コードギアス Hope and blue sunrise (赤耳亀)
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SIDE Rock
episode1


巨大で、豪奢な調度品が多数置かれた王の城。その城の中にある、数多くの部屋の一室で、二人の男が会話をしていた。

 

「彼は眠ったよ、ナイトオブワン。」

 

フードを深く被り、その表情を見せない男が告げた。彼の声にはどこか幼さが残っている。

 

「眠っただと!?この非常事態に奴は何を…」

 

「君が思っている眠るという言葉とは意味が違うと思うけど…彼は自身が招いたこの状況に絶望し、死を望んだ。だが彼には私との契約がある。その契約を果たすまでは、死んで貰っては困るのだよ。」

 

フードの男の言葉に、もう一人の男が眉を潜める。

 

「だから、眠って貰った。彼が目覚めるに相応しい時代になるまで。いつ目覚めるかは、私にも分からない。」

 

「…だから俺は貴様のような魔術師を迎え入れるのは反対だったのだ。それに、俺は奴の騎士であると共に、友でもある。その俺に断りもなく勝手に眠らせるなど…」

 

反対の言葉を口にする男に、フードの男は唯一見えている口に微笑みを浮かべながら、一つの提案を行った。

 

「なら、君も私と契約して眠るかい?」

 

「…何?」

 

「君が彼の騎士として一生を彼に捧げたいと、友として彼と共にありたいと思うなら、私がそれを叶えてあげよう。彼が目覚めた時に君も目覚めるようにしておいてあげるよ。どうかな?」

 

フードの男の提案に、しばし思案を重ねる。そうして彼は、その提案を受け入れる決意をした。

 

「…いいだろう。俺はあくまで奴の騎士。ならば、奴の横に立って闘うのが俺の生きる道だ。」

 

「分かった。その契約を受諾しよう、ロック。」

 

フードの男はさらに笑みを深めると、右腕を彼の額に向けた。

 

 

 

 

___________________

 

 

 

 

 

 

「嚮主V.V.、実験体三号、ロックが逃げ出しました!」

 

V.V.と呼ばれた少年は、部下からの報告に驚きを隠せなかった。

 

「何っ…!?あの少年の記憶は消去している筈だよね?」

 

「そうなのですが…!しかし、突如として我々を振り切り…」

 

部下の言葉に、V.V.は少し考え込む。

 

「分かった。でも、彼で出来る実験は一通り終わっていたよね?なら、もう必用ないんじゃないかな?追跡や捕縛の為に事を大きくしすぎると、シャルルにバレかねないし…彼の事は諦めて、彼女の実験に注力しよう。まだ彼女は目覚めてすらいないことだしね。」

 

 

 

 

 

 

(ここはどこだ…俺は、一体…?)

 

意識が混濁したままフラフラと街を歩くロック。彼は自身の、ロックという名前以外は何も思い出せないまま宛もなくさ迷い続けていた。二日程何も口にしておらず、心身共に限界が近付いている事を理解してはいるが、所持金も全くないこの状況では打てる手立てがない。そんな状態のロックを後ろから、少し年の離れた姉妹と思われる二人の少女が普通に歩いて抜かしていった。

 

(成程、俺は既にまともに歩けてすらいないらしい。)

 

自分が思う以上に身体が限界を迎えているという事を知り、思わず笑みを浮かべるロック。彼の耳には、その姉妹の話し声が響いていた。

 

「だからアーニャ、私はそんな脚が丸出しになる服なんて恥ずかしくて着れないって。スカートですら自分には合わないと思ってるのに…」

 

「でも、カミラ姉さんには似合うと思う。」

 

「似合う似合わないじゃなくて、恥ずかしいんだっつーの。」

 

「そういう言葉遣い、良くない。」

 

談笑しながら少しずつ遠ざかっていく二人をロックはぼんやりと見つめていた。すると突然、彼女らの横に黒いバンが急停車し、その中から五人の男が現れる。

 

(あれは…?)

 

その光景を見ているロックの前で、男らは二人に手を伸ばす。

 

「オラッ!抵抗すんな!痛い目にあいたいのか!!」

 

「やめてっ!離してったら!」

 

事情は分からないが、どうやら人攫いらしい。そう考えたロックは最後の力を振り絞って彼女らの元へ駆け出す。

 

「せぁっ!!」

 

男らの手前で飛び上がり、二人同時に蹴り飛ばす。さらに一人の襟を右腕一本で掴むと、ビルの壁面に向けて思いっきり投げつけた。

 

「な、なんだこいつは!」

 

「し、知らねえ!とにかく、ずらかるぞ!」

 

残った二人の男は、倒れた男らを手早く回収して車で逃走した。ロックは二人の少女が無事であることを確認する為そちらに視線を向ける。

 

「あ、ありがとう。あなたは…」

 

言いかけたカミラの目の前で、ロックは意識を失って崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

「目が覚めたかい?ここは私の家で、私は君が救ってくれた姉妹の父、カーズ・アールストレイムという者だ。」

 

ロックが意識を取り戻した時、彼の目の前には体格のいい中年の男性が立っていた。彼が言うには、あの後意識を失ったロックを二人が家まで運んできたらしい。その情けない自分の姿を想像して、ロックは自嘲する。だがカーズはその様子に頓着する事無く言葉を続けた。

 

「最近貴族の子息が誘拐されて身代金を要求されるという事件が多発していたのは知っていたが、まさか自分の娘が被害に合うなど思ってもみなかった。君には本当に助けられたよ、ありがとう。」

 

そう言って頭を下げるカーズ。ロックは何と返答すればいいか分からず、迷った末に沈黙を選んだ。

 

「ところで、君の素性を聞いてもいいかな?君だけでなく、是非君の家にも礼がしたいのだが…」

 

「…いや、俺はその…実は、記憶がない。」

 

ロックの告白に、カーズは目を丸くして驚く。

 

「なんと…何も覚えていないのかね?」

 

「名前だけは…ロック、俺はロックという。」

 

「ロックか…もしや、棲家も思い出せないのかね?」

 

カーズの問いに、ロックはおずおずと頷く。

 

「分かった、君は娘の恩人だ。君さえ良ければ、ここに住むといい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

ロックがアールストレイム家に住まわせて貰うようになってから二年が経った。その間、カーズはロックの素性を手を尽くして調べてくれたが、捜索願いどころかIDさえ不明で、結局彼の要請で新たなIDが発行される事となった。それに合わせてファミリーネームもアールストレイム家の親族のものであるグルーバーを与えられている。次いで軍人であるカーズの伝手で、兵士としての仕事も手に入れた。しかし最も変わったことは、彼がアールストレイム家長女のカミラと結婚して独立した事である。そのカーズを訪ねて、ロックはアールストレイム家に戻っていた。

 

「ロック!」

 

彼の姿を見たアーニャが飛び付いてくる。それを受け止めたカーズはゆっくりと彼女の身体を降ろし、彼女の頭を強めに撫でた。

 

「アーニャ、また少し大きくなったな。」

 

「えー、1ヶ月前に会ったばかりなのにでそんなに伸びないよ。」

 

ロックの手によって頭が左右に揺られるが、それにも構わず笑顔を浮かべるアーニャ。その後ろから、彼女の母であるレイナも姿を現した。

 

「あらロック、久しぶりね。」

 

「邪魔している。カーズ…アールストレイム卿から話があると聞いて来たのだが…」

 

レイナは右手を奥に向けると、彼の言葉に返答する。

 

「書斎にいるわ。なんだかとても大事な話だそうだけど…話せる内容なら後で聞かせてちょうだいね。」

 

「分かった。」

 

ロックは二人の前を通り過ぎると、カーズの書斎へと向かった。

 

「入るぞ、カーズ。」

 

ノックもせずに書斎の扉を開けるロック。それに気を悪くした風もなく、カーズは笑顔で彼を迎え入れた。

 

「よく来てくれたな、ロック。カミラの体調はどうだ?」

 

「ああ、徐々に悪阻は治まってきているようだが…食べれるものが増えてきたのが救いだな。」

 

ロックの言葉を聞いて、カーズは少し安心したかのように一つ息を吐いた。それを見て、ロックは本題を切り出す。

 

「それより、話とはなんだ?」

 

「フム…君には感謝している。娘達だけでなく、戦場で私の命を三度も救ってくれた。私は軍人として無能だったが、君のような部下を、娘婿を持てた事は…私の人生の中で最高の出来事だ。」

 

彼の言葉に、ロックは出会った頃の事を思い出して苦笑し、言葉を返した。

 

「そう一方的な恩でもないと思うがな。」 

 

「いやいや、暇なときはこちらに顔を出してアーニャとも遊んでくれてもいるし、感謝してもしきれんよ。」

 

カーズはそこで一度言葉を切り、息を吐いてから言葉を続ける。

 

「だから、貴族として私は君に報いたい。とは言え、私にできることはこの程度だが…」

 

男が取り出したのは推薦状だった。それもナイトオブラウンズへの。

 

「…それはありがたいが、今ラウンズはようやく埋まったばかりでは?」

 

ロックは疑問を口にする。

 

「全ての席が埋まっている場合、ラウンズの誰かを指名して闘い、勝てば称号を奪うことが出来る。君ほどの男には、簡単な事かもしれんが…」

 

「成程…ではそこに、俺が指名する者の名前を書き加えておいてくれ。」

 

カーズは机からペンを取り出す。

 

「よかろう。誰を指名するのだ?」

 

「ナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタインだ。」

 

カーズの手が止まる。ナイトオブワンは名実共にラウンズ最強と言われ、彼に勝てるのは王妃マリアンヌだけと噂されている。そのマリアンヌも、既に亡くなってしまっているが。

 

「しかし、それは…」 

 

「なんとなくだが…ナイトオブワンという立場は俺に関わりがあった気がするんだ…だから、まずは記憶を取り戻すために、その立場を得たい。」

 

ロックは不遜な笑顔を浮かべながらカーズに伝えた。 

 

「…分かった。とにかく、一度これで推薦状を皇帝陛下のもとへお送りしておく。後はそれが通れば、期日の指定があるだろう。」

 

ナイトオブラウンズといえば、帝国最強の12人の騎士達だ。当然、各地の戦場へ出ている事が多く、本国へ呼び戻せるタイミングも限られてくる。その為、それに合わせて行うというのが通常の流れだ。

 

「了解した。感謝するよ、カーズ。いや、アールストレイム卿。」

 

「こちらこそ、君が帝国最強に勝つことを信じているよ。」

 

言葉を交わし、握手をする。二人はお互いを信じあったまま別れた。

 

 

 

 

 

「今帰った。」

 

ロックが自宅に戻ると、彼の妻であるカミラが玄関まで迎えに出てきた。

 

「おかえり、ロック。父様と会ってきたの?」

 

「ああ、そこでラウンズに推薦状を出してもらえることになった。」

 

「ラウンズって…ナイトオブラウンズ!?」

 

元軍学生であり、結婚した為に軍人にはならなかったものの首席で卒業したカミラは、ラウンズの格と強さを十分に知っている。彼らが出た戦場に、負けはないと言われる程なのだ。

 

「推薦が通れば、現ラウンズの誰かを指名して闘い、勝てば晴れてラウンズのメンバーとなる。あくまで通れば、だが。」

 

「…誰と闘うつもり?もしかして…?」

 

「ああ、ナイトオブワンを指名した。この称号は、俺の記憶にとって必要なものの気がするのだ。それに、単純に帝国最強と闘ってみたい。」

 

ロックの言葉に、カミラは視線を下げる。

 

「…すごいね。パパは世界で一番強い人と闘うんだって。」

 

そう言いながらお腹を撫でる。カミラが自身のお腹に愛おしそうな目を向けると、ロックも彼女の手に自身の手を重ねた。

 

「いつか子どもに自慢する為にも、勝ってくるさ。」

 

ロックは自信を込めて言うと、カミラを椅子に座らせ、紅茶でも飲もうとキッチンへ向かった。

 



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episode2

ロックの予想より早く、指定されたのは一ヶ月後であった。ナイトオブワンが出撃している戦場はほぼ決着がついた状態であり、後は残務処理だけで本国に戻れるという状況だった為だ。

 

「では両者、準備は宜しいか。」

 

立会人となった貴族の男が口を開く。その後ろには皇帝シャルルも控えており、周囲には皇帝を警備する者に加えて暇をもて余した貴族の面々も控え、ナイトオブワンに挑もうなどという若造の試合を見てやろうとこの場に集まっていた。

また、ロックの妻であるカミラも観覧を許され、この場で闘いを、ロックの姿を見守る為に訪れている。

その若造であるロックは二本の短剣を逆手に持ち、対するビスマルクは大剣を構えている。そして立会人の貴族が号令をかけようとしたその時、闘技場の扉を開けて一人の女性が入ってきた。

 

「ノネット・エニアグラム…お前も、観覧を希望するか?」

 

「はい。ヴァルトシュタイン卿の闘いから学ばせて頂きたく。」

 

現れたのは数ヶ月前に任命されたばかりのラウンズ、ナイトオブナインのノネット・エニアグラムであった。彼女は自身の手が空いていた為にこの場に訪れたのだ。

 

(エニアグラム…?どこかで聞いた覚えが…)

 

シャルルが呼んだ名前に記憶を刺激されたような気がしたロックは、思い出そうと頭をフル回転させる。だが彼のそんな様子に気付かず、シャルルが号令を下した。

 

「よかろう。では、始めよ。」

 

「はっ。では両者、よろしいか?始め!」

 

その言葉と同時に、ロックは正面からビスマルクに突撃した。両手の短剣を使うかと思いきや、最初の一撃は顔を狙った右ストレートだった。それを避けたビスマルクが大剣を振るうも、短剣を十字に交差させる事で受けきったロックが、今度は左腕で牽制の一発を放った後、左足でビスマルクの横っ腹を蹴り抜いた。

 

「……ふむ、なるほど。舐めていたことは認めよう。」

 

ロックの蹴りによって飛ばされるも、空中で体勢を整えて着地したビスマルクが言う。

 

「こちらも本気で行かせて貰う!」

 

その声と共に、今度はビスマルクが仕掛けた。大剣を器用に扱い、何度も鋭い攻撃を仕掛ける。ロックはそれを避け、避けきれない攻撃は短剣で捌きつつ拳で反撃する。二人の闘いは拮抗していた。

 

「おいおい、ビスマルクの旦那と互角とは…」

 

二人の様子を見て、ノネットがたまらず呟く。彼女も過去にビスマルクとの対戦経験があり、その時は三本勝負のうち一本も取ることが出来なかったのである。

 

「せあっ!!」

 

ロックが繰り出した拳を、ビスマルクが剣の腹で受け止める。さらに繰り出された蹴りを避けると、ロックの脚が伸びきったタイミングを見計らってしっかりと構えを取る。

 

「はあぁっ!」

 

横薙ぎに振るわれた剣に対して、ロックは軸足だけで地面を蹴って下がった。

 

「…先程の蹴りのお返し、というところかな。」

 

見ると、ロックの腹部は衣服に切れ目が入り、徐々に赤く染まり始めていた。

 

「薄皮一枚。まだこれからさ。」

 

ロックは短剣を構え直す。

 

「そう来なくては!」

 

ビスマルクは再び斬りかかる。今度はやや遠めの間合いから剣を何度も細かく振るう。大剣独特の間合いと、その重量を感じさせぬ剣撃のスピードに、ロックはいくつか浅い傷を負う。

彼がその動きを見切ろうとした瞬間、ビスマルクは剣を大きく下げ、一本踏み込んだ。

 

「ずあっ!」

 

ビスマルクの斬り上げを二本の短剣で受けるも、ロックの手から短剣がはじき飛ばされて床に転がった。

 

「まだやるかね?」

 

ビスマルクの問いに、武器を失ったロックはニヤリと笑う。

 

「俺はまだ立っているぞ。それに…」

 

そう言うと、古武術のような構えを取るロック。彼は、この闘いを通して自分が何かを取り戻そうとしている事に気付き始めていた。

 

「ふむ、あくまで降参はしないということか。」

 

剣を構え直すビスマルク。先程とは違い、今度は大きく踏み込んで斬り込む。ロックは剣の腹に掌打を当てて軌道を逸らす。

 

「ふっ!」

 

反撃に転じようとしたロックに対し、ビスマルクは踏み込んだ勢いのまま膝蹴りを放った。

 

「ぐっ…」

 

カウンターをあびせようとしたところにさらにカウンターを合わせられた形になり、ロックは体勢を崩される。一方ビスマルクはしっかりと地に足をつけ、剣を横薙ぎにふるった。

 

「!!」

 

避けきれず、胸元に浅くはない傷を負う。一旦距離を取ろうとバックステップで下がるロックだが、ビスマルクはピッタリとついてきた。

 

「終わりだ!!」

 

上段からの苛烈な斬撃。周囲の誰もがビスマルクの言葉通り決着だと考えた。ただ一人、カミラを除いては。

 

「──何?」

 

ビスマルクの振り下ろした大剣は、ロックの頭上で両拳によって挟まれる形で止められていた。拳による真剣白羽取り、といった形である。

 

「──ククッ…」

 

驚くビスマルクの目の前で、ロックが笑う。その様子に疑問を覚えたビスマルクの顔には、ハッキリと戸惑いが浮かんでいた。

 

「…何がおかしい?」

 

「…おかしくはないさ。ただ、思い出しただけだ。戦場の、闘うことの楽しさを。」

 

言葉を発すると同時に、ロックは自身の頭に今まで自分が欲していたものが溢れ出てくるのを感じていた。

 

(そうだ、俺は…)

 

ビスマルクは疑問をさらに深め、問い質す。

 

「この私を相手に、楽しいだと?」

 

「そうさ。今の帝国最強がここまで強いとは思わなかったが、だからこそお前を倒す価値がある!」

 

(俺は、ロック・エニアグラム。王の騎士…あの時代の、ナイトオブワンだ!!)

 

そう言うと、ロックはさらに拳に力を込める。すると、徐々にビスマルクの剣にヒビが広がる。

誰もが目を疑う中、ロックは自信を取り戻したような表情で、ビスマルクに宣言する。

 

「さぁ、ここからが本当の勝負だ!!」

 

ロックの拳が交差し、挟まれていた部分が完全に砕けた。思わず下がろうとしたビスマルクの顔に、ロックの蹴りが直撃した。

 

「ぐぉっ!」

 

たたらを踏んで下がるビスマルクに対し、ロックはさらに接近する。それを阻止しようとビスマルクが剣を振るうが、下から突き上げたアッパーで斬撃の方向を剃らし、右の拳でビスマルクの腹部を撃ち抜いた。

 

「ぐふっ…」

 

想像以上の威力に後退を余儀なくされるビスマルク。ロックはその隙に前方に落ちていた短剣を一本拾うと、ビスマルクに向かって全力で投げた。

 

「!!」

 

向かってくる短剣を折れた剣で弾いたビスマルクの目に写ったのは、もう一方の短剣を拾って斬り込んでくるロックの姿だ。

 

「はぁっ!!」

 

鋭い斬り込みに、脇腹を裂かれる。幸いにもなんとか身を捻るのが間に合った為、傷は浅い。

 

「せえいッ!!」

 

「ぬん!!」

 

短剣を持たぬ右手で放った拳に対し、柄で突きを放つビスマルク。両者の攻撃は同時にヒットして二人が揃って後退するも、すぐにまた距離を詰める。そして再び攻撃しあい、そして後退する。繰り返される斬撃と拳打、その中でロックの顔は歓喜に満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

「…それまで。」

 

ロックの闘いぶりに茫然自失となり、言葉を発することの出来ない立会人の貴族や周囲の見物人らに変わって、皇帝自身が告げる。彼の眼前には尻餅をついたロックと、片膝をつき、折れた剣を支えにするビスマルクの姿があった。

 

「この勝負、引き分けとする。よって、ナイトオブワンは変わらずビスマルク・ヴァルトシュタインである。」

 

皇帝は二人を見下ろしながら続ける。

 

「なお、再戦を希望するならば認めよう。両者の傷が治ってからだが…」

 

皇帝の言葉に真っ先に答えたのはロックだ。

 

「自分は再戦を希望します。次こそ、ナイトオブワンの称号を奪ってみせる。」

 

ロックは立ち上がって姿勢を正し、真っ直ぐに皇帝を見つめた。

 

「…よかろう。期日は追って知らせる。」

 

皇帝の言葉により、二人の決闘は一旦の終了を迎える。ロックは居合わせた医務官による治療を受ける為、闘技場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──全く、ヒヤヒヤさせないでよ。」

 

帰路についたロックに不満の声を漏らしたのは、彼の妻であるカミラだ。彼女はロックが負ける可能性など微塵も考えていなかったが、それでも今回の闘いはナイトオブワンの力を思い知らされるのに十分なものであった。

 

「すまんな。勝てると思っていたが、やはり帝国最強の壁は厚い。」

 

ロックの言葉にカミラが苦笑する。

 

「そう簡単に帝国最強になれるなら、目指す価値がないじゃない。目標を失わないで良かったって思えば?」

 

カミラの言葉に、今度はロックが苦笑する。応急処置をされた腹部を抑え、左足も少し引き摺っている状態でありながらも笑っていられるのは、生半可ではない力を持つ強者との闘争によって得た多大な満足感と、自分を取り戻した高揚感があったからこそだ。

 

「まあそうだが…それよりカミラ。話しておかなければならない事が出来た。」

 

「何よ急に…怖いんだけど。」

 

カミラの言葉に、どう説明するか悩んだロックは頭をかく。そして結局、ストレートに伝えるしかないとの結論に至った。

 

「実は…闘いの中で記憶が戻った。」

 

「…は?え、本当に?」

 

驚きとともに徐々に笑顔になるカミラ。その彼女に、ロックは信じてもらえるかすら分からない過去を打ち明ける覚悟を決めた。

 

「俺は…信じられんだろうが200年前の人間だ。その時代に、今は狂王と呼ばれている男の騎士で、ナイトオブワンだった。」

 

「……うぇ?」

 

ロックの言っている意味が分からず、素っ頓狂な声を返してしまったカミラ。ロックは一つ息を吐くと、彼女に分かって貰うにはどうすべきかを思案する。

 

「詳しくは帰ってから話すが、どうやらこの時代まで封じられていたのを無理矢理起こされたらしい。その俺が、ナイトオブワンの座をかけて先程まで闘っていたというのは中々の皮肉だな。」

 

「……本当、なの?」

 

「ああ。だが、安心してくれ。起こされたとは言え、この時代に目覚めたからには今の生活を捨てるつもりはない。ナイトオブワンには、もちろんまた挑むが。」

 

ロックの言葉に、カミラはとりあえず安心した。ここで出ていくと言われたら、妻としての自分や生まれてくる子どもの事をどうすればいいのか、彼女にとっては考える事すら否定したいような事柄であったからだ。

 

「分かったわ、詳しくは、帰ってからね。でも、そのあなたが今のナイトオブワンに挑むなんて…というか、それならそれで勝ってきなさいよ。」

 

「そう言ってくれるな。まぁ、次がいつかは分からんが、さっさと傷を治して、その時こそは自分がナイトオブワンだと、胸を張って宣言できるようにするさ。」

 

「──それは不可能だ。」

 

突如として二人を囲んだ十人程の男達。ロック程の男が囲まれた事に完全に気付かなかった。ビスマルクとの戦闘による満足感と、自身を取り戻した高揚感に浸っていたことで、完全に油断しきっていた為だ。

周囲を見渡せば、自分達以外の人影も全く見えない。完全に罠にかかった形になってしまった。

 

「…カミラ、下がっていろ。」

 

「ロック、でも…」

 

カミラはロックの体を見る。応急処置はされているが、未だに出血が止まっていない傷も多々あるのだ。そんな状態で闘えば、どうなるかは目に見えていた。

 

「どういうことだ?仕組んだのはビスマルクか?」

 

ロックの問いに、正面にいる男が代表して答える。彼の顔には、ロックを蔑んでいるような下卑た笑みが浮かんでいる。

 

「我々がビスマルク様の部下であるのには違いないが、こうして貴様の前に現れたのは我々の意思だ。現皇帝陛下がその椅子に座り続ける限り、ビスマルク様がナイトオブワンから変わることはない。そして、ビスマルク様の露払いをするのが我々の役割だ。」

 

「…なるほど。それほど俺を脅威と思ったか。」

 

ロックの言葉を、男は素直に認める。

 

「左様。だからこそ、貴様にはここで消えて貰わねばならぬ。」

 

皇帝とビスマルクには主従以上の何らかの繋がりがあるらしい。しかしここでその答えを聞くよりも、カミラを連れて切り抜けるのが最優先だった。

 

「その女を守りながら、我々には勝てんよ。」

 

男がさらに笑みを深めながら告げた。それと同時に、囲んでいた男達が一斉に距離を詰めてきた。

 

「それは、どうかな!」

 

そのうちの一人を右手で掴み、軽々と片手で持ち上げて逆側の男達に投げつける。左側の男達の体勢が崩れたときには、右側にいた他の三人が吹っ飛ばされていた。

 

「カミラ!動くなよ!」

 

彼女も元軍学生であり、自分の身は自分で守れるだけの力はある。しかし、妊娠している今は別だった。男達全員を、ロックが自分一人の力で倒さねばならない。

 

「はぁっ!」

 

動かぬ足を軸に、ロックの放った蹴りがカミラの顔のすぐ横を抜けていく。直後にカミラに襲いかかろうとしていた男が崩れ落ちるが、それを知ってもカミラは微動だにせず、周囲の男達に怪しい動きがあればすぐにロックに教えられるよう、注意深く観察していた。

 

「シッ!」

 

蹴り脚を振り下ろし、自分を下から狙っていた男を踏みつける。すぐに体勢を沈め、後ろから襲いかかろうとしていた者に肘で一撃。次の瞬間には懐から短剣を取り出し、両側から同時に攻めてきていた二人の首を斬っていた。

 

「はぁ…はぁっ…先程貴様は、なんと言ったかな?…この俺が、貴様らごときに勝てんだと?」

 

息を乱しながらも、ロックが最後に残った一人に問いかける。男の顔は青ざめ、脂汗を流していた。

 

「…とりあえず貴様には、ビスマルクへのメッセージになってもらおう。」

 

近付いてくるロックの言葉を聞いて、恐れのあまり後退する男。その男の視線が一瞬逸れたのを、カミラは見逃さなかった。その目は少しこの場からは距離のある、高層ビルを見たように思えた。

 

「ロック!!」

 

気付いた時には、体が勝手に動き、ロックを庇うように前に出ていた。それに驚くロックの目の前で、銃弾がカミラを貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カミラ!しっかりしろカミラ!」

 

あれからすぐにカミラを抱え、近くの病院に飛び込んだロック。医者や看護師に囲まれながらも、彼はカミラに声を掛け続けていた。

 

「…ごめんね、ロック…体が、勝手に…」

 

ストレッチャーに乗せられ、手術室に運ばれるカミラ。その間、彼女はしきりとロックに謝り続けていた。

 

「大丈夫だ!必ず助かる!心配するな!」

 

そう言いながら彼女の頬に手をやる。カミラも弱々しく、ロックの手に自身の手を重ねる。

 

「…うん、赤ちゃんも…私も…頑張るから…」

 

「ああ、大丈夫!大丈夫だから!」

 

「手術室に入ります!旦那さんは一旦下がって!」

 

医者に止められ、手術室すぐ前で立ち止まる。閉まった扉に向け、ロックは涙を流しながら謝罪の言葉を口にした。

 

「──すまないカミラ。俺が…俺のせいで…俺が自分の記憶などに拘っていなければ…」

 

ロックは生まれて初めて、神に祈っていた。

 

(頼む!神よ!カミラと子どもを助けてくれ!助けてくれるなら俺はなんでもする!魂を捧げてもいい!お願いだ!二人を俺から奪わないでくれ!)

 

十数分後、うつむいた医者が部屋から出て来た。彼はロックの姿を見付けると、その両肩を掴んだ。

 

「落ち着いて、聞いてください。」

 

 

 

 

 

 

 

「お父様、ロックは…?」

 

涙を流すアーニャの問いに、同じく涙を流しているカーズがゆっくりと首を振った。彼らの周りには喪服を来た大勢の人が集まっており、目の前にある墓にレイナがすがりついている。

 

「行方は分からないそうだ。カミラを襲ったという暴漢を探しているのか、それとも、考えたくもないがショックで自身の命を…だが、捜索は続けさせるつもりだ。」

 

墓には、カミラの名前が刻まれている。彼女の葬儀に、ロックは最後まで現れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひいぃぃぃぃ!!わ、悪かった!!なんでもする!!なんでもするから命だけは助けてくれ!!」

 

雨の中、男は必死に命乞いをしながら後退りをする。しかしその男の前に立つもう一人の男の目には、殺意だけが宿っていた。

 

「あの時言った筈だ。貴様には、ビスマルクへのメッセージになって貰うと。」

 

ロックは男に向かって拳を振り下ろした。

 




ロック・エニアグラム
身長187センチ
血液型AB型
元々ライと同等の身体能力を持っていたが、V.V.に改造されたことによって今ではそれを少し上回る程の身体能力を得ている。ただし思考は突撃一辺倒で、ライなどの有能な指揮官の力があるとよりその力を活かせるタイプの人物。
ライの200年前からの親友で、公の場でなければライのことをお前呼ばわりしたり、軽口も言い合える間柄。


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SIDE Lie
episode1


「う…ここは…?」

 

ライが目を覚ますと、そこは黒の騎士団が所有するG―1ベースの医務室内にある、ベッドの上であった。

 

(──僕はギアスにかけられたユフィを止めようとして、撃たれたのか…)

 

自分の身体を見下ろすと、いたるところに包帯が巻かれている。何発撃たれたかは覚えていないがよく生きていたものだと、自分の意外な頑丈さと運の良さに感謝するしかなかった。

 

(とりあえず、今は状況を確認しないと…。)

 

ギアスにかかったユフィを自分は止められなかった。であれば、既にブリタニアと戦争になっている可能性が高いだろう。その場合、少しでも戦力が必要なはずだ。そう考えると、ライは痛む身体を引きずって指令室へ向かった。

 

 

 

 

 

指令室の扉を開けると、まず目に飛び込んできたのは狼狽える扇と神楽耶、その他の騎士団員の姿であった。そしてその中でも特に右往左往していた扇が、指令室に入ってきたライの姿に気付いた。

 

「ライ!動いて大丈夫なのか!?」

 

その声で神楽耶や団員達もライに気付く。彼らが声を掛けようとするのを制して、ライは扇に問いかけた。

 

「扇さん、状況を教えて下さい。」

 

「い、いやしかし君は…」

 

そう言いながら、扇は困ったような顔を向ける。神楽耶も心配そうな顔で二人のやりとりを見守っている。

 

「…こんな身体でも、考えることはできます。みんなの表情を見る限り、戦況はあまり良くなさそうだ。そんな中で、出来たかもしれないことをしないで後悔することだけはしたくないんです。」

 

その言葉に、扇は気後れしながらもライに戦況を説明する。

政庁付近まで攻め込んだこと、テレビ局を制圧したこと、アッシュフォード学園でランスロットを捕縛しかけたものの逃走を許したこと、今は形勢を逆転され、騎士団が追い込まれていること、そして、ゼロがいなくなったこと。そのゼロをカレンが追いかけたことも。

 

ライは味方の識別信号を確認しつつ、黙って聞いていた。現在の状況では挽回が不可能な事はゼロでなくとも分かる。ゼロの乗機であるガウェインを含めても、現状三機しかない飛行型のナイトメアのうちの一機であるランスロットがゼロを追っていなくなったとはいえ、東京租界には未だにランスロット・クラブがいる。おまけに、コーネリアの騎士であるギルフォードも健在だ。元より数で劣る騎士団に打てる手はもうほとんどないだろう。

 

「扇さん、全軍に撤退命令を。それから、月下の出撃準備をお願いします。」

 

その言葉を聞いた扇は驚きを隠せない。しかし、それも当然の事であった。小規模なゲリラ戦に終始するしかなかった自分達が、あと一歩で国そのものを取り戻せるかもしれないところまできたのだ。撤退という判断に対して、そう簡単に納得ができる訳がない。しかし同時に、ゼロに並ぶ程の知略を持つライをもってしても逆転の策がないのだ、ということも理解できていた。

 

「でも、ライさんをその身体で出撃させる訳には…」

 

口を挟んだのは神楽耶である。ライの身体を心配しつつも、扇と同様に撤退という判断に納得ができず、さらには撤退という判断を下しながら自身は出撃しようとする、ライの真意を図りかねていたのである。

 

「僕は藤堂さんを救援します。彼は神楽耶様と同じく、日本の旗印たる存在です。そういう意味では、ゼロ以上にここで失ってはいけない存在です。」

 

「ま、待ってくれ!確かに君の言うことは分かる…しかし、君にもし何かあれば、カレンがどう思うか…」

 

ライの言葉に同意しつつも、扇は亡き親友の妹であり、自分もそのように思っている、そして目の前の人物の恋人でもある紅月カレンの名前を出す。二人の仲は騎士団の中ではすでに知れ渡っており、扇もその二人の背中を押した一人だ。その為、今のボロボロの状態で出撃を許可して万が一のことがあれば、カレンに合わせる顔がない。

 

「…もちろん、死ぬつもりはありませんし、カレンを追いたい、という気持ちもあります。ですがこの状況で僕が出れば、それだけで藤堂さん達が逃げられる可能性も高まる。

ただでさえゼロがいなくなったことで藤堂さんに敵が集中しているんです。僕の月下であればブリタニア軍には厄介な相手と認識されているでしょうから、それだけで敵の注目を逸らす事が出来ます。今は、やりたいことよりもやるべきことを。」

 

そう言うと、ライは誰とも視線を合わせることなく指令室を出た。扇は慌てて整備班に月下の出撃準備をするように伝える。例えゼロがいなくとも、ナイトメアを失おうとも、藤堂と騎士団員、それに騎士団の双璧さえいれば建て直すことは可能である、扇にはそう信じることしかできなかった。

 

「ライ、頼んだ…」

 

扇が呟いた直後に、部下から通信があった。扇に会いたい、という女性がアッシュフォード学園にいるという。

 

「まさか…千草!?」

 

扇は周囲の部下や神楽耶の制止を振り切り、一人アッシュフォード学園に向かった。

 




ライ
身長 181センチ
血液型 A型
搭乗機 月下先行試作機
記憶が戻った事により、頭と身体が繋がった為に身体能力が全盛期まで戻っている。乗機の月下はピーキーすぎてライ以外には扱えない。
カレンの事を誰よりも大事に思っており、ルルーシュとの間にも親友と呼べる関係を構築している。


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episode2

瓦礫を避ける、破損して倒れた機体の上を飛び抜ける。何とかして最短ルートで藤堂の元へ向かおうとライは苦心していた。

操縦桿を操作する度にユーフェミアの銃撃を受けた箇所に激痛が走るが、弱音を吐いている暇はない。確実に藤堂を逃がす為にはとにかく一秒でも早く、彼の元へ辿り着く必用があった。幸い、ここまで敵機にはほとんど遭遇していない。ただそれは、それだけ藤堂や四聖剣を討ち取ろうとブリタニア側も必死になっているということでもあった。

 

「邪魔だ!」

 

ようやく見えた藤堂の月下。その後ろに回り込もうとしていたサザーランドを回転刃刀で素早く斬り伏せる。

 

「藤堂さん!」

 

「ライ君か!」

 

ライの呼び掛けに藤堂が答える。既に彼の月下はボロボロだが、何とか四聖剣と合流を果たしたようで、コーネリア軍の猛攻にもかろうじて耐えていた。

 

「藤堂さん、四聖剣の皆さんと今いる部隊を纏めて撤退して下さい。」

 

扇からライの撤退という判断を聞き、戦いながらもジリジリと軍を後退させていた藤堂に告げる。

 

「しかしライ君、そんな身体の君を残して撤退する訳にはいかない!それに、どれだけ君の操縦技術が優れていても、たった一機では囲まれて殺されるだけだ!」

 

藤堂の言葉も当然であった。時間を稼ぐにしても月下一機では限界があり、何よりその役目を全うできたとしても、逃げるのは至難の技である。

 

「この月下には輻射波動があります。単機だからこそ出来る闘い方もある。それよりも、藤堂さんは今後の日本に必用なんです。今は何よりも撤退を優先して下さい!」

 

ライの言葉に藤堂は歯噛みする。確かに、ハーフであるライや日本人ではないゼロよりも、純粋な日本人であり、武力、指揮力に長けた自分を逃がすのは妥当な判断であろう。しかし、自分よりはるかに若く、負傷を推して出撃してきたライを残していくのは、藤堂にとってそれ以上に心苦しいことであった。

 

「…すまない、ライ君。後で必ず会おう。」

 

そう言い残すと、藤堂は四聖剣と部下達を率いて、戦場を後にした。

 

「…悪いけど、君たちには少しばかり付き合ってもらうよ。」

 

ライはすぐ目の前に展開するブリタニア軍に向けて呟く。たった一機で藤堂や四聖剣を追い詰めた十数機のサザーランドやグロースターを相手取るのだ。結末は誰の目にも明らかに思えた。

そのグロースターの一機が肩部からミサイルを発射する。タイミングを少しずらして、ランスを構えたグロースターが突撃を仕掛けた。その後ろには、スタントンファで殴打すべくサザーランドも続いている。

 

「遅い!」

 

だが、銃弾よりも速度が遅く、はっきりと目視できる分軌道が読みやすいミサイルは、全てギリギリで躱される。続いてグロースターのランスも捌いて懐に入り込み、回転刃刀で突きを繰り出す。グロースターはコックピットごと貫かれ、動作を停止した。続くサザーランドのスタントンファでの一撃は避けきれなかったものの、左手で頭部を掴み、輻射波動を照射する。同時に、後方から放たれるライフルへの盾としても使用し、爆散する前に手放し、ライフルを放っていたサザーランドに一閃。返す刀で後方から接近していたグロースターも斬り伏せる。

 

「ぐっ…」

 

全身の痛みに意識を失いそうになるが、それを堪えて敵に集中力を向ける。

右腕部のハンドガンで自身を囲もうとするナイトメアを牽制。月下から距離を取った一機に機動力の差を利用して急接近し、こちらも回転刃刀で貫く。

体勢を整え、アサルトライフルを構えた数機のサザーランドに目を向けた瞬間、後ろからグロースターがランスを正面に構えて突撃してきた。それを認識した直後には、チャフスモークを放って飛燕爪牙で付近のビルに飛び移っている。一瞬で視界を奪われ狼狽えるサザーランドのうちの数機を、別のサザーランドに向かって飛びかかりながらハンドガンで破壊。

それを見て月下に向かってライフルを放ったサザーランドにも、被弾しながら回転刃刀を振り下ろす。

 

「はああぁぁぁっ!」

 

斬撃を受けたサザーランドが頭部から動力部までを破壊され、パイロットは脱出した。直後に後方からグロースターのミサイルが放たれるがそれも屈んで避け、味方が軒並み破壊されたことでパニックに陥ったのか、真っ直ぐ突っ込んでくるサザーランドを左手で掴んで輻射波動で破壊。その間に落ちていたグロースターのランスを拾い、ミサイルランチャーを装備したグロースターに投げつける。

グロースターは咄嗟に機体を動かして避けるが、その先にはライがすでに行動を予測して予め飛燕爪牙を放っており、動力部に直撃したことで活動を停止した。

 

「ハァッ…ハァッ…あと、一機…!」

 

ライは残るグロースターに向かって輻射波動と回転刃刀を構える。すでに月下はかなりの損傷を受けているが、ここでこのグロースターを破れば、藤堂を逃がすだけではなく、自分も生き延びることが出来る可能性が飛躍的に上がる。ライにとっては、今以上に無理をしてでも倒しておきたい相手であった。

 

「以前から強敵だと思っていたが、ここまでとは思っていなかったよ。」

 

そうオープンチャンネルで伝えてきたのは、コーネリアの騎士であるギルフォードであった。彼は黒の騎士団の双璧とも呼ばれる青い月下を強敵として相応に評価しているつもりであったが、目の前の月下は自らの想像を遥かに越えた力を持っていた。

 

「だが、例えどれだけ強い敵であろうと、姫様の道を切り開くのが私の役目!」

 

叫びながら、ギルフォードのグロースターはランスを構える。ライもグロースターに合わせて動こうとしたその時、頭上からグロースターに声がかけられた。

 

「ギルフォード卿、そのナイトメアは自分に任せて頂けませんか?」

 

外部スピーカーで彼にそう伝えたのは、今や東京租界では唯一の飛行型ナイトメアフレームとなったランスロット・クラブであった。

 

「部下や親衛隊が敗れ、お気持ちはお察ししますが、今は藤堂を終われるべきかと思います。雑事は、自分が。」

 

丁寧な言葉使いでありながらどこか不遜さを感じさせるのその人物は、特別派遣嚮導技術部、通称特派に所属するデヴァイサー、アドニス・アーチャーである。

 

「…了解した。この場は君に任せよう。」

 

そう言い残すと、グロースターは藤堂を追うために踵を返した。

 

「待て!」

 

ライがそのグロースターを追おうとするが、その前にランスロット・クラブが立ちはだかる。

 

「アドニス…!」

 

「青いナイトメアのパイロットよ。降参するなら、今だぞ。」

 

ランスロット・クラブは、ヴァリスを構えながらライに伝える。そのクラブに向かって、ライは無言で回転刃刀を構えた。

 

「ふん…やはりそうか。ならば手加減はせんぞ!」

 

クラブがヴァリスを放ち、月下が輻射波動で受け止める。両者共に結末が分かりきった闘いが始まった。

 

「シッ!!」

 

飛燕爪牙を駆使してビルの間を飛び回り、クラブに肉薄する月下。しかしクラブはそれを躱しながら、的確に攻撃を加えてゆく。

 

「諦めの悪い…とっとと終わらせて貰う!」

 

クラブがMVSを振るう。回転刃刀でそれを受け流した月下は、ランドスピナーをフル回転させてクラブの元へ飛び掛かった。

 

「おおぉっ!!」

 

回転刃刀を何度も振り下ろす月下。クラブは右腕を破壊されるも、直後にMVSで月下の左腕、輻射波動甲壱型腕を斬り落とした。これにより、月下の戦闘力は半減したと言っていい。それでもライは諦めず、月下の右腕を大きく引いて鋭い突きを放った。

 

「チィッ…!」

 

その突きがクラブの左腋ごとフロートの一部を貫く。だがその勢いに逆らわず機体を横回転させると、脚部にブレイズルミナスを発生させて月下に蹴りを放った。それを受けた月下はビルの壁に激突し、パイロットも意識を失ったのか動きを止めた。

 

「こちらアーチャー、これより、青いナイトメアのパイロットを確保する。」

 

アドニスが指令部に伝え、機体を月下に寄せる。だがその直後に爆音が響き渡り、クラブの後方にあるビルを突き破って、灰色のカラーリングが特徴的な大型ナイトメアが現れた。

 

「あの男との契約が、役に立つ日が来ようとはな…」

 

灰色のナイトメアのパイロットは、コックピットの中で誰ともなく呟いた。

 




紅月カレン
身長168センチ
公式では160、wikiには168と記載されていましたが、公式で168となっているC.C.が163のアーニャと並んだシーンでアーニャより小さく見えたので、テレコになってるのかな?と思い、168の方を採用しました。


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SIDE Adonis
episode1


「アドニス・アーチャー中尉、自分は枢木スザク二等兵であります。今回の作戦で中尉の部隊の一員として配属されました。よろしくお願いします。」

 

そう言って頭を下げるスザク。彼の前には、自分と同じ年頃と思われる、灰色の髪が特徴的な男が立っていた。

 

「顔を上げろ。枢木スザク。」

 

唇の端を上げながら、アドニスが伝える。

 

「データは読んだ。枢木総理の息子だそうだな。」

 

表情を変えず、アドニスが問いかける。

 

「…はい。」

 

実直に答えたスザクに向かい、自身の顔の前で軽く手を降る。

 

「…敬語はいい。同い年だ。それに、俺は祖母が日本人でな。このエリアには特別な思いもある。」

 

「そうなんです…いや、そうなの?」

 

「ああ、だから今回、名誉ブリタニア人ばかりの部隊を率いる立場を任せられた、というのもある。出来る限り、お前達を生き残らせる努力をすると約束しよう。」

 

そう言ってアドニスは、皮肉そうな笑みを浮かべながら手を出してきた。彼には、一目見たときからスザクに対して何か感じるものがあった。だからこそ、こうして対等の立場で付き合おうと提案しているのだ。

 

「ありがとう。よろしく、中尉。」

 

スザクはアドニスの手を握る。

 

「公の場で無ければ敬称もいらんよ。適当に呼んでくれ。」

 

元よりそれほど上下関係にうるさくない性格である。それにしても、特別扱いということには変わりないが。

 

「では、作戦開始といこう。」

 

そう言って、アドニスは黒いバンダナを取り出し、額に巻いた。

今回の作戦はクロヴィスが陣頭指揮を取る、イバラキ租界に隣接するツクバゲットーに潜む反乱軍の鎮圧だ。アドニスはサザーランドに騎乗し、名誉ブリタニア人の歩兵部隊を率いる指揮官であった。

 

 

 

 

 

 

 

「…これだけ小規模な反乱軍を、囲んで潰すのは気が滅入るな。」

 

呟きながらも、次々と指示を飛ばすアドニス。その指示は的確で、自身が率いる部隊にも、敵の反乱軍にも出来る限り死者を出さないよう努めている。

 

(僕と同じ歳で、ここまでの能力があるなんて…)

 

スザクは驚嘆していた。それはアドニスがそれだけ場数を踏んできたということでもあるが、その経験を活かせるかどうかは本人次第だ。だからこそ、その若さで中尉という立場にまで上り詰めたのだろう。

 

『親衛隊が敵の首領を捕らえたようだ。作戦は終了だな。』

 

今回の彼の指揮で、部隊内で怪我人は出たものの、死者は一人もいなかった。アドニスはその事に少し安堵し、サザーランドをターンさせようとした。

 

『何っ!?』

 

気付いたときには五機のナイトメアに囲まれていた。中には鹵獲されたらしいサザーランドも混じっている。おそらくは、日本を裏切って名誉ブリタニア人となった者達を、確実に殺す為だけの作戦だったのだろう。

 

『成程…首領が捕らえられたことさえ罠か。』

 

アドニスが外部スピーカーをオンにしたまま問いかける。

 

『そうだ。既に我々に逃げ場はなく、この闘いに勝ち目もない。ならいっそのこと、お前達を道連れにしてやろうと思ったのさ。』

 

言うなり、敵のナイトメアはじりじりと距離を詰めてくる。

スザク達歩兵部隊はその状況でどう動いていいか分からず、動きを止めてしまっていた。

 

『歩兵部隊は下がれ!こいつらは俺が相手をする!』

 

アドニスはそう言うが、スザク達の目にはいくらなんでも無茶にしか見えなかった。しかし、自分達がいても邪魔にしかならないのも事実で、歯噛みしながら下がるしか無かった。

その歩兵部隊を追おうとした無頼を、急接近したアドニスがスタントンファで殴り付ける。

 

『行け!!』

 

アドニスの言葉を受け、部隊は撤退した。スザクはアドニスが勝てないだろうことを思い、その道中に何か役に立つものがないかを探した。するとしばらくして、反乱軍が捨てたものであろうロケットランチャーを発見した。これならば、当てることさえ出来れば役に立つだろう。そう思い、部隊を離れて一人で来た道を戻ったスザクの目に入ったのは、既に四機のナイトメアをほぼ無傷で無力化するか破壊したアドニスのサザーランドの姿だった。

 

(…すごい。)

 

スザクはランチャーを構えることすら忘れ、戦闘に見いってしまった。この短時間で囲みを突破するどころかナイトメア四機を撃破するなど、一体どれだけの腕前を持っているのか。

 

『うわあぁぁぁぁ!』

 

叫び声を上げながら、最後に残ったサザーランドがアドニスの機体に突撃をかける。しかしそのサザーランドが繰り出したスタントンファを軽くいなし、カウンターの一撃を動力部に叩き込む。サザーランドは動きを止め、その場に倒れた。

 

『…枢木、撤退しろと言った筈だが?』

 

アドニスが問うと、スザクは素直に答えた。

 

「あの状態を切り抜けるのは一機じゃ不可能だと思ったから。これなら役に立つかと…」

 

言いかけて、スザクはロケットランチャーを捨てて駆け出した。サザーランドの背後に積み上がった瓦礫の上に、対戦車ライフルを構えた兵がいたからだ。

 

「ぐあっ!」

 

飛び上がったスザクは空中で一回転してその兵士に蹴りをくらわせる。一撃で意識を失った兵士は、壁にぶつかって動きを止めた。

 

『─よく気付いたな。そんな所に敵がいたなど…』

 

アドニスは少し驚いていた。背後にまだ敵がいたこともそうだが、何よりもスザクの身体能力の高さに。もしかしたら、自分と同等の力を持っているかもしれない、そう思わされるのに十分な光景だった。

 

『とりあえず、礼を言っておこう。命令違反も不問だ。』

 

スザクは、サザーランドのコックピットから声を放つアドニスが、また皮肉そうな笑みを浮かべているような気がしていた。

 

「気付けて良かったよ。戻ってきた甲斐もあったしね。」

 

スザクはサザーランドに微笑みかける。

 

『本陣からも撤退命令が出ている。戻るとしよう。』

 

今度こそ、アドニスはサザーランドをターンさせた。

 

 

 

 

 

「話は聞いたよ。今回も素晴らしい闘いぶりだったようだな。」

 

抑揚のない話し方でアドニスに声をかけるのはクロヴィスだ。その顔には軽い笑みを浮かべ、自身の前にいる人物を見下ろしている。アドニスは、彼の前に膝を着いている。

 

「ありがとうございます。」

 

「そう畏まらなくていい。お前の本当の名前がアドニス・ウィル・ブリタニアだというのは聞いている。お前の家系が皇族から外された理由もな。その為にお前は軍内でも腫れ物のように扱われ、名誉ブリタニア人部隊の指揮ばかり任されていたことも…」

 

アドニスの祖母は、当時の皇帝の三女だった。しかし、周囲の反対を押しきってブリタニア人以外の人間と結婚したことで皇位継承権を剥奪され、準皇族となったのだ。それ故にアドニスに対する周囲の目や態度は厳しく、中尉という立場でありながら軍内で浮いた存在となっていた。

 

「…どうだ、私の親衛隊に入るつもりはないか。」

 

突然の提案にアドニスは一瞬固まるも、断る理由は無かった。

クォーターとして、そして準皇族として、様々なしがらみに囚われながら鬱々と日々を過ごしていたアドニスには、むしろ渡りに船ですらある。

 

「その話、受けさせて頂きたいと存じます。」

 

アドニスの言葉に、クロヴィスは笑みを深めた。

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

「…今回もまた後方支援か。」

 

アドニスがクロヴィスの親衛隊に入り、五ヶ月が経った。その間、クロヴィスの親衛隊員として様々な反抗組織と闘い功績を挙げたが、一ヶ月前にクロヴィスがゼロという男に殺され、新総督としてコーネリアが赴任した際も本国に戻らずエリア11に残ったクロヴィス親衛隊員達は、クロヴィスを守れなかった無能というレッテルを貼られて冷遇されていた。

 

「…挽回のチャンスすら与えて貰えんとは。全く、今の俺は滑稽だな。そう思うだろう、枢木。」

 

スザクは自嘲するアドニスを黙って見ている。

アドニスとスザクは一ヶ月前、シンジュクゲットー壊滅戦で再開していた。

その闘いで彼は特派が開発した新型ナイトメア、ランスロットのデヴァイサーとなっている。互いにコーネリアから冷遇されていることに変わりはないが、一度出撃すれば一機で戦況を変えてしまうスザクと、闘う場所すら与えて貰えないアドニスでは大きな差があった。

 

「…まあいい。それで、こちらに来た理由は何だ?その様子を見るに、友人知人に会いに来たというわけでもなさそうだが。」

 

スザクの様子に特に気を悪くした風もなく、アドニスが問う。現在、コーネリア軍はエリア11最大の反抗組織、日本解放戦線討伐に向けて準備中だ。アドニスも後方支援ではあるが、準備で忙しいことに変わりはない。そのタイミングでわざわざ現れたスザクの真意を、アドニスは図りかねていた。

 

「単刀直入に言うよ。ロイド伯爵と会ってみる気はないか?」

 

「ロイド伯爵?あの変…いや、天才科学者か。」

 

変人と言いかけたアドニスが慌てて訂正する。

 

「しかし、何故俺があの人と?」

 

アドニスの疑問に、スザクが答える。

 

「あの時の闘いのことをロイドさんに話したんだ。サザーランド一機で、ナイトメア五機の包囲を破ったときの話を。」

 

ランスロットのデヴァイサーとなってから、あの時のアドニスの闘いぶりはスザクの目標となっていた。そして、その話をスザクから聞いたロイドが、是非会いたいと言い出したのだ。

 

「ロイドさんは多分…アドニスを特派に勧誘したいんだと思う。」

 

スザクの提案にアドニスは思案する。このままではおそらく軍人として腐っていくだけだろうが、特派所属となれば状況が変わる可能性もある。第二皇子シュナイゼルに渡りをつけられる可能性もないとは言えない。その結論に至り、アドニスは答えを口にした。

 

「…分かった、会おう。」

 

その言葉にスザクは笑顔を浮かべる。

 

「ありがとう。今は忙しいだろうから、いつがいいか指定してもらえたら…」

 

そう言うスザクを遮り、アドニスが告げる。

 

「今から行く。」

 

その顔にはいつもの皮肉な笑みはなく、真剣そのものといった表情だった。

 




アドニス・ウィル・ブリタニア
身長175センチ
血液型 A型
皇族から外され、普段はアドニス・アーチャーで通している。その血によって長く不遇な扱いを受けており、一時は退役すべきか悩んでいた。
ラウンズと比較してもトップクラスの身体能力を誇り、なおかつ先読みとそれに合わせたカウンターを得意とする。


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episode2

「まさかいきなり会えるとは思ってなかったけど、よく来てくれたねぇ。」

 

ロイドは喜びを隠すことなくアドニスを歓迎する。

 

「実は予算がついたからナイトメアをもう一機造ろうって話になったんだけど、肝心のデヴァイサーがいなくてね。スザク君から君の話を聞けたのはラッキーだったよ。君程の操縦技術があれば、僕の機体を活かしきってくれる事は間違いないと思うしねぇ。」

 

挨拶もそこそこにロイドは捲し立てる。アドニスが口を挟めないでいるのを気にする様子もなく、どんどん話を進めてゆく。

 

「ある程度まで設計と製造は出来てるんだけど、今回はランスロットと違ってデヴァイサーに合わせたナイトメアを造ろうと思っててね。是非君のデータを…」

 

「ロイドさん!まだ彼から答えを聞いていないのに、そんなに話を進めてどうするんですか!」

 

横からツッコミを入れたのは、特派所属のセシル・クルーミーだ。

 

「そうですよロイドさん。まずはアドニスの答えを聞きましょうよ。」

 

スザクもセシルに同調する。一応、組織の人間がいる手前敬称をつけようか迷ったスザクであったが、そのような事を一切気にしないロイドの前なので、結局普段のように呼び捨てにすることとした。

 

「ふうん。でも、スザク君に話を聞いてすぐここに来たってことは、少なくとも興味があるってことだよねぇ?」

 

ロイドがアドニスから視線を離さずに返す。

 

「それに、準皇族であもあり、クロヴィス殿下親衛隊の部隊員だった君が、こんなところで腐っていくつもりもないんでしょ?」

 

「…え?」

 

「…準皇族?」

 

セシル、スザクが驚く。それが本当ならスザクはとんでもない立場の人間を呼び捨てにしていたことになるし、場合によってはロイドもなんらかの処罰の対象になるかもしれない。ロイドの言葉に二人は青ざめた。

 

「…あれ?もしかして隠してた?」

 

固まった二人を見てロイドがようやく察した。とは言え、それは何かまずいこといったかな?という程度のもので、本人に悪気は全くない。

 

「──いえ、隠していたわけではないですが、別段自分から言う程の事でもない、というだけですよ。」

 

アドニスは苦笑しながら答える。ロイドの噂はある程度聞いており、この程度の事態は驚く程の事では無かった。面食らった、というのは事実ではあったが。

 

「それに、ロイド伯爵の言う通り、自分はこのままコーネリア殿下の軍内で腐っていくつもりはない。状況を変えられるなら、むしろこちらからお願いしたいくらいです。」

 

「ヤターーーーーーッ!!!」

 

アドニスの言葉にロイドは両手を挙げて喜ぶ。そして早速、彼をシミュレーターに座らせてデータを取ろうと言い出した。

 

「──ただ、所属は今回の作戦が終わってからにして頂きたいと考えています。後方支援とはいえ、自分が率いる部隊の事もあるので。」

 

そのロイドの提案を、アドニスは断る。準備をすっぽかしてこちらに来たのは事実であるし、今自分が特派所属となれば、今作戦で自分の指揮下に配属されている部下達を混乱させてしまう事になる。

 

「分かったよ。ああでも、一つだけ提案というか、プレゼントというか…」

 

ロイドはアドニスの言葉を理解した上でさらに笑みを深める。

 

「あれ、貸してあげるから持っていっていいよ。」

 

指差す先には、ランスロットに装備されているものと同様のMVSがあった。

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

「何が起こっている!」

 

「コーネリア皇女殿下との連絡はどうなっている!?」

 

「日本解放戦線の新型機が見られるという話もあります!」

 

「黒の騎士団らしき部隊を発見したとの報告も!」

 

指令部は大混乱に陥っていた。土砂崩れによって多数のナイトメアが生き埋めとなり、さらにコーネリアが孤立してしまったからだ。

 

『どうもどうも~特別派遣嚮導技術部でございま~す!』

 

「無礼者!駐軍しているだけのイレギュラーはおとなしくしておれ!」

 

「お陰で困ってるんですよぉ、暇で。」

 

「白々しい。総督救出の手柄が欲しいだけだろう!どちらにしろ、あの土砂はランドスピナーでは越えられん!」

 

『ご心配なく!サンドボードがありますので!それも、二つ。』

 

ロイドは勿体ぶって言う。

 

『こちらのランスロットと、本陣付近に配備されているアーチャー卿なら、使いこなせると思いますよ。』

 

そのロイドの言葉に、ユーフェミアが頷く。

 

「その方を呼んで、特派と供に出撃させなさい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「思わぬところで出番が回ってきたな。」

 

アドニスの騎乗するサザーランには、すでにサンドボードの取り付けが完了していた。

 

「とにかく、今は総督を救出しよう!」

 

そう話す二人に、通信が入る。

 

『Z-01ランスロット、RPI-13サザーランドは、サンドボードを使用し最大戦速にて液状斜面を上昇、総督を救援せよ。』

 

「「イエス・マイロード。」」

 

『スザク君、君は人が死ぬのを極端に嫌うよねぇ。でも軍隊にいる。何故だい?』

 

ロイドの質問に、スザクは戸惑いつつも答える。

 

「死なせたくないから軍隊にいるんです。」

 

『その矛盾はさ、いつか君を殺すよぉ。…あぁ!ゴメンナサイゴメンナサイ!』

 

そう返すロイドは、セシルに胸ぐらを掴まれて画面から消えていった。それを見て緩みかけた表情を、スザクはもう一度引き締め直した。

 

「ランスロット、発進します!」

 

「続いてサザーランド、発進!」

 

二機のナイトメアが地面を滑るように駆けてゆく。出力で劣るサザーランドが徐々に離されるが、ランスロットは途中で止まり、木々をヴァリスで破壊してコーネリアの部隊までの道を作る。

 

「─特派だと!?誰の許しで…」

 

「ユーフェミア副総督より総督救援の許可をいただきました。」

 

コーネリアにとっては屈辱ではあるものの、助かったことに変わりはない。それだけに、スザクやロイド、ユフィを責める気にはなれなかった。

 

「枢木、お前はあの新型を!こちらは殿下の撤退ルートを確保した後、解放戦線の新型とやらを迎え撃つ!」

 

「了解!」

 

スザクに指示を出しつつ、すでに黒の騎士団に攻撃をしかけているアドニス。

アサルトライフルで騎士団の部隊を散らせると、端から順々にMVSで動力部に一撃を加えていく。体勢を立て直す為に一度騎士団の部隊が引いた隙に、サザーランドの腰部分にぶら下げていた予備のエナジーフィラーを素早く手に取りコーネリアのグロースターの補給を済ませると、脚部に自身のサザーランドが使用していたサンドボードを装着させ、自分達が通って来た道をそのまま使わせて撤退させた。

 

「逃がすなっ!」

 

ゼロが慌てて引き返してくるが、その道の前にはライフルとMVSを構えたサザーランドが立ち塞がっている。先程の攻防を見ただけで只者ではないのは一目瞭然だと感じたゼロは、悔しげな声音で部隊に再度命令を下した。。

 

「…くそっ!撤退だ!」

 

ゼロはコーネリアを諦め、撤退に移る。黒の騎士団のナイトメアが全ていなくなっても、解放戦線のナイトメアが攻め入ってくる可能性があることから、アドニスはなおもその場に留まって警戒を続けた。

なお、すでにスザクはゼロの追跡に入っている。

 

「コーネリア殿下と無事合流した。アーチャー卿、よくやってくれた。」

 

コーネリアの騎士、ギルフォードから通信が入る。

 

「いえ、ほとんどは特派の枢木スザクのおかげです。」

 

「君が殿下の撤退を成功させてくれたのも事実だ。とにかく、礼を言う。」

 

その言葉を最後に通信は切れた。アドニス自身も撤退すると、本陣付近でロイドに出迎えられた。

 

「おかえり~大活躍だったみたいだねぇ。」

 

「サンドボードとMVSが無ければ、総督の救出も、黒の騎士団を撤退させることも出来ませんでしたがね。」

 

アドニスは苦笑しながらロイドに返す。

 

「でもいいデータが取れたよ。これを使って、しっかり造るよ。君のナイトメア、ランスロット・クラブを。」

 

その言葉に、アドニスは拳を握りしめる。自分の軍人としての人生は、ここからが本当のスタートだと感じたからだ。彼はこれまで準皇族という立場から低い年齢に対して高い地位を与えられつつも、クォーターという彼の血統を理由に何度も名誉ブリタニア人ばかりの部隊の指揮を任され、ナイトメア部隊の指揮を任せることなどほとんど無かった。コーネリア軍の配下となってからは、より不遇な立場に甘んじていた。しかしこれからは、自身の力で未来を変える事ができるのだ。

 

「君の異動も、僕からコーネリア皇女殿下に伝えておくよ。」

 

そう言うと、ロイドは軽く手を振りながらアドニスの前から去っていった。

 




アドニスは、自分の中ではブリタニア軍側のライ、といったイメージです。ロスカラのブリタニア軍人編をベースに、要素を足したり引いたりしながらどういうキャラクターにするか考えたので、個人的にはかなり気に入っています。

それと、手直しが終わっているのはここまでです。以降は、暇を見付けて修正しつつ、完成したら投稿するという形にさせて頂こうと思います。


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SIDE 黒の騎士団
episode1 Boxer


バベルタワーと呼ばれる高層ビル。そこでは、かつてのブリタニア皇子であるルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが、一年ぶりにゼロとして復活していた。その眼前には四聖剣の卜部が乗る月下と、騎士団のエースであるカレンの乗機である紅蓮が膝を突き、頭を垂れている。

 

「ゼロ様、どうか我々にご命令を。」

 

「いいだろう。何故なら私はゼロ!世界を破壊し、世界を創造する男だ!」

 

そう宣言したのちに、ルルーシュはバベルタワーのセキュリティルームへ向かった。タワー全域を監視しつつ、指揮を執る為だ。

警備員をギアスで殺害し、モニターを見ながら団員に次々に指示を出していく。

 

「そろそろカラレス総督の出番かな?」

 

画面に向かってルルーシュが呟く。目の前のモニターには、ブリタニア軍のサザーランドが次々に騎士団員の手で破壊されていく様子が映し出されていた。

 

「順調そうね。」

 

ルルーシュが振り向くと、そこにはカレンの姿があった。

 

「カレン、21階へ向かえと…」

 

「あなたにどうしても聞いておかなければならないことがあるの。」

 

ルルーシュに告げながら、カレンは銃を向ける。

 

「ルルーシュ、あなたはずっと騙していた。」

 

そのカレンの言葉に、ルルーシュは表情を変えることなく聞き返す。

 

「ゼロが君のクラスメイトだったことか?それとも、ギアスのことか?」

 

「両方よ。…答えて!あなたは私にもギアスを使ったの?私の心をねじ曲げて、従わせて…ライまで!」

 

銃を構えたまま、カレンはルルーシュに一歩近付いた。

 

「カレン、ライは俺の正体を…待て、一緒にいるんじゃないのか?」

 

ルルーシュは、姿を見せないだけでライも今回の作戦に参加していると思っていた。

 

「彼はあの闘いから行方不明よ。あなたがあの時、逃げなければ…!」

 

ライの行方は東京決戦以降分かっていない。危険を冒してハッキングも仕掛けたが、彼が処刑されたという記録は無く、おそらくは捕縛されたのだろうと考えるしかなかった。

 

「ライも君も、その心は自分自身のものだ。信じられないか?」

 

ルルーシュはライが行方不明という事実に驚きつつも、カレンに問いかける。

 

「…信じたい。だから、奴隷になってでも…!」

 

構えていた銃を下ろす。そしてルルーシュを真っ直ぐ見つめて告げた。

 

「でも私が信じるのはゼロよ。ルルーシュ、あんたなんかじゃない」

 

「ああ、それでいい。…ところでいつまでその格好でいるつもりだ?」

 

その言葉でカレンは未だにバニーガールの格好でいることを思い出す。既にこの格好でいる必用はないのだが、一度ルルーシュを逃がしてしまった為に、着替える時間がなかったのだ。

 

「み、見ないでよ変態!」

 

慌てて両腕で身体を隠したカレンを見てルルーシュは苦笑する。

 

「こういうことは本当はあいつの役目なんだがな…」

 

苦笑しながら上着を脱ぎ、カレンの肩にかけてやる。

 

「そういえばさっき、ライはあなたの正体を知っているって…」

 

カレンの問いに対し、ルルーシュは表情を戻して答える。

 

「あいつの過去のことは聞いた。その時に、俺の過去も…あいつへの、信頼の証として。」

 

ライの記憶が戻っていたことを知らないカレンは驚く。そのカレンを、今度はルルーシュが真っ直ぐ見つめ返した。

 

「だから、俺にとってもあいつは親友だ。もしブリタニア軍に捕らえられているなら、あいつを助けることに全力を尽くすと約束する。」

 

その言葉は、偽らざるルルーシュ自身の本音であった。ルルーシュにとって、自身の死を偽装して以降初めて出来た親友の存在は、記憶を取り戻した今では何ものにも変えがたい存在となっていた。

そのルルーシュに通信が入る。

 

「援軍の到着か。」

 

「上からも来た。これじゃ…」

 

絶望的な表情を浮かべるカレンに、ルルーシュがゼロとして告げる。

 

「カラレス総督が出てきたのだろう。脱出は難しい。だから…私の勝ちだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

バベルタワーの倒壊にカラレス総督を巻き込み、倒壊したタワーのすぐ先にあった中華連邦の総領事館に逃げ込んだゼロと黒の騎士団。

テレビは復活したゼロの話題で持ちきりだった。

所属不明機からゼロを守り、卜部を失うという事態に陥ったものの、ゼロを奪還するという当初の目的は達成した。

 

「すごい騒ぎね、ルルーシュ。」

 

「当然だろう。自分達の領土にいきなり国ができたんだから。」

 

ゼロから発せられた声を聞いてカレンは驚く。そのゼロが仮面を外すと現れたのはC.C.の顔だった。

 

「…いつの間に入れ替わっていたの?」

 

「演説の前。」

 

「え!?だって…」

 

さらに驚きを重ねるカレンにC.C.は淡々と告げる。

 

「声は録音。現れた時点で既に別人。マジックショーと同じだな。」

 

「気に入らないわね。私達にまで秘密にするなんて。」

 

怒気を顕にするカレンに対してC.C.はため息をつきながら見つめ返す。

 

「私に言うな。まったく…あいつがいれば私がこんな格好をする必用もなかったのに。」

 

自分とて不本意だと言外に告げる。しかしその言葉は、ライが生きているということを全く疑っていないという意味でもあった。もう一度ため息をつくと、C.C.は着替える為に部屋をあとにした。

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

中華連邦の総領事館に逃げ込んでから数日が経った。

状況に変わりはないが、ルルーシュからの連絡もない。現在はC.C.がゼロの代役として、中華連邦総領事である高亥との交渉に望んでいた。その高亥の隣には、中華連邦の武官である黎星刻もいる。

 

「ブリタニアからの引渡し交渉は遅滞させています。一週間程度は持つかと。」

 

「ゼロに伝えておく。」

 

ゼロのギアスで操られた高亥に対して、C.C.は無表情で言葉を返す。こういった事もライがいればわざわざ彼女がしなくていいことである。C.C.は面倒事を自分が引き受けねばならない状況に、心の中でため息をついた。

一方、ブリタニア側も対応に苦慮していた。中華連邦の総領事館を囲んではいるものの、総督が死んだことで混乱が続いている事でゼロや黒の騎士団に有効な手だてを取れていない。コーネリアの騎士であったギルフォードが代理を務めているものの、彼は武官である為に文官からの信頼はそれほど厚くなく、中華連邦への対応を決める為の会議は紛糾していた。

 

「強硬手段を取れば中華連邦との戦争に突入してしまう可能性も…」

 

「本国から騎士団員の引き渡しを要請して貰った方が…」

 

「それでは我々にこのエリアを納める能力がないと言っているようなものでは…」

 

「アオモリで見られた大型ナイトメア、通称ボクサーの件もあります。今回の事案を早く終息させねばそちらにも影響が…」

 

武官、文官達の意見をギルフォードは黙って聞いていた。そして、意見が出尽くしたタイミングで自身の決断を述べた。

 

「収監している黒の騎士団の団員を使うとしよう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大変です!扇さんたちが!」

 

団員の声に、カレンやC.C.がテレビを着ける。そこには、磔にされた扇や藤堂が写っていた。ギルフォードが黒の騎士団を引っ張り出す為に、見せしめにしようとしているらしい。

 

「おそらく…あの中にライも…」

 

放送からは見えなかったが、ブリタニア軍に捕らえられたのであれば、あの中にライもいるだろう。カレンは今すぐに飛び出したくなる気持ちを抑え、ギルフォードの言葉を待った。

 

「聞こえるか、ゼロよ!私はコーネリア・リ・ブリタニア皇女が騎士、ギルバート・GP・ギルフォードである!明日15時より、国家反逆罪を犯した特一級犯罪者、256名の処刑を行う!ゼロよ、貴様が部下の命を惜しむなら、この私と正々堂々と勝負せよ!」

 

一方、中華連邦の総領事館でも騒ぎが起こっていた。

 

「大変ですゼロ!中華連邦が突然…ぐあぁっ!」

 

その騒ぎの中心にいたのは、中華連邦の武官である星刻だった。ゼロとして振る舞うC.C.に連絡をとろうとした団員に剣を向けて告げる。

 

「黒の騎士団は、ここで滅びよ!」

 

なんとなくではあるが事態を覚ったカレンとC.C.は、星刻やその部下達と闘う覚悟を決め、準備を始めた。

 

「青森を思い出すわね。」

 

「あれよりはマシだろ。全員服を着ているからな。」

 

会話をしながら二人は銃を組み上げる。

 

「総領事にはゼロがギアスをかけたんでしょう?なのにどうして…」

 

「さあな。ただ、ここを取られると私達とルルーシュは…」

 

C.C.が言いかけたところで組み上げた銃がばらけてしまう。

 

「またバラバラに…」

 

C.C.が銃を拾い上げようとしたとき、星刻が二人の前に現れた。

 

「意外だな。一人で来るとは。」

 

「中華連邦の総領事は、合衆国日本を承認したはずだけど?」

 

二人が星刻へ言葉をかける。

 

「その方は亡くなられる予定だ。」

 

「ッ!」

 

「それとも、ここで黒の騎士団が潰える道を選ぶか?」

 

星刻の言葉にカレンは動揺する。まさか星刻が独断でここまでするとは思ってもいなかったからだ。

 

「待て!いきなりそんな…」

 

「わかった。」

 

言いかけたカレンをC.C.が制す。

 

「総領事は私達と闘って死んだことにすればいい。」

 

いち早く星刻の考えを理解したC.C.が、内心を隠したまま言葉を返す。

 

「ゼロは思わぬ引き金を引いたらしいな。高邁なる野望か、俗なる野心か…全く、あいつがいない事で私達ばかりが面倒事を背負うハメになるな。」

 

「あいつ…?誰の事かな?」

 

星刻の問い掛けに、C.C.が少し笑みを浮かべながら答えた。

 

「ライという男で、騎士団のもう一人のエースだ。今ここにいれば、ゼロの代わりどころか、しばらく騎士団の指揮を任せていてもいいくらいの男だ。ライならお前とも、もう少し上手くやれただろうな。」

 

彼女の言葉を、星刻は黙って聞いていた。

 




寝れないので一話だけ投稿します。この辺りは手直しするところが少ないので個人的に助かりました。


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episode2 Justice from guilty

「これはどう受け取ったらいいのかしら?」

 

パイロットスーツに着替えたカレンが星刻に問う。

 

「ゼロが現れたら、動いてくれていい。」

 

「我々なら、例えブリタニアに発砲しても知らん顔を決め込めると?」

 

星刻の後ろから、C.C.が問いかける。

 

「悪い取引ではないはずだ。」

 

「武官と聞いていたが、政治もできるようだな。」

 

C.C.は星刻の才覚に感心する。中華連邦という、大宦官達が支配する腐りきった国には、とても収まりそうにはない器の持ち主に見えた。

 

「これはあくまで私個人の願望だが…君達が言うライという男に興味があってな。ゼロとは別に私も一度会ってみたいと思ったのだ。」

 

だから、総領事館内での戦闘を見逃すという。もちろん高亥を亡き者にできたことに対する恩もあるのだろうが、それを考えても相当な譲歩と言って良い。

 

 

 

「イレブン達よ!お前達が信じたゼロは、現れなかった。全てはまやかし!奴は、私の求める正々堂々の勝負から逃げたのだ!──構え。」

 

通告していた時間となったことで、ギルフォードが領事館周辺に集まった日本人に告げ、部下達に銃を向けさせる。その光景を前にしても、あまりの戦力差にカレン達は動くことが出来ない。

しかしその直後、ゼロのものと思われる声が響き渡った。

 

「違うな。間違っているぞギルフォード!」

 

「成る程…後ろに回ったか!ゼロ!」

 

ギルフォードはグロースターを振り向かせる。そこには無頼のコックピットに立つゼロの姿があった。

 

「貴公が処刑しようとしているのはテロリストではない。我が合衆国軍、黒の騎士団の兵士だ!」

 

「国際法に則り、捕虜として認めよと?」

 

無頼はギルフォードに向かって歩を進める。囚われた扇達も、ゼロが本物なのか疑っていた。例え本物であったとしても、この状況を覆すのは不可能に見えた。

 

 

 

 

「どうするつもりだ…カレンも出れないし、ライもいない…あの状態で勝つつもりか?」

 

C.C.が無頼のコックピット内で呟く。一方のカレンは自らブリタニア軍に囲まれる状態を作り出したゼロを心配しつつも、磔にされているであろうライの姿を探し続けていた。

 

「ライ…絶対、助け出すからね…!」

 

 

 

 

 

「お久しぶりですギルフォード卿、出てきて昔話でも如何ですか?」

 

「せっかくのお誘いだが遠慮しておこう。過去の因縁には、ナイトメアでお答えしたいが…」

 

ギルフォードの言葉を受け、ゼロは無頼に乗り込む。

 

「フ…君らしいな。ではルールを決めよう。」

 

決してナイトメアの操縦が得意ではないゼロが、ギルフォードの提案に乗る意思を見せる。ギルフォードにとって甚だ意外だった。

 

「ルール?」

 

「決闘のルールだよ。決着は、一対一で着けるべきだ。」

 

その言葉に、ギルフォードは笑みを浮かべる。

 

「いいだろう。他の者には手を出させない。」

 

「武器は一つだけ!」

 

「よかろう。私の武器はこれだ!」

 

ギルフォードは背面につけていたMVSをパージし、ランスをゼロの無頼へ向けた。

 

「では私は、その盾を貸して貰おう。」

 

そう言って無頼が指差したのは、ナイトポリスが持つ鎮圧用のシールドだ。

 

「何!?それは…」

 

「これでいい。」

 

言いかけたギルフォードを遮り、ゼロはシールドを受け取った。その姿を見ていた藤堂や星刻には、ゼロが自決しようとしているようにしか見えなかった。

 

「ゼロが無能ならば、黒の騎士団は外交の道具となってもらうしかないだろう。」

 

二人のやりとりを見守る星刻が告げる。それほどに、周囲から見ればゼロの行動は無謀に過ぎた。

 

「質問しよう、ギルフォード卿。正義で倒せない悪がいるとき、君はどうする?…悪に手を染めてでも悪を倒すか、それとも己が正義を貫き悪に屈するを良しとするか。」

 

この言葉遊びに対し、ギルフォードは戸惑うことなく毅然と答えを返す。

 

「我が正義は、姫様の元に!」

 

その言葉を合図に、ギルフォードはグロースターを無頼に向けて突撃させる。

 

「成る程。私なら、悪を成して巨悪を打つ!」

 

ゼロがその言葉を発すると同時に、総領事館の外壁が傾く。事前にギアスを使っての仕込みは完了しており、囚人となった騎士団員とブリタニア軍は総領事館内に落下していく。ハーケンを使い、なんとか踏みとどまったギルフォードのグロースターの上を、無頼がシールドをボード代わりにして滑り降りていった。

 

「カレン!突入指揮を取れ!」

 

命令を受けたカレンは紅蓮と部下達の無頼をを突撃させる。

 

「自在走行戦闘機部隊は着いて来い!扇さんやライの救出が最優先だ!」

 

その間にも、ブリタニア軍は落下や衝突により数を減らしていく。ゼロの無頼はその間を悠々と駆け、騎士団の部隊と合流した。

 

「黒の騎士団よ!敵は我が領内に落ちた!ブリタニア軍を壊滅し、同朋を救い出せ!」

 

その言葉通り、団員が扇らを次々と解放してゆく。そこへ近付こうとするグロースターを、紅蓮が止めに入った。

 

「ブリタニア!ここはねぇ、もう日本の領土なんだよ!」

 

生き残ったコーネリア親衛隊員であり、グラストンナイツの一員であるアルフレッドが、カレンの言葉に反論する。

 

「日本など存在しない!」

 

その言葉と同時に、彼の騎乗するグロースターからミサイルランチャーが放たれる。

 

「これだからブリタニアは!」

 

カレンは怒気を顕にしながら、ミサイルを避け、グロースターに接近する。

 

「さらばだ!イレブンのエース!」

 

ランスを捌かれ懐に入り込まれたものの、至近距離からのミサイルは避けられまい。アルフレッドの考えは、すぐ目の前で否定された。

 

「防いだっ!?この距離で…」

 

「こいつの威力はよく知ってるだろ!?」

 

紅蓮は輻射波動ですべてのミサイルを防ぎ、グロースターの頭部を掴む。カレンは再び輻射波動を起動すると、グロースターは彼女の目の前で爆散した。

 

「よくもアルフレッドを!」

 

同じグラストンナイツのエドガーが紅蓮にライフルを向けるが、既に中華連邦総領事館内であり、治外法権区域であることから味方に制止される。しかし、ブリタニア軍が攻撃を中止して撤退準備に入ろうという中、バベルタワーで卜部を殺害したナイトメア、ヴィンセントが単機で突撃した。

そのヴィンセントには機密情報局の隊員であり、ゼロの弟役を演じる暗殺者でもあり、人の体感時間を止めるギアスを持つロロが乗っていた。

ヴィンセントはあっという間にゼロの無頼に追い付く。

 

(来たか…来てしまったのか!ロロ!くっ…!ライがいれば、取れる手段もあるというのに…!)

 

ロロが突入してくることは予想していたルルーシュであったが、それでも確実にどうにかできるという対策は立てれていない。やはりライがいなければ一手遅れるというのは、ルルーシュの知略をもってしても埋めがたい事実であった。

 

「救出部隊!ライは見つかったか!?」

 

「それが、ライさんはまだ見つかっていません!できる限り捜索と救出を急がせます!」

 

ゼロの問いに、人質救出を行っていた部隊の内の一人が返答する。それを聞いたゼロは思わず舌打ちをした。

 

(やはりやるしかないのか…賭けに出るしか…!)

 

彼が考えている間にも、ヴィンセントはその機動力とロロの体感時間を止めるギアスを駆使して、自身のすぐ後ろにまで迫っていた。

こうなることも十分予測の範囲内ではあったのだが、実際にその状況になってみると一つのミスで全てが終わってしまう。ルルーシュは必死の思いで無頼を駆けさせた。

 

(やっぱり逃げるんですね。C.C.を差し出す約束は…ルルーシュ、最初から僕に嘘を!僕に未来をくれると言ったくせに!)

