選ばれし真の王と仲間達で世界最高 (ゴアゴマ)
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CHAPTER1 召喚
王達は


どうも、ゴアゴマです。

思いつきかつ完全自己満足の小説を書いてしまいました。後悔はしていません。

タグにもある通り、ありふれた職業で世界最強と、
FF15のクロスオーバーです。

原作崩壊や多少の性格変更が含まれておりますが、
苦手な方はブラウザバックを推奨致します。

大丈夫な方は、このままお進み下さい。

因みに更新スピードについては、
FE風花雪月の小説を最優先で書いておりますので、
速度は遅めを予想しておりますが、
ネタが思いつき次第投稿して参りますので、よろしくお願いします。


「俺達が出来る事は、ここまでになるな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘗て、王の頭脳となり、彼が歩むべく道を照らし合わせた軍師が言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後は全て、お前に任せた。…頼むぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

嘗て、衝突しつつも、王の盾として彼を守り、

彼の道を阻む物を薙ぎ払った者が言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っ、頑張って…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘗て、身分が違えど彼の側に寄り添い、

彼の迷いを共に分かちあった者が言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼らの見つめる先にある王は、ゆっくりと階段を登る

足を、やがて止めて、振り返り彼らを見た。

 

その眼には、いつかの不安は消え去り、覚悟が灯っていた。

 

 

「プロンプト」

 

王は、自分に寄り添った仲間を見る。

 

「グラディオ」

 

王は、自分を守り抜いた仲間を見る。

 

「イグニス」

 

王は、自分を支えた仲間を見る。

 

 

 

 

 

 

全てを見終えると、王は、最期の言葉を放つ。

それは、王としての最後の言葉、そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

「常に、胸を張って生きろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

親友としての、最後の言葉であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくして、世界に覆われた闇は、選ばれし王、

ノクティス・ルシス・チェラムによって祓われ、

世界に光が戻った。

 

 

 

 

 

 

世界は平和を取り戻したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の犠牲により。

 

 

 

 

 

 

 

 

ノクティスは、定められし運命の通り、

自分の命と引き換えに闇を祓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして世界は平和を取り戻したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、それを真の平和と呼べる者が居るのであれば、

その者は悪魔に魂を売ったのであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の犠牲により、世界は救われた。

そう、世界は。

 

 

 

 

 

 

 

 

では人々は? 確かに多くの者はこの光の再来を

喜び合うだろう。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、ノクティスを知る者たちは?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の犠牲により成り立った平和に、真の喜びを味わうことなど出来るはずがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノクティスの戦友達は、彼の犠牲に涙を流す事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

思い浮かぶのは、彼との日々の思い出ばかりで、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

考える事は、今になっての後悔。

 

 

 

 

 

 

 

あの時、自分が何かを考えていれば、この結末は変えられたのではないか。

 

あの時、自分は知らず知らずのうちに、彼に使命を果たして死ねと言い、そんな事を言える暇があるのなら

自分が代わりになれたのではないか。

 

あの時、彼の苦しみを全て吐き出させて、一緒に逃げさせる事も、出来たのではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

無理だと、無謀だと、傲慢だと言われてしまうかもしれない。だけども、彼らにとってそれ程にまで、

ノクティスと言う男はかけがえのない親友であった。

 

 

 

 

 

 

しかし、今更失った者は取り戻す事は出来ない。

 

 

 

 

 

 

だから、彼らはこう願うしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次があるのであれば、もう一度彼と親友に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「なんか朝から意味わかんねぇ夢を見たんだが」

 

「えぇー、なにそのテンプレ的な犠牲ファンタジー?自分が王様ってさー、ククッ。ちょっとキモイよー? ノクト」

 

「うっせぇ! 良いだろ夢くらい!? 文句は俺じゃなくて、夢に言ってくれよプロンプト!」

 

眩しい朝っぱらの教室から、今日もノクティスとプロンプトのコント染みた声が聞こえてくる。そんな2人に周りは あぁ、またあの二人がじゃれ合ってる。位の視線しか送らない。それ程までにこんなやり取りを二人がしている証拠でもある。

 

この高校に通う普通の高校生、ノクティスとプロンプトは、此処で出会って意気投合した親友であり、こうしてただのお話をしているだけで周りを少し和ませてくれる、ある意味良心的存在である。

 

「てかそんなことよりさプロンプト、また2年のとこ行かね? まだ授業まで少し時間あるしな? 暇だし…」

 

「うん、良いけどさ、ちょっと待ってよ。もしかして俺と二人で会話してんのが暇とか言わないよね?」

 

「あながち間違いじゃない」

 

「辛辣ぅ!」

 

このやり取りに吹き出してしまう人達が何名かいる中、二人はそそくさと教室を出てしまった。

 

2年の教室を目指して歩いている際にも、二人のお話は止まらない様子で、ちょっと耳を傾けた人達の腹筋を崩壊させるには丁度いい材料だった。

 

やがて、お目当ての教室へ辿り着くなり、プロンプトの顔が少し険しくなる。

 

「うわぁ〜、また絡んでるよアイツら。飽きないのかな?」

 

その反応にノクティスもまたチラッと覗き見し、顔の表情が同じになる。

 

「飽きねぇからやってんだろ? てか止めに行くぞ。俺達の邪魔する奴は消してやるってな」

 

「うわ怖ー。どこで覚えたのそんな言葉?」

 

教室へ侵入した二人は、ドカドカと歩いていき、目標の人物が居る所へ直進して行く。そしてそのまま、邪魔なヤツらに向かって肩を叩く。

 

「お前ら良く飽きもせずに同じ事繰り返すよなぁ。1回〆られたの忘れたっけ?」

 

「ぁぁ? 何が…てヒィぃぃぃぃ!? ノクティス先輩!?!?」

 

その叫び声で、一気にクラスの視線がノクティス達に集まる。一部が恐怖に顔を染め、一部が舌打ち、そして殆どが歓喜の声を上げた。

 

「いやぁー、相変わらず人気者だねノクト!俺妬けちゃうなぁ」

 

「なぁに言ってんだよ。その中にはお前も入ってんの、分かってねぇのか?」

 

どうやら二人は舌打ちした奴らの事を無視して話を進めている様で、その態度のせいで睨まれてしまうが、それも無視する。別に自分を嫌っているからとかではなく、ただ単にそいつ等には何を言っても分からない事が判明しているからだ。

 

「よ、ハジメ。暇だから遊びに来たわ」

 

「おはよーハジメ! 朝から眠そうだねぇ! ノクトと同じくらい!」

 

「お、おはようございます。ノクティス先輩、プロンプト先輩」

 

二人が挨拶した青年、南雲ハジメは戸惑いながらもどこか嬉しい様で、快く挨拶を返してくれた。だが、ハジメをからかっていた途中のDQN…檜山グループの連中は納得がいかない様で、ゴリ押しでハジメに文句を浴びせようとしていたが、プロンプトが良い笑顔で、

 

「ねぇねぇ、この前君達がノクトにやられてべソかいてた写真、此処で見せてもいい?」

 

と言った所、大騒ぎしてその場を立ち去って行った。

 

「あんまやり過ぎんなよ?訴えられたらめんどくせぇんだから」

 

「うわ、ノクト大人ぶってるねぇ。いつもだったら友人に手を出す奴は醜態晒しちまえば良いとか言ってる癖にさ?」

 

「バ!? 言うんじゃねぇよ!」

 

ここでもお得意のコントを披露する二人に、周りは勿論、先程まで憂鬱だったハジメも、クスクスと笑い始めた。こうして少しクラスの雰囲気が良くなったところで、また1つ、厄介事が登場する。

 

「おはよう! 南雲くん! 今日も眠そうだね!」

 

げっと顔を顰めるハジメの前に現れたのは、白崎香織と言う美少女だった。彼女は、この高校で二大女神と呼ばれる程の人気があって、それ故にハジメは話しかけてくれるのは嬉しいが、少し遠ざけたくなってしまう理由がある。

 

(なぜ、アイツだけ!!)

 

嫉妬である。そんな白崎に話しかけられる存在であるハジメは、物凄くクラスの人達から妬まれており、睨まれてしまう事から、そっとして欲しいと思う様になってしまったのである。

 

それでも、まだ良くなった方である。ノクティスやプロンプトが、ハジメ以外を巻き込んで話す事もある為、ハジメの良さ等を理解し、また苦労してるな、と同情の眼差しを向けてくれる人も増えた。

 

そのため、ハジメは居心地を良くしてくれた二人に感謝を覚え、今ではそこそこ、このクラスでもやっていけている。

 

「お、おはよう白崎さん」

 

「あー、俺達は見えてない感じか。やっぱ恋する乙女って怖ぇな」

 

「良いなーハジメ。俺もそんな事してくれる人ほしーなー?」

 

「え!? あ、すみません気づかなくて!おはようございます。ノクティス先輩、プロンプト先輩」

 

軽く無視された二人にやっと気付き、大慌てで挨拶され、軽く挨拶を返した。

 

因みに、さっきのプロンプトの呟きに過剰に反応した人が一人いた事を、プロンプトは知らなかった様子。

 

だが、白崎に余り話しかけて欲しくないと思う理由は、もう1つある。それは、今から近付いてくる人物の一人に原因がある。

 

「おはよう。南雲君、ノクティス先輩、プロンプト先輩」

 

「全く、香織はまた彼の面倒を見ているのか? 本当に優しいな」

 

「どうもっす! 3人共、相変わらず朝から元気っすね!」

 

近づいてきた人物は八重樫雫と呼ばれる美少女と、天之河光輝と呼ばれる青年と、坂上龍太郎と呼ばれる青年であった。

 

雫は、もう1人の二大女神であり、龍太郎は脳筋、と呼ばれる男ではあるが、この男は二人が巻き込んだ人物の一人であり、ハジメの良さを理解して友人となった人物である。

 

雫が来ている事もハジメには痛い視線を喰らう原因にはなっているが、この二人はまだ良いのだ。

 

最大の原因は、天之河である。この男は、顔良し、運動良し、勉強良しの完璧超人であり、とてつもなくモテる人物だが、非常に思い込みが激しく、自分の思った事を正しいとして疑わない正確なのである。

 

その為、ハジメには相性が悪く、苦手意識を持っていた。

 

「お、おはよう。八重樫さん、天之河君、坂上君。まぁ、自業自得だから仕方ないさ」

 

ハジメは、あぁ、また始まったと思うが、何とか自分の意見を押し殺して、穏便に済ませようと言葉を選んで発言する。

 

「それが分かっているなら直すべきじゃないか?何時までも香織の優しさに甘えてばかりでは行けないだろ。それに、香織だっていつも君に構ってられないだろ?」

 

だが、そんなハジメの努力も虚しく、結局はご都合主義で返されてしまう。どうでもいいから早くしてくれ、と考えていた。

 

一方その頃、ノクティスとプロンプトはと言うと。

 

「あーもー、また来たよアイツ。アイツが来ると話したい事話せないから嫌なんだよなぁ」

 

「だな。俺も。虫と同じ位嫌だわ」

 

「それはちょっと酷くないですか!?」

 

物凄く嫌悪感を解放していた。もうお分かりだろうが、二人は天之河が大っ嫌いである。ハジメを兎に角目の敵にしている所もそうだが、実はこの二人も相性が悪いのである。

 

「それに、ノクティス先輩、プロンプト先輩。貴方達も態々2年の教室へ来て時間を潰していないで、もっと努力をするべきでしょう。クラスの皆に迷惑をかけては行けませんよ?」

 

ご都合主義の狙いに自分達も入っているから更にタチが悪いのだ。

 

「あのさぁ、俺達が何をしようと勝手じゃないの?なんでそれを君に決められなきゃならないんだよ?」

 

「お前は俺達の母親か何かか? てか、それが通用するならお前もいちいち注意しに来ないで自分の為になる事やればいいんじゃね?」

 

「うっ…それは…」

 

その癖、反論されると非常に弱いからこれまたウザイ。なのに納得せずにうだうだと絡んでくる為、とことん馬が合わない。

 

因みに、ハジメ達は自分と接する時とは全く違う二人の態度を見て、物凄く驚いていた。何回も見ているはずだが、やはりここまで対応が変わるとどうしても驚いてしまうらしい。

 

居づらくなったのか、天之河は逃げる様にその場を去ってしまった。

 

「ごめんなさい。3人共。彼には悪気は無いのですけど…」

 

「逆にそれが1番タチ悪いんだよなぁ…」

 

「しかもほぼ毎回って…。しんどいわ」

 

「あはは、大丈夫だよ。慣れてるから」

 

ハジメは口では誤魔化しているが、3人共心の中は一致しており、もう俺達には関わらないでほしい、と思うばかりだ。

 

「はーい、授業を始めますよーって、ノクティス君、プロンプト君! なんでこの教室にいるんですかー!?」

 

「やっべぇ! もうこんな時間だった! じゃあなハジメ! また来るわ!」

 

「ちょっとノクトー!? 置いてかないでよー!」

 

「え!? あ、はい!」

 

急いで二人は戻ったが、間に合わずに先生に怒られてたのは自業自得だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、朝は酷い目にあったね〜ノクト」

 

「だな。先生も見逃してくれれば良い物を…。ちょっと厳しすぎないか? グラディオ先 生?」

 

「そもそもお前らが遊びに行ってんのが悪いんだろうが! てかなんで俺までここに来なきゃなんねぇんだ!」

 

昼休憩中、二人に続き教師のグラディオラスも、また2年の教室に来ていた。

 

グラディオラスはノクティスの親戚の兄さんの様な立ち位置だったが、高校に入ると自分達の教師になり、そこで三人は常に一緒にいるようになった。ちなみにこのグループにはもう1人仲間がいるが、ここにはまだ来ていない。

 

「良いじゃねぇか。だってお前とプロンプト此処に連れてくると、面白ぇもんが見られるから俺は大歓迎だぜ?」

 

「俺が迷惑してんだよ!!」

 

「待って!? 何で俺も巻き込まれてんの!?」

 

その言葉に憤慨するグラディオラスとプロンプトだが、時すでに遅し、既にノクティスの娯楽は始まろうとしていた。

 

「あの、先輩、お昼ご一緒しても良いですか?」

 

「先生、私も良いですか?」

 

そこに現れたのは、園部優花と呼ばれる少女と、雫だった。

 

そう、この二人がノクティスがこの二人を連れてきた理由である。

 

「え? 良いけど、グラディオは?」

 

「あぁ、俺も構わねぇってノクト…。お前まさかこれ狙って俺らを連れてきたろ…」

 

「あ?だって面白ぇじゃん。この二人とお前ら絡ませると暇しなくて良いんだよ俺は」

 

ニヤニヤしながら自分達のこの状況を見て楽しんでいるノクティスに、少しだけ殺意がわいた二人だったが、残念だが優花達が見ている状況では何も出来ないため、睨むだけに留まった。

 

察しの通り、優花はプロンプト、雫はグラディオラスにそう言った感情を持ち合わせている。

 

朝のプロンプトの発言に過剰に反応していたのも優花で

ある。ただプロンプトは自分に向けられる好意には鈍感である為、彼女はいつも苦労している。

 

一方グラディオラスはある程度は気付きやすい性格ではあるが、何故かまだ進展がない。

 

そんな様子を見せられているノクティスはいい加減痺れを切らし、進まないなら行動起こしてやろう、という事でこの様に彼女達のプラスになるように行動しているのだ。

 

「先輩、良かったら私のお弁当、少し分けましょうか?…先輩に食べてもらいたくて余分に作りすぎちゃったんですけど」

 

「え? 本当? じゃあちょっと貰おうかな〜!」

 

「先生、はい、どうぞ。流石にカップヌードルだけじゃ体を壊しますよ?」

 

「悪いか。朝急いでてこれしか持って来れなかったんだわ」

 

ノクティスの策通り、無自覚だがイチャつき始めた彼らを見て、より一層意地悪い笑顔を浮かべた。とりあえず、後にプロンプト達と話し合いになる未来は確定した様だ。

 

とここで、先程のもう1人の人物が合流した様だ。

 

「やはりここに居たか。すまないな。少し生徒の相談に乗っていたら遅れてしまった」

 

「やっと来たか。おせぇぞイグニス…って あ」

 

もう1人であるイグニスもここの教師で、ノクティスの幼い頃からの友人でもあった。

 

ただ、そんな彼もノクティスの格好の的であり、その横には、

 

「ちょっとノクティス君、なんで私達を見てそんな顔をしてるんですか〜!?」

 

社会科担当の畑山先生を引き連れてやってきた。

 

「愛子先生も一緒で構わないか?どうせなら彼女も一緒にと思ってな」

 

「わ、私は二人が良かったんですけど、イグニス先生に言われたらその、嬉しくてつい…」

 

しかもこの2人、他の二人とは違い、もう既に出来ていた。その為、授業以外何かと二人で居る事が多く、不審に思った生徒が聞いた所、交際が発覚して落胆する人達が居た事をノクティスは明確に記録している。

 

「俺は構わねぇけど、いやぁ、周りがアツアツすぎて困っちまうなぁ」

 

「その割には随分と楽しそうだが。…人の恋沙汰で遊ぶのも程々にしておけよ」

 

「あーハイハイ。お前は俺の母親かって事で、俺はハジメの所に行ってくるから、お前らは好きにやってな」

 

「反省してねぇよアイツ」

 

「そーだよ全く。無闇矢鱈こんな事したら園部さん達にも迷惑かかってるじゃんかー」

 

ノクティスは既に満足した様で、逃げる様にハジメの所に避難していった。もとい、現在香織に迫られてタジタジになっている彼の援護射撃に向かったって言うのも正解かもしれない。

 

因みに、鈍感発言に優花がジト目で見られたのをプロンプトが不審に思って聞いた所、機嫌を損ねて顔を背けられてしまうと言ったプチ事件が発生していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「香織、こっちに来て一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだし。それに、そんな寝惚けた状態で香織の美味しい料理を口にするなんて俺が許さないよ?」

 

ノクティスがハジメを手助けしようと向かおうとすると、運悪くそこには天之河が乱入していた。またコイツか。と思いながらも、このままだとハジメの立場が余計に悪くなると危惧したので、そのまま乱入しようとしたが、

 

「え? なんで光輝君の許しがいるの?」

 

「ブフッ」

 

香織の天然発言により、その必要はなくなったのと同時に、彼自身の腹筋がやられてしまったので、どちらにせよ近づく事が出来なかった。

 

「っ、ノクティス先輩、また来てたんですか」

 

「ハジメ、とりあえずヘイトは俺が凌いでおくからお前は白崎と一緒に食べとけ。出来ればそのままくっ付け」

 

「あ、ありがとうございますノクティス先輩、いやいや流石にそれは無理ですって!」

 

今度はノクティスに敵意を向けられたが軽く無視し、ハジメに軽く助言してなるべく香織との二人の時間を邪魔しない程度の位置に移動して、彼らに向けられるヘイトをカバーしていた。

 

「おーおー、やってるねぇノクト。またお友達の恋愛援助? 面倒くさがり屋な君にしては珍しいんじゃない?」

 

「ゲッ。アーデン…」

 

彼がハジメの為に奮闘していると、苦手意識を何故か持ってしまう人物が此方に近づいてきた。

 

その名はアーデン。彼もまた此処の教師をしている者だが、非常に馴れ馴れしく、苦手意識を持つ者も多いが、それでも人気もそこそこにあると言った謎の人物だった。

 

ただ、ノクティスはそれだけの理由にしては酷すぎるくらいに苦手意識を持っていた。一部の人は前世で何かあったんじゃないか、と冗談交じりにノクティスに返答していたが、当たっている様な感覚がしたのは何故だろうか。

 

「なんだよ、つれないなぁ。俺とも仲良くしてくれたっていいじゃん?」

 

「いや仲良くする理由ねぇし、それにアンタにはお連れ様がいるんじゃなかったっけ?」

 

「連れ?」

 

アーデンが首を傾げたので後ろを指さすと、そこには眼鏡少女がアーデンのちょうど真後ろにいた。

 

「やぁ、先生。暇だから来ちゃった」

 

眼鏡少女こと、中村恵里は、何かとアーデンに引っ付いており、正確にはイグニスと愛子と同じ位の確率で一緒に居ることが多い。ただしかなり一方的なのが難点である。

 

「…相変わらず物好きだねぇ。君も。俺じゃなくてあの正義君の所にでも行ったらどうなんだ?」

 

「ヤダ。僕はあんな奴よりも先生の方が落ち着くの」

 

「ほら、やっぱりお連れ様じゃねぇか」

 

ノクティスの返答に苦虫を潰した様な表情を浮かべるアーデンだが、それ程嫌らしく思っていないのも付きまとわれる原因ではある。

 

なんでも、昔恵里が一悶着あって、橋から飛び降りようとした所を、アーデンが声を掛けて自分の家に連れてった事があったらしい。

 

それ以来、恵里はアーデンを好意的に思っており、あの様に着いてくるらしい。少々やり過ぎ感は否めないが。

 

「ねー先生、お昼ご飯、食べてなかったでしょ? 僕の少し分けてあげようか?」

 

「いや遠慮しておくよ。ちょっとノクト。見てないで助けるとかしないの?」

 

「いや?やっぱ人のそーゆーのって面白ぇなって」

 

「君ホントそーゆーとこゲスいよね」

 

アーデンをとりあえず凌いで、そろそろイグニス達の所へ戻ろうとしたのも束の間、教室一帯が光り輝く魔法陣に包まれた。

 

「!? なんだこれ!?」

 

「あーっと、これちょっと不味い事になったかもねぇ。しかも原因はあの正義君、か」

 

教室が混乱になる中、愛子、イグニス、グラディオラスが生徒を外に出そうとするも間に合わず、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、その教室の人達は行方をくらました。




如何でしたでしょうか。

人物紹介を詰め込んでしまったのと1話目の為、
だいぶ詰め込みすぎた話になってしまいました。(汗)

色々ツッコミどころもあるとは思いますが、
暖かい目で見て下さるとありがたいです。

では、また次回。


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トータス

どうも、ゴアゴマです。

イグニス×愛子
プロンプト×優花
グラディオラス×雫って、
個人的にあのカップリングはクロスオーバーしたなら
見たいと思っていた奴なんですけど、
ちょっと無理矢理過ぎましたかね?

イグニスは合ってる気がするんですけど、
こうしてみると他2人はお前適当に選んだだろ?
と自問自答してしまいますが、
反省はしておりません()

では、どうぞ。


(ここは…どこだ?俺は確か、謎の魔法陣みてぇなのに包まれて…それで…)

 

《力を求めよ…》

 

(は…?)

 

《ルシスに蔓延る闇を祓う力を、クリスタルで貯えよ。それが、我、剣神ーーーートの啓示…》

 

(ルシス…? 剣神? 闇? なんだその厨二臭い設定…。てかルシスって何処だよ…。日本にそんな秘境あったっけ?)

 

『それで、世界が救えるのか?』

 

(あれは…誰だ…? 俺に似ている様な…。)

 

《左様。力を貯え、お前の命と引き換えに闇を祓い、このルシスに平和は訪れる》

 

『ハァ…!?』

 

(随分と身勝手なお願いしやがって…。アイツ可哀想だろうが。…いや、待てよ…?)

 

ート

 

(俺は、あの神を知っている…?様な…気がする)

 

ークト

 

(…そうだ、俺はー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノクト!!」

 

「あ!?」

 

 

 

彼が気が付くと、そこは教室では無かった。中世の大聖堂の様な、昔にトリップしたかの様に感じる洋風な造りの建物が、自分達を覆っていた。 いつの間にか彼の周りには、お馴染みの三人とハジメが集まっていた。

 

「大丈夫か? 何時ものボケーっとした顔しやがって」

 

グラディオラスが心配そうにノクティスの顔を覗く。強面の顔がドアップで出てきたらそれはそれは驚くので、当然ノクティスは後ろへ下がった。

 

「お、おぉ。平気だ。てか、ここ何処だ?」

 

「わっかんない。けど、どうやら俺達、異世界転移、て奴に巻き込まれたみたいだよ」

 

「おかげでクラスの皆は混乱に陥っている。取り敢えず俺達は皆を落ち着かせに行っている状態だが、お前が人には見せられない様な表情で突っ立っていたからな」

 

イグニスの指摘を受け、ノクティスは酷くショックを受ける。そして思わず自分の顔をペタペタと触るが、そんな事をしても何も変わらない為、直ぐに止めた。

 

「ウェ!? そんな顔してたのかよ!てか、そんな場合じゃなさそうだな」

 

「あぁ、直ぐにお前も手伝って欲しい。この際、少しでも落ち着いている人達の協力が必要だ」

 

「…それはいいんだけど、お前らの後ろに引っ付いてる奴らは大丈夫か?」

 

「…あー、この子達ね。大分参ってるみたいだから、背中を貸してあげてるんだよ」

 

イグニス以外の二人の後ろには、優花と雫が背中にひっしりとしがみついていた。大変な状態なのは分かっているが、何か思わず吹き出してしまいそうになってしまった。

 

「愛子先生は?」

 

「あの人も取り乱している生徒のフォローに行っている。あの性格だからな。誰に言われるまでもなく真っ先に行動していたさ」

 

「あの人そーゆーのほっとけないからな。…彼女の事も後で手厚くフォロー入れとけよ?」

 

「…提案感謝する…」

 

ノクティスの発言の意味が良く分かったのか、明らかに顔を赤らめて照れ臭そうに答えたイグニス。緊張感が無さすぎる様に見えるが、これでも大真面目である。

 

一部の人が奮闘する中、1人の老人が皆に声を掛けた。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様とそのご同胞の方々。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて、教皇の地位に就いております、イシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

「うっわ〜。明らかに胡散臭そうな人キター」

 

ハッキリ言って、4人の中の彼の第一印象は最悪であった。あの勇者(笑)は知らないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「どうやら勇者様方はとても取り乱して居られる様子、この事態についての説明を何よりも先にした方が良さそうですな。落ち着いて話せる所まで案内致しますので、着いてきてくだされ」

 

イシュタルと名乗った爺は、この混乱を予想していた様に迅速な対応で、皆に話していた。

 

クラスの人達は皆とても落ち着いていられる様ではなく、とても物静かに彼について行くばかりだった。その中でも落ち着いている方なのは、勇者(笑)と、あの4人と、ハジメだった。落ち着いていると言うか、後者の5人はこの状況を不審がっている為、入念に怪しい所が無いか確認しながらついて行った。

 

「…どう思う?」

 

「どうも何も、怪しすぎるだろ」

 

「確かにな。本当に此方の状況を理解しているのなら、無理に話を進めるよりもそっとしておくのが道理な筈だ」

 

「全くだよね〜。こんなに園部さん達怯えちゃってるんだからさ、もうちょっと考えらんないのかな?」

 

「…///」

 

「…お前マジで早く自覚してくんねぇかな」

 

こんな事まで言われているのにも関わらず、気付かれない優花は少し哀れに思えてきてしまう。それに加え雫も少しグラディオラスに何か言ってもらいたげな顔をしていたが、それに気付いた彼は何故か頭をポンポンと軽く叩くだけであり、不服ながらも何処か嬉しげな顔を浮かべているのをノクティスはバッチリ目撃した。

 

「ヘタレゴリラ」

 

「うるせぇな」

 

一旦皆の気遣いの話はそこで終わり、彼等は警戒を緩めないまま、イシュタルへついて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて、イシュタルは長いテーブルがある応接室の様な、会議室の様な場所へと連れて行き、そこにある椅子に彼等を座らせた。すると、何人かのメイド服の女性達が現れ、一人一人に丁寧な給仕をしてくれる。

 

殆どの男子がそれに釣られ鼻を伸ばしていて、女子が軽蔑の眼差しでそれらを見る。此方にしても、ハジメはヲタクの血が騒いだ様で、しばらく凝視していると香織に良い笑顔で睨まれ、プロンプトも初めて見るメイドに心を踊らせていると、優花に泣きそうな鋭い目で見られと、男子にとっては嬉しくも1部の信頼を失う一件が起こった。

一方、イグニスとグラディオラスも彼女達を見つめていて、愛子と雫が他と同じ目線を浴びせようとしたが、どうにも釣られている様には見えず、尋常ではない程に警戒していた様子なので、どこか安心した様子でそのまま眺めていた。

 

「これ、どう考えても罠だよな」

 

「あぁ、年頃の女性を上手く使って俺達を誘導しようとしている魂胆が丸見えだな」

 

「プロンプトは案の定だが、ノクトが見向きもしないのは以外だな」

 

「アイツはそんなもんだろ。日本でだってアイツが女を探してる様子なんて見られなかったし、余程に心に決めた人が居るとか、居ねぇとか言ってたしな」

 

実質それは当たっており、ノクティスは顔も名前も知らない筈なのに、何故か明確に特徴が出てくる程に、巡り会いたい女性がいると、1度だけグラディオラスに曖昧に答えたことがあったようだ。

 

「さて、皆さん、話に耳を傾ける程には落ち着いたご様子、ですので、まずこの世界について、少しながらお話させて頂きたいと思います」

 

そこからイシュタルは、事細かく、そして丁寧に説明し始めた。

 

まず、この世界はトータスと言い、このトータスには人間族、魔人族、亜人族が存在する。

 

人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の樹海にひっそり住んでいる、という。

 

人間族と魔人族は対立関係にあり、数は人間族の方が上回っているが、個人一人一人の力や資質は魔人族がリードしている、という状態にある。

 

しかし、ここ最近で魔人族が魔物を使役した事により、人間族は数を減らされ、壊滅の危機に陥ったという事。

 

魔物とは、野生動物が魔力を取り入れて変化した生物で、固有魔法と呼ばれる魔法を使う生物、と以外詳しい事は分かっていないらしい。

 

「あなた方を召喚したのは、エヒト様です。我々人間族が崇める守護神であり、聖教教会の唯一神 にして、この世をお創りになられた至上の神でございます。恐らく、この事をエヒト様は悟られたのでしょ う。それを避ける為に、あなた方を召喚なされた。あなた方の世界はこの世界よりも上位にあたり、例外なく、強大な力を持っているのです」

 

まるでテンプレだな、とノクティスは感じていた。大方、ここまでくれば話は見えてくる。その力を使って世界を救え、との事だろう、と。実際その通りだった。

 

ただ、此方にしても黙ってはい、そうですか、と呼ばれる状況下ではない。

 

「ふざけないでください! 結局の所、この子達を戦争に加担させようってことでしょう! そんなの許しません! えぇ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を帰してください! きっと御家族の皆さんが心配しているはずです!」

 

「それに対しては同感だ。第一、我々はこの世界の事を何も知らない。そんな世界でいきなり戦え、と言われても、何も出来ずに殺されて終わりのはずだが」

 

真っ先に反対意見を述べたのが、イグニスと愛子夫婦であった。その姿に、尊い、と思う者や、あぁ、また愛ちゃん先生が頑張っている、と思う人、イグニス先生のイケメンパワー発動してるわ、と興奮している人がいた。

 

「お気持ちはお察しします。ですが、あなたたちのご帰還は、現状、不可能です。」

 

「ふ、不可能ってどういうことですか!? 召喚出来たのなら、帰す事だって出来るはずでしょう!?」

 

「いや、愛子先生、その言い分は正しいかもしれない」

 

「え?どういう事ですか?」

 

「イシュタル殿は先程、エヒト様が召喚なされた、と言っていた。だが、そのエヒト、と名乗る者は実際にここにはいない。そして言い分から推測すると、エヒト以外には、転移手段を持った人物がいない、だからエヒト自身が帰還を承諾してくれないと不可能、ということなのかもしれない。合っているか? イシュタル殿」

 

「敬わない言葉遣いは気になりますが、その通りですさな。実際、我々にはそのような高度な魔法は扱えませんゆえ」

 

「そ、そんな…」

 

殆どイグニスの推測通りの結果だった。その言葉を聞いた刹那、生徒達にパニックが襲う。

 

中には泣き出す生徒や、父母に助けを求める者もいた。幸い、正気でいられているのは、道中でも堂々としていた面々だけだった。

 

「…益々胡散臭いな」

 

「あぁ。イシュタルって奴は信用出来ないが、エヒトは、もっと信用出来なさそうだな。第一、それ程までに凄まじき神ならば、俺達が戦闘のせの字も知らない事ぐらい、把握しているはずなのだがな」

 

「…やっぱり、先生方もそう思っていたのですか?」

 

「ん?やっぱりって事は、南雲もそう思ってたって事か?」

 

「はい。なんか、ここの人達には申し訳ないんですけど、どうも信用しちゃいけない感じがしていて…」

 

「どうやら、正しく分析出来ているのは俺達とハジメと、愛子先生だけだろうね〜」

 

余りにも少人数だが、それでも味方がいて良かった、とハジメは安堵していた。

 

「でもさ、実際俺達、詰んでない?」

 

「ハァ?何がだよ」

 

「プロンプトの言う通りだな。実質帰れない、となれば、俺達は意地でも戦いに駆り出されるだろう。ましてや、クラスには、物事を考えずに行動を起こす人物も残念ながらいる」

 

「…あぁ。理解したわ」

 

「状況的にも、人選的にも最悪な状態、て訳だ」

 

そして、またもやイグニスの予想通りとなってしまう。その物事を考えずに行動を起こす戦犯が、今立ち上がった。

 

「みんな、ここでイシュタルさんに文句を言っても仕方ないんだ。俺は、戦おうと思う。この世界の人間達が危機的状況にあるのは、事実だ。放っておくなんて俺には出来ない。人間を救う為に召喚されたのだから、救えば帰してくれるかもしれない。…イシュタルさん。どうですか?」

 

「そうですな。エヒト様も、救済の暁に元の世界に戻す事をお考えになられるかもしれませぬ」

 

「俺達には大きな力があるんですよね?ここに来てから大きな力が漲っている気がします」

 

「えぇ、そうです。ざっと、この世界の人々に比べれば数十倍ほどのお力をお持ちと考えても良いでしょうな」

 

「うん。なら大丈夫。人々も救い、皆が家に帰れるように、俺は戦う!」

 

イシュタルはその言葉を聞き、一瞬気持ちの悪い笑みを浮かべ、直ぐに顔を戻した。計画通り、とでも思っているのだろう。

 

そして、クラスメイトも纏め役の光輝に言われたら、止まらない。何処からか知らないが溢れ出た勇気を出し、次々と賛同していく、が、

 

「ちょっと待てお前ら。勢いで言ってるが、本当に戦えんのか?」

 

グラディオラスが注目を集め、クラスメイトの偽りに近い勇気を確かめる。ただ、グラディオラスと同じ意見のノクティス、イグニス、プロンプトも何時でもフォロー出来る様に構える。

 

「グラディオラス先生、何を言っているんですか。覚悟があるから、俺達はこうやって…」

 

「お前は黙っとけ。俺が言ってるのはそういう事じゃねぇ。魔人とはいえ、人を殺せる勇気は備わってんのかって話だ」

 

その言葉を聞き、はっと気がついた生徒達は、 みるみる顔を青ざめさせていく。

 

「その反応が証拠だ。それに、今のお前達では、殺す所か、戦いの仕方も分からないだろう?そんな状態で覚悟を決めても、すぐに崩れ去って最後には挫折するのがオチだ」

 

イグニスもすかさずフォローを入れる。益々顔色が悪くなっていく生徒達。ちらっと見やると、イシュタルは物凄い形相でイグニス達を睨んでいた。余計な真似を、と思っているのだろう。

 

だが、それでも空気の読めない勇者は止まらない。

 

「じゃあ先生は、この世界の人達を見捨ててもいいってことですか!?」

 

「そうじゃない。だが、自分達が不完全な状態なのに、どうやって他人を救う?」

 

そう言って、生徒達の中途半端な気持ちを傾かせようとするが、イシュタルも負けじと横槍を入れてくる。

 

「私達も、何も無い状態で戦いに参加させるわけではございません。訓練や講義等の、必要な事は此方が支援させていただきますが」

 

「じゃあ何も問題ありませんね! それだけ支援して貰えるなら、俺達でも戦えるはずです!」

 

「だからそれだけじゃダメだって言ってんだろうが。なんだ? 人の殺す覚悟もそれだけで備わるとでも思ってんのか?」

 

「! なら、話し合いにでも持ち込んで戦いを止めさせれば良いじゃないですか!!」

 

どんなに説得を試みても、勇者が何かに操られているかのように頑なに意見を変えず、殆どが天之河に賛同していく。

 

そんな中、一人の男がイシュタルに話を持ちかけていた。

 

「ねぇ〜。イシュタルさん? だったっけ。戦争に参加するしない、は個人の自由にする事って出来ない?」

 

「は? と言いますと?」

 

あまりこう言ったデカい話には乗ってきた事が無いアーデンが、珍しく意見を放った。勇者(笑)は勿論だが、ノクティス一行も彼を警戒していた。と言っても、後者は何かとんでもない事を抜かすのではないか、と危惧しているだけだが。

 

「いや、ね?そこの正義くんとか、戦いたいって人達はそのまま参加すればいいさ。でもね、本当に心の底から嫌な人とかを無理矢理にでも参加させていいのかなって」

 

「アーデン先生まで、何を言っているんですか!俺達は心の底から」

 

「はいはい、ご都合主義で周りが見えない、可愛そうな頭の坊ちゃんは黙ってて。う る さ い か ら 」

 

「っ!?」

 

相も変わらず反論しようとした勇者を、アーデンはこれまたいつもとは違う、軽やかな声色なのに何処か、殺気の篭った言葉で黙らせた。

 

「生憎ですが、勇者様方がお決めになられることですから、私には何とも…」

 

「無理に人を殺して壊れちゃったら、困るのは貴方方だけど?」

 

「なんと!?」

 

「先生!! 貴方はなんて事を!!」

 

室内一帯が氷河の様に寒く凍えた様な気がした。自分がそうなった時を想像したのだろう。

 

勇者が歩いていき、アーデンの胸ぐらを掴みかかる。

 

「貴方はそれでも教師か!? 生徒の意見を聞くどころか、怯えさせるなんて!!」

 

「怯えるってことは覚悟ができてないってこと何じゃないの? てか、黙ってろって言わなかったっけ? 俺」

 

凄い剣幕でアーデンを睨むが、当人は何処吹く風。そのままイシュタルに、己の考えを述べ始めた。

 

「いい? 大方、多分召喚されたってことはこの世界の大体の人が知る事になるでしょ? それで世界が救われるならまだしもさ、召喚された勇者達の心が壊れて戦いどころじゃありません、とかになったら、救われもせず、あんた達のエヒト様? の評価にも傷がつくんじゃない?」

 

唖然とするしかなかった。ノクティス達は何かを悟っているのか黙っているが、他の人達の半分がアーデンに軽蔑の眼差しを向け始めた。勿論筆頭は勇者(笑)。

 

イシュタルも何処か言いたげな表情を浮かべたが、

すぐ様そのケースを考え、

 

「うぅむ…。我々としては救いこそ最大の目標、ですが、エヒト様の名が廃れてしまう事は、避けなければなりませぬな…」

 

「別に俺は、完全に拒否してるわけじゃないよ?戦いたい奴はどうぞって差し出すつもりだけど、壊れて足出まといになるくらいなら最初から参加しない方がいいって言ってるだけだから。それに、戦う以外にも救う方法はいくらでもあるでしょ?それぞれがやりたいことをさせればいいんじゃないかなって思うわけ。

 

だからさ、皆。さっきのイグニス君とグラディオ君の言葉に少しでも怯えた子達は、戦う以外の事、探しなよ」

 

なんやかんやで戦争拒否派の逃げ道を作ったアーデンは、意見に賛同する者を求めたが、

 

「それでも、この人達を見捨てることは出来ない!」

 

勇者(笑)は絶対に意見を曲げなかった。挙句の果てには、アーデンを悪と判断し、従っては行けないと生徒達に呼びかける始末。

 

「あのさ、さっきの会話で思いつかなかったわけ?もし無理に戦って精神に異常をきたせば、困るのはイシュタルさん達なの分かってる?」

 

「そんな事には俺がさせない!! 第一、人を道具の様に思っているような貴方には賛同できない!!」

 

「え? そんな解釈してたの? て言うか、君にそんな力あると思う?」

 

胸ぐらを掴んだままアーデンを責め立てるが、答えが出たようで、イシュタルが声を出す。

 

「本来なら、神への侮辱で不敬罪も検討すべきですが、貴方の仰る事も一理あると考えます。ですので、その意見を呑みましょう」

 

どうやら、自らが信仰する神の評価が下がる事を恐れた様で、上手い具合に誤魔化して話を承諾した。その言葉を聞いて、アーデンはニヒルな笑みを浮かべた。

 

だが、その後で、

「イシュタルさんはああ言ってくれたが、それに甘えては行けないと思う。第一、あの男の口車に乗せられてはだめだ!」

 

と、あまりにも都合の良すぎる解釈で、結局アーデンに賛同するものは少なかった。




如何でしたか?

