TS美少女は双子の妹と幼馴染の勇者を溺愛したい ~甘やかすのは姉の特権なのです~ (こびとのまち)
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TS美少女は記憶の欠片を取り戻す

おまわりさーん、処女投稿なのに見切り発進する愚か者がここにいます!!



「シーア。村を名残惜しく思う気持ちは理解するが、さすがにそろそろ出発するぞ」

「お姉ちゃん。いつにも増して眠そうだけど、気分悪い? 大丈夫?」

 

 若干の幼さは残しつつもすっかりイケメンに育った幼馴染。目に入れても痛くないほど可愛く育った双子の妹。そんな2人の声によって、ボクの意識は現実へと引き戻された。

 

「ハッ……可愛い天使たちがボクを呼んでいるのです」

 

 いつも通りのボクの反応に、ほっとしたような表情を浮かべるリアを、思わずギュッと抱きしめる。少しくすぐったそうに声を漏らしつつも、ゆっくりと抱きしめ返すリアの温もりが、とても心地よい。

 

 同時に、これまで何度も感じたことのある優しい眼差しを、リアの向こう側から感じ取る。突然抱きしめ合う姉妹の姿に苦笑いを浮かながらも見守るロルフの姿が想像できた。

 

「ロルフも抱きしめてほしいのですか? そうなのですよね?」

「あー、いや、大丈夫だ本当に」

 

 姉として平等に抱きしめてあげようと思ったが、ロルフが首を横に振る気配を感じ、渋々と引き下がる。

 姉妹と同じ日に生まれた幼馴染を、ボクは弟のように可愛がってきた。幼いころのように甘えてくれたら嬉しいのに。けれど、ロルフはどうしてか弟扱いを不満げに感じている節がある。

 デレ期はまだかな? 待ち遠しい。

 

 リアから腕を離し、深く深呼吸をする。

 2人を愛おしく思う気持ちは、前世の記憶を思い出したところで、これっぽっちも揺らいでいない。そのことを自覚して、ボクはようやく安心した。

 

 

 

 

 それはちょうど2週間前の出来事だった。ボクたち3人が14歳の誕生日を迎えたその日、それぞれの夢の中に女神様は現れた。

 夢の中で女神様からお告げをいただいたならば、神の子である我々人はそれに従わねばならない。それがこの世界の信仰であり、ことわりである。

 

 彼女は言った。ロルフよ、あなたは勇者に選ばれたのだと。そして、まもなく目覚めようとしているナニカを、大きな悪意をうち滅ぼしなさいと。

 彼女は言った。美しき姉妹たちよ、勇者を支えるため共に旅へ出なさいと。

 

 さすが女神様、ロルフの秘めたる可能性と、リアの魅力を見抜くとは。なかなかに良い目をしている。そう感じたボクは、同調してロルフとリアについて語らおうと口を開いたが、女神様に静まりなさいと宥められてしまった。解せない。

 

閑話休題

 

 目を覚ましてからは目まぐるしく展開が進み、気がつけば旅立ちの前夜まで時間が経っていた。ロルフが村の皆に事情を説明し、ボクたち姉妹はバタバタと旅立ちの準備を進めていたらしいのだが、正直慌ただしすぎて記憶が曖昧だ。

 

 そのような今までにない状況に身を置かれたからなのか、もしくはこのタイミングは運命的に決まっていたものなのか、その日の夜にボクは僕であったことを思い出す。

 

 かつて、ボクは僕であり、唯月祐という何の面白みもないひとりの男だった。それでも、そんな男なりにぼちぼちと人生を楽しんでいた……ように思う。確信した言い方ができないのは、思い出した記憶がほんの一部だったから。まさに記憶の欠片をひとつふたつだけ取り戻した、そんな感覚だ。

 けれど、その欠片から温もりを感じるのは、きっとそれほど悪い人生ではなかったからだろう。もしかすると、僕の人生の希望となるような大切な相手が側にいたのかもしれない。そんな思いが頭をよぎる。

 

 だけど、そんな人生は17歳のあの日、早々に幕を下ろすことになる。いったい何が原因だったのか、肝心なことがちっとも思い出せない。何か忘れちゃいけないことまで忘れたままにしている気がして、とても胸が苦しい。意識が……遠のいていく…………

 