 

ヴィンセントの放ったハーケンが無頼の左肩を撃ち抜く。周囲の団員達の助けも間に合わない。誰もがゼロが捕縛されると思ったその時、ヴィンセントに向かって砲撃が行われた。

 

(しまった!物理現象は止められない…直撃コースだ!こんなところで…)

 

自身の死を感じ、絶望しかけたロロであったが、その砲弾とヴィンセントの間に、ゼロの無頼が割り込んだ。無頼の右肩に当たった事で、砲弾はコースを変え、ヴィンセントに当たることは無くなった。

倒れた無頼にヴィンセントが駆け寄る。

 

「な、何故!?」

 

ロロは、自分に嘘をついていたルルーシュがその自分を庇った理由が分からず、ゼロを捕縛することすら忘れて問い掛ける。

 

「…お前が、弟だから。植え付けられた記憶でも、お前と過ごしたあの時間に、嘘は無かった。」

 

(今までのことが、嘘じゃ無かったなんて…僕が、あの日誕生日が無かった僕に初めて…それも…)

 

「自分の命が大事だって、そう言った癖に…そんなくだらない理由で!」

 

「約束したからな。お前の新しい未来を。お前の未来は、俺と…」

 

二人のやりとりの間に出来た隙を、見逃さなかった人物がいる。ギルフォードだ。

彼は倒れた無頼に向かって、ランスを投げ放った。

 

「ッ!」

 

無頼はすでに動作を停止している。ゼロにランスを避ける術は無く、一貫の終わりかと思われた。しかしそのランスを、ロロがヴィンセントで受け止めた。この瞬間、ロロに対するルルーシュの策の成功は、決定的となった。

 

「そこまでだ!ブリタニアの諸君!これ以上は武力介入と見做す。引き揚げたまえ!」

 

そこへ、星刻から声がかかる。ギルフォード率いるブリタニア軍は、その言葉に従い、撤退するしか術はなかった。

 

「扇さん!」

 

カレンは、助け出された扇の胸に飛び込む。

 

「ありがとう、カレン。」

 

一時は生き延びることを諦めかけた扇であったが、こうして助けられたことで、もう一度日本の為に生きるという思いを取り戻していた。

 

「ううん、藤堂さん達も…」

 

「すまない、迷惑をかけた。」

 

「苦労したんでしょ?」

 

藤堂、朝比奈からもカレンに声がかかる。

 

「…ライはどこだ?」

 

カレンに問うたのは千葉である。

 

「…え?一緒に捕まってたんじゃ…」

 

てっきり扇達と共にブリタニア軍に捕らわれており、今回の作戦で助け出せたと思っていたライがいないことに、カレンは衝撃を受ける。

 

「そんな…でも…」

 

「ライ君は、てっきり君達と共にいると思っていたが…もしや…」

 

藤堂の言葉にカレンは最悪の想像をする。事実、東京決戦でライと最後に闘い、その後藤堂達を捕らえた男は、ナイトオブラウンズに取り立てられている。もしかしたらライは、既に…

その場にへたり込むカレンを、千葉が慌てて支えた。

 




ルルーシュ、カレン、星刻の台詞を追加しています。


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episode3 Knights of Round

中華連邦総領事館に戻った面々は歓喜していた。東京決戦途中にゼロがいなくなった事に対して一悶着あったものの、藤堂の言葉によってそれも手打ちとなっている。

 

「お前を助けたナイトメアは星刻のルートで外に出しておいたぞ。」

 

総領事館内の一室で、C.C.がゼロに告げた。

 

「星刻?」

 

「中華連邦の武官だ。頭も相当キれる男だぞ。」

 

「そうか。なら私も使わせてもらうとしよう。それはそうと、カレンは?」

 

ゼロの仮面をテーブルに置いて、ルルーシュが問い掛ける。

 

「…部屋に閉じこもっている。ライが既に死んでいる可能性が高くなってしまったことを、信じたくないのだろうな。」

 

「俺も藤堂らと供に捕らわれているのではと思っていたが…」

 

ゼロが復活するまでに、カレンやC.C.は出来得る限りの手段でライの行方を調べていた。カレンは自身の恋人として、C.C.は一人の仲間として、そしてギアスユーザーとしてという理由以上に、彼の指揮力を買っていた為である。

 

「あいつが死んだと思いたくはないが…俺にとっても、この件は非常に重要だ。捜索は続けさせよう。」

 

ルルーシュはゼロとしての決定を下し、総領事館を後にした。

 

 

 

 

 

 

「本日付を持ちまして、このアッシュフォード学園に復学することになりました、枢木スザクです。よろしくお願いします。」

 

学園に戻り、表面上はいつもの日常に戻ったルルーシュは驚愕していた。

ゼロの捕縛という手柄を立て、ナイトオブラウンズの、ナイトオブセブンに取り立てられたスザクがエリア11に戻っただけでなく、自身の生活圏内であるアッシュフォード学園にも戻ったのだ。

 

「枢木卿はエリア11配属に伴い、復学することとなった。席はとりあえず、ルルーシュの隣に。」

 

表向きはアッシュフォード学園の教員であり、裏では機情の指揮官であるヴィレッタが告げる。

指定された席へ歩むスザクと、その先に座るルルーシュの視線が交錯する。

 

「久しぶりだな!スザク!」

 

「懐かしいよ。ルルーシュ!」

 

咄嗟の判断で、皇帝のギアスで記憶をかけられているままの状態の演技をするルルーシュ。その目の前にいるスザクに、過去に同じ生徒会に所属していたシャーリーやリヴァルが話し掛け、教室内はちょっとした騒ぎとなった。

 

「スザク君が戻ったって!?」

 

教室の扉を開けて飛び込んできたのは、留年して同学年になったものの、クラスの違うミレイである。それが騒ぎに拍車をかけ、すでに授業という空気では無くなってしまっていた。

 

(失敗だったなスザク。ルルーシュという名前だけでそばに来た。つまり、俺のことを知っているからこその行動。さて…後はロロが下手なことをしなければ…)

 

同時にスザクも、ルルーシュやクラスメイトについて思考を巡らせている。

 

(やはり、ライはいない…騎士団員だったというアドニスの報告は本当だったのか…。そしてルルーシュ…君の正体は僕が確かめる。)

 

 

 

 

「僕らの監視が信用できないと!?」

 

そのロロは放課後、地下の機情が管理する監視室で、ヴィレッタ、スザクと打ち合わせをしていた。

 

「C.C.の件もあるだろう。君は今まで通り、弟役を頼む。」

 

「…イエス、マイロード。」

 

「それから、以前この学園にいたライという銀髪の男の情報はないか?」

 

スザクの言葉を聞いて、ロロは少し首を傾げる。

 

「いえ…僕らが派遣された頃にはそのような生徒はいませんでした。」

 

「そうか…もしその男の情報が手に入れば、自分まで報告して欲しい。」

 

「…イエス・マイロード。」

 

ロロの役割を確認したスザクは、ヴィレッタに目を向ける。

 

「生徒会主催で、枢木卿の歓迎会を行うようです。そこで再度確認を。」

 

「分かりました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、政庁は大騒動となっていた。正体不明の戦闘機が政庁に侵入し、好き放題に暴れていたからだ。

 

「ハハッ!なんだこのあっけなさは。ユルユルだなぁ呆れるほどに。エリア11の防衛線とは、この程度か!」

 

戦闘機パイロットはその言葉とともに、機体を急加速させる。その先にはブリタニア軍のサザーランドが防衛線を敷いており、戦闘機に向かって一斉にライフルを斉射した。

 

「へえ、その判断はまぁまぁだ。」

 

戦闘機は上空へ飛び上がると、異常な機動力で全ての弾丸を避け、大型のスラッシュハーケンと思われる武器で、サザーランドを破壊していく。

 

「おっ?」

 

その戦闘機の前に、二機のグロースターが立ち塞がる。ギルフォードに政庁の留守を任された、グラストンナイツのエドガーとクラウディオだ。

 

「何者かは知らぬが、ここで終わりだ!」

 

グロースター2機がランスを構える。その姿に、戦闘機のパイロットが失望の色を含んだ声を放つ。

 

「失格。その武装は、建物を守ることを優先している。仕方ない。」

 

そう言いながら、操縦桿を操作する。するとグロースターの目の前で、戦闘機はナイトメアフレームに変形した。

 

「そういうことですか…可変ナイトメアフレーム、トリスタン。ということは、ナイトオブスリー、ジノ・ヴァインベルグ卿ですね。」

 

「ああ、君達を試しに来た。さぁ、私を止めてみせろ!」

 

トリスタンは長槍、もしくは鎌にも見えるMVSを構える。

 

「いいでしょう、私たちも恥をかかされたままでは治まらない!」

 

二機のグロースターもランスを構えた。

 

「そうそう、本気で頼むよ。」

 

「言われずともぉ!」

 

叫びを上げがら、グロースターがトリスタンに突撃する。しかしトリスタンはそのランスを簡単にいなし、二機のグロースターに対し、的確にMVSでダメージを与える。

 

「こんのおぉッ!」

 

しかしまだどちらのグロースターも動くことが出来た。体勢を立て直し、再度トリスタンに突撃を仕掛けようとした直後、頭上から声がかかる。

 

「そこまでだ、三人とも。」

 

そこには白と青を基調にしたナイトメア、ランスロット・クラブが浮遊していた。

 

「もう十分だ。これ以上の戦闘に意味はない。」

 

ランスロットクラブからの声に、グラストンナイツのクラウディオは不満を込めて聞き返す。

 

「それは、ナイトオブイレブンとしての判断ですか?」

 

「その通りだ。」

 

二人はその言葉に悔しさを滲ませる。一方のジノも残念そうな顔だ。

 

「いいとこで止めるなよアドニス~…おっ?」

 

トリスタンとグロースターに向かって歩いてくる人物に気付いたジノが声を上げる。

 

「なんの騒ぎだい?」

 

そう声をかけたのはスザクだ。

 

「おぉ~スザク!」

 

ジノはトリスタンから降りながら、スザクに声をかける。

 

「ジノ、これはやりすぎだよ…それに、ランスロットを持ってきて欲しいと頼んだのに…」

 

「来週、ロイド伯爵と一緒に来るってさ!それより…」

 

言いながらジノはスザクの両肩に手をかけた。

 

「何だいこの服?」

 

「学校帰りだからね。制服。」

 

「へぇ、これが。」

 

スザクの言葉を意に介さず、ジノは自由に振る舞う。その様子に、呆れたような声がかかる。

 

「自由すぎるぞ、ジノ。」

 

灰色に近い、肩まであるややウェーブのかかった髪を靡かせて近付いてきたのは、ナイトオブイレブン、アドニス・アーチャーだ。右手には黒いバンダナが握られている。

さらにその横には、大型のナイトメアフレームも降り立つ。

 

「…おしまい?」

 

そのナイトメアとパイロットが来ることを知らされていなかったスザクは素直に驚いた。

 

「モルドレッド?アーニャまで来ていたのか?」

 

「おしまい?」

 

モルドレッドのパイロットであり、ナイトオブシックスでもあるアーニャ・アールストレイムが重ねて問いかける。

 

「終わりだってさ!アドニスが。」

 

ジノの言葉を聞いて、アーニャは退屈そうに携帯を手に取る。

 

「…つまんない。」

 

「こちらで目撃されたという、ボクサーに興味があるらしい。まぁ、それは俺もだが…。しかし、戦力という意味では申し分ないだろう。」

 

アドニスが皮肉そうな笑みを浮かべながら、スザクに告げる。そのスザクは、自身の歓迎会において、ルルーシュがゼロなのかどうか、真偽を確かめようと決意していた。

 



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episode4 Turn back

「答えは、この人に。来週赴任される、エリア11の新総督だ。」

 

場所はアッシュフォード学園の屋上。ナイトオブセブン、枢木スザクの歓迎会が佳境を迎える中で、かつて親友[だった]ルルーシュとスザクは向かい合い、そのスザクは携帯電話を片手に持っていた。

 

「ただの学生が総督と…?」

 

苦笑いを浮かべながら、ルルーシュはスザクに問う。しかしそのルルーシュを無視して、スザクは電話の先にいる新総督に言葉を向けた。

 

「枢木です。…はい。今、目の前に。はい。」

 

話ながらルルーシュに歩みより、携帯電話を手渡す。

 

「困るんだけどな…そんな偉い方なんかと──」

 

『もしもし、お兄様!』

 

「ッ!!」

 

電話の先から聞こえた声に、ルルーシュは凍りつく。

 

『…お兄様なのでしょう?私です!ナナリーです!総督としてそちらに…』

 

その言葉に、ルルーシュは何も言葉を返せない。自身にとって掛け替えのない妹であり、黒の騎士団を作った大きな理由の一つに、彼女を守る為に、という思いもあった。そのナナリーの行方は記憶が戻って以降探し続けていたが、まさか皇族に復帰し、自身の敵という立場である総督となってエリア11に戻ってくるなど想像もしていなかった。いや、想像したくなかったのだ。

 

『…あの、聞こえていますか?ナナリーです!』

 

一方、ナナリーもブラックリベリオン以降行方不明となっていたルルーシュを心配していた。ゼロの正体がルルーシュであることも知らされていなかった為、弾んだ声で問いを重ねた。

 

(本当に記憶が戻っていないのなら、ナナリーの事はわからない筈…さぁルルーシュ、答えを出してもらおう。)

 

ルルーシュのナナリーへの溺愛を知っているスザクは心中で考える。記憶が戻っているとしたら、ルルーシュがナナリーを裏切ることなど絶対にできないと分かってのことだ。

 

『あの…お兄様ではないのですか?』

 

(チィッ…!ライがいればあいつのギアスでスザクを押さえられるものを…!どうする…どうすればいい!?)

 

ルルーシュは、未だナナリーからの問いに答えることが出来ていなかった。彼はナナリーに嘘をつくことが出来ない。だからこそ、スザクを前にしている今は何も言葉を紡げないでいるのだ。そのルルーシュの目に、スザクの後ろに歩みでた男子生徒が映った。

 

(ロロ!)

 

ロロは自身の、人の体感時間を止めるギアスを使って、スザクの動きと思考を止めた。

 

「時間制限を忘れないで。」

 

「分かっている!」

 

ルルーシュはロロの言葉に返事を返すと、すぐにナナリーに意識を戻した。

 

「聞いてくれ、ナナリー。今は他人の振りをしなければならない。必要なんだ、俺に話を合わせて欲しい。」

 

『…えっ?』

 

「必ず迎えに行く!だから、それまで…愛してる、ナナリー!」

 

ロロのギアスが解けたのは、ルルーシュが言い切った直後だった。

 

「─あの…人違いではないかと。はい、ただの学生ですし。」

 

(ルルーシュ、やはり記憶は戻っていないのか…?)

 

ルルーシュにとって何よりも大事であろうナナリーに対して、他人のように振る舞う様子を見て、スザクは自身の予想が外れている可能性が高い事に落胆する。ロロが裏切っていることを知らないスザクには、これ以上確かめる為の手立ては無かった。

 

「いえ、皇女殿下とお話出来て光栄です。」

 

『あの…電話を戻して頂けますか?』

 

「イエス・ユアハイネス。」

 

ルルーシュの言葉に、ナナリーは悲痛を堪える。ナナリーにとっても兄であるルルーシュは最愛の存在であり、そのルルーシュに他人として、そして一般人と皇女という立場の違いを言葉で示され、ナナリーの喜びはすぐに萎んでしまっていた。

 

「ごめんナナリー、誤解させるような形になっちゃって…それに、彼の情報も得られなくて…」

 

『いえ、雰囲気が似ていたので…ライさんの事も、無理を言ったのは私ですし…では、エリア11でお会いしましょう。』

 

そう言って通話を終了したナナリーのもう一方の手には、折紙で出来た桜が握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

『新潟での物資受け取りは上手くいったらしい。しかし、この総領事館に戻る方法がないが…』

 

「だろうな。」

 

C.C.の言葉に、ルルーシュはどこか上の空で言葉を返した。その手は、チェスの駒を弄んでいる。

 

『新しい総督がナナリー。闘えるのか?妹と。』

 

「闘う?それは何の冗談だ?」

 

ルルーシュは画面の先にいるC.C.を睨み付ける。

 

『では放っておくのか?』

 

「論外だな。このままでは、昔のようにナナリーがまた政治の道具に…」

 

『歩けず、目も不自由な少女。駒として使い捨てるつもりかな?』

 

C.C.の言葉を受け、ルルーシュは思わず立ち上がった。

 

「そうさせない為に俺は行動を起こした!その為の黒の騎士団だ!ナナリーの為のゼロなんだ!」

 

そのルルーシュに対し、あくまでC.C.は冷静に言葉を返す。

 

『それがお前の生きる理由であることは知っている。しかし、戦力も人材も不足している今の状態では…』

 

「確かにあいつがいればもう少し打てる手もあるが…しかし、誰に何と言われようとも俺はナナリーが幸せに過ごせる世界を造る。その為にもブリタニアを破壊する!」

 

その言葉とともに、持っていたキングの駒をチェス盤に叩きつけた。

 

 

 

_______________

 

 

 

 

「朝比奈、カレンは?」

 

「本人は大丈夫だって言ってるけど、どうだろうねぇ?」

 

ゼロは朝比奈に問い掛ける。ライが死んだかもしれないという事実を突き付けられ、丸一日部屋にこもっていたのだ。友人としても、作戦を遂行する上でも心配であった。

 

「とりあえず、何かあったらフォローはするよ。」

 

朝比奈の言葉にゼロは頷く。

 

「頼んだ。…では、出発するとしよう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いない!?黒の騎士団が!?」

 

星刻に問いかけたのはスザクだ。

 

「ああ、我々も先程確認した。情報は共有しよう。…これで、我が国にはブリタニアに対する敵意はないと分かって頂けるかな?」

 

星刻は平然と告げる。

 

「ゼロも一緒に!?」

 

「そのようだ。ナイトメアごといなくなっているしな。地下の階層から立ち去ったようだ。」

 

「どこへ…?まさか、ナナリーを!?」

 

ゼロの狙いに気付いたスザクが顔を上げる。

 

「やつらにフロートユニットはない。その考えに付けこまれたな。」

 

「ああ、やられたな。」

 

アドニスとジノが、スザクの考えに同意する。すると、横にいたアーニャが携帯電話から顔を上げ、三人に問いかけた。

 

「…お返し、する?」

 




ルルーシュ、ナナリー、C.C.、スザクの台詞を追加、手直ししました。


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episode5 Wasted time

「新総督へ海上で奇襲をかけるとは…スザク、お前は以前のゼロと現在のゼロは同一人物だと思うか?」

 

アドニスの問いに、スザクはゆっくりと首を振った。現在アドニスはランスロット・クラブに、スザクは小型の飛行機に乗り込んでプライベート通信を開いている。

 

「分からない…だけどその、昔のゼロは…」

 

以前ゼロであったルルーシュは、シャルル皇帝によって何度か記憶を書き換えられている。その事をアドニスに説明すべきか隠すべきかを迷ったスザクは、明確な答えを返すことが出来なかった。

 

「いちいち俺にいらん気を回すな。ギアスという力の事はあのV.V.とかいう男から聞いて知っている。皇帝陛下の力もな。」

 

「…そうなの?」

 

スザクはゼロの捕縛、アドニスは藤堂と騎士団幹部の捕縛という功績をもってそれぞれラウンズとなった。その為にどちらも任務で忙しくしていたこともあり、こうして長く話すのは久々であった。それにより、スザクはまさかアドニスがギアスという力の存在を認識しているとは思いもよらなかったのである。

 

「ああ、だからこその質問だ。しかし、それを考えればお前に一度学園まで確認しに行って貰うべきだったな。」

 

ルルーシュがゼロであるならば、今は学園にいない筈。その確認を怠った自分に対して、アドニスは苛立ちを覚えているのを隠さなかった。

 

「まぁいい、とりあえず今は総督救出が最優先だ。だが、もし別人だとするなら一人だけ心当たりがある。あのライという男…」

 

「確かに、彼ならゼロの変わりも務めるかもしれないね。ただ、そう考えれば今回の奇襲は些か軽率だとは思うけど…」

 

スザクの疑問に、アドニスも頷いた。

 

「確かにその通りだ。もしあの男だとすれば、単純に俺の楽しみが増えると思っただけだがな。」

 

アドニスの好戦的な笑みに、スザクも苦笑いを浮かべるしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリア11新総督、ナナリー・ヴィ・ブリタニアを乗せた重アヴァロンの操縦室では、警戒アラートが鳴り響いていた。前方には飛行部隊に吊り下げられ、空輸される複数のナイトメアが確認された。

 

「黒の騎士団!?」

 

輸送中の襲撃を全く予期していなかったアプソン将軍は驚きを露にする。彼の動揺は部下達にも伝わり、指令室は少しではあるがパニックの様相を呈していた。

 

「作戦目的は、新総督を捕虜とすることにある。如何なる事があろうと絶対に傷を付けるな。いいな、絶対にだ!」

 

「承知!」

 

ルルーシュが言い終わると同時に、重アヴァロンから戦闘ヘリが複数出撃するのが確認された。

ヘリが騎士団のナイトメアへ機銃を向けた瞬間、騎士団のナイトメア部隊は煙幕を放つ。

 

「なっ…」

 

狼狽えるヘリのパイロットに、アプソン将軍がやや落ち着きを取り戻した調子で告げる。

 

「サーフェイスフレアを張られても問題はない。囲んで叩け!」

 

一方、騎士団側ではナイトメアが空輸機から続々と切り離されていた。切り離されたナイトメアは重アヴァロンに着地し、船体に装備されている機銃を破壊していく。

 

「敵勢ナイトメアさらに三機、本艦の主翼上に取りつきました!」

 

「護衛艦にも取りついたようです。航空戦力を…」

 

部下から次々に上がる報告に、フレアを囲ませていたヘリを戻そうと考えた直後、重アヴァロンの付近で爆発が起こった。それにより、出撃していたヘリが全て撃墜されてしまった。

 

「旗艦以外は用無しだ!」

 

護衛艦のフロートユニットに向かって、紅蓮が次々に左腕部のミサイルを放つ。護衛艦は部分的にシールドを発生させるが、その間をすり抜けて数発のミサイルがフロートユニットに直撃した。

 

「残った空戦部隊も出せ!護衛艦からも砲撃を!」

 

アプソン将軍の言葉に、部下達は異論を挟む。

 

「しかし、敵がフロートを狙っています!シールドを展開している為に照準が…」

 

「ここを守らずしてどうする!…こんなことなら、ギルフォード卿も連れてくるべきだったな。東京疎開から援軍が来るとしても約一時間…」

 

アプソン将軍は歯噛みする。ブリタニアを発つ前にギルフォードから進言されたことが目の前で起こっているからだ。その時はギルフォードの言葉を一蹴したが、黒の騎士団を甘く見ていた、と思われても致し方ない失態だった。

 

「次っ!」

 

護衛艦を墜としたカレンは戦闘ヘリにハーケンを突き刺し、それを軸にアヴァロンに飛び移る。

 

「カレン、一人で突っ走りすぎだよ!」

 

朝比奈が慌てて声をかけるが、カレンは聞く耳を持たずにさらに先行する。それを見た朝比奈の月下が紅蓮を追おうとしたその時、月下に向かって銃弾が飛んできた。

 

「東京からの援軍!?早すぎる。」

 

このタイミングでの援軍を予想していなかった千葉が声を上げる。

 

「いや、方角としては後ろ備え。それに、フロートユニット!?」

 

藤堂が月下のモニターを向けた先には、ランスロットに似た薄紫色のナイトメアフレームを先頭として、数機のグロースターもフロートを装備して向かってきていた。

 

「さあ、幕を降ろそう。」

 

ランスロットに似たナイトメア、ヴィンセントに騎乗するギルフォードが呟く。

 

「空が飛べなくったって!」

 

カレンがブリタニアの飛行ナイトメア部隊にミサイルを放つ。それに倣って周囲の無頼もアサルトライフルを放つが、全て避けられてしまった。さらには無頼が攻撃を受け、撃墜されてしまう。

その光景を見た重アヴァロンの乗員は、これでこの闘いを切り抜けられると安心した。しかし、アプソン将軍だけは慌てていた。

 

「ギルフォードめ…勝手なことを!」

 

「しかし、助かりました。」

 

「それは奴の手柄ということだ!」

 

ここまできて、自身の保身を考えるアプソン将軍に部下達は呆れるが、彼はそれに気付かず、ただただ歯軋りしながら戦況を眺めていた。

 

 

 

 

「何っ!?ハーケンを!?」

 

「今だ!紅月君!」

 

重アヴァロンの緣に掴まり、ぶら下がった状態から一機のグロースターにハーケンを突き刺した、藤堂が騎乗する月下。そのワイヤーの上を紅蓮が滑るように走り、輻射波動を浴びせることで撃墜する。紅蓮は爆発の直前にグロースターを蹴って飛び上がっており、重アヴァロンに着地した。

しかし、着地した紅蓮のすぐ近くにいた無頼が、何かに貫かれて撃墜された。

 

「!?」

 

カレンがそちらを見ると、一機の戦闘機がこちらに向かって高速で飛来してきていた。

 

「おかしな戦闘機だねぇ。でもさ…」

 

高速で朝比奈の月下の前を周回し、月下から放たれる銃弾を避ける戦闘機。その戦闘機は一瞬静止すると、ナイトメアに変形した。

 

「ナイトメアッ!?」

 

一瞬の硬直を見逃さず、トリスタンは朝比奈の月下を両断した。

 

「すみません、後は…」

 

朝比奈は脱出に成功したが、形勢は完全に逆転した。

 

「くそっ、ここまできて…」

 

南が騎乗する無頼がライフルをトリスタンに向けるが、直後に頭部を撃ち抜かれる。カレンが振り返ると、その先にはヴァリスを構えたランスロット・クラブが鎮座していた。

 

 

「右翼護衛艦、操舵不能!」

 

一方、重アヴァロンの指令室もパニックに陥っていた。騎士団の攻撃を受けた護衛艦がフロートユニットを破壊され、重アヴァロンに向かって機体を傾けつつ近付いていたからだ。

 

「このままでは本艦に!」

 

「進路変更!」

 

「間に合いません!衝突します!」

 

乗員の誰もが絶望した瞬間、その護衛艦を凄まじい砲撃が貫いた。

 

「…相変わらずだなぁ。モルドレッドのやることは。」

 

ジノが振り返ると、そこにはナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイムの乗機である。モルドレッドが四連装のハドロン砲、シュタルケハドロンを構えていた。

 

『アーニャ、助かったのは事実だが…しかし今はそれをあまり使うな。万が一旗艦に当たったら、責任問題では済まないからな。』

 

「守ったのに…」

 

アドニスの言葉に不服そうに呟くアーニャ。その横を、小型飛行機が飛び抜けていった。

 

「ロイドさん、ランスロットは!?」

 

『準備できてるよぉ。早くおいで。』

 

重アヴァロンの横を通り抜けていく小型飛行機を見て、アプソン将軍は歯軋りをしたがら指令室を出ていく。彼は早足で機体後部の銃座に向かうと、そこに座る部下を押し退けた。

 

「将軍!何をなさるおつもりです!?」

 

重アヴァロンの銃座に、アプソン自らが座る。機銃を操作しようとするその手は大きく震えていた。

 

「このままでは降格となる…私自らの手で功績を、黒の騎士団を!」

 

そのアプソン将軍の前に、月下が現れる。

 

「フハハハハハッ!」

 

笑い声を発しながら砲弾を放つが、月下はあっさりと避け、銃弾は重アヴァロンのフロートユニットの一部を破壊する。

 

「愚か者!自らのエンジンを!」

 

呆れながらも藤堂が機銃に砲撃を放つ。それを受け、アプソン将軍が居座る銃座ごと機銃は爆散した。

それを見届けた藤堂は、艦内へと入って仙波が操縦する月下との合流を果たす。

 

「ゼロとは?」

 

仙波の問いに、藤堂は自身も情報を持たない事を伝えた。

 

「ECCMの影響か連絡が取れん。後方の千葉、紅月と合流し、艦内探索をかけたいが…」

 

「しかしこの艦は、墜落しかけています。時間が…」

 

言いかけた仙波の月下を、横から突然MVSが貫く。その刃はコックピットまで到達しており、一目見ただけで脱出は不可能だと藤堂は理解する。

 

「仙波!」

 

「他愛もない。」

 

MVSを持つランスロット・クラブから声がかかる。

 

「…こんな、ところで!」

 

その声を最後に、仙波の月下は爆発した。

 

「仙波ぁっ!」

 

振り返った藤堂の月下の右腕を、別のMVSが斬り取る。

 

「藤堂、陸戦兵器での奇襲とは、お前らしからぬ戦だな。」

 

ギルフォードの言葉通り、この作戦はもしライがいたなら必ず反対するであろうものであった。それを分かっていながら黙認した藤堂は仙波の死や騎士団の被害を見て、自身がそうしなかった事を後悔する。だがその間にも、戦況は悪化の一途を辿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「総督現在位置確認後、送信願う。」

 

「チャンネルMB、ラジャー。」

 

一方、重アヴァロンの後方に迫るアヴァロンからは、ランスロットが発進しようとしていた。

 

「ランスロット・コンクエスター、発艦!」

 

「発艦!」

 

ナイトオブセブン及びナイトオブイレブン専用ナイトメア開発チーム、【キャメロット】に所属する、セシル・クルーミーの声に従い、ランスロット・コンクエスターはアヴァロンより発進した。

 

「あっ!」

 

それに気付いたカレンが乗る紅蓮に向かって、ランスロット・コンクエスターがヴァリスを放つ。

 

「くっ!!」

 

咄嗟に輻射波動で防ぎ、左腕をランスロットに向ける。しかし、左腕のミサイルランチャーは空砲を響かせた。

 

「…弾切れ!?しまった!」

 

ライのことで取り乱し、それを作戦に集中することで何とか抑えていたカレンであったが、やはり平常通りと言えるまでには至っておらず、ミサイルを撃ち尽くしていた事にすら気付けていなかった。

 

「カレン、僕はナナリーを助けなくちゃいけない。今更許しは、請わないよ!」

 

ランスロットは背部に装備されたハドロンブラスターを起動し、ヴァリスに接続する。

 

「隠れろ紅月!艦内に入れば…」

 

月下を下がらせようとしていた千葉に言われるも、カレンは惑う。既に過去の話ではあるが、ランスロットに対抗できるのは、騎士団内には紅蓮の他にはなかった。その自分が逃げてしまえば、確実に味方の犠牲が増えてしまう。

 

「でも、みんなが逃げ切るまで…」

 

振り向きかけた紅蓮に、ランスロットからハドロンブラスターが放たれる。ヴァリス同様、こちらも輻射波動で受け止めるが、右腕は簡単に崩されてゆく。

 

「まさかっ!」

 

ハドロンブラスターは紅蓮の右腕ごと頭部を貫いた。右腕が爆発した勢いに負け、紅蓮は重アヴァロンから放り落とされた。

 

「脱出レバーを!紅月!」

 

千葉が慌ててカレンに指示を飛ばしつつ、確認の為に飛び出してくる。

 

「駄目!動かない!」

 

カレンは何度もレバーを引くが、紅蓮のコックピットは射出されない。

 

「整備不良!?こんな時に…」

 

呆然とする千葉の月下。その頭を、後ろからモルドレッドが掴んだ。

 

『おしまい、かくれんぼは。』

 

外部スピーカーで告げるアーニャのモルドレッドに、押さえつけられながらも回転刃刀を振るう。しかし、モルドレッドには一切のダメージを与えられなかった。

その光景を見た千葉は脱出レバーを引いた。コックピットが射出された直後、月下は爆発した。

 

 

 

 

カレンは何度も脱出レバーを引くが、脱出装置は一向に作動しない。

 

「──落ちちゃう!ごめんね、紅蓮…」

 

カレンは脱出を諦めた。この高さから海上に落ちれば、命が助かることはまずないことは明らかだった。

 

「──お母さん、お兄ちゃん…ライ…」

 

呟きながら目を閉じるカレン。しかし突如、紅蓮の落下が止まった。

 

『…間に合ったとは言えないけど、君を救えて良かったよ、カレン。』

 




アドニスとスザクの会話を追加、その他細かい点を変更しています。


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episode6 Awakening

「ぐ…」

 

ライが目を覚ますと、そこは古ぼけた医務室であった。眠っている間につけられたのであろう人工呼吸器を外そうと右腕を持ち上げると、そこには点滴が繋がれている。呼吸器を外してから上半身を持ち上げようとするが、身体は全くいうことを聞いてくれない。諦めて首だけを上げて自身の身体を見ると、至るところに巻かれた包帯と吊り下げられた自分の足が目に入った。

 

「そうか…僕はアドニスに敗れて…」

 

彼は覚えている最後の記憶をハッキリとしない頭から引っ張り出す。ランスロット・クラブの蹴りを避けられず、壁に叩き付けられた事までは覚えていたが、そうであれば自分は捕らえられたということだろうかとぼんやり考えていた。

 

(しかし、そうだとすれば随分とボロいな…)

 

もう一度室内を見渡すと、くすんだ洗面台や錆の浮いた鏡、年季の入った薬のボトルなどが置かれているこの部屋の状態は、とてもではないがブリタニアの医務室だとは思えなかった。

 

(だとすれば、ここは一体どこなんだろう…?でも、どちらにしろこの身体では逃げられないのは一緒か。)

 

ここがブリタニアの施設だろうとそうでなかろうと、これだけボロボロになってろくに身体も動かせない彼では逃げだす事など不可能である。ライはため息をつくと、霞んだ頭のままで思考を続けた。

 

(もしブリタニアの施設であれば、怪我がある程度治った時点で移送されるだろう…そうなったら、騎士団との合流はいよいよ不可能に…)

 

そこまで考えて、ライは重要な事を思い出した。

 

「そうだ!黒の騎士団は…!?カレンは!?」

 

腕の力だけで無理矢理上半身を起こす。あの時の状況では壊滅させられた可能性が高い上に、ゼロを追ったというカレンの情報もここでは入手出来ない。ライはようやくハッキリしてきた頭を回転させ、なんとか逃げる算段を立てられないか考えようとしたが、それと同時に医務室の扉が開いた。

 

「目が覚めたか。」

 

入ってきた男は長身で、プラチナブロンドの髪を肩の手前あたりまで伸ばしている。そしてその顔はライのよく知っている人物のものであった。この時代に生きている筈のない人間ではあるが。

 

「…ロック、なのか?」

 

「そうだ。久しぶりだな。」

 

ライが驚いて目を丸くする様子に、頬を上げてニヤリと笑ってみせるロック。目の前の状況が信じられないライは言葉が出ない。二人の間にしばらく沈黙が続いたが、ロックがおもむろに口を開いた。

 

「まぁ、信じられないのも分かる。だが俺の役目は騎士としてお前を守る事だ。だからこそ、あの魔術師と契約したのさ。」

 

「魔術師って…もしかして君は、コードマスターなのか?」

 

ライの質問の意味が分からず、一瞬口をつぐむロック。彼は口で言うより見せた方が早いと、自身の左目に刻まれたギアスを起動した。

 

「コードマスターというのがどういうものなのかは知らんが…あの時俺は奴と契約し、お前が起きるまでという条件で眠りについた。そしてこれが、契約によって得たギアス、任意捜索だ。まぁ大層な名前が付いているが、俺が指定した人物の居場所を知れるだけのショボい能力さ。」

 

「君までギアスを…あの男…君にまた会えたことは、素直に嬉しいけど…」

 

ライがようやく驚愕から立ち直って笑顔を見せる。ロックはそれを見て一つ息をつくと、色々と質問したそうなライを抑えて先に問うた。

 

「それはそうと、お前女が出来たのか?眠っている間にずっとカレン、カレンとうわ言を言っていたぞ。見合いの話が出ても、貴族の娘から言い寄られても全く興味を示さなかったお前が、成長したものだな。」

 

「確かに、何よりも大事だと思える女性には出会ったよ。それを成長と言っていいのかどうかは分からないけど…というか、見合いは全部、妹が勝手に断っていたからね。」

 

その言葉に、ロックは思わず笑みを深める。

 

「ルーンか。全く、お前もつくづく妹に甘いな。」

 

「そう言うなよ、たった二人の肉親だったんだから。それより、説明してくれないかな?あれからどれだけ経っていて、ここはどこで、君はここで何をしているのかを。」

 

ライの言葉を受けて、ロックは部屋の隅から錆びた車椅子をベッドの前まで運び、足をつっていた布を外して彼の身体を持ち上げると、そのまま車椅子へと下ろした。

 

「お前をここに連れてきてから今日で調度一週間だ。ここの説明に関しては、見せなければならないものと会わせたい男がいる。とりあえず、格納庫へ行くぞ。」

 

ロックが車椅子を押し、ライが左手に点滴を吊るしているスタンドを持って二人は医務室を後にする。電源の入っていない自動扉をロックが片手で開け、ライが座る車椅子を押して格納庫へ入る。まず彼の目に飛び込んできたのは、ボロボロになった月下の姿だった。

 

「分かってはいたけど…自分の愛機がここまでの姿になっているのを見るのは辛いね。」

 

「まぁ、もうこのままでは使えんだろうな。だが、改修すればなんとかなるだろう。アレを見ろ。」

 

ロックが指差した先には、グレーのカラーリングが特徴的な大型ナイトメアが鎮座していた。

 

「あの機体は灰塵壱式。アレを造った男が、ここにいる。」

 

「アレを…こんな施設でか?」

 

疑問を呈するライの元に、格納庫の奥から現れた一人の老人が歩み寄った。彼はゆっくりとした、しかしキツめの口調でライに話し掛ける。

 

「ワレがライか?ワシはチャド・ティーチー・タカムラ。あのナイトメアの製造者や。ワレの月下っちゅー機体も、ワシが改造しても構わんか?」

 

「は、はい。よろしく、お願いします…」

 

チャドの口調に面食らいながらも、ライは月下の改造を了承した。

 

「おっしゃ。ほな気合い入れてやろかぁ。」

 

すぐに月下に向かっていくチャド。その後ろ姿を見ながら、ロックが伝えた。

 

「あの男の目的はまた後で聞け。大事な事は、俺とあの男の目的が一致することと、それを達成するにはお前が必要だと言う事だ。だから、さっさと治してしっかりリハビリをしろ。」

 

「…分かったよ。とりあえず、君の目的とやらを聞かせてくれ。」

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

ゼロから連絡を受け、中華連邦から潜水艦で日本を目指していた神楽耶やラクシャータらは、先行している無人機から送られてきた戦闘の様子を見ていた。

 

「─やはり、飛行型ナイトメアが…」

 

神楽耶の言葉にラクシャータが答える。

 

「私達が着くまで持てばいいけど、ナイトオブラウンズがこんなにも出張ってくるのは予想してなかったわねぇ…」

 

モニター内からはブリタニアの飛行型ナイトメアが騎士団を翻弄する姿が映し出されていた。戦況は悪くなる一方で、味方機はどんどん数を減らしている。

 

「ここでゼロが負けたら、元の木阿弥だ。なんとか持ちこたえてくれれば…!」

 

祈るような気持ちで、ラクシャータらと合流した扇も同調する。彼の言う通り、ゼロがここで捕らわれれば、彼らは再び中華連邦で大宦官達のご機嫌を伺う生活に戻るか、ブリタニア軍に捕らわれるかしかない。その時、オペレーターの一人が声を上げた。

 

「…正体不明の飛行物体が接近中!」

 

その言葉に、神楽耶らはそちらを向く。レーダーからは、二機の不明機がこちらに近付いてくる様子が写し出されていた。オペレーターは急いでデータを確認する。

 

「……一機の識別信号を確認!────月下です!!」

 

オペレーターの声に、神楽耶らは目を見開いて驚く。月下は、藤堂と四聖剣の搭乗機だ。そしてその月下は予備も含め、今回の作戦に全て投入されている。残る月下は東京決戦で破壊され、パイロットも殺された可能性が高いとゼロから聞いている。だからこその驚きであったが、それが治まる前にその月下から通信要請が入った。

 

「…繋ぎますか?」

 

オペレーターの言葉に、神楽耶が答える。

 

「繋いで下さい。」

 

今まで戦況を映していたモニターの半分に、月下のパイロットが写し出された。

 

『神楽耶様、お久し振りです。戦況を教えて頂けませんか。』

 

その言葉を発したのは、行方不明となっていたライであった。ゼロから彼が死んだ可能性を聞かされ、ハーフとはいえ皇家の血を引く者として半ば兄のように慕い、その身と行方を心配していた神楽耶は安堵する。しかしすぐに頭を切り替えると、ライに現在の戦況を伝えた。

 

「現在、ゼロ様は重アヴァロン内にて新総督捕縛に向かっているものと思われます。艦上では戦闘が続いていますが、ナイトオブラウンズとその専用機であるトリスタン、モルドレッド、ランスロット・クラブの姿が見られます。他に、新型量産機とみられる機体も…」

 

「かなりの窮地ですね…分かりました。一刻も早く、援護に向かいます。」

 

そう言うとライは通信を終え、機体を加速させる。潜水艦に近い無人機からは、月下の改造機と思われる機体と、その倍近くあろうかという大きさのグレーのナイトメアが写し出され、重アヴァロンに向かって遠ざかっていった。

 



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episode7 Deep blue & fiery red

「…間に合ったとは言えないけど、君を救えて良かったよ、カレン。」

 

「─ラ、ライ…」

 

カレンの目の前には、この一年間探し続けた最愛の人が映し出されていた。そして、彼の乗る機体が、紅蓮の右足を掴んで落下を止めていた。

 

「─い、今まで、どこに…?それに、その機体…」

 

声を震わせるカレンに対しライは苦笑混じりに言葉を返す。

 

「この機体は蒼月。どこにいたかゆっくり話したいけど、今は…」

 

『ベストポジションじゃな~い』

 

二人の会話に割って入ったのはラクシャータだ。そしてその言葉は、カレンに対して向けられていた。

 

「ラクシャータさん!?」

 

『お待たせ。黒の騎士団特製の飛翔滑走翼。教本の予習はちゃんとやってた?』

 

「は、はい!大丈夫です!」

 

『じゃあ本番、いってみようか。』

 

『基本誘導はこちらでやりますね。ゼロ様の救出を頼みます。』

 

神楽耶もカレンに言葉をかける。

 

「そういうことだから、すまないけどカレン、放すよ。」

 

ライが言うと同時に、蒼月は手を放した。紅蓮の落下が再開されるとほぼ同時に、潜水艦から飛翔滑走翼が発射された。

 

「回れっ!」

 

その言葉と共に、紅蓮の頭部と、破壊された右腕の中で残っていた肩部分がパージされる。

それを見ると、ライは一度海面近くまで降下し、重アヴァロンに向かって飛んでいった。

 

「連結!」

 

紅蓮に向かっていた飛翔滑走翼が言葉通りに連結された。

 

「続けてぇ、徹甲砲撃右腕部!」

 

ラクシャータの言葉により、潜水艦から大型ミサイルが発射された。そのミサイルは紅蓮に近付くと減速し、外装をパージした。その中から新たな右腕が出現し、接続された。直後に連結された飛翔滑走翼の上部がパージされ、その中からは新たな紅蓮の頭部が出現した。

 

「敵がどれだけいようと!」

 

カレンの言葉と共に右腕を掲げる紅蓮可翔式。その新たな右腕にエネルギーがチャージされていく。

 

重アヴァロンでは、ギルフォードにより藤堂の月下が撃墜され、コックピットが射出されていた。

 

『我が隊は、藤堂を追います。』

 

配下のグロースター数機を引き連れ、ギルフォードがその月下のコックピットに向かっていく。

 

「ああ、こっちは総督を…ん?」

 

言いかけたジノの目に、撃墜した筈の紅蓮が飛翔し、戻ってくる様が写し出された。

 

「空に?黒の騎士団もフロートを?」

 

一方のカレンにも、撃墜された藤堂から通信が入っていた。

 

『紅月君、ゼロを!』

 

「助けてみせます!彼と供に!」

 

紅蓮に向かって、ヴィンセントとグロースターがライフルを放つ。しかし紅蓮は、それを輻射波動で防ぎつつ接近した。

 

「この紅蓮が通用しなかったらおしまいね!」

 

呟くカレンに、神楽耶が苦笑いで答える。

 

『でも、やるしかないから、撃ってみましょうか。』

 

「そりゃそうですね!」

 

紅蓮は右腕をヴィンセントとグロースターに向ける。その掌から輻射波動がビームのように放たれた。

 

「え、遠距離で…!」

 

その攻撃にヴィンセントは一瞬だけ持ちこたえ、その間にギルフォードは脱出に成功した。しかし周囲のグロースターは全て、輻射波動にのまれて爆散した。

 

「スザク、お前は総督を!」

 

その光景を見ていたジノがスザクに指示を出す。

 

『油断するな!相手はジェレミア卿に勝ったこともあるパイロットだ!』

 

「あのオレンジにかよ!」

 

ジノの言葉と同時に、トリスタン、ランスロット・クラブ、モルドレッドが紅蓮に向かう。しかしその直後、ランスロット・クラブが真下から斬撃を受けた。

 

『アァドニスッッ!!!』

 

蒼月が急上昇し、クラブに襲いかかっていた。なんとか一撃は食い止めたものの、蒼月の右腕部についている大型MVSに押され、クラブは戦場から押し出された。

 

「やはり生きていたかっ!!」

 

アドニスは笑みを湛えながら、敵機に向かって蹴りを放つ。しかし剣と一体化したシールドに止められ、左腕に持っていたもう一本のMVSでヴァリスを斬り落とされた。

 

 

一方で、ジノ達も驚いていた。敵の紅蓮がトリスタンとモルドレッドの攻撃を全て避け、ラウンズ二機を相手に互角の闘いを演じていたからだ。

 

「おいおい、ラウンズ並の腕前か?」

 

「でも、これで…」

 

アーニャはモルドレッドのシュタルケハドロンを構え、照準を合わせる。しかしその目の前に、大型でグレーのカラーリングが特徴的なナイトメアフレームが立ち塞がった。

 

「はぁっ!」

 

モルドレッドが吹き飛ばされる。アーニャは遅れて理解した。今自分は、思いっきりブン殴られたのだと。

 

「いきなり…ボクサー!?」

 

正体不明のナイトメアは、アオモリで確認されていたボクサーと思われた。そのマスタッシュマンに、シュタルケハドロンの照準を向ける。しかし敵も、その場に留まってこちらに両手を向けている。

 

『…遊びたいけど、これで終わり。』

 

アーニャがオープンチャンネルでマスタッシュマンに告げ、シュタルケハドロンを発射した。

 

「はあぁぁ!」

 

しかしボクサーが腰から抜いた長刀型のMVSにより、モルドレッドが放ったシュタルケハドロンは両断されてしまう。ボクサーはほぼ無傷であり、その光景にアーニャは唖然といった表情を浮かべていた。

 

「嘘…シュタルケハドロンを…!」

 

「モルドレッドか。久しぶりだな、アーニャ。」

 

ボクサーからの通信にアーニャは眉をひそめる。どこかで聞いた事のあるような声のような気もするが、その声の主が誰であったのか彼女には思い出せなかった。

 

「戦場で会った以上、悪いが手加減は出来んぞ!」

 

モルドレッドとの距離を素早く詰めるボクサー。咄嗟に操縦桿を倒し、間一髪で敵の攻撃をかわしたアーニャ。あと一歩操作が遅れていれば、ボクサーの持つMVSによって少なくともシュタルケハドロンは両断されていただろう。

 

 

 

 

「鬱陶しい!」

 

紅蓮が輻射波動砲弾を放つも、トリスタンはギリギリで避ける。フォートレスモードのトリスタンの飛翔速度はかなり速く、カレンは捕まえあぐねていた。そこへ横から、トリスタンに向けてハーケンが放たれた。

 

『カレン、ここは僕らに任せて、ゼロを追ってくれ!』

 

彼女にそう伝えたのはライだ。クラブを相手取りながら、スキを見てトリスタンへも攻撃を放っていたのだ。

 

「気をつけて!」

 

ライに告げると、紅蓮を重アヴァロンに向けて前進させる。今まではトリスタンに邪魔されていたのだが、ハーケンを避けた事でそこに道が出来ていた。

 

『行かせるか!』

 

紅蓮を追おうとしたトリスタンに蒼月が右腕を向ける。すると、MVSが盾の内側に収納され、そこに銃身が現れていた。

 

「嘘だろッ!」

 

そこから放たれた砲撃をなんとか避けて体勢を立て直すと、トリスタンと重アヴァロンとの間に蒼月が陣取っていた。

 

「ラウンズを二人同時に相手にするというのか…後悔させてやろう!」

 

「ああ!ラウンズとして、負ける訳にはいかない!」

 

アドニスとジノが左右から同時に機体を突撃させる。蒼月は二刀のMVSを構え、迎え撃った。

 

 

 

「カレン?この状況でまた来るなんて…まさか、旗艦の中にゼロが!?」

 

追ってくる紅蓮の姿を認めたスザクが驚く。

 

「どけえぇぇ!」

 

紅蓮の背部から、ミサイル状の物体が放たれる。

 

『喰らわせな、ゲフィオンネット!』

 

ラクシャータの言葉と共に紅蓮の背部から発射されたミサイルは、ランスロットの周囲に留まり、内部のゲフィオンディスターバーを起動させた。

 

「それは、対策済みさ!」

 

ランスロットはハドロン砲を紅蓮に放つ。しかし紅蓮は最小限の動きでハドロン砲を避け、ランスロットに接近した。

 

「でも、足は止まったね!」

 

ランスロットがMVSを抜き放つより早く、紅蓮が輻射波動を照射する。かろうじてブレイズルミナスで防御するも、ジリジリと押されていく。

 

「そんな!ユグドラシルドライブのパワーも上がっているはずなのに…」

 

驚愕するスザクに、セシルから通信が入る。それは、総督の現在位置を知らせるものだった。そして、その通信に一瞬気を取られた為に出来たスキを、カレンは見逃さなかった。

 

「しまった!」

 

紅蓮の胸部から射出されたハーケンで頭部の左側に一撃をくらう。

 

「いたぁーーーーーーっ!!!」

 

アヴァロンでは、ロイドが顔を抱えて叫び声をあげる。ランスロットの左頬にあたる部分が、ハーケンによって抉られていた。

 

しかしランスロットは攻撃を食らって後退する機体の勢いを利用して反転。重アヴァロンに向かった。

 

『カレン、今はスザクより…』

 

『ゼロ様を!』

 

千葉と神楽耶から立て続けに通信が入るが、肝心のゼロの居場所が判明していない。

 

「分かってるけど、どこに!?」

 

戸惑うカレンの目の前で、ランスロットは重アヴァロン内部に侵入していった。

 





【挿絵表示】

10年前にノートにチャチャッと落書きしてたのが出てきたものを、こちらにも載せておきます。普通のノートに書いたものを写真に撮っただけなので、見辛くて申し訳ありません。


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episode8 Reunion

重アヴァロン内部では、ゼロとナナリーが向かい合っていた。警備兵をギアスで殺害してここまで辿り着いたルルーシュであったが、そこでナナリーの真意を聞いた彼は戸惑いを隠せないでいた。彼女はゼロの、知らぬとは言え兄であるルルーシュの行いを否定し、さらには行政特区を復活させるつもりだと伝えた上で彼に協力を求めたのだ。ナナリーの考えを否定したくないと同時にできないルルーシュは、返答する事が出来ずに立ち尽くしている。

だがその直後、天井の一部を破壊して、ランスロットが部屋へ飛び込んだ。

 

「スザクッ!?」

 

その姿を見るとゼロはナナリーに向かって走り寄った。それとほぼ同時に、スザクもランスロットの外部スピーカーをオンにして、ナナリーに声をかける。

 

「逃げるぞ!俺と!」

 

『ナナリー!』

 

ゼロとスザクの声が重なる。

 

「スザクさあぁぁん!」

 

ナナリーはゼロではなく、スザクを呼んだ。正体を隠しているとはいえ、兄であるルルーシュではなく、スザクを。そのルルーシュは、ランスロットが近付いたことによる風圧で弾き飛ばされた。

 

(違う!そいつは俺を皇帝に売り払った…)

 

ルルーシュの思いとは裏腹に、安心した表情をランスロットに向けるナナリー。

 

『怖かったかい?ゴメン、もう大丈夫だから!』

 

外部スピーカーをオンにしたまま、スザクはナナリーに語りかける。そのままナナリーを車椅子ごと持ち上げると、スザクはランスロットをブレイズルミナスで包み、重アヴァロンを後にした。

 

(ッ!ナナリーが!スザクと!)

 

ゼロの上を通り抜けていくランスロットの掌に、優しく包まれているナナリーが目に入った。

 

(ゼロ、今は…)

 

スザクも飛ばされるゼロには気付いていた。しかし、最も優先されるのは総督であるナナリーの救出だ。着水するアヴァロンからナナリーを連れ、脱出する。

 

「ナナリィィィィィィィッッ!!!!!!」

 

爆発する重アヴァロンから吹き飛ばされたゼロを紅蓮がキャッチする。多大な犠牲を出した上で新総督捕縛作戦は失敗したが、何とかゼロは救えたことで、カレンもひとまず安堵した。

上空を見ると、ラウンズも撤退を開始していた。ナナリー救出という目的を達した以上、ここに留まる必要はないとの判断だろう。

去り行くラウンズに向かって、ライは言葉を紡ぐ。

 

「…アドニス、借りはいつか返すよ。」

 

その言葉を最後に、ライは蒼月をターンさせる。潜水艦には、すでに紅蓮が着艦していた。

紅蓮の手から下ろされたゼロは、フラフラと艦内に向けて歩いてゆく。

 

「ナナリー……ナナリー……」

 

その姿を紅蓮から降りたカレンが心配そうに見つめる。

そのカレンの後ろに、蒼月が着艦した。

コックピットが開き、ライが降りてくる。

 

「──ライッ!!!」

 

カレンは潜水艦に降りたライに飛び付いた。彼の首もとに顔を埋め、涙を流す。

 

「良かった、生きてて…」

 

「…ごめん、カレン。心配かけ…んむっ!」

 

言おうとするライの唇に、カレンは自分の唇を押し付けた。唇を離すと、カレンはひとときだけライと目を合わせ、再び彼の首もとに顔を埋めた。

 

「どこにいたか、何があったかは後でちゃんと話すよ。それより、ゼロは…」

 

ライはカレンの頭を撫でながら問いかける。カレンは顔を上げて、ライを見て首を振った。

 

「駄目だったみたい。新総督は…」

 

「そうか…あいつにとっては痛いな。」

 

その言葉に、カレンはやはりライはゼロの正体を知っているのだと確信した。

 

「とりあえず機体を格納しよう。そのあと…」

 

ズン…と船体が揺れる。蒼月の後方に、正体不明のグレーのナイトメアフレームが着艦していた。

 

「あれは…」

 

カレンがライから体を離しながら聞く。

 

「大丈夫、味方だよ。」

 

ライが言うと同時に、その機体から男が降りてきた。長身で、プラチナブロンドの髪を肩の手前あたりまで伸ばしたその男。年齢は二十代前半といったところだろうか。しかし日本人というには無理のある顔立ちである。艦上まで迎えに出てきていた騎士団員達を前に、その男は口を開いた。

 

「…俺はロック・グルーバー、この機体は灰塵壱式。訳あってそこにいるライと行動を共している。俺の願いを聞いて貰えるならば、黒の騎士団にも協力しよう。」

 

団員達の中には不審がる者もいたが、先程ラウンズと真正面から闘っていた姿を見ており、まず敵ではないと見ていいだろうというのが、大方の考えであった。

 

「…ここで話すのもなんですから、とりあえず中に入りましょうか。」

 

そう纏めたのは神楽耶だ。彼女の言葉で、ライやカレンは機体を格納する為に再び騎乗し、隊員達も、必要な者は自らの配置に戻った。

 

余談だが、通常のナイトメアの二倍近くある灰塵壱式を格納するのにはかなりの労力を要した。最終的には両腕を一旦取り外し、格納してから再接続するという方法を取るしか無かった。これにより、ラクシャータは潜水艦の発艦口の拡張を余儀なくされ、一人不満顔であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの後、僕はギルフォード卿の部隊のほとんどを退けましたが、そこに現れたランスロット・クラブ…アドニスと一騎討ちになりました。」

 

集まっているのはカレン、藤堂と朝比奈、千葉に加え、神楽耶とC.C.もいる。みな、ライが一年間何をしていたか聞きに来たのだ。そのライの後方には、腕を組んで目を閉じ、壁にもたれかかったロックがいた。

 

「飛行型のナイトメアには分が悪く、月下もかなり損傷していました。なんとかフロートに一撃を加えましたが、左腕は破壊され、落下の勢いのままに繰り出された蹴りを避けられなかった。僕が覚えているのは、蹴りをくらってビルに叩きつけられたところまでです。」

 

「そこからは一旦、俺が話そう。」

 

目を閉じたまま、ロックが声をかける。

 

「当時俺は、二つの理由からブリタニアに反感を持ちつつ、その上である程度の規模を持つ組織に渡りをつけられる人物を探していた。そしてたどり着いたのが日本だった。そこで…」

 

ロックは一度言葉を切る。

 

「150機程度のナイトメアで、ブリタニア軍に喧嘩を売る馬鹿げた組織を目にした。」

 

その言葉にカレンと神楽耶は目を尖らせる。

 

「しかし、思わぬ方法で東京疎開を崩し、疎開中心部まで進撃、一時は勝つ目前までいったことには瞠目した。あのまま飛行型ナイトメアが現れなければ本当に勝てていたかもしれんな。ただ…」

 

ロックが歩みよりながら語る。

 

「結果は知っての通りだ。しかし、やはり不可能だったかと思った俺の目には、たった一機でブリタニア軍を足止めし、さらにはその部隊を壊滅寸前に追い込むナイトメアが見えた。それを見て、俺はその機体を誰が操縦しているのかを理解したさ。目的の内の一つを見付けた、と。」

 

ロックがライの肩に手を置く。

 

「後は俺が灰塵壱式で介入し、こいつを回収した。敵の…ランスロット・クラブか。あれはフロートを破損し、少なくないダメージも負っていた。手を引かせるのは簡単だったさ。」

 

「次に僕が目覚めたのは青森の山中を改造した基地だった。」

 

ロックの言葉を繋げたライを、さらにロックがフォローする。

 

「アオモリにあった反乱組織の基地を改造したものでな、俺の灰塵壱式もそこで製造された。チャド・ティーチー・タカムラという男の手で。」

 

その後をライが続ける。

 

「タカムラ博士はナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタインの機体設計に関わった男だ。ただ、手柄を横取りされ、ブリタニアから追われた。」

 

ライは一同を見回す。

 

「彼はなんというか…ナイトメアが造れるなら別にブリタニアでなくとも良いという考えの持ち主で、他人が造ったナイトメアを弄れることを大喜びしてたよ。また、自分自身の手でビスマルクの専用機であるギャラハッドを超える機体を造る事も目的の一つだったみたいだ。その為に彼が造ったのが灰塵壱式であり、改造したのが月下、今の蒼月だね。」

 

言い切ったライは一息つく。

 

「あなたはそこで、一年間何をしていたの?」

 

問いかけたのはカレンだ。

 

「三ヶ月は治療とリハビリだったよ。何せユーフェミアに撃たれたせいで内臓がいくつかやられていたし、アドニスとの闘いで怪我もしてしまって…」

 

ライはその日々を思い出して苦笑する。青森にいても騎士団壊滅の情報は聞こえてきた。助けに行きたいのに何も出来ない日々。鬱々とした感情を抑えながらリハビリに励んだ日々を。

 

「青森に騎士団員が潜伏してるって情報もあったけど、向かった時には既にゲットーはブリタニア軍に占拠されていた。ブリタニア軍は僕とロックで壊滅させたが、みんなと会うことは出来なかった。」

 

「…ニアミスしてたのね。」

 

あれだけ必死に探したライが、一時とはいえ近くにいたのだ。カレンは自分の運の無さにため息をつく。

 

「後は情報を集めたり、基地を移動したりかな。そしてようやく先日、ゼロが復活したと知った。そして、動くのは総督が交代するこのタイミングしかないだろうことも察せられた。」

 

ライはゼロの正体に繋がるナナリーの名を出さなかった。新総督がナナリーであると知ったからこそ、ルルーシュが海上で奇襲をかけるだろうと読んでのことだが、そこまで理解しているのはカレンとC.C.だけだ。

 

「そうか…何はともあれライ君、無事で良かった。それに、あの時は君を見捨てる形になり、すまなかった。」

 

藤堂が頭を下げる。

 

「や、やめて下さい藤堂さん。あの時はあれが最善だと思っただけで…結局、ブリタニア軍の足止めという目的は果たせませんでしたし…」

 

ライが身を乗り出して藤堂を止める。それを見て、他の面々も声をかけた。

 

「でも、本当に生きていた下さって良かったですわ。」

 

「ああ、戦力的に見ても、ここまで弱体化してしまった我々にはありがたい。」

 

神楽耶の言葉にC.C.も続く。

その後も其々がライに言葉をかける中、ロックが徐に口を開いた。

 

「次は俺の目的を話してもいいか?まだ残っている一つを。」

 

ロックは既に元の位置に戻っている。その彼に、ライ以外の目が集中する。

 

「ナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタインに用がある。奴と闘う機会をくれるなら、黒の騎士団に喜んで協力しよう。」

 




今亡国のアキトを見直してます。ストーリーはともかく、やっぱりバトルシーンの映像はいいですね。

この辺りの話から手直ししなければならない箇所が増えてます。全部修正出来てるつもりなんですが、もしここ間違ってるよという所があれば教えて頂けると幸いです。

追記
ロックの髪色が間違っていたので修正しました。


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episode9 Fragment

「大型MVSに磁力シールド、マイクロメーサー砲に加えて、出力もかなり上がった上に以前よりピーキーに…よくもまぁ、私が作ったナイトメアをここまで改造してくれたものねぇ。」

 

蒼月を前に、ラクシャータが不満をこぼす。

 

「すいません。あの闘いで月下は大破に近い状態で、こうするしか…」

 

蒼月から、隣に格納されている大型ナイトメアに目を移す。

 

「こっちは灰塵壱式だっけ?ずいぶん思いきった設計ねぇ…それに、紅蓮を意識したネーミング…」

 

ラクシャータの言う通り、灰塵壱式は接近戦に特化した大型ナイトメアフレームだった。両掌部分に砲口があるものの申し訳程度であり、遠距離戦を得意とする相手に接近する為に一応ついている、という具合だ。

 

「手首周りにブレイズルミナス、膝にも小型MVS…あぁ、足首のとこにもブレイズルミナスが装備されてるのね。それに、あの長刀型のMVS…」

 

タブレットからデータを引き出しつつ、読み上げていくラクシャータ。彼女はデータを読み終わった直後、深いため息をついた。

 

「─整備班のみなさんには苦労をかけてしまいますが…」

 

ライの申し訳なさそうな顔を見て、ラクシャータはその顔に苦笑いを浮かべる。

 

「…まぁいいわ。とりあえず今回は、あんたが帰ってきたってことで良しとしましょう。他人が製造したナイトメアをいじれるのは、こっちも同じことだしねぇ。」

 

ラクシャータの言葉にライは胸を撫で下ろす。最悪の場合、私の月下に何してるんだ!! と、怒られることも想定していた。

 

「ナイトメアのことはこっちでやっとくから、あんたはお姫様のところへ行ってやりなさいな。本当は先にそっちに行きたくてウズウズしてるんでしょ?」

 

ラクシャータに内心を見透かされ、降参とばかりに両手を挙げるライ。ちなみに、お姫様とはカレンのことだ。

 

「──分かってても黙ってて下さいよ…自分でもコントロール出来ないんで、どうしようもないんです。」

 

ライは自分の心境を素直に吐露する。こうした方が、ラクシャータも納得して逃がしてくれると思ったからだ。

 

「はいはい、わかったわよ。何かあったら連絡するわぁ。」

 

そう言うと、ラクシャータはライに背を向けて蒼月の方へと歩いていった。

 

(とりあえず、怒られないで良かった。)

 

ライはホッとしながらその場を後にし、カレンの部屋へ向かう。途中、ゼロの私室にも立ち寄ったが、ノックしても返事は返ってこなかった。

 

(ワンクッション挟みたかったんだけど、ナナリーのことだし仕方ないか…)

 

ライは諦めてカレンの部屋へ向かい、扉をノックする。

 

「カレン、僕だ。入ってもいいかな?」

 

「…ラ、ライ!?ちょ、ちょっとだけ待って!」

 

その声と共に、部屋からはドタバタと音がする。おそらく、片付けの苦手なカレンが脱ぎ散らかした衣服等を隠しているのだろう。

それを理解しているライは苦笑しながら壁に寄りかかり、片付けが終わるのを待った。

 

「…ごめんね、お待たせ。」

 

5分ほど経った頃、プシュッという音と共に扉が開いた。

中からは申し訳なさそうな表情をしたカレンが顔を出した。

 

「大丈夫だよ。こっちこそ、さっきの今で訪ねてきてごめんね。」

 

その言葉を聞いてカレンは安心したようで、ライを部屋の中へ招いた。自分はベッドに腰かけてライを椅子に座らせると、改めて来訪の理由を聞いた。

 

「どうしたの?さっき言い忘れたことでもあった?」

 

「…言い忘れた事というよりも、君にだけは話しておかなければならない事があってね。」

 

何やら言いにくそうにしているライの言葉を、カレンは黙って待つ。

 

「……僕の過去のことだ。記憶が戻った。いや…正確には戻っていた、だな。」

 

「!! そうなの!?」

 

カレンは思わず上半身を乗り出す。ゼロから記憶が戻っているらしい程度の事は聞いていたが、やはり本人から聞くまで信じられないでいたのだ。驚くカレンを落ち着かせ、ライは続きを口にした。

 

「信じてもらえないという思いと、知られたら軽蔑されるかもという思いがあって、ずっと黙っていた。すまない。」

 

ライは頭を下げた。その姿になんと答えたらいいか分からず、カレンはとりあえず続きを話してくれるように促す。

 

「思い出したのは神根島の遺跡に触れたとき…僕はあそこに封じられていた。200年前から。」

 

「…にっ、200年!?どっ…えぇ!?」

 

信じられないといった表情のカレンに、さらに驚愕の過去を告げる。

 

「僕と妹は200年前、後に王となるブリタニア皇族と、当事留学していた皇家の女性との間に生まれた。当然、他の兄弟や家臣からは疎まれ、さらには父が病死したのをいいことに、投獄された。

その僕の前にある男が現れ、契約を持ち掛けてきた。力を与える代わりに見返りを貰う、と。僕は母と妹を守る為、彼と契約して力を手に入れた。……ギアスを。」

 

「!! …ギアス!?ちょっ…ちょっと…」

 

ライの告白にカレンは先程以上に驚愕した。その力はゼロだけのものと思っていたが、まさかライも同じ力を持っていたとは考えてもいなかった。

 

「僕の力は絶対順守。ゼロのギアスとほぼ同様だ。誓っていうが、君や騎士団の仲間に使った事はない。」

 

ライの言葉にかろうじて頷くカレン。その様子を見ながら、ライは続きを話した。

 

「…僕はギアスを使って、兄達を同士討ちに見せかけて殺し、宰相の助けもあって12歳で王位についた。そして、周辺諸国と何度も戦争になった。」

 

ライはじっ…とカレンを見つめる。その瞳に、カレンは思わず唾を飲み込んだ。

 

「17歳の時、その戦争の裏でこちらの領土を掠めとるスコットランドを攻めることになった。そこで……ギアスが暴走した。」

 

ライがカレンから視線を外してうつむく。

 

「僕は…僕は母を…妹も戦争に追い込んでしまった…僕が力を求めたばかりに!僕は、母と妹を守る為に手に入れた筈の力で、母と妹を殺したんだ!」

 

ライの声は震えていた。握りしめた拳からは血が滴っているが、それに気付いた様子もなく、彼はさらに話を続ける。

 

「…僕の両手は真っ赤に染まっている。そして、それを隠して君のそばにいた。君に対する明確な、裏切りだ。」

 

裏切りという言葉にカレンは体を震わせる。この先にライが続けようとした言葉がなんとなく察せられたからだ。

 

「…僕は、本当は君の傍に立っていい人間じゃないんだ。僕は…僕は…」

 

その時、独白を続けようとするライをカレンがゆっくりと抱き寄せた。ライはビクリと体を震わせる。

 

「…あなたは悪くない。」

 

カレンの言葉に、ライは目を見開く。

 

「あなたは悪くないわ、ライ。大丈夫、大丈夫だから。あなたは私を裏切らないし、私も、あなたを裏切らない。」

 

カレンは言い聞かせるようにゆっくりとライに告げた。その言葉で緊張が解けたのか、ライの瞳からは大粒の涙が溢れだした。

 

「──カレン、君は…」

 

「大丈夫。私はあなたを許すわ。ちゃんと、言ってくれてありがとう。」

 

その言葉で、ついにライは崩れ落ちた。子どものように声を上げて泣くライを、カレンは背中を撫でながら慰め続けた。

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

 

目が覚めると、目の前にはライの寝顔があった。彼の寝顔は知らなければ本当に女性のようで、カレンは吸い込まれるようにその寝顔を眺めた。

 

(依然はもう少し寝顔に険があったような気がするけど…)

 

アッシュフォード学園に拾われた際や、神根島から救出した直後等、眠るライの横でカレンは観察や看病をしていた。その頃と比較して、かなり穏やかな寝顔になった気がする。

カレンが右手でライの髪をそっと撫でると、ライは何かもごもごと口を動かし、寝言ともつかぬ声を発する。

 

(…なんか、かわいい。)

 

そのまま右手を髪から、頬、首へと移し、胸元に持っていく。指先に触れるライの体は細身だが筋肉質で、何ヵ所も触るだけで分かる程の傷痕が残っていた。

 

(昨日も思ったことだけど、こんなにたくさん傷を負って戦ってきたのね…)

 

ライの傷痕は胸部だけでなく、腹部や四肢にもある。昨夜何度も触れた箇所だが、今もそれを愛おしく感じたカレンは、傷痕を何度も撫でた。

 

「んん…」

 

それにより、ライが目覚めたようだ。カレンはぼんやりと目を開けるライに微笑みながら目覚めの挨拶をする。

 

「おはよう、ライ。」

 

「…おはよう、カレン」

 

幾分寝惚けたような表情で挨拶を返したライは、そのままカレンを引き寄せた。

 

「ラッ…」

 

思わぬ行動に一瞬焦るカレンだが、ライはカレンを抱き締めたまま口をひらく。

 

「…昨日はごめん。迷惑かけた。それに…」

 

その言葉を聞いて、カレンはライの背中に手を回す。

 

「ううん、辛かったことを、話してくれてありがとう。私は、何も後悔してないから…。」

 

カレンの言葉を聞いて、そっと体を離す。

 

「ありがとう、カレン。なんだかとても、スッキリした気がするよ。」

 

そう言うとライはベッドから降りて、カレンに背中を向けたまま服を着る。その背中も傷痕だらけで、ライの着替えが終わるまでカレンはその背中を眺めていた。

 

「一旦自室へ帰るよ。その後、二人でゼロの元へ行こう。」

 

ライが振り返りながら言う。視線が合うとなんだか急に恥ずかしくなったカレンは、布団に首まで潜り込んだ。

 

「う、うん。わかったわ。」

 

少し顔を赤らめながら言うカレンを見たライは、微笑みを浮かべながらカレンの部屋を後にした。そしてそれを、通りかかったC.C.に目撃されてしまった。

 

「…なんだ、ようやくかお前たち。ずいぶんかかったな。」

 

「…いやC.C.、頼むからそういうからかいだけは勘弁してくれ…」

 

狼狽するライを面白がり、C.C.はなお続ける。

 

「そもそも去年だって、周りからすれば付き合っているようにしか見えないのに、実際に付き合い始めるまでどれだけかかった?全く、お互いがピュアなのか鈍感なのか…」

 

C.C.のからかいは、カレンの部屋へ丸聞こえである。カレンは急いで服を着ると、扉を空けてC.C.に噛みつく。

 

「C.C.!!どうしてそうあんたは人のことに首を突っ込みたがるのよ!?」

 

怒るカレンを前にしても、C.C.は表情を崩さない。むしろ少し楽しそうだ。

 

「…C.C.、こうなることが分かっててやったんだろ。カレンをからかうのは程々にしてくれ…僕達は今からゼロの元へ行くよ。」

 

「ゼロならすでにアッシュフォードに帰っているぞ。」

 

「えぇ!?」

「僕達に一言もなしにか…」

 

C.C.の言葉に二人は驚く。ナナリーの件について共有できる自分達に相談すらなく、アッシュフォードに帰ってしまうまでは予想していなかった。

 

「…まあいい。とりあえず指令室へ行こう、カレン。」

 

「分かったわ。」

 

慌ただしく出ていく二人の背中を、C.C.は黙って見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナナリー総督、少しよろしいですか?」

 

執務室で仕事にかかる彼女の元を訪れたのはアドニスだ。彼は今後の方針について彼女問う為に出向いたのである。

 

「総督は、失礼ながら黒の騎士団と闘うつもりがないように感じられまして、今後の方針を伺おうと思ったのですが…」

 

「すみません、皆さん…少し外して頂けますか?」

 

ナナリーは周囲にいた文官達を下がらせると、改めてアドニスに向き合った。アドニスは彼女の正面に椅子を置いて腰掛けている。

 

「アドニスさんは気付いていらっしゃるのですか?」

 

「…お前の兄の事か?それとも、今後の方針の事か?」

 

ナナリーが皇族復帰するより前にスザクを通してナナリーと知り合っていたアドニスは、周囲に誰もいなくなった事で敬語を使うのをやめていた。そしてナナリー自身も、忌憚のない意見が欲しいが為にそれを望んでいる。

 

「今後の事です。私は、ユフィ姉様の意思を継いでこのエリアに平和をもたらしたいと考えています。ですが…」

 

「黒の騎士団がそれに賛同してくれるのかわからない、か。」

 

「はい、そうです。あの…まだ誰にもお話ししていない事なので、出来れば内密にして頂きたいのですが…」

 

ナナリーの頼みに、アドニスは頬を上げながら答えた。

 

「分かっているさ。だが、ユーフェミア皇女殿下の意思では無かったとはいえ、実際に被害を受けた者やその親族らは反発するだろうな。そして最悪の場合、黒の騎士団はそれを理由にこちらを潰しにかかるだろう。ただ、あちらはまだ戦力が揃っていない事だけが救いだな。」

 

「やはり、反対されると思いますか?」

 

アドニスの言葉に、ナナリーは不安そうな面持ちを見せた。それを見て、アドニスは先程自分が述べた言葉と反対の事を口にする。

 

「もちろん、賛同する者もいる筈だ。闘う力を持たない者、今のような状態から抜け出して平穏に暮らす事だけを望んでいる者も多いだろうからな。だが物事というのは、常に最悪の場合を想定して考えなければならない。そういう意味では、騎士団をこのエリアから排除しなければならない可能性は十分に考慮しておくべきだ。」

 

彼女にそう伝えてから、アドニスは数枚の書類を差し出した。

 

「そうなった場合、騎士団が目指すのは中華連邦となると予想している。であれば、俺達ラウンズも闘いの場所をそちらへ移さねばなるまい。だから、お前の選任騎士を選んではどうかと思ってな。」

 

彼女はその書類を手にとって一枚ずつ指で読み取っていった。

 

「全員俺と面識があり、腕は一流だ。かつ、お前が気を使わなくていいように女性ばかり選んでいる。どうするかはお前の自由だが、選任騎士がいた方がスザクも安心するだろう。」

 

そう言うと、アドニスは執務室を後にした。ナナリーは机上に書類を広げ、そこに点字で記載された名前を読み上げる。

 

「シェイナ・ベーガ、リリー・ライオット、メイジー・ルビー、ヴァレリー・スプリングフィールド、サーシャ・ゴットバルト…」

 



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episode10 特区日本

『私は、見ることも歩くことも出来ません。ですから、みなさん一人一人の力を借りることと思います。どうかよろしくお願いします。』

 

カメラに向かって深く頭を下げるナナリー。テレビの前に集まってその光景を眺めていた団員達は、これまでとは全く違う総督の姿に戸惑いを覚えていた。

 

『早々ではありますが、みなさんに協力して頂きたいことがあります。私は、行政特区日本を再建したいと考えています。』

 

ナナリーから一切の相談を受けていなかったスザクが、カメラの前だということも忘れて驚きを露にする。同時に、彼女の演説の為に集まった貴族達も、驚きのあまり大きくざわめいている。

 

『特区日本では、ブリタニア人とナンバーズは平等に扱われ、イレブンは日本人という名前を取り戻します。かつて日本では不幸な行き違いがありましたが、目指すところは間違っていないと思います。等しく、優しい世界を。黒の騎士団のみなさんも、どうかこの特区日本に参加して下さい。』

 

「えっ…!?」

 

まさか公共の電波を使って騎士団に呼び掛けを行うなど考えてすらいなかったカレンも同様に驚きの声を上げる。彼女に続き、玉城や扇らもナナリーの言葉を疑う声を上げる中、ライがカレンの耳元で囁いた。

 

「…こうなった以上、あいつの意思が必要だ。ある程度場所は絞り込めるから、探しに行こう。」

 

ライの言葉に、カレンは大きく頷き、船内のブリーフィングルームを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「カレン、大丈夫かい?」

 

港から疎開外苑部に入り、ルルーシュの元へと歩む二人。だがカレンは、ライから少し遅れた位置を遅れて歩いていた。

 

「ごめんなさい。少し、痛くて…」

 

そう言って、カレンは下腹部を押さえる。それを見たライは彼女に歩み寄ると、その身体を抱え上げた。

 

「ちょっ…」

 

いわゆる、お姫様だっこの体勢である。カレンは思わず声を上げるが、ライがそれに頓着するような様子はない。

 

「すまない、カレン。僕の気遣いが足りなかった。完全に僕のせいなのに…だから、ルルーシュの元まではこのままで行こう。」

 

「う…うん。」

 

カレンは気恥ずかしさから顔を紅潮させるが、とはいえ憧れのシチュエーションでもあったので、されるがままに大人しくしていた。

しばらく歩き、シンジュクゲットーに入る二人。彼らの前には、腕立て伏せをするブリタニア貴族や、宴会芸を行う日本人達の姿があった。

 

「どうしてこうなったんだ…?」

 

呆れたような言葉を口にするライ。彼は一つため息をつくと、視線を自身の腕の中に収まっているカレンに移した。

 

「カレン、アレを使うから、すまないけど一度降ろすよ。後ろを向いて、耳をふさいでおいてくれ。」

 

「…分かったわ。」

 

彼女が自身の言う通りに耳をふさいで後ろを向いた事を確認すると、ライはギアスを起動した。

 

「今日の事は忘れて、さっさと家に帰れ。」

 

ギアスの上書きは成功し、彼らはフラフラと帰路につく。しかし振り返ったカレンの視界には、彼らの後ろ姿よりも右目を押さえて表情を歪ませるライの姿が映っていた。

 

「ライ!大丈夫!?」

 

徐々に表情を緩ませるライ。しばらくしてから右目を押さえていた手を降ろすと、何度か瞬きをしてみせる。

 

「…大丈夫そうだ。すまない、心配をかけた。」

 

「…もうソレは使わない方がいいと思うわ。また暴走する可能性だってあるんでしょう?」

 

カレンの問いに、ライは苦い笑いを浮かべながら返答する。事実、200年眠っていた事で今は小康状態となってはいるが、とはいえいつまた暴走してもおかしくない状態にあるのは間違いないのだ。

 

「そうだね…今回みたいな事が無ければ、使わないで済むんだけど…」

 

そう言うと、ライは再び彼女を抱えて目的地へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりここに来たのね。ここは、ゼロが…あなたが始まった場所だものね。」

 

シンジュクゲットー内にある、再開発の為の資材置き場に腰掛け、左袖を肘までまくり上げているルルーシュ。そのルルーシュに、カレンとライが歩み寄った。

 

「ルルーシュ、私は…」

 

彼に言葉をかけようとしたカレンは、ルルーシュが右手に持っているものに気付いて足を止める。それを見たルルーシュは、薄笑いを浮かべながらそれが何かを告げた。

 

「リフレイン。カレンも知っているだろう?懐かしい昔に帰れる…」

 

「…ふざけないで!!」

 

カレンは駆け寄ると、彼の手からリフレインを奪って地面に叩きつけた。

 

「一度失敗したくらいで何よ!また作戦考えて取り返せばいいじゃない!いつもみたいに命令しなさいよ!ナイトメアに乗る!?それとも囮操作!?なんだって聞いてやるわよ!!」

 

「だったら…俺を慰めろ。」

 

立ち上がり、カレンに近付くルルーシュ。カレンの首元へ左手を近付けると、同時に自身の顔もゆっくりと近づけた。

 

「ルルーシュ、歯を食いしばれ。」

 

「えっ…?」

 

ルルーシュが気付いた時には、既にライの拳は目の前にあった。ルルーシュは受け身をとることすら出来ず、地面に叩きつけられた。

 

「ライ…何を…?」

 

ルルーシュが口を拭いながら問い掛ける。

 

「君が殴って欲しそうな、情けない顔をしていたからだよルルーシュ。それに、彼女の事を一体なんだと思っているんだ?」

 

ライの表情は明らかな怒気を孕んでいた。ライは右手を伸ばし、ルルーシュの胸ぐらを掴んで無理矢理立たせると、自分の眼前まで引き寄せる。

 

「君が…いや、お前が始めたゼロだ。僕らは今まで、お前を信じて騎士団に参加していた。カレンも扇さんも、藤堂さんも!お前には事を起こした責任があるだろう!その責任から逃げる前に、やるべきことがあるんじゃないのかルルーシュ!!」

 

「っ!!」

 

「ライの言う通りよルルーシュ!今のあんたはゼロなのよ。私達に夢を見せた責任があるでしょう!だったら…最後の最後まで騙してよ!今度こそ…」

 

二人の言葉にハッとした表情を見せるルルーシュ。その直後、ライがルルーシュを押しやり、涙を浮かべるカレンの肩を抱いて、彼の前から去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

騎士団の船へ戻り、ライの私室に入った二人を出迎えたのはC.C.だった。その手はゼロの仮面を弄んでいる。

 

「あいつは何と言っていた?」

 

ライの椅子に我が物顔で座り、まるで自分の部屋であるかのようにくつろぐC.C.に文句を言おうとしたカレンを制して、C.C.が先に問いかけた。

 

「…何も言っていなかったよ。ただ僕らが一方的に話して、腑抜けた顔をしていたから殴っただけだ。」

 

ライの言葉に、C.C.の視線が少し険しくなる。

 

「気合いを入れたという訳か?その程度であいつが戻ってくるのなら…」

 

「それだけじゃないけど、まぁ色々あってね…でも戻ってくるかは分からないよ。ルルーシュ自身の選択だから。」

 

それを聞いたC.C.がしばらく何かを考え込む。そして顔を上げて再び二人に視線を戻すと、ライに向かってゼロの仮面を放り投げた。

 

「…それはお前が持っていろ。必要になるかもしれんからな。」

 

「──それって…」

 

『こちらはブリタニア軍である。』

 

カレンの言葉を遮って船内に響いたのはスザクの声だ。海に潜む騎士団を探す為に船団を率いて出撃してきていたのである。

 

『貴船の航路は申告と違っている。停船せよ。これより、強硬臨検を行う!』

 

「見付かったんですか!?」

 

「おそらくな。」

 

指令室へ飛び込んできたカレンが藤堂へ問う。カレンの後ろにはライ、C.C.も続いている。少し遅れてロックも姿を見せた。

 

『10分待つ。それまでに全乗組員は、武装解除し、甲板に並べ!』

 

スザクの通告を受け、ライとロックは格納庫へと走った。

 



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episode11 Exile

「そうか。みんな修学旅行に…」

 

ルルーシュはロロとアッシュフォード学園に戻っていた。

 

「追いかける?」

 

「いや、誰もいない鳥籠が、今の俺には…」

 

言おうとしたルルーシュの目に、打ち上げられた花火が写った。

 

ルルーシュが屋上へ走ると、そこにはシャーリー、ミレイ、リヴァルの姿があった。

 

「おかえり、ルル。」

 

「ルルーシュもやろうよ!文化祭で使ったのの余りだけど。」

 

シャーリー、ミレイがルルーシュに声をかける。三人の姿を見て、ルルーシュは自分が修学旅行へ参加しなかった為に、彼らもまたそれと同じ選択をしたのだと理解した。

 

「どうして…」

 

「俺達だけで行っちゃ、泣くでしょ君ぃ。」

 

おどけて見せるリヴァル。そのリヴァルに続いて、ミレイが微笑みながら答えた。

 

「旅行なんてのはねぇ、どこに行くかじゃなくて、誰と行くかなのよ。」

 

「そうそう。」

 

シャーリーもミレイに同意する。そのシャーリーの手には、折鶴があった。

 

「…それは?」

 

「ああこれ?願い事が叶うっていうから作ってみたの。誰に教わったのかどうしても思い出せないんだけど…」

 

「何を願ったんだ?」

 

ルルーシュの問いに、シャーリーは微笑みながら答える。

 

「もう叶ったよ、少しだけ。みんなで一緒に花火がしたいなって。」

 

「みんな…?」

 

「ニーナ、カレン、ライ…」

 

シャーリーの言葉にリヴァルとミレイが続く。

 

「それに、スザクも。」

 

「ルルーシュとロロもね。」

 

「一羽だけだから、ルルしか叶わなかったけど。」

 

苦笑いするシャーリー。その言葉に、ルルーシュは幸せとは何か、という事を考えさせられていた。そして、自分が見落としていた小さな幸せに気付く。家族や仲間と、供に過ごした幸せな時間を。

 

「みんな、またここで花火を上げよう。絶対に、もう一度…みんなで…」

 

(そう、俺の闘いは…もうナナリーだけじゃ…)

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

『枢木卿、時間です。』

 

部下からの声にスザクは閉じていた目を開くと、全軍に向けて命令を下した。

 

「攻撃開始!」

 

ブリタニア軍の戦艦から、砲撃が放たれる。

 

「来たぞ!タンカー爆破、敵ソナーを無効化する。ダウントリム30度、急速先行!」

 

騎士団の潜水艦内では、藤堂が指揮を取っていた。その後ろにはカレンもいる。扇や玉置もブリーフィングルームに集まって状況を見守る中、ライとロックはナイトメアに乗り込んでいた。

 

『この戦力差では、いくら俺達が時間稼ぎをしたところで逃げ切れんぞ。』

 

ロックからの通信に、ライは周辺の海図や敵艦隊の情報をダウンロードしながら答える。

 

「それは最後の手段だよロック。僕だって水中戦闘が可能な機体とはいえ、たった二機で状況を変えられるとは思ってないさ。」

 

蒼月と灰塵壱式は水中でも行動可能なナイトメアだ。ただ、ブリタニア側は水中専用ナイトメアであるポートマンを既に多数潜航させている。その上、スザクは他のラウンズも引き連れて来ていると考えて間違いないだろう。

そうであれば自分達が囮になるよりも、一気に状況を変えられる一手を考える必要があった。

 

「…タンカーやミサイルの爆発の影響で、通信が滞ってる。このままじゃ…」

 

蒼月の操縦席では、海図のダウンロードが遅れていた。ライは歯噛みして、コックピットの壁面を殴る。その間にも、頭上からは魚雷が降り注いでいた。

 

『敵は徐々に包囲を狭めてくるだろう。うまく引き込めれば、灰塵と蒼月であればポートマンだけは一気に殲滅できるだろうが…』

 

ロック自身も、それだけでは逃げ切れないのは分かっていた。だからこそ、自分にはないライの閃きに期待しているのだ。

 

「…これは!!」

 

ライがようやくある程度ダウンロードが進んだ海図を見て、何かに気付く。まだ完全にダウンロードできた訳ではないのでかすれているが、使えるものを見つけたのには間違い無かった。

 

「藤堂さん!」

 

『ライ君か。』

 

ライは慌てて藤堂に向けて通信を開いた。

 

「今から伝える場所へ船を動かして下さい!ダウントリム50度!ポイントは…」

 

かすれた海図から何とかどこのポイントか読み取ろうとするライ。その彼らに、さらに通信が入った。

 

『ポイントはN14だ!急速潜航しろ。』

 

ゼロの声に沸き立つ扇や玉置らと同様に、ライもどこか安心していた。

 

「──全く、僕の苦労を台無しに…」

 

『そう言う割には、嬉しそうだが。』

 

ロックの言葉に苦笑で返すライ。言葉だけは悔しがってはいるが、内心の喜びを隠せていないのは明らかだった。

 

『正面に向けて、魚雷全弾発射。時限信管にて40秒だ。』

 

ゼロの言葉に戸惑いを表す扇達。藤堂ですら躊躇するそぶりを見せるが、ライの言葉が彼を後押しした。

 

『大丈夫です。狙い通りにいけば一気に状況を変えられます。発射して下さい!』

 

「分かった。──信管設定後、全弾発射!」

 

藤堂の言葉に従い、魚雷が発射される。同時にブリタニア軍にも補足され、ランスロットで飛び立ったスザクにより指示が下される。

 

「敵はポイントN14、攻撃を集中しろ!浮上してきたら自分が捕縛する。」

 

ブリタニアの艦隊とポートマンが移動を開始する。潜水艦はなおも潜航し、海底にまで達していた。

 

『アンカーで船体を固定して下さい。その後、衝撃に備えるようにと!』

 

ライの指示により、船体が固定される。魚雷は、海底に建造されたとある施設に着弾していた。魚雷が爆発すると、そこから大量のメタンハイドレートが排出される。それにより、ポートマンは海上まで押し上げられ、戦艦の放った魚雷と衝突して多数の爆発が起きた。

 

『枢木卿、泡が…うわあぁぁぁっ!』

 

「泡!?」

 

スザクが事態を飲み込めずに周囲を見回した時、船団の下から大量のメタンハイドレートが浮かび上がってきた。そのメタンハイドレートに押しやられ、艦隊は次々と転覆してゆく。

 

「海底から…巨大な泡を!?」

 

驚くスザクに、トリスタンに騎乗したジノが近付く。

 

「なんだなんだ?スザク、援軍以前の問題だろうこれは。」

 

トリスタンの横には、モルドレッドとランスロット・クラブの姿もある。

 

「とりあえず、生き残った部隊を確認しろ。その後、部隊を分けて騎士団の捜索と味方の救助に…」

 

アドニスが言いかけたとき、部下からの通信が入った。

 

『ゼロです!ゼロがこちらに向かってきます!』

 

アドニス達が目を向けた先には、ヴィンセントの掌に乗り、高速で接近してくるゼロの姿があった。

 

「これが、お前の答えなのか!」

 

ランスロットがヴァリスを向ける。それに対して帰ってきた答えは意外なものだった。

 

「撃つな!撃てば君命に逆らうことになるぞ。」

 

ゼロはヴィンセントの掌の上で立ち上がった。

 

「私は、ナナリー総督の申し出を受けよう。──そう、特区日本だよ。」

 

「…降伏するってことか!?」

 

「馬鹿なっ!!」

 

ゼロの言葉に、扇や藤堂も動揺を露にする。

 

「ゼロが命じる!黒の騎士団は全員、特区日本に参加せよ!!」

 

 

 

ヴィンセントが潜水艦に着艦し、ゼロから離れる。そのゼロを四機のナイトメアが見下ろしていたが、ゼロの方針を受け、やがて撤退していった。

 

潜水艦のブリーフィングルームでは、ライとロックを除いた主要メンバーが集結していた。

 

「…行政特区に入るって、なに考えてんだろうね。」

 

口にしたのは朝比奈だ。それに続き、周囲の者達も疑問を呈する中、藤堂が静かに扇へ話しかけた。

 

「扇、ゼロの判断が我ら日本人の為にならないものなら…」

 

「─藤堂さん…」

 

扇は、藤堂の決断に驚いていた。無論、まずはゼロの真意を聞いてからという前提はあるものの、ここ最近のゼロの様子を見ていれば、不審に思うのも当然ではあった。二人のやりとりに気付いている朝比奈も、厳しい目をゼロが入ってくるであろう扉へ向けている。

そこへ、その扉を開いてゼロが現れた。

 

「ゼロ様!新妻をこんなに待たせて!」

 

そのゼロに、神楽耶が走り寄って抱き付く。神楽耶をゆっくりと下ろしながら、ゼロはまず神楽耶個人へ向けての挨拶を口にした。

 

「神楽耶様、変わらぬ元気なお姿、安心しました。」

 

「ゼロ様こそ、相変わらず人を驚かせてくださいますのね。特区日本に参加するだなんて。」

 

神楽耶の後ろから、扇が口を挟む。

 

「そうだ!あれはどういうことなんだ?」

 

「だーかーらぁ!誘いに乗ったふりしてブリタニアを潰すんだよ!」

 

扇の言葉に続いたのは玉置だ。彼はゼロを一切疑っていない為に周囲が動揺する中において、全く動じていなかった。

 

「闘って、闘って…それでどうする?」

 

しかしゼロから返ってきた言葉に、玉置を含めた全員がさらに驚いた。

 

「…あるのか?闘わずに済む方法が。」

 

問いかける扇。その扇に朝比奈と藤堂も続いた。

 

「それじゃあ僕らは、今まで一体何のために…!」

 

「ブリタニアの中から変えるつもりか!?我らは独立の為に…」

 

「藤堂!日本人とは何だ?」

 

その藤堂の言葉を、ゼロは遮る。

 

「…心だよ。」

 

言いよどむ藤堂に対し、ゼロが告げる。その声は真剣そのものであった。

 

「作戦概要を説明する。…ライはどこだ?」

 

ゼロはライの姿を探す。ライは出撃準備をしていた蒼月を格納し直していたのだが、さすがにそこまではゼロも知らない。

 

「…あいつの意見も欲しい。全員揃ったところで、説明を始めよう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナナリーを除いたエリア11の重臣達は、一室に集まっていた。

アーニャだけは先日の戦闘を撮影した無人機の映像を携帯で見ていたが。

 

「なんだ?一方的にやられたのがそんなに悔しかったのか?」

 

「…そうじゃない。」

 

ジノのからかいに、ムスッとした表情で返すアーニャ。

 

「その割には、こないだからずっとその映像ばかり見てるじゃないか。」

 

ジノの疑問に、アーニャはジノに携帯電話を突き付けながら答える。

 

「…私は、この動きを見たことがある。それに、向こうは私の事を知っていた。声にも聞き覚えがあるような気がする。」

 

そこには、モルドレッドに攻撃を加えるボクサー、灰塵壱式の姿があった。

 

「…だけど、思い出せない。大切なことだったような気がするのに。」

 

映像に見入るジノだったが、ゼロから通信が来たことでそれは中断された。

 

『ほう、ナイトオブラウンズが4人も。しかし、総督の姿がないようだが。』

 

「これは事務レベルの話だ。」

 

そう返したスザクに続き、ロイドが質問する。

 

「あのさ、聞きたいんだけど。君と前のゼロはおんなじ?それとも…」

 

『ゼロの真贋は中身ではなく、その行動によって測られる。』

 

「あはっ、哲学だねぇ。」

 

「黒の騎士団の意見はまとまったのか?特区日本に参加すると言ったからには…」

 

ロイドに続いて尋ねたジノに、ゼロはにわかには信じがたい答えを返した。

 

『こちらには、百万人を動員する用意がある。』

 

「本当なんだな?」

 

スザクの確認に、ゼロはそれに答える形であることを告げる。

 

『ただし、条件がある。私を見逃して欲しい。』

 

「!?」

 

スザクの目が驚きで見開かれる。それを無視して、さらにゼロは続けた。

 

『とは言え君達にも事情はあるだろう。ゼロは国外追放処分にするというのはどうだろうか。』

 

「…こんな話がバレたら組織内でリンチだよ?」

 

思わぬ話の流れに、ロイドはにやつきながら返した。

 

『だから殺されない為に内密に話している。』

 

「エリア特法十二条第八項。そちらを適用すれば総督の権限内で国外追放処分は執行可能です。」

 

告げたのはミス・ローマイヤだ。彼女は内心、ゼロの国外追放には賛成しているようだ。

 

「ミス・ローマイヤ!ゼロを見逃せというのですか!」

 

憤るスザクにローマイヤは淡々と告げる。

 

「法的解釈を述べただけです。」

 

『どうだろう。式典で発表してもいい。君達にとっても…』

 

「悪い話でないことは確かだ。反乱軍は指揮官を失い、エリア11の統治も容易になる。その言葉に、裏がなければだが。」

 

ゼロの言葉をアドニスが補足する。

 

「しかし…犯罪者を!」

 

スザクは最後まで納得がいかず、ゼロが映る画面を睨み続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紅月カレンだな。改めて自己紹介させて貰うが、俺はロック・グルーバー。当時のライの騎士だ。」

 

潜水艦内の一室で向かい合う二人。ロックが話があるといって彼女を呼び出したのだが、一対一で話すのはこれが初めてであった。

 

「あ、うん。よろしく…って、当時?…ってことは!」

 

「ああ、俺も200年前の人間という事になる。まぁ、一年ちょっと前に起こされたあいつとは違って、俺はもう七年程になるが…」

 

その間に記憶を消去され、自分を見失ったまま生活していた事だけ告げると、話を200年前まで戻した。

 

「あいつの話なんだがな…あいつは当時、一切女性に興味を示さなかった。仲が良い女性といえば母君と妹だけで、あとは政治と戦争に没頭していた。そんなあいつが、初めて血縁者以外で自分の命より大事だと言ったのがお前だ。」

 

ライの思いを知り、カレンはロックの前であるにも関わらず少し赤面する。だがロックはその様子に頓着することなく言葉を続けた。

 

「だからこそ、あいつの心をお前に支えてやって欲しい。騎士として、そして友としても、俺には不可能な事だ。悔しい事だがな…まぁ、それを頼みたかったんだ。」

 

ロックの真剣な瞳に、カレンは大きく頷いた。そして、彼の内心を汲み取って返答する。

 

「分かったわ。だけど、あなたも彼の事を大事に思っているんでしょう?」

 

「無論だ。当時でもこの時代でも、唯一俺が認めた男だからな。」

 

ロックの言葉を聞いて、カレンは微笑みを浮かべた。

 

「なら、私達で支えてやりましょう。彼はすぐ、一人で抱え込もうとするから…私は恋人として、あなたは親友として、それぞれ出来る事があると思うから。」

 

「…そうだな。あいつに何か異変が見えた場合は、真っ先にお前に相談すると約束しよう、紅月。」

 

ロックが右手を差し出す。カレンはそれを握り返しながら言葉を返した。

 

「よろしくね、ロック。それと、カレンでいいわ。」

 




いつも読んで頂き、ありがとうございます。一日で当初考えていたよりかなり順調に修正が進み、自分でも驚いています。今後もよろしくお願いします。


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episode12 Slaughter order

シズオカゲットーにある、行政特区日本の予定地。その中にある式典会場には、百万人を超える日本人が集まっていた。その人々に紛れる形で、変装した騎士団の団員達も会場に入っている。

なお、ライはその銀色の髪が目立ちすぎる為、カツラをかぶっての潜入となっていた。

ブリタニア側の監視員の中には機情に所属するヴィレッタもおり、扇の存在を探している。

 

『日本人のみなさん、行政特区日本へようこそ。たくさん集まってくださって、私は今、とても嬉しいです。新しい歴史の為に、どうか力を貸してください。』

 

式典会場ではナナリー総督の演説が始まっていた。

 

『それでは式典開始前に、私たちがゼロと交わした確認事項を伝えます。』

 

ミス・ローマイヤが読み上げる。その内容は、

 

行政特区に参加する者は局舎として罪一等を減じる

 

三級以下の犯罪者は執行猶予扱いとする

 

ゼロだけは、国外追放処分とする

 

以上の三項目であった。

 

『ありがとう、ブリタニアの諸君!寛大なるご処置、痛み入る。』

 

突如として会場内のモニターが切り替わり、ゼロが写し出される。

 

「姿を現せゼロ!自分が安全に、君を国外に追放してやる!」

 

スザクがナナリーの前に出てゼロに語りかける。しかしゼロは応じず、質問を返した。

 

『人の手は借りない。それより枢木スザク、君に聞きたいことがある。日本人とは、民族とは何だ?』

 

「…何!?」

 

『言語か?土地か?血の繋がりか?』

 

ゼロの質問に戸惑いつつも、スザクは自身の信じる答えを告げた。

 

「違う!それは……心だ!」

 

『私もそう思う。自覚、規範、矜持…つまり、文化の根底たる心さえあれば、住む場所が異なろうと、それは日本人なのだ!』

 

「それと、お前だけが逃げることに何の関係が?」

 

スザクが口にした時、ライやカレン、藤堂ら騎士団達は鞄に隠していたスイッチを押し、その鞄から煙幕を噴射させた。

会場は一瞬にして煙幕に包まれ、視界が遮られてしまう。

 

「何が起こったのです?」

 

目が見えない為に状況を把握できないナナリーに、アーニャと選任候補であるサーシャ・ゴットバルトが駆け寄る。

 

「総督、今は。」

 

それだけ告げると、アーニャはナナリーの車椅子を押して、サーシャと共に彼女の安全を確保する為に舞台裏へと連れ出した。

 

「仕方ない…全軍、鎮圧準備に入れ。」

 

命じたのはギルフォードだ。会場に配備されたナイトメア部隊や、フロートで空中から監視していた部隊が銃を向ける。

 

「待て!相手は手を出していない!」

 

それを止めるスザク。

煙幕が薄まり始めた為、会場に目を向けるスザクとローマイヤ。するとそこには、100万人を超えるゼロが立っていた。

 

「この手があったか!圧倒的な戦力差を逆手に取って、百万人を…」

 

「手を出すなよジノ!それではただの虐殺だ!」

 

「分かっている!」

 

状況を理解したジノとアドニスが歯噛みする。この状況で手を出せば、ナナリーは第二の虐殺皇女としての謗りを免れない。

 

『全てのゼロよ!ナナリー新総督の御命令だ!速やかに、国外追放処分を受け入れよ!

