ぼくのかんがえたぼいすろいど (ゆっくり翼)
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居候は煽りゲーマー

(純粋な)VOICEROID小説は初投稿です。


手に持っていたコントローラーを強く、握りしめる。物に当たるのは良くないことは分かっている。でも、そうするぐらいでしか、僕はこの、どうしようもない感情を発散することはできなかった。

そんな感情から目を逸らし、目の前のテレビへと視線を移す。その画面には、人が二人映っていた。

一人は兎耳の黒いパーカーを着たスレンダーな女性で、彼女は両手に持つ二丁拳銃を器用に回し、腰のホルスターにしまう。俗にいう『決めポーズ』だ。そのポーズは画面のほとんどを占めるかのようにでかでかと映っていた。

そしてもう一人である、彼女と同じパーカーを着た細身な男性、彼は画面の隅の方で棒立ちで拍手をしていた。

つまり、僕が操作していたキャラが負けた姿だ。その姿を再認識し、両手に力が籠る。

いつもだったらここまで悔しいとは思わない。彼女に負けることなんていつものことだから。

でも今回はあともう一歩のところまできていた。あのミスさえなければ今頃は彼が決めポーズを……!

いや、止めよう。たらればなんて考えてはだめだ。僕はいつものように負けたんだ。

 

でもやっとここまできた。ボコボコにされていたあの頃と違って、あともう少しというところまで実力差は埋まってきている。

そのもう少しが遠いけど……絶対にその差を埋めて一勝をもぎ取ってやる。

そして……

 

「はい、私の勝ち。なんで負けたかは考えなくてもいいですよ。どうせ無駄ですしねぇ」

 

あのくっそむかつくことをほざく口を縫い合わせてやる……!

 

「はー! 無駄じゃないしー! 次こそけちょんけちょんにしてやるしー!」

 

「それ、今日で何回目でしたっけ?」

 

「けちょんけちょんはまだ一回ですぅー!」

 

「そうでしたっけ? 今日だけで似たようなセリフ何回も聞いていたから覚えてませんでした」

 

「ぐううううっ……!」

 

この口を開くたびに僕を煽り散らかす、うさ耳フードを被ったパーカー姿の紫髪のスレンダー系少女。

彼女の名前は結月ゆかり。5年前から僕の家で一緒に暮らしている居候だ。

 

「ふと思ったんですけど負け台詞のレパートリー少なくないですか? 『次こそ〇〇にしてやるー』とか『次こそ勝ってやるー』ぐらいしか聞いたことないんですが? 正直言って飽きちゃいました」

 

くっそ余裕かましやがって! こんなに貶されたんだ。当然許せねぇよなぁ!

 

「次だ次!」

 

コントローラーを持つ手を緩め、キャラクターを選ぼうと画面に目を戻す。

 

「ん?」

 

その時見えたテレビの台に置いてある置き時計―――ゲームをやっている時でもいつでも時間が見れるようにといった目的で置かれている―――その時計の表示に違和感を感じた。

目を凝らして見てみると、短針が12を指していることに気づいた。

ということは今12時過ぎているのか。道理で今日はいつもより長く遊んでいるように感じたわけだ。いや、もう次の日だから今日じゃなくて昨日か。こりゃ一本取られたわ。はっはっはっ……。

 

「はいぃっ⁉︎」

 

「っ⁉︎(ビクゥッ)」

 

アァアアアア日付がァ‼︎ 日付が変わっているっ⁉︎

 

「ど、どうしたの?」

 

「時計見ろ時計!」

 

僕の言葉に、フードを下したゆかりも時計を見る。

 

「あ、うん、12時だね……」

 

「そうそう。だからもう寝ないと」

 

事態を把握したゆかりに同意を促しつつ、電源を消すため、ゲーム機に左手を伸ばす。が、電源ボタンに触れる直前で腕を何者かに掴まれる。いや、何者かも何もここには一人しかいないけど。

 

「何をするゆかり」

 

僕の左手を右手で掴んだゆかりは、もう片方の手でフードを被りなおす。

彼女はゲームをするときはいつもフードを被る。これが表すことはつまり、彼女はまだやる気ということだ。規則正しい生活を心掛けている彼女にしては珍しい。

まあいつもは僕の方が迷惑をかけているようなものだ。もう一戦ぐらいならやぶさかでもない。

 

「12時ってことはあと7時間は遊べますね」

 

「徹夜!?」

 

もう寝るって言ってるでしょ!

