチュン!! 大丈夫だよ・・・!!」

 

「クチュンクチュンクチュン!! ケホケホケホケホケホケホケホッ!! 苦しいけど・・・動けるよ・・・!!!!」

 

「ケホケホケホケホケホッ!! 私も辛いけど・・・うっ、ゲホゲホゲホッ・・・・・・止めなきゃ・・・・・・!!」

 

ラビリンたちはこのままではここ一帯を消されかねないとグレースたちに呼びかける。三人は舞う花粉に顔を顰めながらも、表情に諦めの顔はなかった。

 

三人は体を動かして集まると、ステッキを構える。

 

「キエテナクナレェェェェェェェェェェェェェ!!!!!」

 

カスミーナは作り出した巨大な木の実のエフェクトがかかった赤い球体をそのまま下へと投下した。

 

「ゲホゲホッ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

 

「クチュン!! クチュン!!」

 

「カ、ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

 

「「「ぷにシールド!!」」」

 

ラビリンたちがそう叫び、グレースたちが症状に苦しむ中、彼女たちのステッキからシールドが展開された。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第135話「絶対」

前回の続きです。今回で原作第37話ベースの話は終わります。
カスミーナとの激闘の果ては・・・・・・。


「ケホケホケホケホッ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

 

「クチュン!! クチュン!!」

 

「カハァー・・・ハァー・・・ハァー・・・・・・」

 

グレースたち三人はカスミーナが投下した赤い球体を止めるべく、症状に苦しみながらも直撃に備えてシールドを張った。

 

「っ・・・・・・」

 

視界がぼやけているアースがハープを構えて警戒する中、そのシールドに赤い球体が激突した。

 

「くっ・・・・・・ケホケホケホッ!!!」

 

「うぅぅぅぅ・・・クチュン!! クチュン!!」

 

「うっ・・・ハァー・・・ハァー・・・」

 

三人は赤い球体を押しのけようとするが、充満している花粉のせいで咳やくしゃみ、酸欠状態になったりなどして力をうまく入れられずにいた。

 

「うっ・・・クチュン!!・・・ヤバっ・・・・・・!!」

 

「力が入らな・・・ケホケホケホッ・・・!!!!」

 

「ハァー・・・ハァー・・・うぅぅぅぅ・・・押し返される・・・ハァ・・・!!」

 

赤い球体は徐々にシールドを押していき、三人は押しつぶされそうとしていた。

 

「フハハハハハハハハ!!!!ツブレロツブレロ!! ソンナジョウタイジャオモウヨウニコウゲキガデキルモノカ!!!!」

 

カスミーナはそんな姿を嘲笑いながら、腕を構えて赤い球体を押し込もうとする。

 

「音のエレメント!!」

 

アースはグレースたちをサポートをしようと音のエレメントボトルをセットして、弦を奏でてゲートのような空間をカスミーナの周りに出現させてビームを連続で放った。

 

「ッ・・・ムダナコトヲ・・・!!!!」

 

カスミーナにビームは命中するが、カスミーナは怯んでいる様子はなく、赤い球体を押し込もうとする。

 

「うっ・・・うぅぅ・・・ケホケホケホッ・・・うっ・・・!!!」

 

「クチュン!! ぐっ・・・うぅぅぅ・・・・・・クチュンクチュン!!!!」

 

「ハァー・・・ハァー・・・くっ、うぅぅぅぅ、ケホケホケホケホ!!!!」

 

グレースたち三人は酸欠や症状に苦痛に歪ませながらも押し込もうとするが、赤い球体は重くて動かず、逆に押されている上にシールドにヒビが入り始めていた。

 

「モウゲンカイノヨウダナ・・・・・・!!」

 

割れ始めたシールドを見て、勝利を確信するカスミーナ。プリキュアもくしゃみや酸欠などで集中ができておらず、逆に追い詰められている。押されるのも時間の問題だった。

 

「ケホケホケホケホッ!! こ・・・この、ままじゃ・・・・・・!」

 

グレースは何か打開策はないのか、そういった様子で焦りを感じ始めていた。

 

そんな中・・・・・・・・・。

 

「ラビリンたちは、絶対に諦めないラビ・・・!!!!」

 

「ラビリン・・・・・・ケホケホ!!」

 

「フォンテーヌたちが体調を崩しているなら、僕たちが手助けするペエ!!!!」

 

「ハァー・・・ハァー・・・ペギ、タン・・・・・・」

 

「俺たちはみんなで戦ってるんだからなぁ!!!!」

 

「クチュン!! クチュン!! ニャトラン・・・・・・」

 

ラビリンたちは決して諦めようとはしなかった。グレースたちの調子が悪いのであれば、悪いところを自分たちが補うと、そうカスミーナに主張した。

 

「フン、オマエタチミタイナミジュクナヒーリングアニマルゴトキニナニガデキル!! ショセン、コノセカイハツヨイモノガカツノダ!! ソンナタイチョウゴトキニマケテイルヨウナプリキュアナド、ワタシノオソレルトコロデハナイ!!!!」

 

「ラビリンたちは弱いかもしれないけど・・・グレースを守れるくらいには強くなったと思ってるラビ!!!!」

 

「僕だって、フォンテーヌを支えるくらいには強くなったと思っているペエ!!!!」

 

「俺だってスパークルのことを大切に思ってるんだよ!! 何もない、何も持ってないお前なんかに負けるわけがねぇ!!!!」

 

カスミーナは花粉に侵されて体調を崩すグレースたちをバカにするも、ラビリンは反論して言い返した。

 

「カンゼンナビョーゲンズニナルワタシガオマエタチナンカニマケルモノカ!! ソノムナシイオモイトトモニシノダイチノイチブニシテヤロウ!!」

 

「バカにするなラビ!! グレースたちとラビリンたちの絆は、お前の攻撃なんかよりも硬いラビ!!」

 

「僕たちは負けるわけにはいかないペエ!!」

 

「見せてやろうぜ!! 俺たちの力を!!!!」

 

カスミーナは4本の腕を伸ばしてさらに赤い球体を押し込もうとする。ラビリンたちは強く叫びながら、赤い球体を押し返そうとする。

 

「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

ラビリンたちは気合を入れて叫び声をあげると、三人のシールドが一つになって赤い球体を押し返そうとする。

 

「タテガアワサッタトコロデムダナコトダ!!!!」

 

カスミーナはそう言い放ちながら、赤い球体の出力を上げていく。

 

「ラビリン・・・・・・ケホケホ・・・私たちも、一緒に・・・!!!!」

 

「ハァー・・・ハァー・・・そう、ね・・・私たちも元気以上のものを絞り出さないと・・・・・・!!」

 

「クチュン!! やろうよ!! みんなで一緒に!! クチュン!!」

 

グレースは症状を出しながらも、お互いに目を見合わせて頷くと体に力を入れ始める。

 

「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」」

 

グレースたちは一緒に声を張り上げながら、ステッキを少しずつ前へと押して、赤い球体を押しのけようとする。

 

すると・・・・・・・・・。

 

パァァァァァ・・・・・・・・・・・・。

 

グレースたち三人の体が光り始め、背中に天使のような翼が開く。

 

「ナ、ナニ・・・・・・!?」

 

その姿を見てカスミーナは驚きを隠せない。

 

「あれ・・・・・・?」

 

「なんか、体が少し楽になった・・・・・・?」

 

「でも、これならいけるよね・・・!!」

 

この状態になったことで、花粉の影響を受けずにくしゃみや咳、酸欠状態も治っていた。

 

「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 

グレースたちは体に溢れてくる力を利用して、ステッキを前に出して赤い球体を押す。

 

「グッ・・・ウゥゥゥ・・・・・・!!!!」

 

カスミーナはすっかり先程までの余裕がなくなっており、4本の腕で押し返そうとするも、全く赤い球体は下におちず、少しずつ貸すミーナの方へと押されていく。

 

そして、遂に・・・・・・・・・。

 

「「「はぁっ!!!!」」」

 

グレースたちは叫びながら気合いを入れて前へとステッキを押し出し、シールドが赤い球体を弾き飛ばした。

 

「ッ・・・グアァァ!!!!」

 

赤い球体はカスミーナに直撃し、それによって空中でバランスを崩したカスミーナは地面へと落下した。

 

「やった・・・・・・!!」

 

グレースは地面に落ちたカスミーナを見てそう呟いた。

 

「オノレェェェェェェェェェェェ!!!!!!」

 

カスミーナはすぐに復帰すると、グレースたちに飛びかかってきた。グレースたちは背中の天使の翼を羽ばたかせて攻撃を避ける。

 

「「はぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」

 

「ウアァァァァァァ!!!!っ・・・!!??」

 

グレースとスパークルは同時に空中から蹴りを繰り出し、カスミーナは4本の腕で受け止める。しかし、カスミーナの腕は二人の光の力によって弾かれた。

 

「やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「グッウゥゥゥゥゥゥ!!!!」

 

そこへフォンテーヌが飛び蹴りを繰り出し、カスミーナの顔面に蹴りを入れて吹き飛ばした。

 

「コノォォォ!!!!」

 

カスミーナは周囲に球体を複数出現させると、そこから赤い光線を一斉に照射した。

 

フォンテーヌはシールドを張って防ぎ、グレースとスパークルは赤い光線を飛行しながら避けていき、カスミーナへと迫っていく。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「グッ・・・・・・!!」

 

「やあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ウアァッ!!!!」

 

グレースは顔面に蹴りを繰り出し、怯んだところをスパークルが頭上から踵を落として地面へと叩きつける。

 

「ッ、アァァァァァァァ!!!!!!」

 

「っ・・・まだ、立ち上がるのね・・・・・・!!」

 

「ワタシガマケルワケガナイ!! カンゼンナビョーゲンズトナルコノワタシガ!!!!」

 

しかし、カスミーナは再び雄叫びをあげて宙へと浮かび、上空へと飛ぶ。フォンテーヌがそう言って、グレースたち三人が構える中、カスミーナは4本の腕から木の実のようなものを次々と生み出すと撒き散らすように放った。

 

グレースたち三人は投下されるように落ちてくる木の実を避け、天使の翼を広げて上空のカスミーナへと迫る。

 

「火のエレメント!!」

 

「雨のエレメント!!」

 

「「はぁっ!!!!」」

 

「ウッ、グゥゥゥゥゥ、グァァァァァァ!!!!!」

 

スパークルは火のエレメントボトル、フォンテーヌは雨のエレメントボトルをセットし、火を纏った黄色い光線、雨粒を纏った青い光線を放った。カスミーナは怯むも、すぐに光線を振り払った。

 

「実りのエレメント!! はぁっ!!!!」

 

「キクカァァァァァァァ!!!!」

 

グレースは実りのエレメントボトルをセットして、刀身を伸ばして斬撃を放つが、カスミーナは両腕から光弾を放って打ち消す。

 

爆発して黒い煙が立つと、その中からグレースたち三人が飛び出していく。

 

「っ!!??」

 

「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 

「アァァァァァァァァ!!!!」

 

グレースたち三人は同時に飛び蹴りを繰り出し、とっさの攻撃で防御できなかったカスミーナの顔面に直撃し大きく吹き飛ばした。

 

「ウアァァァァァァァァ!!!!」

 

カスミーナはそれでも体勢を立て直して再び襲いかかる。

 

「空気のエレメント!! ふっ!!!!」

 

アースは空気のエレメントボトルをセットして、空気の塊を連続で発射する。

 

「ウッ・・・クゥゥゥゥ・・・!!!!」

 

空気の塊はカスミーナに直撃し、カスミーナの動きが止まる。

 

「私もいるということを、忘れないで欲しいです!!」

 

「いけるんじゃない!? 今なら!!」

 

「よし!! 行こう!!」

 

「ラテ、お願い!!」

 

「ワフ〜ン!!」

 

プリキュアたちは今が勝機であると判断し、フォンテーヌがラテに声をかけるとラテは大きく鳴いた。

 

「「「「ヒーリングっどアロー!!!!」」」」

 

4人がそう叫ぶとラテがステッキとハープ、エレメントボトルの力を一つにまとめた注射器型のアイテム、ヒーリングっどアローが出現する。

 

その注射器型のアイテムに、ハートの模様が描かれたエレメントボトルをセットする。

 

「「「「ヒーリングアニマルパワー!! 全開!!」」」」

 

ヒーリングアニマルたちのダイヤルが回転し、その注射器型のアイテムが4つに別れるとグレースにはラビリン、フォンテーヌにはペギタン、スパークルにはニャトラン、アースにはラテの部分で止まり、グレースたち4人の服装や髪型などが変化し始める。

 

そして、4人の背中に翼が生え、いわゆるヒーリングっどスタイルへと変化を遂げる。

 

「「「「アメイジングお手当て、準備OK!!!!」」」」

 

4人は手に持っている注射器のレバーを引くと、虹色のエレメントパワーがチャージされる。

 

「「「「OK!!!!」」」」

 

そして、パートナーのヒーリングアニマルたちがダイヤルから光となって飛び出し、思念体の状態になって現れ、パートナーに寄り添った。

 

「「「「プリキュア!ファイナル!! ヒーリングっど♡シャワー!!!!」」」」

 

プリキュアたちがそう叫ぶと、レバーを押して4色の螺旋状の強力なビームを放った。4色のビームは螺旋状になって混ざり合いながら、カスミーナへ向かっていく。

 

「ソンナモノォォォォォォォ!!!!」

 

カスミーナはビームに対抗しようと、4本の腕と額から赤い球体を溜めるとそこから赤く禍々しい極大のビームを放った。

 

4色の螺旋状のビーム、赤く禍々しい極大のビームが激突する。

 

「キングビョーゲンサマニミトメラレタワタシガマケルハズガナイ!! タニンニタヨラナケレバドウニモナラナイオマエタチナンカトハチガウノダ!!!!」

 

「確かに・・・・・・私も、病気になった時、一人ではどうにもならなかった・・・・・・でも、私は他人や医者のみんなが助けてくれたからこそ、今もこうして生きているんだよ!!!!」

 

「人は、人やみんなのつながりがあってこそ生きていけるものなの!!」

 

「あんたたちみたいに、他人を頼ろうとしない人たちとは違うんだよ!!!!」

 

「私も、グレースたちと出会ったから、一緒にいろんなことを学び、強くなりました・・・私たちのこの絆は決して無駄なものではありません!!!!」

 

カスミーナの主張に、プリキュアたちは反論の言葉を返す。人はつながりがあるから、頼るべき人がいるから強くなれる。

 

「「「「だから、私たちは絶対に負けない!!!!」」」」

 

グレースたちがそう叫ぶと、ビームの勢いが強くなり、赤く禍々しい極大のビームを包み込んでいく。

 

「ナニッ!!??」

 

これにはカスミーナも信じられない様子で見ていた。

 

「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」」」

 

グレースたちは気合いを集中しながらビームを押し込んでいき、徐々にカスミーナへと近づいていく。

 

「ナゼダ・・・ナゼ、コノワタシガ・・・!!! カンゼンナビョーゲンズニナル、コノワタシガ!!! オマエタチミタイナ、ミナライゴトキニ・・・!!!! ニンゲンナンカニ・・・!!!!!」

 

カスミーナは自分の敗北を認められずに、怒りの言葉を叫び始める。

 

そして、遂に・・・・・・・・・。

 

「グッ・・・ウゥゥゥゥゥゥ・・・ウアァァァァァァァァァ!!!! アァァァァァァァァァ!!!!」

 

4色の螺旋状のビームはカスミーナを包み込み、カスミーナの口から絶叫が上がる。

 

「モウシワケアリマセン・・・・・・キングビョーゲン、サマ・・・・・・ヒーリン、グッバイ・・・・・・」

 

そして、カスミーナの巨木のような体は光に包まれながら消えていった。

 

「「「「「「「お大事に」」」」」」」

 

「ワフ~ン♪」

 

カスミーナが消えたと同時に、カスミーナが蝕んだその周囲の木々の広範囲に渡って蝕まれていたその周辺が元の色を取り戻していく。

 

「ふぅ・・・・・・疲れたぁ・・・・・・今日は本当にどうなるかと思ったぁ」

 

「でも、これでやっと、かすみはカスミーナから解放されたのね・・・・・・」

 

「うん・・・そうだね・・・・・・」

 

「かすみさんはビョーゲンズに連れて行かれてしまったようですが・・・・・・」

 

グレースたち三人はすっかりと疲れ切っていて、ヒーリングっどスタイルから元に戻るとペタンと座り込みながらそう言った。

 

「っ!! しんらちゃんは!?」

 

「「「っ・・・!!」」」

 

グレースがハッとしながらそう言うと、みんなはカスミーナに襲われていたせいで忘れていたクルシーナをきょろきょろと探し始める。

 

「逃げられちゃった、みたいだね・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

スパークルがそう呟くと、グレースは顔を俯かせた。

 

「あ〜あ、カスミーナ、消えちゃったか・・・・・・」

 

「結局、バテテモーダみたいに野心のある奴はこうなるのか・・・・・・」

 

「まあ、別にアタシはどっちでもいいけどね。一応、お父様には報告しなきゃ。さぁ、帰りましょう。っていうか、帰りたいんだけど・・・・・・」

 

その様子を高いところで見届けていたクルシーナとダルイゼンがそう話すと、ふとクルシーナがピンク色の顔をさらに赤く染めた。

 

「どうしたの、顔なんか赤くして・・・・・・」

 

「アンタがアタシをいつまでもそんな持ち方してるからでしょうが・・・!!!!」

 

「持ち方ぐらいで文句は言わなくたっていいじゃん・・・・・・」

 

「アタシは恥ずかしいのよ!!! ったく・・・・・・!!」

 

ダルイゼンが意にも返していない風に言うと、クルシーナは顔を真っ赤にして怒るも、満更でもない様子だった。

 

そして、二人は今度こそ撤退していったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビョーゲンズを撃退後、変身を解いたのどかたちは眠っている中島先生の様子を見ていた。

 

「うん・・・・・・あっ・・・・・・」

 

「先生、大丈夫ですか?」

 

「あら? のどかちゃんたち、いたの?」

 

「ラテが教えてくれたんです」

 

中島先生が目を覚ますと、目の前にはのどかたち4人が心配した面持ちで見つめていた。

 

「ウゥ〜ン・・・・・・」

 

「ラテちゃん・・・ありがとう・・・・・・」

 

「っ・・・ワン♪」

 

中島先生は同じように心配そうに見つめるラテを優しく微笑みながら撫でた。

 

「先生、なんともないラビ・・・・・・?」

 

「ええ、大丈夫よ。ちょっと眠くなっちゃっただけ」

 

「よかったラビ・・・・・・」

 

ラビリンが心配しながらそう言うと、中島先生は同じように笑みを浮かべながら言った。ラビリンはその様子にホッとしたような様子を見せていた。

 

「あっ・・・しんらちゃん・・・・・・!!」

 

中島先生はハッとして、クルシーナを探そうと辺りをきょろきょろし始める。

 

「・・・・・・しんらちゃんは逃げちゃいました」

 

「そう・・・・・・・・・」

 

のどかが少し声を暗くしながら言うと、先生は顔を俯かせるが、すぐに顔を上げた。

 

「でもまあ、また会えるわよね・・・・・・」

 

「そう、ですね・・・・・・」

 

中島先生は少し微笑みながらそう言うと、のどかも口元に笑みを浮かべながらそう言った。

 

「あっ、そうだわ!! 農家さん!! 悪い女の子に突き飛ばされて、怪我してないかしら!?」

 

「あっ、先生!!」

 

中島先生はカスミーナに突き飛ばされた農家さんを心配して、すくっと立ち上がると農家さんの元へと駆け出していく。

 

「先生は、大丈夫そうね♪」

 

「あんなに元気なら、いいんじゃないかなぁ・・・・・・」

 

ちゆやひなたは安心したようにそう言いながら、のどかたちは先生のあとを走っていく。

 

そして、気を失っている農家さんの元で、中島先生は手首に指を当てて脈を測っていた。

 

「・・・・・・うん、なんとも無さそうね」

 

中島先生がそう判断し、のどかたちもホッとしていると・・・・・・・・・。

 

「うっ、うっ・・・あっ!!」

 

「・・・・・・大丈夫ですか?」

 

気を失っていた農家の男性は目を覚ますと、のどかが心配して聞く。

 

「・・・・・・えっと、君たちが助けてくれたのかい?」

 

「・・・・・・あのうさぎさんが教えてくれたんです」

 

「うさぎさん・・・・・・?」

 

そう答えるのどかの後ろには、農家の男性を心配した様子で見つめるラビリンの姿があった。

 

「おぉ! よかった!! 無事だったんだね・・・はははっ」

 

「ラビィ・・・♪」

 

「元気そうでよかったな」

 

「ペエ♪」

 

男性が笑顔を見せると、ラビリンは安堵の表情を見せ、近くの茂みに隠れていたニャトランとペギタンも笑顔を見せた。

 

その後、のどかたちはひなたの家に集まり、農家の男性からもらった沢山の果物をひなたの姉のめいに頼んでパンケーキなどのスイーツを作ってもらい、みんなでそれを食べ始めた。

 

「「「「「「「「いただきま〜す!!」」」」」」」」

 

「ふわぁ〜、美味しい♪」

 

「たくさんのお土産、ありがとう」

 

「どういたしましてペエ」

 

「まあ、ひなたちゃんのお姉さんは料理が本当に上手ね♪」

 

「お姉も喜んで作ってくれたよ♪」

 

みんながそれぞれ食べながら話している中・・・・・・・・・。

 

「ラテ、みなさんとのお出かけは楽しかったですか?」

 

「ワンっ♪」

 

アスミが尋ねると、ケーキを食べていたラテは嬉しそうに答えた。

 

「良いなぁ〜、行きたかったなぁ〜♪」

 

「今度はみんなで行きましょう♪」

 

「っ・・・来年はみんなで行けると良いペエ・・・・・・」

 

ひなたや中島先生の話を聞いたペギタンは、顔を俯かせながらそう呟いた。

 

「・・・・・・行こうぜ、絶対」

 

「ペエ・・・・・・?」

 

「ビョーゲンズから地球を守れば、またいつでもみんなと会えるだろ?」

 

「そうラビ。お手当てじゃなくても、いつでも遊びに来られる世界にするラビ♪」

 

「ワン♪」

 

悲しそうな表情のペギタンに、ニャトランやラビリンはそう言ってペギタンを励ました。

 

「何々? 何の話??」

 

「来年はみんなで行こうぜ!って」

 

「良いわね♪ どこに行こうかしら」

 

「農家さんの果樹園で、フルーツ狩りしたいラビ!!」

 

「秋の美術館巡りもしたいペエ!!」

 

「ふわぁ♪ すっごく楽しそう〜!!」

 

「来年が楽しみですね♪」

 

「ワン!! ワン!!」

 

「ラテもすっごく楽しみなんだね♪」

 

のどかたちやラビリンたちはそんな思いを馳せながら、みんなで笑いあったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃・・・・・・ビョーゲンキングダムでは・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

部屋に籠っていたイタイノンが部屋の外を出て、ビョーゲンキングダムを歩いていた。

 

「イタイノン・・・大丈夫ネム・・・・・・?」

 

「・・・・・・もう涙は枯れたの。それに、いつまでも引き篭もっていられないの。パパが呼んでるの」

 

心配するネムレンをよそに、イタイノンは淡々とそう返した。もう自分はビョーゲンズからは戻れない、ならばビョーゲンズとして使命を全うするだけだ。そんな思いで自分の父の元へと歩いていく。

 

「イタイノン・・・・・・元気になったんですね」

 

「・・・・・・お前に心配される筋合いなんかないの」

 

「別に心配なんかしてませんよ」

 

そんな行く途中でドクルンが笑みを浮かべながら待っており、イタイノンは素っ気なく返しながら彼女の横を通り過ぎる。ドクルンもそんなことを言いつつも、イタイノンの後を着いて行く。

 

「着いてくるな、なの」

 

「私もお父さんに呼ばれてるんですよ。あなたもそうでしょう?」

 

「・・・・・・ふん」

 

イタイノンは背後を歩くドクルンにそう言うも、ドクルンが反論するとイタイノンは特に相手をせずに前を歩いていく。

 

そして、キングビョーゲンの前へとやってきた。

 

「・・・・・・イタイノン、もう大丈夫か?」

 

「大丈夫なの。心配かけたの」

 

「そうか・・・・・・では、お前にも施させてもらうぞ。我の分身を」

 

キングビョーゲンは心配した面持ちでそう言うと、イタイノンは静かに答える。そして、キングビョーゲンの分身を受け入れるべく、その言葉に頷く。

 

「お父さん」

 

「・・・・・・何だ、ドクルン」

 

「報告があります。それはクルシーナが来てからいいですか?」

 

ドクルンは真面目な表情でキングビョーゲンにそう告げたのであった。

 

一方、廃病院のとある一室・・・・・・。

 

「う、うん〜・・・・・・あっ!?」

 

「・・・・・・起きた?」

 

「こ、ここは・・・・・・」

 

「アタシたちのアジト」

 

ベッドの上で眠っていたかすみが飛び上がるように起きると、クルシーナがベッドの側に座っているのが見えた。

 

「わ、私は・・・・・・何を・・・・・・?」

 

「アンタ、倒れてたのよ、アタシのそばで。連れて帰んなかったら、どうなってたことやら」

 

戸惑うかすみに、クルシーナはあっけらかんと答える。あのまま寝かせておいたら、カスミーナに何かされていただろうとクルシーナはそう考えてアジトまで運んでやったのだ。

 

「クルシーナ・・・・・・・・・」

 

「お礼なんかいらないわよ。言われたって迷惑だし」

 

かすみがクルシーナに何か言おうとして、クルシーナはそれを遮るかのようにそう言うと、クルシーナはベッドから立ち上がる。

 

「さてと、お父様が呼んでるから行くとしましょうかねぇ」

 

「あ・・・私も・・・・・・」

 

「アンタはここで休んでな。お父様の召集にも出なくていいから」

 

立ち上がろうとして着いて行こうとするかすみに、クルシーナはそう告げると部屋の外へと出ていった。

 

かすみはクルシーナの姿を呆然と見つめた後、自分の手を見つめる。

 

「私が・・・完成する・・・・・・のどかが・・・・・・消える・・・・・・?」

 

かすみはカスミーナが話していたことを頭の中で思い出していたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第136話「将来」

原作第38話がベースです。
今回はちゆとドクルンがメインですが、その一方でビョーゲンズ側にも事件が起こります。


 

ある日の廃病院のアジト。クラリエットが眠る地下室ではドクルンの姿があった。

 

「クラリエット姉さん・・・・・・・・・」

 

ドクルンはいつもの余裕な笑みではなく、神妙な面持ちでクラリエットを見つめていた。

 

「あとは・・・ちゆの苦しみだけ・・・・・・お父さんのためにも、どうにかしなきゃね」

 

「ドクルン・・・こんな奴を本当に復活させていいブル?」

 

ドクルンはキングビョーゲンのために、クラリエットを復活させようとしているのに対し、ブルガルはそもそも復活させることに疑問を抱いていた。

 

「いいのよ。姉さんはお父さんが復活するために必要な器、復活させておけば可能性は増えるわ」

 

ドクルンは特に気にしていない様子で話す。キングビョーゲンの計画は同時並行で進んでいる、一つ潰されたところで自分たちにとっては大した痛手ではないのだ。

 

ドクルンはカスミーナが浄化されたことをキングビョーゲンに話したことを思い返す。

 

『何? カスミーナが・・・・・・?』

 

『ええ、プリキュアに負けて帰ってきたわよ。まあ、浄化されたわけじゃないから影響はないけどね』

 

『・・・・・・少し我が見る必要があるか』

 

『そうね・・・何か消えてるみたいだし、その方がいいかもね。今は休ませてるから、あとで見てくれる? あいつの体に負担をかけたら不味いからね』

 

『・・・・・・まあ、よい。計画に支障はない。引き続き続けよ』

 

『はーい・・・・・・』

 

クルシーナがかすみのことを報告すると、キングビョーゲンはそう答えて命じると、クルシーナは淡々と返事をした。

 

『それとお前たちともう一人、クラリエットの件だが・・・・・・』

 

『もうちょっとなのよねぇ・・・・・・プリキュア二人の苦しみのデータは刷り込んだはずだし、あとは青い奴の苦しみのデータさえれば、復活するはずよ』

 

『テラパーツはすでに仕込んでありますが、なかなかあの女自身が病気にならないので厄介です』

 

キングビョーゲンはクラリエットの件を聞くと、クルシーナは嫌そうな顔で答えつつも、あまり復活は進んでいないことを話す。あとはキュフォンテーヌ、沢泉ちゆの苦しみのデータを搾取するだけ。すでにテラパーツは彼女の体内にあるが、なかなか活動を活発にしてくれないと困っている。

 

『まあ、もう一人のプリキュアは私に任せてください。私がなんとかしますよ』

 

『・・・よかろう、ドクルン。お前の働きに期待しているぞ』

 

『はい♪』

 

ドクルンは笑みを浮かべながら、キングビョーゲンにそう告げたのであった。

 

「・・・・・・・・・」

 

ドクルンはクラリエットを見つめながら頭の中で思い出したあと、踵を返すとそのままその部屋を後にしようとする。

 

ーーーー期待してるわよ、ドクルン。

 

「っ!!??」

 

その時、頭の中に声が聞こえ、驚いたドクルンは再びクラリエットの方を振り返る。しかし、クラリエットは赤い靄に包まれてゆらゆらと揺れるのが映るだけだ。

 

「っ・・・・・・プリキュアなんかにやられたかませ犬ごときが、偉そうにしないでください」

 

ドクルンは顔を顰めながらそう言い放つと、今度こそその部屋を後にした。

 

一方、ビョーゲンキングダムでは・・・・・・。

 

「はぁ〜あ、ここのところ、キングビョーゲン様がちっともお姿を見せてくださらない・・・シンドイーネ寂しいぃ〜!! 私がいつもキングビョーゲン様のことを一番に想っているのに・・・・・・」

 

シンドイーネが岩場に座り込みながら、寂しそうに呟いていた。

 

「・・・・・・向こうはそう思ってないだろうけどね」

 

「つーか、そんなこと言ってる暇があるなら、地球の一箇所ぐらい蝕んでこいっての。無能な部下の元に現れるわけないじゃん」

 

「っ!?」

 

近くで寝転がっていたダルイゼンとクルシーナがそう呟くと、それを聞いたシンドイーネがその場から立ち上がった。

 

「何よ!! い、今はそうじゃなくても・・・いつか!! キングビョーゲン様の一番になってやるんだから!!」

 

「なんで動揺してるですぅ? ふわぁ〜・・・・・・」

 

「心にヨユーが無い人は、動揺するんだよってノンお姉ちゃんが言ってたよ〜」

 

シンドイーネの言葉に、背中合わせで寄りかかって座っているフーミンとヘバリーヌがそう話す。

 

「余裕はあるわよ!! 私が一番手柄を立てたんだから、キングビョーゲン様の一番は私よ!! 絶対に一番だって思ってもらうんだから!!」

 

「誰かの一番だと・・・・・・?」

 

そこへグアイワルも近くへとやってきた。

 

「俺の一番は・・・この俺だ!! 例えキングビョーゲンだろうと、俺の前には立たせんぞ!! わ〜っはっはっはっは!!!!」

 

一人高らかに宣言し、勝手に高笑いをし始めたグアイワル。それをクルシーナとダルイゼンはお互いに顔を見合わせながら、シンドイーネは呆れた様子で見つめていた。

 

「んぅ・・・うるさいですぅ・・・・・・!!」

 

「ワル兄ったら変なの・・・・・・フーちゃん、あっち行こうか〜・・・・・・」

 

フーミンは目をこすりながら不快感を露わにし、それをヘバリーヌはそう呟きつつ、フーミンを連れてその場を後にしていく。

 

「ふんっ・・・わけのわかんないこと言ってるやつは放っておいて、キングビョーゲン様のために地球を蝕みに行かなきゃ」

 

「あ〜あ・・・これだから脳筋は・・・・・・かすみの様子見に行くか・・・・・・」

 

シンドイーネはそう言いながら地球へと向かっていき、クルシーナやダルイゼンもその場を後にしていく。

 

「はっはっはっは!! あれ?」

 

そして、残ったのはいまだに高笑いをしているグアイワルだけになった。

 

「おい!! 俺の話を聞けえぇぇぇぇ〜!!!!」

 

そんなグアイワルの叫びは、自身以外誰もいないビョーゲンキングダムに木霊したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日の朝、沢泉家・・・・・・。

 

「お姉ちゃん、すごい!! 今度は新聞に載るなんて!!」

 

「本当ねぇ・・・・・・」

 

とうじを始めとしたちゆの家族が父親であるりゅうじの広げる新聞を見つめている。そこにはインタビューを受けた大会のことが新聞に載っており、そこにちゆのことも載っていた。

 

「もぉ、大騒ぎしないで。ちょっと載せてもらっただけなんだから・・・・・・」

 

「いいから、見てみて!!」

 

気にしていない当の本人は、とうじがその記事を見せると少しだけ微笑んだ。

 

「まぁ、ちゆのインタビューも、ほらっ」

 

「『ハイジャンプで世界を目指したいです』か・・・・・・」

 

「お姉ちゃん、本当にすごかったもん!!」

 

「なんせ優勝だもんなぁ〜」

 

「いいなぁ〜。私も見にいきたかったぁ〜」

 

「若女将は休めないでしょ?」

 

「そうね、今週末も予約でいっぱいだし」

 

「ありがたいことです」

 

みんなでちゆの記事を見ながら話していると、とうじが真剣な表情になる。

 

「・・・・・・僕、今度のお休み、旅館のお手伝いするよ」

 

「えっ? でも、先週も・・・・・・」

 

「僕、この沢泉が好きで・・・・・・いつか女将の仕事をやりたいんだ」

 

とうじのその言葉を聞いた、ちゆはもちろん家族全員が驚きの表情を見せた。

 

「・・・・・・ふふっ、良いかもしれないな」

 

「えっ・・・・・・?」

 

すると、りゅうじが微笑みながらそう話し、ちゆは驚いて聞き返した。

 

「ちゆには、ハイジャンプの才能がある・・・・・・旅館はとうじに任せて、ちゆは思い切り陸上に打ち込むのはどうだろう?」

 

「えっ・・・でも・・・・・・」

 

「どうかしら・・・・・・?」

 

「そうねぇ・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

りゅうじの話を聞いて、母親であるなおと祖母であるはるこが相談し始めると、ちゆも考え始める。

 

「僕、お姉ちゃんなら世界に行けると思う」

 

「とうじ・・・・・・・・・」

 

「ちゆがハイジャンプをやりたいなら、私も応援したい・・・旅館のことは気にしなくて良いのよ」

 

「人生は一度きり・・・後悔のないようにしたら良いわ」

 

「うむ・・・・・・」

 

「・・・・・・はい」

 

とうじがそう言うと、なおとはるこもそう言って自由にしても良いと話した。

 

「あっ・・・やだ! もうこんな時間!! 朝ごはんにしましょ」

 

なおはそう言って朝食の準備を始めると、ちゆはそれからというもの将来のことを考え始める。

 

「後悔のないように・・・・・・」

 

それは朝食を終えて部屋に戻ってからも続いており、はるこに言われたことを思い出して、ちゆは机の上の自分のことが書かれた記事を見つめながらそう呟く。

 

『私、沢泉ちゆは誓います』

 

『・・・毒島りょうは誓います』

 

『永遠に友達であると!!』

 

「っ!!」

 

ふと昔の、りょうと過ごした日のことを思い出し、ちゆは余計に顔を俯かせる。友情を誓ったはずの友人、しかし今はビョーゲンズとなっている。

 

「りょうは・・・・・・どうして・・・・・・」

 

もしかして、自分はりょうに酷いことをしてしまったのだろうか? ちゆは思い当たる節がなければ、りょうに何かをした覚えもない・・・・・・。一体、何が原因なんだろうか?