どこであろうと、心さえあれば我らは日本人だ。さあ、新天地を目指せ!』

 

画面の中のゼロの言葉に、会場にいるゼロ達は移動を開始する。

その先には、巨大な海氷船が迫っていた。

 

「仮面を外せ、イレブンども!」

 

そう言って銃を構えたのはヴィレッタだ。それに応じて銃を構えようとした玉置のゼロを、扇のゼロが慌てて遮る。

 

「撃つな!我々は、闘いに来たんじゃないんだ。」

 

「その声…扇!?」

 

ヴィレッタは目の前に立つ、長身のゼロの正体に気付く。自分が探していた扇要が、仮面を被っているとはいえ目の前にいるのだ。

 

「あ、いえ…俺は…ゼロです。」

 

ヴィレッタの言葉を扇は否定する。ヴィレッタを探していたのは扇も同様であるが、ここで時間を取られるわけにはいかなかった。

また、会場内各所でも同様の事が起こっていた。警備に当たっていたブリタニア軍人がゼロ達に銃を向け、仮面を外すよう命じる。そうなるであろう事を事前に予測していたライは、ロックと騎士団員達に矢面に立ち、有事の際にはすぐに動ける状況を保つよう伝えていた。

 

(さて、後はスザクとアドニスがこちらの思う通り動いてくれれば…あの二人なら、万が一にも虐殺という命令を下す事はない筈だけど…)

 

ライはこの策の落とし穴に気付いていた。それは、一人でも命令を待たずに発砲した時点で特区成立は不可能となり、ナナリーの面子も丸潰れとなる。そして、それを最もやる可能性が高い人物が、補佐官であるローマイヤであった。

ライは注意深く彼らの様子を観察する。その内の一人であるスザクは、この状態でどう処置を行うかを巡ってローマイヤと口論になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「特区日本は、どうなったのです!?」

 

ナナリーの横を歩くサーシャが彼女に答える。

 

「未確認ですが、ゼロが会場内に現れたとの報告があります。念の為、一時待避を…」

 

「ですが、ゼロは…」

 

「事前の取り決めで、ゼロは国外追放処分となっています。ただ、万が一の事がありますので、事態が落ち着くまではどうか枢木卿にお任せを。」

 

彼女の言葉に、ナナリーは不安そうに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「枢木卿、百万の労働力、どうせ無くすなら見せしめとして…」

 

「待ってください!」

 

言いつつ銃を構えるローマイヤを止めたスザク。ゼロが映るモニターに向き直ると、そちらに向かって叫ぶ。

 

「ゼロ!みんなに仮面を外すよう命令しろ!このままではまた、大勢死ぬ!」

 

『どうするんだスザク、責任者はお前だ。』

 

トリスタンからジノが問いかける。

 

(黒の騎士団がいなくなれば…エリア11は平和になる。ナナリーの手を汚すことも無くなる。)

 

スザクを見つめながら、ルルーシュは思案する。一方のスザクは、どういう決定を下すかを決めかねていた。

 

(しかし…これは卑怯な騙し討ちだ!)

 

迷うスザクを尻目に、ローマイヤが目の前のゼロに銃を向ける。

 

「…死になさい、ゼロ!」

 

そのローマイヤの前に、ランスロット・クラブから降りたアドニスが立ちはだかった。

 

「また虐殺を行えと言うのか!?あなたは人命を…!総督の立場を何だと思っているんだ!?」

 

「ああ、そうだよな…」

 

アドニスが目の前に現れたことで一瞬躊躇したローマイヤの手から、スザクが銃を取り上げた。

 

「ユフィもナナリーも許すつもりだった!」

 

「相手はゼロです!」

 

「ゼロは国外追放!約束を違えれば、他の国民も我々を信じなくなります!」

 

反論するローマイヤをスザクが説得にかかるが、ローマイヤは納得できないようで、さらに反論を重ねる。

 

「国民!?イレブンのことか?あなたがナンバーズ出身だからといって…」

 

ローマイヤの言葉は侮蔑に満ちていたが、スザクははっきりと否定する。

 

「ナンバーは関係ありません!それに、国策に賛同しない者を残して、どうするのです!」

 

「この百万人は、ブリタニアを侮蔑したのですよ!」

 

自分の言動を棚に上げ、異を唱えるローマイヤ。しかし、スザクが結論を曲げることは無かった。

 

「そのような不穏分子だから、追放すべきではないのですか!」

 

「ミス・ローマイヤ!ここでこいつらを殺せば、ブリタニアは他国からも信頼を失い、戦禍が広がるだけだ!あなたはその責任を取れるとでも言うのか!?」

 

アドニスとスザクの言葉に反論の術を見出だせずに黙り込んだローマイヤの姿を確認し、スザクは再びゼロの映るモニターに向き直る。

 

「約束しろゼロ!彼らを救ってみせると!」

 

『無論だ。枢木スザク、君こそ救えるのか?エリア11に残る日本人を!』

 

「その為に、自分は軍人になった!」

 

スザクはゼロの問いに迷いなく答える。

 

『…分かった。信じよう、その約束を。』

 

その言葉を最後に、モニターからゼロが消える。

それを見て、百万人のゼロが移動を再開した。

 

「急ごうぜ、今の内だ。」

 

扇に告げたのは玉置だ。扇もそれに応じ、ヴィレッタの横を抜けていく。

 

「さ、さようなら、ブリタニアの人…」

 

その背中を、ヴィレッタは悲しげに見つめていた。

 

 

 

海氷船に向かうゼロの中から、一人のゼロがスザクに向かって歩を進めてきた。

 

「ありがとう、スザク。君のおかげで、悲劇を繰り返さずにすんだ。」

 

軽く仮面を上げると、そこにいたのはライだった。

 

「ライ、君は…」

 

「次はまた戦場で会うことになるだろうけど、それでも僕は信じているよ。いつか君と僕の道が交わることを…」

 

そう言うと、ライは仮面を被り直し、スザクの前から去っていった。その後ろ姿を見ながら、スザクは以前の特区日本が施行される直前に、彼と交わした言葉を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

(これは、僕が発砲命令を出さないと信じての作戦だ。ゼロは、僕の事をよく知っている。そして、彼が未だ付き従っている事を考えると…)

 

スザクは、やはりゼロの正体はルルーシュではないかと疑いを深めていた。

式典会場に一人立ち尽くすスザクを、離れゆく海氷船からライは眺め続けた。彼の姿が見えなくなるまで。

 




今日はこれが最後の更新です。お付き合い頂きありがとうございました。


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episode13 Enneagram

中華連邦にある、蓬莱島。人工島であり発電施設でもあるこの場所が、中華連邦から黒の騎士団に貸し与えられた場所だった。

その蓬莱島には、インドから大量のナイトメアと、黒の騎士団の旗艦となる斑鳩が運び込まれていた。

 

「本気で中華連邦の首都を落とすつもり?」

 

カレンはライ、ルルーシュとともに斑鳩の最終チェックを行っている。彼女はライに肩車をしてもらい、天井部の基盤を操作していた。

 

「侵略者にならない方法でな。洛陽さえ落とせば、ブリタニアを倒せる条件はほぼクリアされる。それより…」

 

「ん?」

 

ルルーシュの言葉をカレンが聞き返す。

 

「お前達が付き合っているのは知っているが、その…距離が近すぎないか?」

 

ルルーシュが言ったのはライとカレンのことである。天井の基盤を操作しなければならない、と分かった際、無言でライが屈むと、カレンも何の疑問もないように彼の肩に座ったのである。その様子を、C.C.もピザを頬張りながら当たり前の光景のように見ていた。

 

「…カレンにも、僕の過去とギアスのことを話したんだ。受け入れて貰えるとは、思ってなかったけどね。」

 

どうやらこの二人の絆はまた強くなったらしい。ルルーシュは苦笑すると、ライに顔を向ける。

 

「なるほど…後でいいから、行方不明だった間の話を、俺にも聞かせてくれ。あのロックという男の事も。あぁそれから、お前にはユーロ方面から亡命してきた奴等を中心にした特務隊を預けるから、上手くまとめてやってくれ。」

 

「分かった。後で会ってくるよ。」

 

そこでルルーシュは自分の作業に戻ろうとしたのだが、直後に神楽耶から通信が入った。

 

『ゼロ様、ブリーフィングルームに来て下さい!大変な事が!』

 

その言葉にルルーシュ達は慌ててそちらへ向かった。そこで待ち受けていたのは、最も恐れていた事態が起こったという報せだった。

 

「政略結婚!?」

 

「ええ、皇コンツェルンを通して式の招待状が届いたのです。新婦は、この中華連邦の象徴である天子様。私を友人として招きたいと…」

 

神楽耶の言葉に藤堂とラクシャータが続く。

 

「新郎は、ブリタニアの第一皇子…」

 

「オデュッセウスとかいう人。」

 

三人の言葉を聞いて、ディートハルトがゼロに告げる。

 

「用意していた計画は間に合いません。まさか大宦官が…」

 

「いや、ブリタニアの仕掛けだろう。」

 

ディートハルトに、ゼロが答える。

 

「だとしたら、俺たちは…」

 

「ああ、最悪のケースだな。」

 

扇に同意し、仮面の中で歯噛みするルルーシュ。

 

(チッ…この手を打たれる前に、天子を抑えるつもりだったのに…まさかこんなに早く、あんな凡庸な男が…)

 

「何心配してんだよ。俺たちはブリタニアとは関係ないだろ?国外追放されたんだからさ。」

 

遮ったのは玉置だ。彼は状況が理解できていないようで、一人だけ楽天的な言葉を口にしていた。

 

「何を言っているんだお前は…?」

 

「あの…罪が許されたわけじゃないんですけど…」

 

「それに政略結婚ですし…」

 

「中華連邦が私たちを攻撃してくる可能性だって…」

 

ロックと斑鳩のオペレーター三人に告げられ、ようやく状況を理解し始める玉置。

 

「…じゃあ何かよ!?黒の騎士団は結婚の結納品代わりか!?」

 

「あら、うまいこと言いますね。」

 

「使えない才能に満ち満ちているな。」

 

神楽耶とC.C.の言葉に、玉置は焦りながら言葉を返す。

 

「呑気こいてる場合か!大ピンチなんだぞこれは!」

 

「…だからさぁ。」

 

「それを話してるんだよ。」

 

呆れながらも、ラクシャータと扇が返答する。その光景を見つつも、ライは思案を巡らせていた。

 

「シュナイゼル、だろうね。おそらく、以前から中華連邦を取り込む為の策として進めていたんだろう。」

 

ライの言葉に、ゼロは同意する。

おそらく大宦官は、国と引き換えにブリタニアでの地位を約束されているのだろう。

 

「ああ、こんな悪魔みたいな手を打てるのは奴しかいない。」

 

ライはゼロの隣に立ち、自身が式までにしなければならないと思う事を伝えた。

 

「ゼロ、ロックも交えて、あとで時間を取ってくれ。どうするかきっちり決めておこう。招待状が来ているとの事だが、我々も参加できるのかどうかや、出来たとしてどう進めるべきか、計画立ててその通りに動けるようにしておきたい。」

 

「それはその通りだが、お前はどこへ行くんだ?」

 

ゼロの問い掛けに、ライは少し笑顔を浮かべながら答える。

 

「とりあえず、予定通りユーロからの亡命者と会ってくるよ。いつも通り、大したことじゃないって装ってないと、団内に不安が広がるからね。それに、その人達の意思や目的の確認がしたいし。」

 

「分かった。終わったら連絡をくれ。」

 

ゼロの言葉に頷き、ライはブリーフィングルームを後にする。彼は艦内の食堂へ向かうと、所在無さげに回りを見る11人に歩み寄った。

 

「え…あれ女の人?あ、いや男か。うわ、すごいイケメン…」

 

11人のうち、日本人らしい女性が呟いた。ライには聞こえておらず、彼は一番前にいた金髪の女性に話し掛けた。

 

「君達がユーロから亡命してきた人達かな?」

 

「あ、はい。そうです。」

 

ライの問い掛けに、リーダー格の金髪の女性が姿勢を正して答える。

 

「君達は第一特務隊に組み込まれる事になった。第一特務隊は場合によってはゼロの指揮から外れ、独自の判断で動く権限を持つ部隊だ。その隊長を僕が務めることになった。よろしく。」

 

「は、はい。よろしくお願いします。あの、お名前を伺っても…?」

 

彼女の質問で、ライは自分がまだ名乗っていない事に気が付いた。

 

「ああ、すまない。僕はライ・ウォーカーだ。気軽にライと呼んで欲しい。」

 

それを聞いて、金髪の女性は頭を下げた。

 

「私はレイラ・ブライスガウと申します。それと、こちらから日向アキト、左山リョウ、成瀬ユキヤ、香坂アヤノ、アシュレイ・アシュラ、それからアシュラ隊の面々で、アラン、シモン、フランツ、ヤン、クザン、ルネです。」

 

「レイラ、アキト、リョウ、ユキヤ、アヤノ、アシュレイ、アラン、シモン、フランツ、ヤン、クザン、ルネ…だね。早速なんだけど、一つ聞いていいかな?君達はユーロブリタニアとの戦争の最前線に立っていたが、最後は戦場を離れて穏やかな生活を求めたと聞いている。そんな君達が何故黒の騎士団に?」

 

レイラはやや言い澱むと、言葉を選びながら彼に返答する。

 

「…ユーロブリタニアとE.U.の戦争にブリタニア本国が介入したことで、私達は暮らしていた場所も、移り住む場所も奪われました。そうなった以上、私達が本当に穏やかな生活を望むのであれば、自分の力で取り戻さなければならない…そう考えて再び戦場に戻る決意をしたのです。」

 

彼女の言葉に、ライは真摯な目を向けたまま頷いた。

 

「…分かった。だけど、ここに来た以上は望まぬ任務もあるだろうし、仲間の死に直面する場面だって有り得る事だ。もちろんそうならないように最善は尽くすけど、分かった上で切り捨てなければならない時もある。その覚悟は出来ていると見ていいのかな。」

 

再び問われた事に、今度はアキトが一歩前に進み出て答えた。

 

「あなたの事は聞いています。味方を見捨てられない、兵を駒として扱えない甘い人だと。でも、だからこそ他者の痛みが分かる人であると、そう思います。これは自分達が望んだ事です。自分で自分の道を切り開く為に、身命を賭したいと思っています。」

 

「そうか、そこまで覚悟しているのなら、これ以上聞くのは失礼だね。これからよろしく頼むよ、みんな。未来を、明日を手に入れる為に力を貸してくれ。」

 

「「はいっ!」」

 

ライはタブレットを取り出すと、目の前にいる面々にデータを送りながら告げる。

 

「あのアレクサンダという機体は、君達が数ヵ月前に提出してくれたデータに基づいてラクシャータさんが造ってくれている。リョウだけは、戦闘データがアレクサンダに向いてないから別の機体を造ると言っていたけどね。もし時間があるのなら、20分後にシミュレーターで一戦やろう。場所はタブレットに送っておいたから。」

 

「分かりました。」

 

全員が頷いたのを確認して、ライはその場を去った。その後ろで、日本人の女性、アヤノがうっそりと口を開いた。

 

「あの人、やばいくらいイケメンだったな…」

 

「アヤノ、もう少し真剣に聞きなよ…」

 

横にいたユキヤに注意され、アヤノは慌ててタブレットからデータを引き出した。

 

 

 

 

「マジかよ…四対一だぞ…」

 

シミュレーターに座りながら、呆然とした声を上げたのはリョウだ。データはアレクサンダのものを使っているが、彼は模擬戦開始から僅か25秒で撃墜されていた。

 

「ウソでしょ…あの顔で、ナイトメアの操縦も超一流なんて…不公平すぎ…」

 

リョウを援護していたアヤノも、ほぼ同時に撃墜されている。彼女も自分に出来る精一杯の動きをしたつもりだが、その悉くを読まれて先を潰された。

 

「こりゃあ、シャイング卿よりも遥かに上だな…」

 

アキトと共に数合斬り合ったものの、40秒が経過した時点で撃墜されたアシュラも呟く。彼は近接戦闘に絶対の自信があったが、上には上がいることを目の当たりにしてショックを受けている。

 

「銃弾がすり抜けるなんて…これでは本当に亡霊のようだ。」

 

唯一1分以上闘い続けていたアキトですら、蒼月には一太刀も浴びせる事が出来ていない。これまで命を懸けた闘いを切り抜けてきたという自負のある彼にとっては、表情には出さないまでも歯軋りしたくなる結果であった。

 

「君達がしばらく戦場から離れていたのも影響していると思うよ。もう一戦やるかい?」

 

ライの問いに、模擬戦を見ていたフランツが声を上げる。それに、ユキヤも続いた。

 

「いや、今度は俺達にやらせて下さい!」

 

「僕も自分の腕がどこまで通用するか試したいんですけど。ねぇ、レイラ。」

 

ユキヤは言外に、レイラにもシミュレーターに乗れと伝えていた。そこで、周囲で見ていた騎士団員達から声がかかる。

 

「おっ!ライ隊長とやりたがるなんて、勇気あるなぁ!お前ら、気に入ったぜ!」

 

「ああ、特に1分以上正面から斬り合うなんて信じられないよな!ホントに根性あるよ君達!」

 

その声は、アキト達に対する喝采であった。ライがこの模擬戦を行った理由は、彼らの存在を団員に認めさせる事であり、その為に手を抜かずに本気で闘ったのだ。そして、その目論見は見事に成功していた。

 

「周りのみんなも見たがってるね。なら今度はメンバーを変えてやろうか。」

 

ライの言葉に、周囲の団員達はさらに歓喜の声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

洛陽の朱禁城内にある迎賓館。そこでは、天子とオデュッセウスの婚姻パーティーが盛大に行われていた。

 

「天子様は、納得しているんでしょうか。」

 

そのパーティーに出席しているスザクが、隣を歩くセシルに問い掛ける。

 

「向こうがそう言ってるからには信じるしか…それにこれは、平和への道の一つだし。ここは招待客として、楽しみましょうよ。」

 

「ス~ザク~!あったあった!これだろ、お前が言っていたイモリの黒焼き。どうやって食べるんだ?」

 

そう言ってジノが差し出したのは、芋で出来た獅子であった。

 

「これは料理の飾りだよ。」

 

その言葉に落胆するジノ。その後ろから、ある人物が声を掛けてきた。

 

「なんだ、ヴァインベルグの坊やはまた騒いでるのか?」

 

そこにいたのは、ナイトオブナイン、ノネット・エニアグラムであった。

 

「エニアグラム卿!?何故ここに!?」

 

彼女の来訪を聞いていなかったスザクは驚く。そのスザクを見下ろし、笑いながらノネットは告げる。

 

「いやいや、お前達だいぶ苦戦しているそうじゃないか。だから皇帝陛下に直訴して、私も加えて貰ったんだよ。それにエリア11であれば、何かコーネリア皇女殿下の行方が分かるものがあるかもしれんからな。」

 

おそらく彼女はコーネリアを探すためだけにエリア11に来たのだろう。その為に、それらしい理由を使って皇帝に直訴したに違いない。スザクとジノは、彼女を見て思った。

 

「エニアグラム卿、ラモラックも到着しているのですか?」

 

聞いたのは、こちらに気付いて近づいてきたアドニスだ。彼はノネットを、こちらの戦力が増えるかも 程度に考えていたが、ノネットはそれを無視して自身の長い腕をアドニスの首に絡めた。

 

「ノネットさんだ、アドニス。それに、まず挨拶をしようという考えはないのかい?」

 

そう言いながら逆の手で頭をグリグリする。さすがのアドニスも、ノネットの前では形無しだった。

その後方から、ピピッという電子音が響いた。

 

「アールストレイム卿、迎賓館の中ではメールを打っても…」

 

携帯のカメラを構え、操作するアーニャにセシルが告げた。

 

「ううん、これは記憶。」

 

「ああ、日記ですか。」

 

アーニャには幼い頃の記憶がない。いや、正確には自身の覚えていることと、写真やデータ等との間に差異がある。それ故に小さなことでも写真に残し、自分の記憶に疑いが出たときには確認できるよう、残しているのだ。

その二人の横を、ロイドが通りすぎていった。

 

「だったら記録だねぇ。」

 

ロイドの歩む先にいるのはミレイだ。彼女もロイドの婚約者として、このパーティーに招待されていた。

 

「あの…私ってまだロイドさんの婚約者なんでしょうか?」

 

留年することで結婚から逃れたミレイが問う。

 

「あれ?解消はしてないよねぇ?」

 

高校を留年するような者は、貴族の婚約者として相応しくない。そう言われることを心のどこかで願っていたミレイだったが、ロイドはそういったことを一切気にしない性格だ。

 

「神聖ブリタニア帝国宰相、シュナイゼル殿下、ご到着!」

 

その声にスザクやミレイが振り向く。そこにはシュナイゼルと、彼に連れられたニーナの姿があった。

そのシュナイゼルの前に、ラウンズの面々が跪く。

 

「お久しぶりです。皇帝陛下から、この地ではシュナイゼル殿下の指揮下に入るようにと。」

 

代表して、ジノが挨拶する。

 

「ラウンズが五人も…頼もしいね。ただ…」

 

そこでシュナイゼルは、一度言葉を切った。

 

「ここは祝いの場だ。もっと楽にしてくれないと。」

 

「わかりました。」

 

ジノが言うとともに、ラウンズの面々は立ち上がる。

 

「スザク、学園のみんなは元気?」

 

「ああ、ほら。」

 

ニーナの質問に答えたスザクは、首を横に向ける。その先には、ニーナに手をふるミレイの姿があった。

 

「ミレイちゃん!」

 

ニーナは見知った顔を見付け、少し笑顔になる。二人っきりで話す為、ミレイはニーナをバルコニーへと連れていった。

 

「皇コンツェルン代表、皇神楽耶様、ご到着!」

 

その時、スザクらの後方から声が響いた。振り返るとそこには神楽耶とゼロ、その護衛としてライとカレン、ロックが付き従っていた。

 

「ゼロ…堂々と!」

 

「紅蓮のパイロットもいるじゃないか。」

 

シュナイゼルの部下であるカノンに続き、ジノも声を上げる。

それと同時に中華連邦の兵士達がゼロ達の前に立ち塞がる。それを見て、ライとロックが一歩前に出た。

 

「やめませんか諍いは。本日は祝いの席でしょう。」

 

シュナイゼルが大宦官や兵達に告げ、視線を神楽耶へと移す。

 

「皇さん、明日の婚姻の儀ではゼロの同伴をご遠慮頂けますか。」

 

シュナイゼルは神楽耶を真っ直ぐ見て伝える。

 

「それは…致し方ありませんね。」

 

神楽耶も渋々納得した。最も、ゼロからは明日の婚姻の儀については出席しないとは聞いていたが。

 

「ブリタニアの宰相閣下が仰るのなら…退けい!」

 

大宦官が声を発すると、兵達は下がっていった。

 

ゼロに歩み寄るシュナイゼルの前に、スザクが立ち塞がる。これはゼロの、ルルーシュのギアスを警戒してのことだ。

そのゼロの前に、神楽耶が歩み出た。

 

「枢木さん、覚えておいでですか?従姉妹の私を。」

 

「当たり前だろ。」

 

「キョウト六家の生き残りは、私達だけとなりましたね。」

 

神楽耶の言葉に、スザクは苦虫を噛み潰したような表情になった。

 

「桐原さん達はテロリストの支援者だった。死罪は仕方がなかった。」

 

「お忘れかしら?昔、ゼロ様があなたを救ったことを。その恩人も、死罪になさるおつもり?」

 

神楽耶の言うことは事実であるが故に、スザクにとっては非常に反論しにくい事柄だった。

 

「それとこれとは…」

 

「残念ですわぁ。言の葉だけで、人を殺せたらよろしいのに。」

 

そう言いながら、神楽耶はにっこりと微笑む。言葉の裏には、スザクに対する裏切り者としての感情が見え隠れしていた。そして皮肉なことに、それが出来る者がこの場に二人もいることを、神楽耶は知らずに口にしていたのだった。

 

「シュナイゼル殿下、一つチェスでも如何ですか。」

 

問うたのはゼロだ。

 

「ほう。」

 

シュナイゼルは顔に笑みを浮かべる。ゼロの提案をどこか楽しんでいるようだ。

 

「指すのは私ではなく、こちらの男ですが…」

 

そう言って、手でライを指名する。カレンや神楽耶は驚きの表情を隠せないでいたが、事前に頼まれていたライはゆっくりと頷いただけだった。

ルルーシュにしてみれば、自分の指し筋はシュナイゼルに知られている。であれば、ライの方が勝率が高いと踏んでの事だ。

 

「彼が勝てば、枢木卿を頂きたい。…神楽耶様に差し上げますよ。」

 

ゼロがスザクを指名したのは、この場で自分のギアスが効かないのがスザクだけだからだ。それに最もらしい理由をつける為に、神楽耶とスザクのやりとりが終わるのを待っていたのだ。

 

「まあ、最高のプレゼントですわ!」

 

事情を知らない神楽耶は素直に喜ぶ。その姿を見たシュナイゼルは徐に口を開いた。

 

「では私が勝ったら、その彼を頂くとしようかな?」

 

シュナイゼルはなんとライを指名してきた。これはゼロにとっても予想外で、せいぜい自分の仮面を外させる程度のことだと思っていた。

 

「構いません。」

 

答えたのはライだ。そのライにゼロが歩み寄り、小声で伝える。

 

「本気でやれ。」

 

「ああ。」

 

二人の様子を見て、シュナイゼルはなおも嬉々として言葉を発した。

 

「楽しい余興になりそうだね。」

 



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episode14 Irony

「なぁお前、ロック・グルーバーだろう?以前ビスマルクの旦那に挑んだ…」

 

モニターに移るチェスの様子を眺めていたロックに、ノネットが話し掛ける。彼はノネットに目を向けると、自身がビスマルクと勝負を行った際に記憶を取り戻すきっかけとなった彼女の事を思い出していた。

 

「お前はあの時の…確か、ナイトオブナインか。」

 

「ああ、ノネット・エニアグラムだ。しかし、お前が騎士団にいるとは思わなかったよ。ここで会う事も予想外だ。目的はやはり、復讐か?」

 

ノネットはあの闘いのあと、ロックに何が起こったかを知っている。だからこそ、彼の姿を見掛けた時からこうして話し掛けるつもりでいたのだ。

 

「二つ、指摘させて貰う。まず一つは、俺がビスマルクともう一度闘いたいと思っている理由は復讐ではなく、妻と子の死を無意味なものにしない為だ。もう一つは、俺は騎士団員ではなく今チェスを打っているあの銀髪の男の騎士だ。あの男が黒の騎士団の団員でなくなれば俺も力を貸さない。それだけの関係さ。」

 

「成程な。だが、お前程の男が形はどうあれ誰かの下につくとは思わなかったぞ。」

 

ノネットの言葉に、ロックはニヤリと笑ってから言葉を返した。

 

「あの銀髪は、それ程の男ということだ。あいつが置かれていた環境や状況は、ある意味不自由なく暮らしてきた今の奴等とは全く違う。それは時代の違いもあるだろうが…それに、エニアグラムの姓を持つお前があいつと敵対する立場となるのは、中々の皮肉だと思うがな。」

 

「時代…?どういう意味だ?それに、立場だと…?」

 

言われた言葉の意味が分からず、思わず聞き返したノネットにロックは答えを返さず、その場を後にする。モニターでは、ライとシュナイゼルの勝負が白熱していた。

 

 

 

 

ライとシュナイゼルはチェスを指しているのは、式典会場とは別に急遽に用意された部屋だ。

ライの後ろにはカレンとゼロ。シュナイゼルの後ろにはジノとアーニャ、スザクにカノンが控えていた。

 

「これが黒の騎士団のエース、紅蓮のパイロット。あっちがもう一人のエース、蒼月のパイロット。どっちにも興味があるけど…でも、写真は撮れなかったけど、それよりもさっきの男に見覚えがある気がするのは何故?」

 

誰ともなく呟きながら、携帯電話のカメラを何度もカレンとライに向けるアーニャ。そのアーニャに、ジノが歩み寄って話し掛けた。

 

「手配画像よりずっといいな。ああいうの、タイプなんだ。」

 

そう言ってカレンに指を降ってアピールするジノを、ライが鋭い目付きで睨みつける。

 

「…っと、虎の尾を踏んだかな。」

 

生半可ではない殺気を感じたジノは一歩下がる。しかし次の瞬間には、ライはすでに勝負に集中している。

 

「強い…殿下が押されている。」

 

呟いたのはシュナイゼルの腹心のカノンだ。ライはナイトを上手く切り込ませ、シュナイゼルを追い詰めようとしていた。

しかし、シュナイゼルは瞬時にそれを逃れる。

 

「ふむ…今のを切り返されるとは思いませんでしたよ。」

 

ライは少し考え込む。

 

「なあアドニス、私はチェスには全く詳しくないのだが、これは殿下が負けそうなのか?」

 

部屋の外でモニターを眺めるノネットがアドニスに問うた。そこから少し離れた場所で、ロックもその勝負の行方を観察していた。

 

「…互角というところでしょう。どちらも簡単には流れを渡していません。」

 

言いつつ、アドニスは考える。あいつならその程度は出来るだろう。黒の騎士団で、唯一自分を苦しめたライならばと。

 

「ここは、ゼロに倣うとしましょうか。」

 

ライはキングを動かす。

 

「王から動かねば、部下は着いてこない。彼の言葉です。僕もそれに同意しますよ。」

 

「ほう、見識だねぇ。やはり私の見込んだ通り…では、こちらも。」

 

シュナイゼルはライと同様に、キングを手に取った。その表情は余裕に満ち溢れており、意表を突いたつもりだったライは、一瞬言葉を失った。

 

「これはどっちが勝ってるんだ?」

 

ノネットがまたしてもアドニスに問う。アドニスは真剣に画面を見つめていた。

 

「俺にも、判断がつかない…どうなるんだ…」

 

やがて両者のキングは一つのマスを空けて相対した。

 

「これで、進めないでしょう。」

 

ライはシュナイゼルを見つめながら告げた。

 

「このままでは、スリーフォールド・レピティションとなる。」

 

シュナイゼルも盤面を見つめながら答える。

 

「引き分け、ですかね。」

 

ライも盤面に目を落としつつ、シュナイゼルに問うた。

 

「いいや、白のキングを、甘く見てはいけないな。」

 

そう言うと、シュナイゼルはキングの駒を一つ進めた。これでは、次のライのターンで勝敗が決してしまう。

 

「…なるほど。僕を試そうということですか。」

 

ライはシュナイゼルの考えを察し、苦笑するライ。おそらくこの場に座っているのがゼロであれば、与えられた勝利に納得せず、白のキングを取りに行くことは無かっただろう。

ライの言葉に、シュナイゼルは微笑みで答える。

 

「あなたの考えが読めた以上、次の手に意味は…」

 

ライが言いかけたところで、部屋に飛び込んでくる影があった。

 

「ゼロ!ユーフェミア様の仇!!」

 

そう言ってナイフを振り上げたのはニーナだった。咄嗟にスザクが腕を掴むが、ニーナは止まろうとしない。

 

「どうして邪魔するのよ!スザクは、ユーフェミア様の騎士だったんでしょ!あなたは、やっぱりイレブンなのよ!!」

 

その言葉にたじろいだスザクは、思わず手を離してしまった。

すぐにゼロに向かって走ったニーナであったが、しかしその手を横からライが掴んで捻り上げた。

 

「すまない、ニーナ。」

 

「ライ!なんでブリタニア人のあなたが!?」

 

ニーナはライがハーフであることを知らない。それ故に、ブリタニア人でありながらテロリストとなった裏切り者だと思っているのだ。

 

「僕はハーフだ。そして今は、日本人として闘っている。」

 

ナイフを取り上げ、ニーナを突き放しながら告げる。

 

「日本人?イレブンでしょ…イレブンのくせに、友達の顔をして!」

 

ニーナの詰りに、ライはそれ以上言葉を返すことは無かった。ニーナはさらに言葉を続ける。

 

「返してよユーフェミア様を!必要だったのに!私の、女神様…」

 

そう言って踞るニーナ。そのニーナの前に膝をつき、カレンが言葉を紡ぐ。

 

「ごめんなさい、今まで。でも…」

 

その姿を、ミレイが見つめていた。

 

(カレン…変わっていないのね、あなたは。ブラックリベリオンの時も、私達を気にかけて…)

 

スザクにナイフを渡し、カレンを支えて立たせてやるライ。直後に彼はミレイに気付き、少し気まずそうに頭を下げた。

 

(ライ…今も誰かの為に闘っているのね。それに引き換え、私は…)

 

「すまなかったねゼロ。余興はここまでとしよう。それと確認するが、明日の参列はご遠慮願いたい。次はチェス等では済まないよ。」

 

言い終わると、シュナイゼルは部屋を出た。それに続いてジノとスザクも出ていったが、一人、アーニャだけが残っていた。

アーニャは携帯電話を取り出すと、ライの方へ向ける。そこには、モルドレッドを攻める灰塵壱式が映っていた。

 

「…この機体のパイロットは、誰?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我は問う!天の声、地の叫び、人の心!何をもってこの婚姻を中華連邦の意思とするか!?」

 

婚姻の儀に乱入し、あまつさえ刀を抜いてみせたのは星刻だ。彼は天子と永続調和の契りを結んでおり、天子に大恩がある。その天子を救う為に、婚姻の儀を壊そうと部下達を引き連れて駆け付けていた。

 

「全ての人民を代表し、我はこの婚姻に異議を唱える!!」

 

飛び掛かってきた中華連邦の兵士達を弾き飛ばし、星刻は天子の元へ駆ける。天子も、星刻と交わした契りをその手に表し、星刻を呼んだ。その姿を見た星刻は、自分の行動が天子の意思を無視したものではないと確信した。

 

「我が心に、迷いなし!」

 

星刻は剣を掲げて天子に走り寄った。しかし二人の間に、中華連邦とブリタニアの国旗が落ちて視界を遮った。

 

「!?」

 

国旗が完全に地面に落ちて視界が開けると、そこには天子の肩を掴むゼロの姿があった。

 

「感謝する星刻。君のおかげで、私も動きやすくなった。」

 

「ゼロ、それはどういう意味かな?」

 

ゼロに歩み寄ろうとする星刻を、ゼロが制する。その手には銃が握られていた。

 

「動くな!」

 

その銃を天子のこめかみにに突きつけるゼロ。

 

「…黒の騎士団にはエリア11での貸しがあったはずだが?」

 

「だからこの婚礼を壊してやる。君たちが望んだ通りに。但し…花嫁はこの私が貰い受ける。」

 

「…この外道がっ!!」

 

直後、天井を突き破ってナイトメアが現れる。藤堂が騎乗する新型、斬月である。

 

「まさか斬月の初仕事が、花嫁強奪の手伝いとはな…」

 

そう呟く藤堂へ、ゼロが命じた。

 

『藤堂、シュナイゼルを!』

 

「分かった!」

 

藤堂は斬月をシュナイゼルへ向けるも、全く違う方向へ制動刀を動かした。

その制動刀がスラッシュハーケンを弾く。

ゼロがそちらへ目を向けると、飛来するランスロットが目に入った。

 

「殿下は渡さない!」

 

「スザク君!」

 

藤堂はスザクの名を呼びながら、ランスロットに斬りかかる。

 

「まさか…藤堂さんですか!?」

 

ランスロットを上空に押しやる藤堂。そのスキに、ジノがシュナイゼルとオデュッセウスを逃がしていた。

それと入れ替わるように、千葉が騎乗する暁が、コンテナを持って侵入してきた。

コンテナが開くと、そこには神楽耶の護衛として婚姻の儀に参加しているカレンを乗せる為に、紅蓮可翔式の姿があった。余談だが、ライとロックはそれぞれ近辺の中華連邦軍基地を潰す為に別行動中だ。

 

「よし、ここで!」

 

スザクは斬月に向けてヴァリスを放つ。しかし斬月はその場を動かず、輻射障壁で弾丸を止めてみせた。

 

「やはりいけるな。この斬月なら、相手がスザク君であろうとも…」

 

「しかし、これなら!」

 

スザクはハドロンブラスターを起動させ、ヴァリスと接続する。しかしその接続までの一瞬を藤堂は見逃さなかった。

 

「甘い!」

 

ランスロットの後方に回る斬月。ランスロットが照準を向けた先には、朱禁城をバックに剣を構える斬月の姿があった。

 

「撃てるかな?この位置で。」

 

「…朱禁城を!」

 

その朱禁城から、飛び出す紅蓮と暁の姿が見えた。スザクが気を取られたその瞬間に、斬月は上空へと飛び上がっていた。

 

「枢木スザク、ここでっ!」

 

「藤堂鏡志朗、まだ!」

 

スザクは斬月の斬り下ろしを何とか躱すが、制動刀のブースターによる返しの斬り上げは避けきれず、フロートの右側を断たれた。

 

「フロートぐらいで!!」

 

ランスロットの脚部にブレイズルミナスを発生させ、斬月に蹴りを放つ。左腕で受けた斬月だが、ブレイズルミナスに押されて後退せざるをえなかった。

 

『藤堂、ここはひとまず退け。ランスロットのフロートを破壊しただけで十分だ。私達を追うことは出来なくなったからな。』

 

その藤堂に、ゼロから通信が入る。

 

「分かった。」

 

ゼロの言葉を受けて、千葉やカレンに合流する為に下がる藤堂。ゼロと天子、神楽耶は紅蓮を運搬したコンテナに乗っており、それを千葉の暁が運搬している。

 

「龍騎兵隊を回せ!天子様を…」

 

飛び去る紅蓮や斬月を前にして、星刻が部下に告げる。

しかしその星刻を、大宦官が遮った。

 

「そこから先は、我らのお役目よ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

動物園のトラックを偽装した車両に、暁がコンテナを降ろす。

 

『藤堂将軍、予定通り、千葉の暁から補給を始めますが…』

 

杉山からの通信に、藤堂は同意する。

 

「分かった。斬月と紅蓮、蒼月は斑鳩に戻ってからでいい。」

 

『では、それで手配を。』

 

その車両の前に、中華連邦軍の航空部隊が展開していた。

 

「もう、しつこすぎるよ!」

 

「ああ、一気に終わらそう!」

 

紅蓮が右腕を向ける。そこへ別動隊を潰してから駆け付けていた蒼月も、紅蓮の隣でマイクロメーサーキャノンを拡散型に切り替え、右手を部隊に向けていた。

放たれたワイドレンジの輻射波動に加え、拡散されたマイクロメーサーキャノンをくらった航空部隊は一機残らず撃墜される。

中華連邦の部隊を振り切り、車両は斑鳩に到達するかに見えた。しかしその目の前には、橋が寸断され、崖のようになった道路が見えていた。

そして後方からは、中華連邦の戦車隊と鋼髏(ガン・ルゥ)部隊が迫っている。

 

「愚か者が…」

 

その光景を監視していた大宦官が呟く。しかしこれもゼロの策であることには、大宦官達の中には誰一人として気付いている者はいない。

 

「朝比奈!」

 

「はいはい。全軍、攻撃準備!」

 

ゼロの声に、朝比奈の暁が崖から現れる。それに続いて、ハーケンでぶら下がることで崖の内側に身を隠していた、量産型の暁も続々と現れた。彼らは左腕のマシンキャノンを一斉に鋼髏へと向ける。

 

「ふっ…伏兵!?」

 

状況を理解した大宦官は慌てふためく。彼らの見ているモニターには、側面からも暁が現れる様子が写し出されていた。

そして、部隊はすべて殲滅された。

 



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episode15 Flowers gone

「蓬莱島の状況は?」

 

斑鳩の指令室に到着したゼロが問う。それに答えたのはディートハルトだ。

 

「インドからの援軍は、既に到着しております。」

 

「後は帰って合流するだけだが、天子様の方は…」

 

ディートハルトに続いた扇の言葉を、爆音が遮った。

 

「…敵襲!?先行のナイトメア部隊が、破壊されていきます。」

 

オペレーターの言葉に、扇が命令を下す。

 

「止まれ!全軍停止だ!」

 

(おかしい…敵軍と遭遇するにしても、あと一時間は必要だったはず。読んだ奴がいるのか、こちらの動きを!)

 

ゼロはモニターを注視する。そこには、一機の青いナイトメアが写し出されていた。

 

「あれは…何故こちらと同じ、飛翔滑走翼を装備している?」

 

ゼロが疑問を口にするが、誰もそれに答えることは無かった。

 

『可翔型とはいえ敵は一機。囲んで叩きます。』

 

そう言って突撃する三機の量産型暁。しかしそのナイトメアは手首からハーケンを射出すると、三機の暁をあっという間に破壊してしまった。

 

「よくも!」

 

千葉が回転刃刀で斬りかかる。

 

「道理なき者がほざくな!」

 

しかしそのナイトメアは手首のハーケンを高速回転させ、回転刃刀をいとも簡単に破壊してしまった。

 

『聞こえているかゼロ。』

 

「まさか、星刻か!」

 

そのナイトメア、神虎に乗っているのは星刻であった。彼はゼロの手を読み、天子を取り返す為に大宦官から貸し与えられた神虎で向かってきたのだ。

 

『さあ、天子様を返してもらおう。今ならば命までは…』

 

言いかけた星刻に突撃するナイトメアがあった。カレンの紅蓮可翔式だ。

 

「星刻ウゥゥッ!!」

 

「紅蓮可翔式!」

 

神虎の刀を、紅蓮が左手のMVSで受け止めた。

 

「紅月カレンか!しかしこの神虎ならば!」

 

紅蓮と神虎の出力は互角のようで、どちらも押し切ることが出来なかった。

 

「…蒼月は!?」

 

格納庫に飛び込んできたのはライだ。しかし整備員は申し訳なさそうに答える。

 

「それが…ユニットを外したばかりでして…」

 

ライは蒼月に騎乗しつつ伝える。

 

「出来る限り急いでくれ!紅蓮はまだ補給が出来ていない!エナジーが…」

 

「わ…分かりました!」

 

ライは手に持つタブレットに映し出される二機の戦闘の様子を、不安そうに眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

紅蓮のゲフィオンミサイルを全て避ける神虎。紅蓮の右手にエネルギーが充填されるのを見て、星刻も距離を取った。

 

「見せてみろ神虎!お前の力を!」

 

神虎の胸部が開き、エネルギーを充填する。

 

「いけない、あれは…」

 

「知っているのか!?」

 

整備士の一人に、ゼロが問いかけた。

 

「作ったのはうちのチームだからねぇ。」

 

それに答えたのはラクシャータだ。彼女は眉根を寄せ、不機嫌さを隠そうともせず言葉を続ける。

 

「紅蓮と同時期に開発したんだけど、ハイスペックを追及しすぎてねぇ…扱えるパイロットがいなかった孤高のナイトメア、それが神虎よ。」

 

神虎から天愕覇王荷電粒子重砲が放たれる。紅蓮からも輻射波動砲弾が放たれ、空中で激突した。両者は一歩も譲らず、ぶつかり合ったエネルギーが中心部で爆発を起こした。

 

「それが何故敵の手に渡っている!?」

 

ゼロは思わずテーブルに拳をぶつけた。

 

「インドも一枚岩ではないということでしょう。」

 

彼の方へ振り返りディートハルトが答えた。それに続いて、ラクシャータも愚痴を零す。

 

「マハラジャのジジイ…」

 

「弱点はないのか!?援護は!?ロックはまだ戻ってないのか!?」

 

扇が問うが、それにもラクシャータやオペレーター達は明確な答えを示せなかった。

 

「他のシリーズとは別の概念だからねぇ…輻射機構はないんだけど、あとはパイロットがいなかったってことくらい?」

 

 

 

 

 

「捕らえたぞ!勝敗は決した!」

 

一方、神虎と紅蓮の闘いは佳境を迎えていた。神虎のハーケンが紅蓮の左足に巻き付き、振り回された紅蓮はMVSを落としてしまった。

 

「そうね。あなたの負け。」

 

神虎のハーケンを伝って流された電流を、左手でハーケンを掴んで輻射障壁を起動することで防いだ紅蓮。カレンはこれを見越してわざとMVSを捨てたのである。

 

「何っ!?」

 

「これであなたは逃げられなくなった。さぁ、直に叩き込むよ!!」

 

右腕を神虎に向ける紅蓮。それを見て、星刻は呟いた。

 

「そうか、殺すもやむなしだな。」

 

「やれるものならね!」

 

カレンは紅蓮を突撃させる。しかしその直後に紅蓮は失速し、降下を始めてしまった。

 

「──エナジーが!!」

 

星刻は両腕のハーケンで紅蓮を拘束し、斑鳩に向き直る。

そして右手に持つ剣を紅蓮に向けた。

 

「このような真似したくはないが、私には目的がある。天子様だ!天子様を…」

 

一瞬神虎が動きを止めた。そのスキに砲撃しようとした朝比奈と千葉であったが、逆に後方から砲撃を受けた。輻射障壁で防いだものの、多数の鋼髏が迫ってきているのが2人の目に入る。

 

「対空射撃を続けよ!星刻様の援護を!」

 

部隊のやや後方に位置する大竜胆で指揮を取るのは、星刻の腹心である周香凛だ。神虎は紅蓮を捕らえたまま、大竜胆に向かって帰投する為にそちらへ向かった。

 

「香凛か、助かる!」

 

神虎の移動を感じ、紅蓮のコックピット内でカレンは慌てた。

 

「えっ!?やだ、ちょっと待って…」

 

『カレン!!まだ通信できるか!?』

 

そのカレンに話しかけたのは、蒼月に乗るライだ。

 

「ごめん、ライ!捕まっちゃって…」

 

「大丈夫だ!何も心配するな!すぐに助ける!」

 

ライは必死にカレンに伝える。

 

「分かってる!ライ、愛して…」

 

そこで通信は切れた。ライはすぐに指令室に通信を繋いでゼロに伝える。

 

「ゼロ!蒼月を出すぞ!」

 

「待って下さい!」

 

ゼロが答える前に、ライに返したのはディートハルトだ。

 

「私は撤退を進言します。紅月カレンは一兵卒に過ぎません。」

 

「何っ!」

 

「見捨てろというのか!?」

 

抗議する扇と南に向かって、ディートハルトは冷たく言い放つ。

 

「みなさん、これは選択です。中華連邦という国と、一人の命。比べるまでもない。ここは兵力を温存し、インド軍との合流に備えるべきです。ゼロ、ご決断を!」

 

そのディートハルトに向かって、ライが口を開いた。

 

「黙れ。殺されたいのか?」

 

普段の彼とは全く違うそのあまりに冷たい声に、全員が押し黙る。

 

「私は一人でも行く。発艦口を開けろ!」

 

「し、しかし、情けと判断は分けるべきです!大望を成す為なら時には犠牲も必要です!」

 

口調が変わったライに驚きながらも、ディートハルトはなんとか自分の意見を口にする。そこへ、中華連邦の別働隊を潰しにいっていた灰塵壱式が戻ってきた。

 

「カレンが捕らえられたのか?救出なら付き合うぞ、ライ。」

 

ロックが告げる。彼はあくまでライの協力者であって、黒の騎士団の団員ではない。その彼がライに手を貸すなら、いよいよ止められる者は団内には存在しない。

 

「…自分達も、出撃準備は出来ています。大切な人を失いたくないという思いはよく分かる…我々も手伝います。」

 

続いて、アキトからも通信が入った。それを受けて、ゼロはこの場での判断を下す。

 

「…ライ、ロック、特務隊を率いて出撃したとしても、お前達だけではカレンを助けられる可能性は限りなく低い。」

 

ゼロがライに告げる。

 

「お前も、カレンを見捨てろというのか?」

 

ゼロの言葉に、ライは怒りを滲ませる。今はなんとか藤堂が止めているが、いつまでも押さえつけてはいられない状態であった。

 

「いや、決着をつける!全軍反転せよ!」

 

ゼロの言葉にライは動きを止め、ディートハルトは疑問を呈する。

 

「何故です!?組織の為にも…」

 

「インド軍が裏切っている可能性もある。」

 

ゼロがディートハルトの言葉を遮った。

 

「それは…」

 

「千葉と朝比奈に鶴翼の陣を敷かせろ。星刻に教えてやる。戦略と戦術の違いを!」

 

そう言うと、ゼロは再びライに声をかけた。

 

「ライ!お前には、先陣を頼む!」

 

「!!…ああ、任せてくれ!」

 

(…カレン、必ず助けるぞ!!)

 

必ず彼女を救ってみせる。ゼロのこの場で闘うという決断に、ライはそう決意を新たにした。

 



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episode16 Unprecedented anger

遅くなって申し訳ありません。よろしくお願い致します。



ゼロと星刻は其々自軍に対して戦略を説明していた。

 

「地形は高低差が少ない。地理的優位は望めない。」

 

 

 

「加えて敵軍は急拵え、指揮系統はゼロに集中させるしかない。しかしナイトメアフレームの性能は敵が勝る…」

 

 

 

「となれば、中華連邦軍の選択肢は!」

 

 

 

「神虎を前面に押し立てての中央突破!!」

 

その言葉と同時に大竜胆から神虎が発進する。その神虎に向かって、ライの蒼月が突撃していた。

 

「蒼月、リミッター解除。行くぞ!!」

 

ライがコンソールを操作する。すると蒼月の背部に、折り畳まれていた小型のフロートが一対出現した。

 

「星刻ッ!!」

 

神虎と激突する蒼月。蒼月が急激に加速したことで弾き飛ばされた神虎だが、すぐに蒼月がターンしてきたことから剣をぶつけ合う。

 

「第三龍騎兵隊、射程ではこちらが勝る!砲撃しつつ突進せよ!」

 

蒼月と闘いつつ指示を飛ばす星刻。蒼月の剣を弾き、距離を取ってハーケンで攻撃しようとするも、星刻が気付いたときには蒼月は神虎の懐に入っていた。

 

「何!?」

 

突き出された大型MVSをギリギリで躱す神虎。蒼月は左腕についているハーケンを放つが、これにも反応され、右肩の一部を削った程度に終わった。しかし、蒼月の速度に星刻は驚嘆していた。

 

「ここまでの使い手とは…侮っていたつもりはなかったがな!」

 

蒼月は現在、神虎を超える機動力を見せている。当然、パイロットにかかる負荷も神虎以上だが、ライがその影響を受けている様子は見られなかった。

再び距離を詰める神虎。蒼月に向かって刀を振るうも左手のMVSで簡単にいなされ、蒼月の蹴りをモロにくらってしまった。

 

「…カレンは返してもらう。その気がないなら、ここで死ね!」

 

眼下では、千葉と朝比奈の部隊が鋼髏の大部隊を左右から包囲しつつあった。正面からも、特務隊が進撃している。それを突破したとしても、その奥には斬月と灰塵壱式が控えていた。神虎と蒼月の闘いも蒼月がかなり押している為に、ゼロは勝利を確信する。

だがその直後、部隊の足元を水が流れ始めた。

 

「フハハハハ。星刻、運河の決壊がお前の策か!水量は減らしておいたんだよ!」

 

下策と断ずるゼロと違い、星刻と闘いながらもライはその策の真価に気付いていた。

 

「ッ!! 全軍、斑鳩まで後退しろ!!」

 

「何?」

 

ライの指示に疑問を呈するゼロ。しかし、ライの焦りは本物だった。

 

「藤堂さん、ロック!飛翔滑走翼を持たない部隊を一機でも多く引き上げるんだ!!」

 

ライの声と同時に、泥沼となった地盤に沈みゆく暁部隊。そこに至って、ようやくゼロは星刻の狙いに気付いた。

ここは手抜き工事によって地盤が極端に緩くなっており、それを知る星刻の部隊だけが安全地帯から砲撃を行う事が出来ていた。前線に出ていた部隊で泥沼に飲まれずに済んだのは、機動力に優れるが故に即座に待避したアレクサンダ隊だけである。

 

「この策の意味を一瞬で理解するか…ライ、やはりお前は恐ろしい男だ。だが、我が国に勝利をもたらすのは、我が国の大地そのもの。ゼロ、お前の敗けだ!」

 

斑鳩に向けて天愕覇王荷電粒子重砲を構える神虎。絶対的に有利な状況を覆されたことでゼロは憤り、目の前のテーブルに拳を叩き付けながら怒りの叫びを上げた。

 

「星刻ウゥッ!!」

 

「どこを見ている!?」

 

その神虎を斬りつけたのは蒼月だ。星刻は蒼月からかなり距離を取ったつもりであったが、その距離を一瞬で詰めて右腕のMVSを降るってきていた。

左腕を盾にし、右腕のハーケンもあてがって防いだものの、砲撃は逸らされた上に胸部には小さくない傷を負ってしまった。

 

「…やはりお前を倒さねば黒の騎士団を潰すことはできないようだな!だが、ここにお前を留めておくことに意味がある!全軍、進軍開始!」

 

「貴様ごときが私を…?笑わせるな!」

 

マイクロメーサーキャノンを拡散型にして放つ蒼月。両腕のハーケンを回転させることで神虎を守りきった星刻だったが、今のライを相手にそれほど長く持たせることは出来ないかもしれないと感じていた。

 

「艦首、拡散ハドロン重砲セット!」

 

「ゲフィオンコントロール、同調よし!」

 

「照準合わせ…いけます!」

 

斑鳩からはハドロン重砲が放たれようとしていた。敵軍の進撃を挫き、そのスキに地上部隊を出来るだけ救出して撤退するつもりだ。

 

「よし、敵軍両翼に向け、発射!」

 

ゼロの命令により、ハドロン重砲が放たれる。それによって多数の鋼髏が撃墜された。

 

「藤堂とロックは部隊の救出を!ライはそのまま神虎を足止めするんだ!」

 

「…分かった。」

 

ゼロはこのままでは終わらないということを理解しているライは、撤退の目的におおよその予測が出来ていた。今すぐにカレンを助けたいのは事実だが、とはいえ目の前で抵抗できずに撃墜されていく味方を見捨てて、彼女の元へ行くことも出来ない。ゼロの命に従って神虎と徐々に距離を取ると、いつでも撤退できる戦闘体勢を作った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼロが撤退先に選んだのは、歴代の天子が眠る天帝八十八陵である。殿を務めていた蒼月の収用まで完了し、残すは斑鳩のみとなった。

ゼロはここで、籠城戦を展開するつもりだ。

その斑鳩を追おうとする星刻とその部隊は、大宦官が率いる大隊から砲撃を受けていた。

 

「天子様を取り戻すのではないのか!?」

 

聞いたのは香凛だ。彼女も大竜胆の中で兵士達から銃を向けられている。

 

「ここまでで十分。私達には強大な援軍もいるしなぁ。」

 

大宦官の言葉で、モニターがズームされる。そこには、ランスロット・クラブとトリスタン、モルドレッドが映っていた。香凛は知る由もないが、アヴァロンにはまだノネットも控えている。

 

「愚かな…この中華連邦で他国に…ブリタニアに支援を頼むとは!しかもあの艦はアヴァロン!

分かっているのか大宦官ども…相手はEUの半分を奪い取った男、第二皇子シュナイゼルだぞ!」

 

星刻が嘆く。国を、そして天子を憂う者として許せることではないが、かといってここから独力で逆転する術など無いに等しいということも彼は理解していた。

 

「大宦官は私達だけでなく、星刻までここで抹殺するつもりだな。」

 

冷静に状況を分析して言葉を放つC.C.。それに答えることなく、ゼロが告げた。

 

「ディートハルト、仕掛けの準備だ。」

 

「なっ…ここでですか!?」

 

星刻だけではなく、追い込まれているのは自分達も同じである。ディートハルトの驚きは当然だった。

 

「全て揃った、最高のステージじゃないか!」

 

余裕を見せるゼロだが、仮面の下には必死に思考を続けるルルーシュの表情が隠されていた。

 

「どーするってんだよ!援軍もないってのに!」

 

そのゼロに食って掛かったのは玉置だ。彼の言葉は、騎士団員達に共通する思いでもあった。

 

「落ち着け!こっちには天子様がいる。相手だって下手に手出しはできないから…」

 

扇が言い聞かせようとするも、直後に中華連邦軍から砲撃を受けて斑鳩の船体が揺さぶられる。それを見て、ゼロが中華連邦の目論見を団員に伝えた。

 

「中華連邦は、この天帝八十八陵ごと我らを押し潰すつもりだ。つまり、天子を見捨てた…」

 

それは、天子を盾にするという手が使えなくなったことを意味していた。天帝八十八陵に籠城してしまっている現状、正面突破以外に道が無くなったというのと同義である。

 

『ゼロ、こちらは全機の補給が完了した。いつでも発艦可能だ。それと、特務隊全機への飛翔滑走翼の装着も終わっている。』

 

そこへ、ライからの通信が入る。彼がこの戦場から退く気がない事を理解しているゼロは、むしろこの状況では最も頼もしい事であると考え、深く頷いた。

 

 

 

「貴様ら天子様を!」

 

大宦官の乗る大竜胆に斬りかかる星刻。しかしその斬撃は、トリスタンに受け止められている。

 

「君かい?クーデターの首謀者は?」

 

「ブリタニアは退け!これは我が国の問題だ!」

 

問いかけるジノにそう返す星刻だったが、ジノがそれに応じることはなかった。

 

「でも、国際的にはあっちが国の代表だからさ…」

 

そう言って構え直すトリスタンの後ろには、モルドレッドとランスロット・クラブも迫ってきていた。

 

 

 

 

 

「こちらの航空戦力は限られている。一騎当千の気構えで当たれ!」

 

命令を下したのは藤堂だ。彼の声に従い、斑鳩からは飛翔滑走翼を装備した暁やアキト率いるアレクサンダ隊、フロートを装備している蒼月と灰塵壱式を含めた空戦部隊が出撃していた。

なお、レイラはライの補佐という立場を与えられている為にブリッジで戦闘を見守っている。

 

「貴様らごときが、この俺と灰塵を止められると思うな!」

 

真っ先に中華連邦の戦闘機部隊に突っ込んだロックが、次々とその戦闘機を破壊してゆく。戦闘機部隊側も反撃しているが、灰塵壱式には傷ひとつつけられていなかった。

 

「…遊びはおしまい。」

 

そうして暴れ回る灰塵壱式に攻撃を仕掛けてきたのはモルドレッドだ。

アーニャはモルドレッドに内臓されているミサイルを一斉に放つが、ロックはそれに気付いて灰塵壱式の前腕を回転させ、そこにブレイズルミナスを発生させた。それを拳に纏い、全てのミサイルを叩き落とす。

 

「…アーニャか。戦場で会うのは二度目だな。覚えていないようだが。」

 

灰塵壱式が腰から長刀型のMVSを抜く。それを見つつ、アーニャはオープンチャンネルで彼に直接尋ねた。

 

「…あなたは、誰なの?」

 

 

 

一方、黒の騎士団の出撃を受けて、アヴァロンからはランスロットとヴィンセントが出撃していた。

ノネットの専用機はラモラックであるが、到着が間に合わなかった為にアヴァロンにあったヴィンセントで出撃してきたのだ。

 

「へぇ、黒の騎士団も戦力が揃ってきてるじゃないか。これは私達もうかうかしてはいられないなぁ。」

 

そう言うノネットであったが、その表情は非常に楽しそうだ。ナイトオブラウンズとなり、専用機を得て以降は戦場で苦戦することすら無くなった彼女にとって、この状況は不謹慎ながらも嬉しいものであった。

 

「ん?あいつ強はそうだなぁ。枢木、あれは私が貰うぞ!」

 

「あ、ちょ…エニアグラム卿!?」

 

ノネットが向かった先には中華連邦の戦闘機部隊を次々と墜とす蒼月があった。その蒼月に向かって、ヴィンセントがMVSを振り上げる。

 

「何!?」

 

しかし、その一撃は蒼月が左手に持つMVSで簡単にいなされてしまった。直後に斜め下から大型MVSでの突きが放たれるが、ヴィンセントは辛くもこれを躱した。

 

(──今の動き…まさかな。)

 

蒼月の動きにノネットは覚えがあった。それはエニアグラム家に伝わる、王から伝授されたという剣による突き技だ。それを記した書を片手に、何度も繰り返して練習したノネットにとって、似ているでは済まされない程の動きだった。

 

(出来すぎているが、しかし…)

 

思考を巡らせることでほんの一瞬出来たスキを、ライは見逃さなかった。

ノネットが気付いた時には蒼月はすでにヴィンセントの目の前におり、右手のMVSを振るってきていた。

 

「チィッ!私としたことが!」

 

超接近戦を強いられたことで躊躇いを見せたノネットだが、接近戦自体は彼女も得意とするところだ。ノネットは頭を切り替え、嬉々としてそれを受けた。

蒼月のMVSの斬り下ろしを何とか防ぎ、肘のニードルブレイザーを向ける。しかしその動きを予測していたライは至近距離からハーケンを放っており、ニードルブレイザーが起動するよりも早く、ヴィンセントの左腕を破壊した。

その衝撃に抵抗せず、一回転しながら斬撃を放つヴィンセント。しかし蒼月の左腕に持つMVSに止められ、右の大型MVSによって再び放たれた突きを、避けることは出来なかった。

 

「まぁこんなものか…量産機では、あれには勝てんと分かっただけでも収穫だな。」

 

突きが当たる直前に脱出したことで、難を逃れたノネットが呟く。彼女の脳裏には、二度に渡って放たれた蒼月の突きが焼き付いていた。

 

(だが…あの突きの完成度は一体どういうことだ…?多少練習した程度では、あそこまでの鋭さに至るなど考えられんが…)

 

事実、ノネットでさえ未だその技を再現しきれているとは言えない。また、エニアグラム家以外にその伝承が残っているというのも聞いたことがない。ノネットの疑問は尚も深まるばかりだ。

 

(ありえないことだが…それに、ロックのあの時代という言葉…)

 

考えた挙げ句、ノネットは一つの結論に辿り着いた。

 

 

 

「邪魔だ!」

 

中華連邦の戦闘機部隊を退け、大竜胆に向かうライと蒼月。その蒼月に対し、スラッシュハーケンが飛来した。

 

「…アドニスか。」

 

ライが目を向けた先にいるのはランスロット・クラブだ。

 

「今貴様に付き合っている暇はない。悪いが早々に倒させて貰う。」

 

そう言って突撃する蒼月。リミッターは解除されたままなので、その速度は他の飛行型ナイトメアを凌駕している筈だった。

 

「何っ!?」

 

しかしランスロット・クラブは蒼月の一撃を避け、すぐさま反撃のMVSを振り下ろしてきた。よく見るとランスロット・クラブの脚部には、小型のフロートらしき翼が現れている。

 

「機動力を重視しているのが貴様だけだと思ったか?奥の手があるのは、こちらも同じことだ!」

 

そう言いながら2本のMVSを柄の部分で接続し、蒼月に向かって振るうアドニス。ライの言葉とは裏腹に、この闘いが早々に決着することはなさそうであった。

 



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episode17 Glorious

寝れないのでもう一話投稿します。


「ほぉう、直々に敗北を認めるのかな?しかしもう遅いわ。」

 

「どうしても攻撃をやめないつもりか!?このままでは、天子も死ぬ!」

 

ゼロは、大竜胆で指揮を取る大宦官と通信を行っていた。ゼロは停戦を提案していたが、大宦官はあっさりとそれを退けていた。

 

「天子などただのシステム。代わりなどいくらでもいる。」

 

「取引材料にはならぬな。」

 

その大宦官達の言葉に、ゼロは歯噛みする。

 

「…貢ぎ物として、ブリタニアの爵位以上を用意しろと?」

 

「ホホッ。耳敏いこと。」

 

「安い見返りだったよ実に。」

 

「領土の割譲と、不平等条約の締結がか!?」

 

ゼロの正論も、大宦官の耳には一切届かない。

 

「我々には関係ない。」

 

「そう。ブリタニアの貴族である我々には…」

 

ここまできてもなお、自分達の保身しか考えていない大宦官。彼らの考えを変えることは出来ないと分かっていながら、ゼロはさらに問いを重ねる。

 

「残された人民はどうなる!?」

 

「ゼロ、君は道を歩くとき蟻を踏まないよう気をつけて歩くのかい?」

 

「尻を拭いた紙は棄てるだろう?それと同じことよ。」

 

大宦官が吐き捨てた言葉に、ゼロは怒りを露にする。

 

「国を売り、主を捨て、民を裏切り、その果てに何を掴むつもりか!!」

 

「驚きだな。ゼロがこんな理想主義者とは…」

 

「主や民などいくらでも沸いてくる。虫のようにな。フハハハハ!」

 

笑い声を上げる大宦官達。それを見てゼロの怒りは頂点に達した。それと同時に、天子が闘いを止めようと斑鳩の甲板に出ていた。

 

「天子様!」

 

それに気付いたのは星刻だ。爆風により体勢を崩した天子を見て、思わず神虎をそちらへ向けた直後、トリスタンに右の翼を破壊されてしまった。

 

「今だ。天子を撃てい。」

 

大宦官の命令に従い、多数の鋼髏が斑鳩に砲撃を放った。

 

(くっ!持ってくれ神虎!私の…私の命をくれてやる!!)

