ゴブリンスレイヤーTAS 半竜娘チャート(RTA実況風) (舞 麻浦)
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初日トロフィー獲得TAS
1/4 キャラクター作成~辺境の街到着


初投稿です。

呪文などに独自設定があります。
許せる! という方はどうぞご覧ください。

追記:
すてきな推薦文も必読っ!→推薦文「ゴブリンスレイヤーRTA風小説。表と裏の二本立て」 by セネット様


 《宿命(フェイト)》と《偶然(チャンス)》をねじ伏せる、禁忌のゴブリンスレイヤーTAS、はーじまーるよー。

 

 はいどーも!

 これはゴブリンスレイヤーのゲームのTAS*1(スーパープレイの方)の実況解説あり編集版です!

 TAS動画そのものでもなく、スピードランの方のTASでもなく、RTAでもないのでご了承のほど。

 

 なお、無事、バグ利用ナシで、トロフィー【ゴブリンジェノサイダー】の初日獲得ができましたヨ! たぶんもっと最適化できますんで誰かやって(ハート)。

 追記の狭間に消えたシーンをサルベージしたり再録したりして足してやって、めっちゃ頑張ってRTA風の実況解説あり版を作ってみたのが当作(これ)になります。ゆっくりしていってね!!

 

 とか言ってる間に、ニューゲームからキャラクリエイト入ってますね。スピードランじゃないですけど、一応フレーム数のカウントも始まってますがこの実況解説版では編集でシーン入れたりしてるんで気にしないでください。

 四方世界的には、虚空からキャラクターが生み出されるのではなく、該当する出自や能力値のキャラクターを見いだして導いてくる感じの解釈になります。なので、思いも寄らぬ過去や繋がりが後々明らかになったりします。人に歴史あり、ですね(『後付け設定』は禁句です)。

 

 性別は女を選択。

 ゴブスレRTAではチャート安定とゲームオーバー演出(リョナシーン)カットのために男を選ぶのが常道ですが、TASにガバは存在しない(存在しないとは言ってない)のでそこは気にせず、後々のためにも性別は女を選びます。

 画面も華やかになるし、多少はね?

 

 続いてステータス設定。

 

 種族は蜥蜴人(リザードマン)只人(ヒューム)のハーフにします。

 RTAだと見た目をカスタムしている余裕はないです(とロスになります)が、TASなのでそこまで気にせず、好みの見た目にカスタムしましょう。スピードランの時はランダム生成一発にせざるを得ませんがね。

 とはいえ、モデリングの技術はないので、ランダム生成で好みのやつを引くまで追記(ガチャ)します。*2

 

 ……はい、追記数が一気に伸びましたね。なお追記数は、全編通して手動でどこでどれだけ追記したか記録してました。狂気の沙汰……!!

 ともあれ見た目確定です! う、美しいっ……!

 いやまあ、たった一日の付き合いとはいえ、綺麗な子のほうがいいからね、仕方ないね。

 

 えーと、厳選(ゲーム上は一発ツモしたことになってますが)の結果、顔と胸元(デコルテ)只人(ヒューム)寄り、ほかは鱗で角ありのモン娘形態です。鱗と髪の色は、艶やかな暗緑色。

 只人(ヒューム)2、蜥蜴人(リザードマン)8って感じの半竜娘ちゃんですね。

 尻尾もご立派。

 鱗に覆われてるけど、そのバストはジッサイ豊満であった……。なお蜥蜴人的には駄肉でしかない模様。

 

 え、縮尺がおかしい?

 (おかしく)ないです。

 蜥蜴人の女の子なら、只人の戦士の男(H F O)よりも頭一つ二つ分高い(角抜きで)くらいは当然。

 角まで含めて、原作の蜥蜴僧侶さんと同じくらいありそうですね。でっかーい!

 高身長女子いいよね。よくない?

 

 あ、ハーフについてですが、四方世界(ゴブリンスレイヤーの舞台)では、只人(ヒューム)だけが、他種族とのハーフを成すことができます。

 ただし、能力値への種族補正値はどちらかの種族一方しか選べません。

 つまり、森人(エルフ)蜥蜴人(リザードマン)のハーフでダイナソーエルフだー、とかは生まれないし、エルフの貧弱さをダイナソーパワーで克服したので無敵! とかも出来ないわけですね。

 いいとこどりは出来ないってことです。

 

 いやまあ、闇の儀式で生まれた悲しき混成獣(キメラ)とかをゲーム(〈真実〉)()スター(〈幻想〉)が許してくれればイケるかもしれませんが、いずれにしろ一周目からは選べませんので関係ないです。

 

 ちなみにこの半竜娘ちゃんの種族補正値は、蜥蜴人(リザードマン)の方を採用します。

 これは、蜥蜴人(リザードマン)の方が只人(ヒューム)よりも魂魄点や集中度に補正がかかるからですね。魂魄点や集中度は祖竜術の行使判定に用いるので高いほうがいいです。

 圃人(レーア)も魂魄点の補正は高いんですが、チャートに種族背景を織り込む必要があるので、蜥蜴人(リザードマン)のハーフにしています。

 

 え? ハーフじゃなくて純正蜥蜴人でも能力値に違いは出ないだろって?

 

 でもハーフの女の子の方がTASが華やかになりますからね! 美しいは正義!

 

 本TASのチャートについてはまた後ほど。

 

 さて続いて能力値の決定ですが、TASなので当然の権利のごとく、全能力が最高値になるまで追記(ダイスロール)します。

 追記数を絞りたいなら、プレイに関係ない能力値は多少妥協してもいいかもしれません。

 今回は術士タイプなので、体力点なんかは低くても良かったかもしれませんね。

 逆に妥協できないのは、祖竜術と魔術の両刀にする都合上、魂魄点と知力点、集中度です。天辺とったらぁ!

 

 ……はい、そこそこの追記数で全能力最高値でビルドできました。

 

 種族における理論上の最高値を体現した、フィジカル・頭脳エリートのパーフェクト天才半竜娘ちゃんです(どやぁ)。

 

 仕上げに体力点、魂魄点、技量点、知力点のどれか一つに1点のボーナスを加えられますので、もちろん魂魄点にぶち込みます。

 

 続いて経歴設定ですが、これは決め打ちになるので、望んだものが出るまで追記(ダイスロール)です。

 そうしないとイチタリナイ場面が出てくるのでね。シカタナイネ。

 

 具体的には、出自を「軍師」にすることで、『職業:竜司祭レベル1』及び『冒険者技能【機先(初歩)】』を取得。機先は先制を取りやすくなるスキルです。

 来歴は「戦場」にして、『一般技能【沈着冷静(初歩)】』を取得。

 邂逅については、後々のために「宿敵」を取得。

 

 はい、これで軍師課程(キャリア)の従軍司祭として戦場に行って、なんか宿敵っぽいのと相見えて、紆余曲折を経て(なんやかんやあって)辺境の街に流れてきたという経歴の出来上がりです。

 特に邂逅「宿敵」については、宿敵の撃破によって経験点の追加が期待できるので、本TASでは必須です。

 そうほいほいと冒険初日で「宿敵」と会えるわけがない? 会わせます(TAS特有の断言)。

 

 ああ、邂逅「先輩」にしておいて、蜥蜴人としての「先輩」にあたる原作の蜥蜴僧侶さん(CV:杉田)にピンチを救ってもらう√なんかも出来ますが、代わりに誰かやるといいよ(丸投げ)。

 

 ちなみにあの変なの(ゴブスレさん)も冒険者稼業における「先輩」にあたるので、邂逅「先輩」の枠で彼が来ることもありますよ。むしろ普通は蜥蜴僧侶さんより、変なののほうがよく出ます。

 ゴブリン退治依頼でピンチになったときなんかは、運良く「先輩」の救援が間に合う目が出れば、ほぼ確定で変なのが来ます。

 原作の女神官ちゃんチャートかな? これできみも変なのハーレムに加入だ!

 

 あ、金剛石の騎士さん(貧乏貴族の三男坊)も邂逅「先輩」で引けるとか聞きますが、たぶん別でフラグ立てないと突発的遭遇(ランダムエンカウント)表に載らないタイプぽいので、これまで会ったことないです。

 

 はい、続いて生命力、移動力、呪文使用回数を決めるロールです。

 

 2D6を3回振って3つの出目決めた後、それぞれどの能力値の計算に使うか、出目と能力値の組み合わせを決めるわけです。

 分かりづらい? 一回やれば覚えるから、君も「ゴブリンスレイヤーTRPG」を買って四方世界にエントリーしよう!(ダイマ)

 

 さて、当然ここでも、全部最高値を目指します。

 最低限、出目12が一つでも出れば、呪文使用回数を3回にできるので十分なのですが、全部最高値の方が映えるので。

 魅せプ重点。ジッサイ大事。

 

 ……さて、ダイスロールで追記数が嵩んでいて暇ですね。

 

 そ ん な み な さ ま の た め に ぃ ~

 

 本TASのチャートについて説明します。

 

 

 まず、獲得目標であるトロフィー【ゴブリンジェノサイダー】ですが、なんと、戦闘称号ではありません。

 たくさん殺せば貰えるとでも思ったか? 残念、それは罠です。ミスリードです。

 

 戦闘称号での大量虐殺系は別にあります。

 例えばゴブリン100万匹撃破で獲得できるのは【ゴブリン種の天敵】のトロフィーです。こっちの初日獲得TASはルート開拓されてません。かめ〇め波で緑の月を破壊すればワンチャン……?

 ああ、混沌側に寝返って【人類種の天敵】トロフィー獲得を目指すプレイも可能です。流石の自由度!

 まあ、【人類種の天敵】になる前に、だいたい超勇者ちゃんに消し飛ばされるんですけどね!

 

 で、【ゴブリンジェノサイダー】を含む【○○ジェノサイダー】系の称号ですが、これは政治系と言いますか、戦略SLG(軍師)的なプレイで獲得できる称号です。

 絶滅させる意図を持って大勢を動かし、実際に特定種族の大量虐殺に大きく寄与した者に与えられます。

 この辺は、国際法におけるジェノサイドの定義に近いですね。うわあ、血腥(ちなまぐ)さぁい政治暗闘のニオイがするぞぉ。

 

 つまりどういうこっちゃよ? というと、ゴブスレさんが道半ばで倒れたあと残された女神官ちゃんが女教皇様になって「ともあれ、ゴブリンは滅ぶべきであると考える次第である」とかなんとか国家的に絶滅政策を実行した場合は、女神官ちゃん改め女教皇様が、【ゴブリンジェノサイダー】のトロフィーを獲得するというわけです。

 直接手を下すより、みんなにやらせることが大事なわけですね。

 あるいは、ゴブリン駆除剤、みたいな、種族特効の毒物なんかを発明しても取得できます。

 

 で、もう一つ重要なのが、【○○ジェノサイダー】系トロフィーはゲームオーバーしても獲得できるということです。

 死後授与OK! 戒名かな?

 

 他にもいくつか、政治系のトロフィーは死後でも与えられます。例えば、没落貴族を再興させ、その後も一族が繁栄した場合の【○○家中興の祖】のトロフィーなんかがそうですね。

 政治系じゃないですが、生前は鳴かず飛ばずだった発明家が死後評価される【早すぎた天才】とか、歴史の流れの中でしか評価のしようのないトロフィーも戒名的ですね。

 あとは、死ぬまで奮戦して殿軍を務めたキャラに与えられる【立ち往生(ラストスタンド)】とか、ゲームオーバー後に獲得できる系のトロフィーは結構あります。

 

 さて、「トロフィー初日取得TAS」で「【ジェノサイダー】系称号は(がめおべら)後も獲得可能」……。

 あっ(察し)。

 

 ……はい、もうお気づきかと思いますが、半竜娘ちゃんには初日に死んでもらいます。

 

 なあに、大丈夫。

 ただ死ぬわけではありません。

 

 

 劇的(ドラマティック)に、英雄的(ヒロイック)に、熱狂的(ファナティック)に、死んでもらいます。

 

 

 具体的には祖竜の一部となって昇天(昇竜?)してもらいます。

 これなら蜥蜴人的にも安心ですね!

 

 いわゆるコールゴッド*3的な高位の祖竜術【昇竜誓願】*4により、自らの身を《恐るべき竜》の概念そのものと同化させ、新たな祖竜術を同胞にもたらし、その新たな祖竜術を以てゴブリンの絶滅を促進させることで、ジェノサイドのキーパーソンとなる、というのが本TASのギミックになります。

 

 これを成すにあたって、かなり横車を押す必要があるので、魅せプでGMの機嫌をとってやる必要があります。

 

 ……それ(魅せプ)って重要? って思いましたよね。

 重要なんです。

 

 というのも、四方世界は、上位の神々でも干渉できない《宿命(フェイト)》と《偶然(チャンス)》の2つの骰子(サイコロ)がもたらす駒たちのドラマを、神々が見守っている卓上遊戯世界です。

 ツール使用は、その不可侵のはずの《宿命(フェイト)》と《偶然(チャンス)》を、もうメタくそに凌辱することになるわけで……、完全に真っ向から世界観に敵対してるわけですね。

 当然、GMたる《真実》や《幻想》をはじめとした神々は、普通はそんなズルッこ(チート)に好感を抱くわけもなく……。

 

 このゲームでは、ツール使用が感知されたプレイデータには、お仕置きが用意されています。

 どうやって感知しているかは解析されていませんが、とにかく感知されます。

 案外、神々が『第四の壁』を越えて見つめているのかも。

 

 さて、そのお仕置きとはなんだと思います?

 

 ゲーム続行不能のフラグロック?

 クソつよボスの突然の襲来?

 周辺キャラからの好感度強制低下?

 

 違います(それらが起きないとは言ってない)。

 

 ゲームクリア直前の【 お 説 教 ム ー ビ ー 】(クソ長)の確定挿入です。四方世界の解釈的には、気合いの入った託宣という扱いになります。

 

 TASに一番効くのはムービー挿入ってはっきりわかんだね。

 《真実》や《幻想》ほか、さまざまな神々からお説教されたり煽られたりジーッと見つめられたりするムービーは、一見の価値ありなので、気になった方は検索してみてください。《幻想(まど神)》さまがかわいいので。

 

 とはいえ、お説教ムービーを回避する方法もあります。

 

 すなわち魅せプ重点です! (その基準はまだ解析されてませんけど。)

 

 神々は娯楽のために(四方世界)を囲っているので、神々を楽しませるなら融通きかせてもらえるってワケなんでしょう。

 スーパープレイやスピードランで、理論上可能ってだけで突き進むのを見て、一部神々には「いやそうはならんやろwww」「えぇ……(ドン引き)」「お前の動きはおかしい」などとご笑納いただけてる模様。

 

 それでも超勇者ちゃんには勝てないという不具合。

 

 どんだけ頑張っても、「でも超勇者ちゃんの方が凄いし」とか「超勇者ちゃんで見た」とかなるのは、ほんまもう……。

 超勇者ちゃんだけシステム違うでしょ、たぶんカオスフレアとして目覚めてると思うんですけど(名推理)。

 TASは可能性がゼロでなければ突き進めるけど、超勇者ちゃんは可能性がゼロでもルート開拓するから、格が違いますよね。

 

 まあさておき、今回のプレイでの半竜娘ちゃんの最終目的決まっています。すなわち――

 

 肉体が消滅するまで我が身を触媒にコールゴッド(昇竜誓願)

 肉体が消えても霊体が溶け崩れるまでコールゴッド(昇竜誓願)

 霊体が崩壊したら、さらに魂魄までも祖竜の(アギト)に捧げてコールゴッド(昇竜誓願)

 

 そして半竜娘ちゃん、キミは大いなる父祖、恐るべき竜と一体となるのだ……。

 

 あとは、コールゴッド的な祖竜術(昇竜誓願)が使えるようになるまで、半竜娘ちゃんを冒険初日で鍛え上げれば工事完了、というわけですね!!!

 

 ……おっと、無事に生命力、移動力、呪文使用回数についても最高値を叩き出せました。

 まっこんなもんよ。

 

 というわけで、恵体(生命力最大)! 俊足(移動力最大)! かつ祖竜に愛された(呪文使用回数3回)マーベラス半竜娘ちゃんになりました!

 

 さて、職業と呪文とスキルですが、これはもう決めてあるのでパパパッと行きましょう。

 

 職業構成は、出自で竜司祭レベル1を獲得済みなのを踏まえ、ポイントを振って『竜司祭:レベル2』、『魔術師:レベル2』にします。

 

 竜司祭は、祖竜術を行使できる職業です。

 魔術師は、真言呪文が使えます。

 

 いずれもレベル2なので、祖竜術2つ、真言呪文2つまで習得できます。

 

 祖竜術は【竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)】と【狩場(テリトリー)】を習得。

 真言呪文は【分身(アザーセルフ)】と【停滞(スロウ)】を習得します。

 それぞれの術の効果については、だいたい字面からわかる通りです。詳細は使用時にまた説明します。

 

 術士なのに回復も攻撃も出来ないという、正気か!? という構成ですが、TASなら許されます。

 むしろ本チャートでは、これじゃないとダメです。

 

 スキルは、冒険者技能【魔法の才(初歩)】と、冒険者技能【呪文熟達:創造呪文(初歩)】を取得。

 

 【魔法の才】は呪文使用回数を増やすスキルで、初歩レベルだと+1されます。

 これで半竜娘ちゃんは、呪文を4回まで使えるようになりました。スーパーエリート!

 4回というのは原作の蜥蜴僧侶さんと同じ回数です。銀等級の冒険者に匹敵するくらい祖竜の寵愛を受けた白磁等級かあ。壊れるなあ。

 

 でも覚えてる呪文がトリッキーすぎるので、従軍司祭としても上司は持て余してたやつだゾ、これ。

 

 【呪文熟達:創造呪文】は、何かを作り出す系の真言呪文・祖竜術・奇跡の行使判定などにボーナスが乗ります。初歩だと+1です。固定値は正義、イチタリル!

 半竜娘ちゃんの覚えている呪文だと、【竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)】と【分身(アザーセルフ)】が、創造呪文にカテゴライズされるため、このスキルの効果が乗って、呪文が成功しやすく、また効果が高くなりやすくなります。

 

 続いて持ち物・装備を決めていきます。

 初期資金である銀貨100枚を消費して持ち物を整えます。

 

 冒険者セットはデフォルトで持っているので、あとは【分身(アザーセルフ)】に持たせるための『背負い袋』の予備と、『【竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)】の上質な触媒』(呪文行使判定に+1。消耗品)を8セットと、それを持ち運ぶための『ベルトポーチ』と、戦利品入れるための『ずた袋』と『小袋セット』を幾つかで…。

 

 はい、残金は銀貨1枚! 素寒貧(すかんぴん)

 武器も防具も身に着けていない、バーバリアンスタイル! いや、蜥蜴人なら自前の爪と鱗*5があるし、何もおかしくない、はず。

 『竜司祭の触媒入れ』も持たずに、覚えてる術の触媒のみ持ち歩く一点豪華主義!

 

 これは、重荷(移動力修正-2)を嫌って『竜司祭の触媒入れ』はどっかに捨ててきたパターンですね。

 武器防具がなくて自前の『爪』と『鱗』だけなのも、たぶん逃亡の過程で余分な荷物を捨ててきたか、落ち武者狩りにでも遭ったんでしょう。

 

 こうなってくると、ここまでステータスが高いことや、覚えてる呪文に偏りがあることも別の背景が出てきそうですが……。ままええわ。

 

 さて、冒険者になった動機は……「託宣(ハンドアウト)を受けて」を引いときましょう。

 実際、PLから影響受けてるので、ぴったりですね。

 

 あと年齢は成人したて、ということで、年齢設定ダイスでピンゾロ出して、13歳*6にします。

 

 経歴としてはおそらく、

 ・成人直後に期待の新人従軍司祭として東の砦の混沌の軍勢との戦闘に参加し、

 ・宿敵となる何かと戦ったが負け(ひょっとしたら捕虜にでもされたかも?)、

 ・戦場か敵陣地から落ち延びたあと、

 ・村々の落ち武者狩りや野盗を避けて道なき道を往き、

 ・祖竜だか外なる神だかの導きで『西へ西へ』と示されたからそれに従い、

 ・冒険者となるために辺境の街(ゴブスレの舞台)までたどり着いた、

 という感じですね、きっと。

 うーん、過酷ぅ。

 

 

 長い長いキャラクリも終わって、本TAS解説もいよいよ三合目あたり。

 

 それでは冒険の始まりです。

 

 

 早速、冒険者ギルドに行き――ません。

 

 まずは街中をうろつきながら、住人や行き交う冒険者の話に耳を傾けつつ、水路の流れがよどんでいる場所だったりゴミ捨て場だったりを目指します。

 

 さーて、うまい具合にフラグ(噂話)道具(ガラクタ)が拾えるか

 

 といったところで今回はここまで。

 ではまた次回!

 

 

 

*1
Tool-Assisted Speedrun(ツール・アシステッド・スピードラン)、または、Tool-Assisted Superplay(ツール・アシステッド・スーパープレイ)

*2
使用ツール(権能)について:TASとは言いつつ、乱数そのもの(〈宿命〉と〈偶然〉)に直接介入する難易度が高かったため、基本的にはひたすら狙いの結果が出るまで振り直して追記して対応している。「ムービーの追記(短時間遡航)」と「フレームレートの操作(時空流鈍化)」がメイン。「メモリビューワー(運命窃視)」はフラグやテーブル切り替えの確認で多少役に立つ程度な模様。

*3
コール・ゴッド:別システムのTRPG ソード・ワールドの神聖呪文Lv10。信仰する神をその身に降ろすことで神の権能を行使できる。しかし普通は、神を降臨させた肉体は、神威に耐え切れずに滅びる。

*4
【昇竜誓願】:オリジナル要素。要はコールゴッドの祖竜術バージョン。読みを当てるなら「エヴォリューション」とか「プロモーション」だろうか。

*5
蜥蜴人のデフォルトスキル【竜の末裔】は爪と鱗をもたらします。

*6
蜥蜴人の成人は13歳。3歳から13歳まで親元から離され、集団で養育される。スパルタかな?




半竜娘ちゃんの能力値載せときますねー。
スマホだと見辛いから、あとで整形するかも。

◆名前:半竜娘
 年齢13歳(成人直後)
 やる夫スレならAAは「長門(艦これ)」を当てると思う。
 つよそう。(まだゴリラじゃ)ないです。

◆半竜娘ちゃんイメージ
 Picrewの「遊び屋さんちゃん」でつくったよ! https://picrew.me/share?cd=wZesuN9igj

【挿絵表示】

↑雰囲気はこんな感じ

 Picrewの「人外女子メーカー」でつくったよ! https://picrew.me/share?cd=KsLmkX9Nbh

【挿絵表示】

↑外観はこっちの方がイメージに近い。角とか爪とか

 DALL・E-3で出力

【挿絵表示】


◆累積経験点 3000点

◆能力値
能力値体力点 5魂魄点 5技量点 3知力点 3
集中度 49977
持久度 38866
反射度 38866


    生命力:【 25 】
    移動力:【 24 】 
 呪文使用回数:【 04 】

  呪文抵抗基準値(魂魄反射+冒険者LV+呪文抵抗):【 9 】

◆冒険者レベル:【 1 】
  職業レベル:【 魔術師:2 】【竜司祭:2】

◆冒険者技能    初歩/習熟/熟達/達人/伝説
  【免疫強化】  ●   ○  ○  ○   ○
  【機先】    ●   ○  ○  ○   ○
  【魔法の才】  ●  ○  ○  ○   ○
  【呪文熟達(創)】●  ○  ○  ○   ○

◆一般技能    初歩/習熟/熟達 
  【竜の末裔】 ●  ○  ○ 
  【暗視】   ●  ○  ○ 
  【沈着冷静】 ●  ○  ○ 

◆呪文
 呪文行使基準値(知力集中):【 7 】
        (魂魄集中):【 9 】
 魔術師:2 竜司祭:2  呪文熟達(創造呪文):+1
 真言:【 9 】  奇跡:【 0 】  祖竜:【 11 】  精霊:【 0 】

 ◎習得呪文:
 《 分身 》 難易度:20 (真言呪文 創造呪文(生命))
 《 停滞 》 難易度:15 (真言呪文 支配呪文(生命))
 《竜牙兵》 難易度:15 (祖竜術 創造呪文(生命))
 《 狩場 》 難易度:15 (祖竜術 付与呪文(空間))

◆攻撃
 命中基準値(技量集中):【 7 】
 近接:【 7 】  弩弓:【 7 】  投擲:【 7 】

 ◎武器:【 素手(爪) 】
   用途/属性:【 両手格軽/斬 】
  命中値合計:【 7 】
   威力:1d3+3
   効果:投擲不可

◆防御
 回避基準値(技量反射):【 6 】
 ◎鎧:【 鱗 】
   鎧:なし
   属性:【 外皮 】  回避値合計:【 6 】
   移動力合計:【 24 】  装甲値合計:【 1 】 隠密性:【 良い 】

◆所持金
  銀貨:1枚

◆その他の所持品
  冒険者ツール(鈎縄,楔x10,小槌,火口箱,背負い袋,水袋,携帯用食器,白墨,小刀,松明x6)
  携帯食×7日分、衣類
  背負い袋(予備) ×1
  ベルトポーチ ×1
  【竜牙兵】の上質な触媒×8(ベルトポーチに収納)
  ずた袋×2
  小袋セット(3枚/1セット) ×2

◆出自/来歴/邂逅/動機
 軍師/戦場/宿敵/託宣


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1/4 裏

 半竜娘ちゃんの一人称は「手前(てまえ)」。語調は適当です。
 彼女が辺境の街に着くまでの話と生い立ちについて。
 蜥蜴人にも中二病とかあると思う。


 まったくもって手前(てまえ)の見る目の無さを恥じるばかりよ。

 同じ竜の名を冠していても、祖竜である《恐るべき竜》と、あの六肢の強欲者らは、根本から違うものであったと、気付かぬとは。不覚も不覚よ。

 四肢と翼を合わせりゃ六本足。昆虫(むし)の如き系統外れの六本手足のドラゴンどもが、手前(てまえ)ら蜥蜴人や恐るべき竜のごとき気高き矜持を持つわけもなかったのだ。

 いや『昆虫の如き』とは蟲人(ミュルミドン)に失礼か。

 

 ともあれ。

 

「あのクソ六肢動物め、手前(てまえ)がきっとぶち殺してやる……」

 

 道無き山野を往きながら、手前(てまえ)には愚痴愚痴とした考えばかりが浮かんでくる。

 

 まあ、只人(ヒューム)どもが言うところの東方辺境にて、混沌の奴腹(やつばら)めとの戦に加勢したことには何も言うことはない。

 大戦(おおいくさ)与力(よりき)するのは蜥蜴人の習いである。

 やがて魔神将だの魔神王だのに手を届かせるのを夢見るくらいは許されようとも。図体ばかりはでかくとも、手前(てまえ)はまだ13の小娘であることだし。

 

 成人を迎えて稚児の群れから出されてすぐに、最前線に抜擢されたのも、誇らしく思いこそすれ、愚痴など出ようはずもない。

 

 前線指揮所が大きなドラゴン……古強者たる黒鱗のエンシェントドラゴンに焼き払われ、最前線の手前(てまえ)らが孤立し、そのまま捕虜にされようとも、それは戦ではよくあることよ。

 命を拾うただけマシというもの。

 

 蜥蜴人は、戦う側が混沌でも秩序でも気にせんもの。戦バカじゃけん、の。

 向こう(混沌側)も寝返りを期待して、皆殺しにせんこともあるのじゃ。まして向こうの指揮官も蜥蜴人ならなおさらよ。

 むしろ捕虜にとられたのを口実に*1、かつての味方とコトを構えるなど朝飯前。平気の平左でやってのけて不思議ではない。

 優れておれば生き残るであろうよ、それが適者生存というもの。

 

 まあ、手前(てまえ)はそこまで節操なくとは、いかんのぅ。

 そも、混沌の勢力の方が、手強い魔神も多いもの。寝返って秩序側と戦ったとて、金等級や白金等級の数は知れておるしの。

 捕虜として連れ込まれたなら、機を見て敵の砦を焼いてから、抜け出すつもりじゃった。

 勝ちの目があるうちは、足掻くのが信条よ。

 

 ま、結果的には寝返らなんだ手前(てまえ)の方が正しかったのじゃから世の中は分からんものよな。

 あんな下衆の方に寝返った輩は、ご愁傷様よ。

 

 そう、下衆よ、愚痴愚痴言うとる原因はの。

 

 捕虜に取られた手前(てまえ)は、鱗の色が良いからと、あの黒鱗のエンシェントドラゴンの目にとまったのよ。まあ似たような色をしとるものな。

 これでも一族始まって以来の天才の呼び声もある手前(てまえ)であるもの。あの下衆の黒鱗ドラゴンのお眼鏡にも適おうさ。年頃の娘らしく、鱗の手入れも欠かさぬしの。

 

 捕虜の詰められた営倉から引っ立てられて、黒鱗のドラゴンの前に立たせられれば、あの下衆、なんと言うたと思う?

 

《思ったより使えんな》

 

 だとよ!

 

 おおかた、手前(てまえ)の覚えておる祖竜術と真言呪文を看破して言うたのであろうが、脳タリンの六肢動物風情には手前(てまえ)の深謀遠慮なぞ分からんのじゃ。

 

 【分身】は二人分の働きができる単純に強い真言呪文じゃし、【停滞】も状況をひっくり返せる強力な真言呪文じゃ。

 【狩場】の祖竜術は行軍の安全を確保するし、【竜牙兵】の術は、創った【分身】を使い潰す勢いで兵子を召喚させ続ければ、あっというまに軍勢の出来上がりじゃ。

 

 コンセプトが行方不明じゃと?

 攻撃も回復も出来ない術士など、何したいのか分からんじゃと?

 素体の能力値任せで慢心した構成じゃと?

 

 嵌まれば強いんじゃ!!

 【狩場】の結界で敵の居場所を察知し、【分身】とともに準備を整え、前衛に【竜牙兵】並べて、【停滞】で動きを止めて、囲んでボコる!!

 有史以前からの鉄板戦術は『囲んで棒で叩く』であろうが!!

 そして『囲んで棒で叩いたところに本命が突っ込んで蹴散らす』をやるために、足りないところはこれから鍛えるつもりじゃったんじゃ!

 

 思い出してもムカっ腹立ってきおった。

 

 あ? 【分身】の発動が安定せんじゃろ、じゃと?

 【停滞】が通らなかったらどうする、じゃと?

 そのために真言呪文の発動体も、値の張るものを持ってきとったんじゃ。捕まったときに取り上げられたがの。

 【分身】は1日保つんじゃから、寝る前に唱えておけば無駄もない。まあ確かに、出目が奮わん日は出せんがのう。

 

 ああ、そうそう、それであの下衆の黒鱗ドラゴンよ。

 奴隷や捕虜は、無駄に虐げたりなどせんものじゃろうに、あの下衆と来たら!

 

《素体としては優秀、か。であればゴブリンの孕み袋にでもすれば、ホブだのチャンピオンだのメイジだのも増えるだろう》

 

 などとほざきおった!

 下衆め!

 やはり六肢動物は異形の異端よ!

 

 大体にして蜥蜴人は卵生じゃ!

 手前(てまえ)はハーフじゃが、それでも孕む袋などないわ!

 そんなところでも阿呆か、下衆ドラゴンめ!

 

 そしてゴブリン!

 あのニヤニヤ笑いの身の程を弁えない雑魚どもはコレまでも嫌いじゃったが、ますます嫌いになったわ。滅べばいいのじゃ、小鬼どもなど!

 抱かれるなら、強者でなけばならぬ。あんな奴らに身体を暴かれるなど言語道断!

 

 はあ、はあ。

 

 ああ、それで、じゃ。

 

 いよいよ手枷足枷でゴブリンどもの巣穴に放り込まれる所であったが、そこで《託宣(ハンドアウト)》があったのよ。

 

 今も頭の中で囁く、ティーアース(T  A  S)とかいう神からの。

 

 どうも言うとることはよく分からん神じゃが、その権能は破格。

 ティーアースの言を信じるのであれば、無制限に因果を捻じ曲げ、望む結果を引き寄せるとか。

 お試し期間とやらで、砦から逃げ出すまでその権能を貸すとか言う。

 

 ――ふん、どうせこのままでは、奮闘虚しく慰み者じゃ。やってみるがいい。

 

 そう念じた結果は、確かに破格であった。

 

 ゴブリンどもは何もない所で足をもつれさせて転んだ。

 足枷や手枷はゴブリンが倒れてきた拍子にぶつかって壊れた。

 試しにと促されて【停滞】を唱えてみれば、めったにない大成功の手応え。そこら中の敵兵どもが、動きを止められ固まったまま倒れておる。

 

 そこからはあっという間であった。

 【分身】を呼び出し、砦中に火をつけて回らせる。竜の牙を見つけては【竜牙兵】を呼び出し火付けに加勢させた。

 その間に本体の手前(てまえ)は、外へと逃げる。

 

 不思議なほどに、呆気ないほどに、全てがうまくいった。

 

 ぞっと鱗が逆立った。

 これは気持ちいい、これは素晴らしい、こいつの言うとおりにしておけば間違いない……などという甘美な痺れが脊柱を駆ける。

 

 ああ、だが。

 だがこれは、ダメじゃ。

 こいつはやはり邪神よ。

 従っていれば、必ず破滅する。

 それが分からいでか。

 

 その証拠に、ほうら来たぞ。本命の《託宣》じゃ。

 貴様は手前(てまえ)に何をさせたい?

 

 なになに。

 

 黒鱗のエンシェントドラゴンを殺す?

 祖竜と一体になり、新たな祖竜術をもたらす?

 そうして小鬼を根絶やしにする?

 

 は、ははは。

 なるほど、全て手前(てまえ)が望んでおることだなあ。

 なんと悪辣なことよ、これは断れぬ。

 しかも命と誇りを既に救われておる。この恩を返さんわけにもいかん。

 

 そして、代価は、手前(てまえ)の魂か?

 違うだと? 魂は祖竜に捧げるのにとっておけ、と。

 であれば貴様は何を得る、ティーアース。外なる神よ。

 

 

 『可能性の存在証明』、じゃと?

 

 

 わけの分からぬ神じゃ。

 

 まあいい、それで、手前(てまえ)をどこに向かわせたいのだ?

 

 

 

 

 

 そういうわけで、ティーアースなる神から西の辺境の街を示されたゆえ、そちらに向かっておるというわけよ。

 愚痴愚痴と黒鱗のドラゴンへの怒りを反芻しながら、の。

 

 一人で山野を行くには【分身】の真言呪文と【狩場】の祖竜術が役に立った。これがなければ、十分に休みをとることが出来なかっただろう。

 

 落ち武者狩りを避けて途中の村にも寄らず、たまに山賊のアジトから最低限の物資や食料を盗んで食いつないで向かっておると、辺境の街まで後少しという山中に白亜の断崖を見つけた。

 いや、ティーアースに導かれた、ということか。

 ふん、どうやら、ここで『上質な触媒』となる竜の牙を採れということらしい。

 

 ティーアースの導きというのは気に入らんが、なかなか良い趣向よ。

 軍師課程(キャリア)の竜司祭として、祖竜の話はよく嗜んでいる。

 祖竜が眠る太古の白亜の園の話も、もちろん知っている。ここは、その太古の名残なのだろう。

 

 3歳になって稚児の群に放り込まれる前には、母がよく聞かせてくれたものよ。

 まあ、母は聞かせるつもりもなかったのやも知れんがな。

 普通は物心ついた頃には稚児の群れに放り込まれるから、母の温もりなど覚えておる者はおらん。

 ああ、父の顔は知らん。どこぞの只人の将軍だか金等級冒険者だかと母は言うておったが、戦の出先で共闘して、それで気に入って胤をもらっただけじゃとか。所詮は戦場限り、一夜限りの付き合いじゃろうよ。

 ま、母に気に入られるくらいじゃから、さぞかし強く麗しかったのであろ。しかし顔が分からんと、手前(てまえ)が惚れた強者が実は父じゃったとか、異母兄弟じゃったとか、マズいことになりかねんのでは? 近親交配は禁忌であるゆえ。

 

 白亜の断崖の周りの石に楔を叩きつけて砕いて、化石を発掘しつつ、取り留めのないことを考える。

 

 思えば、母の温もりをはっきりと覚えておるのは、案外本当に、蜥蜴人の中でも、手前(てまえ)くらいのものかも知れん。まあ、手前(てまえ)の場合は、卵の殻の中におった時の温もりから覚えておるがの、天才じゃから。

 物心つくころに引き離すのは、そういった母の温もりが惰弱につながるとでも信じられているのやも。

 祖竜は父祖たる側面ばかり強調されるが、慈母龍(マイアサウラ)偷蛋龍(トゥダンロン)*2から卵を守る逸話もあるゆえ、祖竜にも母性の側面があるはずじゃ。一概に惰弱と捨てたもんでも……

 

 なんじゃ、ティーアース。

 

 なに、偷蛋龍(トゥダンロン)が卵を盗むのは古い認識?

 いまは偷蛋龍(トゥダンロン)こそが、子育てする母性の竜じゃと? むしろ偷蛋龍(トゥダンロン)は父竜も卵を温める?

 まことか!? 卵泥棒などという名とは全く逆ではないか!

 そうであれば部族の司祭衆に伝えてやらねばならんぞ、これは!

 

 なに?

 もう伝わってる?

 手前(てまえ)が母から寝物語で聞いたときから認識を更新できてなかっただけ?

 母も、母が子供の頃に覚えたことのまま、我が子に聞かせたと?

 

 ふ、ふん! いい気になるなよティーアース!!

 手前(てまえ)とて、神学を学んでおらんわけではないのだぞ!

 ど忘れしておっただけじゃ!

 その証拠にいまはしっかり思い出せておるわ……って、ティーアース、貴様っ、権能で干渉しおったな!? 

 やけにはっきり口伝や教本が思い出せるんじゃが!? おい!

 

 くっ、まあよい。

 拾った化石の牙を『上質な触媒』にするための加工方法もついでに思い出せたから、ちょうど良かったということにしておいてやるわ。

 

 で、だ。いよいよじゃな?

 辺境の街に行き、手筈を整えて黒鱗のエンシェントドラゴンを殺し、新たな祖竜術をもたらし、小鬼どもを絶滅させる、その()()()を踏み出すのじゃな?

 うむ、楽しみじゃのう!

 

 うん? なんぞ手前(てまえ)が変なこと言うたか? ティーアース、貴様なにを不思議そうに……ってはあああああああああああ? おまっ、えええ??

 

 一日で全部やんの??!!??

 

*1
建前:「かーっ、捕虜にされっちまったからなぁー、かーっ、こっちもつれえんだけどよぉー、仕方ねえよなあ~!」 本音:「あいつとは本気の命がけの戦いをしてみたかったんだよぉ!」

*2
偷蛋龍:オヴィラプトルのこと。




四方世界で化石が出土するかは分かりませんが、もともとなかったとしても、祖竜信仰が確立された時点で、化石は地中に生えてきたはずだと思います。(設定は生えるもの)


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2/4 冒険者ギルド~下水道~転移トラップ

独自設定などあります。
許せる! という方はどうぞご覧ください。


 《宿命(フェイト)》と《偶然(チャンス)》をグラ賽にする、禁忌のゴブリンスレイヤーTAS解説2回目、はーじまーるよー。

 

 前回はキャラクタークリエイトやって、パーフェクトでマーベラスでジーニアスな半竜娘ちゃんが、辺境の街にたどり着いたところまででしたね。

 

 現在、半竜娘ちゃんには、人々の喧騒に聞き耳を立てがてら、ゴミ漁りをしてもらっています。

 うぅ、不憫な半竜娘ちゃん……。すぐに手柄を立てさせてあげるからね……。

 

 さて、今後必要なフラグを立てるために、街の人の噂話に聞き耳を立ててますけど、成果はどうでしょうかね。

 わざわざ、ギルドから少し離れて街中までやってきているのは、ここでしか拾えない噂話があるためです。

 あまりゲーム内の時間をかけると今後に支障があるので、望みのフラグが最短で立つように追記(リセマラ)です。

 

 では街往く人の噂話に耳を傾けましょう。

 

「東でデーモンが……」 違います。リロード。あ、これは追記の狭間に消えたシーンですが、演出のため再録して編集で追加しています。

 

「はぐれ小鬼が……」 違う。リロード。

 

「水路に大きな口の怪物が出るとか……」 おっ、一つクリア。セーブ(この世界線を採用)しましょう。

 

「獣人女給さんの肉球プニプニし……」 同意するが違う。リロード。

 

「あそこの旦那さん、斜向かいの奥さんと……」 違う。リロード。

 

「あっちの飯屋はやめとけ、やっぱり圃人のやってるむこうのとこに……」 違う。リロード。

 

「うおっ!? モンスター!? なんで街中に……」 あぁん? 半竜娘ちゃんのこと言ってんのか!? リロード!

 

「だいたいの街は古代の遺跡を再利用してるんだ、この街のも……」 よし、これで二つ。セーブしましょう。

 

「東の戦場で古竜が出たとか、黒い鱗の……」 おっ、良いですね。セーブします。

 

 これでこの時点で必要な街の噂はコンプリートできました。

 

 それではリザルトです。

 ゴミ漁りしながら立てたフラグは三つ。

 

 一つめは水路に潜む沼竜(アリゲイタ)関連のフラグ。

 これで、水路や下水道の偶発的遭遇表(ランダムエンカウントテーブル)に沼竜が載るようになります。

 また、【怪物知識】判定に成功することで、運が良ければドブさらいやゴミ漁り中に、竜牙兵の触媒に使える『竜の牙』を回収できるようになります。ハイ成功。なりました。

 ああ、ここの沼竜は剣の乙女さんの使徒である白い沼竜とは別です。ここのは単なる野良モンスですね。

 

 二つめは、下水道などの都市構造物は、古代の遺跡を流用しているという情報。

 これ単体では足りないですが、冒険者ギルドでさらに噂話を収集することで、望みのフラグにたどり着きます。一応ここでも【博識】判定のクリアが必要ですが、はい、クリアしました。

 

 三つめは、東方辺境の砦に黒い古竜(エンシェントドラゴン)が出たという話です。

 たぶん半竜娘ちゃんがやられた戦場がこれで、つまり半竜娘ちゃんの「宿敵」はこの黒い古竜(エンシェントドラゴン)ですね。

 今そう決めました。そいつが「宿敵」かどうかは、オレが決めることにするよ。

 

 さて、ちょうどゴミ漁り中に、良い感じの『タモ網(粗悪)』を拾えたので、水路を浚って『竜の牙』を補充しておきましょう。

 これから大量に必要になりますし、雑兵を呼び出すのに『上質な触媒』を使うのはもったいないですからね。

 沼竜の噂話は現地調達()のために必要だったんですね~。

 

 乱数調整のためにちょっと不審な動き(露骨な調整)をしたせいか、若干注目を集めちゃっていますが気にしない気にしない。

 

 挙動不審な女蜥蜴人ハーフの噂話が冒険者ギルドに届く前に登録すればノーダメです。

 

 なお冒険者ギルド登録前に不審人物認定されると、ギルドに登録できず、裏稼業の仕掛人(ランナー)しか生きる道がなくなってしまいますので気をつけましょう。チャート模索中にやらかしました(1敗)。

 

 ちなみにゲーム内時間で今からだいたい10分以内にギルドで登録申請できればOKです。

 唐突なタイムアタック要素!

 

 では行きます。

 

 冒険者ギルド方面に伸びる水路に『タモ網(粗悪)』を突っ込んで走り、水底から浚った泥を掬い上げて水面から空中へ勢いよく飛ばし――、

 ここで戦利品判定入るので、『竜の牙』が出るまで追記(セーブ/ロード)です。

 お、そこそこの追記数で引けましたね。

 あとは拾えた数を最大化するまでまた追記します。

 

 えーと、出てきた数は……まあ、3回分くらいですね。幸先いいです、白骨化した沼竜の頭骨でも引っかけたのかもですね。

 

 タモ網から水路上空に放り出された泥の中から、戦利品の『竜の牙』をホァタタタタタッと回収します。

 この間3秒!

 拾ったものは小袋に突っ込みます。

 一応、ほんとに『竜の牙』かどうか、【魔法知識】判定で確かめときましょう。間違ってると肝心なときに術が不発します(1敗)。判定成功。はい、ちゃんと全部『竜の牙』でした。

 

 同じことをもう何度か繰り返し、合計で【竜牙兵】10回分を超える『竜の牙』をゲットできました。

 やったぜ。

 ついでに銀貨も20枚程度。これはすぐあとで使います。

 竜の牙と銀貨は、水路でゆすいだら、走りながらベルトポーチと小袋(汚れてない方)に移

しておきましょう。

 

 で、悪い噂が冒険者ギルドに届くまでまだ余裕がありますが、半竜娘ちゃんが一生懸命走ってる間は暇ですよね。

 

 そこで、みなさまのために~

 

 移動力の種族修正について説明をしておきます。

 半竜娘ちゃんの種族である蜥蜴人は、移動力の種族修正の係数が低いです。具体的には鉱人(ドワーフ)と同程度。鈍足!

 足の速さや持久力(移動力の種族修正)は、森人が抜きん出ており、続いて只人と圃人、そしてドンケツに蜥蜴人と鉱人となっています。

 いくら種族最高峰の俊足を誇る半竜娘ちゃんでも、それは蜥蜴人の中での話。

 只人としては中の上程度、森人と比較したら平均以下の足の速さ(移動力)しかありません。種族格差っ!

 

 っと、説明してるうちに冒険者ギルドが見えてきましたね。

 半竜娘ちゃんが水面を走って人の居ないところを通った(ショートカットした)ので、まだ少し時間に余裕があります。

 水面走りですが、魔法なしでも片足着水後1フレームだけ入力を受け付けるので、ツールのアシストでそれを繰り返せば可能です、そう、TASならね! 片足が沈み切る前にもう片足を出せば問題はない!

 

 ギルドに入る前に近くの水場で軽く手を洗って水も飲んで息を整えておきましょう。

 清潔感は大事(山野を抜けてボロボロになった民族衣装から目をそらしつつ)。

 

 では、冒険者ギルドに入って登録します。

 

 たのもう!

 

 ざっと中を見渡して、うん、目当ての人物はちゃんといますね。居なかったら追記(直前からロード)しなきゃでした。

 

 っと、原作の剣士・女武闘家・女魔術師・女神官ちゃんの一党が出口の方に来てますね。これから出発のようです。

 時間(チャート)どおりです。

 

 では、ここでちょい干渉しておきましょう。

 先ほど拾った銀貨を取り分けた小袋を、すれ違いざま先頭の剣士くんに軽く投げ渡します。

 ギルドに直行しなかったのは、水路で銭拾いしてここで彼らに餞別を渡すためだったんですね。宵越しの銭は持たねえんだよ!

 当然、誰何(すいか)されますが、適当に答えておきましょう。お前ら死亡フラグ立ってっからよ、備えよう? な?

 

 んで、もうホント時間ないので後は無視して受付に行きます。

 

 受付嬢さ~ん、登録しておくんなまし!

 

 ……はい、ギリ登録できました。

 悪い噂には負けなかったよ。

 

 で、さっそく依頼を受けます。

 

 『下水道掃除』の依頼です。

 

 先ほどまでの奇行のフォローついでに、水路で沼竜の牙を拾えちゃったのでホントに沼竜がいるかも、という情報提供をしておきましょう。

 あと、お金がなかったので術の触媒を現地調達していたんだという言い訳も。

 

 これで、依頼から帰ってきたあとに、「街中での振る舞いについてお話があります」とか言われて、受付嬢さんにお説教部屋に連れ込まれる、みたいな悲劇(ロス)は避けられます(2敗)。

 それでも登録抹消されないだけ有情(うじょう)です。半竜娘ちゃんてば、戦えるんなら《混沌》勢力でも平気で(くみ)しちゃうことに定評のある蜥蜴人なうえに、状況だけ見れば脱走兵ですからね。アカン。

 信用って大事よね、文明人だからね(蛮族マインドから全力で目をそらしつつ)。

 

 依頼を受けたら下水道に早速……いえ、まだ行きません。

 冒険者ギルドでやることが二つあります。

 

 一つは噂話の収集その2。

 そしてもう一つは、とある人との交渉です。目当ての相手がギルド内に居るのは、入るときに確認できてます。

 

 ではまず噂話から。

 

 ここで拾うべき噂話(フラグ)は2つ。少しだけ乱数調整してテーブルを切り替えたら、拾えるまで追記します。

 しばし半竜娘ちゃんがポーズを決める(ジョジョ立ちする)のをご鑑賞ください。

 

 望む乱数が……はい、きました、セーブ。

 

 ただ、噂話のテーブルを切り替えても、そこからまた乱数が関わるのでセーブ/ロードです。

 では聞き耳立てて。

 

 

「でかい蜥蜴女が水の上を走って……」 あ、これは半竜娘ちゃんのことですね。やはり噂になってます。でも今は関係ないのでリロード。

 

「峠の方にマンティコアが……」 違います。リロード。

 

「魔神王の軍勢が……」 違う、リロード。

 

「東の砦の黒竜が……」 もう聞いた。リロード。

 

「神官が足りねえ、どっかに……」 違う。リロード。

 

「下水道掃除の依頼でさ、急に相棒が消えて……」 お、これですね。セーブ。

 

「ゴブリンは相変わらず多いよなあ……」 そうですね。リロード。

 

「もう今年も新人が来る時期か……」 歳を取ると一年が短く感じるやつですね。リロード。

 

「遺跡では罠に注意だ、魔法の転移罠なんてのも……」 よしきた。セーブ。

 

 

 はい、ではリザルト。

 

 一つは、古代遺跡の転移罠の話。

 噂をしていた冒険者は、ここではないどこかの遺跡での一般論か経験談を話していたみたいですが、これで転移罠/強制転移についての情報を得ることができました。

 一応、【魔法知識】判定に成功することで、そういった魔法的な罠はありうる、ということが分かります。また、【魔法知識】判定に大成功すると、空間属性の呪文と干渉することで、転移を妨害したりわざと作動させたり、あるいは予期せぬ暴走が生じることもあるということまで分かります。

 当然6ゾロで大成功……させました。

 空間属性の呪文は、祖竜術の【狩場(テリトリー)】を習得しているので、それと干渉しそうだと分かります。遺跡で使うときは注意しなきゃ(棒)。

 

 もう一つは、下水道掃除で隣にいたはずのパーティメンバーが急にいなくなる、というホラーじみた噂です。

 水音とセットなら、沼竜にでも引きずり込まれたのかもしれませんが、どうやら無音でいなくなるようです。

 上からスライムにでもやられたのかと見回しても、何もいない、と。

 

 これまでに、街が古代の遺構を利用していることと、遺跡の転移罠/強制転移の話を知っている(でフラグを立てている)ので、ここで【第六感】判定(アイデアロール)に大成功すると、

 「この街の地下遺跡が何らかの原因で再稼働して、その影響で空間に揺らぎが生じているのではないか」

 「行方不明者は、その空間の裂け目に落ちたのではないか」

 ということを直観できます。

 はい、ダイスロールは大成功(6ゾロを出)しました。

 

 よし、噂話のターンはこれでおしまいです。

 

 

 続いてある人物との交渉です。

 

 その相手は誰かというとー? 魔女さんです! 辺境最強の槍使いのパーティの、あの色っぽい魔女さんですね。

 お、目が合いました。

 魔女さんは知力点が高いせいか、いろいろと察しが良くて助かります。

 

 はい、では初手土下座。

 

 お願いします装備貸してください! 1分だけでいいんで! 今日のこれから手に入る分の戦利品全部、姐さんに献上するんで!

 【交渉:説得】判定を……、クリティカルさせました。

 【交渉:誘惑】で振りたいニキもいるでしょうが、抑えましょう。

 

 ……槍ニキにめっちゃ笑われとる。仕方ないやろ、こっちは素寒貧やぞ、差し出せるものなんか何もないっちゅーの。

 魔女さんも苦笑しながら頷いてくれました。

 天使かな? 天使やな。

 

 さて、魔女さんから『真言呪文の発動体+4』と、『魔法の杖+2』(真言呪文の行使判定・威力に+3)、『知力強化の指輪+2』を借りられましたので、さっそく装備します。え、『技量強化の指輪+2』まで貸していただけるので? ありがてえ、ありがてえ。さすが姐さん、一生ついていきます!(なお半竜娘ちゃんの命日は今日になる模様)

 って、やっぱり上位の冒険者はやばいですね、『真言呪文の発動体+4』なんかは非売品なので冒険で獲得したんでしょうけど、これら全部を装備することで、真言呪文の行使・維持判定が+9されます。たぶん、魔女さんは難易度20(高難易度)の呪文でも自動成功できちゃいますね。

 『技量強化の指輪+2』は、回避判定用でしょうかね。半竜娘ちゃん的にも、命中と回避の判定が底上げされるのでありがたいです。

 

 では、お借りしたものを、TAS特有の無駄に華麗な無駄のない動きで身に着けて……。

 

 【分身(アザーセルフ)】の真言呪文を使います。

 

 この呪文は、術者自らに作用させることで、自由に操れる分身(コピー)を作り出すことができます。

 分身は1日の間存在することができ、呪文を使用した時点の術者の能力値・呪文使用回数・疲労度合い(消耗)・装備品・所持品をまるっとコピーした状態で出てきます。

 【分身】の呪文は難易度が高いものの、創造された分身は呪文も本体と同様に唱えられるので、その分お得です。成功しさえすれば、ですが。一発で成功すれば、残りの呪文使用回数は本体3回、分身3回の合計6回になり、とってもうまあじです。

 また、分身はどれだけ本体から離れても消えず、術者と分身の間には精神的なリンクが張られるため、距離や障害物を越えて操作できます。偵察にはもってこいですね。

 ただし、分身の持つ装備品は使えるものの、所持品の方は虚ろな影になっているので、使えなくなっています。矢弾やポーションなどは、別に用意してやる必要があるわけですね。

 

 そう、装備品も含めて丸ごとコピーできるんですよ、【分身(アザーセルフ)】の呪文は。

 つまり、一時的に借りているこの魔女さん印の高級装備も、コピーできちゃうんですよ!

 これで、本体が装備を魔女さんに返しても、分身は装備を持ったままにできます!

 ……魔女さんが、自分で【分身(アザーセルフ)】を使うと、こっちの分身の装備は消えちゃうので、そこは注意が必要ですが。

 

 では詠唱――イーデム(同一)……ウンブラ()……ザイン(存在)。【分身(アザーセルフ)】。

 

 はい、クリティカル(6ゾロ)出させて大成功。確定で呪文は発動しました。

 あとは、分身のタフさですが……、呪文行使判定は、基礎値9、【呪文熟達:創造呪文(初歩)】スキルで+1、6ゾロ出したので+12、クリティカルボーナス+5、装備ボーナス(魔女さんに感謝)+9――合計で達成値36ですので、分身はその半分の生命力18点分の負傷をする(ダメージを負う)まで消滅しません。めっちゃタフやな、こいつ。

 

 無事に分身を呼び出せましたので、借りた装備を返しましょう。

 もちろん本体が持ってる方をですよ! 分身の方の装備は手放すと消えちゃうのでね。

 

 なお、分身がさらに分身を呼び出すことはできない模様。

 四方世界の魔法は、同じ対象に同じ呪文は重ね掛けできず、掛けたとしても効力が強いほうに上書きされるだけになります。

 百人の術者で一本の剣に【力与(エンチャント・ウェポン)】しても、めちゃつよ魔剣は作れないというわけ。

 【分身(アザーセルフ)】は術者の実体・精神に掛ける呪文なので、2回目以降は既に出てる分身が上書きされるだけで、分身の数は増えません。

 分身に【分身】の呪文を使わせても同じ。分身を操作している本体の精神を対象に呪文を使ったことになるので、本体が2回目以降を使った時と同じ結果になります。

 

 Q.つまり?

 A.分身増やしまくって物量作戦は出来ないってことだよ!

 

 余談ですが、TASなら交渉なんてせずに、【隠密】判定と【手仕事】判定で魔女さんから装備品を掏摸(スリ)しちゃうこともできますが、槍ニキは襲ってくるわ街にいられなくなるわで良いことないのでやめましょう。

 上位冒険者の装備をパクる蜥蜴人とか、完全に混沌の勢力なんだよなあ。

 品行方正に生きましょうね、今日一日を美談で終わらせるためにも。

 

 二人に増えた半竜娘ちゃんには、ステレオボイスで魔女さんにお礼を言ってもらって、ではいざ下水道へ、イクゾー! デッデッデデデデ!(カーン)デデデデ!

 

 

 はい、また街中を道あるところも道なきところも走っていって、冒険者ギルドから下水道の入り口までやってきました。

 

 ああ、分身の方は、かなり高度なAIも積まれているのでオートでもそんなにアホな行動はしませんが、ちゃんとプレイヤー操作に切り替えることもできます。

 コントローラー二つあれば本体と分身の同時操作も可能。つまり、いまは本体も分身もプレイヤーが操作してます。

 TAS(タス)の時はこういう仕様は(タス)かりますね。(激ウマギャグ)

 

 ……。

 

 では下水道ですが、下水道の依頼自体にはそれほど用はありません。合法的に下水道に入るのに依頼を受けるのが手っ取り早いだけです。

 もちろん失敗するのも癪ですし経験点も欲しいので、成功させますが。

 確か『巨大鼠(ジャイアントラット)』の耳を5つ以上でしたかね。ヨユーヨユー。

 

 下水道でのメインは、これまでに立ててきた噂話のフラグを駆使して、ちょっとボーナスステージ(どこかの宝物殿)に飛びこむことです。

 なんせ本日の獲物(クライマックス戦闘)は、古竜(エンシェントドラゴン)ですからね。

 さすがにもう少し、半竜娘ちゃん本体の装備も整えないといけませんし、いろんなオクスリ(意味深)も欲しいところです。

 

 手順はこうです。

 

 適切なところで乱数調整後、分身の方の半竜娘ちゃんに【狩場(テリトリー)】の祖竜術を使ってもらいます。

 

 【狩場】は、仲間と手をつないで詠唱することで、広めの感知結界とそれよりは狭い侵入拒絶結界を作り出す祖竜術です。結界は、術者を中心に展開され、術者と一緒に移動します。

 問題はソロでは使えないこと。

 だから冒険者ギルドで【分身】を呼び出しておく必要があったんですね。

 

 呪文の特性は、付与呪文系統で空間属性。

 しかも、【狩場】の呪文は、呪文行使判定のあと、呪文維持判定が必要という、複雑な工程の呪文になります。

 工程が複雑になるほど~、つけ込む隙があるということです。

 

 さて、詠唱に10分くらいかかるので、安全のために、先に【竜牙兵】の祖竜術で、普通の竜牙兵を召喚しておきましょう。詠唱してもらうのは分身ちゃんの方です。

 

 はい、竜牙兵くんが召喚されました。

 竜牙兵には3つくらいグレードがありますが、召喚時間を重視して、一番ザコくて召喚時間が長いやつを召喚しました。

 分身ちゃんの呪文使用回数は、残り2ですね。

 ついでに背負い袋の予備も今のうちに分身ちゃんの方に渡しときましょう。

 

 では、竜牙兵くんに護衛を任せて、10分ほどかけて集中し、分身ちゃんに【狩場】を詠唱してもらいます。

 本体の半竜娘ちゃんの方は、適切なタイミングで【停滞(スロウ)】を発動できるように構えておきます。

 

 ――山の狩人たる猶他龍(ユタラプター)、その狩りの御業をお借りする。【狩場(テリトリー)

 

 ――ホラ()……セメル(一時)……シレント(停滞)……

 

 分身ちゃんの方の【狩場】が存分に発動(大成功)し、辺り一帯の空間に何らかのエネルギーが作用したのがわかります。あとは、この広がったエネルギーを留めて維持するだけです。

 分身ちゃんが維持判定に入り、広がったエネルギーを掌握する瞬間!

 

 ――【停滞(スロウ)

 

 本体の半竜娘ちゃんが、分身ちゃんに【停滞】を掛け、その生命活動(体内時間)を停滞させます。

 タイミングが1フレームしかないので、TASじゃないと合わせられません。

 その際、本体の半竜娘ちゃんは【停滞】の行使に大成功させ、分身ちゃんの方は【停滞】の抵抗に大失敗させます。

 行き場を失った【狩場】のエネルギーが空間を浸食し、【狩場】の範囲内にある地下深くの未踏遺跡のギミックを連鎖的に誤作動させ、強制転移のパワーをねじ曲げます。

 

 さあ、半竜娘ちゃんの目の前に、黒く白く明滅する空間の裂け目が現れました。乱数調整は終わっています。

 

 ではイザ行かん、宝物殿にー! イクゾー! デッデッd

 

 今回はここまで。

 ではまた次回。

 




呪文使用回数
 本体 残り2回
 分身 残り1回

 分身は、魔女さんから借りた装備をコピーしており、知力点と真言呪文の判定が底上げされている。

20210123 一部追記


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2/4 裏

評価、感想ありがとナス!

怪奇! 水面を走る蜥蜴女!


 街のお店に牛乳やチーズを届けた、朝の配達の帰り。

 

 ふと見ると。

 

 欄干の向こうに、女の人の首があった。

 

「えっ」

 

 後ろ向きに二本の真っ直ぐな角の生えた女の人の首だった。

 深い暗緑色の髪が翻り、うなじにはまるで割れた炭のようにキラキラと朝日を散らす鱗が見えた。

 美しく均整の取れた顔は、真剣なまなざしをしていた。

 

 

 だけど、絶対におかしいよ。

 

 

 だって、そこは川の上でしょ?

 

 

 女の人の首は、目にも止まらぬ速さで通り過ぎて行った。

 

「え? え? なに、夢……?」

 

 周りを見渡してみると、みんな唖然として、女の人の首が通り過ぎていった方を見ている。

 どうやら、白昼夢ではなかったみたい。

 あと、普通に首から下もあった。頭だけで飛ぶモンスター、ってわけでもなかったみたい。

 

 うわ、ほんとに川の上を走ってる。

 大きな太い尻尾も生えてるし、蜥蜴人、っていうんだっけ?

 でも、えぇ……? 人って水の上走れたっけ……? そういう魔法……?

 

「新しく冒険者になりにきた人なのかなあ」

 

 角の生えた綺麗な女の人が走っていった方向は、牧場に一緒に住んでる幼なじみの彼が毎日依頼を請けに――といっても小鬼を殺す依頼だけしか請けないみたいだけど――そして今日も向かった方向で、つまりは冒険者ギルドの方向だった。

 

 冒険者って、いろんな人がいるんだね。

 

 

 △▼△▼△▼

 

 

 

 大きな(ひと)だ。

 第一印象はそれだった。

 

 女だてらに武道家として技を磨いてきたけど、もっと上背がほしいと思ったのは、一度や二度じゃない。

 女の身はしなやかだけど、なかなか筋肉もつかないし、背の高さも伸び悩んでいる。

 もちろん、父に教えられ、磨いてきた技があれば、体格の不利なんて覆せる。

 

 でも、体格は、小さいよりも大きい方がいい。その分やれることが増える。

 今しがたギルドに入ってきたその女は、まさに恵体といっていい。

 そこらの男よりも、頭一つ二つも背が高い。

 冒険者ギルドの入り口でも屈まないと入れないかも。

 羨ましいと、そう思った。

 

 と、そんな女の頭に後ろ向きに角があるのにようやく気付く。

 蜥蜴人、なのだろうか。獣相ではないから混血(ハーフ)か。

 身体や腕もスケイルアーマーかと思えば、自前の鱗だったのか。

 師たる父から聞いたことがある。蜥蜴人は、生まれながらの戦人(いくさびと)だと。

 

 顔も整っているが、それ以上に骨格や体幹が整っている。武の心得は薄そうだが、鍛えればすぐにでも伸びるだろう。

 生まれながらの、才能。

 

 急に巻き起こる多大な嫉妬に胸の中がかき乱され、そんな感情に困惑しつつも、後ろから女魔術師に押されて、ギルドの出口に向かう。

 あまりに凝視していたからか、その蜥蜴人ハーフの女と目が合った。いや、単に彼女がギルド内の人間全てに目をやっていただけか。すぐに目線がはずれた。

 

 ともあれ、脇を通ってゴブリン退治に行こうとしたら、なんと彼女から声をかけてきた。

 

「お主らはゴブリン退治に行くんじゃな?」

 

 私にではなく、先頭にいた、同じ村から出てきた幼なじみの剣士にだけど。まあ、立ち位置的に明らかに剣士が頭目にみえるものね。

 

「そのとおり! ゴブリン退治さ! 女の人が捕まってるんだ、早く行かないと」

 

「そうじゃな。であれば、これをやろうぞ」

 

 そう言って小袋を放った。剣士が受け取ったそれからは、じゃらりと音がした。

 

「うおっと!? て、これ銀貨か? い、いらねえよ、乞食じゃねえんだから」

 

「いや、依頼料の先払いじゃ。ゴブリンを殺し、経験を積んで生還し、つわものになることを依頼する。それに手前(てまえ)もつい最近ゴブリンにやられかけたもの。奴らを殺すのであれば、些少ながら与力したいと思うたまで」

 

 その大きな身体でも、ゴブリンにやられそうになるのか。私たちは少なからず驚いたし、気を引き締めないといけないと感じた。

 

「な、なら、一党(パーティー)に入って一緒にいけばいいだろ、手伝いたいってんなら」

 

「誘いは嬉しいが、そうもいかん。手前(てまえ)はまだ冒険者ではないゆえ、な、先輩方。それに、お主らも時間がないのであろ? しかし手前(てまえ)も放ってはおけぬと思うての、なんせ――」

 

 

 ――お主ら、死相が浮かんでおるゆえ、な。

 

 

 いかにも普段どおりの様子で死生を語る。

 これが蜥蜴人か、という思いがある。

 馴染みある神々とは違うものを信じているだろうとはいえ、彼女も神官なのだろうか。予言じみた言葉に重みを感じた。

 

「ゴブリンくらい、追い払ったことがある!」

 

「だが殺したことはない、であろ? 侮り、浮かれ、怠り、死んでゆく。戦場でもよくある話よ。

 だが、お主らは義侠心もある、行動力もある、仲間を募る知恵もある。蛇の目*1が出ねば上手くゆくやも知れん。しかし、蛇の目が出れば?」

 

 その雰囲気に呑まれてしまったのは、彼女の上背が大きいからだけではないだろう。

 戦場を、知っているか、そうではないか。

 鉄火場で命のやりとりをしたことがあるかどうか。

 その違い。

 

「死なせるのは惜しい。見所がある。つわものになるだろうよお主らは。毒で、ホブの拳で、シャーマンの呪術で、あるいは雑魚に集られて、そうやって死んではつまらん。ゆえ、餞別を渡す、おかしなことではあるまい。なに、儲けものと思って、お守り代わりにでも持って行け。もとより手前(てまえ)は、余分な銭は持たぬ主義じゃ。ああ、あとは、そうじゃのう、因果を曲げるまで諦めなければ、蛇の目が出ても何とかなるそうじゃ*2

 

 言うだけ言って、森の下生えのよりも暗い緑の鱗の女蜥蜴人は、受付へと歩いていった。

 

 

 しばし呆然とした私たちだったが、最初に声を出したのは、地母神の女神官だった。

 

「あ、あのっ! やっぱりもっと準備してからにしませんか! 毒とか言ってましたし、解毒の水薬とか!」

 

 さっきまでは、どうせ何とかなるだろうという雰囲気で、女神官が心配する言葉もなあなあで流してしまっていたが、それは先立つものもなくて準備できないという面も少なからずあった。

 いまは、そんな脳天気な雰囲気はなくなったし、先立つものもできた。

 

「……そうだな、準備しよう。死なないように、だけど急いで」

 

 一党の頭目である剣士がそう言って、そういうことになった。

 

 

 △▼△▼△▼

 

 

 受付嬢は悩んでいた。

 

 目の前の蜥蜴人のハーフの女を、冒険者として登録させるかどうかを。

 

 力量はあるだろう。立ち居振る舞いも堂に入っているし、体格も良し、そもそも蜥蜴人だ。

 先ほどの、ゴブリン退治に行こうとした白磁等級の一党とのやり取りを見るに、戒律(アライメント)は、少なくとも悪ではない。

 でも、それ以外はどうだろう。

 

 冒険者は信用商売だ。

 妙なことをやらかして、冒険者全体の信用を落とすような人間は、弾かなければならない。

 だけど、今の時点で弾くほどのやらかしの兆しは、見受けられない。

 

 ――なら、ひとまずは合格ということでいいでしょう。

 

「ではこちらをご記入ください。文字は?」

 

「うむ、共通語(コイネー)は読み書きについても修めておる。支障ない」

 

 さらさらと淀みなく記入する字は、意外と整っていた。

 

「受付殿、記入したのじゃ」

 

「はい、確認します……しっかり記入されていますね。ありがとうございます……お名前も、ちゃんと書いてありますね」

 

 職業は竜司祭と魔術師、歳は13歳……13歳!? えっと、蜥蜴人の成人は確か13だから、ああ、登録はしてもいいのか。でも13歳には見えない……。

 

「うむ、以後よしなに頼む。

 ああ、そうだ、街の水路か下水に沼竜が棲んでおるようじゃが、ギルドでは把握しておるか?」

 

「そういった噂がある、ということは。あと、ギルドの受付としての勘ですが、そろそろ真相解明がギルドに依頼されそうだと思ってますよ。それで、本当に居るんですか? 沼竜」

 

「おう、居るとも。その証拠がこれじゃ」

 

 半竜の彼女は、荷物から小袋を取り出すと、その中の何かの牙を見せた。

 

「これは……?」

 

手前(てまえ)の術の触媒である、竜の牙よ。この街の水路を浚って、ついさっき補充したものじゃ。街で沼竜の噂を聞いて、採れるか試してみれば、大当たりじゃった」

 

 ――金がない田舎者ゆえ、そのとき不調法をやらかしたかも知れぬが、ご寛恕いただければ。

 

 そう付け加えた半竜の彼女に、少し頭が痛くなる。街の人からの苦情処理というのは、冒険者ギルドの業務の中でも気が重いものの一つだ。

 「不調法」の中身が気になるが、乱暴を働いたとか、物を壊したとかではないことを祈ろう。

 

 なお、半竜の彼女の非常識さというか、突拍子のない行動――ストレートに言えば奇行――を見聞きして、登録させたのは少し早まったかしら、とちょっぴり後悔することになるのは、もう直ぐ後のことだが、今は知るよしもなかった。

 

 まあ、それすらも後々もたらしてくれる騒動に比べれば、なんてことのない「やらかし」ではあったのだけど。

 

「少しずつでいいので、街の常識を覚えて、馴染むよう努めてくださいね。ギルドとしてもサポートするので、わからないことは聞いていただければ」

 

「あい分かった。覚えておこう」

 

「この竜の牙ですが、私では真贋がわからないので、お預かりしても?」

 

「あー、そいつは困る。これから使う予定があるのでな」

 

「それでは、不確定情報ということにしかなりませんが、よろしいですか? 確度が高いと認められれば、報奨金が出せる場合もありますよ」

 

「いや、構わん、ただの世間話と思うてくれていい。金に執着があるわけでなし、こっちの触媒はこれから竜を殺すのに必要じゃからな」

 

「竜……ですか? 沼竜を?」

 

「いや、エンシェントドラゴンよ」

 

 それを聞いて、ほほえましく思ってしまった私は悪くない。

 だって、見た目はとっても大人なのに、まるで言ってることが子供みたい。

 プロとしてそんな内心は表情には出さなかったけど。

 

ともあれ(とまれ)、順番というものもある。まずは下水道のネズミ退治でも受けようかの」

 

「はい、そうですね。白磁等級でしたらそのあたりからですね。お仲間を募られるご予定は?」

 

 ソロだと少し心配だ。

 まして沼竜が出るかもしれないとなれば。

 

「心配はありがたいが、無用じゃ。手前(てまえ)は術士じゃて、仲間は術で創ることができるでな。さっきの触媒もそのためのものよ」

 

「ああなるほど、召喚の類が使えるのですね。でも日に何度も使えないのでは」

 

「四回も使えりゃ十分じゃろ」

 

 四回! それはかなり優秀で、白磁等級としては破格だ。

 ますます本当に13歳なのかと疑ってしまう。

 

「なるほど、では下水道掃除の依頼を受ける、と。受理させていただきますね」

 

「よしなに」

 

 そうして依頼受理の処理をしたが、彼女はすぐには出ていかなかった。

 妙に“スゴ味”のあるポーズをとったかと思えば、いきなり銀等級の辺境最強と言われる槍の戦士さんと艶美な魔法使いさん*3の一党に近づいて行ったときはハラハラした。喧嘩でも売るんじゃないかと。

 

 そしたらいきなり土下座するもんだから、ますます度肝を抜かれた、もちろん悪い意味で。

 やっぱり登録は少し待った方がよかったのでは……? 隣の至高神信徒の同僚*4からの視線(ジト目)が痛かった。

 

 

 

 △▼△▼△▼

 

 

 

 いきなりこっちにやって来て土下座した蜥蜴人ハーフの美女への第一印象は、女部族戦士(アマゾネス)と気が合いそうだな、というもの。

 俺の相棒の魔女(こいつ)とは違って華奢さとは程遠い、がっしりした体躯は、いかにも前衛向きだろう。

 そんなナリなのに4回も術が使えるってのが本当なら――受付のお嬢さんと話していた内容が、少しだけ聞こえちまったのさ、聞き耳立ててたわけじゃねえ――まあ、天才の部類なんだろう。

 ついでに言えば、顔立ちも肉付き(スタイル)も相当良い。揉み心地は筋肉やら鱗やらで堅そうだが。

 

 で、その蜥蜴人――半竜の嬢ちゃんといったところか――が何を言い出すかと思えば「偉大なる先達よ、ソーサレス殿よ、竜を倒すから、1分だけ装備を貸してくれ」だとさ。

 しかも、代価は後払いで、今日の戦利品全部と来たもんだ。

 

 その物言いと、あまりに迷いない潔さに、俺は思わず笑っちまった。

 言葉が真っ直ぐすぎて、邪念があるとも思えねえ。

 でも、いきなりそれはねえだろうよ!

 

 まあ俺なら自分の本気の得物を、駆け出しに触らせるなんざさせねえが、相棒は何か思うところがあったらしい。

 出来の悪い妹でも見るような感じで苦笑して、虎の子の指輪や発動体、魔法の杖を全部貸しちまいやがった。

 

「おい、良いのか、仕事道具を誰とも知れねえ新人に触らせちまって」

 

「いいの よ」

 

「なんか考えがあるならいいけどよ。まあ、何かあったら俺が何とかすりゃいいか」

 

「ありが と。まあ、みていて ね」

 

 相棒がそう言うなら、まあいいさ。

 万が一にでもパクりやがったら、すぐに槍をぶち込めばいいだけのこと。

 確かに半竜の嬢ちゃんは、そんな馬鹿なことを冒険者ギルドの中でするようなやつにも見えねえしな。

 

 半竜の嬢ちゃんが、相棒のこいつから受け取った装備を、華麗に身に着けるのは、なかなか様になっていた。

 

「かたじけない。この恩は忘れぬと、大いなる父祖、恐るべき竜に誓おう。では、【分身(アザーセルフ)】の術をご覧あれ」

 

「え え。 見させて、もらう わ」

 

 なるほど、話が見えてきた。

 この半竜の嬢ちゃんは【分身】なんて高位の術を覚えてやがったのか。

 俺も呪文の勉強をこの麗しい相棒から教えてもらっているから、その術の難しさは聞いたことがある。

 

 駆け出しが使うには荷が重い術だろうが、だから装備を借りたかったということか。

 ギルドに居る中で一番真言呪文に長けているのがうちの相棒で、その装備を借りるのが確実と踏んだわけだな。

 ギルドに入った時にざっと見渡しただけだろうに、目端の利くやつだ。

 

 ま、うちのが装備を貸したんだ、当然【分身】の呪文は大成功。

 半竜娘は、見事に二人に増えやがったよ。

 珍しい【分身】の呪文を目の前で見れただけでも、装備を貸した価値はあったかもな。

 

「うむ流石は銀等級の装備品よ。では借りたものはお返しする、ご確認を」

 

「は い、確か に」

 

 モノもきちんと返した、と。

 こりゃ邪推しすぎだったかもな。

 

「では、また依頼の後に、今日の戦利品を献上しに参るゆえ。麗しきソーサレスよ、期待しておれ」

 

「そ ね、期待 して、おく わ ね?」

 

「おうとも、財宝を分捕って竜を狩ってくる。では」

 

 きちっと礼をして、半竜の嬢ちゃんはギルドから出て行った。

 

「よし、そんじゃ俺らも依頼を選ぶか」

 

「い え、止めとき ましょう」

 

「あん、体調でも悪いのか? そんなら俺一人でもいいが」

 

「違う わ。ほら、今日は、竜が、来るから ね」

 

 なんだあの半竜の嬢ちゃんの言ったことを真に受けてるのか、と茶化そうとしたが、相棒の彼女の目を見てやめた。

 相棒の本気もわからないほど、付き合いが浅いわけじゃねえ。

 竜が来るなら、確かに体力や呪文は温存しなきゃならんだろう。

 

「そうか。来るのか」

 

「そ ね、きっと」

 

 どうにも波乱の予感がしやがるぜ。

 

 

 

 △▼△▼△▼

 

 

 

 手前(てまえ)はあの邪神ティーアース(T  A  S)(そそのか)されてしまった過去の己を殴りたくなった。

 

 さっきから訳のわからぬことばかりさせられておるし、今日は一段とティーアースの権能が強くなる星の並びなのか、身体を勝手に動かされることもしばしばある。

 手前(てまえ)も、まさか精霊術もなしに、この身体が川の上を走れるなど知らなんだ。……身体がタイミングを覚えたから、次からは自力で水面走りをやれるやもしれんが。手前(てまえ)は天才じゃからな!

 

 で、その天才の手前(てまえ)が思うに、今からやろうとしておるのは、絶対にしちゃならん類のことじゃな?

 

 確かに? 遺跡の転移罠が空間属性の魔法で誤作動しかねんとは、さっきギルドで冒険者が話しておったときに思い至ったぞ?

 

 この辺境の街の地下に、おそらく未踏遺跡があったか、再稼働したかで、そこの転移罠のせいで冒険者が姿を消しておるだろうとも、ギルドで誰ぞが話しておったことから推測できておるぞ?

 

 しかしそれがどこをどうすれば、空間属性の呪文に別の呪文で割り込んで魔法の構成をめちゃくちゃにしたうえで、転移罠を巻き込んで誤作動させて、その反動で狙いの場所に空間跳躍しよう(ふっとぼう)なんていう発想になるんじゃ?

 

 ティーアース、さてはお主、阿呆じゃな?

 阿呆じゃないにしても、頭おかしい奴じゃな?

 ……褒めておらぬわ!

 

 いや、やるけどもよ。

 やらぬとは言っておらんじゃろ。

 ここまで来たらやらいでか。

 

 で、ここが目当ての場所か。

 この下水道で【狩場】を使った時に、一番多くの転移罠を巻き込める場所、というわけじゃな。

 時間も概ね良いか? 魔力のうねりに合わせる必要があるとか言うておったろう。……うむ、良いのだな。

 

 さて、では覚悟を決めるとしようかの。

 どうせ、呪文を唱えて上手いこと転移したら、すぐ戦闘じゃろ?

 

 強敵を屠るのは、蜥蜴人の本懐よ。宝物殿を暴くのは、冒険者の醍醐味よ。血が滾るというもの。任せておけ。

 

 さあ、いざ行かん!!

 

*1
蛇の目:じゃのめ。スネークアイズ。ファンブルのこと。ピンゾロ。大失敗。

*2
因果点:判定結果を向上させたり、確定で逃走成功させたり、ダイスを振り直したり出来る。因果をねじ曲げる権利。回数制限があり、因果点を使うたびに、段々判定が難しくなる。原作の描写的に、青年剣士一党は因果点の使い方をよく知らなかったのではないか。(初めてのセッションあるある)(《幻想》GMも「ここで因果点使えるよ」とかわざわざ知らせなかったみたいだし)(メタ的には一巻時点ではおそらく因果点システム未実装だったからだが)

*3
槍の戦士と艶美な魔法使い:槍使いと魔女

*4
至高神信徒の同僚:監督官さん




沼竜が水路にいるとか、辺境の街の地下に転移罠がある遺跡があるとかは独自設定です。

Q.半竜娘ちゃんは、自分が今日昇天しちゃうのは納得してるの?

A.基本的に、生存優先の蜥蜴人としては面従腹背。
半竜娘ちゃん「今日が命日? いつまでも手前(てまえ)が大人しく従うと思うてか。蜥蜴人は生き残ってこそよ! どこかで出し抜いちゃるけんの! 例え神にだって、手前(てまえ)は従わない!」

TASさん「言うこと聞いてくれる可能性はゼロではないので、固定値積んでその目が出る(言うこと聞いてくれる)まで追記(思考誘導)しますね^ ^」(無慈悲)

蜥蜴娘ちゃんはTASさんの【言いくるめ】に抵抗できてない(抵抗できた子は追記の狭間に消えた)ため、TASさんの言うことには今のところ従っています。TASさんも従ってくれやすいように状況を整えているし、今後も状況を整えて最終的に断られないようにする方針です(宿敵撃破に力貸すよ。祖竜と一体になれるよ。ゴブリン滅ぼせるよ……など)。
でも、いざとなったら因果をねじ曲げて従わせようと思ってるあたりは、TASさんは邪神。


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3/4 宝物殿侵入~帰還~古竜族滅

評価、感想ありがとうございます!

独自設定、ご都合主義などあります。
許せる! という方はどうぞご覧ください。


 12時間後に死ぬ半竜娘ちゃんのTAS解説第3回、はーじまーるよー。

 

 前回は空間属性の呪文を暴発()()()、下水道遺跡のテレポーターを共鳴()()()、空間に裂け目を作ったところまででしたね。

 

 半竜娘ちゃんの目の前には、護衛の竜牙兵くんと、呪文発動直前で【停滞】させられた分身ちゃん、そしてヤバい感じにチカチカしてる空間の裂け目があります。

 が、このままほいほいそこに突っ込むのは罠です。飛び込んだ瞬間に裂け目が閉じて、半竜娘ちゃんが物理的に半分になります(1敗)。なんでさ。

 実は、本命のルートはここではなく、別の場所に開きます。

 

 それは……ソコダッ!

 

 半竜娘ちゃんの身を翻させて、乱数調整のために空中でスタイリッシュにポーズを変えさせながら、下水の方に飛び込ませます。

 このとき背負い袋の予備をあらかじめ分身ちゃんの方に渡しておくのを忘れずに。

 

 そして、下水に着水する直前――ほんの一瞬だけ、空間の裂け目ができて、半竜娘ちゃんを呑み込みます。

 ミッションコンプリート……。ビューリフォー

 

 残された分身ちゃんも、本体が掛けた【停滞】が切れたので動き出します。

 なお、【狩場】の祖竜術は、強引なインターセプトと、発動の触媒だった本体の半竜娘ちゃんが遠くに行ったことで、不発になっています。

 さて、分身ちゃんにはこのまま竜牙兵くんと一緒に下水道掃除の依頼を続けてもらいます。

 

 と、その前に戦利品獲得用の背負い袋を交換しましょう。

 虚ろな影でしかない分身ちゃんの背負い袋は、外して下ろすと、魔力となって(ほど)けて消えます。

 代わりに新しく、本体の半竜娘ちゃんから受け取っておいた背負い袋の予備を装備します。

 こっちは実体があるので、物を拾って入れることができますし、分身ちゃんが消えても残ります。

 

 あとは特に見せ場もなく、竜牙兵くんと分身ちゃんが協力しながらネズミやゴキを虐殺して、ときどき『竜の牙』や銀貨やガラクタ道具を拾うだけなので、ワイプで画面端に映しつつ、本体の半竜娘ちゃんの方に切り替えましょう。

 TASなので、味方には回避も命中も絶対成功しか()()()()()()し、敵には致命的失敗しか()()()()()からね。ネズミ程度では見せ場もないのは残当です。

 

 

 

 はい、では本体の方の半竜娘ちゃんの様子を見ましょう。

 

 空間の裂け目にダイヴしたあとも、目当ての場所にワープできるまで、相当追記しています。はい、元気です、大丈夫です心折れてません。 

 『いしのなかにいる』になったり、何もない空中に飛ばされたり、海の中に飛ばされたり、亜空間にぶち撒けられてバラバラになったり、違う遺跡やゴブリンの巣穴に飛ばされたり、別の卓(並行世界)に飛ばされたりしましたが、そんなルートは無かったことにしたので、無事に到着です。

 

 裂け目をくぐると、目当ての宝物殿の廊下に出ます。

 視点の高さからして、天井付近に出たみたいです。

 

 重力に引かれて落ちるその先には、とても大きな竜牙兵が2体、歩哨のように佇んでいます。

 宝物庫を守る番兵です。堅固な鎧と鋭い剣を携え、大きさも半竜娘ちゃんの倍近くあります。

 

 では【怪物知識】判定と【魔法知識】判定です。

 こいつらは何かな~?

 当然のように大成功(6ゾロ)です。

 

 こいつらが『暴君竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー:バオロン)』であることと、永続化の魔法によって時間経過では消滅しないことが分かります。

 

 『暴君竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー:バオロン)』はレベル6のモンスターで、ゴブリンリーダーやオーガメイジ、石の魔神なんかと同じレベル帯になります。

 普通は、青玉等級の一党の冒険で、クライマックスに出てくるようなレベルの敵です。

 白磁等級でソロ討伐とかムリゲーですが、それは通常プレイの話。

 

 半竜娘ちゃんには本日限りの外なる神(TASさん)の加護があるので、ダイジョーブ!

 

 それでは戦闘開始です。

 

 まず不意打ち判定を大成功()()()()。まあ普通に考えて、いきなり転移してきた敵に攻撃されたら対応できんでしょって感じですけどね。

 そして初手【停滞(スロウ)】で2体の暴君竜牙兵の動きを止めます。こちらの呪文行使は大成功()()()()()

 落下に対して【軽業】判定を大成功()()、壁を蹴って、停滞の影響で棒立ちのまま倒れかけている暴君竜牙兵に肉薄。

 そのまま大きな頭骨を抱えて、コキャッとします。

 痛打により、頸骨骨折。装甲軽減後のダメージ2倍。半分以上削れました。

 あと一発通せば排除できます。首の骨折れて頭が外れても、こいつら骨だから死なねーんだわ……。

 

 もう1体の方ですが、【停滞(スロウ)】を維持して動きを封じつつ放置です。

 相手の先制力は常に最低値になるように()()()()()()し、半竜娘ちゃんは自由行動で呪文維持を大成功()()()()()ので、動き出すことはないです。

 

 それでは最初に攻撃した方は、体から外した頭骨を踏み割ってトドメ。

 では、あと2ラウンドかけて、もう1体にも同じことを繰り返します。首コキャッ、頭バキッ!

 

 無事に番兵を排除しました。

 ついでに戦利品として、永続化された暴君竜牙兵の頭骨から、祖竜術の触媒となる『竜の牙』をごそっと採取します。とったものは、ずた袋にそのまま雑に放り込みます、時間がないので。

 あと、剣も拾っておきます。こっちはすぐこれから使いますので手に持ったままにします。

 

 ではいざ、宝物殿に侵入します――が、当然カギがかけられています。

 戦闘終了時の増援判定は不発()()()()()が、とはいえ先ほど暴君竜牙兵が倒れたときの音も響いちゃったので、じきに増援が確定でやってきます。

 あまり悠長にはできません。

 

 短時間でカギのかかった扉をどうにかするために、【観察】判定、【第六感】判定、【魔法知識】判定、【手仕事】判定、【怪力】判定、【命中】判定で、すべて大成功()()()()

 扉を観察し、直観で構造に見当をつけ、かかっている魔法に当たりをつけ、弱所に繊細に狙いを定め、裂帛の気合とともに、先ほど拾った暴君竜牙兵の剣を振り下ろします。

 狙い通りの場所に命中し、扉の破壊に成功しました。この手に限る。

 

 宝物殿の中には、唸るような金銀財宝――ではなく、実用一辺倒の武器防具、そして矢弾や薬品、魔法の巻物(マジックスクロール)の類が置かれています。

 武器庫や貯蔵庫のようですね、これは。

 狙いどおり! きっと混沌の軍勢の軍事物資か何かでしょう。

 

 ではみなさんお待ちかねの強盗(かっぱぎ)タイムです!

 でも半竜娘ちゃん一人だと非効率なので、お手伝いとして竜牙兵くんBを呼び出しましょう。

 

 ――禽竜(イワナ)の祖たる角にして爪よ、四足、二足、地に立ち駆けよ。【竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)

 

 う~ん、竜牙兵くんも1体だけだと心もとないですね。

 呪文使用回数はこれでゼロになっちゃいましたが、この貯蔵庫の薬品棚には、い~いオクスリがあるはずですので、超過祈祷(オーバーキャスト)でもう1体呼び出します。

 

 ――禽竜(イワナ)の祖たる角にして爪よ、四足、二足、地に立ち駆けよ。【竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)

 

 ようこそ竜牙兵くんC。

 超過祈祷(オーバーキャスト)で消耗が貯まりましたが、最低限(2d6で2)になるように()()()()()ので、まだまだ半竜娘ちゃんは元気です(元気とは言ってない(消耗ランク1により全判定-1のペナ))。

 

 では、魔法の装備品や武器防具をずた袋に詰めるように竜牙兵くんB・Cに指示をして、半竜娘ちゃんも戦利品収集に加わります。竜牙兵くんたちは大雑把な指示しか聞けないので、細かい作業は半竜娘ちゃんがやるしかないです。

 半竜娘ちゃんの分の戦利品を入れるための袋が足りないので、背負い袋をひっくり返して冒険者セットを全部ここで捨てちゃいます。

 増援の輩が来る直前まで、身体強化の指輪や、魔法の巻物(マジックスクロール)、魔法薬、とにかく何か魔法の品を掻き込みます。

 戦利品判定はとにかく最上のものを出し続けます。例えば身体強化の指輪のプラス値は1D3で決める感じですが、3を()()()()()

 

 今日の戦利品は魔女の姐さんに献上するって宣言してるからね。

 恩人に報いるためにも、たぁっぷり稼ぎましょうね~。

 

 途中途中で、ピンポイントで【博識】判定や【魔法知識】判定を行って、今この場で使えそうなものを手に入れます。

 おっ、【鑑定(ジャッジ)】の効果が付与された片眼鏡(モノクル)はっけ~ん。

 これでさらに戦利品収集が捗ります。

 

 それでは並んでる魔法薬をこのモノクルで【鑑定】して……よしっ! 目当てのものがありました。

 

 鎮痛剤の上位版、あらゆる消耗を無視して動けるようになる(消耗しないとは言っていない)禁制品の薬剤です。中毒性が高く、よっぽどの非常時でないと使用されません。効果は……めっちゃハイグレードのやつみたいなので、およそ半日持続するみたいですね。ついでに全能力値上昇の効果もついてるみたいです。

 つまり覚醒ざ……げふんげふん、ヒロポげふんげふん、ええと、魔剤です。うん、魔剤。

 

 ちなみに、人族領域で不法所持が見つかると問答無用でお縄です。

 ……やっぱり覚醒剤じゃねーか!!

 名称は『狂魔覚醒剤(マジック・スティミュラント・ポーション)*1となってます。なんでもマジックと頭に付ければ許されるという風潮、ありますねえ!

 

 でもコレがないとチャートが破綻するので、最低限必要な本数である2本を回収していきましょうね~。

 

 ひたすらに装備やなんやらを回収し、ついでに破壊工作の仕掛けをしていると、外から足音が聞こえてきます。

 ボーナスタイムもここまでですね。仕上げの仕掛けを動かすために、床に落とした冒険者セットの火口箱の中から火打石を拾って竜牙兵くんに渡しておきます。

 あとは逃げるだけですが、ここからどう逃げるのかというと、戦利品の魔法の巻物(マジックスクロール)を使います。

 さきほど、【転移(ゲート)】のスクロールも見つけておいたんですよ。

 

 でも行先はどうするんだって?

 

 ふふふ、【分身(アザーセルフ)】で作り出した分身には、精神的なパスがつながっているというのは覚えていますね?

 つまりそのつながりをたどって、【転移(ゲート)】の行先として分身ちゃんを指定することも可能なわけです。その分、スクロールの行使時に追加の判定が必要になりますが、それは大成功()()()ので大丈夫です。

 分身ちゃんを辺境の街に残してきたのは、このためだったんですよ。

 

 普通なら、こんな袋小路に追い詰められて、しかも圧倒的格上が次々やってくるような状況では取り乱しそうなものですが、戦場帰りな半竜娘ちゃんは、動じません。まだあわてるような時間じゃない。

 

 スクロールを発動させつつ、行く先を分身ちゃんのもとに書き換えます。本来スクロール本体に書き込まれている座標を消去しつつ書き換えるという、身の丈を越えた高等技術なので、いくつかの判定を連続で大成功させないといけないですが、大成功させます。()()()()()

 

 と、スクロールを読み上げてる間に、竜牙兵くんBにはさっき拾った火打石で、仕掛けに火をつけてもらいます。竜牙兵くんは小器用な動作ができないので判定に大きくマイナスが入りますが、大成功()()()()()ので問題ないです。

 戦利品回収中に、物資の中にあった火の秘薬(ブラックパウダー)を導火線のように撒いておきました。導火線の先は、積み上げた火の秘薬(ブラックパウダー)燃える水(ペトロレウム)その他の山に繋がっています。

 燃えるがいいや。

 

 ちょうどスクロールが発動し、ゲートも開きました。

 と同時に、敵兵も殺到してきていますね。

 竜牙兵くんB・Cにずた袋を背負わせ、ほかにも物資の入った木箱を抱えさせ、先にゲートに通します。

 そんでもって、半竜娘ちゃんには、ダメ押しに燃える水(ペトロレウム)をこの物資貯蔵庫の入り口に投げてもらいます。ナイスタイミングでちょうど敵増援にぶつけられました。ないすぴー!

 

 こんなところにいられるか! 俺は帰らせてもらうぞ!

 すたこらサッサだぜ!

 

 仕掛けの爆発による閃光と轟音が届くか届かないかのギリギリで、半竜娘ちゃんもゲートを潜ります。

 あ~ばよ~、とっつぁん!

 そしてゲートクローズ、状況終了です。

 

 

 はい、無事に下水道に帰ってくることができました。

 分身ちゃんの方も、下水道掃除のノルマを達成できたみたいですね。

 その他にも『竜の牙』や銀貨も拾っていて、うん、順調順調。

 

 ちなみに、宝物殿の方の戦利品の中に一つだけ持ち帰っちゃダメな罠アイテムが混ざっています。

 いわゆる発信機的な役割のやつというか、召喚アイテムというか、魔物寄せというか、まあそんな感じのやつです。古代の遺跡から魔神の召喚器をそれと知らずに持ち帰ったやつがいて、そのせいで都がピンチになるとかよくあるよくある。

 つまり、この召喚器で黒い鱗の古竜を、好きなタイミングで呼び出せるようになったわけですね。

 

 とうとうお膳立てが整いました。

 一日で半竜娘ちゃんの位階を高めるための手段がこれです。

 

 すなわち、

 「高位の竜の心臓を食らうことで種族としての、そして竜司祭としての使命(オーダー)を達成」し、

 「『宿敵』を打倒することで個人の宿業も解消」し、

 「魔神将並みの古竜を撃破することで冒険者としての名声も獲得」する、

 という三本立てで、長期キャンペーン終了時並みの大量の経験点を獲得しちゃおう、という作戦です。

 

 そして、そのために必要なものも揃えました。

 特に重要なのが、【竜牙兵】の触媒である大量の『竜の牙』と、消耗を無視して超過祈祷(オーバーキャスト)を可能にする魔法のオクスリ(狂魔覚醒剤)、そして敵を呼び寄せる召喚器。

 

 あとは準備を整えるだけです。

 

 半竜娘ちゃんには、戦利品から魂魄強化の指輪と技量強化の指輪を身に着けてもらい、両手に竜の爪を素材にした鈎爪のような格闘武器を嵌め、魔法のオクスリ(狂魔覚醒剤)を飲んでもらいます。

 分身ちゃんの方にも、魔法のオクスリ(狂魔覚醒剤)を服用してもらいます。分身ちゃんの装備は魔女さん(から借りた)装備のままにします。

 オクスリは禁制品なので、街中に持ち込んだのがばれないように、下水道にいるうちに服用しておく必要が、あるんですね。

 

 いよいよオクスリを飲みます。分身ちゃんにも忘れず飲ませます。

 これで、残り12時間、日が変わる前くらいまでは疲れ知らずに動き回ることができるようになりました。

 超過祈祷(オーバーキャスト)しても、すぐに死んだりはしません(直ちに影響はないです)死なない(影響がない)とは言ってない)。

 

 

 では、まず下水道から出て、古竜を墜落させても良さそうな場所まで移動しましょう。

 街門の外がいいでしょうかね。途中の屋台で昼食も買っていきます、お金は下水道で拾ったやつを使います(ちゃんと(すす)いでありますよ)。

 

 はい、移動しました。そこそこ街から離れました。

 移動しているうちに、最初に召喚していた竜牙兵くんAが、召喚時間限界で消滅しましたが、問題ないです。

 

 では時間調整も兼ねて軽食でも食べながら一休みして、継戦カウンターを回復させておきましょう。

 

 小休止と食事により2時間弱が経過し、日が少し傾いてきました。

 

 それでは、これから半竜娘ちゃんと分身ちゃんで、ひたすらに【竜牙兵】の祖竜術で、竜牙兵を召喚し続けます。戦いは数だよ兄貴。

 手元にある『竜の牙(修正値なし)』は、水路で拾ったのの残りが10回分、分身ちゃんが下水道で拾ったのがさらに10回分、番兵の暴君竜牙兵の頭骨2つから引き抜いたのが20回分。合計40回分。もとから持っていた上質な触媒が8回分です。

 

 半竜娘ちゃんと分身ちゃんで、2人合わせてまずは30体の低位の竜牙兵を召喚します。

 次は、中位個体の棘竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー:スピノ)を10体召喚します。

 最後に、上質な触媒を使って、暴君竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー:バオロン)を8体召喚します。

 

 すわテロでも起こす気か! と街の方からやってきた衛兵が遠巻きに見て警告を投げてきますが、適当に流します。スマンな、これからここに竜が来るから逃げた方がいいぞ。

 でもそりゃ街のそばで軍勢こしらえてるやつがいたらヤバいもんね。職務ご苦労様ですっ! 召喚はやめないけど。

 

 暴君竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー:バオロン)の召喚時間が、あと2ラウンド*2で順次切れ始めるので、このタイミングで召喚器を割って、敵を呼び出します。

 出てくる敵はある程度ランダムになりますが、黒い鱗の古竜に『宿敵』フラグを立てているので、そいつを出()()()()

 

 出現にそなえてタイミングを計り、あらかじめ【停滞(スロウ)】の詠唱を待機してもらった状態の分身ちゃんを、暴君竜牙兵くんに上空(出現予測地点)に向けて投げておいてもらいます。

 

 はい、半竜娘ちゃんたちが居るあたりの30メートル上空に、空間を割り砕いて古竜*3が現れました。

 上位魔神(グレーターデーモン)若火竜(ヤングレッドドラゴン)も2匹ずつ引き連れています。

 普通に辺境の街が滅びて、さらにはこの地方一帯が灰燼と化すだけの戦力です。みんな逃げてー!

 

 ですがそこで、空中に投げられたことで古竜たちを射程(術者中心に半径30m)に収めた分身ちゃんが、【停滞(スロウ)】を発動させます。というか、タイミングは分かっていたので、どっちかというと【停滞】の発動に合わせて向こうが突っ込んできた形になります。分身ちゃんのこの呪文行使は奇襲となり――というか設置罠に突っ込んだみたいなもんですが――不意打ち判定に大成功させ、先手を取ります。

 もちろん呪文行使判定は大成功()()、呪文が発動。役目を果たして(詠唱を終えて)落ちる分身ちゃんは竜牙兵のうち1体に受け止めさせます。

 ここが一番シビアでした。少しでも遅れると奇襲扱いにならず、普通に古竜に先手を取られて(見てから対応余裕でしたされて)全体攻撃バーン! でやられますし、早すぎたら呪文の空撃ちになってやっぱりやられます。

 

 さて【停滞】の効果により、古竜と上位魔神2体、若火竜2体は墜落。

 古竜以外は落下ダメージ*4を最大化させて*5殺すことも出来ますが、半竜娘ちゃんのその手で心臓を抉り出させてトドメを刺したいので、あえて軽傷におさえ()()()()

 【停滞】の呪文の効果により、先制判定などにマイナスが入り、若火竜は完全に動きが静止しますが、古竜と上位魔神は、完全に動きを止めるには至りません。

 特に古竜の方は、【停滞】の効果を受けてなお、周りの竜牙兵たちよりも早く動き出しそうです。

 

 ですがここで半竜娘ちゃんが古竜に先手。

 その頭をしたたかに殴りつけます。テンプルに良いのが入ったー!!

 痛打表*6で頭部打撃による朦朧を引き、効果時間は最大の目を出して3ラウンド行動不能に()()()()

 

 そして、転倒状態でもがいている上位魔神よりも先に何とか動き始めた暴君竜牙兵のうち2体に、上位魔神を抑えてもらいます。

 上位魔神の回避判定を大失敗()()、こちらも痛打表による頭部打撃・朦朧・3ラウンド行動不能を付与()()()()

 フルスイングだドン!

 

 そしてあとは、動けない古竜、上位魔神×2、若火竜×2を囲んで叩きます。

 ひたすら痛打を出し続けるんじゃー! 最初に目や鼻や耳を潰し(回避・命中-4)、鱗や外皮の一部を剥ぎ(装甲無効化)、そこに集中攻撃して威力を浸透させ(ダメージ2倍)続けます。

 

 まずは取り巻きの若火竜からボコします。低位の竜牙兵に集られて1ラウンドで瀕死になりました。

 次に古竜と上位魔神を攻撃します。もうあとは作業です。

 ダメージ調整してラストアタックを半竜娘ちゃんに取らせるようにします。

 

 暴君竜牙兵が途中で召喚時間切れで消えていきますが、ここまで来ればもう問題ありません。

 

 半竜娘ちゃんが順々に、若火竜、上位魔神、古竜の胸を開き、心臓を抉り出してトドメを刺しては、血を浴び肉を喰らいながら雄叫びを上げます。まさに処刑場です。ザ、蛮族!

 

 戦闘終了!

 すると、一族なのか何なのか分かりませんが、何度か成竜たち(中身のデータは上位魔神相当)がゲートを潜って増援に現れます。

 飛んで火に入るなんとやら。以下同文でぶち殺します。

 

 死体が邪魔にならないように少しずつ戦場を街から離しながら、増援判定が出なくなるまで竜を屠ります。稼ぎ時です。

 街が近いから半竜娘ちゃんの方にも冒険者の増援が無いのかって? そっちは増援判定を失敗()()()()()いるので、ソロ討伐続行です。

 

 長く戦っていると、途中で竜牙兵たちの召喚時間が切れますので、痛打による昏倒効果で敵が動けないうちに補充したり、分身ちゃんに【停滞】を維持してもらいながら並行して召喚してもらいます。触媒となる牙はその辺に転がってる竜の死体に生えてるのをそのまま使います。

 

 気づけばあたりはもう夕暮れ時ですが、赤いのは夕暮れなんだか竜の血なんだかよく分からない有様です。

 さて、もうさすがに竜の増援も出ないようですね。族滅完了!

 ここまで殺しておけば、報復として後日竜の群れに辺境の街が襲われることもないでしょう。戦力を全部吐き出させましたからね。

 

 それでは勝利宣言です!

 周りの竜牙兵にも勝利のジェスチャーをさせます!

 われわれの勝利です!

 

 勝ったど~~~~!!!!!

 ウォォォオオオオオオオオオオオ!!!!

 

 今回はここまで。

 次回で最後の予定です。ではまた次回。

 

*1
狂魔覚醒剤:オリジナルアイテム。マジック・スティミュラント・ポーション。効果としては、摂取後12時間のあいだ、消耗ランクをゼロとして扱う、効果時間中の消耗カウンタを載せない、全ての能力値に+2する、後述する中毒ランクの影響を無視する、というもの。ただし、摂取前の消耗カウンタ及び効果時間中に載せられた消耗カウンタは、別に記録しておき、効果時間終了時に全て適用する。また、この薬剤は独自に中毒カウンタを持っており、累積中毒カウンタ数に応じた中毒ランクにより、このポーションの効果時間外に各種ペナルティを受ける(例:中毒ランク1で常時各種判定-2)ほか、中毒ランクに応じてこのポーションの効果を次に得るのに必要なポーションの数が増加する。累積中毒カウンタは30日間摂取しないごとに一つ除去される。なお中毒カウンタは解毒剤(アンチドーテ)又は【解毒】の奇跡では除去できない。使用後3日間以内に、再びこの秘薬の効果を受けることはできない。最後の摂取後9日以内に再び摂取する場合は、中毒カウンタを二倍載せる。

*2
1ラウンドは30秒

*3
古竜の内部データは、魔神将をベースに使用し、竜鱗や尻尾攻撃などの竜特有のスキルを追加してアレンジしたものを採用。

*4
落下ダメージ:落下距離の半分(m)×1d6で、装甲で軽減不能なダメージを与える。最強の武器は地面って、それ一番言われてるから。

*5
30m落下した場合、最大90ダメージ。生命力は古竜:200、上位魔神:85、若火竜:75なので、古竜以外は即死がありうる。

*6
痛打:命中が大成功、または回避・盾受け大失敗したときに、ダメージ側に不利な追加効果が発生する。「もっと痛い痛打表」なるものも存在する。




Q.辺境の街が滅びた世界線はありますか……?(震え声)
A.(数えきれないくらい滅びましたが全ては追記の狭間に消えたので、問題)ないです。


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3/4 裏

感想、評価ありがとナス!

ハック&スラッシュ そして ドラゴンパレード


 ちょっとこれはないと思うんじゃよなあ。

 

 普通、目の前に【転移】の門っぽい裂け目が出てきたらそっちに飛び込むと思うじゃろ?

 全然別の方に行くとは思わんよ。

 いきなり手前(てまえ)の身体が、自分でもどう身体を動かしたかわからん妙なポーズを決めながら下水の方に吹っ飛ぶんじゃもんな。

 こういうとっさの動作で身体のコントロール奪われがちなのは何なんじゃろうな、普通、《託宣(ハンドアウト)》っちゅーもんはもっと情報だけのもんじゃろ?

 

 ……ああ、こやつ(ティーアース)は邪神じゃったわ。

 そら平気でコントロール奪ってくるわの。

 

 まあここまで来たら、もう身を任せて行き着くところまで行くしかないんじゃろうの。

 分水嶺はとっくに過ぎておる。

 もちろん、足掻けるだけ足掻いてみるが、はて、行き着いたときにどういう心境になるか、自分でも想像がつかぬな。案外すんなり祖竜と一体となるのを受け入れるのかのう?

 

 

 

 さて、妙な方向へと跳ばされたとはいえ、転移自体は成功したようじゃ。

 頭から空間の狭間に突っ込んだはずじゃが、どこかで捻じれたのか、出るときは足からなんじゃな。

 まあ、助かるが。

 

 転移して出たら、一瞬で情報を把握。自分がいるのは空中。どこか室内、遺跡の通路か? 壁際じゃな。松明はないが暗視できるから支障はない。

 落ち行く我が身の眼下に見えるは二体の竜牙兵。鎧に剣に盾。守られるように扉。

 しかも二体とも暴君(バオロン)級か!! 手前(てまえ)より倍は大きいか?

 

 手練れの竜司祭しか呼び出せんような代物じゃぞ!

 

 偶然召喚したてのところに出くわしたのでもなければ、ずっとここにおるのか。

 とすれば、永続化されておるのか? 恐らくそうじゃ。

 時間切れで消滅することは期待できぬ。

 

 ならば、積極あるのみ!

 こちらはすでに臨戦態勢じゃ! いきなり転移してきた敵に対応できるはずもなし、先手はいただきじゃっ。

 すでに詠唱準備は終わっておる。ホラ() セメル(一時) シレント(停滞)ッ!

 

 ――【停滞】せよッ!

 

「シャァッ!!」

 

 通った!

 これでもはや動けまい!

 

 尾を一振りし壁を押す。

 その勢いで落ちる軌道を変えて、暴君竜牙兵の片方の首へと飛びかかる。

 幸いにも相手の動きは止まっておる。このままイける!

 

 頭骨を抱えて組み付き、捻じりつつ、暴君竜牙兵の首の骨を蹴り砕く。

 そして胴体から外れた頭骨を抱えて回転。

 空中で放り投げ、カカト落としで足先に引っかけ、着地と同時に粉砕!

 

 次!

 

 【停滞】してバランスを崩して倒れ来るもう一体の暴君竜牙兵に向かって跳躍。

 その鼻先とすれ違うように跳び上がり、回し蹴りならぬ回し尾撃で横っ面を吹き飛ばす。

 暴君竜牙兵の頭骨は独楽のように回転し吹き飛んだ。

 

「シィィィ……」

 

 暴君竜牙兵の倒れる身体と吹き飛んだ頭骨が、床や壁にぶつかり音を立てると同時に、手前(てまえ)も着地。

 息を整えつつ残心し、意識の片隅で【停滞】の魔法を維持。

 

 なんじゃ、稚児の群れで調練をやったきりじゃが、意外と動けるのう……と、いかんいかん、これはティーアースの権能のおかげじゃ。

 手前(てまえ)は術士。まだ武道は高めておらぬ。

 過信慢心は禁物じゃて。

 

 ではサクリととどめを刺すかのう。

 頭の飛んだ方はあちらじゃったか。

 

「っと、見つけたわ。潰れ砕けよ! ハッ!」

 

 気合一足、暴君竜牙兵の頭骨を砕く。

 手前(てまえ)の勝ちじゃ。

 忍び込んでおる身ゆえ、雄叫びを上げる訳にもいかんのは歯がゆいのう。まあ、竜牙兵の倒れた音で警備の輩も気づいておろうが、わざわざダメ押しすることもあるまいて。今少し静かに事を成すとしようかの。

 

 見れば足の下の暴君竜牙兵の砕けた頭骨の隙間から、立派な牙が見える。

 ……ふむ、やはり、どうやってか永続化されておったか、消えぬようじゃの。術の触媒になりそうじゃし、拾ってゆくか。ズタ袋に丸ごと入れておけばよかろ。二体分合わせて低位の竜牙兵なら十分な数を呼び出せよう。

 

 

 

 さて、それにしても、先は気づかなんだが、ここは見覚えがあるぞ。

 手前(てまえ)が捕まっておった混沌の砦と造りが似ておる。分身が付け火しまくって走っておるうちに見たような気がする。

 だとすれば、ここはあの下衆の黒鱗のエンシェントドラゴンの関係の砦か。

 ならば略奪にもますます気合が入ろうというものよ! しかしこれが秩序側の砦であったら大惨事じゃったな……。

 

 番兵を片付ければ、次は本命の扉かの。

 

「ふむ……ま、錠がかかっておろうなあ、当然か」

 

 押しても引いても開きはせん。当り前じゃが竜牙兵の腰元に鍵のあるわけでもなし。

 とはいえ、このような時に取るべき手段は決まっておる。

 

「本来であれば我が爪にて解決すべきところじゃが、道具を上手く使うのもまた一つの“強さ”よな」

 

 暴君竜牙兵の持っておった剣を拾い上げ、大上段に構える。

 やはりティーアースの権能か、妙に頭が冴えおる。狙うべきは……そこか。

 裂帛の気を込めて、振り下ろす。キンッと澄んだ音を立てて、蝶番のあたりの扉を斬った。幸いであったのは、この剣が竜牙刀を永続化したものであったことかのう。扉に掛けられていた魔法をもろともに斬るのに、魔法そのものを実体化したこの剣でなければこうも簡単にはいかんかったかもしれん。

 さて、これで錠ごと扉を開けられよう。

 

「……なるほど、ここは武器庫か、物資置き場か。何れにせよ戦支度をするにはうってつけじゃのう」

 

 扉を開けた先には、武骨な、しかし魔法の輝きを宿した武器防具。

 魔法の指輪に腕輪、ほかにも色々な魔法の道具類。

 薬品棚には、いつも見るようなポーションから、いかにも妖しい薬物まで。

 

「うむ、うむ! より取り見取りというやつよのう! だが一人ではいかにも効率が悪い」

 

 腰元のポーチから沼竜の牙を取り出す。

 

 いでよ竜牙兵よ!

 

 ――禽竜(イワナ)の祖たる角にして爪よ、四足、二足、地に立ち駆けよ。【竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)

 

 ううむ、一体では足りぬか? 時間もないし、呪文は使い切ったが、もう一体いっておくか。

 おいでませい!

 

 ――禽竜(イワナ)の祖たる角にして爪よ、四足、二足、地に立ち駆けよ。【竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)

 

 むむ、超過祈祷でもいつもより疲労が軽いのう。

 これならあと軽く三度は唱えられそうじゃが……いやいや、これは邪神の権能。慣れてはならん。

 

 さて、冒険者としての仕事に取り掛かるかのう。

 竜牙兵どもにはズタ袋を渡して、目利きの要らんような目立つものをやってもらうか。

 ふむ、抱えられそうな木箱もあるのう、それを使うのが先か。

 

「貴様ら一つづつ木箱をひっくり返して中身を出せ。……おう、そうじゃそれでいい。で、中身の……これは数打ちか? なら放っておいてよかろう、寄せておけ。したらば、そっちのは向こうの棚の魔法具を浚って木箱に突っ込め。貴様は向こうの腕輪と指輪じゃ。そこそこ綺麗な棚じゃから士官用かのう、期待できそうじゃ。それが終わったら、こっちに来い。次の指示をする」

 

 で、手前(てまえ)手前(てまえ)で仕事に掛かろう。

 背負い袋の中を捨てて、魔法の品と魔法薬を見ていくか。

 

 ……ほうほう、かなり上級の身体強化の指輪に、各種の武術・体術熟達の指輪、その他魔法のかかった指輪に、何とも高級そうな”()”。竜牙兵どもに漁らせたのが士官級なら、こちらは将校級かの? 粒ぞろいじゃわい。

 割れぬようにところどころに手持ちの服を敷きつつ、次々と背負い袋に入れてゆく。

 

「これは、鑑定の魔具か。どれ」

 

 いかにもな片眼鏡をつけてみれば、やはりそれは鑑定の魔具であったようじゃ。

 

 薬品の類もこれがあれば安心じゃの。

 戻ってきた竜牙兵どもに、武器防具を奥に大事に飾られているものから順にズタ袋に入れるように指示し、手前(てまえ)は薬品棚に向かう。

 

「やはり上品質の秘薬ばかりじゃ。それにヒドラの毒薬に、これは――」

 

 ある薬品を手に取った時に、ティーアースが特にうるさくなった。これが(かなめ)か。

 

 鑑定の魔具で見てみれば、なるほど、『狂魔覚醒剤』――勇者の薬か。

 軍師課程で習った覚えがあるぞ。疲れを知らず、傷で鈍らず、無尽蔵に魔法と奇跡を使えるようになり、全身体能力がさえわたる劇薬じゃ。

 当然副作用はひどいものとなるし、中毒と後遺症も重い。じゃが、そもそも後のことを考えるような状況で使う薬ではない。戦場で暴れに暴れて、そして負け戦であれば薬の効果が切れてそのまま事切れる定めじゃ。

 もちろん、蜥蜴人に最初から死ぬ気で使う者はおらん。勝ち戦で、従軍司祭の数がおり、【賦活】の奇跡を重ねてかけるのが間に合えば、大いに暴れた勇者の命もつなげると聞く。

 

 ふん、まあ、手前(てまえ)がエンシェントドラゴンを(くだ)すには、この勇者の薬くらいは使わねばなるまいさ。

 手前(てまえ)と分身の分で二つが入用か。それ以上は禁制品じゃから持ち帰っても取り上げられるだけじゃしの。

 

 さあて、次は魔法の巻物じゃ。

 …………。

 ……。

 

 

 

 

 ――よし、まあ、こんなものかの。

 では最後に嫌がらせをしておくか。

 

 やはり敵の砦は燃やして爆破してなんぼじゃし。

 火の秘薬や燃える水を積み上げ、その他攻撃系の魔法の巻物を組んで爆発の衝撃で開くように、簡単な仕掛けを作っておいた。

 導火線は、火の秘薬の粉を線のように床にこぼして作っておく。

 

 ここからは【転移】で逃げる。もちろん、手前(てまえ)は呪文を習得しておらんから、略奪品の魔法の巻物を使う。

 行く先は分身の下じゃ。いまも下水で大鼠や黒蟲を殺しておる分身との繋がりを意識する。場所を隔てても精神がつながっておる、それを辿るのは、容易いとは言わぬが、出来ぬことではない。

 スクロールを開き、刻まれた魔法が発現する際に、その魂の繋がりを意識して干渉。行先を書き換える。

 冷や汗ものじゃったが、か細いつながりを無事に辿れたという手ごたえがあった。

 

「――! ■■――!」 「■■? ――!」

 

 さて、いよいよこの砦の衛兵どもがこちらに来ておるようじゃ。

 盤の外まで吹っ飛ぶような罠が待ち構えているとも知らずにの。

 

 竜牙兵に導火線を点火させ、すぐに戦利品を持たせて転移の門に突っ込ませ、撤退させる。

 残りの品に目をやるが、略奪したものに比べれば一段落ちる品ばかり。

 とはいえ、残すよりは綺麗さっぱり吹き飛ばした方がよかろう。もったいないが、致し方なし。敵の物資は、奪えぬなら焼くに限る。

 

 決して火付けが楽しくなってきたわけではないぞ?

 

 では手前(てまえ)もこれでさらばじゃ。

 砦が吹き飛ぶところを見られぬのは残念じゃが、どうか敵兵諸君、手前(てまえ)の代わりに存分に楽しんでくりゃれよ?

 

 置きみやげに燃える水の入った瓶を投げて、手前(てまえ)も転移して退散した。

 

 

 

 △▼△▼△▼

 

 

 

 混沌と秩序の戦いの最前線。

 黒い鱗の古竜は不機嫌であった。

 さきほどに、砦の貯蔵庫が吹っ飛び、武具や物資が失われたという。

 

 いくら本領に貯め込んでいる財貨に比べれば些少とはいえ、自分の財が失われるのはドラゴンの本能をひどくささくれさせる。

 

《それで》

 

 配下の魔神や、混沌に与した蜥蜴人どもを睥睨する。

 苛立ちが声に乗ったのか、特に蜥蜴人どもが身を固めたのが分かる。

 鱗はあれど、所詮は小さき駒にすぎぬ。神々より大駒たれと創られた我に敵うはずもなし。

 

《下手人は》

 

「今探させておりますが、どうやらこちらの術士の呪文が込められた宝玉を持ち去っておる様子。じきに繋がりを辿り、あるいは探査の魔法で見つかりましょう」

 

《込められた魔法はなんであったか》

 

「確か、急場の増援用にゲートを開くものだったかと」

 

 

 ならば下手人がそれを使うこともあるやもしれんか。

 我も暇ではないが、どうせこのままでは怒りで仕事にならん。

 いま暫しは、すぐに出られるよう増援の間に控えておくか。

 

 誰の怒りに触れたのか、ようく教えてやろうではないか*1

 

 

 

 △▼△▼△▼

 

 

 

 受付嬢は不機嫌であった。

 

 つい先ほど、あの半竜娘がやらかしたのだ。

 しかも知らせてきたのは街の衛兵の中でもねちっこいやつだった。

 なんでも、半竜娘が街のはずれで大量に骨の魔物を呼び出しているとか。

 

「やってることが、完全に邪教徒とかそういうあれなんですけど!」

 

 しかも理由を尋ねたら、「竜が来るから備えている」と言ったらしい。

 

「妄想癖を患ってるようには見えなかったんだけどなあ~」

 

 自分の見る目も鈍ったかと、ちょっと自信を無くす。

 隣の監督官はあきれ顔だ。

 うだうだやっていると、前から影が差す。あ、依頼かしら?

 

「受付さーん! どうしたんです? この不肖で解決できるなら使ってやって下さーい!」

 

 違った、槍を背負ったのは銀等級のいつもの彼さんだ。

 珍しいことに、完全武装なのに冒険にもいかずに朝からずっといらっしゃるのよね。

 相棒の魔法使いの彼女も一緒にいるし、朝は依頼票も見てたから、冒険に行くつもりだったんだろうけど。

 

 でも取りやめたのは……半竜のあの娘とやり取りしてから?

 ――まさか、この人たちも何かあの半竜の娘の被害に既にっ!?

 

「あ、あの、朝に、半竜の、えーと、蜥蜴人のハーフの子が居たじゃないですか」

 

「ええ、ええ、居ましたね! なかなか愉快なやつで!」

 

 あれ? 意外と好感を持ってるっぽい?

 なら、迷惑かけられたとかではないのかも?

 

「それでですね、その子が今、街の外で骨の兵隊を増やしてるとかで、衛兵さんから話が」

 

「へえ、そいつは剣呑ですね」

 

 さすがに場数を潜った冒険者だけあって、すぐに目つきが変わりました。

 

「それで、あなたは、何か朝、半竜のあの子と話してて、気になったこととかありませんでしたか?」

 

「そうですねえ。ひょっとして、半竜の嬢ちゃんは『竜が来る』とか言ってません?」

 

「そう! そうなんですよ! って、あれ、私それ言いましたっけ」

 

 言ってないですよね? それとも槍使いさんは何か他にも知っている?

 

「なるほどなあ、そしたらそろそろですか。朝から待ってたのも無駄じゃあなかったみたいです」

 

「え、それって……」

 

「竜が来るんだったら、準備しなきゃなりません。【竜牙兵】の術は長く続くもんでもないですから、それから考えるに、一時間もしないうちに竜は来るんでしょう。それで、半竜の娘(あの嬢ちゃん)はどこに?」

 

「場所は街の外の、地図でいうとこの辺ですけど――」

 

 え、本気にしてるんですか?

 

「え、本気にしてるんですか?」

 

 しまった声に出ていた。

 

「ええ。だってたぶん半竜の娘(あの嬢ちゃん)、《託宣(ハンドアウト)》持ちですよ? 何の神かは知りませんけど」

 

「え?」

 

「受付さんは、たぶん街の方の対応と、場合によってはさらに増援の手配とかで大変になっちゃいますけど、なあに、このオレがそんなことにならないように上手くやりますから、安心してくださいね!」

 

 神からの託宣?

 でも、だとしたら。

 

「ほ、ほ、ほんとに竜が来るんですか!?」

 

「まあ、多分。うちのの言うことには」

 

 そう言って槍を担いだ戦士の彼は、相棒の魔法使いの彼女の方を見る。その魔女ごとき格好の彼女は、それに頷いてみせた。

 

「一大事じゃないですか!!」

 

「大丈夫! このオレがついています! 大船に乗った気で――」

 

 その瞬間、私は死んだかと思った。

 いや、私だけじゃない、きっと街全体が、恐怖に縛られた。

 

 ――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……どうやら想定の5つは上のやばいヤツらしい。上位魔神よりもやべえプレッシャーだ、しかもこの距離でだと? 噂の魔神将級か?」

 

 こんなプレッシャーの中でも、辺境最強の槍の使い手は動けていた。そして相棒のスペルキャスターの彼女も。

 

「いくわ よ、 ね?」

 

「ああ、すぐ行こう。それじゃ受付(お嬢)さん! 安心してこのオレにお任せを!!」

 

「私たち、で しょ?」

 

「そうだな、オレたち一党にお任せを!」

 

 さすがは、辺境最強の一党。

 彼らがすぐ対応できるように残っていて、本当に良かった。

 でも、

 

「お待ちを! 緊急の依頼として出します。まずは状況の――」

 

 私がギルド職員としての仕事をしようとした瞬間、遠くで大きな地響きがした。

 竜が墜ちた? 降りた? それとも魔法攻撃? わからない。でも、

 

「――まずは状況の確認と報告を。こちらはこちらですぐに動けるようにしておきます」

 

「承知しました、お任せあれ」「わかった、わ」

 

 やはり、頼もしい。

 さて! こちらはこちらの仕事をしないと!!

 

 

 

 △▼△▼△▼

 

 

 

 初冒険のゴブリン退治は、村で小鬼を追い払うのとは全然違っていた。

 

 まず相手の数が多い。しかも前からも横からも沸いてくる。

 地の利がない。暗闇は向こうの味方だ。

 狭い洞窟では剣を振り回せない。

 小鬼を殺せばその分、刃が血脂で鈍る。

 毒の剣は迂闊に受けられない。

 そして雑魚だけじゃなくて、ボスが居やがった。

 

 でも、生き残ったし、攫われてた女の人も助けられた。

 

 それはやっぱり、仲間がいてくれたからだ。

 

 冒険前に薬を買いに行く短い時間で、魔術師の女の子が怪物図鑑を読み込んでくれたおかげで、ホブやシャーマンについて知れていたのも良かった。

 俺じゃあんなに短い時間で調べるなんてできやしねえ。

 シャーマンがいることに気づけたのも、魔術師の彼女がトーテムに気づいたからだ。おかげで毒を警戒できた。

 

 出発直前に誘った地母神の神官の娘だけど、こっちもすっげえ優秀だった。

 なんと奇跡を三回も使えるんだ!

 多少の傷は回復してもらえるってのは安心感がすげえ。彼女のおかげで、俺たち前衛が傷を恐れず前に出られるんだ!

 

 そして幼馴染の武闘家のあいつ。

 狭い洞窟じゃあ、俺が段平を振り回すよりも彼女の拳の方が早い場面も多かった。

 それにあとは投擲の技量もすごかったな。特にゴブリンが落とした毒の短刀を、咄嗟に蹴ってホブとかいうでっかいのの目にぶち当てたときは痺れたね!

 

 ああ、剣士の俺だって何もしなかったわけじゃないぜ。

 やっぱり一党の頭目だからな、メンバー全員生きて帰れるように気を配ってこそってもんよ。まあ、道具屋でたまたま一緒になった大剣を背負ったいかにも“重戦士”って感じの兄貴の受け売りだけどさ。

 学がないなりに気を配って、知恵は魔術師の女の子にも借りて、まあ最低限、洞窟の隊列とか、軽い連携とかを事前に決めておいたのは良かったよ。

 

 だって、魔術師や神官の子たちに魔術や奇跡を使うタイミングを聞かれるまで、そんなこと考えもしなかったからな。

 でも、考えてみれば当たり前だ。

 雑魚に魔術を使っても仕方ないし、軽傷で治癒の奇跡を使ってももったいない。

 前衛が崩れたときにどうやって立て直すかとか、片方怪我したときの入れ替わりとか、決めることはたくさんあった。

 

 毒をくらって解毒剤の世話になったり、剣を洞窟に引っかけたりもあったけど、絶対諦めないって思ったら、不思議と活路が見えてきた。

 出発前に銀貨と助言をくれた、あのでっけえ女の子にも感謝だな。

 もしへらへら何も考えないで挑んでたら、危なかったかもしれねえ。いや、絶対やばかった。幼なじみの武闘家がゴブリンどもに……なんて考えると、はらわたが煮えくり返りそうになる。

 

 でも、何もかもうまくいったわけでもなかった。

 殺したと思ったゴブリンが生きていて、挟み撃ちにされかかったんだ。死んだふりしてやがったんだよ。

 

 後衛が直接狙われて、一転してピンチになった。

 前の方にばかり意識が行ってて、完全に不意打ちになったからな。

 一番後ろにいたのは神官の子だったから、俺たちも焦った。回復役がやられるのはヤバイよな!

 

 でもそこで、助けが来たんだ!

 誰がわざわざ、もう冒険者が向かっていった洞窟に助けに来てくれるんだって思うよな!?

 

 でも来たんだよ、来るんだよ、そう、小鬼を殺す者(ゴブリンスレイヤー)なら!!

 

 後ろから神官の子に掴みかかっていたゴブリンを一撃!

 そしたら前衛の方にも剣を投げて加勢!

 小鬼の剣を奪っては投げ、ゴブリンシャーマンもやっつけた。

 その隙に俺らはホブに集中して、幼なじみの武闘家がゴブリンスレイヤーさんの真似して毒短剣を蹴って飛ばして、魔術師の子の魔法でとどめ!

 

 いやあ、冒険とはかくあるべしって感じぃ?

 

 でも、冒険って華やかなことばかりじゃない。特にゴブリン退治は。

 助け出した女の人はボロボロだったし、巣穴の中は臭いし、悪趣味な人骨の椅子はあるし。

 胸糞悪いってばないぜ。

 

 ああゴブリンのガキもいたな。

 神官や魔術師の子たちなんかは殺すの嫌がったけど、やっぱり都会育ちだからかねえ。

 あいつら要は害獣だろ? 子供まで殺して根絶やしにしないとまた増えるじゃんかよ。

 農村育ちの俺と幼なじみの武闘家は、まあ、殺すのも別に何とも思わなかったな。

 

 ゴブリンスレイヤーさんの言う通りなんだよな。

 人前に出てこないゴブリンだけが良いゴブリンだ、って。

 いやあ、良いこと言うね、さすが銀等級。

 

 で、まあ、何とかかんとか依頼を終えて、ゴブリンスレイヤーさんと一緒にみんなで街まで帰ってきたところなんだけど……。

 

「なにあれ」

 

「何って……」

 

「ゴブリンではないな」

 

 街の近くまで来たら、すごい濃い血の匂いがしてるんだぜ。地響きもしてる、ズゥゥゥンってさ。

 しかも、なんというかこう、一言でいうと”ヤバい”感じがうなじの辺りにビリビリ来るんだ。

 魔力的なアレもヤバいプレッシャーなのか、魔術師の子の顔色もめっちゃ悪くなるし。

 

 いや、分かってる、遠くからでも見えてた。

 

 けど、ちょっと信じられなくてさ。

 

「ドラゴン、ですよね……街は、孤児院は大丈夫なんでしょうか」

 

「とりあえず、燃えてたりはしていないみたいだけど……」

 

 そう、ドラゴンだよ!

 いや、やがてはドラゴンを倒す冒険者になるんだ! って意気込んでたけどさ!

 でも今日のゴブリン退治である程度現実を知ったていうかさ、そんなときにドラゴンだよ!

 

「とにかく近づいてみましょう。慎重に」

 

「お、おう。ドラゴンが出てきたにしては、なんか変だもんな」

 

 そう変なんだ。

 空の裂け目からドラゴンが次々出てきてるんだけど、出てきた途端に全部動きを止めて落ちてくんだぜ。

 そしてドラゴンの声はしないんだ。血の匂いだけが濃くなっていく。

 

 何が起きてるっていうんだ?

 

「な!?」「あっ!」「え?」「あれは…」

 

「……やはりゴブリンではないな」

 

 竜が出てくる空の裂け目の下にたどり着いて見たのは、骨の魔物を従えて戦うでっけえ女二人。

 って、よく見たら!

 

「あれ、朝の蜥蜴人ハーフの人! でもなんで二人? 双子!?」

 

 そうそう、幼なじみの武闘家の言う通り、朝に餞別を渡してくれたでっかい女の子だったんだ。

 周りには、重戦士の兄貴の一党や、いかにも強そうな槍使いと色っぽい格好の女魔法使いも居て、いつでも飛び出せるように身構えてる。

 

「双子に見えるのは、多分【分身】っていう真言呪文よ」

 

「分身……そういうのもあるのか」

 

 うちの魔術師の子の解説を聞きつつ見てる間にも、蜥蜴人のねえちゃんは竜をぶちのめしていく。

 周りの骨の兵隊が、竜に集っては頭や関節に打撃斬撃を入れて、動きを止めていく。

 そして最後はひっくり返して仰向けにさせて、蜥蜴人のねえちゃんがドラゴンの胸に飛び乗って爪を突っ込んで……あばらを開いて返り血の中で心臓を抉り出して、まだ動いてるそれに食らいついた。

 

「ひっ……」

 

 わかるよ地母神の神官ちゃん、俺もちょっとそれはどうかと思ったし。

 

「蜥蜴人の宗教は、異端の心臓を食べることで祖竜に……私たちでいうところの神に近づけるという教えよ。……つまり、彼女の行為は、神殿で祈りをささげるのと同じ……」

 

「解説はありがたいけど、本当にそう思ってる? 都の魔術師さん?」

 

「……文化の違いを受け入れたいとは思うけど、でも見えないところでやってほしいとは思うわ」

 

 だよね。顔真っ青だもんね。

 

 

 そんで、全部の竜を()()にしたと思ったら、杖を持った方の蜥蜴人のねえちゃんが骨の魔物を踏み台にいきなり空にジャンプした。

 

 と思ったら、また空に裂け目ができて、竜が出てきて……。

 

「スロウッ!」

 

 杖を持った方の蜥蜴人のねえちゃんが【停滞】の呪文(うちの魔術師が解説してくれた)を唱えたら、あとは同じ流れ。

 竜が落ちて、骨の兵隊(これは竜牙兵というらしいとうちの魔術師が以下略)が集って、爪の方の蜥蜴人のねえちゃんが開きにして心臓の踊り食い。

 なんというか……。

 

「無駄がないな」

 

 そうなんすよゴブリンスレイヤーさん。

 まるでゴブリン殺してるときのゴブリンスレイヤーさんみたいな、無駄をそぎ落とした熟練の凄みってやつを感じるんだよなあ。下手に介入するとリズムが狂ってマズイことになりそうな気すらする。

 どんだけ竜を殺してるのよ……って街の方を見たら、見なきゃよかった。竜の死体で道ができてるよ……。

 

 

 

 結局、万が一にも蜥蜴人のねえちゃんがしくじった時にどうにかしなきゃいけないわけで――ほかの冒険者に聞くと緊急依頼が出てるらしい――竜が打ち止めになるまで、俺たち冒険者は臨戦態勢でこの殺戮ショーを見続けるハメになったんだ……。

*1
なおゲートから出た瞬間アンブッシュでデバフ受けて速攻で叩き落とされて何もできずにやられた模様。即オチ2コマかよ




剣士くんパーティ生存おめ!

半竜娘ちゃん「食った食った! 竜の心臓は消化も早いのかのう? いくらでも食えるわい!」
TASさん(存分に暴力を振るって、満腹になったし、言うこと聞いてくれやすくなったりしないかな)


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4/4 取調室~勝利の宴~昇竜誓願(終)

評価、感想、ありがとうございます!

独自設定、ご都合展開あります。
許せる! という方はどうぞご覧ください。


 衛兵(ガード)! 衛兵(ガード)! で犯罪者一歩手前、いろんな意味で崖っぷちなTAS解説第4回目、はーじまーるよー。

 

 はい、前回は国を滅ぼしてお釣りがくる古竜一族を呼び寄せてからハメ手で一方的にボコって勝利の雄叫びを上げたところまででしたね。

 いやあ、古竜さん一家は強敵でしたね。空間の裂け目から出てきた竜たちが、殺虫剤食らった蚊みたいに墜落して、一方的に殺されていくのは、ちょっとシュールでした。

 

 それを終えてみたら周りを剣呑な……剣呑な? いや、困惑した感じの冒険者に囲まれてる件について。

 

 槍ニキ、魔女さん、重戦士一党をはじめとしてだいたいみんな居ますね。

 変なの(ゴブスレさん)も居ますねえ。剣士くん一党も……、うん、欠けずに揃ってますね。依頼帰りかな? 出目が腐らず、薬も持ってれば、ゴブスレさんが来るくらいまでは普通に持ちこたえられる構成ですからね。

 渡した銀貨はこのためだったんですよ。

 

 さて、昼過ぎから夕暮れまでの長い時間戦ってたんで、街から冒険者が出てくるのは当然でしょう。

 その割には、竜娘ちゃん側にも冒険者の増援が無かったのが不思議かもしれませんが、こっちの増援判定はことごとく大失敗()()()()()ので、増援はありませんでした。その結果として増援予定だった冒険者たちが周りに溜まっていったのかな?

 まあ、常識的に考えたら竜に襲われてる人間を放置するのはおかしいですが、傍目には半竜娘ちゃんが一方的に竜や魔神を屠殺しているだけで、被害らしい被害も出ていませんからね。とりあえず様子見、という判断をしても可笑しくないです、たぶん。

 

 横入りをして、半竜娘ちゃんの標的になるリスクもありますしね。

 >そっとしておこう

 

 ああ、血が染み込んだ地面は、塩分濃度が高くなりすぎて、作物が育たなくなるかもしれないのは問題かも。

 避難民が見えないのは、戦場の反対側の門から逃げてるからでしょうか。

 あるいは、攻撃らしい攻撃をさせなかったから、とりあえず籠城を選んだのかもしれません。

 あまりにも異常すぎる事態が進行しているとき、人はなかなか現実を認めないものです。正常性バイアスとかそういうやつですね。

 

 

 では現実逃避はほどほどに、どうして、剣呑な……いや、困惑した冒険者に囲まれることになったのか?

 これまでの半竜娘ちゃんの所業を振り返ってみましょう。

 

 

 街に到着して早々にゴミあさりをして、

 水面を走ってギルドに向かい、

 銀等級の冒険者に土下座して二人に増えて、

 下水道の依頼を受けて下水道に向かったと思えば、

 戦争でもするのかって装備や物資を何処からか持ち出してきて街の外に向かい、

 大量の竜骨の兵士を呼び出してなにやら陣形を整え、

 衛兵の問い掛けに「竜が来るから逃げろ」とか戯れ言を返したと思ったら実は本当で、

 いきなり転移で現れたでっかいドラゴンや怖気のふるう魔神たちを地に落とし、

 そのことごとくに何もさせないまま解体し、

 昼過ぎから夕暮れまで増援の竜とも戦い続けるも同じようにひたすら封殺して解体し、

 そのすべての血肉を浴びて心臓を抉り喰らって、

 夕日の中で竜骨の軍勢とともに雄叫びを上げている。

 

 

 なんだこのヤベーやつ。

 ……もはや混沌の眷属とか怪物妖魔の類では? やらせたのは私ですが(自首)

 竜を殺しまくったのも、それを含めて何かの邪悪な儀式の一環だと言われても納得出来ちゃいそうです。いや、そんなことないんですけどね?

 

 大丈夫大丈夫、まだ想定内です、挽回できます。OKオーケー、みんな落ち着こう?

 

 まずは座ります。半竜娘ちゃんは背が高いので、威圧感を与えないように座った方が良いでしょう。竜の爪を使った両手の武装――【竜牙刀】を永続化したやつだったのか、最後まで切れ味が落ちなかった優秀君です――も外します。

 で、竜牙兵軍団を消します。たくさん居ると怖いですもんね? 分身ちゃんも消します。

 そして、白磁等級の冒険者証を見えるように掲げます。オレ、オマエノナカマ、コワクナイ。

 

 どうかな?

 

「確保ーー!!」

 

 dsyn(ですよね)ー!

 

 ええと、向かい来る冒険者を千切っては投げすることもできますが、キリがないし状況が悪化するので、ここは大人しく引っ立てられます。

 これでも【交渉:説得】判定を()()()()()()、最大限優しい対応を引き出してるんですよ? どんだけマイナス補正入ってるんだかって話です。

 ちなみに交渉に失敗すると問答無用でお尋ね者にされます。その場合の罪状は治安紊乱(ちあんびんらん)罪とかその辺です。下手すると外患誘致未遂とかつきますので注意。やってることはほぼほぼテロリストですからね、これ。

 

 

 

 ではところ変わって、冒険者ギルドの個室(取調室)です。

 ギルドに入る前に、水垢離(みずごり)させてもらい、さらに戦利品の中から上等な司教服に着替えさせてもらいました。流石にね。

 ここカツ丼出る? 出ない? あ、そう。

 

 取り調べは、半竜娘ちゃんを登録してくれた受付嬢さんが担当してくれるようです。真偽判定できる監督官ちゃんも同席です。受付嬢さんの顔色と表情がストレスで半端ないことになっています(ヤバイ)。

 でもって、立会人として、槍ニキと魔女さんも居ます。半竜娘ちゃんが暴れても取り押さえられるように、ですね。

 もちろん、恩人である魔女さんの面子を潰すようなことはできません。半竜娘ちゃんの動きを封じるには正しい人選です。

 

 一通り半竜娘ちゃんから経緯を説明します。

 といっても、なんでそんなことをしたのか、というのは、託宣(ハンドアウト)を受けて、というくらいしか合理的な説明のしようはないと思いますけど。

 あとは、なんでそんなことができたのか、というのは、現象としては、めっちゃ運が良かっただけでしかないですし。

 知られてマズいのは、禁制品の魔剤を服用しちゃってることくらいですかねえ。託宣を与えてるのが外なる神(TASさん)だってことは、知られてもまだ致命的じゃないはずですけども。え、邪神の自覚を持て? アーアーキコエナーイ

 

 一応【交渉:説得】判定は()()()()()()ますし、もちろん混沌の手先なんかではありませんし、人を殺したわけでも、誰かの財産を侵したわけでもないですし、むしろ遺跡発掘につきものの厄モノの処分について自分で落とし前つけただけなんですから、情状酌量の余地はあるはず。ありますよね?

 禁制品の服用がもしバレても、緊急避難でやむを得ない事情だからセーフですよね? まだバレてないけど。

 あ、血塗れになって心臓抉るあれは、そういう文化なので。文化がちが~う、ってやつ?

 

 そうして時間稼ぎしてる間に、あの古竜は東方辺境の前線で暴れてたやつだろう、という情報が入ります。

 さっきはあっさり半竜娘ちゃんが封殺しましたが、実際は魔神将クラスだったということも。いやあ、封殺できたのは運が良かった!(棒)

 続々と出てきたのは、その古竜の一族なのでは? とも。

 

 さすがにここまで情報が明らかになれば、半竜娘ちゃんには情状酌量の余地はあるのでは? という雰囲気になりません? どう?

 竜を呼び込むような厄モノを持ち帰ったのは落ち度ですが、街から離れて迎え撃つなどの一定の配慮も見せました。竜が来るよ、というのは、登録の時の受付嬢さんとかにちらっと伝えたし。そのときの反応で、あ、信じてくれなさそうだな、と思ったので、独りで対処することにした、とでも言っときましょう(建前)。本音:ソロ討伐じゃないと経験値が美味しくないだろ!

 実際、結果だけ見れば、混沌勢力の大物と、付随するかなりの戦力をぶち殺したわけですからね。むしろ英雄扱いすべき大戦果です。

 皆さんに何かを諦めたような、仕方ねえなあって感じの雰囲気が流れます。お、流れ変わったな?

 

 ここで、魔女の姐さんに、約定を果たしたいということを申し出ます。

 約定(やく、じょう)? と可愛く小首を傾げられますが、槍ニキが「あー、今日の戦利品を献上するとかいうあれかあ」とフォローしてくれます。有能。

 そうです、押し込み強盗(ハック&スラッシュ)してきた戦利品をはじめ、竜の素材などなど、これは全部魔女さんの取り分です。……まさか勝手に持ってったりしてねえよな、冒険者ギルドさんよぅ?

 

 はい、流石に戦利品は手付かずのようです。「冒険者ギルドがそんなことするわけないじゃないですか! いい加減怒りますよ、ぷんぷん!」(マイルドな表現)って感じで逆に受付嬢さんに(たしな)められちゃいました。

 魔女さんも全部は受け取れないということでしたが、そこはゴリ押しします。恩は返させてもらうぜ、利子付きでな! 蜥蜴人に二言はないのだ!

 

 ……話し合いの結果、とりあえず、竜の死体の山の権利は、税金プラス迷惑料、緊急依頼の動員費用、この後の竜の解体処理費用として冒険者ギルドと辺境の街に半分、残りを魔女さんと半竜娘ちゃんへ。ただし、古竜の素材は、魔女さんと半竜娘ちゃんへ全部。魔女さんと半竜娘ちゃんの取り分は、この場では共同管理ということにして配分は追々ということで、ってことになりました(追々決める時間があるとは言ってない)。

 実際、分身ちゃんが魔女さん装備でなかったら、【停滞】で動き止められるとこまで威力が上がらなかったので、まじ殊勲賞ものです。正当な取り分です、と言って魔女さんには呑んでもらいます。(交渉判定()()()

 

 古竜にかけられていた懸賞金は、魔女さんからは受け取れないと固辞されましたので、半竜娘ちゃんへ。それは戦利品ではなくて、国とギルドからの報酬だから、と。

 まあそういうことなら、と半竜娘ちゃんも納得して懸賞金の方は受け取ることにします。

 

 マジックアイテム類は、半竜娘ちゃんから約束通り魔女さんに献上することとしました。

 え、戦利品の中に半竜娘ちゃんが自分で使いたいアイテムがあれば、それは下賜していただけるので? さすが魔女の姐さん、そこに痺れる憧れるゥ!

 あっ、これは半竜娘ちゃんが宵越しの銭を持たない系なの見抜かれてて、お財布管理してあげるってつもりなのかもしれません。保護者(ママ)かな?

 

 ギルドからの古竜討伐の懸賞金は額が大きいので、全額は後日で、当面の資金となる分を先渡しという形だそうで。素直にありがてえ。

 

 そして、冒険者がお金を貰ったらやることは決まっていますね?

 

 宴会だよぉ~、全部俺のおごりでなあ!

 こちとら宵越しの銭は持たねえんだよぉ!!

 飲め! 祝え!! 騒げ!!! ガハハハハハハハ!!!

 あ、足りない分はツケにして、懸賞金から天引きしといていただけます?(小声)

 あと、周辺住民にもお騒がせの詫びにいろいろとフォローのほど……(小声)

 

 と、併設の酒場にいこうぜ、という雰囲気になりますが、まだ半竜娘ちゃんの用は終わってないです。

 一番大事なことが残っています。

 

 それはもちろん……、下水道掃除の報告です。

 これが終わらねえとよー、経験点の清算ができねえだルォォォン?

 一番大事だからよー! これがよー!

 

 そういえば貴女まだ登録初日の白磁等級だったね、、、という今更な事実に一同脱力しちゃってますね。

 まあ、確かに? 今日一日で、銀等級か金等級並みの冒険はしたと思いますよ?

 だからそれくらいまで成長できるような経験点プリーズ! GMさま!

 

 ……(経験点清算中)……。

 

 ……よっしゃ!(ガッツポ

 狙いどおり、十分な経験点を獲得できました。なぜか軍令達成系のボーナスも乗ってますが、まだ軍に所属してる扱いなんでしょうかね。ありがたいんで文句は言いませんが。

 冒険者レベル8*1まで一気に行けそうです。

 

 

 とりあえず竜司祭の職業レベルを最大の10まで上げ、魔術師レベルも3に上げ呪文を増やし、武道家レベルを1で取得して肉体の強度を上げます。

 

 さて、待ちに待った成長のお時間ですが、宴会でコミュ取るのも大事なので、スキルや呪文の取得と成長は、その合間合間に進めていきます。

 というか、本TASの目的を達成するために、宴会中のコミュでフラグ立てなきゃいけないこともあるんで、いま一気に成長させないようにします。

 

 

 

 さあて、じゃあ気を取り直して……、宴会じゃーー!!

 

 

 

 

 はい、宴が始まりました。

 まだ始まったばかりですが、タダ飯・タダ酒ということで、みんなで、やんや、やんや、どんちゃんパッパと騒いでおります。

 人の金で食う飯はうまいか? うまいやろなあ……。

 

 あまり時間が遅くなると、ゴブスレさんが牧場に帰っちゃうので、先ずはゴブスレさんから話をしときましょう。

 えーと、ああ、見つけました。まだ剣士くん一党と一緒に、受付嬢さんのとこに居ますね。報告中のようです。

 女神官ちゃんは立ち位置的に、ゴブスレさんに着いてく感じっぽいですね。距離が近いです。剣士くんハーレムルートではない模様。

 

 彼らの報告が終わったあたりで、ゴブスレさんに話しかけます。

 内容は、まじゴブリン滅ぼすべきだよね、という話です。ゴブスレさんには小鬼の話題が鉄板だって、はっきりわかんだね。

 受付嬢さんや剣士くん一党も巻き込んで、小鬼退治の報酬が安いだの、せめて素材でも取れれば違うのにだのなんだの世間話します。(フラグ1)

 

 しばらくするとゴブスレさんが抜けます(牛飼娘の待つ家に帰ります)が、このまま剣士くん一党の方は宴会に誘います。

 初冒険成功をお互いに祝おう、ということで。

 そこで女神官ちゃんから、地母神の教えや地母神専用の【聖餐(エウカリスト)*2などの奇跡について聞いたりします。(フラグ2)

 剣士くんや女武闘家ちゃんから、只人(ヒューム)の農村の話を聞いたり、女魔術師ちゃんとは、魔術や学院の話で盛り上がります。

 

 おっと、槍ニキに呼ばれましたね。

 剣士くんたちからは、テーブルを離れるときに、改めて今朝の銀貨の礼と、近いうちに借りを返すと言われますが、ハハハ、明日以降じゃあもう間に合わないんだよなあ……。

 

 ちなみに、ゴブスレさんと受付嬢さんと女神官ちゃんの話を聞いた後で【第六感】判定+【魔法知識】判定を両方とも大成功させることで、新たな祖竜術のアイディアを思いつきます。

 これが、ゴブリンをジェノサイド(組織的計画的大量虐殺)するカギとなる祖竜術になるわけです。

 女神官ちゃんと初日中に話をするためには、剣士くん一党に無事に冒険を終えてもらう必要がありました。原作のような惨状だと、女神官ちゃんは宴会どころのメンタルじゃないですからね。

 だから、朝の冒険者ギルドで、剣士くん一党に銀貨を渡しておく必要が、あったんですね。

 

 槍ニキと魔女さんのテーブルでは、槍ニキからめっちゃチヤホヤされます。魔女さん嫉妬しない? 大丈夫? ってくらいチヤホヤされます。

 でも魔女さんは、痛ましげな眼差しで半竜娘ちゃんを見るだけです。

 ああ、これは分かっちゃってる顔ですわ。魔女さん頭良いからなあ、半竜娘ちゃんが明日の朝日を拝めないこと察してますわ、これは。

 そりゃ、あんだけ長時間戦って、竜牙兵召喚やら魔術やら乱発してりゃあバレるわな。その割にパフォーマンス落ちねえしってなれば、まあ、どんなヤクやってるか分かりますよねー。

 

 いたたまれないので、照れ隠しに魔女さんの口に料理を突っ込みます。勢い余って指まで口に入っちゃいました。ははは、スマンスマン。竜血(ドラゴンブラッド)】発動、魔女殿に祖竜の加護を与える。手前(てまえ)が生きた証を貴女に。

 

 そんな感じで宴の時間も過ぎてゆき、いい感じの時間になりました。

 それではお待ちかね、今日の総仕上げ、半竜娘ちゃんにとっては、人生の総仕上げとなるお時間です。

 

 宴会中、変なタイミングで追記数が嵩むことがありましたが、これはなぁんか、半竜娘ちゃんが言うことを聞いてくれない場面が増えてたせいです。コントローラー壊れてたりはしないんだけどなあ? でも、魔女さんに話しかけた後くらいから安定しました。

 

 半竜娘ちゃんは、いまはオクスリの力で疲労(消耗)を無視して動いていますが、消耗がなくなったわけではなく、先送りにしてるだけです。本来なら死んでいないとおかしいくらいに消耗しています。死ぬほど疲れてる(ガチ)。

 寝れば治るというレベルじゃなく、もうクスリの効き目が切れれば即死します。竜牙兵軍団召喚や魔術乱発による超過祈祷・超過行使(オーバーキャスト)が響いて、魂が消耗しているんです。

 

 とはいえ、それならこのまま座して死を待つだけか、というとそういうわけではなく、最後に一花咲かせてもらいます。

 当初の目的どおり、【昇竜誓願】の術により、父祖たる恐るべき竜そのものとなり、新たな祖竜術をもたらしてもらいます。

 

 余興みせちゃるから、みんなで外に行こうぜー。ドラゴラム(竜化)できるやでー。と、皆さん誘って外に行きます。

 看取ってもらう人は多いほうがいいでしょう。

 受付嬢さんが「これ以上の騒動は勘弁してください……」と、死にそうな顔してるのが目に入りますが、見なかったことにします。許して。

 

 では、いざ!

 

 まず手始めに【分身(アザーセルフ)】で分身ちゃんを出します。

 そして【竜血(ドラゴンブラッド)】を併用して相手に血を飲ませながら*3、お互いに【念話(コミュニケート)】、【竜爪(シャープクロー)】、【竜眼(ドラゴンアイ)】、【竜命(ドラゴンプルーフ)】、【擬竜(パーシャルドラゴン)】、【竜鱗(ドラゴンスケイル)】を掛け合います(どうやって飲ませあってるかは想像にお任せします)。

 極まった【信仰心】により、半竜娘ちゃんは祖竜術の詠唱を全く必要としないので、【竜血】を飲むために口がふさがったままでも術を行使できます。

 

 鏡合わせの半竜娘ちゃんとその分身は、祖竜術の重ね掛けで、本物の竜のような異貌へと変化していきます。

 続いて真言呪文の【巨大(ビッグ)】により、お互いを10倍*4の巨体に成長させます。

 恐るべき祖竜の威容を体現する巫女が、辺境の街に現れました。

 

 さらに、時を超えて太古の祖竜へと祈りが届くようにと、真言呪文【天候(ウェザーコントロール)】を二人で唱え、街の周辺に雷嵐を、直上に快晴をもたらし、場を整えます。

 

 さまざまな前提を満たし、自らの肉体と、霊体と、魂魄を捧げ、恐るべき竜の一部となる祖竜術、【昇竜誓願】の発動準備が整いました。

 

 半竜娘ちゃんの、限界まで活性化した【竜の末裔】としての血と、彼女自らの【信仰心】と、正しい【祈祷】の儀式が合わさり、ただならぬことが起ころうとしているのが、周囲の冒険者たちにも分かります。

 

 これから半竜娘ちゃんに作ってもらう新たな祖竜術は、非常に補助的な、生活に密着した術です。

 具体的には、「狩りの獲物を、別のモノに変換する」という、供犠(くぎ)の術を作ってもらいます。

 獲物の肉を捧げ、代わりに麦や玉蜀黍(トウモロコシ)や、塩や、鉄や、その他何でも必要なモノを賜るという、そういう術です。

 

 どちらかというと母性的な術に当たり、父祖を尊ぶことが基本の祖竜術においては、主流から外れます。

 恐らく司る竜は、慈母龍(マイアサウラ)とかその辺でしょう。

 だから、成功確率を上げるために、キャラクターの性別を女(は母性を宿す性)にする必要が、あったんですね。

 

 混沌の勢力は、生贄を捧げて高位存在を降ろしたりしますが、秩序側にはそのような術はないようです。しかし、供犠の儀式というのは、本来どの宗教であっても、聖なるものとして持っていて然るべきなのです。

 供犠の秘蹟を、混沌に独占させてはならない。

 祖竜の(アギト)にその権能を取り戻さなくてはなりません。

 

 それこそが、これから半竜娘ちゃんに願ってもらう内容になります。

 

 なぜこの術が、ゴブリンの大量虐殺に繋がるのか。

 それは、供物とする肉は、()()()()()()()()()()という、そういう術だからです。

 打ち棄てられるだけの肉――食肉のための狩りではなく駆除としての狩りの獲物――に価値を与えるための術なのです。

 

 この術があれば、冬の終わりでも、飢饉であっても、ゴブリンを殺せば麦が手に入ります。塩もです。あるいは砂漠なら水を願っても良いでしょう。

 手に入りづらい希少な素材でも、百の、千の、万の、あるいはそれ以上のゴブリンの死体を積み上げれば届くかもしれません。

 ゴブリンの死体そのものに価値が出ることになります。

 

 この術の登場以降、ゴブリンは、資源になるのです。

 

 きっと、人はこぞってゴブリンを殺すでしょう。なにせ死体が金になるのですから。

 農民たちも、冒険者に教えを請い、知恵を絞ってゴブリンを狩り出すでしょう。ゴブリンは略奪される側になるのです。

 国軍を動かしても収支が釣り合うようになるかもしれません。

 あるいは、混沌の勢力こそが、最も積極的にゴブリンを供物の肉として利用するでしょう。ゴブリンなど、居ても居なくても変わらない下等生物なのです、資源として有効に使ってやるべきでしょう。

 

 これはそういう、ゴブリンへの悪意に満ちた術です。

 これは、狩りを讃えるための、慈愛と褒賞の術です。 

 

 鏡合わせのツイン半竜娘ちゃん(10階建ての建物ほどの巨大な恐るべき竜)たちが、【念話】で意思を乗せて、祖竜に届け、万民に知らせよと咆哮し、稲妻のツイン【竜息(ブレス)】を天へと放ちます。

 捻れ合うように天へ昇った二本の雷光のブレスは、空高くで弾けて、晴天の夜空を囲む雷雲へと走り、あるいは極光となって夜空を覆い、さらに遠くへと、その中に込められた『意』を、電磁の波を媒介にして広めます。

 

 新たな恐るべき竜の誕生を、新たな祖竜術を、四方世界は知ったでしょう。

 

 しかし、それには代償があったことは、いまは辺境の街の冒険者たちだけが知るのです。

 

 天に走った雷光と極光が消えたとき、半竜娘の姿はもうなかったのです。

 

 

 

 

GAME OVER

 

 

 

 というわけで、ゲームオーバー。

 

 神々からの評価は……あ、はい、『クライマックス戦闘にもっと混沌側の駒の見せ場が欲しかったがスピードと意外性は評価』『生存√希望』などなど。

 お説教ムービーの挿入は無事回避。総評としては悪くなかったみたいですね。

 コメント返しすると、古竜に手番回すと『射程:シーン』『対象:シーン』の全体攻撃をぶちかまされるので無理でした。成竜もブレスが痛いのでちょっと……。生存√はトロフィー初日獲得をあきらめればできます。

 

 リザルト画面で、トロフィー【ゴブリンジェノサイダー】の獲得を確認しました。計算どおり……!

 ゴブリンを一匹も殺してませんが獲得できちゃうんですよ。バグじゃないです、仕様ですー。

 

 これにて計測終了です。

 

 もっと最適化できると思いますが、とりあえずはここまで!

 お付き合いいただきありがとうございました!

 

*1
銀等級中位の冒険者は、おおよそ冒険者レベル8とされている。ただし、冒険者レベルとギルドの等級は一致するわけではない。半竜娘ちゃんの場合は、昇級に必要な依頼達成回数が不足しており、また常識に疎いところが見受けられるため、当面は白磁等級のままであろう。

*2
【聖餐エウカリスト】:加護のかかったご飯を出す奇跡

*3
【竜血ドラゴンブラッド】血を飲ませることで相手に、自分が覚えている「対象:術者」の祖竜術を掛けることができる。その際達成値は+5される

*4
【巨大ビッグ】の真言呪文は、達成値40までいけば10倍に巨大化可能。知力集中7、知力強化の指輪+3、魔術師レベル3、呪文熟達(付与魔術)達人(+4)、真言呪文の発動体+3、覚醒剤の能力値ボーナス+2、紅玉の杖所持(+1)、6ゾロ(12)、クリティカルボーナス+5で、合計は、7+3+3+4+3+2+1+12+5=40となり10倍拡大可能となる。




なお、初日トロフィー獲得優先でGAME OVER(がめおべら)させられた半竜娘ちゃんですが、昇竜させずに呪文の構成を変えれば十分死なずに済む模様。やっぱり半竜娘ちゃんはTASの犠牲者。TASさんは邪神ってはっきりわかんだね。

生存ルート? そうねえ……。

◆主な獲得トロフィー
【早すぎる挫折】白磁等級のまま昇級せずにゲームオーバーになった
【蛇の目が出たな】冒険初日にゲームオーバーになった
【奇行種】常識はずれな言動をした
【水面走り】呪文を使わずに水面を5歩以上走った
【小隊長】30人以上の部隊を率いて戦闘を行った
【超大物喰らい(ジャイアントキリング)】冒険者レベルより怪物レベルが10以上格上の敵を倒した
【ひとりぼっち】ほかの冒険者とパーティを組まなかった
【竜殺し】竜を殺した
【魔神殺し】魔神を殺した
【古竜殺し】古竜を殺した
【人族の希望】混沌勢力の魔神将級を撃破した
【竜の御子】竜の末裔技能を熟練まで取得した
【神の声を聴くもの】祈祷技能を熟練まで取得した
【王の器】統率技能を熟練まで取得した
【竜祇官】竜司祭LV10を取得した
【祖竜体現】信仰心(祖竜)技能を熟練まで取得した
【昇竜】祖竜と一体となった
【死して屍拾うものなし】肉体が残らない最期を迎えた
【新術開発者】新しい呪文を開発した
慈母龍(マイアサウラ)】祖竜術を以て特に弱者救済に貢献した
【ゴブリンジェノサイダー】小鬼を絶滅させるという漆黒の意思と行動
【無限因果点】望む結果がでるまで試行したな?<●><●> (※摂理の反逆者(チートツール使用)から変更。エミュされてる側なのに感知できてるのは神々が見てるからです)


半竜娘ちゃんの昇天直前のステータス。
(特に読む必要はないです)

◆名前:半竜娘
 年齢13歳(成人直後)
 やる夫スレならAAは「長門(艦これ)」を当てると思う。
 つよい(確信)。最終的にゴジラになった。

◆累積経験点 49000点
(初期経験点   3000点
 種族使命達成+10000点
 職業使命達成+10000点
 宿敵撃破  + 5000点
 勲功一等  + 5000点
 竜征冒険(ドラゴンクエスト) +7500点
 魔神将級撃破+ 7500点
 下水道掃除 + 1000点)

◆能力値
 装備:魂魄強化の指輪+3、知力強化の指輪+3、狂魔覚醒剤:各第一能力+2
能力値体力点 7魂魄点 10技量点 5知力点 8
集中度 41114912
持久度 31013811
反射度 31013811


    生命力:【 32(+5) 】
    移動力:【 24 】 
 呪文使用回数:【 05 】

  呪文抵抗基準値(魂魄反射+冒険者LV+呪文抵抗):【 21 】

◆冒険者レベル:【 8 】
  職業レベル:【 魔術師:3】【竜司祭:10】【武道家:1】

◆冒険者技能    初歩/習熟/熟練/達人/伝説
  【免疫強化】  ●   ○  ○  ○   ○
  【魔法の才】  ●  ●  ○  ○   ○
  【呪文熟達(創)】●  ○  ○  ○   ○
  【呪文熟達(付)】●  ●  ●  ●   ○
  【追加呪文(真)】●  ○  ○  ○   ○
  【追加呪文(竜)】●  ○  ○  ○   ○
  【生命の遣い手】●  ○  ○  ○   ○
  【機先】    ●  ○  ○  ○   ○
  【頑健】    ●  ○  ○  ○   ○
  【忍耐】    ●  ○  ○  ○   ○
  【武器:格闘】 ●  ●  ●  ○   ○
  【体術】    ●  ○  ○  ○   ○
  【鉄の拳】   ●  ○  ○  ○   ○
  【発勁】    ●  ○  ○  ○   ○
  【薙ぎ払い】  ●  ●  ○  ○   ○

◆一般技能     初歩/習熟/熟練
  【竜の末裔】  ●  ●  ●
  【暗視】    ●  ○  ○
  【祈祷】    ●  ●  ●
  【沈着冷静】  ●  ○  ○
  【信仰心(竜)】 ●  ●  ●
  【神学】    ●  ●  〇
  【統率】    ●  ●  ●
  【生存術】   ●  ●  〇

◆呪文
 呪文行使基準値(知力集中):【 12 】
        (魂魄集中):【 14 】
 職業:魔術師:3 竜司祭:10
 技能:呪文熟達(創造呪文):+1 呪文熟達(付与呪文):+4
 装備:真言呪文の発動体+3 紅玉の杖(真言呪文行使+1)
 真言:【 19 】  奇跡:【 0 】  祖竜:【 24 】  精霊:【 0 】

 ◎習得呪文:
 《 分身 》 難易度:20 (真言呪文 創造呪文(生命))
 《 停滞 》 難易度:15 (真言呪文 支配呪文(生命))
 《 巨大 》 難易度:10 (真言呪文 付与呪文(生命))
 《 天候 》 難易度:15 (真言呪文 支配呪文(水、風))
 《竜牙兵》 難易度:15 (祖竜術 創造呪文(生命))
 《 狩場 》 難易度:15 (祖竜術 付与呪文(空間))
 《 念話 》 難易度:10 (祖竜術 付与呪文(精神))
 《 竜爪 》 難易度:10 (祖竜術 創造呪文(物質))
 《 竜眼 》 難易度:10 (祖竜術 付与呪文(生命))
 《 竜鱗 》 難易度:10 (祖竜術 付与呪文(生命))
 《 竜血 》 難易度:なし (祖竜術 付与呪文(生命))
 《 竜命 》 難易度:10 (祖竜術 付与呪文(火、闇、生命))
 《竜息/雷》 難易度:10 (祖竜術 攻撃呪文(風))
 《 擬竜 》 難易度:10 (祖竜術 付与呪文(生命))
EX《昇竜誓願》難易度:40 (祖竜術)
 前提: 職業『竜司祭』LV10
    &一般技能『竜の末裔(熟練)』『信仰心(祖竜)(熟練)』『祈祷(熟練)』
    &祖竜術【竜血】【竜爪】【竜眼】【竜命】【擬竜】【竜鱗】

◆攻撃
 命中基準値(技量集中):【 9 】
 職業:【武道家:1】
 技能:【武器(格闘):熟練(+3)】
 近接:【 13 】  弩弓:【 7 】  投擲:【 10 】

 ◎武器:【 素手(爪) 】
   用途/属性:【 両手格軽/斬 】
  命中値合計:【 13 】
   威力:1d3+7(内訳:両手補正+2、鉄の拳+1、発勁+1、竜の末裔+3)
   効果:投擲不可

◆防御
 回避基準値(技量反射+武道家レベル+体術スキル):【 10 】
 ◎鎧:【 衣鎧+鱗 】
   鎧:魔法の司教服(+3)(回避修正+2、移動修正-4)
   属性:【 衣鎧(布)/軽 】  回避値合計:【 12 】
   移動力合計:【 20 】  装甲値合計:【 7+3 】 隠密性:【 悪い 】

◆所持金
  銀貨:**枚(酒をおごったので討伐褒賞が入るまで素寒貧)

◆その他の所持品
  携帯食×7日分、衣類
  背負い袋 ×2
  ベルトポーチ ×1
  小袋セット(3枚/1セット) ×1
  魂魄強化の指輪+3 ×1(装備中)
  知力強化の指輪+3 ×1(装備中)
  技量強化の指輪+3 ×1
  体力強化の指輪+3 ×1
  武術熟達の腕輪+3 ×1
  体術熟達の腕輪+3 ×1
  真言呪文の発動体+3 ×1(装備中)

◆出自/来歴/邂逅/動機
 軍師/戦場/宿敵/託宣

◆コンセプト
 モブを召喚して支援行動させつつ停滞呪文でデバフ撒くウザいやつ、だった。いまはそれに加えて自己強化して指輪を付け替えて突っ込む怪獣。というかこのレベルだと何も考えずブレス連打だけで十分強い。
 武道家としての成長や、呪文熟達等による成長がまだまだ見込める。
 TASのために、また演出(フレーバー)優先のために、中途半端なビルドになったことは否めない。


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4/4 裏-後日談

感想、評価、誤字報告ありがとうございます!
後日談書きたかったので4/4 裏ではなく後日談です。
(普通に裏を書こうとしたけど「本当は死にたくない半竜娘ちゃん」と、「死んでくれるまで追記するTASさん」のやり取りがサイコホラー過ぎたともいう)


 新たにもたらされた祖竜術は、同時に広がった『竜意の雷声』により、四方世界中の竜司祭が知るところとなりました。

 そうなれば、王国のトップの耳にまで入るのは当然です。

 

「新たな祖竜術……これは使えるぞ」

 

 金髪の美丈夫は、まとめられた資料を見てにやにやと笑います。

 彼は国王です。元冒険者で、死の迷宮に挑んだ君主(ロード)職として有名です。

 冒険者ギルドを国が運営するようにしたのも、彼のアイディアです。

 

 そんな彼をして長年悩まされていた、国家経済に集る小蠅のような難問が一つ片付きそうともなれば、にやにや笑って当然です。

 まとめられた資料には、官僚団が作った政策案が記されています。

 

「蜥蜴人部族との人材交流強化、ゴブリンを金穀に替える祖竜術を使う巡回神官(サーキットライダー)の育成、村へゴブリン退治を伝授する冒険者の派遣依頼の創設、および村の教導に関する報酬の補助増額、ゴブリン駆除の勧奨、ゴブリンの死体を集める商人への助成……。

 うむ、まあ良く出来ている。この方向で進めて構わないだろう。予算規模は最初は絞るべきかもしれんが」

 

 正確なところは不明ですが、ゴブリンが家畜を襲うなどの被害による損失は、案外馬鹿にならないものです。

 それを多少なりとも取り戻せるのであれば、新たな供犠の祖竜術を国策に組み込むことは、十分な利益になります。

 

 それに、大戦場での死体の処理というのも大きな負担でした。

 

 戦場の死体は放っておけば疫病の温床になり、場合によっては屍霊となってまた立ち上がります。

 焼くにしても、油に魔術に。清めるにしても神官の奇跡が。

 なんにせよ、後始末というものは、労力(コスト)がかかるものです。

 混沌の勢力は、死体の片づけなんてしてくれません。

 

 しかし、術を一度使うにしたって、焼き払うでもなく、清め祓うのでもなく、この新たな供犠の祖竜術で竜に捧げれば、それによってリターンが見込めます。

 

「これを考えたやつは、只人の経済がよく分かっている。この祖竜術を司るようになったのは、慈母の竜ということだが、賢母でもあるようだ。交易神とも気が合うであろう。なあ、剣の乙女よ、そう思わんか」

 

 国王が話しかけたのは、水の都で至高神に仕える最高位の聖職者、剣の乙女です。

 

「ええ、ええ。そうですね。ようやく国がゴブリン退治に手を出してくれそうで、うれしい限りですとも」

 

「そう言うがな、冒険者ギルドを立て直しただけでも結構なゴブリン対策になっていただろう」

 

「わかっていますとも」

 

 気安いのか辛辣なのか皮肉屋なのか。剣の乙女からの言葉に国王は苦笑します。

 

「なんにしても、これからゴブリンは数を減らすだろうさ。たとえ国が手を出さずとも、商人たちが自分で動くだろう。それは良いことだろう?」

 

「ええ。もちろんですとも」

 

 いまだ剣の乙女の憂いは晴れず、しかし、彼女が小鬼殺しと運命の邂逅を果たすのは、そう遠いことではないのでした。

 

 

「しかし、魔神将級の古竜を冒険初日で殺すとは、最近頭角を現したあの勇者の逸話を思い出す話だな」

 

「確かにそうですね。もし、その半竜娘という冒険者が現世(うつしよ)にとどまっていれば、陛下の宸襟を悩ますもう半分(混沌の勢力)も片付いたかもしれませんよ」

 

「……いや、どうやらもう片付いたようだぞ? 半竜の娘とやらが、混沌側の古竜の一族を滅してくれたおかげかもな」

 

 近侍が急報を携え――しかし喜色満面で近づくのを見て、国王は何が起きたか悟ります。

 

 そうです、勇者が魔神王を倒したのです!*1

 

 

 

 △▼△▼△▼

 

 

 

 辺境の街には、にわかに蜥蜴人の一団が多く訪れるようになりました。

 幸いにしてほとんどは知識階級である竜司祭たちなのでお行儀もよく、目立った問題は起きていません。

 辺境の街の冒険者ギルドで登録して慈母龍になったという半竜娘にあやかろうと、ここで冒険者になろうとする蜥蜴人も多いため、冒険者ギルドはいつも以上に盛況でした。

 

「なんつーか、嵐みてーなやつだったよなあ」

 

「そ ね」

 

 辺境最強の槍使いと魔女の一党も、冒険者ギルドでいつものように過ごしていました。

 いえ、やはり彼女たちも今まで通りというわけでもありません。

 

 特に魔女は、半竜娘と共同管理する予定だった戦利品や竜の素材によって、小さな領地の二つや三つは買い取れるくらいの財産を得ています。

 とりあえずは、半竜娘の慰霊のための(いしぶみ)でも造るつもりでいますが、それでも半竜娘の分まで相続した財産は膨大です。

 身の振り方というものを考えてしまいます。冒険者はいつまでも続けられるものでもありませんし。

 とはいえ、まだまだ自分は全盛期。引退するにしてもどこまでいけるか試してみてからでも遅くはありません……。

 

 将来のための地盤づくりに投資するか、冒険者としての力量を高めるために装備やなんやらに投資するか……。最終的には古代の魔術師のように、盤の外に飛び出し、次元を渡る(プレインズウォークする)力を、と思うとまだまだ研鑽が必要でしょうし。

 悩みどころです。

 伴侶を得れば、すぐにでも引退してもいいのかもしれませんけれど……。

 

「うん? どうした?」

 

「なんでも、ない わ」

 

 ちらちらと見ていたのに気づかれたのか、相棒の槍使いが魔女の方に向き直りました。

 嫣然と笑って、煙管を一吸い。彼の前では、余裕のある女でいたい乙女心。

 その一方で、この色男は、受付嬢にご執心なのですが。

 

「…………」

 

 でも、今日は少し違います。曖昧に思わせぶりにして終わりではありません。

 どうしてくれようか。なんて悪戯心が湧いてきます。

 きっとあの半竜娘が残した、慈母龍の加護が勇気を与えてくれているのです。

 

「ね え――「「「姐さんおはようございます!!!」」」…………」

 

「おうおう、俺の方には挨拶なしかい? 竜の姉妹よう」

 

「「「槍の兄貴もおはようございます!!!」」」

 

 そう、彼女の日常は変わってしまいました。

 新たにやってくる蜥蜴人たちは、どこで知ったのか、魔女が半竜娘にとっての恩人で、半竜娘から非常に敬意を払われていたのを知っているのです。

 律儀に挨拶してくれるのは良いのですが、蜥蜴人に只人の恋愛の機微は分からないのでしょう。こうやって邪魔されることもしばしばです。

 

「姐さん、槍の兄貴! 卵はいつ頃で!?」「我ら姉妹一同、獲物を集めて祝いに参じます!」「ばっかおめえ、お二人は只人なんだから卵なんか産まれるかい!」

 

「おいおいてめえら、そういう仲じゃないのにそういうのを外野が言うとなあ、かえって醒めるから止めろって言ってんだろ」

 

 悪気は、ないのでしょう。

 でも、こう、もう少し只人の機微というか、乙女心を知るべきです。

 あと、ちらりと視界の端に見えた受付嬢にこの状況を哀れまれているっぽいのも、なんかこう、心に来ます。

 

「――少し、黙りましょう ね?」

 

「「「ッ、はい姐さん!!!」」」

 

 そして、半竜娘が残したのは、少しの勇気だけではありませんでした。

 

 魔女の目が竜眼になり、肌には鱗のような模様の魔術紋が浮かび上がります。睨まれた蜥蜴人たちはたじたじになって退散していきました。

 祖竜:慈母龍(マイアサウラ)の加護は、彼女に竜の瞳と、疑似的な竜の鱗を与えていました。体力や力、そして魂の源も強くなったような気がしています。お腹も締まって、肌艶も良くなったような……。

 

 まあ、基本的には良いことです。

 これで、冒険で息が上がったりして槍使いの彼の足手まといになることも減るのですから。

 そうすれば、もっとたくさん冒険(デート)にも行けるでしょう。

 

「ははは、まあ、こうやって舎弟みたいなのが増えるのも、それはそれで悪くないもんだな。面倒かけられない限りにおいて、だが」

 

「そ かも ね」

 

 本当は、槍使いの彼が後進を指導するようになって、ギルドに戦力以外で貢献するようになれば、受付嬢の見る目も変わるだろうことは分かっています。

 でも、それだと冒険(デート)の時間が減ってしまうので、魔女は教えてあげないのです。

 

「さて、じゃあそろそろ冒険(デート)に行きましょうか、マイレディ?」

 

「そ ね。よろしく ね」

 

 まあ、いま暫くはこのままでも、悪いことではないのでしょう。*2

 

 

 

 

 △▼△▼△▼

 

 

 

 

 小鬼を殺す者(ゴブリンスレイヤー)は少し困惑していました。

 引き抜きを受けているのです。

 

 目の前の圃人の女旅商人はこう言います。

 

「どうでしょう、ゴブリンスレイヤーの旦那! 小鬼を殺す狩猟商隊を作るんですが、そこのリーダーとして来ていただくというのは。竜司祭も生きの良いのを手配したんですよ!」

 

「ゴブリンか」

 

「ええそうです、ゴブリンです! いやあ、半竜の娘さん、おっと、今は慈母龍(マイアサウラ)の巫女様っつったほうが良いんでしたかね。その方の作った新しい術のおかげで、ゴブリンをぶっ殺しまくって金稼ぎができる、ゴブリンじゃなくても何の獲物でもいいんでしょうけど、いややっぱりゴブリンでしょうここは、とにかくまあそういうことです。どこに行ってもゴブリンがいる、つまり、どこに行っても金を稼げるってことです」

 

「ゴブリンを殺してか」

 

「そうですそうです、ゴブリンのやつらをぶっ殺してです! ゴブリンの群れから群れに渡り歩いて東奔西走して殺して回るんですよ!」

 

「そうか」

 

 悪い話ではありません。

 ゴブリンスレイヤーはパトロンと部下と情報網を得て、王国を東奔西走南船北馬、小鬼を殺して回れます。いまよりずっと多く殺して回れるでしょう。

 女旅商人の方は、吟遊詩人に歌われるような辺境勇士のゴブリンスレイヤーの看板を得て、そのノウハウを得て、ゴブリンを殺して回れます。しかも今までと違い、ゴブリン退治が金になるのです。

 

「…………」

 

「ね、ね、ゴブリンスレイヤーの旦那! もっともっとゴブリンのやつらを殺しましょうよ! 皆殺しにしましょうよ! ね、ね、ね!」

 

「そうだな、ゴブリンは皆殺しだ……」

 

 彼のツボを的確にごりごりと押してくる圃人の女旅商人と、ゴブリンスレイヤーの交渉をドキドキしながら聞いているのは受付嬢です。

 ゴブリンスレイヤーの返答次第では、彼はこの街からいなくなってしまうのです。

 恋する乙女的に大ダメージです。あと普通に銀等級の引き抜きはギルドにも大ダメージです。

 

 でも、いつもゴブリンゴブリン言っている彼にしては、ちょっと歯切れが悪いですね……?

 

 この場ではまだうまくいかないと悟った女旅商人は、一旦引くことにしました。

 できる商人は引き際も誤りません。

 これは土地か女か、あるいは両方かに未練があると、そう読みました。

 

 実際当たりです。

 彼の中では明瞭に言語化できていませんが、牛飼娘と彼女が待つ牧場が、気がかりなのです。

 なにせ、彼に唯一残った故郷(ただいまが言える場所)なのですから。

 

「ま、ま、旦那、ゴブリンスレイヤーの旦那! 返事は今すぐでなくていいですし、しばらくしたら、技術指導と実地訓練って形で指名で依頼出すんで! それを受けたあとでもまた声かけるんで、考えておいてくださいな!」

 

「ゴブリン退治なら受けよう」

 

「ええもちろん、単に教えて終わりじゃなくて、実地でぶっ殺すためのゴブリンをちゃあんと見つけておきますとも! ゴブリンスレイヤーさんも、大勢でゴブリンをぶっ殺す方法ってのを、考えといてくださいな!」

 

「そうか、大勢でゴブリンを」

 

「ではまた良しなに!!」

 

 風のように、圃人の女旅商人は去っていきました。

 

 

 女旅商人が去ると、それを待っていたのか、女神官が近づいてきます。

 

「ゴブリンスレイヤーさん!」

 

「ゴブリンか」

 

「ええ、ゴブリン退治の依頼票を取って来ました! どれに行きましょう?」

 

「そうだな……」

 

 今日も今日とて、彼はゴブリンを殺します。

 

 

 

*1
ほかの冒険者の活躍により混沌の勢力が潰されるほど、勇者による魔神王討伐が早まる。また、混沌の勢力の瓦解が早まることにより、それをトリガーにタイマーが動き出すことになる「残党による復権活動」の時期も早まる。具体的に考えられる影響としては、森人砦のオーガは力を蓄えるために去り(主攻が失敗したのに助攻する意味ないので)ゴブリンだけが残され、水の都の陰謀に関する依頼時期が早まり、闇人襲撃の戦力が準備時間増加により増強される可能性がある

*2
半竜娘の血が溶け込んだことによる加護により、体力点+1、魂魄点+1、生命力+5、竜鱗紋による呪的装甲+2&物理装甲+2、竜眼による暗視付与。硬くなってタフになった魔女さん。強い。かわいい。あととってもお金持ち!




