ONE PIECE  陸軍大将「緋熊」 (くまたくま)
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フ―シャ村にて①

この世界の陸軍について。
階級は海軍のものに準じます。主な仕事は治安の維持(現代で言う警察)と危険地帯の探索。摩訶不思議なワンピースの世界にて、色々な仕事をしています。


 

フ―シャ村。 ここは小さな港村だ。

 

港には1年ほど前から、海賊船が停泊している。

 

風は東。村はいたって平和である。

 

 

 

「おれは遊び半分なんかじゃないっ!!もうあったまきた!!証拠を見せてやるっ!!!」

 

平和な村の一角で、少年の宣言が響き渡る。少年の名はモンキー・D・ルフィ。フ―シャ村に住む、()()()()()ごく普通の少年だ。そんな彼は今、小さなナイフを片手に島に停泊している海賊船の船首に立ち、眼下に船の持ち主である海賊たちを見下ろしながら叫んでいる。

 

「だっはっはっは。おう!やってみろ。何するか知らねえがな!」

 

そう返したのは看板から彼を見上げる、麦わら帽子の男と海賊たち。ルフィの奇行は今に始まったことではなく、子供ながらに無茶をするこの少年が今度はどんな面白い事をするのかと彼を見ていた。

 

そんな彼らを見渡し、ルフィは持っていたナイフを振りかぶり――――

 

「ふん!!」「!?」

 

―――自身の左目下に突き刺した。

 

「いっっっってェ~~~~っ!!!」

 

「バ…バカ野郎、何やってんだァ!!?」

 

想像を超えるルフィの奇行に慌てる海賊と、自身のつけた傷を痛がり続けるルフィ。彼らは大慌てで、ルフィの怪我を処置するとともに、この根性のある少年のための宴の準備を始めるのだった。

 

 

村は今日も平和である。

 

 

 

 

「野郎共、乾杯だ!!ルフィの根性と、おれ達の大いなる旅に!!」

 

 

ところ変わってフ―シャ村のとある酒場。まだ日は高いがそこは海賊。全員が酒と食い物を楽しみ、どんちゃん騒ぎをしている。乾杯の口上こそあったものの、彼らは酒が飲めればそれでいいのだろう。

 

酒場のカウンターでは件の少年、ルフィが一人の男に話しかけていた。

 

「なあ、シャンクス!!見てただろ!!おれはケガだってぜんぜん怖くないんだ!! 連れてってくれよ、次の航海!! おれだって海賊になりたいんだよ!!」

 

シャンクスと呼ばれた男。赤紙に麦わら帽子、左目に縦三本の傷跡を持つ、周りで騒ぐ海賊たちの頭は、そんなルフィの願望に大笑いしながら答えた。

 

「お前なんかが海賊になれるか!! カナヅチは海賊にとって致命的だぜ!!」

 

どうやらシャンクスに、ルフィを海へ連れて行く気はないらしい。その後もいい寄るルフィにも、あきれたような彼の様子。

そんな2人に対し、酒の雰囲気か、根性を見せたルフィの願いだからか、シャンクスの仲間たちは自身の頭とは反対に大盛り上がりだ。

 

「ルフィ、海賊は楽しい!!」「おうともよ、気楽にいこうぜ何事も!!」「海は広いし大きいし、何より自由!!」

 

そのうちの一人がシャンクスに話しかける。

 

「お頭、いいじゃねェか、一回くらい連れてってやっても」

 

どうやら先ほどの奇行が受けたらしく、ルフィを連れてくことに賛成するクルーも数人はいる。しかし――――

 

「じゃあ代わりに誰か船を降りろ」

 

「さあ話は終わりだ。飲もう!!」

 

―――シャンクスがそういえば、ルフィの味方は大笑いしながら話を終わらせ、酒を飲みに離れていった。

 

なおもルフィは食い下がるも、副船長の話や、酒場の店主、マキノの登場でひとまず落ち着き、シャンクスに今後の航海の話を聞きながら、肉を食っていた。もうすぐフ―シャ村から離れるというシャンクスの船に、どう潜り込むかを考えていたところで―――