 

神虎を天子の前に滑り込ませ、背後でハーケンを回転させることで何とか天子を守った神虎。しかしその行動により、神虎はコックピット等、いたるところにダメージを負ってしまった。

 

「お逃げください、天子様!」

 

「え、星刻!?」

 

神虎に乗るのが星刻だと知った天子が驚く。まさかここまでして自分を助けにきてくれるとは考えてもいなかったのだ。

 

「せっかく外に出られたのに、あなたはまだ何も見ていない!ここは私が防ぎますから!」

 

「でもあなたがいなきゃ…星刻、私は、あなたが…」

 

その言葉に覚悟を新たにする星刻。自分の命を捨ててでも、天子だけは生かしてみせる、しかしその星刻の思いとは裏腹に、神虎は砲撃により機能を停止しようとしていた。

 

(私には救えないのか…守れないのか!?あれから6年、全ては貴女のために準備してきたというのに…)

 

「誰か…誰でもいい!彼女を救ってくれ!!」

 

必死の思いで星刻は叫ぶ。そしてその言葉に、答える者が一人だけいた。

 

「分かった。聞き届けよう、その願い。」

 

とどめとばかりに鋼髏から放たれた砲撃を、神虎の前に立つだけで防いで見せたナイトメア。そのナイトメアに騎乗しているのはゼロであった。

 

「中華連邦並びに、ブリタニアの諸君に問う。まだこの私と、ゼロと闘うつもりだろうか。」

 

「何をしている!一斉射撃で仕留めよ!」

 

大宦官が告げる。その命令に従い、鋼髏がそのナイトメアへ砲口を向けた。

 

「なるほど。それが大宦官としての返答なのか。」

 

言いつつ、コンソールを操作するゼロ。するとそのナイトメアの眼前に、バリアのような障壁が出現した。

それが鋼髏や大竜胆からの砲撃を防ぐ。

 

────絶対守護領域

 

それがゼロ専用のナイトメアフレーム、蜃気楼の持つ能力である。

続いて蜃気楼が胸部よりプリズム体を発射。そのプリズム体に向けて、相転移砲が放たれた。

わざとプリズム体に当てることで乱反射した相転移砲は、次々と鋼髏を撃墜してゆく。そしてそれは灰塵壱式と闘っていたモルドレッドにも向かっていた。

 

「やっかい。…ちょっとだけ。」

 

咄嗟にブレイズルミナスを展開して防いだモルドレッドだったが、その直後に突撃してきた灰塵壱式の一撃を防ぐことは出来なかった。

 

「せぇいっ!」

 

長刀型のMVSで鋭い突きを放った灰塵壱式。これはライから直々に伝授された、ノネットも必死で練習していた技と同様のものである。その突きはモルドレッドの左前腕部分を破壊し、それによって砲を支えることが不可能になった為にシュタルケハドロンは使えなくなってしまった。

 

「どうします?シュナイゼル殿下。」

 

灰塵壱式とモルドレッドの間に割り込みながら、ジノが問う。そのシュナイゼルは、モニターを見ながら何かを考えているようだった。

 

「…何かおかしいねぇ。ゼロは何故このタイミングで出てきたと思う?」

 

隣に立つ副官のカノンに問いかける。カノンもその理由が掴めないようで、シュナイゼルの問いには答えを返せなかった。そして彼らが考えている間にも、中華連邦の航空部隊や鋼髏がみるみる数を減らしてゆく。先頭に立って彼らを殲滅しているのは蒼月だ。ライはカレンを救う為、クラブを相手取りながらも中華連邦の部隊にまで攻撃を仕掛けている。彼は文字通り、命を削るほどの闘いぶりで戦線を引っ張っていた。

 

「邪魔をするな!」

 

ライがMVSの一振りで数機の鋼髏を破壊する。その周囲の鋼髏は必死の思いで蒼月を撃ち続けるが、銃弾は掠りすらしない。それに続いてアレクサンダ隊が鋼髏隊を蹂躙していく事で、中華連邦側の戦線は明らかに崩されつつあった。

 

 

 

 

 

 

「哀れだな星刻。同国人に裏切られ、たった一人の女も救えないとは。だが、これで分かったはず…お前が組むべき相手は私しかいないと。」

 

「だからと言って部下になる気はない!」

 

ゼロの言葉にそう返す星刻。だがその答えも、ゼロからすれば予測の範疇だった。

 

「当たり前だろう。君は国を率いる器だ。救わねばならない。天子も、貴候も!弱者たる、中華連邦の人民全てを!」

 

ゼロの言葉に、星刻は疑問を口にする。

 

「ゼロ、そのナイトメアだけで、戦況を変えられると思っているのか?」

 

「いや、戦局を左右するのは戦術ではなく、戦略だ。」

 

ゼロがその言葉を発したのと時を同じくして、大竜胆はパニックに陥っていた。

中華連邦領内のあらゆる地域で、暴動が発生したとの知らせが立て続けに入ってきた為だ。

 

「こんなタイミングで反乱なんて…」

 

そう言葉を発したのは、シュナイゼルらとともにアヴァロンに搭乗するニーナだ。

 

「ゼロと大宦官との通信記録が流されたようです。」

 

セシルが暴動の理由を突き止める。大宦官はシュナイゼル達にゼロとの通信があったことを隠していた為、実際に暴動が起こるまでゼロの策を読むことができないでいたのだ。

 

「フッ…天子のおかげで大宦官の悪役っぷりが際立ったな。」

 

「まさか…あいつらが裏切ると読んだ上で…」

 

これには星刻も脱帽していた。これは星刻が以前から計画していたもので、それすらゼロは利用してみせたからだ。

 

「そう、君のもう一つの策略。クーデターに合わせた人民蜂起!」

 

「つまりは!援軍なき籠城戦ではない!!」

 

ゼロに続き、ランスロットと相対する藤堂も宣言する。それと同時に、斑鳩から玉置が率いる暁の地上部隊が進撃を開始した。その状況を見て、アヴァロンに搭乗するシュナイゼルの配下から声が上がった。

 

「愚かな。今さら地上部隊を出すとは。空爆すればこちらの…」

 

「いや、撤退する。」

 

その言葉を遮ったのは他ならぬシュナイゼルだ。彼だけは、これがどういうことかを正しく理解していた。

 

「国とは、領土でも体制でもない。人だよ。民衆の支持を失った大宦官に、中華連邦を代表し、我が国に入る資格はない。それに、このまま闘い続けても間違いなく大宦官達は敗れるだろう。」

 

シュナイゼルの目は、戦場を縦横無尽に駆け抜ける蒼月を見ていた。ブリタニアと中華連邦の合同軍にもそれを打ち破れる明確な手立てはない。彼の言葉に従ってスザクは機体を退げ、ジノは片腕を失ったモルドレッドをカバーしつつ撤退し、アドニスは機体を失ったノネットを救出してアヴァロンに帰艦した。

 

遮る者がいなくなったことで、ライは一直線に大竜胆へ突撃した。

 

「カレンはどこだ!?紅蓮のパイロットだ!!」

 

蒼月から身を乗り出し、大宦官に詰問する。

 

「ほ…捕虜は移送した!ナッ…ナイトオブセブンに…」

 

「何ッ!?」

 

蒼月から降りたライは、思わず視線をアヴァロンが去った方へ向ける。それを見た大宦官の一人が落ちていた槍を拾って飛び掛かってくるが、ライはその槍を素手で払い落とし、大宦官の首を右手で掴んで持ち上げた。

 

「…ならば貴様らに用はない。ここで死ね。」

 

左手を手刀の形にして持ち上げるライ。その手を、後ろから星刻が掴んだ。

 

「その責は私に取らせて貰いたい。これまでこやつらがのさばることを許してきた、この私に…」

 

星刻の言葉を受けて無言で左手を下ろし、大宦官を手放すライ。その大宦官達は、一人、また一人と星刻に斬られてゆく。

大宦官を全員斬り捨て、香凛を解放した星刻はライに歩み寄った。ライからすれば星刻はカレンを捉えた憎き仇であり、大宦官がいなくなった今も、その身体からは殺気が迸っていた。

 

「すまなかった!」

 

星刻が深く頭を下げる。その行動を予測していなかったライは、少し躊躇いを見せた。

 

「…どういう意味かな?」

 

「──知らなかったとはいえ、君の最も大事な人をブリタニアに…これは私の責だ。君に殺されても文句は言えない。」

 

頭を下げたままそう伝える星刻。その真摯な謝罪に、ライは毒気を抜かれてしまった。ライは深く息を吐き、星刻に答える。

 

「……いえ、我々がしているのは戦争です。星刻さんに責任を求めようとする、僕が間違っていました。」

 

そう言うと、ライは蒼月に戻った。アヴァロンはすでに飛び去り、騎士団にも蒼月にも、それを追う余力はない。現実的に考えるとカレンの救出は、今は諦めるしかなかった。

斑鳩に戻った星刻を待っていたのは天子だ。彼女は星刻に歩み寄ると、おずおずと手を差し出した。かつて星刻と交わした契りと同じ形にして。

 

「…よろしいのですか?」

 

自身も手を差し出しながら、星刻が問う。天子はそれに、少し恥ずかしそうに答えた。

 

「…だって、朱禁城の外を見ることが出来たし、それに、あの…おしまいってことじゃなくて…」

 

天子の言葉に、星刻は笑みを湛えて答える。

 

「これからもお守り致します。永久に…」

 

星刻の言葉に、天子は涙を流す。その後ろでは、ディートハルトがゼロに進言していた。

 

「ゼロ、天子の婚姻が無効になったと、世界中に喧伝する必要があります。」

 

「そうだな。」

 

「その場合、日本人の誰かと結婚して頂くのが上策かと考えますが。」

 

その言葉に、天子と星刻は表情を曇らせる。一方のゼロは、ディートハルトの提案に賛成であった。

 

「よろしければ私の方で、候補者のリストアップを…」

 

「なりません!!」

 

ディートハルトの言葉を遮ったのは神楽耶だ。その神楽耶を、ディートハルトが説得しにかかる。

 

「神楽耶様、これは高度に政治的な問題で…」

 

「単純な恋の問題です!政治で語ることではありません!」

 

「うん、そうだな。」

 

神楽耶の言葉に、C.C.も賛成する。そのC.C.をも説得しようと、ディートハルトが矛先を変える。

 

「私達は戦争をしているのですよ!」

 

「お前は黙っていろ。」

 

そのディートハルト向かって、さらに千葉が告げる。神楽耶やC.C.、千葉が反対する理由が、ゼロには全く分からなかった。

 

「お前!?参謀に向かって…」

 

「フフフフ…」

 

思わず怒気を露にしたディートハルトを、ラクシャータが笑う。天子の婚姻の行方は、ゼロの予想とは全く違う方向に転がっていこうとしていた。

 

「ゼロ、ご裁可を!」

 

「ゼロ様なら分かって頂けますよね!?」

 

ディートハルトと神楽耶、両者から迫られ、ゼロは戸惑いを隠せずにたじろぐ。

 

「あぁ、いや…少し、ライを見てくる。」

 

そう言ってその場を離れるゼロ。そのゼロに、C.C.も無言で彼の後に続く。彼の部屋の扉、そのすぐ横の壁にはロックがもたれ掛かっていた。ロックは顎でライの部屋を指し示すと、ゼロは意を決して扉をノックした。

 

「…ライ、入るぞ。」

 

ゼロがライの部屋に入ると、ライはベッドの上に大の字になって寝転んでいた。その周囲は、普段の几帳面なライの姿からは考えられない程に荒れている。

 

「ライ、カレンのことは…」

 

仮面を外しながら告げたゼロの言葉に、ライは身を起こして答えた。

 

「…いや、少し暴れて気が晴れた。迷惑をかけてすまない、ルルーシュ。ディートハルトにも、後で謝っておかないと…いらぬ軋轢を生んでしまった。あれでは、聞いていた他の団員達にも不信感を与えただろうからね。」

 

そう言うライは、明らかに無理をしている表情であった。しかしライにそう言われると、何と返せばいいかルルーシュにも分からない。その為に立ち尽くすルルーシュの後ろから、C.C.が歩み出た。

 

「あいつは諦めずにずっと探し続けていたぞ、お前を。」

 

その言葉に、ライはハッとする。

 

「一年間、どれだけ情報が無くても、お前の生存を信じて闘っていた。今度は、お前がそうしてやる番ではないのか?」

 

C.C.の言葉に、ライは一瞬考え、そしてC.C.を見て深く頷いた。それを見たルルーシュは安心したようで、ライに再び言葉をかける。

 

「カレンは必ず助けだそう。俺も見捨てるつもりはないかはからな。」

 

そう言ったところでルルーシュの携帯が鳴る。画面には、シャーリーと表示されていた。

 

『あ、ルル?今大丈夫?』

 

「なんだい?わざわざ。」

 

ルルーシュはシャーリーに問い掛ける。生徒会室で顔を合わすにも関わらず(実際には咲世子が変装した偽物だが)、電話で連絡してくる理由が掴めなかった為だ。

 

『会長の卒業イベント、教室だとリヴァルから会長に筒抜けに…』

 

「いっそのこと会長自身に決めさせてあげた方がいいんじゃないかな?…あっ、シャーリー!ちょっといいかな?」

 

シャーリーからの問いに無難な答えを返し、話題を変えるルルーシュ。天子の去就を、名前を出さないまでも相談してみようと思ったのだ。

 

「その…あるカップルを別れさせたいんだけど、周りを説得するには…」

 

『別れたいのその二人?』

 

「いや、政治的要因…あぁいや、つまり…だから、家の問題。」

 

理由を誤魔化すのに手間取ったルルーシュだが、シャーリーはそれに疑問を持つことなく、逆に畳み掛ける。

 

『駄目だよぉ!恋はパワーなの!誰かを好きになるとね、すっごいパワーが出るの!毎日毎日詩を書いちゃったり、早起きしちゃったり、マフラー編んじゃったり、滝に飛び込んでその人の名前叫んじゃったり、私だって…』

 

そこで我に返り、シャーリーは少し言い淀む。

 

『…その、ルルにはないの?誰かの為に、いつも以上の何かが…』

 

その言葉に、ルルーシュは気付く。自分は今まで、ナナリーの為に世界を作り替えようとしたのだ。目の前にいる男は、恋人のカレンと、親友である自分の為に、闘い続けてくれている。

 

「思いには、世界を変える程の力がある。そうなんだな、シャーリー!」

 

『えっ…う、うん。』

 

ルルーシュの勢いに圧され、思わず頷いたシャーリー。それに満足したルルーシュは、シャーリーに礼を言って電話を切った。

 

「天子よ!あなたの未来は、あなた自身のものだ!」

 

天子や星刻の元へ戻ったゼロが告げる。ゼロの答えによっては再び闘いとなる。そう思って剣に手を伸ばしていた星刻は驚くと同時に少し安心していた。

 

「さすがですわゼロ様!」

 

「しかし力関係をハッキリさせねば…」

 

喜びの声を上げる神楽耶とは対照的に、ディートハルトは不満の声を上げていた。しかしゼロはそれを遮って、ゼロは周囲に集まる者達全員に向かって告げた。

 

「力の源は心にある。大宦官達に対して決起した人々、私達黒の騎士団も、心の力で闘ってきた!」

 

「あ…あぁ、そうだな!」

 

「…心の、力?」

 

その言葉に、扇は同意する。一方、ディートハルトは懐疑的だ。ゼロの答えを侮蔑しているようにも見える。

 

「ゼロ、君という人間が少しだけ分かった気がする。」

 

そう言うと、星刻は右手を差し出した。

 

「進むべき道は険しいが。」

 

その手を握り返しながら、ゼロも言葉を返した。

 

「だからこそ、明日という日は我らにある。」

 

ここに、黒の騎士団と中華連邦の一大同盟が成立した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここはどこだ!?私達はブリタニア本国にいた筈なのに…それに皇帝陛下のご命令!?」

 

バトレーはパニックに陥っていた。自分達の与り知らない内に遺跡のような場所に連れてこられた上に、彼らの前には三人の人物が立っていた。一人は子どものように見えるが、その雰囲気はただの子どもではない。そしてその子どもが、バトレーに向かって口を開いた。

 

「うん、僕が頼んだの。だって君達は改造したんだよね、このジェレミア卿を。そして、狂王を…C.C.の力を再現しようとして。」

 

その言葉に続き、バトレーの視線の左側に立つジェレミアも言葉を発した。

 

「貴候しかいないだろう。我々の最終調整を執る者は。これは、名誉である!」

 

その言葉に、ジェレミアの反対側に立つ黒髪の女性がクスリと笑った。

 




やっとここまで来れた…


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episode18 Love attack

ルルーシュは、ライを引き連れて日本に来ていた。カレンが日本に拘留されている可能性を考えてのことで、一旦咲世子と入れ替わり、本物のルルーシュとしてアッシュフォード学園に再び戻ったのだ。しかし彼を待ち受けていたのは、予想外の展開であった。

 

「ナイトオブラウンズが生徒会メンバーになった、その問題もクリアされていないのに…」

 

ルルーシュには、ルルーシュに扮した咲世子がシャーリーにキスをした事実と、ジノとアーニャが入学してきたことが告げられていた。シャーリーとのキスに関しては隠し扉が見付からないよう、彼女の気を引く為に咲世子は最善の手を打ったつもりでいたので平然としている。その後ろではロロが驚きの声を上げていたが。

さらに咲世子は、翌日のスケジュールをルルーシュに伝える。そのスケジュールには、分刻みで108名の女生徒とのデートや、条約締結の為の会談等がぎっしり詰め込まれていた。ちなみに睡眠時間は三時間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、何とかスケジュールをこなしてアッシュフォード学園に戻ったルルーシュを待っていたのは、デートのキャンセル待ちをする女生徒の集団だった。走り寄る彼女らを見て、ルルーシュは顔を引き攣らせる。

 

「もう勘弁してください!」

 

そう叫んで逃げたルルーシュを追う女生徒達。そしてヘトヘトになりながらも逃げるルルーシュを、シャーリーが突き飛ばした。

その表情は、明らかに怒気を孕んでいる。

 

「今度はどなたとお約束かしら?」

 

「いやそれは…」

 

言い訳をしようとしたルルーシュの耳に、ミレイの声が聞こえた。

 

「ル~~~ック!」

 

そちらを見ると、クラブハウスの二階から、ミレイが身を乗り出していた。

 

「決めました!私の卒業イベント!名付けて、キューピッドの日!」

 

「あのさぁ、ミレイ。何だよそのキューピッドの日って。」

 

「呼び捨て!?」

 

ミレイにジノが問い掛ける。リヴァルはジノがミレイを呼び捨てにしたことに怒っていたが、当の本人は全く気にする様子もなく、説明を始める。

 

「当日は全校生徒に、この帽子を被ってもらいます。で、相手の帽子を奪って被ると~…生徒会長命令で、その二人は強制的に恋人どうしになりま~す!」

 

「「「ええぇぇぇぇぇっっ!!?」」」

 

生徒達の驚きの声が、学園内に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キューピッドの日…今日のイベントで、女達との関係を一気に清算する!」

 

機情の指令室では、ルルーシュがイベントに向けて策を練っていた。

 

「幸いこのイベントには、教師も参加できる。ヴィレッタに俺の帽子を奪って貰おう。」

 

「…えっ?」

 

その言葉に、自分は無関係だと思っていたヴィレッタは驚く。

 

「それは、おかしな誤解を招くだろう。この件は、咲世子が責任を取るべきで…」

 

「それに、君がそこまで帽子を守りきれる保証もないしな。」

 

ルルーシュの向かい側に座るライも口を挟む。事実、ルルーシュの運動能力は低く、強引に奪われてしまう可能性も否定できなかった。

 

「…その点は問題ない。お前に変装を頼むからな。」

 

ルルーシュの言葉に、ライも驚いた。まさか自分を指名してくるとは思わなかったからだ。

 

「…カレンのことがあるからお前にこういう事をさせるのは気が進まないが、確実性が一番高いのはお前だ。頼む。俺に変装してくれ!」

 

ルルーシュがテーブルに手をついて頼み込んだ。そこまでされては、ライも断ることは出来ない。ライは渋々ながらもそれを了承した。

 

「…分かった。でも今回だけだよ。」

 

「あ、ああ!助かる!」

 

ルルーシュが顔を上げるのに合わせて、ヴィレッタが提案を口にする。

 

「帽子を取らせるのはシャーリーでいいのでは?あれは相当お前に惚れているぞ。お前を守る為に私を撃ったこともある。」

 

「…だから、もう巻き込みたくないんだ。」

 

ルルーシュの言葉により、結局帽子はヴィレッタに預けることになった。

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

『みなさ~ん、今日が最後の生徒会長、ミレイ・アッシュフォードで~す!それでは、キューピッドの日を開始しま~す!あ、ターゲットから最低2メートルは離れていてね。』

 

女生徒に囲まれるルルーシュに扮したライは、周囲を見渡して考える。

 

(ルルーシュはモテるんだなぁ。まぁ、このくらいなら全然逃げられるとは思うけど…)

 

自分の事を棚に上げ、感心してみせるライ。実際のところ、騎士団内でも女性隊員から相当な人気があるのだが、カレンとの仲が知れ渡っている為に誰もライにアタックしてくる者がいないというだけである。

しかし、どこかこの状況を楽観視していたライに鉄槌を下すような一言がミレイから発せられた。

 

『では、スタートの前に私から一言。

…3年B組ルルーシュ・ランペルージの帽子を私の所に持ってきた部は、部費を10倍にします!』

 

「…はぁ!?」

 

ライが驚きの声を上げると同時に、キューピッドの日はスタートした。女子生徒だけでなく、男子生徒も周囲に群がってきたことで逃げ場をなくしたライは、生徒達の頭上を飛び越え廊下に出た。しかしそこにもルルーシュを捕まえようとする生徒が集まってきていたことで、ライは窓から階下へ飛び降りた。

 

「マジかよ!?ここ3階だぞ!」

 

「違う!雨樋を伝って2階へ逃げたんだ!急げ!」

 

その姿を追って、駆け出す生徒達。ライは既に中庭に出ており、生徒達の間を走り抜けていた。

そのライに向けて、ラグビー部が突撃してきた。しかしライはその脚の間に体を捩じ込んですり抜けると、すぐに走り去ってしまった。

 

「う、嘘だろ…まるで幽霊みたいにすり抜けてった…」

 

抜けられぬように間をつめて走っていたつもりの部員達には、まるでルルーシュが透明人間になったように見えていた。

ルルーシュの指示に従い、体育館方面へ移動するライ。そこには、科学部の部員達が自前のバズーカを構えてルルーシュを待っていた。

 

「シッ!」

 

声を上げると、放たれるバズーカの隙間を最小限の動きで切り抜けていくライ。ラグビー部に続き、科学部員達にもルルーシュがすり抜けていったように見えていた。

 

「ひえぇ…ゆ、幽霊ぃ!?」

 

へたりこむ部員を尻目に、ライはすぐに走り去る。余談だが、これ以降しばらくルルーシュが幽霊であるとの噂が流行ってしまうのだが、ライはそこまで考えていなかった。

そのライの前に、ミレイが用意した幻惑部隊が立ちはだかる。彼女らは其々際どい水着や衣装を着て、ポージングをしていた。

 

「えぇっ!?」

 

急ブレーキを掛けるライ。ルルーシュの仮面を着けているので周りから見られることはないが、その顔は真っ赤に染まっており、思わず顔を背けた。

 

「…会長も、ムチャクチャだなぁ!」

 

大きく迂回して女生徒達を視界から追い出す。時間をロスしたが、なんとか予定通りルルーシュとの入れ替わりを予定する最終ポイントに近付いていたのだが…

 

「…嘘でしょ。」

 

ライの目の前には、モルドレッドで出撃してきたアーニャの姿があった。まさかこんなイベントに、ナイトメアまで持ち出すとは…。ライは呆れながら最終ポイントである図書室へ向かってスピードを上げた。

しかしタイミング悪く、その図書室にはシャーリーがいた。彼女は最近のルルーシュの様子がおかしいことに気が付き、自分にキスをした図書室に何かあるのかもしれない、と調べにきていたのだ。

そのシャーリーに、窓を突き破って手を伸ばすモルドレッド。

 

「危ないっ!!」

 

地下からライと入れ替わる為に出てきたルルーシュがそれに気付き、咄嗟にかばうことでシャーリーを抱えたまま階段を転げ落ちた。ライはその間に地下室へのエレベーターに転がり込んでいる。

 

「ルルーシュが、2人?」

 

本物と、ライが変装したルルーシュ2人が同時に現れたことで混乱するアーニャ。そのアーニャに、ヴィレッタが声をかけた。

 

「ナイトオブシックス様、ここは機情の作戦区域であります。すみやかにナイトメアをお引き下さい。」

 

『……ダメ?』

 

ヴィレッタの言葉に、まるでだだっ子のように聞き返すアーニャ。その言葉にやや毒気を抜かれつつも、ヴィレッタは毅然と言葉を返した。

 

「ダメです!」

 

『ダメ……』

 

アーニャは心底残念そうだ。なお、ルルーシュの帽子は、シャーリーの手に渡っている。シャーリーは、いつか本当に好きにさせてみせる と、ルルーシュに宣言していた。

一方、モルドレッドが出撃したことで、緊急事態かと慌てた警察や軍がアッシュフォード学園を囲んでおり、ジノがその対応にあたっていた。

緊急出動したスザクは、そのおかげでミレイに最後の挨拶が出来たことで、胸を撫で下ろしていたが。

 

「うむ、これにてモラトリアム終了ぅ!」

 

そう宣言し、自分の帽子を投げて校舎に入っていくミレイ。最後に生徒会室を見ておこうと足を向けると、その前に花束を持った銀髪の男が立っていた。

 

「…ライ!?」

 

「ミレイさん、卒業おめでとうございます。最後に挨拶がしたくて、抜け出してきました。」

 

そう言って頭を下げるライ。彼が黒の騎士団の団員だとは知っているが、このエリアにいることも、わざわざ自分の為に抜け出してくることも想定していなかった為に、ミレイはとても驚いていた。

 

「…ありがとう、ライ。本当はあなたとカレンにも参加して欲しかったんだけど…」

 

「…ミレイさんには迷惑ばかりかけてすいません。カレンの分も、僕からお祝いさせて下さい。」

 

そう言ってミレイに花束を渡す。ミレイはそれを笑顔で受け取った。

 

「ありがとう。カレンとうまくやりなさいよ!」

 

ミレイの言葉に、ライは苦笑する。

 

「ええ、ありがとうございます。じゃあまた、お元気で!」

 

もう一度頭を下げて、ライは去っていった。その後ろ姿を、ミレイは静かに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、どうしよう?ルーフトップガーデン。…そっか、じゃあハーブの苗だけ買って帰るね。園芸部にはルルから話してくれると…うん、じゃあ!」

 

携帯電話を手に、街中を歩くシャーリー。その彼女が、突然携帯電話を手から落とす。マオに唆され、ルルーシュを撃ったときにかけられたギアス、そして皇帝により、ギアスによって書き換えられた記憶。それらが突如として彼女の頭の中を駆け抜けていた。

ジェレミアが使ったギアスキャンセラーによるものだが、そのせいで、彼女にかかっていた2つのギアスは、どちらも解かれてしまったのだ。

 

「思い出した…私のお父さんを殺したゼロは…ルルーシュ…」

 



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episode19 Lies and truth

「剣門関は落ちたな。澳門の空軍施設も抑えた。カザフスタンの守りには、朝比奈と洪古を回せばいいとして…建康の内政担当は、水無瀬と杉山に任せるか。」

 

「うん、それがいいと思うよ。藤堂さん達には、引き続き前線に出て貰わないといけないしね。」

 

ルルーシュの言葉に同意するライ。彼らは、着々と中華連邦の支配基盤を構築していた。各地で軍閥が兵を上げていたが、それも星刻や藤堂、ロックの手で鎮圧されていた。

その指令を終えると、ルルーシュは立ち上がる。

 

「どこに?」

 

ロロが聞くと、ルルーシュが振り向いて答える。

 

「イケブクロの様子を見てくる。悪いが宿題の続きは、ライに見てもらってくれ。」

 

「いってらっしゃい。」

 

ロロに背を向け、学園を後にするルルーシュ。その背に向けて、ライは無言で手を振った。

 

「…さて、ロロ。」

 

ライがロロに目を向ける。

 

「何?ライさん。」

 

そのライを幾分か訝しげな目で見ながら、ロロは問い返す。ライは、そのロロの様子を見て苦笑しながら告げた。

 

「根を詰めすぎても良くないから、休憩しないかい?お菓子を焼いてみたんだけど、これはタルトタタンといってね…」

 

言いつつ、ロロの前に焼き菓子を置くライ。まさかライがお菓子作りまででき、あまつさえそれを自分に振る舞ってくれる等と思っていなかったロロは、驚きを隠せないままライを見つめていた。

 

 

 

 

「シャーリー!」

 

シャーリーの前からは、自分の名を呼びながら歩いてくるサングラスをかけた男の姿があった。記憶が戻ったことにより、周りの全てが嘘に見える彼女は思わず身を引き、逃げ出そうとしてしまう。

 

「待って!」

 

そう言いながら、男がシャーリーの手を掴む。

 

「僕だよ。」

 

サングラスを外すと、そこにはスザクの顔があった。ナイトオブセブンとして顔が通っている彼は、騒ぎになるのを避ける為に、わざわざサングラスを用意してきたのだ。

 

「どうしたの?急に呼び出して。」

 

スザクの言葉に、何から話すか逡巡するシャーリー。意を決して話そうとした時、背後から声が掛けられた。

 

「…シャーリー?」

 

そこにいたのはルルーシュだ。自分の記憶についてスザクに相談したかったのだが、その記憶の中心にいるルルーシュが来てしまったことで、シャーリーは話すことが出来なくなってしまった。

 

 

 

 

その頃、アッシュフォード学園では騒ぎが起こっていた。ジェレミアが学園に乗り込んできたのだ。

 

「ジェレミア卿!?何故…」

 

監視カメラでその姿を確認したヴィレッタは驚く。死んだと思っていた彼が、堂々と学園に侵入してきたばかりか、自身の作戦区域に入ってきたからだ。

クラブハウスの前で咲世子が迎え討つも、彼女の身体能力を持ってすら苦戦する程だ。

 

「…僕が行きます!」

 

ライが現場に向かおうと、席を立つ。しかしそれを、ロロとヴィレッタが押し留めた。

 

「ライさんは生徒や教師に顔が割れています。ここに残って指示をして下さい!」

 

「ああ、対処は私達がする!」

 

そう言って、2人は作戦指令部を後にした。

 

(ジェレミア…ここへ来たということは、ゼロの正体がルルーシュだと知ってのことだろう。であれば、ギアスに何かしらの対策を練っているはずだが…)

 

そのライの考えは的中する。彼が見るモニターでは、ロロのギアスを解除し、咲世子の背中を斬りつけ、ロロを地面に抑えつけるジェレミアの姿があった。

 

(くそっ…やはり始めから僕が行っていれば!)

 

ライは慌てて指令室から飛び出す。焦るライの気持ちとは裏腹に、エレベーターはゆっくりと下ってきていた。

 

 

 

 

「ジェレミア卿!」

 

ロロを殺そうとするジェレミアに、ヴィレッタが声をかける。

 

「ヴィレッタ!?お前もルルーシュに取り込まれたのか!?」

 

ジェレミアの問いに、ヴィレッタは懇願するような表情で答えた。

 

「ルルーシュは今イケブクロの駅ビルにいます!お願いですジェレミア卿、私を解放して下さい!」

 

その言葉に何事かを察したジェレミアは、ロロから手を離して立ち上がる。一方のロロは痛みに呻き、彼に続いて立ち上がることは出来ない。

 

「…引き受けた。」

 

彼は2人に背中を向け、学園を去っていった。

 

 

 

同じ頃、ルルーシュはスザク、シャーリーと一緒にいた。

 

「境界線だな、ここは。」

 

「租界とゲットー。でも無くしてみせる、いつか…」

 

駅ビルからの景色を眺め、言葉を発する2人。その2人が、実は共犯者なのではないかという考えがシャーリーの中に生まれていた。

 

「…どうした、シャーリー?」

 

振り返って後退るシャーリーに、ルルーシュが近付く。それを見て、シャーリーは声を上げて逃げた。そして駅ビル屋上の縁に登ると、止めようと追い掛けてくる2人を拒絶した。

 

「…来ないで!!」

 

「シャーリー!?」

 

キューピッドの日までと比較して、あまりの変わり様にルルーシュは戸惑う。そのルルーシュの様子に気付くことなく、シャーリーは言葉を続けた。

 

「嘘つき…みんな偽物のくせに!私は…あぁっ!!」

 

シャーリーが足を踏み外し、屋上から落下する。咄嗟に飛び出してルルーシュが腕を掴み、そのルルーシュの足をスザクが掴むことでなんとか落下は防いだが、宙ぶらりんの状態となっており、危険なことに変わりはない。

ショックで一瞬気を失ったシャーリーだが、すぐに意識を取り戻して暴れだした。

 

「いやっ!離して!離してっ!!」

 

「ダメだ!!離さない!!」

 

シャーリーの言葉を、ルルーシュは拒否する。

 

「俺はもう…俺はもう失いたくないんだ!何一つ、失いたくない…シャーリー!」

 

嘆願するようなルルーシュの言葉と表情に、シャーリーは思わず頷く。今の彼の言葉は自分の過去を悔い、苦しんでいる者の言葉だ。だからこそ、信じる気になったのである。

シャーリーはルルーシュにしっかりと掴まる。それを確認したルルーシュは、すぐにスザクに声をかけ、それを受けたスザクは全力で二人を引き上げた。

 

 

「…前にもこんなことあったよね。ほら、2人がアーサーを捕まえようとして…」

 

シャーリーを引き上げ、座り込むルルーシュとスザクに静かに語り掛ける。彼女が思い出していたのは、スザクがアッシュフォード学園に入学してすぐの頃の話だった。

 

「引き上げる役はいつもスザク君だね。」

 

「ルルーシュが上だったら、2人とも落ちてるよ。」

 

「体力バカが。そこまで言うなら落ちる前に助けろ。」

 

「無理言うなよ…」

 

そこまで言って、ルルーシュと談笑している自分に気付くスザク。彼は、スザクにとって最愛の人であるユーフェミアを殺した張本人であり、今もゼロとして活動している可能性がある男だ。スザクはそのことを思いだし、自身を戒めた。

 

(違う…一人なんだ、ルルは…)

 

一方のシャーリーは、2人の様子を見て現在の関係に気付いていた。彼にはブリタニア内において全てを話せるような味方はおらず、孤独に闘いを続けているのだと。

その時、ルルーシュの携帯電話から呼び出し音がなった。

 

『兄さん、気を付けて!そっちにジェレミアが向かってる!嚮団の刺客なんだ。僕のギアスが効かなかった…』

 

2人から少し離れて電話に出たルルーシュ。ロロから意外な名前が出たことで、彼の表情は一気に引き締まった。

 

「あいつが生きていた?刺客とはどういうことだ?」

 

『わからない…とにかく、僕とライさんが向かってるから、無茶はしないで!』

 

そう言うと、ロロは電話を切った。そして携帯電話をしまったルルーシュに、スザクが歩み寄っていった。

 

「何かあったのかい?友達からの電話って訳じゃなさそうだけど…」

 

尋問するような口調でルルーシュに詰め寄るスザク。その後頭部に、シャーリーが軽い平手を浴びせた。

 

「イテッ…シャーリー?」

 

「ダメだよスザク君。私の用事が先でしょ。」

 

そのことをすっかり忘れていたスザクは、思い出したようにシャーリーの顔を見つめた。

 

「そういえば、2人で待ち合わせしてたんだよな?」

 

「ヤキモチ焼いてくれた?」

 

その質問に、笑い掛けるルルーシュ。それを見て、シャーリーも笑顔を返し、スザクの腕をとった。

 

「さ、行きましょスザク君。」

 

「ま、待ってくれないかな?先に…」

 

スザクの抵抗を無視して、シャーリーはルルーシュの前からスザクを連れ去った。

 

(ここは戦場になる。シャーリーの安全を考えれば、スザクと一緒にいるのが一番いいはず…)

 

ルルーシュはそう考え、2人の背中を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「調度いい。君に聞いておきたい事がある。」

 

兵を上げた軍閥を制圧し、そこにある基地をそのまま拠点として使用する事を決めた藤堂。その彼の前を、共に闘っていたロックが通りかかった事で、彼は以前から疑問に思っていた事を言葉にした。

 

「なんだ?」

 

「私は日本を取り戻す為に闘っている。が、もちろん騎士団員達の中にはそれぞれの闘う理由があり、向いている方向は少しずつ違うだろう。それはいいのだが、君は何故こういった局地戦にまで参加しているのだ?こちらに協力する理由は、ナイトオブワンと闘いたいが為だと言っていたが…」

 

言い換えれば、藤堂はどうもロックを信用できないという事であった。入団の経緯にしてもそうであったし、その後にゼロの命令を待たずにライと共に独断で出撃しようとしたり、かと思えば今は大人しく命令に従っている。藤堂にはロックがこうして闘っている理由が何なのか、戦場を共にするに当たって信頼して良い相手なのかどうかを確かめておく必要があったのである。

 

「ビスマルクと闘いたい事を除けば、俺がこうして闘っている理由は一つ。自分なりの忠誠心といったところだ。」

 

「忠誠心?それは…」

 

ロックの言葉は、当然ながらゼロを指したものではない。それを分かった上で藤堂はさらに問いを続けようとした。

 

「ああ。一般的な騎士の姿とは掛け離れているだろうが、俺はライに忠誠を誓っている。あいつは唯一、俺が認めた男だからな。誤解を恐れずに言えば、俺は黒の騎士団を利用しているだけだ。但し、ライや俺を裏切らなければ寝首を掻くつもりはない。そこは信頼してくれて構わん。」

 

「成程…しかし、ライ君は記憶を失っているのではないのか?それに君の言葉を聞けば、彼は少なくともブリタニアの貴族では…」

 

藤堂の疑問に、ロックは頬を上げて笑みを浮かべながら答えた。

 

「奴がハーフだという事は知っているだろう?それに、忠誠の形は一つではあるまい。深く知りたければ、あいつに直接聞くんだな。まぁ、お前達が随分とあいつを買っているのは理解している。これまでの行いを見れば、少なくとも敵でないことは理解できると思うがな。」

 

「…分かった。つまらぬ事を聞いて済まなかったな。」

 

軽く頭を下げる藤堂に対して、ロックは特に気を悪くした風もなく返答した。

 

「構わんさ。お互いを知っておくのも必要な事だ。それに、このやりとりでお前達からあいつへの信頼が得られるのならば、無駄な時間だとは思わんしな。」

 

ロックのニヤリとした笑顔に、藤堂も渋さのある笑みで答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

駅ビルの入口付近では、ジェレミアが警備員を気絶させていた。そして上階にルルーシュの姿を見付けると、彼を追って階段を駆け上がった。

それと時を同じくして、ロロとライは駅ビルのヘリポートへ到着し、二手に別れてルルーシュとジェレミアの捜索を開始する。そしてルルーシュかジェレミアを見付けた場合、必ず連絡しあうことを約束していた。

 

シャーリーも、スザクから警備員に預けられていたが、ルルーシュが心配になったことでその警備員を振り切り、施設内に侵入していた。途中、ジェレミアに倒された警備員が所有していた拳銃を見つけ、震える手でそれを拾った。

 

(助けなきゃ…ルルを…私が…!)

 

彼女もルルーシュを探し、恐怖で震える脚と心を叱咤しながら、駅ビルに向けて再び歩みを進めた。

 

 

 

 

 

「機械の体、ギアスキャンセラー…執念は一流だな。オレンジ君。」

 

駅のホームまで逃げてきたルルーシュは列車の横で止まり、息を乱しながらジェレミアに語り掛ける。

 

「執念ではない。これは忠義…」

 

「気に入らないな。あの皇帝のどこに、忠誠を尽くす価値がある!」

 

言葉とともに、右手に持つスイッチを押すルルーシュ。すると列車の上部から、ゲフィオンディスターバーが現れた。

 

「な、にぃ…!」

 

歩みが止まるジェレミア。それを見て、ルルーシュは自身の予測が正しかったこと、そして勝利を確信した。

 

「その性能…やはりサクラダイトを使っていたか。ありがとう、君はいいテストケースとなった。」

 

ルルーシュが不敵な笑みを讃えながら告げる。それに対し、ジェレミアは歯を食いしばって何とか立っている、といった状態であった。

 

「さあ、話してもらおうか。嚮団の位置を。」

 

ルルーシュの言葉に、ジェレミアは無理矢理体を動かし、ゆっくりと歩を進める。

 

「話すのはそちらの方だ!私には、理由がある…忠義を貫く、覚悟が…確かめなければならぬ、真実が…」

 

仮面のような物で隠れた彼の左目付近からは、オイルが血のように流れ出た。そこまでして忠義を貫こうとするジェレミアの異常さに、ルルーシュは戸惑いを隠せない。

 

「…バカな、動けるはずがない!」

 

「ルルーシュ、お前は何故ゼロを演じ、祖国ブリタニアを、実の父親を敵に回す?」

 

ジェレミアの問いに、ルルーシュは咄嗟に答えていた。

 

「俺が、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだからだ!」

 

その言葉で、ジェレミアの歩みが止まる。

 

「俺の父ブリタニア皇帝は、母さんを見殺しにした!その為に、ナナリーは目と脚を奪われた!俺達の未来まで…」

 

「──知っています。私もあそこにおりましたから。」

 

ルルーシュの独白に、ジェレミアも自身の忠義の所以を伝える。それは、ルルーシュにとって最も予想していなかった答えであった。

 

「初任務でした。敬愛するマリアンヌ后妃の護衛…」

 

力尽き、地面に両手をつくジェレミア。しかし彼は、その体勢のままで話を続けた。

 

「しかし、私は守れなかった…忠義を果たせなかったのです…」

 

「それで純血派を…」

 

「ルルーシュ様、あなたがゼロとなったのは、やはりマリアンヌ様の為であったのですね…」

 

ジェレミアが左手をルルーシュに向けて伸ばす。その右目からは涙が溢れ出ていた。

 

「お前は、俺を殺しに来たのではなく…」

 

「私の主君は、V.V.ではなく、マリアンヌ様…これで、思い残すことは…」

 

左手が力なく地面に落ち、倒れこもうとするジェレミア。それを見て、ルルーシュはゲフィオンディスターバーを解除した。

 

「ジェレミア卿!」

 

ルルーシュがジェレミアに駆け寄る。ゲフィオンディスターバーが停止したことで、彼の体はある程度の動きを取り戻していた。

 

「殿下…」

 

「ジェレミア・ゴットバルトよ。貴候の忠節はまだ終わっていない筈。そうだな?」

 

そう語り掛けるルルーシュに、ジェレミアは涙を流したまま、それでも表情を引き締めて答える。

 

「イエス・ユアマジェスティ!」

 

 

 

 

ルルーシュとジェレミアが和解する少し前、ロロは予想だにしていなかった人物と出会っていた。

 

「ロロ!?」

 

「シャーリー、さん…」

 

彼女がこの騒ぎの中を、それも銃を持って歩くなど全くの想定外である。彼はライに連絡するか迷いつつ、警戒しながら距離を詰めた。

 

「答えて、ロロ。あなたは、ルルが好き?……私は、ルルが好き。あなたはどう?」

 

「好きだよ。たった一人の兄さんだもの。」

 

ロロの答えに、シャーリーはどこか安心したような表情を向けた。

 

「あなたは味方なのね、ルルの。…ねぇお願い、私も仲間に入れて!私もルルを守りたいの!取り戻してあげたいの、ルルの幸せを!妹のナナちゃんだって、一緒に…」

 

その言葉が引き金となった。シャーリーの言葉は、ルルーシュがゼロであると彼女にバレたということであり、ロロが最も恐怖している、ナナリーという自分の存在を否定する者の名前が出たことによって、その感情は暴発した。

ロロは自身のギアスを使い、シャーリーの体感時間を止める。そしてその手から銃を奪い、彼女に向けて放とうとした。

 

「ロロ、やめるんだ。」

 

その銃をそっと抑え、銃口を下へ向ける手が目に入った。ロロが目を向けると、そこにいたのはライであった。

 

「ライさん…でも!彼女に兄さんの正体を知られて…」

 

「違うだろロロ。君は、ナナリーの事に言及されたから彼女を撃とうとしたんだ。」

 

ライの言葉に、ロロは目を逸らす。自身の心中を言い当てられたことで、彼の用意した言い訳は全て使えなくなってしまったからだ。

そのロロを、ライが力一杯抱き締めた。

 

「ちょっ…ライさん!?」

 

ロロが慌てて体を離そうとするが、膂力ではライに敵わない。ロロが諦めて大人しくなったところで、ようやくライは彼を解放した。ただ、両手はロロの肩に置いている。それとほぼ同時に、シャーリーにかかったギアスも解けていた。

 

「…えっ!?ライ君!?」

 

彼女の前には、カレンに勧誘されて黒の騎士団に入り、その後行方不明になったはずのライがいた。シャーリーは自身が握っていたはずの銃がロロの手に渡っていることにも気付かず、驚きの声を上げていた。

 

「ロロ、君は君なんだ。」

 

ロロの目を見つめ、ライが諭すように伝える。

 

「ナナリーの代わりには誰もなれないように、君の代わりにも誰もなれはしない。今まで君は、暗殺者としてしか自分の居場所を保てなかった。だからこそ今の立場を守りたいのは分かる。だけど…」

 

ライはそこで一度言葉を切る。ロロが自分の言葉を聞いているのを確認した上で、続きを口にした。

 

「君はナナリーの代わりじゃない。君は、君でいいんだ。そして、ルルーシュだけじゃない。僕だって、君の事を大事な仲間だと思っている。だから、自分で自分を裏切るようなことは、もうするな。」

 

ライの言葉を受けて、ロロは涙を流した。怒られると思っていた彼は、予想に反して自分が肯定されたことによって、これまで自分の全てだと思っていた価値観が崩れていくのを感じていた。自分がシャーリーに対してしようとしたことの意味も。

そして、他者の温もりを知ってしまった今は、もう二度と彼女に対して同じ事は出来ないであろうことも。

涙を流す彼の手からゆっくりと銃を受け取り、振り返ってシャーリーと向き合うライ。

 

「…久しぶりだね、シャーリー。」

 

「ライ君…ずっと心配していたけど、元気そうで良かった。ねぇ、ライ君はルルの仲間なんだよね?」

 

ライにも問い掛けるシャーリー。彼女が次に言うことが、ライには分かっていた。

 

「そうだよ。ただ、君を騎士団に迎え入れることはできない。」

 

「…っ!でも!!私もルルを守りたいの!」

 

自身が言おうとしたことを読まれ、先に断られたことでシャーリーは驚く。しかし彼女は、自分もルルーシュの力になれるということを説明しようとした。しかし、ライはそれを遮ってシャーリーに告げる。

 

「シャーリー、君が彼の力になれないとは思ってないよ。だけど、その力は別の所で使ってやってくれ。」

 

「…え?」

 

「彼が帰る場所、アッシュフォード学園や、このエリアでの彼の居場所を、君が守ってやってくれ。それは僕には出来ない、君にしか出来ないことなんだ。」

 

ライはシャーリーにも、真剣な表情を向ける。彼の真摯な言葉に、シャーリーは我知らず頷いていた。

 

「戦場で彼を守るのは僕、日常で彼を守るのは君だ。任せていいかい?シャーリー。」

 

「……分かった。でも、ライ君も無茶はダメだよ!それで怪我したらカレンだって…」

 

そう言って笑うシャーリーに、ライも笑いかける。入口近くまで彼女を送ったあと、ライはロロと供に、アッシュフォード学園へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

「アドニス君、少しいいかな?」

 

アヴァロン船内で彼を呼び止めたのはシュナイゼルだ。咄嗟に膝を着こうとするアドニスを手で制し、彼は穏やかな笑みをアドニスに向けた。

 

「何か…?」

 

「ナナリーに騎士をつけるのを進めてくれたそうだね。騎士団の行動を正確に予測した君のその先見の明を見込んで、頼みがあるのだが…エリア24へ向かってくれないかい?」

 

 



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episode20 Glinda Knights

エリア24。旧スペイン領に位置するその地では、エリア11とまではいかずとも激しいテロ行為によって混乱の一途を辿っている。そんな場所へ、このタイミングで行って欲しいというシュナイゼルの言葉に、アドニスは一瞬眉を潜めた。

 

「どういう事です?あのエリアは確かマリーベル皇女殿下が…」

 

「そうだね。だが彼女はいささかナンバーズを力で押さえつけ過ぎていてね。このままではエリア11の二の舞になりかねない。だから、総督を交代させるという決断をしなければならなかったんだよ。」

 

それを聞いて、アドニスは自身の任務が新総督に関するものだと推測した。

 

「つまり、新総督の護衛ですか?」

 

「いや、君にはマリーベルをこちらに連れてきて貰いたい。それこそ、力尽くでも。」

 

自身の予測とは全く違うシュナイゼルの返答に、アドニスは戸惑う。同時に、他に適任者がいるであろうとも感じていた。

 

「それは構いませんが、何故自分に?」

 

「君が、アドニス・ウィル・ブリタニアだからだよ。」

 

シュナイゼルが告げたその言葉に、アドニスは鋭い目付きを彼に向けた。

 

「…自分に、皇族へ復帰しろということですか?」

 

「いや、君がそれを望んでいないのは理解している。その名を持つがばかりに不必要な苦労や扱いを受けてきたこともね。ただ、例え君自身が忌まわしいと思っているものでも、使えるものであることには変わりがない。君の名前と力で、彼女らをこちらに連れてきて欲しいということだよ。」

 

つまりは準皇族としての立場を活用しろという事である。今までは彼自身疎んでいた事柄ではあるのだが、そういった使い方は彼の頭には無かった。

 

「…分かりました。それと、シュナイゼル殿下。自分からも一つよろしいでしょうか。」

 

「何かな?」

 

アドニスの問いに、シュナイゼルは笑顔のまま言葉を返した。

 

「シュナイゼル殿下は、あの男が手元に欲しいとお考えですか?」

 

中華連邦でのチェスで、シュナイゼルはライを欲しているそぶりを見せた。アドニスはその時からそれがずっと気掛かりだったのである。

 

「…そうだね。今の黒の騎士団の信頼関係は、中心に彼がいてこそのように思う。彼を引き抜く事は、騎士団の崩壊だけでなく、我が国の、世界の為にもなると思うのだけどね。君は、彼と決着を着けたがっているようだけど。」

 

「…そうですね。味方であれば頼もしいとは思いますが、敵としてあれ程楽しませてくれる相手を、自分はあの男以外に知りません。」

 

アドニスの偽りのない本音に、シュナイゼルはさらに笑みを深めて言葉を返した。

 

「彼を捕らえる事を強制することはしないよ。戦場では、君が思う通りに闘って欲しい。」

 

「分かりました。では、これよりエリア24に向かいます。」

 

アドニスはシュナイゼルに頭を下げると、すぐに移動する為に格納庫へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「シュナイゼル殿下の命により、大グリンダ騎士団は本日をもって私の傘下に入って頂く。」

 

一方的に告げるアドニス。彼は皇女マリーベルを前にしても膝を着くことすらせず、不遜な態度のまま決定事項を伝えていた。

 

「マリーベル皇女殿下を前に、その態度は一体何なのです!?いくらラウンズとは言え、許されるものではありません!」

 

マリーベルの隣に立つオルドリン・ジヴォンから怒りの声が上がる。しかしアドニスはそれを気にする風もなく、淡々とシュナイゼルからの命令を伝えた。

 

「このエリアには、新たな総督が配属される事となった。それに伴い、グリンダ騎士団は私が預かると申し上げているのです。ハッキリ申し上げると、あなた方はやりすぎた。シュナイゼル殿下は、この地が第二のエリア11となることを危惧しておられるのです。」

 

態度を改める気配のないアドニスに、オルドリンは歯噛みする。そして剣を抜いて彼に突き付けようとした直後、マリーベルがそれを制した。

 

「シュナイゼル宰相閣下のご命令は理解したわ。しかし、閣下の直属ではなくあなたの指揮下に入るというのは、どういうことなのかしら?」

 

シュナイゼルならば納得も出来る。しかしながら、一ラウンズとしての立場しかないアドニスに、皇女であるマリーベルを従わせる権限など全く無い。それはアドニスも理解している事であり、だからこそ彼の名前が必要だという事の表れでもあった。

 

「不服ですか、マリーベル皇女殿下。」

 

「不服というより、解せません。あなたにそのような権限は…」

 

マリーベルの言葉を受け、アドニスは一度自身に言い聞かせるように深呼吸をする。そして彼の口から、マリーベルやオルドリンが最も予想していなかった言葉が飛び出した。

 

「…俺が、アドニス・ウィル・ブリタニアだからだ。」

 

彼の言葉に、マリーベルとオルドリンは言葉を無くす。ウィルというミドルネームは彼女らが生まれるよりも前に皇族から外された者の名であり、それが示すのは彼がその子孫である事に他ならないからであった。

 

「アドニス・ウィル・ブリタニア…まさか…」

 

「そう、俺はラウンズだが、準皇族でもある。だからこそこうしてお前達を連れ戻し、配下とする事を宰相閣下より仰せつかった。…とは言え、一方的に言われても不服であることに違いはないだろう。だからこそ、俺がお前達の上に立つに足る者であると証明してみせよう。」

 

彼の言葉に、マリーベルとオルドリンは同時に眉を潜める。

 

「ナイトオブナイツ、オルドリン・ジヴォン。お前の専用機であるランスロット・グレイルと、本気の模擬戦をしてみんか?それにマリーベル・メル・ブリタニア、そちらも相当な腕前だそうだな。こちらには多数のヴィンセントが配備されていると聞いている。ランスロット・グレイルに、マリーベルが騎乗したヴィンセント、それにブラッドフォードといったか…三対一で構わん。お前達を完膚なきまでに叩き潰し、俺が上に立つ事を無理にでも証明してやろう。どうだ?」

 

アドニスの言葉に、オルドリンは拳を握りしめて返答した。

 

「私達を、グリンダ騎士団をナメるのもたいがいにしなさい!例えあなたがラウンズでも…」

 

「その言葉は、この挑戦受けるという事で相違ないか?」

 

話をまとめにかかるアドニスに、オルドリンはマリーベルへと目を向けた。

 

「分かりました、受けましょう。しかし、このような条件で行うからには、あなたが死んでも文句は言えませんよ。」

 

マリーベルの言葉に、アドニスは皮肉そうな笑みを向けたまま黒いバンダナを額に巻いた。

冷静にその姿を見つめるマリーベルの内心は怒りで煮えたぎっていたが、逆にオルドリンの心は冷静さを取り戻しつつあった。

 

(これはある意味チャンスなのかもしれない…マリーを止める為の…)

 

 

 

 

 

 

 

 

グリンダ騎士団の旗艦であるグランベリーが訪れたのは、エリア24内の荒野であった。浮遊するグランベリーの真下にはヴィンセントが立っており、その左右にランスロット・グレイルとブラッドフォードの二機が佇んでいる。そこから50メートル程離れた位置に、フロートを外したランスロット・クラブが鎮座していた。

 

「準備はよろしいですか?アーチャー卿。」

 

マリーベルは挑発の意味も込めてアドニスを通名のアーチャーで呼ぶ。しかしその挑発にもアドニスの表情はどこ吹く風といった体で、マリーベルのそれに乗ることは無かった。

 

「いつでも構わん。先手は譲るよ。マリーベル・メル・ブリタニア。」

 

アドニスの余裕に、逆に怒気を露にするマリーベル。彼女は両サイドに控える二人に視線を合わせた。

 

「オズ、レオンハルト、いいわね?始めなさい!」

 

マリーベルの命令に従い、大回りでクラブに迫るグレイル。同時に、フォートレスモードに変形したブラッドフォードも距離を詰めていた。その二機からタイミングをずらし、マリーベルの騎乗するヴィンセントが突撃する。

 

「これで終わりです!」

 

グレイルがシュロッター鋼ソードを振るうのに合わせて、ブラッドフォードからメギドハーケンが放たれる。それを空中で前方へと一回転して避けたクラブであったが、目の前にはMVSを腰だめに構えたヴィンセントが迫っていた。

 

「遅いっ!!」

 

だがクラブは右脚にブレイズルミナスを発生させると、ヴィンセントに強烈な踵落としを繰り出す。なんとかMVSの柄で受け止めたヴィンセントであったが、続くスラッシュハーケンでの一撃を受け止めきれず、後退を余儀なくされた。

その直後にはクラブが両手に持ったMVSにより、反転してきたグレイルと、変形したブラッドフォードの一撃を受け止め、すぐに角度を変えて受け流した。それによって体勢を崩したことでぶつかりそうになったグレイルとブラッドフォードが慌てて機体を後退させようとした時には、両機の頭部にMVSの柄が叩き込まれている。

 

「がっ…!」

 

「うっ…!この…!」

 

攻撃を受けた勢いのままに両機は一旦後退し、クラブを三方から囲む形を作る。その三機の前で、クラブはランスロットのものと比べても短めであるMVSを接続し、両剣の状態にしていた。

 

「どうした、グリンダ騎士団。この程度ではないだろう?」

 

「嘗めるなぁぁっ!!」

 

突撃をかけたブラッドフォードに合わせ、同時に前進するグレイルとヴィンセント。振るわれたシュロッター鋼ソードとデュアルアームズ、MVSをかがんで避けると、両剣状態のMVSを持ったまま一回転し、三機を同時に弾き飛ばした。さらに体勢が整っていないブラッドフォードに接近すると、高周波振動を解除した状態でMVSを叩き込んだ。

 

「まず、一機。」

 

クラブはブラッドフォードに背を向けヴィンセントに突撃する。対するヴィンセントも腰を落として迎撃の体勢を取っていたが、なんとクラブはスライディングの要領でヴィンセントの股下を滑りながら抜けていった。呆気に取られたマリーベルがヴィンセントを反転させようとした時には、クラブから鋭い蹴りが放たれて機体は弾き飛ばされていた。

 

「マリー!」

 

慌ててグレイルがフォローに入るが、両手に持ったシュロッター鋼ソードは掠りもしない。逆にアドニスの剣術によりグレイルは徐々に追い詰められている。

 

「どうした!こんなものか、ナイトオブナイツ!?」

 

「…くっ!私は、剣を持たない人々を守れるだけの力を…!言葉だけでは命も心も救えない…だから!」

 

グレイルが反撃としてスラッシュハーケンを放つも、クラブはそれをギリギリで躱して分離したMVSの柄でグレイルを殴り付けた。

 

「だからこそ、お前にはここで負けてもらう。」

 

後退するグレイルに、高周波振動を解除したMVSを叩き付ける。

 

「…さて、残るはお前だけだ。マリーベル・メル・ブリタニア。降参してもいいが、まだやるか?」

 

クラブがMVSをヴィンセントに向ける。それを受けて、彼のあまりの強さに思わず唾を飲み込む。しかし一瞬後には自身を戒め、クラブに向けてMVSを構えた。

 

「フン…身の程知らずめ…」

 

「まだ、まだ私は…!」

 

クラブに急接近するヴィンセント。それを見てもクラブはその場から一歩も動かず、右手に持つMVSをだらりと下げただけであった。

好機と見たマリーベルはヴィンセントのMVSを振り上げ、渾身の力で振り下ろす。だが次の瞬間には、ヴィンセントのMVSは上空高くへと弾き飛ばされていた。

 

「…決着だな。」

 

MVSの先端をヴィンセントの頭部ギリギリに向けるクラブ。コックピットの中で歯噛みするマリーベルに、アドニスが止めとなる一言を放った。彼の目は冷たく、皇女を殺す事すら全く厭わないような鋭すぎる目をしている。

 

「この程度の力しかないのでは、為政者として失敗したのも頷けるな。」

 

「あなたに…!あなたに何が分かるのっ!?」

 

彼女の反論とすら言えぬ言葉を聞いて、アドニスは鋭い目付きのまま述べた。

 

「…お前の生い立ちは聞いている。それがお前のトラウマとなり、足枷になっている事もな。だが、いつまで自身の過去から逃げるつもりだ?世界で自分が最も不幸な者だとでも?お前より不幸な者などそれこそ腐る程いる。幼い頃に母がテロリストに殺されたのがずっと棘として心に突き刺さっている事は理解しよう。だが、お前の圧政によって憎しみの連鎖を広げ続けている事に、気付けない程の馬鹿ではあるまい。悲劇のヒロインを気取って、いつまで甘えているつもりだ!?」

 

アドニスの言葉が彼女の心の奥へと刺さる。それを黙って聞いていたオルドリンは、シュナイゼルの意図と、それとは少しズレた言葉を放つアドニスの思いに気付いていた。

 

(シュナイゼル宰相閣下は、オズの暴走を止め、かつ黒の騎士団と闘う為のカードにするつもりだったんだろうけど、でも…この人は…)

 

アドニスとて、幸せといえる生い立ちではない。準皇族という立場の為に差別やいらぬやっかみを受けてきた身だ。それでも彼は自分の道を見つけ、自身の力でそれを切り開いたのである。だからこそ、マリーベルが過去から逃げ続けている事を自分と照らし合わせた上で諌めることができているのである。それに、いい意味でも悪い意味でも同じ高さに立って意見を言ってくれる相手というのは、マリーベルにはいなかった。その点、彼であればマリーベルの苦しみを理解してやれるのかもしれない。

そう考えたオルドリンは、グレイルをクラブの前に跪かせた。

 

「アドニス・ウィル・ブリタニア様、我々グリンダ騎士団は、これより貴方の指揮下に入ります。」

 

それを見たアドニスは一つ息を吐くと、オルドリンに返答した。

 

「自分で名乗っておいてなんだが、その名は出来れば呼ばんでくれ。それに、堅苦しいのは嫌いでな…。アドニスで構わん。」

 

画面越しとはいえ、ようやく笑顔を見せたアドニスに、オルドリンも思わず笑い掛けた。ほどなくしてマリーベルも我を取り戻し、先程の彼の言葉に対して問い掛ける。

 

「アドニス…あなたはどうして、そんなに強いの?」

 

「強くなどない。ただ強くあろうとしているだけだ。それに、俺の周囲には信頼に足る仲間もいるからな。お前はどうだ?」

 

アドニスから帰ってきた言葉に、マリーベルはグレイル、ブラッドフォード、そしてグランベリーに目をやると、頬を一筋の涙が流れ落ちた。。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、引き継ぎが終わり次第シュナイゼル殿下に連絡を。俺は先に戻る。それと、オルフェウスといったか。会うことがあれば、兄として妹を手助けする気が少しでもあるなら、これまでの事は見逃してやるから俺の下につけと言っておけ。文句があるなら、真正面から叩き潰してやるともな。」

 

アドニスの言葉に、オルドリンは頭を下げる。マリーベルは未だに少し不服そうではあるものの、それでも彼を認めていない訳ではないようだった。

 

「わかりました。ではアドニスさん、またエリア11でお会いしましょう。」

 

「シミュレーターでいいので、また一戦お願いします。」

 

オルドリンとレオンハルトの言葉に、アドニスは手を上げてからクラブに乗り込み、エリア24を後にした。

 



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episode21 I am xxx

「ロロが、シャーリーを殺そうとしただと!?」

 

ルルーシュはライからの報告に驚いていた。しかしそのライは、少し怒ったような目でルルーシュを見つめていた。

 

「…そもそもは、君がロロと向き合ってこなかったからこうなったんだよ。ロロは、自分の立場を守る為にそうするしかなかったんだ。彼は、それしか知らないからね。」

 

「……何?」

 

「彼はナナリーの代わりじゃない。ロロっていう一人の人間なんだ。彼にちゃんと向き合ってきたなら、それに気付けた筈だよルルーシュ。」

 

ライの言葉にルルーシュは考える。確かに今まで、ロロのことをナナリーのいるべき場所を奪った偽物としてしか扱っていなかった。だからこそロロの暴走に気付けなかったというのは、ライに指摘された通りだ。

 

「…分かった。あいつとは今後、二人で話す時間を増やす。それに、今までのような上辺だけの関係ではなく、本心を話すように心掛けてみよう。しかし…」

 

「ああ、嚮団はどんな手を使ってでも君を殺すつもりだな。ジェレミア卿が裏切ったと知れば、V.V.は新たな刺客を送り込んでくるだろう。それも今度は、複数…」

 

「幸い、ジェレミアの証言で嚮団の場所は割れている。内部構造も、以前の場所で捕らわれていたというロックの証言とあまり違いはないだろう。0番隊と特務隊を投入して殲滅する。」

 

「…いや、実験体にされた子ども達は出来るだけ保護しよう。やり過ぎると団員に不信感を持たせる事になってしまう。彼らの説得は、僕の役目だが…」

 

そう言うと、ライは立ち上がった。蒼月で一足先に蓬莱島へ渡り、零番隊副隊長である木下達や、直属であるアキト達に説明するつもりだろう。

 

「今回の作戦は秘密裏に行わねばならない。」

 

ルルーシュが、部屋を出ようとするライに告げた。

 

「分かってるよ。だからこそ、説明はしっかりしておかないといけないのさ。後々に禍根を残さない為に。」

 

そう言うと、ライは部屋を出ていった。

ルルーシュは彼が出ていった扉を見つめ、一人呟く。

 

「──あいつには苦労をかけてばかりだな。早くカレンを助け出して、少しでも心を楽にしてやらないと…」

 

言い終わると、PCの電源を付け、嚮団殲滅の決定をC.C.に告げるべく、連絡を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『教主V.V.、ジェレミア卿より定時連絡です。』

 

部下からの言葉を聞いたV.V.は、自分の前にあるモニターに繋ぐよう命令する。

 

『はじめまして、お前がV.V.か。』

 

「…ルルーシュ。」

 

そこに映っていたのは、ジェレミアではなくルルーシュだった。彼からの通信を、嚮団員らが分析する。電波の痕跡やルルーシュの背後の景色から、発信元はエリア11のアッシュフォード学園と思われた。

 

『今さら自己紹介は必要ないだろう。その上で聞きたいことがある。東京決戦の時、ナナリーを拐ったのはお前か?神根島に俺やスザク達を集め、観察者を気取っていたのは…』

 

ルルーシュの問いに、V.V.は余裕の笑みを崩さず答える。

 

「うん、そうだよ。でもそれを聞くということは、やっぱり記憶は戻っていたんだね。」

 

『ああ、俺がゼロだ!』

 

「じゃあC.C.も一緒なんでしょ?C.C.をちょうだい。そうすれば君は自由に…」

 

交渉を持ち掛けるV.V.を、ルルーシュが遮った。

 

『もう遅い!これは俺とお前との戦争になった!』

 

「ふーん…でも君がここに来る頃には僕達はもう次の場所に…」

 

V.V.が言葉を返そうとしたその時、爆音が轟いた。

 

「教主V.V.!ナイトメアが…!」

 

「何!?」

 

「黒の騎士団と思われます!」

 

嚮団施設の外壁を破壊し、内部に侵入する蒼月。その後ろには、暁隊とアレクサンダ隊が続いていた。なおC.C.は専用にカラーリングされた、薄紫色の暁直参仕様を操縦している。

 

『V.V.の現在位置は特定できた。アキトとリョウは左から、ユキヤと木下は右側、ロックは後方に回って順次制圧を開始しろ。』

 

ライが命令を下す。その声に従い、部隊を分けて進撃するライ達。V.V.を包囲するように、四方から攻め混む形だ。

 

「なるほど、そういうことかい。」

 

状況を理解して立ち上がるV.V.。そのV.V.にルルーシュが告げた。

 

「ああ、少しの時間で良かった。お前が油断すれば、俺がまだエリア11にいると思い込み、脱出する時間が少し遅れるだけで…」

 

ルルーシュの周囲を囲っていた壁が倒れて行く。その周囲には砂漠があり、後方にはロロとヴィンセント、ジェレミアとサザーランド可翔式、そして蜃気楼が立っていた。

それはルルーシュが既に付近におり、嚮団の刺客であった2人が裏切っていることを意味していた。

 

「…彼女を呼んで。ヴィンセント・アソールトの出撃準備だ。それと、アレの用意を。」

 

V.V.の命令に従い、嚮団員がどこかへ通信する。するとほとんど間を置かず、黒く長い髪を靡かせながら、長身の女性がV.V.の前に現れた。

 

「V.V.様、お呼びですか?」

 

V.V.の前に跪くその女性。V.V.は彼女に命令を下す。

 

「呼ばれた理由は分かってるよね、ルーン。ヴィンセント・アソールトで出撃し、黒の騎士団を殲滅して。…もしかしたら、狂王様も来てるかもね。」

 

「畏まりました。」

 

V.V.の言葉に頷き、その場を後にするルーン。彼女は真っ直ぐに、ナイトメアの格納庫へ向かった。

 

「木下副隊長、研究員と思われる人々の収用、完了しました。」

 

0番隊の副隊長である木下に報告する団員。彼らは事前にライからここが研究施設だと聞かされており、殺害の必要性が無ければ捕らえるだけに留めるようにと命じられていた。そして実験により、特殊な能力を得た兵がいる可能性も。

その場合も、出来る限り捕らえ、ロロかライ、もしくはゼロに報告するよう伝えられていた。

 

「死者がゼロとはいかないが…当初の予定よりは少なく済みそうだ。だが、本当に反撃が一つもないな…」

 

心に迷いを抱えながら包囲網を狭める騎士団員達。その前に、まだ幼い子ども達が姿を現した。

 

「こんなに小さい子どもまで…?」

 

コックピットのハッチを開き、自身の目で確認する騎士団員の男、森。その森を、子ども達の一人が指差した。

 

「な、なんだ…!?」

 

森の身体は自身の意思を無視して動きだし、暁のコックピットハッチを閉じた。そして隣にいた暁を回転刃刀で突き刺す。

混乱する森の前に、黄金色をしたヴィンセントが現れる。そのヴィンセントは消えるようにして暁の周囲を飛び回り、最後は暁の背後に現れ、暁の胴を両断した。なお、森はその直後に脱出している。

 

「…この力、ロロお兄ちゃん?」

 

「みんな、久しぶりだね。ここから脱出するから、僕に着いてきて!」

 

そう言うと、ロロはヴィンセントを駆けさせた。

 

 

 

 

 

「包囲はほぼ完了したな。一斉にポイントα7に…」

 

命令を下しかけたライの蒼月を、スラッシュハーケンが襲った。咄嗟にMVSで防御したライだが、それとほぼ同時に蒼月に突撃してきたヴィンセントの強化型と思われる機体が、MVSを振り下ろしてきた。

 

「…くっ!!」

 

その一撃も何とか防いだものの、斬撃の鋭さは並大抵のものでは無かった。騎乗しているのは相当な腕を持つパイロットであると思われる。蒼月は勢いに押され、嚮団施設から押し出された。

 

「…嚮団にこんな隠し玉がいたとはね!だが、君に時間をかけるわけにはいかない!!」

 

オープンチャンネルでに告げ、上空で蒼月の体勢を立て直すライ。その彼に、強化型の機体であるヴィンセント・アソールトのパイロットが言葉を返した。

 

「あら、つれないこというのね。お・に・い・さ・ま。」

 

「なっ…!?」

 

蒼月のモニターに映し出されたのは、自身の記憶より成長しているものの、間違いなくライの妹であるルーンだった。しかし、彼女は死んだはず。直接手を下した訳ではないにせよ、彼女が死んでしまう原因を作ったのは他ならぬライ自身なのだ。

 

「ルーン…なのか…?」

 

彼女の顔を見て、動きを止めるライ。その彼の蒼月を、再びアソールトのMVSが襲っていた。

 

「200年も経ったから、愛しい愛しい妹の顔も忘れちゃったのかしら?なら、思い出させてあげる!」

 

そう言いつつ、MVSでの連撃を繰り出すルーン。ライは何とかその全てをギリギリで躱したものの、反撃が出来ないでいた。

 

 

時を同じくして、ルルーシュもV.V.が操縦するナイトギガフォートレス、ジークフリートに襲われていた。ルルーシュもライと同様に、ジークフリートの攻撃で上空に追いやられていた。そのジークフリートを追って、ジェレミアとC.C.も上空に飛び出した。

 

「ジェレミアとC.C.がジークフリートに…それなら僕は…ライさん、すぐ援護に回ります!」

 

その状況を見て、ライに通信を繋ぐロロ。しかしライから帰ってきた返答は意外なものであった。

 

「ロロ、こちらはいい!君もゼロの援護に行くんだ!」

 

「でっ…でも!ライさんが!」

 

ライの言葉に戸惑うロロ。しかしライは、はっきりと援護が不要だと口にした。

 

「僕の方はなんとかする!今は、V.V.が最優先だ!特務隊も、ゼロの援護を!」

 

「…わかりました。ライさん、死なないで下さいね。」

 

そう言ってロロは蜃気楼の元へ向かう。普段のライならロロの言葉を聞いて、彼もずいぶん変わったと感心したところであっただろうが、今はその余裕が無かった。

 

「ルーン……君が生きていてくれたことはすごく、すごく嬉しい。謝罪もしたい、聞きたいことも山程ある。だけど、V.V.に味方するというのなら、僕は君を止めなくちゃならない。」

 

少しだけ落ち着きを取り戻したライがルーンに告げる。彼女はそれを見てニッコリと笑い、言葉を返した。

 

「あら、また殺すということかしら?」

 

「殺しはしない。だが、その機体は破壊させて貰う!」

 

ライは蒼月をヴィンセント・アソールトに向かって駆けさせた。

 

 

 

 

「V.V.、お前をそこから引きずり出す!全軍、攻撃開始!」

 

ゼロの命令を受けたジェレミアや騎士団員が、一斉にジークフリートに向けて銃撃を放つ。それに合わせて、蜃気楼も脚部からハドロンショットを放つも、V.V.はジークフリートを高速回転させることでそれらを全て弾いてみせた。

 

「チィッ…電子装甲は健在か…」

 

その様子を見て毒づくルルーシュ。一方のV.V.は余裕の態度を崩すことなくジークフリートを操縦し、量産型暁を撃墜してゆく。

 

「マリアンヌの子どもが調子に乗っても!」

 

そのジークフリートに、ジェレミアのサザーランドが追い縋る。

 

「それは我が忠義の為にあるべき機体だ!」

 

「ジェレミア、君はゼロを恨んでいたよね?」

 

そのジェレミアに、V.V.が質問を投げ掛ける。

 

「然り。これで皇族への忠義も果たせなくなったと考えたからな。されど仕えるべき主がゼロであったなら、マリアンヌ様の為にも!」

 

「お前まで…その名を口にするか!」

 

ジェレミアの言葉に怒りを露にしたV.V.は、ジークフリートの大型ハーケンをサザーランドに向けて放つ。ジェレミアはなんとか致命傷だけは避けたが、サザーランドの左足を破壊されてしまった。

 

「ロロ、ジェレミア!まずはジークフリートのハーケンを破壊するんだ!その後、多方面からの攻撃で電子装甲を無力化する!」

 

「分かった!」

 

「イエス・ユアマジェスティ!」

 

ルルーシュの命令に従い、ジークフリートのスラッシュハーケンを攻撃するロロとジェレミア。ロロは肘部のニードルブレイザーでハーケンの一つを破壊した。

 

「ロロ、君も僕に嘘をついたんだね。…君は、失敗作なんだよ。ギアスを使ってる間は自分の心臓も止まってしまうなんて。死んでもおかしくない欠陥品の君に、役目を与えてあげたのに…!」

 

ジークフリートのハーケンが、ヴィンセントの脚部を貫いた。咄嗟にアキトが援護に入るが、ジークフリートの体当たりによってその場から弾き飛ばされる。

 

「下がれ、ロロ!それ以上近付けば撃墜される!」

 

ルルーシュの言葉に従い機体を後退させるロロ。しかしV.V.はヴィンセントの動きを予測して、ヴィンセントに肉薄していた。

 

「ロロ!」

 

その直後、ジークフリートとヴィンセントの間に灰塵壱式が割り込んだ。灰塵壱式は長剣型のMVSを振るうと、電子装甲ごとジークフリートを弾き飛ばす。

 

「久しいな。V.V.とやら。」

 

「そうか…君はロックだね。せっかく見逃してあげたのに、僕に楯突くなんて!」

 

V.V.の言葉に、ロックはコックピットの中でニヤリとした笑いを見せた。

 

「あいにく、俺の主は一人と決まっているのでな。貴様には悪いが、ここでケリを着けさせて貰おう!」

 

一直線にジークフリートへと向かう灰塵壱式。しかし彼の剣がジークフリートに到達するより前に、地上より放たれた多数の弾丸がジークフリートの装甲を撃ち抜いていた。

 

「誰だい?ジークフリートの弱点を知っている攻撃…」

 

V.V.がそちらを見ると、乗り捨てられた暁を使い、多数の銃砲をジークフリートに向けるコーネリアの姿があった。

彼女はユーフェミアの汚名を返上すべくギアスについて単身で調査し、その結果として嚮団までたどり着いた後にV.V.の手で捕縛されていたのだ。しかし騎士団が嚮団に攻め寄せた事により、脱出の機会を得ることとなっていた。

 

「V.V.といったか…この私を脆弱にして惰弱と侮ったな。」

 

コーネリアが一人呟く。彼女の姿を見て驚くルルーシュだが、先にV.V.を仕留めるべく命令を下す。

 

「ジークフリートの装甲は破損した!後は直接…!」

 

蜃気楼は胸部の相転移砲の発射口をジークフリートに向ける。コーネリアも、かき集めた銃砲をジークフリートに向けて再び放とうとしていた。

 

「ユフィの仇…そこで滅せよ。」

 

「「ギアスの、源!!」」

 

コーネリアが砲撃を放つと同時に、蜃気楼からも相転移砲が放たれる。直撃を食らったジークフリートは、多数の傷を負いながらもルルーシュだけは仕留めるべく、回転しながら蜃気楼へ向かう。

しかしそれも再び放たれた蜃気楼の相転移砲に加え、アレクサンダやヴィンセントからの掃射によってとどめを刺されたことにより、果たすことは出来なかった。

 

「ルルーシュ…この呪われた皇子め!!」

 

コーネリアに向かって墜落するジークフリート。咄嗟に反応出来なかった彼女を、ジェレミアが救出した。

 

 

 

地下の脱出口では、嚮団幹部達が研究データを持って脱出しようとしていた。しかし脱出機の射出口の先には、C.C.が騎乗する暁が待ち構えていた。

 

「すまない、これはお前達を放置した私の罪だ。だから、ギアスの系譜はここで終わらせる。それが、おそらく私とルルーシュの…」

 

そう言うと、C.C.は暁が持つロケットランチャーを脱出機に向けて放つ。直撃を受けた脱出機は、登場員と、彼らの持つデータとともに爆散した。

 




今日は休日なので多めに更新できたらなと思います。


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episode22 He name is…

「そう、ルルーシュがそんな事を…」

 

「お兄様は意地っ張りなんです。でも、ライさんがいらしてからは少しずつそういう所も変わっていったんですけど…」

 

政庁では、勾留されているカレンと総督であるナナリーが楽しげに話をしていた。

なおこの部屋は、カレンの為に特別に用意されたものである。ナナリーが彼女との対話を希望した為に急遽檻として使用することになったもので、部屋の中央へ一本道が続き、中心部が強化ガラスで出来た檻になっている。部屋の出入口付近と檻を繋ぐ一本道、そして中心部の檻の周囲は崖のようになっており、落ちればまず助からない高さとなっていた。

 

「どこか似ていたものね、あの二人…ナナリーも、ライとは仲が良かったわよね?」

 

「はい。ライさんには、折紙を教えて頂いたり、お弁当を食べさせて頂いたり、お勉強を見て頂いたり…随分良くして頂きました。」

 

ナナリーを妹のように可愛がっていたライの姿を知っているカレンは、彼女の様子にさらに笑顔を浮かべる。しかし、その二人のやりとりを邪魔する人物が入室してきていた。

 

「失礼します。ナナリー総督、捕虜一◯七(ヒトマルナナ)号を、お借りしたいのですが。」

 

二人の前に現れたのはスザクだ。彼はナナリーの許可を取ると、彼女を部屋から退出させた。そしてカレンの前に戻ると、彼女に向けて口を開く。

 

「どうしても、ゼロの正体を話す気はないのかい?」

 

「知らないし、知っていても話す気はないって何度言えばわかるのかしら?」

 

カレンは憮然とした表情で返答する。ブリタニアの捕虜になってから、何度も受けた質問だ。その度に、彼女は同じ答えを返していた。

 

「旧中華連邦領内では、いたるところで戦争状態に突入している。黒の騎士団のせいで、多数の死者も出ている。僕は…決断しなくちゃいけない。ゼロの正体を暴き、惨劇を止める為に。」

 

カレンに歩み寄るスザク。カレンが囚われる牢の扉の前で、一旦立ち止まる。

 

「全ての証言、証拠が、ルルーシュは白だと言っている。だけど…」

 

言葉と共に、扉を開くスザク。

 

「僕の心はずっと、ルルーシュが犯人だと、ゼロであると…」

 

「さっきも言った筈よ!これ以上、あんたに言うことはないわ!」

 

カレンは立ち上がってスザクに言葉をぶつける。その姿を見てなおスザクは歩を進め、牢の中へと足を踏み入れていた。

 

「もういいんだ!これ以上、悲劇を生み出さない為にも、手段に拘ってはいられない!」

 

そう行って懐から箱を取り出すスザク。蓋を開けると、その中から現れたのは紛れもなくリフレインであった。

 

「ルルーシュのことは知らない! 何回言ったら分かるのよ!?」

 

言葉と共に左手を振り、彼の頬を叩くカレン。だがそれでも、スザクの表情は微塵も変化しなかった。

 

「騎士団の前に積み上げられた、何の罪もない中華連邦の人達の亡骸に誓って、そう言えるのか?」

 

スザクの問いに一瞬戸惑いを見せるカレン。それを見たスザクは、カレンの腹部に一撃を叩き込み、怯んだカレンを椅子に押し付けた。

 

「話してもらう。このリフレインで。」

 

「やめて…やめてよ!やめてったら!!」

 

抵抗するカレンの腕を取り、リフレインの注入器を押し付けようとするスザク。そのスザクの手を、後ろから掴む者があった。

 

「やめろスザク。それはやりすぎだ。」

 

そこには、エリア24から戻ったばかりのアドニスの姿があった。彼の後ろにはノネットもいる。

 

「アドニス…でも、彼らの惨劇を止める為には…」

 

「間違った方法で得た結果に、意味はないんじゃなかったのか?」

 

アドニスに止められてもなおその必要性を説こうとするスザクに、アドニスがかつてスザクが口にした言葉を返す。その言葉を受けてハッとした表情を浮かべたスザクを、アドニスが殴りつけた。

 

「がっ…」

 

アドニスの全力で放たれた打撃を受けたことで、側面の壁に叩きつけられるスザク。その拍子に落としてしまったリフレインを、アドニスが拾い上げた。

 

「この女は、貴様の友人でもあったのだろう。それを犠牲にして、人生すらねじ曲げてしまう可能性を無視出来るのならば、お前にはラウンズに在籍する資格も、このエリアを救う資格もないぞ。

ユーフェミア皇女殿下がまだ存命であれば、この光景をどう思っただろうな。」

 

アドニスの言葉を受けて項垂れるスザク。自身の行動の意味を理解出来ていなかったことを痛感した彼は、下を向いたまま歯を食い縛ってその行動を恥じた。そのスザクの首根っこをノネットが掴み、無理矢理立ち上がらせる。

 

「とりあえず頭を冷やしてこい、枢木。冷静になれないなら、この先お前をこのエリアの責任者として扱う訳にはいかなくなるのだからな。」

 

言いながら、半ば引きずるように部屋の出入口まで連れていくノネット。彼女はスザクを退出させると、一つため息をついてカレンの元へ戻ってきた。

 

「すまないな…言い訳にはならないが、あいつも一杯一杯でな。」

 

カレンに謝罪しつつ、折り畳み式の椅子を2つ取り出すノネット。彼女の真意が分からず、カレンは訝しげな視線を向けながら言葉を発した。

 

「ゼロの正体なら、さっきもスザクに…」

 

「いや、ゼロのことじゃない。」

 

カレンの言葉を遮るノネット。彼女は椅子を組み上げ、その一つにアドニスを座らせた。そしてもう一つをカレンの正面に置き、自身も腰を下ろした。

 

「エニアグラム卿、俺はまだ信じちゃいませんがね。」

 

ノネットに対し、疑問を口にするアドニス。その顔にはいつもの皮肉そうな笑みが戻っていた。ノネットはそれをじろりと睨み、言葉を返す。

 

「ノネットさんだ、アドニス。何度も言わせるな。それに、それを確認する為にここへ来たんじゃないか。お前だって全く信じられない訳じゃないからこ、うして私に着いてきているんだろう?戻ったばかりで疲れているくせに…」

 

アドニスへの返答を終えると、視線をカレンに移すノネット。彼女は真っ直ぐにカレンを見ていた。

 

「…一体何を聞こうっていうのよ?」

 

「なに、あの蒼月とかいう機体のパイロットのことさ。」

 

ノネットが尋ねたのはライのことだ。しかし彼は名前も顔もすでにブリタニアに知られている。これ以上、何が知りたいのかカレンには分からなかった。

 

「ライといったか…あの男はお前の恋人だそうだな?だから、お前ならこの答えを知っているんじゃないかと思ってな。」

 

「…答え?」

 

ノネットが何を言っているのか、カレンにはさっぱり分からない。一方のノネットは、カレンの様子などおかまいなしに言葉を続ける。

 

「先日の中華連邦での戦闘で、お前が捕まった後の話なんだが、私はあいつに勝負を挑んだ。こちらが乗っていたのが量産機だったというのもあるが、結果は圧倒的な敗北だった。そこで、一つ感じたことがあるのさ。」

 

元々アドニスと何度も闘い、彼がラウンズとなってからも言うなればライバルのような関係で、ライが彼と何度も闘っていたことは知っている。しかし、中華連邦でさらに別のラウンズとの因縁をつくり、しかもそれを圧倒したなどということを聞かされていなかったカレンは驚いていた。そしてその闘いで敗れた張本人であるノネットが、今自分の目の前にいる。彼女が口にした疑問は、カレンを今以上に驚愕させるものだった。

 

「あの男、この時代の人間ではないんじゃないのかい?具体的には、200年程前の…」

 

ノネットの言葉に、カレンは目を見開く。彼のすぐ近くにいた自分やゼロでさえ、そんな可能性は微塵も考えなかったし、気付けなかったことだ。その答えに、一度闘っただけのノネットがたどり着いている。カレンはラウンズとしての戦闘力以上に、彼女のことを恐ろしい存在だと感じていた。

 

「今の反応で私の推測が正しいことが分かったよ。」

 

彼女はカレンの反応を見て笑みを浮かべる。さらに確認として、言葉を続けた。

 

「あいつは、ライディース・リオ・ブリタニア本人なんだな?」

 

「ライディース・リオ・ブリタニアって……狂王!?」

 

ノネットの言葉に、カレンはまた驚愕を重ねる。ライの過去は本人から聞いていたが、それがまさか現在のブリタニアの礎を作った、狂王と呼ばれる伝説の人物その人であるとまでは聞いていなかったのだ。

 

「そこまでは知らないのか。いや、言った私も未だに信じられんが…」

 

「俺もまだ半信半疑ですよ。200年前の人物が生きてこの時代に…それなら…」

 

「ああ、私達はとんでもない奴を相手にしていることになるな。」

 

アドニスもカレンと同様に驚愕していた。ノネットだけは笑みを浮かべていたが、そこにはいつもの余裕は微塵も感じられなかった。

 

「これは、私の祖先が王に仕えていたからこそたどり着いた答えだ。私は皇帝陛下に忠節を誓ってはいるが…いや、だからこそ今のブリタニアを壊す為に、彼はこの時代に現れたということかな?」

 

そう言うとノネットは立ち上がって椅子を片付け、また来ると言い残してカレンの前から去った。アドニスもそれに続き、部屋から出ていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

______________

 

 

 

 

 

 

 

「あら?あちらはもう終わっちゃったみたいね。思ったより遊べなかったわ。」

 

ジークフリートが撃墜されたのを見てMVSを収納するヴィンセント・アソールト。それを見たライは蒼月を止め、彼女の真意を問い質した。

 

「どういうつもりだ、ルーン?」

 

ライの言葉に、どこか妖艶な笑みを浮かべながらルーンは答えた。

 

「本気にしないでよお兄様。こんなのちょっとした意地悪じゃない。ほら、言うでしょ?好きな相手の気を引こうとして意地悪をしちゃうみたいな。

それに、V.V.も見てたことだしね。」

 

アソールトを砂漠に着陸させるルーン。それに倣って、ライも蒼月を着陸させ、コックピットから降りた。彼の目には、自身と同じようにアソールトから降り、こちらに歩いてくるルーンの姿が写っていた。

 

「久しぶりね、お兄様。」

 

そう言ってゆっくりと抱擁してきたルーンを、ライは強く抱き返す。二百年前に自分が殺してしまったと思っていた最愛の妹が生きていたことに、ライは我を忘れてしまっていた。

 

「…嬉しいけど、痛いわ、お兄様。」

 

彼女の言葉に、ようやく自分が力を込めすぎていることに気付いたライは、慌てて体を離す。その様子を見て、ルーンはクスリと笑った。

 

「す、すまないルーン。しかし何故…」

 

ライの疑問も当然だ。ルーンはライのギアスによって戦場に立ち、敵と相打って死んだのだ。彼女の遺体もその目で確認している。

 

「…そのことについて、私もお兄様に謝らなきゃならないわ。私は、ギアスを持っていることをお兄様に隠していた。」

 

「な…ギアスを!?」

 

ライが驚愕の声を上げる。ライの知らぬところで、彼女も契約をしていたのだろう。力を得る為に。

 

「…死ぬまで分からなかったのだけれど、私のギアスは一度だけ自分の死を無かったことに出来る力。蘇った私は、周囲を見て絶望したわ。」

 

当時彼女が復活した時、彼女の周りには大量の死体があったのだ。敵味方入り乱れ、その中に息のある者は一人もいなかった。

 

「その中にお母様も、お兄様もいるのだと思ったわ。せっかく蘇ったのに、守りたいと思った人達が先に死んでしまっていたんだもの。そこへ、あの男が現れたのよ。彼は契約の為に、ふさわしい時代まで私を眠らせることを提案したわ。そして、私はそれを受けた。」

 

彼女の言葉を黙って聞くライ。彼女はライの反応を見て、さらに言葉を続けた。

 

「その私を起こしたのはV.V.よ。見つけたのは偶然だったようだけど、人間兵器として利用できると考えたのでしょうね。そしてそこで働くうちに、黒の騎士団のことを知った。映像を見て、あの月下というナイトメアのパイロットがお兄様だと確信したわ。だけど、V.V.がいる限り、私は自由に動けなかった。」

 

だから、と彼女は続ける。その目は、真っ直ぐにライを見つめていた。

 

「こういう機会を待ち望んでいたわ。騎士団がV.V.を倒す為に現れ、私を監視する余裕が無くなるのを。」

 

「…そうだったのか。何はともあれ、生きていてくれて良かった。ルーン。」

 

ライはルーンの言葉を聞いて納得する。

それと同時に、今度は優しく彼女を抱き締めた。

 

「あら、お兄様ったら甘えん坊ね。いいわ、二百年ぶりなんだし、たっぷり甘えさせてあげる。」

 

そう言うと、ルーンはライの背に手を回す。そのルーンに、ライはやや脱力したようになりながら言葉を返した。

 

「…ルーン。君、だいぶ変わったな。」

 

「そりゃあ変わりもするわよ。二百年も経っているのよ。それに、私は四年前に起こされて、その間ずっとV.V.の下で働かされてたのよ?変わるなって方が難しいんじゃない?」

 

ルーンは当たり前だというように告げた。ライの言葉を待たず、さらに続きを口にする。

 

「お兄様が目覚めたのは一年ちょっと前でしょう?四歳違いだったのに、年子になっちゃったわね。」

 

そう言ってライに笑いかけるルーン。彼女の言葉通り、ルーンはライの記憶よりも遥かに成長し、今や身長もライとほとんど変わらないくらいにまで伸びていた。

 

「ルーン、許されることではないけど、それでも僕は君に…」

 

「いいわよ、もう。」

 

ルーンに謝罪の言葉を口にしようとするライを、彼女は遮った。

 

「わざとじゃないこと、私達を守ろうとしたんだということは理解してるし、私もお兄様に隠し事をしていた訳だし…こうして再会できたのだから、今さら過去の事をとやかく言うつもりはないわ。」

 

「……ありがとう、ルーン。」

 

彼女の言葉を受け、自身が許され、受け入れられたことを知って心の底から安堵するライ。彼女から視線を外すと、その顔を嚮団施設の方へ向けた。

 

「…ゼロの元へ行かないと。今は彼を助けるのが、僕の役目だからね。」

 

「なら私は、そのお兄様を手助けして差し上げようかしら。」

 

言葉を交わした二人は、其々のナイトメアに乗り込み、ゼロの元へ飛び立っていった。

 




ルーン・リオ・ブリタニア
身長177センチ
母譲りの黒髪を真っ直ぐ伸ばしている。
ライに近い身体能力と、V.V.のせいで割とひん曲がった性格になってしまった。
趣味はライを困らせること。
(自分のイメージでは、物語シリーズ初期のガハラさんが近いです。)


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episode23 The king is coming

ゼロは突然現れた皇帝シャルルの手により、黄昏の間へ引き込まれていた。彼はそこで蜃気楼から大量の鏡を射出し、反射させることで直接シャルルを見ることなく彼に死ねと命じることに成功した。

シャルルは懐から拳銃を取り出し、自身の心臓を撃ち抜いて倒れこむ。

 

「……勝った?ナナリー、母さん、俺は、俺は…うおおぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

シャルルの遺体を前に、ルルーシュは叫びを上げる。彼の悲願であった父シャルルの殺害を達成した為、ルルーシュの心はこれまでにないほど高揚していたからだ。同時に、シャルルを殺してしまったことで、自身が知りたかった真実を聞く機会も永久に失われた、ということも理解していた。

 

「殺してしまった…こんなにもあっさりと。聞きたいことがあった、詫びさせたい人がいた。なのに…」

 

「ほぉう、誰に?」

 

一人呟くルルーシュに言葉を返したのは、彼の目の前に倒れるシャルルであった。彼は閉じていた目を見開くと、ルルーシュを睨み付けた。

 

「小癪だな、ルルーシュ!」

 

死んだと思ったシャルルが目を覚ましたことで、ルルーシュは後退る。彼の目の前では、そのシャルルが立ち上がろうとしていた。

 

「生きている!?そんな…心臓を…」

 

「策略、奸計、奇襲。そのような小手先でわしを倒そうとは…王道で来るがいい!王の力を継ぎたいのであれば!」

 

立ち上がったシャルルはルルーシュの前に聳え立つ。シャルルの言葉を受け、ルルーシュは彼に直接ギアスで命じた。

 

「…死ねえぇっ!!」

 

「それが、王道かっ!?」

 

シャルルの二度目のギアスは、シャルルの体と思考を一切支配しなかった。彼は泰然と立ち、ルルーシュを見下ろしたままであった。

 

「ギアスが効かない!?くっ…」

 

その事実を目の当たりにしたルルーシュは、シャルルの後方に落ちていた、彼が自身の心臓を撃つのに使った銃を拾い、シャルルに向けて何度も引き金を引いた。しかしそれもシャルルの体を傷付けはするものの、彼は何事もなかったかのように立っている。

 

「分からんのかルルーシュ!もはやわしには剣でも銃でも、何をもってしても…無駄ぁ!!」

 

シャルルは右手の手袋を取り払い、掌をルルーシュに向けて見せる。そこにはC.C.の額にあるものと同じコードが現れていた。

 

「ぐあっ!」

 

ルルーシュは驚きの余り黄昏の間の階段を転げ落ち、床に叩き付けられていた。そして彼の思考は、数分前とは真逆の絶望に支配されている。

 

(あの男が不老不死に!?勝てない…勝てるはずがない!!)