 

ちゆはもう後悔したくないと、次にドクルンに会ったら聞いてみようと思った。

 

「ペエ・・・・・・・・・」

 

ペギタンはそんなちゆの様子を心配そうに見つめていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・?」

 

「じゃあ、次の問題を・・・・・・」

 

学校の理科の授業中、ちゆはまだ悩んでいる様子で何かを考え込むように顔を下に向けており、のどかはそんなちゆの様子が気になっていた。

 

「沢泉」

 

「・・・・・・・・・」

 

「おい、沢泉!」

 

「えっ・・・あっ、はい」

 

ぼーっとしていたちゆは先生に当てられていることに気づかず、再度呼ばれると一拍置いてから反応した。

 

「どうした? わからんか、この問題?」

 

「その・・・酸素です・・・・・・」

 

「うん・・・・・・正解・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・?」

 

ちゆはそれでも問題をなんとか正解するが、どこかぎこちない様子であり、その様子をひなたも気になっていた。

 

その後、授業が終わって休み時間になり、のどかたちは中庭へと集まった。

 

「ちゆちゃん、何か考えごと・・・・・・?」

 

「あっ、もしかしてぇ、今度はテレビの取材が来たとか?そしたら、あたしたちも一緒にぃ・・・・・・」

 

「ううん、そんなんじゃなくて・・・・・・」

 

複雑な笑みを浮かべるちゆは、今朝の出来事をのどかたちに話した。

 

「じゃあ、とうじくんが旅館やるの・・・・・・?」

 

「ええ・・・でも、小さい頃から・・・ずっと自分が女将をやるものと思ってたから・・・・・・なんだか、不思議な感じで・・・・・・」

 

「でも、ちゆちー・・・これでハイジャンに集中できるじゃん。世界へジャ〜ンプ♪ でしょ?」

 

「世界へ・・・・・・」

 

ちゆはひなたにそう言われると、ハイジャンプで飛んでいる自分のことをイメージする。

 

「そう・・・そうよね・・・そのためには、もっと頑張らないと。これからはハイジャンに専念してみるわ」

 

「えへへ。頑張ってね、ちゆちゃん」

 

「あたしたちもめ〜っちゃ応援するしぃ〜♪」

 

「・・・・・・ありがとう」

 

どうやら悩みは無くなったようで、ちゆは笑みを浮かべながらのどかたちに礼を言った。

 

「・・・・・・・・・」

 

そんなちゆの様子を学校の屋上からドクルンが見つめていた。

 

「ドクルン?」

 

「なんですか?」

 

「あいつ・・・病気に冒さなくていいブル?」

 

「しますよ。その機会を伺っているところです」

 

スタッドチョーカーのブルガルが、ドクルンにそう尋ねると彼女はちゆを見つめながらそう言う。

 

「また嘘なんかついちゃって・・・・・・」

 

ドクルンは顔を少し顰めながらそう呟いた。

 

その日の放課後、ちゆは昼間に行った通り、陸上部の練習に励んでいた。のどかたちもその様子を見ていた。

 

「バーをもっと高めにお願い!!」

 

「オッケー!!」

 

ちゆは他の部員に頼んで、設置されていたバーを一つ高くしてもらった。

 

「よしっ!!」

 

ちゆはやる気を出して、その場から駆け出してジャンプしてみる。すると・・・・・・。

 

ガタァン!!

 

もう少しのところでバーに足が引っかかってしまい、失敗してしまった。

 

「あぁ〜!!」

 

「惜しい〜!!」

 

のどかとひなたはベンチに座ってその様子を見守っていた。

 

「のどか、ひなた」

 

「?・・・あれ? アスミちゃん!! どうしたの?」

 

そこへラテを抱えたアスミがやって来ていた。

 

「・・・・・・今朝のちゆの様子がなんだか心配だったペエ」

 

「それで、みんなと見学に来たのです」

 

その傍らにはペギタンが肩からひょっこりと顔を出し、何やら心配そうな表情を浮かべていた。

 

「そっかぁ〜」

 

「でも大丈夫!! ちゆちー、ハイジャン頑張って、世界目指しちゃうって♪」

 

のどかとひなたがアスミたちと話している中、ちゆの2回目のジャンプが行われるも、また失敗に終わっていた。

 

「ドンマイ、ちゆ。今日は無理せず、早めに上がったら?」

 

「そうね、ありがとう・・・・・・」

 

部活仲間のりょうこにそう言われたちゆはこの日の部活を早めに切り上げることにした。

 

「今日のちゆちー、調子悪いねぇ・・・・・・せっかくハイジャンに集中できるようになったのにぃ・・・・・・」

 

のどかたちはみんな、そんなちゆの様子を心配そうに見守っていた。

 

「・・・・・・失敗が多いのは迷いがある証拠ね。口ではあんなことを言ってても、心の中では何かが吹っ切れていないのよ」

 

ドクルンは本をペラペラとめくりながら、そんなちゆの様子に対してそう呟いていた。

 

その後、部活を終えて帰宅するちゆは・・・・・・。

 

「・・・・・・あっ」

 

旅館の前に枯れ葉が散らばっているのが見えた。ちゆは女将の衣装に着替えて、竹箒を持つと落ち葉を掃除し始めた。

 

「・・・・・・お姉ちゃん」

 

「っ? とうじ、今日もお手伝いを?」

 

「うん! 旅館のことは僕に任せて!」

 

そこへ旅館の半纏を着たとうじが現れ、ちゆが尋ねると元気に答える。

 

「お姉ちゃん、部活の練習で疲れてるでしょ?」

 

「そうでもないけど・・・・・・」

 

「えへへ、無理しないで」

 

「・・・・・・ありがとう」

 

「丁寧に・・・丁寧にっと・・・・・・」

 

とうじはちゆから竹箒を取ると、一生懸命に掃除をし始めた。

 

「・・・・・・とうじ、どうして女将になりたいって思ったの?」

 

「えっと・・・・・・お姉ちゃんのハイジャンを応援したいってのもあったけど・・・・・・でも僕、旅館の仕事が楽しくて!」

 

「楽しい?」

 

「うん! お客様が笑っているのを見ると、僕までなんだか幸せな気持ちになるっていうか・・・・・・」

 

熱心に掃除をするとうじにちゆが聞くと、掃除をしながらそう答えた。

 

「おっ! あっちにも落ち葉が!」

 

とうじは別の場所にも落ち葉があるのを見て、すかさずそこも掃除をしていく。ちゆはそんなとうじを見て微笑みつつも、どこか複雑な表情も見せていた。

 

「ちゆさん」

 

「あっ、川井さん」

 

そこへ旅館の従業員の川井もちゆのところにやってきた。

 

「とうじさん、最近、とても頑張っていますよ。お客様のためにと、いつも考えているみたいで」

 

「そう・・・・・・」

 

川井がとうじの方を見ながらそういうと、ちゆはとうじの様子を見る。

 

「・・・・・・・・・」

 

そんな様子を、旅館の上の方でペギタンが心配そうに見つめていた。

 

「・・・・・・とうじくんは立派ね。素敵。それに比べてちゆは・・・・・・」

 

その旅館の屋根の上でドクルンはとうじを見ながら口元に笑みを浮かべ、逆にちゆを見つめて少し顔を顰めた。

 

部屋へと戻ったちゆは、机の上に一通の封筒があるのを見つけ、それを手に取る。

 

「っ、これ、ツバサからだわ」

 

それは前に共に世界で戦うことを誓ったライバル、ツバサからだった。封筒の中を開けてみると、海外でできた友達らしき人物と写っている写真と手紙が入っていた。

 

ちゆ、元気?

 

私はこっちの生活にもだいぶ慣れて、今は思う存分、ハイジャンの練習してる。

いつか、ちゆと一緒に世界で戦える日を、楽しみにしてる!!

 

高見ツバサ

 

「・・・・・・・・・」

 

ちゆはそんなツバサからの手紙を、少し表情に影を落としながら見つめていた。

 

「・・・・・・ちゆ、一体どうしたペエ?」

 

そこへペギタンが静かにちゆの側へとやってくる。

 

「・・・・・・世界を目指すなら、ハイジャンに集中しないとダメよね」

 

「ちゆは、その・・・ハイジャンよりも、女将をやりたいペエ?」

 

「わからない・・・選べないのよ・・・・・・それに・・・・・・とうじがあんなに張り切ってるし」

 

「むぅ・・・・・・」

 

写真を見つめながら悩むちゆを見て、ペギタンも一緒になって考え始める。

 

『ちゆは、きっといろんなところで活躍できるわ・・・・・・』

 

『そんな・・・大袈裟よ。私は人より少しできるだけで・・・・・・』

 

『何を言ってるのよ? この私が言ってるんだから、間違いないわよ』

 

『でも、女将の仕事もあるかもだし・・・・・・』

 

『そんなのは二の次よ。ちゆはハイジャンをやりたくないの?』

 

『そんなことないわ。でも・・・・・・』

 

そんなちゆに昔の記憶を思い出す。それはりょうとの会話だった。

 

『私はちゆが世界に行くことになっても応援するわ。だって、私たち、離れても友達でしょ?』

 

りょうはちゆの両手を取りながら、そう主張したのであった。

 

「りょう・・・・・・私は、どうしたらいいの・・・・・・?」

 

ちゆはりょうとの会話を思い出しながら、表情を少し暗くさせていた。

 

「ちゆ・・・・・・・・・?」

 

「・・・あっ、ごめんね、変なこと聞いて。私、ちょっと走って来る」

 

「だったら、僕も一緒に行くペエ」

 

「大丈夫。少し風に当たるだけ・・・・・・」

 

ちゆは一人ランニングへと向かうと、残されたペギタンは窓の外から抜け出してのどかたちの元へと向かった。

 

「・・・・・・・・・ふん」

 

その様子を狼の妖精のブルガルが見ていた。部屋に誰もいなくなったことを確認すると、ブルガルは上へと飛び、屋根の上に行くとそこで本を読んでいるドクルンの元へと近づく。

 

「どうでした?」

 

「青い女が外に出て行くみたいブル」

 

「・・・・・・ちゆったら、走りでごまかそうとしてるわけ?」

 

ブルガルの報告を聞くと、ドクルンは顔を少し顰めながらそう言った。

 

「っ・・・・・・?」

 

旅館のドアの音が鳴り、ドクルンが下を覗いてみるとちゆが運動着を着て外を駆け出して行くのが見えた。

 

「でも、好都合ね。今、ちゆは一人でしょ? パートナーのペンギンもいないようですし、病気に侵さないとねぇ」

 

ドクルンは本をパタンと閉じると、その場から立ち上がる。

 

「ブルガル、ちゆをつけておいてください。私はゆっくりと歩いて来るので」

 

「・・・・・・わかったブル」

 

ドクルンにそう命じられたブルガルは駆け出したちゆの後を追い始めた。

 

ドクルンはそれを見届けてから屋根から降りるとちゆの行った方向を向く。

 

「・・・・・・ちゆ、悩むなら何も考えなくていいのよ」

 

ドクルンは口元に微笑を浮かべながら、ちゆを追うべくゆっくりと歩き出して行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃・・・・・・のどかたちの家では、ちゆ以外のみんなが集まり、ペギタンがちゆのことを相談していた。

 

「・・・・・・つまり〜、ちゆのハートはハイジャンと旅館の2つに分かれてて、旅館の方が無くなっちゃったから、ハートのバランスが悪くなっちゃったってことだなぁ〜」

 

「「おぉ〜!!」」

 

ニャトランがハート型の紙を真ん中で2つに切り、それぞれに温泉の絵とハイジャンプの絵を書くと、ハートが描かれた真っ白な紙を使ってうまく説明しており、のどかとひなたは感心の声をあげていた。

 

「ニャトラン、すっごくわかりやすいじゃん♪」

 

「えっへへ〜、まぁニャ〜♪」

 

「まぁ♪ ニャトラン、あなたそんな説明もわかりやすくできたのね! エライわ〜!」

 

「ニャ・・・・・・な、なんかひでぇこと言われてるみたいだけど、まぁいっか♪」

 

ニャトランはひなたに褒められるが、一緒にいた中島先生の言葉にはなんとも言えないような反応を見せつつも、特に気にしないことにした。

 

「だから、今日はハイジャンの調子が出なかったんだねぇ・・・・・・」

 

「ちゆは幼い頃から、ずっと女将を目指していたのですから、やはり女将がやりたいのではありませんか?」

 

「でも、あんなハイジャン跳べるのに辞めちゃうのもったいないよぉ〜」

 

「そうだよね・・・・・・」

 

話をしていたのどかたちはみんなで腕を組んで唸りながら考え始めた。

 

「ちゆはハイジャンも大好きだし・・・旅館も大好きだし・・・・・・きっと、すごく迷ってるペエ・・・・・・」

 

「・・・・・・あっ。でもひなたちゃんのお姉さんはトリマーとカフェ、両方やってるよね?」

 

「ペエ?」

 

「んー・・・まあ、お姉のは基本家でもできるじゃん?」

 

「そっかぁ・・・・・・」

 

「ペエ・・・・・・」

 

そんな風に話していると・・・・・・。

 

「? ラテ・・・・・・?」

 

アスミが膝の上にいたはずのラテはいつの間にかいないことに気づいて、辺りを見渡すと・・・・・・。

 

「ワンっ♪」

 

ラテはのどかのベッドの前にいて、その下には1つの箱が見えた。

 

「何か遊びたいのかなぁ・・・・・・?」

 

気になったのどかはその箱を下から出して、中を開けてみる。

 

「・・・・・・あっ、これは」

 

のどかは取り出した、それを取り出して広げてみる。

 

「これ・・・みんなで作った応援のラビ!!」

 

「限界突破な!!」

 

「まぁ! そんなもの作ってたのね。でも、なんで石の部分だけ青いの?」

 

「えっと・・・・・・それはね・・・・・・」

 

「ニャトランが間違えたの・・・・・・ねぇ、ニャトラン・・・・・・?」

 

「ニ・・・ニャ・・・・・・」

 

のどかが見つけたのはみんなでちゆを応援するべく縫って作っていた『空へ!限界突破!』という横断幕だった。

 

「これは、どういう意味でしょうか?」

 

「えっと・・・・・・自分で無理だと思っていることを頑張って乗り越えるってことかな?」

 

「乗り越える・・・・・・自分を?」

 

「なんかさぁ・・・今の自分よりも、もっとすごい自分になる!って感じじゃない?」

 

「あっ、なるほどです」

 

のどかとひなたの説明を聞いて、アスミはなんとか理解した様子。

 

「むぅ・・・・・・ちゆが、今のちゆを超えてすっごいちゆになる・・・・・・っ、ペエエ!!」

 

ペギタンは何か考えていて、急に声を上げる。

 

「どうした、ペギタン?」

 

「ラテ様、ありがとうペエ!!」

 

「ワン♪」

 

ニャトランが驚く中、ペギタンはラテにお礼を言った。

 

「僕、行ってくるペエ!!!!」

 

ペギタンはいつもより素早い動きで、のどかの部屋を飛び出していった。

 

「ふわぁ・・・・・・すごい勢いだったね」

 

「何か、吹っ切れた感じね」

 

のどかたちがその速さに呆気にとられる中、中島先生は口元に笑みを浮かべながらそう言った。

 

「きっと、何かいいことを閃いたのですね」

 

「ワン♪」

 

アスミはラテを抱き抱えながらそう言うと、ラテはそれに答えるように鳴くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃・・・・・・キングビョーゲンの娘たちがアジトとする廃病院では・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

とある一室では、クルシーナが部屋の中を見て顔を不機嫌そうに顰めていた。

 

その理由は・・・・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・あいつ」

 

部屋の中で大人しくするように命じたはずのかすみがいなくなっており、部屋がもぬけの殻となっていたからだ。

 

クルシーナが部屋の中に入って調べてみると、部屋の窓が割れていて、そこからかすみが逃げ出したのであろうと推測できる。

 

それを理解したクルシーナは指をパチンと鳴らして、手下である小さなコウモリの妖精たちを呼び出す。

 

「・・・・・・この部屋にいた女はどこにいったかわかる?」

 

クルシーナがそう告げると、小さなコウモリたちのうちの一匹が近づいて耳打ちする。

 

「・・・・・・わかった。とりあえず、追いかけるぞ。一匹はそいつに張り付け。残りはアタシに着いてきて案内しろ」

 

クルシーナは淡々とそう命令すると、小さなコウモリの妖精の一匹は窓から飛び出していき、残りのコウモリたちは集団で飛んでいき、クルシーナはその集団に向かってゆっくりと歩いていく。

 

「クルシーナ・・・・・・もう、あいつは逃がしたほうが・・・・・・」

 

「黙れっ」

 

「っ・・・・・・・・・」

 

かすみを追おうとするクルシーナにウツバットがそう言うと、クルシーナは抑揚のない声で一蹴し、ウツバットは少し陰りのあるような表情を見せる。

 

「・・・・・・こっちに来ても、アタシの手間を掛けさせんなよ・・・かすみ」

 

クルシーナはかすみを追いながら、淡々とそう呟いたのであった。

 

一方、その頃・・・・・・かすみは・・・・・・。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

廃病院から少し離れたところで、かすみは立ち止まって息を整えていた。そして、自分がいた廃病院の方を振り向く。

 

「はぁ・・・はぁ・・・あいつらは、きっと追ってくるだろうな・・・・・・」

 

このまま逃げてもきっと追いつかれてしまう。だったら、この赤く蝕まれて戻らない世界からいなくなればいいか・・・・・・。

 

だが、自分にはそんな能力はないはず・・・・・・でも、ここからいなくならなければ追いつかれる。

 

そう考えていた、時だった・・・・・・。

 

「っ、何だ・・・・・・!?」

 

かすみの体が禍々しいピンク色に光ったかと思うと、何か力が湧いてきていた。かすみは自分の手のひらをじっと見つめ、ふと何かを思いついたかのように手を目の前にかざしてみる。すると・・・・・・。

 

「っ!!」

 

クルシーナが開いているような、黒いゲートが出現した。

 

「これは・・・・・・すこやか市に繋がっているのか・・・・・・?」

 

もしそうだとしたら、クルシーナたちから逃げ切れるかもしれない。そう考えた、かすみは・・・・・・。

 

「よしっ、行くしかない・・・・・・!!」

 

かすみは善は急げと言わんばかりに、黒いゲートへと飛び込んでいく。

 

その直前・・・・・・一匹の小さなコウモリの妖精がかすみの背中に張り付き、それに気づかないまま・・・・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第137話「逃亡」

前回の続きです。
一人になったちゆは・・・・・・脱走したかすみは・・・・・・。


 

「・・・・・・・・・」

 

時は少し遡る。ペギタンたちがまだちゆのことで悩んでいる中、ちゆは海辺の塀の上に立って。海を眺めていた。

 

「・・・ハイジャンで世界にいきたあぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!! でも、旅館も好きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

ちゆは海に向かって思い切りそう叫ぶと、その場にしゃがみこむ。

 

「・・・・・・ふぅ、私・・・どうしたら・・・・・・」

 

ちゆが表情に暗さを落としていると・・・・・・。

 

「何を騒いでいるのかと思ったら・・・・・・」

 

「っ!?」

 

ちゆの背後から声が聞こえ、びっくりしたちゆが振り向くとそこにはドクルンの姿があった。

 

「りょう!! なんでここに!?」

 

「ふふふっ♪」

 

ドクルンは口元に笑みを浮かべると、海辺の塀の上に飛び乗ってちゆと同じ場所に立つ。

 

「なんでだと思う?」

 

「・・・・・・私に、何かするため?」

 

「あらぁ〜、よくわかってるじゃない。ビョーゲンズの私を」

 

ちゆの言葉にドクルンは笑みを浮かべながらそう答えると、ちゆへと近づいていく。ちゆは警戒しながらゆっくりと後ずさっていく。

 

「こ、来ないで・・・・・・!!」

 

「逃げることないでしょ? 私たち、友達じゃない?」

 

「何かをするってわかってて、近づかせるわけないでしょ!!」

 

「はぁ・・・・・・全く・・・・・・」

 

ちゆは主張するも、その声は少し震えていた。それを聞いたドクルンはため息をつくと、その場から姿を消す。

 

「?・・・あっ!?」

 

ちゆは一瞬呆然としていると、横から現れたドクルンに片手で突き飛ばされ、海辺の塀の上から砂浜へと落下する。

 

「今、あなたが何を考えているか当ててあげましょうか?」

 

「うっ・・・・・・?」

 

「いろいろ考えていることはあるんでしょうけど、一番は旅館もハイジャンもやりたい、でもどっちも選べない、どうすればいい? でしょ」

 

「っ!! ど、どうして、それを!?」

 

ドクルンは砂浜に倒れ伏すちゆに近づきながらそう言うと、ちゆは動揺する。

 

「当然よ、私はちゆのことが大好きだもの。っていうか、あれだけ盛大に大きな声を出してれば、嫌でもわかるわよ」

 

「っ・・・・・・!!」

 

ドクルンが近づいていることを知ったちゆは再び距離を取り、ステッキを取り出すが・・・・・・。

 

「っ、ペギタン・・・・・・」

 

パートナーのペギタンを家に残して一人で行ってしまったことで、今はプリキュアに変身できない。ちゆは焦り始める。

 

「あら、パートナーがいないの。だったら、もう私に反抗しようなんてことはできないわよねぇ?」

 

ドクルンはその様子を察して不敵な笑みを浮かべると、一瞬のうちにちゆの目の前に現れる。

 

「っ!! うっ!!」

 

ちゆはドクルンに胸倉を掴まれて砂浜へと押し倒されてしまう。

 

「何も考えなくていいの。ちゆのことは私がわかってるから♪」

 

「っ!? や、やめ、て・・・・・・うっ・・・・・・」

 

ドクルンがもう片方の手で禍々しいオーラを纏った、尖った赤い氷のようなものを出すと、ちゆはかすれた声で訴える。ドクルンはその声をかき消すかのように胸倉を掴んでる手を押し込む。

 

「大丈夫よ、痛くないから。他のことなんか、考えずに済むわ」

 

「や、や、め・・・・・・あっ、が・・・・・・!」

 

ドクルンは子供をあやすかのようにそう言うと、再度訴えるちゆの声を無視して赤い氷を彼女の体に突き刺す。その瞬間、ちゆの体を赤い禍々しいオーラが包み込み、彼女の口から苦しみの声が上がった。

 

「ぁ・・・ぁぁ・・・・・・」

 

ちゆは体から力が抜けて砂浜に手が力無くボトリと落ち、そんな彼女の体を黒い靄が包んでいく。

 

「ふふふっ♪ これでいいわ、お父さん。ちゆも私のもの・・・♪」

 

ドクルンは胸倉から手を離し、倒れたまま意識が朦朧としているちゆを見つめながら笑みを浮かべた。

 

「上手くいったブル」

 

「ええ。あとは病気の苦しみを出てきた靄に染み着かせて、搾取するだけ」

 

そこへ頼まれていたブルガルが来てそう言うと、ドクルンは笑みを浮かべながら再びちゆを見つめる。

 

「う、うっ・・・・・・くっ・・・・・・」

 

体の中を黒い靄に侵食されたちゆは苦しんでおり、そんな彼女にドクルンは近づいて持ち上げ、肩に担ぐ。

 

「さてと・・・・・・どうしようかしら。ん? あれは・・・・・・」

 

ドクルンはどこかへ行こうと辺りを見渡していると、海の近くの岩場に誰かが立っているのが見えた。しかも、どこかで見たことのある人物だったため、ドクルンはそこへ行くことにした。

 

そんなドクルンが向かおうとしているその場所では・・・・・・。

 

「〜〜〜〜っ、なんて鬱陶しい風なのぉ!? しっかもキラキラしちゃって!! イライラするわっ!!」

 

海を眺めていたシンドイーネが、吹いている潮風とキラキラとしている海にイライラしていた。

 

「また、ここでも誰かが騒いでますねぇ」

 

「っ、ドクルン・・・・・・!!」

 

背後から聞こえる声に振り向き、ドクルンだとわかると顔を顰める。

 

「キラキラしてますねぇ。こういうのを見てるとすごい汚したくなります・・・・・・」

 

「あんたねぇ・・・・・・っていうか、そいつ・・・!!」

 

ドクルンが海を眺めながらニヤニヤ見つめていると、呆れたシンドイーネが肩に担いでいるちゆを見て指を差す。

 

「ん? あぁ・・・この娘ですか。キュアフォンテーヌですよ」

 

「どうしたのよ、それ!?」

 

「どうしたのって・・・一人でいたからそこを狙って病気を打ち込んでやっただけです」

 

「あら、そう・・・・・・」

 

問い詰めるシンドイーネに、ドクルンがそう説明するとちゆを岩の上に下ろす。

 

「それよりも、今ならチャンスじゃないですか? ギガビョーゲンを生み出せば、プリキュアたちはどうにもならないでしょう」

 

「・・・まあ、そうね・・・そんなことわかってるわよ!!」

 

ドクルンがそう諭すと、シンドイーネはあたかもわかっているような反応をすると辺りを見渡す。すると、砂浜を歩くサーファーの姿が目に入った。

 

「ふふっ・・・・・・みぃつけた♪」

 

シンドイーネは標的を見つけると、早速岩場から飛び降りてサーファーの元へ向かっていく。

 

「ふふふっ♪ シンドイーネは本当に、わかりやすい人・・・・・・」

 

ドクルンはシンドイーネの後ろ姿を見つめながらそう呟くと、岩場に寝かせているちゆを見やる。

 

「うっ・・・うぅ・・・・・・」

 

「ふふふっ♪」

 

ちゆは額に汗を滲ませながら苦しんでおり、その様子を見ながらドクルンは優しく撫でてあげる。

 

「今日も大量だったなぁ〜!」

 

「??」

 

そこへ嬉しそうな大きな声が聞こえ、振り向いてみるとカゴと釣り竿を持った男性がいるのが見えた。

 

「・・・・・・・・・!!」

 

ドクルンはその様子を見て顔を顰めると、何かを思いついたかのようにハッとすると不敵な笑みを浮かべる。

 

「私もやっておくか・・・・・・」

 

ドクルンはその場で指をパチンと鳴らし、黒い塊を出現させる。

 

「進化してください、ナノビョーゲン」

 

「ナノデス〜」

 

生み出されたナノビョーゲンは鳴き声を上げながら、釣り人の男性へと飛んでいく。

 

「っ!!??」

 

釣り人の男性は呆然とした表情のまま、ナノビョーゲンに取り込まれていく。

 

その男性を主体として、巨大な怪物がかたどっていく。凶悪そうな目つき、不健康そうな姿、そしてその素体を模倣する様々なものが姿として現れていき・・・。

 

「ギガビョォ〜〜ゲン!!」

 

リールのようなものに釣り竿が3本付いたものを被り、ベストを身に付け、腰にカゴのようなものを3つ付けた釣り人のような格好のギガビョーゲンが誕生した。

 

「ギィィィィィィ〜、ガァ〜〜!!!!」

 

ギガビョーゲンは周囲に赤い球体を複数出現させると、そこから禍々しい光線を海に放ち、赤く蝕んでいく。

 

「やっぱり海は赤いほうが素敵ねぇ・・・・・・」

 

ドクルンがそう言いながら不敵な笑みを浮かべていると・・・・・・。

 