以降は不定期投稿になりますですよ。


新しい祖竜術のデータ(オリ設定)

【褒美(プライズ)】 難易度10 祖竜術 創造呪文(属性なし)
概要:捧げた供物の量に応じて、術者が必要なもの(食料、素材など)を得ることが出来ます。
解説:術者から「射程:近接」の距離において、「対象:一つ」を中心点として「半径:5m」の球場の空間内にある「触媒:生物や怪物の死骸(魔法生物系も可。ただしまだ動いているアンデッドは不可)」を祖竜に捧げ、その褒賞として、食料や素材など、術者が必要とするものを賜ります。
下賜される褒賞の概ねの目安としては以下のようになります。
 ・触媒の重量と同じ重さの未加工の麦(または主食となる穀物)あるいは清浄な水(指定した器の中に出現させることが可能)
 ・触媒の重量の半分の重さの荒い塩
 ・触媒の重量の五分の一重さの香辛料、調味料、嗜好品(チーズ、酒など)
 ・触媒の重量と同じ重さの鉱石
 達成値に応じて、同じ重さの触媒でも、より多くのもの、より品質の高いもの、より希少なもの(加工品や魔法の品含む)、または複数の褒賞の組み合わせを得ることが出来るようになります。
 専用の儀式用の陣を敷くことで、触媒を捧げる際の領域を広げ、より多くの触媒を捧げることが出来ます。
 この呪文は10分間の祈りを捧げたあとに呪文行使判定を行い(触媒がこの時点で消滅)、その後にさらに10分の祈りを捧げ呪文維持判定に一回成功することで発動します(褒賞品が出現する)。呪文維持判定に失敗した場合は、触媒の半分の量の穀物(術者が直近で口にしたもの。変更不能)が出現します。
 触媒となる肉が、自らがまたは一党の仲間が倒した敵対勢力のものである場合は、達成値にプラス5して下さい。

触媒 生物や怪物の死骸(魔法生物系も可。ただしまだ動いているアンデッドは不可)
詠唱 いと慈悲深き慈母龍(マイアサウラ)よ、至誠に堪えし偷蛋龍(トゥダンロン)よ。我らが狩りの成果を御照覧あれ、どうか子らに褒美を賜りたく

Q.つまり?
A.「ママー! ぼく狩りすっごく頑張ったの! ご褒美欲しいな!」
 ゲーム的には倒した敵の数に応じて獲得金額にプラス値がつく感じ。


Q.殺人の完全犯罪が出来ちゃわない?
A.【分解】とか【風化】とかもうあるし……。それに裁判用に使える奇跡だってあるんだから大丈夫大丈夫。


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分岐
【生存√分岐】盤外にて


あるいはハッピーエンドへの道

4/4で経験点の精算が終わった直後で分岐発生

本日更新三回目(深夜、昼、夕方←いまここ)なのでご注意を。


 ティーアース(T  A  S)はホッと一息つきました。まるっこい生首だけで身体がないのにどこから息を出しているのか不明ですが。

 怒涛の連続戦闘(ドラゴンパレード)が終わり、ギルドへの報告も無事に終わりました。これで、時を戻しては骰子を振り直し続けるのも、あと少しです。

 そうすれば、半竜娘の駒は昇天し、目的としていたところまで辿り着けます。

 

 と、その時でした。

 

 

 ドドドドドドドドドド

     ドドドドドドドドドド

  ドドドドドドドドドド

 

 盤外のこの世界には珍しい地響きが――

 

 

「えっ、なんで盤外(こっち)を映す必要があるんです??」

 

 

 怒れる恐竜(マイアサウラ)の群れのエントリーだ!!

 

 

ワッザ(What's that)!?」

 

 

 慈母龍(マイアサウラ)たちの【突撃(チャージング)】!!

 全長約9メートル、体重約7トンの巨体の群れが、甲高い鳴き声とともに次々とティーアースを襲う!!

 

「ケーン!」

 

「グワーッ」

 

「ケーン!」「グワーッ」「ケーン!」「グワーッ」「ケーン!」「グワーッ」「ケーン!」「グワーッ」「ケーン!」「グワーッ」「ケーン!」「グワーッ」「ケーン!」「グワーッ! グワーッ! グワーッ! グワーッ! グワーッ!」

 

 恐竜たちは同じ顔した他のティーアースやアルティーエたちもついでとばかりに轢き潰していきます。

 慈母龍(マイアサウラ)には区別がつかなかったようです。というか、実はほかの神々も、無数のティーアースたちやアルティーエたちやその仲間たちのユクリリたちやジキヨシャたちの区別はあまりついていません。みんな何故か同じ顔で同じ声ですからね。

 

「どぼじでごっぢに゛ぐるの゛お゛お゛お゛!!??」「巻き添えやめれー!! ガバるー!!」「ファッ!?」「リアルファイトはやめろーー!!」「ゆ虐NG! NOゆ虐!」「くぅーん(即死)」「中身(あんこ)でちゃうのお゛お゛お゛お゛お゛!? あっ」「「「「「グワーッ!!!!!」」」」」

 

 阿鼻叫喚です。

 

 神々同士の争いはご法度ですが、この程度ならじゃれあいの範疇です(断言)。

 駒の自由意思を捻じ曲げるティーアースの所業に怒った神々が、こうやって乱入することは稀によくあります。

 さすがに、十分に生き残る()のある半竜娘の(まなこ)を曇らせてまで、無理矢理に自滅的な呪文を使わせるのはやりすぎだと感じた神々の誰かが、こうして半竜娘の加護神である慈母龍(マイアサウラ)伝えた(チクった)のでしょう。神々は、何よりも自由意志を尊ぶのです。

 

 だからこうなった(恐竜の群れに轢かれた)のは、残念でもなく当然の結果です。

 

 ときどき、ダイス原理主義過激派がこうやってティーアースを潰したりしますが、まあ、ティーアースも四方世界のルールを侵してることは自覚してるので、甘んじてそれを受けいれています。

 それにティーアースは、いつの間にか勝手に増えてますしね。多少間引く程度でちょうどいいのかもしれません。

 巻き込まれたアルティーエたちは何も悪くなかったでしょって? ……悲しい、事故でしたね……。

 

 

 さて、ティーアースの手(比喩表現)から離れた駒が、盤面には残されました。

 

 確か半竜娘は成人したばかりだったはず。

 やがて祖竜の領域に昇るにしても、もっと生き永らえて、もっと己を鍛え上げてからにすべきでしょう。

 

 まだまだ時間はあるのです。

 四方世界には多くの強敵たちが眠っていますし、混沌の神々が配する大駒だって次から次に出てきます。

 それらを屠って血肉と成して、あるいは地に返して魂の巡りにゆだねるのが、祖竜に連なる者の勤めというもの。

 

 半竜娘の冒険は、いまここから始まったばかりなのです……!




ティーアースとかアルティーエは、無数の投稿者たちの現身なので、無数の(中の人が異なる)身体を持っている説を採用します。

経験点取得直後のタイミングでTASさんが吹っ飛んだので、その後の職業・スキル・呪文ビルドの権利(生殺与奪の権)は半竜娘ちゃんの手に戻りました。

半竜娘ちゃん「てまえは しょうきに もどった のじゃ!」


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二周目レギュRTA 目指せ【辺境四天王】~【辺境最大】編~
5/n 新しいPLが着任しました 次の目標は?


 応援、感想、評価、ありがとうございます!

 TASさんが恐竜に轢かれて再起不能(リタイア)したので、別の(PL)を連れてきたよ。って話。


 はいどーもー、前任者がなんか恐竜に轢かれたとかで、その引継ぎをやれと連れてこられました。意味わからんよね、俺もわからん。

 

 で、えーとどこまで何をやればいいの? あ、特に目標決まってないからそれ決めるところから?

 ちょい待ち、まず状況見させて。

 

 わー、この子美人ー、で13歳の蜥蜴っ娘? 属性盛ってるなあ。そういうの嫌いじゃないけど。みどりがかった烏羽色の鱗がきれい(小並感)。

 そしてめっちゃステ高い。

 

 しかも白磁等級なのに、っつうか冒険初日の夜なのに経験点が銀等級中位ぐらい貯まってるじゃん。

 アイテムとか装備も軒並みプラス3補正だし。資金も潤沢。

 

 二周目なの? 違う? マジで? 前任者何やったらこんな……ああTASさんの初日達成(PCが生き残るとは言ってない)シリーズかぁ。混沌勢力の武器庫暴いて、ドラゴンを族滅して心臓食べた? うわぁ、しかも1日でそれでしょ?

 

 でもこれ引き継いで走るとレギュが『勇者モード』にされちゃわない? 職業とかは通常レギュのビルドだから、高位職業とか専用職業とか取れないし、そうなるとTASさんでもない限りは詰むんだけど。

 

 俺はこの子をダイレクトに操作したりしないし、TASさんみたいな権能もないからね? ですので、なにとぞ、勇者モードは御勘弁を……。

 

 とりあえず、勇者モードにせずに、暫定的に2周目補正適用で良いでしょ。頼むよ、《真実》。え、GMお前じゃないの? 《幻想》さん? 違う? 誰が……おおっと、すごい存在感の恐竜さんが前に座ってるんだけど。慈母龍(マイアサウラ)さん? っていうの? あ、はい、よろしくお願いします。

 

 「さっきは間違えて潰してごめんね」って何の話です? いや覚えがないんで、たぶん別のやつのことかと。いえいえ、見た目ほぼ同じっすからね、俺らみんな。

 

 ともあれ、お手柔らかに頼みますよ。

 恐竜さんたちはさ、ナチュラルに鬼畜難易度にしてくるでしょ。俺知ってるから。

 死ぬがよい、じゃなくてさー。せっかく助けたのに死なせていいの?

 

 あ、はい。自由意志が脅かされたのが逆鱗で、死生はその場の《宿命》と《偶然》と、この子の実力次第と。

 

 だからTASさん吹っ飛ばしたあとでも、この子が自分で昇竜誓願(コールゴッド)選んでたら、それはそれで新たな祖竜として熱烈歓迎してたと。適者生存。ソウデスネ。

 

 アッハイ、進めます。 

 

 ていうか、魔神将級の古竜とその一族滅ぼしてるから、超勇者ちゃんの魔神王討伐もめっちゃ早まるんじゃね、これ?

 

 書物(原作小説)版で、女神官の冒険者登録から2か月くらいで魔神王討伐で、写し絵(原作アニメ)版だと登録から1か月くらいで魔神王討伐だっけ?(うろ覚え)

 でもこれだと、写し絵(原作アニメ)版より魔神王やられるのが早くなるんじゃないの?

 

 イベント進行壊れちゃーう!

 

 ま、どうにもならんかったらそん時やな。

 

 で、まずは……、ウゲッ! 疲労蓄積(消耗カウンタ)が天元突破しとるやんけ! 魂と脳に負担掛かりすぎてプッツンなるで。

 

 むしろ、なんで生きとるん?

 

 あ、そっかあ、薬漬けかあ。TASさんほんま……。

 後遺症が時間経過でしか治らないからこの通称「勇者薬」使うと後がつらいのよねえ。

 

 じゃあ、まずはこれを何とかして生き残らせるとこからやなー。初託宣(ハンドアウト)行くやでー。

 

 おー、警戒されとるなあ。当たり前か。

 

 死なずに済む方法あるからちょっと耳貸してみ、ってTASさんの時と同じ導入だもんね。

 口調は違えど声はほぼ同じだし。

 

 まあ、俺はTASさんみたいな力ないし、つうかアレが例外だし。ただホントに託宣を与えるだけよ。

 従うかどうかは、この子次第。

 

 さてどうかな?

 お、半信半疑だけど聞く耳は持ってくれそう。

 

 じゃあえっと、この構成だと、成長点消費してとりあえず冒険者技能【追加呪文:祖竜術(初歩)】で呪文の枠を作って、出来た枠に祖竜術【賦活(バイタリティ)*1取って、【分身(アザーセルフ)】出して分身から本体に【賦活】連打してもらって――。

 

 はいOK、生存確定。無事に【賦活(バイタリティ)】の祖竜術で、本体ちゃんの消耗カウンタをゼロにできました。だいたい50分(100ラウンド)くらいかかりましたね。

 

 酒場で祝勝会しながら、分身を傍らに置いて、ひたすらに【賦活】の術をかけられてピカピカ光ってるの、すまんけど笑いそうになったわ。いや、命かかってるんだけどね。

 

 【分身】は安定して出せるようになると途端に便利よなー。

 

 しかし普通は15で衰弱死するところ、消耗カウンタ200越えってやりたい放題やなTASさん。

 

 

 あ、生き残ったけど、魂魄も霊体も肉体もボロボロだから、あとひと月、要は薬抜けるくらいまで、激しい冒険しないようにね、君。

 誰か親しい人とかとマッタリしなよ。

 

 そしたら最低限はやったから、あとは適当に君――ええと、半竜娘ちゃんっていうのか、半竜娘ちゃんの方で残りの経験点と成長点は振っといてー。相談には乗るからさ。一応おすすめはあるけど、やっぱり自分のやりたいようにやるのが一番だろうし。

 

 そうだ、ほらほら、慈母龍(マイアサウラ)さんからもなんか一言。TASさんから解放したの貴女でしょ、ほらほら。

 

 ……おー、半竜娘ちゃんいい反応。これはニヤニヤしちゃうわー。

 

 え、俺の名前? いいよいいよ、名乗るほどのものでもないし。……どうしても呼びたいときは《N氏(ナナシ)》とでも呼んでくれ。

 はいはい、バイバーイ、またね! とりあえず祝勝会楽しんで!

 

 

 

 

 

 で、慈母龍さん、どうする? レギュレーション。

 

 おっ、そうだな、トロフィー【辺境四天王】の獲得いっちゃう?

 

 いま半竜娘ちゃんが振ってる技能と呪文的に、【辺境最○】系だと、トロフィー【辺境最大】の獲得を目指してみるか。

 

 

 

 【辺境最大】の冒険者! その名も半竜娘ちゃん!

 

 いいじゃん! いいじゃん!

 

 辺境最優(ゴフスレさん)辺境最高(重戦士一党)辺境最強(槍使い)、そして辺境最大(半竜娘ちゃん)で、【辺境四天王】ってね!

 

 で、それを出来るだけ早く獲得できるようにサポートすんのね。了解了解。

 

 とすると、獲得条件はこうだからー、チャートはー……。

 

 

 あ、そうだ!(唐突)

 

 宿敵撃破済みだから、経歴のうち邂逅のとこは振りなおしていいです?

 

 あざーす。じゃあ振りなおして……出目は7。「家族」かあ、「特に気にかけている家族がいます」と。

 スパルタ式養育の蜥蜴人にとって家族とは一体……、最初からガバでは? 

 

 うーん、魔女さんと姉妹(スール)的なコミュ結んでるからこっちから引っ張る? それとも父方の只人の方で血縁の設定生やす? 蜥蜴僧侶さんを従兄弟にでもしちゃう? うーん、迷うなあ。

 

 よし、んー、じゃあ、ボチボチやっていきますか~。

 では皆様のためにここで一旦まとめときますよ~。ハイ、テロップどーん。

 

 

■トロフィー獲得条件

 【辺境四天王】

  以下をすべて達成することで獲得。

  ・辺境最高、辺境最強、辺境最優が生存し辺境で現役で活動していること。

   かつ、彼らと別の一党であること。

  ・銀等級以上への昇格

  ・【辺境最〇】系のトロフィーの獲得

 

 【辺境最大】

  以下をすべて達成することで獲得。

  ・西方辺境において著名な冒険者となり、吟遊詩人に歌われること。

   また他地域での知名度も一定以上。

  ・辺境最大と呼ばれるにふさわしい活躍をすること。

   (例:巨大化して巨大な敵に立ち向かう。巨大化して城砦を攻める。など)

 

■注意

 ・辺境三勇と並び立つ存在になるためには、彼らと固定パーティを組んではいけない。(臨時はOK)

 ・辺境三勇を死亡・引退・転籍させない。

 ・銀等級への昇級が必要なので、信用を損なう行動は避ける。

 ・人の役に立つ行動は積極的に!

 ・人目に付く場所で活躍する際は、積極的に【巨大】を使っていく。

 ・なるべく早く達成する。稀に、辺境三勇が活躍の拠点を辺境から移す場合があり、その場合は【辺境四天王】が獲得できなくなるためスピード感には注意。

 

 

 

 特に辺境最優ことゴブスレさんは、重戦士や槍使いとは段違いに、死にかける状況に陥ることが多く(主人公の宿命)、本筋の方の主人公だからと慢心して介入を控えると乙ってしまって【辺境四天王】の獲得ができなくなるので注意が必要です。

 

 あとは走りながら何か思い出したら適宜そのときどきでお知らせします~。

 

 さて、半竜娘ちゃんは……、うん、いい感じに冒険者ギルドで打ち解けてるっぽいですねー。他の冒険者から引かれてなくて良かった!

 

 というわけで、【辺境最大】と呼ばれる銀等級の冒険者になるべく、心機一転、半竜娘ちゃんの冒険が始まりまーす。

 

 とはいっても暫く半竜娘ちゃんはリハビリなので、新しい術だの技能だのの運用試験もかねて、ゴブリン退治くらいからでしょうかねー。

 いましばらくお付き合いのほどをば。

 

 では、今回はここまで。

 また次回!

 

 

*1
【賦活バイタリティ】疲労(消耗)を回復させる祖竜術。達成値が高いと回復数が大きくなる。




なお、冒険者的信用&受付嬢さんの好感度はマイナススタートの模様。そりゃ(街の近くでドラゴン呼び出したりしたら)そう(いう要注意人物扱いになる)よ。

加えて二周目モードなので、半竜娘ちゃんが当たる敵が強化されます(質と量)。

新しい神は暫定N氏(ナナシ)ということで、要はガヤですな。掲示板のデフォルトネーム的な。


以下、半竜娘ちゃんが自分で振り直したステータス。自分の備忘のために載せてるやつなので、特に詳しくみる必要はないです。

コンセプトは、分身や竜牙兵で頭数増やしてデバフ/バフしつつ、切り札として巨大化して加速して突撃する感じ。毒ブレスも強い。ブレスが毒なのは、属性が闇だから(中二病)(でも毒無効の敵は多いからマンチ的にはあまり良くない)。呪文のリソースを減らさないように、通常戦闘では指輪や腕輪を付け替えて武道家として遠隔または肉弾。
長距離移動に多少不安あり。

◆名前:半竜娘
 年齢13歳(成人直後)
 やる夫スレならAAは「長門(艦これ)」を当てると思う。
 つよい(確信)。最終的にゴジラになれる素質がある。無事生存。TASさんには命を救ってもらった恩を感じてはいるが、魂を捧げるほどではない模様。まあまだ若いし。
 TASさんのせいでかなり危険な目に遭わせられたのだが、その過程では苦労を感じていない(常に判定が大成功だった)ため、それでは貸しを返したとはどうも思えないようだ。

◆累積経験点 49000点
(初期経験点   3000点
 種族使命達成+10000点
 職業使命達成+10000点
 宿敵撃破  + 5000点
 勲功一等  + 5000点
 竜征冒険(ドラゴンクエスト) +7500点
 魔神将級撃破+ 7500点
 下水道掃除 + 1000点)

◆能力値
 装備:魂魄強化の指輪+3、知力強化の指輪+3
 状態異常:狂魔覚醒剤後遺症(各判定時-2(残り29日))
能力値体力点 5魂魄点 8技量点 3知力点 6
集中度 4912710
持久度 381169
反射度 381169


    生命力:【 38(28+10) 】
    移動力:【 24 】 
 呪文使用回数:【 07 】

  呪文抵抗基準値(魂魄反射+冒険者LV+呪文抵抗):【 19 】

◆冒険者レベル:【 8 】
  職業レベル:【 魔術師:4】【竜司祭:9】【武道家:6】

◆冒険者技能    初歩/習熟/熟練/達人/伝説
  【免疫強化】  ●   ○  ○  ○   ○
  【魔法の才】  ●  ●  ●  ●   ○
  【呪文熟達(創)】●  ○  ○  ○   ○
  【追加呪文(真)】●  ○  ○  ○   ○
  【追加呪文(竜)】●  ●  ○  ○   ○
  【生命の遣い手】●  ●  ●  ○   ○
  【機先】    ●  ●  ○  ○   ○
  【頑健】    ●  ●  ○  ○   ○
  【忍耐】    ●  ○  ○  ○   ○
  【武器:格闘】 ●  ●  ●  ○   ○
  【体術】    ●  ●  ○  ○   ○
  【鉄の拳】   ●  ○  ○  ○   ○
  【発勁】    ●  ○  ○  ○   ○
  【薙ぎ払い】  ●  〇  ○  ○   ○
  【二刀流】   ●  〇  ○  ○   ○

◆一般技能     初歩/習熟/熟練
  【竜の末裔】  ●  ●  ●
  【暗視】    ●  ○  ○
  【祈祷】    ●  〇  〇
  【沈着冷静】  ●  ○  ○
  【信仰心(竜)】 ●  ●  ●
  【統率】    ●  ●  〇
  【礼儀作法】  ●  〇  〇
  【調理】    ●  〇  〇

◆呪文
 呪文行使基準値(知力集中):【 10 】
        (魂魄集中):【 12 】
 職業:魔術師:4 竜司祭:9
 技能:呪文熟達(創造呪文):+1
    生命の遣い手:生命属性の呪文が出目10以上で大成功
 装備:真言呪文の発動体+3 紅玉の杖(真言呪文行使+1)
 真言:【 18 】  奇跡:【 0 】  祖竜:【 21 】  精霊:【 0 】

 ◎習得呪文:
 《 分身 》 難易度:20 (真言呪文 創造呪文(生命))
 《 力場 》 難易度:15 (真言呪文 創造呪文(空間))
 《 巨大 》 難易度:10 (真言呪文 付与呪文(生命))
 《 加速 》 難易度:15 (真言呪文 付与呪文(生命、精神))
 《 停滞 》 難易度:15 (真言呪文 支配呪文(生命))
 《竜牙兵》 難易度:15 (祖竜術 創造呪文(生命))
 《 竜爪 》 難易度:10 (祖竜術 創造呪文(物質))
 《 狩場 》 難易度:15 (祖竜術 付与呪文(空間))
 《 竜眼 》 難易度:10 (祖竜術 付与呪文(生命))
 《 竜血 》 難易度:なし (祖竜術 付与呪文(生命))
 《 擬態 》 難易度:10 (祖竜術 付与呪文(光))
 《 竜吠 》 難易度:15 (祖竜術 支配呪文(精神))
 《竜息/毒》 難易度:10 (祖竜術 攻撃呪文(闇))
 《 突撃 》 難易度:10 (祖竜術 攻撃呪文(なし))
 《 賦活 》 難易度:10 (祖竜術 治癒呪文(生命))
 《 小癒 》 難易度: 5 (祖竜術 治癒呪文(生命))

◆攻撃
 命中基準値(技量集中):【 7 】
 職業:【武道家:6】
 技能:【武器(格闘):熟練(+3)】
 近接:【 16 】  弩弓:【 7 】  投擲:【 13 】

 ◎武器:【 素手(爪) 】
   用途/属性:【 片手or両手格軽/斬 】
  命中値合計:【 16 】
   威力:
 片手:1d3+5(内訳:鉄の拳+1、発勁+1、竜の末裔+3)
    両手:1d3+7(内訳:両手+2、鉄の拳+1、発勁+1、竜の末裔+3)
   効果:投擲不可

 ◎武器:【 南洋投げナイフ 】(2本所持)
   用途/属性:【 片手投軽/斬刺 】
  命中値合計:【 13+4 】
   威力:1d6
   効果:投擲専用、強打・斬(+1)、刺突(+1)、斬落

 (紅玉の杖は基本的に武器として用いない)

◆防御
 回避基準値(技量反射+武道家レベル+体術スキル):【 14 】
 ◎鎧:【 衣鎧+鱗 】
   鎧:魔法の司教服(+3)(装甲7、回避修正+2、移動修正-4)
   鱗:外皮+3(竜の末裔)
   属性:【 衣鎧(布)/軽 】  回避値合計:【 16 】
   移動力合計:【 18 】  装甲値合計:【 7+3 】 隠密性:【 悪い 】

 盾受け基準値(技量反射+武道家レベル(大篭手着用時)):【 12 】
 ◎盾:【 小型盾 】
   盾:魔法の大篭手(+3)(盾受け修正5、盾受け値4、武道家の適正装備扱い)(両手に同じもの装着)
   属性:【 小型盾(金属)/軽 】 盾受け基準値合計:【 17 】
  盾受装甲値合計:【 14 】 隠密性:【 良い 】

◆所持金
  銀貨:**枚(酒をおごったので討伐褒賞が入るまで素寒貧。ほしいものがあるときは、財布を預けてる魔女さんに相談しようね!)

◆その他の所持品
冒険者ツール(鈎縄,楔x10,小槌,火口箱,背負い袋,水袋,携帯用食器,白墨,小刀,松明x6) ← 買いなおした
  携帯食×7日分、衣類
  背負い袋 ×2
  ベルトポーチ ×1
  小袋セット(3枚/1セット) ×1
  竜司祭の触媒入れ ×1(移動力修正-2)
  魂魄強化の指輪+3 ×1(装備中)
  知力強化の指輪+3 ×1(装備中)
  技量強化の指輪+3 ×1
  体力強化の指輪+3 ×1
  武術熟達の腕輪+3 ×1
  体術熟達の腕輪+3 ×1
  真言呪文の発動体+3 ×1(装備中、形態:ネックレス)

◆出自/来歴/邂逅/動機
 軍師/戦場/家族/託宣


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6/n まずは休養

冒険者登録二日目の朝(新しい日の朝)の半竜娘ちゃんです。
半竜娘ちゃんが装備や技能を選んだ背景など少し。長くなったので分割して1時間後にあと一話投稿します。



 うう、頭が痛い、割れそうじゃ、それに吐き気も……。死にそうじゃ……。

 これは二日酔いではない、ハズじゃ。今まで酒を飲んだことはそう多くはありゃせんが、蜥蜴人は酒には強いはずじゃし、脳みその奥の方が挽き潰されるような痛みは宿酔ではなかろうさ……。

 つまりこれは、あの《N氏(ナナシ)》とかいう神の言うとった、「勇者の薬」の副作用ということか。

 

 これほど重いとは……。

 

 まあ、それはそれとして。

 

 ああ、昨日は、なんという日じゃったのか!

 財宝を掠め、竜や魔神を屠り、祖竜からの御言葉も賜り、冒険者仲間と酒を酌み交わす!

 こんなに良き日があろうか!

 

 ティーアース(T  A  S)のやつはいつの間にやら消えておったが、それはどうやら祖竜の一柱たる慈母龍(マイアサウラ)様のお計らいによるものという! 昨日は直に玉声も賜ったのじゃ!! うらやましかろう!?

 その時聞いたことによると、どうにも、かなり無理矢理に【昇竜誓願】を使わせようとしておったとか。

 【昇竜誓願】など、竜祇官と呼ばれる最高位の竜司祭でもなければ使えぬじゃろうし、手前(てまえ)が使えたとしても、こんな若輩で祖竜の列に加わるのは不敬が過ぎるというものよ。

 

 まあ、いずれは手前(てまえ)も、と夢見てはおったし、それゆえ、ティーアースの言に乗った面もある。が、有終の美を飾るにはまだ早かろう。言い訳じゃが、よもやティーアースが1日で手前(てまえ)を祖竜の列に加えるつもりとは、最初の最初に託宣受けた時は思わなんだのよ。

 

 見たいもの、やりたいこと、それにさらなる強敵との闘いも、この四方世界には満ち満ちておる。

 いけ好かぬゴブリンどもを根絶やしにすることもそのやりたいことの一つじゃが、それが達成できず、それでもなんぞ良い考えでも浮かべば、寿命の尽きるころには【昇竜誓願】で願っても良いやもしれん。

 だが、今すぐではない。だって手前(てまえ)はまだ13歳じゃぞ? ツヤツヤサラサラの瑞々しい(さか)りぞ?

 

 まあ、長い残りの人生、あ奴(ティーアース)にはまだ、命の恩があるゆえ、信条に反さぬ限りは、あと一度くらいは頼みを聞いてやらんこともない。*1

 

 そして今も、慈母龍(マイアサウラ)様に御照覧いただけておるという!!*2

 これで奮い立たねば、竜司祭としての名折れよ!

 

 ますます精励せねばな!!*3

 

 

   ○●○●○●

 

 

「まずは休んで、それから奉仕活動からですかねえ」

 

「なんと、冒険には行けんのか?」

 

「ハッ」

 

「鼻で笑いおったぞ、この受付職員!?」*4

 

 冒険に行くつもりで受付に向かった手前を迎えたのは、荒んだ受付殿からの辛辣な対応じゃった。というかこんなキャラじゃったか?

 

「あのですねえ、昨日、どれだけ大変だったと思います? 急に金等級や銀等級が束になってかからなきゃならないような竜が出てきて、そのための緊急依頼を手配したり、最悪に備えて街の警邏や役所の方に掛け合ったり……」

 

 恨み言があふれ出してきおった……。

 思わず尻尾も萎れて垂れるのじゃ……。

 手前(てまえ)にも分かってきたぞ、ここの受付殿は、逆らっちゃならん類じゃな?

 

「……幸いにも大事にはなりませんでしたが、今度は大量の竜の死体の処理が必要です。それも早急に。春の初めは虫も活発になりますし」

 

「そうじゃのう、その節はほんに済まなんだ」

 

「……はあ、お分かりいただけたなら良いのです。それに、あれだけ大立ち回りしたんです、いきなり昨日の今日で依頼というわけにはいきませんよ。お疲れでしょう?」

 

「確かに本調子ではないが、それでも竜の心臓をしこたま食べとるし、昨日より位階は上がっておるし……」

 

「だめです」

 

「軽くゴブリン退治くらい……」

 

「だめです。あとゴブリン退治は軽くありません」

 

「アッハイ」

 

 ダメじゃなあ、これはこれ以上粘っても心証を損ねるだけじゃろうな。

 うーむ……。どうしたもんかのう。

 

 うむ?*5 手伝いを申し出たほうが良いと?

 まあ、確かに、手前(てまえ)がティーアースに乗せられてやらかしたせいで、余分な苦労を背負わせとるし。うむ、責任を取るのが道理であるな。向こうも奉仕活動とかいうとるし。

 

「受付殿、そしたらその奉仕活動いうたか、それを紹介してくれんか。ピンピンしとるのに後始末に参加せなんでは他のモンからの心象も悪かろうし、それか受付殿の手伝いでもなんでも申し付けてくれれば幸いじゃ……」

 

「そうですね……。もしお願いするとすれば……、竜の死体の片づけは体力使っちゃいますし、ギルド内の手伝いとかでしょうか。でも、本当に休まなくていいんですか?」

 

 好いておらん相手に気遣いするとは、なかなか人間ができておるのう。

 培った教養、礼法のなせる業かのう。

 手前(てまえ)も、こちらの礼法を覚えるべきよの。この受付殿に付いて働けば、多少のきっかけくらいは掴めようか?*6

 

「なるほどのう……しかしまあ、休むのと手伝いと、両立させればよかろう?」

 

「えっ、いや両方同時には無理ですよ……って、もしかして」

 

「ご賢察であるな。呪文で【分身】を作ってこちらの手伝いをばさせる。本体である手前(てまえ)の方は、安静に休む。これなら両立できるのじゃ」

 

 分身の方なら、いくらかこき使ってもよかろうさ。それに呪文ひとつくらいなら、この体調でも使えんことはなかろ。*7

 

「呪文使うのも良くないと思いますが」

 

「7回のうちの1回じゃて」

 

「ななっ?! 昨日は4回って言ってませんでしたっけ」

 

「じゃから位階が上がったんじゃて。別に昨日虚偽申告したわけじゃないのじゃよ?」

 

 そう、位階を高めたゆえ、呪文の使用回数も増えたのじゃ。

 

 ではいざ。いーでむ(どういつ)う んぶ ら(か、 げ )……

 

「うぶぶっ、だめじゃ、頭の奥の奥のなんかよくわからんとこが、われつぶれさけそうにいたい……」

 

「ほらやっぱり」

 

 涙目になってうずくまる手前(てまえ)に、受付殿は呆れておるようじゃ。

 もうこのままべしゃりと床に臥せ広がりたくなってきたわい。

 

「今日はよく休んでくださいね~。スタミナポーションは……かえって良くないかもですね。とにかく休んだ方がいいですよ」

 

 確かに魔法薬の後遺症に、薬を重ねるのはまずいじゃろうなあ。

 

「あ、でも休むところあるんです? 昨日街にきたなら、まだ宿もとってないでしょう?」

 

「うううぅぅぅ」

 

 そうなのじゃ。昨日は宴会から寝落ちしてそのままなし崩しに酒場で夜を明かしたから、宿をとっておらんのじゃ……。

 荷物も身に帯びておるものだけじゃし、戦利品は艶やかなる魔女殿に託しておるから置き場に困っておるわけでもない。

 しかし休む場所は必要じゃ。

 

 ギルドの部屋くらい貸しますけど(街中で野宿とか許しませんよ)? という受付殿に甘えるかのう……。

 

 

 

「あ ら。半竜の、ね。もう、起きていい の? 受付さん も、お はよう」

 

「あ、おはようございます。そう、ちょうどその話をしてたんですよ」

 

 と、その時、しゃなりと現れたのは、艶やかなる魔女殿じゃった。

 そして受付殿から話を聞いた魔女殿は、こう提案してくれたのじゃ。

 

「部屋……ないなら、うちに、くる?」

 

 ……よいのか?*8

 

 

   ○●○●○●

 

 

 そこは、冒険者ギルドからそう離れておらん家じゃった。

 

 道すがら聞けば、銅等級以上の冒険者には、それとなく冒険者ギルドが街の家を勧めるのじゃとか。

 まあ、いつまでも宿暮らしというのも、ものが増えると不便なものというのは分かるし、家を持つというのは分かりやすいステータスじゃ。

 定住すれば、それだけで信用が上がるじゃろうし、優秀な冒険者を街に留めるのにもつながる。

 

 特に魔導の道を進むなら、モノの置き場は宿の一室では足りるまい。

 なかには、魔法で創った異空間に全部しまい込むような卓抜した魔導師もおるそうじゃが。

 

「ここ、よ。……ようこそ」

 

「ほほー、良いところじゃのう!」

 

「ふふ。そう、で しょう?」

 

「しかし、良いのか? 手前(てまえ)が転がり込んでも?」

 

 とてもありがたい話であるし、手前(てまえ)としては是非ともお願いしたいのじゃが。

 

「ええ、いっぱい、貰ったから、ね。気に しないで、ね。その分配とか、気に 入ったの を、持ってったり とかも、一緒に住むと、やりやすい、でしょ?」

 

「むう、渡した竜の素材や魔法の品のことを言うとるなら、それは約定を守っただけじゃて。恩に着せるつもりはないのじゃが。言うとることの理は認めるが、沽券にかかわるというか……」

 

「それなら、それで いい わ。じゃあ、改め て 貸し、にしとくから、受けなさい、ね?」

 

 ……ここまで言われて頑固に断るほど手前(てまえ)も拗らせてはおらん。ここは、借りておくのじゃ。

 

「かたじけない。では、先達たる魔導師殿。よろしく頼む」

 

「ええ、いい わ…よ」

 

 

   ○●○●○●

 

 

 扉を潜ると、本と香煙の匂いのする空気が迎えてくれた。

 いかにも術師の部屋じゃの。

 じゃが、ほかに気配はないのが意外じゃった。

 

「おろ? あの槍を持った御仁はおらんのか?」

 

「……いない、わね」

 

「てっきり一緒に住んどるものじゃと」

 

「そ、でもないの、よ。気になる の? 彼、が」

 

 なんかゾクッとするのじゃ……。*9

 

「あっあっあっ。いや確かに蜥蜴人は強者に惹かれるものじゃて、あの御仁には手合わせ願いたいとは思うとるが、それ以上は思うとらんぞ」

 

「ふ、ふ。なら、いいわ。気を使わせ ちゃったわ、ね」*10

 

 槍使いの御仁とは住んでおらんのか。お互い、変に遠慮しとるのかのう。お似合いじゃと思うのじゃが。

 只人のつがいの機微はよくわからんし、異種族の手前(てまえ)が口を挟んでもこじれそうじゃし。まあ、いいか。

 

 とりあえずはご厚意に甘えて休むことにしよう。

 ああ、そうじゃ、今後、家事の分担もするやもしれん。その時のために、料理のひとつも作れた方がよいかのう……。

 

 Zzz……。*11

 

 

*1
ナナシ「やめといた方がいいと思うなあ。1日達成TASをまたやらされて、今度は邪教徒の塔を乗っ取らされて、そこを踏み台に魔神王のとこにワープさせられて魔神王を魅了させられてゴブリン絶滅号令出させる『ふっ、おもしろい女だな』ルートとかで走らされそうだよ? 乙女ゲー展開にハマってるTASさん居るらしいし。ちなみに【ゴブリンジェノサイダー】獲得TASとしては、混沌陣営に寝返るルートの方が早いとは言われてる」

*2
ナナシ「殺意高めのGMだけどね。恐竜さん系は試練が好き過ぎて困る」

*3
ナナシ「いやまず休めよ」

*4
ナナシ「こんな受付嬢さん初めて見るぞ!? えっ、受付嬢さんの好感度ひっく!? 犯罪者一歩手前の扱いとか相当やぞ!」

*5
ナナシ「好感度上げよう。文字も書けるんだから代書でも書類整理でも、それか竜の死体の片づけでもなんでもさ、手伝いを申し出るんだ。実際できるか別として、気遣いするんだ」

*6
ナナシ「それだっ! 礼儀作法スキル大事!!」

*7
ナナシ「いや、それはどうかなあ? キャラシ上は全快してるけどさあ……」

*8
ナナシ「キマシ……?」

*9
ナナシ「おっと? 恋敵認定されると大変だぞ?」

*10
ナナシ「セーフ?」

*11
ナナシ「完全に(寝)落ち(し)たな……」




魔女さんがどこに住んでるか、既出の情報あったかな……。

※未解決フラグ一覧(オリジナル要素)
 ・水路の沼竜
 ・下水道の未踏遺跡、急に消える冒険者(放置によりランダムで白磁等級冒険者がロストします)
 ・経験点に軍令ボーナス乗ってたけど、軍籍残ってるってこと?(出頭命令フラグ)



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7/n 装備を改造しよう!

冒険者登録から三日目です。


 翌日。

 

 結局昨日は、ずっと寝ておったわ。やはり、目に見えぬところでの疲労が嵩んでおったのじゃな。

 休んだおかげか、前の日よりは、随分と調子がよい。呪文は、この調子なら明日には無理ない(オーバーキャストしない)範囲で使えそうじゃ。*1

 

 おお、そうそう、今朝は雑談がてら艶やかなる魔導師殿から手ほどきをうけたんじゃ。

 大いなる先達たる彼女の魔導についての識見は、かなりのものがある。

 

 その先達たる魔導師殿によると、一小節の真言(トゥルーワード)くらいなら、それほど消耗しないそうじゃ。

 彼女が煙管に火をつけるときのあれじゃ。点火の真言《インフラマラエ》で、さっと火をつけるやつ。

 あれをやる魔導師殿の姿が格好良くてのう、ああいう風に魔法をスマートに使うのをやってみたいんじゃよ!

 

 近いうちにやってみるぞ、絶対じゃ。

 

 それに、あれができれば、野営の火付けも時間短縮できようし、台所でも役に立つわいの。

 まだるっこしいんじゃよなあ、火打石で火種つけて育てるのは。10分くらいかかる。

 かといって、火付けのためだけにいちいち火の秘薬(ブラックパウダー)撒いて燃やすわけにもいかんし。一歩間違うと吹き飛ぶし。

 

 他に一言真言(ワンワード)に応用できそうな真言を探すのもおもしろそうじゃなあ。

 まあ、今日はまだ呪文は使えぬであろうから、真言の探求はまた今度じゃな。

 あるいは、真言を表す手印や陣についての資料もあると聞いたから、後で読ませてもらおうかの。沈黙対策は必須ゆえ。

 

 

 

 さて、艶やかなる魔導師殿は、同じ『辺境最強』の槍使いの御仁と冒険(デート)に行くということじゃが、まだ本調子ではない手前(てまえ)は、留守番じゃ。

 

 いってらっしゃいと見送ったところ。

 お小遣いということで、お金をいくらか貰ったのじゃよ。どうも結構な額があるようじゃ。*2

 助かるのう、昨日酒場で使ってしまったからの。金欠を見抜かれておったのは気恥ずかしいが。報償金が下りたら返すとしよう。帳面につけておかねば。

 

 さて、では、いまの体調でもやれることをやってしまうかの。

 呪文はまだ使えんから【分身】は出せぬが、街を散策するくらいならよかろう。

 

 朝のうちに、あてがわれた部屋に荷物を片付けて、混沌の砦からの戦利品のうち、自分で使うために、魔法のかかった大籠手(両手分プラスアルファ)や、やはり魔法のかかった司教服を、予備も含めて抜き出させてもろうた。

 他にも魔法のかかった指輪や腕輪、首飾りの発動体もあったが、そちらは、すでに身につけておった分との入れ替えは必要なさそうじゃ。

 魔女殿に一度献上したものじゃが、使って良いということじゃから、感謝して拝領することにする。

 

「ううむ、この司教服とその予備は、昨日一昨日も着とったが、やっぱり悪趣味な意匠じゃのう」

 

 混沌側の蜥蜴人もおった砦で略奪したものじゃからか、司教服の作りは、きちんと手前(てまえ)でも着れるように尻尾穴とか空いておるものじゃが、どうにもセンスがのう……。

 ちゃらちゃらと音も見た目もうるさいし、混沌側のセンスなのか、飾りも色味も悪趣味じゃ。

 

 こんなの着ておったら、きっと受付殿からもまた小言をもらうことになりそうじゃ。

 邪教徒のような格好で、往来を歩くな、とな。

 

 とはいえ、魔法の品は、こういう意匠も含めてトータルコーディネートで効果が成り立っておったりするしのう。素人が迂闊に(さわ)れんよなあ。

 確か、ギルドの上に武具屋があったはず。そこで相談してみるかのう。

 

 盗難防止にと、家主たる艶やかな魔導師殿が敷いた陣に触れて、防犯の魔具を起動させる。

 どこぞの遺跡の守護機構を参考にしたとか、引っこ抜いてきたとかなんとか。

 首に掛けとる首飾り型の真言呪文発動体に、この防犯結界のパスを刻んでもらったから、帰るときは自分で開けられるのじゃよ。すばらしかろう、あの麗しき魔導師殿の手腕は!*3

 

 

 

 というわけで、ギルドにやってきたのじゃ。

 宴会で話した者らも何人かギルドにおるのう。そやつらに軽く会釈して挨拶したりしてから、武具屋に向かう。

 

 その途中、手前(てまえ)の方を見て、「辺境最凶」だの「ドラゴンイーター」だの「血濡れ(ブラッディクロス)」だの言うとるもんたちがおったが、一昨日のあれは手前(てまえ)の手柄という実感がないのよのう。

 あれはティーアースの権能のおかげじゃて。*4

 

 まあ、辺境最凶だとか、辺境最狂だとかは、槍使いの御仁の称号たる『辺境最強』と音がかぶっておるし……。

 運が良かっただけで実力が伴っておるわけでもないし。

 異端の心臓を食らうのは、普通のことじゃし(蜥蜴人竜司祭的に)。

 

 ……そのうち噂も立ち消えになるじゃろう。

 いや、手前(てまえ)が実力でその噂を打ち消すだけの手柄を立てればよいのじゃ!

 うむ、頑張るのじゃ!

 

 ま、ともかく武器屋じゃよ、武器屋。

 頼むことがたくさんあるのじゃ。

 

 

   ○●○●○●

 

 

「おっ、竜殺しの嬢ちゃんじゃねえか」

 

「鍛冶師殿~、お願いがあってきたのじゃよー」

 

「そりゃ、その背負い袋から覗いてる魔法の服や篭手についてか?」

 

「さすが話が早いのう。このいかにも混沌趣味な司教服をじゃのう、どうにか街で着ても驚かれないようにしてほしいのじゃ。あと、ちゃりちゃり五月蠅いのもどうにかしてもらわんと、姿隠しの術(【擬態】の祖竜術)を使っても敵に見つかるのでな」

 

「隠密加工と色替えか。しかも魔法の力を損なわずにってんだろ? そういうのが得意な奴らに頼む必要があるから、ちょいと時間がかかるぞ?」

 

 ううむ。早く冒険にも出たいが、致し方ないのじゃ。

 

「お頼み申す。あと、この大篭手の予備の一つ二つをじゃな、尻尾につけるように改造してほしいのじゃよ」

 

「尻尾ぉー? そりゃやってできないことはないが。だから改造用に多く持ってきてたのか」

 

「そういうことじゃ。両手の爪と尻尾、そして牙。これ全て蜥蜴人にとっては武器であるから、の。腕だけ魔法の大篭手で覆って尻尾は丸出しというのも落ち着かんし、それが死命を制すこともあろう」

 

「ま、そりゃそうだな。大篭手の改造ならここでもできる。どれ、尻尾を測らせてもらうぞ」

 

「おお! よしなに頼む! あと、籠手から手先が出しておけるようにしとくれ」

 

「いいぞ、武道家連中はだいたいそういう改造するから慣れてるぜ」

 

「かたじけない。では、前金はとりあえずこれで足りるかのう?」

 

 そういって、持ち金をあらかた差し出すのじゃ。

 技術に対して正当な報酬を払うのが肝要よ。

 むしろこれで足りるかのう? まあ、足りねばどうにかしよう。

 

「おう、まあ手付ならこんなもんだ。精算は返す時にやるから、用意しとけよ?」

 

「もちろんじゃともよ!」

 

 

 尻尾のサイズも図ってもらい、ついでに他も測ってもらい、そして《竜牙刀/竜爪》で創る武器の参考にと商品を見ておった手前(てまえ)の目に、ある刃の輝きが飛び込んできた。

 

「こ、これは……!!」

 

 枝分かれして、ねじくれたそれは、南方の戦士たちが持つもの。

 

「命を刈り取る形をしておる……っ!!」*5

 

「お? 気に入ったか? 南のどこぞの部族の使う投げナイフよ。たまたま手に入ってな。使えるようならもう一本くらい仕入れるつもりだが」

 

「か、買うぞ! 四本買う!」

 

「二つで十分だろ、っていうか在庫は二本しかないぞ」

 

「じゃあ二つじゃ! 提げ帯もくれ! お金は……これで足りるかの?」

 

 手前(てまえ)は迷わず残りの全財産を差し出した。

 この後の買い物に障るし、昼食の分も残らないが、なに、ギルドで何か雑用でも受ければよかろうさ。

 

「ん、まあ、少し足りないが、さっきの前金分と合わせて計算しといてやるよ」

 

「おう、おう、かたじけない! うはは!」

 

「振り回すならどっか開けたとこに行け!」

 

 ……追い出されたのじゃ。*6

 

 

   ○●○●○●

 

 

 さて、では何か仕事でも、と思うてギルドの受付にやって来れば、まるでさまよう鎧(リビングメイル)のような風体の冒険者が、ゴブリン退治の報告をしておった。

 ……受付殿の気分がよさそうじゃのう。手前(てまえ)の時とはえらい違いじゃ。

 鎧の方は銀等級のようじゃが、確か昨日、剣士一党を助けてくれた者じゃったか。小鬼を殺す者、ゴブリンスレイヤーと言ったはず。

 

 ……ふむ、ゴブリン退治の専門家なら、ちょっと疑問に思ったことを聞いてみるかのう。ちょうど報告が終わったようじゃし。

 

「小鬼殺し殿、ちょっとよいか?」

 

「なんだ。ゴブリンか?」

 

「まあそうじゃ。例えば、ゴブリンの死体が高く売れるなら、ゴブリンはいなくなると思うかの?」

 

「程度によるだろう。だがゴブリンを高く買うモノ好きがいるとは思えないから無意味な仮定だ」

 

「……なるほど、まあそうじゃの」

 

「ゴブリンを殺して生計を立てる冒険者を増やす方法を考えるのは、良いことだと思う。俺はその時間でゴブリンを殺すが。ほかになければ行く」

 

「ふむ、参考になった。ではの」

 

 

 ずかずかと歩いて、小鬼殺し殿は去っていった。

 

 ……ふうむ。ゴブリンを根絶やしにするには報奨金でも出せばよいと思ったのじゃが、当然、誰が出すのかという問題があるのよのう。

 そもそも、ゴブリン自体は何の価値もないただの害悪じゃからのう。いや、価値がないからこそ、なおさらたちが悪いと言える。腕のある狩人は、どうせ狩るなら、もっと旨みのある獲物を狙うはず。

 何か価値を持っておれば、もっと昔に狩りつくされておるじゃろうし。

 小鬼が役に立つのは、小鬼を呼び出す呪文の触媒にするときくらいか? しかしわざわざ小鬼を呼び出す魔術師がそう多いとは思えぬし、需要は限定的じゃ。

 

 まあ、良いわ。もう少し考えてみるかの。

 

 それより今は目先の金じゃ、金を稼ぐのじゃ!

 

「受付殿、呪文を使わずに済む仕事で、何かいいものはないかの?」

 

「あ、半竜の……。もうお身体はよろしいので?」*7

 

「まだ呪文は無理であるが、身体を動かす分には平気じゃ。それに、さっき武器防具を整えるのに金を使ってしまってのう。このままではお昼が携帯食になってしまう」

 

「なるほど……それなら、やっぱり、竜の死体の片づけですね」

 

 まあ、そうなるわな。

 

 

   ○●○●○●

 

 

 街の門を出て、やってきてみれば、街道のわきが解体場になっておった。

 

 内臓はもうあらかた取り出されておるな。どうも氷の術が使える者を呼んで、凍らせておるようじゃ。鮮度の良い竜の肝など、滅多に手に入るものでもないし、給金を弾んで雇ったのであろ。

 

 解体には大きな薙刀のようなものを使っておるのう。なんぞ見覚えがあるから、手前(てまえ)が分捕ってきた魔法付与された長物を、家主たる艶やかな魔導師殿が貸し出しておるのかもしれん。如才ないことよ。

 確かに竜を解体するには、竜鱗を斬り裂ける魔法の武具でもないと厳しかろうしな。

 

 で、手前(てまえ)は積み込みやら手伝えば良かったんじゃったかの。

 お、あれは……。

 

「おーい! 一昨日の剣士殿ではないか! それにその連れの拳士嬢も! お主らも竜の片付けに来とったのか!」

 

「……んお? おお! 半竜の姉ちゃんじゃん! 一昨日の飲み会ぶりか! あのピカピカ光ってたやつまたやってくれよ!」

 

「あなたもこっちの手伝い? もう動いて大丈夫なの?」

 

 ゴブリン退治に餞別を渡した一党の、鉢巻きした剣士と幼なじみとかいう女の武闘家じゃ。

 荷運びをやっておるのな。

 

「剣士殿よ、あれは宴会芸ではなくて、活力をもたらす回復の祖竜術じゃて。拳士嬢は心配ありがたく、動く分には平気じゃ。まあ、この竜は一応手前(てまえ)が狩ったものじゃし、後始末もやらねばな。それに賄い飯も出ると聞いての」

 

「最後のが本音でしょ」

 

「ばれたか」

 

「まさかまた全財産使い切ったのかよ」

 

「そうじゃとも!」

 

「胸張って言うことじゃないでしょ。まあ、おかげで私たちは助かったんだけどさ」

 

 ははは、と笑いながら三人で荷の積み込みをやる。

 

「あ、そういえば半竜の姉ちゃん! あの因果を越えるための祈りって、話半分じゃねえかよ!」

 

「そうそう、あんまりに難しかったり、逆に簡単すぎる冒険だと、そういう因果を捻じ曲げる奇跡は起きないって!」

 

「そうなのかの? でも蛇の目を覆せた場面があったのであれば、きっときちんと準備したことで、その頑張りをお主らを見守る神々が認めてくれたということじゃろう。準備せねば、因果を覆す祈りも使えぬ難所であったかもしれぬのだから、お主らの努力の賜物よ。誇るがよい」

 

「確かに、無策で突っ込んだら酷かっただろうから、頑張った私たちに神さまが慈悲を垂らしてくださったのかもね」

 

「くっ、なんかいい話風で納得しちまう! 意外と口が回るな!」

 

「意外とは失敬な。手前(てまえ)は天才じゃて当然じゃ」

 

 賄い飯を食べて、作業の続きじゃ。

 

 そして、手前(てまえ)が鉢巻きの剣士殿の倍以上の荷を一気に運んで驚かせたり、一昨日に投降するときに落とした【竜牙刀】を永続化させた格闘用の爪の武器を拾って拳士嬢にプレゼントしたり、そのお返しに拳士嬢に武術の稽古をつけて貰う約束をしたりした。*8

 

 尻尾のあるなしの違いはあるが、只人の武術も多少は参考になろう。手前(てまえ)は他の蜥蜴人と比べて顎が大きくないから、蜥蜴人の武術で使えぬ技もあるし、それを補うヒントでも貰えるかもしれん。それに、気の運用だとかの基礎はそれほど違うまいし、何より稽古の相手がいるというのは得難いことじゃ。武術の鍛錬も楽しみじゃのう。

 

 ここにいない眼鏡の魔術師嬢は次の冒険に備えて怪物図鑑を読み込んだり、空いた時間に代書の仕事をしているとか。

 都の学院の知識というのも気になるのう。

 

 地母神の神官嬢は、ゴブリンスレイヤーに付いて、ゴブリン退治じゃとか。なかなかの修羅じゃ。一番見込みがあるのはこやつかのう?

 ふむ、ゴブリンスレイヤーは受付殿に頼りにされておるようじゃったし、小鬼殺しの専門家と一緒なら全快でなくとも冒険を許してくれたりせんかのう。

 先達の技を見るのも、また修行となろうし、意外と良いアイディアなのでは?

 

「半竜の姉ちゃんはさー、次の獲物はどうするんだー?」

 

「魔神とか? それともまたドラゴン?」

 

「いや、ゴブリンにでもしようかと」

 

 そう言うと、剣士殿と拳士嬢は、目を丸くしておった。

 

「いまさらゴブリンなの?」

 

「そんな良いもんじゃないぞ? まあ、また村から依頼があったら助けに行くけど」

 

「お主らはゴブリン退治をすでにやったからそう言うがの? ゴブリン退治したことない冒険者がいたらどう思う?」

 

 水を向けると、二人は顔を見合わせた。

 

「そりゃ、『冒険者たるもの、ゴブリン退治くらい経験しとけ』って言うさ」

 

「そうね、そう言うわね。準備をしっかりするようにってアドバイスはするけど」

 

「つまりそういうことじゃ。合戦でゴブリンを殺したことはあっても、手前(てまえ)はゴブリンの巣に押し入って皆殺しにしたことはないのじゃよ」

 

「……そういうことなら、やってみた方がいいわね」

 

「であろ?」

 

 などと話しておると、あっという間に夕暮れよ。

 

 これから街に戻り、浴場で埃を落としたら、ギルドの酒場で夕飯じゃ! 艶やかなる魔導師殿とついでに槍使いの御仁とも待ち合わせしとるのじゃよ。

 まあ、お邪魔なようじゃったら適当に抜けて拳士嬢たちの方にでも混ぜてもらおうかの。

 

 さて浴場も夕飯も明日のことも、楽しみじゃのう!

 呪文が使えるまで回復して、改造に出した装備も戻って来れば、次はようやく冒険じゃ!*9

 

*1
ナナシ「回復早いなあ。さすが種族最高峰の天才なだけあるわ」

*2
ナナシ「これ完全に保護者だ!」

*3
ナナシ「これ完全に鍵っ子だ!」

*4
ナナシ「TASさんだけのせいじゃないと思うけどね。あ、まだ詩人に歌われていないので【辺境最凶】の称号は取れてないです。……え、【辺境最凶】より【辺境最大】を有名にするって条件もプラスされるの? マジで?」

*5
ナナシ「半竜娘ちゃん中二病だからなあ」

*6
ナナシ「残当」

*7
ナナシ「いま『半竜の……()()()』とか続けようとしませんでした?」

*8
ナナシ「呪文が使えたら、巨大化して荷運びして【辺境最大】ポイントを高めるチャンスだったんだがなあ。まあ、明日以降もチャンスはあるさ」

*9
ナナシ「それでは今回はここまで、また次回!」




装備の改造はGMと相談してやりましょうね。

・司教服はキラキラしてなんぼなので隠密性は「悪い」のままですが、静音性は増しました。(【擬態】時に隠密判定ペナルティーの緩和)

・尻尾用の防具が準備できたので、尻尾で盾受けできるようになりました。尻尾攻撃も出来ます(単なるフレーバー要素。行動回数が増えたわけではない)。(判定は盾攻撃扱いとするため、竜の末裔の効果は乗らず、殴属性攻撃扱いです。また、両手の大籠手は盾攻撃とは扱わず、素手攻撃の裁定としています)


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8/n ゴブリン退治に行こう!

冒険者登録4~10日目あたり。

先ずはスタンダードなゴブリン退治だ! GMにメタられる前に気持ちよく技能をぶん回せ! いくぞー! デッデッ(ry

(ゴブスレTRPGの継戦カウンタや消耗カウンタは、CoCのSAN値的な位置のリソースという考察を読んでなるほど、と思ったり)


「ゴブリンだ」

 

「うむ、準備は終わっておる」

 

「行くぞ」

 

 そういうことになった。

 

 

 

 ……いや、ゴブスレさんと半竜娘ちゃんを組ませると話スムーズで良いけど、ちょっとそこに至るまでとか解説させてね?

 

 ほら、女神官ちゃんも置いてけぼりだよ?

 

 

  ▼△▼△▼

 

 

 では気を取り直して。

 

 はいどーもー、蜥蜴っ娘に【辺境最大】を目指させるゴブスレRTA実況はーじまーるよー!

 【辺境最○】系の称号目指してるのは、辺境最速の女槍使い(K U M O神様)とか偉大すぎる先駆者がいますが、辺境最大を目指してるのは今のところうちの半竜娘ちゃんだけなので、完走すれば自動的に世界記録です。

 

 ……嘘です、TASからの引き継ぎなので、参考記録にしかなりません。ですが、面白くできるよう頑張るので(半竜娘ちゃんが。)、みなさんも一緒に見守ってくださいませ!

 タイマーはTASさんがつけっぱなしにしてたので、ゲームスタートから数えられています。トロフィー【辺境四天王】の獲得と同時にタイマーストップとします。

 

 半竜娘ちゃんには、装備の改造が終わるまでの間に、いろいろな雑用依頼を受けて貰いました。

 

 それにあたって何より大きかったのは、療養開始から早くも三日目にして、呪文が再び使えるようになったことです。

 さすがはマーベラスでパーフェクトでジーニアスな半竜娘ちゃんです。

 

 発動が安定しさえすれば、RTAにおいては人権となるであろう呪文【分身(アザーセルフ)】が使えるようになったため、効率が単純に二倍になりました。GM泣かせの壊れ呪文もいい加減にしろ!

 

 生み出した分身は、大きなダメージを受けない限りは1日持ちますし、術者が操作するので分身が得た記憶も還元されます。

 休息により分身の呪文使用回数も回復するので、夜中に【分身】を呼び出して、分身も本体も寝かせとけば、朝には呪文使用回数が最大まで回復した半竜娘ちゃんが二人になってるというわけです! その回数は、合わせて14回! 分身にだけ呪文を使わせて、本体は分身が呪文を使い切ったら消して作り直すことに専念すれば、合わせて29回は使えます、多分。

 半竜娘ちゃんは、分身のこの運用のために寝床を二つに増やしました。

 

 自分の身体が二つあるとか、常に使っていると(ドッペルゲンガーを見たら)精神を病みそうな(死ぬ系の副作用がありそうな)呪文ですが、半竜娘ちゃんは魂魄点がかなり高いので、病んだり発狂したりはしませんでした。

 魂の強度が足りてる!

 

 

 そして改造を依頼した装備が戻ってくるまで、半竜娘ちゃんには、いろいろと街の中でできることをやって貰いました。目標達成のためには、評判が大事なのに、現状はTASさんのやらかしでマイナスからスタートですからね。

 リカバリーを頑張らないといけません。

 

 やってもらったのは主に、

 ・竜の死体の処理、

 ・教会での治療の手伝い、

 ・女武闘家や重戦士一党との稽古、

 ・ギルドの手伝い、そして

 ・魔女さんの家での真言呪文の勉強です。

 

 他には細々とした日用品や家具の買い出しもですね。寝床増やしたりとか。

 

 

 竜の死体の片付けでは、要所要所で体力増強の指輪+3を付けて【巨大】化して怪力を発揮し、さらに【加速】して倍速で手伝ってもらいました。竜の死体をひっくり返したりして、人間起重機として活躍し、また、【辺境最大】としての名声ポイントも高められたんじゃないかな?

 あとは竜牙兵を出して人手を増強したりもしました。竜牙兵がよってたかって竜を殺してたところしか見てなかった冒険者たちにも、竜牙兵くんたちが意外と愛らしいことをアピールできたと思いますよ!

 

 教会での手伝いでは、【小癒】や【賦活】の特技を生かして、決して血に飢えた獣なだけではない(血に飢えた獣なのは否定しない)活躍ができたと思います。女神官ちゃんともその伝手で少し仲良くなれましたし、シスターから女神官ちゃんが良くない冒険者とつるんでるんじゃないかという相談をされたりもしました。あの人(ゴブスレさん)は銀等級だから平気だって!

 また、異教の神殿でも大人しく働いたことで、理性的な者であることをある程度は証明できたかと。

 

 もちろん訓練も必要です! 武術訓練として女武闘家と組み手したり、投擲武器の修練をしたり、重戦士さんたち一党とも手合わせしてもらったり。これでかなり、武道家としての腕前も磨かれ、急に生やした職業技能(武道家Lv6)も定着したはず!

 

 着々と冒険の準備が整っていきますねえ!

 

 ギルドで受付嬢さんの手伝いをしたり代書したりもしました。おかげで、礼儀作法もそこそこ身についてきたかと。【辺境四天王】のトロフィーのためには、最速で銀等級にあがる必要があるので、最初にやらかしたリカバリーのためにも、礼儀作法はかなり重要ですからね。

 

 ああ、でもゴブスレさんに対して、受付嬢さんから見えるとこで【賦活】の祖竜術を使ったのはマズかったかも知れません……。受付嬢さんの想い人であるゴブスレさんの疲労を消してあげれば、受付嬢さん(職場の上司)からの好感度が上がるって思ったんでしょうねえ。

 でも強壮の水薬(スタポ)の存在意義をなくすような行動は、かなり地雷踏んでます……。ゴブスレさんの疲労が消えれば彼が死ぬ危険も下がるのは確かなので、受付嬢さんの好感度はプラマイゼロでしたが、かなーり複雑な葛藤を内心にはらんだ顔で半竜娘ちゃんを見てたのは怖かったです。

 まあゴブスレさんの疲労は【賦活】では全部は消えなかったので、スタポの出番もあったんですけどね。ゴブスレさんブラック過ぎんよ~! でも受付嬢さんの機嫌直ってよかった(小並感)。

 

 なお、冒険帰りの他の冒険者(バケツヘルムも居たような?)からも、【賦活】の術をねだられたりしたので、先着五名で初回一回はタダでやってあげましたよ。善行を積まないといけないのでね。名目は「術の修行」ですので、教会の領分を侵してるかどうかはギリギリグレーで、グレーということはセーフです。

 まあ、地母神教会からなんか言われても、宗派が違うので無視すればいいんですが、銀等級目指すなら教会とも友好的であるべきですから、余計な波風は立てないに限ります。

 というか、どこの勢力が依頼人になるか分からないので、無闇に喧嘩売るもんじゃないです。

 

 だいたい昼間はそんな感じでいろんなところの手伝いをしつつ、夜は魔女さんの蔵書を紐解いたり、魔女さんが家にいるときは一緒に真言呪文の研究や祖竜術との違いを議論をしたり、呪文の手解きして貰ったり、竜司祭が学ぶ科学*1について話したり、夜食を作って一緒に食べたりしてました。

 研究が行き詰まったときの気分転換に、一緒に公衆浴場に行ったりもしてましたねー。半竜娘ちゃんのお風呂道具は、鱗が硬いせいか、スポンジとかじゃなくて、束子(タワシ)というかでっかい歯ブラシみたいなやつになるんですよね。これから風呂掃除でもするのかな? ってくらい大きくて、種族ごとの違いも見えておもしろいですね。でも、そのあと香油を染みさせた絹の端切れで鱗を磨き上げるのは、半竜娘ちゃんもやっぱり女の子ってことですね。手の届かないところを魔女さんに磨いてもらって気持ちよさそうにしてるのは尊い。最近尻尾の動きが器用になったから実は自分で磨けるのに、それを伝えずわざわざ魔女さんに磨いてもらうのなんかは、なおさら良い。

 

 魔女さんコミュを深めたおかげか、半竜娘ちゃんも、真言(トゥルーワード)を、一小節だけで使う技術を身に付けましたし、印を結んだり陣を書いたりして詠唱なしで真言呪文を使う(すべ)を会得しました。沈黙対策は基本。あとは、実戦のときとっさに使えるように練り上げるだけです。

 

 そして、まったりと地道な活動をしているうちに、いよいよ武器防具の改造も終わり、出来上がったものを受け取ったので、ようやく冒険に出かけられます!

 

 

 行くのはもちろん、ゴブリン退治です!

 

 

 受付嬢さんに、分野は違うもののRTAの大先輩である小鬼を殺す者(ゴブリンスレイヤー)さんを紹介してもらうように頼みましょう。

 実際、半竜娘ちゃんはまだ白磁等級ですし、まともな都市外の冒険はこれが初めてですし、ヤクの後遺症は抜けきってないので、先達に導いてもらう方がいいと思います。

 ただ、理由がそれだけだとゴブスレさんに断られる可能性がある(体調不良な者で高価な装備持ちを連れてくのは死亡から装備奪われてゴブリン強化のリスクがある)ので、資金力ぅにものを言わせて、護衛と教導の依頼ということで、ゴブスレさんに指名依頼を出します。要は、ゴブリン退治に連れまわしてってもらうだけなんですが。

 あ、お金は、古竜討伐の報償金が入ったので潤沢に……、いや装備引き取るときの精算や魔女さんに借りてたのを返したりで結構減ったので潤沢とは言いませんが、まあ、そこそこレベルであります。

 

 なおGM(慈母竜さん)が、初心者にマンチの遣り口を学ばせるのは禁忌(NG)みたいなこと言ってますが、やんわりと無視します。

 ここでは必ず、半竜娘ちゃんにゴブスレさんのマンチ的なスタンスを学んでもらいます。目標は違えどRTAを走ってる大先輩の思考パターンを盗むことで、半竜娘ちゃんも思考や行動を最適化してもらいます。そうしないと、ほぼオートで動いてもらってるこの【辺境四天王】RTAでは、かなりのロスが生まれる可能性が高いですからね。

 

 というわけで、冒頭のやりとりを経て、ゴブスレさんとともに、ゴブリンをぶっ殺しにやってきました。女神官ちゃんも来ています。

 

 え、なになに? この洞窟は脆そうだから発破して生き埋めにする?

 あ、だから火薬を持ってきてたんですね。

 

 ほーん、なるほどね(ゴブスレマインド注入(インストール)中)。

 

 女神官ちゃんは、さすがにそれはちょっと……と言っていますが、今日はこのあとも他のゴブリン退治が入ってるので、パパッと片付ける必要があります。

 むしろここは本命に行く途中の通過点にちょうど巣があるっぽかったので寄っただけですので、オマケでしかないです。

 

 ……ここで半竜娘ちゃんには、洞窟を潰すのは自分がやる、と立候補してもらいます。

 具体的にどうしてもらうかというと、【分身】に、真言呪文【巨大】【加速】を使わせ、さらに祖竜術【突撃】で洞窟に突っ込んで崩落させます。その際に、本体は真言呪文【力場】でレールを敷きます。

 最低でも呪文使用回数を分身で3つ、本体も1つ消費します。しかし、分身は作り直せばいいので、実質的なリソースの消費は本体が【力場】作成と【分身】再作成する2回分と、リソース減った状態でコピーされた分身は1回分呪文使用回数が減ってるので、合わせると3回です。

 

 さてまずは【加速(ヘイスト)】をかけます。これにより、移動力が二倍になり、クロックアップされることで全ての行動が成功しやすくなります*2

 

 そして【巨大(ビッグ)】の呪文により、巨大化します。倍率は*3……三倍ですね。移動力や体格が三倍になり、装甲や威力に+5のボーナスを得ます。持続は6ラウンド。

 

 【突撃(チャージング)】の祖竜術は、助走距離の20%の値がダメージボーナスに乗りますので、助走距離を伸ばすため、移動力を下げている装備を外します。司教服と触媒入れですね。いきなり脱いだ半竜娘(三倍巨大化分身)に女神官ちゃんが顔を赤らめますが、必要なことなので仕方ないね。

 これで、半竜娘ちゃん(分身)の移動力は、144となります。【突撃】による助走は、最大で移動力の三倍となりますので、最大威力のためには距離432の助走が必要です。洞窟まではまだ距離20ほど離れていますので、残り距離412の分の助走路があれば最大ダメージボーナスが乗ります。

 

 なので助走路を、【力場(フォースフィールド)】の呪文で作り出す必要があります。

 【力場】の呪文により、半径16.4ほどの円周状の、幅1弱のループレールを縦に、まるでジェットコースターのように敷きます。これを四周して突っ込めば、ほぼ最大威力となりダメージボーナス86が乗ります。

 

 そしてその明晰な頭脳で一瞬で距離の計算を終えた半竜娘ちゃん(本体)が、準備のために【力場】によるレールを作り出します(大失敗ではなかったので発動しました)。

 

 準備が整ったので、いよいよ【突撃】で洞窟を崩落させる段に入ります。

 【突撃】による威力は……*4120です。ひゃくにじゅう?

 上位魔神の生命力が85なので、まともに決まれば上位魔神もバラバラに吹き飛びますね。城壁もまるでスポンジでできてるみたいに突き抜けるでしょう。

 そもそも、相対した状態からではこんな悠長に準備させてくれないでしょうからロマン技の域を出ませんし、相手に受け止められると転倒して威力と同じだけの反動を受けるので死にますが。(奇襲のためには、【擬態】の祖竜術も重ねて、光学迷彩したステルス怪獣が突っ込むようにしたほうが良いかも知れません)

 

 火の秘薬でのダメージは、半径3メートルに1D6ダメージなので、その程度で崩れるような洞窟に対しては、明らかにオーバーキルです。

 

 ともあれ、半竜娘ちゃん(三倍巨大化分身体)は、魔法の力場でできた縦のループレールをものすごい勢いで四周したあと、目にも留まらぬ早さで、魔法の光を纏って、洞窟のあるあたりへ突撃しました。つきぬけろーー!!

 

 だんちゃーく、いま!!

 

 大砲が打ち込まれたにしてもそうはならんやろ、というくらいに土砂が舞い上がり、衝撃波が広がりました。やべえ、やべえよ、ゴブスレさんと女神官ちゃん無事か? あ、本体の半竜娘ちゃんがきちんと庇ってますね、さすが。

 

 恐ろしいのは、【巨大】の呪文による巨大化倍率が三倍でこれということです。もう一段上の五倍拡大や、最大の十倍拡大で突撃したら、いったいどうなってしまうんでしょうね?

 

 でもまだ生き残りがいるかも知れないので、分身ちゃんに追撃させます。【巨大】の持続ターンは残り4ラウンド。分身ちゃんの魔法使用回数も残り4回。【加速】を維持するのはよほど運が悪くない限り問題ないでしょう。*5

 本体の方で、必要な距離を再計算し【力場】のレールの半径や傾きを調整します。

 

 「やるときは徹底的に、じゃろ? 小鬼殺し殿」と言わんばかりに、分身ちゃんの方が【突撃】を再度発動します。

 猛スピードで一度元の場所の方に戻ってきて、本体の半竜娘ちゃんがそこに敷いた、斜めに傾いだ【力場】が宙空に形作る円周レールを駆け抜け、またそこを何度かループして助走距離を稼ぎ、洞窟跡地へと再び向かい、『着弾』します。*6ダメージは114。

 

 続いて三回目、四回目、五回目と同様にして 連続突撃です。それぞれダメージは、116、110、116でした。(加速状態の維持は問題ありませんでした)

 五回の突撃(グォレンダァ)で総ダメージは576。固定値の暴力!!

 洞窟があった場所には、深いクレーターが穿たれています。

 

 ……もしかして、わたし、やっちゃいました?

 

 はい、ゴブスレさんに、威力は事前に教えておけと叱られました。

 ですよね。でもここまでとは思わんやったのや。実戦投入は初めてだったので。

 

 下手人(半竜娘ちゃん)は、だめ押しに追加で4回も突撃したのは反省しているが楽しかったのでまたやる、などと供述しており……。

 そりゃ女神官ちゃんも度し難い阿呆を見るような目で見てきますわ。

 

 まあ、ゴブリンは……いや、生き残ってないでしょ、さすがに。

 一応、五回目の突撃後に自由行動で地団駄踏んで念入りにあたりを均して潰しておきましたし。

 

 死亡確認!!

 

 

 はい、次に行きます。

 

 分身ちゃんは一回消して、また作り直しています。しかし本体の消費二回(【力場】とリセットした【分身】の分)であれだけの威力出せるのは良いですね、何より固定値が乗るのが素晴らしい。状況によっては、同じ呪文使用回数の消費なら、普通にブレス連撃したほうが良いときもあるでしょうが。

 

 さて、次の巣ですが、さっきの巣よりは大規模で、トーテムもあるのでシャーマンが居るようですね。

 同じ手法で潰しても、巣が大きいので全体を潰せないかもしれません。50匹以上は居そうです。

 専門家(ゴブスレさん)の言葉によれば、時間経過的にもう捕虜の生き残りは絶望的だろうとのこと。

 

 それでえ、ちかくにい、い~い川がぁ、流れてるっしょ?

 そして、ゴブリンの巣の方が低地みたいですねえ。

 

 あっ(察し)。

 

 巨大化して土木工事して今日はおしまい!

 また明日! 見張りしてくれるゴブスレさんに【賦活】を撃って、分身を出し直して、分身とゴブスレさんで手をつないで【狩場(テリトリー)】を発動させて、洞窟の出口を塞ぐように結界を配置できるような位置にキャンプして就寝! 分身ちゃんは、洞窟からゴブリンが出てこないように見張るゴブスレさんと一緒にいてもらいます。

 本体も女神官ちゃんと手をつないで別に【狩場】の結界を作り出します。これで、ゴブスレさん(と分身ちゃん)が別行動しても、こっちの結界は維持されるので実際安心ですね。

 女神官ちゃん! 一緒に寝ようぜ! そんな怖がらないで!?

 

 Zzz。。。

 

 おっはー!

 夜に何匹かゴブリンが洞窟から脱出しようとしてたみたいですが、でも結界に阻まれて出られませんでしたし、気付いたゴブスレさんがすぐにスレイしたため、問題ないです。

 半竜娘ちゃんと女神官ちゃんはぐっすり寝ることができて、回復に支障はありませんでした。

 

 さて、一夜明けて……。見事に洞窟が水没していますね。

 ゴブスレさんは夜通し起きていたので、分身ちゃんから【賦活】を連打した上で、少し仮眠をとってもらって、これから残敵が居ないかの確認です。

 分身ちゃんは再作成しておきます。呪文使用回数は六回ずつになっちゃいますが、ゴブスレさんが仮眠してる間に【祈祷】して七回まで回復しておきます。時間は昼前くらいになりました。

 

 さて、女神官ちゃんが作ってくれた少し遅めの朝ご飯を軽く食べたら、残敵確認にいきましょう。

 

 おっと、抜け道というか、洞窟の天井に穴があいてたところがあったようです。他に抜け穴は無かったみたいですね。

 中でぎゃあぎゃあと水に浸かったゴブリンがうるさいですねえ。上がってはこれない模様。

 お、毒を使うんです? ならバッチェ任せてくださいよ。毒のブレス出せます!

 

 穴の開口部から、毒ブレスを吹き込みます。*7

 ブレスによるダメージが24で、ポジったら手番ごとに1D6の毒を受けます。ホブでもまあ死んでるでしょう。

 でも念のためもう一発いっときましょう。*8

 二発目は30ダメージ毒ブレスと1D6の継続ダメ毒でした。さすがにこれで良いでしょう。

 

 しかし、こんなに地形変えていいんだろうか。一応、下流側も工事して、元の流れに合流させておきます。そうしないと、下流の村が水不足になる可能性がありますよね。

 

 ていうか、ゴブスレさん、すっかり半竜娘ちゃんを重機として活用してますね。

 半竜娘ちゃんにも、ゴブスレさんをお手本に、この使えるモノは何でも使う姿勢を学んでいただきましょう。

 念のためもう一日だけ様子見して、討ち漏らしがないことを確認してから帰ることにします。

 

 あと、実際に巣穴に押し入るのも経験したいのですが、ゴブスレさんが、近くにちょうど良い洞窟を見つけてくれたみたいなので、もう1日水没洞窟を様子見する間に、そっちにも行きます。

 女神官ちゃんは、指輪を体力増強に付け替えた半竜娘ちゃんが担ぎます。そっちの方が早いので。

 

 では、ゴブリンをスレイしに押し入ります。ホントはゴブリンにとっての『夜』にあたる時間は警戒が強いため、襲撃に向くのは夜明けや夕暮れなのですが、時間の都合で突入します。

 先頭は半竜娘ちゃん(本体)にします。指輪を技量強化に切り替え、体術強化の腕輪を着けて回避を強化します。訓練のため魔法なしで行きましょう。

 事故防止に、女神官ちゃんには、分身ちゃんが【竜血】を介して【擬態】の効果を与え、光学迷彩状態にします。

 なお、罠はあったとしても漢探知で踏み抜きながら切り抜けます。蜥蜴人って頭良い奴でも、だいたい罠を踏み抜きながら行くのですよね、罠は食い破ってこそという美学。

 まあ、あとでゴブスレさんから迂闊に踏むなとお叱りが入るので、矯正されるのを期待しましょう。

 

 鳴子を踏んだのでゴブリンが集まってきましたが、継戦カウンタと引き換えに殲滅します。よっぽど疲労してるか、大失敗(ファンブル)出さない限りは掠りすらしません。踏み込みが足りん!

 そしてそのままクリア。

 ホブも呪術師も居ませんでした。たいしたものもありませんでしたし、捕虜もいませんでした。数は全部で21匹。

 こいつらは多分、さっきの水没した巣から、水没する前にすでに追い出されていた奴らだったんでしょうかね。

 

 とりあえずこれでゴブリン殺しツアー1回目は大体おしまいです。2回目以降は未定です。

 あとは、水没洞窟の様子を翌日まで見てから、街に戻るだけですが、結論から言うとイレギュラーは無かったので、無事に街に戻れました!

 

 今回はここまで。また次回!

 

*1
蜥蜴人は、進化や遺伝子の螺旋構造、物理について造詣があるようなので、そこそこ高度な科学知識を持っていると想定

*2
加速の達成値:呪文基準値18+2D6(出目は4,5だったため9)-2(後遺症)=25。発動成功。呪文を維持する限り達成値に+3のボーナス。

*3
巨大の達成値:呪文基準値18+加速ボーナス3+2D6(出目は2,2だったため4)-2(後遺症)=23

*4
突撃達成値:基準値21+加速ボーナス3+2D6(出目は5,4だったため9)-2(後遺症)=31となるため、ダメージ算出は次の式:助走距離の20%(86)+竜司祭レベル9+5D6(出目は5,2,6,2,5だったため20)+5(巨大化)=120。120ッ!? いやでもブレス四連打(9+4D6)×4で振って90出たから、まあそんな不思議でもないのか

*5
加速の維持目標値は20:呪文基準値18+加速ボーナス3+2D6(出目は4,4だったため8)-2(後遺症)-4(主行動消費による維持判定ペナ)=23で、維持成功。

*6
達成値25 威力86+9+4D6(6,1,1,6→14)+5=114

*7
竜息/毒 達成値28(21+2D6(6,3→9)-2)のため、竜司祭レベル9+4D6(3,4,5,3→15)=24ダメージ、毒1D6(3ラウンド持続)

*8
竜息/毒 達成値25(21+2D6(5,1→6)-2)のため、竜司祭レベル9+4D6(6,6,6,3→21)=30ダメージ、毒1D6




加速、巨大、力場、突撃のコンボは今後も多用する予定です。(加速は分身と本体であらかじめお互いに掛け合っておくのもありです。効果時間に限りがなく、維持する限りは持続する魔法なので)

これで半竜娘ちゃんに、ただ単にガタイがでかいという意味の【辺境最大】だけでなく、【辺境最大】のダメージディーラーへの道が開けたのではないでしょうか。

なお、力場によるウイングロード敷設担当を別に用意することで、本体も攻撃に加われるようになるため、瞬間火力はさらに二倍になる模様。(ただし()けると即死のため、分身に突っ込ませるのが安全)

本話の一連のゴブリン退治により、経験点1000点、成長点3点獲得。
ギルドの信用も徐々に取り戻しつつあります。


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8/n 裏

ゴブスレッスン1回目あたりの話。


1.公衆浴場にて魔女殿と

 

 かぽーん。

 

「はー、気持ち良いのー」

 

「そ ね」

 

 いま手前(てまえ)は、魔女殿と連れ立って公衆浴場に来ておる。

 いろいろと新たな祖竜術を修めることができたものじゃから、その性質について、家主たる艶やかなる魔導師殿と検討をしていたところじゃったが、行き詰ってきたので気分転換じゃ。

 

 例えば、毒の竜息における、「毒」とは何か、とかのう。短時間で消えるならば、おそらく物質的な毒ではない。となれば、呪的な毒、概念的な毒ということになるが、それは果たして一定不変の性質なのか、あるいは燃えるのか、逆に火を消すのか、とかの。融通が利くのであれば、麻痺や爛れの毒も造れるかも知れぬが、それにも一定の知識が必要なように思われる。

 まあ、結論としては、知識を集めて精進し、あるいは実際に毒を身に受け体得し、竜息の術に熟練し、実際に試してみることじゃな。

 

 理屈をこねるのも大切じゃが、確かめるには実験あるのみじゃもの。

 

 しかしそれにしても。

 

「うむむ。大家殿を見ておると、手前(てまえ)の駄肉も、もうちょっと有効活用する術を覚えるべきかと思えてくるのじゃ」

 

「そ う? 貴女も、綺麗だと思うケド」

 

 そう言われても、家主の魔導師殿には及ぶまいよ。上気した肌と豊満な体は、同性であっても、異種族であっても見とれるほどのものよ。夢魔の加護を受けておると言うても信じるぞ。

 まあ、手前(てまえ)も鱗の手入れには気を使っておるし、この後も香油を塗り込むのに魔女殿のお手をお借りするつもりではおるが。

 しかし、家主殿の肌と肢体と物腰の艶やかさには比べるべくもない。

 

「まだまだ、貴女は、成人したて なんでしょう? これから、よ。がんば りなさい な」

 

「そうじゃのう、確かに、女ざかりはこれからじゃものな」

 

「そう よ」

 

 ふうと一息。そろそろ熱がこもってきたのじゃ。

 胸元や顔は只人の色が濃いとはいえ、ほかのところは鱗じゃし、体温調整はそこまで得意ではない。同胞には風呂を嫌うものもおる。よく気をつけねば、鱗が()びたりするしのう。気をつければ問題ないが。

 

 のぼせぬように、水でも一回浴びるか、もう上がってしまうかのう。

 分身の方も、家で夜食の準備をしはじめたようじゃし、風呂上がりのケアをしておれば、良い時間になろう。

 

「そうい えば。武術の氣と、真言の融合は、どう なったのだ っけ?」

 

「おう、真言ひとつと、ほかの技能の組み合わせじゃな。一応手品の類じゃが、こういうこともできるようになったのじゃ」

 

 ――ラディウス(射出)

 

 と、射出の真言を唱えて、発勁を同時に。

 裏拳ではじくようにして、宙を叩く。

 すると、拳の()()湯気がはじけた。

 

「へ え。()()()

 

「真似事じゃがの。おそらく武術の達人がやっておるものとは違う術理よ」

 

「で も。面白い わ。魔術師で、氣を使う人って、少ないから。考えついても、試せなかった、もの」

 

 まあ、珍しいだけじゃ。

 なんかの小技には使えるかもしれんが、実戦ではとてもとても。

 何せ、この遠当てじゃと、込めた氣の分しか相手に通らん。それに、氣を込めればその分疲れるからのう。

 

 真の武道家が使う、拳の威力をそのまま遠くに届かせるような奥義には、まったく届いておらん。

 

「……ま、いろいろ試してみるさ。その時は検証にお付き合いくりゃれよ。っと、そろそろのぼせそうじゃから上がるのじゃ」

 

「私はまだ、もう少し、入っている わ。あとで ね」

 

「……上がったら、香油を塗ってほしいのじゃ」

 

「ふふ、いいわ、よ。お返しに、私の髪にも、お願い ね」

 

 

 

  ●〇●〇●

 

 

2.ゴブリン退治にて(1)

 

 

 手前(てまえ)と分身とが真言を唱え、あるいは手印を切って世の理を捻じ曲げる。

 

 ――セメル(一時) キトー(俊敏) オッフェーロ(付与)――【加速(ヘイスト)

 

 ――セメル(一時) クレスクント(成長) オッフェーロ(付与)――【巨大(ビッグ)

 

 ――マグナ(魔術) ノドゥス(収束) ファキオ(生成)――【力場(フォースフィールド)

 

「【突撃(チャージング)】は通常は加速距離が72のところ、加速の真言によって二倍の144! 巨大によってさらに三倍の432! 走る道は力場によって確保! つまりこれによって、通常の六倍の効力の打撃力が上乗せされる! 刮目せよ! これぞ恐るべき竜の威力よ! ゆけい、わが分身よ!!」

 

「ちょっと! これ大丈夫なんですか!?」

 

「実戦投入は初めてじゃが! 問題はないぞ、地母神の神官嬢よ!」

 

「本当ですか!? って、わあ! なに分身の方を脱がさせてるんですか!」

 

「身軽にならねば最大威力が出せまいよ! そして十分な加速を行えば、堅牢な城壁すら破砕可能じゃ! 丘の洞窟程度なら問題ない! ()()()()な!」

 

「ちょっと!? 壊せるかじゃなくて、壊したあとどうなるかが――」

 

 そして巨大化した分身体が宙に敷かれた道を四度くるくると走ったと思えば、あっという間もなく洞窟の方へとすっ飛んでいった。

 直後、着弾。

 祖竜術を宿して輝く分身体が、洞窟のある丘をめくるように突っ込み、盛大に土砂を吹き飛ばした。

 

「うわっきゃああああ!?」「――これは」

 

 衝撃波が周辺の木々をメキメキとしならせ、見ていた女神官とゴブリンスレイヤーを襲う!

 

「おっと、すまんのじゃ」

 

 しかし、それを素早く滑るような武術の歩法で回り込んだ半竜娘が、その巨躯で遮った。

 

「……あ、ありがとうございます……って、全然大丈夫じゃないですよ! これ!!」

 

「む、また来るぞ」

 

「ええっ!?」

 

 抗議しようとした女神官だったが、ゴブリンスレイヤーの声にさえぎられた。

 周囲に気を回せば、また何か大きなものが走るような地響きが……。

 

「そう、我が分身体は! まだ4回の呪文使用回数を残しておる! ループターン用に【力場】の斜面(バンク)も設置完了! 残り4回、存分に参られいいいい!!!」

 

「参られい、じゃない! ひゃあ、あ、危ない! に、逃げましょう、ゴブリンスレイヤーさん!」

 

「そうだな」

 

「ふぅはははははあはははははあっはははっは!! 見よ! この力を!! 強靭! 無敵! 最強!! 粉砕! 玉砕! 大喝采ィィ!!」

 

「あの人はもうだめです! 完全にだめです! ダメな人ですよコレ!!!」

 

 

 ――のちに女神官が語るには。

 

『ええ、第一印象はやっぱり、怖い人、ですね、綺麗な顔ですけど、背は高いし眼光は鋭いし。

 その次は、やさしい人、ですかね。初めての依頼に行く私たちに、ぽんと銀貨を渡してくれましたし。

 でも、その依頼帰りに見たときは、ドラゴンの血でまみれてて、血に飢えた獣みたいな人なんだな、と。

 そのあと、何度か神殿で患者さんたちを治してるところにご一緒して、あれ、意外と話が通じる普通の人かも? って思ったんですけど……。

 

 え、今ですか。そうですね、頭の回転も速いし、頼りにはなるんですけど――ええ、度し難い人、だと思っています。』*1

 

 

 

  ●〇●〇●

 

 

 

3.ゴブリン退治にて(2)

 

 

 ずん、と音が響いて、川の流れの中に大岩がいくつも、間隔を置かれて投げ込まれた。

 ばきばきと周囲の木々が折られ、大岩に引っかかるようにさらに投げられる。

 さらに川岸が崩され、ついには川が堰き止められた。

 

「これで良いかのう、小鬼殺し殿」

 

「ああ、あとは巣穴の方の堤を切って、水を流し込むだけだ」

 

「そうか。ではそろそろ【巨大】の効果時間が切れるゆえ、術を掛けなおすまで暫し待たれよ」

 

「ああ」

 

 巨大化した半竜娘が、ゴブリンスレイヤーの指示に従って工事をしている。

 もちろん、橋を架けるとか、水利のための工事をしているとか、そういうことではない。

 ゴブリンスレイヤーがやるのだから、これは小鬼を殺すためなのだ。

 

(便利な術だな)

 

 ゴブリンスレイヤーは、巨大化した半竜娘を見て、そのような感想を抱いた。

 いつもであれば、自分で発破するなりで水を小鬼の巣に流し込んで殺すのだが、今回は同行者であり依頼人であり、言ってみれば生徒でもある半竜娘にその作業を手伝ってもらっている。

 先ほど粗相をした詫びも含めて、だという。

 

(古代の遺跡は、こうやって巨人の力を使って作ったものもあるのかもしれない)

 

 ゴブリンが住み着く遺跡には、古代のものも多くある。

 神代のものは、神々が作ったのだろう。

 しかし、それより時代が下っても、今の人族には到底作れそうにもないようなものも多くある。

 それはこのように只人の何倍も大きな巨人の力によるものだとしたら、多少は納得がいく。

 

 再び巨大化した半竜娘が、今度は堤を切って、そしてその辺から引っこ抜いた丸太でゴブリンの巣の方へ溝を掘っていく。

 ゴブリンスレイヤー自身も巨大化させてもらって手伝うということも考えたが、筋力を考えると、限られた【巨大】の呪文をゴブリンスレイヤーに使うのはもったいないだろう。

 半竜娘に使った方が効果的だ。

 

(やはり便利だ……)

 

 今回は半竜娘の依頼による教導――これも十分おかしな依頼だが半竜娘の本質が冒険者ではなく学者の類と考えればそう不思議ではない――だが、場合によってはこちらから協力を依頼することもあるかもしれない。

 

 

 

  ●〇●〇●

 

 

4.ゴブリン退治にて(3)

 

 小鬼殺し殿から一通り、ゴブリン退治の要諦や、小鬼どもの生態、その思考回路について学ぶことができたと思う。

 ただ、洞窟内での戦闘はまだ体感していないので、体験したいというと、小鬼殺し殿は素早く、小鬼の潜む洞窟を見つけてきてくれた。

 さすが場数を踏んでおるだけある。

 

「では、手前(てまえ)が先頭で入ることでよろしいな。分身は一番後ろで」

 

「ああ、それでいい」

 

「わ、私はどうすれば」

 

「後ろに通す気はないが、神官嬢は基本的に小鬼殺し殿の指示に従っていただければ」

 

「ほっ、そうですか」

 

「あ、念のため、【擬態(カモフラージュ)】の術は掛けさせてもらうか。地母神の神官嬢、こちらへ」

 

「??!」

 

 近寄ってきた地母神の神官嬢を確保する。そして、自分の爪で指先を切った分身が、その指から神官嬢に血を飲ませる。

 己の血に宿る祖竜の命の螺旋を媒介に、己にしか掛けられぬ祖竜術でも他者に掛けられるようにする【竜血(ドラゴンブラッド)】の術じゃ。

 同時に分身が、体表の光を捻じ曲げて風景に溶け込ませる祖竜術【擬態】を神官嬢に掛ける。

 

「ぺっぺっ! いきなりなにするんですか! って、ええっ、服が、体が!?」

 

「背景に同化する力を与える術じゃ。一時間は持つゆえ、これで見つかりづらくなるじゃろう」

 

「ゴブリンどもは鼻が利くが」

 

手前(てまえ)に寄って来てくれるなら願ったりじゃが、後衛に来られるのはいやじゃのう。しかし、臭い消しがあるわけでもなし」

 

「ないときはゴブリンの肝を使う」

 

「ほう。だがすまんが、今は無用に願いたい……」

 

「……そうか」

 

「心配はもっともじゃが、もちろん肉弾戦用に装備を変える。技量強化の指輪と、体術熟達の腕輪じゃ。この二つがあれば、小鬼どもの攻撃など当たらぬよ。それに本当に危なくなったら呪文を解禁する」

 

「……まあ、試してみるといい。総評は後で、だったな」

 

「そのとおり。まずは一通りやってみてからの方が、忠言も身に沁みようて」

 

「ああ、確かに」

 

 そうして洞窟に入ったが、やはり小鬼殺し殿の言うことは正しかった。

 次から次へと、小鬼がやってくる。

 

「GOOBBBBRRRR!!!」

 

「来おったか! だがのぉっ、貴様らの攻撃など見えておるわあ!!」

 

 臭いに惹かれてきた五匹の小鬼の集団。奴らにとっての『夜』に起きておったということは、これは見張りか?

 こちらは魔剤の副作用で身体がなまっているとはいえ、そうそう遅れは取らん。

 両手の爪を開いて小鬼ばらの群れに突貫し、【薙ぎ払い】を行う。

 

「GOB!?」「GROO!?」

 

 巻き込んだのは2体。

 どちらも閃いたわが爪を避けること能わず。

 頭蓋骨が輪切りになり、脳漿と血があふれ出す。

 

「GBBBRRRRR!!」

 

 残った三匹が一斉にとびかかるが、手前(てまえ)は一つ下がって回避。

 掠らせもせんよ、その程度の攻撃など。

 

 不利を悟ったか、三匹のうち二匹は逃げようとする。

 

「逃がすわけなかろうて。地に返るがよい」

 

「GRRR!?」「GRUUOO!?」

 

 逃げ腰の二匹へ向かって、壁を蹴って跳ねて近づき、両手の爪で【薙ぎ払い】。

 暴風のように回転しながら切り裂いて着地し、それと同時にゴブリンどもの胴体は輪切りとなって崩れ落ちる。

 

 残った一匹が遮二無二、せめて一撃とゴブリンスレイヤーの方へと行こうとするが、首根っこをつかんで引き戻す。

 

「お前はこっちじゃ!」

 

「GRRRIO!」

 

 そして今度は縦に真っ二つよ。

 

「ふむ、まあこんなもんかの。じゃが、数が多いと面倒くさい。これは水攻めや発破が正解じゃの」

 

 呪文を縛っておらねば、【竜息】で吹き飛ばすところじゃ!

 

「さて次、次。次行くのじゃ」

 

 蜥蜴人は【暗視】できるゆえ、松明はいらぬ。

 ふん? どうやら罠があるようじゃな。するとシャーマンか、その()()()()でもおるか。

 呼子か何かじゃろうが、かえって手間が省けて良いわの!

 

「罠とは小癪じゃ! かかってやるゆえ、出て来んか!」

 

 がらがらと大きな音が鳴り、にわかに洞窟の中の氣がざわめく。

 ふん、眠っていたものも起きたようじゃな!

 

「GGGBBBBRRRROOOO!!!」

 

 来た来た来おった、わらわらと!

 ひの、ふの、みの……十六!

 うち四つは弓持ち!

 

「やることは変わらぬわ!!」

 

 突っ込んで両の爪で【薙ぎ払い】!

 動きの良いのが二匹おるが、先頭に出てきたのが運の尽きじゃ。

 そのまま、撫で切りの輪切りじゃ!

 

 残り十四!

 

 弓が飛んでくるがすべて掴んで止める!

 こんなもの当たるか!

 

「って、貴様ら手前(てまえ)は無視か!? そんなに只人の女の匂いが気になるか!」

 

 前衛が侮りがたしと思ったら、後衛へと突っ込んでいきおる。

 神官嬢の姿は見えぬはずじゃが、嗅覚頼りか?

 じゃが行かせるわけがなかろう!

 だてに大きな体はしておらん!

 

「貴様らは後ろに戻っておれ!」

 

 脇を抜けようと来た小鬼どもを尾の一振りで弾き飛ばして押し戻す。

 それを隙と見たか、他の小鬼が掴みかかってきやがるが、逆に頭を爪で半分に抉ってやったわ!

 残り十二!

 

 次々と襲ってくる、または脇を抜けようとする小鬼どもを、掴んでは切り裂いて、あるいは投げ飛ばしてゆく。

 十、八、六!

 

「ぬっ、浅かったか!」

 

 そのうちの二匹、動きが雑になったせいか、一撃では終わらなんだ。

 じゃが、もう奴らは士気が崩壊して逃げ腰じゃ。

 

 ふん、逃がしはせんがの。

 地面に頭を擦り付けて許しを請う――ふりをして、隙を伺う小鬼の頭を氣を込めて蹴り飛ばし、頭と胴体を泣き別れさせる。

 

「小鬼など皆殺しよ!」

 

 四、二、一、零!

 これで全て殺したが……。

 

「存外に疲れるのう、これは」

 

 雑魚相手でも傷は負わぬが、疲労は貯まる。

 同じ規模の群れをもう一度相手にすれば、多少は息が上がり、動きが鈍るじゃろう。

 さらに倍では、途中で休憩を挟み、疲労を回復させる術かポーションがなければ戦いきれぬな。

 

「であれば、戦わぬのが上策か」

 

「そうだ」

 

「おう、小鬼殺し殿」

 

「まともに相手をする必要はない。罠も分かっているなら踏むな。相手に何もさせるな。道具や術を使え。よく考えろ、考え続けろ。想像力を武器にしろ」

 

「忠言痛み入る。そうじゃな、身に染みたわい」

 

 しかし、これは全く面倒くさい。

 こいつらを根絶やしにするには、並大抵のモチベーションでは無理じゃぞ。

 根本的に構造を変えねば、誰も積極的に小鬼を狩りつくそうなどとせんじゃろうよ。

 

 ああ、いや、小鬼殺し殿は例外か。

 銀等級――辺境最優、か。

 

 

  ●〇●〇●

 

 

 

5.リザルト

 

 

 ふうむ。

 何とかかんとか小鬼殺し殿の手腕は、一通りの触りのところを学べたかのう。

 

 いまの手前(てまえ)に足りぬものもいろいろとあると分かった。

 誰かとともに戦うとき、手前(てまえ)は前衛でも後衛でもいけるが、前衛に出るには後衛を守る技能がないのは良くないのう。

 術に頼らぬ道具も揃えたり、研究したほうがよさそうじゃ。道具を使えば、術よりは疲れない。その分、他のことに術が使えるわけじゃし。

 なにも一人ですべてやる必要があるわけでもないが、今のところ仲間の当てがあるでもなし。(艶やかなる魔導師殿と槍使いの御仁の一党? いや、あの二人の間に入るのは野暮じゃろ。助っ人に求められればまだしも)

 

 手を増やすのであれば、竜牙兵がおるが、あれは魔法は使えぬ。遠間(とおま)の対応が課題じゃ。

 分身も出せるのは一体だけ。

 それに属性対応が今の構成では少し不安じゃ。

 

 うーむ……。

 

 ん? なんぞ、あたりに光の粒が舞っておるような。

 

 これは……、まさか精霊か?

 

 

〇一般技能【精霊の愛し子(初歩)】を取得しました。(成長点1点消費)

 精霊たちが力を貸してくれやすくなるので、精霊術に触媒が不要になります。

 でも、精霊たちとは日頃から触れ合って、仲良くね。

 

〇職業【精霊使いLv1】を取得しました。(経験点1000点消費。成長点2点追加)

 精霊術の行使が可能になります。レベル数と同じ数の呪文を覚えられます。

 

〇精霊術【使役(コントロール・スピリット)】を取得しました。

 火、水、土、風、いずれかの属性の精霊を呼び出し、実体化させ、簡単な命令を行えます。

 達成値に応じて、より高位の精霊を呼び出せます。また統率技能を持つ場合は、精霊から支援効果を得ることができます。

 

〇一般技能【職人:土木(初歩)】を取得しました。(成長点1点消費)

 職人としての腕前があります。職人:土木の場合、土木工事や測量に関係する判定にボーナスを得られる可能性があります。

 

残り使用可能経験点 0点、残り成長点3点。

*1
女神官ちゃんにとってゴブスレさんは「仕方のない人」。半竜娘ちゃんは「度し難い人」(「頭のいいバカ」でも可)。似てる言葉だけど、全く違う。




唐突に生える精霊使い技能。でもモブを侍らせるというコンセプトからはズレてない。

Q.半竜娘ちゃんの爪って、ゴブリンをズンバラリとなますに出来るくらい長いの?
A.(ki)の力ってすげー!


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9/n 精霊使い四方山話、ゴブリン退治ルーティン、下水道遺跡からの救出

閲覧、評価、感想、誤字報告、ありがとうございます!
半竜娘ちゃんが急に精霊使いになったので、初投稿です。


 はいどうもー、ひたすらギルドへの貢献度を高めるRTA実況、はーじまーるよー。

 

 前回、ゴブスレさんに小鬼の殺し方と、RTAの心得を伝授してもらったところですね。

 魂で、理解したッ!

 

 そして気づいたら職業【精霊使いLv1】が生えてる件について。

 

 半竜娘ちゃんは経験点とか貯めることができない子かあ。そっかあ。

 お金の使い方もそうだもんね。

 成長点を残しているだけ優秀、と思うことにしましょう。

 

 いえ、大丈夫です、特にガバじゃないです。

 既存の職業レベル上げるのに経験点貯めるの大変だから、別の職業生やしたくなる気持ちは分かるし。

 

 それに実際、覚えた精霊術【使役(コントロール・スピリット)】は優秀ですからね。

 

 火の属性なら、【火矢(ファイアボルト)】を使える精霊(スピリット)を呼べますし、水なら【呼気(ブリージング)】、土なら【土弾(ストーンブラスト)】、風なら【捕縛(ホールド)】を使える精霊を呼べます。もっと熟練すれば、さらに高位の精霊である、自我を持った「自由精霊(フリースピリット)」や意思持つ自然ともいえる「大精霊(グレータースピリット)」を呼べます。

 

 汎用タイプ以外の、他の呪文を覚えた精霊は呼べないのかって? その辺はGMと相談ですね。

 例えば特定の精霊と仲良くしていて、いつも自分の近くに憑いてもらっているとかであれば、その精霊を呼び出した時には、使える呪文について別のものを設定できるかもしれません。

 重要なのは、そこに多少の説得力があるかどうか、です。(リアル『言いくるめ』技能)

 

 例えば、幼いころにピクシーと縁があって……とかなら【燦光(イルミネイト)】を使える精霊を呼び出せることにしてもいいでしょうし、飼ってた猫が精霊になったとかなら術者にかけられるタイプの【猫目(キャッツアイ)】を使える精霊を呼び出せてもおかしくないでしょう。竈から連れてきた精霊なら、【着火(ティンダー)】を覚えていても良いでしょう。

 

 半竜娘ちゃんは、今のところ、そういうふうな謂れのある精霊との縁はないようなので、呼び出せるのは汎用的な精霊だけ、だと思います。

 ただ、今後、そういった特別な縁のある精霊と仲良くなることがないとも限りません。

 自由精霊は、高度な思考を持っており、場合によっては人里に紛れて暮らしているパターンもあるとか。

 

 えーと、技能的には、魂魄強化の指輪+3を嵌めた状態なら、精霊術行使の基準値は、魂魄集中12+精霊使いLv1で、13ですか。

 2D6の期待値7を足すと、達成値20。期待値が出れば、自由精霊が呼べちゃいますねえ。

 

 自由精霊ともなれば、使える呪文の数が2種類になり、呪文使用回数も3回になりますから結構強力です。

 特に水の自由精霊は、【命水(アクアビット)】によって、負傷と疲労の回復効果がある水を作り出せるうえに、一度の【命水】で作った回復水で、最大十人まで効果を及ぼせます。戦闘中に使うにしては発動に時間がかかりすぎるので、休憩時間に使うためのものと割り切りましょう。野戦病院とか大規模行軍とかで重宝されそうだな……。

 

 つまり何が言いたいかというと、精霊術の【使役】は、呪文一つ覚えるだけで、あたかも複数の異なる呪文を獲得したかのような効果が出せる、非常に優秀な呪文だということです。

 もちろん、呼び出した精霊が動いてくれるまでのタイムラグで一手損になってしまうので、万能ではありませんが。

 

 さらに、術士にとってはありがたいことに、精霊たちに呪文を打たせず支援行動(がんばれ♡がんばれ♡)させれば、応援された味方の呪文達成値を底上げしてくれます。

 術をメインとする半竜娘ちゃんにとって、これはかなりありがたいですね。半竜娘ちゃんは【統率】技能が習熟段階なので、1体の味方を、攻撃の代わりに支援に回すことができます。【分身】が統率する分と合わせたら二体を支援に回せるわけです。自由精霊は支援行動により呪文の達成値に+3してくれる優秀ちゃんなので、うまくやれば、呪文行使時に+6のボーナスを得ることができるかもしれません。そうなれば、【巨大】の呪文による10倍拡大も安定して出せるようになると思います。

 

 周りに神秘的な精霊の光をまとわせて加護を得て、呪文を唱え、 10倍に! 巨大化して!! 突撃する!!! 半竜娘ちゃん!!!!

 

 一気に絵面が物騒になりました。神秘的とはいったい……。

 

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 

 さて前回、わざわざお金を払ってまで、ゴブスレさんのレクチャーを受けたのは何故かというと、これも全ては冒険者ギルドからの信用度を稼ぐためです。

 

 ――ゴブリンか(ゴブスレ並感)。

 そうですゴブリンです。

 

 今のところ、住む場所にも装備にもお金にも困っていない半竜娘ちゃんですが、本RTAの目的のためには【辺境最大】と歌われる銀等級の冒険者に成り上がってもらうことが必要です。

 半竜娘ちゃん的にも、冒険者としての研鑽を通じて、広い世界を知り、恐るべき竜に至るにふさわしい格を備えたいと願ってくれていますので、本人の意識からも大きく乖離していません。

 

 じゃけんこれからはギルドからの信用稼ぎのために、報酬は低いけど名声値の高い依頼(ゴブリン退治)をじゃんじゃん請けていきましょうねー。

 そのとき、ゴブスレさんの薫陶を受けたことがあるというのは、ギルドの査定にプラスになって、より多くのゴブリン退治を回してもらいやすくなります。

 また、半竜娘ちゃんが白磁等級のソロであることから、他の白磁の一党に助っ人的に参加させることにも違和感がありません(なおランク詐欺)。最近はギルドの手伝いも良くしているので、

 

 ――受付嬢「この依頼に白磁三人だけでは……ここは半竜娘せんせい! お願いします!」

 ――半竜娘「どぉれ……」

 

 という用心棒ムーブができるかもしれません。有能バウンサー半竜娘ちゃん爆誕!

 

 実際、前衛張れて、高威力の呪文が使えて、召喚で頭数増やせて、バフ/デバフこなして、回復もできる、というのは、どこの一党に放り込んでも機能する構成と言えるでしょう。

 ゴブスレさんの言い分じゃないですが、かなり「便利」なんですよねえ、半竜娘ちゃん。

 

 前回洞窟を潰したときに巨大化突撃の魅力に取りつかれてしまったっぽいのは……、ままえやろ。

 二言目には「大丈夫? 巨大化する?」って聞いてくる系のキャラにならないように、いや、なってもいいのか??(錯乱)

 まあ【辺境最大】を目指すにはかえって好都合と思っときましょう。

 

 それで、当面の目標ですが、地道な活動のほか、直近で名を売る機会としては、やはり小鬼王(ゴブリンロード)襲撃の迎撃に便乗すべきでしょう。

 都合のいいことに、巨大化が非常に有効に働く、開けた場所での野戦となります。

 また、襲撃察知から接敵までに十分な時間があり、バフを積めることも非常に好材料です。

 

 これはもう! 巨大化して突撃しろということですよね!! 間違いない!!

 

 懸念点は、魔神将級の古竜とその一族を滅ぼしたことで、混沌の勢力のタイムテーブルが読めないことです。

 今日明日にでも魔神王が討伐されても驚かんぞ。

 これによる影響と、二周目モードの難易度上昇がどう出るか。雑兵が増えるだけなら、たいていは蹴散らせると思うんですが、さて。

 

 

 

 では、ここから少し倍速です。

 

 半竜娘ちゃんは、朝は軽く武術と投擲の訓練、訓練が終わったら依頼を受けて、昼間は【分身】と手分けして、主に日帰りで行ける範囲のゴブリン退治をしてもらいます。

 

 夕方は、呪文使用回数が残っていて、首尾良く水の自由精霊が呼び出せたら、【命水】を振る舞い、冒険者たちに恩を売ります。また、【命水】は疲労も癒すので、体調が良くなった冒険者たちの死亡率低下にも繋がり、ギルドからの評価も期待できます。水の自由精霊を呼び出しやすくするために、上質な触媒を用意しときましょうね。

 あるいは、ポーション工房の近くででも精霊を探してみて、【命水】を最初から使える小さな精霊(スピリット)と友達になった方が安定するかもしれません。

 半竜娘ちゃんには、重戦士一党の圃人(レーア)の精霊使いちゃんにでも、その辺のコツを聞いてもらうべきですかね。それか精霊といえば森人(エルフ)なので、適当な森人(エルフ)を捕まえて聞くか……。

 

 夜は魔女さんのお家で真言呪文や祖竜術の研鑽を行います。すっかりTASさんとゴブスレさんに毒されたのか、マンチ的研究に余念がありません。魔女さんがいるときは魔女さんと一緒に、いろいろと考察などします。

 ただ、新しく覚えた精霊術の方は感覚的な術なので、考察が捗らずに四苦八苦しているようです。

 他にも、冒険に使う毒煙玉などの調合を行います。装備の手入れもですね。

 

 また、昼間は教会から治療の手伝いを依頼されればそちらに、あるいは街の土木屋さんから助っ人を頼まれればこちらにと、基本的に先約がない限りは頼まれたことは断らず、八面六臂の大活躍をしてもらっています。

 結構【職人:土木】の技能が役立ってますねー、これは【力場】で構造体を創るのにも、巨大化突撃で建造物の弱所を見抜くのにも役立つ、いーい技能だと思いますよ!

 

 土木工事だけやってた方が稼げるのでは? は禁句です。

 それ言うと、竜の死体を素材として売り払った利益の半分が、魔女さんとの共有資産として転がり込んできた時点で、働く必要がほぼなくなってるので。

 

 そうそう、ゴブスレさんと依頼の行き帰りの道でご一緒することもありますが、基本的にはターゲットの巣穴は別々になります。

 そうだよね、ゴブリンを殺す手は、多いほうが良いもんね。手分けできるならそうするよね。

 よっぽど半竜娘ちゃんしか出来ないようなことを頼みたいときじゃないと、ゴブスレさんはこちらを頼ってくれません。逆に言えば、半竜娘ちゃんの担当する分の巣については任せてくれてるわけで、実力には信を置いてもらってる模様。

 ゴブスレさんは、たとえ戦場が違っても、ゴブリンを殺しまくっておけば勝手に好感度が上がるタイプなので、これからもゴブリンは殺せるだけ殺していきましょう。ゴブリン殺すべし、慈悲はない。

 

 しかしこれだけ請けてても、それでもゴブリン退治の依頼はなくなりませんねー。

 ゴブリンが多いのも全部、魔神王ってやつが悪いんだ。

 

 ちなみに半竜娘ちゃんがゴブリンの巣を潰す時の、よく使う手管についてご紹介です。

 

 

 白磁のお守りしてるときは、ゴブリンスレイのレクチャーのために後方先輩面しながら巣穴に突入するのでまた違いますが、基本はソロで本体と分身で手分けして二カ所同時攻略しています。

 

 半竜娘ちゃんは、呪文使用回数が7回もあるので、そこそこ贅沢に呪文を使っていきます。本体の方は、武術重点でいくこともありますが、分身ちゃんソロだと、指輪の付け替えができず、回避を強化できないため呪文重点でいきます。

 

 手順は以下のとおりです。

 

・真言呪文【加速】を、あらかじめ自分にかけておきます。これで、あらゆる行動が成功しやすくなります。(呪文使用1回、残り6回)

 

・精霊術【使役(コントロール・スピリット)】で風の精霊(スピリット)を召喚し、ゴブリンの巣を偵察させます。精霊は基本的にはアストラルサイドの存在で、においなどもないですし、風の精霊は空気に溶け込むことも容易ですから、まず気づかれません。(呪文使用1回、残り5回)

 あまり複雑な命令は受け付けてくれないので、命令内容は『巣の形や抜け道を調べて』『巣の中で、人族(捕虜)を見つけたら教えて』くらいにしておきます。巣の形については、風で地面に砂絵を描いてもらって教えてもらうことにしています。

 

・特に捕虜がいなければ、毒気を出す道具で(いぶ)します。毒薬についても、ゴブスレさんと魔女さんからいろいろ習ったり、勉強しておきました。

 あとはゴブリンが出てきたところを殴り裂いて殺す簡単な仕事ですので、継戦カウンタ(戦疲れ)はそれほど蓄積しません。風の精霊にも攻撃を手伝わせれば、出目が振るわなかったときの討ち漏らしも減ります。数が多いときは毒の【竜息】で一網打尽にします。この捕虜なしルートだと、だいたい累計呪文使用3回で、残り呪文使用回数は4回となります。

 

 

 

・捕虜が居る場合は、燻さずに押し入ります。念のために【竜牙兵】を呼び出して前衛にします。最初に呼び出した風の精霊も連れて行きます。(残り呪文使用回数4回)

 

・前衛に竜牙兵、後衛に風の精霊を置いてるので、奇襲はあまり受けませんが、ときどき壁抜きされるので注意。半竜娘ちゃんは知力が高いので、奇襲や罠はだいたい察知できますが。

 

・ゴブリンが待ち伏せしている場合は、毒の【竜息】でまとめて吹き飛ばします。捕虜が肉の盾にされていても、視認できればブレスの影響範囲から外せるので問題ないです。

 あるいは、【停滞】で動きを止めて始末します。風の精霊には、支援行動でもさせときましょう。

 (残り呪文使用回数3回)

 

・そのあと、どうせ隠れていたゴブリンが奇襲してくるので迎撃します。

 

・捕虜が居れば、ポーション類を飲ませて回復させます。捕虜が多ければ、水の自由精霊の召喚による【命水】を試しても良いですが、呼び出した風の精霊からの支援行動に加えて、上質な触媒を使っても今ひとつ安定しないので、過信は禁物です。

 衰弱死しそうな捕虜がいるときは、スタミナポーションか、それでも足りないときは【賦活】を使いましょう。人命優先です(ギルド評価のためにも)。

 本体の方の半竜娘ちゃんの場合、寝る前に【分身】を更新する用に、呪文使用回数は1回分残すのが望ましいですが、そこは臨機応変です。

 

 まあ、このとおりに行くことばかりではないですが、概ねこんな感じです。

 だいたい一つの巣あたり、20から30のゴブリンと遭いましたねえ。400匹くらい殺してる気がします。

 ホブやシャーマンが居ても、大抵は毒の竜息で吹き飛ばせますので、加速状態を維持して先手を取れるように気をつけてれば、そうそう面倒なことにはなりません。クスリの後遺症で判定にペナルティがあるため、ときどき加速状態が維持できなくなってしまうことがありますが、そのときは諦めて、かけ直しはせずにいきましょう。

 

 クライマックス戦闘もなく、作業としての狩りを延々と行っただけですので、10日間くらい毎日ゴブリン退治の依頼をこなしても、トータルで経験点1500点、成長点3点程度にしかなりませんでした。でもギルドの評価は高まったみたいなのでオールオッケーです。

 

 半竜娘ちゃんは、早速、経験点を職業【精霊使い】に突っ込んで、Lv2にしたみたいです。これで、残り経験点は500点です。

 新たに覚えた呪文は、精霊術【降下(フォーリング・コントロール)】ですね。またマンチ的に悪用できそうなやつを……。

 いえ、落下死は怖いので、これを覚えるのは実際有効です。自由行動(マイナーアクション)でも使えて、不意の落下にも対応できるのは強い。

 

 そして、使える成長点は、繰り越し分3点と獲得分3点と経験点変換分2点を合わせて、8点ですね。

 【加速】や【巨大】などの付与呪文系統を安定させるため、成長点を使って冒険者技能【呪文熟達:付与(初歩)】を習得します。これで付与呪文系統の行使、維持にボーナス+1です。習得コストは5点です。暫くはこの技能を伸ばしたいところ。

 これで残り成長点は3点です。新しい技能は生やさず、繰り越しときましょう。

 

 

 

 そしていつものようにギルドに帰って来ると、なんか見習聖女ちゃんが、受付嬢さんに、結構な剣幕で掛け合っているところに遭遇します。

 あれ、君、新米剣士くんは一緒じゃないの? あと、その手の剣、新米剣士君のだよね?

 

「だから! 下水道の依頼やってたら急に消えちゃって!」

 

 

 ……あっ。

 

 これはあれですね、TASさんがフラグ立ててた、地下の未踏遺跡だかの転移トラップの件ですね。

 フラグ放置して解決してなかったので、新たな犠牲者が出たみたいです。

 原作イベだと新米剣士くんは、鼠に刺した剣を巨大ゴキブリに喰われて失くしちゃうんですが、そっちのイベントとも化学反応したのかどうだか分かりませんが、今回は逆に剣だけ残して持ち主(新米剣士くん)が消えたようです。

 

 まあ、転移するだけなので、即死とは限りませんが、時間を置けば死亡確率が高まります。

 あー、どうすっかなー!

 半竜娘ちゃんも、呪文の使用回数減ってますし、そこそこ疲労(消耗カウンタ)も貯まっています。リスクは高いです。

 

 ……。

 

 よし、いきましょう。

 多分このタイミングで発生したのはGMの罠で、殺意も高いでしょうが、功績を稼ぐチャンスでもあります。

 何より既に、半竜娘ちゃんがやる気です。分身ちゃんの方も同じくです(中身同じだから当たり前)。

 

 であれば、よりよい結果を導くために、ささやかな啓示を与えるのが、こちらの役目でしょう。

 

 おっと、そんな風にやる気になってる半竜娘ちゃんに、魔女さんがそっと近づき、『物探しの蝋燭』を渡してくれました。

 

「行くんで しょ?」

 

 さすまじょ! ついでに強壮の水薬(スタミナポーション)も持ってきてくれたので、飲み干します。念のため食料と水も買って、多めに持って行きます。

 魔女さんからの餞別を受け取り、出来る限りの準備をしたら、受付嬢さんと見習聖女ちゃんに話しかけます。

 

 ――安心めされい!! 手前(てまえ)が助けに行くのじゃ!!

 

 

  ▼△▼△▼△▼

 

 

 そして下水道へ。

 『物探しの蝋燭』の効力は1時間です。とにかく走っていきます。幸いにも、朝っぱらから掛けていた加速の効果は維持できていました。

 荷物は本体の方の半竜娘ちゃんが背負い、見習聖女ちゃんは分身ちゃんが背負って走ります。

 

 幸いにも、見習聖女ちゃんは、奇跡の使用回数を残していたそうなので、連れてきました。

 【聖撃】が使えるとのこと。

 というか、志願したので連れてきました。

 

 『物探しの蝋燭』の反応は、徐々に強くなっていきます。魔法の力で導く灯火は、罠すら明るく照らし、最短ルートを示します。

 しかし最短ルートであるはずにも関わらず、半竜娘ちゃんズと見習聖女ちゃんは、下水道を下へ下へと潜っていき、人跡未踏の区画へと立ち入っていきます。

 

 いよいよ疲労の色が隠せなくなってきたところで、ひときわ強く蝋燭が燃え上がりました。

 しかしここには何もありません。

 不思議に思って『物探しの蝋燭』を床に近付けると、いっそう強く燃え上がりました。

 

「下、みたい」

 

 抜け穴や階段は近くに見あたりません。探しているうちに蝋燭は燃え尽きそうに思えます。

 

 精霊術を使うべきです。土の自由精霊なら、【隧道(トンネル)】が使えます。

 

 分身ちゃんが詠唱します。しかし1回目はファンブル! 不発です。スカったのを馬鹿にするように、どこからか降ってきた小石が分身ちゃんの頭にコツンと当たりました。腹立つわあ。

 

 気を取り直して今度は本体の方が【使役】を唱えました。2回目の正直。

 成功です! 土の自由精霊(フリースピリット)を召喚し、早速【隧道】の精霊術で穴を開けます。階下の地下空間に繋がったのが見えました。

 分身ちゃんの方は呪文はあと2回、本体の方も、同じく残り2回といったところ。ファンブルが痛いです。

 

 飛び込んで落下する前に本体の半竜娘ちゃんが発動準備しておいた、【力場】が発動し、段々になった足場を作り出します。

 直接一足飛びに降りるには高さがありすぎますし、下には『物探しの蝋燭』が指し示した新米剣士くんの他にも、敵がいたのです。一気に下に降りるわけにはいきませんでした。

 

 そこは、一面のスライムの海でした。

 新米剣士くんは、崩れた柱の上に登って、なんとかスライムたちから逃げています。

 真上からやってきた半竜娘ちゃんズと見習聖女に気づいた彼の顔は、かなり憔悴していました。

 

「た、助かった!?」

 

 半竜娘ちゃんは、そのスライムたちの奥に、ひときわ巨大な粘液体があることに気付きます。

 明晰な頭脳で記憶を掘り起こしますが、該当する怪物は思い当たりません。

 なにしろ、巨大な粘液体は、その端から、大鼠や大黒蟲や沼竜や、様々なスライムを生み出しているのです! しかも、生み出したものどもを、また捕食して取り込んでいます!

 この世の物とは思えない、総身の鱗が逆立つような光景です。

 下水道の害獣害虫が尽きない原因は、そして最近沼竜が現れるようになった原因は、ひょっとすると、こいつなのかも知れません。

 

「な、何アレ……! 自分で生み出したのを、食べてる……!」

 

 見習聖女が戦慄しますが、ともあれ新米剣士の救出が先です。

 分身の方の半竜娘ちゃんが、【竜吠(ドラゴンロアー)】を放ちます。

 その吠声を聞いた全ての敵に、かつて恐るべき竜がもたらした、命の螺旋に刻み込まれた原初の恐怖を呼び起こします。あまりの恐ろしさに、雑多な動物たちは、震えるからだを引きずって、我先にと逃げ出していき、そして、その先にあった巨大粘液体に捕食されていきます。巨大粘液体の動きも鈍ったようです。

 

 チャンスです。本体の半竜娘ちゃんが、【力場】の段差を動かし、見習聖女ちゃんが手を伸ばして新米剣士くんを拾い上げます。

 もたもたしていると、【隧道】で開けた穴が閉じてしまいます。

 

 そのとき。

 何を思ったか、【力場】の足場を上に縮める勢いに逆らい、分身ちゃんが、土の自由精霊を連れて、下へと突っ込みました。

 決意を示すように、【竜爪(シャープクロー)】によって分身ちゃんの手が魔力の光を帯びます。これが使える最後の呪文です。

 

「え! 何してるのよ!」

 

「おいおい、トチ狂ったのかよ!?」

 

 まあ、ある意味狂っていると言えるかも知れません。

 【分身】とはいえ、操っているのは本体の精神。こんな、無謀な特攻では、その精神は、きっと死を味わうことでしょう。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 その程度のことで、分身とはいえ死を忌避しない特攻を行うのは、十分に狂っていると言えるでしょう。

 

 本体の半竜娘ちゃんは、【力場】による足場の操作を一度止め、最後の支援のため呪文を詠唱します。

 

 階下の分身ちゃんを援護するために唱えられた、本体の半竜娘ちゃんの【停滞】が、【生命の遣い手】たる熟達の手腕により、会心の手応えで決まります。巨大粘液体やその周りの雑多な害獣害虫たちは、【竜吠】による萎縮も合わさり、ほぼ動きを止めました。そこに、土の自由精霊の【土弾】が炸裂する轟音が響きます。

 本体の呪文使用回数もこれでゼロ。しかし、動きを止めたのは大金星です。土の自由精霊は、あと1回の呪文が使えます。

 半竜娘ちゃんの分身は、いまだ巨大粘液体の間合いの外であるようです。また、逃げてくる雑多な動物たちを捕食するのに忙しいのか、巨大粘液体は、分身ちゃんたちの方には目も向けず、ノロノロとあたりのものを貪っています。

 

 分身ちゃんの【統率】技能により率いられ、土の自由精霊は、分身ちゃんと同じタイミングで動き出しました。

 土の自由精霊は素早く【石弾】の呪文で攻撃。分身ちゃんは、肉薄して攻撃です。左右の竜の爪が、巨大粘液体を抉りますが、すぐに塞がっていきます。しかし、【竜爪】の効果か、ダメージは多少なりともあるようです。巨大粘液体に取り込まれないようにまた下がります。

 【停滞】により動きを止めている間に削ってしまえば倒せるかも知れませんが、今も粘液体からは、新たな害獣害虫が産み落とされています。しかもそいつらは、【停滞】も、【竜吠】による恐怖の効果も受けていないのです。

 さらにどうやら、周りのモブを食べることで、巨大粘液体は回復しているようにも見えます。

 

 分身ちゃんは決断します。

 肉薄して、全身全霊の【発勁】を、片手ずつ二連撃。

 それで、削れるところまで削ります。

 それほどの氣を込めれば、分身ちゃんの衰弱死は必至。

 しかし、やるだけの価値はあります。

 

 

 光を帯びる両の爪。

 恐るべき竜のごとき、裂帛の吼え声。

 

 二発のくぐもった轟音。

 直後、爆発したかのような音とともに、巨大粘液体の上半分が吹き飛びました。*1

 

 

 そして、()()()()()()()()()()()()()()

 

「裁きの司 つるぎの君 天秤の者よ 諸力を示し候え 【聖撃(ホーリースマイト)】!!」

 

 見習聖女ちゃんの【聖撃(ホーリースマイト)】です! 街の地下に、このような巨怪を蔓延らせるわけにはいかないという想いに、神が応えました。クリティカル!*2

 いまにも階上に上ろうとするところから降り落ちた聖なる稲妻が、露出した巨大粘液体の内部組織を焼き払い、核らしきものを露出させます。

 

 しかし、あと一手が足りません。

 

 分身ちゃんは氣を使い尽くして、今にも消滅するでしょう。

 土の自由精霊も呪文を放ったばかり。

 見習聖女ちゃんは言わずもがな。

 新米剣士も疲労困憊。

 

 となれば――

 

「良うやった! ここでトドメに動かねば蜥蜴人の名折れよ……イヤーッ!!」

 

 【加速】により、二回の行動が可能になった半竜娘ちゃん本体の、決断的な南洋投げナイフ(スリケン)投擲!

 

「もう一度じゃ! イヤーッ!!」

 

 露出した核に二本の南洋投げナイフ(スリケン)が見事に突き刺さります!

 

 倒せたでしょうか?

 

 確認する時間はありません。

 痛手は与えたかも知れませんが……。

 

 いよいよ分身ちゃんが消滅し、最後のあがきなのか、断末魔なのか、巨大粘液体の全てが、なんらかの動物に変異していきます。

 土の自由精霊も囲まれてしまっています。このまま精霊が消えれば、【隧道】もどうなるか分かりません。

 早急に階上に戻らなくては。

 

「ま、倒せておらんでも、これだけ情報が分かれば、次はどうとでも出来ようさ」

 

 捨て台詞を吐いて、半竜娘ちゃんは【力場】による足場を操作して縮めて階上へ戻りました。

 土の自由精霊の召喚も解除します。

 召喚解除前に、精霊も術を解除したのか、ほぼ同時に、【隧道】で開いていた穴が閉じます。

 

 さて、先ほどの巨大粘液体から生まれ落ちた害獣害虫たちが、津波のように下の階から溢れてくるかもしれません。そうなる前に、ギルドに戻りましょう。

 帰り道は、頭脳明晰な半竜娘ちゃんの頭の中にしっかりと構築されています。新米剣士くんにスタミナポーションを飲ませ、急かします。

 

 無事に戻るまでが、救出任務ですからね。

 

 

  ▼△▼△▼△▼

 

 

 というわけで、下水道の転移罠のフラグと、沼竜のフラグと、ついでに原作のローチキラーのイベントフラグを変則的に処理できました。

 

 あ、半竜娘ちゃんと新米剣士くんと見習聖女ちゃんは、無事に地上までたどり着けましたよ。ご安心ください。

 ついでに言うと、あの巨大粘液体はきちんと死にました。あの個体は、ですけど。他に居たりするんでしょうかね、果たして。

 まあそれでも、沼竜はもう追加で現れないでしょうし、下水道の害獣害虫も徐々に減るかもしれません。

 それに、再稼働していた罠は、巨大粘液体の生体エネルギーで動いていたようなので、それも一旦は止まります。

 そこまでは、半竜娘ちゃんたちには、調査しない限り知りようのない情報になりますが。

 

 地下の未踏遺跡の怪物について、駆除依頼が出るかどうかは、辺境の街の行政庁と、冒険者ギルドの判断になるようですね。恐らくは、懸賞金が掛けられるか、それか調査依頼が出るのではないでしょうか。

 地下深くに潜んでいることと、これまで表に出なかったことをどう評価するかによって、行政側の対応が変わってくるでしょう。

 

 救出任務と、沼竜が出没するようになった謎の解明で、依頼二つ分として経験点を2000点。成長点を6点獲得。

 これで、繰り越し分と合わせて、経験点が2500点、成長点が9点ですね。

 あと装備は南洋投げナイフを2本紛失しました……残念。買い直しですね。

 

 レベルアップについては、おすすめは職業:魔術師をLv5にすることですが、得た経験点と成長点をどう振り分けて成長させるかは、半竜娘ちゃんに任せますのでお楽しみに!

 

 

 ……あとさGM、ちょっと言わせてもらっていい?

 

 あの地下の怪物さー、絶対にショゴスとかそういうあれだろ?!

 いつ「テケリ・リ」とか鳴き出すか、気が気じゃなかったんだからな!!

 めっちゃ怖えーよ!! グロいよ!!

 

 PLの精神に効く攻撃(ダイレクトアタック)はやめろ!!

 

 え、救出が1日遅れてたら(フラグ発生から20日経過で)、次の段階に移行して新米剣士くんが取り込まれて複製されて量産されて敵として出てきてた?

 PCにもトラウマになるやつじゃないですかー! 「俺を……俺たちを、殺してくれ……」とか言ってくるんでしょ? ヤダー!

 え、完全放置で、居なくなったはずの冒険者が()()()()()()()()タイプのやつ?

 そんな情報知りとうなかった!!

*1
【二刀流(初歩)】により、同じ相手に片手ずつ合計二回攻撃。命中判定値は[16(基礎値)+2D6+3(加速ボーナス)-2(後遺症)-1(疲労)-4(二刀流ペナ)]により、右手21、左手20だった。ダメージ判定は、[{1D3+5(素手攻撃片手)}+6(武道家レベル)+2(【竜爪】ボーナス)+8(【発勁】による上乗せ(魂魄点8なので上限まで乗せる)。上乗せ分消耗。)+2D6(命中達成値によるボーナス)]により、右手28、左手28となった。【竜爪】により魔法攻撃扱い(呪文ではない)になるため物理装甲、呪的装甲による軽減無視。最終的なダメージは56。相手生命力の約半分を消し飛ばした! なお、発勁により16点の消耗が発生するため、即死する(一度に氣を使い果たして老人のように衰弱する、などの描写になると思われ)。

*2
呪文行使について、魂魄集中5+神官レベル2+聖印装備+1+2D6(6ゾロで12)+クリティカルボーナス5で25。ダメージ値は26。相手の呪的装甲による軽減により、呪文(奇跡)による最終ダメージは21。




てけり・り

地下の怪物は、アブホースとかウボ=サスラとかショゴスとかそういうあれのイメージ。


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9/n 裏

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1.ともだちさがし ~【命水(アクアビット)】が使える精霊(スピリット)を探そう~

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)殿の薫陶を受けて数日。

 急に見えるようになった精霊たちに驚きつつも、良き友人となれるように、手前(てまえ)なりに試行錯誤しておるところじゃ。

 例えば、技能として熟達はしておらんで(つたな)いものじゃが、瞑想を行って、自然との合一により、精霊との交感を行うことも試しておるし、先達である圃人の巫術師(ドルイド)の少女(辺境最高の重戦士一党のメンバーじゃ)にも教えを乞うてみたりもした。

 

 また個人的には、技能は使ってこそ、という思いもあり、冒険帰りに、ギルドで【使役(コントロール・スピリット)】を使って、水の自由精霊(フリースピリット)を呼び出して、酒場中の冒険者に【命水(アクアビット)*1で作り出してもらった回復水を振る舞ったりしておる。

 バケツヘルムの冒険者であったり、疾走の名を冠していつも忙しなくしておる輩が常連じゃのう。結構好評じゃ。……人のことは言えぬが、やつらきちんと休んでおるのか?

 まあ、人気なのは水の自由精霊(フリースピリット)が、なかなかめんこいお調子者じゃから、というのもあろうが。自由精霊ともなれば、自我を持ち、個性があるのじゃ。自然の役目から離れられる(フリーになる)ほどの我を確立したゆえ、自由精霊というのじゃな。

 

 ギルドの酒場で水精霊を呼ぶと、大抵は固定でこいつが出て来るのよな。洞窟で呼んでも来んくせに。この間なんか、「花鳥風月~」とか言って、水芸を披露してお捻り代わりに酒を奢られておったわ。どこで覚えてくるんじゃか。

 しかしいつも自由精霊を呼べる目が出るとも限らん。そのときは申し訳ないが、【命水】の振る舞いはナシじゃ。そういうときは、疾走を冠する者たちの方からかどこからか、「今日回復POTちゃんおらんやんけ! チャートが狂っちゃーう!」とかいう、ティーアースやナナシに似た声の戯れ言(ハンドアウト)が聞こえる気もするが、深くは考えぬぞ。

 

 それを気にしてというわけでもないが、自由精霊ではなくても、まだ意思を持たぬ精霊《スピリット》の段階でも【命水】を使ってくれる水精霊を呼び出せるならば、より捗るじゃろうと思ったのよ。

 ゴブリンの巣穴から解放した捕虜たちに飲ませるのにも使えるしの。

 自由精霊より呼び出すのが安定する代わりに、術を使える回数も効力も劣るから、一長一短じゃが。

 

 できれば、酒場でしか呼び出せないとかいうのではなく、冒険にも付いて来て欲しいし、顕現する位階が上がったときには、【酩酊(ドランク)*2が使える精霊であれば、なおありがたい。

 

 ということで、ギルドの酒場で呼び出した水の自由精霊に、そういった精霊に心当たりがないか聞いてみたのじゃ。

 

『ま、まさか乗り換える気!? やっぱりみんな若い子の方がい゛い゛ん゛だあ゛~!!』

 

「いやそうじゃなくての?」

 

『いやいやいやぁーよ! 私はちょちょいと術を使って、みんなにちやほやされて、ときどきお酒を飲みたいのー! ここで呼び出されるのは私の役目なのーー!! いやいやいやー、捨てないでよ゛お゛ぉ゛ー!!』

 

 めんどくさ! いや、大体の精霊はこんなもんじゃが!

 

「分かった分かった、まず酒場で呼び出すときはお主を先に呼び出すようにするからの?」

 

『ぐすっ、ほんと? 捨てない? 約束する?』

 

「おう。じゃが、うまく術が成功せんかったときは、若いのに譲ってくりゃれよ? 自我のない状態で呼び出されても仕方なかろうし」

 

『……。それは仕方ないから、妥協してあげる』

 

 なんとか納得してくれたか。顕現時間も短いのじゃから、さっさと話を進めたいのじゃが。

 

「それで結局、そういう精霊に心当たりあるかの?」

 

『んー、最初から【命水】が使えて、【酩酊】も使ってくれるようになる精霊でしょ? まあ多分、あそこになら居るんじゃないのー?』

 

「あそこ?」

 

『ほら、葡萄がいっぱいあって、お酒造ってるとこ! 私を呼び出すときのお供え物に、あそこの葡萄酒くれたりするでしょ。あれだけ美味しいお酒を造ってるあそこなら、そういうのに興味ある子もいると思うわ。近くに癒やしの波動も満ちてるしね』

 

 なるほど、地母神の葡萄園か。

 確かにうってつけじゃ。

 流石じゃのう、竜のことは竜に聞くように、やはり精霊のことは精霊に聞くに限る。

 

『わくわく』

 

「なんじゃ?」

 

『ご褒美は?』

 

「……おう。おーい、女給どのー! こやつに酒じゃー、旨いのを頼むー!」

 

『そうこなくっちゃー!! 好きー!』

 

 まあ、そのくらいは良かろうさ。これからも頼りにすることじゃしの。

 精霊術は、己が力で世界を変える真言呪文や、祖竜と自らの力を合わせて行使する祖竜術とは違って、相手の精霊ありきのことじゃからの。今までの他の術と勝手は違うが、まあ、これもこれで良いものじゃ。精霊は祖竜をも見守ってきた大いなる自然の一部でもあれば、敬意を持って接するのに戸惑いもない。

 

 戸惑いはないが……。

 

『ぷっは~! うまーい!』

 

 先達としての敬意というよりは、こう、放っておけない感じというか、なんというか。

 切った張ったの鉄火場の合間に、こういうものたちとの触れ合いがあるというのも、良いもんじゃと感じておる己がおる。

 悪くないものじゃ。

 

 

 

 そして翌日。

 分身体の方を日課となったゴブリン退治に派遣して、手前(てまえ)は地母神の寺院に来ておった。

 ちょうど治療の手伝いも頼まれておったことじゃしの。

 

「う、半竜の術士さん。いらしてたんですね……」

 

「そう露骨に態度に出すこともなかろう、地母神の神官嬢。これでも傷つくのじゃよ?」

 

「いえ、そんなつもりは……、はい、すみません」

 

「かかか、冗句じゃて。気楽にな」

 

 どうも少しはしゃいだところ(巨大化して洞窟を潰したところ)を見せて以来、地母神の神官嬢には苦手に思われておるようじゃ。

 それとも、小鬼どもへの容赦ない姿勢や、手前(てまえ)に巣穴一つ任せて心配もせぬ小鬼殺し殿と、彼の御仁に信頼されておる風に見える手前(てまえ)に、思うところがあるのかのう? ……まあこれは、神官嬢と仲良くしたいと相談したときの魔女(家主の魔導師)殿からの受け売り考察じゃが。手前(てまえ)には只人の機微はまだよう分からん。

 

「まあ、今日はよしなに頼む。治療の腕前は信頼しておくれよ」

 

「ええ、そちらはもちろん。頼りにしています」

 

「そいつは重畳。そちらはこれからゴブリン退治の冒険(デート)ではないのかの?」

 

「デッ!? ち、違います。今日は、お祈りで。そちらこそ最近ずっとゴブリン退治に行かれてたみたいですが、今日は?」

 

「分身の方に行かせておるよ。我が爪尾は混沌の奴ばらの血に飢えておるでな。ソロじゃから小鬼殺し殿とは別口じゃが」

 

「そうですか」

 

 寺院併設の治療院までの道すがらそんなことを話しておると、葡萄園も目に入った。

 

「ああそうでした、今日は葡萄園の方のお世話も手伝うつもりなんです。この時期に虫がつくと困るので」

 

「ここの葡萄酒は評判が良いからのう。……おお! そうじゃ、葡萄園! そちらも頼もうと思っておったのよ」

 

「頼み、ですか?」

 

「なに身構えるでないよ。治療院の手伝いがひと段落したら、少し葡萄園の片隅で瞑想させてほしいだけじゃ」

 

「はあ。そういうことでしたら、先輩を紹介しますね。最近葡萄園の取り仕切りを任された方なので」

 

「おお、さすが頼りになるのう!」

 

 異教の寺院じゃが、良きめぐりあわせに感謝して、あとで幾らか喜捨をはずんでおこう。

 

 

 

 そうして引き合わされたのは、褐色肌の陽気な太陽のような娘じゃった。

 年は神官嬢より二つばかり上かのう。まさに少女としての花盛りといったさま。修道服を押し上げる豊かな胸はきっともっと大きく育つじゃろう。

 葡萄尼僧といったところか。

 

 しかし若干視線に険があるのは、はてどうしたことか。

 こちらがあちらを見た以上に、あちらは手前(てまえ)を上から下までねめつける。

 

「ふうん、あんたがあの子からの紹介の冒険者? 随分と大きい……蜥蜴人?」

 

「そのとおり。手前(てまえ)のことは半竜のとでもなんでも呼んでくりゃれ」

 

「そう、じゃ、半竜の術士ね。……あんた、あの子を虐めてないでしょうね? もしそうだったらただじゃ置かないんだから」

 

 なるほど。長幼の序というわけか。納得のいく話じゃ。妹分の心配をしとったわけじゃな。

 神官嬢が姉のごとく慕うのも頷ける。

 

「虐めなどそんなことせぬよ。そもそも手前(てまえ)は地母神の神官嬢を買っておる、あれは良い修羅になろう。それに気に入らなんでも、その時は決闘でもするのが竜の流儀よ」

 

「物騒ね、あと修羅とかなんとかあの子には言わないでよ、只人の女の子には誉め言葉じゃないから。で、なんだっけ、葡萄園で瞑想したいんだっけ」

 

「片隅でも貸していただければ幸いじゃ。そちらの邪魔はせん」

 

「何のためか教えてもらっても?」

 

 少し考えるが、まあ教えても良かろう。

 祖竜に誓って、隠すような後ろめたいことではない。

 

「友となる精霊を探しに来たのじゃよ。水の精霊がここの葡萄酒と葡萄園のことを褒めておったでな、我が道行きに加勢してくれるものもおろうと期待してのことじゃ」

 

「へえ? そうなの」

 

 葡萄園を褒められて満更でもなさそうじゃの。

 

「ま、いいわ。変なことしないなら」

 

「ではありがたく」

 

 

 そうして葡萄園の一角をかりて、瞑想にふける。

 

 風、葡萄の木を流れる水の音、草木の匂い、治療院からの血の匂い、薬の匂い。

 

 力を貸してくれるかのう?

 傷ついたものには癒しと活力を与え、我が敵対手には酔夢の中で永久の眠りを与えることに。

 

 生々流転する水よ、魂の輪廻を助ける流れを司るものよ――……。

 

((ねえ))

 

 手前(てまえ)の想いに応える声があった。

 

((嵐も吹雪も呼べないけれど、それでも冒険に連れてってくれる? ともだちになってくれる?))

 

(もちろんじゃ、期待してくれていい。お主には癒しと酔いを頼るつもりじゃ、敵を滅ぼす爪尾の役は手前(てまえ)じゃて)

 

((ならなら、きっと血を見せてよね? 血沸き肉躍る冒険をお願いね? お酒と果物もいっぱいいっぱい頂戴ね?))

 

(任せるがよい!)

 

 果たして、祖竜の導きか。

 手前(てまえ)は佳き友を得ることができたのじゃった。

 

 

〇水の精霊/自由精霊(半竜娘の固定のパートナー)

 辺境の街の地母神寺院の葡萄園で出会った。割と残忍な性格。腹黒いのか無邪気なのか。

 使える術は、段階ごとに三つまで増えるが、攻撃の術は使ってくれない。

 【命水】(精霊(スピリット)級から)、

 【酩酊】(自由精霊級から)、

 【隠蔽】(大精霊級から)

 残忍な性格な割に、直接攻撃は厭う。血は見たいが自分が手を汚すのは嫌いらしい。

 命を(たなごころ)に乗せ、酔わせ、隠す――他者を玩弄することに喜びを見出している。さでずむ。

 地母神の寺院にいたのも、怪我人が多く運び込まれるので、それを見るため。あと、おいしいお酒と果物。

 半竜娘からは『水霊(みずち)』と呼ばれている。たぶん蛇龍系。

 固定パートナーなので、一度に一体しか呼び出せない。

 

 

   ●〇●〇●〇●

 

 

 

 

2.有能助っ人 半竜娘ちゃん!

 

 

 冒険者ギルドの受付は、多忙だ。

 特に春のこのころは、新米冒険者が多くなって、一層忙しくなる。

 

 その多忙な中で、受付嬢は、不幸なことに、今年の新人の中でもとびっきりに変な冒険者にあたってしまった。

 

 言わずもがな、そのとびきり変なのとは、半竜娘である。

 

「少し前までは、登録させちゃったのを後悔したものですが……だいぶ印象が変わりましたよね、あの半竜の元問題児さん」

 

 過去の所業をいまさらあげつらったりはすまい。

 

 それに第一印象にとらわれることの愚かさも知っている。

 何せ、小鬼を殺す者(ゴブリンスレイヤー)という、これまた第一印象の悪さで損している冒険者をよく知っているのだから。

 まじめな半竜娘は、きちんと実績を積もうとしてくれている。ならば、ギルドとしてもそれを後押しすべきだ。

 

 半竜娘についていえば。

 戦力としては、銀等級冒険者に匹敵するだろうし、戒律(アライメント)も悪ではない。

 最近は見様見真似で只人の礼儀作法も覚えて、なかなかさまになってきつつあるし、聞けば蜥蜴人の中でも軍師課程を経たエリートなのだという。

 読み書き計算ができて、仕事の覚えも速く、丁寧だ。むしろこのまま冒険者ギルドのほうに就職してくれないかとすら思う。

 

「逸材ですよね」

 

 金等級まで上り詰めるような冒険者というのは、ひょっとすればこういう者なのかもしれない。

 

 術の腕前についても、難しいはずだと聞く【分身】を毎日使っていて、ギルドの関係者でも、半竜娘のことを双子だと思っていた者がいたほどだ。

 竜司祭としても、最高峰に近い力を持っているのは、地母神の治療院の手伝いなどでも証明されている。

 他の冒険者との関係も悪くない。

 

 真面目に訓練もしていて、辺境最高の重戦士一党ともよく手合わせしているのを見かけるし、武僧として武術もかなりの腕だという。

 下宿はなんと辺境最強の槍使いの一党のパートナーである魔女のところだというし。あの人の見立てなら間違いない、というくらい、魔女は信頼のおける冒険者のひとりである。身元引受人としては最上だろう。

 

 それについ先ごろは、奇特なことに、辺境最優のゴブリンスレイヤーにわざわざお金を払ってまで、ゴブリン退治を学んでいた。

 

 そしてそれ以降、毎日ゴブリン退治の依頼を請けている。

 ギルド職員の手伝いを経験したからか、報告も丁寧で要点を押さえているのは、やりやすい。

 やけに遭遇する小鬼の数が多いのが気になるが、水増ししている風でもないので、本当にそれだけ殺しているのだろう。

 もし()()()()()()()がこの規模のゴブリンの討伐依頼を請けていたら、きっと帰って来られないに違いない。

 

 そして、受付嬢の前には、その帰って来られなさそうな依頼を請けようとする、白磁等級の一党が……。

 

「受付さん! この依頼お願いします!」

 

「ゴブリン退治ですか……。一党のメンバーは、3人。構成は戦士、魔術師、神官戦士ですね*3。他のメンバーを募るご予定は? やはり経験者が居るといいと思うのですが」

 

「大丈夫です!」

 

 ……いや、その根拠を聞きたいんですけど。

 

 受付嬢としての勘は、これは帰ってこないパターンじゃないかと囁いているが、さてどうしたものか。

 

 と、以前なら悩ましく思いながらも結局は送り出したところだが、今なら違う。

 そう、最終兵器『半竜娘』が居るのだ!

 

 前衛も中衛も後衛もこなせて、ゴブリン退治の経験も多く、機転も利く。

 背も大きいし、竜殺しの実績もあるから、ナメた新人が言うこと聞かずに暴走ということもない。

 明らかにランク詐欺な実力だが、白磁等級だから報酬的にもリーズナブル。

 

 ギルドの言うこと聞いてくれる戦力って、なんて便利……。

 受付が色恋(イロコイ)で高位冒険者に言うこと聞かせる、なんてことは、良くない事例として注意喚起されているが、それでも自分なら上手くやれると思った輩がやらかす例が後を絶たない程度には、『ギルドの意向を優先してくれる冒険者』というのは魅力的なのだ。

 

 というわけで。

 受付嬢は、ギルドに残っていた半竜娘に声をかけることにした。

 

「半竜の術士さーん、お願いしまーす!」

 

「どぅれ、さっき言うておったやつじゃな?」

 

 ギルドの奥から現れたのは、巨躯の女蜥蜴人ハーフ。

 月の初めに街壁の外に竜の死体を山と積んだ、恐るべき竜に仕える美人プリースト。

 そして、ここ数日はゴブリン退治に明け暮れている変わり者。

 

 依頼受注のやりとりをしていた、一党のリーダーの戦士は、流れに付いていけずに固まっている。

 

「え、半竜の子も来るんですか?」

 

「はい、彼女と一緒なら、受けていただいて構いませんよ。逆に、そうでないなら、また別の依頼にしてくださいね」

 

「ちょ、ちょっと仲間と相談しても?」

 

「かまいません。どうぞ」

 

 一党の仲間の方に戻る戦士に、半竜娘も声をかける。

 

手前(てまえ)の呪文の残りはあと6回じゃ。今既に【加速】を使って維持しておるから1つ(げん)になっとるわけじゃな。武術と呪文には自信がある。回復も任せるが良い。

 見たところ、前衛が足りぬようじゃから、前衛で入るかの?

 ああ、分け前は四等分の端数切り捨てで良いぞー。薬やなんかは手前(てまえ)の持ち出しで良いぞー」

 

「ま、まずは仲間と相談する!」

 

 受付嬢は、この条件で断るようなら、半竜娘にソロで行かせるつもりでいた。

 というか、もともと、半竜娘はこのゴブリン退治の依頼をソロで受けるつもりでいたのだが、受付嬢が「白磁等級がこのゴブリン退治を受注しようとするかもしれないので、他の冒険者の育成のためにも、彼らと臨時の一党を組む前提で少しだけ受注を待ってもらえないか」と言って引き止めていたのだ。

 

 半竜娘の方も、ギルドの評価を高めたいし、受付嬢には苦労を掛けているので報いたいし、新人の中には(ちょう)ずれば英傑となるような者もいるかも知れないのに蛇の目が出た程度で死ぬのは勿体ないしと常々思っていたので、快く引き受けることにしたのだ。

 

 

 そして結局、白磁等級3人の一党に、半竜娘を加えて4人で、ゴブリン退治に行くこととなったのだ。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 夕刻。半竜娘と、白磁等級3人のパーティーは、無事に帰参した。

 半竜娘はピンピンしてる一方、白磁等級の方は、息も絶え絶えというところだった。

 それも無理はない。

 冒険報告によると、田舎者(ホブ)2匹に、呪術師(シャーマン)1匹、冒険者の装備を奪った田舎者(ホブ)のなりかけ戦士(ウォリアー)が1匹。あとは無数のゴブリン。

 これから村の1つも滅ぼそうという勢いだったという。

 

「はあー。まじでなんなんあれ」

 

「ゴブリン、ナメてたわー」

 

「生きてて良かった……」

 

 白磁等級の新人にはキツい洗礼だったことだろう。

 

「ていうか、半竜の姉さんがマジで鬼畜。なんなん、体験せねば覚えんやろって。壁抜き奇襲を読んでたんなら教えてくれよ」

 

「術で治せばいいからって、俺たち3人であのでっかいの……先祖帰りのホブっての2匹と戦わせるとかホントもう……毒も食らうし……」

 

「まあまあ、それでもその分、解毒剤とかポーションとか持ち出してくれたし。回復の奇跡も使ってくれたし……」

 

「そうだけどー」

 

「打ち上げの払いも多く持ってくれるって言うから許すけどー」

 

 本当に相当、厳しかった模様。

 

 その半竜娘はどこかと見れば、酒場の別の席で陽気な水の自由精霊を召喚して、【命水】の精霊術で回復水を作って振る舞わせていた。

 魔法の力が込められた水が、酒場にいる冒険者たちのグラスに飛んでいく。全部で30人の冒険者たちに行き渡ったようだ。

 もちろん、白磁等級の新人3人もその中に含まれる。

 

『はーい、みんなー! 今日もお疲れ様! 今日のお恵みよ! この、麗しくも心優しい私に感謝なさいよー!』

 

「精霊のねえちゃんありがとー!」「今日もイケてるぜー!!」「ひゅーひゅー!!」

 

『もっと褒め称えなさーい! いえー! カンパーイ!!』

 

「「「カンパーイ!」」」

 

 疲労と負傷を回復するこの精霊術の施しも、そろそろ名物になりつつあるのかも知れない。

 ノリの良い冒険者たちにおだてられて、水の自由精霊もご満悦のようだ。

 

「受付殿にもこちらをやるのじゃ」

 

 気付けば半竜娘が、受付嬢の方に来ていた。

 肩のあたりに深い青色の燐光の玉をひとつ漂わせているが、あの自由精霊とは別口の精霊なのだろうか。小さなトカゲのような蛇のようなビジョンが見えたような気もする。

 半竜娘が指を振るうと、受付嬢の口元まで、淡く光る小さな水の玉が、半竜娘の持つコップから、ふわりとやってきた。水精霊にお願いしたのだろうか。

 

「これは……?」

 

「新しく仲良くなった水精霊の御披露目に、苦労かけておる受付殿へ【命水】のおすそ分けじゃ。奥の皆にも、の」

 

 そういうと、半竜娘も自分の前に小さな水の玉を浮かべて、見本を見せるようにパクリとひと飲みにしてみせた。

 バックヤードを見れば、残っている職員たちの口元にも同じような水の玉が飛んでいくところだった。

 

「では、今日の冒険に乾杯、冒険(ささ)える皆にも幸あれ、じゃ」

 

 ずいぶんと気の利くようになった半竜娘は、礼を言う間もなく酒場に戻っていってしまった。

 

「ふふ、じゃあ、いただきます」

 

 パクリと飲んだ回復水は、甘く、爽やかで、体に染み渡る感じがした。

 

 

 

   ●〇●〇●〇●

 

 

 

3.地下未踏遺跡を踏破せよ!

 

 

 

 槍使いと魔女が辿り着いたのは、下水道から繋がっていると新たに発見された未踏の遺跡の最奥だった。

 

 そこにたどり着くまでには、不潔な害獣や害虫の群れを越えてこなくてはならなかった。露払いにと、ある程度下水道に慣れた新人たちをつれてきていなければ、なかなか精神的に苦しい道程になっただろう。

 

 だが、あるところを過ぎると、急に雰囲気が変わり、臭気も薄れた。

 そこが遺跡と下水道の境目を成していた場所なのかもしれなかった。

 出てくる怪物も、キメラめいた異形が増え、強力になっていった。槍使いの出番も増えたが、しかし彼の敵ではなかった。

 

 白磁等級の新人たちを休ませるために、休憩を多めにとったのは、正解であっただろう。

 最奥と思しき場所に辿り着いたら、なんらかの装置らしきものから這いだそうとしている不定形の粘液体に出くわしたのだ。万全で挑むべきであった。

 

「これが半竜の嬢ちゃんの言ってやがった、巨大粘液体か? それにしちゃあ、小さいな。手負いって訳でもなさそうだ」

 

「そ ね。生まれたて……なの、かも?」

 

「はっ、じゃあ後ろの装置は召喚器か何かかよ」

 

 槍使いと魔女、そして新人たちは、半竜娘の報告により明らかになった、辺境の街の地下の未踏遺跡の調査に来ていた。

 下水道は臭く暗く不潔で勘弁してほしいが、自分の住む街の地下にそんな怪物が潜み続けるというのもぞっとしない。槍使いはそう思って、街の領主からの依頼を受けたのだ。受付嬢に頼られたというのも、もちろんある。

 依頼に示された目的は、遺跡の不活性化と、怪物を生み出す巨怪の存在確認。あわよくば、その討伐。

 

「ありゃあ、槍はそのままじゃ効きそうにないな」

 

付与(エンチャント)、するわ ね」

 

「頼む。付与したら次はまず魔法で先制だな。動きは鈍いという情報だ。

 おい、新人どもは、一撃入れたら、産み落とされて出てくるっつー雑魚を引きつけろ! だが基本は速攻だ! 術使いは術用意! 付与使いは戦士に付与して、戦士は突撃準備!」

 

 槍使いの指示に、新人たちのうち投射タイプの術が使える者たちが準備を始める。

 

「合わせろ! さん、にい、いち、いま!!」

 

 槍使いの号令に合わせて術が飛び、粘液体を吹き飛ばす。

 

 そして槍使いを筆頭に、前衛の戦士たちが突撃した。

 

「一撃入れたら下がれ! 奴の動きは鈍い! 取り込まれるな!」

 

 次の瞬間、粘液体が沸き立ち、雑多な動物たちが、そして奇怪な変異体たちが産み落とされる。

 やがて粘液体が全て動物や変異体に置き換わると、奥の装置からさらに別の粘液体が這い出ようと、あるいは生み出されようとしているのが見えた。

 呪文の流れ弾も当たったろうに、装置に目立った傷は見られない。

 

「おかわり、みたい ね?」

 

「持久戦か……だが、そうはいくか!」

 

「そ ね。アラーネア…ファキオ…リガートゥル 《粘糸(スパイダーウェブ)》」

 

「雑魚の動きを止めてるうちに、次のが出て来られねーように装置を壊す!! 大槌、大剣持ちはついてこい!」

 

 槍使いの号令に、幾人かの新人が続いた。

 時間をかければ不利になる以上は、相手の補給回復を絶っての速攻しかない。

 これが決まらねば、撤退が必要となろう。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 粘液体の怪物の死に際に転化して吐き出された動物たちには、雑魚しかいなかったのが幸いし、死闘の末、なんとか新人にも死者を出すことなく切り抜けることができた。粘液体が成長途中だったからだろうか。

 道中の強力な変異体は、おそらく半竜娘が見つけたという巨大粘液体から転じたものの生き残りだったのだろう。粘液体は、育てば強くなるタイプの化物だったようだ。

 

 召喚器らしき装置も破壊したため、これ以上、化物が出てくることもないはずだ。

 

「ま、これで一段落ってわけだ! さあて、お待ちかねだぜ新人ども! 遺跡には宝物がつきもの、とはいえトラップで死んだら詰まらねえ。手に負えなさそうだったら無理すんなよ!」

 

 わあ! と疲れながらも歓声を上げる新人冒険者たち。

 

 魔女は苦笑している。

 というのも、ここはどうやら、高度な錬金術を応用した工房の跡地のようだったからだ。

 そこにあるものの価値を見抜ける者が、果たして新人にどのくらいいるというのか。

 

 まあ、魔女には分かるので、適当なところで指揮をして、彼ら新人には人足として協力してもらえば良いか、と考えたようだった。

 

 おそらく万能変異する粘液体、その細胞は、あの召喚器だか製造装置だか分からないものの中に残っているだろう。動物への変化は不可逆のようだったが、使い魔のベースにはもってこいではないだろうか。そのまま使うには不安があるから、研究が必要だが。それにちょうど良く、古竜の素材もあることだし、カスタムメイドの使い魔を作ってみるのもいいかも知れない。

 

 魔女は口元に妖艶な笑みを浮かべ、喉奥で笑った。

 

 

 ともあれ、今日も冒険者たちの働きで、街の平和は守られたのだ!!

 

 

 

   ●〇●〇●〇●

 

 

4.リザルト

 

 半竜娘は、水の精霊【ミズチ】と仲良くなった!

 

 半竜娘は、水の精霊【ミズチ】を精霊術【使役】で呼び出せるようになった!

 

 

 半竜娘は、【精霊使い】のレベルが上がった! 精霊使いの職業レベルが2になった!

 

 半竜娘は、新しく、【降下(フォーリング・コントロール)】の精霊術を使えるようになった! 

 

 半竜娘は、付与呪文が上手になった! 冒険者技能【呪文熟達:付与呪文】の初歩を身につけた!

 

 半竜娘は、【魔術師】のレベルが上がった! 魔術師の職業レベルが5になった!

 

 半竜娘は、新しく、【抗魔(カウンター・マジック)*4の真言呪文を使えるようになった!

 

 半竜娘は、付与呪文がさらに上手になった! 冒険者技能【呪文熟達:付与呪文】に習熟した!

 

 

 半竜娘は、瞑想のなかで自然や精霊たちの声を聞いた! 一般技能【瞑想】の初歩を身につけた!

 

 

 半竜娘の破壊衝動!

 

 半竜娘は、建物を壊したくてうずうずしている……!

 

 

 冒険者ギルドからの評価が一定に達しました。

 黒曜等級への昇格審査を受けますか?

 

 >はい

  いいえ

*1
命水アクアビット:精霊術によって、水に回復の力を付与する。怪我と疲労を癒やす効果を付与する。長い時間は保たないので、効果が揮発する前に飲んでしまおう。コップ一杯程度の水を回復水にでき、一口飲むだけで効果が現れるため、10人で分けることができる。水に効果を付与するのに3分かかり、さらに実際に口にする必要があるため、戦闘中の使用には向かない。

*2
酩酊ドランク:酒に酔わせて眠らせる精霊術。原作の鉱人道士の得意技、というか、マンチ御用達の術。抵抗は呪文抵抗ではなく体力抵抗で行うため術士に通りやすいのも良い。やはりスリープクラウドは強呪文。

*3
原作小説一巻で、ゴブスレさんをぷーくすくす装備ぼろーい、とか言ってた白磁の一党。未帰還。なお彼らが向かって帰らなかったゴブリンの巣は、ゴブスレさんに行殺された。()()()()()()の象徴のひとつ。

*4
抗魔カウンター・マジック、真言呪文。呪文の発動を阻害する。相手の行動に被せて(リアクションのタイミングで)発動可能。




《使役》でカスタム精霊を呼び出すのは独自裁定です。やりすぎるとゲームバランス壊すので、何らかのペナルティーが必要でしょう。例えばご機嫌とりに毎日上質な触媒を消費し、呼び出すときも上質な触媒で呼び出すのが礼儀で、そうしないと機嫌損ねてペナルティー、など。(いやでも維持コスト銀貨10枚/日ってかなり重いな……。半竜娘ちゃんは金満だから払えるけど……。上質な触媒のお供え物は、毎日じゃなくて毎週にするか)
(多分ですけど、酒場がお気に入りの水の自由精霊を酒場以外で呼び出そうとすると、達成値に-20くらいのペナルティー食らうと思います。)

作者備忘のためステータス掲載。特に見なくても大丈夫です。

◆名前:半竜娘
 年齢13歳(成人直後)。緑かかった烏の濡れ羽色の鱗と髪を持つ。
 顔と胸元だけ只人の遺伝が現れ、残りの部分は蜥蜴人な混血。胸元は豊満だが、哺乳動物ではないので本当に単に膨らんでるだけ。
 やる夫スレならAAは「長門(艦これ)」を当てると思う。
 つよい(確信)。最終的にゴジラになれる素質がある。
 巨大化して建造物を壊したり、敵軍を轢き潰したりしたいお年頃(中二病)
 TASさんとゴブスレさんの薫陶を受けたせいか、自主的に和マンチの道を歩み始めている。

◆累積経験点 53500点/ 残り経験点0点
(ゴブスレッスン  +1000点
 ゴブリン退治10連勤+1500点
 沼竜発生原因調査 +1000点
 新米剣士救出   +1000点)

◆残り成長点 3点

◆能力値
 装備:魂魄強化の指輪+3、知力強化の指輪+3
 状態異常:狂魔覚醒剤後遺症(各判定時-2(残り9日))
能力値体力点 5魂魄点 8技量点 3知力点 6
集中度 4912710
持久度 381169
反射度 381169


    生命力:【 38(28+10) 】
    移動力:【 24 】 
 呪文使用回数:【 07 】

  呪文抵抗基準値(魂魄反射+冒険者LV+呪文抵抗):【 19 】

◆冒険者レベル:【 8 】
  職業レベル:【魔術師:5】【竜司祭:9】【精霊使い:2】【武道家:6】

◆冒険者技能    初歩/習熟/熟練/達人/伝説
  【免疫強化】  ●   ○  ○  ○   ○
  【魔法の才】  ●  ●  ●  ●   ○
  【呪文熟達(創)】●  ○  ○  ○   ○
  【呪文熟達(付)】●  ●  ○  ○   ○
  【追加呪文(真)】●  ○  ○  ○   ○
  【追加呪文(竜)】●  ●  ○  ○   ○
  【生命の遣い手】●  ●  ●  ○   ○
  【機先】    ●  ●  ○  ○   ○
  【頑健】    ●  ●  ○  ○   ○
  【忍耐】    ●  ○  ○  ○   ○
  【武器:格闘】 ●  ●  ●  ○   ○
  【体術】    ●  ●  ○  ○   ○
  【鉄の拳】   ●  ○  ○  ○   ○
  【発勁】    ●  ○  ○  ○   ○
  【薙ぎ払い】  ●  〇  ○  ○   ○
  【二刀流】   ●  〇  ○  ○   ○

◆一般技能     初歩/習熟/熟練
  【竜の末裔】  ●  ●  ●
  【暗視】    ●  ○  ○
  【祈祷】    ●  〇  〇
  【瞑想】    ●  〇  〇
  【沈着冷静】  ●  ○  ○
  【信仰心(竜)】 ●  ●  ●
  【統率】    ●  ●  〇
  【礼儀作法】  ●  〇  〇
  【調理】    ●  〇  〇
  【精霊の愛し子】●  〇  〇
  【職人:土木】 ●  〇  〇

◆呪文
 呪文行使基準値(知力集中):【 10 】
        (魂魄集中):【 12 】
 職業:魔術師:5 竜司祭:9 精霊使い:2
 技能:呪文熟達(創造呪文):+1
    呪文熟達(付与呪文):+2
    生命の遣い手:生命属性の呪文が出目10以上で大成功
 装備:真言呪文の発動体+3 紅玉の杖(真言呪文行使+1)
 真言:【 19 】  奇跡:【 0 】  祖竜:【 21 】  精霊:【 14 】

 ◎習得呪文:
 《 分身 》 難易度:20 (真言呪文 創造呪文(生命))
 《 力場 》 難易度:15 (真言呪文 創造呪文(空間))
 《 抗魔 》 難易度:10 (真言呪文 付与呪文(なし))
 《 巨大 》 難易度:10 (真言呪文 付与呪文(生命))
 《 加速 》 難易度:15 (真言呪文 付与呪文(生命、精神))
 《 停滞 》 難易度:15 (真言呪文 支配呪文(生命))
 《竜牙兵》 難易度:15 (祖竜術 創造呪文(生命))
 《 竜爪 》 難易度:10 (祖竜術 創造呪文(物質))
 《 狩場 》 難易度:15 (祖竜術 付与呪文(空間))
 《 竜眼 》 難易度:10 (祖竜術 付与呪文(生命))
 《 竜血 》 難易度:なし (祖竜術 付与呪文(生命))
 《 擬態 》 難易度:10 (祖竜術 付与呪文(光))
 《 竜吠 》 難易度:15 (祖竜術 支配呪文(精神))
 《竜息/毒》 難易度:10 (祖竜術 攻撃呪文(闇))
 《 突撃 》 難易度:10 (祖竜術 攻撃呪文(なし))
 《 賦活 》 難易度:10 (祖竜術 治癒呪文(生命))
 《 小癒 》 難易度: 5 (祖竜術 治癒呪文(生命))
 《 降下 》 難易度:10 (精霊術 付与呪文(土、空間))
 《 使役 》 難易度:10 (精霊術 支配呪文(火、水、土、風))

 ※使役できる固定の精霊(名称:ミズチ)がいる。当該精霊が使ってくれる呪文は以下のとおり。
  【命水】(精霊(スピリット)級から)
  【酩酊】(自由精霊級から)
  【隠蔽】(大精霊級から)
  固定のパートナーのため、機嫌を損ねると言うことを聞いてくれないことも。
  毎日、触媒(酒や果物など)をお供え物として消費し、週に一回は上質な触媒を供える必要がある、呼び出す際も上質な触媒を用いなくてはならない。上質な触媒を用いない場合は達成値-4。

◆攻撃
 命中基準値(技量集中):【 7 】
 職業:【武道家:6】
 技能:【武器(格闘):熟練(+3)】
 近接:【 16 】  弩弓:【 7 】  投擲:【 13 】

 ◎武器:【 素手(爪) 】
   用途/属性:【 片手or両手格軽/斬 】
  命中値合計:【 16 】
   威力:
   片手:1d3+5(内訳:鉄の拳+1、発勁+1、竜の末裔+3)
   両手:1d3+7(内訳:両手+2、鉄の拳+1、発勁+1、竜の末裔+3)
   効果:投擲不可

 ◎武器:【 尻尾の大篭手(テールガード)(盾攻撃) 】
   用途/属性:【 片手格軽/殴 】
  命中値合計:【 16-2 】
   威力:1d3+2(内訳:発勁+1)
   効果:投擲不可

 ◎武器:【 南洋投げナイフ 】(2本所持(再購入))
   用途/属性:【 片手投軽/斬刺 】
  命中値合計:【 13+4 】
   威力:1d6
   効果:投擲専用、強打・斬(+1)、刺突(+1)、斬落

 (紅玉の杖は基本的に武器として用いない)

◆防御
 回避基準値(技量反射+武道家レベル+体術スキル):【 14 】
 ◎鎧:【 衣鎧+鱗 】
   鎧:魔法の司教服(+3)(装甲7、回避修正+2、移動修正-4)
   鱗:外皮+3(竜の末裔)
   属性:【 衣鎧(布)/軽 】  回避値合計:【 16 】
   移動力合計:【 18 】  装甲値合計:【 7+3 】
   隠密性:【悪い(静穏性はあるが視覚的に派手)】

 盾受け基準値(技量反射+武道家レベル(大篭手着用時)):【 12 】
 ◎盾:【 小型盾 】
   盾:魔法の大篭手(+3)(盾受け修正5、盾受け値4、武道家の適正装備扱い)
  (両手と尻尾に同じものを装着)
   属性:【 小型盾(金属)/軽 】 盾受け基準値合計:【 17 】
  盾受装甲値合計:【 14 】 隠密性:【 良い 】

◆所持金
  銀貨:250枚(直近で稼いだ分。とりあえずの手持ち)
  (足りないときは、財布を預けてる魔女さんに相談しようね!)

◆その他の所持品 (分身の分を余分に所持)
冒険者ツール ×2
   内訳(鈎縄,楔x10,小槌,火口箱,背負い袋,水袋,携帯用食器,白墨,小刀,松明x6)
  携帯食×7日分、衣類
  背負い袋(蜥蜴人用特大サイズ) ×2
  ベルトポーチ ×4(主にポーション類を入れる)
  ずた袋 ×2
  小袋セット(3枚/1セット) ×2
  竜司祭の触媒入れ ×1(移動力修正-2)
  魂魄強化の指輪+3 ×1(装備中)
  知力強化の指輪+3 ×1(装備中)
  技量強化の指輪+3 ×1
  体力強化の指輪+3 ×1
  武術熟達の腕輪+3 ×1
  体術熟達の腕輪+3 ×1
  真言呪文の発動体+3 ×1(装備中、形態:ネックレス)
  毒煙玉 ×4
  治癒の水薬 ×6
  強壮の水薬 ×4
  解毒薬 ×4
  鎮痛剤 ×2
  燃える水 ×2
  火の秘薬 ×2
  能力上昇の秘薬(各種) ×2
  【使役】の上質な触媒(各属性) ×2
  水精霊【ミズチ】用の上質な触媒 ×4

◆出自/来歴/邂逅/動機
 軍師/戦場/家族/託宣


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10/n 山砦粉砕炎上

閲覧、評価、感想、誤字報告ありがとうございます!
(水精霊で酒場っていうと、このすば!のアクア様リスペクトのキャラ造形がしっくり来すぎたのです……アクア様可愛いからね仕方ないね。とはいえ、自由精霊ちゃんは、たぶんご本尊じゃなくてアバターかフォロワーです)


 何もかも粉砕する半竜娘ちゃんを愛でる実況、はーじまーるよー!

 

 前回からの成長を確認しましたが、なんと、固定パートナーの精霊を見つけてくれたみたいですね!

 

 しかも、顕現段階ごとに【命水(アクアビット)】【酩酊(ドランク)】【隠蔽(インビジブル)】が順に解放されるという完全サポート特化! 形は蜥蜴か蛇みたいな感じですが、顕現レベルが上がればまた変わりそう。ポケモンかな?

 

 しかし半竜娘ちゃん、中身が走者の転生体だったりしない? え、現地人でこれ? やはりゴブスレさんの薫陶の(たまもの)か……、それともTASさんの汚染やもしれん。

 

 固定パートナーの精霊はご機嫌取りのお供え物が必要なので、コストはかかりますが、その分呪文を選べるので優秀です。

 余談ですが、森人の術士の構築としては、最終的に精霊ハーレムで大精霊侍らせまくって飽和火力ブッパというロマンビルドがありますが、フラグ管理ミスると各精霊のお気に入りのパーツごとにわけわけされて精霊界に拉致られるのでリスキーです。

 

 さてそして、ギルドでゴブリン退治や新人のお守り、地下未踏遺跡の情報提供、新人剣士君救出などをこなしたことで、ようやくギルドからの信用度評価がプラスになりました!

 

 ぬわああああん疲れたもおおおおん!

 

 

 というわけで、昇格審査です。

 

 白磁(第十位)の次は黒曜(第九位)

 冒険者登録ひと月も経たずに昇格するのは、かなりハイペースですが、ドラゴンの群れをソロ討伐した実績があるやつで、人品の見極めもある程度出来れば、低ランクで(くす)ぶらせておく理由は全くないですから、不思議ではないです。

 ギルド職員の好感度も稼ぎましたしね!

 

 面接はつつがなく終わり、念のための試験ということで、護衛依頼を鋼鉄等級の一党と一緒に受けることになりました。

 

 これは、半竜娘ちゃんが基本的に日帰り圏内の討伐依頼しか受けていなかったため、遠征能力や護衛能力があるかどうかの確認をするということですね。

 また、新人や上位陣との繋がりは強いものの、中堅との絡みが少ないので、その辺のコネづくりにギルドが気を使ってくれた形ですね。

 かなり期待されてる感じですねー!

 

 ……はい。お相手は皆さんよくご存じの構成の一党ですねえ。

 

 この一党は、書物(原作小説)版でゴブリン蔓延る廃棄された森人の山砦に捕虜の救出に押し入ったがバッドエンドになった鋼鉄等級の一党です。

 メンバーは貴族令嬢の自由騎士(至高神信仰)、圃人の斥候、只人の神官、森人の魔術師。いずれも女性で、通りすがりの村でゴブリンに攫われた娘の救出を請け負うくらいに正義感あふれる、(まこと)の冒険者です。

 たぶん、この護衛依頼の帰りに、書物(原作小説)版の流れに巻き込まれるのでしょう。

 

 ということは、おそらくですが、ゴブリンの住み着いた、燃やしても良い山砦が、行き帰りの道の近くにあるはずです。

 護衛の行き先も、書物(原作小説)版で山砦があるとされた場所と同じく北の山中ですし、間違いないでしょう。

 

 燃やしてもいいってことは、壊しても良いはずです。

 

 壊しましょう。

 断固破壊します。

 

 そして燃やす。

 焼き討ちじゃ。

 

 いやね、半竜娘ちゃんの鬱憤が溜まってるみたいなんですよねー。

 ちょうどいいので、半竜娘ちゃんのストレス発散のために、スカッと粉砕してガハハと燃やす依頼をやります。蛮族かな?

 

 ゴブリンスレイは、血の滾りを発散するのにはいいですが、それと破壊衝動は別というか。

 狭っ苦しいとこで雑魚を潰しまくるのも悪くはないけどたまには、広いところで思いっきり大暴れしたい、ということのようです。散歩に行けない犬みたいな心境なのかもしれません。ストレスフル……!

 あとやっぱり火付けにハマってるのかも知れません。

 

 そんなんやから「度し難い人」とか言われるんやで。

 

 で、まあ商人の護衛で、貴族令嬢を頭目とした一党にくっついて、出てきた山賊やら追剥やらを爪にかけつつも、目的地まで行き、そっちは無事に終わったわけですよ。

 商人は、そこでまた仕入れして別の地方に向かうから、当初から現地で護衛を雇い直すという予定だったので、半竜娘ちゃんたちは現地でお役御免となりまして。

 辺境の街に戻るついでの依頼があれば都合が良かったんですが、めぼしい依頼もなかったので、そのまま帰ることにいたしまして。

 

 そいで、帰る途中の村では、古い山砦にゴブリンが住み着いて、家畜を連れ去り、ついには村娘まで攫われた、という話を聞きまして。

 

 全員女性の一党ですから、

 

「「このゴブリンどもめ! ど(ゆる)せぬ!!」」

 

 となるのは当然で。

 

 つまり、ゴブリン退治と相成(あいな)ったわけです。

 

 ゴブリン退治ですが、今にも焦って突入しようとする鋼鉄等級一党に、慎重に行くように提案します。ゴブリン退治の場数は、実は半竜娘ちゃんの方が上ですので、耳を傾けてくれました。

 特に、突入するなら、砦の仕掛けが生きてるかどうかが死活問題になります。

 そしてどうせ小鬼英雄(ゴブリンチャンピオン)とかの上位種が複数居るんでしょ? しかもオーガ並のやつが。おれはくわしいんだ!

 

 じゃけんまずは偵察しましょうね~。

 精霊術【使役(コントロール・スピリット)】で風の精霊(スピリット)を召喚します。

 

 いつもの手でいこう。

 あんまりワンパターンにするとゴブリンに手管を学習されるかも知れないので良くないんですが、どのみちGMがメタってくるので気にしないようにします。

 こっちもそれを見越して対策すれば良いわけです。対策の対策、その対策の対策の……。

 

 まあ、往々にして、圧倒的な暴力で吹き飛ばすのが早いことはあるんですけどね! それもまたひとつの対策。

 

 策謀メタは暴力。

 この手に限る。

 

 なお脳筋繰り返すと、GMも同じ手で被せて来る模様。しかもリソース削ってきた上で。やめちくりー。

 ただ、そういうときは、きちんと頭使えばもっと楽に行く道があったりするんですよね。やはり、考えて考えぬくことが必要ってことです。

 

 ともあれ、風の精霊を呼び出して偵察に行かせます。

 

 おい、お前なんで呼び出した半竜娘ちゃんよりも、森人魔術師さんに懐いてんだよ、おい。

 

 おら、良いから行くんだよ! 内部構造と、敵の数と、捕虜の生死を確かめてくんだよー!

 

 はい。

 

 戻ってきた風の精霊に砦の見取り図について砂を吹き飛ばして砂絵にしてくr……え、森人魔術師さん、精霊の声が聞こえるの。あ、そう。さすがエルフっすね。精霊に愛されし種族。

 

 そしたら、森人魔術師さん経由で精霊から情報を聞き出します。砂絵も使います、視覚的にやった方がわかりやすいのでね。

 待機させてる風の精霊には、とりあえず本体の半竜娘ちゃんの支援を指示しときましょう。

 

 はい、はい、はい。うん。

 

 捕虜はまだ生きてると。

 どの辺にいる?

 あぁ、図のこの辺か。

 

 つまり、ここだけ避けて壊せば良いんだな?

 

 作戦は単純な「陽動と救出」です。

 片方が外で暴れて惹きつける、残りのメンツは手薄になった隙に潜入突入する。

 暴れるのは、半竜娘の分身ちゃんの方。

 潜入突入班は、鋼鉄等級一党と本体の半竜娘ちゃん。半竜娘ちゃんは、一党の職業構成的に前衛を張る方向になります。

 

 呪文使用回数は、本体残り7、分身6です。

 森人魔術師さんはオーバーキャスト無しで4回とのこと。神官さんは3回とのこと。

 

 まずは本体が【加速】を使ってバフします、達成値は35*1なので、加速の補正は+4です。本体の残りの呪文は6回。

 

 えーと、そしたら突入用に【擬態(カモフラージュ)】の祖竜術を、【竜血(ドラゴンブラッド)】を介して、貴族令嬢の自由騎士、圃人の斥候(女)、森人の魔術師(女)、只人の神官(女)に、それぞれかけます(【擬態】+【竜血】のセットが4人分なので、呪文8回分。ファンブルは出なかった)。血の飲ませ方はご想像にお任せします。一党全員が、1時間の間、隠密判定に+13*2の効果を得ます。まず見つからないでしょ、これ。

 

 かけたのは分身ちゃんですので、オーバーキャストが2回必要でした。分身ちゃんが気絶するくらいに消耗したので、一旦分身を消して、再作成します。本体と新しい分身の呪文使用回数は残り5回です。分身を使い潰す半竜娘ちゃんを見て、森人魔術師がドン引きしていますが気にしないようにしましょう。

 

 次は、突入班の支援用に【狩場(テリトリー)】の祖竜術を10分かけて詠唱します。達成値は31*3なので、呪文抵抗が30までの敵は、半径30mまでの範囲に侵入できず、半径100mまでの範囲の敵を感知できます。

 

 呪文抵抗30って、オーガ並の小鬼英雄でも、クリティカルで絶対成功出さないと突破できませんね……。

 

 え、もうこれ救出成功でいいのでは?

 

 いやいや、敵の身体は弾いても、矢玉は通るので、まだ何が起こるか分かりま……。

 

 ……いや、生体反応レーダー&拒絶結界持ちが光学迷彩状態で突入するんでしょ?

 内部構造と捕虜の場所はもうだいたい分かってるし。

 拒絶結界は半径30mだから、普通の投擲武器の範囲外だし、大抵の魔法も届かないし。そもそも光学迷彩で見えないから呪文の対象にならないし。

 【抗魔】と呪文抵抗の指輪と能力向上薬で、呪文抵抗を底上げしまくったオーガ並みの小鬼英雄が居れば結界突破ワンチャン? 突破できるのそいつだけなら分断成功してる時点でどうとでもできるわ。鋼鉄等級の一党のリソース温存してるんだし。

 失敗する要素ないじゃーん(なおダイスの女神さまのご機嫌次第でダメなときもある模様)。

 

 えーと、【狩場(テリトリー)】を使ったので、本体の呪文使用回数は、残り4回です。分身の方は残り5回。

 

 これは、中に突入できさえすれば勝ち確でしょう(慢心)。

 

 【擬態】の残り時間は50分もないので、さっさといきましょう。

 

 陽動のための準備として、分身ちゃんも【加速(ヘイスト)】の呪文を唱えます。風の精霊の支援は一時的にこっちに付け替えます。ついでに移動力を下げる装備(司教服と触媒入れ)も外しておきましょう。

 達成値29*4で加速ボーナスは+3になりました。

 分身の呪文使用回数は残り4回。

 

 本体の方で【力場】を詠唱して、助走用のバンクを設置します。本体の呪文使用回数は残り3回。

 次は【巨大】による巨大化ですが、その前に支援用の精霊を出します。念のため上質な触媒を使います。

 まずは分身ちゃんが詠唱し、火の精霊を呼び出しました。【使役】の達成値は20*5で、自由精霊(フリースピリット)ですね。【火矢】または【熱波】が3回使える子です。分身の残り呪文使用回数は3回。

 本体の方も精霊を呼び出しま……クリティカル!? 達成値38*6で、これ火の大精霊呼べちゃいますね。……よし、呼ぼう!