 

 

 

 目を覚ましたボクの全身は、汗でびっしょりと濡れていた。

 こんな姿を見せてリアに心配かけてしまわないよう、サッと水を浴びて旅立ちの準備を進める。けれど、不安な感情がボクの中を渦巻く。今のボクは本当にボクのままなのか。もしかしたら、記憶を取り戻したことでシーアではない何かになってしまったのではないか。だけど、ボクはもう唯月祐ではない。それは何となく理解できる。だとしたら、今の自分は何者なのか。

 

 

 

「祐ってば、普段のほほんとしている癖に、ときどき必要以上に考えすぎるのよね。この私が一緒にいるんだから、背筋伸ばして前を向きなさいってば」

 

 唐突に、そんな声が頭の中に蘇る。この声は、誰だっけ……

 どこか懐かしいその声がボクの不安を緩和させたその瞬間、今度は現実からシーアの大切な存在たちの声が聞こえた。

 

「シーア。村を名残惜しく思う気持ちは理解するが、さすがにそろそろ出発するぞ」

「お姉ちゃん、いつにも増して眠そうだけど、気分悪い? 大丈夫?」

 

 ……ああそうだ、ボクは可愛い可愛い天使2人のお姉ちゃんだった。

 不安は静かに胸の奥へと沈み始め、ボクはボクであるために、顔を上げる。

 

「ハッ……可愛い天使たちがボクを呼んでいるのです」




シーアたちは、冒険のスタートラインに立ちました。

これから少しずつ、ゆったりと更新していければと思います。
どうか温かい目で、気長にシーアたちの冒険を見守っていただけますと幸いです。
もしも大きく軌道修正したら、そのときはごめんなさい。

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イケメン勇者は今日も決意を改める

1話から嬉しい反応をいただき、感激の極みです。

さて、冒険の物語を進める前に、まずはロルフくんのお話をしておかねばなりません。



 14歳の誕生日に勇者として選ばれる少年ロルフには、海より深い悩みがあった。その悩みが頭の中をぐるぐると渦巻き、思わず大きなため息が漏れる。

 

「ため息ついたら幸せが逃げちゃうのですよ? 何か悩みがあるのなら、この姉を頼るといいのです」

「いや、気持ちだけ受け取っておくよ、シーア……」

 

 ロルフと同じ日に生まれ、家族同然に育ってきた幼馴染が、心配そうに顔を覗く。

 双子の妹にそっくりなシーアは、同い年には見えないほど幼い体型であるものの、それ以上に誰もを魅了するほどの可愛らしさがあった。白く輝くシルクのような銀髪、どこか眠たげで穏やかな印象を与える目元、きめ細かく透き通った肌。人形のようでありながら、それでいて愛くるしく動く彼女は、シンイット村の皆に愛されていた。

 

 しかしながら、ロルフの悩みの原因は、まさにこの美少女シーアこの人なのである。

 ことあるごとに弟として扱おうとするシーアに対し、今度は心の中でため息をつくしかなかった。

 

 

 

 

 ロルフには前世の記憶がある。初めて自分の前世に気がついたのは7歳の頃。唐突に、彼は彼女として過ごした17年のほとんどを思い出した。

 

 生まれ変わってロルフとなる前、彼……いや、彼女は夏見麻耶というひとりの女子高生として、何気ない日常を過ごしていた。

 そんな彼女は年相応に、しかしながら実る気配のない恋をしていた。実る気配がない恋とは、つまるところ片思いの恋である。

 

「おはよう。ここ最近、毎日浮かない顔をしているね」

 

 学校へ通う道中で麻耶の隣を歩く彼は、ともすれば少女のようにも見える中性的な顔立ちをしていた。彼は10年以上の付き合いとなる幼馴染だが、麻耶は初めて出会ったとき、あまりの可愛らしさから同性と勘違いしてしまった経験がある。麻耶はあの時の自分を、そしてそのあと妹か弟のように認識して接してしまった自分を、恨めしく思わずにはいられない。

 

「麻耶姉には明るい笑顔でいてほしいな。何か悩みがあるなら、この僕を頼るといいよ」

 