 

そうして倒れたまま立ち上がれないルルーシュに向けて、シャルルが彼を見下ろしながら告げた。

 

「わしはギアスの代わりに新たなる力を手に入れた。故にルルーシュ、教えてやっても良い。この世界の真(まこと)の姿を。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼロはまだ見つからないのか!?」

 

零番隊副隊長である木下が声を荒らげる。しかし団員達から明確な答えが返ってくる事は無かった。嚮団施設周辺にはゼロの姿はおろか、蜃気楼すら見当たらない。変形し、暁では入れない狭いスペースにも捜索に入ったアレクサンダですら、情報の欠片すら得られないでいる中、ロックだけは下層ブロックに扉のようなものがあるのに気付いていた。

 

「…成程。奴が言っていたCの世界とやらか。ならば、捜索はするだけ無駄だな。零番隊と特務隊は捜索を中断し、施設外縁部へと集結しろ。」

 

「な、何故です!?このままゼロが見つからなければ…」

 

木下が反論するが、ロックは取り合わない。彼はこの状況を変えれる人間はこの中にいないことを理解しているからだ。

 

「いいから、ライを連れてこい。あいつしかゼロを見つけ、連れ帰る事の出来る人間はいない。」

 

「──了解。隊長に連絡を…」

 

言いかけたアキトの目には、まだ距離はあるもののこちらへ飛来する蒼月とヴィンセント・アソールトの姿が映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャルルの傍らに何やら基板のようなものが現れた。それに触れることで、ルルーシュの周囲は白一色に染められ、そこに大量の仮面が現れた。さらにその周辺を、多数の歯車が覆ってゆく。

状況が理解できずに狼狽するルルーシュの前に、シャルルが姿を現した。そのシャルルに向け、ルルーシュが問うた。

 

「ギアスとは何だ!?貴様は何を企んでいる!?」

 

「おかしなことよ。嘘にまみれた子どもが人には真実を望むか…?」

 

シャルルの姿が徐々にルルーシュに迫る。ルルーシュは咄嗟に身を引くが、シャルルの姿は消えてしまった。

 

「お前はゼロという仮面の嘘を手に何を得た?」

 

ルルーシュの問いに答えず、逆に問い返してくるシャルルの声に対し、ルルーシュは叫ぶように言葉を返す。

 

「手に入れた!ただの学生では到底手に入れられない軍隊を!部下を!領土を!」

 

「ユーフェミアを失った。」

 

「スザクやナナリーにも姿を曝せない。」

 

「何故嘘をつく?本当の自分を分かってほしいと思っているくせに。」

 

ルルーシュの周囲から、仮面が誰のものともつかぬ声で言葉を放つ。その言葉は、ルルーシュにとって突き付けられたくない真実だった。

 

「そう望みながら自分を曝け出せない。」

 

「仮面を被る。」

 

「本当の自分を知られるのが怖いから。」

 

ルルーシュの周りを、多数のルルーシュが囲んでいた。今やその声は、本物のルルーシュを囲む偽物のルルーシュから発せられていた。

 

「違う!」

 

「嘘などつく必要はないのだ。」

 

咄嗟に彼らの言葉を否定するルルーシュ。すると周囲を囲んでいた偽物のルルーシュが一瞬で全て消え去り、背後にシャルルが現れていた。

 

「何故なら、わしはお前でお前はわしなのだ。

そう、人はこの世界に一人しかいない。過去も未来も人類の歴史上たった一人…」

 

「一人?何を言っている!?」

 

シャルルの言葉が理解できず、また質問をぶつけるルルーシュ。そのシャルルとルルーシュのちょうど中間地点に、C.C.が現れた。

 

「シャルル、遊びの時間は終わりだ。私にとって、それにもう価値は無くなった。それを籠絡して私を呼ぶ必要もない。私は既に、ここにいる。」

 

冷たく、無表情で言い放つC.C.。そのC.C.の言葉を受けたシャルルは深く頷き、体を彼女へ向ける。

 

「そうだな、C.C.。お前の願いはわしが叶えてやる。」

 

「!?…C.C.の願いを知っているのか!?」

 

ルルーシュがシャルルにまた問いを重ねるが、それに答えたのはシャルルではなくC.C.だった。

 

「ルルーシュ、今こそ契約条件を、我が願いを明かそう。」

 

ルルーシュへ振り返るC.C.。そして彼の瞳を真っ直ぐ見つめ、自分の願いを口にした。

 

「我が願いは死ぬこと。私の存在が永遠に終わることだ。」

 

「何っ!?」

 

「ギアスの果てに、能力者は力を授けた者の地位を継ぐ。つまり、私を殺せる力を得る。数多の契約者は、誰一人としてそこまで辿り着けなかった。しかし、ここに達成人、シャルルがいる。」

 

「馬鹿な…お前は死ぬ為に、俺と契約したのか!?」

 

C.C.の願いが予想外であったことで、ルルーシュの頭は混乱の極みにあった。しかしC.C.はそんなルルーシュの様子を気にする素振りすら見せず、さらに言葉を重ねる。

 

「限りあるもの、それを命と呼ぶ。」

 

「違う!!生きているから命のはず!それに、死ぬ為だけの人生なんて悲しすぎる!!」

 

「死なない積み重ねを人生とは言わない。それは、ただの経験だ。

…お前に生きる理由があるなら私を殺せ。そうすれば、シャルルと同等の、闘う力を得る。」

 

C.C.の言葉に、ルルーシュは何も返せないでいた。自分の手でC.C.を殺すなど、考えてもみなかったことだ。そして考えていたとしても、彼にそれを実行することはできない。それだけ、ルルーシュにとってC.C.の存在は大きなものとなっていた。

 

「…さようならルルーシュ。お前は優しすぎる。」

 

決断出来ないルルーシュを見て、C.C.が別れを告げた。彼女の前にはいつのまにかシャルルが操作したものと同様の、基板のようなものが現れていた。彼女がそれに触れると、ルルーシュの姿は床に飲み込まれて消えていった。

 

「シャルル、何故V.V.のコードを奪った?」

 

ルルーシュが消えたことで二人きりとなり、元の場所へ戻ったC.C.が、隣にいるシャルルに問う。しかしシャルルは、その答えをC.C.に教えるつもりはないようであった。

 

「質問に意味があるのか?これから死にゆくというのに…」

 

「そうだったな。」

 

少し哀しそうな笑みをシャルルに向けるC.C.。そしてシャルルに歩み寄り、自身のコードを明け渡す準備をしようとしたその時、彼らの前に光が集った。

 

「…なるほど、黄昏の間か。ここなら、誰にも邪魔はされないと言うわけだ。」

 

そこに姿を現したのはライだ。彼はシャルルを睨み付け、階段に足をかける。その姿を見たシャルルはその場に膝を付いた。

 

「お初にお目にかかります、ライディース・リオ・ブリタニア様。私は現皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアと申します。」

 

シャルルの行動が意外だったライは、階段の途中で足を止める。自分の正体がバレているかもしれないとは思っていたが、まさか皇帝が跪くとは思ってもみなかった。

 

「…何のつもりかな?」

 

ライの問いに、彼は膝を付いたまま答える。

 

「私は、嘘のない世界を作る為にこれまで生きてきました。狂王と呼ばれる以前のあなた様が目指した、平等な世界の為に。そして今、C.C.が現れたことでその願いを遂げる時がきました。あなた様にも、それを是非見て頂きたい。」

 

シャルルがライに対して、自らの願いを説明する。それを聞いて、何をしようとしているのか理解したライは、彼の願いを否定した。

 

「……嘘のない世界、か。それは退化だよ。シャルル・ジ・ブリタニア。自分の全てを曝け出して、何事も隠さず送る人生など、理性を持たない動物と同じだ。」

 

ライも自分の考えに賛同してくれると思っていたシャルルは思わず顔を上げる。ライが目の前まで来たことを確認して立ち上がると、C.C.に顔を向けながら言葉を放った。

 

「私の望みを否定すると?あなたも望んでいた筈では…?誰しもが平等に、嘘を恐れなくても良い世界を。」

 

「残念だが、あなたと僕では守りたいものが違う。それに、進むことを諦めた世界を生きているとは言わない。あなたの我儘に付き合うつもりは、僕にはないよ。」

 

鋭い目付きを崩さぬまま言葉を放ったライ。シャルルは彼に向けて自身の右腕を見せ付けるように付き出した。

 

「しかしコードがここに揃っている以上、あなた様に止めることはできません。私は今こそ、自分の願いを…」

 

「確かに、僕にあなたを止めることは出来ない。だけど、C.C.を止めることが出来る奴なら、この世界にはいるんだよ!」

 

シャルルの言葉を遮って告げるライ。彼が右手を蜃気楼に向けると、その先に光が集まり始めた。

 

「…まさか、思考エレベーターを!?」

 

ライの行動に驚くシャルル。まさかCの世界で、彼がこの世界の意識を操れるなど、考えていなかったからだ。

 

「…ギアスと、そしてこの世界とは何年の付き合いだと思っている?この世界に二百年も繋がれていた僕が、この程度のことが理解出来ないとでも思っていたのか!?」

 

その言葉と同時に、蜃気楼のコックピットにルルーシュが現れた。

 

「C.C.!!」

 

ルルーシュが叫ぶ。しかしシャルルが手を振ると、蜃気楼に向かってピラミッドのような物が降り注ぐ。それでもって蜃気楼の動きを阻害しようというのだろう。しかしそれは、ライが再び蜃気楼に手を向けたことによって阻まれた。

それを見て慌てたシャルルが、C.C.の腕を掴む。すると二人の背後から、眩い光が溢れ出した。

 

「ルルーシュ、彼女を止められるのは君だけだ!自分を偽らない、本当の思いを彼女に!」

 

蜃気楼に向かって叫ぶライ。ルルーシュは蜃気楼のコックピット内で頷くと、再び二人に目を向けた。

 

「答えろC.C.!何故俺と代替わりして死のうとしなかった!?俺に永遠の命という、地獄を押し付けることだって出来た筈だ!

俺を憐れんだのか!?C.C.!!」

 

ルルーシュの言葉を受け、C.C.は目に涙を浮かべる。それを見たルルーシュは、心のままに彼女へ言葉を続けた。

 

「そんな顔で死ぬな!最後くらい笑って死ね!!

必ず俺が、笑わせてやる!!だから!!」

 

その言葉がとどめとなった。彼女はそれを聞いて、シャルルを突き飛ばして蜃気楼に走り寄った。

 

「どういうつもりだC.C.!?」

 

C.C.が突如考えを変えたことで、今までの余裕が嘘のように動揺するシャルル。その彼に向かって、蜃気楼がハドロン砲を構えていた。

 

「これ以上、奪われてたまるか!!」

 

蜃気楼のハドロン砲は、シャルルの後方にある遺跡を破壊する。それを見て、シャルルが怒りを露にした。

 

「なんたる愚かしさかぁ!!ルルーシュ!!ライディース・リオ・ブリタニアァァァァ!!」

 

しかしルルーシュは既にコックピットから身を乗り出し、C.C.の手を取っていた。それと同時に、ルルーシュとC.C.、それに蜃気楼に触れていたライは現実世界へ戻っていた。

そこが嚮団施設内であることを確認したルルーシュは、意識を失って倒れるC.C.を揺さぶり、声をかけた。

 

「…おい、戻ってきたんだC.C.。しっかりしろ!」

 

それによって目を開いた彼女は、まるでルルーシュが見知らぬ相手であるかのように後退った。

 

「…ど、どなたでしょうか?新しいご主人様ですか?」

 

いつもとは全く違った様子のC.C.に、ルルーシュは言葉を失う。しかしそんな彼の様子に気付くことなく、怯えたような目で彼を見ながら、C.C.が言葉を続けた。

 

「出来るのは、料理の下拵えと掃除、水汲みと、牛と羊の世話、裁縫…文字は少しなら読めます。数は二十まで…死体の片付けもやっていました。」

 

理由は不明だが、C.C.は記憶を失い、奴隷時代の彼女まで戻ってしまったようだ。必死に自分の出来ることを伝えようとするC.C.を見て、ライが口を開いた。

 

「もしかすると、自分で記憶を閉じてしまったのかもしれない。」

 

彼女の前に膝をつきながら、ルルーシュに伝えるライ。彼のその言葉に、ルルーシュは我を取り戻した。

 

「自分で記憶を閉じた!?何故だ!?」

 

「推測だけど、それが君を守る為だったんじゃないかな?皇帝に、利用されない為に…」

 

それだけ告げると、ライは顔をC.C.に向けた。

 

「C.C.、怯えなくていい。僕らは、君を傷付けるつもりはない。とにかく、一旦帰ろう。」

 

ルルーシュとC.C.を立たせ、蜃気楼の元へ歩かせるライ。ふとそこで、ルルーシュに話しておかなければならないことを思い出した。

 

「…ルルーシュ。以前話した、僕が殺した筈の妹が、生きていた。」

 

「何っ!?」

 

ライの言葉に、ルルーシュは今日何度目か分からない驚きの言葉を口にする。彼の妹の遺体は、彼が直接その目で確認したと言っていた筈だ。

 

「彼女が生き延びたのも、ギアスの力だ。そのあと、彼女は僕と同様に現代まで封じられていたようなんだ。

とりあえず、斑鳩に戻ったら紹介するよ。」

 

ライは言い終えると蒼月に乗り、滞空するヴィンセント・アソールトの元へ飛翔していった。

 

「あいつの妹が…最近では、最もいいニュースだな。」

 

思わず笑みを溢したルルーシュを、C.C.が不思議そうな顔で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皇帝陛下が行方不明!?」

 

驚きの声を上げたのはギルフォードだ。彼の言葉を、ナナリーが認めた。

 

「先程、シュナイゼル宰相閣下より連絡を頂きました。当面は、ここにいる人だけの話とさせて下さい。帝国本土でも、極一部の方しか知らされていないようですから…」

 

「中華連邦への攻撃準備はどうなさるのです!?皇帝陛下が宣戦布告をされねば、こちらからは手が出せませんよ!」

 

グラストンナイツのエドガーが疑問を口にする。それに対し、答えを見付けられずに言い淀むナナリーに、ローマイヤが強い口調で告げた。

 

「こんなことがナンバーズに知られたら事ですから、方針を決めて頂かねば。ナナリー様は総督なのですから!」

 

「そんな言い方って…!」

 

ローマイヤの言い様に、正式にナナリーの選任騎士となったサーシャ・ゴットバルトが不満を口にする。それに続いてアドニスが、ローマイヤに鋭い目を向けながら口を開いた。

 

「随分と上からの物言いですね、ミス・ローマイヤ。不敬ですよ。」

 

アドニスの言葉とあまりの視線の鋭さに、ローマイヤ思わずはたじろいだ。

 

「い、いえ…そんなつもりは…」

 

その会話を聞いていたスザクは考え込む。皇帝がいないということは、ナナリーはひとまず安全ということだ。彼はリフレインの使用を止められた後も、機情の指令室へ訪れて局員にギアスがかけられていることを確認することで、ルルーシュがゼロであると確信し、その考えに至ったのだった

 




SIDE Rock episode1、V.V.の台詞をちょっとだけ変更しました。


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episode24 Be yourself

「やった…ブリタニアのこの動きは皇帝が不在だということ。あの時、向こうの世界に置き去りになったようだな。

あいつが言っていたことは気になるが、今はナナリーの安全を喜ぶべきか…」

 

そう言いながらモニターを眺め、背凭れに凭れかかるルルーシュ。そのルルーシュに、C.C.がおずおずと質問をした。

 

「あの…私は何をすれば…?」

 

「そうだな…服を裏返しに着て、歌いながら片足で踊ってもらおうか。」

 

その質問にいつもの調子で冗談を返すルルーシュ。しかしC.C.はそれが冗談だと理解できず、素直に従おうとした。

 

「はい、ご主人様。」

 

返事をすると、服を脱ごうとするC.C.。本気に取ったC.C.を見て、慌てたルルーシュが彼女に駆け寄る。

 

「よ、寄せ!冗談だ!」

 

「きゃあっ!!」

 

しかしルルーシュが近付いた事に驚いたC.C.は、声を上げながら尻餅をついた。彼女は震えながら、謝罪の言葉を口にする。

 

「ごめんなさい!だからひどいことしないで…」

 

彼女のその姿を見たルルーシュは、ライがしたように彼女の前で膝をつき、目線を合わせた。

 

「安心しろ。あの男の言った通り、俺は君にひどいことはしないよ。約束する。」

 

その時、ジェレミアからルルーシュへ通信が入った。

彼の言葉を受けて斑鳩の一室に訪れたルルーシュの前には、椅子に縛り付けられたコーネリアの姿があった。

 

「お許し下さいルルーシュ様。ご命令は殲滅とのことでしたが、ブリタニア皇族を手にかけることは…」

 

「いや、むしろよくやってくれた。」

 

謝罪を口にするジェレミアだが、ルルーシュはむしろこの状況を喜んでいた。ブリタニアに対して、使えるカードが一枚増えたからである。

 

「ルルーシュ、お前はその呪われた力で何を望む?」

 

「姉上、俺はただ、妹を助けたいだけなんですよ。」

 

コーネリアの問いに、ルルーシュが答える。ただそれは、腹違いの妹であるユーフェミアを殺した上での言葉だ。コーネリアが納得する筈がないことは、ルルーシュも理解していた。

 

「何を今更…」

 

「ジェレミア、俺は合衆国憲章の確認作業をする為にライの元へ行く。何かあれば、あいつに連絡を。」

 

「承知致しました。」

 

ジェレミアに告げ、仮面を被って部屋を後にするルルーシュ。彼は真っ直ぐに、ライの元へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「木下。それ、血の痕ですよね?」

 

「朝比奈さん…」

 

格納庫で月下の整備をする0番隊副隊長、木下に問いかけたのは四聖剣の朝比奈だ。木下の月下には、わずかだが血痕がついている。朝比奈はゼロの極秘行動により、合衆国憲章の批准や、各地への進軍が遅れたことを訝しんでいた。そこで、その作戦に参加していたと思われる木下に声をかけたのだ。

 

「何だったんです?ゼロの作戦って。それに、あのナイトメア…」

 

朝比奈が指差した先には、ヴィンセント・アソールトがあった。その機体のパイロットについても、朝比奈を含む騎士団員達は何も説明を受けていない。

 

「…今回の作戦は、ライさんが指揮をとっておられました。作戦を極秘とすると決められたのも彼です。誰かに聞かれたら、自分に聞けと伝えるようにと…」

 

木下の返答に、朝比奈はさらにキナ臭いものを感じた。しかしゼロと違い、普段から隠し事をしないライがそこまで言うのなら、よっぽどの事であるということも理解できた。朝比奈は木下から聞き出すのを諦め、彼の元を去った。

なお、捕らえた研究者や子ども達は、ゼロのギアスによってギアスに関わることを全て忘れさせた上で、研究者は蓬莱島の監獄に、子ども達は孤児院に預けている。

去っていく朝比奈の後ろ姿を見ながら、木下は深く息を吐いた

 

 

 

 

「合衆国憲章はこれでほぼ完成かな。後は各国代表に通達するだけだが…」

 

書類を机に置き、目の前に座るルルーシュに告げるライ。彼の言葉に頷き、ルルーシュは書類を受け取った。

 

「まぁ、形だけでも合議制を採用したことで、反対する国もいなくなるだろう。これで、ブリタニアに攻勢を掛けられる。」

 

そう言って笑うルルーシュを、ライが幾分か厳しい目付きで見ながら告げる。

 

「しかし、油断するなよルルーシュ。皇帝があちらに閉じ込められたというのはあくまで推測でしかないんだ。Cの世界は、人の思考によって…」

 

ライが言いかけた時、彼の部屋の扉が開いた。入ってきたのはルーンである。彼女はライに歩み寄ると、徐に背後から彼に撓垂れ掛かった。

 

「…ルーン、何の用だ?」

 

彼女の行動を不審に思ったライが問う。それに対して、ルーンは微笑みながら答えを返した。

 

「お兄様の仕事ぶりを見に来たのよ。いけないこと?」

 

ライの耳元に顔を寄せ、囁くように告げるルーン。それを見たルルーシュがあらぬ勘違いをした。

なお、ライによってルーンは既にルルーシュに紹介されている。

 

「お前達、本当に兄妹なんだろうな?そんな姿、カレンに見られたら…」

 

「カレン?」

 

ルルーシュの言葉を聞いてそちらに顔を向けたルーンが、顔を険しくさせた。そしてライに向き直ると、彼の首を軽く絞めながら、攻めるような言葉を口にする。

 

「──お兄様、私という者がありながら…」

 

彼女の言葉に、ため息をつくライ。首にかかる腕を外すと、困ったような表情でルーンに返答した。

 

「今の君がそういうことを言うと、本っっっ当に冗談に聞こえないからやめてくれ。カレンの事は、彼女を助けたら紹介するから。」

 

その言葉とともに、椅子を引いてルーンから離れるライ。その行動に、ルーンが不満を露にする。

 

「…あらそう。私はお邪魔みたいね。部屋に戻るから、ゼロと二人でいちゃつきあってなさいな。」

 

それだけ言って、ライの部屋から出ていくルーン。その背中を見つめていたライが、右手で頭を抱えてため息をついた。

 

「あいつは…一体何しに来たんだ…」

 

ボヤくライに、ルルーシュが苦笑しながら自身の推測を告げた。

 

「…二百年以上離れていたんだから、甘えたいんじゃないのか?お前に。

なにしろ彼女には、この時代に信用出来る相手がお前しかいないのだからな。」

 

「そうだけど…かといってこれじゃ、僕の邪魔をしに来ただけだよ…」

 

苦笑いを浮かべるライに、ルルーシュが同意する。

 

「違いない。まぁとにかく、合衆国憲章も完成したことだし、各国代表と式典の確認をしてくるとしよう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライの部屋から少し離れた場所から、ゼロが彼の部屋を後にした事を確認した朝比奈は、このまま彼の部屋へ行くべきか迷っていた。

ゼロとライの行動で合衆国憲章の批准が遅れたのは事実だが、それを遅らせてでも必要な作戦であったのかもしれない。それにゼロならともかく、ライまで秘匿した作戦を無理に聞き出そうとすることは、彼が他者に知られたくないと思っている何かしらの事柄に、土足で踏み込むことになる可能性もあるからだ。

だが結局彼は、逡巡の末にそれでも彼の元へ行くべきだと判断し、歩を進めた。そしてドアをノックしようとしたその時、横から彼の腕を掴む手があった。

 

「…お兄様のことは、今はそっとしておいてあげてほしいのだけれど。」

 

いつの間にか、朝比奈の横に立っているルーン。朝比奈は彼女の方へ体を向けると、自身が知らされていない事による疑問を口にした。

 

「…お兄様?君は、彼の妹なのかい?」

 

「そうよ、死んだと思われてたみたいだけど。あなたは四聖剣の朝比奈さんね。」

 

自身の名前が知られていたことに少し驚く朝比奈だが、彼女がわざわざ自分を止めに来た理由を聞く為に、黙って先を促した。

 

「…お兄様は、カレンさんだったかしら?彼女が捕らわれているのに助ける手段どころか、その場所すら特定できていないことで自分をすごく責めているみたい。だからこそ、それを打ち消す為に仕事を山程抱えて…兄妹の感動の再会、なんて思ったけれど、私や、他の誰かでもその穴は埋められないみたい。だから…」

 

彼女は朝比奈から、ライの部屋の扉へ目を移す。彼女が先程ライの邪魔をしたのは、兄の精神状態を確認する為であったのだ。それと気付かれない為に、構って貰いに来ただけという態度を取ってはいたが。

彼女の言葉を聞いて、朝比奈も責任を感じていた。カレンと星刻が闘った際、目の前にいたのに彼女が捕らわれるのを止められなかったのは自分なのだ。それ故に、ライやゼロを疑う前に自分にはやるべきことがあるのだと気付いていた。

 

「…とは言え、妹である私すら頼らないなんて、ムカつくけどもね。朝比奈さん、暇があるならシュミレーターで一戦、どう?」

 

もっと強くならなければ。そう思った直後の朝比奈にとって、その言葉は渡りに船であり、すぐに彼女の言葉に同意して、ライの部屋の前を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼロ、こちらでしたか。」

 

式典の打ち合わせを終え、私室に戻ろうとしたゼロを呼び止めた騎士団員。彼の口からは、謎の来客が告げられていた。

 

「蓬莱島へ近付く不審船があったので拿捕したのですが、乗員の一人がライ特務隊隊長と知り合いだと…自分の名を出せば分かると言っているのですが…」

 

彼は元々ライの部屋へ行こうとしていたらしい。しかし道中でゼロを見付けたので、先にゼロに報告したようだ。

 

「ふむ…そいつの名前は何だ?」

 

「はい、チャド・ティーチー・タカムラだと名乗っていました。」

 

「チャド・ティーチー・タカムラ……タカムラ博士だと!?」

 

その名は、確かにライから聞いた名だ。東京決戦で破壊された月下をアオモリで改造し、ロックが騎乗する灰塵壱式の設計、建造も行ったという男だ。その男が、どうやらエリア11から抜け出し、こちらへやってきたらしい。

 

「すぐにそいつを会議室に連れて来るんだ。それと、ライにもこちらに来るように声をかけてくれ。」

 

「わかりました。」

 

ゼロの命を受け、彼は走り去った。30分程経った頃、彼は一人の老人を連れて現れた。

 

「おぉ、久しぶりやのぉ、ライ。それにお初にお目にかかるでぇ、ゼロ。」

 

「お久しぶりです。タカムラ博士。一体どうしたんです?」

 

「あなたがチャド・ティーチー・タカムラか。ライから話は聞いている。」

 

其々が挨拶を口にする。タカムラは よっこいしょ と言いながら席に着き、わざわざ危険を犯してエリア11を抜け出してきた理由を話始めた。

 

「以前話をしよった、新型が完成の目処が立ったからなぁ。やけど最終調整はあそこの設備では難しゅうて。やからここの設備を借りて、ついでにワレに合わせて調整しながら完成させたいっちゅう風に思ったんや。」

 

彼の言う新型とは、ラクシャータの月下、それをタカムラ自身が改造した蒼月のデータに基づいて造られたものだ。ライが騎士団の元へ駆け付けようとした頃にはすでに設計だけは成されていたが、これまでとは全く違う装備を追及した為に、今までかかっていたのだった。

 

「…その新型というのは、蒼月よりも性能が上なのか?」

 

ゼロが疑問を口にする。近々ブリタニアとの全面戦争に突入する為に、戦力は多い方がいいと考えるのは当然だった。

 

「そうやなぁ、完全に凌駕してるとゆうてええと思うでぇ。パイロットが同じなら、一分も保たんやろ。ただ、蒼月のコックピットをそのまま使うから、蒼月が使えなくなるけどな。」

 

その言葉を聞いたゼロは決断する。ライへ向き直り、彼にゼロとしての命令を下した。

 

「ライ、お前は今から博士と新型の調整に入れ。式典にも出なくていい。少しでも早く完成させて、その力でカレンを助けてやれ。」

 

「…!! ああ、分かった!」

 

その言葉を聞いたライは、タカムラと供に部屋を後にし、彼が持ってきたという新型の元へ向かった。

 

 

 

 

 

「…ホンマは、ロックの機体も持ってきたかったんやけどな。」

 

船に積んできたコンテナを斑鳩へ運び込む様子を見ながら、タカムラはライに伝える。

 

「彼の新型も建造してたんですか?」

 

「ふむ。やけど、ブリタニア軍に施設を急襲されてしもうて…持ち出せたのはこれだけやったんや。ロックには後で謝っとかんとあかんなぁ。」

 

タカムラは幾分残念そうに語る。ブリタニア軍から灰塵壱式の正体やその建造元を探られていたのは事実で、ライとロックが居なくなったことで移動や防衛の手段が無くなってしまった。その為にいつかはそうなるだろうと予測して新型の建造を急いでいたのだが、ブリタニア軍側もいつまでもやられてばかりはいられないと調査を奮励したのだろう。ナイトメアの積込作業中を襲われ、その作業が終わっていたライの新型しかこちらへ運ぶことが出来なかったのだ。

 

「博士のせいではないですよ。ロックも、灰塵壱式が気に入っているようだから文句は言わないでしょう。それより…」

 

ライの目の前で、運び込まれたコンテナが開かれる。そこには、蒼月よりも鋭角的なデザインのナイトメアが鎮座していた。

 

「ナイトメアフレーム蒼焔。これが、ワレの新しい機体や。」

 



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episode25 Mock battle

「久しぶりだな、ルーン。」

 

朝比奈と模擬戦をする為にシミュレーターの元へと訪れたルーンの目に入ったのは、200年前に死んだと思っていたロックの姿であった。

 

「あら、ナイト…いえ、ロックさん。聞いてはいたけど、実際に生きているのを見て話し掛けられると驚くわね。」

 

「お互い様だ。しかし、随分と背が伸びたな。」

 

「…まぁ、四年経ってるしね。あなたも、少しだけ老けたわ。」

 

ルーンの言葉に、ロックは片側の頬を上げて笑った。

 

「言ってくれるな。それより、今から模擬戦か?」

 

「ええ、こちらの朝比奈さんと。」

 

二人が知り合いだとは思ってもみなかった朝比奈は所在なさげに立っていたが、自分の事に言及された事で咄嗟にロックへと頭を下げた。

 

「そうか。なら、観戦させて貰うとしよう。お前や千葉の闘いぶりには、言いたいことも山程あったことだしな。」

 

ロックの言葉にやりづらさを感じながらも、朝比奈はシミュレーターへと入る。そして十分も経たぬ内に、彼は自分の立ち位置を思い知らされる事となった。

 

「嘘でしょ…」

 

ルーンを相手に、十連敗を喫した朝比奈。それも、全て秒殺と言っていい程無惨な負け方であった。

 

「お前の方が反応が鈍い。それならば相手の動きを予測して次の手を立てておくべきだが、それすらも出来ていないな。」

 

横から口を出すロックにも、衝撃の為に上手く言葉を返せない。それだけ、彼女と朝比奈の間には埋めがたい程の差があった。

 

「いくらライ君の妹だからって…ここまで差があるとは…」

 

何とか言葉を紡ぎだした朝比奈を見て、ルーンが声をかけた。

 

「もうやめにする?私の方は満足したのだけれど…」

 

「い、いや、まだ頼む!このまま終わったら、僕はいつまでも弱いままだ。」

 

操縦桿を握り直す朝比奈。それを見て、ロックがルーンに指示を出した。

 

「ルーン。少し長引かせてやれ。動きを学習させてやるんだ。」

 

「面倒ねぇ…まぁいいわ。」

 

向かってくるの攻撃をいなし、暁の周囲を旋回しながら攻撃を加えていくルーン。返しの斬撃を、自身の暁を側転させることで避けてみせた。

 

「何っ!?」

 

「いちいち驚いて動きを止めるな!どんな動きにも対応できる心構えなくして、闘いなどできるか!」

 

相手の予想外の動きに硬直する朝比奈に、ロックの檄が飛ぶ。モニターでは、ルーンの暁に蹴られ、壁面に叩きつけられる朝比奈の暁が映っていた。

 

「すぐに体勢を立て直せ!追撃が来るぞ!」

 

その声に反応して何とか機体をその場から離脱させる。直後に、今まで暁が倒されていた場所にハーケンが突き刺さっていた。

 

「相手の何が優れていて、何か自分が勝っていることはないか冷静に分析しろ。相手に合わせた闘い方を組み上げていけ。」

 

朝比奈の暁は回転刃刀を構え直し、ハンドガンで牽制しながら突撃した。しかし、交錯する瞬間には胴体を両断されていた。

 

「くそっ!…頼む!もう一度だ!」

 

「はいはい。」

 

朝比奈の必死な様子に、ルーンは楽しげに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまなかった!!」

 

カレンに深く頭を下げるスザク。その彼を見て、カレンは拳を振り上げた。

 

「何言ってんだ!やっていいことと悪いことがあるだろ!!」

 

彼女の拳を受けたスザクは、さらに繰り出されると予想される攻撃をも受け止めようと、その場に留まった。しかし、次の一撃はスザクの顔の前で止まっていた。

 

「フンッ!!抵抗しないところがホント腹立つ!」

 

拳を納め、椅子に戻ったカレン。唇から流れる血を拭ったスザクは、その程度で済むと思っていなかった為に、やや不審そうな表情で彼女を見た。

 

「…さぁ、私を殺しなさいよ。捕虜がナイトオブラウンズに手を出したんだから、覚悟はしてる。」

 

「まさか…いけなかったのは僕だから。ライも僕を信じてくれていたのに、一時の感情で君に…」

 

スザクのその言葉に、カレンはさらに怒りを現す。彼女からすれば、スザクのこの行動は彼の自己満足にしか映らなかった。

 

「あんたが彼を語らないで!あんたなんか、大っ嫌い!!」

 

カレンそう言われても、スザクは呆けたようにしばらくその場に佇んだままだった。

 

 

 

 

 

 

 

「…悩み事?」

 

庭園で座り込むスザクに、アーニャが話しかける。

 

「悩んでばかりだ。八年前に、自分の生き方を決めた筈なのに…」

 

「信じてるの?八年前の自分なんか。」

 

携帯電話を片手に、スザクの横に立つアーニャ。彼女はスザクを、どこか訝しげに見ていた。

 

「人の記憶なんて曖昧なもの。信じるほどの価値はない。九年前、私が書いた日記がある。」

 

携帯電話を操作し、その日記を呼び出すアーニャ。それを見ながらスザクに言葉を続けた。

 

「でも私にはこの記憶がない。」

 

「…えっ?」

 

「この日記によく出てくる人の名前も覚えていない。過去のデータを引っ張り出して写真も見たけど、それでも思い出せない。私の記憶と、データとしての記録は違っているの。」

 

その言葉を聞いたスザクは、一つの可能性に辿り着く。記憶を操作する、それは自身が目の前で見せられた力ではなかったか、と。

 

(──まさか、皇帝陛下のギアス!?何故アーニャに…?)

 

直後、スザクの隣にいたアーサーが前方に向けて威嚇をする。同時に、一本のナイフがスザクに向かって飛来していた。

そのナイフを、スザクは左手で受け止めてみせる。

 

「必要なものとは何だ?裏切りの枢木卿。それは命だ…」

 

スザクに向かって歩いてくるのは、ナイトオブテン、ルキアーノ・ブラッドリーであった。彼は挑発的な笑みを崩さず、先の攻撃を謝罪しようともしない。

 

「…白ロシア戦以来ですね、ブラッドリー卿。」

 

立ち上がったスザクは、険しい表情で挨拶を口にする。

 

「相変わらず女をオトすのは大得意らしいなぁ。例の虐殺皇女様も…」

 

「それ以上言えば、名誉をかけて決闘を申し込むことになります!」

 

ユーフェミアに言及されたことで、彼を睨み付けながら告げる。一方のルキアーノは涼しげな表情のまま、懐から数本のナイフを取り出した。

 

「ほぉう。忘れたのかな?私が人殺しの天才だってことを…血筋ってぇものを理解できないナンバーズ上がりが…」

 

その時、二人の中間地点にナイトメアが降り立った。そのナイトメアは通常のものより遥かに大きく、背後にはそれに負けない程の大きさの剣を背負っていた。

 

「これは、ギャラハッド!?」

 

驚きの声を上げるスザク。同様にそれを見たアーニャも驚く。ルキアーノを含め、来訪を全く知らされていたなかったのだ。

 

『二人とも、相手を間違えるな!』

 

ギャラハッドから声を上げたのは、ナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタインだ。

 

「ヴァルトシュタイン卿、どうしてここに…?」

 

『愚問だなアーニャ。黒の騎士団が攻め込むとすればこのエリアしかない。

ルキアーノ、ヴァルキリエ隊もその為に連れてきたのだろう。お前のスタンドプレーは戦場で示せ。今はシュナイゼル殿下指揮の元、我らが力を合わせる時。』

 

ビスマルクの言葉に、ルキアーノは笑みを交えて返した。

 

「分かってますよ。あなたが言われるなら…」

 

ルキアーノはスザクとアーニャに背を向け、その場を去った。そして彼が向かったのは、捕虜として捕らわれるカレンの元である。

ナナリーと楽しげに話していた彼女であったが、ルキアーノが現れたことにより、一瞬で表情を厳しくする。

 

「ほぉう。話には聞いていたがこんなお嬢ちゃんが黒の騎士団のエースとはねぇ…」

 

歩み寄るルキアーノを、ナナリーが制止する。しかしそれを半ば無視するように、彼は檻に近付いていった。

 

「あなたがブリタニアの吸血鬼さん?」

 

挑発的な言葉を口にしたカレンに対し、ルキアーノは余裕を持って切り返す。

 

「ああ、ここが戦場ならあんたの血も吸えたのに残念だよ。」

 

「で?私は本国送りってことかしら?」

 

「いや、人質としてしばらくここにいて貰う。人質に必要なものとは何だ?」

 

今やルキアーノは額を檻となっている強化ガラスに着けんばかりだ。彼は懐に手を入れ、自身の持つナイフをちらつかせる。

 

「そう、命だ。命さえあればその身体に何が起ころうと…」

 

「…そこまでです。あなたはどこへ行っても問題ばかり起こしますね、ブラッドリー卿。」

 

ルキアーノの後方より声をかけたのはアドニスだ。その顔には笑みを湛えてはいるが、身体から放つ雰囲気は明らかに怒気を孕んでいる。

 

「おやおや、これはこれはアーチャー卿。捕虜を好きにするのに何か問題でも?」

 

「彼女は枢木と自分が、このエリアで責任を持って管理している。あなたが手を出す権利はないと言ってるんですよ。」

 

「フン…皇族から外された賤民が偉そうに…」

 

そう返答したブラッドリーに対し、アドニスも臨戦体勢に入る。二人はしばらく睨み合ったが、諦めたルキアーノは一つ息をつくと、彼の前を去っていった。

 

「…礼は言わないわよ。」

 

アドニスに言うカレンだが、それを受けて彼も苦笑した。

 

「そんなつもりで助けたのではないがな。俺も、いらん恨みを買いたくないだけだ。」

 

ライとカレンの関係、そしてライの過去を知っているアドニスが答える。ライとは敵対しているが、とはいえ彼の力は純粋に認めており、恨み辛みで闘いたいわけではないというところだろう。

 

「まあしかし、あの男の実力は本物だ。俺以外に、敗れてほしくはないが…」

 

「ライがあんなのに負ける訳ないじゃない。…って、皇族!?あなたが!?」

 

カレンと同様に、それを知らなかったナナリーも驚きを隠せないでいた。だがアドニスは困ったように笑うと、言いにくそうに言葉を返した。

 

「…俺の、祖母が皇族だっただけだ。あまり誰彼構わず話さんでくれると有り難いが…」

 

そう言うと彼は、ナナリーとカレンの前から去っていった。

 

 

 

 

______________

 

 

 

 

「あ、あのっ…いってらっしゃいませ…」

 

オドオドとした調子ながら、ルルーシュに挨拶をするC.C.。その様子を見たルルーシュも、笑顔を浮かべて返事をした。

 

「…いってきます。」

 

彼はゼロの仮面を被り、部屋を後にする。向かった先は超合衆国設立の式典会場だ。なお、ライは機体調整、ロックとルーン、朝比奈は修行の為参列していない。

 

「最後に、合衆国憲章第十七条、合衆国憲章を批准した国家は、固有の軍事力を永久に放棄する。その上で、各合衆国の安全保障については、どの国家にも属さない戦闘集団、黒の騎士団と契約します!」

 

神楽耶の宣言に、ゼロがカメラの前に姿を現す。星刻や藤堂、香凛も彼の後に続く。

 

「契約、受諾した。我ら黒の騎士団は、超合衆国より資金や人員を提供して貰う。その代わり、我らは全ての合衆国を守る盾となり、外敵を制する剣となろう!」

 

カメラには、ゼロの言葉と同時に団員達それぞれの役職が流されていた。

ライはその中で、作戦補佐、第一特務隊隊長を兼任していた。現在は零番隊もカレンに変わって指揮しているが、その存在は公表されていない為、そこに記載はない。また、彼のファミリーネームは記憶喪失時代にそれを探してフラフラと歩き回っていたことにちなんで、ウォーカーとなっていた。

なお、ロックは第二特務隊隊長、ルーンとレイラは第一特務隊副隊長である。

 

「それでは、私から最初の動議を。」

 

神楽耶もカメラに振り向き、言葉を放つ。彼女は、黒の騎士団として最初に放つべき一手を発表した。

 

「我が合衆国日本の国土が、他国によって蹂躙され、不当な占領を受け続けています。黒の騎士団の派遣を要請したいと考えますが、賛成の方はご起立を!」

 

神楽耶の言葉に従い、各国代表全員が立ち上がった。その瞬間、黒の騎士団とブリタニア軍激突の場所が、日本に決定した。

 

「これにより、黒の騎士団に日本解放を要請します。」

 

「いいだろう。進軍目標は、日本!!」

 

しかし、参加者達が声を上げる中において、突如として会場のモニターが切り替わった。

 

『ゼロよ。それでわしを出し抜いたつもりか?』

 

そのモニターには、Cの世界に閉じ込められた筈のシャルルが映っていた。その姿を見たゼロは驚きの余り思わず後退る。

 

『だが悪くない。三極の一つE.U.は既に死に体、つまり貴様の作った小賢しい憲章が、世界をブリタニアとそうでないものに色分けする。

単純、それ故に明快。畢竟この闘いを制した側が、世界を手に入れるということ…』

 

ゼロだけでなく、星刻やディートハルトらも突然のことに飲まれ、言葉を失っている。藤堂だけが、後退るゼロを冷静に眺めていた。

 

『いいだろうゼロ。挑んでくるが良い。

全てを得るか全てを失うか…闘いとは元来そういうものだ。オールハイル・ブリタニアアァァッッ!!!』

 

シャルルの宣言に、それを見守るブリタニア軍人達も声を上げる。完全にシャルルに舞台を乗っ取られたと思ったその時、藤堂が声を上げた。

 

「日本、万歳!!」

 

それを受けた千葉や、騎士団員達も我を取り戻し、口々に叫びを上げる。

 

「「「日本、万歳!!」」」

 

団員達の声が響く中、ゼロは一人、と斑鳩の私室に戻って行った。

 




今日はこれで最後の投稿になると思うのですが、寝付けなければもう一話投稿するかもしれません。そうなった場合はまた読んで頂けると有難いです。


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episode26 Knight's of Euphemia

「皇帝が生きていた…!」

 

「あ、あのお帰りなさい…」

 

斑鳩の私室に戻ったルルーシュはパニックを起こしていた。彼はC.C.の言葉も、自分の部屋にライが来ている事にも気付いていない。

 

「落ち着けルルーシュ。こうなる可能性も予測していた事だろう。」

 

ライはそう言うが、正確にはライの忠告をルルーシュは重く受け止めていなかったのである。ルーンが邪魔をしたという事もあるが、シャルルはCの世界に閉じ込められ、ナナリーが安全になったという考えしか彼の頭には無かった。そしてライは、そうなった場合は闘って取り戻すしかないと腹を決めていた。

 

(いけない…今すぐにナナリーを助けなければ…今すぐに…)

 

だがルルーシュは、二人を無視してナナリーを救う方法を考える。そのルルーシュに、C.C.が一切れのピザを差し出した。

 

「こ、これ…ご主人様の分、取っておきました。朝ごはん、取られていなかったようでしたから…」

 

「うるさい!!」

 

ルルーシュが大声を放ち、C.C.の手にする皿を叩いた。驚いたC.C.は尻餅を着く。その指先からは血が流れていた。

 

「C.C.!」

 

咄嗟にライがC.C.に駆け寄る。ルルーシュも正気に戻った表情でC.C.に歩み寄った。

 

「ごっ…ごめんなさい!今綺麗にしますから…」

 

「そうじゃない…血が出ているじゃないか。」

 

「やったのは君だぞ、ルルーシュ。」

 

ライがルルーシュをジッと睨む。その視線に気付き、ルルーシュも謝罪の言葉を口にする。

 

「…すまない。」

 

「へ…平気です。これくらい、いつもより全然平気です。」

 

「いつもよりって…」

 

ルルーシュは、Cの世界で見せられた彼女の過去を思い出していた。彼女の心を守る存在によって見せられたものだが、それは奴隷時代からコード保持者になるまでの彼女の人生だ。

 

「でも…寒いときは助かるんです。ヒリヒリ熱いから…寒いと手足が動きにくくて仕事が…だから、平気です。外から痛い方が、中から痛いよりも…」

 

ルルーシュは思わずC.C.の手に自分の手を重ねていた。そして、彼女の言葉に涙しそうになる。ライは絆創膏を探していた。

 

「お前は中から痛い時、どうしていたんだ?」

 

「私は……友達がいたら、良かったんですけど。親とか兄弟と違って、友達なら後からでも作れるから…でも私にはそんな味方もいなくて…」

 

C.C.の言葉に、何かを思い出したような表情になるルルーシュ。ライも同様に、何かに気付いて二人の方へ振り向いていた。二人の表情に、C.C.が不安そうに言葉を続けた。

 

「あの…そう聞いたんですけど、違うんですか?」

 

「いや、違わない。それが友達だ。」

 

そう言って、ルルーシュは携帯電話を取り出した。

 

『…はい。』

 

「スザクか?」

 

ルルーシュが電話をかけた友達とは、スザクだ。既に袂を分かっているが、信用できる相手として、そして友達だった者としてこれ以上の人物はいない。

 

「その…ニュース、知ってるよな?」

 

『うん、これでエリア11はまた戦場になる。』

 

「東京租界も、危ないかな…?」

 

探りを容れながら会話を展開しようとしたルルーシュだが、スザクは真っ直ぐに本題を告げてきた。

 

『それは、君が決める事だろ?…ルルーシュ、君はゼロか?』

 

「……そうだ。俺がゼロだ。」

 

半ば予測していた事とはいえ、どこかで違って欲しいと願っていたのだろう。スザクは苦い表情で唇を噛んだ。

 

『…ブリタニアの敵が、僕に何の用だ?』

 

「頼む、ナナリーを助けてくれ。皇帝は俺を抑える為にナナリーを人質にしている。だから…俺は隠れて動くしか無かった!…頼むスザク!お前以外に頼める人間がいないんだ!」

 

スザクには見えないが、ルルーシュは何も映ってはいないモニターに向かって頭を下げていた。ただ、スザクからの返答はルルーシュが予測した通りのものであった。

 

『君の頼みなんか、僕が引き受けると思うのか!?』

 

「思わない…それでもお前しかいないんだ。」

 

『身勝手だな。』

 

「分かっている!しかし、お前しか…お前しか…!頼む!ナナリーを…守ってください!」

 

ルルーシュの懇願にスザクは少し考えて返答した。その答えに、ルルーシュは驚きと安心を覚える。

 

『──分かった。但し、条件がある。ナナリーを守れと言うのなら、ナナリーがいるこのエリア11に、君が一人で来るべきだ。場所は枢木神社。

二人っきりで、会おう。』

 

「…分かった。」

 

それを最後に、ルルーシュは電話を切った。ライに会話の内容を伝え、出発の準備をする。

 

「とりあえず、お前は有事に備えて蒼焔の整備を急いでくれ。決戦に間に合わせて、カレンを助けることだけを考えるんだ。彼女はおそらく政庁にいるだろう。」

 

「しかしルルーシュ…」

 

自分もバックアップとして着いていくと言おうとしたライを、ルルーシュが手で遮る。

 

「ジェレミアを連れていく。ちょうどあいつに一つ頼み事をしていた事だしな。それに、俺に何かあればお前にもナナリーの事を頼みたい。」

 

ルルーシュの覚悟を聞いたライは、表情を引き締めて返答した。

 

「…分かった。」

 

それに頷いて、ルルーシュは部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

鹿児島では、星刻率いる黒の騎士団の大部隊が日本奪還の為に進軍してきていた。

 

「敵は我が策に嵌まった。天医の方角が手薄になる筈だ。上陸部隊を取り付かせよ!」

 

星刻の指示に従い、九州、中国地方方面へ続々と部隊を進撃させる騎士団。ブリタニア側の指令室では、これほどの戦力を有していること想定していなかった士官達が慌てていた。しかしそれを、ビスマルクが一喝する。

 

「狼狽えるな!このエリア11を守りきれば、オデュッセウス殿下を始めとする全ての皇族、その軍隊も超合衆国領になだれ込む。他のナイトオブラウンズも、全て最前線に出ている。」

 

「逆に言うと、日本を解放すれば、ブリタニアの植民エリアは次々と決起します。世界地図が塗り変わるのです。」

 

ビスマルクと同様の事を考えていた神楽耶が、大竜胆内で呟く。その言葉を、戦況を見守りながらではあるが、天子や香凛が聞いていた。

 

「つまりは、ここが天王山。」

 

二人が同じ結論に至ったころ、騎士団の左翼側の戦線が、異常な突破力を持つナイトメアによって崩されていた。

 

「質問、お前の大事なものは何だ?」

 

「たっ…助けてくれ!!」

 

「そうだ、命だ!」

 

異常な突破力のナイトメア、ナイトオブテンであるルキアーノが駆るパーシヴァルが量産型暁を次々に撃墜してゆく。その様子を見た星刻は、別動隊を援護に回し、左翼を下がらせる。その星刻に対し、一直線に向かってきた機体があった。

 

「貴候が指揮官だな。」

 

その機体は、ナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタインの駆るナイトメア、ギャラハッドだ。

 

「頭を潰しにきたか!戦術の基本ではあるが!」

 

神虎を下がらせ、天愕覇王荷電粒子重砲を放つ星刻。しかしビスマルクはギャラハッドの背中に装備されている剣を抜き、なんと砲撃を斬り払ってしまった。

 

「これぞエクスカリバー!皇帝陛下直々に自ら名付けられた聖剣なり!」

 

そう宣言して構えを取るビスマルクだが、その直後に今度は自身が襲撃を受けた。

 

「ぬぅっ…!!」

 

右拳での一撃をエクスカリバーで防いだものの、ギャラハッドが押し込まれる。ビスマルクが見た先では、灰塵壱式が拳を突き出していた。

 

「…久しぶりだな。ビスマルク・ヴァルトシュタイン。」

 

「…ロック・グルーバーか。」

 

元より因縁のある二人だ。特にロックは、この時の為に生きてきたと言っても過言ではない。

 

「星刻、こいつは俺が貰う。お前は引き続き部隊の指揮を。」

 

「…頼んだ。」

 

ロックの言葉を受け、星刻はその場を離れる。それを確認したビスマルクはロックに言葉を放った。

 

「…私が指示を出した事ではない。」

 

だから自分を恨むのはお門違いだというのだ。しかしロックからすれば、そう単純な話ではない。

 

「お前に恨みがないとは言わん。だがそれ以上に、俺が間違っていなかったことを証明しなければならないのさ。あいつらの死を無駄にしない為に!」

 

灰塵壱式のが腰から長刀型のMVSを抜く。それを見たビスマルクも、エクスカリバーを構え直した。

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

枢木神社で相対するルルーシュとスザク。どちらも目線を合わせた瞬間、言葉に詰まったが、それでもスザクが先に言葉を紡いだ。

 

「…一人で来たのか?」

 

「約束だからな。」

 

スザクはここに来るまで、色々な思いが頭を過っていた。親友としてのルルーシュ、アッシュフォード学園で生徒達が自分を受け入れてくれる環境を作ってくれたルルーシュ、そして、ユフィを殺したゼロとしてのルルーシュ。自身の中に渦巻く思いをなんとか殺してルルーシュに相対したのだが、当のルルーシュはスザクのそんな様子には気付いていなかった。

 

「よく来られたね。」

 

「状況によって、31のルートが設定してある。特にブリタニアは、皇族関連のルートが緩いから…」

 

「違うよルルーシュ。」

 

自身の入国した状況を説明しようとしたルルーシュだったが、それはスザクによって遮られた。スザクが言った言葉の意味を、ルルーシュが理解していなかった為だ。

 

「よく僕の前に顔が出せるな、そういう意味だ。」

 

スザクの言葉を受け、ルルーシュは表情を引き締める。それと同時に思い出していた。スザクの自分に対する憎悪の深さを。彼にナナリーを助けて貰うには、まずその問題をクリアしなければならない。

 

「約束だから?今更君の約束が信じられるわけないだろう?」

 

「…だったら、何故お前は一人でここに来たんだ?お前だって!」

 

「…これ以上、嘘をつきたくないから。僕は、ナナリーに嘘をついた。君と同じように……最低だ。」

 

スザクは以前、ルルーシュとナナリーを電話で会話させた後、ナナリーからあれはルルーシュだったのではないかと問い詰められた。その時、目が見えない為に相手に触れることで感情が読めるナナリーに対し、彼女の手が触れようとするのを拒否したのだ。スザクは、自分の行いを後悔していた。

 

「何が友達だ!ずっと僕を裏切っていたくせに…僕だけじゃない。生徒会のみんなも、ナナリーも、ユ…ユフィだって!!」

 

スザクはルルーシュに、ユーフェミアの騎士であることを示す記章を突きつける。ルルーシュは、自身がゼロとして今まで行ってきたことの全てを、思い出さざるを得ない状況になっていた。

 



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episode27 Apologize

「あー…接続がうまくいってへんなぁ。」

 

斑鳩の格納庫では、蒼焔の最終チェックが行われていた。ライがコックピットでキーを差して蒼焔を起動しようとしていたが、モニターには何も映らず、コックピット内には通信すら入らない。

 

「…ライよ、一旦降りてくれんか?どこが接続出来てへんのか確認するでな。」

 

タカムラの言葉に従い、蒼焔から降りるライ。ラクシャータの指示を受けて蒼焔の調整を手伝っている整備員達が、コックピットを取り外しにかかる。

 

「博士、すごく申し訳ないんですが…僕達はこれから戦争に…」

 

ライがタカムラの様子を伺いながらおずおずと告げる。それを見たタカムラも頷きを返し、しかしどこか余裕のある表情で彼を見た。

 

「わかっとるて。ただ、この蒼焔やったら一機で戦況を変えることも可能や。だから、多少遅れても大丈夫やと思うけどなぁ。」

 

それほどの戦力だから、自身が遅れることで騎士団が苦戦することがあっても大丈夫だと言うのだ。その性能を体感していないライは半信半疑のまま、整備員達と共に調整を急ぐしか無かった。

 

 

 

 

_____________

 

 

 

 

「確かめたい。君がユフィにギアスをかけたのか?日本人を虐殺しろと…」

 

スザクの問いに、ルルーシュはやや視線を逸らしながら答えた。

 

「ああ、俺が命じた。」

 

「何故そんなギアスを…答えろ!」

 

ルルーシュはスザクと、ユフィの記章から視線を外したまま、それでも彼の問いに返答する。それはゼロとして、友達や家族を裏切っていたことの告白だった。

 

「日本人を決起させる為だ。行政特区日本が成立すれば、黒の騎士団は崩壊していた。」

 

「人間じゃない…」

 

ルルーシュの独白に、スザクは目に涙を浮かべながら自身の思いを口にした。ただ、ユーフェミアの件に関してはギアスの暴走に気付かなかった為に起こった事故だが、ルルーシュはあえてその部分を省いて説明していた。

 

「君にとってはユフィすら、野望の為の駒に過ぎないのか!?」

 

「そうだ、全ての罪は俺にある。だが、ナナリーは関係ない!」

 

「卑怯だ!ナナリーをだしにして…」

 

罵倒を続けようとしたスザクの前で、ルルーシュは腰を落とし、正座した。そして、スザクに懇願の言葉を口にする。

 

「スザク、すまない…俺は今、生まれて初めて人に頭を下げている。恥も外聞もない。これ以上は何もいらない。だからナナリーを…」

 

そのルルーシュの頭を、スザクが強く踏みつけた。ルルーシュの顔が砂利に押し付けられるが、スザクはそのままさらに力を込めた。

 

「今になって…何だそれは!許されると思っているのか!?こんなことで…」

 

「思わない…でも、今の俺にはこれしか…ナナリーを救うにはお前に縋るしかないんだ!」

 

スザクに踏みつけられたまま、ルルーシュはスザクに返答する。しかし、スザクが足から力を抜く様子は無かった。

 

「僕が、俺が許すと思うのか!?みんなが許すと思っているのか!?お前に惑わされた人達が…死んでいった人達が…ユフィだって!」

 

スザクは自身の言葉と共に、なおも足に力を込めた。ルルーシュはそれに対して呻き声は上げるものの、反抗するそぶりは見せない。

 

「今更謝るぐらいなら、ユフィを生き返らせろ!今すぐだ!お前の悪意で世界を救ってみせろ!今すぐに!君は奇跡を起こす男ゼロなんだろう!?」

 

「奇跡なんてない…全ては計算と演出。ゼロという仮面は記号なんだ!嘘をつくための装置に過ぎない…」

 

「何が装置だ!そんな言い訳が通ると思うのか!嘘だというのなら、最後まで突き通せ!」

 

そう言うと、スザクはルルーシュの頭から足を退け、彼の胸ぐらを掴んで顔を起こさせた。

 

「しかし、過去には戻れない。やり直すことはできないんだ!!」

 

ルルーシュの言葉を受け、スザクは彼を突き放した。鳥居の手前に倒れるルルーシュに向かって、スザクはさらに問いを重ねる。

 

「答えろルルーシュ!何故俺に、生きろとギアスをかけた!?何故だ!?

お前が命じた生きろというギアスは、俺の信念を歪ませた。何故そんな呪いをかけた!?」

 

ルルーシュは上体を起こし、スザクの問いに答えた。

 

「俺が、生き残りたかったからだ。」

 

「クロヴィス殿下暗殺の罪に問われた、俺を助けたのは!?」

 

「日本人を、信用させる為だ。」

 

「ホテルジャックから、生徒会のみんなを救ったのは!?」

 

「黒の騎士団のデビューに、利用できると思ったからだ。」

 

スザクの問いに対し、ルルーシュは考えうる最悪の答えを続ける。しかしその様子を見たスザクは、ルルーシュが自身が罰を受ける為にそうしていたのを見抜いていた。

 

「…嘘だな。…ルルーシュ、君の嘘を償う方法は一つ。その嘘を本当にしてしまえばいい。君は正義の味方だと嘘をついたな。だったら、本当に正義の味方になってみろ。ついた嘘には、最後まで…」

 

「…しかし、どうすれば?」

 

倒れたルルーシュの横に、スザクが膝をつく。そして、彼の眼をまっすぐ見て自身の答えを告げた。

 

「この闘いを終わらせるんだ。君がゼロなら…いや、ゼロにしかできないことだ。世界が平和に、みんなが幸せになるやり方で。そうすれば、ナナリーを…」

 

スザクは、ルルーシュに右手を差し出した。

 

「助けて、くれる…?」

 

「ナナリーの為に。もう一度、君と…」

 

その言葉を受け、ルルーシュはスザクの手を取ろうとした。

 

「すまない。だがお前となら、どんなことでも…」

 

二人の手が触れようとしたその時、一発の銃弾が二人を遮った。

それに気付いたスザクが周囲に目を向けた時には、三機のガレスが二人を囲んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「このヴィンセント・アソールトって機体、随分ピーキーな設定だねぇ。そんな機体のパイロットがまさかあんたみたいなお嬢ちゃんだとは思いもしなかったけど…」

 

タブレットからデータを引き出しながら、ラクシャータはどこか嬉しそうに告げる。彼女の前に立つルーンも、微笑を浮かべたままそれに答えた。その後ろにはリョウが控えている。

 

「これでも、お兄様の機体よりはマシな方だとは思いますけど…」

 

「へえ…やっぱりあの話、あんたがライの妹だってのは本当だったんだねぇ。確かに、戦闘データや機体設定は随分似ているとは思ってたんだけどさぁ。」

 

ラクシャータは蒼月とアソールトのデータをタブレットで比較している。ルーンも横から、そのデータを覗き込んだ。

 

「うーん…これを見ると、私もまだまだだと分かるわね。それにしてもお兄様の戦闘データ、凄まじすぎて気持ち悪いわ。」

 

彼女の言葉に、ラクシャータは笑い声を上げた。

 

「フフフッ…あのコにそんな事を言えるのはあんたぐらいかもねぇ。で、あんたはこの黒の騎士団で、何をするつもりなの?」

 

「私がする事は一つだけ。お兄様の助けになるだけです。その為に、会ったことはないけれど…カレンさんを助けるのに全力を尽くす。その後の事は、その時考えます。」

 

ルーンの答えに、ラクシャータはさらに笑顔を強くする。

 

「あんた達兄妹って、人間らしくて本当におもしろいわぁ。あ、そうそう。リョウ、前にあんたの戦闘データがアレクサンダ向きじゃないって話をライから聞いてると思うんだけど…」

 

ルーンからリョウへと視線を移したラクシャータは、ヴィンセント・アソールトの隣に立つ機体を指差した。

 

「そのデータに基づいてあたしがあんた専用に作ったのがあのナイトメア、牙鉄よ。」

 

牙鉄と呼ばれたナイトメアは、カラーリングこそリョウが以前騎乗していたアレクサンダと同系統だが、骨太な見た目がいかにも近接戦闘用である事を表していた。

 

「アレが俺の…」

 

「そうよぉ。データは送っといたから、ちゃんと見といてね。じゃああたしはアソールトの整備を見てくるわ~。」

 

タブレットを手に去っていくラクシャータに、ルーンとリョウは深く頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『そこまでだゼロ!すでに正体は知られているぞ!』

 

ガレスから声が響く。それと同時に、ブリタニアの歩兵がスザクを守るように現れていた。

 

「スザク…お前、初めから!!」

 

騙された。そう思って声を上げるルルーシュを、歩兵達が拘束する。それを見たスザクは歩兵達にやめさせる為に命令しようとしたが、それは彼の後ろから現れたシュナイゼルの副官、カノンによって止められた。

 

「立派な功績を上げられたわね、枢木卿。これで戦争は終わったわ。」

 

二人のやりとりを見たルルーシュの目には、明らかな憎悪が宿っていた。今まで自分の嘘を否定してきたスザクが、自分に対して同じことをしていたと確信したからだ。

もちろん、これはスザクの計らいではなくシュナイゼルの策略なのだが、今のルルーシュにはそれに気付ける余裕はない。

 

「そうか、俺をまた売り払うつもりで…裏切ったなスザク…俺を裏切ったなあぁぁぁ!!!」

 

 

 

『悲しいね。皇族殺しのゼロ。その正体が我が弟とは。なんという悲劇か…

だがルルーシュ、皇帝陛下には私から取り成そう。もちろん、お咎めなしとはいかないだろうけど、命だけは救ってやれるかもしれない。』

 

ルルーシュは車に押し込まれ、モニターに映るシュナイゼルと対面していた。

 

「哀れむつもりですか、俺を!?」

 

『ルルーシュ、私は今でも君の兄のつもりだよ。悪いようにはしない。私を信じてくれないか?君の兄を。』

 

「残念ですが兄上、私はもう信じることはやめたのです。友情は裏切られたから。」

 

そう言ったルルーシュは襟の部分に右手で触れる。

次の瞬間、ギルフォードが駆るヴィンセントが車両を斬り裂き、ルルーシュをその場から助け出した。ルルーシュは保険として、事前にジェレミアを使ってギルフォードを呼び出し、彼に自分が右手で襟に触れた際は自身をコーネリアと認識するよう、ギアスをかけていたのだ。

 

ルルーシュは付近の森に隠していた蜃気楼へ戻ると、ギルフォードと供に東京疎開へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

東京租界では、外縁部に集結した多数のサザーランドが砲口を飛来した蜃気楼に向けていた。

 

「俺が租界で何の目的もなく学生をやっていたと思うなよ。東京租界、今貴様を止めてやる!」

 

ルルーシュが手に持つスイッチを押すと、租界中で列車に装備されていたゲフィオンディスターバーが作動する。それにより、サザーランドやグロースターなど、対策を取れていない第五世代機と、東京租界の電力そのものが動きを止めた。

 

「よし、条件はクリアされた!藤堂!」

 

「承知した!漆号作戦開始!」

 

藤堂の命を受け、斑鳩が東京湾海底から浮上する。戦闘員達もそれぞれのナイトメアに騎乗した。

 

「…ライ君は?」

 

藤堂が南に問うが、彼は首を振る。

 

「新しい機体の調整に手間取っているようです。蒼月からいくつか部品を移したことで、その蒼月も使えなくなっています。」

 

それを聞いた藤堂は一つ息を吐き、南に伝言を頼んだ。

 

「彼らに機体の整備を急ぐよう伝えてくれ。とりあえず今は、我々だけで攻勢をかける。」

 

南が頷くのを確認し、藤堂は自身の専用機である斬月の元へ向かった。

 



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episode28 Blue flash

「何っ!?黒の騎士団が東京湾に!?」

 

灰塵壱式と闘うビスマルクが、その最中に入った情報に驚く。

その彼の元に、さらにルキアーノからの通信が入った。

 

「ヴァルトシュタイン卿、私と直属のグランサムヴァルキリエ隊を。」

 

ルキアーノはストレスが溜まっていた。戦闘開始当初こそ暁を撃墜して騎士団員を何人も殺害したが、損傷した自軍の戦艦を使って大竜胆を巻き添えにして撃墜しようとした所を星刻に阻止されて以降、彼の手によって自身の凶行は止められていたからだ。

 

「そんなに功績を挙げたいのか?」

 

「いえ、破壊したいだけなんですよ。」

 

ビスマルクは迷ったが、結局はそれを許可した。それにより、星刻が指揮に集中することが出来る状況に戻ったことで黒の騎士団はさらに攻勢を強めてきた。

 

「押し返せ!神虎を目標に攻撃を続けよ!」

 

ビスマルクが指示を出したのと同時に、灰塵壱式が突撃をかけてきた。ギャラハッドもエクスカリバーを振るうが、灰塵壱式のMVSとぶつかって止められてしまう。続く追撃をなんとか躱し、体勢を立て直してエクスカリバーを振るう。しかしそれも、灰塵壱式には届かない。先程から、同様のやりとりが何度も繰り返されていた。

 

「…流石だな。ロック・グルーバー。」

 

「流石だと?まだ俺もこいつも、底を見せたつもりはないがな。」

 

ロックから返ってきた言葉に、ビスマルクは笑みを浮かべる。やはりこの男は自身を脅かす実力を持っているのだと。

 

「まさか、マリアンヌ様以外にこの力を使う日が来ようとは…!」

 

ビスマルクの言葉と同時に、彼の左目を閉じていたピアスのような物が消滅する。そうして開かれた左目には、赤い翼のような紋章が宿っていた。

 

「…力?まさか、ギアスか?」

 

ライやゼロが持つものとは比べ物にならない程小さな力だが、それでも自身も同様にギアスを持っているロックはさほど驚かない。どんな力を持っていても、自分がそれを上回ればいいと考えているからだ。

 

「左様。この未来視のギアスで、貴様を家族の元へ送ってやるとしよう。」

 

「…やれるものならな!」

 

ロックは再度灰塵壱式を突撃させる。しかし放った斬撃は先程とは違い、軽々と避けられた。続く膝蹴りも捌かれ、エクスカリバーによる一撃を喰らう。なんとか反応して回避に移ったものの、灰塵壱式には浅くはない傷がつけられていた。

その灰塵壱式に、ギャラハッドが追撃を加える。いつの間にかエクスカリバーを左手だけで持ち、スラッシュハーケンになっている右手の指先を射出していた。

 

「ぬぅっ…!!」

 

咄嗟にガードすることで致命傷は避けたが、またしても灰塵壱式はダメージを負った。ロックは灰塵壱式をギャラハッドに接近させてMVSを振るうが、それも避けられて返しの斬撃をくらった。なんとか左腕のブレイズルミナスで防いだものの自身の劣性は明らかであり、ビスマルクも勝利を確信していた。

 

「投降しろ、ロック。貴様の敗けだ。命を無駄にするな。」

 

「投降だと?…ククッ…」

 

しかしロックは、その言葉を受けても笑ってみせる。不審に思ったビスマルクは、思わずその理由を聞いていた。

 

「…何がおかしい?」

 

「いや、あの時と同じだと思ってな。貴様は自身の力を過信し、少し有利になっただけで勝ったと勘違いをする。」

 

ロックの言葉は、ビスマルクには負け惜しみにしか聞こえない。しかし同時に、ロックが未だ余裕を崩していないのも気掛かりであった。

 

「…その言葉は、この状況から逆転できると言っているように聞こえるが?」

 

「だから、そう言っているのさ。貴様にギアスがあるように、俺にも奥の手があるかもしれないと何故考えない?まぁ、気付いたとしてももう遅いがな!」

 

ロックはコンソールを操作する。すると、灰塵壱式の眼部が緑色から赤色に変化する。加えて威圧感によるものか、ビスマルクの目にはこれまでより機体が大きく見えてさえいた。

 

「…リミット解除!!」

 

ロックの言葉と同時に、灰塵壱式の背部にはさらに二対のフロートが出現していた。脚部にも小型のフロートが現れている。

 

「何ッ!!?」

 

「行けいっ!!」

 

ビスマルクの目の前から、灰塵壱式の姿がかき消える。灰塵壱式はこれまで通り真正面から突撃しただけだが、先程までとはスピードにあまりにも差がありすぎた。

 

「ぬっ!!?」

 

そして気付いた時には、灰塵壱式はギャラハッドの懐に入っていた。灰塵壱式はこれまでとは段違いのスピードで、ギャラハッドに数え切れない程の斬撃、膝、脚を繰り出す。繰り出される連撃を防ぎきれず、ギャラハッドは攻撃を受けながら後退するしか無かった。

 

「…どこへ行った!?」

 

連撃が止まった一瞬を利用して体勢を立て直すビスマルク。しかし次の攻撃に備えようとした彼は、灰塵壱式を完全に見失っていた。そして気付いた時には、ギャラハッドの頭上から灰塵壱式が急降下してきていた。

 

「終わりだ!!ビスマルク!!」

 

振り下ろされたMVSを受け、ギャラハッドはエクスカリバーごと両断された。なお、ビスマルクはその直前に脱出している。

 

「…フン。脱出が間に合ったか。まあいい。今度こそ明確に俺の勝ちだ、ビスマルク。…そうだ、俺は勝ったぞ、カミラ。」

 

灰塵壱式のコックピット内で、拳を握りしめるロック。彼は沸き上がる興奮を抑え、星刻の部隊と合流した。

 

 

 

 

 

 

_____________

 

 

 

 

政庁では、ジノがカレンと面会していた。彼は、カレンに一つの報せを伝えにきたのだ。

 

「騎士団が来てくれた!?」

 

騎士団来襲の知らせに喜びを現すカレン。その姿を見て、ジノは彼女がブリタニアに寝返ってくることはないと確信した。事前に誘いをかけていたのだが、結局はフラれた形となってしまった。

 

「いい顔だ。君はそっちが本当みたいだなぁ。だが、君の望みは叶わない。この私と、トリスタンがいる限りは。」

 

「…いくらあなたがナイトオブラウンズでも、彼には勝てないと思うわ。」

 

ジノはカレンが言う彼という言葉がライの事を指している事を理解する。その上で挑戦的な笑みを浮かべると、マントを翻して彼女の前を後にした。

同じ頃、シュナイゼル率いるブリタニア軍の本隊は、ゲフィオンディスターバーの破壊に取りかかっていた。それさえ破壊すれば、戦況は逆転する。

また、彼の搭乗しているアヴァロンからはランスロットが発艦していた。

 

「やはり来たか、スザク。」

 

「聞こえるかゼロ、戦闘を停止しろ。こちらは重戦術級の弾頭を搭載している。使用されれば、四千万リータ以上の被害をもたらす。その前に…」

 

しかし、ルルーシュはスザクの言葉を遮った。

 

「お前の言うことなど信じられるか!ジェレミア!!」

 

「イエス・ユアマジェスティ!」

 

ルルーシュの命を受け、ジークフリートの改造機、サザーランドジークがランスロットに突撃した。

 

「ジェレミア卿ですか!?何故!?」

 

「枢木スザク…君には借りがある。情もある。引け目もある!しかしこの場は、忠義が勝る!!」

 

サザーランドジークの背面が開くと、そこから多数のミサイル発射口が現れた。

 

「受けよ!忠義の嵐!」

 

ミサイルをブレイズルミナスで防いだスザクは、ハドロンブラスターを放つ。しかし高い機動力を持つサザーランドジークには、簡単に避けられてしまった。

 

「ギルフォード、ジェレミアに加勢し、枢木スザクを討て!」

 

ルルーシュがギルフォードに命令する。しかしブリタニア軍と闘う自分に疑問を抱いていたギルフォードは、その命令にさらに動揺を深めた。

 

「しかし姫様、枢木は…!」

 

そのギルフォードを見て、ルルーシュは右手を襟元に持ってゆく。

 

「説明している時間はない。非常時だ、私を信じて闘ってくれないか?」

 

「イエス・ユアハイネス!」

 

ギルフォードはヴィンセントをランスロットに向けて突撃させる。しかしニードルブレイザーによる一撃を、ランスロット・クラブが防いだ。

 

「ギルフォード卿!一体どういうつもりです!?」

 

ギアスについてシュナイゼルやスザクから聞いていないアドニスは、目の前の光景が信じられなかった。彼がブリタニアを、そして皇女であるコーネリアを裏切るなど、考えられることでは無かったからだ。

 

「アーチャー卿、互いに主君を持つ身。悪く思うな!」

 

ギルフォードはランスロット・クラブに向けてMVSを振り下ろす。アドニスもMVSを抜いてその一撃を受けるが、それぞれの闘いに蜃気楼も参戦してきた。ルルーシュは、ランスロットには相転移砲、ランスロット・クラブにはハドロンショットを放っている。

それらを避ける二人だが、ランスロットはサザーランドジークの電磁ユニットによって捕らえられてしまった。

 

「よし、作戦通りここでスザクを始末すれば、ナナリーを取り返す障害は…」

 

言いかけたルルーシュが、蜃気楼の絶対守護領域を展開する。

間一髪防ぐことが出来たが、そこには大型のスラッシュハーケンが蜃気楼目掛けて射出されていた。

 

「ナイトオブラウンズの戦場に、敗北はない!」

 

トリスタンがサザーランドジークにMVSを振り下ろす。それを輻射障壁で防いだサザーランドジークだが、ランスロットはその隙に脱出していた。

 

「あの蒼月ってのはいないのか?こちらにとっては好都合だが…」

 

続いて攻撃を仕掛けてきたのは、ノネットの騎乗する専用機、ラモラックだ。ラモラックの持つ槍での一撃が絶対守護領域で止められたのを見ると、ノネットはそれを見て笑い、その槍であるバイデントを構え直した。

 

「なかなか堅いな。だが、これならどうかな!?」

 

ノネットの言葉とともに、バイデントの刃先にブレイズルミナスが現れる。これにより、大幅に威力と切れ味を増加させるのがバイデントの特徴だ。

 

「くらいな!!」

 

しかしノネットが再度放った一撃も、蜃気楼には届かなかった。

 

「今日はお兄様はお休みよ。私が代わりに相手をしてあげるわ。」

 

ヴィンセント・アソールトが蜃気楼の前でMVSを構え、バイデントを受け止めていた。

 

「…お兄様だと?義理の妹か何かか?」

 

ルーンはその問いには答えず、アソールトの両肩からハドロン砲を放つ。ラモラックはそれをあっさり避け、再度接近戦に持ち込もうと突撃した。

一方政庁周辺でも、制空権を奪うために朝比奈隊と千葉隊が、グラストンナイツ率いるガレス隊と激闘を繰り広げている。租界内では、他所でも戦闘の規模が徐々に広がりつつあった。

 

「答えてくれゼロ!自分が原因で、この闘いを始めたのだとしたら!」

 

スザクが必死の表情でゼロに問いかける。しかし、ゼロから返ってきた答えは無情なものだった。

 

「自惚れるな。お前は親を、日本を裏切ってきた男だ。だから友情すら裏切る。ただそれだけ…」

 

その直後、ルルーシュの目には信じられないものが映っていた。ブリタニアの航空空母が東京租界へと現れたのである。その艦は、グリンダ騎士団の旗艦、グランベリーであった。そのグランベリーから、ナイトメアが続々と降下を開始した。

 

「…エリア24のグリンダ騎士団だと!?馬鹿な!」

 

ルルーシュの言葉とほぼ同時に、蜃気楼のコックピット内に警戒アラートが鳴り響く。ルルーシュが見た先には、こちらへ一直線に向かってくるモルドレッドの姿があった。

 

「ええい!」

 

モルドレッドはシュタルケハドロンを構えたまま蜃気楼を押しやり、東京租界外縁部まで後退させてしまった。

 

「あなたのシールドが上か、私のシュタルケハドロンが上か…」

 

アーニャが言い終わると同時に、モルドレッドがシュタルケハドロンをゼロ距離で放つ。ルルーシュは蜃気楼の絶対守護領域を前方に展開していたが、さらにそれを強化して何とか耐えていた。

 

「こ、これは…いくら絶対守護領域でも…!」

 

その蜃気楼に、通信が入った。

 

『ゼロ、蒼焔の調整が終わった!すぐに援護する!』

 

「ライか!……いや、こちらはいい!お前は政庁へ行き、カレンを救出しろ!」

 

絶対絶命でありながら、ルルーシュはライの援護を断った。まさか断られると思っていなかったライは、戸惑いながらも返答した。

 

『しかし、今の状況で…!』

 

「お前には、いつもやるべき事を押し付け続けてきた。今だけは、やるべきことより、やりたい事を優先しろ!!カレンを助けるんだ!!」

 

『……分かった。扇さん、ゼロの援護には別の部隊を回して下さい!僕はこれから、政庁に突撃します!それから、特務隊はグリンダ騎士団を抑えろ!』

 

言い終わると同時に、蒼焔は斑鳩から発艦した。東京租界で闘うブリタニア軍や黒の騎士団員からは、蒼い彗星が夜空を切り裂くような煌めきが、一瞬だけ眼に映っていた。

 



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episode29 Mad qualia

「全機の降下を確認!これより、アーチャー卿の指揮下に入ります!」

 

ランスロット・グレイルに騎乗するオルドリンがアドニスへと呼び掛ける。グレイルの後方には、ブラッドフォードを始めとした大量のヴィンセントが続いている。ランスロット・クラブは彼らの前に飛来すると、全員へ命令を下した。

 

「全機、広く陣を敷いて東京租界から黒の騎士団を徐々に押し出せ!主力級とぶつかった場合には俺か枢木卿に連絡するか、もしくはオルドリンが対応しろ!行くぞ!」

 

アドニスの命令に従い進撃を開始するグリンダ騎士団。その前に、アキト率いる特務隊が立ち塞がった。

 

「隊長の露払いは、我々が…!」

 

アレクサンダがシュロッター鋼ソードを抜く。それに続いて、アレクサンダ・レッドオーガや牙鉄が突撃をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紅月カレンの抹殺は?」

 

ミス・ローマイヤが、傍らに立つ部下に聞く。

 

「ゲオルグ卿が。しかしよろしいのですか?ナナリー総督は…」

 

「総督の為です。中途半端な自己主張など…」

 

その言葉と同時に、政庁は大きな揺れに襲われた。立っていたローマイヤやその部下、そして、捕らわれているカレンも体勢を崩すほどの揺れだ。

カレンが驚きつつも体勢を立て直すと、目の前にはよろめきながら、銃を構えて自身の檻に向かってくる男の姿が見えた。

 

(…ここまでなの?お母さん、お兄ちゃん…ライ…)

 

その男であるゲオルグが檻の前でカレンに照準を合わせた直後、爆音が響いた。そちらを見ると、部屋の入口を破壊して、蒼いナイトメアが侵入してきていた。

 

「な、何故ナイトメアが!?」

 

動揺して動きを止めてしまったのがゲオルグの運の尽きだ。次の瞬間にはライがコックピットから飛び出し、一足飛びでゲオルグの目の前に現れていた。

 

「邪魔だ!!」

 

ライに殴られたゲオルグはその勢いで吹き飛び、落下していった。

ライはそれを確認すると、カレンに視線を移す。

 

「カレン、遅くなってすまない。助けに来たよ。」

 

「ライ!…来てくれるって信じてたから。」

 

ライが扉を開けると、カレンはライの胸に飛び込んだ。ライはそれをしっかりと受け止めると、彼女を強く抱き締めた。

 

「…君を失わずにすんで良かった。それと、中華連邦では援護が間に合わなくてすまなかった。」

 

「ううん。私も、勢いで飛び出しちゃったから…でも、心配してくれてありがとう。」

 

その言葉を聞いたライは、カレンからそっと体を離し、後ろを振り向いた。そこには手に小型のアタッシュケースをもった咲世子の姿があった。

 

「…カレン様にプレゼントをお持ちしました。」

 

そう言って彼女が開けたケースには、カレンのパイロットスーツが入っていた。ライの薦めで蒼焔のコックピットの中で着替えたカレンは、政庁の格納庫へと向かう。そこにあったのは大幅に改造されたと思われる紅蓮で、何も聞かされていなかったカレンはその場に立ち止まり、より鋭角的になった紅蓮を眺めた。

 

「…なんか、違う。」

 

一方蒼焔は政庁を出て、ゼロの援護に向かおうとしていた。しかし政庁の壁面から飛び上がろうとした蒼焔の前に、ランスロット・クラブが現れる。

 

「新型か。だが、止めさせて貰うぞ!!」

 

脚部に小型のフロートを出現させ、MVSで斬りかかるランスロット・クラブ。しかし振り下ろした先には穴の空いた、政庁の壁しか無かった。

 

「…何ッ!?」

 

蒼焔は、ランスロット・クラブの背後にいる。アドニスには、この新型がいつ自身の背後に回ったのかが見えなかった。

 

「アドニス、悪いがすぐに終わらせるよ。」

 

ライが言うと同時に、蒼焔の背部に蒼い翼が現れる。これは以前からセシル・クルーミーによってブリタニア内で提唱されていたエナジーウイングを、タカムラ博士が独自に完成させたもので、現在特派が開発しているものと同等の性能を誇る。

その蒼焔の右手から、蒼月に比べても大型化されたMVSが突き込まれた。ランスロット・クラブはブレイズルミナスで何とか防ぐが、とんでもないスピードで後方に押しやられ、ブレイズルミナスも徐々に崩壊してゆく。

 

「ば、馬鹿な…こんな…闘いにならない…」

 

間もなくブレイズルミナスは破壊され、左腕ごと貫かれた。その勢いに任せて後退してMVSを構えるも、すでにそこに蒼焔はいない。

咄嗟に背後に向かってMVSを振るうアドニス。しかし、そこにいた蒼焔は何も持たない左手で振るわれたMVSを掴み、破壊してみせた。アドニスはすぐにヴァリスを構えるも、蒼焔のMVSによって中心部から切断される。

半ばそれを予測していたアドニスは、蒼焔に向けて断たれたヴァリスを投げつけ、次の瞬間には右脚での蹴りを放つ。しかし蒼焔は投げつけられたヴァリスをシールドで防ぎ、ランスロット・クラブの蹴りも左手で受け止めた。そしてその右足を引き千切るように破壊すると、突きを放つ為に右腕のMVSを引いた。

 

「…こんな、こんなことがあってたまるか!!一撃すら……!!」

 

絶望し、死を覚悟したアドニスだったが、予想した衝撃は訪れなかった。

アドニスがそちらを見ると、ラモラックがバイデントで蒼焔の一撃を止めていた。

 

「早くアヴァロンに戻れアドニス!私とて長くは保たん!!」

 

ノネットの言葉に、アドニスは踵を返す。アヴァロンに戻れば、まだ戦場に戻る術はある。今はとにかく早くこの場へ戻り、ノネットを救い出すことをが最優先であった。

 

「あなたの正体を知ったからには、闘いたくはなかったのだが…」

 

呟きつつも、蒼焔のMVSを弾いてバイデントを構えるノネット。ライは無言でそれを見つめ、自身もMVSを構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーニャが騎乗するモルドレッドは、蜃気楼の展開する絶対守護領域にシュタルケハドロンを放ち続けていた。

 

「もう少しで……うっ…!?」

 

そのアーニャを、突如として謎の頭痛と強烈な目眩に似た症状が襲った。彼女は咄嗟に両手で頭を抱える。

 

「何かが…!!」

 

その言葉を最後に意識を失うアーニャ。操縦する者がいなくなったことで、モルドレッドはゆっくりと地表に落下していった。

 

「モルドレッドは…!?」

 

突如モルドレッドが墜落したことで、状況を確認する為にモニターを見ようとするルルーシュ。しかしその直後、彼を別の衝撃が襲った。

 

「ぐっ!!」

 

ルルーシュが周囲を見ると、ハーケンで蜃気楼の手足を拘束し、空中に固定する四機のヴィンセントの姿があった。さらに蜃気楼の正面に、ヴィンセントの改造機と思われる機体が飛来した。

 

「ゼロよ。ブラックリベリオンは失敗に終わる定めだったようだなぁ。」

 

「…!!またナイトオブラウンズが!?」

 

ゼロの前に現れたのは、九州で闘っていたはずのルキアーノと、彼の専用機であるパーシヴァルだ。

 

「教えよう。大事なものとはなんだ?それは命だ。」

 

パーシヴァルの右手に装備されている鉤爪のようなクローが回転し、ブレイズルミナスを発生させたルミナスコーンを構えた。直後にそれを蜃気楼に突き込むが、ルルーシュはギリギリで絶対守護領域を発生させ、なんとか防ぐことに成功する。

 

「ククッ…堅いだけのナイトメアフレームなど…ヴァルキリエ隊、絶対に離すなよ!」

 

(まずい…モルドレッドの時に消費したエナジーが…)

 

焦りながらコンソールを操作するルルーシュ。しかしそこへ、斑鳩から通信が入った。

 

『ゼロ!聞こえますか!?』

 

「こちらの援軍はどうなった!!?」

 

『間もなく玉城さんが…それより、太平洋上に敵影です!!』

 

「それがどうした!?」

 

『ゼロ、俺だ。』

 

オペレーターに変わって答えたのは扇だ。彼が出てくるということは、敵影はただの援軍ではないのだろう。しかし続く扇の言葉は、ルルーシュが全く予想していなかったものであった。

 

『敵影の正体は、ブリタニア皇帝の旗艦らしいんだ!』

 

「何ぃっ!?あいつもこのエリア11に!?」

 

その通信の直後、地上から玉城率いる暁隊の砲撃が行われた。

 

「ゼロを離しやがれ!テメーらは、この玉城真一郎様が…」

 

しかしパーシヴァルがシールドから放ったミサイルによって、暁隊は全て撃墜されてしまった。しかし、ルキアーノの注意が一瞬とはいえ逸らされたのも事実で、それを確認したルルーシュは絶対守護領域を解除し、相転移砲をパーシヴァルに向ける。

だが、それを読んでいたルキアーノは、右腕のルミナスコーンで相転移砲の射出口を破壊した。

 

「待っていたよゼロ!攻撃する瞬間にはシールドは張れまい!