 

 豪火をまとって、火の大精霊の一端が顕現しました。ゴブリンにもばれたでしょうけど、どうせすぐ突入するので問題ないです。

 では、風の精霊は突入する本体の方につけて、火の自由精霊と、火の大精霊は、分身ちゃんの【巨大】の呪文の援護をさせたあとに、ゴブリンに攻撃するように【統率】で半竜娘ちゃんズがそれぞれ指示します。

 分身ちゃんが【巨大】を唱え……達成値は36*7、5倍拡大です。精霊の支援が付くと、かなり安定して5倍拡大までいけますね~、付与呪文熟達の技能もいい仕事してます。

 分身ちゃんの呪文使用回数は残り2回なので、2回とも【突撃(チャージング)】につぎ込みます。

 

 いいから【突撃(チャージング)】だ!!

 

 半竜娘ちゃんの本体は、自分に【擬態】をかけて侵入準備です。本体の残り呪文は1回です。

 

 

 ではよーいスタート!

 

 分身ちゃんが【力場】のバンクをくるくると独楽鼠(コマネズミ)のように回って助走距離を稼いでから、猛スピードで【突撃】します。1ラウンド30秒で720mを駆け抜けるとして平均時速約86km? 実際は10秒とか15秒とかで駆け抜けてるとしたら、この2倍3倍のスピード? うわあ。そら、呪文の加護で肉体強度を上げてなきゃ反動で自滅しますわ。実際は加速度的な動きのはずなので、実際の最終速度はもっとえげつないはず。

 5倍拡大ともなれば助走距離のボーナスだけで最大で約140ダメージが発生しますので、城砦の壁も余裕で突き破ります。10倍拡大だと280以上のダメボが乗るってマ?

 当然のごとく、山砦の本丸を突き崩し、物見塔もなぎ倒します。

 古木でできた砦が、まるで大鋸屑(おがくず)か木っ端で出来てたみたいに吹き飛んでますねー!

 

 Huuuuuuu~↑ 気持ちEEEEE~~↑↑

 

 さらに、もう一度【突撃】を発動し、【力場】のバンクサーキットの方に戻って来て、くるくる回って再突撃です。

 

 CRAAAAAASH!!!!

 

 やったぜ!

 壁に穴が空き、目立つ建物は崩壊し、これで砦は機能を喪失したといっていいでしょう。

 本体と貴族令嬢一党たちは、この間に侵入します。

 

 その後、分身ちゃんは、【巨大】の効果時間が切れるまでの2分ほど、砦の中で暴れまくります。

 構造物を吹き飛ばして風穴を開け、ゴブリンを踏みつぶし、尻尾で薙ぎ払います。

 これは、退路確保も兼ねていますし、ゴブリンを逃さないように、門やら何やらを潰して、奴らの逃げ道を一か所に絞るためでもあります。

 崩す場所は、あらかじめ【職人:土木】技能によって、目星をつけています。

 中からゴブリンがわらわらと出てきますが、力の限り暴れ続けます。そもそも、巨大化で装甲が厚くなってるので、雑魚の攻撃はノーダメージです。

 

 【巨大】の効力時間が終わっても、武術の腕を生かして戦い続けます。

 さらに言うと、一人だけだとゴブリンが侮ってくれるので、囮として最適です。

 

 同時に突入した火の自由精霊が【火矢(ファイアボルト)】でゴブリンを火だるまにし、火の大精霊が【熱波(ヒートウェーブ)】で集団ごとゴブリンを吹き飛ばし、火炎の【霊壁(スピリットウォール)】を作り出して、捕虜に関係ない構造物を燃やして閉じ込めます。

 【霊壁】は長続きしませんが、大精霊の高火力で、あっという間に瓦礫に燃え移り炎上していきます。

 

 この間に、本体の半竜娘ちゃんと、鋼鉄等級の貴族令嬢一党は、砦の中を捕虜のところまで最短距離で走っています。

 ゴブリンたちも出てきますが、【狩場】の結界の効果で押しのけて進みます。行き場がなくなったゴブリンたちが、不可視の結界によって壁に(はりつけ)にされたみたいになってますね。

 奴らからしてみれば、本当に怪奇現象だと思いますよ、これ。

 

 ぼやぼやしてると火が回るので、罠は一番タフな半竜娘ちゃんを先頭に突出させた上で漢探知で(踏み抜きま)す。発動した落とし穴を飛び越え、毒矢を掴み止め、毒煙は息をとめてパーティーを抱えて突っ切り、とにかく発動させて避けるという方向です。

 あまりに致命的なのは圃人斥候が教えてくれますが、結局は時間との勝負で罠ごと踏みつぶした方が早いので、そのまま突っ切っていきます。

 呼子が鳴ろうが、どうせゴブリンたちは結界があるので近づけませんし。

 

 しかし、森人砦の罠は、森人が仕掛けたものを再利用しているので、半竜娘ちゃんも無傷では済みませんでした。

 ひょっとすると、これまでの冒険で一番負傷しているかもしれません。

 ポーションを飲んで回復しつつ、目的の場所へ。

 

 そして、捕虜のいる場所に着きました。

 捕虜を肉の盾にしようとしたゴブリンがいたようですが、拒絶結界によって壁に押し付けられ続けて既に窒息死しています。まるで真空パックみたいだ。

 【狩場】の結界は、害意がない者は通すので、村娘は弾かれません。要救助者と接触!

 あとは、火が回るより早く連れて逃げるだけです。これ、やっぱり火付けしたの失敗では?

 捕虜の村娘は、貴族令嬢たちの持つポーションで回復させます。只人神官に奇跡を使ってもらうのは、安全圏に逃げてからです。

 

 炎に巻かれながらも、なんとか脱出しました。【擬態】で隠密判定にボーナスが乗っているので、誰にも見つかりませんでした。

 【狩場(テリトリー)】で敵を寄せ付けないのも強いですね。

 

 分身ちゃんは、小鬼英雄2匹に囲まれてやられてしまいました。さすがに、雑魚モブを相手に連戦して、さらにモブの支援をフルで受けているボス相手には多勢に無勢となりました。移動修正ペナルティを嫌って司教服も脱いで装甲値が下がっていましたし、呪文も使い切った状態ではいかんとも……。耐久も、だいたい本体の半分くらいですし。

 まあ、オーバーキャストして毒のブレスを吐き出してほぼ相打ちに持って行ったのはさすがです。

 さらに最近毒のブレスの毒の内容を幾らかイメージどおりに変更できるようになったらしく、可燃性の毒ブレスとして吐いたため、砦の火の勢いはますます盛んになりました。

 小鬼英雄たちは、結局火に巻かれて死にました。

 

 ゴブリンたちの生き残りが、ボスがやられたのをきっかけに、砦から逃げて出て来ようとしますが、分身ちゃんがうまい具合にがれきを崩して退路を一つに絞らせていたので出口は一つしかありませんし、その出口は一足先に脱出していた半竜娘ちゃんたちが遠巻きに陣取っているので、ちょうど【狩場】の拒絶結界に蓋をされる形になっており、脱出は不可能です。

 崩されて風のとおりがよくなった砦は、もう轟々と燃えていきます。風精霊にも風を送らせて、さらに燃やします。

 【狩場】の結界で阻まれたまま、罵詈雑言とともに投石紐で石を投げたり、弓矢を放ってくるゴブリンもいますが、まあ、不意打ちでない限りは当たりませんよ、そんなもの。

 

 

 ――きみはそこでゴブリンが蒸し焼きになるのを眺めていてもいいし、弓矢でとどめを刺してやってもいい。

 

 

 ちょうどいいので圃人斥候や森人魔術師に、弓の扱いを教えてもらいながら、火に炙られて躍る活きのいい的を射抜いていきます。弓は貸してもらいました。

 

 わたし、残酷ですわよ?

 

 あまりに残虐。『そして楽しくなってくるわけだ』『俺はやつらにとってのゴブリンだ』とはまさにこのこと。

 

 技量強化の指輪に付け替えて、さらに加速のボーナスも乗せているので、斥候や野伏の職に就いてない半竜娘ちゃんでもそこそこ当たります。介錯してやろう、感謝しろよ?

 矢は森人魔術師が、周囲の木にお願いして作り出してくれます。森人なら弓士でなくてもこのくらいは子供でもできるとか。

 

 貴族令嬢は、眉間を押さえて頭痛をこらえていますねー。

 冒険のはずが、いつの間にか、大規模な破壊工作(盛大なキャンプファイヤー)になったので、さもありなん。

 やりすぎか、と言われると、手元の戦力と緊急性を鑑みると、悪手とは言えません。

 オーガ相当の小鬼英雄が2体もいたなら(双子かな?)、正面から乗り込むにしても、忍び込むにしてもリスクが高すぎます。

 

 只人神官は、村娘の介抱をしてくれています。

 村娘は、ひどい有様でしたが、何とか命はありました。

 あとは手当てをしたら、村の者たちに任せるしかないでしょう。

 

 森に燃え広がらないように、森人魔術師には火除けの加護について、周囲の精霊にお願いして、話を通してもらっているところ。

 さらに、【天候(ウェザーコントロール)】の真言呪文も使えるというので、適当なところで雨を降らせてもらうことにします。

 さすがに山火事はNG。

 

 ……そしてどうやら、半竜娘ちゃんは、遠距離攻撃に興味を覚えたみたいですね。

 でも、自分でやるには手も時間も足りない。呪文系統職業3つに武道家にと、今でもかなり成長点が足りないのに、これ以上は無理です。

 それに肉を裂き骨砕く感触が手に残らない弓矢は不満そう。便利だけど自分でやるほどでもない、というところでしょうか。

 

 となれば、いよいよ仲間を募るしかありません。

 

 

 そうだ、森人(エルフ)を探しに行こう!

 

 

 やはり弓と言えば森人です。

 しかし、森人で冒険者になる者は稀ですし、いても既に一党を組んでいます。

 フリーの者はそうそう居ません。

 

 でも、まあ、ダメでもともと聞いてみましょう。

 森人のことは、森人に聞くに限ります。

 

 森人魔術師さーん、弓が使えるフリーの森人って、心当たりないです?

 

 あー、やっぱり無いっすよ……え?! あるの!?

 まじか。

 

 なになに?

 遺跡好きで、古い遺跡を巡って冒険してるトレジャーハンターの『根無し草』の知り合いが居ると。

 つい先頃、辺境の街で見かけたから話をしたところで、しばらく街で休んで準備してから、エルフ領域の遺跡に向かうとか言ってたと。

 

 なるほど~。

 

 その遺跡って、オーガという名の中身オーガジェネラルが居たりしません?(名推理)

 

 でも確かに、貴重な森人の冒険者が再起不能になる(リタイアする)のを座視するのも、もったいない……。

 あっ、半竜娘ちゃんに、さっき『オーガジェネラルが居る』って考えたのが託宣(ハンドアウト)として伝わっちゃったみたいですね。

 

 ここ数日は雑魚狩りもある程度行い、いま先ほど建造物の破壊と焼却の欲求も発散され、分身ちゃんは小鬼英雄とファイアーデスマッチに興じたとはいえ、所詮は小鬼、武人ではありません。

 

 まあ次は強敵との一騎打ちですよね~。

 それが武人でもあるオーガなら尚更に心躍るでしょう。

 

 最近は、心臓を食らうに足る強敵との戦いも暫く無かったわけですからねー。

 

 完全にやる気です……。

 

 

 

 

 

 

 砦の火が消えたのを確認したら、分身ちゃんを再創造して、1日村で休んで、村娘に半竜娘ちゃんと只人神官さんで回復呪文使ってあげて、【狩場】の感知結界を半竜娘ちゃんと分身ちゃんを中心に二手に分かれて張って、手分けしてゴブリンの残党を狩り出してから出立します。

 

 

 では辺境の街に帰還します。

 

 

 ギルドで冒険報告も終わり、黒曜等級に無事昇格!

 経験点1500と、成長点3点獲得です。

 んー、貴族令嬢一党がそこそこ因果点回してたみたいで、経験点にボーナス乗ってますね。うまあじうまあじ。

 

 

 

 あとどうやら、超勇者ちゃんが魔神王を討伐したようです。

 

 超勇者ちゃんもRTA走ってらっしゃる??

 映し絵(原作アニメ)版よりさらに早いんですけど??

 

 ままえやろ。

 

 

 さて、どうやら、目当ての森人遺跡狩人(トレジャーハンター)さんは、既に辺境の街から出立したあとのようです。

 まあ、うまく足の速い馬でも借りられれば、十分追いつける範囲でしょう。いや、エルフだと素で馬より速い上に、街道じゃなくて森の中進んでる可能性もありますが……。

 

 って、半竜娘ちゃんが早速経験点使ってますね。

 精霊使いの職業レベルを3に上げて、残り経験点はゼロに。経験点消費により、成長点をさらに3点獲得。

 

 使える成長点は残り9点です。こっちは貯めておくのかな?

 あ、いや、【精霊の愛し子】を習熟段階に伸ばしましたね。

 

 ……風精霊が森人魔術師さんの方に懐いたのを、実は気にしてるな?(かわいい)

 

 まあ、触媒使ったときの精霊術の達成値にボーナスが乗るので、これも伸ばすには良い技能です。

 残り経験点は4点になりました。

 

 精霊使いとしてレベルアップして新たに覚えた呪文は……【追風(テイルウィンド)】ですね。乗り物とその随行者の移動力を1.5倍にする精霊術で、早く森人遺跡狩人さんに追いつきたい半竜娘ちゃんにはうってつけですし、今後の長距離移動でも腐らない、いい呪文です。

 

 ん? 移動力を1.5倍?

 

 ……あ゛っ!! この娘、自分で戦車(チャリオット)か何かを()いて、自分を乗り物扱いにして【突撃】の固定値さらに伸ばす気だぞ!?

*1
本体【加速】行使:真言呪文基準値19+2(付与呪文熟達)-2(後遺症)+1(風精霊支援)+2D6(5,5で10)+5(生命の遣い手効果で10以上は大成功扱い)

*2
擬態カモフラージュ:成功すると背景にとけ込み、隠密判定に4+竜司祭レベルのボーナス。半竜娘ちゃんの場合はボーナス値は13になる。あれ、普通に隠密だけで救出いけるんじゃ……?

*3
本体【狩場】行使:祖竜術行使21+2(付与呪文熟達)-2(後遺症)+1(風精霊支援)+4(加速ボーナス)+2D6(2,3で5)で合計31

*4
分身【加速】行使:真言呪文基準値19+2(付与呪文熟達)-2(後遺症)+1(風精霊支援)+2D6(4,5で9)で合計29

*5
分身【使役】行使:精霊術行使基礎値14+1(風精霊援護)+1(上質な触媒)-2(後遺症)+3(加速ボーナス)+2D6(1,2で3)。合計20

*6
本体【使役】行使:精霊術行使基礎値14+1(風精霊援護)+3(火自由精霊援護)+1(上質な触媒)-2(後遺症)+4(加速ボーナス)+2D6(6,6で12)+5(クリティカルボーナス)。合計38

*7
分身【巨大】行使:真言呪文行使基礎値19+2(付与呪文熟達)+3(火の自由精霊援護)+5(火の大精霊援護)+3(加速ボーナス)-2(後遺症)+2D6(2,4で6)。合計36




半竜娘ちゃん「【追風】は人間に適用されない? いや、適用させる方法はある。それは、手前(てまえ)自身が戦車(チャリオット)になることじゃ!」(どやや!)

GM「一人曳きの戦車(チャリオット)を装備として扱ったときの移動力修正として、移動力を半分にするペナルティーかけます」(一人曳きの戦車ってなんだよ)(倍率には倍率で対抗)(馬に馬車曳かせたとき移動力が半減する(30→15)ため根拠ある裁定)

半竜娘ちゃん「なにいっ!? いやしかし諦めぬぞ! 何か方法が……!」


 山砦粉砕炎上。突撃せずにスニークミッションにした方が、おそらくスムーズだったはずの回。狩場と擬態が優秀すぎる。

 ゴブスレさんと女神官ちゃんは、たぶん別の砦を燃やしました。(世に冒険の種は尽きまじ)


■混沌側のタイムテーブル覚え書き
※ゴブリンロード
 周辺のゴブリンがゴブスレさんとダブル半竜娘ちゃんに潰されまくっていて、戦力集積が遅延気味。とはいえ二周目モードなので戦力そのものはより集まりやすくなっている。おそらく攻め込む時期は変わらないのでは?

※魔神王さん
 ぐわー! アニメ版よりだいたい一週間早くやられた。まだゴブスレさん一行がオーガ退治する前やで、しっかりしろ。



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10/n 裏

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1.緑髪の森人(エルフ)(魔術師)

 

 わたしは今では鋼鉄等級となった一党の一員で、森人の魔術師だ。

 この一党は、女ばかりで結成して、実績を積み、ようやく駆け出しの時期も終わりというところだ。

 仲間の自由騎士、圃人の斥候、只人の神官とも気が合って、種族も寿命も違うけど、わたしたちはしっかりとした絆で結ばれた一党だと自負している。

 

 そろそろ中堅である青玉等級への昇格も見えて来ようというところで、ギルドから依頼されたのが、ある冒険者の白磁から黒曜への昇級審査の手伝いだった。

 

 やってきたのは、ここいらでは珍しい蜥蜴人ハーフの冒険者の女。

 

 見上げるほどの巨躯。

 整った顔立ち。

 朝日にきらめく深い黒緑の鱗。

 その瞳はぎらぎらと燃えるようでもいて、また、深い信仰に沈んで凪いでいるようでもあった。

 

 竜や魔神を屠る蛮人。

 凄腕の竜司祭(ドラゴンプリースト)にして魔術師。

 そして最近では地下遺跡の怪物を吹き飛ばして武道家としての腕も証明した。

 

 加えて近頃は精霊術にも手を伸ばしたのか、街中の酒場なのに結構高位の水精霊を呼び出して、【命水】のお酌をさせている……いや、あの羽衣を浮かせた水精霊は、高位どころではなく最上位の気配もするが……。

 

 まあ、多彩な才能を持つ少女だと。

 偉大なる竜殺しだと、モノが違うのだと。

 半竜娘について知っているのはそのくらいだった。

 

 実のところ、一党の圃人の女斥候など、その成果について疑ってもいたのだ。

 話半分に聞いておいたほうが良い、と。

 

 ああ、圃人の斥候は、手紙の配達だかで、あの竜が墜ちた日は辺境の街を離れていたのだったか。

 

 だが、わたしは見ていた。

 

 森人の長い寿命の中でも、一度すらお目にかかれないような竜たちが、成す術もなく墜とされていくのを。

 いや、一度すら、というのは語弊があるか。

 一度でもお目にかかれば、人生がそこで終わってしまうような、そういうレベルの怪物たちだった。

 

 たとえ、幸運を使い果たして、一生分の6ゾロ(ドゥデキャブル)がその日にまとめて出たのだとしても、ただの冒険者では達成できはしなかっただろう。

 それほどの偉業だった。

 

 被害らしい被害が直接出なかったことが逆に(わざわ)いして、きっとその目で見た人以外は忘れていくのだろうけれど。

 それでもわたしは覚えているだろう。

 森人は、忘れない生き物だから。

 

 まあ、そういうわけで、わたしは結構、蜥蜴人の彼女の面倒を見るのを楽しみにしていたのだ。

 あれほど見ていて飽きないものも、そうはないだろうと確信して。

 

 

 

 そしてそれは正解だった。

 その半竜の術士の彼女は、実に色々な面を見せてくれた。

 

 

 襲ってくる追剥や山賊をその爪にかけて引き裂く、戦士の相。

 

 その躯に祈りを捧げ、魂の輪廻を語る、僧侶の相。

 

 理知的な計算で呪文を、そして戦場を組み立てる、魔術師の相。

 

 そして未熟なれど楽しそうに、お付きの小さな水蜥蜴の精霊と戯れる、精霊使いの相。

 

 

 

 この一党に出会う前なら、一緒に一党を組んでいたかもしれない、というくらいには気に入った。

 きっと、森から出るような好奇心旺盛な森人なら、同意してくれるだろう。

 

 もちろん、黒曜等級の昇格審査としては、文句なしだ。

 こちらの指示にも従うし、納得いかないことは論理だてて疑義を示し、分からないことはちゃんと訊く。

 依頼人をだましたりとか、自分だけ得しようとしたりだとか、味方を見捨てようとしたりだとか、そういう人倫に(もと)ることなどするはずもない。

 

 まあ、黒曜等級への昇格試験など、その程度の最低限のことを見るだけだ。

 ……何か勘違いしているのか、この最低限ができない冒険者もいるので困りものだが。

 仕掛人(ランナー)稼業じゃないんだ、『騙して悪いが』なんてのはご法度中のご法度だ。

 

 幸いにも、半竜娘は、最低限のことはできていた。もちろんそれ以上も。

 

 

 商人の護衛依頼が何事もなく終わり(山賊だのに会うのは普通のことだ、何か起こった内には入らない。何のために冒険者を雇っているか、という話だ。)、問題があったのは帰り道のことだった。

 

 

 帰り道のついでで済ませられるような都合のいい依頼もなく、少々弛緩したような心持ちで村に立ち寄ったその日。

 

 わたしたちは、小鬼禍の話を聞いた。

 

 

 小鬼。

 あの汚らしい混沌の者ども。

 特に森人にとっては不倶戴天の敵だ。

 やつらはわたしたちの美しさを、長寿を、精霊の寵愛を、何もかもを(うらや)んで襲ってくるのだという。

 

 ――自分たちは醜く哀れで恵まれない、だから、全てを寄こせ。

 ――それは本当は俺たちのもののはずだ、だからお前たちは奪われて当然だ。

 

 ()()()()()()それは紛れもない真実なのだろうが、ゆえに害悪でしかない。

 被害者意識に凝り固まって、自分こそ正義だと信じて疑わないようなやつらと、相容れることはできない。

 

 

 冒険者ギルドを通した依頼ではないが、当然わたしたちは、受けるつもりでいた。

 

 ゴブリン退治の経験は多いわけではない。

 大した報酬が出ないのもあるが、汚く、厄介で、見たくないものを見るハメになるし、何より、失敗すれば死んだ方がマシな目にあうと決まっているから。

 

 だけど、目の前で困っている人が居るのに、それを助けずして、何が冒険者か。

 しかも、今は白磁の後輩――明らかに階級不相応に高い実力だが後輩は後輩だ――も連れている。

 冒険者の何たるかを見せるためにも、受けないという選択肢はない。

 

 村娘を助けようと気炎を上げる仲間たちを、魔術師である私は、一党の参謀役として一歩引いた視点で見ていた。

 

 だから気づいた。

 

 半竜の彼女の目が爛々と、炯々と燃えているのを。

 ゴブリンが住み着いているのが山砦だと聞いて、竜のごとく裂け上がった口の端を。

 殺戮の期待を、破壊の衝動を、そして焼却の熱狂を想って上気した頬を。

 

 だが、そのような狂態痴態を一瞬でかき消して、いかにも冷静な風で、彼女はゴブリン退治の算段を――いや、攻城破壊の算段を披露した。

 だから、一瞬漏れ出た表情に気づいたのは私だけだっただろう。

 

 半竜の術士の作戦はこうだ。

 風の精霊で偵察し、捕虜が生きていれば、一党を祖竜術で不可視化し、感知と拒絶の結界を纏って侵入する。

 陽動に、【分身(アザーセルフ)】の分身体を巨大化させて突っ込ませる。

 そして火の精霊で燃やす。

 

 古木でできた山砦だというから、森人である私にも意見を求められた。

 そもそも山砦は燃えるか、火除けの加護は消えているか、森への延焼は抑えられるか、雨を呼べるか……。

 

 視点が違うと思った。

 わたしは、いかにゴブリンから見つからないように隠れ、あるいは見つかったとしてもどう逃げ出し、そして村娘を救出すべきか考えていた。

 

 しかし、半竜の術士は、「いかに戦わずに殺すか」を考えていたのだ。

 そのゴブリンへの殺意に唾を飲んだ。

 さっき一瞬見えた狂態が嘘のように、頭の芯まで冷え切った、透徹した殺意。

 

 いや、あるいは、殺意ですらないのかもしれない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ただただそれだけの、自然の摂理を実行しているだけのつもりなのかもしれない。

 

 

 何にせよ、()()()()()

 

 きっと、この蜥蜴人の女は、一編の叙事詩のような人生を送るのだ。

 業火と破壊と血煙で記された叙事詩だろう。

 

 一党を組んでもいいと思った、と言ったが、撤回する。

 

 巻き込まれたいとは露とも思わない。

 ……思わないが、同じ時代を生きるものとして、逐一知っておきたいくらいの興味はすでに抱いてしまっている。

 

 ほら見ろ、今も血の(まじな)いで、わたしたちに不可視化の術を分け与えているが……。

 この半竜の術士は、自分の分身が魂を削って地に伏せたのを何にも気にしていない。

 だが、それがどれほどあり得ないことか!

 

 魔術師である自分は知っているが、分身は本体と遜色ない思考をし、記憶をフィードバックする。操っているのは、本体の精神なのだから。

 

 つまり、半竜の術士は、自分の魂が削れる感覚を、同じく味わっているはずなのだ。

 

 それなのに、顔色の一つも変えない。

 

 感じていないのか?

 

 いいや、違うね。

 

 慣れているのさ。

 この蛮人の女にとって、分身が超過祈祷で倒れ伏す程度のフィードバックは、()()()()()()()()過ぎて何も感じないくらいに慣れているに違いない。

 

 信じられない。

 

 しかし成程。

 痛みに慣れる、疲労の中で動き続けるのに慣れる、それは有り得るだろう。

 ならば、同じく、魂の摩耗にも慣れられるのではないか。そう考えておかしくはない。

 

 それは魔術師ではなく、武道家の思考だ。

 

 稽古、修行。

 

 世界をゆがめる魔術は軽々しく使えるものではないが、【分身】を使いこなせばそうでもないということか。

 魂を削るほどの消耗でも、例えば4回の呪文を使えるというのであれば、1日に4回も分身を使い潰しても、自分は死なずに死の淵を分身を通じて味わうことができる。

 

 生身の自分ではできないような、無茶も、無謀も、分身を通じて経験を積める。

 武道家にして魔術師。

 あるいは蜥蜴人だからこそ、なのだろうか。

 

 まったく感嘆する思いだ。

 真似できるとも、真似したいとも思わないが。

 

 

 

 そしてやはり、見ていて飽きないものだ、この蜥蜴人のハーフは。

 古木の砦を粉砕した突撃の術は見事だったし、もはや人間攻城兵器だね、こいつは。

 それにただぶつかるだけしか能がないわけでなく、技の冴えもある。ちらりと見えた巨漢の小鬼相手の立ち回りも素晴らしかった。

 そして、強力な結界と隠蔽の祖竜術。

 罠を強引に切り抜ける身体センス。

 

 これで白磁なんて詐欺だろう?

 

 とっとと銅でも銀でも上げてやるべきさ。

 冒険報告の時にギルドにもそう言伝(ことづ)てしておこう。

 

 さてさて燃える砦にもがく小鬼、それを的にして射撃練習。

 いやはや、森人でもこんな“粋”な練習はしないだろうさ。

 しかも、弓を握ったのは初めてだというのに、とても筋が良い。

 

 おもしろいなあ。

 

 近くで見るには身が持たないだろうけど、たまに活躍を聞くくらいの距離感なら歓迎だ。

 

 何かうまい手がないものかと考えていたら、天の配剤。

 

 森人の射手を探しているのだという。

 

 

 

 ――ああ、それなら心当たりがあるよ。紹介しようか?

 

 

 

 ニヤリ、と笑って、わたしは遺跡巡りに精を出す知人(エルフ)の動向を開陳したのだった。

 

 

 

  ○●〇●〇●〇

 

 

2.森人の遺跡狩人(探検家)、人喰鬼に遭遇す

 

 

 ――ぞくりと首筋から耳の先に、悪寒が走った。

 

 得体の知れない怖気に身を震わせたのは、大弓を背負って狩人装束の外套を纏った、森人の女だった。

 トレジャーハンター、財宝狩人、遺跡狩人、呼ばれ方はいろいろあろうが、本人の名乗りとしては探検家というのを気に入っている彼女は、森人の冒険者だ。

 等級は鋼鉄等級だが、そろそろ青玉等級への昇級を打診されている、とまあ、そのくらいの実力だ。

 

「なあんか、変な感じ。運気の風が悪いのかなあ」

 

 そう呟いて己の耳を撫でる森人探検家は、気ままに遺跡巡りをするのを主な生業としている。

 

 冒険者になろうと思ったのは、あの弓の連射の名手でもあった緑衣の勇者*1に憧れて里を出たのがきっかけだ。

 そしてその勇者が、遺跡を巡ってアーティファクトを得て自由自在に使いこなしたという伝説にあやかろうと、遺跡巡りを始めたのだった。

 

 

 今回も、古い時代(只人にとってだが)の遺跡の見取り図を手に入れて、いっちょトレジャーハントに行くかと辺境の街を経由してやって来ていたのだった。

 

 目的の遺跡は、辺境の街からさらに森人の領域の方へ、森人の足で2日ばかり向かったところにある。疲労を避けるなら、馬車にでも乗るべきだろう。

 目的の遺跡には、ゴブリンくらいは住み着いているかもしれないが、森人の耳で気配をとらえ、遠間から狙撃で削れば怖くもない。

 罠だってあるかもしれないが、鋭敏な森人にとっては、ゴブリンの罠程度、見破れぬほどのものでもない。

 いつも通りにやるだけだ。見敵必殺(サーチ&デストロイ)、だ。

 

「うー、良い財宝とか、歴史的な資料とかがあるといいなあ。薬とか買うのにお金使い切っちゃったし。何もなかったら大赤字なんだけど」

 

 森人探検家は、森人にしては珍しいことに、金銭に気を使って生きているようだった。

 森の恵みで生きて、お腹が空けば周りの木にお願いして果物がすぐ食べられるような環境で育つ森人が、経済観念を身に着けるのは相当珍しいことだ。

 

 ……つまりは、金銭感覚を身につけざるを得ないくらいに、お金で苦労したということでもあるが。

 

 腰のベルトから吊り下がるのは、風車を彫り込んだ『交易神』の聖印だ。

 森人には、この神の信仰者は極めて稀である。

 しかし、貧乏を経験し、根無し草の旅暮らしであれば、旅路の安全と商売繁盛を司る交易神信仰に転んでも不思議ではない。

 

「交易神様、どうか、良い風を運んでくださいなっと。《巡り巡りて風なる我が神、気の流れをも裏返し、賽子の天地返しに目こぼしを》【逆転(リバース)】」

 

 弓の道の片手間の信仰の割に、彼女は神から奇跡をも賜っているらしく。

 【逆転】の奇跡は、1日1回だけ、あらかじめ唱えておけば、不運の目を幸運の目にひっくり返せるのだという。

 

 たった一度、されど一度。

 蛇の目さえ、ひっくり返せば、大成功(ドゥデキャプル)

 

 信仰のしがいもあろうというもの。

 

 そして、目的地まであと少々というところか。

 

 

 

 

 

 さて、道行き進みて。

 

 宵の口、目的の遺跡まで後少し、遺跡の様子を一目見てから野営して明日に備えるため、野営場所を探さねば……、というところで、森人探検家は、周辺の異常に気づいた。

 ぴくぴくと、長い耳が動き、周囲を探る。

 

(なんだろ、いやに静か……そしてこれは……)

 

 静寂。

 しかしそれを裂く者がいる。

 

 足音だ!

 

 大きな何者かが動く足音が聞こえる!

 

 森人探検家は感覚をさらに研ぎ澄ませて周囲を探るとともに、自然と同一化して、この足音の主をやり過ごそうと試みた。

 念のため、大弓に矢をつがえておく。

 

(いったい何が……、二足の巨体が3つ、かな、この感じだと。……トロルか何かかしら)

 

 トロルは手強い怪物だ。

 しかし、洞窟(トンネル)ならまだしも、広い森の中なら何ほどもないだろう。

 エルフの身軽さを生かして、木々から木々へと飛び移りながら引き撃ちしてやれば、やがては力尽きるに違いない。

 森の中なら周りの植物が矢を造ってくれるから矢の心配もないことだし。植物は森人探検家の味方なのだ。

 

(う、この臭いは、ゴブリンもいるのか……)

 

 風下に陣取るためにジワジワと移動していた森人探検家の鼻が、すえたような酷い臭いをとらえた。

 不潔で矮小で相容れない、緑の小鬼ども。

 

(トロルだけじゃなくて、ゴブリンも? まさか、混沌の勢力の軍勢じゃないでしょうね?)

 

 不意に遠くの気配が騒がしくなる。

 

(げえ、残り香に気付かれた……!)

 

 小鬼どもは、森人や女の匂いに、特に敏感なのだ。

 気持ち悪い生態であることこの上ない。

 

(どうする、今なら多分逃げられる)

 

 早く離れる必要があるだろう。

 あまりに多勢に無勢が過ぎる。

 見つからないと楽観するほど、森人探検家の運は良くない。

 

 日に一度の【逆転】の出番が必ずあるほどなのだ。

 あるいは、この不運さに、交易神が慈悲を垂れたのかもしれない。

 運気を巡らし廻すことも、かの神の司る領域なのだろう。

 

(賽の目は、期待しない。何もせずに見つからない方に賭けるのは、危険。世の中すべて、“やるか、やらないか”、よ。賽の目も神の奇跡もオマケよ、オマケ!)

 

 矢を天へと。

 

(森人なめんなっ!)

 

 狙い澄まされて放たれた矢は、木の葉の隙間を掠りもせずに抜けて、ほぼ垂直に落ち、一匹のゴブリンの脳天から顎までを貫いた。

 

 無音暗殺術。

 

 さらに九つ、矢を放つ。

 

 同じく天頂を経由して、ゴブリンたちの脳天に。

 

 小鬼どもが事態に気づいたのは、頭を串刺しにされた十の同胞が一斉に崩れ落ちてからだった。

 

「GOOBBBBRRRR!!!??」「RIOOBBBG!?」

 

 どうせ森人がどうのと罵っているのだろう。

 でも、何処にいるのか分かりはしないだろう。

 怒りにまかせて散り散りになる、それでも良いが。

 

(出来れば、違う方向に誘導する)

 

 空の矢筒に、周りの木から矢をもらい、さらに2回、矢を放つ。

 

 狙う先は、自分から離れた場所。

 真逆の位置はあからさま。

 ならば、やつらの風下で、自分とは離れたところ。いかにも()()()ところへ。

 

 今度は天から曲げて落とすときに()()()()()()()()、あたかも何者かが逃げたような音を。

 

 思い通り、ゴブリンどもは誘導した方向へと猪突猛進。

 

 だが、相手は愚劣なゴブリンどもだけでなく、まして愚鈍なトロルが率いているのでもなかった。

 

 怪物たちの方から、低く落ち着いた声が響く。

 

 

「風向きはこちらから。逆の場所を狙うはあからさま。そもそもこれほどの上手が、身を翻すのに音などさせるものかよ。自然を装い、かつ自分から離したいとなれば……つまり、そこかあ!」

 

 

 率いていたのは、実は、人喰鬼将軍(オーガジェネラル)

 並みの化け物ではなかった。

 こいつは森人探検家の狙いを、完全に読み切っていた。

 

 いまようやく、森人探検家の目にも、巨大な3つの足音の正体が明らかになった。

 

 頭目と見られる巨躯のオーガ(オーガジェネラル)が一体。

 呪文使いらしき装いのオーガ(オーガメイジ)が一体。

 オーガと見紛う巨大な緑の小鬼の変異種(ゴブリンチャンピオン)が一体。

 

(ちくしょうめ! 偶発的遭遇(ランダムエンカウント)といっても、限度があるでしょ!?)

 

 

 弾かれるように、森人探検家は木の枝から飛び出した。大弓を短弓に持ち替え、逃げながら矢を撒く。

 

 だが、既に魔術師らしい方のオーガが、【矢避】の真言呪文を唱えていた。

 

「ふうむ、矢避けをしても、なかなかヒヤリとする良い矢を放つ。()()()よ、ゴブリンどもに下げ渡すには、いささかもったいのう御座いませんかな?」

 

 落ち着いた声音のオーガメイジは、自分よりさらに大きな頭目のオーガ(オーガジェネラル)へとニヒルに笑いかけた。

 頭目のオーガは、それに答える。

 

「ジィよ、この程度の弓手なら何処にでも居るだろう。森人の豪傑の話を聞かせてくれたのはジィではないか」

 

 嘲るように、『三ノ若』と呼ばれた頭目らしき巨躯のオーガが笑う。

 

「せっかく、一ノ兄者を迎えに来たのに、仮初めとは言え一ノ兄者の配下めらへの手土産のひとつもないのも、いかんと思っておったところ。ちょうどよかろうさ」

 

「むしろ上等すぎるやもですなあ。まあ、小鬼めらに価値が分かるとも思えませぬが」

 

「かまわぬさ。小鬼のためではない、一ノ兄者と、己が矜持のためゆえにな」

 

「成る程、成る程、流石に御座いまするな」

 

 爺ぃと呼ばれるオーガメイジと、三ノ若と呼ばれた頭目のオーガ。

 

 三ノ若というオーガジェネラルは、ゴツンと緑の巨躯のゴブリン(ゴブリンチャンピオン)を叩いた。

 

「この木偶を一ノ兄者の代わりに、ここらの頭目に据えるにしても、手土産があった方が良かろうしな」

 

「GOOB……」

 

「然り、然り」

 

 その間も、森人探検家は逃げていた。

 

 逃げながら鋭敏な聴覚で会話を拾えば、どうやら、ここにはあの頭目のオーガの兄がまとめる小鬼の群れがあり、しかし、その兄オーガを帰還させ、替わりの群れの頭に巨大ゴブリンを置いてくる、という段取りのようだ。

 

 森人探検家はまだ知らぬことだが、既に魔神王は勇者の太陽の刃に倒れ、混沌の勢力は戦力の再編を図るために動いている。

 主攻が潰えた戦争の助攻などに、一族の中でも指折りの鬼を出しておくなど、許されることではない。

 だが、いきなり魔神王や魔神将が倒れたと言っても、信じられるわけもない。虚言と思われるのが関の山。

 ゆえに、一族でも面識があり、信任も厚い傅役(もりやく)であったオーガメイジと、血を分けた兄弟であるオーガジェネラルがやってきていたのだ。

 

 そこまで深い事情が、森人探検家に分かったわけではないが、混沌の策謀が動いていることは確信できた。

 

 であれば、ここに至っては、戦うことなど考えずに、必ず逃げなくてはならない!

 

 森人の領域のすぐそばで、このようなオーガが関わる計略が進みつつあったのだ。

 

 必ずや、里に、あるいは冒険者ギルドに知らせなければならない。

 

 だが、それを許す相手ではなかった。

 

「なかなかにすばしっこい者よ。しかし無駄な足掻きだ。セメル(一時)……キトー(俊敏)……オッフェーロ(付与) 【加速(ヘイスト)】!」

 

「くっ、加速の魔術ですって!?」

 

 森人に森の中で追いつけるものなど、滅多にいない。

 オーガジェネラルも、常のままでは、追いつけはしないだろう。

 しかし、二倍ほどにも速さが違うわけでもなかった。加速の魔術はその差を埋める。

 

 

 逃げながら短弓で牽制するも、大した痛痒にはならず、足を鈍らせるにはいたらない。

 足の親指を狙って吹き飛ばしたが、間を置かずに回復したし、ここまで理不尽だとどうしようもない。

 追いつかれる時は、刻一刻と迫っていた。

 

 

 

 そしてついに。

 

「ぐあっ!」

 

「捕まえたぞ、耳長め。手こずらせおって」

 

 オーガジェネラル(三ノ若)の手が、森人探検家の細腰を掴んだ。

 絶対絶命だ。

 

「くそっ、離せっ! 離せよ! 離しなさい! ぐぅううううっ」

 

「諦めろ。絶望しろ。貴様はこれから小鬼の玩具だ」

 

 オーガジェネラルが森人探検家を掴み締め付けて言う。

 

「ここで貴様の冒険は、お終いだ」

 

「くっ、助けて! 誰かー!」

 

「無駄だ。お前を助ける仲間など、一人もいやしない」

 

 

 

 その時であった。

 

 双つの月を背に高らかに、抗うように叫ぶ者が居た。

 

 

 

「おるのじゃっ、ここにひとりな!!」

 

 

 

 

*1
緑衣の勇者:ゼルダの伝説シリーズの主人公をイメージしていただければ。彼の弓の腕は、鬼連射と鬼AIMと鬼射程。魔法付与で炎上凍結浄化なんでもござれ。ハイラル人すげえ。




Q.こいつやっつけたらゴブスレさんはオーガと戦わなくて済むの?
A.新たにオリ設定として生えてきた三男でございますので、オー/ガにされる長男も、水に沈められる次男も、今のところ健在です。


森人探検家のステータスと出自は、以下のとおりとします。特に見る必要はないですが、作者備忘のため掲載します。
実際にダイス振って決めましたら、なんと邂逅が「師匠(6ゾロ)」! これはあの人(マスターヨーダ)を師匠にするしかあるめえよ。(つまりこいつもマンチの系譜)
ギルドランクは鋼鉄等級ですが、実際は青玉等級の実力。たぶん昇級間近。
コンセプトはシンプルな後衛専門の弓使い。移動力を生かして引き撃ちでやっつける。
もちろんこれらキャラシの内容は独自設定になります。

◆名前:森人探検家
 年齢200歳(後で変更するかも)。金の髪。
 緑衣の勇者は弓の速射の達人でもあり、彼の英雄に憧れて冒険者になろうと出てきた。
 しかし何やかんやあって貧乏暮らしをして、飢え死にしそうになった時に師匠に拾われる。(来歴:貧困、邂逅:師匠)
 師匠として、「忍び」「先生」と呼ばれる圃人を持つ。つまりゴブリンスレイヤーの姉弟子にあたる。(この子は原作でも後々森人の国の宮廷侍女としての出番があったけど、この出自なら、その原作7巻の流れの後にでも、ヨーダ師匠が現れて「やるか、やらないかだ」と発破かけるシーンもあったりするかもね?)。
 俊敏ではあるが、体力はない(体力値1、持久度0)。
 貧乏暮らしの時にお金の大切さが身に染みたため、エルフでも珍しく交易神の信仰に目覚める。覚えている奇跡は、今のところ、運命をひっくり返す『逆転』の奇跡。
 ちなみに、交易神は旅の神であり、信徒に、旅人の()()()()1().()5()()()()()()()である【旅人(トラベラー)】を与えることがある。こちらは【追風】と異なり、乗り物だけでなく、人間を対象に取れる。しかも違う術なので【追風】と【旅人】は効果が重複する。(あっ(察し))


◆累積経験点 16500点/ 残り経験点0点

◆残り成長点 0点

◆能力値
能力値体力点 1魂魄点 3技量点 5知力点 4
集中度 23576
持久度 01354
反射度 23576


    生命力:【 20(15+5) 】
    移動力:【 44 】 
 呪文使用回数:【 01 】

  呪文抵抗基準値(魂魄反射+冒険者LV+呪文抵抗):【 10 】

◆冒険者レベル:【 5 】 (技能を熟練まで習得可能)
  職業レベル:【野伏:7】【神官(交易神):1】

◆冒険者等級:鋼鉄等級

◆冒険者技能    初歩/習熟/熟練/達人/伝説
  【武器:弩弓】 ●  ●  ●  ○   ○
  【魔法の才】  ●   ○  ○  ○   ○
  【怪物知識】  ●   ○  ○  ○   ○
  【速射】    ●  ●  ●  ○   ○
  【狙撃】    ●   ○  ○  ○   ○
  【曲射】    ●   ○  ○  ○   ○
  【刺突攻撃】  ●  ●  ●  ○   ○
  【手仕事】   ●   ○  ○  ○   ○
  【機先】    ●   ○  ○  ○   ○
  【頑健】    ●   ○  ○  ○   ○

◆一般技能     初歩/習熟/熟練
  【暗視】    ●  ○  ○
  【精霊の愛し子】●  〇  〇
  【生存術】   ●  〇  〇
  【工作】    ●  〇  〇

◆呪文
 呪文行使基準値(魂魄集中):【 5 】
 職業:神官(交易神):1
 技能:特になし
 装備:聖印(奇跡行使+1)
 真言:【 0 】  奇跡:【 7 】  祖竜:【 0 】  精霊:【 0 】

 ◎習得呪文:
 《 逆転 》 難易度:10 (奇跡 付与呪文(属性なし))

◆攻撃
 命中基準値(技量集中):【 7 】
 職業:【野伏:7】
 技能:【武器(弩弓):熟練(+3)】
 近接:【 7 】  弩弓:【 17 】  投擲:【 14 】

 ◎武器:【 大弓 】
   用途/属性:【 両手弓重/刺 】
  命中値合計:【 17-2 】 射程:120m
   威力:2d6+2
   効果:長大(狭所で2D6が4以下でファンブル)、刺突(+2)、速射(-8)、
     「矢」を消費

 ◎武器:【 短弓 】
   用途/属性:【 両手弓軽/刺 】
  命中値合計:【 17 】 射程:60m
   威力:1d6
   効果:刺突(+1)、速射(-4)、「矢」を消費

 ◎武器:【 短槍 】
   用途/属性:【 片手槍軽/刺 】
  命中値合計:【 7 】
   威力:1d6
   効果:投擲適用、刺突(+1)

◆防御
 回避基準値(技量反射+体術スキル):【 7 】
 ◎鎧:【 軽鎧 】
   鎧:狩人の外套(装甲2、回避修正+1)
     鋲付き鎧下(装甲2、移動力修正-4)
   属性:【 軽鎧(革)/軽 】  回避値合計:【 8 】
   移動力合計:【 38 】  装甲値合計:【 4 】
   隠密性:【普通】

 盾受け基準値(技量反射):【 7 】
 ◎盾:なし

◆所持金
  銀貨:2枚(出立前に物資を整えたためお金がない)

◆その他の所持品
冒険者ツール(鈎縄,楔x10,小槌,火口箱,背負い袋,水袋,携帯用食器,白墨,小刀,松明x6)
  携帯食×7日分、衣類
  聖印(交易神) ×1(装備中:ベルトに吊るしている)
  鍵開け道具 ×1
  罠師道具 ×5
  矢筒 ×1(移動力修正-2)
  矢 ×30
  煙玉 ×1
  治癒の水薬 ×1
  強壮の水薬 ×1
  解毒薬 ×1
  防毒面 ×1
  臭い消し ×1

◆出自/来歴/邂逅/動機
 猟師/貧困/師匠/英傑憧憬


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11/n 森人探検家を追って~人喰鬼将軍交戦

閲覧、評価、感想、誤字報告、いつもありがとうございます!

戦場模式図の挿し絵あります。

いつも以上に長いです。


 はいどーもー、オーガがいつの間にか三兄弟になってる実況、はーじまーるよー。

 

 前回の半竜娘ちゃんは、黒曜等級への昇級審査を終えて、精霊使いのレベルを上げて、新しく【追風】の精霊術を覚えたところまででしたね。

 

 そして、仲間に勧誘できそうな、森人の遺跡狩人――えーと長いので、森人探検家と呼びます――がオーガジェネラルと遭遇しそうだというのが託宣で半竜娘ちゃんに伝わっちゃったので、森人探検家がやられる前に追いつけるように動こうとした、というところでした。

 

 

 結論としては追いつけました、しかも狙ったかのようなおいしいタイミングでした。

 

 オーガにつかまった森人探検家が連れ去られようというところに間一髪!

 

 ヒューッ! 半竜娘ちゃん持ってるねえー!

 

 

 しかし、半竜娘ちゃんがどうやって追いついたかというと、実は馬に乗ってきたんです。

 いや、二メートル半ばの背丈の半竜娘が乗れる馬ってどんだけよ、世紀末覇王の愛馬かよって思いますよね。

 

 なんと、都合のいいことに、魔女さんがでっかいのを魔術で創り出してくれてたのです。

 いわゆる使い魔というやつですね。

 

 下水道未踏遺跡の奥にいた、あの巨大粘液体の万能細胞をベースに、軍馬の精液、古竜の肉片、そして半竜娘ちゃんの髪の毛を掛け合わせた試作品だそうで。

 

 ――何勝手に人の髪の毛使ってんねん。

 

 魔女さん、研究ではそういうマッドな側面ちょくちょく見せてきますよね。

 なお、半竜娘ちゃんの髪の毛を入れたのは、頭がよくなりそうだったのと、古竜の肉との親和性が高そうに思えたからとのこと。

 

 「許し て?」って言う魔女さんがかわいいし実利があるから許す!

 

 で、出来上がった使い魔ですが、見た目は、巨大な軍馬をドラゴン寄りにしたような、あるいは馬に鱗の鎧を貼りつけて顔を凶悪にしたような、『竜馬』とも言うべき代物になりましたとさ。

 

 上手に作れるようになったらば、槍使いと一緒に遠乗りするのにでも使う気だったとか。

 銀等級ともなれば、遠出の機会も多そうですし。

 それに使い魔なら、普通の動物よりも世話が簡単です。完全に言うこと聞いてくれるわけですから。

 実はこの魔女さんの家、馬房もあるんですよねー。今まで使ってなかったけど。

 

 で、試作してみたところに、ちょうど半竜娘ちゃんが帰ってきたと。

 

 そして事情を聞けば、急ぎ出かけるというから、それを貸してくれたわけです。

 試運転にはちょうどいいでしょう、ということで。

 

 ちなみに、この試作バージョンの竜馬には、食事をとる機能はついていません。

 完全に試作で、卵から孵ったばかりの稚魚のように、腹の栄養(胃や腸の代わりにどでかい肝臓だけ入っているような状態)で生きていて、それが尽きると死んでしまうとか。

 それでも、水さえあれば三日三晩走り続けられるそうですが。

 

 使い魔の精神リンクを、魔女さんから半竜娘ちゃんに移譲してもらい、いざ出発!

 

 ちなみに竜馬は一頭だけなので、森人探検家を追いかけるのは、本体の方の半竜娘ちゃんだけです。

 分身ちゃんは残って、竜馬を提供してくれたお礼に、魔女さんの研究を手伝うみたいです。

 

 ……いや、これはまた何か悪だくみしている感じですね。

 

 熟達した魔術師は、使い魔経由で呪文を発動させることができるといいます。

 使い魔それ自体も、人造のものから、そこらの野鼠まで多様ですし、非常に応用範囲の広い技術です。

 まあ、マンチなら習得したいですよねえ。*1

 

 それはともかく、竜馬を譲ってもらった半竜娘ちゃんは、分身ちゃんから【加速】と【追風】を竜馬にかけてもらって、道を急ぎます。

 

 竜馬のベース移動力は軍馬と同等の45なので、【加速】で2倍にして90、さらに【追風】で1.5倍にして移動力135。普通の馬車の9倍のスピードです。

 

 半竜娘ちゃんは体力も高いので、かなりのスピードで飛ばしても消耗しません。

 この調子なら、一時間で43kmは、疲労を蓄積させずに移動できそうです。自動車かよ。

 ちなみにこの計算だと1日で270km移動できますし、出目次第ではもっと伸びます。マジか、中世世界観でこの移動距離はチートすぎる。

 でも、【加速】とか【追風】とかの支援呪文が使えて、足の速い騎獣がいれば、他の誰でもできることなので、案外、軍や大規模商会ではスタンダードなのかも?

 

 ……これだけ早ければ、辺境の街を出発して数時間も竜馬を駆けさせれば、森人探検家ちゃんに完全に追いつけちゃいますね。

 

 実は、森人探検家ちゃんは、体力と持久力がミジンコなので、1日に移動できる距離はそれほどでもありませんでした。

 素の移動力が高くても、体力が少なければ長距離は移動できない、ということですね。一党にそういう貧弱なメンバーがいて、その疲労を避けたいなら、馬車などの乗り物を利用するが吉です。

 戦闘中の瞬発力は体力じゃなくて、技量を参照して判定するので、戦闘ならぎゅんぎゅん動ける娘なんですがねえ。

 

 

 

 というわけで、森人探検家ちゃんの救出には、危機一髪でしたが、なんとか間に合いました。

 

 だいたいそれっぽい場所に来たときに、こちらから託宣してあげたのも良かったみたいです。

 

 こちらの託宣をきっかけに、半竜娘ちゃんは、自分に【竜眼(ドラゴンアイ)】を掛けてくれましたので、森人探検家を見落とさずに済んだのです。【竜眼】は視覚に対するボーナスのほか、「にらみつける」による行動阻害が強い祖竜術です。*2

 

 見つけたときは、まだ森人探検家ちゃんはオーガジェネラルに追いつかれていなかったのですが、流石に半竜娘ちゃんも、オーガジェネラルと戦うには準備が必要です。

 

 まずは辺境の街に置いてきた【分身】を消して、自分のそばに再作成。

 これで、本体と分身で、それぞれ残り呪文使用回数は5回ずつです。

 

 それぞれが自身に【加速】をかけて、急襲の体勢を整えます*3。加速のボーナスは、本体が+2で、分身が+4でした。呪文のリソースは残り4回ずつになりました。

 分身には、技量強化の指輪を渡しておきます。

 

 とかやってるうちに、いよいよ森人探検家がピンチになったので、名乗りを上げます。

 ピンチになるまで待ってたわけじゃないですよ? まあ、ピンチにならない限りはバフ積む予定でしたけど。できればいつものコンボ(【加速】【巨大】【力場】【突撃】)がやれれば良かったんですけどねー。

 

 ――「おるのじゃっ、ここにひとりな!!」(ひとりとはいってない)

 

 ヒュー!

 

 名乗りを上げたのは、本体の方です。

 

 

 で、分身の方は?

 

 

 奇襲のために動いています。

 

 位置に着いたな?

 

 ではアンブッシュです。

 

 オーガジェネラルの注意が本体の半竜娘ちゃんに向いた隙を突いて、別角度から南洋投げナイフ(スリケン)を投擲します。

 狙いは森人探検家を掴んでいる方の手首です。

 森人探検家ちゃんが、分身ちゃんの方にも気づきましたが、空気を読んで黙っててくれています。

 

 本体が注意を引き付けているので、不意打ちは成功しやすくなっているのですが……ギリギリ成功しました。*4

 さらに、分身ちゃんの先制力判定が【加速】効果で13となり*5、12を超えたので、先制力を12と1に分けることで2回行動できます。

 

 まずは一回目の行動。スリケン投擲です。

 ひゅおんと風を切って、複雑に曲がった刃を持つ投げナイフが飛来します。

 

 このスリケンが命中するかどうかですが、分身の方の半竜娘ちゃんは、【加速】状態でのボーナス+4に加え、【竜眼】のボーナス+4があり、さらに「にらみつける」による行動阻害で、相手の回避を-4できます。実質+12のボーナス。

 まあ、ファンブルしない限り当たるでしょう。(フラグ)

 

 

 達成値は……は? ファンブル??*6

 

 

 いやいやいやいやいやいや! ここでそれはないっしょ!?

 ファンブルだと自動失敗です!

 

 え、これ、どうする、えぇ??

 人質救出できないとまずいんだけど!!

 いや、まだ2回目の行動が残ってる……けど、一手損はつらい!!

 

 

 あ、攻撃したら当たった!!? えっ。なぜっ!? なんで当たった??

 

 

 ああ! そうだ! 森人探検家ちゃんの【逆転(リバース)】!!

 

 

 ファンブルは! クリティカルに!!

 

 

 マジか、キミ温存してたのか!!

 

 

 でかした!!! えらい!! 愛してる!!

 

 

 えー、森人探検家ちゃんの奇跡【逆転】により、文字通りの奇跡の大☆逆☆転です。

 

 ファンブルからひっくり返してのクリティカルで絶対命中となり、分身ちゃんの投げたスリケンは、明後日の方向に飛ぶかと思いきや、空中で吹いた突風(交易神の加護)で軌道が曲げられ、非常に不規則なカーブを描いてオーガジェネラル目掛けて飛んでいきます。

 オーガジェネラルは、この不意打ちにまったく反応することができず、その腕にスリケンが突き刺さります。

 命中達成値は43でした*7ので、ダメージボーナスは驚異の+5D6!!

 

 ダメージは、オーガジェネラルの装甲点を引いて…14点!*8

 かたーい!! クリティカル引いてこれかあ。こんなん2ターンのリジェネで治る傷やんけ。まあ、ダメージの出目が振るわなかったせいもありますが。

 でもオーガジェネラルの生命力の二割くらいダメージ与えられました。

 

 そしてぇ~、クリティカルなので痛打表回しますっ。

 痛打表による効果は……「転倒」! おそらく、本体の名乗りに振り向いたときに、ちょうど体勢を崩すいい感じのタイミングで、いい感じの場所にスリケンが突き立ったのでしょう。

 転倒状態の時は、能動的行動に-4のペナルティ! 起き上がった後も、そのラウンド内はペナルティ続行!

 

 オーガジェネラルは、手に刺さったスリケンにより森人探検家ちゃんを取り落とし、さらには刺さった時の勢いで腕が跳ね上げられて体勢を崩して転倒しました。

 ざまあないぜ!

 

 そして、半竜娘の分身ちゃんは、加速の効果により2回目の行動ができます。

 彼我の距離は、投擲の限界距離ギリギリといったところ。20mほど離れているでしょうか。

 

 驚き、信じられない顔で、突き刺さったスリケンを見るオーガジェネラルの目が、半竜娘の分身ちゃんを捉えます。

 

「双子……いや、ブンシン・ジツか!!」

 

「ドーモ、オーガジェネラル=サン。半竜の術士です。その森人(エルフ)はやらせない」

 

「ドーモ、半竜の術士=サン。オーガ=三ノ若です。はっ、アンブッシュのスリケンがクリティカル(まぐれ当たり)したくらいでイキリおって」

 

「まぐれかどうか、その体で確かめるがいい。さあ、貴様の心臓を、置いてゆけえええぇぇええ!!! イヤーッ!!!」

 

 自由行動でアイサツしときます。武人相手にアイサツはジッサイ大事。神代の石版(古事記)にもそう書いてある。

 

 では、いきます! 【突撃(チャージング)】です!

 

 呪文行使判定は、達成値29でした。*9

 オーガジェネラルの呪文抵抗判定は、達成値が18でした*10ので抵抗失敗!

 

 【突撃】により轢かれるがよい!

 

 

 あ、オーガジェネラルが【抗魔】で打ち消そうと……いや、諦めましたね。転倒状態のペナルティに加えて、咄嗟の行動によるペナルティがあるので、無駄打ちになると判断したようです。

 

 はいドーン!!

 

 では、突撃のダメージは……助走距離20mの20%に、竜司祭レベルと達成値ボーナス4D6を乗せて装甲値を引いて……17です!*11

 

 少ない? 十分な助走距離が稼げなければこんなもんでしょう。

 

 いつも80だの140だののボーナスが乗ってる方が異常(ロマン)なのです。

 

 まあ最初に、人質を助けるために投擲攻撃圏内に近づく必要があったので仕方ないです。弓があれば、もっと遠くからオーガジェネラルの手を撃つことができて、より遠くから助走距離を稼いで突撃できたのかも知れませんが。

 あるいは、もう少しだけ準備時間があれば、いつものコンボで粉砕もできたんですが、森人探検家がピンチだったのでそこまでは準備できませんでした(というか、GMがそういう状況を作ってきてますね)。

 

 でも、ラウンド終わりに再生(リジェネ)する分がありますが、とりあえず半分くらいはオーガジェネラルの生命力を吹き飛ばせました。

 上手く行けば、次のラウンドで半竜娘ちゃん本体と分身のそれぞれの魔法攻撃(本体の【突撃】と、分身の【竜息】)で削りきれます。

 

 それに、ダメージで集中が削がれたので、オーガジェネラルの【加速】が維持できずに解除されました。

 順調に相手のリソースを削れています。

 

 【突撃】により、転倒していたオーガジェネラルをさらに吹き飛ばし、分身ちゃんは森人探検家ちゃんを庇うように立ちはだかります。

 この位置取りのために、【突撃】で近づく必要が、あったんですね。

 

 森人探検家ちゃんは、解放されたばかりで転倒状態(能動行動-4ペナ)のようです。負傷と、長時間の逃避行による疲労もあるようですね……。

 

 

 そして次のターン、というところですが、ここで相手側の不意打ちです……!

 

 オーガメイジのエントリーだ!!

 

 知能と怪物レベルの高いモンスター相手だと、怪物側の不意打ち判定がえげつないことになります(計算式エラッタされねえかなあ)

 なので、察知できませんでした。

 

 長射程の【火矢(ファイアボルト)】の呪文が、半竜娘ちゃんの本体の方へと向かいます。

 おそらく、どちらが本体かを見分けての攻撃でしょう。

 ということは、かなり手練れのオーガメイジです。

 

 しかし半竜娘ちゃんもさるもの。

 リアクションで【抗魔(カウンターマジック)】により打ち消すことを試みま……え、【抗魔】射程外で既に形成された魔法は打ち消せない? まぁじでぇ??

 

 仕方がないので、耐えます。

 

 相手の【火矢】の達成値は18。半竜娘ちゃんの呪文抵抗は、25でした。*12

 抵抗成功! ダメージを半減します。そこからさらに装甲値で軽減します。

 

 また、オーガメイジの【火矢】のダメージは……16でした*13ので、呪文抵抗で半減させて8点のダメージですが、装甲値10なので、無傷です!

 

 アツゥイ!! あれ、熱くない。

 

「ぐっ、なかなか手練れのメイジじゃの! しかし、なんの! この程度は効かんのじゃ!」

 

 負傷によりダメージの1/3のペナルティを掛けて、【加速】の呪文維持判定ですが、負傷しなかったので【加速】の呪文は維持されます。 

 

 

 さてそれで、お互いの不意打ちで始まった1ターン目の状況を整理すると、

 

・オーガジェネラルから少し離れたところに半竜娘ちゃん本体(呪文残り4回)がいて、

 

・そして森人探検家(転倒状態)と分身ちゃん(呪文残り3回)がひと固まりになっていて、

 

・そこから吹き飛ばされて転倒状態のオーガジェネラル(呪文残り2回)、

 

・さらに、森人探検家が逃げてきた方向の森の中100mくらい先に、オーガメイジ(呪文残り0回)とゴブリンチャンピオンが居る

 

 って感じですね。

 

 

 分かりづらい?

 そんなみなさまのために~。

 

 いらすとやさんの神威を借りてこちらご用意しました。

 

 フリップ、ドーン!

 

 

【挿絵表示】

 

 

 半竜娘ちゃんが着ぐるみになってる? イメージだからヘーキヘーキ!

 

 画力のある《N氏(ナナシ)》は出払っていてね……。すまんがこれで我慢してくれ。

 

 実際の半竜娘ちゃんは、もっと美人でグラマーだから。心眼で見るのじゃ。

 

 

 で、まあ位置関係は、こんな感じなわけですよ。

 

 

 この状態で、2ラウンド目に行きますが、一度ここでお互いの戦略目標を確認しときましょう。

 

 半竜娘ちゃん側は、

  1.森人探検家の確保

  2.生存(撤退可)

  3.オーガの心臓喰う

 って感じです。優先度的にも同じ順番。

 

 まあ、強敵との戦いは、あわよくば、というところですね。

 今の状況は結構有利なので、半竜娘ちゃんには退く理由がなく、戦意は高いです。

 でも、森人探検家を狙われるとつらいかな。

 

 オーガ側は、

  1.生存(撤退可)

  2.兄者のいる遺跡に行く

  3.目撃者の抹殺

 って感じです。優先度もこの順番。

 

 どうせ兄者連れて氏族領域に速やかに帰らなきゃならんので、ここで目撃者(半竜娘ちゃんたち)を逃がしたところで別に大局に影響しないだろうなって感じのマインドです。

 それよりも、魔神王が負けて、これから勢力を立て直さなきゃいけないのに、戦力が減る方がマズイです(ゴブリンは別に死んでもいい)。オーガ種の生存優先。

 

 

 そう、オーガたち的には、ここで油断ならない変な蜥蜴人ハーフの女との遭遇戦とか、やってられないはずなわけですよ、正直。

 

 森人探検家ちゃんにとってはお排泄物みたいなエンカでしたが。

 実は、向こうにとっても、このランダムエンカウントはお排泄物だったのでは?

 

 オーガジェネラル的には、信頼していた傅役(もりやく)の魔術が何の痛痒も与えられていないところを目撃し、半竜娘が凄腕の術士だと認識したわけです。

 自分もリジェネがあるとはいえ、一瞬で5割もってかれましたし、同じく突撃か、あるいはブレスで畳みかけられると、かなり危険です。

 しかも蜥蜴人の竜司祭は、たいていは武僧ですから、近接能力も侮るわけにはいきません。

 

 これで、オーガジェネラルが単騎で突出してなければまだどうにでもなったかも知れませんが、そこは生き足掻いた森人探検家の殊勲賞ですね。

 お付きのオーガメイジや、ゴブリンたちから引き離したのが、かなり効いてます。

 モブの支援効果がえげつない一方、ボス単騎だとその分脅威がガクっと下がりますからね。

 

 つまり?

 

 >オーガジェネラル「逃げるんだよォ!」

 

 フィールドにクソ強モブが徘徊している不具合……半竜娘ちゃんはF.O.Eかな?

 付き合ってられるか!! ってわけですね。

 

 とはいえ、体勢を立て直さないと逃げることもままならないでしょう。

 半竜娘ちゃんは、不意打ち成功&投擲クリティカル&ボス単騎という有利なシチュエーションを逃さず、オーガジェネラル仕留める気ですし。

 それこそ相手が逃げようと背を向けても、【竜眼】で視力強化してますし、見失うことは無いでしょう。あとは、適当に距離が離れたところで、これ幸いと助走距離積んで【突撃】すればバラバラにできます。

 

 

 というところまで踏まえて運命の2ラウンド目です。

 半竜娘ちゃんズの【加速】は、維持成功しました。また、オーガジェネラルの傷は、生命力8点分が治癒しました。

 

 

 行動順の決定ですが、次のようになりました。

 

行動順名前先制力特殊
半竜娘(分身)12先制力13を【加速】効果で12と1に分割
森人探検家3転倒(-4)、半竜娘(分身)同時行動(【統率】効果)
人喰鬼魔術師(オーガメイジ)半竜娘ちゃん(本体)と同値だが判定勝ちで先手
人食鬼将軍(オーガジェネラル)6転倒(-4)、傅役(オーガメイジ)との絆により【統率】効果発揮で同時行動
半竜娘(本体)9オーガメイジに判定負けで後手
小鬼英雄(ゴブリンチャンピオン)7特になし
半竜娘(分身)1先制力13を12と1に分割して2回行動

 

 では、1番目は半竜娘ちゃんの分身による行動1回目ですね。

 まずは自由行動で、森人探検家ちゃんを【統率】し、自分と同じ順番で行動させます。

 

「無事かぁ!? 無事なら、しゃきっとせんかあ!」

 

「うぇっ、げほっ、ハ、ハイッ! あ、助けてくれてありがと――」

 

「さっさと立てい! 毒の【竜息(ブレス)】いくぞぉっ!!」

 

「ま、まって、防毒面……――!?」

 

「きちんと味方は避けて吹くわいッ! カァッ!!!」

 

 毒の【竜息(ブレス)】が、倒れているオーガジェネラルに向けて放出されます。

 達成値は28でした*14

 オーガジェネラルの呪文抵抗は21*15<28で抵抗失敗! 毒気は装甲値で軽減できないので、ダメージはそのまま通ります。

 

 いや、【抗魔】によるリアクションを取るみたいです、イチかバチかクリティカルに賭けて*16

 

 って対抗呪文が……クリティカル!?

 まじかよ!!

 

 

 毒のブレスがかき消されます!

 (なお、【抗魔】を【抗魔】で打ち消すことはできないものとします。キリがないので。)

 

「蜥蜴が竜の真似事とは片腹痛いわ! やらせはせん! やらせはせんぞぉ!!」

 

「若様!! この爺ぃがすぐ、参ります!! いましばらく持ちこたえなさって下され!!」

 

「おう、なんの、これしきぃぃぃ!! この、俺が! やられるものかぁ!!」

 

 術が掻き消され、半竜娘ちゃん(分身)の目の色が変わります。

 やはり、強敵はこうでなくては!!

 

「やりおるな!! オーガ=三ノ若=サン!!」

 

「貴様もな! 半竜の術士=サン!!」

 

 そのやりとりの間に、半竜娘ちゃんに鼓舞された森人探検家が立ち上がっています。

 

「くっ、よくもやってくれたわね、オーガ!!」

 

「おう、起きたか! こちらは引きつける! 態勢を立て直せ!!」

 

「分かってるわよ! 貴女に言われなくても!!」

 

 森人探検家は、体勢を立て直すために、全力で下がろうとします。

 しかし、それを許すオーガジェネラルではありません。移動妨害判定です。

 半竜娘ちゃんズと比べれば、近距離の野伏なんて一番与し易いですからね。

 

「行かせんぞ、耳長!」

 

「ちぃっ、しつっこい鬼ね!!」

 

 移動妨害判定は、妨害側(オーガジェネラル)17に対して突破側(森人探検家)11により、突破失敗!

 森人探検家は、オーガジェネラルの近接距離(間合い)から逃げられません!

 

「あっぶないわね! 体勢崩してるのにぶんぶん金棒振り回しちゃってぇっ!」

 

「離脱は許してくれなんだか! ふむ、では、それまで手前(てまえ)が守ろうさ、安心せい!!」

 

「お願いね!! とにかく少しでも下がって回復するわ!!」

 

 森人探検家は、オーガジェネラルの射程ギリギリくらいまで下がりながら、強壮の水薬(スタミナポーション)を摂取します。

 これで、疲労をごまかせば、まだ少しは戦えます。

 

 次に動き出したのは、オーガメイジです。

 

「呪文は打ち止め……とでも思っているのか!? この土壇場で根性見せずに何が鬼よ!! サジタ()インフラマラエ(点火)ラディウス(射出) 【火矢(ファイアボルト)】!! この老骨の命を持ってゆけい!!」

 

 オーガメイジの狙いは本体の半竜娘ちゃんです。

 術士を潰すのは基本!

 

「性懲りもなく……!!」

 

「くぅぁっ、はぁっ、はぁっ……燃え尽きろ! 蜥蜴人め!」

 

 相手の【火矢】の達成値は18。半竜娘ちゃんの呪文抵抗は、27でした。*17

 抵抗成功! ダメージを半減します。

 

 また、オーガメイジの【火矢】のダメージは……20でした*18ので、呪文抵抗で半減させて10点の負傷ですが、装甲値10なのでダメージまで至りません!

 

 不意打ちではなかったので、ま・わ・し・う・け で散らしたとは言え、危ういところでした。

 ダメージは発生しませんでしたので、まだ【加速】は維持できています。

 

 そしてオーガメイジは、無理な魔法使用(オーバーキャスト)の消耗で消耗カウンタ7*19に相当するダメージ42*20を受けて、瀕死の状態になります。

 

 ですが、傅役の爺や(オーガメイジ)の力戦に触発されて、転倒していたオーガジェネラルが奮起します。

 転倒から立ち上がり、半竜娘(分身)を、そして後方の半竜娘の本体をにらみつけます。

 

「ぬう、半竜の術士=サンよ、貴様を強敵と認めよう! ジィの【火矢】を二度も耐えるとは、あっぱれ見事!!」

 

「そいつは光栄じゃ!」

 

「しかし死ねぃ!! カリブンクルス(火石)クレスクント(成長)ヤクタ(投射)……!」

 

 オーガジェネラルといえばこの魔法!

 【火球】の魔法が、本体の半竜娘ちゃんに向けて投射されようとします!*21

 

「させるか!!」

 

 しかしオーガジェネラルが居るのは、分身ちゃんの【抗魔】の範囲内!*22

 手早く手印を切った半竜娘ちゃん(分身)により、オーガジェネラルの魔法はかき消されます!

 

「ふん、『どうせお粗末な呪文だったんだろうさ』!! 手前(てまえ)がそばに居る限り、呪文は片っ端からかき消してくれるわ!!」

 

「……やはり、やりおるっ」

 

 次に動き出そうとするのは、本体の半竜娘ちゃんです。

 

 使う呪文は【力場】の呪文。

 ターン用のバンクを【力場】で用意すれば、分身ちゃんによる【突撃】が、最大威力(巨大化なしの場合)で決められます。

 その場合は、ダメージ計算は「助走距離ボーナス21+竜司祭レベル9+達成値に応じたダイス数」となるので、オーガジェネラルを確殺できます。

 

 やはり固定値は正義。

 

 発動をまたオーガジェネラルの【抗魔】にクリティカルで邪魔されたり、オーガジェネラルの呪文抵抗が大成功したり、半竜娘ちゃんの呪文がファンブルすると計算がズレますが、既にクリティカルもファンブルも1回出てるから、もう出ないでしょ、きっと!(根拠のない迷信)

 

 

 

 って、ここでまた不意打ちです!!

 

 今度は誰だよ?!

 

「我が弟の窮地に駆けつけずしては、兄の名折れよ! 【火矢】!!」

 

 あああああああああ!!

 

 オーガジェネラル(長男)んんんんんん!?

 

 お前かよ!!

 

 【火矢】*23*24の行く先は、森人探検家ちゃんの方です! 焼きエルフになっちゃう!

 

 的確に嫌なところ狙って来やがるな!!

 

 射程100mは、狙われる側からはかなりつらい!

 

 しかし幸いにも半竜娘ちゃんは、【力場】の発動準備ができてます!

 移動して! 射線を遮るように【力場】の壁を伸ばします!

 初めてまともな使われ方したな【力場】くん! ありがとう!

 

 ギリギリセーフ!!

 

 【火矢】をインターセプト!!

 

 【力場】の壁も耐えた!!*25

 

「ドーモ、オーガ=一ノ若です」

 

「ドーモ! 一ノ若=サン!! 半竜の術士です!!」

 

 くそっ、なんか虫の知らせとかでこっちに来たのか、森人探検家ちゃんを探してた雑魚ゴブリンどもから何か知らされたのか分からんけど、なんで出てくるんだよ、オーガジェネラル(兄)ぃぃぃぃいい!?

 

 ゴブリンチャンピオンが全速力で近づいて来てますが、まだ射程外ですのでこっちは大丈夫。

 

 最後に半竜娘ちゃん(分身)の2回目の行動です!

 

 でもそこで待ったが入ります。オーガジェネラル(兄)から。

 

 なんぞ?

 

「この勝負、このワシがあずかる!!」

 

「なっ、一ノ兄者! それは!」

 

「黙れぃ、愚弟! こんなところで貴様も爺も失うことはできぬ! 大局を見よといつも言っておろうが!! 貴様等が伝令に来たということは、並ならぬことが起こって、ワシの力が必要なのだろう! 氏族存亡の瀬戸際なのではないのか!!

 半竜の術士=サンよ! 貴様も良いな!!」

 

 このままではオーガメイジとオーガジェネラル(三男)を失うと思ったオーガジェネラル(長男)は、そんなことを言い出します。

 当然、蜥蜴人的には承服できるものではありませんが……。

 

「ふん、半竜の術士=サンよ。貴様、護衛の技能など持っておらんのだろう? 足運びでわかるわ!!」

 

「ギクッ!」

 

「え、ちょっとほんと!? さっき守るって――」

 

「こちらに手出しせぬのであれば、ワシらはそこの森人を見逃してやろう!」

 

「む、むむむむ!」

 

 ここに来た目的は、森人探検家を確保することです。

 強敵たるオーガジェネラルとの戦いは魅力的ですが、しかし、森人探検家ばかり狙われても面白くありません。

 さまざまなことを天秤にかけ、葛藤し……。

 

「……よかろう。一ノ若=サンよ、この勝負預けよう。三ノ若=サンよ、決着はいずれ」

 

「ぐぐ、兄者の顔を立てて、ここは退く! しかし、決着は必ず!!」

 

 そう言い残すと、オーガジェネラル(三男)は全速力で、瀕死のオーガメイジの方に駆けていきました。

 オーガジェネラル(長男)も、どうやら約束通りに退いていくようです。

 

 そう、決着はいずれ……!

 

 

 

 

 

 それを見送っていると、森人探検家が話しかけてきます。

 

「ふー、間一髪。ありがとうね、助かったわ」

 

「よいよい。しかし、恩に着るなら、しばらく一党を組んでくれると助かるのう。優秀な野伏が必要だったのじゃ」

 

「まあ、いいわよ。でも、貴女が【護衛】の技能を身に着けるのが条件ね!」

 

 ビシッと指を立てる森人探検家に、半竜娘(分身)は笑います。

 

「かかかっ、こいつは一本とられたわ! 約束しよう!」

 

「じゃあ、決まりね!」

 

 ここに新たな一党が結成されたのでした。

 

 そこに、本体の方の半竜娘がやってきます。

 その大篭手は熱で焼かれて、色が変わってしまっていますし、鱗も若干、焼け爛れているところがあります。

 死力を尽くしたオーガメイジもまた、あっぱれな強敵でした。

 

「逃がした敵は惜しいが、仲間には代えられぬ。それは向こうも同じじゃったんじゃろうさ」

 

「そうね、あの魔術師の人喰鬼が倒れそうになってたのも、大きかったんでしょうね」

 

「やつらは一廉の武人ではあったが、将でもあったのじゃろう。混沌の奴ばらを血祭りにあげていけば、またいずれ相まみえようさ」

 

 さて、ともかく竜馬に乗って帰ろうかというときに、半竜娘ちゃんズと森人探検家は、無粋な輩の気配をとらえます。

 

「あー、無粋じゃのう無粋じゃのう。これだから小鬼めらは……。どーせ根拠なく『自分はやれる』とか、『オーガが弱ったから言うこと聞く必要もない』とか、『オーガがやられかけたのに俺は無傷だったから俺の方が強い』とか、そーいうこと思って勝手にやってきておるのじゃろうさ」

 

「ほんっと、最悪よね」

 

 どうやら、小鬼英雄が遺跡まで引き返す前に、途中で糾合したゴブリンを引き連れて、半竜娘たちの方へとやってきつつあるのです。

 森人探検家はその鋭敏な耳で、半竜娘たちは【竜眼】で強化された視覚で、それぞれゴブリンたちを捉えました。

 

「矢は届くな?」

 

「もちろん。そっちは?」

 

「これだけ助走がつけられる広い場所なら、とっておきを見せられるのじゃよ」

 

「じゃあ期待しとくわ」

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 数分後、残されたのは、()()()()()()()()()()()()()数十からのゴブリンと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 生き残ったゴブリンはいなかった。

 

 

 

   ▼△▼△▼△▼

 

 

 

 はい終了ー!

 

 オーガは逃がしちゃったけど、まあ、仕方ない。

 そして、遺跡から出てきてたゴブリンはだいたい潰せたけど、遺跡の中にはまだ居るでしょう、おそらく。遺跡の中まで追撃してるとオーガ連中に逆撃される危険もあったので、仕方ないです。

 

 でも、無事に森人探検家ちゃんを仲間にできましたので、目的は達成してます。

 あとは辺境の街に帰って休んで、冒険者ギルドへ、オーガの報告をするだけ!

 

 いや、傷を治すのが先ですね。

 水精霊のミズチちゃんも呼んで、【命水】を振る舞ってもらって疲労と傷を癒やしつつ、さらに半竜娘ちゃんは自分に【小癒】を使います。

 うん、だいたい完全回復!

 

 そんじゃ、使い魔の竜馬(余命2日)に乗って、パカラって帰ります!

 森人探検家ちゃん軽いから、2人乗りも余裕です!

 分身ちゃん? そうねぇ……。

 

 

 

 帰りました!

 

 もう深夜じゃよ!

 

 寝ます! Zzzz。

 

 森人探検家ちゃんも、魔女さんの家に招いて、普段は分身ちゃんが使ってる寝床に寝かせます。

 寝床も埋まっちゃったし、今日はもう、分身ちゃんも消したままにしてしまって、出さないことにします。

 

 

 

 

 おっはー! もう午後じゃよー!?

 

 冒険者ギルドにオーガとの交戦&森人探検家の救助を報告!

 

 経験点1500点と成長点3点獲得! 森人探検家ちゃんが因果点回してくれてたみたい?

 

 成長点入ったので約束通り、早速、冒険者技能【護衛(初歩)】を取得します。

 1ラウンドに1回まで、近くの仲間を庇えるぞー! 残り成長点は2点です。経験点の方は温存で。

 そしてようやく、クスリの後遺症が抜けました! 地味に全判定マイナス2が重かった……。

 

 森人探検家ちゃんも経験点1500点と成長点3点ゲット!

 神官(交易神)をレベル2に伸ばしてもらって、残り経験点500、成長点は加算されて5点。

 新しく賜った奇跡は、移動力を底上げする【旅人(トラベラー)】です。

 

 ……これ、半竜娘ちゃんの入れ知恵だな?

 

 とりあえず成長点は保留します。【忍耐】とか【免疫強化】とか【長距離移動】で体力のなさを補うか、長所を伸ばすか、斥候的な【第六感】などを伸ばすか……悩みどころです。

 

 それはともかく報告の続きです。

 詳しく遭遇場所だとかを報告していくと、受付嬢さんの顔が真っ青になっているのに気づきます。

 

 

 どしたん? 受付嬢さん、顔色悪いよ?

 

 

 ……えっ。

 

 

 ゴブスレさんと愉快なご一行が、今朝ほどその遺跡に向かって出立した?

 でも、オーガのことは知らないまま向かってるはず?

 オーガとの遭遇情報は重要な情報なので、急いで伝えに行ってほしい?

 

 そうね! 多分もうオーガ長男と三男は撤退しているはずだと思うけど、やつらの帰り道でランダムエンカするとまずいもんね!!

 万が一、オーガメイジの看病だとかでまだ奴らが遺跡に残っててもまずいし!

 ギルドへの貢献としても見てもらえるし、原作一行に会うのも楽しみだし!

 というわけで――

 

 

 ――任されよ!!

 

 

 はい、今回はここまで。

 また次回!

 

*1
使い魔作成・使役:TRPG版に技能としての規定はないが、使徒の奇跡や、使い魔の魔術は、原作において存在が確認されているため、世界観的には存在する模様。まあ、TRPGだと、操作キャラが増えるとPLの出番が集中して不公平だから、ゲーム的にオミットされたのは致し方なし。サプリが出れば追加されるかな?

*2
本体の竜眼の達成値は36(祖竜術基礎値21+付与呪文熟達2-後遺症2+2D6(出目は4,6で10)+生命の遣い手クリティカルボーナス5)。効果は、眼くらまし耐性&5km先までの遠視&遠隔近接命中判定に+4&睨みつけによる行動阻害-4。持続時間10分

*3
加速のボーナスは、本体が+2(出目が4,1で達成値24。いちたりない…)、分身が+4(出目が6,5で『生命の遣い手』技能により大成功扱い、達成値35)だった。

*4
分身からオーガジェネラルへの不意打ち判定:分身の不意打ち達成値22(技量集中10(指輪を本体から受け取った技量の指輪に付け替え))+加速ボーナス4+機先技能2-後遺症2+2D6(3,5で8) VS オーガジェネラルの第六感22(ボーナス24(怪物レベル8×知能係数3)+加速ボーナス1(加速の達成値は19)+2D6(5,4で9)-12(囮による注意そらし)。同値のため不意打ち成功!

*5
分身の先制力判定:加速ボーナス4+機先技能2-後遺症2+2D6(4,5で9)。合計13

*6
分身ちゃんのスリケン投擲:投擲基礎値16+武器修正4+加速ボーナス4+竜眼ボーナス4-後遺症2+2D6(1,1で2。ファンブル!)

*7
分身ちゃんのスリケン投擲(出目逆転後):投擲基礎値16+武器修正4+加速ボーナス4+竜眼ボーナス4-後遺症2+2D6(6,6で12。クリティカル!)+クリティカルボーナス5。合計43

*8
スリケンのダメージ:武器攻撃力1D6(3)+武道家レベル6+命中達成値ボーナス5D6(1,3,4,4,2)=23。そこから装甲点9を引いて、ダメージ14。

*9
分身ちゃんの【突撃】行使判定:基準値21+加速ボーナス4-後遺症2+2D6(1,5で6)。合計29。

*10
オーガジェネラルの呪文抵抗:基準値13+加速ボーナス1+2D6(1,3で4)。合計18。

*11
突撃のダメージ:助走ボーナス4+竜司祭レベル9+4D6(5,1,6,1)-装甲値9=17。

*12
半竜娘本体呪文抵抗:19+加速ボーナス2-後遺症2+2D6(1,5で6)。合計25。

*13
オーガメイジの【火矢】ダメージ:魔術師レベル5+5D61,3,2,3,2で合計16

*14
分身【竜息】達成値:祖竜術基礎21+加速ボーナス4-後遺症2+2D6(4,1で5)。合計28。

*15
オーガジェネラル呪文抵抗値:基礎13+2D6(5,3で8)。合計21。

*16
オーガジェネラル【抗魔】:基礎値12-転倒ペナ4+2D6(6,6で12)+クリティカルボーナス5で合計25。ただしクリティカルにより絶対成功!

*17
半竜娘本体呪文抵抗:基礎値19+加速ボーナス2-後遺症2+2D6(6,2で8)。合計27。

*18
オーガメイジの【火矢】ダメージ:魔術師レベル5+5D61,3,2,4,5で合計20

*19
オーガメイジのオーバーキャスト反動:2D6(2,5で7)

*20
消耗カウンタ1つあたり2D6のダメージ:14D6(1,4,5,2,2,5,1,4,5,5,2,1,1,4で42)

*21
オーガジェネラル【火球】行使:基礎値12-転倒ペナ4+2D6(2,4で6)。合計14。

*22
半竜娘(分身)【抗魔】行使:基礎値15(知力反射6+魔術師レベル5+装備ボーナス4)+加速ボーナス4+付与呪文熟達2-後遺症2-咄嗟の反応ペナ2+2D6(4,2で6)。合計23。【抗魔】23>【火球】14で、干渉成功!

*23
オーガジェネラル【火矢】行使:基礎値12+2D6(2,3で5)。合計17。

*24
オーガジェネラル【火矢】ダメージ:達成値17のため、魔術師レベル6+5D6(4,1,3,2,5)で合計21。

*25
半竜娘(本体)【力場】行使:基礎値19+加速ボーナス2+創造呪文熟達1-後遺症2+2D6(5,6で11)。合計31。30点未満のダメージを遮断する透明な壁が形成! 火矢のダメージは21点なので遮断成功!




ライバル枠も必要だよね? ということで、オーガ三男生存。(再登場未定)
ついでにオーガ長男も生存(撤退)フラグが立ってます。

【突撃】の最大威力のためにはバフを積まなきゃいけないけど、それを許してくれる状況ばかりではないわけで。そんな話でした。

 次は原作一行と接触できるぞー!

 呪文に対する装甲値の適用計算ミスってたので修正してます。オーガメイジの爺さんが雑魚になってしまった……すまん……。


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11/n 裏

閲覧、評価、感想、誤字報告、ありがとうございます!

偉大なる先駆者兄貴からの感想に恐懼して初投稿です。


1.UMA

 

 魔女は、釜から這い出てきた、どろどろの粘液体を、研究者の目で冷たく見下ろしている。

 釜は一つではない。いくつもの釜から同じように粘液体が這い出していく。

 粘液体は、互いに合わさり、ぼこぼこと不規則に変形し、律動し、やがて一つの形をとっていく。

 

 現れたのは、馬と竜のアイノコのような、四つ足の鱗あるもの。

 大きさは、大柄な輓馬よりもさらに大きい。

 しかし、その体は、輓馬よりもさらに洗練されていた。

 

 ほう、と、悩ましげに艶っぽく、魔女は息を吐き、その豊かな肢体を椅子に預け、すらりとした脚を組んだ。

 

「ま あ、こんなもの、かしら、ね?」

 

 相棒の槍使いが英雄英傑に憧れていることは知っている。

 

 隠れて乗馬の上達訓練をしていることも(そういうところが、いじましくて、かわいいのだが)。

 

 

 そう、英雄譚には、強靭な駿馬がつきものだと、相場が決まっている。

 

 彼ら英雄は、戦場を駆けて敵を蹴散らし、美姫の窮地にさっそうと駆けつけるのだ。

 

 

 とはいえ、日頃から上等な軍馬を維持するのはかなり大変だ。

 馬の世話をする人間を雇わないと、冒険中の維持ができない。

 

 冒険に連れて行くにしても、洞窟に潜っている間はどうするというのだ。

 そこらに繋いでいては、ゴブリンにでも食われてしまうのがオチだ。

 

 ゆえに、使い魔として馬を用意する。

 

 これなら世話にかかる手間を減らせるし、頭も良く出来るし、何なら直接操ることで、呪文を使った戦闘力も発揮できる。

 

 今回作ったのは、下水道遺跡から回収した粘液体の細胞を培養したものに、軍馬の精液(お金を払って手に入れた)、古竜の肉片、そして半竜娘の髪の毛を調合したものだ。

 

 半竜娘には無断だが、まあ、説明すれば事後承諾してくれるだろうという気はする。

 

 そして、日頃の研鑽のおかげか、狙い通りに馬型の使い魔を作り出すことができたのは良いのだが。

 

「……なんか、ワルモノ、みたい ね?」

 

 槍使いの相棒は、こう、“王子様”的な路線を志向しているのだが……。

 

 この子は、なんだか、古竜の影響か、真っ黒で、凶悪な面構えで。

 目は温厚というより猛り狂いと冷酷の両面を宿しており(こっちは半竜娘の影響だろうか)。

 驚くほどに大きな身体をしており、威圧感がすさまじい。

 

 これじゃあ、まるで魔王だの覇王だのの愛馬だ。

 

「やっぱり、白馬、のほうが、いい わ よね?」

 

 デートにも、白馬に乗って遠乗り、というのは乙女のあこがれであるし。

 

 戦場や冒険に連れていくならこれで良いのだろうが、なんというか、英雄譚っぽくはない。

 いや、英雄譚ではあるのだろうが、光と歓声ではなく、血と叫喚にあふれてる方の英雄譚だろう。

 

「でも、出来はよさそう、なのよ ね」

 

 見た目については改良の余地があるとして。

 作ったからには、このスペックについて、どの程度を発揮するのか、試運転は絶対に必要だろう。

 

 ないとは思うが、途中で粘液体に逆戻りした上に、騎手を食ったりなどしてはシャレにならない。

 

 しかし、自分で試運転をやるのは、ちょっと大変そうだ。

 エンジニアと、テストパイロットは、別であるのが普通だし。

 何より、魔女が乗るには、この竜馬は大きすぎる。

 

 さて、どうしたものか。と考えていた時に、半竜娘が帰ってきた。

 

「大家殿! ただいまなのじゃ! 早速で悪いが急ぎでのう、手前(てまえ)が乗れるような馬を探しておってな! いや、無理難題とはわかっておるのじゃが、頼れるのが――って、なんじゃあああ!? このでっかい馬は?! う、ま? UMA? 馬じゃよな??」

 

 なんてタイミングのいいことだろうか!

 

 このまま試運転を任せてしまおう!

 

「そ ね。この子、使い魔なの、よ。乗って、みる?」

 

 

 

   ●〇●〇●○●

 

 

 

2.人喰鬼兄弟

 

 

「は? 魔神王様が討ち取られた??」

 

「そうだ、一の兄者、魔神王様が討ち取られたのだ。さらにはその時、城に詰めておった魔神将の方々も粗方一緒に討ち取られておる。兄者に軍を預けたお方もな」

 

「待て、待て、待て。いや、他ならぬお前が言うのだから事実なのだろうが、にわかには信じられん。いったい何がどうすればそうなる」

 

「……勇者だ」

 

「……人族の暗殺者による斬首戦術か。しかしそうは言っても信じがたい。そのうえ、諸将が軍議のために集まったところをやられるとは、諸将の軍も詰めておったのだろうに」

 

「忌々しいが、運が悪かった、としか。どうも、奴ら、勘働きが異常に良いようだ。()()()()()()()()()()()

 

神の帳(マスタースクリーン)の向こう側でも見えておるのか?」

 

「託宣を頻繁に受けているのかも知れん」

 

「……まあ良い。であればやはり、爺ぃも貴様も、あの半竜娘=サンとの戦いで失うわけにはいかなかった」

 

「……だが、次は決着をつける」

 

「ああ、そうしろ。しかし、それは氏族の大事が終わってからだ」

 

「わきまえているさ! もともとはそのために呼びに来たのだ。いまは、二の兄者が、生き残りをまとめて故郷に向かっておる」

 

「……うちの氏族も、勇者にやられたのか」

 

「そうだ、目も眩む()()()()()()()()が、何度となく軍勢を切り裂き、あとに残ったのは、焼き付いた影だけだったという。二の兄者の傷も深い」

 

「応報せねばならんな」

 

「そうだ、応報せねばならん!」

 

「……だがまずは、戻って氏族を掌握せねばならんか。手筈は?」

 

「転移の巻物を預かっておる。ジィも一晩寝れば恢復しよう」

 

「いや、今動く。爺ぃを休めるにしても、氏族領域へ戻ってからだ。消耗していても出来る仕事はあろう」

 

「そうか、そうだな。今は、立て直しのために、休ませておく余裕もない、か。……自分が不甲斐ない! あのようなところで、(たま)さか出会った敵手に後れを取るとは!」

 

「そう思うなら研鑽を積め。前向きにとらえれば、これからの乱世は経験を積む良い機会となろう。混乱しておる他の氏族を、魔神王様の名によらずに平定していくには、貴様の力も必要だ」

 

「兄者……! おうとも! 我ら三兄弟が力合わせれば、このような苦難、何ほどのことがあろうかよ!」

 

「その意気だ。さあ、もう行くぞ。爺ぃも叩き起こせ」

 

「ああ!」

 

 

 

 

「そういえば、ここのゴブリンの群れはどうする。貴様の連れてきた小鬼英雄はどこに行ったか」

 

「知らん。まあ、良かろう。アレの他にも、周りの巣を糾合させるために、何匹か似たような強さのを連れてきておったし。いまは散らせて別行動させておったところだが」

 

「ふうむ。ならば良いか。まあ、あとは野となれ山となれよ。さっさと転移の巻物で戻るぞ」

 

 

 

   ●〇●〇●○●

 

 

 

3.ゴブリンチャンピオン

 

 小鬼英雄は、意気揚々と森を進んでいた。

 あの森人の雌を捕らえるつもりでいるのだ。

 

 惰弱なオーガは引き下がったが、それは己が諦める理由にはならない。

 すでに、あの森人を手に入れるのは、小鬼英雄の中では確定事項となっていた。

 

 だというのに、周りは全く使えぬ輩ばかりだ。

 歴戦を潜り抜けた己のような、使()()()やつなど居やしない。

 

「GOBRRR!?」

 

 ほら今も、また一匹やられた。

 腹の立つやつらだ!!

 殺される弱者も! 弓矢を放つ卑怯者の森人も!!

 

 こちらが近づく前に、矢の雨にさらされている!

 木に隠れても、今度は頭上から、矢が落ちてくる!

 

 腹の立つことこの上ない!

 そうこうしている内に、獲物が逃げるぞ!!

 

 小鬼英雄が、配下に檄を飛ばそうとしたとき、ふと、足元が揺れた。

 

 何事かと見回せば……。

 己よりも、オーガよりも、さらに巨大な人型が、木々の間を抜けて、迫ってきていた。*1*2

 一瞬で、そいつが距離を詰めてくる。

 

「GGGRRRIIN?」

 

「イイイィィィィヤアアアアアァァァアアアアア!!!」

 

 ()()が、怪鳥のごとき雄叫びを上げながら、こちらへと突っ込んで来ていた。

 身を屈めて、地を擦るようなタックル。

 

 自分より手前にいた手下どもが、まさしく鎧袖一触、原形も残さずバラバラに吹き飛んでいく!

 使えないやつらめ!! 無能め!!

 

 

 だが、来ているものが何か分かった、雌だ!

 

 この俺が、雌の攻撃にやられる訳がない!!

 

 受け止めて組み伏して、そして…………

 

 

 

 そこまで考えたところで、小鬼英雄の意識は途切れた。

 

 それを考える脳髄ごと、辺りに破片になって散らばったからだ。

 

 

 

   ●〇●〇●○●

 

 

 

4.竜馬の上にて

 

 

 夕暮れの黄昏の中、辺境の街を出立した半竜娘と森人探検家は、竜馬に乗って走っていた。

 ゴブリンスレイヤーたちに、オーガ出没の情報を伝えに行くという、伝令依頼を受けたのだ。

 

「速いわねー、この子!」

 

「なんじゃて!?!?」

 

「この子!!! 速いわね!!! って!!! 言ったの!!!」

 

「ああ!! そうであろう!!!」

 

 急ぎということで、街を出る前に、半竜娘は【分身】を作り出し、【加速】と【追風】の補助呪文を、竜馬に掛けさせている。

 

 また、長距離移動に備えて、半竜娘の体力強化と技量強化の指輪を貸し出してある。半竜娘は普段は魂魄強化と知力強化の方を付けているから問題ないし、魔女の家に置いている戦利品在庫にはまだ予備があったはずだ。

 

 なお、分身までは、竜馬には乗れないので、ギルドに置いてきて、久し振りに、羽衣を纏った陽気で可憐な水の自由精霊を呼び出させている。*3

 冒険者たちも、久し振りの【命水】の振る舞いに喜んでくれていると良いのだが。

 

 

 猛スピードで走る竜馬の上では、轟々と鳴る風の音で会話もままならない。

 

「……Sylph,Please turn off the noise. ……これで聞こえるかしら?」

 

「ん? おお、風の音が消えたのう! なんじゃこれは、その呪文のおかげか?」

 

「精霊にお願いしただけよ。っていうか! 貴女は精霊へのお願いの仕方が、なのよ!!」

 

 森人探検家は、猛スピードで走る竜馬の上で、半竜娘の背にしがみつきながら会話する。

 その言に、半竜娘は頬を掻いた。

 

「あー、それなあ。手前(てまえ)は精霊使いとしては、まだ駆け出しでなあ。その辺の機微が分かっとらんのよ」

 

「あー、どおりで」

 

「まだひと月も経っとらん」

 

「は? ひと月!?」

 

 半竜娘にとっては、濃厚なひと月だったろうが、森人の感覚からすれば、ひと月など、つい昨日のことのようなものだ。

 

「はー、訂正するわ、ひと月でそれなら大したもんよ」

 

「とはいえ、そのままというわけにもいかんじゃろう。お主には、精霊との付き合いについて、是非ともご助言頂きたく」

 

「ふぅん、才能に驕っててもおかしくないのに、どうも素直ねえ」

 

 意外そうに目を瞬かせる森人探検家に、半竜娘は笑ってみせる。

 

「かかかっ、驕って上手になれた者などこれまでどこにも存在しないさのう。謙虚で素直なことが、上達の近道じゃと教わっておる」

 

「へえ、まあその通りよね。うちの師匠(せんせい)も、素直さ云々ってのは言ってたわね」

 

 森人探検家は、一時期師事していた、「忍び」「先生」と呼ばれる圃人の事を思い浮かべる。

 

 先生は、果たしてまだ御存命か、存命なら矢弾を十は出会い頭に撃ち込んでやるべきだろうか、いや、された所業を思い返すに、それでも足りぬ……。

 

 不穏な考えが伝わったのか、竜馬が森人探検家に心配そうに視線を向けた。

 

「ふふっ、この子、可愛いわね」

 

「そう言われると面映ゆいのう」

 

 森人探検家の憧れた“緑衣の勇者”の傍らには、いつも全てを蹴散らす愛馬がいたのだというからか、森人探検家も自分の相棒としての乗騎というのに憧れがあるのだろう。

 森人探検家は、馬を褒められたのを自分のことのように照れる半竜娘に違和感を覚えたが、特に気にせず、続けて提案した。

 

「これからは私がお世話してあげようか?」

 

「いや、それは無用じゃ」

 

「何よ、独り占めー?」

 

 ニヤニヤ笑う森人探検家の笑顔が凍るまで、あと2秒。

 

 

 

 

「独り占めも何も、これは今日までの寿命じゃから、このあと捌いて食おうと思うのじゃ」

 

 

 

 

   ●〇●〇●○●

 

 

 

 

5.ゴブリンスレイヤー一党と合流

 

 

「なんでそんなひどいことするのよー! 鬼! 魔神! 冷血!! こんなに可愛いのに!」

 

「鬼でも魔神でもないし、手前(てまえ)は恒温動物じゃ。それに飢えるまま死ぬまで放っておく方が可哀想じゃろうが。お主も飢えの辛さは知っておるのじゃろう?」

 

「そうだけどー! そうだけどー!!」

 

 野営をするゴブリンスレイヤー、女神官、妖精弓手、鉱人道士、蜥蜴僧侶らの一党のところにやってきたのは、喚く森人を後ろに乗せた蜥蜴人ハーフが駆る鱗ある馬だった。

 

「何これ、どういう状況?」とあきれ気味の妖精弓手。

 

「さあ……」困り顔は女神官だ。

 

 

 

 

 時間を少し巻き戻す。

 

 

 

 猛スピードでやってきたそれに最初に気づいたのは、妖精弓手だった。

 一党の中で最も耳の良い彼女は、これは新手のモンスターの襲撃ではないかと思った。

 

 その蹄の音からするに、脚の良い軍馬の三倍は速い。

 それに、やがて闇の中から見えてきたのは、凶悪な面構えの、巨大な馬型のモンスターだったからだ。

 乗っているのも、これまた大きな女だった。蜥蜴人の女だ。これも判断に迷う。蜥蜴人は、混沌側にもいるからだ。

 

 ただまだ、単に早馬で急ぎの伝令か何かでも持っていっている善良な冒険者、という線もある。

 

 妖精弓手は、念のため一党に注意喚起した。

 

「なんかでっかい馬型のが来るわ」

 

「ゴブリンか?」ゴブリンスレイヤーはゴブリンにしか興味がない。

 

「ちがうわよオルクボルグ、乗ってるのは蜥蜴人のハーフ女」妖精弓手がそう言うと、

 

「ゴブリンではないのか」ゴブリンスレイヤーは興味を失ったようだ。

 

「鱗の 心当たりあるかのう?」鉱人道士が蜥蜴僧侶に水を向けるが、

 

「いや、拙僧には特には……。しかし、はて、蜥蜴人のハーフ……いやまさか」蜥蜴僧侶は目をぐるりと回すだけだった。

 

「あと、あー、後ろに森人も乗ってるみたい。でも私も知らない子よ」近づいてきたから、妖精弓手は同乗者にも気づいたようだ。

 

 蜥蜴人ハーフの女と聞いて、女神官は目を瞬かせた。

 

「ひょっとすると……」

 

「なぁに、知り合い?」

 

「ええ、多分ですけど。後ろの森人の方は分かりませんが、蜥蜴人ハーフの方は、半竜の術士で、私の同期の冒険者じゃないかと」

 

 女神官のその言葉に、一党の緊張が多少解けた。

 

「ほう、巫女殿の同期というと、白磁等級でしょうかや」蜥蜴僧侶が聞けば、

 

「いえ、確かついこの間、黒曜に上がったとか」女神官が最近話題の同期についての情報を答えた。

 

「ほう! そりゃまた優秀じゃの!」鉱人道士が感嘆した声を上げた。

 

 女神官の同期ならば、登録してひと月程度か。

 それなのに黒曜等級ということは、出世頭ということになるだろう。

 

「ああ、確かに腕が良い。ゴブリンもよく殺す」ゴブリンスレイヤーが補足すれば、

 

「オルクボルグはゴブリン(それ)ばっかりね」妖精弓手は呆れ気味だ。

 

「あはは……」女神官は、色々と云いたいことがあろうに、苦笑にとどめた。

 

 

 

 そうしている間に、暫定:半竜娘が駆る馬型の何かは、彼ら一党のところまでやってきていた。

 てっきりそのまま通り過ぎるかと思ったが、あに(はか)らんや、脚を緩めて、少し離れたところに止まった……と思えば、降りて喧嘩を始めたのだ。

 

「じゃからな、この竜馬は、そもそも物を食う機能がないのじゃよ。腹の中の栄養を使い果たしたら終いじゃし、もう既に栄養はあと1日分も無いんじゃて。飢えて死なせるより、ここで馳走に饗すべきじゃて」蜥蜴人ハーフが諭すように言うが、

 

「いずれ死ぬにしても、殺すことはないでしょうって言ってるの!」後ろに乗っていた森人は聞く耳持っていないようだ。

 

 というか、この二人が同じ一党なら、これは一党の分裂の危機なのでは?

 

「じゃあ、あの魔女(そっちの大家の魔術師)さんに聞いてみなさいよ! この子を作ったのはあの人なんでしょ!? 勝手に殺しちゃいけないんじゃないの!?」別に理攻めができない訳でもない森人探検家。

 

「む、確かにその通りじゃな。分身を通じて聞かせてみよう」半竜娘も一理を認め、辺境の街に残してきた分身経由で、竜馬の処遇を確認することに。

 

「…………ふむ。大家殿は連れて帰って来いと」分身から情報を吸い上げた半竜娘が答えると、

 

「ほらほら! 殺しちゃだめなんじゃない! きっと寿命を延ばす方法があるのよ!!」勝ち誇ったかのような森人探検家。

 

「いや、貴重なサンプルじゃから解剖するそうじゃ」しかしそれも半竜娘がこのような無慈悲な補足をするまでであった。

 

「ぴえええん! これだから魔術師連中は!」森人探検家は泣いて竜馬に縋り付く。

 

「まあそういう訳じゃから。それにまた作ってもらえばよかろうよ」半竜娘は実利的観点からそう言うが、

 

「これだから魔術師連中は!!」そういう問題ではないと森人探検家が吠えた。

 

 

 

「あの~」おずおずと女神官が、言い争う半竜娘と森人探検家に話し掛ける。「何か私たちに御用があったのでは?」

 

 

 …………。

 ……。

 

 

人喰鬼(オーガ)、ね」噛みしめるように妖精弓手。

 

「ふうむ、ただのゴブリン退治ではなかったか。まあ、水の街からの途上でも魔神が襲って来おったものな」鉱人道士は髭をなでながら思案げだ。

 

「恐らく、奴らの口振りからするにもう撤退しとるじゃろうがな。それでもゴブリンはわんさかと残っておろうし、万一にでも将軍級のオーガ2体と偶発的遭遇(ランダムエンカウント)をせんように、知らせに来たのじゃよ」半竜娘は肉を炙りながら補足する。ちなみに竜馬の肉ではない、ただの燻製肉だ。

 

「うーっ、竜馬の中身が貴女なんだったら、先に言いなさいよね! 滑稽をさらしちゃったわ」ぐちぐち言ってるのは、森人探検家で、縋り付いて助命嘆願していた当の竜馬に意識を宿らせていたのが、実は半竜娘だったと知って、羞恥に悶えているのだ。可哀想だと同情した“かわいいおうまさん”は、そもそも居なかったのだ。

  

 既に竜馬は、この場に再作成された半竜娘の【分身】が【加速】をかけ直して連れて帰っていった。もちろん、ゴブリンスレイヤー一党から、伝令完了の印を貰って。

 

「そのオーなんとかいうのはゴブリンか?」そう聞いてくるのはゴブリンスレイヤーだ。彼は本当に、ゴブリン以外に興味がない。

 

「ゴブリンではなく巨人の類じゃ。まあ、行く先の軍事要地遺構(テレイン)には、どうせゴブリンが詰まっておろうから安心なされよ、小鬼殺し殿」半竜娘はゴブリンも居ると答えると、

 

「そうか、ならばいい。ゴブリンは皆殺しだ」ゴブリンスレイヤーは淡々と、しかしやる気を衰えさせずに言った。

 

 

 

「それで相談なんじゃが、この依頼というか遺跡探索に、手前(てまえ)らも同行しても良いかの? 報酬を寄越せということではなく、単にたまたま遺跡で合流したという(てい)でいいのじゃが」半竜娘がそのように申し出た。

 

「私はもともとあの遺跡の探検をするために辺境にやってきたのよ。爆破されたり燃やされたりする前に、探検しておきたいわ」補足する森人探検家。「地図も持ってるから、あとで見せるわ」

 

「オーガとの因縁は、こちらが先じゃしのう。あれらがどこに行ったかも気になる」さらに付け加える半竜娘。

 

「よぉございましょうよ」蜥蜴僧侶は若人を目を細めて見た。「因業には自らが決着をつけるべきものでしょう」

 

「儂も異存ないわい」鉱人道士も同意し、

 

「手が増えるのは悪くないわね」妖精弓手も同じく、

 

「あの、私たちが中にいるときに遺跡を壊したりは、しないでくださいよ?」女神官は、破壊魔な半竜娘を知っているから、そこだけ心配そうだ。

 

「好きにしろ」ゴブリンスレイヤーは無愛想に総括した。「ゴブリンを逃がさないならそれでいい」

 

「ならば決まりじゃ、よろしく頼む」そういうことで、半竜娘たちも冒険に同道することになった。「遺跡では別行動すると思うがの」あくまで探索優先としたいようだ。「もちろん、ゴブリンは見つけ次第殺すのじゃ」

 

「ならばそれで良い」

 

 そういうことになり、もう遅いからこの日はこのまま野営することとなった。

 

 休む際には、半竜娘を中心に【狩場】の呪文を唱えておくのも忘れない。また、騒がせた詫びに、水蜥蜴の精霊ミズチを呼び出し、疲労を癒やす【命水】を振る舞いもした。

 

 

   ●〇●〇●○●

 

 

 

 

6.野営の楽しみ

 

 

 

 半竜娘と森人探検家を加えて、ゴブリンスレイヤー一党は、焚き火を囲んでいる。

 彼女らが合流してから、さらに1日は経った、遠出2日目のことだった。

 一行は、遺跡まで後一歩というところまで来ている。

 

 どうも、森人探検家が【工作】ででっち上げた背負子(しょいこ)を半竜娘に背負わせ、女神官を乗せると乗り物扱いになるらしく、【追風(テイルウィンド)】の効果が発揮されたのだ。それで、旅の足が速まった。背負子に人を乗せるのがカギらしい。

 

「あの、歩かないのはなんだか申し訳なく……」女神官は恐縮していたが、問題はない。

 

「ほっほう、こりゃあラクチンだわいの!」そして一夜明けて再作成された半竜娘の【分身】の方の背負子に乗せられているのは、鉱人道士だ。

 

 スタミナに難のある女神官と、そもそも鈍足の鉱人道士を背負子に乗せて【追風】をかける。

 

 これが一番速いと思います。

 

 追い風に吹かれて、一党の歩みは常の1.5倍となった。

 旅程は順調だった。

 

 そして、遺跡突入前の最後の野営となったので、持ち寄った嗜好品を出し合う流れになったのだ。

 

 この時間は、冒険の最中の楽しみでもある。

 昔は迷宮の中では、一回の冒険、一度の休憩でガラッと関係性が変わることもザラだったとか。*4

 

「そういえば、今更ですが、そちらのお嬢さんはどちらの部族の出で?」蜥蜴僧侶が半竜娘に問いかける。

 

手前(てまえ)は……」半竜娘がそれに答えると、蜥蜴僧侶は目をくるりと回した。

 

「なんと! 同郷であったか!」蜥蜴僧侶は尾で地面をタシンと一振り。

 

「……そういえば母者から、手前(てまえ)が生まれる前に出家して一度も戻らぬ弟が居ると聞いているが、まさか……? そういえば眉間に面影が……?」話を聞く内に、半竜娘は、蜥蜴僧侶に何か思い当たるところがあったらしく。

 

Es tu ma niece ?(まさか姪御?)」蜥蜴人の独特の擦過音過多の言語で蜥蜴僧侶が問いかければ、

 

Es tu mon oncle ?(叔父貴?)」半竜娘も同じく蜥蜴人の言葉でそれに答えた。

 

Voir sa famille en terre etrangere, (斯様な異国の地にて血族と出会えようとは、)cest ce vers quoi vous menent les dinosaures !(これもまた祖竜のお導きでしょうや!)」感極まった様子の蜥蜴僧侶が立ち上がり、

 

Cest exact !(違いない!) Dieu merci pour (恐るべき竜に) les dinosaures !(感謝を!)」半竜娘も立ち上がり、がっちりと抱き合った。

 

 

「なんか感動の再会っぽいけどさ、共通語(コイネー)で喋ってくんない?」妖精弓手の言うことに、ほかの皆も頷いた。

 

 

「いやあ、これはお恥ずかしいところを」蜥蜴僧侶が頭を掻いた。

 

「えっと、半竜娘さんと僧侶さんは、ご親戚か何かなんですか?」女神官がおずおずと聞いた。

 

「どうも手前(てまえ)とは、叔父と姪の関係のようじゃ。手前(てまえ)が生まれる前に出家なさっておるから、これが初対面じゃが」半竜娘は、蜥蜴僧侶が提供した故郷の干し肉を焼きながら答える。「しかし母者の言うとおり、麗しく猛々しい御仁じゃ。出家のときに里の女性(にょしょう)らに惜しまれたというのも頷ける」

 

「へー、こんな偶然あるものなのねえー」森人探検家は、半竜娘が呼び出した水精霊のミズチと戯れながら感心している。面相がかなり異なるのに親戚というのも面白く感じているようだ。「それを言うなら、私もまさか上の森人(ハイエルフ)様に会うとは思いも寄らなかったけど」森人にとって上の森人は、只人にとっての王族にあたる。こんな道端で会うのも心臓に悪いが、妖精弓手が気さくな質で助かっている。

 

「ま、積もる話は後でもできましょうや。今はそれより食事でありましょう」蜥蜴僧侶の言うことに、もっともだと皆で頷き、めいめいに持ち寄ったものを披露しあう。

 

 半竜娘はそういうとっておきは持ってきていなかったので、水精霊のミズチから【命水】を振る舞ってもらい、替わりとした。この小さな水蜥蜴の精霊も、上の森人(ハイエルフ)森人(エルフ)がいるからか、大張り切りだ。

 

 蜥蜴僧侶が密林の沼の獣の干し肉を、鉱人道士が火の酒を、妖精弓手が秘伝の焼き菓子を、女神官は調理の手際で温かいスープを、森人探検家は近くの森で捕まえてきた丸々した芋虫を。

 

 そしてゴブリンスレイヤーは、世話になっている下宿の牧場から貰ったチーズを。

 

「これは……?」半竜娘が不思議そうに黄色い塊を見る。ちなみに分身は消してある。

 

「街で暮らしてるのに食べたことないのー?」森人探検家が半竜娘に絡む。火の酒で酔っているようだ。

 

「いろいろ忙しかったんじゃよ」言い訳をする半竜娘。まあ、これまで、上手く巡り会う目が出なかったということだろう。そういうこともある。

 

 女神官が串を出し、鉱人道士が上手い火加減で焼いていく。

 

 とろりと溶けたチーズ。

 

 蜥蜴僧侶と半竜娘は、血のつながりを感じさせる似通った動作で口に入れた。

 

 そして目を見開き、同時に快哉を叫んだ。

 

「「甘露!!」」

 

 タシーン! と尾が地面を打つ音も重なった。

 

 旅の夜は穏やかに更けていく。

 

*1
半竜娘(本体)【巨大】行使:基礎値19+加速ボーナス2+付与呪文熟達2-後遺症2+2D6(2,5で7)。合計28。分身の方を三倍拡大!

*2
半竜娘(分身)【突撃】行使:基礎値21+加速ボーナス4-後遺症2+2D6(5,3で8)。合計31。ダメージ計算:助走距離ボーナス86+竜司祭レベル9+5D6(4,5,1,4,2)+巨大化ボーナス5=116

*3
水の自由精霊『何日ぶりよー!? お酒飲めるの超待ってたんですけど!! ほーら、おーわーびー! おーわーびー! おーさーけ、ちょーぅだーいぃー!』 分身ちゃん「(こやつ……)」

*4
TRPG「迷宮キングダム」の感情値システム。魅力休憩表(大惨事表)によって宮廷内の人間関係が男女の別なくぐちゃぐちゃになることも。




半竜娘ちゃんの邂逅:家族を生かしつつ、「甘露!」と叫ばせたかっただけの話。

オーガの故郷の状況は、三国志とか信長の野望みたいな戦略ゲームを勝手にイメージ。
蜥蜴人が鎌倉武士とか薩摩隼人なら、当SSのオーガは少し時代が下って室町~戦国の武士っぽいイメージ。


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12/n レイダース(遺跡探索)

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遺跡の地図の挿し絵あります。長いよ!
脚注でダイス結果入れてるけど見ないでも支障ないです。(キャラが増えると量がヤバいっすな……。)
これはRTAではなくリプレイではないのか? ボブはいぶかしんだ



 本当は怖い遺跡探索、はぁじまーるよー!

 

 半竜娘ちゃんと蜥蜴僧侶さんが親戚だと分かったり、チーズジャンキーが2人に増えたり、甘露甘露したりして、一党の皆と打ち解けました。全部リザードマンじゃねえか。

 

 最後の休憩に至るまでに、半竜娘ちゃんは、女神官ちゃんや鉱人道士を背負って移動していたので、怪力判定と長距離移動判定で、18(そこそこ難しい)を目指して判定ロールです。どっちか片方失敗すると消耗カウンタ+1。両方失敗すると+1D3とします。(デデドン

 からころ……。*1*2

 判定クリア。特に消耗しませんでしたね。

 

 余裕の顔だ、馬力が違いますよ。

 

 ここに来る途中ですが、半竜娘ちゃんの巨大化加速突撃による爪痕もまだ真新しかったので、街道沿いからも迷うことはなかったです。やばい環境破壊ですね。

 巨大化加速突撃については、蜥蜴僧侶さんにも「五体総身を武器とするとはあっぱれ見事」と褒めていただけて、半竜娘ちゃんは満更ではなさそうでした(どや顔かわいい)。

 

 なお、その辺に散らばっていた肉片は、蟲やら鳥やらの餌食になったのか、あまり見当たりません。

 これには祖竜もにっこり。弱き者は地に返して輪廻に乗せるのが、竜司祭の使命ですからね。

 

 ただ、かすかに肉が腐った甘ったるいにおいがしてました。

 

 肉の腐った臭いで気分が悪くなった冒険者たちはSANチェック……じゃなくて体力抵抗判定*3で消耗チェックです。

 目標値は基本的に12ですが、出自が「箱入」などの場合は目標値を18としてください。逆に出自が「貧困」などの場合は目標値は9でいいです。

 あっ、森人探検家ちゃん(出自「貧困」)は、この程度どうってことなく耐えましたが……、妖精弓手(出自「宮廷」)はダメだったみたいですね……。お顔真っ青です。

 

 あ、そうそう(露骨な話題転換)、この旅のあいだに、森人探検家ちゃんは保留してた成長点の使い途(つかいみち)を確定させました。

 冒険者技能【体術(初歩)】を獲得し、森人探検家ちゃんの成長点は残りゼロになりました。

 この技能により、回避や登攀(とうはん)などの、身体を動かす系の判定が少し成功しやすくなります。まあ、鉄板の技能ではありますし、ほら、遺跡に潜るならそういう技能の出番も多いですし。

 

 さて、そんなこんなはありましたが、冒険前の最後の野営も終わりとなり、夜明けが近づいてきています。

 既に、最大効果を得られる6時間の睡眠をとり終わった半竜娘ちゃんは遅番の見張りとして起きています。

 

 で、今のうちに、ゴブリンスレイヤーさん一党には、万全の体勢で遺跡に挑んでもらうべく、各メンバーに分身ちゃんから【賦活】を打ちまくってもらいます。

 みんなの消耗カウンタ(疲労蓄積)をこれでゼロに出来るはずです。

 まだ朝早いっていうか未明なので、寝てる人は寝かせたまま【賦活】を使います。

 

 お、無詠唱で祖竜術を使おうとする半竜娘ちゃんを見て、早朝見張りの蜥蜴僧侶さんが目を細めてますね。ちなみに彼もちゃんと6時間の睡眠を取って、十分に回復しています。

 なかなか研鑽を積んでおりますな、とか思ってくれてると良いんですけど。*4

 

 って、蜥蜴僧侶さんに使ったの一回失敗しとる! クォレハ、半竜娘ちゃんは、蜥蜴僧侶さんに向かって「い、いやちょっと失敗しただけじゃ! いつもはこんなことは!」とかワタワタしたんじゃないでしょうか!(羞恥顔もかわいい)

 

 

 まあ、こんな感じで銀等級の彼らと仲良くすると、例えば、妖精弓手が見つけてきたけどゴブスレさんにソデに(そんなことよりゴブリンだ)された高難度依頼に誘ってくれたりしますので、積極的に実力を見せていきましょう。

 やはり銀等級は、そのあたりの良い依頼を引き当てる嗅覚なりコネクションなりが凄いですからね。

 ぜひ便乗できるように仲良くしましょう。ゆえにここは【賦活】連打。疲労を消す機械になります。

 

 さて、呪文使用回数を使い果たしてさらに身を削ってまで【賦活】を使った(ゴブスレさん疲労溜まりすぎィ! 最大回復量出したのにあと一歩で全快できてない……)分身ちゃんを消して、再作成します。

 本体と分身ちゃんの呪文使用回数が一減なので、蜥蜴僧侶さんに断って、皆が起きるまで、そして起きてきて朝食準備やら野営の片付けやらしてる横で【瞑想】して呪文使用回数を回復させます。

 

 ……スゥーッ……ハァーッ……スゥーッ……ハァーッ……スゥーッ……ハァーッ……スゥーッ……ハァーッ……。

 

 結跏趺坐しての瞑想(アグラ・メディテーション)を3時間行い、呪文使用回数を一つ回復させました。*5

 これでほぼ万全の状態で突入できます。カカッと飯を食ってから行きましょう。

 

 とはいえ、一党のメンツが8人(ゴブスレさん、女神官ちゃん、妖精弓手、鉱人道士、蜥蜴僧侶、半竜娘ちゃん、分身ちゃん、森人探検家ちゃん)は多すぎるので*6、当初の宣言通りに、半竜娘ちゃんの一党は、ゴブスレさんたちとは別行動します。

 

 まあ、書物(原作小説)版や映し絵(原作アニメ)版であとから来た森人たちがやったみたいに、遺跡のゴブスレさんたちが進まなかった方のルートからゴブリンを掃討する感じになるでしょう。

 あとは、財宝や魔法の武器などが残っていれば良いのですが、どうでしょうかね。

 まあ、期待しましょう。

 

 

 はい、遺跡前です。

 見張りのゴブリン(+狼)が居ますが、妖精弓手が神業的にこれを排除。

 森人探検家ちゃんがめっちゃ尊敬の目で見てます。

 妖精弓手が薄い胸を反らして、森人探検家ちゃんに講釈垂れてますね。

 

 では突入……の前に、あれです。アレ。

 

 

 『匂い消し』の時間です。

 

 

 ゴブリン汁ザバー。

 

 

 

 ああ、せっかく疲労を回復させたのに、妖精弓手はまた消耗判定(SAN値チェック)失敗してるぅ。

 

「慣れますよ」って女神官ちゃんが言うとおり、慣れたら消耗しなくなります。女神官ちゃんは慣れてるのでこの程度では消耗しません。この辺もSAN値的な扱いに近いのが分かりますね。

 

 で、ゴブスレさんがうちの森人探検家ちゃんの方も見てきますが、森人探検家ちゃんは、ちゃんと『臭い消し』持ってるのでそっちを使います。だってゴブリンの絞り汁とか病気になりそうだし……。

 

 半竜娘ちゃんはといえば、ゴブリンの血を使って、頬に真言を血化粧します。

 刻むのは、『コッレーガ(同輩)』の真言を一つ。

 これなら一言真言の範囲ですから、呪文使用回数を消耗させるほどではありませんし、自らの体臭をゴブリンのそれと同じに出来ます。

 まあ、その分、持続時間には気をつけないといけないんですけどね。

 あと、半竜娘はハーフなので只人としての肌面積は小さくて(顔と胸元くらい)、ほぼ八割は全身鱗に覆われているから、匂いを隠す真言のカバー範囲的にも負担が少ないというのもあります。

 

 妖精弓手が、

 

「そういうの出来るなら、私が血を浴びた意味はっ?! 私もそっちが良かった!!」

 

 って言いますけど、ゴブスレさんの手際が良すぎて介入できなかったのですよ。

 

 僕は悪くない。

 

 それに、基本的には別の一党ですし。そういうこと出来るか聞かれなかったですしおすし。

 

 あと、上の森人(ハイエルフ)の女の匂いを隠すのは、流石に一言真言では賄いきれないし。

 やるならちゃんと術式として組み立てないといけないだろうから、呪文使用回数(リソース)減るし。

 

 などとクドクドしく並べ立てて煙に巻きました。

 でも妖精弓手の気持ちも分かる。

 すまない、本当にすまない。

 だけど妖精弓手はそういう場面でこそ輝くと思うんだ(ニチャァ

 

 さて、それではゴブスレさん一行とは、ここから別行動です。

 遺跡に入るに当たって、二手に別れます。

 

 ゴブスレさんたちには先に行ってもらって、その間に半竜娘ちゃんたちは呪文をかけてバフを積みます。

 

 まずは【加速】を、本体、分身、森人探検家に行使。*7*8*9

 これで、半竜娘ちゃん(本体)、分身ちゃん、森人探検家ちゃん全員の移動力が二倍になった上に、あらゆる判定に、それぞれ、+3、+3、+5のボーナスを得ます。

 呪文使用回数は、本体が残り5で、分身が残り6です。

 

 あ、そうそう、【加速】の維持判定ですが、装備ボーナスが乗るのは行使判定時のみなので、装備ボーナス(発動体と紅玉の杖による補正+4)は乗りません。なので、難易度15の【加速】の呪文の維持のためには、目標値20の判定に、「呪文維持基礎値14+加速ボーナス3+付与呪文熟達2+2D6-各種ペナルティー」で挑まないといけません。

 できるだけペナルティーを積まないように立ち回りましょう。

 

 さて加速状態で、森人探検家ちゃんには、交易神の奇跡【逆転(リバース)】を使ってもらいます。*10

 はい、無事に発動しましたね。一日に一回だけですが、運命(ダイスの出目)をひっくり返す権利を得ました。

 無駄にクリティカル出たみたいで、森人探検家ちゃんは、このあと揺り返しが来るんじゃないかと戦々恐々としていますね。森人探検家ちゃんの呪文は、これで打ち止めです。

 

 そして次は、森人探検家ちゃんと半竜娘ちゃん本体が手をつないで、【狩場(テリトリー)】の祖竜術を10分かけて使います。

 行使判定成功*11、維持判定成功*12により、術が発動しました。

 これにより、半竜娘ちゃん本体を中心に、半径100mの感知結界と、半径30mの敵対者侵入拒絶結界が張られました。結界は、矢や呪文や投擲武器は通してしまうので注意が必要ですが、呪文抵抗が32以下の敵は通しませんので、森人探検家ちゃんの矢で一方的に攻撃することが可能になります。

 半竜娘ちゃん本体の呪文使用回数は残り4回です。

 

 なお、分身ちゃんは結界外に遊撃に行く可能性があるので、【狩場】を張るときのメンバーには入っていません。

 

 さて、バフを積んで準備完了です。

 もうゴブスレさんたちの姿は見えません。

 まあどうせ、ゴブスレさんたちが「ゴブリンは居ないな、次」ってサクサク進んでいくのに対して、半竜娘ちゃんたちは全ての分岐と玄室を踏破してさらに隅々まで探索していこうとしていたので、別行動になるのは遅かれ早かれです。

 

 で、地図を見るとですね、なんか別のとこにも入り口なのか、煙突なのか分かりませんが、外につながってるとこがあるみたいなんですよね。

 

 あ、地図はこちらです。皆さんに分かりやすいように、半竜娘ちゃんたちが知らない情報も入っています(原作で森人が捕まっていた「ゴブリンの汚物溜め」の情報とか)。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 なので、分身ちゃんにはそっちの立坑(シャフト)に行ってもらいます。地図の右下の辺りですね。

 地図によると、内部で合流できるので、それまで別行動です。

 つまり挟み撃ちの形になるな。

 

 では楽しい遺跡探索の始まりです!

 

 

 緩く曲がった螺旋の下り坂を降りると、通路に出ます。

 道中では、外で拾った長い枝で床や壁を叩いて進み、罠の有無を調べます。

 【狩場】の結界は、悪意を持ちようのない罠の類は感知できませんし、防げませんからね。

 

 とはいえ、どうやら特に罠などは何もないようですね。

 あったとしても、先に入ったゴブスレさんたちが解除してるか、白墨で印を残してくれてるでしょうし。

 

 さて、地図によると、螺旋坂からメイン通路に行くまでに、幾つか脇道と玄室があるようですので探索します。

 

 …………。

 ……。

 

 玄室に居たのは狼が数匹でした。

 こいつらは寝てたんですが、半竜娘ちゃんと森人探検家ちゃんに気づいて、敵対姿勢をとった瞬間に、【狩場】の結界の拒絶対象に引っかかって強制的に『伏せ』の態勢にさせられたのは可哀想でしたね。

 ていうか、中立状態で結界内に入ってから敵対するとこうなるのか。

 まあ、そのまま爪で首をハネたり、短槍で突き殺したんですけど。

 

 部屋の中には、人族と思しき骨がいくつか。

 人間の味を覚えた狼とか、殺処分するしかないんだよなあ。

 武器とかそういうのは特にありませんでした。しけてやがる。

 

 合掌し、犠牲者と狼たちに鎮魂の祈りを捧げて次に行きます。

 いくつか、冒険者の認識票も回収できました。

 

 大きなメイン通路が向かって左に伸びてますが、分身ちゃんと合流するために、いったん、向かって右の細い通路に進みます。

 地図によると、そちら側にもう一つ出口があるようなのですが、しかし結構下に降りてきたので、出口というよりは、昇降機用の立坑(シャフト)とかそういうのかもしれません。

 

 と、ある時から急に、立坑の方へと向かって、びゅうびゅうと風が吹いていくようになります。

 

 何かあったのかと急いで立坑の方に向かいましたが、半竜娘ちゃんの分身は、まだ降りてきておらず、代わりに立坑が燃えています。

 さっきの風は、この燃える立坑が煙突のようになって空気を吸い込んだために気流が生じたせいみたいですね。

 

 さらに、炎の中で揺れてうごめくものが見えます。

 蔦縄(ローパー)の群れです。

 どうも、立坑は蔦縄(ローパー)の巣になっていたようですね。

 その中でもひときわ大きな個体――おそらくボスでしょう――が、炎にあぶられてびったんびったんと、のたうち回っています。

 

 半竜娘ちゃん本体が分身ちゃんと意識共有すると、立坑は上から下までローパーぎっしりで、正面から突破するにはざっと40連戦必要だったかもしれない、とのこと。

 

 対戦回数を増やしてPCの回避をファンブらせにきてるな、コレ……。

 

 まあ、まともに戦ってられないので、油を流し込んだ上で、火の自由精霊を召喚して*13熱波(ヒートウェイブ)】で焼き払わせたので、あまり疲労はしてないみたいですが……。(分身の残り呪文使用回数5回)(【加速】の維持は成功(無駄にクリった))。

 

 

 

 だんだんGMの今回の趣向が見えてきましたね。

 

 

 物量と、それによる疲労蓄積、リソース消費がテーマっぽいです。

 

 幸い、ローパーは焼き払うことができたので、分身ちゃんの疲労は蓄積していません。

 呪文は使わされましたが。

 

 さすがに炎熱吹き荒れるこの立坑は通れないので、分身ちゃんには入口の螺旋坂の方から迂回してきてもらいましょう。

 

 その間に、半竜娘ちゃん本体と森人探検家ちゃんは、立坑の向かい側にある玄室を探索します。

 

 ……玄室は蛇の巣になっていました。

 しかし、【狩場】の拒絶結界によって、敵意を以て近づこうとした瞬間に敵は押さえつけられてしまうので、楽々と殺していけます。

 完全に作業ですねえ……。

 

 とはいえ、生き物の命を奪うという準戦闘行為により、疲労が蓄積し、消耗カウンタが一つ乗りました。

 消耗したので【加速】の呪文維持判定を行います。*14 特に問題なく成功です。

 

 その玄室は立坑の昇降機の操作室だったのか、いくつかのレバーがあった痕跡がありました。

 しかし、それらは既に破壊され、今は何も機能を残しているようには思えません。

 ただ、ひょっとすると、ここの機構を動かすことができれば、炎に頼らずとも立坑のローパーの群れを一網打尽に出来たのかもしれません。まあ、燃やしましたが。

 

 蛇の屠殺作業と探索を終えたあと、分身ちゃんが合流するまで小休止です。

 携帯食でも食べて待ちます。もそもそ。

 え? 蛇を蒲焼(かばやき)にする? 火種は燃えてる立坑から取ってくる? まあ、どうぞ。

 って、森人探検家ちゃんも食べるの? 森人なのに? ああ、師匠に食わせられてから肉にハマったと。へー。

 

 …………。

 ……。

 

 

 では、遊撃の分身ちゃんとも合流したので、どんどん攻略していきましょう。

 

 大きなメイン通路に戻り、右の脇道へ入ります。こちらにも玄室があるのですが、近づくにつれて、腐敗臭と、多くのものが蠢くざわざわした音がします。

 

 玄室の扉をあけた途端に、部屋の中でざわりと虫の群れが飛び立ちました。

 

 肉食性の昆虫の群れ、群昆虫(スウォーム)です。

 

 スウォームは、『多勢に無勢』という特性を持っており、あらゆるダメージを1点ずつしか受けません。

 スウォームの生命力は10あるので、一つの群れあたり、必ず10回のダメージを与える必要があります。

 ひたすらにウザイ敵です。

 しかも、見たところ、10の群れが乱舞しているので、合計で100回分のダメージか、範囲攻撃10回のダメージを与える必要があります。

 

 やってられるか!

 

 さらには、スウォームが貪っていた死肉が、ゾンビとして起きあがってきています。

 このゾンビは、スウォームに貪られていたので、既にかなりダメージを受けているようです。

 ただし、アンデッドなので、毒が効きません。

 

 ゴブリンネクロマンサーなんてのが居ないかぎりは、自然発生のゾンビでしょう。

 この砦は、ひょっとしたらゾンビなどのアンデッドになりやすい何かの要件を備えているのかもしれません。

 

 ……まあ、どちらも半竜娘ちゃんたちに敵意を向けてきた途端に、【狩場】の結界に捕らえられて這いつくばってますが。

 

 まともに戦ってられないので、毒煙玉に火をつけて扉を閉めて、5分(10ラウンド)ほど燻します。

 そうすると、10ラウンドの毒ダメージで、スウォームが全滅します。

 

 ゾンビは毒が効かないので、まだ生きて(?)いますが、森人探検家ちゃんが射抜いてトドメを刺します。ズドン!

 

 玄室の中にはまだ毒煙が充満してるのですが、森人探検家ちゃんが探索のため、防毒面をつけて突入します。

 

 玄室を調べた結果、何かの鍵のようなものが見つかりました。あとはゴブリンのものと思われる無数の骨ですね。

 この鍵は、例えば奥にあるかもしれない宝箱の鍵でしょうか。

 とりあえず、豪奢で曰くありげなので持って行きます。

 

 ――『何かの鍵』を取得。

 

 さっきのゾンビ、生前は優秀な遺跡探検家だったりしたんでしょうかね。このゾンビのものと思われる鋼鉄等級の認識票も拾いました。

 

 では、メイン通路に戻って進み、T字路を右に行きますと、原作で森人が捕まっていたゴブリンの汚物溜め部屋の入口が見えてきます。

 

 中を覗いてみましょう。

 

 あれ?

 

 中にはまた別の捕虜でもいるのかと思ったのですが、特に誰もいませんね。青臭いような不浄な匂いがするので、捕虜は居たみたいですが救出されたようです。

 そしてゴブリンの死体も多数転がっています。ホブも混ざっていますね。

 ゴブスレさん一行が戦闘したようです。

 

 その割には誰ともすれ違いませんでしたが。

 半竜娘ちゃんたちがゾンビのいた脇道に逸れてるうちに、ゴブスレさんたちはT字路の左の回廊の方に行ったんでしょうかね。

 あるいは引き返したか。

 

 【狩場】の結界にも特に敵対者の反応はないので、一通り掘り出し物がないか確認したうえで(特にめぼしいものはありませんでした。)、T字路右の道をさらに奥に行きます。

 

 進んでいくと、通路の途中が大きな落とし穴になっています。

 覗き込んでみると、何匹かのゴブリンが落ちて死んでいるのが見えます。

 先に進もうとして失敗したのでしょう。所詮はゴブリンだからね!

 

 落とし穴の底には、緑粘液(グリーンスライム)も蠢いていますが、【狩場】の効果で登っては来れないみたいです。

 上から弓矢で一方的にハメ殺します。

 ヨユーヨユー。*15

 やはり遠距離攻撃が出来る仲間がいるのは良いですね~。特に【狩場】とのシナジーが素晴らしいです。

 

 そして、半竜娘ちゃんたちは【加速】状態なので、この程度の落とし穴は飛び越えられるでしょう。

 軽業判定をして、分身ちゃん、森人探検家ちゃん、半竜娘ちゃん本体の順で飛ぶことにします。*16

 また、帰りのために、冒険者ツールの中から、楔を打ち込み、ロープを張っておきましょう。

 

 穴の向こう側とこっち側で、分身ちゃんと本体でそれぞれ怪力判定を行い、楔を深く刺し、半竜娘ちゃんが乗っても大丈夫なようにしっかりとロープを張ります。*17

 ロープがすっぽ抜けないように、ペグみたいな形状の楔がほしいところですね。

 

 で、半竜娘ちゃん本体も向こう岸へ跳びます。軽業判定成功です。*18

 跳ぶというか、蜥蜴人の場合は、ヤモリみたいに壁を這うような移動になるんですがね。

 ロープは帰りに役に立つでしょう、たぶん。

 

 その後も、飛び出す槍衾や、毒矢の廊下などの罠がありましたが、第六感判定に成功し、事前に察知することができました。*19

 発動回避成功です。うまくスイッチとか踏まずに歩けました。踏んでもいい場所に、白墨で印を付けておきましょう。

 

 ひょっとすると、立坑前の部屋にいた蛇は、毒矢のための素材や触媒として自動飼育されていたのが逃げたやつだったのかもしれませんね。

 

 途中で、毒矢のタイミングと、二度目の落とし穴の配置の問題か、半竜娘ちゃん本体と森人探検家ちゃんが分断された瞬間があって、そのせいか【狩場】の結界が解けてしまったのは痛かったですね。

 まあ、このままだと【狩場】と弓矢の組み合わせが強すぎるから致し方なし。

 

 しかし強いので、やっぱりもう一度使います。

 

 【狩場】再発動のため詠唱を……いえ、ここで第六感判定+魔法知識判定しろと、GMからのお達しです。

 

 からころ……。成功です。*20

 

 どうやら、周囲の空間は、既に何らかの術の支配下に置かれているらしく、『空間』に『付与』する系統の呪文……要は【狩場】の呪文ですが、そちらの効果が発揮しづらい状況にあるようです。同一対象に対する同じ魔法は一つしか付与できないという法則のせいかもしれません。

 

 一方で、空間を『創造』する【力場】の呪文の方なら問題なく使えそうだとも分かります。

 

 また、第六感と魔法知識の判定に両方成功したので、【狩場】の呪文を発動させるためには、呪文行使判定と呪文維持判定の両方で大成功(クリティカル)させる必要があると推察できます。 

 

 さすがにクリティカルを2連続で出せるとも思えないので、【狩場】は使わずにおきます。

 おそらく、【狩場】を維持できていたとしても、進めば進むほど、この『空間に対する何らか影響力』は強まっていき、やがては【狩場】の結界は消滅させられていたと思われます。

 

 

 

 露骨にメタられてる気がしますが、逆に言えばクライマックスが近づいているということでもあるのでしょう。

 

 ボス戦はスルーさせねーぞ、というGMの強い意思を感じます。

 

 

 

 一方で、そこまでの干渉力を発揮する遺物が奥にあるということでもあり、戦利品に期待が持てます。

 

 進んでいくと玄室があり、中には大黒蟲(ジャイアントローチ)×20と、それに支援を受けた群昆虫(スウォーム)が居ます。

 大黒蟲(ジャイアントローチ)は、任意のモンスターに支援効果を与えることができる『群れ』の技能を持っているので、ボス属性を持っていない群昆虫(スウォーム)に対しても支援効果を与えられます。

 大黒蟲(ジャイアントローチ)はじっと機を伺い、群昆虫(スウォーム)を支援する態勢のようです。

 既に臨戦態勢のため、支援効果は付与済みのようです。

 

 これにより、群昆虫(スウォーム)は、合計で命中基礎値に+20、攻撃の最終威力に+40の補正を受けます。

 ……絶対に、大黒蟲(ジャイアントローチ)を生かしたまま、群昆虫(スウォーム)に手番を回してはいけません。

 避けられない攻撃が、致死の威力ですっ飛んできます。

 

 固定値は強い、というのは、相手にも言えるわけですね。

 半竜娘ちゃんも森人探検家ちゃんも、固定値40+αのダメージは即死圏内です。

 

 先制力は、本体8、分身13、森人探検家11でした。

 これを、分身12(一回目)、森人探検家11、本体8、分身(二回目、先制力1だが本体に統率されて同時行動)の順番として整理します。

 

 敵モンスターの先制力は、最大でも7なので、相手に手番が回ればその時先制力を決めます。

 

 というわけで、まずは分身による初手毒の【竜息(ブレス)】でゴキたちを一掃します。(これで分身の残り呪文使用回数4回)

 スウォームは『多勢に無勢』の特性により1点ずつしか生命力を削れませんが、支援効果を与えているゴキを削ってしまえばウザイだけで恐れるに足りません。*21*22

 

 呪文行使値は28、当然虫たちは抵抗失敗で、ダメージを軽減できません! 毒気は装甲値による軽減も不能!

 ダメージは20! 大黒蟲は全て即死! 毒によって蝕まれて塵になっていきます!

 生き残った群昆虫も、3ラウンドの間は毒を受けます。

 

 大黒蟲による支援効果は失われました。

 

 森人探検家ちゃんも【連射】で攻撃します。さらに半竜娘ちゃん本体が分身を伴って突入してそれぞれ【二刀流】で連撃。それぞれの攻撃の合間に【加速】の維持判定です。達成値は25、20、21で維持成功です。少し危なかったですね。

 

 スウォームの攻撃は半竜娘ちゃんが回避して、2ラウンド目に半竜娘ちゃんたちが再び先攻して…………。

 

 オーケー、スウォームを擦り潰しました。

 

 戦闘により精神的な消耗が嵩んで半竜娘ちゃん本体の消耗カウンタが2点、分身ちゃんの消耗カウンタが1点になったので、呪文維持判定です。

 ……達成値は26、28、25だったので、3人の【加速】は無事に維持できました。

 

 

 

 

 

 決戦の気配を感じた半竜娘ちゃんたちは、支援戦力を呼び出して準備を整えます。

 

 土の自由精霊と、火の自由精霊を呼び出しました。*23  

 呪文使用回数は、半竜娘ちゃん本体が残り3回、分身ちゃんが残り3回です。

 

 

 

 

 

 

 蟲が詰まった部屋を抜けると、おぞましい霊気に満ちた廊下が続いています。

 

 

 

 

 その行く手を遮るのは、10体の盾骸骨(スケルトンガード)と、それを従える首無し騎士(デュラハン)幽鬼(レイス)です。

 

 半竜娘ちゃんたちは、彼らがこの神代の砦を守っていた戦士たちのなれの果てだろうと直感します。

 そして、【狩場】をかき消した魔法の干渉は、彼らの魂を縛り付けている何かの遺物によるものであること、そして、ここで死ねば、魂は輪廻することなく、自分たちもその遺物に(とら)われるだろうことが理解できました。

 

 半竜娘ちゃんは竜司祭として、また、森人探検家ちゃんも交易神を奉じる神官の端くれとして、このような(いびつ)な遺物を放置できません。

 

 こんな魂を弄ぶようなもの、断じて、許すことなどできません。

 

 亡霊たち(むこう)も臨戦態勢です。

 彼我の距離は100mほど離れています。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 半竜娘ちゃんが、怪物知識判定に成功したので、少し情報開示です。

 

 首無し騎士(デュラハン)は、乗っている馬による蹄での踏みつけ二回、騎士本体による馬上攻撃一回の、合計三回攻撃が可能です。近づかせたくないですね。

 実体があるので物理攻撃は効きます。

 モンスターレベルは7で、オーガクラスの相手です。

 

 幽鬼(レイス)は、物理攻撃が効かない上に、真言呪文を使いますし、『吸精』の特技により生命力を吸い取る(生命力上限を削る)自動特技をラウンド終了時に使ってきます。

 モンスターレベルは8で、オーガジェネラルや大目玉の悪魔(ビホ○ダー)と同程度。

 

 盾骸骨(スケルトンガード)10体は、【護衛(初歩)】の技能を持ち、近くの味方を1ラウンドに一度、近接攻撃、遠隔攻撃だけでなく、呪文からも庇うことができます。

 つまり確殺の範囲攻撃をしても、庇われたモンスターは生き残ってしまいます。

 モンスターレベルは2なので雑魚ですが、特技が面倒です。

 

 しかもこいつらはアンデッドなので、毒の【竜息】が効きません。

 一方で、アンデッドなので【小癒】が単体攻撃呪文として効果を発揮できます。

 残念ながら、範囲回復である【治癒(リフレッシュ)】は使えないんですよねー、蜥蜴僧侶さんなら使えるんですが。

 

 戦闘の流れとしては、速やかに盾骸骨を排除し、幽鬼へ【小癒】を当てて片付けたいところです。首無し騎士への足止めも必要です。

 

 では、戦闘開始(オープンコンバット)です。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 まずは先制力と行動順の決定です。

 

行動順名前先制力特殊
半竜娘(本体)12先制力22(CRT!)を【加速】効果で12と10に分割
半竜娘(分身)12先制力14(【逆転】によりダイス目変換)を12と2に分割
森人探検家12先制力23(CRT!)を12と11に分割
森人探検家11【加速】による二回目の行動
半竜娘(本体)10【加速】による二回目の行動
半竜娘(分身)2【加速】による二回目の行動。本体の【統率】技能で同時行動
デュラハン8特になし
レイス8特になし
火の自由精霊6特になし
10スケルトンガード×104,3特になし
11土の自由精霊2特になし

 

 半竜娘ちゃんたちの出目が走っていますねー、みんな二回行動できます。

 まあ、分身ちゃんだけ、出目が振るわなかったので、森人探検家ちゃんの【逆転(リバース)】を消費して、出目を逆転しています(2354)。

 

 出来るだけ速攻で片づけたいですからね。

 

 最初の手番は半竜娘ちゃん本体です。

 距離が離れているので【突撃】で距離を詰めつつ、助走距離ボーナスを乗せて攻撃です!

 レイスを狙います。ついでにレイスの前にいる5体のスケルトンガードも巻き添えにします。

 

「さあ突撃じゃ!! 幽鬼よ、疾く輪廻を巡るがよいわ!!」

 

『……盗賊めが、盗掘者めが…………』

 

 【突撃】の達成値は36で33でした。ダメージは助走ボーナスが100mの20%乗って、助走ボーナス20+竜司祭レベル9+5D6(62345)、合計49!

 ですが、途中にいる盾骸骨たちが、【護衛】技能を発動! ダメージを肩代わりします。

 身代わりになった盾骸骨たちは呪文抵抗失敗! ダメージ軽減不能!

 しかし、【護衛】で守られたレイス、盾骸骨×2は無傷です。代わりに盾骸骨3体が粉砕されました!

 本体の呪文使用回数は残り2回です。

 

「ふうむ、身代わりとなったか……」

 

『……犠牲、無念、晴らす……』

 

 次は分身ちゃんの手番です。

 今度はデュラハンに向かって【突撃】です!

 

『盾兵、守れ!』

 

「轢き潰す! イイィィィヤァアアアアア!!」

 

 自由行動で土の精霊を統率し、その支援効果(呪文行使+3)を得ます。

 デュラハン側に突撃!

 残りのスケルトンガードは互いとデュラハンを庇って粉砕されていきます。*24

 スケルトンガード3体が身代わりになり、デュラハンと盾骸骨×2が残りました。

 分身ちゃんの呪文使用回数は残り二回。

 

 それぞれ主行動後の【加速】の呪文維持は、22、28(CRT!)、29(CRT!)で、維持成功です。

 

 続いて二回連続で森人探検家ちゃんの手番ですが、霊体に効く攻撃手段を持ってないので(今後の課題ですね)、デュラハンを大弓で狙います。二回とも連射です。

 

 まずは一回目の2連射!*25

 出目は低かったですが、ここは大弓の取り回しには十分な広さがあるのでファンブルにはなりませんでした。(騎馬が走り回れるところが狭所にはならんやろ)

 電光のような勢いで連射された矢がデュラハンに二本向かいます!

 しかし、盾骸骨2体が動き、その矢を受け止めます! 護衛の心得があるのです。

 鋭い矢は、それでも盾の間を縫って、骸骨の頭を粉砕しました。盾骸骨の装甲値は4なので、ダメージはそれぞれ26、28となり、盾骸骨たちに宿る偽りの生命を吹き飛ばします!

 

「ふふん! 盾がなくなっていくわねえ、すぐに串刺しにしてあげるわよ!」

 

森人(エルフ)、やはり伊達ではないか!』

 

 そして森人探検家ちゃんの二回目の行動ですが、同じくデュラハンを狙って大弓の2連射!

 大弓から放たれた矢が、首無し騎士に向かいます!*26

 一本目の矢を、盾骸骨が途中で受けますが、頭蓋骨に突き刺さり、ダメージ32! そのまま粉砕! 撃破!

 二本目の矢も盾骸骨が受けますが、ダメージは18……ダイスが奮いませんでしたが……、盾骸骨は破壊され、動きを止めました。

 

「あら、1体潰しきれなかったか……いや、やったわね!」

 

『盾兵ども、忠勤御苦労! 今は眠るがよい!』

 

 これで護衛役の盾骸骨たちは全て討ち果たしました!

 次の手番からは、デュラハンやレイスに直接攻撃が通るでしょう!

 

 そして次は半竜娘ちゃん本体の二回目の手番ですが、分身ちゃんを統率して同じ行動順に引き上げます。

 

 分身ちゃんに先に行動させ、【小癒】の真言呪文を使ってもらいます。対象はレイス。これで残り呪文使用回数は一回です。*27*28

 レイスへと癒やしの光が降り注ぎ、偽りの生命をあるべき姿へと戻していきます! レイスはか細く甲高い悲鳴を上げています。

 

『あ、アアアアアアアアアッ!!』

 

「大いなる父祖よ、囚われし魂を、正しき輪廻に導きたまえ!!」

 

 続いて、本体の半竜娘ちゃんの手番です。

 レイスに対して、さらに【小癒】の祖竜術を使ってもらいます。*29*30 

 レイスは【抗魔】により抵抗を試みますが、クリティカルではなかったので、呪文の発動は止められません!

 

 レイスが聖なる癒やしの力で浄化されていきます。

 ついには、不浄の霊体が崩れ去りました!

 

『…………ァァァァァァァァ…………』

 

「囚われの魂に、祖竜の導きを……!!」

 

 呪文使いを排除!

 

 次はデュラハンの手番です。

 レイスを消滅させた半竜娘ちゃん本体に対して、ヘイト激増! 近接武器と馬の蹄による三連攻撃です!

 それぞれの命中達成値は、武器攻撃24(56)、蹄15(22)、22(65)でした。出目が高い! いや、クリティカルが出なかっただけ良かったと思いましょう。

 

 対して、半竜娘ちゃんは回避を試みます。

 回避達成値は、武器攻撃回避36(66 CRT!)、蹄回避29(64)、29(55)でいずれも回避成功!

 こっちも出目が走ってますね! 非常にハイレベルな攻防です!

 

『貴様ァァァァ!! 我が同朋をよくも!!』

 

「哀れな騎士め、貴様も手前(てまえ)が救ってやろうぞ!!」

 

 振り下ろされる大剣、そして、騎馬の石のような蹄が雷のように落ちる!

 

 しかし、半竜娘ちゃんはその全てを舞うように回避します!

 

 続いて、火の自由精霊の手番です。

 【火矢】の魔法で、デュラハンに攻撃します!

 達成値14で、ダメージロールは4D6(1451)+3で14ですが、デュラハンの呪文抵抗が上回ったのでダメージ半減です。さらに装甲により7点引くので、ダメージ無し!

 

『我に精霊術は効かぬわ!!』

 

 

 

 第2ラウンドです。

 先制力を決定し、行動順を決めます。

 

行動順名前先制力特殊
半竜娘(本体)12先制力16を【加速】効果で12と4に分割
森人探検家12先制力13を12と1に分割
森人探検家112と1に分割した2回目。半竜娘(分身)が統率し同時行動
半竜娘(分身)11特になし
土の自由精霊8特になし
デュラハン7特になし
半竜娘(本体)4【加速】による二回目の行動
火の自由精霊4特になし

 

 

 行動順は、半竜娘ちゃん本体(一回目)、森人探検家(一回目)、森人探検家(二回目、半竜娘ちゃんに統率)、分身ちゃん、土の自由精霊、デュラハン、半竜娘ちゃん本体(二回目)、火の自由精霊の順番ですね。

 

 最初に行動する半竜娘ちゃん本体は、【加速】の呪文の維持に集中します。

 

 続いて森人探検家ちゃんです。【加速】の効果により、二回行動できます。また、二回目の行動は、半竜娘ちゃん(分身)に率いられることで、手番を早くすることができます。

 

「頼むぞ! 森人の絶技を見せてくりゃれよ!!」

 

「まっかせなさい!!」

 

 大弓に素早くつがえられた矢が、デュラハンを貫かんと迫ります!*31

 

 一発は、デュラハンの騎馬が主人を守って防ぎます! デュラハン本体にはダメージが通りませんでした。

 しかし、間髪入れずに放たれた2の矢が、デュラハンの首の断面へと突き刺さります。ダメージは23! デュラハン本体の偽りの生命力の半分以上が損なわれます!

 

『うぬぅぁっ!?』

 

「首がないと弱点分かりづらいわね~」

 

 とか言いつつ、さらに森人探検家の二度目の射撃です!*32

 

 さらに二本の矢が、デュラハンに突き刺さります! ダメージはそれぞれ25と14!

 

『ぐぅぅっ、この……っ、ぐっ、あっ……』

 

「二本目は死体撃ちだったかしらね……!! でもまあ、ざっとこんなもんよ!!」

 

 デュラハンは崩れ落ち、風化するように消えていきます。

 

『あ、あああ、あああぁぁぁぁ……』

 

「貴殿にも、祖竜の導きのあらんことを」

 

 半竜娘ちゃんズは、奇怪な手つきで合掌し、その魂に祈りを捧げます。

 

 

 

 これにてクライマックスフェイズ終了!!

 

 

 たまたま相手の先制力が低く、此方の先制力ダイスが回ったので、割合、簡単に片が付きました。

 特にレイスに手番を回さなかったのは大きかったです。

 

 遠距離からの開戦でしたが、森人探検家ちゃんの弓の強さが際立ちましたね!

 やっぱりエルフはスーパートールキン人なんやなって。

 妖精弓手はさらにこれより凄いってんだから、恐ろしい話です。

 

 

 さて、いよいよお宝とご対面です。

 

 

 あのようなアンデッドを縛り付けている遺物なので、まともなものではないでしょうが……。

 それに、先ほど浄化した彼らの御霊も、恐らくはまだ、その遺物に捕らわれたままになっています。

 

 是非とも彼らの魂を解放してやらなくてはなりません。

 

 

 途中で拾っていた豪奢な鍵を、玄室の扉に差し込みます。

 ゆっくりと、最後の玄室の扉が開き、中が露わになります。

 

 中に安置してあったのは、石櫃(せきひつ)でした。

 

 石櫃の側面にはびっしりと何か魔術的な文字や紋様が書き込まれており、いかにもな感じです。

 そしてそれ以上に、おぞましく禍々しい気配を発しています。

 

 重そうですし、危険そうなので、完全な形で持ち帰るのは諦め、紋様などの記録を取ったら破壊して、一部のみを資料として持ち帰ることにします。

 なにより、破壊しないと、先ほどの魂たちが解放されることはないでしょう。

 

 ひょっとするとこの石櫃は、不死の軍勢を作り出すための呪具なのかもしれません。

 

 森人探検家ちゃんと半竜娘ちゃんズは、しっかりと時間をかけて部屋や石櫃のスケッチや写しを取り、いよいよ破壊することにしました。

 

 分身ちゃんが、【発勁】による氣の力を載せて、石櫃を叩き壊します。

 

 その途端に、石櫃の中に捕らわれていた魂たちが解放され、玄室を一回りしてから遺跡の通路を外へと飛び出していきます。

 辺りを覆っていた、魂たちを捕らえる空間も薄れて消えていきます。

 

 そのとき、半竜娘ちゃんと森人探検家ちゃんに、さきほど倒したデュラハンだった魂とレイスだった魂が接触してきました。

 

 

 なんと、彼らは解放の礼に、自らが修めていた技能の一部を継承させてくれるというのです!

 

 

 半竜娘ちゃんは、レイスとなった魂が生前持ってそうな技能を、成長点15点分まで獲得できます。

 これにより、半竜娘ちゃんは、冒険者技能【追加呪文:真言呪文】を習熟段階に伸ばし、【破裂(ガンビット)】の呪文を取得。また、一般技能【瞑想】も習熟段階に伸ばし、瞑想によって呪文使用回数を回復させるのに必要な時間を短縮できるようになりました。

 

 森人探検家ちゃんの方は、デュラハンとなった魂が生前持ってそうな技能を、成長点15点分まで獲得できます。

 これにより、冒険者技能【機先】を習熟段階に伸ばし、冒険者技能【忍耐】を初歩段階で習得しました。

 

 

 

 さて、あとは遺跡から出るだけです。

 

 

 石櫃の破片なんかも持っているし、ついでに価値がありそうな装飾品なんかも持ってるし、疲労しているしで、途中で【加速】が切れたり、最後に大岩転がしのトラップを起動して「うわああああああ?!」と逃げたりもしましたが、なんとか出入り口までたどり着きます。

 

 

 

 

 出入り口から出ると、ゴブスレさん一行が、森人の里が手配した馬車に乗り込むところでした。

 

 ゴブスレさんたちも疲労困憊のようですね……。

 

 大方、ゴブリンチャンピオンが三体も四体も出てきたんでしょう。

 で、そこを転移の巻物からの海水ズバーでやっつけたのではないでしょうか。

 

 

 ……聞いてみると、やはりそのようです。

 

 どうやらオーガは居なかった模様。

 撤退済みなんでしょうね、おそらく。

 

 

 辺境の街に戻るまで、馬車でも二日はかかるでしょう。

 その間に、呪文使用回数を回復させた半竜娘ちゃんが皆さんに【賦活】しまくれば、街につくまでにはスッキリサッパリ疲労を回復できるはずです。

 

 そうすれば、ゴブスレさんが過労で倒れたりはしない……はずです!

 そろそろ水の都からの依頼が来てもおかしくないですからね。

 疲労で倒れて行けませんでした、みたいなことにはならないようにしましょう。

 

 

 それでは今回はここまで!

 また次回!

*1
半竜娘怪力判定:体力持久8+武道家レベル6+2D6(3,3で6)。合計20。判定値20>目標値18で判定クリア。

*2
半竜娘長距離移動判定:体力持久8+冒険者レベル8+2D6(4,4で8)。合計24。判定値24>目標値18で判定クリア。

*3
体力抵抗判定:基礎値(体力反射)+冒険者レベル(+【免疫強化】技能)+2D6

*4
半竜娘(分身)【賦活】行使×8:基礎値21+2D6。使った相手 出目 達成値 消耗回復値 →一人目 蜥蜴僧侶 11 ファンブル(不発) 回復なし。  →二人目 蜥蜴僧侶(二回目の正直) 54 達成値30 回復量4(1D3(2)+2)。  →三人目 女神官ちゃん 25 達成値28 回復量4(1D3(3)+1)点。  →四人目 妖精弓手 55 達成値36 CRT!(生命の遣い手技能により出目10以上はクリティカル) 回復量5(1D3(3)+2)点。  →五人目 森人探検家 21 達成値24 回復量2(1D3(1)+1)点。  →六人目 鉱人道士 43 達成値28 回復量4(1D3(3)+1)点。  →七人目 ゴブスレさん 65 達成値37 CRT! 回復量5(1D3(3)+2)点。全快せず。  → 八人目 半竜娘ちゃん(本体) 65 達成値37 CRT! 回復量3(1D3(1)+2)点

*5
半竜娘(本体)と分身の【瞑想】判定:目標値20だが、基礎値で20を越えるので、ファンブルでない限り成功。結果:両者ともファンブルではなかった。

*6
一党のメンバーは、多くても6人を上限にすべきとされる。

*7
半竜娘(本体)【加速】行使:基礎値19+付与呪文熟達2+2D6(5,1で6)。合計27。半竜娘本体に加速ボーナス+3

*8
半竜娘(分身)【加速】行使:基礎値19+付与呪文熟達2+2D6(3,2で5)。合計26。半竜娘分身に加速ボーナス+3

*9
半竜娘(本体)【加速】行使:基礎値19+付与呪文熟達2+加速ボーナス3+2D6(5,6で11)+クリティカルボーナス5(生命の遣い手効果)。合計40。森人探検家に加速ボーナス+5

*10
森人探検家【逆転】行使:奇跡基礎値8+加速ボーナス5+2D6(6,6で12)+クリティカルボーナス5。合計30。無事発動。

*11
半竜娘(本体)【狩場】行使:行使基礎値21+付与呪文熟達2+加速ボーナス3+2D6(4,3で7)。合計33。行使成功

*12
半竜娘(本体)【狩場】維持:維持基礎値20+付与呪文熟達2+加速ボーナス3+2D6(1,6で7)。合計32。維持成功

*13
半竜娘(分身)【使役】行使:精霊術行使基礎値15+加速ボーナス3+2D6(4,5で9)。合計27。火の自由精霊を召喚!

*14
半竜娘(本体)【加速】維持:(1)本体分 維持基礎値14+付与呪文熟達2+加速ボーナス3-消耗ペナ1+2D6(1,2で3)。合計21。維持成功。 (2)森人探検家分 維持基礎値14+付与呪文熟達2+加速ボーナス3-消耗ペナ1+2D6(6,4で10)。合計28。維持成功。

*15
森人探検家ちゃんの弓矢攻撃(大弓):命中判定 基礎値18+加速ボーナス5+2D6(5,5で10)。合計33。速射スキルにより二本目の矢を命中判定値33-4(大弓の速射ペナの半分)=29として扱う。さらに、刺突攻撃スキルにより大弓の刺突補正×3を命中後の達成値に加算。よって一本目は合計39によりダメージボーナス4D6、二本目は命中達成値35でダメージボーナス4D6。グリーンスライムは回避不能、装甲0。ダメージは 大弓基礎攻撃力(2D6+2)+野伏レベル7+ダメージボーナス4D6-装甲値0を2連発。一発目31、二発目23。合計ダメージ54。ワンターンキル!!

*16
軽業判定、目標値21 半竜娘(分身):技量集中6+武道家レベル6+体術スキル2+加速ボーナス3+2D6(2,4で6)。合計23でクリア。 森人探検家:技量反射10+野伏レベル7+体術スキル1+加速ボーナス5+2D6(6,3で9)。合計32でクリア。

*17
怪力判定、目標値18 半竜娘(分身)(本体):体力集中9+武道家レベル6+加速ボーナス3+2D6(2,5で7)。合計25でクリア。面倒なので本体も分身も同値として判定。

*18
軽業判定、目標値21 半竜娘(本体):技量集中6+武道家レベル6+体術スキル2+加速ボーナス3+2D6(4,6で10)。合計27でクリア。

*19
第六感判定、目標値21 森人探検家ちゃん:知力反射6+野伏レベル7+加速ボーナス5+2D6(4,3で7)。合計25でクリア。

*20
第六感判定、目標値21 半竜娘ちゃん:知力反射9+精霊使いレベル3+加速ボーナス3+2D6(3,5で8)。合計23でクリア。 魔法知識判定、目標値21 半竜娘ちゃん:知力集中10+魔術師レベル6+加速ボーナス3+2D6(1,6で7)。合計26でクリア。

*21
半竜娘ちゃん(分身)【竜息/毒】:行使基礎値21+加速ボーナス3+2D6(2,2で4)。合計28。行使成功、虫たちは抵抗失敗! 威力:竜司祭レベル9+4D6(1,6,1,3)=20。

*22
分身の加速維持は出目1,5で21>目標20で維持成功。

*23
半竜娘(分身)【使役】行使:精霊術行使基礎値15+加速ボーナス3+2D6(5,4で9)。合計27。火の自由精霊を召喚! 半竜娘(本体)【使役】行使:精霊術行使基礎値15+加速ボーナス3+2D6(1,6で7)。合計25。土の自由精霊を召喚!

*24
半竜娘ちゃん(分身)【突撃】:行使基礎値21+加速ボーナス3+土の自由精霊支援3+2D6(2,2で4)。合計31。行使成功、レイスは抵抗失敗! 威力:助走ボーナス20+竜司祭レベル9+5D6(55215)=47。

*25
森人探検家ちゃんの弓矢攻撃(大弓):命中判定 基礎値18+加速ボーナス5+2D6(1,3で4)。合計27。二本目(速射)23。さらに、刺突攻撃補正で33、29。デュラハンは盾受け失敗!、装甲7。ダメージは 大弓基礎攻撃力(2D6+2)+野伏レベル7+ダメージボーナス4D6-装甲値7と、(2D6+2)+野伏レイス7+ダメージボーナス3D6-装甲値7。一発目23、二発目25。

*26
森人探検家ちゃんの弓矢攻撃(大弓):命中判定 基礎値18+加速ボーナス5+2D6(4,4で8)。合計31。二発目(速射)27。刺突攻撃スキルボーナス+6。デュラハンは盾受け失敗!、装甲7。ダメージは 大弓基礎攻撃力(2D6+2)+野伏レベル7+ダメージボーナス4D6-装甲値7が二回です。一発目29、二発目15。

*27
半竜娘ちゃん(分身)【小癒】:行使基礎値21+加速ボーナス3+土の自由精霊支援3+2D6(3,4で7)。合計34。行使成功、レイスは抵抗失敗! 威力:竜司祭レベル9+生命の遣い手ボーナス2+15+5D6(15533)=43。装甲値による軽減はできない!

*28
分身の加速維持:出目11によりクリティカル! 成功。

*29
半竜娘ちゃん(本体)【小癒】:行使基礎値21+加速ボーナス3+2D6(6,5で11)+クリティカルボーナス(生命の遣い手)5。合計40。行使成功、レイスは抵抗失敗! 威力:竜司祭レベル9+生命の遣い手ボーナス2+15+5D6(23624)=43。装甲値による軽減はできない!

*30
本体の加速維持:本体分と森人探検家分、両方とも出目7により合計20。成功。

*31
森人探検家ちゃんの弓矢攻撃(大弓):命中判定 基礎値18+加速ボーナス5+2D6(5,4で9)。合計32。二本目(速射)28。刺突攻撃スキルボーナス+6。デュラハンは盾受け失敗!、装甲7。ダメージは 大弓基礎攻撃力(2D6+2)+野伏レベル7+ダメージボーナス4D6-装甲値7が二発。一発目24(322654)、二発目23(322654)。

*32
森人探検家ちゃんの弓矢攻撃(大弓):命中判定 基礎値18+加速ボーナス5+2D6(4,4で8)。合計31。二本目(速射)27。刺突攻撃スキルボーナス+6。デュラハンは盾受け失敗!、装甲7。ダメージは 大弓基礎攻撃力(2D6+2)+野伏レベル7+ダメージボーナス4D6-装甲値7が二発。一発目25(543362)、二発目14(421311)。




地図はアニメ版でちらっと映ったのを参考に作ってますけど、完全にトレースは出来ていません。
また、オーガが居たほうじゃない方の遺跡の道や遺物の石櫃は、オリジナル設定です。

【挿絵表示】


森人探検家ちゃんの得物を鞭にした方が良かったかしら……?

2022/01/25 脚注2の半竜娘ちゃんの体力持久の数値を修正しました(9→8)。ご指摘ありがとうございました!
 


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12/n 裏

閲覧、評価、感想、誤字報告、ありがとうございます!


1.蛇食い(スネークイーター)エルフ

 

 森人探検家は、肉を食べていた。

 

 それも、蛇の肉を。

 

 さらには、炎の中でのた打つ触手を眺めながら。

 

「のう」

 

 同じく蛇肉を食べる半竜娘が問いかける。

 

「なーに?」

 

「森人というのは、肉は食わんのではなかったかの?」

 

「まー、普通はねー。でも食べられない訳でもないのよ? 木の実と虫だけで十分だから食べないだけで」

 

 一般に、森人は肉を食べない。

 不老長寿の彼らが肉を好むようになると、森の獣が尽きてしまうから、という理由で、肉食は一般的ではないのだ。

 

 だが、決して食べられない訳ではない。

 単なる好みや習慣であって、アレルギーなどではないのだ。

 

「それに、わたしは肉好きだし」

 

「ほー、まあ旨いからのう」

 

「そうよねー」

 

 炎の中で段々と動かなくなるローパーを見物しながら、肉を食む。

 なかなか高尚な(おもむき)(皮肉)だ。

 

「なんぞ肉好きになるきっかけでもあったのかの?」

 

「師匠にちょっとねー。獣しか居ない中で行き倒れたらどうする! とか、極限まで追い込んでくる(たち)でさー」

 

「そういえば師匠がおったんじゃったか。弓の師匠、というわけでもなさそうじゃが」

 

「うーん、なんと言えばいいかな。生存術とか、戦い方、いや、考え方の師匠というか……」

 

 あの鍛錬は、これまでとっても役に立ってきた。

 二度とやりたいとは思わないが。

 

「そうねえ、例えば……『貴女のポケットには何がある?』」

 

「なんぞ、謎かけ(リドル)かや? そりゃその時々によるじゃろうが……」

 

「そういうことじゃないのよねえ」

 

「で、あろうな。しかし、ポケットの中にあるもので何とかせにゃならんし、ポケットひっくり返してもそこに何もなければ他から持ってくるしかなかろ」

 

「……ま、いいわ。わたしも明確な答えがあるわけじゃなし。大切なのは、危難のうちで、その言葉を思い出せるかだと思うのよね。

 自分のポケットに何があるのか、何もないのか、いいえ、きっとそこには『手がある』のよねえ」

 

 そう、いつだって、『手はある』のだ。

 

 

 

  ○●○●○●○●○

 

 

 

2.大岩玉から逃げろ!

 

 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

 

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

 

 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

 

「なんで大岩が!? 来るときこんな罠なかったはずなのに!!」

 

「石櫃の台座にでもなんぞ仕掛けがあったのじゃろ!?」

 

 半竜娘と森人探検家は、遺跡の最奥からの戻り道で、大きな岩の玉に追いかけられていた!

 

「あっ、ばかそこだめ!」

 

「なっ?! しまっ、踏んだ! すまん!!」

 

 急いで走るせいで、往路では踏まなかった罠を踏んでしまう。

 

「ぬわああああ!!?」 「きゃああああ!!」

 

 廊下の壁から出てくる毒矢の嵐!

 

 せり出す槍衾!

 

 それらを全て避けて走る!

 

 当然、全力で走るから疲労も溜まる!

 

「あっ」

 

「どうしたのよ!?」

 

「【加速】が維持できん! まずい!」

 

 移動力を二倍にする【加速】の呪文を使ってもピンチなのだ。

 それが解けたらどうなるか……!!

 

因果逆転の祈念(かみだのみ)は!?」

 

「さっきからしとるが、もういよいよだめな感じじゃ!」

 

「ええーい! とにかく走れー! 跳べー!」

 

 彼女らの目の前には落とし穴。

 ここを跳べば、大岩からは逃れられるだろう。

 

 問題は加速が切れた状態で、荷物(せんりひん)背負って跳べるかどうか……!

 

「最悪、【降下(フォーリングコントロール)】でなんとか……なるはずじゃ! ええい! ケツァコアトルスよ! 手前(てまえ)に翼を!」

 

「いいから跳べーー!!」

 

 南無三! とばかりに、彼女たちは宙に身を翻させた!

 

 

 

  ○●○●○●○●○

 

3.冒険とは

 

「デュラハンに、レイス? 魂を縛る古代の遺物を見つけて、遺跡の罠を命からがら?」

 

 帰りの馬車。

 上の森人が、愕然と言った。

 

「そうなのじゃよ! 全く外法の遺物でな! 恐らくは魂を外部保管することで、死なずの軍勢を作り出す*1とかそういうやつじゃったのだろうさ! まあ、そのデュラハンとレイスから、技能を幾許(いくばく)か継承できたりと、他にも何か機能があるのじゃろうが、詳しくは研究待ちじゃなー!」

 

 うきうきと自分がこなした『冒険』について語る半竜娘。

 妖精弓手は、口元をヒクつかせながらそれを聞いている。

 森人探検家は(ハイエルフ様がご機嫌斜めじゃぁ……)と戦々恐々としている。

 

「姪御殿、してその遺物はどうなされた?」蜥蜴僧侶が話題を引き取ろうと話しかける。妖精弓手が爆発しかねないと察知したのだろう。

 

 空気の読める蜥蜴僧侶と、いまいち空気の読めない半竜娘。同じ蜥蜴人でもこの差はやはり年の功だろうか。

 その気遣いに気づかず、半竜娘は嬉々として蜥蜴僧侶の方に向き直った。

 

「おう、叔父貴殿! そのような外法は竜司祭として許せなんでな、破壊してきたところよ! あいやしかし、外観やなんやらのスケッチは残しておるし、破片を資料として持ってきておるから安心めされい。歴史的にも魔術的にも、そういった資料は必要じゃろうからな!」

 

「であればよし。拙僧にも見せていただいても?」

 

(いな)やのあるものか! ぜひとも先達の意見を伺いたい!」半竜娘は紋様を写し取っ(フロッタージュし)た紙の束と、石櫃の破片を入れたずた袋を掴んで、蜥蜴僧侶の方へと移動した。

 

 

 

 いまだに何やらショックを受けている様子の妖精弓手に、森人探検家はおずおずと話しかけた。

 

「あの……そちらはどのような冒険を……?」

 

「ぼうけん……ゴブリンを殺して、殺して、殺したわ」

 

「あっ……」

 

 汚物溜めで見つけたひどい状態の捕虜。

 おおかた、街道を行く旅商人だったのだろう、とは小鬼殺しの見立て。

 小鬼どもが遊びすぎて“使えなくなった”から、汚物溜めに移されたのだろう、と。

 

 その後も探索すると、小鬼のねぐらのそばの玄室には、まだ“使える”捕虜が居た。

 驚くべきことに、それはエルフで、これは里から飛び出た好奇心旺盛な『根無し草』候補が、冒険者になる前に捕まったのだろうと思われた。

 

 ――賽の目が違えば、あるいは里を出た頃の自分もそうなっていたかもしれない。

 

 妖精弓手は他人事には思えなかったし、位置関係的にはこの捕虜の森人は、自分の里の者なのかも知れなかった。

 

 それを助けて、森人の里の方へと伝令を走らせた。

 これには、半竜娘が背負っていた背負子が役に立った。

 竜牙兵が捕虜を腕に抱えて一人、背負子に乗せて一人。合計で二人を運べたのだから。*2

 

「50を超える、多分100はいかないくらいのゴブリンを、術で眠らせて、奇跡で音を消して、殺して回って……」

 

「なるほど、良い手です」森人探検家は素直に感心し、思わず口に出した。自分でも同じようにやるだろう、とも思った。

 

「なんて?」

 

「いえ、なんでも」

 

 まあ確かに効率的ではあるが、王族の出の妖精弓手には、屠殺して回るのはつらかっただろうとは想像に難くない。

 好んでゴブリンを殺して回らない限りは、そこまで凄惨な状態の捕虜に会うことなど稀であろうし、ゴブリン退治は駆け出しのころの冒険一回だけ、という同業者も少なくない。

 

 冒険の凄惨な面だ。

 

「……それで、まあ、最後に大物が――確か小鬼英雄とかいうみたいだけど――それがわらわらと出てきて、オルクボルグが転移の巻物で、海底の水の精を呼び出して、全部一緒くたに真っ二つよ」

 

「なるほど合理的です。あっ」

 

「……あんた、オルクボルグと気が合いそうね……」

 

 はぁ~~~、と妖精弓手は溜息をついた。

 森人探検家は恐縮しきりだ。

 

 気を取り直して妖精弓手は語る。

 

「まあね、冒険が楽しいことばっかりじゃないのは知ってるわよ。()()()()()()()()()。それはそれでいいわ。

 でも、あのオルクボルグは()()()()()()()()()()()のよ。それってなんだか、気に入らないわ」

 

 ちらりと、妖精弓手と森人探検家は、疲れて眠る薄汚れた鎧の戦士(ゴブリンスレイヤー)と、それに寄り添う女神官を見た。

 

「あいつには、ちゃんとした冒険もさせたいと思ってる」

 

「それは良い考えかと」

 

「……だから、そっちの冒険を聞いたとき、ちょっとうらやましくなっちゃったのよ。ごめんね」

 

「いえ、なにも謝られることなど……」

 

 だって、半竜娘は語らなかったが、こっちも立坑(シャフト)ごとローパーの群れ(コロニー)を燃やしたり、毒煙で蟲の大軍を(いぶ)したりしているのだ。

 

 大概、どっちもどっちだった。

 

 

 

  ○●○●○●○●○

 

 

4.ボンバーガール半竜娘

 

 

 遺跡の帰り道二日目。

 呪文使用回数が回復したので、水精霊を呼び出して【命水(アクアビット)】を使わせて一行の疲労を癒したり、半竜娘が馬車に【追風(テイルウィンド)】を掛けたりして進んでいると、行く手に野盗が出てきた。

 

「銀等級が4人も乗ってる馬車を襲うとか、運がない奴らよねー」妖精弓手が弓を構えながら暢気に言う。

 

「そんな事情わからないでしょうし……」女神官が控えめに言う。

 

「で、どうするね、【追風】かけてあるから、突破して逃げきれもするじゃろうよ」鉱人道士がゴブリンスレイヤーの判断を仰ぐ。

 

「ふむ、そうだな……」ゴブリンスレイヤーが方針を決断する一瞬の間に、半竜娘の声が割り込んだ。

 

「ここは任せてほしいのじゃ、試したいことがあってのう!」うきうきと楽しげにしているのは、決して気のせいではあるまい。

 

 

 妖精弓手と女神官は、なぜだか嫌な予感を覚えた。

 

 

 

「まずは分身に小石を持たせる」半竜娘は、竜司祭の触媒入れから幾つかの小石を取り出した。【胃石】の祖竜術に使えるよう一式入っているものだ(半竜娘は習得していない術だが)。

 

「そしてそれに【破裂(ガンビット)】の魔法を込める」半竜娘の分身が【破裂】の真言呪文を行使した。

 

 【破裂】の呪文を込めるだけなら、ちょっとした手間(マイナーアクション)でできるのが強みだ。

 この魔法の力が込められた小石は、投擲などの強めの衝撃でその力を開放し、周辺に閃光と轟音を伴う魔法の衝撃を与えるのだ。

 手榴弾や焙烙玉(ほうろくだま)のようなものと思ってもらえればいい。

 

「一撃の威力の追求もよいが、それだけではなくて、雑魚に対しては、小さな威力でも多重に攻撃を重ねるのも有効じゃと思ってな」半竜娘の分身は、手早く次々と小石に魔法を込めていく。

 

 一瞬で複数の小石に魔法を込めるのは、数が増える度にだんだんと難しくなっていく(達成値にペナルティがかかる)ようだが、4つの小石に魔法を込めるのに成功した。*3

 

「では、我が手管を御覧じろ」半竜娘の分身は、走る馬車から飛び降りた。

 

 そして、軽やかに着地すると、馬車に並走しながら祖竜術【突撃】を発動し、馬車を追い越し、前方の野盗の群れに突撃する。

 

 野盗はばらけていたので、【突撃】では一掃できなかった。

 が、それは想定内。

 

「見ておれ、いまじゃ!」半竜娘が叫んだ途端に、衝撃が4つ重なって響いた。

 

 

 

 

「いったい何が……」女神官は恐々と馬車の前方をみる。

 

 そこには、野盗は居なくなっていた。

 代わりに、()()()()()()()()()()()()()()赤黒い肉袋となったナニカが、野盗の数と同じだけ転がっていた……。

 半竜娘の分身は、その只中で無事に仁王立ちしている。

 

 戦慄する女神官の耳に、得意げな半竜娘の声が入る。

 

「【破裂】の真言を込めた小石を、【突撃】で敵陣に突っ込むときに自分に括り付けておったのじゃ!

 【破裂】の術は、影響を与える対象を選べるからの、分身自身や馬車馬や味方はもちろん、地面やなんかも対象から外してある。

 じゃから馬には閃光も轟音も届かず驚いておらんし、地面もえぐれておらん。

 ゆえにただ、敵だけが魔法による轟音と閃光と全方位からの衝撃波によってダウンする!

 そういう寸法よ!」

 

 つまり、人間ミサイルにしたというわけだ。

 

 【破裂】によるダメージは21、15、17、15。*4

 

 全てまともにダメージが通れば、合計で68のダメージ。オーガジェネラルも吹き飛ばせる。

 

 実際はいくつかの爆発が呪文抵抗により半減され、装甲で軽減されるにしても、相当のダメージとなろう。

 しかしこの術は、雑魚散らしが真骨頂でもある。

 

 とはいえ、そこらの盗賊や追剥相手にそれを四発も抱えて突っ込んだのは、明らかに威力過剰だった。

 

「範囲攻撃じゃから、雑魚散らしにはもってこいじゃ!

 先の遺跡の盾骸骨(スケルトンガード)のように身代わりになる特技を持っておっても、多重爆発によりやがては防げなくなる!

 群昆虫(スウォーム)のような群体でも、衝撃を重ねて一度に多くのダメージを与えられる!

 【抗魔(カウンターマジック)】は発動中の呪文しか阻害できんから、既に付与された【破裂】の効力を消すことは不可能!

 無属性の衝撃は、アンデッドの毒無効も、あるいは火竜の炎無効も関係ない!