アーデンってあんなキャラだっけ?

ちなみに、イグニスとグラディオは生徒達を止めはしましたが、戦争に参加したら許さへんで!という訳ではありません。

本人達が述べていたように、覚悟が備わっており、
自分達がするであろう行動に責任が持てるならば、と言った意見です。
明らかに勢いだけですもんね。そりゃあとめますよ。

因みに、アーデンがあの様な意見を放ったのは原作での仕打ちを知っていればわかると思います。

では、また次回。


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迷う者

どうも、ゴアゴマです。

思ったよりも、アーデンの発言に驚かれた方が多いので、こちらもビックリしましたw

まぁ原作であんなに大暴れした人がノクティス達と同意見で言いたい事を言ってくれてるのが意外なのでしょう。俺も見直してこれは変わりすぎじゃね?と
思いましたし。

では、どうぞ。


殆どの人達が戦争への参加を上げた後、生徒達はイシュタルに、今後の活動拠点にしてもらう場所へと案内された。この教会がある神山の麓にある王国、ハイリヒ王国へと。

 

途中、何かと目の敵にしたアーデンへと、天之河が口論を持ちかける光景が何度か見られたが、恵里が乱入し、

 

「いい加減君の腐った価値観、川にでも投げ捨ててくれないかな? 耳障りなんだよ♪」

 

と、とてつもなくいい笑顔で言い返し、それで収まるかと思いきや、恵里に何をふきこんだ、と始まったので、坂上に無理矢理前に引っ張られていた。坂上曰く、馬鹿の俺でも今のアイツは迷惑をかけっぱなしだと思ったからと述べている。

 

王国へ向かう際にも、前に案内された時と同じ様に固まりながら歩いていた。中でも、愛子のメンタルがズタズタで、イグニスの背中に乗りながら顔を填めて彼に慰められる事態が発生しており、

 

「私はダメな教師ですぅ…」

 

とネガティブ全開な発言に、

 

「貴方程生徒の事を考えて行動している先生を俺は見た事がない。だから自信を持っていい」

 

と非の打ち所が無いフォローで励ましていた。そう言ってくれるのは貴方だけです…と若干声色を上げて返答していた事から、少しではあるが回復の傾向にあるのだろう。流石は夫(非公認)である。

 

尚、その会話を微笑ましげに見つめている人が多く居たが、この原因を作っているのは自身達が原因だと気付いてない人が多かったが、優花を含めた1部の生徒は、何かを迷っている様な表情でそれを見つめていた。

 

ちなみに、ノクトは真剣な表情のハジメを見つけ、気持ちを和らげる為に話しかけに向かった。

 

「ハジメ、どうした?」

 

「あ、先輩」

 

「もしかして、参加するかしないかの事か?」

 

「はい。僕は、何か自分に出来ることがあるなら、やってみようかなって」

 

「…そっか。お前が心の底から決めた事なら何も言わねぇよ。その代わり、俺達もカバーしてやるから、心配すんな」

 

「…何から何までありがとうございます…」

 

やがてノクティスはハジメの肩に手を置き、あんま背負い過ぎんなと言って、気持ちを和らげていた。

 

やがて、台座のような場所に連れてこられ、そこに乗るように促された皆は、なんの疑いもなく乗り、警戒組は、恐る恐る乗った。全員が乗ったことを確認すると、イシュタルは杖を掲げ、呪文を唱える。

 

「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん。

 

ーー 《天道》」

 

なんということでしょう。(棒)台座の魔法陣が輝き出し、ゆっくりと移動しているではありませんか。

 

皆はこの魔法を見て、写メ大会が開かれているごとく、うるさい程に興奮していた。

 

ノクティスが気だるそうにそれを眺めていると、毎度お馴染み、アーデンさんが現れた。

 

「やっほ、ノクト。調子はどう? さっき見苦しい乱闘見せちゃったから気分悪いでしょ」

 

「お前ほんと俺に着いてくるよな。なんだよ、意外なおっさん」

 

「おいおい、酷いなぁ。おっさんなんて。俺まだ30代だよ? …嘘だけど」

 

先程までイチャモンをつけられていたとは思えない程、彼は陽気に回りながら答える。

 

「てかさ、毎度思うんだが、お前暑くねぇの? そんな厚着してさ」

 

ノクティスの突然の指摘だが、そう言いたくなるのも無理はない。

 

アーデンは、明らかに冬でも暑いような程にジャンジャン着込んでおり、素肌が顔以外見えない様に服で覆われている状態なのだ。

 

「いや、実は俺、日差しがダメだったんだよ。最近は大丈夫なんだけど、その時の癖でさ。暑くはないんだけどね」

 

「癖って…。やっぱ変だなお前」

 

結局はアーデンに対する評価は変わらず、増してや変態度が増えてしまったその評価に不服そうにしながら佇んでいた。

 

「もう、先生ったら、ナイスフォロー入れた僕に何の礼もなくどっか行っちゃって」

 

ノクティスとの会話に集中していたのか、いきなり現れた恵里にらまたもや捕まれ、思い切り背中に張り付かれていた。

 

「やっぱり着いてくるのね…。どんだけ俺の事好きなの?君」

 

「えぇ〜? 死んでもついてくぐらい?」

 

「やっべぇのに好かれたなお前…」

 

彼女の狂気が垣間見える愛の発言に、これは恋バナ好きのノクティスも少し狼狽えてしまった様だ。

 

「スー、ハー、スー、ハー。んぅー♪ 先生のこの独特な匂い…。いくらでも嗅げちゃうなぁ」

 

「あのぉー。おまわりさーん? ここに頭の可笑しい人1名いまーす」

 

「お前まで頭おかしくなってどうすんだよ! 居ねぇよここに警察!」

 

いくら大声でツッコミを入れても誰も振り向かなかったのは幸いだったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて、王国へと辿り着くと、王宮の様な場所へと連れていかれ、そこには国王と思われる男と、王妃、王子、王女と思われる人物が立っており、生徒を出迎えた。

 

国王から名を、エリヒド・S・B・ハイリヒ。

 

王妃、ルルリアナ・S・B・ハイリヒ。

 

王子、ランデル・S・B・ハイリヒ。

 

王女、リリアーナ・S・B・ハイリヒと呼ばれている。

 

そこでエリヒドは、玉座から立ったまま私達を出迎え、イシュタルがそこに辿り着くと、その手をとり、王は手にキスをした。

 

「ウォェ…」

 

「吐くな、プロンプト。これでも神聖なもののよう…だ」

 

「お前だって吐きそうじゃねぇか。ウォェ…」

 

仲間3人は耐えきれずに口を必死に抑えていた。奇跡的にバレずに済んだが、ノクティスには丸わかりだった。

 

その後に、晩餐会が開かれ、それぞれ出された食事を美味そうに平らげていたり、緊張感が無くなったのではないかと思えるくらいに楽しげに参加している人が殆どだった。

 

「…そうか」

 

「どうした、イグニス。何か分かったのか?」

 

「新しいレシピを思い付いたぞ」

 

「そっちかよ!!」

 

イグニスは楽しむと言うより、料理を見て少しだけ研究をしたようだ。常に愛子の傍というのは譲らなかったが。

 

因みに、ランデル王子が香織を偉く気に入り、アプローチを掛けたが普通に流され、ハジメの所へと向かったので、そのまま流れる様にハジメを睨むが、隣にいたノクティスに謎の気迫で押し返され、首がむしれるのでは無いかと言うくらいの速さで顔を逸らしたと言うことが起きていた。

 

王の話によると、王宮にいる間は、そこでの衣食住は保証するのと、何か行いたい事があるのであれば、最低限の援助を行う、というらしい。訓練にも教官が付属され、万全な状態でノクティス達をサポートするとの事だ。

 

晩餐会が終了すると、個人の部屋を設けられ、各自それぞれの部屋で休息をとるようにと言われ、そこでの一日は終了した。が、プロンプトが部屋に戻る際、優花が着いてきたので、部屋に入れて、2人でしばらく話をした。

 

「すみません。突然お邪魔しちゃって」

 

「いいよいいよー。俺も部屋に行っても中々寝れないだろうなぁって思ってた所だし」

 

プロンプトは椅子を少し引き、彼女が座れるようにちょうどよく調節した。こういう少しの気の利いた行動が、優花を惹き付けているのだが、彼は知る由もない。

 

「怒涛の1日だったねぇ。俺もうどっと疲れたよ」

 

「私もです。その、最初の方はご迷惑をおかけしました」

 

「え? あー、あれは別に大丈夫だよー。なんかいーなーって思ったし」

 

「え?それって…」

 

「女の子にあぁいう事されるのってイタタタタタタタ!! いきなり何するの!? 」

 

「…むむむむむ…」

 

結局はいつも通りの結果に終わってしまい、不機嫌になって彼の腕を抓ったがそれでも機嫌が治らず、さらに力を強くした。

 

「と、所で、園部さんって結局、戦争、参加するつもり?」

 

誤魔化すように彼は、今後について語ろうとし始めた。

 

「私は、参加しません」

 

「そっか。でも、何か悩んでる事、あるでしょ?」

 

「…はい」

 

彼女は、胸の内をポツポツと語り始めた。自分は、戦争に参加するのは反対で、アーデンの意見、そして自身の敬愛する愛子のあの状態を見て、よりその気持ちは強くなったと言う。

 

そして同時に、反対意見に賛同していたが、天之河の熱量に押され、自分の気持ちを押し殺して参加せざるをえなくなった人達を後押ししよう、とも考えた。だが、するにしても自分の発言力ではどうにもならないと決めつけてしまい、どの様に切り出そうか悩んでいると言う。

 

「そっか。そんな風に、考えてたんだね」

 

「…はい」

 

お互いに沈黙が流れる。が、突然プロンプトがベッドに倒れて声を上げる。

 

「すっごいねやっぱ! イグニスも、園部さんもさ」

 

「凄い、ですか?」

 

「うん! だってさ、普通この状況だったら自分の事で精一杯で、そこまで気が回らない人が多いじゃん?」

 

素直に賞賛された優花は下を向き、恥ずかしそうに微笑んでいた。

 

「発言力がない、か。そんな事は無いんじゃない?」

 

「え?」

 

突然の想定外のフォローに予想外だと反応を浮かべ、その返答を求める。

 

「だってさ、その子達からしたら、きっかけが欲しいわけでしょ? その子達もアーデン達の意見に賛同してたみたいだし、でも決定打が足りなかったから、動けなかった。だからこそ、同じ生徒である君が出る事は、その子達には何よりも必要な事なんじゃないかな? って、俺は思う」

 

思い返せば、その通りだと思った。それでも、自分に出来るだろうかと言う気持ちは変わらず、表情が変わることは無かった。

 

「俺ね、ノクトと出会う前、すっごく自分に自信がなくて、ビビりだったからさ。何をやるにも怖くて、行動できなかったんだよね」

 

「先輩が、ですか?」

 

「あ、そこ意外なんだ…。今もそれは少し残ってるけど、でもさ、皆と出会ってから、自分にもなにか出来る事があるんじゃないかって、それで、これを始めたんだ」

 

彼は、ポケットに手を突っ込み、何枚かのプリントされた物を出した。

 

「これは、写真?」

 

「そう! アイツらさ何回も集まる癖に、写真の1つも取らないんだよ? だから俺が皆集めて、こうやってパシャって。そしたら、何か楽しくなって来て、ノクト達も心なしか嬉しそうでさ。皆の思い出を記録するのが、俺の1つの楽しみなのかなって。そう考え始めたんだ」

 

プロンプトの楽しそうに語るその姿に、ただただ魅入ってしまい、すっかり悩みを忘れそうな程に惹き込まれていた。

 

「だから園部さんも、自分が一番したいなって事は、思い切ってやっちゃった方が良いんだよ。写真の話と今の話を結びつけるのも何か、強引な感じもするけど…」

 

「…ふふ…」

 

「え、今笑う要素あった? 俺なんかしちゃったっけ…」

 

少し焦った表情で困り果てているが、彼女には今の言葉は大分心に響いた様で、どうやら決心がついた顔付きになっていた。

 

「ありがとうございます。先輩。お陰で漸く、一歩踏み出す事が出来そうです」

 

「そ、そう? なら良かった。ちゃんとフォロー出来たかめっちゃ不安なんですけど…」

 

「上手く出来てましたよ。…普段も、それくらいに頭を回して気づいて欲しいんですけど…」

 

「あの、園部さん?」

 

じっと、プロンプトを見つめる。これだけで普通は分かるはずだが、分からないのがこの男である。

 

「えっと…?」

 

「…むぅ」

 

「えぇ!? ちょっと待って!? なんでそんな不機嫌になっちゃったの!?」

 

「知りません。先輩のばーか」

 

「ノクトと言い、君達辛辣だねホントに!」

 

「知りません。 そんなんじゃ彼女なんて出来ませんよ」

 

「はぅあ!! 気にしている所を抉られたぁ…。でも鈍感って?俺誰かに好意向けられてたりしたっけなぁ」

 

「…やっぱり先輩の大バカ」

 

「一日のうちに何回罵倒されればいいんだよォ!!」

 

暫く優花が言いたい事を言って、この夜でプロンプトの精神はゴリゴリ削られて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、生徒達は再び集められ、手のひらにピッタリハマるくらいの銀色のプレートを配られ、不思議そうに眺めていると、騎士団長 メルド・ロギンスがそれについての

説明を始める。

 

「よし、全員に配り終わったな? 早速だがこれについて簡単な説明をしよう。これは、ステータスプレート、と呼ばれており、その通りに自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。まぁ、簡単に言えば身分証明書にもなる物だから、失くすなよ?」

 

とても噛み砕いた言葉遣いで、分かりやすく説明をする。それには、

 

「これから共に背中を預ける中になるかもってのに、いつまでも他人行儀で話せるか!」

 

と本人の強い希望の上での言葉遣いである。生徒達からしたらフレンドリーなおじさんだが、騎士団からしたら威厳もあったものでは無いので、止めさせたいのが本音だろう。

 

「このプレートの一面に魔法陣が刻まれているだろうから、そこに血を一滴、渡した針で傷を付けて垂らしてくれ。それで所持者が登録される。

 

《ステータスオープン》と言えば、表に自分のステータスが表示される筈だ。あぁ、原理は聞くなよ? 知らんからな。神代のアーティファクトの類だ」

 

ここで出て来た謎の単語に、疑問を浮かべ始めた生徒達の代わりに、勇者(笑)が声に出して説明を求める。

 

その実態は、このトータスでは現在再現できない強大な力を持った魔道具、と言ったものらしい。ステータスプレートはその一環だという。

 

早速、それぞれが針を使い、ステータスを開示していく。

 

「どれ、俺達もやるか」

 

「おぅ。どんなもんか一応気になるしな」

 

「針ぃ? 自分から刺すとかどういう神経してんだよー」

 

「んなとこで渋ってんな。ほら、さっさとやれや」

 

「ちょっと待ってぇ! ノクトぉ! 押さないでぇ! 大怪我したらどうすんだよぉぉ!!」

 

「うるさいなぁ。1回やるだけで何を戸惑ってるんだよ。ほら、早く指、刺しなよ」

 

プロンプトを除いた皆は早速開示していき、ようやく決心をした彼も、痛がりながら開示した。

 

そこには、それぞれのステータスが書いてあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ノクティス・ルシス・チェラム ??歳 男 レベル??

 

天職 真の○

 

筋力 100_

 

体力 150_

 

耐性 80_

 

敏捷 80_

 

魔力 500_

 

耐魔 60_

 

技能 言語理解 武器召喚 魔法精製 ポーションボックス

連携特化 シフト 高速魔力回復 ??? ??? ??? ??? ??? ???...

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

グラディオラス・アミティシア 年齢 ??歳 男

レベル??

 

天職 〇の盾

 

筋力 250_

 

体力 250_

 

耐性 280_

 

敏捷 40_

 

魔力 10_

 

耐魔 40_

 

技能 言語理解 闘争本能 怪力 絶対防御(回数制)

絶対死守(回数制)秘技開発 ポーションボックス

連携特化 ??? ??? ??? ??? ???...

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

イグニス・スキエンティア ??歳 男 レベル??

 

天職 〇の頭脳

 

筋力 80_

 

体力 150_

 

耐性 100_

 

敏捷 70_

 

魔力 50_

 

耐魔 100_

 

技能 言語理解 レシピドーム 料理保管 料理複製

状況把握 強制集合(ギャザリング)連携特化

ポーションボックス ??? ??? ???...

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

プロンプト・アージェンタム ??歳 男 レベル??

 

天職 〇の近衛

 

筋力 100_

 

体力 50_

 

耐性 80_

 

敏捷 180_

 

魔力 20_

 

耐魔 80_

 

技能 言語理解 武器精製特化 遠距離攻撃高確率命中

銃弾自動転送 ポーションボックス 連携特化

??? ??? ???...

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《なんだこれ…》

 

まだステータスの主な見方や平均的な数値は聞いていないが、それでも以上だと分かるくらいにツッコミ所がいくつも上がっていた。

 

「真の〇って何だよ…。意味分からなすぎて笑えてくるわ」

 

「お前はまだいいだろ、俺の〇の盾って何を守るんだよ…」

 

「〇の頭脳とは…。俺はプレートに馬鹿にされているのか…!?」

 

「俺なんて近衛だよ!? なんで知りもしない〇さんを護衛しなきゃならないんだよ!!」

 

混乱を他所に、メルドは皆が確認し終えたと判断し、説明を再開し始めた。

 

「全員見れたな? 説明するぞ。

 

まず最初にレベルがあるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100で、それがその人間の限界を示す。レベルとは即ち、その人物の到達できる領域の現在値とでも思ってくれ。レベル100なんて奴は、人間としての潜在能力を全て発揮した極地と言っても過言ではないからな。ま、そんな奴はそうそういないが」

 

丁寧に解説してくれるのは有難いが、彼らはレベルすらまともに表示されていないので、聞く意味が無くなってしまった。

 

そこからの説明は、ステータスは訓練や魔法、魔道具で上昇するという事、天職は才能のような物で、技能と結びついており、戦闘職と非戦闘職に分類される様と言う事を解説してもらった。

 

「あれ? 俺達って結構可笑しいんじゃない?」

 

「レベルどころか、天職も理解不能だからな…。連携していると言う割には、全く技能と釣り合っていないぞ…?」

 

進めば進むほど混乱を強くさせる4人を他所に、メルドは止めること無く話を進めていく。

 

「後は…各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうな! ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練を行う場合の参考にしなきゃならん」

 

「レベルすら分からないから、俺達がどれだけの段階なのかよく分からないんだが…」

 

「ていうか待てよ? よく見たらステータスの横に、なんか棒線が敷かれてないか?」

 

彼らがよく凝視すると、グラディオラスの発言通り、数字の横に何やら小さい棒線が敷かれていた。それも全てに。

 

「…ステータスプレートが壊れてんじゃねぇの?」

 

「いや、そんな筈は…だが…うむ…」

 

「あ、あの、先輩…」

 

自分達の結果で精一杯の中、ハジメが、弱々しく話しかけてくる。その表情は凄まじく必死で、否定して欲しい様な、逃避したいようにも感じられた。

 

「どうしたハジメ。何かあったのか?」

 

「こ、このステータス、何ですけど…」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

南雲ハジメ 年齢 17歳 男 レベル1

 

天職 錬成師

 

筋力 10

 

体力 10

 

耐性 10

 

敏捷 10

 

魔力 10

 

耐魔 10

 

技能 錬成 言語理解

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「oh......simple」

 

「無駄に良い発音しないでくださいよプロンプト先輩。心にきますから…」

 

「てかこれ、非戦闘職じゃねぇのか?」

 

「なら何も問題は無いだろう。逆に錬成、と言うのは想像力が試されるものでは無いか?」

 

「いや、分かってるんですよ。分かってるんですけど…。言われるからには数倍くらいのステータスが良かったです…」

 

「まぁ、気にすんなってハジメ。逆に錬成の力ですげぇもん作って伝説残してやろうぜ」

 

「…優しさが今は辛いです…」

 

どうやらここに集まっている人達は何かしら困り事を抱えている様だ。ハジメは精神的ダメージが大きいので、慰めも大した効果は得られなかった。

 

そんな中、早速メルドの確認が、勇者(笑)から始まった。

 

そこに書かれていたのは、

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

天之河光輝 17歳 男 レベル1

 

天職 勇者

 

筋力 100

 

体力 100

 

耐性 100

 

敏捷 100

 

魔力 100

 

技能 全属性適正 全属性耐性 物理耐性 複合魔法

剣術 剛力 縮地 先読 高速魔力回復 気配探知

魔力感知 限界突破 言語理解

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

まさに、チートの塊だった。

 

「ほぉ〜。流石は勇者様だな。レベル1で既に三桁か。技能も普通は3つくらいなんだがな。頼もしい限りだ!」

 

「いやぁー、アハハ…」

 

「ハハ…。流石は天之河君…」

 

「あーー! ハジメの目が虚ろになってるぅ!! しっかりしてハジメぇ!!」

 

流石は勇者(笑)。無自覚にも人にダメージを与える力は天才級のようだ。プロンプトは、これ以上ハジメの心が荒まないように、そっと耳に手を当てて聞こえないようにしていた。優花からは凄く羨ましそうに見られていたが。

 

ちなみに、メルドのレベルは62で、ステータスは300前後、トータスでトップクラスに入る実力者だが、これを勇者(笑)は、たった数レベルで追い越しそうな域に既に達していた。

 

どうやら、他の生徒達も中々のチート揃いだった様で、プロンプトはハジメの耳を塞いどいて良かったと安堵していた。もし聞いていたらと思うと、ゾッとする。

 

やがて報告していないのは、愛子、ノクティス達、ハジメ、アーデンの計7人となった。

 

「さて、残りはここの奴らだが、よし、そこの坊主から見せてみろ」

 

「は、はい…」

 

「ハジメ、大丈夫? もう少し落ち着いてから見せた方がいいんじゃない?」

 

「いや、大丈夫です。どうせ見せるのは変わらないんですから…」

 

ハジメは覚悟を決め、メルドに勢い良くプレートを見せる。が、「ん?」と案の定笑顔のまま固まり、2回ほど軽く叩いて「見間違いか?」と様々な方法を試してステータスを確認する。が、結局変わらなかったようだ。

 

「あぁ、なんと言うか、錬成師と言うのは、言ってみれば鍛治職の事だな」

 

非常に言いにくそうに現実を伝え、ハジメのこのステータスは残念だが事実ということになってしまった。

 

それを見た檜山達は、ここぞとばかりにハジメにいちゃもんを付けようと近付いてくるが、ここで皆の先生、イグニスがすかさず助言を入れる。

 

「おいおい、南雲…」

 

「言っておくが、お前達に南雲を非難する権限はないぞ。聞いてなかったのか? 戦闘職と非戦闘職に別れると。ならば、南雲はサポートや、錬成を駆使した役柄につけばいい」

 

思わぬ援護に檜山達は状況が悪くなり、2人を睨みながら何事も無かったかのように座った。

 

「あの、メルド団長、イグニス先生が言った通り、後方支援的な立ち位置になってもいいでしょうか」

 

「あぁ、それは構わねぇぞ。ただ、訓練は厳しく行くから、ついてこいよ?」

 

檜山はここで黙ったが、ここでそうはならない人物が1人いる。

 

「ちょっと待ってください。先生。俺達は全員で戦うと言ったはずです。南雲だけを参加させないのは不公平では無いのですか?」

 

勇者である。尚、この勇者は既に、アーデンがイシュタルに発言して作った、非戦闘の道を無かったことにして、完全に自分の都合のいいように記憶を作り替えていた。

 

「…お前は何を勘違いしている?先日のイシュタル殿の発言をもう忘れたのか?言っていただろう。戦う意思のある人だけを向かわせる、と。メルド殿も、それはご理解の上ですよね?」

 

「あぁ、俺もその様に聞いている。流石にステータスは驚きはしたが、坊主に意思がないと言うのならば、無理強いはせん」

 

「それに、ハジメは戦わねぇとは言ってねぇよ。ただ、今の状態で突っ込んだら危ねぇから、後方支援になった方がいいんじゃねぇかって言ってるだけだろ」

 

この場での纏め役もその様に聞いている。それでこの場は解決する筈。だが、それを与えないのがこの勇者である。

 

「それは…アーデン先生がイシュタルさんを脅したからですよ! そんな事をする様な男の意見を聞くなんて事は俺がさせません! それに、そんな物は甘えでしかありません! 普段から南雲は甘やかされてるからそんな結果になったんですよ!」

 

「テメェ言わせておけば…!」

 

「お前のその考えは早計すぎる。その独断で南雲を死なせる気か? 少しは落ち着いて物事を考えろ!」

 

「ぐっ…」

 

ノクティスは、流石に頭にきたようで1発やったろうか。と考えたが、それよりも先に、滅多に怒鳴らないイグニスが声を荒らげた事により、勇者は何も言えなくなった。小さくだけど、だの、南雲ばかり、だのとほざいているが、イグニスは聞く必要は無い、と判断した。

 

少しばかり雰囲気が悪くなったが、アーデンの話が出たこのタイミングが好機、と踏んだ1人が、手を挙げる。

 

「あの、メルド団長、アーデン先生、愛ちゃん先生。少し言いたいことがあるんですけど、良いですか?」

 

優花は、昨日とは打って変わって気合いの入った目で、そう発言する。

 

「あぁ、構わんぞ」

 

「えぇ、俺?何かやったっけ?」

 

「は、はい?何でしょうか園部さん」

 

「皆も、もしかしたらそう思う人もいるかもしれないから聞いて欲しい」

 

やたらと重要な事を話す前の雰囲気を出し、皆の注目を集める。

 

「おっと、言うんだね。大丈夫。きっと上手くいくよ…!」

 

プロンプトの呟きに周りにいた生徒は、何が?と疑問の顔をする。やがて、優花が大きく、声をこの部屋一帯に響かせる。

 

「私は、戦争に参加せずに、出来ることを探したいです。だから、もし心の中で、同じ意見を持ってる人がいるなら、正直に声をあげてください!」




如何でしたでしょうか。

うーん、話が繋がるように何度も会話を変えたりしましたが、味気ないですかね?

それに、ステータスもですが、原作の初期の段階のステータスを参考に、あの様な感じにさせて頂きました。

また、少々分かりにくい、なんだこの技能?という物もありますが、
人物設定の場を設けさせていただくときに説明したいと思います。


では、また次回。


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優花と愛子の想い

どうも、ゴアゴマです。


ノクティス達のガチ戦闘まではあと2、3話かかる場合がございます。もう暫くお時間を。


それでは、どうぞ。


「それはどういう事かな? 園部さん」

 

まさに今、勇気をだして考えを伝えた優花に、これまた恒例行事の如く突っかかる勇者。プロンプトの後押しは、彼女にとってどれほどまでに効果を発揮しているのかがわかる。昨日までの悩んでいた姿は一切感じられない。

 

「言葉通りよ。私は正直言って、この戦争に参加する程の覚悟も何も無いし、責任だってとれる自信が無い。

 

それに、本当は私のと同じ気持ちの人だっている筈よ。それを誰かさんが、無理矢理にでも潰したせいで、動けずにいるだけで」

 

何人かが心当たりがあるとばかりにぴくりと体を跳ねさせる。ここまで来ればもう一押しだ、とばかりに、一気に畳み掛ける。

 

「いい? 此処で私達が戦いを拒否しても、それは逃げじゃないと思うの。だって、責任が取れないことを無理にでも進める方が、その方が余っ程カッコ悪い気がするわ」

 

愛子は、優花の演説にポカン、と口を開けている。が、それは嬉しい誤算で、すぐに口の形をにっこりと笑いに変えた。

 

「だ、だが、この世界の人達はどうするんだ!? 皆で…」

 

「あんたは直ぐに、都合が悪くなるとこの世界の人達を引き合いに出すけど、それこそ脅しじゃないの?」

 

「は?」

 

「だって、そうでしょ? 本当は今にも人を殺す事を浮かべて、震えてる人だって居るのに、口を開けばこの世界の人が、皆で力を合わせればって。そんなの、一緒に戦わなければお前は卑怯者だって言ってるような物じゃない」

 

アーデンはこの言葉ににっこりとご満悦。あんだけ自分を悪者に仕立て上げたのに、まさかの勇者自身が脅してるじゃないかと、そんな事を言われればアーデンの性格上、笑わずにはいられない。

 

「ち、違う! 俺はそんな事…! そ、そうだ! アーデン! お前だな! まさかお前が園部さんを洗脳して、こんな事を言わせてるんだな!」

 

「えぇ? また俺? 嫌んなっちゃうなぁ。」

 

「惚けるな!! 皆を教え導く教師でありながら、なんて事をする!!」

 

「なんて事をしてるのはあんたでしょうが!!」

 

勇者は怯むしか無かった。自分はあれだけ園部さんを考えている つもり なのに、何故か悪いハズのアーデンではなく、自分に矛先が向けられてるのだから。

 

「アンタこそ何なのよ! その教え導く教師の4人の意見を全く聞かずに、勝手に話を進めたくせに!愛ちゃんがどれだけ自分を責めたか分かってるの!? こんな時ばっかり理想を口にするの止めてよ! お願いだからアンタは黙ってて!」

 

「うっ…」

 

完全に勇者は勢いを失った。だが、それでも反論しようと必死に言葉を考えていると、これまで何も言わなかった雫が、彼に向かって意見を述べ始めた。

 

「光輝。もういいでしょう。園部さんの意見を通してあげても。…本当は貴方が決めるべき立場ではないけれどね」

 

「し、雫。き、君はどうなんだ? 俺と一緒に、世界を救ってくれるだろ?」

 

「全く…また論点がズレてるわよ。

 

私は、そんな理由じゃないわ。ただ、ある理由の為に強くなりたいだけよ。今のままだと、心も身体も弱すぎるから。それだけ」

 

自分と同じ様に考えてくれてると思っていた雫にまで口を挟まれ、今度こそ、勇者は沈黙した。と言うよりも、これ以上余計な口を挟むならタダじゃ置かねぇ、といったグラディオラスの鋭い視線に気圧されたのもあるので、させられたといった方が良いだろう。

 

やがて、優花の言葉に背中を押された何人かが、手を上げる。

 

その人物は、宮崎奈々、菅原妙子の2名だった。彼女達も、愛子のあの状態を見て、自分達は果たしてこのまま行動を進めても良いのだろうか、と思い返し、このような決断をしたのだった。

 

「そう、取り敢えずは2人…か。今のままがいいって言うなら私は何も言わない。けれど、まだ潔く言いたい事を言えないままにしているなら、包み隠さずに申し出て欲しい」

 

愛子も、自分の中で言いたい事が纏まった様で、優花に続いて自分の想いを語る。

 

「言いたい事は殆ど園部さんが言ってくれましたけど、私からもお願いです。多分、私が何を言っても、意見は変わらない人達もいるかもしれません。

 

ですが、後からでもこの戦争に参加したくない、と考え始めたら、迷わずに先生を頼ってください。私は生徒を見捨てるなんてことは絶対にしません」

 

結局これ以上動く人は現れなかったが、この時の愛子の発言は、後にある生徒達の心に届く事になるのだが、この時はまだ何も知らずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、すっかり討論になってしまったが、最後にお前さんたちのプレートも見せてもらって構わないか?」

 

「あぁ、その点についてこちらも聞きたいことがある」

 

一悶着が着いた後、ノクティス達はプレートの異常についてをメルドに相談したが、結局分からないで終わってしまい、自分達で少しずつ解明していくしか道は無くなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからは、トントン拍子で日が過ぎていった。参加組は、教官の教えを参考に訓練をハキハキとこなし、非参加の3人と愛子は、それぞれ王国で何やら情報収集や、人助け等を行っているようだった。

 

また、イグニスと愛子はそれぞれの日程が終了した後、情報交換や、現時点のそれぞれの生徒達の様子について話していた。参加側の生徒達の話を聞く度に、胸を痛める様な表情を浮かべる愛子を、イグニスは決して見放すことなく、再び元気が戻るまで励ましながら話し合った。

 

 

 

 

 

ある日の図書館にて、訓練の休憩時間を利用しハジメは、この世界の事や、錬成師について、魔物の特徴など、様々な事についての知識を身につけようとしていた。

 

そんな様子に何も知らない人達は批判的な視線を浴びせるものもいたが、決まって特定の人物が登場すると、顔を引き攣りながら知らないふりをする。その人物とは、4人の事だが。

 

「よ、ハジメ。熱心だな」

 

「あ、先輩方。お疲れ様です」

 

「この本の量は…。すげぇな南雲。学校でのやる気のなさはどこに行ったんだ?」

 

「いやぁ、あの時とは状況が違いますから。少しでも知識を身につけておけば、何かあった時に役に立てると思ったので」

感心したようにハジメを褒めたたえ、

 

「誰かさんも同じ位になってくれねぇもんかねぇ。な? ノクト」

 

「うっせぇな。最低限はやってんだろうが」

 

同時に訓練中も無気力に行う事が多いノクトへの皮肉を言い出した。それをよそ目に、ここに来た本題を話し始めるイグニス。

 

「それで、南雲。頼んでいた物の状況はどうだ?」

 

「あ、はい。大体の形は出来上がってます。後は、実戦で使えるように調節すれば完成しますよ。プロンプト先輩にも手伝っていただいたお陰で、予定よりも速いですね」

 

「いやぁ、俺とハジメが力を合わせればそのうちミサイルでも作れんじゃないかなって思ったよ! あ、調子乗ったわゴメン」

 

 

4人は、ハジメに武器の生成をお願いしていた。彼等は、訓練時はそれ用の武器を使って行っているが、イマイチ馴染まず、このまま戦闘に向かっても上手く立ち回れるか不安を感じていたのだった。

 

そこで、錬成師であるハジメに、自分達の武器を頼みに来たのであった。流石に1人だけに任せるのはと、技能に武器精製特化も言うものが備わっていたプロンプトを助手に入れ、なるべく性能の良い物を作ろうとしていた。

 

「それはそうと皆さん、良いんですか?貴重な休憩時間を潰してまで…」

 

「あ? 何言ってんだよ。後輩の為にその休憩時間を使って何が悪ぃんだよ」

 

「そうそう、俺達がここに来たいからここに来てるんだよ〜。折角だから一緒に情報収集しない? 1人よりも皆でやった方が捗ると思うけど」

 

「…本当にいつもお世話になってます…」

 

それから、次の訓練時間が来るまで、5人で役割分担をしながら、情報を集めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、更に何日かが経過したある日。ハジメはまた休憩時間を活用して、情報収集の為に図書館へと向かっている道中、日頃の鬱憤を晴らすようにタイミングを見計らって現れた檜山達が、行く先を阻もうと立ち塞がった。

 

「よぉ、南雲、どこ行く気?」

 

「まさか、ヲタクは1人寂しくエロ小説でも読み漁りに行くんですか!?」

 

「うわ、キモー。いくら発散出来ないからってそれはないわー」

 

「せめて休憩時間くらい俺らみたいに有効活用しててさねぇと。なぁ?」

 

また絡まれるのか、と呆れてため息をつきながら、素通りしようと早歩きで横を通ろうとする。

 

「おいおい、無視すんじゃねぇ、よ!」

 

「グッ!!」

 

思い切り横から蹴りを入れられ、その場にうずくまるハジメ。何が可笑しいのか、気持ち悪い笑い声を浮かべながら嘲笑う彼等。

 

「うわ弱ー! 弱すぎて話にならねぇんだけどー!」

 

「なぁ、厄介なノクティス達もいねぇし、ここで南雲に稽古つけてやろうぜ!」

 

「良いじゃねぇか! お優しい俺達が直々に教えてやれるんだ、感謝しろよー?」

 

「じゃあ、やろうぜ!」

 

それをきっかけに、ハジメをリンチにしようとそれぞれが攻撃や魔法の詠唱を始める。

 

が、それも直前に彼らに地獄が訪れる。

 

「おい、何やってんだ?」

 

いつものように図書館に居るであろうハジメの所に行こうとしたノクティス達が、運良くその場に現れたお陰で、ハジメはそれ以上の攻撃を受けることが無かった。

 

「ゲェ!? ノクティス先輩!?」

 

「それだけじゃねぇ、プロンプト先輩とグラディオラス先生とイグニス先生もいやがる!!」

 

「ねぇ、俺達が居ることの事実確認なんてどうでもいいよ。何をしてるのって聞いてるんだけど?」

 

「イグニス。南雲にポーションを使ってやれ」

 

「了解した。南雲、口を開けれるか?」

 

イグニスはすぐさま技能、ポーションボックスにより何処からか取り出した謎の形の飲料水を取り出し、ハジメの口へと注ぐ。すると、ハジメを襲っていた蹴りによる痛みは自然と引いていき、すっかり回復した。

 

「あ、ありがとうございます。イグニス先生」

 

「話は後だ。とりあえず下がっていろ」

 

イグニスに再び軽く礼を言い、彼らの迷惑にならない位のところまで下がる。

 

「い、いや勘違いしないで欲しいんですよ。俺達は南雲に特訓させてあげようとしただけで…」

 

「特訓? にしては南雲がうずくまっているにも関わらず多勢で攻撃しようとしてたじゃねぇか。あれのどこが特訓だと言いやがる?」

 

言い逃れ出来なくなった檜山達は、苦し紛れに逆ギレする。

 

「い、いちいちうるせぇんだよ!! 事ある事に俺達の邪魔しやがって!! お前らやっちまえ!! どうせ強くなった俺達には先生だろうと適わねぇだろ!!」

 

そう言って4人は、ノクティス達を捻り潰そうと襲いかかってきた。だが、彼等は物怖じすらせず、プロンプトですら怯えた様子を見せない。余程に頭にきているようだ。

 

「流石にもうキレたわ。消してやる…!!」

 

「俺の友達に手を出した事、後悔させてやるよ…!」

 

「テメェら見てぇなガキは本当に世話がやける…。来いよ。その腐った根性ぶっ壊してやるからよぉ!」

 

「本来なら貴様らの様な奴等は相手するに値しないが、今回ばかりは例外だ。今晩の料理のメインディッシュにしてやろう…!!」

 

ここで、檜山達の血祭りレースが開催されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて、騒ぎを聞きつけた香織達が、その場へと血相を変えて走ってきた。

 

「何やってるの!?」

 

香織達が到着すると、そこはもう悲惨な状態であった。

 

暴走を起こした檜山達が、傷一つ付けること出来ずにノクティス達に完膚無きまでに叩きのめされ、地に伏せていた。

 

「南雲くん!? 何があったの!?」

 

香織や雫はすぐ様、檜山達が原因で事が起こったという事をを理解し、近くにいたハジメに説明を求める。そして起こった事を全て話し終えると、檜山達を鋭い眼光で睨みつけた。が、空気を読まない1人が、全く別の人物を責め立てる。

 

「先生方! どういうつもりですか!! 檜山達をここまで痛めつけるなんて!」

 

「あ? 何言ってやがんだテメェ。南雲の話を聞いてなかったのかよ。先に喧嘩を売ってきたのはそっちだぞ?」

 

「だとしても、教師や先輩である貴方方が暴力でねじ伏せるなんてどうかしているにも程がある!!」

 

明らかに場違いな意見だった。確かに、暴力はいけないものだし、教師が生徒に奮う事などあれば体罰となる。

 

だが、そもそもそれはこの世界では通用など全くしないのである事を勇者は理解などしていなかった。しかも、彼等は身にかかる火の粉を振り落としたに過ぎないと言うのに。

 

「いい加減にしなよ。何度君は俺達を悪者にすれば気が済むわけ? もう少しその頭で状況を上手く整理しようと考えられなかったの?