 長女として育った麻耶は、とにかく面倒見が良かった。その性格も災いし、いつからか幼馴染は麻耶を姉と呼ぶようになっていた。麻耶自身がそのような関係性で接し続けていたのだから、当然と言えば当然である。後悔先に立たず。麻耶が幼馴染に対しての恋心を自覚したときには、すっかり姉としての立場が定着してしまっていた。

 今日こそは姉としての立場を脱し、この幼馴染に異性として意識させてみせる。そう決意した麻耶の人生は、しかしその決意が実行に移される暇なく幕を下ろすことになる。それも、好きで好きで堪らない幼馴染を巻き込むという最悪の形によって。

 

 麻耶の短い人生は、幼馴染の存在によって概ね幸せであったが、同時にあまりにも多くの後悔を残すものであった。

 死してなお、麻耶の後悔の念は止まらない。そんな麻耶を見兼ねたのか、神は彼女に転生を持ちかける。

 

 ――こんな私を救おうとし、結果として巻き込まれる形で命を落とした幼馴染。彼とともに生まれ変わり、今度こそ幸せにしてあげられるのなら。

 

 麻耶は、神の持ちかけた提案を受け入れた。

 

 

 

 

 前世の記憶を、そして麻耶としての後悔を思い出したロルフは、今世の幼馴染が前世でも幼馴染だったことを瞬時に理解する。姿が変わり、喋り方が変わり、性別まで変わってしまった幼馴染だが、ロルフは間違いないと確信していた。あれほど想った相手なのだ。一度や二度生まれ変わった程度で、分からなくなることなどあり得ない。

 

「ふふ、ロルフは本当に可愛い子なのです」

 

 幼いロルフを愛おしそうに見つめるシーアは、どうやら前世の記憶を覚えていないらしい。そう気づいたロルフは、今世でこそ彼女を幸せにしてみせると、心の中で決意した。

 同時に、今度は異性として、恋愛対象として自分を見てほしいとも強く思った。前世の後悔は繰り返すまいと誓ったロルフは、7歳のその日まで「姉さん」と呼んで慕っていたシーアに対し、接し方を変える。もっとも、突然甘えてこなくなったロルフに不満を抱いたシーアは、それからロルフに姉扱いされようと躍起になるのだが……

 

 

 

 

「絶対幸せにしてみせるから」

「姉の頭を撫でちゃダメなのですよぉ……ふわぁぁぁあ」

 

 前世の癖で無意識的に頭を撫でながら、ロルフは今日も静かに決意を改める。




一方のシーア「何としても姉さんと呼ばせてみせるのです!」


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TS美少女は天使の寝息に癒される

この回、がっつりと目新しい情報を詰め込んでいますが、そういう仕様です。
現時点では、唐突な情報は「ふーん」くらいの感覚で読んでいただいて、たぶん大丈夫です。



 生まれ育ったシンイット村から旅立って早三日。

 初日にはあれほど手こずった野営の準備も卒なく終わらせ、ボクたち双子は暫しの休憩を取っていた。

 

 ロルフが食料を調達するべく周辺を散策してくれている間、妹のリアは旅の緊張を少し緩めてボクに甘えてくる。

 こういう場面こそ、姉としての包容力の見せどころである。

 

「今日もお疲れ様なのです。リアの風読みのおかげで、ここまで順調に進めているのですよ」

 

 リアには、風の流れを読む才能がある。周辺の魔物や人の存在を、ある程度把握することができるのだ。リア曰く、風の流れが周辺の状況に関する情報を伝えてくれるのだとか。

 数十メートル程度の範囲しか分からないし、風下はカバーできないから。とリアは謙遜するけれど、おかげで余計なトラブルを避けることができている。本当に頼もしい。

 

「お姉ちゃんこそ、いつもありがとうね。お姉ちゃんがいるから、わたしもロルフも頑張れているんだよ?」

 

 いつの間にか立場は逆転し、甘えさせていたはずのボクがリアの膝の上に乗せられていた。こんなはずでは……と思うものの、何気に疲れが溜まっていたらしいボクの身体からは、みるみると力が抜けていく。ああダメだ、やっぱりリアの温もりには抗えない。ボクの自慢の妹は、なかなかに手強い。

 

 そもそも、風読みの他にも攻撃系の魔法に長けているリアや、勇者に選ばれるほど才に恵まれたロルフとは違って、凡人のボクなんかは全然役に立ってないのだけど。リアが口にした感謝の言葉に対し、少しネガティブな感情が過る。せめて姉として、二人の支えにならないとね。