 なかなか冴えたやり方じゃて!」

 

 なーはっはっは! と高笑いをする半竜娘。

 

 あまりの惨状に固まる一行の中で、小鬼殺しと森人探検家だけが、半竜娘に問い返した。

 

「同じことを小鬼が使ってきたらどう対応する?」 「同じことされた時にどう防ぐつもり?」

 

「「む……」」小鬼殺しと森人探検家は、お互いが似たような思考回路を持っていると認識したようだ。

 

「それは難しいのう。考えられるのは、やはり相手より先手を取って叩くか、投石の届かぬ遠距離から仕留めるくらいか。

 それか、壁を作る呪文で、敵の投げ手や【破裂】が付与された小石を、爆発半径より遠くで堰き止めるかじゃな。

 しかし、潤沢に呪文を使える者でないと多重爆破はできぬから、ここまでの威力を出すことは難しかろう。

 素の呪文使用回数が多く、近接突撃できる前衛がおらねばな。呪文使用回数を大きく消費する短期決戦の技じゃて。

 それに大抵は、同じ回数呪文を使うなら、別の呪文を使った方がより威力が高いはずじゃから、同じく速攻思考でなければこの手は取るまいし……一撃の威力が低くなるから、重装甲を抜けん場合があるのも弱みかのう」

 

「でも、【分身】使いなら、そのデメリットをある程度無視できる。貴女みたいに」森人探検家が指摘する。

 

「そのとおり。じゃからあとは、もう最終的には修練あるのみじゃろうな。呪文を弾く精神力を身に着け、装甲を纏い、呪文を受けても耐えきれる体力を鍛える。魔法に抵抗力のある装備があればなおよいが、これは手に入るかは運があるからのう」

 

 そうして、半竜娘と小鬼殺しと森人探検家は、新しい呪文の運用についての議論に入っていく。

 

 

「いやいや、これはないでしょ」妖精弓手は引いている。

 

「やっぱり度し難い人です……」女神官は、頭痛をこらえるようにしている。いくら祈らぬ者(NPC)でも、こんなグズグズのペーストを詰めた肉袋にされるような死に様はあんまりだろう。

 

「かみきり丸のような蜥蜴人じゃのう」鉱人道士は冷や汗を流しつつも、ひげをしごいている。

 

「ふうむ、ともあれ、弔いが先でしょうや」蜥蜴僧侶は話し込む半竜娘に、竜司祭としての後始末をさせるべく腰を上げた。 

 

 

 

  ○●○●○●○●○

 

 

5.同門

 

 

「“縦横無尽に空を飛ぶ、血肉を啄む残酷な嘴、仇敵、怨敵、しかして殺せば流れるのはお前の血だ、此は何者ぞ?”」

 

 野盗どもの後始末をする半竜娘たちを尻目に、森人探検家は小鬼殺しに、歌うように謎掛け(リドル)を口にした。

 

「……“蚊”だ」小鬼殺しはぶっきらぼうに答えた。

 

「せぇいかぁーい。やっぱりそうなのかしら? 『お控えなすって』って仁義は切った方がいい?」にやにやと森人探検家が、小鬼殺しの兜の奥を覗き込んできた。

 

「いらん」

 

「何よ、無愛想ね。“樽に乗る者”を師に持つもの同士でしょうに」つまらなそうな顔で、森人探検家は向かいに座った。そして問うた。「で、あの“先生”はいまどこに?」

 

「知らん。五年前に放り出されたきりだ」

 

「あら、五年前まで生きてたのね、あのクソ師匠」眉間に僅かに険を刻んで森人探検家が言う。「居場所が分かれば、矢の幾つかでも叩き込もうと思ったのに」

 

「無駄だろう」

 

「知ってるわ」

 

 溜め息をついて、森人探検家は立ち上がる。

 

「こんなとこで(おとうと)弟子(でし)に会うとは思わなかったわ。しばらくは辺境の街を拠点にするつもりだから、よろしくね、銀等級(センパイ)の小鬼殺しさん」

 

「お前のような“姉”をもった覚えはない」僅かに固い声。

 

「姉じゃなくて姉弟子よ。まあ、同門だから何って話だけど」

 

 そこ()があなたの弱点(コンプレックス)かしら、などとうそぶいて、森人探検家は荷台から降りた。

 

 

 兜に隠れた小鬼殺しの表情(かお)(うかが)えない。

 

 

 

  ○●○●○●○●○

 

 

6.リザルト

 

 辺境の街に辿り着いた半竜娘たちは、早速ギルドで冒険報告をした。

 

 それにより、半竜娘と森人探検家は、「オーガ出現」の伝令成功及び「古代の石櫃」についての報告が評価され、経験点+1500点、成長点+3点を獲得。

 

 特に伸ばせる職業や技能もないので、二人ともそのまま貯めておくこととする。

 やはり、石櫃を介しての技能継承は奇貨であった。

 

 石櫃の破片や、紋様の写し、装飾品等の精算にはそれなりに時間がかかるだろうが、かなり期待が持てるだろうとのこと。

 

 さて、拠点に戻って休もうとする半竜娘と森人探検家に、受付嬢が待ったをかけた。

 

「そちら宛てに郵便が届いていますよ」

 

手前(てまえ)宛てに?」

 

 なんじゃろか、と受け取って開けてみれば、蜥蜴人を含む諸族連合からの召喚状であった。

 

「なあにそれ?」森人探検家がひょいと覗き込む。

 

「召喚状じゃなあ。水の街に来いと」

 

「召喚状? なんかやったの?」

 

「なんかやったというかなんというか。

 まあ、古竜殺しやらの勲章の授与伝達と、それはいいのじゃが、冒険者になるならなるで、しっかり話を通さんかい、というお叱りじゃな」うんざりした顔で召喚状をひらひらと振る半竜娘。

 

「古竜! それ本当だったの!? なによなによ、そしたら後でもっかい聞かせてよねー!」興味津々で目を輝かせる森人探検家。「ていうか、貴女、軍属……というか軍人だったの? 何も言わずに出てきたなら、脱走兵?」

 

「このまま召喚状を無視したらそう(脱走兵扱いに)なろうなあ。じゃから行かざるを得んが……」ちらりと森人探検家を見る半竜娘。

 

「もちろんついてくわよー? 面白そうじゃない!」

 

「あっちこっちと(せわ)しなくてすまんのう」

 

「気にしない気にしない! もとからこちとら『根無し草』よ! それに同じ一党でしょう?」

 

 そういうことで、半竜娘と森人探検家は、水の街へと向かうことにしたのだった。

 

 

 

 

*1
魂の外部保管:マドカ・マギカ方式的な?

*2
二人の捕虜:森人探検家が捕まらなかったために設定が生えた、というよりは、原作でもこの二人は存在したけど最終的に森人探検家しか生き残らなかった(森人探検家はタフい)、という捉え方になる。イベント時系列が全体的に前倒しされたため、救出が間に合い、ゴブリンの腹の中には収まらずに済んだ。

*3
半竜娘(分身)【破裂】行使:真言呪文行使基礎値19+付与呪文熟達2+2D6-連続行使ペナルティ(2回目以降は-4ずつペナルティが加算される(-4→-8→-12))。達成値は1個目は出目21で24、2個目31で21、3個目53で21、4個目13で13.それぞれの威力は、「魔術師レベル5+3D6」で、達成値に応じて範囲が変動する。1~3個目は爆発半径10m、4個目は爆発半径3mとなる。また、呪文を込めた術者は、爆発半径内の対象で、影響を与える対象を選ぶことができる。

*4
【破裂】によるダメージ: 1個目21(魔術師Lv5+3D6(565))、2個目15(魔術師Lv5+3D6(334))、3個目17(魔術師Lv5+3D6(624))、4個目15(魔術師Lv5+3D6(352))




アニメ版寄りのルートなので、水の街の陰謀が、牧場襲撃より先になります。ゴブスレさんより先に水の街に入りますよー。
時系列的には、小説版ではオーガ戦のあと過労で倒れたゴブスレさんは1ヶ月くらい療養するのですが、その1ヶ月がアニメ版では水の街のエピソードに置き換わる感じだと思います。多分。

だから、ゴブリンスレイヤーさんの疲労を行き帰りの【賦活】できっちり消しておく必要が、あったんですね。



作者の備忘のため、半竜娘ちゃんと森人探検家のステータス載せときます。見なくても問題ないです。(二人分だとステータスだけで四千字くらいあるんだぜ……?)

◆名前:半竜娘
 年齢13歳(成人直後)。緑かかった烏の濡れ羽色の鱗と髪を持つ。
 顔と胸元だけ只人の遺伝が現れ、残りの部分は蜥蜴人な混血。胸元は豊満だが、哺乳動物ではないので本当に単に膨らんでるだけ。乳首も臍もない、卵生なので。
 つよい(確信)。最終的にゴジラになれる素質がある。
 TASさんとゴブスレさんの薫陶を受けたせいか、自主的に和マンチの道を歩み始めている。さらに、新たな相棒もまた、マンチの系譜っぽい。

◆累積経験点 58000点/ 残り経験点3000点
(山砦粉砕炎上 +1500点
 オーガ交戦報告+1500点
 古代の石櫃報告+1500点)

◆残り成長点 5点

◆能力値
 装備:魂魄強化の指輪+3、知力強化の指輪+3
能力値体力点 5魂魄点 5+3技量点 3知力点 3+3
集中度 4912710
持久度 381169
反射度 381169


    生命力:【 38(28+10) 】
    移動力:【 24 】 
 呪文使用回数:【 07 】

  呪文抵抗基準値(魂魄反射+冒険者LV+呪文抵抗):【 19 】

◆冒険者レベル:【 8 】
  職業レベル:【魔術師:5】【竜司祭:9】【精霊使い:3】【武道家:6】

◆冒険者等級:黒曜等級

◆冒険者技能    初歩/習熟/熟練/達人/伝説
  【免疫強化】  ●   ○  ○  ○   ○
  【魔法の才】  ●  ●  ●  ●   ○
  【呪文熟達(創)】●  ○  ○  ○   ○
  【呪文熟達(付)】●  ●  ○  ○   ○
  【追加呪文(真)】●  ●  ○  ○   ○up!
  【追加呪文(竜)】●  ●  ○  ○   ○
  【生命の遣い手】●  ●  ●  ○   ○
  【機先】    ●  ●  ○  ○   ○
  【頑健】    ●  ●  ○  ○   ○
  【忍耐】    ●  ○  ○  ○   ○
  【武器:格闘】 ●  ●  ●  ○   ○
  【体術】    ●  ●  ○  ○   ○
  【鉄の拳】   ●  ○  ○  ○   ○
  【発勁】    ●  ○  ○  ○   ○
  【薙ぎ払い】  ●  〇  ○  ○   ○
  【二刀流】   ●  〇  ○  ○   ○
  【護衛】    ●  〇  ○  ○   ○new!

◆一般技能     初歩/習熟/熟練
  【竜の末裔】  ●  ●  ●
  【暗視】    ●  ○  ○
  【祈祷】    ●  〇  〇
  【瞑想】    ●  ●  〇up!
  【沈着冷静】  ●  ○  ○
  【信仰心(竜)】 ●  ●  ●
  【統率】    ●  ●  〇
  【礼儀作法】  ●  〇  〇
  【調理】    ●  〇  〇
  【精霊の愛し子】●  ●  〇
  【職人:土木】 ●  〇  〇

◆呪文
 呪文行使基準値(知力集中):【 10 】
        (魂魄集中):【 12 】
 呪文維持基準値(知力持久):【 9 】
        (魂魄持久):【 11 】
 職業:魔術師:5 竜司祭:9 精霊使い:3
 技能:呪文熟達(創造呪文):+1
    呪文熟達(付与呪文):+2
    生命の遣い手:生命属性の呪文が出目10以上で大成功
 装備:真言呪文の発動体+3 紅玉の杖(真言呪文行使+1)
《呪文行使》
 真言:【 19 】  奇跡:【 0 】  祖竜:【 21 】  精霊:【 15 】
《呪文維持》
 真言:【 14 】  奇跡:【 0 】  祖竜:【 20 】  精霊:【 14 】




 ◎習得呪文:
 《 分身 》 難易度:20 (真言呪文 創造呪文(生命))
 《 力場 》 難易度:15 (真言呪文 創造呪文(空間))
 《 抗魔 》 難易度:10 (真言呪文 付与呪文(なし))
 《 破裂 》 難易度: 5 (真言呪文 付与呪文(なし))new!
 《 巨大 》 難易度:10 (真言呪文 付与呪文(生命))
 《 加速 》 難易度:15 (真言呪文 付与呪文(生命、精神))
 《 停滞 》 難易度:15 (真言呪文 支配呪文(生命))
 《竜牙兵》 難易度:15 (祖竜術 創造呪文(生命))
 《 竜爪 》 難易度:10 (祖竜術 創造呪文(物質))
 《 狩場 》 難易度:15 (祖竜術 付与呪文(空間))
 《 竜眼 》 難易度:10 (祖竜術 付与呪文(生命))
 《 竜血 》 難易度:なし (祖竜術 付与呪文(生命))
 《 擬態 》 難易度:10 (祖竜術 付与呪文(光))
 《 竜吠 》 難易度:15 (祖竜術 支配呪文(精神))
 《竜息/毒》 難易度:10 (祖竜術 攻撃呪文(闇))
 《 突撃 》 難易度:10 (祖竜術 攻撃呪文(なし))
 《 賦活 》 難易度:10 (祖竜術 治癒呪文(生命))
 《 小癒 》 難易度: 5 (祖竜術 治癒呪文(生命))
 《 降下 》 難易度:10 (精霊術 付与呪文(土、空間))
 《 使役 》 難易度:10 (精霊術 支配呪文(火、水、土、風))
 《 追風 》 難易度: 5 (精霊術 支配呪文(風))

 ※使役できる固定の精霊(名称:ミズチ)がいる。当該精霊が使ってくれる呪文は以下のとおり。
  【命水】(精霊(スピリット)級から)
  【酩酊】(自由精霊級から)
  【隠蔽】(大精霊級から)
  固定のパートナーのため、機嫌を損ねると言うことを聞いてくれないことも。
  毎日、触媒(酒や果物など)をお供え物として消費し、週に一回は上質な触媒を供える必要がある、呼び出す際も上質な触媒を用いなくてはならない。上質な触媒を用いない場合は達成値-4。

◆攻撃
 命中基準値(技量集中):【 7 】
 職業:【武道家:6】
 技能:【武器(格闘):熟練(+3)】
 近接:【 16 】  弩弓:【 7 】  投擲:【 13 】

 ◎武器:【 素手(爪) 】
   用途/属性:【 片手or両手格軽/斬 】
  命中値合計:【 16 】
   威力:
   片手:1d3+5(内訳:鉄の拳+1、発勁+1、竜の末裔+3)
   両手:1d3+7(内訳:両手+2、鉄の拳+1、発勁+1、竜の末裔+3)
   効果:投擲不可

 ◎武器:【 尻尾の大篭手(テールガード)(盾攻撃) 】
   用途/属性:【 片手格軽/殴 】
  命中値合計:【 16-2 】
   威力:1d3+2(内訳:発勁+1)
   効果:投擲不可

 ◎武器:【 南洋投げナイフ 】(2本所持)
   用途/属性:【 片手投軽/斬刺 】
  命中値合計:【 13+4 】
   威力:1d6
   効果:投擲専用、強打・斬(+1)、刺突(+1)、斬落

 (紅玉の杖は基本的に武器として用いない)

◆防御
 回避基準値(技量反射+武道家レベル+体術スキル):【 14 】
 ◎鎧:【 衣鎧+鱗 】
   鎧:魔法の司教服(+3)(装甲7、回避修正+2、移動修正-4)
   鱗:外皮+3(竜の末裔)
   属性:【 衣鎧(布)/軽 】  回避値合計:【 16 】
   移動力合計:【 18 】  装甲値合計:【 7+3 】
   隠密性:【悪い(静穏性はあるが視覚的に派手)】

 盾受け基準値(技量反射+武道家レベル(大篭手着用時)):【 12 】
 ◎盾:【 小型盾 】
   盾:魔法の大篭手(+3)(盾受け修正5、盾受け値4、武道家の適正装備扱い)
  (両手と尻尾に同じものを装着)
   属性:【 小型盾(金属)/軽 】 盾受け基準値合計:【 17 】
  盾受装甲値合計:【 14 】 隠密性:【 良い 】

◆所持金
  銀貨:300枚(直近で稼いだ分。とりあえずの手持ち)
  (足りないときは、財布を預けてる魔女さんに相談しようね!)

◆その他の所持品 (分身の分を余分に所持)
冒険者ツール ×2
   内訳(鈎縄,楔x10,小槌,火口箱,背負い袋,水袋,携帯用食器,白墨,小刀,松明x6)
  携帯食×7日分、衣類
  背負い袋(蜥蜴人用特大サイズ) ×2
  ベルトポーチ ×4(主にポーション類を入れる)
  ずた袋 ×2
  小袋セット(3枚/1セット) ×2
  竜司祭の触媒入れ ×1(移動力修正-2)
  魂魄強化の指輪+3 ×1(装備中)
  知力強化の指輪+3 ×1(装備中)
  武術熟達の腕輪+3 ×1
  体術熟達の腕輪+3 ×1
  真言呪文の発動体+3 ×1(装備中、形態:ネックレス)
  毒煙玉 ×4
  治癒の水薬 ×6
  強壮の水薬 ×4
  解毒薬 ×4
  鎮痛剤 ×2
  燃える水 ×2
  火の秘薬 ×2
  能力上昇の秘薬(各種) ×2
  【使役】の上質な触媒(各属性) ×2
  水精霊【ミズチ】用の上質な触媒 ×4
  調理道具 ×1

◆出自/来歴/邂逅/動機
 軍師/戦場/家族/託宣











◆名前:森人探検家
 年齢200歳。金の髪。
 緑衣の勇者は弓の速射の達人でもあり、彼の英雄に憧れて冒険者になろうと出てきた。
 しかし何やかんやあって貧乏暮らしをして、飢え死にしそうになった時に師匠に拾われる。(来歴:貧困、邂逅:師匠)
 師匠として、「忍び」「先生」と呼ばれる圃人を持つ。つまりゴブリンスレイヤーの姉弟子にあたる。
 貧乏暮らしの時にお金の大切さが身に染みたため、エルフでも珍しく交易神の信仰に目覚める。


◆累積経験点 19500点/ 残り経験点2000点
(オーガ交戦報告+1500点
 古代の石櫃報告+1500点)

◆残り成長点 3点

◆能力値
装備:体力強化の指輪+3、技量強化の指輪+3
能力値体力点 1+3魂魄点 3技量点 5+3知力点 4
集中度 265106
持久度 04384
反射度 265106


    生命力:【 23(18+5) 】
    移動力:【 44 】 
 呪文使用回数:【 01 】

  呪文抵抗基準値(魂魄反射+冒険者LV+呪文抵抗):【 10 】

◆冒険者レベル:【 5 】 (技能を熟練まで習得可能)
  職業レベル:【野伏:7】【神官(交易神):2】

◆冒険者等級:鋼鉄等級

◆冒険者技能    初歩/習熟/熟練/達人/伝説
  【武器:弩弓】 ●  ●  ●  ○   ○
  【魔法の才】  ●   ○  ○  ○   ○
  【怪物知識】  ●   ○  ○  ○   ○
  【速射】    ●  ●  ●  ○   ○
  【狙撃】    ●   ○  ○  ○   ○
  【曲射】    ●   ○  ○  ○   ○
  【刺突攻撃】  ●  ●  ●  ○   ○
  【手仕事】   ●   ○  ○  ○   ○
  【機先】    ●   ●  ○  ○   ○up!
  【頑健】    ●   ○  ○  ○   ○
  【体術】    ●   ○  ○  ○   ○
  【忍耐】    ●   ○  ○  ○   ○new!

◆一般技能     初歩/習熟/熟練
  【暗視】    ●  ○  ○
  【精霊の愛し子】●  〇  〇
  【生存術】   ●  〇  〇
  【工作】    ●  〇  〇

◆呪文
 呪文行使基準値(魂魄集中):【 5 】
 職業:神官(交易神):2
 技能:特になし
 装備:聖印(奇跡行使+1)
 真言:【 0 】  奇跡:【 8 】  祖竜:【 0 】  精霊:【 0 】

 ◎習得呪文:
 《 逆転 》 難易度:10 (奇跡 付与呪文(属性なし))
 《 旅人 》 難易度:15 (奇跡 付与呪文(生命))new!

◆攻撃
 命中基準値(技量集中):【 10 】
 職業:【野伏:7】
 技能:【武器(弩弓):熟練(+3)】
 近接:【 10 】  弩弓:【 20 】  投擲:【 17 】

 ◎武器:【 大弓 】
   用途/属性:【 両手弓重/刺 】
  命中値合計:【 20-2 】 射程:120m
   威力:2d6+2
   効果:長大(狭所で2D6が4以下でファンブル)、刺突(+2)、速射(-8)、
     「矢」を消費

 ◎武器:【 短弓 】
   用途/属性:【 両手弓軽/刺 】
  命中値合計:【 20 】 射程:60m
   威力:1d6
   効果:刺突(+1)、速射(-4)、「矢」を消費

 ◎武器:【 短槍 】
   用途/属性:【 片手槍軽/刺 】
  命中値合計:【 10 】
   威力:1d6
   効果:投擲適用、刺突(+1)

◆防御
 回避基準値(技量反射+体術スキル):【 11 】
 ◎鎧:【 軽鎧 】
   鎧:狩人の外套(装甲2、回避修正+1)
     鋲付き鎧下(装甲2、移動力修正-4)
   属性:【 軽鎧(革)/軽 】  回避値合計:【 12 】
   移動力合計:【 38 】  装甲値合計:【 4 】
   隠密性:【普通】

 盾受け基準値(技量反射):【 なし 】(適用可能職業なし)
 ◎盾:なし

◆所持金
  銀貨:27枚(石櫃関係の収入本格精算はこれから)

◆その他の所持品
冒険者ツール(鈎縄,楔x10,小槌,火口箱,背負い袋,水袋,携帯用食器,白墨,小刀,松明x6)
  携帯食×7日分、衣類
  聖印(交易神) ×1(装備中:ベルトに吊るしている)
  鍵開け道具 ×1
  罠師道具 ×5
  矢筒 ×1(移動力修正-2)
  矢 ×30
  煙玉 ×1
  治癒の水薬 ×1
  強壮の水薬 ×1
  解毒薬 ×1
  防毒面 ×1
  臭い消し ×1
  技量強化の指輪+3 ×1(装備中)(半竜娘から貸してもらってる)
  体力強化の指輪+3 ×1(装備中)(半竜娘から貸してもらってる)

◆出自/来歴/邂逅/動機
 猟師/貧困/師匠/英傑憧憬


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13/n 水の街にて魔神を屠るのこと~武勲詩~叙勲

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火吹き山シナリオ(原作者様作成非公式シナリオ)、いいよね……。いい……。

戦場模式図の挿絵あります。



 はいどーもー、遂にトロフィー【辺境最大】を獲得する!? RTA実況、はーじまーるよぉー!

 

 前回は、オーガが居たはずの遺跡でインディー・ジョーンズみたいなアクションを繰り広げたり古代の遺物に囚われた魂を解放してご褒美を貰ったりしたところまでですね。

 

 なんやかんやあって無事に辺境の街に帰り着いた半竜娘ちゃんを待っていたのは、かつて所属していた軍からの召喚状でした。

 

 勲章くれるっていうので、貰っておきましょう!

 なんなら武勲詩でも作ってくれるかもしれません。

 トロフィー【辺境四天王】獲得のためにも、アピールの機会は逃さずにいきましょう。

 

 ……魔神将級の古竜の単独撃破、さらに古竜一族の族滅とか、下手すると、いや下手しなくても、蜥蜴人の中では一番の功績の可能性があります。

 

 おそらく、最後に受けてた命令は『混沌勢力の黒い古竜をどうにかしろ』みたいな命令だと思うので、その筋で考えれば、捕虜として攫われたにも関わらず、相手の砦を焼き、相手の物資を奪い、誘引撃滅して、たった一人でドラゴンを族滅したというのも、軍令に沿った行動と言えるでしょう。

 

 誰もそこまでしろとは言ってないし、出来るとも思ってなかったのは置いといて。

 

 女版の舩坂(ふなさか)(ひろし)かな? って戦績してるな、半竜娘ちゃん。

 

 

 まあ、超勇者ちゃんが魔神王を撃破して、混沌勢力との合戦も一段落して、いよいよ論功行賞という話になって、半竜娘ちゃんの活躍もお上の目に留まった、というか、単なる冒険者だと思ってたらこいつMIA(任務中行方不明)の軍人じゃね? 的な。

 

 水の街での叙勲というのも分からなくはありません。

 なにせ、他ならぬ超勇者ちゃんが、敵の幹部が会議で集まったところをまとめて吹き飛ばした訳ですから。逆に同じことをやられないとは限りません。

 まだまだ魔神王のシンパの残党はいますし、辺境から戦力を引き抜くのも問題がありそうですし。

 いまは、戦時と同じく現地で叙勲した方が無難でしょう。なんなら、正式な式典はまた別途やる、というのもできますしね。

 

 というわけで、旅の準備をして、借りた馬車に【追風】をかけ、二頭の馬車馬に【加速】をかけて、召喚した精霊に森人探検家ちゃんを支援させてさらに魂魄強化の指輪を貸して【加速】もかけて達成値を上げた状態で【旅人】の奇跡を馬車にかけてもらって、通常の4.5倍の速度で馬車を走らせて、到着しました水の街!

 

 道中は通常2日の道を半日で踏破できました。おっ、RTAかな? 馬車の車軸やらが良く持ちましたねー。

 野盗も追いすがれないスピードなので、ランダムエンカウントもなしです。

 そもそも、【狩場】の祖竜術で結界を張ってましたし。

 あと基本的には、水の街に近づくほど治安もよくなりますしね。

 

 

 治安がよくなるはずなのになあ……。

 

 

 街に入ってすぐに、【狩場】の敵意感知の結界に引っかかるやつが居るんですけど……。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ホットスタート過ぎません?

 

 そしてこちとら、街の流儀にいまだ染まりきらぬ蛮族ですぞ?

 

 街中とはいえ、敵意飛ばされてそれを放置するとかナイナイ。

 【狩場】の祖竜術でお墨付きですから、勘違いということもあり得ないし。

 逃がして泳がせるという考えはありえません。

 

 移動力強化に呪文使ったので残り使用回数は心許(こころもと)ない(半竜娘ちゃん(本体):残り6回、分身ちゃん:残り3回、森人探検家ちゃん:0回)ですが、シメてこちらに敵意害意を抱く背後関係を吐かせると決めたので即行動です。

 

 おおよその位置は分かっているので、森人探検家ちゃんを周りから見えないように半竜娘ちゃんズの図体で隠して、弓矢を射ってもらいます。街中なので『ガード! ガード!』と通報させないための配慮です。

 位置は、ちょうど大通りから路地に入るところ。

 

 これで天に向けて矢を放ち、【曲射】して相手の着てる服を地面に縫い付けるつもりです。

 

 え、ここでダイスロールしろって?

 

 何のダイスロール? 目標値は?

 

 

 いいからやれって怖い……46で10です。

 

 

 10かー、結構いいですねー。

 

 は?

 

 『出目-2』が、今から狙う不審者の怪物レベル?

 

 種族はデーモン?

 

 つまり、街中で怪物レベル8(ビホ○ダー級)の魔神と遭遇すんの!?

 

 ホットスタート過ぎませんかねえ!!?

 

 いきなりクライマックスだよ!!

 この間のレイスがレベル8でしたよね?!

 

 不意打ちは成功したことにして、手番一回はこっちにくれるって?

 そりゃどうもありがとさん!!

 

 誰だよ水の街の治安が良いとか言ったやつは! 責任者出てこいやー!!

 

 

  ●○●○●○●

 

 

 えー、方針は変わりません。というか変えられません。

 背後関係吐かせるために、とっつかまえます。

 無理ゲーですが、方針転換するだけの根拠をまだ半竜娘ちゃんたちは持ってないので致し方なし。

 PLとPCの情報ギャップですね。

 

 この時点で相手が高レベル魔神だと分かってれば、【破裂】の手榴弾を山盛り持って、【突撃】で突っ込んで吹き飛ばすんですが!

 どちらの呪文も範囲内の効果対象を選べるので、市民や公共物への被害も出ませんし!

 

 しかし、怪物知識判定に成功しない限り、不審者が高レベルデーモンだというのは半竜娘ちゃんたちには分かりませんのでね。

 

 相手はローブを目深(まぶか)に被ってますし、どうも人間に化けてる様子。怪物知識判定の難易度が上がっています。クリティカルで大成功しないと無理なレベル。

 

 一応半竜娘ちゃんたち3人で判定しましたが、クリティカルは出なかったので、不審者の正体は不明のままです。偽装が巧いのか、魔神特有の硫黄臭も嗅ぎ取れないので、敵意を持った推定:人間? という感じです。

 

 なので、その手(バンザイアタック)は使えません。まだこの段階では。

 

 こちらから詳細な託宣でもすれば別ですが、原作イベではないので、こっちも相手の情報を持ってないです。

 まあ、とりあえずは「ヤバい級の敵かも」とだけ託宣で半竜娘ちゃんに伝えます。

 

 それを受けて、念入りな捕縛方針を考えてくれるみたいです。わあい。

 

 ……本当は初手撃滅してほしいんだけどなあ……蛮族度が下がってたかあ。

 まさか文明人になってる(※当社比)ことを嘆く日が来ようとは。

 

 えーと、半竜娘ちゃんたちの考えた捕縛の手順はこうです。

 

 最初は不意打ちできるので、森人探検家ちゃんの弓で【曲射】し、相手のローブを狙います。偽装を剥がしつつ、出来れば服を縫い止めたいという感じです。ローブを剥がして正体見たいですからね。

 

 その間に半竜娘ちゃんズはできるだけ相手に近づき、契約してる“水霊(ミズチ)”を呼び出し、また、相手には【停滞】をかけます。

 次のターンで、【加速】で水霊の達成値を上げて、【酩酊】を使って無力化する、という目論見(もくろみ)です。

 

 2ラウンド目の先制力がふるわなければ、因果点を使った祈念で振り直します(振り直したからと結果が良くなるとは限らないですが)。

 

 とはいえ、どこかのタイミングで相手の正体が割れれば、作戦は変更になると思います。

 流石に、レベル8の魔神を捕縛するのは難しいので(出来なくはないかもですが)。

 

 

 

 では不意打ち一回目の先制力ですが、半竜娘ちゃん本体12、分身ちゃん11、森人探検家ちゃん15。

 森人探検家ちゃんだけ【加速】が掛かってるので二回行動できます。

 

 順番は、森人探検家→本体→分身→森人探検家(二回目)です。不意打ちなので、相手の行動は無しです。場合によっては統率により、森人探検家ちゃんの二回目の行動順を引き上げます。

 

 では、森人探検家ちゃんの一射目。ローブを縫い止められるかどうかは、相手の回避値よりどれだけ命中達成値が大きかったかで判定します。

 なので達成値が下がる【速射】による連射はしません。

 街中なので、【曲射】で放物線を描かせて、頭上から攻撃します。これで、威力が下がる代わりに当たりやすくなります。

 

 なお、そこまで回避と命中で差が大きくないときは、狙ったところに当たらず、敵の身体のどこかに当たっちゃいます。

 ……むしろそっちの方が話は早いんですが。

 

 えーと、相手の位置は30+1D6×10で判定!

 出目は2だったので、相手の位置は50mのところですね。

 

 森人探検家は、命中達成値を上げるために短弓で攻撃します。

 大柄な半竜娘ちゃんの影にかくれて、敵の頭上から落ちるような軌道で【曲射】!

 命中判定はダイス14で28でした。*1

 

 相手の回避判定より6以上命中判定が大きければ、フードを掠めて相手の顔を露わにできることにします。

 相手の回避は、56で25でした。曲射の効果で-2して23。

 

 差は5なので、フードだけ器用に射抜くことは出来ませんでした。

 ふつーに当たります。

 

 あー、これは掠るルートだったのに、察知して変に動いて当たっちゃったというパターンでしょうね。

 

 

 街中でいきなり矢を当てるとか常識無いのかよォ!!(建前) ナイスゥ!!(本音)

 

 

 当たっちゃったもんは仕方ないので、ダメージ算出です。グヘヘ。

 

 命中時に【刺突攻撃】技能で達成値にボーナスが+3乗るので、ダメージボーナスは+4D6です。

 ダメージは……19!*2

 

 殺意高ぁい!

 一般人なら二回は弾け飛んでるぞ危ねぇな!(建前) ナイスゥ!(本音)

 

 相手の肩に深々と突き立った矢により、不審者の擬態が解けます!!

 

 攻撃を受けた不審者は、みるみるうちに筋骨隆々の巨大な魔神へと変貌します!

 

 怪物知識判定! 目標値17! こちらの達成値は28!*3

 

 

 敵が判明しました!

 

 相手は紋章の魔神(ブレイゾン)

 

 

【挿絵表示】

 

 

 優れた精霊術の使い手で、一度に二回の呪文を放ち、また、その身に刻まれた紋章により炎を操り周囲を焼き払う歴戦の魔神です!

 その紋章は魔力を高め、また呪文による攻撃を軽減します。*4

 

 

 しかーし!

 

 敵が魔神だと分かればもはや遠慮は要らぬ!

 

 まだこっちは全員動けるんだぞ!

 十分殺せる!

 

「ドーモ! 魔神=サン! 半竜の術士です! 街中に何故いるか知らんが、魔神よ、その呪われし魂を祖竜のアギトに捧げてやろう!!」

 

「ぐっ、アンブッシュ……。ドーモ、ハーフリザード=サン。ブレイゾン……です。今、名乗れるのはそれだけだ」

 

「どのような陰謀を企てておったかしらんが! この手前(てまえ)が来たからには! 貴様の思い通りになどさせぬのじゃ!!」

 

 あ、ブレイゾンは歴戦だけあって、武人の面があります。

 つまり、アイサツは大事。

 

 あと、周りの一般人への状況説明にもなるので便利です。

 

 では、気を取り直して、半竜娘ちゃんと分身ちゃんのターンです。

 

 いきなり平和な水の街に現れた魔神に、周囲はパニックです!

 しかし、これで射線が空きましたね。

 

 遠慮なく攻撃できます!

 

ルーメン()オッフェーロ(付与)インフラマラエ(点火)…。ルーメン()オッフェーロ(付与)インフラマラエ(点火)…」

 

ルーメン()オッフェーロ(付与)インフラマラエ(点火)…。ルーメン()オッフェーロ(付与)インフラマラエ(点火)…」

 

 まず【破裂】の手榴弾を増産します。

 分身ちゃんが二個、本体が二個。合計四個。それぞれの達成値は31、23、29、23です。

 4つとも分身ちゃんに持たせます。

 これで呪文使用回数は、本体は残り4回、分身ちゃんは残り1回。

 

 【破裂】の手榴弾を作るのは自由行動(マイナーアクション)なので、まだ主行動(メジャーアクション)が残っています。

 

 半竜娘ちゃん(本体)が【巨大】を分身に使い、巨大化させます。倍率は三倍です。*5

 本体の呪文使用回数は残り3回です。

 

「ウォォォオオオ!! これで体躯も貴様と同等!! 紋章の魔神よ! 貴様の皮は後で有効活用してやろう!」

 

「は、やってみろ、半竜の娘よ! 来るが良い! 図体ばかり大きくとも、技が伴わなくてはな!!」

 

 一気に平和な街が怪獣映画になってますねえ!

 

 でも戦時だからね!

 仕方ないね!!

 

 悪いのは魔神だ!

 そして魔神の侵入を許した衛兵だ!

 責任者出てこい!

 

 てめえらの尻拭いに、これから魔神をぶっ殺してやるぜ!

 

 

 しかし、その前に、森人探検家の二度目の攻撃です!

 大弓に持ち替えての2連射!*6

 

「まだまだ森人の矢は尽きないわよ!」

 

 ダメージは24と18! 合計42!

 

「ぐっ、小癪な!!」

 

 次はいよいよ半竜娘ちゃん(分身)の攻撃です。

 

「我を見よ! 恐るべき竜の威力を見ても戯れ言がほざけるか! おお、父祖よ! 末裔の戦働きを御照覧あれ!! 【突撃(チャージング)】!!」

 

 半竜娘ちゃんは、巨大化した掌に【破裂】を込めた石を握り、【突撃】を発動します!

 彼我(ひが)の距離は50m。

 分身ちゃんの【突撃】の呪文行使は出目35で29。*7

 

 対してブレイゾンの呪文抵抗は20だったので、抵抗失敗! 半減不能!

 

 【破裂】の小石を載せた掌底を、【突撃】の勢いを乗せてブレイゾンの腹に突き立てます!

 

 【突撃】のダメージは40!*8

 ただし、呪的装甲により6点軽減され、さらに装甲により8点軽減、最終ダメージは26!

 

 さらに、紋章の魔神(ブレイゾン)の腹に突き刺さった貫手の上で、【破裂】が込められた石が4つ、その魔力を解放し、爆発します!

 ブレイゾンは呪文抵抗判定を4回行いますが、21、18、18、20だったので、いずれも【破裂】の効力に抵抗できません!

 貫手は外皮を貫いており、それにより装甲を半減させます。

 

「破裂の暴威をその身に受けよ!! トドメじゃ!! ヒートッ! エェェンドッッ!!」

 

「ぐっはあああああああっ?!?!!」

 

 ダメージは、ブレイゾンの呪的装甲を差し引いて、14ダメージ!*9

 

 初撃の短弓で19ダメージ!

 大弓の連発で42ダメージ!

 巨大化して【突撃】により26ダメージ!

 【破裂】の四重爆破により14ダメージ!

 

 累計101ダメージ!

 

 紋章の魔神(ブレイゾン)を撃破!!

 

「 成 敗 !! 」

 

 戦利品『紋章の魔神の皮(素材)』を獲得!!

 

「紋章の魔神! この半竜たる手前が討ち取ったりィィィィ!!

 

 イイィィィィヤァアアアァァァアア!!」

 

 

  ●○●○●○●

 

 

 勝どきの気勢(奇声)を上げる半竜娘ちゃんたちの周りから、一般人が引いていく代わりに、武装した人間たちが集まってきています。

 

「「 スタァァァップ!! 」」

 

 衛兵です。

 水の街の冒険者たちも居ます。

 

 ……まあそうなるな?

 

 でもなあ、それはいかんでしょ?

 

「なぁんじゃあ、きさまらぁ……」

 

 こっちは、街に入った高位の魔神をぶちのめしてやったわけよ。

 状況見たら分かるでしょ?

 

 辺境の街で古竜らを族滅したときは、半竜娘自らが呼び込んだって非があったから大人しく囲まれたけど、今回はそうじゃないだろう?

 

 そっちの尻拭いをよォ、してやったってのによォ、刃を向けるってのかァ??

 蜥蜴人の里ならまずは拍手喝采するものぞ??

 

「やんのかァ、きさまらァァ……!!」

 

 それ抜きにしても気が立ってるからね。

 フシュゥゥゥ、と閉じた牙の間から呼気を漏らし、巨大化した半竜娘ちゃん(分身)は腰を落として構えを取ります。

 半竜娘ちゃん(本体)の方も、呪文の準備をしています。

 森人探検家ちゃんは……、あれ、居ませんね?

 

 

 一触即発の空気が満ちますが、冒険者たちは一抜けしようともう下がってますね。

 まあ、“話しかけ方を間違ったのは衛兵たちだろ、おれたちしーらね!”とでも思ったのでしょう。冒険者には引き際も大事だからね。

 

 とはいえ、このままでは収まりつかんでしょ。

 

 責任者出てこーい!

 落としどころ! 落としどころさんをつれてきて!

 

 と、そのとき、じゃかじゃんっ、と弦楽器の音色が響きます。

 

「んむ……?」

 

おお! 讃えよ! 鱗の娘の(いさお)しを!!

 

 美しい声音(CV:速水奨)で響いたのは、半竜娘を讃える歌でした。

 

魔神の跋扈を許さぬは、鋭き竜の(まなこ)なり!

 

 その(かんばせ)は美姫の如く!

 

 しかし見よ!

 

 その手に宿るは竜の爪!

 

 いかなる術も、その竜鱗を貫けぬ!

 

 魔神があれば我を呼べ!

 

 血風一陣! 鎧袖一触!

 

 【辺境最大】! 半竜の娘!

 

 父祖に捧げよ魔神の血!

 

 (われ)が食らうは悪竜の、その霊宿る心の臓!

 

 竜威を宿ししこの身があれば!

 

 世に秩序の乱るることの起こるはずなし!

 

 一息に歌い上げたのは、ひとりの美声の吟遊詩人です。

 

 そばに森人探検家ちゃんの姿もありますから、彼女が連れてきたんでしょうか。グッジョブ!( *• ̀ω•́ )b

 

 皆が一瞬呆気にとられ、しかし、一番反応が早かったのは、少しずつ戻ってきていた周りの一般人たちでした。

 

 わっ! と歓声を上げたのです!

 

 それに釣られて、半竜娘も呵々大笑。

 分身の方も、どっかりと座り込み、大きな笑い声を響かせます。

 

「ふははははははは! そうよ手前(てまえ)こそは半竜の術士! 【辺境最大】の冒険者よ!! ふっはははははは!!」

 

 こういう空気になってしまえば、もうあとは流れです。

 魔神の骸を掲げて、水の街の冒険者ギルドまで練り歩き、その場で半竜娘の武勲を歌いながら宴会に雪崩れ込み、辺境の街でやってるように水精霊たち*10を呼び出して盛り上げます。

 

 事情聴取?

 

 そんなのあとあと!

 

 

  ●○●○●○●

 

 

 トロフィー【辺境最大】を取得!

 

 魔神討伐報告により、経験点1000点、成長点3点獲得!

 

 半竜娘は、魔術師の職業レベルを5→6に上げた!

 半竜娘は、新しく【突風(ブラストウィンド)】の真言呪文が使えるようになった!

 半竜娘は、冒険者技能【呪文熟達:付与呪文】を熟練段階まで伸ばした!

 

 森人探検家は、特に職業や技能の成長はさせなかった!

 

 半竜娘は鋼鉄等級に昇格した!

 森人探検家は青玉等級に昇格した!

 

 

  ●○●○●○●

 

 

 いよっし!!

 

 トロフィー獲得!

 あとは、銀等級まで上り詰めて、辺境三勇とランク的にも並び立てたなら、トロフィー【辺境四天王】を獲得できます!

 

 ただ、【辺境最大】に相応しい評判は維持しないといけないので、油断は禁物です。

 当初の予定通り、牧場防衛戦でも活躍することを目指しましょう。

 

 

 で、宴会の翌日。

 

 半竜娘ちゃんは召喚状に従って、至高神の『法の神殿』へと赴きました。

 

 なんで軍の叙勲で至高神の神殿に来る必要が?

 

 多分、場所が広いからでしょう(適当)。

 王宮と至高神の神殿は、トップ同士に『死』の迷宮で冒険者活動してた繋がりがありますし、気安いんでしょう。恐らくね。

 それか、神殿が、そういう場所貸し業務でもしてるんでしょう。

 それを裏付けるように、特に神殿側の列席者は居ませんでした。軍関係だけですね。

 

 叙勲はつつがなく終わり、こっちに来てた見届け人たる蜥蜴人部族の軍師にも、正式に退役と冒険者への転身を伝えることができました。

 混沌の残党らがある程度片付けば、また正式に式典が催されるかもしれないとのこと。

 そのときはまた呼ばれるんでしょう。

 

 さて、これで後顧の憂いなく、冒険者活動に邁進できます!

 あと、勲章には年金もついてくるので、うまあじです。

 

 そうそう、蜥蜴人軍師さんには、昨日の騒ぎで森人探検家ちゃんが連れてきた吟遊詩人(CV:速水 奨)が作ってくれた『半竜娘ちゃん武勲詩』を渡しておきましょう。

 

 未完成版なのですが、吟遊詩人はノリノリで書いてるのでそう遠くない内に、叙勲関係も加えた完成版もできるはず。

 そしたら、あとで吟遊詩人に幾らか包んで、完成版を半竜娘ちゃんの故郷に送るように依頼しときましょう。

 

 故郷に錦を飾るのです!

 

 きっと必ず広めてくれよなー! 軍師さまー!

 

 

 

 

 

 

 さて。

 

 それじゃあ用も済んだし辺境の街に帰るかー……って、なるかーい!?

 

 あんなヤバい級の魔神が単独で居るわけないだろ!?

 

 絶対に他にも取り巻きの下級魔神だの邪神官だの、もしかすると同格の魔神がまだ複数居るって!!

 

 それなのに!

 

 なんでこの街の冒険者ギルドも衛兵も動きがぬるいんだ!?

 

 巡回を増やすとかそういうことはやっている、と。

 

 そんなんで足りるものかよ、奇跡を使え呪文を使え、魔法の道具を使え、あらゆる手を使って魔神をあぶりだせ!

 

 ランク8の魔神は普通に街の存亡にかかわるレベルだぞ!

 

 剣の乙女のお膝元だから大丈夫とでも思ってんのか?

 

 はあ? 危機感さん仕事してるぅ?

 

 

 責任者出てこーい!!

 

 何度でも言うぞー!

 

 責任者出てこーい!!

 

 

 

 ……出てこないから勝手に動くぜ!!

 (責任者の一人(エロ大司教)とはフラグが立ちませんでしたねえ)

 

 

 

 何せ、武勲詩に歌われちまったからなあ!!

 

 

 “魔神があれば我を呼べ!” ってな!

 

 

 今回はここまで。

 ではまた次回!

 

 

*1
森人探検家 短弓攻撃:基礎値20+加速ボーナス3+2D614=28

*2
森人探検家 短弓ダメージ:短弓ダメージ基礎値1D6+野伏レベル7+命中ダメージボーナス4D6-曲射ペナ2-敵装甲値?。出目は26626で、ダメージ19!

*3
半竜娘の怪物知識判定:知力集中10+竜司祭レベル9+2D654。ファンブルではなかった。

*4
ブレイゾンの強化:フレーバーテキストを受けて、『呪的装甲+6』(呪文に対して6の装甲を持つものとして扱う)と『呪文増強・威力+4』(呪文の攻撃威力に+4。達人級)を持つものとします。

*5
半竜娘(本体)【巨大】行使:基礎値19+付与呪文熟達2+2D632=26。巨大化倍率は3倍

*6
森人探検家 大弓命中達成値:基礎値18+加速ボーナス3+2D624=27、2射目は23それぞれ刺突ボーナス+6 大弓ダメージ1:大弓ダメージ基礎値2D6+2+野伏レベル7+命中ダメージボーナス4D6-敵装甲値8。出目は634541で、ダメージ24! 大弓ダメージ2:大弓ダメージ基礎値3D6+2+野伏レベル7+命中ダメージボーナス2D6-敵装甲値8。出目は32534で、ダメージ18!

*7
半竜娘(分身)【突撃】行使判定:基礎値21+2D635で29。

*8
【突撃】ダメージ:助走距離ボーナス10+竜司祭レベル9+巨大化ボーナス5+4D61546で合計40

*9
破裂のダメージ判定×4:魔術師レベル5+3D6-呪的装甲値6-装甲値4で計算。一発目3413ダメ、二発目5347ダメ、三発目3143ダメ、四発目1231ダメ

*10
宴会に呼び出される水精霊たち:お酒好きな羽衣を纏った自由精霊と、契約精霊である水蜥蜴の水霊




半竜娘ちゃんF.O.E化(混沌勢力視点。オーガ戦ぶり二回目)

森人探検家ちゃんの初撃がうまくいってたら、その時点ではブレイゾンの偽装が解けず、当初の手順どおりに無力化ルートでした。眠らせて、半竜娘ちゃんの魔術師レベル上げてから【魅了】か【読心】を覚えて魔神から情報を抜く、という展開を考えてましたが、結局、暴力が全てを解決してしまった……。(なお情報を取得できなかったので【狩場】の結界でローラー作戦しつつ辻斬りする模様)

ブレイゾンの元ネタは、『デモンズ・ブレイゾン 魔界村紋章編』でしょうかね。もっと強化して魔神将・魔神王級とかにするなら、火・地・気・水・時・天の6属性のフォームチェンジを自由行動で行う、とか、無の紋章による全属性アルティメイトモードにするといいのかも。

新たな呪文の習得は、真言呪文の場合は、『既に呪文を行使可能なほどの知識は持っていたが、職業や技能のレベルがあがったことでようやく実戦レベルで使えるようになった』という解釈をしています。祖竜術の場合も同様です。『使える(呪文書片手に魔法陣を敷いて精神を長い時間かけて集中して)』と、『“実戦で”使える(己の脳内だけで呪文構築して素早く法則をねじ曲げる)』の間にギャップがあるイメージです。

呪文攻撃の装甲値軽減計算をミスってました。
【破裂】による爆破のダメージがかなり下がって見た目だけの魅せ技になってしまった…。まあしかたない。


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13/n 裏

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1.速いなりの苦労

 

 水の街への道を、爆走する馬車があった。

 

「あがががががが、ちょ、舌噛んじゃう! あだっ、ッ~~~~!」

 

「口ば閉じんか」

 

んんーん、んんーんっ(スピード、落として!)

 

「聞こえんなあ~」

 

 それに乗るのは森人探検家と半竜娘、それに彼女の【分身(アザーセルフ)】であった。

 水の街まで、軍からの勲章をもらいに出かけているのだ。

 

 一つ注釈すると、彼女らの乗る馬車は、4つの呪文の重ね掛けによって、常の四倍以上のスピードで進んでいる。

 精霊術の【追風(テイルウィンド)】、交易神の奇跡【旅人(トラベラー)】、二頭の馬車馬それぞれに掛けられた真言呪文【加速(ヘイスト)】の相乗効果だ。

 

 随分とぜいたくな呪文の使い方だが、これはせっかくの遠出の機会にと、半竜娘らが呪文の組み合わせの試運転をしようとしたからでもある。

 

 そのおかげか、早速問題点が明らかになっていた。

 大きくは四つ。

 

 まず一つは路面の問題。

 普通の速さで走るには問題ないが、四倍以上の速さともなれば、路面の些細な凹凸が乗り心地にかなりの悪影響を与えている。

 荷台に乗っている方はたまったものではないし、路面が削れて深く(わだち)が残るのも良くないだろう。

 

 もう一つは、馬車の耐久性の問題。

 車輪は削れていっているし、跳ね上げるような衝撃によって、車体も車軸もミシミシ言っているし、釘や組木も緩んでいっているような気がする。

 いまだに空中分解してバラバラになっていないのは、交易神の奇跡【旅人】によって、多少なりとも車体の強度も上がっているからだろう。

 神の御業は、その辺抜かりないのだが、【追風】は車体強度には関係ないし、【加速】は馬車馬への作用だから、その分、車体に無理がかかっている。

 

 さらに一つは、振動による乗員の疲労。

 短い時間で済むとはいえ、この振動は乗っている者の体力を削る。

 持久力のある半竜娘は良いが、森人探検家は多少疲労してきている。

 弓の腕が鈍るほどではないし、乗り物酔いにまではならなかったが……。

 

 最後の一つは、人目を惹きすぎることと、他の通行者の迷惑になること。

 なにしろ必然、他の馬車を追い抜きまくることになる。

 目立つし、危ない。

 ぶつかったなら、お互い無事では済むまい。

 

「改善の余地ありじゃのう。いっそ車体は、【降下(フォーリングコントロール)】か何かで浮かせるか」

 

 中腰で立って振動を脚に吸収させながら、手綱を捌きつつ半竜娘は改善策を考える。

 

「車体の強化は必須じゃし、車輪や板バネだとかも改良の余地が……。すると重くなるから馬車馬も上等なものの方が……。いや、いっそ馬車は引かせずに騎乗したほうがよいかの? しかし荷物が積めねばなあ」

 

「んんん、よっと!」森人探検家が、半竜娘の上半身に飛びつき、組み付いた。「はあ、ここなら揺れないわね」

 

「……まあ、構わんが」

 

「スピードを緩めないってんなら、この程度我慢しなさいよねー! まったく!」

 

 飛びついてきた森人探検家の吐息に耳をくすぐられつつ、半竜娘は結論を出す。

 

「とりあえず、あとで改善点を箇条書きにして、馬車屋だのの専門家に相談じゃなあ。専用のものを仕立てねば危なっかしいわの」

 

「そうねえ。早いのは良いんだけど、これじゃ車体が持たないでしょうし。でも、大商会向けとかに、超高速仕様の馬車とかもあるかもしれないわよ?」

 

「それも含めて専門家に聞くことにしよう。さて、帰りは、まあ、どれか呪文一つ分にしとくかの」

 

「賛成。それが無難よ。ていうか、呪文四つは贅沢すぎでしょ」

 

 …………。

 ……。

 

 さらに馬車を走らせて、なんとか無事に水の街に着けたが、実際はかなり紙一重だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

  ○●○●○●○

 

 

2.吟遊詩人の冒険譚

 

 

 私はしがない吟遊詩人。

 

 持って生まれた美声(CV.速水奨)を武器に、歌を生業にしている。

 街の噂、冒険者の英雄譚、貴人にまつわる昔話。

 

 世の中には面白い事件、人々の興味を引く事物は多いが、私たちのような吟遊詩人が語らねば、なかなか広まりはしないものだ。

 

 さて今日も一通り歌って、店じまい、というところで、私は一人の森人(エルフ)につかまった。

 

 最近、妙に森人に縁がある。

 この間は、上の森人(ハイエルフ)に小鬼殺しのことを聞かれたのだったか。

 

 しかし、この森人は随分と急いでいる様子。

 息を乱し、頬を染め、乱れ髪でもサマになっているのは、流石だが、はて、何用か。

 

「何か御よ――」

 

「歌を即興で! こっち来て!!」

 

「――おっとぉ!?」

 

 強引に手を掴まれて走り出す。

 これが駆け落ちであれば洒落たものだが、どうも違うようだ。

 

 走る方向は、人の流れとは逆方向。

 

 向かう先には、巨大な黒髪・黒鱗の女蜥蜴人のハーフが見える……いや、それにしても大きい。

 魔術の効果なのだろうが、話に聞く巨人ほどはある。

 

「ええと、お嬢さん、一体何を? あっちに見える巨人の女に関係が?」

 

「状況説明するわ!

 あっちのでっかい蜥蜴人の娘が街に忍び込んでた魔神を見つけて殺した!

 でも褒められないどころか衛兵連中に囲まれたから怒ってる!

 だから褒めて気をそらしてあげて!」

 

「ほう! 魔神殺し! それは良い!」

 

「ついでに言うと古竜殺しよあの娘!」

 

「なんと! そういえば、辺境の街から古竜の素材が入って来たとか聞いておりましたが、まさか古竜殺しの張本人とは!」

 

「半竜の娘で、いかにも蜥蜴人らしく武勇を誇る。自慢の爪、自慢の鱗! 武道家にして竜司祭で魔術師! 得意の術は見てのとおり! ああしておっきくなって、敵に突っ込んで薙ぎ倒す!」

 

「よござんしょう。それだけ分かればひとまずは十分。一曲、良い武勲詩を仕立てて魅せましょうとも!」

 

「お代は弾むわ! 出来次第で何なら専属になってくれてもいいのよ?」

 

「魔神殺しにして古竜殺しの専属とは、また詩人冥利に尽きますなあ!」

 

「ほんっと、頼むわね!!」

 

 見ればいよいよ、(くだん)の女蜥蜴人ハーフは、衛兵たちと衝突を起こさんとしている。

 

 どうせ大方、衛兵どもが手柄を横取りでもしようと悪心を起こして引っ込みがつかなくなったか。

 衛兵たちも基本は好漢が多いが、質の悪いのに当たったのやも。

 

 いや……、そういえば、法の神殿の侍祭殺しは捕まっていなかったか。

 半竜娘が片付けた魔神を主犯として、片をつけようとでも思ったか?

 “剣の乙女”の覚えをよくしようと? あのお方はまことにお美しいものなあ! あの(つや)やかさで大司教は無理でしょ、など(ひそ)やかに思ってはいるが。

 

 まあ、勘繰りは後で。

 

 今はあの半竜の娘よ!

 

 

 この場を私の歌で(おさ)めたとなれば、私の詩人としての格も上がろうというもの!

 

 私の知る歌にも、猛る竜を己の歌で聞き惚れさせて大人しくさせるというものがある。

 それを想えば、これは私の冒険譚ともなろうか?

 吟遊詩人に必要なのは、(歌唱の)力と、(時宜を逃さぬ)狡猾さよ。さすれば勝つ!

 

 

 ――さあて、いざ。私の歌を聞くがいい!

 

 

 手に持つリュートを掻き鳴らし、私は声を張り上げた。

 

おお! 讃えよ! 鱗の娘の(いさお)しを!!――」

 

 

 

 

 

 

  ○●○●○●○

 

 

3.勲章と暗躍

 

 

 水の街にある法の神殿の一角。

 叙勲の会場として借りられたそこでは、半竜娘が勲章を受け取るのを見ようと、吟遊詩人をはじめとして、少なくない人が押しかけていた。

 前日の紋章の魔神討伐騒動で、名を売った影響のようだ。

 

「魔神将に匹敵する黒き古竜を討伐したことを讃え、ここに勲章を授ける」

 

「謹んで拝受いたす」

 

「うむ、先だっての魔神討伐の件も聞き及んでおる。この西方辺境の秩序への貢献見事。今後も精励されたし」

 

「御意」

 

 国王の名代である只人の軍役人から、壇上で勲章を受け取り、半竜娘は頭を下げる。

 煌びやかな司教服に付けられた勲章が揺れる。

 王国のではなく、諸族連合としての勲章、らしい。

 

 そして、続いては、蜥蜴人の軍師が、半竜娘に声をかける。

 手には大きく派手な色の羽飾り。蜥蜴人の勲章に当たるものだろうか。

 

Votre succes est(貴君の手柄は) la fierte de notre(まさしく) ville natale.(我らの誇りである。) よくぞ生還した、半竜の娘よ。大儀である!」

 

Grace a la revelation(すべては) du dinosaure, jai(恐るべき竜の) pu jouer un role actif.(お導きです) 祖竜の導きにより、父祖に恥じぬ働きをしたまでにございます」

 

「謙遜せずとも良い! 纏う竜氣を見ればわかる、随分と位階も上げた様子! 手合わせでも、と言いたいが、すぐにまた戻らねばならぬ身」

 

「水の街でお待ちいただいていたようで、かたじけなく」

 

「良い、斯様な勇士を讃えるためとあらばな。この地でも案外と爪爪牙尾を振るう相手には事欠かなかったゆえ」

 

 詳しい話はまたあとで、と目で合図を交わして、壇上の次第は終わった。

 

 

 

 そのあと、個別の話をすべく、蜥蜴人軍師は、半竜娘たちを控え室へと誘った。

 一党の一員である森人探検家と、控えさせていた分身体も一緒だ。

 

 

「ようこそ参られた。そちらの森人の方も、どうぞ入られよ。そしてそれは【分身】の真言呪文か、魔術(こちら)の腕も上げたようだな」蜥蜴人の軍師は、如才なく半竜娘たちに椅子を勧めた。

 

「して壇上ではなかなか時間も取れなかったが、なんぞあるのであろう? こちらも確認したいことがあるが、そちらから話すがよい」

 

「かたじけない。軍師殿、まずは手前(てまえ)の進退についてじゃ。単刀直入に言うが、退役して、暫くはこの西方辺境の地で冒険者として活動したい」

 

「ふ、こちらの話題もまさにそれよ。しかしそうか成る程……。まあ、良かろうさ、魔神王も討滅されたゆえな。我らの部族も、貴君の活躍のおかげで、随分と面目が立った。その程度の願いを聞くのは(やぶさ)かではない。冒険の道が祖竜の導きによるというなら、なおのこと。

 それに冒険者となるのであれば、それはそれで使いでがある」

 

「かかか、なんぞ依頼があれば適正価格で請け負うても良いのじゃよ?」

 

 退役話は無事終了。蜥蜴人は直截(ちょくさい)な物言いを好むので話が早い。

 

 まあ、蜥蜴人は生涯戦士であるから、退役といっても単にフリーランスとなる宣言でしかないし、只人のようにわんさかと書類を積んで軍を運用しているわけでもなし、軍籍の概念も曖昧だ。

 

「それで、話は終わりか?」

 

「ああ、いや! こっちがむしろ本題でな! 腕の良い吟遊詩人から武勲詩を贈ってもらったでな、故郷の者どもにも伝えてほしいのじゃよ!!」

 

 そう言って、半竜娘は、武勲詩を書き写した紙束を差し出した。

 

「ほうほうほう! 良きかな良きかな! 貴君の活躍は、こちらも詳しく聞きたいと思うておったところ!」

 

「おう、聞かせちゃるともさ!」

 

 それまでは森人探検家に配慮して共通語(コイネー)で話していた蜥蜴人たちであったが、そこからは鱗者の言葉で流々と会話が始まってしまった。

 そういえば確か、蜥蜴僧侶相手にも似たような語りをしていた気がする。

 

 森人探検家は、この場所を貸している神殿の小間使いが入れてくれたお茶に舌鼓を打って、待つことにした。

 

(長く生きてるけど、蜥蜴人の言葉は覚えらんないわねー。折角だから、そのうちこの子から習ってみるかしら)

 

 と、ぼんやりと眺めていたのだが、急に蜥蜴人たちの会話が共通語に戻った。

 

「ああ、お主にも聞いておいてもらいたいのじゃが。どうも、やはり魔神は昨日の者だけではないようじゃ」こちらを見て半竜娘がそう言った。

 

「そりゃあそうでしょう。あれだけの高位の魔神が、単独でってのがおかしいわ……って、そちらの鱗の御仁も交戦したってことです?」森人探検家も、先日の魔神が単独だったことは疑問に思っていたところだった。

 

「いかにもである、森の人よ。紋章の魔神ほどではないが、中小の魔神とは何度か戦っておる。戦場の癖で【狩場】の祖竜術を使って寝るようにしていてな、奴らは人に化けて紛れておるようだが、それですぐに知れたのだ。あとはこちらから逆撃よ」

 

「確かに化けて入り込むのは常道ですね。衛兵にはそのことはお伝えに?」

 

「うむ? 一度目だけな。奴ら何故か、『内密に』などと抜かしよったから、それ以降は知らせておらん」

 

「……それは……」

 

「そういえば、紋章の魔神が、誰に化けておったのかは、手前(てまえ)らも見ておらんのじゃよな。あるいは、それは、治安当局の誰か、であったのやも」

 

「ふん、只人の流儀も難儀なことよな。上に不信を持っても、指揮系統の末端は、そうそう逆らえん」蜥蜴人軍師はおそらくは溜め息だろう様子で、鼻を鳴らした。

 

「蜥蜴人であれば、上がそんな妙ちきりんなこと抜かす“すくたれもん”になったらば、即座にぶちのめして終いじゃのにな」

 

(しか)(しか)り」

 

 蜥蜴人たちの文化圏ではそうなのだろう。白黒つけるなら、殴り合うのが一番だという連中だ。

 

「まだ決まったわけではないでしょうに。憶測で物を言わない方が良いのでは?」森人探検家が、一応(たしな)めてみるが、本人だって本気で擁護しようとしているわけではない。

 

「お主も内心疑っておっただろうに」

 

「それでも言わぬが花というやつでしょ。

 それで、軍師様、注意喚起のために、語りを共通語にしたのです?」森人探検家は、蜥蜴人軍師に問うた。

 

「それに加えて、こちらでつけていた記録を渡そうと思うてな。魔神連中との遭遇・交戦・撃破の記録を」

 

 蜥蜴人軍師は、そう言って手荷物から紙束を出した。

 

「どんな輩と、いつ、何処で戦ったかという記録だ。使うかどうかは任せるが、恥ずかしながら逃がしたやつもおるゆえ、貴君らがやる気なら役に立つだろう」

 

「おお! かたじけない! 紋章の魔神は何を聞く間もなくトドメを刺してしまったからの! しかも擬態が解けたときに炎を出しおったせいで、何も手がかりが残っておらんでな」

 

 半竜娘が蜥蜴人軍師から紙束を受け取ると、パラパラと一読していく。

 

「頼もしい勇士が引き継いでくれるなら安心よ、しっかり手柄を立ててくれ」とは軍師の言葉。

 

「次に郷里に武勲詩を送るときには、この顛末もきっと歌にして送るとしよう!」半竜娘はしっかりと請け負った。

 

「期待しよう!」蜥蜴人軍師は獰猛に笑った。

 

 

 

 

 

  ○●○●○●○

 

 

4.手前(てまえ)なら7日で十分よ

 

 勲章も貰い、軍の職も辞して、武勲詩も預けて一段落。

 

 紋章の魔神の皮については、冒険者ギルドから紹介された信頼できる筋に、その抗魔の力を保ったままに外套に加工するように依頼したところだ。

 討伐報酬の大部分を手付けで持って行かれたが、まあ仕方ないだろう。

 (なめ)して革にする工程から魔術処理が必要であるし、そもそも抗魔の力が籠もっているものに魔術処理をしようとするなら、それ以上の腕を持つ凄腕の錬金術師が必要だ。

 それでも料金が高いだけあり、出来上がりを早めるために、時を早める【風化】の精霊術まで多用しているとかで、今日明日ではないものの、ひと月と経たずに出来上がるのだという。

 

 そして今は、冒険者ギルドで何かちょうどいい依頼がないか探しつつ、魔神の陰謀について考えを巡らせているところなのだ。

 

「んー、魔神関係は特に無いわねー。見回りの依頼はあるけど」森人探検家が優れた視力で依頼票を眺めている。

 

「水路関係の依頼もないのう、溝浚(どぶさら)いやら、大鼠退治やらが。……昨日聞いた通りじゃな。ここの街の冒険者らは、なぜ保全(メンテナンス)の依頼がないかまでは知らんらしいが」半竜娘は首を傾げる。「役所やなんかが自前でやっとる訳でもなし」

 

「役所でやってたら、ますます冒険者ギルドに下請けに出さない理由がないでしょ。おそらく本当に何もしてないのよ」

 

「となれば、遺跡の自浄機構が生きておるのか、なんらかの術だの魔法生物だのかのう」

 

 半竜娘の脳裏には、辺境の街の地下に潜んでいた万能細胞の巨大粘液体のイメージが浮かんでいた。

 下水路の処理に、ウーズだのスライムだのというのは、いかにも有りそうに思える。

 

「多分そうなんじゃないかしらね」

 

「しかしそれにしては不思議じゃのう」

 

「そうよねえ。そういう遺物なり何なりがあったとすれば、その統括はきっとこの街の中心……至高神の法の神殿でしょう? ということは、街の地下を通じて、人々の目から隠されたものも全て見通せてるはずよ」

 

「目の届かない場所……つまりは混沌どもの好みそうなところよの。なのに、魔神は野放しになっておる」腕組みをして半竜娘が唸る。

 

「何らかの理由で、遺跡の機構が動いておらんのか?」

 

「可能性はあるかも。機構そのものが壊れたか、乗っ取られたか。機構を動かすのに術者が要るなら、そちらを押さえられたのかも?」

 

「例えば、ひと月前に殺された侍祭の少女が統括術者、とかかの?」

 

「うーん、流石にそれは無いんじゃないかな。まあ、でも、メッセージではあるかもね」

 

「見せしめ? ビビらせようとしておるのかのぅ」

 

「この間、先の先の魔神王を討伐した“剣の乙女”を? それこそまさかでしょう」

 

「しかし、至高神の神殿の他の巫女らはそうもいくまい。内部が揺れれば、(おさ)はそう軽々と動けなくなる。それだけでも十分じゃ」

 

「ふーむ、動きを押さえる、か。そうすると、治安の擾乱(じょうらん)なんかも、いかにもって感じよね」

 

「誘拐なんぞはまさにそうじゃろうなあ。不安を広げて、生け贄の類も手に入る」

 

「確かに。……ねえ、あなたならどうやって攻める? この街を」

 

「そうじゃのう、まあ、7日あれば落とせよう。ここは遺構の上に建っておるからのう、地下の水路を巡り、街を支える柱や壁を壊すなり抜くなりしてスカスカにして、最後にドカン! じゃ。そうすりゃ街は落ちるじゃろう」

 

「落とすって物理的になの? まあ攻め落としてるのに違いはないけど」

 

「そういうお主ならどうするのじゃ?」

 

「まあ、毒よね」

 

「王道じゃな」

 

「あとは、あの紋章の魔神を3、4体も潜り込ませられれば、火付けしてやるかしら」

 

「水の街に火付けは厳しくないかのう」

 

「なら事前に川の流れでも変えて水を絶っておく? それか逆に上流で大雨降らせ続けて水攻めか」

 

「そもそも魔神を潜り込ませられるのであれば、同じ手でどんどん兵隊をば送り込めば良かろうよ」

 

「確かにね。あとは、調略して上層部だの富裕層だのの一部を寝返らせておけば、まあ十分よね」

 

「軍師殿からいただいた記録でも、上級市街(そっち)側での遭遇が結構あるのう」

 

「そりゃあ軍師さんの行動圏がそうだったからでしょうよ」

 

「いや、行動圏が理由なら、魔神どもは街の全域に満遍なく出るということになるが?」

 

「地下水路の遺跡を通るなら、そうなんじゃないの?」

 

「ふぅむ……。しかし、その割にはまだ破壊工作の規模が大きくないのが、やはり気になる」

 

「じゃあ、遺跡の自浄機構なり、防衛機構は、まだ完全には沈黙してないってことじゃない?」

 

「そういうことになるか……。しかし、時間の問題であろう、魔神の跳梁を許す程度には押されて、徐々に機能を失っておるようじゃし」

 

「あるいは魔神側が、それ以上の負荷で飽和させようとしてるのかもしれないわよ?」

 

「いや、ひょっとすると、街自体は第一目標ではないとしたらどうじゃ?」

 

「あっあー、そうか、その可能性はあるわね」

 

「そも、混沌の奴ばらの目的はなんじゃ?」

 

「……このタイミングだと、やっぱり魔神王の復活?」

 

「であろうの。あるいは、そのための布石じゃ」

 

「怨恨や報仇のセンは?」

 

「それもあり得る。“剣の乙女”など先の先の魔神王との因縁もあるし、丁度良いシンボルじゃわいな。それに只人の全盛期は短いゆえ、十年前よりは相手取りやすいやも。狙いとしてはおかしくなかろう」

 

「なるほど、“剣の乙女”の心を折りたい、その上で絶望の内に生け贄に捧げたい、なんて考えてたら、街の破壊は優先度が落ちるかも」

 

「侍祭殺しもその一環かの?」

 

「なくはない、わね」

 

「そしてやがては街そのものを生け贄に、かの? 魔神王の復活のための供物はどの程度が要るのかや?」

 

「そんなの知ってるのは邪教の輩だけよ」

 

「ならば見つけて問わねばなるまい」

 

「まあ、そういうことねえ」

 

「長々と話したが、やることは結局、あれじゃな。片っ端から見つけてぶっ飛ばす」

 

「そういうことねえー。相手のリソースを削って、手掛かりも得られるかも知れないし」

 

 これしか出来ないわけではないが、これが一番スマートなのだから仕方ない。

 

「地下水路はどうする? あっ、いま、ゴブリン退治の依頼が貼られたわ」

 

「先ずは地上から行くのじゃ、軍師殿の資料もあるから目星もつけやすいしのう。……って、ゴブリン退治じゃと? 地下水路で?」

 

「そうみたいよ?」

 

「雑兵が拠点の地下に送り込まれてきておるとか、いよいよ末期ではないか……」

 

「とはいえ、魔神の方が脅威度は高いから、対処はそっちからかしらね。ゴブリンなら白磁やら黒曜やらの出番でしょ。私たち昇級したから、よっぽど塩漬けにならないとゴブリン退治は受けさせてもらえないかも」

 

「そうじゃの。それに地下水路の地図もない。先ずは精霊に少しずつマッピングさせるところからかのう。遭遇戦で間引くくらいはできるかも知れんが」

 

「……ゴブリン退治は、何日か後に手が余ればって感じね」

 

「先ずは魔神(デーモン)どもからじゃな」

 

 そう言って、半竜娘は立ち上がった。

 街の見回りの依頼を受けるつもりなのだ。

 

「わざわざ依頼受けるの?」

 

「分身に見回り依頼の方に行かせる。分身と手前(てまえ)の二手に別れて、それぞれ【狩場】を使った方が効率的じゃからの。【狩場】の呪文には仲間が必要じゃが相棒はお主だけじゃし、依頼に同道した冒険者を臨時の媒介にすれば、どちらも結界を張れるしの」

 

「でも、衛兵の方に混沌のシンパが居たら、見回り依頼の方は空振りになるように手配するでしょ? 無駄足にならない?」

 

「空振りになる場所が分かるのも収穫じゃろ。そして、空振りになる場所を知るためには、やはり見回り依頼を受けねばならん」

 

「分かったわ、それで行きましょう」

 

 その夜から、半竜娘たちは、魔神を狩り出すためのパトロールをすることにした。

 片方は、分身体の半竜娘が、正規の依頼に参加して。

 もう片方は、半竜娘の本体と森人探検家のペアで、見回り依頼の無いところで、蜥蜴人軍師の資料と照らし合わせて、いかにも出そうだと目星を付けたところへと自主的に赴くのだ。

 

「行動開始じゃ!」

 

 

 

 

 

 

  ○●○●○●○

 

 

5.貴様に名乗る名前はない!!

 

 

 夜の水の街。

 その暗い路地で、うら若き乙女が連れ去られようとしていた。

 絹を裂くような悲鳴が響く!

 

「いやっ! やめてっ、助けて!!」

 

「DEAAAAMOOOOONNN!!」

 

「誰かー!!」

 

 ああ、この乙女の危機に、誰も助けに来ないのか!?

 

「待てィ!!」

 

「EANOMD!??」

 

 否、否、否!!

 

 路地を囲む建物の(いらか)に、仁王立ちする影あり!

 長い髪、夜に溶けるような烏色の鱗、長い尻尾。

 そう、半竜娘の登場だ!

 

「乙女を連れ去り贄にせんとする悪鬼、その乙女の声に駆けつける者あり……。悪の栄えた試しなし。人、それを『必然』という」

 

「NANIMONODA!?」

 

貴様に名乗る名前はない!!

 

「!?」

 

 卑劣漢への名乗りなど不要!

 既に半竜娘は、手で真言呪文の印を切っている。

 使う呪文は【突風(ブラストウィンド)】!

 

ウェントス( 風 )クレスクント( 成長 )オリエンス( 発生 )!」

 

 事前に掛けておいた【加速】のボーナス*1も乗って、【突風】の効力値は41! クリティカルだ!*2

 

 【突風】の術は、術者を中心に半径60mの範囲内で、任意の直線上に突風を吹かせて、対象を転倒させつつ運ぶとともに風属性ダメージを与える術!

 今回はクリティカルの上、達成値が非常に大きいので、対象の魔神は為すすべもなく吹き飛ばされる!

 

 吹き飛ばす方向は……上だ!

 

 眼下10mで乙女を襲う魔神を対象に、半竜娘の上空60m(地面から70m)まで、突き上げる気流(ノックアップストリーム)!! 魔神への風属性ダメージは16!!*3

 乙女は対象から除外したため、影響なし!

 

 半竜娘は登りくる魔神を板に見立てて、その上に乗り移るようにして諸共に上昇!

 

 魔神とともに上空70mに達した半竜娘は、自由行動(マイナーアクション)で【降下(フォーリングコントロール)】を発動!!*4

 

土精(ノーム)土精(ノーム)、バケツを回せ(降ろせ)ぐんぐん回せ(ゆっくり降ろせ)回して離せ(降ろして置いてけ)!」

 

 先ずは魔神に対して重力二倍!!

 同時に下向きにキック!!

 

「祖竜の導きを! ストームキィィィィック!!」

 

「DEAAAAMOOOOONNN!??!」

 

 70mの距離を落ちてゆけ!!

 落下ダメージは、落下距離の50%×1D6×重力倍率2。出目は2だったので、ダメージは35×2×2で140!

 落下ダメージは装甲による軽減不能!

 

「DEAD!!!???」

 

 魔神は地面のシミになった!(人質の乙女には当たらなかった)

 

 続いて半竜娘の落下…魔神が落下したのを見届けてから【降下】を重力軽減に切り替え!*5

 落下速度を10分の1に変更!

 

 さらに上手く着地できたか判定のため、落下距離70×重力倍率0.1×3=21を軽業判定!

 結果は成功!*6

 落下ダメージを半減。落下ダメージは、落下距離の半分35×1D6(1)×重力倍率0.1×軽業判定成功0.5=1.75。切り上げで2のダメージ! 掠り傷だ!

 

「た、助けてくれて、あ、ありがとうございます!」

 

「うむ、気をつけて帰るのじゃぞ!」

 

 そう言って半竜娘は襲われていた乙女を見送った。

 

 …………。

 ……。

 

 そこへ追いついてきたのは、森人探検家。

 

「ちょっと! さっきのは危ないし、【狩場】のリンクも切れちゃうからやめてよね! だいたい、私の弓矢で十分やれたわよ! それに重力操作しなくても、【突風】で上に吹き飛ばすだけで良かったでしょ!?」

 

「でもかなり気持ちよかったのじゃ! 次はあらかじめ落下地点に土の自由精霊に【隧道(トンネル)】で穴を掘ってもらって、さらに敵の落下距離を延ばすのじゃよ!」

 

「反省しろー!!」

 

 

 

 

  ○●○●○●○

 

 

6.ゴブリン退治といえば……

 

 数日のあいだ、半竜娘たちは魔神を炙り出すべく水の街を駆けずり回った。

 おかげで相当数の魔神を殺し、誘拐などの事件を未然に防げたし、半竜娘たちを警戒してか、魔神絡みと思われる事件も減ったように思われる。

 

 しかし、そのあいだも、ゴブリン退治の依頼は残ったままだった。

 

「そろそろゴブリン退治(こっち)もマズいのう……」

 

「そうね、何処かから送り込まれて来てるなら、もう軍隊みたいな数になってるかも……」

 

 森人探検家がうんざりとした顔で、ギルドの机に突っ伏す。

 そこから見える依頼票掲示板には、ゴブリン退治の依頼が残ったままだ。

 

「依頼を請けた水の街の白磁やら黒曜やらの冒険者も戻っておらんのじゃろ?」

 

 半竜娘は、契約精霊の水蜥蜴の水霊に、日課のお供え物をしている。果物と蜂蜜酒が、小さな水蜥蜴の腹に消えてゆく。

 

「そうみたいなのよねえ。マッピングのために貴女が潜らせてる精霊も何匹かゴブリンをやっつけてるけど、遭遇頻度も多くなってきてるみたいだし、その程度じゃ焼け石に水よねえ」

 

「夜の街で【狩場】を使っても、地面の下での反応がうじゃうじゃ増えてきておるのが分かるしのう。あれゴブリンじゃろ」

 

「ああ、こんなとき」「こんなときこそ……」

 

 二人は揃って慨嘆する。

 

「「小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)がいたらなあ……」」

 

 

 

 

 

 

 

 

呼んだか

 

 

 

 

 

 

 

 ビクゥッと半竜娘と森人探検家の肩が跳ねた。

 

「そ、その声は、ゴブリンスレイヤー!!」

 

「水の街に来ておったのか!?」

 

「そうだ」

 

 声の方を見れば、汚れた革鎧に、飾り角の落とされた全面兜、円盾、半端な長さの剣……いつもの出で立ちのゴブリンスレイヤーの姿が!

 

「それで」

 

 彼が来る理由など決まっている。

 

「ゴブリンか?」

 

「そうよ!」「その通り!」 

 

「「ゴブリン退治よ!!」」

 

 

 小鬼殺しが来たなら百人力よっ!

 

 

「いいだろう、ゴブリンは……皆殺しだ」

 

 

*1
半竜娘【加速】行使:真言行使基礎値20+付与呪文熟達3+2D6(46)+クリティカルボーナス5(生命の遣い手効果)=38。加速ボーナスは、全判定に+4。

*2
半竜娘【突風】行使:真言行使基礎値20+加速ボーナス4+2D6(66)+クリティカルボーナス5=41。

*3
半竜娘【突風】ダメージ値:魔術師レベル6+4D6(2236)-装甲値3=16

*4
半竜娘【降下】行使:精霊術基礎値15+加速ボーナス4+付与呪文熟達3+2D6(14)=27。

*5
フォーリングコントロールの裁定:発動中の重力倍率の操作が可能かどうかはGMによる。駄目なら二度目のフォーリングコントロールで重力を軽減することとする。(でも、コントロールって名前の呪文なんだから、対象ごとの個別操作は無理にしても、維持中の対象一律なら倍率操作は出来そうだよなー)

*6
半竜娘軽業判定:技量集中7+武道家レベル6+体術2+加速ボーナス4+2D6(14)=24で、目標値21を上回ったので成功!




(ゴフスレさん来たし)勝ったな、ガハハ。


次回:14/n 「14へ行け」


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二周目レギュRTA 目指せ【辺境四天王】~辺境守護編~
14/n 「14へ行く」のは……~堕落衛視長討伐~大目玉墜死


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 14、冒険者たち、陰謀、何も起こらないはずもなく……でもタイトルで大体オチてる! な実況、はーじまーるよー!

 

 前回は勲章もらって、街に出没する魔神をぶちのめすぞー! ってところまででしたね。

 

 その後、順調に辻斬りしたりロム兄さんリスペクトしたりして魔神(デーモン)をスレイしました。

 格の低いデーモンなんか行殺じゃ!*1

 ロム兄さんについては、たぶん叙事詩(サーガ)にそういう英雄が居るのです、神代に神々が作った超合金ゴーレムたちの族長の息子とかです、きっと。

 

 そして、大きな街で、住民の目に見える形で活躍をすると、功績点の貯まり方がハンパないですね。

 あとはやはり、美声の吟遊詩人をほぼ専属にして話題を提供してもらってるのも大きいです。

 この時代のマスコミといえば、吟遊詩人たちですからね。

 玉石混淆(ぎょくせきこんこう)の彼らの中から、腕の良い人を見つけてきた森人探検家ちゃんはキンボシオオキイです!

 

 これで、本RTAの目標である、トロフィー【辺境四天王】獲得に向けて、攻略を加速できそうです。

 このトロフィー獲得のためには、銀等級までの昇格が必要ですからね。

 

 

 とかなんとかやってるうちにも、街の地下にはゴブリンが蔓延(はびこ)り、軍勢の規模になってしまっています。

 

 うわあ……。

 

 やってやれないことはないけど、ひたすらに面倒……まだ魔神もいるだろうし、どうすんべ……というときに……!!

 

 ゴブリンスレイヤーのエントリーだ!!

 

 この安心感よ!!

 

 (つるぎ)の乙女が、ゴブリンスレイヤーさんに依頼を出したんでしょうね。

 

 いーなー、半竜娘ちゃんにもなー、高レベルキャラクターとのコネクション欲しーんだけどなー。

 前回、責任者責任者叫んでも、衛視側とも法の神殿側ともフラグ立たなかったんですよね。

 

 まあ、叙勲関係で王国上層部や蜥蜴人部族には認知されてるので、いいんですけど。(負け惜しみ)

 

 

 衛視側とフラグが立ってたら、なんか今回のセッションだと、そっちの結構重要なポジションに魔神シンパが浸透してるぽいので、RTA的にはそいつ等を踏み台にすることで事件解決までの時間短縮になりそうです。そこから芋蔓(いもづる)式に邪教団をぶっ飛ばせばいいのでね。

 

 目星でクリティカル出せばヤサが割れて邪教団の本拠地に押し入れるでしょって?

 

 それは超勇者ちゃんだけっすよ。

 しかも、あっちは実は、超優秀な賢者ちゃんが集めた膨大なバックデータからあたりをつけて、最後の一押しを超勇者ちゃんの直感が突破するスタイルなので、賢者ちゃん並みの情報収集・処理能力が前提にあるんですよ。なかなか真似できません。

 

 法の神殿側は、単純に今後のコネクションがうま(あじ)なので接触を持ちたかったんですが、やはり異種族オンリーパーティーだと、フラグが立ちづらいようですね。ここは只人の領域ですから。

 もうちょっと等級が上がれば、お呼ばれする確率も上がるんですが。

 せめて銅等級以上は必要ですかねえ。

 

 それか、邪教の見せしめに殺されちゃう侍祭の娘を、殺される前に助けて介入するかですね。これで神殿とのコネができます。

 

 小説版ルートだと、オーガ戦とゴブリンロード防衛戦の間くらい(女神官ちゃんの冒険者登録から1ヶ月半から2ヶ月目まであたり)か、ゴブリンロード防衛戦直後あたりに、侍祭殺害事件が起こってるっぽいので*2、いくらでも介入しようがあったのですが、アニメ版だと逆算すると、女神官ちゃんの冒険者登録のあと半月くらいで殺されちゃってるみたいなので、今回のルートでは間に合わなかったんですよね……。

 

 え、そのタイミングだと、まだ魔神王がやられるより前なのに、何で殺されちゃうのかって?

 魔神王復活のための陰謀なのに、魔神王が生きてるうちに始まるのはおかしいだろって?

 

 いや、主犯の邪教団って、剣の乙女さんを狙うことからも分かるんですが、『死』の迷宮に降臨した方の魔神王を復活させようと数年かけて活動してたような輩でしてね。

 

 こいつらが復活させようとしてる魔神王は、超勇者ちゃんがやっつけた方の魔神王とは、多分別個体なんじゃないかな。ドラクエだってラスボスはいつも違うでしょ?

 

 とはいえ、この邪教団だって、新しい魔神王の勢力からも支援を受けていた可能性は高いです。

 「りゅうおう」と戦おうぜってときに、後方で「ゾーマ」復活の蠕動(ぜんどう)とか、やられたらイヤですよね?

 人のいやがることは率先してやりましょうって、やかましいわ!!

 

 そして新しい魔神王が暴れるのに合わせて、いよいよ水の街を落とそうと、計画発動させて、手始めに侍祭の娘を殺したのだと思われます。

 

 ところがぎっちょん。

 

 そしたら、新しい魔神王は超勇者ちゃんに速攻で吹っ飛ばされてしまうし、とはいえ計画には着手してるからこのまま進めるしかないしで……。

 雲行きは怪しいものの、後には引けない!

 行くとこまで行っちゃらー!?

 

 とまあ、こんな感じの事情があるのではなかろうかしら。おそらくですが。

 

 

 では、今回はゴブスレさんがもう来ちゃったので、彼とその一党に協力しましょう。

 実際、森人探検家ちゃんが同行して【逆転】の奇跡を使うだけでもかなり安定感が増すはずですが、ゴブスレさんたちに同行するかどうかは今後の展開次第ですね。

 

 やはり同時行動する人数が多すぎるのがネックですねー。

 それに、邪教団には超勇者ちゃん、ゴブリンにはゴブスレさんをぶつけるから良いとして、衛視側の魔神シンパはどうするの、って話でもあります。

 まあ、そしたら、衛視側は、半竜娘ちゃん一党の出番ですかね。

 

 

 とりあえず、ゴブスレさんと情報共有です。

 これまでに遭遇した敵や、地下水路に増えているだろうゴブリンたち、その増えるペース、【狩場】の結界で得られた情報(例えば水路を一塊に進んでる反応があるから、ゴブリンが船を運用してる可能性がある)や、マッピング済みの地図なんかです。

 

 向こうも、法の神殿が提供してくれたという、地下水路の古い見取り図を見せてくれました。ありがてえ!

 

 そして、剣の乙女から聞いた話も共有してくれます。

 

「侍祭の娘をやったのが、ゴブリン……? いや、時系列が合わんじゃろ」

 

「ああ、ゴブリンの手口ではない」

 

「街中にゴブリンが出るより前に、魔神が跋扈しておるから、そちらではないかと睨んでおるが……しかし剣の乙女ともあろう方が、分からんはずもなかろうに……何か狙いが……?」

 

「そんなことはどうでもいい。それよりゴブリンだ」

 

「あー、その通りじゃ。ゴブリンが問題じゃ! それで奴ら、何処から来ておると思う?」

 

「……水の街(ここ)で増えた訳ではないだろう」

 

「そりゃそうじゃ。それならもっと前から、ゴブリンに攫われた者が出ておるはずじゃ。それに小鬼殺し殿、船に乗るゴブリンを知っておるか?」

 

「いや、初耳だ。誰かが用船の知恵を仕込んだのだろうが、ゴブリンパイレーツというところか」

 

 ゴブスレさんはゴブリンの話題限定で口が回るようになるなあ。

 多分、【怪物知識(小鬼限定)】とかいう技能でも持ってるんじゃないでしょうか。

 

 お互いの情報をすり合わせることで、ゴブスレさんは、この小鬼禍が、人為的なものであることを見抜きます。

 

「知恵を(さず)かったのは用船についてだけではあるまい。裏で糸を引いているやつがいるな」

 

「やはりそう思うか」

 

 これで結構なタイム短縮になります。

 

 また、半竜娘ちゃんは、魔法知識判定に成功することで、小鬼たちの進入経路について、川や水路や隧道以外にも、転移などの魔法的要素の可能性を視野に入れることができるようになります。

 まあ、これまでの情報収集で判明しているゴブリンの増え方からして、転移の門でもないと、この勢いでの戦力集積を可能にするルートが説明つきませんしね。

 

 事前によく情報収集できているので、魔法知識判定にはボーナスがつきます。

 

 はい、成功です。(ファンブルではなかった)

 

「小鬼殺し殿、あまり確証はないが、地下の何処(いずこ)かに、転移系の門でもあるのやも知れぬ。そうでなければ、説明が付かんことが多すぎるのじゃ」

 

「ゴブリンの増え方、船の資材の出所を考えても、その可能性はあるな」

 

「ゴブリンのためだけに使うような代物ではないが、狙いが街の陥落や魔神王の復活であれば、そういう大層なものを使ってもおかしくなかろうさ」

 

「……手持ちの札では足りんな」

 

「とはいえ、なんぞ『手はある』のであろ? 小鬼殺し殿」

 

「もちろんだ。手はある」

 

 ヒュー! 頼もしいぜ!

 

 事前に情報を与えることで、ゴブスレさんの準備も万端になり、事故率を減らせる上に、解決スピードも上がります。

 【蘇生(リザレクション)】の奇跡(処女同衾)のフラグが無くなるかもですが、瀕死になんかならない方がいいのです。

 

 あと、懸念してることがありまして。

 

 

 ……これ、もたもたしてると、ゴブスレさんが水の街に居るうちに、ゴブリンロードの牧場襲撃が起こっちゃわない? ってことです。

 

 

 ここ数日、ゴブスレさんも半竜娘ちゃんも、辺境の街周辺のゴブリン退治できてないですからね。

 ゴブリンロードの戦力集積が(はかど)って、襲撃が前倒しで起こる可能性があります。

 

 また、水の街の地下転移門が、辺境の街周辺の何処かに誤って繋がって、ゴブリンを吐き出しまくってる可能性も(いな)めません。

 

 なので、早くゴブスレさんを牧場に返してやりたいんですよね。

 

 

 【()()四天王】のトロフィーを獲得するためにも、()()()()が滅んでしまっては困りますし!!(重要)(切実)

 

 

 

 さて、情報共有したら、ゴブスレさんは冒険者ギルドの受付で「金糸雀(カナリア)を買える場所はどこだ」とか「火山灰が固まった石を扱っているところは……分からなければ石屋でいいが」とか聞いて、さっさと出ていっちゃいます。

 

 なるほど、ゴブスレさん1人だけだったのは、この街の情報を得るためだったのですね。

 早速、ゴブリンが遺跡の罠を使ってきたときに備えて、毒気を感知させるための金糸雀を探していますし、チート建材ローマンコンクリートを調合する材料も用意するみたいです。

 

 そして、先ほど共有した情報をもとに、さらにそれ以上の準備を整えてくれるはずです。

 いやあ、いいタイミングで接触できました。頼もしい限りです!

 

 

 さて、地下水路の見取り図の情報を手に入れたので、半竜娘ちゃんの方の状況も動かせます。

 

 魔神の出現地点は、衛視長の屋敷を中心に分布しており、地下水路見取り図からは衛視長の屋敷の一角と地下水路が接続していることが分かりました。抜け道でしょうかね。

 

 衛視長の屋敷が拠点になっているのは間違い無さそうです。

 

 とはいえ、地下水路と接続している抜け道には防衛機構があるのは確実。

 そこを突破するのもリスクがありますし、何より、水の街の治安のためには、この魔神シンパの衛視長を失脚させる証拠を掴まないといけません。

 ……いや、魔神と結んでいたと知れればそれで十分な気もしますが。

 

 でもなあ、「俺は魔神に成り代わられていた被害者だ!」とか言って、いけしゃあしゃあと生き残る可能性もあるんですよねえ。

 

 いやね、吟遊詩人曰わく、衛視長が剣の乙女に懸想(けそう)してるのは、有名らしくて。

 

 より直截(ちょくせつ)的に言うと、その功績と地位に嫉妬しつつ、彼女の肢体を己のモノにしたい欲望がにじみ出ているそうで。

 しかも花街の方ではサディストで有名なのだとか。

 

 

 ……うん! これは、剣の乙女欲しさに混沌勢力と結んだパターンでしょ!?

 

 

 剣の乙女さんは傾国の美女ってはっきり分かんだね!

 

 なお、剣の乙女さんは自力で武力的にも国を傾けることが出来る模様。

 キャンペーンクリア後の主人公パーティーメンバーだからね!

 【核撃(ティルトウェイト)】連打で街を更地に出来る女ですもの!

 

 傾国(物理)。つよい。

 

 なんなら【降神(コールゴッド)】使えますからね、至高神に愛されし乙女なので。

 

 そんだけ強いなら衛視長のことも剣の乙女さんが排除してくれたらいいんですけど、まー、きっと、剣の乙女さん()けに、屋敷の中にゴブリンを詰めてたりするんでしょう。

 

 あるいは、法の神殿が、直接的に衛視とコトを構えるという構図がマズいのかもしれません。

 統治機構のスキャンダルは、どう転んでも治安を悪化させます。

 その辺の政治関係の(しがらみ)があるのかもです。

 

 そういえば今のところ、衛視長が混沌に(くみ)してるとは、一般市民には噂にもなってないですし。

 せいぜい治安が悪化していて、衛視たちは後手に回ってる、程度の評価ですね。

 情報の隠蔽がうまい。

 

 となれば、一番良い落としどころは、

 

『魔神と戦ってたら、もみ合ってるうちに衛視長の屋敷に突撃してしまって、衛視長も加勢してくれたけど、奮闘虚しく亡くなられた。マモレナカッタ。惜しい人を亡くした……』ルートですかねえ。

 実際は、本邸に襲撃を掛けたときに、地下水路への抜け道から飛び出してくるだろう衛視長を、待ち伏せアンブッシュする感じでしょうけど。そして死体を持って屋敷に戻る、と。

 

 もちろん、証拠品類はこっちで先に押さえておく必要があるでしょう。それを処分するか、誰かに引き渡すかをコントロールするためにも。

 司直に見つけられちゃうと、結局は衛視隊の権威が失墜して、それはそれとして不味いことになりますしね。少なくとも、魔神やら小鬼やらが片づかないうちから、衛視隊の権威が失墜するのは面倒です。

 最終的に公の場で裁くかどうかとか、証拠品をどのタイミングで使うかは、上の人(剣の乙女とか、領主とか、冒険者ギルドの支部長とか、あるいは超勇者ちゃん経由で王国上層部とか)に丸投げする方向で!

 

 

 

 まあ、方針はこんなもんでしょう。

 

 

 

 あとは仕込みですね。

 

 衛視長の屋敷に諸共に突っ込むための『敵』を確保して。

 

 半竜娘ちゃんたちが表で暴れて敵を引きつけてる間に、裏から証拠品を根こそぎ回収する輩を手配して。

 

 そして、衛視長をぶっ殺す。死人に口無し。

 

 いや、ホントに成り代わられてるだけで、本人は別のところに監禁されてるって可能性もまだありますが……。

 でも、少なくとも衛視長の屋敷が拠点にされてるのは、【狩場】の感知結界を張りながら近づいたときに、内部に敵の反応が詰まっているのを確認しているので確実です。

 

 

「……工作が要るなら、私に心当たりがあるわ」

 

 森人探検家ちゃんは、裏稼業にコネがあるようです。

 まあ、あのマンチ師匠の系譜ですからね。

 仕掛人(ランナー)たちにも繋ぎが取れるでしょう。

 

仕掛人(ランナー)、と言うたかや? 確か、もぐりの冒険者とか」

 

「まあ、合法非合法問わず、依頼を受けて仕掛けをするやつらね。市街戦(シティアド)では頼りになるとこよ」

 

「なるほどのう。後学のために同道しても?」

 

「まあいいでしょ。いろいろと流儀があるからついでに教えてあげる」

 

 ついでに半竜娘ちゃんも、ローグ・ギルドに連れてって貰いましょう。

 真っ当な手合いで足りないときは、彼らならず者たちは頼りになりますから、ここで符丁だのなんだの覚えて、顔つなぎもしておきましょう。

 

 

 というわけで、ローグ・ギルドで、『偶然、衛視長の屋敷の近くに現れる敵』の手配と、『たまたま屋敷が戦闘に巻き込まれたときに証拠品を回収する密偵ども』の手配を、結構な高額で依頼し(ここ数日の魔神討伐報酬が吹っ飛んだ)、決行日(偶然が起こる日)を調整。

 

 X-DAYは4日後となったので、それまで、いつも通りに魔神殺しか、あるいはゴブリンスレイヤーさんたちとは別方面から小鬼殺しをして時間を過ごします。

 

 ゴブリンパイレーツ? 水路の中に【力場】で障害物作って座礁、転覆させてやればイチコロでしたよ。

 妙に装備が良いから鎧の重みで溺れていくのな、あいつら。

 

 玄室は罠がある可能性があるから基本的にはスルー。

 あとはひたすらに、不意打ちに注意しながら、疲労を貯めない程度にモブ狩り。

 

 その間も、ゴブスレさんたちは地下水路を順調に探索していっているようです。

 酒場で何度か見かけて挨拶しました。あと、チーズ食べたり。

 挨拶だけじゃなくて、お互いの討伐数や、ゴブリンとの遭遇地点についてマップ情報を交換したりして、徐々に情報の精度上げたりもしています。

 

 水路上流で、小鬼が起点にしていた地下墓地にはたどり着いたようですが、そこのトラップ(骸骨と(かつら)で仕立てられた囮)には引っかからなかったそうなので、大怪我もしていません。

 

 でもまだ、大目玉の魔神のいる祭壇につながる抜け道は見つけていない様子。

 

 あー、あれは小鬼英雄に吹き飛ばされた先で落ちた棺から繋がっているのを偶然見つけるから、そういう何かしらのきっかけがないと見つけられないのか……。

 

 とはいえ、小鬼が出入りしている以上は、他にも転移の鏡が安置されている祭壇につながる経路があるはずです。

 

 でもなあ、あんまり時間かけると、いよいよ辺境の街に戻ったら牧場がゴブリンに占拠されてました(「故郷はもうない」(10年ぶり2回目))ってことがあり得そうなんだよなあ……。

 

 うん。

 

 そしたら衛視長の件が片付いたら、転移の鏡探索にも本腰入れましょう。

 と言っても、RTAなりのやり方でですが。

 増援元の鏡を押さえれば、あとはゴブリン殺しRTAを走っているゴブスレさんがパパっと片付けてくれるはず。

 

 

 ともあれ、まずは今夜の衛視長屋敷襲撃げふんげふん、不幸な巻き込まれ事故を片付けましょう。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 その夜のことです。

 半竜娘ちゃんの分身は、いつものパトロールをしていました。すると……。

 

 おっ?

 こんな街中に()()()巨人(トロル)が!(棒)

 

 これは成敗せねば!

 ちょうど大通りの遠くから見つけられたし、助走距離は十二分。

 いつものように警邏していた半竜娘(分身)ちゃんが、水の街の平和を脅かす巨人(トロル)相手に義憤をたぎらせ攻撃します。

 

 【加速】して、【巨大】化して、【突撃】じゃ!!

 

 

【挿絵表示】

 

 

 おっと、ブレーキをミスって勢い余って突き当りの邸宅に突っ込んじゃいましたね。

 巨人(トロル)もまるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()みたいに、華麗にバックステップしたので、巨人(トロル)もろともに、邸宅の門扉を破壊しちゃいました。*3

 これだとトロルへのダメージはあまり見込めませんねえ(※最初から呪文のダメージ対象外にしてる。要はただ運んだだけ。)。

 

 いやあ失礼失礼(棒)。おじゃましまーす。

 あ、トロルさんの中の(ランナーさん)、名演技っすね。しばらく死んだふりして、衛視長が出てきたらまたお願いします。

 

 やや! 突っ込んだ拍子に、森人探検家の聖水(意味深)が入った瓶を落として割ってしまったぞ!?(棒)

 

 すると匂いに惹かれて、屋敷の中から(こら)(しょう)のない小鬼どもが!(棒)

 なんとこの屋敷は小鬼に襲われておったのか!(棒)

 これは是非とも助けねば!(棒)

 

 雑魚を【竜息/毒(ドラゴンブレス)】や【破裂(ガンビット)】や、自慢の爪爪尾で片づけていると、衛視隊も集まってきました。

 まあ、この屋敷は衛視長の屋敷ですからね。

 

「貴様! 何を――」

 

「おお! 衛視殿! 小鬼じゃ! 小鬼が出たぞ! この屋敷が襲われておるのじゃ! 手を貸してくりゃれ!!」(棒)

 

「いや、そもそも何故貴様が屋敷内に入ってきて――」

 

「おおそうか! かたじけない! 助太刀いただけるか!!」(棒)

 

「声がうるせえ!! 話を聞け!!」

 

 衛視たちが何か言う前に、巨大化している半竜娘ちゃん(分身)は助太刀を既成事実化していきます。声がでかい。

 

 魔神シンパの衛視もいるのでしょうが、続々と集まってくる他の衛視たちは、大部分は命令に従っているだけの善良な者たちです。そういった後続に状況を伝えるためにも大声なわけですね。

 

 事前に仕掛人(ランナー)から、「衛視長の屋敷周辺で大捕物がある」という情報を受けていた部隊もあったのでしょう。次々と集まってきます。

 

 ここ数日の夜警では、自分たちは魔神を見つけられないのに、よそ者の冒険者(半竜娘たち)は魔神を殺して手柄を挙げている上に歌にまで歌われている……、そういう状況に鬱憤を募らせていた衛視の部隊も多くありました。

 

 魔神のシンパなんて少数派で、大部分は街を守るまじめな衛視なので当然です。

 

 そこに、汚名返上の機会が来れば、まあ、みんなこぞって集まりますわな。

 普段は小鬼なんて小物は相手にしないところですが、衛視長の屋敷が襲われたとなれば、話は別です。

 メンツにかけて殺しつくさなければいけません。

 

 ……で、多分この中に仕掛人(ランナー)が化けた一隊もあって、それが魔神や邪教団とのつながりの証拠品について、家探ししてくれるはずです。

 

 それはそっちに任せるとして、そうこうしているうちに、衛視長が押っ取り刀で屋敷から顔を出しました。

 うん、悪代官顔ですねえ。偏見かもしれませんが。

 『悪の君主(レイバーロード)』って感じですね。

 

 はい、ではトロルさんの中の人(仕掛人さん)お願いします。

 

「おい俺の屋敷でいったいどういう了見だ――」

 

「TRRRROOOOOO!!!」

 

「なんと! まだトドメを刺せておらなんだか!!」(棒)

 

「ROOOOLLLLLOO!!!」

 

「いや、だから俺の屋敷で何を――」

 

「おお衛視長!! 助太刀いただけるか、かたじけない!! 流石は義の人であるな!!」(棒)

 

 なし崩し的に戦闘に巻き込みます。

 

「――ああもう、なんなんだ貴様ら!! 装備を取ってくる!!」

 

 いや、装備を取りに行くふりして地下水路から逃げる感じでしょう、これ。

 ていうか、こんだけ暴れてるのに装備もつけずに様子を見に来るわけないですから、十中八九は方便です。

 

 この期に及んで言い逃れができるとも思わないでしょう。

 だってゴブリンが屋敷の中から出てきちゃってますからね。

 これまでの情報隠ぺいの手際からして、頭は回るようですし。

 

 逃げたな、これは。

 

 地下水路に逃げてくれれば、狙い通りです。

 

 

 そっちには待ち伏せ中の森人探検家ちゃんと、半竜娘本体がいるので。

 

 しかも【狩場】の結界を張った上に、【力場】で不可視の壁(矢を通すための穴あり)を作っています。

 こういう時に、【聖壁(プロテクション)】があると便利なんですけどねえ。一方通行で攻撃ができるのは強い、流石は神の奇跡です。半竜娘ちゃんたちは使えませんが。

 

 まあ、ないものねだりはやめて、手持ちで回すしかないです。仕方ない。

 ともあれ、【狩場】の結界で接近不可能にする上に、射線は【力場】によって制限されます。

 

 待ち伏せポイントは、長い直線が取れる箇所を選んでいます。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 そんな中で、森人の野伏の前に身を晒すことが何を意味するかは、論ずるまでもありません。

 

 しかも今回は、わざわざ石を磨いた鏃を用意しています。

 何のためかって?

 

 HAHAHAHA!! 【破裂(ガンビット)】を込めて炸裂弾頭にするためだよ(迫真)。

 

 鎧を貫き通し、肉に刺さった石の鏃が爆発すれば、装甲値は意味を成しますまいよ。

 

 というわけで、抜け道から逃れようとノコノコやってきた衛視長に、【破裂】付きの石の鏃をシュート!! ナイスヘッショ!!

 頭がパーン!!

 

 後続に次々と邪教徒も出てきますが、普通の矢で串刺しにしたり、手強そうなのには【破裂】の石鏃で部位破壊+周りの敵ごと爆破をします。

 

 良かった、やっぱり衛視長は邪教の手先に成り下がっていたんだ……。(良くはない)

 善良な衛視長の頭を吹っ飛ばしたなんてことはなくて良かった……。(確証を得る前に(というか、確証を得るついでに)突っ込んだから裏取りが不十分だった。意地悪なGMなら、PCを衛視長殺しで指名手配してくるところです、二度とこんな危ない橋は渡らねえ……)

 

 邪教徒の生け捕りは、そうねえ。

 余裕があればやっときましょう(やる気があるとは言ってない)。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 ヨシ! 殲滅完了!

 

 

 屋敷の戦闘も片づきそうなので、分身ちゃんとトロルの茶番(ブンドド)もおしまいにして、衛視長がこちらを庇ってやられた風な演出台詞を言って貰えればオッケーでしょう。

 

 衛視長の死体を屋敷内に運び入れ、トロルから半竜娘(分身)への攻撃を庇うように、投げ込みます。

 

 そうすると、衛視長の死体は、トロルの攻撃を受けて吹き飛ばされます。

 

 え、衛視長~! こちらを庇って、そんな……。マモレナカッタ……(計画通り)。

 

 

 これにて一件落着!!

 

 どさくさ紛れに押収した証拠品や、邪教徒の潜伏場所の情報は、後日、ローグ・ギルドで受け取るか、然るべきところ(超勇者ちゃん一行)にでも届けさせましょう。

 

 

 

 眠って翌日。

 

 転移の鏡を探します。

 場所については、日々の見回りの際に【狩場】の感知結界で、ゴブリンどもの動きを分析してるので、方角の目安はついています。

 これに加えて、ゴブスレさんたちがたどり着いたという、地下墓地の位置を参考にすれば、もっと絞り込めます。

 

 あとは、その方角に進みます。

 街の外に出てもさらに進みます。

 

 そして、【狩場】の感知結界が、一際強大な反応を捉えたところで、攻撃の準備をします。

 

 土の自由精霊を2体【使役】の呪文で呼び出し、地下へ向けて【隧道】の呪文を使ってもらいます。

 

 開通しました。

 石造りの上に土がかぶさって埋まってるだけなので【隧道】が効くんですね。間に金属の板が挟んであったりするとダメでしたが、幸いそんなことはなかったようです。

 

 おー、いたいた。

 大目玉の魔神です。ビホーって鳴いてる、名前を言ってはいけないやつですね。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 祭壇の間の天井に穴を開けただけでは、大目玉の魔神の攻撃対象にはなりません。

 あいつは、部屋に入ったやつを攻撃するよう条件付けられているので。

 穴を開けて繋がった地上は、当然、部屋の外扱いです。

 

 地下祭壇の間の床までは、20mほどでしょうか。

 これなら十分に【突風(ブラストウィンド)】の範囲内です。

 

 つまり、上に吹き上げて、落として殺す!

 

 落下距離は80mです。

 きちんと大目玉を吹き上げられるように、達成値を上げる必要があるので、呼び出した土の自由精霊2体に支援させます。

 加速ボーナスもあわせて、達成値は34でしたが*4、念のため森人探検家ちゃんの【逆転(リバース)】で、出目を2354にひっくり返して、達成値を38にします。これなら、十分に対象を吹き飛ばせるでしょう。

 

 地下祭壇で渦巻いた風の魔力が、目玉の魔神が反応して解呪するより早く、炸裂します!

 大目玉の呪文抵抗は失敗! ダメージはそこそこ。

 

 体勢を崩してキリモミ状態で、天井の穴から大目玉が飛び出してきます!

 大目玉は飛行可能なモンスターですが、突風により転倒状態になって吹き飛ばされているので、飛行技能を発動させてこの落下から逃れることはできません! もし上空で体勢を立て直したとしても、分身ちゃんが【突風】で叩き落とせば良いだけですし。

 

 巨大な目玉の魔物が、地下祭壇の床から上空80m地点まで打ち上がり、また落ちます。

 

 落ちる際には、【降下】の精霊術で重力を強化するのを忘れないようにしましょう。*5

 精霊の支援のおかげもあって、重力倍率を三倍にできました!

 

 これにより、大目玉の魔神への落下ダメージは、落下距離80mの50%×重力3倍×1D6となります。出目が回って1D6は最大値の6だったので、ダメージは720点! しかも落下ダメージは装甲で軽減不能!

 軽業判定(モンスターの場合は回避値を援用することにします)で成功すれば半減できますが、目標値が720(落下距離×重力倍率の、さらに三倍)な上に、仮に大成功で半減させても360ダメージなので死亡確実です。

 

 いくら何でも助からないです。

 

 大目玉の魔神は、盛大に床にたたきつけられ、ばしゃりと目玉の中身を飛び散らせた!!

 

 オッケーですね!

 

 あとは、この音に気づいたゴブリンたちが集まってくるのを、上から射抜くだけの簡単なお仕事です。

 

 

 では、ゴブリンたちの断末魔を背景に、また次回!

 

*1
行殺ぎょうさつ:かつて文通しながらゲームをするプレイ・バイ・メール形式のゲームにおいて、大して活躍もなくキャラクターが、登場から死亡まで一行で処理されることをこう呼んだそうな。類義語:出落ち

*2
時系列について:原作2巻では、夏の話(あいすくりん)なのに、1巻(春頃のオーガ戦)から半年経ったという記述がありますが、それだと秋になるので、4月:女神官ちゃん冒険者登録、5月:オーガ戦、6月:牧場襲撃・魔神王討滅、7月:侍祭殺害事件、8月から9月:水の街の冒険 くらいのタイムスケジュールを想定してます。アニメ版だと、水の街の冒険が5月末から6月頭に入ると思われ、それに伴い侍祭殺害事件が前倒しになったと解釈しています。

*3
トロル:おそらくはクリエイトジャイアントの呪文で作り出されたもの。術者は仕掛人の誰かだろう。

*4
突風の達成値:呪文行使基礎値20+加速ボーナス3+精霊支援2体分6+2D623=34

*5
降下フォーリングコントロールの達成値:精霊術行使基礎値15+加速ボーナス3+精霊支援2体分6+2D626=32。重力三倍まで可能




14に行ったのは敵の方でした、という話。

水の街の衛視隊が割とアレなのは混沌の陰謀だったんだよ!説。
そのあと、“鬼”の衛視長と呼ばれる傑物が着任したとか、ね。

(実は半竜娘ちゃんを14へ行け(ゲームブックにおける死亡フラグまたはコンティニューフラグ)させるための準備をしてたら、準備を整えていた衛視長屋敷の内部まで乗り込む理由がなく、逆にボスを追い出して遠間の直線通路で弓矢でハメ殺しするムーヴされたので、そもそもサイコロ振らせてすらもらえなかった……。『悪の君主』(モンスターレベル9)は弓矢が使えるから、そのハメ手はこっちが先に準備してたのに……。ゴブスレさんを見守る《真実》や《幻想》はこんな気持ちか……。)


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14/n 裏

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1.そのころゴブスレさんたち

 

 準備を整えると言って街に下りていったゴブリンスレイヤーが、法の神殿に戻ってきたのは、午後遅くになってからだった。

 

「あ、ゴブリンスレイヤーさん! 戻ったんですね!」すぐに迎えたのは女神官だ。「それで、これから早速水路に向かいますか?」

 

 夕方とはすなわち、小鬼にとっての早朝だ。本格的に潜るのは心もとないとしても、広大な地下水路から小鬼を駆逐するのであれば、少しでも早く着手すべきだろう。

 

「ああ、まずは一当(ひとあ)てする」ゴブリンスレイヤーは、当然のようにそう言った。

 

 それを予期していた女神官はもちろん、妖精弓手、鉱人道士、蜥蜴僧侶ら一党の他の面々も、いつでも出られるように、準備は終わっている。

 

「かなり数が多いようだからな」とゴブリンスレイヤーが付け加えた。

 

「なぁに? まさか一人でもう潜ったの?」妖精弓手が情報の出どころを(いぶか)った。まさか無いとは思うが、ゴブリンスレイヤーなら、威力偵察と称して独りで先に潜るくらいやってもおかしくはない。

 

「おいおい長耳の。いくらかみきり丸でも、せっかくパーティー組んどるのに独りで潜るかい」鉱人道士が妖精弓手の言葉にちゃちゃを入れる。種族柄、衝突……というほどでもないが、じゃれあいの絶えない二人だ。

 

「いや、潜ってはいない」ゴブリンスレイヤーが頭を振った。「他の冒険者からの情報だ」

 

 そう言ってゴブリンスレイヤーは、幾つかの書き付けと、地図を取り出した。

 

「ほう、それがその情報とやらですかな」一党のマッパーを兼務する蜥蜴僧侶が、その地図を見るために、隆々とした身体を寄せてきた。「して、これの確度はいかばかりで?」

 

 蜥蜴僧侶の問いには、水の街の冒険者たちがどれほど信用が置けるのか、という含みがあった。

 いくらゴブリンが混沌の眷属の中では雑兵もいいところとはいえ、自らの街の地下に敵兵が居るのにろくに片づけられない同業者だ。

 余所者にどれだけの情報を回してくれるだろうか。

 

「心配ない」ゴブリンスレイヤーは、その含みに気づいたのか気づいてないのか、淡々と答えた。「この情報は、あの半竜の娘の一党からのものだ。もちろん、自分の目でも確かめるつもりだが」

 

「え゛、彼女たちも来てるんです?」女神官は波乱の予感に表情を固まらせた。ゴブリンスレイヤーも半竜娘も、どちらも頼りにはなるが、無茶苦茶なことをやりかねないというイヤな信頼もある。 

 

「ああ、水路を精霊に探らせ、地上からは結界を張って警邏しながら集めた情報だそうだ。祖竜術の、なんと言ったか……」ゴブリンスレイヤーが言いよどむが、すかさず蜥蜴僧侶がフォローした。

 

「【狩場(テリトリー)】の術ですかな。なるほど、ならば信は置けましょう。どれどれ……ふぅむ、かなりの数の小鬼が居るようですな」目玉をギョロギョロと動かしながら、蜥蜴僧侶が書き付けの束を素早く読み込む。「ふむ、魔神も出ておるようで」

 

「へえ! いいじゃない! 魔神討伐!」妖精弓手がぴょんと跳ねた。「冒険って感じで!」

 

「ゴブリンどもは前座ということかのう?」鉱人道士は思案げだ。黒幕が居るなら、術の使いどころは注意が必要だろう。「法の神殿じゃあ、そういう話はしておらなんだが」

 

「魔神はあらかた討伐済みのようですな。遭遇頻度が下がっておる様子。我が姪御殿が張り切ったようで。……ほう、郷里の軍師殿も滞在しておられたのか」蜥蜴僧侶は、書き付けや、半竜娘の精霊が調べた地下水路の情報を読み取り、手持ちの地下水路見取り図に反映させている。「しかし小鬼までは手が回らなかった、と」

 

「なあんだ、残念」妖精弓手は詰まらなそうに言う。

 

「私は魔神討伐はまだ荷が重いかなあ、なんて」あはは、と女神官は苦笑い。

 

「ともかく、ゴブリンだ。今回の奴らは、どうも船に乗るらしい」ゴブリンスレイヤーが、水路見取り図を指して続ける。「魔神だか何だか知らんが、入れ知恵したやつが居るのは間違いない」

 

「さらに言えば、増える速さが尋常ではありませぬ」蜥蜴僧侶がうなりながら紙束を返す。「百や二百じゃ足りますまい、しかもまだまだ増えそうですな」

 

「えぇっ!? いったい何処からそんな大軍が……」女神官の驚愕ももっともだ。「女の人の誘拐が、そんなに多かったとは聞いてませんよね?」

 

「これは推測だということだが」ゴブリンスレイヤーが情報を付け加える。「転移系の遺物でもあるのではないか、ということを言っていた」

 

「ほーう! そりゃあ、本当ならすごいことじゃわい!」鉱人道士が目を丸くする。「もしも持ち帰れたらひと財産じゃぞ?」

 

「興味がない」そんな意見をゴブリンスレイヤーは一刀両断。「むしろ小鬼にこれ以上悪用されないよう、封印すべきだ」

 

「えー、もったいない」妖精弓手が口を尖らせる。「そうだ! 法の神殿に買い取ってもらいましょうよ!」

 

「……ゴブリンが使えないようにすることが前提だ」渋々、ゴブリンスレイヤーは告げる。「好きにしろ」

 

「やった! 冒険って感じね!」また妖精弓手が跳ねた。「石だらけの地下に潜るのも、これなら我慢できそうだわ!」

 

「いやはや、しかし転移門(それ)があると決まったわけではありますまい。それに――」蜥蜴僧侶が慎重な意見を述べる。「きっと船が通れるくらいには大きなものでしょうや。運び出せますかな」

 

「あら、あなたの姪っ子が来てるんでしょ? 手伝わせればいいじゃない」うきうきと妖精弓手。

 

 確かに、半竜娘は、その術の構成からしてもそうだし、普段からも土木現場で副業をしている人間重機だ。

 大きなものを運ぶのに任せるのは適任だろう。

 

「なんにせよ――」厳かにゴブリンスレイヤーがまとめる。「――ゴブリンどもを皆殺しにしてからだ」

 

 ただのゴブリン退治ではない。

 

 迷宮のごとき地下水路と古代遺跡で、そこをねぐらにするゴブリンたちを皆殺しにする。

 しかも、相手は用船の知恵を得ているのだ、他にも思いもよらない戦術を学んでいる可能性もある。

 また単純に数が多く、増援も無尽蔵。

 

 

 油断せずに。

 

 慎重に。

 

 しかし徹底的に。

 

 

 

 ゴブリンどもを皆殺しにするべく、小鬼殺しの一党は動き始めた。

 

 

 

 

  ●○●○●○●

 

 

 

 

2.盗賊(ローグ)ギルドにて

 

 

 

 大きな街には、スラム街がつきものだ。

 それは、この美しい水の街でも例外ではない。

 

 街の門の外。

 水の流れに沿って粗末な建物が密集している。

 

 時刻は黄昏のころ。

 これから夕食の時間で、通りにはスープや焼き物のにおいが流れている。

 

 その中を目立つ二人組が歩いていく。

 

 一人は背の高い女。蜥蜴人のハーフなのか、群衆よりも頭二つは飛び出ている。

 艶やかな黒緑の鱗、後ろに伸びた二本角に長い尻尾は蜥蜴人の特徴だ。

 しかし、さらりと流れる黒髪に、豊かな胸元、凛とした(かんばせ)には、只人の特徴が表れている。

 目立つ異教の司教服に、手と尾には魔法の大篭手(ガントレット)

 凄腕の冒険者だろうと見て分かるからか、スラム街の住人も避けている。

 

 もう一人は森人の女。

 笹の葉型の耳に、金糸のような髪。森人特有の整って美しい顔。

 草木の色に染めた狩人装束に大弓を背負い、飄々と貧民街区を歩いていく。

 腰を見れば、森人には珍しいことに、交易神の聖印が吊るされて揺れている。

 

 いずれも美しい女たちだが、見るからに冒険者だ。

 

 すなわち、半竜娘と森人探検家だった。

 

 

「それで」

 

「何よ」

 

「その“印”というのは見つかったかや?」

 

「ちょっと、外ではそんなあからさまに言わないで。予習してきたでしょう」

 

「うむ……」

 

 彼女らが捜しているのは、違法な依頼も含めて請け負う『仕掛人(ランナー)』たちへの依頼を仲介する、ローグギルドだ。

 ローグギルドは街の暗部の存在であり、大っぴらに宣伝しているわけではない。

 ささやかな印、符丁。そういったものの積み重ねで隠されているのだ。

 

 後ろ盾のない彼らならず者たちは、つながりをこそ重視する。

 印や符丁を読み解ける者の――つまり信頼できる()()()()とつながりがあり、そのつながりによる保証(ケツ持ち)がある者の前にしか、彼らは姿を現さない。

 ある意味では臆病ともいえるだろうが、そのルールこそが、無法の世界に生きる彼らを守る唯一の掟なのだ。

 

「……こっちよ」

 

「うむ」

 

 半竜娘と森人探検家は、普段は野山や遺跡で冒険するが、その隠形は街中でもある程度は通用するものだ。

 

 あれだけ目立っていた二人の女冒険者が道を逸れたとき、彼女らの気配が消えうせた。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 何の変哲もない古物商。

 

 そこが、ミスター・ジョンソン(名無しの依頼人)が、名も知れぬ仕掛人(ランナー)たちに渡りをつけるべく、フィクサーへと話をつける場所――水の街にいくつかあるローグギルドの一つだ。

 

 そこでも独特の符丁のやり取りがあった。

 

「何かお探しで?」――「錆びた手錠。そして(やすり)よ」――「そちらは冒険者ですな。これからの仕事は何を?」――「クチナシの花を摘みに行く」――「なるほど。では6番で呼ばれたら奥まで」――「4の間違いでしょ?」――「それでよござんす」

 

 どうも、こちらの人相や時節によって、符丁が変わるのだという。

 その筋で基本を教わった上で、街中に隠された符丁を読み取ることで、そのコミュニティに接触する資格が得られるのだとか。

 

「おお」

 

「じろじろ見ない。行儀が悪い」

 

 案内された奥の間から地下に降りれば、そこは庭園であった。

 石と水と闇が、そして仄かに光る茸が作る、小さな生態系。

 

 その中央に、場違いにも繊細なティーテーブルとティーセット。

 

「ようこそ客人。さあ入りたまえよ」

 

 ティーテーブルの前に立つのは、執事風の服を着た闇人(ダークエルフ)

 

 さっと入ろうとする半竜娘を、森人探検家が引きとどめる。

 

 そして、すっと軽い会釈で腰を曲げたまま、森人と闇人は、しかし互いに目をそらさず口上を述べ始めた。

 

「お心遣いありがたく。しかし庭園の端から失礼仕るが、挨拶紹介させていただきたく。どうかお控えなさってくださいまし」――「ご挨拶のほどありがたく。しかし斯様な使用人の身の上故、どうかお控えください」――「こちら根なし草でございます、どうかお控えなさってください」――「いえいえ、お嬢様こそお控えなさってください」――「そうもまいりません、どうかお控えなさってください」――「なれば再三のお言葉ありがたく、心苦しくはございますが、お先に控えさせていただきます」――「お控えくださりありがとうございます。草臥(くたび)れ姿で失礼いたしますが、わたくし、深く赤い幹の大樹の森の出、師を樽に乗る者、緑衣の者に続くべく遺跡を荒らす身の程知らずにございます」――「丁寧にどうもありがたく。お初になります、主人不在にて失礼ながら、こちらは溝鼠(どぶねずみ)(はべ)らす王に仕えますしがない闇のもの」――「挨拶を受けていただき感謝申し上げます。どうか頭をお上げください」――「さてもそういうわけにも参りません。お嬢様こそ頭をお上げください」――「それではさても困ってしまいます」――「ならば一緒であればよろしいか」――「万事万端よろしく」――「お頼み申し上げます」

 

 口上終わりに、示し合わせて姿勢を戻す。

 

「行くわよ」森人探検家が、幻想的な庭園中央まで先導する。さきほどまでの奇怪なやり取りがなかったかのように切り替えて。

 

「おう、いいのういいのう。手前(てまえ)も口上を考えんといかんのう」わくわくした顔で目を輝かせながら、半竜娘が後に続いた。

 

「い・い・か・ら、い・く・わ・よ」

 

 

 

 仁義を切った森人探検家は、半竜娘を連れて庭園中央のティーテーブルに座った。

 半竜娘もそれに続く。

 

 執事姿の闇人は、優雅な手つきでティーセットに茶を注いだ。

 

「それで、本日はどのようなご用件で?」

 

「……二つ。陽動と情報奪取よ。標的は衛視長の屋敷。陽動には手を貸すから敵役を手配して。情報奪取は陽動の間に入って、邪教とのつながりだの汚職の証拠だの一切合切」

 

「ご予算は?」

 

「どこまでやれるの?」

 

「さて、それはご予算次第としか」

 

 バチバチと森人と闇人の間で火花が散った。

 

「ふん。これで良いかしら」ずっしりとした金貨の袋を載せる。

 

「……随分と張り込みなさいますな」さほど驚いた風もなく、闇人執事は金貨袋を一瞥した。

 

「足りなきゃもっと積むわ、交易神の聖名(みな)にかけて、正当な対価をね。――わたしたちは、衛視長の“名誉ある死”を演出したいと思っている」

 

「暗殺もお望みで? であれば……」

 

「それはこっちでやるわ」

 

「……足は引っ張らないでくださいよ」じろりと闇人が値踏みする目を向ける。

 

「そっちこそね。期待しとくわ」挑むように森人探検家が胸を張って見下ろすように視線を返す。

 

 

 その間、半竜娘は、目をキラキラさせて、街の暗がりで行われるならず者の流儀を学んでいた。

 

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 その後、衛視長の屋敷から持ち出された資料は、勇者一行の頭脳役たる賢者の少女まで届けられ、即日で邪教団の本拠地を探し当てて吹き飛ばすのに、大いに助けになったのだという。

 

 

 

  ●○●○●○●

 

 

 

 

3.都市間ワープが序盤で手に入るのはバランスブレイク

 

 

 半竜娘が転移の鏡の門番たる大目玉の魔神を墜落死させたとき、ゴブリンスレイヤーもその近くの玄室まで来ていた。

 

 彼らが相手をするのは太古の門番たる鉄人(アイアンゴーレム)だ。

 鋼鉄の身体は刃も矢も通さず、【矢避】の加護が弓矢や投擲を遠ざける。

 おそらくは、この遺跡の本来の門番。それを混沌の手勢が掠め取ったのだろう。いまや鉄人は、霊廟の戦士の魂を守るのではなく、忌まわしい混沌の計略を守るために動かされていた。

 

 しかし、鋼鉄の身体とて、水の街の地下に長い間置かれていた鉄人は、完全体とはいえなかった。

 湿気が、時の流れが、魔法が込められた鋼鉄の身体から機能を奪っていた。

 いたるところに錆が浮き、軋みを上げていたのだ。

 

 そしてそれを見逃すようでは銀等級の冒険者になどなれはしない。

 

 関節の同じ箇所に妖精弓手の矢が針山のように突き刺さって破壊し。

 鉱人道士の【降下】の術が、鉄人が踏み出した足を軽くし。

 バランスを崩したところを、女神官の【聖壁】がさらにそれを後押しするように張られて復帰を許さず。

 蜥蜴僧侶の【腐食】の祖竜術が、鉄人の機構のうち、経年劣化で魔法が通わなくなった箇所を溶かして崩す。

 

 どう、と倒れた巨大な鋼鉄の兵士は、しかしそれでも機能を失わず。

 

 ダメ押しにとゴブリンスレイヤーが小麦粉を撒いて粉塵爆発を引き起こさせた。

 

 残ったのはひしゃげて断裂した鉄人の残骸だけだ。

 

 

 それが完全に動かなくなっているのを確認して、妖精弓手は息をついた。

 

「ふう、もう。硬くて大きくて速くてやんなっちゃうわね」

 

 並みの技量ではそもそも矢が当たらないし、当たっても痛痒を与えられないはずのところ、十分なダメージを与えられたのはまさに上の森人の面目躍如といったところか。

 それはそれとして、ゴブリンスレイヤーには一言言わねばと思っている。火でも水でも毒気でもないが、爆発もダメだろう!

 

「奥に行くぞ」爆発音を聞きつけたゴブリンが集まるのを危惧して、ゴブリンスレイヤーが一党を促した。

 

「奥に何があるのでしょうか」女神官が息を整えながら、ぎゅっと錫杖を抱きかかえた。「奥からも、二回ほど大きな音がしていました、あと、音と一緒に霊廟も揺れましたし……」

 

「一回目は、何か大きなものが墜ちたような感じじゃったわいの」鉱人道士は思案している。「湿った感じじゃったから、落盤ではのうて別の何か柔い水っぽいものが墜ちたんじゃろうが……。二回目は落盤だったかもしれんが」

 

「何にせよ立ち止まってはいられますまい」

 

 蜥蜴僧侶の言葉を皮切りに、一行は奥へと進んだ。

 

 

 

 奥に進むと、明るく光の差し込む玄室と、入り込む光に照らされた鏡、そして、矢に射抜かれて血を流す数多くのゴブリンたちと、部屋の真ん中で潰れた果実のようになって飛び散っている明らかに混沌の眷属だと分かる魔神の死体と、それの上に載っている石くれと土くれ。

 

 今もその鏡が置かれている玄室へ、ゴブリンスレイヤーたちが居る方とは別の入り口から、ゴブリンたちが飛び出しては、即座に矢で射抜かれている。

 

「……あれ、あの子の矢だわ。ほら、半竜の子と一緒にいる森人の」とは妖精弓手。

 

「ようわかるのう」鉱人道士は感心している。「森人の弓の腕ばかりは認めざるを得んのう」

 

 矢の軌道を見ただけで、射手の見当がつくとはさすがである。

 

 

 しばらく待っているうちに、ゴブリンたちが飛び出すのが途切れたので、小鬼殺し一行は、射られないように声を出しながら、鏡の間へと入っていった。

 

「おーい! 外に繋がってるのー!?」天井に空いた穴へ向かって声を出したのは妖精弓手。

 

「えっ、は、ハイエルフ様!? えと、はい! こっちは地上です! ここから出ますか!?」慌てたのは外にいた森人探検家だ。下手したら矢を射かけていてもおかしくなかったのだから、それはもう焦る。

 

「ちょうど滑車の準備も出来たところじゃ! 引き上げるなら請け負うぞ!」大きな声で答えたのは地上の半竜娘だ。

 

 半竜娘と森人探検家は、地下の探索のために、また、戦利品を持ち帰るために、【隧道】の術で開けた穴の上に、三角テント骨組みのように丸太を組み合わせて、滑車を吊るして鉤縄を通している。

 簡易の起重機(クレーン)だ。

 起重機の周りには、縄を引くための人足として、【竜牙兵】が数体呼び出されていた。

 

 今空いている地上から鏡の祭壇がある玄室までの穴は、穴の縁取りをぐるっと一周【隧道】の術でくりぬくことで、その中の地盤を周りから切り離して落とすことで開けられたものだ。穴そのものを【隧道】で開けるのでは時間経過で元に戻ってしまうので、そうならないようにする工夫だ。

 大目玉の魔神の死体の上に乗った石や土は、そうやって切り離された地盤が落ちたものだったのだ。

 

「じゃあ引き上げをお願いするわ!」

 

 妖精弓手が元気よく答えると、するすると半竜娘が乗った縄がおりてきた。

 

 そして、半竜娘と入れ替わりに女神官が引き上げられ、妖精弓手、鉱人道士の順でまた上に引き上げられた。

 

 その間もゴブリンが鏡の間に入って来ていたが、森人探検家の弓矢がそれを許さず、妖精弓手が上がってからは、さらに盤石の迎撃態勢となった。

 

 森人の乙女たちによる矢の雨に守られる中で、下に残った小鬼殺し、蜥蜴僧侶、半竜娘は、転移装置と目される鏡を苦労して外し、外へと引き上げさせた。

 

「これが転移門となる鏡か! 繋がっておる先がゴブリンだらけなのはいただけぬが、凄まじい代物だわいの!」鉱人道士が快哉を叫ぶ。

 

「これ、すっごい値打ちものよね!」妖精弓手も、この戦利品には大満足だ。

 

「ゴブリンスレイヤーさーん! こっちはもう大丈夫です! 上がってきていただけますかー!?」女神官は、いまだ地下にいるメンバーに声をかけている。

 

 これで増援の元は絶った。

 あとはゴブリンを掃討するまで、幾らもかからないだろう。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 なお、この転移門の鏡は、一旦は鏡面に蓋をされた上で法の神殿に納められ、小鬼殺し一党と半竜娘一党には莫大な褒賞が手渡された。

 鏡が納められてからすぐに、勇者一行の一員である賢者によりその完全制御が実現され、勇者らの冒険を大いに助け、混沌の野望を幾度となく(くじ)くことになる。

 

 ……そして、転移門の鏡の制御については、魔術の心得もある剣の乙女にも伝授された。

 勇者たちが敵地に飛ぶ際は賢者が制御すればいいが、戻る際の制御術者が必要だからだ。

 

 ……さて、小鬼殺しに懸想する剣の乙女が、『望んだ場所に行ける鏡(どこでもドア)』の私的流用をこらえられなくなるまで、あとXX日……。

 




超勇者ちゃんRTA走者「ゴブスレさんは基本的にナイスアシストばっかりなんですけど、この転移門の鏡を水に沈めるのだけはいただけません。これが序盤に手に入れば相当の時間短縮になるのですが……って、何故か転移門の鏡が法の神殿にありますね。……えっ、こんなの初めてなんですけど、えっ、まじで? これは勇者RTA界隈に革命が起こりますよ!!」


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15/n 辺境の街の平和な日々 あるいは、とある圃人の災難

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拙者、修行・成長回大好き侍!

 


 はいどーもー! 辺境の街のためにえんやこらー! 牧場は取りあえず無事だったよー、な実況はーじまーるよー!

 

 前回は、水の街の大目玉の魔神を墜死(ついし)させてゴブリンどもを串刺しにしたところまででしたね。

 

 その後、鉄人(アイアンゴーレム)を倒してきたとかいうゴブスレさんたちと合流し、転移門の鏡を回収しました。

 

 ちなみに鉄人(アイアンゴーレム)は、魔法生物系のレベル8のモンスターで、大目玉と同格です。

 単純に硬くて(装甲値が高く)頑丈な(生命力も高い)敵なので、戦闘が長くなってツラい相手ですが、経年劣化していたので付け入る隙はあったとのこと。

 

 玄室から出られないよう思考制限された大目玉の魔神と、経年劣化した鉄人なら、まあ、難易度はどっこいどっこいでしょうか。

 法の神殿も、これで、ゴブスレさんが、ただの雑魚狩り専門ではない、真の銀等級に相応しい冒険者だと認知したでしょう。

 

 転移門の鏡も回収できたので、報酬にも期待が持てます。

 原作では水に沈められてしまいましたが、有用な魔道具ですから、回収できて良かったです。

 多分、ゴブスレさんの【交渉:説得】のダイス目が悪かったか、妖精弓手の【交渉:説得】のダイス目が良かったんでしょう。また、半竜娘ちゃん一党が、明らかに転移門の鏡を持ち帰るために動いていたのも、言いくるめ成功のための、大きなプラス材料でした。

 

 

 さて、では魔神やゴブリンの残党を片付けていきましょう。

 

 え? ゴブスレさんは、結局、処女同衾の奇跡である【蘇生】を受けたのかって?

 んー、どうでしょうね。タイムスケジュール的には受けてないと思うのですが。

 多分、ファンブルしなかったとかで、戦線崩壊はしなかったのでしょう。

 

 【蘇生】(朝チュン)イベントこなさなくても、ゴブスレさんは剣の乙女さんに特攻持ってるので、剣の乙女さんは、完全に「お慕い申し上げております……!」(ホの字)状態ですしね。

 ホの字とか今日び使わねーな。

 

 まあ、原作と人間関係はそう違いはなさそうだ、ということで。

 

 

 

 ともかく残党処理です。

 半竜娘ちゃん一党の場合、2D6の出目の日数だけ殲滅までかかることとし、消耗と引き換えに最短2日まで短縮できることとします。

 

 さて、何日かかったかな……出目は25で7でしたので、このままでは7日かかるところ、消耗カウンタと引き換えに超特急で片付けます。

 消耗カウンタを10点分と引き替えに、5日分短縮してフィニッシュです!

 リソース消費して早くなるならそっちを選ぶのは、RTAなら当然だよなあ?

 

 …………。

 ……。

 

 

 そして2日後! 殲滅完了!

 急いだので疲労がヤバいですが、【賦活】の祖竜術があるので、大丈夫です(ブラック並感)。

 

 2日かけて残党を片付けてる間に、どうやら超勇者ちゃんが邪教団本体を片付けてくれたとのこと。さす勇。

 これで後顧の憂いなく、辺境の街に帰れますね。

 ゴブスレさんたちは、あと1日2日、本当に小鬼を皆殺しにできてるか見回るそうです。

 

 転移門の鏡が使えれば良いんですが、現時点では使えません。

 まだ昨日の今日ですし、勇者パーティーの賢者ちゃんも、流石に制御術式を解読、掌握できてないので仕方ないです。使えるのがいつになるか分からないので、日程安定のため出発します。

 

 さて、たんまり報酬も貰いましたし、いよいよ経験点の精算です!

 

 

 経験点は以下のとおりで、合計2500点です。

 

 ◆獲得経験点

  街の魔神駆除 +1500点

  転移門献上  +1000点

 

 成長点は、冒険二回分として6点獲得しました。

 

 ◆成長点 +6点

 

 半竜娘ちゃんは、特に上げられる職業レベルや技能がないので、温存します。

 いや、職業:精霊使いのレベルは3から4に上げられますし、範囲内の対象に光る燐粉をまとわりつかせる【燦光(イルミネイト)】の精霊術なんかも面白そうなんですがね。

 他にも【突風】の呪文を安定させるために、冒険者技能【呪文熟達:攻撃呪文】を生やしたりとかも心惹かれるんですけどね。

 

 半竜娘ちゃんの一党は、罠の感知とかに不安がありますが、今更、職業:斥候を取得しても中途半端ですしねえ。

 それなら新しい仲間を捜した方がいいです

 

 なので、今回は、半竜娘ちゃんの成長は、特になしです。新しい技能や職業を生やすのも今回はナシ。いまは力を貯めるときなのです。

 半竜娘ちゃんは宵越しの銭を持たねえ派なので、経験点を使いたそうにしてますが、託宣(ハンドアウト)でお願いして押さえてもらいます。……ステイステイ、まだだっ、まだだっ……!

 

 経験点や成長点を貯めて、魔術師か武道家のレベルアップや、【統率】技能のレベルを伸ばすのが目標です。なあに、すぐですよ。

 え、【騎乗】技能を取りたい? まだ我慢してくださいよー。

 

 というわけで、現在の半竜娘ちゃんの使用可能な経験点は貯蓄分と合わせて3000点で、成長点のストックは6点です。

 

 

 続いて、森人探検家ちゃんですが、同じく経験点2500点と、成長点6点獲得です。

 

 これによって、森人探検家ちゃんは、累積経験点が一定以上になったので、冒険者レベルが上昇し(冒険者レベル5→6)、レベルアップボーナスで成長点を+25点、追加で獲得します!

 また、技能レベルを4段階目の「達人」級まで伸ばすことができるようになりました。

 

 まあ、今回の水の街の冒険では、ローグギルドに渡りをつけたり、魔神や衛視長を弓矢で殺したりと大活躍だったので、レベルアップも当然ですね!

 

 これで、森人探検家ちゃんが使用可能な経験点は、貯蓄分と合わせて5500点で、成長点の方は37点です。

 

 森人探検家ちゃんの場合は、目標は緑衣の勇者(ゼルダじゃない方)なので、【武器:弩弓】や【速射】の技能を5段階目の『伝説』まで伸ばすのは、本人的にも確定です。

 ボーナスを上手く使って、それらの技能を上げていく感じですね。

 

 また、レイスと戦ったときに、非実体系の敵への攻撃手段がないことが課題になったので、職業:神官(交易神)レベルを上げたり、職業:魔術師を取得して、そういう武器強化系の呪文を授かるのもアリかもしれません。

 

 さて、森人探検家ちゃんは、どういう風に成長しましたかねえ。

 

 …………。

 ……。

 

 ほーん、なるほど。

 

 まずは、職業:魔術師をレベル2まで取得し、【解錠(アンロック)】と【力与(エンチャントウェポン)】を実戦レベルで習得したようです。(経験点2000消費。残り経験点3500)(成長点4点獲得。残り成長点41点)

 

 遺跡荒らしをやるなら、【解錠】の魔法は持っておいて損はないです。

 

 【力与】も、非実体の敵にダメージを与えられるようになるということで、レイス戦での課題を解決する良いチョイスです。

 奇跡カテゴリにある【祝福(ブレス)】も似たような効果でボーナス値も大きいのですが、呪文維持が必要なのがマイナスポイントです。森人探検家ちゃんの能力値からすると、【祝福】の奇跡だと矢を一回放ったら維持できなくなっちゃいます。

 それに比べて、【力与】なら、一旦発動成功すれば、1時間は自動的に持続しますので、矢を射るのに集中できるメリットがあります。

 

 魔術を覚えることができた背景ですが、たぶんですが森人探検家ちゃんは、半竜娘ちゃんと魔女さんと、あと、鋼鉄等級の貴族令嬢一党の緑髪の森人魔術師から、魔術の手解きを受けていたのでしょう。

 それが今、花開いたということかと。

 

 

 そして、さらに経験点を消費して、職業:神官(交易神)のレベルを2→4に上昇。

 

 新たに授かった奇跡は、【解毒(キュア)】と【解呪(ディスペル)】です。

 

 【解毒】は、何かの保険でしょうね。半竜娘ちゃんが召喚した精霊による支援効果を受ければ、かなり重い毒や病気でも癒すことができるでしょう。あと、何かの拍子に半竜娘ちゃんの毒のブレスを吸ってしまったときにも気休めにはなります。実は初対面の時にブレスを向けられたのがトラウマだな?

 

 【解呪】は、【矢避(ディフレクトミサイル)】などのバフを消したりできる、汎用性の高い呪文です。魔法的な罠も無効化できるかも知れません。特に【矢避】対策は重要ですね。妖精弓手から、アイアンゴーレムの矢避けの加護について聞いていたから出てきた発想かも。

 

 神官として成長できたのは、きっと大金を稼いだことが、交易神の目に留まったからでしょう。交易神は商売の神なので。

 

 これで残り経験点はゼロ。経験点3500消費により成長点に7点追加で、森人探検家ちゃんの成長点ストックは48点。

 

 続いて成長点を使って、技能の成長です。

 

 早速、冒険者技能【速射】を4段階目の達人レベルに上げます。(成長点25点消費。残り成長点23点)

 

 次に、魔術や奇跡の種類が増えたので、冒険者技能【魔法の才】を2段階目の習熟レベルに上げます。

 これで魔法使用回数が2回になりました。【逆転】を使ったとしても、あと1回呪文が使えるようになります。(成長点10点消費。残り成長点13点)

 

 そして冒険者技能【狙撃】を習熟レベルに伸ばします。手番を1回使って狙いを定めることで、次の手番の命中率と威力と射程にボーナスを得ます。

 まあ、遠くからの不意打ち用ですかね。

 【狙撃】と【速射】は併用できないので、戦闘中は【速射】の出番の方が多そうですが、射程が伸びるのは良いことです。(成長点10点消費。残り成長点3点)

 

 残りの成長点はストックしておくようですね。

 次はぜひ、経験点を7000点まで貯めて、職業:野伏レベルを上げるようにしましょう。

 

 また、森人探検家ちゃんは、真言呪文の発動体(+3)について、半竜娘ちゃんとお揃いのもの(形態:ネックレス)を借りる約束をしたみたいですね。あの古竜の武器庫から略奪してきたもののうちの一つです。

 

 お揃いのネックレスとか仲良しやな、君ら!

 

 さらに、森人探検家ちゃんは、転移門の鏡を納めたときの報酬で、武器防具を魔法強化(+2)されたものに買い替えるようです。

 若干手持ちで足りなかった分は、半竜娘ちゃんからお金を借りたみたいですね。半竜娘ちゃんも、一党の戦力強化のために惜しみなく投資しました。

 

 なお、弓や野伏用の鎧類は、半竜娘ちゃんが古竜の武器庫から回収した中にはなかったか、すでに手放した後だった模様。多分、半竜娘ちゃん自身が使う可能性がある装備類を優先して確保したからでしょうし、当時は仲間を作ろうとは特に考えてなかったからでしょう。

 

 そうこうしているうちに、【追風】の精霊術で加速した馬車が、2日の道程を消化し、辺境の街に到着しました。

 

 うん、ヨシ!

 牧場が小鬼に襲われたりはしてないみたいですね!

 

 

 と、辺境の街に近づく途中で、空間に穴が空き、ゴブスレさん一党が出てきました。

 

 え?

 

 はい、ゴブスレさんたちがワープしてきました。

 

 まじか。

 

 

 ……あー、賢者ちゃん仕事早いですね。転移門の鏡を掌握して、稼働させるとこまで既にできたみたいです。転移門再稼働まで、「2D6」日かかると踏んだんですが、最低値の2日で再稼働させるとは、さすが勇者一行が誇る賢者です。

 そして動くようになったなら、それを通って帰りたいと願うのは、好奇心旺盛な冒険者なら当然のこと。

 その証拠に、ゴブスレさん以外の一党のメンバーは、妖精弓手がはしゃいでるのは予想通りとして、蜥蜴僧侶さんまで含めて皆でウキウキと転移の感想を言い合ってます。ゴブスレさんは、ヘルムで表情が見えませんが、まあ、ゴブリン退治にどう活かすか考えてると思います。

 

 でも大丈夫? 剣の乙女さんに、ゴブスレさんの住所バレたんじゃないの?(ここがあの女(牛飼娘)のハウスね) 転移で突撃されたり、逆にゴブスレさんが(かどわ)かされたりしない?

 

 

 ……ままえやろ。所詮は他人事ですし。

 

 

 とにかく、無事な辺境の街に、無事に到着しました!

 

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 帰ってきて早速、半竜娘ちゃんとゴブスレさんは、それぞれ手分けしてゴブリン退治に出かけていきました。

 ゴブリンどもは皆殺しだ。

 

 ゴブリン被害ですが、やはり、この二人が辺境の街から離れていた間に急に増えていたようです。

 結構タイミング的にはシビアだったのかも知れませんね。

 ゴブリンロードの襲撃まで、あまり猶予はなさそうです。

 多分、ゴブスレさんが水の街で瀕死になったり、転移門の鏡を見つけられないまま時間経過してロスが発生してたら間に合わなかったと思われます。

 

 まあ、猶予は一週間あるかないかというところでしょうか。

 

 その間に、半竜娘ちゃんはゴブリン退治のかたわら、魔女さんと一緒に、使い魔や肉体変容の魔術について研究を重ねるようです。

 

 ……ああ、半竜娘ちゃんは気づいてしまったのですね……。

 

 【突撃(チャージング)】の祖竜術で、理論値最大ダメージを出すためには、そもそも蜥蜴人の脚は鈍足に過ぎると……。

 

 蜥蜴人の種族としての移動力修正は、鉱人と同程度の鈍足です。

 森人の中でも足の速い(出目11)森人探検家ちゃんは、蜥蜴人最速クラス(出目12)である半竜娘ちゃんの約2倍の移動力を誇ります。種族固有の移動力係数が違いますのでね。

 

 つまり、足の速い森人(エルフ)を竜司祭にしてバフをガン積みした方が、半竜娘ちゃんよりも、倍は大きなダメージが出せるわけです。

 

 しかしそこで諦める半竜娘ちゃんではありませんでした。

 

 ところで、御伽噺には、『王子を蛙にしてしまう魔女』の話があります。

 

 つまり、肉体は魔術で変えられるのです。

 

 ならば、

馬人(ケンタウロス)などの、駿足の種族に己を、あるいは己の一部を変容させることが出来ないだろうか』、

 または、

『駿馬の使い魔に意識を宿らせ、祖竜術を使わせることが出来ないだろうか』

 ということを、魔女さんに相談したのです。

 

 それで、いま研究しているところというわけですね。

 半竜娘ちゃんは【分身】の術で、本物と全く同じ分身体を出せるので、人体実験も捗ったらしく。

 (倫理観が)壊れるなぁ。

 

 その過程で、どうも()()()の術ができたみたいです……。

 

 そりゃ、種族変えるよりは、性別変える方が簡単そうですし、実際、性別変わっても能力値は変わらないのを鑑みても、種族変えるよりは難易度低いはず。

 

 術の開発においても、確かに簡単な術から徐々に完成度を高めていくのは良いやり方ですが。

 

 しかし性転換かあ。

 

 男になった半竜娘ちゃん(分身)はハンサムで格好良かったですが、元に戻す方法がないのはどうかと思うよ? 有効なのは1回目の術だけで、2回目からは何故か効かないって……。

 分身は消して再作成すれば元に戻るからって、結構無茶な実験やってるよね、君たち。

 まあ、今後の研究次第でもっと良くなるのかもしれませんが、性転換の術は結局、全身変容の術への踏み台なので、そればっかりを研究するわけにもいきませんし、元に戻す術の研究は後回しですわな。

 

 

 半竜娘ちゃんは、分身ちゃんと本体でかわりばんこにゴブリン退治に出掛けたりして、街中のことも済ませています。

 装備のメンテナンスだったり、女武闘家ちゃんや蜥蜴僧侶さんと手合わせしたり、酒場で水精霊呼び出して【命水(アクアビット)】を振る舞ったり、冒険者ギルドの手伝いをしつつ【加速(ヘイスト)】付与屋をやってみたり、精霊術と祖竜術の触媒入れを一つにまとめる改造をしたり、いろいろとやっています。

 蜥蜴僧侶さんとチーズ同盟を結んだりとかも。おお、甘露甘露!

 

 その間に、森人探検家ちゃんはどうしてるかというと、次に探検する遺跡についての情報を集めたり、辺境の街のローグギルドに顔つなぎしたりしていたみたいです。

 《手》の権能を持つ呪物の噂とか拾ってきてくれたので、ゴブリンロードを片付けたら冒険に行こうな。

 

 半竜娘ちゃんのゴブリン退治にも、何度か新装備の慣らしついでに付いて来てくれました。

 半竜娘ちゃんよりえげつない手でゴブリンの巣穴を潰すのは、まじで変な笑いが出(草生え)ました。さすがマンチ師匠(指輪のホビット)の指導を受けた、ゴブスレさんの姉弟子。ガチです。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 いよいよゴブリンロードがやってくるかな、と密かに走者が緊張を高めるこの頃。

 

 めでたいことに、女神官ちゃんが、黒曜等級に昇格しました!

 オーガや*1アイアンゴーレムの討伐、そして転移門の鏡の献上が評価された形です。

 

 ということで、イベントです。

 

 半竜娘ちゃんが街中を歩いていると、圃人の男とぶつかりました。

 いまにも人を殺しそうな目をした圃人です。

 格好からすれば、斥候でしょうか。

 

 半竜娘ちゃんは、そんな圃人斥候に見覚えがあります。

 いつも酒場で【命水】を振る舞うときには真っ先に礼を言いに来る明るい男です。

 そんな圃人斥候が、危ない目つきで街中をフラフラと歩いているのですから、半竜娘ちゃんも何事かとギョッとします。

 

「なんじゃ!? お前さん、これからカチコミにでも行くのかや!? そんな顔して!」

 

「ああっ!? なんだって良いだろ! くそっ、何で俺がこんな……これからどうすれば」

 

 明らかに尋常ではない様子の圃人斥候は、そのまま去ろうとしますが、半竜娘ちゃんが呼び止めます。

 

「待て待て、なんぞ事情を話してみんか? 手前(てまえ)で良ければ聞くぞ?」

 

「あんたにゃ関係ないだろが」

 

「まあまあ、飯でも酒でもおごっちゃるから。とりあえず腹ば満たしてよく寝てから考えんか。ここでぶつかったのも何かの縁じゃて」

 

 とか言うと、強引に掴んでぶら下げて連れて行きます。

 圃人の背丈で蜥蜴人の巨躯に吊されたら、どうしようもありません。

 大概にして、半竜娘ちゃんもお人好しですよねえ。まあ、それはほぼ無償で【命水】を振る舞ったりしてることからも既に明らかですけど。

 

「あっ、おいやめろ、放せって! やめろこら下ろせよ! 恥ずかしいだろ!」

 

 圃人斥候は暴れますが、まあ無駄ですわな。

 

「いいからいいから」

 

「やめれー! 人攫いー!」

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 さて、無理やり酒場(ギルドの酒場ではないところです)に連れ込み、飯を食いがてら話を聞きます。

 

 

 へー、先に見つけた宝箱をガメたと。

 いやそりゃあかんやろ。

 

 あ、まあ飲みなよ。ほらどんどん行こう。

 

 でもアイツら、戦闘に貢献しないときはこっちの取り分減らそうとして来るし、斥候の大変さを分かってないって?

 それでも、その一線超えたらダメでしょ。やってることは同じだし、信頼関係崩れるし……って、すでに圃人斥候視点だと信頼関係崩れてたのか。

 

 あー、つらかったのな、認められないってのは。おう飲め飲め。

 

 ギルドはその一回で、この街から追放で白磁からやり直せって言うし、立ち会いの小鬼殺しも全然かばってくれないし?

 いや、そらそうよ。相手の立場で考えてみいよ。

 

 それでも追放は酷い、降格は酷い、と。

 まあ、他の街で、訳ありで降格した輩がどう扱われるかって不安だものねえ。

 分かった分かった、飲んで忘れよう、な?

 

 で、結局何がしたかったのよ。

 

 ガメた宝箱の分の金も装備に当てたんでしょ?

 つまりもともと、別に冒険者辞めるつもりも無かったんでしょ?

 もっと活躍したかったんでしょ?

 

「うう、冒険が、したいです……! 半竜の姉御ぉ」(泥酔状態)

 

 その言葉が聞きたかった!

 

 …………ここにぃ、常に危難の中に飛び込むクレイジーなパーティーがあってえ、斥候を募集してるんだよねえ。(ニチャァ

 

 正当な評価をお約束しよう!!

 

 え? でも辺境の街のギルドは追放されてるって?

 

 どうせ白磁からやり直すなら、別人として登録すれば良いじゃん!

 冒険者ギルドに顔を知られてるから無理だって?

 

 いやいや、例えばさあ……

 

 女になっちゃえばさあ、ばれないんじゃないのぉ?

 

*1
オーガは倒してないので修正します。




お酒は用量を守って飲みましょう。大事なものをなくしても知りませんよ?
なお半竜娘ちゃんは全く善意でやらかした模様。


備忘のため森人探検家ちゃんのステータスを掲載します。特に見なくてもオッケーです。(パーティーメンバー増えるならステータスは独立させようかな)

◆名前:森人探検家
 年齢200歳(後で変更するかも)。金の髪。
 緑衣の勇者は弓の速射の達人でもあり、彼の英雄に憧れて冒険者になろうと出てきた。
 しかし何やかんやあって貧乏暮らしをして、飢え死にしそうになった時に師匠に拾われる。(来歴:貧困、邂逅:師匠)
 師匠として、「忍び」「先生」と呼ばれる圃人を持つ。つまりゴブリンスレイヤーの姉弟子にあたる。
 俊敏ではあるが、体力はない(体力値1、持久度0)。
 貧乏暮らしの時にお金の大切さが身に染みたため、エルフでも珍しく交易神の信仰に目覚める。


◆累積経験点 23000点/ 残り経験点0点
(街の魔神駆除 +1500点
 転移門献上  +1000点))

◆残り成長点 3点
 累積経験点23000到達で冒険者レベル6に上昇。

◆能力値
装備:体力強化の指輪+3、技量強化の指輪+3
能力値体力点 1+3魂魄点 3技量点 5+3知力点 4
集中度 265106
持久度 04384
反射度 265106


    生命力:【 23(18+5) 】
    移動力:【 44 】 
 呪文使用回数:【 02 】

  呪文抵抗基準値(魂魄反射+冒険者LV+呪文抵抗):【 11 】

◆冒険者レベル:【 6 】 (技能を達人まで習得可能)up!
  職業レベル:【野伏:7】【神官(交易神):4】up!【魔術師:2】new!

◆冒険者等級:青玉等級

◆冒険者技能    初歩/習熟/熟練/達人/伝説
  【武器:弩弓】 ●  ●  ●  ○   ○
  【魔法の才】  ●   ●  ○  ○   ○up!
  【怪物知識】  ●   ○  ○  ○   ○
  【速射】    ●  ●  ●  ●   ○up!
  【狙撃】    ●   ●  ○  ○   ○up!
  【曲射】    ●   ○  ○  ○   ○
  【刺突攻撃】  ●  ●  ●  ○   ○
  【手仕事】   ●   ○  ○  ○   ○
  【機先】    ●   ●  ○  ○   ○
  【頑健】    ●   ○  ○  ○   ○
  【体術】    ●   ○  ○  ○   ○
  【忍耐】    ●   ○  ○  ○   ○

◆一般技能     初歩/習熟/熟練
  【暗視】    ●  ○  ○
  【精霊の愛し子】●  〇  〇
  【生存術】   ●  〇  〇
  【工作】    ●  〇  〇

◆呪文
 呪文行使基準値(魂魄集中):【 5 】
        (知力集中):【 6 】
 職業:神官(交易神):4 魔術師:2
 技能:特になし
 装備:聖印(奇跡行使+1)、真言呪文の発動体+3(真言呪文行使+3)
 真言:【 11 】  奇跡:【 10 】  祖竜:【 0 】  精霊:【 0 】

 ◎習得呪文:
 《 逆転 》 難易度:10 (奇跡 付与呪文(属性なし))
 《 旅人 》 難易度:15 (奇跡 付与呪文(生命))
 《 解毒 》 難易度:10 (奇跡 治癒呪文(生命))
 《 解呪 》 難易度:10 (奇跡 治癒呪文(生命・精神・物質・空間))
 《 力与 》 難易度:10 (真言呪文 付与呪文(なし))
 《 解錠 》 難易度:10 (真言呪文 汎用呪文(なし))

◆攻撃
 命中基準値(技量集中):【 10 】
 職業:【野伏:7】
 技能:【武器(弩弓):熟練(+3)】
 近接:【 10 】  弩弓:【 20 】  投擲:【 17 】

 ◎武器:【 大弓 +2】 new!
   用途/属性:【 両手弓重/刺 】
  命中値合計:【 20 】 射程:120m
   威力:2d6+4
   効果:長大(狭所で2D6が4以下でファンブル)、刺突(+2)、速射(-8)、「矢」を消費

 ◎武器:【 短弓 +2】 new!
   用途/属性:【 両手弓軽/刺 】
  命中値合計:【 20+2 】 射程:60m
   威力:1d6+2
   効果:刺突(+1)、速射(-4)、「矢」を消費

 ◎武器:【 短槍 】
   用途/属性:【 片手槍軽/刺 】
  命中値合計:【 10 】
   威力:1d6
   効果:投擲適用、刺突(+1)

◆防御
 回避基準値(技量反射+体術スキル):【 11 】
 ◎鎧:【 軽鎧 】
   鎧:狩人の外套+2(装甲値4、回避修正+3)new!
     鋲付き鎧下(装甲2、移動力修正-4)
   属性:【 軽鎧(革)/軽 】  回避値合計:【 14 】
   移動力合計:【 38 】  装甲値合計:【 6 】
   隠密性:【普通】

 盾受け基準値(技量反射):【 なし 】(適用可能職業なし)
 ◎盾:なし

◆所持金
  銀貨:100枚

◆その他の所持品
冒険者ツール(鈎縄,楔x10,小槌,火口箱,背負い袋,水袋,携帯用食器,白墨,小刀,松明x6)
  携帯食×7日分、衣類
  聖印(交易神) ×1(装備中:ベルトに吊るしている)
  鍵開け道具 ×1
  罠師道具 ×5
  矢筒 ×1(移動力修正-2)
  矢 ×30
  煙玉 ×1
  治癒の水薬 ×1
  強壮の水薬 ×1
  解毒薬 ×1
  防毒面 ×1
  臭い消し ×1
  技量強化の指輪+3 ×1(装備中)(半竜娘から貸してもらってる)
  体力強化の指輪+3 ×1(装備中)(半竜娘から貸してもらってる)
  真言呪文の発動体+3 ×1(装備中、形態:ネックレス)(半竜娘とおそろい)

◆出自/来歴/邂逅/動機
 猟師/貧困/師匠/英傑憧憬


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15/n 裏

 閲覧、評価、感想、お気に入り登録、誤字報告、ありがとうございます!
 いつも感想ありがとうございます!(大事なことなので(略)) もちろんいつも全部読ませていただいてます!

 前話で女神官ちゃんの戦績にオーガを数えてたのを修正しました。
 あと、念のため性転換タグつけました。
 ご指摘ありがとう御座いました!


1.俺を月まで連れていけ(Fly me to the Green Moon)

 

 地下遺跡から回収した転移門の鏡は、法の神殿の一室に安置されました。

 

 さらには、王国の誇る賢者の手により、その制御が可能になり、ゴブリンたちが再びその鏡から出てくることはなくなりました。

 なお、剣の乙女が、万が一にもゴブリンの巣などの混沌勢力の方からは、二度と繋がらないようにと、賢者に念入りなセキュリティ対策を要請したのは言うまでもありません。

 

 

 いま、その鏡の前には、ゴブリンスレイヤー一党と、鏡の制御を賢者から教わった剣の乙女が立っています。

 

 

 これから、ゴブリンスレイヤー一党を、辺境の街まで送り返すのです。

 

「うわー、楽しみ!」耳をピコピコ動かす妖精弓手。「転移門なんて、おじい様のお話でしか聞いたことないわ!」

 

 冒険者になったのはこういう未知に触れるため。

 いままさに、冒険をしている! と目を輝かせています。

 

「でも、良いんでしょうか……私たちが使っても」女神官は、少し遠慮がちです。

 

「その権利はありましょうや」蜥蜴僧侶は澄まし顔。「引き上げて納めるのには、我らも協力したゆえ」ただし、そわそわと揺れ動くその尻尾を除いては。

 

「ううむ、しかし改めて見ても凄まじい魔道具じゃ」鉱人道士は術士の観点から、神代の遺物の力に感心しきりです。

 

「のう、かみきり丸よ。これがあれば、緑の月にいるというゴブリンを殺しに行けるやもしれんぞ」

 

「そうか」

 

 ゴブリンスレイヤーの面頬の奥の表情は見えません。

 そうかと言ったきり、黙り込んでいます。

 黙っているのは考えている証拠です。なうろーでぃんぐ、って感じでしょうか。

 

「緑の月に攻め込むなら、独りでは無理だな」

 

 HUMMMM……と更に考え込むゴブリンスレイヤーは、鉱人道士の言葉を真剣に検討しているようです。

 

 彼は周りの妖精弓手を、鉱人道士を、蜥蜴僧侶を、そして女神官を見ます。

 “仲間たち”と、そう呼んでも良いのでしょうか。

 やがては緑の月まで、“冒険”にいくとして、それに付き合ってくれるのでしょうか。

 

 あるいはそれは、ゴブリンスレイヤーが初めて、彼自身の使命の終わりを、明確に、具体的に、イメージした瞬間だったのかもしれません。

 

 でも、いまはまだ。

 

 小鬼を殺して村を守る。

 緑の月の小鬼を殺し尽くす。

 

 ……どちらも大事なことですが、しかし、選ぶなら村の守りを選ぶのが、ゴブリンスレイヤーです。

 

 緑の月のゴブリンを殺す間に、村が襲われるのを看過することなどできないから、彼は、小鬼を殺す者となったのです。

 

 

 

 

 そんな彼を、剣の乙女は、その半ば(めし)いた目で、(ねつ)っぽく、(つや)っぽく、いえ、恋を知ったばかりの乙女のように、見つめていました。

 

 

 

 

  ●○●○●○●○●

 

 

 

 

2.押忍!!

 

 ギルドの脇の空き地は、辺境最高の重戦士一党をはじめとして、冒険者たちが訓練をやる場所になっています。

 どこだかの廃村を潰して、本格的な訓練場を作る計画もあるのだとか。

 

 そんな空き地で、この日は半竜娘と、女武闘家と、そして蜥蜴僧侶が、稽古をするようです。

 

 蜥蜴僧侶に対して、半竜娘と女武闘家が2人掛かりで挑む陣形の模様。

 

 

「久し振りに組み手でもと思うたところ、付き合ってもらってありがたいかぎりじゃ、叔父貴殿」奇怪な手つきで合掌する半竜娘。

 

「押忍! 蜥蜴人の爪爪牙尾の恐ろしさ、ご指南のほどよろしくお願いします!」折り目正しく礼をする女武闘家。

 

 その2人に対して、蜥蜴僧侶も合掌して返します。

 

「こちらこそ。……では、存分に参られませい!!」

 

「「押忍!!」」

 

 先に仕掛けたのは、身軽な女武闘家。素早く飛び出し、連撃を浴びせます。

 

「アタタタタタタッ!!」

 

 目にもとまらぬ怒涛の連打。

 しかし、それを蜥蜴僧侶は無防備に受け止めます。

 防御する必要すらない、とでも言うかのように。

 

「一撃一撃が軽いっ! 魂を込めねば通りませぬぞっ!」

 

「ぐっ、押忍!」

 

 反撃に振るわれた、蜥蜴僧侶の尾に打ち据えられ、女武闘家は強制的に距離を取らされます。

 優れた蜥蜴人の武僧の鱗は、竜のそれに匹敵すると言います。

 

 入れ替わりに半竜娘が、蜥蜴僧侶に肉薄します。

 握らず緩く開かれた拳は、その竜爪によって引き裂くための形。

 

「受けてみい! 構えくらいは取らせちゃるぞ!!」

 

「その意気や好し! 功夫(クンフー)を見てやりましょう!」

 

 日頃の鍛錬により鉄のごとき硬さを持つ指、その先の竜爪に、さしもの銀等級も構えをとった。

 

「イィヤァアアア!!」怪鳥音とともに、半竜娘は、地を這うような体勢から、掬い上げるように爪撃。

 

「大地の反発力を得ようとは(さか)しらな! だが、膂力(ちから)が足りておりませぬな!」

 

 蜥蜴僧侶は、「踏み込みが足りん!」とばかりに、半竜娘の攻撃ごと上からの振り下ろしのカウンターで叩き潰します。

 それはまるで、雷竜のごとき力強さです。

 打ち潰された半竜娘を中心に、ズンと、空き地が震動するほどです。

 

 ひたすらに強き一撃を追求し、必倒の一撃を繰り出すのが蜥蜴人の流儀です。

 さらに言えば、一撃でダメなら、倒れるまで叩き込むのも、蜥蜴人の流儀。

 

「ハァッ!!」蜥蜴僧侶は、地に潰れた半竜娘へと容赦のない踏みつけ攻撃(ストンピング)

 

 半竜娘は亀のように耐えるのみ。

 

 しかしこの稽古は一対一ではありません。

 

「ハイヤァッ!」女武闘家が、十分に氣を練り上げて、飛び蹴りで急襲!

 

「むっ!」蜥蜴僧侶に防御を取らせ、その腕を弾き、防御ごと上体を崩すことに成功します。

 

 しかし、蜥蜴僧侶の優れた体幹は、即座に反撃を可能とします!

 流れた上半身を引き戻し、それと同時に牙の噛みつき!

 

 まだ空中にいる女武闘家は、手加減されたそれを避けましたが、目の前で牙が「ガチン」と噛み合わされて冷や汗をかくことに。

 蜥蜴僧侶が本気であれば、首の肉をごっそりと持って行かれたことでしょう。

 

 その間に、倒れていた半竜娘は反撃行動に移っています。

 

「セィヤッ!!」

 

 起き上がりに、尾と片足をバネに、伸び上がるように蹴撃!

 閉じたばかりの蜥蜴僧侶の顎を蹴り飛ばし、尾と体幹を軸にした横倒しの歯車のように、回転しながら離脱。

 

 三者は一旦離れて……、そしてまたすぐに激突します。

 機を伺うよりも、積極的に攻めるべし、です。

 特に蜥蜴人は先の先をモットーとします。

 

 

 強固な鱗のぶつかり合いは、まるで重量級の武器を打ち合わせているかのような轟音を響かせています。

 女武闘家も、氣を巡らせて、五体総身を鉄と成して応戦しています。

 

 

 

 それを離れたところから見ているのは、青年剣士と新米戦士らを初めとした、駆け出しの面々。

 

 見物人たちの思いは一つ。

 

(((蜥蜴人こえー、そして職業:武道家ってつえー)))

 

 祖竜術で治せるからと、次第に「死ななきゃ安い」とばかりに過熱していく稽古に、周りは顔を引きつらせます。

 

 ちなみに、最後に立っていたのは、蜥蜴僧侶だけでした。

 

 

 

 

  ●○●○●○●○●

 

 

 

 

 

3.てぃーえすっ!

 

 蠱惑的な肉体を、悩ましげに頬杖をついて机に預けているのは、泣き黒子が魅力的な女……魔女として知られる銀等級の冒険者です。

 

 机には、神々が四方世界の駒たちを作った際の伝承、肉体を変異させるシェイプシフターたちの生態、鰓人に先祖返りする血筋の只人の手記、魔神が使う肉体変容の術についての文献などが散らばり、そして、さまざまな生き物の解剖スケッチも束ねて置かれています。

 

 また、ここには出していないものの、使い魔との感覚同調や、使い魔を通じた術の行使などについてまとめたノートもあります。

 

 これらは、同居している半竜娘との共同研究で、特に祖竜術【突撃】の威力向上のために行っているものになります。

 魔女としても、肉体変容や使い魔の術というのは、研究して損はない内容だったので、引き受けたのです。

 

 

 そして、アンニュイな様子の魔女ですが、研究が行き詰まっているわけではありません。

 肉体変容については、進捗があり、文献から拾い上げた同系統の術の再現に成功しました。

 

 半竜娘の【分身】にそれを使ったところ、狙いどおりの変容を引き起こせました。

 

 用いた真言は、『イーオン(永久)……コントラ(反転)……ゲヌス()』。

 どうやら、王子に恵まれなかった太古の王に請われた魔法使いが、生まれたばかりの姫を、王子へと性転換させた秘術だということです。

 

 それぞれの真言を刻んだ古竜の竜鱗を用意し、刻まれた真言をなぞりながら竜鱗を触媒にすることで、術への理解はいまだ不十分ながら、発現させることに成功。

 

 その結果、半竜娘の分身体は、おそろしく凛々しい美男子へと変貌。

 大きな図体の割に、若干のあどけなさを残す美少年顔のアンバランスさは、危うげな魅力があります。

 

 魔女が槍使いに惚れていなければ、こちらに懸想してもおかしくなかったくらいに美形で恵体です。

 というか、まかり間違って街中に放り出せば、たちまちに道行く街娘たちを虜にしてしまうだろうことは確実です。

 変化前よりもさらに美貌に磨きが掛かっているようにも見えます。あるいは、そういう作用もある術なのかもしれません。

 

「こ、これが手前(てまえ)であるか、しかし男の身体は不便であるな……なんというか、ムラムラしすぎて頭が霞がかったようになるというか。バカになったような感じというか……」

 

 蜥蜴人の二本の雄性器は体内収納されているので、股間には違和感はないようですが、情動面での不安定さを感じている様子。性欲を持て余す……。

 

「そ ね。特にあなたの年ごろだと、そう なのかも ね」

 

「ううむ、滾る感じはあるが、あんまりにも(むら)っけがありすぎるのう。これは女の方がよいと思うぞ。もう戻りたくなってきた」

 

「でも、時間切れまで どのくらいか、計らないと、ね」

 

「うううう、落ち着かんのじゃぁ~」

 

 からかいたい気持ちを、アンニュイな雰囲気の仮面を被ることで押さえつけ、魔女は経過を観察します。

 迂闊に刺激して襲われてもたまりませんからね。とても、とっても、からかいたいんですけども。

 

 …………。

 ……。

 

 

 結局、分身が消えるまで、性転換の呪文の効果は切れませんでした。

 あるいは真言の通りに、永続的な効果なのかも知れません。

 

 

●余談:

 副作用というか、何というか。分身と記憶を共有した(男性視点を知った)半竜娘ちゃんは、魔女さんを初めとした女性たちを見てドキドキすることが増えたとか。

 

 

 

 

  ●○●○●○●○●

 

 

 

 

4.裏取りは大事

 

 

 半竜娘が、圃人斥候の悩みを聞いて、望みを尋ね、それを叶えるために術を使ってやった次の日の午前中。

 

 圃人斥候は、己の変化にも気付かず、まだ夢の中です。

 

 

 一方、半竜娘は森人探検家から報告を受けていました。

 圃人斥候の言い分の裏取りです。

 

 なんでも、ローグギルドの方でも、『こいつそのうちドロップアウトするやろ(笑)。今のうちに情報集めとこ』と思われてたようで、既にある程度の素行調査はされていたらしく、すぐに情報は集まったとか。圃人斥候ェ……。

 

 

「それで、あの圃人の斥候が言っておったことは、どの程度が客観的に事実だったかや?」

 

「まあ、嘘はついてない、ってレベルね。元の一党の他のメンツは、呪文書が金食い虫の妖術師、所帯持ちの僧侶、分不相応な装備に手を出した斧使いで、それぞれにお金が必要な手合いだから、売り言葉に買い言葉で斥候軽視発言(そういうこと)もあったみたいよ。まあ斥候も当然言い返してるわけで、どっちが悪いとかじゃないわね」

 

「貧すれば鈍する、か……世知辛いのう。そやつらも金があればそんなこと言うような奴らではないだろうにのう。……他になんぞ気になることはあるかや?」

 

「んー、斥候としての腕は確かだけど、性格に難あり、ってのが、周りのパーティーからの評判ね。一言で言うと『信用が置けなさそう』」

 

「手を抜くということかの?」

 

「いいえ。抜け駆けと、自己中心的性格。あと短気と短慮。自分が賢いと思ってるバカ、結果が出ないのは他人のせいで自分は悪くないという被害者根性。そういうもろもろね」

 

「こっちとしては、手を抜かねば別に良いが。抜け駆け得意の功名餓鬼というのも、蜥蜴人には珍しくもなし。

 しかし、めちゃくそに言われとるもんじゃのう。組んで冒険したわけでもあるまいに」

 

「まあ、そういう感じの冒険者って珍しいものでもないから、経験で嗅ぎ分けられるようになるみたいよ。それに、駆け出しから中堅になるころには、酸いも甘いも経験して落ち着くのがほとんどだし……それまで生き残ってれば。

 あなたが拾ったその圃人も、このパーティーなら金銭的余裕もあるし、あなたがしっかり手綱を握れば問題ないでしょ。このあいだの調子で魔神とかに遭遇していけば、もとのランクの鋼鉄等級にだってすぐ上がるわよ」

 

「なるほど。…………お主は、パーティーに加えるのは反対するかの?」

 

「はぁ~。そんな反対はしないわよ、専業の斥候が居た方が、遺跡探索にはありがたいし、腕がいいってんなら、その分、今まで敬遠してたような難易度の遺跡に行けるようになるもの。男ならちょっと考えたかもだけど、今は女になってるし。そいつの性根の矯正だって手も口も出すから安心なさい」

 

「しかし乗り気じゃなさそうじゃよ?」

 

「……クソ師匠が圃人だったから、圃人に苦手意識が少しある。少しだけね。ただそれだけよ」

 

「……であるか」

 

「そーなのよ。ま、銀等級の小鬼殺しをあげつらって、雑魚狩りで銀まで上がった~とか言ってるくせに、その真似でソロでゴブリン退治したりもせずに、そのくせ自分も楽に等級上げたい~なんて言っちゃうような性根は、気に入らないから、きっちり教育して(わからせて)やりたいと思ってるわ」

 

「『世の中全部、やるか、やらないか』じゃったか。まあ、小鬼殺し殿が楽して等級上げておると思ったなら、真似して自分もソロでゴブリン退治すれば良かろうものな、手前(てまえ)みたいに」

 

「そうそう、やる奴が一番えらいのよ。だから、あなたみたいな、きちんと『やる』奴と一党組めたのは良かったと思ってるわ」

 

手前(てまえ)こそ、ありがたく思っておるぞ!」

 

「はいはい。そしたら、あいつが起きたらいろいろと説明しなきゃね。

 あと、あいつの元の仲間とかへのフォローも必要だから、そのためのカバーストーリーも作ってきたわ。不整合が出ないように、一緒に見直して、覚えてくれる?」

 

「おお! 仕事が速いのう! 助かるのじゃ!」

 

 

 

 

  ●○●○●○●○●

 

 

 

 

5.てぃーえすっ!!

 

 

 

 圃人斥候は軽い二日酔いに痛む頭を押さえて、寝台から起き上がりました。

 昨日は、街でぶつかった半竜の娘に愚痴を聞いてもらいながら、しこたま酒を飲んだのでした。

 

「うー、水、水……」

 

 そのおかげか、悩みも吹っ切れたような気がします。

 自分が出した声に違和感があるのは、喉が酒焼けしてるせいでしょうか。

 

 

 寝台のそばの机に置かれた水差しから水を飲むと、解毒の水薬でも混ぜてあったのか、二日酔いが治っていきます。

 

「うーん、水差しにポーションとか、すげえ好待遇だなぁ。こりゃ、あの娘はオイラに惚れたかあ? オイラも罪な男だねえ、ニシシッ!」

 

 調子のいいこと言ってますが、昨晩に自分が泥酔して「半竜の姉御~」なんて言ってたのは、どうも都合よく忘れているようです。

 おおかた、その場のノリで生きている手合いなのでしょう。

 

 ちなみに、寝間着なんて庶民は持ってないので、この時期は裸で寝るのが普通です。

 いつもの癖で無意識に身体を掻きながら立ち上がると、違和感に気づきます。

 

 

 

 あるべきものが、ありません。

 

 

 

 勘違いかと思って、もう一度全身確かめます。

 

 髪は柔らかくしなやかになっているような。

 指も細く、色白になっているような。

 というか、全体的に肌がすべすべになっている気がする。

 

 あと、特に股間を念入りに確認します。

 

 しかし。

 

 それでも、やっぱり。

 

 

 あるべきものが、ありません。

 

 

 その代わりに、なかったはずのものがついています。

 

 

 ふわっとしたふたつのちぶさが。

 

 

「!?!!???!? うわああああああああああああ!?!?!?」

 

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 

 寝起きの叫びを聞きつけた半竜娘と、そのパーティーメンバーだという金髪の森人探検家から、一通りの経緯を聞いた圃人斥候、改め、TS圃人斥候は、当然の権利のごとく激昂します。

 どうやら、多少は昨夜のことを思い出したようです。

 

「おまっ、おまっ、お前ら! も、も、元に戻せよ!!」混乱のあまり、呂律が回っていないTS圃人斥候。

 

「まあまあ、こっちはこれがベストじゃと思うておるぞ? 不慣れな街でやり直すのではなく、慣れたこの街でやり直せるし、当然冒険者稼業も続けられる。望み通りになるようにしてやったじゃろ?

 だいたい、よしんば戻せたとしてじゃな、それでどうするつもりじゃよ」静かな声で半竜娘が諭します。

 

「そうそう、男に戻ったところで、ギルドの決定は覆らないし。圃人庄から出てきた妹ってことにでもして、やり直しましょうよ?」森人探検家も同調します。

 

「いやいやいや! どう考えてもオイラは騙された被害者だろ!? 現状回復を要求する! ついでに精神的苦痛による慰謝料もだ!!」自分を被害者の立ち位置に置けそうだと思った途端に、要求を加速させるTS圃人斥候。

 

 そういうとこやぞ、お前。

 

「まあまあ。女の身体の方がいいぞー、っていうか、そっちだってどうせ『女はいいよなー、適当に媚び売ってたらチヤホヤされてさー。オイラだって女に生まれたかったぜ』とか思っておったんじゃろう? 願ったり叶ったりじゃろ」

 

「なっ、オイラそんなことまで昨日喋ったのか!?」

 

「いいえ、でもあんたみたいなのは、いかにもそういうこと考えそうよね。実際、図星みたいだし」

 

 間抜けは見つかったようだな!

 

「底が浅いんじゃよなあ。あ、これ見るかの? 同業者におけるお前さんの評判をまとめたもんじゃ。上手く性根を隠したつもりじゃろうが、ある程度以上の経験を積んだ者にはバレておったようじゃぞ?」

 

 ほらほら、と森人探検家が裏取りしたレポートをTS圃人斥候に渡す半竜娘。

 

 それに目を通していく内に、段々とTS圃人斥候はしょんぼりしていきます。

 

「な、な、な、これマジかよ……ええ……まじか……ヘコむわ……」

 

「男に戻るより、心機一転というか、身綺麗になって、わたしたちとバンバン冒険した方がいいと思うわよ? こんな好条件のパーティーの一員になるチャンスなんか、男に戻って別天地でやり直したって、絶対ないから。うちのパーティーは、まだ等級こそ高くないけど、財力も武力もあるしね」

 

「それにお前さんの斥候の腕前は、そのレポートの中でも、誰もが認めるところじゃ。その腕前を活かすなら、手前(てまえ)らの一党に加わるのが一番じゃよ」

 

「うー、あー、むむむむむ」

 

「功績を積んだタイミングで、何かの遺跡で呪いを食らって性転換したとか、適当に理由付けて、男に戻ってもいいわけだし」(戻れるとは言ってない)*1

 

「なあに、先ずは一年間だけでも良いのじゃぞ?」(一年で終わりとは言ってない)

 

「ぬぬぬ」

 

「ほらほら、カバーストーリーも用意してるし」

 

 森人探検家が、TS圃人斥候の設定集の束を渡しました。

 だんだん受ける方向へと心が動いているのか、TS圃人斥候はそれに目を通していきます。

 

「なっ、元の仲間(あいつら)に頭下げるのかよ!? 金まで渡すなんて!」

 

「そりゃそうじゃろ。バカ正直に、宝物ガメてましたとか言う必要はないが、急に居なくなる不義理するんじゃし」

 

「詫び金はこっちで立て替えるわよ。あんたも今回のことで、評判ってのがいかに大事か身にしみたでしょ。

 兄の尻拭いする苦労性の妹ってポジションなら、前のあんたの悪評がかえってプラスに働くわ」

 

「【看破(センスライ)】の奇跡に引っかからないような問答対応もちゃんと考えてあるから、全部おぼえるのじゃ」

 

「ここまで至れり尽くせりしてくれるなんて、なかなかないわよー?」

 

「装備だって、このあいだ手前(てまえ)が古竜の武器庫から持ってきたものから好きなのを選んで良いし」

 

「そこになくても、必要な装備は共通経費から出すわよ。女になるのを受け入れるだけでこれだけの好待遇! いつ決めるの? 今でしょ!!」

 

「それだけお前さんの腕前を買っておるのじゃよ! どうか受けてくれんかの? 恐るべき竜に、あるいは英雄英傑に至るために、お前さんの力が必要なのじゃ」

 

 TS圃人斥候の頭の中で、グルグルと損得勘定が回ります。

 

 言われてみれば、悪い話ではないかも?(グルグルおめめ)

 

 装備もかなり上等なのが整うし?