 

俺達よりも先に手を出したのはあっち。その前にハジメにイチャモンをつけて襲いかかったのもあっちだよ?」

 

「それは…。檜山達は南雲をどうにかしようとしていたんだろう。訓練すら真面目に行わず、図書館にばかり篭って読書に耽っているそうじゃないか。休みの時間であっても強くなるために訓練をするべきなのに、南雲は努力すらせずに怠けてばかりいるから、それを檜山達は直そうとしていたのかもしれないでしょう? それを止める方が可笑しいですよ!」

 

「ちょっと光輝! それはあんまりにもじゃ…」

 

「雫は黙っていてくれ! 俺は今南雲達と…」

 

止めに入った雫を振り払い、また説教に入ろうとした勇者だったが、それ以降は続かなかった。ノクティスが、とても目に捕えることが出来ない速さで勇者の顔面をぶん殴ったからである。

 

そのまま彼はゴロゴロとすっ飛んでいき、壁にぶつかった。

 

「な、何をするんですかノクティス先輩…」

 

「黙れ」

 

批判すらあげれなかった。それは周りも同じで、ノクティスの発言以降何故か誰も口を開けることすら出来なくなっていた。まるで、王の様な威厳に…。

 

「全てを知った様な素振りでハジメを語ってんじゃねぇよ。サボっている? 怠け? ふざけんな。ハジメはな、俺の数倍努力してんだよ!!」

 

《認めちゃったじゃねぇか!!》

 

思わずの自虐ネタにツッコミを入れてしまう仲間御一行。

 

「いいか?お前はまた忘れちまってる様だから、もう1回説明してやる。

 

ハジメは、俺達が戦いやすい様に、後ろから支えろってメルド団長にも言われてた筈だ。だから、ハジメが無理して前に出る必要はねぇ」

 

「な、何を言って…」

 

「それにハジメは、現時点で判明している魔物の弱点とか、様々な事を調べてくれてんだ。これを努力と言わず、なんて言えばいいんだよ?

 

悪ぃけど、俺はお前よりも、何を言われても自分のやるべき事を見つけて、胸張って生きているハジメの方が何倍も評価されるべきだと思う」

 

「なぁ!?」

 

「おいノクト。その辺にしておけ。明らかにオーバーキルだ」

 

止めると同時に、言いたいことを全て言いきったのか、ノクティスは勇者に背を向け、ハジメを連れて図書館へと向かった。

 

「お前にはハジメを責める資格はねぇ。悔しいなら責めるよりもその考え方を改めやがれ」

 

最後にそう言い放ち、真っ直ぐ歩み始めた。

 

「…クッ!!」

 

悔しさで何も言えないのか、納得がいかないのか、勇者は不機嫌な足取りで何処かへ向かってしまった。残された3人は、先程のノクティスについて疑問を浮かべていた。

 

「あれは…ヤベぇなんて物じゃなかったな」

 

「えぇ。私も、立っているのがやっとなくらいだった」

 

「怖かったぁ…。イグニス先生達も少し辛そうな顔してたもんね」

 

実はあれは口を閉ざさせるだけには留まらず、怯んでその場にへたりこんでしまう程の圧を感じたのだ。

 

今その当人は、ハジメと共に気楽そうに喋りながら情報収集しているのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、異変はそれだけではなかった。

 

先程のノクティスの謎の圧が発動すると同時に、一瞬、グラディオラス達3人はありもしない記憶が頭の中を駆け巡った。

 

謎の化け物を相手に死闘する自分達、階段を登っていく一人の男を死守すべくなぎ倒して行く自分達。

 

役目を終え、眠った様に椅子に座る王、ノクティスを悲壮な顔付きで見つめることしか出来ない自分達。

 

どれもあった事の無い記憶の筈なのに、本当にそれを見届けたような感覚がしてしまう自分達を押さえ付け、ハジメを気遣いながら歩いて行くノクティスをすぐ様追っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王の復活は近い…。




如何でしたでしょうか。

ノクティス、無自覚ながら王の覇気を発動する。
でした。

また、今回愛子達が主張した事により、
普通よりも早い段階で戦争から身を引く人達が現れました。
それでもまだまだ意気込んでいるヤツらは多いですが…。

では、また次回。


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友の誓い

申し訳ございません。およそ1ヶ月半も放ったらかしにしてしまっていたゴアゴマです。
風花雪月同様、時間が空かず、全く投稿する事ができない状態でした。

空いた時間にどんどんと話を進めていこうと思いますので、よろしくお願いします。

では、どうぞ。


「にしてもさ、急すぎない?いきなり明日って言われても困るでしょー」

 

「仕方ねぇだろ。言われちまったもんはどうしようもねぇし」

 

何時もと同じ様に、また訓練終わりの夜がやってきた。

それぞれ疲れきった身体を休め、不安と新しい事への期待を込めて早くに眠りにつく者もいたが、某4人はその中の一人の部屋に集まり、明日に向けての会議を始めていた。

 

というのも、今回の訓練終了後そのすぐ後に、メルドから

「明日から自主訓練の一環として、オルクス大迷宮へと遠征に向かう。まぁ、明日頑張れるだけの気合いは補充しておけってことだな! てことで、今日はゆっくり休めよ!」

 

と言われたことをきっかけに、この4人はこの様な集まりをしなければならなくなったわけなのだ。

 

何故か。それはもう、一部を除く生徒達を思い浮かべればすぐに分かるであろう。

 

「ね、イグニスはどうだった。やっぱりここに集まる前、他の子達の様子とか気になったでしょ」

 

「…あぁ。皆が皆、特に天之河を中心に浮かれている様子だったな。それ以外は不安で押しつぶされそうな表情だったりと、喝を入れたくなる程に好ましくは無かったな」

 

簡単な話だ。冷静に判断して対処出来る者が自分達位しかいないのである。

勿論、自分達の全てを過信している訳では無い。

只、周りが不安定な状況の中、判断を全て彼らに任せ、

ただ従って動くのには余りにも危険過ぎる。

 

今の生徒達の様子は、丸腰で火の海へと飛び込む阿呆のよう、飛ぶ羽をなくした鷹のようだと、危なっかしく、又、脆く感じたのだ。

 

「どうする? 俺達で化物共を薙ぎ払って危険から遠ざけるか?」

 

「いや、それは得策とは言えない。過度な突撃は命の危険もある。それに、これは訓練だとメルド団長殿が言った筈だ。ある程度獲物を残しておかなければ、あの子達の成長にもならない」

 

「じゃあ、いっその事後方で待機とか?」

 

「そりゃお前の願望だろうが!」

 

「うっさいな! 怖いものは怖いんだよ!」

 

「じゃ、大剣使いの1番強い俺が薙ぎ払ってくるってのはどうよ」

 

「人数がお前だけになっただけで、根本的な案は先程と変わっていないだろう。そもそも、俊敏性の低い上に大剣で立ち回ると言うのは、囲まれて袋叩きにされても文句は言えな」

「あぁ分かった俺が悪かった! いちいち言い過ぎだろうがお前は! 気にしてること刺してきやがって!」

 

「やっぱりグラディオは脳筋なんだねぇ」

 

「あぁ?お前のひ弱思考よりマシだろうが」

 

「慎重って言ってくれないかなぁ!? 脳筋ゴリラより柔らかい思考回路です〜!」

 

「誰がゴリラだヒヨコ頭!」

 

「うっさいゴーリラ!」

 

「…頼むから、そういう会話は、他所でやってくれ…。恥ずかしい…」

 

「あー、えっと、気にすんなイグニス。俺らではいつも通りの展開だろ」

 

「それはそれで胃が持たないんだ。お前に分かるか?

1番まともだという理由で騒ぎの原因全て押し付けられた時の俺の気持ちが…!」

 

「…あー、すまん。ちょっと何も言えねーわ」

 

しかし、後々になってくると、会議とは名ばかりのただの提案会になってしまっているのは、気にとめない方向で行く事を推奨する。

 

この会話だけを聞くと、少し真面目さが感じられないが、本人たちは至って真剣である。誤解はしないで欲しい。多分。

 

「んじゃ、四方に散らばって、各場所の応戦を行うってのはどうよ」

 

そんな締まらない雰囲気の中、ノクティスが仕切り直しだとばかりに注目を集め、この様な案を出した。

 

「四方、か。だがそれだと、明らかに戦力にばらつきが出る。それに、もし1人でも苦戦した場合、援護に向かうのにもかなりの労力が必要ではないか?」

 

「あぁ。だからこそ、密かに練習してきたシフトを使う」

 

『シフト?』

 

聞きなれない単語に、3人はそのまま聞き返す。

 

「ほら、俺の技能の所にあったやつだよ。何だかこれだけ異様に存在感があったから、何よりも早く習得しようとしたら出来るようになった」

 

そう言うと、ノクティスは立ち上がり、どこからが取り出した短剣を持った。

次から次へと謎が増えていく様子に、プロンプト達は戸惑うばかりであったが、次の途端に、血相を変え始めた。

 

ノクティスが、短剣を前に飛ばしたのである。

 

「ちょ! ノクトォ!?」

 

「お前、何やって…ん?」

 

絶叫するプロンプトをよそに、目の前では、青い残像を残した空間と、いつの間にか短剣を拾い、新しいおもちゃを買い与えられた子供のような表情をしたノクティスが、こちらの反応を伺おうとしている光景があった。

 

「…ノクト、今のそれはどうやったんだ?」

 

「ん?まー、簡単に言えば、瞬間移動、的なやつか?

武器を投げて、その方向に自分も素早く移動出来る、みたいなやつなんだわ。で、どうよ、かっけぇだろ!?」

 

「あー、うん。カッコイイんだけど、何だろう。素直に喜べない」

 

「ハァ? 何でだよ。そこは素直に褒めたままで終わらしとけよ」

 

「…いやぁ、なんていうかねぇ。ちょっと今のやつがあんまり俺達には歓迎出来ないって言うか…」

 

「…お前ら、大丈夫か?」

 

ノクティスは不審と不満を抱えた。自分の新しく習得した力を披露したそのすぐ後に、仲間達の様子が急によそよそしくなった事が、今の彼には凄く不快な反応であった。

 

彼の心境を無視するかのように、イグニスは自分達の疑問をぶつけるかの如く、ノクティスに詰めより、質問を投げた。

 

「ノクト。そのシフトという能力なんだが、本当に今初めて使ったものなのか?」

 

「は? んなもん嘘ついてどーすんだよ。ここに来て初めて使った力だよ。 …まぁ、でも、この力を使えば、確実に動きやすくなっていいと思うんだけどな。俺は」

 

「いや、その、ノクト。その力を使うのは、やめにしないか?」

 

ノクティスは更に奇怪だとばかりに表情を歪ませる。

段々と謎に焦り始めている3人を見て、本気で医者に見てもらった方がいいのではないかと考え始めているようだ。

 

「は? お前らマジでどうした? この力があるとじゃないとじゃ、全然違うと思うんだが」

「いいから使わないでくれ!!」

 

「…っ? イグニス?」

 

体がピタリと止まる感覚がした。今のノクティスは、今自分の前で大声を上げた彼の顔を直視することしか出来なかった。

 

それ程までに今のイグニスの顔は、普段の冷静さが見当たらず、暴走しかねない程に必死な様子だったからである。

 

「っ、すまない。少し、訓練の疲れと明日の事で、少し気が動転していたようだ」

 

咄嗟に今の発言を取り消そうと、誤魔化しを行っている事など分かってしまったが、敢えてノクティスは声を喉の奥へとしまい込んだ。

 

何故だか分からないが、今それを聞けば、イグニスが更に追い詰められる様な気がしたからだ。

だからといって、他の2人に尋ねるという気にもなりはしなかった。同じ結果になる事が目に見えたからだ。

 

 

何故こんなにも、彼等が焦っているか。

 

それは以前、ノクティスが天之河に対して怒りをあらわにした時、王のような厳格な威圧を放った時に原因がある。

 

ノクティスがそれを発揮している時、同時に彼等の頭に、起こったことの無いはずの出来事が、一瞬のうちに次々と流れ込んでくる現象が起きた。

 

その中に、先程のシフト、と呼ばれる能力を駆使し、敵だと思われるモンスター達を圧倒しているノクティスの場面もはっきりと映し出されていた。

 

本来ならば、偶に勝手に頭に浮かんでくる様なものだ。とそこまで気にする事はないのだが、何故かこの出来事だけは、頭の中から出す事が出来なかったのだ。

 

頭をよぎる度に、何故かは分からないが、ノクティスがそのまま何処かに消えてしまうような気がして。

 

映像の一つ一つが、とても印象深く、儚く、そして悲しく。彼等の記憶へと刻み込まれたのだ。

 

だからこそ、彼等はノクティスに、その一つであるシフトを使って欲しくなかったのである。

 

無論、そんな事をノクティス本人に打ち明けられる筈もない。

これがきっかけで、どうにかなった、等と想像したくもない出来事が実現してしまったら、と。

 

「…悪い、イグニス。その頼みは聞けねぇ」

 

「…ノクト…!」

 

「お前らが何を思ったか、なんて分からねぇさ。何で止めてくんのかも意味不明だし。

けどよ、お前らが束で、しかもイグニスがこんなになってまで止めてくるってことは、俺にこの力を使って欲しくないって事なんだろうなってのは分かる」

 

「…なら、そのまま使わないで良いじゃねぇか」

 

「ばーか。そんなんでアイツらの事を死なせちまったら意味ねーだろうが」

 

そこまでノクティスが言うと、急に体が浮くような感覚がして、直ぐに胸ぐらを掴まれたのだと理解した。

それも、今1番混乱しているであろう、イグニスが、だ。

 

「それでも! 俺達はお前にあの力を使って欲しくないんだ!

 

…決められた使命だったとしても、もうあんな思いをするのは!!」

 

「…決められた使命?」

 

咄嗟に出てきた言葉を思い返し、イグニスは自分が今、如何にずれている発言をしたかを思い出す。

まるで、自分のようで自分ではない誰かが、自分の体を操って言葉が出てきた様に、するり、と彼の口から身に覚えのない言葉が出てきていた。

 

「っ? 俺は何を…」

 

掴んでいる手を離し、ノクティスを楽な様にする。

彼が怒っている様子はなく、しっかりとイグニスの目を見たまま、口を開いた。

 

「…何を言ってるのかはさっぱりだ。でも、俺の事を心配してくれてるってのは分かるわ。

…サンキュな。イグニス」

 

「…」

 

「でもよ、お前らが訳わかんねぇ事言ってるのと同じでよ。何故だか知らないけど、使える力を全て使って、今度こそ俺の手でって、この間からそう思うようになってきてるんだよな。

自分に力が無かったから、とか、

もっと早く強くならねぇと、とか、

最近はずっと、気が付くと頭の中でそればっかり考えちまってさ。主に訓練の時」

 

「…そうか。力の事ではないが、お前も…」

 

「…何でかは知らねぇさ。そんな出来事あったっけとしか思えねぇし。けど、何かしら意味があんじゃねぇかって思うんだわ。もしかしたら、前世でやり遂げられなかったことでもあんじゃねぇのか、とかな。

 

…お前らに辛い思いをさせてるってのは理解してる。

けど、ここで俺が使える力を使わなかったら、きっとこの頭に浮かぶ事が現実になるんじゃねぇかって思うと、俺は、これを使わずにはいられねぇ」

 

「…ノクト…」

 

少し、部屋に沈黙が流れる。外から吹き付ける風が伝わるほどに静かで、ノクティス達の決断の行く末を見守っているかのようにも思えた。

 

「…はぁ~。相変わらずノクトは自分勝手だよねぇ。こっちの気持ちも少しは受け取ってくんないかなぁ」

 

「うっせぇな。カッコつけてたんだから素直に、はいかいいえで終わりにしてくれよ」

 

完全に、とは言わないが、少しだけ緊張が解け、いつものおどけた雰囲気が戻ってきていた。

 

しかし、イグニスは未だに険しい顔のままで、そのおどけた中に混じることは出来なかった。

どうやら、とても根強くトラウマになってしまっているのは、イグニスの様だ。

 

「…なぁ、覚えてるか?俺達が4人で山登りに行った時の事」

 

「あれさぁ、ほんとにヒヤヒヤしたからね!? 俺が死にかけたわ!」

 

それは、転移前の出来事。ある日の夏に山登りに出かけた4人は、頂上の手前のところの険しい坂道を登っていた時の事。よく周りを見ずに足を前に運んでいたノクティスが、スレスレの所で体制を崩し、絶体絶命な状況になったことがあったのだ。

 

「あの後不注意だったお前を3人でこれでもかと言うほど怒鳴り散らしたな。全く、俺も心臓が縮んだぜ」

 

「悪かったっての…。でもよ、あん時イグニスが真っ先に手を出して、俺の事を引っ張り上げてくれようとしてくれてたよな」

 

「あん時のイグニスカッコよかったよねー。頭脳だけじゃない、アニキみたいな感じだったし!」

 

「…それは俺がひ弱だと言いたいのか?」

 

「痛い痛い痛い痛い!! こめかみをグリグリしないでぇアダダダダダダダダダダ!!」

 

プロンプトの何気ない一言に、頭にきた様子のイグニスがオカンの一撃をくらわす。

プロンプトはここまでで2人にボコボコにされている。

ドンマイというか、自業自得というか。

 

「…もし、まだ俺のことが心配ならよ。

…手を差し伸べてくれねぇかな。あの時みたいによ」

 

「…手を…」

 

「そうだね。ノクトは1人で突っ走る癖があるから、しっかりと手綱を握っておいた方がいいかもね!」

 

「おい、俺はペットか!?」

 

「まぁ、危ない事仕出かしそうになったら、血祭りにでもしてやろうか」

 

「お前がやるとシャレになんねぇから止めろ!

…安心しろよ。お前らが手を離さねぇ限り、俺はお前らを置いて消えたりしねぇよ」

 

「ノクト…。

 

分かった。お前を見失わないように、俺はお前の手を離さずに、お前を救うことを誓おう」

「あぁ。よろしく頼むな」

 

この後、ノクティスの四方に分散の案で決まり、

明日に向けて更に4人の絆を固くし、それぞれ自分の疲れを癒すために、それぞれの部屋へと戻って言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会議が終わった後のイグニスは、そのまま自分の部屋へと帰った。

部屋の前で立ち止まり、そっと扉を2回叩く。

そうすると、可愛らしい返事が聞こえ、トトトトと足音が近づいてくる。

 

やがて扉が開かれると、そこには、イグニスの妻(非公認)の愛子が姿を現した。

 

「あ、イグニス先生、夜遅くまでどこに行ってたんですか? あまり夜更かしはメッ! ですよ!」

 

「すまない、愛子先生。少し、明日の事でノクト達と話し込んでしまって。」

 

すらっと話が進んでいるが、実はこの2人、同室であり、もうこの光景も何度目なのかと言うくらいである。

 

話から察した愛子は、直ぐにイグニスを中に入れ、

一息を着くために椅子へと座らせた。

 

「すみません。とんだ勘違いな事をしてしまって…」

 

「いや、誰だってこんな遅くに帰ってくれば心配する。俺の方こそ、すまない」

 

お互いがお互いに律儀である為、こういう風になると1歩も譲らない、という、真面目同士のイベントのようなものが発生した。

まぁ、いつかどちらかが諦めて、話を変えるのだが。

 

「あの、先生。少し、お願いがあるのですが」

 

「どうした?愛子先生」

 

「…むぅ…」

 

「…?」

 

「…あれだけ2人きりの時は名前で呼んでと言ったでは無いですか…」

 

「…君だって俺の事を先生と呼ぶだろう」

 

「わ、私はまだ良いんです!! その、多分言ったら、心臓が持たないので///」

 

「…はぁ、我儘過ぎるのもどうかと思うが?」

 

「わ、私のことはいいので、名前で呼んでください…!」

 

「…」

 

「…」

 

「…愛子」

 

「〜!!」

 

「…保てていないのだが…」

 

我儘発言をした挙句、願いを叶えてもらっても悶絶する、お茶目というか、天然というか。

それとも、イグニスという男の前だからできる行動なのか。

 

「しょ、しょれより、本題に戻りましょう…」

 

「…そうだな。それで、話とは?」

 

愛子は一旦息を吸い直し、そして、イグニスの目をじっと見たまま、口を開く。

 

「イグニス先生。明日、オルクス大迷宮へと遠征に行くと言う話を聞きました。それも、園部さん達以外の全員が」

 

「…あぁ」

 

「知っての通り、私は、教師です。生徒達が傷付く事や、犠牲になる事は、耐えられません。

…私、畑山愛子という教師としてのお願いです。

どうか、あの子達を危険から守って頂けませんか?」

 

「…それは勿論だ。あの子達の誰かがもしも、ということがならないように、死力を尽くそう」

 

そう答えると、愛子は少し満足そうな表情をした後、

イグニスに近づき、そのままひしっと抱きしめた。

 

「…ですが、私は、畑山愛子という女としては、貴方を大迷宮には行かせたくありません。本当なら、貴方をここで引き留めて、一緒に逃げたいです」

 

「…!愛子…」

 

「ですが、それは私の我儘。それは生徒達を見捨ててくださいと言っているようなもの。でも、先生としての願いを突き通せば、貴方を見捨てるという決断になってしまう」

 

「…いや、それは…」

 

「私は、とても悔しいです…。自分の手では生徒は愚か、貴方までも助ける事が出来ないなんて…」

 

愛子の震える声を聞きながら、イグニスは無意識に、先程の自分と愛子を照らし合わせていた。

ノクティスの意見を尊重したい自分と、危険な目にあって欲しくない自分。

 

それと同じように、彼女も同じように苦しんでいたのだと。

 

「…でも、今まで貴方は、私に寄り添ってくれた。

私が教師としてどうすればいいか分からない時も、道を照らしてくれた。生徒が事故に巻き込まれそうになって、貴方が助けに行った時も、どちらも無事に帰ってきてくれた…。だから…」

 

1度、愛子の身体がブルっと震える。きっと、色々な事をはきだすのを我慢し、イグニスを送り出す覚悟を決めたのだろう。

 

「私は、あなたを信じます。だから、最後には、絶対無事に、帰ってきて下さいね!」

 

その言葉を聞くと、イグニスは愛子を抱き返した。

その抱擁には、約束する、という意味が込められていた。




如何でしたでしょうか。

やはり、ゴリ押し感が否めない…。

久しぶりで訛ってないかな…。

では、また次回。


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大迷宮オルクス

どうも、ゴアゴマです。

FFはBGM部門でも評価されていますが、15も素晴らしいBGMが沢山あります。

私は、15のBGMは全部の中でもトップクラスに入るくらいには好きです。

特にイフリート戦のBGMが1番ですね。(曲名は言えないのでわかりやすい表現で)反則級にカッコイイです。

皆さんは15のどのBGMが好きですか?

では、どうぞ。


不安渦巻く月下も過ぎ去り、時は翌日。生徒一行はついに目的地であるオルクス大迷宮へとつながる入口付近の広場まで来ていた。

 

完全武装で来ている彼等を他所に、周辺の様子はやけに明るげで、まぁ察しはつくだろうが1部の生徒達はどことなく居心地の悪さを感じていた。

いや、むしろこのような状況でズカズカと迷宮に入っていけるというのがどうかしていると言った方がいいのかもしれない。

 

「…にしても俺が先頭とか無いでしょぉ…」

 

そしてここにも周りの様子に気付かないほどに参っている人が一人。プロンプトである。

 

昨夜、ノクティスの意見が通り、四方にそれぞれ1人ずつ派遣され、周りの援護をする事になっている。

とはいえ、実際はそんなに4間隔遠い訳では無いのだが、何時何処から狙われるか分からない為、この体制で行く事になったのだ。

 

「ボヤいたって仕方ないっスよ。先生方曰く、プロンプト先輩が加わる事で先頭の負傷リスクがなんちゃらかんちゃら〜って事らしいですし」

 

「いやー、そういう問題じゃないんだよ坂上君。確かに武器的に先頭ら辺には欠かせなくなってくるけどさぁ…。フツーそこは先生じゃないの? 」

 

場を有利にする為には得策な考えであるが、司令塔が前では無いことに不満を持っているプロンプトだが、グラディオラスに矛先を向ける素振りを見せると雫に冷酷な眼差しで見られる為、当たり障りがないようにボヤいていた。

 

ただ、何も先頭が嫌な理由がそれだけならまだ良かったのかもしれない。彼はもう一つだけ、

 

「少しは反省したのか? 皆をあんなに怯えさせた事に対して」

 

「おっとぉ、お口の態度がなってないなぁ。そんなんじゃ、帰った時に不良扱いされちゃうんじゃない?」

 

「話を逸らすな! お前など教師でもなんでもない、ただの人殺しだ!」

 

「酷いなぁ。何時俺が君達を犠牲にしたの? 人となりと言動だけで殺人鬼扱いしないで欲しいなぁ。てか、君こそ論点がズレてるような気がしてならないんだけど…」

 

プロンプトの前では、この世界に来て険悪の仲にになった勇者とアーデンが揉め合っていた。

別にただ争っているだけなら五月蝿いだけなので放っておけばいい。

 

ただ、せめて状況を考えて欲しい。ここは何処だ? 今は何をしに行っている? 出発前に一悶着して置けばすむものを態々ここにまで来てやるな。と、口には出さないものの、周りに引かれるくらいに顔に出てきてしまっていた。

 

「プロンプト先輩も! グラディオラス先生方が不真面目な貴方を特別評価してまで危険な位置に貴方をおいたのですから、もっと取り組む姿勢を考えたらどうなのですか!?」

 

(そんであの勇者くんもさぁ、たまに俺にも矛先向けるの止めてくれないかなぁ。恥ずかしいったらありゃしないよ。ホホホ…)

 

どういう訳か、無理矢理先頭にされた事を勇者(笑)は、

プロンプトは先生のご厚意によって先頭に組み込まれたのだから、不真面目な態度など許されるべきではないと解釈しているようで、何かとプロンプトの顔を目に入れては癇癪を起こして来ていた。

 

その様子を感じさせる顔にさせている1つの要因として自分が入っている事など、全く分かっていなかった。

酷く言えば、自分こそ迷惑をかけているんだという事には、触れることもなかったのであった。

 

その様子にプロンプトは更に顔を沈ませると、番犬の如く吠えてくる。これに雫は呆れを通り越して怒りが込み上げており、拳をわなわなと震わせ、勇者の親友である龍太郎でさえ顔が死んでいた。

 

「お前達、いい加減にしろ。遠征訓練とはいえ、気を抜けば命を失いかねない場所だ。必要以上の言い合いは程々にしておけ!」

 

やがて、先程までは無視を続けていたメルドも痺れを切らし、強制的に黙らせる事でこのいざこざは幕を閉じた。ちなみにアーデンは元々煽る事だけしか目的に無いため、満足したのか勇者から距離を取っていった。

 

漸く静かになった所でふと後ろを振り返ると、後ろで苦笑いを浮かべながら手を縦に振るノクティスと、左(プロンプトから見ると右)には最高に殴りたくなる顔をしたグラディオラス、右にはやや申し訳なさげな顔で見るイグニスがいた。

 

(うわぁすっごいなぁ。その生意気なお顔に回し蹴りを喰らわしてやりたい。)

 

拠点に帰ったら、イグニス以外を清々しい程までにいたぶり尽くしてやることを決意したプロンプトは、前からかかる出発の声を聞き、前へと歩み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迷宮に入り暫く経ったが、最初から今現在まで生徒達の目に入ってくるのは、何かに照らされて緑色に輝く道中だった。この迷宮は緑光石と呼ばれるその名の通りの鉱物が採れ、その光が漏れてこのような光景になっているのだと言う。

最初の内は綺麗だ、と感じていたが、ずっとこれを見続けていると目が疲れてくる。辺りを見渡せば、目をシパシパと開け閉じを繰り返している生徒がちらほらいた。

異常をきたす生徒が出る前に、この空間が終わればと考えた。

 

その願いが通じたのか、やがてドーム型の開けた空間に出た。ゲーム風にいえば、何か起こりそうな部屋、のようである。

 

それもまた予言の如く、所々に空いている隙間から、毛玉のような物体が、わさわさと湧き出てきており、

これにはプロンプト、血の気が引いてしまった。

 

想像して欲しい。いきなり無数の穴から、何かが一気に出てくるなんて状況、おぞましい事この上がないだろう。例えば…いや、止めておこう。これで気分を害してしまったら申し訳が立たない。

 

「よし、丁度いいのが出て来たな。あれはラットマンと言う魔物でな、すばしっこい奴だが、それに慣れれば大した奴らではない。今のお前らには肩慣らし程度だろうがな! よし、まずは光輝達が相手をとれ!他は下がって待機だ! だが気を抜くなよ、後ろに回ってきた場合を考えて備えておけ!」

 

メルドにラットマンと紹介された魔物は、ネズミの擬人化と言ったような姿形をしており、それプラスボディビルダーと説明すれば、大体どんな奴なのかは想像出来るだろう。

 

可愛くもなければ、カッコイイとも言い難い、なんともむさ苦しい容姿に、流石の光輝ですら苦笑いである。

一方、雫に至ってはグラディオラスとこの魔物を交互に見比べ、

「先生の方が男らしいわ。鍛え方がなってないわね」

 

などと言い残し見下す様な目を向けた。

初見の魔物が霞んで見えるとか、どんな鍛え方をしたらそうなる、とツッコめる者は誰もいなかった。

 

「ん、んー…。なんとも始めにくいなぁ…。…まぁでも、出てきたからにはやるしかないか!」

 

「ウッス。後ろは任せましたよ、先輩!」

 

本来リーダーがかけるべきである戦闘の合図らしき掛け声を、無意識の内にやってしまったプロンプトを睨む実際の勇者がいたが、今は奴らを片付けるのが先だ、と、他の何名かを引き連れてラットマンへと突撃をかました。

 

先手を打ったのは勇者だった。勇者の剣だと自信を持って言える程だと分かる剣を手に、纏めて数体を斬り飛ばし、バトンタッチだとばかりに前に出た龍太郎が、篭手を装備して相手を相殺する気満々となった拳で、残す事無く敵を崩れさせていく。

その横で雫が、刀に良く似た剣を計算された動きで使いこなし、一体、また一体と確実にラットマンを斬り伏せていく。

 

しかし、無双を繰り返す3人の背後に、隙を見つけたとばかりに接近した三体の魔物が飛びかかる。

少々対応が遅れ、なすがままに攻撃を受ける…。筈だったが、

 

バァン、と、何かが破裂した様な音が立て続けに3回鳴らされると同時に、三体の脳天が綺麗にぶち抜かれ、そのまま地面と一体化する。

 

3人が視線を向けると、銃のような物を持ったプロンプトが、それをクルクルと回しながら次の敵を捉えていた。

 

「ほら三人とも、ぼさっとしない! 次が来るよ!」

 

ハッとした3人(1人だけは苦虫を潰したような表情)は、

呆けている間に周りに群がっていた敵に再び視野を向け、無双パーティーを再開した。

その一方でプロンプトは、怖気付いて逃げようとした何体かを同じように銃撃し、逃げる事すら叶わない、と奴らに思い知らせた。

 

「4人とも、準備出来たよ!」

 

4人が戦っている後ろで、何やら準備を済ませた香織、谷口鈴、恵里の3人が合図をし、前衛はサッと身を引く。

 

《暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ‐‐‐‐ 螺炎 》

 

その詠唱を終えると、螺旋状の炎が敵全体を覆い尽くし、そしてその全てを燃え上がらせた。哀れなことに、ラットマンは悲鳴をあげることも出来ず、そのまま塵と化し、跡形もなく消え去った。

 

背後を気にしていたメルドであったが、この惨殺の光景を目の当たりにし、先程の勇者達よりも顔を引き攣らせて賞賛の声を上げた。

 

「あ、あー、よし、良くやったぞ。流石なだけはある。だが加減はしろよ? 後に響いても仕方が無いからな。

 

それと、今回はいいが、魔石も回収する事を覚えておけよ? 明らかにオーバーキルだからなぁ…」

 

褒めると同時に、簡潔に言うとやりすぎだ、という事を伝え、頬を赤らめる生徒を見つめながら、仕方ねぇな、と肩を竦めるメルドだった。

 

その一方で、プロンプトは自分が手に持つ銃を見つめ、

その後に目線をハジメへと向ける。

 

(この武器、初めて使っては見たけど…チョー使いやすいじゃん! やっぱハジメに頼んで正解だったなぁ)

 

そう、この武器は、数日前にハジメとの打ち合わせで話に出た、製作依頼を出していた銃の完成品なのである。

本人曰く、今の自分に出来る限りの事をした、だと言うが、これは何処に出しても恥ずかしくない程の代物である。

 

彼に感謝の眼差しを向けていると、無自覚ながらも偉そうな振る舞いでこちらに近付いてきた勇者が、不服そうに口を開く。

 

「先輩、ここに来る時から思ってはいたんですが、そんな卑怯な武器を使っているのですか?」

 

「…ワイ?」

 

「ちょっと光輝…!失礼な事言わないで。先輩はその銃を使いこなして私達を援護してくれたのよ?」

 

今度はどう言うご都合解釈をしたのやら、再度ブレーキが壊れた勇者は、一気に畳み掛ける。

 

「黙っていてくれ雫。確かに先輩は敵を倒すだけの実力はある。けれど、それはその武器に頼りきったものだろう? 道具に頼りきった戦い方では、何時か通用しなくなる。きちんと自分の力で戦わないと」

 

一同、絶句。

嫌いな奴の行動は全て醜く見えるとは言うが、ここまで酷いのは流石にないだろう。ましてやこの勇者は、それら全てが無自覚なのだから。それでこんなセリフが出てくる事にも驚きだが。

 

「それに…」

「ねぇ勇者クン。君の言いたい事は大体分かったよ」

 

「…そうですか。ならその武器は」

 

ここで捨てて下さい。とは言いきれなかった。

その前に、プロンプトが吐き捨てる様に、ゴミを見る目で言い放ったから。

 

「それじゃ、ここに居る人達は全員卑怯って訳だね。じゃあ皆、自分の持ってる武器を捨てて先に行こうか」

 

「はっ!?」

 

メルドは、やれやれといった形で止めるタイミングを伺い始めた。どうやら、どちらかが言いくるめられるまで待ってくれるらしい。

 

「み、みんなが卑怯なわけないでしょう。だって、ここに居る皆は自分の力で戦って」

 

「え? 自分の口で言ったじゃないか〜。武器を使ってるヤツらは卑怯だってさ〜」

 

「そ、そんな事は言っていません! 何をおかしな事を言っているんですか!」

 

「いやだってさ、自分の力で戦わなきゃ卑怯、なんでしょ? 君の中では」

 

「そ、そうです! それがなんで…」

 

「じゃあ、なんで皆その借り物の道具を手に取って戦ってるのさ。君だって、この世界で貰った剣を手に取って戦ってるでしょ?」

 

「うぐっ!?」

 

言い返す言葉が見つからないらしい。いつものテンプレのごとく、勇者は黙り込んだ。まぁ、これは何かしら無理矢理反論を見つけて来るパターンなのだが。

 

「そ、それは自分の手で使ってるからです!だから自分の力で戦ってるじゃないですか!」

 

「へぇ、なるほど。銃とかそーゆーのは手を汚さずに戦うから、卑怯だって言いたいんだ?」

 

「そ、そうです!」

 

「じゃあ、弓兵の方々や、白崎さん達に言わなきゃね、君達が卑怯だから魔法とかそういうのは使うなって」

 

「な、何でそうなるんだ!! 俺は、貴方のことを話してるのに何故そこで香織達が出てくる!!」

 

いよいよ建前であろう敬語すら崩れだした。彼の中で、プロンプトはアーデンと同じくらいに気に食わない存在になってきたのだろう。

 

「自分の力じゃないんでしょ? 自分の手を使ってないんでしょ? だったら、魔法使いや弓使いの人達は全員卑怯になるよね。だって魔法や矢に頼りきった戦い方をしてるんだからさ」

 

