マジカルパールと愉快なマスター (マジカルパール)
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助っ人は屋上で格好つけるもの

 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン――彼女はどんな運命のいたずらか、性格が一癖も二癖もありそうなヤッベえステッキのマジカルルビーにその魔法少女たる資質(ルビー好みのローティーンな恋する少女)を見初められ、めでたく非日常(まほうしょうじょのせかい)に引きずり込まれてしまった。

 

 そんないたいけな彼女はルビーの前所有者のあかいあくまに連れられ、クラスカードを集めるべく鏡面世界へと足を運んでいた。

 そこでは眼帯で両目を覆った長い髪の女性が切り札っぽいおっかなそうな攻撃をイリヤへと繰り出そうとしていたその時――

 

「クラスカード『ランサー』。限定展開(インクルード)

 

 まったく聞き覚えの無い声がイリヤの後ろから聞こえて来ていた。その声の主はそのまま。

 

刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルク)!!」

 

 赤い槍を敵に対して突き刺そうとしている。しかし――

 

「えっ……!? 外れた!?」

 

 声の主はありえないと、何かの間違いだと言わんばかりのそんな様子であった。

 とはいえ、この槍は一部の平行世界では『当たらない必中の槍』とか言われてる代物だったりする。特に月の方とかで。

 そんな話題はさておいて、ただいま絶賛大ピンチ中となってしまった。戦いに慣れていないイリヤに謎の助っ人の攻撃は当たらない。このままでは負け確定。そうなってはならないとばかりに逃げ回っているイリヤへルビーが何やら思い出したように。

 

「これは困りましたね~。さっきのはサファイアちゃんだとは思いますが、パールくんも助けに来てくれれば良いのですが……」

 

「パールって誰!? それよりもどうすれば良いの!?」

 

「パールくんはわたしやサファイアちゃんの弟のステッキです。一緒に日本へ来ましたが、あの子だけマスターがいないので、誰かをスカウトしてくると言って別れたままでして」

 

「誰でもいいから早く何とかしてえええええ!!」

 

――と、イリヤの必死な叫びが天へと届いたのか、どこからともなく眼帯の女性へと向かって中華風な意匠の剣が放たれ、その切先が地面へと突き刺さると。

 

「か弱い少女を追い掛け回して楽しいのかい? そんな趣味はいただけないな」

 

 それは若い男の声だった。その場にいた全員、イリヤや槍を持っている少女、そして凛やルヴィアまでその声の主――学校の屋上に佇み、白を基調としたスーツにマントを羽織った人物。そして長い黒髪をツインテールにしている。

 何よりもその人物は何故か。

 

「何で……仮面?」

 

「中国の様なデザインですが……、これは? というかその声は……パールくん!」

 

 ルビーが言うには、謎の助っ人は彼女の弟であるらしい。何故かポーズを決めるパールとか呼ばれていた人物はそのまま。

 

「とうっ!!」

 

 そんな掛け声とともに、屋上から飛び降りているが……。

 

「ちょ……!? 何よ!? 何で飛び降りてるのよ!? 地面にぶつか――」

 

「心配はいらないさ。こう見えても物理保護を最大にしているからね。たとえ、パラシュート無しでスカイダイビングしても無傷で済むから安心するといい」

 

 飛び降りた謎の人物からは先ほどの男性の声とは他に若い女性の声まで聞こえている。女性の方はかなり狼狽えていはいるが、パールと思しき声が彼女へと語り掛けている。

 

「そこで華麗に着地だ! その後は――」

 

「無理に決まってるでしょ!? ちょ……あの眼帯の変なのの所に落ち――」

 

仮面の人物の悲痛な叫びを他所に、助っ人ぽい人物は敵へとフライングボディーアタックをかましていた。双方、ピクリとも動かなくなっているが、またしても男の声が響き。

 

「この隙に、さっきの槍を叩き込むんだ! いくらなんでも動かない敵には外れようがない!!」

 

「は……はい!」

 

 黒髪で紫を基調とした衣服を纏った少女は言われるがまま赤い槍を敵へと叩き込み、一撃を受けた相手はライダーのクラスカードへとその姿を変えていた。

 

 

 

 

 

 