 

「いやいやゆかり、明日に響くから一戦ぐらいに抑えようか」

 

「何言ってるんですか。泣きのもう一戦で朝になるまで負け続けたことのある君なら余裕ですよね?」

 

「む……」

 

痛いところをつくなあゆかりは。あとさらっと煽ったよね今。

でもゲーム中ならともかく今の頭が冷えた僕ならその挑発にのらないよ。のらないけど明日覚悟しておくんだな……!

てか今挑みたい。挑んで負かしたい。くっ……我慢しろ僕。さすがに今日徹夜はまずいぞ……!

 

「まあ余裕だけど。なんならこのまま続けたら僕が勝っちゃうけど。でもさすがに入学式に寝不足で参加するのはダメだろ」

 

そう、明日は僕らが通う模亥呂高校の入学式。ピカピカの1年生である僕たちは当然出席が義務である。

そして入学式というものは長時間同じ体勢、校長のくそつまんないくせにくそ長い話など眠くなる要素にあふれている。そんな中徹夜で参加してみろ。すやすやタイム突入だよ。それで先生に目をつけられちゃうかもよ。

いや、それだけで済むならまだマシ。最悪寝落ちして遅刻……いや、欠席する可能性だってある。そうなったら入学式を無断欠席した生徒として悪い意味で注目の的だ。あとそんなことが親にばれてみろ。仕送りが止められてひもじい生活を送る羽目になる。ああ恐ろしい。

そんな未来を防ぐため、もう寝る必要があるのだ!

え? 何? それだったらそもそもゲームをしないで早く寝ろ? はははご冗談を。

 

と、まあそんなことをゆかりに力説してみる。まあさすがに納得するじゃろ。

 

「勝てないからって逃げる言い訳ですか?」

 

はははこいつ全然分かってないや。あと次は勝つって言ってるでしょ(おこ)

てかおかしい。いつものゆかりなら今日みたいに夜遅くまでやろうとはしない。むしろごねる僕を止める側だ。

そもそも僕が気づくまで時間に気づかなかったってところがまずおかしい。いつもなら一戦ごとに確認し、時間になったら教えてくれる。それが何で今日に限って…………。

 

「あ」

 

もしかして、今日に限って(・・・・・・)じゃなくて、今日だから(・・・・・)、なのか? ゆかりがゲームに拘る理由は。

 

「何ですか今の「あ」は? まだ何かあるんですか?」

 

「ねぇゆかり」

 

「また言い訳ですか?」

 

「学校、不安なのか?」

 

「はいぃっ!?」

 

あ、コントローラー落とした。図星かな?

 

「ななななな何を言っているんですか!」

 

「うおっ!」

 

急に顔を近づけるなよびっくりするだろ! てか1歩でも近づいてたらキッスでしたわよキッス! 妊娠してしまうですわよ!

 

「ままままさかそんな君と別クラスになるかもしれないとか先生が怖い人かもしれないとかクラスメイトにまたいじめられるんじゃないかとかそんな不安からゲームに逃げている訳ないじゃないですか! 勘違いしないでください!」

 

なんて分かりやすい態度。最後のセリフといいわざとやってるのか?

 

「うっ……あ、いや、だから、その……決して君が思ってることでは……あーいやそうじゃなくてですね……」

 

僕の呆れた目にたじろいたのか、ここまで一息でまくし立てたゆかりの言葉が急に尻すぼみになる。

僕の顔をじっと見て、瞬時に顔が赤くなる。

 

「わわわっ」

 

同居人とはいえ異性の顔に近かったことが恥ずかしかったのか、あたふたと後ずさるゆかり。そのときに生じた風から、女の子特有のいい匂いがゲフンゲフン!