「ふ、巫山戯るな! 香織達は一生懸命努力してあの力を手に入れたんだ! お前のような卑怯者と一緒にするな!」

 

「うん、皆努力して手に入れた力だよね。知ってるよそりゃあ。近くで見てたし。でもさ、銃は努力しないで使えるものじゃなくない?」

 

「な、何だと!?」

 

もう傍から見てもどちらが有利に見えるかなんて分かっているだろうが、まだ誰も止めない。まだ完全に決着が着いていないと察しているのだろう。

 

「君は銃は道具で、それに頼りきったら強くならないって言うけどさ、じゃあ、最初から何もせずに銃を使って、この子に頼りきりで戦ったら、どうなると思う?」

 

「な、何の話を…」

 

「俺を含めた、この中の誰かが死ぬけど?」

 

「なっ…!?」

 

「いや当たり前だよね。だってなんの技術も身に付けずに銃を使うんだよ? そんな事したら、狙いが定まらずに暴発して最悪サヨウナラ…だよ? そうならない為に技術を身に付ける訳なんだからさ…。そーゆー点では他の武器も同じでしょ」

 

「まぁ、そうね。剣とかだって、上手く扱えなきゃ事故になるし…」

 

「でしょ? だって、そうならない為に訓練をしてきてる訳なんだからさ。それと同じ様に、俺だって扱う為に色々勉強してきたんだから」

 

「は…?銃なんてこの世界にはなかっただろう! 出鱈目を言うな!」

 

「いや、誰もこの世界でなんて言ってないからね?」

 

「…まさか、俺達の世界で…!?」

 

プロンプトは静かに首を縦に動かす。それはそれでまた勇者が騒ぎそうだが、面倒事になる前にさっさと片付けておく。

 

「まぁ俺、射撃が趣味だったからさ、資格なりなんなり取って使ってたから、一応技術はあるんだけどね〜。…と、言う訳でさ、銃も刀もさ、ちゃんと努力して力を身に付けないと扱えない代物なんだよね。で、そうした点で考えると、君はそれらを含めた物を自分の力ではない、なのに白崎さん達は努力してるって言ってる…矛盾してる事、分かる?」

 

「ぐっ…」

 

「まぁ、簡単に言うとさ、君の方が彼女達を卑怯者って言ってるんだよね」

 

「うっ!?」

 

「それにさぁ…それら全てを作ってる人達に対してとんでもない侮辱をしてるって事にも気付きなよ。軽くなんの力にもならないってのと同じくらいの事を言ってるからね?」

 

「うぐぁ!?」

 

「あのさぁ、大した結論も分からないのに騒ぎ立てるのやめてくれないかな? ただ迷惑をかけて終わってるだけだからね?」

 

「ぐはぁ!?」

 

お約束が終了した。いつも通りにボロボロにされ、勇者は何も言えずにそのまま佇むだけとなった。

ノクティス達は、普段よりも毒舌かつ、自分の意見をズバズバというプロンプトに素直に賞賛を送っていた。

 

「どうやら言いたい事は終わったようだな。よし、進むぞ」

 

「メルド団長、でも…」

 

「いいか、光輝。戦いに卑怯も何もねぇ。使える物を使ってその上で戦う、それが本質だ。てか、そんなモノにこだわってたら、何も出来なくなっちまうだろうが」

 

「…」

 

「取り敢えずだ。俺達は武器に頼りきって戦ってるんじゃねぇ。その武器を理解した上で技術を身に付けて、自分の一つの力とするんだ。その点で言ったら、その坊主は既にその段階にあるんじゃねぇのか? まぁ、長年戦ってる身からすると、まだまだな部分はあるけどな」

 

「うわぁー、手厳しいねぇやっぱり」

 

「光輝。自分の体だけが力だと思うな。お前はまだ武器とは何なのか、よく分かっていない。武器は使うものでも、使わされるものでもなく、共に戦うパートナーの様なものだ。そのジュウを道具としか、頼りきる物としか見えていないようじゃ、それこそその先には進めねぇぞ。…お前らも覚えておけよ! よし、じゃあ先に進むぞ!」

 

各自が自分が持つ武器を見つめながら、今語られた全てを思い返しているようだ。だが直ぐに、今のままでもいいか、と考えを放棄してしまうものも多数おり、このままでは成長できないだろうと感じながらも、皆を誘導するメルドだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからの展開は、サクサクと進んだ。ローテーションし、任された生徒達が一体となって敵を倒し、それぞれに散らばっているノクト一味がその援護を行う、といった形だ。

 

そうして進んでいくと、いつの間にか二十層へと辿り着いたのだった。この層は今回の遠征の目的ポイントであり、ここまで進むにはかなりの手馴れでなければ難しいとされている。いかに生徒達の初期ステータスがこの世界では異常だったかが分かる結果である。

 

まぁ、何はともあれ、此処での戦闘を終えれば、今回の訓練は終了なので、と浮かれている様子を見れば、これが本当に世界を救う任務を任された人達なのか?と不安になってしまう。

 

そんな不安も他所に、本日最後の戦闘相手であろう者が、どこかでその闘志を燃やしている。

 

「擬態しているぞ。よ〜く周りを注意しておけ!」

 

メルドがそう忠告すると、壁と同化していたなにかが肌の色を変え始め、褐色色のゴリラのような魔物が姿を現した。

 

「ロックマウントだな。 二本の腕に注意しろよ! 馬鹿力野郎だからな!」

 

メルドのアドバイスに、これまた雫が、

「馬鹿力…。先生とどちらが強いのかしら…。まぁ、先生でしょうけど」

 

と信者と言われても仕方の無いような支持力を感じさせる発言をして、龍太郎からそこまで比べんな、とばかりの呆れた視線を向けられていた。

 

ロックマウントが肉体系とだけあって、龍太郎が先手を繰り出し、奴の拳と自分の拳を力強くぶつけ合い、相打ちとなって両方の手が弾き飛ばされた。

 

それを好機と見たプロンプトが、素早く銃を向け、急所に向けて連弾を放つ。

 

が、敵はそれを素早く手でなぎ払い、そのまま息を吸い込んでそれを巨大な声と変換して返した。

 

「グァガァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

巨大生物が姿を現した、と説明されても信じられるような咆哮が、空間全体を襲う。

さて、ここでだが、咆哮というものはゲームではどのような役割を果たしているだろうか。

攻撃と判断して吹き飛ばされる例もある。だがやはり、大きな例としてあげれば、相手を怯ませたり、行動を制限させたりといった目的で使われる事が多いだろう。そして、このゴリラの咆哮は後者。

つまり、

 

「ぐぅ!」

 

「きゃぁ!?」

 

「うぉ!?」

 

「ひぇぇ!!」

 

これを喰らってしまった前方4人の動きが封じられてしまった。

邪魔者を捉えたとばかりに走り出すロックマウントは、彼らを横切り、後ろで迎撃しようとする香織達の頭上付近へと飛び立った。

 

その際、飛び立つ前に持ち上げた岩を思い切り香織へとぶん投げたのだった。

 

しかし、忘れないで欲しい。ロックマウントとは擬態能力を持った魔物。

その岩がみるみる褐色となり、腕と足を出してこちらへと向かってくる。

 

もうお分かりだろう。これもゴリラだったのだ。

そのまま奴は香織達へと変態の如く飛びかかろうとダイブする。

 

どこかのアニメの主人公が女性に飛び付く時に上げそうな声が聞こえてくるかのような状態だ。

そして目も血走り、鼻息も荒い。本物の変態のようだ。いや、変態だ。

 

恵里を除く2名が悲鳴を漏らしてしまい、そのままゴリラは3人へと激突し…

 

 

 

 

 

「ちょっとオイタがすぎるんじゃねぇの?」

 

かけたその巨体はいつの間にか回り込んでいた誰かによって貫かれ、絶命した。

 

「おーっす。お前ら、ひでぇ面してんな」

 

「ノクティス先輩!」

 

巨体を地に伏せ、怯えた様子の2人を気遣うように屈んだその顔は、ノクティスであった。

 

「で、でもどうして…先輩は後方の人達を守ってるんじゃ…」

 

「いやまぁ、俺らも状況に応じて作戦を変更しなきゃならねぇからな。それに、恵里、お前にとってはこっちの方が良いんじゃねぇのか?」

 

「え? てことは…」

 

「んじゃ、後は頼んだぜ、アーデンのおっさん」

 

「ハァ…守るなんて柄じゃ無いんだけど、あの勇者君と話す事になるよりはマシ、か」

 

ノクティスがプロンプト達を助けに走り出すと、背後からぬっとアーデンが現れた。

それを確認した恵里の表情がみるみる柔らかく、そして狂気的になった。

 

「えへへぇ♪ 先生、僕の事助けに来てくれたんだぁ♪ 嬉しいなぁ♪ ちゅーする?」

 

「はいはい、そーゆーのは後ね。ゴリラさんが大人しくなるまでは君も大人しくしてなさい」

 

「えぇー、先生ってば照れ屋なんだからさぁ〜」

 

「…ハァ。なーんでこうも好かれてしまったのだか。あ、君達も早く建て直しなよ? まぁ、もう終わるとは思うんだけど…」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

「ありがとね! アーくん先生!」

 

「…キミさぁ…もう少しそのネーミングどうにかしない?」

 

奇抜なあだ名で人を呼ぶ鈴のその余りにもかけ離れたセンスに、アーデンは心底困惑してしまっていた。

 

一方、4人の援護に向かったノクティスは、もう1匹のゴリラと対面しながら彼らを案じていた。

 

「ごめんノクト、しくった!」

 

「おう、分かったら働け。そして助けた分の借りは返せよ」

 

「いや辛辣過ぎない!? 借りは払うけど!!」

 

払うんだ…とのツッコミは敢えて口に出さなかった何名か。

 

その気持ちとは逆に、ゴリラは今度こそ、ともう一度吠える準備をする為、1歩後ろへ下がる。だが、

 

「2度も食らうかっての!」

 

素早くノクトが剣を投げて奴の腕へと剣を刺し、シフトの能力で一気に間合いを詰めた。

 

「ァガァァァァァ!?」

 

「そら、暴れん、な!」

 

そうしてゴリラの腕へとしがみついたノクティスは、さらに無力化させようと、その剣を深く突き刺す。

これには流石のゴリラも思ったように動けず、ただ痛みに苦しむばかり。

 

完全に片腕を仕留めたと踏んだノクティスは、もう片方の腕へと器用に移る。

 

「ほらよ、もう一本の腕も頂く、ぜ!」

 

そしてそのまま、同じ様にもう片方の腕にも突き刺し、最早ゴリラは叫ぶどころか、許しを乞うために悲鳴をあげる他打つ手がなかった。

 

「…いやぁ、やっぱノクト強ォ〜」

 

「…すげぇな…。あんな細かい動き、俺には到底無理だぜ」

 

「いやあれ、細かいって言うのかしら…? 確かに上手く立ち回れてるのは分かるけど…」

 

圧倒するノクティスを見て、それぞれ3人は学ぶ生徒のような眼差しでノクティスの戦い振りを拝見していた。

 

 

 

しかし、その横で、完全に周りが見えていない勇者がまた問題行動を起こし始めた。

 

「貴様、よくも香織達を…許さない!」

 

「え!?」

 

「ちょ!? 何やってんのぉ!?」

 

この勇者は、ノクティスが抑えている事も視野に入ってないのか、自分の力だけで消し飛ばさんと剣を高く掲げ、剣に光を纏わせて攻撃準備へと入る。

 

「天翔羽ばたき…天へと至れ… 天翔閃!!」

 

「あ! こら、馬鹿者!!」

 

「光輝ストップ!! あれが見えてないの!?」

 

「ノクトぉぉぉぉぉぉ!! 全力で避けろぉぉぉぉぉ!!」

 

誰の声も届かないのか、怒りに身を任せた勇者の一撃が、斬撃となってゴリラへと向かっていく。

 

その光の一撃は、無慈悲な程に真っ直ぐゴリラへと向かって行く。

 

「ん? やべぇ!?」

 

やがて後ろから近づく音と光に気がついたノクティスは、急いで剣を抜き、ゴリラから離れる。

 

取り残されたゴリラは、その無慈悲な光によって綺麗に両断され、その奥の壁さえも巻き添えを喰らう。

断末魔を上げることさえ許されないまま、2つにスライスされたゴリラだったものは、そのまま他と同じように地と同化した。

 

一仕事を終え、ふぅ、と安堵の息を吐きながら、自分を暖かく迎えてくれるはずの香織達へと顔を向け、大丈夫か、と声をかけようとする。しかし、

 

「このぉ、大馬鹿者がァ!!」

 

「ヘブォァ!?!?」

 

声を掛ける前に、メルドの拳骨、雫の溝打ち、プロンプトのアッパーカットの3連コンボが決まり、うずくまる。

 

「な、何を…」

 

「何を、では無いわ!! お前は何を見ていたんだ! ロックマウントを食い止めているノクティスの姿が見えんかったのか!!」

 

「い、いやだって香織達が…」

 

「貴方は本当にそれしか頭にないの!? 香織達が救えればノクティス先輩を巻き添えにしてもいいの!?」

 

「うぐっ…」

 

「勇者クン…」

 

「な、何だ…」

 

「偽善者ってレッテルを貼られるのと、今ここで脳天撃ち抜かれるの、どっちがいい?」

 

「なぁ!?」

 

怒り心頭、それどころでは済まされない程に声を荒らげた3人が、勇者をこれでもかと怒り倒す。

まるで勇者が子鹿のように震えている。余程怖かったのだろう。だが自業自得なので同情はせん。

 

「あー、死ぬかと思ったわ〜」

 

「ノクト!? 大丈夫!? 怪我はない!? 半身消し飛ばされてたりしない!?」

 

「しねぇわ!! じゃあどうやって歩いてきたんだよ!」

 

無事に生還したノクティスを労りながらも、怒りが収まらない3人は更に何分かと勇者を説教し続けた。

流石にこれはいけないと感じたのか、すべて終わったあとにノクティスは彼から謝罪を貰った。ただし、香織達を、救おうとしたのに…と納得はいってないようであった。

 

「あ、あれ、何かな?キラキラしてる…」

 

そして、勇者達を心配した香織が前へと進むと、不意に壊れた壁の方へと視線を向ける。そこには、青白く発光する鉱石のような物が、こちらを誘うように輝いていた。

 

「ほぉ、あれはグランツ鉱石だなぁ」

 

「ん?団長、グランツ鉱石ってのは?」

 

「おぉ、坊主達は知らなかったな。あれは、特に特殊な効果はないが、その美しい輝きから、貴族に受けが良くてな、求婚の際によく使われる鉱石らしい」

 

その言葉を聞いた刹那、雫の眼が怪しく輝き、ジロっとその相手となる男を見つめて、知人には見せられないような顔を浮かべていた。

それに加え、ここにはいないであろう2人の視線を何故か感じた、と、後にプロンプトとイグニスは恐怖体験として語っている。

 

「綺麗…」

 

加えて香織も、そんなことを口にしながらハジメをこれまた逃げ出したくなるような眼力で見つめていた。

ハジメは恐怖を通り越して受け入れる姿勢に入ったようだ。だめだ、思考回路がやられている。

 

「だったら、俺たちで回収しようぜ!」

 

女子陣に気を向けてばかりいると、小悪党筆頭の檜山が、その鉱石を目掛けて壁を昇っていく。

 

「待て! 迂闊に行動するな! 安全確認すら出来てないんだぞ!!」

 

慌ててメルドが止めるも、それをうざく感じた檜山は無視し、お目当ての鉱石へと手を伸ばす。

 

「うへへ、これで香織に…」

 

「おい!待て!」

 

ノクティスが慌ててシフトを発動し、檜山を止めようと接近するが、遅すぎた。

 

檜山を捕まえ、振り投げる前に、既に彼は鉱石に触れていたのだ。

刹那、部屋全体が魔法陣に包まれ、あの時と同じような光景になっていた。

 

「これは…転移魔法か!?」

 

「撤退だ! 総員、撤退しろ!」

 

メルドが全員に避難を呼びかけるが、それも虚しく、

光が彼らを包み込む方が早かった。

そのまま謎の浮遊感をプラスされ、どこかへと転移される。

 

やがて浮遊感が終わると、次の瞬間には床に叩きつけられる生徒が多数いた。

ノクティスは辛うじて着地する事が出来たが、それでも足にダメージを受けたようだ。

 

「どこだよここは…」

 

ノクティス達が辺りを見渡すと、そこは大きく開けた洞窟のような場所で、自分達を乗せた大きな橋が、ドスンと構えていた。

 

ひょいと顔を出して、下を覗いてみると、そこには川などはなく、下へ、下へと暗黒が広がっているだけだった。

すぐさまメルドが橋の先端の階段へと向かう様に指示を出したが、そうはさせないとばかりに、小さな魔物がうじゃうじゃと出てきて、彼らを待ち構えんとする。

更に、通路にも大きな魔法陣が展開され、そこから出てくる魔物を見て、メルドが驚愕する。

 

「ま、まさか、あれは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベヒモス…なのか…

 




いかがでしたか?

少々原作とは変更点や、違った会話等を入れております。1つの楽しみとしてくれたら幸いです。

では、また次回。


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そして闇へと

どうも、ゴアゴマです。

ようやく物語の第1山場まで来ました。
上手く表現できるかね。


では、どうぞ。


ベヒモス。

 

その名から分かる程に、生徒達の目の前に構える獣は圧倒的強者のオーラを身に纏っていた。

つまり、こいつには勝てないと身をもって感じる程の脅威。

 

その様にして恐れを感じ始めている生徒達を休ませるつもりもないのか、ベヒモスから逃がさんとも感じる立ち位置に散らばっている骨共が、ゆっくりと此方へ進撃を開始している。獣と骸骨の挟み撃ちなど、誰が興味あろうか。

 

「チッ! ベヒモスだけでは飽き足らず、トラウムソルジャーまで仕向けてくるとは…!! 何と趣味の悪いっ!」

 

余りにも絶体絶命な状況に、思わずメルドは舌を打ってしまう。それもそのはず、自分達でさえ倒せるかどうか分からないレベルの危険性を持つ魔物に対し、戦闘経験も人生経験も浅い生徒達を率いて行動するなど、無謀にも程があるのである。

 

まさに詰み。その一言で全てが片付いた。

 

「…っ、覚悟は決めなければならないか。アラン! コイツらを率いてトラウムソルジャーを蹴散らしながら出口へ迎え! カイル、イヴェン、ベイル! 障壁の用意をしろ! 全力でだ! そして光輝! お前達も早くアラン達に着いて行け!!」

 

「待ってくださいメルドさん!! 俺達もやります! あの巨大な化け物の方がヤバいでしょう!」

 

「馬鹿野郎が!! 勇気と無謀をはき違えるのはやめろ! あれは最強と謳われた冒険者達が束になって挑んでも適わなかった恐ろしい奴なんだぞ!! さっさと行け!!」

 

「っ、それでも、貴方を見捨てて行く事なんてできない!」

 

傍から見れば仲間を大切にする勇敢な戦士に見えるだろうが、彼のあり方をよく知っているものからすれば、その正義に振り回されている赤子のように見えた。

要するに、良く状況も考えられずにそんなことが言えたものだということである。

 

「ねぇ、勇者クン。そんなこと言ってる場合じゃないんじゃないの?」

 

「な、何を言ってるんだ。メルドさんがピンチなんだぞ? 見捨てられるわけないだろう!」

 

「それは分かってるよ。俺だってあの人に死なれたら困るけどさ、ここで俺達が助けに行くのは間違ってるだろ?」

 

「な!? 見捨てるって言うのか!?」

 

「違うっての。無闇矢鱈に動けば命取りになる。だからこそ慎重に動くべきだ。一旦ここは団長達に任せて、体制を整えるんだよ」

 

「っ、体制なんて建て直してる暇ないだろう! それよりも、俺がここで奴をくいとめれば…」

 

「だから良く状況を考えろって言ってるんだよ! 後ろをよく見ろ! あんな状態の生徒達を放っておいて死にに行くのか!? 勇者ならもっと周りに気を配れよ!!」

 

「グッ!?」

 

勇者はその言葉を聞き一瞬迷いを見せるが、皆を安心させるにはコイツをどうにかしなければならないと結論付け、その提案には応じなかった。

 

「それでも、俺は残らなければならない! 俺がやつを倒さなければならないんだ!」

 

「っこの、ここまで話の通用しない馬鹿、初めてだよホント!」

 

勇者が残ると発言した以上、尚更置いて後退する事が出来なくなった3人は、何とかこの頭の固い視野狭男をどうにかしようと説得を試みた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オルァ!!」

 

大剣を振り回しながら、道を塞ぐトラウムソルジャー達を蹴散らしていくグラディオラス。大剣に削がれていく骨達は次々にぶっ飛ばされていくが、やはりレベルの差とでもいうのだろう。以前までの魔物のように、簡単には消滅してくれない。

 

「チッ、コイツら数は多いしタフだし、厄介じゃねぇか?」

 

「取り敢えずは道を開けるのが最優先だろう。そのまま継続してくれ」

 

「アイツらはまだ来てねぇのか?」

 

「ノクトは恐らくパニックになった生徒のケア、及び戦闘のバックアップだろう。プロンプトは…天之河の説得だろうな」

 

「へっ、こんな時にまで話が通じねぇたァ、逆に尊敬に値する、なァ!!」

 

生徒達を導きながら、湧き出る敵に立ち向かっていた2人は、悪態をつきながらも着々と階段へと進んでいた。

 

大方グラディオラスが薙ぎ払い、飛ばし損ねた敵をイグニスが徹底的に攻撃しているが、守りながら戦うというのは余りにもこの場合と相まって最悪を極めていた。

 

元々四方に分担したのはそれぞれでバランスよくサポートする為。それが今となっては、戦力どころか、騎士達の誘導も無視して我先にと逃げゆく者ばかり。

 

「お前ら、考え無しに突っ走んな! それが今1番の悪手なんだぞ!」

 

グラディオラスが騎士達と共にそう皆に冷静さを取り戻せと呼びかけるが、誰も聞く耳を持とうともしない。

寧ろ今にも殺されると考える事にしか頭が働いていないようだ。

 

「チッ、これが召喚時に意気込んでたヤツらの顔かよ。かけ離れすぎじゃねぇか」

 

「怒りを抑えろグラディオ。この状況で叱りつけても余計に混乱を生むだけだ。機会を見計らえ」

 

「…あぁ、分かってらァ。んな真似するかよ」

 

そう言い返すものの、グラディオラスの表情はどんどんと修羅の鬼の様に鋭く、恐ろしく変化して行った。

 

 

グラディオラスは憤慨していた。あれだけイグニスや愛子、更にはあの基本的には他人の意見に口を出さないアーデンでさえもが反対し、危険性を脅す形になってまででも伝えた。

それでもと言う事を聞かずにここまでやってきたと言うのに、それが見せかけの勇気だったと証明されるかのような今のこの状況だ。

 

グラディオラスはこの状況を作ってしまった止めきれなかった自分に腹が立ち、余りにも情けがない生徒達にも、行き場のない怒りを抱えていた。

 

「キャァァァァァァ!?」

 

怒りとの葛藤に苛まれながら剣を奮っていると、自分達より前に出てしまっていた生徒の1人がトラウムソルジャーに襲われている様子が目に入った。

危ねぇ、と声を大にして、全速力でその生徒の元まで向かう。

 

しかし、それよりも早く、突如として謎の隆起によってトラウムソルジャーが突き飛ばされ、傷を負わされずにすんだ。

何事かと周囲を見渡すと、おそらくそれを発動させたかのように腕を前に押し出したまま、生徒の元へと向かう初めの姿があった。

 

「大丈夫!? 怪我はない?」

 

ハジメはやけに冷静さだと思われるような素振りで順次に対応していく。ゆっくりと立ち上がらせ、理性を保つように呼びかける。

 

「怖いと思うけど、ここを乗り切れば絶対に生きて帰れる! だから頑張ろう。自信もってよ。だって僕の何倍もチートなんだか、ら!」

 

傍から見れば少しばかり嫌味にも聞こえるが、ハジメなりの精一杯の声援であり、今の彼女にとっては勿体ないほどでもあったので良しとしよう。エールを送りながら、また1人襲おうとしている骸をせり出して彼方へ飛ばす。

 

「南雲、良い対応だな。錬成で敵をぶっ飛ばすなんてよ!」

 

「アハハ…でもあんまり効かないので、実戦ではあまり使えないと思ってたんですが…」

 

「何言ってやがんだ。お手柄もお手柄、超お手柄だろうが!」

 

グラディオラスの褒め言葉に、ハジメは少し顔を綻ばせる。やがてトラウムソルジャーの数が減り、一方向に集中的に集まる形になったため、比較的守りながら戦う事が楽になった。

 

すると、あちこち動き回りながら行動していたノクティス、その場にへたりこんだ生徒を雑に担ぎながら回収していたアーデンが合流し始めた。

 

「やぁ、この通り、足が動かなくなっちゃった子達は俺が回収してきたよ。最も、勇者様一行はあそこで固まってるらしいけど」

 

「全く学習しねぇのな。アイツも」

 

「一応敵の数も減ってきてはいるが、そもそも此処全てが未知の領域だ。何時何がやって来てもおかしくはあるまい。その為、今の生徒達の状態は極めて最悪であると判断している」

 

イグニスの解説に、戦いながら耳を傾ける5人は、アーデン以外がかなり険しい表情をしている。

実質、トラップの全貌が明らかになっているとも限らない可能性もある。何故ならば、こういった急なトラップには変化球というものが存在する事もあるからだ。

 

「じゃあ、やっぱ勇者とか団長も早くこっち側に来てもらわねぇとじゃないか?」

 

「あぁ。だが、呼びに行った道中でやられてしまうことも考えると、こちらで待機している方が良いのかもしれんが…」

 

「変化球、だろ?」

 

「あぁ。どちらにせよ、賭けになってしまうだろうが…」

 

「なら、最悪の場合を見越して合流を急いだ方がいいんじゃねぇか? 指揮をとれる奴は多い方がいいからな」

 

「でも、問題は誰があっちに向かうか、じゃない? 行くなら、それなりに足止めにも力を注がなきゃならないだろうし」

 

アーデンの言いたい事はこうだ。つまり、呼びに行くとなるとベヒモスを食い止める力が弱まってしまう。その為、一瞬でも奴を封じ込める手立てが欲しいのだ。

無論、ただの攻撃ではそれは不可能だ。いくらチートと呼ばれる生徒達や4人でも、流石にあそこまでだと良くてかすり傷を与えられるかどうかだ。

 

「…僕が行きます」

 

ハジメの立候補に、全員が驚きを含むが、イグニスがすぐさま意思確認をする。

 

「…本気か? 南雲」

 

「…はい。僕は、確かに後方でしか役に立てないかもしれませんけど、そんな僕でも、何かしら出来ることがあるかもしれません」

 

「ふむ、確かに錬成師は戦闘力が低い反面、技術的な面ではトップクラスと言えるだろう。つまり、それを利用するんだな?」

 

「はい。肝心の天之河君を説得できるかは分かりませんけど、やるだけやってみる価値はあると思います」

 

「…」

 

実際、ハジメが適任だと言うのはイグニスも承知していた。試しに、1度だけグラディオラスが先程ベヒモスに向かって1振りかましたのだが、弾かれてしまう程に奴の防御力は高かった。

 

だが、流石に1人だけ行かせるというのはそれこそ無謀すぎる。かといって戦力を外すとこちらがやられてしまう可能性がある。

 

「なら、俺が行こうじゃねぇか」

 

「待て、ノクト。お前は…」

 

「逆に教師のお前らが抜けたら余計にパニックになると思うが? 一応、お前らがいるおかげで正気を保ってられるヤツもいるんだぜ?」

 

「…しかし」

 

「安心しろ。死にに行くわけじゃねぇ。ちょいと道を切り開きに行くだけだ。

 

 

…それに、約束したじゃねぇか。な?」

 

「…分かった。だが無理はするなよ? 2人とも。駄目だと思ったら直ぐに撤退しろ」

 

「「了解」」

 

イグニスの言葉に2人が頷くと、それぞれ行動に移した。

 

「…シャキッとしろテメェら!!」

 

グラディオラスは、まず、天之河が来る前でも少しは正気を取り戻せるように喝を入れる。

 

「オイオイ、あん時とは全く違ぇ、ひでぇ面してんな。そんなんで、世界救えんのかよ。え?」

 

「で、でも、あんなヤツに勝てるわけないじゃないですか!! 俺こんなの聞いてないですよ!!」

 

「…聞いてないですよ。じゃねぇだろうが」

 

「…え?」

 

「戦争、それも魔人族とかいう、未知の領域との戦いなんだろ? なら、これぐらいの戦闘なんざいくらでもあると予測できたろうが。俺達は前に言ったはずだが? その場限りの覚悟なんだったらいらねぇって」

 

「…!」

 

「戦争ってのはな。おままごとじゃねぇんだよ。それぞれが死ぬかもしれねぇ中で、必死に策を考えながら場を有利に進めようとするのが戦争なんだよ。それは魔物でも同じだ。そうやってへたれこむぐらいなら、一丁前に覚悟決めたような面してんじゃねぇよ!!!!」

 

グラディオラスの怒号に、生徒達は身体を震わせる。恐怖からの人もいれば、はっと気がついての人もいる。

 

「いいか、お前らは自らこの道を選んだんだろうが! だったら危ない時まで守ってもらおうとか考えんなよ? 自分の身くらい自分で守れ! それが出来なきゃ、ただのイキリになっちまうぞ?」

 

そう言うと、流石に全員とは行かないが、少しばかりの生徒達が足を震えながらも立たせ、それぞれ己の武器を取り、トラウムソルジャーからの攻撃を防ごうとする。

 

「それでも実際には守っちゃうのに、カッコイイ事言うねぇ。グラディオ君?」

 

「うっせぇな。人をツンデレみてぇに言うな」

 

「違うのか?事実ではないか」

 

「イグニスまでうるせぇぞ!! いいからさっさと援護にまわれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ベヒモスを食い止めているメルド達は、障壁を展開しながら奴の猛攻を防いでいた。

ベヒモスの突進はそれはそれは強烈なもので、1回1回の攻撃の振動で橋にまでダメージがあり、崩れ始めていた。

 

「ぐっ! もう持たんぞ!! 光輝! 早く撤退しろ!!」

 

「嫌です! 貴方を置いていく訳には行きません! みんなで生き残るんです!」

 

「く、こんな時にまでワガママを…」

 

メルドは後悔していた。何故なら、この頑固さを作ってしまったのは自分だと思っているからだ。

と言うのも、まだまだ経験の浅い若者ということもあり、褒めて伸ばそうとした事により、勇者は自分の力を過信してしまうようになってしまったのだ。

 

 

まぁ、実際には元からなんだが。

 

「光輝! 団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」

 

「そうだよ! 早く皆の所に行こう!」

 

「光輝、流石にヤベぇだろ。脳筋の俺でもわかるぜ!」

 

状況が分かっている2人はともかく、頭の固い龍太郎でさえも、撤退するように呼びかける。

が、全くの聞く耳を持たない。

 

「いや、それはダメだ! みんなを助ける為にはこいつを倒すしかない! メルドさんも助けて皆で帰るんだ!!」

 

「…光輝…お前…」

 

「状況に酔ってんじゃないわよ! この馬鹿!」

 

「うーん、このままだと不味いなー…」

 

「雫ちゃん…先輩…」

 

香織達も万が一のために残ってはいるが、これ以上の待機は無理だと本能的に分かっているのか、自然と体が後ろへと下がっている。

 

勇者の説得が不可能だと、皆が諦めかけた時。

 

「天之河君!」

 

「お前ら!」

 

「な、南雲とノクティス先輩!?」

 

突如として自分達の前に現れた2人にそれぞれ顔を驚愕に染めるが、時間が無いと分かっているハジメはすぐさまに勇者に指示を出す。

 

「早く撤退を! 皆の所に行くんだ! 君がいないとこのままじゃ!」

 

「いきなりなんだ? それよりも、なんでこんな所にいるんだ。ここは君がいていい場所じゃない。ここは俺に任せて、君は」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?」

 

「!?」

 

ハジメはとうとう勇者の言い分に腹を立てたのか、思い切り胸ぐらを掴み、必死の形相で怒鳴る。

 

「あれが見えないの!? 皆パニックになってる!! 先生達が気を戻そうとしてくれてるけど、この状況じゃもっとリーダーがいないと間に合わない!!」

 

勇者はまたもや悩み始める。しかし、それでも考えが変わらず、ハジメに抗議しようとすると、それよりも早くハジメがまくしたてる。

 

「皆の不安を消し飛ばせるのは天之河君の特権でしょ!? 皆の事を助けるつもりなら、君は撤退するべきだ!! もっとよく周りを考えて!!」

 

そしてようやく、みんなの悲鳴や苦痛な表情で我に返った天之河は、頭を勢い良く左右に振ると、力強く頷き返した。

 

「わかった。直ぐに行く! すいません、メルドさん、先に」

「下がれ!!」

 

メルドへ断りを入れようとした途端、限界を迎えた障壁が壊され、苦痛の声と共に吹き飛ばされる。

辺りを包む暴風に身動きがとれない中前を見ると、至近距離まで接近したベヒモスが、漸く貴様らを食い潰せる、と言わんばかりの憎たらしい笑みを浮かべ、勇者達を見下ろす。

 

その顔を確認した途端、青白い光に包まれた剣がベヒモスの左目付近まで飛んでいくのがわかった。

 

「チッ、ハジメ! 足を捕らえてくれ! 俺は時間を稼ぐ!! その後に奴を動けねぇようにしてくれ!」

 

「分かりました! 錬成!!」

 

ハジメが唱えると同時に、先程の謎の隆起したものがベヒモスの足の邪魔をし、少しだけ奴がよろける。

その隙にノクティスが奴の目に向かってシフトブレイクをお見舞させようとする。

 

だが、足をよろけさせようとも、ノクティスの接近に気がついていたベヒモスは、彼に向かってロックマウントの2倍近くある咆哮を浴びさせる。

 

「グァァァァァァァァォォォォォォォォォォ!」

 

「がぁ!?」

 

その圧になすすべもなく、ノクティスは咆哮が飛ばされる向きへと流されてしまう。

ベヒモスはそんな彼を嘲笑うように見つめ続ける。そして、ハジメが作った錬成物を容易に蹴飛ばし、さらに進撃せんと足を進める。

 

「クッ、やっぱり足を止める為には無理か。だったら、埋めることが出来るなら!」

 

そう言ってハジメは、先程よりも大きく力を込め、ベヒモスの足を埋め尽くさんほどの錬成物を作り始めた。

それにより再びベヒモスは歩みを止められ、ようやくハジメを厄介な敵だと認識したと同時に、彼に向かって吠え始める。が、当たる寸前でハジメの姿が一瞬で消えた。一瞬目を疑うが、自分が攻撃した場所よりも少しだけ左に南雲とノクティスがいる光景が入ってくる。

 

「オイオイ、疲れて狙いが定まってないんじゃねぇか? 今だハジメ!!」

 

「錬成!!」

 

お察しの通り、ノクティスが地面に着地したと同時にハジメの所へシフトで飛んでいき、ベヒモスの攻撃が着弾するよりも早く再びシフトで着弾を防いだのだ。

 

そして、再び隙ができたと踏んだハジメは、もう片方の足を埋め始める。耐久性は少ないものの、足止めをするには充分過ぎる手だった。その為、前両足を封じ込められたベヒモスは、アホの子のように見え、先程までの威圧感は何処へやら、となっていた。

 

「今のうちに撤退しよう! もうこの橋もいつ崩れるか分からない!」

 

今度は彼の指示通り、全員が従い、ハジメ達の奮闘中に香織の治癒によって回復したメルド達と共に交代し始めた。

いつベヒモスが再度立ち上がるかは分からないが、このまま行けば全員辛うじて助かる。そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

が、イグニスの鋭い考察は時に頼りになるのだろう。

 

 

安堵したのも束の間、ハジメが進行していく通路の先で、先程の魔法陣とは少し違った紋章のような物が現れ、そこから2本の角のようなものが現れる。

 

「…ハァ!? 今度はなんだよ!!」

 

龍太郎が悪態をつくが、その姿が段々とあらわになると、再び絶望する。

 

「ハ、ハハ…嘘、でしょう…?」

 

雫が思わず膝を着きそうになるが、何とか堪えているのがわかる。

彼女達だけではない。香織も、ハジメも、あの恵里でさえもが恐怖の顔つきになっている。

 

そして、ノクトは…。

 

「…っ、何だ、ありゃあ…。…グァ!?」

 

奴の全貌が明らかになると同時に、猛烈な頭痛に襲われ、その場に膝をついてしまう。

 

「ノクティス先輩!! どうしたんですか!?」

 

「グッ…! なんだコイツ…。俺は、コイツを知っている…!?」

 

ノクティスを頭痛へと追い込んだ張本人は、大きく傷をつけられた片目を見せつけるように顔を振るい、お前達が俺の相手か、と戦意を見せる。

 

ちなみに、ノクティスだけではない。遠くで戦っているグラディオラスやイグニスも、こちらで共に戦っていたプロンプトも同じように頭を抑え、信じられない様子でこの者を捉える。

 

「会ったこともねぇ、のに…こいつの名前が分かる…! なんでこんな所にいやがる…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スモークアイ…!?」

 

記憶が混雑しているためにこんな言い方になっているが、それでも意外だとばかりに目を向けるノクティス達の前には…

 

先程とは違い、少しだけスマートな姿をしたベヒモスのような、スモークアイと呼ばれた獣が、ノクティス達を襲わんとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グッ、この、道を開けやがれぇ!!」

 

何とか頭痛を抱えながらも剣をとったノクティスは、プロンプトと連携してスモークアイをどかそうとする。

プロンプトの銃連撃が足を襲い、その足とは逆をノクティスがシフトブレイクで痛めつけようとする。

が、全く効いていない様子で、そのまま突進を受けてしまう。

 

「グァァァァァ!!」

 

「ウワァァァァァァ!!」

 

呆気もなくやられてしまう先輩二人を見て、勇者達は強ばってしまうが、ハジメはそれでも進まなければならないと、再び錬成を使い始める。

 

「ここで諦めたら…一生僕は笑い物だよ!! 錬成!!」

 

ベヒモスと同じように足を覆い尽くす。そして少しだけ行動を制限させたかのように思えたが、先程の戦闘を見ていたのか、そう来ることが分かっていたかのようにスモークアイは足を素早く上に持ち上げ、錬成物を思い切り踏みつける。そしてそのまま、唖然とする皆を凄まじい頭突きでぶっ飛ばす。

 

その際、咄嗟にハジメが自分達の前に錬成を行った事で、最悪の事態は免れたが、悲しいかな。後ろから怒りのこもった咆哮が響き渡る。

 