 

ギイイイイイ

 

――――酒場のドアが開く。

 

そこには、この村では見たことがない、とある男が立っていた。

 

 

 

時間は少し巻き戻る。海賊船でのやり取りとほぼ時間を同じくして、フ―シャ村には2人の来客があった。彼らがきたのは村の入り口。ゴア王国へとつながる道からである。

 

「おお、息子よ、立派になって…!!」

 

フ―シャ村の村長、ウープ・スラップは、数年前に()()へ送り出した一人息子に泣きながら抱き着いていた。

 

「ちょっと、やめてくれよ、父さん、こんな場所で。()()殿()もいるんだからさ…」

 

来客の一人。村長の一人息子、オープ・スラップは、そんな父親の様子に慌てながらも落ち着くように言う。階級は准尉。もう少しで陸軍将校と呼ばれる立ち位置へ到達する、陸軍期待の若手である。

 

「おお、これは申し訳ない、大将殿。覚悟はしておったが数年ぶりの再会だからな。年に似合わずはしゃいでしまったわい。」

 

「ちょっと、父さん!! 大将殿にそんな口の利き方――」

 

「いいぜ、オープ。今は俺たちゃあ休暇中だ。無礼講で行こうぜ。」

 

―――もう一人の来客。190cmはあろう巨躯に、ぼさぼさに伸びた黒髪。右目の上に十字の傷をつけ、腰に刀を持った男は、目の前の親子にそう告げた。

 

「もう今日は父親と過ごしていいぜ。どうせお前の休暇はまだまだあるんだ。久々に親孝行でもしておくんだな。」

 

一見すると山賊か盗賊にでも見えそうな出で立ちと言葉遣い。しかし、コートの背中に書かれた「正義」の二文字が、彼の所属と地位を表していた。そんな彼の言葉にオープは即座に敬礼をして返す。

 

「は!! かしこまりました、大将殿。お言葉に甘えさせていただきます!!」

 

「いや、だから無礼講でいいんだがなあ…。まあいいか。おい、村長さん。」

 

「なんだね?」

 

「この辺りに酒場かなんかはないか?せっかくの休みなんだ。今日くらい昼間から飲んだってバチはあたりゃしねーだろ。」

 

「ふむ…。それなら港の方へ行ってみるといい。マキマという娘がやっとる酒場があるわい。」

 

「おお、ありがとよ。それじゃあな、オープ。」

 

なおも直立不動で敬礼を続けるオープに声をかけ、男は村長の家をあとにする。

 

「…なんじゃいオープ。そんなにびびって。少し粗雑だが、頼りになりそうないい上司じゃないか。」

 

「父さんはあの人のことを良く知らないからそんなこと言えるんだよ!!あの人は陸軍の生ける伝説で、あの海軍の英雄、ガープとすら渡り合ったという有名人なんだ!!!せっかくの休暇だから里帰りでもしろって言われたときはうれしかったけど、あの人もついてくるなんて聞いてなかったんだから!!」

 

「ガープ!?あの男とか…。そんなにすごい男なのか。して、なぜこの村なんぞに?」

 

「さあ…。大将殿はああ見えて頭の回る人だから、何か考えがあるんだろうけど」

 

「まあよい。今日は宴だ。オープの帰郷とその栄達に!!」

 

「まあよいって…。まあ大将殿のお言葉通り、今日くらいは親孝行しますかね…。」

 

久々の再会を喜ぶ親子。窓の外では、先ほど出て行った大男が、ゆっくりとフ―シャ村を歩いていった。

 

 

 

(さて、ここがフ―シャ村ねえ…。原作の始まる場所であり、主人公とその恩人が過ごした村。いよいよ原作開始ってことか…。)

 

フ―シャ村を歩く、正義の二文字を背中に背負った男はそう心の中で考える。

 

陸軍大将 「緋熊」

 