「ちゆぅぅぅぅぅ〜っ!!」

 

「ん?」

 

そこへちゆを叫ぶ声が聞こえ、その方向を向くとペギタンがやってきていた。

 

「・・・・・・鬱陶しい奴が現れたわね」

 

ドクルンはその声を聞いて、視界に映るペギタンを睨みつけていた。

 

「ちゆぅぅぅぅ!! おかしいペエ・・・・・・いつもならきっとこの近くにいるはずペエ。ちゆぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

 

ペギタンはちゆを探していたが、ちゆが近くにいないことをおかしいと思い、呼ぶように叫ぶ。

 

「うるさいですよ、全く・・・・・・」

 

「っ!! ドクルン!!」

 

「ちゆちゆって、騒がないでください。イライラします・・・・・・!!」

 

そこにドクルンが淡々と背後から現れ、ペギタンは警戒する。

 

「ちゆ? ちゆをどこにやったペエ!?」

 

「私が預かっていますよ。もちろん、あなたに渡す気はないですけどね」

 

ちゆを知っているかのような物言いにペギタンは問い詰めるも、ドクルンはそう言い放った。

 

「ちゆを返すペエ!! うわぁっ!!」

 

「ちゆのことはいいじゃないですか。私とお話ししましょうよ♪ まあ、見せるぐらいならいいですけどね」

 

ドクルンは詰め寄ろうとするペギタンを片手で掴み上げてそう言うと、一緒にちゆの元へと連れて行った。

 

「っ、ちゆぅぅ!!!!」

 

「うっ・・・うぅぅ・・・・・・」

 

「ちゆ、どうしたペエ!? しっかりするペエ!!」

 

ちゆは苦痛に歪ませながら苦しんでおり、ペギタンが呼びかけるも反応を示そうとしない。

 

「無駄ですよ。ちゆにはメガパーツと同じようなものを埋め込みましたからね。まあ、テラパーツも入っていますが」

 

「ど、どうしてそんなことをするペエ!!」

 

「決まっているじゃないですか。全てはお父さんのため・・・・・・そして、私のためです」

 

そう訴えるペギタンに、ドクルンは笑みを浮かべながらそう話す。

 

「ちゆとお前は、友達じゃなかったペエ!?」

 

「友達ですよ。だからこそ、いつまでも一緒にいたいんじゃないですか」

 

「何で病気にする必要があるペエ!!」

 

「だから、言ったでしょ。これはお父さんのためでもあるって」

 

ペギタンはちゆの友人であるはずの彼女に何度も問い詰めるも、ドクルンは笑みを浮かべながら平然と受け答えをする。

 

「ギィィィィィイィ〜、ガァ〜!!」

 

そう話している間にも、ギガビョーゲンは赤い球体から光線を放って徐々に周囲を蝕んでいく。

 

「あぁぁぁ・・・・・・・・・」

 

その様子をペギタンは拘束されたドクルンの手から見ることしかできない。抜け出したところでちゆはこのような状態ではプリキュアに変身ができない。自分だけではどうにもならない状況だ。

 

「うぅぅぅ・・・ぐぅぅぅぅ・・・!!!! うぁぁぁ!!!!」

 

「大人しくしておいてもらえますか? 逃げたところで、あなたのような見習いにはどうにもならないでしょう」

 

ペギタンはのどかたちに助けを求めようと考え、手から抜け出そうとするが、ドクルンは強く握って痛めつけ、淡々とした言葉で返す。

 

「うっ・・・・・・ラビリン・・・・・・みんな・・・・・・」

 

苦痛に顔を歪めながら、ペギタンはのどかたちが来てくれることを願うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビョーゲンズが海岸で暴れ始めた頃・・・・・・。

 

「ここは・・・・・・・・・」

 

かすみは今まで行ったところのない場所へと出ていて、辺りを呆然と見つめていた。

 

ここはどこかの森のようだが、のどかたちが住んでいるすこやか市ではない。辺りは黒く侵食されているようなところもあるが、地球とは違う何かがそこにあった。

 

かすみはゆっくりと辺りを見渡しながら歩いていく。すると、何やら明るく神秘的な場所へとたどり着いた。

 

「あぁ・・・・・・・・・」

 

かすみは足を止め、その美しい光景に見とれていた。

 

「あなたは・・・・・・!」

 

「っ!!」

 

そんな彼女に声をかけるものがいた。かすみは驚いてその声に振り向くとそこには高貴な姿をした白い犬のような人物がいた。

 

「ヒーリング、アニマル・・・・・・?」

 

かすみはその人物の姿を見て、呆然とした様子でそう呟いた。

 

「あなた・・・ラビリンと、ラビリンたちが選んだ人間といた子ね」

 

「っ・・・どうしてそれを!?」

 

「私はあの子たちのことをここから見守っていたわ。そこにあなたもいましたね。ラビリンたちのことも守って、よくしてくれていたわね。どこに行ってしまったのか心配だったけど、まさかここに現れるとは思わなかったわ」

 

白い犬のヒーリングアニマルがそう呟くと、かすみは表情に暗い影を落とした。

 

「私は・・・・・・ラビリンたちを、のどかたちを裏切ったんだ・・・・・・。のどかを助けたい、みんなに迷惑をかけたくない・・・・・・そんな気持ちで私は、ビョーゲンズへと入って、影なりに守ろうとしてた・・・・・・。でも、結果的にラビリンたちにも、のどかたちにもひどい目に合わせてしまった・・・・・・私はもう、合わせる顔がないし、会う資格なんかない・・・・・・!」

 

かすみは声を震わせながらそう呟く。ビョーゲンズとして完成したくない、その想いからビョーゲンズから逃げ出したはいいものの、きっとのどかは自分を許してはくれないだろう。

 

どこへ行けばいいのかわからない。どこへ行っても自分を受け入れてくれるところはないだろう。どうせだったら、あいつらに見つからないところで静かに消えていくべきか。でも、そんな場所はきっとない。

 

のどかのためにある覚悟は決めたが、もう自分はビョーゲンズに体を弄られてしまった・・・・・・もう、どうしたらいいか・・・・・・わからない・・・・・・。

 

白い犬のヒーリングアニマルはそれを心配そうに見つめていた。

 

その後、かすみと白い犬のヒーリングアニマルはその場に隣り合うように座り込んだ。

 

「どうしていなくなっていたのか、聞かせてくれるかしら?」

 

「ああ・・・・・・」

 

白い犬のヒーリングアニマルに尋ねられたかすみはその経緯を話し始めた。

 

「そうですか・・・友達を助けるために・・・・・・」

 

「そうだ・・・・・・最初はのどかたちと平和に過ごせればいいと思っていた。でも、あいつらがみんなを貶めて、のどかを・・・・・・私は必死に助けようとしたけど、無駄だった・・・・・・。私はあいつに助けを求めるしかないと思って、その代償としてビョーゲンズに入ったんだ・・・・・・」

 

かすみは体育座りの格好で、顔に埋めながら話す。

 

「でも、のどかはまた元気がなくなっている。私が完成したら、のどかは消えてしまう。結局、何も変わっていないんだ・・・!! きっとこのまま逃げて、のどかの元に逃げても、私はみんなを傷つけ、迷惑をかけるだけ・・・・・・人間にも、ビョーゲンズにもなれない・・・・・・!! もう私は、このまま消えてしまいたいっ・・・・・・」

 

体を震わせて涙を流すかすみ。すると・・・・・・。

 

「あなたは、それでいいのですか?」

 

「えっ・・・・・・・・・」

 

「あなたからは確かに、ビョーゲンズの気配がします。でも、それとは別にあなたからは何か人間の心のようなものを感じます。あなたは生まれてから、そんな想いを信じて、自分を信じて、あの子たちを守ってきたのでしょう? それはどんな形でも決して悪いものではありません。きっとあの子たちは、そんなあなたをわかってくれているはずですよ」

 

「でも、傷つけたことには変わりはない・・・!! これが悪くないって本当に言えるのか・・・!? のどかたちがわかってるって、本当に言えるのか・・・!!??」

 

白い犬のヒーリングアニマルにそう話された、かすみは首を振りながら悲痛な想いを叫ぶ。

 

「あなたは、どうしたいのですか?」

 

「っ・・・・・・」

 

「自分はそれを悪いと思っている、そののどかという子はわかってくれないと思っている、きっと会っても無駄だと思っている、でもそれ以前に、あなたはその子たちに何をしたいのですか?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「あなたはもう少し、自分のために生きるべきです。その子のためではなく、ラビリンたちのためではなく、自分が本当にやりたいことのために。あなたが本当にやりたいことは何ですか?」

 

「・・・・・・・・・」

 

影を落としているかすみに、白い犬のヒーリングアニマルはそう尋ねる。かすみは少し考えた後・・・・・・口を開いた。

 

「私、は・・・・・・」

 

かすみは言葉を詰まらせて口を閉じるも、再び口を開く。

 

「私は、のどかを、プリキュアのみんなを守りたい・・・!!!! のどかに嫌われても、みんなに嫌われてたっていい!! ビョーゲンズに着いても、側に寄り添って避けられても構わない!! 私はどんな形であっても、みんなを守りたいんだ!!!!」

 

思いの丈を叫んだかすみを見て、白い犬のヒーリングアニマルは微笑んだ。

 

「よく、言えましたね・・・・・・」

 

白い犬のヒーリングアニマルはそう言うとかすみへと近づいていき、かすみの頬に顔を寄せてきた。

 

「あ・・・・・・」

 

「誇りなさい。あなたはビョーゲンズという種族を超えたのですよ。きっとあなたが生まれたのは、その子たちと一緒に生きたいという想いがあったのでしょう」

 

「結局、一緒にはいられなかったけどな・・・・・・」

 

「これから一緒にいればいいのです。相手の痛みや苦しみがわかる、その子を助けたいという気持ちを持っている、そんな優しいあなたをあの子たちが嫌うはずはないと思いますよ」

 

白い犬のヒーリングアニマルは優しい声でそう言うと、かすみはそのわだかまりが消えたかのように優しく微笑んだ。

 

「・・・・・・ありがとう。おかげで、少し向き合う勇気ができたよ」

 

「よかった。何があっても、私ーーーーテアティーヌはあなたの味方ですよ?」

 

「私も、あなたに会えてよかったと思ってる・・・・・・」

 

かすみはそう言うと、白い犬のヒーリングアニマルーーーーテアティーヌから離れると腕を伸ばして、黒いゲートのようなものを出現させる。

 

「私は行くよ。やることがあるから・・・・・・!!」

 

「私はあなたのことも応援してます。あなたならきっとできるはずです・・・・・・」

 

「本当にありがとう・・・私はかすみ、風車かすみだ・・・・・・」

 

かすみは笑みを浮かべながらそう言うとテアティーヌに別れを告げ、黒いゲートの中に入って行った。

 

「・・・・・・あの子の未来に、幸せが訪れますように」

 

テアティーヌは空を見上げながら、かすみに対する願いを呟いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ〜!!!!」

 

「ギィィィィィィ・・・・・・ガァァァァッ!!!!」

 

一方、海の上ではサーフボードに乗ったギガビョーゲンが暴れまわっていた。

 

「ギィィィ〜、ガァ〜!!!!」

 

砂浜の上では釣り人のようなギガビョーゲンが、赤い球体を出現させて光線を放っている。

 

「っ・・・・・・いた!!」

 

「ギガビョーゲンが、2体もいるよ!?」

 

そこへのどかたちが駆けつけ、のどかとひなたは変身アイテムを手に構える。

 

「ちょっと待ってください!! ちゆが見当たりません」

 

「っ、あれ? そう言えば・・・・・・」

 

「走りに行ったちゆちーなら、いつもここにいるはずだよねぇ・・・?」

 

アスミがそれに待ったを掛けてちゆのことを話すと、のどかとひなたは辺りを見渡し始める。

 

「み、みんなぁぁぁぁ〜!!」

 

「「「っ!!」」」

 

そこへペギタンの叫びが聞こえたかと思うと、そちらに振り向くと・・・・・・。

 

「ちゆちゃん!! ペギタン!!」

 

「ドクルンラビ!!」

 

そこにはちゆに膝枕をし、片手でペギタンを掴んで拘束しているドクルンの姿があった。

 

「遅かったですね・・・・・・おかげであなたたちの仲間はこの通りですよ」

 

「うぅっ・・・・・・」

 

ドクルンは岩場の上に座りながら、こちらを不敵な笑みを浮かべながら見ている。ちゆは膝枕をされながらも、表情は苦しそうだった。

 

「ちゆちー、なんであんなに苦しそうなの!?」

 

「ちゆに何をしたのですか!?」

 

「ちょっと私の病気をね。おかげでこんなに可愛くなっちゃって、素敵になりました♪」

 

ひなたとアスミはちゆの様子に驚きながらも、ドクルンに問い詰めると彼女は笑みを浮かべながら答えた。

 

「なんでちゆちゃんにこんなことするの!? ちゆちゃんの友達なんでしょ!!」

 

「友達だからこうして一緒にいたいんじゃないですか。こうやって、ずーっと私と一緒にいてくれれば、それでいいんですよ・・・・・・」

 

のどかがちゆの友人であるはずの彼女にそう聞くと、ドクルンは表情を崩すことなく答えた。

 

「私たちのことはどうでもいいでしょう。いいんですか? あの2体を止めなくても?」

 

「ギガァァァァァァ!!!!」

 

「ギィィィィ〜、ガァァァァ〜!!!!」

 

ドクルンが顔を向ける視線の先には、2体のギガビョーゲンが海岸で暴れまわっている。

 

「っ、とにかく行こう!!」

 

「ラビ!!」

 

ちゆのことは心配だが、ギガビョーゲンたちを放っておけない・・・・・・のどかの言葉を合図にアスミも変身アイテムを構えた。

 

「「「スタート!」」」

 

「「「プリキュア、オペレーション!!」」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

「エレメントレベル、上昇ラテ!!」

 

「「「キュアタッチ!!」」」

 

ラビリン、ニャトランがステッキの中に入ると、のどかとひなたはそれぞれ花のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

アスミは風のエレメントボトルをラテの首輪にはめ込む。すると、オレンジ色になっているラテの額のハートマークが神々しく光る。

 

のどかとひなたは、肉球にタッチすると、花、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ひなたは黄色へと変化する。

 

ラテとアスミは手を取り合うと、白い翼が舞い、ラテが舞ったかと思うとハートの中から白い白衣のようなものが飛び出す。

 

その白衣を身に纏い、ラテが降りてきたかと思うとハープが飛び出し、さらにアスミは紫色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

衣装にチェンジした後、ハープを手に取り、その音色を奏でる。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「「時を経て繋がる、二つの風!」」

 

「キュアアース!!」

 

「ワン!」

 

アスミは風のプリキュア、キュアアースへと変身した。

 

みんなはそれぞれ変身を終えると飛び上がり、ギガビョーゲンの前に立ちはだかる。

 

「みんな・・・・・・頑張ってペエ・・・・・・」

 

ペギタンはそんな三人を心配そうに見つめている。

 

「うっ・・・・・・うぅぅ・・・・・・」

 

「ふふふっ、私の可愛いちゆ。大丈夫、もう少ししたら楽にしてあげるわ・・・・・・」

 

苦しむちゆに、ドクルンは優しそうな笑みを浮かべながら彼女の頭を優しく撫でた。

 

「りょ・・・りょ、う・・・・・・」

 

「ん・・・・・・?」

 

「なん、で・・・ビョーゲンズ・・・なんかに・・・・・・?」

 

すると、目を覚ましていなかったちゆが目を開いており、こちらを切なそうに見上げ、苦しげな声でそう呟いた。

 

「ちゆ!! 目を覚ましたペエ!? うっ・・・・・・!!」

 

ペギタンはちゆのその様子に声を上げるも、ドクルンに黙らさせられるように握り締められる。

 

「・・・・・・ちゆってひどいわよね、本当に」

 

「・・・・・・??」

 

「ちゆ、なんで病院に会いに来てくれなかったの? 私は何ヶ月も待ってたのに・・・!!」

 

「待って、た・・・・・・? っ!!」

 

ドクルンはまるで子供のような声を出してそう言うと、ちゆは少し考えた後、ハッとした。

 

「もしかして・・・私が、見舞いに来れなかったから・・・・・・?」

 

「来れなかったぁ? 来なかったの間違いでしょ!! そうやってまた嘘つくんだぁ・・・・・・?」

 

ちゆがそう答えると、ドクルンは怒るように声を少し荒げる。

 

「違う・・・違う、わ・・・!! 言ったじゃない・・・・・・私は、用事があって、離れるって・・・・・・」

 

「じゃあ、なんで!! 私のことを放っておいて、私以外の子と仲良くしてるのよ!? 忘れてたんでしょ!! 私のことなんか!! どうせちゆにとって、私のことなんかどうでもよかったのよっ!!!!」

 

ちゆが苦しみながら反論しようとすると、ドクルンは激昂してちゆの言葉を否定する。ドクルンははぁはぁと息を荒くして、落ち着くと再びちゆを見据える。

 

「私がどんな気持ちで病院にいたかわかる? あなたに会えなくて、ずっと寂しくて・・・・・・ずっと一人だった・・・・・・病院でもちゆ以外にお友達はできたけど、みんな治ったり、助からなかったりして私の前からいなくなっていくの・・・・・・一人にされる気持ち、あなたにわかる?」

 

「っ・・・・・・・・・」

 

「ペエ・・・・・・・・・」

 

ドクルンが子供のような声でそう話すと、ちゆとペギタンは辛そうな表情をする。

 

「医者のせいだ、医者のせいだ、こんな思いをしているのは医者のせいだと、毎日思っていた時・・・・・・あの人が声をかけてくれたの・・・・・・」

 

ドクルンはその時のことを回想する。

 

『・・・・・・苦しいのか? 痛いのか?』

 

苦しくはないけど、寂しいの・・・・・・。

 

『いい憎しみだ。まるで地球を憎んでいるとも思える・・・寂しいと思うのであれば、心などいっその事なくせばよいのだ』

 

心を、なくす・・・・・・・・・? そうだ、こんなに悲しいなら、何も感じなければいい・・・・・・。

 

『我が全て楽にしてやろう。自由に行動できるように力を与えてやる。その代わり、我のために働き、我のために尽くすのだ。地球を我らの住む世界のような、快適な環境にするために。我の大切な娘としてな』

 

誰? そんなことしてくれるっていう、あなたの名前は・・・・・・??

 

『我はキングビョーゲン。今からお前を娘とする、ビョーゲンズの支配者である』

 

そんなりょうの憎しみに呼応するように、声をかけたのはキングビョーゲン・・・後に自身の父親となる存在であった。

 

病室の中、何か物音がし、病院の窓から何かがすり抜けるように入ってくる。その紫がかったような赤黒い靄はりょうが横になっているベッドの下へと素早く移動する。そして・・・・・・!!

 

ズオォォォォォォォォォォォ!!!!!

 

『っ・・・・・・・・・』

 

ベッドの下から赤黒い靄がりょうを包み込むように襲いかかる。りょうは一瞬切なそうな表情をしたまま、その意識は闇へと落ちていったのであった。

 

そして、自身が再び気がついた時には、あの声が響いていた。

 

『地球上にいるビョーゲンズたちよ・・・我はキングビョーゲン。時は満ちた・・・この星をビョーゲンズのものにするため、今こそ忌々しきヒーリングアニマルを滅する! さあ、我の元に集うがいい!!!』

 

その声が聞こえると同時に、目の前に光が見えていた。りょうはそれに導かれるように手を伸ばしていった。

 

そして、ベッドに眠っているりょうの瞳が大きく見開かれた。周囲から赤い靄を見ている人でもわかるように赤く光らせながら。その姿はすでに人の肌ではなく、悪魔のようなツノとサソリのような尻尾が生えていた。

 

やがて赤黒い靄はりょうごと浮かび上がると、その勢いのまま病室の窓の外へと飛び出していく。

 

病院からは他の場所からも3つの赤い靄がその近くへと飛び出していったが、その一人であるりょうは病院の近くの地面へと赤黒い靄に包まれたまま、着地したしゃがみ込む姿勢のまま静止する。

 

そしてゆっくりと立ち上がると、赤い靄が静かに薄れていき、その姿を晒した。

 

薄い黄緑色の肌に、白衣を着てメガネをかけた研究員のような格好、頭には悪魔のツノのようなもの、お尻にはサソリの尻尾のようなものが生えていた。

 

こうしてビョーゲンズの一人、ドクルンが誕生したのであった。

 

「こうして、私はビョーゲンズになったの・・・・・・忘れてたけど、私の幸せを奪った医者たちに復讐するためにね・・・・・・!」

 

「っ・・・・・・!!」

 

(そんな・・・・・・じゃあ、りょうは、私の、せいで・・・・・・私が、側にいなかったから・・・?)

 

不敵な笑みを浮かべながら答えるドクルン。対してちゆはショックを受けていた。りょうは自分が離れたせいで、心の平衡を乱して、そこをビョーゲンズにつけ込まれてしまったのか・・・・・・?

 

「私はもう決めたのよ。お父さんを復活させて、地球をビョーゲンズのものにし、ちゆを私のものにするとねぇ・・・・・・!!」

 

「!? うっ、ぁぁぁぁ・・・・・・!!」

 

ドクルンは真面目な表情でそう言うと、ちゆの胸に手を当てて赤いオーラを光らせ始める。すると、ちゆの口から苦しみの声が上がり、ちゆが先ほどよりも苦しみ始めた。

 

「だから、もっと苦しんでよ・・・ちゆ。お父さんの復活には、あなたのデータも必要なのよ」

 

「あっ・・・うぁぁぁぁ・・・・・・!!!!」

 

「ちゆぅぅ!! やめるペエ!!!! こんなことして、何になるペエ!?」

 

ちゆを苦しめようとするドクルンに、ペギタンはそう訴えかける。

 

「かはっ・・・!?」

 

「あなたは黙っていなさい・・・!! どうせ何もできないんですから・・・!!!」

 

ドクルンはペギタンの持っている手を強く握りながらそう言った。

 

「うっ・・・うぁぁぁ・・・・・・くっ、うぅぅぅぅ・・・・・・!!!!」

 

そんな彼女の膝の上では、ちゆがドクルンの片手を掴みながら首を振り、苦しみの声を上げているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃、すこやか市にある森では・・・・・・黒いゲートが現れ、そこからかすみが登場していた。

 

「よし、ここはすこやか市だな・・・・・・」

 

かすみはここがのどかたちの住んでいる場所だと理解すると、辺りを警戒しながら進もうとするが・・・・・・。

 

「っ!? うわぁっ!!!!」

 

そこへ小さなコウモリの妖精たちが飛んできて、かすみに纏わりつく。

 

「この、コウモリは・・・・・・?」

 

かすみはハッとして、この妖精たちがどこかで見たことのあるものたちだと理解する。

 

「もういいよ、戻れ」

 

「っ!!」

 

そこへ聞こえてくる聞き覚えのある声、妖精たちはかすみから離れていく。かすみはその声を認識できないわけではなかった。

 

ガサガサガサッ

 

草むらが音を立てるとそこから現れたのはクルシーナだった。

 

「クルシーナ・・・・・・」

 

「手間をかけさせんな・・・・・・かすみ」

 

かすみはクルシーナを睨むと、不機嫌そうな表情でそう言うクルシーナ。かすみには不思議と警戒心はなかった。

 

脱走したかすみと、それを追っていたクルシーナ。二人が森の中で睨み合うのであった・・・・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第138話「執念」

前回の続きです。
クルシーナと対峙したかすみ、そしてドクルンに病気に侵されたちゆは・・・・・・。


 

「・・・・・・・・・」

 

森の中で睨み合うかすみとクルシーナ。両者は一歩も動かず、沈黙が辺りを包む。

 

「・・・・・・・・・はぁ。面倒な役回りはいっつもアタシね」

 

先に沈黙を破ったのはクルシーナで、ため息を吐きながら愚痴をこぼしていた。その後、再びかすみを睨みつける。

 

「かすみ、アジトに帰るわよ」

 

「・・・・・・嫌だ」

 

「はぁ?」

 

「私は、アジトには帰らない・・・!!!」

 

クルシーナがそう言うと、かすみはその申し出を拒絶する。

 

「私はもう、ビョーゲンズの思想には賛成できない!! のどかが消えるとわかって、お前たちなんかと一緒にいられるものか!! 私は、私のために生きる・・・!!」

 

「・・・・・・バカじゃないの? アタシたちビョーゲンズから離れて、アンタどうすんのよ?? 行く当てなんかないでしょ?」

 

「私はのどかの元に行く。私は、のどかを守るために生まれてきた。どんなことがあっても・・・!!!!」

 

かすみはそう主張しても、クルシーナはその表情を崩さない。

 

「アタシ、前に言ったわよね。アンタがのんちゃんたちと一緒にいたところで、みんな傷つくだけだって。アンタに守れなんかしないって。忘れたわけじゃないわよねぇ? その意味、理解してる?」

 

「私は構わない!! 例えそうなったとしても、私がその全てからのどかを守ってやるんだ!!」

 

クルシーナが前に言ったことをもう一度告げるも、かすみは頑なに主張して譲らなかった。

 

「勝手なこと言ってんじゃないわよ、どいつもこいつも・・・!! アンタがビョーゲンズから離れて、他の仲間はどうなんのよ? フーミンやヘバリーヌもアンタのことを懐いてて、ハキケイラはアンタのことを気に入ってんのよ。アンタがいなくなったりしたら、あいつらがどんだけ悲しむかわかってんの?」

 

「・・・・・・私なんかに構わない方がいい・・・・・・それがあいつらのためだ・・・・・・」

 

クルシーナは少し苛つきながら言うと、かすみはビョーゲンズの仲間が悲しむという言葉に表情を暗くさせた。

 

「アンタは本当に頭でも湧いてんじゃないの・・・? アンタはビョーゲンズなのよ!! アタシたちと同じで、地球を蝕まなければ快適な環境も得られない・・・・・・そんなアンタが、人間なんかと分かり合えるわけがないのよ・・・!!!!」

 

「のどかにわかってもらわなくてもいい。私は私の目的に向かって進むだけ・・・・・・それでいいんだ・・・・・・」

 

「っ・・・消されんのよ、アンタは!! アタシやお父様が望んで生まれた存在でなくても、お父様の快楽も満たせないような奴は必要なくなるのよっ!?」

 

クルシーナは顔を顰めながらも説得しようとするが、かすみは聞き入れない。

 

ドックン!!!!

 

(っ!? のどか・・・・・・!!)

 

ふとかすみはハッとしたような表情をする。かすみの中で泣いている声が聞こえたからだ。しかも、それはのどかの近くにいる。

 

のどかが危機に陥っていると察したかすみは胸に手を当て始める。

 

(おい、もう一人の私・・・・・・!!)

 

(・・・・・・どうした?)

 

かすみが声をかけたのは、自分の中にいるもう一人の自分だった。

 

(私の体から出れるか? のどかを助けてほしい・・・・・・!!)

 

(なぜ私が人間なんかを・・・・・・?)

 

(頼む!! 一度だけでいい!! これが私の最後の願いであってもいい!! のどかを、助けてくれ!!)

 

(・・・・・・・・・この状況になっても、まだ大切な人を助けようとするとは、面白い。いいだろう・・・今回はお前に従ってやる)

 

もう一人のかすみは、かすみにある指示を出すとかすみは近くにある木へと手を触れる。すると、その木が赤い靄に包まれ始めた。

 

「何する気か知らないけど、させないわよ・・・!!」

 

クルシーナはかすみが不審な行動を取っていると思い、手のひらを広げてピンク色のエネルギーを溜め、ピンク色の光弾を放った。

 

「はぁ!!」

 

かすみは黒いステッキをもう片方の手で出すと、シールドを張って光弾を防いだ。

 

「っ・・・!!」

 

クルシーナはそれに悔しそうな表情を浮かべ、その間に木から赤い靄がスッと消えていく。

 

「頼んだぞ・・・もう一人の私・・・・・・」

 

かすみは小さな声でそう呟くと、クルシーナに向き直ってステッキを構える。

 

「来い、クルシーナ!! 私と勝負だ!!」

 

「・・・・・・アンタがアタシに勝てると思ってんの?」

 

「例え勝てなくて、お前に消されるなら・・・・・・私は、本望だ・・・・・・」

 

「っ!!!!!!」

 

かすみのその言葉を聞いたクルシーナは歯を食いしばる。顔を俯かせて両手を握りしめ、体を震わせ、怒りを抑えようとしていたが・・・・・・。

 

「ふざけんなっ!!!!」

 

怒りを抑えることができなかったクルシーナはかすみに対して激昂した。

 

「アタシがお前を消す? お前の無茶苦茶な持論を聞いて、アタシがそんなことすると思ってんのか。なめてんじゃねーよ、クソったれ!!!!」

 

クルシーナはこれまでの抑えてきた感情を吐き出すかのようにそう言うとその場から姿を消して、かすみの横から蹴りを繰り出した。かすみは応戦するかのように、パンチをぶつける。

 

「アタシは決めたわよ。お前が何度逃げようが、アタシが何度だって連れ戻してやる!!!!」

 

「っ・・・・・・・・・!!」

 

クルシーナは距離を取ってそう宣言すると、周囲にピンク色の球体を出現させて光線を放つ。かすみはシールドを展開して、光線を防ぐ。

 

シールドを解除した後、かすみは手のひらに息を吹きかけて黒い塊を作り出す。

 

「ナノ・・・・・・」

 

生み出されたナノビョーゲンはかすみが持っている黒いステッキに取り憑く。そして、ハザードマークの赤色のボトルを取り出す。

 

「プリキュア、インフェクション・・・・・・」

 

かすみは黒いステッキにエレメントボトルをかざし、ステッキのエネルギーを上昇させる。

 

「イルネスレベル、上昇・・・・・・」

 

ステッキの先のハートマークが赤黒く光っていく。

 

「キュアタッチ・・・・・・」

 

ナーノー!!

 

カスミーナは肉球にタッチすると、紫色がかった赤い靄が放出され、カスミーナの体を包み込む。

 

すると、髪型は大きくのびてロングヘアーとなり、ダークパープルのような色へと変わり、リボンの色は銀色になり、前髪に黒色の楕円のようなカチューシャが付けられ、黒色のバラのようなイヤリングが付けられる。

 

服装も赤い靄に包まれたところから変化していき、胸に逆さハートの飾りをあしらったパフスリーブのダークパープルのワンピースへと変わり、手袋は黒色になり、足元は赤黒いショートブーツへと変わった。

 

ナーノー!!