 破竹の勢いの気鋭の一党ですし?

 半竜娘も森人探検家も美少女ですし?

 ここまで求められては悪い気もしませんし?

 

「うぐぐぐぐ、わ、分かった! そこまで言われちゃ仕方ねえ! 受けてやるよ!」

 

「おお、それでこそじゃ! コンゴトモヨロシク!」(チョロイな)

 

「ようこそ! 歓迎するわ、盛大にね! これからよろしくね!」(チョロイわね)

 

 説得(言いくるめ)に成功し、半竜娘の一党に専業の斥候が加わることになったのです!

 

 

 

 

 

*1
性転換の魔術の持続力:術の行使に当たって、半竜娘は、妙なタイミングで解けたりしないように、気合いを入れて術を使った。大精霊を術の支援につけて(達成値ボーナス+5)、古竜の鱗を触媒に(達成値ボーナス+3)、加速の呪文(達成値ボーナス+4)も載せ、さらに生命の遣い手効果で出目10以上を大成功として換算。儀式魔法の同時行使相乗効果で、達成値を加算。合計達成値は94。【解呪】する場合は、解呪が大成功した上で達成値94を上回る必要があるが、一流でも達成値40越えは稀なので、解呪はほぼ不可能。さらに、遺伝子などの知識は魔女さんより半竜娘ちゃんの方が造詣が深いので、魔女さんがやるよりも効力が高まっている。なお、効果時間は少なくとも一年間以上だが、正確な日数は不明。ほんとに永続的な魔法かも。




 なお、『白磁の新人を教育して、一人前に鍛える(性根を叩き直す)ことは一党の義務である』との大義名分を得た半竜娘と森人探検家によって、蜥蜴人(スパルタ)式かつ指輪の圃人(マンチ師匠)式の鍛錬が相乗したブートキャンプに放り込まれる模様。

 新人教育は一党の義務だからね! 仕方ないね!



 半竜娘ちゃんたちの戒律(アライメント)は敢えて当てはめるなら以下のイメージ。

 ●半竜娘
  悪ではない。悪ではないし善人なのだが発想がアレ。
  中立(ほぼ混沌)・善
  ※ルールの必要性は知っているし出来るだけルールを守るが、人助けに必要ならルールを破る。

 ●森人探検家
  半竜娘に比べれば常識人。でもマンチの系譜。
  中立(混沌寄り)・中庸(善寄り)
  ※ルールや他人にそこまで関心がない。どうせ全部、永久に続きはしない刹那のものなのだ。

 ●TS圃人斥候(悪堕ち前かつ矯正前)
  三下。
  中立(秩序寄り)・中庸(悪寄り)
  ※既存の枠組みの中でどれだけ上手く立ち回れるかに熱心。バレないことを前提にならルールを破ることもある。



 以下、TS圃人斥候のステータスです。


◆名前:TS圃人斥候
 圃人斥候の妹……という設定の、圃人斥候本人。年齢は40歳(只人の20歳相当)。表向きは、兄が手紙で寄越す活躍譚に憧れて冒険者になりたいと思っていたところ、兄が家庭の事情で圃人庄に帰ることとなったので、入れ違いに、兄の夢を自分が引き継いで叶えようと思って辺境の街にやってきた、ということにしている。
 兄(本人)が急に故郷に帰ることとなった件で、兄の代わりに元の一党の妖術師、僧侶、斧使いに頭を下げて回ったり(+多少の迷惑料を渡した。お金の出所を「実家が太い」ということで誤魔化していた件の既成事実化も兼ねている。半竜娘からの借財扱い)、早速初日からそこそこ大きなゴブリンの巣穴をソロ攻略(半竜娘は督戦のみ、手助けなし)させられたりした。今後も、「抜け駆けで利益を得るより、一党全体のために動いた方が得だ」ということを、また、「世の中に楽で安全な冒険などないのだ」ということを、身体にわからせられていくことになる。
(出自などをダイスで決めたら邂逅:宿敵(ピンゾロ)と、動機:挫折再起(6ゾロ)を振ったので笑ってしまった。境遇(追放→逆恨み→TSして再起)とマッチしすぎなのはダイス神の導きを感じる)
 圃人は、縮尺を小さくした感じの種族なので、ロリというわけではなく、2/3縮尺のフィギュア的なイメージをするのが正しいと思われ(身体のパーツの比率だけ見れば只人と変わらない)。ダンまちのリリルカとかと同じ感じ。
 性転換の術にそういう効果があったのか、顔面偏差値と体型偏差値が大幅に上がっている。



◆累積経験点 19000点/ 残り経験点0点

◆残り成長点 0点

◆能力値
 装備:知力強化の指輪+3、技量強化の指輪+3
能力値体力点 1魂魄点 5技量点 5+3知力点 1+3
集中度 12695
持久度 12695
反射度 459128


    生命力:【 19(14+5) 】
   (体力点+魂魄点+持久度+【頑健】)
    移動力:【 27 】 
 呪文使用回数:【 00 】

  呪文抵抗基準値(魂魄反射+冒険者LV+呪文抵抗):【 14 】

◆冒険者レベル:【 5 】
  職業レベル:【戦士:3】【斥候:7】

◆冒険者等級:白磁等級

◆冒険者技能    初歩/習熟/熟練/達人/伝説
  【機先】    ●   ●  ●  ○   ○
  【隠密】    ●  ○  ○  ○   ○
  【幸運】    ●  ○  ○  ○   ○
  【武器:片手剣】●  ○  ○  ○   ○
  【武器:投擲】 ●  ○  ○  ○   ○
  【体術】    ●  ○  ○  ○   ○
  【死角移動】  ●  ●  ○  ○   ○
  【手仕事】   ●  ●  ●  ○   ○
  【頑健】    ●  ○  ○  ○   ○
  【忍耐】    ●  ○  ○  ○   ○
  【観察】    ●  ●  ○  ○   ○
  【第六感】   ●  ●  ○  ○   ○

◆一般技能     初歩/習熟/熟練
  【調理】    ●  ○  ○
  【犯罪知識】  ●  ●  ○
  【鑑定】    ●  ○  ○

◆呪文  なし

◆攻撃
 命中基準値(技量集中):【 9 】
 職業:【斥候:7】【戦士:3】
 技能:【武器(片手剣):初歩(+1)】
    【武器(投擲) :初歩(+1)】
 近接:【 17 】  弩弓:【 9 】  投擲:【 17 】

 ◎武器:【 魔法の小剣+3】
   用途/属性:【 片手剣軽/斬刺殴 】
  命中値合計:【 17+1 】
   威力:
   片手:1d6+3+斥候レベル7
   効果:投擲適用、受け流し(+0)、強打・斬(+0)、刺突(+1)

 ◎武器:【 投矢 】
   用途/属性:【 片手投軽/刺 】
  命中値合計:【 17】
   威力:1d3+斥候レベル7
   効果:投擲専用、この武器は使用すると失われる

 ◎武器:【 魔法の投矢銃+2 】
   用途/属性:【 片手弩軽/刺 】
  命中値合計:【 9+6 】
   威力:1d6+2
   効果:刺突(+1)、「投矢」を消費


◆防御
 回避基準値(技量反射+斥候レベル+体術スキル):【 20 】
 ◎鎧:【 軽鎧】
   鎧:魔法の革鎧(+3)(装甲5、回避修正+3、移動修正なし)
   属性:【 軽鎧(革)/軽 】  回避値合計:【 23 】
   移動力合計:【 25 】  装甲値合計:【 5 】
   隠密性:【普通】

 盾受け基準値(技量反射+斥候レベル):【 19 】
 ◎盾:【 小型盾 】
   盾:魔法の吊盾(+2)(盾受け修正7、盾受け値5)
   属性:【 小型盾(木、革)/軽 】 盾受け基準値合計:【 26 】
  盾受装甲値合計:【 10 】 隠密性:【 普通 】

◆所持金
  銀貨:100枚(半竜娘に借金あり)

◆その他の所持品 (分身の分を余分に所持)
  冒険者ツール
   内訳(鈎縄,楔x10,小槌,火口箱,背負い袋,水袋,携帯用食器,白墨,小刀,松明x6)
  携帯食×7日分(圃人基準)、衣類
  ベルトポーチ ×2
  ずた袋 ×2
  小袋セット(3枚/1セット) ×2
  知力強化の指輪+3 ×1(装備中、借り物)
  技量強化の指輪+3 ×1(装備中、借り物)
  煙玉 ×2
  治癒の水薬 ×2
  強壮の水薬 ×1
  解毒薬 ×1
  鎮痛剤 ×1
  燃える水 ×1
  火の秘薬 ×1
  調理道具 ×1
  香辛料 ×1
  罠師道具 ×5
  トリカブトの毒 ×1
  催涙弾 ×3
  防毒面 ×1
  化粧道具 ×1
  臭い消し ×1
  投矢帯 ×1(移動力-2)
  投矢 ×15
  角灯 ×1(腰から吊り下げられるよう改造) 
  油 ×2
  鍵開け道具 ×1
  手当道具 ×6
  化膿止めの軟膏 ×2
  円匙 ×1
  筆記道具 ×1
  パピルス紙 ×10
  知覚上昇の秘薬 ×1
  敏捷上昇の秘薬 ×1
  
 
◆出自/来歴/邂逅/動機
 亭主/平穏/宿敵/挫折再起


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16/n 前 小鬼殺しの依頼~牧場防衛戦・準備

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 はいどーもー! 軍勢との戦いでこそ半竜娘ちゃんは映える! そんな実況、はーじまぁるよー!

 

 

 前回は、新しいお仲間をお迎えしたところまででしたね。

 

 道を断たれた哀れな子に、新しい道を示してあげたのです!(キラキラおめめ)

 聖職者らしいナイスムーヴでしたよ、半竜娘ちゃん!

 おっさんを魔法少女化する腹黒マスコットじみたムーヴのような気もしますが、示談は済んだのでオッケーです。

 

 

 

 そのおかげで、小柄だけどメリハリボディで可愛らしい、圃人(レーア)の女の子がパーティーに加入しました。

 

 このチョイスはマーケティング的にも正解ですよ!

 

 職業は斥候。

 

 性格がドサンピンなので、ちょっとブートキャンプに叩き込んで性根を叩き直す必要がありますが、腕は良いです。

 

 ステータスを少し見てみましょう。

 

 えーと、メイン職業:斥候はいいとして、サブが戦士なのは……移動妨害判定や脱出判定のためでしょうか。

 前の一党では、回避盾として、敵を引きつけて後衛に通さない役割もあったのでしょうし、あるいは遺跡探索中にトリモチ罠に引っかかったとかいう苦い経験があるのかも知れません。

 もしくは重量装備を運用したかったのかもですね。……ホビットが巨大武器振り回すのはロマン。

 

 まあ、半竜娘ちゃん一党は魔法強化された武器防具を使いまくってるお金持ちパーティー(古竜さんはいいお財布でしたね)なので、サブの戦士は半ば死に職業になっちゃいますが。

 わざわざ重装備しなくても、魔法強化した軽装備で十分同等以上に強いですからね。

 

 移籍すると、こういうロールのミスマッチが起こるのは、もう仕方ないので諦めろとしか。

 

 あと投矢銃(ダートガン)も持ってますが、適正装備じゃない(職業補正が乗らない)ので、遠距離からの牽制用か、毒との合わせ技運用が主体でしょう。とはいえ、命中補正がでかい武器なので、適正装備でなくてもそこそこの威力にはなります。

 

 い~い斥候が仲間になったので、遺跡探索の幅も広がります。

 

 それは、危ない橋を渡ったのを補って余りあるリターンです。

 これにより更なるタイム短縮が期待できますしね。

 

 いやあ、良い拾いものでした!

 

 というか、追放後の彼……いや彼女と一緒に冒険できる救済ルートもあるんですねえ。

 

 

 え?

 

 救済されてない?

 

 大事なものをなくした?

 

 

 何をおっしゃる!!

 

 美少女に生まれ変わって能力値引き継ぎプレイとか、救済以外の何物でもないですゾ(バ美肉おじさん並感)。*1*2

 

 ギルドへの虚偽登録はバレたら昇級が滞るペナルティーが想定されますが、スパイの潜入任務並みに背景を練ってるので、まあ、バレないでしょう。見た感じ、TS圃人斥候も、嘘ついたり演技するのに罪悪感を覚えないタイプぽいですし。

 

 リスクを避けるなら、適当な功績を挙げたタイミングで、功績点と引き換えに内々にギルドに話を通しておくべきでしょうが……。いやでも、呪文で女にしたとか、信じるか? という疑問も……【看破】使ってもらえば証明はできますが……。ま、そこは臨機応変で!

 

 

 さて、そんなTS圃人斥候の性根をビシバシ鍛え直すために、まずはゴブリン退治ヘビロテ耐久から始めるところだったんですが……。

 

 ついでに、夜は夢魔のおねーさんたちの居るお店で遊ばせて(に開発してもらって)、女の子の身体であることの“良さ”をわからせて二度と男に戻りたいとか考えられないようにさせるつもりだったんですが……。

 

 

 

 

「聞いてくれ、頼みがある」

 

 安っぽい鉄兜、薄汚れた革鎧、半端な長さに擦り上げられた剣、腰の雑嚢、端を鋭く研いだ円盾。

 冒険者ギルドで頭を下げているのは、ゴブリンスレイヤーさんです。

 

 つまりは今日が、ゴブリンロードの襲撃日。

 

 

 牧場防衛戦です!

 

 

 では、切り替えていきましょう。

 TS圃人斥候の教育はまた後日です。

 

 二周目モードなので、敵の数も増えているでしょうし、水の街の転移門の鏡から誤転移した小鬼(装備◎)が合流してたりとか、小鬼英雄の数が原作アニメ版よりも増えていたりとかするんじゃないでしょうか。

 

 ちなみに原作アニメ版ではゴブリン百匹規模の襲撃でした。雑兵、アーチャー、シャーマン、ウルフライダーやホブゴブリンにより構成され、チャンピオン2匹が混じっていました。

 

 まあ、これの倍は堅いと見るべきでしょう。

 三倍だとキツいですね、さすがに。

 

 

 さて、ギルドの中では、槍使いの兄貴が、ゴブスレさんに対して、

 “冒険者に頼むならギルド通して依頼を出せ”

 と言ってます。正論。

 しかしこれは助け船でもあります。

 

 槍使い 》それでいくら出せる?

 小鬼殺し》全てだ(Everything)

 槍使い 》!?

 

 やっぱりタガがはずれちゃってますよね、ゴブスレさんは。

 

 そのあと最終的に“一杯奢れよ”に着地させる槍ニキは男前やなって。

 

 そしてゴブスレさん一党のメンバーや、魔女さんが、次々と参加を表明します。

 

 遅れずにこのタイミングで、半竜娘ちゃん一党も名乗りを上げます。

 

 TS圃人斥候が不満そうな顔してますが、お前な、この一党は大して金に困ってもないんだからこういう功績点を稼げそうなおいしいイベントは乗らなきゃダメだぞ。

 ていうか、これを見過ごしてゴブリンと市街戦とかの方がイヤだぞ。

 

 ……どうでもいいですけどTS圃人斥候は、腹パンが似合いそうな顔してますね。どうでもいいですけど。

「銀等級に恩を売るチャンスだよなっ!」(冷や汗)

 そうそう、そうやって最初から手を挙げるんですよ、よくできました。

 

 

 森人探検家ちゃんは、“半竜の娘が手を挙げるなら付き合うわよ、っていうか、ハイエルフ様をお一人で参加させるとか森人の名折れだし”って感じで、特に抵抗なく参戦してくれるようです。

 

 その後、受付嬢さんの尽力と銀等級(ゴブスレさん)の築き上げてきた信頼もあり、ギルドからの特別依頼として、ゴブリン1匹あたり金貨1枚の討伐報酬が発表されると、他の冒険者も次々と参加を表明します。

 

 

 現金な奴らめ!(冒険者として残念でもなければ当然)

 

 でも、嫌いじゃないわ!

 

 

 

 さて、たかがゴブリンとはいえ、ロードに統率された場合は、軍隊として組織的に襲ってきますから危険度がダンチです。

 

 雑兵を真っ当に雑兵として運用してくるだけっちゃ、だけなんですが、それが一番ツラいというね。

 

 こちらも迎撃準備を整えなくてはなりません。

 準備期間は、この日の夜まで。

 

 呪文の使用回数を回復させるための睡眠時間を考えると、半竜娘ちゃんが準備を手伝える時間はそう多くありません。

 

 で、まあ半竜娘ちゃんの役目は何かというと……ずばり《人間重機》です!

 

 

 よっ、【辺境最大】!!

 

 

 デカぁい! つよぉい! 

 

 

 だから、空堀(からぼり)だってすぐ作れるんだぜ!!

 

 半竜娘ちゃんは、中世ファンタジー世界で、野戦築城して塹壕戦をやれる女です。

 まあ、銃砲がそんなにないのに塹壕戦とか意味ないですが。

 ……でも魔法(≒砲撃)あるし、火薬とハンドカノンもあるしなあ、意外と最前線では塹壕戦やってるのかも知れません。

 

 それはともかく、塹壕までいかずとも、空堀をこさえるだけでもかなり違いますからね。

 その辺はゴブスレさんの指示を仰ぎましょう。

 

 こういう時は、プロの言うとおりにするのが一番です。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 役割分担ですが、半竜娘ちゃんは、案の定、空堀を掘って、残土を盛り土して簡易の城壁にする役目を与えられました。

 

 そういえば土嚢って、いつ頃からある技術なんでしょうね?

 これがあるとないとで速度が段違いになるんですが。

 

 (むしろ)を二つ折りにして端を綴じて袋みたいにすれば*3、布じゃなくてもいけそうですが。

 藁を編んで(むしろ)を作る文化って、西洋にもあるのかな。いや、湿度が低くて肉食文化圏なら、革利用の方がメジャーか。

 袋ごと積むかどうかは別として、土の運搬に革袋を使ったりはしてたのでしょうから、土嚢自体は古くからあってもおかしくなさそうです。

 でも、産業革命以降、縫製品が安価にならないと、土嚢を大規模に使うのは無理そうな気もしますね。

 

 

 とりあえず、加速の術をかけた上で、分身ちゃんが円匙(スコップ)を持って巨大化し、空堀を作っていきます。

 

 分身が呪文を使い切れば、呪文を残している本体が分身を再作成して仕切り直します。

 トータルではこれが呪文使用回数を一番多くできるはずです。

 

 巨大化するときは、【統率】持ちの冒険者たちに、魔法職の冒険者たちを【統率】してもらって、半竜娘ちゃんに【支援行動】を投げてもらいます。

 10人ばかりに支援してもらえば、ほぼ確実に十倍拡大まで効力を伸ばせます。

 

 また円匙ですが、他の術師からエンチャントしてもらい、さくさくと地面を掘っていきます。

 魔法の円匙とか贅沢ですねえ。

 他の冒険者たちも、この魔法の使い方には呆れていますが、でも有効でしょ?

 

 【職人:土木】技能も活用し、空堀をどんどん掘っていきますよー!

 

 野戦築城(つちあそび)、たーのしぃー!!

 

 十倍拡大状態で50cmの堀を作るのは、元の大きさで深さ5cmの溝を掘るのと同じようなものです。

 らくしょーらくしょー!

 

 残土を(ほり)の脇に盛れば、段差は70cmにはなるでしょう。

 ゴブリンの背が120cmから140cmくらいだとすれば、これは奴らの胸までの高さの段差となり、進行を妨げるに十分なものと言えるでしょう。

 

 さー、どんどん牧場を空堀で囲んでいきましょうねー!

 空堀の一部を切って、キルゾーンへの誘導路を作るのも忘れずに。

 

 途中で、大きな盾を装備してから巨大化し、盾をブルドーザーみたいにした状態で【突撃】で土砂を退ける方法を思いつきましたので、さらに効率アップ!

 一度の【突撃】呪文で1000mにわたる土砂をどけられたので、最終的には、昼までに、十分な長さの空堀を作ることができましたよ!

 

「見よ!! 【辺境最大】たるパワーを!! 手前(てまえ)の力を!!」

 

 半竜娘が得意げに、その豊かな胸を反らして吼えてます。

 いやほんと、これは誇って良いと思うよ。

 浅い壕でも、あるとないとで大違いですからね。

 

 それに、牧場は今後も何度か襲われるので、要塞化して損はないですし。

 

 

「ああ、これならかなり有利に戦いを進められるだろう」

 

 指揮を執ったゴブリンスレイヤーさんも満足げです。

 

 

「牧場を守るつもりでいたら、いつの間にか要塞が出来上がっていた……何を言ってるかわからねーと思うが、オイラも言ってて信じられねー。いや、まじでどういうことだよ、半竜の姉御……」

 

 馬防柵や丸太の槍衾を【手仕事】技能で作っていたTS圃人斥候が戦慄しながら、小柄なわりにグラマーな身体を震わせてます。

 衝撃のあまり【()()】呼びになってますね。

 

 

 

 ていうか、ここまで地形変えちゃうと、ゴブリンたちが本当に来るのか疑問になります。

 

 途中で不利を悟って引き返したりしません?

 

 そこんとこどうなんでしょう、専門家の小鬼殺しさん。

 

「いや、ヤツらは来る」断定的にゴブスレさんが言います。「ヤツらは昨日、偵察に来ていた。だからこそ、もう偵察には来ない……偵察に気付かれたとも、こちらが対策をとるとも考えないからだ。夕方に軍勢を率いて巣を出て、こちらに向かって来る。そして、群れのほとんどを率いて来たときに、壕が出来ているからといって、偵察と違う様子だからといって、獲物を前に百を超えるゴブリンどもを引き返させることなど、いくらゴブリンロードといってもできることではない。せいぜい、偵察の小鬼に八つ当たりして終わりだ」

 

 あー、確かに。

 ゴブリンが、わざわざやってきたのに戦果なしに帰ることができるほど、(こら)(しょう)があるかというと、まあ、無いでしょうねえ。

 

「それに、逃げ帰るなら追撃すればいいし、また次の日に向けて壕や土壁をさらに作り増せばいい。

 そしてもし巣穴に戻って籠もるようなら、俺一人で十分殺せる」

 

 はー、なるほど。

 すると、時間はこちらの味方ですね。

 

「実のところ、やつらが数を生かして今日の夜に突っ込んで来るのが一番の脅威だ。だからそれを想定する」

 

 最悪の想定、というわけですね。

 さすが、ゴブリン殺しRTAの大先輩です。

 勉強になります。

 

 

 では、呪文の使用回数を回復させるに十分な睡眠(6時間)をとるために、半竜娘ちゃんをはじめとした、術を使い切った術師たちは、休みます。

 

 森人探検家ちゃんはまだ術の使用回数が残っているので休憩しません。狙撃手として、他の野伏たちと一緒に、狙撃ポイントの割り出しや、矢弾の調達に動いています。

 働き者ですねー。有能! 美麗! 好き!

 

 

 で、TS圃人斥候は、引き続き工作をやります。

 罠や障害物は、いくらあっても良いものですからね。

 その手際の良さを、進捗を見て回っていたゴブスレさんから褒められて、満更でもなさそう。

 がわいいなあ!

 

 

 

 

  ●○●○●○●○●

 

 

 

 はい、半竜娘ちゃん(&分身ちゃん)が休息から醒めました。

 呪文使用回数はフル回復できています。

 

 時刻は夕闇、黄昏の頃。

 

 春の終わり、夏草が伸び始めた牧場に、冒険者たちが(つど)っています。

 

 偵察に出たTS圃人斥候をはじめとした斥候たちが、ゴブリンたちの軍勢を発見しました。

 

 その数は……。あ、GMがダイス振りましたね。

 100+(50×1D6)匹で判定するようです。

 

 ダイス目は……6(ろく)!?

 

 

 は?

 

 

 

 最大値ですよ!!??

 

 つまり、総勢400匹のゴブリンの軍勢です!!

 

 え、400??

 

 本気で言ってる?

 

 よんひゃくって、おま、ちょい、おま!!(語彙力死滅)

 

 

 

 ま、マジで言ってらっしゃる?

 

 

 

 えー、しかも斥候の報告によると、大半が装備の整ったゴブリンとのこと。

 

 ていうか、こいつらホントに今までどこに隠れてたんだ??

 

 あー……多分、水の街で転移門の鏡を回収するまでに、辺境の街方面に誤転移か何かで吐き出され続けていたのでしょう。

 

 周辺の村が滅んだみたいな報告はなかったはずですし、水の街から帰ってきてからの一週間、ゴブスレさんも半竜娘ちゃんも、辺境の街周辺のゴブリン退治をしてましたが、そういった痕跡はなかったみたいですし。

 

 となると、補給物資も、転移門経由で蓄積されてた、とかでしょうか。

 だとすれば、襲撃のタイミングとしては、転移門経由の補給が途切れたので略奪のためにやってきた面も大きそうです。

 

 

 

 (想定の四倍は)いやー、キツいっす!

 

 

 

 というわけで、にわかに悲壮感が漂うようになった冒険者陣営。

 

 たかがゴブリン、されどゴブリン。

 

 数に任せて攻められるのが一番ツラい、というゴブスレさんの言葉は正しかった。

 

 

 

 

 

 しかーし!

 

 ここには小鬼殺しが居て、半竜娘ちゃんが居るのです!

 

 

「手は、ある」

 

 

 我らに秘策あり!!

 

 四百(しひゃく)の小鬼の何するものぞ!!

 

 さあ、いざ、いざいざいざ!!

 

 来るがいい、小鬼めらよ!!

 

 

  殲滅するは、我にあり!!!

 

 

 【辺境最大】、ここにあり!!!

 

 

 それを示して進ぜよう!!

 

 

 

 

 

*1
Q.性転換事後承諾はどの程度違法? A.そもそも強制性転換魔法を禁じる法がない(そんなん想定できるか)。というか、人権だの法だの自体が未整備。最悪、フェーデ(決闘裁判)を持ち出して白黒つける方法もあるため、半竜娘ちゃんはほぼ勝ち確である。ああ野蛮なる、中世ファンタジー世界よ!

*2
Q.仲間(になる前の冒険者)を騙す行為は昇級に響かない? A.バレたら響きます、バレたらね。騙す行為は信用に響くためギルド的にはNGですが、その後に銀貨1万枚(補正値+3)級の魔法の装備を複数貸し出したりで便宜を図って一応和解してるため酌量の余地があります。また、圃人斥候を仲間に迎える方が、行ける遺跡の幅が広がって功績を積みやすくなるのに加え、きっちり更正させればその育成手腕も評価されるので、結果的に昇級が早まることから、RTA的には正解のチャート。『性転換して仲間にするのが一番早いと思います』

*3
筵を袋状にしたもの:叺(かます)という。




これだからダイスを振るのはやめられねえ……(ダイスの女神様手加減して)


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16/n 後 牧場防衛戦(挿絵あり)

 閲覧、評価、感想、お気に入り登録、誤字報告、いつもありがとうございます!

 あとがきに挿絵あります。


 


 

 牧場防衛戦、“後編”っ!(名探偵コナン風に)

 

 想定の四倍多い小鬼たちに、冒険者側の士気が落ちかけましたが、「我に秘策あり(手はある)」とゴブリンスレイヤーさんと半竜娘ちゃんが説明して、なんとかもたせることができました。

 

 作戦の(かなめ)は、もちろん半竜娘ちゃんです。

 

 では粛々と準備をしていきます。

 

 まずは、統率技能持ちの冒険者に指揮させ、周囲の術使いの冒険者たちから、支援行動を貰います。

 フレーバー的には、おそらく場を清めて魔力の流れを整えてあげて、半竜娘ちゃん&分身ちゃんが術を使いやすくしてくれてるのだと思います。

 その結果、術の行使に、半竜娘ちゃん&分身ちゃんは、それぞれ+10のボーナスを得ます。*1

 

 術の使用回数は、半竜娘ちゃん本体7回、分身ちゃん7回です。

 

 まずは、達成値底上げのため【加速(ヘイスト)】を使います。――セメル(一時)キトー(俊敏)オッフェーロ(付与)

 行使判定結果は、それぞれ41、49でした。*2

 【加速】の補正値は本体・分身ともに+5になります。

 これで呪文行使回数は、それぞれ残り6ずつになりました。

 

 さて、半竜娘ちゃん本体と分身ちゃんで、それぞれ【使役(コントロールスピリット)】を使い、大精霊を呼び出します。『宴の時間ぞ水精霊(ウンディーネ)、気ままに歌いて舞い踊れ!』*3

 達成値は両方とも無事に30以上になり、大精霊級に育ったミズチちゃん(水龍モード)と、酒場に入り浸っている羽衣の水精霊を呼び出すことができました。

 

 羽衣の水精霊の方は、やだやだ言って駄々こねてますけど、せっかくなので呼び出しました。

 

 呼び出した水の大精霊たちは、半竜娘ちゃんズの【統率】技能により、分身ちゃんの支援に回します(術行使+5×2のボーナス)。

 また、本体の方の支援に回っていた術使いの冒険者も、分身の支援に回します(術行使+10)。

 

 残りの呪文使用回数は、本体5回、分身5回です。

 

 では分身ちゃんの方にバフを積みます。

 

 バフ1は【竜眼(ドラゴンアイ)】です。敵を見逃さないように、暗視と動体視力などを強化します。『風神竜(ケツァコアトルス)よ、利琳竜(レナリアサウラ)よ、わが小さき視葉に、四方世界を見せたまえ!』*4

 達成値は75。これで分身ちゃんの目は、すべての敵を見逃さないでしょう。

 

 分身ちゃんの呪文残り回数は4回。

 

 バフ2は、お待ちかねの【巨大(ビッグ)】です。セメル(一時)クレスクント(成長)オッフェーロ(付与)*5

 達成値は62なので、十倍拡大です! 分身ちゃんの残り呪文回数は3回。

 

 

 体長約22メートル! 六階建てのビルほどもある巨大な竜の娘が立ち上がりました。

 

 鋭い眼光は、高い位置から闇を見通し、微かな枝葉の動きからも敵の位置を見つけ出します。

 

 

 竜の眼には、相手はすでに見えています。

 

 敵の最前衛には、盾部隊。

 小癪にも、戸板に括りつけた人族の女捕虜を盾に掲げるべく持ってきているようです。

 『肉の盾』です。

 食料の足しにと齧られたのか、四肢から血を流している捕虜も多いようです。

 

 盾の後ろには、装備の整った大柄な小鬼たち……ホブと、チャンピオンなりかけの戦士(ウォーリアー)を含んだ剣士部隊と思われます。

 

 その後ろには弓兵(アーチャー)呪術師(シャーマン)らの後衛。

 

 さらに後ろにはゴブリンロードの近衛と思われる巨大な小鬼ども――ウォーリアーとチャンピオンの一隊。

 

 周囲の森が風の動きとは異なるようにざわめいているのは、狼騎兵(ライダー)により構成される別動隊でしょう。

 

 敵陣の最後方には、それら全てを束ねるゴブリンロード!

 魔法の輝きを帯びた戦斧を持っています。

 

 

 そして敵が見えたなら、もはや半竜娘(分身)に躊躇う理由はありません。

 敵陣の前衛まで400メートルほど。さらに奥のゴブリンロードまでは600メートルほど。

 どちらも十分に、【加速】と【巨大】によって射程が拡大された祖竜術【突撃(チャージング)】の範囲内ですし、助走距離としても十二分。

 

 そして、突撃する分身についていくために、水龍形態の水精霊が巨大化分身の首元に巻き付き、ついでに羽衣の水精霊も巻き取って捕まえます。

 「ちょっと、やーめーてー、ゴブリンきらーい! 近づきたくなーい!」とかいう羽衣の精霊の声が聞こえる気もしますが、無視します。このあとの祝勝の宴で機嫌をとってやればいいので。

 このとき、水精霊たちの支援行動は、周りの【統率】持ちの冒険者によるものに切り替えておきます。半竜娘ちゃんズの統率技能の枠を空ける必要があるので。

 

「では、一番槍はもらうのじゃ!!」

 

 身体を前傾させ、尾を後ろに伸ばしカウンターウェイトにし、巨大な半竜娘(分身)が走り出す準備します。

 霊威の高まりとともに、分身を竜のオーラがバチバチと包んでいきます。*6

 

「『俊敏なりし甲竜(アンキロス)よ、経絡巡りし雷を、どうか我が身に宿し給え!!!』」

 

 ――【突撃(チャージング)】!!!

 

 牧場を囲む浅い堀をまたいで突撃です。

 地響きを立てる半竜娘(分身)の歩みを止められるものなどありはしません。*7

 

 肉の盾を運ぶゴブリンたちについて、あるものはそのまま飛び越えられ、またあるものは垂らした前腕に引っ掛けられて肉片となって弾き飛ばされます。

 超強化された【竜眼】は、【突撃】の加速の最中でも、敵味方を見分ける動体視力を与え、【加速】された思考と肉体は、捕虜を避けた精密な攻撃を可能としたのです。

 

 肉盾を越えた先の中衛の小鬼戦士たちには遠慮する必要はありません。

 その前腕で、また後肢の爪で、振り回す尾で、吹き飛ばして進みます。

 

 後衛ゴブリンも同様! 鎧袖一触です!

 

 そして最も後方の近衛部隊にだって、この勢いを止められるものではありません。

 

 ウォーリアーを轢き潰し、チャンピオンをバラバラにして、いよいよロードに――

 

「GGOOOBOOBORRRRR!!」(やられるものか! 盾となれ!)

 

「GRYOOE!??」(え、な、俺えぇ!?)

 

 ――ロードへ突撃する寸前、ゴブリンウォーリアーのうちの一匹が、守らされるようにロードの前に躍り出ました。

 そして、ロードの身代わりとなって轢かれたのです。

 

「ゴブリンに【護衛】の心得があるじゃと!? ――いや、違う、これは、強制的に身代わりにしておるのか!?」

 

 名づけるとしたら、【強制身代わり】とでも言うべき技能でしょうか。

 周囲のゴブリンを身代わりにする立ち回りによって、ロードは攻撃を逃れたのです。

 

「しかぁし! まだ攻撃は終わっておらん!!」

 

 【加速】によりあふれた先制力により、半竜娘の分身は二回目行動が可能です。*8

 さらに、分身の二回目の行動は、本体の方の統率の効果により、最速に引き上げられていますから、即座に再行動可能です。*9

 

 

 

 そう、もともと【突撃】で全ての決着をつけようと思っていたわけではありません。

 

 どうがんばっても、【突撃】では直線上のみしか攻撃できません。

 

 広く散らばったゴブリンの軍勢に対しては、その一部を薙ぎ倒すことしかできないです。

 

 

 では、軍勢に効果的な攻撃は何か?

 

 もちろんマップ兵器ですね!(SRPG脳)

 

 しかしそんな、射程:シーン全体、対象:シーン全体の攻撃なんかあるはずが…………。

 

 

 …………あるんだなあ、これが!!

 

 

 どういうことかというと、祖竜術【竜吠(ドラゴンロアー)】は、極まれば、魔力を乗せた吼声による精神属性の攻撃が可能なのです。

 

 【竜吠】は、通常のレベルでは、魔力を乗せた声で敵を萎縮させて行動阻害する術です。

 しかし、達成値40以上の極まった状態では、行動阻害からさらに一歩進んで、声を聞いた者へ、その精神を削るダメージを与えます。

 対象は、『声を聞いた者』なので、めっちゃ大きい声を出せば、一帯の敵全てを攻撃できます。

 身体の大きな生き物の声は、それ相応に大きくなります。水中のシロナガスクジラの声は188デシベル(空中換算だと150デシベルくらい?)にも及ぶとか。巨大化した半竜娘ちゃんも、それに匹敵するでしょう。

 また、【竜吠】は影響対象を選べる術なので、フレンドリーファイアも抑えられます。

 

 

 

 大きな声を出すための【巨大】化。

 

 そして、獲物を確実に視認し識別するための【竜眼】。

 

 相手より早く行動するための【加速】。

 

 相手の精神を削ることができるほどに【竜吠(ドラゴンロアー)】の効力を高めるために、水精霊を【使役】し、その精霊たちを支援行動の射程から離れさせないようにするための同伴突撃。

 

 

 【竜吠】のために必要な達成値は40以上。

 その達成値は、祖竜術行使基準値21+加速ボーナス5+大精霊(水龍)支援5+大精霊(羽衣の女神)支援5+2D6で計算します。

 

 ダイスの出目は25で、7!

 

 合計43!

 

 

 よって、ドラゴンロアーに乗った魔力は、それを聞く小鬼たちに、恐怖を与え、恐怖が極まったことによる精神属性のダメージを与えます!

 

 発狂して、死 ぬ が よ い!!

 

 

「『偉大なりし暴君竜(バオロン)よ! 白亜の園に君臨せし、その威光をお借りする!!』 グルォォオオオオオオオオオオオ!!!

 

 

 あたり一帯に響き渡る大音声!

 たとえ魔力が乗っていなくとも、爆音のごとき吼声を間近で聞けば昏倒は必至!

 

 ましてやそこに原初の竜への恐怖を思い出させる魔力が乗せられたとなれば、小鬼ごときに耐えられるはずもなし!

 

 内から湧き上がる祖竜への恐怖の前には、死こそが安寧と知れ!

 

 その声を聞いたゴブリンどもに、精神属性で『竜司祭レベル9+3D6+巨大化ボーナス10』のダメージです!

 

 

 ダメージダイスの出目は123

 

 出目が低いので、因果点を使った【祈念】で振り直します!

 初期因果点は5点。2D6で5以上が出れば、祈念成功で振り直しの権利獲得ですが……33なので祈念成功!

 ダメージダイスを振り直す権利を得ました。祈念したので、因果点に+1。6点に上昇させます。

 

 因果点による振り直しの場合は、ダイス1個当たり1点加算できます。

 ダメージダイスなので当然加算します!

 

 これにより、ダメージ計算は……『竜司祭レベル9+因果点による振り直しボーナス3+3D6314+巨大化ボーナス10=30』!

 30点のダメージです!

 

 しかもこのダメージは、装甲による軽減不能!

 

 30点ダメージならば、雑兵、アーチャー、シャーマン、ホブゴブリン、ウォーリアーまで殺せます!

 チャンピオンも半殺しに追い込めますし、生き残ったやつらにも、恐怖状態・萎縮状態のデバフをつけられます。

 

 一網打尽だ!!

 

 

 ……これで全員を巻き込めていれば話は早いものの、実際は、視認できない対象には呪文は効果を現さないので(無差別化することもできますが、その場合は数キロ四方に響いた吼え声により、味方の冒険者や、街の人、牧場の家畜たちにも被害が出るので絶対やっちゃだめ)、どれだけのゴブリンをぶっ殺せたかダイスロールです。

 

 殺害数を、4D100で判定します。

 

 ……からころ……33、83、45、99! 合計260匹!

 

 半数以上を殺せました!!

 期待値以上です!

 

 わざわざ敵陣ど真ん中まで突撃してからドラゴンロアーを放った甲斐がありました。

 ここからなら、より多くの敵を視認できますからね。

 

 

 で、肝心のゴブリンロードですが……あれ? ピンピンしてますね。

 

 

 呪文抵抗できた訳でもなさそうですが……これは一体……?

 

 分身ちゃんの【第六感】判定で規定以上の出目が出たので、ゴブリンロードの持っている戦斧が怪しそうだと気づきます。

 

 【鑑定】判定してみましょう……成功しました。

 

 どうやら、ゴブリンロードの持つ斧には、持ち主へ、精神属性への完全耐性を与える加護があるようです。

 漫画版で、コナン・ザ・グレートみたいな戦士が持ってたやつですかね、それならそういう効果があっても納得です。

 

 差し詰め、『蛮勇の戦斧』といったところでしょうか。

 

 とはいえ、雑兵を中心に、視認範囲のゴブリンはほぼ死にました。何かの陰になってたやつらは生き残ってるでしょうけど。

 特に森から出てきていた前衛ゴブリンのダメージは甚大です。

 後ろをちらりと見れば、肉の盾の捕虜は無事な様子。良かった、ちゃんと対象外にできてました。

 

 ロード周辺の近衛も、瀕死だったり、萎縮したりで動きが鈍っています。

 森の中の敵にはダメージを与えられませんでしたが、大きな吼え声は、それだけで士気を挫くのに十分だったのか、草木を踏み分けるような不自然な葉の動きは見えません。

 

 これは、ロードを詰めるとこまで行けるか、と半竜娘ちゃんに功名心が芽生えかけたとき……。

 

 ゴブリンロードが『蛮勇の戦斧』を掲げ、その中心の宝玉(オーブ)に込められた魔法を解放します!

 

 すると、怯えて竦んでいたゴブリン近衛部隊から、怯えが消えて、態勢を立て直します。

 森の中のやつらも、再び動き出したようです。

 前衛ゴブリンの生き残りは、肉の盾を掲げ直して、牧場へと進んでいきます。(これは捕虜を救出するのには近くまで来た方が好都合なので別に良いでしょう)

 

 おそらくは、『蛮勇の戦斧』には、配下の精神属性による悪影響を取り除き、士気を上げる魔法が込められていたのでしょう。

 1日に何度も使えるものではないでしょうが、この状況では厄介です。

 

 

 仕切り直しの2ラウンド目。

 行動順は、水龍の水精霊(半竜娘ちゃんの統率により行動順引き上げ)、半竜娘ちゃん分身(一回目)、ゴブリンロード、羽衣の水精霊、ゴブリン近衛部隊、半竜娘ちゃん分身(二回目)です。

 

 水龍の水精霊に使ってもらうのは、【酩酊(ドランク)】の精霊術です。

 眠れー! 分身ちゃんは耐えろー!(【酩酊】の呪文は無差別攻撃しかできない。いや、いま巨大化してるから足元の酒の霧は吸い込まない気もしますね)

 

 はい、ロード以外の敵は眠りましたが、またロードの『蛮勇の戦斧』がピカッと光って、精神属性のバッドステータスを排除しました。【酩酊】の効果も精神属性なので解除されます。

 ついでに【酩酊】の霧も晴れていきます。

 

 まあ折り込み済みです。

 リアクションで使ってくるのは想定外ですが、リソースを減らせたのでヨシとします。

 むしろ、ゴブリンの前衛から肉の盾を回収するときの【酩酊】や【惰眠】を解除されないように、使い切らせたいですね。

 

 続いて分身ちゃんの攻撃です。

 戦場に目を走らせて、敵を視認します。

 

 もう一度【竜吠】です!

 ロードよりも雑兵への萎縮効果を狙います。精霊たちを攻撃に回したので、さすがに達成値40超えの精神属性ダメージまでは期待できなさそうですし。(クリティカルでない限りそこまで達成値が伸びない)

 

 ……やはり、クリティカルではなかったので、ダメージを与えるまでには至りませんでした。

 しかし、萎縮によるデバフと、恐怖による逃走誘発は発動しました!

 

 そしてまたロードの『蛮勇の戦斧』がピカッと光って効果を打ち消しました!

 ぐぬぬ、いや、これでよい!

 流石に三回も効果を使えば打ち止めでしょう!

 

 そして、配下の支援を受けたゴブリンロードの攻撃!

 近衛部隊の生き残りのゴブリンチャンピオンは、全て、ロードの支援に回るようです。

 

 それにより、ゴブリンロードの命中判定に+40の補正! 威力にも+40の補正!*10

 

 いくら巨大化して装甲が厚くなっている半竜娘ちゃんでも、避けられなければ即死(分身消滅)です!(分身ちゃんの耐久は13くらいしかないので……)

 これぞ固定値の暴力!

 回避判定でクリティカルしないと避けられません!

 

 回避ダイスロール! ……クリティカルではなかった!

 だけど因果点を積んで、祈念して判定結果の向上を試みます。

 失敗を成功にできるか……祈念のダイス目の結果は22で、4!? 低い!

 現在因果点の6点には及びませんでしたので不発!

 不発ですが、祈念したので、因果点は7点に上昇します。

 

 分身ちゃんは、ロードの斧を受けるしかありません……!!

 

「GOORRRR!!!!」

 

「くっ、敵ながら、天晴れ見事!!」

 

 斬、斬、斬!

 

 配下を虐殺されたゴブリンロードの怒りの連撃が、ダルマ落としのように、巨大化した半竜娘ちゃんを切り裂いて落としていきます。

 

 不利を悟った羽衣の水精霊は、水龍の水精霊を連れて、逃走します。(因果点を使った確定逃走。現在因果点に3点追加し、10点になります)

 

 …………。

 ……。

 

 はい、あとはほぼ原作通りの流れです。

 

 壕を作ったこと、半竜娘ちゃんと再作成された分身ちゃんが【竜吠】でデバフを撒きまくったこと、貴族令嬢一党や青年剣士一党らが生き残っていることによる冒険者側の戦力増強により、むしろ原作より優勢に進められました。

 日々、酒場で【命水】を振る舞って、冒険者たちの疲労を消してたのも良かったのでしょう。

 さすがに、半竜娘ちゃんは、残りの獲物は他の冒険者たちに譲った模様。功績独り占めして恨みを買いたくないですからね。

 

 原作より増えたチャンピオンたちは、エルフの弓兵たちがバンバンやっつけましたし、重戦士や槍使いがより多く片付けましたから問題なしです。

 

 一匹で逃げようとしたゴブリンロードも、ゴブスレさんが仕留めたとのこと。

 ロードは統率による支援効果が厄介なだけで、一匹だけなら、ホブゴブリンに毛が生えた程度なのですよね。

 しかも、TS圃人斥候が加勢したことで、ゴブスレさんも余裕を持って倒せたとのことです。やるやん(たぶんTS圃人斥候は抜け駆けしようとしたんだろうけど)。

 

 よーし、祝勝会だーー!!

 ギルドも竜の素材で儲けてるから、遠慮なく報酬を貰おう!

 もちろん酒は全部、【辺境最大】が奢るぞー! 一番稼いだからなー!

 

 さて、今回はここまで、また次回!

 

 

*1
支援行動による呪文行使の補正値:魔女さん+5、鉱人道士+5、妖術師(圃人斥候の元パーティーメンバー)+3、少女巫術師+2、森人魔術師(鋼鉄等級の貴族令嬢一党)+3、見習聖女+1など(これら数値は独自設定)

*2
【加速】ヘイストの達成値:本体→呪文行使基礎値20+付与呪文熟達3+冒険者による支援10+2D626=41、分身→呪文行使基礎値20+付与呪文熟達3+冒険者による支援10+2D656+クリティカルボーナス5=49

*3
【使役】コントロールスピリットの達成値:本体→精霊術行使基礎値15+加速ボーナス5+冒険者による支援10+精霊の愛し子ボーナス1+上質な触媒1+2D664=42、分身→精霊術行使基礎値15+加速ボーナス5+冒険者による支援10+精霊の愛し子ボーナス1+上質な触媒1+2D654+大精霊(ミズチ)による支援5-酒場以外での呼び出し15=31

*4
【竜眼】ドラゴンアイの達成値:分身→祖竜術行使基礎値21+付与呪文熟達3+加速ボーナス5+冒険者による支援20+大精霊(水龍)支援5+大精霊(羽衣の女神)支援5+2D656+クリティカルボーナス5=75

*5
【巨大】ビッグの達成値:分身→真言呪文行使基礎値20+付与呪文熟達3+加速ボーナス5+冒険者による支援20+大精霊(水龍)支援5+大精霊(羽衣の女神)支援5+2D622=62

*6
【突撃】チャージングの達成値:分身→祖竜術行使基礎値21+加速ボーナス5+冒険者による支援18+大精霊(水龍)支援5+大精霊(羽衣の女神)支援5+2D654=63

*7
【突撃】チャージングのダメージ:助走距離400~600の20%+竜司祭レベル9+6D6133334+巨大化ダメージボーナス10=116~156

*8
分身先制力:機先2+加速ボーナス5+34=14。12と2に分けて二回行動。

*9
本体先制力:機先2+加速ボーナス5+42=13。12と1に分けて二回行動。先制力12の方で、分身の二回目の行動を統率し同値行動させる。

*10
ゴブリンロードの支援補正:周囲20m以内のゴブリン全てから支援を得ることができる。生き残りはゴブリンチャンピオン8匹。一匹あたり、命中判定と威力に+5の補正を加える。




半竜娘ちゃんパーティーのイメージ画像を女の子メーカーで作ったよ!
皆さんの心の中のイメージと違ったら見なかったことにしてね!

各メーカーの作者さんたちに感謝!

◆半竜娘ちゃんイメージ
 Picrewの「遊び屋さんちゃん」でつくったよ! https://picrew.me/share?cd=wZesuN9igj

【挿絵表示】

↑雰囲気はこんな感じなのじゃ。本当はもっと身体はゴリラだぞ

 Picrewの「人外女子メーカー」でつくったよ! https://picrew.me/share?cd=KsLmkX9Nbh

【挿絵表示】

↑外観はこっちの方がイメージに近い


◆森人探検家ちゃんイメージ
 Picrewの「夢で逢ったヒトメーカー」でつくったやつですわ→ https://picrew.me/share?cd=eHBGXttDjd

【挿絵表示】

↑儚げな顔してバンバン矢を撃ってくる鬼エルフ

◆TS圃人斥候イメージ
 Picrewの「ガン見してぅるメーカー」でつくったやつだぞ。 →  https://picrew.me/share?cd=CdpkWpjshK

【挿絵表示】

圃人(ほびと/レーア)だからよく食う。


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16/n 裏

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1.どこかでお会いしたことありませんか……?

 

 心機一転、あるいは、()機一転。

 

 TS圃人斥候は、辺境の街の冒険者ギルドに登録に来ていた。

 性転換の魔法を掛けられた翌日のことである。

 

 担当してくれた職員は、因縁ある受付嬢だ。

 

「それではこちらにご記入ください」

 

「はい、わかりました」(ぐぬぬ)

 

 思うところが無いわけではないが、今更の話だし、逆恨みでしかないのも理解している。

 

 それに、「じー」っと半竜娘と森人探検家が冒険者ギルドのテーブルから見張っている。

 覚え込まされた『設定集』どおりに登録できるか、とちったときのフォローは必要かを心配しているのかもしれないが。

 

(心配しすぎだっつの! 見張らなくてもヘマしねーよ)

 

 いずれにせよ、迂闊なことはできない。

 

 まあ、今からやるのは虚偽登録になるかもしれないが、バレなきゃいいのだ。偽名登録だの覆面登録だのどこの冒険者ギルドでもそこそこやられてることだと聞くし。

 冒険者になる前のことを根掘り葉掘り尋ねるのはマナー違反だという向きもある。

 

 それに、もしバレても、半竜娘たちにやらされたという言い訳も立つ。

 

 だいたい、これ以降は真面目にやるつもりなのだから、そう大した問題ではなかろう。

 結果を出せばいいのだ。

 

(騙す罪悪感とか特にねーしな。むしろ、オイラの嘘に騙されるってことは、オイラの方が頭の回りが上ってことだ! ハ! 気分がいいね!)

 

 内心で舌を出しつつ、さらさらと登録用紙を書き終えて、いくつかのヒアリングを済ませる。

 質問は想定された『設定集』の範囲を出なかった。

 

(完璧っ!)

 

「はい、ではご登録ありがとうございます」

 

 笑顔で事務を済ませた受付嬢に、TS圃人斥候もにこやかに返す。

 笑顔は元手のかからない武器だ、女になった今ではなおさらに。

 

(フフーン、ちょろいもんだぜっ。いまのオイラは自分で言うのもアレだが、カワイイからな!)

 

「うーん、冒険者になられた貴女、どこかでお会いしたことありましたっけ? なんだか見覚えが……」

 

 男だったなら、これで勘違いして『逆ナンか? オイラに気があるのか?』とか思うかも知れないが、これは単に本当に見覚えがあるというだけだ。

 

(……それに今は女になっちまってるし、逆ナンとかナイナイ。いや、女同士でってのも興味はあるが。男とはしたくねーし)

 

「ああ、それなら、兄がここで冒険者として登録していたはずです」(まさか性転換したとは思うまい)

 

「…………ひょっとして、斥候の?」

 

「そーなんですよ、なんか急に実家に戻ってきて。それもあって、食い扶持を減らすためにもオイラ……アタシが冒険者になりにきたんです。兄から送られてくる手紙を読んで興味もありましたし」

 

「なるほど、だから見覚えが……。そうですか、あの斥候のかたは実家に帰られたのですね」

 

「なにがあったか、詳しくは教えてくれないんですけどねー」(オマエに降格させられたからだけどな!)

 

 なるほど、と受付嬢は何かを書き付けているようだ。おおかた、血縁関係についてと、それゆえ要注意とか書こうとしてるのだろう。

 兄がやらかしたから、妹もあるいは、とかな。

 

 そうはさせるか。

 

 よし、切り出すなら、いま、このタイミングだ!

 

「ああ、そーでした。兄から、元いた一党を急に抜けたことを謝れてない、とだけは聞き出したんですよ! あの唐変木は昔っから! ……それで、代わりにと言っていいのか、アタシで良ければ謝りたいと思いまして。ご紹介いただければと」

 

 圃人斥候本人だから既に元仲間の顔はわかっているが、妹の設定なので最初から顔がわかっているのもおかしいだろう。

 

「あら……そうなんですね、ご立派ですね。

 それでしたら、ご紹介します。ちょうどあちらにいらっしゃいますよ。

 ……そのまま、お兄さんの代わりにその一党に入られるのですか?」

 

「ああ、あそこのあの方たちですか、ありがとうございます!

 いえ、入る一党なのですが、ちょうど街に着いたときに意気投合した方たちがいて誘ってもらってまして……ほら、あっちのテーブルの蜥蜴人ハーフと森人のペアの」

 

 TS圃人斥候が目を向けた先には、半竜娘と森人探検家。

 受付嬢とも目があったのか、ひらひらと手を振っている。

 

「ああ、半竜の。彼女たちなら安心ですね、ここの新人さんたちの中でも、特に実績が抜きん出てますし」

 

「やっぱりそーなんですね。どーりで……」

 

「“やっぱり”というと、その装備品は彼女たちから?」

 

 TS圃人斥候の持つ装備品は、新人が持つには分不相応に高級そうに思える。

 装備だけ見れば、ともすれば銅等級以上にも見えるくらいだ。

 

「そーなんですよ、ほら、圃人ってこんななりでしょう? アタシも十分、もう大人だってのに、過保護なのかこんなに魔法の装備を貸してもらっちゃって……」

 

「あら……それはまた」

 

「まあ、それだけ期待してもらってるってことで、悪い気はしませんけどね」

 

 苦笑するTS圃人斥候を見て、受付嬢は、手元の書き付けを更新しているようだ。

 

(よしっ、いい感じだったんじゃないか?!)

 

 パーフェクトコミュニケーション! という言葉が何故か脳裏をよぎった。

 

「それじゃあ、これから、兄のことで元一党の方たちに話を通してきます。受付さん、これからもよろしくお願いします!」

 

「こちらこそ、よろしくお願いしますね。何か無茶なことさせられそうになったらご相談くださいね」

 

「ええ、そのときは是非」(ハッ、現在進行形で無茶振りばっかりだよっ!)

 

 こうしてTS圃人斥候の二度目の冒険者生活が始まったのだ。

 

(いやしかしなんというか、こうやって演技をして好感を与えるってのは、クセになりそうだな)

 

 ……優位に立っている感じが、相手の感情をコントロールしている感じが、最高に、イイ……!(蕩け顔)

 

(じゅるり。おっといかんいかん。しかし、どうせやるなら、徹底的に演技を極めていくってのも、面白いかもな……ニシシ!)

 

 これはいわゆるサイコに片足つっこんでるのでは……?

 

(っていうか、そこまでやらんとどこかでボロが出る気がする……!)

 

 頑張れTS圃人斥候!!

 君のTSライフはまだまだ始まったばかりだぞ!

 

 

<『1.どこかでお会いしたことありませんか……?』 了>

 

 

 

 ○●○●○●○●○

 

 

 

2.このあと半竜娘ちゃんあての土木工事の指名依頼が増えます

 

 

 牧場主は、朝方に下宿させている冒険者からゴブリンが攻めてくるという予想を聞かされた。

 自分の拓いた土地を離れることも望まず、牧場を防衛する方針で残っていたのだが、その後の怒涛の急展開についていけずにいた。

 

 そう、急展開、だ。

 

 まだその日の昼にもなっていないというのに、母屋から見た先には、牧場主の目を疑うような光景が広がっていたのだ。

 

 だから、思わず小鬼殺しと呼ばれているという下宿人に問いかけてしまったのも無理はないのだ。

 

「なあ、冒険者というのは、みんなあんなことが出来るのか?」

 

「あんな、とは」

 

 

 ……ズズンッ……。

 

「いや、あれだよ、あの大きな蜥蜴人の女の子。(ほり)を掘っている、あの」

 

 ……ズズンッ……。ドドドドド……。

 

「“みんな”は出来ません。少なくとも俺にはとても」

 

「ああ、そうか……。うん、そうだよな……」

 

 ……ズズンッ……。

 『おーい、壕の壁には迂闊に近づくなー、脛までの高さでも崩れた土に巻き込まれれば足が折れるのじゃよ!』

 ……ズズンッ……。

 

「あれは、魔法、なのか?」

 

「そうだと聞いています」

 

 見る先では、巨大化した半竜の娘が、牧場をぐるりと囲むように壕を掘っている。

 彼女の背丈は、おそらく、街にあるどの建物よりも高いだろう。

 常識で考えたら、とても1日で終わるような工事ではないのだが、昼前には終わろうという勢いだ。

 それほど深い壕ではないとはいえ、凄まじいスピードだ。

 

「……というか、冒険者、なのか? 彼女は」

 

「そうですが……」

 

 ……ズズンッ……。ズザザザ……。

 

「いや、な。工事専業の方が、稼げるんじゃないかと、な。そちらの方が、よっぽど……あー」

 

「真っ当、ではあるかもしれません」

 

「そう、真っ当な食い扶持もありそうなものだが。あの大きい娘は、まだ若いようだし」

 

 冒険者というのは、街の住民から見れば、決して堅気ではない。

 ここ十年で、国の政策により、大きく社会的地位が向上したとはいえ、だ。

 

「……俺の一党にも蜥蜴人がいますが、戦いこそが生きがい、なのだと聞きます」

 

 ……ズズンッ……。

 

「そうなのか……。俺には分からん感覚だ」

 

「今回も、戦いの準備だから、こうして牧場を砦のようにするのに力を尽くしてくれているのだと思います」

 

 なんとも剣呑な動機だ。

 これは、冒険者だから物騒なのか、蜥蜴人だから物騒なのか、あるいは半竜娘が物騒なのか、彼らの人となりを知らない牧場主には判断がつきかねることだった。

 

「そういえば」

 

「ん、何だ?」

 

「あの竜の娘も、この牧場のチーズが大好物だと。牧場主に礼を、と言われていたのでした」

 

「へえ、それなら、あとで差し入れてやるとしよう」

 

「きっと喜びます」

 

 ……ズズッ……ドドド……。 

 

「すみません、いろいろと牧場をいじってしまって」

 

「いや、いい。必要なことだとは分かっているし、また似たようなことがあるかもしれない。ここはやはり辺境……魔物との最前線だからな。……それに、こうやって筋を通しに来てくれたからな。こちらの意見も反映してくれるのだろう?」

 

「はい、もちろんです」

 

 小鬼殺しは、広げていた紙を畳んでいく。

 牧場の防衛のために作る壕の位置などを牧場主に確認しに来ていたのだ。

 工事を入れてはいけないところがあれば教えてほしい、と。

 

 やはり、小鬼殺しの彼は、根は真面目なのだろう。

 戦いやすいように勝手にやっても文句は言わないのに、わざわざこうやって気遣ってくれる。

 

(もっとタガが外れているものかと思ったが、勝手に想像していたよりも、まともなのだな……これまでも、しっかり話せば良かったか)

 

 少しだけだが、小鬼殺しに対して持っていた苦手意識が和らいだような気がした。

 

(まあ、冒険者が堅気じゃないという思いには変わりはないが……。ちょっと同じ人間だとは思えないしな、あれを見ると)

 

 比較対象が、巨大な蜥蜴人のハーフの少女だから、という気もするが。

 確か、【辺境最大】などと呼ばれているのだったか。

 さもありなん。街のどの建物よりも大きいのだ、まごうことなく【辺境最大】であろうよ。

 

(牧場に壕を作るのと同じように、開拓村の防備を固めたりするのにも力を貸してくれるなら、人族の領域を広げていくスピードも上がるかもしれないな……。若いときにやった開拓も、これならとても早く終わったかもな、ははは)

 

 そんな風に、若いときに牧場を開墾したときのことを思い出しつつ、ぼんやりと窓の外を見ていた牧場主に、資料を畳み終えた小鬼殺しが声をかけた。

 

「安心してください。()()()()()()()()()()()()()()()()()から」

 

「……あ、ああ。頑張ってくれ」

 

 前言撤回。

 やはり、彼はタガが外れてしまっている。

 

 

<『2.このあと半竜娘ちゃんあての土木工事の指名依頼が増えます』 了>

 

 

 

 ○●○●○●○●○

 

 

 

3.牛さんには優しくね!

 

 少女巫術師(ドルイド)と妖術師は、牧場の家畜舎の中にいた。

 時刻は夜。

 ゴブリンたちが攻めてきているのを、斥候が見つけたのだという。

 

 彼女たちは、家畜舎の守りを任されたのだ。

 

「う~、作戦は上手く行くのでしょうか」圃人の少女巫術師は、400もの大軍だということを聞いて、そわそわと不安そうだ。ふわふわした(甘ロリ風の)服が、緊張で微かに震えている。そんな彼女を慰めるように、周りの家畜たちが集まる。ドルイドの彼女は、動物と意志疎通を図れる特技があるのだ。

 

「心配は要らないと思うわよ。それより、ここを守るのに専念しましょう。家畜は牧場の資産なんだから、しっかり守らないと」半森人の妖術師の彼女は、全身を覆うフード付きローブを身にまとい、呪文書を神経質に捲りながら集中している。

 

 既に妖術師の呪文は発動しており、あとはその維持に集中するだけだ。

 

 このハーフエルフの妖術師の女が発動させているのは【力場(フォースフィールド)】の呪文だ。

 魔力の(バリア)を作り出すこの呪文により、妖術師は家畜舎の窓や入り口などの他にも隙間の空いている場所に、その壁を貼り付けて塞いでいる。

 敵の侵入を防ぐ目的もあるが、主眼は音を少しも通さないようにすることだ。

 

「そろそろでしょうか」

 

「そうね……しかし、よくもまあ『竜の吼え声で発狂させて殺す』とか思い付くものよね」

 

 そう、彼女たちは、ゴブリンから家畜を守るというより、半竜娘(味方)の攻撃の余波から家畜を守るためにここに配置されているのだ。

 

「確かに、家畜が飛竜やロック鳥に追われると、恐怖のあまり泡を吹いて死ぬことがあるって、聞いたことがあります。でもそれを小鬼を殺すのに応用するのは、さすが“小鬼殺し”という感じですよね」

 

 あの“変なの”は、辺境の名物のようなもので、彼の偏屈さと徹底的な(冒険者らしからぬ)手法は有名だ。

 そのせいもあり、“小鬼殺しは冒険者ではない、駆除屋だ”、と揶揄する向きもあったりするのだが。(なおゴブリンスレイヤー本人も、自分を冒険者だとは思っていない模様)

 

「即答で“まかせるのじゃ!”って引き受けた半竜の子も相当よ。もう一人、銀等級の蜥蜴人の竜司祭もいたけど、それを差し置いて手を上げちゃうんだものね」

 

 作戦会議の場で蜥蜴僧侶も【竜吠】の術に立候補したのだが、いろいろと条件が合わずに、結局は半竜娘に譲ったのだ。

 妖術師は、少ししょんぼりとして尻尾を垂らした蜥蜴僧侶を見て、不覚にもギャップ萌え的な感情を覚えてしまった。*1

 蜥蜴人は、案外かわいいものなのかも知れない、などと言えば、相手によっては決闘不可避だろう。

 

「ま、まあ仕方ないわよね。媒介となる吼え声がより多くに届くように、そして味方に影響ができるだけないように、敵陣のど真ん中に行く必要があるんだもの。決死の覚悟で突入するか、使い潰してもいい【分身】を出せる術者で……」

 

 妖術師は指折り条件を数える。

 

「【加速】と【巨大】はほかの術者が使えるとしても、闇を見通すために【竜眼】か【猫眼】の術が使えて、距離を詰めるための【突撃】か何かの術が使えて、肝心(かなめ)の【竜吠】が使えて、効力を上げるために仲間の精霊を率いる統率力があって……」

 

「はは、条件が厳しすぎますよね! むしろそれだけ多彩な術を使える蜥蜴人のあの子が凄すぎます」

 

「あれでまだ鋼鉄等級ってんだからランク詐欺よね」

 

「仕方ないですよ、この春に登録したばかりですから」

 

「え、登録して一つの季節も過ぎてないの!? 嘘でしょ!? 他の街から流れてきたとかじゃなくて?」

 

「成人したてだそうですよ? 冒険者になったのはこの街が初めてということですね」

 

「えぇ……? 嘘でしょ……。才能の違いに打ちのめされそうだわ……」

 

 世の理不尽を嘆いていると、『グルォオオォオオオオ!!!』という轟音とともに家畜舎が揺れた。まるで大きな雷鳴のような声だった。

 牛たちがそれに驚き、暴れ出してしまう。

 

「わっ、わっ、みんな落ち着いて! 大丈夫、怖くない、怖くない、落ち着いて……」驚いて暴れ出す牛や馬たちを、少女巫術師は動物と意思疎通できる能力を生かして、懸命に宥める。

 

「始まったみたいね……」半森人の妖術師が維持する鎧戸代わりの【力場】のバリアがなければ、半竜娘の吼え声による影響はもっと甚大になっていただろう。貴重な呪文のリソースだが、ここで切るだけの甲斐はあったはずだ。

 

 いくら冒険者でも、恐慌状態の暴れ牛に陣形の後ろから突撃されたくはない。

 

 ……それに牛たちはかわいいし、暴れて傷つくのも不憫だ。

 

「牛乳たくさん飲んだら、私も育つかしら……」

 

 妖術師は胸元に視線を落として呟いた。

 先ほど挨拶した牛飼娘の胸部はとても豊満だったのだ。

 

 

 

<『3.牛さんには優しくね!』 了>

 

 

 

 ○●○●○●○●○

 

 

 

4.見晴らしの良い平地で森人の弓兵のまえに身を晒すことは、死を意味する

 

 

 ゴブリンたちは、味方の死体を踏み越えて進んでいる。

 

 半分以上の仲間が、大きな大きな雷のような巨獣の轟声の爆音に吹き飛ばされたかと思えば、

 気が狂ったように泣き叫んで、

 泣き叫んで、

 泣き叫んで――

 ――限界を超えて目を見開いて泡を吹いて、頭や胸を掻き毟って、ビクビクと痙攣して死んでいった。

 

 訳が分からない、恐ろしい死に方だった。

 

 死んだものと死ななかったものを分けたのは、ただ、巨竜の目に留まったか否かだけだった。

 それだけの、些細な、そして致命的な違いだった。

 しかしそんなこと、小鬼たちにはわからない。

 

 普段なら、もう小鬼たちは逃げ散っているだろう。

 訳の分からないうちに死ぬなんて、恐ろしくてやってられない。

 

 

 だが、そうはなっていない。

 

 

 王がいるし、まだまだ自分たちは十分な数がいる。

 目の前には、家畜が満載の牧場。女もいるという。

 その次は街だ。

 

 だいいち、その巨竜も、群れを率いる王の前には死ぬしかなかった。

 巨体を切り刻んだ王の斬撃を見たか!

 

 不思議と心の(『蛮勇の戦斧』の宝玉に)奥底から湧いてくる(込められた魔法による)闘志に突き動かされて、小鬼たちは突き進む。

 

 王は、小鬼の国を作るのだという。

 それはいい!

 人族を支配して好き放題にするのだ!

 

 

 下卑た欲望に舌なめずりをする小鬼の頭の中からは、すでに先ほど仲間たちを襲った恐ろしい狂死のありさまは忘れ去られていた。

 

 

 

 だから死ぬのだ。

 

 

 

 ほら、このように。

 

 

 

 ――「一丁上がり」と遠くで森人探検家がつぶやいた。

 

 

 

 視界の外から飛来した黒塗りの矢が、小鬼の眼窩から脳髄に突き刺さり、その漆黒の思考ごとぐちゃぐちゃと掻き混ぜた。

 

 そしてそれは戦場のいたるところで起こっていた。

 

 開けた平野で、森人の弓矢の前に身を晒して、生き残れる道理などないのだ。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 

「なかなかやるわねー」

 

 妖精弓手が、森人探検家の腕前に感心する。

 

「いえ、姫様ほどでは」

 

 森人探検家が謙遜ではなくそう口にする。

 

「姫様なんてガラじゃないってば~」

 

 なにせ、森人探検家が2矢放つ間に、妖精弓手は3矢を放っているのだ。

 しかもまるで魔法のように曲がる矢は、1矢で2匹3匹を同時に貫いていく。

 

 神業とはこのことだ。

 

 いまも会話しているうちにパ、パ、パと矢を放って、7匹のゴブリンを貫いた。

 

「すごい……」

 

「それほどでも……あるかもね! ふふっ」

 

 思わず見惚れてしまう。

 この技を自分のものにしたい、と、この機会によく見て学び取ろうと、森人探検家は決意をした。

 

(手取り足取り教えてもらえたらなー、いやいや、それは流石に不敬! で、でも、冒険者で先輩後輩なんだし、チャンスは……)

 

「あ」

 

「は、はい!?」

 

「大物が出てきたみたいよ! あれをやったら、あとは援護に回りましょうか」

 

「そ、そうですね! あんまり獲物を独占しすぎてもいけませんし!」

 

 

 

<『4.見晴らしの良い平地で森人の弓兵のまえに身を晒すことは、死を意味する』 了>

 

 

 

 ○●○●○●○●○

 

 

 

5.抜け駆けは戦の華

 

 TS圃人斥候は、剣を片手に森の中を駆けていた。

 

 戦場ではまず過半数の小鬼を半竜娘の【竜吠】の術で発狂させて殺し、『肉の盾』にされた捕虜についてはそれを掲げた小鬼の前衛を眠りの術で眠らせてる間に回収し、後衛の呪術師や弓兵は森人を中心としたこちらの後衛が串刺しにして片付け、中衛の小鬼剣士たちに至っては壕で誘導した先で投石と投槍で迎撃し、回り込んだゴブリンの狼騎兵も槍衾で止め、満を持して登場した大物も弓矢の援護でベテランの獲物と化した。

 

 すべての戦術を小鬼殺しに読まれたこの状況、小鬼の王にはもはや勝ち目はない。

 

「にししっ! 狙うならやっぱり大将首だろう! ここまで戦況が決まって、ロードだろうと所詮はゴブリンが逃げ出さないわけがない!」

 

 この牧場防衛戦に当たって、TS圃人斥候は、事前に半竜娘からゴブリンの思考回路についてある程度のレクチャーを受けていた。

 

 そのとき、

『まあ、少し前のお主みたいな思考回路だと思っておけば大体外れないじゃろ』

 とか言われたのは非常に不本意だが!!

 

 誰がゴブリン並みの下衆じゃい!!

 

 

 しかしまあ、有用なアドバイスではあった。

 

「オイラなら――おっと、()()()なら、逃げる! 自分だけでも逃げ延びる! さあ、どーこだ!?」

 

 だから、森の中で落ち武者狩りをやろうと、TS圃人斥候は駆けているのだ。

 圃人は夜目が効かないが、この辺りは昼のうちから何度か下見している。

 所々で腰につるしたランタンのシャッターを開けて周囲の様子を確認しさえすれば、十分に駆け抜けることができる。

 TS圃人斥候は、斥候としての腕だけはいいのだ。

 

 ゴブリンロードの脅威は、配下を多数引き連れた状態で発揮される。

 だからこそ敵中に突っ込んだ半竜娘(分身)はやられたし、逆に言えば配下を溶かして落ち延びるのみのロードなど、大した脅威ではない。

 

「そこか! ……ちっ、雑兵か! しかし金貨一枚! 笑いが止まらねえなあ、おい!」

 

 草葉が動き、そこに見つけたと思ったのは、しかしただの雑兵のゴブリンだった。

 

 ゴブリン程度に投矢(ダーツ)は勿体ない。1本で銀貨3枚もするのだ。

 だから適当にその辺の枝を折ったダーツもどきを投げる。

 それでひるませた間に急襲して、魔法強化された小剣で首を刎ねた。

 悲鳴を上げさせる隙も無い早業だ。(腕はいいのだ、腕は)

 

「金貨いちまーい! これで残党だけでも金貨7枚! 楽に手柄上げるなら追撃戦に限るぜ!

 いやあ、装備もいいし! 頼み込んでリーダーに【加速】も掛けてもらったし! 女になっちまったのは後でどうにかするとして、この一党に入ったのは当たりだな!!」

 

 刎ねた首の落ちた先を脳裏に覚え、TS圃人斥候はゴブリンロードを探す。

 

「どこだ……おっ、そっちかぁー?」

 

 すると少し離れたところに開けた場所がある。

 TS圃人斥候の嗅覚がそっちだと告げている。

 

(ん? あれは……ちっ、先に誰か戦ってやがるな)

 

 あのシルエットは見覚えがある、銀等級の小鬼殺しだ。

 

(あっ、吹っ飛ばされたな。ゴブリンスレイヤーの動きが鈍い……疲労か?) 

 

 ロードの攻撃を防御したものの、小鬼殺しは吹き飛ばされて体勢を崩してしまった。

 そこに、大きく振りかぶられ、小鬼王の戦斧が煌めいた。

 ゴブリンスレイヤーに追撃する気だ。

 

(おっ、あれが精神属性無効の戦斧か! 金貨百枚じゃきかない逸品だぜ、小鬼程度には勿体ない……だからアタシがいただく!!)

 

 ゴブリンロードの意識は、完全に小鬼殺しの方を向いている。

 

 ――横っ面を思いっきり殴りつける、斥候としてこれに勝る快感はない!

 

 やると思った瞬間には、すでにTS圃人斥候の手から投矢が放たれていた。

 

「GBOO!?」

 

「これでも食らっとけ!」

 

 投矢の命中と同時にTS圃人斥候が叫んだ。

 弛緩毒の塗られた投矢が、小鬼王の戦斧を持つ手に命中!

 たまらず小鬼王は戦斧を取り落とした。

 

(ここは面倒なロードの相手は避けて斧だけ確保するか)

「ゴブリンスレイヤーさん! 横入りすみません! 武器はこっちで押さえます! あとは存分に!!」

 

 TS圃人斥候はそこへ、すばしっこく近づき、戦斧を拾い上げて即座に離脱。

 ロードが怒りの咆哮を上げるが、もはや負け犬の遠吠えにも劣る。

 毒が廻ればロードの動きはさらに鈍るだろう。

 

 趨勢は決した。

 

 あとはつかず離れず、隙を見てさらにダーツで援護すればいいだろう。

 

「ああ、助かる」

 

 武器をなくした隙を逃す小鬼殺しではないし、これを見ていた女神官も、この機を逃さなかった。

 

「『いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らを、どうか大地の御力でお守りください』【聖壁(プロテクション)】!」

 

 地母神の加護による【聖壁(プロテクション)】の奇跡が、ゴブリンロードを前後から挟み込み、動きを封じた。

 しゃん、と錫杖を鳴らして、女神官が森から現れる。

 

「GGOOOBBRRR…………ユルジデ、クダサイ、モ、モウ、ジマゼン……」

 

 ロードは命乞いをしているが、なめられたものだ。

 大方、TS圃人斥候の白磁のタグと、女神官の黒曜のタグを見て侮ったのだろうが……。

 

 ここには、ゴブリンに情けをかけるような者はいなかった。

 

 

「王を気取ろうが、貴様はただのゴブリンに過ぎん。――ゴブリンは、皆殺しだ」

 

 

 そしてそのようになった。

 

 

 

 

<『5.抜け駆けは戦の華』 了>

 

 

 

 ○●○●○●○●○

 

 

 

6.祝勝会の後は

 

 

 ゴブリンロードが率いるゴブリンの群れを無事に討伐し、冒険者たちは帰ってきた。

 

 もちろん、出目が悪く死んだ冒険者もいる。

 しかし弔いをするにも、湿っぽくては冒険者らしくない。

 思いっきり泣いて、思いっきり笑って、送り出してやるのが冒険者流だ。

 酒場の一角には、武運拙く亡くなった彼らの代わりに、彼らの装備が積まれている。

 

「今日は全部手前(てまえ)のおごりじゃー! 呑めや騒げやアドベンチャラーズ!! かんぱーい!!」

 

「「「「「「 かんぱーい!!! 」」」」」」

 

 もはや今日何度目とも分からぬほど繰り返された乾杯の音頭を言うのは、したたかに酔った半竜娘だった。

 酒には酔いづらいはずの半竜娘がこれほどになっているのは、あるいは場酔いだろうか。

 それとも、過半の小鬼を滅ぼした半竜娘をやっかみ半分で酔いつぶそうとした冒険者たちの企みが実ったのか……。

 

 酒場の片隅に積みあがっている、酔いつぶれた冒険者たちの山を見るに、後者なのかもしれない。

 

 

 森人探検家は、酔いつぶれた妖精弓手を膝枕して介抱しているし。

 

 TS圃人斥候は、小鬼殺しと話をつけて譲ってもらった『蛮勇の戦斧』をニヤニヤしながら布で磨いてご満悦だし。

 

 水龍(ミズチ)の水精霊(水蜥蜴形態)と、羽衣の水精霊は、コンビで水芸を披露しつつ、【命水(アクアビット)】を大盤振る舞いだ。

 

「おらー、もっと飲まんかー! 今日は手前(てまえ)のおごりじゃー! 呑めや騒げやアドベンチャラーズ!! かんぱーい!!」

 

「「「 かんぱーい!!! 」」」

 

 おい何回目だそれ。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 死屍累々、という様相の冒険者ギルドから、溌溂とした顔の半竜娘、森人探検家、TS圃人斥候が出てきた。

 

「いやー、楽しかったのじゃ!!」

 

「そうねー、うん、良かったわぁ」

 

「にっしっし、冒険者デビューが大合戦で、魔法の斧が戦利品とは、箔がつくってもんだ。幸先がいいぜ!」

 

 どうやら半竜娘は飲めば飲むほど元気になる質のようだ。うわばみ……。

 

 森人探検家は、たぶんハイエルフから出る何かこうマイナスイオン的なあれを摂取したのか、つやつやしている。

 

 TS圃人斥候は、戦利品の斧をどうするか、売るか加工してペンダントにでもするかと考えてニヤついているようだ。

 

「あ、そうそう」

 

「なんじゃ」「ん?」

 

 森人探検家が切り出した。

 

「定命の種族は、戦のあとは滾るんでしょう? あなたたちのために……あと特に頭目(リーダー)が最近私を見る目が獣の眼光で怖いし……ローグギルドおすすめの夢魔(サキュバス)のお店を予約しといたわ。ああ、インキュバスじゃなくてサキュバスのお店だから安心なさいな」

 

「んにゃっ!?」「は?」

 

 半竜娘の顔が真っ赤に染まっている。一度分身を性転換魔法で男にしてからそういう目で見てしまうこともあったが、見透かされているとは思っていなかったらしく、んにゃんにゃわたわたしている。

 TS圃人斥候は、まさに下世話な話なので顔をしかめつつ、しかしこちらは純粋に楽しみなのか浮ついた雰囲気を出している。男だったときにもそんな高級なとこには行ったことないぜ。

 

「いや、将来的に誰とナニやるかはともかく、きちんとした知識技能や力加減の習得は必要でしょう? 特に頭目(リーダー)は、力加減重点よ?」

 

 森人探検家は店の場所が書かれたらしい地図を渡して去っていく。

 

「じゃ、戦の興奮が冷めやらぬうちに行ってらっしゃいな~」

 

 

<『6.祝勝会の後は』 了>

 

 

 

 ○●○●○●○●○

 

 

 

7.リザルト

 

 明くる日、牧場防衛戦の詳細を冒険者ギルドに報告した。

 

 半竜娘・森人探検家・TS圃人斥候は、経験点1500点獲得!

 

 半竜娘・森人探検家・TS圃人斥候は、成長点3点獲得!

 

 TS圃人斥候は戦利品として『蛮勇の戦斧』を獲得!

 

 

 

 

受付嬢「おや、お二人は、なんだか面構えが昨日までとは違う気がします」

 

 半竜娘・TS圃人斥候は、追加で経験点500点獲得!(初回ボーナス)

 

 半竜娘・TS圃人斥候は、追加で成長点1点獲得!(初回ボーナス)

 

 

受付嬢「ゴブリンは混沌勢力の雑兵ですし、今回の襲撃が単発のものであれば良いのですが……それとも例えば転移門を利用した在庫処分や食い扶持減らしのようなものだったのでしょうか? 神に祈らぬ者(ノンプレイヤー)の考えることは分かりませんねえ……」

 

 

受付嬢「何か依頼を受けられますか?」

 

 → ゴブリンの残党駆除

   ゴブリンの死体掃除

   依頼を受けずに冒険に行く

   休暇にする

 

 

 

 

 

*1
やがて“萌え”と名付けられる感情:男女のあれこれではないが、ときめきにも似たこの感情(萌え)には、四方世界にはまだ名前がないようだ。




ボーナスは一定の条件をクリアしたうえでの初回だけ。
「すごかったのじゃ///」「おんなのからだってすげー///」とのこと。

なお、二人ともしっかり、夢への侵入路(バックドア)を夢魔から仕掛けられてたので、森人探検家ちゃんに支援をフルで積んで【解呪】の奇跡を使ってもらって浄化しました。放っておくと、生命力に永続ペナルティかかるので。

森人探検家いわく「こういうこともあるから、うかつにハマらないようにね」とのこと。
……もちろん、一夜の夢からバックドア設置そして解呪まで一連が、森人探検家が教育用に脚本した仕掛である(高級店のサキュバスは、そういうお行儀の悪いことは頼まれない限りはやらない)。ま、マッチポンプ……。


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17/n ゆうべはお楽しみでしたね(笑)~キャラクター成長

 閲覧、評価、感想、お気に入り登録、誤字報告、いつもありがとうございます!
 ただの成長回です。あとがきに各キャラのステータスあります。

●前話:
 森人探検家「みんなエロ(夢魔)に惹かれてブラクラ(夢への侵入路)踏む(仕掛けられる)経験をして大人になるのよ」(偏見)

 


 はいどーもー! おとなのかいだんのーぼるー♪ な半竜娘ちゃんたちをニヤニヤ見つめる実況、はーじまーるよー!

 前回は小鬼の大軍勢をやっつけて祝勝会をしたところまででした。

 

 では、経験点の清算です。

 

 ……半竜娘ちゃんとTS圃人斥候だけ追加で経験点もらってるのは何でなんでしょうねえ(ニヤニヤ

 

 まあ、行った先は夢魔(サキュバス)の店だったらしいので、『一夜の夢』が、本当に夢の中(アストラル界)の出来事だったのか、物質界の出来事だったのかは分かりませんが。真実はみなさんの心の中にあるのです。

 どちらにせよ、極上の経験だったのでしょう。一皮むけて大人になりました。

 病気は貰いませんでしたが、夢魔につば付けられて生命力を永続的に吸い取られかけるという痛い目を見たのも含めて経験です。

 

 

 

 それではお待ちかねの成長ターイム、経験点と成長点の使い道についてです!

 

 

 まず半竜娘ちゃんですが、経験点が5000点貯まったので、武道家か魔術師をレベル7に上げられます。

 

 ……どうやら、魔術師レベルを7に上げたようですね。 

 新しく覚えた呪文は【天候(ウェザーコントロール)】です。

 これは1時間に渡って半径3キロメートルの天候を改変する呪文で、達成値が十分大きければ、真夏に吹雪を起こすレベルの有り得ない天候変化でも可能です。

 分身した半竜娘ちゃんが瞑想と祈祷を併用してかわりばんこに天候操作し続ければ、呪文18回分=最大18時間にわたり天候変化を維持できます。

 つまり記録的大雨18時間とか、竜巻乱舞18時間とか、豪雷18時間とか、吹雪18時間とか、高温熱風(フェーン現象)18時間とかできるわけです。

 あるいは本体が分身を出すのに専念すればもっと呪文使用回数(持続時間)を伸ばせます。

 そして6時間眠って呪文使用回数を回復させれば、また天候操作を続行することもできます。

 

 ……字面だけでも相当ひどいですね、これ。

 

 弱点は、細かい操作ができず、術者を中心に無差別に展開されるので、自分や味方も影響を受けるということです。

 

 牧場防衛戦の【竜吠】含めて、こんな術者が在野にいるのなんか怖すぎるので、普通なら軍に引っこ抜かれるレベルですが、それがないということは、【古竜殺し】の称号はそれだけ蜥蜴人の中でも影響力があり尊重されているということなのでしょう。敬して遠ざけられているとも言えるかも知れませんが、おかげで気ままに冒険できています。

 あとたぶん、実際に天候操作による攻撃をやると【気象兵器】とか【戦略兵器】とかのトロフィー獲得しちゃいますね、きっと。

 ちなみに、【攻城兵器】のトロフィーは山砦を粉砕炎上したときに、【戦術兵器】のトロフィーは牧場防衛戦でゴブリンを虐殺したときに、既に獲得済みです。

 

 次はスキルの成長です。

 半竜娘ちゃんの成長点はストックが10点で、5000点の経験点を消費したので成長点+10点、合計20点になりました。

 うち15点消費し、【統率】技能を三段階目の熟達段階に上げます。これで、一度に統率(行動順引き上げ、または、支援行動を指示)できるユニット数が2に増えました。分身と合わせれば、倍の4ユニットを従えられます。

 大精霊を呼び出しまくって支援させて呪文行使値を底上げしたりもできますし、味方が【加速】で二回行動したときの二回目の行動順を引き上げたりするのも捗ります。

 

 残りの成長点5点のうち1点は、一般技能【騎乗】の初歩段階に使います。騎乗は戦人の嗜み。(冒険者技能【呪文熟達:支配呪文】初歩とも迷いましたが……。)

 これで、乗り物の扱いが上手くなり、騎乗戦闘でも職業レベルを3まで発揮できます。技能がないと、馬上では上手く武器を操ったりや呪文を練ったりできないんですよ。次は習熟段階にしたいですね。

 半竜娘ちゃんの残り成長点は4点となります。貯めておきましょう。

 

 

 

 次に森人探検家です。

 森人探検家ちゃんは、職業レベルの成長はさせず、経験点は貯め込むみたいですね。まあ、この間盛大に使ったばかりですし、次は野伏のレベルを上げたいですからね。

 成長点6点は、一般技能の【騎乗】をマッサラの状態から初歩、さらに二段階目の習熟段階まで伸ばします。騎乗戦闘で職業レベル6までの能力を発揮できるようになりました。

 弓騎兵がつよつよなのは、歴史が証明しています!

 緑衣の勇者も、愛馬にまたがって平原を駆けたといいますし、騎乗技能を取るのはキャラ的にも合ってます。

 これで森人探検家の成長点の残りは0点です。

 

 

 

 では最後に、TS圃人斥候の成長です。

 使える経験点は2000点、成長点ストックは4点です。

 

 職業レベル取得は1000点ずつ消費して、野伏レベル1と魔術師レベル1?

 またよく分からない取り方を……。

 

 TS圃人斥候が魔術師レベル1で覚えたのは【幻影(ビジョン)】の呪文です。

 達成値に応じた大きさの音付き幻影を、射程30m以内に作り出して操る呪文で、幻影を見た相手が呪文抵抗に成功すれば、見破られてしまいます。

 つまり、幻影を見つからせずに音だけ利用するならノーリスクですよね? 悪用がいろいろ出来そうですね?

 発動に必要な達成値も5と低いので、発動も呪文維持も比較的簡単です。

 

 魔術を覚えられたのは、性転換前から、奥の手のために勉強してきたのがようやく実ったという感じなのかもしれません。男に戻るためにと、頑張って自分でも魔術の勉強をし始めるつもりでもいるようです。

 

 あと、TS圃人斥候が野伏レベルを上げた理由は、弩弓のダメージを伸ばすのと、冒険者技能【狙撃】の前提条件のためじゃないかと思います。今回は【狙撃】の技能は取りませんが、【狙撃】の技能を取るためには野伏レベル1以上が前提となっていますから。

 

 そしてTS圃人斥候の技能の成長です。使える成長点は、ストック4点と経験点消費による増加4点で、合計8点です。

 ひとつは呪文使用回数を増やすための冒険者技能【魔法の才】初歩レベルですね。5点消費で残り3点。

 あとは、えーと、一般技能【騎乗】、【職人:化粧】、【芸能:演劇】をそれぞれ初歩レベル?

 【騎乗】はまあ実用として、【職人:化粧】と【芸能:演劇】はTSバレ防止かな。

 でもこれで、このパーティーで一番女っぽい所作をするのはTS圃人斥候ちゃんになったのでは疑惑が出てきたぞ。半竜娘ちゃんは戦人だし、森人探検家はエルフだから何もしなくても綺麗だし。

 まあ、TS圃人斥候ちゃんがそれでいいなら良いけども(いいぞもっとやれ)。

 

 それでえーと、戦利品の『蛮勇の戦斧』は、結局どうするんだろう。

 重量武器だから斥候の適正装備ではないし……。戦士の職業レベルも持ってるから使えなくはないけど。

 へえ、魔法が込められた宝玉を取り出して、鎧に付けなおす? その場合は効果の一部が失われるみたいだけど、いいの?

 ……良いみたいです。

 

 戦斧を含めた全体で構成されていた回路から、宝玉だけ取り出したことで、効果が一部弱体化します。

 具体的には、精神属性無効を所有者に与えるのは変わりませんが、込められる魔法の力が減少し、1日に1度だけ、戦女神の奇跡【鼓舞(エンカレッジ)】(達成値15相当)を発動できるようになるみたいです。

 今の鎧に付けることで、【鼓舞の革鎧(+3)】にすることができます。

 改造した鎧の出来上がりは暫く先になりますが、その間は身の回りのものを揃えたりとかしてればあっという間です。

 宝玉を取り出したあとの戦斧は、どうやら別の宝玉を嵌めれば増幅装置として使えそうだということで、そこそこの値段で売れました。

 

 

 

 

 あとは、みんなで水中呼吸の指輪を買って、もしもの時のために持っておくことにします。

 水中呼吸の指輪は、水属性の影響(雪、雨の冷たさを含む)もカットできるので重要です。

 

 今回は、みんなして騎乗の技能を取りましたが、多分これから馬か何かを買ったり、馬車を借りて遠出して冒険に行ったりするつもりなんでしょう。

 それか、いよいよ移動用使い魔の作成(魔女さんとの共同研究)に本腰を入れるつもりなのかも知れません。

 

 あ、まずは馬車を発注するみたいですね。真言呪文【加速】や、精霊術【追風】、交易神の奇跡【旅人】によって馬車馬の移動力を強化したときに、並みの車体では耐えられないですからね。

 そうなると特注が必要になります。

 どうせなら戦闘に耐えられるように、チャリオットとしても使えるような改造をしちゃいましょう。

 鉄板で強化して、矢狭間(やざま)を設けて……。

 

 かなり車体が重くなったので、並みの馬では牽けない気がします。

 牽くには戦車用の軍馬が必要ですね、これは。

 でも、戦車用の軍馬ともなれば、そうそう市場に出回るものでもないですし、それならあるいは強力な使い魔を作るか、モンスターを手懐けるとかした方がいいかも。

 

 いつかカーチェイス的なのもやってみたいですねえ。

 

 

 仕上げに、馬車に積む用に、遠征のための寝袋だとかのセットを買ってフィニッシュ!

 

 

 

 

 

 それでは、買い物を済ませましたし、牧場防衛戦の翌日ということで、半竜娘ちゃんたちには、ゴブリンの残党狩りや、死体の片付けに従事してもらいます。

 

 

 彼女らが働いてるその間に、今後の方針を整理しましょう。

 

 

 まず基本的には、銀等級の冒険者になるために、混沌勢力の野望を挫きまくり、また人々を助けまくります。何もなければゴブリン退治重点ですかね。

 あとは、装備を整えたりするためにも、遺跡に潜ったりとかです。

 

 等級を上げるには、とにかく信用度を稼ぐ必要があります。

 冒険の回数をこなし、ギルドに、そして人族に貢献するのです!

 

 これまでの主だったイベントとしては、牧場防衛戦と水の街の陰謀を挫いたところです。

 とはいえ、四方世界では、世界の危機から村の危機まで、冒険のタネはたくさん転がっています。

 

 現在は、森人探検家ちゃんが【手】の権能を宿した呪物の噂を拾ってきている状態です。

 これはひょっとすると、ヘカトンケイルの指先のことかも知れませんね。

 

 他にも、色街関係から何か依頼されるかも知れませんし、旅先で殺人事件に巻き込まれたりするかも知れませんし、名高い火吹き山の闘技場に殴り込みをかける機会もあるかも知れません。

 また、オーガ三兄弟たちが自勢力をまとめて統一国家を作って攻めてきたりとかいう可能性もあります。

 馬車の車体強化のために、軽くて丈夫な軽銀(アルミニウム合金)を鍛える秘密を探りに行ったりとかいう選択はどうでしょう?

 辺境の開拓村でゴブリン退治ついでに、土木工事や治水工事して、人族領域を広げるのに協力するというのも、大きな貢献になるかも。

 

 

 まあ、暫くはそういった冒険が続く感じです。

 

 

 今回は特に何も話が進んでいませんが、キャラクター成長はそれだけで楽しいので満足!

 今回はここまで! ではまた次回!

 

 




要約:秋まで自由にやるよ! もうちょっとだけ続くんじゃ。

以下、作者備忘のための現時点ステータス掲載です。特にご覧いただかなくても支障はありません。


◆名前:半竜娘
 年齢13歳(成人直後)。緑かかった烏の濡れ羽色の鱗と髪を持つ。
 顔と胸元だけ只人の遺伝が現れ、残りの部分は蜥蜴人な混血。胸元は豊満だが、哺乳動物ではないので本当に単に膨らんでるだけ。
 娼館のサキュバスのオネーサンにねっとり手ほどきを受けた。閨での戦もまた、奥が深い……。

◆イメージ
 Picrewの「遊び屋さんちゃん」でつくったよ! https://picrew.me/share?cd=wZesuN9igj

【挿絵表示】


 Picrewの「人外女子メーカー」でつくったよ! https://picrew.me/share?cd=KsLmkX9Nbh

【挿絵表示】


◆累積経験点 61000点/ 残り経験点0点
(牧場防衛戦  +1500点
 夜のアレ(初)+ 500点)

◆冒険回数 12回/12回(達成回数/冒険回数)

◆残り成長点 4点

◆能力値
 装備:魂魄強化の指輪+3、知力強化の指輪+3
能力値体力点 5魂魄点 5+3技量点 3知力点 3+3
集中度 4912710
持久度 381169
反射度 381169


    生命力:【 38(28+10) 】
    移動力:【 24 】 
 呪文使用回数:【 07 】

  呪文抵抗基準値(魂魄反射+冒険者LV+呪文抵抗):【 19 】

◆冒険者レベル:【 8 】
  職業レベル:【魔術師:7】up!【竜司祭:9】【精霊使い:3】【武道家:6】

◆冒険者等級:鋼鉄等級

◆冒険者技能    初歩/習熟/熟練/達人/伝説
  【免疫強化】  ●   ○  ○  ○   ○
  【魔法の才】  ●  ●  ●  ●   ○
  【呪文熟達(創)】●  ○  ○  ○   ○
  【呪文熟達(付)】●  ●  ●  ○   ○
  【追加呪文(真)】●  ●  ○  ○   ○
  【追加呪文(竜)】●  ●  ○  ○   ○
  【生命の遣い手】●  ●  ●  ○   ○
  【機先】    ●  ●  ○  ○   ○
  【頑健】    ●  ●  ○  ○   ○
  【忍耐】    ●  ○  ○  ○   ○
  【武器:格闘】 ●  ●  ●  ○   ○
  【体術】    ●  ●  ○  ○   ○
  【鉄の拳】   ●  ○  ○  ○   ○
  【発勁】    ●  ○  ○  ○   ○
  【薙ぎ払い】  ●  〇  ○  ○   ○
  【二刀流】   ●  〇  ○  ○   ○
  【護衛】    ●  〇  ○  ○   ○

◆一般技能     初歩/習熟/熟練
  【竜の末裔】  ●  ●  ●
  【暗視】    ●  ○  ○
  【祈祷】    ●  〇  〇
  【瞑想】    ●  ●  〇
  【沈着冷静】  ●  ○  ○
  【信仰心(竜)】 ●  ●  ●
  【統率】    ●  ●  ●up!
  【礼儀作法】  ●  〇  〇
  【調理】    ●  〇  〇
  【精霊の愛し子】●  ●  〇
  【職人:土木】 ●  〇  〇
 【騎乗】    ●  ○  ○new!

◆呪文
 呪文行使基準値(知力集中):【 10 】
        (魂魄集中):【 12 】
 呪文維持基準値(知力持久):【 9 】
        (魂魄持久):【 11 】
 職業:魔術師:7 竜司祭:9 精霊使い:3
 技能:呪文熟達(創造呪文):+1
    呪文熟達(付与呪文):+3
    生命の遣い手:生命属性の呪文が出目10以上で大成功
 装備:真言呪文の発動体+3 紅玉の杖(真言呪文行使+1)
《呪文行使》
 真言:【 21 】  奇跡:【 0 】  祖竜:【 21 】  精霊:【 15 】
《呪文維持》
 真言:【 16 】  奇跡:【 0 】  祖竜:【 20 】  精霊:【 14 】

 ◎習得呪文:
 《 分身 》 難易度:20 (真言呪文 創造呪文(生命))
 《 力場 》 難易度:15 (真言呪文 創造呪文(空間))
 《 抗魔 》 難易度:10 (真言呪文 付与呪文(なし))
 《 破裂 》 難易度: 5 (真言呪文 付与呪文(なし))
 《 巨大 》 難易度:10 (真言呪文 付与呪文(生命))
 《 加速 》 難易度:15 (真言呪文 付与呪文(生命、精神))
 《 停滞 》 難易度:15 (真言呪文 支配呪文(生命))
 《 天候 》 難易度:15 (真言呪文 支配呪文(水、風))new!
 《 突風 》 難易度: 5 (真言呪文 攻撃呪文(風))
 《竜牙兵》 難易度:15 (祖竜術 創造呪文(生命))
 《 竜爪 》 難易度:10 (祖竜術 創造呪文(物質))
 《 狩場 》 難易度:15 (祖竜術 付与呪文(空間))
 《 竜眼 》 難易度:10 (祖竜術 付与呪文(生命))
 《 竜血 》 難易度:なし (祖竜術 付与呪文(生命))
 《 擬態 》 難易度:10 (祖竜術 付与呪文(光))
 《 竜吠 》 難易度:15 (祖竜術 支配呪文(精神))
 《竜息/毒》 難易度:10 (祖竜術 攻撃呪文(闇))
 《 突撃 》 難易度:10 (祖竜術 攻撃呪文(なし))
 《 賦活 》 難易度:10 (祖竜術 治癒呪文(生命))
 《 小癒 》 難易度: 5 (祖竜術 治癒呪文(生命))
 《 降下 》 難易度:10 (精霊術 付与呪文(土、空間))
 《 使役 》 難易度:10 (精霊術 支配呪文(火、水、土、風))
 《 追風 》 難易度: 5 (精霊術 支配呪文(風))

 ※使役できる固定の精霊(名称:ミズチ)がいる。形態は水蜥蜴から水龍まで、顕現レベルによって異なる。当該精霊が使ってくれる呪文は以下のとおり。
  【命水】(精霊(スピリット)級から)
  【酩酊】(自由精霊級から)
  【隠蔽】(大精霊級から)
  固定のパートナーのため、機嫌を損ねると言うことを聞いてくれないことも。
  毎日、触媒(酒や果物など)をお供え物として消費し、週に一回は上質な触媒を供える必要がある、呼び出す際も上質な触媒を用いなくてはならない。上質な触媒を用いない場合は達成値-4。

◆攻撃
 命中基準値(技量集中):【 7 】
 職業:【武道家:6】
 技能:【武器(格闘):熟練(+3)】
 近接:【 16 】  弩弓:【 7 】  投擲:【 13 】

 ◎武器:【 素手(爪) 】
   用途/属性:【 片手or両手格軽/斬 】
  命中値合計:【 16 】
   威力:
   片手:1d3+5(内訳:鉄の拳+1、発勁+1、竜の末裔+3)+武道家レベル6
   両手:1d3+7(内訳:両手+2、鉄の拳+1、発勁+1、竜の末裔+3) +武道家レベル6
   効果:投擲不可

 ◎武器:【 尻尾の大篭手(テールガード)(盾攻撃) 】
   用途/属性:【 片手格軽/殴 】
  命中値合計:【 16-2 】
   威力:1d3+2(内訳:発勁+1)+武道家レベル6
   効果:投擲不可

 ◎武器:【 南洋投げナイフ 】(2本所持(再購入))
   用途/属性:【 片手投軽/斬刺 】
  命中値合計:【 13+4 】
   威力:1d6+武道家レベル6
   効果:投擲専用、強打・斬(+1)、刺突(+1)、斬落

 (紅玉の杖は基本的に武器として用いない)

◆防御
 回避基準値(技量反射+武道家レベル+体術スキル):【 14 】
 ◎鎧:【 衣鎧+鱗 】
   鎧:魔法の司教服(+3)(装甲7、回避修正+2、移動修正-4)
   鱗:外皮+3(竜の末裔)
   属性:【 衣鎧(布)/軽 】  回避値合計:【 16 】
   移動力合計:【 18 】  装甲値合計:【 7+3 】
   隠密性:【悪い(静穏性はあるが視覚的に派手)】

 盾受け基準値(技量反射+武道家レベル(大篭手着用時)):【 12 】
 ◎盾:【 小型盾 】
   盾:魔法の大篭手(+3)(盾受け修正5、盾受け値4、武道家の適正装備扱い)
  (両手と尻尾に同じものを装着)
   属性:【 小型盾(金属)/軽 】 盾受け基準値合計:【 17 】
  盾受装甲値合計:【 14 】 隠密性:【 良い 】

◆所持金
  銀貨:100枚
  (足りないときは、財布を預けてる魔女さんに相談しようね!)

◆その他の所持品 (分身の分を余分に所持)
  冒険者ツール ×2
   内訳(鈎縄,楔x10,小槌,火口箱,背負い袋,水袋,携帯用食器,白墨,小刀,松明x6)
  携帯食×7日分、衣類
  背負い袋(蜥蜴人用特大サイズ) ×2
  ベルトポーチ ×4(主にポーション類を入れる)
  ずた袋 ×2
  小袋セット(3枚/1セット) ×2
  竜司祭と精霊使いの触媒入れ ×1(移動力修正-2)
  魂魄強化の指輪+3 ×1(装備中)
  知力強化の指輪+3 ×1(装備中)
  武術熟達の腕輪+3 ×1
  体術熟達の腕輪+3 ×1
  真言呪文の発動体+3 ×1(装備中、形態:ネックレス)(森人探検家とおそろい)
  毒煙玉 ×4
  治癒の水薬 ×6
  強壮の水薬 ×4
  解毒薬 ×4
  鎮痛剤 ×2
  燃える水 ×2
  火の秘薬 ×2
  能力上昇の秘薬(各種) ×2
  【使役】の上質な触媒(各属性) ×2
  水精霊【ミズチ】用の上質な触媒 ×4
  調理道具 ×1
  手当道具 ×6
  水中呼吸の指輪 ×1

◆出自/来歴/邂逅/動機
 軍師/戦場/家族/託宣











◆名前:森人探検家
 年齢200歳(後で変更するかも)。金の髪。
 緑衣の勇者に憧れて冒険者になろうと出てきた。
 師匠として、「忍び」「先生」と呼ばれる圃人を持つ。つまりゴブリンスレイヤーの姉弟子にあたる。
 ローグギルドとのつき合いもあり、経験豊富。

◆イメージ
 Picrewの「夢で逢ったヒトメーカー」でつくったやつですのよ→ https://picrew.me/share?cd=eHBGXttDjd

【挿絵表示】


◆累積経験点 24500点/ 残り経験点1500点
(牧場防衛戦  +1500点)

◆残り成長点 0点

◆能力値
装備:体力強化の指輪+3、技量強化の指輪+3
能力値体力点 1+3魂魄点 3技量点 5+3知力点 4
集中度 265106
持久度 04384
反射度 265106


    生命力:【 23(18+5) 】
    移動力:【 44 】 
 呪文使用回数:【 02 】

  呪文抵抗基準値(魂魄反射+冒険者LV+呪文抵抗):【 11 】

◆冒険者レベル:【 6 】 (技能を達人段階まで習得可能)
  職業レベル:【野伏:7】【神官(交易神):4】【魔術師:2】

◆冒険者等級:青玉等級

◆冒険者技能    初歩/習熟/熟練/達人/伝説
  【武器:弩弓】 ●  ●  ●  ○   ○
  【魔法の才】  ●   ●  ○  ○   ○
  【怪物知識】  ●   ○  ○  ○   ○
  【速射】    ●  ●  ●  ●   ○
  【狙撃】    ●   ●  ○  ○   ○
  【曲射】    ●   ○  ○  ○   ○
  【刺突攻撃】  ●  ●  ●  ○   ○
  【手仕事】   ●   ○  ○  ○   ○
  【機先】    ●   ●  ○  ○   ○
  【頑健】    ●   ○  ○  ○   ○
  【体術】    ●   ○  ○  ○   ○
  【忍耐】    ●   ○  ○  ○   ○

◆一般技能     初歩/習熟/熟練
  【暗視】    ●  ○  ○
  【精霊の愛し子】●  〇  〇
  【生存術】   ●  〇  〇
  【工作】    ●  〇  〇
  【騎乗】    ●  ●  ○new!

◆呪文
 呪文行使基準値(魂魄集中):【 5 】
        (知力集中):【 6 】
 職業:神官(交易神):4 魔術師:2
 技能:特になし
 装備:聖印(奇跡行使+1)、真言呪文の発動体+3(真言呪文行使+3)
 真言:【 11 】  奇跡:【 10 】  祖竜:【 0 】  精霊:【 0 】

 ◎習得呪文:
 《 逆転 》 難易度:10 (奇跡 付与呪文(属性なし))
 《 旅人 》 難易度:15 (奇跡 付与呪文(生命))
 《 解毒 》 難易度:10 (奇跡 治癒呪文(生命))
 《 解呪 》 難易度:10 (奇跡 治癒呪文(生命・精神・物質・空間))
 《 力与 》 難易度:10 (真言呪文 付与呪文(なし))
 《 解錠 》 難易度:10 (真言呪文 汎用呪文(なし))

◆攻撃
 命中基準値(技量集中):【 10 】
 職業:【野伏:7】
 技能:【武器(弩弓):熟練(+3)】
 近接:【 10 】  弩弓:【 20 】  投擲:【 17 】

 ◎武器:【 大弓 +2】
   用途/属性:【 両手弓重/刺 】
  命中値合計:【 20 】 射程:120m
   威力:2d6+4+野伏レベル7
   効果:長大(狭所で2D6が4以下でファンブル)、刺突(+2)、速射(-8)、
     「矢」を消費

 ◎武器:【 短弓 +2】
   用途/属性:【 両手弓軽/刺 】
  命中値合計:【 20+2 】 射程:60m
   威力:1d6+2+野伏レベル7
   効果:刺突(+1)、速射(-4)、「矢」を消費

 ◎武器:【 短槍 】
   用途/属性:【 片手槍軽/刺 】
  命中値合計:【 10 】
   威力:1d6
   効果:投擲適用、刺突(+1)

◆防御
 回避基準値(技量反射+体術スキル):【 11 】
 ◎鎧:【 軽鎧 】
   鎧:狩人の外套+2(装甲値4、回避修正+3)
     鋲付き鎧下(装甲2、移動力修正-4)
   属性:【 軽鎧(革)/軽 】  回避値合計:【 14 】
   移動力合計:【 38 】  装甲値合計:【 6 】
   隠密性:【普通】

 盾受け基準値(技量反射):【 なし 】(適用可能職業なし)
 ◎盾:なし

◆所持金
  銀貨:100枚

◆その他の所持品
冒険者ツール(鈎縄,楔x10,小槌,火口箱,背負い袋,水袋,携帯用食器,白墨,小刀,松明x6)
  携帯食×7日分、衣類
  聖印(交易神) ×1(装備中:ベルトに吊るしている)
  鍵開け道具 ×1
  罠師道具 ×5
  矢筒 ×1(移動力修正-2)
  矢 ×30
  煙玉 ×1
  治癒の水薬 ×1
  強壮の水薬 ×1
  解毒薬 ×1
  防毒面 ×1
  臭い消し ×1
  技量強化の指輪+3 ×1(装備中)(半竜娘から貸してもらってる)
  体力強化の指輪+3 ×1(装備中)(半竜娘から貸してもらってる)
  真言呪文の発動体+3 ×1(装備中、形態:ネックレス)(半竜娘とおそろい)
  手当道具 ×6
  水中呼吸の指輪 ×1

◆出自/来歴/邂逅/動機
 猟師/貧困/師匠/英傑憧憬








◆名前:TS圃人斥候
 圃人斥候の妹……という設定の、圃人斥候本人。年齢は40歳(只人の20歳相当)。
 圃人は、縮尺を小さくした感じの種族なので、ロリというわけではなく、2/3縮尺のフィギュア的なイメージをするのが正しいと思われ(身体のパーツの比率だけ見れば只人と変わらない)。
 性転換の術にそういう効果があったのか、顔面偏差値と体型偏差値が大幅に上がっている。メリハリボディ。

◆イメージ
 Picrewの「ガン見してぅるメーカー」でつくったやつ。 →  https://picrew.me/share?cd=CdpkWpjshK

【挿絵表示】


◆累積経験点 21000点/ 残り経験点0点
(牧場防衛戦  +1500点
 夜のアレ(初)+ 500点)


◆残り成長点 0点

◆能力値
 装備:知力強化の指輪+3、技量強化の指輪+3
能力値体力点 1魂魄点 5技量点 5+3知力点 1+3
集中度 12695
持久度 12695
反射度 459128


    生命力:【 19(14+5) 】
   (体力点+魂魄点+持久度+【頑健】)
    移動力:【 27 】 
 呪文使用回数:【 01 】

  呪文抵抗基準値(魂魄反射+冒険者LV+呪文抵抗):【 14 】

◆冒険者レベル:【 5 】
  職業レベル:【戦士:3】【斥候:7】【野伏:1】new!【魔術師:1】new!

◆冒険者等級:白磁等級

◆冒険者技能    初歩/習熟/熟練/達人/伝説
  【機先】    ●   ●  ●  ○   ○
  【隠密】    ●  ○  ○  ○   ○
  【幸運】    ●  ○  ○  ○   ○
  【武器:片手剣】●  ○  ○  ○   ○
  【武器:投擲】 ●  ○  ○  ○   ○
  【体術】    ●  ○  ○  ○   ○
  【死角移動】  ●  ●  ○  ○   ○
  【手仕事】   ●  ●  ●  ○   ○
  【頑健】    ●  ○  ○  ○   ○
  【忍耐】    ●  ○  ○  ○   ○
  【観察】    ●  ●  ○  ○   ○
  【第六感】   ●  ●  ○  ○   ○
  【魔法の才】  ●  ○  ○  ○   ○new!

◆一般技能     初歩/習熟/熟練
  【調理】    ●  ○  ○
  【犯罪知識】  ●  ●  ○
  【鑑定】    ●  ○  ○
  【騎乗】    ●  ○  ○new!
  【職人:化粧】 ●  ○  ○new!
  【芸能:演劇】 ●  ○  ○new!


◆呪文
 呪文行使基準値 (知力集中):【 5 】
 職業:魔術師:1
 技能:特になし
 装備:特になし
《呪文行使》
 真言:【 6 】  奇跡:【 0 】  祖竜:【 0 】  精霊:【 0 】
《呪文維持》
 真言:【 6 】  奇跡:【 0 】  祖竜:【 0 】  精霊:【 0 】

 ◎習得呪文:
 《 幻影 》 難易度: 5 (真言呪文 創造呪文(光))new!

◆攻撃
 命中基準値(技量集中):【 9 】
 職業:【斥候:7】【戦士:3】【野伏:1】
 技能:【武器(片手剣):初歩(+1)】
    【武器(投擲) :初歩(+1)】
 近接:【 17 】  弩弓:【 10 】  投擲:【 17 】

 ◎武器:【 魔法の小剣+3】
   用途/属性:【 片手剣軽/斬刺殴 】
  命中値合計:【 17+1 】
   威力:
   片手:1d6+3+斥候レベル7
   効果:投擲適用、受け流し(+0)、強打・斬(+0)、刺突(+1)

 ◎武器:【 投矢 】
   用途/属性:【 片手投軽/刺 】
  命中値合計:【 17】  射程10m
   威力:1d3+斥候レベル7
   効果:投擲専用、この武器は使用すると失われる

 ◎武器:【 魔法の投矢銃+2 】
   用途/属性:【 片手弩軽/刺 】
  命中値合計:【 10+6 】  射程60m
   威力:1d6+2+野伏レベル1
   効果:刺突(+1)、「投矢」を消費


◆防御
 回避基準値(技量反射+斥候レベル+体術スキル):【 20 】
 ◎鎧:【 軽鎧】
   鎧:鼓舞の革鎧(+3)(装甲5、回避修正+3、移動修正なし)
  効果:精神属性無効、戦女神の奇跡【鼓舞】(達成値15相当)を1日に1度使用可能。使用回数は0時に回復する。
   属性:【 軽鎧(革)/軽 】  回避値合計:【 23 】
   移動力合計:【 25 】  装甲値合計:【 5 】
   隠密性:【普通】

 盾受け基準値(技量反射+斥候レベル):【 19 】
 ◎盾:【 小型盾 】
   盾:魔法の吊盾(+2)(盾受け修正7、盾受け値5、受け流し+1)
   属性:【 小型盾(木、革)/軽 】 盾受け基準値合計:【 26 】
  盾受装甲値合計:【 10 】 隠密性:【 普通 】

◆所持金
  銀貨:100枚

◆その他の所持品 (分身の分を余分に所持)
  冒険者ツール
   内訳(鈎縄,楔x10,小槌,火口箱,背負い袋,水袋,携帯用食器,白墨,小刀,松明x6)
  携帯食×7日分(圃人基準)、衣類
  ベルトポーチ ×2
  ずた袋 ×2
  小袋セット(3枚/1セット) ×2
  知力強化の指輪+3 ×1(装備中、借り物)
  技量強化の指輪+3 ×1(装備中、借り物)
  煙玉 ×2
  治癒の水薬 ×2
  強壮の水薬 ×1
  解毒薬 ×1
  鎮痛剤 ×1
  燃える水 ×1
  火の秘薬 ×1
  調理道具 ×1
  香辛料 ×1
  罠師道具 ×5
  トリカブトの毒 ×1
  催涙弾 ×3
  防毒面 ×1
  化粧道具 ×1
  臭い消し ×1
  投矢帯 ×1(移動力-2)
  投矢 ×15
  角灯 ×1(腰から吊り下げるよう改造)
  油 ×2
  鍵開け道具 ×1
  手当道具 ×6
  化膿止めの軟膏 ×2
  円匙 ×1
  筆記道具 ×1
  パピルス紙 ×10
  知覚上昇の秘薬 ×1
  敏捷上昇の秘薬 ×1
  水中呼吸の指輪 ×1
  
 
◆出自/来歴/邂逅/動機
 亭主/平穏/宿敵/挫折再起




◆一党の共有資産
 馬車(車体強化済み) ※特注品
 野営用の道具類一式


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17/n 裏

 閲覧、評価、感想、お気に入り登録、誤字報告、いつもありがとうございます!


●前話:
 気象兵器・半竜娘! 爆誕!

 


1.閨房(けいぼう)の戦いを終えて

 

 明け方。

 春を(ひさ)ぐ夜の店の前で、半竜娘とTS圃人斥候は、余韻に浸って(ほう)けていた。

 

「すごかったのじゃ……」

「そっちもか……。こっちもすごかった……」

 

 語彙力が死滅しておる……。

 

「いやはや、これもまた一つの強さであるのじゃなあ……世の中はまっこと広いものじゃ」

「夢の中だと、その何倍もすげえって話だぜ」

「たしか夢魔は、夢の世界の方が本体で、現世(うつしよ)にいるのは滲み出た影に過ぎないのじゃったか」

 

 百戦錬磨の夢魔の女を相手に、成人して間もない生娘や女体化初日の娘が太刀打ちできるわけもなく。

 彼女らは始終、翻弄されるままであった。

 とはいえ、森人探検家経由で娼館にお願いされていたのは、技量や知識の向上、女性としての心構えの伝授も含まれる。

 睦言ついでに伝えられる口伝で、半竜娘たちの閨房の術に関する知識も深まったことは間違いない。

 しかも「どうやればイかせられるか」の全種族対応ハウツー、そしてあらゆる性癖バリエーションにすら対応しているという至れり尽くせりぶりだ。もちろん、一夜ではその触りしか伝授されてはいないが。

 

 そりゃあ経験点も獲得できますわな。

 

「ふむ! すっきりしたし、また来たくなったら来るとするのじゃ! 何事も経験してみるもんじゃなー」

「オイラは、ちょっとどうしようかな……。昇りつめたまま帰って来れなくなってちょっと怖かったし

 

 でもどうせまた来るんでしょ?

 

「んー、そういえばお主……」

「な、なんだ?」

 

 じぃっと半竜娘がTS圃人斥候を見つめる。

 整った顔で見つめられると、TS圃人斥候もドキドキしてしまう。

 

「おお! 化粧しておるのじゃな! よきかなよきかな!」

「……まあ、それもコミで教えてもらうよう手配されてたみたいだからな」

 

 手先が器用だから、TS圃人斥候の化粧の腕はみるみる上達したのだとか。

 もちろん“これが……アタシ……?”という定番イベントも消化して抜かりない。

 ちょっとした劇場のメイク係くらいはできるだろうという評価ももらったそうだ。

 

手前(てまえ)もなー、戦化粧ならできるのじゃがなあー」

「一緒にすんなって。そっちは化粧は教えてもらわなかったのかよ」

「あと4年後なら教えてくれるんじゃと」

「ああ、まだ若いんだっけか」

 

 まじまじと半竜娘の肌を見ると、確かに化粧は要らなさそうだ。

 胸元(デコルテ)もきれいなものだし、谷間も深く全体の形も良い。

 あんまり見てると、思わず生唾を飲みそうになるので、さっと目を逸らした。

 

「んー? いま見ておったかや?」

「見てねーし」

「見ておったじゃろ?」

「見てねー」

「けけけ、()()()()なら受けて立つのじゃよ?」

 

 圃人の背丈に合わせるように大きくかがむ半竜娘。

 深い胸の谷間ができあがる。

 覚えた知識を早速活用しているのだろう。

 

「リーダーはどーせまだ力加減できねーんだろ。鱗に爪に……痛いのヤだぜ、オイラは」

「おんやあ、案外脈ありかのう? 力加減できたら考えると言っとるように聞こえるぞ」

「うっせうっせ、ばーか」

 

 

 

<『1.閨房の戦いを終えて』 了>

 

 

 

 ○●○●○●○●○

 

 

 

2.馬車を注文しよう!

 

 冒険者ギルドにて、半竜娘、森人探検家、TS圃人斥候の3人は、朝食を食べがてら会議していた。

 

「で、これからどーすんだよ?」

 

 TS圃人斥候が、小柄な身体に似合わぬ量の朝食を並べて問いかける。

 

「どーするって、ゴブリンの死体の片付けとか、いろいろあるでしょ」

「特にお主は、最低でも一週間はゴブリン退治漬けじゃよ?」

「マジでか!?」

 

 森人探検家はガッツリ肉を食べながら、半竜娘はチーズを食べながら、それに答えた。

 TS圃人斥候はやたらと驚いてるが、彼女がかつてゴブリン退治は楽な依頼とか言ってたのは、半竜娘たちには筒抜けなので、こうなるのは残当だ。

 簡単な仕事なんだろ? じゃあやってみろよ、というわけ。

 

「って、そうじゃなくて、一党の方針だよ!」

 

 一党の方針といっても……。

 

「依頼を受ける以外に何か決めることある?」

 

 冒険者は依頼を受ける。

 そうと相場が決まっている。

 ほかに何かあるだろうか。

 

「長期的な展望ってやつだよ、そーいうのはエルフの方が得意だろ!? あんたたち何のために冒険者になったんだ? 目標とかそーいうのあるだろ!」

 

 はあ、はあ、とTS圃人斥候が肩で息をする。

 

手前(てまえ)は、やがて竜に至るために、強敵の心臓を食らって功徳を積むことじゃな。名を売れて人助けにもなればなお良いのじゃ。ああ、ゴブリンは殺して土に還す」

 

 甘露甘露とチーズを食べる手を一旦置いて、半竜娘は、奇怪な手つきで合掌した。

 

「わたしはあの“緑衣の勇者”に憧れて遺跡巡りをしてるわ。そうしてるうちに古代の遺物を見つけること自体が楽しくなってきちゃってるけど。ああ、ゴブリンは見かけたら必ず殺すわ」

 

 むしゃむしゃと骨付き肉を齧る森人探検家。

 森人ではあるが、肉食にハマっているのだ。ある遺跡では蛇も蒲焼きにして食べていた。

 

「ゴブリン、ゴブリンって……ゴブリンスレイヤーかよ」

「あいつら害獣じゃないの、殺さない理由はないわ。あんたも女になったんだからすぐに気持ちがわかるようになるわよ」

「それでお主は? 何を思って冒険者に?」

 

 森人探検家と半竜娘が、逆にTS圃人斥候に問い返した。

 

「オイラは……アタシは、成り上がって金稼ぐためだよ」

「はあ」

「夢がないわねえ」

「冒険者なんてそんなもんだろうがよ! っていうか、十分な夢だっつの! やがては自分の庄を拓くんだ!」

「あ、それなら夢っぽいわね」

 

 うがーっとTS圃人斥候が吠えて、朝食をむしゃむしゃと口に詰めていく。

 

「それで、長期展望じゃったかの? まあ先ずは銀等級までのし上がることじゃろ」

「その途中で、いろんな情報を集めて、遺跡とか混沌勢力から魔法の道具だとかを奪ったりしたり」

「強敵の噂があれば突撃したりじゃな」

 

 お金の話題がでないのは、それは二の次だからだ。

 もちろん、最低限は必要だが。

 それに、財宝については、竜を族滅した半竜娘には潤沢な個人資産があるのだから、いざとなればどうとでもなる。

 

「そういう依頼が無いあいだは、それぞれ適当にじゃない?」

「じゃな。あとは、手助けが必要なら遠慮なくお互い頼ること、じゃな」

 

 そうでないと一党を組んだ甲斐がないというもの。

 

 言うなれば運命共同体

 互いに頼り 互いに庇い合い 互いに助け合う

 一人が三人の為に 三人が一人の為に

 だからこそ辺境で生きられる

 一党は姉妹

 一党は家族

 

 嘘じゃないよ?

 

「これ以上仲間を増やしたりはしないのか?」

「どーかしらね、今の構成はそこそこ良いでしょ。あとは専業の神官入れるとか?」

「そうすると前衛が足りんじゃろ。まあ、専業の前衛は今も足りておらんが。その辺は良い者がおったらでよかろ」

 

 そうそう、出会いは時の運。

 宿命と偶然のお導き、というものだ。

 

「遠征とかはしないのか?」

「するでしょ、遺跡がこのあたりのものばかりとは限らないもの。よその祭りを見に行ったりとかもアリよね」

「魔女殿と一緒に、手前(てまえ)が乗れるくらい大きくて頑丈で脚の速い使い魔を作ろうとしておるとこじゃよ」

 

 確かに半竜娘が乗れるような馬は、どれだけ値が張るのかわからないし、そんな馬が果たしているのかもわからない。

 馬は軍需物資でもあるから、良い馬は先ずは軍や貴族に回される。

 そもそも良い馬は、何かしらの伝手がないと手には入らない。

 それに遺跡まで連れて行った先や、不在時の世話も考えると、専用の厩番を雇う必要すらあるかも知れない。

 

「使い魔か……それなら世話も楽なのか?」

「まあ手前(てまえ)が繋がりを結ぶつもりじゃからの。普通の馬よりは聞き分けはよいじゃろ」

「今度はこないだみたいに三日の命とかにはならないでしょうね?」

「その辺は長生きさせても生体が破綻しないように改良中じゃ」

 

 その関係で必要な素材を取りに行くこともあるだろうとのこと。

 

「なら、早めに馬車だとかも手配した方が良くないか?」

「確かにそうね。出来上がりまでどのくらいかかるか分からないし。わたしはスピード出しても揺れないのがいいわ」

「強いやつにするのじゃ! 五倍の速さで走らせても壊れないやつ!」

 

 【加速(ヘイスト)】と【追風(テイルウィンド)】と【旅人(トラベラー)】の重ね掛けで、最大で従来の4.5倍の速度が出せる。

 そうなれば、遠くにも気軽に行けるようになるだろう。

 

「あと、装甲があって、それに隠れて矢を撃てたり」

「そのまま敵を轢いたり跳ねたりできる方がいいのう!」

「それはもう馬車(キャリッジ)じゃなくて、戦車(チャリオット)だろ!」

 

 しかし、冒険の(とも)と考えれば、そのくらいの備えは必要なのかもしれない。

 魔神の軍勢のただなかを、竜に追われながら駆け抜けるようなことがないとは言い切れない。

 

 …………。

 ……。

 

 そんなこんなで半竜娘一党は、馬車屋にやってきて、特注することにしたのだ。

 揺れず、頑丈で、スピードが出せるもの……そんなものが……。

 

 あった!

 

 古代の遺跡で発掘された移動機械の構造を参考にした、最新式の『独立懸架式突撃装甲馬車』だ!

 

 シャーシにミスリルを少量使っているとかなんとか。

 ホイールには弾力があって強靭な魔獣の革を使うとか。

 その分値段は張るが、大丈夫、金ならある!

 足りなきゃ稼ぐ!

 それが冒険者だ!

 

手前(てまえ)がお金出せば一括で払えるのじゃよ?」

「いやいや、そうはいかないわよ。交易神の信徒として、これ以上の施しは心苦しいわ」

「そうだぞ、それにこの程度なら十分稼げる範疇だろ」

 

 もう既に金貨何千枚分にも相当する装備を借りているのだ。

 それに半竜娘には、あるだけのお金を使い切ってしまう悪癖があるので、こういった機会に修正していきたいところ。

 

「貸しにして身体で返してくれても良いのじゃが?」

「……うーん、痛くしない?」

「いやいやいや、前向きに考え込むなよ! 冗談でもそーいうのって良くないと思いますぜ!!」

 

 半竜娘、色を知る年齢(とし)か!

 まあ実際、金の貸し借りと色恋は、パーティー崩壊の引き鉄になりうるので、余り良くないのだ。

 

「まあ出来上がりは先だし、適当に依頼をこなしましょう」

「そうじゃなー、昨日のゴブリンの後片付けもあるしのー」

「げー」

 

 不服そうな返事をしたTS圃人斥候がバックレないように、半竜娘が首根っこを掴んで吊り上げてしまう。

 

「ほれいくのじゃぞー」

「やめれーはなせー」

「終わったらゴブリン退治耐久だからね」

「覚悟するのじゃ」

「やめれー!! はなせー!!」

 

 

<『2.馬車を注文しよう!』 了>

 

 

 

 ○●○●○●○●○

 

 

 

3.魔女さんと

 

 

 牧場防衛戦から一週間。

 夏至もそろそろ近づいてきて、地母神の寺院では、早摘みの葡萄を酒にするための『酒の日』の祭りの準備が進んでいるころ。

 

 半竜娘は、久し振りの休日を、下宿している魔女の家で過ごすことにした。

 まあ、休日とはいうものの、今日は研究に費やすつもりなのだが。

 ちなみにこの一週間は、TS圃人斥候の督戦のために、同じゴブリン退治の依頼を受けていた。一党の白磁の新入りのフォローのために、鋼鉄等級の頭目がついて行くのは、それほど不自然ではない。

 

 牧場防衛戦の残党は装備も良いし、狼騎兵の知識や、合戦の知識も身につけている可能性がある。

 “渡り”にしてしまうと、周辺のゴブリンが強化される恐れが高い。

 皆殺しにしてしまうのが一番ということで、最低限の休養だけ取って、日に何件もの依頼を受けてゴブリンを殺しまくってきたのだ。

 ゴブリンスレイヤーだってそうする、だから半竜娘もそうした。

 

「あ ら、おかえり なさ、い ね」

「ただいまなのじゃ~」

 

 夜明け(ゴブリンにとっての夕方)前にゴブリン退治に出かけて、TS圃人斥候と巣を一つ潰して帰ってきたところ。

 魔女は既に文献やこれまでの実験のノートを広げて研究を始めていた。

 妖艶に香り煙草の煙を吐き出して、魔女は半竜娘の方へ視線を向けた。

 

「さ あ、はじめま しょ?」

「えーと、何が問題になっとるんじゃったか」

「そ ね。つなぎ、の制御が 必要、ということ、かしら ね?」

 

 魔女の解説によると、地下遺跡で見つけた万能細胞をつなぎにして、異なる動物の特徴を混ぜることはうまく行くが、ある程度長く生かすと、いろいろな不具合が出てくるのだとか。

 これは恐らく、万能細胞が強すぎることによるのではないか、とのこと。

 長く生きている内に、食べたものの細胞まで取り込んで、悪性の(=予期しない)変異を起こすようなのだ。

 

「であれば、変異を終わらせた段階で、万能細胞の性質を殺すか、眠らせねばならんのじゃな」

「そ ね。不変や永続化の呪文で、固定化できないか、やってみた けど……」

「すると食べても栄養にならずに飢えて死んだり、擬似石化状態になって死ぬ、と」

 

 万能細胞は便利だが、使い捨てにしないタイプの使い魔を造るには、まだまだ制御が難しいようだ。

 

「いっそ、キマイラで作った方が いいかしら ね」

「確かにある程度は枯れた技術じゃし、その方が良かろうか……」

「まあ、キマイラの 研究から、突破口が見つかるかも、しれないし、ね?」

 

 そういえば、邪悪な魔術師が研究していたキマイラだかなんだかが解き放たれたから駆除しろとかいう依頼があったような……?

 

 

 

<『3.魔女さんと』 了>




 突っ込み役がいると掛け合いが書きやすいなあ。

 次はサンプルシナリオ「峠の魔獣」ベースでわちゃわちゃやる感じの予定(しかし予定は未定)。


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18/n 峠の魔獣-1(依頼受託)

 閲覧、評価、感想、お気に入り登録、誤字報告をするとどうなる? ——知らんのか 作者が喜ぶ。
 感想いつもありがとうございます!(大事なことなので(ry

●前話:
 Q.独立懸架式車両とかオーパーツでは?
 A.こだいのぎじゅつってすげー!!


 はいどーも!

 合体生物はロマン! ぼくのかんがえたさいきょうのキマイラをみるがいい! ふぅはははー! な、実況はーじまーるよー!

 

 前回はただの成長回でしたので、今回の冒険(セッション)では、新しく得た技能や呪文を使わせてあげたいですねー。

 半竜娘ちゃんの天候操作とか、TS圃人斥候の幻影作成とか。

 あと、まだ活躍を描写してない森人探検家ちゃんのエンチャントとかアンロックとか解毒・解呪とかも。

 いや、解呪は、半竜娘ちゃんとTS圃人斥候ちゃんから、夢魔の仕掛けたバックドアを消すのに使ったんでしたか。

 

 今回の冒険では、騎乗用使い魔作成に必要なサンプルや研究成果を手に入れる(ダイナミック剽窃)ことを目指します。

 具体的にはキマイラ系の、複数の魔物が融合してるやつを狩ります。

 あわよくばそいつを作った魔術師の工房丸ごと接収したいですね。

 

 そんでぇ、この辺にィ、野放しのキマイラがいるらしいっすよ?

 しかも前から、そのあたりにはキマイラの研究をしていた術師がいたとかいう噂もあるようです。

 でも最近では見かけないとか。

 

 依頼内容は、ある村と街の間にある峠に出没するようになったキマイラをどうにかして、物流を復活させ、安定させることです。

 基本的には討伐一択ですが、場合によっては別の選択肢も見えてくるかもしれませんね。

 

 その村へ出かける前に、冒険者ギルドで情報収集しましょう。

 情報収集は基本。

 

 手分けして情報を集めます。

 とはいえ、まずは【博識】判定で、そのキマイラを研究していた術師について知っていたかどうかを判定します。

 知る人ぞ知るという感じなので、目標値は18とします。

 【博識】判定=「知力集中+魔術師レベル+博識スキルボーナス+2D6」で、3人とも判定します。

 半竜娘、森人探検家、TS圃人斥候の順で、出目は33、34、43でした。

 計算式にあてはめると、達成値は、23(半竜娘)、15(森人探検家)、13(TS圃人斥候)ですので、半竜娘ちゃんだけ目標値を上回りました。

 

 どうやら半竜娘ちゃんは、キマイラを作成していたという術師を知っていたようです。

 

「ああ、確かそのあたりには、前からキマイラを研究しておった魔術師がおったはずじゃ。冒険者ギルドにも何度か素体確保の依頼が出されておったはず」

 

 新入りの冒険者にしてはよく知っていますね。

 ギルドの手伝いで過去の依頼票の整理でもしたときに見たのでしょう。

 目標値より達成値が5も大きかったので、素体の届け先である魔術師の工房の場所も覚えていたことにしていいです。

 

「冒険者ギルドへ依頼して素体を集めてたなら、いままでに納品されたものが何か知りたいわね」

「でもそんなの教えてくれるかー?」

「依頼に必要なことじゃからって説得すればいけるんじゃないかのう」

 

 というわけで、受付嬢さんに【説得:交渉】で目標値21のロールです……が、その前に【加速】のボーナスを得ておきましょう。

 あ、ちなみにいつも通り、分身ちゃんは前日就寝前に作成して、呪文使用回数を全快させています。

 分身ちゃん→本体へ【加速】、【加速】が乗った本体ちゃんから分身へ【加速】、【加速】を受けた【分身】から森人探検家・TS圃人斥候に【加速】、という順番で行きます。

 【加速】によるボーナスは、本体に+3、分身ちゃんに+4、森人探検家に+5、TS圃人斥候に+4です。*1*2

 ついでに森人探検家の【逆転】も使っておきましょう。目標値10に対して基礎値10+2D661で成功しました。一日に一回、視界内の対象の出目を反転させられます。

 呪文使用回数は、半竜娘ちゃん(本体)7→6、分身ちゃん7→4、森人探検家残り2→1、TS圃人斥候1→1です。

 

 では分身ちゃんにはちょっと【瞑想】で呪文使用回数を回復しててもらいつつ*3、その間に、残りの3人で冒険者ギルドから例の魔術師に納品された素体についての情報を調べます。

 まずは、受付嬢から過去の依頼票の閲覧許可をもらいましょう。【交渉:説得】でダイスロールです。

 

「受付嬢どの~、この依頼のキマイラ討伐(街道の脅威排除)なんじゃが、その近辺でモンスター素材を集めてた魔術師がおったじゃろ? その情報を調べたいんじゃがよいかのう?」

「こっちで見るのがダメなら、調べていただけると助かるのだけど」

「おねーさんお願い! アタシらにとっては死活問題なんです!」

 

 交渉判定は、この場合、「知力集中+交渉技能+加速ボーナス+2D6」で計算します。

 三人の出目は、56(半竜娘)、46(森人探検家)11(TS圃人斥候)でした。

 あざとすぎたのか、ひとりファンブってる娘が居ますね……。

 えーと達成値は、半竜娘24、森人探検家21、TS圃人斥候ファンブルなので、二人は依頼票の束を調べることを許されましたが、ひとりはダメでした。

 

「さすがに登録間もない白磁の方に依頼票の簿冊をお見せするのは……。代わりと言ってはなんですが、私も手伝わせていただきますよ。本来ならギルドの方で情報提供すべき内容ですし」

「がーん! オイ――アタシだけダメなの!?」(本音:よっしゃ文献調査(しょるいしごと)回避!)

「まあ、一理あるのう」

「そしたら、待ってる間にアンタは他の冒険者から情報聞きだしといてね。最近その辺に行ったことあるパーティとかいるかもしれないし」

「りょうかーい! 一杯おごるくらいは経費でいーい?」

「認めるのじゃ」

「おっけーりょうかーい!」(本音:役得役得ぅ!)

 

 というわけで、依頼票の調査は半竜娘と森人探検家と、その手伝いで受付嬢が。

 冒険者への聞き込みは、TS圃人斥候がやることになりました。

 

 では、文献調査組は【文献調査】判定です。受付嬢含む三人の合計値で、納品された素体についてどれだけの情報を得られたかを決めます。

 知力集中+2D6で判定し、受付嬢さんだけ一般技能【文献調査】(熟練)で+4のボーナスがあるものとします。

 それぞれ、半竜娘:知力集中10+45+加速ボーナス3、森人探検家:知力集中6+13+加速ボーナス5、受付嬢:知力集中6+文献調査4+56でしたので、三人の合計値は58となりました。

 達成値10ごとに1つの素体が明らかになったこととし、直近で例の魔術師に納品された素体のうち、5つの情報を得ることができました。

 また、合計達成値が55を上回ったので、これ以上古い情報は、相当前の情報になり、最近の事件にはあまり関係なさそうだということまで分かりました。

 

 

●直近で納品された素体

 蛇王(バジリスク) 無傷指定部位:首・頭

 (じゅう/エレファント) 無傷指定部位:四肢・胴体

 飛竜(ワイバーン) 無傷指定部位:首・頭

 毒蛇(ヴェノムスネーク) 無傷指定部位:上半身

 巨鳥(ロック) 無傷指定部位:翼・胸

 

 

 これらのモンスターを知っているか、半竜娘たちの【怪物知識】判定です。まとめて目標値は16で判定します。

 知力集中+呪文使い系職業Lv+怪物知識技能+2D6で計算です。*4

 達成値が十分高かったので、半竜娘も森人探検家も、素体となったモンスターの情報はすべてまるっと知っていたようです。

 

「特定部位を無傷に、っていう依頼だったので、なかなか受けてくださる方がいなかったんですよね~。討伐してすぐ氷漬けにして納品しろってことでしたから腕のいい魔術師も必要となるととてもとても」

 

 最終的には槍使いらのベテランが受けてくれたらしいです。

 確かに槍ニキと魔女さんならクリアできそう。

 ロック鳥とかエレファントとかは南方のモンスターなので、冬に寒さ避けがてら遠征に行くのにちょうど良かったのかもですね。

 

「しっかし、これでキマイラを作ったとしたら、えらいバケモンじゃぞ?」

「象の身体に、ロック鳥の翼、尻尾が巨大な毒蛇で、バジリスクとワイバーンの首がついてるってわけ? 巨体の耐久力があって、空飛んで、毒の牙を持った尻尾がうねっていて、石化の魔眼に炎のブレス? えらい化け物じゃないの」

「あはは……脅威度算定しなおしたほうが良いですかね~」

 

 並みの青玉・鋼鉄・白磁の3人パーティでは荷が重いように思えます。

 まあ、半竜娘たちは並みではないのですが。

 

「いや、そうすると手前(てまえ)たちで受注できるランクを超える可能性があるから、それは無用に頼むのじゃ」

「ま、無理そうなら撤退するわよ」

「……絶対に無理はなさらないでくださいね」

 

 受付嬢に心配されながら、半竜娘たちは併設酒場の方に戻ります。

 

「おー、戻ってきた! こっちもそこそこ聞き込みしたぜ!」

「あら真面目にやったみたいね」

「心を入れ替えて働くって! 信じろよな! だいたい情報収集で手を抜く斥候とか存在価値ねーし!」

 

 どれだけ情報を集められたかは、【交渉:誘惑】で判定します。目標値はとりあえず20で。演技と化粧でボーナス+2としましょうか。

 達成値は魂魄集中6+化粧・演技ボーナス2+加速ボーナス4+2D662=20でしたのでクリア。念を入れて、銀貨を積んで酒をおごることで、達成値を25まで伸ばしました(なお銀貨は10枚失いました)。何か追加の情報があるかもしれませんしね。

 媚びを振りまいて酒をおごって、TS圃人斥候が集めた情報によると、槍使いを中心にベテランたちがこの依頼について覚えていたらしく、依頼主についての情報を得られました。

 

 素体納品の依頼主である魔術師は、かつては都の魔術学院を卒業し、宮廷魔術師の末席にも名を連ねた博学才穎(はくがくさいえい)なる人物でしたが、あるときからキマイラの作成と使役に関する研究に入れ込むようになったとか。

 ことあるごとに

 

「今に見ておれ、きっとワシのキマイラが戦争を変えてみせる。さすればワシの名は百年いや千年ののちにもきっと世に(のこ)るはずじゃ!」

 

 などと口にしていたとか。

 実際、闘技場のオーナーや貴族に対して、興業の目玉や門番兼ペットとして、とても優秀なキマイラを提供していたといいますから、非常に腕は良かったのでしょう。

 ただ、ここ最近は、定期的にあった素体採取の依頼もないし、とうとう高齢でくたばったかと思っていたらしいです。

 

 で、達成値を伸ばしたので、追加情報についてアンロックされたようです。

 ただ、追加情報を得るのに、【犯罪知識】判定(目標値21)が必要です。

 TS圃人斥候の判定は、知力集中5+斥候Lv7+犯罪知識習熟2+加速ボーナス4+2D634=25で成功しました。

 

「お酌してくれたお礼に、お嬢ちゃんにだけ教えるがよー、あの魔術師の作るキマイラはめちゃくちゃ頭いいらしいんだ。それはマンティコアを素体の一つに使ってるからだって奴は言ってたらしいが、俺たちはマンティコアの納品なんかやったことねえんだ」

「そうなんですか~」

「でもなあ、不思議なことによお、確かにマンティコアみてーな人の頭がついてんだよ、奴のキマイラにはよー」

「えー、どーいうことー? わかんなーい」

「つまりな、奴は、マンティコアじゃなくて、人間を使ってキマイラにしてんじゃねーかって話よ!」

「きゃー、やだー、こわーい」

 

 ってな具合で、TS圃人斥候が聞き出したようです。

 

 キマイラを作る野心家な魔術師。

 素体に人間も使ってるかも。

 高齢でいつ死んでもおかしくない。

 最近の結構強い魔獣素材の納品依頼。

 出没するようになったキマイラ。

 

 うーんこの。

 厄いよね。厄くない?

 魔術師が死んでキマイラが暴走してるだけなのか……。

 いや、よそう、俺の勝手な推測でみんなを混乱させたくない……。

 

 

 不穏な空気を感じつつ、半竜娘たちは依頼のあった峠の方に向かうことにします。

 ちょうど物資運搬する行商人がいるということで、護衛をする代わりにタダで載せてもらうことができました。

 その間、荷台で半竜娘ちゃんズと森人探検家は【祈祷】判定(目標値20)して呪文使用回数を回復できるか試すことにします。*5

 多分、この日の夕方には峠まで行けるはず。峠で何もなければ日が沈むまでにはその村に着くでしょう。

 そしたら、軽く情報収集して、翌日、または状況の切迫度によっては着いた日の夜にキマイラ討伐ですかねー。

 

 では今回はここまで!

 また次回!

*1
【加速】呪文行使判定:1分身→本体 基礎値21+付与呪文熟達3+2D613=28、2本体→分身 基礎値21+付与呪文熟達3+加速ボーナス3+2D633=33、3分身→森人探検家 基礎値21+付与呪文熟達3+加速ボーナス4+2D656+クリティカル(生命の遣い手技能)ボーナス5=44、4分身→TS圃人斥候 基礎値21+付与呪文熟達3+加速ボーナス4+2D642=34。

*2
【加速】の呪文維持(目標値20):基礎値16+付与呪文熟達3-呪文行使ペナ4+加速ボーナス3or4+2D6のため、ファンブル以外では成功する。ファンブルはしなかった。また、ペナルティがない場合はダイス目を加算しなくても20以上となって成功するので、時間経過による判定は省略する。(GMはファンブル狙いで10分毎に1回、呪文維持判定させてもいいが、固定値部分だけで目標値を上回る場合はダイス目部分はゼロまたは2扱いで自動成功としても良いとは思う。)

*3
分身【瞑想】判定(目標25):基礎値(知力持久)9+魔術師レベル7+瞑想技能2+加速ボーナス4+2D665=33。判定成功。2時間かけて瞑想し呪文使用回数を1回復(4→5)。

*4
キマイラ素体の怪物知識判定:半竜娘 知力集中10+竜司祭9+加速ボーナス3+2D645=31、森人探検家:知力集中6+神官4+怪物知識初歩2+加速ボーナス5+2D624=23

*5
峠までの荷台で祈祷判定:半竜娘本体・分身 ファンブルではなかった。成功。 森人探検家:魂魄持久3+神官Lv4+加速ボーナス5+2D665=23.成功。呪文使用回数は、本体6→7、分身5→6、森人探検家1→2、TS圃人斥候1(変化なし)




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18/n 峠の魔獣-2(魔獣遭遇)

 閲覧、評価、感想、お気に入り登録、誤字報告 ありがたや~、ありがたや~。

●前話:
TS圃人斥候「妙だな……。マンティコアの納品がないのに、出来上がったキマイラには人間のような首がある……。妙だな……」


 はいどーも!

 峠の魔獣討伐のために、荷馬車に乗って運ばれております。

 がたごと荷馬車に乗って村に向かっておりますが、何も無策で向かっているのではありません。

 

 事前にかなりの情報を冒険者ギルドで集められましたからね。

 

 敵となるキマイラは、おそらくは象の巨体を持ち、巨鳥の翼で空を飛び、飛竜の首で火を吐き、蛇王の首はその眼と牙で石化効果をばらまき、尻尾は大毒蛇になっていてそれを毒牙付きの大綱の鞭のように振り回して攻撃してくるでしょう。

 しかも、おそらく、そのすべての攻撃を一度に繰り出してくると思われ。

 また、製作者だという老齢の魔術師も、かなりの凄腕のようです。経験を積んだ魔術師ほど厄介なものはありません。攻撃の魔法もですが、【矢避(ディフレクトミサイル)】や【混乱(コンフューズ)】、【惰眠(スリープ)】などの補助呪文こそ警戒すべきでしょう。その魔術師が、生きているのか、敵対するのか、どのような形で戦闘に加わってくるのかは全くの未知数ですが。

 キマイラも一匹だけとは限りません。人頭獅子(マンティコア)のように知能の高いキマイラの製作を行っていたということなので、呪文を使える中型や小型のキマイラを何匹も従えているかもしれません。

 

 石化の魔眼や呪文への対策としては『精神上昇の秘薬』を、また、石化の嘴や毒の牙への対策として『体力上昇の秘薬』や『解毒剤』、『気付け薬』を準備しています。

 精神への影響がある呪文については、TS圃人斥候の新装備『鼓舞の革鎧(+3)』で無効化できるので、TS圃人斥候がより多くの解毒剤や気付け薬を持つことにしています。

 森の中で行動するために、(まだら)の草木色に染めたマントや、臭い消し、虫よけ薬、土色のドーランも準備。相手にはおそらく毒蛇のピット器官(体熱視界)もあるので、どこまで迷彩が有効か分かりませんが。

 矢弾が【矢避】の呪文で逸らされた時のために、投石紐(スリング)と石弾袋(移動力-2)も持ってきました。*1

 その投石紐で投げられる催涙弾や煙玉、火炎瓶も用意しています。特に煙玉は、バジリスクの視界を遮るためにも必要です。

 煙玉や火炎瓶にすぐに火をつけられるように、火のついた火縄を仕舞っておける木の細工を、TS圃人斥候に、この移動中に作ってもらっています。マッチやライターの開発が必要ですかね……。

 

「火がついたままの火種を持ち歩くのって面倒だよな。木筒に空気穴開けて火のついた火縄を詰めて、ってさ。なあ、点火の魔道具あったら今度買おうぜー」

「“インフラマラエ( 点火 )”の一言真言で点けられるじゃろ?」

「え、なにそのテク、オイラ初耳」

 

 ああそうか、この一党は全員魔術師の職業(クラス)を持ってるから、練習すれば『インフラマラエ( 点火 )』の真言で点けられなくもないのか。

 まあ、半竜娘ちゃんはともかく、他は練習したこともないので今回の冒険では無理ですね。魔術師レベルが低いと安定しないかもですし。

 

 祈祷で呪文使用回数を回復したり、周辺警戒しつつ火種維持用の木筒を作ったりしているうちにも、馬車は進んでいきます。

 行商人からすれば不気味な冒険者でしょうね、黙々と祈祷し続けているのって。

 でも、出発するときに精霊術の【追風】を掛けてもらっているので、あんまり文句も言えない模様(分身ちゃん呪文使用回数6→5(祈祷による回復込み))。まあ神への祈りを邪魔するとか天罰ものですからね。

 

 はい、では偶発的遭遇(ランダムエンカウント)の判定です。

 旅路に付き物なやつですねー。

 2D6で、出目が5~9なら何事もなかったことにします。

 

 さて……14で合計5でしたので、なんとか何事もありませんでした。セーフ。

 失敗してたら、山賊の類か、ゴブリンでも出てきたかもしれませんね。逆に出目が高かったら、何か有用なアイテムや情報をくれる人にでも会えたかも。

 

 警戒しているTS圃人斥候は、周囲を【観察】することでキマイラなどの痕跡を見つけられました。

 達成値に応じて得られる情報が変わります。計算式は「知力集中5+斥候Lv7+観察技能習熟2+加速ボーナス4+2D622」で、合計22となりました。

 

 観察判定達成値10以上で、「森が何か非常に大きな動物に荒らされたようになっている(太い枝が折れたり、木の高いところに傷がついているなど)」ことに気づけます。

 15以上で、「石化した小動物」と「焼け焦げた鹿の一部(食べ残し?)」が落ちていることにも気づけます。

 20以上で、「非常に大きな動物の痕跡とはまた別の動物(とはいっても牛程度はあるでしょう)の痕跡(足跡や糞など)」にも気づけました。

 冒険者ギルドで情報収集しなかった場合でも、ここで気づける可能性があるわけですね。

 

 それ以上のこと、例えば、最後の情報である、巨大なやつとは別の動物たちが何匹いるのかまでは分かりませんでした。

 これらの痕跡が、どのような動物によるものなのか、怪物知識判定です。

 TS圃人斥候の怪物知識判定の計算式は「知力集中5+魔術師Lv1+加速ボーナス4+2D632」なので、達成値15です。半竜娘たちから冒険者ギルドでの調査結果を聞いているので、非常に大きな動物の痕跡についてはさらに+3していいでしょう。比較的小さいほうの痕跡については何も情報がないので逆に-3のペナルティとします。

 TS圃人斥候は、大きな方の痕跡は、象や飛竜、蛇王が混ざったキマイラによるものであろうことが推測できますが、比較的小さな痕跡については何によるものか皆目見当もつきませんでした。

 

 …………。

 ……。

 

 大型動物の縄張りになってしまっている峠の道を、怯える馬車馬を宥めながら抜けていき、目的の村に到着。

 日は傾いてきたものの、まだ高い位置にあります。

 【追風】の精霊術のおかげで、予定よりも早く着けました。

 

 しかし、どうも様子が変です。

 

 村は騒然としています。

 依頼を受けてきた冒険者だと告げると、村の代表らしき人物が、大変焦った様子で近寄ってきました。村長ですかね。

 いやーな予感がします……。

 

「ああ! 君たちが討伐依頼を受けてくれた冒険者か!」

「そうじゃが、これは一体何事じゃ?」

「村の若い娘たちが、化け物に攫われたんだ!!」

 

 知ってた(白目)。

 

 少し事情を聞くと、二人の村娘が、大きな翼で空を飛ぶ三ツ首の化け物に攫われたとのこと。

 一人は羊飼いで、もう一人は薬師だとか。長い尾に巻き取られて連れ去られたらしいです。

 幸いにも、火炎を吹きかけられたり、石化させられたりした村人は居ないようですね。

 

「頼む、女たちを助けてくれ」

「ふむ、本来なら追加料金を、というところじゃが、それは無しにしておこうかの」

「その代わりに、怪我してたり、手遅れになってても、文句は言わないでよね」

「……わかった、それで頼む」

 

 その条件で、村長は頷きました。

 異種族だらけのパーティなので、若干村長が引き気味な気もします。

 

 では早速追跡に……ではなく、村人に聞き込みです。

 山に入るにしても、地元民から要注意地形や要注意の動物なんかのことを聞いておかないと危ないですからね。

 

 緊急事態ですから、村人たちも積極的に情報を出してくれます。

 

 整理すると以下のようなことが分かります。

 今回の冒険に関係ないこともありますが、網羅します。

 

 ・山にはいくつか洞窟がある。

 ・少し行くと谷になっているところもある。そこに野生動物が集まる泉も湧いている。

 ・小鬼が住み着いている場所もある。

 ・別口で依頼を出していた小鬼退治の冒険者が昨日村に来て、夜明けからそちらを潰して回っている。

 ・化け物に人が攫われたのは今回が初めて。つい一時間ほど前の出来事。

 ・キマイラ研究の老齢の魔術師は、ときどき村へ来て食べ物を買っていた。

 ・魔術師本人ではなくて、木でできた人形がお遣いに来ることもあった。

 ・魔術師の工房と、さっきの化け物が飛んで行った方向は、同じ方向。

 ・魔術師の工房までは村人の足で歩いて2時間かかる山の中腹にある。

 ・大きな化け物の取り巻きに、羽があって顔が人間みたいな化け物が3匹いたのを見かけた。

 ・羊飼いが攫われた場所には、匂いの強いハーブが群生していた。薬師は薬の材料にもなるそれを採りにいった帰りに攫われた。

 

 だいたいこんなもんです。

 あれ、ゴブリン絶対殺すマンも来てます?

 まあいいや、こっちにゴブリンが居ないならニアミスで終わるでしょ。

 

 そのハーブとやらを使っておびき出すこともできるかもしれませんが、押し込んだ方が良いでしょう。もし食べるために村娘を攫ったなら、首尾良くおびき出せたとしても、村娘たちは食べられた後でしょうし。

 また、半竜娘が怪物知識判定に成功した(固定値だけで自動成功)ので、お遣いの木の人形は『樫人形(ウッドゴーレム)』で、取り巻きの化け物は『人頭獅子(マンティコア)』であることが分かりました。

 

 迷彩や虫よけ、臭い消しの準備をして、魔術師の工房の方へと向かいます。

 【加速】のおかげで倍速で移動できるので、1時間もあれば魔術師の工房に到着できるでしょう。

 時間的にはちょうど日が沈み始めるくらいに到着する計算です。

 

「戸締りはしっかりするんじゃぞ、これ以上誰も攫われないようにするんじゃ」

「こっちはやるだけやってみるわ」

「まっ、大船に乗ったつもりで待っててくれよな!」

「頼んだ……! よろしくお願いする!」

 

 村長に別れを言って、出陣です!

 

 …………。

 ……。

 

 道中で軽く作戦会議です。

 

「何のために娘を攫ったんじゃ?」

「そりゃ、食うためじゃねーの」

「ベースの象は草食でしょ、ヤツは肉を食べるのかしら?」

 

 キマイラが食べるものは、やはり胴体の食性に左右されるのでしょうかね。

 

「来る途中に食べ残しっぽい鹿の残骸があったぞ」

「配下のマンティコアが食べたのかもよ」

「それなら娘らではなく牧草地の羊を襲えばよかろうし、娘を襲うにしてもその場で食べるんじゃないのかの?」

 

 できるだけ音を立てず、枝を折らずに進む。

 

「怪物が娘を攫うんじゃから、食べるためでなければ、嫁にするためかの?」

「嫁って。ゴブリンじゃないんだから」

「……ゴブリンの生殖能力を持ったキマイラだってことはねえか?」

 

 ははは。いや、まさかあ。

 

「…………そんなのあり得る?」

「オイラも自分で言ってて無いと思うけどよー。でも、強いキマイラを作れたからって、それで“戦争を変える”とまではいかねーだろ。白金等級のレベルなら別だけど」

「質が足りねば、数で補う……。キマイラはどうあがいても一代一種じゃ、特にハイエンドになればなるほどに。で、それを補うためにゴブリンの性質に目を付けたと?」

 

 あー、能力吸収して成長していく系の主人公で、ゴブリンやオークから、【絶倫】とか【異種交配】スキルを奪うのって確かによくあるよね?

 

「……まあ、ちょっと心に留めておきましょう」

「一気に危険度が上がった気がするんだが! 貞操的な意味で!」

「かかか、うちのメンバーは種族様々じゃから交配実験には持ってこいかもしれんのう、ははは」

「笑い事じゃねーっての!!」

 

 飛んで火に入るなんとやら、にならないようにしないとね!!

 

「方針をもう一度確認するのじゃよ。まず、依頼の達成はもちろんじゃが、今回はキマイラ関係の技術やサンプル、研究成果を奪取するために来ておる」

「つまり、工房はできるだけ破壊したくないってわけね。いつもの巨大化突撃は使えない、と。まあ村娘たちのこともあるしね」

「あとは魔術師が生きてたら、そっちもできるだけ確保するんだろ? まあ本人に教えを請うのが早いもんな」

 

 そろそろ、その魔術師の工房の近辺です。

 木々は象のキマイラに食べられたのか丸裸だし、飛び立つためのスペースとしてか大きく開けている場所も増えてきたし、残っている木々の間隔も広い。

 3人(+分身1)も声を抑えます。

 

「そうじゃ。()()()()()()()()()()()()()()、まずは無力化を試す」

「この騒動がその魔術師の本意でなければ、まあ救出? 死んでたら研究成果とか根こそぎ接収ね」

「いやいや、でもこれさぁ……」

 

 あ、TS圃人斥候ちゃん、ついにそれ言っちゃいます?

 

「絶対、魔術師のやつが自分をキマイラにしてるパターンだろ……」

 

 彼女たち3人(+分身1)の視線の先には、魔術師の工房らしき石造りの建物と、台に括り付けられた2人の乙女と、3匹のマンティコア、何体かのウッドゴーレム、そして……

 

『ふっははははははは!

 娘らよ!

 我が至高の作品の母胎となる栄誉を与えようぞ!!

 ふはははははは!!』

『GRRRROOOO!!』

『CKOOOKKEEE!!』

『PAOOONNN!!』

『SHHARRRR!!』

 

 飛竜の首、

 蛇王の首、

 象の首、

 象の身体、

 巨鳥の翼、

 大毒蛇の尾、

 そして、哄笑する男の上半身が、象の背の上から、まるで騎士のように生えています。

 

 ちなみに下からはどんなサイズの母胎にも対応できるようにか、伸縮したりいろんな太さに枝分かれしたりして蠢いている逸物が……。

 

「「「うわあ」」」

 

 戦闘開始です!

 

 

 

*1
投石紐の装備:一人当たりの装備枠は3つです。半竜娘は素手と尻尾盾攻撃は装備枠として数えませんので、普通に投石紐を持つことができます。森人探検家は手槍を荷物にしまい、投石紐をいつでも使えるようにしておきます。TS圃人斥候は投矢と投矢銃が装備としては共通のため、元から一つ枠が空いていましたのでそこに装備します。




半竜娘「まずは不意打ちの南洋投げナイフで、逸物を切断するべきでは?」

高位の術者が作ったキマイラは、完成後は『そういう一個の生命体』になるものと考えます。単なる()()ぎではなくなるわけです。
この場合にゴブリン的性質を取り込んだキマイラが人族を苗床にした場合は、キマイラの子供が生まれることにします。


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18/n 峠の魔獣-3(融合獣討伐)

 閲覧、評価、感想、お気に入り登録、誤字報告をいただき、みなさまありがとうございます! 特に感想はこちらの刺激にもなってますので大変ありがたいです。

戦場イメージの挿絵あります。
戦闘終わるまで、と思ったら長くなりました。

●前話:
ゴブリンスレイヤーの二次創作なのでゴブリン出しました(一部特性のみ)(実質ゴブリン)
???「ゴブリンの繁殖特性を付与したキマイラ作ったら強いよ!(託宣)」
融合獣作りの魔術師(触手趣味)「!! ひらめいた!」


 戦闘開始(オープンコンバット)

 

 しかし、この妙な方向のゴブリンの有効活用は……“覚知神”案件じゃな?

 

 “覚知神”は盤の外からやってきた神で、たちの悪い託宣を与えては四方世界を混乱させようとする、秩序とも混沌とも違う、外なる神の一種です。

 TASさん(ティーアース)たちも外なる神ですが、彼らは、四方世界の他の神々とは違って、駒の自由意志というものを蔑ろにしがちです。

 時には強力な干渉能力で駒を直接操ったりしますし、そうでなくても思考を歪めて、ある一つの考えに固執させたりします。それが破滅への道だとしても。

 また、覚知神と呼ばれる類の神(複数なのか単数なのか不明ですが)には、ゴブリンを強化する趣味のやつが少なくとも一柱は含まれているようです。……そうです、原作小説及び劇場版でゴブリンパラディンに啓示を与えたやつです。

 

 なので今回もそういう覚知神の案件ではないか、という気配がします。

 そうでもないと、わざわざ“最弱の怪物”であるゴブリンを、最強を目指すキマイラに組み込んだりしないでしょう。

 ましてや自分と融合させるんですよ? ゴブリンと融合? 正気じゃない(クレイジー)

 

 まあ、それはともかく、戦闘開始です!

 

 まだ相手の象騎士型融合獣(キマイラ)には気づかれていません。

 しかし、猶予もありません。

 悠長にしてると、村娘さんたちが癒えないトラウマを負ってしまいます。

 

 まずは戦力分析のために【怪物知識】判定です。ボスの象騎士型融合獣(キマイラ)以外は事前に判定成功してるので、ボスについてだけ判定します。

 半竜娘ちゃんがダイスロール!*1

 固定値20で出目が4でしたので、合計24。怪物レベル15までの敵なら情報を得ることができます。

 怪物レベル15なんてのは魔神将でも上位のやつなので、これならさすがに情報が読めないということはないでしょう。

 

 半竜娘ちゃんが持つ知識やこれまで得た情報、そして目の前の相手を直に観察した結果、相手の怪物レベルは“推定9”で、能力は以下のようなものだと分かりました。

 また、出目が十分高かったので、フレーバーテキストが充実します(特に意味はないですが)。

 

◆基礎データ

 

種別動植物/悪党
名称象騎士型融合獣(キマイラ:エレファント)
怪物レベル
知能人並み
生命力90
先制力2D6
移動力40(飛行)
呪文抵抗2D6+14
回避2D6+13
盾受けなし
装甲6(外皮)
 

 

 

◆攻撃手段

攻撃威力属性攻撃達成値タイプ射程
牙(飛竜の首)3d6+42D6+13近接なし
 

 

攻撃威力属性攻撃達成値タイプ射程
炎の吐息(飛竜の首)4D62D6+11特殊30m(円錐状)
 

体力抵抗(反射)に成功した場合は装甲による軽減前にダメージ半減

 

攻撃威力属性攻撃達成値タイプ射程
牙(蛇王の首:石化)3d6+4刺・毒2D6+13近接なし
 

体力抵抗(持久)に失敗した場合に石化進行。治療を受けるまで技量点を1減少させ0以下で石化。石化による効果は達成値以上の奇跡【解毒】で治療可能

 

攻撃威力属性攻撃達成値タイプ射程
石化の魔眼(蛇王の首)精神2D6+5特殊60m
 

魂魄抵抗(反射)に失敗した場合に石化進行。治療を受けるまで技量点を1減少させ0以下で石化。石化による効果は達成値以上の奇跡【解毒】で治療可能

 

攻撃威力属性攻撃達成値タイプ射程
雄たけび(象の首)2D6+10特殊半径10m範囲
 

魂魄抵抗(反射)に失敗した場合、そのラウンドのすべての判定に-2のペナルティ

 

攻撃威力属性攻撃達成値タイプ射程
踏みつけ(象の足)4d62D6+13近接なし
 

 

攻撃威力属性攻撃達成値タイプ射程
風起こし(巨鳥の翼)2D6+12特殊半径20m範囲
 

体力抵抗(反射)に失敗した場合に転倒させる

 

攻撃威力属性攻撃達成値タイプ射程
噛みつく(尾:毒牙)3d6+42D6+13近接なし
 

体力抵抗(持久)に失敗した場合に毒

 

攻撃威力属性攻撃達成値タイプ射程
巻き付く(尾)2d62D6+11近接なし
 

命中時に拘束可能

 

 

◆呪文(魔術師の上半身)

 真言呪文Lv7 呪文行使回数3回

 呪文行使達成値 19(2D6+12)

 使用可能呪文 【矢避】【粘糸】【惰眠】【吹雪】【力矢】【抗魔】【落下】

 

 

◆特殊能力

 

名称効果
ボス3レベルが半分(切り上げ)以下の配下を3体まで統率できる
5回行動1つの手番で5回まで行動可能。ただし、行動可能な部位は1飛竜の首、2蛇王の首、3象の首、4象の胴体、5巨鳥の翼、6大毒蛇の尾、7魔術師の上半身の7部位のうちから一回ずつ選ぶこと。同じ部位を同じ手番に二度以上行動させることはできない。
飛行同じ飛行しているユニット以外からは移動妨害を受けない。
巨大近接距離が10mになる。
炎無効炎属性の攻撃・効果を無効化する。
石化無効石化効果を受けない。
暗視(熟練)暗闇を600m先まで見通せる。ピット器官による体熱視。
拘束攻撃(熟練)拘束効果を持つ武器の命中時に動きを封じ、拘束ペナルティ-4を与える。
護衛(初歩)1ラウンドに一度、近接距離内にいる味方への攻撃を肩代わりできる。
 

 

 

◆解説

 象の体をベースに、飛竜の首、蛇王の首、大毒蛇の尾(頭)、巨鳥の翼、さらに魔術師の上半身が騎士のように接続された融合獣です。

 なお、股間にはローパーが、生殖特性はゴブリンが融合利用されています。

 もとは凄腕の融合獣製作者でしたが、何らかの妄執に取り憑かれて、このような姿になり果ててしまいました。

 全体のコントロールは、騎士状に生えた上半身が握っていますが、そこを破壊した場合は別の頭がコントロールを引き継ぎます。

 人族と交配することで、同種の個体を増殖させることができます。胎児は小さいため母体を殺さずに誕生できますが、ゴブリンの性質が入っているためか多胎であり、またすぐに大きくなります。

 しかし一定の確率で騎士状の上半身がゴブリンになる不具合があり、代を重ねるごとにゴブリンが顕性する確率が上がります。

 

 ほらやっぱり最終的にゴブリンを強化するやつじゃん、絶対これ覚知神案件だって!

 

「これをここで生かしとくとめちゃくちゃ厄介なことになるけど、それでも生け捕りすんのかよ? リーダー」

「タマを潰せばよかろうさ。最悪、息があって頭が無事ならそれで良いのじゃ」

「無理そうなら殺すけど、いいわね?」

「それは仕方ないのじゃ、手前(てまえ)らや人質の命優先じゃからな」

 

 とりあえず、生け捕りの方針に変更はなしのようです。

 

「石化とかが怖いわね」

「魔眼は煙幕で遮るとして、吹き飛ばしやら毒やら炎やら拘束攻撃やらを考えると、『体力上昇の秘薬』を飲む方がいいかのう」

「まあそうだな、特にエルフのねーちゃんは気を付けないとなー」

 

 ということで、三人とも体力上昇の秘薬を飲んで、体力抵抗判定に+2のボーナスを得ることにしました。

 

「まずは人質の救出よね」

「オイラが煙幕を投げるから、その隙にってことだな」

「竜牙兵なら魔法視界を持っておるから煙幕の中でも助けに行けるのじゃ、すぐに呼び出すとしようかの」

「でも樫人形も煙幕は効かないんじゃないの?」

 

 魔法生物である竜牙兵や樫人形は、そもそも目で見ていないから、煙幕が効かないのです。

 

「なら、先に樫人形を排除して、煙幕を撒いて竜牙兵による救出、という手順かの? いやそれだとマンティコアが野放しになるか」

「術使いは減らしてえよなあ」

「そうじゃよなあ……。やはり初手は毒のブレスかのう……」

 

 悩みつつも戦術を組み立てていきます。

 しかし、その間にもボスのキマイラは村娘たちを犯さんとにじり寄っています。

 

「よし、これでいこう! 今から救出じゃ!」

 

 作戦も決まったようです。

 

 さて、戦場イメージは次のような感じです。

 いらすとやさんに感謝しつつフリップドーン!

 

【挿絵表示】

 

 

 相手までの距離は大体30mです。

 投石紐による攻撃が届くくらいですね。

 

 さて、まずは、不意打ちが成功するかの判定です。

 全員の隠密判定が、敵の第六感判定(2D6+18)を上回らなくてはなりませんが、別のことに熱中しているので、ボスには-4のペナルティがあるものとします。

 しかし、実はマンティコアの方が知能が高い分、不意打ちに気づきやすいというね……。マンティコアの第六感判定は、22(怪物レベル5×3+2D6期待値7)ですし、普通にボスの代わりに周辺警戒してますからこっちのほうが厄介です。

 

 まずは半竜娘ちゃんたちそれぞれの不意打ちチェック(する方)です。*2

 うーん、半竜娘19、分身23、森人探検家29、TS圃人斥候32ですか。

 

 このままだと、半竜娘ちゃん本体がマンティコアに見つかっちゃいます……。そして芋づる式に……。

 一応、ボスのキマイラの第六感も判定します。達成値は、怪物レベル9×2+2D653-熱中ペナルティ4=22でした。こっちもこのままだと半竜娘ちゃん(本体)に気づいちゃいます。

 

 なので、因果点を使った祈念で判定結果を一段階上昇(失敗→成功)させることにします。

 現在の因果点は3です。2D6で12=3でしたので、祈念成功です。(セーフ!)

 

 ――ガサっ!

 

『MMMMMNNNN??』

『なんじゃ?』

 

 ――にゃーん

 

『なんだネコか……』

 

 マンティコアとキマイラに見つかりそうでしたが、何とか誤魔化せました!

 因果点は3点→4点に上昇しました。

 

 では、不意打ち判定に成功したので、一ラウンド目は問答無用で攻撃できます!

 加速がかかっているので、二回行動できるかどうか、先制力判定をします。*3

 先制力は、半竜娘本体、分身、森人探検家、TS圃人斥候の順に14、12、17、0です。

 TS圃人斥候はファンブルしていますよ!?

 

 えーと、祈念を使って、半竜娘(分身)と、TS圃人斥候について振りなおします。

 因果点4→5 半竜娘分身2D615=6>4で、祈念成功。先制力を振りなおします。振りなおして、2D615=6。ダイス1個当たり1点加算ですので、2点加算され、機先2+加速ボーナス4を加え、最終的に先制力14です。先制力が12を超えたので【加速】の効果で2回行動できます。

 因果点5→6 TS圃人斥候2D624=6>5で、祈念成功。……出目が低くないです? 成功したからいいけど。先制力の振り直し結果は、2D645=9。最終的な先制力は機先3+加速ボーナス4+2D645+振り直しボーナス2=18。こちらも12を越えましたので、無事、不意打ちのラウンドに二回行動できます。

 

 まずは、やっぱり呪文使いを減らします。

 森人探検家が新調した【大弓+2】で速射し、3匹のマンティコアのうち、マンティコアAとマンティコアBに一発ずつ攻撃です!*4

 マンティコアAへの射撃は命中達成値32、Bへは29でした。マンティコアの回避は17なので、当然回避不能です!

 これによるダメージは、装甲による軽減を引くと、『大弓攻撃力(2D6+4)+野伏Lv7+命中達成値ボーナス4D6-マンティコア装甲4』=『6D6+7』で算出します。

 

 マンティコアAへのダメージは、6D6553663+7=35!

 マンティコアの生命力は32なので、一撃死です!!

 森人探検家の矢が、警戒していたマンティコアAの眼窩から脳を貫き、何をさせることもなくその命を終わらせました。

 

『!?……ッ……』

「……一丁上がりよ!」

 

 二射目のダメージは6D6263265+7=31!

 一撃では殺せませんでしたが、瀕死です!

 

『!!……ッ……GGG!!』

「あら、仕留めそこなったわね」

 

 それでも十分出目が回っています!

 

 続いて、分身ちゃんが、自由行動で本体から受け取った石弾の一つに【破裂(ガンビット)】の真言呪文を込めて、TS圃人斥候に渡します。*5

 分身の呪文使用回数は5→4回です。

 

ルーメン()オッフェーロ(付与)インフラマラエ(点火)。ほい、落とすと爆発するからのー」

「ほっ、と。そんなヘマしねーよ」

「真ん中に投げれば全部巻き込めるはずじゃ。人質は目視で効果から外すよう念じればOKじゃ」

「よっしゃ、あのデカブツにぶつけちゃる」

 

 TS圃人斥候が、投石紐で象騎士型融合獣へと投擲します!*6

 命中達成値は33! キマイラの回避は2D641+13=18でしたので、回避できませんでした。

 命中達成値の方が15も大きいので、狙ったところに当たったことにしましょうか。ダメージが変わるわけではないですが。

 

「ねえ、あの逸物狙いなさいよ」

「えっ、さすがにそれは元男としてちょっと」

「いいから、やりなさい」「やるのじゃ」

「ハイ」

 

 魔法の込められたタマが、キマイラのタマを目掛けて飛んでいきます!

 

 命中!

 

『ほぐぉう……っ!!』

 

 ダメージは『投石紐ダメージ(1D3+1)+斥候Lv7+命中達成値ボーナス4D6-キマイラ装甲値6』=『1D3+4D6+2』で計算します。

 ダメージダイス! 1D31+4d66436+2=22!

 ボスのキマイラに22のダメージ、残り生命力は90-22=68です。

 

「ないすぴー、じゃの!」

「やるわね!」

「うわあ……」

 

 そしてさらに着弾の衝撃により込められた【破裂】の呪文が解放され、半径15メートル圏内に、魔力の衝撃波が、閃光と轟音とともにまき散らされます! KABOOOOMMM!!!! たーまやー!

 【破裂】の呪文達成値37に対して、敵は呪文抵抗しますが、マンティコアとウッドゴーレム程度では抵抗不能、キマイラは呪文抵抗2D661+14=21で、やっぱり抵抗不能。

 これにより、『3D6552+魔術師Lv7(半竜娘分身)-それぞれの装甲値』のダメージです。

 そこそこ良い出目ですね、これなら振り直しは不要ですかねー。

 

 マンティコア(装甲4)へ15ダメージ!

 マンティコアB(生命力残り1)は死亡!

 マンティコアCは残り生命力17です!

 

『……ガハ、ゲフッ……ッ』

『GGGYYYAAAA!?』

 

 ウッドゴーレム(装甲2)へ17ダメージ!

 ウッドゴーレムの生命力は16なので、6体すべてを一掃しました!

 衝撃波によって関節が千切れ、バラバラに吹き飛んでいきます。

 

『『『『『『WWWOOOOOODDDDYYYYY!!!???』』』』』』

 

 股間にめり込んだ石弾が爆発したキマイラ(装甲6)には13のダメージ!

 キマイラの残り生命力は55です!

 去勢完了!

 

『ふぐっ、な、なにが、いったい……ぐふぅうぅぅぅ、はあっ、はあっ……、ふー、ふー、ふー……』

 

 さらに、生き残ったマンティコアCとキマイラは、閃光と轟音によって、このラウンド中はあらゆる判定に-2のペナルティです。

 

 だけどすまんな、まだ半竜娘(本体・分身)は2回行動できるし、森人探検家は1回、TS圃人斥候も1回の行動を残しているのだ。

 

 続いて、森人探検家による2回目の大弓による攻撃です。

 1射目はマンティコアCへ、2射目はキマイラへ、速射します。*7

 マンティコアC(回避17-閃光影響2)への命中達成値は24で、命中!

 キマイラ(回避2D614+13-閃光影響2=16)への命中達成値は29だったので、こちらも命中!

 

 ダメージ算定時には森人探検家の【刺突攻撃】技能で達成値に+6されるので、ダメージ計算式は1射目も2射目も『大弓攻撃力(2D6+4)+野伏Lv7+命中達成値ボーナス4D6-装甲値(マンティコア4orキマイラ6)』=『6D6+7or5』となります。

 マンティコア(装甲4)へのダメージは、6D6445232+7=27! 残り生命力17だったので死亡!

 

『グゲッ』

「脳漿をブチ撒けろ! これで取り巻きの呪文使いを排除したわ!!」

「あとはボスだけじゃな!」

 

 2射目はキマイラ(装甲6)へ!

 ダメージは6D6252143+5=22!

 

『ぐ、ふ、この! 冒険者か!! 我が崇高なる営為を邪魔しくさってからに――!!??』

「口上ご苦労なことね! 安心しなさい、生け捕りにしてあげるから」

『――貴様らああああああ!! 舐めるのもここまでだ! 捕まえて苗床にしてくれるわ!!』

 

 残り生命力は55-22=33です。

 

 続いて半竜娘ちゃん(本体・分身)の行動です。

 それぞれ2回の行動を残しています。

 

 では、本体の半竜娘ちゃんの真言呪文【停滞】で、相手の動きを遅くします。射程30mなのでギリギリ届きます。

 その達成値は、28でした。*8

 抵抗されなければ、各種行動に-4のペナルティを与えられます。

 

ホラ()セメル(一時)シレント(停滞)…! 動きを止めよ!」

『させぬ! 【抗魔】!』

 

 呪文抵抗の前に、カウンターマジックで発動そのものを阻害しに来ましたね。

 キマイラの呪文行使は、12+2D6なのでクリティカルでない限りはカウンターマジックは成立しません。

 キマイラの出目は55でしたので、不発! キマイラの呪文使用回数は残り3→2となります。

 続いて呪文抵抗も試みるみたいです。2D664+14-閃光影響2=24で、抵抗はできませんでした。

 運のいいことにこいつは飛んでなかったので、落下ダメージはナシです。

 

「抵抗は無意味じゃ!」

『……しま、っ、た ぁ ぁ … …』

 

 これ以降、半竜娘(本体)が呪文維持に成功する限り、キマイラは移動力が半減し、先制力含むすべての判定に-4のペナルティです。

 半竜娘(本体)の呪文使用回数は7→6回になります。

 

 次に、分身ちゃんの祖竜術【突撃】です。

 基本移動力は石弾袋を追加で持っているので16、【加速】中なので二倍の32、【突撃】によって三倍距離まで移動できるので96。余裕で30m先のキマイラまで届きますね。

 呪文行使の達成値は32になりました。*9

 このときのダメージ算出は、『助走距離ボーナス(30×20%=6)+5D6+竜司祭Lv9-キマイラ装甲値6』なので、最大で39……手加減しなくてもいい感じに瀕死にできるのではないでしょうか。

 キマイラの呪文抵抗は2D654+14-停滞ペナ4-閃光ペナ2=17でしたので、抵抗失敗。

 

「突撃じゃーー!!」

『な に を ー ー !? ぐ お お お !!?』

 

 ダメージは『助走距離ボーナス6+5D625656+竜司祭Lv9-装甲6』=33!

 

 えっ、33!?

 ちょ、ちょい待ち! あかーん! 死ぬぅ!

 えーと、因果点使った祈念で振り直し!

 因果点6→7 2D622=4<6で祈念失敗! うそーん!

 

 そ、そうだ、森人探検家ちゃん!

 【逆転】でダメージダイスの出目ひっくり返して!(【逆転】使用)

 おっ、なんか不自然に強い風が吹いて半竜娘ちゃんの突撃の軌道がほんの少しずれたぞ!

 

 これでダメージは『助走距離ボーナス6+5D652121+竜司祭Lv9-装甲6』=20!

 

 ヨシ! 死んでない!

 キマイラの残り生命力は33-20=13!

 分身ちゃんの残り呪文使用回数は4→3回です。 

 

 あと、分身も本体も、【加速】の呪文の維持には成功しました(ファンブルではなかった)。

 

 それでは本体ちゃんは【竜吠】を使って、さらにデバフを与えることにします。*10

 達成値は33! 相手の呪文抵抗はクリティカルではなかったので、キマイラは抵抗失敗!

 

「『偉大なりし暴君竜(バオロン)よ! 白亜の園に君臨せし、その威光をお借りする!!』 グルオオオオオオオオオ!!!」

『ひ ぃ ぃ い い い い い い ! ? ?』

 

 恐ろしさに萎縮したキマイラは、10分の間、全力で逃走しようとします。

 また、先制力と各種判定にも-4のペナルティが付きます。

 停滞のペナルティと合わせたら、先制力に-8のペナルティですね。

 半竜娘(本体)の方の残り呪文使用回数は、6→5回になりました。

 

「逃がさんぞー マグナ(魔術)ノドゥス(結束)ファキオ(生成)…【力場(フォースフィールド)】!」

『こ ん な と こ ろ に い ら れ る か !! 【抗魔】!!』

 

 逃げようと飛び上がりかけたキマイラをすっぽりと包むように、分身ちゃんが唱えた【力場】の呪文による半透明の壁が覆っていきます。残り呪文使用回数は3→2回。

 キマイラはそれを打ち消そうとカウンターマジック! しかし出目は23でクリティカルには程遠く、発動を打ち消すことはできませんでした。

 抵抗むなしく、キマイラは球形の【力場】に囚われました。*11

 この【力場】の壁は、30点未満のダメージの攻撃では破壊されません。

 

「つーかまえたー!」

『ひ ぃ ぃ い い い い い い ! ? ?』

 

 これにて第1ラウンド終了!