それが彼の現在の名前と肩書である。早い話、彼、ヒグマは転生者である。山で山賊のまねごとをしていた幼少期に前世の記憶と自身のいる世界、そして自身の最期を思い出し、なんとか回避しようとあがいた結果、どういう訳かワンピース世界の警察組織にあたる、陸軍の大将にまで出世していた。

 

(ここまで長かったなあ。まあ、今の俺なら近海の主くらい指一本動かさなくてもどうとでもなるが…)

 

自身の本来の立場を大きく変え、転生者の基本よろしく、原作の始まりを見に来た彼だったが、懸念することが一つある。

 

(俺がルフィをさらう理由もなけりゃシャンクスに喧嘩を売る気もねえ。いきなり原作崩壊もいいところだが、これでなんか変わるのかねえ。)

 

そう、それはいきなり原作と違う流れを引き起こすキャラクターになってしまったことだ。

 

(まあ、そんなこと言ってもしょうがねえか。そもそも俺がこんな立場にいる時点で、原作もくそもないだろう。とりあえず、未来の四皇様と、五番目の海の皇帝でも見に行きますかね。)

 

記憶はともかく、考え方は元のヒグマに影響されたのか、彼はそこまで悩むこともなく、マキノの酒場に向かった。

 

 

 

ギイイイイイ

 

――――酒場の扉が開く。

 

外にはこの村では見ないひとりの男が立っていた。

 

「邪魔するぜェ。ここは酒場だって聞いたんでな。酒を売ってもらいに来た。」

 

先程までの盛り上がりから一転。騒いでいた海賊たちはその男の登場に静まり返った。何人かは武器を手に取り、油断なくその男をにらみつけている。

 

「…ごめんなさい。お酒はちょうどいま切らしてるんです。」

 

そんな男たちの様子に驚いたのか、マキマは一瞬戸惑うも、店主としてそう答える。

 

(おー、これが今の赤紙海賊団か。さすがに粒ぞろいだねえ。それにマキマさんもかわいい。いやー、記憶の通りだ。さあ、どうしようかねえ。とりあえずは原作通りに…)

 

ヒグマはゆっくりとカウンターへ足を進める。

 

「ん?おかしな話だな。あいつらは何か飲んでるようだが?ありゃ水か?」

 

「ですから、今出てる酒で全部でして。」

 

(ここでシャンクスが話しかけてくると…。さてと。)

 

ヒグマはカウンターに座る、麦わら帽子の男とその仲間を見渡しながらそう考える。

 

「これは悪い事をしたなァ。俺たちが店の酒、飲み尽くしちまったみたいで。すまん。これでよかったらやるよ。まだ栓もあけてない。」

 

ヒグマは受け取った酒ビンを大きく振りかぶり―――

 

ドン!!!

 

と、その酒ビンを机に置き、シャンクスの横に座った。

 

「おお、こりゃあ悪いね。ま、量は少ないがタダ酒だ。遠慮なくもらうとするよ。」

 

そうして、ヒグマはシャンクスと談笑しながら酒を飲み始めた。

 

「「「いや、何普通に飲んでんだよ!!!!!」」」

 

武器を構えた戦闘態勢のまま、赤髪海賊団は大声でツッコんだ。

 

 

 

「陸軍大将、緋熊ァ!?」「嘘だろ、あの男が!?」「ゴッドバレーのロックス海賊団56人殺しの男だろ!!???」「つーかなんでお頭はそんな奴と普通に飲んでんだ?俺たちを捕まえにきたんじゃねーのか!?」

 

カウンターから距離を取り、様子を見守る赤髪海賊団。慌てた彼らの様子に、副船長のベン・ベックマンはため息をつきながら語り掛ける。

 

「落ち着け、お前ら。ここで戦闘にはならねえよ。やるならさっきのタイミングで、あちらさんが仕掛けてきたはずさ。頭が話してんだ、てめえらも飲んでろ。」

 

なおも警戒をやめない船員たちだが、ひとまず副船長の言う通りだと判断したのだろう。チビチビとではあるが、宴会が再開していく。

 

(やつらにはああいったが、今ここに奴がいる理由が俺たち以外にないのも確かだ。一体何しに来たのかねえ。もめるんならせめて酒場の外にしてくれよ、船長。)