 

「淀み合う二つの災厄!! キュアハザード!!」

 

カスミーナは病気のプリキュア、キュアハザードへと変身を遂げたのであった。

 

「行くぞ!! クルシーナ!!」

 

「来いよ、死にたがり!! のんちゃんを守りたいなら、争って見せろよ!!」

 

ハザードとクルシーナはお互いにそう叫ぶと同時に飛び出し、拳をぶつけ合う。

 

本心ではかすみを仲間だと思っているクルシーナの言葉にも、かすみはのどかを守るために戦おうとする。

 

ビョーゲンズ同士の戦いが、火蓋を切って落とされたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギガッ、ビョォォォォォ~!!!!」

 

「いいわよ、ギガビョーゲン」

 

一方、海岸ではシンドイーネのギガビョーゲンが順調に辺りを蝕んでいた。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ギガァ・・・・・・!?」

 

そこへアースが飛び蹴りを放って、ギガビョーゲンをよろつかせる。

 

「あらぁ、アンタ一人なのね。まあ、せいぜい足掻くがいいわ」

 

シンドイーネにしては余裕の笑みを浮かべながら、アースを見る。

 

「これ以上、やらせるわけにはいきません!!」

 

「ふん・・・プリキュアが一人いないところで、私の敵じゃないのよ!! さっ、蝕んじゃって!! ギガビョーゲン!!!!」

 

「ギガビョォォォォォ~!!」

 

シンドイーネが指示を出すと、ギガビョーゲンはサーフボードを使って飛び上がり、アースを押しつぶそうと襲い掛かる。

 

一方、ドクルンの出したギガビョーゲンと戦うグレースとスパークルは・・・・・・。

 

「ギィィィ~、ガァ~!!」

 

ギガビョーゲンは周囲の球体、及び両手から光線を放って攻撃を仕掛け、グレースとスパークルは避けつつ攻撃のチャンスを伺っていた。

 

しかし、ギガビョーゲンは容赦無く光線を放ち、執拗に攻撃しようと迫る。

 

「もぉ~!! 全然近づけないんだけど!!!!」

 

「エレメント技を使うニャ!!」

 

スパークルが不満を垂れていると、ニャトランがアドバイスを出す。

 

「雷のエレメント!! はぁっ!!」

 

それを受けたスパークルは雷のエレメントボトルをセットし、雷を纏った黄色い光線を放つ。

 

「ギィ~ガァァ!!」

 

ギガビョーゲンは頭部の釣り竿を振り回して、その糸の先に付いていたルアーのようなもので光線を防ぎ・・・・・・。

 

「っ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

さらにそのルアーに雷の力が付加されたのか、スパークルに当たって感電し、悲鳴を上げた後に地面へと落ちていく。

 

「スパークル!!」

 

「ギィィィィィ~、ガァ~!!!!」

 

スパークルを心配するグレースに、ギガビョーゲンは片手から赤い光線を放つ。

 

「っ!!」

 

グレースはシールドを張って赤い光線を防ぐ。

 

「ギィィィ~、ガァ!!」

 

そこへギガビョーゲンは頭部を振り回して釣り竿を振るい、ルアーの付いた糸を飛ばす。

 

「えっ・・・・・・あっ!!!!」

 

ルアーはシールドの側を通り抜けて、背後から迫り、グレースをグルグル巻きにする。

 

「ギィィィィィガァァァ!!!!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ギガビョーゲンは思いっきり頭部を振るうと、グレースはその糸に引っ張られてスパークルの隣に叩きつけられた。

 

「ふふふっ、やっぱりあの二人のプリキュアはバラバラにしてしまえば、大したことないわね」

 

ドクルンはグレースとスパークルの戦いを見ながらそう言った。

 

「うっ、うぅぅぅぅ・・・あっ、あぁぁぁぁ・・・あっ・・・!!」

 

そんな彼女の下では、ドクルンに中のメガパーツのようなものを活性化させられて苦しんでいるちゆの姿があった。

 

「りょ、う・・・やめ、て・・・・・・苦・・・しぃ・・・・・・!」

 

「ふふふっ♪」

 

ドクルンは苦しみを訴えるちゆに対して、彼女の頭を優しく撫でる。ちゆの顔色は土気色に近づいていき、徐々に悪くなっていった。

 

「っ!!」

 

アースは踏みつぶそうと迫るシンドイーネのギガビョーゲンに対し、左右にギリギリで飛んで回避し、ギガビョーゲンはアースがいた辺りに着地した。

 

「ギッガァ!!」

 

ギガビョーゲンは掌からビームを放ってきたのを、アースは後方に飛んで回避する。

 

「ふふふふ・・・邪魔者はさっさと踏み潰して、地球を蝕みまくるわよ!! でもって、キングビョーゲン様に褒めてもらうんだから~っ♪」

 

シンドイーネがそう話している中、ギガビョーゲンは再びアースを踏みつぶそうとサーフボードで乗って迫っていた。

 

「はぁっ!!!!」

 

「ギガァッ!!??」

 

踏みつぶそうとした一瞬の隙を見たアースが、サーフボードを下から蹴り上げてギガビョーゲンを吹き飛ばした。

 

「ちょっと!! 私の一途な愛を邪魔しないでよ!!」

 

「一途、ですか・・・・・・」

 

「うっ・・・!! 一、途・・・・・・?」

 

怒ったシンドイーネの言葉にアースは反応するが、彼女よりも強く反応をしたのは苦しんでいるちゆだった。

 

「そうよ!! 私はずっとずっと、キングビョーゲン様だけを想ってやってきた・・・・・・この一途な想いがあってこそ、キングビョーゲン様の愛を掴めるのよ!!」

 

「・・・・・・前にもかすみさんが言っていたと思いますが、一途なその想いは悪くはありません。ですが、あなたのその想いのため、他の人を傷つけるようなことは決して褒められたことではないと!!」

 

シンドイーネが自己愛を主張すると、アースはそれに反論するように言った。

 

「っ、うるさいわね!!!! あんたなんかに私の想いがわかってたまるもんですか!!!! ギガビョーゲン、何してるの!? 早くそいつを始末しちゃいなさい!!」

 

アースのその言葉に怒ったシンドイーネはギガビョーゲンに指示を出し、ギガビョーゲンは両手の掌にエネルギーを溜め始める。

 

「ギィィィガァァァァァ!!!!」

 

ギガビョーゲンは掌から強力な赤いビームを放った。アースはそれを飛び上がって回避する。

 

「音のエレメント!!」

 

アースはハープに音のエレメントボトルをセットし、ハープを奏でて音波を放つ。

 

「ギィ・・・ギガァ・・・・・・!?」

 

音波を浴びたギガビョーゲンは動きが鈍くなる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ギガァ!?」

 

アースはそのままドロップキックをギガビョーゲンに放って吹き飛ばした。

 

「シンドイーネは自分の意思を持っていて素敵ねぇ・・・・・・それに比べてちゆは・・・・・・」

 

「うぅぅ・・・・・・あっ、あぁ・・・・・・!!」

 

ドクルンはシンドイーネをみて笑みを浮かべ、自分の膝の上で苦しんでいるちゆを無表情で見つめる。

 

「ちゆは学校でも優秀で、女将もできて、ハイジャンも世界に到達できるレベル・・・・・・なのに、この中からどれか一つを選ぶこともできない・・・・・・本当に贅沢な悩みよね」

 

「うぅぅぅぅ・・・っ・・・・・・」

 

ドクルンの言葉に、ちゆは目を見開いて反応する。

 

「悩むくらいなら何も考えなきゃいいのよ。どれも大切だと思ってるあなたにはどうせ決められないんだから。私と、一緒にいましょう。いつまでも、ずーっと」

 

「りょうと・・・一緒・・・・・・いつまでも・・・・・・ずっと・・・・・・」

 

「大丈夫。苦しむのはほんの少しだけ、私と一緒に・・・行きましょう・・・・・・」

 

りょうと一緒にいられる・・・・・・りょうに対する罪悪感でいっぱいだったちゆ。病気の苦痛で考える力も失われ、目をゆっくりと閉じてドクルンに身を委ねようとしていた。

 

(りょうやシンドイーネの言う通り、かも・・・・・・何事も一途な想いには敵わない・・・・・・なのに、私は、ハイジャンも、旅館も、どっちつかず、で・・・・・・もう、このまま・・・りょうと、一緒に・・・・・・)

 

ちゆは心の中で諦めに入ってしまっており、このままドクルンと一緒にいようと、そう考え出したのであった。

 

「ダメペエ!! ちゆぅ!!」

 

「っ・・・・・・?」

 

「どっちも選べないんだったら、それでいいペエ!! 両方好きだったら両方ともやっちゃえばいいペエ!! ちゆならできるペエ!!」

 

その言葉に待ったを掛けたのはペギタンだった。ちゆは薄目を開けながら視線をペギタンに向けると、ペギタンはそう主張する。

 

「僕はちゆの頑張る姿を見てきたペエ!! ハイジャンプも、女将としても、どれも手を抜かないで頑張るちゆの姿を!! そんなちゆだったら絶対にできるペエ!!!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

ペギタンが訴えても、ちゆの表情はまだ晴れなかった。

 

「それでも、勇気が足りないなら・・・・・・僕のを分けてあげるペエ」

 

「っ!!!!」

 

ペギタンのその言葉を聞いて、ちゆは目を見開いた。

 

『もし勇気が足りないなら、私のを分けてあげる』

 

ちゆはかつて自分がペギタンに対して同じことを言っていたことを思い出したのだ。

 

「ぐっ・・・あぁっ!!!!」

 

「っ・・・ペギタン・・・!!!!」

 

「本当にうるさいペンギンね・・・今更そんなこと言っても遅いのよ!!!!」

 

ドクルンはペギタンを持っている片手を強く握り、その表情は怒りで顔が顰められていた。

 

「ギィィィィィ~、ガァ~!!!!」

 

「「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」

 

その頃、グレースとスパークルは釣り人のギガビョーゲンに飛びかかるも、ギガビョーゲンはその場で高速回転して二人を吹き飛ばす。

 

「ギッガァァ!!」

 

「あぁぁっ!!??」

 

アースも善戦したが、タフなギガビョーゲンに吹き飛ばされて岩塀に叩きつけられる。

 

「あっはっはっはっは!! やっぱりあんたたちは一人じゃ大したことないのよ!!」

 

シンドイーネが倒れるアースを見下ろしながらそう言った。

 

「ちょうどいいわ。ちゆ・・・あなたのお友達も、パートナーもみんな消してあげる・・・・・・」

 

「うっ・・・あっ・・・・・・!?」

 

ドクルンは不敵な笑みを浮かべると、片手に掴んでいるペギタンを凍らせ始めた。

 

「っ、りょ、う・・・やめ、て・・・うっ・・・がぁっ、ぁぁ・・・・・・!!」

 

「大丈夫よ。もう時期テラパーツも馴染むし、あいつらのことなんか考えられなくなるわ。そしたら、永遠に一緒にいましょう」

 

ちゆはドクルンにそう訴えるも、ドクルンは胸に手を当てたオーラをさらに強くして最後の仕上げに入ろうとしていた。

 

「さぁ、ギガビョーゲン。さっさと潰しちゃいなさい」

 

「ギガビョーゲン、トドメを刺してください」

 

「ギガァ~!!」

 

「ギィィィガァァァ~!!!!」

 

シンドイーネとドクルンが同時にギガビョーゲンに指示を出すと、両手、頭部とそれぞれのギガビョーゲンはエネルギーを溜め始める。

 

「くっ・・・・・・!」

 

「うっ・・・・・・」

 

「あっ・・・・・・」

 

砂浜に倒れ伏すアース、グレース、スパークル。そんな三人にギガビョーゲンの攻撃が迫ろうとしていた。

 

「や、やめ、て・・・やめ、て・・・・・・やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

ちゆの振り絞った絶叫が響く中、ギガビョーゲンから光線が放たれる。

 

その時だった・・・・・・・・・。

 

ドォンドォンドォンドォンドォン!!!

 

突然、どこからかダークパープルの光弾が無数飛んできたかと思うと、ギガビョーゲンの光線を打ち消した。

 

「ギガァ!?」

 

「ギィィィィ~!?」

 

「っ、えぇぇ~!?」

 

「っ!? 今のはどこから!?」

 

これにはギガビョーゲン、シンドイーネ、ドクルンも驚きを隠せず、辺りを見渡して正体を探ろうとする。

 

「えっ・・・・・・?」

 

「どう、なってんの・・・・・・?」

 

「??」

 

この光景にはグレース、スパークル、アースの三人も訳が分からず、呆然と見ているばかりだ。

 

ドォンドォンドォンドォンドォンドォンドォン!!!!

 

「ギガァ~!!??」

 

「ギィィィィィ~!?」

 

さらにダークパープルの光弾が無数飛んでくると、二体のギガビョーゲンに直撃し、大きく吹き飛ばした。

 

「嘘ぉ~!?」

 

「どこから来てるの!? 今の攻撃!!」

 

圧倒的な力を持っているはずのギガビョーゲンが呆気なく吹き飛ばされた・・・・・・そんな事実に二人は信じられない様子で、特にドクルンはあたりを見渡して探っていた。

 

すると・・・・・・。

 

ドォンドォンドォンドォン!!!!

 

「っ、あぁぁぁっ!?」

 

「きゃあぁぁぁ!!!!」

 

シンドイーネとドクルンにも同じような光弾が飛んできて、二人を吹き飛ばした。しかもドクルンはちゆから引き離された上、ペギタンを手から離してしまった。

 

「今のは何ペエ?? でも、チャンスペエ!!」

 

ペギタンは急いでちゆへと駆け寄ると、倒れる彼女の手を握る。

 

「ちゆ、一緒に!!」

 

「っ・・・ペギタン・・・そう、ね・・・・・・」

 

ペギタンがそう呼びかけると、ちゆは彼がやりたいことを察知してギュッと目を瞑る。すると、ちゆとペギタンが互いに握っている手が青く光り輝き、暖かい空気に包まれた。

 

「うっ・・・うぅぅぅぅ・・・・・・!!」

 

「ちゆ、頑張るペエ!!」

 

「くっ・・・うぅぅぅぅ・・・ペギ、タン・・・・・・」

 

すると、ちゆの体の中のテラパーツが暴れ出した影響で身悶えするも、ペギタンの手をしっかりと握って耐えようとする。

 

「テラパーツ・・・・・・」

 

「私の、体から・・・・・・」

 

「ちゆの体から・・・・・・」

 

「出て行って!!!!」

 

「出て行くペエ!!!!」

 

ちゆとペギタンがそう叫ぶと光は一層強くなり、その瞬間ちゆの体から赤黒い靄の塊が飛び出し、遠くへと逃げていく。

 

「出たペエ!! のどかの時と同じペエ!!」

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・」

 

「ちゆ、大丈夫ペエ!?」

 

ペギタンは出てきた靄を見つめるも、まずはちゆの容態を確認する。ちゆは息を荒くしていたが・・・・・・。

 

「はぁ・・・はぁ・・・うん、大丈夫・・・・・・ありがとう、ペギタン・・・・・・」

 

ちゆは顔に汗を滲ませていたものの、ペギタンに対して微笑んでみせた。

 

ビィィィィィィィィィィィィ!!!!

 

「っ、うわぁっ!!??」

 

「ペギタン!!!!」

 

そこへ白い光線のようなものが飛んできて、ペギタンは間一髪で避ける。

 

「変な攻撃に出鼻はくじかれたけど、まぁ、こんなものか・・・・・・」

 

ちゆとペギタンが光線が飛んできた方向に視線を向けると、ドクルンが先ほどの赤黒い靄を掴んで持っていたビンの中に入れる光景があった。

 

「りょう・・・・・・」

 

「ちゆ・・・あくまでもそいつの肩を持つっていうのね・・・・・・」

 

「当然よ・・・・・・!!」

 

ドクルンは顔を顰めながらそう言うと、ちゆはそう言い切る。

 

「それに・・・私はずっとチャレンジをしてきた!! ハイジャンも、旅館の仕事も!! 私はやりたいことを全部やる!! どっちも大切で、大好きなんだもの!!」

 

「ペエ!!」

 

「っ・・・・・・!!」

 

完全に悩みが吹っ切れたちゆはゆっくりと立ち上がり、ペギタンは喜んだ。一方、ドクルンは睨みつけるようにちゆを見ていた。

 

「それにあなたもよ・・・りょう・・・!!」

 

「は・・・・・・?」

 

「私はあなたのことも好き。だって、ずっと友達だったんだもの。だから、私はあなたを浄化して、あなたを絶対に取り戻してみせる!!」

 

ちゆはドクルンに向かってそう言うと、ドクルンは黄緑色の肌である顔を赤らめ始める。

 

「ちゆったら、カッコいいわぁ!! でも、そんなこと言って罪を清算してるつもりなわけ?」

 

「違うわ、りょう!! 私はあなたのことを、いつまでも友達って、約束したから・・・!!!! 永遠の大樹に一緒に誓って!!!!」

 

「っ・・・・・・!!」

 

ドクルンは惚れたような表情を見せると、それとは別に恨みのような言葉も吐く。しかし、ちゆはそう反論するとドクルンは目を見開いた。

 

「そう・・・・・・じゃあ、私も・・・・・・」

 

ドクルンは穏やかな表情を見せながらそう呟くと、再びちゆの方を見る。

 

「じゃあ、あなたの想いと私の想い・・・どっちが強いか決めようじゃないの・・・!!」

 

ドクルンはそう言いながら黒いオーラを身に纏い始めた。

 

「行くわよ、ペギタン!!」

 

「ペエ!!」

 

ちゆはそう言ってステッキを構えると、ペギタンは大きく返事をした。

 

「スタート!」

 

「プリキュア、オペレーション!!」

 

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

 

「キュアタッチ!!」

 

ペギタンがステッキの中に入ると、ちゆは水のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

そして、肉球にタッチすると、水をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまとい水色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、水色へと変化する。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身した。

 

「ふっ!!!!」

 

ドクルンは氷塊を手元に生み出すと、それをフォンテーヌに向かってばら撒くように投げつけ、爆発を起こすもフォンテーヌは飛んで回避する。

 

「はぁっ!!!!」

 

「ふん!!」

 

フォンテーヌはステッキから青い光線を放ち、ドクルンは足元を叩きつけて氷の柱を生やして光線を防ぐ。

 

「ふっ! はぁっ!!!!」

 

「やぁっ!!!!」

 

ドクルンはそのまま氷の柱に飛んで登ると、その上から飛び蹴りを放ち、フォンテーヌはパンチを繰り出して、二人の攻撃がぶつかり合う。

 

「ふんっ!! 行けっ!!!!」

 

ドクルンは距離を取って指を鳴らすと、狼のような幽霊の複数出して放つ。

 

「っ!!」

 

「ぷにシールド!!」

 

ドォン!! ドォン!! ドォンドォン!!

 

フォンテーヌはシールドを張るも、狼のような幽霊は次々とシールドに噛み付くと爆発を起こし、粉砕されて吹き飛ばされる。

 

「っ・・・・・・!!」

 

シュイーン!!

 

「ふっ・・・!!!!」

 

「ぐっ・・・あぁぁぁ!!!!」

 

フォンテーヌは体勢を立て直すも、背後へと瞬間移動をしたドクルンが片足を伸ばしてフォンテーヌの腹に当て、そのまま前に出して蹴り飛ばす。

 

「雨のエレメント!! はぁっ!!!!」

 

フォンテーヌは雨のエレメントボトルをセットし、ステッキから雨水を纏った光線を放つ。

 

「ふん!!」

 

ドクルンは指先から白い光線を放つと、二つの光線がぶつかって爆発を起こし、辺りを白い蒸気が包み込んだ。

 

一方その頃、とある上空からは・・・・・・。

 

「ふふふっ・・・まあ、このぐらいでいいだろう・・・・・・」

 

かすみにそっくりな銀髪の少女が悪魔のような翼を羽ばたかせながら、不敵な笑みを浮かべていた。

 

「・・・・・・もう一人の私、私は目的は果たしたからな。見守らせてもらうぞ、お前の生き様を」

 

銀髪の少女はかすみがいるとされる先を見ると、どこかへと飛び去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ビョーゲンキングダムでは・・・・・・。

 

「はぁ・・・・・・やっぱりアンタはアタシには勝てないのよ」

 

クルシーナがそう呟きながら、ボロボロになったかすみを肩に担いで歩いていた。かすみは気を失っているのかピクリとも動かなかった。

 

「お父様に引き渡さないとね・・・・・・どうせお父様からは逃げられやしないんだから・・・・・・」

 

クルシーナはキングビョーゲンにかすみを引き渡すためにビョーゲンキングダムを歩いていたのだ。

 

そして、キングビョーゲンがいると思われる場所へとやってきたクルシーナはかすみを地面へと下ろす。

 

「お父様、連れてきたわよ」

 

「ご苦労だった・・・・・・さて、そろそろカスミーナを完成させねばな・・・・・・」

 

クルシーナの言葉にお礼を言うと、フードを被らされたかすみの体は宙に浮いたかと思うと、彼女の体は赤黒いオーラへと包まれていく。

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナはかすみがキングビョーゲンによって力が注がれていく様子を、不機嫌そうな表情で黙って見つめていたが・・・・・・。

 

「お父様」

 

「どうした・・・・・・?」

 

「そいつがビョーゲンズとして完成したら、どうするつもり?」

 

クルシーナはふと気になったことをキングビョーゲンに尋ねてみた。

 

「我の戦力になるのはもちろんだが、復活のための糧になってもらおう。様々な手を同時に打ってはあるが、それを失敗したときの予備だ」

 

「アタシらが手を打ってるっていうのに、それじゃあ不満なわけ? あいつらもこの作戦には気づいてないし、クラリエットお姉様さえ復活すれば、予定通りできると思うんだけどね」

 

「テアティーヌの復活も早い。我はテアティーヌよりも先に復活せねばならん。場合によっては時期を早めるという可能性もあるということだ」

 

キングビョーゲンの言葉に、クルシーナは何やら不満を抱いている模様だが、キングビョーゲンがそう言うもクルシーナは何か納得してない様子。

 

「何か不満か? クルシーナ」

 

「・・・・・・別に、お父様がそうしたいんだったら、アタシは何も言わないわ」

 

キングビョーゲンが何かに気にかけるかのように聞くと、クルシーナはそっぽを向きながら淡々と言った。

 

(あぁ~もう!! なんでこんなにモヤモヤすんの・・・・・・!?)

 

クルシーナは心の中になんとも言えない感情を溜め込みながら、かすみの様子を見つめるのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第139話「勇気」

前回の続きです。今回で原作第38話をベースとした話は終わりです。
ちゆの決意とは・・・・・・そして、かすみは・・・・・・。

次回はオリジナルストーリー、かすみ編がスタートです。



 

「ギィィィィ〜ガァァ〜!!!!」

 

釣り竿型のギガビョーゲンは、頭部の糸を振るって飛ばす。

 

「はぁっ!!!」

 

「ふっ!!!」

 

スパークルは糸に付いているルアーを蹴り飛ばし、グレースはシールドを張ってルアーを防ぐ。

 

「ふっ!! やあぁっ!!」

 

「ギ、ガ・・・・・・?」

 

スパークルはグレースのシールドに乗って飛び上がり、ギガビョーゲンの体に蹴りを入れてよろつかせる。

 

「実りのエレメント!! はぁっ!!!!」

 

「ギガァ〜・・・・・・!?」

 

グレースは実りのエレメントボトルをセットし、ステッキからピンク色の光弾をチャージして放ち、ギガビョーゲンを怯ませる。

 

「ギッガァ!!!!」

 

一方、筋肉隆々のギガビョーゲンはサーフボードに乗ってアースに襲い掛かる。

 

「ふっ、はぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ギガァ!?」

 

アースは岩塀に飛び移って、蹴りを繰り出そうとする。

 

「ギガァァァァ!!!!」

 

「あぁぁぁっ!!!!」

 

するとギガビョーゲンは体を回転させて竜巻を起こし、アースを吹き飛ばす。

 

「っ・・・・・・!!!!」

 

アースは砂浜の上になんとか着地をすると、ハープを取り出す。

 

「音のエレメント!!」

 

アースはハープに音のエレメントボトルをセットし、弦を奏でてゲートのようなものをギガビョーゲンの周囲に出現させてビームを連続して放つ。

 

「ギ、ギガァ・・・・・・!!」

 

その攻撃にギガビョーゲンの回転が止まって、そのまま動きを止められる。

 

「っ!!」

 

と、そこへシンドイーネがアースに向かって襲いかかりパンチを放つ。アースは咄嗟にハープで防ぎ、後方へ数メートル飛ばされる。

 

「さっきの攻撃は予想外だったけど、あんたに邪魔なんかさせるもんですか!! どうせあんたたちの望みなんか何一つ叶わないんだから!!」

 

「そんなことはありません!! ビョーゲンズに誰の望みも、邪魔なんかさせません!!」

 

「やれるもんなら、やってみなさいよぉ!!」

 

シンドイーネはそう叫びながら、アースへと飛び出してキックを放った。

 

「ふっ!!」

 

バシィッ!!!!

 

「なっ!?」

 

アースは両腕を交差させて、シンドイーネのキックを受け止めた。

 

「っ!! はぁぁぁぁっ!!!!」

 

「っ、あぁぁぁぁっ!?」

 

アースは動揺していたシンドイーネの足を両腕で弾き飛ばしてよろつかせると、回し蹴りを繰り出してシンドイーネを遠くへと吹き飛ばした。

 

「ギガガガガガガ・・・!!!!」

 

「っ・・・・・・!!!!」

 

そこへギガビョーゲンが両手から連続して光弾を放ち、アースはそれを避けていく。

 

「ふっ!!!!」

 

「っ!!」

 

一方、ドクルンは氷塊を投げつけて爆発させ、フォンテーヌは転がって避ける。

 

「ふん、はぁっ!!!!」

 

続けてドクルンは狼のような幽霊を複数出すと、全てをフォンテーヌにけしかける。

 

「っ、うっ・・・っ!!」

 

フォンテーヌは噛み付いてこようとする狼の幽霊たちをバックステップしながら避け、大きく飛び上がる。

 

「水のエレメント!! はぁっ!!!!」

 

フォンテーヌは水のエレメントボトルをセットし、水を纏った青い光線を放って幽霊を打ち消す。

 

「気を抜いちゃダメよ、ちゆ〜?」

 

「っ!!??」

 

「はぁっ!!!!」

 

ドクルンは自分の頭上に巨大な氷塊を作り出すと、それを蹴ってフォンテーヌへと飛ばす。

 

「ペギタン!!!!」

 

「ぷにシールド!!」

 

フォンテーヌはステッキを構えてペギタンに呼びかけると、シールドを張って迫ってくる氷塊を受け止める。

 

「ぐっ・・・・・・!!」

 

「ふふふっ♪」

 

フォンテーヌは少し苦しそうな表情をしていると、ドクルンが飛び上がって氷塊を蹴りつけてフォンテーヌに押し込もうとする。

 

「ぐぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・!!!!」

 

「ちゆぅ、一緒にいましょうよ〜、プリキュアなんかやめて♪」

 

表情を苦痛に歪ませるフォンテーヌに対し、甘い声でフォンテーヌにそう呟く。

 

「うぅぅっ・・・ダ、ダメよ・・・・・・!! 私は、ビョーゲンズを倒して、あなたを救うって決めたんだもの!! 絶対にプリキュアをやめたりなんかしない!!」

 

「あら、そう。じゃあ、もう一度病気にしてあげるわ!!」

 

フォンテーヌが反論すると、ドクルンは顔を顰めて氷塊をさらに押し込もうとする。

 

「くっ、うぅぅぅぅ・・・・・・!!」

 

「フォンテーヌ!!」

 

「私は、諦めない・・・!! この町も、みんなも絶対に・・・守ってみせる!!!!」

 

フォンテーヌがそう叫ぶと突然体が光り、背中から天使の翼が生える。

 

「っ!? あれは・・・!!」

 

ドクルンはちゆのその姿を見て驚きに目を見開く。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「っ、きゃあぁ!!!!」

 

フォンテーヌが声を張りながら押しのけるとシールドも青く光り、氷解を弾き飛ばしてドクルンごと吹き飛ばした。

 

「フォンテーヌ!! 急いでグレースたちの元に!!」

 

ドクルンをとりあえず退けたフォンテーヌは、ペギタンの言葉に頷くとすぐにグレースの元へと向かう。

 

「ギィィィィ〜ガァ〜!!!!」

 

「「きゃあぁぁぁ!!!!」」

 

一方、釣り竿型のギガビョーゲンは体を高速回転させてグレースとスパークルを吹き飛ばしていた。

 

そこへフォンテーヌがグレースの体を受け止めて着地し、スパークルは自力で体勢を立て直して地面に着地した。

 

「フォンテーヌ!!」

 

フォンテーヌがこちらに戻ってきたことに、グレースは喜ぶ。

 

「ギガァァァァ〜!!!」

 

「っ!!」

 

そんなグレースたちに、ギガビョーゲンは両手から光線を連続で放つ。グレースやスパークルはシールドを張って光線を防ぐ。

 

「ギガビョーゲンの動きを止める方法は・・・・・・」

 

走りながら接近していたフォンテーヌがそう呟くと、ギガビョーゲンの頭に付いている糸に注目する。

 

「っ、あの釣り竿をどうにかできれば・・・!!」

 

「次にあの攻撃が来た時にやってみるペエ!!」

 

「グレース!! スパークル!! あの頭部の釣り竿をどうにかしましょう!!」

 

「「? うん!!」」

 

フォンテーヌは釣り竿を利用すればいいと考え、二人に協力を持ちかける。

 

「ギィィィィ〜ガァ!!」

 

すると、ギガビョーゲンが頭部を振り回して釣り竿を振るった。

 

「来たわ!!」

 

「「ぷにシールド!!」」

 

フォンテーヌの言葉を合図として、グレースとスパークルはシールドを張ってルアーを弾く。

 

「はぁっ!!」

 

そこへフォンテーヌが前へと飛び出し、弾いた大きなルアーを掴む。

 

「ギガ!?」

 

「くっ・・・ふっ・・・!!」

 

ギガビョーゲンがそれに動揺する中、フォンテーヌは掴んだルアーを引っ張ってギガビョーゲンの動きを止める。

 

「ギガァ〜アァァ〜!!」

 

「くっ・・・っ・・・!!」

 

ギガビョーゲンは釣り竿を引き戻そうとするが、フォンテーヌが懸命に引っ張っていて動かず、拮抗した状態が続く。

 

「今じゃない!?」

 

「フォンテーヌが抑えてるうちに!!」

 

グレースとスパークルはその状態を好機に見て飛び出し、別の釣竿に付いているルアーを掴んでフォンテーヌとは別方向に引っ張る。

 

「ふっ、うぅぅぅぅ!!!!」

 

「やぁぁぁぁ!!!!」

 

「ギガ・・・ギガガ・・・!?」

 

フォンテーヌに加えて、別方向へと引っ張られてギガビョーゲンは完全に動きが鈍くなった。大きなルアーを掴んだ三人はお互いに見合わせて頷く。

 

「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 

三人はそのままルアーを掴んだまま、ギガビョーゲンの周りを回りはじめた。

 

「ギガ!?・・・ギガァ〜!?・・・ギギギ!? ギガガガ・・・!?」

 

ギガビョーゲンは三人の行動に戸惑っていると、釣り竿が徐々に自身の体に絡まっていき、そのまま身動きが取れなくなった。

 

「「「はぁっ!!」」」

 

「ギギギギ・・・ギガァ〜!?」

 

三人はそのまま大きなルアーを同時に投げ返し、ぶち当たったギガビョーゲンは地面へと倒れた。

 

「ギガァ!?」

 

そこへ筋肉隆々のギガビョーゲンが、釣り人のギガビョーゲンの横に吹き飛ばされ、フォンテーヌの横にアースが着地して来た。

 

「アース!!」

 

「今です!!」

 

「ええ!!」

 

キュン!!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

アースの言葉を合図に、フォンテーヌはステッキの肉球を一回タッチし、ギガビョーゲンに向ける。ペギタンの目が光り、釣り人型のギガビョーゲンの頭部に釣り人の男性の姿、筋肉隆々のギガビョーゲンには右膝辺りにサーファーらしき男性の姿を見つけた。

 

「頭と・・・右足にいるわ!!」

 

「ラテ、お願いします!!」

 

「ワウ〜ン!!」

 

フォンテーヌがラテに声をかけるとラテは大きく鳴いた。

 

「「「「ヒーリングっどアロー!!!!」」」」

 