 

 一応まだキマイラは生きているので、第2ラウンドの先制力判定と行動順を決めようとしましたが、キマイラの先制力が2D615=6で、【停滞】と【竜吠】によるペナルティ-8を超えられなかったためまったく動けず。

 その後、主だった攻撃手段でもある他の頭を執拗に潰されまくり、さらに【竜吠】の効果もあって心が折れたキマイラは、どうやらこちらの『()()()』を聞いてくれるみたいです。(【交渉:脅迫】成功!)

 

「素直なのが一番じゃのう? 貴様もそうは思わんか?」

『アッハイ。スミマセンユルシテクダイ。ナンデモイウコトキキマスカラ……ドウカイノチダケハ』

「貴様の研究資料も研究設備も何もかも献上するのじゃ、分かったな? そしたら考えんでもない」

『ハイ……』

 

 村娘たちは、竜牙兵に守らせて、少し離れた場所に居てもらっています。

 

 ……からころ……。

 

 ん? GM? 何のダイスです?

 

【ゴブスレカウンター 50-2D611→48】

 

 ごぶすれかうんたー?

 

 あっ、ひょっとしてゴブスレさんが救援に来てくれるとか?

 いや、でももう決着ついたし……。

 

「それじゃあ先ずはいろんな資料を取りに工房の中を……って、なんじゃ、この培養装置の中のみょうちきりんなゴブリンは」

「手が多かったり、顔が多かったりしてんなー。ゴブリンとゴブリンのキメラか?」

『研究のためです、この今の私の体にゴブリンの生殖能力を合成するためにも、ゴブリンを調べつくす必要があったので、いろいろと試していたのです……』

「まあ、さっき去勢してやったからそれは無駄になったんじゃがな」

 

【ゴブスレカウンター 48-2D646→38】

 

「……まさか、その実験体、野生化しとらんよな?」

『……てへっ』

 

【ゴブスレカウンター 38-2D613→34】

 

「!! 周辺確認!」

「工房のそばは結構急な斜面よ! しかも象が木を食べたのか丸裸! 崩されると生き埋めになるわ!」

「いかーん! 根こそぎ資料を持ち出すのじゃ!」

「お、おい、急にどうしたんだよ? こいつ無力化したんだからゆっくりやればいいだろ?」

 

【ゴブスレカウンター 34-2D642→28】

 

「いやいやいや! ゴブリンスレイヤーがあの村に昨日来ておる!」

「当然、野生化したキメラゴブリンとも遭遇してるはず!」

「そしたら元凶潰しに来るのは当然の成り行きじゃあ!!」

「私たちが来てるなんて知らないはずだし!」

 

「持てるもん持ってさっさと離れるのじゃ!」

「絶対に土砂崩れだか水攻めだかで攻撃してくるわよ!」

「わ、わかった!」

『あの、ワシはどうすれば……』

「重要な資料や機材が何処にあるのか教えて! 早く! 早く!」

 

【ゴブスレカウンター 28-(2D666+クリティカルボーナス5)→11】

 

「あわわわわわわわわわ!」

「ぬおおおおおおおおお!」

「やべーーーーーーー!!」

『あの、大体これで全部です!』

 

「ご苦労! そしたら貴様は用済みじゃな。生かすか考えたんじゃが、やっぱりダメじゃ」

『え』

「まあ去勢したとはいえ、ゴブリンと融合したやつとか、リスクが高くて生かしておけないわよねえ。キメラゴブリン野生化とか許されざるわ」

『――――きさ』

「はい駆け上って首斬って終わりっ。研究者が体乗り換えたからって冒険者に勝てるわけねーだろ」

『ま、らぁ……』

「他の頭はつぶし終わっておるし、これで死んだじゃろ」

 

【ゴブスレカウンター 11-2D634→4】

 

「でも本当に良かったの? 本人がいた方が、研究が捗ったんじゃないの? サンプルも必要でしょ?」

「いや流石にリスクが大きすぎるじゃろ。この資料も、ギルドに提出するときゴブリン関連はあとで処分するよう進言せねばじゃな」

「あ、その辺はまともな感覚残ってたんだな、リーダーも」

「お主ら、手前(てまえ)をなんじゃと思っとるんじゃ……」

 

「よーし、荷物は持ったのじゃな?」

「研究資料よし!」

「財宝の類や、持ち出せる魔道具機材の類よし!」

「そしたら退避じゃーー!!」

 

【ゴブスレカウンター 4-2D656→-7】

 

【ゴブスレカウンターが0を切ったので、ゴブリンスレイヤーによる()()が発生します】

 

 

――「ゴブリンどもは皆殺しだ」

 

ドドドドドドドドド

*1
怪物知識判定:半竜娘 知力集中10+魔術師Lv7+加速ボーナス3+2D613=24

*2
不意打ちチェック(隠密判定):半竜娘(本体) 技量集中7+機先2+加速ボーナス3+2D616=19、半竜娘(分身) 技量集中7+機先2+加速ボーナス4+2D664=23、森人探検家 技量集中10+野伏Lv7+機先2+加速ボーナス5+2D641=29、TS圃人斥候 技量集中9+斥候Lv7+機先3+隠密1+加速ボーナス4+2D645=33

*3
先制力判定:半竜娘本体 機先2+加速ボーナス3+2D636=14、分身 機先2+加速ボーナス4+2D651=12、森人探検家 機先2+加速ボーナス5+2D655=17、TS圃人斥候 機先3+加速ボーナス4+2D611=9(ファンブル!)→0

*4
森人探検家の大弓攻撃:1射目(人頭獅子Aへ)命中達成値20+加速ボーナス5-速射ペナルティ4+2D656=32、2射目(人頭獅子Bへ)命中達成値20+加速ボーナス5-速射ペナルティ4+2D644=29

*5
破裂の呪文行使(分身):呪文行使基準値21+付与呪文熟達3+加速ボーナス4+2D654=37。危害半径15m

*6
【破裂】の石弾の投擲(TS圃人斥候):投擲基準値17+投石紐命中補正2+石弾命中補正1+加速ボーナス4+2D663=33

*7
森人探検家の大弓攻撃:1射目(人頭獅子Cへ)命中達成値20+加速ボーナス5-速射ペナルティ4+2D612=24、2射目(象騎士型融合獣へ)命中達成値20+加速ボーナス5-速射ペナルティ4+2D626=29

*8
半竜娘本体【停滞】行使:真言呪文行使21+加速ボーナス3+2D613=28

*9
分身【突撃】行使:祖竜術行使基準値21+加速ボーナス4+2D643=32

*10
本体【竜吠】行使:祖竜術行使基礎値21+加速ボーナス3+2D663=33

*11
分身【力場】行使:真言呪文行使基礎値21+創造呪文熟達1+加速ボーナス4+2D613=30




女神官「あの、下に人がいないか確認しなくていいんでしょうか」(※地母神の託宣でヤバい魔術師の工房の場所までは分かった)
小鬼殺し「……ゴブリンのキメラを作るような輩の工房だ、手加減は必要ない。それに村の娘がさらわれたという話も聞いていないし、一刻も早く工房ごと破壊し、周辺の掃討に移るべきだ」(※半竜娘たちとはすれ違っているので彼女らが村に来ているのを知らないし、村娘がさらわれたのはゴブスレさんが村を出た後なのでそれも知らない)
(※今回、妖精弓手らは同行していないので、ストッパーがいなかった)
(※土砂崩れなので、火攻めでも水攻めでも毒気でも爆発でもない)
(※水の都で崩落を起こしてないので、まだ崩落誘発を咎められていない)

==========

原作では貴族令嬢一党の死亡確認せずに山砦を燃やしたりもしてるし、多少はね?
実際ゴブリンキメラとかマジやべーもんを作る魔術師の工房なら、多少の損害は仕方ないと割り切ると思う。コラテラルダメージっすよ!!

==========

Q.性転換魔法でゴブリンを性転換させたらどうなるの?
A.単性の種族には効果がない。性が一つしかないので、反転もなにもない(両方表のコインをひっくり返しても、結局は表)ということのようだ。

==========
・ゴブスレカウンターについて
 戦闘が長引いた場合は、普通に戦闘中の救援に来てくれるフラグ。
 3ラウンド目以降はウッドゴーレムが工房内部のアシュラゴブリンを解き放ったりするはずだったので、それらに対してゴブスレさんがアンブッシュを決めてくれる、はずだった。

==========
追記20200807
※先制判定と因果点
 因果点の使用は、ダイスの振り直しじゃなくて、ルールブック的には判定結果の向上で対応するみたいです。
 まあ、PLもGMも間違えた裁定のままセッションが進むのはよくあるよくある……。
 ……以後気をつけます!


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18/n 峠の魔獣-4/4 → 遠征しよう!

 閲覧、評価、感想、お気に入り登録、誤字報告 ウレシイ…ウレシイ…。特に感想は励みになってます、ありがとうございます!!

●前話:
ゴブスレさん「ゴブリンをキメラにして強化するとか害悪以外の何物でもない。設備ごと埋まれ」
半竜娘「安全確認ーー!!」
 


 

 はいどーも! 命からがら崖崩れから逃げることができました。

 さすがゴブスレさん! 容赦ねーぜ!

 そこに痺れる憧れるゥ!!

 

 なお、崖崩れ・土砂崩れに気付くのが遅れたとしても、因果点を3点積めば確定脱出が可能でしたので、半竜娘ちゃんたちは一応は死なないようにはなっていました。

 

 峠を脅かしていたキマイラは討伐しましたし、キマイラ製作者の魔術師の持つ資料や機材も重要なものから順に回収できました。家主のガイドがあると略奪が捗りますね。

 依頼も達成し、ついでに個人的に必要なものも手に入ったので、十分な成果です!

 

「……村に帰るのじゃ」

「そうね、疲れたわ」

「もう真っ暗だぜ。今から背負子を2つでっち上げるから、リーダーと分身で村娘を背負ってやってくれるか?」

「心得たのじゃ」

 

 TS圃人斥候がパパっと【手仕事】技能で作った背負子に、助けた村娘と略奪した研究成果を載せて、村へと戻ります。

 森は完全に闇の世界です(半竜娘と森人探検家は暗視できますが)。

 幸いにも、帰り道で迷ったりすることもなく、狼に襲われたりもしませんでした。

 

 村に戻ると、帰りを待っていた村人たちの歓声に迎えられます。

 半竜娘ちゃんたち一党はみな器量良しですから、そのまま村に嫁に来ないかと誘われ……たりはしませんでした。このときはまだ。

 やはり強い女は、強い男に比べると敬遠されがちなんでしょうかね。誘われても困りますが。異種族だからというのもあるでしょう。

 

 ささやかながら、つい数時間まえに行商人が運んできた物資も使って宴を開こうということになりました。

 物流問題は、畑が開墾途中で収量が安定しない開拓村では生死に直結します。大きな問題が片付いたため、村人の顔は明るいものです。

 羊飼いと薬師の娘も無事に戻ってきましたし、この宴はその分の報酬代わりでもあるのかもしれませんね。

 

 …………。

 ……。

 

 宴が始まって暫くすると、山の方から、揺れる松明の炎が。

 

「あー! ゴブリンスレイヤーだぞ!」

「なにっ、帰ってきたのかや!」

「これはちょっとケジメに酒の一杯でも酌してもらわないとよねえ……」

 

 なにせ知らなかったとはいえ、生き埋めにされかけましたからね。

 

「どうせ酌してくれるなら地母神の巫女どのが良いのじゃ!」

「おいリーダー! もう村の羊飼いさんと薬師さんがお酌してくれてるだろ!」

「それはそれ! これはこれ! じゃ!」

「欲張りねえ」

 

 実際、半竜娘は両手に花状態です。

 助けた村娘たちがお酌をしてくれていますからね。

 でも多分、目の離せない妹くらいにしか思われてないぞ。今も苦笑してるし。

 

「あれ、半竜の……。みなさんもいらしてたんですね」

「ゴブリンか?」

 

 お疲れ気味の女神官ちゃんが、フラフラとやってきました。

 そら、(払暁から宵の口まで山の中でゴブリン退治に連れ回されてたら、15歳の後衛の女の子は)そう(なる)よ。

 もちろんゴブスレさんも居ます。この「ゴブリンか?」は、「(お前たち一党も)ゴブリン(退治に来たの)か?」の「ゴブリンか?」ですね。

 

「キマイラ退治をしてきたところじゃよ! そのキマイラを作った魔術師の工房に押し入ったら、ゴブリンのキメラもおってな」

「そしたらいきなり崖が崩れてきてねえ~(怒)」

「いやあ、びっくりですよね! ところで、心当たりがありませんかぁ?(棒)」

 

 ちょっと皮肉っぽく応対するくらいは許されるでしょう。

 

「あわわわわわ、す、すみません! すみません!」

「む。崖下にいたのか。巻き込んだなら、すまん」

「あー、やっぱりお主らか。そう素直に謝られると責める気も失せるわいの」

「そうか」

 

 相変わらずの様子の小鬼殺しに苦笑が漏れます。

 

「ま、幸いにして、見てのとおりピンシャンしておる。詫びる気があるなら、一杯つきあってくれんかのう?」

「どーせ、依頼達成のサインだけ貰ってさっさと帰るつもりだったんでしょう?」

「いや、まだ戻る気はなかった。それに酒は止めておこう……」

 

「「「ゴブリンが出るかも知れないからな」」……む」

 

 ゴブリンスレイヤーと半竜娘と森人探検家の声が揃いました。

 小鬼殺しの言いそうなことはお見通しです。

 

「飲めないんなら、酌でもせーい」

「兜はそのままでいーわよ、ゴブリンが出るかも知れないものね?」

「え、ゴブリンスレイヤーさんに注いでもらえるんですか! 感激です!」(本音:あとで酒場でネタにしてやろーっと)

 

 むむむ、と唸ったゴブリンスレイヤーは、諦めがついたのか、ズカズカ歩いて近づいてくると、半竜娘らの卓のそばに置かれた酒樽に突っ込まれた柄杓を持ちました。

 

「ジョッキを出せ」

「お、注いでくれるのかや?」

「言ったのはそっちだ」

「かかか! 良きかな!」

 

 嬉々として半竜娘はジョッキをゴブリンスレイヤーの前に出しま……いや、引っ込めました。

 

「? どうした」

「いや、せめて籠手だけでも綺麗にしてやろうと思うての。それゴブリンの血やら何やらついとるじゃろ?」

「そうか、そうだな」

「そうじゃよ。『水霊(ミズチ)よ、おいでませい』【使役(コントロールスピリット)】」

 

 契約精霊の気安さで、酒を触媒に水蜥蜴の精霊を呼び出すと、ゴブリンスレイヤーの籠手を洗わせます。

 精霊の御業ですから、錆びたり黴びたりとは無縁の仕事ぶりです。

 

「ついでに【命水(アクアビット)】をプレゼントじゃ。ゴブリンスレイヤー殿と、そっちの巫女どのにな」

 

 疲労を癒やす精霊印の水が、ふわふわとゴブリンスレイヤーと女神官の口元へと飛んでいきました。

 女神官はといえば、森人探検家とTS圃人斥候に捕まっているようです。アルハラ。

 すまんが我慢して付き合ってやってくれ、代わりに【命水】で疲れを癒やしてあげるから。

 

「助かる」

「おうおう、感謝せーい。じゃあ一杯いただけるかの?」

「ああ」

 

 冒険者は持ちつ持たれつ。

 やらかしたりやらかされたり。

 でもまあ、その後に酒を酌み交わして流してしまえれば、それで良しというものでしょう。

 

 開拓村の夜はふけていきます。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 翌朝、半竜娘たち一党は、多腕多頭のゴブリン(アシュラゴブリン)の生き残りが他に居ないか確認するという小鬼殺しと女神官を見送り、帰途につ……かずに、村の手伝いをしていました。

 あ、朝にまた【命水】を振る舞ったので、女神官ちゃんも結構疲労が癒えて、山狩りに付き合えるくらいには元気になってますよ。

 

 半竜娘が巨大化して村への道を広げたり、崩れかけの堤を直したり、畑の中の大岩や切り株を引っこ抜いたり。

 そうかと思えば森人探検家は、エルフ特有の技能で植物と意志疎通し、象のキマイラが荒らした森を整えたり。

 TS圃人斥候は、街で覚えた料理を村の女衆に教えて喝采を浴びたり(圃人は1日に5回も食べるので、自然と料理上手になるのです)。途中から斥候要員としてゴブスレさんの手伝いに行かされたり。

 

 というのも、護衛してきた行商人が、出発するのが翌日だというので、それを待っているわけです。

 

 彼女らの働きぶりを見た村長から、

 

「村に嫁に来て……いや、嫁を付けるから村に残ってくれないか!」

 

 などと頼まれる場面もありました。

 そうね、半竜娘ちゃんたちの場合、嫁を付ける方が、まだ可能性ありそうよね。

 まあ、残念ながら、冒険者稼業を続けるためにお断りしますが。

 

 そんなこんなもありつつ、さらにその翌日。

 いよいよ半竜娘たち一党は、行商人の馬車に乗って、辺境の街へと帰ります。

 ゴブリンスレイヤーと女神官も同じ馬車です。疲れて眠ってる女神官ちゃんもかわいいなあ。

 

 あとは、辺境の街に帰って、冒険者ギルドに報告するだけですね!

 

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 冒険者ギルドに依頼達成報告!

 

 

 半竜娘・森人探検家・TS圃人斥候は、それぞれ経験点1000点、成長点3点を獲得!

 

 鋼鉄等級の依頼としての報酬の他に、魔術師が貯め込んでいた財産を売却し、合計で一人当たり銀貨100枚を獲得!

 

 

 『キマイラ作成の研究書』及び必要機材を獲得!

 

 造られた生命を、破綻なく一個の生命体として定着させるコツを学んだ。

 

 使い魔の作成技術が上がった!

 

 使い魔:竜馬(りゅうば/ドラゴンホース)(古竜血統。単体移動力50、馬車牽引時25)を作成可能になった!

 

 さっそく魔女さんと一緒に2頭の竜馬を作成することにした。

 

 竜馬たちが生まれるまで、あと10日……。

 

 

 TS圃人斥候と半竜娘は、それぞれソロで10日連続でゴブリン退治をこなした。

 

 TS圃人斥候は、経験点1500点、成長点3点を獲得!

 

 半竜娘は、経験点250点、成長点1点獲得(ルーチン化により経験点減少)。

 

 

 森人探検家は、遺跡の情報を集めつつ、あくせく働く定命の者ども(モータルたち)をのんびり眺めている。

 

 

 TS圃人斥候の冒険者レベルが5→6に上昇した!

 

 TS圃人斥候は、追加の成長点を25点獲得した!

 

 TS圃人斥候は、魔術師レベルを1→3に伸ばした。

 

 新たに、【脱出(エスケープ)】と【浮遊(フロート)】の真言呪文を習得した。*1*2

 

 TS圃人斥候は、冒険者技能【機先】(達人)、【速射】(初歩)、【鎧:軽鎧】(初歩)、一般技能【交渉:誘惑】(初歩)を習得。

 

 TS圃人斥候は、黒曜等級に昇格した!

 

 

 

 

 10日経ち、使い魔の竜馬が2頭でき上がった!

 

 普段の世話は牧場に任せることにした(維持費+)。

 

 

牛飼娘「わ~、顔は怖いけど、この子たちお利口さんだね~」

 

 

 『独立懸架式突撃装甲馬車』も納品された!

 

 移動力120まで耐えられる優れものだ!

 

 馬と馬車が揃い、自由に遠出できるようになった!

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 街はすっかり夏めいてきました。

 冒険者ギルドの酒場で、半竜娘たちが久しぶりに全員集まって方針会議をしています。

 

「というわけで、あの名高い火吹き山の闘技場で腕試ししようと思うのじゃ! みんなで参加しようぞ!」

「というわけでじゃないが。オイラはパス! 見るだけだから良いんだぜ、そういうのは」

「私もパスー。ていうか、あの闘技場って、まだあったのね。もうここ何十年かずっとやってるんじゃない?」

 

 これはとても自然な導入ですね(断言)。

 ちなみに、全員【博識】判定に成功しているのと、目の前に闘技場の案内&闘士募集のチラシがあるので、この火吹き山の闘技場のことはみんなだいたい分かってます。

 

「やる気がないのぅ。まあ良いのじゃ! 闘技場で手前(てまえ)の勇姿を見せてやるからの!」

「じゃあオイラはリーダーの勝ちに賭けることにするぜ! 儲けさせてくれよな~」

「まあ、せっかく馬車も用立てたんだし、遠征がてら旅行に行くのは賛成よ。途中で祭りやってるところとかも寄りましょうよ、どうせなら老舗の旅館に泊まったりしたいわ」

 

 というわけで、半竜娘ちゃんたちは、おろしたての馬車で、火吹き山の闘技場へと向かうことにしました。

 

 火吹き山の闘技場のことはご存知ではない?

 

 そ ん な み な さ ま の た め に ~

 

 軽く概要を解説します。

 

 火山(カザン)の近くにある闘技場は、強大な魔術師が、効率よく『死』の魔力を集めるために運営している施設です。

 イメージ的には、ダンジョン経営もので、人間と半分共生しながらダンジョンポイントを集めてるようなそんな感じの施設だと思ってもらえれば。

 あからさまに混沌めいた施設ですが、当の魔術師は集めた『死』の魔力で国家転覆を謀るでもなく大人しくしてますし、長年闘技場を運営して娯楽を提供するのみならず、賭けの胴元として築いた莫大な財産を背景に、各国の上層部や経済界との繋がりも強い有り様です。

 

 さらに、火吹き山の闘技場の剣闘奴隷からの成り上がりは、冒険者よりもハイリスクハイリターンな出世ルートとして、荒くれ者に人気ですし、軍や騎士の中にも、そういった剣闘奴隷上がりは少なくありません。中には将軍にまでなった者も居るのだとか。

 国も、そういった荒くれ者たちが勝手に吸い寄せられては、珠玉だけ残して擦り潰されていくこの闘技場を黙認する程度には、重宝しているのかもしれません。

 非合法な方法で集められた奴隷であっても剣闘士として買い取るので、人狩りの横行を助長しているという評価もあります。当の闘技場運営は、『善意の第三者』*3だと言って(はばか)りませんが。

 義憤に駆られた至高神の神官戦士の一部が摘発に踏み込むも、見せ物にされた上に返り討ちに遭うというのは、ある種の風物詩ですらあります(女の神官戦士ならなお盛り上がるとか)。

 

 この闘技場のオーナーたる魔術師は、長年集めた魔力を収めたアイテムを持っていると噂されています。

 それは、黒い蓮の描かれたカードだとも、いかにも強欲そうな顔が描かれた壺だとも言われていますが、真実は当の魔術師しか知りません。

 

 そしてこれが重要なことですが、火吹き山の闘技場のチャンピオンには、栄誉とともに、オーナーの魔術師から褒賞が与えられるのです!

 

「いざ出発じゃー!」

「「おー!」」

 

 半竜娘ちゃんが闘技場のチャンピオンになれると信じて……!

 ではまた次回!

 

*1
脱出エスケープ:確定発動し、『TS圃人斥候はスーパーでナイスな脱出アイデアを思いついた』ことにできる。ケムリダマ。

*2
浮遊フロート:そーらを自由に飛びたいなー。羽毛のごとき体重になって風をまとって空を飛ぶ。

*3
善意の第三者:被害者でも加害者でもなく、当事者間にある事情を知らない者。




というわけで、『峠の魔獣』改変バージョンでした。小説のテンポ的にはこれでも良いのですが、セッションとしてやるなら、もう少し雑魚戦闘とかでリソース減らさせたりとか、何か消耗イベント入れた方が良いと思います……。
結局、煙玉で石化の魔眼の視界を遮るアイデアの出番は作れなかったのが心残り……。

次は「火吹き山の闘技場」……と見せかけて、その前に「水晶の森亭の殺人」を挟むかもです(経験点と成長点的に火吹き山までに後ひとつ冒険を挟みたいので)。


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二周目レギュRTA 目指せ【辺境四天王】~遠征編~
19/n “水晶の森”亭 殺人事件-1(飛竜釣り&温泉)


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●前話:
半竜娘「そうだ、火吹き山行こう!」


 


 

 旅先、美女、湯煙……何も起こらないはずもなく……な冒険、はーじまーるよー!

 

 火山のそばに造られた“火吹き山の闘技場”へ近づくにつれ、温泉を売りにした宿が増えていきます。

 火吹き山は、山頂付近に、炎のようにも見える沢山の赤い花が咲くから“火吹き山”と呼ばれ始めたそうですが、今では本当に火山として活動しているようなのです。温泉はその副産物ですね。

 地熱は地脈とも関係が深く、火吹き山へ近づくに従って増えていく温泉は、実は火吹き山から溢れた魔術師の力が地脈を通って吹き出たものなのかもしれません。

 

 そんな中で半竜娘ちゃんたちは、速度に飽かせて街道を爆走し(【加速】【旅人】【追風】の全部載せにより、馬車のベース移動力は113(切り上げ)*1。軍馬の単騎駆けの倍以上の速度です)、辺境の街から離れた火吹き山の近くまでやってきました。

 

「あっという間ね。これはこれで風情がないかも」

「そうかや? 早い方が良かろうさ」

「そーそー。こちとら定命なんだから、生き急ぐくらいがちょうどいいのさー」

 

 まあ途中の宿場町はほぼスキップしてやってきてますからね。

 かつて遺跡を巡って旅から旅へと流浪していた森人探検家からすれば、随分と味気ないものでしょう。

 

「だいたい、足が遅ければそれだけ金がかかるのじゃよ~」

「……うん、そうね! お金は大事よね!」

 

 旅支度として、旅銀はかさばらない宝石などに替えていますし、そこそこの財産を持ってきているとはいえ、節約するに越したことはありません。

 森人探検家は、貧乏で苦労したせいで交易神信仰に転んだという経緯もありますし、あっさり(げん)(ひるがえ)します。

 

「しかしまあ、年長者の言うことにも一理ある。ちょうど水場も近いし、小休止といこうかの」

「そーよ、左竜馬(サルマ)右竜馬(ウルマ)に水を呑ませてあげなくちゃ!」

「エルフのねーさんは、マジで馬が好きなのなー」

 

 街道から少し離れた小川のほとりに馬車を停め、ハーネスを外して、馬たちに水を呑ませます。

 

「ふふふ、馬には憧れがあったのよ! あの緑衣の勇者*2の隣には、彼を助けてどんな戦場でも駆け抜けた伝説の駿馬がいたという話よ!」

「だから最近熱心に乗馬の練習してたのな。まあ確かに馬に乗ったエルフに、退()がりながら延々と距離を保って矢を射掛けられ続けるとかぞっとしねーよな」

「もううちの一党で一番馬の扱いが上手じゃものな。手前(てまえ)も戦人として負けてられんのじゃ!」

 

 自前で揃えたブラシを手に、森人探検家は、うきうきと馬たちの方へと向かいます。

 結構上等なブラシだとか。  

 

「うふふ~、きれーに磨いてあげるわー、砂埃がついちゃってるものねー」

 

 竜馬(ドラゴンホース)たちは、気持ちよさそうに森人探検家の手入れを受け入れます。

 使い魔として、半竜娘の意識をうっすら移しているので、大人しいものです。

 

「そーいえば、さっきすれ違ったサムライ風のやつが、こっちの馬を見てなんか言ってたな」

「ああ、あれはじゃのう、『麒麟(キリン)!? 実在してたのか!?』と言うとったのじゃな」

「よく覚えてるなー、オイラは聞こえはしたけど覚えてねーや。で、キリンってなんなんだ?」*3

「あの左竜馬(サルマ)右竜馬(ウルマ)みたいな、竜のような馬のことらしいのじゃ。あるいは、馬のような竜、かの? まあ、縁起が良いとか、瑞兆(ずいちょう)だとか」

「なるほど、だからあのサムライは拝んでたのか」

 

 確かに、呼び表すなら麒麟(または馬偏で騏驎)の方がドラゴンホースよりは格好いいかもしれませんね。

 ま、麒麟と言っても雷を操れたりはしませんけど。

 

「次の街まで行ったら今日はそれ以上はもう進めないかのー、半端に進んで野宿もイヤじゃし。飼い葉の補充はそこでやるとして……、じゃあ、肉を捕るかのー」

「! ま、まさかまたアレをやるのかよ……?」

「うむ」

 

 戦慄するTS圃人斥候に、半竜娘がギザ歯を見せてニヤリと笑いかけます。

 

大禿鷹(ジャイアントヴァルチャー)狩りじゃ!」

 

 説明しよう!

 大禿鷹狩りとは、精霊術【降下(フォーリングコントロール)】で自重を軽減した半竜娘を、真言呪文【浮遊(フロート)】を使ったTS圃人斥候が上空に引き上げ、自分たちを囮に大禿鷹が寄ってくるまで滞空して待ち、寄ってきた大禿鷹たちを精霊術【降下(フォーリングコントロール)】による重力加算でまとめて墜落させるという猟法(?)である!

 大禿鷹は眼が良いし、空を飛べるので相当遠くからでも寄ってくるぞ!

 でも、ときどき飛竜が釣れるのはご愛嬌だぞ!

 

 

 そして今回は飛竜(ワイバーン)が釣れたぞ!!

 

「きてるきてるきてるきてるって~、リーダー! 飛竜が来てる!!」

「ふん、射程に捉えれば、重力加算でも突風でも活動停滞でも、なんとでもやりようはあるわい!」

「やばいやばい、ブレスが来る!」

「ハッ、安心せい、そこはもう【突風】の射程じゃ! ウェントス()クレスクント( 成長 )オリエンス( 発生 )! ブラストウィンド ダウンバースト!!」

 

『GGGRRRRAAAAARRRR!??』

 

 空中で身を晒す半竜娘とTS圃人斥候に、寄ってきた飛竜が火炎を吹きかけようとしますが、叩き落とすような突風の呪文によってコントロールを失い、地面へと墜ちていきます!

 

「墜落対策もせんと空を飛ぶ方がアホじゃわな!」

「ひえ~、しっかし毎度心臓に悪いぜ~」

「でもコレが一番早いのじゃ!」

「そーかもしれねーけどよー!!」

 

 ズズン、という腹に響くような地響きとともに、飛竜が地面に墜ちました。

 少しの間だけピクピク動いていましたが、すぐに動かなくなります。死亡確認!

 この哀れな飛竜の死体は、街へと引きずって行けばそれなりの値段になるでしょう。

 墜死したため骨が飛び出し、内臓は破裂し……と、状態が悪いので、あくまでそれなりにしかなりませんが。

 

 まあ、(キモ)や心臓や首肉なんかは、新鮮なうちに、2頭の麒麟竜馬に食べさせたり、自分たちのおやつにしても良いでしょう。

 麒麟竜馬たちは、実は雑食なのです。飼い葉は副菜。

 半竜娘たちが空から降りる間に、地上にいた森人探検家が早くも麒麟竜馬たちを獲物に食らいつかせています。

 生肉だと寄生虫が心配なんですが、【解毒】やなんかで駆虫できるんですかね。

 最悪、強めの毒を飲ませてダメージ覚悟で駆虫して、麒麟竜馬本体には【解毒】をかけるとかいう荒療治をする必要があるかも知れません。

 

 あ、流れ落ちる血も、回収してくれていますね。

 馬車の中で瞑想していた分身ちゃんも出てきて手伝っています。

 結構な量があるので、薬の材料として売り払うもよし、ブラッドソーセージの材料にしてもよし、です。

 

「では手前(てまえ)らも、飛竜肉を焼くなりしておやつにしようかのう!」

「心臓のおどり食いはしねーの?」

「? するぞ?」

「あ、するんだ……」

 

 街まではそう遠くもないので、ソリでも作れば、問題なく牽いていけるでしょう。

 それなり、とはいえ、飛竜を丸ごと売り払えば、路銀の足しには十分。

 ソリ作りは【手仕事】技能が高いTS圃人斥候を中心に行えばいいでしょう。

 

 …………。

 ……。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 威風堂々、飛竜の死体をソリに載せて、半竜娘たちは街の門をくぐりました。

 向かう先はこの温泉街の冒険者ギルドです。

 

 その後、無事、半竜娘たちは、冒険者ギルドの紹介で飛竜素材を扱える商会に渡りをつけることができました。

 商会との交渉は軽く流す感じでしたが、飛竜はそこそこの値段で売れました。具体的にはみんなで良い宿に泊まってもお釣りが来るくらい。

 半竜娘たちが選んだのは、2頭の麒麟竜馬を預けられる馬房がある宿です。

 もちろん、立派な温泉露天風呂もついています。

 

「ここはねー! その昔に名を馳せた自由騎士が、殺人事件を解決したっていうとこなのよ! 王族を殺そうと計画する邪教徒がワイン商人に化けててね、それを阻止するために国の密偵が邪教徒を殺そうとして返り討ちに……」

 

 どうやら歴史と由来のある宿らしく、歴史マニアな()のある森人探検家が嬉々として知識を開陳します。

 

 “水晶の森亭”という名前のようです。

 

「事故物件なのじゃ?」

「刃傷沙汰なんかありふれてるから、事故物件ってーことはないだろ」

「もー、英雄の足跡(そくせき)よ? 私たちもそれにあやかろうって話をしたいの!」

 

 幸いにも3人+分身1で泊まれる大部屋が空いていました。

 ちなみに分身ちゃんの分の料金は、一党の共通経費からではなく、半竜娘が自腹を切っています。

 

「あやかろうというてもなあ」

「まさか殺人事件が起きるわけでもねーでしょーよ、大先輩」

「そーいうんじゃなくて、こう風情をね——」

 

 いやまさか、ここでまたそんな殺人事件が起こるはずが、ははは。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 宿帳に記帳して、

 麒麟竜馬を馬丁に預けて、

 部屋に荷物を置いて、

 外した装備は見張りの分身ちゃんと一緒に部屋に残して、

 貴重品だけを持って、

 露天風呂にやってきまし……あれ、お土産屋コーナーで引っかかってますね。

 

 っていうか、お土産屋の売店が併設? この時代に?

 あ、いや、宿泊客の行商人が店を広げてるだけか。ここの宿の売店じゃないのね。

 なんか気を引くものでもあったかな。

 

「見ろよこれ! 色んな火付け道具があるんだぜ! おー、へー、この竜の角でできた筒に棒を勢い良く押し込むと中のモグサに火がつくのか! はは、すげーすげー!」

 

 圧気発火器(ファイアーピストン)ですね。

 断熱圧縮によって発火点まで昇温した空気で、筒の中に入れた、ほぐした繊維など燃えやすいものに火をつけるのです。

 

「こっちは……回転するヤスリが火打ち石に当たって火花が散って……芯線から気化したメディアの油(ガソリン)に、おお!」

 

 シュボッと、手のひらに収まるくらいの小さな金属の箱に火を点けては、シュカッと蓋を閉じて消して、点けて、消して……と繰り返しています。

 オイルライターですね。ガソリンだと爆発しそうなものですが、大丈夫なのか? ガソリンといいつつ、精製度が低くてほぼ灯油みたいになっちゃってるやつでしょうか。

 

「んで、こっちは擦るだけで火がつくのか! 一瞬じゃん! すっげー!」

 

 あー、マッチですね。

 この辺で作ってるのでしょうか。

 温泉が近いから、硫黄がよく採れるのかな。

 

 TS圃人斥候は大はしゃぎです。

 既に自分の分は買っているみたいですね。

 

「便利なものがあるのじゃのう」

「火付けって面倒だものね」

「湿気ったらダメになりそうなものもあるがのう」

「その筒のやつなら、雨の日でも使えそうかも」

 

 使い勝手は、

 ・ファイアーピストン:湿気○、手間そこそこ、安全性○

 ・オイルライター:維持費それなり、すぐ点く、事故注意

 ・マッチ:消耗品、湿気×、すぐ点く、事故注意

 って感じですかね。

 場面によって使い分けるのが良さそう。

 

「なあなあ! これ絶対に“買い”だぜ! いっそ標準装備にすべき!」

「いいんじゃない? まあ、リーダーには点火の真言があるから要らないかもだけど」

「あって損するもんでもなかろう。そう嵩張るものでもないし、全種類買って、それぞれで持つことにするのじゃ。もう買った分も共通経費から落としてよいぞ」

「やった~!! ありがとうリーダー!」

 

 遠方の品なせいか稀少品なせいか分かりませんが、そこそこ値の張ったそれらを買い(それでも魔法の道具に比べれば安いものですが)、一旦、部屋に置きに戻り、今度こそ露天風呂へと向かいます。

 

 …………。

 ……。

 

 

「露天風呂じゃ!」

「源泉掛け流しの温泉ね、効能は“疲労回復、健康増進、美肌など”かあ」

「お湯につかるのなんか初めてだぜ!」(本音:うひょー、女湯だー!)

 

 三人娘が露天風呂に入ってきます。

 

「ほほー、かなり広いのじゃな! 泳げそうじゃ!」

 

 半竜娘はスパーンと全裸です。髪を結い上げている姿はいつもと違っていてなんか新鮮ですね。

 黒光りする鱗に覆われた手足に尻尾はいかにも蜥蜴人ですが、大きく丸い胸や尻は、成人したてには思えないほど豊満です。メロンかな?

 ていうか、背が高いからか、何もかもデカい。スイカかも?

 溌剌とした若さの中に、確かに垣間見える女の片鱗。

 将来がさらに楽しみな、そんな体つきです。

 

 

「泳ぐなって書いてあったでしょ、やめてよね」

 

 森人探検家は、エルフだけあって完成した美という感じです。

 抜けるように白い肌。

 巻き上げられた金糸のような髪。

 細く長いすらりとした手足に指。

 胸は大きすぎず小さすぎず、林檎のような森の恵みを感じる佇まい。

 思わず見入ってしまうような、彫刻のような美しさです。

 

 

「あ、先客がいるみたいだな」(本音:今はオイラも女だから女湯に入っても合法、うひょー!)

 

 TS圃人斥候は、森人探検家とは違った意味で人形のようです。

 レーアは縮尺が違う感じでちんまりしていますが、性転換魔法の副作用なのか、スタイル良しです。

 大人の女性を縮小した感じで、決して幼児体型ではないのですが、手足の細さは只人の子供と同じくらいに見えてしまいます。

 手足を見て子供かな、と思えば、しかし確かに存在を主張する胸元、そのギャップ。体積的にはスモモって感じですが、比率的には結構なモノをお持ちで。

 ……邪念が顔から漏れ出てなければなお良かったのですが。

 

 そして、TS圃人斥候の言うとおり、露天風呂の中には先客がいました。

 ハニーブロンドに碧眼、細くくびれた腰つきの、成人したくらいの只人の女の子です。

 傷ひとつない身体や手先を見るに、貴族か、裕福な商人の娘なのかも知れません。

 

 …………ていうか、なんか見覚えが……。

 

 あ。

 

 この子あれですね。

 原作の冬山ゴブリンパラディン編の“令嬢剣士”じゃないですか? のちの“女商人”の。

 マジモンの貴族じゃないですか。

 ていうか、何でこんなとこに居るの?

 

「あら、あなたがたもここにお泊まりですか?」

「その通りじゃ! 良い宿じゃのう!」

「よろしくなー、お嬢さん」

「見たところ結構なイイトコの子みたいだけど、不調法は許してね。こいつら冒険者だから礼儀がなってなくて」

 

 旅垢を流し落として、半竜娘たちが湯に浸かると、先客の少女(推定:令嬢剣士)が話しかけてきます。

 

「まあ! 皆さんは冒険者なのね! 私も冒険には憧れているのよ! ここの宿にも、自由騎士のお話を聞いて昔から憧れていて。そうだ、いろいろと皆さんのお話も聞かせてくださる?」

 

 このあとめちゃめちゃ武勇伝を披露した。

 

 推定:令嬢剣士ちゃんの目が輝いて……、ああ、これってこの子の冒険者への憧れの最後の一押しした感じです? ひょっとして。

 うーん、ままえやろ!

 ただ、ゴブリンの怖さはよーく言い聞かせましょうね。

 

「ゴブリンなんかより、竜やオーガの話の方がいいですわ!」

「いやいや、ゴブリンをナメちゃいかんぞー。統計は取っておらんが、まあ何割かの駆け出しは最初のゴブリン退治でやられてしまうからの」大きな身体を湯に横たえながら半竜娘。でっかいのが浮いてますねえ。

「ん~。中堅でも油断ならないわよ。そこそこの確率で、ゴブリンの巣穴には冒険者が捕まってることがあるし」腕を伸ばしながら話すのは森人探検家。ぷるんとしてますねー。

「こないだなんか、ゴブリンの統率種(ロード)が400からのゴブリンどもを率いて街に攻めてきたんだぜ! ま、アタシたちがやっつけてやったんだけどな!」積極的に令嬢剣士ちゃんに寄っていくのはTS圃人斥候です。貴様ロリコンか?

「まあ、400のゴブリンの群れですか!?」

「そうなんじゃよ、そこで手前(てまえ)の祖竜術が大活躍で——」

 

 その後も令嬢剣士が聞き上手なのか、すっかり話し込んでしまいました。

 結局、半竜娘がのぼせてしまうまで、風呂に入っていました。(消耗2点)

 途中、他の女性客も入ってきたような気もしますが、特に話したりはしませんでした。

 

 令嬢剣士とは夕食をともにし、また明日、出発するまでの間に武勇伝を聞かせる約束をしました。

 そうそう、令嬢剣士は、貴族の娘というのは隠して、“ワイン商の娘”という設定でここには泊まっているとか。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 

 その夜更けのこと。

 

「キャアアアアアアアッ!」

 

 絹を裂くような女の悲鳴!

 

「なんじゃ!?」

「襲撃!?」

「悲鳴以外にもなんか音がしてたぞ!」

 

 半竜娘たちは、臨戦態勢で飛び起きると、手早く持てる分の装備を取り、押っ取り刀で部屋の外に飛び出します。

 

 いったい、何があったというのでしょう……?

 

 大部屋から飛び出した彼女たちが見たのは————

 

 今回はここまで、最後にサブタイをコールして、

 


 

“水晶の森”亭 殺人事件

 


 

 ではまた次回!

*1
半竜娘たちの馬車の移動力:馬車引きの竜馬(ドラゴンホース)のベース移動力25×加速(ヘイスト)旅人(トラベラー)1.5×追風(テイルウィンド)1.5=112.5

*2
緑衣の勇者:ゼルダじゃないひと

*3
麒麟竜馬のイメージ:参考URL 【第134回】うちのファンタジー世界の考察-キリン(パンタポルタ) https://www.phantaporta.com/2019/05/134.html 




 温泉回でした!
 原作キャラ誰も出さないのもなあ、というので、冒険者になる前の令嬢剣士さんを、ワイン商人の娘役で配役しました。
 被害者は誰かとか、他の宿泊客の事情とか、誰が犯人かとか、被害者と犯人の因縁とか、その辺の聞き込みは次の話から。


 呪文リソースが回復しきってない夜中からのスタートなので、結構ピンチかもですよ?


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19/n “水晶の森”亭 殺人事件-2(事件発生)

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●前話:
 温泉回!!!!

Q.超スピードの馬車、危なくない?
A.半竜娘「一応、他の馬車の邪魔にならんように、車体をフォーリングコントロールで重量軽減して半ば浮かせてから、道の脇を走るようにしておる。この時代、道でもその脇でも路面状況の悪さは大して変わらんしの。まあ、速度制限自体がまだないのじゃが」
PS 鹿は何度か轢きました(麒麟竜馬のおやつ)。


 血塗られた惨劇が再び……被害者は、そして犯人は……? でもこれって推理モノじゃなくて『()()』なのよね! な、お話、ハジマルヨ。

 

 夜半に女の悲鳴でたたき起こされた半竜娘一党(分身は寝かせたまま)。

 彼女らが見たものとは……!?

 

「あ、ああ……」

「どうしたんじゃ、夜中に。……誰かと思えば、さっきの、あー、“ワイン商の娘”と呼べばいいかの」

「あ、ひ、人が、血、血まみれ、倒れて……!!」

「んー?」

 

 宿の廊下にへたり込んでいたのは、蜂蜜色の髪の少女、令嬢剣士(“ワイン商の娘”)です。

 彼女の指さす先には、開いた個室のドア。

 そして濃厚な血の匂い。

 

「なっ、おい、お主、大丈夫かの!?」

「リーダー、部屋から荷物ごと持ってきたわ! 応急処置道具は中よ」

「ああ、助かるのじゃ!」

 

 個室の中は血まみれです。

 血溜まりに倒れているのは、外套を纏った男。*1

 その男ひとりだけのようです。

 森人探検家から荷物を受け取ると、その男の容態を確認し、処置をしようとしますが……。*2

 

「ダメじゃな。息もない、脈もない、目に光りもない。というか、首の傷から血を流しすぎとる。奇跡を使っても手遅れじゃて」

「あーあ、森人パイセンが“過去の事件にあやかろう”とか言うからー」

「いやいや、わたしは関係ないでしょ!」

 

 外套の男は既に死んでいました。

 部屋の外には、どやどやと他の宿泊客や、宿の従業員が集まってきて、こちらを覗き込んでいます。

 いつのまにか、既に部屋の中に踏み込んでいる者もいます。火付けの道具を売っていた行商人と、フードの占い師、天秤剣を持った神官の女の3人です。

 

「あー、見せ物ではないぞー」

 

 半竜娘はそう言いながら、無念に見開かれた男の瞼を閉じて、寝台の毛布を被せてやると、奇怪な(竜司祭流の)手つきで合掌しました。

 願わくば、やがてこの男の魂が地を巡らんことを。

 

「毛布の弁償はあとでするとして。んで、どうするかの」

「どうするもこうするも、街での人殺しは、衛兵の管轄だろ? なあ、宿の亭主さん! 衛兵に知らせに行ってくれないか!」

「は、はい!」

「これは毛布の弁償代じゃ。付け届けが必要ならそこから出していいから、早く来てもらってくれ~! ほれっ」

「は、はい~!」

 

 半竜娘が投げたコイン入りの小袋を受け取って、宿の亭主が階下に降りていきます。

 

「おいおいリーダー、大盤振る舞い過ぎやしねーか?」

「冒険者なんて、ゴロツキの親戚程度の扱いなんじゃから、こういうときは下手したらそのまま拘束されてもおかしくないわい。金で片付くなら良かろうさ。護身じゃ、護身」

「リーダーは異種族で異教徒で魔術師だもんねえ。その点わたしは交易神の神官の端くれだし、何かあったら矢面に立つわ」

 

 森人探検家は、令嬢剣士を介抱しています。

 令嬢剣士は青い顔で震えています。

 

「大丈夫?」

「は、はい……あの、皆さん……ありがとうございます」

「気にすることはないわ。災難だったわね」

「いえ、ありがとう…ございます。皆さんは平気なのですか?」

「あれより酷いのは、まあ、よく見るもの。慣れちゃうわよ。ゴブリンの巣穴では特にね。腐ってないだけマシかも」

「そう、なのですね」

 

 辻で処刑される罪人も見たことないような箱入り娘だったのでしょう。

 随分とショックを受けています。

 

 ——チャリ、と、天秤剣の鎖の音が響きました。

 

「ん、だれじゃ。その天秤剣は至高神の……?」

「ええ、巡回神官(サーキットライダー)としての旅の途中ではありますが、この場を預からせていただければ、と」

 

 しずしずと前に出たのは、神官服をまとって天秤剣を持った女。

 確か、部屋の中を独自に検分していたうちの一人です。

 至高神のサーキットライダーは、移動裁判所のようなものです。

 法を司る至高神の神殿で判事としての修行を積んだ彼らは、人族領域を遍く法の光で照らすべく、実践のため辺境を遍歴するのです。

 

「ふむ。まあ、ここは専門家に預けるとしようかの」

「はい、ありがとうございます」

「じゃあ、手前(てまえ)は寝る」

「はいどうぞおやすみ……え?」

「寝るのじゃ。お休み」

 

 そうね、リソース回復させないとね。

 半竜娘はアクビしながら大部屋へと戻ります。*3

 森人探検家やTS圃人斥候を含め、残された面々は、特に違和感を覚えませんでした。

 

「あー、リーダー、実は眠かったのか」

「まあ、もう出来ることないでしょうから寝てもいいんじゃない?」

「……何事もなけりゃなー」

「んー、どういうこと?」

「まあ、これはオイラの私見っすけども」

 

 ふふーん、とTS圃人斥候が腰に手を当てて、得意げに語り始めます。

 TS圃人斥候は【犯罪知識】技能を持ってるからな。*4

 

「まず気にすべきは、犯人はこいつを狙ってきたのかどうか。強盗なのか、恨みだかなんだかなのか……要は狙われたのがこいつだけなのか、オイラたちも危険なのかってことだな」

「無差別の可能性もあるってこと?」

「可能性だけならなー。荷物は無事みてーだが、部屋は……あちこちボロボロだな。これは物取りっつーより、暗殺者を迎え撃ったみてーな感じだぜ。しかも複数人、まあ3人に襲われた感じだな」

「そういえば、首筋の傷が死因なんだっけ。それも暗殺者ぽいわね。暗殺者なら、こいつだけが標的かしら」

 

 念のため不寝番でも立てておくか、なんて相談をし始めたところで、事態は動きます。

 

「ぬあっ、分身がやられて消えとるぞ!??」

「窓も扉も開かないんです! どうしましょう!? 神官様ぁ!!」

 

 大部屋に戻った半竜娘と、衛兵を呼びに行ったはずの宿の亭主の声です。

 

 

 クローズドサークルで連続殺人……!(死んでない)

 うわあ、大変なことになってきちゃったぞぅ……。

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 宿の宿泊客は、一階の食堂に集まっています。用心のため、みんな完全武装です。

 ざわざわひそひそ、落ち着きのない浮ついた空気が満ちています。

 まあ無理もありません。

 

「いやマジでリーダーの分身が、たとえ寝込みを襲われたとはいえ、抵抗できなかったのはヤバいっしょ」

「しかも窓やら扉やらが開かないって、【施錠(ロック)】の呪文でしょう? もう何時間も効力保ってるとか、銀等級の専業魔術師レベルよ。それ以上かも」

「ねむい……」

 

 状況からして犯人はこの中に居るはずです。

 半竜娘の分身が消えたのは、【施錠】の呪文でこの宿が閉ざされたあとなのですから。

 

 見渡すと、宿屋の亭主夫妻、マッチ売りの行商人、タロットを広げる占い師、至高神の巡回神官の他にも、何組かの客が居ます。

 令嬢剣士は、半竜娘たちのテーブルに座っています。

 

「ていうか、【施錠(ロック)】って、宿の扉と窓全部一気に封鎖できるもんなのかよ?」

「むにゃー、その術者にとっては、この宿屋一個丸ごと、でっかい宝箱みたいな感覚なんじゃろー」

「あ、リーダー起きてた」

「むにゃむにゃ……」

 

 夜明けまでは遠く、夕方に温泉でのぼせたせいもあってか、半竜娘は眠そうです。

 ていうか、気になること言ってますね。

 

「宝箱ってどういうことなん、リーダー?」

「あるいは食糧庫かのう……」

「なに、犯人の正体分かったの?」

「ヴァンパイア……星の精、不可視の怪物……むにゃ」

「あ、これ半分夢見てるわね、寝言だわ」

 

 しかし歳経たヴァンパイア(怪物レベル11)であれば、この宿屋はまさしく一個の大きな食糧庫にすぎないでしょうし、そのように見立てることで扉や窓をひとまとめに全て閉めちゃうくらいは簡単でしょう。

 半竜娘の分身だって、そんな相手では不覚をとればやられてしまっても不思議ではありません。半竜娘の探知技能は並み程度ですからね。【狩場(テリトリー)】の祖竜術による感知結界も張ってませんでしたし。

 

「ヴァンパイア、というと、あの伝説の?」と令嬢剣士。

 彼女も半竜娘たちのテーブルについているのですが、護衛の者は近くの別の宿に投宿していたとかで、いまは一人です。

 

「そーかも、って話ね。まあ寝言だし、真に受けない方がいいかも」

「ヴァンパイアでも問題っすけど、ヴァンパイアじゃなくても問題っすよー、お嬢さん。どっちにせよリーダーに不意打ちできて、扉や窓を魔法で施錠し続けるくらい強力な術者が、一人か、それかもっと大勢か、居るってことですし……あるいは俺ら以外全員グルとか」

「それって、ここで悠長にしてる暇はないということでは!」

「そーなんすけどねー。窓の一つでも破って出られればいーんすけど、犯人がこの中に居た場合に、それを許してくれるかというとなー」

 

 というわけで、疑心暗鬼の宿泊客たちは、互いを監視するためにも食堂でまんじりともせず(半竜娘を除く)、朝を待っているというわけです。

 こういうときに頼りになるのは呪文ですが、リソースはほぼ尽きています。

 

「えーと、リーダーが使った呪文は、朝のうちに分身への【加速(ヘイスト)】に、飛竜釣りの囮になるときの【降下(フォーリングコントロール)】、飛竜を仕留めた【突風(ブラストウィンド)】、のぼせたあとに水精霊を呼び出した【使役(コントロールスピリット)】、明日用に分身を再作成した【分身(アザーセルフ)】。5回使って、残り2回? 馬車や馬たちやオイラたちへの【加速】や【追風】や【降下】の呪文は、分身に掛けさせてたはずだし」

「あんたも、呪文の残りはゼロよね? わたしも今日は打ち止めだけど」

「そっちは、【逆転(リバース)】と【旅人(トラベラー)】。オイラは【浮遊(フロート)】。もうこれ以上使えねーな、休息が足りないから回復もできてない。リーダーはうたた寝してるけど、まあ、このまま寝ても夜明けまでは回復しないだろ」

「みなさん、やっぱりかなり凄腕なんですの? 私も魔術は多少使えますが、7回も使える気はしませんわ」

 

 令嬢剣士が感心してますが、半竜娘が特別なだけだゾ。

 種族最高峰の能力値してますからね。

 

「ていうかさ、ホントにヴァンパイアだとしたら、リーダーが寝てるのはおかしくないかしら? この子、こういうときは嬉々として突っ込むでしょ」

「……確かに、らしくねーな」

 

 はっ、まさか既に敵のスタンド攻撃を受けている!?*5

 

「そうだ、鼓舞の革鎧の効果使ってみて!」

「りょーかい! 激励をここに! 【鼓舞(エンカレッジ)】!」

 

 TS圃人斥候の鎧に付与された、精神へのマイナス効果を無効化する呪文が確定発動します!

 半径5m以内の対象の、精神への悪影響を解除!

 ぺかー!

 

「むにゃ……はっ、手前(てまえ)は、いったい……!? ぐぬ、立ちくらみが……してやられたか!!」

 

 半竜娘が急に起き上がりますが、ふらりと頭を抱えてよろめきます。

 

「マジで何かの術を掛けられてたのかよ!」

「【魅了(カリスマ)】の術の影響下にあったのじゃ!」

「術者は? あの外套の男を殺した犯人にやられたの?」

「違うのじゃ」

 

 ではいったい、誰にやられたというのでしょう。

 半竜娘の魔術師としての腕は相当です。

 その呪文抵抗を抜いて【魅了】の術をかけるとなると、そちらも相当高位の術者です。

 

「吸血鬼じゃ……」

「おいおい、まだ寝言の続きかよ!」

「外套の男は、死んでおらん! いや、最初から息も脈も眼の光もない、アンデッド……吸血鬼じゃったのじゃ!」

「な、なんだって!?」

 

 最初に死亡確認された被害者、外套の男は死んでおらず、近づいたその時に、【魅了】の呪文を使われたのだとか。

 

「そのあと吸血鬼は、【幻影(ビジョン)】の魔法で背景と同化して手前(てまえ)の後ろについて部屋を出た。毛布をかけた場所にも、そこに死体があるように幻影を被せたんじゃ。いま、あの部屋を見に行けば、死体はなくなってるはずじゃ」

「……幻影には気づかなかったわ。それでそのあとは?」

「傷を負っておったのは確かじゃから、回復のために、分身の血を吸い尽くされ、そのたびに分身を出し直させられて吸われ、最後に手前(てまえ)は血を器に出させられたのじゃ」*6

「直接吸われてはいないのね?」

 

「そのとおりだ」

 

「!?」

 

 耳心地の良い低音が、食堂に響きました。

 声の方を見れば、いつのまにか、外套を纏った、真っ赤な目の男が、食堂の中心に立っています。

 いえ、最初からそこにいたのかも知れません。

 

「任務中に眷属を増やすなんて、不埒な真似はしないとも。ああ、そこの鱗の処女(おとめ)の血は、甘露であった。おかげで傷も全て癒えたよ、ありがとう」

「……意外と紳士的な物言いなのね。それにしても、任務?」

「そうとも、(あるじ)より賜った、大事な大事な任務だとも」

 

 森人探検家の問いに、やはり紳士的に答えます。

 TS圃人斥候は、投矢(ダーツ)を手に腰を浮かせ、いつでも死角へ飛び出せるように。

 半竜娘は、両手の爪を開き、しかし令嬢剣士を守れるような立ち位置へと動きます。

 

「あるじ、とは?」

「《死》を統べる偉大なる御方(おんかた)よ。火吹き山の魔術師と言えば君たちにも分かるかな?」

 

 火吹き山の魔術師!

 かの高名な魔術師は、このような高位の吸血鬼すら手駒にしているというのでしょうか!

 

「……それじゃあ、この宿に私たちを閉じ込めたのも、任務のため?」

「まあ、結果的にそうなるな」

「内容を伺っても? わたしたちを皆殺しにするようなことじゃないと良いんだけど」

 

 森人探検家の問いかけに、吸血鬼は、くつくつと笑って答えます。

 

「構わないとも、若い森人のお嬢さん。

 私の任務はね、手癖の悪い人狼の一味を捕殺して、あるべきものを、あるべき場所に戻すことだよ」

「あなた程の吸血鬼が、深い傷を負うほどなの、その一味は?」

「ああいや、心配は要らないとも。優れているのは奴らではなく、奴らが盗み出した、わが主の趣味の道具(コレクションアイテム)だからな」

「その道具、というのは?」

 

 

「魔法の力が込められた、大アルカナのタロットカードだ。——そう、ちょうどあのような銀の縁どりの」

 

 つい、と吸血鬼の屍蝋のような真白い指が、食堂にいた占い師の方を差しました。

 

「『汝は人狼なりや?』」

 

 その吸血鬼の言葉を皮きりに、令嬢剣士・半竜娘たち・そして宿の亭主夫妻を除いた、他の宿泊客たちが、次々と己の身体を人狼へと転化させながら、牙を剥き出しにして立ち上がります!

 

「ばらされちゃあ仕方ねえ!」

「死体が灰にならなかったと思えば、やはり死んでいませんでしたか。そのワイン商の娘が来なければ死んだか確認して、トドメを刺せていたでしょうに」

「ひひひ、さっきの戦いで何枚か使ったが、残弾はまだあるぞい! このタロットさえあれば、吸血鬼も恐れるに足りぬのよな!」

 

 行商人(人狼斥候)巡回神官(人狼神官)占い師(人狼魔術師)を司令塔に、それ以外の客から転化させられた人狼たちが半竜娘たちを包囲します。

 

 ——じんろうの むれに かこまれた!

 

「「「「「グルルルルルルル!!」」」」」

「おや、他の客を噛んで仲間を増やしていたか。転化の進行スピードが早いが、転変を司る『運命の輪』のアルカナでも使い、さらに統率のために『皇帝』のアルカナも使ったかな? ふふふ、さあ、闘争の時間だぞ、諸君!!」

「勝手に巻き込まないでくれるかしら!?」

「ねむい……血が足りんのじゃ……」

 

 戦闘開始です!

 

 

*1
半竜娘の観察判定 目標値30 知力集中10+2D662=18。失敗。(※加速の効果は分身を寝る前に再作成したため途切れている)

*2
半竜娘の呪文抵抗判定 目標値30(25+2D623) 呪文抵抗基礎値19+2D613=23。失敗。

*3
森人探検家とTS圃人斥候の呪文抵抗判定 目標値35(25+2D646) 森人探検家の呪文抵抗基礎値11+2D663=20。失敗。 TS圃人斥候の呪文抵抗基礎値15+2D652=22。失敗。

*4
TS圃人斥候の犯罪知識判定 目標値20 知力集中5+斥候Lv7+犯罪知識技能2+2D661=21。成功。

*5
森人探検家とTS圃人斥候の第六感判定 目標値20 森人探検家の知力反射6+野伏Lv7+2D625=20。成功。 TS圃人斥候の知力反射8+斥候Lv7+第六感技能2+2D664=27。成功。

*6
半竜娘の呪文使用回数2→0回。失血により消耗ランク0→1。全判定に-1ペナ。




・被害者が死んだふりで生きてた(吸血鬼)
・探偵役が共犯(魅了されて協力)
・モブ全員が共犯(元々人狼だった3人以外にも宿泊客ほぼ全員が人狼に転化)
・超人が出てくる(協力NPC:吸血鬼)
・超理論のアイテム(魔法のタロット)
・殺人事件ですらない(タイトル詐欺)
などなど、推理モノのタブーを大体やってみた感じですね! でもこれ冒険だから!(免罪符)

以下QA内容は、次回の本文中で自然に入れられるようにしたいですが、無理かもしれないので置いときます。

Q.最後に人狼たちが奇襲しなかったのはなぜ?
A.絶対先制の『戦車』のアルカナを、吸血鬼との1回目(宿泊室)の戦いで消費しているので、2回目(食堂)の戦いでは吸血鬼との達成値の比べあいに勝利できず、奇襲不成立。吸血鬼側はそもそも奇襲する気がなかった(強種族ゆえのプロレススタイル)。

Q.令嬢剣士が吸血鬼の部屋を訪ねたのはなぜ?
A.隣の部屋から睡眠妨害な大きな音がしたので。(『太陽』の光線炸裂、倒れた吸血鬼の音。『隠者』のアルカナは攻撃によって解除されていた)

Q.令嬢剣士が、倒れた吸血鬼の発見時に、吸血鬼との戦闘を終えた人狼たちに襲われなかったのはなぜ?
A.人狼たちは、その時点では、ことを荒立てる気がなかったので。『星』のアルカナで追跡者の居場所の目星をつけ、追跡者(吸血鬼)に『隠者』でスニークし、『戦車』で不意打ち先制し、『太陽』で弱点攻撃し、『死神』により召喚した即死鎌でトドメを刺せたと思っていたため、それ以上の騒動を嫌ったのかと。特に貴族っぽい娘を死なすとか、これからさらに逃亡しなきゃならないのに厄ネタでしかないので。
 なお、吸血鬼はアンデッドなので『死神』の即死効果が反転作用し、逆に復活(?)していました(首は切り裂かれたままでしたが)。
 盗んだばかりなので、人狼たちはタロットの仕様を完全には理解できていません。

Q.非公式シナリオ『水晶の森亭の殺人』のデフォルトNPC(犬耳少女や鴉の鳥人娘)は人狼3人によって人狼にさせられたモブに含まれている?
A.巻き添えで人狼化させられたモブの情報は特に設定していませんが、たぶん含まれてないです。(本音:あれだけ沢山の登場人物を動かすとか無理!なのでオミットしました)

Q.このタロットカードは、火吹き山の魔術師の力の源だったりする?
A.別物です。単なるコレクションの一つに過ぎません。



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19/n “水晶の森”亭 殺人事件-3(VS 人狼)

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●前話:
吸血鬼「私を連れ出せ」
半竜娘「吸血鬼の言うことなぞ……」
吸血鬼「何も、問題は、ない。そうだろう?」(【魅了(エロ光線)】ビカー)
半竜娘「……なにも、もんだい、ないのじゃ」(ぐるぐる目)


 人狼の群れに囲まれたところからスタートです!

 

 戦場の概要は以下のような感じです。

 技能持ちの人狼3体を中心に、さらに9体の人狼が囲んでいる形です。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 技能持ちの人狼3体は、冒険者としての職業に応じた技能を持っています。

 具体的には、

 ・人狼斥候が【体術(熟練)】(回避+3)、装甲値+4(鎧)

 ・人狼神官が【奇跡Lv5】(使用回数3回。達成値17。《小癒》《聖壁》《聖撃》《沈黙》《審問》)、

 ・人狼魔術師が【真言呪文Lv5】(使用回数3回。達成値17。《火矢》《火球》《火与》《惰眠》《粘糸》)を使えます。

 

 また、占い師に扮していた人狼魔術師は、魔法の力が込められたタロットカードを持っています。

 

 この魔法の力が込められた銀縁のタロットカードは、3日に1回、そのアルカナに対応した力を解放できます。ただし、使用には何かしらの系統の呪文の知識が必要です。

 それによってもたらされる効果の達成値は「30」(一流の使い手によるものと同程度)として扱います。

 例えば、『塔』のアルカナにより落雷をもたらせば、達成値30の《稲妻》の呪文が全員に降り注いだものとして扱います。

 つまり、22枚の大アルカナにより、22回の使い切りの呪文を3日に1度使えるというものです。

 使い方によっては、『戦車』による絶対先制のように、単なる呪文以上の効果を発揮させることもできます。

 “完全”を象徴する『世界』のアルカナであれば、呪文使用回数も含め、すべてのリソースを回復させることも可能かもしれません。

 

 気休めになるのは、人狼たちもこのタロットカードを盗み出したばかりで使いこなせていないことでしょうか。

 そのため、吸血鬼を『死神』の即死効果で逆に復活させてしまったり、『隠者』の隠密・静音効果が攻撃によって解除されてしまうことを知らなかったりと、ちょくちょくミスをしています。

 また、吸血鬼と人狼の一回目(宿泊室)の戦いなどで、幾つかの使い勝手の良いアルカナを消費していることも不幸中の幸いでしょう。

 

 まずは先制力を決定します。

 

 さて、出目は……あっ。

 

 TS圃人斥候の出目が2D612だったので、森人探検家の奇跡【逆転(リバース)】を使って、出目を65にひっくり返します!

 この娘の出目が低いとマジで全滅しかねませんのでね!

 

行動順名前先制力備考
TS圃人斥候152D665+機先4(【逆転】適用)
吸血鬼152D645+6
森人探検家112D654+機先2
人狼魔術師71D66+1
人狼神官71D66+1
半竜娘62D641+機先2-消耗1
モブ人狼×951D64+1
人狼斥候41D63+1
令嬢剣士42D613

 

 というわけで、TS圃人斥候から行動です!

 

(つってもよ~、所詮は道具頼りってことはよォ~)

 

 TS圃人斥候の【死角移動】!

 移動力23の半分(=12m)まで移動できます。

 タロットを持った人狼魔術師は十分範囲内です。

 

(そのタロットをよォ~、奪っちまえばこっちのモンってことだよなァァァああ?)

 

 TS圃人斥候の【死角移動】が成功したかどうかは、【移動妨害】判定を行います。

 達成値の比べあいです。

 人狼たちの移動妨害能力は、攻撃の達成値(爪攻撃17)を参照することにします。

 さらに、移動妨害の場合は、近接距離(5m)以内にいる味方の人狼の数×2だけ、難易度が上昇します。

 えーと、人狼たちがどれだけ人狼魔術師の近接距離内に居るかは、5+1D65=10体なので……結構密集してるね、君ら。参照基礎値17+近距離味方援護(10×2)=37ですね。

 TS圃人斥候は、38以上の達成値を出せば、成功です……が、まあ無理なので、因果点を使うことにしましょう。ファンブルだけ回避してくれ!

 

 TS圃人斥候の【移動妨害への抵抗(すりぬけ)】達成値は技量集中9+斥候Lv7+2D624=21<38ですので、判定失敗!

 因果点を積んで祈念します。現在因果点は3点。祈念の出目が3以上であれば、結果を一段階向上させて失敗→成功にできます。

 祈念2D625+幸運1=8>3なので、祈念成功!

 死角移動の判定を、失敗→成功に向上させます! 因果点は3→4になりました。

 

 TS圃人斥候は、小柄な体躯を生かして、人狼たちの間をすり抜け、人狼魔術師へと肉薄します!

 

祈らぬ者(ノンプレイヤー)には過ぎた装備だっつーの!)

 

 死角からの不意打ちでタロットカードを奪えるかどうか、【隠密】判定+【手仕事】判定の両方が成功したかで判定します。

 特に、掏摸(スリ)を行うための【手仕事】判定は、相手の達成値をどれだけ上回ったかによって、掠め盗ったカードの枚数が変わることにします。

 本来は死角移動のボーナス(+4)が乗るところですが、戦闘中で警戒している(-4)ので、その分と相殺します。

 

 相手の人狼魔術師による抵抗値は、どちらも17です。

 【隠密】も【手仕事】も、斥候Lvを載せて判定できるので楽勝、のはずです。

 TS圃人斥候ちゃんは、なんかよくファンブル出してる印象ありますし、さっきの先制力の出目も低かったですが、まだ因果点を積んで振り直しもできるので多分大丈夫でしょう!

 

 では、タロットカードを盗めたかどうか、判定です!

 

 TS圃人斥候の不意打ち(隠密)判定:技量集中9+斥候Lv7+隠密1+2D653=25>17

 TS圃人斥候の手仕事判定:技量集中9+斥候Lv7+手仕事3+2D641=24>17 

 

「くっ、圃人め、どこにいきおったか……ッ!?」

「へへん、もーらい!!」

「なぁっ!?」

「このタロットは、オイラが預かるぜ!」

 

 強奪成功!

 手仕事判定の達成値は、相手の抵抗値を7上回ったので、盗めたカードの枚数を7D4で算出します。7D43241331=17!

 

「ワシのタロットが!」人狼魔術師の驚愕。

「なに盗られてんのよ、魔術師ぃ!!」人狼神官の罵声。

「ちっ、全部は奪えなかったか!」TS圃人斥候の悪態。

「いや、よくやったのじゃ!」半竜娘の感嘆。

「このメスガキがっ! こんな敵のど真ん中に飛び込んで、無事に帰れると思うなよ!」人狼斥候の威嚇。

 

 これで、22枚のアルカナのうち、17枚を奪うことができました!

 えーと、残りの五枚の内訳は……5D22(11正義,6恋人,8力,4皇帝(使用済),7戦車(使用済))です。

 おお、使用済みカードが含まれているので、実質は3枚ですね。 

 

 なお、TS圃人斥候が奪ったカードを自分で使えるかどうかですが、魔術師Lvを持っているので最低限の要件は満たすものの、得体のしれないマジックアイテムをぶっつけ本番で使うリスクがあります。

 使おうとするアルカナごとに目標値を秘密に(マスク)した魔法知識判定を行い、成功すれば使えることとしますが、さて、挑戦しますかねえ。*1

 あ、挑戦するかどうか決める前に、第六感判定どうぞ。

 

 TS圃人斥候の第六感判定:知力反射8+斥候Lv7+第六感2+2D621=20。

 

(……流石に得体のしれないものをそのまま使うわけにはいかねーな……)

 

 第六感判定の達成値が15以上だったので、TS圃人斥候は、タロットカードに満ちる《死》の魔力は、扱いを間違えると敵味方問わずに最も《死》に近づく結果を引き寄せそうだと直感します。

 また、達成値20以上なので、自分のつたない魔法知識では、もし不完全な使用方法を読み取ったときに、それが不完全かどうかすら気づけないだろうことも分かります。

 

(むむ、『女教皇』や『教皇』のカードは、響き的に、リーダーを回復できるかもしれねーが、危ない橋を渡る場面でもねーか。まかり間違って【聖撃(ホーリースマイト)】が飛び出したらコトだし)

 

 ……魔法知識判定には挑戦しないみたいです。切羽詰まれば別でしょうけれど、まだ、そんな場面ではないので。

 

 これでTS圃人斥候の手番は終了。

 

 

 次の行動順は吸血鬼ですが、人狼斥候に肉薄して攻撃です。

 吸血鬼の牙が、人狼斥候へと迫ります。

 

「盗人め、直接(あるじ)のコレクションを盗んだ下手人の貴様だけは、私が殺すと決めていた」

「うおぉぉぉぉおお!??」

 

 吸血鬼の攻撃!

 命中判定は26+2D654=35! 人狼斥候(回避16+3)は回避できません!

 牙による噛みつき! ダメージは32!*2

 人狼斥候の生命力は26なので、一撃で死亡です!

 

「ぐ、がっ……!??」

「まずい血だ。小鬼にも劣る」

 

 低い体勢から伸び上がるように、大きく開いた吸血鬼の牙が、人狼斥候の喉へ突き刺さり、そのまま身体ごと持ち上げます。

 その勢いで、人狼斥候の首からは、ボキリと骨の折れた音が。

 吸血鬼の牙に喰い破られた首筋から鮮血を溢れさせながら、人狼斥候はこと切れました。

 

「ぺっ。さあ、次は貴様らの番だぞ、盗人の一味め」

「「……!!」」

 

 吐き捨てるように人狼斥候の死体を、放り捨てた吸血鬼の赤い瞳が、人狼魔術師と人狼神官を見下します。

 

 

 次は森人探検家の手番です。

 

「まさか吸血鬼と共同戦線張る羽目になるとはね、冒険ってこれだから面白いのよ!」

 

 狭い室内なので、大弓は使いづらいです(大弓は長大な武器なので、命中ダイスが4以下でファンブル扱い)。

 森人探検家は、短弓を弓手(ゆんで)で持ち、馬手(めて)で矢筒から2本の矢を掴み取ります。

 必殺の二連射です。

 

「潰すなら、術者から! タロットは使わせないわよ!」

 

 狙うは人狼魔術師!

 命中判定は1射目:達成値30、2射目:27です!*3

 人狼魔術師の回避値は16なので回避不能!

 森人探検家の命中ボーナスは、刺突攻撃技能により、それぞれ命中時に達成値+3で計算されるので、1射目(命中達成値30+3)も2射目(27+3)も、『短弓攻撃力(1D6+2)+野伏Lv7+命中ボーナス4D6-人狼魔術師装甲値2=5D6+7』で算出します。

 ダメージは、1射目5D656411+7=24で、2射目5D656526+7=31!

 森人探検家の出目は走ってますねー。TS圃人斥候は低め安定な印象なのに……。

 

「ぎひぃっ、わ、ワシの、カード……」

「はいザクザクっとね」

「みえぬ、みえぬぅ…………っ……――」

 

 人狼魔術師の両目に矢が突き刺さり、その脳髄を破壊しました。

 ガクガクと痙攣しながら後ろに倒れ込んだ人狼魔術師の手から、残った5枚のカードが零れ落ちます。

 そしてそれをすかさず拾うTS圃人斥候。

 

「あー、オイラが盗らなくても、別に良かったかな、これ?」

「いや、タロットをこっちで確保するのは必要でしょうよ、矢を外されることもあるんだし」

「そんなもんかねー」

 

 実際、リアクションのタイミングで発動できるカードもあったのかもしれませんしね。

 “包容力”を示す『女帝』や、“自由”を示す『愚者』などは、解釈によっては矢避けの加護を与えたかもしれませんし。

 そのため、やはり先にタロットカードを確保することは必要でした。

 

 続いては、敵の人狼神官の手番です。

 

「み、みんなやられてしまったわ……! 残りは即席で転化させた半端モノだけか……! 全員、私を支援しなさい!」

「「「「「「「「「グルルルル!」」」」」」」」」

「まずは、タロットカードを取り返すわ!!」

 

 モブ人狼は、群れの仲間1体をボスと見なし、支援効果を与えられます。

 モブ人狼1体あたりの支援効果は、『命中、回避、威力、装甲それぞれ全てに+1』です。

 よって、人狼神官は、命中+9、回避+9、威力+9、装甲+9のボーナスを得ます。

 その代わり、ボスの支援体制に入ったモブ人狼たちは、主行動を消費しましたので、次のラウンドまで攻撃などが出来なくなりました。

 

「人狼の群れに突っ込んだ愚かさを噛み締めなさい! 圃人の女!」

「ちょっとやべーか……?!」

「『裁きの司、つるぎの君、天秤の者よ、諸力を示し候え!』 ホーリースマイト!!」

 

 人狼神官は【聖撃(ホーリースマイト)】の奇跡を嘆願し、法力の雷をTS圃人斥候へと放ちます!

 人狼神官の呪文行使値は17なので、威力は『基礎値(3D6254+5)+神官Lv5+支援ボーナス9=30』!

 【聖撃】は装甲で軽減できないので、呪文抵抗で半減させれば15ダメージ、呪文抵抗に失敗すれば30ダメージです。

 TS圃人斥候の生命力は19なので、抵抗に失敗するとマズいです!

 

 TS圃人斥候の呪文抵抗判定!

 基礎値15+2D655=25>17で抵抗成功!

 

「がはっ! し、シビレタぜえ、こんちくしょーめ!」

「……仕留めきれなかったか!!」

 

 TS圃人斥候へ15ダメージ! 生命力は残り4点。

 (なお、プレイヤー側のキャラは、食いしばりが可能なので、生命力の2倍までの負傷に耐えられますが、食いしばり発動中は、ラウンド経過ごとに消耗カウンターが乗っていくため、さっさと回復しないとやがて死にます。)

 

 これで人狼神官のターンは終了。

 

 

 次は半竜娘の手番です。

 スタミナポーションを飲んで、貧血による消耗を抑えます。

 ドーピングじゃー! これで消耗によるペナルティ(全判定-1)はとりあえず消えました。

 

「くぅ、ごまかしごまかしやるしかないのう!」

 

 人狼神官への近接攻撃も考えましたが、相手の回避が『基礎値16+支援ボーナス9=25』である一方、半竜娘の命中は『基礎値16+2D6』なので、おそらく当たらないだろうと考えて、回復に努めることにしました。

 まあ、近接でなくとも、オーバーキャストすれば、毒の【竜息(ドラゴンブレス)】で装甲無視のダメージを与えて、人狼神官を殺すことができるかもしれません。

 しかし、次のラウンドに回せば、おそらくうちのエースである森人探検家が矢を放って仕留めてくれるはずですから、まだ無理をする場面ではありません。

 

「令嬢どの! これをあっちに飲ませてやってくれ!」

「は、はい!」

 

 次の森人探検家の攻撃を確実にするため、半竜娘は自分の鞄から『器用上昇の秘薬』(命中判定などに+2)を取り出し、食堂のテーブルに載せました。

 これで半竜娘の行動は終わりです。

 

 モブ人狼たちは既に支援行動で主行動を消費しているので、動きなし。

 最後に令嬢剣士の手番です。

 

「えと、森人さん、これを飲んでください!」

「ごめん、弓構えてるから飲ませてくれると助かる」

「は、はい!」

 

 令嬢剣士は、半竜娘が置いた『器用上昇の秘薬』を掴み取り、それを隣の森人探検家の口に近づけ、飲ませます。

 森人探検家は、弓を構えたまま、それを飲み干しました。これで命中判定に+2です。

 

「ありがとね」

「はいっ!」

 

 では全員行動したので、第2ラウンドです。

 先制順は以下の通り。

 

行動順名前先制力備考
吸血鬼152D654+6
森人探検家122D664+機先2
TS圃人斥候102D651+機先4
半竜娘102D662+機先2
人狼神官41D63+1
モブ人狼×941D63+1
令嬢剣士02D611(ファンブル!)

 

 まず吸血鬼の行動ですが、TS圃人斥候に近づき、タロットカードを取り上げます。

 

「回収ご苦労。うむ、全部のアルカナが揃っているな。これは預からせてもらうぞ」

「あ、はい」(本音:くそ~、さすがにこのままパクるのは無謀だもんな~)

 

 次に森人探検家の射撃です。

 人狼神官を狙っての2連射です!

 命中判定は1射目:達成値29、2射目:29です!*4

 人狼神官の回避は、『基礎値16+支援ボーナス9=25』なので、どちらの矢も命中しました!

 ダメージは、刺突攻撃技能を適用したうえで算定した命中ボーナスを加算し、二射とも『短弓攻撃力(1D6+2)+野伏Lv7+命中ボーナス4D6-人狼神官装甲値(基礎値2+支援ボーナス9)=5D6-2』で計算します。

 ダメージは、1射目:5D642534-2=16、2射目:5D656365-2=23! ……やっぱり出目が走ってますよね、森人探検家ちゃん。

 

「きゃあっ!? うぎっ、矢がっ!」

「ま、成り行きでやっつけられるのは納得いかないだろうけど……おやすみなさいね」

「うう、畜生め! あっ……――」

 

 合計39ダメージなので、人狼神官を撃破!!

 肩に刺さった1射目で叫びをあげたところに、2射目が喉奥に突き刺さり、ジ・エンドです。

 人狼神官の天秤剣がガランと転がると同時に、命を失った身体も倒れました。

 

「「「「「「「「「クゥウ~ン」」」」」」」」」

 

 それに伴い、モブ人狼もドサドサドサと意識を失いました。

 “運命の輪”のアルカナで無理やり急激に人狼にさせられた反動が、“皇帝”のアルカナによる支配が切れたことで噴出したのでしょう。

 

 半竜娘たちの勝利です!

 

 

 

 

 

「見事な戦いぶりであった」

 

 パチパチパチ、と吸血鬼が拍手をしながら称えてきます。

 

「さて、この人狼に嚙まれた哀れな者らも治してやるか。(あるじ)ならそうするだろうしな。……“女教皇”のアルカナよ、“節制”のアルカナよ!」

 

 吸血鬼がタロットカードをかざすと、解放された力が、倒れたモブ人狼たちを、もとの宿泊客たちに戻していきます。

 普通はこんな簡単に戻したりはできないのですが、やはりこのタロットカードはかなり強力なようです。

 そして、おそらくは、その本来の持ち主たる火吹き山の魔術師もまた。

 

「これでよし。いやしかし、見事であった。私も諸君らの闘争を見て、いささか興が乗った。その健闘を称えて、一手指南してやろう。喜びたまえよ?」

「「「え?」」」

「滅多にないことだぞ? ふむ、呪文も使えんのではつまらんな。“さあ! 回復してやろう!”」

 

 吸血鬼はそう言うと、TS圃人斥候から取り上げたタロットカードのうち、“月”と“吊るされた男”のアルカナに魔力を通しました。

 っていうか、いつの間にか【分身】でも使ったのか、吸血鬼が二人に増えています。

 

「「“月”は魔力の象徴……呪文の使用回数を回復させてやろう。

 “吊るされた男”は試練の象徴……気兼ねなく戦えるように場を整えよう、そこでの死は仮初めゆえ、安心して死ぬがよい」」

「ちょまっ!? ていうかアンタ分身すんのかよ!?」

 

 半竜娘たちに呪文を使うための活力が満ちたと思えば、あたりの様子がどことも知れない夜闇の草原へと変化しました。

 令嬢剣士も巻き込まれたようで一緒に連れてこられてしまっています。「えっ、えっ、なんなのですかこれは!?」と混乱しています。無理もないが是非もないね。

 吸血鬼の言う通りなら、ここは仮想空間のようなものなのでしょうか。あるいは夢の世界なのかもしれません。

 

「「この時期にこの辺りに来るとすれば、(あるじ)の闘技場への参加が目的なのだろう? ここでさらに健闘すれば、見込みアリとしてこの私が口添えしてやろう」」

 

 吸血鬼が赤い瞳を光らせて、牙を見せて笑います。

 “笑うという行為は本来攻撃的なものであり獣が牙をむく行為が原点である”……そのような、鬼気迫る笑みです。

 

「「さあ、来るがいい、冒険者たちよ。この私を見事打倒してみせよ!」」

 

 

*1
魔法知識判定によるタロットカードの使い方読み取り:達成値ごとに使い方がオープンにされる。「例:達成値10=魔力を込めるとアルカナに対応した現象が起きる。」ただし、デメリットや注意事項などは達成値が高くないと読み取れなくなっている。「例:達成値15:死神のアルカナは即死効果のある大鎌の一撃を召喚することができる。……達成値30:死神のアルカナの効果はアンデッドに対しては反転して作用する。」人狼たちがイマイチ使いこなせていなかったのもこのせい。

*2
吸血鬼による噛みつき攻撃:ダメージ基礎値(5D623321+15)+命中ボーナス4D66222-人狼斥候装甲値6=32

*3
森人探検家の短弓:1射目 基礎値22+2D626=30。 2射目:基礎値22+2D616-速射ペナ2=27。

*4
森人探検家の短弓:1射目 基礎値22+2D614+器用秘薬2=29。 2射目:基礎値22+2D616+器用秘薬2-速射ペナ2=29。




人狼戦では相手にアルカナを使わせると、『恋人』(絆の象徴)のアルカナで、人狼側がHPを群れ全体で共有化(一人のダメージを全員に分散できる)してきたり、『正義』(法と裁きの象徴)のアルカナで遠距離(または近距離)攻撃を無効化したりという展開がありえたので、やはり速攻でカードを奪うor魔術師を殺す、が正解。


実は人狼戦はミドル戦闘でした。
吸血鬼戦(本体&分身)がクライマックス戦闘です!
なお、吸血鬼の呪文リソースも全回復している模様。つまり吸血鬼は本体と分身で合計12回の呪文が使えて、すべての真言呪文(魔術師Lv10)とすべての奇跡(神官(戦女神)Lv10)を唱えられるぞ! もちろん近接も強い。

戦闘狂にとっては戦いこそがご褒美! なので、吸血鬼(怪物Lv11)は完全に善意でやってます。

半竜娘(冒険者Lv8)「オラわくわくしてきたぞ」
森人探検家(冒険者Lv6)「ないわー」
TS圃人斥候(冒険者Lv6)「むりげー」
令嬢剣士(冒険者Lv1)「なんなんですか? ここどこですか? 何でわたしここに連れてこられたんですか?」

追記:
そろそろ(だいぶ前から)TASじゃないパートの方が多くなってきましたし、タイトルとあらすじを適当に変えようと思いますので、タイトル候補のアンケートを暫く設置します。
タイトル候補は以下の通りですが、ティンと来るタイトルが他に降りてきたらそれにするかもです。

・ゴブスレ二次 半竜娘の冒険
・半竜娘ちゃんは四方世界で恐るべき竜になるようです
・ゴブリンスレイヤーTAS 半竜娘チャート(RTA実況風)(変更しない)
・その他


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19/n “水晶の森”亭 殺人事件-4(VS 吸血鬼)

 閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想……それは作者(ぼく)が見た希望~♪ 感想いつもありがとうございます!

●前話:
吸血鬼&分身(怪物Lv11×2)「かわいがってやろう!」
半竜娘(冒険者Lv8)「いいとこみせるのじゃよー!」
森人探検家(冒険者Lv6)TS圃人斥候(冒険者Lv6)((勘弁してくれよ……))
令嬢剣士(冒険者Lv1)「え? え?? ええっ???」

※難易度:TASさんならなんとか(負けイベでしょ?)


 ボス戦です!

 

 ノリ気になった吸血鬼が稽古をつけてくれるそうですよ!!(ヤケクソ)

 TASさん呼んでこーい!

 

 とりあえず怪物知識判定、目標値20(怪物Lv11+9)!

 半竜娘は、『知力集中10+竜司祭Lv9+2D656=30>20』で成功!(出目11とか今出なくていいのに……)

 半竜娘たちは、吸血鬼の生命力や技能などを推測することができました。

 

「作戦タイムを求めるのじゃ!!」

「認めよう」

 

 それをもとに作戦を立てましょう。

 吸血鬼も作戦タイムを認めてくれましたし。

 

 ちなみに吸血鬼の能力ですが、以下の感じです。

 ●種族:アンデッド

 ●生命力 144 (タフい!)

  >分身の方は16点のダメージで消滅

 ●先制力 2D6+6(速い!)

 ●呪文抵抗 2D6+24

 ●移動力 50(飛行)

 ●装甲値 15(外皮)(硬い!)

 ●牙攻撃

  >命中2D6+26

  >威力5D6+15+命中ボーナス

  >追加効果『吸血』:達成値2D6+23に対して魂魄反射抵抗を行わせ、対象が抵抗に失敗したら与えたダメージ分回復。

 ●呪文使用回数6回 達成値 2D6+25

  >奇跡Lv10(戦女神)(全呪文)

  >真言呪文Lv10(全呪文)

 ●高速詠唱

  > -4ペナで2回詠唱可能

 ●再生能力 +11点/ラウンド

  >日光下で -12点/ラウンド に反転

 ●不死召喚

  >怪物Lv9までのアンデッドを主行動で召喚可能(次ラウンドから行動)

 ●不死の身体

  >武器によるダメージダイスをD6→D3にして計算

  >精神・病気・毒属性への完全耐性

 ●暗視(熟練)

 ●邪な土

  >1日1回、セーブポイントの土から復活

 

 いや正直、上手くハマれば勝てん事はない……はず、たぶん、おそらく、そうだったらいいな、と思うので、それを目指す感じですかね。

 勝ち筋はとりあえず幾つかないこともないです(相手の行動を考えない場合)。

 

 

 ①【分身】【加速】【巨大】【力場】【突撃】の大ダメージコンボ。

  難点は準備に時間がかかりすぎる(3ラウンドから4ラウンドかかる)こと。

 

 ②【突風】で吹き上げて【降下】の重力操作で落とす、などの落下死コンボ。

  速効性は高め。でも相手は飛行可能だし、魔術の【落下(スロウダウン)】が使えて墜落対策可能なので、多分通用しないです。

 

 ③接近して【小癒(ヒール)】によるアンデッドへのダメージで削る、正統派不死殺し。

  問題は多分こっちが先に潰されること。

 

 ④【分身】【竜牙兵】【使役】による手数増やし作戦。統率技能で支援も可能。

  やはり頭数(あたまかず)揃えるのに時間がかかる。あと相手もアンデッド召喚してくるし、何なら相手の召喚するアンデッドの方がレベルが高い。

 

 ⑤相手の呪文をなんとか【抗魔】で打ち消して呪文リソースを相殺しきってからの殴り合い。

  問題は殴り合いでも勝てるか怪しいこと。あと、再生能力により毎ラウンド11点の負傷が回復する相手にダメージレースは無謀。

 

 ⑥因果点を活用して、武器攻撃を成功→大成功(クリティカル)に向上させ、痛打を与え、痛打表の結果で良いのを引くのを祈る。

  痛打表でうまいこと行動不能を引ければ勝てる!

 

 ⑦TS圃人斥候の【脱出】の真言呪文で戦闘から逃げる。

  逃げた後で(きょう)ざめした吸血鬼に、現実世界でガチで殺される未来しか見えねえ……。

 

 

 ……これ無理では?

 

 まあ、どうやらこの空間は、“吊された男”のアルカナで創られた、仮想空間のようなもので、ここで死んでも現実世界の肉体は無事だということなので、負けても良いわけですが。

 でも出来れば勝ちたいですねえ。

 うーん、どうすべきか……。

 とりあえずは、先制力の出目次第で、いくつかこれを組み合わせて挑む形になるかと思いますが(⑦の逃走以外)。

 

 なお、吸血鬼は、自分の手番で呪文を2回使える高速詠唱技能を持っているので、吸血鬼本体と分身で合わせると、一ラウンドに4回呪文が飛んできます。

 こっちの人数は、令嬢剣士を入れても4人なので……戦女神の奇跡【戦槍(ヴァルキリーズジャベリン)】4連発でこっちはおそらく大体ヤられます。

 計算すると、期待値でも1発あたり46点のダメージ。装甲値による軽減が出来ますので、半竜娘は食いしばり発動するくらいのダメージで、森人探検家は食いしばり発動でギリギリ瀕死、TS圃人斥候と令嬢剣士は即死圏内って感じですね。

 呪文抵抗できればもう少し余裕ができますが。

 

 【吹雪】や【火球】などの範囲攻撃を4連発されても同様に結構ヤバげ。

 

 あと、吸血鬼は自分より低位(レベル9以下)のアンデッドも召喚できるので、幽鬼(レイス)(レベル8)とか腐竜(ドラゴリッチ)(レベル9)を呼び出されまくると、かなり辛いです。

 

 なので手番を向こうに回すと、まあ、死ねます。

 速攻あるのみ、ですね。

 ……なーんだ、いつものことじゃないか(白目)。

 

 えーと、うーん。

 まずは、相手の再生能力をなんとかしないと……?

 いや、速攻で沈める方がいいか……?

 いやいや、呪文を封じないと……??

 

 あ、そうだ!

 これを忘れてた!

 まだ他にも勝ち筋はあります!

 

 ⑧【解呪(ディスペル)】の奇跡を因果点でゴリ押しして、その効果でアンデッドを消滅させる!*1

 

 これならいけるのでは……?

 

 むむむ、因果点はいま、4点なので、これをうまく使って先手を取って、判定向上によるクリティカルを狙って仕掛けていくしかありませんかね。

 ああ、これがTASさんなら因果点使わなくても、クリティカル連発して運ゲーが運ゲーじゃなくなるんですよね、さすTAS。

 古竜を族滅したときは⑥の痛打連発の方針でしたかね、そういえば。

 

 さて、あとは、相手の出目が腐ることを、そしてこちらの出目が走ることを、《宿命》と《偶然》のダイスに祈れ!!

 

 では、戦闘開始(オープンコンバット)

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

鬼の試練 開始!!

▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 戦場の概要図は以下の通り。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 彼我の距離は『2D642×3=18m』です!

 大体の呪文の範囲内ですね。

 

 まずは先制順を決めます!

 頼むぜ~、相手は低く! 味方は高く!!

 

 からころ……。

 

行動順名前先制力備考
吸血鬼(分身)152D645+6
吸血鬼(本体)132D652+6
令嬢剣士112D665
TS圃人斥候112D616+機先4
森人探検家62D631+機先2
半竜娘02D611+機先2(ファンブル!)

 

 うぎゃー!!

 こっちの出目が腐った!!

 嘘だろ……。やめてくれよ……!

 

「ぬっ!?」

「ちょっ、リーダー!?」

 

 強敵を前に力みすぎたのか、半竜娘が蹴躓いて出遅れました。

 先制判定でファンブルですよ!

 しっかりしてくれ、【辺境最大】!!

 

「ふむ、ではこちらから参るとしよう!」

 

 吸血鬼(分身)の攻撃です!

 

 (いな)

 

 そうはさせじと、TS圃人斥候が因果点を積んで祈念します!

 出目は『2D625+幸運1=8』>現在因果点4で、祈念成功!(因果点4→5に上昇)

 先制判定が大成功扱いになり、クリティカルボーナス5が加算されます!

 

「ぬあああ! 吸血鬼相手だからってビビるなオイラ! いっくぞおおお!!」

 

 祈念成功により、TS圃人斥候の先制力は11→16となり、吸血鬼たちの先制力を上回ったので、最初に行動できます!

 

「まずは視界を塞ぐ! ファルサ( 偽り )ウンブラ()オリエンス( 発生 )! 【幻影(ビジョン)】——おしゃべり目隠し(ノイジィ・ブラインドフォールド)!」

 

 TS圃人斥候の呪文行使ですが、『呪文行使基礎8+2D625=15』となります。難易度5の呪文なので行使成功!

 さらに、吸血鬼の【抗魔(カウンターマジック)】でかき消されないように、祈念をして因果点を使い、成功→大成功にできないか試みます。

 TS圃人斥候の祈念:『2D614+幸運1=6』>現在因果点5で、祈念成功!(因果点5→6に上昇)

 大成功(クリティカル)扱いにできたので、呪文行使達成値が15→20になります。

 また、大成功(クリティカル)扱いなので、吸血鬼の【抗魔】をかけられても、吸血鬼が大成功(クリティカル)しない限りはかき消されません。

 呪文抵抗についても同様で、吸血鬼が呪文抵抗に大成功(クリティカル)しない限りは効果が通ります。

 

 TS圃人斥候の極限の集中が、非常に強固な魔術現象をもたらしました!

 吸血鬼の分身体が【抗魔】を試みますが、クリティカルではなかった(2D614)ので、かき消せません!(吸血鬼分身の呪文使用回数:6→5回)

 TS圃人斥候の呪文で発生した、耳障りな音をたてる真っ黒な目隠しの黒雲が、宙を蛇のようにうねり、たなびいて、吸血鬼たちの目元を覆います。

 

「目が見えなきゃ呪文は当てられねーだろ!」

「なんだこれは!? 視界が利かぬ、暗視もできぬ……! しかもバリバリと音が五月蝿い!」

「ナイスだわ、斥候! そのまま目隠しを維持して!!」

「もちろん、そうさせてもらうぜ!」(本音:呪文維持を口実に、戦線離脱! 計算通り! まともにやってられっかよー!)

 

 吸血鬼たちの呪文抵抗判定も、クリティカルではありませんでした(出目2D623、2D651)ので、吸血鬼たちは幻影の黒蛇雲を見透かせません。

 そして、呪文の多くは、対象を視認できないと使えません。

 TS圃人斥候が呪文維持判定(難易度10。ファンブルでなければ成功する程度)に成功し続ける限り、幻影による目隠しは継続します。

 これで主な攻撃呪文は封じたも同然!

 さらに完全に視界を奪ったため、命中や回避などの視覚情報が必要な判定に-8のペナルティが生じます。

 

 やりますねえ!

 TS圃人斥候ちゃんさすが! 好き!

 でもそのあとの内心が、いかにサボろうかと苦心するバイトみたいだ。そこは三下っぽい。

 

 

 次は吸血鬼分身のターンです。

 

「ふふははは、小細工だが視界を奪うのは有効だな! だが果たして……透明な相手に目隠しを当て続けられるかな? エゴ()セメル( 一時 )レスティンギトゥル( 消失 ) 【透過(トランスペアレント)】」

「げっ、透明になるのかよ!」

 

 【透過】の呪文によって吸血鬼分身が透明になっていきます(呪文行使はファンブルではなかった)。

 【透過】の呪文は、自分自身を対象に取るので、周囲が見えなくても使用可能です。

 あとはTS圃人斥候が作った、空を泳ぐ黒い蛇雲の【幻影】で、吸血鬼分身を捉えられ続けるかどうかですが……。

 呪文達成がクリティカル扱いなので、少し目標値を下げて、難易度20を目標に、観察判定『知力反射8+斥候Lv7+観察2+2D6』で判定するとします。

 ……2D615だったので達成値23>20で、とりあえず目隠しを維持できました。

 

「だが、それはちょいと想像力が足りねーぜ! お前が通り過ぎるところは幻影が途切れる、いくら透明になっててもな! 頑張って観察すれば、幻影の途切れから頭の位置を捉え続けるのは可能だぜ!」

「それでもいつまでもは保つまいよ!」

「呪文を使うときはそっちも動きが止まるだろーが! その時すかさず目元を覆えばそれでいーんだよ!」

 

 それにいつまでもは保たなくても、とりあえずこのラウンドで森人探検家の【解呪】まで手番を回せれば十分なはず!(因果点による祈念がダメだった時はどうしよう)

 また、透明化により、吸血鬼分身への遠距離・近距離攻撃は命中判定に-6のペナルティが生じます。

 

「……まあいい! それでは、矢避けの結界を張らせてもらおうか。サジタ()サイヌス( 湾曲 )オッフェーロ( 付与 )矢避(ディフレクトミサイル)】!」

「むう、森人の弓矢を恐れたのかや!」

「目は見えずとも、自分自身を中心点に結界を設定することはできるのだよ、諸君。エルフの弓はやはり恐るべきものゆえにな。かつて奴らには苦汁を嘗めさせられたものだ」

「吸血鬼に恐れられていることを誇るべきか、それとも矢避けの結界を張られたことを嘆くべきかしら」

 

 吸血鬼分身の【矢避】の達成値は28(25+2D652-高速詠唱ペナ4)なので、半径20mの結界(持続時間:10分間)が張られました。

 その結界に入ってきた矢弾は、すべて逸らされて結界の外に落ちます。

 どれだけ凄腕の弓使いでも、この結界を破ることはできません。

 これで、うちのダメージソースである森人探検家ちゃんの弓矢は封じられてしまいましたね……。

 

 高速詠唱で2回分の呪文詠唱を行ったため、吸血鬼分身の呪文使用回数は5→3になりました。

 

 

 次は吸血鬼本体の手番です。

 やはりTS圃人斥候の【幻影】による黒蛇みたいな雲……『おしゃべり目隠し(ノイジィ・ブラインドフォールド)』が目元を完全に覆っています。

 

「もはや小細工など気にせぬ! 定石通り神官から潰す!」

「ッ! 速い! このままじゃ、避けられないっ!?」

 

 吸血鬼本体から森人探検家への攻撃!

 気配をたどって近接!

 吸血鬼本体の攻撃命中達成値は『26+2D643-無視界ペナ8=25』!

 森人探検家の回避基準値は14なので、恐らく避けられません!!

 

「後衛を守るのは、手前(てまえ)の役目じゃ!!」

「リーダー!」

 

 半竜娘の【護衛】技能発動!

 森人探検家を庇って、攻撃を肩代わりします!

 半竜娘の盾受け:盾受け基礎値17+2D664=27>25……!

 盾受け成功!

 

「受け止めるとはな! やるじゃないか!」

「かかかっ! 少しはいいとこ見せて挽回せねばのう!」

 

 盾受け成功により、半竜娘の装甲値に4加算し、『盾受け装甲値14』として計算し、ダメージを緩和します。

 

「だが! この程度で止められると思わないことだ!」

 

 よって吸血鬼の攻撃でのダメージは、5D613145+15+命中時ボーナス3D6235-盾受け装甲値14=25!

 25ダメージです! めっちゃ痛い!

 

「ぐぬっ、そう簡単に攻撃を通しはせんぞ!」

「くっくっく、威勢のいいお嬢さんだ。無粋な黒雲がなければ、その顔を拝んでやれたものを」

「何をぅ!? だいたい、さっきは良くも手前(てまえ)操って血を吸ってくれたのう! 覚悟することじゃて!」

「おお、怖い怖い……」

 

 半竜娘の生命力は38なので、25ダメージ引いて、食いしばり発動まであと13ダメージです。

 ちなみに、森人探検家が受けていたら、食いしばり発動のレッドラインまで一気に生命力を削られていたところでした。

 

 しかし、これで何とか第1ラウンドの敵の攻撃を凌げました。

 このラウンドの残りの行動は、令嬢剣士・森人探検家・半竜娘です。

 味方同士なら行動順は入れ替えられます。

 

 ちょうど吸血鬼本体が突貫してきているので、順番を入れ替えて、森人探検家から行動させます。

 運命の【解呪(ディスペル)】の時間です!

 

「悪しきものよ去れ! 『巡り巡りて風なる我が神、彼らの魂魄を故郷に還せ!』――ディスペル!」

 

 森人探検家の【解呪】の達成値:奇跡行使基礎値10+2D621=13>難易度10

 達成値が難易度を上回ったので、呪文が発動します!

 そして、抵抗を貫通させるために、祈念により因果点(現在6点)を積み、成功→大成功(クリティカル)へと判定結果を向上するよう試みます。

 

「お願い、交易神さま!!」

 

 森人探検家の祈念!

 出目6点以上で成功になります。ダイスロール!

 

 森人探検家の祈念:2D635=8>6 祈念成功!(因果点6→7)

 

 これにより、【解呪】の呪文は大成功扱いになり、達成値も+5(クリティカルボーナス)されて18になります。

 

「カウンターマジック……は、視界がふさがれているから効かぬか! ならば耐えるしか……」

 

 吸血鬼本体は、TS圃人斥候による黒蛇雲の幻影で視界を塞がれているため、カウンターマジックは使えません。

 呪文抵抗判定で吸血鬼側がクリティカルを出せば、森人探検家のディスペルを相殺できますが……、出目は64で、クリティカルではなかった!

 

「消えっ、去りっ、なさいっ!!」

「ぐおおおおおお!?」

 

 吸血鬼本体は抵抗失敗!

 不浄の魂が浄化され、身体が消えていきます!

 

「……ふう、どうなることかと思ったけど、案外何とかなったわね」

「おおっ! やるじゃん大先輩! 勝ったな、がはは!」

「……手前(てまえ)はあんまり活躍できておらんのじゃ……」

「それより、い、いったい何が、どうなって……さっきまで私たちは宿屋にいたはずでは?」

 

 吸血鬼本体の体が消え去り、同時に分身体の方も消滅します。

 

 ……しかし、この試練のための異相空間は解除されません。

 

「……どうやったら戻れるんじゃ、ここから?」

「【脱出(エスケープ)】の魔術が必要とかかしら。斥候、使える?」

「いや、もう呪文は打ち止めだぜ。待ってりゃいいんじゃないか?」

 

 そのとき、最初に吸血鬼が佇んでいた場所の地面から、ボゴッと、腕が突き出てきました。

 気づいたのは、令嬢剣士でした。

 

「……あの、腕が」

「ん?」

「あっちに、腕が、生えてますの」

 

 バッと半竜娘たち一党3人も、そちらを見ます。

 

「確かに生えておる」

「……あー、つまり?」

「吸血鬼は土から蘇るもの、と相場が決まってるわ」

「マジかよ、第二ラウンド!?」

 

 吸血鬼の特殊能力【邪な土】は、あらかじめ仕込んだ土塊の中から復活できるというものです。

 この空間に入った地点が、この試練空間における初期スポーン地点に自動的に設定されていたのでしょう。

 

「いやいや、神様の力で浄化したんだから昇天しなさいよね!」

「もう一回ディスペルすりゃいいんじゃないのか?」

「……出てくるまで、少しかかりそうじゃのう」

 

 というわけで、吸血鬼が土から出てくるまで、1ラウンドくらい時間がかかりそうです(=第3ラウンドから行動可能)。

 次のラウンドですが、吸血鬼は土に拘束されたものとして扱います。拘束&転倒状態ですが、一方でほぼ完全に体が土の中に隠れているので、呪文の対象には出来ません。

 また、このラウンドはまだ半竜娘と令嬢剣士の行動が終わっていないので、まずはその処理からです。

 

「ふうむ。まあ、準備できる時間ができたと思えばいいかの! 【分身】するのじゃ!」

 

 このラウンドで分身し、次のラウンドで【加速】と【巨大】を行い、その次のラウンドで先手を取れれば【力場】と【突撃】によって大ダメージを与えられます。

 よーし、いけるんじゃないかコレ!?

 TS圃人斥候の【幻影】と森人探検家の【解呪】のおかげで光明が見えてきました。

 やはり持つべきは仲間ですね!

 

「相手は動けんようじゃし、お主も呪文の心得がある様子。支援を頼む!」

「は、はい、マナの流れを整えます!」

「頼んだのじゃ! イーデム( 同一 )ウンブラ()ザイン( 存在 )! 【分身(アザーセルフ)】!!」

 

 半竜娘は統率技能により、令嬢剣士から支援効果(呪文行使+1、命中+1)を得ます。

 真言呪文【分身】(難易度20)の達成値は、『基礎値21+創造呪文熟達1+支援効果1+2D631=27』! 発動成功!

 14点(達成値27の50%)のダメージまで耐えられる分身体が出現しました。

 

「「よーし、吸血鬼を轢き潰すのじゃ!!」」

 

 呪文使用回数は7→6回となりました。

 分身体も同じです。

 

 令嬢剣士は、半竜娘に支援をしているので、このラウンドはこれ以上行動できません。

 

 

 では、第2ラウンドに入ります!

 

 とはいえ、このラウンドは吸血鬼が土の中で動けないし、相手に攻撃は届かないしで、呪文を積むしかやることがないです。

 先制判定は省略。

 

「目隠し準備よーし!」

「頼んだのじゃー」

 

 TS圃人斥候は【幻影】で作った蛇状の黒雲(ノイジィ・ブラインドフォールド)を維持します。

 念のため、腕が突き出ているあたりに漂わせて、出てきたらまた目元を覆えるようにします。

 

「私は呪文とか温存するわね」

「【矢避】を消したいが……それよりは【解呪】のために控えてもらった方がいいか」

 

 森人探検家は待機です。

 

「私はさっきと同じように支援しますね」

「よろしくなのじゃ」

 

 令嬢剣士は支援効果を半竜娘に与えます。

 

「では、分身の方に【加速(ヘイスト)】と【巨大(ビッグ)】をかけるのじゃ!」

 

 本体→分身への【加速】!*2 達成値31なので、分身は加速ボーナス+4を得ます。

 分身は自分自身へ【巨大】!*3 出目が46=10だったので、生命属性のクリティカル範囲を拡張する【生命の遣い手】技能により、クリティカル扱いになり、達成値は43!

 拡大倍率は、10倍です!!

 

「2倍の素早さ! 10倍の巨大化!! 準備は整ったのじゃ!!」

 

 さらに、移動力を下げる防具(移動力-4)や触媒入れの鞄(移動力-2)、投石用の石弾袋(移動力-2)を外します。(分身の基礎移動力16→24)

 

 

 そしてラウンドの終わりに、吸血鬼が土の中から出てきて立ち上がります。

 

「……ほう、これはこれは……」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「あ、出てきたな! 行けっ、おしゃべり目隠し(ノイジィ・ブラインドフォールド)!!」

「ま た こ の 目 隠 し か!!」

 

 TS圃人斥候の【幻影】が、再び吸血鬼の目元を覆います。

 

 では、第3ラウンドの先制判定です。

 

 からころ……。

 

 よっしゃ!(ガッツポ

 

行動順名前先制力備考
TS圃人斥候142D664+機先4
半竜娘(分身)1122D646+機先2+加速4=16。加速により12と4に分割して2回行動。
半竜娘(本体)112D645+機先2
令嬢剣士8→112D653。半竜娘本体による統率で同時行動
半竜娘(分身)24→11加速による2回目行動。半竜娘本体の統率で本体と同時行動
森人探検家102D635+機先2
吸血鬼92D612+機先6

 

 これは勝ったな!!

 吸血鬼の出目が2D612だったので助かりました!

 たぶん、一回やられたダメージと土の中から出てくるときになんか引っ掛かって躓いたのでしょう。

 

「オイラは目隠しの維持に注力するぜ!」

 

 TS圃人斥候は【幻影】の維持に専念させます。

 

 続いて半竜娘の分身の行動です。

 吸血鬼の行動までに分身と本体合わせて3回行動できるので、1回分行動が余りますね。

 保険のために、天候を晴れにして、吸血鬼の再生能力を反転させておきましょう。

 

「光の中で果てるがよい! カエルム()エゴ()オッフェーロ(付与)! 【天候(ウェザーコントロール)】!」

 

 半竜娘(分身)の天候操作!

 達成値は35!*4 達成値が30を超えたので、無茶な天候操作も可能!

 宵闇に残った光が大気の歪曲によって集まり、半竜娘たちの周りだけがまるで昼間のようになります!

 

「レールセット! 【力場(フォースフィールド)】!」

 

 半竜娘本体が、魔力の力場で助走用のサーキットバンクを創ります。

 

「『俊敏なりし甲竜(アンキロス)よ、経絡巡りし雷を、どうか我が身に宿し給え!』 チャージング!! 【辺境最大】の威力を刻めぃ!!!」

 

 満を持して、最大威力の祖竜術【突撃(チャージング)】です!!

 達成値は37でした。*5

 ダメージ計算式は、『助走距離ボーナス288*6+5D664416+竜司祭レベル9+巨大化ボーナス10』で、328ダメージ!

 ダメージは装甲点(吸血鬼装甲:15)の分だけ引かれますし、もし仮に相手が呪文抵抗に成功した場合は半減させたダメージから装甲点分を引くのですが、それでも144ダメージは確保できますので、吸血鬼を確殺できます!

 念のため、カウンターマジックで打ち消されないように、因果点を積んで祈念します。……祈念の出目は2D612=3<7で祈念失敗! 残念!(因果点7→8に上昇)

 

「ふはははっはははは! いいぞいいぞ、そうだ、そういうのを期待していたのだ! だが、抵抗はさせてもらうぞ、【抗魔(カウンターマジック)】!」

 

 吸血鬼はカウンターマジックで抵抗してきます。目隠しされていますが、あの巨体で地響きもしてれば、対象の場所は分かります。

 カウンターマジックの出目は25+2D634=32<突撃達成値37だったので、打ち消せません!

 

「まだだ! さあ、来い!」

「GGGGRRRROOOOOOOOOO!!!!!」

 

 吸血鬼の呪文抵抗が大成功した場合は、呪文のダメージがゼロになりますのでまだ油断できません!

 吸血鬼の呪文抵抗判定:24+2D652=31<37 抵抗失敗!

 

「ふははははははは! なるほど、素晴らしい、素晴らしいな! 半竜の娘よ!! 【辺境最大】、確かに刻んだぞ!!」

 

 吸血鬼を轢殺!!

 

 称賛の言葉と高笑いを残して、吸血鬼は消滅しました!

 

 半竜娘一党の勝利です!!!

 

*1
解呪ディスペル:魔法の効果を解除するほか、種族アンデッドの対象1体を消滅させるという特攻効果がある。

*2
半竜娘本体【加速】行使:基礎値21+付与呪文熟達3+令嬢剣士支援1+2D615=31。これにより加速ボーナス+4

*3
半竜娘分身【巨大】行使:基礎値21+付与呪文熟達3+加速ボーナス4+2D646+生命の遣い手技能によるクリティカルボーナス5=43。これにより巨大化倍率は10倍!

*4
半竜娘分身【天候】行使:基礎値21+加速ボーナス4+令嬢剣士支援1+2D663=35

*5
半竜娘分身【突撃】行使:基礎値21+加速ボーナス4+令嬢剣士支援1+2D665=37

*6
助走距離による【突撃】のダメージボーナス:半竜娘基礎移動力24×加速2×巨大10×突撃3×20%=288




令嬢剣士「すごいすごい! 冒険者ってすごい! 私も絶対冒険者になりますわ!!」(雪山フラグ)


次回は、事件の後始末と成長処理して、いよいよ火吹き山だ!


※アンケート実施中
そろそろ(だいぶ前から)TASじゃないパートの方が多くなってきましたし、タイトルとあらすじを適当に変えようと思いますので、タイトル候補のアンケート設置しています。
タイトル候補は以下の通りです。


・ゴブスレ二次 半竜娘の冒険
・半竜娘ちゃんは四方世界で恐るべき竜になるようです
・ゴブリンスレイヤーTAS 半竜娘チャート(RTA実況風)(変更しない)
・その他(ちょっと作者ー、もっといいのあるんじゃないのー?)



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19/n “水晶の森”亭 殺人(?)事件-5/5 → 火吹き山へ

 閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想、いつもありがとうございます! あなたの感想が、作者の執筆力になる!
 アンケートも回答いただき、ありがとうございました! タイトルはこのままにしときます!

●前話:
半竜娘「手前(てまえ)こそが【辺境最大】! その身に刻め!」
吸血鬼「確かに刻んだぞ!」



 いやあ、吸血鬼は強敵でしたね!

 

 最大威力の【突撃(チャージング)】で吸血鬼を見事に粉☆砕しました。

 それもこれも、頼りになる仲間が居たおかげです!

 

「おお? 空間が崩れるようじゃぞ?」

「やーっと戻れるのかー」

「本当に、本当に、疲れたわ……」

「――怖かったけど、吸血鬼と戦うなんて、大冒険でしたわ! お父様に自慢できます!」

 

 元の場所に戻るのでしょうかね、やはり。

 あれ、でもそうすると……。

 

「あ、これ、分身が巨大化したままだとマズいのではないかの?」

「あ」

「あ」

「あ」

 

 このまま戻ると、宿の食堂を壊しちゃいますねえ。

 

「呪文の効果を切れないのかよ、リーダー?」

「【巨大(ビッグ)】の呪文は使い切り型じゃから、あと9分くらいはこのままじゃぞ!?」

 

 呪文には呪文を維持し続けることで効果が続く『呪文維持型』と、効果時間があらかじめ定まっているけれど維持は不要な『使い切り型』があります。

 【加速】や【幻影】は『呪文維持型』で、維持できる間は持続します。呪文維持判定に自信があるならこっちの方が使い勝手良いかもですが、維持できなかったら霧散します。

 一方、【巨大】や【矢避】は、一度発動すれば決められた時間持続する『使い切り型』で、維持は不要なので安定しますが、任意に効果を切ることができません。

 

「仮想空間から戻る時には、効果が切れるんじゃないのかしら?」

「入るときに吸血鬼の分身はそのままじゃったし、消えなかったとき大惨事じゃぞ!」

「あの、【解呪(ディスペル)】で打ち消せませんの?」

「それじゃ!」「それよ!」「それだ!」

 

 令嬢剣士の指摘のとおり、森人探検家の【解呪】によって効果を解除できます。

 

「というより、大きくなってるのが【分身】の方なら、それを消してもいいのでは?」

「それじゃ!」「それよ!」「それだ!」

 

 そうだね、分身は任意に消せるから、そっち消せばいいよね。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

「なんとか元の空間に戻るのに間に合ったのじゃ……」

 

 無事に試練空間から戻った半竜娘たち。

 

 ——パチパチパチパチ…………。

 

Congratulations(コングラッチュレーション)……!」

 

 彼女らを迎えたのは、あの吸血鬼の拍手でした。

 こっちも無事だったようです。

 

「ああっ……! 素晴らしい闘争であった……! 約束通り、我が(あるじ)に話を通しておこう」

 

 吸血鬼は闘争の余韻にうっとりしながらそう言うと、一枚の封がされた書状と金貨袋を渡してきます。

 

「紹介状と協力謝礼の駄賃だ。紹介状は、火吹き山の闘士として登録するときに出すと良い」

「ほう、かたじけないのじゃ」

「それではさらばだ、諸君」

 

 半竜娘たちが書状と金貨袋に目を落とした次の瞬間、吸血鬼は居なくなっていました。

 もちろん、タロットカードも回収されています。

 あとには、三体の人狼の死体と、気を失った宿泊客たちが残るのみです。

 

「消えた……」

「これって、後片付け押し付けられたんじゃねーの?」

 

 宿屋の亭主夫妻だけでここを片付けるのは大変でしょう。

 

「まあ、客たちは個室に連れてくかのう」

「そうね。じゃあ、亭主さんたち、ご指示いただけるかしら」

 

 恐縮した亭主の指示に従い、宿の食堂の後片付けをする事にしました。

 

 そして翌朝、令嬢剣士に自分たちが普段は辺境の街を拠点にしていることを伝えたり、

 

「何か困ったことがあれば力になるのじゃ」

 

などと約束したりしつつ、別れることにしました。

 令嬢剣士は、別の宿に泊まっていた護衛に昨晩の件がバレた結果、実家に一度戻ることになったようです。

 まあ、闘技場を見に行くよりもエキサイティングな経験ができたので、令嬢剣士としても否はないようでしたが。

 縁があれば、また会うこともあるでしょう。

 

 

 

  △▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 それではリザルトです!

 

 半竜娘、森人探検家、TS圃人斥候は、経験点1250点、成長点3点を獲得!

 

 現在の経験点と成長点は以下の通り。

名前経験点成長点
半竜娘2,500点11点
森人探検家3,750点6点
TS圃人斥候1,250点3点

 

 アイテム『吸血鬼の紹介状』を取得!

 称号【ヴァンパイアハンター】を獲得!

 

 コネクション『令嬢剣士との縁』が結ばれました。

 さらに、令嬢剣士を通じて、彼女の実家の貴族家にも評判が伝わりました。

 これにより、令嬢剣士が困ったときに、冒険者の先輩である半竜娘たちを頼るかもしれませんし、あるいは、令嬢剣士の実家から何かしらの依頼が来るかもしれません。

 

 キャラクター成長なのですが、森人探検家とTS圃人斥候はしばらく据え置きで、メイン職業やメイン技能を伸ばすために貯めておくことにします。

 半竜娘ちゃんが悩ましいところです。

 というのも、“峠の魔獣”では不意打ち判定(隠密判定)で見つかりかけて足を引っ張りましたし、せっかく【統率】技能があるので、できれば先手先手で動けるようにしたいですし……。

 でも今回の人狼戦みたいに、呪文が尽きたときのために、武道家として【薙ぎ払い】や【護衛】技能も伸ばしたいし、呪文遣い(バッファー、デバッファー)としては【呪文熟達:支配呪文】も生やしたいですし……。

 

 半竜娘ちゃんもめっちゃ悩んでますね。

 ……お、決まったみたいです。

 

 ふむふむ……。

 

 半竜娘ちゃんの技能成長ですが、不意打ちの安定化と先手奪取のために、新しく、『職業:斥候Lv2』*1を生やして(経験点2000点消費、成長点4点加算。残り経験点500点)、【機先】技能を『習熟段階(先制+2)』→『熟練段階(先制+3)』に伸ばすようです(成長点15点消費。残り0点)。

 早さは強さ!

 スタイル的にも先手速攻で片付けるタイプなので、これはこれで正解でしょう。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 そうこうしているうちに、いよいよ“火吹き山の闘技場”がある街に到着しました!

 

 年がら年中お祭り騒ぎで、闘技場を中心にカジノや歓楽街が広がる娯楽の街です。

 非常に活気があり、様々な種族の人々が行き交っていますし、宿屋も多そうです。

 都市は美しく整備されており、統治者としての“火吹き山の魔術師”の手腕が伺えます。

 

 また、火吹き山の魔術師がもたらした技術により、武具や魔道具、便利な日用品の開発や売買も盛んなようです。

 “水晶の森”亭でTS圃人斥候が行商人(人狼斥候の変装)から買った火付け道具一式も、おそらくはこの街で仕入れられたものなのでしょう。

 

 半竜娘たちは、早速、麒麟竜馬を預けられるくらい立派な馬房を備えた宿屋を取り、投宿します。もちろん馬房には世話係付きです。

 長期宿泊なので、あとで、路銀の宝石などを貨幣に替えて、予算を補充しておく必要があるでしょう。

 

「闘士登録前に下見が必要じゃねーか? まずは見に行こうぜ!」

「あんたは賭けたいだけでしょ?」

「小遣いの範囲なら良かろうさ。手前(てまえ)もいきなり飛び込むより、情報収集してからと思うておったしの」

「よっしゃ! じゃあ行こーぜ!」

 

 荷物を置いて早々に闘技場に向かった彼女らが見たものとは——

 

「あら? ねえねえ、なんかあの闘士チーム、見たことあるような気がしないかしら……?」

「んー? 鉢巻きした剣士の男に、竜爪装備の小柄な武道家の女、眼鏡で目つきのキツイ魔術師の女……。ホントだ。アイツらこんなとこで何してんだ? そーいえば、最近見なかったけど……冒険者辞めたのかね」

「いや、首輪付きの剣闘奴隷になっとるようじゃな。何かあったんじゃないかの?」

 

 ……青年剣士くん一党、君たちに何があったし??

 

 

 

*1
半竜娘の成長(不意打ち目当て):野伏じゃなくて斥候を生やしたのは、室内でも不意打ち判定に職業レベルを足せるからです。野伏だと、弩弓適性が生えてお得ですが、不意打ち判定への加算が野外かそれに近い環境でしか効かないので。高レベルになると、成長点使って技能を生やすより、経験点使って関係する職業レベルを伸ばす方がお得なんですよね(職業Lv9→10にするのに必要な経験点で、職業Lv0→6にしてお釣りが来る一方、技能成長に必要な成長点が多くなるため成長点は足りなくなる)。そして出来上がる【平たい職業レベル族】なのであった。




【悲報】青年剣士くん一党、剣奴落ち【王道√】

次回:峠の魔獣(裏)&“水晶の森”亭殺人事件(裏)


アンケート回答ありがとうございました!
タイトルはそのままにしときます(あらすじは、ご意見参考に少し追記変更しようかと思います)。


以下、半竜娘ちゃんのステータスです。作者備忘のため掲載してるだけなので、読み飛ばしてもらってOKです。



◆名前:半竜娘
 年齢13歳(成人直後)。緑かかった烏の濡れ羽色の鱗と髪を持つ。
 顔と胸元だけ只人の遺伝が現れ、残りの部分は蜥蜴人な混血。胸元は豊満だが、哺乳動物ではないので本当に単に膨らんでるだけ。
 つよい(確信)。最終的にゴジラになれる素質がある。
 一党の中では一番年下だが、リーダーとして頑張っている。
 今回は武名を高めるために、火吹き山にやってきた。

◆イメージ
 Picrewの「遊び屋さんちゃん」でつくったよ! https://picrew.me/share?cd=wZesuN9igj

【挿絵表示】


 Picrewの「人外女子メーカー」でつくったよ! https://picrew.me/share?cd=KsLmkX9Nbh

【挿絵表示】


◆累積経験点 63500点/ 残り経験点500点
(峠の魔獣   +1000点
 ゴブリン退治10連勤2 +250点
 水晶の森亭殺人事件 +1250点)

◆冒険回数 15回/15回(達成回数/冒険回数)

◆残り成長点 0点

◆能力値
 装備:魂魄強化の指輪+3、知力強化の指輪+3
能力値体力点 5魂魄点 5+3技量点 3知力点 3+3
集中度 4912710
持久度 381169
反射度 381169


    生命力:【 38(28+10) 】
    移動力:【 24 】 
 呪文使用回数:【 07 】

  呪文抵抗基準値(魂魄反射+冒険者LV+呪文抵抗):【 19 】

◆冒険者レベル:【 8 】
  職業レベル:【魔術師:7】【竜司祭:9】【精霊使い:3】【武道家:6】【斥候:2】new!

◆冒険者等級:鋼鉄等級

◆冒険者技能    初歩/習熟/熟練/達人/伝説
  【免疫強化】  ●   ○  ○  ○   ○
  【魔法の才】  ●  ●  ●  ●   ○
  【呪文熟達(創)】●  ○  ○  ○   ○
  【呪文熟達(付)】●  ●  ●  ○   ○
  【追加呪文(真)】●  ●  ○  ○   ○
  【追加呪文(竜)】●  ●  ○  ○   ○
  【生命の遣い手】●  ●  ●  ○   ○
  【機先】    ●  ●  ●  ○   ○up!
  【頑健】    ●  ●  ○  ○   ○
  【忍耐】    ●  ○  ○  ○   ○
  【武器:格闘】 ●  ●  ●  ○   ○
  【体術】    ●  ●  ○  ○   ○
  【鉄の拳】   ●  ○  ○  ○   ○
  【発勁】    ●  ○  ○  ○   ○
  【薙ぎ払い】  ●  ○  ○  ○   ○
  【二刀流】   ●  ○  ○  ○   ○
  【護衛】    ●  ○  ○  ○   ○

◆一般技能     初歩/習熟/熟練
  【竜の末裔】  ●  ●  ●
  【暗視】    ●  ○  ○
  【祈祷】    ●  〇  〇
  【瞑想】    ●  ●  〇
  【沈着冷静】  ●  ○  ○
  【信仰心(竜)】 ●  ●  ●
  【統率】    ●  ●  ●
  【礼儀作法】  ●  〇  〇
  【調理】    ●  〇  〇
  【精霊の愛し子】●  ●  〇
  【職人:土木】 ●  〇  〇
 【騎乗】    ●  ○  ○

◆呪文
 呪文行使基準値(知力集中):【 10 】
        (魂魄集中):【 12 】
 呪文維持基準値(知力持久):【 9 】
        (魂魄持久):【 11 】
 職業:魔術師:7 竜司祭:9 精霊使い:3
 技能:呪文熟達(創造呪文):+1
    呪文熟達(付与呪文):+3
    生命の遣い手:生命属性の呪文が出目10以上で大成功
 装備:真言呪文の発動体+3 紅玉の杖(真言呪文行使+1)
《呪文行使》
 真言:【 21 】  奇跡:【 0 】  祖竜:【 21 】  精霊:【 15 】
《呪文維持》
 真言:【 16 】  奇跡:【 0 】  祖竜:【 20 】  精霊:【 14 】

 ◎習得呪文:
 《 分身 》 難易度:20 (真言呪文 創造呪文(生命))
 《 力場 》 難易度:15 (真言呪文 創造呪文(空間))
 《 抗魔 》 難易度:10 (真言呪文 付与呪文(なし))
 《 破裂 》 難易度: 5 (真言呪文 付与呪文(なし))
 《 巨大 》 難易度:10 (真言呪文 付与呪文(生命))
 《 加速 》 難易度:15 (真言呪文 付与呪文(生命、精神))
 《 停滞 》 難易度:15 (真言呪文 支配呪文(生命))
 《 天候 》 難易度:15 (真言呪文 支配呪文(水、風))
 《 突風 》 難易度: 5 (真言呪文 攻撃呪文(風))
 《竜牙兵》 難易度:15 (祖竜術 創造呪文(生命))
 《 竜爪 》 難易度:10 (祖竜術 創造呪文(物質))
 《 狩場 》 難易度:15 (祖竜術 付与呪文(空間))
 《 竜眼 》 難易度:10 (祖竜術 付与呪文(生命))
 《 竜血 》 難易度:なし (祖竜術 付与呪文(生命))
 《 擬態 》 難易度:10 (祖竜術 付与呪文(光))
 《 竜吠 》 難易度:15 (祖竜術 支配呪文(精神))
 《竜息/毒》 難易度:10 (祖竜術 攻撃呪文(闇))
 《 突撃 》 難易度:10 (祖竜術 攻撃呪文(なし))
 《 賦活 》 難易度:10 (祖竜術 治癒呪文(生命))
 《 小癒 》 難易度: 5 (祖竜術 治癒呪文(生命))
 《 降下 》 難易度:10 (精霊術 付与呪文(土、空間))
 《 使役 》 難易度:10 (精霊術 支配呪文(火、水、土、風))
 《 追風 》 難易度: 5 (精霊術 支配呪文(風))

 ※使役できる固定の精霊(名称:ミズチ)がいる。当該精霊が使ってくれる呪文は以下のとおり。
  【命水】(精霊(スピリット)級から)
  【酩酊】(自由精霊級から)
  【隠蔽】(大精霊級から)
  固定のパートナーのため、機嫌を損ねると言うことを聞いてくれないことも。
  毎日、触媒(酒や果物など)をお供え物として消費し、週に一回は上質な触媒を供える必要がある、呼び出す際も上質な触媒を用いなくてはならない。上質な触媒を用いない場合は達成値-4。

◆装備枠 【南洋投げナイフ】【紅玉の杖】【投石紐】
(素手と盾攻撃は装備枠を潰さない)
◆攻撃
 命中基準値(技量集中):【 7 】
 職業:【武道家:6】
 技能:【武器(格闘):熟練(+3)】
 近接:【 16 】  弩弓:【 7 】  投擲:【 13 】

 ◎武器:【 素手(爪) 】
   用途/属性:【 片手or両手格軽/斬 】
  命中値合計:【 16 】
   威力:
   片手:1d3+5(内訳:鉄の拳+1、発勁+1、竜の末裔+3)+武道家レベル6
   両手:1d3+7(内訳:両手+2、鉄の拳+1、発勁+1、竜の末裔+3) +武道家レベル6
   効果:投擲不可

 ◎武器:【 尻尾の大篭手(テールガード)(盾攻撃) 】
   用途/属性:【 片手格軽/殴 】
  命中値合計:【 16-2 】
   威力:1d3+2(内訳:発勁+1)+武道家レベル6
   効果:投擲不可

 ◎武器:【 南洋投げナイフ 】(2本所持(再購入))
   用途/属性:【 片手投軽/斬刺 】
  命中値合計:【 13+4 】  射程20m
   威力:1d6+武道家レベル6
   効果:投擲専用、強打・斬(+1)、刺突(+1)、斬落

 ◎武器:【 投石紐 】
   用途/属性:【 片手投軽/殴 】
  命中値合計:【 13+2 】  射程30m
   威力:1d3+1+武道家レベル6
   効果:投擲専用、速射(-4)、「手頃な石」または「石弾(命中+1)」を消費

 (紅玉の杖は基本的に武器として用いない)

◆防御
 回避基準値(技量反射+武道家レベル+体術スキル):【 14 】
 ◎鎧:【 衣鎧+鱗 】
   鎧:魔法の司教服(+3)(装甲7、回避修正+2、移動修正-4)
   鱗:外皮+3(竜の末裔)
   属性:【 衣鎧(布)/軽 】  回避値合計:【 16 】
   移動力合計:【 16 】  装甲値合計:【 7+3 】
   隠密性:【悪い(静穏性はあるが視覚的に派手)】

 盾受け基準値(技量反射+武道家レベル(大篭手着用時)):【 12 】
 ◎盾:【 小型盾 】
   盾:魔法の大篭手(+3)(盾受け修正5、盾受け値4、武道家の適正装備扱い)
  (両手と尻尾に同じものを装着)
   属性:【 小型盾(金属)/軽 】 盾受け基準値合計:【 17 】
  盾受装甲値合計:【 14 】 隠密性:【 良い 】

◆所持金
  銀貨:200枚(宝石などで路銀はもっと持っている)

◆その他の所持品 (分身の分を余分に所持)
  冒険者ツール ×2
   内訳(鈎縄,楔x10,小槌,火口箱,背負い袋,水袋,携帯用食器,白墨,小刀,松明x6)
  携帯食×7日分、衣類
  背負い袋(蜥蜴人用特大サイズ) ×2
  ベルトポーチ ×4(主にポーション類を入れる)
  ずた袋 ×2
  小袋セット(3枚/1セット) ×2
  竜司祭と精霊使いの触媒入れ ×1(移動力修正-2)
  魂魄強化の指輪+3 ×1(装備中)
  知力強化の指輪+3 ×1(装備中)
  武術熟達の腕輪+3 ×1
  体術熟達の腕輪+3 ×1
  真言呪文の発動体+3 ×1(装備中、形態:ネックレス)(森人探検家とおそろい)
  毒煙玉 ×4
  治癒の水薬 ×6
  強壮の水薬 ×4
  解毒薬 ×4
  鎮痛剤 ×2
  燃える水 ×2
  火の秘薬 ×2
  能力上昇の秘薬(各種) ×2
  【使役】の上質な触媒(各属性) ×2
  水精霊【ミズチ】用の上質な触媒 ×4
  調理道具 ×1
  手当道具 ×6
  水中呼吸の指輪 ×1
  石弾袋 ×1(移動力-2)
  石弾 ×10(石弾袋に収納)
  投石紐 ×1
  新式着火具一式 ×1

◆出自/来歴/邂逅/動機
 軍師/戦場/家族/託宣


 


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18/n 裏 + 19/n 裏

 閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想、いつもありがとうございます!
 夏の暑さも、感想を貰えれば吹き飛ぶというものです、ありがとうございます!

●前話:
半竜娘「青年剣士くん、君たちなんで火吹き山で剣奴になっとるん?」


1.新進気鋭の半竜娘一党のギルド評価について

 

 半竜娘一党が、峠に出てきたキマイラを片付けたあとのこと。

 冒険者ギルドでは受付嬢が書類を前に唸っていた。

 

「うーん……」

「なーに悩んでんのー?」

「いえ、半竜の()の一党のことで……」

「ああ……」

 

 冒険者ギルドの受付嬢の返答に、同僚の監督官は納得を示す。

 半竜娘の一党は、最近目立っている新進気鋭の一党だ。

 

 実績だけ見ても、

『古竜族滅』、

『ゴブリン退治』(ゴブスレさん並みハイペース)、

『新人冒険者の支援や救援』、

『商隊護衛(+山砦粉砕炎上)』、

『地下水路未踏遺跡発見』、

『オーガジェネラル撃退』、

『魂を捕らえる聖櫃の回収』、

『水の街の魔神退治』、

『転移門の鏡の献上』、

『牧場防衛戦におけるゴブリン軍殲滅』等など

と、錚々たるものだ。

 さらに、冒険者ギルドや地母神寺院での治癒呪文の大盤振る舞いに、膂力と【巨大】の呪文を生かした街や開拓村での土木工事協力も加われば、辺境の街としても、手放しがたい人材であることは明々白々。

 

「リーダーは古竜殺しの蜥蜴人の武僧で、次に加わったのが遺跡マニアの森人の野伏、最近はリタイアした圃人の妹が斥候で加わって安定感も増して、特にそんな悩むこともないと思うんだけど?」

「ああいえ、さっさとランクを上げてやったらどうだ、と上の方から」

「ああ……」

 

 上の方というのは、ギルド長とかそういうレベルでなく、もっと上だ。

 具体的には国の軍部の向きだ。

 

「小鬼の軍隊を、竜のひと吼えで殺し尽くした話が伝わったみたいで」

「戦場に引っ張っていきたいから、できるだけ早く金等級にでも上げろって? いくらなんでも経験が足りないでしょ」

「そうなんですよねえ」

 

 登録してふた季節も経たない駆け出しなのだ。

 討伐……の関係は実績十分としても、金等級ともなれば、調査に軍勢指揮に護衛に潜入にと、色々な経験を積んでいるのが前提。

 無理な昇級はギルドの沽券に関わるし、本人のためにもならない。

 

「まあ、戦力と信用は十分だろうけど、あとは経験よねえ」

「戦力は、ホントに等級詐欺なくらいですものねえ。竜の財宝を手にした恩恵もあって、装備は実際、金等級相当でしょうし」

「なら、あとは足りない経験を積めそうな依頼を見繕って回せっていうこと?」

「気に掛けておけって程度ですね、今のところ言われてるのは。何より本人たちがその辺の嗅覚が良いみたいで、依頼の取捨選択のセンスがいいですからね、昇級もすぐでしょう」

 

 それなら、半竜娘一党については、そう心配しなくても良い、ということだが、なら受付嬢は何を悩んでいたのだろう。

 監督官は疑問をぶつけることにした。

 

「そしたら何を悩んでたのさー」

「……この間、達成された依頼が、明らかに鋼鉄等級のこなす難易度じゃなかったみたいで。その評価をどうつけようか、と……」

「半竜の()に限っては、過大報告ってこともないだろうけど、裏は取れてるの?」

 

 冒険者が自分の活躍を盛って報告することは、よくあることだ。

 それを正しく査定するのも、ギルド職員の重要な業務である。

 

「今回は、たまたま同じ村からの依頼をこなしたゴブリンスレイヤーさんが現地を確認してますし、信憑性は高いです。私も事前調査手伝いましたし、それとの齟齬もないです」

「へえ。なになに……マンティコア3体に、エレファントベースで魔術師と融合したキマイラ……ワイバーンとバジリスクの首つき? ……確かに鋼鉄等級の依頼じゃあないねえ」

「ですよねえ~。これ、彼女たちじゃなかったら死人が出てましたよ」

「事前調査手伝ったときに推奨ランク上げなかったんだ?」

「提案したけど断られたんですよー、当の彼女たちにー。受注できなくなるからって」

「ああ、それでどういう査定にするか迷ってる、と。真面目ねえ。まあ、素直に報告ベースで審査しなよ」

 

 そうなると冒険者ギルドの依頼等級の裁定手順に不備があったのを認めるということで、つまりカイゼンの案を上げたりして、手順についても少し見直さなくてはならなくなるだろう。

 

「はぁああ、やっぱりそうなりますよねえ」

「がんばってー」

「また昇級審査も考えないとですし、仕事が終わりません~」

 

 結局、受付嬢は、遠出した半竜娘一党が戻ってきたら昇級試験の話をすぐ出せるように、手頃な依頼を見繕っておくことにしたようだ。

 次は、貴族か神殿か商会か、そういう大きなところが依頼元のものが良いだろう。

 ギルドとしても、このまま軍部に半ば引き抜かれるのは面白くない。

 あくまでも“冒険者”として栄達できるように、顔を広げさせたい考えだ。

 

「それでええと、次に昇級したら青玉等級ですか」

「いよいよ中堅の仲間入りかあ、期待の星だね。今はどこかに遠征しに行ってるんだっけ」

「火吹き山の闘技場へ、ということでしたよ。“チャンピオンになって凱旋するのじゃ!”ですって」

「ふぅん、土産話が楽しみだね。きっと他にもやらかしてくるだろうし」

「無事に帰ってきてくれるなら、それでいいですよ」

 

 

<『1.新進気鋭の半竜娘一党のギルド評価について』 了>

 

 

「あ、そういえば、半竜の娘と同期のパーティーは? 最近見ないけど」

「地母神の神官の方でしたら、ゴブリンスレイヤーさんと……」

「違う違う、そっちじゃくて、剣士と武道家と魔術師の3人組。黒曜等級に上がったとこだったでしょ?」

「ああ、確かに見ませんね……。えーと、受注中の依頼はないですね。依頼不達成で未帰還とかではないですし、療養か里帰りか冒険かですかね……」

 

 

 

  ○●○●○●○●○

 

 

 

2.火吹き山の敏腕プロデューサー

 

 

 《死》の魔力が満ちた、火吹き山の魔術師の居城にて。

 その主たる魔術師は、配下の吸血鬼から報告を受けていた。

 

「我が(あるじ)よ、指令(オーダー)は確かに完遂いたしました」

「うむ、ご苦労。我がコレクションであるタロットカードの回収、大儀であった」

「はっ」

 

 吸血鬼の手元から、魔法のタロットカードを、念力めいた何か不可視の力で回収すると、その目で状態を確かめる。

 幾つかのカードは、今は力を失っているようだ。

 

「ほう、太陽のカードを使われたか。貴様も少しは苦戦したか? 命のストックが僅かにすり減っているようだが」

「ははは、まさか。あのような盗人に討滅されるはずもありませぬ。……これは、盗人とは別に、見込みある冒険者と遊んだだけでして」

「そうか……。それほどの者がいたか」

 

 この戦闘狂の吸血鬼の御目に適うものが現れるなど、久しくなかったこと。

 興味をそそられた魔術師は、タロットカードを次元の穴から収蔵庫に送りながら、身を乗り出した。

 

「もちろん、闘士として勧誘したのだろうな?」

「私の名義の闘士推薦状を渡しておきましたので、じきに闘技場にも登るでしょう」

「ふふふ、よくやった。楽しみにしておこう。それで、どういった者たちだ?」

「【辺境最大】と呼ばれる蜥蜴人の乙女を頭目にした一党です。……闘士登録するのは、その頭目だけになるかもしれませんが」

「蜥蜴人か! それならなおさら期待が持てる、彼らは武に生きる種族だからな。さて、どういった興行を組んだものか……」

 

 魔術師の頭の中は、もう今後の興行のことでいっぱいになった。

 既に次元渡り(プレインズウォーク)できるほどの智恵と力を持つ彼が、この四方世界にたびたび戻ってきてこの火吹き山を拠点とするのは、やはり闘技場の運営に喜びを見いだしているからなのだ。

 不自由なようであり、しかし駒たちの自由意志だけは保証されたこの四方世界で、魔術師は普段の次元界の戦いから離れ、ある意味息抜きをしている。

 趣味と実益を兼ねた息抜きだ。

 

 効率よく《死》の力を集め、運用し、循環させ、増大させる。

 そしてその生と死の狭間でドラマが生まれるのを見て、快哉を上げる。

 いや、ドラマが生まれるような、魅力的な興行を組む。

 それがまた面白いのだ。

 

 

 

<『2.火吹き山の敏腕プロデューサー』 了>

 

 

 

「ああそうだ、私の方でも最近目をつけた闘士たちが居るのだ。実力はまだまだ低いが、なかなか数奇な星の下に生まれたやつらのようでな。“物語の主人公”のような奴らだ」

「そうでございますか。時にそういった運命に愛された者が生まれ出でるのは、人族の面白さでございますな」

「まさにそのとおりよ。剣士と武道家、魔術師の三人組だが、一度、《死》の運命の刈取鎌から逃れたことがあるようだった。ああ、そういえば、そいつらも西方辺境の出身であったはずだ。【辺境最大】と、何かの縁があるのかもな?」

 

 

 

  ○●○●○●○●○

 

 

 

3.どうしてこうなった!?

 

 

 昇降機によって闘技場の戦盆に(のぼ)ってきた青年剣士・女武闘家・女魔術師の一党は、逆サイドの昇降機から(のぼ)ってきた敵を見て――身体が震えださないように歯を食いしばった。

 逆サイドから上がってきたのは、とても大きな四つ足の獣だ。

 灰色の肌、長い鼻、大きな耳、太い脚、巨大な牙……。

 しかも2体!

 

「なあ、なんてモンスターか分かるか?」

「強そうってのは、分かるけどさ……どう?」

「ちょっと待って……」

 

 女魔術師の怪物知識判定:知力集中8+魔術師Lv5+2D662=21。

 目標値15(怪物Lv6+9)以上だったので、相手の怪物の情報を看破!

 

「ギルドの怪物辞典で見たことあるわ! あれは…(じゅう)、エレファントとも呼ばれる南方の動物よ!」

 

 普段は群れる動物だが、今回はつがいなのか兄弟なのか、二匹も出てきている。

 いや、巨体に目が行って気づくのが遅れたが、その足元には、巨大鼠(ジャイアントラット)6体が(ひし)めいていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 当然、その鼠たちの情報も看破!

 

「げっ、ジャイアントラット!? 毒消しのポーションは支給品もらってたっけ!?」

「支給品は、強壮の水薬(スタミナポーション)治癒の水薬(ヒールポーション)毒消し(アンチドーテ)がそれぞれ一本ずつよ!」

「まあ、今更、鼠に噛まれるようなことはないと思うけどね……」

 

 闘技場では人数分のポーションを持って戦いに臨むことができる。

 三種類のポーションから所持上限まで好きに組み合わせて持っていく方式で、今回青年剣士たちは、それぞれ一本ずつ合計三本を持ち込んでいる。

 

「ともかくやるぞ!!」

「もちろん!!」

「こんなとこでやられるもんですか!!」

 

 象が大きく叫びを挙げたのと同時に、開戦の合図が鳴り響いた!

 闘戯開始(デュエルスタート)

 

 行動順は以下の通り。

行動順名前先制力備考
女魔術師122D664+機先2
女武闘家82D643+機先1
象A61D66
象B51D65
青年剣士42D613
巨大鼠×631D63

 

 最初に動いたのは女魔術師!

 術師が先制できたのは大きい!

 

「先ずは雑魚ごとぶっ飛ばすわ! カリブンクルス( 火石 )クレスクント( 成長 )ヤクタ( 投射 )!」

 

 女魔術師の呪文行使判定:基礎値15+攻撃呪文熟達1+2D665+クリティカルボーナス(火の遣い手)5=32! (残り呪文回数4→3)

 女魔術師が紅玉の杖(ガーネットスタッフ)を掲げ、呪文発動体と共鳴させて火の魔力を高めていく!

 直径20mにもおよぶ火球が膨れ上がった!

 

「いいぞー!」「派手にやれー!!」「ぶっ殺せー!」

 

 これには観衆も大興奮だ!

 

 

「やべえ、めっちゃ呪文の火力が出てる……」

「これ、私たちの出番あるかしら……?」

 

 青年剣士と女武闘家は後に備えるために、熱波の中で目を凝らしている。 

 

「いくわよっ! 吹き飛べ、燃えろ、消し炭になれ!! 【火球(ファイアボール)】!!」

 

 爛々と、炯々と、煌々と目を輝かせる女魔術師が、紅玉の杖を振り下ろした。

 それに伴い、直径20mの【火球】が、象と鼠の群れへと落ちた!

 

 呪文行使が大成功(クリティカル)だったため、呪文抵抗も大成功でなければ軽減不能……。

 象Aと象Bの出目は、いずれもクリティカルではなかった!(象A:2D626、象B:2D636

 巨大鼠はモブなのでダイスは振らないため抵抗不能。

 

 ダメージは、『7D62423323+魔術師Lv5+呪文威力増強1-装甲値』で算出。

 さらに、爆心地になった象Aは追加で『1D62』のダメージ。

 

「「PAOOOOOOOOONNNNNN!??」」

 

 爆心地の象Aには、『威力27-装甲値4=23』のダメージ! 残り生命力は『象生命力42-ダメージ23=19』。

 その隣の象Bには、『威力25-装甲値4=21』のダメージ。残り生命力21。

 

 痛みに嘆く象たちの悲痛な叫びが闘技場にこだまする。

 

「「「「「「RRRRAAAATTT!!??」」」」」」

 

 もちろん巨大鼠ごときが耐えられるわけもなく、巨大鼠6匹は、一瞬で炭化し、さらに爆風で散らされて煤となって散っていった。

 

「えげつない威力ね……!」

「いいえ、一撃で決められなかったのが不満だわ!」

「向上心のあるこって!」

 

 次に攻撃を決めたのは女武闘家。

 

 熱気に揺らめく地面を駆け抜け、半竜娘から譲り受けた【竜牙刀(シャープクロ―)】の祖竜術を永続化させた『竜爪の鉤爪(バグナウ)+3』を嵌めた両手を振りかざした。

 象Aに対して二刀流技能による二連撃!

 

「ハイヤァッ!!」

 

 一撃目:命中基準値17+2D634-二刀流ペナ4=20

 二撃目:命中基準値17+2D622-二刀流ペナ4=17

 

 象Aの回避はそれぞれ9+2D622=13<20と9+2D614=14<17で回避不能!

 

「PAAOOOOONNN!!」(弟よ! 一撃は引き受ける!)

「PAO!?」(兄さん!?)

 

 しかし、象Bが護衛技能を発動し、横入りしたことで、一撃を引き受けた。

 

 命中時に【強打攻撃・斬】の技能により、達成値に+1。しかし、命中ダメージボーナスは上昇せず。

 一撃目ダメージ:竜爪バグナウ(1D31+11)+発勁加算2+命中ボーナス2D655-装甲4=20!(象B:生命力21→1)

 発勁で氣を込めて2点加算したため、女武闘家は2点消耗。

 

()ァッ!!」

「PAOO!!?」(ぐほあっ!!?)

「PAOOOOOOOO!!!」(兄さーん!!!)

 

 魔力を固めた竜の鉤爪が、割り込んできた象Bの腹を深く切り裂く!

 象Bは瀕死の重傷だ!

 しかし、まだ死には至らず、憎悪と闘志を高めているぞ!

 

 続いて象Bをすり抜けて接近した女武闘家から象Aへと二撃目の竜爪が迫る!

 二撃目ダメージ:竜爪バグナウ(1D33+11)+発勁加算2+命中ボーナス1D63-装甲4=15!(象A:生命力19→4)

 低くから飛び上がるようにして、女武闘家の鉤爪が、象Aの柔らかい腹を切り裂いた!

 

(セイ)ッ!!」

「PAOOO!!」(よくも兄さんを! ぐぼっ!)

「PAOOOO!!!」(弟よーーー!!! 許さん、許さんぞーー!!)

 

 氣を込めたことにより、女武闘家の消耗は2→4へ。

 発勁の反動で、女武闘家は肩で息をしている状態だ。

 あと一点消耗すれば、動きが鈍る(全判定-1)だろう。

 

「PAAAOOOOOHHHHH!!!」(いくぞ、弟よ!)

「PAOOOOOOHHHHHH!!!」(はい、兄さん!)

 

 赫怒に染まった血走った目で、二匹の象は、女魔術師に狙いを定めた!

 

「「PAAOOOOOOOOHHHHHHNNNN!!!」」((せめて一太刀!! 道連れだ!!))

「わっ、こっち来る!?」

 

 象Aの『踏みつけ』命中:11+2D652=18

 象Bの『踏みつけ』命中:11+2D614=16

 

「させねえよ!!」

 

 青年剣士の護衛技能発動! 一ラウンドに二回まで攻撃を肩代わり可能!

 

 青年剣士の盾受け!

 象Aの攻撃への防御:盾受け基準値16+2D656=27>象A命中18 盾受け成功!

 象Bの攻撃への防御:盾受け基準値16+2D646=26>象B命中16 盾受け成功!

 

「おらあっ!」

 

 青年剣士の大盾(タワーシールド)が、象Aの踏みつけを跳ね返し、さらに体ごと大盾を振り回して象Bにもぶつけ、女魔術師を攻撃から守り切った!

 青年剣士のダメージは『象A踏みつけ5D641421-盾受け装甲値14→0ダメージ』、『象B踏みつけ5D653534-盾受け装甲値14→6ダメージ』!

 

「あ、ありがと! 助かったわ!」

「おうよ、この程度軽い軽い!! 防御は俺に任せとけ!!」

 

 分厚い鎧と、巨大な盾に身を包んだ青年剣士は、この一党の守りの(かなめ)なのだ。

 

「じゃあ、これ投げてお終いにしてよね! ルーメン()オッフェーロ( 付与 )インフラマラエ( 点火 )――【破裂(ガンビット)】」

「剣で決着つけたいんだけどなあ……」

「つっても当たんないでしょ……。いいから早く破裂の石弾投げる!」

「りょうかーい」

 

 女魔術師は、【破裂】の力を込めた石弾を、青年剣士に渡した。(女魔術師呪文残り:3→2回)

 青年剣士はそれを受け取ると、投石紐でぐるぐる回して象Aと象Bの中間地点の地面へと放り投げた。

 【破裂】の行使:基礎値15+2D624=21→着弾から半径10m圏内の敵にダメージ!

 

「そうれっ、爆発で死ね!!」

 

 象Aの呪文抵抗:10+2D644=18<【破裂】達成値21 抵抗失敗!

 象Bの呪文抵抗:10+2D632=15<【破裂】達成値21 抵抗失敗!

 

「「PAAOOOOHHHHHNNNN!!??」」

 

 ダメージは『3D6433+魔術師Lv5+呪文威力増強1-象装甲値4=12』のため、二頭の象たちは、死亡!(象A生命力:4→-8、象B生命力:1→-11)

 炸裂した魔力爆発により、象たちは目や耳の穴からどろりとした血を流して、どうっと倒れた。

 

 青年剣士一党の勝利だ!

 

「やるなー!」「ど派手だったぜ!」「次も勝てよー!」

 

 派手な試合に、観衆たちは大満足だ!

 

「ぜはー、ぜはー、つっかれたぁ……今日はもう氣は打ち止めよー……」

「はあー、象が突進してきたときは死ぬかと思ったわ」

「今回は先手取れたから何とかなったけど、あとこんな調子で何勝しなきゃなんねえんだ……?」

 

 しかし勝利したにもかかわらず、女武闘家・女魔術師・青年剣士の顔は明るくなかった。

 

「黒曜に昇級して、弟に顔を見せに都に行く途中で……」女魔術師がため息とともに述懐し始め、

「護衛がてらそれに着いていってたら……」それにつられて女武闘家も顛末を思い出し、

「その途中でゴブリンが出て困ってた村があったから助けたはずが……」青年剣士もそれに続いて呟いた。

 

「助けた村が、実は違法奴隷商人の商品置き場の村で……」

「ゴブリン退治のお礼の宴会で出されたお酒に睡眠薬が……」

「意識が朦朧としてるうちに奴隷契約の証文にサインさせられちゃってて……」

 

「目覚めたら既に売られてて、違法に奴隷にされたことの証明もできないし……」

「とはいえ身体になにもされなかったし、装備も一緒だったのは不幸中の幸いだったけど……」

「売られた先が、あの悪名高き“火吹き山の闘技場”で……」

 

 はあ。と3人の溜め息が重なった。

 

「「「どうしてこうなった…………!?」」」

 

 

<『3.どうしてこうなった!?』 了>

 




半竜娘「おっ、勝ったみたいじゃの。花道の方に行って声でも掛けてみるかの」
TS圃人斥候「やった! あいつらの勝ちに賭けといた甲斐があったぜ!」
森人探検家「結構やるわねえ。只人はやっぱり成長が早いわ」


青年剣士くん一党のキャラクターシートを作成していますので、参考まで掲載します。
ゴブリンスレイヤーTRPG公式サイトに掲載されているキャラクターシート様式を埋めています。→公式サイト:https://ga.sbcr.jp/sp/goblin_slayer_trpg/

彼らのイメージ画像はアニメ公式サイトのこちらをご覧ください。
http://goblinslayer.jp/wp-content/themes/goblinslayer/images/episode/episode01_03.jpg

■青年剣士くんLv3
戦士一本伸ばし。メイン盾(盾受け装甲値14)。
装備はほかのメンバーから借金して揃えたので、リーダーだけど頭が上がらない(牧場防衛戦でのゴブリン退治で、一党はかなり懐が温かくなった)。
命中補正のある戦鎚でも持たせたかったが、名前が青年()()なので剣装備。

【挿絵表示】


■女武闘家ちゃんLv3
武道家一本伸ばし+気休めの斥候Lv1。この一党、絶対、罠に弱い。
半竜娘から貰った【竜牙刀】を永続化したカギヅメ(バグナウ)がメインウェポン。物理火力担当。

【挿絵表示】


■女魔術師(女魔法使い)Lv3
魔法火力担当。回避が死んでるので剣士くんの護衛技能が頼り。
知識神の奇跡が使えるようになった。

【挿絵表示】


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20/n 火吹き山の闘技場-1(同期との遭遇)

 閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入……それは善なる行い、そして功徳でもあります。みなさま、よき功徳を積みましたな。(いつもありがとうございます!)

●前話:
闘技場オーナーは、プロデューサーでダンジョンマスターでプレインズウォーカー。
青年剣士・女武闘家・女魔術師「どうしてこうなった!?」(剣奴落ち)



 はいどーもー! 

 火山(カザン)の闘技場のオーナーから御褒美を貰うために魅せプをするRTA実況、はぁじまぁーるよー!

 

 前回は火吹き山に到着したと思ったら、見知った顔が先に闘士として登録されててびっくりした、ってところまでですね。

 しかもその対戦相手は象です!

 やはりカザンと言えば象ですよ、プロデューサーさん!

 

 そして、その見知った顔——青年剣士くん・女武闘家ちゃん・女魔術師ちゃんの3人(それぞれ冒険者Lv3)ですが、なんとその象(怪物Lv6)2体と巨大鼠(怪物Lv1)6匹相手に勝っちゃいましたよ。

 いやあ、格上相手にやりますねえ!

 見たところ、今後の戦いも見据えてか、因果点も使わずに倒しきったようです。

 

 おっ、半竜娘ちゃんが健闘した青年剣士くんたちを讃えに花道へと向かうようです。

 

「よき(いくさ)じゃった! して何故(なにゆえ)ここで剣闘奴隷になっとるんじゃお(ぬし)ら?」

「あっ! 半竜の!」

 

 向こうもこっちに気づきましたね。認知されたネ。

 まあ、駆け出し剣闘奴隷に声をかける観衆も少ないですし、すでに別の興行も始まってますからね。

 そりゃ他に声掛ける人も居ないから、向こうも気づきます。

 

 では、青年剣士くんたちの【説得】ロールです。

 まあ要は、半竜娘ちゃん一党が、青年剣士くんたちを助ける気になってくれるかどうかですね。

 

 え? 普通は助けるんじゃないのかって?

 

 いや半竜娘ちゃんは蜥蜴人ですから、『闘技場で名誉の戦死』を遂げようが

「健闘したのう! (ほまれ)じゃ! (いさお)しは郷里に伝えようぞ!」ですし、

 逆に『勝ち残ってチャンピオン』になっても

「素晴らしか! (ほまれ)じゃ! 今夜は宴会じゃの!」ですよ。

 

 文化がちがーう!

 とはいえ、庇護を求められれば、それを無下にするほど薄情でもありませんが。

 でもなあ、半竜娘ちゃんの目には、彼らは庇護が必要なほどの弱者には映ってないと思うんだよなあ。

 

 というわけで、青年剣士くんたち三人の【交渉】ロールです。説得する場合は『知力集中+【交渉】ボーナス+2D6』で、誘惑する場合は『魂魄集中+【交渉】ボーナス+2D6』です。

 さて値は……?

 

 青年剣士(説得):知力集中5+2D634=12→中立的反応

 女武闘家(説得):知力集中5+2D625=12→中立的反応

 女魔術師(説得):知力集中8+2D636=17→好意的反応

 

 青年剣士くんと女武闘家ちゃんは、あまり弁が立たなかったようですね。

 

「頼むよ、助けてくれ!」

「お願い! ギルドに知らせるだけでも!」

「ふーむ、しかし勝てばいいんじゃろう? お主らならできるできる、絶対できる。その竜の爪もあるしの」

「「そ、そんなあ……」」(´・ω・`)(´・ω・`)

 

 しょぼーんとした二人はさておき、女魔術師ちゃんは、必死に自分たちが不当に奴隷にされ、望まぬ戦いを強いられていることをアピールしてきますね。

 

「好んでここに立ったわけじゃないのよ! 薬を盛られて奴隷にされて、気づいたらここに売られてたの! お願い、助けて! このままじゃ死んじゃう!」

「いや、お主もさっき大活躍じゃったじゃろ? 名を上げるチャンスじゃて。がんばれ、がんばれ」

「じゃ、じゃあ依頼するわ! 救出依頼よ!!」

 

 そーね、冒険者なら依頼は受けてくれるかも。

 目の付け所が良いですね、さすが都の学者先生は(ちが)ぁばいね。

 

「ふむ、対価は? 依頼というなら報酬がいるじゃろ?」

「う……」

「対価はどうするんじゃ?」

 

 一応聞く耳はある模様。

 

 ……からころ……。

 

 お? 女魔術師ちゃんがダイスロールしましたね。

 出目は……2D664で10のようです。結構な出目ですね。 

 

「な……」

「な?」

「な、なんでも、する、から! お願い!!」

「ほう……」

 

 ん? いま、なんでもするって(ry

 つまりさっきのは、追加で『交渉(誘惑):魂魄集中6+2D664=16→好意的反応』を振ったロールだったわけですね!

 対価に貞操全ベットで、さらに+5ボーナスってとこでしょうか。

 これなら、多少の不利益があっても助けてくれる感じですね。

 

 さて、半竜娘の反応やいかに……?

 

「よかろう! 何とか手を尽くしてやろうぞ!!」

「あ、ありがとう!」

「くかか! 報酬には期待しておくとしよう!」

「あ、そ、その、お手柔らかに……ね?」

 

 赤面する女魔術師が花道を行くのを見送ります。

 彼女らの今日の出番は終わりのようです。

 

 ほかのメンバーの反応?

 森人探検家とTS圃人斥候は、肩をすくめています。思春期の青い衝動に支配されたリーダーを呆れて見てますね。

 青年剣士くんと女武闘家ちゃんは、「さすがにそこまでさせる訳には……! これは何としても自力で勝ち残らなくては!」と、決意を新たにしているようです。でもまあ、保険があるに越したことはないのも事実。

 

 というわけで、チャンピオンになって名声をゲットするついでではありますが、女魔術師ちゃんたちを助けられるようにも立ち回ってみましょうか。

 

 ……っていうかですね、ここで彼らにフラグ立ててもらわないと、闘技場で青年剣士くんたちと半竜娘ちゃんの対戦カード組まれたときに、半竜娘ちゃんが彼らを粉☆砕しちゃうんですよね。

 「黄泉路の(ほまれ)じゃ、さぱっと死ねぃ!!」とか言っちゃって。

 しかもそのあと彼らの死体を捌いて心臓を食うというね。

 まあ、蜥蜴人流の供養なので、好感度が高いがゆえの蛮行なんですけども……。

 

 でもそれすると、さすがにギルド評価が下がるのでNG。異文化相互理解の壁は高い……。

 というわけで、銀等級に上がるRTA的にはギルド評価を下げる訳にはいかないので、ここでフラグを立ててもらう必要が、あったんですね。

 助けられればギルドの評価は逆に上がりますし、うまあじうまあじ。

 

 ……え? 青年剣士くんたちの交渉判定の出目が低かったら?

 その時は因果点積んでクリティカル扱いにするなり、あるいは森人探検家ちゃんの【逆転(リバース)】で出目を反転させるなりすれば良かったので、問題なかったのです、実は。

 

 

 

 

 というわけで、闘技場の雰囲気も楽しめたし、あのあと事情通っぽいブックメーカー風の観客を見つけて色々と話も聞けたし、次行きます。

 

 つまり、闘士登録ですね。

 森人探検家とTS圃人斥候とはここで別れます。

 彼女らは彼女らで、ここの都市で物資を揃えたりだのなんだの、やってもらうことがありますからね。

 

 では闘士登録の受付にGO!

 

「頼もうっ! 手前(てまえ)の登録をお願いしたいのじゃ!!」

「はーい、番号札取ってお待ちくださーい」

 

 受付のおねーさんの案内に従って呼ばれるまで待ちます。

 ……この受付の人も、実は人間じゃないかもですねえ。人造人間(ホムンクルス)とか?

 で、呼ばれたら、窓口で『吸血鬼の紹介状』を出して登録します。

 

「あらこれは……この紹介状でしたら、上級闘士から登録ができますが、いかがなさいますか?」

「一番上のランクで頼むのじゃ」

「では、登録できる中で一番上のランクに登録しますね」

 

 というわけで結構上級からのスタートです。

 

「……ああ、そうでした。今日は興業がスムーズに行ったせいか、時間が余りそうなんですよね」

「ふむ?」

「よければ、デビュー戦ということで、やってみませんか? 火吹き山名物、“無限組手(むげんくみて)”」

「ほう……」

 

 火吹き山の名物として、負けるまで延々と敵と戦い続けるという“無限組手(むげんくみて)”というものがあるとか。

 出てくる相手はランダム。ランダム要素はRTA泣かせですね……。

 

「少なくとも10連勝すれば、オーナーと会食する権利が与えられます。食事もですが、御土産にも期待してくださいね? この火吹き山の闘技場の名に懸けて、素晴らしいおもてなしをさせていただきますわ。もちろん、勝てば勝つほど、オーナーの歓心を買うことができるでしょう」

 

 ほーん。

 上手く事が運べば、初日から女魔術師ちゃんたちを身請けできるかもしれませんね。

 呪文はフルで使えますし、吸血鬼と戦った時の傷も癒えて疲労も抜けています。

 まあ、やれるだけやってみましょう!

 

「もちろんやるのじゃ!」

「そうおっしゃると信じておりました。では、こちらへ……」

 

 

 というわけで、短いですがキリがいいので今回はここまで!

 次回はランダムエンカウントの戦闘を限界ギリギリまでやっていく感じです!

 半竜娘ちゃんは、無事に十連勝以上して、火吹き山の闘技場のオーナーの魔術師に会えるのか!?

 

 ではまた次回!

 

 




半竜娘が女の子好きなのは、辺境の街の駆け出しの間では有名な話らしい。


そういえば主人公チームはパッション、クール、キュートで揃えるとバランスがいいとか聞きました。

半竜娘ちゃん一党なら、
 Pa(パッション):半竜娘、
 Co(クール):森人探検家、
 Cu(キュート):TS圃人斥候
ってとこでしょうか。

辺境三勇士なら、
 Pa(パッション):槍使いニキ、
 Co(クール):重戦士、
 Cu(キュート):ゴブスレさん
だと思います。
ゴブスレさんはキュート、はっきりわかんだね(異論は認める)。


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20/n 火吹き山の闘技場-2(無限組手)

 閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入……ありがとうございます! 誰かが書いた作品を読むだけでも一善に値しますから、感想まで書いたらそりゃもう百善くらいいきますね、間違いない。

●前話:
女魔術師「なんでもするから助けて!」
半竜娘「ん、いまなんでもするって(ry」

“カザンの闘技場”といえばトロールに象に……。そして無限に続く(遊べる)戦闘!

 


 というわけで、火吹き山名物、無限組手、開幕です!

 

 召喚される敵を倒しまくるモードですね。

 どうやら、この火吹き山の闘技場では、モブ怪物(モンスター)たちは、オーナーの魔術師が設置したスポーナーから湧き出て来る仕様になっているようです(ますますダンジョン経営ものっぽい……)。

 であれば、裏方の怪物補充係の過労死を心配する必要もないので、遠慮なくぶっ殺しましょう。

 

 こういう闘技場経営って実際は怪物とか闘士をばんばか死なせてたら経営が成り立たないですからね。

 推しが居なくなっちゃったら、その現場から足が遠のくでしょ? そういうことです。

 あと純粋にコスト面でキツイ。南方からめっっちゃコスト掛けて運んできた象さんが初日からぶっ殺されたら泣いちゃう。

 でも、この火吹き山の闘技場ではそんな心配はいらないみたいです。よかったよかった。

 

 半竜娘ちゃんが厳重な身体検査を受けている間に、もう少し解説しますね。

 あー、サービスシーンなのになー、写せないのが残念だなあ。

 シルエットで我慢くださいませ(心眼で観るのじゃ)

 

 さて、ゴブスレTRPGでは「継戦カウンター」という概念があり、連続で戦闘すると継戦カウンターが積まれ、それに応じて加速度的に疲労(消耗カウンター)が嵩んで、やがて死にいたります。

 具体的には無傷のまま戦い続けても、25ラウンド(=12分30秒)も連続戦闘すれば、気絶するほどの疲労が溜まります。シビア!

 もちろん、(スタポ)でドーピングしたり、【忍耐】技能で疲労耐性をつけてればもっと耐えられますし、疲労回復の【賦活】の術も有効です。

 逆に大怪我して食いしばり発動していると倍のスピードで疲労しますし、超過詠唱(オーバーキャスト)しようものなら一気に消耗して、限界が来るのが早くなります。

 

 というわけで、たくさんの敵を倒すためには、この継戦カウンターと消耗カウンターの管理が重要になるわけですね。

 そのため、四方世界においては(システム的には)、強いボスとの決戦より、雑魚との連戦の方がオツライ場合があります。

 ああもちろん、呪文使用回数の管理も忘れてはいけません。

 

 お、身体検査が終わったようですね。

 それではレギュレーションに従い、素の装備(術や矢弾の消耗品、交換用の能力強化系+3の指輪や腕輪(旅するにあたり、古竜の武器庫からパクってきたやつのストックを持ち運んでいた)は持ち込み許可された)とスタミナポーション1本(人数分のポーション)だけ持って、いざ闘技場へ!

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 昇降機で戦盆に上げられると、音圧すら感じるほどの歓声に迎えられます。

 美貌の女戦士(半竜娘ちゃん)の登場に、会場は沸いています!

 

「ひゅー!」「蜥蜴人か」「楽しませてくれよなー!」「顔がよくて強いとか期待の新人では?」

 

 それでは、対戦相手として何が出てくるかですが、これはダイスで決めます。出現数は2体固定です。

 具体的には2D8の出目によって、それぞれの怪物Lvを決めます。*1

 例えば、2D8の出目が37だった場合は、怪物Lv3のモンスター1体と、怪物Lv7のモンスター1体の、合計2体が出現します。

 

「さあて、初戦の相手はなんじゃいの?」

 

 ダイスロール! 2D877

 げげげ、初戦から怪物Lv7の相手が2体です!

 レベル高いな!

 

 うーん、リソースが充実している序盤で高レベルのモンスターと当たったのは、不幸中の幸いですが……。

 でもランダムだから、後半でも強めの敵に当たる可能性も依然としてあるんだよなあ。

 

 さて、相手の種族も2D8でそれぞれ決めます。*2

 2D872ということで、『魔法生物』Lv7と『巨人』Lv7の組み合わせになりました。

 つまり、魔法生物系Lv7:青銅人形(ブロンズゴーレム)と巨人系Lv7:人喰鬼(オーガ)です。

 

 闘技場の実況が、これこそ火吹き山の闘技場の洗礼だ、と言わんばかりに叫び、魔道具で拡声されて響き渡ります。

 

『挑戦者は半竜の娘! 【辺境最大】なる二つ名を持つそうだが、さて、この闘技場で通用するのか!

 上級闘士への推薦状を引っ提げ参戦だ!! デビュー戦に無限組手とは、闘技場側からの期待が伺える!!

 対するは無限組手の召喚陣! 出てきたのは~~……!

 青銅の巨兵! ブロンズゴーレム! 矢避けの加護に、金属の体! かなりの強敵だ!

 もう一体は……見よ、その筋骨と鋭い角! 人喰いの怪物! 尽きない生命力! オーガだぁ!!

 おお、滅多に見られない、巨体の揃い踏みだ! いきなり無限組手の洗礼が挑戦者を襲うぅ~~~!!!』

 

 ランダム選出次第では、ゴブリン2体とかのしょっぱい対戦カードもあり得ますからねえ。

 それに比べたら随分と見応えのある対戦カードのはずです。

 そんな強敵の出現に、会場のボルテージが上がっていきます!

 

 先制判定は、半竜娘ちゃん9、オーガ7、ブロンズゴーレム5でした。

 というわけで、先手は半竜娘ちゃんからです。

 交戦開始距離は15mで固定です。至近距離ともいえる間合いです。

 

「態勢を整えるのじゃ、長丁場じゃからのう。イーデム( 同一 )ウンブラ()ザイン( 存在 )――【分身(アザーセルフ)】!!」

『挑戦者は、手堅く初手【分身】! 長丁場を見据えた選択だー!』

 

 分身を呼び出し、さらに半竜娘本体は、自由行動で指輪と腕輪を回避特化(技量強化+3、体術熟達+3)に付け替えてターンエンド。

 呪文使用回数は本体残り:7→6回、分身:6回です。

 基本的には、分身メインで呪文を使う感じですね。分身は次のラウンドから行動します。

 

「GUOOOO!!」「GOOOOREEMMM!!」

『オーガとブロンズゴーレムが、分身には目もくれず突撃する! 狙いはもちろん本体だ!』

 

 そしてオーガとブロンズゴーレムが突撃してきます。

 しかし、今の半竜娘ちゃん本体は、『技量強化の指輪+3』と『体術熟達の腕輪+3』の効果で、物理攻撃の回避に関してはいつもより+6もされていますから、こいつらの攻撃は固定値分だけでも回避可能なんだよなあ。

 回避ダイスロールはファンブルではなかったので、“見てから回避余裕でした”。

 

『挑戦者、避ける、避ける避ける~~! かすらせもしないぞ~~!』

 

 1ラウンド終了したので、継戦カウンター:0→1です。

 では2ラウンド目。

 先制順は、半竜娘本体(2D626+3)、分身(2D621+3)、ブロンズゴーレム(1D65)、オーガ(2D621)の順です。

 

「このラウンドまでは態勢を整えるのじゃよ。セメル( 一時 )キトー( 加速 )オッフェーロ( 付与 )――【加速(ヘイスト)】!」

「こっちも同じく、【加速(ヘイスト)】じゃ!」

 

 一瞬だけ指輪を知力強化のものに付け替えて、本体は加速の詠唱をしました。詠唱後は戻します。

 同じく分身の方も加速の詠唱をします。

 出目は本体6と分身7。達成値は30と31*3、よって、両者の加速の加算値(ボーナス)は『+4』です!

 残り呪文使用回数は本体:6→5回、分身:6→5回です。

 

『挑戦者、相手の攻撃に脅威を感じていないのかー!? 自己強化の呪文を積み始めたぞー!! これはおそらく【加速】の呪文! これ以上にキレが増すと、もはや手が付けられないぞ!』

 

 相手のオーガとブロンズゴーレムの攻撃も当然回避(ファンブルではなかった)。

 分身は指輪と腕輪を回避特化に付け替えはしていませんが、【加速】によるボーナスで余裕の回避です。

 2ラウンド目が終了して、継戦カウンターは1→2。

 

 

 

 3ラウンド目は、どっしり構えて、オーガとブロンズゴーレムに先に行動させ、半竜娘分身が【加速】の効果で2回行動、本体は出目が奮わず行動は1回のみ。

 分身から本体へ、【竜血(ドラゴンブラッド)】併用で【竜眼(ドラゴンアイ)】を使用して、10分間命中ボーナスに+4。

 さらに、【竜血(ドラゴンブラッド)】併用で【竜爪(シャープクロ―)】を本体に行い、本体の爪に『装甲貫通』『命中+2』『威力+2』の効果付与(効果時間一時間)。

 これにより、分身の残り呪文使用回数は5→1回。

 

『おおっ、ついに挑戦者が動いたぞ! 祖竜の威力を爪に宿し、ブロンズゴーレムに二連撃だ!!』

 

 そして、満を持して半竜娘本体の攻撃です。

 指輪と腕輪を『技量強化+3』『武術熟達+3』に付け替え、【二刀流】技能でブロンズゴーレムに二連撃! 

 命中判定は

 1撃目:基礎値16+指輪3+腕輪3+加速ボーナス4+竜眼ボーナス4+竜爪ボーナス2-二刀流ペナ4+2D664=38、

 2撃目:基礎値16+指輪3+腕輪3+加速ボーナス4+竜眼ボーナス4+竜爪ボーナス2-二刀流ペナ4+2D613=32

 となり、それぞれの威力ボーナスは+4D6。

 

『蜥蜴人自慢の爪が光って唸る! 青銅(あおがね)の体の何するものぞ!』

 

 ダメージは、

 1撃目:爪基礎(1D33+5)+武道家Lv6+竜爪ボーナス2+命中ボーナス4D63523-装甲値0(【竜爪】により装甲貫通)=29

 2撃目:爪基礎(1D31+5)+武道家Lv6+竜爪ボーナス2+命中ボーナス4D62461-装甲値0(【竜爪】により装甲貫通)=27

 よって合計56ダメージ!!

 

 ブロンズゴーレムの生命力(耐久値)は50なので、撃破です!

 

『一瞬! 一瞬です! 挑戦者の爪がゴーレムを一瞬でバラバラにしてしまいました!! スクラップ製造機だーー!!』

 

 一拍遅れて、ブロンズゴーレムの巨体が輪切りになって崩れ落ちます。

 3ラウンド目が終了したため、継戦カウンターが2→3です。

 

 

 4ラウンド目は、半竜娘本体も分身も2回行動。

 手加減してオーガを先に行動させるが、攻撃は回避!

 

『オーガの攻撃が唸る、唸る、唸る! しかし当たらない! これじゃあただの扇持ち(ブンブン丸)だ~!』

 

 そして分身が自分自身に【竜爪(シャープクロー)】。

 

『分身体の方も爪に魔法の輝きを宿す~。そして、連撃、連撃! 血しぶきが舞い散る! さらに体勢が崩れたオーガに、控えていた本体の強烈な一撃!! サジタル面切断! 真っ二つだ~!!』

「キエエェェェェエエエエイイイイ!!!」

 

 『装甲貫通』『命中+2』『威力+2』の効果付与(効果時間一時間)。分身残り呪文使用回数1→0。

 その後、分身による【二刀流】攻撃(一撃目命中27、二撃目命中28)により、ダメージ21+22=43ダメージ。

 オーガの生命力は55→12。

 そこに本体が動いてとどめ!

 縦に真っ二つです!

 

『強い! 強い! 絶対に強い!! しかしまだ一試合目! 続いてどんどん怪物は召喚されるぞ!!』

「望むところよな! じゃんじゃん持ってこい! 骨のあるやつ出てこい!! 手前(てまえ)が糧にしてくれるわ!!」

『挑戦者が吼える! あっ、ついでにオーガの心臓も食ってるぞ! 真っ二つにしたのはそのためか!?』

 

 わーい蛮族ぅ。

 心臓喰って血まみれのオリジナル笑顔ですよ、あっはっはっ。

 血しぶきを見れて観客も大興奮です!

 継戦カウンターは3→4です。

 

『さあ次に出てくるのは――』

 

 怪物Lvダイス:2D884

 種族ダイス :2D884

 

邪霊使い(コンジャラー)と土の自由精霊(フリースピリット)だ!

 邪霊使いは精霊術の名人! 自由精霊も強力な精霊術の使い手だ!

 一回戦の肉弾戦とは打って変わって、二回戦は術の飛び交う戦場になりそうだーー!』

 

 悪党(ヴィラン)Lv8の邪霊使いと、精霊Lv4の自由精霊ですね。

 先手を取られると厄介ですが、行動順は――

 

『動いたのは挑戦者たち!! 【加速】の魔術は強い効果を発揮しているぞ! あっという間に息の合った動きでコンジャラーとの距離を詰めた!!』

「術師から殺す!」「シィィィィッ!!」

 

 半竜娘本体と分身が先手。それぞれ二回行動のうちの一回目でコンジャラーにアタック!

 コンジャラーの回避は21。

 半竜娘本体の命中(【二刀流】使用)は34、38。分身の方は23、26。それぞれ命中!

 ダメージは、『半竜娘本体(30+23)+分身(22+29)=104』、104ダメージ!!

 

『ツープラトンの息の合った攻撃! コンジャラーがどちらを守るべきか混乱した隙に、爪が閃く!!

 あっという間にトランスアキシャル面切断! 四分割だ!!』

 

 コンジャラーの生命力は72 → -32。オーバーキル!

 

『さらに、挑戦者が動く! 精霊への攻撃だ! 相手に何もさせない速攻!!』

 

 半竜娘(分身)の【統率】技能により、本体の二回目の行動順を引き上げます。

 土の自由精霊への攻撃!!

 

『速攻の二連撃!! いかな精霊といえどもタツジンの爪にかかっては沈黙するしかない!!』

 

 自由精霊Lv4の生命力は20。半竜娘の爪を避けられるわけもなく、精霊界へと強制送還!!

 

『おっと、そうしている間に、コンジャラーの心臓も喰っている! 竜司祭の供養は過激だー!!』

「もぐもぐ。うむ、精霊の力がなじんだ心臓は、こう、まろやかでおじゃるな」

 

 はいはい、蛮族蛮族。

 継戦カウンターは4→5。継戦カウンター5になったとき、消耗カウンターが+1されます。

 

 消耗カウンターが積まれると、その累積数に応じてペナルティが課されます。

 

消耗ランク累積消耗カウンターペナルティ
ランク16消耗カウンター全判定-1
ランク210消耗カウンター全判定-2、移動力50%減
ランク313消耗カウンター全判定-3、移動力50%減、生命力50%減
ランク415消耗カウンター気絶、全判定-4、移動力50%減、生命力50%減
ランク516消耗カウンター死亡

 

 

 

 

『2試合目は相手に何もさせずに血祭りにあげたぞ! そして次は何が出る!?』

 

 怪物Lvダイス:2D875

 種族ダイス :2D812

 

『出てきたのは――小鬼の酋長、ゴブリンチーフ! そして巨人、トロル!!』

 

 まあ、ここまで来たらもうあとはワンターンキルを繰り返すだけです。

 トロルの先制判定が大成功しましたが、ブンブン大振りなど当たるわけもなく。

 さらに半竜娘ちゃんたちは、【加速】と機先のボーナス合計+7があるので、まあ期待値出せれば二回行動よゆーです。

 このときも当然二回行動!