まさか、と振り返ると、ハジメの錬成から抜け出したベヒモスが、こちらへと歩みを再開しているのがわかった。

 

「いくら何でも早すぎでしょ!! 一体、どうすれば…!」

 

悪あがきだとばかりに勇者がベヒモスへ光の一撃を、雫がスモークアイに一閃を繰り出すも、やはり体には通らず、どんどん距離が詰められる。

 

「…くっ、まずいな。この状況を打開できる策が全く思いつかない…!」

 

「っこの、道を開けろ!俺達は皆の所へ向かわなきゃならないんだ!!」

 

「あ…嫌…先生…!」

 

雫が微かに怯えだし、香織はなんとかしてハジメだけでも守ろうと、震えながら彼の前に立つ。

 

「ハジメ君だけは…私が守る…!!」

 

普段ならここで勇者の嫌味が飛んでくるだろうが、生憎勇者にもそんな余裕はない。

 

誰もが、これはもう駄目だ。と諦めかけた。

そして、そのままスモークアイの最後の突進が、勇者達を巻き込んでいく…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…失せろ」

 

 

 

 

 

 

その刹那、無数の青白く光り輝く何かがスモークアイを横から突き刺さり、それより後から1本の剣がそれを貫通し、スモークアイは橋のギリギリの所まで飛ばされる。

 

余程効いたのか、呻き声を上げながら必死に痛みを逃そうともがき、それを放った奴を睨む。が、余りにも痛みが強いのか、何もすることが出来ず、またもがき始める。

 

それに唖然としている仲間達を含め、同じ顔をしているように見えたベヒモスが、はっとして直ぐに、その犯人のところまで駆け出そうとする。しかし、またしてもどこかへと消え、あちらこちらを見渡すと、急に目の前に殺気のこもった目で自分を睨む、無表情のノクティスが手をこちらにかざしてくるのを最後に、目の前が真っ暗になった。

 

「グァァァァァァァァォォォォォォォォォォ!!!」

 

威嚇のものとは違う、悲鳴からなる声を上げるベヒモスは、スモークアイと同じようにその場でもがき始める。

どうやら、先程の攻撃が最悪な事に目に刺され、激痛で何も見えなくなったしまったようだ。

 

一方、2体を圧倒したノクティスは、2体が撃沈しているのを確認すると、ストっと地面に足をつけ、糸が切れたように一瞬体をよろめかせる。

 

「…今の力は…」

 

無意識に力を使っていて、我に返った時には何か懐かしい力が戻ってきたような感覚があった。

初めて見たようなものなのに、どこかで使いこなしていた記憶があるような…。

 

そんなノクティスに疑問の込められた視線を向けるプロンプトは、香織に治療してもらったあと直ぐに皆にお手製ポーションを配り、その回復性能の良さに皆が驚いていた。

 

「皆! 考え込むのは後! それよりも、アイツらが復活する前に早く!」

 

ハジメの再びの指示に、今度こそと勇者達は皆の元へ向かう。流石にもう、起きないでくれよと思うが、そんな思いも叶わず、スモークアイを通り過ぎた所で、何とか痛みに打ち勝った2体がゆっくりと起き上がったのだ。

 

「…あのさぁ、もういい加減倒れてくれないかなぁ!?」

 

ここまでくると、恐れよりも怒りが込み上げてくるが、今この状態で再び突進を繰り出されると、それこそ全員まとめてお陀仏となる。

ノクティスは完全にあの猛攻を覚えていないようで、さっきまでのあの眼差しが嘘のように、焦りを滲み出している。

 

「仕方ないが、やるしかねぇか」

 

「…先輩、僕もやります」

 

「コイツらの相手はかなりキツイぞ? 踏ん張れるか?」

 

「先輩だけに重荷を背負わせる訳には行きませんから!」

 

メルドは止めようとするが、何も策がない訳では無い事を察したのか、イグニスと同じように踏みとどまり、

 

「…やれるんだな?」

 

「「勿論」」

 

「…まさか、お前達に任せっきりなるとはな。直ぐに助けに来る! それまで踏ん張れよ!」

 

「あぁ!」

 

「はい!」

 

メルドは、今度こそ生徒達の場所へと向かい、2人は、再び殺さんとばかりに唸る2体の獣を睨みつける。

 

「…先程と同じ威力を出せますか? 先輩」

 

「どうだか。もしかしたらスタン取らせるくらいしか無理かもしんねぇ」

 

「充分です。そしたらアイツらの様々な所を埋めるので、直ぐに離脱しましょう。後は、団結した皆で一斉攻撃を決めれれば…」

 

「俺達は無事に生還ってとこだな。よし、もう一丁頑張ってやるか!!」

 

「はい!」

 

ハジメの返事を合図に、ノクティスが勢い良くスモークアイの頭上へとシフトで飛んでいき、お前だけはと殺意満点の頭突きを繰り出そうとした奴の頭を上手い具合にかわしながら頭上よりも上へ飛び、丁度2体が重なる視点まで来た所で、無数の残像剣をヤツらに再び浴びせ、狙いをスモークアイの足へとずらしたノクティスはそのまま一直線で突き刺す。

 

一方、目を失ったベヒモスはあの斬撃に恐れを感じているようで、顔を庇うべく足を出してしまったことが悪手となり、そこに剣が集中的に刺さってしまい、スモークアイと同じように転倒した。

 

「やっぱ、さっきみてぇにヤベぇくらいの威力は出てねぇな…」

 

一見はとても効いているように見えるが、さっきのあの攻撃では、肉を貫通し、骨スレスレまで届くくらいには威力があった。が、現在は肉を斬る位までになっている。それどころか、段々と力が入らなくなってきているのがわかる。

 

持ってあと十分かそのくらいだな、とノクティスは考えた。

 

「先輩! 離れて下さい!」

 

「! 分かった!」

 

考え込みそうになる頭を後退へとうつし、バトンタッチのように前へと出たハジメが、両手を前に掲げて錬成を始める。

 

まず、地面についている両者の頭部を固め、その後に右前、左前、胴体と順々に体を埋めていく。

何度も言うが、耐久力はそんなにある訳では無いので、少し力を加えようとすれば簡単に壊されてしまう。

 

だが、ノクティスが弱まらせたお陰で抵抗力が少しだけ下がった事により、錬成物を壊すスピードも格段と下がり、すぐさま直せるようになった。

 

本当ならここでノクティスにトドメをさしてもらう展開だが、ハジメはそれが無理だと分かり、撤退する寸前のメルドに一斉攻撃という提案をした。

 

ハジメはオタクである。それ故に、異世界の力の使い方や展開については詳しいのだ。ハジメから見ると、ノクティスは一時的に力を取り戻した戦士のようであると考え、それはつまり、継続して力の維持を行うのは無理な状態だと分かった。それに、そろそろ橋の方も変なぐらつき方を始めている。ここで完膚なきまでに叩き潰すよりは、撤退して相殺した方が早いと踏んだのだった。

 

「! ハジメ! 準備が整ったみたいだ!」

 

「分かりました! 直ぐに行きましょう!」

 

2人は踵を返すように後ろを向き、メルド達の元へと全速力で走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一足先に生徒達の所へ着いた勇者達は、残りわずかとなったトラウムソルジャーを両断する。

 

「皆!立ち上がるんだ! 俺達はこれまで数々の特訓で鍛えてきたはずだ! 皆なら絶対に生きて帰れる!」

 

流石は皆を纏める(プチ洗脳気味)事が上手い勇者と言ったところか。それにつられるように、今までへこたれていた生徒たちも立ち上がる。

 

それを確認したメルドが、すぐさまハジメの作戦を話始める。

 

「お前達、よく聞け! 今、向こうで2体の化け物共を相手にしている奴らが最後の足止めを成功させた時、一斉に魔法で攻撃を行う! それで脅威は収まるはずだ!」

 

「待ってください! 私も行きます! 」

 

「坊主達の作戦だ! それに、アイツらは必ず成功させると約束した!」

 

「でも! それだとハジメとノクトが!」

 

「坊主達の頑張りを無駄にするつもりか!?」

 

香織とプロンプトが猛抗議するも、メルドの気迫に何も言えなくなってしまう。

 

「直ぐに発射準備をしろ! いいな!?」

 

その言葉を合図に、皆が列となってベヒモス目掛けて魔法を放つ為の詠唱を始める。

 

「…信じるぞ」

 

「グラディオ、でも」

 

「アイツらが無茶してまで作った機会だ。これを逃したらもう勝ち目はねぇ。それに…約束したじゃねぇか。だから、帰ってきたらボコボコにしてやろうぜ?」

 

「それグラディオがしたいだけだよね!? 趣旨もちょっと変わってるし!!」

 

そうグラディオラスが励まそうとするが、イグニスは何時ものように冷静な表情をしておらず、ただひたすらに無事を祈ってるように見えた。

 

それから少し経ち、遂にハジメ達がこちらへ撤退を始めた。それと同時に、メルドが声を大にして、指示を出す。

 

「よし、お前ら! 一斉に放て!!」

 

メルドの声と同時に、それぞれが現在最高出力の適正魔法を放ち、ベヒモス目掛けて飛ばしていく。

それを確認したハジメとノクティスは、安堵しながらも更に速度を上げ、こちらに向かってきているのが遠くからでもわかった。

彼等はハジメ達の帰還を信じ、中には申し訳なさを出しながら魔法に集中した。

 

…ただ1人を覗いては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おー、やっぱ威力高そうだなこりゃ。あと少しだ、気合い入れろよ!」

 

「勿論です!」

 

ベヒモス達からかなりの距離を離した2人は、ただひたすらに走った。後ろでどのような動きを見せているのかは分からないが、立ち止まればベヒモスか魔法の餌食となる。そのため、足に力を入れることだけに集中した。

 

やがて魔法がそれぞれ後ろへと飛んでいき、耳が壊れるような爆音とともに風が巻き起こったのを感じた。どうやら着弾したのだろう。ベヒモスの断末魔も聞こえてくる。

それに、なにやらミシミシと下から音がしてくる。どうやら、橋も限界を迎えたようで、少し足で踏むと亀裂が入っているのが分かる。内心ヤバいと思うが、それを足を速めることに繋げた。

 

「危ねぇなぁ! よし、ここでシフトでも使うか。じゃねぇと間に合うか」

「ノクト!ハジメ!避けろぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「「…え?」」

 

ノクティスが力を使おうと前に手をつき出そうとした次の瞬間、プロンプトの怒号が飛び、ふと上を見上げると…。

 

そこには、誰が放ったか分からないが確実にこちらを狙った火炎弾が近づいており、対処できなかった2人はまんまと喰らってしまう。

 

「熱ぁ!!」

 

「っチィ!!」

 

そこで2人の足は止まってしまい、その場で倒れ込んでしまう。前から悲鳴や叫び声が聞こえてくるが、それよりも、橋にヒビがはいる音の方が大きかった。いや、もう橋は崩れていた。それも、

 

2人も巻き込んで。

 

「グッ! は、ハジメ! 俺の手に捕まれ! 何とかアイツらの所まで!」

 

「は、はい!!」

 

崩れゆく橋の上でも、諦める事をしない2人は、何とか手を掴み合い、力を振り絞って皆の所へと向かう。

 

「ノクト!!後ろだァァ!!」

 

しかし、珍しくイグニスの張り裂けそうな声がこちらへ飛んでくる。

そこで、後ろを見る前に頭に衝撃が走る。

 

「がァ!?」

 

ノクティスはその衝撃で、前に突き出していた手が自然と下へ降りてきまう。要するに、意識を失いかけてしまった。

 

「先輩!! 何で…!?」

 

ハジメが恐る恐る後ろを向くと、そこにはなんと、

あそこまでの状況からどうやって抜け出したのか、スモークアイがノクティスの頭を狙って手を突き出した光景があった。

 

そういえば、とハジメは考える。

 

(さっきの断末魔、1つしか聞こえなかったように感じる…。まさか、あの身体で振り切ったのか!?)

 

スモークアイは、グルルと嬉しそうに喉を鳴らし、ハジメにももう片方の手で意識を奪おうとする。

 

まるでその態度は、

『自分達だけでは済まさん。貴様らも道連れにしてくれる』

 

と言った驚異的な執念が込められているように感じた。

 

ハジメはなすすべなく意識を刈り取られ、そのまま橋の一部と化し、抵抗することはなくなった。

 

それに満足したのかスモークアイは、崩れるがままに己の体を任せた。何とか必死に抜け出そうとするベヒモスとは違い、王者のような貫禄を見せている。

 

「いやぁ!! 南雲くん!! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ハジメは微かに聞こえる絶叫に、申し訳なさを感じながら、

 

(ごめ…ん、しら、さき、さん…)

 

と心の中で謝罪し、完全に意識を闇へと閉じられる。

 

一方、ノクティスは失いかけの意識でハジメの手を握り返し、最後の力と言わんばかりにシフトを使い、イグニス達が待っている場所まで飛んでいこうとする。

 

が、やはり此処はノクティス達を逃がしはしないらしい。自分達の場所よりも後から崩れだした橋の一部が、ノクティスを巻き込み、途中で力尽きてしまったノクティスを飲み込みながら崩壊していく。

 

(すま、ねぇ…おま…えら…)

 

ノクティスは、途切れゆく意識の中でやはり叫び、泣き喚くような声を聞きながら…

 

 

 

 

 

 

 

「ノクトぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

段々と近づいてくる声を不思議に思いながら、ハジメと同じように闇へと意識を手放した。




如何でしたか?

ここで説明です。
スモークアイとは、ff15でノクティス達がチョコボに会いにいく、となった時のクエストで登場し、片目を失っているという点で謎の強キャラ感を出した、少しだけ通常とは違うベヒーモスです。

名前も姿も少し違うとはいえ、ベヒモスの様なやつに、挟まれたなんてもう絶望以外の何物でもないのでは?

そして、ノクティスが途中で放った連撃は、夜叉王の刀剣のシフトブレイクの時に飛んでいく物、です。

この時点で力が戻り、明らかに現在のノクティスでは不可能な威力が出ていますが、記憶が不安定なため、力もあまり使いこなせずに振り回されてしまう、と言ったところですね。

さて、これで下層ルート行きはハジメとノクティスが確定。あと一人は…。誰でしょう?

では、また次回。


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CHAPTER2 王の目覚め
目覚め


どうも、ゴアゴマです。
今回はいよいよノクティスの記憶と同行人の判明回です。

どうなることやら。

後、ご指摘いただいた空欄等について、かなりの削減をさせて頂きました。大変ご迷惑をおかけ致しました。

では、どうぞ。


《ここは…どこ…だ?》

 

 

 

 

 

深い深い、闇の中。

 

 

 

意識さえも飲み込まれそうな程の、暗い…闇。

 

 

 

 

いつか味わったような、孤独。

 

 

 

 

それら全ての感覚が、今の彼を覆い尽くしていた。

 

 

 

 

『俺は…何してたんだっけ…。誰かを誰かの所へ、連れてって…確か…デカブツに…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かって…誰だ…? デカブツって…なんだっけ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

違う…俺は世界の闇を…世界に…光を取り戻すために…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界の…何を取り戻すって…? そんな記憶…無い筈…なのに…な…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なにかすべき事があった気がする。だが、それすらも思い出せない。

 

 

 

 

 

 

 

あるのは、頭に走る微かな痛み、それだけ。

 

 

 

 

 

 

 

ただひたすらに彼は…ノクティスは闇に身を任せんとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《め‐‐‐よ‐‐‐お‐‐ス‐‐》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…なんだ…?』

 

 

 

 

 

 

 

 

《めざ‐‐よ‐‐しん‐お‐‐ノク‐‐ス‐‐》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…しん、お…? 何の…話を…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《めざ‐めよ‐‐しんの‐おう‐‐ノク‐‐ティス》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…王…俺が…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《めざめよ‐しんのおう‐ノクティス‐》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…そうだ…俺は…既に世界を…そして…俺は…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー 無いよなぁ…。えぇ? ノクティス王子? ー

 

 

 

 

 

 

 

 

ー ノクト。薬類の買い出しは、忘れずにな ー

 

 

 

 

 

 

 

 

ー ノークト! あのさあのさ、何か写真撮って欲しいリクエストない? ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーどうする? ー

 

 

 

 

 

 

 

ー んー…。行ってみて ー

 

 

 

 

 

 

 

ー やばけりゃ戻る ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー 俺、本当はニフルハイムの人間なんだ ー

 

 

 

 

 

 

 

ー どこの世界にこんなだらしねぇ王様がいる ー

 

 

 

 

 

 

 

ー ノクト。 王とは、決して逃げ出さない者の事だ ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー 俺はノクトの右腕になるって決めたんだ。だから何時までもグズグズしてられない。じゃないと、またアラネアに怒られるからねっ ー

 

 

 

ー 俺はお前の剣だ。だから、お前が最後までやり通すってんなら、シガイだろうがなんだろうが薙ぎ払ってやる。それが、俺に出来るせめてもの助けだからな ー

 

 

 

 

ー 例え眼が見えなくなったとしても、俺はお前を支え続けると誓った。…逃げ出さないというのならば、俺は俺の使命を全うして、お前を全力で支えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー ノクト! ー

 

 

 

 

 

ー ノクト ー

 

 

 

 

 

ー ノークト! ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー 常に 胸を張れ ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーさぁ、目覚めよ 真の王 ノクティス・ルシス・チェラム ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仲間達と共に…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何時の間にか痛みが引き、ゆっくりと瞼を開けると、ふよふよと時空の歪んだような場所が目にうつった。

 

それと共に、巨大な甲冑に身を包んだ存在が、こちらに近づいて来るのもわかった。

 

『漸く再起を果たしたようだな。ノクティスよ』

 

 

「あんたは…夜叉王か…」

 

ノクティスが夜叉王と呼んだ甲冑の存在は、彼の前へと接近し、話がしやすいように位置を変えて言葉を発し始めた。

 

『その様子であると、記憶は蘇っているようだな…ならば話が早く済む…』

 

「と言ってもかなり強引にだけどな。まだ曖昧な所は何ヶ所かある。…ところで…」

 

『承知している。ルシスの事であろう』

 

「あぁ。やっぱ、最後は見届けられなかったからな…。気になるんだよ」

 

ノクティスの純粋な疑問に、表情の見えない夜叉王が少しだけ安らぎを纏ったように感じた。

 

『何も案じることは無い。そなたが命をかけて守り抜いたルシスの民は、無事太陽の光の下に照らされ、今を生きている』

 

 

「…そか」

 

それ以上ノクティスは何も口を開くことは無かった。満足した訳ではないのは目に見えているが、失望した様子も感じられない。

 

ただひたすらに、達成感と安堵、そしてどこからともなくの喪失感を感じていたのだった。

それを感じ取ったのか、夜叉王は口を開かず、静かに静観していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…悪ぃな。待ってもらって」

 

『構わぬ。再びあの時の記憶を取り戻して直ぐなのだ。故に、何も言わぬ』

 

座り込み、少しだけ体を震わせていたノクティスが冷静を取り戻した所で、彼は今置かれている状況を確認し始める。

 

 

「ここは…クリスタル…か?」

 

『その問に答えるのであれば、否だ。ここは剣神が住まう場所等では無い。いわゆる、そなたの精神空間、と言った方が早いな』

 

「精神空間…まさか、スモークアイに頭ぶん殴られうんぬんの拍子に気ぃ失っちまったのが原因か…?」

 

『左様。加えるのであれば、それに力と記憶の解放が偶然にも重なったと言うのが、今の現状と言えよう』

 

夜叉王の言うところによると、気を失ったのが原因ではあるが、それと同時に力と記憶を取り戻す時期が来たのがもうひとつの原因であり、その条件が合致することによって精神空間での対話が可能になったとの事である。

 

「にしても、何で俺は別の世界に俺のままで居たんだ? グラディオもイグニスもプロンプトも、アーデンまで一緒にいるだなんてよ…」

 

『…それも踏まえ、我々が把握していることは全て教えよう。まずは状況を整理しなくては、本題にも入れぬのでな』

 

「なら、頼むわ。早めに動きてぇ所だが、何も知らないままじゃな」

 

 

『良かろう。

 

先ず、そなたの身に何が起こったのか、だが…。確かにあの時そなたの身も魂も消え、そなたの犠牲によって世界から闇は消し去られた…筈だった。

 

だが、何の因果か消えたと思われたそなたの魂は、姿形をそのままに別の世界へと行き着き、今に至るという訳だ』

 

「…てことは俺がルシスからハジメ達の世界に来た根本的な理由は分からない…てことか」

 

静かに首を縦に振る夜叉王は、『だが 』と言葉を続ける。

 

『何か意図的な力が加わっている、と言うのは確かだ。微かだが、何やらの力で無理やりあの世界に引きずり込まれた感覚があったのでな』

 

意図的な力。

 

その一言だけでこの出来事が偶然や確率で起きた事ではないことが証明される。寧ろ、偶然だと断定できる方がおかしい状況だ。

 

あの戦いにて命を失った者達と、それに付き従った者達が綺麗に同じ世界にちょうどいい年齢で過ごしてきたのも、当然のように一緒にいたのも、運命様のささやかな贈り物で済まされればそれで纏まるかもしれない。

 

だが、だとするのであれば突如としての転移はどう説明する? 戦争に巻き込まれることが贈り物とは大したものになる。

 

それになによりも、突如として現れたルシスからの使者とも取れるスモークアイが現れたのが何よりもの決定打だ。まるで、手を加えられた自分達が苦しむ姿を楽しむかのように…。

 

『続けるぞ。恐らくそなたは、なぜ我らもここに存在しているのかそして、なぜ力が再び使えるようになったかが知りたいであろう』

 

「まぁな。言っちゃなんだが、あんたらも俺が役目を終えると同時に消滅したはず…だが」

 

『ああ。だが我等は消えず、そなたの精神の内に宿り、王が真に覚醒するその時を待っていたのだ』

 

「我等? てことは他にも…?」

 

『あぁ。だが他の者達との対話はまたの機会にして欲しい。日を改めて言葉を重ねたいと言う者も居てな』

 

夜叉王は言葉を続ける。

 

『力が復活したのはそれ自体がそなたと深く結びついている為である。そして、何よりも歴代の王達が力の復活を望んだから…というのもある』

 

普通であれば酷な使命を背負わされ、命さえも捧げる事になってしまった者に望むべきことでは無いが、そうする事には何かしらの理由があるのだとこの場合は考える。実際、ノクティスもそうであると確信し、夜叉王もその通りに言葉を述べ始めた。

 

『我々も万能ではない。それ故に、確定された事実を述べることも、知る事も不可能だ。だが、そなたが別世界へと生をうけ、我々がそなたの中に宿ったという以上、そしてなによりも王の力がそなたから消えてなかったこと…。それら全てが、我々がそなたに力の完全復活を望む理由なのだ』

 

「…要するに何かが起こるからこうなったってのは胸張って言えるってことか…。結局振り出しじゃねぇか…。でも、望むってことは、きっとルシスを生き抜いてきたあんた達にとっても、俺達にとっても、打破すべきことが起きるってことなんだよな」

 

それを聞くと、どこか納得したような面持ちで、すっと足を立ち上がらせる。

 

「…一つ質問がある。この件に、六神は関わってると思うか?」

 

『…述べるのであれば、何かしらの形で干渉はしているだろう。でなければ、あの獣を説明する事が出来ぬ』

 

「…だろうな。俺は正直、エヒトってやつとグルなんじゃねぇかな…なんて気がしてきたわ。いや、流石に…

 

…ないで終わらせられねぇのがつれぇわ」

 

『…有り得ぬ話では無いのが恐ろしいな。特に2名程』

 

 

 

随分と自分達の世界を見守る立ち位置であった存在に手厳しい様子の2人。いや、他の歴代王達も同様だと彼は話した。

というのもなんも不思議なことは無く、エヒトの同胞の可能性が高いと思われる程に疑われる行いをした者が実際にいるのだから。

 

「なぁ、夜叉王」

 

『何用か。ノクティスよ』

 

「これって詰んでないか?」

 

『…何とも言えぬな。そなたの仲間達の中には話の通じぬ者が幾度となくおり、後ろ盾となっている組織の連中も信用がならぬ…。更にはルシスの化け物が乱入に加え、現在置かれている状態は救援が困難な何処か…。ルシスからの刺客とこの世界での刺客に用心しながら歩み続けなければならぬ…。

 

いや、訂正しよう。最早これ程までに最悪な状況は無いであろう』

 

「んだこのクソゲー。キングスナイトの劣化版なんてもんじゃねぇぞ全く」

 

『…そなた、まだあの遊戯を手放してなかったのか。ルシスの頃からそうであったな。試練の最中だと言うのにそのうんぬんナイトとやらの職業しかり素材しかりで訳の分からぬ御託を並べていつまでもいつまでも訳の分からぬ話を…』

「なんでそこまで言われなきゃなんねぇんだよ! てか何!? 見てたの!? 俺あんたに見られてた自覚ねぇんだけど!?」

 

本人達は漫才の如く言い争いを繰り広げているが、事態は発言通りかなりの悪状況である。下手に行動すれば、上げられるもの全てから狙われる可能性が高い。かつて水の都へ向かう道中よ時も、この様な状況になった事があったような気がする。

 

『…それはさておき、どう判断するノクティス・ルシス・チェラム。最悪な状況に変わりはないが、手はあるのか』

 

「別に、どんな状況であれやることは1つだ。ハジメを見つけて上のヤツらの所へ戻る。先ずはそうして準備を整える事だな」

 

『…上に戻ったところで、状況が変わるとは思えんぞ? むしろあのイシュタルとやらとで挟み撃ち等にされる危険性もあろう』

 

「…でもな、どっちみち何処を選ぼうがやべぇ時はやべぇだろうし。

 

 

 

 

 

何より、約束したからな。俺の手を取ってくれって。

姿をくらましたままどっか行ったなんて、そんな薄情な真似、出来っかよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まーそれに、俺はアイツらの初々しい物を最後まで見届けなきゃなんねーしな」

 

友人や後輩の晴れ舞台を見るまではどこも行けねぇよ。なんつってなと付け加え、膝に勢いを付けて立ち上がる。その眼は、かつての父親や恋人を失った時とは真反対の決意の固い眼だった。

 

『…成長したようだな。ルシスの頃であれば、仲間の指示を待つか立ちすくむだけだったと言うのに。色恋沙汰にも興味が無いようであったのに』

 

「うっせぇな! それなりに俺だって考えは変わんだよ!!」

 

 

 

 

 

夜叉王に対してツッコミを入れると同時に、ノクティスの身体がぽわぽわと光を出しながら輝いていく。

どうやら、現実世界での目覚めが近いようだ。

 

『…時間か。最後に伝えておこう。力が戻ったとはいえ、全ての力を一気に再生できた訳では無い。もしそうなっていれば、お主は負担に耐えれなかったであろうからな。戦いを続ける中で、かつての力までに戻るであろう』

 

「…まじかよ。俺TUEEEEが出来ねぇとか…。異世界っつったら定番だろが…」

 

『…良いか。ノクティスよ。』

 

「あ、無視なんだな」

 

『これは、聖石からの掲示でも、我々からの指示でもない。ただひたすらにそなたは、己の描いた未来を手に掴むために尽力せよ。それが、新たな世界でのそなたの目標となろう』

 

「…元よりそのつもりだわ。寧ろ、アンタがそれを言うと違和感しかねぇけどな」

 

その言葉に夜叉王は苦笑するように肩を震わせた。

そして、その言葉がトリガーになったのか、頼みがある、とノクティスに伝える。

 

『どうかーーを、よろしく頼む…』

 

「…あんたは反抗期の子持ちかよ…。俺たちの問題は俺達が解決するけどよ…。あんたも自分の問題は片付けられるように整えとけよ」

 

夜叉王は小さく感謝すると口にし、今度こそ意識が完全に戻る頃であるノクティスは、粒子となって舞い上がっていった。

 

 

 

 

 

 

『…願わくば、そなたにも添い遂げる者との物語があらんことを』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん…」

 

深い深い闇から這い上がるような感覚とともに、ノクティスはその眼をパチリと音が聞こえてきそうな程に直ぐ様開ける。すると、目の前にはベヒモス階や、トラップ階よりも真っ暗な世界が広がっていた。

 

「戻ってきたか…。にしても、い、たくない? あれほど衝撃があったにも関わらず、時間が経っているとはいえこんなにも回復してるもんなのか…?」

 

ならなぜ、と思考を巡らせることは出来なかった。

魔物が出たわけでもなく、誰かと再会した訳でもない。ただ1つ、有り得る可能性が低い事が嗅覚を通して伝わったからである。

鼻をくすぐるような美味溢れる匂い、即ち料理。そのような匂いが漂ってきた。

 

「…こんな所でなんで料理の匂いが…」

 

「ふむ、目覚めたか。いつもいつも心配ばかりかけさせるなお前は」

 

「っ!?」

 

その匂いを頼りにしていると、更にありえない声が聞こえ、その匂いと声の発生源であろう背後を振り返る。

そこには、彼が目的の1つとして掲げた物のうちの1つが、少し潤みを見せながらこちらを凝視している者がいた。

 

「約束通り、お前の手を離すことなく助けることができた。今度こそ、いや、今度は真にお前を支え抜く事を改めて誓おう。ノクト」

 

「お前…やっぱり1番情熱的なのはお前だろ絶対…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イグニス」

 

王の軍師が、彼の手を取った。




如何でしたか。

ということで、同行人はイグニスでした。まぁ、手をとる発言からもう決まってたんですが…。次回は何故イグニスがここに来たのかが明らかになります。

歴代王についてですが、親父はハジメ達の世界線は普通の父親していて、ルシス側の方はちゃんといます。ちょいとめんどくさい感じにしてしまった…。

まぁ、会話が無かったのは多めに見ていただけると…。
話を進めると何かしらイベントがあるので((((;゚Д゚))))

あと、イグニスの料理についてですが、ステータスプレートにてまぁ、ある意味1番チートな能力を持っておられるので、食料には困らないかと…。

では、また次回。


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軍師は決意する

ゴアゴマです。

久しぶりのありふれ投稿です。


不気味な程に静まり返った室内。その中に、凛とした表情を浮かべる少女と場に合わない巨漢な男、

そして、純新無垢に見える少女が苦しげにベッドへと横たわっていた。

とてもその室内の雰囲気は良いとは言えず、重苦し過ぎると言ってもいい程には沈みきっていた。

 

「…」

 

凛とした少女は、手繰り寄せるようにそして、力強く横たわる少女の手を握り、目覚めを今か今かと待ち望んでいた。それを男は何も言わずに、看病を続ける少女の肩に手を置き、労いをかけていた。

 

 

「…頼むぜ、イグニス」

 

 

やがて男は、少女達にも聞こえるか否かの小さな声で、ここにはいない一人の男に思いを託していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は遡り、オルクス大迷宮。

 

生徒達の放った魔法によって大橋は崩壊して行き、それに連なって彼等に牙を剥いたベヒモス達も巻き込まれて奈落へと消えていく。筈だった。

 

しかし、何の因果か放たれた魔法の中に、囮を買いでたノクティスとハジメを明らかに巻き添えにする為に放たれた炎の球が、たった一つだけの球がそれら全てを巻き込んだ。

 

勿論の事、何も知らない生徒諸君は頭が真っ白となっている。

 

「待って香織! 早まらないで! 落ち着いて!」

 

「嫌ぁ! 離して! 私が行かないと! 南雲君がぁ!!」

 

「止せ香織! 君まで死ぬ気か!?」

 

「私までって何!? 南雲君は死んでない! きっとあの瓦礫の中で助けを求めてる!!」

 

崩れ行く橋を前にしても、決してハジメの命を諦めない、いや、諦める事が出来ない香織は身を犠牲にしてでも助けに行かんと発狂する。

 

でなければ、交わした約束さえ守れずに最愛の人を失ってしまう。南雲君が死んでしまう。そんな激情にかられ、完全に我を失っていた。

 

その一方で、ノクティスの戦闘不能を察知してしまった友人3人は、彼女等同様に取り乱していた。

 

「プロンプト待て!! 早まるんじゃねぇ!!」

 

「離せよグラディオ!! そんなこと言ってる場合じゃ無いだろ!? ノクトが死んじゃうよ!!!!」

 

「そんな無防備に飛び込んで助けられんのか!? 頭冷やせ!!」

 

此方はプロンプトが香織の様に取り乱しており、グラディオの羽交い締めで何とか留まっているが、このままでは何時混乱が悪化してしまうか分からない。

 

それぞれが混沌とする中、イグニスはただ、崩れ行く橋を呆ける様に眺めていた。

 

いや、正確には失念と後悔に駆られ、途方に暮れる事しか出来ない様子だ。

彼の手からは、ハジメが作った彼専用の武器が零れ落ち、脱力する様に膝から崩れ落ちた。

 

(…っ、オレは…何をしていた…!?)

 

考えれば考える程に、後悔の渦は濃くなっていく。

2人の友の罵倒し合う声が響いているが、最早何を言っているのかすらも頭に入ってこない。

 

水中の中のように周りの音がこもって聞こえる。

今の自分の頭の中にあるのは、ノクティスを救う事の出来なかった失意のみ。

 

(俺は…ノクトを守ると誓っていながら…結局っ…!!)

 

聴覚と共に、視覚にも影響が出始めている。眼の下に水が溜まっていく様な感覚がして、周りがぼやけ始めていく。

取り乱していない生徒が居たのなら、この様なイグニスを見る事は滅多にないと思う。それ程までに、普段とは掛け離れるほどに彼は取り乱していた。

 

ただただ橋と同じように自分も地に崩れるしかなく、彼は地に振動を送りながら悔やみ続けた。

 

だが、それがトリガーとなったのか、この世界に来てからイグニスを悩ませていた知らない記憶が、再び彼の頭に流れ込んできていた。

 

 

しかしこれまでと違い、映し出される情景全てがかつて自分が体験した全てだと実感されていく感覚がイグニスを支配していた。

 

 

 

策の全てを駆使し、自らが仕える王の為に奮闘した記憶。

 

 

 

 

 

 

 

『ノクト。街を占領している帝国兵だが』

 

『あぁ。一筋縄では行かなそうだな。策はあるか?』

 

『勿論だ。やはり頭が准将と言うのもあり、妨害に対しての対処もかなり頭を使ったそうだ。ただ突っ込んでも袋叩きにされるのがオチだろう。

だが、俺達がお世話になった人達からの情報では、この街の地下にはいくつもの入り組んだ水道があるらしい。上手く使えば、帝国の監視を通り抜けられるかもしれない。それを利用して頭を潰そうと思う』

 

『成程な…ただ、万が一地上に出た時に見つかったらどうするんだ?』

 

『帝国兵が気付かない程の隙間から外を覗いて、相手が背後を見せた瞬間にお前のシフトの力で一気に仕留める。そうして数を減らしていけば、正確に、確実に仕留められる筈だ』

 

『…なるほどなぁ。ん? グラディオとプロンプトは何処に行ったんだ?』

 

『既にあの二人には潜入して貰って、彼等は高所からの奇襲を任せている。そろそろ半分近くの帝国兵が削られている筈だ』

 

『りょーかい。じゃあ、10倍返しくらいでやるか』

 

『100倍返しを期待しておけ』

 

 

 

 

 

我儘な王を厳しく見守り、その最後の一瞬まで王を見捨てる事をしなかった記憶。

 

『ノクト…また肉のみを平らげるとは…。いい加減改善しなければ、健康状態に支障が出るぞ』

 

『ノクト、服のボタンが外れている。直ぐに縫うから、直ぐに貸せ』

 

『ノクト、夜明けが来る前に早く就寝しろ。何時までも夜更かししようとするな』

 

 

 

 

『だァァァ!! いい加減ちまちまとしつこいわ!! お前どんだけ俺に制限かけるつもりだよ!!』

 

『元はと言えばだらしがない生活を送っているからのがいけないのだろう。だからこうして口うるさくしているんだ』

 

『お前は俺の母親かっての…! だからって何も旅までそうしなくたっていいだろ…!』

 

『だからこそだ。お前は婚約してからもルナフレーナ様にそのだらしなさっぷりを晒すつもりか?』

 

『うぐっ…』

 

『…ノクト。複雑になる気持ちは分かる。様々な出来事を経て、そのようにだらけきってしまうことも。だが、俺はお前の配下として、何より1人の友として、お前に何一つ不便無く過ごして欲しいんだ。だから面倒だとしても、今だけは従って欲しい』

 

『っ、そう言われると俺が強く出れないの狙って言ってんだろ…?』

 

『バレたか。だが紛れもない事実だ。

 

そうだな…それでもお前が改善してくれそうにないからな…。ならこうしよう。今から俺と勝負をして、もし俺が買ったら野菜尽くしのフルコース料理を食べてもらう』

 

『はぁ!? ぜってぇ負けらんねぇし…!』

 

『ふっ…なら俺を捩じ伏せてみろ…。どちらにせよ俺に負けているようでは話にならないからな…』

 

『言ってろ…なら俺が勝ったら暫くは俺の好きな料理を出し続けてもらうわ!』

 

『いつも通りだろう…。まぁいい。行くぞ…!!』

 

 

王を守る為に禁断の力を使用し、力の代償に視力を失い、眼が見えなくなろうとも、王の頭脳としてその身を支え続けようと決心した記憶。

 

 

 

 

『最初から決めていた…!! ノクトは…俺の全てを掛けて、最後まで守り抜くと…!!

 

指輪の力は…王でなければ使いこなせないと聞く…だが、王の剣達が、自らを犠牲にしてまで力を得、王の為に戦ったとも聞いた…!!

 

 

ならば…俺にも!!』

 

 

 

ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

『…イグニス。やっぱり眼は…』

 

 

 

『良くなる兆しは見えない。少しの光も射し込む気すらない。

 

…だが、その代わりに少しづつだが周りの気配や感覚に鋭くなるようになった。

 

以前のようには闘えないが…その代わり今出来ることで皆の…ノクトのサポートをしていきたい…そう考えている』

 

『ノクト…王とは、決して立ち止まってはならないものだ。

そして…お前がその足を止めずに歩み続けるというのなら…俺も足を止めたくはない。

 

だから…最後までお前の頭脳として、隣で戦わせて欲しい』

 

 

 

 

使命通りに王に辛い人生を歩ませ、促し、平和な世界を、取り戻した反面、己を責め続けた辛く悲しい…記憶。

 

 

 

 

 

『ノクト。俺は…お前の使命を知っていた』

 

『お前の苦悩を知っていた』

 

『お前の葛藤を知っていた』

 

『お前の…最期を…知っていた』

 

 

『…そか』

 

『俺は軍師として、お前の頭脳として、お前の臣下として、使命を全うすることを選んだ。

 

…だが、心の底では…お前の仲間としては…

 

お前の親友として…お前には幸せな道を歩んで欲しかった…っ! 本当はあの時、心のどこかで、逃げたいと言って欲しかった自分がいた…!』

 

 

『…』

 

『許されない事は分かっている。

 

 

俺はお前の自由を尊重できる立場でありながらも、

 

 

王としてのお前を支える立場であった俺は…

 

 

後者を優先した…。

 

 

俺は…お前の友人を名乗る資格は』

 

『イグニス』

 

『…?』

 

『確かに、逃げたら…俺は長い時間を生きることが出来ただろうよ。

 

 

だけどな…

 

 

全ての救える命を見なかったことにして…

 

 

俺が逃げ続けて得た幸せなんて…

 

 

そんなの幸せなんて言えんのかよ』

 

『…ノクト』

 

『…自分で言うのもなんだが、そりゃ親友が死ぬの分かってるのを…はいそうですかって言えるわけねぇよ。

俺の立場だったら当たり散らかして終わりじゃねぇかと思うしな…

 

でもよ、お前は…俺の幸せを見て見ぬふりしたなんて事、1つもしてねぇんだよ』

 

『何…?』

 

『誰だっけな? 未熟な俺の為に、嫌いな物全部食わせようとして決闘申し込んできた堅物は?