4人がそう叫ぶとラテがステッキとハープ、エレメントボトルの力を一つにまとめた注射器型のアイテム、ヒーリングっどアローが出現する。

 

その注射器型のアイテムに、ハートの模様が描かれたエレメントボトルをセットする。

 

「「「「ヒーリングアニマルパワー!! 全開!!」」」」

 

ヒーリングアニマルたちのダイヤルが回転し、その注射器型のアイテムが4つに別れるとグレースにはラビリン、フォンテーヌにはペギタン、スパークルにはニャトラン、アースにはラテの部分で止まり、グレースたち4人の服装や髪型などが変化し始める。

 

そして、4人の背中に翼が生え、いわゆるヒーリングっどスタイルへと変化を遂げる。

 

「「「「アメイジングお手当て、準備OK!!!!」」」」

 

4人は手に持っている注射器のレバーを引くと、虹色のエレメントパワーがチャージされる。

 

「「「「OK!!!!」」」」

 

そして、パートナーのヒーリングアニマルたちがダイヤルから光となって飛び出し、思念体の状態になって現れ、パートナーに寄り添った。

 

「「「「プリキュア!ファイナル!! ヒーリングっど♡シャワー!!!!」」」」

 

プリキュアたちがそう叫ぶと、レバーを押して4色の螺旋状の強力なビームを放った。4色のビームは螺旋状になって混ざり合いながら、ギガビョーゲンへと向かっていき光へと包み込んだ。

 

ギガビョーゲンの中で4色の光は、それぞれの手になって中に取り込まれていた釣り人の男性を優しく包み込む。

 

ギガビョーゲンをハート状に貫きながら、4色の光線は釣り人の男性を外に出した。

 

さらにもう一体のギガビョーゲンにも向かっていき、光へと包み込む。4色の光は、再度それぞれの手になって中に取り込まれていたサーファーの男性を優しく包み込み、同じように貫きながら外に出した。

 

「「ヒーリン、グッバイ・・・・・・」」

 

二体のギガビョーゲンたちは、安らかな表情を浮かべながら消えていった。

 

「「「「「「「お大事に」」」」」」」

 

「ワフ~ン♪」

 

ギガビョーゲンが消えたと同時に、海に広範囲に蝕まれていた場所が嘘のように、元の色を取り戻していく。

 

「くぅぅ・・・・・・絶対に・・・絶対に私の愛が勝つって、証明してやるんだから!!」

 

シンドイーネは悔しげに呟きながら、その場から姿を消した。

 

「ちゆ、カッコいい♪ いつか私を助けに来てね」

 

ドクルンはフォンテーヌの姿を見つめながら、誰にも聞こえない声でそう呟くと撤退していったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ・・・・・・あれ? 俺、寝てたのか?」

 

ギガビョーゲンに取り込まれていたサーファーは目を覚ましてそう呟くと、不思議に思いながらその場を去っていく。

 

「?? 私は一体、何をしていたんだ?」

 

釣り人の男性も目を覚まして首を傾げると、同じようにその場から去っていった。

 

「よかったぁ・・・・・・」

 

「ふふっ・・・・・・勇気をありがとう、ペギタンっ」

 

「前にちゆからたくさんもらっていたのがちょっと余ったペエ」

 

のどかたちと共に二人を見送っていたちゆは微笑みながらペギタンを撫で、ペギタンも嬉しそうにしながら答える。

 

「・・・・・・・・・」

 

「ちゆ・・・・・・?」

 

「・・・・・・じゃあ、その勇気はりょうのために残さなくちゃね・・・・・・」

 

ペギタンのその言葉に、ちゆは顔を俯かせる。ペギタンが不思議そうに呟くと、ちゆは再び顔を上げると少し目元に涙を浮かべながらも、笑顔でそう呟いた。

 

「・・・・・・ふふふ。そうペエ」

 

ペギタンもちゆのその言葉を聞いて、微笑みながらそう言ったのであった。

 

そして翌朝・・・・・・ちゆは自身の将来について家族に話した。

 

「・・・・・・じゃあ、ハイジャンで世界を目指すの?」

 

「やるわ・・・!!」

 

「女将の仕事も?」

 

「やってみせる!! 欲張りだけど、でも私・・・どっちも諦めたくないの!!」

 

ちゆは、父・りゅうじと母・なおにそう主張した。

 

「さすがお姉ちゃん!!」

 

「2つあるのはきっと大変ですよ? でも、それがちゆの出した答えなら・・・・・・全力で頑張りなさい」

 

「はい!!」

 

「頑張れちゆ!!」

 

「応援するわ!!」

 

「・・・・・・うむ」

 

ちゆの将来を、家族たちは応援する姿勢を見せていた。

 

「とうじ、どっちが女将になるか・・・勝負よ!!」

 

「えへへ、僕だって負けないよ!!」

 

ちゆはとうじに宣戦布告し、とうじもそう主張する。

 

「ふふっ・・・楽しみね」

 

「はい♪」

 

そんな様子を祖母・はることなおは微笑みながらそう話し、見守っていた。

 

「ちゆ、ファイトペエ」

 

部屋の上に隠れていたペギタンはそう呟き、静かにちゆを見守るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃・・・・・・廃病院のアジトでは・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

戻ってきたドクルンがちゆから搾取した赤黒い靄を地下室にいるクラリエットに与えていた。クラリエットを包む赤い靄はうねうねと激しく動き出す。

 

しかし、何故かクラリエットは目覚めない。その様子を見たドクルンは体を震わせる。

 

「・・・・・・なんで、なんでよ。なんで復活しないの!?」

 

クラリエットが復活しなければキングビョーゲンを復活できない、ドクルンは少し焦りと苛立ちを募らせていた。

 

「やっぱり、あの三人の苦しみじゃ足りないの・・・・・・?」

 

グレース、フォンテーヌ、スパークルの苦しみを搾取した赤黒い靄は与えたが、それでもまだ何か足りないというのか・・・・・・? ドクルンはそう考えていると・・・・・・。

 

「大丈夫よ、ドクルン・・・・・・」

 

「っ!!??」

 

そんな時、ドクルンに声が聞こえてきた。彼女が顔を上げると、赤い靄に包まれていながらもこちらを向いているクラリエットの姿があった。

 

「何ですか、起きてたんですか? 脅かさないでください」

 

ドクルンは心の中でホッとした後、いつものように気丈に振舞おうとする。

 

「別に脅かしたつもりはないけどねぇ。でも、まだちょっと動かないのよ。私の復活までもうちょっと待ってくれるかしらぁ?」

 

「・・・・・・ふん、そうやって何日も横になっていればいいんじゃないですか?」

 

「冷たいわねぇ、せっかくあなたのお姉さんが復活するのよぉ・・・?」

 

「勝手にプリキュアに突っ込んで負けておいて・・・何を言ってるんですかっ」

 

クラリエットはからかうような言葉でそう言うと、ドクルンは素っ気ない態度を取る。

 

「ふふふっ、クルシーナとイタイノンは元気ぃ?」

 

「そうですけど? それがどうかしたんですか」

 

「いやぁ? 二人の顔も久しぶりに見たいと思ってねぇ・・・・・・」

 

「二人は嫌がるんじゃないですか? いつも喧嘩してたでしょうに」

 

クラリエットは不敵な笑みを浮かべながら問いかけると、ドクルンは淡々と答える。

 

「喧嘩といっても子供みたいなものよぉ。あいつらがムカつくぐらい絡んでくるの。私のせいではないわ」

 

「ああ、そうですか・・・・・・じゃあ、おとなしく寝ててください」

 

クラリエットがそんな風に話していると、ドクルンは適当に話して部屋を後にしようとする。

 

「ふふふふ♪ 可愛い妹たちね。汚してやりたいぐらい♪」

 

クラリエットは不敵な笑みを浮かべながら、ドクルンが去っていった扉を見つめていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その夜・・・・・・のどかの家では・・・・・・。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・」

 

眠りについていたのどかが苦しそうに呻いていた。顔色は少し悪くなっており、表情も苦痛に歪んでいた。

 

「? のどか・・・・・・?」

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・」

 

「のどか、どうしたラビ??」

 

隣で眠っていたラビリンはさすがに異変を感じて、のどかに声をかけるが、彼女から返事が返ってこない。

 

「のどか? のどかぁ!!」

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・」

 

返事が返ってこないラビリンがベッドから起き上がってのどかを揺さぶるも、のどかはまるでダルイゼンにメガパーツを入れられた時のように目を覚まさない。

 

「あぁ・・・どうしよう・・・のどかが起きないラビ・・・!! しかも、何か苦しそうラビ・・・!!」

 

そんなのどかの体に一枚の黒い羽が舞い落ちる。

 

「っ!? 誰ラビ!?」

 

「・・・・・・・・・」

 

それに不審感を抱いたラビリンは振り返ると、そこに黒いフードを深く被っている人物が立っていた。

 

「っ・・・ま、まさか・・・!?」

 

「・・・・・・・・・」

 

プシュー!!

 

「あっ!? あぁ・・・かすみ・・・なん、で、ラビ・・・?」

 

目が暗闇に慣れて来て、ラビリンはその正体を察するも、その人物は掌から花を生やして赤い粉をラビリンに向かって噴射する。それを浴びたラビリンは相手をよく見ようとするも、そのまま眠くなって地面へと落ちてしまう。

 

そんな彼女を赤い手袋が受け止め、ベッドの掛け布団の上にそっと戻していく。

 

「ラビリン・・・・・・大人しくしててくれ・・・・・・」

 

黒いフードの人物ーーーーかすみは静かにそう呟くと、苦しそうにしているのどかを見つめる。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・のどか」

 

かすみは愛しの守るべき相手の名前を呟くと、彼女の頭の上で手をかざした。すると、赤いオーラがその手のひらに集約していき、のどかの頭へと注がれていく。

 

一方、眠りについているのどかは・・・・・・。

 

「あれ? ここは・・・・・・?」

 

のどかは気がつくと家ではない別の建物の中にいた。体は横たわっていて、どうやら白いベッドに寝かせているようだ。

 

「ここは・・・・・・病院・・・・・・?」

 

それからこの場所を察したのどかは、自分がどうしてこの場所にいるんだろうと疑問に思い始める。自分の病気は治ったはず、いつの間にかまた体調が悪くなってしまったのか?

 

「・・・あれ? なんで・・・体が、動かない・・・・・・」

 

体を起こそうとするが、なぜか体が重く起き上がることができない。体調が悪いわけではない。でも、体はまるで病気の時のように動かないままだ。

 

のどか・・・・・・・・・。

 

「っ、誰!?」

 

その時、頭の中に響く声が聞こえてくる。思わず聞き返すとその声の主は、寝たままののどかの視界に映るように姿を現した。

 

「っ、かすみちゃん!!」

 

フードは被っていたが、その中のかすみの顔がちゃんと見えた。のどかは何故ここにかすみがいるのか疑問でしょうがなかった。

 

のどか・・・・・・私を、探してくれ・・・・・・。

 

「え・・・どういうこと・・・・・・??」

 

かすみは口を動かしてはいなかったが、頭の中に声が響いてきた。のどかはそのかすみの言葉に戸惑う。

 

探してくれ・・・・・・大変なことになる・・・・・・。

 

「大変なことって、何・・・!? かすみちゃん、どういうこと!?」

 

さらに意味深なことを言うかすみに、のどかは動揺して思わず問いかける。

 

「・・・・・・・・・」

 

「っ・・・・・・!?」

 

かすみは何も答えようとしなかったが、手を頭の上に当てて撫でる。のどかはその表情を見て驚く。フードからうっすら見えるかすみは能面のような顔をしつつも、口元に微笑を浮かべていたからだ。

 

かすみはしばらくのどかのことを眺めると、ゆっくりとのどかの元を離れていく。

 

「あっ・・・待って!! 待ってよ!! かすみちゃん!!」

 

のどかが体を起こしてかすみに手を伸ばすが、かすみは振り返ることなく消えていった。

 

「うっ・・・あっ・・・・・・」

 

するとのどかは胸を抑え始め、その視界はぼやけていき、その意識は闇に落ちていった。

 

「っ!!??」

 

のどかはハッとして目を覚ますと、体を起こす。悪夢を見ていたかのように汗がびっしょりだった。

 

「はぁ・・・はぁ・・・夢・・・・・・?」

 

のどかは息を荒くしつつも、夢の中に出てきたかすみのことを考える。何故、夢の中にかすみが出てきたのか?

 

「でも・・・・・・・・・」

 

のどかは頭に触られたような感覚があり、思わず手を伸ばして触れる。

 

「もしかして、そばにいた・・・・・・?」

 

のどかはそう呟いた。それに眠っているときは何故か苦しかったのに、その苦しさもなくなっている。

 

「かすみちゃん・・・大変なことになるって、どういうことなの・・・・・・?」

 

のどかは夢の中で覚えている、かすみが呟いていた言葉が気になっていたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第140話「異変」

今回よりオリジナルストーリーのかすみ編がスタートします。
長丁場にはなると思いますが、見守っていただければと思います。


 

昨日の夜の出来事から翌朝、のどかはいつものように登校前のランニングに打ち込んでいた。

 

「・・・・・・・・・」

 

しかし、何やら考え事をしていて、その表情にいつものような晴れやかな表情はなかった。

 

昨日現れたかすみの言っていたことが頭に引っかかるのだ。自分を探さないと大変なことになる・・・・・・それは一体どういうことなのか?

 

「のどか?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「のどか!! 危ないラビ!!」

 

「あっ・・・・・・!?」

 

ラビリンが先ほどからのどかの様子がおかしいことに気づいて声をかけるが、のどかは完全に思考の中だ。ラビリンが大声を張り上げると、のどかは突然立ち止まった。よそ見をしていて、木にぶつかりそうになったからだ。

 

「のどか・・・気をつけないと危ないラビ!!」

 

「ご・・・ごめんね・・・・・・」

 

ラビリンは注意が散漫になっていたのどかを叱責すると、のどかは少し落ち込んだ様子で謝る。

 

「どうかしたラビ?」

 

「え・・・・・・?」

 

「昨日、眠ってる時だって苦しそうにしてたし、今日だって靴を履き間違えてたし、どう見ても様子がおかしかったラビ・・・・・・」

 

先ほどからのどかは様子がおかしかった。昨日の夜はあまりよく覚えていないが、のどかは苦しそうに呼吸をしていて、朝はらしくない失敗をする。ラビリンが気にかけなければ、間違った格好で行くところだった。ラビリンはそんなのどかに心配して聞いてきた。

 

「・・・・・・・・・」

 

「ラビリンには言えないことラビ・・・・・・?」

 

のどかは顔を俯かせたまま黙ってしまう。ラビリンは何も言ってくれないことに悲しそうな表情をした。

 

そんなのどかは少し考えるように黙った後、口を開いた。

 

「・・・・・・かすみちゃんが、夢の中に出てきたの」

 

「っ!!」

 

「私を探してくれって、言われたの・・・探さないと大変なことになるって・・・・・・でも、かすみちゃんがどうしてそんなことを言うのか・・・わからないの・・・・・・」

 

のどかは昨日の夜の出来事をラビリンに話した。ラビリンはその様子を見て、どう答えていいのかわからないと言った表情を浮かべる。

 

「かすみは・・・昨日の夜、のどかの部屋に現れたラビ・・・・・・」

 

「っ!? それって本当!?」

 

ラビリンから衝撃的な言葉を聞いたのどかはラビリンに詰め寄る。

 

「でもラビリンは変なガスをかけられて眠っちゃったラビ。気がついたら、のどかが元に戻ってて、かすみもいなくなってたラビ・・・・・・」

 

「そう、なんだ・・・・・・」

 

しかし、ラビリンはかすみに眠らされてしまったため、かすみの真意を探ることはできなかった。

 

「かすみちゃん、なんで私の部屋に来たのかな・・・・・・?」

 

のどかはかすみがなぜ自分の部屋に来たのか考え始める。もしかして、かすみの夢を見たのも、苦しくなくなったのも、かすみが何かをしたからではないのか?

 

「ラビリンはのどかの方が心配ラビ・・・! 昨日、あんなに苦しそうにしてたのに・・・・・・」

 

「大丈夫だよ、ラビリン。私は元気元気! 何も心配ないよ。かすみちゃんのことも・・・・・・」

 

ラビリンが切なそうな表情でそう訴えると、のどかは微笑みながらそう諭した。

 

「さぁ!! 今日も元気に走ろう!!」

 

のどかは気を取り直すとランニングを再開する。しかし、ラビリンだけはのどかのことを心配そうに見つめていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ビョーゲンキングダムでは・・・・・・。

 

「カスミーナよ、気分はどうだ・・・・・・?」

 

「・・・・・・別に、どうってことはないさ」

 

黒いフードを深く被っているかすみがキングビョーゲンに呼び出されており、そこにはクルシーナ、ドクルン、イタイノンのビョーゲン三人娘たちも一緒にいた。

 

「お前がビョーゲンズとして完成するためには、今お前が元気を奪っているプリキュアの存在を抹消することが条件だ。一刻も早くそのプリキュアを消滅させ、ビョーゲンズとして完全な存在になるのだ」

 

「・・・・・・承知した」

 

キングビョーゲンにそう命じられると、少し間を作った後にかすみは返事をする。

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナはそんなかすみの様子を真面目な表情で見つめていた。

 

「・・・・・・お父さん」

 

「・・・・・・どうした、ドクルン?」

 

「クラリエットがまもなく目覚めそうです。プリキュア三人の苦しみのデータは全て搾取しました。もう会話もできますよ」

 

「ほう・・・・・・ご苦労だった・・・・・・そちらの方を進みそうだな・・・・・・」

 

「ええ・・・・・・♪」

 

ドクルンは目覚めそうなクラリエットについての報告をする。

 

「あんな奴・・・起こしていいのかしらね? 正直、顔を見るのも嫌なんだけど?」

 

「私は別に起きてなくていいの。一生、寝ていればいいと思うの」

 

「二人とも、お父さんの完全復活に必要なのですよ。まあ、私もあんな姉さんを甦らせるのもどうかと思いますが、ワガママを言ってお父さんを困らせないでください」

 

「チッ・・・・・・」

 

「ふん・・・・・・」

 

クルシーナとイタイノンは不満そうに言うと、ドクルンに注意され二人は嫌そうな顔をする。

 

「クラリエットはあれでも我の娘の一人だ。奴は特に医者への憎しみが強いからな・・・・・・お前たちと奴の力を利用すれば、我の復活もそう遠くはない・・・・・・」

 

「・・・・・・まあ、お父様がそう言うなら、アタシは何も言わないけどね」

 

「・・・・・・適当にやればいいだけなの」

 

キングビョーゲンがそう言うと、クルシーナとイタイノンは一応受け入れることにした様子。

 

「では、あとは頼んだぞ。カスミーナ・・・お前には期待しているぞ・・・・・・」

 

「・・・・・・わかった」

 

「クルシーナ・・・・・・カスミーナに着いてやれ・・・・・・」

 

「わかってるわよ」

 

キングビョーゲンはかすみにそう告げると、クルシーナに事付けを頼むとキングビョーゲンはそのまま霧のように消えていった。

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・じゃあ、ちょっと行ってくるわね」

 

かすみは消えたのを見届けると、何も言わずにそのまま背後を振り向いて歩いていく。クルシーナは一応、ドクルンとイタイノンの二人に告げるとかすみの後をついていく。

 

ビョーゲンキングダムを歩いていく二人・・・・・・。

 

「ねぇ、アンタ・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「本当にのんちゃんを守りたいの?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・まあ、答えたくないんだったらいいんだけどさ」

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナがふと気になることを問いかけるが、かすみは黙ったまま何も答えない。最初から答えを求めていなかったので、クルシーナは特に気にしなかったが、かすみはその場で立ち止まる。

 

「・・・・・・守るよ。私はそのために行動をしている。お前に連れ戻されても、方法はいくらでもある」

 

「ハッ、ビョーゲンズのくせに、なんであんな人間の肩なんか持つわけ? 人間なんか自分勝手で都合のいいことしか考えない生き物じゃない。守る価値なんかあると思えないけど?」

 

「のどかたちは違う!!!!」

 

クルシーナが人間を見下すようなことを言うと、かすみは声を張り上げる。

 

「のどかは・・・ちゆは・・・ひなたは・・・アスミは・・・みんなは、私に優しくしてくれたんだ。一緒に過ごして、わかったんだ。あそこは私の大切な場所だって、私が帰ってこれる場所だって・・・・・・」

 

「ふん・・・・・・でも、アンタは今ビョーゲンズと一緒にいるじゃない。自分でメガビョーゲンを生み出して、あの街を蝕もうとした。のんちゃんたちは今頃、アンタのことなんか嫌いだと思ってるかもしれないわよ? それでも、アンタはあいつらを守りたいの?」

 

「いいんだ・・・私はのどかを、みんなを・・・守ることができるんだったら、どうなったって構わない・・・!!」

 

クルシーナにその疑問を投げかけられても、かすみはその意志を決して曲げようとはしなかった。

 

「簡単に言うんじゃないわよ、自分がどうなったっていいだなんて。アンタが消えたら悲しむ奴がいるのよ。のんちゃんたちは悲しんだってどうでもいいけど、アンタと一緒に遊んでたフーミンやヘバリーヌは少なくとも悲しむわよ。アンタを姉のように思ってるハキケイラだってそうよ。アンタはそういう奴らに対してなんとも思わないわけ?」

 

「何も思わないわけがない・・・・・・でも、私にはどうすることもできない・・・・・・そうなる前に、私のことなんか忘れたほうがいい・・・・・・」

 

「っ・・・勝手なこと言ってくれるわよね、忘れろだなんて・・・!!」

 

クルシーナは対峙した時と同じようなことを言うが、かすみのその言葉にクルシーナは顔を顰める。

 

「何度も言うけど、お前はビョーゲンズなの!! ダルイゼンやアタシみたいに、蝕まなきゃ自分の快適な環境で生きていけないし、人間とは相容れないの!! 人間に甘いアンタだってそう!! もう関係がないなんて言うんじゃねーよ!! そんなことを思ってんなら薄情者だよ、アンタは!!」

 

クルシーナが必死さも見えるような主張をすると、かすみが振り返る。

 

「クルシーナ、お前は優しいんだな・・・ありがとう・・・・・・」

 

「はぁ? 何、お礼なんか言ってんの? バカじゃないの?」

 

「そうだな。ビョーゲンズにお礼を言うのはバカかもしれない。でも、お世話になった礼ぐらいは言わせてくれ」

 

「ふんっ・・・・・・」

 

かすみに突然、お礼を言われたクルシーナは不機嫌そうな顔でそっぽを向く。

 

「お前たちのことは何とも思ってないわけじゃない。同じビョーゲンズとして、同じ仲間として大切に思っている。でも、私はビョーゲンズの思想には賛同できないし、もう考えを曲げるつもりはないよ。私は私のやり方で、のどかを守るつもりだ。お前に何を言われようとな」

 

かすみはフードに薄っすら見える感じではあったが、口元に笑みを浮かべながらそう言うと再び歩き出した。

 

「・・・・・・なんで、アンタが・・・・・・・・・・・・」

 

クルシーナはかすみの後ろ姿を見ながらそう呟くと、再び彼女の後をついていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼、のどかの中学校では・・・・・・。

 

「そう・・・・・・かすみが・・・・・・」

 

「うん・・・・・・・・・」

 

休み時間に校舎内の庭で一緒に弁当を食べているのどかたち。のどかはそんな中、昨日の出来事をちゆやひなたに話した。

 

「かすみっちは、どうしてのどかっちの前に現れたのかな・・・・・・?」

 

「わからない・・・・・・」

 

ひなたがそう疑問を呟くと、のどかは顔を俯かせたまま答える。

 

「でも・・・夢の中のかすみちゃん・・・・・・なんだか、助けを求めてるような感じだった・・・・・・」

 

「・・・・・・かすみに、何かが起こってるのかもしれないわ」

 

のどかが考えついたことを言うと、ちゆはかすみに異変が起こっているのではないかと推測する。

 

「うぇぇ!? じゃ、じゃあ、助けに行かないと!!」

 

「でも・・・・・・どうやってビョーゲンズたちのところに行くの? 私たちはあいつらの本拠地も、居場所もわからないのよ?」

 

「あ・・・・・・そうか・・・・・・」

 

ひなたはそう言うも、ちゆから真面目に諭されるとひなたは気持ちを落ち着かせる。

 

「ねぇ、のどかっち・・・もし、かすみっちが夢じゃなくて、本当に会いに来たら、どうする?」

 

「そうね・・・・・・のどかは、どうしたいの・・・・・・?」

 

「・・・・・・私は」

 

ひなたとちゆにそう聞かれたのどかは顔を下に向けたまま考え始める。

 

「答えを急ぐ必要はないと思うわ。のどかがこれだって決めたことを、のどかの中で決めればいいのよ」

 

「そうだね・・・・・・考えてみるよ・・・・・・」

 

すぐに答えを出すことができないのどかに、ちゆがそう話すとのどかは微笑む。

 

「あ、もう休み時間終わるよ?」

 

「授業に戻らないと・・・・・・」

 

「うん・・・・・・」

 

もうすぐ休み時間が終わる・・・のどかは立ち上がって教室に戻ろうとすると・・・・・・。

 

クラッ

 

「・・・・・・?」

 

「っ、のどか!!」

 

「のどかっち!?」

 

体をフラつかせて倒れそうになったのどかの体をちゆとひなたが受け止めた。

 

「あ、あれ・・・・・・?」

 

「のどかっち、大丈夫!?」

 

「なんで、体がフラついて? 朝は何ともなかったのに・・・・・・?」

 

のどかは自分がなぜ倒れそうになったのかがわからず、ひなたに大いに心配されるのであった。

 

「っ?? のどか、あなた体が冷たいわ!?」

 

「え・・・・・・?」

 

「なんかちょっと、顔色も悪くない!?」

 

「そうなの・・・・・・?」

 

「保健室に行きましょう! 今日はもう無理しないほうがいいわ!!」

 

ちゆとひなたは驚いていた。のどかの体は人の体温をしておらず、明らかに冷たかったのだ。しかもよく見れば、顔色もいつものような肌色ではなく、少し悪くなっていたのだ。

 

のどかはそれを実感できなかったが、のどかを心配したちゆとひなたによって保健室へと連れて行かれるのであった。

 

一方、ラビリンは・・・・・・・・・。

 

「のどかちゃんの様子を見て欲しい?」

 

「そうラビ・・・・・・昨日、苦しそうにしていたラビ・・・・・・!!」

 

「ワン!!」

 

ラテと一緒に休憩中の中島先生に会いに行き、のどかのことについて相談をしていた。

 

「ラビリンの気のせいなんじゃねぇのか? だって、のどかは俺たちの前じゃ全然元気だぜ?」

 

「のどか・・・肝心な時に話してくれないから、きっと体調が悪いのを隠していたラビ・・・・・・」

 

「それはそれで、いろいろと心配ペエ・・・・・・」

 

ラビリンに呼ばれて一緒についてきていたペギタンとニャトランもそう言う。

 

「う〜ん・・・でも、私に原因が何なのかわからないかもよ。特にのどかちゃんの場合は」

 

「お願いラビ!! 少しでもいいラビ!! のどかが以前から体調を崩すことが多かったラビ。その原因を突き止めたいラビ!!」

 

中島先生はあまり気が進まない様子だったが、ラビリンは必死に訴える。

 

「・・・・・・わかったわ。でも、わからないものはわからないからね。今日の診療が終わったら、のどかちゃんの家に向かうわ」

 

「っ!! ありがとうラビ!!」

 

「ふふふ、困ったときはお互い様よ♪」

 

中島先生はできるかどうかはわからないが、とりあえずやってみると承諾し、ラビリンは喜んだ。

 

「なんともねぇといいけどなぁ・・・・・・」

 

「ペエ・・・・・・」

 

ニャトランとペギタンはのどかの身を案じていた。

 

そんな頃・・・・・・ちゆやひなたに保健室へと運ばれたのどかは・・・・・・。

 

「のどか・・・大丈夫・・・・・・?」

 

「うん、大丈夫だよ・・・ちょっとだるいだけ・・・・・・」

 

「調子が悪いときは言うのよ・・・・・・」

 

ベッドに寝かされているのどかは、ちゆにそう聞かれて微笑みながら答える。

 

「先生いないけど・・・なんか体調に効くやつないのかな・・・・・・?」

 

「大丈夫だよ、ひなたちゃん。少し横になれば治るから・・・・・・」

 

ひなたは棚からのどかの体調に効くものを探していたが、のどかはそう言って横になる。

 

「ダメよ・・・!! のどかはすぐそうやって無茶するんだから!!」

 

「あたしも、心配だよぉ・・・・・・!!」

 

「大丈夫・・・大丈夫だから・・・今までだってちゃんと治ったんだから、これもちゃんと・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

ちゆとひなたが心配してそう言う中、のどかは気丈に振舞おうとするが、なぜかのどかの呼吸が荒くなっていく。

 

「のどかっち!!」

 

「のどか!! 大丈夫!? のどか!!」

 

「はぁ・・・はぁ・・・大、丈夫・・・はぁ・・・大丈夫・・・・・・」

 

その様子を見て動揺も入り混じったかのようなちゆとひなたの様子。それでものどかは微笑みながら言う。よく見ると熱でも出たのか、顔が少し真っ赤になっていた。

 

「どう見たって大丈夫じゃないじゃない!!」

 

「ちょっと先生呼んでくる!!」

 

やはり体調が悪いのを我慢していたのか、ちゆが少し怒ったように叫ぶと、ひなたはそう言いながら保健室の外へと出ていく。

 

「えっと・・・こういうときは、タオルを濡らして・・・あ、そうだ、私のタオル・・・!!」

 

ちゆは少し焦っていたが、保健室の中でタオルを探そうとしたが、自分で部活で使っていたタオルがあったことを思い出して自分の教室からカバンを取りに戻っていく。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

その間、のどかはしばらく苦しそうに呼吸を繰り返していた。

 

「のどか・・・・・・!!」

 

しばらくして、ちゆが保健室へと戻ってきた。

 

ちゆは学校の水道を使ってタオルを濡らして絞り、のどかのおでこの上に乗せた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「のどか・・・・・・・・・」

 

ちゆはのどかを心配そうに見つめる。保健の先生はまだ来ないのだろうか。

 

そう考えていると・・・・・・。

 

「のどかっち、先生連れてきたよ!!」

 

先生を呼びに行っていたひなたが保健室に戻ってきた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・せ、先生・・・・・・」

 

保健の先生はすぐにのどかの額に手を当てる。

 

「まぁ、すごい熱じゃない!! 解熱剤、どこにあったかしら?」

 

先生は驚くと保健室の棚から解熱剤を探し始める。

 

「先生、のどかは・・・・・・!!」

 

「大丈夫よ、彼女は。あなたたちは授業に戻りなさい」

 

「うぇ? でも・・・・・・」

 

「彼女を心配するのは大切だけど、それで授業を疎かにしてはダメよ?」

 

「・・・・・・・・・」

 

ちゆとひなたはのどかを心配していたが、保健の先生に教室に戻るように諭される。ひなたは気が進まなそうな表情をしていたが・・・・・・。

 

「・・・・・・わかりました。行きましょう、ひなた」

 

「うん・・・・・・」

 

のどかも大事だが、授業の方も大事・・・・・・そう言われたちゆは一応納得し、ひなたと一緒に保健室を後にしようとする。

 

「はぁ・・・ちゆ、ちゃん・・・はぁ・・・ひなた、ちゃん・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「「っ・・・・・・」」

 

「私は、大丈夫・・・だから・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

のどかは去ろうとしているちゆとひなたの方を見て微笑んで見せると、ちゆとひなたはなんとも言えない表情を見せる。

 

「のどか・・・・・・授業が終わったら来るからね・・・・・・」

 

「早く、元気になってね・・・・・・」

 

「ありがとう・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

ちゆとひなたはのどかを心配そうに見つつも、後ろ髪を引かれるような思いを抱きながら保健室を後にしていくのであった。

 

一方、その頃・・・・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

すこやか市のシンボルでもあるハート型の灯台の上に一つの影があった。それは黒いフードを深くまで被って、顔をわからなくさせているかすみだ。

 

「・・・・・・そろそろ始めるか」

 

かすみは神妙な様子ですこやか市の街を眺めていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナはそんなかすみを不機嫌そうな表情で見つめていた。

 

「ねえ、アンタ・・・・・・」

 

「どうした? クルシーナ」

 

「・・・・・・いや、なんでもない。アタシちょっと向こう行ってるわ」

 

クルシーナは何かを言おうとしていたが、言っても仕方がないと判断し、そのままどこかへと行ってしまった。

 

「・・・・・・クルシーナ、すまないな。さてと、行くか」

 

かすみはクルシーナの方を向きながらそう言うと、再びすこやか市の街へと向き直る。手のひらを広げて息を吹きかけ、中ぐらいの黒い塊を出現させる。

 

「「「ナノ・・・・・・」」」

 

「・・・・・・ナノビョーゲン、行け」

 

そこから三体のナノビョーゲンが生まれ、かすみの指示を受けてすこやか市の街へと飛んでいく。

 

ーーーーはぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。

 

「っ・・・のどか?」

 

ナノビョーゲンたちを見届けていると、のどかの苦しそうな呼吸音が頭の中に聞こえてきた。のどかに何かが起こっているのだろうか?