 

一人、壁際に寄りかかり、葉巻に火をつけながら、ベックマンはカウンターに横並びで座る二人を見つめていた。

 

 

「赤髪海賊団船長、シャンクスとその一味ねえ。こんなイーストブルーのはずれに、お前らほどの男たちが何の用だ?」

 

「そりゃこっちのセリフだぜ、陸軍大将、緋熊さんよ。おかげで仲間たちがおびえてしょうがねえ。なんだ、おれ達でも捕まえに来たのか?」

 

わずかに覇気を漏らしながら、両者は酒を飲む。シャンクスの横のルフィは訳も分からぬ威圧感に圧倒されているが、初めて見るシャンクスの海賊然とした様子に、少しのワクワクを覚え、そこから離れようとはしなかった。

 

「…いんや、俺は今日は休暇だ。部下の一人がこの村の出身なんでね。里帰りをするってんで、観光がてら足を運んだだけさ。それに、おめーらは海賊だろ?陸軍の俺が捕まえなくちゃいけない道理はあるまいよ。」

 

その言葉にようやく二人とも覇気を収める。もめごとにならなさそうな雰囲気を察したのか、背後ではすでにどんちゃん騒ぎが再開されていた。

 

「たく…、度胸があるというかバカだというか。一応、軍の大将だぜ、俺はよ。もう少しビビるもんだろ、普通は。」

 

「いい仲間たちだろ?まあ、今のあんたにゃ勝てそうなのはいねーが、いい勝負する奴らならそこそこいるぜ?」

 

「だから、今日は喧嘩しに来たんじゃねーってーの。」

 

酒場に男が一人増えただけ。宴会は盛り上がりを取り戻してきた。シャンクスからもらった酒を飲みほしたヒグマに、怖いもの知らずなルフィが話しかける。

 

「おれ、ルフィ。おっさん、誰だ?シャンクスの友達か?」

 

(((あのバカ…。大将にため口聞いてやがる!)))

 

心の中で同時に突っ込む船員たち。

 

(そういや、ルフィって初対面の白ひげにため口聞いてやがったな)

 

目の前の少年が主人公であることに感動しながらも、なかなか今の自分には向けられぬ態度にあきれるヒグマ。

 

「おっさん…いや確かに十分そういわれる年齢だがよ…。俺は陸軍の人間だ。まあ、このシャンクスって奴の何かと言われたら…。まあ飲み友達だな。」

 

(((いや、敵だろ!!というか初対面なのに友達なのか!!!)))

 

またも心の中で同時に突っ込む船員たち。

 

「軍!?てことはじいちゃんの仲間か!?じゃあシャンクスの敵じゃねえか!!」

 

「…そのじいちゃん、てのが誰かは知らんが、こいつらの敵は海軍。俺は陸軍だ。主な仕事は治安維持と危険地帯の探索。海賊確保は俺たちの仕事じゃねーよ。」

 

めんどくさそうにそう答えるヒグマに、笑いながらシャンクスは返す。

 

「屁理屈いいやがって。お前が仕事にしてないだけで、陸軍だって俺らを捕まえるだろ。治安維持が仕事なんだから。」

 

「じゃあ今日はたまたまお仕事はお休みだ。いいだろ?ロジャーの処刑からしばらく、海の荒れと同じくらい陸も荒れてんだ。休んだってバチは当たらねえ。」

 

そこまでいって、再び杯を合わせる。

 

元々のヒグマの性格が山賊思考だからか、同じ荒くれモノどうし、話は盛り上がった。気づけば宴は夜にまで及び、どこから仕入れてきたのか、大量の酒とともに、彼らの祭りは続いていく。

 

翌朝、ほとんどの海賊が酔いつぶれる中で、ヒグマとシャンクスはお互いの肩を抱き合いながら、大笑いしていたのだった。

 

 

 

 




原作の56皇殺しには及びませんが、この緋熊さん、なかなか強いです。


読んでくださりありがとうございました。


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