さぁ、お前の大事なものを飛び散らせろぉ!!」

 

凶器の笑みを顔に貼り付けながら、さらにルミナスコーンを突き出すルキアーノ。四肢を固定されている蜃気楼は抵抗することができない。ルルーシュの頭は絶望に染まっていた。

 

「このポジションでは…!ナナリー!!」

 

しかしその直後、蜃気楼の四方を囲むヴィンセントが、高速で飛翔する紅い光によって全て撃墜された。

 





【挿絵表示】

こちらにも載せておきます。相変わらずスマホのカメラで撮っただけなので、見辛くて申し訳ありません。
蒼炎とありますが、蒼焔の間違いです。

蒼焔
全高5.29メートル
重量8.32トン
エナジーウイングは片方の翼にブレイズルミナスが3枚装備されている。他にも、腰に小型のエナジーウイングが一対
装備され、蒼月と比較しても機動力が大幅に上昇。また、ブレイズルミナスのカラーはブルー。
全体の出力も段違いに上昇しており、MVSは超大型兼超高出力MVSに、マイクロメーサーキャノンはブラストメーサーキャノンに強化されている。
ブラストメーサーキャノンは引き続き拡散させることが可能。


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episode30 Red arrow

「オラァッッ!くらえっ!!」

 

リョウの専用機、牙鉄が左前腕に装備された鉤爪状の三本のMVSを振るう。ヴィンセント・グリンダの一機を撃墜し、さらに突っ込んできた別のヴィンセントを右腕のルミナスコーンで貫いた。

 

「ハッ!ラクシャータの奴分かってやがるな!やっぱり俺には近接戦闘が性に合ってるぜ!」

 

暴れまわるリョウと牙鉄であったが、同時にそれなりの実力を持つパイロットと認識された事で、周囲にはヴィンセント・グリンダが集まりつつあった。

 

「今だ!やれ!」

 

そのさらに外側から、アシュレイを中心としたアシュラ隊の面々がジャッジメントでヴィンセントを撃墜してゆく。なんとか体勢を立て直そうとしたグリンダ騎士団は、ランスロット・グレイルを前面に押し立てて再度進撃を開始した。

 

「私に続け!包囲を突破するわよ!」

 

シュロッター鋼ソードを抜いてアシュラ隊へと向かうグレイル。だがその斬撃を、アレクサンダ・リベルテが受け止めた。

 

「ここは、通さない。」

 

グレイルを押し返そうとするアキトであったが、その直後にグランベリーから砲撃が行われた。ギリギリでそれを避けたアレクサンダであったが、グランベリーには狙撃用と思われるナイトメアの姿が見えた。グレイルと闘いながら狙撃を避け続けるのは、アキトの腕をもってしても至難の技である。

 

「当たらないか…だが、これならどうかな!?」

 

狙撃用ナイトメアであるゼットランド。そのパイロットであるティンク・ロックハートがアレクサンダを眺めながら口にした。ゼットランドはその機体において最大火力を誇るメガハイドロランチャーを構え、再びアレクサンダに向けて砲撃を行った。

 

「チィッ…!」

 

それも何とか躱したアキトであったが、退避先にはグレイルが待ち構えていた。シュロッター鋼ソードとハーケンを駆使した攻撃により、アレクサンダは徐々に追い詰められてゆく。

 

「アキトッ!」

 

アヤノがアキトの救援に入ろうとするが、彼女が搭乗するアレクサンダの目の前に、ブラッドフォードが割り込んでいた。

 

「邪魔するな!」

 

専用武器、オーガス・ロングレイをブラッドフォードに叩き込む。ブラッドフォードはそれをそれをデュアルアームズで受け止めると、すぐに斬撃を返した。

 

「こっちの台詞ですよ!鬱陶しいなぁ!」

 

レオンハルトが操縦するブラッドフォードの猛攻に押され、アキトのアレクサンダから遠ざかるアヤノが騎乗するアレクサンダ。そこへ、ビルとビルの隙間から狙撃用のリニアライフルを構えた、ユキヤが騎乗するアレクサンダから通信が入った。

 

「アヤノ、もう少し下がって。」

 

ユキヤの言葉に従ってアレクサンダを下げるアヤノ。追おうとするブラッドフォードを、リニアライフルの照準が捉えていた。

 

「ごめんね、仕事だから。」

 

しかしその直後、ユキヤが騎乗するアレクサンダの周囲を複数のヴィンセントが囲んだ。

 

「な…なんで…!?」

 

慌ててアレクサンダをインセクトモードへと変形させ、その場からの逃走を図るユキヤ。しかしヴィンセントは全機がフロートを装備しており、アレクサンダの三次元的な動きにも難なくついてくる。

 

「数が多すぎる…クソッ!よっぽど索敵に優れた奴がいるみたいだね…。」

 

ユキヤの予想通りグランベリーの真下にあるビルの屋上から、シェフィールドが索敵を行いつつ全体の援護を行っていた。

 

「隠れたってムッダだよ~!このシェフィールドから逃げれるなんてムリムリ!」

 

ソキアが騎乗するシェフィールドが敵の位置を炙り出し、グリンダ騎士団各機がそれを囲んで殲滅に当たる。兵数の違いに加え、情報面でも劣っている特務隊の面々は明らかに追い込まれつつあった。だがそのグリンダ騎士団の中央を突破し、グランベリーに突撃をかける機体をシェフィールドが捉える。

 

「ヤバッ!オズ、あの機体を止めて!」

 

その機体、ヴィンセント・アソールトはゼットランドからの砲撃をまるで幽霊であるかのように躱してゆく。慌てて後を追ったグレイルやヴィンセント・グリンダの姿を確認すると、ルーンはグランベリーの前を素通りした。

 

「何をっ…!」

 

行動の意図を図りかねて戸惑うオルドリンの前で、アソールトは振り返って両肩の砲口を開くと、一かたまりになっていたグレイルやヴィンセント・グリンダに向けてハドロン砲を放った。

 

「これで、少しは数が減ったかしら?」

 

先頭にいたオルドリンは咄嗟に反応出来たものの、その後ろに続いていたヴィンセント部隊は大半がハドロン砲の直撃を受けて爆散するか、地上へと墜落していった。その光景を見て、オルドリンは歯を食いしばってアソールトを睨み付ける。それとほぼ同時に何かに気付いたレオンハルトが、ブラッドフォードを蜃気楼の方角へと駆けさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手足が自由になったことで後退する蜃気楼。その蜃気楼を守るように、赤い翼を煌めかせながら紅蓮聖天八極式がパーシヴァルの前に現れる。その後ろを、ブラッドフォードが高速で通り過ぎていった。

 

「先日はどうも。ブリタニアの吸血鬼さん。」

 

「カレンか!?」

 

変わり果てた紅蓮の姿に、ルルーシュは驚きをかくせないでいた。ただ同時に、不意打ちとはいえヴィンセント四機を秒殺したその紅蓮が、明らかに以前のスペックを大幅に上回っていることも理解できていた。

 

「ゼロ!親衛隊隊長紅月カレン、只今をもって戦線に復帰しました!」

 

その光景を斑鳩から眺めていたラクシャータは、紅蓮の姿を見て怒りの言葉を口にする。

 

「プリン伯爵と、あれはセシルのエナジーウイングかい!?あいつら勝手にあたしの紅蓮を…!!」

 

その紅蓮に向かって、パーシヴァルがシールドからミサイルを放つ。しかし紅蓮はそれを軽々と避け、ハーケン式になった右腕をパーシヴァルに向けて射出した。

 

「おぉっとぉ。」

 

しかしルキアーノは、付近にいたヴィンセント・ウォードを盾にすることでそれを防ぐ。紅蓮はそのまま輻射波動砲弾を放ち、周囲を囲もうとしていた多数のナイトメアを撃墜した。

 

「イレブンよ。戦場の真実を知っているか?日常で人を殺せば罪になるが、戦場ならば殺した数だけ英雄となる。」

 

「ふぅん…ブリタニアの吸血鬼さんは英雄になりたい訳?」

 

盾を構え、ルミナスコーンを紅蓮に向けながら言葉を放つルキアーノに、カレンは質問を返した。

 

「いいや、公に人の大事なモノを、命を奪えるとは最高じゃないかって話さ。」

 

「あんたさぁ…ちょっと下品だよ!」

 

右腕にエネルギーをチャージし、輻射波動を手裏剣のように放つ紅蓮。パーシヴァルは盾を犠牲にすることでなんとか防ぎ、ルミナスコーンを突き込んだ。

 

「これでぇ!!」

 

しかし、その一撃は紅蓮が左手に持つMVSで防がれ、あまつさえルミナスコーンも根本から破壊されてしまった。

 

「通じないよ!」

 

「いいや、これで間合いは詰まった。」

 

ルキアーノの言葉と同時に、パーシヴァルの頭部の角が突如として紅蓮の方へ向き、スラッシュハーケンとして射出された。しかしそれに対してもカレンは落ち着いて対応し、MVSの柄頭で絡めとった。

 

「何っ!?」

 

止められることを予測していなかったルキアーノは驚きのあまり一瞬硬直する。そのスキに、紅蓮の右手がパーシヴァルの頭部を掴んでいた。

 

「質問。あなたの大事なモノは何?自分の命だけなの?」

 

「脅しのつもりかイレブンがぁ!!」

 

最後まで態度と考えを変えないルキアーノ。何をしても彼は止まらない、それを理解したカレンは輻射波動を照射した。

 

「…さようなら。」

 

「…奪われる!私の命が…このサルがああぁぁぁっ!!」

 

ルキアーノが言い切る前に、パーシヴァルは爆散した。

 

「よくやったカレン!あとは政庁に戻りナナリーを…」

 

「そうはさせない!」

 

紅蓮と蜃気楼に向け、飛来してきたのはランスロットだ。スザクはルキアーノが敗北したのを見ると、すぐに彼らの元へ向かっていたのだ。

 

「カレン、退くんだ!」

 

スザクはハドロンブラスターを起動し、紅蓮に向けて放つ。

 

「退けないよスザク!」

 

しかし紅蓮は右手の輻射波動で、難なくハドロンブラスターを止めてみせた。ランスロットには、ハドロンブラスターを超える威力の武器はない。その為にスザクは、紅蓮が出力で大幅にランスロットを上回っているということを理解させられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロイドさん!!バーディクトの出撃準備を!!」

 

ボロボロのランスロット・クラブでアヴァロンに飛び込んだアドニスは、格納庫に迎えに来ていたロイドに向けて声を放った。

 

「だけどアドニス君、バーディクトはまだ動作確認も終わってないんだよ。建造が終わっただけで…」

 

「動作確認は出撃しながらやります!!とにかく動けばいい!早くしないとノネットが!!」

 

言いながらランスロット・クラブから降り、ロイドに詰め寄るアドニス。彼の必死の形相に後退り、根負けしたようにため息を吐くと、ロイドはアドニスにキーを差し出した。

 

「……分かったよ。だけど、無理はさせないでね。」

 

「…ありがとうございます!」

 

アドニスはキーを受け取ると、すぐにコックピットに乗り込み、バーディクトを起動した。

 

「ロイドさん、離れていて下さい。ランスロット・クラブ・バーディクト、発艦します!!」

 

アドニスの言葉と同時に、バーディクトは翼を広げてアヴァロンから飛び立っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カレン、やっぱりシュタットフェルトの名前より、紅月を選んだ訳か。」

 

ギルフォードと闘いながら、ジノが語りかける。彼は本心ではカレンに寝返ってほしいと願っていたのだが、それが不可能になったことは今の状況を見れば一目瞭然である。

 

「そうね。だからジノ、戦場で会えたことを喜ぶべきかしら?悲しむべきかしら?」

 

「フッ…楽しむべきってのはどうだい!?」

 

一個人として以上にカレンを気に入っているジノは、スザクの後は自分が闘うことを前提とした言葉を返した。

 

「スザク!カレンとの決着は残しておいてくれよ!」

 

「だってさ、スザク!」

 

二人の言葉に、スザクは余裕のない表情で返答する。カレンの身体能力は身をもって体感しており、紅蓮聖天八極式のスペックは、自身の騎乗するランスロット・コンクエスターを遥かに上回っているからだ。

 

「すまない、ジノ。そんな余裕が許される相手ではなさそうだ。」

 

ランスロットがMVSを抜く。それに合わせて、紅蓮も右腕を構えた。

ハドロンブラスターを放ちながら、距離を詰めるスザク。だが紅蓮がそれをいとも簡単に防ぎ、反応できない程のスピードで周囲を飛び回って撹乱する。

 

「近接戦闘に持ち込もうにも…!」

 

『スザク!あなたの相手はカレンじゃない!ゼロでしょ!』

 

アヴァロンにいるニーナからスザクへ通信が入るが、彼女に返答する余裕さえ今は無かった。一方、ルルーシュの元へも政庁にいる咲世子から通信が入っていた。

 

『ゼロ様、総督を発見しました!ロロ様はナイトメアを鹵獲した後、こちらの護衛につくとのことですが…』

 

「分かった、これで勝利条件は揃った。カレン!一気にスザクを討て!そうすれば邪魔者はいなくなる!」

 

「はい!」

 

ゼロの命令を受け、一瞬でランスロットとの距離を詰める紅蓮。手裏剣状の輻射波動で、ハドロンブラスターを真っ二つにする。

 

「ち、違いすぎる…マシンポテンシャルが…」

 

絶望しかかるスザクだが、紅蓮はそれに構うことなく右腕を射出してきた。ブレイズルミナスを展開して受け止めたものの、そのブレイズルミナスごと右腕を破壊され、その勢いで後退しつつ左腕で飛ばされたMVSを掴む。

 

『撃ってよスザク!フレイヤなら!』

 

ニーナが開発した新型核兵器、フレイヤ。確かにそれを使えば逆転は可能だ。但しそれは、多大な犠牲を強いることになる。それを理解しているスザクは、ニーナの言葉を否定した。

 

「ダメだ、これはあくまで脅し…使ってしまったら…」

 

MVSを振り下ろし、その勢いで蹴りを放つスザク。だがその左脚も、紅蓮に斬り落とされてしまった。

 

「さようなら、スザク。」

 

紅蓮が右手を掲げ、輻射波動を起動させる。それを見たルルーシュが、改めてカレンに命令を下した。

 

「殺せ!!スザクを!!」

 

『撃ってよフレイヤを!あなたも助かるのに!!』

 

ニーナが必死にすがるが、スザクがそれに答えることは無かった。

 

(でも、それだけは…例えここで死ぬとしても…!)

 

スザクの前には、右腕を突き出して向かってくる紅蓮の姿があった。それを見た彼は、一つの答えを導きだした。

 

(そうだ、これが償いなんだ。受け入れるしかない…ここで、俺は…)

 

死を覚悟したスザク。しかし皮肉にもその覚悟によって、以前式根島でゼロにかけられた 生きろ というギアスが発動した。そのギアスによって、スザクの覚悟が塗り替えられる。

 

「お、俺は、生きる!」

 

紅蓮の一撃を右脚を犠牲にすることで回避する。そして腰部から銃を取り出し、紅蓮に向けて撃った。

その弾丸、フレイヤを紅蓮が避けたことで、フレイヤは政庁に向かって飛び、その途中で爆発を開始した。

 

 

 

「ここまで差があると、勝負にすらならんな!!」

 

振り下ろされるMVSをなんとか受け流したノネットとラモラック。しかしすでに両足はなく、頭部も一部破損していた。

 

「ノネット・エニアグラム、悪いがこちらもあまり時間をかけていられない。次で決めさせて貰うぞ!」

 

ラモラックの前から一瞬で移動し、背後に回る蒼焔。ノネットがそれに気付いたときには、すでに右腕のMVSが突き込まれようとしていた。

 

「くっ…ここまでか…」

 

しかし蒼焔とラモラックの間に割り込んで、その一撃を止めた機体があった。その機体は背部にエナジーウイングを備え、蒼焔の一撃を受けても押し込まれない。それは、間一髪でアドニスがノネットの救出に成功したということであった。

 

「…待たせたな、ライディース・リオ・ブリタニア。ここからが、本当の勝負だ!!」

 

蒼焔のMVSを弾き返したランスロット・クラブ・バーディクト。両機が体勢を立て直した直後、戦場を目映い光が襲った。

 

 

 

 

 

 

「これは、フレイヤか?…退け!全軍後退!!」

 

グラストンナイツのクラウディオの命令で、ブリタニア側の全軍が慌てたように撤退を開始し、グリンダ騎士団も同時に全軍が後退を開始している。

その様子を見た千葉は、不審に思いながらも自軍へ撤退の命令を下した。

 

「…我が軍も下がるぞ!朝比奈、聞こえているか!?政庁から離れろ、朝比奈!」

 

「まさか、あれがスザクの言っていた?

──はっ…!!ナナリイイィィィ!!」

 

ルルーシュの叫び声と同時に、フレイヤが爆発する。その光は、ナナリーがいるはずの政庁を容易く消し去ってゆく。

 

「藤堂さん!僕は…!!」

 

逃げ遅れ、爆発に巻き込まれることを確信した朝比奈。しかしその暁の腕に、スラッシュハーケンが巻き付いた。

 

「早く空へ!!急いで!!」

 

スラッシュハーケンを巻き取りながら朝比奈に告げるルーン。彼女のヴィンセント・アソールトを、蒼焔が右手掴んで後退していた。左手にはユキヤが騎乗するアレクサンダを掴み、さらには左前腕から伸びるハーケンで牙鉄を引き寄せている。

 

「姫様、お逃げ下さい!姫様あぁぁ!」

 

茫然自失となりながら、フラフラと政庁に向かう蜃気楼を、ギルフォードが押し留める。その勢いのままに蜃気楼を押し返すと、ヴィンセントは徐々に光にのまれていった。

 

「姫様、生きて下さい!生きて…」

 

そこでヴィンセントからの通信は途絶えた。直後にその光は収束し、真空となった中心部に向けて突風が吹き荒れる。斑鳩やナイトメア部隊もその突風により、必死に体勢を維持するのがやっとであった。

 

その突風が収まった直後、ロロの元へゼロから通信が入る。

 

「ロロ、ナナリーと話をさせてくれないか?咲世子に繋がらなくってさ…」

 

「あの、兄さん…間に合わなかったんだ。ナナリーは、あの光の中に…」

 

「そんな事を聞いているんじゃないんだ。ナナリーと話したいだけなんだよ。」

 

ルルーシュの様子に、ロロは戸惑いながら言葉を返した。

 

「でも、ナナリーは死んだんだ!死んだんだよ兄さん!」

 

「嘘をつくな!!!」

 

ルルーシュの叫びに、ロロは言葉を失う。だがルルーシュはそんなロロの様子に気付いた様子もなく、虚ろな声で再びナナリーを求めた。

 

「なぁ、ロロ…ほんの少しでいいんだ。ナナリーと、話をさせてくれ…」

 




ランスロット・クラブ・バーディクト
全高5.31メートル
重量8.15トン
エナジーウイングは紅蓮聖天八極式と同じく片方の翼に4枚のブレイズルミナスが装備され、ランスロット・クラブから全体のデザインが見直されている。ランスロット・アルビオンと比較してやや細身で、機動力を重視するアドニスの為に軽量化が図られている。なお、ブレイズルミナスのカラーリングはブルー。
MVSは超高出力化し、全体の出力も格段に上昇させられた。可変型ヴァリスはスーパーヴァリスとなり、通常モード、狙撃モード、ハドロンモードの使い分けが可能


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episode31 Introduction

「そんな…こんなことって…みんな…みんな…!!」

 

フレイヤによって大半が消失し、多数の死者を出した東京租界。その状況を見て、自身が何を作ったのかようやく理解したニーナは、頭を抱えてモニターを眺めていた。

 

「僕が…やったのか…」

 

右手と両足、頭部の一部を失ったランスロットのコックピットでは、フレイヤを放ったスザクも同様にショックを受けていた。ギアスの為にその記憶はないが、ランスロットの左腕にある銃がそれを明確に物語っていた。彼は周囲を見渡し、ただただ茫然自失となるしかなかった。

 

「この兵器をもう一度使われたら、黒の騎士団は壊滅する…」

 

一方の騎士団側も驚愕以外の感情を持つ者はほとんどおらず、藤堂は目の前の現実を見てゼロに撤退を進言しようと考えていた。しかしそこへ、先にゼロから通信が入る。

 

「藤堂…私だ。全軍東京租界に降下しろ。ナナリーを探すんだ。」

 

「ま、待て!今こちらには多くの犠牲が…」

 

「知ったことかそんなもの!!!」

 

ゼロの叫びに藤堂は声を失う。現在ゼロは完全に冷静さを失っているが、とはいえ指揮系統では最上位に当たる人物だ。彼の命令を拒否する権限は藤堂にはない。

 

「ナナリーを探せ。最優先だ!!全軍でナナリーを探し出すんだ!!!」

 

「いや、撤退する。」

 

そのゼロの言葉を遮ったのはライだ。彼自身もナナリーを妹のように可愛がっていたので、捜索を優先したいのはゼロ、つまりはルルーシュと同様だ。しかし、カレンが捕らえられたときに自分が犯した失敗を、ここで繰り返すわけにはいかなかった。

 

「ライ、お前…何を言っている!?」

 

その命令を取り消そうとしたゼロを、蒼焔が無理矢理後退させた。なおも抵抗しようとするゼロであったが、さすがに出力が違いすぎた為に、結局は斑鳩まで押し戻されるしかなかった。

 

同じ頃、斑鳩ではディートハルトが逃走した捕虜を捜索していた。甲板上でその捕虜を発見し、引き連れていた部下達に銃を構えさせる。

 

「そこまでだ、逃亡者君。」

 

ディートハルトの声に気付き、振り返ったのはコーネリアだった。ディートハルトは扇のかつての恋人で、彼を訪ねてきた為に捕虜とするしかなかったヴィレッタが逃げ出したのだと思っていた為、驚きを隠せないでいた。

 

「久しいな。節操なきテレビ屋が。」

 

コーネリアはディートハルトを見てニヤリと笑う。彼らが相手なら、武器が無くても切り抜けられると踏んでのことだ。

 

(皇女殿下を捕虜に…もう少し、私を信用してくれても良いものを…)

 

ゼロからは信頼はされず、利用されているに過ぎないのは事実ではあったが、自身こそがゼロの右腕だと考えていたディートハルトは失望していた。それでも自分の役割を果たす為に、部下に命令を下す。

 

「脚を狙え!殺さずに捕らえる!」

 

しかしそれと同時に、上空からサイレンを鳴らしつつ降下してくる小型飛行機が目に入った。

 

『当方は、ブリタニアの外交特使である!繰り返す!当方は、ブリタニアの外交特使である!戦闘の意思はない!』

 

小型飛行機は、斑鳩の甲板にゆっくりと着艦した。すぐにタラップが降ろされるが、そこから降りてきた人物はディートハルトもコーネリアも予想していなかった者であった。

 

「兄上!」

 

「シュナイゼルだと!?馬鹿な…敵の真っ只中に自ら乗り込んでくるとは…!」

 

シュナイゼルは銃を構える騎士団達を前にしても、不敵な笑みを崩さずに歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カレン!!」

 

斑鳩に戻り、ゼロをロロに預けたライ。彼は整備員にエナジーフィラーの交換を頼むと、同じく斑鳩へ戻った紅蓮の元へ駆けていた。

 

「…ライ!」

 

紅蓮から飛び降り、ライに向かって走るカレン。その彼女を、ライがしっかりと抱き止めた。

 

「カレン、長い間、助けにいけなくてすまなかった。君を…ようやく君を助けられた…」

 

カレンは、僅かにライの腕が震えていることに気付いた。おそらくはずっと自分を心配し、探し続けてきたのだろう。そこまで心配をかけたことに対して申し訳ないと思うと同時に、自分の事をこれ程想ってくれていることが彼女には嬉しかった。

 

「私も、心配かけてごめんね。でも、ありがとう。」

 

そう言って彼に微笑みかけるカレン。その姿を心の底から愛おしく感じたライは、思わず彼女に口づけをした。

一瞬驚いたカレンだが、すぐにライの頭に手を回す。ただ、二人とも今いる場所がどこかを完全に失念していた。

 

「…そういうことは、部屋に帰ってからにした方がいいんじゃないかしら?お兄様。」

 

周囲で目を奪われていた者達を代表して、ルーンが声をかけた。アキトを迎えに来ていたレイラや、お互いに怪我がないかを確認しあっていたリョウやユキヤもその光景に固まっていた。アヤノだけは、ガックリと肩を落としていたが。

ルーンの言葉に我を取り戻し、顔を真っ赤にしながら離れる二人。しかしルーンは何事も無かったかのような顔で言葉を続けた。

 

「こちらが、カレンさんかしら?紹介して欲しいのだけれど。」

 

「あ、ああ。彼女は紅月カレン。その…僕の恋人だ。

カレン、彼女は…信じられないと思うんだけど、僕の妹で、ルーンだ。」

 

「…えっ!?でも…そういえばさっき、お兄様って…」

 

ライから彼と、その家族の過去を聞いていたカレンは素直に驚く。妹は戦で死んだと言っていたのでは無かったか。生きていたとしても、この時代にいることはおかしい。しかし周囲の目もあるので、過去のことをハッキリとは口にするわけにもいかない。

 

「僕と同じで、生きていたと言うよりも生かされていたという感じで…詳しくは、また話すよ。」

 

ライが言い終わるのを待って、ルーンはカレンに微笑みかけた。

 

「カレンさんと呼んでいいかしら?お兄様はこんな感じで甘えん坊で、抜けているところもあるけれど、どうか見捨てないであげてね。」

 

「え、あ、いや…私も、だらしないところがあるから…」

 

カレンがルーンの言葉に少し面食らいながらも返答すると、彼女は頭を下げてその場を去った。それを見送ったライはカレンに視線を戻し、彼女に一つ頼み事をする。

 

「カレン、ゼロのこと、頼んでもいいかな?」

 

それはつまり、彼を励ましてやってほしいという意味だった。前回ゼロがシンジュクゲットーに逃げ出した際は、彼がカレンに迫ったことで激怒したライであったが、今回は部屋にロロもいるだろうし、それに彼がもう一度自分の信頼を裏切ることはないと確信してのことだった。

 

「それは、いいけど…あなたはどうするの?」

 

カレンの問いに、ライは彼女の耳元まで顔を持って行き、囁くように答えた。

 

「確信も何もないことなんだが…この闘いでブリタニア側の指揮を取っていたのはシュナイゼルだ。ならば、ゼロに対する切り札となりえるナナリーをみすみす死なせるとは思えない。もちろん、死んでしまった可能性も否定はできないけど…

でも、何もしないよりかはマシだ。手掛かりがないか探してくる。

今なら、団員の救出という名目が立つしね。」

 

彼の言葉に、カレンは納得する。もう一度 頼んだ と繰り返すライに、気をつけて と返して二人は一旦別れた。これが、どんな結果を招くのかも知らずに。

 

 

 

 

 

「ナナリーは…?」

 

「兄さん、しっかりして!ナナリーの事は、僕がもう一度捜索に出るから!」

 

ルルーシュに肩を貸し、彼の私室まで運んだのはロロだ。彼はゼロの仮面を外させてテーブルに置くと、ルルーシュをソファーに座らせた。

その直後、ロロの携帯電話から呼び出し音が鳴る。

 

「ジェレミアか。今は兄さんを静かにしてあげないと…

え…?分かった。僕も後で合流するから。兄さんには僕から説明を…」

 

その様子を見たルルーシュが、突然ロロから携帯電話を取り上げた。

 

「どうしてお前が持っているんだ!?」

 

ルルーシュが指摘したのは、ロロの携帯電話についているロケットだ。本来なら、ルルーシュがナナリーにプレゼントするつもりだったものである。

 

「これはナナリーにあげるつもりだったんだよ!!ナナリーに!!

お前なんかが弟面をするな!!この偽物め!!」

 

以前ライからもう少しロロと向き合うように言われていたルルーシュだが、ナナリーを失った絶望感と怒りによって我を忘れ、ほとんど八つ当たりのように携帯電話を投げつけていた。

 

「まだ気付かないのか!?俺はお前が嫌いなんだ!!大嫌いなんだよ!!」

 

「……兄、さん?」

 

「出ていけ!!二度と目の前に姿を見せるな!!出ていけ!!!」

 

ルルーシュに自身を否定され、縋るものすら失ったロロは、先程までのルルーシュのように、フラフラとした足取りで彼の部屋を後にした。

 

(ライさん…僕は…)

 

ロロが今頼れるのは、すでにライしかいない。しかしそのライも、現在はナナリー捜索の為に東京租界へ出ている。ロロは斑鳩艦内を、宛もなく歩き続けた。

 



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episode32 A kind lie

「以上が、私が嚮団で見聞きした全てです。」

 

斑鳩の幹部用会議室には、シュナイゼルとコーネリア、それにシュナイゼルの副官であるカノンが座り、騎士団側の人員の到着を待っていた。

 

「ありがとう、コーネリア。これで私は…」

 

シュナイゼルが言いかけたところで、会議室の扉が開く。

 

「お待たせしました。」

 

入ってきた面子は、ディートハルトと藤堂、朝比奈と千葉に加え、玉城までいた。

 

「悪りぃな。お前らにやられた負傷兵の世話に手間取ってよ。」

 

会談の目的が明らかになっていない内から挑発を行う玉城に対し、ディートハルトが注意をしようとする。

 

「玉城さん、先程も話したようにこの場は…」

 

「俺は黒の騎士団内務掃拭賛助官だ。事務総長、扇要の代理でもあるだろ。」

 

彼の言葉通り、扇はこの会談に参加していない。彼は斑鳩内に捕らわれているヴィレッタの元にいるのだが、それを知っているのはディートハルトだけだ。

 

「それはあなたの思い込みで…」

 

「いや、是非立ち会って頂きたいのですか。」

 

口を挟んだのはシュナイゼルだ。彼はこの会談までに騎士団の主要メンバーの経歴等を、捕縛されていた際の資料を事前に読み込む事で、ある程度の認識を持った状態で訪れていた。その彼からすれば、玉城は最も利用しやすい人物だったのだろう。

 

「玉城真一郎、ゼロの最も旧い同志であり、歴戦の勇士と聞いています。」

 

「ヘッ!話せるじゃねえか!」

 

シュナイゼルの内心を読む程の頭脳を持たない玉城は、彼の言葉にあっさり乗せられた。シュナイゼルの正面に当たる椅子に勢いよく座ると、他の面々も諦めたように席についた。

 

「ゼロとも、一戦交えてみたかったのですがね。」

 

二つのテーブルの調度中間地点に置かれた、チェスボードを眺めながらシュナイゼルが告げた。

 

「ゼロは参りません。お話の内容を確認した上で…」

 

「でしょうね。出てこられる筈がない。

彼は人に相談するタイプではありません。一人で抱え込み、人を遠ざけるばず…」

 

ディートハルトの答えに対し、シュナイゼルはあたかもゼロの正体を知っていると匂わせるような返答をした。

 

「ゼロの事を、よく知っておられるような口ぶりですね。」

 

「あなたよりは。」

 

シュナイゼルの返答に顔色を変えるディートハルトや藤堂。それを無視するように、シュナイゼルは言葉を続ける。

 

「ゼロは、私やこのコーネリアの弟です。

神聖ブリタニア帝国第十一皇子、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア…私が最も愛し、恐れた男です。」

 

「馬鹿な…」

 

「ゼロがブリタニアの皇子様だって…?」

 

騎士団側の面々が驚きの声を上げる中、ディートハルトだけは落ち着いた佇まいを崩さなかった。その彼に、コーネリアが問いかける。

 

「ディートハルト、お前は気付いていたのではないのか?ジェレミアやヴィレッタから情報を手に入れていたようだしな。」

 

「…無駄な事です。そのような戯れ言で我らを混乱させようなどと。我々はゼロを系譜ではなく、起こした奇跡によって認めているのですから。」

 

「しかし、その奇跡が偽りだとしたらどうでしょう?」

 

ディートハルトの答えに対し、シュナイゼルがさらに疑問を投げ掛ける。彼はこのタイミングで、最も効果的なカードを切った。

 

「ゼロには特別な力、ギアスがあります。人に命令を強制する力です。強力な、催眠術と考えて貰えば…」

 

「俺のゼロにケチつけてんじゃねーよ!あいつはなぁ、頭がキレて度胸があってすげーんだ!皇子とかギアスとかよぉ、証拠はあんのかよ!?」

 

シュナイゼルの言葉を真っ先に否定したのは玉城だ。しかしそれは、シュナイゼルの思惑通り、玉城の言葉や感情でもって藤堂らをコントロールする形になってしまったことを意味していた。そして、その事に藤堂らは気付けていない。

 

「証拠ならある!」

 

カノンがスザクとの会話を録音したレコーダーを出そうとしたその時、玉城らの後方から扇が声を放った。彼の後ろには、ヴィレッタも立っている。

 

「彼の言う通り、ゼロの正体はブリタニアの元皇子ルルーシュ!ギアスという力で人を操る、ペテン師だ!!」

 

「…だからと言って、ゼロのこれまでの実績が否定される訳ではない。それに本当にギアスがあるのなら、頼もしいじゃありませんか。ブリタニアに対抗する強力な武器になる。」

 

ディートハルトが立ち上がって自身の意見を述べるが、扇がそれを否定する。

 

「その力が敵に対してだけ使われるものならな。」

 

「そうだ。奴は実の妹ユーフェミアを操って、特区日本に集まったイレブンを虐殺させた。」

 

コーネリアの言葉に、玉城が咄嗟に立ち上がりながら否定を口にした。

 

「ダァホ!!ゼロは正義の味方なんだ!!あいつは…」

 

「証拠ならあります。」

 

シュナイゼルは、カノンから受け取ったボイスレコーダーを起動させる。そこから放たれたのは、枢木神社でスザクとルルーシュが交わした言葉であった。

 

「ゼロが、日本人を殺せと…?」

 

「偽物に決まってる!!」

 

まだ信じられない様子の藤堂と玉城に、カノンが歩みより、ある資料を渡した。

 

「こちらが、ギアスをかけられた疑いのある事件、人物です。」

 

その資料には、ホテルジャック事件を起こした元日本解放戦線の草壁中佐や、解放戦線トップの片瀬少将、ユーフェミアやスザクまで非常に多くの人物が記されていた。

 

「私とて、彼のギアスに操られていないという保証はない。そう考えると、とても恐ろしい。」

 

シュナイゼルの言葉に、千葉や玉城らはさらに動揺する。それは、シュナイゼルの手法に完全に嵌まってしまったことを意味していた。そしてそれをさらに加速させるべく、カノンが口を開く。

 

「そしてもう一つ、私達は事前にフレイヤ弾頭のことをゼロに通告しました。無駄な争いを避けたかったからです。

ランスロットに通信記録が残っています。しかし…」

 

「我らに伝えなかった…」

 

もはやゼロを信じるつもりが無くなった藤堂がカノンの言葉を継ぐ。それに続いて、玉城も声を上げた。

 

「俺達はただの駒だったってのか!?チクショー…チクショオォォォッ!!」

 

「みなさん、私の弟を、ゼロを引き渡して頂けますね?」

 

完全に藤堂達の心をゼロから引き離した。そう確信したシュナイゼルは、話を纏めにかかった。それに対し、真っ先に返答したのは扇だ。

 

「条件がある。日本を、返せ!」

 

扇の言葉に、コーネリアは目を見開いて驚きを露にする。この男に、今の状況を利用する頭などあると思っていなかったからだ。

 

「信じた仲間を裏切るんだ。せめて日本くらい取り返さなくては…俺は、自分を許せない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「隊長から連絡は?」

 

「…まだありません。」

 

アキトの問いに答えたのはレイラだ。周囲には特務隊の面々も控えている。

 

「そうか…誰かを探しに行ったようだが、あの状況では…」

 

「ええ、望み薄かもしれませんね。ただ、あの人はそういった事を諦められないのでしょう。短い付き合いですが、それは分かります。あの爆発の時も、真っ先にルーン副隊長とあなた達を助けに動いていましたから…」

 

レイラの言葉に、リョウが反応した。

 

「全く…あんな甘ちゃんでよく部隊の隊長なんて務まるもんだ。」

 

「でも、そのおかげで僕らは生きてる。」

 

リョウの言葉を、ユキヤは静かに否定する。リョウ自身にもそれは理解出来ている事で、軽口を叩いただけのつもりであった為にゆっくりと頷いた。

 

「分かってるって。だが、礼を言うにも隊長が帰ってこないとな。」

 

「ああ、随分大きな借りが出来ちまったぜ。」

 

アシュレイの言葉を最後に、全員が脱いでいたパイロットスーツに再び着替え始める。いつライが戻って出撃の命令を受けてもいいように、準備を整えておこうという気持ちの表れであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナナリーのこと、なんて言っていいかわからないけど…私も、捕まってる間は良くして貰ったから…」

 

ソファーに座り、項垂れるルルーシュに声をかけているのはカレンだ。しかし彼女の言葉も、彼にどこまで届いているかは分からない。

 

「…ご主人様、ふ、服を脱いでください。どこか痛いところがあるなら、私が…」

 

そう言って絆創膏を取り出すC.C.。それを見たカレンは、C.C.の変わりようと、二人の関係に驚いていた。

 

「私が捕まってる間に何があったのよ…?」

 

絶句するカレンに、ルルーシュがようやく我を取り戻したような表情に戻り、言葉を返した。

 

「ち、違う!その…記憶を失っているんだ。俺のせいで…」

 

カレンは、ナナリーだけではなくC.C.まで失ったルルーシュが、どれほどの孤独感に苛まれているのか理解した。もう彼には、心を許せる相手がほとんどいない。もし自分とライに何かあれば、彼はいよいよ一人になってしまう。

どうにか彼を励まそうとした時、扇から通信が入った。

ゼロは、先程よりは幾分かしっかりとした足取りで、カレンと供に指定された四号倉庫へ向かった。

 

「カレン…救出が遅くなってすまなかった。」

 

倉庫へ向かうエレベーターの中で、ゼロがカレンに告げた。

 

「ルルーシュ、私ね…ナナリーと話したわ。あなたの事、ライの事…

こんな時に言うのもなんだけど、私にもお兄ちゃんがいたから…」

 

エレベーターが到着し、扉が開く。話しながらエレベーターを出る二人を、真正面から証明が照らした。

 

「観念しろゼロ!」

 

「よくも我々をペテンにかけてくれたな!」

 

「君のギアスの事は分かっているんだ!」

 

二人が目を向けた先には、こちらに銃を向ける藤堂達と、自分にカメラを向けるディートハルトの姿があった。

 

「待って!一方的すぎるわこんなの!ゼロのおかげで私達ここまで来られたんじゃない!彼の言い分も…」

 

カレンが咄嗟にゼロの前に立ち、彼を庇う。しかし団員達が、彼女の言葉を聞き入れることは無かった。

 

「どけ!カレン!」

 

「まさかギアスにかかっているんじゃないよな!?」

 

何とかこの場を切り抜け、ゼロを助ける方法を考えるカレン。しかしルルーシュは、倉庫の奥へ控えるシュナイゼルを見付けていた。

 

(シュナイゼル…これはあなたのチェックか。ならば、万が一にも隙はないのでしょうね。)

 

それに気付いたルルーシュは、ゼロの仮面を外した。

 

「フハハハハッ!今頃気付いたのか!?自分達が利用されている事に!貴様らが、駒にしか過ぎないということに!」

 

ルルーシュは、ここまで追い詰められ、かつナナリーという闘う目的を失ったことで、自分に残された道は潔く死ぬことだけだと確信した。その言葉を聞いたカレンが驚いてルルーシュから数歩離れる。彼女を巻き込む気は無かったルルーシュは、自身の考え通りになったことに安堵していた。

 

「カレン、君はこの中でも特別優秀な駒だった。そう、全ては盤上のこと。ゲームだったんだよこれは…」

 

「……そう。さよなら、ルルーシュ。」

 

彼に背を向け、団員達の元に歩みだしたカレン。その背に向かって、ルルーシュが彼女にしか聞こえない程度の声で呟いた。

 

「カレン、君はあいつと生きろ。」

 

「えっ…!?」

 

その言葉に、足を止めかけるカレン。しかしルルーシュからある程度距離が離れていたことで、彼女の安全は確保されたと考えた藤堂が部下達に命令を下す。

 

「撃て!!」

 

団員達の銃が一斉に火を吹く。しかし、突如として現れた蜃気楼がルルーシュの壁となったことで、彼には一発として銃弾が当たることは無かった。

 

『大丈夫!?兄さん!?』

 

「ロロ!?」

 

蜃気楼を操縦しているのは、ルルーシュに自身を否定され、彼の元を去ったと思っていたロロだ。彼は自身のギアスを発動すると、ルルーシュを連れて斑鳩から脱出した。

 

「…消えた!?」

 

「バベルタワーの時の…」

 

一瞬にして消えた蜃気楼に驚く団員達。カノンが護衛として連れてきたアーニャに、蜃気楼を捕縛するよう命令した。

次いで藤堂が、暁隊に追撃するように命令を下した。

 

「破壊なら…」

 

モルドレッドが放つミサイルを、ロロが絶対守護領域を蜃気楼の背後に展開することで防ぐ。続いて暁隊も、蜃気楼に砲撃を加えていた。

 

「絶対守護領域の計算が、こんなに大変だなんて…やっぱりすごいや、僕の兄さんは…」

 

思わず苦笑いするロロ。しかし後方では、モルドレッドがシュタルケハドロンを構えていた。自身が計算した絶対守護領域では、シュタルケハドロンは防げない。広範囲ではあるが、ギアスを使うしかないと覚悟したロロに、通信が入った。

 

『…ロロか。ルルーシュはそこにいるのか?』

 

「ライさん!兄さんは、今蜃気楼の手の上にいます!」

 

それを聞いたライは頷くと、蒼焔をモルドレッドへ向けた。MVSでシュタルケハドロンを両断すると、続く暁隊も、砲口がある左腕を狙って攻撃し、瞬く間に無力化した。

 

「ロロ、追跡部隊は僕が抑える。だから、出来るだけギアスは使うな。」

 

それだけロロに伝えると、周囲を囲むナイトメアを無視して、蒼焔は斑鳩に向き直った。

 

「どういう事かな?これは。」

 



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episode33 IN TO THE WILD

蜃気楼を確認する為、指令室に移動していた面々は、突如現れて部隊とモルドレッドを無力化したライに驚いていた。それはカレンとの再開を邪魔しないでおこうという気遣いからそうしたのだが、とは言え、シュナイゼルとの会談という重要事項に彼を呼ばなかった事を後悔する。最も、ライはナナリーに関する情報を探す為に斑鳩を離れていたのだが、それを知っているのはカレンだけだ。

 

「ライ君、聞いてくれ。ゼロの正体はブリタニアの元皇子だったんだ!我々をずっと騙していたんだ!」

 

藤堂が声を上げる。しかしそれを聞いても、モニターに表示されているライの表情が変わることは無かった。

 

「知っていますよ。あいつがルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだということは。」

 

ライの告白に、団員達に動揺が広がる。それを抑えようと、扇がさらなる真実を告げた。

 

「そ、それだけじゃない!彼はギアスという力を使って人を操っていたんだ!彼が起こした奇跡は、全てそのギアスによるものだったんだ!」

 

「…ギアス?」

 

「ああ、信じられないだろうが…特に君は、彼と親しかったし…」

 

扇の言葉に、ライが少し下を向く。扇は彼が落ち込んでいるのだと思ったが、すぐにライから笑い声が聞こえたことで、そうではないことに気付いた。

 

「フフフフ…成程な。シュナイゼルの策か。」

 

顔を上げたライの表情には、明らかに侮蔑の色があった。彼はギアスという単語が扇から出たことで、自分がいない間に何があったかを大まかに理解したのだろう。

 

「藤堂さん、僕はあなたを買い被っていたようです。」

 

「…どういう意味だ?」

 

ゼロが自分達を騙していたと知ってもなお、彼を追う、もしくは責めるといった様子を見せないライを藤堂は訝しんでいた。

 

「こうもいいようにシュナイゼルに踊らされ、あっさりゼロを切り捨てるとは…僕はあなたが、もう少し冷静な判断が出来る人だと思っていたんですがね…あの時、あなたを助けたのは間違いだったかな?」

 

ライが言っているのは一年以上前の東京決戦のことだ。そこで彼は、身を呈して藤堂を助けた。その為に、一年間も騎士団から離れることになった経緯がある。

 

「しかしライ君、事実としてゼロはギアスで日本人の虐殺を…!」

 

「どうせそれも、録音か何かを聞かされただけでしょう。そんなもの、簡単に作ることができるし、仮に事実だったとしても、ゼロが本当の事を語っている保証がどこにあるんですか?」

 

必死に訴える藤堂とは逆に、ライの声は冷えきっていた。それこそ、扇や玉城だけでなく、藤堂までもが呑まれてしまいそうな程に。そのやりとりを、カレンは不安そうに見ている。

なお、ライ自身は虐殺の真実を知っている。そして、止められなかった事に責任も感じていた。ただ、それをこの場で認めてしまうことは、だからゼロを許して下さいと言い訳しているのと同じ事だ。既にそれが許される状況でないことは、彼自身も理解していた。

 

「ライ!あいつは俺達をペテンにかけたんだぞ!ギアスという力を使って、犠牲の上に奇跡を演出して!!そんな力の為に俺達は…!!」

 

藤堂の後を継いで言葉を放ったのは扇だ。彼は騎士団創設時からのゼロの腹心であり、彼がゼロを否定するということは、団員達にとって計り知れない影響力を持っている。

 

「お前だって、信じていたんだろう!だから、認めたくない気持ちも分かる!!だけど、あいつが俺達を騙していたのは事実なんだ!!」

 

「あいにく僕は、彼に騙されたことがないのでね…そんな言葉遊びを、ここでするつもりもありませんが。」

 

扇の言葉にも、ライはゼロを否定することを良しとしない。そんな姿を見て、扇の中にある疑惑が宿っていた。

 

「まさか…君もギアスにかけられているのか!?」

 

その問いに、ライは思わず唇の端を上げた。自分がゼロをここまで擁護することに対して、ギアスにかけられているのでは疑う程に彼らからの信頼は厚かったらしい。

 

「ギアスとは、自分がかかっているかどうか疑える程、甘くはないですよ。

それに、ゼロが僕にギアスを使うことはありません。何故なら…」

 

ライは一度右目を閉じる。そしてそれを開いたときには、右目に赤い光が宿っていた。

 

「僕もギアスを持っている事を知っているから。能力は、ゼロと同様の力、絶対順守です。」

 

扇や藤堂の表情が驚愕に染まる。ギアスという力はルルーシュ固有の力だと考えていたのだが、まさかライまで持っているとは思っていなかった。

そしてそれを見せたということは、この先を共に出来ないという証明だった。

 

「王の力は人を孤独にすると言うが、あなた方はただ単にシュナイゼルに踊らされただけだ。そんな程度の事も見抜けない奴等を信頼していたと思うと、ゼロも報われないな…」

 

自嘲気味に笑うライ。だが今度は朝比奈がその言葉に反発する。

 

「だが事実は事実だ!ゼロが僕達を騙していたのは…」

 

「見返りは、日本の返還か?」

 

朝比奈の言葉を遮り、ライが彼らの最も突かれたくない部分を突いた。その言葉に何も返せない扇や藤堂を見ながら、ライは言葉を続けた。

 

「僕らがやっているのはお遊戯会じゃない、戦争だ。騙しただの騙されただの…結局あなた達がやったことは、ゼロを差し出して自分達の望みを叶えただけじゃないか。あなた達に、ゼロを批判する資格があるのか?」

 

そこまで言うと、ライの目線が動いた。徐々に蒼焔から離れ、ゼロを追おうとしていたモルドレッドや暁隊の動きに気付いていたからだ。

 

「ルーン、フロートを斬り落とせ。」

 

ライがそう言った直後、そこに現れたヴィンセント・アソールトが暁隊の飛翔滑走翼を攻撃してゆく。同時に、蒼焔はモルドレッドに右腕のメーサーキャノンを向ける。

 

「ギアスが認められない以上、僕があなた達と共に歩むことはもうない。世話にはなったが、だからといって殺されてやろうとは思いませんよ。」

 

スペックで大きく劣るアーニャのモルドレッドは、蒼焔がこちらに攻撃する様子を見せた時点で斑鳩へ撤退を始めた。その為、ライは暁隊の飛翔滑走翼を破壊する事へ頭を切り替え、次々と暁を戦闘不能にしていった。

 

「嘘よ…ライ。やっと、やっと会えたのに…」

 

カレンが目に涙を浮かべながら、モニターへと近付く。その足取りは非常に心許ない。

 

「ライ、お願い!斑鳩に戻って!私は、私はあなたと…!!」

 

「…すまない、カレン。君とだけは、道を違えたくはなかった。だが騎士団にはもう、僕の居場所がない。出来れば、君とだけは闘わないで済む未来を願っているよ。」

 

その言葉を最後に、蒼焔からの通信が終わった。カレンはライと違う道を歩むことになった事実を受け入れられず、その場にへたりこむ。モニターには、斑鳩から離れていく蒼焔とヴィンセント・アソールトの姿が写し出されていた。

 

 

 

 

 

「ロロ!何故俺を助けた!俺はもう…俺はもういいんだ!」

 

蜃気楼のコックピットに乗り込んだルルーシュは、操縦しているロロに訴えかけた。全てを失った彼は、自身の敗北を認めて潔く死ぬつもりだったのだ。

 

「駄目だよ、兄さん。だって…

僕はずっと、誰かの道具だった。僕は、嚮団の道具で、その次は、兄さんの…」

 

地上から蜃気楼を狙うサザーランド部隊を見て、ロロは自身のギアスを広範囲で展開する。

 

「やめろロロ!こんな広範囲でギアスを使えば、お前の心臓が…!」

 

「確かに…僕は兄さんに使われていただけなのかもしれない。でも、あの時間だけは、兄さんと過ごした時間だけは、本物だったから…!」

 

サザーランド部隊を破壊するも、その先にはヴィンセント・ウォード隊が控えていた。

それを見たロロは、再度ギアスを展開して部隊を殲滅する。しかし、さらにその先からブリタニアの航空部隊が迫っていた。自身の身体はすでに悲鳴を上げているが、それでもロロはもう一度ギアスを使おうとする。だが、後方から超高速で突っ込んできた蒼い閃光が、一瞬で彼らの戦闘力を奪った。

 

「ロロ、よく頑張ったな。」

 

ライの蒼焔が蜃気楼に追い付いてきていた。彼の助けと、後に追い付いてきたアソールトによって、なんとか蜃気楼は富士の樹海へ隠れることに成功した。

 

「ロロ…お前、どうして…?俺はお前を…」

 

ナイトメアから降りた四人がルルーシュを中心として立っていた。その中で、ルルーシュはロロが彼を助けた理由を理解できていなかった為、真っ先に彼に問いかけたのだ。

 

「…僕は道具としてじゃなく、その…自分の意思で兄さんを助けたいって、そう思ったんだ。」

 

「…えっ?」

 

ロロを捨てたルルーシュに対して、それでも彼を助けたいと言ったロロの言葉に、ルルーシュは驚く。そのルルーシュの肩に、ライが手を置いた。

 

「前に言っただろう、ルルーシュ。ロロは一人の人間だって。

それに、僕も君を親友だと思っている。君はまだ、一人じゃないんだ。」

 

「…ああ、そうだな。まだ俺は全てを失った訳じゃない。お前達のおかげで思い出したよ。俺にはまだ、成さねばならないことがあると。」

 

その姿を見たライは表情を引き締める。ルルーシュが成さねばならぬこととは、皇帝シャルルと対峙することだ。そして、彼の目的を止めること。彼と供に、死地に赴く覚悟をライは決めていた。

 

「皇帝は神根島か。おそらくラウンズも複数いると見ていいだろう。ルルーシュ、どうやって皇帝を止めるつもりだ?」

 

「一応考えはある。だが、こちらの世界に戻ってこれるかどうかは分からんな。」

 

その言葉だけで、おおよそルルーシュの考えを理解したライは、それをより細かく組み上げてゆく。

 

「となると、Cの世界に入るのは君と、あの世界のことをある程度理解している僕が適任か…しかし、敵も護衛の戦力は保持しているだろうから、僕ら三人である程度敵機を減らす必要があるな…いや、ギアスを使えば多少楽にはなるが…」

 

考えを纏めたライは、ルーンとロロに目を向ける。

 

「ルーン、ロロ。悪いけどもう少し付き合ってくれないか?真にこの世界を守る為に…」

 

「わざわざ頼まなくっても、私はお兄様に着いていくわよ。頼りない兄を助けてあげるのは、妹の役目だしね。」

 

ルーンの軽口に、ライは苦笑する。彼女に続いてロロも、賛同の声を上げた。

 

「僕も、兄さんに着いていきます。これは、僕の意思です。」

 

その光景を見たルルーシュは、一瞬下を向いて肩を震わせた後、三人それぞれに視線を合わせながら告げる。

 

「ありがとう、お前達。俺は、お前達に報いる為にも、この命を無駄にしないと誓おう。」

 

ルルーシュの言葉に、ライは深く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、スザクはフレイヤの爆発で出来たクレーターの中心地に出来た水溜りの前に立っていた。スザクを見つけたジェレミアに声をかけられるも、彼が去るまで声を上げるどころか、視線を合わせることすらしなかったスザクだが、彼は突如として身体を震わせた。

 

「フフフ…ハハハハハハ……フハハハハハハッ!!」

 

スザクは大声で笑い続けたが、周囲には誰もいない。その中で、彼の笑い声は只々大きく響き渡った。

 



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episode34 Competition

「私、分からなくって…こんなに酷いことになるなんて…あの、私がこんなに…」

 

「殺した。」

 

自身の前に現れたニーナ。彼女の言葉を、スザクは肯定した。

 

「大成功だよニーナ。フレイヤ弾頭の威力は絶大だ。結果的に、我がブリタニアに勝利をもたらすだろう。」

 

それだけ言うと、スザクは彼女の横を通り抜け、その場を去っていった。

 

 

 

「うっ!…ぐぅ…うぅぅ!!」

 

同じ頃、突然の激しい頭痛によってアーニャは頭を抑えていた。彼女が閉じていた目を開くと、その瞳には赤い光が宿っていた。

 

「…そう、始めるつもりなのね。」

 

アーニャは、斑鳩の外縁にいたC.C.を発見すると、彼女の前にモルドレッドを着艦させた。アーニャはモルドレッドから降りると、C.C.に走り寄る。

 

「直接会うなんて久しぶりね!私よ、私!」

 

アーニャはC.C.に笑顔を向けるも、彼女は怯えて顔を背けてしまった。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「C.C.、まさかあなた…」

 

アーニャが視線を合わせると、彼女の精神はC.C.の精神に潜り込んでいった。

 

「何やってるの?またこんな所に閉じこもって…C.C.!」

 

C.C.の精神世界。その中で、椅子に座って正面を眺める彼女に、アーニャが声をかけた。

 

「ん?誰だ?」

 

「私よ。」

 

その言葉と共に、アーニャの姿が変化する。彼女の姿を見たC.C.は、思わず椅子から立ち上がった。

 

「お前、こんなところまで来て…そんなにルルーシュが心配か?マリアンヌ。」

 

そう、彼女はルルーシュとナナリーの母であり、殺された筈のマリアンヌ・ヴィ・ブリタニアだ。

 

「あら、私がそんなに理想的な母親だと思っていたの?」

 

「では、どうしてここに?」

 

C.C.の問いかけに、マリアンヌは微笑みを浮かべながら答える。

 

「あなたは今でも私達の味方なのか知りたくって…

C.C.、自分のコードを自分で封印したのは何故?シャルルなら、あなたの願いを、死にたいという思いを叶えてくれたのに…」

 

「分からないんだよ自分でも。ちょっと驚いている。」

 

「アハハハハ。じゃあ確かめなきゃね。現実で。私が決めたんだから決定よ。」

 

そう言うと、マリアンヌはC.C.の手を取った。それを見たC.C.は、一つ息を吐くと、彼女に告げた。

 

「お前くらいだな。この私をいつもひっかき回そうとするのは。」

 

C.C.が言うと同時に、周囲が変化する。C.C.の精神世界から、現実世界へと戻ってきたのだ。それにより、彼女の腕を掴んでいるのはマリアンヌではなくアーニャになっている。

 

「ああ、感謝はしてるよ。私にギアスをくれたことに対しては。」

 

「契約不履行のくせに…」

 

C.C.のその言葉を、待ってましたとばかりに満面の笑みで受け止めるアーニャ。彼女はC.C.から手を離すと、真っ直ぐに彼女を見て伝えた。

 

「そう思うのなら一緒に行きましょう。」

 

そう言うと、アーニャは身体の向きを変え、モルドレッドへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、始めろ。」

 

シャルルの言葉に従い、嚮団員達がコンソールを操作する。すると、世界各地にある遺跡が起動し、神根島の遺跡と同調を始める。

 

「これで既存の神の世界は終わる…破壊と、創造。ラグナレクが始まる…」

 

シャルルの言葉が終わると同時に、指令室にいるナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキーより通信が入った。

 

「陛下、東京租界のシュナイゼル殿下より通信が…」

 

「任せると言った筈。俗事など…」

 

「俗事…?」

 

シャルルの言葉に、モニカは目を見開いて驚く。しかしシャルルは、その通信をすぐに遮断してしまった。

 

「シュナイゼルめ、さては気付きおったか…だがもう遅い。戦争という名のゲームはおしまいよ。」

 

シャルルはそう呟くと、腰を上げた。自らが遺跡へ降下する為の小型機に乗り込む為だ。

 

「これで、ワシの悲願は…」

 

シャルルの後を数名の嚮団員が付き、部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

アヴァロン内にて、暇潰しの為にビリヤードをしているジノとセシル。そしてシュナイゼルに挨拶する為に訪れ、それに巻き込まれたオルドリン。ロイドは一人でダーツに興じていたのだが、彼らの元に東京租界でフレイヤの爆心地にいた筈のスザクが現れていた。

 

「ロイドさん。ランスロットはどうなっていますか?」

 

「どうって…コアルミナスがあの状態じゃ…」

 

「いえ、ランスロットアルビオンの方です。」

 

セシルが自身の構えるキューでボールを打ちながら答える。

 

「ロールアウト直前。」

 

「アルビオン…?」

 

「何だい?アルビオンって…」

 

疑問に思ったオルドリンとジノがスザクに尋ねるが、彼はそれを黙殺し、ロイドに視線を合わせ続けていた。

ロイドは、自身の投げた矢が的を大きく外れたことで失望の声を上げた。

 

「あぁ~……枢木スザク専用に開発したナイトメアなんだけど、今の君には渡したくないね。」

 

珍しく、ロイドが渋い表情で告げた。フレイヤを撃ったスザクを暗に批判してのものだが、スザクはそれを受けても顔色を変えることは無かった。

 

「これは命令です。ナイトオブセブンとしての…」

 

「…ますます嫌になったよ。」

 

肩を落とし、ダーツの的の方へ歩いてゆくロイド。それに変わって、セシルがスザクに近付いていた。

 

「スザク君、あなたはフレイヤを撃たない覚悟も必要だと言っていたわね。」

 

「セシルさん、兵器とはそもそも何でしょう?」

 

スザクの言葉に、セシルは呆れ返った。だが彼女は笑顔のまま、スザクに言葉を返す。

 

「枢木卿、子どもの議論をするつもり?」

 

「やめておけよスザク。らしくないだろ。」

 

止めに入ったのはジノだ。それに続いて、オルドリンも声を上げた。

 

「お久しぶりです、枢木卿。あなたは危うく味方の軍を…我々も巻き込まれる所だったんですよ!なのに…!アドニスさんはあなたの事を信頼していると言っていました!そんなあなたが…」

 

オルドリンの言葉の途中で、スザクが来たのとは反対側の入口からシュナイゼル達が現れた。

 

「あ、これは…」

 

シュナイゼルに向き直ったジノとオルドリンが姿勢を正そうとするも、シュナイゼルはそれを手で止めた。

 

「お久しぶりです~コーネリア皇女殿下。」

 

ロイドが挨拶するも、そのテンションの高さにコーネリアは少し引き気味だった。彼女は周囲を見渡すと、ある人物が見当たらないことに気付いた。

 

「ギルフォードはどうした?」

 

「コーネリア、実はギルフォード卿は、フレイヤ弾頭での攻撃の後、行方知れずに…」

 

答えたのはシュナイゼルだ。彼の言葉に、コーネリアは驚きを露にする。

 

「生死不明とは言え、功績は大きい。誇っていいよ。流石はコーネリアの騎士だ。」

 

「待ってください。フレイヤ弾頭を撃ったのは自分です。あれは、自分の功績です。ナイトオブワンになる為に必要な…」

 

異論を挟んだのはスザクだ。彼の言葉は、ギルフォードを無くしたコーネリアを気遣うシュナイゼルの言葉を、真っ向から否定していた。スザクはこれまで、決して人の心を無視できる人間では無かった。しかし今はそれどころか、他の誰かを気にかけるよりも自身の目的が最優先だと口にしていた。

 

「おいスザク!」

 

再びジノが止めに入るも、スザクはそれを無視してシュナイゼルに問いかけた。

 

「この処置は、ギルフォード卿の名誉を守る為ですか?」

 

「何を言っている?」

 

ギアスにより、彼がブリタニアを裏切ってゼロの配下となった事を知らないコーネリアは戸惑う。シュナイゼルも一つ息を吐くと、スザクを止める為の言葉を口にした。

 

「…よしたまえ、スザク君。」

 

「これまでの自分は甘かった。結果より手段と言いながら、自分が大事にしていたのは、理想や美学だったのではないかと…」

 

スザクはゆっくりと歩を進めると、シュナイゼルの前で立ち止まった。スザクの言葉を聞いたシュナイゼルは、異論を挟もうとする。

 

「しかし…」

 

「それとも、殿下がして頂けるのですか?自分を、ナイトオブワンに。」

 

スザクの言葉は、つまり今の皇帝からシュナイゼルが王位を簒奪しろ、ということだった。当然、皇帝シャルルの騎士であるジノは警戒を強め、スザクを睨み付けている。

 

「ナイトオブワンの任命は皇帝陛下にしかできないんだよ。つまり…」

 

ロイドが彼の言葉を不可能だと伝えようとした時、一瞬言葉を失っていたシュナイゼルが、ゆっくりと問いに対して答えを返した。

 

「…では、なるとしよう。」

 

「兄上!!」

 

コーネリアが詰め寄るも、シュナイゼルはそれを無視したままスザクに伝える。

 

「私が皇帝になるよ。それなら、問題はないだろう。」

 

「殿下、その発言は…」

 

これはクーデターだ。場合によってはシュナイゼルを捕らえる必要があると感じたジノは、シュナイゼルに向かって歩を進める。しかしシュナイゼルはそれに動じることなく、自身がその考えに至った理由を説明した。

 

「…俗事と、仰ったそうだよ。

陛下は黒の騎士団との、戦争の事を…コーネリアも知っているだろう?父上は危険な研究にのめり込み、度々玉座を離れた。そう、政治を、戦争をゲームとして扱ったんだよ。」

 

シュナイゼルは、視線をジノに移す。

 

「この世界に、今日という日に興味を失い、みんなが苦しんでいるのをただ眺めているだけの男に、王たる資格はない。」

 

シュナイゼルの言葉で、これは完全にクーデターとなった。その事実に驚愕する面々の中で、スザクだけが冷静に言葉を放った。

 

「ラウンズの自分なら、謁見が叶います。自分に、皇帝陛下暗殺をご命じ下さい。」

 

「スザク!」

 

「枢木卿!」

 

皇帝への忠誠を捨てるどころか、暗殺まで口にしたスザク。ジノとオルドリンは彼に厳しい目を向けるが、スザクは一歩も引こうとしない。

 

「人を殺めるということが自分の業ならば、ジノ、僕はこれを認めよう。必要なものは…結果だ!」

 

同じ頃、騎士団からはゼロの戦死が発表されていた。

 

 

 

 

 

 

 

「エニアグラム卿、傷の具合は如何です?」

 

アヴァロンの医務室で治療を受けるノネットを訪ねたのはアドニスだ。表情はなんでもない風を装ってはいるが、内心かなり心配しているのは誰もが分かっていた。

 

「ノネットさんだ、アドニス。傷はナイトメアの損傷を考えれば大した事はない。すぐに戦線に復帰できるだろう。」

 

ベッドから立ち上がるノネット。それを見て安心したのか、アドニスは一つ息を吐いてから肩の力を抜いた。言い換えれば、それはノネットを前に完全に油断したのと同じであった。

彼女はいつかと同じように、アドニスの首に自身の腕を回す。

 

「それよりお前、機体を乗り換える時に私の事をノネット、と呼び捨てにしたらしいなぁ。んん?普段から心の中ではそうやって馬鹿にしているのか?」

 

空いている方の手をアドニスの頭にグリグリと押し付けるノネット。アドニスは痛みに抵抗しながら、言い訳を口にする。

 

「い、いや、そういう訳では…あの時は焦りすぎて、思わずそう言ってしまっただけで…」

 

その言葉を受けたノネットはフッと笑う。

 

「冗談だよ、アドニス。それとも、父の言っていた事を本気にしたか?」

 

婚期が迫る中、一向にそういった相手の影すら見えないノネットに、心配した彼女の父が、ラウンズになったばかりの頃に一時的ではあるがエニアグラム領に住まわせて貰っていたアドニスに結婚の話を持ち出したことがあった。二人は冗談としてその言葉を流し、以降その話題を特に気にしてもいなかった。ノネットの父は半分以上本気だったのだが。

 

「エニアグラム卿、今は…」

 

「分かっているさ。そんな事を言う暇があるなら、さっさと怪我を治して有事に備えろと言うのだろう?全く、冗談の通じん奴め。」

 

そこで、医務室の扉が開く。入ってきたのはマリーベルであった。

 

「…エニアグラム卿、何をされているのですか?」

 

笑顔で問い掛けるマリーベル。しかしその裏には明らかな殺気が見てとれた。

 

「…これは皇女殿下。何、知らぬ仲でもなし、じゃれているだけですよ。」

 

「アドニスは迷惑そうですよ、エニアグラム卿。」

 

二人の間の空気が急速に冷たくなってゆく。こういった方面にはとんと疎いアドニスはその理由が理解できず、珍しく二人の間でオロオロと目線を動かし続けている。

 

「…まぁ、今はこんなことをしている場合ではありませんがね。」

 

ノネットは姿勢を正してからから告げると、ポケットから携帯電話を取り出して自身のナイトメア開発チームに連絡を入れた。

 



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episode35 If you want

「シュナイゼルの、差し金か。」

 

目の前で斬り倒される嚮団員。それを見ても、シャルルは眉一つ動かさなかった。

 

「自分の意思です。

陛下、自分をラウンズに取り立てて頂いたことには感謝しています。しかし、あなたには二つの罪がある。」

 

スザクは鋭い目付きで、皇帝を見詰めていた。彼の右手には剣が握られ、刃先からは血が滴っている。

 

「ほぉう…」

 

「一つは、王たる責務を放棄したこと!そしてもう一つは…ギアスに手を染めたこと…」

 

スザクが剣を構える。しかし既に不死であるシャルルは、それを見ても逃げようとすらしない。

 

「それが、罪だと?」

 

「ギアスは、人の悪なるものを引き出します。そう、全てを知るあなたなら、ユフィの事だって救えた筈…なのに見捨てた。

この剣に、ルルーシュとナナリーの絶望も込めさせて頂きます!覚悟!!」

 

剣を大上段に構え、全力で踏み込むスザク。常人程の身体能力しか持たないシャルルには反応できる速度では無かったが、それでもその一閃はいとも簡単に止められていた。

 

「…ヴァルトシュタイン卿、どうしてここに!?」

 

スザクとシャルルの間には、キュウシュウでロックに敗れた筈のビスマルクが立ち、彼の剣を自身の大剣で受け止めていた。左目は、再びピアス状の物で閉じられている。

 

「ギアスのことを知っているのは自分だけだと思っていたか?残念だったな。お前のような裏切り続けの男を、誰が信じるというのか。」

 

「ビスマルク、俗事は任せる。」

 

シャルルはそう命じると、神殿へと入っていった。慌てて後を追おうとするスザクを、ビスマルクが剣を振り切ることで弾き飛ばした。

 

(いけない…僕にかかっている生きろというギアスが、ここは逃げろと叫んでいる…それ程までに危険な相手か、ナイトオブワン!!)

 

数合剣を合わせただけで、ビスマルクの実力に愕然とするスザク。焦りを露にするスザクに対し、ビスマルクは悠然と彼に歩み寄った。

 

「…しかし!弱さは捨てた!!」

 

スザクが飛び上がり、頭上から剣を振り下ろす。しかしビスマルクは片手でそれを防ぐと、そのまま彼の身体ごと弾き飛ばして見せた。

 

「愚かな…お前の弱さこそが、優しさという強さの裏付けであったものを…そう、規範無き強さなどただの暴力。ならば…ここで死ぬが良い、枢木スザク。」

 

地に伏せるスザクに向け、剣を振り上げるビスマルク。しかし二人の耳に、突如として爆音が響いていた。

 

「我が名はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。マリアンヌ后妃が長子にして、帝国により捨てられし皇子!」

 

それを見た護衛のナイトメア部隊が、彼を殺害する為に降下しようとした時、蒼い閃光が彼らを斬り裂いていた。

 

「何者だ!?現状を報告せよ!」

 

その状況を見て、慌ててモニカが部下に命令を下す。

 

「…トウキョウで見られた新型と思われます。報告にあった、第九世代相当の…」

 

それを聞いたモニカの表情は驚愕に染まる。そして、彼女は皇帝シャルルを守る為に決断を下した。

 

「私が出る!指揮権は、エルンスト卿に移譲します!」

 

彼女は大急ぎで格納庫へ走り、自身のナイトメアであるフローレンスに騎乗して出撃した。それに合わせて、多数のナイトメア部隊も出撃している。

 

「あの蒼いナイトメアを囲んで追い込め!正面は私が…」

 

そう命じようとしたモニカだが、フローレンスに向かって突撃してくる機体があった。

 

「お兄様の邪魔はさせないわ。」

 

ルーンの騎乗する、ヴィンセント・アソールトだ。MVSでの一撃を、同じくMVSで防ぐフローレンス。

その間に、蒼焔が次々とロイヤルガードと呼ばれる、金色のラインが入ったヴィンセント・ウォードを撃墜していった。

また、式根島からの援軍の一部も、モニカ率いるロイヤルガード隊に攻撃を開始した。

 

「反乱だと!?」

 

地上から皇帝シャルルの旗艦である、グレートブリタニアに連絡を入れたビスマルクも、モニカと同様に驚愕していた。トウキョウ疎開での決戦で、ナイトオブラウンズ専用機二機を、立て続けに破った機体が現れただけでなく、自軍内で同士討ちが発生していたからだ。

なお、スザクはそのスキに逃走している。

 

(ルルーシュ!それは僕の十字架だ!!)

 

しかし、スザクの目の前にミサイルが着弾し、彼は地面が崩れるのに巻き込まれて落下していった。

それを見届けたビスマルクは、スザクによる危機は去ったものと判断し、グレートブリタニアとの通信を続けた。

 

「グレートブリタニアで指揮を取っているのは?」

 

『現在は、ドロテア・エルンスト卿です!』

 

「よし、ドロテアにはそのまま部隊の指揮を続けるよう伝えろ!」

 

彼は、シャルルが降下する為に乗ってきた小型機に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

「モルドレッドとは、まだ連絡が付かないの?」

 

カノンの問いに、部下は戸惑いながら答える。

 

「はい、目的地は神根島かと…」

 

その報告を聞いた時、シュナイゼルは、キュウシュウより騎士団に合流した神楽耶らとの会談中であった。

 

「とすると、先程の情報を受けて皇帝陛下の元に移動したのかな?」

 

先程の情報とは、反乱の事である。スザクによる暗殺を命じたのはシュナイゼル自身だが、彼はそれをおくびにも出さない。また、式根島からの援軍の一部が反乱行動に移っているのは、自身の言葉によるところではない。

 

(スザク君と供に…?いやこれは…)

 

モルドレッドの行動に何らかの確信を得たシュナイゼルは立ち上がりながら神楽耶に告げた。

 

「神楽耶様、申し訳ありません。これから、神根島に向かわなければなりませんので…」

 

その神楽耶は、シュナイゼルの言葉を受けたことで自身の考えに答えを得る為に、一つの決断を下した。

 

「では、私達も参ります。この状況下で、ブリタニア皇帝に刃を向ける人物に、私は一人しか心当たりがありません。」

 

「私も同じです。」

 

その言葉に、星刻も賛同を示す。彼らは、ディートハルトや扇から、公式発表以上の事を聞いておらず、それに疑問を

抱いていた。特に神楽耶はゼロを心底自分の夫となる男と信じていたこともあり、強がってはいるものの、彼の死を信じられないでいたのだ。

 

「とすると、確認すべき点がいくつかありそうです。会談の続きは、この件が済んでからと致しましょう。」

 

神楽耶の言葉に、扇らは反論が思い浮かばず、頷くしか無かった。

 

 

 

 

「黒の騎士団が仲間割れしたということ?なら、反乱した部隊は…」

 

ルーンと戦いつつも、状況を分析するモニカ。しかし突如として、彼女とフローレンスを多数の小型ミサイルが襲っていた。

咄嗟にブレイズルミナスで防いでそちらを見ると、一気にこちらへ突撃してくるモルドレッドの姿があった。

 

「アールストレイム卿!まさかあなたまで!?」

 

アソールトを部下に任せ、フローレンスの主武装である、狙撃用レールガン、ミストルテインを起動してモルドレッドに発射する。モルドレッドは避けきれず、フロートに損傷を負った。

 

「クーデターに与するとは!それでもナイトオブラウンズか!!」

 

アーニャが、モニカに返答する。それを聞いたモニカは、少なくとも彼女は敵ではないと安心していた。

 

「勘違いしないで!敵は式根島から来ているのよ!ヴァルトシュタイン卿、エルンスト卿も証言してくれるわ!」

 

「分かりました。申し訳ありません。」

 

モニカの言葉に、まるで最初からそうなることが分かっていたかのように、すぐ返事を返したアーニャ。モルドレッドはフロートを損傷したことで、フラフラと降下してゆく。

 

「いいわ、それより、陸上から敵機を迎えうって。」

 

「了解。」

 

そう答えて通信を切るアーニャ。彼女の座席の後ろから、C.C.が顔を出した。その手には、チーズ君のぬいぐるみが抱えられている。

 

「大した役者だな。」

 

「ビスマルク以外のラウンズに知られる訳にはいかないから。こちらから疑っちゃえば、向こうは疑わないでしょう。」

 

モルドレッドの着陸体勢を整えつつ、C.C.の言葉に答える。

 

「その閃き、衰えてはいないようだな。閃光のマリアンヌ。流石はルルーシュの母親だ。」

 

「どうしよう?助けるべきかな?彼を…」

 

母として、妻として、どちらを取るべきか悩むそぶりを見せるアーニャ=マリアンヌ。そのわざとらしい素振りに、C.C.は彼女に見えないようにため息をついた。

 



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episode36 Paint it black

「さあ神よ、決着の時は来た!」

 

黄昏の間で、木のように生える捻れた柱に右手のコードを向けるシャルル。しかし彼の後方から、その言葉を否定する者がいた。

 

「違うな。間違っているぞ、シャルル・ジ・ブリタニア。決着を着けるべきは神ではない。……この俺だ!!」

 

シャルルの前に現れたルルーシュ。しかしコードを持たないルルーシュに、シャルルを殺す術はない。

 

「どのようにして?銃でも剣でもギアスでも、わしを殺すことはできぬというのに…」

 

それを理解しているシャルルは、余裕の態度を崩さない。しかしルルーシュも、その顔には笑みを湛えていた。

 

「感謝する。貴様がこの場所に入ってくれたおかげで、勝利の目算が立った。」

 

「ん…?」

 

ルルーシュの言葉とほぼ時を同じくして、遺跡の扉に設置された爆弾が爆発する。黄昏の間には、複数の稲光が迸った。

 

「出口を封じた!?」

 

「そうだ。ギアスも貴様も、俺と供にこの世界に閉じ込める。現実世界に干渉できなくなれば、貴様が何を企んでいようと意味はない。死んだも同然だ。」

 

「ルルーシュ…」

 

ここにきて、シャルルの顔に初めて焦りが現れる。

 

「貴様の作ったこのシステムが、今貴様自身を閉じ込める魂の牢獄となった。さぁ、俺とともに、永遠の懺悔に苦しむがいい!!」

 

ルルーシュは、シャルルの前に積まれた残骸に腰掛け、解放していた左目にコンタクトをつける。

 

「時間だけはたっぷりある。答えて貰おうか、母さんを殺したのは誰だ?何故お前は母さんを守らなかった?」

 

「おかしなものよ。人には真実を求めるか?ここまで嘘ばかりついてきたお前が…」

 

シャルルの言葉にも、ルルーシュは余裕の態度を崩さない。

 

「そうだな。俺はずっと嘘をついていた。名前や経歴だけじゃない。本性すら全て隠して…しかし当たり前の事だろう。他人に話を合わせる、場にとけ込む…それらなくして、国や民族、コミュニティというものは存在しない。」

 

ルルーシュはニヤリと笑い、シャルルに顔を向けた。

 

「誰もが嘘をつく。家族の前、友人の前、社会を前にして、みな違う顔をしている。しかし、それは罪だろうか?素顔とはなんだ?お前だって、皇帝という仮面を被っている。もはや我々は、ペルソナ無しでは歩めないのだ。」

 

「違うな。」

 

シャルルがルルーシュの言葉を否定すると共に、周囲の景色が変わり、図書館のようになる。シャルルは一冊の本を取り出すと、それを開いた。そこには、幼い頃のシャルルとV.V.が写真のように写し出されていた。

 

「未来永劫に渡って嘘が無駄だと悟った時、ペルソナはなくなる。理解さえしあえれば、争いは無くなる…」

 

「形而上学的な机上の空論だな。」

 

それをさらに否定するルルーシュ。シャルルは本を閉じると、彼の方へ振り返った。

 

「すぐ現実になる。それが、我がラグナレクの接続。世界は欺瞞という仮面を脱ぎ捨て、真実をさらけ出す…」

 

 

 

 

 

 

「Cの世界?」

 

アーニャに起こされたスザクは、彼女の今の人格を聞き、C.C.にも皇帝の目的を教えられていた。

 

「既存の言葉で言うなら集合無意識…人の心と記憶の集合体。輪廻の元、大いなる意思…神と呼ぶものもいる。」

 

それを聞いたスザクは、一つの心当たりを口にした。

 

「ナリタで君に会ったときに…」

 

「あれは個人の意識との混在だ。と言っても、お前が何を見たのかは知らないが…」

 

二人がやりとりをするそばで、破壊された扉の前で機械を操るアーニャ。彼女は立ち上がると、諦めの言葉を口にした。

 

「ダーメ、こんなに壊れていたら…頼むわC.C.」

 

アーニャは彼女の手を取る。

 

「本当に行くのか?」

 

「当たり前でしょ?シャルルは私達を待っているのよ。あなたがコードを彼に渡していれば簡単だったのに…先に行ってるから。」

 

反対の手で、壊れた扉に触れる。すると扉に描かれた紋様が赤く光り、アーニャの体を包み込んだ。

 

「何を…!?」

 

言いかけたスザクの目の前で、意識を失って倒れるアーニャ。倒れる彼女を受け止めたスザクは、ゆっくりとその場に体を横たわらせる。

 

「枢木スザク…似ているなお前と私は。」

 

「似ている?」

 

C.C.を見上げながら、スザクが彼女の言葉に疑問を呈す。

 

「死を望みながら、死ねないところが…」

 

「…本当にそれが望みなのか?迷っているんだろう、C.C.。」

 

神殿の入口側から、C.C.に声がかかる。そこに立ってるのはライだ。

彼はある程度ブリタニア側の戦力を削り、援軍も得た事でこちらに駆け付けていた。

 

 

 

 

 

 

グレートブリタニアに戻ろうとする小型機からは、こちらへ向かってくるアヴァロンと斑鳩の姿が見えていた。

 

「シュナイゼル殿下と、黒の騎士団!?」

 

彼らがこちらへ向かう事など聞いていなかったビスマルクが驚きを露にする。斑鳩からは、神虎と斬月、そして紅蓮聖天八極式や暁隊が出撃してきていた。

 

「ライ、私は、あなたを取り戻す。」

 

操縦桿を握るカレンの手に力が入る。しかし、彼女らの前に立ち塞がる複数の機体があった。

 

「それが噂の第九世代か。だが、ここを通してやるわけにはいかんな。」

 

ゼロの戦死という情報を聞いた時点で、ライと連絡を取り合って神根島に駆け付けたロック。灰塵壱式の背中には、六枚のフロートが出現している。

 

「…そうね。お兄様の邪魔はさせないわ。」

 

ヴィンセント・アソールト、そしてロロが操縦する蜃気楼も灰塵壱式に並んだ。さらに、機体を前進させようとする暁隊の一部が後方から放たれた弾丸によって次々と撃墜されてゆく。団員達が振り返ると、こちらにジャッジメントを向ける複数のアレクサンダの姿があった。

 

「…隊長は、殺させない。」

 

出撃してきたアキトらは暁隊に襲い掛かる。それを見て、ロックらも騎士団へと攻撃を仕掛ける。

彼らの闘いに巻き込まれぬよう、ビスマルクは機体を大きく迂回させ、アヴァロンに向かった。

 

「ロック君!我々の邪魔をするつもりか!?それに日向君、マルカル君らもどういうつもりだ!?」

 

藤堂の問いに、まずアキトが返答すべく口を開いた。

 

「自分達は、日本を取り戻したい訳じゃない。仲間と共に静かに暮らせる場所が欲しい、その為に闘っているんです。そして、俺達にとっては隊長もその仲間です。」

 

それに続いて、ロックも自身の行動の理由を告げる。

 

「言った筈だ。藤堂将軍。俺は、あいつの騎士だと。あいつの道を切り開くのが、俺の役目だ!」

 

灰塵壱式が振るった拳により、斬月は斑鳩付近まで弾き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、そんな…」

 

「大きくなったわね、ルルーシュ。」

 

ルルーシュの前には、生前の姿と変わらないマリアンヌが立っていた。彼女はルルーシュを見つめ、目を細める。

 

「来たか、マリアンヌ。」

 

シャルルが彼女に声をかけるが、ルルーシュが彼に向けて声を張り上げた。

 

「これも幻想か!?こんなことをして…」

 

「うーん、本物なんだけどなぁ。ま、このシステムでしか、元の姿形は取れないけど。」

 

そう言って、片足を上げながらくるっと一回転して見せるマリアンヌ。その姿に、ルルーシュは驚きを通り越してショックを受けていた。

 

「ルルーシュ、先程の問いに答えよう。今より半世紀程前、ワシと兄さんは地獄にいた。親族は全て帝位を争うライバル…暗殺が日常となった嘘による裏切りの日々。みな、死んでいった。」

 

彼は幼いV.V.とシャルルを描いた絵の前に立ち、言葉を続ける。

 

「わしと兄さんは世界を憎み悲しみ、そして誓った。嘘のない世界を作ろうと…」

 

「私もC.C.もその誓いに同意したわ。でもV.V.は…シャルルに黙って私を殺した。シャルルが私に出会って変わったからと…そしてナナリーを目撃者に仕立てたの。

私のギアスは人の心を渡るギアスだった。肉体が死を迎えた時、初めて発動した力。私はその場にいたアーニャの中に潜んでV.V.をやりすごしたの。」

 

信じられないといった表情のルルーシュ。マリアンヌはどこか彼のその表情を楽しむように、言葉を続けた。

 

「そして知ったわ。私の意識を表層に上げたとき、C.C.と心で話す事が出来るって。

事実を知ったC.C.は嚮団をV.V.に預け、私達の前から姿を消したわ。」

 

「兄さんは嘘をついた。嘘のない世界を作ろうと誓ったのに…」

 

二人の言葉に、ルルーシュが激昂する。

 

「ふざけるな…死んだV.V.に全て押し付けるつもりか!?俺とナナリーを、日本に人質として送った癖に!!」

 

「必要があった!」

 

「何の必要だ!?親が子を遠ざけるなんて…!!」

 

ルルーシュはそこで、以前C.C.から言われた言葉を思い出す。本当に大切な者は、遠ざけておくものだといった彼女の言葉を。

 

 

 

 

 

 

 

 

「反乱軍は、黒の騎士団の協力もあって鎮圧されつつあります…が。」

 

アヴァロンにて、シュナイゼルの前に跪くビスマルクが彼に鋭い目を向ける。

 

「ん…?他に何か?」

 

「シュナイゼル殿下は、どこまでご存知なのですか?」

 

「怖いねえ。何の話だい?」

 

 

アヴァロンから少し離れた場所では、紅蓮聖天八極式と灰塵壱式が闘っていた。灰塵壱式に装備された三対のフロートと脚部にも現れている小型のフロートのおかげで、第九世代並とまではいかずとも何とか闘える程度のスピードで灰塵壱式は紅蓮に追いすがっていた。

 

「ロック!あんたはどうして、邪魔をするの!?」

 

「…さっきも言った筈だ!俺は生涯奴の騎士…ならば、その道を妨げるものを取り払うのが俺の道だ!例えあいつの恋人だとて、手加減は出来んぞ!」

 

「彼の道って、それは一体どんな道なのよ!?私は、彼さえいれば…」

 

操縦桿を強く握りしめ、ロックに訴えかけるカレン。だがロックは、無情にもそれを否定した。

 

「裏切ったのはそちらの方なのだろう。そこに至るまでどのようなやりとりがあったのかは知らんが、貴様にそれを言う資格があるのか!?」

 

灰塵壱式が腰から長刀型のMVSを抜いて振り下ろす。その一撃を辛くも受け止めた紅蓮であったが、体勢を崩されて大きく押し込まれた。

 

二機がぶつかり合う下では、C.C.とスザク、そしてライが話をしている。

 

「私はルルーシュを利用していた。全てを知っていながら、私自身の死という果実を得る為に…あいつが生き残ることだけを優先して…」

 

「後悔は?」

 

スザクの問いに、C.C.は誰にも目を向けずに答えた。

 

「まさか…私は永遠の時を生きる魔女。捨てたんだ、人間らしさなんか…」

 

「なら、何故シャルルを拒んでルルーシュの元に戻ったんだい?C.C.。君は、閉じ込めているだけなんだろう?自分の本心を…」

 

「ああ、君と僕は似てなんかいないよ。例え愚かだと言われても、立ち止まる事はできない!」

 

スザクの言葉を聞いたライは、彼に手を差し出す。

 

「スザク、僕の手を取れ。僕が、君をCの世界に連れていこう。」

 

ライが扉に触れると、先程と同じように扉の紋様が赤く光だした。

 

「あ、ああ。」

 

まさか彼までCの世界に干渉できると思っていなかったスザクは驚きながらも彼の手を取る。ライはC.C.に目を向け、彼女に告げた。

 

「C.C.、君の気持ちにも、考えにも決着を着けよう。僕らと一緒に来るんだ。君の事は、僕が守ってみせる。」

 

ライの言葉にC.C.は戸惑う素振りを見せたが、やがて頷く。二人の姿が扉の前に消えたのを見ると同時に、彼女も右手を扉へ伸ばした。

 

 

ルルーシュは、二人の思いと真実に目を見開いたまま言葉を返せないでいた。

 

「そう、兄さんの目から逃がす為にお前達を日本に送り込んだ。マリアンヌの遺体も密かに運び出させて…」

 

「身体さえ残っていれば私はまたそこに戻れる可能性がある。」

 

「わしは全てを守る為、目撃者であるアーニャとナナリーの記憶を書き換えねばならなかった。」

 

シャルルの言葉に、ルルーシュは更なるショックを受ける。

 

「ナナリー!?目が見えなかったのは、心の病ではなく…」

 

「偽りの目撃者とは言え、命を狙われる危険はあったわね。」

 

「ナナリーを救う為には真実に近付けない証が必要だった…」

 

目が見えなければ、ルルーシュのように母の死の真相を調べることはできない。また、それがトラウマになっていれば自分から遠ざけるだろうという判断だ。

 

「元々の計画では不老不死のコードは一つで良かったの。でも、研究が進むにつれもう一つのコード、つまりC.C.がいないと100%の保証はないと分かったわ。」

 

「マリアンヌによるC.C.の説得が上手くいかぬ以上、もはやお前を使うしか…」

 

「じゃあ、俺は何の為に…」

 

ルルーシュは、自身がこれまで築き上げてきたものが全て崩れてゆくのを感じていた。自身が母の為、ナナリーの為と思って行動を起こしてきたのは全て無駄でしかなかったと言われたのと同じだったからだ。

 

「ラグナレクの接続が成されれば、そのような悲劇は無くなる。」

 

「仮面は消える。みんなありのままの自分でいいの。」

 

「そうか…ブリタニアと黒の騎士団の闘いですら、C.C.を誘い出す為の…つまり、俺は始めから、世界のノイズで、邪魔者で…

フッ…どう思う、お前達は?」

 

ルルーシュが振り替えると、そこにはライとスザク、C.C.が立っていた。

 



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episode37 After lite

「気付いていたのか?私が現れると…」

 

「元に戻っていることもな。必要なんだろ?この計画に…」

 

ルルーシュの問いに、C.C.ではなくシャルルが答えた。

 

「その通り。故に枢木よ、ここまで追ってきても意味はない。」

 

「でしょうね。あなたは既に不老不死であると聞きました。だから、確かめたい事があります。あなたが作ろうとしているこれは…」

 

スザクの問いに、シャルルは笑みを湛えながら答える。

 

「そう、ユフィもナナリーも望んでいた、優しい世界だ。そして王よ、今度こそ、あなたに見て頂きたい。」

 

「前回、忠告はした筈だよ、シャルル・ジ・ブリタニア。」

 

だがシャルルはライの言葉を一顧だにもせず、C.C.に右手を向けた。

 

「C.C.、我らが揃った以上、これで計画が始められる。お前の願いはそのあとで叶えてやろう。」

 

シャルルのコードに、C.C.のコードも反応し、赤く光り始めた

 

 

時を同じくして、世界各地に存在する遺跡も赤い光を発し、そこを中心として地震のような揺れが起こり始めていた。

 

「──世界中で?ビスマルク…」

 

「皇帝陛下の計画が実行されつつあるのでしょう。陛下の願いさえ叶えられれば、その後の世界はシュナイゼル殿下が治められるのがよろしいかと…但し、政治の意味が変わることはご理解頂きたい。」

 

戦闘の手を止めるカレンやラウンズ達。それを機に、ロックがロロと特務隊の面々に命令を下した。

 

「…潮時だな。一旦引くぞ。」

 

「…で、でも!まだ兄さん達が!」

 

ルルーシュとライがあちらの世界から戻っていない。その為にロックの命令に従えないとロロは反抗する。

 

「…後で迎えに来るとして、ここは一旦引きましょう。これ以上はジリ貧だわ。アキト達も、一旦下がりなさい。」

 

「了解。」

 

しかしルーンもロックに同意し、アキト達もそれに続いた事でロロは歯噛みしながらも蜃気楼を撤退させる。騎士団側も、それを見て追撃しようとはしなかった。

 

 

 

 

 

黄昏の間の景色が崩れ去り、上空まで続く二本の絡み合う柱だけが残った。

 

「ああ、始まる…アーカーシャの剣が、神を殺すの!」

 

恍惚とした表情になるマリアンヌ。それを見て、シャルルはC.C.に向かって歩みだした。

 

「さぁ、後は我らの刻印を一つとすれば…新しい世界が始まる!」

 

しかし、C.C.の前にはライが立ち塞がった。それを見たスザクは、ルルーシュに改めて問いかける。

 

「ルルーシュ、君は何の為に世界を手にいれようとした?」

 

「くだらない質問をするな。俺はナナリーを…」

 

「ナナリーを言い訳に使うのか?」

 

スザクの言葉を受け、ルルーシュはその表情に軽い笑みを浮かべた。

 

「…そうだな。俺は俺が守りたいと思う全ての為に闘ってきた。」

 

「結果を求めるなら、何かを成さなければならない。」

 

「その為の手段は、何かを否定することに繋がる。」

 

そう言うと、ルルーシュはシャルルに向けて歩を進めた。

 

「俺はお前を、お前の考えを認めない!」

 

ここにきて、なおシャルルの邪魔をしようとするルルーシュに、シャルルは怒りを込めた目で彼を睨み付ける。しかしルルーシュが、その考えを変えるつもりは無さそうであった。

 

「人は何故嘘をつくのか。それは何かと争う為だけじゃない。何かを求めるからだ!ありのままでいい世界とは、変化がない、生きるとは言わない、思い出の世界に等しい、完結した閉じた世界…俺は嫌だな。」

 

「…ルルーシュ、それは私も否定するということ?」

 

マリアンヌの問いに、ルルーシュはさらに問いを重ねる。

 

「母さんの願いは、皇帝と同じなのですか?」

 

「バラバラになったみんながまた一つになるのは良いことだわ。死んだ人とも一つになれるのよ。ユーフェミアだって…」

 

「やはりそうか…」

 

ルルーシュはライに目を向ける。

 

「…ルルーシュ。僕を気にする必要はない。君が言うべきだと、やるべきだと思うことをやれ。」

 

「…ああ、俺は、俺にはお前やロロがいる。その意味を、何故お前達は考えないんだ…?お前達は自分がその世界を創る事をいい事だと思っている。しかし、それは押し付けた善意だ。悪意となんら変わりがない。」

 

ルルーシュの言葉を受けても、シャルルは表情を崩さない。何故自分達がルルーシュやライから否定されるのか分かっていないどころか、それについて考えるのを放棄しているのだ。

 

「みな、いずれわかる時が来る。」

 

「そんな時は来ない!!