 

「・・・・・・私はもう、完成して来ているんだな」

 

のどかの声が聞こえてくるなんて、自分はビョーゲンズとして進化してきているのだろう・・・・・・かすみは自分の手のひらを見つめながらそう呟いたのであった。

 

「もう・・・手段を選んでいられないな・・・・・・」

 

かすみはそう考えると、ハート型の灯台の上から飛び降りてすこやか市の街へと向かっていく。

 

「・・・・・・・・・」

 

クルシーナはそんなかすみの様子を彼女の気づかないところで静かに見ていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ・・・・・・・・・」

 

「あ、起きた・・・・・・?」

 

その日の放課後、保健室で眠っていたのどかは落ち着きを取り戻し、顔色もすっかりよくなっていた。

 

「私・・・授業に行こうとしたら倒れそうになって・・・・・・」

 

「あなたを大切にしてるお友達が運んでくれたのよ」

 

のどかは体を起こすと自分がなぜここにいるのかを考えていると、保健の先生が近づいてきた。

 

「もう大丈夫?」

 

「あ、はい・・・・・・大丈夫です・・・・・・」

 

のどかは朝まではなんもなかったのに、午後になって急に体調が悪くなったのは何故なのかを考え出す。最近、大変なお手当てが続いていて疲れが溜まっていたのか? でも、走り込んで体力はつけているはず、そんなに柔な体にはなっていないはずだが・・・・・・。

 

「あなたのお友達・・・・・・心配してたわよ。早く会いに行ってあげなさい」

 

「はい・・・・・・ありがとうございます・・・・・・」

 

のどかはベッドから起き上がって保健の先生にお礼を言いながら、教室へと戻ろうとする。

 

ガラガラァ!!

 

「のどかっち!!」

 

「のどか、大丈夫!?」

 

保健室の扉が開いたかと思うと、ちゆとひなたが飛び出してきたのだ。

 

「ちゆちゃん、ひなたちゃん・・・うん、もう大丈夫。眠ったらすっかり良くなったよ♪」

 

のどかは笑顔でそう答えるも、ちゆとひなたの心配する表情は晴れない。

 

「のどかっち〜!!」

 

「あっ・・・・・・!?」

 

「あたしはのどかっちが心配だよぉ〜、また無茶をするかもしれないじゃん!!」

 

授業を受けている間も気が気でなかったひなたがのどかを抱きしめる。

 

「私ものどかが心配よ。今日はもう家に帰ってゆっくりしていたほうがいいんじゃないかしら? 私たちが送っていくわ」

 

「ごめんね、二人とも。ありがとう・・・・・・」

 

ちゆはそう言うとのどかの鞄も持ってきてくれたようで、のどかはお礼を言った。

 

「一応、今は落ち着いているけど、念のため家で安静にしておいたほうがいいわ。無理をすると再びぶり返す可能性があるかもしれないからね」

 

「はい・・・あの、ありがとうございました」

 

「私は保健の先生として、当たり前のことをしただけよ。お大事にね」

 

保健の先生はそう告げると、のどかはお礼を言って保健室を後にしていった。

 

「ふぅ・・・・・・・・・」

 

保健の先生は席について一息つくと、持ってきたコーヒーで一服する。

 

「ナノ・・・・・・・・・」

 

そんな時、わずかな隙間から入り込んできたナノビョーゲンがそんな先生を狙っていたのであった。

 

一方、その頃・・・・・・すこやか病院では・・・・・・。

 

「中島先生、ありがとうラビ。のどかのために・・・・・・」

 

「いいのよ。困ったときはお互い様でしょ?」

 

診療を終えた中島先生がのどかの家に向かっている最中であった。

 

「先生って優しいよなぁ〜、ヒーリングアニマルの俺たちでも見習いたいぐらいだぜ」

 

「まぁ、ニャトランったら勉強ができたの? すごいわね。そんなことできないと思ってたわ」

 

「ど、どういう意味だよ〜!? 先生!!」

 

「ニャトランがそれだけ真面目だって思われていないペエ・・・・・・」

 

中島先生とヒーリングアニマルたちがそんな話をしていると・・・・・・。

 

「クチュン!! クチュン!! クチュン!!」

 

「「「ラテ様!?」」」

 

「ラテちゃん!?」

 

中島先生が抱いているラテがくしゃみを三回し出し、体調が一気に悪くなった。これはビョーゲンズが現れたという合図だ。

 

「えっと・・・こういう時はどうすればいいの・・・・・・?」

 

ラテの力はラビリンたちから知らされていたが、いざとなるとどうすればいいか戸惑う中島先生。ラビリンたちは持っていたヒーリングルームバッグから聴診器を取り出して、ラテを診察する。

 

(のどかたちの学校で先生が泣いてるラテ・・・・・・あっちのほうで、赤いお花さんが泣いてるラテ・・・・・・あっちのほうで、大きな白い車が泣いてるラテ・・・・・・)

 

「おい、マジかよ!? 三体も同時に現れたのか!?」

 

「しかも、そのうち一体はギガビョーゲンペエ・・・・・・!!」

 

「大変ラビ!!」

 

「のどかちゃんたちの元に行って、知らせに行きましょう!!」

 

なんということだ。いきなり三体も同時に怪物が現れたらしい。しかも、そのうち一体はこれまでにも苦戦を強いられてきたギガビョーゲンだ。このままではすこやか市が危ない。

 

中島先生たちは急いで、のどかたちのいる学校へと駆け出していくのであった。

 

一方、その頃・・・・・・。

 

「三体はもう取り憑いたか、そのうち一体がギガビョーゲンになったのは意外だったが・・・・・・」

 

ハート型の灯台のある場所から、すこやか駅の近くにかすみが現れていた。

 

「念のため、もう一体を・・・・・・どうするか・・・・・・」

 

そう呟いていると・・・・・・。

 

ガタンゴトンガタンゴトン・・・・・・。

 

「っ?」

 

近くで何かが走る音が聞こえ、その音に振り向くとそれはすこやか駅を走る電車だった。

 

「あれを使うか・・・・・・」

 

かすみはそれを利用するために、再び手のひらを広げるとそこに息を吹きかけ、黒い塊を出現させる。

 

「進化しろ、ナノビョーゲン・・・・・・」

 

「ナノ・・・・・・」

 

生み出されたナノビョーゲンは鳴き声を上げながら、電車に向かって飛んでいき取り憑く。

 

「・・・!?・・・!!」

 

電車の中に宿っているエレメントさんが取り込まれていく。

 

「メガメガ〜、ビョーゲン!!」

 

電車の姿を模したメガビョーゲンが誕生した。

 

「メガッメガッ!! メガッメガッ!!」

 

メガビョーゲンは早速、電車のような声を漏らしながらすこやか駅の周囲を走り、その場所を蝕んでいく。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

通勤中の乗客たちがメガビョーゲンに気づいて、悲鳴を上げながら逃げ出していく。

 

「・・・・・・のどか、私を・・・・・・見つけてくれ・・・・・・」

 

かすみはそう呟きながら、何もない虚空を見上げるのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第141話「不調」

前回の続きを投稿します。
かすみの襲撃を、プリキュアたちはどう掻い潜るのか?

今月から諸般の事情で少し亀更新になるかもしれませんが、毎週更新していくつもりではあるので、よろしくお願いします。


その日の夕方、のどかたちは下校に着いており、家に帰るところであった。

 

「のどか・・・・・・大丈夫?」

 

「うん・・・大丈夫だよ・・・・・・」

 

「のどかっち・・・・・・辛くない・・・?」

 

「平気だよ・・・・・・」

 

のどかはちゆとひなたに執拗に心配されていた。大丈夫と言いながら先ほど二人の前で倒れたのだから尚更だ。

 

「ひなたちゃん、心配しないで・・・・・・あんなのただの疲れだよ。少しゆっくりすれば・・・・・・」

 

「ダメ!! のどかっちは休むの!! 大丈夫って言ってる時が大丈夫じゃないってお姉が言ってたもん!!」

 

「ひなたの言う通りよ。のどか、さっき私たちの前で倒れたじゃない。無理しちゃダメよ。今日明日はゆっくりと休むべきだと思うわ」

 

のどかは微笑みながらそう言うが、ひなたとちゆは譲らなかった。

 

「・・・・・・うん、わかったよ。今日は休むから・・・・・・ごめんね・・・・・・」

 

のどかは二人の言葉を受けて、少し寂しそうな表情を浮かべながらそう答えた。

 

すると・・・・・・・・・。

 

「のどかぁー!! みんなぁー!!」

 

「のどかちゃん!! 三人とも!!」

 

「ビョーゲンズが現れた!!」

 

「「「っ・・・・・・!!」」」

 

そこへ中島先生とラビリンたちが駆けつけ、のどかたちはビョーゲンズが出現したことを知って緊張した面持ちになる。

 

「ラビリン、のどかは家に連れて帰ってもらえる?」

 

「え・・・・・・?」

 

「な、何言ってるラビ!?」

 

ちゆはラビリンの方を見て、のどかを家に帰すように頼み、二人は驚きの声をあげる。

 

「のどかは学校で倒れたの! 今は落ち着いているけれど、プリキュアとしてお手当てをして、それでまたぶり返したりなんかしたら大変よ!!」

 

「そうだよ!! のどかっちには、無理しないでほしい・・・・・・!!」

 

「だけど、ギガビョーゲンがいるんだぜ!? 4人揃ってないと浄化できないだろ!!」

 

「でも・・・・・・!!」

 

ちゆとひなたはそう話すが、ニャトランのその言葉に迷いが生じてしまう。確かに4人で行かなければギガビョーゲンは浄化できない。だが、今ののどかの体調を考えると行かせたくはない。一体、どうするのが正解なのか・・・・・・。

 

そんな時だった・・・・・・。

 

「・・・・・・のどかは私が守ります」

 

「! アスミちゃん!!」

 

「私は、のどかの意思を尊重します。お手当てをしたいというのであれば、それは構いません。それでのどかが調子を崩しているようであれば、その分は私が助けます!!」

 

そこへラビリンから連絡を受けて遅れてやってきたアスミがそう話す。

 

「・・・・・・私、行きたい!! もしかしたら、かすみちゃんが関わってるのかもしれない・・・私はそれを確かめたいの!! だから、私も一緒に行く!!」

 

「「・・・・・・・・・」」

 

のどかはそう主張するが、ちゆとひなたはお互いに顔を見合わせながら躊躇する。

 

「ラビリンものどかの意思を尊重するラビ!!」

 

「ラビリン・・・・・・・・・」

 

「行くかどうかはのどかが決めることラビ。ラビリンものどかが危険だったらちゃんと言うラビ。だから、のどか・・・・・・一緒に行くラビ!!」

 

「うん!!」

 

ラビリンはのどかの意思を尊重して、一緒に行くことに賛成した。

 

「・・・・・・しょうがないわね。のどかが無茶なのはいつものことよね」

 

「のどかっち・・・辛かったら言ってね。あたしも助けるから!!」

 

「ありがとう、二人とも・・・・・・ごめんね・・・・・・」

 

ちゆとひなたは少し間を空けた後、のどかと一緒に行くことにした。

 

「腹が決まったら、早く行こうぜ!!」

 

「まずはメガビョーゲンを分かれて浄化するペエ。メガビョーゲンが発生してから、まだそんなに時間が経っていないはずペエ」

 

「私はのどかと一緒に行きます。ちゆとひなたはそれぞれメガビョーゲンを浄化してください」

 

「わかったわ!!」

 

「OK!!」

 

ペギタンの提案と、アスミはのどかに念のため一緒に着いていくことにし、ちゆとひなたはそれを了承すると4人は変身アイテムを構えた。

 

「「「「スタート!」」」」

 

「「「「プリキュア、オペレーション!!」」」」

 

「エレメントレベル、上昇ラビ!!」

「エレメントレベル、上昇ペエ!!」

「エレメントレベル、上昇ニャ!!」

「エレメントレベル、上昇ラテ!!」

 

「「「「キュアタッチ!!」」」」

 

ラビリン、ペギタン、ニャトランがステッキの中に入ると、のどか、ちゆ、ひなたはそれぞれ花のエレメントボトル、水のエレメントボトル、光のエレメントボトルをかざしてステッキのエネルギーを上げる。

 

アスミは風のエレメントボトルをラテの首輪にはめ込む。すると、オレンジ色になっているラテの額のハートマークが神々しく光る。

 

のどかたち3人は、肉球にタッチすると、花、水、星をイメージとしたエネルギーが放出され、白衣のような形を形成され、それを身にまといピンク、水色、黄色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

そして、髪型もそれぞれをイメージをしたようなものへと変わり、のどかはピンク、ちゆは水色、ひなたは黄色へと変化する。

 

ラテとアスミは手を取り合うと、白い翼が舞い、ラテが舞ったかと思うとハートの中から白い白衣のようなものが飛び出す。

 

その白衣を身に纏い、ラテが降りてきたかと思うとハープが飛び出し、さらにアスミは紫色を基調とした衣装へと変わっていく。

 

衣装にチェンジした後、ハープを手に取り、その音色を奏でる。

 

キュン!

 

「「重なる二つの花!」」

 

「キュアグレース!」

 

「ラビ!」

 

のどかは花のプリキュア、キュアグレースに変身。

 

キュン!

 

「「交わる二つの流れ!」」

 

「キュアフォンテーヌ!」

 

「ペエ!」

 

ちゆは水のプリキュア、キュアフォンテーヌに変身。

 

キュン!

 

「「溶け合う二つの光!」」

 

「キュアスパークル!」

 

「ニャ!」

 

ひなたは光のプリキュア、キュアスパークルに変身した。

 

「「時を経て繋がる、二つの風!」」

 

「キュアアース!!」

 

「ワン!」

 

アスミは風のプリキュア、キュアアースへと変身した。

 

「「「「地球をお手当て!!」」」」

 

「「「「ヒーリングっど♥プリキュア!!」」」」

 

みんなは変身を終えると、それぞれのメガビョーゲンの元へと駆け出していくのであった。

 

「みんな、気をつけてね・・・・・・!!」

 

中島先生はラテを手元で預かりながら、三人の身を案じつつもその出を見守った。

 

すると・・・・・・。

 

「・・・・・・クチュン!!」

 

「え・・・・・・?」

 

突然、ラテがくしゃみをし出し、体調をさらに悪化させ始めたのだ。

 

「これって、もしかして・・・・・・? えっと・・・・・・これで・・・・・・」

 

中島先生は先ほどと同じ反応であることを思い出し、戸惑いながらもラビリンに託されて聴診器で診察してみる。

 

(あっちの方で、電車さんが泣いてるラテ・・・・・・)

 

「あっちって、駅の方・・・・・・?」

 

中島先生はその何かが起こっているとされる駅の方向を見つめながらそう言う。

 

「のどかちゃんたちに・・・知らせなきゃ・・・・・・!」

 

中島先生はそう考えながら、のどかーーーーグレースが向かったとされる場所へ走るのであった。

 

一方、その頃・・・・・・・・・。

 

「ふふふ♪ かすみ、ついに動き出したか・・・・・・見せてもらうぞ、お前の生き様を」

 

すこやか市のどこかの上空で、かすみと似た銀髪の少女がすこやか市の光景を見つめていた。

 

シュイーン!

 

「・・・・・・アンタ、何者?」

 

「ん?」

 

と、そこへクルシーナが姿を現して、かすみに似た銀髪の少女に問いかける。

 

「誰かと思えば、キングビョーゲンの娘か。かすみが世話になったな」

 

「ふざけんな。お前は誰だって聞いてんのよ」

 

銀髪の少女はそう言うと、クルシーナは顔を不機嫌そうに顰めながらそう言った。

 

「アンタ、かすみに似てるわよね。あいつとはどんな関係?」

 

「・・・・・・私はかすみの忘れ形見だ。あいつがビョーゲンズとしての本能を発揮していれば、本来持っていた力の塊さ」

 

「・・・・・・つまりは、アンタが本物のかすみってわけ?」

 

「そうとも言えるな」

 

クルシーナは再び問いただすと、銀髪の少女は不敵な笑みを浮かべながらそう話す。

 

「私は闇に生きるものでありながら、光を求めようとするあいつを気に入ってな。最初は内側からビョーゲンズの本能を呼び覚まそうとしていたが、それでも抗って人間のために尽くそうとする姿を面白いと感じたのだ。闇は光になれんと言うのに」

 

「アンタ、あいつを助けたくないわけ?」

 

クルシーナは銀髪の少女の言葉を遮って、そう問いかける。

 

「私は面白ければそれでいい。例えかすみが自分の作戦で苦しむ羽目になってもな」

 

「・・・・・・悪趣味なやつね。その辺はビョーゲンズと変わらないわね」

 

「ビョーゲンズだとも、あんな中途半端とは違うさ」

 

銀髪の少女はそう答えるも、クルシーナはそんな回答をされても面白くない。かすみをまるでどうでもいいと考えているからだ。

 

「私としては、お前と戦うのも面白そうだがな・・・・・・?」

 

「・・・・・・へぇ、アタシと戦いたいの?」

 

銀髪の少女が長剣を振り向きざまにクルシーナへと向けると、クルシーナは不敵な笑みを浮かべながら手のひらにピンク色の光弾を作り出す。

 

そのまま見つめ合う二人・・・・・・そして・・・・・・・・・。

 

「・・・・・・でも、今はその時ではない。かすみの行方も見守りたいしな」

 

「ふん・・・・・・アタシもアンタみたいなはぐれ者とはいえ、他のビョーゲンズとは戦いたくなんかないわよ」

 

「ふふふふ♪」

 

銀髪の少女はそう言って長剣を下ろすと、クルシーナも同じように光弾を引っ込める。

 

「アンタ、名前ないでしょ? アタシが付けてあげようか? アタシの名前も、お父様にもらったものだし、かすみを生み出したのはアタシだからアンタも同じでしょ?」

 

「・・・・・・好きにしろ」

 

クルシーナは指を差しながらそう言うと、銀髪の少女は淡々とそう言った。

 

「そうね・・・・・・アンタの名前は『クライナー』よ」

 

「クライナーか・・・いい名前だな。気に入ったぞ」

 

クルシーナがそう言うと、銀髪の少女ーーーークライナーは笑みを浮かべたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メガァァァ〜!!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

その頃、すこやか総合病院の近くで生み出された救急車のような姿に、頭に宝石のようなもの、モンスタートラックのようなタイヤを付けたメガビョーゲンが口から赤い光線を吐き出して辺りを蝕んでおり、人々が逃げ惑っていた。

 

「きゃっ!!」

 

そんな中、一人の女性が転んでしまう。

 

「メッガァァァァ!!」

 

「あぁぁ・・・・・・!!」

 

そんな女性にメガビョーゲンが猛スピードで迫っていく。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

「メガァ!?」

 

そこへ駆けつけたフォンテーヌとスパークルが顔面に飛び蹴りを放って、数メートル吹き飛ばす。

 

「早く逃げてください!!」

 

「ありがとうございます!!」

 

フォンテーヌは女性を立たせると逃げるように言い、女性はその場から駆け出していく。そして、フォンテーヌとスパークルの二人はメガビョーゲンを見据える。

 

「メガァァァ・・・・・・」

 

メガビョーゲンは起き上がるとプリキュアの二人を睨みつける。

 

「まだ、そんなに大きくはなってないみたいペエ。でも、油断しちゃダメペエ」

 

メガビョーゲンの様子を見たペギタンはそう推測し、二人は頷きステッキを構える。

 

「メガァ!!」

 

メガビョーゲンは頭の宝石の部分から赤い光線を放つ。二人は散会して攻撃を避ける。

 

「はぁぁぁっ!!」

 

「メガ・・・?」

 

フォンテーヌが駆け出してメガビョーゲンの横から蹴りを入れてよろつかせる。

 

「やぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ガァァ!?」

 

そこへ高く飛んだスパークルが顔面にかかと落としを叩き込んで怯ませる。

 

キュン!!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

その隙にフォンテーヌはステッキの肉球に一回タッチして、メガビョーゲンに向ける。ペギタンの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんの居場所を見つけ出す。

 

「宝石のエレメントさんペエ!!」

 

宝石のエレメントさんは頭部のランプの部分にいる模様。

 

「メガァァァァァ!!!!」

 

「っ、うわあぁぁ!?」

 

「きゃあぁ!!」

 

攻撃から復帰したメガビョーゲンは頭部のランプから4方向の赤い光線を回転させながら放ち、スパークルは咄嗟に飛び込んで伏せるようにして避け、フォンテーヌは空中へと飛び上がる。

 

「メェェェガァァァァァ!!!!」

 

「スパークル危ない!!」

 

「あっ!?」

 

さらにメガビョーゲンはタイヤを走らせてスパークルを轢こうと迫る。

 

「スパークル!!」

 

「メガビョーゲンの動きを止めるペエ!!」

 

フォンテーヌはスパークルがピンチに陥っているのを見て、ペギタンの言葉を受けてエレメントボトルを取り出す。

 

「氷のエレメント!! はぁっ!!」

 

氷のエレメントボトルをステッキにセットして、冷気を纏った光線を放ち、スパークルの前の地面を氷漬けにする。

 

「メェェェェ!? ガガガガガガガァ!?」

 

メガビョーゲンは氷漬けになった地面の上でスリップし、スパークルの横を通り過ぎるとそのまま地面の石ころに引っかかって思いっきり前へとすっ転んでひっくり返った。

 

「ふぅ〜、危なかったぁ〜・・・・・・」

 

「スパークル、怪我はない?」

 

「うん、ありがと・・・・・・」

 

スパークルは額の汗を拭いながらそう言い、そんなフォンテーヌは彼女に近づいて起こす。

 

「行くわよ!!」

 

フォンテーヌはそう言って水のエレメントボトルをステッキにかざす。

 

「エレメントチャージ!!」

 

そう言いながら光るステッキの先をハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「ヒーリングゲージ上昇!!」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングストリーム!!」

 

キュアフォンテーヌはそう叫びながら、ステッキをメガビョーゲンに向けて、水色の光線を放つ。光線は螺旋状になっていた後、メガビョーゲンに直撃した。

 

その光線はメガビョーゲンの中に入ると、螺旋状のエネルギーは手へと変化して、宝石のエレメントさんを優しく包み込む。

 

水型状にメガビョーゲンを貫きながら、光線は宝石のエレメントさんを外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「お大事に」」

 

宝石のエレメントさんは、救急車の中へと戻り、蝕んだ箇所も元に戻っていく。

 

戦闘後、メガビョーゲンを作る元になっていたすこやか総合病院の救急車に宿るエレメントさんの様子を伺う。

 

「エレメントさん、大丈夫ですか・・・・・・?」

 

『はい♪ 助けてくださってありがとうございます♪』

 

フォンテーヌの言葉に、宝石のエレメントさんは笑顔で返事をすると救急車の中に戻っていった。

 

「よし、こっちはOKね」

 

「やったね!! フォンテーヌ!!」

 

フォンテーヌとスパークルはお互いの健闘を讃え合う。

 

「グレースとアースは大丈夫かな?」

 

「行ってみましょう。確か森に向かったはずよ」

 

二人はグレースとアースのことが気になりつつ、二人が向かった森へと行くのであった。

 

一方、その頃・・・・・・。

 

「メガァ〜・・・・・・・・・」

 

根っこのような無数の足と、両手に蕾のようなものを持つホウセンカのような顔を持つメガビョーゲンが森周辺の木々や花々を蝕んでいた。

 

「見つけたラビ!! メガビョーゲン!!」

 

「何か少し大きくなってる・・・・・・?」

 

そこへグレースとアースが発見し、グレースはいつもよりそのメガビョーゲンが大きいのではないかと推測する。

 

「それでも、浄化しなければいけないのは変わりありません。行きましょう!!」

 

「うん!!」

 

「アースがいれば楽勝ラビ!!」

 

グレースとアースはお互いにそう話しながら、メガビョーゲンへと向かっていく。

 

「メガァ・・・・・・・・・」

 

メガビョーゲンは赤い光線を吐き出しながら、無数の根っこのような足を一斉に二人へと伸ばす。

 

「っ・・・ふっ・・・はっ! たぁ!!」

 

グレースは駆け出しながら、迫ってくる根っこを紙一重で避けていく。

 

「ふっ・・・はぁ・・・!!」

 

アースは根っこを避けながら、避けきれないものは蹴り飛ばしながらいなしていく。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

「メガァ・・・・・・!?」

 

そして、二人で同時にメガビョーゲンの背後にパンチを食らわせて吹き飛ばす。

 

キュン!!

 

「「キュアスキャン!!」」

 

地面に着地したグレースはステッキの肉球を一回タッチして、メガビョーゲンへと向ける。ラビリンの目が光り、メガビョーゲンの中にいるエレメントさんを見つける。

 

「花のエレメントさんはあそこラビ!!」

 

花のエレメントさんを右手の蕾あたりにいるのを発見する。

 

「メガァ・・・・・・!!」

 

メガビョーゲンは起き上がると両手の蕾を開いて、そこから赤い種のような光弾を放つ。

 

「ぷにシールド!!」

 

「っ・・・きゃあぁぁぁ!?」

 

グレースはシールドを張って防ごうとしたが、なぜか一発防いだだけで爆発によってひびが入り、二発目を防いだところで再び爆発でシールドもろとも吹き飛ばされてしまう。

 

「グレース!!」

 

距離を取っていたアースがグレースを心配して見る。

 

「うっ・・・・・・!!」

 

「グレース!! 大丈夫ラビ!?」

 

「な、なんで・・・・・・いつもだったらあんな攻撃、防いでも平気なはずなのに・・・・・・??」

 

立ち上がったグレースはぷにシールドがすぐに破壊されたことに疑問を抱いていた。

 

「やはり・・・グレースの体に、何かが起こっているのですか・・・??」

 

アースは緊張した面持ちで、グレースの謎の体調不良に影響が出ているのだと推測する。

 

「メガァ〜・・・・・・!!」

 

メガビョーゲンはお構いなしにさらに光弾を連続して放つ。

 

「っ・・・・・・!!」

 

そこへアースがグレースの前に飛び出して、ハープを構える。

 

「空気のエレメント!! はぁっ!!」

 

ハープに空気のエレメントボトルをセットして、ハープから空気の塊を無数に放つ。

 

「メガァ〜・・・・・・!?」

 

空気の塊は光弾を相殺し、さらにメガビョーゲンに直撃して後ろに吹き飛ばした。

 

「グレース、大丈夫ですか!?」

 

「うん、平気・・・・・・」

 

アースはグレースに手を貸して立ち上がらせると、二人は再びメガビョーゲンに視線を向ける。

 

「メガビョーゲン・・・・・・!!」

 

「「っ・・・・・・!!」」

 

メガビョーゲンは再び起き上がると、無数の根っこを伸ばしていく。二人は駆け出しながら再びいなしていく。

 

「はぁっ!!」

 

その最中、グレースが避けきれない根っこを蹴り飛ばすが・・・・・・。

 

「メガ・・・・・・??」

 

「え・・・・・・うっ・・・・・・!?」

 

メガビョーゲンには通用しておらず、別方向から根っこが伸びてきて、咄嗟に防ぐもに弾き飛ばされる。

 

「っ・・・!!!!」

 

グレースはなんとか地面に着地し、エレメントボトルを取り出す。

 

「実りのエレメント!! はぁっ!!」

 

実りのエレメントボトルをセットし、木の実型のエネルギー弾を放つ。

 

「メガァ・・・・・・!?」

 

エネルギー弾はメガビョーゲンの顔面に直撃して爆発する。

 

「やった・・・!!」

 

グレースは効いていると確信するが・・・・・・・・・。

 

「メガァ〜・・・・・・」

 

「っ、きゃあぁ!!!!」

 

煙の中から光弾が飛んできて、グレースに直撃して吹き飛ばされてしまう。

 

「メガァ・・・・・・」

 

煙が晴れるとそこにはなんともない様子のメガビョーゲンが立っていた。

 

「うっ・・・全然、聞いてない・・・・・・!?」

 

「どうしてラビ・・・・・・??」

 

「メガァ〜・・・・・・!!」

 

グレースとラビリンが戸惑っていると、メガビョーゲンはさらに光弾を放ってきた。

 

「危ないです!!」

 

そこへアースが飛んできて、グレースを避難させる。

 

「アース・・・・・・・・・」

 

「考えても仕方ありません。ここは私が!!」

 

不安そうな表情をするグレースに対し、アースはグレースにそう言うと飛び出していく。

 

「メガメメェ〜・・・・・・!!」

 

メガビョーゲンは向かってくるアースに対して、無数の根っこを伸ばしていく。

 

「ふっ・・・やぁ!! はぁっ!!」

 

アースは根っこを避けたり、上に乗って飛んだり、キックでいなしたりするなどしてメガビョーゲンに迫っていく。

 

「はぁぁぁぁ!!!!」

 

「メガァ!?」

 

アースはメガビョーゲンの顔面に飛び、キックを食らわせる。

 

「っ・・・・・・!!」

 

そんなアースの背後からメガビョーゲンの根っこが迫る。

 

「はぁっ!!」

 

そこへグレースがステッキからピンク色の光線を放って、その根っこを退ける。

 

「グレース!!」

 

「アース、今だよ!!」

 

「はい!!」

 

アースはそう言うとハープを取り出して、エレメントボトルを取り出す。

 

「音のエレメント!!」

 

ハープに音のエレメントボトルをセットし、弦を奏でて音波を放つ。

 

「メ・・・メガァ・・・・・・!?」

 

その音波を浴びたメガビョーゲンは苦しんで、根っこ共々その動きを止める。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「メガァ〜!?」

 

アースはその隙に強力な飛び蹴りを放って、メガビョーゲンを大きく吹き飛ばした。

 

「行けるラビ!!」

 

「うん!!」

 

グレースは援護してくれたアースに感謝しつつ、花のエレメントボトルを取り出し、ステッキへとかざす。

 