僕が頭を振ってちょっとした煩悩をかき消している間に、ゆかりは胸に手を当てて深く深呼吸をしていた。きっと動悸と呼吸を整えるためだろう。

やがて落ち着いたのか、顔を上げて僕の目を見る。

しばらく見た後、観念したかのようにフードを下した。

 

「ごめん。嘘、ついちゃった」

 

その表情は不安でいっぱいなのか今にも泣きだしそうな顔をしていた。

信じられるか? これがさっきまで生意気イキりドヤ顔をしていたんだぜ。

まあこれがフードを下ろした、つまり普段のゆかりの性格なんだけどさ。

 

「明日のこと考えると不安になっちゃって……それで君とゲームすることで不安を紛らわせてたの」

 

結局全然集中できなかったけどねとゆかりは付け加える。

あっ、おい待てぃ(江戸っ子)。その割には操作に淀みが無かったんだが?

 

「でも君の言う通り。早く寝ないとね」

 

そこまで言うとゆかりは僕から顔を逸らし、ゲームの電源を消す。

……はぁ、まったく。

 

「え?」

 

立ち上がろうとしたゆかりが困惑の声をあげる。

そりゃそうだろう。さっきまで寝ようと言っていた人間がゲームの電源を点けたのだから。

 

「もう寝るんじゃなかったの?」

 

「お前と話してたら目が冴えちゃってな」

 

「……ごめんなさい」

 

「悪いと思ってるならお前も付き合え」

 

「わわっ」

 

ゆかりの手を引っ張り、無理やり座らせる。

 

「……別に、気をつかわなくても大丈夫だよ」

 

僕が気をつかったと思ったのか、申し訳なさそうに言うゆかり。

 

「勘違いするな。僕がやりたいからやるだけだ。お前はその我儘に巻き込まれただけ」

 

つまり

 

「いつものことだ」

 

まあいつもは優しいゆかりがしかたなく付き合ってくれるんだけど……大差ないよね。ヨシ!

 

「……」

 

ゆかりは困ったような顔でこちらを一瞥し、テレビの画面に顔を向ける。

そして

 

「いつものことですね」

 

フードを被り、コントローラーを握る。

 

「で、どのくらいやりますか?」

 

「僕が勝つまでだ。まあ一戦で終わるけど」

 

「なるほど朝までコースですか」

 

「はんっ、そう言っていられるのも今の内さ。つぎこそ絶対勝つからな。けちょんけちょんにしてやるからな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後滅茶苦茶ゲームした




結月ゆかり
オリ主の家に居候している少女
フードを被っている時と被っていない時で性格に違いが出るという島が浮いている世界の、干支に因んだキャラの子担当の女の子みたいな特徴をもつ。
フードを被っている時はサブタイにもある通り煽りゲーマー。腕も天才的なので「やってやろうじゃねえかよこのやろう」とか絶対言わない。でもオリ主としか対戦したことがない。なんでだろうね?
フードを被ってないときは内気な性格。自分にいまいち自信を持ててなく、押しに弱いタイプ。やっぱこいつビカラでは?

オリ主
超絶美少女ゆかりさんを居候として済ませてなおかつ一緒にゲームをする仲とかいう、すごい羨ましい立場にいる少年。こいつ殺すべきでは?
名前は考えてない。必要になったら考えておく。いややっぱ必要ないわ。
実はこいつのゲームの腕は悪くはない。むしろ良い。でも天才的な腕前を持つゆかりでは相手が悪かった。
てかこいつ主人公ってことは他のボイロ達とも友好的な関係を結んでいる可能性が高いのか……やっぱこいつ殺すべきでは?




因みに今回出たゲームはスマ◯ラっぽいやつだけどキャラは全くの別物なのでそのつもりで。


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