…一つだけハッキリしている事がある。お前達は俺とナナリーに善意を施したつもりなのかもしれない。しかしお前達は、俺とナナリーを捨てたんだよ!!」

 

マリアンヌは即座にそれを否定する。

 

「でもそれは守ろうとして…」

 

「日本とブリタニアの戦争を止めなかったのは何故だ!?計画を優先したお前達は、もう俺達が生きていようと死んでいようと関係が無かったんだ。だから捨てた!自己満足の言い訳だけ残して!」

 

「それは違うわ!」

 

さらに否定を重ねるマリアンヌに、ルルーシュが右手を向けながら告げた。

 

「今言っただろう!死んだ人とも一つになれると!未来なんか見ていないんだ!!」

 

「未来は、ラグナレクの接続…その先にある。ナナリーの言った優しい世界が。」

 

シャルルの言葉も、ルルーシュは即座に否定した。

 

「違う!お前達が言っているのは自分に優しい世界だ!でもナナリーが望んだのは、きっと…他人に優しくなれる世界なんだ…」

 

「だとしてもそれが何だ?すでにラグナレクの接続は始まっている。」

 

「そうかな?そう言う割には、先程からその柱、思考エレベーターとやらの動きは止まっているが…」

 

シャルルとマリアンヌが振り向くと、先程まで蠢いていた柱が動きを止めている。そしてもう一度目線を戻すと、そちらへ左腕を向けるライの姿があった。

 

「あくまで邪魔をするか…ライディース・リオ・ブリタニア!!」

 

シャルルの言葉に、ライは目線をルルーシュに移しただけだ。そのルルーシュは左目のコンタクトを外しながら口を開いた。

 

「ライを、狂王の力を甘く見たな…。そして、俺はゼロ!奇跡を起こす男だ!」

 

「ギアスなどわしには通じぬ!他の者にしても…」

 

「いいや、もう一人いるじゃないか!」

 

ルルーシュの言葉に、その意味を理解したシャルルは目を見開く。ルルーシュは上空に目を向け、両手を広げた。

 

「そう、Cの世界は人類の意思、そして、人は平等ではない…共にお前のこ言葉だ。平等ではないが故に俺の力を知っているな。」

 

「愚かなりルルーシュ!王の力では神に勝てぬ!」

 

「勝ち負けじゃない!これは願いだ!

神よ!集合無意識よ!時の歩みを、止めないでくれ!!」

 

ルルーシュが行動に移したことで、マリアンヌが駆け込んでくる。

 

「ルルーシュ、あなたって子は…」

 

しかし彼女が伸ばした手を掴み、ライが背負い投げのように地面に叩きつけた。

そこへ、スザクが剣を向ける。

 

「こんなことは誰も、ユフィも望んではいなかった!」

 

「ぐ…ユフィと話をさせてあげる為に助けたのに…」

 

「それを押し付けと言うんだ!!」

 

シャルルは、未だにルルーシュの行動に意味はないと断じていた。いや、自身がそう信じたかったのだろう。

 

「出切る筈がない。神に…人類そのものに!!」

 

「それでも俺は、明日が欲しい!!」

 

その言葉と同時に、ルルーシュの右目にもギアスの光が宿る。その直後、上空にギアスと同じ紋様が現れると、柱が崩壊を始めた。

 

「そんな…!」

 

立ち上がったマリアンヌが、絶望の表情を向ける。

 

「思考エレベーターが…ワシと兄さんの…マリアンヌの夢が朽ちてゆく…!」

 

その光景を見たC.C.は、その場に座り込んだ。

 

「シャルル、もうやめよう。烏滸がましいことだったんだよ、これは…」

 

「C.C.、まだ我らの刻印がある限りは…ぬうっ!?」

 

シャルルは、自身の存在が消えつつあることに気付いた。既に脛のあたりまでは光にのまれてなくなってしまっている。

 

「あなた…!」

 

シャルルに駆け寄ったマリアンヌも、同じく足元から消え始めた。

 

「馬鹿な…飲み込まれる?Cの世界に…」

 

「でも、C.C.は…!C.C.はどうして消えないの!?この計画に賛同していたんじゃ…」

 

マリアンヌが彼女を振り返るも、C.C.は変わらずその場に座ったままだ。

 

「すまない、気付いてしまったんだ。お前達は、自分が好きなだけだと…」

 

「違う!ルルーシュやナナリーの事だって…」

 

それを否定しようとしたマリアンヌを、ルルーシュが遮った。

 

「お前達は知っているのか?ナナリーの笑顔の意味を!」

 

「…笑顔?」

 

「何故分からないんだ!ナナリーは目も見えず、歩くことも出来なかった!だから、世の中には自分一人では出来ないこともあるって知っていたんだよ!ナナリーの笑顔は、せめてもの感謝の気持ちなんだ!」

 

「そのようなごまかしこそ…」

 

シャルルはルルーシュの言葉を否定しようとしたが、ルルーシュはそれすら遮った。

 

「それを嘘だとは言わせない!言わせてなるものか!!現実を見ることもなく、高みに立って俺達を楽しげに観察し…ふざけるな!事実は一つだけだ…お前達親は、俺とナナリーを捨てたんだよ!!」

 

「この賢しき愚か者がぁっ!!」

 

シャルルは無くなった足を動かし、ルルーシュに走り寄ると彼の首を右手で掴んだ。

 

「二人とも、手を出すなよ!」

 

咄嗟に動こうとした二人に、ルルーシュが伝えた。

 

「ワシを拒めば、その先にあるのはあやつの、シュナイゼルの世界だぞ!善意と悪意が所詮、一枚のカードの裏表…それでも貴様は!!」

 

「だとしても、お前の世界は俺が否定する。消え失せろ!!!」

 

「「あああぁぁぁぁっっ!!」」

 

ルルーシュの言葉と共に、二人はCの世界に飲み込まれ、目の前で霧散した。

 

「C.C.、お前も逝くのか?」

 

「死ぬ時くらいは笑って欲しいんだろう?……お前達こそ、これからどうするんだ?シャルル達の計画を否定し、現実、時の進む事を選んだ。だが…」

 

「ああ、ルルーシュはユフィの敵だ。」

 

スザクは剣を構える。

 

「…だから?」

 

ルルーシュも、そちらへ向き直る。C.C.は、ライの手を借りて立ち上がり、二人が出すであろう答えを待っていた。

 

 

 

 

 

 

「う……どこ、ここ?」

 

アーニャが目を覚まして体を上げると、周囲には見たことのない遺跡のような物体があった。

 

「これは…」

 

アーニャがそれに触れた瞬間、彼女の頭の中を情報の濁流が襲った。

 

「うっ…ああ…あああぁぁぁぁっ!!」

 

頭を抱えてその場に踞るアーニャ。しばらくすると、彼女はその体勢のままボソッと呟いた。

 

「……思い、出した。」

 




今日中にあと一話くらいは手直し出来そうです。


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episode38 Kingdom come

あれから一ヶ月が経った。貴族や皇族達は、帝都ペンドラゴンにある皇宮に集められていた。

この一ヶ月の間、シャルルが人前に姿を現さなかったことで、今回こうして集められたのはよほど重要な発表があるのだと考えられていた。多数のカメラも入っており、その様子は世界に向けて発信されている。

 

「陛下は行方不明とか言ってなかった?」

 

「報告してきたビスマルク本人がいないのでは…」

 

第三皇女カリーヌの言葉に、第一皇女ギネヴィアが答える。

 

「そんなことより、シュナイゼル達は…?」

 

オデュッセウスの言う通り、この場にはシュナイゼルやカノン、アーニャはいない。カンボジアにいる、とだけは推察されているが、あちらからの連絡は一切無い。

 

「皇帝陛下、御入来!!」

 

入口に立つ兵が声を上げた事で、周囲の視線がそちらを向く。しかし、玉座に向けて歩いてきたのは、シャルルでは無かった。

 

「私が、第九十九代ブリタニア皇帝、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアです。」

 

ルルーシュは玉座に腰を下ろすと、足を組んで貴族達を見下ろした。

 

「生きていた…?」

 

驚きを隠せないギネヴィア。彼女の言葉に、ルルーシュはあくまで冷静に返答する。

 

「そうです姉上。地獄の底から舞い戻って来ました。」

 

「良かったよルルーシュ。ナナリーが見つかった時にもしかしたらと思っていたけど…しかし、いささか冗談が過ぎるんじゃないか?そこは父上の…」

 

状況を理解出来ていないオデュッセウスが一歩前に出ながらルルーシュに告げる。それに対し、ルルーシュは冷ややかな目で彼を眺めながら答えを返した。

 

「第九十八代皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアは私が殺した。よって、次の皇帝には私がなる!」

 

ルルーシュの宣言に、皇族や貴族達がざわめく。ギネヴィアは警備の兵達の方へ振り向くと、怒りのままに命令を下した。

 

「あの痴れ者を排除しなさい!皇帝陛下を弑逆した大罪人です!」

 

それに従い、ルルーシュの元へ駆ける兵達。その彼らを、舞い降りたスザクが蹴り飛ばす。

 

「紹介しよう、我が騎士枢木スザク。彼にはラウンズを超えるラウンズとして、ナイトオブゼロの称号を与える。」

 

「いけないよルルーシュ、枢木卿も…国際中継でこんな悪ふざけを…」

 

ここに至ってもまだ状況を飲み込めていないオデュッセウスが声をかける。それを見たルルーシュは、立ち上がって右手を顔にかけた。

 

「そうですか。では分かりやすくお話ししましょう。」

 

両目からコンタクトを外すルルーシュ。そこには、ギアスの光が宿っていた。

 

「我を認めよ!!」

 

「イエス・ユアマジェスティ!」

 

「「オールハイル・ルルーシュ!」」

 

集まった皇族や貴族達が上げる声に、ルルーシュは満足そうな表情で頷いた。

 

 

「…行かなくていいのか?お前達は?」

 

その様子を、舞台裏で眺めているC.C.。彼女の横には、ライとルーン、ロックとロロが立っている。

 

「…わざわざ今更、表舞台に立とうとは思わないよ、C.C.。彼らが表なら、僕達は裏だ。役割分担って事さ。」

 

ルルーシュとスザクを眺めながら、ライは自嘲気味に呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ルルーシュ皇帝即位より二週間程が経った。ルルーシュは、歴代皇帝領の破壊に加え、貴族制度廃止や財閥の解体、ナンバーズの解放等、これまでのブリタニアでは考えられないような方策を打ち出していた。当然、貴族達はそれに反発し、反乱を起こす。だが、第九世代に相当する蒼焔を始め、第八世代機の中でも強力な灰塵壱式やヴィンセント・アソールト率いる皇帝直轄部隊により、瞬く間に鎮圧されてしまっていた。

また、報道されぬ事としては、ルルーシュは兵達にギアスをかけて次々と自身の奴隷としている。彼は着々とこれまでのブリタニアを破壊しつつあった。

 

「皇帝陛下ぁ~、その力一度分析させてくれませんかねぇ?」

 

その様子を見て、興味深そうにルルーシュに聞いたのはロイドだ。しかし彼の言葉に答えたのはルルーシュではなく、彼に謁見を認められたジェレミアであった。

 

「死にたいのか?ロイドよ。」

 

「あ~怖い怖い怖い!」

 

ジェレミアの言葉に、ロイドは笑顔のまま怯えて見せる。

 

「全く…」

 

その様子に苦笑いを浮かべながら、ジェレミアはルルーシュの前に跪いた。

 

「ジェレミア・ゴッドバルト、只今、ローゼンクロイツ伯爵の討滅より帰還致しました。」

 

「御苦労だった。しかし…我ながら人望がないな。こうも各地で貴族達が反乱を起こすとは…」

 

「既得権益が奪われるとなれば、抵抗もする。」

 

ルルーシュの隣の椅子に、チーズ君のぬいぐるみを抱えたまま座るC.C.が答えた。

 

「だからこそ分からせる必要がある。血統書や過去の栄光に縋る、愚かさと浅ましさを。」

 

ルルーシュの言葉に、ジェレミアが深く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

旧エニアグラム領。

ルルーシュが皇帝に即位してから、領地を返上して行方を眩ませたノネット。しかし彼女が住んでいた邸宅には、今はアドニスが一時的に身を寄せていた。そして、我が物顔で椅子に腰掛ける彼の前には、一人の大柄な男が立っていた。

 

「もう一度言う、アドニス。我らと供に闘って欲しい。」

 

アドニスにそう告げたのはビスマルクだ。彼はルルーシュ即位以降、アヴァロンから離脱して連絡すら寄越さなかったアドニスを、なんとか探しだしていたのだ。

 

「あの蒼焔という機体に対抗できるのは、現状では黒の騎士団の紅蓮と、お前のランスロット・クラブ・バーディクトだけだ。我らと供にシャルル皇帝の意思を継ぐ者として、ラウンズを率いて闘って欲しい。」

 

ビスマルクの言葉に、アドニスはいつもの皮肉そうな笑みを浮かべながら返答する。

 

「お断りします。ヴァルトシュタイン卿。」

 

まさか断られると思っていなかったビスマルクは、眉をひそめながらアドニスを見た。

 

「あなたの企みに乗るつもりはない、という事です。大方、俺かマリーベルの血筋を利用して傀儡政権を作ろうと考えているのでしょうが…事実は、我々は敗れ、仕える主を失った。それだけです。」

 

アドニスとて、ルルーシュを認めようとは思っていなかった。しかしながら、ビスマルクに利用されて使い潰される事と天秤にかければ、まだしも何もしない方がマシだという事である。

 

「それに、ラウンズの指揮なら俺よりあなたの方が適任でしょう。クラブは貸せませんが、余っている機体ならどにでもありますよ。」

 

その言葉は、ビスマルクの専用機であるギャラハッドが撃墜され、今は彼が乗るべき機体が無い事を知っての皮肉だ。ビスマルクはそれを受けて一つ息を吐くと、諦めの言葉を口にした。

 

「……分かった。ラウンズの指揮はジノか、三ヶ月前にナイトオブツーに任命されたばかりだが、ブロックラップ卿に頼むとしよう。しかし気が変わったら、いつでも連絡して欲しい。」

 

それだけ伝えると、ビスマルクは彼の前から去った。アドニスは彼が出ていった扉をしばらく眺めていたが、奥の部屋から様子を伺っていた者達が現れ、彼に問い掛ける。

 

「あれで良かったの?アドニス…ブリタニアという国を取り戻したいのなら…」

 

そう口にしたのはマリーベルであった。その後ろにはグリンダ騎士団の主要メンバーも揃っている。

 

「お前は、ビスマルクについていきたいと思うか?」

 

「…いえ、私も利用されるだけだとは理解しているわ。ただ、シュナイゼル兄様に頼るのも、私には…」

 

彼女らはアドニスがアヴァロンから離れる際にこの先に何が起こるかを予測し、自分達がただの戦力として利用されるのを危惧してアドニスと同じくシュナイゼルの元から離脱したのである。

 

「ああ、あの方は全てを、自分ですら駒としか見ていない…命を無駄にするだけだな。だからこそ、俺達は俺達の道を見付けなくては。」

 

そうは言うものの、アドニスにもマリーベルにも、オルドリン達にも自分達の目指すものは見えていない。沈黙が部屋を支配しようとした時、先程ビスマルクが出ていった筈の扉が開き、一人の男が入ってきた。

 

「ここにいたのか。」

 

「!!…おに、いや、オルフェウス!」

 

そこに立っていたのはオルドリンの双子の兄、オルフェウス・ジヴォンである。テロリストとして指名手配を受けている彼だが、危険を犯してまでここに現れた理由はアドニスやマリーベル、オルドリンにすら分からなかった。

 

「何をしにきた?以前俺が言った事を本気にしたか?」

 

アドニスが言ったこととは、彼に対する引き抜きである。その際、気に入らなければ正面から叩き潰してやるとも告げたのだが、それだけの為にここに現れた訳ではないことは誰の目にも明らかであった。

 

「いや、頼まれ事でな。この国に入るには、俺のギアスが最も有用だったと言うだけだ。」

 

そう言って彼はポケットから携帯電話を取り出すと、画面を操作してから自身の耳に当てた。

 

「…俺だ。あぁ、今目の前にいる。変わるよ。」

 

アドニスに電話を差し出すオルフェウス。それを訝しみつつも、アドニスは受け取った電話を耳に当てた。

 

「誰だ?」

 

『……紅月カレンよ。』

 

思わぬ通話相手に、アドニスは驚きで目を見開く。彼女がわざわざオルフェウスを使ってまで自分に連絡を取ろうとした理由に、アドニスは心当たりは無かった。

 

「…何の用だ?」

 

『私は、ライを取り戻したい。あなたに協力して欲しいの。』

 

彼女の申し出に、アドニスはさらに驚きを重ねた。彼女が自分を頼る等、考えた事すら無かったからだ。

 

「何故俺にそれを求める?」

 

『…こっちは、おそらく戦争になると見ているわ。それに備えて、戦力は出来る限り多い方がいい。それに…あなただって彼と決着を付けたいでしょう?』

 

カレンの言葉に、アドニスは思わず笑みを浮かべた。

 

「殺してしまう可能性もあるぞ。」

 

『…いいえ、そうはならないと思うわ。あなたは、優しいから。』

 

それを受けて、アドニスは声を上げて笑った。

 

「優しいと来たか!……まぁ、いいだろう。合流場所を指定してくれ。」

 

アドニスが申し出を受けてくれる可能性はかなり低いだろうと思っていたカレンは、彼がそれを了承した事に驚きつつも合流場所を伝える。

 

「出来ればブリタニア領じゃないところがいいわ。途中まで斑鳩で…」

 

「いや、いい。俺が日本まで行こう。」

 

『……ありがとう、アドニス。』

 

アドニスは電話を切ると勢いよく立ち上がり、黒いバンダナを額に巻く。

 

「…いいのか?」

 

オルフェウスの問いに、アドニスはいつもの皮肉そうな笑顔を彼に向けた。

 

「いつまでもここにおれん事は分かっていた事だしな。お前達はどうする?」

 

振り返ってマリーベルらに問い掛ける。彼女達も表情を引き締め、アドニスに向かって大きく頷いた。

 

「行きましょう。」

 

アドニスはグリンダ騎士団を引き連れ、地下の格納庫に向けて歩き出した。

 



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episode39 No democracy

ライは貴族の反乱の鎮圧を終え、帝都ペンドラゴンに戻っていた。皇宮敷地内にある皇帝直轄部隊用の格納庫に蒼焔を格納すると、部下に声をかける。

 

「リョウ、報告書を出した後は自由にしていいとユキヤ達に伝えておいてくれ。僕は皇帝陛下に口頭で報告してくるよ。」

 

「了解ィ。」

 

答えたのは、騎士団時代からの部下であるリョウだ。他の元特務隊の面々も神根島で騎士団を離脱し、ライに着いて来ている。彼らはライとの付き合いは短いが、それでも彼のゆく道を信じて騎士団と袂を分かつ決断を下したのだ。そんな彼らをルルーシュは厚遇し、騎士団時代と同様にライの直属部隊としている。また、彼らが騎乗するアレクサンダや牙鉄はロイドやタカムラの手が入った事で、これまで以上の戦闘力を得るに至っていた。

 

 

 

 

 

「即位早々、ルルーシュ皇帝は歴史に名を残した。ブリタニアの文化を破壊したんだから…」

 

ブリタニア皇宮内にある、エグゼリカ庭園で、ルルーシュとスザクは話し込んでいた。

 

「序の口だよ。これから俺は、多くの血を流す。虐殺皇女の名が霞み、人々の記憶から消え去る程に…」

 

「ルルーシュ、君は…」

 

それがユーフェミアの事を指しているという事に、スザクはすぐに気付いていた。

 

「ユフィだけじゃない。ナナリーも、俺達は失った…失いすぎた。それでも明日を迎える為には、まず世界征服から。

フッ…口にすると笑ってしまうな。」

 

二人の後方から、蹄の音が聞こえた。スザクとルルーシュは、同時にそちらへ振り返る。

 

「だが、やるつもりなのだろう?お前達は…」

 

そこには、馬に跨がったC.C.がいた。彼女の問いに、ルルーシュは笑みを湛えながら答える。

 

「ああ、ゼロレクイエムの為に…」

 

そう言うと、ルルーシュはスザクの方に目を映す。彼はその視線を受けると、左手を自身の胸元へ持ち上げた。

 

「イエス・ユアマジェスティ。」

 

その直後、スザクの目にははもう一人、馬に乗ってこちらへ向かってくる人物が見えていた。

 

「戻ったよ。ルルーシュ、スザク、C.C.。」

 

現れたのはライだ。彼は皇宮内にルルーシュの姿が見えなかった為、わざわざこちらへ出向いたのだろう。

 

「手間をかけたな、ライ。だがこれで、貴族達の反乱鎮圧もほぼ完了した…後は…」

 

「ああ、カンボジアだな。」

 

ライの言葉に、ルルーシュは頷く。

 

「シュナイゼルが行動を起こす前に計画を次の段階へ…」

 

ルルーシュが言い切る前に、彼の懐から携帯電話の呼出音が鳴った。

 

『陛下、エニアグラム殿がお見えです。ウォーカー中将に会わせろと…』

 

警備兵からの連絡に、皇宮内に案内するよう返して電話を切る。ちなみに、ウォーカーとはライのことだ。

しかしその直後、もう一度彼の携帯電話から呼出音が鳴り響いた。

 

「…どうした?」

 

『陛下!ナイトオブラウンズが…!!』

 

部下からの連絡によると、ジノ・ヴァインベルグを筆頭としたラウンズ達とその直属部隊が、各々の専用機でこちらへ向かっているという。

ルルーシュはスザクに目線を移すと、彼は無言で頷き、馬の背に飛び乗った。

 

 

 

 

 

「我々はシャルル皇帝陛下に忠誠を誓っている。王位の簒奪など認められない!」

 

ジノがオープンチャンネルで告げながら、帝都ペンドラゴンへ近付く。その彼らの視線の先に、こちらへ向かって飛来するナイトメアの姿が映った。

 

「迎撃部隊…?しかしたった一機で…」

 

ナイトオブフォー専用機、パロミデスに騎乗するドロテアが呟く。そこに現れたのは、ナイトオブゼロ、枢木スザク専用機であるランスロット・アルビオンであった。アルビオンはエナジーウイングを展開すると、空高く舞い上がる。

 

「お、追いかけ切れない!」

 

パロミデスの主武装、グレイプニールと名付けられたメーザーバイブレーションウィップを起動して攻撃を放つドロテア。しかしアルビオンは余裕をもって躱し、パロミデスに一閃を浴びせてパイロットごと撃墜した。

次の瞬間には部隊の遥か上空に飛び上がり、翼から多数のブレイズルミナスを放つ。ラウンズ配下の部隊員達は、それに反応することすら出来ず、一瞬で全滅させられた。

 

「これが、第九世代ナイトメアフレームの力だというのか…」

 

ナイトオブファイブ、ダスティン・スウェンドンが自身の専用機であるユーウェインの主武装、ブレイズルミナスを纏った八つのチャクラムを放つも、アルビオンはそれらをすべて避け、ユーウェインの懐に潜り込んでスーパーヴァリスを放った。その一撃で、ユーウェインは爆散する。

 

「枢木スザク!!」

 

叫んだのは、ナイトオブエイト、ビルグラム・ゴールドバーグだ。専用機であるアグラヴェインの主武装、両腕に装備されたハドロンガトリング砲を撃ち続けるが、その弾丸は掠りすらしない。そして、気付いた時にはコックピットごと両断されていた。

 

「まだだ、我らは最後の時まで…!」

 

ナイトオブツー、パッカード・ブロックラップが、アルビオンの斬撃を自身の専用機であるベディヴィアの主武装、斧状のMVSでなんとか受け止めていた。そして、動きを止めるその一瞬を狙っている者がいた。

 

「ブロックラップ卿、流石です。」

 

ナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキーが1キロメートル先から狙撃用レールガンでランスロット・アルビオンを狙っていた。しかしモニカの視線の先で、ベディヴィアはスーパーヴァリスの一撃を受けて爆散。その直後には、フローレンスの目の前に迫っていた。

 

「まさか…!」

 

MVSでの斬撃を防ぐことが出来ず、爆散するフローレンス。しかしアルビオンは、一瞬でその場を離れてトリスタンの前に戻っていた。

 

「目を覚ませ!スザク!」

 

トリスタンから撃ち込まれた大型スラッシュハーケンを受け止め、簡単に破壊する。その姿を見ても、ジノはトリスタンを前進させた。

 

「今ならまだ戻れるぞ!」

 

「…戻る?逆だよジノ。君がブリタニアに忠誠を誓うのなら、僕の仲間になるべきだ!それとも、ブリタニアに反旗を翻すつもりか!?」

 

スザクの言葉に動揺するジノ。それによって一瞬出来たスキを、スザクは見逃さなかった。

ジノが気付いた時には、四本のスラッシュハーケンがトリスタンに突き刺さっていた。そして、トリスタンが後方へ押しやられるより速く接近したアルビオンが、トリスタンの頭部へ蹴りを放つ。その一連の攻撃でトリスタンは戦闘力を喪失し、地上へ向けて落下していった。

 

「私は…ブリタニア人なのか…?それとも……何の為に闘えばいいんだ!!」

 

かろうじて着陸に成功したトリスタンのコックピットで、ジノは叫びながら壁面を殴り付けた。

 

 

 

『全世界に告げる!今の映像で私が名実共に、ブリタニアの支配者とお分かり頂けた事と思う。』

 

スザクとラウンズの闘いを中継していたカメラの映像が、ルルーシュへと切り替わった。

 

『その上で、我が神聖ブリタニア帝国は、超合衆国への参加を表明する。交渉には、枢木スザクを始めとする武官は立ち会わせない。全て超合衆国のルールに従おう。但し、交渉の舞台は、現在ブリタニアと超合衆国の中立地帯となっている日本、アッシュフォード学園を指定させて頂こう。』

 

放送を終えたルルーシュは、目の前に立つライとノネットに目を向ける。この闘いと放送が終わるまで、ノネットを待たせていたのだ。

 

「待たせたな、ノネット・エニアグラム。要件を聞こう。」

 

「…大した用ではないんですがね。こちらの御仁と、一戦交えさせて頂きたい。」

 

ノネットが言葉を告げると、彼女に連れられていた兵士が二本の剣を持って近付いてきた。

 

「…僕は構わないが、ルルーシュ。」

 

ライの言葉を受け、ルルーシュは頷いた。

 

「闘いたい理由は分からんが、まぁいいだろう。合図は必要かな?」

 

両者が剣を受け取ったのを確認し、ルルーシュが問い掛けた。

 

「いえ、こちらから仕掛けさせて頂きます!」

 

ノネットが振り下ろした一閃を、ライは最小限の動きで躱す。続く突きでの連撃を全て弾くと、懐に潜り込もうとした彼女を膝蹴りで制した。それを柄頭で受けたノネットは、下がりながらも横に回転して鋭い斬撃を放つ。しかしライは、それをギリギリの所まで引き付けてから避けてみせた。すぐに体勢を立て直したノネットが上段からの突きを放つも、彼の髪を掠めただけで終わる。そしてその時には、ライは突きを放つ為に大きく右手を引いていた。

 

(やはりそうだ…体に隠れて剣が見えない。くらうまでその技が何かすら分からないこの一閃は…!)

 

ノネットは覚悟を決める。くらってしまえば死は免れないだろう。しかしライの突きは、彼女の目の前数センチで止まっていた。

 

「……やはり、あなたはライディース・リオ・ブリタニア様なのですね。」

 

剣先を見つめながら言葉を紡ぐノネット。その言葉に小さく頷いたライを見て、ノネットは彼の前に膝を着いた。

 

「参りました。王よ、もし宜しければこのノネット・エニアグラムを、あなたの配下に加えて頂きたい。」

 

予想外の言葉に、ライは動揺する。しかし彼女の真剣な目を見て、彼はそれを了承した。

 

「…お前は、俺と違って随分と人望があるじゃないか。ライ。」

 

ルルーシュの軽口に、ライは苦笑いを浮かべる。

 

「茶化すなよ、ルルーシュ。…ノネットさん、僕はこれまで失敗ばかりしてきました。そんな僕の下でも良ければ、こちらこそ是非お願いします。」

 

ライの差し出した手を、ノネットは両手で握った。

 

「やはりこうなったか。エニアグラムの血は争えんな。」

 

声がした方に目を向けると、いつの間にか反乱を起こした貴族の討伐から戻ったロックが立っていた。

 

「あの時お前が言っていた言葉の意味がようやく分かったよ。ロック・グルーバー…いや、ロック・エニアグラム。」

 

ノネットの言葉に、ロックが少し目を見開く。ライの事はともかく、自分の事までバレているとは思っていなかったからだ。

 

「気付いていたのか?」

 

「何、簡単な話だ。狂王に付き従う男の名前がロックとくれば、伝承に残っている騎士、ロック・エニアグラムしかあるまいと思っただけさ。自分の祖先と顔を合わせるのは、変な気分だけどね…」

 

そう言うとノネットはロックに歩み寄り、彼の前に右手を差し出した。

 

「まぁ何だ、同じ血族としてこれからよろしく頼むよ。」

 

ロックも片側の頬を上げて笑うと、彼女の手を強く握り返した。

 

「ああ、ついでにその不細工な突きを直してやる。後で訓練場に来い。」

 

「嫌な言い方をするなぁ…」

 

二人の様子を、ライは微笑みを浮かべながら眺めていた。

 

 




今日はこれで最後です。お付き合い頂きありがとうございました。


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episode40 All I want

日本、アッシュフォード学園。

ルルーシュから指定された会談場所である学園には、多数のマスコミが集まっていた。リポーターとしてカメラに向かう、ミレイの姿も見える。

その中に、一機の小型機が飛来し、中庭に着陸した。

降りてきたルルーシュを出迎えたのはカレンだ。

しかし、彼女に向かって歩を進めるルルーシュを呼び止める者があった。

 

「ルルーシュ!!教えてくれよルルーシュ!!お前は今までどうして俺に…!」

 

柵を登り、その頂上から問いかけたのはリヴァルだ。しかし彼は警備兵に引きずり降ろされ、両腕を拘束される。

 

「離してくれよ!だって、だって友達なんだよ!あいつは…ルルーシュは…!!」

 

「この…」

 

なおも抵抗しようとするリヴァルに、警備兵は警棒を振り上げた。だがそこに、割り込んでくる者があった。

 

「すいません!すぐに退きますから!」

 

「リヴァル、今はダメだよ!」

 

それは、ニーナとシャーリーだ。なお、ニーナはフレイヤの開発者として知られている為変装している。彼女らに連れられ、リヴァルは名残惜しそうにその場を後にした。

 

 

 

「はじめまして、黒の騎士団所属の、紅月カレン隊長ですね。」

 

ルルーシュが前に立つと、自身がゼロだったことなどおくびにも出さずに挨拶をする。カレンも、それに合わせた。

 

「…はい、私が案内させて頂きます。」

 

「少し、遠回りしてもよろしいでしょうか?些か緊張していてね。歩きたい気分なんです。」

 

「…分かりました。」

 

ルルーシュの言葉に疑問を覚えながらも、カレンはそれを容認した。

 

 

 

 

 

 

 

 

『…ヴァルトシュタイン卿、見付けました。』

 

同じ頃、東京のブリタニア軍基地の跡地では、ビスマルクとその部下達が暗躍していた。

 

「ふむ…ようやくか。しかし、フレイヤに巻き込まれていなかったことは、運が良かったと考えるしかないな。」

 

ビスマルクの言う通り、この基地はフレイヤによって八割程が消失している。そして彼の探し物は、残った二割の敷地内で見付かったのである。

 

「これで条件は揃ったな。シュナイゼル殿下に連絡を取れ。」

 

『はっ!』

 

部下との通信を終えると、彼は目的の物に向かって歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

「私、あなたには感謝してる…あなたがいなければ、私達はシンジュクゲットーで死んでいた。黒の騎士団も無かった。彼と出会うことも無かった…」

 

カレンの言葉を、ルルーシュは黙って聞いていた。

 

「ゼロに必要とされた事も光栄で、でも、ゼロがルルーシュだと分かって、訳がわからなくなって……そんなあなたがスザク達と手を組んで、今度は何をやりたいの?…力が欲しいだけ?地位がお望み?それとも、これもゲームなの?」

 

カレンとルルーシュは階段を上がる。カレンはその途中で足を止め、ルルーシュへと振り返った。

 

「ブラックリベリオンの時、扇さんはあなたを守れと言った。私の…お兄ちゃんの夢を継ぐ者だって……ルルーシュ、あなたはどうして、斑鳩で私に生きろと言ったの!?」

 

その質問に、ルルーシュは答えない。それを理解したカレンは、別れの言葉を口にした。

 

「…さようなら、ルルーシュ。」

 

言い終わると、カレンは表情を引き締め、紅月カレンとしてではなく、黒の騎士団員として彼に告げた。

 

「最高評議会は、体育館で行う予定です。」

 

それだけ伝えると、カレンは踵を返した。その彼女の背中に向けて、ルルーシュは一言だけ呟いた。

 

「…カレン、あいつに会わせてやれなくて、すまない。」

 

その言葉にカレンは一瞬足を止めかけるも、振り返ることなく足を進めた。

 

 

 

 

 

 

「超合衆国最高評議会議長、皇神楽耶殿。我が神聖ブリタニア帝国の超合衆国への加盟を認めて頂きたい。」

 

ルルーシュは評議員達に囲まれる中、彼の正面に立つ神楽耶を真っ直ぐ見て伝えた。最も、ルルーシュから彼女まではかなり距離があったが。

 

「各合衆国代表、三分の二以上の賛成が必用だと、分かっていますか?」

 

「もちろん、それが民主主義というものでしょう。」

 

「…そうですね。」

 

ルルーシュの言葉を受けて、神楽耶は手元のパネルを操作する。するとルルーシュの足元からパネルが競り上がり、彼の周囲を囲ってしまった。

 

(ギアス対策か。しかし、これでギアスの事は神楽耶と騎士団の中核メンバーしか知らないとハッキリしたな。)

 

そう結論付け、笑みを浮かべるルルーシュ。その直後に彼の周囲のパネルから光が浮かび、そこに神楽耶の姿が映し出された。

 

『あなたの狙いは何ですか?悪逆皇帝ルルーシュ。』

 

「これは異な事を…我がブリタニアは、あなた達にとっても良い国では?」

 

『果たしてそうかな?』

 

神楽耶が映るパネルの右隣に、星刻の姿が映し出された。

 

『超合衆国の決議は多数決によって決まる。』

 

神楽耶の左隣のパネルには、藤堂の姿も現れていた。

 

『この投票権は、各国の人口に比例している。』

 

それに続いて、扇や香凛の姿も現れる。

 

『中華連邦が崩壊した今、世界最大の人口を誇る国家はブリタニアだ。』

 

『ここでブリタニアが超合衆国に加盟すれば、過半数の票をルルーシュ皇帝が持つことになる。』

 

『つまり、超合衆国は事実上、あなたに乗っ取られてしまう事になるのでは?』

 

神楽耶の問いに、ルルーシュは無言を貫く。それを見ながら、星刻はブリタニアが超合衆国へ参加する為の条件を通告した。

 

『違うというのなら、この場でブリタニアという国を割るか、投票権を人口比率の20%まで下げさせて頂きたい。』

 

それを受けて、ルルーシュはようやく口を開いた。

 

「…神楽耶殿、一つ質問してもいいだろうか?世界を統べる資格とは何だろうか?」

 

『それは…矜持です。人が人を統べるには…』

 

「いい答えだ。あなたはやはり優秀だ。しかし、私の答えは違う。…壊す覚悟だ!世界を…自分自身すら!」

 

そう言うと、ルルーシュは空を指した。体育館の外で様子を見守っていたカレンの目には、蒼い彗星が体育館に落ちたように見えた。

 

『随分と、無礼な会談ですね。』

 

ルルーシュを囲むパネルを破壊し、各国代表に武器を向ける蒼焔。同時に、ブリタニア軍が日本に向けて進軍を始めたとの報せが入る。

これで、騎士団側の戦力は評議員達だけに構っている訳にはいかなくなった。

 

「貴族制を廃止しながら、自らは皇帝を名乗り続けた男…やはり、目的は…」

 

藤堂の言葉に、星刻が同意する。

 

「そうだ。ゼロは、ルルーシュは世界の敵となった!退け!ここは退くんだ紅月君!!」

 

学園地下基地からは、紅蓮聖天八極式率いる暁隊が出撃しようとしていた。

 

「でも、あの蒼焔と闘えるのは紅蓮しか…」

 

「ここで戦闘になれば各国代表も失う事になる!いきなり国の指導者がいなくなったら…」

 

「でも、天子様だって危ないのに!!」

 

カレンの言葉に、星刻は苦虫を噛み潰したような表情になる。

 

「分かっている!!だが、相手はルルーシュだ。人質を殺す覚悟があってのこと…!ここは各国の判断を待たねば、超合衆国そのものが崩壊する。勝つのはブリタニアとなってしまう!!」

 

ブリタニア軍の兵士達が人質を囲んでいく中、神楽耶は蒼焔を見上げ続けていた。

 

「ライさん…どうして…?」

 

「さあ、皇議長!投票を再開して頂こう。我がブリタニアを受け入れるか否か。」

 

神楽耶は両腕を反射的に顔を背け、その姿のまま言葉を返した。

 

「このようなやり口…」

 

「認めざるをえない筈ですが?…さあ、民主主義を始めようか!!」

 

 

 

同じ頃、リヴァルのバイクで連れ出されたニーナは、検問によってブリタニア軍に止められていた。銃を構える彼らを前に、リヴァルにも逃げる道は見出だせなかった。

 

「おめでとう~~!」

 

自身らが殺される事を覚悟した時、兵達の間からロイドが姿を現した。

 



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episode41 That's what I thought

ニーナを確保した事を確認したルルーシュは、後はこの決議に決着をつけるだけ、と気を取り直した。しかしその直後、日本へ向かうアヴァロンから通信が入る。

その内容は、帝都ペンドラゴンが消滅したという知らせだった。

 

「しまった!先手を打たれたか!」

 

アヴァロンからは、フレイヤによってクレーター以外は何も無くなったペンドラゴンの様子と、その上空に佇む天空要塞、ダモクレスの姿が映し出されていた。

ルルーシュは人質を収容するよう命令を下すと、足早にアッシュフォード学園を後にした。

 

『ルルーシュ、やはり君の推測通り…』

 

その場に駆けつけたランスロット・アルビオンから、スザクがルルーシュへ伝える。小型機に乗り込んだルルーシュは、自身の座席に座りながら答える。なお、彼の横の座席にはC.C.が座っていた。

 

「ああ、一次製造分のフレイヤ弾頭…間違いなく、トロモ機関が開発していた、天空要塞ダモクレスに搭載されている筈だが…」

 

ルルーシュが言い切る前に、彼の座席の前にあるモニターに通信要請が入ったと映し出される。それは皇室専用チャンネルであり、現在では使用できる者はごく少数に限られていた。

ルルーシュが手元のパネルでその通信を許可すると、モニターには彼の予想通り、シュナイゼルの姿が現れる。

 

『他人を従えるのは気持ちがいいかい?ルルーシュ。フレイヤ弾頭は全て、私が回収させて貰った。』

 

「…ブリタニア皇帝に弓を引くと?」

 

フレイヤの使用が確認された時点でこの事態を予想していたルルーシュは、余裕を持ってシュナイゼルに質問を返した。

 

『残念だか、私は君を皇帝と認めていない。』

 

「成程…皇帝に相応しいのは自分だと…?」

 

『違うな。間違っているよルルーシュ。』

 

それを否定されると思っていなかったルルーシュは表情を変える。しかし、今生き残っている皇族の中では、彼以上の人物はいない筈であった。

 

『ブリタニアの皇帝に相応しいのは、彼女だ。』

 

「なっ…!!?」

 

シュナイゼルが右手で示した先にいたのは、フレイヤに巻き込まれて死んだと思っていたナナリーである。傍らにはコーネリアやサーシャの姿もあった。ルルーシュとスザクの表情が驚愕に染まる中、ライだけは蒼焔のコックピット内で肘を着き、事態を冷静に見ていた。

 

『お兄様、スザクさん、ライさん、私は、お三方の敵です。』

 

「ナ、ナナリー…生きて…いたのか…?」

 

『はい。シュナイゼル兄様のおかげで。』

 

ルルーシュより一歩早く立ち直ったスザクが、彼女に問いかける。

 

「ナナリー、君はシュナイゼルが何をしたのか、分かっているのかい!?」

 

『はい。帝都ペンドラゴンへ、フレイヤ弾頭を撃ち込んだ。』

 

その返答に、スザクはランスロット・アルビオンのコックピット内で思わず身を乗り出す。

 

「それが分かっていて何故!?」

 

『では、ギアスの方が正しいというのですか!?お兄様もスザクさんライさんも、ずっと私に嘘をついていたのですね…本当の事を、ずっと黙って…でも、私は知りました。お兄様がゼロだったのですね。』

 

ナナリーの言葉に、最も知られたくなかったことを知られたルルーシュは、身体をビクリと跳ねさせる。

 

『それは…私の為ですか?もしそうなら、私は…』

 

「フフフフフ…お前の為?我が妹ながら図々しい事だ。人からお恵みを頂く事が当たり前だと思っているのか?自らは手を汚さず、他人の行動だけを責める…」

 

正気を取り戻したかの様に見えるルルーシュだが、身体の前で組んだ指が震えている事に、C.C.だけが気付いていた。

 

「お前は、俺が否定した古い貴族そのものだな。誰の為でもない、俺は自身の為に世界を手に入れる。お前が我が覇道の前に立ちはだかるというのなら容赦はしない。叩き潰すだけだ。」

 

『お兄様、あなたは…!』

 

ルルーシュの言葉に、返答しようとするナナリー。しかしそれを、ライが遮った。

 

「もう十分だ。フレイヤを撃ってしまった以上、この先に起こる事は変えられない。陛下、後は…」

 

「ああ、その通りだな。」

 

ルルーシュは手元のパネルを操作し、通信を終了する。

 

『ライさ…』

 

モニターからナナリーの姿が消えると、ルルーシュはその場で大きく肩を落とした。」

 

「大丈夫か、ナナリー?」

 

「辛い思いをさせてしまったね。フレイヤの威力を見せれば、降伏してくれると思ったんだけど…」

 

ルルーシュとの通信を終え、下を向いたナナリーにコーネリアとシュナイゼルが声をかける。しかしナナリーは、自身の事より他人を気にかけていた。

 

「シュナイゼル兄様…ペンドラゴンの人達は、本当に大丈夫なのですか…?」

 

「心配いらないよ。予め、避難誘導を済ませたからね。勿論、被害が皆無とはいかないけれど、最小限に留めたつもりだよ。」

 

そのシュナイゼルの言葉が嘘である事に気付いたコーネリアが表情を変えるが、ナナリーはそれに気付けない。

 

「でも、次は人に…お兄様達に使うのでしょう?」

 

「彼らが、世界平和の前に立ちはだかるのならば…」

 

シュナイゼルの言葉を聞いたナナリーは、一つの決意を口にした。

 

「シュナイゼル兄様、私にフレイヤの発射スイッチを頂けませんか?私は闘う事も、守ることも出来ません。だからせめて、罪だけは背負いたいんです。」

 

ナナリーの決意を聞いた上で、シュナイゼルの嘘に気付いているコーネリアは、鋭い目を彼に向けた。

 

「…兄上、少しよろしいですか?」

 

 

 

 

 

 

「C.C.!何故ナナリーの事が分からなかった!?」

 

アヴァロンの私室にて、ルルーシュはC.C.を怒鳴りつけていた。彼女とライは椅子に腰掛け、ルルーシュとスザクは扉の近くに立っている。

 

「私は神ではない。ギアスによる繋がりがない人間の事までは…」

 

「結果的に、君に対して最も効果的なカードとなってしまったな。最も、シュナイゼルはそうなるタイミングを慎重に計っていたのだろうが…」

 

あくまで冷静に告げるライ。その姿を見て、ルルーシュは一つの疑惑を抱いていた。

 

「ライ、お前まさか…知っていたのか!?ナナリーが生きているということを!!」

 

「…あくまで可能性の話だ。彼女は君に対する切り札になり得る。だからこそ、シュナイゼルが何かしらの手を打っている可能性があるとは思っていた。だけど、そんな不確定な事を…」

 

ライの言葉を聞いたルルーシュは、激昂して彼に詰め寄った。

 

「ライ!お前は…!お前は!!」

 

しかし掴みかかろうとしたルルーシュの腕をスザクが止め、なおも彼の胸ぐらを掴んで壁に押し付けた。

 

「戦略目的は変わらない。ナナリーが生きていたからと言って、立ち止まることは出来ない!何の為のゼロレクイエムだ!?」

 

そこまで言うと、スザクはルルーシュから手を離した。彼はズルズルと、その場にへたりこむ。

 

「約束を思い出せ。」

 

言うべき事は言ったとでもいうように、部屋から出ていくスザク。その後ろを、C.C.が追い掛けてきた。

 

「…スザク。」

 

「僕は彼の剣だ。彼の敵も弱さも、僕が排除する。だからC.C.、君は盾になってくれ。護るのは君の役目だ。」

 

「勝手な言い分だな…」

 

C.C.をその場に残し、去っていくスザクの背中に、C.C.は言葉を投げ掛けた。

 

「ルルーシュは、君の共犯者なのだろう?」

 

スザクの言葉を受け、自身の思いを再確認しようとするC.C.の横を、ライがすり抜けていった。

 

「…スザク、話がある。誰にも聞かれたくない話だから、悪いけど、僕の部屋まで来てくれないか?」

 

ライの言葉に疑問を覚えながらも、スザクは頷き、彼の後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それが何か?」

 

フレイヤの効果範囲と起爆時間のリミッターを解除し、避難誘導など無しにフレイヤを撃ち込んだ事を問い詰められたシュナイゼルは、涼しげな顔で問い返した。

 

「で、では、ペンドラゴンの住民は…」

 

コーネリアは、半ば予測していたこととは言え、兄であるシュナイゼルが行った事に驚愕を隠せないでいた。

 

「消えて貰ったよ。その方が幸せじゃないのかな?ルルーシュに忠誠を誓う人生よりは…」

 

「しかし、ナナリーには…!?」

 

「嘘も方便だよ。ナナリーがルルーシュに立ち向かうと決意して貰う為には、余計な情報はいれない方がいいだろう。」

 

これは結果的に、コーネリアもナナリーも、シュナイゼルの掌の上で転がされていたという事と同じだ。彼女は鋭い目で、彼を見ながら改めて問うた。

 

「兄上はそうやって人を操るのですか?」

 

「コーネリア、人々の願いは何だい?飢餓や貧困、差別、腐敗…戦争とテロリズム、世界に溢れる問題を無くしたいと願いつつ、人は絶望的なまでに分かりあえない。なら…」

 

「理想としては分かりますが、民間人を…!」

 

シュナイゼルはコーネリアに背を向け、付近のモニターへと足を進める。

 

「戦争を否定する民間人だって、警察は頼りにするよね。みんな分かっているんだ。犯罪は止められないと。人それぞれの欲望は否定できないと、だったら…」

 

シュナイゼルがそれを操作すると、部屋に設置されている大型モニターに光が灯った。

 

「心や主義主張はいらない。システムと力で、平和を実現すべきでは?」

 

大型モニターには、今後のダモクレスの予定軌道が映し出されていた。

 

「このダモクレスは、10日後に合衆国中華の領空に入り、第二次加速に移行する。その後、地上300キロメートルまで上昇する予定だ。その位置から、戦争を行う全ての国に、フレイヤを撃ち込む。」

 

「待って下さい!ルルーシュを討つ為ではなかったのですか!?これでは、世界中が…恐怖で人を従えようというのですか!?」

 

コーネリアの必死の訴えにも、シュナイゼルはその涼しげな顔を崩すことはない。

 

「平和というのは幻想だよ。闘う事が人の歴史…幻想を現実にする為には、しつけが必要では?」

 

「人類を教育するつもりですか!?そのようなこと、神でなければ許されない!」

 

「だったら、神になろう。人々が、平和を私に望むのならば…」

 

それを何でもない事のように口にするシュナイゼル。コーネリアは彼の瞳を見て、深い虚を覗いたような気分になっていた。

そこへカノンが現れ、黒の騎士団が自分達と供にルルーシュと闘う事に合意したと告げた。そして、黒の騎士団にグリンダ騎士団が合流したことも。

 

「ありがとうカノン。ルルーシュの暴虐を経験した民衆は、よりマシなアイディアに縋るしかないよね。」

 

「その為に、ルルーシュの行動を見過ごしたというのですか!?」

 

「最も被害の少ない方法だよ。例え10億20億の命が無くなったとしても、恒久的な平和が…」

 

コーネリアは、それを聞いてシュナイゼルの考えに対して行動を起こす事を決意した。彼女は腰から剣を抜くと、彼に向けてそれを構えた。

 

「違います!強制的な平和など、それは…!」

 

しかしシュナイゼルが指を鳴らすと同時に、彼女を多数の銃弾が貫いた。

 

「…悲しいねぇ、コーネリア。」

 



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episode42 Intention

「よく仮面を被り続けたな、ナナリーの前で…」

 

部屋に戻ったC.C.がルルーシュに告げる。彼はベッドに腰掛け、チェスボードを眺めていた。

 

「いくつルートを探っても、答えは同じだったからな…あの時の結論に間違いはないと。」

 

「ルルーシュ、もう十分じゃないのか?お前はよくやった。」

 

ルルーシュの背後に、背中を預ける形でC.C.が座る。

 

「俺が悪を為さねばならない理由は分かっているだろう。ダモクレスによる支配は、人を記号とするものだ。」

 

「しかし、ダモクレスにはナナリーがいる。お前は今までナナリーの為に…」

 

ルルーシュはそれまで下げていた頭を上げ、その言葉に返答した。

 

「もう特別扱いはできない。消えていった数多の命の為にも、俺達は止まる訳にはいかないんだ。そうだろう、C.C.。」

 

その言葉を受け、C.C.はルルーシュの手に自身の手を重ねた。

 

「ああ、そうだな…ルルーシュ。」

 

 

 

 

 

 

 

「本気なのか、ライ。」

 

問い掛けたのはスザクだ。彼はライの話を聞き、その決意に驚いていた。

 

「ああ、これは僕が成すべき事だ。今のブリタニアの…世界の根幹を作ってしまった僕が。君達が世界を変えると決めた時に、自分のやるべき事に気付いたんだよ。」

 

「しかし、君はまだ戻れる。カレンの事だって…」

 

ナイトオブゼロとしてではなく、枢木スザクとしての意見をライに告げる。しかしライは、自分の意見を変える様子を見せなかった。

 

「君とルルーシュこそ、まだ戻れるよ。僕の正体を世界に明かし、僕に全てを押し付ければ…普通に生きて、ナナリーとの関係も修復できるだろう。彼女が生きていた以上、僕はそうする事を勧めたいんだけど…」

 

「しかし、僕達は多くの命を奪ってきた、その責任がある。今更普通に生きることなんて…」

 

同じくスザクも、自身を曲げる事はない。これまで自身の弱さを何度も目の当たりにしてきたスザクにとって、この結論だけは変える訳にはいかなかった。

 

「環境と境遇が人を変える…スザク、罪を罪と認める事は大事だけど、その全てを君が一人で背負う必要はないんだ。その罪が無ければ、自分が自分で無くなってしまう事だってある。君達は抗ってきたんだろう?自身の立場や、生まれに。

だから、僕にもそれを預けてくれ。」

 

「そうだとしても…それを自分で許すつもりはないよ。僕だけは…」

 

「…つまり、ルルーシュの事は許してやりたいと?」

 

ライの質問はスザクの核心を着いていた。ユフィの仇であるルルーシュを、今やスザクの心は許そうとしていた。それは彼の後悔や苦悩、そして決意を知ったからこその思いであった。

 

「……出来るなら、ナナリーと二人で静かに暮らす、そんな生活を送らせてやりたいと思っているよ、今は。」

 

「そうか……それならスザク、君に頼みたい事がある。」

 

ライの瞳はこれまでよりもなお一層強い決意を現し、スザクを見据えていた。

 

 

 

 

 

 

「いいの?一緒に闘うって…ブリタニアを敵にすることになるけど…」

 

カレンが問い掛ける先に立っているのはジノだ。二人は海岸で話をしていた。その後ろには、ラクシャータの手で強化されたトリスタン、トリスタン・ディバイダーが立っていた。

 

「今なら…さ、今なら、君の気持ちも少しは分かる気がする。」

 

「…ええっと…どういたしまして?」

 

何と返せば良いか迷った末に出たカレンの言葉に、ジノは頬を少し上げた。

 

「…何だそれ。」

 

その後ろから、アドニスが歩いてくる。

 

「ジノ、部隊編成だが……邪魔だったか?」

 

カレンといる事に気が付き、言葉を止めるアドニス。その彼に、ジノは笑いかけた。

 

「いや、大丈夫だ。それより、シミュレーターでいいから模擬戦をしないかい?アルビオンと闘う為には、まず慣れておかないとな。機動力なら、バーディクトの方が上だろう?」

 

「まぁいいが…なら、部隊編成はこちらに任せて貰うぞ。文句は言うなよ。」

 

アドニスの言葉に頷き、彼の方へ歩を進めるジノ。アドニスはジノからカレンへと目を映した。

 

「紅月、お前も覚悟を決めておくんだな。こうなった以上、何が起きても…」

 

それは、ライを殺す事も含めてということだ。戦場で強大な力を持つ敵を殺さず捕らえようと考えることは、自身の命を捨てるようなものだ。

 

「分かってるけど…でも、私は諦めないから。」

 

彼女の強い眼差しに、アドニスはいつもの皮肉そうな笑みを浮かべると、ジノと共に彼女の前から去っていった。

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

「この闘いこそが、世界を賭けた決戦となる!シュナイゼルと黒の騎士団を倒せば、我が覇道を阻む者は一掃される。世界は、ブリタニア唯一皇帝ルルーシュによって破壊され、然る後に創造されるだろう。打ち砕くのだ!敵を!シュナイゼルを!天空要塞ダモクレスを!!未来は、我が名と供にある!」

 

蜃気楼のコックピットに立ち、演説するルルーシュ。彼らは富士山近辺に戦力を展開し、攻め入る黒の騎士団とダモクレスを迎え撃たんとしていた。

そして、軍の先頭に立っているのは蒼焔だ。

 

アヴァロンに戻ったルルーシュは、ダモクレスへと通信を繋いだ。

 

「ごきげんよう、シュナイゼル。」

 

「ルルーシュ、降伏するなら今の内だよ。こちらには、フレイヤの用意がある。」

 

シュナイゼルが告げるが、既にそれを理解しているルルーシュは笑みを湛えたままだ。

 

「フレイヤ?撃てるかなあなたに…我が旗艦アヴァロンには、各合衆国の代表方がおられるが…」

 

シュナイゼルの前にあるモニターには、身を寄せ会う神楽耶と天子の姿が映し出されていた。

 

「シュナイゼル、あなたにとっては関係ない人達ではあるがね…」

 

「そうだねルルーシュ。世界の平和と僅かな命…」

 

『撃つなよシュナイゼル!』

 

それに横槍を入れたのは星刻だ。彼はダモクレスもフレイヤも認める気はないが、それでもルルーシュを討つ為にシュナイゼルと手を組んだのだ。しかし話の流れ次第では、土壇場でそれを覆す事も考えねばならなかった。

 

「各合衆国では、代表代行が選出されたと聞きましたが?」

 

『いざという時の覚悟はある。しかし、だからといって無駄にしていい命など存在しない!』

 

その言葉を受け、ルルーシュもシュナイゼルも、自らが望む方向へ流れが傾いていることを感じていた。

 

「黎星刻、我が方の戦力はこのダモクレス以外はモルドレッドを含む三機のみ…フレイヤを使わないのであれば、この場は全体の指揮権を、私に預けてほしいが…」

 

『相手はルルーシュだ!』

 

「心配はいらないよ。指揮を取るのがあの銀髪の少年ではなく、ルルーシュなら…私はね、一度だってルルーシュに負けた事は無いんだ。」

 

『…分かった。』

 

通信を終えると、星刻は扇や香凛らに向けて告げる。

 

「神虎を出す!全軍に指揮系統を伝達してくれ!」

 

星刻とシュナイゼルの交渉が終わるのを

待っていたルルーシュは、それを確認すると最後の言葉を放った。

 

「では手合わせと行きましょう。」

 

「そうだね。」

 

ルルーシュとの通信が切れたのを確認したシュナイゼルは、カノンに声をかける。

 

「カノン、君の読み通り…」

 

「はい。これで黒の騎士団は、殿下の手足です。」

 

それを聞いたシュナイゼルはすぐに指示を出す。モルドレッドを含む騎士団の航空戦力は、広範囲に部隊を広げ、ブリタニア軍側を包み込もうと動き出した。

 

「通常戦闘で来るか…左翼を伸ばせ!半月羅漢の陣を敷く!」

 

ルルーシュの言に従い、中央を開ける形で陣を移動するブリタニア軍。その先頭には灰塵壱式の姿が見えた。

 

「ジノの部隊は前進!敵左翼が伸びる先を抑えて!」

 

「牽制か…?こちらの左翼を後退させろ。」

 

伸ばしかけた陣を後退させるルルーシュ。しかしシュナイゼルは追撃をかけることなく進撃を停止させた。

 

「陣立を北斗七星陣に変更!」

 

「六番隊はアーニャを中心に北東へ!仰角40度!アーニャ、そこで停止、200メートル上昇!」

 

両軍は進軍と後退を繰り返し、戦闘は一向に始まらない。しかし見る者が見れば、何が起こっているかは明らかであった。

 

「達人同士の闘いが一瞬で決まるように…」

 

「見えない攻撃が二人の間を行き交っている…」

 

藤堂と星刻が呟く。そして、その均衡は徐々に崩されつつあった。

 

「囲まれつつあります!!」

 

セシルの言葉に、ルルーシュは舌打ちをしつつ、反撃の指示を飛ばした。

 

「反撃だ!ライの蒼焔を前面に押し立てろ!第四戦闘速度でいい。アレクサンダ隊も続け!」

 

「変わらないねルルーシュ。君は防御よりも攻撃が好きだった…だからこそのわずかな隙…星刻。」

 

「我らの技量まで折り込み済みか!」

 

左翼の部隊を率いて進軍する星刻。しかしそれを、ヴィンセント・アソールトに騎乗するルーン率いる部隊が迎え撃った。

 

「…お兄様の予測が的中したわね。部隊を徐々に下げつつ、迎え撃ちなさい。」

 

全体が囲まれ始めた時点で、ルルーシュは自分を使って状況を好転させようとするだろうと予測したライは、そうなった場合の本陣の守りをルーンに頼んでいた。但し、星刻率いる左翼部隊とルーン率いる一部隊では兵力が違いすぎる為、時間稼ぎしか出来なかったが。

 

「チィッ…戦線を下げよ!陣形を立て直す!」

 

ルルーシュの言葉に従い、ライの部隊を残してアヴァロンと本隊が下がる。

足並を揃えて包囲しようとする騎士団だったが、たった一機、紅蓮聖天八極式とそれに率いられたグリンダ騎士団だけが先行していた。

 

「ライ!あなたをここで止める!!」

 

「カレンか!!君とだけは、闘いたくは無かったんだがな!!」

 

両者が左腕に持つMVSがぶつかる。遅れて配下の部隊も激突し、両部隊の闘いは一気に混戦の様相を呈す。

さらに紅蓮に続いて進撃してきた神虎がブリタニア軍の戦艦、ドレッドノートを破壊した。

 

「黒の騎士団…敵に回すとこれ程厄介な相手だったか…」

 

ルルーシュの見るモニターには、ぶつかり合う紅蓮と蒼焔の姿が映し出されていた。蒼焔が足止めをくらったことにより、騎士団側の進撃速度はどんどん上がっている。ロロやジェレミアもそれを止めようと奮戦しているが、戦況は騎士団とシュナイゼルの側に傾いていた。

 

「ライ、一旦変われ!戦陣を立て直す!」

 

蒼焔に向かって飛来したのは灰塵壱式だ。しかし蒼焔と灰塵壱式との間に割り込み、灰塵壱式が咄嗟に繰り出した拳を止めた者があった。

 

「…モルドレッド、アーニャ・アールストレイムか。」

 

「──ロック…全部思い出した。あなたの事も、過去の事も…あなたはどうして、私の前から去ったの?私は、あなたに…」

 

ロックに対して、何かを訴えようとするアーニャ。しかしロックは、さらに拳の連撃を繰り出す事でそれに答えた。

 

「ここは戦場だ、アーニャ!余計な感傷を持ち込むな!」

 

灰塵壱式から一旦離れ、アーニャはモルドレッドのミサイルを放つ。着弾して爆発するも、煙が晴れるとそこには何もなかった。

 

「…はっ!」

 

アーニャが気付いた時には、灰塵壱式はモルドレッドの上空で拳を振り上げていた。直撃を覚悟して目を瞑ったアーニャだったが、予想された衝撃は訪れなかった。

 

 

 

 

 

 

「兄上、なのですか…?」

 

自身の主であるナナリーを守るため、ヴィンセントで戦場に立ったサーシャの前には、サザーランド・ジークがこちらへ向かって飛来してきていた。そしてその機体から響く声は、間違いなくジェレミアのものである。

 

「む…まさか、サーシャか?」

 

その答えにサザーランド・ジークのパイロットがジェレミアだと確信したサーシャは、思わず声を荒げた。

 

「…一年以上、何をしていたのですか!?オレンジという悪名で家門を汚し、その後始末を私達に押し付けて御自身は行方不明になったと思ったら、こちらに連絡も寄越さずに悪逆皇帝の配下に!?あなたは一体、何を考えているのですか!?」

 

「サーシャ…連絡をしなかった事は詫びよう。だが私には、貫くべき忠義がある。何と罵られようとも、私は私の信じる道を進むのみだ!それをお前が遮るというのならば、突破するのみ!」

 

サザーランド・ジークが放ったミサイルをブレイズルミナスで防ぎ、ヴィンセントは大型機であるサザーランド・ジークの懐へ入るべく真っ直ぐに機体を突撃させた。

 



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episode43 last resort

「あれは、アッシュズ・アトリビュート…」

 

指令室で戦況を見守っていたタカムラが呟く。彼の目に映る機体は、間違いなく自身が手掛けた機体であった。

 

「知っているのか?」

 

ルルーシュの問いに、タカムラは頷く。

 

「ワシが造った機体やでの。ロックに渡すつもりやったんやけど…ブリタニア軍に襲われてもうてエリア11から持ち出せんかったんや。その時はまだ完成してなかったんやけが…それに、あれを操縦できるパイロットは…」

 

しかし彼らの前でアッシュズ・アトリビュートは動き、灰塵壱式と闘っていた。その背中には、三対のフロートが見える。

 

「ロック!先日の借りは返すぞ!」

 

「ビスマルクか!やれるものなら、やってみるがいい!」

 

ロックもリミットを解除し、速度が上がる。互いのプライドをかけた闘いが、ここでも始まっていた。

 

 

 

「今かな…両翼を砕こう!」

 

シュナイゼルの命令により、斑鳩からハドロン砲が放たれる。アヴァロンのモニターでは、味方の識別信号がLOSTの文字で埋め尽くされていた。

 

「流石だな…この策を使わせるとは!」

 

味方の苦境を見たルルーシュが手に持ったスイッチを押す。すると、騎士団側のナイトメアや、斑鳩内に警戒アラートが鳴り響く。

 

「エネルギー反応…?下からです!」

 

「何っ!!まさか、このタイミングで…」

 

何が起こったのかを扇が悟った直後、斑鳩の直下に位置する富士山が火を吹いた。

 

「全軍、輻射障壁を展開せよ!」

 

そう命じる藤堂の斬月に、火山弾が直撃する。斑鳩や暁隊も、その噴火に巻き込まれていた。

 

「扇さん!応答して下さい!南さん!ラクシャータさん!」

 

墜落してゆく斑鳩に向かって、カレンが必死に声をかける。しかし、斑鳩は応答がないまま、地上へ向けて降下していった。

 

「まさか、地下資源のサクラダイトを…」

 

「これでは、ルルーシュの地上部隊も全滅だねぇ。」

 

冷静に状況を判断するカノンとシュナイゼル。彼らの前のモニターには、大多数の味方機が撃墜された事が表示されていた。戦力は完全に逆転している。

 

「迂闊…ルルーシュの基本戦術ではあったが、味方を犠牲にすることが前提とは…」

 

回転させたハーケンで身を守り、その場を切り抜けた神虎の中で星刻が呟く。彼の周囲でも、生き残った部隊は極少数であった。

 

アヴァロンでは、C.C.が格納庫に向かい、自身の為に用意されたランスロット・フロンティアの前に立っていた。

 

「これで敵の戦力は絞られた。後は…」

 

「ダモクレスを、叩くだけ!」

 

スザクがランスロット・アルビオンを突撃させる。それに蒼焔も続こうとしたが、その勢いを殺すように横から突っ込んでくる機体があった。

 

「やはり貴様とは、闘う運命にあるようだな!ライディース・リオ・ブリタニア!!」

 

アドニスは叫ぶと、ランスロット・クラブ・バーディクトを駆けさせる。MVSでの一撃は避けられたが、返しの斬撃もバーディクトには届かなかった。

 

「くっ…こんな時に!!」

 

一年以上前から続く因縁が、この戦場でまた再燃していた。

 

 

 

 

「残念だが、チェックをかけられたのは君達の方だよ。」

 

シュナイゼルはこちらに向かってくるアルビオンの姿を見ながら呟いた。

 

「ナナリー、照準は合わせてある。黒の騎士団が潰えた今、フレイヤという力で…」

 

「……はい。お兄様の罪は、私が撃ちます!」

 

シュナイゼルの言葉に従い、ナナリーはフレイヤの発射スイッチを押した。

それに従い、ダモクレスからフレイヤが発射される。

 

「来ました、フレイヤです!!」

 

セシルの叫びにも、ルルーシュは表情を崩さない。

 

「ここで撃ってきたか。第三特捜師団!」

 

ルルーシュの命を受けた部隊が、フレイヤを破壊すべくMVSで四方から弾頭を貫く。

 

「無駄だよ。このフレイヤはダモクレスから射出された時には、臨界状態にある。」

 

シュナイゼルの言葉通り、フレイヤは攻撃を受けても巨大な爆発を起こした。ルルーシュはそれを見て新たな指示を出しつつ、思考を巡らせる。

 

「アヴァロンはこのまま後退。各部隊はダモクレスに突撃し、フレイヤを撃たせ続けろ。弾切れに追い込むんだ!」

 

(チィッ…富士の作戦を使ってしまった以上、フレイヤの残弾から計算すると、こちらが一手不利になる。とすると、ニーナを頼りにするしかないが、当てに出来るか…?俺を憎んでいる筈だ。ユフィの敵…ゼロであった俺を…)

 

ルルーシュが思考する間にも、ダモクレスからはフレイヤが撃ち込まれていた。

 

「トワミー艦隊、消滅しました!作戦は…!?」

 

「作戦は継続する!このアヴァロンはこのまま後退、ダモクレスとの距離を取れ!各部隊は波状攻撃をもって、フレイヤを撃たせ続けよ!」

 

 

 

 

 

 

 

「やはり、フレイヤを…!」

 

ランスロット・グレイルの強化機体である、ランスロット・ハイグレイルのコックピットの中でオルドリンが呟く。ルルーシュ皇帝を倒すという目的だけを考えれば、既にほとんどの機体がこの場にいる意味を無くしていた。

 

「それでも、それでも闘うというの!?」

 

彼女はハイグレイルに真っ直ぐ向かってくるアレクサンダ・リベルテが突っ込んでくる。シュロッター鋼ソードをぶつけ合い、次の瞬間にはハイグレイルから距離を取ってヴァリスを構える。

 

「俺達は、隊長の行く道を信じるだけだ。あの人は俺達を見捨てない。だから、俺達もあの人を見捨てない!」

 

「このっ…!」

 

空中でも高い機動力を発揮し、ハイグレイルを翻弄するリベルテ。ブラッドフォードの強化機であるブラッドフォード・ブレイブも救援に入ろうとはするものの、リョウやアシュレイによってそれも阻まれる。

アレクサンダに搭載されたブレインレイドシステムにより、アレクサンダ隊はまさに一つの群れとしてグリンダ騎士団を追い詰めようとしていた。

それを阻止せんと、オルフェウスが騎乗する業火白炎がアレクサンダ隊に向けてゲフィオンブラスターを放つ。それを見たアレクサンダ隊は散会して避けたものの、その隙にハイグレイルはゼットランドと合体してハイグレイル・チャリオットとなり、ギガハイドロランチャー・フルブラストをリベルテに向けて放つ。しかしそれを、黒いアレクサンダが両肩からハドロン砲を放って逸らす事に成功し、アキトは安堵の息を溢した。

 

「すまない、レイラ。だが、あまり前線に出過ぎるなよ。」

 

「あなた達だけを、闘わせるつもりはありません。」

 

アレクサンダ隊に加わるレイラ。その周囲を囲むように、アシュラ隊もグリンダ騎士団に剣を向ける。

 

「さぁ、気張っていくぜ!アシュラ隊!」

 

「おぉっ!!」

 

先頭に立ったアレクサンダ・レッドオーガがハイグレイル・チャリオットとブラッドフォードに攻撃を仕掛ける。救援に来たシェフィールド率いるヴィンセント・グリンダの部隊も、アシュラ隊の勢いを止めるまでには至らなかった。

それでも、ハイグレイルを先頭にしたグリンダ騎士団は何とか押し返そうと奮戦する。

 

「あなた達は、一体何を求めて闘っているの!?人を、世界を…!こんなにも犠牲にして…!」

 

「大層なお題目を抱えてりゃそれが許されるってか!?それこそ人を馬鹿にしてんだろうがよ!俺らは、あの人の後を着いていく!闘う理由なんざ、それだけで十分なんだよ!」

 

レッドオーガのヒートサーベルがハイグレイルを襲う。なんとか距離を取ってギガハイドロランチャーを放つタイミングを探すオルドリン。しかしさらにそこへアヤノが騎乗するアレクサンダが突撃をかけてきた。

 

「これでっ!」

 

オーガズ・ロングレイでの一撃を、ハイグレイルの前に出たブラッドフォードがデュアルアームズで弾き返す。さらにその後ろから、ヴァルキリエ隊仕様のヴィンセントが進み出た。

 

「やらせないっ!」

 

ヴィンセントに騎乗するマリーカの猛攻に、アレクサンダは思わず後退する。それを見たオルドリンは好機と見て、部隊に反撃の指示を下した。

 

「今よ!進め!」

 

しかしそのハイグレイルを、遥か先から照準に合わせている者があった。小型浮遊艦に控えているユキヤのアレクサンダであった。

 

「さすがにこの距離なら、気付かれないよね…」

 

超長距離狙撃用レールガンの引き金に指を掛ける。だが一瞬だけ、火山灰の間から射した日の光が砲身に反射する。

 

「オルドリン!」

 

ハイグレイルを庇って前に出た業火白炎。その機体を、弾丸が貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなに、あっさりと…私が…」

 

フレイヤの発射スイッチを握りしめるナナリーは、その場で涙を流す。その彼女に、シュナイゼルが感情の籠っていない声で指示を出す。

 

「ナナリー、次の次の発射準備が出来たよ。」

 

「は、はい…」

 

ナナリーは、自身に迷う事を許さず、発射スイッチを押した。

 

 

 

 

 

「ライ様、一旦下がって下さい!ここは私が引き受けます!」

 

蒼焔とバーディクトの間に割り込んだラモラック・カスタム。ノネットはフレイヤからライを遠ざける為、アドニスの相手を買って出ていた。

 

「やはりそちらについていたか…ノネットさん、出来ればあなたとは、闘いたくなかったのだが…」

 

「フン…ようやくその名で呼んだじゃないか、アドニス。」

 

ノネットは強化されたラモラックを真っ直ぐバーディクトに突撃させる。バイデントでの一撃を、アドニスは受け流して反撃した。

 

「行かせないよ!」

 

蒼焔に向かって飛来したのは、斑鳩に置いたままになっていた蒼月を改造したと思われる機体だ。ライは知らないが、名を奏月という。現在は朝比奈の専用機だ。

 

「お兄様の事は放っておいてと言った筈だけれど?」

 

奏月の一撃を、ヴィンセント・アソールトが受け止める。返しの一撃を放つが、ルーンの予測とは違い、奏月はそれを避けて見せた。

 

「君に鍛えられたんだ!君の太刀筋は分かっている!」

 

朝比奈が体勢を整え、アソールトに向かう。奏月から繰り出される連撃を、何とか捌いてゆくアソールト。状況を打開すべく大きくMVSを振り上げ、全力で叩き落とした斬撃を、ルーンはあえて受け止めて鍔迫り合いに持ち込む。そして至近距離から、両肩のハドロン砲を発射した。

 

「そう来ると思っていたよ!」

 

朝比奈はその瞬間、あえてフロートをオフにすることで降下し、ハドロン砲を避けた。そしてすぐにフロートを戻すと、下からの斬り上げを放つ。しかしそれを、横から蒼焔が斬って落とした。

 

「一対一だと、言った覚えはないわよ。まだまだね、朝比奈さん。」

 

ルーンの言葉に、朝比奈は悔しがりながらも脱出レバーを引くしか無かった。

ライは奏月を撃墜した為に再びバーディクトに目を移すが、その先からは紅蓮がこちらへ突撃してきていた。

 

 

 

「ノネットさん!あなたは、あいつらのやろうとしている事に賛同しているのか!?」

 

バーディクトからの斬撃を、辛くも受け止めたラモラック・カスタム。だがいくら強化されているとは言え、機体性能の差は歴然だった。

 

「私が今忠誠を誓っているのは、ルルーシュ皇帝ではなくライディース・リオ・ブリタニア様だ!」

 

「同じ事だ!それが、どういう結果を生み出すのか分かっているのか!?」

 

「だからダモクレスによる支配を認めろと言うのか!?お前は…」

 

ノネットの言葉の途中で、バイデントを形成するブレイズルミナスが崩壊する。咄嗟にスラッシュハーケンを放つが、バーディクトには掠りもしない。

 

「俺は、ダモクレスも認めない!だからこそ、戦場に戻ってきた!」

 

ラモラックの四肢を斬り落とすアドニス。とどめとばかりに繰り出した斬撃を、蒼焔が受け止めた。

 

「ノネットさん、もう大丈夫です。一度撤退して下さい。」

 

戦闘によって、ダモクレスからはかなりの距離が出来ていた。それを確認したライは、ノネットを下がらせ、再び自分がアドニスを相手取る事を選んだのだ。

 

「決着を付けよう、アドニス。」

 

「ああ、貴様の敗北という形でな!」

 

両者は一度距離を取ると、超高速での戦闘に移行した。

 



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episode44 F.L.E.I.J.A

眠れないのでもう一話更新します。ようやく前回投稿したところまで来れました。


「退きな、ルーン!あんたじゃこの紅蓮は止められないよ!」

 

紅蓮の前に立ち塞がるヴィンセント・アソールト。カレンはルーンに向けて、最後の警告を発していた。

 

「退かないって分かってる癖に…カレンさん、あなたじゃ今のお兄様を理解することは不可能よ。」

 

MVSを構えるアソールト。紅蓮は右腕を突き出し、輻射波動砲弾を放った。

 

「私は彼を取り戻す!例えあんたでも、邪魔するんなら容赦はしない!」

 

輻射波動砲弾を避け、反撃としてハドロン砲を放つ。しかし紅蓮はそれをあっさりと避け、一瞬でアソールトとの距離を詰めた。

 

「取り戻してどうするの!?今のままじゃ、処刑されて終わりだわ!今のあなたに、お兄様を助けてあげることが出来るっていうの!?」

 

「私は、ライが隣にいてくれればそれでいい!それ以上は何も望まない!」

 

紅蓮のMVSがアソールトを切り刻む。第八世代の機体の中ではトップクラスの戦闘力を誇るアソールトであったが、それでも紅蓮との性能差は明らかだった。ルーンは慌てて操縦桿を倒すと、紅蓮との距離を確保する。

 

「半端に…!日本は捨てられない、でもお兄様は取り戻したいなんて!それはあなたの我儘以外のなんだっていうの!?」

 

「変えてみせるわよ!ライの…いえ、私の為に!」

 

アソールトは再びハドロン砲を放ち、次いで四基のスラッシュハーケンで追撃をかける。しかしその全てを輻射波動で防いだ紅蓮は、その勢いのままアソールトの頭部を右手で掴んだ。

 

「…ああもう!」

 

脱出レバーを引くルーン。それを確認したカレンは輻射波動を起動し、アソールトを破壊した。すぐに蒼焔とバーディクトの闘いに割って入ろうとした紅蓮であったが、その後方からルミナスコーンが突き込まれた。

 

「邪魔はさせねぇよ!」

 

リョウが騎乗する牙鉄が繰り出した一撃を、紅蓮は咄嗟に回避した。だがリョウは機体性能の差を理解しながらも、紅蓮への攻撃を続ける。

 

「リョウさん!どうして日本人同士で、闘わなくちゃならないの!?」

 

「分かってる筈だろ、アンタなら!あの人は隊長として、戦場では俺らを生かす為に闘っていた!そんなあの人に、今度は俺らが返す番だ!」

 