「エレメントチャージ!!」

 

そう言いながら光るステッキの先をハート型の模様を空中に描き、肉球に3回タッチする。

 

「ヒーリングゲージ上昇!!」

 

ステッキの先のハートマークに光が集まっていく。

 

「プリキュア!ヒーリングフラワー!!」

 

キュアグレースはそう叫びながら、ステッキをメガビョーゲンに向けて、ピンク色の光線を放つ。光線は螺旋状になっていた後、メガビョーゲンに直撃した。

 

その光線はメガビョーゲンの中に入ると、螺旋状のエネルギーは手へと変化して、花のエレメントさんを優しく包み込む。

 

花状にメガビョーゲンを貫きながら、光線は花のエレメントさんを外へと出す。

 

「ヒーリングッバイ・・・」

 

メガビョーゲンは安らかな表情でそう言うと、静かに消えていった。

 

「「お大事に」」

 

花のエレメントさんは、森の中にあったホウセンカの中へと戻り、蝕んだ箇所も元に戻っていく。

 

「やりましたね、グレース・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

アースが駆け寄って健闘を讃えようとするが、グレースの表情は暗かった。

 

「私・・・全然、役に立ってなかったな・・・・・・」

 

「っ・・・・・・・・・」

 

グレースはそう言いながら酷く落ち込んでいた。なんだかよくわからないが、自身の攻撃が全くメガビョーゲンに聞いておらず、プリキュアとしてお手当てがうまくできなかったことを気にしていたのだ。

 

「そんなことはありません」

 

「え・・・・・・?」

 

「グレースが放ってくれた最後の一発、あれがなければ私はやられるところでした。グレースがしっかりと守ってくれたから浄化できたのです。守ると言っておきながら、守られてしまいましたね・・・・・・」

 

アースは落ち込むグレースに、そう言いながら微笑む。

 

「でも、またあんなことが起きたら・・・・・・」

 

「グレースは・・・!! グレースは何のために来たのですか? グレースの夢の中で出てきたというかすみさん・・・これが彼女のせいなのか、だとしたらどうしてこんなことをするのか探るためでしょう? でしたら、こんなところで落ち込んでいる暇はありません。どんなことがあっても、突き進んで確かめるべきです!!」

 

「っ!!」

 

「言ったでしょう? もしもの時は私が背中を守ります。だから、グレースはそのまま突き進んでください。私は何があろとグレースの側にいますから・・・!!!!」

 

不安が拭えないグレースに、アースはそう諭して彼女の背中を押すような言葉をかける。

 

「・・・・・・そう、だね。ありがとう・・・情けないって思っちゃ、ダメだよね・・・・・・」

 

アースの言葉に、グレースは微笑んでそう答えた。

 

「おーい!! グレース!! アース!!」

 

「!! フォンテーヌ!! スパークル!!」

 

そこへ後を追ってやってきていたフォンテーヌとスパークルが合流する。

 

「そっちは大丈夫みたいね」

 

「そっちもやったんだね!」

 

グレースとフォンテーヌはお互いにメガビョーゲンを浄化したことを話す。

 

「あとはギガビョーゲンだけだぜ」

 

ニャトランがそう言うと・・・・・・。

 

「みんなー!!!!」

 

後を追ってきた中島先生がこちらへと向かってきた。

 

「先生・・・・・・?」

 

「はぁ・・・はぁ・・・やっと、追いついた・・・はぁ・・・」

 

中島先生は息絶え絶えになりつつも、プリキュアたちの前に近寄った。

 

「あのね・・・怪物がもう一体・・・現れたみたいなの・・・・・・!!」

 

「「っ!?」」

 

「「ええ!?」」

 

中島先生がそう伝えると、グレースたちは驚きの表情と声を出す。

 

「さっき聴診器を使って、ラテちゃんの声? 聞いて、みたんだけど・・・駅の方に現れたみたい・・・・・・電車が泣いてるって言ってたわ・・・・・・」

 

「すこやか駅ね!!」

 

「しかもメガビョーゲンペエ・・・!!」

 

中島先生は朧げながらもラテが話していたことを伝えると、フォンテーヌがすこやか駅に現れたこと、ペギタンがメガビョーゲンが現れたことを察する。

 

「ギガビョーゲンはどうする・・・・・・?」

 

「そうだね・・・・・・ギガビョーゲンは4人いないとキツイかも・・・・・・」

 

ニャトランが学校で暴れていると思われるギガビョーゲンについて問うと、スパークルはそっちに行くべきではないと判断する。

 

「私がすこやか駅に向かいましょう」

 

「アース・・・・・・」

 

「三人はギガビョーゲンを阻止してください。私がすこやか駅のメガビョーゲンを浄化して、こっちへ駆けつけるまで抑えるのです」

 

「うまく行くかなぁ〜・・・それ・・・・・・」

 

アースがすこやか駅にいるメガビョーゲンを相手にすると言うと、任されたギガビョーゲンをスパークルはあまり気が進まない様子でいた。

 

「迷ったって仕方ないわ。メガビョーゲンはアースに任せましょう。私たちはギガビョーゲンを!!」

 

「わかった・・・・・・!!」

 

「うん!!」

 

こうして4人はアースとグレースたち三人に別れて、浄化へと動くことになった。

 

「みんな・・・・・・気をつけてね・・・・・・」

 

中島先生は4人を心配そうに見つめていた。

 

その時だった・・・・・・・・・。

 

ドスッ!!!!

 

「あっ・・・・・・!!」

 

「っ!? キャン!!」

 

突然、中島先生の背中を強い衝撃が襲い、彼女はそのまま地面へと倒れてしまい、そのままラテは地面へと投げ出されてしまう。

 

「・・・・・・・・・」

 

それを見つめていたのは黒いフードを深くまで被っていた人物ーーーーかすみだった。

 

かすみは中島先生の体を持ち上げると、気絶している中島先生の顔を見つめる。

 

「ワン!! ワンワン!!」

 

そこへ体調の悪いラテがかすみを見つめながら大きく吠える。その表情は悲しげなものだった。

 

「のどかに伝えてくれ・・・・・・私は・・・・・・ここにいるぞ、ってな・・・・・・」

 

かすみはラテへ伝言を残すと、そのまま中島先生を連れたまま姿を消してしまった。

 

「クゥ〜ン・・・・・・・・・」

 

ラテは消えていったかすみのいた場所を悲しげに見つめる。

 

「ウゥゥ・・・ウゥゥ〜ン・・・・・・」

 

ラテはグレースたちに中島先生が攫われたことを伝えるべく、体調の悪い体を必死に動かして向かっていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かすみのやつ・・・何する気なのかしら・・・? しかも、アタシの先生まで攫って・・・・・・!!」

 

クルシーナは上空でその様子を面白くなさそうに見つめていた。

 

「おそらく、あれでグレースを引き寄せるつもりなんだろう。かすみの狙いはグレースのはずだからな・・・・・・」

 

「ふーん・・・まあ、別にケガさせないならいいけど」

 

クライナーがそう答えると、クルシーナは特に気にもしていない様子だった。

 

「少し私も手助けしてやろう・・・・・・」

 

クライナーは不敵な笑みを浮かべながらそう言うと、手のひらを広げると禍々しい色のナノビョーゲンを無数生み出す。よくみるとそのナノビョーゲンは紫色のオーラに包まれていて、顔つきも目付きが鋭く赤くなっていて、口の中も紫色で牙のようにギザギザになっていた。

 

「何する気よ? それに、そのナノビョーゲン・・・・・・」

 

「かすみの生み出した産物を、もっと強くしたらどうなるかと思ってな・・・・・・」

 

クルシーナの疑問に、クライナーは笑みを崩さずにそう答える。

 

「行け! ナノビョーゲン」

 

「「「ナノ・・・!!」」」

 

クライナーの指示を受けて、ナノビョーゲンはすこやか駅、そして学校へと飛んでいく。

 

「さあ、どう面白くなるか・・・・・・ふふふふ♪」

 

(こいつ、タダモンじゃないわね・・・・・・下手したら進化したダルイゼンより強いんじゃない?)

 

面白いものを見るようにクライナーが不敵に笑みを浮かべるのに対し、クルシーナはこのクライナーが、ヘバリーヌやダルイゼンとは何かが格が違うテラビョーゲンであることを感じざるを得ないのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第142話「変貌」

お待たせしました。
前回の続きです。

また、今回より亀更新になります。


 

「ギーガァ・・・・・・」

 

すこやか中学校では、巨漢のような体に赤いナースキャップを被った看護師のようなギガビョーゲンが口から光線を放って、辺り一帯の広範囲を蝕んでいた。

 

すでに辺りはほとんどが蝕まれた後で、生徒や先生たちは全員逃げ出していて、周辺に人の姿はなかった。

 

「いた!! あそこ!!」

 

「うぇっ!? もうあんなに蝕まれてる!?」

 

「やっぱり、ギガビョーゲンは一気に蝕めるから早いわ・・・・・・」

 

駆けつけたプリキュアたちはそれぞれの反応を見せる。

 

「早く止めるラビ!!」

 

ラビリンの言葉に三人は頷くと、一斉にギガビョーゲンへと駆け出していく。

 

「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 

「ギィー・・・・・・ガァ!!!!」

 

「「「あぁぁっ!!!!」」」

 

三人は同時にギガビョーゲンにキックを食らわせるが、ギガビョーゲンの巨体に跳ね飛ばされてしまう。

 

「何、あの体!? 弾力がすごいんだけど!?」

 

「攻撃が全然聞いてない・・・・・・」

 

「それに無闇に攻撃したら跳ね飛ばされちゃうわ・・・・・・」

 

プリキュアの三人は地べたに座り込みながら、ギガビョーゲンを見る。

 

「ギーガァ・・・・・・」

 

ギガビョーゲンはそんな三人に目掛けて口から赤い光線を放つ。

 

「「「ぷにシールド!!」」」

 

グレースたちは立ち上がってシールドを張って赤い光線を防ぐ。

 

「「「はぁっ・・・!!!!」」」

 

「ギガァ・・・・・・?」

 

そのまま赤い光線をシールドを張って押しのけながら進んでいき、ギガビョーゲンの顔面に直撃させる。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

「ギィ・・・・・・ガァ!!」

 

「「あぁぁぁ!!??」」

 

三人は散開した後、グレースとスパークルは同時に左右から挟むようにして横から蹴りを叩き込むが、やはりギガビョーゲンの巨体に跳ね飛ばされてしまう。

 

「ふっ!!」

 

「ギガァ・・・・・・・・・」

 

「っ、きゃあ!?」

 

フォンテーヌはステッキから青色の光線を放つが、ギガビョーゲンの体に跳ね返され、こちらに返ってきた光線を咄嗟に避けた。

 

「実りのエレメント!!」

 

「火のエレメント!!」

 

「「はぁっ!!」」

 

グレースとスパークルは空中でエレメントボトルをセットすると、ステッキから光弾を連続して放つ。

 

「ギガァ・・・・・・ビョーゲン!!」

 

光弾はギガビョーゲンの体に直撃すると段々とへこんでいき、そのまま声と共に光弾は跳ね返り周囲へと飛んでいく。

 

「うっ・・・・・・!!」

 

「うわぁぁぁっ!?」

 

「きゃあぁぁ!!」

 

もちろん光弾はプリキュアたちの方にも飛んでいき、三人は咄嗟に防ぐなり、避けるなりしてやり過ごす。

 

「エレメントさんの力が通用してないラビ!?」

 

「あの体で全部跳ね返されちゃうペエ・・・・・・」

 

「ギーガー・・・・・・」

 

ラビリンとペギタンが対処に困っている間に、ギガビョーゲンは両腕の注射器から赤いビームを放つ。

 

「「っ・・・・・・!!」」

 

「どこかに弱点はあるはず・・・・・・」

 

プリキュア三人はギガビョーゲンの攻撃を避けながらも、走りながら攻撃の決め手を探そうとする。

 

一方、その頃・・・・・・・・・。

 

「メガッメガッ!! メガッメガッ!!」

 

電車の姿をしたメガビョーゲンが走り回りながら、辺りを病気に蝕んでいた。人々はすでに逃げ出しているため、周辺に人の姿はない。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「メガッ!?」

 

そこへ駆けつけたアースが上空から蹴りを食らわせて、メガビョーゲンを怯ませる。

 

「メガビョーゲン、これ以上は私がやらせません!!」

 

「メガメガ、ビョーゲン!!」

 

地面に着地したアースが構えると、メガビョーゲンは睨みつけた後にアースに向かって駆け出してきた。

 

「ふっ!!」

 

「メガッ!! メガビョーゲン!!」

 

「っ・・・!!!!」

 

アースはあからさまに突っ込んできたメガビョーゲンを飛んで避けると、メガビョーゲンはUターンしながら再び向かい、さらに頭部のパンタグラフから電撃を放った。アースはそれを横に飛んで避ける。

 

アースはそのまま一直線にメガビョーゲンへと駆け出す。

 

「メガァ!! メガッメガッ!!」

 

メガビョーゲンもそれに気づくと、アースの方へと振り向いて突っ込んでいき、一人と一体が激突して押し合う。

 

「っ・・・・・・!!」

 

「メガァ・・・・・・!!」

 

アースは突っ込んでくるメガビョーゲンを両手で抑え、メガビョーゲンは車輪を動かしながら押し込もうとする。

 

「ふ、っ・・・・・・!!」

 

「メガメメ・・・・・・!!」

 

アースは力を入れて押し込もうとするが、メガビョーゲンも力を入れて押し込もうとし、拮抗した状態が続く。

 

「はぁっ・・・・・・!!」

 

「メ・・・メガ・・・・・・!?」

 

アースは自身の風の力を発生させると、徐々にメガビョーゲンを押し始める。

 

「っ・・・はぁっ!!!!」

 

「メガァァァ~・・・・・・!!??」

 

アースがさらに力を入れて押しやると衝撃波が発生し、メガビョーゲンはそのまま吹き飛ばされた。

 

「メッガァ!! メガッメガッ!!」

 

「っ・・・・・・!!」

 

しかし、メガビョーゲンは倒れずに着地すると再びアースの方へと駆け出していく。それを見たアースはハープを取り出す。

 

「音のエレメント!!」

 

アースは音のエレメントボトルをハープにセットし、弦を奏でて音波を放つ。

 

「メッガ・・・メッガ・・・メッ・・・ガ・・・・・・!?」

 

こちらに駆け出してきていたメガビョーゲンは音波を浴びると、その動きを止めていく。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「メッガァ!!??」

 

アースは飛び出すと勢いを乗せた蹴りをメガビョーゲンの顔面に食らわせて吹き飛ばす。

 

「このまま浄化します!!」

 

アースはハープを構えたままひっくり返ったメガビョーゲンを見据え、風のエレメントボトルを取り出した。

 

一方、ギガビョーゲンと交戦中のグレースたち三人は・・・・・・。

 

「ギガ・・・・・・ギーガー・・・・・・」

 

「っ・・・・・・!!」

 

ギガビョーゲンは両手の注射器から赤いビームを放ち、フォンテーヌはそれを避け続けていた。

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

その隙にグレースとスパークルはギガビョーゲンの背後に回って、校舎の壁を蹴ると背中へと蹴りを繰り出す。

 

「ギガ・・・・・・??」

 

蹴りを食らったところからギガビョーゲンの背中がへこみ、そのまま前へと弾みながら吹き飛ばされた。

 

「やった・・・・・・!!」

 

「ギガビョーゲンがよろけたよぉ~・・・!!」

 

「手応えはあった気はするけど・・・・・・」

 

グレースとスパークルは吹き飛ばしたギガビョーゲンを見るも、フォンテーヌはあまり楽観視できないと見ていた。

 

「ギガー・・・・・・・・・」

 

ギガビョーゲンはうつ伏せに倒れてしまい、その巨漢の体のせいで動くことができなくなった。

 

「あれ、動けなくなったのかな・・・・・・?」

 

「あのでかい体のせいで、起き上がれなくなったんじゃない?」

 

「そうね・・・・・・・・・」

 

グレースたち三人はギガビョーゲンのその哀れな姿を呆然と見ていた。

 

「ともかく・・・アースが来るまで動きを止めて・・・・・・」

 

「ナノ~」

 

「「「っ!?」」」

 

フォンテーヌはギガビョーゲンの動きをさらに止めておこうとするが、そこに鳴き声が聞こえてきた。プリキュアが振り向くと、そこには禍々しいオーラを放っているナノビョーゲンの姿があった。

 

「あれって・・・・・・??」

 

「ナノビョーゲンラビ!? どうしてここにいるラビ!?」

 

グレースがそう見つめていると、ラビリンは驚いていた。ビョーゲンズがいるわけでもないのに、なぜナノビョーゲンがいるのか・・・・・・?

 

「なんか・・・あのコウモリみたいなやつ・・・・・・」

 

「嫌な予感がするんだよな・・・・・・」

 

スパークルとニャトランがそんなことを呟く。

 

「あれは、ビョーゲンズの・・・・・・」

 

アースのところにも同じようなナノビョーゲンが一匹現れていた。

 

「ナノ・・・・・・」

 

二匹のナノビョーゲンは鳴き声を上げると、まっすぐにギガビョーゲン、メガビョーゲンへと向かっていき、その体の中へと入り込んだ。

 

「ギガ・・・!? ギガガガガガガガ・・・・・・!!」

 

「メガ・・・!? メガガガガガガガガ・・・・・・!!!!」

 

その瞬間、ギガビョーゲンは、メガビョーゲンは苦しみ出して禍々しい紫色のオーラに包まれていく。

 

「っ・・・何!?」

 

「ギガビョーゲンの体の中に入ったペエ・・・・・・!?」

 

「っ!?」

 

フォンテーヌとペギタン、アースがそれぞれを驚くように見る中、紫色のオーラが晴れていくと・・・・・・。

 

「ギィィィィィガァァァァァァ・・・・・・・・・」

 

三人には目が真っ赤になって口がギザギザな形の凶悪な顔付きとなり、体中からイバラのような触手を生やした毒々しい色をしたギガビョーゲンが・・・・・・。

 

「メッガァァァァァァァ!!!!」

 

アースには車体が紫色の毒々しい色となり、同様に目が真っ赤になって口がギザギザな形の凶悪な顔付きとなったメガビョーゲンが立っていた。

 

「ギガビョーゲンの姿が・・・・・・!?」

 

「変わったぁ~・・・・・・!!??」

 

「っ・・・・・・なんだか、寒気がするわ・・・・・・」

 

「くっ・・・・・・邪悪な気配が強まりました・・・・・・!!」

 

プリキュアたちは変貌を遂げた怪物たちに驚きと緊張感が強まる。

 

「ふふふふ・・・・・・始まったな。さあ・・・どう面白くなるか・・・・・・」

 

「メガビョーゲンとギガビョーゲンが強化された・・・? しかも、顔付きがまるでお父様みたいなんだけど・・・・・・?」

 

クライナーは二体の怪物が変貌を遂げたことに不敵な笑みを浮かべる一方で、クルシーナはまさかの変貌を遂げたことに驚いていた。なんとメガビョーゲンとギガビョーゲンの顔がキングビョーゲンと似たような顔をしていたからだ。

 

「ふふふふ・・・・・・お前にとってはいい眺めだろう?」

 

「・・・・・・アンタ、本当に何者?」

 

クルシーナの言葉にクライナーはそう反応すると、クルシーナは訝しむように見つめていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギィィィィィィィ・・・・・・ガァァァァァ・・・・・・」

 

倒れた状態のままのギガビョーゲンは体から生えている触手を地面に付けると、そのまま空高く飛び上がった。

 

「っ・・・来るわよ!!!!」

 

「ギガァァァァァァァ・・・・・・・・・」

 

フォンテーヌが二人に呼びかけると共に、ギガビョーゲンがプリキュア三人へと落下してきた。三人は到達する前に飛んで避ける。

 

「ギガー・・・・・・・・・」

 

ギガビョーゲンは触手を使って体を起こすと、口から紫色の太い光線を放った。

 

「っ・・・・・・きゃあぁぁぁ!!!!」

 

グレースはシールドを張るが、凄まじい威力に呆気なく突破されてしまい吹き飛ばされてしまう。

 

「うっ・・・・・・!!」

 

「「グレース!!」」

 

グレースはそのまま倒れ伏してしまい、それを心配するフォンテーヌとスパークル。

 

「ギガァー・・・・・・・・・」

 

ギガビョーゲンは体中からイバラを生やすと、一気に周囲へと伸ばした。

 

「っ・・・ふっ・・・・・・うっ・・・・・・!!」

 

「くっ・・・・・・ふっ・・・・・・あっ・・・・・・!!」

 

フォンテーヌとスパークルは襲い来るイバラをいなそうとするが、高速でうねるように動く触手に翻弄され、痛めつけられてしまう。

 

「うっ・・・・・・っ!!!!」

 

なんとか立ち上がったグレースはジャンプで飛び上がると、エレメントボトルを取り出す。

 

「実りのエレメント!! はぁっ!!」

 

グレースは実りのエレメントボトルをセットして、木の実型のエネルギー弾を放つ。

 

「ギー・・・ガー・・・・・・」

 

ギガビョーゲンはイバラの触手をグレースに目掛けて伸ばし、エネルギー弾を打ち砕く。

 

「っ、そんな・・・!! あっ・・・・・・!!」

 

グレースは信じられない表情を浮かべる間もなく、イバラの触手に拘束されてしまう。

 

「ギィィィ・・・・・・ガァァァァァ・・・・・・!!」

 

「あっ・・・!? うぅぅぅ・・・・・・!!」

 

「ラビィ・・・・・・ち、力が奪われてるラビ・・・!!!!」

 

すると、グレースの体から白いオーラが触手に放出し、ギガビョーゲンに吸収されていく。グレースとラビリンが苦しみの声を上げ始める。

 

「おい!! まずいぞ、あれ!!」

 

「グレース!!」

 

「スパークル、迂闊に飛び出しちゃダメ!!」

 

ニャトランがそう叫ぶと、フォンテーヌの制止もむなしくスパークルが駆け出していく。

 

「グレースを離してぇぇぇぇっ!!!!!」

 

スパークルは叫びながらギガビョーゲンの背後から蹴りを入れようとする。

 

「ギィィィガァァァァァ・・・・・・・・・」

 

ギガビョーゲンはスパークルの方を振り向きもせずに、背中から生やしたイバラを伸ばす。

 

「っ! わぁっ・・・うっ・・・あぁぁ!!」

 

スパークルは避けながら近づこうとするも、イバラをいなしきれずに吹き飛ばされてしまう。

 

「スパークル!! っ・・・・・・!!」

 

フォンテーヌはスパークルの方を心配するも、そこへギガビョーゲンが伸ばしたイバラが襲いかかり、フォンテーヌは蹴りを入れながらいなす。

 

「うっ、うぅぅぅぅ・・・・・・!!」

 

「ち、力が、抜ける、ラビ・・・・・・!!」

 

ギガビョーゲンに力を奪われ続けているグレースとラビリンの表情に力が無くなって来ていた。

 

「雨のエレメント!! はぁっ!!」

 

フォンテーヌは雨のエレメントボトルをセットし、ステッキから連続で光弾を放つ。

 

「ギィィ・・・ギガァ・・・・・・!」

 

ギガビョーゲンの顔面に光弾が当たり、ギガビョーゲンが鬱陶しそうな顔をする。

 

「火のエレメント!! はぁっ!!」

 

「ギィィ・・・・・・ギィガァ・・・・・・??」

 

スパークルも火のエレメントボトルをセットし、ステッキから火を纏った光弾を連続して放った。光弾は顔面に当たり顔を顰めたギガビョーゲン、そんなギガビョーゲンの触手からグレースが離れた。

 

「あっ・・・・・・うぅ・・・・・・!!」

 

「た、助かった、ラビ・・・・・・」

 

グレースはその場で倒れ伏すも、足をガクガクさせながらなんとか立ち上がる。

 

「葉っぱのエレメント!! はぁっ!!」

 

二人に加勢すべく、グレースは葉っぱのエレメントボトルをセットして、光弾を放とうとしたが・・・・・・。

 

「え・・・・・・なんで・・・・・・?」

 

「なんでエレメントさんの力が出ないラビ・・・・・・!?」

 

エレメントボトルをセットしたのにも関わらず、ステッキから光弾が放たれない。

 

「ギィィィィィィィガァァァァァァ!!!!」

 

「「っ・・・きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

ギガビョーゲンは両腕の注射器から紫色の光線を放って、光弾を打ち消してフォンテーヌとスパークルを吹き飛ばす。

 

「フォンテーヌ!! スパークル!!」

 

「ギィィィ・・・ガァァァァァ・・・・・・」

 

「っ・・・・・・!!!」

 

グレースが二人を心配している間に、ギガビョーゲンは触手を利用して宙へと飛び上がり、グレースに目掛けて落下してきた。グレースは飛んで後ろへと下がるが・・・・・・。

 

「ギーガァァァァ・・・・・・!!」

 

「っ・・・あぁぁぁぁぁ!!!!」

 

そこを狙ってギガビョーゲンは紫色の太い光線を放ち、グレースは吹き飛ばされてしまう。

 

一方、その頃・・・・・・・・・。

 

「メガァァァァ!!!!」

 

「うっ・・・・・・!!」

 

メガビョーゲンはアースに向かって突進し、アースは両手で抑え込むも、先ほどよりも力を増したメガビョーゲンに押されそうになっていた。

 

「これは・・・・・・厳しいです・・・・・・!!」

 

なかなか押し退けることができず、アースの両腕がガクガクと震える。

 

「メッガァァァァァ!!」

 

「うぅぅぅ・・・・・・!!」

 

メガビョーゲンは体に力を入れて押し、アースは吹き飛ぶもすぐに体勢を立て直して着地する。

 

「メガァメガァァァァ!!!!」

 

「っ・・・・・・!!」

 

そこへメガビョーゲンは頭部のパンタグラフから紫色の禍々しい電撃を放ち、アースは飛んで避けていく。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「メッガ・・・!!!!」

 

アースは電撃を避けながら高く飛んで、メガビョーゲンの頭部に蹴りを食らわせる。メガビョーゲンは一瞬怯むが、すぐに復帰してアースを睨みつける。

 

「メガメガメガメガメガッ!!!!」

 

「っ・・・・・・!!」

 

メガビョーゲンはアースに目掛けてスピードを上げて突進し、それを見たアースはハープを取り出す。

 

「音のエレメント!!」

 

アースは音のエレメントボトルをハープにセットし、弦を奏でて無数のゲートを出現させるとそこからビームを連続して放ち、メガビョーゲンに命中させる。

 

「メッガァァァ・・・!!!!」

 

ビームの直撃を受けたメガビョーゲンはそこで突進のスピードが遅くなり、そこで動きを止めた。

 

「今のうちに・・・・・・!!」

 

アースはメガビョーゲンが動きを止めているうちに浄化しようとする。

 

「メガァァァァァ!!!!」

 

「っ!?」

 

「メガメガァァァァァァ!!!!」

 

しかし、メガビョーゲンは咆哮を上げると凄まじいオーラを放ってビームを弾き飛ばし、再びアースへと突っ込む。

 

「っ、そんな!? あぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

突然の行為にアースは咄嗟の行動ができずに、メガビョーゲンの突進を受けて吹き飛ばされてしまう。

 

「メガァァァ〜・・・!!!!」

 

メガビョーゲンは倒れ伏すアースにトドメを刺そうと頭部のパンタグラフにエネルギーを溜め始め、紫色の電撃を纏った球体を作り出す。

 

「うぅぅぅぅ・・・・・・!!」

 

倒れていたアースはなんとか立ち上がるが・・・・・・。

 

「メガッメガァァァァッ!!!!」

 

メガビョーゲンはそこへ電気を纏った球体を放った。

 

ドカァァァァァァァァン!!!!!!