 ゴブリンチーフもトロルもこのラウンドで撃破!(継戦カウンター:5→6)

 

 

 

 

『挑戦者が止まらない! 竜の爪に切り裂けぬものなどないというのか~!! そして雑魚の心臓は喰わぬとばかりに死骸を蹴り転がす! 四回戦の相手は――』

 

 怪物Lvダイス:2D887

 種族ダイス :2D851

 

『エルダーグレータースピリット! ゴブリンチーフ! いずれも精霊術の名手!』

 

 精霊Lv8:古の大精霊(エルダーグレータースピリット)! 小鬼Lv7:小鬼酋長(ゴブリンチーフ)

 

『ああっ、しかし速攻! 挑戦者の爪の前に為すすべもない! しかも精霊が消える前にその核に食らいつく~~!!』

「んぐっ、精霊の核は、魂にガツンとくるのう!!」

 

 ――撃破!!(継戦カウンター:6→7)

 

 

 

 

『五回戦、おっと、強敵続きのところに、完全な雑魚だ。観客席もこれには失笑。魔犬(ヘルハウンド)歌鳥人(ハルピュイア)だ!』

 

 怪物Lvダイス:2D821

 種族ダイス :2D868

 デーモンLv2:魔犬(ヘルハウンド)、悪党Lv1:歌鳥人(ハルピュイア)

 

『鎧袖一触! あっという間にナマス切りだ~!!』

 

 ――撃破!!(継戦カウンター:7→8、消耗カウンター1→2)

 

 

 

 

『さあ六回戦!  出てきたのは悪霊(ゴースト)鰓人(ギルマン)! あっ』

 

 怪物Lvダイス:2D814

 種族ダイス :2D885

 悪党Lv1:鰓人(ギルマン)、アンデッドLv4悪霊(ゴースト)

 

『普通なら物理攻撃が効かないゴーストですが、既に挑戦者の爪は、祖竜の魔力が宿っていますからね~、一瞬で蹴散らされましたね~。ギルマンはそんな解説をしてるうちにヒラキにされてます』

 

 ――撃破!!(継戦カウンター:8→9)

 

 

 

 

『七回戦は~――』

 

 ――撃破!!(7連勝。継戦カウンター:10)

 ――撃破!!(8連勝。継戦カウンター:11、消耗カウンター:2→3)

 ――撃破!!(9連勝。継戦カウンター:12)

 ――撃破!!(10連勝。継戦カウンター:13)

 

『ついに10連勝! この快進撃はどこまで続く~!?』

 

 ――撃破!!(11連勝。継戦カウンター:14、消耗カウンター:3→4)

 ――撃破!!(12連勝。継戦カウンター:15)

 ――撃破!!(13連勝。継戦カウンター:16、消耗カウンター:4→5)

 ――撃破!!(14連勝。継戦カウンター:17)

 

『おっと、さすがに疲労が(かさ)んできたか~!? スタミナポーションを飲んで……分身に【賦活(バイタリティ)】を使わせた! しかしこれはオーバーキャストではないか?! ああっ、やはり分身は崩れ落ちるように消滅! そして流れるように再作成! 手慣れてるぞ!』

 

 スタミナポーションの効果により、消耗によるペナルティーを、一段階低いものと扱えるようになります。

 つまり、本来二段階目のペナルティーが発生する消耗カウンター10の直前まではペナルティーなしになります。いいからドーピングだ!

消耗ランク累積消耗カウンターペナルティ
ランク1→06消耗カウンターなし
ランク2→110消耗カウンター全判定-1
ランク3→213消耗カウンター全判定-2、移動力50%減
ランク4→315消耗カウンター全判定-3、移動力50%減、生命力50%減
ランク5→416消耗カウンター気絶、全判定-4、移動力50%減、生命力50%減
ランク517消耗カウンター死亡

 

 さらに分身の【賦活】×2により消耗カウンター除去!(消耗カウンター5→0)

 分身はオーバーキャストで消滅しましたが、再作成します。(呪文使用回数本体:残り5→4、分身:残り4)

 このラウンドは敵は一体撃破。一体は残ります。

 分身にかかっていた【加速】と【竜爪】の呪文は解けています。

 ラウンド終了。(継戦カウンター:18、消耗カウンター:0→1)

 

『そして分身が再び【加速】!』

 

 ――撃破!!(15連勝。継戦カウンター:19)(分身【加速】使用。呪文使用回数:残り4→3)

 

『分身もまた爪に魔力を宿して……挑戦者本体との協力技でバラバラにしたっ!!』

 

 ――撃破!!(16連勝。継戦カウンター:20。消耗カウンター:1→2)

 ――撃破!!(17連勝。継戦カウンター:21。消耗カウンター:2→3)

 ――撃破!!(18連勝。継戦カウンター:22。消耗カウンター:3→4)

 ――撃破!!(19連勝。継戦カウンター:23。消耗カウンター:4→5。本体の【竜眼】効果時間切れ)

 ――撃破!!(20連勝。継戦カウンター:24。消耗カウンター:5→6)

 

『素晴らしい! デビュー戦であっというまに20連勝!! ここはまさにモンスターの屠殺場と化している!!』

 

 ――撃破!!(21連勝。継戦カウンター:25。消耗カウンター:6→7)

 ――撃破!!(22連勝。継戦カウンター:26。消耗カウンター:7→8)

 ――撃破!!(23連勝。継戦カウンター:27。消耗カウンター:8→9)

 

『疲労が目立つぞ、挑戦者! しかしここで【賦活】! 相手が雑魚で、分身の手が空いた! その隙に一息いれてリフレッシュ! 気合いを入れ直した! 連勝記録はどこまで伸びる!?』

 

 分身の【賦活】×2で、消耗カウンター除去(9→0)。(分身呪文使用回数2→0)

 

『片手間に雑魚をバラバラにした! これで二十四連勝だ!!』

 

 ――撃破!!(24連勝。継戦カウンター:28。消耗カウンター:0→1)

 

 …………。

 ……。

 

『挑戦者、さすがに限界か!? ふらふらと足元が定まらない! いや、最後の力を振り絞って、渾身のっ、大・切・断んんん~~!!』

 

 ――撃破!!(50連勝。継戦カウンター:64。消耗カウンター:14→16)

 

 消耗ランク4により気絶!!

 

 戦闘続行不能により、“無限組手”終了!

 

 

『すごいすごい! まさかまさかの五十連勝!! この階級でこの実績は、闘技場でも歴代五本の指に入る大、大、大記録だ!! 目立った傷もなく、ただただ敵の血に塗れたまま立ち往生!! いやまだ死んでないけど! 

 誰がこの結果を予測し得たのか! 鮮烈な、鮮血のデビュー戦だ!!

 おおっ、救護班が来たぞ! 早くこの勇士を運んでくれっ、絶対死なせるなよ~!! って、いや! あれは! オーナーだ! オーナーが来たぞ!! オーナーが直々に勇士を運んでいきます!!

 みなさん大きな拍手を!! ブラヴォー! おお、ブラヴォー!!』

 

 半竜娘が、その戦いぶりに満足した火吹き山の魔術師に運ばれていきます。

 お姫様だっこで、観客の大きな拍手に包まれながら。

 あ、血塗れだった装束は、火吹き山の魔術師(オーナー)による【浄化】の奇跡で綺麗になってますので、ご心配なく。

 

 トロフィー【火吹き山の超新星】獲得!

 トロフィー【火吹き山の戦乙女】獲得!

 トロフィー【火吹き山の勇士】獲得!

 トロフィー【鮮血竜姫(ブラッディドラキュリーナ)】獲得!

 

 いやあ、こいつはスゲエぜ!

 というわけで、今回はここまで!

 火吹き山のオーナーとの会食はまた次回!

 

 

*1
怪物Lv決定ダイスがD8:怪物Lvダイスの上限は、半竜娘ちゃんの冒険者Lvである8を上限として設定。

*2
種族決定ダイスがD8:ルールブック記載の怪物の分類が八種類のため。1小鬼、2巨人、3動植物、4精霊、5アンデッド、6デーモン、7魔法生物、8悪党

*3
加速行使の計算式:基礎値21+付与呪文熟達3+2D6




TS圃人斥候「森人パイセンすっげえ、連勝数ドンピシャじゃん。万闘券で大儲けだぜ」
森人探検家「ふ、ふふふ、計算どおり、よ! ふふふ、ふへへへへへへへ、えへへへへへへへへ」
TS圃人斥候「あ、あまりの大金にパイセンが壊れた……!」



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20/n 火吹き山の闘技場-3(健闘の褒美)

 閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入……ありがとうございます! 小ネタも感想で拾っていただけると嬉しいものですし(前話の銃夢ネタとか)、逆に感想から着想をいただくこともあり、ありがたい限りです!

●前話:
闘技場で50連勝!
半竜娘「やりきったのじゃ……(立ったまま気絶)」
火吹き山の魔術師「ブラヴォー! おお……ブラヴォー!」



 はいどーも! 冒険者よりも闘技場の闘士の方が向いてる疑惑のゴブスレRTA実況、はーじまるよー。

 

 前回は半竜娘ちゃんの連勝大記録に、観衆のみなさん大興奮(スタンディングオベーション)だったところまででしたね。

 ちなみに画面外では森人探検家ちゃんとTS圃人斥候ちゃんが、闘券(馬券の闘士版)を大当たりさせて、かーなーり稼いだようです。

 火吹き山の街は、魔法技術の開発や魔道具の売買も盛んなので、この払戻を軍資金にすれば、相当いい魔法のアイテムが買えるかもしれません。

 空間圧縮鞄だの、読むことで能力値が永続的に増強される魔導書だのも、ひょっとしたら売っているかもしれません。店売りはなくても、オークションとか?

 

 さて一方、50連勝を果たした半竜娘ちゃんは、その健闘に感心した闘技場オーナーの魔術師の指示により手厚く看護され、無事一命をとりとめました。

 かなり危ないところでしたが、なんとかなって良かったです。

 呪文も使い果たして、疲労によって死ぬ直前まで戦い続けるという、蜥蜴人の(かがみ)みたいな見事な闘いでした。

 

 というわけで、今回は、

 

「見知らぬ天井じゃ……」

 

 からの、火吹き山の魔術師との会食です。

 出される食事も一級品でしょうし、お土産も期待できます。

 

 半竜娘ちゃんは、闘技場お抱えの治癒術士から【賦活(ヴァイタリティ)】の奇跡を受けて回復してすっきり目覚め、続いて、会食に向けて身だしなみを整えるべく、血や埃を流しに風呂に案内されたところです。

 まー、血まみれのドロドロでしたからねえ。生の心臓をおどり食いしまくったらそうもなります。

 

「ふんふふ~ん、ふふ~ん♪ “えすて”とやらは初めてなのじゃ♪ 楽しみじゃのう」

「はいお客様、お任せください。オーナーの前に出るにふさわしいように磨き上げさせていただきますわ」

 

 というわけで、ちょうどご機嫌で入浴&エステティシャンの女性から手技と術を受けているところですね。

 男女両相を持つ“浴槽神”の信徒であるというこのエステティシャンから、浴槽神の授ける奇跡を併用したエステを受けるという、超絶贅沢体験です。*1

 貴族でもそうそう体験できないことですが、ここは闘技場、強さこそがすべての空間です。勝者たる半竜娘ちゃんは、当然これを受けるだけの権利があります。

 

 小一時間ですが施術を受けると、そこにはすっかり美しくなった半竜娘ちゃんの姿が!

 

「こちら、お鏡をどうぞ。お若いのであまり施術の効果を体感できないかもしれませんが、精一杯努めさせていただきましたわ」

「ほう、これは……体の歪みや氣の滞りまで解消されておる。それにこの鱗の輝き! うむうむ、素晴らしいのう!」

「恐悦至極にございます」

 

 鱗も爪も磨き上げられ、髪も肌も輝かんばかりです。

 そのあとも、化粧師によって傷跡を隠す処置をされたり(コンシーラを塗られたり)、薄く紅を塗られたりして美しく整えられ。

 また、黒い鱗に映える紅いドレスを贈られたのでそれに袖を通したり……って、これチャイナドレスやないかい!?

 尻尾が出せるように後ろは工夫してありますが、あれ、これって、ドラコケンタウロス(ぷよぷよイチの美少女)を意識してる??

 

 でもかわいいのでOK!

 胸の谷間が見えるようにチラッとハート型に開けられたデザインもGOOD!

 闘技場のスタイリストさんGJ!!

 

「これで準備は整ったかの? 空腹が限界じゃし、あまりオーナーを待たせてもいかんのではないかの?」

「参りましょう。でも、オーナーは女性の身だしなみを急かすほど狭量ではありませんから、ご心配は無用ですわ」

「それを聞いて安心したのじゃ。さて、食事もじゃが、かの高名な“火吹き山の魔術師”殿にお会いできるとは光栄なことじゃ!」

 

 ある意味で完全武装になりましたので、これから交渉フェイズです。

 ……女魔術師ちゃんたちを救出する約束とか忘れてなければいいんですが。

 

「いやあ、世界の角に至った次元渡り(プレインズウォーカー)じゃというのは本当なのかのう!? 魔術談義もしたいが、闘技場のオーナーともなれば、武術の造詣も深いはず。いやいや、その高みまで実力を積み上げた武勇伝を拝聴すべきか……? 悩ましいのう、悩ましいのう」

「きっとオーナーは、話が尽きぬようでしたら明日以降もお時間をお取りくださいますよ。何せ、貴女は50連勝もしたのですもの。10連勝を5回よりも、格段に困難なことを成し遂げたのですから」

「であれば、ありがたいがのう、非礼にならぬようなら是非お願いしたいところじゃ」

 

 うーん、救出依頼、覚えてくれてるかなあ、どうかなあ。

 ……忘れてないといいんですけども。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

  △▼△▼△▼△▼△▼△

  ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

「おお、よくぞ参った!」

 

 晩餐室へと通された半竜娘を迎えたのは、非常に上機嫌の“火吹き山の魔術師”でした。

 闘技場のオーナーであり、また興行のプロデューサーでもある彼は、このあたりでは見ない様式の装束を身に着けており、席から立ち上がって自ら半竜娘を迎え入れます。

 熱烈な歓迎に半竜娘ちゃんが恐縮してますが、まあ、さもあらん。

 

(いやあ、これはすごい、かなわんのう……。戦闘用の装備でもないのに、この圧倒的なオーラ! 一体どれほどの研鑽を積めば……いや、ここで頂きの高みを確認できたのは僥倖じゃて! 手前(てまえ)もやがてはこのような高みに!)

 

 本人はもとより、晩餐室に置かれた家具や食器にも全て魔法が込められているようです。

 食事用のナイフやフォークは、最新の流儀なのか個々人の手元に用意されており、しかも【解毒】の魔法が込められているようです。

 机や椅子、置かれた調度品は、部屋の中の者の体調を整え、気分を上向かせ、食欲を増進するための魔法が掛けられているようです。

 そして、もしものときにオーナーと客人を守るための守護結界を張るための細工も。

 

「ほう、これらの魔法の品を看破できるか。蜥蜴人らしい英傑かと思いきや、なかなか魔導にも精通しておるようだな」

「……いえ、手前(てまえ)などまだまだ……」

「ふふふ、そう堅くならずともよい。よほど不作法でなければ咎めることもないし、君は十分な礼法を持っている。気楽にな」

「では、そうさせてもらうのじゃ!」

 

 半竜娘ちゃんは【礼儀作法】スキルを持ってるからな!

 

 ちなみに、蜥蜴人は上に立つ将軍級は力だけでも抜擢されますが(もちろん軍師は別に付けられる)、人喰鬼(オーガ)は将軍級には教養(魔術の腕前)が必須なので、蜥蜴人の方がヒャッハー度は高いみたいです。

 蜥蜴人は同胞が汚い手で殺されても『死んだ方が弱かった、仕方ない』で済ませますが、人喰鬼は名誉ある戦いを重視しますのでそういうときは係累が仇討ちに来たりしますし。やっぱり蛮族より蛮族してるよなあ、蜥蜴人は。

 だから、“火吹き山の魔術師”も、半竜娘ちゃんが魔術師としても確かな研鑽を積んでいることに感心したんですね。単なる魔術使いとしてではなく、その深淵を覗き、やがては盤外に至らんとする求道者の心意気を感じたわけです。

 

「あれだけ血を浴びて大暴れしておいて、君の本流は、武の道ではなく、魔導……いや、蜥蜴人ならば自らを高める信仰の道かな? そちらにあるようだ。存外、どうにも深い思慮を持っているのだな」

「やがては祖竜のごとき竜になるつもりじゃからの! 【核撃(フュージョンブラスト)】の息吹を吐いて、なにものも弾き返す鱗を持った父祖のごとき巨大な竜になるために、魔導も武術も信仰も、あらゆる研鑽を積んでおるところなのじゃ!」

 

 ゴジラかな?

 半竜娘ちゃんは、素質は十分なので、あとは修行して、核融合なりのエネルギーを取り出して生きていけるようにならないとですね。

 マグロ食ってるようなのはダメです。

 

 乾杯の合図でグラスを傾け、食前酒を飲んで口を滑らかにしつつ、話題はやはり闘技場での戦いぶりについてのものになります。

 

「【加速】を切らさずに【分身】とともに畳み掛けるやり方は見事だった。連勝記録を伸ばせたのは、分身による【賦活】の術の運用がものを言った面もあろう」

「褒めてもらってありがたいのじゃ! これは故郷の軍で検討されておった運用案の1つなのじゃが、本来は四人一組で、前衛で【竜爪】を使える武道家、【加速】使いの魔術師、【回復】担当の竜司祭、そして後衛を守る盾役で運用するはずのものなのじゃ!」

「それを一人で賄ったわけか。……いや、しかしそのような運用をしているとは寡聞にして聞かぬが……」

「あー、みんな前衛の攻撃役に志願するせいで企画倒れになったのじゃ……。【加速】の術は難易度が高く、維持し続けるのは困難じゃし、手前も最近漸く安定するようになったくらいじゃからのう」

「そうか、【加速】で一人の手数を二倍にするよりも、軍としての運用なら三倍四倍の人員を用意した方が早いのだな」

「そういうわけじゃて。まあ、闘技場ならかなり有効なスタイルじゃがのう!」

「今後は君の後追い(フォロワー)が増えるかもしれんな」

 

 ソロでの戦いにおける、【分身】・【加速】・【竜爪】・【賦活】の有効性は半竜娘ちゃんの50連勝が証明しています。

 というか、呪文行使の難易度が高いとはいえ【分身】がぶっ壊れなんですよね。呪文使用回数(呪的リソース)が増えるし、【賦活】が使えれば、消耗カウンターも除去できるし。

 低レベルのうちは運用が難しいけど、高レベルだと人権レベルで必須ですよね、【分身】の呪文。特に呪文使用回数が3回を超えると猛威を奮います。

 さすがTASさんのお墨付き。

 あと、1ラウンド二回行動可能にする上、クロックアップで全判定にボーナス与える【加速】も大概ぶっ壊れです。

 

 まあ、育ちきるまでは器用貧乏になっちゃいますけどねー。

 

「君の相手をさせるなら、怪物の数はもっと増やしてやっても良かったな」

「確かに雑魚であっても敵が増える方が辛かったじゃろうのう。今回は相手が2体だけに固定されておったから楽じゃった」

「分身を出せぬ者には倍の数相手にするのも辛いはずなのだがな。まあ、次の興行には期待してくれたまえよ、強敵を用意しよう」

 

 火吹き山の魔術師……いやもう“火吹き山P”でいいか。火吹き山Pは、食前酒で口を湿らせながら次の興行のプランを考えているようです。

 

「おお、是非ともお願いするのじゃ! チャンピオンになって凱旋すると決めておるのでな!」

「うむ、期待しよう」

 

 もぐもぐ。

 半竜娘ちゃんは大きな食卓に並べられる料理を次々と平らげていきます。

 いい食べっぷりです。

 火吹き山Pは全く食べませんが、孫を見守る祖父母みたいな感じで微笑ましく見守っている雰囲気です。なんかほっこりしてるなあ。

 

「オーナーは食べないのじゃ?」

「ああ、済まないが、飲食を要しない身体なのでね。食べられないことはないが、少し味をみる程度でいいのさ」

「……あっ、核の力を活力にしておるとか!? 父祖の伝説で聞いたことがあるのじゃ!」

「まあ似たようなものさ。君もやがては似たようなことが出来るようになるだろう」

 

 火吹き山Pは本当に少しだけ料理を口に運びます。

 んー、多分《死》の魔力を運用しているところからすると、アンデッドとか魔神とかの可能性が高いですし、あるいは人間だったとしも、かなりアストラルサイドに昇華して半神的存在になってるのかもしれませんね。

 それか、無限動力を備えたサイボーグだったりとか、異空間に巨大炉心を納めた巨大ロボから動力供給受けてる端末だったりとかかもしれませんが。

 

 その後も穏やかに会食は進み、次のようなことが通達されました。

 

・今回の戦績を以て、最上級の闘士として登録すること。

・闘技場が組む対戦カードにあと2勝したら“火吹き山のチャンピオン”(新人王)を名乗ってよいこと。

・その場合は、今後の興行と、冒険者稼業と両立できるように、運営からの連絡を受けることができ、かつ闘技場への転移門を開くマーカーともなる魔法の指輪を贈呈すること。

・火吹き山Pが集めた蔵書を納めた闘技場内大図書館への立ち入り許可を与えること。

・魔法の武具装備、道具を取り扱う売店における、高ランクアイテムの購入制限を緩和すること。

・闘士用の鍛冶屋の利用許可を与えること。

・その他、エステなどの福利厚生施設の利用許可を与えることなどなど。

 

 ……もうここの子になっちゃっても良いのでは?

 

「冒険者を辞めてこちらの専業になる気はないかね?」

「お誘いはありがたく、しかし、世には混沌が蔓延(はびこ)り、冒険の種は尽きぬもの。竜になるためにも、世界の広さを知るべきであろうしの!」

「で、あるか。まあ、四方世界の冒険者とはそういうものであるものな。私の闘技場からも、やはりそう言って巣立って行くものは多い」

 

 火吹き山Pは誘いを断られても気分を害すこともなく穏やかに笑っているようです。

 

「さて、では名残惜しいが、今日はここまでとしよう。いくつかさっき言った土産を持たせてやろう」

「かたじけない。次にまた、病と黒い油の次元界との戦いの話の続きを聞かせてほしいのじゃ!」

「ああもちろんだとも。まあ、さっきの闘士の引き抜き・身請けの話には応じられないが、彼らには幾らか便宜を図ってはやろうさ」

「よろしく頼むのじゃ。あの青年剣士らが光るものを持っているのは確かじゃし、闘技場の興行主として手放し難いのも理解したのじゃ。死なぬようにチャンスを与えてやってくれればそれでよいのじゃ」

 

 あー、一応、女魔術師ちゃんたちのことは忘れてなかったみたいですが……。

 これは逆に【交渉:説得(言いくるめ)】されちゃってますね。

 プロデューサー相手に口先で勝てる訳ないだろ! ってことですかねー。

 青年剣士くんたちは、火吹き山Pも目を付けてた期待の闘士みたいなので尚更無理です。

 

「しかし、褒美はこれでいいのか? 呪文使用の負担を肩代わりする『カートリッジ』*2や、斬った相手をウサギに変える剣*3だとかもあるが?」

「まあ、そのあたりはまたの機会にするのじゃ。今回はこれだけ頂ければ十分じゃ! これによって次はきっと連勝記録を伸ばして見せようともさ!」

「さて、そう簡単にいくかな? 次はレートを上げさせてもらうし、もっと敵を増やしたりもするぞ? 君も最上級闘士になったのだからな!」

 

 半竜娘と火吹き山Pは、互いに不敵に笑い合います。

 

 

 ちなみにお土産は次のようなものです。

 

 

 10連勝記念:図書館の蔵書閲覧における知人同伴許可(銀等級の魔女さんを連れてくること想定)

 

 20連勝記念:青年剣士・女武闘家・女魔術師の蘇生権付与(この闘技場では《死》の迷宮と同様に魂の輪廻を阻害しており、蘇生権を認められた闘士は、完全な死からも蘇生可能。半竜娘ちゃんが自らのファイトマネーから2回分(=6人分)の蘇生代金を先払い済み)

 

 30連勝記念:内部空間拡張鞄×3(いわゆる四次元ポケットやアイテムボックス、インベントリ。一党全員分。一つの鞄に馬車一つ分の荷物が入る高級品)

 

 40連勝記念:黒い蓮の花びらのカード(所持者の瞑想時における呪文使用回数の回復数にプラス1(重ね掛け不可。一日あたりの回数制限なし)、または瞑想時間短縮:-1時間(重ね掛け不可。一日あたりの回数制限なし)、または高速詠唱技能付与(1ラウンドに主行動で2回詠唱。回数制限1日1度))*4

 

 50連勝記念:鮮血呪紋(両手)(生命・スタミナ吸収の呪紋。素手攻撃の与ダメージの20%(切り捨て)の負傷点回復、または与ダメージの5%(切り捨て)の消耗カウンター回復。無機物系には無効だが、アンデッドや精霊相手のときは、構成するマナを抉って生命力に変換可能。相手に20点以上のダメージを与える限りはほぼ無限に戦え……継戦カウンターが嵩むと1ラウンドあたりの消耗カウンター蓄積が2点、3点になるから無限には無理だわ。)(後日施術予定。興行はそれが馴染んだあと。)*5

 

 

「では、次の興行の日程は追って伝えるのでな。生命吸収の鮮血呪紋の施術は明日、ここの受付を訪ねると良い。そして是非とも、次も観客を沸かせる戦いを頼むぞ!」

「任せてほしいのじゃ!」

 

 と、そこですんなり別れられれば良かったんですけどねえ。

 晩餐室から出たとき、廊下に控えていた従者が、火吹き山Pの方に何事か囁きます。

 それを聞いた火吹き山Pは、いかにも嬉しそうな雰囲気になります。

 

「ふふふ、やはり彼らは英雄の器だな」

「彼ら、というと、あの手前(てまえ)と同じ街の剣士ら3人のことかや?」

「そうだとも。ひさびさの脱走者とのことだ。君も見にくるかね?」

 

 おっと、早速、蘇生権の出番が来そうですね……。

 

 

 

*1
浴槽神の奇跡:原作で言及はあるがルールブックには専用【奇跡】は掲載されていない神。おそらく、お湯や香油を触媒にエステしながら使用することで能力値を向上させる奇跡とかがあるはず。あってほしい。あったらいいな。

*2
カートリッジ:ユゴスから来た知性菌類の技術を用いて使用者の血液を元に作り上げられた生体部品が、呪文使用の負荷を肩代わりすることで、倍の呪文使用を可能にする。半竜娘ちゃんは鑑定判定に成功し、『脳缶』の文言を把握したので辞退した。

*3
相手をウサギにする剣:T&T(トンネルズアンドトロールズ)カザンの闘技場より『ザ・グレート・ソード・キャロット』。切りつけると無機物有機物問わずにウサギにする呪いを掛ける。

*4
黒い蓮の花びらのカード:モチーフは「マジック:ザ・ギャザリング」の「睡蓮の花びら/Lotus Petal」。あのBlackLotusの花びらなのか、産出するのは1マナで、レアリティはコモン。フレーバーテキスト引用:「考えてもみてよ」とハナは花びらをなでながらしみじみと言った。「こんなに美しい花が、みにくい物欲を起こさせるなんてね」

*5
生命吸収の鮮血呪紋:モチーフは「マジック:ザ・ギャザリング」の「印章持ちの挑戦者/Sigiled Contender」。絆魂の能力により、ダメージ分のライフを回復させることが可能。バンテージの下から輝く紋章が現れる絵がかっこいい。フレーバーテキスト引用:「よし。ウォーミングアップは終わりだ。」




青年剣士「脱走する!」
女武闘家「えくそだす!」
女魔術師「自力救済!」

=================

森人探検家「わー、すっごいお金もちになったわ。交易神さま、ありがとうございます。お布施奮発します、きっと必ず」
TS圃人斥候「装備とか魔法の道具とか見に行こうぜー。辺境の街より品揃え良いだろうしさー」
森人探検家「それよりまずはご飯にしましょ。リーダーは闘技場に招待されて戻らないみたいだし」
TS圃人斥候「さんせーい」

破落戸(ごろつき)「おっと嬢ちゃんたち、ちょいと俺らに恵んで……」
森人探検家「邪魔」 TS圃人斥候「おことわりー」
ガッシ!ボカッ!
破落戸(ごろつき)「ぐえー」

森人探検家「これ面倒ねえ。もう5人目?」
TS圃人斥候「まあそのうち止むっしょ」
森人探検家「交易神の神殿にお布施して、界隈に話つけてもらうかしら」
TS圃人斥候「じゃあオイラはここの圃人租界の顔役にでも会ってくるかなあ」
森人探検家「ま、何にせよご飯が先よ。いい肉食べましょ」
TS圃人斥候「破戒エルフなんだよなあ……」




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20/n 火吹き山の闘技場-4(VS 脱走者)

閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入……ありがとうございます! 感想をいただくことで、暑さにも負けずもりもり書けてます!(1万字) ありがとうございました!
(キリのいいところまで書こうとしたら長くなっちゃいました(悪癖))

●前話:
火吹き山の魔術師「ご褒美たくさんあげりゅ」
半竜娘「わーい!」
火吹き山の魔術師「ついでに脱走者を見物にいかない?」
青年剣士・女武闘家・女魔術師(((いやな予感がする)))

※前話の「黒い蓮の花びらのカード」や、「鮮血呪紋」についての説明に一部訂正(エラッタ)かけてます。(黒蓮花弁は瞑想時重ね掛け不可とか、鮮血呪紋適用は素手攻撃のみとか)


 信じて救出を頼んだ同期がいつのまにか敵として立ちはだかる実況はじまるよっ!

 なお半竜娘ちゃんは、立ちはだかる側な模様。

 

 “火吹き山の魔術師”こと“火吹き山P”との会食を終えた半竜娘ちゃん(チャイナドレス装備)。

 たくさんのお土産を貰い、いよいよ帰るところでしたが、そこで火吹き山Pから誘いを受けます。

 「脱走中の剣奴を見に行かないか」と。

 

 脱走中の剣奴というのは、どうやら辺境の街の冒険者同期である青年剣士・女武闘家・女魔術師の3人のようです。

 彼らは、都へ行く道中で騙されて奴隷になってしまい、この火吹き山の闘技場に買われてしまったのです。

 たまたま再会した半竜娘ちゃんに、女魔術師は救出を依頼します――女魔術師自身の献身を報酬として。

 とはいえ、青年剣士と女武闘家は、仲間に犠牲を強いるのを良しとせず、こうやって自力での脱出を敢行したようですが。

 

 今は、チャイナドレスもそのままに火吹き山Pの導きに従って、彼ら3人の元へと向かっているところです。

 

「しかしどういうつもりじゃ? 脱出できないように閉じ込めることも十分できるじゃろうに」

「ははは、何のことはない、こういう趣向も面白いかと思ってな。鍵をちゃちなものにすり替えておいたのだ」

「そんで手前(てまえ)と引き合わせて何をさせようというのじゃ」

 

 お互いに対立させて、その葛藤や裏切りに愉悦を覚えるため、とでも言うのでしょうか。

 

「んー、立ち合いは強く当たってあとは流れで? あ、なんなら協力してこちらに刃向かっても良いが」

「……あー、特に考えておらんのじゃな」

 

 深謀遠慮があるわけではない模様。

 

「あと、貴殿のお相手はそのうちじゃの。勝ち目はないしの、現時点では」

「ふふふ、まあそのうち挑んで来るといいとも、大歓迎だぞ?」

手前(てまえ)が竜になるころにでもお願いするのじゃ」

「……君にも(スパーク)が宿っていることを願うよ」

 

 とかなんとかやってるうちに、広間で人面獅子(マンティコア)と戦う3人を発見。

 2体のマンティコアから攻撃を受けていますが、タンク役の青年剣士は後衛を守ってよく耐えています。

 

「セイヤァッ!!」

「CRRROOORR!!!??」

 

 あ、女武闘家が壁を蹴って飛び上がり、マンティコアの背中から爪で突き刺すように落下致命攻撃しましたね。

 トドメも刺せたようです。

 

 これでマンティコアは残り1体。空を飛んで後衛へと向かわんとしています。

 

「翼を封じるわ! クラヴィス()カリブルヌス( 鋼鉄 )ノドゥス(結束)!」

「GROO!??」

「よっしゃ、あとは任せろー!! でやああ!!」

「GGGRRRRROOOOOOOOOO!!! ――……!!!」

 

 女魔術師の【施錠(ロック)】の呪文により、マンティコアの翼が“閉じた”状態で固定されます!

 当然、マンティコアは落下!

 落下ダメージでふらついたところを、青年剣士が駆け寄って首を刎ねました。

 

「ほう、上手いもんじゃ」

「良い魔術の使い方だ、やはり見どころがある」

「連携も良しじゃの」

 

 広間の上階から下を伺い、講評する半竜娘と火吹き山P。

 まだ、青年剣士たちには気づかれていません。

 しかし、敵をすべて倒し終えた青年剣士たちがこちらにやってくるのも時間の問題です。

 

「では降りるとしようか」

手前(てまえ)もかの?」

「ここまで来たんだ、付き合いたまえよ」

 

 半竜娘と火吹き山Pは、広間に繋がる階段の上から降りるべく、吹き抜けになっている階上に姿を顕します。

 

「あー! 半竜の! なんでここに、しかもそんなドレスで!?」

「ま、まさか、オーナーを誘惑しに!?」

「そこまでして救出してくれようと……!?」

 

 んー?

 てっきり「この裏切り者!」くらい言われるかと思いましたが、そんなことはなかったぜ!

 これは半竜娘が信用されてるのと、それ以上に青年剣士くんたちがお人好しなだけですね。

 あと、この状況で半竜娘が敵だったら詰むから、無意識に考えないようにしているのかもしれません。

 

「いや、普通に闘技場で50連勝して最上級闘士になったからじゃが。100枚抜きじゃ!」

「「「ごじゅっ……ひゃくまいぬき!?」」」

「もちろんソロで」

「「「ソロでっ!?」」」

 

 まあ、昼に会ってその日の夜に、さっきの今でそんなことになってるとは思わないですよね。

 

「ああ、ちなみに彼女は、そのときの褒賞として、君たちの蘇生権を請い願い、それぞれ二回分の……つまり合計六回分の蘇生料金を支払ってくれているぞ。感謝することだ」

「そ、蘇生権? 死んでも生き返れるってこと、ですか?」

 

 礼儀作法をかろうじて修めている青年剣士が、火吹き山Pに確認します。

 

「そう、その通り。この火吹き山においては、死と魂は、我が掌中にある。どれだけ無惨に死んでも五体満足に蘇生させることなど造作もない」

「すまんのう。解放についても交渉したんじゃが、力及ばずじゃったのじゃ。まあ、流石に合計六回も死ぬ前に、お主らなら解放条件は満たせるはずじゃ! 期待しておるぞ、手前(てまえ)も、こちらのオーナーもな」

「え、ええ~……?」

 

 死んでも生き返るからって、誰も彼も“死んでいいなら安心だな!”とか“死ぬまで頑張ってみるか!”とかは思うわけないんですけどね。

 でも蜥蜴人にはそんな機微は分からんのです。

 特に半竜娘ちゃんは、日常的に記憶を共有してる【分身】を超過詠唱(オーバーキャスト)や発勁で文字通り魂削って衰弱死させてますから、なおさら感覚が浮き世離れしてます。

 実は蜥蜴人の中でもかなり頭おかしい(クレイジー)な部類ですよ、この娘。(みんな知ってる)

 

「“君たちは、このまま部屋に戻ってもいいし、相手に挑みかかってもいい”……さて、どうするね?」

 

 挑みかかったら“14に行け(死ぬがよい)”って言われるやつですよねそれ?

 

「ちなみに、戻っても脱走のペナルティーはないし、さきほどそこで倒したマンティコアも戦績に数えてやろう、これで解放にも近づく」

「なぜ、そのような大盤振る舞いを? 俺た……私たちは、逃げ出そうとしたんですよ」

「そういう気骨のある若者が好きだからだよ」

 

 うーむ。難しいですね。

 素直に引き下がったら、“気骨のある若者”に当てはまらなくなっちゃうかも? そしたら火吹き山Pの気が変わって、殺されちゃうかもしれない……なーんて考えてしまいますよね。

 

「……どうする?」

「……引き下がったとき約束を守ってくれるのかしら」

「反骨を望むスタンスなら、ここでさらに蛮勇に振る舞うべき?」

「……いや、勝てないだろ……」

「……それは向こうも分かってるでしょうから、落としどころを……」

 

 青年剣士たちは、こそこそと作戦タイムです。

 

「ふむ、意見はまとまったかね?」

「……はい! こっちだって生半な覚悟で脱走しようとしたわけじゃあないんですよ!」

「とはいえ、オーナーのあなたと戦うのも違うと思います。私たちだって、あなたが私たちに薬を盛って違法奴隷にした本人じゃないのは分かってますし、恨みはそんなにないですから」

「つまり?」

「闘技場の流儀に従います! 確か、解放条件の1つは、1日で3連勝すること、そうでしょう!? 私たちは、“牢番の護衛兵”、“マンティコア”の2連戦は済ませました! 3回戦を希望します!!」

 

 女魔術師の啖呵を聞いて、火吹き山Pは、やがてくつくつと笑い始めます。

 

「くっくっくっ、ふははははは、あーっはっはっは! なるほど、よく分かっているじゃないか! であればやはりこうするべきだろう」

 

 (こら)えきれずに哄笑した火吹き山Pは、半竜娘の方に視線をやって、ウィンクしたようです(まあ、顔見えないんですけど、雰囲気で)。

 ははーん、こっちに無茶振りする気だな?

 

「こちらも最上級闘士を出そう。まあ、()()は装備も置いてきているし、呪文も今日はもう使えぬが、そちらも連戦で疲労しているし丁度いいだろう」

「結局こうなるのじゃなー」

「双方、相手を殺す必要はない。瀕死に追い込めば良いこととしよう。もちろん、死んだとしても蘇生しよう。君たちには蘇生権が付与されているし、最上級闘士にもそれはデフォルトで与えられている」

 

 ほらやっぱりー!

 

「ふーむ。本調子ではないが、やるだけやってみるのじゃよ」

 

 というわけで、決闘開始(デュエルスタート)!!

 

「もちろん、負けるつもりはないがの!」

 

 フラグ乙。

 半竜娘ちゃんは、相手が因果点使ってきたときの理不尽さを知るといいよ!

 

 

 

  △▼△▼△▼△▼△▼△

  ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 まずは状況を整理します。

 

 青年剣士くんたちは、継戦カウンターが7、消耗カウンターが2まで積まれていますが、ペナルティーが生じるほどは疲労していません。

 呪文使用回数は、女魔術師が残り1回です。

 また、脱走の際に、自分たちの装備を見つけているので、完全武装です。

 生命力は減っていないようです。いや、剣士くんだけ少しダメージ受けてますね。

 そして因果点は、現在5点です。まだまだダイスの神の加護があります。

 この戦いは、いかに上手く因果点を使えるかに掛かっていると言えます。

 

 対する半竜娘ちゃんは、治療やエステで回復したので、継戦カウンター0、消耗カウンター0です。生命力も全回復してます。

 しかし呪文使用回数は回復していないので、残り使用回数は0です。

 装備は、盾と防具、杖などは置いてきていますし、術の触媒も持っていません。

 ドレス着てますが、普通のドレスなので防御力なんかある訳もなく。せいぜい【交渉:魅了】にボーナスが付くくらいです。

 アクセサリは、闘技場で気絶したときに身に付けていた『技量強化の指輪+3』と、『体術熟達の腕輪+3』のままです。回避特化の構成ですね。ああ、あとは『真言呪文の発動体+3』のネックレスもつけていますね。

 なお、半竜娘ちゃんの方の因果点は既に11点なので、実質使用不能です(6ゾロ出さないと有効化できない)。いや、50連戦のときの相手に、場に出ただけで因果点を積み上げさせる特技:【英雄を憎む】を持ってるのが何体も出てきたんですよ……。

 

 

 

 半竜娘ちゃんは、階上から身を翻して飛び降り、剣士くんたちと5メートルの距離を置いて対峙します。

 近接攻撃の間合いです。

 

「まあ、蘇生できるというし、全力でやるのじゃよ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「やるぞっ、やるぞっ、やってやるぞ!」

「手加減は……してくれなさそうね」

「全力で行くしかないわ!」

 

 先制順は以下のとおりになりました。

 

行動順名前先制力備考
女魔術師122D664+機先2。半竜娘と同値のためさらに比べあい:11で勝利
半竜娘122D636+機先3。女魔術師と同値のためさらに比べあい:9で敗北
女武闘家102D645+機先1
青年剣士82D626

 

 おっと、女魔術師(呪文遣い)に先手を取られちゃいましたね!

 

「竜の爪には火が似合うってね! アルマ( 武器 )インフラマラエ( 点火 )オッフェーロ( 付与 )――【火与(エンチャントファイア)】! 頼んだわよ!」

「任せて! 絶対に勝つ!!」

 

 女魔術師の杖から(ほとばし)った魔力が、女武闘家の両手の【竜爪のバグナウ+3】に纏わりつき、炎のオーラを煌々と燃え上がらせます。

 これにより、女武闘家は、攻撃命中時に『4D6-装甲値』の炎属性の追加ダメージを与えます。*1

 さらに、魔力によって竜爪バグナウの真の力が励起され、鋭い【竜爪(シャープクロー)】のごとき輝きが宿ります。これにより、『装甲貫通』効果が有効になりました。

 

「いくわよー!!」

「受けて立つのじゃ!!」

 

 さらに、女武闘家が因果点を積んで先制順を引き上げます!

 女武闘家たちの現在因果点は5。女武闘家の祈念判定:2D653+幸運1=9>5により、祈念成功!(青年剣士一党の因果点5→6)

 女武闘家の先制判定を大成功(クリティカル)扱いにし、先制力に+5!

 よって先制力は15となり、半竜娘を上回りました!

 

 女武闘家が走り、炎を纏った竜爪バグナウを、半竜娘へと叩きつける!!

 

「ハァアアッ!!」

「速い!!?」

 

 女武闘家の【二刀流】技能により、左右の竜爪バグナウが、半竜娘に襲い掛かります。

 

 竜爪バグナウ(右)命中判定:基礎値17-二刀流ペナ4+2D626=21

 竜爪バグナウ(左)命中判定:基礎値17-二刀流ペナ4+2D634=20

 

 当たればタダでは済みません。

 今は盾にできる大篭手(ガントレット)も嵌めてませんしね。

 なので回避を試みます。

 

「なかなか鋭いが、この身を捉えることはできんぞ!」

 

 半竜娘回避判定(対右爪):技量反射9+武道家Lv6+体術2+腕輪3+2D616=27>21

 半竜娘回避判定(対左爪):技量反射9+武道家Lv6+体術2+腕輪3+2D643=27>20

 

 回避成功(命中失敗)

 

「うおっりゃあああ!!」

 

 しかし、女武闘家は諦めません!

 因果点を積んで祈念します!(現在因果点6)

 

 祈念1(右爪命中):2D643+幸運1=8>6(因果点6→7)

 祈念2(左爪命中):2D623+幸運1=6<7(因果点7→8)

 

「左手は、見せ札……っ!」

「ッ!? こっちはフェイントかや!?」

「右が本命! 炎の爪よ!!」

 

 祈念の結果、右の爪が命中しました!

 命中失敗(回避成功)命中成功(回避失敗)への因果転変です!

 

「ぐっはあああ!?」

 

 【火与】の効果により、竜爪バグナウ自体の斬撃に加えて、さらに炎の爆発が生じます!

 

 半竜娘ダメージ(対右爪):竜爪バグナウ(1D32+5)+武道家Lv5+発勁1+命中ボーナス2D646-装甲値0(装甲貫通)=23!

 半竜娘ダメージ(炎追撃):4D66143-装甲値3(鱗)=11!

 

 合計34ダメージ!

 

 半竜娘の現在の生命力は35*2なので、生命力残り1!

 食いしばり発動ぎりぎりラインで耐えた~!!

 

「ぐうっ、やりおるのう!! じゃが、まだ倒れてはやらんぞ!!」

「うっそでしょ、これ食らってまだ立ってるの!?」

 

 爆発により半竜娘のチャイナ服がはじけ飛び、鱗にも深い傷が刻まれますが、なんとか踏みとどまります。

 

 そして半竜娘の手番です。

 

「先手で殺しきれなんだのは痛恨じゃのう! 恐るべき竜の威力を知れい! 『二角の小竜(ディロフォ)よ、偽りなれど臓腑に宿す瘴毒を、我が息吹に宿らせたまえ』! 毒の(ポイズン)竜息(ドラゴンブレス)】!!」

 

 呪文使用回数は尽きていますが、超過祈祷(オーバーキャスト)してのドラゴンブレスです!

 毒の竜息(ドラゴンブレス)の行使判定:祖竜術基礎値18+2D642=24。

 威力は『4D62442+竜司祭Lv9=21』で、装甲による軽減は不能。

 さらに呪文抵抗に失敗すると、3ラウンドの間、1D6の毒ダメージを受けることになります。

 

「カアアアァァァァアアアアッッッ!!!」

「「「ウワーッ!!??」」」

 

 青年剣士たちの呪文抵抗は、以下のとおり。

 青年剣士:呪文抵抗基礎値7+2D663=16<24 抵抗失敗!

 女武闘家:呪文抵抗基礎値6+2D633=12<24 抵抗失敗!

 女魔術師:呪文抵抗基礎値7+2D636=16<24 抵抗失敗!

 

 青年剣士は護衛技能を発動し、攻撃を肩代わりしようと試みます。

 使える護衛技能は2回分。

 しかし、二人とも守ってしまうと、青年剣士は1人で3人分のブレスを浴びることになります。

 いくらこの中で一番体力があるといっても、さすがに耐えられないでしょう。

 祈念で因果点を積むにしても、これ以上は攻撃を当てるために取っておくべきでしょうし……。

 

「術士を守って!」と女武闘家が叫びます。女武闘家なら、一撃は耐えられるでしょう。

「武闘家を守って!」と女魔術師が叫びます。呪文を使い果たした後衛を守っても意味はありません。温存するならアタッカーです。

 

 毒のブレスはもう今にも到達します。

 

(どっちを、選ぶ……?)

 

 刹那の判断。

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

 そして――

 

 青年剣士の【護衛】! 女武闘家をブレスの射程から弾き飛ばした!

 女武闘家へのブレスを代わりに受けた……! 21ダメージ!

 

 青年剣士の【護衛】! 女魔術師を後ろに庇った!

 女魔術師へのブレスを代わりに受けた……! 21ダメージ!

 

 ブレスの勢いは弱まらない!

 青年剣士へさらにブレスのダメージ! 21ダメージ!

 

 青年剣士生命力:21 → 0 → -21(食いしばり発動) → -42 < -28(食いしばり限界)

 

 青年剣士は力尽きた……。*3

 

ぐはっ……。――……

「そんな……っ」「あ、あああああああああっ!!」

 

 崩れ落ちる青年剣士の体を、庇われた女魔術師が受け止めます。

 しかし、瘴毒に焼けただれた青年剣士は、既にこと切れていました。

 

「おおっ、美事(みごと)じゃ! 流石見込んだだけのことはある! ――げほっ、げほっ」

「「このっ、絶対に許さない!!」」

 

 半竜娘のオーバーキャストによる消耗は、2D625=7。

 半竜娘は消耗ランクが1になったため、今後の全判定に-1のペナルティを受けます。

 

 これにて1ラウンド目、終了です。

 

 

 

 

 2ラウンド目の行動順は以下のとおり。

 

行動順名前先制力備考
半竜娘112D636+機先3-消耗ペナ1
女武闘家72D642+機先1
女魔術師62D613+機先2
青年剣士-死亡

 

「盾役は潰した! あとは順々に潰す!」

「そうはさせない!」

 

 女武闘家が先制判定に+5しようと、因果点を積んで祈念します(現在因果点8)。

 女武闘家の祈念:2D611+幸運1 ファンブル!(因果点8→9)

 

「……精神の動揺が、足運びにも出ておるぞ!」

「――幼馴染が死んで、動揺しないわけあるかぁっ!!」

 

 蜥蜴人とは違うのです……。

 残念ながら女武闘家は間に合いません。

 

 半竜娘は、青年剣士に庇われたために手近に残っている女魔術師に標的を定めました。

 

超過詠唱(オーバーキャスト)はさせぬぞ」

「あ……」

 

 半竜娘から女魔術師へ、二刀流技能による左右の連撃!

 半竜娘の爪(右)命中:技量集中10+武道家Lv6+格闘武器熟達3+2D611-消耗ペナ1-二刀流ペナ4 ファンブル!

 半竜娘の爪(左)命中:技量集中10+武道家Lv6+格闘武器熟達3+2D666+クリティカルボーナス5-消耗ペナ1-二刀流ペナ4=31 クリティカル!

 

「きゃぁっ!?」

「むっ!?」

 

 右の爪は空振りました。

 もう動かないはずの青年剣士が、女魔術師を庇おうと動いたようにも見えましたが、まさか目の錯覚でしょう……。

 

「逃がさん!」

 

 しかし、左の爪からは逃れられません!(女魔術師の回避はクリティカルではなかった)

 

「シィィィィッ!!」

 

 半竜娘の一閃!

 ダメージは、爪(1D31+5)+武道家Lv6+命中ボーナス4D65432-女魔術師装甲値3=23

 女魔術師の生命力:15 → -8(食いしばり発動)

 

「ぐ、ぎっ!!? うぅぅぅぅっ!?」

 

 さらにクリティカルなので痛打表適用!

 痛打の効果は2番により、『骨折と出血により消耗カウンター+1D64』。

 とっさに庇った腕ごと切られ、さらには半竜娘の馬鹿力で腕の骨が折れてしまいました。

 

 消耗カウンター合計6となり、女魔術師は、消耗ペナルティとして全判定-1となります。

 

「はぁ、はぁ、骨、折れてっ、血が……――」

「……オーナー! もう瀕死とみなしてよかろう!?」

「そうだな、術士の彼女は、それ以上はレフェリーストップだ」

 

 死亡までの残り生命力(7)が、食いしばり含めた許容ダメージ最大値(30)の30%(9)を下回った(7<9)ため、瀕死とみなされて火吹き山Pからストップがかかりました。

 

「術士をよくもっ! ……覚悟なさい」

 

 残ったのは、炎に揺らめく竜爪を構えた女武闘家だけです。

 

「いざ、参られい!」

 

 半竜娘も対峙して、焼けただれた傷から滴る血を振り払うように構えを取ります。

 

「……ッ!!」

 

 女武闘家の攻撃!

 二刀流で攻撃です!

 

 竜爪バグナウ(右)命中判定:基礎値17-二刀流ペナ4+2D625=20

 竜爪バグナウ(左)命中判定:基礎値17-二刀流ペナ4+2D612=16

 

「効かん!」

 

 半竜娘回避判定(対右爪):技量反射9+武道家Lv6+体術2+腕輪3+2D666+クリティカルボーナス5-消耗ペナ1=36>20

 半竜娘回避判定(対左爪):技量反射9+武道家Lv6+体術2+腕輪3+2D615-消耗ペナ1=25>16

 

 回避成功(命中失敗)

 

「このおおお、あああああああああっ!!!」

 

 女武闘家の右手の攻撃は完全に空を切りました。

 いくら因果点を積んで祈念しても、こうも見事によけられれば、当たりはしないでしょう。

 左手の攻撃に賭けます。

 

 女武闘家は、因果点を積んで祈念!(現在因果点9)

 

 祈念(左爪命中):2D664+幸運1=11>9(因果点9→10)

 

 祈念成功!

 命中失敗(回避成功)命中成功(回避失敗)への因果転変!!

 

「はあああああああああああっ! イヤーッ!!!」

美事(みごと)っ!! グワーッ!!??」

 

 竜爪の斬撃と、炎の爆発!

 

 半竜娘ダメージ(対左爪):竜爪バグナウ(1D32+5)+武道家Lv5+発勁1+命中ボーナス1D64-装甲値0(装甲貫通)=17!

 半竜娘ダメージ(炎追撃):4D63626-装甲値3(鱗)=14!

 

 半竜娘生命力:1 → -16(食いしばり発動) → -30

 

 死亡までの残り生命力(5)が、食いしばり含めた許容ダメージ最大値(70)の30%(21)を下回った(5<21)ため、瀕死とみなされて火吹き山Pからストップがかかります!

 

「そこまで! 勝者は、剣士一党!」

 

 青年剣士一党の勝利です!

 

「見事な闘いであった! これで君たちは、晴れて自由の身だ!

 さて、感動の一幕に満身創痍で仲間が欠けていては詰まらんだろう、それっ! 偉大なる勇士が死より帰還する!

 “この新たなる生は天使からの贈り物ではなく、目的のために再び戦えという命令である”!!」*4

 

 火吹き山Pが腕を振ると、毒に侵されて死んでいた青年剣士が息を吹き返します。

 さらには、その余波で、女魔術師の傷も治っていきます。

 

「お、俺は死んだんじゃ……!?」

「私の腕の傷が治って……頭目も生き返った!!?」

「よ、よかった~」

 

 勝利をいよいよ実感した彼らは、泣きながら抱き合います。

 その首から、奴隷の首輪が外れて床に落ちて、三つの祝福の音を立てました。

 

「かーっ、負けた負けた! もっと研鑽が必要じゃな!」

「まあ、よくやったさ。50連勝した後の、急な闘いにしてはな。《宿命》と《偶然》が今回は向こうに微笑んだというだけだ」

「向こうも連戦の後じゃ。言い訳にはならんよ」

「そう気にするな。ま、この戦績は非公式ということで、黒星はつけないでおいてやろう」

 

 半竜娘は、爆発で鱗がぼろぼろになってしまった身体を抱えて、体育座り(三角座り)していじけています。

 

「あー、やっぱり嫌われてしまったかのう……」

「さて、どうかな?」

 

 落ち込む半竜娘。

 そんな彼女に対して、火吹き山Pは、ローブの下で意味ありげににやりと笑ったようです。

 

「おーい! 半竜の! ありがとうな、蘇生権を貰ってくれてて!」

「ちょっと、あんた殺されたのにそんなんでいいの!?」

 

 青年剣士が寄ってきて、半竜娘の手を取って立たせます。

 しかし、女武闘家が納得できない様子で詰め寄ってきました。

 

「……いや、よく考えたらさ、あれ、ほぼ自滅みたいなもんじゃん? 二人分のブレスを肩代わりしないで、どっちか片方にしたりしておけば、全員生き残る方法は、たぶんあったわけだし……」

「だけどっ」

「まあまあ。いいじゃない、結果オーライよ。それにほら、勝ったんだし? みんな生きてるし? 水に流しなさいよ」

「うー、うー……」

 

 女武闘家は憤懣やるかたないという様子で、半竜娘の方に寄ってきます。

 

「ん!」

 

 そして手を差し出しました。

 

「……これは」

「水に流す! 仲直りよ!」

「そうか。そうか! おうおう、すまんかったのじゃ! これからもよろしくなのじゃ!」

 

 ()()()()半竜娘がその手を、パシッと握ります。あっ。

 

 

 ――BLAM!!!!

 

 

 竜爪バグナウに付与された【火与】による爆発追撃ダメージ!

 ダメージ:4D65511-装甲値3(鱗)=9!

 

「「「あっ」」」

「げほっ……無念……ばたり」 

「「「あああああああ~~~っ!!??」」」

 

 半竜娘生命力:-30 → -39 < -35(食いしばり限界)

 

 死亡確認!!

 

「“おお、半竜の娘よ。しんでしまうとはなさけない”」

「ちょ、ちょっと、起きて! 死なないでよ!」「わ、わたし、そ、そんなつもりじゃなかったのよー!?」「これ俺と同じく半分は自滅では……いや、それより、そ、蘇生を! 俺らの蘇生料金一回分削ってでも!」

 

 なんたるウカツか!!

 

 というところで今回はここまで。

 次は蘇生された半竜娘ちゃんが闘技場で大物と戦います!

 半竜娘ちゃんは“火吹き山のチャンピオン”になれるのか!?

 ではまた次回!

 

*1
女魔術師の火与エンチャントファイア:真言呪文基礎15+2D641=20。炎のオーラにより『+4D6-装甲値』の追加ダメージ

*2
半竜娘の生命力35:魂魄強化の指輪を外しているのでいつも(生命力38)より下がっています。

*3
青年剣士の選択:決して最善ではないが、TAS(ティーアース)RTA(アルティーエ)が憑いているわけではない彼らは、いつも最善を選べるとは限らないのです……。

*4
この新たなる生は~:「マジック:ザ・ギャザリング」の『蘇生/Resurrection』のフレーバーテキストから引用:「この新たなる生は天使からの贈り物ではなく、目的のために再び戦えという命令である。」――セラの戦いの祝福




半竜娘ちゃんはこのあとスタッフがきちんと蘇生しましたよ。
あと、完全に痛み分けになったので、女武闘家ちゃんたちとも無事仲直りできました。

=====================

そのころの森人探検家&TS圃人斥候

森人探検家「おっにくー、おっにっくー」
TS圃人斥候「くんくん。あ、これ痺れ薬入ってる」
森人探検家「……」

厨房へ

森人探検家「この料理を作ったのは誰だぁ!?」
シェフ「ばれちゃ仕方ねえ、薬で痺れさせて奴隷にするつもりだったの……あひん」ドサッ
TS圃人斥候「痺れ薬付きのダーツだぜ、自分の盛った毒で寝てな」
森人探検家「ナイスアシスト」
TS圃人斥候「後衛が敵に突っ込まないでくれよなー」
森人探検家「それより、家探しするわよ。初犯とは思えない」
TS圃人斥候「あいあいまむ」

そして大立ち回りして最終的に違法奴隷商人を壊滅させたのでした。

TS圃人斥候「あ、これあの剣士・女武闘家・女魔術師の証文じゃん」
森人探検家「こいつらの一味に毒盛られたのねえ。じゃあ、こいつらから()()()()()()()()お金のうち、あの子らの売買代金の分は本人たちに返してあげましょうかねー」

 


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20/n 火吹き山の闘技場-5(報償品確認)

閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入……ありがとうございます!
そして火吹き山含め、素晴らしいシナリオを提供してくださったゴブスレに詳しい人(原作者のKUMO様)にも感謝を!(高レベルPC向けに臨機応変に改変しちゃってますが)
もちろん、拙作を応援くださる読者のみなさまにも特大の感謝を! ありがとうございます!


●前話:
半竜娘「あっ」 KABOOOOM!!!
火吹き山の魔術師「おお、半竜娘(はんりゅうむすめ/ドラむすめ)よ、しんでしまうとは、なさけない。……ぷふーっ」(腹を抱えて笑っている)
爆発オチなんてサイテー!

※獲得称号を【鮮血竜女】→【鮮血竜姫】に変更しています。読み方は“ブラッディドラキュリーナ”のままです。



 はいどーも! 因果点が残っている冒険者(アドベンチャラ―)はやはり強敵でしたね……。

 半竜娘ちゃんはプレイアブルになってからは初黒星ですかね。

 倒されるボスの視点を味わいました……、これ避けられたやろ!? と思ったら当たるし、先手取れたやろ! と思ったらひっくり返されるし。

 相手のダイス目次第では十分勝ち目もあったのですが……。

 まあ、四方世界は“冒険の時代”を迎えていて、“冒険者”たちはある意味、神に愛されし種族と言えますから、シカタナイネ。

 

 流石に最後の爆発は自業自得でしたが。

 火吹き山の魔術師――火吹き山Pもこれには大爆笑。

 ひいひい笑いながらその場では最低限の蘇生をしてくれました。

 

 

 んで、明けて翌日。

 

 わーい、画面が肌色でいっぱいだ~。

 なにごと?

 

「これは一体……」

「うぅん……」

「……なんじゃ?」

 

 悩ましげな声をあげたのは、誰でしょう?

 ……あ、わかった女魔術師ちゃんの声だこれ。

 ついでに、ついつい、肌色のすべすべのたゆんたゆんを揉んでしまいましたが不可抗力ですったら不可抗力です。

 

「あら、目が覚めましたか」

「エステティシャンの神官殿? ああ、そうか、なるほど……」

「ご賢察のとおりですわ」

 

 部屋の扉の方には、浴槽神の()()でもあるエステティシャンさんがいらっしゃいます。

 神官、傷の消えた己の身体、隣に眠る乙女……。

 つまり隣に女魔術師ちゃんがいるのは、処女同衾の奇跡【蘇生(リザレクション)】を使ったからというわけですね!

 おそらく、火吹き山Pに最低限の蘇生をされたあと、残りの回復は、四方世界の奇跡の術である【蘇生】によってなされたのでしょう。

 火吹き山Pの蘇生が最低限だった理由は……半竜娘ちゃんが役得を味わえるようにとか?

 

「ふむ。体調は完全回復じゃな! 流石は処女同衾(どうきん)のちから」

「浴槽神さまの御力ですからね?」

「もちろん、()の神にも感謝を」

 

 神妙に合掌した半竜娘が、上体を起こしてベッドを見れば、傍らには女魔術師と、その反対側に女武闘家も一糸纏わぬ姿で寝ています。

 処女と寝れば死にかけでも(よみがえ)る、聖典にもそう書いてある。実際救命措置だから、淫猥は一切無い、イイネ?

 女魔術師と女武闘家も、疲労が深かったのか、まだ起きる気配は全くありません。

 

「では、ごゆるりと……。お二人が目覚められましたら、湯浴みの準備をしておりますので、そちらの呼び鈴でお呼びくださいませ」

「うむ、焼け焦げた鱗も生え替わっておるし、古い鱗を取ったりなんだりで、また世話になるのじゃ!」

「お待ちしております」

 

 浴槽神の神官さんは、丁寧に礼をして部屋を辞しました。

 さーて、では二人の乙女が起きるまで、まったり添い寝しますかー。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 ……。

 …………。

 

 

 

 というわけで、迂闊にも炎のオーラを纏ったままの武具に握手してしまった半竜娘ちゃんが(はかな)くも死亡し、しかし処女同衾の奇跡で蘇生全快してから数日後。

 

 女魔術師からの救出依頼の達成状況についてですが、結果オーライではあるものの、内実は微妙です。

 まあ、ほぼ自力で出てきてますしね、彼ら。

 半竜娘ちゃんの貢献と言えば、青年剣士くんの蘇生関係くらいです。

 しかし、青年剣士くんの蘇生料金の前払い分を恩に着せるのは、流石に半竜娘ちゃんが下手人でありマッチポンプすぎるのでNG。

 蘇生権付与については、処女同衾で相殺というところでしょう。

 

 半竜娘曰わく、

「負けたからのう、報酬をたかるつもりはないのじゃ。あの者らは自らの力で、解放を勝ち取ったのじゃ! 天晴(あっぱ)れ見上げた者どもよ!!」

 とのこと。

 

 あと、森人探検家とTS圃人斥候が、闘技場の城下で、青年剣士一党を違法に奴隷にしたやつらのアジトを壊滅させてきたらしいです。ものの成り行きで。

 そこから回収した金品のうち、彼ら自身の奴隷としての売値にあたる分を剣士くんたちにカンパしてました。

 剣士くんたちはあとで必ず返すって言ってましたが、万闘券当ててる森人探検家たちにとっては端金なので気にしなくても良いし、そもそも慰謝料を彼らの代わりに取り立てたにすぎませんからね。

 言いくるめてそのまま彼らの懐に納めさせました。

 

 TS圃人斥候や森人探検家たちとも合流してそういった餞別だのを渡し、青年剣士くんたちとはお別れです。

 

「そんじゃあ、弟さんによろしくのー」

「お金はあのクソ奴隷商人からの慰謝料ってことでとっとけよなー」

「リーダーのお世話もありがとねー」

 

「大冒険だったし、弟に自慢するわ」

「ああ、犯人たちをぶちのめしてくれてありがとな!」

「こちらこそ世話になったわ!」

 

 ということで、女魔術師ちゃんたちとも無事に仲直りして、都に行くという彼女らを見送りました。

 奴隷にされたせいで、かなり旅程が遅れてるらしく、急ぎたいみたいですね。

 女魔術師ちゃんの弟さんも心配してるはず。

 

 めっちゃ速い馬車を持ってるので「送ろうか?」と申し出ましたが、断られちゃいました。

 まあ、辺境の街方面(半竜娘たちの帰り道)とは反対方向なので、遠慮する気持ちは分かります。

 

 名残惜しいですが、お別れです。

 

「やっぱり結構気に入ってた? あの子たちのことは」

「そうじゃのう、よき戦士らじゃと思うのじゃ! 次は手前(てまえ)が勝つがの! あとは、あの剣士が女であれば言うことなかったのじゃが。武闘家も剣士と()()()のようじゃしなあ。術師の方は添い寝も満更ではなさそうじゃったし、またの機会にコナをかけてみてもよいかもしれんのう」

「剣士に性転換術式はやめてやれよー? フリじゃねーぞ? あとあいつら二人はつがいどころか、まだ付き合ってもねーと思うぜ」

「そうなのかの? いや武闘家がまだ処女であったし、そうか。あと、性転換術式( アレ )使ったら芋づる式にお主を性転換したのがギルドにバレるじゃろ。今はもうそうそう使えん手になったのう、残念ながら」

 

 だべりながら街中(まちなか)を歩いた半竜娘一党は、宿に戻ります。

 宿の部屋で、お互いの戦利品の御披露目です。

 

「で、これが黒蓮花弁のカードなのね。マナを集めるサポートしたり、ある程度カードにマナを蓄えたりもできるから、その場でそれを解放すれば、1日1回擬似高速詠唱ができるっていう」

「そのとおり! 一枚の花弁を封じてこれなんじゃから、花ひとつや花畑丸ごととなれば、どれほどなのか計り知れんのう」

「でも、呪文を肩代わりするカートリッジってのでも良かったんじゃねーか?」

 

 TS圃人斥候の指摘に、半竜娘は腕を組みます。

 カートリッジ、ねえ。脳缶ですしねえ。

 

「うーむ、いや、さすがにアレは哀れに過ぎる。魔術師的には別に良いのじゃが、竜司祭的にはのぉ……。手元にあったら、即座に輪廻に戻してやらんといかんものじゃ」

「あっ、中身ナマモノなのかよ」

「まあ、使い魔の麒麟竜馬やなんかも、目的に特化した人造生命という意味では同じじゃし、それとなにが違うかというと、そう違わぬ気もするが……手前(てまえ)の中で割り切れるようになったら所望しても良いかもしれんのう」

「無意識に主従逆転の危惧を持ってるんじゃない? いつの間にかカートリッジが上位になってそうな気がするわよ、それ」

 

 あー、SFホラーでありそう。

 それと、アイデンティティクライシス的なのを直感的に感じてるのかも、ですね。

 【分身】の呪文とも違う、ナマっぽさがダメとかそういうあれなのかも。

 

「まあカートリッジは恩恵は大きいのじゃが、いまは止めておくのじゃ」

「いーんじゃね?」

「それより次じゃ! 大図書館の同伴使用権については、まあそのうち同伴を頼むかもしれんから、そのときでええじゃろ。そしたら紋章についてじゃな」

 

 半竜娘はカードをしまい込むと、今度は大篭手を外し、その下の紋章が見えるように掲げます。

 この数日のうちに生命吸収の鮮血呪紋の施術も無事に終わったのです。

 これにより、半竜娘ちゃんの継戦能力がアップしています!

 

「見よ、これが“鮮血呪紋”……殴り散らした敵の生命力やマナを回収できるようになるのじゃよ」

「吸血鬼みてーなことできるよーになったのな、リーダー」

「かっこいいじゃろ!」

「「はいはい、かっこいいかっこいい」」

「むぅ、おざなりじゃのー」

 

 この鮮血呪紋があれば、雑魚敵がたっぷりいる戦場なんかでは、超過詠唱・超過祈祷(オーバーキャスト)の反動で消耗した分を回復しまくりなので、状況が揃えば呪文使いたい放題にできるかも知れませんね。

 

「で、こっちが空間拡張された鞄じゃ! しかも人数分!」

「でかしたわ! 身軽になれるのってとってもありがたいもの」

「うっわー、これすげーよな! 1人馬車1台分も荷物を持ち運べるんだろ? いまの馬車の分も合わせたら4台分!?」

「ちょっとした隊商並みよね! 人里から離れた遺跡にも潜れるようになるわ!」

 

 インベントリは便利、はっきりわかんだね。

 

「そっちの戦利品はどうじゃ?」

「まあ、まだ魔法の巻物とか、いろいろと物色中ってとこね。他にも便利道具……無限水差しみたいのとか、【聖餐】が込められたランチョンマットとか、あと毒とか薬とか。拡張鞄も手に入ったし、かさばって諦めてたのも候補に入るから、またお店を見て回るつもりよ」

「あれ? 森人パイセンが、聖印にごっつい祝福もらってただろ、交易神の神殿で」

「あー、うん、まあね」

「すごかったよなー、大司教様がさ、寄進した金貨の海で泳ぎながら祝福するんだもんな! さすが交易神の大司教様!」

「あー、あー、あー」

「万闘券当てた信徒の聖印ってことで、むしろ逆に聖印を買い取って祀らんばかりだったもんな!」

「あーーーーーー! やめ! この話やめ!」

 

 交易神の神殿の場合、お金を積めば良いもの手に入るから分かりやすいですよね。

 森人探検家ちゃんは、大当たりの御礼も兼ねて交易神の神殿に多額の寄付をし、手持ちの聖印を、『聖印+3(奇跡行使に+4ボーナス)』にアップグレードしたみたいです。ついでに、違法奴隷商人を潰した後始末とか、破落戸(ゴロツキ)にこれ以上(わずら)わせられないように裏社会に話を通してもらったりもしたらしいですよ。

 森人探検家ちゃん的には、そのときの歓迎ぶりを宗派の恥みたいに感じちゃってるみたいですが。

 ……でも君もわりと銭ゲバの片鱗あるからな? ああいや、えらい人はもっとちゃんとしてると思ってた、とかでしょうか。上から下まで銭ゲバだったという、宗派の現実を認めるのに時間が必要なのかもしれませんね。

 

「そ、それより! 結構大々的に広報されてるわよね、あなたの次の試合っ!」

「おう、街中(まちじゅう)至る所にポスターが貼ってあるのじゃ! なかなか美人に描かれておったろう? 故郷にも何枚か記念に送ったのじゃ!」

「まあ、出来は良かったわね。それにしても、“1日目:期待の新人【鮮血竜姫】vs.炎の魔神” “2日目:【鮮血竜姫】vs.宇宙的恐怖:原初の粘体” ですって、勝てそうなの?」

 

 火山(カザン)の闘技場と言えば、名物闘士も居ますが、その一方で、もちろん、怪物の側にも名物となる者が居るのです。

 中下級闘士の登竜門的な怪物としては、マンティコアや象が挙げられます。

 象と戦って勝っていた青年剣士くんたちは、かなり有望な闘士だったわけです。

 

 上級、最上級の闘士にとっての壁となる怪物も勿論います。

 その有名どころ2体それぞれと、半竜娘ちゃんの対戦カードが組まれています。

 

「情報を集めておるところじゃよ。何にせよ、全力を尽くすのじゃ!」

「いま分かってることはどの程度なんだ? オイラたちも情報収集は手伝えるぜ?」

「それはありがたいのじゃ! いま分かっておるのは……」

 

 ということで、半竜娘ちゃんが語り出します。

 

「まずは、1日目の炎の魔神じゃな。こいつは、コーター、あるいは口に出すことの(はばか)られる名で、バル□グと言うそうで……」

「バル□グですって!? 森人の天敵!! そんなものまで従えてるの、この闘技場!? 信じられない!!」

 

 半竜娘ちゃんが口に出した名に、森人探検家が震え上がります。

 

「炎を従える者! 恐ろしい巨体と、両の手に持った炎の鞭と炎の剣! 放った矢は届く前に燃え尽き、あまりの熱さに近づくことすらかなわない! 魔法の武器でなければ傷つけることもできない!」

「そう、まさにそのとおりじゃ! よく知っておったのう」

「さらに言えば、精霊術の優れた使い手で、巨人たちの主でもあるわ。きっと配下として巨人を召喚できるはずよ、オーガやトロールをね!」

 

 年嵩の森人から聞かされたという伝承を(そら)んじた森人探検家は、ぶるりと身体を震わせました。

 

「闘技場じゃから、道具の持ち込みは制限されるし、炎耐性をつけたいんじゃがのう。祖竜術の【竜命(ドラゴンプルーフ)】が使えたら、炎への完全耐性を得られて楽じゃったんじゃが」

「あれ、リーダーはその術は覚えてねーの?」

「覚えておらんのじゃなあ、これが」

 

 残念ながら、自前では炎耐性は得られないようです。

 

「まあ、1日目の炎の魔神(コーター/バル□グ)も強敵じゃし、2日目のやつも強敵じゃよ」

「宇宙的恐怖:原初の粘体、だっけ? なんなんだそれ」

「えーと、竜よりも巨大な、黒く玉虫色に光る粘液体。スライムの親玉みたいなものかの? とにかく再生力が凄まじく、生半可な攻撃はまず効かない。呪文に対する耐性。変身能力もあり、身体から様々な怪物の部位を生やせるようじゃ」

「面倒そーだな、それ」

「……それ、名前は?」

 

 森人探検家が恐る恐る訊ねます。

 

「えーと、たしか……しょぐごす? いや、ショゴス、と読むのかの、これは」

「……ああ」

 

 青ざめた顔で、森人探検家は半竜娘の肩を叩きます。

 

「頑張って生きてかえってきてね……」

「そんなにヤバいのじゃ!? このショゴスとやら!?」

 

 知らぬが仏というものですよ。

 

 

 




残念ながら戦闘には入れませんでした……次回こそ!

コーター/バル□グとショゴスは、『トンネルズ&トロールズ』の『カザンの闘技場』で実際に登場します。モンスターレート(戦闘力みたいなもの)は、ショゴスが1000、コーターが500でツートップ。象が200だったかな。
コーター/バル□グの原典は、指輪物語に出てくるバルログという悪鬼の種族だそうです(ストリートファイターではない)。エルフの勇士たるレゴラスでも名前を聞いただけで震え上がるとか。
ショゴスの原典はクトゥルフ神話系列ですね。
いずれもゴブスレTRPGのルールブックにはデータがないので頑張って作ります(これから)。




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20/n 火吹き山の闘技場-6/6(VS バル□グ、VS ショゴス)

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そのおかげでランキングにも載ってたみたいで、それをきっかけにより多くの人の目に留まるのは作者冥利に尽きますね! もちろん感想を書いてくださり執筆の燃料をくださる皆様にも感謝を! ありがとうございます!

●前話:
半竜娘「次の敵はバル□グとショゴスじゃ!」
森人探検家「……(市場に出荷される家畜を見るような目)」



 はいどーも!

 火吹き山のチャンピオンになるべくやってきた半竜娘ちゃんの挑戦もいよいよクライマックスです。

 

 観客の歓声のなか、闘技場の戦盆へと半竜娘ちゃんが入場します。

 

『挑戦者の入場だ~~!! 先日、上級闘士ランクの無限組手で50連勝の偉業を成し遂げた【鮮血竜姫(ブラッディ・ドラキュリーナ)】! 本日は、最上級闘士として登場だ!!』

「「「うおおおおおおおおおっ!!!」」」

 

 闘技場の実況の声が響く中、半竜娘は常とは違うコートを羽織っています。

 半竜娘はこの日のために、闘技場の図書館で、また先輩闘士からも情報を集め、炎の魔神(コーター/バル□グ)への対策装備を集めてきたのです。

 その鈍い灰色のコートは、溶けたガラスを綿あめのように遠心力で吹き飛ばして作った燃えない綿(グラスウール)を織り込んだもので、さらに表面には輻射熱を反射するために、ミスリルを鏡のように吹き付ける加工をした超高級品です。

 顔を火から守るために、同じような加工がされた布も持っています。

 これにより、炎や熱による悪影響に対する抵抗に+10、装甲値に+2、火属性の攻撃への装甲値にさらに+3の追加修正、呪文抵抗にも+1の修正を得ます。ただし、移動力は-2されます。

 

 耐火外套(ミスリルめっきグラスウールコート)をいつもの装備の上から纏うことで、半竜娘の最終的な装甲値と移動力と呪文抵抗は、

 ・装甲値:司教服7+鱗3+耐火外套2(火:5)=12(火属性に対してのみ15)、

 ・移動力:基礎移動力24-司教服4-触媒鞄2-耐火外套2=16、

 ・呪文抵抗:基礎値19+耐火外套1+2D6=20+2D6

 となっています(石弾袋と投石紐は役に立たないので外してきました)。

 

 指輪は現時点では『魂魄強化+3』と『知力強化+3』です。

 ほかの指輪、腕輪も持ち込みを許されていますので、適宜付け替えましょう。

 

 炎に対する対策はできる限りのことをしてきました。

 というかここまでしないとまともに近づくことすらできません。

 

 ちなみに支給ポーションは、治癒の水薬(ヒールポーション)を選んで持ち込みました。

 ポーションを飲むような隙があるかは分かりませんが……。

 

 

『対して挑戦者を迎え撃つのは~~!?

 炎の魔神!

 火炎の悪鬼!

 生半な武器では痛痒(ダメージ)を与えることすらできないぞ!

 炎の鞭に炎の剣! 巨人を従える魔炎の王!

 文字通りの“熱”烈歓迎! 古の言葉でヴァララウカールと呼ばれた恐るべきもの――コーターだ!!』

 

 逆サイドからは、炎と煙と闇で構成されたような、巨大な異形が現れます。

 その身からは常に炎が噴き出し、手に持つのは炎の鞭と、炎の剣。

 火と闇の精霊力で構成された身体は、呪文か、あるいは魔力を帯びた武器でなければ傷つけることはできません。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「相手にとって不足なし!! いざ勝負じゃ!!」

《BAALLLLLRROOOOOOGGGUUUUOOOO!!!!!》

 

 早速、半竜娘の【怪物知識】判定です!

 >怪物知識判定:知力集中10+竜司祭Lv9+2D635=27

 炎の魔神(コーター/バル□グ)の怪物Lvは10。

 したがって、目標値は怪物Lv10+9=19<達成値27により、【怪物知識】判定成功!

 

 敵のデータが開示されます。

 

 

 ●種族:精霊 怪物Lv10

 ●生命力 120 (タフ!)

 ●先制力 2D6+5 (速い!)

 ●呪文抵抗 2D6+22 (呪文が通りづらい!)

 ●移動力 30

 ●回避 2D6+18(結構身軽)

 ●装甲値 12(外皮)(硬い!)

 ●鞭攻撃

  >命中2D6+20

  >威力6D6+2+命中ボーナス

  >追加効果『拘束(熟練)』:命中時に拘束し、『移動不可』『命中・回避等への-4ペナ』。振りほどくには【脱出】判定の成功が必要。

  >火炎武器:炎追加ダメージ4D6(【火与(エンチャントファイア)】と同じ処理)

 ●剣攻撃

  >命中2D6+20

  >威力5D6+8+命中ボーナス

  >火炎武器:炎追加ダメージ4D6(【火与(エンチャントファイア)】と同じ処理)

 ●呪文使用回数5回 達成値 2D6+22

  >精霊術Lv10(水属性を除く全呪文)

 ●二回攻撃

  >主行動において、武器による二回攻撃、または武器+精霊術による攻撃。その際はそれぞれ命中または呪文行使の達成値に-2のペナルティ。

 ●巨人召喚

  >怪物Lv8までの巨人を主行動で召喚可能(次ラウンドから行動)

 ●巨大

  >近接距離を10mとして扱う。

 ●魔炎の身体

  >近接武器によるダメージを受けたときに、相手に2D6の火属性によるダメージ(回避・盾受け不能、装甲軽減可能)。

  >炎のオーラにより、ラウンド終了時に近接距離(10m)以内の対象に3D6+10の火属性ダメージ。目標値24の体力(反射)抵抗判定に成功した場合は、装甲軽減後のダメージを半減することができる。

  >火属性への完全耐性。

  >呪文または魔法の武器でのみダメージを負う。

  >火属性の攻撃によるダメージを反転し、回復することができる。

  >火炎による熱と気流により、遠隔攻撃(弩弓・投擲)に対して命中ペナ-8

 ●三連火投げ

  >主行動で3発、達成値2D6+18の精霊術【火矢(ファイアボルト)】相当の威力の攻撃が可能。

  >この攻撃は呪文使用回数を消費しない。

  >回避判定、盾受け判定可能。

  >命中時には体力(反射)抵抗を行い、抵抗に成功した場合は装甲軽減後のダメージを半減させる。

 ●ボス5

  >怪物Lvが自分の半分(Lv5)以下の配下5体まで統率可能。

 

 炎の武器は、常時【火与(エンチャントファイア)】されている扱いなので、全体的に攻撃が重く、また、低コストで【火矢】に相当する攻撃を1ラウンドに3回も放ってくる上に、至近距離にとどまると【熱波(ヒートウェイブ)】に相当するダメージをパッシブ技能で与えてきます。

 超攻撃的な敵ですね。三連【火矢】は回避可能というのがまだ有情です……いやそれでもだいぶひどいな……普通の後衛なら蒸発するもんな。

 ……逆に言えば、火属性への完全耐性を持っていれば、これらの効果を無視できるので、かなり素直で戦いやすい強敵という感じになります。

 自動回復技能がないため、完全に短期決戦型かと思いきや、『魔炎の身体』は火属性のダメージを受けることで回復できるので、たぶん自分に三連【火矢】を撃って回復してきますよコレ。

 

 

 つまり、一度に大量のダメージを叩き込んでの短期決戦ですね!

 この手に限る!(この手しかありません)

 3ターン耐えていつもの必殺:分身巨大化加速突撃か、囲んでボコる:分身加速竜爪で防御無視連撃か、でしょうか。

 今回は少し違った趣向でデバフも絡めて戦ってみるつもりですが、基本はこの定跡に沿う形です。

 50連戦から一連のセッション扱いなので因果点がリセットされていないのがつらいです。

 

『それでは、いざ! 決闘開始(デュエルスタート)!! なお今回はデスマッチではなく、どちらかの選手が瀕死になった時点で、試合終了となります!!』

 

 瀕死というのは、半竜娘ちゃんの場合は気絶したり、死亡までの残り生命力(食いしばり)が8になった時点で、ということですね(=9割ダメージ)。

 相手の炎の魔神の場合は、生命力が12以下になった(=9割ダメージ)時点で、半竜娘ちゃんの勝ちになります。

 

 まずは先制判定です!

 

行動順名前先制力備考
炎の魔神102D623+5。半竜娘と同値のためさらに比べあい:11で勝利
半竜娘102D634+機先3。炎の魔神と同値のためさらに比べあい:8で敗北
 

 

 先手は炎の魔神バル□グ!

 

《BAALLLLLRROOOOOO!!!!! GOR,GOR,GOR!!》

 

 小手始めに三連火投げ!

 相手も闘技場の闘士である以上、やはり見せ方というのがわかっています。

 周りに浮かせた炎を矢の形に成形し、半竜娘へ向かって射出してきます!

 

『初手から炎の射出、三連続! これすら超えられない者に、最上級闘士としての資格はないと言わんばかりの洗礼だぁっ!!』

 

 実況の声が響く中、半竜娘は回避のために動き回ります。

 

 三連火投げ命中値:

  一発目:27(2D636+18)、

  二発目:24(2D615+18)、

  三発目:22(2D631+18)

 

 半竜娘回避:

  一発目:24(2D653+16)<27 被弾!、

  二発目:19(2D621+16)<24 被弾!、

  三発目:23(2D634+16)>22 回避!

 

「ぬがっ、のぉっ!? こんのおっ!?」

 

 一発目は動きを読まれていたのか、回避した先に着弾し、命中!

 火炎ダメージへの抵抗は、体力反射8+冒険者Lv8+免疫強化1+耐火外套10+2D624=33で、抵抗成功!

 ダメージは『(8D64232164+バル□グ精霊術Lv10-耐火装甲値15)×火炎抵抗成功1/2』=10ダメージ!(半竜娘の生命力:38→28)

 

 二発目は一発目の被弾で動きが鈍ったところに着弾!

 火炎抵抗成功! ダメージは『(6D6412511+バル□グ精霊術Lv10-耐火装甲値15)×火炎抵抗成功1/2』=5ダメージ!(半竜娘の生命力:28→23)

 

 三発目は二発目を受けたときの勢いを利用して後ろに飛び、回避しました!

 

『おおっと、挑戦者の【鮮血竜姫(せんけつりゅうき)】ブラッディ・ドラキュリーナ、これを何とかしのいだ~~! しかしダメージは大きいようだぞ!?』

「なんの、まだまだこれからじゃ!!」

 

 炎に弾き飛ばされた先で、半竜娘ちゃんは呪文を詠唱します。

 

「黒き蓮の一片(ひとひら)よ、封じたマナを解放せい! 疑似連続詠唱――セメル( 一時 ) キトー( 俊敏 ) オッフェーロ( 付与 )ホラ() セメル( 一時 ) シレント( 停滞 )

 

 黒蓮花弁のカードを掲げ、呪文を一気に二つ詠唱します。

 自身への【加速(ヘイスト)】と、炎の魔神への【停滞(スロウ)】の呪文です!

 

 半竜娘【加速】行使:基礎値21+付与呪文熟達3+2D653=32。

 加速ボーナス『+4』を自身に付与!

 

 半竜娘【停滞】行使:基礎値21+加速ボーナス4+2D633=31。

 これに対して炎の魔神バル□グの呪文抵抗:基礎値22+2D614=27。

 抵抗失敗により、炎の魔神は先制判定含む各種判定に『-5』のペナルティ!

 

「よし、通った!! 停滞せよ!!」

《BAALLLLOOOROOOOO!!??》

 

 これにより、半竜娘は相対的に固定値で9のアドバンテージを得ました。

 半竜娘の呪文行使回数は7→5です。

 

『おおっ! 挑戦者の呪文が炸裂! 魔神の動きが鈍っていくぞーー!!』

 

 半竜娘と敵の間は10m以上離れているので、【熱波】による影響は受けません。

 1ラウンド目終了です。

 

 

 

 それでは2ラウンド目。

 

行動順名前先制力備考
半竜娘122D642+機先3+加速4。12と1に分割
炎の魔神バル□グ52D632+5-停滞5
半竜娘1分割した二回目
 

 

 当然、半竜娘が先手です。

 先制判定が12を超えたので、分割して二回目の行動も可能となりました。

 

「竜の声に恐怖せよ!! 『偉大なりし暴君竜(バォロン)よ、白亜の園に君臨せし、その威光をお借りする』――【竜吠(ドラゴンロアー)】!! グルォォォオオオオオオオッ!!!」

《LLLOOOOOOOOORRRRR!???》

 

 半竜娘ちゃんが放った、魔力を帯びた声が、炎の魔神の行動を縛ります!(呪文使用回数5→4)

 半竜娘【竜吠】達成値:基礎値21+加速4+2D651=31!

 炎の魔神バル□グの抵抗:基礎値22-停滞5+2D642=23<31 抵抗失敗!

 炎の魔神は、10分間、半竜娘に対して萎縮します。萎縮により先制判定と能動行動に『-4』ペナルティ!

 

『っっつぅ~~、すごい大声! これはまさに竜の声! 魔神すらも怯んでいる! 下がって距離を取る! 慎重な(ケン)の構えだ』

《GROOOOUUU……》

 

 恐怖を与える魔法の効果により、炎の魔神は警戒しつつ大きく距離を取りました。

 とはいえ、【停滞】の効果で移動距離が半減しているので、そこまで離れられていませんが。

 

『おっと、そしてさらに壁となる配下を召喚した! 巨人族のエリートたるオーガジェネラルが、魔神の影の中から登場だ!!』

「OORRGGGGAA……炎の主よ、馳せ参じました。ご命令を!!」

 

 闘技場の実況のとおり、炎の魔神バル□グの足元の影から、オーガジェネラル(巨人Lv8)が出現しました。

 肉壁にもなるし、魔術の支援も望めるため、手堅い一手です。

 

「であればこちらも頭数を増やすのじゃ! イーデム( 同一 )ウンブラ()ザイン( 存在 )――【分身(アザーセルフ)】!!」

「呼ばれて飛び出て、なのじゃ!!」

 

 半竜娘の呪文使用回数は、本体4→3、分身3となりました。

 分身の耐久力は、呪文の達成値が29(基礎値21+加速4+創造呪文熟達1+2D621)だったため、その半分で、15です。

 

『おおっと、これはタッグマッチの様相かー? 挑戦者も分身を呼び出したぞー!!』

 

 これにて2ラウンド目は終了です。

 半竜娘ちゃんの【加速】と【停滞】の維持は成功しました。

 敵の炎のオーラによる【熱波】の影響圏からも離れていますので、ダメージ処理はナシです。

 

 

 

 3ラウンド目です。

 先制順は以下のとおり。

 

行動順名前先制力備考
半竜娘(分身)142D665+機先3
半竜娘(本体)112→142D615+機先3+加速4=13。加速効果で12と1に分割。さらに分身の統率技能で行動順引き上げ。
半竜娘(本体)21→14分割した二回目行動。分身の統率技能により行動順引き上げ
オーガジェネラル92D645
炎の魔神バル□グ52D645+5-停滞5-竜吠4

 

「そろそろ決めに行くのじゃ!! 竜の鋭き爪は何物も切り裂き、止めること能わず!」

 

 半竜娘の分身体の方が、【竜血(ドラゴンブラッド)】併用で【竜爪(シャープクロー)】を本体の方に使いました。(分身呪文使用回数3→2→1)

 これにより、本体の方は、命中・威力に+2のボーナスで、さらに装甲貫通の効果が付きます。

 

「いくのじゃよおおおおお!! イヤーッ」

《BALOOOGGG!!?》

 

 半竜娘の本体は、指輪と腕輪を『技量強化+3』『武術熟達+3』に素早く切り替え、一気に踏み込みます!

 炎の魔神の近接距離に近づいて、爪の連撃です!

 

「主のもとへは行かせんぞ!!」

「どけっ! 邪魔じゃ、オーガめ!!」

 

 オーガジェネラルによる移動妨害が入りますが、それを弾き、すり抜けて魔神(バル□グ)の間合いに入ります。

 

 しかも二回行動で、それぞれの行動順で二刀流技能で攻撃するので、四連撃!!

 

「ホアタタタタタタッ!!」

《BALLLLLRROOOOOOOGGGGGG!!!?》

 

 半竜娘の爪攻撃(右)命中:技量集中10+武道家Lv6+格闘武器熟達3+腕輪3+加速4+竜爪2+2D661-二刀流ペナ4=31

 半竜娘の爪攻撃(左)命中:24+2D613=28

 半竜娘の爪攻撃(右)命中:24+2D635=32

 半竜娘の爪攻撃(左)命中:24+2D623=29

 

 炎の魔神の回避:

  1撃目:基礎値18-停滞5-萎縮4+2D623=14<31 命中!

  2撃目:9+2D644=17<28 命中!

  3撃目:9+2D632=14<32 命中!

  4撃目:9+2D642=15<29 命中!

 

「オラオラオラオラッ!」

 

 すべて命中し、それぞれのダメージは以下のとおりです。

 1撃目:片爪(1D33+5)+武道家Lv6+竜爪2+命中ボーナス4D62456-装甲値0(装甲貫通)=33!

 2撃目:1D33+13+命中ボーナス3D6466-装甲値0(装甲貫通)=32!

 3撃目:1D32+13+命中ボーナス4D61225-装甲値0(装甲貫通)=25!

 4撃目:1D31+13+命中ボーナス3D6354-装甲値0(装甲貫通)=26!

 

 命中時のリアクティブアーマー的な反動ダメージ(2D6)がありますが、耐火装甲値15により完全に軽減可能なので反動は無視できます!

 

《BAAALLRRRRRRRRRROOOOOOOOOGGGGG!!!???》

「炎の主さま!!?」

 

 炎の魔神バル□グ生命力:120 → 87 → 55 → 30 → 4

 

 さらに、鮮血呪紋が発動し、半竜娘の生命力が回復します。

 回復量はダメージの20%(切り捨て)なので、6+6+5+5=22となり、三連火矢で受けたダメージをすべて帳消しにできました。

 

『おーっと、強力な連撃! 連撃! 連撃!! 魔力を帯びた挑戦者の爪が、炎のオーラごと魔神を削り飛ばしていく~~~!! あっ、ここで審判が旗を挙げます! 瀕死判定です! 試合終了!!!

 挑戦者の勝利です!!』

 

 半竜娘ちゃんの勝利です!!

 会場が大歓声に包まれます。

 

《BALLRRR……》

「よき試合じゃった! お主にも感謝を!」

 

 GG(グッドゲーム)

 炎の魔神は、オーガジェネラルの肩を借りて、なんとか立ち上がります。

 そして、神妙に合掌して礼をする半竜娘へと手を差し出しました。

 

『おおっ、新たな最上級闘士の敢闘を認め、炎の魔神が挑戦者と手を交わします! 皆様も盛大な拍手をもう一度! 素晴らしき戦いを見せてくれた選手たちに、大きな拍手を!!』

 

 ――――ワァァアアアアアアッ!!

 

 万雷の拍手の中で、敗者が勝者を称える美しい光景です!

 しかし、両者の眼の闘志は衰えておらず、次は/次も自分が勝つのだと、雄弁に語っています。

 

 実際、レフェリーストップがかからなければ、炎の魔神は、オーガジェネラルの【加速】の支援を受けて、さらに自らに三連火矢を打ち込んで生命力を回復していたでしょう。

 そして、半竜娘の方は、移動して攻撃したことにより、呪文維持の集中が乱れ、【加速】や【停滞】の効果を切らせてしまっていたでしょうから、鮮血呪紋の効果で負傷が回復するとはいえ、苦しい戦いになったはずです。

 

『鮮血竜姫と炎の魔神の大一番は、期待の超新星、鮮血竜姫の勝利です! では、明日の彼女の試合にも、乞うご期待!!』

 

 

 

  △▼△▼△▼△▼△▼△

  ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 興行二日目。

 

 本日は“原初の粘液生命体”ショゴスとの戦いです。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ですが、妙な試合運びになっています。

 

『挑戦者が分身し、片方が金属の棍を取り出したと思えば、いきなりそれを横に(くわ)えて、音を(かな)でだしたぞ~! そして、その曲に合わせて、ショゴスの玉虫色の暗黒粘体が、踊りはじめた~~!!』

《てけり・り♪ てけり・り♪》

 

 この日のために、半竜娘は、図書館でショゴスに関する情報を集め、対策となる装備を手に入れていたのです。

 調べた知識によると、“ショゴスは、特に金管楽器の音色によって操作される”ということでした。

 半竜娘は、その知識をもとに、真言魔術【舞踏(ダンス)*1を使用可能にするフルートを、森人探検家やTS圃人斥候と手分けして街を駆けずり回って入手したのです。

 

 そして、半竜娘は、まず初手で、黒蓮花弁のカードの効果で【分身(アザーセルフ)】と【舞踏(ダンス)】を使用。

 本体の方の演奏によって、ショゴスを踊らせることに成功します。

 

『おおっ、ショゴスが、演奏する挑戦者を触手で捕まえ、空中に投げ上げたり、次々とペアパフォーマンスを披露していく~! 巨体による繊細な芸能だ! まさかこのショゴスに……“玉虫色の暗黒”たる火吹き山の処刑人にぃ、こんな特技があったとは!!』

《てけり・り♪ てけり・り♪ り・り・りん♪》

 

 サーカスよりも刺激的なショーに、闘技を見に来た観客も見入ってしまっています!

 一歩間違えて、少しでも演奏が乱れれば、即座にこの雑技ショーは、凄惨なスプラッタショーに早変わりするはずですから、どきどきハラハラの具合も相当です。

 

『そして、そんな中でも演奏を切らさない挑戦者! これはこっちも相当な練習を積んできた模様! ただの暴力しか取り柄のないような狂戦士ではないということだ! 情報収集し弱点を突く頭脳、そして多彩な才能! 昨日の嵐のような連撃で魔神を抑え込んだのとは打って変わって、挑戦者、頭脳戦も強いことを見せつけてきます!』

 

 もちろん、このままではショゴスを倒すことができません。

 相手の動きを封じていますが、こちらも演奏に専念していますから、お互いに動けません。

 しかし、そのために、最初に【分身】したのです。

 

『しかし踊らせるばかりでは勝てないぞ~~!? ……んんん? 分身の方が何か準備をしているぞぉ~~?』

 

 はい、みなさんはもうお分かりですね?

 加速・巨大・力場・突撃( い つ も の )です。

 

『おおおおっ、分身が巨大化し、観客席からも見上げるほどの巨体にぃぃぃい!?』

 

 今回10倍拡大できるまで掛けなおす余裕があるので、呪文の無駄打ちになりますが、何度か【巨大】の呪文を掛けなおしています。

 おかげで10倍拡大できました。うまく乱数ひけて良かったです。

 そして、いつものように【力場】による細いレールを地面から空中でループするように、かつ、展開図にすると敵まで直線になるようにセットし、いざスタート!

 【突撃(チャージング)】です!!

 

『空中を走り、回り、そのたびに加速する挑戦者! 巨体によってかき分けられた空気が、観客席にまで嵐のような暴風をたたきつけるぅ!! 速い、速い速い、そしてデカぁぁあああい! これはまさか、これはまさかこれはまさかぁ――っ』

 

 もちろんぶつかりますとも!

 

『いったあああああああ!!!! 挑戦者! 大・大・大激突ぅうううう!!! ショゴスが一撃でバラバラになったあああああ!!!』

《て、け、り・りっ!??》

 

 ショゴスの生命力:330 → 9

 

『旗が上がった! 瀕死判定! 勝者は挑戦者!! 大迫力、大激突、大勝利!! なるほどこれが、【辺境最大】の所以(ゆえん)ということかぁあ~~~!!』

 

 ショゴスに空中お手玉されていた本体の方を、巨大化した分身が見事に掌でキャッチします。

 分身は、本体を載せた方の掌を頭の上へと掲げます――本体がみんなに見えるように。

 そして、掲げられた半竜娘ちゃん本体は、歓声に応えるように、その分身の掌の上で、優美に一礼をしました。

 

 ――――ワァアアアアアアアアアアッ!!

 

 彼女こそ、【火吹き山のチャンピオン】です!

 

 

  △▼△▼△▼△▼△▼△

  ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 トロフィー【火吹き山のチャンピオン】(新人王)獲得!

 

 半竜娘は経験点2500点、成長点7点獲得!

 累積経験点66,000到達により、冒険者レベル8→9に上昇!

 レベルアップボーナス! 成長点30点獲得!

 

 違法奴隷商人壊滅により、森人探検家・TS圃人斥候は経験点1500点、成長点3点獲得!

 

 

 

*1
舞踏ダンス:演奏や歌声で、1体の生物を踊らせることができる。術者が維持する間、踊らせ続けることができるが、術者も演奏・歌唱しかできず、他の行動ができない。真言は『ムーシカ( 音色 )コンキリオ( 接続 )テルプシコラ(舞踏)




ショゴスを踊らせるのはT&T『カザンの闘技場』準拠。正面戦闘だけではないギミックボスというのもたまにはね?

というわけで、現在の各キャラの経験点と成長点は以下の通りです。
名前経験点成長点
半竜娘3,000点37点
森人探検家5,250点9点
TS圃人斥候2,750点6点

次回は各キャラクターの成長とお買い物の結果をお披露目しつつ、原作3巻のダークエルフ襲撃編(収穫祭編)への布石(『手』の権能を宿した呪物『ヘカトンケイルの指先』)を絡めつつ、非公式公開シナリオ『蜘蛛の巣の大逆襲』をモチーフとしたシナリオに行きたいです(予定は未定)。



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21/n 帰路、そして救出(キャラクターシート記載)

閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入……ありがてえ、ありがてえ!(作者は、干天の慈雨に感謝する農民のごとく感想欄を読み返している)


●前話:
彼女こそが【火吹き山のチャンピオン】なのです!
半竜娘「……」(一礼)(声を出してはいけないという強迫観念に囚われている:『不定の狂気』発症中)



 チャンピオンになったので凱旋する実況、はーじまーるよー!

 闘技場でも巨大化ノルマ達成できたので、【辺境最大】としての名声ポイントも溜まりましたし、この遠征は大成功ですね!

 森人探検家もまた闘券を当てて、その資産を増やしたようです(万闘券とは言いませんが)。

 というわけで成長&お買い物たーいむ、と行きたいところですが、半竜娘ちゃんがメンタル的にちょっと不定の狂気を発症して、言葉を発せなくなってしまっているので、2・3日療養します。

 

「ふーむ、ショゴスにあのような芸ができたとはな。まあ、君が慣れれば闘戯(とうぎ)とは別にまた、ショゴス使いとしての腕前を披露してくれるように頼みたいのだが」

「…………」(了承のジェスチャー)

ショゴス(あいつ)も君のことを気に入ったようだしな。一緒に踊ってくれたのもきっとそのためだろう。私はてっきり、金管楽器のような音は、ショゴスにとっては、五放射相称の古き主人の鳴き声を思い出すから苦手かと思っていたのだがね」

 

 火吹き山のオーナーたる魔術師(火吹き山P)が、闘技場にあてがわれた部屋で休んでいた半竜娘に、そのようなことを言います。

 まあ、確かに慣れてしまえば、いちいちこのような状態になったりはしなくなるでしょうし、オーナーの依頼であれば、受けておいた方が得でしょう。

 っていうか、気分良く踊ってたところに、かなりひどい不意打ちをしたと思うのですが、ショゴスの方はその辺は気にしてないんですかね。そこそこ知能あるみたいでしたが。

 

「ああ、あの程度のダメージなら5分で回復したから気にすることはない。ショゴスだって、じゃれあいの範疇だと思ってるはずだ」

 

 ああ。まあ。そうでしょうね。

 『常時回復:30点/ラウンド』とかついてましたものね。

 生物としての規格が違うとしか……。

 

 つくづく試合形式でよかったです。

 ルールに助けられた形ですね、対バル□グも、対ショゴスも。

 でも勝ちは勝ちなので、トロフィーはありがたく貰っていきますが!!

 

「ではチャンピオンとなった君には、その証として、こちらからの連絡を表示し、呼び出しの転移門を開くマーカーとなる指輪を贈呈しよう。他の魔法の指輪や腕輪とは干渉しないものだから、常につけておくといい」

「……」(了承のジェスチャー)

 

 今後は定期的にか不定期にか、闘技場での興行に呼び出されるようになるようです。

 送迎は転移門でしてくれるというので、相当に贅沢ですねえ。

 何人か一緒に連れて来ることができるようなので、次は是非とも魔女さんも連れてきて、図書館デートでもしたいところです。

 

 しかし、この街だけ絶対、技術レベルがおかしい……。

 

 まいっか!

 買い物で利用できる分には単にありがたいだけですし!

 大体、プレインズウォーカー(しかも恐らく相当な古強者かその転生体か何か)が余技とはいえ街を整備しているのですから、そりゃそうもなります。

 

 他にもゴブスレの世界にはクトゥルフ系の神様もいるっぽいですし(鰓人(ギルマン)が祀ってるのがそれ系)。

 あと超勇者ちゃんはたぶんカオスフレアだし。

 いまさらプレインズウォーカーが盤面に混ざってても大して問題はないでしょう!

 

 というわけで、2・3日療養します。

 その間にも、森人探検家ちゃんとTS圃人斥候が、半竜娘ちゃんの代わりに買い物してくれてます。

 最上級闘士の名代(みょうだい)としての買い物なので、普段はこの火吹き山でも流通制限がかかっている品物も含めて買えるようになっています。

 どんな魔法のアイテムがあるんでしょうね、楽しみです!

 

 

  △▼△▼△▼△▼△

  職業及び技能の成長

  ▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 半竜娘は職業:精霊使いLv3→4に伸ばした!(経験点2000点消費。成長点4点獲得)

 半竜娘は新たな精霊術として【力球(パワーボール)】を習得した! これでもくらえ(テイク・ザット・ユー・フィーンド)

 半竜娘は、冒険者技能【魔法の才】を伝説段階まで伸ばした!(成長点40点消費) 呪文使用回数が7→8になった!

 

 森人探検家とTS圃人斥候は、特に職業や技能の成長は行わなかった。

 

 

 

  △▼△▼△▼△▼△

  魔法アイテムの購入

  ▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 『竜司祭/精霊使いの触媒入れ』×2、『矢筒』、『投矢帯』、『石弾袋』×3を、空間拡張したものに買い替えた! それにより、これらの物品の移動力へのマイナス修正がなくなった!

 それに伴い、消耗品や矢弾をごっそりと買い足した!

 半竜娘は、『耐火外套(ミスリルめっきグラスウールコート)』、『【舞踏】のフルート』、『【聖餐】のランチョンマット』×4を購入した!

 森人探検家は、『【読解】の眼鏡』、『【聖餐】のランチョンマット』×4を購入した!

 TS圃人斥候は、『【鑑定】の手袋』、『【聖餐】のランチョンマット』×5を購入した!

 麒麟竜馬用の道具や餌や水を納める、馬車用の空間拡張箱を購入した!

 野営用に空調&空気清浄機能が付いたテントを購入した!

 

  △▼△▼△▼△▼△

  ▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 療養終わり!

 半竜娘は、正気に、戻った!

 

「復活じゃ!」

「よくなってくれて安心したわ」

「まったくだぜー」

「心配かけたのじゃ!」

 

 というわけで半竜娘は、職業:精霊使いのレベルを伸ばして、新たに【力球(パワーボール)】という、装甲無視の範囲攻撃を習得しました。

 まあ、火山(カザン)の闘技場だからね、『テイク・ザット・ユー・フィーンド!』の本場だからね、様式美だよね。実用性も高いし。

 さらに、冒険者Lv9になったことで、技能レベルを、最上級である『伝説』段階(5段階目)まで上げられるようになりました。

 迷いましたが、やはり呪文使用回数を伸ばすべき! ということで【魔法の才】を伝説段階に伸ばし、呪文使用回数を8回/日にしました。他の手段でボーナスを得ていない限り、人族最高峰の呪文使用回数です。(そう考えると、呪文肩代わりのカートリッジはぶっ壊れ案件ですねえ、やっぱり。たぶんえげつないデメリットがついているのでしょう。)

 

 森人探検家とTS圃人斥候は、メイン職業・メイン技能の成長のために経験点・成長点を温存してます。

 

 あとは、魔法のアイテムをいろいろ買いました。

 

「そんで、何を買ったんじゃっけ?」

「まあ、いろいろよ。最上級闘士の購入制限解除ってえげつないわねー、『これホントにお金で買えていいの?』って目を疑うようなのが沢山あったわ」

「流石にそーいうのはめっちゃ高いけどなー。稼いだお金もわりと吹っ飛んだんじゃねーかな、金銭感覚が破壊されそう」

 

 まずは、万闘券の払い戻しと半竜娘のファイトマネーの過半をつぎ込んで、インベントリ関係を充実させました。

 これで所持アイテム数が大きく増加しましたので、物資不足とは無縁になる……はずです!(決して、作劇上で物資のやりくりを考えるのが面倒だから持たせたわけではないですよ?)

 

「空間拡張が便利すぎるんだよなあ……。オイラ、自分の庄を拓いたら、これ家宝にするんだ……」

「あとは遺跡に潜るために、魔法の込められた便利道具もいくつか。装備は今持ってるもの以上のはオークションで探したほうがいいかもしれないわね」

「まあ、装備の方は古竜から略奪した分で結構揃っておるからのう」

 

 また、【鑑定】の手袋とか、【読解】の眼鏡とか、持ってたら遺跡探索で役に立ちそうなものを買っています。

 

「そして、オイラの一押しは! 上に乗っけた食器に祝福された食事を出してくれるランチョンマット! 冒険の(とも)に絶対必要だぜ!」

「さすが圃人(レーア)だけあって食事にこだわるわね」

「ふむ、実際これは遺跡に籠もるときに役立つじゃろ。煮炊きが不要で煙が出ないのは隠れるときに助かるし、継戦能力を保つためにも食事は重要じゃ」

「だよな、だよな!」

 

 大枚(はた)いて揃えたのは、祝福された食事や清浄な水を出してくれる『【聖餐】のランチョンマット』です。これを人数分×三食分+αの大盤振る舞い!

 この魔道具が提供する祝福された食事は、なんと病気や呪いも予防してくれます。

 こんだけたくさん持っていれば、砂漠に放り出されようが、無人島に流されようが、余裕でサバイバルできますよ!

 まあ、地母神様の奇跡なので、清貧なメニューしか出てこないのが玉に(きず)ですが。

 あと、術者がその場で奇跡を使うのに比べると、魔道具のためか、メニューが固定になっているので使い勝手が落ちています。

 贅沢なものを食べたかったら普通に食事処でご飯を食べればいいので、大したデメリットではありませんが。

 

「って感じで、結構買いそろえたわけだぜ」

「まあ今後も、手前(てまえ)が興行で呼び出されるときにでも買い足す機会はあるじゃろうし、とりあえずはこんなもんかの」

「オークションも定期的に開催されるらしいし、そのためにも、またお金稼がないとねー」

「賭け事で稼ぐのじゃ? それだと、外れた時がつらいのではないかの?」

「もうやらないわよ、そろそろ運勢の揺り返しが来そうだしね。普通に、真っ当に冒険して稼げばいいのよ。これだけ道具が揃えば、街に帰らずに遺跡行脚(あんぎゃ)もできるし、今まで以上にハイペースで稼げるわよ~」

 

 冒険者が真っ当な商売かはともかく、現実に半竜娘たちは冒険を生業にしているのですから、本業に血道をあげる方がいいと思いますね、うん。

 万闘券は、よく実力を知ってる半竜娘のデビュー戦だから当てられたようなものですし、今後は実力も周知されたから常識的なレートに収まるでしょうから大儲けはできないでしょう。

 

「したらば、そろそろ一回、辺境の街に戻っときたいのう」

「さんせーい!」

「そうね、次に目をつけてる遺跡は、辺境の街からの方が近いし、そうしましょうか」

 

 いざ、凱旋です!

 

 

  △▼△▼△▼△▼△

  ▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 帰路にて。

 麒麟竜馬の右竜馬(ウルマ)左竜馬(サルマ)に馬車を曳かせて(【旅人(トラベラー)】・【加速(ヘイスト)】・【追風(テイルウィンド)】重ね掛け)。

 ランダムエンカウントした小鬼や追剥を『テイク・ザット・ユー・フィーンド(これでもくらえ)!』の試し撃ちで一括処理し。

 小休止して大禿鷹や飛竜を釣ろうと半竜娘の分身(精霊術【降下】による重力操作)とTS圃人斥候(真言呪文【浮遊】による飛行)が手をつないで空を漂っていたときのことです。

 

「んん?」

「どーしたん、リーダー? 飛竜でも来た?」

「いや、向こうでなんぞか空飛ぶやつに人が吊るされておるぞ、あれは……デーモン? いや、ガーゴイルじゃな」

 

 空に浮かびながら遠くを望めば、空飛ぶ石色の肌をした悪魔像に、神官らしい乙女が捕まって吊るされているのが分かります。

 動く石像――ガーゴイルに攫われた冒険者のようです。

 錫杖を振り回しているのか、金属の反射が空に目立ちます。

 

「ふむ、助けに行くか。【突風(ブラストウィンド)】!」

「うぁっ!? 急に加速しねーでくれ!」

「そう言われても、あんまり猶予はなさそうじゃから仕方なかろう!」

 

 吊るされている神官が暴れているようで、どうにも直ぐにでも落ちてしまいそうに見えます。

 近づくにつれて、その神官の太ももに太矢(ボルト)が刺さっているのも分かりました。

 

「うーむ、飛行補助の魔道具でも今度買うべきか」

「あっ、やべえぞリーダー、あいつ落ちるぞ! どっかの馬鹿が下から【稲妻(ライトニング)】撃ちやがった!」

「いかん、ええと、ここからじゃと向こうの重力加速度と相対速度で計算して――うむ、この角度で斜め下へ【突風(ブラストウィンド)】で加速すれば間に合うはずじゃ!」

 

 ガーゴイルに向けてどこか地上から放たれた【稲妻】の呪文が、その石像の怪物をかすめました。

 【稲妻】を回避をしようとした動きによって、吊るされた神官の乙女も大きく振り回されます。「ひぎゅぃっ!?」 遠く、悲鳴が響きます。

 遠心力、そして石像の爪が食い込んだところから溢れる血潮、神官の乙女の身じろぎ……それら全てが悪意的に作用し、乙女はガーゴイルの爪から解放されて()()()()()()。 「ひっ!? あ、ああああああっ」

 落ちて助かる高さではありません。

 

「手を放すぞ、先に行く! あとから回収を頼んだのじゃ!」

「あっ、分身体だからって後先考えずに突っ込む気かよ!?」

「重力操作が間に合えば消滅はまぬかれようさ! ではいざ、祖竜の加護よあれ! 風神竜(ケツアコアトルス)よ、ご照覧あれ! 【突風(ブラストウィンド)】!」

「ああもう! 消滅したら、あとで覚えてろよ! お説教させてもらうぞ!」

 

 半竜娘はあとは弾道飛行で十分として、TS圃人斥候を空に取り残し、落ちる神官の乙女のもとへと突風により加速!

 ――計算どおり、間に合いそうです!

 

「ひぃやああああああああぁぁあああああ!??」

「『ノームやノーム、バケツを降ろせ、ゆっくり降ろせ、降ろして置いてけ』!――【降下(フォーリングコントロール)】! 慣性消去、重力0.1倍じゃ!」

 

 重力制御の精霊術によって自身を含む周辺30mの落下物の慣性と重力を大幅軽減!*1

 落下ダメージは10点!*2

 ぎりぎりセーフ!!

 

 10ダメなら分身ちゃんは消滅しませんし、たぶん神官さんも死にはしないでしょう。ダメそうなら【小癒】でも使いましょう。

 

「――ああぁぁぁぁあああ……、ぎゃんっ、いてててっ、って、あ、あれ? 痛い…。そしたら、わたし、いきてる……?」

「なんとか間に合ったのじゃあ……」

 

 とりあえず落下死は阻止できました!

 

「おーい! 大丈夫かー!?」

 

 空に置いてきたTS圃人斥候も合流してきます。

 

「って、お主、ガーゴイルに追われとるぞ!」

『GAAAGOO!!!!』

「すまーん! やっちまってくれー!」

「おう、任されよ!!」

 

 狙いを神官の乙女からTS圃人斥候に改めたガーゴイルが追ってきています。

 まあ今更、怪物Lv5のガーゴイルなんか、敵じゃありません。

 地上で迎え撃つにしても、呪文で一網打尽にするにしても、どうとでも料理できます。

 

 と、そのとき。

 

『GARGGI!??? ……?!』BANG!!!

「おっ」

「流石エルフの弓手……パイセンぱねっす」

 

 見てるうちに、遠くから飛来した矢が突き刺さり、石の悪魔像の頭を粉砕しました。

 きっと森人探検家が馬車の上から放ったのでしょう。

 

「おーい! とりあえずぶっ飛ばしたけど、大丈夫ー?」

 

 半竜娘本体が御者を務める馬車が、分身たちの方へとやってきます。

 【分身】からの魔術的つながりを通じて、場所や状況を把握し、急行したのでしょう。

 馬車は戦闘モードにされており、矢狭間が設けられた装甲板を馬車上にせり出した状態です。

 森人探検家は、馬車の上に登って、ガーゴイルを射たようです。

 

「一応助け終わったのかしら、その神官の娘さんは? ……って、気絶してるじゃない! 血も流れてるし!」

「んあっ、さっきまで起きて……? 気絶しとるーー!? しまった、それだけダメージが深かったか!」

 

 白目向いて気絶してますね、この神官の娘……。

 おそらく落下ダメージで食いしばりが発動して、時間経過で消耗ランク4=気絶になったのでしょう。

 つまり、消耗による死(消耗ランク5)の一歩手前。一刻を争う状態です!

 

「彷徨せし圓頂竜(カマラス)よ。その長き脚駆る活力を、どうか我らに授け給え――【賦活(バイタリティ)】!」

古兵(ふるつわもの)たる鴨嘴竜(ハドロス)よ、傷の痛みを克己せし、その身の強さを分けたもう――【小癒(ヒール)】!」

 

 まあ、半竜娘ちゃん本体と分身で、治癒系の祖竜術を使えばどうとでもできるんですが。

 半竜娘ちゃんの治癒呪文はあんまり出番がないですが、彼女は相当に上位の竜司祭ですからこの程度はできます。

 

「治ったみたいね」

「ほっ。良かったのじゃ」

 

 傷もさっぱり消えて、とりあえず、この神官さんの命の危険は去りました。

 消耗したせいか、まだ起きませんけども。

 

「それで、助けたのはいいけど、どーすんのさ、リーダー」

「どうするもこうするも、元のパーティに返せばよかろ」

 

 TS圃人斥候の問いに、半竜娘は特に深く考えず答えます。

 しかし、そうは問屋が卸さないようです。

 

「途中まで飛んで上から見てたけど、元の一党は、別のガーゴイルに追われて護衛対象っぽい行商人の馬車と一緒に逃げてったぞー?」

「置いてかれたのかや、この娘は。……薄情者たちじゃのう」

「どーだろな、助けた高度が地上ギリギリだったし、その神官は、もう向こうからは死んでると思われたんじゃねーか? 酌量の余地はあるかもなー」

「……なんと……うーむ、どうしたものかのう」

 

 さて、どうしましょうかね……。

 

 

 というところで今回はここまで!

 次回は、神官のおねーさんを辺境の街にとりあえず連れてっちゃったところからになると思います。

 

 ではまた次回!

*1
咄嗟の降下フォーリングコントロール:知力反射9+精霊使いLv4+加速4+付与熟達3+2D656-咄嗟行動ペナ2=29。重力0.1倍のため、落下ダメージ計算時に落下距離を0.1倍で計算。

*2
落下ダメージの計算:落下距離100m×重力軽減0.1×ダメージ計算係数0.5×1D62=10。




助けたのは、原作4巻(ブランニューデイマンガ版2巻。マンガ版はガンガンオンラインのアプリで無料で読めますので是非)で辺境三勇士(ヒューム・ファイター・オトコ=HFO×3)がドルアーガっぽい塔に挑むところの前説で出てきた知識神の神官のおねーさん。原作では落下死。

ちなみに、まだドルアーガの塔(仮称)は顕現していない状態としています。
なぜかというと、知識神の神官さんが死ななかったため、大地を侵す血の量がまだ儀式完遂に足りておらず、隠蔽されたままとなっているという想定です。

なので、塔には【突撃】せず、街への帰還を優先します。


追記:めっちゃイイ推薦文いただきました! セネット様、ありがとうございます!
 →https://syosetu.org/?mode=recommended_list&iid=5471&nid=224284



以下、半竜娘一党の現時点ステータスです。備忘のための掲載なので読む必要はないです。(約九千文字)




◆名前:半竜娘
 年齢13歳(成人直後)+4か月くらい。緑かかった烏の濡れ羽色の鱗と髪を持つ。
 火吹き山で大暴れして、その時のポスターとか新聞を故郷に送ったりした。


◆イメージ
 Picrewの「遊び屋さんちゃん」でつくったよ! https://picrew.me/share?cd=wZesuN9igj

【挿絵表示】


 Picrewの「人外女子メーカー」でつくったよ! https://picrew.me/share?cd=KsLmkX9Nbh

【挿絵表示】


◆累積経験点 66000点/ 残り経験点1000点
(ゴブリン退治10連勤2 +250点
 水晶の森亭殺人事件 +1250点
 火吹き山の闘技場  +2500点)

◆冒険回数 16回/16回(達成回数/冒険回数)

◆残り成長点 1点

◆能力値
 装備:魂魄強化の指輪+3、知力強化の指輪+3
能力値体力点 5魂魄点 5+3技量点 3知力点 3+3
集中度 4912710
持久度 381169
反射度 381169


    生命力:【 38(28+10) 】
    移動力:【 24 】 
 呪文使用回数:【 08 】

  呪文抵抗基準値(魂魄反射+冒険者LV+呪文抵抗):【 20 】 (ミスリルコート着用時さらに+1)

◆冒険者レベル:【 9 】
  職業レベル:【魔術師:7】【竜司祭:9】【精霊使い:4】up!【武道家:6】【斥候:2】

◆冒険者等級:鋼鉄等級

◆冒険者技能    初歩/習熟/熟練/達人/伝説
  【免疫強化】  ●   ○  ○  ○   ○
  【魔法の才】  ●  ●  ●  ●   ●
  【呪文熟達(創)】●  ○  ○  ○   ○
  【呪文熟達(付)】●  ●  ●  ○   ○
  【追加呪文(真)】●  ●  ○  ○   ○
  【追加呪文(竜)】●  ●  ○  ○   ○
  【生命の遣い手】●  ●  ●  ○   ○
  【機先】    ●  ●  ●  ○   ○
  【頑健】    ●  ●  ○  ○   ○
  【忍耐】    ●  ○  ○  ○   ○
  【武器:格闘】 ●  ●  ●  ○   ○
  【体術】    ●  ●  ○  ○   ○
  【鉄の拳】   ●  ○  ○  ○   ○
  【発勁】    ●  ○  ○  ○   ○
  【薙ぎ払い】  ●  ○  ○  ○   ○
  【二刀流】   ●  ○  ○  ○   ○
  【護衛】    ●  ○  ○  ○   ○

◆一般技能     初歩/習熟/熟練
  【竜の末裔】  ●  ●  ●
  【暗視】    ●  ○  ○
  【祈祷】    ●  〇  〇
  【瞑想】    ●  ●  〇
  【沈着冷静】  ●  ○  ○
  【信仰心(竜)】 ●  ●  ●
  【統率】    ●  ●  ●
  【礼儀作法】  ●  〇  〇
  【調理】    ●  〇  〇
  【精霊の愛し子】●  ●  〇
  【職人:土木】 ●  〇  〇
  【騎乗】    ●  ○  ○

◆呪文
 呪文行使基準値(知力集中):【 10 】
        (魂魄集中):【 12 】
 呪文維持基準値(知力持久):【 9 】
        (魂魄持久):【 11 】
 職業:魔術師:7 竜司祭:9 精霊使い:4
 技能:呪文熟達(創造呪文):+1
    呪文熟達(付与呪文):+3
    生命の遣い手:生命属性の呪文が出目10以上で大成功
    精霊の愛し子:触媒使用時+1
 装備:真言呪文の発動体+3 紅玉の杖(真言呪文行使+1)
《呪文行使》
 真言:【 21 】  奇跡:【 0 】  祖竜:【 21 】  精霊:【 16 】
《呪文維持》
 真言:【 16 】  奇跡:【 0 】  祖竜:【 20 】  精霊:【 15 】

 ◎習得呪文:
 《 分身 》 難易度:20 (真言呪文 創造呪文(生命))
 《 力場 》 難易度:15 (真言呪文 創造呪文(空間))
 《 抗魔 》 難易度:10 (真言呪文 付与呪文(なし))
 《 破裂 》 難易度: 5 (真言呪文 付与呪文(なし))
 《 巨大 》 難易度:10 (真言呪文 付与呪文(生命))
 《 加速 》 難易度:15 (真言呪文 付与呪文(生命、精神))
 《 停滞 》 難易度:15 (真言呪文 支配呪文(生命))
 《 天候 》 難易度:15 (真言呪文 支配呪文(水、風))
 《 突風 》 難易度: 5 (真言呪文 攻撃呪文(風))
 《竜牙兵》 難易度:15 (祖竜術 創造呪文(生命))
 《 竜爪 》 難易度:10 (祖竜術 創造呪文(物質))
 《 狩場 》 難易度:15 (祖竜術 付与呪文(空間))
 《 竜眼 》 難易度:10 (祖竜術 付与呪文(生命))
 《 竜血 》 難易度:なし (祖竜術 付与呪文(生命))
 《 擬態 》 難易度:10 (祖竜術 付与呪文(光))
 《 竜吠 》 難易度:15 (祖竜術 支配呪文(精神))
 《竜息/毒》 難易度:10 (祖竜術 攻撃呪文(闇))
 《 突撃 》 難易度:10 (祖竜術 攻撃呪文(なし))
 《 賦活 》 難易度:10 (祖竜術 治癒呪文(生命))
 《 小癒 》 難易度: 5 (祖竜術 治癒呪文(生命))
 《 降下 》 難易度:10 (精霊術 付与呪文(土、空間))
 《 使役 》 難易度:10 (精霊術 支配呪文(火、水、土、風))
 《 追風 》 難易度: 5 (精霊術 支配呪文(風))
 《 力球 》 難易度:20 (精霊術 攻撃呪文(火、風、空間))

 ※使役できる固定の精霊(名称:ミズチ)がいる。当該精霊が使ってくれる呪文は以下のとおり。
  【命水】(精霊(スピリット)級から)
  【酩酊】(自由精霊級から)
  【隠蔽】(大精霊級から)
  固定のパートナーのため、機嫌を損ねると言うことを聞いてくれないことも。
  毎日、触媒(酒や果物など)をお供え物として消費し、週に一回は上質な触媒を供える必要がある、呼び出す際も上質な触媒を用いなくてはならない。上質な触媒を用いない場合は達成値-4。

◆装備枠 【南洋投げナイフ】【紅玉の杖】【投石紐】
(素手と盾攻撃は装備枠を潰さない)
◆攻撃
 命中基準値(技量集中):【 7 】
 職業:【武道家:6】
 技能:【武器(格闘):熟練(+3)】
 近接:【 16 】  弩弓:【 7 】  投擲:【 13 】

 ◎武器:【 素手(爪) 】
   用途/属性:【 片手or両手格軽/斬 】
  命中値合計:【 16 】
   威力:
   片手:1d3+5(内訳:鉄の拳+1、発勁+1、竜の末裔+3)+武道家レベル6
   両手:1d3+7(内訳:両手+2、鉄の拳+1、発勁+1、竜の末裔+3) +武道家レベル6
   効果:投擲不可、鮮血呪紋(生命・スタミナ吸収の呪紋。与ダメージの20%(切り捨て)の負傷回復、または予ダメージの5%(切り捨て)の消耗回復。無機物系には無効。アンデッドや精霊からはマナを吸えるため有効)

 ◎武器:【 尻尾の大篭手(テールガード)(盾攻撃) 】
   用途/属性:【 片手格軽/殴 】
  命中値合計:【 16-2 】
   威力:1d3+2(内訳:発勁+1)+武道家レベル6
   効果:投擲不可

 ◎武器:【 南洋投げナイフ 】(2本所持(再購入))
   用途/属性:【 片手投軽/斬刺 】
  命中値合計:【 13+4 】  射程20m
   威力:1d6+武道家レベル6
   効果:投擲専用、強打・斬(+1)、刺突(+1)、斬落

 ◎武器:【 投石紐 】
   用途/属性:【 片手投軽/殴 】
  命中値合計:【 13+2 】  射程30m
   威力:1d3+1+武道家レベル6
   効果:投擲専用、速射(-4)、「手頃な石」または「石弾(命中+1)」を消費

 (紅玉の杖は基本的に武器として用いない)

◆防御
 回避基準値(技量反射+武道家レベル+体術スキル):【 14 】
 ◎鎧:【 衣鎧+鱗 】
   鎧:魔法の司教服(+3)(装甲7、回避修正+2、移動修正-4)
   鱗:外皮+3(竜の末裔)
   属性:【 衣鎧(布)/軽 】  回避値合計:【 16 】
   移動力合計:【 20(24-4) 】  装甲値合計:【 7+3 】
   隠密性:【悪い(静穏性はあるが視覚的に派手)】

 ※耐火装備:ミスリルめっきグラスウールコート
  炎・熱への抵抗+10、装甲値+2(火属性への装甲値5)、呪文抵抗+1、移動力-2

 盾受け基準値(技量反射+武道家レベル(大篭手着用時)):【 12 】
 ◎盾:【 小型盾 】
   盾:魔法の大篭手(+3)(盾受け修正5、盾受け値4、武道家の適正装備扱い)
  (両手と尻尾に同じものを装着)
   属性:【 小型盾(金属)/軽 】 盾受け基準値合計:【 17 】
  盾受装甲値合計:【 14 】 隠密性:【 良い 】

◆所持金
  銀貨:1000枚
  (足りないときは、財布を預けてる魔女さんに相談しようね!)

◆その他の所持品 (分身の分を余分に所持)
  アイテムボックス ×1
  冒険者ツール ×2
   内訳(鈎縄,楔x10,小槌,火口箱,背負い袋,水袋,携帯用食器,白墨,小刀,松明x6)
  携帯食×7日分、衣類
  背負い袋(蜥蜴人用特大サイズ) ×2
  ベルトポーチ ×4(主にポーション類を入れる)
  ずた袋 ×2
  小袋セット(3枚/1セット) ×2
  竜司祭と精霊使いの触媒入れ(空間拡張) ×2(移動力修正0)
  魂魄強化の指輪+3 ×1(装備中)
  知力強化の指輪+3 ×1(装備中)
  体力強化の指輪+3 ×1
  技量強化の指輪+3 ×1
  武術熟達の腕輪+3 ×1
  体術熟達の腕輪+3 ×1
  真言呪文の発動体+3 ×1(装備中、形態:ネックレス)(森人探検家とおそろい)
  毒煙玉 ×4
  治癒の水薬 ×6
  強壮の水薬 ×4
  解毒薬 ×4
  鎮痛剤 ×2
  燃える水 ×2
  火の秘薬 ×2
  能力上昇の秘薬(各種) ×2
  各種の呪文の上質な触媒 ×各10×2
  水精霊【ミズチ】用の上質な触媒 ×20
  調理道具 ×1
  手当道具 ×6
  水中呼吸の指輪 ×1
  石弾袋(空間拡張) ×2(移動力修正0)
  石弾 ×30(石弾袋に収納)
  投石紐 ×1
  新式着火具一式 ×1
  黒い蓮の花びらのカード ×1(所持者の瞑想時における呪文使用回数の回復数にプラス1(一日の回数制限なし。効果は重複しない)、または瞑想時間短縮:-1時間(回数制限なし。効果は重複しない)、または高速詠唱技能(1ラウンドに2回詠唱。回数制限1日1回)付与)
  耐火外套(ミスリルめっきグラスウールコート) ×1(炎や熱による悪影響に対する抵抗に+10、装甲値+2、火属性の攻撃への装甲値にさらに+3の追加修正、呪文抵抗にも+1の修正を得ます。ただし、移動力は-2)
  【舞踏】のフルート ×1(用いて演奏することで【舞踏】の真言呪文を発動する。呪文使用回数を消費する)
  【聖餐】のランチョンマット ×4(一日に一度、奇跡【聖餐】の効果を発動し、ランチョンマットの上の器に【食料】または【純水】を生み出す)

◆出自/来歴/邂逅/動機
 軍師/戦場/家族/託宣

◆コネクション
 令嬢剣士の実家の貴族家(娘から吸血鬼を殺せる一党と聞いている)
 火吹き山の闘技場のオーナー(最上級闘士、新人王として福利厚生など便宜を図っている。また、興行依頼もする)









◆名前:森人探検家
 年齢200歳。金の髪。
 交易神の信仰に目覚めており、かなり多額の献金をしている。
 お金は使って回すのが信条。

◆イメージ
 Picrewの「夢で逢ったヒトメーカー」でつくったやつですのよ→ https://picrew.me/share?cd=eHBGXttDjd

【挿絵表示】


◆累積経験点 28250点/ 残り経験点5250点
(水晶の森亭殺人事件 +1250点
 火吹き山の闘技場  +1500点)

◆残り成長点 9点

◆能力値
装備:体力強化の指輪+3、技量強化の指輪+3
能力値体力点 1+3魂魄点 3技量点 5+3知力点 4
集中度 265106
持久度 04384
反射度 265106


    生命力:【 23(18+5) 】
    移動力:【 44 】 
 呪文使用回数:【 02 】

  呪文抵抗基準値(魂魄反射+冒険者LV+呪文抵抗):【 11 】

◆冒険者レベル:【 6 】 (技能を達人まで習得可能)
  職業レベル:【野伏:7】【神官(交易神):4】【魔術師:2】

◆冒険者等級:青玉等級

◆冒険者技能    初歩/習熟/熟練/達人/伝説
  【武器:弩弓】 ●  ●  ●  ○   ○
  【魔法の才】  ●   ●  ○  ○   ○
  【怪物知識】  ●   ○  ○  ○   ○
  【速射】    ●  ●  ●  ●   ○
  【狙撃】    ●   ●  ○  ○   ○
  【曲射】    ●   ○  ○  ○   ○
  【刺突攻撃】  ●  ●  ●  ○   ○
  【手仕事】   ●   ○  ○  ○   ○
  【機先】    ●   ●  ○  ○   ○
  【頑健】    ●   ○  ○  ○   ○
  【体術】    ●   ○  ○  ○   ○
  【忍耐】    ●   ○  ○  ○   ○

◆一般技能     初歩/習熟/熟練
  【暗視】    ●  ○  ○
  【精霊の愛し子】●  〇  〇
  【生存術】   ●  〇  〇
  【工作】    ●  〇  〇
  【騎乗】    ●  ●  ○

◆呪文
 呪文行使基準値(魂魄集中):【 5 】
        (知力集中):【 6 】
 職業:神官(交易神):4 魔術師:2
 技能:特になし
 装備:聖印+3(奇跡行使+4)、真言呪文の発動体+3(真言呪文行使+3)
 真言:【 11 】  奇跡:【 13 】  祖竜:【 0 】  精霊:【 0 】

 ◎習得呪文:
 《 逆転 》 難易度:10 (奇跡 付与呪文(属性なし))
 《 旅人 》 難易度:15 (奇跡 付与呪文(生命))
 《 解毒 》 難易度:10 (奇跡 治癒呪文(生命))
 《 解呪 》 難易度:10 (奇跡 治癒呪文(生命・精神・物質・空間))
 《 力与 》 難易度:10 (真言呪文 付与呪文(なし))
 《 解錠 》 難易度:10 (真言呪文 汎用呪文(なし))

◆装備枠【大弓+2】【短弓+2】【短槍or投石紐】
◆攻撃
 命中基準値(技量集中):【 10 】
 職業:【野伏:7】
 技能:【武器(弩弓):熟練(+3)】
 近接:【 10 】  弩弓:【 20 】  投擲:【 17 】

 ◎武器:【 大弓 +2】
   用途/属性:【 両手弓重/刺 】
  命中値合計:【 20 】 射程:120m
   威力:2d6+4+野伏レベル7
   効果:長大(狭所で2D6が4以下でファンブル)、刺突(+2)、速射(-8)、
     「矢」を消費

 ◎武器:【 短弓 +2】
   用途/属性:【 両手弓軽/刺 】
  命中値合計:【 20+2 】 射程:60m
   威力:1d6+2+野伏レベル7
   効果:刺突(+1)、速射(-4)、「矢」を消費

 ◎武器:【 短槍 】 (投石紐と入れ替えることもある)
   用途/属性:【 片手槍軽/刺 】
  命中値合計:【 10 】
   威力:1d6
   効果:投擲適用、刺突(+1)

 ◎武器:【 投石紐 】(短槍と入れ替えることもある)
   用途/属性:【 片手投軽/殴 】
  命中値合計:【 17+2 】  射程30m
   威力:1d3+1+野伏レベル7
   効果:投擲専用、速射(-4)、「手頃な石」または「石弾(命中+1)」を消費

◆防御
 回避基準値(技量反射+体術スキル):【 11 】
 ◎鎧:【 軽鎧 】
   鎧:狩人の外套+2(装甲値4、回避修正+3)
     鋲付き鎧下(装甲2、移動力修正-4)
   属性:【 軽鎧(革)/軽 】  回避値合計:【 14 】
   移動力合計:【 40(44-4) 】  装甲値合計:【 6 】
   隠密性:【普通】

 盾受け基準値(技量反射):【 なし 】(適用可能職業なし)
 ◎盾:なし

◆所持金
  銀貨:5000枚(他にも宝石として所持)

◆その他の所持品
  アイテムボックス ×1
冒険者ツール(鈎縄,楔x10,小槌,火口箱,背負い袋,水袋,携帯用食器,白墨,小刀,松明x6)
  携帯食×7日分、衣類
  聖印(交易神)+3 ×1(装備中:ベルトに吊るしている)
  鍵開け道具 ×1
  罠師道具 ×5
  矢筒(空間拡張) ×1(移動力修正0)
  矢 ×150
  煙玉 ×1
  治癒の水薬 ×1
  強壮の水薬 ×1
  解毒薬 ×1
  防毒面 ×1
  臭い消し ×1
  技量強化の指輪+3 ×1(装備中)(半竜娘から貸してもらってる)
  体力強化の指輪+3 ×1(装備中)(半竜娘から貸してもらってる)
  真言呪文の発動体+3 ×1(装備中、形態:ネックレス)(半竜娘とおそろい)
  手当道具 ×6
  水中呼吸の指輪 ×1
  石弾袋(空間拡張) ×1(移動力修正0)
  石弾 ×30(石弾袋に収納)
  投石紐 ×1
  新式着火具一式 ×1
  【聖餐】のランチョンマット ×4(一日に一度、奇跡【聖餐】の効果を発動し、ランチョンマットの上の器に【食料】または【純水】を生み出す)
  【読解】の眼鏡 ×1(一日一回、未知の言語を解読できる(文献調査ボーナスなどはない))


◆出自/来歴/邂逅/動機
 猟師/貧困/師匠/英傑憧憬








◆名前:TS圃人斥候
 圃人斥候の妹……という設定の、圃人斥候本人。年齢は40歳(只人の20歳相当)。
 所作や仕草がすっかり女の子になってきた。口調を除けば、なんなら一党で一番女子っぽいまである。

◆イメージ
 Picrewの「ガン見してぅるメーカー」でつくったやつ。 →  https://picrew.me/share?cd=CdpkWpjshK

【挿絵表示】


◆累積経験点 26250点/ 残り経験点2750点
(ゴブリン退治10連勤 +1500点
 水晶の森亭殺人事件 +1250点
 火吹き山の闘技場  +1500点)


◆残り成長点 6点

◆能力値
 装備:知力強化の指輪+3、技量強化の指輪+3
能力値体力点 1魂魄点 5技量点 5+3知力点 1+3
集中度 12695
持久度 12695
反射度 459128


    生命力:【 19(14+5) 】
   (体力点+魂魄点+持久度+【頑健】)
    移動力:【 27 】 
 呪文使用回数:【 01 】

  呪文抵抗基準値(魂魄反射+冒険者LV+呪文抵抗):【 15 】

◆冒険者レベル:【 6 】
  職業レベル:【戦士:3】【斥候:7】【野伏:1】【魔術師:3】

◆冒険者等級:黒曜等級

◆冒険者技能    初歩/習熟/熟練/達人/伝説
  【機先】    ●   ●  ●  ●   ○
  【隠密】    ●  ○  ○  ○   ○
  【幸運】    ●  ○  ○  ○   ○
  【武器:片手剣】●  ○  ○  ○   ○
  【武器:投擲】 ●  ○  ○  ○   ○
  【体術】    ●  ○  ○  ○   ○
  【死角移動】  ●  ●  ○  ○   ○
  【手仕事】   ●  ●  ●  ○   ○
  【頑健】    ●  ○  ○  ○   ○
  【忍耐】    ●  ○  ○  ○   ○
  【観察】    ●  ●  ○  ○   ○
  【第六感】   ●  ●  ○  ○   ○
  【魔法の才】  ●  ○  ○  ○   ○
  【速射】    ●  ○  ○  ○   ○
  【鎧:軽鎧】  ●  ○  ○  ○   ○

◆一般技能     初歩/習熟/熟練
  【調理】    ●  ○  ○
  【犯罪知識】  ●  ●  ○
  【鑑定】    ●  ○  ○
  【騎乗】    ●  ○  ○
  【職人:化粧】 ●  ○  ○
  【芸能:演劇】 ●  ○  ○
 【交渉:誘惑】 ●  ○  ○


◆呪文
 呪文行使基準値 (知力集中):【 5 】
 職業:魔術師:3
 技能:特になし
 装備:特になし
《呪文行使》
 真言:【 8 】  奇跡:【 0 】  祖竜:【 0 】  精霊:【 0 】
《呪文維持》
 真言:【 8 】  奇跡:【 0 】  祖竜:【 0 】  精霊:【 0 】

 ◎習得呪文:
 《 幻影 》 難易度: 5 (真言呪文 創造呪文(光))
 《 脱出 》 難易度:なし (真言呪文 汎用呪文(時間))
 《 浮遊 》 難易度:10 (真言呪文 汎用呪文(風))

◆装備枠【小剣+3】【投矢銃+2(投矢)】【投石紐】
◆攻撃
 命中基準値(技量集中):【 9 】
 職業:【斥候:7】【戦士:3】【野伏:1】
 技能:【武器(片手剣):初歩(+1)】
    【武器(投擲) :初歩(+1)】
 近接:【 17 】  弩弓:【 10 】  投擲:【 17 】

 ◎武器:【 魔法の小剣+3】
   用途/属性:【 片手剣軽/斬刺殴 】
  命中値合計:【 17+1 】
   威力:
   片手:1d6+3+斥候レベル7
   効果:投擲適用、受け流し(+0)、強打・斬(+0)、刺突(+1)

 ◎武器:【 投矢 】(投矢銃の弾。単体で投げることもできる)
   用途/属性:【 片手投軽/刺 】
  命中値合計:【 17】  射程10m
   威力:1d3+斥候レベル7
   効果:投擲専用、この武器は使用すると失われる

 ◎武器:【 魔法の投矢銃+2 】
   用途/属性:【 片手弩軽/刺 】
  命中値合計:【 10+6 】  射程60m
   威力:1d6+2+野伏レベル1
   効果:刺突(+1)、「投矢」を消費

 ◎武器:【 投石紐 】
   用途/属性:【 片手投軽/殴 】
  命中値合計:【 17+2 】  射程30m
   威力:1d3+1+斥候レベル7
   効果:投擲専用、速射(-4)、「手頃な石」または「石弾(命中+1)」を消費

◆防御
 回避基準値(技量反射+斥候レベル+体術スキル):【 20 】
 ◎鎧:【 軽鎧】
   鎧:鼓舞の革鎧(+3)(装甲5、回避修正+3、移動修正なし)
  効果:精神属性無効、戦女神の奇跡【鼓舞】(達成値20)を1日に1度使用可能。使用回数は0時に回復する。
   属性:【 軽鎧(革)/軽 】  回避値合計:【 23 】
   移動力合計:【 27(27-0) 】  装甲値合計:【 5+1(鎧技能) 】
   隠密性:【普通】

 盾受け基準値(技量反射+斥候レベル):【 19 】
 ◎盾:【 小型盾 】
   盾:魔法の吊盾(+2)(盾受け修正7、盾受け値5、受け流し+1)
   属性:【 小型盾(木、革)/軽 】 盾受け基準値合計:【 26 】
  盾受装甲値合計:【 10+1 】 隠密性:【 普通 】

◆所持金
  銀貨:1000枚

◆その他の所持品
  アイテムボックス ×1
  冒険者ツール
   内訳(鈎縄,楔x10,小槌,火口箱,背負い袋,水袋,携帯用食器,白墨,小刀,松明x6)
  携帯食×7日分(圃人基準)、衣類
  ベルトポーチ ×2
  ずた袋 ×2
  小袋セット(3枚/1セット) ×2
  知力強化の指輪+3 ×1(装備中、借り物)
  技量強化の指輪+3 ×1(装備中、借り物)
  煙玉 ×2
  治癒の水薬 ×2
  強壮の水薬 ×1
  解毒薬 ×1
  鎮痛剤 ×1
  燃える水 ×1
  火の秘薬 ×1
  調理道具 ×1
  香辛料 ×1
  罠師道具 ×5
  トリカブトの毒 ×1
  催涙弾 ×3
  防毒面 ×1
  化粧道具 ×1
  臭い消し ×1
  投矢帯(空間拡張) ×1(移動力修正0)
  投矢 ×50
  角灯 ×1(腰から吊り下げるよう改造)
  油 ×2
  鍵開け道具 ×1
  手当道具 ×6
  化膿止めの軟膏 ×2
  円匙 ×1
  筆記道具 ×1
  パピルス紙 ×10
  知覚上昇の秘薬 ×1
  敏捷上昇の秘薬 ×1
  水中呼吸の指輪 ×1
  石弾袋(空間拡張) ×1(移動力修正0)
  石弾 ×30(石弾袋に収納)
  投石紐 ×1
  新式着火具一式 ×1
  【聖餐】のランチョンマット ×5(一日に一度、奇跡【聖餐】の効果を発動し、ランチョンマットの上の器に【食料】または【純水】を生み出す)
  【鑑定】の手袋 ×1(一日一回、触れた物品を【鑑定】できる)
  
 
◆出自/来歴/邂逅/動機
 亭主/平穏/宿敵/挫折再起





◆一党の共有資産
 独立懸架式突撃装甲馬車(車体強化済み) ※特注品
 野営用の道具類一式
 麒麟竜馬用の餌などの空間収納箱
 空調・空気清浄機能付きのテント


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20/n 裏 + 21/n 裏

閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入……ありがとうございます、大変励みになっています!
しかも、なんと! 推薦までいただきました! →https://syosetu.org/?mode=recommended_list&iid=5471&nid=224284
ありがとうございます! 素敵な推薦文で、感激しました! セネット様、ご推薦いただき、ありがとうございます! ありがとうございますー! 感激したので更新です。


●前話:
半竜娘「拾ったのじゃ」
知識神の神官「きゅう」(´×ω×`)
(白目をむいた知識神の神官の首根っこを掴んで猫のように吊るしている)


1.オレの姉ちゃんは超すげー!

 

 王都の魔術学院の図書館にて、赤毛に眼鏡の魔術師姉弟が仲良く調べ物をしています。

 姉の方は、春に学院を卒業し、見聞を広げるべく冒険者になるために、西方辺境へと旅立ったのです。

 よく見れば、その装いも、街中仕事(シティアド)よりは、野外探索(ハック&スラッシュ)に向いた実践的なものです。

 

 弟の方は、年子ですので今年で卒業の予定です。

 学院の制服に身を包み、姉の方と比べると、まだまだ初々しさが抜けない様子です。

 シスコンの()があるのか、ちらちらと姉の方を見ては、凛々しくなった相貌につい、にまにまと頬を緩めてしまっています。

 

「……なあに? にやにやして」

「な、何でもない」

「そう? わからないことあったら聞いてね」

 

 さっきも姉の方は、

 

『出戻りか?』

 

と揶揄してきた輩に、格好よくこう返していたのです。

 

『いえ、外に出たら、ここの蔵書の希少さが身に染みたもので。

 冒険の身空で磨かれるのは、術の腕前程度ですもの。やはり初心に返らなくては。

 私は卒業前の()()()()を唱えられるようになりましたし、()()()()()()()()になりましたが――』

 

 ――()()()()()()()()()()()()

 

 もちろん相手は口ごもって、すごすごと退散していったのです!

 

(ひゅー! 姉ちゃんかっけー!)

 

 内心を表に出さないように気を付けていますが、口角が上がるのは抑えられません。

 ただ単に言い返すだけでなく、どうにも余裕や風格というものが備わってきているような気がします。

 身内のひいき目ではなく、学院に講師として招かれるベテランの魔術師のような、修羅場をくぐった空気を確かに感じるのです。

 学院に居た頃の姉では、そうはいかなかったでしょう。

 

「姉ちゃん、【火球】の真言について教えてくれよ。本を読んでも『カリブンクルス( 火石 )』のイメージがどうにも……」

「そうねえ……蜥蜴人に伝わる、祖竜を滅ぼしたという『天の火石(ほいし)』の話を知っているかしら?」

「……いや、知らない」

 

 恥ずかしげにうつむく弟を、姉は目を細めて見ています。

 ()()()()()()()()()()()()()()()のは、賢人への最初の一歩なのです。

 

「私が旅の途中で見たことがあるのは、大昔に天から火石が落ちたという跡ね――クレーターっていうんだけど、大地が大きく抉れていて、場所によっては湖になることもあるくらい」

「それが、その恐るべき竜を滅ぼしたっていう?」

「いいえまさか。恐ろしい竜を滅ぼしたという火石は、王都よりも大きくて、ぶつかったところは何もかもが吹き飛んだそうよ。たぶん、この国全部が吹き飛ぶわ。そして――」

「そして?」

「この大地の裏側にまで、その衝撃が突き抜けた。もしも世界がサイコロで、一の目が火石のぶつかったところだとすれば、その裏側の六の目は、きっと七になっちゃったでしょうね」

 

 恐るべき竜すら滅ぼしていく、天から落ちる燃える火の石!

 大地すら歪める、巨大な天の槌!

 たかだか一抱えほどの火の玉どころではない――『カリブンクルス( 火石 )』の真言は、それほどに恐ろしい力ある言葉なのです!

 

「はぁーー、そんな伝承があるのか……。よく知ってたな、姉ちゃん」

「いえ、私も最近教えてもらったのよ。打ち倒した竜人から、ね」*1

 

 少し、はにかんで、何かに――いえ、()()()思いを馳せている様子は、まるで、恋をして――。

 

(え? 姉ちゃん……好きな人ができたの、か……?)

 

 

<『1.オレの姉ちゃんは超すげー! どこの馬の骨だ、ゆ゛る゛さ゛ん゛!』 了>

 

 

 

  ○●○●○●○●○

  ●○●○●○●○●

 

 

 

2.ちょっと通りますよ

 

 

 ここは盤の外。

 神々が冒険の場を整え、四方世界の駒たちを見守る場所にて。

 

「ああ、毎度すみませんね。ちょっと通りますよ」

 

 “火吹き山の魔術師(火吹き山P)”が、神々がセッションをしているところをスイスイと通り抜けていきます。

 

「ああ、《死》の神よ。これは今回の上がりです。どうかお納めを。はい、いえ、こちらこそ。ええ、はい。では、今回も良しなに……」

 

 火吹き山Pは、《死》の神の前に立ち、自分が集めた《死》の力の一端を献上しています。

 どうやら、通行料、のようなものでしょうか?

 火吹き山Pは、《死》の神に敬意をもって接しているようです。

 

 力の格は――まあ、どっちが上かは、よくわかりません。

 太平洋と大西洋の水の量を比べようとて、水槽に生きる魚には意味がないように。

 少なくとも、《死》の神の方が古株ではあるようですが。

 

 

 

 ――かつて、四方世界では、神々が単純な骰子遊びの丁半で勝負をしていた『創造の時代』がありました。

 ――次に、神々が直接駒を創り、配置し、指揮した戦争遊戯……『戦乱の時代』がありました。

 ――やがて、最初の勇者が現れ、駒たちの自由意志が織りなす()()に魅せられた神々は、直接の介入を控えるように取り決めました。

 ――その直後に、神々が約定により手出しできない隙に勃興したのが、強大な力を持った駒……魔術師(デュエリスト)たちによる『魔法の時代』です。

 ――世界を割らんばかりの高次元デュエルに神々がハラハラしだしたころに、魔術師たちは、ひとりまたひとりと、盤の外へとその舞台を移すようになりました。

 ――やがて全ての魔術師たちが盤の外に去って(世界が割られずに済んで)、いよいよ『冒険の時代』がやってきたのです。

 

 

 

 ……彼らは去ったはずなんですけどねえ。

 

 まあ、息抜きに戻ってくる者もいるということで。

 いや、そもそも四方世界の出身なんですかね? この魔術師は。

 それすらも定かではないのですが。

 

 彼はいつの間にか盤の中と外を行き来しながら、《死》の神と仲良くして、四方世界でバカンスを楽しんでいたのです。

 彼は、ひょっとしたら、生首だけになったパワーストーン義眼の男かもしれませんし、悲しみを背負った銀のゴーレムなのかもしれませんし、あるいは、彼らと同じくらい古くから活躍し彼らの物語をよく知るプレインズウォーカー(プレイヤーのあなた)なのかも知れません。

 それとも全く別の次元の骸骨魔王上皇かもしれませんし、スライムから成り上がった何かなのかもしれませんし、あるいは銀の鍵の門を開いた夢の国の旅人なのかも……とにかく正体不明なのです。

 

「ああ、《死》の神よ。これは闘技場の傑作選です、どうか神々でお楽しみを。迷場面集はこっちです。ええ、ええ。箱庭で暴れたりはしませんよ。自分の闘技場のことを『マジシャンズ・ソリティア(魔術師の一人遊び)』だとまでは卑下しませんが、しばらくは、自分で決闘をするのはコリゴリですから」

 

 何やら記憶媒体のようなものを《死》の神に渡す火吹き山P。

 彼は盤外世界における娯楽提供者でもあるようです。

 こういった細かい付け届けが、円滑なバカンスライフを続けるためのコツなのでしょう。

 

「ええ、はい、もちろんご用命とあらば、役を賜ることもやぶさかではなく。ほう! キャンペーンの計画が! 《死》と《生》のご両柱で? なるほど……」

 

 そして、いわゆるサブマスターのような役目としても便利使いされているようです。

 ……まあ火吹き山P本人も楽しんでいるようですから良いのでしょう。

 なんだか気安い先輩後輩みたいな感じですね。

 

「では、その時はぜひお声がけを……いいキャンペーンにしましょう」

 

 

<『2.ちょっと通りますよ』 了>

 

 

 

 

  ○●○●○●○●○

  ●○●○●○●○●

 

 

 

3.辺境最強の名に懸けて

 

 

 西方辺境の街のギルドの喧騒はいつものことですが、何やら今日は少し様子が違います。

 なんというか、(うわ)ついた感じです。

 少し耳を傾けてみましょうか。

 

「火吹き山のチャンピオン……」

「つってもまだ新人王だろ? チャンピオンと言えば、やっぱりグランドチャンピオンじゃねーと」

「いや、新人王でも十分すげえよ! 帰ってきたらサイン貰おうぜ!」

 

 どうやら半竜娘のことを噂しているようです。

 火吹き山Pは、辺境でも広報活動に余念がありませんからね。

 ましてや、話題の闘士の地元ともなればなおさらです。

 

「むーん」

 

 その広報用の新聞を前に難しい顔をしているのは、【辺境最強】と名高い槍使いの戦士です。

 

「あ ら、 嫉妬 かしら?」

「いや! そんなことはない! かわいい後輩の活躍だ、祝ってやらねーと名が(すた)るってもんよ」

「ふふ、なら いいの だけど、ね?」

 

 くすくすと手を口に当てて妖艶に笑うのは、彼のペアである魔女です。

 机に置かれた広報新聞の、半竜娘の精巧な写し絵に、白魚のような指先をまるで愛撫するように滑らせます。

 ちょうど、巨大化した半竜娘が、巨大な何か(おそらく粘液体。見る者の正気に配慮してぼかして描いてある)を吹き飛ばした瞬間をとらえた絵です。

 

「大活躍、みたい ね」

「ああ、炎の魔神や巨大粘液とかに“勝った”のはすげえよ。俺だって勝てるがな」

「そう、ね。で も、冒険者の しごと は、闘技場には、ないもの、ね」

 

 魔女の言葉に、槍使いは、我が意を得たりとばかりに頷きます。

 

「ああ、そうだぜ。ルールのある闘技場で“勝った”からって、村を襲う怪物や、街道を塞ぐ賊がいなくなるわけじゃねえ。未知を明かし、困難を解決してこその冒険者だ」

「そ、ね」

「名声や箔付けになるから無駄ってわけじゃあねえが、あくまでそりゃサブクエストだろ」

 

 一理あります。

 ……やっぱり対抗心も混ざっているかもしれませんが。

 

「ま、西方辺境(こっち)に戻ってきて、冒険者を続けるってんだから、半竜のもその辺は分かってるんだろうさ」

「じゃ あ、お祝い、しないと、ね?」

「ん。…………そうだな!」

 

 自分の中で整理がついたのでしょう。

 

 槍使いの顔はずいぶんとマシなものになりました。

 ……女性尊重の信条を持つ槍使いですので、半竜娘を捕まえて「どっちが強いか勝負だ!」とはならなかったでしょうが、余計な対抗心を持ったまま、危険な依頼を受ける方向に傾いても困りますからね。

 魔女さんの操縦手腕が光ります。

 

 

 と、そこで冒険者ギルドの扉が勢いよく開けられました。

 

 

「皆の衆! 宣言通り、“火吹き山のチャンピオン”になって帰ってきたのじゃよ!!」

 

「おう、よくやった! そしたら祝勝会だ! 今日は存分に祝ってやるぜ、【辺境最強】の名に懸けてな!」

 

<『3.辺境最強の名に懸けて』 了>

 

*1
祖竜を滅ぼした天の火石について:出所は火吹き山の闘技場での処女同衾後の半竜娘とのピロートークだったり。お互い好奇心旺盛かつ魔術師同士で話題も合ったし、とりあえず友達にはなった。




知識神の神官「拠点の王都にギルド経由で連絡とってもらったらぁ、死んだと思われてて、もう一党は新しい神官を見つけて゛る゛っ゛て゛え゛。“ゴメン、せめて荷物は送るから”って言われても~、ううぅ」(ぐすぐす)
半竜娘「あー。王都は人も多いしのう、神官もすぐ見つかったんじゃな。お主は行くあてはあるかの?」
知識神の神官「実家に帰るか、知識神様の文庫(ふみくら)に身を寄せるか、()()()()()()()()()()()()()()……とりあえずは実家の方に顔を出そうかなと」
半竜娘「ふむ、場所は? …………ああ、そこの領地なら、次に探索予定の遺跡の近くじゃの。何かの縁じゃし、臨時の一党ということで途中まで一緒に行くのはどうかの?」
知識神の神官「お世話になりますぅ……()()()ぁ……」
半竜娘「ん?」

(なお、知識神の奇跡により、半竜娘たちの行き先と実家が同じ方向なのは予め確認していた模様。計画通り……)


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22/n 蜘蛛の巣の大逆襲-1(出発)

閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ありがとうございます! すてきな推薦文も必読です! 不定期更新ですが、今後ともよろしくお願いいたします!


●前話:
半竜娘「凱旋じゃ! チャンピオンになったのじゃ!」
辺境の街のみんな「「「おめでとう!!」」」
 


 はいどーも!

 半竜娘ちゃんが押される側に回るのは珍しいよね、な実況、はーじまーるよー!

 

 前回は、火吹き山でチャンピオンになって、辺境の街へと帰還するぞ、というところまででしたね。

 道中、ガーゴイルに攫われて落下死しかけてた知識神の神官ちゃんを助けたりもしました。

 なんとか助けたものの、彼女の仲間たちは見失ってしまったので、半竜娘ちゃんたちは、気絶したその神官ちゃんを、とりあえず辺境の街まで連れて帰ることにしました。

 

 あとで聞いたところによると、知識神の神官ちゃんは、往復護衛依頼の復路で王都へ戻る途中にガーゴイルの襲撃を受けたそうです。

 つまり、彼女の拠点は王都。

 なのに辺境の街にまで連れてこられても困っちゃいますよね。

 麒麟竜馬が曳く馬車は、ちょっと異常なスピードなので、知識神の神官ちゃんが目覚めたときには、もう辺境の街は目前に迫っていました。

 大方の荷物も、護衛していた行商人の馬車に積んだままでしたから、知識神の神官ちゃんはほぼ無一文です。

 王都まで神官一人旅なんて、ゴブリンに襲われるフラグでしかないですし、しばらくは辺境の街に留め置きになるのも致し方なし。

 

「すみません……いろいろ面倒見てもらっちゃって……」

「なんのなんの。助けたのは手前じゃし、これもまた祖竜のお導きじゃて。仕える神は違えども、神官仲間じゃしのう」

「ありがとうございます! お姉さま流石です……

 

 半竜娘の厚意で宿代を支援してもらったり。

 冒険者ギルド経由で元のパーティーに生存を知らせるよう手配したり(これも半竜娘が受付嬢さんに仲介)。

 その返信の連絡を待つ間に、半竜娘と一緒に冒険者ギルドの書類仕事を手伝ったり。

 半竜娘ちゃん恒例のゴブリン退治ヘビロテに付き合ったり。

 そうこうしてるうちに、もともと墜落から救ってもらったこともあってか、知識神の神官ちゃんは、すっかり半竜娘に懐いてしまっていました。

 

「お主、意外とゴブリン退治もいけるのじゃな?」

「ええ、修行した文庫(ふみくら)には、ゴブリンの巣穴から助けられたという方もいましたし……“ゴブリン殺すべし”と、よく言うでしょう?」

「よく言うのかや? 知識神の文庫での流行はよう知らんが、まあ、その心意気には同意するのじゃ」

 

 知識神の文庫(ふみくら)……まあ、寺院のことですが、そこは、訳ありの女性たちの出家先に選ばれることも多い場所です。

 男にトラウマがある修道女たちだけの閉鎖空間ということで、まあ、『女の園』になることも。

 修道女らの間でささやかな百合の花が咲くことも、時にはあるのだとか。

 

 そうこうしているうちに、数日経ち、王都方面に知らせた消息への返答が来ました。

 ……あまり芳しくない返事でしたが。

 

「うぅ~、もう新しい神官見つけちゃったんですって~。帰るとこなくなっちゃいました……」

「あー、そいつはご愁傷様じゃのう……。他に行く宛ては無いのかや?」

「故郷の方か、この近くの文庫(ふみくら)か、他の一党を探すか……でもまあ、少し思うところもありましたので、まずは一度故郷の方へ帰ろうかと……」

 

 そりゃまあ、死にかけましたし、いろいろと思うところもあるでしょう。

 心の整理をつけるためか、あるいは何か目的があるのか、文庫神官ちゃんは故郷に戻るつもりのようです。

 しかも、奇遇なことに、その生まれ故郷のある地方は、これから半竜娘ちゃんたち一党が挑もうと目を付けていた遺跡がある辺りとも重なるとのこと。

 

「ふむ。行き道は同じじゃし、臨時パーティー組んで、一緒に行くかの?」

「よろしいんですか!?」

「ま、これも何かの縁じゃて。うちの弓士や斥候との仲も悪くないようじゃしのう」

「あ、ありがとうございます~!」

 

 旅は道連れといいますからね。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 では、森人探検家とTS圃人斥候とも合流し、いざ出発です!

 支援呪文( バフ )を積みまくった麒麟竜馬が曳く馬車の中で、いろいろと交流がはかどります。

 ちなみに御者は、半竜娘の分身が務めていますので、メンバーは全員馬車の中です。

 

「そういえば、どこの遺跡に行くんですか?」

「あれ、リーダーから聞いてない? ま、せっかくだからもう一度確認しましょうか」

 

 知識神の神官――今後は“文庫神官(ふみくらしんかん)”と呼ぶことにします。どうも長い付き合いになりそうですしね。

 その文庫神官が、森人探検家に行先の遺跡について尋ねました。

 

「今から向かう遺跡は、森の中の古木のうろから繋がるという地下洞穴ね。

 伝説によると、とても巨大な樹人(トレント)の賢者の(むくろ)だという話だけど……」

「あっ、聞いたことあります! たぶん、地元では『デクの大切り株(おおきりかぶ)』って呼んでるものだと思います!」

「流石地元民ね。よかったら途中まで案内してくれるかしら?」

「喜んで! と言いたいですけど、その周りの森は、入るたびに形を変える『迷いの森』ですよ……? 地元の者でも、森の奥にあるというその『デクの大切り株』には、10年にひとり辿り着くかどうかで……」

 

 文庫神官は、申し訳なさそうに眉を下げます。

 

「……あの、みなさんは、どうやって迷いの森の奥まで行くつもりなんですか?」

 

 当然の疑問ですよね。

 

「……《物探しの蠟燭》を使っても辿り着けないかしら? ここ何日か、市中から搔き集めて用意したんだけど」

「手当たり次第に総当たりすれば良いんじゃないかの?」

「こっちにゃ腕のいい野伏と斥候もいるし、何とかなるんじゃねーかな。それか、エルフ先輩が森の木の声を聞けると信じてるぜ!」

 

 つまり、確たる手段のあてはないということです。

 出たとこ勝負、なわけですね。

 あと、半竜娘ちゃんは知的ポテンシャル高いのに先ず脳筋な選択肢(総当たり)に行くのはどうしてなの?

 

「それで辿り着ければ、地元でも観光名所にでもしてたんじゃないかと思いますが……。……故郷の文庫(ふみくら)には、『迷いの森』を調べた趣味人の手記やらなんやらがあったはずです。まず一緒にそこで調べてから行きませんか?」

「あら! それは助かるわ! もともとダメだったら現地で情報収集するつもりだったのよ!」

 

 森人探検家が、喜色満面で文庫神官の手を取ります。

 ……なんか文庫神官ちゃんは半竜娘の方をチラチラ見てますね。手を握られるなら半竜娘ちゃんの方がよかった、って感じですかね。

 

 まあ、昔の日記を調べれば、何か分かるかも知れません。

 例えば、ある特定の時期に『迷いの森』の惑わしが消えるとか、特定の気象現象の時には固定ルートになるとか、何か迷いの森を抜ける目印があるとか……そういうヒントを得られる可能性があります。

 もちろん、そういう分かりやすい隙などないのかもしれませんが……ともあれ、情報収集は大切です。

 

「私もお力になれそうでよかったです。皆さんには大変お世話になりましたから……、特に半竜の()()()()には」

「うむうむ、これもまた祖竜のお導きじゃて」

 

 微笑む文庫神官へ、半竜娘は神妙に合掌します。

 

「そういえば、『デクの大切り株』に、皆さんが欲しがるような宝物があるんですか? 地元に居た頃には、家ほどもある大きな切り株があるだけって聞いてますけど」

「そうね……現地確認が必要だけど、巨大トレントの根元から地下空洞に繋がる通路が封印されてるんじゃないかと思うのよ。普段は隠されてて」

「んでもって、オイラたちは、そこに封じられてると思われる、大昔の神様たちの戦乱の時代の名残――『手』の権能を宿した呪物を回収するのが目的ってわけだぜ」

 

 森人探検家が集めた情報によると、大昔の『手』の呪物が、その辺りに封印されたらしい、とのこと。

 神々の戦乱の時代の名残ともなれば、たとえ小物でも現代においては強力な呪物に違いありません。

 そして、封印された情報はあれど、見つかったという情報はないとのこと。

 迷いの森に守られた、太古の善なる樹人(トレント)(むくろ)ともなれば、()()()()邪悪なものを封じていそうなシチュエーションです。

 全く何もないということはないでしょう。

 

「あの……そんなものを回収してどうなさるおつもりで……?」

 

 『呪物』という響きに、文庫神官は、不安そうです。

 

「ま、悪いようにはしないのじゃ。真っ当に使えば、『手』にまつわる様々な権能をもたらす触媒となるに過ぎん」

「例えば矢避け、例えば雲を払って天候操作、例えば呪いを掃き清める解呪、例えば傷に()当てして治癒、他にも不可視の握り拳での殴打だとか、手仕事の器用度上昇の加護だとか……まあ、『手』の権能は、おおよそ万能といっていいはずよ」

「むしろ、混沌の手に落ちる前に、オイラたちで回収しとかねーとな」

 

 半竜娘、森人探検家、TS圃人斥候の順に、文庫神官の不安に答えます。

 

「祖竜が滅んで、蜥蜴人が生き残ったのは、ともすれば『手』の有無が大きかったのやもなあ」

 

 半竜娘が、遠くを見るように思いを馳せます。

 

「それで、手前(てまえ)に、ちょっとした構想があっての……神界が近づくという此度の収穫祭の(おり)に祖竜へ供物を捧げたいのじゃが、その供物を手に入れるための前段階として、『手』の呪物が必要なのじゃ」

「まあ、みなさまのことは、信じてはいますけれど……」

 

 まーた半竜娘ちゃんが変なこと考えてるぞ?

 そういえば、火吹き山の闘技場では、アストラル系統の魔術理論を読み込んでたようです。

 盤外と物質次元の狭間にある、アストラル次元に殴り込みかけるつもりでしょうか……。

 盤外(ここ)のすぐ隣なんだよなあ。

 こわいなー、とづまりすとこ……。

 

 …………。

 ……。

 

 

  △▼△▼△▼△▼△▼△

  ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 というわけで、数日も馬車に揺られて、目的の領地に到着しました。

 いまは、文庫神官ちゃんが育ったという、知識神の文庫に、調べ物がてら逗留させてもらっています。

 そして、次の日にでも森の方を少し見に行こうと決めた日。

 文庫神官は、半竜娘を呼び出しました。

 

「私、実は孤児だったんです」

 

 文庫神官ちゃんの言うことには、かつて幾つかの村を治める騎士だったという彼女の父が、領主への諫言(かんげん)により勘気を被り、当時の混沌との最前線へと飛ばされ、そこで武運つたなく戦死。

 母親も後を追うように亡くなり、孤児に。

 実家の騎士家を叔父が継ぐと、形見の品を持たされて知識神の文庫に預けられたとのこと。

 

「当時は叔父を恨みましたが、叔父には叔父の考えがあったようです。……おそらく、今にしてみれば、ゲス……失敬……ええと、程度が低く狭量で浅ましくも好色であり幼女性愛者の領主に目を付けられないように、という配慮でもあったのでしょう」

「(言い直してよけいに辛辣になっておるが、わざとかの?)」

 

 目を付けられないように、というのは、諫言をした騎士の娘ということで勘気に触れる可能性と、美しい娘として強引に召し上げられる可能性との両方でしょうか。

 確かに文庫神官ちゃんは、美しい容貌をしています。

 まあ、叔父の方に、我が子に家を継がせたいという思惑が全くないということはないでしょうが。

 

「文庫で学ぶうちに、知識神様から奇跡を賜り、未知の世界を知りたくて冒険者を志しました。騎士家の娘のままでは、そうもいかなかったかもしれません」

「……つまり……」

 

 半竜娘は、文庫神官の姿を、上から下までまじまじと見つめます。

 

「その“胴鎧(ブリガンダイン)”と“騎士盾(ヒーターシールド)”は、御父君の形見の品か何かかの?」

「はい! 斥候さんの手仕事で簡単にですがサイズを合わせてもらいましたし、文庫にいたころから手入れは欠かしていません! 十分に実戦に耐えうるかと思います!」

「まさか、故郷に戻ったのは、これを取りに来るためだったのじゃ?」

「はい! お姉さまの一党には、盾役が足りないと思いましたので!」

 

 今回の探索に付いてくる気満々ですし、なんならこのまま神官戦士(メイン盾)として正式加入するつもりですね。

 こっちとしては有り難いですが……、なぜ職業:戦士Lvを伸ばそうと?

 出自が騎士なので、そりゃ素養はあったでしょうけど。*1

 

「私は気付いたんです……二度と空に攫われないようにするためには、私自身が重くなればいいのだと!」

「なるほど、墜落はやっぱりトラウマなんじゃな」

「その克服のための重装備です! しかも、お姉さまの一党の穴も埋められるとなれば、一石二鳥! これぞ天佑です!」

 

 ガチャガチャと身振り手振りで訴える文庫神官ちゃん。

 しかし、やはり急拵えの促成タンクなので、ふらついています。

 鎧の重さに耐えられていないようです。*2

 

「ああもう、ふらついておるぞ」

「だ、大丈夫、です!」

「……ほれ、指を出すのじゃ。フィジカルエンチャントの指輪を貸してやるからの」

「ゆびわっ!?」

 

 半竜娘ちゃんが差し出した魔法の指輪に、文庫神官ちゃんの目は釘付けです。

 

「正式加入の証みたいなもんじゃの、他のメンツも反対はせんじゃろ。……ほれほれ、早よう指を出しぃ。これからもよろしくなのじゃ」

「す、すえながくよろしくおねがいいたしますっ!! お姉さま!」

「で、どの指につけるのじゃ?」

「左手の薬指に!!!」

「お、おう」

 

 というところで今回はここまで!

 ではまた次回!

 

*1
出自『騎士』の場合、最初から戦士Lvを1で持っている。

*2
重い鎧を着たときのペナルティー:鎧には『過重7/12』のような属性がついたものがあり、この場合は、『体力持久+過重行動スキルボーナス』が7()()()のとき、『身の丈に合わない重さにより倍のスピードで消耗する』ことと、反対に『体力持久+過重行動スキルボーナス』が1()2()()()のときは、体力お化けなので軽々と動くことができて『鎧の回避ペナ、移動力ペナを半減させる』という効果を表します。




文庫神官「あ、みなさんが付けてる指輪も、半竜娘さん(お姉さま)からの贈り物です? はっ、つまり皆さんも……」
森人探検家「うーん。なくもないけど、まずは話はイモータルになってからよねえ」(定命の者と添い遂げることの困難を知っている)
TS圃人斥候「一言では言えねえ……」(性転換の経緯的にも複雑な感情を抱いているが、顔や身体は好み)



知識神の神官ちゃんのステータスです。ご参考まで。
※成長点の計算ミスって5点余ってたので、【護衛】(初歩)を生やしました。

出自『騎士』を引いたので、「あ、これはもう神官戦士にしろってことやな」ってなりました。専業神官でも良かったんですが(素で呪文使用回数が三回ある。魔法の才スキルで5回に増強)、これはこれで。
護衛、鎧、盾、挑発の技能を伸ばすのはこれからなので、いまは単に堅い後衛ってだけです。方針転換が辺境の街に着いてからなので、それまでは神官系の技能を伸ばしてましたから、致し方なし。今後の成長に期待です。


◆名前:文庫神官
 年齢17歳。黒髪長髪。いい感じの肉付き。
 どこぞの領地の騎士の娘だった。
 父は、彼女が幼い時に、領主に諫言して疎まれ激戦地に送られ戦死。
 母も心労がたたり死別。
 家は父の補佐をしていた叔父が継いだが、早々に家を出される。
 その後孤児として、元来本が好きだったのもあり知識神の文庫に入り浸っているうちに神の奇跡を授かる。
 本を読むだけでは飽き足らず、周りの世界を見るべく冒険者になる。
 王都まで出て一党を組んで活動していたが、行商人の護衛中にガーゴイルに襲われ空へ連れ去られてしまう。
 ガーゴイルに落とされ墜落死直前に間一髪、半竜娘に助けられ、元のパーティには死んだと思われていたこともあり、半竜娘パーティに加入。
 「重い装備を身に着けていればもう空に攫われない」と思い立ち、実家から持ち出して文庫に預けていた父の形見の鎧を仕立て直して着込み、ただの神官から、硬くて重い神官戦士になるべく方針転換。
 方針転換したばかりなので、タンク関係の技能を伸ばすのはこれから。


◆イメージ
 Picrewの「ななめーかー」でつくったよ! →https://picrew.me/share?cd=6rNTikFnSx

【挿絵表示】


◆累積経験点 14000点/ 残り経験点0点
(奇跡の生還  +1000点
 ゴブリン退治 +1000点)

◆残り成長点 0点

◆能力値
装備:体力強化の指輪+3、魂魄強化の指輪+3
能力値体力点 2+3魂魄点 2+3技量点 1知力点 3
集中度 27735
持久度 49957
反射度 38846


    生命力:【 26(21+5) 】(体力持久+魂魄点+出目7)
    移動力:【 18 】
 呪文使用回数:【 05 】

  呪文抵抗基準値(魂魄反射+冒険者LV+呪文抵抗):【 13 】

◆冒険者レベル:【 4 】 (技能を熟達まで習得可能)
  職業レベル:【戦士:3】【神官(知識神):6】

◆冒険者等級:鋼鉄等級

◆冒険者技能    初歩/習熟/熟練/達人/伝説
  【過重行動】  ●   ○  ○  ○   ○
  【武器:投擲】 ●  ○  ○  ○   ○
  【忍耐】    ●   ○  ○  ○   ○
  【魔法の才】  ●   ●  ○  ○   ○
  【追加呪文(奇)】●  ○  ○  ○   ○
  【呪文熟達(付)】●  ●  ○  ○   ○
  【呪文熟達(創)】●  ○  ○  ○   ○
  【呪文熟達(支)】●  ○  ○  ○   ○
  【呪文熟達(治)】●  ○  ○  ○   ○
  【呪文熟達(汎)】●  ●  ○  ○   ○
  【呪文抵抗】  ●   ○  ○  ○   ○
  【機先】    ●   ○  ○  ○   ○
  【頑健】    ●   ○  ○  ○   ○
  【護衛】    ●   ○  ○  ○   ○

◆一般技能     初歩/習熟/熟練
  【長距離移動】 ●  ○  ○
  【騎乗】    ●  ○  ○
  【信仰心(知)】●  ○  ○
  【博識】    ●  ○  ○
  【文献調査】  ●  ○  ○
  【神学】    ●  ○  ○
  【祈祷】    ●  ○  ○
  【交渉:説得】 ●  ○  ○


◆呪文
 呪文行使基準値(魂魄集中):【 7 】
 呪文維持基準値(魂魄持久):【 8 】
 職業:神官(知識神):6
 技能:呪文熟達:付与+2、創造+1、支配+1、治癒+1、汎用+2
 装備:聖印(奇跡行使+1)、錫杖(奇跡行使+1)
《呪文行使》
 真言:【 0 】  奇跡:【 15 】  祖竜:【 0 】  精霊:【 0 】
《呪文維持》
 真言:【 0 】  奇跡:【 14 】  祖竜:【 0 】  精霊:【 0 】

 ◎習得呪文:
 《 祝福 》 難易度:10 (奇跡 付与呪文(なし))
 《 天啓 》 難易度:10 (奇跡 付与呪文(なし))
 《 聖壁 》 難易度:15 (奇跡 創造呪文(空間))
 《 沈黙 》 難易度:10 (奇跡 支配呪文(風))
 《 小癒 》 難易度: 5 (奇跡 治癒呪文(生命))
 《 浄化 》 難易度: 5 (奇跡 治癒呪文(水))
 《 真灯 》 難易度:10 (奇跡 汎用呪文(時間))

◆装備枠【錫杖】【投石紐】【】
◆攻撃
 命中基準値(技量集中):【 3 】
 職業:【戦士:3】
 技能:【武器(投擲):初歩(+1)】
 近接:【 6 】  弩弓:【 3 】  投擲:【 4 】

 ◎武器:【 錫杖 】
   用途/属性:【 両手棍軽/殴 】
  命中値合計:【 6+1 】 射程:近接
   威力:1d3+1+戦士レベル3
   効果:受け流し(+1)、奇跡行使+1

 ◎武器:【 投石紐 】
   用途/属性:【 片手投軽/殴 】
  命中値合計:【 4+2 】  射程:30m
   威力:1d3+1
   効果:投擲専用、速射(-4)、「手頃な石」または「石弾(命中+1)」を消費

◆防御
 回避基準値(技量反射+戦士Lv+体術スキル):【 7 】
 ◎鎧:【 重鎧 】
   鎧:胴鎧(装甲値6、回避修正-2、移動力修正-4、過重 7/12、斬耐性)
     鋲付き鎧下(装甲2、移動力修正-4)
   属性:【 重鎧(革)/軽 】  回避値合計:【 5 】
   移動力合計:【 8(18-4-4-2) 】  装甲値合計:【 8 】
   隠密性:【 悪い 】

 盾受け基準値(技量反射+戦士Lv+盾スキル):【 7 】
 ◎盾:【 大型盾 】
   盾:騎士盾(盾受け修正5、盾受け値4、騎乗中受け流し+2)
   属性:【 大型盾(木、金属)/重 】 盾受け基準値合計:【 12 】
  盾受装甲値合計:【 8+4 】 隠密性:【 普通 】

◆所持金
  銀貨:50枚

◆その他の所持品
冒険者ツール(鈎縄,楔x10,小槌,火口箱,背負い袋,水袋,携帯用食器,白墨,小刀,松明x6)
  携帯食×7日分、衣類
  聖印(知識神) ×1(装備中:首から吊るしている)
  石弾 ×10
  石弾袋 ×1(移動力修正-2)
  体力強化の指輪+3 ×1(装備中、借り物)
  魂魄強化の指輪+3 ×1(装備中、借り物)
  治癒の水薬 ×2
  強壮の水薬 ×2
  解毒薬 ×2
  鎮痛剤 ×2
  化粧道具 ×1
  臭い消し ×1
  角灯 ×1(腰から吊り下げるよう改造)
  油 ×2
  手当道具 ×6
  化膿止めの軟膏 ×2


◆出自/来歴/邂逅/動機
 騎士/孤児/部下/未知好奇



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22/n 蜘蛛の巣の大逆襲-2(調査)

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※前回の文庫神官ちゃんのステータスで、成長点が本来5点余っていたはずだったので(手元のキャラシだと【信仰心】を習熟(二段階目)にしてたのが、ハーメルンに転記したときに初歩(一段階目)になってました。差分5点)、ちょうどいいので【護衛】(初歩)を生やしました。まあ、5点分くらいは辺境の街で稼いだ分ですから、タンク系技能に振るのはおかしくないです。
 計算間違い失礼しました。
 でもこれで、『護衛発動でダメージ肩代わり→自分を回復』という最低限の神官戦士のロールができるぞ!


●前話:
文庫神官「神官戦士になります!」
半竜娘「熱烈歓迎!」
 


 はいどーもー、今回は調べ物というか、実験パートがメインになるはずです。

 

 え? 前回、『迷いの森』に行くって話じゃなかったのかって?