牙鉄が両肩に装備された小型ガトリング砲を紅蓮に向ける。だがカレンはどうしても同国人であるリョウと闘う気になれず、攻撃を避けながら機体を後退させるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スザク!あの守りを突破できるか!?」

 

ルルーシュが、ダモクレスに攻撃を仕掛けているスザクに通信を繋ぐ。しかしダモクレスは周囲に巨大なブレイズルミナスを発生させ、全ての攻撃を防いでいた。スザクはランスロット・アルビオンでダモクレスを破壊することを諦め、フレイヤ発射口付近に集中して攻撃を加える。

 

「やってはいる。でも、相手の出力が桁違いで…この状態なら、フレイヤは撃てない筈だけど…!」

 

「こちらの攻撃も通じないのでは、ただの傍観と変わりがない…」

 

スザクの言葉を受け、C.C.も勝機が見えないことに悲観する。それはルルーシュの隣に立つ咲世子も同様であった。

 

「世界はフレイヤという圧倒的な驚異に黙り混むしか…」

 

「それも平和な状態というのかな…?」

 

その直後、ルルーシュの前にロイドが姿を現した。それを見て何かを確信したルルーシュは、乗員達に命令を下す。

 

「残存戦力を、このアヴァロンを中心に集結させろ!人質ごとダモクレスに突撃をかける!」

 

その命令を聞いたロイドは、薄ら笑いを浮かべながらどこか余裕のある表情でルルーシュに問い掛ける。

 

「いいんですかぁ?」

 

「お前が戻ってきたということは、目処が着いたんだろう。」

 

「あとは陛下とスザク君にかかっていますがね。」

 

 

 

 

 

ダモクレスの死令室では、星刻からシュナイゼルに宛てて通信が入っていた。

 

「シュナイゼル!人質ごと消すつもりか!?」

 

星刻の問い掛けに、シュナイゼルは一切表情を変えず、微笑みを浮かべたまま答える。

 

「黒の騎士団が敗れた今…」

 

「まだ負けてはいない!」

 

シュナイゼルの言葉を遮り、自分達はまだ闘えると主張する星刻。それを受けて、シュナイゼルは一つの条件を告げた。

 

「では、十分待ちましょう。」

 

「十分…!?たった十分だと!?」

 

それは即ち、シュナイゼルが提示した十分が経過すれば再びフレイヤが放たれるという事だ。その為に逡巡する星刻に対して、シュナイゼルはさも当たり前の事であるかのように言葉を告げる。

 

「反撃の位置取りをしたから、こちらに連絡を入れているのでは?」

 

シュナイゼルの言葉通り、残った部隊を再編して戦力を整え、アヴァロンに迫っていた星刻は、渋々ながらもその条件を受け入れた。

 

「…分かった。十分だな。」

 

星刻からの通信が終わった事を確認し、カノンが彼らを見下したような笑みを浮かべながら、シュナイゼルへ言葉をかける。

 

「次弾発射までに必要な十分を、高く貸し付けたものですね。」

 

「戦後処理の手を打っただけだよ。」

 

そのシュナイゼルに、傍らに立っていたディートハルトも質問を投げ掛けた。

 

「黒の騎士団はもう必要ないと?」

 

「集合体としての軍事力に、何の意味が?」

 

 

 

シュナイゼルがディートハルト達とのやり取りを終えた直後、アヴァロンに後方から攻撃が仕掛けられていた。

 

「後ろから!?」

 

アヴァロンに攻め寄せる黒の騎士団。その先頭に立っているのは神虎だ。

 

「必ずや我らの手で!」

 

「回り込んだのか星刻!」

 

驚きに目を見開くルルーシュ。彼はなんとか星刻達を止める術を考えるが、ジェレミアやロロは左右の部隊を指揮し、ライはアドニスと闘っている。ダモクレスに到達するのは不可能かと思われたその時、アルビオンが神虎に向かって高速で飛来した。

 

「このアヴァロンは、墜とさせない!」

 

ヴァリスを神虎に向けて放つアルビオン。神虎はそれを避けつつ、ハーケンをアルビオンへと射出した。しかしアルビオンはそれをMVSで受け止め、刃を起動する事で切断してみせる。

 

「星刻、止める!」

 

「道理なき者などに!」

 

二機が剣を合わせながら、アヴァロンの回りを飛翔する。アルビオンは神虎の蹴りに合わせて後退すると、超高速で背後へと回って飛翔滑走翼の一部を破壊した。

 

「終わりだ!」

 

アルビオンが剣を振り上げるが、そこへ突っ込んできた斬月がそれを受け止める。斬月は破損が激しく、全身から火花が散っている。そしてパイロットの藤堂も、それと同様にボロボロの状態だ。

 

「枢木!国を捨て、位にのみ固執する醜い存在となり果てたな…お前の願いはどこにある!?」

 

「自分はただ、明日を望んでいるだけだ!」

 

スザクの返答に、藤堂はさらに剣を押し込みながらそれを否定する。

 

「お前の望む明日など…!」

 

しかしアルビオンはその剣を受け流すと、上空からMVSを振り下ろした。完全に破壊された斬月からはコックピットが射出され、それを千葉の暁が受け止める。藤堂を守る為に千葉が暁の右腕からミサイルを放った事で、アルビオンはそれを避ける為にアヴァロンから離れてしまう。そしてその隙をついて、神虎がアヴァロンに天子砲を放っていた。

 

「しまった!」

 

スザクの視線の先で、フロートを損傷したアヴァロンが降下を始める。指令室の中で、ルルーシュは自身の目論見よりも遥かに早くアヴァロンを墜とされた事に唇を噛んでいた。

 

「墜ちるか、このアヴァロンが…」

 

同時に、星刻率いる部隊がアヴァロン内部へと侵入を開始した。彼らは格納庫でナイトメアから降りると、武器を手に人質の元へと走り出した。

 

「白兵戦に持ち込めば勝機はある!動力制御と通信を押さえ、人質を救出する!」

 

内部に侵入された事を知ったルルーシュは、指令室で自身の椅子から立ち上がった。

 

「本艦はこのまま太平洋に着水。君達はミッション、アパティアレティアを!」

 

命令を下したルルーシュに、咲世子が不安そうな表情で歩み寄った。

 

「ルルーシュ様…」

 

「これまでよく仕えてくれた。君達の覚悟に感謝する。」

 

指令室を出たところで、ニーナが彼を待っていた。彼女は自身の引き起こした惨劇の責任を取る為に、ロイドと供にギリギリまでこのアヴァロンで作業を続けていたのだ。

 

「これは俺個人の望みだ。しかし…」

 

「ユーフェミア様の願いでもあるんでしょう?」

 

二人は肩を並べ、格納庫までの道を供にする。

 

「だから、俺がやらないと…」

 

「でも、あれの最終プログラムは環境データを打ち込まないと完成しない。私も一緒に…」

 

ルルーシュは足を止め、彼女の方へ顔を向けた。

 

「もう十分だよニーナ。今の言葉で君の本心は理解した。ユフィの敵である俺に、ゼロによく付き合ってくれた…」

 

「──私は、ゼロを許しはしない。多分一生…でも、それとは別に私自身の答えを出さないといけないと思ったから、ただそれだけなの…」

 

そこまで言うと、ニーナは十字路を格納庫とは逆方向へ折れていった。ルルーシュは、その背中に向けて言葉を投げ掛けた。

 

「君は立派だよ。」

 

ルルーシュは彼女からの返答の有無も確認せず、格納庫へと足を進めた。

 

 

 

 

 

格納庫へたどり着いたルルーシュは、そこで護衛の為に一旦アヴァロンへ戻ってきたC.C.と顔を合わせていた。彼女にこれまでの感謝を伝えようと近付いたその時、アヴァロンの壁面が崩壊した。

 

「…カレン!?」

 

そこには、蒼焔から離れてアヴァロン内部へと侵入した紅蓮の姿があった。紅蓮はルルーシュに向かって右手を構える。

 

「あなたをここで止める!さようなら、ルルーシュ!」

 

その紅蓮へ、パーシヴァルが使用していたものと同型のシールドから、フロンティアがミサイルを放った。それを輻射波動で防ぐ紅蓮。しかしその爆発により視界が一瞬遮られ、気付いた時にはフロンティアがシールドを構えて突撃していた。

 

「ここは私に任せて、ダモクレスを!」

 

「しかし、紅蓮相手では…」

 

「嬉しかったよ…ずっと私を気にかけて…早く行って、そして戻って来い。私に笑顔をくれるんだろう?」

 

その言葉を聞いたルルーシュは彼女の決意を知り、自身の為すべき事を思い出していた。

 

「ああ、約束しよう!」

 

ルルーシュが蜃気楼でアヴァロンから出撃すると、彼の護衛の為にサザーランド可翔式やヴィンセント・ウォード、そして黄金色のヴィンセントが集結してきた。

 

「兄さん!!」

 

「ロロ!!周囲の敵は頼んだぞ!」

 

ロロが率いる部隊に護衛され、ダモクレスへと飛翔する蜃気楼。その彼らに向けて、フレイヤが発射された。

 



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episode45 Get out from the shell

ここから非公開にした分です。よろしくお願いいたします。


蜃気楼へ向かうフレイヤを確認したルルーシュは、発射されたフレイヤのデータを打ち込んで行く。刻々と組成を変化させるフレイヤの膨大な情報を、ルルーシュはわずか19秒で入力を終えてみせた。

 

「スザクッッ!!!」

 

ルルーシュはすぐにスザクを呼ぶと、蜃気楼から対フレイヤ専用兵器、フレイヤイーターを起動した。

それを受け取ったスザクは、やり投げのような構えで、フレイヤに狙いを定める。

 

「うおおぉぉぉぉっっ!!!」

 

蜃気楼からフレイヤイーターを受け取り、僅か0.04秒で投擲したスザク。フレイヤイーターがフレイヤに直撃すると、一瞬爆発の兆候を見せたものの、その直後に収束、煌めきとなってその場に降り注いだ。

 

フレイヤ発射の為、発射口周辺のブレイズルミナスは解除されている。蜃気楼はそこへ飛び込むと、絶対守護領域で閉じようとするブレイズルミナスを留めてみせる。

 

「今だ!飛び込め!!」

 

蜃気楼に続き、ランスロット・アルビオン、ヴィンセント、そして数機の量産機がダモクレス内部への侵入に成功した。

スザクはスーパーヴァリスと、刃状にして分散させたブレイズルミナスをウイングから放ち、ダモクレスの外壁を破壊する。

 

「っ!?きゃあっ!!」

 

その衝撃により、ナナリーは車椅子から投げ出され、フレイヤの発射スイッチを取り落としてしまった。

 

 

 

 

ダモクレスの指令室では、下部からルルーシュ軍に制圧されてゆくダモクレスの様子が映し出されおり、シュナイゼルはそれを歯噛みしながら見つめていた。

しかし、彼は何かに気付いたようにフッと力を抜くと、いつもの微笑みを浮かべて顔を上げる。

 

「大したものだね、ルルーシュ。私に最後の策を使わせるとは…」

 

「えっ…本当にあれを…?」

 

シュナイゼルの言葉に、カノンが驚きを隠せない様子で振り返った。

 

「ああ、このダモクレスはルルーシュ達を捕らえた檻となった。私達が脱出した後、このダモクレスそのものをフレイヤで消去しよう。立派な棺だ。喜んでくれるだろうか、ルルーシュは…」

 

 

 

「ダモクレスが衛星軌道に上がってしまったら、ランスロットでも手が出せない…勝つ為にはシュナイゼルを押さえないと…」

 

ダモクレス内部を、アルビオンを先頭に走行する部隊。二手に分かれて順調に制圧を続けながらも、焦りを見せるスザクにルルーシュが返答した。

 

「内部構造は分析中だ。パスワードのブロックを…」

 

ルルーシュの言葉を、後方の爆発音が遮る。そちらに目を向けると、トリスタンを改造したと思われる機体、トリスタン・ディバイダーが立っていた。

 

「ジノか!!」

 

「ルルーシュ、お前のブリタニアは私が認めない!ここで消えて貰おう!!」

 

トリスタンが持つ二刀の剣。左からの斬撃を、ルルーシュは絶対守護領域を展開して防ぐ。しかしその絶対守護領域は、右腕ごと簡単に切断されてしまった。

 

「何ッ!?このパワーは…!」

 

蜃気楼が咄嗟にプリズム体と相転移砲を放つ。拡散された相転移砲が降り注ぐ中、アルビオンがトリスタンと蜃気楼の間に入った。

 

「ルルーシュ、先に行け!!君には倒さねばならない敵と、救わなければならない人がいる筈だ!!」

 

「分かった!!」

 

踵を返す蜃気楼。それを見たジノは

トリスタンの左手を振りかぶる。

 

「行かせるか!!」

 

投擲された剣が蜃気楼の腰部分を貫く。慌ててコックピットから脱出して走り出したルルーシュの後ろで、蜃気楼は爆散した。

 

「ジノ!どうしても闘う気か!?」

 

MVSをトリスタンに向けるスザク。ジノはそれを見ても、一歩たりとも退く様子は見せなかった。

 

「ああ、自分の中にある、守るべきものの為に!!」

 

「守るものなら僕にもある!!」

 

トリスタンからの一閃を、アルビオンがMVSで受け止めた。

 

 

 

 

 

 

ダモクレスの外部では、ランスロット・クラブ・バーディクトと蒼焔が、超高速の戦闘を続けていた。

 

「お前達のやり方では、差別を増やすだけだ!俺は身を持ってそれを経験してきたぞ!お前とてそうだろう!何故同じことを繰り返す!?ライディース・リオ・ブリタニア!!」

 

バーディクトが振るうMVSを、蒼焔はギリギリで避ける。直ぐ様反撃の斬り上げを放つが、バーディクトもそれを躱してみせた。

 

「人は生まれを選べない!だからこそ、明日という日が希望になる!」

 

「それが闘争へと繋がるとしてもか!?」

 

蒼焔が一瞬で距離を取り、ブラストメーサーキャノンを放つ。バーディクトはそれをギリギリまで引き付けてから避けると、蒼焔の懐に飛び込んで一閃を振るった。

 

「ダモクレスによる支配こそ闘争そのものだ!ここで僕らを倒しても、結局は同じ未来しかない!君の力で、止められるというのか!?」

 

右腕のMVSで受け、鍔迫り合いとなる。両者は同時に剣を弾くと、再び剣を振るい合った。

 

「だからお前達を認めろと!?強制された日常を!平和を!それはお前達の自己満足以外の何なんだ!?」

 

既にお互い100回以上剣を振るっている。しかし、先読みと経験、そして瞬時の状況判断に優れる二人は、未だに一撃すら当てる事を許していない。この闘いが決着する気配は本人達だけでなく、周囲で闘う者達ですら全く感じられなかった。

そこから少し離れた場所では、灰塵壱式とアッシュズ・アトリビュートが対峙していた。

 

「ふむ…ダモクレス内部に入られたか。ならば、そろそろだな。」

 

アッシュズの右太股にぶら下げていた大剣を手に取るビスマルク。それを見たロックも一旦動きを止め、言葉を返した。

 

「ああ、間もなく決着だろう。あちらも、こちらもな!」

 

ロックが叫ぶと同時に、灰塵壱式からフロートがパージされる。そして背中からは、折り畳まれていたエナジーウイングが現れていた。

 

「ビスマルク、覚悟はいいか?」

 

「フッ…それで勝ったつもりか?」

 

それを見たビスマルクも、アッシュズのコックピット内でコンソールを操作する。すると、アッシュズもフロートがパージされると共に、背部から折り畳まれていた三対のエナジーウイングが現れた。そして彼は、左目のギアスを解放する。

 

「…何!?」

 

「我はシュナイゼル殿下の配下ではなく、シャルル皇帝陛下の騎士!故に、ダモクレスが破壊される目処が立つ、この時を待っていた!」

 

アッシュズが左手を腰に回す。手に取ったのは、片手でも扱えそうなライフルだ。

 

「シャルル皇帝陛下の意思は、私が受け継ぐ!この、フレイヤをもって!」

 

ロックはツヴァイから放たれたフレイヤを避けるが、騎士団、ブリタニア両軍の機体がいくつかその爆発に飲み込まれていった。

 

「貴様…!!」

 

「ロック!!私を止めてみせろ!!」

 

アッシュズはアルビオンや紅蓮を遥かに超えるスピードで飛翔する。灰塵壱式が追いすがるも、速力の差は圧倒的だ。

 

「…どういうつもりだ!?ビスマルク!!」

 

そのアッシュズに、クラブが斬りかかった。しかしその斬撃は、簡単に躱されてしまう。

 

「貴様も、フレイヤによる強制的な平和を認めろというのか!?」

 

「アドニス、貴様は私に言ったな?我々は仕えるべき主を失ったと。ならば、私が主の意思を継いでみせる!このフレイヤで、ダモクレスも騎士団も、ルルーシュも全て消し去ってくれよう!!」

 

その背後から、蒼焔がメーサーキャノンを放った。

 

「シャルル皇帝の望む世界は、その世界の意思によって否定された!あなたはそれでも…!!」

 

しかしそれも、アッシュズには掠りすらしない。

 

「これは選択だ、狂王よ!!ダモクレスか!?ルルーシュによる支配か!?それともこの私か!?選ばせてやろうというのだ!!世界に!!」

 

「なんということを…貴様は…なんということを!!」

 

アドニスはバーディクトのコックピットの中で、あまりの怒りに身体を震わせていた。その間にも、ビスマルクは周囲の機体を破壊してゆく。

 

「アドニス!貴様が真に仕える主を思うのならば、私に従え!!」

 

「……貴様は、貴様のやっていることは結局虐殺ではないか!!ダモクレスでの支配を唱えるシュナイゼルと何が違う!?」

 

アドニスの叫びに、ビスマルクは深い溜め息をついた。

 

「…ならば、ここで死ね!!」

 

アッシュズがバーディクトの後ろに回り、剣を振るった。怒りのあまり視野が狭まっていたアドニスは、それに反応する事が出来なかった。

 

「ほう、意外だな。そのような行動を取るとは。」

 

ビスマルクの目の前には、アッシュズの剣を受け止める蒼焔の姿があった。

 

「アドニス!しっかりしろ!!今は…!!」

 

ライの言葉を受け、アドニスは我を取り戻す。

 

「…ああ、甚だ不本意だが、貴様と協力してでもここで奴を止める!!」

 

「フン…ここはプライドよりも、奴を倒す事を優先すべきか…」

 

ロックもそれに同調する。この戦場で最強クラスの三機を前にしても、ビスマルクはなお余裕の表情を崩すことはなかった。

 




アッシュズ・アトリビュート
全高7.22メートル
重量14.6トン
三対のエナジーウイングを装備し、現行の第九世代を遥かに上回るスピードを誇る。また、トロモ機関から逃げ出した研究員が盗み出したフレイヤのデータから、自身の開発チームにフレイヤを作成させる事に成功し、弾頭を複数搭載している。


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episode46 Unfor given

「お兄ちゃんッ!」

 

落下してゆく業火白炎に急接近するハイグレイル。オルフェウスはコックピット内で脱出レバーを何度も引くが、脱出装置は一向に作動しない。オルドリンはシュロッター鋼ソードを白炎に向けると、オルフェウスに通信を繋いだ。

 

「屈んで!」

 

そう声を掛けてから、シュロッター鋼ソードをコックピットの上部に突き刺す。そのまま剣を横へ滑らせると、コックピットの天井部分を斬り取った。

 

「こっちへ!早く!」

 

オルフェウスがハイグレイルの手に掴まった事を確認すると、急ブレーキをかけて降下を止めたオルドリン。その眼前で、白炎は海面に激突して爆発を起こした。

 

「良かった…間に合って…」

 

安心した顔を向けるオルドリンに、しかしオルフェウスは厳しい目を向けた。

 

「助かった。だが、既にあのアレクサンダなどという機体と闘っている状況では無くなったぞ、オルドリン。あれを見ろ。」

 

オルフェウスが指差す先には、三対のエナジーウイングを広げ、ランスロット・クラブ・バーディクト、蒼焔、灰塵壱式を一度に相手どっているナイトメアの姿があった。先程のフレイヤもあの機体から放たれたらしい。

 

「そんな…それじゃあ悪逆皇帝を倒して、ダモクレスを止めたとしても…」

 

「ああ、あの機体を墜とさない限り俺達の未来は無い。とは言え、自分の機体がないのは格好がつかないが…オルドリン。」

 

オルフェウスの声に、オルドリンは大きく頷いてから彼を付近の船へと届けて戦場に戻った。

 

「グリンダ騎士団、下がりなさい!」

 

オルドリンの命令を受け、アレクサンダ隊との戦闘を中止して後退する。それを不審に思ったアキトらも一旦戦闘を止め、機体を後退させた。

 

「そちらの指揮官はどなたですか?」

 

オルドリンの問いに、黒いアレクサンダが前に進み出る。

 

「私ですが…」

 

声を上げたレイラに対し、グレイルがアッシュズの方を指し示した。

 

「…あの機体は、黒の騎士団にもダモクレスにも属していないものと思われます。事実、こちらと同じ黒の騎士団に属するランスロット・クラブ・バーディクトもあの機体との戦闘に参加しています。また、あの機体にはフレイヤが搭載されているものと思われます。ならば、今は我々が闘っている場合ではないと思うのですが、如何でしょうか?」

 

オルドリンの言葉に、レイラやアキトはアッシュズに目を向ける。三対一の状況ですら一太刀も浴びることなくライ達を追い詰めようとする様は、自分達が一斉にかかったところで傷を負わせる姿すら想像できない。その考えが部隊の中に広がっていくのに頓着せず、オルドリンはさらに言葉を続けた。

 

「私達も、あの機体を倒す闘いに加わるべきです。我々の決着は、その後でも!」

 

グレイルがシュロッター鋼ソードを掲げる。それに対して、黒いアレクサンダも剣を掲げてそれに同意した。

 

「分かりました。まずは、あのナイトメアを!」

 

 

 

 

 

 

 

「はあぁぁぁぁッッ!!」

 

一振りで三機を弾き飛ばすアッシュズ・アトリビュート。何とか防御した彼らは、防御力に優れる灰塵壱式を先頭に、再びアッシュズに接近しようとする。

 

「無駄だ!!貴様らごときで、このアッシュズ・アトリビュートを止められると思ったか!?」

 

それを正面から打ち破り、超高速で飛翔するアッシュズ。だがそのアッシュズを狙って、極大の光が放たれていた。

 

「ヴァルトシュタイン卿、ここまで来て…!」

 

ツヴァイの下方からは、シュタルケハドロンを構えたモルドレッドが近づいていた。

 

「アーニャか!モルドレッドごときでこのアッシュズと闘おうなどと、愚かなり!」

 

アーニャにも反応できない速度で急接近したアッシュズ。叩き込まれた一閃は、しかしモルドレッドを捉えはしなかった。

 

「…ロック!?」

 

左腕のブレイズルミナスを展開し、そこにエナジーウイングを重ねる事でモルドレッドを守った灰塵壱式。しかしそれにより、エナジーウイングの一部が破損したことで灰塵壱式は空戦能力を失い、下降していった。

ただ、モルドレッドが咄嗟に救出に入った為、海面に叩き付けられる事だけはなさそうであった。

 

「これで貴様等だけだ。ここで諦めるというのなら、命だけは助けてやっても構わんが?」

 

ビスマルクの言葉に、ライは蒼焔で斬りかかることを返答とした。

 

「アドニス、彼のギアスは…」

 

「マリーベルから聞いている。未来視のギアスだろう!ならば!」

 

「ああ、彼の視界の外から攻撃するしかない!」

 

蒼焔とバーディクトは、左右に別れて飛翔した。

 

 

 

 

 

 

「ロック、どうして私を…?」

 

空母まで灰塵壱式を運び、無事着艦した事を確認したアーニャがロックに問う。戦場で敗れたのは自分の責任であり、ロックが助けに来るとは考えてもいなかったからだ。

 

「…結局、俺もお前と同じなのかもしれんな。甘さを捨てきれず、結果としてこうなってしまった。まぁ、これでカーズ…アールストレイム卿に顔向けできると考えれば、悪い気はせんがな。」

 

灰塵壱式から降り立ったロックが、彼女に返答する。アーニャは、記憶が戻ってからずっと聞きたかった事を彼にぶつけた。

 

「ロック、あなたはどうして、私達の前からいなくなったの?カミラ姉さんの事は私だって今でも信じられない…でもせめて、私やお父様を頼ってくれれば…私は、私はあなたにずっと…あなたがカミラ姉さんの旦那さんだっから、義妹でも我慢できた…でも、私は…」

 

アーニャの頬を、涙が伝った。ロックは困ったように頭をかくと、自身の思いを口にした。

 

「そうすれば、結局巻き込んでしまうことになったからな。だが、何も伝えずに消えたこと、結果としてお前の敵となったことは、すまないと思っている。」

 

昔のように、アーニャの頭に手を乗せ、強めに撫でるロック。それを受け、アーニャはなお涙を流してその場に膝をついた。

彼女を身体を支えながら、ロックは視線を空へと移す。

 

「頼んだぞ、ライ…俺の分まで、全てを…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぅ…腐っても、流石兄上という訳ですね…」

 

サザーランド・ジークの多彩な攻撃に、ヴィンセントに騎乗するサーシャは苦戦を強いられていた。彼女専用機としてカスタムされたその機体は通常のヴィンセントよりも高い性能を誇ってはいたが、それでも両機の差は明確である。

 

「それでも!私はナナリー皇女殿下の騎士として!兄上をここで!」

 

サザーランド・ジークが放ったスラッシュハーケンにニードルブレイザーをくらわせて破壊する。その爆炎の中を突っ切って、ヴィンセントはサザーランド・ジークに肉薄した。

 

「やるな!だが!」

 

輻射障壁でヴィンセントの斬撃を受け止め、電磁ユニットでヴィンセントを捕らえにかかる。それを察したサーシャが慌てて機体を下げると、サザーランド・ジークはヴィンセントに向けてリニアライフルを発射した。

 

「隙がない…なんて、闘いにくい…!」

 

サーシャはコックピットの中でため息を付くと、彼女専用のヴィンセントにのみ追加された武装を使う決意をする。

 

「エネルギー効率が悪いから、使いたくは無かったんだけど…しょうがない!」

 

ヴィンセントが腰から取り出したのはスーパーヴァリスだ。アヴァロンに残っていたデータを持ち出し、トロモ機関の科学者達が完成させたものである。それをサザーランド・ジークへ向け、ハドロンブラスターモードを起動する。

 

「兄上、お許し下さい!」

 

放たれたハドロンブラスターはサザーランド・ジークの輻射障壁を突破し、機体の左半分を破壊した。

 

「…私は、私の忠誠を貫きます。」

 

サザーランド・ジークが爆炎に包まれたのを確認し、機体を反転させようとするサーシャ。しかしその爆炎の中から、手足がオレンジ色に塗装されたサザーランド、サザーランドJが飛び出してきた。

 

「まだまだぁっ!」

 

サーシャは慌ててヴィンセントの両前腕に装備されたブレイズルミナスを起動させるが、間に合わずにサザーランドJの肩から上がその内側に入り込んでしまう。

 

「爆散っ!!」

 

すかさずジェレミアがサザーランドJを自爆させる。サザーランドJがブレイズルミナスの内側に入り込んだ時点で機体を後退させていたサーシャであったが、その爆発から逃れるのには間に合わず、機体頭部から胸部までを破壊された上にコックピットブロックも上部が吹き飛び、パイロットを守るものが何も無くなってしまっていた。そこへ降り立ったジェレミアが、右手の先から剣を現してサーシャへと突き付ける。

 

「サーシャよ、私を超えるにはまだ早かったな。それに、忠義の強さなら、私の方が上だ!!」

 

「兄さんは、何故そうまでして…」

 

サーシャの疑問に、ジェレミアは先程よりも幾分か優しい声音で答えた。

 

「私の守るべきものの為だ!サーシャよ、その為にこそ私は闘うのだ!」

 

自身の敗北を受け入れたサーシャは、ゆっくりとヴィンセントを下降させるしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フレイヤの起爆位置をダモクレスに変更したシュナイゼルは、カノン、ディートハルトと供にエレベーターで小型脱出機に向かっていた。

 

「ダモクレスもフレイヤも、所詮は機械…また造ればいいよ。」

 

シュナイゼルの言葉に、カノンは自身の意見を口にする。

 

「しかし、トロモ機関にはそこまでの余力はありません。ローゼンバーグも…」

 

「今や世界中が、ルルーシュの敵だ。そのルルーシュを消し去ったシステムとなれば、様々な組織が喜んでフレイヤを造ってくれるだろう。」

 

シュナイゼルは淡々と告げるが、カノンはここに来て、初めて彼に反対する言葉を口にした。

 

「それは…テロリズムに繋がりませんか?一応、ナナリー様の意見も…」

 

「必要ないのでは?エサの考えなど…」

 

それを、ディートハルトが遮る。彼は、シュナイゼルの考えを理解し、そして強烈に支持しているようであった。

 

「まさか、見捨てるのですか!?」

 

「世界の平和と、一つの命…悲しい事だが、比べるまでもないよ。」

 

格納庫へ到着し、脱出機に乗り込むシュナイゼル達。しかし機内の座席正面にあるモニターが突如点灯し、操縦席が映し出された。

 

『待っていたよ、シュナイゼル。』

 

椅子を回転させ、こちらに向いたのはルルーシュだ。

 

「そうか、チェックメイトをかけられたのは私か…」

 

シュナイゼルは取り乱す事なく、座席に腰掛けた。

 

「教えて欲しい。何故私の策が分かったんだい?」

 

『策ではない。俺が読んだのはあなたの本質だ。あなたには勝つ気がない。

朱禁城でのライとの対局。黒の騎士団のクーデター…あなたは常に負けない所でゲームをしている。』

 

「だから、私がダモクレスを放棄すると?」

 

二人のやりとりを、カノンとディートハルトは驚愕の面持ちのまま見つめている。

 

『シュナイゼル、あなたには今度こそ負けて貰う。

……質問したい。あなたはダモクレスで世界を握りたかったのか?』

 

「違うよ。私はただ、皆が望むことを、平和を作りたいだけだ。」

 

ここに来ても、シュナイゼルは余裕の態度を崩さない。それは、彼の生来の性格と、自身の頭脳が周囲と隔絶している為に生まれた性質の為であった。

 

『あなたは今日という日で世界を固定しようと考えた。だが、変化なき日常を生きているとは言わない。それはただの経験だ。』

 

「しかし、その連なりを知識と言うが…」

 

シュナイゼルがようやく笑みを崩し、肘をついて右手で頭を支える。その様子を見たルルーシュは一度視線を落とすと、微笑みと共に彼に目を戻した。

 

『やはりあなたは優秀だよ。優秀すぎるが故に見えていない。そう、皇帝シャルルは昨日を求めた。あなたは今日を。だが俺は、明日が欲しい。』

 

「明日は今日より、悪くなるかもしれない。」

 

『いいや、良くなる。例えどれだけ時間がかかろうと、人は幸せを求め続けるから…』

 

その言葉を聞いたシュナイゼルは声をあげて笑った。

 

「それが欲望に繋がるというのに…愚かしさも極まったね。それは感情に過ぎないよ。希望や夢という名の、宛のない虚構。それが…」

 

『それが皇族という記号で世界を見下してきた、あなたの限界だ。俺は何度も見てきた。不幸に抗う人を。未来を求める人を。みんなが幸せを願い抗い続けた。ギアスも、仮面も、その根元は…』

 

「矛盾だよ。他人の意思を否定し続けてきた君が、ここに来て人の意思を、存在を肯定しようというのは…

もういい。私を殺したまえ。ただし、君もフレイヤで消える。私達の命で世界に平和を…」

 

そのシュナイゼルの肩を、後ろから誰かが叩いた。

 

『だからこそあなたに俺は、』

 

「ゼロに仕えよという言葉を、プレゼントしよう。」

 

そこに立っていたのはルルーシュだ。彼は両目のコンタクトを外しながら、シュナイゼルへと告げた。

 

「君は、最初から私を殺すのではなく…」

 

ギアスで操られた兵士から麻酔を打たれ、立っている事も出来きなくなった為に、椅子にもたれ掛かるディートハルトが、二人の後ろで口を開いた。

 

「しまった、何故気付かなかった…シュナイゼルの思考を読んだ、録画だと…」

 

彼と、別の兵士に捕らえられたカノンの目の前で、シュナイゼルはルルーシュに膝を着いた。

 

「なんなりとお命じ下さい、ゼロ様。」

 

その姿を見下ろしながら、ルルーシュは彼の敗因を口にする。

 

「シュナイゼル、自分が殺されるという思い込みが、あなたと敗北へと誘ったのだ。」

 

「えぇいっ!!」

 

なんとか兵士を振りほどき、隠し持っていた銃で射殺し、カノンを捕らえる兵士にもその銃を向けるディートハルト。ギアスで操られているとはいえ、兵士はそれに戸惑いを見せた。

 

「ゼロ!あなたの物語は、既に完結している!あなたは、生きていてはいけない!!」

 

ディートハルトは震える手で、その銃をルルーシュに向け直した。しかしその直後、彼の胸を銃弾が貫く。ディートハルトの視線の先には、自分に向かって銃を構えるシュナイゼルの姿があった。

 

(シュナイゼル殿下…ご自身の命すら執着が無かった方が…これが、ギアスの力…)

 

ゼロの奴隷となったシュナイゼルの姿を見て、カノンは涙を流す。しかしシュナイゼルはカノンのそんな様子に頓着する様子すらなく、冷たい目でディートハルトを見つめていた。

 

「ゼロ、せめて、最後に…ギアスで、私にも…」

 

息も絶え絶えに、ディートハルトが最後の望みを口にする。しかしルルーシュは、両目をコンタクトレンズで覆ってしまった。

 

「ディートハルト、お前にはギアスを使う価値もない。」

 

ルルーシュの言葉を受け、ディートハルトの表情は一瞬絶望に染まった後、静かに目を閉じた。

 

「ではシュナイゼル、まずはダモクレスの自爆を解除して貰おうか。」

 

「分かりました。しかしフレイヤの制御スイッチはナナリーが…」

 

それを予想していなかったルルーシュはなんとか驚きだけは隠し、シュナイゼルから彼女の居場所を聞き出した。

 




実はR2のキャラで一番好きなのはジェレミアだったりします。ぶっちゃけるとサーシャを出したのはジェレミアの戦闘シーンを書きたかっただけです。


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episode47 INTERPLAY

ダモクレスとそれを囲うブレイズルミナスの間では、ランスロット・アルビオンとトリスタン・ディバイダーの闘いが続いていた。

 

「例えどれだけ機体を強化しようと、君では僕に勝てない!」

 

真っ二つにされたものを海中から引き揚げ、改造して二刀としたエクスカリバーで、アルビオンの一閃を防いでみせる。

 

「言ってくれるね!」

 

ジノはまだ笑みを浮かべてはいるが、その顔に流れる大量の汗と息切れが、彼の劣勢を物語っていた。

直後、ランスロットの一閃が一刀の刀身を砕く。ジノは慌てて距離を取ったが、スザクはその隙を逃さず、トリスタンを腹部から両断した。

 

「…これが結果だ、ジノ。」

 

「いいや、こっちの役目は済んだ。」

 

その言葉に振り返ったスザクが見たものは、トリスタンのメギドハーケンがダモクレスのブレイズルミナス発生装置に突き刺さった姿であった。

 

「さぁカレン!」

 

「ありがとう、ジノ!」

 

スザクがブレイズルミナスに目を向けると、輻射障壁でブレイズルミナスに空いた穴を広げ、内部に侵入してくる紅蓮聖天八極式の姿が見えた。

 

「スザク、決着を着ける時が来たようね。私達のすれ違いに!」

 

 

 

 

 

 

攻撃力でも劣る。速度でも劣る。防御力でも劣っている。機体性能に圧倒的な差がありながら、それでもライとアドニスは絶妙なコンビネーションで互角の闘いを演じていた。二人の闘い方には共通点が多く、お互いがお互いの動きを予測できる事がそれに拍車をかけているのだ。

 

「フン…やはり、一筋縄ではいかんな。」

 

ブラストメーサーキャノンを避け、突き出されたMVSを躱して自身の剣を振るうビスマルク。ランスロット・クラブ・バーディクトはそれを宙返りして躱すと、その後ろから蒼焔がMVSを振るってきた。

 

「はあぁぁっ!!」

 

ライの全力の一閃を咄嗟に受け流し、アッシュズ・アトリビュートはすぐにその場を離れる。追いすがってきた二機は再度左右に別れると、挟み込むように、それでいて一瞬だけタイミングをずらして攻撃していた。

 

「これで!!」

 

「くらえぇっ!!」

 

しかしアッシュズは蒼焔のMVSを自身の剣で、バーディクトのMVSをブレイズルミナスを発生させた拳で受け止めると、すぐにその二機を弾き返した。

 

「どうした!?この程度か!?」

 

アッシュズが掌からのマイクロメーサーキャノンを放つと、それを避ける為に二機は距離を取る。直後にビスマルクはバーディクトに狙いを定めると、そちらに超高速で突撃した。

 

「チィッ!!」

 

アッシュズの連撃をなんとか受け流すアドニス。直後に蒼焔がアッシュズの下方から斬りかかる事で窮地を脱したが、闘いの行方は徐々にビスマルクに流れつつあるのが両者には分かっていた。

 

「アドニス、まだ諦めるなよ!」

 

「分かっている!貴様こそ、足を引っ張るなよ!」

 

両機はエナジーウイングを広げると、同時に刃状のブレイズルミナスを放つ。しかしその全てを捌いたビスマルクは、再度距離を詰めて蒼焔に向かっていた。

 

「そう来るだろうと思っていたよ!」

 

それを見たライも蒼焔を前進させてアッシュズとの距離を詰めるが、斬撃の直前で上空へと逃げた。そのすぐ後ろからは、バーディクトがアッシュズに迫っていた

 

「ぬっ!?」

 

「せぁっ!!」

 

一瞬動揺するビスマルクに、二刀のMVSを振るうバーディクト。それを受け止めたアッシュズの上空から、蒼焔が超高速で斬撃を落とした。

 

「甘いっ!!」

 

足首にブレイズルミナスを発生させ、蹴り込む事でそれを逸らしてみせるビスマルク。その直後に両機に向けて刃状のブレイズルミナスを放つ。蒼焔とバーディクトはなんとか躱すが、アッシュズは再度距離を詰めてきていた。

 

 

 

 

 

ダモクレス屋上庭園。階段を登り、そこへ上がってきたルルーシュは、ある理由からフレイヤの制御スイッチを見つけ、それによって車椅子へ戻ることの出来たナナリーと対峙していた。

 

「お兄様、ですね…」

 

「そうだよ。」

 

歩を進め、ナナリーの元へ近付くルルーシュ。徐々に近付いてくる足音に、ナナリーは制御スイッチを強く握った。

 

「お兄様の目的は、このダモクレスの鍵ですか?」

 

「ああ、それは危険なものだ。お前には…」

 

「だからです。もう、目を背けてはいられないから。」

 

ナナリーが、両目を開く。その両目で、ルルーシュを真っ直ぐに見つめた。

 

(!!…あいつのギアスを破った!?自分の意思でか!?)

 

予想外の事態に驚きを隠せないルルーシュ。彼女が目を開いた事は、このような場面でなければ飛び上がって喜んだであろう出来事だが、今この場ではいかに彼女がルルーシュを止めたいと強く思っているか、ということの証であった。

 

「お兄様、私にもギアスを…使いますか?

8年ぶりにお兄様の顔を見ました。それが人殺しの顔なのですね…おそらく私も、同じ顔をしているのでしょうね。」

 

「では、やはり今までのフレイヤはお前が…?」

 

「はい。止めるつもりでした。お兄様を。例え、お兄様が死ぬことになったとしても!ですからお兄様にフレイヤを、このダモクレスの鍵をお渡しすることはできません!お兄様が…ギアスを使われたとしても!」

 

ナナリーの自身に対する意思の強さに、ルルーシュは思わず足を止めた。ナナリーの為に闘ってきた彼にとって、彼女にギアスをかけて、意思をねじ曲げるという選択肢を取る訳にはいかなかったからだ。

 

 

 

 

「カレン、どうしても邪魔をする気か…?」

 

ダモクレス外縁部で向き合う紅蓮聖天八極式と、ランスロット・アルビオン。

二人は最後の闘いを前にして、少しだけ言葉を交わす事を選んでいた。

 

「スザク、私はあなたを誤解していた。やり方は違うけど、あなたはあなたなりに、日本の事を考えていると思っていたの…」

 

「自分は…自分達には、やらねばならない事がある。」

 

紅蓮がゆっくりと右腕を持ち上げた。

 

「そう、そんなに力が欲しいの?だったら…」

 

アルビオンも、スーパーヴァリスを紅蓮に向けた。

 

「だったら?」

 

「あなたはここにいちゃいけない。あなたを倒し、ルルーシュを止め、ライを取り戻す!」

 

「それは、させない!」

 

両機はエナジーウイングを発生させると、同時に飛翔し、空中戦を展開した。

 

 

 

 

 

 

「お兄様に、この世界を手にする資格はありません。ゼロを名乗って、人の心を踏みにじってきたお兄様に…」

 

「では、あのまま隠れ続ける生活を送れば良かったのか?暗殺に怯え続ける未来が望みだったのか?お前の未来の為にも…」

 

ルルーシュの言葉に、思わずナナリーは車椅子から身を乗り出した。

 

「いつ私がそんなことを頼みましたか!?私は、お兄様と二人で暮らせれば、それだけで良かったのに…」

 

「しかし!現実は様々なものによって支配されている。抗う事は必要だ!」

 

 

 

「その為に!レジスタンスとして闘ってきたのよ!」

 

紅蓮が放つ多数のミサイルを、アルビオンはブレイズルミナスで防ぎつつ、距離を詰める。

 

「組織を使うという手だってあった筈だ!」

 

「その組織に、システムに入れない人はどうするの!?それは違うって、どうやって言えばいいのよ!?」

 

紅蓮のハーケンが、アルビオンのスーパーヴァリスを貫いた。

 

「高いとこから偉そうに言うな!!」

 

紅蓮の輻射波動砲弾をブレイズルミナスで受け流し、MVSを両手に構えて再び距離を詰める。

 

「組織に入るしかない人はどうなる!正義とは…!!」

 

MVSの一撃により、紅蓮のエナジーウイングを一つ破壊する。しかし紅蓮もほぼ同時に左腕でアルビオンの右ウイングを掴み、背中から引きちぎった。

ダモクレスに降り立った紅蓮とアルビオン。着地と同時に放たれた蹴りを受け、アルビオンは一段下の地面に叩き落とされる。

 

「人は、世界は…こんなにも思い通りにならない!」

 

体勢を建て直したアルビオンは、両腕のMVSを構える。

そこへ紅蓮がハーケンを放ち、MVSをどちらも弾き飛ばした。

 

「だから、思い通りにしようって言うの!?それは!!」

 

 

 

「それは卑劣なのです。人の心をねじ曲げ、尊厳を踏みにじるギアスは!」

 

ナナリーはルルーシュを否定する。しかしルルーシュも、ここまで来て退く訳にはいかなかった。

 

「ではダモクレスはどうだ?強制的に人を従わせる、卑劣なシステムではないのか?」

 

「ダモクレスは、憎しみの象徴になります。」

 

「えっ…?」

 

ナナリーが考えている事に、自身が何を考えてスザクやライ達と世界を手に入れようとしているのか、それに通じるものを感じたルルーシュは思わず目を見開いた。

 

「憎しみは、ここに集めるんです。みんなで明日を迎える為にも…」

 

(そうか…ナナリー、お前も…なら!)

 

ルルーシュは、両目のコンタクトレンズを外した。

 

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる!ダモクレスの鍵を渡せ!!」

 

ギアスが発動し、ナナリーの腕は彼女の意思とは関係なく、ルルーシュへ向けて持ち上がろうとしていた。それに気付いたナナリーは、抵抗する意思を見せる。

 

「い、いや…お兄様に、渡してはいけない!これ以上、罪を…!!」

 

しかし、ついにギアスが彼女の意思を支配した。彼女は微笑みを浮かべ、鍵をルルーシュに差し出した。

 

「どうぞ、お兄様。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「分かっている筈だぞアドニス。私を倒したところで、そのあとに待っているのはシュナイゼル殿下の治める世界だ。恐怖で人を支配し、世界中の人々を駒として定めた世界。そんなものを認めるのなら…」

 

「だからと言って、消去法で貴様の理想とする世界を受け入れるつもりはない!貴様が今手にしているものは、恐怖による支配の象徴ではないか!」

 

バーディクトから四基のハーケンが放たれる。アッシュズはそれを難なく避けるが、そのハーケンにさらに別のハーケンがぶつかり、もう一度アッシュズへ向けて飛来した。それをブレイズルミナスで防御したビスマルクは、別のハーケンを放った人物、ライへと目を向けた。

 

「貴様もだ、狂王よ。貴様は狂王と呼ばれる以前に皆が平等に暮らせる国を作ろうとしていた筈。何故シャルル皇帝が目指した等しく優しい世界を否定した?」

 

言いつつ、蒼焔に突撃するアッシュズ。ライは流麗な動きで攻撃を受け流しながら、彼の問いに答えた。

 

「シャルル前皇帝にも言ったが、嘘のない世界とは、理性のない世界、ただの退化だ!それを未来とは言わない!ただの、昨日の繰り返しだ!」

 

「だが、貴様やルルーシュの行いも一方的な押し付けではないか!私が実現せんとする世界を、否定する権利が貴様にあるのか!?」

 

アッシュズの拳が蒼焔を捉える。ライはそれに抵抗せずに後退すると、横回転しながらMVSを薙ぎ払った。同時に、アッシュズの後方からバーディクトがMVSを振り下ろしている。

 

「私の世界を否定したくば、勝ってみせろ!帝国最強の騎士である、この私に!」

 

アッシュズは両機の攻撃を受け止め、簡単に弾き返した。

 




朝方に目が覚めたので更新します。


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episode48 Misery

「くっ…これで輻射波動も弾切れ…」

 

「シールドエナジーも尽きたか…」

 

「それでも!!」

 

紅蓮とアルビオンは同時に駆け出す。ハーケンを放ち、アルビオンを絡めとって接近する紅蓮。アルビオンはあえてそれに逆らわず、右の拳を叩き込んだ。しかしそれを左腕で防いだ紅蓮は、右腕を手刀としてアルビオンに突き込んだ。

スザクはそれを防いだものの、未だに決定打を打てていない事に驚愕していた。

 

「決めきれない!?ギアスの呪いを使っているのに…カレン、なんて強さだ!!」

 

スザクは現在、ルルーシュから受けた生きろというギアスを制圧し、自身の潜在能力を引き出す為に使用している。しかしそれでも、紅蓮を相手に互角以上の闘いができていない。

 

「スペックはこっちが上の筈なのに…スザク、これだけの力があって、なんで!?」

 

ランドスピナーを駆動させ、狭い壁を登る紅蓮とアルビオン。着地した紅蓮の上を、アルビオンが飛び越え、着地しながら攻撃を加える。しかし紅蓮もそれを捌きつつ、反撃を繰り出していた。

 

「終わりにしよう、カレン!!」

 

紅蓮のハーケンを、自身のハーケンを壁に刺すことで避け、かつランスロットが突進できる体勢を作っていたスザク。勢いよく壁を蹴ると、一直線に紅蓮へと向かった。

 

「あなたに、正義さえあれば!!」

 

紅蓮も右手を構える。紅蓮が突き込んだ右手と、アルビオンの右脚が激突した。紅蓮の突きに耐えきれず、アルビオンの右脚が破壊される。さらに紅蓮は右手をもう一度振り上げ、アルビオンの左腕を破壊した。

 

「くっ…!!」

 

スザクは咄嗟の判断で、スラッシュハーケンを二本同時に放つ。一本は紅蓮の右肩を、もう一本は紅蓮の頭部を貫いた。

それを受け、紅蓮は動作を停止した。

 

「そんな…届かなかったの?」

 

「いや、届いているよ…カレン。」

 

同時に、アルビオンも動作を停止する。アルビオンの胸部には、紅蓮の左腕が突き刺さっていた。

 

それを確認したカレンは、安心したような表情を浮かべ、気を失った。ダモクレスから落下する紅蓮を、下半身を失ったトリスタンが抱き止めた。

そのジノの視線の先で、アルビオンが爆散した。アルビオンの脱出機構は作動せず、パイロットごと爆発したようであった。

 

「そうか、勝ったのか…カレン。」

 

トリスタンはゆっくりと下降し、アーニャがいる空母へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

「チィッ…本当に厄介だな!」

 

左脚を失い、MVSも一本を破壊されたランスロット・クラブ・バーディクト。その横には、左腕を失い、メーサーキャノンのエナジーも尽きた蒼焔が浮遊していた。

 

「だが、最後まで諦める訳には!!」

 

胸部からハーケンを放ち、同時に距離を詰める蒼焔。その先に佇むほぼ無傷のアッシュズ・アトリビュートに向けて、右腕を振り下ろす。それを止められた直後には、一回転しての蹴りに続けて再度右腕のMVSを突き込んだ。

それに続いて、バーディクトも上からMVSを振り下ろす。しかしアッシュズはどちらも防ぐと、剣と拳をほぼ同時に繰り出した。

 

「もう諦めたらどうだ?騎士として、最後は潔く死ぬがよい。」

 

ビスマルクの言葉が響き渡る。今の攻撃で蒼焔は右脚を、バーディクトは右腕を失っていた。

 

「まだ負けた訳ではないさ!ビスマルク・ヴァルトシュタイン!」

 

ライはそう返すと、蒼焔の右腕をアッシュズに向ける。だがビスマルクは、それを見ても自身の剣を構えようとすらしない。

 

「ここから、どうやって逆転できるというのだ?抗う分だけ、苦しむ時間が増えるだけではないか。」

 

「そうだ。僕達は抗ってきたんだ。状況や環境、そして世界に!自分に!!ここまで来て、それを止める訳にはいかないんだよ!!」

 

蒼焔を突撃させるライ。しかし、ダメージによってそのスピードは落ちてしまっている。ため息をついたビスマルクは、この一合で確実に仕留めるべく、剣を構えた。

だがその直後、アッシュズのコックピットにアラート音が鳴り響く。

 

「なんだ!?」

 

彼が状態を確認すると、多数のナイトメアがアッシュズに向かって飛来してきているのが映っていた。先頭に立つハイグレイル・チャリオットがアッシュズに向けてメガハイドロランチャー・フルブラストを放つ。蒼焔の一撃を弾いてからその砲撃を避けた所で、周囲を囲むように展開したアレクサンダ隊がジャッジメントやヴァリスをアッシュズに向けて掃射し、同様にブラッドフォードもハドロンスピアーを放っていた。

 

「フッ…雑兵が増えた所で!」

 

攻撃を避けながら一機ずつ破壊しようとハイグレイルに近付くアッシュズ。しかし、バーディクトがハイグレイルの前に割り込む事でそれを阻止した。

 

「距離を取って撃ち続けろ!絶対に近付くなよ!」

 

「特務隊!常に動き続けて的を絞らせるな!」

 

アドニスとライから命令が飛ぶ。その姿を見ても、ビスマルクは余裕の表情を崩さなかった。

 

「良いぞ。希望が多ければ多いほど、絶望は深くなる。貴様ら全員を、私一人で叩き潰してやろう!」

 

再び蒼焔とバーディクトに狙いを定めて突撃をかけるアッシュズ。周囲からの攻撃などまるでないかのようにバーディクトに接近し、斬撃を放った。

 

「ぐぅっ…!」

なんとか受け止めるも、その勢いによって弾き飛ばされるバーディクト。追撃をかけようとしたアッシュズに向けて、ライが蒼焔を急接近させる。それに対して大上段に剣を構えて迎え撃とうとしたその時、アッシュズのコックピットに再びアラート音が鳴り響いた。ビスマルクがモニターを確認すると、そこには何故かエナジーウイングの一つが破損したと表示されている。彼が振り返ると、アッシュズからかなり離れた場所にフローレンスのミストルテインを構えた、ヴィンセント・ウォードが浮遊していた。

 

「これで、一瞬でも隙を作れたかな…?」

 

ウォードのコックピットでノネットが呟く。それと同時に、蒼焔の機体速度が上昇していた。

 

「まさか、わざとスピードを落として…!」

 

防御が遅れ、剣を砕かれる。咄嗟にフレイヤが装填されたライフルを構えたが、下から突撃して斬り上げたバーディクトのMVSによって、中心部から両断されてしまう。

 

「馬鹿な…」

 

ビスマルクの未来視のギアスは、あくまで見える範囲で発動している。視界の外からの狙撃に一瞬気を取られた事で、見えていても反応しきれない状況を自らが作り出してしまっていた。

 

「終わりだ!!」

 

蒼焔が突き込んだMVSが、アッシュズを貫く。コックピットまで達した事を確認したライは、エナジーウイングを広げてアッシュズから離れた。

 

「陛下…私は…」

 

ビスマルクの言葉を待たず、アッシュズ・アトリビュートは爆散した。

 

「ビスマルク…Cの世界であの二人に会えるよう、祈っているよ。」

 

ライが言うと、蒼焔とバーディクトは再び向き合った。彼らの後ろにはそれぞれ特務隊とグリンダ騎士団が整列している。

 

「……さて、残すは貴様との決着だな。ここまでは協力したが、貴様らの造る世界も俺は認める気はないぞ!」

 

バーディクトが蒼焔に向けてMVSを構える。しかし蒼焔は構えをとらず、MVSをダモクレスの方へ向けた。それと同時に、ダモクレスからはフレイヤが発射されていた。

 

 

 

 

 

「ナナリー、お前はもう立派に自分の考えで生きている。だからこそ俺は、俺の道を進むことができる。」

 

ナナリーの前に膝を着いたルルーシュは、彼女の手から丁寧に鍵を受けとると、一瞬だけ目を瞑って頭を下げた。そしてギアスが解ける前に、彼女に自身の本心を伝える。

 

「…ありがとう。愛している、ナナリー。」

 

その直後にナナリーにかかっていたギアスが解けた。彼女の前には、見下すような笑みを浮かべたルルーシュが、右手に鍵を持った状態で立っていた。

 

「…使ったのですね!ギアスを!」

 

彼女の言葉に、ルルーシュは無言のまま踵を返す。ナナリーは咄嗟に電動車椅子を動かし、彼の後を追った。

 

「待ちなさい!待って…あぁっ!!」

 

しかし、その先は階段だ。彼女はルルーシュに向かって手を伸ばすも、車椅子は段差に躓き、その衝撃で彼女は階段に投げ出される。

足を止め、冷たい目を彼女に向けるルルーシュに、ナナリーは怨嗟の声を上げた。

 

「お兄様は悪魔です!…卑劣で!卑怯で!なんて…なんてひどい…」

 

階段に投げ出され、その場で涙を流すナナリーを置いて、ルルーシュはその場を去っていった。

 

「ロロ、フレイヤの照準を合わせろ。こちら側も黒の騎士団も巻き込まないようにな。」

 

『分かったよ、兄さん。』

 

ロロに指示を出しながら、指令室へ向かうルルーシュ。照準を合わせ終わったと彼から連絡が入るのとほぼ同時に、ルルーシュは指令室に辿り着いた。

発射されたフレイヤは、神楽耶や騎士団員達の見る前で、巨大な爆発を起こす。

 

「全世界に告げる!私は、神聖ブリタニア帝国皇帝、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアである!シュナイゼルは我が軍門に下った。これによりダモクレスもフレイヤも、全て私のものとなった。黒の騎士団も、私に抵抗する力は残っていない…それでも抗うというのなら、フレイヤの力を知ることになるだけだ。」

 

神楽耶や星刻、千葉らは信じられない気持ちでその声を聞いていた。

 

「我が覇道を阻む者はもはや存在しない。そう、今日この日、この瞬間をもって、世界は我が手に堕ちた!

ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる…世界よ!我に従え!!」

 

戦場には、オールハイル・ルルーシュの声が響き渡る。その状況を理解したアドニスは、コックピットの壁面を強く殴った。

 

「馬鹿な…ジノと紅月でも止められなかったというのか…!」

 

「アドニス…あの時とは逆になったな。降参するなら、今だよ。」

 

余りの衝撃に蒼焔に向けていたMVSを下げたバーディクト。反対に蒼焔は、バーディクトにMVSを構えていた。

 

「……俺達の敗けだ。」

 

現実を受け入れたアドニスは、投降の為に機体を降下させる。それを確認したライもほぼ同時に降下し、ロックがいる筈の空母へとアドニスを誘導した。その姿を見て、グリンダ騎士団の面々も降下を開始している。

そしてバーディクトが着艦したのを確認すると、ライは彼に通信を繋ぐ。

 

「アドニス、君とは敵として何度も闘ってきたけど、だからこそ敵として君の事を信頼している。僕の話を聞いてくれ。」

 

「…フン、敗れたこちらに選択肢があるのか?。まぁいい、聞くだけ聞いてやろう。」

 

アドニスの言葉を聞き、ライは蒼焔を空母の前に留めたまま自身の考えを口にした。

 

「…このまま、騎士団に残って欲しい。」

 

「……どういう意味だ?今の貴様らにとって既に騎士団は取り込む必要のない戦力だろう?」

 

「……」

 

その問いに、ライは答える事無く無言を貫く。

 

「…答える気は無しか。まぁ、どちらにしろ処刑されるのであれば、否も応もあるまい。」

 

アドニスの答えを聞き、ライは満足したかのように通信を切り、蒼焔のコックピット内で誰ともなく呟いた。

 

「これで、ようやく僕らの闘いも終わりか…」

 




この作品においての設定上の身体能力の高さ順は

ロック=マリアンヌ
ライ=アドニス=ギアス状態スザク
ビスマルク

通常時スザク=カレン
ジノ=星刻
ノネット=シン=機械化ジェレミア
ルーン=マリーベル
ルキアーノ=アキト
アーニャ、その他ラウンズ
藤堂=オルドリン=オルフェウス
サーシャ=アシュレイ

くらいに考えています。ただ、突撃専門のロックに比べ、先読みや経験、瞬時の状況判断で闘うライやアドニスは、ロック側から見れば相性は良くないので総合的には同等くらいかなと…


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episode49 Whos gonna save him

あの戦いから二ヶ月後、ルルーシュ皇帝直轄領となった日本では、ブリタニア皇帝という立場と平行して黒の騎士団CEOとなり、超合衆国第二代最高評議会議長となったルルーシュによる反乱分子処刑前の戦勝パレードが行われていた。

ルルーシュを乗せた車両の周辺には、藤堂や扇などの黒の騎士団員、オルドリンやレオンハルトらグリンダ騎士団員やオルフェウス、シュナイゼルが磔にされている。

そして、彼の座る車両の前方部分には、手足を鎖で繋がれ、絶望の表情で座り込むナナリーの姿もあった。

 

「こんなの、ただの独裁だ…逆らう者は全て殺して…」

 

「シッ!誰かに聞かれたら、一族皆殺しにされるわ…」

 

そのパレードを眺める観衆は、小声ではありながらもルルーシュを否定する言葉を発している。それは、放送を行うスタジオでも同じであった。

 

「こんなものを正義として報道しなきゃならんとは…」

 

パレードの様子を映すモニターに背を向け、ミレイは涙を堪えていた。

また、沿道にはリヴァルとシャーリーの姿も見える。

 

「ルルーシュ、これがお前のやりたかった事なのかよ…世界を、みんなを支配して…」

 

「ルル…どうして…?」

 

リヴァル達がいる場所とは少し離れたビルには、ブラインドの隙間から様子を伺うコーネリアやギルフォード、ヴィレッタらの姿があった。コーネリアはシュナイゼルに撃たれた傷が癒え、ギルフォードは東京疎開でのフレイヤから辛うじて助かっていたのだった。彼女らはパレードに異変や隙があれば、飛び出してルルーシュを殺害するか、せめて人質だけでも救出する算段である。

 

「ハッ…!扇!!」

 

磔にされる扇の姿を見たヴィレッタが思わず飛び出そうとする。しかし彼女の肩を、コーネリアが掴んで止めた。

 

「今出ていけば出ていけば思うつぼだ。」

 

「しかし…」

 

反論を口にしようとしたヴィレッタに、観衆の驚く声が聞こえる。再びブラインドの隙間からパレードの様子を観察する。その観衆達の視線の先には、黒いマントを羽織り、黒い仮面を被った男、ゼロが立っていた。

 

『…ゼロ!?』

 

ヴィンセント・ウォードに騎乗する兵士が思わず声を上げる。それに気付いた人質達も、その言葉につられてそちらを向いていた。

 

「ゼロ…?」

 

「嘘よ!ルルーシュはあそこに!?」

 

ナナリーに続き、カレンも驚きを露にする。彼女の視線の先では、ルルーシュも驚愕の表情である。

但し、それを見たカレンは何が起きているのかをほぼ正確に理解していた。

 

「まさか、ルルーシュ達がやろうとしたことって…」

 

彼女らの見る前で、ゼロは駆け出した。

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

「ナナリー、大丈夫かい?」

 

収監されているナナリーの面会に訪れたのはライだ。彼は部屋に入って目の前の椅子に腰掛けると、目の前のテーブルに手を鎖で繋がれたナナリーに声をかけた。

 

「ライさん…これがあなた達の望みなのですか…?」

 

沈んだ声で、ナナリーが問い掛ける。ライはそれに答えず、自分が伝えるべきだと思った事だけを口にした。

 

「ナナリー、君には辛い思いをさせたね…けれどナナリー、君の優しさは強さだ。それを、ずっと忘れないでいてほしい。君は、この先の世界に必要な人間だよ。」

 

近々処刑されるであろう自分に向けて、ライがそう言った意味が理解できず、ナナリーは顔を上げた。その彼女の手に、ライは桜の折紙を握らせる。

 

「さようなら、ナナリー。」

 

ライは立ち上がると、振り返る事無く部屋を後にした。扉を閉めた彼に、警備兵が声をかける。それは隣の部屋にもう一人、彼が面会を希望した人物を連れてきたという知らせであった。

彼はその部屋の扉の前で立ち止まると、大きく息を吐いてから扉をノックした。

 

「……入るよ、カレン。」

 

扉を空けると、泣き続けたのか目の周りが腫れ上がったカレンが、ナナリーと同様にテーブルに手首を繋がれた状態で座っていた。

 

「…ライ、あなたは一体何を考えているの?」

 

カレンの言葉に、ライは真剣な表情で頭を下げた。

 

「カレン、僕はただ守りたかっただけなんだ。自分が大切だと思う人達を…だけど君には、手遅れだとしても謝っておきたかった。君を裏切ったこと、そして君の敵に回ったこと…結局こうなってしまったのは、全て僕のせいだ。でも…」

 

ライはそこで、一度言葉を切る。彼女に自身の本心を伝える為、大きく深呼吸をした。

 

「信じてもらえないと思うけど、僕は君を心から愛している。君には幸せになって欲しいと、本心からそう思っている。そしてそれには、僕の存在が…」

 

「何を…」

 

カレンが顔を上げると、ライの目にはギアスが宿っていた。

 

「…だから、さよならだ。カレン。」

 

「嫌よ……嫌!やめて!!私からあなたを奪わないで!!ライ!!」

 

彼女の抵抗を無視して、ライは自分の事を忘れるよう、彼女にギアスをかけた。

 

「ダメ…忘れたくない!!どうして…!!ライッッ!!」

 

そのギアスに、カレンはなんとか耐えようとした。しかし数秒の間を置いて、彼女は何事も無かったかのように顔を上げる。ライの顔を見ると、カレンは眉を上げて睨み付けた。

 

「…何よ、こんな所へ連れてきて。今更聞きたい事なんてないでしょ!?」

 

ギアスが効果を発揮した事を確認すると、ライはゆっくりと席を立った。

 

「さようなら、カレン。」

 

彼女に背を向け、扉の前でライは呟いた。

 

「……大丈夫か?」

 

部屋を出ると、そこにはC.C.が立っていた。彼女は右目を押さえるライに向けて、心配の言葉を口にしていた。

 

「これでギアスを使うのは最後だ。暴走したとしても…」

 

「そうじゃない。……カレンの事だ。」

 

彼女に指摘され、ライは自身が涙を流している事に気付いた。

 

「……仕方ないさ。あの時から覚悟していた事だ。それより、ルルーシュ達は…?」

 

ライは涙を拭くと、C.C.に尋ねた。彼女は出口を指差すと、ライの問いに答えた。

 

「この先の教会だ。しかし、本当にお前は…」

 

「ああ、これは僕がやるべき事なんだよ。だから、君ともお別れだな…Cの世界で、また会えるといいけど。」

 

出口に向かうライの背中を、C.C.は無言で見つめ続けた。

 

 

 

 

「やるのか?どうしても…」

 

「予定通り、世界の憎しみはこの俺に集まっている。後は俺が消える事で、この憎しみの連鎖を断ち切るだけだ。」

 

教会の中では、ルルーシュとスザクが向かい合っていた。ルルーシュは手に持ったゼロの仮面を、スザクに向けて差し出す。

 

「黒の騎士団には、ゼロという伝説が残っている。シュナイゼルもゼロに仕える…これで世界は軍事力ではなく、話し合いというテーブルにつく事が出来る。明日を迎える事が…」

 

スザクはそれを受けとると、仮面を見ながら言葉を返した。

 

「それが…ゼロレクイエム…

Cの世界で僕らは知った。人々が明日を望んでいることを。」

 

「フッ…なぁスザク、願いとは、ギアスに似ていないか?」

 

「えっ…?」

 

「自分の力だけでは叶わないことを、誰かに求める。俺は人々を、願いという名のギアスにかける。世界の明日の為に…」

 

ルルーシュはそこまで言うと、スザクに背を向けた。教会の扉を開けて外へ出た所で、彼を待っていたライを見付けていた。

 

「ライ、お前には最後まで苦労をかけたな…カレンの事も、結局は俺のこれまでの行いが原因だ。」

 

「それは違うよルルーシュ。僕が選んだ事さ。君と供に、歩む道を…」

 

ライは彼に微笑んでみせる。つられてルルーシュも口の端が上がるが、直後にライは表情を引き締めた。

 

「だから…」

 

ルルーシュが気付いた時には、ライの拳が自分の鳩尾にめり込んでいた。

彼の行動が理解できなかったルルーシュは、その腕を掴みながら口を開く。

 

「ライ…お前っ…」

 

しかし、そこで気を失うルルーシュ。ライは彼の身体を抱き止めると、待機していたロロを呼び、ルルーシュを預けた。

 

「ロロ、ルルーシュを頼んだよ。」

 

「ライさん、これでお別れなんて…」

 

目に涙を溜めるロロに、ライは彼に伝えるべき言葉を告げる。

 

「ロロ、君は、これからは自分を大事にして生きて欲しい。ルルーシュと供に生きるのも、別々に生きるのも君の自由だ。君の人生は、君だけのものなんだから。それを、ずっと忘れずにいてくれ。」

 

ロロは頷いて、ルルーシュを担いでその場を後にした。それを見届け、その場を去ろうとしたライに、教会から出てきたスザクが声をかける。

 

「本当にいいのかい、それで…?」

 

「未練はある。だから、未練はない。僕は、この二年間で僕を助けてくれたみんなの為に、この命を使うと決めたんだ。それに…結局は君に一番辛い役割を押し付ける事になる。」

 

スザクはライの言葉に無言で首を振る。その姿を見たライは、右手を上げて彼の肩にかけた。

 

「スザク、今までありがとう。それと、もう少しだけ僕の我儘に付き合ってくれ。」

 

「…ああ。僕らは、共犯者だから。」

 

スザクの言葉に頷くと、ライはゆっくりとその場を後にした。その彼を追うように、ロックとルーンが彼の横に並ぶ。

 

「これは、本当にお兄様がやるべきことなの?私には…」

 

「僕は、君やロック、スザクやルルーシュも、そしてカレンにも生きて欲しい。その願いを叶える為には、こうするのが一番なんだよ。だからルーン、これでお別れだ。」

 

ライの言葉を受け、いつものふざけた調子を見せるどころか泣いて彼にすがり付くルーン。彼女の頭を撫でながら、ライはロックに視線を移した。

 

「ロック。君にも、世界の事を頼みたい。この後に一時的な平和が訪れたとしても、それを拒む人達だっている筈だ。そうなれば、君やスザクの力は必ず必要になる。だから、君にはまだ闘って貰いたい。」

 

ロックは彼の言葉を受け、その場に膝を付いて頭を下げた。

 

「イエス・ユアマジェスティ。」

 

その様子を確認したライは、彼に対しても別れの言葉を口にする。

 

「さようなら、ルーン、ロック。」

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

ウォードから放たれたアサルトライフルの弾丸を、走りながら避けるゼロ。彼はウォード隊の間を飛び抜けると、ルルーシュが乗る車両の前に降り立った。それを見たジェレミアが、部隊に命令を下す。

 

「撃つな!私が相手をする!」

 

しかしゼロは、駆け寄ったジェレミアを踏み台にし、ルルーシュの前に降り立った。

 

(ゆけ、仮面の騎士よ…)

 

ジェレミアの視線の先では、ゼロがルルーシュの構えた銃を弾き飛ばしていた。

そしてゼロは剣を引くと、彼の胸にその剣をゆっくりと突き刺した。

 

「…スザク、世界と、ルルーシュを頼んだ。」

 

ルルーシュの仮面を被ったライが、ゼロの仮面を被ったスザクに告げる。彼は自身が過去に作ってしまった今の世界の基盤を、自身がルルーシュの代わりに死ぬ事で憎しみの連鎖を断ち切り、そして新たな世界の基盤となるべく行動したのだ。そして一人でも多く、自身が大切に思う人を生かす為の選択でもあった。

 

「君だけを救えなかったのが、僕にとっては…君には、すまないと思っている。しかし、君にしか頼めない。人並みの生活を捨て、枢木スザクという名前も捨て、ゼロとして…この世界をずっと…」

 

「そのギアス、確かに受け取った…!」

 

スザクは彼から剣を抜くと、彼の横に移動した。ライはフラフラと歩くと、ナナリーの元へと転がり落ちていった。

 

「…お兄様?」

 

ナナリーは彼の手に触れる。目が見えなかった事により、触れる事で他者の思いや感情を読む力を持つ彼女は、目の前の人物の正体や彼らが起こした行動の理由を理解していた。

 

「ライさん…?どうして!?それは、私が背負うべきものなのに!まだ、まだ何もあなたに!何も返せていないのに!!」

 

ナナリーは懐から桜の折紙を取り出すと、それを彼の右手に握らせる。

 

「ナナリー…ごめんね…ルルーシュを、たのんだ…」

 

ライは左手を空に向けてゆっくりと上げると、最後の言葉を口にした。

 

「ああ…世界は、こんなにも…きれい、で…」

 

ライの左手が力なく落ち、それと同時に彼は意識を失った。その直後、コーネリアに率いられた部隊が突撃をかける。ライの死体をその場に残し、ジェレミアは即座に部隊を撤退させた。

コーネリアやヴィレッタは、次々と人質を解放してゆく。そんな中で一人だけ、フードを被った男がライの元へと歩み寄った。

 

「ライ、君は幸せになれたのかな?君の世界は、最後まで色を保っていたかな…?私の願いを…人々が幸せになる為に抗う姿を見る事が私の…」

 

彼はライの前に立つと、淡々と言葉を投げ掛けた。ライが動かない事を確認すると彼の身体を背負い、誰にも気付かれる事なくその場を後にした。そこに、狂王という呼び名だけを残して。

 



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episode50 THE SUN ALSO RISES

ルルーシュ皇帝殺害より、二ヶ月の月日が経った。ブリタニアの田舎町、その中でもさらに山中にある古びた一軒家に向かって、一人の男が歩いていた。

 

「やっぱり、病み上がりには、きつい、な…」

 

その男はライだ。死んだと思われていた彼は、この二ヶ月間を世界から隠れるように生きていた。

 

「まったく、スザクも甘い…」

 

彼は自身の左胸と腹部の間辺りを押さえる。衣服の下には剣で刺された後があるが、その剣は心臓や肺を避けて綺麗に貫通し、彼の命を奪うことはなかったのだ。スザクは間違いなく、わざとそうなる事を狙ったのだろう。みんなを救う為とは言ってみたものの、結局自分は彼に救われた形となっている。これでスザクに全てを押し付けてしまう事になり、ライはどこか罪悪感を覚えていた。

 

「ここ、かな?」

 

一見すると小屋のようにも見える木造の家の前で、彼は足を止めた。そして扉をノックすると、ほとんど間を置かずにその扉が開かれた。

 

「久しぶりやのう、ライ。わざわざ来てもろうてすまんなぁ。」

 

中から現れたのはタカムラ博士だ。彼の後ろにはジェレミアやアーニャ、そしてロックの姿もあった。そして奥の椅子には、ルルーシュとロロが腰掛けている。

 

「いえ、身体を動かして体力を回復しないといけないので…」

 

その言葉に続けて、五人に挨拶をしようとするライを、タカムラは半ば引き摺るように地下の格納庫へと連れていった。

 

「タカムラ博士、これが…」

 

「おお、これが蒼焔轟柳型やでの。」

 

二人の前には、タカムラの手によって改造された蒼焔があった。

 

「エナジーウイングはアッシュズと同様に三対、肩から背中にかけてのんは二門の狙撃用レールガン。スラッシュハーケンはブレイズルミナスを発生させよる事で威力を向上。そんで、胸部にはブラストメーサーキャノンを装備しとるわ。それから…」

 

ワンは蒼焔の右腕を指した。そこにはMVSが無くなっており、シールドと、縦長の射出口のようなものだけが見えた。

 

「あれがブレイズルミナスソードや。この蒼焔轟柳型の目玉とゆうてええわ。出力も大幅に向上しとる。これこそ現行の第九世代を超える、新たなナイトメアフレームやのぉ。」

 

ライは彼の言葉に頷くと、蒼焔の隣に目を移す。そこには、ランスロット・クラブ・バーディクトを改造したと思われる機体があった。

 

「アドニスに頼まれてなぁ。こっちもエナジーウイングは三対、肩から背中にかけてのアレは二つのスーパーヴァリスⅡやわ。腰に指しとるのは二刀のブレイズルミナスルミナスソードに、スラッシュハーケンも轟柳型と同じもんに変更しとる。こいつも、バーディクトに比べたら出力はかなり上がっとるわ。名前は、ランスロット・クラブ・レイン。」

 

「…これで、今後万が一世界に何かあったとしても対応できますね。タカムラ博士、ありがとうございます。」

 

ライは頭を下げる。タカムラは頷くと、微調整さえ終われば彼の元に蒼焔を届ける事を伝え、ライの前から去っていった。ライはしばらく蒼焔を見つめていたが、やがて踵を返し、格納庫を後にする。

地上に戻った彼を迎えたのはジェレミアだった。手にはティーポットを持ち、テーブルにカップを用意している。

 

「ライ様、せっかく来られたのですから紅茶でも如何ですか?」

 

ジェレミアの申し出に、ライは苦笑する。

 

「ジェレミア、君、みんなをここに呼んだんだろ。ルルーシュが生きてここにいるから会いに来いと伝えて…ついでに僕にも会わせてしまえという魂胆だろうけど…誰かが来る前に、僕は立ち去るとするよ。」

 

自身の考えを見抜かれていた事で、ジェレミアも苦笑する。彼はこのままでは忍びないと、黒の騎士団の主要メンバーやナナリーに、ルルーシュが生きている事を知らせたのだ。ついでにライにも会わせようと考えて時間稼ぎをしようとしたのだが、その目論みは失敗した。

ライはルルーシュ、ロック、ロロ、アーニャの順に挨拶を済ませると、早々にその場を後にした。

しかし山道に入ったライを、呼び止める男がいた。

 

「おい待て!ライ!」

 

追い掛けてきたのはルルーシュだ。彼は少し乱れた息を整えると、ライに向かって口を開いた。

 

「お前には感謝している。お前のおかげで、俺はいつかナナリーに謝る事が出来るし、C.C.の事も…だが、お前はいいのか?カレンの事は…」

 

「ルルーシュ…以前も言ったが、これは僕の選択だよ。僕がいては、これからの彼女の道を妨げてしまう。それに、ギアスを使ったんだ。僕の事はもう覚えていないさ。」

 

悲しげな彼の瞳に、ルルーシュは戸惑う。今の状況では、ライだけが独りだ。おおっぴらには正体を明かせないもののゼロの正体を知るナナリーの護衛となり、同様にそれに気付いている藤堂らと会う機会も多いスザク。ナナリーの騎士として未だに付き従っているサーシャもそれを知っている。そして隠遁するつもりであったものの、ジェレミアがかつての仲間達に生きている事を知らせてしまったルルーシュ。しかしライだけは、本当に世間との関わりを絶って、生きてゆかねばならない事になる。

 

「ライ、しかしお前だけが…」

 

「いいさ。僕はみんながこの平和を安心して謳歌できるよう、影からこの世界を支えるよ。それが、200年もの間、人々を縛り付けてしまった僕の役目だ。」

 

ハッキリと自身の考えを口にするライ。それを受けて、ルルーシュは彼の考えを変えることはできない、ということを悟っていた。

 

「そうか…すまない、ライ。」

 

「何度も言うが、僕の選択だよ、ルルーシュ。じゃあ、また会おう。」

 

別れの言葉を口にしたライは、ルルーシュに背を向けて山を降りていった。

 

 

 

 

 

「少し早く着きすぎたかな…?」

 

麓に止めていたバイクで移動し、空港に訪れたライ。彼は旧E.U.方面の人里離れた場所を目的地に、飛行機を予約していた。だがその機の離陸まではまだ二時間以上があった。

 

「これで本当に、みんなともお別れだな…」

 

一度空を見つめ、感傷に浸るライ。だがすぐに歩を進めて空港内に入ると、とりあえず発券だけはしておこうと空港カウンターに向かう。

だが、出来る限り人の視線から逃れるように下を向いて歩いていた彼の前に、こちらを向いて立ち止まっている足が見えた。

ライが足を止めて顔を上げると、そこには赤髪の少女が立っている。

 

「カレン…?」

 

ライが声を上げると同時に、彼女は右手を大きく振りかぶった。平手というより掌底に近いような一撃を受け、ライは思わずその場に尻餅をつく。

 

「何を…?」

 

倒れた体勢から顔だけを上げると、カレンの目から涙がいくつも流れ落ちるのが見えた。彼女は振り切った右手を胸の前で強く握り、涙を流したまま口を開いた。

 

「あなたは、私に幸せになって欲しいと言ったわね…でも記憶を、あなたを失った上での幸せなんて私にはないわ!」

 

彼女はライを引き起こすと、両腕で彼の襟を掴んだ。

 

「記憶を無くした日々がどれだけ虚しかったか!ずっと違和感を感じ続けた日々がどれだけ苦しかったか!記憶を無くしていたあなたなら理解できるでしょ!?」

 

カレンはライの首元に額を押し付ける。ライはまだ状況が飲み込めていないのか、戸惑いを隠せないままだ。その様子に頓着せず、カレンは自身の思いを彼にぶつけた。

 

「あなたのやろうとしたことも、これからやろうとしてることも、全部分かったわ!でも、もう自分を犠牲にするのはやめて!私の所に戻ってきて!!」

 

「カレン、どうして…ギアスは…?」

 

ライの疑問に、カレンは顔を上げて答えた。

 

「あの日から、ずっと違和感があった…何かとても大切なものを忘れているような…私は、ずっと探し続けたわ。その手掛かりを。そして、一週間前に全てを思い出した。あなたが、私の前に現れた時のこと、あなたを助けに神根島へ行ったこと、行政特区であなたが撃たれたこと、そして、そこから一年も離ればなれになったこと…」

 

カレンの言葉には嗚咽が混じっている。しかし彼女は言葉を止めず、口を動かし続けた。

 

「ようやく、再会できたこと。あなたの過去を聞いた事、ブリタニア軍から助け出してくれた事も…そして、あなたが私の前からいなくなったこと。私を悲しませない為に、自分の事を忘れるようにギアスをかけたことも!

でも!私はあなたさえいてくれればそれで良かったのに!あなたさえ…あなたさえ!!」

 

カレンは左手で何度もライの胸を叩く。しかしライは叩かれている場所よりも、遥かに深い場所に痛みを感じていた。

 

「すまない。本当にすまない、カレン。僕は結局、君を泣かせてばかりだ。でも、僕はこの世界にいるべき人間じゃ…」

 

その時、言いかけたライの前に何人もの人が現れた。藤堂や扇、ナナリーとゼロ、朝比奈や千葉に加え、ルーンとノネットがそこに揃っていた。

彼らを代表するように、扇が一歩前に出る。

 

「…ライ。俺達はシュナイゼルに踊らされ、君やルルーシュを裏切ってしまった。本当にすまない。贖罪って訳じゃないが、君の戸籍はこちらで用意したんだ。君はルルーシュの部下だったけど俺達以外にはそれほど顔も名前と知られてない…だから、戻ってこないか?君に頼みたいことが沢山あるし、カレンの事も、もう一度よく考えてみて欲しい…それに、ルルーシュの事も近いうちにどうにかしてみせる。」

 

「ああ、過去の事は謝罪する。我々にはまだ君の力が必要だ。ライ君、どうか戻ってきて欲しい。」

 

扇に続いて、藤堂も口を開いた。ナナリーも車椅子を進め、彼の前へ出てきた。

 

「ライさん、私はまだ、あなたに何も返せていません。本当の妹のように良くしてくれたのに…あんなお別れだなんて…私は…嫌です。」

 

「そうね。それに、私にまで黙って行こうとするなんて、薄情すぎると思わない?」

 

ナナリーとルーンに続き、朝比奈と千葉も声をかけた。

 

「ライ君。僕らが間違っていたよ。あの時、君達を信じられなかったのは僕らの弱さだ。どうか、許して欲しい。」

 

「ああ、お前達を信じられる理由はいくつもあったのに、思い込みだけで私達は裏切ってしまった。だが、朝比奈も私も、出来れば戻ってきて欲しいと思っている。」

 

二人に続いて、今度はゼロが一歩ライに近付いた。

 

「君は、ルルーシュ達に生きて欲しいから自分が身代わりになると、そう言ったね。でも、僕らの思いも分かってくれ。何故僕が、君を殺さなかったのか分かるかい?君にも、生きて欲しいからだよ。」

 

彼らが口々にライを呼び戻そうとする姿を、ライは一体何が起きているのか理解しきれていない表情で見つめていた。

 

「王よ。あなたは、今の世界でこれだけの人達から求められている。もう、いいんじゃないですか?200年前の贖罪は。今はこんなにも、あなたを求め、愛してくれる人がいるじゃないですか。」

 

最後に進み出たのはノネットだ。彼女の言葉にようやく状況を理解したライは、自分が受け入れて貰えた事に驚き、そしてこれまで自分の中で押さえつけていたものが一気に溢れでた事で涙を流した。彼はその場に膝を着くと右手で顔を覆って泣き続けた。

 

「もういいのよ、ライ。少なくとも私達は、あなたを許しているから…」

 

カレンが、泣き崩れるライを優しく抱擁する。その彼女にしがみつき、ライはしばらく涙を流し続けた。

 

5分程泣き続け、ようやく落ち着いたライはゆっくりと立ち上がった。そして集まってくれた扇達に礼を言った。

 

「ありがとうございます。僕はまた、一人で全てを抱え込もうとしていたようです。みんなのおかげで、目が覚めました。」

 

そう言うと、ライはカレンに向き直り、彼女の肩に両手を置いた。

 

「カレン、僕はもう迷わない。僕の残りの人生を全て君に捧げます。だから、君の残りの人生を僕に下さい。」

 

思わぬ公開プロポーズに、藤堂達だけでなく周囲を歩く人々も足を止めて二人を見ていた。カレンはプロポーズに加えて視線が集まっている様子に顔を真っ赤にするが、ライが自分だけを真っ直ぐ見ている事に気付き、覚悟を決めて返答した。

 

「…は、はい!喜んで!!」

 

扇達は歓声を上げると、二人に向かって突進してきた。彼らに揉みくちゃにされながらも、それでもライは幸せを感じていたのだった。

 



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episode51 ALL STANDARD IS YOU

ライがカレンの元へ戻ってから、一年程が経った。

 

「ロック、そのオレンジはまだ。そっち側の木から取っていって。」

 

彼の背中にしがみついたままのアーニャは、背中から彼に指示を飛ばす。

 

「…アーニャ、いい加減離れてくれ。動きづらい。」

 

「…嫌。私の事をちゃんと一人の人として、一人の女の子として見てくれるまで、離さない。」

 

アーニャのわがままに、ロックは苦笑する。

 

「そうは言うがアーニャ、俺は既婚者だぞ。例え死別であったとしても、心はまだカミラにあるんだ。それに、歳も離れている。ちゃんと自分の未来を考えられる相手を探せ。」

 

「……今は、それでもいい。でも、いつか振り向かせてみせるから。それに、姉さんさんだってロックの未来を心配してると思う。」

 

ロックの言葉に対し、自身の本当の思いを伝えるアーニャ。ロックは自分の頭をガリガリとかくと、中腰になって彼女を降ろした。

 

「とにかく、今は収穫を手伝え、アーニャ。話はまた、夕方にでも聞く。」

 

そう言って、また収穫を始めるロック。その背中に向かって、アーニャは呟いた。

 

「…絶対に、振り向かせてみせるから。」

 

二人の様子を、少し離れた所から、ジェレミアとロロが微笑みながら見ていた。

 

 

 

 

「紅月総司令、本日の訓練はこれで以上です。」

 

黒の騎士団に残ったアキトの言葉を聞き、頷くライ。彼は修復された斑鳩のブリッジにて、自身の仕事を終わらせた上で訓練の様子をモニターで見ていたのだ。

なお、星刻は療養の為に黒の騎士団を去った。ラクシャータの医療サイバネティック技術により、予定よりかなり長く生きられる可能性が出てきた為、今は治療に専念している。

それによって藤堂が一時的にトップに立ったのだが、彼は組織の骨格だけ作ると早々にその座を降り、新たな指令官にライを指名した。当初ライはそれを断ったのだが、藤堂の粘り強い説得もあってその座に着く事を決意した。それにあわせて、藤堂は副司令の位