 

 

 

 

誰だっけな? 頼んでもねぇのに、俺を危険から遠ざけながら作戦を立て続けた堅物は?

 

 

 

 

誰だっけな? そんな理不尽な理由叩きつけられても、尚俺のことを考え続けてくれた奴は?』

 

『…』

 

『全てを知ってたとしても、少しでも俺の幸せを願ってこれからの為に色々とお前はしてくれただろ?

 

そうしてお前が、お前らが作ってくれたバカみてぇな、くだらねぇ日常一つ一つが…

 

それだけで、俺の幸せを作ってくれたんだ』

 

『っ…!』

 

『それによ…

 

俺に着いてきてくれたお前らの生きていける未来を作れるなら…

 

俺達に良くしてくれた人々が救われる未来を作れるのなら…

 

俺が使命を果たすことによって、こんなにもの奴らが救えるってんなら…

 

俺は…自らの全てをかけて世界を救う価値があると思うんだわ』

 

 

 

『…! ノクト…』

 

 

『だからイグニス

 

 

 

どうか自分を責めるのは止めてくれ。

 

 

 

 

最後なんだ

 

 

 

 

 

笑って終わらせようぜ』

 

 

 

『…ああ』

 

 

 

 

 

その日、軍師はまた一つ嘘をついた。

 

だって、仕方の無いことなんだ。

 

他でもない自らが仕える王が、嘘をついたから。

 

 

嘘なんだ。全てをかけてでも世界を救うのが本望だなんて。

 

嘘なんだ。最愛の女性を失った王に、親を失った王に自分達だけで幸せが満たされたことも。

 

 

けれど、それでも、イグニスが嘘を重ねてしまったのは

 

 

たった一つだけ王が、何の迷いも出さなかった理由が、イグニスが嘘をつかせる理由となったのだ。

 

 

 

それは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長く、そして一瞬の様にイグニスにかつての記憶が戻る。吐きそうな感覚と共に、目にぼんやりと淡い何かが宿り始める。

 

(…これは…そうか…違和感の正体はこれだったのか。

 

 

ははっ…道理でノクトに危険な道を避けて欲しいわけだな…

 

 

 

 

あんな…俺達との友情で塗り上げた日常を糧にやり遂げて終わらせるなんて…お前は何処まで俺達を引っ張り回す事しかしないんだ…)

 

イグニスはノクティスに密かに恨み言を述べると、自分の中に渦巻いていた負の感情を潰す様に手を握り締める。

 

ノクティスが最後まで突き通したもの。それは友情と日常。

 

あの時ノクティスが語った覚悟の言葉の中に、一つだけ真の王として覚醒する前からノクトを支え続けたその2つが、ノクティスは助けられるのと同時に、自らの心の支えとしていたのだ。

 

 

(…俺は、結局ノクトを最後まで辛い思いをさせてしまった…だからこそ俺達は、ノクトと共に幸せな世界を望んだ…

 

 

 

だが、運命はそれを許す事はしなかった。現に今、ノクトは橋の崩壊によって、また平穏を乱されようとしている。

 

 

 

 

 

俺はまた、後悔をしてしまった。

 

 

あの世界で、ノクトを最期まで守り、ノクトの本心を護らずに過ごしたあの時のように…。

 

 

 

それで終わりにしていいのか。イグニス・スキエンティア。)

 

 

 

手に、足に、腰に、全てに力を入れていく。

 

それに連動するように、膝が、足が、重い全てが上げられていく。

 

(俺は守れない? 今度も?

 

 

 

 

違うだろう。あの山で、俺は何をした? 自分の危険をさておいてノクトを守り抜いただろう。

 

それだけじゃない。だからこそ俺は約束をしたはずだ。あの誓いを)

 

 

 

 

 

『もし、まだ俺のことが心配ならよ。

 

…手を差し伸べてくれねぇかな。あの時みたいによ』

 

 

 

(あれはその場限りの約束なんかじゃない。きっと、あの誓いは、俺の、ルシスの時からの俺の望んでいた事なんだ。

 

 

 

 

 

 

俺はもう、使命の通りの道は歩まない。

 

 

 

俺はもう、ノクトに悲しい結末を歩ませない。

 

 

 

俺はもう…友の手を離さない!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

混乱する生徒達の中、また一つ、発狂と困惑が辺りを包み込む。

 

あるひとりの男が、崩壊する橋へと歩み寄っていく光景を見てしまったからだ。

 

当然、そんな光景を見れば仲間が、親友が黙って見過ごすわけが無い。

 

「おいイグニス! お前まで何をするつもりだ!!」

 

「何を? 決まっている。ノクトを、ハジメを助けに行く」

 

「お前もなのかイグニス! お前らいい加減落ち着け!

ノクトが心配なのは分かるが、早まれば全員死ぬんだぞ!? お前は4人の中で頭脳派なのは1番お前がよく知ってるはずだろうが!」

 

分かっている!!

 

「っ! イグニス…!?」

 

普段は出さないようなイグニスの怒鳴り声に、グラディオラスは一瞬たじろぐ。そして、それで何かを察したのだろう。今までの罵声が嘘のように止んだ。が、何も察しない勇者や周りは再び声を上げ始めてしまう。

 

「何を言ってるんですかイグニス先生! もう南雲達は助からない。ここは2人の意志を受け継いで帰還すべきです」

 

「そ、そうだ。早く帰りてぇよ!」

 

「先生は私達を守って下さいよ! だって迷宮の最初もそうしてくれたじゃないですか!」

 

「!! お前ら…! 冷静じゃねぇからって言っていいことと」

「止せ、グラディオ」

 

「でも!」

 

「プロンプトもだ。そして八重樫も」

 

イグニスに制止された2人は黙り込む。そして、生徒達の余りにも身勝手な意見、グラディオラスをも罵倒するような発言に頭が沸騰してしまった雫さえも、手に取った刀を渋々と戻す。

 

「そうだ。俺は教師だ。だからこそ、お前達の事を守らなければならない」

 

「なら!」

 

「だが、それ以前に、私は愛子先生と交わした願いがある。生徒全員の命を守るという事だ。

 

天之河。確かにあの瓦礫に飲まれてしまったのならば、生存率は極めて低いだろう。

 

だが俺は、1割でも、いや、例え可能性が無かったとしても彼等が生きているという事を信じる」

 

余りにも確証も何もない発言に、一同は再び沈黙してしまう。が、親友、そして雫が、取り乱した過程で意識を失った香織を抱き留めながらイグニスの言葉を耳に入れていく。

 

「グラディオ。確かに俺は冷静さを失った事を言っているのかもしれない。だが、救出する為に対策を立て直したところで、彼等が生きていたとするのならば立ち止まって居るとするか?

そうなった場合、折角生き残ったとしても救助した先で見つけることができずに断念、または食糧不足に陥る可能性もある。」

 

「…お前にはその全てを打開できるといいてぇのか?」

 

「俺のスキルに、料理保管と料理複製という物がある。戦闘には向かないが、充分に彼等を支援できるものではある」

 

「…お前が死ぬ事もあるかもしれねぇんだぞ? お前には将来を決めた人もいる。それでも行くってのか」

 

「…あぁ。きっと俺は、自らを犠牲にして、あの人を悲しませる行動を取ろうとしているだろう。

 

だが、俺はあの夜誓った。

 

ノクトの手を取ると。

 

生徒の命を守ると。

 

必ず、愛子の元まで帰ってくると。

 

今まで俺は守るつもりでいながら、ずっと逃げ続けていた。それしか方法がないんだと。

 

だが、もう俺はあの様な後悔はしない。

 

傲慢だろうと、何だろうと…

 

 

俺は全て成し遂げて帰ってくる」

 

恥を知らないような、狂ってしまったような事を何の躊躇もなく、ただ、覚悟を決めたように堂々と発言する。

もう最早、誰もイグニスの覚悟を、信念を止める言葉など残っていなかった。

 

「…」

 

盾と、王の頭脳が互いの視線を交差する。やがて、折れたのは盾であった。

 

「…はぁ。っんでお前らは猪突猛進な馬鹿が多いんだろうなぁ。お前でさえもんな事口走ったら、俺はもう止めらんねぇだろうが…」

 

「…すまない。だが」

 

「謝んじゃねぇよ。どうせこれしか方法が無いのは俺も薄々は思ってた。だが、冷静であろうとして俺も大事な事を見落とす所だった。

 

ノクトは馬鹿だ。だが、瓦礫に飲まれてそのまま窒息する様な間抜けじゃねぇ。

 

そんで、助けに行こうとするお前も、頭が固いだけの猪突猛進なアホだ。そんなヤツらが、手を離すなんて真似、する方が難しいだろうな」

 

苦笑いしながらイグニスを見るグラディオラスは、

怒ったような、苦いような、でもどこか頼もしげに顔を綻ばせる。

 

「正直途中、お前が何を言ってんのか分からねぇ部分もあった。が、お前が何も考えずにこんな事言う奴じゃねぇのは分かってる事だ。

 

 

 

 

だから俺とも約束しろイグニス。

 

 

 

その傲慢な程に抱えてるもの…1つも落っこどすんじゃねぇぞ。

 

 

必ず全て担いで帰ってこい!」

 

「…当然だ。グラディオラス。俺は教師だ。アイツの、ノクティスの親友だ。

 

 

必ず全てをやり遂げて帰ってくる!」

 

その言葉とともに、イグニスは崩壊する橋へと続いて飛び込んでいく。悲鳴が上がるが、それでも止まらずに突き進んでいく。

 

「イグニスゥ! こっちの事は俺達に任せておけ! 必ず合流してまた会おうぜェ!」

 

「あー! イグニスー! グラディオに馬鹿馬鹿言われたと思うけどー! グラディオも相当な馬鹿だから絶対に任せられると思うよー!」

 

「最後の最後にぶち壊すんじゃねぇヒヨコ頭ァ!!」

 

かくして、軍師は記憶を覚醒し、友との誓いを果たす為に手を伸ばす。

 

 

 

これは、かつて王を真の意味で救う事が出来なかった軍師の、再決意が描かれた話。

 

 



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少女の叫び

今回は少しオリジナル部分が大きいです。

また、グラディオラスsideはこれから時系列がバラバラになる可能性があります。
ですので、今回の話を基準にして何処の話なのかを前書きにて載せるようにします。

また、今回の後半は雫さんとグラディオラスさんの成分高めです。

本編では香織が弱っている様子でしたが、絶対に雫も思う所があるだろうな、と考えてこうしました。


イグニスが自らを持ってノクティス達を救出に向かった直後、残された者たちは心の支えの1つを失った事により発狂と絶望に打ちひしがれていた。

 

メルドが必死に呼びかけ、勇者が鼓舞させようとするが誰も聞く耳を持たず、ただひたすらに叫びを上げて地獄絵図を生み出していく。

その様子に何を思ったのか、アーデンは生徒達を置いて先に脱出路をスラスラと先に進んで行ってしまった。

 

「…正に興醒め…だね。…こりゃ失敗だったかな」

 

「な! 何処に行く!!」

 

皆を見殺しにしたと解釈したのだろう。いち早く代表者の教師やメルドを差し置いて、アーデンに追いつき咎めていく。

此処でなら勇者に賛同する声を上げるブーイングが響くと思われたのだが、最早批判を上げる気力も失せたようだ。誰もそれに介入する様子は見られない。

 

「何処? 決まってるでしょ? 帰るんだよ。イグニスセンセから言われたの、もう忘れちゃった?」

 

「な…だったら何故生徒達を見殺しにして自分だけ助かろうとしたんだ!! お前のやっている事は大人として…いや、人間として最低な事だぞ!!」

 

「へぇ。それは確かだね。じゃあ最低なままでどうぞ。俺も救う必要も無い子達を無理に気負わなくてすむしなぁ」

 

「は…はぁ!?」

 

何度目かの冷気の様に包まれる空間。またしてもこの男は爆弾発言を残していくようだ。

だが、それを正論へとしてしまっているのも勇者一行の難点というものであろう。

 

彼を筆頭に項垂れていた人達も、自分を救ってくれない、教師なのにと怨みに怨みが籠った目をアーデンへとぶつける。

 

一方、お馴染みの2人と常識人2人、そしてアーデンの半身(自称)だけは何も咎めずにただ愉快そうにほくそ笑む教師を見つめていた。

 

「はぁ…そうやって俺を責めれば何とかなると思ってるの、いい加減ウザイんだよねぇ…。

じゃあ聞くけど、そうやってれば助けが来るの? あれだけ武器を求めて戦いだーって意気込んでたヤツらが、仲間2人脱落しただけでこの世の終わりみたいな顔してさ…

 

ホント…君達何しに来たの?」

 

「だけ…だと? 巫山戯るな!! 仲間が死んでるのにその言い草は何だ!! お前はそれでも」

 

「あー、もういいよ。今君達に何を言っても無駄だから。

 

 

 

 

 

精々そうやってロクデナシの様に這いつくばってなよ。偽善者共

 

『!?』

 

まるで亡者。何時ものヘラヘラしたアーデンからは考えられないような、恐ろしく低い、ドスの聞いた声を浴びせられた生徒達は、壊れたブリキ玩具のようにピタリと全ての動きを静止してしまった。

 

それに次こそ興味をなくしたアーデンは、イライラした様子で1人の少女を見ると、今度は呆れた顔をしながら、

 

「…来たいなら勝手に着いてくれば良いんじゃない? そんなソワソワされてたら、コッチが困るんだよね」

 

「ホント!? じゃあ遠慮なく〜♡」

 

まるで呼ばれた子犬のようにドタドタと音をたてて、彼の半身(etc)中村恵里が当然のように彼の背中にしがみついた。それはもう聳え立つ丸太にがっつくように。

 

そして2人は、まるで後には誰も居なかったのように振る舞いながら出口を歩いていってしまった。

 

「…アーデンちょっとこれ…収集つく?」

 

沈黙の後、呆れたようなプロンプトのツッコミが響くが、またもや誰も顔を上げることは無かった。

 

その様に等々痺れを切らしたメルドが、腑抜けた皆に喝を入れ始める。

 

「お前らシャキっとしないか!! 本当に此処で死ぬ気か!? 魔物に挑んで勇敢に死ぬより、誰かを庇って死ぬよりも、腑抜けて抜け殻のように情けなく死ぬのが望みなのか!? 」

 

生徒達はその発言で漸く少しばかり、ほんの少しばかり体をびくつかせて重い体を上げ始める。

まだ正気を失っている生徒にはグラディオラスが、一息入れの喝を入れ始める。

 

「どうやら、お前らは期待してた奴らにすらも泥を塗って、裏切りてぇらしいな。甘えが許されるとか思っんのか知らねぇが…確かに甘えは大事だ。だかな…

 

 

 

何時までも好き勝手やらかしたら、後は頼れる奴らが何とかしてくれると放棄すんのは止めにしやがれよテメェら」

 

その喝に、メルドとは違い顔を項垂れさせ始める生徒達。

 

「奮起させんのに落ち込ませてどうすんのさグラディオ…」

 

「い、いや? そうでもねぇぞ? 全員が今度は立ち上がった。何とかなったじゃねぇか」

 

「本当にイグニスはコイツに任せて大丈夫なのかなぁ…パワードGORILLAだy」

「いくら先輩でもそれ以上の発言はお分かりですね?」

 

「あ、なんでもないです。はい」

 

相も変わらずにグラディオラスの愚痴をすぐに察知して、凄く笑ってない笑みを見せつける雫は最早はよ付き合えの具現化となっている。

 

余りにも場の明るさの度合いがくっきりと分断されてしまっている状況を目にして、メルドは困惑していた。

が、こうしている間にも危険が忍び寄らないとは限らないので、生徒達が僅かばかりの奮起を起こした今のうちにせっせと脱出をはかるのだった。

 

 

 

余談だが、ここでも余裕があるのか愚痴しかたまらないのか、恵里がアーデンに引っ付いていたのを面白く思わなかった勇者が、恵里をあの悪魔から引き剥がすなどと騒いでいたのだが、どうせお約束で終わることは目に見えているので、何も言うまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果的に皆は迷宮を脱出する事には成功した。

元の宿泊地であるホルアドに着くと、やっとこさ皆は全身の力が抜け、泣き出す者、崩れ出す者とそれぞれ居た。

 

勇者は真っ先にアーデンを血眼に探すが、彼は愚か恵里すらも見当たらない。

誘拐だと騒ごうとするが、何時もよりも冷静になっている龍太郎にまずすべき事を促され、渋々皆を宿まで誘導していた。

 

その一方で、

 

「…ふぅ。ホント、あんなのは二度とごめんだよ」

 

「あぁ。いらん筋肉使っちまった…」

 

「その割にはあまり傷を負っていませんよね…。やっぱり実力なんでしょうか…?」

 

「いや真に受けない方がいいよ八重樫さん。コイツ力だけはレベチだからさ…いやなんでもないです。ハイ」

 

鈴、雫、気を失っている香織を含めた常識人組は

皆からほんの少しばかり離れた所で各自休憩を取っていた。

全体に比べ、冷静に物事を判断出来る2人は、常に状況を冷静に見極めている先生とプロンプトの話、意見を良く聞いた方がいいと判断したのだろう。

 

「あ、あの…グラディオラス先生…」

 

「ん、どうした谷口。…あぁ。アイツらの事か」

 

「はい…3人とも…そんな事考えたくないけど、何かあったらどうしようって…」

 

と、鈴は物珍しく不安げにポツリと告げ出す。

やはり、救出が入ったとはいえ、未知の領域に崩れ去ってしまったクラスメイト達を目の当たりにしてしまったのは、かなり心に来てしまったのだろう。

もしここで一人ぼっちだったとすれば、泣いてしまうのではないかと言うほどに。

 

そんな生徒を見ると、グラディオラスは自然と手を鈴の頭へ置き、安心させる為に行動する。

 

「心配すんな…とは言えねぇ。どうなっているか俺達には何も分からねぇからな。適当な事は言えねぇ…。

だがな…俺はアイツらが、どうにかなったんじゃねぇかなんては1つも思ってねぇ。

 

そりゃ崩れた時は混乱したが…冷静になった今なら、あそこまで窮地でも勇気を出して囮を買いでたアイツらが、簡単にくたばるとは思えねぇんだよな…

 

それに、あの時約束したからな。必ずイグニスが2人の手を引っ張り上げてくれる。

 

そう考えたら、また2人と会えるのも難しい話じゃねぇと思えてこねぇか?」

 

一見、何の根拠もないふわっとした意見に聞こえるが、グラディオラスにとっては一つ一つが信頼出来る理由であり、またそうやって元気づけられるものだから、

不思議と鈴も不安な心が取り除かれていく。

 

「…そう、だよね。あの時だって私を率先して助けてくれた2人だもん。なにより私達の頼れるイグニス先生が行ってくれるんだもん。根拠はないけど、きっと大丈夫だよね…! 」

 

「少し元気になったか?」

 

「うん! ありがとうラー君先生!!」

 

「相も変わらずセンスを疑うあだ名だなお前…」

 

そうも言うが、調子を取り戻した鈴に少し安堵した様子でグラディオラスははにかんだ。

 

「あー、嫉妬してる?」

 

「…いえ? だってこの状況ですよ? それは先生だって気を回しますから当然です。

ただ…分かっているのにすごく納得のいかないだけです。それだけ。はい」

 

「…そっかー。でも、早めにグラディオのとこに行った方がいいと思うよ。

 

 

 

多分、アイツも気付いてると思うけど…

君、大分心と表情の連携乱れてるよ?」

 

「…!」

 

本人達にしか分からない指摘に、あからさまに反応する雫を見て、プロンプトは目でグラディオラスに何かを合図した。

それに答えるように、彼もプロンプトに対して了承の合図をした。親友になると高度なアイコンタクトも可能な様だ。

 

 

やがて、とうとう疲れの限界を超えた全員は、力無くそれぞれのベッドにて眠りにつき始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、王都行きの馬車が到着し、まだ完全に疲れの取れない体を揺らされる事数刻。

やっとこさ生徒達は王国へとつき、心の底から安心を迎えた。

 

また、昨日まで姿を消していたアーデンと恵里は、王国へ着くと何事も無かったかのように混じっていたが、現状から騒がれる事は全く無かった。

勇者は別だが、龍太郎の監視が厳重な為、動くことがままならなかったらしい。

 

 

とはいえ、今回王国に戻ってきたのにはただの休暇等ではなく、とてもあの状態で訓練を再開など出来るはずもなく、生徒達のメンタルケアも兼ねて宿泊地も飛ばし、王国へと戻ってきたのだ。

それと同時に、ノクティス、ハジメの奈落行き。そしてイグニスが救出に向かった事の報告もしなくてはならない為、王国の帰還は絶対であったのだ。

 

 

とまあ、ここまでは綺麗事のように事が過ぎ去って行ったのだが、問題はここからだった。

 

「報告ですが…此度の迷宮訓練での緊急事態にて、2名の行方不明者、及び救出に向かった者が1名おります」

 

王国の連中は失踪者と聞いてどよめいたものの、その人物がハジメ、ノクティスであると聞いた途端に、安堵の息を漏らしたからだ。

 

「一人は南雲ハジメ。もう一人はノクティス・ルシス・チェラム。そして救出者がイグニス・スキエンティアであります」

 

「なんと…それは何よりであるな」

 

「…は?」

 

そこからは正に地獄絵図であった。

権力者達が口から漏らすのは労いの言葉なんて綺麗なものではなく、無能と決めつけられたハジメと、度々強力すぎる謎の力を発動させていたと断定され、不気味がられていたノクティスが失踪と聞いて安堵する声、そして彼等を罵倒する者ばかり。

 

ハジメには神の使徒でありながら才の無い事を罵られ、

ノクティスに至ってはそれだけの力を持っていながら味方一人も傷付けずに済ませられなかった事を罵倒されるばかり。

 

いやはや、全くもっておかしい話である。

 

ハジメが無能。それは全くのお門違い。

彼の勇気ある行動。そして彼の機転の効く頭脳によって、どれだけの人達が救われた事か。

彼の活躍は無能等ではなく、寧ろ英雄として讃えられるべきものだ。

 

ノクティスの力不足。そもそも、転移者に戦闘を任せっきりにしている者が完璧を他者に求めるのもおかしな話である。

 

ノクティスのあの力がなければ、今頃勇者一行は2体のベヒモスの餌となって腹の中をさまようことになっていただろう。

 

メルドはその事を何度も説明した。今回の帰還は彼らの行動があってこそのものだと。

 

だが、まるでそれを認めるのを都合の悪いことだと、事実をねじ曲げる様に悉く意見を突きつけてくる。

 

ではなぜ勇者達の帰還がこんなにも遅れたのだやら。

活躍したのなら全員を守って当然やら。

 

そもそも救出に指導者が出向いてる時点でお涙頂戴の芝居なのでは無いか、とイグニスの行動さえも否定される始末。

 

好き放題言われ続け、雫は思わず手を出してしまいそうになる。が、グラディオラスに拳を握られて横に首を振られた事により、行動を控えてじっと耐え始める。

最初は抗議をあげようとしたが、グラディオラスが愚痴を零していた貴族の何人かを眼光で貫いて黙らせていた為、大人しく引き下がることにしたようだ。

 

また、偏見の正義感が今回は上手く働いたのか、その様子を面白く思わなかった勇者はその事を激しく抗議する。

流石に勇者直々に激怒されると思わなかった権力者達は、すぐ様謝罪及び罵倒を上げた者達の処罰を言い渡した。

しかし、グラディオラス達からすれば勇者の抗議にも不満があり、彼の脳内ではどうも、三人は死亡した扱いの様なのだ。

 

メルドが行方不明と救出と話したにも関わらず、

貴方方がそんなでは死んだ三人も報われないだとか、

彼らの最後の意志を無駄にする気かとか。

 

咄嗟にそのねじ曲がった反論にまた反論を重ねようとするが、権力者達は此処でも小癪な抵抗を見せ始め、

突然勇者の事を失った仲間、しかも無能等にも手を差し伸べる優しき勇者と褒めちぎって反論を無くさせ、

罵倒を撤回する素振りを見せつつハジメ達の評価は変わらないという、勇者の口封じの為だけの暴挙に出始めたのだ。

 

この収集がつかなくなり始めた状況にはグラディオラスも流石に行動に移すしかなく、

先ず間違った情報を垂れ流す勇者(無自覚)を咎め、

その後に

「これ以上俺達の生徒の勇気、そして意味のある行動を汚そうとするなら、生徒達のこれからの行動を考えさせてもらう」

と行き過ぎずの脅しをかけたことによって、やっとこさ権力者達の不審な動きは終止符を迎えた。

 

神の使徒である以上、全ての使徒が行動不可になるのは避けたいのだろう。かといって、彼らはエヒトが直々に召喚なされた偉大な使徒だと考えている。

手荒な真似は出来ないのだろう。

個人的にグラディオラスを暗殺すれば済む問題だと考えた者も居るのだろうが、雰囲気を見るに、グラディオラスとそれに連なる者達を慕っている者も多い。

彼を殺せば多くの生徒達が離脱する事も考えたのだろう。

 

あまり相手側も下手に動く事が出来ない事を理解したグラディオラスは、これからの武器として扱おうと心に決め、最後に暫くの生徒達の休暇を出す事を取り付けて発言を終わらせた。

 

尚、ここまでの間に名前が出た者以外の生徒達は一切口を開くことがなかった。

鈴を含めた何人かはグラディオラスと雫と同様に抗議をしようとしていたが、それ以外の生徒達は我ここに在らず、と言ったように現実逃避を行っていたようだ。

 

また、彼等はノクティス達を奈落に追いやった誤爆についても何も口を出さなかった。

 

メルドが報告の一環として、放った魔法の中に1弾だけハジメ達へ向かった魔法弾がある事は知れ渡った為、話題を切り出す必要は無い。

にも関わらず、誰もその事について話そうとはしない。

 

あの時は魔法の嵐が巻き起こっていた為、誰の魔弾がそうなったのかなど分かりもしない事だ。

だからここで下手に出れば、自分達が処罰の対象になる事を恐れたのだろう。

 

グラディオラス達は、これ以上下手に出ればノクティス達へも影響する事を考え、一旦は出しゃばるのはよした方がいいとしてここで本当に報告会は終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方が知ったら…なんて言うかしら…」

 

そして現在に戻る。今も眠り続ける香織の前にて、手を握りながらずっと目覚めを待ち続けている雫。

 

そして、事の有様を知ったらこの眠り姫は何を思うのだろうか。

その恐怖が拭えないでいた。

 

いや、きっと恐怖はそれだけでは無い。

 

プロンプトからも指摘されたのを含めた様々なモノが渦巻いて、彼女を苦しめている。

 

握る手の逆手が拳をつくる。ワナワナと震えて恐怖を逃がそうと働いている。

1人で抱え込むようにしているその姿は、誰が見ても無理をしているように見えるだろう。

 

その彼女を前にしても、グラディオラスは動揺すること無く、何時ものように雫の肩を軽く叩く。

それだけで、彼女は気持ちが少し軽くなるような気がした。

やはり、彼女にとって彼は…。

 

「…ん…」

 

「かおり…? 香織! 私が分かる!? 香織!」

 

「…漸くお目覚めか」

 

握りしめて幾つ時間が過ぎただろう。

眠り姫はやっとその重い瞼を上げ、何も知らないような輝く瞳を顕にする。

 

「ん…しずく…ちゃん?」

 

「えぇ、そうよ。雫よ。香織、体調はどう? 長い事眠りっぱなしだったから…何処か具合が悪かったら言ってね」

 

「…うん。平気。それにしても、長い事眠ってたんだ…。どのくらい? …いや、えっと…」

 

段々と思考を巡らせているその様子に、何処か雫は焦っているみたいだった。

そして、まるでひとつの結論が認められないように、香織の焦点が段々と合わなくなってくる。

予想通りだと言わんばかりに、雫は香織の思考回路に埋め尽くされてるであろう結論から逸らそうと、会話を投げようとする。しかし、

 

「そうだ…。私迷宮で…それで…あれ? …南雲君は?」

 

「…っ!!」

 

香織の結論が見出すまでの時間の方が圧倒的に速かったようだ。

 

そこから彼女は取り乱すように見渡し、焦点の合わない目をじっと雫に集中させて訪ね始める。

 

「雫ちゃん。南雲君はどこ? 何処にいるの?」と。

 

まるで隠されたおもちゃを必死に探す子供のように。

 

まるで縋るものを無くした哀れな子のように。

 

「嘘…だよね? そんなの嘘だよ。だって約束したもん。絶対に私が守るって。あの時化け物が2体も現れた時だって、ちゃんと私が守ってたもん。だから南雲君は無事だよね? ここに居るよね? ねぇ…なんとか言ってよ雫ちゃん。訓練場かな? 南雲君は。ノクティス先輩と一緒に訓練でもしてるのかな…。そうでしょ? だったらお礼…言わないと…」

 

「…香織!!」

 

どたっと鈍い音を立てて膝から崩れる。咄嗟に2人が支えるが、それでも香織の足は止まることをしない。

拘束を振り切る為に力を振り絞るが、2人に抑えられてはどうしようもない。

ただ赤子のように暴れるのみ。

 

「ねぇ…香織。聞いて」

 

「嫌…」

 

「違うの香織。よく聞いて」

 

「嫌よ…何も聞きたくない…南雲君に会うまで何も聞かないもん」

 

「香織…!」

 

「嫌ったら嫌ァ!! 違うもん! 南雲君は絶対に居る! だから違うの…!! 死んでなんか」

 

「落ち着け白崎!!」

 

ビクッと身体を震わせる香織。自身でかなり取り乱していた事を自覚した様だ。

グラディオラスの呼び掛けによって、少しだけ話を聞ける状態になった所で、雫が再び香織に告げる。

 

「…ごめんね。雫ちゃん。少し…うぅん。かなり取り乱しちゃった…」

 

「…いいえ。誰もそうなるわよ。

改めて言うわね。南雲君は奈落に落ちたわ。でも、イグニス先生が助けに向かってくれてる」

 

「…え?」

 

光を失いかけていた瞳に灯火がともり始める。

友人の口から聞きたくもない言葉が紡がれたかと思いきや、それに対抗する希望をも話され、唖然としてしまう。

 

「お前と同じように、イグニスもアイツらの生存を信じて疑わなくてな。飯に困らないから~とかの理由をほざいて飛び込みやがったんだ。全く…友人ながら無茶する奴だぜ」

 

「…そう、なんですか。先生が…」

 

「あぁ。なんでも、畑山先生と約束したらしい。全ての生徒を守るっていうな。

だから、残りの生徒を俺達に任せて、アイツらを救いに行ったんだ」

 

そこまで言うと、香織は徐々に瞳を潤わせ初め、頬に一筋の雫をこぼし始めた。やがて滝のように流れ始め、

心から安堵、そしてイグニスへの感謝の念でいっぱいになり、心のダムが決壊したようだ。

 

「そっ…か…よかっ…た…」

 

雫はそっと抱きしめ、彼女が泣き止むまで背中をさすり続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

 

またもや皆が寝静まった訓練場にて、一つの素振りの音が木霊していた。

その正体は木刀。そしてそれを振るう人は雫だった。

 

彼女は、昼の泣き続ける香織の背中をさすり続けたそのあとの夕日。

その後の状況を話した時の香織の表情を思い出しながら刀を振っていた。

 

『そう…なんだ。王国の人も…誰も南雲君にそんな事を…』

 

『…許せないか?』

 

『…うん。だって、南雲君達がああしてくれなければ、今私達は此処に居なかった…。なのに…こんなのあまりにも酷すぎるよ…』

 

『…香織は、香織はどうしたいの?』

 

『…決まってる。南雲君が帰ってくるまで、私も強くなる。それで…南雲くんが帰ってきた時に、今度こそ守れるように…そして…皆を見返してやるように…だから2人共』

 

『なに?』

 

『なんだ』

 

『力を…貸して下さい』

 

『…勿論よ』

 

『おう。待つ者同士、協力し合おうじゃねェか。そんで、帰って来たら気が済むまでぶん殴ってやろうぜ』

 

『あはは…それはやりすぎじゃないですか先生…

でも…帰ってきた時は、いっぱい泣いて、いっぱい話して…

 

 

 

おかえりって、言ってあげたいです』

 

最後の一言の香織の笑顔が頭に浮かんだ時、雫はより一層鍛錬に力を入れた。

 

(あの時…香織は一切の迷いがなかった…

ただひたすらに、南雲君も信じた先での言葉を放ってた…)

 

その笑顔が、決意が眩しくて、

雫は力む程に腹正しかった。香織にでは無く、

それを黙って見てることしか出来なかった自分に。

 

(香織はあんなに弱っていたのに…それでも1つの信念を曲げる事は無かった…眩しかった…。

 

 

 

 

 

 

それなのに私は…!)

 

更に身体に力が入る。最早振る以外に動作が働かない。

ただ空間に力の籠りすぎた一撃を、やけに放っていくしかない。

その度にまた不甲斐なさを感じて、力が籠る。

 

その繰り返しをし続けた途端だった。

 

「オイオイ…力み過ぎだ。そんなんじゃ鍛錬にもなんねぇだろうが」

 

「…!!」

 

ぴたり、と刀が前へ動かなくなる。

手元を確認すると、丸太のような腕が刀を静止しており、辿るとグラディオラスが立っていた。

 

「…すみません。起こしてしまったでしょうか」

 

「いや? 丁度俺も手が空いた所だったからな。丁度いい」

 

えっ…と言う言葉をあげる前に、なんの算段なのか自分の対面に訓練用の木製の大剣を携えながら立ちはだかり始める。

改めて立ちあうと巨大で、自分が三人は丸々埋まってしまうのでは無いかという感覚に包まれる。

 

「相手してやる。鬱憤が溜まってんだろ? だったら発散、手伝ってやるよ」

 

「! いえ、でも…」

 

「プロンプトにも言われたろ? 今のお前、危なっかしいんだよ。

て事で、少々手荒だが行くぜ!」

 

「えぇ!? ちょっと!!」

 

問答無用という猛激を必死に耐えたり躱したりしながら、突如として始まった戦闘を乗り切ろうと始めていく。

 

大振りな得物のため、どうしても動きが重めになるのを知っているからか、出来るだけ背後に回るように立ち回りながら攻撃を繰り出していく雫。

だが、どういう訳かグラディオラスの立ち回りは尋常でなく、回り込んだつもりでもいつの間にか体を吹っ飛ばされており、中々一撃を当てるのすら難しかった。

 

特に、今の雫であれば。

 

どんなに連撃を繰り出しても、まるで歯が立たないように全て打ち消されてしまう。これはもう、武器のせいには出来ない程に。

 

それに比べ、自分はグラディオラスの攻撃を嫌になるほどくらってしまう。飛んでは撃ち落とされ、回り込んでは吹っ飛ばされ、居合いになってはねじ伏せられ、距離を取れば詰められてねじ伏せられ…。

 

「どうした八重樫! いつもの半分も力が出てないぞ!そんな調子で白崎に力を貸せるのか!!」

 

「…!」

 

煽りによってスイッチが入り始めたのか、先程よりも攻撃に腰が入るようになった。

簡単に弾かれた攻撃が押し返せるようになり、背後に回った場合でも背中付近までに刀を持ってけるようになり、相手の猛攻も防げるようになっていった。

 

 

 

だが、そこからはその猛攻仕返しのリターンの連続だった。

うち返せても、攻撃を逆に当てることは何時までも出来ずに、模擬戦はグラディオラスの号令によって終わりになってしまった。

 

そして、静まり返った訓練場にて座り込んだ2人は、本題に入り始める。

 

「ふぅ…やっぱ体を動かすと汗ばむなぁ…ってそれどころじゃねぇな」

 

「…」

 

「どうした。迷宮から帰ってきてから…いや、トータスに来てからか」

 

「! 気付いて…たんですね…」

 

「そりゃあな。あんだけ人にしがみついてりゃ、検討もつくわな。そんで、南雲達が奈落に行ってからその不安に拍車がかかったと」

 

図星、というように雫は俯き始める。

途端に、雫の作ってきたしっかり者としての顔が崩れ始めていく。

 

「…本当は怖いのを我慢もしてたんです。

戦争に参加する事も…本当は逃げ出したかった。

 

だから、正直園部さんが別の道を作ってくれた時…そちらに行きたかった。

 

 

でも私は、光輝の幼馴染だから…彼の間違いを正しながら元の世界へ帰るために…そして…

貴方の背中を追いたくて、強くなりたくて戦う道を選びました…。

 

だから状況を良く判断しようとしてたし、アイツらがバカやらかそうとしたら…怒鳴ってでも止めようとした…。

 

 

けど、結局私の声は届く事がなくて…

 

 

それどころか…南雲君やノクティス先輩が行方不明になってしまって…彼等の罵声にもただ怒鳴る対応しか思いつかなかった…。

 

…結局私は臆病なだけだったんです…。ただ強くなりたいだけのに、正当な理由を付けて…。

 

あの時、ベヒモスに挟まれた時も…刀を持ち上げる事も出来ずに絶望する事しか出来なくて…。

私も…皆と同じく現実逃避を繰り返して…自分はしっかりしていると自分自身に暗示をかけていたに過ぎないのだと…!