 お姉ちゃん、頑張ります。

 

 

 

 

 大前提として、ボクたちの旅は、明確な目標がないままに始まっている。

 考えてもみてほしい。あの日、女神様から告げられた内容は、まもなく目覚めようとしているナニカをうち滅ぼさなければならないという、その一点のみなのだ。

 ナニカ、なんて漠然なものを相手に立ち向かわねばならない状況を作った女神様には、少し反省していただきたい。

 

 ボクたちには圧倒的に情報が足りない。ならば、まずは王都に訪れて情報を仕入れるべきだろう。当然のように導き出された結論が、それだった。

 

 

 

 この世界は、ユースフィラ帝国という大国が事実上の覇権を握っている。強大な軍事力を誇り、帝王ロイストフ12世が統治するこの国は、実に世界の三分の一にあたる国家を属国としていた。

 

 その中でも最古参の属国と言われているのが、アマネクス王国だ。十数年前まではすっかり力を弱めてしまっていたこの国だが、国王のシルヴィオ = カネパが弱冠15歳で王位について以降は、徐々にかつての栄光を取り戻しつつあるという。

 

もっとも、これらの知識はどれも村長の息子、ニコラおじさんから教わった話にすぎないのだが。おじさん自身が村から出ている姿を見た記憶がないので、ぶっちゃけ半信半疑なところはある。

 

 そして、ボクたちの生まれ育ったシンイット村は、アマネクス王国の中でも最も西の辺境に位置している。

 というわけで、まずは距離的にも向かいやすいアマネクスの王都ヴァルンダを目指そうと決まるのも必然だった。

 

 けっして、幼い頃にニコラおじさんから教わった王都名物の海鮮グルメを食べてみたいなどと、ボクが駄々をこねたからではない。

 いやまあ、駄々自体は少しだけ、すこーしだけこねちゃったんだけど……それが理由じゃないからね?ホントだよ?!

 

閑話休題

 

 王都に向かえば何かしら有益な情報が得られる、ボクたちがそう考えた根拠は一応、ある。

 アマネクス王国を含め、ユースフィラ帝国とその属国は女神ソフィアを信仰し、そのお告げを絶対としている。そして、その女神のお告げを直接代弁できるとされているのが、三聖女と呼ばれる乙女たちである。その三聖女のひとりが、王都ヴァルンダの教会にいらっしゃるのだとか。

 女神様のお告げによって旅へ出ることになったのだから、その女神様に関係がある聖女様に話を聞くのが手っ取り早いよね。というわけだ。

 

 そんなわけで、ボクたちは今、王都ヴァルンダに向かって旅を続けている。

 

 

 

 

 どうやらボクは、リアの膝の上で少し眠ってしまっていたらしい。目が覚めると、いつの間にか散策から戻ってきていたロルフが目に入る。

 

「さすがに2人とも歩き疲れたんだろう。リアの為にも、そのままもう少しゆっくりしているといい」

 

 ロルフは、まるで小動物を愛でているような穏やかな表情で、ボクたち双子を眺めて言う。

 

「……たしかに、それが良さそうなのです」

 

 ボクを膝の上に乗せたまま、リアは静かに寝息を立てていた、今、動くべきではないだろう。

 すっかりロルフと同じような穏やかな表情になったボクは、天使のように可愛い妹を見つめながら微笑んだ。




本来は、この後に起こるちょっとした出来事も3話で書き切る予定でしたが……
せっかくリアが気持ちよさそうに眠っているので、続きは次話に回しますね。

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並行して『転生したら悪役令嬢……の取り巻きだったけど、自由気ままに生きてます』という作品も連載始めましたので、宜しければ併せてぜひ。


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TS美少女は天使たちに驚愕する

今回は少し短め、前話で書き切れなかった分です。



 風読みによって周囲を把握できるリアが眠っているこの状況、本来であれば、ボクとロルフは警戒心を強めておくべきだった。

 しかし、初日二日目と特に何もトラブルなく過ごしていたボクたちには、正直に言って油断があった。野営をする旅人として、不覚極まりない。

 

「ロルフ。この状況は、少しマズいのですよ……」

 