 その後、助けに来た謎の人物に対してお礼を言おうとイリヤが近づくと――

 

「あの……、ありがとうございま――」

 

 イリヤは自分の窮地を救ってくれた人物に対して満面の笑みを見せていた。しかし、礼を言われた当の本人は何故か自分が付けていた仮面を取り外し、地面へと叩きつけていたのだ。

 

「痛いな。ここは謎の人物らしく、名乗りもせずに”アディオス”とか言うのが日本の様式美だと思っていたが……」

 

 ぶん投げられた仮面はルビーやサファイアの様なステッキと先程の敵が変化したのと似たようなカードへと別れ、ステッキの方は羽をぱたぱたとさせながら自身を地面へとキスさせた人間へと近づいている。

そんな様子を――

 

「やっぱりパールくんでしたか! いや~危ない所でした」

 

「パールくん、お久しぶりです。無事にマスターが見つかったようですね」

 

 どうやら、男性の声を発しているステッキはさっきルビーが語っていた弟のパールで間違いないらしい。それよりも問題なのは。

 

「あんた達があのアホ杖の知り合いなのね!? 何よこれは!? 何なのよ!?」

 

 パールのマスターと思しき人物が凄まじく殺気立ちながら、ルビーを握りつぶさんとする勢いで迫っていたのだ。

 

「まあまあ、落ち着くんだ、ヒナコ。こうして仲間と合流できたのだから、少し話して親睦を深めるといい」

 

「誰がこんなイロモノの仲間よ!?」

 

 興奮しきっているヒナコと呼ばれた高校生くらいの少女だったが、パールには気になる事があったらしい。イリヤの方を向きながら。

 

「ところで姉さん、何で凛さんやルヴィアさんじゃなく、その可愛らしいお嬢さんがマスターになっているのかな? 私としては、お二人と年齢の近くて気の合いそうな人をマスターにしたのだが……」

 

「ええ……話せば長くなるのですが、凛さんのあまりの傍若無人っぷりに耐え切れずにお暇を頂き、(私好みの)新しいマスターであるイリヤさんと契約をさせて貰いました。やっぱり魔法少女はローティーンですよ!!」

 

「……あれは、ほとんど無理矢理だった気が……」

 

「それよりもパールくん、そちらの方がマスターですね? ってルビーちゃん握りつぶされてしまいます! 放してください!!」

 

 鬼のような形相のヒナコだったが、自身が契約した時の事を語りだし――

 

「ええ……、日課の項羽様の小説や漫画を読んでいた時だったわ」

 

 何で項羽に様をつけているとか、彼の小説や漫画を読むのが日課のなのかとツッコみたくなった面々だったが、そのまま話に聞き入っている。

 

「どこからともなく、そのアホ杖が私の部屋に現れて、”君はアレだろ? アレなんだろ?”って言ってきて、気が付いたら契約させられていたわよ!? 大体、アレって何!? 私はアレでもなければソレでもないんだから!!」

 

 話を聞く限りでは、イリヤと同じく無茶苦茶な契約方法だったらしく、ヒナコはかなーり憤慨している様だった。

 

「パールくん流石です! こんな面白……ではなく素晴らしいマスターを見つけて来るとは!! ローティーンではないのは残念ですが、それを補って余りある(面白い)輝きを感じます」

 

「今、面白いって言いかけたわね!? 全然面白くないわよ!」

 

「ともあれ、これからは共に戦っていく仲間なのだから、仲良くしていこう。そちらのお嬢さん方にも改めて自己紹介を。私はカレイドステッキのマジカルパール、マスターは芥ヒナコ。見ての通りローティーンではないが、よろしく」

 

 その自己紹介を聞き、ルビーとは違った意味で苦労しそうな性格のステッキだと、彼のマスターに同情を禁じえなかったイリヤであった。

 

 




人物紹介

マジカルパール
ルビーやサファイアの弟ともいえるステッキ。人格のモデルになっているのはクリプターのリーダーであるあの人。

芥ヒナコ
FGOと違いアレではない普通の女子高生。何の因果かパールのマスターに選ばれる。
彼女が転身した時の格好はヒナコがキリシュタリアの服を着ていると思ってください。


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