 

そう思ったら…心の中のモヤモヤがどんどん大きくなって…。

 

それに比べて香織は…あんなに打ちのめされかけたのに、泣きじゃくって混乱していたのに…南雲君の無事を誰よりも信じていた…。私からしたら…眩しかったんです…。

 

 

…不甲斐ないと笑いますか…? 先生…」

 

「…」

 

グラディオラスは少女の叫びを静かに聞いていた。

 

常に強くあろうとしていた少女は、この迷宮の出来事で見るも無惨に叩きのめされてしまったのだ。

 

幼馴染の行いを正そうとするも叶わず、

 

しっかり者であろうとしても手を差し伸べることもままならず、

 

慕う者の背中を追い求め強くなろうとも、心の刃を折られてしまい、

 

友人の光り輝く姿と対照的に感じてしまった自分を卑下していた心に、とうとう限界が来てしまったのだ。

 

止まらない叫びを伝え終え、オルゴールの終わりのようにピタッと語る事を止めた雫は、虚ろな目で地面と睨み合う。

 

「…全く…何で俺の回りは抱え込む奴ばっかり何だろうな…」

 

「…え? わ…!?」

 

それを聞いていた教師は、ガシガシと自らの頭をかき、

少々乱暴に空いた手で雫の頭を抱き寄せた。

 

「あのなぁ…そーやって1人でどーにかしようとすっから自爆しちまうんだろうが。

 

暴走勇者を抑えられねぇ? 少なくともお前の度々の説教があったから行動を抑えられてる部分もあると思うが?

 

誰にも手を差し伸べられなかった? 馬鹿言え、お前の存在はその光り輝いてる白崎からすれば居るだけで手を繋ぎあってるもんなんだよ。

2人が行方不明になってしまったからって卑屈すぎだテメェも。

 

憧れの背中を追っても強さが追いつかずに心が折れた? 少なくとも自分を役立たずだと罵ってる内は強くなれねぇよ。お前はその土台に立ってねぇだけだ。

憧れを追い求める前に自分自身と向き合ってからにしとけせっかちが」

 

「え、あ、その、え…?」

 

厳しくも、自身を突き放さない言葉一つ一つに、狼狽してしまう雫だが、耳だけはしっかりと、どんなに狼狽えても彼の言葉を受け入れ続けた。

 

「あのな…俺から言っちまえば…今のアイツらは全員大馬鹿野郎共だよ。

人の話はロクに聞かねぇわ…反対意見を信念を持って押し切ったフリして後になって嘆き散らして考えを放棄しやがる奴ばっかだしよ…オマケにリーダーが猪突猛進型の阿呆と来た…。

頭痛まっしぐらだっつーの。

 

 

けどお前はよ、どんなに後悔しようが、折れそうになろうが、弱音を抱えながら必死に耐え抜いてきただろうが。まぁ抱え込みすぎてこうなってんだろうが…。

 

だから今度は、その溜め込んだ物を身近な奴らに吐き出しながら歩んで行けよ。

 

そうしたら、お前が悩んでいる物一つ一つが消化されて、背中にも追いつくんじゃねぇのか?」

 

 

 

辺りに甲高く短い声が木霊し始める。発生源はグラディオラスの胸の中。

溜めてるものを吐き出せというグラディオラスの言葉に、本当に全てを、身体が勝手に出してしまおうと働きかけているようだ。

 

「っわた…しの…今までの…行動…は…無駄じゃっ…なかった…んです…か…?」

 

「寧ろどうやったら無駄に感じたんだよ…。お前がいなかったらあのクラスの均衡感覚が一気に崩れてたんだぞ…? 良くやってるよ。八重樫は」

 

「…私は…! わた…しは…!!」

 

「おーおー、良く頑張ったな。気の済むまでそうしろ。頑張り屋」

 

もう、彼女を拒む壁は存在しなかった。

昼間の香織のように、或いはそれ以上に声を震わせながら、彼に抱き寄せられた中で泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜は、いつもに増して、潤いを纏っていた。



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ハジメを探して

時はイグニスがノクティスを救出した時まで遡る。

 

見事に合流した2人は、すぐ様腹ごしらえをして動ける準備を整えた。

腹が減ればなんとやら。それも未知の領域ともなれば尚更である。気も張り巡らさなければならない為、空腹では命の危険も増幅する。

 

それに、奈落の脱出も含め、ハジメの捜索も進めなければならない。ちょっとした見落としは捜索の難航へと繋がる為、焦る気持ちも抑えて冷静に行動しなければならなかった。

 

「一緒に瓦礫に飲まれたはずなのに、何で隣に居なかったんだろうな…」

 

「恐らくだがその瓦礫の崩落の力が激しく、本人の意思とは関係なく離れ離れにしてしまったのだろう。

それか…南雲もお前を探したものの、知らずに段々と離れてしまったか…」

 

「クソっ…だったら尚更早く見つけねぇと…これで見つかんなかったら呑気に飯食ってた馬鹿野郎になっちまうしな…」

 

「あぁ。早く見つけて、アイツの腹を満たしてやろう。相当空腹も進んでいる筈だ。

だが焦り過ぎるな。その点はルシスの頃からのお前の欠点だからな」

 

わぁってる、と少々苛立ちながら応答するが直ぐに冷静さを取り戻す辺り、やはり王としての人生を歩んだ経験が身に染みていると感じさせる。

そしてそんな成長した姿を見て、イグニスも何処か嬉しそうに鼻を鳴らす。

 

 

(合流して俺が記憶を取り戻したと知った時は…大変だったな。俺の視力がちゃんとある事を再確認してノクトが泣いて、ノクトが全ての記憶を取り戻した上で折れずに立ち上がった事を知って俺が泣いて…。

そして悲劇を繰り返さないと暑苦しく誓いあって…。

 

 

今度は、何も悲劇を勧める事も無くお前を見守る事が出来るのを、この上なく嬉しく思ってしまうのは…あのルシスでの日々があったからこそなのだろうな)

 

まだ己の鼻には、男泣きを繰り返した証拠が貯まってしまっているなと苦笑する。

それを伝えればキショい。と一蹴されてしまったが、そういうノクティスでさえも、目には垂れ流しの跡がくっきりと付いている。

 

正にお互い様という言葉にふさわしい状況だ。

 

 

 

 

 

緑光石が辺り一面を照らしている影響もあってか、何処かが見えないという状況はない。

しかし、くまなく探してそれでも見つからないということは、やはり先に何処かの奥へと進んでしまったのでは無いかと推測する。

 

かといって手分けして探すのは危険すぎるので、少しずつ可能性のありそうな所から捜索していく事にした。

 

その際、どこから湧き出たか分からない、未知のモンスターが飛び出してくる事態が起きた。

レベルや能力的にも、ベヒモスを苦戦まで追い込んだとはいえ、明らかにレベルが高いであろう敵を果たして仕留められるのかとイグニスは慎重に思考する。

 

此処は相手の出方によって対応を変えて行こう、と指示を出すが、途中まで言いかけた所でモンスター達が一斉にノクティスに向かって進撃を開始する。

 

まるで弾丸の様な高速な距離の詰め方に圧巻されてしまい、咄嗟に叫びを上げてしまう。

 

ノクティスも彼なりに応戦し、先程の戦闘の感覚を思い出し、右手に武器を召喚するイメージを強くし、

やがてその手を相対する的に向かって伸ばして一気にイメージの剣を相手に向かって突き出す!

 

すると弾丸が血飛沫を上げて急停止を行い、動揺を上げる周りを差し置いて、急所近くに刺さった剣を抜こうともがく姿が出来上がった。

 

しかし王は気を緩めない。すぐ様シフトによって刺さっている剣へと移動してトドメの押し突きをして倒した後、驚き戸惑っている残りの敵を大振りの大剣を召喚して一気に切断する。

 

気持ちのいい程にスパッと切り落として行くその異様な光景に、警戒のし過ぎだったかと、これにはイグニスも失笑するしか無かった。

 

「どうなっているんだ…まさかと思うが、ルシスの時の経験値がそのまま今の体に全てのしかかった訳では無いよな…?」

 

「んや? 歴代の王が言うには、力の一端を少しずつ取り戻していくらしい。本来の力に戻るには暫く時間がかかるらしいけど、巨神の前辺りの俺までは力が戻ってるんじゃねぇかな」

 

「それにしては都合が良すぎる程に順調過ぎないか…っ…! 」

 

「あ、やっぱりな。後ろは任せたぜ、イグニス」

 

進みが良すぎるという予感に的中したのか、ノクティスの背後の気配を瞬時に捉えた軍師は、同じく召喚した双剣を構え、確実に一体一体に致命傷を追わせる程の連撃をしていく。

 

その嵐のような斬撃に元々疲労困憊だったモンスター達は為す術もなく、踊りを踊るように暴れながら今度こそ消滅した。

 

「ゆーてお前も感覚戻ってるんじゃいだだだだだだだ!! はにほっぺはひっぱっへんわ!!(何ほっぺた引っ張ってんだ!!)」

 

「何ででは無い! 当然のように自分の残したものを人に押し付けるな!! 油断するなとあれほど言ってるだろう!」

 

「わーっは!! わーっはから!! いはいいはい!!」

 

残党を屠った軍師は激昴しながら王の頬を捻り、観念するまで捻り続けた。

やはり心配をかけさせる事が連続していたからだろう。知らず知らずのうちに彼の過保護の度合いが増していた。

 

「悪ぃって…次からは油断しねぇから」

 

「全く…手分けさなくて正解だったと心から思う」

 

 

 

 

 

 

滞在していた空間から、距離も時間もだいぶ経ったことだろう。

 

訓練の時に訪れた場の何倍にも入り乱れている複雑な地形を、2人はひょいひょいと軽い身のこなしでアスレチックのように進んで行く。

それもやはり、ルシスでの記憶が戻った事により冒険での経験が身体に再び染み込み始めているのだろう。

 

時々あの時よりも大分軽い、のような余裕の口振りを見せつつ、されど神経を張り巡らせて奥へ、奥へと身体を進ませた。

 

「そういや、お前嫁さんが居るだろ?

置いてきて大丈夫なのかよ? 行く事も伝えてねぇ感じだけど」

 

「よ…まだ婚約はしていないとあれほど…。

…そうだな。あの時、2人でその事を話したとはいえ、本当にこの緊急事態が起きたとなれば…彼女はどう思うだろうか…」

 

「そりゃそうだろ。その様子じゃ、行かせたくないって言われた様だしな。ある程度はな」

 

進行を止めずに進み続ける彼等だが、気になった事や伝えておきたい事は口に出しながら捜索を続けていた。

 

ノクティスは、イグニスが愛子としばしの別れをしてここに来た事を気にしている様で、またイグニスも、実際の所彼女はどうしているのだろうかと不安にもなっていた。

 

「…必ず帰ってくるとは約束したんだろ? だったら元気な顔を見せれば良いだけだと思うが…分かってても申し訳なさがあるのか?」

 

「…そうだな。だが、お前の言う通りだ。開き直りの様にも感じてしまうだろうが…それでも、悲しませてしまった分も帰った時に彼女の隣に居ようと思う。

 

…我儘だとは思うが…俺はお前との友情も、彼女との日々も、どちらも手放したくないからな」

 

「…はぁ!? だからそういう事を面と向かって言うんじゃねぇっつーの!! ///

恥ずいんだよ全く…!

 

…まぁ、それが分かってるなら大丈夫なんじゃねぇの? 帰った時、先生の我儘沢山聞いてやれよ?

…泣かせたりなんてしたらどうなるかは分かってるよな?」

 

「お前は愛子先生の父か何かなのか!?

 

…安心しろ。愛子先生を泣かせるつもりは無い。生涯を尽くして愛すつもりだ」

 

「ほぉ〜? 愛子 先 生 ね? それにどのぐらい愛すつもりなんd」

 

「べらべら喋ってないでとっとと歩け腑抜け王!!」

 

羞恥心を、羞恥心を煽る発言で対抗していくノクティスに耳まで赤くし、我慢の限界に達したイグニスは勢い良く王を蹴飛ばす。

これが臣下達の前であったら即斬首刑なのだろうが、生憎と今は王の責務から開放された親友である為、何より人の目が無いため喧嘩に発展するだけで終わった。

 

「…おいイグニス」

 

「…なんだノクト。もう冷やかしは受け付けんぞ」

 

「ちげぇよ。…なんか水の音が聞こえねぇか?」

 

「水…? …確認だ。前に進むぞ」

 

ノクティスのふとした注意により、水のようなぴちゃん、ぴちゃんと鳴る音を察知した2人。

その音はどうやら前からしていた様だが、怒り声を上げながら進んで行くうちにどんどん大きくなっていったようだ。

 

その音だけを頼りに前へ前へと進むと、そこは2人が拠点としていた所のように開けており、その奥には小さな水の滝が姿を見せた。

 

そこから染みた水が天井少しだけ這い、先程の音がしていたようなのである。

 

「…ふぅ…また振り出しか」

 

「…進んでいるだけマシだと思え。まだまだ道のりは長そうだ。気を抜くなよ」

 

そういうものの、少しだけ緊張が解けた2人は、少々その場に座り込んでしまう。いくら先頭の経験が馴染んできたと言っても、此処での彼等はただの学生がいきなり力を貰った状態。

身体がまだ全ての力を制御できるまで育っていないのだ。これこそが正に、夜叉王がノクティスに忠告した理由。

 

「…それにしても、此処は大分広いな」

 

「あぁ。所々傷のようなものがあったり、何かが強引に空間を広げたようにも感じるが…

 

…傷?」

 

「…!! イグニス、伏せろ!!」

 

そして、イグニスが空間の違和感に疑問を感じた直後だった。ノクティスの怒号と共に繰り出されたシフト攻撃が、イグニス…の背後へと飛んでいく。

鉱石に弾かれたような、鈍い音が響き渡る。

 

『グルゥ…グァァァァァァァァァァァァ!!

 

獲物としていた人間に初手を持ってかれたのが余程頭にきたのか、怒り狂った様に雄叫びを上げる恐竜の様な怪物が、爛々とした眼で食糧を見据える。

 

「スモークアイが現れた時点でこうなる事は分かっていたが…やはり何故ルシスの怪物が姿を表しているのかを調べる必要がありそうだな」

 

「あぁ…にしても最悪だ。こんな所でバンダースナッチに出くわすなんてな…」

 

バンダースナッチ。巨大な双牙を用いて、怒りによって戦闘力を倍加させるまさに凶暴な猛者。

 

かつてノクティス達の前に3度も立ちはだかり、骨を折らせ続けて来た厄介極まりない相手である。

本来の力が覚醒したノクティス達にはもう到底及ばない相手ではあるものの、現在の不完全な状態での戦闘はかなりの劣勢を強いられるだろう。

 

「…イグニス。俺が引き付ける。その隙に足を狙え」

 

「了解だ。残りの必要な指示は俺が出す」

 

「っしゃ! 来いや牙野郎!! 俺が相手だ!」

 

ノクティスが孤立したのを確認したバンダースナッチは、好機とばかりに喰らい尽くそうと突進を始める。

突進しか頭にない馬鹿しかいねぇのか、と悪態を付きつつ、接近してきた頭を剣で叩きつける…ということはせず、攻撃を受け止める形で凌いだ。

 

1つの剣を持つ青年に怪物が気をとられていると、

背後から接近する気配を感じ、下半身の神経に力を入れ始め、自らの尾を振るう。

 

「…そこだ!」

 

その猛威に背後の気配、イグニスは直撃する数距離手前で体を極限まで屈め、魔の尾を躱し目的の足を捉え、交わる2つの剣の斬撃を撃ち込む。

 

が、

 

「…ぐっ!?」

 

が、鉄鉱石に一撃を加えたような鈍い音が響き渡り、イグニスは両手の危険を察知していち早く退却した。

 

「どうやら、ルシスの頃よりも外殻が発達しているようだな。前ではこんな事は有り得なかった」

 

「堅くて刃が通らねぇとか、詰んでんじゃねぇか!」

 

冷静に分析を立てているが、イグニスはかなり動揺を見せていた。親友の仲で無ければ気が付かない些細な余裕の変化だが、それでも状況的に最悪なのは確かである。

連続で攻撃を加えるにしても、傷一つつかないのならどう対処せよとの事だ。

 

味方は焦るばかりだが、一方の敵は一切の妥協も容赦も無いようだ。

 

隻眼の悪魔 スモークアイのようにグルグルと嬉しそうに喉を鳴らしながら、彼等が苦戦する姿を愉悦する様に反撃を仕出していく。

 

「! イグニス! 背面に飛べ!!」

 

「!」

 

ノクティスの助言に操られるような速さで、イグニスは途端に背面へと後退していく。

前に焦点を合わせると、パックリと咥えられてしまうのでは無いかと言われる程に口をあんぐりと開けたバンダースナッチが急接近していた。

 

ノクティスの指示によって捕食を免れたイグニスだったが、咄嗟に反応してしまった為に背中を地面に打ち付けてしまう。それにより、少しばかり動きが鈍くなってしまった。

 

「…っ!」

 

すぐに捕食しても逃げられると判断したのか、バンダースナッチは器用な足を軽々と持ち上げ、イグニスを潰そうと一気にスタンプを繰り出していく。

 

「させねぇ、ぞ!!」

 

その魔の手はノクティスの剣戟によってまたもや阻まれる。足に向かって懇親の力を込めた突きを放たれ、その威力は通らずとも狙いを不安定にするには充分すぎたのだ。

 

が、その代償を寄越せと言わんばかりに、スタンプに失敗した足を中心として、大きな回転を起こし再びの尾による攻撃をし、ノクティスを怒りのままに吹き飛ばしていく。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

力のかかる方に吹っ飛ばされていくノクティスは、やがて壁に激突しイグニスとは比べ物にならない衝撃を喰らい崩れてしまう。

ガラガラと音を立てる壁の残骸に埋もれ、その光景に愉悦感を上昇していくスナッチは、その有様を人目見た後に喰らってやろうとの様に崩落した壁の一部へと接近する。

 

「グルァァァ…

 

グル?」

 

自慢の牙を使い、岩をせっせとどかしていくが、そこに目に映ったのは、もぬけの殻となった崩落した岩のみ。

 

呆けた様に佇むことしかできないスナッチ。

その少し離れた所にて。

 

「…ふぅ。助かったぜイグニス。お前のスキルのお陰だな」

 

「あぁ。ルシスの時から仕組みは分からないが、便利なのは変わらないな。これは」

 

かなりの距離を開けられたはずの2人が、丁度スナッチから見えない位置に合流していたのだ。

その原因は、イグニスの1つのスキルにある。

 

その名は、ギャザリング。

 

そのスキルは、一定範囲内であれば、どれだけ仲間が離れても呼びかけ1つで集合させる事が出来る隠れチートの様なスキルであり、軍師である彼にとってはうってつけなのだ。

 

「…だが、どうする。攻撃が通らない現状で、これ以上の戦闘はかなり危険だ。こんな所でくたばる訳には行かないぞ」

 

「そりゃコッチも同じだ。まだまだやりてぇ事いっぱいあんのに、こんな所で無情に殺されてたまるかよ」

 

絶体絶命の時の奮起の言葉なのであろうが、その言葉はイグニスの胸にはしっかりと刺さった。

ノクティスは確かに王の使命を全うしたが、それは聞こえの良い部分ではそうなのかもしれないが、

悪く捉えて考えると、星の病を抹消する為の生贄として理不尽な運命に左右され、運命に殺されたと言っても過言では無いのだから。

 

そしてそこまで思い浮かべた上でイグニスは再思考する。これ以上、理不尽な猛威にノクトを晒してたまるか。と。その為にここまでやってきたのだ。泣き言を言うよりも、力を奮え! と。

 

不安に駆られていた自信を奮い立たせ、状況を冷静に判断しようとしている王に、即座に考えた作戦を話す。

 

「…ノクト。魔法精製は使えるか?」

 

「あ? …まぁ、今の俺にどれくらいの威力が作れるか分からねぇが、魔力が続く限りは出来る」

 

「あぁ。それなら大丈夫だ。…少し頼めるか? それまでお前の安全は俺が守ろう」

 

「はっ。今更何くせぇ事言ってんだ。俺はお前の親友だ。地獄の果まで付き合うっての」

 

隠れ、闘志を掲げ始めた2人は、反撃の狼煙を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて、とうとう2人の気配を察知したスナッチが、見つけたぞと威圧をかけて今度こそはと暴れ回る。

今までとは比べ物にならない程に怒り狂っているようで、今までの遊びのようでは無く本気で殺しに来ていることが見て判断できる。

 

「…数秒だけ遊び相手を努めよう。ついてこい!」

 

『ガルルァァァァァァァァァァァァ!!!!!!』

 

もう遊びは充分だ。殺してやる。確かにそう聞こえた。

が、イグニスは恐れない。

もう恐怖を感じ、不安で押しつぶされるのは嫌という程味わった。

 

ならば、どのような策であろうと、生きる為に尽力する。

 

「南雲。…お前の武器、最大限に活かさせてもらうぞ。

 

 

 

 

 

…雷よ纏え!!」

 

瞬間、イグニスの装備していた双剣が、緑黄の光を灯し始める。

まるでイグニスに共鳴している様にバチバチと音を立てるその剣は、彼等を痛めつけた獲物を灰にせんと、その電力の放出量をあげている。

それだけで終わればいいものの、イグニスの身体も悲鳴をあげる。ガクガクと膝が笑いだし、今にも地面と一体化しそうな程にくらくらしている。

 

「…っ、やはりまだ今の俺には強力過ぎる…か…!

自らにも負荷がかかっている…!」

 

突如として現れた雷に少し怯えた様子だったバンダースナッチだが、敵の弱った様子を見て一切の怯えを無くしてしまう。喰らってしまえばいいと、ひき肉にしてしまおうとその牙を向ける。

 

しかし、その判断は数分後直ぐに相応しくないと知る事になる。

 

「ハァ!!」

 

雷の力を持った剣から放たれる一撃一撃は、やはり通じる事は無いのだがそれでも、直撃する度に呻き声を上げている事から、バンダースナッチは雷に弱いのだろう。

しかし、決定的な破壊力が足りず、どうしても倒すまでは至らない。

 

が、そんな事は百も承知のかの如く。

イグニスは雷の舞を止めることをしない。

もはやがむしゃらに攻撃を出すスナッチをギリギリの位置で全て躱し、そのお返しに一つ一つの電撃を手、足、背、顔、牙、尾全てに確実に当てていく。

 

するとどうだろう。堅く、攻撃が通らないはずのバンダースナッチの外殻が段々と剥がれ始めたでは無いか。

どうやらあの外殻は雷に滅法弱いのだろう。だから雷を察知した時、怯えを見せたのだ。

 

「…今が好機と見た!」

 

イグニスは隙を逃さない。剥がれ始めた外殻に集中し皮を剥いでいく様に、周辺の外殻をひっぺがしていく。

その度にバンダースナッチは悲鳴のような唸り声をあげ、もう先程の愉悦を出す姿はどこにも見られなかった。

 

(だが、やはり決め手には欠ける。

 

…頼んでいて勝手だが、早く完成しろと思ってしまうのは…俺達が平和を慣れ親しんだせいなのかもな)

 

「イグニス! 出来たぞ! 受け取れぇぇぇぇぇぇ!!」

 

タイミングを見計らった様に叫びを上げたノクティス方向から、何かを投げられる。それは正にイグニスが頼んだものその物だった。

 

「でかしたノクト!

 

…さぁ、仕上げだ!」

 

「巻き込まれんなよ! それは今上げられるだけ威力を上げたサンダー…サンダラだからな!

 

舐めてるとお前まで丸焦げになるぞ!」

 

「あぁ。そんなヘマをするつもりは、ない!!」

 

イグニスはその忠告を聞き入れたと同時にそのサンダラが封じ込められている瓶を全力投球で獲物へと投げる。

バチバチでは済まないほどの、ドルドルといったうねり音を上げるくらいの雷が漏れだしているその瓶に、

先程の忠告の意味をすぐさま理解した。

 

そして、全体力を行使して体勢を崩すことなく、また背面へと飛び引く。今度は倒れる事もなく退避を成功させる。

 

そして、相手の外殻に激突したその瞬間。

 

ギャギャギャギャギャギャギャギャァァァァァァァァァァァァァ!

 

漫画によくある骨まで見えるような感電を起こし、バンダースナッチが雷の力に翻弄される姿の出来上がりである。

ただの攻撃ではビクともしなかった鋼鉄の鎧でも、電気の前には為す術もない様だ。

 

『ギャ、ァァァ…』

 

やがて、抵抗を止めたバンダースナッチは恨みの視線を二人に向け、静かに倒れ伏した。もうスナッチには暴れる力も残っておらず、そのまま意識を永遠の闇の中に彷徨わせたのだった。

 

「…終わったな。ノクト」

 

「あぁ。手強い奴だったぜ全く」

 

再び合流した2人は、自然な流れで手を掴み合う。

記憶を戻して再会してすぐとは思えない協力を見せた2人は、握手という固い繋がりで友情を確認する。

 

 

 

戦闘を終えた2人はすべきことを済ませ、滝のように流れる小さな水の正体を突き止めた。

この滝は先程ノクティス達がいた場所と繋がっており、更に下へも続いているということだ。

 

此処から下へ行くものなら、最短ショートカットが出来そうであるが、あまりおすすめが出来ない事は承知の上である。

 

先ず、次こそ絶対的な安全があるとは限らない。死ぬ事は無いだろうが、無事に辿り着くとも難しいのだ。

もう1つは、仮にハジメがどの段階まで潜ってしまったかによって、この行動が無謀か最善かが変わるのだ。

 

するにしても、選択は慎重にしなければならない。

 

「んー…下へ続いてるかもしれないけどなぁ…アイツが何処まで言ってるかが分からねぇと…」

 

「…!! ノクト!!」

 

彼等を休ませる術はこの迷宮には無いらしい。

バンダースナッチの消息を知らせたのか、それとも野生の性なのか。先程のバンダースナッチの群れが押し寄せてきていた。

 

「…はぁ!? なんでこんな時ばっかり群がるんだよテメェら!!」

 

「此処は言わば敵の巣窟のようなものだ。俺達のような異分子が休める場所は無いのだろう」

 

そうだ。お前達はおれ達の獲物だ。大人しく喰われろ。

 

先程のバンダースナッチの様な獰猛な姿勢の大群が、そう言ってるかのように2人を追い詰め始める。

 

「どうする。サンダラを酷使して来た道を振り切るか?」

 

「それでもいいが、俺達が巻き込まれるぞ? あの威力じゃ、この場が持つとも限らねぇ。

シフトを使ったとしても…切り抜けた先で先制されたらタダじゃ済まないかもな…」

 

 

もう、選択肢はたったひとつしか残されてないようだ。

強行突破しても、自滅を辿るだけ。

そもそも、この数は無謀ともなる。

 

「…なぁ。ノクト。此処で言うのも何だが、この階層に南雲がいると考えられるか?」

 

「いや、この階層は…気配も微塵もなかったからな…よく良く考えれば…。

でもよ、もしも降りた先よりも上に居たとしたら、かなりの痛手じゃないか?」

 

「だがノクト。此処で死ねば、救えるはずの南雲にも手が届かない。ならば、手段は限られるだろう」

 

「…そうかよ!」

 

ノクティスはおもむろに立ち上がり、イグニスの手を取って水場へと走り込む。

 

「イグニス! 此処から飛び降りたら、上も下もくまなく捜索するからな。もしかしたら今よりも過酷な状況になるかもしれねぇ。それでもちゃんと着いてきてくれんのか!?」

 

「当然だ! お前の暴走に幾らでも付き合ってやるさ。

 

南雲を助けてアイツらと再会して、あの平和な世界へ帰るぞ!!」

 

「おうよ!!」

 

 

 

彼等は意を決して、水の中へと飛び込む。

その落ちる先に僅かな希望をのせ、最前の選択へとなるように。

が、

 

「ちょっと待てこんな過酷だとはおもわなぶぶろろろろろろぶぁぁぁ!!??」

 

「イグニスぅぅぅ!!

 

やっぱ強行突破した方がマシだったかぶるるるるァァァァァァァァ!?」

 

水の勢いが強いのと、落下速度が早すぎるののダブルパンチにより、絶賛もがき苦しみ中だった。

 

…果たして無事に辿り着くのやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「…ハァッ…ハァッ…」

 

大きな球体の結晶の光に照らされた一人の男が、今にも消えてしまいそうな息を上げながら苦しみと戦っていた。

 

その姿は見るも無惨で、左肩から先が無くなっており余程の何かに襲われたようだ。

 

その表情は怯えに染まっており、絶望しか映さない瞳で結晶を見つめるだけだった。

 

「この…まま…死ぬのかな…? まだやりたい事とか…いっぱいあったのに…。

 

しら、さきさん…イグ、ニスせん…せい…グラ、ディオラスせんせ…い…プロ…ンプト…せんぱ…い…

 

 

ノク…ティス…せん…ぱい…

 

 

誰か…助けて…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『見るも無惨だな?お前』

 

(…誰? それに…あれ? 此処は…僕はさっきまで洞窟の穴の中にいたはず…じゃあこのふわふわしたオーロラみたいな場所は…

 

あれ…? あの姿は…僕?)

 

『あぁ。僕の姿は確かにお前だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

さぁ、狂ってもらうぞ? それがお前の運命なのだから。南雲ハジメ』




イグニスの料理スキルは少し制限があり、オルクスに来てから覚えたレシピ、かつそれを独自調理込みで完成まで作れる料理しか、スキルが発動しないとなります。

彼は料理人の職業では無いので、このぐらいのスキルの方が割にあってるかと思ったので、こうしました。

また、ハジメがイグニスに作った武器は、エレメンタルダガーのようなものです。エピソードイグニスをやった人ならわかると思いますが、一応説明すると、
ダガーが属性に応じてに特化しており、炎、氷、雷の属性を使い分けるダガーです。

ノクティスの指示と、プロンプトとハジメの技術によって作られました。

さて、ハジメの元に現れた謎のドッペルゲンガー。
正体は!?


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焦燥と月

「…まだ頭がグラグラしやがる…」

 

「調子に乗り過ぎたな…まさか真っ逆さまに落下するとは…。

あれだけの高さから落ちても無事だとは俺も驚いたが…」

 

水の滝を辿って見事な程に落下した2人は、逆さまに落ちたというのにまるで石頭が役立った様に目立った外傷は無かった。頭にヒビ所では済まない筈なのに、頭のぐらつきを訴える他はケロッとしている。

 

見るからに不思議だが、無事だったのなら何も言う事は無いだろう。

それに彼等は、立ち止まる事など許せないのだから。これは人の救出がかかっている賭けに買ったのだ。何時までも痛みと戦っている暇などない。

 

「いつつ…こんな事をしてる時でもハジメは苦しんでるかもしれねぇ。先を急ぐぞ」

 

「…」

 

「おい。何泣いてんだよイグニス。もう泣くのは止めるって言っただろ」

 

「いや、違う。これはそうだ。お前の貫禄の出る成長に脳が追いつかず、目頭が熱くなっているだけだ。そう、容量不足と言うやつだ」

 

「御自慢の頭脳はどうしたテメェ!? 見苦しい言い訳にしか聞こえねぇよ!! ったく…この世界に来てから過保護だと思ったら、涙脆くもなってんのかよ…。

 

 

 

 

…まぁ、俺が逃げてたらこんな気持ちも味わえなかったと思うと、新鮮な気もするか」

 

しみじみする気持ちをそれくらいに抑え、また前のように進むべきと思う道をひたすら進み続ける。歩みを止めないことによって、常に景色が移り変わり移り変わりを繰り返していく。それはもう目眩を引き起こす程に。

 

歩み続けるその先は飽きる程の洞窟続きで、時々現れる兎の様な魔物を、シフトや連携を駆使した戦法で軽く捻りながら怠げに前に進む。

 

時々何かを見落としそうになる様にこの風景に影響を受けると、その心情を察した様に隠し扉だというように口をあける穴が現れる。

誘い込まれる様に入ってみると、液体の入った瓶の様な物が一つ転がっているだけの空間のみで、他に目を引かれる様な物はなかった。

 

「ん? これは…魔道ブースト剤か…? 何でこんな所に…」

 

ノクティスが瓶を手に取って発した言葉は、この瓶の名称と思わしき名前。魔道ブースト剤というものだと言う。

 

その名の通り、この薬は魔力の上限を一時的に無限にまで引き上げ、服用者の魔力スキルを極限にまで引き出すアイテムなのだが、これは元々ルシスに存在していたアイテムでトータスに存在する事は有り得ないに等しい代物なのだ。

 

では何故こんな所にあるのだろうか。

 

「…あのスモークアイと言い、バンダースナッチと言い…このアイテム…明らかに空間的に何か異常が起きている事は確定だろう。でなければ此処まで続けての転移など説明が付かない」

 

「待てよ。その説が正しいってことは、あの時の鳥とかモルボルとかが召喚される可能性もあるって事か…?」

 

「…否定は出来ない。だが逆も考えると、俺達を助けて来たアイテムもこちら側に来ている可能性もある。ポーションの精製は出来るが、そんな状態でも役に立つアイテムが手に入るかもしれない。良く詮索してみよう」

 

「あぁ。取り敢えずこのアイテムはお前に預けとく」

 

拾ったアイテムをイグニスに投げ渡すと、ノクティスは穴から出て再び洞窟の世界へと舞い戻る。それからも幾つか目立つ穴が見つかり、そこから様々なルシスのアイテムが手に入ったのだが、手に入れば手に入る程、謎は増してくばかりだった。

そしてその疑問は、やがて刻々と大きなモノへと変わり始める事は、今の彼等にはまだ必要のない話。

 

 

 

 

 

 

 

休息を挟みつつ探索を進め続けて早3日が経った。

3日前から大分道も進み、行く手を阻む敵の数も増え、更に微かに耐久力も強くなっている感覚があった。

その感覚さえも僅かという時点で、ノクティス達が今どのくらいまで力をつけているのかが分かってしまうのだから、恐ろしい物だ。

 

因みに今のノクティス達のステータスはこの様になっている。

 

───────────────────────

 

ノクティス・ルシス・チェラム 18歳(30) 男 レベル5(35)

 

天職 真の王

 

筋力 250(1000)

 

体力 300(1500)

 

耐性 160(800)

 

敏捷 160(800)

 

魔力 800(3000)

 

耐魔 120(600)

 

技能 言語理解 武器召喚 武器収納 魔法精製 ポーションボックス シフト シフトブレイク 高速魔力回復 ファントムソード召喚 連携特化 連撃時攻撃力上昇 衝撃力耐性 王の威圧 ??? ??? ???_

 

──────────────────────

 

イグニス・スキエンティア 25歳(32) 男 レベル5(30)

 

天職 王の頭脳

 

筋力 160(800)

 

体力 300(1200)

 

耐性 250(1300)

 

敏捷 140(1500)

 

魔力 100(400)

 

耐魔 160 (520)

 

技能 言語理解 レシピドーム 料理保管 料理複製 状況把握 強制集合(ギャザリング) マーク 連携特化 ボーションボックス 戦術瞬間一致 ダガー属性切替 擬似魔力操作 連撃時速度速度上昇 衝撃力耐性 軍師の見切り

???_

 

──────────────────────

 

となっている。

 

ルシスでは表現の仕様のなかった特性が、技能という欄が表示された事によってそれらしい言語で表されるようになったからか、今の段階でもかなりの即戦力並みの、いや軽く反則を超えるステータスとなっている。そしてこれに更に付与されると考えると、恐ろしさを通り越して号泣する。

 

それぞれ追加された技能を使用して、その場にあった戦闘方法で道を切り開いていく。その判断すらも、イグニスの状況把握や戦術瞬間一致によって高速で行われる為、立ち止まる事すらない。

 

順調に捜索を続行していると、ふと、足元の色に違和感を感じたイグニスが不審に思い、よく確認する。そうすると、黒い洞窟の地に、明らかに不自然な赤色の乾いた色の何かが付着していた。

 

「これは…まさか血?」

 

「なんだと?」

 

「しかもこれ程の色は恐らく人間の物。そして、まだ新しい。…これはまさか」

 

「まさか…ハジメの…」

 

嫌でもここの血はハジメの物に近いという結論に、少しばかり動揺を隠せずに曝け出してしまう2人。しかし、その嫌な想像を振り切り、状況把握を駆使して希望を見出す。

 

「…恐らくだがここら辺の何かと争い、重傷を負って彼処の穴に向かって撤退したのだろう。血が水滴の様に点々として彼処に繋がってる」

 

「つまり、彼処に居る可能性が高いって事か?」

 

「いや、新しい血と言っても、ここ数十日前のものだと推測する事から、彼処に今も隠れているとは確定出来ない。もしかすると、脱出を目指して奥に進んだ場合もある」

 

進んでみるかと言うイグニスの問に、数秒も開かせずに頷くノクティス。一刻も早くハジメの無事な姿を確認したい二人は、バクバクし始める心臓を必死に落ち着かせながら穴へと入り込んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり、誰も居ない…いや待て。ここに僅かだが、何かを貪ったような、生活の跡のような物がある」

 

「マジか…でも、これも大分経っちまった様だな…」

 

穴を潜り抜けた先には予想通り誰も居なかったのだが、その場には食事を通した誰かが過ごした痕跡があり、望んでいた微かな希望が見えた。のだが、直ぐにそれも1つの恐怖にかき消されてしまう。

 

「待てよ…でもここって食料も何も無かっただろ? もしこれがハジメの痕跡だとして、何を食ったんだ…?」

 

「植物とか…も確認は出来なかった…。とすると、魔物の…?」

 

「は…!? それが本当なら身体が持たねぇぞ…!! 早く飯を食わせねぇと!!」

 

「落ち着けノクト。冷静さを早速欠いているぞ。

此処に侵入した途端に魔物が寄り付かなくなった。だと言うのに、此処で生活を行っていた誰かは此処に魔物の肉らしき物を持ち込んで食していた。そして、その肉片は大分腐食が経ったものからまだ真新しい物もある…。

魔物の肉は強力な毒を持つと言われる。それ故に一欠片でも喰らえば身体が持たない筈だ。それが長持ちしているという事は…恐らく、この空間に何らかの物体があり、それが南雲の毒を中和したと推測する。その証拠に、そこ。少し無理やり何かを取り出したような跡がある」

 

「…それはつまり」

 

「あぁ。もしこの正体が南雲だとして想定すると、南雲は生きている可能性が高いという事だ。

確かに俺達は南雲を見つけた訳じゃない。だが、自然の一つ一つの奇跡は、俺達に味方してくれているのかもしれない」

 

もう技能と言うよりも個人の力なのでは無いかという分析で、想定の先までも予測していく。縋っていると感じられるかもしれないが、その縋りの発想さえも疑う事の出来ない一つの可能性として成り立つ。

 

ノクティスは顔を顰めながら、イグニスが口に出す憶測と分析の結果を真摯に受け止める。全く希望の無いよりは、1本の髪程の望みに賭けるように、また此処での探索を終えて更に奥へ進もうと迷宮の通路を探し、足を向けた。

 

 

 

「気を付けろノクト! ハンドレッグはお前の苦手なモンスターだとは思うが、堪えてくれ!」

 

「堪えてくれってお前完全に克服した訳じゃねぇぞ!? あぁぁぁ虫は嫌いなんだっつーの!!」

 

 

 

「デュアルホーンか…。あの角を上手く躱す事が出来れば…」

 

「…いや待てイグニス。あの数は躱せないわ…!