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

アースは直撃を受けて、すこやか駅から大きく遠くへと吹き飛ばされてしまった。

 

一方、ギガビョーゲンと戦っている三人は・・・・・・。

 

「ギィガァ・・・・・・!!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ギガビョーゲンのイバラの猛攻を受けて、地面へと落下するグレースたち。

 

「うぅぅぅぅ・・・・・・!!」

 

「くっ・・・・・・!!」

 

「うっ・・・・・・!!」

 

三人は立ち上がって尚も立ち向かおうとするが・・・・・・。

 

「ギィィィィィィィィ・・・・・・・・・」

 

ギガビョーゲンは紫色のオーラを体中に溜め始める。

 

「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 

「ガァァァァァァァァ・・・・・・・・・!!!!」

 

グレースたち三人が飛びかかった瞬間に、ギガビョーゲンは紫色のオーラを全身から放った。

 

「「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 

グレースたち三人はまともに受けて、学校から遠くまで吹き飛ばされていってしまった。

 

「ふふふ・・・・・・さすがに私の力には敵わないか・・・・・・」

 

「ふん・・・・・・あいつらが疲れてただけでしょ。本当にバラバラだと大したことないんだから」

 

その様子を見ていたクライナーとクルシーナは見つめながら話していた。

 

「ねぇ、アンタ。あいつが消えたら、どうするわけ?」

 

「私はどうもしないさ」

 

「そうじゃないわよ。かすみが消えたら、今後の自分はどうするのかって聞いてんのよ」

 

クルシーナは不機嫌そうな声を出しながら、クライナーにそう尋ねた。

 

「私は私のままに生きる。次の面白いことがあれば、な」

 

「・・・・・・本当に悪趣味なやつね」

 

クライナーのかすみのことを顧みないような発言に、クルシーナは不快そうに顔を顰めながらそう呟いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃・・・・・・・・・。

 

「んぅ・・・・・・んんん・・・・・・!!」

 

かすみはすこやか山の展望台にあるベンチの上で座りながら眠っていたが、悪夢を見ているのか苦しみの声を上げていた。

 

「んんん・・・うぅぅぅんぅぅ・・・・・・!!!!」

 

その動きがもがくように首を振るような動作となり、目がギュッと瞑ったように顰められる。

 

「っ!!?? はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・」

 

そして、かすみはハッと目を見開いて目を覚ました。かすみは汗を拭いながら辺りを見渡して状況を確認する。この場には中島先生と二人、のどかたちの姿はまだなかった。

 

かすみは展望台からすこやか市を見渡せる場所へと歩いて見つめる。

 

「のどか・・・・・・まだ来てくれないのか・・・・・・」

 

かすみは街で暴れるメガビョーゲン、ギガビョーゲンを見つめながらそう呟いた。

 

「・・・・・・・・・」

 

その背後の座っていたベンチでは中島先生が気を失ったまま、寝かされていた。

 

「私は、ここにいるのに・・・・・・・・・」

 

かすみは中島先生を見つめながらそう呟く。

 

「ん・・・・・・あっ・・・・・・!?」

 

すると、中島先生が目を覚ました。ハッとして体を起こし、側にいたかすみを見つめる。

 

「あなたは・・・・・・!?」

 

「・・・・・・・・・」

 

中島先生はかすみのことを不安そうに見ている。かすみは中島先生をじっと見つめると、ゆっくりとその場を歩いていく。

 

「あっ、待って!!」

 

「大丈夫だ。お前に危害を加えるつもりはない」

 

中島先生が立ち去ろうとする背後から声をかけると、かすみは遮るかのように声を発する。

 

「本当はのどかを釣るためのエサにするつもりだったが、気が変わった。私から会いに行くことにした」

 

「のどかちゃんを、釣るため・・・・・・?」

 

かすみはそう言うと中島先生の疑問に耳を通すことなく、その場から歩き去っていく。

 

「っ、ラテちゃん? ラテちゃんは!?」

 

中島先生はラテが側にいないことに気づき、ベンチから立ち上がるとかすみの方を見つめる。

 

「あの子が連れていったのかしら・・・・・・?」

 

中島先生はかすみを見つめながらそう呟くと、意を決してかすみへと駆け出していく。

 

「待って!! 私も連れて行って!!」

 

中島先生はラテを連れているかもしれないと考え、かすみの後を追って行った。

 

「ついてくるな! 危険だ!!」

 

「そうはいかないわ!! ラテちゃんはあなたが連れているんでしょ!?」

 

拒絶するように叫ぶかすみだが、中島先生は強気にそう言って譲らない。

 

「・・・・・・ラテはここにはいない」

 

「え・・・・・・?」

 

「ラテはお前を攫ったところで置いていった。きっとのどかを探しているんだろう」

 

「そんな・・・・・・あんなに体調が悪そうだったのに・・・・・・」

 

言いにくそうなかすみにそう聞かされた中島先生は不安そうな表情を浮かべる。見た感じあんなに具合が悪そうだったのに、置いていった・・・・・・? どこかで苦しんでいるに決まっている。早く探しに行かないと・・・・・・。

 

「探しに行かなきゃ・・・!! あなたも一緒に!!」

 

「・・・・・・私は無理だ」

 

「どうして!?」

 

中島先生はそう言うが、かすみはその要請を拒否し、中島先生は叫ぶ。

 

「・・・・・・私は、もうこんな姿だからだ」

 

「っ!!??」

 

かすみは深く被っていた黒いフードを取ると、中島先生は驚愕に目を見開いた。

 

「あなた・・・・・・その姿・・・!!??」

 

「私にはもう時間がないんだ。私にはやることがある。お前の頼みは聞けないよ」

 

中島先生が呆然とする中、かすみは黒いフードを被り直すと再び歩き出す。

 

「そんなの・・・・・・そんなの関係ないわ!!!!」

 

「っ・・・・・・・・・」

 

「あなたには、人の心があるじゃない!! 時間がなくても、やることがあっても、人を思いやる心があるはず!! どうして、あなたは自分のために生きないの!!??」

 

「・・・・・・・・・」

 

中島先生はかすみの背後から叫ぶようにそう訴える。かすみは再び足を止めると振り向く。

 

「・・・・・・バカを言うな。私は人間じゃないんだぞ。人の心なんか持ち合わせているもんか!!」

 

「関係ないわよ!! 人間じゃないとか!! あなたには、人を慈しむ心があるじゃない!! 今だってのどかちゃんのために動こうとしているじゃない!! あなたが何を考えているかわからないけれど、自分のために生きない生き方なんて、幸せじゃないでしょ・・・!!??」

 

かすみがそう否定すると、中島先生はそう反論する。きっとかすみは自分を犠牲にしようとしている。相手のことばかり考える生き方なんて、自分が幸せじゃないと・・・・・・。

 

その言葉を聞いたかすみは両手をギュッと握りしめる。

 

「私は・・・のどかのために生きるのが幸せだ。それが私の全てなんだ!! 他の生き方なんか、今更選べるか!!!!」

 

「あっ・・・・・・!?」

 

かすみは声をそう張り上げると、そのまま歩き去っていく。

 

「あなたは・・・・・・どうして・・・・・・?」

 

中島先生はそんなかすみの背中を寂しそうに見つめていた。

 

「・・・・・・ダメよ。自分がどうでもいいなんて生き方は・・・・・・!!」

 

中島先生は首を振りながらそう呟く。自分の担当だったしんらのことを思い出す。

 

自分が勤めていた病院でも、そんな患者はいくらでも見てきた。だから、かすみを見て、のどかのために動いているとはいえ、あの子だけがどうでもいいなんて考えはダメだと考えたのだ。

 

中島先生は再びかすみの後を追っていく。

 

「ついてくるなといっただろ!!」

 

「嫌よ!! あなたのことを放ってなんかおけない!!」

 

「構ったって私は考えを変えないぞ!! 帰れ!!」

 

「嫌!! 私はついていくからね。あなたがなんと言おうと!!」

 

「っ・・・・・・ふん!!」

 

かすみと中島先生は言い合いながらも、すこやか山の麓へと降りていく。かすみはこれ以上言っても無駄だと判断したのか諦めて足を早める。

 

「ラテちゃん・・・・・・のどかちゃん・・・・・・みんな・・・・・・」

 

中島先生はそんな中でもこの場にいないラテ、そしてプリキュアとして戦うのどかを心配する。

 

「・・・・・・のどか、私はここにいるぞ」

 

かすみは心が乱れていくのを感じながら、どこかにいるのどかにそう呟いたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第143話「苦鳴」

お待たせしました、前回の続きです。
ギガビョーゲン、メガビョーゲンに吹き飛ばされてしまったプリキュアたちは・・・・・・。


 

「のどか!! のどかぁ!! のどか、起きるラビ!!」

 

「うっ・・・・・・うぅぅぅ・・・・・・!! こ、ここは・・・・・・」

 

ラビリンの呼びかけによって、のどかは意識を取り戻した。辺りを見渡してみると、そこは森の中であった。

 

「ラビリンたち、ギガビョーゲンの攻撃で遠くまでぶっ飛ばされちゃったラビ!!」

 

「あっ、そうだったね・・・・・・」

 

ラビリンに言われて状況を理解するのどか。

 

「っ・・・ちゆちゃんとひなたちゃんは・・・・・・!?」

 

「二人ともどこか別の場所にぶっ飛ばされちゃったラビ・・・・・・」

 

「そ・・・そう・・・・・・」

 

のどかがそう尋ねると、ラビリンは元気のなさそうな声で呟き、のどかはそれを聞いて顔を俯かせる。

 

「急いで二人を探しに行くラビ!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

「? のどか・・・どうしたラビ??」

 

ラビリンはちゆとひなたの二人を探そうと先に行こうとするが、のどかは座り込んだまま動こうとしなかった。

 

「私、どうかしちゃったのかな・・・・・・」

 

「ラビ・・・・・・?」

 

「さっきだって、エレメントさんの力を使おうとして出なかったし・・・・・・」

 

のどかは先ほどのギガビョーゲンの戦いで、エレメントさんの力を使えなかったことが気になっていた。

 

「もしかして・・・これもかすみが関係してるラビ・・・?」

 

「っ・・・かすみちゃんがそんなことするはず・・・!!!!」

 

「でも、前もかすみやカスミーナと戦った時もそうなってたラビ・・・完全には否定できないラビ・・・・・・」

 

「うぅぅぅ・・・・・・」

 

ラビリンがなんとなくそう発すると、のどかは否定しようとするが、ラビリンに思い当たることを言われ、のどかは否定できなかった。

 

「でも・・・今はそんなことで落ち込んでいる場合じゃないラビ!! ちゆとひなたの二人を探すラビ!!」

 

「っ・・・・・・・・・」

 

「のどかぁ・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

メガビョーゲンとギガビョーゲンが暴れている以上、ここで待っているわけには行かないラビリンはなんとかのどかを奮い立たせるような言葉を発し、その懇願の言葉にのどかは辛そうな表情をしながらも立ち上がって一緒に進んでいく。

 

一方、その頃・・・・・・・・・。

 

「うっ・・・ちゆ・・・・・・大丈夫ペエ・・・・・・?」

 

「うん・・・・・・なんとか・・・・・・」

 

森の中でありながら別の場所に吹き飛ばされたペギタンとちゆはボロボロになりながらも、お互いの無事を確認し合う。

 

「ここは・・・・・・すこやか山の中ね。私たち、そんな遠いところまで飛ばされたのかしら?」

 

ちゆは辺りを見渡して、その場所をすぐに把握する。

 

「とりあえず、みんなを探すペエ・・・・・・!!」

 

「そうね・・・・・・うっ・・・・・・」

 

ペギタンの言葉に同調したちゆはそう返事をすると、なんとか立ち上がって森の中を歩いて進もうとする。

 

「ひなた・・・・・・無事か・・・・・・?」

 

「体痛いけど・・・大丈夫だよ・・・・・・ぐっ・・・・・・!!」

 

ニャトランは気にもたれかかったひなたにそう言い、お互いの無事を確認するが、すでにボロボロで特にひなたは右肩を抑えながら痛みに顔を顰める。

 

「おい、怪我してんのかよ・・・!?」

 

「だ、大丈夫・・・・・・怪我してるだけだから・・・・・・」

 

「大丈夫じゃねぇよ!! そんなの!! えっと・・・・・・!!」

 

ひなたは心配させないように言っているのが、ニャトランには丸分かりだった。ニャトランは何か傷を治療できるものを探そうとするが、ここは森の中・・・・・・そんなものが見つかるわけがない。

 

「ニャトラン・・・ありがとう・・・・・・心配してくれてるんだよね・・・・・・」

 

「当たり前だろ!! ひなたは俺の大事なパートナーなんだからよぉ!!」

 

「だったら・・・このハンカチ、千切ってもいいから傷を結んでよ・・・お気に入りだったけど、言ってられないもんね・・・お願い・・・・・・」

 

「っ・・・・・・わかった・・・・・・」

 

ひなたはポケットからハンカチを取り出してニャトランに差し出しながらそう言うと、ニャトランはハンカチを手で掴んでひなたと一緒に引っ張って細く千切った。そして、ニャトランがその切れ端を使って、抑えていた腕を結んで応急処置をした。

 

「ありがとう・・・ニャトラン・・・・・・」

 

「少しは良くなったか?」

 

「うん!! じゃあ、のどかっちとちゆちーを探しに行こう!!」

 

「そうだな!!」

 

ニャトランはひなたの手を掴んで彼女を立たせ、二人で一緒にのどかとちゆを探すべく歩き出すのであった。

 

一方、その頃・・・・・・・・・。

 

「うっ・・・・・・メガビョーゲンがあんなに強いとは・・・・・・ビョーゲンズの邪悪な力が入ったせいかもしれませんが・・・・・・」

 

同じようにメガビョーゲンに吹き飛ばされてしまったアスミはボロボロになりながらも、森の中を彷徨っていた。

 

すると・・・・・・・・・。

 

「クゥ〜ン・・・・・・ウゥ〜ン・・・・・・」

 

「っ!! ラテ!!」

 

体調が悪そうなラテが同じように歩いているのを見つけたアスミはすぐに駆け寄る。

 

「クゥ〜ン・・・クゥ〜ン・・・・・・」

 

「ラテ、先生と一緒にいたのではなかったのですか・・・・・・!?」

 

「クゥ〜ン・・・ウゥ〜ン・・・・・・」

 

アスミに抱き抱えられたラテは、アスミに何かを訴えるかのように弱々しく鳴いていた。

 

「何か言いたげですね・・・・・・?」

 

「ウゥ〜ン・・・・・・ウゥ〜ン・・・・・・」

 

アスミはラテのその様子から何かを察し、聴診器を取り出すとラテを診察する。

 

(先生が、かすみに攫われたラテ・・・・・・)

 

「っ!? かすみさんが、先生を・・・・・・!?」

 

先生はかすみによって攫われたことを知り、アスミはその事実に驚きつつも虚空を見つめる。

 

「では、今回のこの騒動も・・・かすみさんが・・・・・・?」

 

のどかから聞かされた夢の話も相まって、この事件はかすみが起こしたものであるという信じたくない事実を察してしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「のどか・・・・・・もう少しラビ・・・・・・!!」

 

「ま・・・待って・・・少し・・・休ませて・・・・・・!!」

 

のどかとラビリンは大きく開けた展望台へと向かっていたが、のどかは完全に息を荒くして歩みがあまり進んでいなかった。

 

「のどか、頑張るラビ!! あと少しラビ!!」

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・本当に、おかしいなぁ・・・・・・ランニングで、体力を・・・つけてるはずなのに・・・・・・!!」

 

のどかはランニングをしているはずなのに、体力が衰えていることを気にしていた。

 

「これも・・・かすみが原因ラビ・・・・・・?」

 

「っ、やめてよっ、ラビリン!! 何でもかんでもかすみちゃんのせいにしないで!!」

 

「っ・・・ご、ごめんなさいラビ・・・・・・」

 

ラビリンは思い当たる節を呟くと、のどかは珍しく怒った声で叫び、ラビリンは申し訳なさそうに謝罪する。のどかには自分の調子の悪さがかすみの仕業だということを否定することができず、苛立ちが募っているようだった。

 

その後、のどかとラビリンは少し気まずい雰囲気を醸し出しながら、ゆっくりと展望台へと向かっていく。

 

「ちゆ、大丈夫ペエ・・・・・・?」

 

「大丈夫よ・・・・・・ありがとう、ペギタン」

 

ギガビョーゲンの攻撃のせいか、足を引きずりながら歩くちゆを心配するペギタンに、ちゆは微笑んでそう答える。

 

「僕たち、なんで展望台に向かってるペエ?」

 

「二人がすこやか山にいるんだったら、のどかもひなたもそこに向かうはずよ。あそこは広いから、二人のいるところもわかりやすいしね」

 

ちゆとペギタンはそんな話をしながら展望台へと向かっていく。

 

「ひなた・・・・・・怪我大丈夫か・・・・・・?」

 

「もぉ〜、ニャトランったら心配しすぎ!! 全然平気だよ!! ニャトランが応急処置してくれたおかげだよ〜!!」

 

ニャトランはひなたを心配していたが、ひなたはいつもの明るい調子で元気さをアピールする。

 

「俺たち、どこ向かってんだ・・・・・・?」

 

「ん〜・・・とりあえず高いところに行けば、見えるのかなぁ〜って思ってさ・・・・・・そこに行けばみんないるじゃん!って・・・・・・感じ?」

 

「なんだよ・・・・・・それ・・・・・・」

 

ひなたの話すことにニャトランが呆れながらも、二人はとりあえず高いところに向かっていく。

 

そして・・・・・・・・・。

 

「あっ、みんなぁ〜!!」

 

「のどか!! ひなた!!」

 

すこやか山の展望台にのどか、ちゆ、ひなたの三人が集合し、合流することができた。

 

「みんな、無事でよかったペエ・・・!!」

 

「またぶっ飛ばされた時にはどうなるかと思ったぜ・・・!!」

 

ペギタンとニャトランはそう話しながらお互いの無事を確かめ合うが・・・・・・。

 

「っ・・・・・・・・・」

 

「うぅぅ・・・・・・・・・」

 

のどかは辛そうな表情を浮かべていて、ラビリンは泣きそうな表情をしていて気まずい雰囲気だった。

 

「二人とも、どうしたの・・・・・・?」

 

「なんか・・・雰囲気悪いけど・・・・・・?」

 

「っ・・・な、なんでもないラビ・・・・・・」

 

「うん、なんでもないよ・・・・・・」

 

ちゆとひなたは二人の様子が明らかにおかしいと思い尋ねるが、ラビリンとのどかは暗い声でそう誤魔化した。

 

「みなさーん!!」

 

「「「っ!!」」」

 

と、そこへラテを抱えたアスミも合流して、三人の方へと近づいていく。

 

「アスミン!!」

 

ひなたとちゆはアスミの姿を見ると、彼女へと近づく。

 

「アスミも、ここに飛ばされてきたの・・・・・・??」

 

「はい・・・・・・強くなったメガビョーゲンに吹き飛ばされてしまいました・・・・・・」

 

「っ!! こっちも小さなビョーゲンズが飛んできて、ギガビョーゲンが強くなったわ・・・!!」

 

「なんか顔つきも悪〜い感じになったよ・・・!!」

 

「っ・・・こちらもです!!」

 

メガビョーゲンが強化され、ギガビョーゲンが強化された・・・・・・お互いにナノビョーゲンが現れて、同じ現象に陥ったことを三人は話していた。

 

「ビョーゲンズの誰かが放った可能性もあるペエ・・・・・・!!」

 

「誰かって誰だよ・・・??」

 

「それは・・・・・・わからないペエ・・・・・・」

 

ペギタンはそう推測するが、それがわからずに話し方に勢いがなくなる。

 

「・・・・・・・・・かすみラビ」

 

「「「「っ・・・!!」」」」

 

「・・・・・・ラビリン」

 

今まで黙っていたラビリンが辛そうな声でそう言うと、みんなは驚く。のどかは震えた声でラビリンに声をかける。

 

「本当は認めたくないけど・・・・・・きっとかすみがやったに違いないラビ・・・・・・」

 

「ラビリン・・・・・・!!」

 

「のどかが夢にかすみを見てからおかしくなったラビ・・・・・・だから、かすみが関わっているに違いないラビ!!」

 

「ラビリンっ!!!!」

 

「っ・・・・・・・・・」

 

のどかの静止する声を聞かずにラビリンは話し始め、のどかは声を荒げた。

 

「やめてよ・・・・・・そんなこと言うの・・・・・・かすみちゃんは私の、みんなの大事な友達なんだよ・・・・・・ラビリンにとっても、大事な友達でしょ・・・・・・かすみちゃんのせいだとか・・・・・・かすみちゃんが悪いみたいなこと・・・・・・言わないでよぉ・・・・・・」

 

「っ・・・・・・のどかぁ・・・・・・」

 

のどかはペタンと地面に膝をつきながら泣きそうな声でそう訴え、ラビリンも瞳を潤ませながら泣きそうな声を出す。

 

「ラビリンだって・・・本当はかすみがやったなんて、信じたくないラビ・・・・・・でも、どう考えたって・・・考えたって・・・かすみがやってないっていうのが見つからないラビ・・・・・・のどかのことや・・・かすみのことで・・・・・・どう言えばいいかわからずに苦しかったラビ・・・・・・!!!!」

 

「っ・・・ラビリン・・・・・・・・・」

 

ラビリンも涙を流しながら苦しい心情を吐露し、のどかもそんなラビリンに瞳を潤ませる。

 

「ラビリンは・・・・・・ラビリン、は・・・・・・!!」

 

「ラビリン!!!!」

 

ラビリンは言葉を詰まらせているのか言葉が出ず、それを見たのどかが駆け寄ってラビリンを抱き締める。

 

「ごめん・・・・・・ごめんね・・・・・・ラビリンの気持ち・・・・・・考えてなかった・・・・・・ラビリンも辛かったんだね・・・・・・なのに、あんなに怒鳴ったりなんかして・・・・・・ごめんね・・・・・・」

 

「ラビリンも・・・のどかの気持ちも考えずに言って・・・・・・ごめんなさいラビ・・・・・・!!!!」

 

のどかとラビリンはお互いに涙を流しながら抱き合い、謝罪し合った。

 

「私も・・・たとえかすみがやっていたとしても、きっと理由があるのに違いないわ。だって、あんなに優しいかすみが悪さでこんなことをするなんて思えないもの・・・・・・」

 

「あたしだって、かすみっちが自分から蝕みたいなんて、思ってないと思うし・・・・・・かすみっちは大切な友達だもん!!」

 

「僕もかすみが意図してやったなんて認めたくないペエ!!」

 

「かすみは大事な仲間だもんな!! 俺たちと戦ってたあいつが、そんなことを望むわけがねぇよな!!」

 

「私も、かすみさんを信じます。かすみさんが避けていた私を信じてくれていたように、私も友達と認めてくださったかすみさんを、私は信じます!!」

 

「ワン!!」

 

ちゆたちを始めとした仲間たちも、仲間であるかすみを信じることにした。かすみは自分たちの大切な友達、そんな友達が、誰よりも優しい友達が、そんなことを悪意でするわけがないと、そう思ったのだ。

 

「さて、かすみを信じるって決めたところで、これからどうする・・・・・・?」

 

「まずは、メガビョーゲンとギガビョーゲンを止めないとペエ・・・・・・!!」

 

「メガビョーゲンなら楽勝じゃない? アースが苦戦してるんだったら、あたしたちが力を合わせれば・・・・・・!!」

 

「でも、ギガビョーゲンの方も放ってはおけないわ・・・・・・」

 

「ギガビョーゲンの方は私たちで止められるか・・・・・・心配です・・・・・・」

 

ニャトランがそう言うも、ちゆ、ひなた、アスミの三人は意見が分かれていて、今後の行動を決めあぐねていた。

 

「二体とも相手をしよう!!」

 

「「「っ!!」」」

 

「まず、このすこやか山から近いのはどこかな? その近くにいる方から浄化していこう!! ここで迷ってたら、病気が広がっちゃう。だから、迷うくらいなら行こうよ!!」

 

「・・・・・・そうね。ここで考えてるくらいなら、まずは行動ね」

 

のどかがそう言うと、ちゆは納得したように笑みを浮かべる。

 

「じゃあ、まずはラテ様にメガビョーゲン、ギガビョーゲンがどこに行ったのか聞いてみるラビ!!」

 

ラビリンの言葉にみんなは頷くと、聴診器を取り出してラテを診察する。

 

「ラテ・・・・・・体調が悪いのにごめんね・・・・・・。メガビョーゲンとギガビョーゲンの居場所はわかる・・・・・・?」

 

(はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・)

 

のどかはそう問いかけるが、ラテは体調が悪化しているのかのどかの声に反応を返さない。

 

「ラテ様の症状が重くなってるラビ!?」

 

「これはちょっとマズいんじゃねぇか!?」

 

ラテの症状がさらに重くなっていることに、慌て出すラビリンとニャトラン。

 

「ごめんね、ラテ・・・お願い・・・・・・!! 苦しいのはわかるけど、私たちはこの街も、みんなも、かすみちゃんも救いたい・・・!! だから、教えて!! メガビョーゲンと、ギガビョーゲンの場所を・・・・・・!!」

 

(はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・)

 

のどかがラテに申し訳ないと思いながらそう訴えると、ラテは薄目を開けてのどかの顔を見ると力を振り絞ってメガビョーゲン、ギガビョーゲンの場所を探るためか目を瞑り始める。

 

そして、ラテがその方向に視線を向ける。

 

(・・・先生と、電車さんは、あっちの方で・・・泣いてるラテ・・・・・・)

 

「あっちって・・・・・・?」

 

「二体とも病院の方じゃないかしら・・・・・・!?」

 

「急いで向かおうよ!!」

 

メガビョーゲンとギガビョーゲンはラテの視線の方向・・・要するに同時に病院の方角へと向かっていることがわかった4人は向かおうとする。

 

ーーーーのどか。

 

「っ!!??」

 

のどかの頭の中に声が響いてくる。聞いたことのある声、のどかは辺りを見渡し始める。

 

「のどか、どうしたのですか・・・・・・?」

 

「何か・・・声が聞こえて・・・・・・」

 

様子がおかしいことに気づいたアスミに問われるとのどかはそう答える。他の三人は辺りを見渡し、声を聞こうとするが・・・・・・。

 

「何にも、聞こえないけど・・・・・・?」

 

「え・・・・・・?」

 

ひなたがそう答えて、のどかが理解できないでいると・・・・・・。

 

ーーーーのどか。

 

「っ!! ほら、聞こえた・・・かすみちゃんの声・・・!!!!」

 

「・・・・・・ごめんなさい、何も聞こえなかったわ」

 

「嘘・・・・・・?」

 

「私も・・・・・・聞こえませんでした・・・・・・」

 

のどかにまた呼ぶ声が響いてくる。のどかはそう訴えるが、ちゆは首を振りながら答えた。

 

ちゆちゃんたちには聞こえてない・・・・・・? もしかして、私にしか聞こえてないの・・・・・・?

 

のどかがそう考えていると・・・・・・。

 

ーーーーのどか・・・こっちだ・・・・・・。

 

「っ・・・・・・!!」

 

ーーーーこっち・・・・・・。

 

のどかを呼ぶ声がまた聞こえ、のどかはきょろきょろと見渡すと森の中に薄っすらと何が見えた。

 

「っ、かすみちゃん・・・・・・!?」

 

「「「っ!?」」」

 

のどかは遠目からでも黒いフードを深く被っていることから、夢の中で話しかけてきた人物・・・・・・すなわちかすみであることを視認する。のどかが呟いた瞬間、ちゆたちは驚いてのどかが向いている方向を振り向いた。

 

「かすみ!!」

 

「かすみっち!!」

 

「かすみさん!!」

 

三人は叫ぶように声を上げるとかすみはフード越しながらも、薄く笑みを浮かべてそのまま森の中へと入っていく。

 

ーーーー私に会いに来てくれ・・・・・・のどか・・・・・・。

 

「っ・・・・・・待って!! かすみちゃん!!」

 

のどかの頭の中に再び声を通すと、のどかの叫び声を待たずにかすみは霧のように消えて行った。

 

「かすみさん、何を考えているのでしょう・・・・・・?」

 

「少なくとも私たちに何か会おうとしているのは確かね・・・・・・」

 

「ペエ・・・・・・」

 

「だったら、あんな風に消えないでこっち来ればいいじゃん!! なんで来ないのか・・・わからないよ・・・・・・」

 

「そうだぜ!! 俺たちは友達じゃねぇのかよ・・・!?」

 

ちゆたちはかすみの様子を見て、そんなことを考えていた。

 

「・・・・・・追わなきゃ」

 

「「「っ・・・・・・」」」

 

と、のどかがボソリと呟いたことに他の三人が反応する。

 

「かすみちゃんが助けを求めてるのかも・・・・・・私が行かないと・・・・・・!!」

 

「待ってよ!! のどかっち!! メガビョーゲンとギガビョーゲンはどうするの!!?? このままだとあたしたちの街が・・・!!」

 

「でも、かすみちゃんを・・・・・・放っておけないよ・・・・・・!!!!」

 

のどかはかすみの元に行こうとするが、ひなたに引き止められる。かすみのことは気になるが、今はメガビョーゲンとギガビョーゲンを止めなければ大変なことになる。のどかもそれは分かっているのだが、苦しんでいる友人を放っておくことはできずに、迷っていた。

 

「・・・・・・のどかはかすみを追って」

 

「ちゆちー!?」

 

「私たちはかすみのために動いているんだもの。のどかがかすみが助けを求めてるかもしれないって感じたなら、地球のお医者さんとしてかすみを助けてあげて。私たちのことは心配しないでいいから」

 

「ちゆちゃん・・・・・・」

 

ひなたは驚いていたが、ちゆはのどかにかすみの元へ向かうように言った。

 

「私も、のどかにはかすみを追って欲しいです。かすみさんと仲直りして、また一緒にすこやかまんじゅうを一緒に食べたいです!!」

 

アスミは少し欲があったが、かすみに対する思いを吐露した。

 

「・・・・・・そっか・・・そうだね・・・・・・かすみっちが苦しんでるなら・・・助けに行かなきゃだね・・・・・・」

 

ひなたはちゆやアスミの思いを察し、のどかの両手を取る。

 

「っ! ひなたちゃん・・・・・・」

 

「のどかっち・・・かすみっちを絶対に連れ戻してよ。新作のメニュー、またお姉と考えてるんだ・・・・・・かすみっちにも食べてもらいたい・・・!! だから・・・・・・早く行ってよ!! メガビョーゲンとギガビョーゲンはあたしたちに任せて!!」

 

「・・・・・・ありがとう、みんな!!」

 

ひなたはのどかを引き止めるのを思いとどまり、のどかは激励の言葉にお礼を言った。

 

「ラビリン、行こう!!」

 

「もちろんラビ!!」

 

のどかはラビリンに声をかけると一緒に、かすみがいた方向へと駆け出していく。

 

「気をつけてね!! のどかっち〜!!」

 

ひなたは手を振りながら、三人はかすみの元に向かうのどかを見送った。

 

「・・・・・・私たちも、行きましょう」

 

「はい!!」

 

「うん!!」

 

ちゆたちはメガビョーゲン、ギガビョーゲンを止めるべく病院へと駆け出して行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃・・・・・・のどかの姿を少し視認したかすみは森の中を歩いていた。

 

「・・・・・・のどか、私を止めにきてくれるだろうか」

 

かすみはのどかのことを思いながらそう呟いていた。

 

「のどかちゃんには、会わないの・・・・・・?」

 

「っ・・・・・・!!」

 

そんな彼女の後ろを無理やり着いて来ていた中島先生がそう尋ねた。

 

「・・・・・・お前には関係ない」

 

「関係ないことないわ。私だってのどかちゃんやあなたのために行動しているもの・・・・・・」

 

「私は、そんなこと・・・頼んでないっ・・・!!」

 

かすみは中島先生の言葉に素っ気なく返し、足を早め始める。

 

「なんで・・・・・・!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

「なんで、のどかちゃんに会ってあげないの!? のどかちゃんはあなたに会いたがってるじゃない!! なんで、あなたがのどかちゃんに会うために街にひどいことをしなきゃいけないのよ!!??」

 

中島先生はかすみにそう訴えかけた。その表情は誰から見ても悲しそうな表情だった。

 

「・・・・・・言っただろ、私はビョーゲンズだ。のどかがプリキュアである以上、こうしなくちゃいけないんだ・・・・・・!!」

 

「なんで、あなたが・・・・・・そんなことを・・・・・・!?」

 

かすみは体を震わせながらそう言う。本当はこんなことをやりたくないというのを中島先生は感じながらそう言った。

 

「・・・・・・私がやらなきゃ、のどかは救えないんだ。私が会いにいけば、きっとのどかは私に優しくしてくれるだろう。でも、それじゃダメなんだ。それでは二人とも幸せにはならない。だから、私がこうやるしかないんだ・・・・・・!! お前にはわからないだろうけど・・・・・・」

 

「わかるわけないじゃない!! ずっと一緒じゃなくてもいい!! どこかに行って会えなくてもいい!!だから、のどかちゃんたちと一緒に生きればいいじゃない!! あなただけが不幸になるなんてこと・・・・・・そんなの、悲しすぎるわ・・・・・・!!」

 

かすみはそう胸の内を中島先生に吐露するも、中島先生はそう叫ぶ。すると、かすみは中島先生の元へと歩み寄る。

 

「・・・・・・私のこと心配してくれているのか・・・・・・お前は優しいんだな・・・・・・ありがとう」

 

「あなた・・・・・・あっ・・・!?」

 

かすみは口元に微笑を浮かべながらそう言う。中島先生が何かを言おうとした時、彼女の腹部に衝撃と痛みを感じた。かすみが中島先生にパンチをしたのだ。

 

中島先生はそのまま前のめりに倒れ始め、それをかすみが受け止める。

 

「・・・・・・でも、お前をこれ以上巻き込むわけにはいかない」

 

かすみは意識を失っている中島先生にそう呟くと彼女の体を抱っこして担ぎ、近くにある木のそばに座らせるように寝かせる。

 

その時だった・・・・・・・・・。

 

かすみちゃーん!!!!!!

 

どこかでのどかの自分を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「のどか・・・・・・私は嬉しいよ。お前がちゃんと探しに来てくれて」

 

かすみはその場から立ち上がって、虚空を見つめながら微笑む。

 

「でも・・・・・・私はここでは会わないよ。私を・・・・・・見つけてくれ・・・・・・」

 

かすみは寂しさを感じさせるようにそう呟くと中島先生をその場に置いたまま、立ち去っていくのであった。

 

「やはりかすみは面白いな・・・・・・私の常に予想を超えたような動きをしてくれる・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

その様子を上空から見ていたクライナーは不敵な笑みを浮かべながらそう言い、クルシーナは何とも言えないような表情をしている。

 

「どうした? クルシーナ」

 

「・・・・・・ここで何かを思ってたって、アンタには言わないわよ」

 

「ふふふふ・・・・・・冷たいな・・・私の生みの親は・・・・・・」

 

黙っている様子のクルシーナに、クライナーが問いかけるとクルシーナは素っ気なく返した。

 

(かすみ・・・・・・本当にアンタ消える気なの・・・・・・??)

 

クルシーナはかすみが何をしたいのかを察しており、それを不愉快そうに見つめていたのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。