 ボクたちが過ちに気がついたときには、野獣の群れはほんの目と鼻の先にまで迫っていた。

 奴らの跳躍力であれば、一飛びでボクらの喉元に到達することができるのではないか、そう予感できてしまうほどの間合いだ。

 

「シーア、何も心配はいらないぞ」

 

 奴らが飛び掛かってくる直前に状況を把握して振り向いたロルフのおかげで、野獣の群と威嚇し合う膠着状態になっていたが、彼の頬には汗がツウっと流れている。

 心配しなくていいという発言も、きっとボクを落ち着かせるための強がりなんだろう。

 

「……ん。おはようお姉ちゃん」

「おはようなのです、リア。とりあえず、落ち着いてゆっくりと周りを見渡すのですよ」

 

 張り詰めた空気に刺激されたのか、ボクを膝に乗せたまま眠っていたリアが目を覚ます。

 驚かせてしまわないよう、ボクはできるだけ平常心を意識して返事した。

 リアは一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに表情を引き締めて前に歩み出ると、そのまま臨戦態勢へ移る。

 

「わかっているよ、お姉ちゃん。前からも群れが来ているね」

「……えっ?」

 

 愛しい妹の口から、衝撃の発言が飛び出す。

 その直後、ロルフが対峙している後方とは反対側から、ジリジリと野獣の群れが近づいてきた。

 

 前と後ろの両方から野獣の群れに襲われている。それは、これまで敵と対峙してこなかったボクたちにとって、非常に危険な状況だ。

 いくら勇者に選ばれたロルフとはいえ、現状では訓練も実践も、まだまだ不足しているはずである。まして、数日前までただの村娘だったはずのリアは、怖くて仕方ないだろう。

 そう思ってリアを庇うべく前に進み出ようとしたが、彼女の左腕かそれを遮る。

 

「大丈夫。お姉ちゃんは私が守るから」

 

 リアが取った予想外の反応にボクが驚いたその時、前後の野獣が一斉に飛び掛かってきた。

 これはヤバいかもしれない。そう思った直後、リアの詠唱により目の前に閃光が走る。

 あまりの眩しさに一瞬目を閉じてしまい、やってしまった、と後悔した。野獣が襲い掛かってきたタイミングで目を閉じるなど、自殺行為にも等しい。

 だが、ボクの首元に野獣たちの牙が食い込むことはなかった。

 

 恐る恐る、ボクは目を開く。

 そこに広がっていたのは、思わず目を疑うような光景だった。

 

「リアッ! ロルフッ! そんな、まさか。そんなことって……」

 

 その衝撃に、ボクは続けて声を漏らす。

 生まれてからずっと一緒に育ってきて、ボクは二人のことをよく理解しているはずなのだ。だからこそ、目の前の光景が信じられない。

 こんな……こんなことってあるのだろうか。

 

「瞬……殺、なのです!?」

 

 目の前の木々が吹き飛び、周辺の地面は抉れていた。その周辺で山のように倒れているのは、ボクたちの数倍は大きな身体を持つ、野獣の大群だ。

 そして、それぞれの群れと対峙していたはずの二人は、傷ひとつ負わず、むしろ涼しげな表情を浮かべている。

 

 誰も傷つかなかった。まずはその事実にホッとして息を吐く半面、ボクの内心はざわつきが止まらなくなっていた。

 

 いつの間にこんなに強くなったのだろうか。

 あんなに可愛かった妹と幼馴染が……ボクの天使たちが……

 守るのはお姉ちゃんの役目なのに。まるで遠くに行ってしまったようだ。

 

「これじゃあ、ボクっていらない子なのでは……」

 

 残念すぎるその現実に気がついたボクは、呆然としたまま声を漏らす。

 姉であることが自分の存在意義なのに。それなのにボクは……

 あまりにも無力な自分に対し、思わず絶望してしまう。

 

 そんなボクから少し離れたところで、リアとロルフは満足げな表情を浮かべ、笑顔で互いの手を握り合っていた。




「シーアは俺が守るっ!!」(ズバーーン)
「お姉ちゃんは私が守るっ!!」(ドッカーン)
「ボクっていらない子なのでは????」

二人の強さの原因については、ある程度はお察しいただいているかもしれません。その辺りも追々に語っていければと。


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