 

魔法で一掃だろ」

 

「お前こそ待て! こんな狭い所で魔法を繰り出してみろ!! 自爆行為にも等しいぞ!!」

 

 

 

「…ノクト。今日はカルパッチョだ。野菜の部分もちゃんと食べるんだぞ」

 

 

「うげ…。 まぁ、食わねぇよりは……んぐぉ…ん…魚の部分はうめぇ」

 

「…野菜の部分は…」

 

「…聞くなっての…」

 

 

 

 

「…はぁ…」

 

「…手掛かりも、何もあれからなしか…」

 

 

 

何度目の戦闘だろう。

何度目の休息だろう。

何度目の溜息だろう。

 

二人が想定するよりも、オルクス大迷宮の下層はその名の通りの大迷宮を構えており、もうその迷宮の広さに呑まれかけていた。

こうしている間にも、一握りの希望が無くなってしまうかもしれないと言うのに、迷宮が、地形が、魔物が前に立ちはだかり予定通りに進出が困難なのだ。

 

その困難を潜り抜けてでも、捜索できるだけの範囲は全て捜索し尽くした二人は現在、魔物の血の濃厚な臭いに包まれて最悪な心持ちのまま、如何にも何かが待ち受けている扉の前にてある程度の身支度を整えている。

 

捜索優先とはいえ、血の臭いやら空腹やらを味わったままでは益々支障がきたされるから故、工夫を加えて水を浴び、軽い食事で体調を整える。やっている事は何時もの繰り返し。けれど、日に日に表情に余裕が無くなって来る事だけが、繰り返しの僅かな変化だ。

 

「…この扉…どう思う」

 

「…何かしらあるとは考える。が…何だろうな…つい最近、此処で何かあった気がする」

 

「何かってなんだよ。…中に何が居るか分からねぇのは確かだな…」

 

「行くか? ノクト。すぐ近くにもこの扉以外の道があるが、この道とは別に、別の下層に繋がる扉かもしれないぞ」

 

「でもそうとも決まった訳じゃねぇだろ。手当り次第怪しい所は探るって決めて来てんだ。行くぞ」

 

「…分かった。だが、無理と判断すれば一旦引き返すぞ」

 

「りょーかい」

 

罠等を承知で、意を決した二人は扉を開ける。

 

ギギギと古臭った音と共に、左右対称の絵柄の片方が闇に包まれる。その闇が作った切り目へと、2人は吸い込まれていく。

 

闇が広がってる故に視界が物体を感知する事は無い。ただただ足に感じる硬い床を踏み締めながら、前に前に歩んでいく。

 

「…この闇の中を彷徨う感じも、懐かしいな」

 

「だな。エレベーターを動かして進んだら、モンスターに道を塞がれて…。そん時はうざったかったけど、今はなんか思い出す記憶の1部になってるわ」

 

「あの後焦ったお前が、細道から間抜けな声を出してすっ転がったのも思い出す」

 

「お前ひょっとしなくてもSだろ。サドだろ。そんな泥記憶呼び覚ますんじゃねぇよぉぉぉぉ…

 

まさかとは思うが、愛子先生にもそんな調子じゃねぇよな」

 

「な…そんな訳が無いだろう。彼女にそんな真似ができる訳が無い」

 

「…ふーん?」

 

「…なんだその目は。何も間違った事は言ってないぞ」

 

「1回愛子先生からイグニス先生は意地悪だって真っ赤になりながら俺の所に怒りながら自慢して来たんだが…あれは何だったのかねぇ」

 

「うぐっ…そ、それは聞かないでくれ…」

 

「今のお前の心の中を当ててやろうか? あん時は初だったノクトがこんな冗談を言う立場になったのか…だろ? それと、もう少し優しくするべきだっt」

 

「人の心の中を捏造するな…!!」

 

「んー? 事実を言われたくないだけなんじゃねぇの?」

 

「もう分かった…俺がからかい過ぎたのが悪かったから…」

 

日常会話を続け、場を和ませようとするふたりだが、その心の奥の様子は再び言うが余裕が無い。その証拠なのか、ノクティスとイグニスの反論の仕方に勢いが無くなっている。

 

2人はそれに気づく様子は無いが、疲労が自然と行動に出る程には疲弊していると言うのだろう。その代わりに、周りへの警戒心だけは研ぎ澄まされていた。

 

 

 

故に、急な視界の発光に対応する事が出来たのだ。

 

「ノクト! 目を塞げ!」

 

「もうやってる! お陰様で目眩ましは喰らってねぇ!」

 

「良い反応だ!」

 

突然の閃光に対応した2人は、瞼の外で感じる光が弱まるのを感じると、恐る恐ると目を外の世界へと向ける。

 

 

 

「さて、こんな事をしやがったのは……っ…お前は…?」

 

『ようやく目覚めたのですね。ノクティス。そしてその軍師たるイグニス』

 

2人の眼に映し出されるのを待っていたかのように光が集まり、具体化したのは人の形だった。ノイズのかかったアルトボイスを響かせ、まるで知り合いのように2人に発言を交わす。

 

「アンタは…誰だ? 顔が全然見えないんだが…」

 

『…面目ないのですが、今の私に全てを曝け出して話す力は残っていません。なので、最低限の魔力による遠距離会話を行っている次第なのです』

 

「…そうか。だから光で象った人型しか投影することが出来ないという事か」

 

『流石は王の頭脳。予想が早いですね』

 

今対話している女性、と予想される光は指摘通り、僅かながらに口が動いているように見える以外は何の情報が得られない発光をしている。

脳に直接話し掛けられているような音の震えを届けられながら、ノクティス達は彼女の話に応じていく。

 

『必要最低限の事を話させていただきます。まず、貴方々が探されている人達は、生きています。この迷宮のこれより下の階層に』

 

「…! 本当か!」

 

「…」

 

謎の人物からの希望の言葉。この言葉一つでノクティスの顔にみるみる活気が戻っていく。しかし、この迷宮の広さは2人が身をもって知っている。場所を知ったとしても、そこまでに合流する事が出来るか…。

 

『…では、特別に二人にこの動物の力をお貸ししましょう。速さには自信がある子達なので、十分に協力し合ってください』

 

「は? なにを…って!?」

 

 

 

光が指を鳴らすと、その前付近に新たな光が形成されていき、次は鳥型へと形を変え始め、黄色のノクティス達には見慣れたあの鳥が姿を表した。

 

「クェェ!」

 

「クェェェ?」

 

「…この感触、懐かしいな」

 

「…あぁ。本当にな。チョコボの羽毛を触るのは」

 

ノクティス達をつぶらな瞳に写したチョコボ達は、警戒すること無くその身を擦り付けるように出会いを喜ぶ。懐いているようだ。

前世界で、ノクティス達がこの鳥のことをどれだけ可愛がり、頼っていたかが分かる様子である。

 

『この子達は人に懐きやすく、人の気配を感じ取りやすい敏感なのです。きっと貴方達の探し人も見つかるでしょう』

 

「そか。ありがとな。態々俺達のために」

 

『…正確には、貴方よりも貴方を想う人の為なのですが…私自身も貴方には幸せを掴んで欲しいのでまぁ良しとしましょう』

 

「…! まさか…

 

そう言えば、もう1人の探してる人とは…」

 

『そして、もう1人…月の人は、この迷宮の真相を一人で抱え込んだ人物の試練の場で、安息の時を過ごしています』

 

「月の…」

 

「試練の場…?」

 

疑問を口にする彼等と共に、光がだんだんと拡散していく。すると、見えない女性が焦りを声にのせ始める。

 

『…っ…もう時間ですか…

 

 

ノクティス。今度こそ…私の…し…ゆう…との…し…あ…せを…つ…で………』

 

「!? おい!」

 

回線の悪い携帯のようにブツ切りを繰り返す声を必死に届ける光は、やがて虚しくも全てが光の粒へと変わり…そのまま消えていった。

 

「…魔法効果が切れたのか…」

 

「…月の人…

 

まさか…な…」

 

「ノクト…」

 

月の人という言葉を聞いた時から、顔に影が入り込んだノクティスは、うわ言のように繰り返している。そのノクティスに何かを感じたイグニスは、案じる様に背中を軽く叩く。

 

「重く捉えるな。お前はもう十分に重さを知ったんだ。これ以上背負い込む必要は無いんだ。

もし仮にあの方が生きているとするなら、幸せになってやるという気持ちで出迎えてやれ。それが、俺達がお前に望む一つなのだから」

 

「…イグニス」

 

イグニスはそう言うと、クールなその口角を優しく、ふわりとあげて笑った。

 

 

イグニスはその言葉を口に出せるほど、ノクティスを信頼していた。だから、決められた使命を与えられ、世界の全てを背負わされた友を見守り続けた。使命を果たすことを思いつつも、人としての、生きる者の幸せを掴んで欲しいと願ったからこそ、この言葉には意味があるのだ。

 

「…ん。そうだな」

 

イグニスからの激励に、頬を力強く叩きながら心配そうに顔を覗き込むチョコボを撫でる。クルクルと気持ちの良さそうな音が聞こえ、比例するようにノクティスの表情に淡さが灯る。

 

コウ…と言った洞窟の唸り声に押し負ける事の無いように、何度目にもなる膝の力を入れ、未来を掴むための踏ん張りを身に付ける。

 

「今ので分かった。まだ俺には受け入れ切れてない心があるって事が。…でも、俺はもう、自分の未来を掴むって決めたからな。

…足がすくんだら、手を引っ張ってくれるか。イグニス」

 

「ふっ…。今は俺だけじゃない。この子達も、だろ」

 

「クエエエエエ!!」

 

「クエッ」

 

「…そだったな。

 

…うしっ。しょげんの終わり! …こんなウジウジしてたら、またグラディオに怒られちまうからな」

 

「ふっ。その意気だノクト」

 

騒がしく頼れる鳥達を得た二人は、沈む一方だった気持ちを高め、諦める事を止める理由を得、再び再起をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

「ひ…ひひ…あいつらが悪いんだ…俺の前でムカつくことばかりして…か、香織に手を出そうとする南雲も、ムカつくノクティスも…ヒヒ…」

 

グラディオラス達がホルアドの宿で休んでいる頃。夜の静けさの中に、一人の怪しい男が、気味の悪い悪笑を口から吹き出している。

人が通れば、ぞわりと背中が寒くなるような不気味さを醸し出し、此処には居ない誰かへの恨みを向ける。

 

「…へぇ。やっぱり君だったのかァ…やっぱり碌でも無い連中なんだね。君達は」

 

「本当にね〜。ま、ボクは正直センセ以外のヒトには興味が無いからどうなろうと構わないんだけど♡」

 

「…!? お、お前らは…!!」

 

「あー。大声出すのは無し。此処夜だよ? 近所迷惑ダメ。絶対ってね

 

「多分この子には無理だよ。だって、自分が中心だもん。迷惑だなんてきっとこの子の辞書には無いよー?」

 

「お、俺をどうする気だ…! ま、まさか売る気じゃねぇよな!? 頼むよォ! 俺は何もしてねぇ! 俺は俺は悪くねぇんだよぉ!!」

 

「あー喚かない喚かない。大丈夫。君を売り飛ばしたりなんてしないさ。俺、何だかんだ優しいから…さ」

 

「ほ、ホントか!?」

 

「そーそー。だからさぁ…

 

 

 

 

 

 

 

 

大人しく聞いてよ? 檜山君ン?」

 

闇が似合うニヒルで獰猛な笑みが、檜山の瞳を喰らって離さない。

 

 

この日、歪んだ男は闇の糸に絡まった。




あの人の生存確認と、ff15の良心的立ち位置の彼女の登場です。

アーデン編は、次の回でも触れられます。

彼が何故このような事を檜山に言ったのか…。

でかい事では無いですが、アーデンなりの何かがあるのです。

後、ノクティス達の年齢は王都決戦当時の年齢になっています。
ご了承下さい。

今更ながらですが、感想等は御気軽にどうぞ。お待ちしております。


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荒んだ眼

大変お待たせしました…。では、どうぞ。


静まり返った夜の町。その闇に紛れるように2人の男女が、へっぴり腰で逃げ惑う人を無様そうに見下ろしていた。闇と比例するように、その双方の瞳はどこまでも薄暗く、そして残忍な目付きをしていた。

 

「ねぇねぇ、先生ぇ。良かったの? アイツ、始末しておかなくて。絶対大した役にも立たないし、こっちが弱みをチラつかせたら何するか分からないよ?」

 

その目を外すこと無く、少女の方がやや不満げな声色を口の動きに乗せて奏でる。それはかなり不服を宿しており、半端な理由では納得のいかない事を主張していた。

男はその不満すらも理解していたかのようにさわやかに、されど冷酷に告げる。だからこそだと。

 

「俺が役に立つ奴をあんな扱いにする訳ないでしょ? だってあの子、あーでもしない限り言う事は聞かないし、悪巧み以外の成績が良いとも思えないしねぇ。まぁ、情報収集くらいの役に立てば良いかな」

 

「えー。じゃあ優秀な子に頼めばいいじゃん。例えば僕とかさぁ」

 

「生憎と自分で自分を立候補しちゃうような奴に任せられないよ。だって君、不都合な事があったら殺しちゃいそうじゃない」

 

「ひどーい! 僕だってちゃんと考えて行動するからそんな短気な事しないもん! 先生の不利になる奴なら考えるけど」

 

「…ホントそう言う所なんだよねぇ。君は」

 

呆れてそれ以上追求するのを止めたアーデンは、まだ納得していない様子の恵里に諭すように真の目的を告げる。

 

「俺は元々利用出来るものは何でも利用する主義なんだァ…。まぁ、皆大好き、愛ちゃんセンセー…だっけ? 彼女と一丸となってる生徒達を巻き込むと、後々容易ではないことぐらい想像がつくし、かと言って初対面の奴らを利用するにしても、尾ひれに何がついてるか分からない。けど情報不足。手詰まりな訳なの。俺達は」

 

「うん。それはわかるよ? センセーも愛子先生の事をそれなりに買ってたのは見ててわかるから。凄く不愉快だったけど」

 

「あーはいはい。話を脱線させないさせない。後で話は聞くからさ。

…まあ一応、俺達も下手には動けないわけ。けれどさ…

 

 

表沙汰になったら間違いなく首を跳ねられる奴なら、ある程度は使えるんじゃない?」

 

「! へへぇ♪ センセーも中々エグい事考えるねー。益々惚れ惚れしちゃうなぁ」

 

勇者であれば間違いなく逆鱗に触れるであろう発言を、2人は名案のように話の台に乗せていく。それはもう、戸惑いの欠片も見せずに。

アーデンはまるで、それが当然だと言わんばかりの開き直った顔つきでたんたんと話を進めていく。

 

「でもさー、一応ヤバいことしてるやつだとは言っても、周りは擁護しそうな位置の奴じゃない? 少しセンセーにしては思い切りが早すぎるんじゃない?」

 

恵里は疑問であったのだ。いつもは捻りに捻って結論を出すアーデンが、何故こんなにもはやすぎる段階で決断したのか。相手は幾ら腐りに腐ったやつだと言えど、立場的に下手に手を出せば良くない方向へ走り出す奴だ。迂闊には動けないと踏みとどまるはずなのだ。

 

なのに、何故。

 

「あー…やっぱそうなる?」

 

「うんうん。まぁ、そんな先生も好きなんだけど♪」

 

「まぁ、あれだよ。『スルーされた!?』だってあの子、どっちみち後戻り出来ないじゃない? 確かに今はまだ身を隠せるけど、ノクト達が帰ってきた時、それを保ってられるかな?」

 

「あれ、もしかして信頼してる?」

 

「信頼? 俺が? まさか。ただ俺はアイツらの事をよく知ってるから、そう思ってるだけさ」

 

吐き捨てるようにそう呟いた彼の眼は、光を宿しているような、無理やり闇を纏っているような、複雑な色をしていた。そのただならぬ色に恵里は少したじろいだものの、全てを理解したかのような微笑みを浮かべてそれを肯定する。

 

あくまで、何処までも惚れ込んだようだ。

 

「へぇー。なーんだ。僕こそが早とちりしてただけかぁ。先生はやっぱりきちんと考えてるんだねぇ。感心感心♪」

 

「どうせ腑抜けた事を言っても評価が上がる癖によく言う口だね。君は」

 

「あ、やっぱり分かってスルーしてたね…。…まぁいいや。僕を楽しませてくれたことで無かったことにしてあげる。…でも先生。それだけの理由じゃないよね?」

 

「あ、やっぱりバレる?」

 

「そりゃそうだよ。だって先生。アイツを見る時の顔、あの偽善者よりも怖いからね?」

 

「…まぁ、そうだろうねぇ。だって…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺、アイツみたいな奴が一番大っ嫌いだからさぁ。」

 

ここまでで最高級にドスの効いた笑み。それに対しての恵里の顔は、いつもにも増して惚れ惚れとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

時は戻り、奈落の奥底にて。

 

二羽の力を借りたノクティスとイグニスは、今までの行動速度が嘘みたいになるほどの速さで先を急ぐ事が出来ていた。何せ、チョコボは速いだけでなく、怪しい所を瞬時に見抜いて背中の彼らを導いて行くのだ。謎の声の主はとてもいい働きをしたものだ。

 

それに戦闘面でも、

 

「邪魔だァァァァァァァァ!!」

 

「クェェェェェェェ!!」

 

『グァガァァァァァァアォァ!?』

 

「ノクトォ…! 面倒なのは分かるがチョコボで蹴散らすのはどうなんだ…!? そしてチョコボものるな…!!」

 

今までは邪魔をされたくないがために殲滅する必要があった怪物達も、チョコボが強烈なタックルや蹴りを繰り出しながら押しのけていくのだ。普通であれば引かれるような行為だが、チョコボも乗り気なため、下手に口を出すことは危うい。

 

「クエ!」

 

「何? お前もやりたいのか!? 待て、不用意に突っ走るァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

「はははは!! イグニスのやつ、合わねー悲鳴上げてるわ! なんか新鮮だわ!!」

 

「クエ!クエェェェ!!」

 

駆け抜けながらどのようにしてイグニスの光景を見たのやら。余程気に入ったのか、駆け抜け終わってからもその事を必要以上に引き合いに出すノクティスは、後々不貞腐れたイグニスの機嫌取りをしながら下へ下へと進んで行った。

 

そうして振り回されるように進み続け、チョコボが反応を示したのが、余りにも大きすぎる雑草を備えた草原のような地帯だった。

その巨体の草を前に、虫がダメであるノクティスは間から沸くことを恐れて躊躇ったが、仕返しの如くイグニスがノクティスのチョコボに促し、ジェットコースター時の様な悲鳴の伸びが響き渡った。

 

 

 

と、その悲鳴に混じるように。

 

シャァァシャァァァと何か蛇のような声が、まるでノクティスの声に復唱するかのように辺りに聞こえてくる。

それはまるで、獲物を見つけたかのような。

 

しかし、それらしき姿はノクティス達の元へは現れない。寧ろ、遠ざかっていると言っても過言ではないのではないか。段々と、吸い込まれるように、その声も小さく、か細くなっていく。

 

「…なぁ、これって…」

 

「あぁ。チョコボ達も反応している。これは、先客のピンチ…だろうな」

 

冷静に聞こえ、遠ざかる声を分析する二人。その2人の決断を先取るように、チョコボが地を蹴り飛翔する。

 

 

 

目的は、求めてた再会へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、行かせないのがこの迷宮の性癖なのか。

 

何でこうなんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??

 

追う側は、追われる側へと激変する。ノクティス達が求めてるものへ辿り着くはずの手がかりは、自らを滅ぼさんとする凶器へと変貌してしまったのだ。

チョコボの足音がかき消されるような乱暴な地を蹴るリズムが、ドドドドと音を立ててノクティス達を四方八方から追い込む。

 

こうなった理由は単純、ノクティス達はただただタイミングを間違えたのだ。音の正体に追いつく頃には、正体の目的は既に消失しており、新たに現れた自分達こそを新たな獲物として認識した。

故にこの有様なのだ。

 

「チッ…消してやる…! 力を貸せ、夜叉王!!」

 

面倒に感じたノクティスは、対複数に有効な複製剣を率いる夜叉王の刀剣をその手に召喚し、剣の嵐を群がる化け物共に差し上げる。

嵐によって起こった血しぶきはやがて踊りを踊るように別々の無事な個体を巻き込み、雪崩のように軍隊が崩れていく。しかし、それでも意地のあるやつはおり、それらを踏み越えて口を開け、ノクティス達を捕食しようとかかる。

 

「多すぎだろ…!? どんだけいやがるんだコイツら…!!」

 

「相手は後にしろノクト! チョコボが気配の居所を掴んだ! あの切れ目へ向かう事に専念しろ!」

 

軍師は素早く目標を指さす。その先には、カパッと口を開けた縦割れの洞窟だ。この生い茂った木々を抜けた先にだらしなさげに待ちわびるその中に、微かながら生きる者の力を感じた黄色き鳥の仲間は、導くその足を、羽を駆使して全速力を出し切った。

 

 

 

裂け目へと近づいた彼等はその身体をそのまま裂け目へと入れようと走り続ける。しかし、近づきよく見た裂け目は、謎の凹凸のようなもので塞がれていた。チョコボは咄嗟に突撃を停止し、困ったように鳴き声を上げる。

 

「クェェェ…」

 

「これは…ハジメの錬成か!?」

 

「ふむ。どうやら、此処の切れ目から彼らも下へと進んだのか。そして、魔物の追手から逃れる為にこれを作ったか」

 

「でもこれじゃ俺らも入れねぇな…力づくで壊すか?」

 

「しかし、中の南雲達も巻き込まれるのでは…?」

 

「…ぐっ…」

 

あと一歩の所で思わぬ足止めを食らってしまった二人は、必死に打開策を頭に浮かばせていく。しかし、考えることさえも邪魔するような煩わしい足音がズンズンと近付く。

 

すると、

 

「クェェェェェェェェェェ!!」

 

「クェェッッ!!」

 

「! おい!」

 

「何を…!?」

 

2人の苦悩を察知したかのように、二羽の勇士たちが自らを見ろとばかりの挑発をし、ノクティス達から魔物を釘付けにして遠ざかって行く。

どういう訳か、ノクティス達には一切の興味を失ったように魔物達はチョコボを血眼になって追いかけていく。

そのチョコボ達の口には、魔物を誘うような魅惑の料理が加えられていることにイグニスは気付いた。

 

「…どうやら、時間を稼いでくれるみたいだ。…全く、勝手に余り物を取ったからにはお仕置をしなくては」

 

「…!」

 

「ノクト。確かに俺が出した不安だ。だが、あの子達が作ってくれたチャンスだ。逃す訳には行かない」

 

「…必ず戻って来いよ…。…ハァァ!!!!」

 

青いオーラに一瞬包まれたノクトは、糸を切るように力を解放し、ありったけの剣戟を突き、錬成物を壊す。そして、周りの魔物の様子を確認すると、中へと足を進めて出した。

 

中へと侵入すると、一つの存在向き合うようにしていた2つの存在の図が目にはっきりと映る。その中のひとつも、ノクティス達の記憶に当てはまる人物は一見見当たらない。しかし、銃をおもむろに2つの存在へと向け、何かを呟く男に対して、なんの躊躇もなく声を上げ、応戦の合図を広げる。

 

「ハジメ!!!!」

 

「…っ!」

 

呼びかけた声に過剰に身体を跳ねさせ、思考が停止した男に変わり、ノクティスは一刀両断するように闘王の刀を、二つのうちの一つの植物状の女形モンスターへと無慈悲に振るう。

 

断末魔を苦しげに発しながら消えていくモンスターを他所に、どこか呆けている男を心配するように金髪の女性とノクティス、そしてイグニスが近寄っていく。

 

「…随分と姿が変わったな。ハジメ。でも、ちゃんも見つけられて良かったわ」

 

「…誰? ハジメの…知り合い?」

 

「いや、お前こそ…違ぇ違ぇ。いきなりで悪ぃな。俺はノクティス。コイツの先輩だ」

 

「俺はイグニス。南雲の…俺の場合これは伝わるのか?」

 

「普通に先生って言えば伝わんじゃねぇの?」

 

「…! ノクティス…イグニス…って…」

 

彼らの正体に僅かに思い当たる節があるのか、金髪の女性は目を見開いて白髪の男…ハジメを心配そうに見つめる。

当人は感情のわからないように顔を下へと向け、ワナワナと身体を震わせている。その瞳には、果たして何を宿しているのか。

 

「直ぐに合流出来なくて…悪かった。ハジメ。けど、これからは隣で戦える。…一緒に帰ろうぜ?」

 

「…俺も、教師の身でありながらお前に手を差し伸べて、引き上げることすら出来なかった。それを償えるなら、共に背中を預けさせて欲しい」

 

震える以外に行動を示さないハジメに対し、二人は優しく、そして落ち着けるように語りかけながら手を差し伸べる。その行動に、ハジメがとった行動は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銃音が辺りに響き渡った。湧き出る赤の音がやけに生々しく、また驚きを隠す事が出来なかった。

 

「…ハジメ?」

 

ノクティスは突如としてのハジメの行動に目を丸くする事しか出来なく、やっとの思いで口にした言葉は、銃音の残りで乗せられて行ってしまった。

 

「…い…ら…」

 

「…? な、ぐも…?」

 

 

 

「今更…何しにきやがった…」

 

「っ!」

 

 

 

「共に戦う? …肝心な時に居なかった癖に、何を馬鹿な事を…」

 

「…ハジメ、話を」

 

「聞く必要なんて無いだろ。

 

聞いて何になるんだ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もういいから…

 

俺の前から、消えてくれ…」

 

アーデンの、それ以上の荒んだ眼を、乱暴にノクティス達から背け、慌てたように後を追う金髪の女性と共に、荒れ果てた様子のハジメは先の闇へと姿を消した。

 

「…ハジメ…」

 

背後より香る、血の匂いだけが、その場を収めるように広がりきった。




ハジメは原作と現在違っておりますが、あの時ハジメの前に現れた奴がめちゃ関わっております。

ここからどうなる事やら…。


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怒りと始動

誠に申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

敢えて言い訳は致しません…。

ブランクもありますが、お久しぶりの続き、どうぞ…。


不穏を残して遠ざかる背を見送る事しか出来ないまま、2人はその場に佇んでいた。

焦りを含みつつ必死に背を追う少女の事も、それすらも気にかける事のなく進むハジメも、止めることなど出来ないままだった。

期待していた再会がこの様な複雑なものになってしまったのだ。それで思考が追いつく事の方が中々に難しい。

鼻を刺激する鉛の匂いも、辺りに響き渡った後の銃声も、

それが砕いた音さえも。今の彼らには何も届くものにはならなかったのだ。

 

「…ノクト…大丈夫か?」

 

銃声の反響が完全に消失した頃、同じく思考処理が追いついてきたイグニスが、未だに微動だにせずに固まる友に声をかける。

声をかけた先の彼は、それに少しの動きも見せずに感情の分からないままに相槌をうった。生気のない、からくり人形のようにゆっくりと、滑りの悪い動きで首を振るその姿からはとても大丈夫、の言葉が当てはまる様子には見る事が出来なかった。

 

「…ノクト?」

 

まだ思考が追いつかないのだろうか。それとも、心の傷が広がってしまったのだろうか。その答えを探すように彼の顔を覗こうとした。

 

しかし、背後から近づく地を蹴り飛ばすリズミカルな音が、それを許す事をしなかった。直ぐにその正体に勘づいたものの、警戒心がイグニスの視線と得物を後ろへと向かわせてしまったからだ。

ふとした警戒心とは裏腹に、そこには2羽の可愛らしいくりりとしたお目目の鳥達が到着っとばかりに羽を広げていた。

 

「…ああ、無事に帰ってきたようだな。流石に疲れただろう。ここで少し羽を伸ばしてから行くか?」

 

眼鏡をかけ直しながら、仕切り直しの機会を作るとばかりに切り出したアイデアに2羽は大袈裟に羽根をばたつかせる。まだまだ行けると言いたいようだ。

 

「元気がいいのは良い事だが…生憎と今は身体と共に精神を休めなければならない時なんだ…特にノクトの」

「イグニス。そいつらの意思を尊重してやれ」

 

イグニスが休息の理由にもしていた男は、言葉をさえぎりそう提案する。未だイグニスからは顔が見えない。ただ、暗いかどうかすらも予想が出来ない立ち姿をしていた。

 

「しかしノクト…勝手にお前の気持ちを想像するのも失礼な話だが、先程のは大分困惑したのではないか? まさか南雲があそこまで変わっているとは思わないからな…」

 

「まぁ驚いたっていやぁ驚いたけどな。んでも、それ以前に余計ほっとけなくなったしな。イグニスだって、俺の気持ちを組んでくれてるからの提案であって、それがわかって無いわけじゃねぇだろ?」

 

 

「…まぁな。

 

俺達が取りこぼした魔物にあの弾丸が命中したのは偶然とは思えない…だが、もし本当に孤独の時間が長かったせいで南雲の考え方に変化が起きてたとするのなら…」

 

「そん時はそん時だろ?」

 

「っ」

 

振り返ったノクティスの瞳を見て、イグニスはそれ以上の提案を切り上げた。

 

この迷宮に来てから、イグニスは何度も息を呑む事があった。

それは今のように、ノクティスの些細な変化によるものである。

 

ルシス時代のノクティスは、良くも悪くも抱え込む性格であった。

その為に、他人からどう捉えればいいか分からない罵倒があった際、衝突し、それすらも悩みに抱えてしまう様な。彼からすれば放っておけない事だったのだ。

しかし、ここに来てからは出来事の前やその先を見据えているかのような振る舞いを見せている。

 

「ハジメにあっち行けと言われて、まんまと引き下がる程俺はやさしくねぇし、なにより他人に拒絶されるのが怖くて王様が務まるかっての…まぁ、もうそもそも王様でもなんでもねぇんだけどな」

 

そう、笑いながら既に言葉に出さずとも自信を感じさせるその様に、イグニスはここに来てから何度目か分からない決意を抱いた。

そして2人と2匹は再び潜り出す。

 

全ては、南雲ハジメの本心を聞くために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銃声が鳴り響く。打ち砕かれていくモンスター達の数は下に進むにつれ、増大していく。男の負の感情を表すように。

 

 

 

「ハジメ…良かったの…?」

 

ぶっきらぼうに足を進める男に、黄金色の少女が小さく呟く。

足取りは未だ弱まらず。それは苛立ちを表しているかのように。何かをもみ消すかのように。強まっていく。少女の疑問を聞かなかった事にする為かのように。

 

「…ハジメ…?」

 

「…あぁ。良かったんだ。あれで良かったに決まってる。そうであるはずに決まってる…!!」

 

先程の行いを正当化せざるを得ないように頭を掻きむしる男…ハジメを、

助けられた少女…ユエはただ、募り行く不安を抱え見てる他無かった。

それもそのはず。ハジメは、永遠に続くと思われた封印を、自分を解き放ってくれた、温もりを感じた一人の男。

 

それが今の彼から感じるのは、なにかに囚われているような、何かを見失っているような喪失感。彼が過去について話した時に感じたその不安は、先程の二人の男との再開によってリミッターが外れるかのように増えてしまったのだ。

 

「…ほんとうに?」

 

「だからそうだって言ってるだろ…!アイツらに助けられる道理なんてこれっぽっちも…」

「でもハジメ…苦しそう…」

 

「…っ…」

 

「…他の人の事を話す時…ハジメはそんなに気持ちを乱してなかった…けど、あのノクティス…って人達の時だけ…ハジメは取り乱してる…」

 

「…」

 

地面を抉る音が消えた。されども、不安は止まらない。止まろうとしない。振り向いたその瞳に光が灯っていなかったからなのか、ハジメの異変の真相が掴めないからなのか。

 

「…それにハジメ…私は」

「もういいだろ…!! その話はもう」

 

 

 

しかしそれ以上、何も進展等は起こらなかった。いや、全てをかっさられてしまったのかもしれない。

 

 

「クエエエエエエエエエエエエエエエ!!」

 

「ちょっ待て! ブレーキ! ぶれーきぃぃぃぃぃぃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「…は?」

「…えっ…?」

 

ユエの目には、目の死んだハジメでは無く、黄色い弾丸が接近し…

 

「どぶぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!??」

 

ていくだけではとどまらずに不安の種を逆くの字に曲げつつ壁に吸い込まれていく光景が映し出されてしまった。

余りにも訳の分からない、そして間抜けすぎる絵面を目の当たりにして、ユエはどこかほっとしたような、また別の何かが沸きあがる予感がした。

 

(…どうしてだろ…少し気持ちが安らいだのに…物凄く安心出来ない…)

 

「…カッコつけといてこのザマか…まだまだ俺がついていないと駄目だな…俺達の大将は…っっっはぁ…」

 

白い目を向ける仲間の上に跨った男がついたとてつもなく巨大な溜息に、ユエは同情すると共に、何となく湧き上がった新たな不安の正体が分かってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いきなり事故起こすとかやっぱ殺しにきてんのか!? あ゛ぁ゛!?」

 

「クエエエエ…クェ! クェェェ!!」

 

「いででで分かってるっつの! 俺が悪かったからてか今から謝るから! マジで悪かったハジメあだだだだだだだだ!!! ごめんなさい! ごめんなさいって言えってことだろ分かったからつつくなぁぁぁ!!」

 

なんとか壁と一体化していた二人と1羽を生物に戻すと、ユエと話していた時よりも狂ったように叫び散らしながら非難するハジメと、すっかり縮こまっている主犯2人という、母と子供達のような図が出来上がっていた。母の方はゴリゴリの極道が入っているようである。ドスが入りすぎて喉がイカれかけていた。

 

「ていうか異世界で衝突事故とか意味が分からねぇよ!! どんな速度で走ってきたんだその鳥は!!」

 

「悪ぃって…追いつかねぇと思ってスピード上げた途端に見つかるもんだから…」

 

「いやそこじゃねぇ!! どんなバケモンみてぇな脚力してんだってってんだよ!!!!」

 

「クェェ!?」

 

「お前は黙ってろぉややこしくなるだろうが!!!」

 

 

「…ほっといていいの…?」

 

「割り込んでも頭痛に悩まされるだけだ…」

 

「…ん…そんな気がしてきた…」

 

遠くから見守る…ことを放棄したユエとイグニスは事情抜きに説教を続けるハジメが静まるまで、心ここに在らずを実現することにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は遡る。

グラディオラスの奮闘により、休暇を与えられた生徒達は、抜け殻のようになっていた。

原因はただ1つ。オルクス大迷宮での1件である。

死ぬかもしれない恐怖。何もかもが通用しない現実。落ちた仲間達。

そして、次は自分達が…と考えてしまう絶望。

それら全てが、体を動かす気力さえも奪っているのだ。

一部を除いては。

ステータスプレート公開時の演説者である園部優花を含める、戦争反対派と勇者パーティ、グラディオラスとプロンプト、そして、教師である畑山愛子である。

 

戦争派閥と愛ちゃん派閥という大まかに分けて説明をすると、先ず、

勇者率いる戦争に参加する者達は以前と変わらず、訓練に力を注いでいる。

力をつけ、一刻も早く世界を救うべく奮闘している。

というのはあくまで勇者個人が掲げている目標であり、深く掘り下げると、この派閥は再起不能メンバーよりも問題を抱えていると言っても過言ではない。

何故か。連携、思想、行動理由。全てが見事にバラバラすぎるのだ。

先程も説明した通り、世界を救うという目標を掲げ、というかそれしか目に入っていないのは勇者だけであり、そのほかのメンバーは生きるためやら、目的すら謎の者すらいる状況。

 

更には、性格やらを差し置いて、未だに心にとてつもなく恐怖を抱えている者すらいる。

復帰したのは早いが、崩れるのも時間の問題と言えるだろう。

 

次に、愛ちゃん派閥。

作物系において無類の強さを発揮する天職持ちの愛子は、農地開拓の為に戦場とは全く無関係の場所に移されていた。

それを上手く利用し、現時点で戦争、戦闘事態に反対意識を持つ生徒達は

愛子に付き添う事にした。表を戦争に参加する事とするならば、裏で情報やら別の方法を探り、元の世界に帰る方法を探す決断をした。

此方は全員の目標が一致している他、ハジメ達の奈落行きを知らされても尚、すぐに行動を再開させた愛子を筆頭としている。約束の効果は偉大なのだろうか。

団結力やリーダーの頼りやすさ的には、後者が安定している。しかし、圧倒的に愛ちゃん派閥は人数が少ない。

その為、満足のいく成果は未だに出ておらず、どちらも苦しい状況下に置かれていた。

 

では、残る2人は何をしているのか。

 

「…皆。確かに俺達はあの迷宮でとてつもない挫折を味わった。だけれど、何時までもこうしている訳には行かない。その間にも、世界の平和がどんどん失われていくんだ。だから、武器を取るんだ」

 

「あのさぁ…何度言えばわかるんだよ君は。こんな状態で武器を取らせても死ぬだけだってば! 教会だけじゃなくて、君まで強制させてどうするんだよ!」

 

「でも、このまま何もしないのがいい訳じゃないでしょう。俺達は戦うことを決めた。だからこそ、何時までも恐怖に怯えたままじゃダメなんだ」

 

「恐怖っていうのは鼓舞するだけで取れるようなそんな甘いもんじゃないんだけど!? あぁもう、どうしてこう話を聞かない奴らばっかりなんだよ!」

 

プロンプトは、怯えたままの生徒達をあらゆる脅威から守っていた。

当然ながら、この怯えた生徒達の事を闘わせたい教会側はそのままにしようとはしなかった。匂わせる形で何度も復帰を促してきたのだ。

最初は愛子の猛抗議のおかげもあり、暫くは息を潜めていたものの、愛子達が本格的に別行動を取り始めたあたりから、また圧力を強め始めて来ていたのだ。

それだけだったらまだいいのだが、流石は1度、全員に戦うことの希望を抱かせたトップと言うべきか。

勇者の中で、クラスの中でのあの挫折は既に過去のこととなっていたのだ。つまり、なにかきっかけさえあれば復帰出来るはずだと。決めつけもここまで来れば素晴らしい。

 

正直、プロンプト自身もその場気分で戦争へと覚悟を示していた生徒達に対して、良い感情を持っている訳では無い。寧ろ、その挫折は予想出来たのに対処出来なかったことだとすら感じている。

 

(にしたって、コイツらの強制もあまりにも酷すぎる…もう、どうしたらいいのさ!?)

 

板挟みをモロに受けている彼は、悲鳴すらあげられない状況だった。

 

どうするべきかと…頭を回そうとした時である。

 

「お前ら…何様だよ」

 

もう1人の教師が、動き始めた。



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