 もちろん行きました。

 パッと行ってサクッと迷って……というか、迷わずにといいますか、いつの間にか入り口に戻されるのを10回くらい繰り返して、すごすごと文庫神官ちゃんの育った文庫(ふみくら)に帰ってきました。

 

「ホントに入る度に地形が変わるんだなー……オイラびっくりだぜ」

「森の精霊たちも、全然こっちの話を聞いてくれなかったわ。上古の樹人にずっと義理立てしてるのね、きっと」

 

 TS圃人斥候は、手元のメモに色々と書き込んでいますし、森人探検家は精霊が頑なに協力を拒んだことで当てが外れた様子です。

 

 TS圃人斥候のメモについては、少し前に雑談中に、

「将来、自分の庄を拓いたときに、家族に聞かせるための手記を残してるんだぜ。ほら、『爺さんの日記で冒険を学んで憧れて』みたいなシチュエーションって浪漫だろ? そのお膳立てのためにもよー」

「じいさん?」

「なんだコラ、オイラは男に戻るぞコノヤロウ」

「ちっ せっかくかわいいのに

「舌打ちしたのは誰だ!? 聞こえてんぞ!?」

 みたいなやりとりがあったんですよ。

 

 昔は凄腕の冒険者だった長老の冒険手帳とか、良いですよね。

 ロマンある導入です。TS圃人斥候は分かってますね。

 あと【生存知識】判定とかに+1される系アイテムっぽくてベネ(良い)

 

「『迷いの森』の仕組みは、精霊術だけじゃないようじゃったがな。魔術と、ひょっとしたら神の奇跡も組み合わせておるのやも」

「あとは、封印されてる呪物の権能も流用しているのかもしれません。『手』の権能であれば、『目を覆って惑わせる』とか『空間を組み替える』だとかにも通じそうですし」

 

 半竜娘と文庫神官も考察していますね。

 文庫神官の考察が正しければ、『手』の呪物は『迷いの森』の核でもあるわけで、それが生きているということは、まだそこに呪物が安置されているということになります。

 それで迷いの森というのは、どうも、ローグライクRPGっぽい様子。入る度に地形が変わるようですし。*1

 

「空から行くのはどうじゃ?」

「むり無理ムリですっ! 墜ちちゃいますよぅ!?」

「擁護する訳じゃないけど、対策されてないはずがないでしょ。リーダーが迷いの結界作る側ならどうする?」

「そりゃもちろん、風や重力操作で、飛ぶものは落とす式を組み込むのう……そういうことか。空を飛ぶとか、落としてくれと言うとるようなもんじゃしな」

「そーですよ! やめときましょう!」

 

 対策しないはずがないんだよなあ。

 あと、墜落がトラウマな文庫神官ちゃん必死やな……。

 

「言われてみれば、オイラも迷いの森では鳥が飛んでるのは見かけなかったな……」

 

 TS圃人斥候が補足します。

 よく見てますね、流石です。

 

「ほらやっぱり、何か空からの侵入には対策があるんですよ! 眠りの花粉が充満してるとかかもしれませんし!」

「そうじゃなあ。仕掛けと対策が確認できるまで保留じゃな」

「保留じゃなくて止めにしときませんか? お願いします」

 

 文庫神官ちゃん必死やな(二回目)。

 でも半竜娘ちゃんは効率的なら、わりと心情を無視することもあるからね、和マンチ気質だからね。

 だからそのうち空飛ばされると思うよ、今回の冒険じゃないにしても。南無南無。

 

「いっそ焼くのはどうかの?」

 

 これから毎日森を焼こうぜ。

 

「森人の前でよくそんなこと言ったわね、リーダー。森を焼く前に私の怒りが火を噴くわよ?」

「それに火除けの加護も絶対あるだろーからどのみち無理じゃね?」

「確かに、ここに住んでたときは、雷が落ちても火事になったとは聞いたことないですね……」

 

 火攻めも対策済みな模様。

 そりゃそうだ。

 真っ先に対策しますよね……。

 

「“物探しの蝋燭”は役に立たんかったしのう……。あっちこっちに反応が次々切り替わるんじゃもの」

「でも、そのおかげで、周囲の空間や自分の居場所含めていじられてることが確実になったんだからいいのよ!」

「分かったからってどうしようもねーんだよなあ……」

 

 森人探検家ちゃんが必死こいて集めてきた『物探しの蝋燭』*2ですが、それも対策済みでした。

 リアルタイムで森が組み変わっているらしく、蠟燭の炎が指し示す向きが安定しないのです。

 

「うーむ、鬱蒼と森が茂っておって、空も見えんから方角も分からんし」

「方位磁針も役立たずだぜ」

「……でも、きっと方法はあるはずよ。いろいろ試してみましょう」

 

 他にも、『精霊を呼び出しまくって森人探検家に支援を付けて、【解呪】の奇跡がクリティカルするまで毎日試す』とか、『森の周りを計測して中心点のあたりをつけて、そこまで半竜娘が巨大化して【突撃】して道を創る』とかいうアイディアが上がりました。

 

 試してみましょう。

 実験です!

 もう一度、森に行きます。

 

 まずは解呪……。

 半竜娘が呼び出した四属性の大精霊に見守られ*3、森人探検家が祝詞を唱えます。

 結界の解呪、または、上古の樹人の魂が残っているなら、その成仏を祈ります。

 

「四属性による増幅開始――頼んだのじゃ」

「『巡り巡りて風なる我が神、彼らの魂魄を故郷へ還せ』――【解呪(ディスペル)】!!」

 

 さらに因果点を積んで、クリティカルに変換します(因果点3→4。転変成功!)。

 

 が、反応ありません……。

 

「だめねえ」

「だめじゃのう」

「だめですか……」

「いけると思ったんだけどなー」

 

 【解呪】を試してみたものの、クリティカルしても抵抗されたので、おそらく『迷いの結界』の作成時に上古の樹人の施術もクリティカルだった上に、しかも相当達成値が高いことがわかりました。

 つまり、力業での解呪はほぼ不可能。

 おそらくは、複数の大司教級の神官が専用の陣を敷いて、さらに星辰が整った時でないと解呪は難しいでしょう。

 

 

 次に試したのは、半竜娘の【突撃】です。

 【旅人(トラベラー)】、【加速(ヘイスト)】、【巨大(ビッグ)】、水精霊ミズチを肩に載せての【追風(テイルウィンド)】によって、突撃距離は、半竜娘の素の移動力24×1.5(旅人)×2(加速)×10(巨大)×1.5(追風)×3(突撃)=3,240m。

 森がどのくらい深くまで続いているか分かりませんが、周辺の測量により、『デクの大切り株』があると思われる方へ目星をつけ、約3.2キロメートルを、一気に駆け抜けます。

 

 えーと、1ラウンド30秒で3,240m移動するとして、計算すると、平均で約390Km/h!?

 始端はもっと遅いので、終端速度はもっと早いはず……。うわあ。

 

 まあ、準備が整ったみたいなので行きます。

 奥までたどり着けるでしょうか。

 突撃するのは分身の方です。

 

「行くのじゃ。『俊敏なりし甲竜(アンキロス)よ、経絡巡りし雷を、どうか我が身に宿し給え』――」

 

 位置について、よーい……ドン!

 

「――【突撃(チャージング)】!!」

 

 森の木々は、巨大化した半竜娘(分身)の背丈よりも大きいです。

 その大きな木々を薙ぎ倒しながら、半竜娘が突撃!

 あっという間に森の中に消え……――

 

 ――ドドドドドドドドドド

 

 ん?

 

「やっばいのじゃ! 途中で空間がねじ曲がっておる、こっちに戻ってくるぞ!?」

「げっ」「逃げるわ」「ひゃあっ」

 

 分身との共感覚でいち早く察知した半竜娘ちゃん本体の叫びに、みんな血の気が引きます。

 あのフルバフ積んだ【突撃】を終端速度で食らうと、固定値で648のダメージが入ります。

 塵も残りませんよ、そんなん。

 

「あ、あの、戻ってくるとして、どこまで突っ込んでいくことになるんでしょう!?」

 

 文庫神官は鈍足なので、半竜娘に引きずられるようにして逃げています。

 しかし心配はもっとも。

 どこまで行くかによっては、村の畑などにも被害が出てしまいます。

 

「心配無用、森からでた時点で無理やり止めるのじゃ――土の精霊よ、【隧道(トンネル)】じゃ!」

『GNOOOMMMMM』

 

 呼び出していた土の大精霊が使う【隧道】の精霊術により、地面に大きな穴が開きます。

 その時ちょうど、進路をひっくり返された半竜娘(分身。with蛇龍型水精霊)が森から飛び出してきました。

 

「自前転倒じゃっ!! へぶっ?!」

 

 分身はパートナーの水精霊を宙に放り投げると、地面に空いた【隧道】の穴にわざと足を引っかけ、転倒します。

 大質量が高速で地面に突っ込んだため、轟音とともに、盛大に土砂が噴出します!

 

KABOOM!!!!

 

 ――突撃失敗により、半竜娘(分身)に302の反動ダメージ!

 ――分身は消滅!!

 

 どうやら突撃距離の半分ほど消費していたようですね。

 幸いにして(?)突撃したのは分身の方だったので、反動で血肉が撒き散らされる、みたいなことはありませんでした。

 でも、ちょっとひどい状況です。隕石でも降ったみたいです。

 

「ぐえー、ぺっぺっ。ひどい目に()うたわい。分身も消滅したしの」

 

 全員、直撃は食らわなかったですが、伏せていた上からうっすら土砂が積もっています。

 服の中や口の中に砂が入ってますね、これは。

 

「これは、正攻法ではダメね……」

「あの、全部、力押しでしかなかったと思うんですけど……」

力押し(正攻法)でしょ?」

 

 森人探検家が文庫神官ちゃんの指摘に不思議そうな顔をします。

 この手に限る(この手しか知りません)。

 

「何よ、そんな可哀想なものを見る目で見ないでよね……。力押しで片付くならそれでいいのよ」

「でもダメでしたよね」

「だからもっとこれから考えるんじゃないの。搦め手を考えないとは言ってないのよ、後回しにしてるだけなんだから。まずは手軽に試せるところから試すもんでしょ?」

「はあ……」

 

 ホントかなあ、って顔してますね、文庫神官ちゃん。

 でも大体、力押しで何とかなってきましたからねえ、このパーティ。

 確かに力押しで片付くなら、それが早いですし(一理ある)。RTA的にも助かりますし。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 というわけで、間借りしている知識神の文庫(ふみくら)に帰ってきました。

 盛大に土砂を浴びたので、水浴びでもして身体を流したいところですね。

 

「おん? 文庫の前に誰ぞか立っておるぞ」

「男の子、みたいね?」

「あっ、もしかして……」

「なんだ、神官娘の地元の知り合いかなんかか?」

 

 見てみれば、文庫の前に、少年が立っています。

 文庫に用事があったというよりは、誰かを待っていたって感じです。

 そしてどうやら、その少年に、文庫神官は見覚えがあるようです。

 幼馴染かなにかでしょうか。

 

「たぶんですけれど、弱ったお母さまの診療をしてくださってた薬師さんのところの子だと思います」*4

 

 面影があります、という文庫神官ちゃんも、あまり自信がない様子。

 まあ、おそらく文庫に籠もって本を読んでいた時間の方が長かったのでしょうし。

 彼女の叔父が、ゲス領主の目から隠すために修道に出したのなら、外出はあまりさせないようにと文庫の方にも注文を付けていたのでしょうし。

 

「それにしても顔色が悪いのう。どぉれ、一つ癒しの(わざ)の施しでも……」

 

 竜司祭流に合掌したあと、ぐるりと腕を回す半竜娘。

 結構お手軽に癒しの術の施しをするあたりは、間違いなく善なる戒律(アライメント)なんですよね、この娘。

 

「あ、もしかしてここに逗留されているという冒険者さんたちですか!?」

「いかにも! して何用じゃ? 依頼かの?」

「はい、そうなんです、迷いの森に幼馴染たちが入って()()()()()……」

 

 その病弱そうな少年が捜していたのは、文庫神官ちゃんではなく、腕利きの冒険者だったようです。

 しかし、不思議な話です。

 『迷いの森』は、奥に進むことができない森ですが、出る分には迷わないという、捉え方によっては『迷わずの森』とも言える場所です。

 そこから帰ってこないとはいったい……?

 

「まあ、それは後で聞こう。お主、なんかの持病があるのかや? 【聖餐(エウカリスト)】の掛けられた魔道具があるゆえ、それで出した食事を食わせてやろう。一日だけじゃが、病や呪いの症状を無効化することができるはずじゃ」

「いえ、そんなそうしてもらうわけには……」

手前(てまえ)が気にするんじゃて。いいからいいから」

 

 半竜娘は、強引に病弱少年の背を押して、文庫へと入ろうとします。

 

 と、そのとき、別方向からは、血相を変えた老人が駆けてくるのが目に入ります。

 

「お、お嬢様ぁっ!!」

「あら? 従士の……」

「えっ、あっ、本当だ、お嬢様だ、すみません、気が付かなくて!」

 

 猛スピードで走って声をかけてきた老人に、文庫神官ちゃんは見覚えがあったようです。

 どうやら、騎士であった父の従者をしていた者のようです。

 聞けば、戦場から形見の鎧と盾を持ち帰ってきてくれたのも、この従士の老人だとか(もちろん当時はもっと若かったのですが)。*5

 

 

 そして、その従士の老人の声につられて、ようやく病弱少年も、文庫神官ちゃんに気づき、あわてて頭を下げます。

 

 文庫神官ちゃんは、「もう“お嬢様”だなんて身分じゃないですよぅ」と言っていますが、老従士と病弱少年は態度を改められないようです。

 でもこのままじゃ埒があきません。

 TS圃人斥候が、仕切り直します。

 

「そんなお互いペコペコやってねーで、何か用があったんじゃねーのかよ、じーさん」

「おう、そうじゃった! それが今のご当主さまが、あのクソ領主に連れられて『迷いの森』へと……!」

 

 どうやら、領主が軍を率いて迷いの森へと侵入しようとしており、その中に、文庫神官ちゃんの叔父でもある騎士も含められているようです。

 

「あのクソ領主さまが森に何の用なのでしょう。しかも兵まで率いて?」

「分かりませぬ。しかし、お嬢様が去られてからも、あの領主は悪政を敷いて税を搾り取り、飢え死ぬ者が出ようともお構いなし。むしろ悪化しております……。様々な名目で若い女を館に集め……。しかも館に呼ばれた若い娘は、一人も帰ってこないのです! 流石に寺院神殿には手を出していないようですが……。ご当主様のおっしゃることには、特に昨今、怪しい風体の人物を侍らせているそうで、混沌に魅入られておるのではないかとも……」

 

 だから老従士は、村の噂で文庫神官が領地に戻ってきているのを知って、いてもたってもいられず、「悪いことになる前にどうかお逃げください」と伝えに来たのだ、と言います。

 

 

 そしてそれを聞いてさらに血相を変えたのは、病弱少年です。

 

 彼の話を聞けば、迷いの森に入っていった病弱少年の幼馴染は、少年の難病を治すために冒険者になり、頼りになる仲間を得て、治癒のための秘宝や秘薬を探し、この故郷の『迷いの森』の奥にある遺物がそれを成すものだと知って、森の奥に進むための鍵になるものを得て戻ってきたのだと言います。

 そして、幼馴染とその一党は、年頃の乙女たちなのだとか。

 そんなところに領主の軍も入っていったとなれば、きっと幼馴染たちは、途中でゲス領主に捕まってしまうに違いありません。*6

 

「火吹き山のチャンピオンが率いる一党の皆様なら、と思って、お願いしに来たんです……」

 

 “でも、皆様も御綺麗な方々ですから、領主軍と鉢合わせするのはよろしくないですよね……”そう言って、病弱少年は諦めようとします。

 

 ――しかし、このような話を……混沌と繋がったような領主の悪だくみ、村の健気な少年の願い……そういったものを聞いて、「じゃあ危ないので止めます」と言って引くのが、果たして冒険者でしょうか?

 

 いいえ、いいえ、いいえ!

 危難に挑むからこその冒険者!

 ここで退いてなんとします!

 

手前(てまえ)らに任せるのじゃ! この【辺境最大】たる手前(てまえ)が、きっと解決してみせよう!」

 

「その幼馴染とやらも無事に見つけるし、ここの領主が混沌の手勢に(くみ)してるってんなら、ぶっ潰すぜ。月のない夜と同じように、森の中では、何が起こるか分からねえもんだからなあ?」

 

「幼馴染の子って、私も知ってるあの子ですよね? あの子とあなたのことは、私も応援していたんですよ。それが悲恋に終わるのは、許せませんから。叔父様のことも、半竜のお姉さまと一緒なら、きっと何とかできます、いえ、します!」

 

「森の奥の呪物を探しにここまで来てるのよ、このまま引き下がるなんて、冒険者としてもあり得ないわ! ――それに、捜索依頼ってことは、万一の時のために、森へ入る方法をその幼馴染から聞いているんでしょう? 是非教えなさいな」

 

 半竜娘、TS圃人斥候、文庫神官、森人探検家が、それぞれ依頼受諾の返事を返します。

 

「あ、ありがとうございます!」

「お嬢様、皆様……。ありがとうございます」

 

 病弱少年はそれに感謝します。

 老従士も、内心ではこの領地の現状に思うところがあったのでしょうし、また長年の付き合いで騎士家の今の当主のことも案じていたのでしょう。安堵した雰囲気があります。

 

「それで、迷いの森で迷わない方法っていうのは?」

「ええとですね、特定の旋律を魔力のこもった楽器で奏でることで……」

 

 病弱少年の話によると、特定の音楽が要となるそうです。

 ちょうどいいことに、半竜娘ちゃんは魔力のこもった『【舞踏】のフルート』を持っています。

 旋律は、病弱少年が聞いて覚えていました。

 

 森を思わせるその旋律が、きっと『デクの大切り株』までの道を開くのでしょう。*7

 

 というところで今回はここまで!

 ではまた次回!

 

 

*1
迷いの森:原作者KUMO様公開非公式シナリオ『蜘蛛の巣の大逆襲』においては、13枚のトランプ(A(1)~K(13))にイベントを割り振り、それを並べ替えて森のマップを作るギミックを採用している。それを、拡大解釈して、ランダム変化する迷いの森として再定義。

*2
物探しの蝋燭:探し物を思い浮かべると、その方向を熱と炎の勢いで示してくれる魔法のアイテム。アニメ版や原作4巻、漫画版ブランニューデイで、新米剣士君が剣をなくした時に魔女さんが探し物のためにくれた。実際、剣よりこの魔法の蝋燭の方が価値が高い。TRPG的には第六感判定にボーナスが付く。

*3
大精霊による支援行動:半竜娘本体+分身が、2体ずつ【統率】可能なので、最大4体を支援に回せる。これにより呪文行使達成値+5×4=+20

*4
騎士家の奥方の面倒を見ていた薬師の息子:文庫神官ちゃんのキャラシの『邂逅:部下』が仕事した。部下……? まあ、部下ということにしとこう。

*5
騎士家の従士の老人:文庫神官ちゃんのキャラシの『邂逅:部下』が仕事したその2。部下……? まあ、薬師の息子よりは部下枠ですね。

*6
病弱少年の幼馴染:原作小説3巻で、《幻想》さまが手塩にかけて育てた冒険者。ファンブって死亡。容姿は漫画版38話に描写されている。

*7
森を思わせる旋律:ファラシー ファラシー ファラシミレ……




冒険が三つ同時進行してます。
 1.『手』の呪物を回収せよ
 2.病弱少年の幼馴染の少女の一党に助力せよ
 3.悪徳領主の企みを阻止せよ




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22/n 蜘蛛の巣の大逆襲-3(迷いの森侵入)

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●前話:
文庫神官「あの、文庫(ふみくら)で文献調査して、迷いの森の抜け方を私が見つけて活躍するという展開(プロット)があったはずでは……?」
半竜娘「? お主の地元民コネクションが炸裂して()()進んだじゃろ?? お主のおかげじゃ!」
文庫神官「えぇ、そんなぁ……」



 はいどーも!

 文献調査パートなんて無かった! 無かったんだよ、文庫神官ちゃん……。

 というわけで、早速、迷いの森に突撃していくことにします。

 

 そのまえに迷いの森の検証のための消費した呪的資源(リソース)について整理します。

 森人探検家が【解呪(ディスペル)】【旅人(トラベラー)】を使っており、残り使用回数0。

 半竜娘ちゃんは、分身の方に全部任せていた(【使役(コントロールスピリット)】×4、【加速(ヘイスト)】、【巨大(ビッグ)】、【追風(テイルウィンド)】、【突撃(チャージング)】で8回)ので、本体は呪文消費はありませんでした。

 

 森へ出発する前に、半竜娘ちゃんは【分身】を再作成します。さっき【突撃】に失敗して転んだ反動で消滅しましたからね、補充しませんと。(呪文使用回数 本体:8→7、分身:7)

 

 幸いにして、先ほど呼び出した大精霊たち4体は、省エネモードでまだ顕現を保ってくれています。

 消える前に、【加速(ヘイスト)】を、分身ちゃんからパーティメンバー全員に掛けるのを支援してもらいましょう。*1*2

 これにより、全員、加速ボーナス+6を獲得しました。(半竜娘(分身)残り呪文使用回数7→2)

 また、大精霊たちは顕現限界で消えていきました。

 

 森人探検家の呪文使用回数が残っていれば、交易神の奇跡【逆転(リバース)】を使っておきたかったんですが……。

 超過祈祷(オーバーキャスト)してまで使うほどではない、と判断して、そのまま行きます。

 保険があった方が安心ではあるんですが……。

 

「それで、このまま突撃で良いのね? 森の中で夜になる可能性もあるけど」

「先に入ったが戻らぬという冒険者一党の助力救出と考えれば、ここを早く出るにこしたことはなかろう」

 

 森人探検家の問いに、半竜娘は端的に答えます。

 自分たちだけの問題ならいいですが、救出となれば、一刻を争いますからね。

 

「流石に、『デクの大切り株』から繋がるという遺跡か何かに入るのは、明日にしますよね?」

「状況次第かのう。準備を整えるべきではあるが、今回は【加速】の具合も良いし、呪文の消費も、瞑想で回復できる範疇じゃ。小休止を取ってそのまま突入するということも十分ありうる」

「そ、そうですか……覚悟しておきます」

 

 文庫神官の言う通り、セオリー通りなら、明日以降に遺跡の探索は回すべきでしょう。

 とはいえ、無理にそこまで行う必要はないでしょうから、今日はあくまで救援を主眼とし、あわよくば森の奥までのルートを確認することができれば僥倖といったところ。

 救援の状況によっては、一緒に撤退して送り届けることも必要でしょうし。

 

「そんじゃあ、出発するかの!」

「「「おー!!」」」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 森の入り口で、半竜娘が『【舞踏(ダンス)】のフルート』を構え、病弱少年から教わった旋律を奏でます。

 

「~~~♪」

「いい曲ですね」

「そうね……森の精霊も踊ってる……」

「あとでオイラの冒険メモに楽譜を記録しようっと」

 

 森の妖精が作曲したような、美しい音律です。

 【舞踏】のフルートの魔法が発動していなくても、思わず踊りだしたくなってしまいそうな、そんな、陽気でさわやかな曲です。

 

 一曲を奏で終わると、目には見えませんが、確かに森の雰囲気が変わったのが分かります。

 

「さて、話によれば、これを奏でた一党が森に入ったときは、ルートが固定になるとかいうことじゃが」

「正確には、その日いちにちだけは、ってことだったわね」

 

 フルートをしまいながら、半竜娘と森人探検家が森の奥を見通そうとしますが、鬱蒼として昼でも暗い森の闇が見えるばかりです。

 一党は意を決して歩を進めます。

 

「それぞれ別に曲を奏でてから入ると、それぞれ別の道順で繋がるルートに通されるんだっけ? いったいどういう仕組みなんだろな?」

「その個々の演奏ごとに、聞いた人を判別して、ルートを組み立ててるんでしょうか……」

 

 TS圃人斥候と文庫神官は、腰元のランタンに火を灯します。

 圃人と只人は、暗視ができませんから、念の為です。

 暗視持ち種族である半竜娘・森人探検家と一緒に、隊列を組んで、進んでいきます。

 

 順番は、先頭に半竜娘(本体)と文庫神官。

 中衛にTS圃人斥候と森人探検家。

 しんがりは、半竜娘(分身)となっています。

 

 この森の探索処理については、13マスの各マスごとにイベントを設定する方式が採用されており、最終的に『デクの大切り株』の手前の列から森を抜ければクリアとなります。

 

 各マスはトランプの1~10までの数字札とJQKの絵札がランダムに割り振られており、通ってきた数字札の合計が25を超えると、森歩きの疲労により、消耗判定を行います。

 総当たりして歩き回ってもいいけど、その分、消耗するからね、ってことですね。

 ただし、J・Q・Kの絵札は特別なイベントが割り振られているため、森歩きの疲労カウントには加算しません。

 

 また、半竜娘ちゃんたちが森に入ったのは午後でしたので、もたもたしていると夜になってしまうかもしれませんね。

 イベントを全てこなす欲張りルートか、あるいは最短ルートでとりあえず『デクの大切り株』まで抜けるか、判断が分かれるところかと思います。

 

 では、早速行ってみましょう!

 

 

【挿絵表示】

 

 

 お、入口しょっぱなから絵札のイベントマスですね。

 召使いを象徴する「J」のカードです。

 

 つまり、領主の兵団とのエンカウントです!

 

「む、何奴(なにやつ)っ!?」

 

 敵の隊長格の誰何(すいか)の声に反応して、兵団が一斉に槍の穂先を向けます。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「あ、叔父様っ!」

「その鎧は我が兄の……この領地に戻ってきてしまっていたのか……!」

 

 隊長格の騎士は、文庫神官ちゃんの叔父にあたる騎士のようです。

 これは話し合いで穏便に行くかな……?

 

「なおさら通すわけにはいかぬ……ここを通せば、お前たちも贄にされてしまう……! 引き返すのだ!」

「“贄”!? いったい領主は何をしようとしているのです!?」

 

 はい、交渉判定です。

 目標値は明かさないままダイスロールです。

 文庫神官ちゃんには肉親の情による補正が付くことにします。

 

 ◆交渉(説得)判定(知力集中+【交渉】技能+加速ボーナス+2D6) 

  文庫神官:知力集中5+交渉説得1+加速6+肉親補正6+2D653=26

 

「叔父様っ! 私とて、もう守られるだけの幼子ではありません! 鋼鉄等級の冒険者で、いまは“火吹き山のチャンピオン”が率いる一党の一員です! 混沌の芽生えを前にして、引くことなどありえません! どうか叔父様、この故郷を守るために、私の力を使ってはくださいませんか?」

「しかし……」

「父も……きっとここで退けとは言わないはずです……。どうか、故郷のため、王国のため、民のため、秩序のため、ご助力を!」

 

 達成値が15を超えたので、騎士は戦闘することなく、道を空けてくれます。

 また、さらに達成値が20を超えたので、自分が知りうる限りの情報を教えてくれるようです。

 そして、達成値25を超えたため、それに加えて、領主の兵団本隊との符丁まで教えてくれます。

 もし達成値が30を超えていたら、一緒に着いてきてくれたかもしれませんね。

 

「いいだろう、通るがいい」

 

 騎士は、部下の兵たちに槍を下ろさせます。

 

「領主のもとには、闇人(ダークエルフ)らしい術士が(はべ)っている。ここの迷いの仕掛けを読み解いたのも奴だ。腕はかなり立つのだろうと思う。

 そして、もはや領主はその正気を失い、何かの術によって傀儡とされているとしか思えぬ。村々から若い女を――あの領主の趣味は知っているだろう、幼女趣味なのに好みでもない年頃の娘を集めたのだ――そうしたのは、この迷いの森の中で生贄を魔物に殺させることで、結界を血で穢し、その効力を弱め、また、封じられた呪物を活性化させるためだという。

 我々は見張りということで残されたが、本隊は生贄の乙女たちを連れて進んでいるはずだ。急げば、まだ生贄たちが魔物に襲われる前に助けられるかもしれぬ」

 

 そして最後に、部隊同士の確認のための符丁を教えてくれました。

 

「この符丁で我らの部隊に偽装すれば、一度は不意打ちをできるかもしれない。そして、血の穢れが封印を弱めるのが本当であれば、できればこの森の中での人殺しは最低限にした方がいいだろう」

 

 騎士は、文庫神官をはじめとした半竜娘一党に頭を下げます。

 

「すまない。助力と言ってもここまでしかできぬ。頼んだ」

「この形見の鎧にかけて!」

 

 騎士と兵士たちにも家族がありますから、さすがに半竜娘たちに着いていくことは難しいでしょう。

 半竜娘たちがうまくやればいいですが、そうでなかった場合を考えると、後が怖いです。

 符丁を教えるのはかなりギリギリの線ですが、最悪、指の一本でも折って拷問された風を装っておけば、誤魔化せるとでも判断したのでしょう。

 

 騎士たちに見送られ、半竜娘一党は森を進みます。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 次のマスは……4でした。

(○で囲まれた数字が現在地)

 

 4は“死”に通じる不吉な数字……。

 不穏な空気を感じます……。

 

「いやああ、助けてええええっ!!」

『GGIISHAAAAAA!!!』

 

 やはりそうです!

 生贄の乙女たちが、化け物に襲われています!

 

「助けるのじゃ!」

「化け物どもめ、こっちだ!!」

『GIISSHII??』

 

 注意を引き付けると、怪物たちは一斉にこちらを見ます。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 見たこともない、蜘蛛の出来損ないのような甲殻虫の怪物です。

 蜘蛛をベースに妙に大きな目玉が後付けされたような見た目をしています。

 それが、30匹もいます!

 

「うぞうぞと動く蟲どもめ! すぐに地の肥やしにしてやろうぞ!」

 

 さて、まずは、怪物知識判定です!

 呪文遣い系のレベルが高いのは半竜娘ちゃんなので、半竜娘ちゃんが判定します。

 

 ◆怪物知識判定(知力集中+呪文遣い系Lv+怪物知識+加速ボーナス+2D6) 

  半竜娘:知力集中10+竜司祭Lv9+加速6+2D616=32

 

 さすがに達成値32で分からないってことはないでしょう。

 

 ……はい、判明しました。

 

 敵は、『厄災残影の末端蜘蛛(カラミティ・レギオーン)』という名前のようです。

 データ的には、怪物Lv3の巨大蟷螂(ジャイアントマンティス)と同等で、さらに蜘蛛糸による拘束が行えるようになっています。

 怪物Lv3とはいえ、30匹は多いですねえ。

 

「数だけ多いが、ザコじゃな」

「いえ、一般人にとっては一匹でも致命的ですよ?」

 

 一体一体の生命力は20なので、毒の【竜息(ブレス)】であればおそらく一撃で一掃できるでしょう。

 毒耐性もないようですし。

 あるいは、【竜吠(ドラゴンロアー)】で恐怖させて、文字通りに蜘蛛の子を散らすように退散させてもいいかもしれません。

 

「後顧の憂いを断つためには、皆殺しにしときたいとこじゃな!」

 

 相手の先制力は、1D6で判定するので、最大でも6。

 一方、半竜娘ちゃんたちは加速の呪文により既に+6されてるので、ほぼ確実に先制できます。

 ……からころ……。はい、ファンブルではなかったので、先制できました。

 

「竜の息吹で滅びよ邪悪! 【竜息(ドラゴンブレス)】!!」

 

 敵は生贄の乙女たちに襲い掛かろうと密集していたので、問題なくすべて竜の息吹の範囲に収まります。

 半竜娘本体のポイズン・ドラゴンブレスです!(呪文使用回数7→6)

 達成値は……って、ファンブルした!?*3

 まじかー。プスンって感じで不発です。

 

「おろ? も、もう一度じゃ!」

 

 リーダー、しっかりしてくれー。

 加速の効果で2回行動できるので、2度目の正直です。

 分身の統率技能で2回目の行動順を引き上げて、再びブレスです!

 

「カァァアアアアアアッ!!」

 

 ……無事成功、相手の呪文抵抗を抜きました。*4(呪文使用回数6→5)

 ダメージは装甲値を無視するため、5D644335+竜司祭Lv9-装甲値0(装甲無視)=28!

 

『GISSHHHHSHHSHSHIIII!!!???』

 

 瘴毒のブレスが、30匹の蜘蛛型の化け物――『厄災残影の末端蜘蛛(カラミティ・レギオーン)』を一掃します!

 末端蜘蛛たちは、毒によってもがき苦しみ、また甲殻をシュウシュウと腐食させながら、ひっくり返って足をでたらめに痙攣させて死んでいきます。

 殺虫剤掛けられたゴキブリみてーだ……。

 

「……こんな蟲、見たこともないわ」

 

 森の番人たるエルフである森人探検家も、このような不気味な虫は見たことないようです。

 だって、本来は単眼や複眼しかないはずの蟲に、まるで蛇か何かを思わせる瞳孔をした巨大な一ツ目がついているのです。

 

「生贄を襲ってたってことは、封印された呪物が生み出した怪物ってことか?」

「乙女の魂は、混沌の勢力が好むところと言いますし、そうなのかもしれません。回収用の端末、なのでしょうか」

 

 TS圃人斥候と文庫神官は、今後の呪物の回収が一筋縄ではいかなさそうな雰囲気を感じて、顔を険しくしています。

 

「さて……とりあえずは、生贄の乙女たちを森の外に帰してやるところからかのう」

 

 ファンブルで呪文を余計に消費したのが痛かったですが、無事に敵は蹴散らしました。(継戦カウンター+1)

 

 

 十数人いる生贄の乙女たちを森の外に導くため、一旦前のマスにもどって、外まで見送り、再び戻ってくることにします。

 これにより、移動マス数4(2マス往復したため)、森歩きカウンター8(4のマスを2回踏んだため)となります。

 

 ……騎士たちの前を通り、森の外に乙女たちを導き、引き返して、末端蜘蛛(レギオーン)たちを殺した現場までまた戻ってきました。

 

「さて、次はどっちに行くかのう……」

 

 進める道は、直進・右・左の三方向があります。

 鬱蒼としていて、それぞれの先は見通せません。

 

「知識神様に【天啓(インスピレーション)】の奇跡でお伺いを立てましょうか?」

 

 文庫神官が、知識神に対して是か非かの問いを送って答えを得る【天啓(インスピレーション)】の奇跡を嘆願するか確認をとります。

 どちらに進むべきか迷っているのは、くまなく森を探索しても、救援に間に合うか分からないからです。

 あるいは、仮に直進してイベントを取りこぼした場合でも、救援が可能かどうか、それらが分かれば、方針も自ずと決まるはずです。

 

 時間制限が厳しいのであれば、直進すべきでしょう。

 しかし、森の中のイベントを取りこぼすことで、救援が困難になるのであれば、少々時間がかかったとしても森の中を歩き回るべきでしょう。

 呪文リソースを消費してまで神に訊くようなことだろうか、という判断も必要ですね。

 

「うーむ。悩ましい。悩ましいが、悩むくらいであれば聞いてしまうのじゃ!!」

「はい! では、質問は――」

「『森をくまなく探索しても救出対象の冒険者一党の救援に間に合うか否か』じゃ!」

 

 結局聞くことにしました。

 文庫神官ちゃんが、奇跡を願います。

 

「『蝋燭の番人よ、知の防人よ、我が無明に、煌めく一筋の稲光をお与えください』――【天啓(インスピレーション)】!!」

 

 文庫神官ちゃんの祈りに、神が応えます。*5

 さらに祈念し、因果点を積んで、判定を大成功にしようと試みます――祈念成功です。*6

 【天啓】の呪文が大成功した扱いになりました。(因果点4→5)

 クリティカルボーナスまで込みで、達成値は33です。*7

 

「む、むむむ! 来ました、来ましたよ~~~!!」

 

 ピキーンって感じで、神からの天啓(回答)が来ました。

 

「森のどこが難所で、重要なものが何処にあるかまで分かりました! あと、全部回ってたら間に合わないそうです!!」

 

 ということで、マップが判明しました。ばばーん!!

 達成値30超えの大成功扱いにしたおかげか、大サービスですね!

 

 

【挿絵表示】

 

10

(○で囲まれた数字が現在地)

 

 知識神様ありがとう! 太っ腹! ひゅー!

 文庫神官ちゃんも大手柄だ!

 

 全部回ってると間に合わないらしいので、難所(数字の大きいところ)を避けつつ、絵札のマスを優先して回る感じにしたいですね。

 たぶん、右に曲がって「Q」を回収しつつ一番上のマスまで行って、左に曲がって「K」を回収して上に抜けるのが一番いいんじゃないでしょうか。

 『1→8→Q→2→6→K』の順ですね。

 最終的に、通過マス数10、森歩きカウンター25となるのですが、この程度なら、たぶん、先に入ってる冒険者パーティの救援・助力には間に合うのではないでしょうか。

 

 というところで、今回はここまで!

 次回は「Q」と「K」のイベント処理して、森を抜ける感じです!

 森を抜けた半竜娘ちゃんたちは、何を見るのか!?

 

 ではまた次回!

 

*1
半竜娘(分身)【加速】行使(自分自身へ):呪文行使基礎値21+大精霊支援20+付与呪文熟達3+2D656+クリティカルボーナス5=60。加速ボーナス+6

*2
分身からパーティメンバーへの【加速】:計算式 基礎値21+大精霊支援20+付与熟達3+加速6+2D6。To本体:2D632で55。To森人探検家:2D654で59。ToTS圃人斥候:2D653で58。To文庫神官:2D654で59。全員、加速ボーナス+6獲得

*3
半竜娘本体 竜息行使達成値:基礎値21+加速6+2D611。ファンブル!

*4
半竜娘本体 竜息行使達成値:基礎値21+加速6+2D662=35

*5
文庫神官 天啓行使:基礎値15+付与熟達2+加速6+2D623=28

*6
文庫神官 祈念31=4。出目4以上のため祈念成功

*7
天啓の奇跡による処理:何を答えるか、あるいは答えないか、追加の情報をサービスするかというのは、GM次第。でもゼロ回答のときは、呪文使用回数を減らさないとか、他の方法でフォローすることになる。あからさまに当てずっぽうで濫用したときは、その限りではない。




各キャラクターの口調については、概ね以下を心がけています。見分ける一助にでもなれば。
 半竜娘   :のじゃ語尾。あと西とか九州とかっぽい訛り。
 森人探検家 :女性形の口調。~だわ。~ね。
 TS圃人斥候:オイラ。長音記号つかいがち(~じゃね()の)。媚びるときは、きゃるんきゃるんな感じ。
 文庫神官  :ですます調の丁寧めの口調。


次回、Kが指し示すのはキング……森の中で会った自称“貧乏貴族の三男坊”の正体とは……。


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22/n 蜘蛛の巣の大逆襲-4(金剛石の騎士)

閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ありがとうございます! ゴブスレ原作13巻の書影が出てますね、楽しみです。決断的に予約しましょう! それはそれとして感想ありがとうございます!(大事なことなので二回以下略)

●前話:
文庫神官「知識神さま、どうか天啓を……!」(支援マシマシ、因果点使用)
知識神さま「そこまでされちゃあ仕方ないねぇ、いいかい、他の信徒には内緒だよ……?」(出血大サービス)

地母神さま(私も女神官ちゃんに直接声がけできるような奇跡を創っておけば良かった……羨ましい)

 


 はいどーも!

 知識神さまの温情で、森の地図が手に入りました!

 これでイベントを全部拾いつつ、できるだけ短いルートで森を抜けることができます!

 ちなみに知識神さまは、外套で顔を隠した隠者の姿をしており、無明の暗黒を知識という手燭で照らす神様です。麗しい女神とも、厳めしい老爺とも言われますが、その顔を見たものはいません。観測されない限りは不確定なので、お好きなように想像しましょう。

 

 さて、では地図をどうぞー。

 今は、()のマスを抜けて、1のマス……は、単に開けた場所でしかなかったのでさっさと通過して、その次の8のマスに居ます。

 

 

【挿絵表示】

 

10

(○で囲まれた数字が現在地)

 

 通過マス数は、6。

 森歩きカウンターは、17(内訳:4+4+1+8)。

 疲れが出るのは、森歩きカウンターが25を超えてからですから、まだ余裕があります。

 

 さて、8のマスのイベントは……?

 

「……川じゃな」

「川ね。橋は……迷いの森なんだから、当然あるわけないか」

「小川って感じだから跳んで渡れるか……?」

「……が、頑張ります!」

 

 森の中に、ちょっと深い川が流れ、崖を作っています。

 跳んで渡れないこともなさそうですが……文庫神官ちゃんは跳べるかあやしいですね。

 鎧も重いし、【跳躍】判定に足せる職業レベルも持ってないですし。*1

 

「まあ、(つな)を張ればいいじゃろ」

「だな。こっちの木に括りつけて、まずはオイラが綱を持って渡ってみるぜ」

 

 持っててよかった冒険者セット。

 備えあればうれしいな(うれいなし)

 

「へへっ、このくらい楽勝だっつーの!」

 

 TS圃人斥候が木に結んだロープを持って向こう岸に【跳躍】します。

 さて……あっ*2

 ファンブルです!

 

 ファンブルですよ!!(デデドン)

 (今回のシナリオ、ファンブル出すぎでは?)

 

「って、ちょ!? なんか引っかかって……ぬわーっ!? 落ちるー!?」

「「「ええっ!?」」」

 

 空中で不自然に動きを止めたTS圃人斥候が、小川に落ちていきます!

 どうやら、途中に張られた蜘蛛糸に気づかず、それに引っ掛かって勢いを殺されたみたいです。

 

「うおっと、ロープを放すんじゃないぞっ! そおりゃっ!」

 

 幸いにもロープを掴んだままでしたから、半竜娘ちゃんが慌ててそれを引っ張って、事なきをえました。

 危機一髪!!*3

 ってほどでもなく、ひょいっと余裕でロープを手繰ってTS圃人斥候の落下を止めました。

 

「大丈夫かのー?」

「うおっと、はっ、よっ、とっ。だい、じょう、ぶ!! っと」

 

 TS圃人斥候もうまい具合に膝のバネを生かして、柔らかく崖の側面に足を着きました。

 そのまま、ロープを使って器用に上まで登ってきます。

 

「ふー、危なかった。リーダー、ありがとな」

「なんのなんの」

 

 冷や汗をぬぐって、TS圃人斥候が、礼を述べます。

 

「いったいどうしたのよ」

「わっかんねー、何かに引っかかった。多分、蜘蛛の糸だと思うんだが」

「先ほどの『厄災幻影の末端蜘蛛』とかいうのの巣でもあったんでしょうか」

 

 細いわりに強度の高い蜘蛛の糸でも張られていたのでしょう。

 目を凝らさないと熟練の野伏や斥候でも気づけないほどです。

 半竜娘は、腰元からおもむろに『南洋式投げナイフ』を2丁取り出すと、両手に持って構えました。

 

「ならば、ナイフで蜘蛛糸など切ってしまえばよかろう。――イヤーッ! イヤーッ!」

 

 決断的なスリケン投擲!

 空中の糸をスパスパと断ち切って、南洋式投げナイフ(スリケン/フンガムンガ)が向こう岸の木の幹に突き立ちました。

 

「ま、これでいけるじゃろ」

「おっけー。二度目の正直だ、行ってくるぜー!」

 

 TS圃人斥候は、無事に向こう岸に跳躍。

 他の仲間もそれに続き、文庫神官ちゃんは張られた綱を頼りに渡り切りました。

 

「ふう、冷や汗かいたぜ」

「お疲れさまです。綱を張っていただいて助かりました」

 

 アクシデントにより、戦闘に準じた緊張を味わいました。

 継戦カウンターを2つ追加です。(継戦カウンター1 → 3)

 

 

 では、スリケンを回収して次のマスに進みます。

 次のマスは……「Q」の絵札ですね。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「あれは……」

「剣、でしょうか」

 

 石の台座に刺さった長剣が、森の中のひらけた場所で、少し西に傾いてきた陽光を反射して輝いています。

 どうにも神聖な雰囲気を感じさせるものです。

 “退魔の剣”って感じですね。

 

「……抜くべきか、抜かざるべきか、それが問題じゃな」

「冒険者なら抜く一択でしょ? 森の中の剣とか、“緑衣の勇者”みたいよね!」

 

 森人探検家の耳がピコピコと動きます。

 珍しくテンションが上がっているようです。

 さもありなん。森人探検家の憧れでもある、緑衣を着た森人の勇者の伝説といえば、その驚異的な弓の腕はもちろんのこと、森の中の退魔の剣を抜いて、それをもって邪悪を封じる話が有名です。

 

「冒険物語だと、だいたいこういうのは結界や封印の起点で、それを抜くことで邪悪な化け物が目覚める、というのが相場ですけど」

「でも、その剣がないと化け物にとどめを刺せないってのも定番よ?」

 

 まあ、こういう時に慎重論に傾く森人探検家がイケイケになっちゃってる時点で、結論は見えたようなものですが……。

 

「抜いたとして、誰が使うのじゃ?」

「えーと、剣を使えるのは、オイラとそっちの新入りくらい? 軽い剣ならリーダーも多少は使えるだろうけど」

「結構、重そうよねえ」

 

 この一党って、重い長剣使える娘、少ないんですよねえ。

 職業:戦士のレベルを持ってるのは、TS圃人斥候(戦士Lv3)と文庫神官(戦士Lv3)です。

 軽い武器なら、職業:斥候でも扱えるので、半竜娘ちゃん(斥候Lv2)でも扱えるんですがね。ああ、でも重装備持つと、魔術が使えなくなっちゃうかもですね。

 

「そもそも抜けるんでしょうか? こういうのって“選ばれしものが~”って感じですよね」

「……手前(てまえ)は、斥候が(さわ)れすらしないんじゃないかと疑っておるが」

「なにを~~!?」

 

 見てろよ見てろよ~、と勢い込んで聖剣っぽいのを触ったTS圃人斥候の手が、バチンとはじかれました。

 

「イッタァァァイっ!?」

「あー」「あー」「あー」

 

 知ってた。

 

 TS圃人斥候は、聖なるパワーに弾かれてしまったので1D65のダメージです。

 TS圃人斥候生命力:19 → 14

 

「これ、たぶんですけど、信仰心がないと触れないのではないでしょうか」

「うーむ、祖竜信仰では弾かれる気がするのう」

「まあ、この剣が秩序の神由来のものなら、祖竜信仰は異教だものねえ」

「――オイラの心配をしろ!!」

 

 抜いたら嫌な予感がする――具体的には生命力が13くらい減った上に消耗までしそう――ですが、どうしましょうか。

 おそらく剣を抜くことで、なんかしらの刻限(タイムリミット)が短くなりそうな気もします。

 でも、ボスを倒すのに必要かもしれませんし……。

 

「抜いてみるかの」

「そうね。というわけで、頼んだわ」

「はいっ、頑張ります!」

「――あの、少しは心配してくれてもさ……」

 

 TS圃人斥候が無視されて凹んでますが、半竜娘はきちんと気にかけていたようで、応急手当て道具を取り出して準備をしています。*4

 文庫神官がえんやこらと退魔の剣っぽいものを抜こうとしている傍らで、めちゃくちゃ手際よく手当てしていきます。*5

 応急手当により、TS圃人斥候の傷が回復しました。TS圃人斥候 生命力14→19。

 

「無駄に上手くね?」

「なんか上手くいったのじゃ。完璧じゃろ?」

「全然痛くねえ」

 

 こんな何でもないところでクリティカルするとか、出目が極端すぎる……。

 

 一方で、剣はなかなか抜けないのか、向こうでは退魔の剣(仮)を引っ張る文庫神官を引っ張る森人探検家を引っ張る半竜娘(分身)が、連なって唸っています。

 うんとこしょ、どっこいしょ。それでも剣は抜けません。

 

「手伝いに行くかの」

「いや、適当に周りの太い枝を切って、滑車でもこさえた(ほー)がいーと思うぜ」

 

 さて手伝いに、と半竜娘(本体)とTS圃人斥候が腰を上げたところ。

 

「ぬ、抜けましたーー!!」

 

 すぽーん、と剣が石の台座から抜けました!

 神聖な気配を漂わせるその剣は、おそらくアンデッドやデーモン、混沌の勢力への特効を持つのでしょう。(アンデッド等への装甲点による軽減後のダメージ2倍)

 しかしながら、特別な鞘がない限りは、その退魔の気配を隠すことができず、隠密判定にペナルティを受け、また、混沌勢力からは優先的に攻撃されるようになるでしょう。

 聖なる力を漂わせるその剣は、威力としては『長剣+3』相当だと思われます。

 

「ほうほうほう、これは業物じゃのう!」

「ああ、間違いないね! オイラの鑑定眼にもビンビンくるぜ!」

「――ひょっとしたら、本当に“緑衣の勇者”の所縁(ゆかり)のものだったりするのかしら……?」

「ふわあああああああっ」

 

 文庫神官ちゃんの目がめっちゃキラキラしていますね。

 きっと、知識神の天啓は、この剣との出会いのためにあったのだと、そう考えているのでしょう。

 

 それはそれとして、文庫神官ちゃんは、13ダメージと、消耗カウンター1追加です。

 文庫神官 生命力:26 → 13。消耗カウンター:0→1。

 

「つ、疲れました~」

「ふむ、じゃあ手前(てまえ)がマッサージしてやろうぞ」

「わ、ホントですか! お姉さま!」

 

 半竜娘ちゃんが手当道具から軟膏や油を取り出して、文庫神官ちゃんの強張った身体をさっとマッサージします。*6

 半竜娘の癒しの手腕により、文庫神官ちゃんは完全回復しました。(回復量13。生命力13→26)

 

「さて、先に進むわよ! なんか不穏な空気が増してきてるし!」

 

 森人探検家の号令で切り替えて、一党は再び森を進み始めました。

 やはり退魔の剣が封印か何かの要だったのか、『デクの大切り株』があると思われる方から、ざわめくような不吉な気配が強くなっています。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 2のマスは、少し進みにくい藪でした。

 まあ、何事もなく通過。

 

 6のマスは、大きな土のゴーレム……の残骸がありました。

 先に入った冒険者一党(病弱薬師少年の幼馴染の一党)か、闇人(ダークエルフ)が顧問を務めるという領主の兵団がやっつけたのでしょうか。

 あるいは、時の流れによって朽ち果てたのでしょうか。

 

 とにかく何事もなく、最後のイベントマス、『K』の絵札のマスに辿り着きました。

 

 そこには、先客がいました。

 

「ん? 貴公らは……」

「…………」

 

 それは騎士と従者でした。

 騎士は、きらびやかな鎧をまとっています。金剛石のような鎧です。

 従者の気配は薄く、メイド服を着ているというのに、森の中に溶け込んでいます。

 

 騎士は兜の面頬を降ろしたままなので、表情は(よう)として知れません。

 しかし、半竜娘たちは辺境の変なの(ゴブリンスレイヤー)を知っているので、それほど奇異には思いませんでした。

 

「このようなところで御同業に会うとはな。なに、私は“しがない貧乏貴族の三男坊”でね、道楽で冒険者をやっているのだ」

 

 そう(うそぶ)く金剛石の騎士は、堂々としたものです。

 これで貧乏貴族の三男坊? ははは、ご冗談を。

 その態度は、上に立つものとしてのカリスマを感じさせますし、身に着けた武威は、銀等級や金等級と言っても過言ではないでしょう。

 

「“貧乏貴族の三男坊”……ま、そういうことであればそう扱おうかの」

「ああ、よろしく頼む」

「こちらこそ良しなに、じゃ」

 

 ですが、彼がそういうことにしたがっているのであれば、それを暴くような野暮はしません。

 冒険者の素性は探らないのがマナーです。

 

 銀髪の従者の娘もやれやれと首を振っています。――またこのご主人は……とでも言いたげな風です。

 ですが、この従者の存在も、主人たる金剛石の騎士がただものでないことを補強しています。

 従者ですら熟練の高レベルニンジャのような、気配もない、隙も無い、凄腕の立ち居振る舞いですから、その主人の格も(うかが)えようというもの。

 

 さて、名乗られたなら、名乗り返すのが礼儀です。

 

手前(てまえ)らも冒険者で、この春に登録したばかりの駆け出しじゃ。ま、昨今は【辺境最大】などと呼ばれておるよ」

「――ほう」

 

 半竜娘ちゃんが名乗ると、金剛石の騎士は、兜の奥で楽し気に目を細めたようです。

 

「水の街で転移門の魔道具を献上したという冒険者が、そのような名前だったかな」

「おお! ご存じじゃったか! そう、その水の街の陰謀のころから、この二つ名は吟遊詩人に歌われ広まるようになったのじゃよ!」

「ああ、十分に耳にしている。あの鏡のおかげで、国の上層部では軍の出動や、貴人の往来が随分と簡単になったと聞く。それをもたらした冒険者となれば、覚えもめでたかろう」

 

 なあんで貧乏騎士の三男坊程度がそんなこと知ってるんでしょうかねえ……?

 隠す気あるんでしょうかね、この人――このお方。

 ほら、銀髪の従者もまた“やれやれだぜ”って感じで首を振ってますよ。()()()()()

 

 原作をご存じの方には周知の事実ですが、貧乏騎士(旗本)の三男坊こと、金剛石の騎士(暴れん坊国王陛下)は、誰あろうこの王国の国王その人です。

 政務の合間を見ては、気晴らし、いや、不正蓄財の略奪、ゲフンゲフン、えーと、司法で裁けない王国の闇を暴いて断罪執行するためにですね、こうやって冒険者に身をやつして活動なさってるわけですね。

 どうやら、水の街の冒険で剣の乙女さんのとこに納めた『転移門の鏡』によって、この暴れん坊陛下の移動時間が大幅に削減されたようで、かなりフットワーク軽くあちこちに出向いてるっぽい感じですね。

 

 そりゃ『覚えもめでたかろう』(本人)と言ってくれますよ。

 やったね半竜娘ちゃん! 名が売れたよ!

 

 どーせ今回も、不穏な情勢の領地に、日ごろの政務で溜めた鬱憤晴らしも兼ねていらっしゃったのでしょう。

 迷いの森のギミック(魔力を込めた旋律による結界解除)についても、銀髪の従者が優秀なので、彼女がどこかから情報を得ていたのでしょう。

 あるいは、王家にはマスターキーのような魔法の旋律でも伝わっていて、それを使って解除したのかもしれません。

 

「貴公らはこれから森を出るところかな? この森は空間が歪んでいるのか、結界を解除しても、パーティごとに現れる道筋が異なるようだ。だが、どうやら行く先は同じようであるし、森を出たらまた会えるだろう」

「ああ、その時は共闘出来たら光栄なのじゃ!」

「こちらこそ。――どうにも、先ほどから邪気が強まっているようだ。森を出たら既に戦闘が始まっていることも考えられる。覚悟と準備をしていくことだ」

「ご忠告ありがたく」

 

 金剛石の騎士の助言により、森を出る前に、戦闘開始に備えることができるようになりました。

 具体的には敵への攻撃以外で、1ラウンド分の準備ができます。

 

「ふーむ、では、忠言のとおり準備していくかの」

「といっても、やれることってあるかしら」

「【祝福(ブレス)*7や【真灯(ガイダンス)*8を使いますか?」

「とりあえずは、精霊を呼び出しておくのじゃ。神官の奇跡は――まだ温存でいいじゃろう」

 

 半竜娘ちゃんとその分身が、精霊術で土の精霊を呼び出します。*9

 土の大精霊を2体召喚しました。見た目は、この森の影響か、土で作ったミイラを小さくしたみたいな感じですね。*10

 精霊は支援に回してよし、【隧道(トンネル)】を掘らせてもよしです。(呪文使用回数:本体5→4、分身2→1)

 

「見事なものだな」

「お褒めにあずかり恐悦至極、なのじゃ」

 

 ではここで金剛石の騎士たちとはお別れです。

 

「……惜しい。隠密の素質もあるからそっちで育てても面白かったでしょうに」

 

 銀髪従者の声は、半竜娘たちには届きませんでした。*11

 

 金剛石の騎士たちと別れ、いよいよ半竜娘一党は森を出て、上古の樹人の死骸である巨大な切り株『デクの大切り株』のもとへと辿り着きます。

 

 森歩きカウンターは最終的に25。ぎりぎり、消耗カウンターは乗りませんでした。

 通過マス数は10! 日が暮れる前に森を抜けることができましたが、領主の兵団や救援対象の冒険者たちは、先に森を抜けてしまっています。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「む! もう始まっておるか!」

 

 そこでは、6人の冒険者の乙女たちと、領主の兵団がぶつかっていました。

 しかし、兵団側後方の様子が変です。

 

「ぐ、ぐはっ、キサマ、今までワシを操っておったな!? どれだけワシが目をかけてやったと……!」

「フン、もはや用済みよ。どこかの誰かが封印の楔を抜いたようだな。おかげで、必要な生贄の血も随分と少なくて済む。――あとは貴様(この地に根付いた血族)の血を大地に吸わせて森を穢せば事足りる」

「がはっ!?」

 

 黒いローブの参謀風の男が、領主らしき男を突剣で刺し貫いています!

 これに驚いたため、兵団と冒険者たちの衝突は、一時止まりました。

 

「仲間割れしてやがるのか……?」

「領主様が刺されています!!」

「刺してるのは、黒いローブの術士――あれがきっと闇人(ダークエルフ)ね!!」

「いかん、何か来るのじゃ!!?」

 

 領主らしき男が刺されて崩れ落ちると同時に、黒い瘴気が『デクの大切り株』の内側から湧き出てきます!

 その瘴気のオーラは、『手』の(ビジョン)をとったかと思えば、一瞬沈み込み、はるか地下から突き上げる(アッパーカットする)ように、地響きと衝撃とともに、大切り株を吹き飛ばしました!

 これにはぶつかり合っていた領主の兵団と冒険者(救援対象)もたまりません。慌てて逃げ出します。

 

「おお、やはり『手』の呪物! これさえあれば、百手巨人(ヘカトンケイル)を――!」

 

 地面を吹き飛ばした衝撃の中心から飛び出したのは、()()の禍々しい『手』の呪物。

 巨人の腕だったのか、只人の腕より2倍ほど太く大きな、黒く呪われた()()の呪物が、大切り株の地下から飛び出し、瘴気を纏って空を飛びまわっています。

 さきほどは、溢れ出る瘴気を固めて巨大な拳として、突き崩したのでしょう。

 

 闇人(ダークエルフ)がその呪物を見つめて感嘆しています。

 

 しかしその一瞬で、両の『手』の呪物は、崩れ落ちた領主らしき男の身体へと突き刺さり、同化しはじめました。

 

「ぐが、があああああ、GAAAAAAAAHHHHHHHH!!!!」

「自ら依り代を得るつもりか! ちっ」

 

 領主の身体からは、肩のところから3本目と4本目の腕が生えてきています。

 身体の内側に入り込んだ呪物が、同化して顔を出しているのです。

 手の呪物を2本とも得ようと思えば、領主が変異したこの化け物を討滅する必要がありそうですが、領主の配下の兵たちや冒険者たちがいる中では、そこまでは望み過ぎだと思われます。

 

「……仕方なし。片方だけで満足しておくか」

 

 闇人の男は、目の前の領主の身体に突き刺さった2本の呪物のうち片方だけでも回収するつもりか、素早く手元の突剣を閃かせ、領主の身体から生えた新たな左腕を切り飛ばしました。

 領主の身体から切り飛ばされた左手の呪物は、闇人が取り出した呪符らしきものに更に巻き取られ、その動きを封じられます。

 

「さて、ではさらばだ――」

 

 そう言って、闇人の男は森の中に身を翻します。

 

「追うかの?」

「いや明らかにこっちの方がヤバいっしょ、リーダー」

 

 半竜娘は、逃げた闇人の方をちらりと見ますが、TS圃人斥候の言うとおり、こっちに残された領主の身体の方が明らかにマズい状態です。

 瘴気に包まれた領主の身体は、逃げ遅れた数人の兵士ももろともに取り込み、その身体をまるで不格好な蜘蛛のように変貌させていきます。幸い、病弱薬師少年から救援を頼まれていた一党は、すでに遠く退避した後のようで、巻き込まれてはいません。

 変貌した領主の姿はまるで、かつて『厄災』といわれた魔神王の姿のようです。*12

 

「あれは、まさか厄災の魔神王!? いや、そうか、わかったわ、この森は!」

 

 “緑衣の勇者”の伝説に詳しい森人探検家が、何かに気づいたようです。

 

「かつての勇者は、森の中の聖域で、魔神王の分身――幻影*13と対峙したらしいわ。もちろん、勇者は幻影を倒した――でも、その怨念が、影のようにこびりついて残っていたとしたら――」

「厄災の幻影の、そのさらに残影、ということかの」

「魔神王も、『手』に力の紋章を宿していたという話よ、共通点は――(えにし)はある。そこに、古の『手』の呪物の話……ひょっとしたら、この『手』は、かつては魔神王の幻影体の手だったのかもしれないわ」

 

 魔神王の、幻影の、残影。

 『厄災残影(トレース・カラミティ)』とでも言ったところでしょうが、劣化していてもその呪力は健在でしょう。

 

「はっ、強敵なんじゃろうさ! じゃが関係ないのう、実体を得たのであれば、殺せば死ぬじゃろ!」

「リーダー!?」

「金剛石の騎士殿に感謝じゃ! 準備は整っておる! いざ!」

 

 半竜娘の分身体が、肩に2体の土の大精霊を載せて、いまだに巨大化しつつある巨大人面蜘蛛のような『厄災残影(トレース・カラミティ)』へと近づきます。

 

「まずは穴を空ける! 大精霊よ! 【隧道(トンネル)】の術じゃ!」

『REEEDDEEAAADDD!!』

 

 一匹目の大精霊が【隧道】の術で、『厄災残影(トレース・カラミティ)』の足元に穴を空けます。

 地下50mへの直通通路です!

 

「そして、重力操作! 【降下(フォーリングコントロール)】、重力3倍じゃああああ!!」

『GGAAAAHHHHH!!???』

 

 足元の地面がなくなって、ようやく半竜娘(分身)の接近に気づいた『厄災残影(トレース・カラミティ)』が叫びを上げますが、もう遅い――!!

 3倍の重力が、『厄災残影(トレース・カラミティ)』の身体を地の底へと引きずり込みます。(半竜娘分身呪文行使回数1→0)

 

「念のため、追撃じゃ! 精霊よ、【石弾(ストーンブラスト)】じゃ!」

 

 大きな岩が、2体目の大精霊の精霊術で形成され、穴の中へと射出されます。

 ダメ押しの追撃です!

 もし何かの魔術で空中に浮いてとどまっていても、これを受ければひとたまりもないでしょう……!

 

 落下ダメージは装甲による軽減不能で、『落下距離の50%×重力倍率×1D6』で算出します。

 よって、今回のダメージは――25×3×1D63=225ダメージ!

 流石に死んだはずです!

 

「よし、これでやったじゃろ」

 

 ――あ、これいわゆる『やったか!?(やってない)』フラグです?

 

『GGGOOOOHHHHHMMMMAAAAA!!!! キ、サマラァァアアア!!』

「な、まだ生きておったか!?」

 

 生きていた、というのは正確ではなさそうです。

 というのも、ガサガサと音を立てて縦穴を這い登って出てきた『厄災残影(トレース・カラミティ)』の姿は、先ほどの人をベースにした歪な蜘蛛という形から、大きく変わり、甲殻虫をベースにした姿に変わっているからです。

 

「おそらく、依り代を変えたんです! きっと、この森で遭った『末端蜘蛛(レギオーン)』の親玉に乗り移ったんです!」

 

 文庫神官の叫びのとおりなのでしょう。

 巨大な甲殻虫は、小さな『末端蜘蛛(レギオーン)』を何匹も引き連れてきています。

 しかも、甲殻虫ベース……インセクトタイプの方が、『手』の呪物との相性がいいのか、しゃべるだけの知性が生まれているようです。

 

「ええい、うぞうぞと! 精霊よ、【隧道】を閉じよ!」

『『『GGYYAAA!!??』』』

『グヌ、ハラガ チギレタカ!』

 

 登ってきた『厄災残影(トレース・カラミティ)』の体の一部と、『末端蜘蛛(レギオーン)』の大部分が、精霊術で作られた【隧道】が閉じることにより、巻き込まれて潰されます!

 それでも、表に出てきた子蜘蛛――『末端蜘蛛(レギオーン)』の数は多く、ボスである『厄災残影(トレース・カラミティ):インセクトタイプ』との戦いでは邪魔になることは確実です。*14

 

 しかし、そこに駆けつける者がありました!

 

 半壊した大切り株の上に立つ影あり!

 

待てぃ!!

『!?』

 

「――悪鬼魔神の残影が、秩序の安寧を脅かすなど許し難し。冥府へ再び返してくれよう。彷徨う魂に道を説く……ひと、それを『引導』という」

 

 切り株の上に立つのは、金剛石の騎士!

 

『ダレダ、キサマハ!?』

 

貴様に名乗る名などない!!

 

――トウッ、という掛け声とともに、金剛石の騎士は剣を閃かせて飛び降りてきます。

 

『ギャアアアアッ!?』

「先ずは一太刀!」

 

 飛び降りざまの一閃が、『厄災残影(トレース・カラミティ):インセクトタイプ』の甲殻の隙間を的確に切り裂きました。

 そして、口上を終えた金剛石の騎士のもとに、銀髪従者に引率されて、冒険者一党(病弱薬師の幼馴染一党)と、領主兵団の騎士たち(文庫神官の叔父を中心とした一隊)が集まりました。

 彼らは金剛石の騎士の指揮に従って、陣形を組みます。その指揮は、やはり堂に入ったものです。

 

「雑魚は任せよ! 親玉をやれい、【辺境最大】よ!」

「おう、助太刀感謝! 御武運を!」

「そちらこそな!!」

 

 これでまさか負けるはずもないでしょう!!

 

 というわけで、また次回!

 

 

*1
【跳躍】判定の計算式:技量集中+武道家or野伏or斥候Lv+体術。半竜娘は武道家Lv、森人探検家は野伏Lv、TS圃人斥候は斥候Lvを足せるが、文庫神官は適用可能な職業Lvがない。

*2
TS圃人斥候【跳躍】判定:技量集中9+斥候Lv7+体術1+加速ボーナス6+2D611=25 ファンブル!!

*3
TS圃人斥候をとっさに引き上げられるか→半竜娘怪力判定:体力反射8+武道家Lv6+加速ボーナス6-咄嗟行動ペナ2+2D664=28>15。引き止め成功!

*4
半竜娘【応急手当】判定(ToTS圃人斥候):技量集中7+竜司祭Lv9+加速ボーナス6+2D666+クリティカルボーナス5=39! クリティカル!

*5
応急手当には5分必要。また手当道具を消費する。達成値に応じて回復量が変動。達成値39の場合は、3D6回復する。今回の回復値は3D6345=12

*6
半竜娘【応急手当】判定(To文庫神官):技量集中7+竜司祭Lv9+加速ボーナス6+2D665=33! 回復量3D6346=13。全回復!

*7
祝福ブレス:武器の命中・威力の増加。遠隔武器の場合は威力は増加しない。

*8
真灯ガイダンス:一瞬先の未来を見ることができるようになり運に左右されづらくなる。具体的には判定の『2D6』を『達成値に応じた固定値+1D6』にできる。

*9
半竜娘【使役】行使:基礎値16+上質な触媒1+精霊の愛し子1+加速ボーナス6+2D6。本体出目64→34、分身出目55=34。大精霊級まで召喚可能。

*10
土で作ったミイラみたいな:モチーフは、ゼルダの伝説シリーズのリーデット/リーデッド

*11
半竜娘隠密バージョン:辺境の街初日で怪しまれて冒険者登録できなかった場合に派生するルート。仕掛人となって都市の影を走るとき、半竜娘ちゃんは斥候・魔術師・竜司祭・精霊使いの技能を伸ばし、姿を隠したり心を惑わせたりといった技能を生かして恐るべき夜闇の狩人になるのだ……!

*12
厄災の魔神王:モチーフはゼルダの伝説ブレス・オブ・ザ・ワイルドのラスボス『厄災ガノン』など歴代の魔王ガノン的な概念。手の呪物で顕現した怪物は、『厄災ガノン』の第一形態のイメージ。あれ蜘蛛だよね。

*13
森の聖域の魔王の幻影:ゼルダの伝説 時のオカリナ 森の神殿ボス『ファントムガノン』

*14
インセクトタイプ:モチーフは『ゼルダの伝説 時のオカリナ』の甲殻寄生獣ゴーマなど。




Q.なぜ『マシンロボ クロノスの大逆襲』の主人公ロム・ストール風の口上を?
A.この非公式公開シナリオのタイトル(及びそこからとった今話のサブタイトル)が『蜘蛛の巣の大逆襲(ク○ノスのだいぎゃくしゅう)』、なので。あとかっこいいからね。

Q.四方世界にクロノス族とか居るの?
A.たぶん神話の時代にそういう超合金ゴーレム生命体みたいのがいて伝説になっているのではないかな。そうだといいな。きっと男の子の憧れで、なので金剛石の騎士も口上を真似したんだ。


 


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22/n 蜘蛛の巣の大逆襲-5/5(VS 厄災残影(トレースカラミティ)

閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ありがとうございます! 不定期更新()ですので気長にお待ちください。そしていつも感想いただきありがとうございます!

●前話:
金剛石の騎士「待てい!」
厄災残影『ダレダ キサマ!』
金剛石の騎士「貴様に名乗る名などない!」
厄災残影『!?』

  


 はいどーも!

 というわけで、いざ、ラスボスのガワ(厄災の魔神王)から序盤ボスのガワ(甲殻獣ゴー○)に零落した敵をぶち殺しますのことよ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 周囲のザコは、金剛石の騎士の指揮のもとで、領主の兵や病弱薬師の幼馴染冒険者たちが引き付けてくれています。

 半竜娘ちゃんたちは大ボスに集中すればいいようです。

 

 怪物知識判定は成功(ファンブルではなかった)。

 相手のステータスは、巨大蟷螂のステータスを雑に2倍にして*1、生命力だけ100にしたもののようです。ただし、金剛石の騎士の一太刀により、残り生命力は75になっているようです。

 また、爪や鋏角による「3回攻撃(近接距離:10m)」が可能で、蜘蛛糸による拘束も行ってきます。

 主行動では『産卵』によって雑魚を一度に5体まで増やせるようです。

 さらに、背中から生えた『手』の呪物は、『矢避けの加護』を与えると同時に、手印によって全ての真言呪文の発動が可能です。

 

 さっき【隧道】の精霊術であけた穴に落としたのと同じ戦法も試せますが、また別の依り代を得て復活しかねませんし、よく観察すると、蜘蛛型の胴体の尻から、栞糸が出ており、落下に対して対策を取っているようです。

 

 でも、半竜娘ちゃんたちは加速の効果で先手奪取+2回行動ができたので、これはもう『勝った! 遠征編第三部完!!』って感じですね。(因果点5→7。出目が奮わなかったところで2回因果点を積んで祈念した)

 

 半竜娘ちゃん本体が、『黒蓮花弁のカード』の効果を使って主行動で2回詠唱。

 半竜娘ちゃん本体(二回行動の二回目。分身による統率で行動順引き上げ)が、さらにもう一度詠唱。

 詠唱呪文は、もちろん、装甲貫通する【力球(パワーボール)】の精霊術です!

 このとき、土の大精霊2体を本体の統率により支援に回しています!

 

「【力球(パワーボール)】3連射じゃ! これでもくらえ!(Take That, You Fiend!)

『グオオオオオオォオオォォオ!???』

 

 半竜娘(本体)【力球】行使計算式:基礎値16+上質な【力球】の触媒1+精霊の愛し子1+加速ボーナス6+大精霊支援(5×2)+2D6

 

 【力球】一発目:34+2D645=43

 【力球】二発目:34+2D662=42

 【力球】三発目:34+2D615=40

 

 そしてさらにこれで最後でしょうから、因果点も大盤振る舞いします!(経験点ボーナス目当て)

 祈念も3連続――ですが、出目が足りず、祈念失敗です。(因果点7→10)

 

 相手の呪文抵抗は19+2D6ですが、クリティカルはしませんでしたので、抵抗できません!

 

 そして、【力球】の精霊術の威力は、()()()()()()()()()()ので、相手への合計ダメージは、

 43+42+40=125!

 

これでもくらえ!(Take That, You Fiend!)

『ガァァァァアアアアアッ!???』

 

 この2発目の時点で相手は瀕死です。

 

これでもくらえ!(Take That, You Fiend!)

『ぐ、ギ……!???』

 

 三発目は完全に死体蹴りですね。(半竜娘本体呪文使用回数4→3→2→1)

 

「……まだ動いておるのう」

「まあ、こういうのって、やっぱり聖剣とかそういうのが必要なんだろーな」

 

 異相次元からの衝撃波3連によって、『厄災残影』は瀕死となり、動きを止めていますが、禍々しさが消えません。

 

「というわけで、知識神のしもべ・退魔の剣の担い手よ! やっておしまいなさい!」

「は、はい! 頑張ります!!」

 

 森人探検家に言われて、文庫神官が前に出ます。

 その手には『退魔の剣』。

 

「古き魔神の残影を祓う力を、どうかお授けください――『蝋燭の番人よ、我らが行く手の無明に、どうぞ一筋の灯火を』――【祝福(ブレス)】!」

 

 知識神に【祝福(ブレス)】の奇跡を請願し、退魔の力が増幅されます。(文庫神官呪文使用回数:4→3)

 

 かつての魔神王の、幻影の、そのさらに残影。

 因縁に決着をつけるべく、退魔の剣が輝きを増します。

 

 剣を大上段に構え――

 

「成敗! です!!」

 

 ぶち殺しましたのことよ!(完了形)

 

 敵の巨体の甲殻に浮き出た大きな一つ眼を、文庫神官ちゃんの持つ『退魔の剣』が貫きました!

 何度か生命力を削り切っても食いしばりしやがるんで、何かギミックがあると思ったら、やっぱりキーアイテムでトドメを刺さなきゃならなかったみたいです。

 これが完全にトドメとなって、甲殻虫をベースにした『厄災残影(トレース・カラミティ)』の巨体は、ぼろぼろと崩れていきます。

 

「ようやったのじゃ!」

「は、はいお姉さま! ありがとうございます!」

「やるじゃん、新入り!」

「やるわね~! あ、そうだ、あとでその退魔の剣もよく見せてねー!」

 

 半竜娘ちゃんたちは、文庫神官ちゃんを囲んで称えます。

 

「うむうむ、見事終わったようだな」

 

 周りを見れば、金剛石の騎士の指揮のもと、敵の眷属である『末端蜘蛛(レギオーン)』も掃討されたようです。

 

 掃討に協力した冒険者の乙女たちはまだ多少元気ですが、領主の兵団の生き残りたちの顔は暗いです。

 まあ、領主が参謀に裏切られて、しかもなんかよくわからないものの苗床にされて墜落死してますからね。そのときに同僚も多くが巻き込まれたようですし。

 

「まあ、中央には多少の伝手がある。ここの領地のことは悪いようにはならんよ」

 

 伝手()。

 まあ、他ならぬ金剛石の騎士様がそうおっしゃるのであれば、そのようになるのでしょう。

 次の月から王国直轄領になっても驚かんぞ。

 

 さて、それでは、目的の『手』の呪物を回収しましょうか。

 崩れた『厄災残影(トレース・カラミティ)』の遺骸の中に残されたのは、右『手』の呪物でした。

 

「……触って大丈夫なのかよ?」

「これまでに貯め込んだ呪力は、退魔の剣で祓えたはずじゃ」

 

 ひょい、と半竜娘は無造作にその『手』の呪物を拾い上げます。

 

「ヨシ、じゃの!」

「その掛け声はなんか不安になっちゃうからやめて」

 

 とりあえず、ずた袋に入れて、空間拡張された鞄に突っ込みます。

 

 半竜娘は『手』の呪像を手に入れた!

 

 この、『手』を(かたど)った禍々しい像は、『手』にかかわる判定にボーナスを与えるものです。

 でも、力を使うたびに呪いの力が蓄積され、限界を超えると自律的に動き出し、依り代を侵食して化け物にしてしまいます。

 

「まあ、自分で使う気はないから問題なしじゃ。これは踏み台に使う気じゃからな」

「“踏み台”?」

「ま、収穫祭のお楽しみじゃ!」

 

 なんか企んでるみたいですね。

 

「おっ、他にも何か落ちてるぜ!」

「これは……何か神聖な力を感じます……」

 

 TS圃人斥候が目ざとくも見つけたのは、心臓のモチーフを簡素に戯画化したような――ハートの形をした、一抱えほどもある器のようなものでした。

 それを拾おうとしたところ――

 

「ま、待ってください!」

 

 引き止めたのは、病弱薬師少年から頼まれた救援依頼対象である、彼の幼馴染の冒険者でした。

 

 …………。

 ……。

 

「なるほどなー、これは“いのちのうつわ”っつーのか……」

「それを使った者の生命力や抵抗力を増強するのですね」

「わあ、緑衣の勇者の伝説にあるやつよね! 本当にあったのね~!」

「しかし使い切りの魔法器なんじゃな」

 

 彼女ら病弱少年の幼馴染たちが、病弱少年の病を治すために求めていたのが、この“いのちのうつわ”だということです。

 これによって、病弱少年の体質そのものを改善し、病や呪いを遠ざけるのだとか。*2

 

「だから、譲ってはいただけないでしょうか」

 

 さて、半竜娘たちの返答やいかに。

 

「ふむ。雑魚を引き受けてくれたおかげでこっちも首魁に集中できた訳じゃし、こっちは『手』の呪物が貰えれば問題ないわい」

「そもそも、この依頼の発端を考えれば、その“いのちのうつわ”まで取っちまうのは、貰い過ぎってもんだぜ」

 

 ま、妥当なところでしょう。

 問題は、もう一組の冒険者である金剛石の騎士主従の意向ですが……。

 

「ああ、こちらは気にする必要はない。地下の遺跡からいくつか回収する目途があるのでな」

 

 この短い間に、銀髪従者が頑張って回収してきたのか、彼らの足元には宝物が積み上がっています。

 ものすごい早業です。これらは崩れかけた地下空間から回収してきたということでしょうか、銀髪従者はトレジャーハントも凄腕のようです。

 しかも、黄金の騎士は、積み上がった宝物を、空間拡張されていると思しき鞄にポンポン放り込んでいきます。

 

 そんな高価な装備を持って、“貧乏騎士の三男坊”は無理がありますって。

 

「ああ、それでは我らはここで帰らせてもらう」

「……また、縁があれば、ね」

 

 金剛石の騎士と、銀髪従者は、すべての宝物を納めると、転がった大切り株の残骸の陰へと歩いていきます。

 そして、そのまま何処(いずこ)にか消えてしまったのか、大切り株の裏を見ても、彼らを見つけることは叶いませんでした。

 ……転移関係の魔道具の恩恵を受けていたのでしょう。*3

 やっぱり隠す気ないですよね、これ……。

 

 

「……あの方は、一体……」

(ちまた)に言う『金剛石の騎士』じゃよ。その正体は――いや、これ以上言うのは野暮じゃの」

 

 呆然と呟いた病弱薬師の幼馴染冒険者の乙女に対して、半竜娘が答えます。

 正体は、いったい何王陛下なんでしょうね。

 わからないなあ(棒読み)。

 

「『手』の呪物を持って行った闇人(ダークエルフ)の行方も気になるけど、まずは戻りましょうか」

「賛成。そっちも、その“いのちのうつわ”を、あのひょろっちい少年に届けてやるんだろ? あっちも心配してたぜ?」

 

 森人探検家とTS圃人斥候の言うとおりです。

 後始末もそうですが、これからやるべきことも、まだまだありますからね!

 森の外へと出ましょう!

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 リザルト!

 

 半竜娘一党は、経験点1500点獲得!

 半竜娘一党は、成長点3点獲得!

 

 文庫神官は、『退魔の剣』に担い手として認められた!

 経験点500点、成長点2点追加獲得!

 

 文庫神官は、冒険者Lvが4→5になった!

 成長点20点追加獲得!

 

 半竜娘は『【手】の呪像』を手に入れた!

 

 半竜娘一党は『コネクション:金剛石の騎士』を獲得した!

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

「いやー、あの病弱少年の病気も治ったし、めでたしめでたしじゃのう!」

「そうね! それに今回の冒険では、『退魔の剣』に『いのちのうつわ』……あの“緑衣の勇者”の足跡に触れられて、私もとっても満足だわ!」

 

 帰りの馬車で揺られながら、今回の冒険について感想を言い合います。

 まあ、半竜娘ちゃんは、雑魚をブレスで一網打尽とか、墜落攻撃とか、呪文3連射とかで大暴れしたので大満足でしょうね。

 森人探検家も、自分で使えるアイテムは得られませんでしたが、憧れの勇者の所縁のものに触れられて満足そうです。

 

「やっぱり冒険ってのはこうじゃねーとな! ゴブリン退治とかばっかりやっててもダメなんだって! 結界に覆われた森、邪悪な魔神の討伐、太古の遺物の入手! いい冒険だったぜ!」

「地元に封印されていた魔神の残滓を片付けられましたし、お姉さまに拾われてから初めての本格的な冒険で、こんな大仕事ができるなんて、天にも昇る気持ちです。まだ未熟ですけど、この剣にふさわしい担い手になるべく、もっと、もーっと、精進します!」

 

 TS圃人斥候は、自前の冒険メモに今回のことをいろいろと書き込んでいます。冒険らしい冒険でしたものね。

 文庫神官にとっては、この冒険は忘れがたい特別なものになったことでしょう。

 

 彼女たちの冒険はこれからだ! って感じですけど、片割れの左『手』の呪物を持って逃げた闇人は、捕捉できていませんし、混沌の芽生えというものはどこにでもあるものです。

 人生は続き、冒険もまた続いていくのです。

 

「辺境の街に戻ったら、そろそろ収穫祭の準備だな!」

「おおそうじゃ! 地母神への奉納演舞だのなんだのがあるのじゃろう? 初めてじゃからの、楽しみじゃ!」

 

 そう、もう秋になり、これから収穫祭の準備で街はあわただしくなります。

 辺境の街の収穫祭を体験するのは、TS圃人斥候以外は初めてです。

 半竜娘は春に東の前線から西方辺境に来たばかりですし、森人探検家は旅暮らし、文庫神官は王都で活動していましたからね。

 

「お祭りですね! お、お姉さま、一緒に回っていただけますか!?」

「おお、いいともいいとも、一緒に回ろうぞ!」

「わ、やったぁ!」

 

 文庫神官が抜け目なく、半竜娘と約束を取り付けます。

 

「オイラも適当に回ろうかな」

「あら、じゃあご一緒してもいいかしら?」

「あ、そっちには手前(てまえ)の分身をつけるのじゃ」

 

 そして分身を活用して、TS圃人斥候・森人探検家とも一緒に祭りを楽しむつもりのようです。

 半竜娘ちゃんの贅沢ものめ!

 文庫神官ちゃんも、TS圃人斥候も森人探検家も、微妙な顔してますね。

 

「なんていうか、あれよね。リーダーはいつも楽しそうでいいわね」

「? もちろんじゃとも!!」

 

 女が4人(うち1人は元男ですが)も集まれば、馬車の中の話題は尽きることがありません。

 にぎやかな馬車が、街道を麒麟竜馬に曳かれて走っていきます。

 

 というところで今回はここまで!

 それではまた次回!

 

*1
巨大蟷螂の2倍:概ね回避や命中などについて「19+2D6」で判定してくるものとお考え下さい。

*2
いのちのうつわ:使い切りのアイテム。“ハートのうつわ”とも。永続的に、『体力点+1』『魂魄点+1』『生命力+3』。これを17個も集めるとなるとすごいことになるけど、たぶん5個目以降は効果が『生命力+3』のみになると思われる。

*3
転移関係の魔道具:水の街の転移門。何らかの手段で座標を伝え、剣の乙女に門を開いてもらって帰っていった。




というわけで、現在の各キャラの使用可能な経験点と成長点は以下の通りです。
名前経験点成長点
半竜娘2,500点4点
森人探検家6,750点12点
TS圃人斥候4,250点9点
文庫神官2,000点25点


遠征編(非公式公開シナリオ編)はここまでで、次は、原作小説3巻の収穫祭編です。
半竜娘ちゃんは、超勇者ちゃんたちと会える……かな?


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22/n 裏(キャラクターシート掲載)

閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ありがとうございます! 備忘のため一党全員のステータス(1万字超)をあとがきに載せているのでスクロールが長くなっていますが、本文はそんなでもない(5千字)です。
感想をもらえると、嬉しさの他にも安堵感があります。いつもありがとうございます!!


●前話:
半竜娘「これでもくらえ! ていく ざっと ゆー ふぃーんど!」×3
厄災残影『グワーッ グワーッ グワーッ』
文庫神官「成敗! です!」
厄災残影『グワーッ!!』


1.《幻想》ちゃん大勝利

 

 盤外の世界にて、《幻想》の女神様が、感無量とばかりに腕を振り上げていました。

 

 寒村に暮らす元気いっぱいの女の子を見出して。

 彼女が片思いしている病弱な男の子が容易ならぬ病にかかっていると気づき。

 それを治療し、病弱体質を解決することができる神器に繋がる物語の道しるべを並べ。

 女の子の助けとなる信頼できる仲間たちとの縁を結び。

 障害となるダンジョンと魔物たちを配置し。

 ちょ~っと荷が勝つので、手助けとなる冒険者を同じ場所に誘導し。

 準備万端、順風満帆。

 見事に冒険をこなした少女たちの活躍を見守って。

 

 ついに、彼女らは、目的の神器を得られて大団円!

 

 病弱な幼馴染の薬師の少年も、神器のおかげで健康体に。

 

 めでたしめでたし。

 

 次の冒険者を見いだして新しいシナリオを考える前に、しばらくはこの余韻に浸っていたいと考えた《幻想》の女神様でした。

 

 少し遠くで、《真実》の男神様が、助っ人(お助けNPC)同席とかやっぱり《幻想》は生ぬるいなあ、と呟いたとか。

 

<『1.《幻想》ちゃん大勝利(ガッツポ』 了>*1

 

 

  ○●○●○●○●○

  ●○●○●○●○●

 

2.病弱薬師の平穏

 

 迷いの森が攻略されたことにより、周辺の村へも影響があった。

 はるか昔から人族の侵入を拒んできたその森は、今や、抑え込むべき邪悪な呪物も持ち去られ、結界の起点となっていた『退魔の剣』も新たな担い手に見いだされたため、かつてのような不可侵の場所ではなくなったのだ。

 となれば、迷いの森は、最上級の木材の宝庫でもあり、手つかずの薬草の群生地でもある。

 

 森に蔓延(はびこ)っていた子蜘蛛の化け物は、迷いの森を攻略した冒険者の乙女たちと、【辺境最大】なる冒険者一党が先陣を切って駆除していった。

 これからは、木材の切り出しに、また森の開拓にと、きっと多くの人々がやってくるだろう。

 前の領主の遠縁で、王都から派遣されてきたという新領主は、随分とやり手らしいから、きっとこの領地も良くなっていくはずだ。

 

「木こりに開拓者、その護衛の冒険者……当然、生傷をこさえる人々も出てくるわけで、まあ、薬師の腕の見せどころだよね」

「うんうん! 君の身体も良くなったし、私もここを拠点に冒険者やるし! 未来は明るいよねえ!」

「でも本当に、あの“いのちのうつわ”の神器を僕が使っても良かったの? 冒険者にこそ役に立つものだったんだろうに」

 

 遠慮がちに目を伏せる薬師少年に、冒険者の乙女は快活に返す。

 

「いいのいいの! そのために私は冒険者になったんだから!」

「え、それって……」

「あ。……あはは~。じゃ、そゆことでっ!」

 

 照れてその場をぴゃーっと去っていく冒険者乙女。

 きょとんとして見送ってしまう薬師少年。

 

 少し遠くで彼女の仲間が「そういうとこだぞ、頭目」「あんまりヘタレてると、私たちがとっちゃうぞ~」と口にしていることなど、薬師少年も冒険者乙女も知る由はないのだが。

 まあ、なんとも平和な冒険後日譚(アフターセッション)であった。

 

<『2.病弱薬師の平穏』 了>

 

 

 

 『迷いの森の残党駆除』完了!

 

 半竜娘一党は、経験点250点、成長点1点獲得。

 

 半竜娘一党は、神代の遺物を幾つか見つけた(所持金+)。

 

 

 

 

  ○●○●○●○●○

  ●○●○●○●○●

 

3.図書館デート(火吹き山闘技場附属大図書館)

 

 半竜娘たちが辺境の街に帰ってから数日。

 火吹き山から興行の知らせがあり、半竜娘は、辺境の街から一党のメンバーに加えて、銀等級の魔女や新人たちなど、幾人かを引き連れて火吹き山の闘技場へとやってきていた。

 半竜娘は最上級闘士であるため、身に着けた魔法の指輪を目印に、転移門の魔法による送迎を利用できるので、行き来は一瞬だ。

 

 そして、半竜娘と相手の最上級闘士との対戦カードも盛況のうちに終わった。

 

 結果は半竜娘の辛勝であった。

 

 相手の闘士は、引き撃ち3連射*2型の森人であり、要は森人探検家の上位互換であった。

 

 半竜娘は開幕3連射をなんとか避けたり耐えたりして。

 黒蓮花弁のカードによる擬似高速詠唱で【加速】し。

 【突撃】で距離を一気に踏み潰して、なんとか接近して呪文と爪の射程に捉え。

 次のラウンドで運良く先手を取って。

 このままじゃ距離をとられて矢で針鼠にされると思ったので、咄嗟に尻尾で相手の手首を拘束することを閃き。

 尻尾拘束で擬似チェーンデスマッチに持ち込み、最終的にダメージレースに勝ったのだ。

 

 運が良かった。

 

 ちなみに、闘技場の最上級闘士クラスともなれば、その種族最高峰が集まる。半竜娘と同等の天与の素質の持ち主ばかりなのだ。

 つまり、相手が戦士に見えても、魔法も奇跡もバンバン飛んでくるため、油断できない。

 

「むうぅん、さっきの試合は、危ういところじゃった……」

「勝てた のは、鮮血呪紋の おかげ、よ ね」

「回復が間に合って良かったのじゃ……。相手も【加速】して仕込み弓矢*3で6連射してきたときはもう終わったかと思ったのじゃ……あとから聞けば【分身】も使えるから、【分身】と【加速】で、最大で12連射が可能じゃったとか……」

 

 恐ろしい話である……。

 

 ちなみに、試合と治療が終わった今は自由行動中であり、一緒に来た面々は、火吹き山のふもとの街を観光したり買い物したりしている。

 例を挙げれば、森人探検家とTS圃人斥候は、文庫神官を連れて、彼女の着ている形見の鎧と盾に魔法処理を施したり、下に着こむミスリルの鎖帷子を見て回ったりしているところだ。他にも『退魔の剣』の鞘を拵えたりとか、一党全員の分の防具の隠密用の静音処理とか。

 そのためのお金は、迷いの森で拾った遺物を売ったお金に加えて、半竜娘のファイトマネーから出ている。半竜娘は宵越しの銭は持たないのだ!

 

――「え、そんな、良いんですか!? こんなに色々していただいて!?」

――「よかよか。同じ一党じゃもの。死んでは詰まらんじゃろ、金で命が(あがな)えるならそれがよか」

――「お、お姉さまぁっ! 一生ついていきますぅぅぅっ!!」

 

 というやり取りがあったりした。

 

 

 文庫神官の防具に魔法処理を施した!(鎧、盾をそれぞれ+2)

 

 半竜娘一党は、鎧の下に着る『ミスリルの鎖帷子』を全員分購入した!(装甲値+3、移動修正-2)

 

 文庫神官は、『退魔の剣』の鞘を拵えた!(鞘に入れていれば聖なる気配を隠せる)

 

 半竜娘一党は、全員の防具に静音処理を施した! それぞれ隠密性が『良い』になった!

 

 

 新米剣士と見習聖女なども辺境から連れてきていて、こっちにも半竜娘のファイトマネーからお小遣いを渡して遊ばせたりもしている。

 

――「え、そんな同期から小遣いなんてもらえねーよ!」

――「……ここの物価はそれなりじゃよ?」

――「う……」

――「というか、最上級闘士の連れが、街で遊べもせんのは沽券にかかわるからの。これも手前(てまえ)のためじゃと思って!」

 

 とかなんとか言いくるめてお金を渡したのだ。

 当人たちは出世払いで借りを返すとか言っていたので、期待しておこう。

 

 

 

 で、半竜娘は何をしているかというと、魔女と連れ立って、火吹き山闘技場附属の大図書館にやってきている。

 丸い尻を振り振り、魔女は、悩ましげに肢体をくねらせて本棚の間を行き来しては、資料を選んでいる。

 半竜娘は半竜娘で、【分身】して片っ端から資料を引き出して積み上げては、類まれな怪力とバランス感覚で閲覧用の机へと運んでいる。

 

「【辺境最強】の御仁の都合があえば、きっと闘技場に挑戦してくれたんじゃがのう」

「そ ね。でも、まぁ、別件が、あったから、ね」

「残念じゃのー……」

 

 槍使いの方は、重戦士とゴブリンスレイヤーと一緒に、HFO(ヒューム・ファイター・オトコ)ばかりで別件の冒険に行ったとのことだ。

 つまり半竜娘は、魔女を独占しているのだ。

 とはいえ、いまだに魔女の家に居候しているので、普段からなんだかんだで一緒に過ごす時間は長いのだが。

 

「それ で、アストラル界との、接続に関する、書物を 探すのよ ね?」

「うむ、その通りじゃ!」

 

 図書館デートという感じで、半竜娘の調べ物に付き合ってもらうことにしたのだ。

 テーマは、アストラル界へ侵入する方法についてだ。

 

「ふふ、また、悪だくみ、かしら?」

「くかか、まあ、それは収穫祭の日のお楽しみじゃて……! 慈悲深き地母神に祈りを捧げる日であれば、これまた慈愛に溢れし祖竜たる慈母龍(マイアサウラ)への捧げものをするのにあたり、これほど良き日も他にあるまいて」

 

 次元渡りの魔術師たる、火吹き山のオーナーの蔵書ともなれば、その質も量もすさまじいものになる。

 一日ではとても時間が足りないので、何日かかけて調べ物をするつもりだ。

 もちろん、付き合わせるばかりでは悪いので、半竜娘も魔女の方の調べ物に付き合うつもりでいる。

 

 あとから文庫神官らも合流するであろうし、それはそれで楽しみだが、それまでは二人きりということである。

 やはり、半竜娘にとっても、最初に辺境の街で助けになってくれた魔女は、特別な存在なのだ。

 静かな図書館で、ページをめくる音が本棚に吸われて消えていく。

 

 ちなみにお礼として、浴槽神の神官による最上級のエステを一緒に受けることにしている。

 ただでさえ艶やかな魔女が、いつも以上に魅力的になること請け合いである。目の保養、目の保養。

 

<『3.図書館デート(火吹き山闘技場附属大図書館)』 了>

 

 

 

  ○●○●○●○●○

  ●○●○●○●○●

 

4.中堅:青玉等級への昇格

 

 ギルド内で、受付嬢と監督官が話をしている。

 話題は、半竜娘の一党についてだ。

 

「彼女たちが遠征に行く前は、顔を広めさせるべく、商会とか貴族とか寺院とか絡みの依頼をやってもらおう……って言ってたじゃないですか」

「そうね、うん。言ってた言ってた」

「遠征から帰ってきたら、自前で貴族とか有力者とのコネクション結んでらっしゃったんですけど」

「そうだねー」

 

 人とのつながりという意味では、ギルドが用意したものを上回る成果を挙げている。

 

「用意した依頼が無駄になったわけじゃないですけど、これもう、書面審査だけで昇格には十分ですよね?」

「まあ、たぶん? これで彼女も、晴れて中堅の仲間入りだね!」

「しかも、なんだかとっても“やんごとなき”筋からも、実績諸々の照会が来てますし……いったい何をどうやったらそんな所と縁が……?」

 

 やんごとなき筋……たぶん、金剛石の騎士の関係だろうと思われ。

 順調に名が売れているようで何より。

 

「至高神の神殿から盗まれた神器の捜索依頼とか、ちょうどいいかなーと思ってたんですけどねぇ」

「あとで紹介するだけしてみたら?」

「そうですねえ」

 

 と、そんな話をしているときに、上の森人である銀等級冒険者、妖精弓手がやってきた。

 

「ねえねえ、なんかいい依頼なーい?」

 

 そして受付嬢の手元の依頼票をひょいと覗き込んできた。

 

「だめですよう、見ちゃ」

「えー、なになに。新興宗教の調査? 至高神の神殿のある街で、神器が盗まれた? へえ、これいいじゃない! もーらい!」

「あ、もう。まあいいですけど」

 

 楽しそうに「オルクボルグをさーそおうっ」と言っている彼女を見ると、咎める気も失せる。

 それに銀等級が受けるなら、それはそれで安心というものだ。

 なお、妖精弓手の誘いを受けたゴブリンスレイヤーが「ゴブリンが居ない? ならば俺は別のゴブリン退治にいく」と袖にする未来が受付嬢には見えているので、既にこっそり手元にゴブリン退治の依頼を準備してたりする。

 

 

半竜娘は、鋼鉄等級(ランク3)青玉等級(ランク4)に昇格した!

 

 

<『4.中堅:青玉等級への昇格』 了>

 

 

 

  ○●○●○●○●○

  ●○●○●○●○●

 

 

5.半竜娘たちの成長

 

 

 半竜娘は、精霊使いLvを4→5に伸ばした!(経験点2500点消費。成長点5点獲得)

 

 半竜娘は新しく【燦光(イルミネイト)】の精霊術を使用可能になった!*4

 

 半竜娘は、冒険者技能【拘束攻撃】を初歩段階で習得した!(成長点5点消費。拘束攻撃属性を持つ武器の攻撃命中時に敵を拘束可能。ただしダメージ半減。サブミッションや尻尾巻きつけも可能)

 

 半竜娘は、冒険者技能【鎧:衣鎧】を初歩段階で習得した!(成長点5点消費。装甲値+1)

 

 

 森人探検家は、野伏Lvを7→8に伸ばした!(経験点7000点消費。成長点14点獲得)

 

 森人探検家は、冒険者技能【武器熟達:弩弓】を達人段階に伸ばした!(成長点25点消費。弩弓による命中基礎値21→22)

 

 森人探検家は、一般技能【信仰心:交易神】を初歩段階で習得した!(成長点1点消費。無詠唱で奇跡使用可能(無詠唱ペナルティーあり))

 

 森人探検家は、一般技能【長距離移動】を初歩段階で習得した!(成長点1点消費。長距離移動判定にボーナス)

 

 

 TS圃人斥候は、魔術師Lvを3→5に伸ばした!(経験点4500点消費。成長点9点獲得)

 

 TS圃人斥候は、新たに【矢避】*5と【施錠】*6の呪文を覚えた!

 

 TS圃人斥候は、冒険者技能【魔法の才】を習熟段階に伸ばした!(成長点10点消費。呪文使用回数1→2)

 

 TS圃人斥候は、『真言呪文の発動体+2』を購入した!

 

 

 文庫神官は、戦士Lvを3→4に伸ばした!(経験点2000点消費。成長点4点獲得)

 

 文庫神官は、新たに冒険者技能【鎧:重鎧】を初歩で習得し、さらに習熟段階に伸ばした!(成長点15点消費。装甲値+2)

 

 文庫神官は、冒険者技能【護衛】を習熟段階に伸ばした!(成長点10点消費。1ラウンドあたりの護衛回数1→2回)

 

 文庫神官は、冒険者技能【挑発】を初歩段階で習得した!(成長点5点消費。自分の手番で敵を挑発可能)

 

 

<『5.半竜娘たちの成長』 了>

 

 

 

*1
冒険者乙女たち:なお原作では冒険者側がファンブル、怪物側がクリティカルでひどいことになったそーな。出目が大爆発することは稀によくある。《幻想》さまもひとしきり泣いてから新しいキャラシを用意した模様。次の冒険者は上手くやってくれるでしょう……。しかし青年剣士くん一党といい、幻想さまは殺意は薄いが、ラックも薄い疑惑がありますね……。そういえば、病弱少年は上条くんで、幼馴染の少女冒険者はさやかちゃん(まどマギ)がモチーフなのかもしれない。

*2
3連射:【速射】技能を5段階目の『伝説』段階まで極めると、主行動で3連射できる。

*3
仕込み弓矢:手首の内側に折り畳み装備可能な仕込み弓矢。弾倉付き。袖口から暗器がシュカッと出てくるのいいよね。スリーブガン的な。

*4
燦光イルミネイト:虹色に光る鱗粉を撒き散らして範囲内にあるものに付着させて光らせる精霊術。達成値が上がると光量が上がり、直視できないまでになる。また、その状態だと、対象を取る呪文の対象にできなくなる。

*5
矢避ディフレクトミサイル:弩弓による攻撃を無効化する結界を張る。

*6
施錠ロック:扉などを魔法の力で閉じる。応用として、怪物の口を閉じさせたりも。ある意味、『閉じる』という概念を操る呪文。




たくさん成長させられたから楽しかったです!(小並感)


以下は作者備忘のためのステータス掲載です。
読み飛ばして差し支えないです(一万字)。

◆名前:半竜娘
 年齢13歳(成人直後)。緑かかった烏の濡れ羽色の鱗と髪を持つ。
 顔と胸元だけ只人の遺伝が現れ、残りの部分は蜥蜴人な混血。胸元は豊満だが、哺乳動物ではないので本当に単に膨らんでるだけ。
 最終的にゴジラになれる素質がある。
 収穫祭に向けて悪だくみ中。
 
◆イメージ
 Picrewの「遊び屋さんちゃん」でつくったよ! https://picrew.me/share?cd=wZesuN9igj

【挿絵表示】


 Picrewの「人外女子メーカー」でつくったよ! https://picrew.me/share?cd=KsLmkX9Nbh

【挿絵表示】


◆累積経験点 70250点/ 残り経験点250点
(火吹き山の闘技場  +2500点
 蜘蛛の巣の大逆襲  +1500点
 迷いの森の残党駆除 + 250点)

◆冒険回数 18回/18回(達成回数/冒険回数)

◆残り成長点 0点

◆能力値
 装備:魂魄強化の指輪+3、知力強化の指輪+3
能力値体力点 5魂魄点 5+3技量点 3知力点 3+3
集中度 4912710
持久度 381169
反射度 381169


    生命力:【 38(28+10) 】
    移動力:【 24 】 
 呪文使用回数:【 08 】

  呪文抵抗基準値(魂魄反射+冒険者LV+呪文抵抗):【 20 】 (ミスリルコート着用時さらに+1)

◆冒険者レベル:【 9 】
  職業レベル:【魔術師:7】【竜司祭:9】【精霊使い:5】up!【武道家:6】【斥候:2】

◆冒険者等級:青玉等級 up!

◆冒険者技能    初歩/習熟/熟練/達人/伝説
  【免疫強化】  ●   ○  ○  ○   ○
  【魔法の才】  ●  ●  ●  ●   ●
  【呪文熟達(創)】●  ○  ○  ○   ○
  【呪文熟達(付)】●  ●  ●  ○   ○
  【追加呪文(真)】●  ●  ○  ○   ○
  【追加呪文(竜)】●  ●  ○  ○   ○
  【生命の遣い手】●  ●  ●  ○   ○
  【機先】    ●  ●  ●  ○   ○
  【頑健】    ●  ●  ○  ○   ○
  【忍耐】    ●  ○  ○  ○   ○
  【武器:格闘】 ●  ●  ●  ○   ○
  【体術】    ●  ●  ○  ○   ○
  【鉄の拳】   ●  ○  ○  ○   ○
  【発勁】    ●  ○  ○  ○   ○
  【薙ぎ払い】  ●  ○  ○  ○   ○
  【二刀流】   ●  ○  ○  ○   ○
  【護衛】    ●  ○  ○  ○   ○
  【拘束攻撃】  ●  ○  ○  ○   ○new!
  【鎧:衣鎧】  ●  ○  ○  ○   ○new!

◆一般技能     初歩/習熟/熟練
  【竜の末裔】  ●  ●  ●
  【暗視】    ●  ○  ○
  【祈祷】    ●  〇  〇
  【瞑想】    ●  ●  〇
  【沈着冷静】  ●  ○  ○
  【信仰心(竜)】 ●  ●  ●
  【統率】    ●  ●  ●
  【礼儀作法】  ●  〇  〇
  【調理】    ●  〇  〇
  【精霊の愛し子】●  ●  〇
  【職人:土木】 ●  〇  〇
  【騎乗】    ●  ○  ○

◆呪文
 呪文行使基準値(知力集中):【 10 】
        (魂魄集中):【 12 】
 呪文維持基準値(知力持久):【 9 】
        (魂魄持久):【 11 】
 職業:魔術師:7 竜司祭:9 精霊使い:5
 技能:呪文熟達(創造呪文):+1
    呪文熟達(付与呪文):+3
    生命の遣い手:生命属性の呪文が出目10以上で大成功
    精霊の愛し子:触媒使用時+1
 装備:真言呪文の発動体+3 紅玉の杖(真言呪文行使+1)
《呪文行使》
 真言:【 21 】  奇跡:【 0 】  祖竜:【 21 】  精霊:【 17 】
《呪文維持》
 真言:【 16 】  奇跡:【 0 】  祖竜:【 20 】  精霊:【 16 】

 ◎習得呪文:
 《 分身 》 難易度:20 (真言呪文 創造呪文(生命))
 《 力場 》 難易度:15 (真言呪文 創造呪文(空間))
 《 抗魔 》 難易度:10 (真言呪文 付与呪文(なし))
 《 破裂 》 難易度: 5 (真言呪文 付与呪文(なし))
 《 巨大 》 難易度:10 (真言呪文 付与呪文(生命))
 《 加速 》 難易度:15 (真言呪文 付与呪文(生命、精神))
 《 停滞 》 難易度:15 (真言呪文 支配呪文(生命))
 《 天候 》 難易度:15 (真言呪文 支配呪文(水、風))
 《 突風 》 難易度: 5 (真言呪文 攻撃呪文(風))
 《竜牙兵》 難易度:15 (祖竜術 創造呪文(生命))
 《 竜爪 》 難易度:10 (祖竜術 創造呪文(物質))
 《 狩場 》 難易度:15 (祖竜術 付与呪文(空間))
 《 竜眼 》 難易度:10 (祖竜術 付与呪文(生命))
 《 竜血 》 難易度:なし (祖竜術 付与呪文(生命))
 《 擬態 》 難易度:10 (祖竜術 付与呪文(光))
 《 竜吠 》 難易度:15 (祖竜術 支配呪文(精神))
 《竜息/毒》 難易度:10 (祖竜術 攻撃呪文(闇))
 《 突撃 》 難易度:10 (祖竜術 攻撃呪文(なし))
 《 賦活 》 難易度:10 (祖竜術 治癒呪文(生命))
 《 小癒 》 難易度: 5 (祖竜術 治癒呪文(生命))
 《 燦光 》 難易度: 5 (精霊術 付与呪文(光))new!
 《 降下 》 難易度:10 (精霊術 付与呪文(土、空間))
 《 使役 》 難易度:10 (精霊術 支配呪文(火、水、土、風))
 《 追風 》 難易度: 5 (精霊術 支配呪文(風))
 《 力球 》 難易度:20 (精霊術 攻撃呪文(火、風、空間))

 ※使役できる固定の精霊(名称:ミズチ)がいる。当該精霊が使ってくれる呪文は以下のとおり。
  【命水】(精霊(スピリット)級から)
  【酩酊】(自由精霊級から)
  【隠蔽】(大精霊級から)
  固定のパートナーのため、機嫌を損ねると言うことを聞いてくれないことも。
  毎日、触媒(酒や果物など)をお供え物として消費し、週に一回は上質な触媒を供える必要がある、呼び出す際も上質な触媒を用いなくてはならない。上質な触媒を用いない場合は達成値-4。

◆装備枠 【南洋投げナイフ】【紅玉の杖】【投石紐】or【投分銅】
(素手と盾攻撃は装備枠を潰さない)
◆攻撃
 命中基準値(技量集中):【 7 】
 職業:【武道家:6】
 技能:【武器(格闘):熟練(+3)】
 近接:【 16 】  弩弓:【 7 】  投擲:【 13 】

 ◎武器:【 素手(爪) 】
   用途/属性:【 片手or両手格軽/斬 】
  命中値合計:【 16 】
   威力:
   片手:1d3+5(内訳:鉄の拳+1、発勁+1、竜の末裔+3)+武道家レベル6
   両手:1d3+7(内訳:両手+2、鉄の拳+1、発勁+1、竜の末裔+3) +武道家レベル6
   効果:投擲不可、鮮血呪紋(生命・スタミナ吸収の呪紋。与ダメージの20%(切り捨て)の負傷回復、または予ダメージの5%(切り捨て)の消耗回復。無機物系には無効。アンデッドや精霊からはマナを吸えるため有効)、拘束(サブミッション)new!

 ◎武器:【 尻尾の大篭手(テールガード)(盾攻撃) 】
   用途/属性:【 片手格軽/殴 】
  命中値合計:【 16-2 】
   威力:1d3+2(内訳:発勁+1)+武道家レベル6
   効果:投擲不可、拘束new!

 ◎武器:【 南洋投げナイフ 】(2本所持(再購入))
   用途/属性:【 片手投軽/斬刺 】
  命中値合計:【 13+4 】  射程20m
   威力:1d6+武道家レベル6
   効果:投擲専用、強打・斬(+1)、刺突(+1)、斬落

 ◎武器:【 投石紐 】(投分銅と入れ替えることがある)
   用途/属性:【 片手投軽/殴 】
  命中値合計:【 13+2 】  射程30m
   威力:1d3+1+武道家レベル6
   効果:投擲専用、速射(-4)、「手頃な石」または「石弾(命中+1)」を消費

◎武器:【 投分銅 】new!(投石紐と入れ替えることがある)
   用途/属性:【 片手投軽/殴 】
  命中値合計:【 13-2 】  射程20m
   威力:1d3+1+武道家レベル6
   効果:投擲専用、拘束、回収可能

 (紅玉の杖は基本的に武器として用いない)

◆防御
 回避基準値(技量反射+武道家レベル+体術スキル):【 14 】
 ◎鎧:【 衣鎧+鱗 】
   鎧:魔法の司教服(+3)(装甲7、回避修正+2、移動修正-4)
    ミスリルの鎖帷子(装甲3、移動修正-2)new!
   鱗:外皮+3(竜の末裔)
   属性:【 衣鎧(布)/軽 】  回避値合計:【 16 】
   移動力合計:【 18(24-4-2) 】  装甲値合計:【 10+3+1 】up!
   隠密性:【良い(改造済み)】

 ※耐火装備:ミスリルめっきグラスウールコート
  炎・熱への抵抗+10、装甲値+2(火属性への装甲値5)、呪文抵抗+1、移動力-2

 盾受け基準値(技量反射+武道家レベル(大篭手着用時)):【 12 】
 ◎盾:【 小型盾 】
   盾:魔法の大篭手(+3)(盾受け修正5、盾受け値4、武道家の適正装備扱い)
  (両手と尻尾に同じものを装着)
   属性:【 小型盾(金属)/軽 】 盾受け基準値合計:【 17 】
  盾受装甲値合計:【 14+4 】 隠密性:【 良い 】

◆所持金
  銀貨:200枚
  (足りないときは、財布を預けてる魔女さんに相談だ!)

◆その他の所持品 (分身の分を余分に所持)
  アイテムボックス ×1
  冒険者ツール ×2
   内訳(鈎縄,楔x10,小槌,火口箱,背負い袋,水袋,携帯用食器,白墨,小刀,松明x6)
  携帯食×7日分、衣類
  背負い袋(蜥蜴人用特大サイズ) ×2
  ベルトポーチ ×4(主にポーション類を入れる)
  ずた袋 ×2
  小袋セット(3枚/1セット) ×2
  竜司祭と精霊使いの触媒入れ(空間拡張) ×2(移動力修正0)
  魂魄強化の指輪+3 ×1(装備中)
  知力強化の指輪+3 ×1(装備中)
  体力強化の指輪+3 ×1
  技量強化の指輪+3 ×1
  武術熟達の腕輪+3 ×1
  体術熟達の腕輪+3 ×1
  真言呪文の発動体+3 ×1(装備中、形態:ネックレス)(森人探検家とおそろい)
  毒煙玉 ×4
  治癒の水薬 ×6
  強壮の水薬 ×4
  解毒薬 ×4
  鎮痛剤 ×2
  燃える水 ×2
  火の秘薬 ×2
  能力上昇の秘薬(各種) ×2
  各種の呪文の上質な触媒 ×各10×2
  水精霊【ミズチ】用の上質な触媒 ×20
  調理道具 ×1
  手当道具 ×6
  水中呼吸の指輪 ×1
  石弾袋(空間拡張) ×2(移動力修正0)
  石弾 ×30(石弾袋に収納)
  投石紐 ×1
  新式着火具一式 ×1
  黒蓮花弁のカード ×1(所持者の瞑想時における呪文使用回数の回復数にプラス1(一日の回数制限なし。効果は重複しない)、または瞑想時間短縮:-1時間(回数制限なし。効果は重複しない)、または高速詠唱技能(1ラウンドに2回詠唱。回数制限1日1回)付与)
  耐火外套(ミスリルめっきグラスウールコート) ×1(炎や熱による悪影響に対する抵抗に+10、装甲値+2、火属性の攻撃への装甲値にさらに+3の追加修正、呪文抵抗にも+1の修正を得ます。ただし、移動力は-2)
  【舞踏】のフルート ×1(用いて演奏することで【舞踏】の真言呪文を発動する。呪文使用回数を消費する)
  【聖餐】のランチョンマット ×4(一日に一度、奇跡【聖餐】の効果を発動し、ランチョンマットの上の器に【食料】または【純水】を生み出す)
  【手】の呪像

◆出自/来歴/邂逅/動機
 軍師/戦場/家族/託宣

◆コネクション
 令嬢剣士の実家の貴族家(娘から吸血鬼を殺せる一党と聞いている)
 火吹き山の闘技場のオーナー(最上級闘士、新人王として福利厚生を使わせる。また、興行依頼もする)
 金剛石の騎士(転移門を献上し退魔の剣を使える優秀な冒険者一党として認識)









◆名前:森人探検家
 年齢200歳。金の髪。
 師匠として、「忍び」「先生」と呼ばれる圃人を持つ。つまりゴブリンスレイヤーの姉弟子にあたる。
 憧れの緑衣の勇者の足跡に触れて、密かにテンションが上がっている。

◆イメージ
 Picrewの「夢で逢ったヒトメーカー」でつくったやつですのよ→ https://picrew.me/share?cd=eHBGXttDjd

【挿絵表示】


◆累積経験点 30000点/ 残り経験点0点
(火吹き山の闘技場  +1500点
 蜘蛛の巣の大逆襲  +1500点
 迷いの森の残党駆除 + 250点)

◆残り成長点 0点

◆能力値
装備:体力強化の指輪+3、技量強化の指輪+3
能力値体力点 1+3魂魄点 3技量点 5+3知力点 4
集中度 265106
持久度 04384
反射度 265106


    生命力:【 28(18+10) 】
    移動力:【 44 】 
 呪文使用回数:【 02 】

  呪文抵抗基準値(魂魄反射+冒険者LV+呪文抵抗):【 11 】

◆冒険者レベル:【 6 】 (技能を達人まで習得可能)
  職業レベル:【野伏:8】up!【神官(交易神):4】【魔術師:2】

◆冒険者等級:青玉等級

◆冒険者技能    初歩/習熟/熟練/達人/伝説
  【武器:弩弓】 ●  ●  ●  ●   ○up!
  【魔法の才】  ●   ●  ○  ○   ○
  【怪物知識】  ●   ○  ○  ○   ○
  【速射】    ●  ●  ●  ●   ○
  【狙撃】    ●   ●  ○  ○   ○
  【曲射】    ●   ○  ○  ○   ○
  【刺突攻撃】  ●  ●  ●  ○   ○
  【手仕事】   ●   ○  ○  ○   ○
  【機先】    ●   ●  ○  ○   ○
  【頑健】    ●   ○  ○  ○   ○
  【体術】    ●   ○  ○  ○   ○
  【忍耐】    ●   ○  ○  ○   ○

◆一般技能     初歩/習熟/熟練
  【暗視】    ●  ○  ○
  【精霊の愛し子】●  〇  〇
  【生存術】   ●  〇  〇
  【工作】    ●  〇  〇
  【騎乗】    ●  ●  ○
  【信仰心:交易】●  ○  ○new!
  【長距離移動】 ●  ○  ○new!

◆呪文
 呪文行使基準値(魂魄集中):【 5 】
        (知力集中):【 6 】
 職業:神官(交易神):4 魔術師:2
 技能:特になし
 装備:聖印+3(奇跡行使+4)、真言呪文の発動体+3(真言呪文行使+3)
 真言:【 11 】  奇跡:【 13 】  祖竜:【 0 】  精霊:【 0 】

 ◎習得呪文:
 《 逆転 》 難易度:10 (奇跡 付与呪文(属性なし))
 《 旅人 》 難易度:15 (奇跡 付与呪文(生命))
 《 解毒 》 難易度:10 (奇跡 治癒呪文(生命))
 《 解呪 》 難易度:10 (奇跡 治癒呪文(生命・精神・物質・空間))
 《 力与 》 難易度:10 (真言呪文 付与呪文(なし))
 《 解錠 》 難易度:10 (真言呪文 汎用呪文(なし))

◆装備枠【大弓+2】【短弓+2】【短槍or投石紐】
◆攻撃
 命中基準値(技量集中):【 10 】
 職業:【野伏:8】
 技能:【武器(弩弓):達人(+4)】
 近接:【 10 】  弩弓:【 22 】  投擲:【 18 】

 ◎武器:【 大弓 +2】
   用途/属性:【 両手弓重/刺 】
  命中値合計:【 22 】 射程:120m
   威力:2d6+4+野伏レベル8
   効果:長大(狭所で2D6が4以下でファンブル)、刺突(+2)、速射(-8)、
     「矢」を消費

 ◎武器:【 短弓 +2】
   用途/属性:【 両手弓軽/刺 】
  命中値合計:【 22+2 】 射程:60m
   威力:1d6+2+野伏レベル8
   効果:刺突(+1)、速射(-4)、「矢」を消費

 ◎武器:【 短槍 】 (外すこともある)
   用途/属性:【 片手槍軽/刺 】
  命中値合計:【 10 】
   威力:1d6
   効果:投擲適用、刺突(+1)

 ◎武器:【 投石紐 】(外すこともある)
   用途/属性:【 片手投軽/殴 】
  命中値合計:【 18+2 】  射程30m
   威力:1d3+1+野伏レベル8
   効果:投擲専用、速射(-4)、「手頃な石」または「石弾(命中+1)」を消費

◆防御
 回避基準値(技量反射+体術スキル):【 11 】
 ◎鎧:【 軽鎧 】
   鎧:狩人の外套+2(装甲値4、回避修正+3)
     ミスリルの鎖帷子(装甲3、移動力修正-2)new!
   属性:【 軽鎧(革)/軽 】  回避値合計:【 14 】
   移動力合計:【 42(44-2) 】  装甲値合計:【 7 】
   隠密性:【良い(改造済み)】

 盾受け基準値(技量反射):【 なし 】(適用可能職業なし)
 ◎盾:なし

◆所持金
  銀貨:500枚

◆その他の所持品
  アイテムボックス ×1
冒険者ツール(鈎縄,楔x10,小槌,火口箱,背負い袋,水袋,携帯用食器,白墨,小刀,松明x6)
  携帯食×7日分、衣類
  聖印(交易神)+3 ×1(装備中:ベルトに吊るしている)
  鍵開け道具 ×1
  罠師道具 ×5
  矢筒(空間拡張) ×1(移動力修正0)
  矢 ×150
  煙玉 ×1
  治癒の水薬 ×1
  強壮の水薬 ×1
  解毒薬 ×1
  防毒面 ×1
  臭い消し ×1
  技量強化の指輪+3 ×1(装備中)(半竜娘から貸してもらってる)
  体力強化の指輪+3 ×1(装備中)(半竜娘から貸してもらってる)
  真言呪文の発動体+3 ×1(装備中、形態:ネックレス)(半竜娘とおそろい)
  手当道具 ×6
  水中呼吸の指輪 ×1
  石弾袋(空間拡張) ×1(移動力修正0)
  石弾 ×30(石弾袋に収納)
  投石紐 ×1
  新式着火具一式 ×1
  【聖餐】のランチョンマット ×4(一日に一度、奇跡【聖餐】の効果を発動し、ランチョンマットの上の器に【食料】または【純水】を生み出す)
  【読解】の眼鏡 ×1(一日一回、未知の言語を解読できる(文献調査ボーナスなどはない))


◆出自/来歴/邂逅/動機
 猟師/貧困/師匠/英傑憧憬








◆名前:TS圃人斥候
 圃人斥候の妹……という設定の、圃人斥候本人。年齢は40歳(只人の20歳相当)。
 性転換の術にそういう効果があったのか、顔面偏差値と体型偏差値が大幅に上がっている。
 経済的に余裕のある一党に入っているおかげか、功名心は鳴りを潜めつつある。

◆イメージ
 Picrewの「ガン見してぅるメーカー」でつくったやつ。 →  https://picrew.me/share?cd=CdpkWpjshK

【挿絵表示】


◆累積経験点 28000点/ 残り経験点0点
(火吹き山の闘技場  +1500点
 蜘蛛の巣の大逆襲  +1500点
 迷いの森の残党駆除 + 250点)


◆残り成長点 9点

◆能力値
 装備:知力強化の指輪+3、技量強化の指輪+3
能力値体力点 1魂魄点 5技量点 5+3知力点 1+3
集中度 12695
持久度 12695
反射度 459128


    生命力:【 19(14+5) 】
   (体力点+魂魄点+持久度+【頑健】)
    移動力:【 27 】 
 呪文使用回数:【 02 】 up!

  呪文抵抗基準値(魂魄反射+冒険者LV+呪文抵抗):【 15 】

◆冒険者レベル:【 6 】
  職業レベル:【戦士:3】【斥候:7】【野伏:1】【魔術師:5】up!

◆冒険者等級:黒曜等級

◆冒険者技能    初歩/習熟/熟練/達人/伝説
  【機先】    ●   ●  ●  ●   ○
  【隠密】    ●  ○  ○  ○   ○
  【幸運】    ●  ○  ○  ○   ○
  【武器:片手剣】●  ○  ○  ○   ○
  【武器:投擲】 ●  ○  ○  ○   ○
  【体術】    ●  ○  ○  ○   ○
  【死角移動】  ●  ●  ○  ○   ○
  【手仕事】   ●  ●  ●  ○   ○
  【頑健】    ●  ○  ○  ○   ○
  【忍耐】    ●  ○  ○  ○   ○
  【観察】    ●  ●  ○  ○   ○
  【第六感】   ●  ●  ○  ○   ○
  【魔法の才】  ●  ●  ○  ○   ○up!
  【速射】    ●  ○  ○  ○   ○
  【鎧:軽鎧】  ●  ○  ○  ○   ○

◆一般技能     初歩/習熟/熟練
  【調理】    ●  ○  ○
  【犯罪知識】  ●  ●  ○
  【鑑定】    ●  ○  ○
  【騎乗】    ●  ○  ○
  【職人:化粧】 ●  ○  ○
  【芸能:演劇】 ●  ○  ○
 【交渉:誘惑】 ●  ○  ○


◆呪文
 呪文行使基準値 (知力集中):【 5 】
 職業:魔術師:5
 技能:特になし
 装備:真言呪文の発動体+2
《呪文行使》
 真言:【 12 】  奇跡:【 0 】  祖竜:【 0 】  精霊:【 0 】
《呪文維持》
 真言:【 10 】  奇跡:【 0 】  祖竜:【 0 】  精霊:【 0 】

 ◎習得呪文:
 《 幻影 》 難易度: 5 (真言呪文 創造呪文(光))
 《 矢避 》 難易度:10 (真言呪文 付与呪文(風))new!
 《 脱出 》 難易度:なし (真言呪文 汎用呪文(時間))
 《 浮遊 》 難易度:10 (真言呪文 汎用呪文(風))
 《 施錠 》 難易度: 5 (真言呪文 汎用呪文(物質))new!

◆装備枠【小剣+3】【投矢銃+2(投矢)】【投石紐】
◆攻撃
 命中基準値(技量集中):【 9 】
 職業:【斥候:7】【戦士:3】【野伏:1】
 技能:【武器(片手剣):初歩(+1)】
    【武器(投擲) :初歩(+1)】
 近接:【 17 】  弩弓:【 10 】  投擲:【 17 】

 ◎武器:【 魔法の小剣+3】
   用途/属性:【 片手剣軽/斬刺殴 】
  命中値合計:【 17+1 】
   威力:
   片手:1d6+3+斥候レベル7
   効果:投擲適用、受け流し(+0)、強打・斬(+0)、刺突(+1)

 ◎武器:【 投矢 】(投矢銃の弾。単体で投げることもできる)
   用途/属性:【 片手投軽/刺 】
  命中値合計:【 17】  射程10m
   威力:1d3+斥候レベル7
   効果:投擲専用、この武器は使用すると失われる

 ◎武器:【 魔法の投矢銃+2 】
   用途/属性:【 片手弩軽/刺 】
  命中値合計:【 10+6 】  射程60m
   威力:1d6+2+野伏レベル1
   効果:刺突(+1)、「投矢」を消費

 ◎武器:【 投石紐 】
   用途/属性:【 片手投軽/殴 】
  命中値合計:【 17+2 】  射程30m
   威力:1d3+1+斥候レベル7
   効果:投擲専用、速射(-4)、「手頃な石」または「石弾(命中+1)」を消費

◆防御
 回避基準値(技量反射+斥候レベル+体術スキル):【 20 】
 ◎鎧:【 軽鎧】
   鎧:鼓舞の革鎧(+3)(装甲5、回避修正+3、移動修正なし)
  効果:精神属性無効、戦女神の奇跡【鼓舞】(達成値20)を1日に1度使用可能。使用回数は0時に回復する。
    ミスリルの鎖帷子(装甲3、移動力修正-2)new!
   属性:【 軽鎧(革)/軽 】  回避値合計:【 23 】
   移動力合計:【 25(27-2) 】  装甲値合計:【 8+1(鎧技能) 】
   隠密性:【良い(改造済み)】

 盾受け基準値(技量反射+斥候レベル):【 19 】
 ◎盾:【 小型盾 】
   盾:魔法の吊盾(+2)(盾受け修正7、盾受け値5、受け流し+1)
   属性:【 小型盾(木、革)/軽 】 盾受け基準値合計:【 26 】
  盾受装甲値合計:【 9+5+1 】 隠密性:【 良い(改造済み) 】

◆所持金
  銀貨:700枚

◆その他の所持品
  アイテムボックス ×1
  冒険者ツール
   内訳(鈎縄,楔x10,小槌,火口箱,背負い袋,水袋,携帯用食器,白墨,小刀,松明x6)
  携帯食×7日分(圃人基準)、衣類
  ベルトポーチ ×2
  ずた袋 ×2
  小袋セット(3枚/1セット) ×2
  知力強化の指輪+3 ×1(装備中、借り物)
  技量強化の指輪+3 ×1(装備中、借り物)
  真言呪文の発動体+2(髪飾り) ×1
  煙玉 ×2
  治癒の水薬 ×2
  強壮の水薬 ×1
  解毒薬 ×1
  鎮痛剤 ×1
  燃える水 ×1
  火の秘薬 ×1
  調理道具 ×1
  香辛料 ×1
  罠師道具 ×5
  トリカブトの毒 ×1
  催涙弾 ×3
  防毒面 ×1
  化粧道具 ×1
  臭い消し ×1
  投矢帯(空間拡張) ×1(移動力修正0)
  投矢 ×50
  角灯 ×1(腰から吊り下げるよう改造)
  油 ×2
  鍵開け道具 ×1
  手当道具 ×6
  化膿止めの軟膏 ×2
  円匙 ×1
  筆記道具 ×1
  パピルス紙 ×10
  知覚上昇の秘薬 ×1
  敏捷上昇の秘薬 ×1
  水中呼吸の指輪 ×1
  石弾袋(空間拡張) ×1(移動力修正0)
  石弾 ×30(石弾袋に収納)
  投石紐 ×1
  新式着火具一式 ×1
  【聖餐】のランチョンマット ×5(一日に一度、奇跡【聖餐】の効果を発動し、ランチョンマットの上の器に【食料】または【純水】を生み出す)
  【鑑定】の手袋 ×1(一日一回、触れた物品を【鑑定】できる)
  冒険メモ ×1
  
 
◆出自/来歴/邂逅/動機
 亭主/平穏/宿敵/挫折再起





◆名前:文庫神官
 年齢17歳。黒髪長髪。いい感じの肉付き。
 どこぞの領地の騎士の娘だった。
 ガーゴイルに落とされ墜落死直前に間一髪、半竜娘に助けられ、元のパーティには死んだと思われていたこともあり、半竜娘パーティに加入。
 「重い装備を身に着けていればもう空に攫われない」と思い立ち、実家から持ち出して文庫に預けていた父の形見の鎧を仕立て直して着込み、ただの神官から、硬くて重い神官戦士になるべく方針転換。
 先行投資の名のもとに装備が充実していく……。

◆イメージ
 Picrewの「ななめーかー」でつくったよ! →https://picrew.me/share?cd=6rNTikFnSx

【挿絵表示】


◆累積経験点 16250点/ 残り経験点250点
(奇跡の生還   +1000点
 ゴブリン退治  +1000点
 蜘蛛の巣の大逆襲+1500点
 退魔の剣の担い手+ 500点
 迷いの森の残党駆除 + 250点)

◆残り成長点 0点

◆能力値
装備:体力強化の指輪+3、魂魄強化の指輪+3
能力値体力点 2+3魂魄点 2+3技量点 1知力点 3
集中度 27735
持久度 49957
反射度 38846


    生命力:【 26(21+5) 】(体力持久+魂魄点+出目7+【頑健】)
    移動力:【 18 】
 呪文使用回数:【 05 】

  呪文抵抗基準値(魂魄反射+冒険者LV+呪文抵抗):【 14 】

◆冒険者レベル:【 5 】 (技能を熟練まで習得可能)
  職業レベル:【戦士:4】up!【神官(知識神):6】

◆冒険者等級:鋼鉄等級

◆冒険者技能    初歩/習熟/熟練/達人/伝説
  【過重行動】  ●   ○  ○  ○   ○
  【武器:投擲】 ●  ○  ○  ○   ○
  【忍耐】    ●   ○  ○  ○   ○
  【魔法の才】  ●   ●  ○  ○   ○
  【追加呪文(奇)】●  ○  ○  ○   ○
  【呪文熟達(付)】●  ●  ○  ○   ○
  【呪文熟達(創)】●  ○  ○  ○   ○
  【呪文熟達(支)】●  ○  ○  ○   ○
  【呪文熟達(治)】●  ○  ○  ○   ○
  【呪文熟達(汎)】●  ●  ○  ○   ○
  【呪文抵抗】  ●   ○  ○  ○   ○
  【機先】    ●   ○  ○  ○   ○
  【頑健】    ●   ○  ○  ○   ○
  【護衛】    ●   ●  ○  ○   ○up!
  【鎧:重鎧】  ●   ●  ○  ○   ○new!
  【挑発】    ●   ○  ○  ○   ○new!

◆一般技能     初歩/習熟/熟練
  【長距離移動】 ●  ○  ○
  【騎乗】    ●  ○  ○
  【信仰心(知)】●  ○  ○
  【博識】    ●  ○  ○
  【文献調査】  ●  ○  ○
  【神学】    ●  ○  ○
  【祈祷】    ●  ○  ○
  【交渉:説得】 ●  ○  ○


◆呪文
 呪文行使基準値(魂魄集中):【 7 】
 呪文維持基準値(魂魄持久):【 8 】
 職業:神官(知識神):6
 技能:呪文熟達:付与+2、創造+1、支配+1、治癒+1、汎用+2
 装備:聖印(奇跡行使+1)、錫杖(奇跡行使+1)
《呪文行使》
 真言:【 0 】  奇跡:【 15 】  祖竜:【 0 】  精霊:【 0 】
《呪文維持》
 真言:【 0 】  奇跡:【 14 】  祖竜:【 0 】  精霊:【 0 】

 ◎習得呪文:
 《 祝福 》 難易度:10 (奇跡 付与呪文(なし))
 《 天啓 》 難易度:10 (奇跡 付与呪文(なし))
 《 聖壁 》 難易度:15 (奇跡 創造呪文(空間))
 《 沈黙 》 難易度:10 (奇跡 支配呪文(風))
 《 小癒 》 難易度: 5 (奇跡 治癒呪文(生命))
 《 浄化 》 難易度: 5 (奇跡 治癒呪文(水))
 《 真灯 》 難易度:10 (奇跡 汎用呪文(時間))

◆装備枠【錫杖】【投石紐】【退魔の剣(長剣+3)】
◆攻撃
 命中基準値(技量集中):【 3 】
 職業:【戦士:4】
 技能:【武器(投擲):初歩(+1)】
 近接:【 7 】  弩弓:【 3 】  投擲:【 4 】

 ◎武器:【 錫杖 】
   用途/属性:【 両手棍軽/殴 】
  命中値合計:【 7+1 】 射程:近接
   威力:1d3+1+戦士レベル4
   効果:受け流し(+1)、奇跡行使+1

 ◎武器:【 投石紐 】
   用途/属性:【 片手投軽/殴 】
  命中値合計:【 4+2 】  射程:30m
   威力:1d3+1
   効果:投擲専用、速射(-4)、「手頃な石」または「石弾(命中+1)」を消費

 ◎武器:【 退魔の剣(長剣+3) 】
   用途/属性:【 片手・両手剣重/斬刺殴 】
  命中値合計:【 片手7-1/両手7+1 】  射程:近接
   威力:片手1d6+5+戦士レベル4/両手2d6+5+戦士レベル4
   効果(片手):投擲適用、受け流し+0、強打・斬+1、【退魔の剣】
   効果(両手):受け流し+1、強打・斬+2、強打・殴+0、刺突+1、【退魔の剣】
   ※【退魔の剣】の効果
    アンデッド、デーモン、混沌勢力へのダメージ(装甲による軽減後)を二倍にする。
    秩序の神の加護がないと触れない。
    また、隠しきれない退魔の気配により、鞘から出した状態では隠密判定-1の上に、優先して狙われるようになる。

◆防御
 回避基準値(技量反射+戦士Lv+体術スキル):【 8 】
 ◎鎧:【 重鎧 】
   鎧:魔法の胴鎧+2(装甲値8、移動力修正-4)
       (過重 7/12、斬耐性)
     ミスリルの鎖帷子(装甲3、移動力修正-2)new!
   属性:【 重鎧(革)/軽 】  回避値合計:【 8 】
   移動力合計:【 10(18-4-2-2) 】  装甲値合計:【 11+2 】
   隠密性:【 良い(改造済み) 】

 盾受け基準値(技量反射+戦士Lv+盾スキル):【 8 】
 ◎盾:【 大型盾 】
   盾:魔法の騎士盾+2(盾受け修正7、盾受け値6、騎乗中受け流し+2)
   属性:【 大型盾(木、金属)/重 】 盾受け基準値合計:【 15 】
  盾受装甲値合計:【 13+6 】 隠密性:【 良い(改造済み) 】

◆所持金
  銀貨:80枚

◆その他の所持品
冒険者ツール(鈎縄,楔x10,小槌,火口箱,背負い袋,水袋,携帯用食器,白墨,小刀,松明x6)
  携帯食×7日分、衣類
  聖印(知識神) ×1(装備中:首から吊るしている)
  石弾 ×10
  石弾袋 ×1(移動力修正-2)
  体力強化の指輪+3 ×1(装備中、借り物)
  魂魄強化の指輪+3 ×1(装備中、借り物)
  治癒の水薬 ×2
  強壮の水薬 ×2
  解毒薬 ×2
  鎮痛剤 ×2
  化粧道具 ×1
  臭い消し ×1
  角灯 ×1(腰から吊り下げるよう改造)
  油 ×2
  手当道具 ×6
  化膿止めの軟膏 ×2


◆出自/来歴/邂逅/動機
 騎士/孤児/部下/未知好奇


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二周目レギュRTA 目指せ【辺境四天王】~竜の巫女編~
23/n 塔を登れ!-1(青玉昇級)


閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ありがとうございます! キャラシの載せ方は次からは画像にすると思いますです(レイアウト崩れないし)。


●前話:
遠征終わってみんなめっちゃ成長した!
受付嬢「みなさん面構えが違いますね」


 はいどーも!

 収穫祭編なので頑張って習俗とか描写したり、キャラを深堀りしていく実況(にしたい(願望))、はーじまぁるよー!

 

 前回は、迷いの森に封じられていた、かつての魔神王の残影である蜘蛛の化け物を『成敗!』したところまででしたね。

 目的だった『手』の呪物も手に入れられて万々歳ってところです。

 

 あと、遠征で十分な経験を積んだとギルドからみなされたのか、半竜娘ちゃんが昇級しました。

 上がったのは半竜娘ちゃんだけですが、これで森人探検家と同じ青玉等級、第七位の等級の冒険者になりました。

 いよいよ中堅の仲間入りです(なお登録後まだ半年)。

 

「いーなー、リーダーは昇級できてよぉー。オイラはまだ第九位の黒曜だぜ」

「春から真面目にやってきたおかげじゃて。そう羨むなら、お主もゴブリン退治とか塩漬け依頼の消化に協力せんか」

「おっと、急用を思い出したゼ!☆」

「……まったく、そういうとこじゃよ!」

「きこえなーいね!」

 

 夏の季節も終わりに近づき、辺境の街は収穫祭に向けての準備が進んでいます。

 冒険者たちも、収穫祭を楽しむために、片付けられる冒険は片付けて後顧の憂いをなくし、また祭りのための軍資金を積み上げるのに余念がありません。

 半竜娘たちも、大冒険とは言えないまでも、日々の仕事としての依頼をこなしたり、そのほかの副業をやったり、修行したり、まったりと日々を過ごしたりしています。

 

 いまは、ギルドの酒場でこれまでのことをまとめたり、冒険報告書を作ったり、収支の帳面をつけたりしているところです。

 

「えーと、報酬と経費と……副業のうち共有資金に入れるのが……」

 

 副業と言えば、半竜娘ちゃんの場合は、主な副業として、巨大化した上で土木の知識を生かして、周辺の村や街道の整備をしたりしています。

 人間重機は伊達じゃない!

 大抵は、ゴブリン退治に行った先の村で、そこの野菜やなんかと引き換えにちょちょいと工事することが多いです。

 

――「おぉ、こないだの雨で崩れた堤が、あっという間に……」

――「まー、こんなの手前(てまえ)にかかればちょいぱっぱじゃて! ハッハッハ!」

 

 なんなら空間拡張された鞄を活用し、塩だとかの必需品を売るほど持ち歩き、あるいは村の特産を買い付けて、行商の真似事もしています。

 麒麟竜馬に曳かせた快速馬車を持っているので、新鮮なうちに運べるのが売りです。

 

――「野菜だの買ってくれるのはありがたいけんども、街に運ぶまでに痛んじまわねえか?」

――「問題ないのじゃ! 魔法の鞄に竜の馬車! 街まではすぐじゃて!」

 

 ちなみに、会計担当として文庫神官が同道することが多いみたいです。

 大商いのときは、交易神の信徒である森人探検家もついて来ます。お金は大事なので。あと半竜娘だけに任せるとおおざっぱなので。

 神官というのは、この時代はインテリ扱いですし、やはり只人や森人の神官を連れていると、村人の当たりも柔らかになります。

 蜥蜴人の竜司祭だと、どうしても田舎だと警戒されがちですからね。

 

「……ふぅ。冒険より、行商の方が安定して稼げるかもしれませんね」

「でも遺跡探検は浪漫じゃよ! あと戦いのない日々など耐えられんのじゃ……。血祭り、焼き討ち、大粉砕……そしてゴブリン退治」

「行商で稼いだお金を冒険のためにパーッと使うのが良いんじゃない! 採算度外視で遺跡に潜るのって憧れてたのよね~」

「道楽冒険者じゃないですか……」

 

 一党の帳面をつけている文庫神官が呆れています。

 でもまあ、竜を族滅させたなら、冒険者としてはほぼ上がりみたいなものですからね。

 それでも続けているのは、半竜娘ちゃんの場合は、道楽……というよりは、竜になるための求道の意味合いが強いですが。竜素材の資産を共同管理している魔女さんの場合も、引退しないのは魔術の研鑽のためですし。

 

「道楽ではなく求道じゃよー」

「お金で大半のことは片付くけど、結局お金ってのは手段や選択肢を増やしてくれるだけで、本当に欲しいものはお金と直接は交換できなかったりするのよねえ。近道はさせてくれるけど」

「お、いいこと言うのう! 流石は交易神の神官といったところかや?」

「クソ師匠の教えでもあるわ。いつから生きてるか分からない――ひょっとしたら私より年上なのかも――そういう妖怪みたいな圃人だったけど、教わったことは役に立ってるのよねえ……癪だけど」

 

 森人探検家は、自分の師匠――ゴブリンスレイヤーの師匠でもある圃人――を思い浮かべて、愁いを顔に載せた。

 森人は愁眉も絵になる。

 

「いつかそのお師匠とやらにも手合わせを願いたいものじゃな!」

「その時は一緒にやりましょう」(迫真)

「あの伝説の『忍び』だろ、エルフパイセンの師匠って。オイラも会いたいなあ……指輪の物語を本人から直接聞いたなんてなったら、子孫に自慢できるぜ」

「……ほんとに本人なんですか? 指輪って言うと、あのおとぎ話のことですよね?」

 

 文庫神官が首をかしげていますが、それに対してTS圃人斥候が目を輝かせて答えます。

 

「圃人界隈ではもうまさしく生きる伝説だぜ!」

仕掛人(ランナー)なんかの裏稼業でもそうよ」

「いやー、会える日が来るといいなあ! 楽しみだぜ!」

「幻滅しなきゃいいけど」

 

 和気藹々と、時に脱線しながら一党会議は続きます。

 

 大冒険がない時にやることといえば、あとは、火吹き山の闘技場で最上級闘士として興行したりですね。

 これはファイトマネーが美味しいです。

 あと、闘技場は、他の最上級闘士のビルドを見るのも参考になりますしね。

 

 そして街の冒険者たちも連れて、闘技場に転移し、試合後はそこの図書館やエステを使わせてもらったり、一緒に観光したり、買い物したり。さすがの福利厚生。

 特に図書館はやはり次元渡り(プレインズウォーカー)の蔵書だけあって、貴重な資料が目白押しですし、買い物も最上級闘士としての優遇を受けているので魔法のアイテムが買えちゃいますし。資金源はまだ、登録初日に竜の素材で稼いだ分のストックがありますし。

 

「この あいだは、図書館に、誘ってくれ て、ありがと、ね?」

「おう魔女殿! こちらこそ研究を手伝ってもらって助かったのじゃ! また誘うから良しなになのじゃ!」

「ええ、 楽しみに、してる、わ」

 

 後衛職を誘うならデート先にも最適! ちょうどギルドの卓の横を通りすがった魔女さんに声を掛けられたので、さらっと次のお誘いの約束をします。

 こうやって魔女さんを誘って時々図書館デートしています。

 今はアストラル界関係の技術を研究して磨いているところです。

 もちろん、継続して肉体改造とか肉体変容系の技術についても共同で調べていますし、他にもスクロール作成系の技術も魔女さんから教わろうとしています。

 

「そうじゃ、これを貰ったのじゃった。じゃじゃーん」

「リーダー、何それ?」

「カタログじゃよー。道具で済ませられる魔法は、自前で覚えずとも良いかと思ってのう。火吹き山の購買部で貰ってきたのじゃ」

「確かにねー、真言も奇跡もいくつも覚えられるわけじゃないしねえ」

 

 ギルドで分厚い冊子を取り出すと、森人探検家がひょいと覗き込んできました。

 取り出したのは、火吹き山で扱っている魔道具のカタログです。

 

「お姉さま、何か欲しいものでもあるんですか?」

「ふむ、『【支配(コントロールアニマル)】の手綱』が気になるのじゃ。ほれ、飛竜をおびき寄せてこの手綱をかけて乗れば、偵察や強襲に便利じゃろ? 竜挺降下(ドラボーン)じゃ!」

「……墜落怖い墜落怖い墜落怖い」(ガタガタ)

「あっ、トラウマじゃったな……。ま、まあ、乗るのは手前(てまえ)か斥候じゃろうから安心せい」

 

 文庫神官ちゃんは、流石にまだ空は怖い様子。

 まあ、空が怖いから、連れ去られないように重装備に方針転換するくらいですからね。

 その間にも、TS圃人斥候や森人探検家はカタログを見ています。

 

「この『【粘糸(スパイダーウェブ)】のロッド』とか、あると便利そうじゃね? ロープの持ち歩きも減りそうだし。ロープって意外とかさばるんだよなあ」

「今は空間拡張鞄(アイテムボックス)あるからいいでしょ。でも、あると便利そうねえ、カギヅメを引っかけるところがないような場所へも、粘着糸を飛ばせば張れるし」

「あっ、使い捨てだけど『【分影(セルフビジョン)】のかんしゃく玉』ってのも良いな。足元の地面にたたきつけたら、一瞬で本人の幻影が五つ、閃光と煙とともに現れる、と」

「緊急避難の手管は、いくらあっても良いわよねえ」

 

 そんな半竜娘たちに対して、周りの冒険者――特に駆け出し――は、「この金満冒険者どもがっ!」と思ってる気がしますね。

 嫉妬のオーラが渦巻いているような……。

 まあ、そんな彼らのヘイトを逸らすために、半竜娘もよく酒をおごったり、自身の契約精霊である水蜥蜴の水精霊や、酒場に居ついた羽衣の水精霊を【使役(コントロールスピリット)】の魔法で呼び出して、生命力や疲労を回復させる【命水(アクアビット)】の精霊術をふるまったりしているわけですが。

 

「あ、半竜の! こないだは【聖餐(エウカリスト)】の魔道具貸してくれてありがとう! ほら、アンタもお礼!」

「ああ、マジで助かったぜ、ありがとうな!」

「よかよか、どうせその日は使わない予定じゃったんじゃからの」

 

 通りがかった見習聖女と新米剣士が、半竜娘たちに頭を下げます。

 半竜娘たちは、病気を予防する祝福された食事を生み出す奇跡【聖餐】が込められたランチョンマットを複数所持しているのですが、自分たちで使わない日は、ギルドで他の冒険者に格安で貸し出して使わせています。

 特に、下水道で不潔な大鼠や大黒蟲を相手にする駆け出しと、ちょっと体にガタが出始めた中年冒険者には好評です。

 病気を治すのもお金かかりますし、寝込んでる期間働けないのは致命的ですからね……。

 

 このあたりの気前の良さもあって、ギルドの信用もうなぎのぼり。

 きっと、青玉の次の、翠玉等級(第六位階)への昇格にもつながっていくでしょう。

 銀等級になって【辺境四天王】を目指すRTAっぽくてイイゾ~、これ。

 

 なお、【聖餐】は地母神の奇跡なので、女神官ちゃんは微妙な顔していましたが。

 『奇跡の安売りはちょっと……、でも、《守り、癒し、救え》の地母神の中心教義三原則(セントラルドグマ)的には正しい行いですし……』みたいな複雑な表情でした。

 本当は【聖餐】の魔道具によるふるまい飯も、地母神の寺院の場所を借りておこなった方が、神への敬意を捧げることに繋がっていいんでしょうけど……。まあ、地母神寺院から何か言われたら考えましょう。

 

 

「えーと、それで。そろそろ収穫祭も近いんじゃから、遠出はやめた方がいいかのう。手前(てまえ)も儀式のために、潔斎したりだの、身を整える時間が必要じゃし」

「といっても、私たちは快速馬車があるから、他の冒険者の何倍も遠くまで行っても、まだ日帰り圏内だけどね」

「まー、結構働いたし、収穫祭終わるまでは休暇で良いだろ?」(本音:歓楽街いきてえ)

「収穫祭までの準備もありますし……注文してたデート用の服の受け取りとかありますし

 

 ――じゃ、各自、自由行動ということで。

 と、そういうことになりました。

 

「私はいつもみたいに次の遺跡の情報を集めようかしら」

「オイラは適当に羽を伸ばしてくるつもりだぜ~」

 

 森人探検家とTS圃人斥候は、それぞれに過ごす当てがあるようです。

 半竜娘と文庫神官ですが……。

 

「そういえば近くの知識神の文庫に、写本を納めに行くとか言うとらんかったかの?」

「あ、お姉さま、覚えていてくれたんですね! はい、闘技場の図書館の蔵書で写す許可をいただけたものを写本してきたので、それを納めようかと。結構な稀覯本も許可されたので」

「文庫の場所は、たしか前に何処だかの村からの依頼の帰り道に見かけたところじゃよな? そちらの蔵書も気になるから、一緒に行くかの。それでいいかや?」

「是非是非! よろしくお願いいたしますわ、お姉さま!」

 

 ということで、辺境の街の近くの、知識神の文庫へと向かうことにしたようですね。

 文庫神官の故郷はもっと遠くなので、迷いの森の攻略の時に宿坊を借りたところとは全く別のところになります。

 麒麟竜馬の馬車ならすぐの距離です。

 

「あの、すみません。今、良いでしょうか?」

 

 と、出掛けようとしたところで、受付嬢の方から声がかかります。

 

「なんじゃろか?」

「実は、邪悪な魔術師の塔が見つかったということで……」

 

 話を聞くと、ちょうど文庫神官を助けたあたりに、突如として白亜の塔が現れたのだとか。

 さらにその近辺でガーゴイルが街道で人攫いを繰り返しており、生贄かなにかにされているものと目されているとのこと。

 国王陛下も憂慮し、しかし、軍を動かす案件は他にもあり。

 であれば、冒険者の出番というわけです。

 

「他の面子は?」と半竜娘が受付嬢の後ろを見やれば、そこには辺境三勇士の姿が。「ほう、錚々たるメンバーじゃの。ゴブリンスレイヤーがおるなら、ゴブリン案件かや?」

 

「まあ、見れば分かると思うが、戦士ばかりではな」やれやれと重戦士。

「あと今回はゴブリンは出ねーよ」そんなつまらない案件なら自分は出張らないとばかりに槍使い。

「依頼がなかったからな」ゴブリン退治の依頼がなかった(=あったらそっちに行ってた)と告げるゴブスレさん。

 

「そっちは呪文が充実してるだろ? 信用も置けるしな」

 

 重戦士が、斥候や魔術師、神官が足りない旨を告げます。

 確かに、半竜娘一党なら、メンバー的にうってつけです。

 

「とはいえ、こっちの一党を合わせて7人だと多くはないかや?」

「ああ、だから2パーティで攻略したらどうかって話だ。こっちには、半竜の嬢ちゃんの分身を付けてくれれば助かる」

「なるほどのう」

 

 後ろで槍使いが「それなら俺はそっちの嬢ちゃんたちの方に加わりたいぜ」とか言ってますね。

 半竜娘ちゃんたちは見目麗しいし、守ってカッコつけようって腹でしょうか。

 重戦士が「お前はこっちだ」と首根っこ掴んでますが。

 

 半竜娘たちはお互いに目配せして意志疎通。

 受けることに異議はなさそうです。

 

「それなら、ぜひお願いするのじゃ。辺境三勇士と冒険できるとは光栄じゃし、こっちも勉強させてもらうのじゃ。こちらも他に急ぎの用があるという訳ではないしの」

「よし、決まりだな!」

 

 というわけで、収穫祭前に、60階くらいありそうな邪悪な魔術師の塔(ドル○ーガの塔)を攻略することになりました。

 

 今回はここまで!

 それではまた次回!

 

 

 

 




原作小説3巻の前に、ブランニュー・デイの塔の話を。


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23/n 塔を登れ!-2(塔発見)

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●前話:
塔を登ろう!(登るとは言ってない)
(なんならまともに登るとも思われてない)


 はいどーも!

 いくらどんがたべたかったな~、いやでもそうでもないかな~?

 固定目標とか【攻城兵器】の称号持ちにはカモでしかないんだよなあ……な実況、はじまってる!

 

「『俊敏なりし甲竜(アンキロス)よ、経絡巡りし雷を、どうか我が身に宿し給え!!』――【突撃(チャージング)】!! イィヤァアアアアアア!!」

 

ドドドドドドドドドドドドドドドド……

 

 はい、今は初手でとりあえず【加速】【巨大】【突撃】( いつものコンボ )を使ったところです。

 今回は、さらに森人探検家の【旅人(トラベラー)】。

 【使役(コントロールスピリット)】で呼び出した水蜥蜴の精霊『ミズチ』を肩に載せて(タンクデサントして)追風(テイルウィンド)】。

 大精霊を複数呼び出して【統率】したので、呪文行使達成値も底上げされて、巨大化倍率も10倍を達成。

 現時点の最大威力を叩き出せるようにしています。

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドドド……

 

 

 野外なので、初手は【力場】によるサーキットバンクは作ってません。十分な距離が取れますからね。

 突撃開始距離は、最大助走距離の半分ほどです。二撃目以降の往復前提です。

 半分といっても、およそ1500mは離れてますけどね。

 

 口から漏れる怪鳥音を引き延ばしながら*1ものすごい速さで遠く離れた塔の方へと突撃していきます。

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドドド……

 

 

 あ、激突しますね。

 

 はいどーん!!

 

「おお、行った行った」 愉快そうに手庇(てびさし)して眺めるのは槍使い。

「さぁて、これで倒れてくれりゃ楽なんだが」 重戦士は濛々と立ち上る土煙を見透かそうと目を細めています。

「そうだな」 いつも端的な言葉なのはゴブリンスレイヤーです。

 

 彼らが立つのは、問題の塔から少し離れた丘の上。

 その後ろでは、森人探検家、TS圃人斥候、文庫神官が野営の準備をしています。

 彼女たちはこんな状況でも平常心です。まあ慣れっこですからね。

 

「私たちの出番残るかしらね」 馬車から空調機能付きの天幕を取り出す森人探検家。「これだと残敵の掃討とかだけやる感じかしら、面倒よね」

「あーあ、塔のお宝をかっぱぐの楽しみにしてたんだけどなー」 手早く火を起こしているTS圃人斥候。「オイラたち来る意味あったかぁ?」

「……わぁ……【辺境最大】ってこういうことだったんですねぇ……」 何気に、土木工事する半竜娘は見慣れていても、最大威力の突撃を見るのは初めてな文庫神官。「さすがお姉さまです!」

 

 馬車の傍らは空です。今は、いつも曳いてくれている2頭の麒麟竜馬は居ません。

 ここに居ない半竜娘とその分身が、離れた突撃開始地点へと移動するときに、それぞれで麒麟竜馬に跨っていったからです。

 発進地点から野営地が割り出されないようにという配慮で移動したわけですね。

 

 まあ、ここに至る経緯なんて言わなくても、壊していい塔があるんだから、半竜娘ちゃんなら絶対、巨大化突撃するよねって感じですが……はい、回想スタートです。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

ウェントス()ルーメン()リベロ(解放)――【核撃(フュージョンブラスト)】!」

 

 力を込めて半竜娘が宣言します。

 速き風よ光とともに解放されよ! ティルトウェイト!

 

「いいえ! それは通しません! マグナ(魔術)レモラ(阻害)レスティンギトゥル(消失)――【抗魔(カウンターマジック)】!」

 

 文庫神官がその攻撃を通さないように、対抗呪文を宣言!

 

「ふん、お主じゃパワーが足りんじゃろう! これで手前(てまえ)の勝ちじゃ!」

「あ、私も【抗魔】」

「オイラも」

「なんじゃと! 同期詠唱で効力増加!? これでは手前の【核撃(フュージョンブラスト)】が……!」

 

 森人探検家とTS圃人斥候も便乗し、半竜娘の全体攻撃を封じ込めます!

 

「“お前にできることなんか、みんな私が簡単に打ち消せることばかりだ” です!」*2

「“残念ながら、そうはいかないね” ってやつだな」*3

「“どうせお粗末な呪文だったんだろうさ”……私も言ってみたかったのよね~」*4

「ぐぬぬ……!」

 

 みんなして苛められて半竜娘ちゃんがぐぬぬしてますねー。

 

「……ただのカードだよな?」 熱くなっている女性陣を尻目に、重戦士が呆れています。

「……そのはずだが」 生返事で装備の点検をしているのはゴブスレさん。

「ぐぬぬ……」 槍使いはゲームに参加中ですが、コンボに参加できなかったので点数が稼げず唸っています。

 

 そう、カードです。

 半竜娘・文庫神官・森人探検家・TS圃人斥候の手元には、バラバラの真言が書かれたカードが。

 手札から役を揃えて真言呪文を構成し、それによってダメージなのか点数なのかなんかそういうのを計算する雰囲気です。

 手軽なルールだと、早く手札がなくなった方が勝ちとかいうそういう感じのようですが、半竜娘たちはもう少し複雑なルールで遊んでいるようです。*5

 

 

 塔へ半竜娘の分身が突撃をかました時より少し時間はさかのぼって、移動中の馬車の中。

 

 麒麟竜馬の曳く快速馬車に乗って、3人のHFO(ヒューム・ファイター・オトコ)と、4人の女冒険者たちは馬車の中でくつろいでいます。

 暇なので、と、呪文に造詣のある5人――半竜娘、森人探検家、TS圃人斥候、文庫神官、槍使い――でカードゲームを始めたのです。

 ちなみに御者は、半竜娘の【分身】が務めていますので、メインメンバーは全員馬車の中ですし、移動に当たっては【狩場(テリトリー)】の結界を張っているので周辺の警戒も十分です。

 

「しかしまあ、いい馬車だな」 重戦士がしみじみ呟きます。「緊急の依頼の時は手間賃弾んで運んでもらうのもいいな」

「揺れが少ないのは助かる」 ゴブスレさんはぶれないですね。「ふむ、貸馬車をやるなら俺も頼みたいものだ」

 

 実際、通常の馬車の何倍もの速度が出ていますし、いざとなったら戦車(チャリオット)にもなる頑丈な車体ですからね。冒険者垂涎のこだわりの逸品です。

 移動時間短縮のために頑丈で揺れない車体を調達しているのですから、いかに半竜娘ちゃん一党が『速さ』あるいは『早さ』に固執しているか伺えようというものです。

 冒険なんて、移動時間が8割9割を占めるといっても過言ではない……みたいですからね。

 案外、上級冒険者向けに冒険者タクシーなんかやれば、小遣い稼ぎになるかもしれません。

 

 

 

「おーい、見えてきたのじゃ! あの真っ白い塔じゃと思うのじゃ!」

 

 外で御者を務めていた半竜娘(分身)が、馬車の中に呼びかけます。

 

「お、本当か?」

「やっと着いたのね」

 

 どやどやと進行方向の覗き窓を開けて、あるいは扉を半開きにして首や身を出して、中のメンバーが外を見ます。

 

「うわぁ、めちゃくちゃ高い塔じゃのう」

「最大限巨大化したリーダーよりも10倍はデカそうだぜ」

 

 TS圃人斥候が、つい斥候らしい癖で、腕を伸ばして指を立ててざっと目算を立てます。

 

「60階はあるな、こりゃ」

「しかも魔術師の塔ってんなら、中は罠と怪物がわんさかと、じゃろ?」

「その分、宝物も期待が持てるってもんじゃないかしら」

 

 やがて野営にちょうどよさそうな場所に差し掛かったので、馬車を止めます。

 作戦会議です。

 

「さて、竜の馬車に乗せてもらったから、時間的には随分と余裕ができたが」

「このメンツなら真正面から行ってもいいと思うが、どうすっかねえ。流石に60階は面倒だ」

「ふむ」

 

 ゴブスレさんが半竜娘を見やります。

 今回は銀等級のHFO三人衆がメインパーティなので、発言を控えていますが、目がキラキラして尻尾がうずうずしています。

 わかるよ、何を期待しているか。

 

「崩せるか?」

「!」

 

 うわあ、すっごい嬉しそう。

 

「やる! やるのじゃ!」

「ひゅ~、【辺境最大】の大突撃ってわけか」

 

 ぴょんと跳ねて両手をぎゅっと握った半竜娘ちゃんに、槍使いが口笛吹いてはやし立てました。

 

「まあ、それで済むなら話は早いがな」 重戦士も特に否定はしません。「だが、善後策は必要だぞ」

 

 失敗した時のことを考えるのもリーダーの務め。

 

「とりあえず、今日使える呪文を使い切って、【突撃(チャージング)】するのじゃ! それでダメなら、明日、呪文使用回数を回復させて挑めばよかろう?」

「……まあ、確かにな。もともと挑むなら万全にしてからって予定だったし、それなら今日の分の呪文の残りを有効活用するだけか」

 

 重戦士も納得したようです。

 

「では手前(てまえ)は準備に行くのじゃ! 野営地がバレないように、離れたところから突撃するのじゃ!」

 

 うきうきと飛び出していく半竜娘。

 

「あ、リーダー! 私たちは?」 森人探検家が麒麟竜馬にひらりと跨った半竜娘とその分身の背中に声を投げます。

「うむ、野営の準備を頼むのじゃ! そっちの【辺境最高】殿の采配に任せる!」 半竜娘×2は、自身がいない間の指揮を重戦士に委ね、あっという間に木立の間に消えていきます。

 

 半竜娘×2が離れたことで、【狩場】の結界も解除されます。

 

「さあて、どうなるかねえ」 思案気に重戦士。

「ま、お手並み拝見といこうじゃねえか」 槍を肩に載せながらニヤニヤと槍使い。

「ゴブリンが出るやもしれん。俺は警戒をする」 ゴブスレさんは周囲を一回り見て来るようです。

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 というわけで現在。

 

 半竜娘の巨大化加速【突撃】が、白亜の巨塔に炸裂しました!

 

「おお!? 崩れるぞ!!」

 

 槍使いの声のとおり、遠くに見える白亜の塔は、下層が半竜娘の突撃により崩れたのか、傾いで崩落していくように見えます。

 

 ……ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……

 

「二撃目だな」

 

 重戦士の冷静な声。

 土煙の中から飛び出した10倍巨大化半竜娘(分身)が、もとの発射地点へと魔力の光を纏って【突撃】してきます。

 その行く先には、半竜娘本体が設置したのだろう【力場】による反転用のサーキットバンクが設置してあります。

 斜めに傾いだ細い魔力の足場を半周し、進行方向を転換。

 再びの突撃!

 しかも今度は往復により、助走距離を最大まで積んでいますから、1回目の突撃の2倍の威力です!

 

 ――――CRRAAAAASSH!!!!

 

 今度は明確に、白亜の塔の上階層が落ちていくのが見えます。

 下部は土煙で見えませんが、おそらくは達磨落としのように、幾つかの階層がまとめてスコンと抜けたのでしょう。

 

 ……ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……

 

「三撃目……?」

 

 ゴブリンスレイヤーが首をかしげています。

 もはや塔は完全に崩壊しつつありますし、これ以上は過剰な攻撃(死体蹴り)のようにも思えます。

 いえ、まあ念を入れることは悪くないですし、以前にゴブリン殺しの教導をしたときも、嬉々として洞窟ごと潰していたので、そういう趣味かと思えばそうなのかもしれませんが……。

 

 ――――KABOOOOMMM!!!!

 

 半竜娘の突撃は、落下しつつあった白亜の塔上層部をさらに掬い上げるように吹き飛ばします。

 支えを失って落下する上層部が、空中で重心を中心に緩く回転します。

 この調子で落下すれば、塔の最上階は、回転と自然落下により、猛烈に地面にたたきつけられるでしょう。

 

 ……()()()()()()()()()

 

 

『この、痴れ者がああああああ!!!!』

 

 突如として、かすれた風洞を抜ける風のような、不気味な声音の大声が響き渡りました。

 

「土煙が、消えていく……?」

 

 そして声とともに、崩壊していたはずの塔の動きが止まります。

 まるで見えない糸に吊られたかのように。

 土煙も、まるで逆回しするように、吸い込まれて消えていきます。

 

『我が思索を妨げるとは!! 万死に値する!!』

 

 突撃を終えた半竜娘の分身体(10倍巨大化)は、塔のあった場所から少し離れて、腰を落として構えを取っています。

 彼女の顔に油断はなく――いえ、戦いの予感で歓喜に震え、口の端を釣り上げています。

 

『このワシが、竜への備えをしておらんと思ったか!!』

 

 おそらくは魔術師のものだろう声は、勝ち誇るもの。

 

『起動せよ、対竜形態! 白亜巨龍兵【ガルガンチュア】よ!!』

 

 白亜の塔は崩れたのではない!

 戦闘形態になるための自切!

 分かたれたパーツが変形し、組み合わさり――長い尾を持った巨大な二足歩行の人竜の形態を作り上げる!

 

『ファファファ……しねい!』

 

 まさしく塔のごとき長大な尾による薙ぎ払いが、半竜娘(巨大化分身)を打ち据えんと唸りをあげた!

 

 

 

*1
音を引き延ばしながら:ドップラー効果。

*2
お前にできることなんか~:「マジック:ザ・ギャザリング」の『放逐/Dismiss』のフレーバーテキストより引用。

*3
残念ながら、そうはいかないね:「マジック:ザ・ギャザリング」の『魔力の乱れ/Force Spike』のフレーバーテキストより引用。

*4
どうせお粗末な呪文だったんだろうさ:「マジック:ザ・ギャザリング」の『対抗呪文/Counterspell』のフレーバーテキストより引用。

*5
真言のカードゲーム:ドラマCDでやってたやつの遊び方のバリエーションという想定。Unoか大富豪/大貧民かデュエルかよくわからないがなんかそんな感じの雰囲気。会心の一撃が決まったときは、かつての魔術師が残したという決め台詞を言うのがお約束。




白いゴジラ。それかデビルガンダム。またはシンカリオン劇場版のヴァルドル(シンカリオンは良い文明だからみんな見よう!)。そんな感じの人竜形態、白亜巨龍兵【ガルガンチュア】。

目立つ塔を作ったら戯れに古竜に壊される、四方世界はたぶんそんな世界。
だからその備えも要るわけですよ!(ぐるぐるおめめ)

ちなみにこいつはイベントオブジェクトなので、キャラクターとしての()()()()()()です。

なお、塔を壊そうとしない限りは起動しません。楔打って壁登りは許容範囲。

GM「“塔を登れ!”つってんだろ!」(破壊行為に反応して塔を破壊不能ロボットに変形)
PL「OK。ちょっと『ワンダと巨像』復習してフィールを高めてくるわ」
GM「ちがうそうじゃない、おいばかやめろ」


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23/n 塔を登れ!-3/3(VS 白亜巨龍兵)

閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ありがとうございます! 感想からインスピレーションいただきつつ、更新です。ありがたや~。 

●前話:
邪悪な魔術師『起動せよ、対竜形態! 白亜巨龍兵【ガルガンチュア】よ!! 蛮族めがっ、死ねい!』
まさしく塔のごとき長大な尾による薙ぎ払いが、半竜娘(巨大化分身)を打ち据えんと唸りをあげた!


 はいどーも!

 巨大ゴーレムが出てきてどうなっちゃうの!? な実況始まるよー!

 

 はい、いままさに、長大な尾を振りかぶった白亜巨龍兵【ガルガンチュア】が、その尾を半竜娘ちゃん(巨大化分身)に叩きつけんとするところですね。

 

 

【挿絵表示】

 

 

『死ねい! この蛮族めがぁ!!』

「ただの塔かと思えばやるではないか、魔術師がぁぁあああ!!!」

 

 うっそ、半竜娘ちゃん、それ受け止める気!?

 

 巨龍兵自体が半竜娘(巨大化分身)の倍(約40m)の背丈の人型に、さらに体高の3倍(約120m)の龍や蛇のような尾を持っています。

 その尾による威力は推して知るべし。

 

 おおっ、受け止めた!!

 

 って、半竜娘ちゃんの両腕の『鮮血呪紋』がめっちゃ輝いてますね。

 『鮮血呪紋』は、生命力を吸収するもので無機物相手には効かないはずですが、効いてるってことは、外殻なんかは純物質ではなくて、一部マナによって構成されているのかもしれません。

 つまり、巨龍兵を動かしてるマナを掠めとって自己回復してるってわけでしょう。分身体は耐久力低いのにようやりますなあ。

 

『ぬう、この一撃を耐えるとは……、ただの蛮族ではなく……エリート蛮族ということか……!!』

「尾の扱いがなっておらんぞっ、魔術師ぃぃぃいい! こう使うのじゃ!!」

『ええい、離れんか!』

 

 白亜巨龍兵【ガルガンチュア】の尻尾を、半竜娘ちゃんは自分の片腕と尻尾で締め上げ拘束。

 空いた腕でがしがしと抱えた尾を殴り、『鮮血呪紋』をフル稼働させています。

 白亜の外殻が砕けていきますが……。

 

『いくら殴ろうとも効かぬぞ! 血で穢した大地から無尽の呪力を吸い上げるこの塔には、傷を残すことなどできぬと知れ!』

「壊れるまで殴れば壊れるじゃろうがーーー!!」

『知性が足りぬ答えだな、蛮族めがっ!』

 

 殴りまくっていますが、半竜娘(巨大化分身)ちゃんがしがみついて殴っても殴っても、すぐに再生していきます。

 邪悪な魔術師の言が本当なら、この巨大なゴーレムは、ほぼ無限に復元するんでしょう。

 

『ええい、ガーゴイル隊、発進! 齧りつけ!』

「雑魚を出してきても無駄じゃ!」

『そうは見えんがな、蛮族!』

 

 白亜巨龍兵の身体の各所にはハッチがあり、そこから悪魔を象ったガーゴイルが(イナゴ)の群れのように飛び出していきます。

 それが半竜娘に取りつくと、顎の牙で噛みつき、四肢の爪で鱗を剥がしてきます。

 大したダメージではないですが、ダメージにより『鮮血呪紋』による吸収回復のペースが落ちます。

 

 このままではやはり、じり貧(ジリープアー/徐々に不利)です。

 さて、半竜娘(巨大化分身)ちゃんはどうするつもりでしょうか……。

 

「……ならばこれは耐えられるかああああ!! 毒の【竜息】(ポイズンドラゴンブレス)!!」

『とち狂ったか! ゴーレムにもガーゴイルにも、毒なぞ効くものか!!』

「――タイプ:爆発性霧塵(エクスプロシヴミスト)!!」

 

 半竜娘ちゃんは、大きく息を吸い込んだかと思えば、白い煙のようなブレスを吐き出しました。

 これまでの鍛錬により、毒の【竜息】に含まれる『毒』の成分について、半竜娘ちゃんは操作できるようになっています。

 今回吐き出したのは、毒性と爆発性を兼ね備えたミストを含んだブレスです。たぶん、ヒドラジン*1とかアルシン*2とかその辺の物質に似た性質のものを、魔力により疑似的に生成しているのでしょう。

 

 白煙が、半竜娘の分身体の内腑と喉、口腔を焼きながら、一帯に広がります。

 ミストは瞬時に気化し、爆発に適した雰囲気を作り上げました。

 とはいえ、それだけでは爆発しません。

 

 火種が必要です。

 半竜娘ちゃんは、超過祈祷(オーバーキャスト)による消耗で意識が薄れる中、最後の一手を打とうとします。

 

『莫迦め、そしてこの我にも毒など効かぬわあああ!! 我が身は言葉ある者の手で滅びることはないのだ!!』

「――イ ン ブ ラ マ ラ エ( 点 火 )……!」

 

 焼けてかすれた声では真言は発動しませんでしたが、それを見越して、既に半竜娘ちゃんは、空いた片手で代わりに点火の真言の印を切っていました。

 小さな小さな火花が指先に現れ――そしてそれで十分でした。

 

 ――カッッッ

 

 と、一瞬で膨れ上がった爆炎と轟音が、衝撃波とともにすべてを塗りつぶしました。

 

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「伏せろ! 口を開けろ、耳と目を塞げ!」

「「「……!!」」」

 

 遠くで巨大な爆炎が膨れ上がるのを見たゴブリンスレイヤーの反応は的確で、そして素早いものでした。

 そして、それを聞いた冒険者たちの反応もまた。

 

 ――轟!!

 

 

「うおおおおおお!!??」「きゃああああ!?」

 

 爆発に伴う巨大な轟音、衝撃波。

 木々が揺れ、薙ぎ倒され、野営具が転がっていきます。

 

 上からはパラパラと土塊が降り注ぎ、きぃんと耳鳴りの残響。

 ガーゴイルの残骸か、砕けた石礫も混ざって降ってきています。

 

「おーい、無事かー? 点呼ー」 重戦士が無事を確かめるために呼びかけます。

「いーち」 槍使いが土埃を払いながら立ち上がります。

「にー」「さん」「よん」 森人探検家、TS圃人斥候、文庫神官も、無事だったようです。

「五、だ」 爆発をよく使うせいか、ゴブリンスレイヤーは冷静なものです。

 

 毒も火も爆発も使ったので、もしここに妖精弓手がいたら激おこだったでしょうね。

 ああ、なんとも見事なキノコの雲……。

 

「被害はあるか」

「ねーよ。ぺっぺっ、土が口の中に……あー、髪の間にも……うひー」

 

 重戦士の確認に、槍使いが悪態を吐きながら答えます。

 他の面々も、咄嗟に爆発に対する防御態勢をとったことで、被害は最小限に抑えられたようです。

 点呼に応えられたということは、鼓膜を破られ音が聞こえなくなった者もいなかったようです。

 

「……あれでもダメか」

「直っていくわね……」

 

 ゴブリンスレイヤーと森人探検家が見やる先には、薄れるキノコ雲の中から現れた半壊した白亜巨龍兵の姿がありますが、それも目に見えるほどの早さで修復されていきます。

 血で穢した大地の呪力によって無尽の再生力を持つ、という魔術師の自己申告も、あるいは本当なのかもしれません。

 

「ぜーったい、やりすぎだと思ったけど、そうでもなかったっていうね……なんなんあれ」

「お姉さまは無事でしょうか……」

「まあ、そっちは心配いらねーだろ」

 

 TS圃人斥候と文庫神官も、半ば呆然としながら、修復される巨大な白亜のゴーレムを見ています。

 

 そうして暫く経った頃でしょうか。

 

「あ、元の塔に戻せるのな、あの変形ゴーレム」 もはや呆れるしかないという様子のTS圃人斥候の声。

 

 修復を終えた白亜巨龍兵は、ずしんずしんと歩いて、最初の位置に戻っていきます。

 そして、魔術師が座するであろう頭部パーツが浮遊して外れ、脚や腕が格納された胴体が基部になり、長い尾が垂直に浮かび上がると、その基部の上に接続され、さらにその天辺に頭部パーツが乗っかり、全体が明滅・鳴動して継ぎ目が消えて一体化します。

 再度変形して、もとの塔の形態に戻ったのです。

 爆心地でなぎ倒された木々がなければ、まるで何も起こらなかったかのように、まっさらの元通りです。

 

「……ふうむ。ま、威力偵察としては上等ってことにしとくか」 重戦士は顎を撫でながら片目をつぶって思案しています。

「どうやって攻めましょうか?」 文庫神官の疑問も当然。塔の魔術師は、なかなかの難敵のようです。

「そりゃ、今から考える。半竜のも戻ってきたみたいだしな」

 

 重戦士と文庫神官の耳には、森の中を駆ける麒麟竜馬の蹄の音が聞こえていました。

 

「そんじゃあ、間近で取っ組み合いした当人からも話を聞かせてもらおうか」 重戦士が水を向けます。

「いやー、面目ないのじゃ、破壊しきれなんだ」 木立の間から現れたのは、麒麟竜馬に跨った半竜娘と、そのあとに続く乗り手ナシの麒麟竜馬です。分身は流石にさきほどの爆発で消滅しており、そしてまだ再作成はされていないようですので、本体ひとりです。頬を搔きながら、少し気まずげです。

「いやいや、あれでダメなら仕方ねーよ」 槍使いは気にすんなと気軽にフォローします。

 

 帰ってきた麒麟竜馬たちのために、森人探検家が水桶や飼葉桶を出します。

 その傍らで、半竜娘、重戦士、槍使いは吹き飛んだ道具をまとめて脇にどけ、スペースを作ります。

 馬車の空間拡張箱に収納されていた机と椅子を取り出し、即席の作戦会議場所に仕立てました。

 

「で、なんか気づいたことはあったか」 

「まー、見ておったら分かると思うが、壊すのは無理じゃな」

「だろーな」

 

 半竜娘は、先ほど相対して得た感触を全員に共有します。

 

「外殻は、それほど固いわけではなかったのう。もちろん、ただの石よりは固いが、壊せぬほどではない。発破でもある程度は砕けそうじゃ」

「ほう。しかし、再生する、と」

「ああそうじゃ」 半竜娘は頷きます。「じゃが、爪を食い込ませておったところは、手前の爪を押しのけてまでは再生せなんだ」

「なるほど……異物を噛ませたら再生しないのか」 重戦士は顎を一撫で。

 

 TS圃人斥候は、ガーゴイルがやってきたときに備えて周りを警戒しています。

 文庫神官は、吹き飛んだ周囲の荷物を整理中です。

 ゴブリンスレイヤーは、途中まで警戒の方を手伝おうとしていましたが、重戦士に呼ばれて作戦会議(こちら)の方に合流します。

 

「壊せないなら、頭を潰すべきだろう」 そう言ったのはゴブリンスレイヤー。

「いやオメー、あの高いとこまで行くの面倒だから塔ごと壊そうとしたんじゃねーか」 やれやれとでも言いたげな槍使い。

「登る手ならあるだろう」 ゴブリンスレイヤーの断言。

 

「あん?」

「どういうこった?」

 

 槍使いと重戦士は首を傾げます。

 

「塔なら登れん、高すぎるし壁が急だからな。楔を打ってもいいが……いつ塔から変形するかも分からんしな。だが、あの巨人形態ならやりようはある」

 

 確かに塔の形態よりも、背は低くなりますし、とっかかりも多そうではあります。

 ゴブリンスレイヤーの言うことも一理あるかもしれません。

 

「いやいや、ねーよ」 槍使いが手を顔の前で振って呆れを示します。

「いや、案外いけるかもしれんぞ?」 ニヤリと笑う重戦士。

「ハア? そりゃ、動きが止まってりゃいくらでも駆け上がれるがよ――」

 

「なるほど、動きを止めれば良いのなら、そのくらいは出来るのじゃ」 横入りして自信を持って断言したのは半竜娘。

 

「こういうのはどうじゃ?」

 

 果たして、半竜娘の策とは――?

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 明くる日。

 呪文使いたちの呪的資源(リソース)も回復して万全の状態で再び挑みます。

 

 まずは変形を誘発するため、巨大化した半竜娘の分身による突撃!

 

『性懲りもなく蛮族めが! 我が思索の邪魔をするなとあれほど……!! マスを掻くなら独りでやらんか!』

「手前はオスではないし、城郭に興奮する変態でもないわぁ!!」

 

 ああ、若いはぐれ竜が、城郭を使って自慰をするというのは、有名な与太話ですね。

 ほら、人間でも木の股に発射する輩の話があるでしょう? その竜版です。

 つまり同様に、城塞の精霊が竜の胤で孕んで云々って伝説もあるんですが、閑話休題(それはさておき)

 

『今度こそ潰す! せっかく術者本人は見逃してやったものを……!』

「やれるもんなら、やってみい!!」

『起動せよ! 白亜巨龍兵【ガルガンチュア】よ!!』

 

 半竜娘ちゃんの突撃に対応すべく、また白亜の塔が変形していきます。

 そして現れたのは、長い尾を備えた、巨大な白亜のゴーレムです。

 昨日、燃料気化爆弾じみた攻撃を受けたばかりなのに、その影響を全く感じさせず、威容に陰りはありません。

 

「イィィィヤァアアア!!」

『効かぬわああああ!!』

 

 そして両者が激突!

 

『格付けはもう済んでおろうに、それも分からんとは所詮は蛮族! 腐れ脳味噌! 哀れな知能! この――』

 罵倒を重ねる邪悪な魔術師の言葉を遮るものが。……遠くから飛来した爆裂火矢です! ドドン、と矢にくくりつけられた爆薬が爆発し、白亜巨龍兵の関節部の外殻に傷を付けます。

『――ええい! 今度はなんじゃあ!!?』

 

 矢の来た方を見れば、遠く離れたところに麒麟竜馬に跨がり弓を構える森人探検家の姿が。

 その傍らでは、もう一頭の麒麟竜馬に騎乗し『退魔の剣』を掲げる文庫神官の姿も。

 そして文庫神官が、魔術師を【挑発】します。

 

「退魔の剣に懸けて! 生贄を積み重ねしその悪行! 許してはおけません! いざ、そっ首叩き落としてくれましょう!!」

『なにおぅ!?』

 

 全ての邪悪なる者どもは、退魔の剣の輝きを無視することが出来ません。

 挑発と退魔の剣の輝きに釣られて、白亜巨龍兵を操縦する魔術師の注意がそちらを向きました。

 “やあやあ我こそは~~”と挑発した甲斐もあったみたいです。

 この瞬間を待ってたんだよ!

 

「足元がお留守じゃよ! そうら、土の精霊たち、足元に大穴空けてやるのじゃー!!」

『ぬおぅっ!?』

 

 巨大化した分身から、本体の方の半竜娘ちゃんが精霊とともに飛び降り、白亜巨龍兵の足元へ。

 半竜娘ちゃん(本体)は、引き連れた土の精霊たちに【隧道(トンネル)】の術を使わせると、白亜巨龍兵の足元に一気に穴を空けます。

 支えを失った白亜巨龍兵の右脚が落ち沈み、次に同様に左脚も沈み、手を着けばそこにも術が使われ陥没し……。

 

「ふはは! 随分と背が低くなったのう!!」

『き、さ、ま あああああ!!』

 

 その間にも退魔の剣の輝きがちらちらと目に入り、邪悪な魔術師の集中を削ぎます。

 爆裂火矢も相変わらず飛んできては、ガーゴイルの射出口や戻り口を砕いているようです。

 行き場を失ったガーゴイルが、操縦席たる頭部に仕方なく戻ってきています。

 頭部の操縦室は、フロア丸ごとぶち抜きの広い一室となっており、天井には邪悪な混沌の怪物どもを描いた星図が一面に描かれています。

 側面に大きく設けられた窓は開放されており、数匹のガーゴイルが、指示を仰ぐためか、あるいは主人たる魔術師を守るためか、そこから入り込んでいます。

 

『ガーゴイルども! ここは良い、今はあの退魔の騎士と、弓騎兵を――』

 チラリと視界に入れたガーゴイルたちに違和感を覚えた魔術師。よく見れば、ガーゴイルたちの振る舞いにもおかしなところが……。

『――うん!? 貴様らっ、化けておるなっ――げふっ!?』

「バレちゃあ仕方ねえ。つってももう勝負はついたがな」

 

 魔術師の喉を貫く槍。出所を辿れば、ガーゴイルの一体から不自然に槍が伸びています。不意打ちの一撃です。

 涼やかな槍使いの声とともに、幻影が薄れれば、冒険者たちの姿が現れました。

 その姿は4つ。

 

「【幻影】がギリギリバレなくて良かった……」 冒険者たちにガーゴイルの幻影を被せていたのは、TS圃人斥候でした。

「油断はするな」 短剣を投げようと構えているゴブリンスレイヤー。

「喉は潰したから問題ないとは思うがな」 大剣を構えつつ、次々に外から来援するガーゴイルを薙ぎ払っている重戦士。「呼び出せるのもガーゴイル止まりなら大した脅威でもねえ」

「……言葉ある者の手によっては滅びないってのは本当みてえだな」 槍で魔術師の喉を床に縫い付けた槍使いは、真言呪文の手印を切らせないよう、念入りに魔術師の手指を踏み砕いています。

 

 彼らは、巨大化した半竜娘の分身の肩に載ってともに突撃し、そこから白亜巨龍兵に飛び移り、TS圃人斥候による【幻影】で偽装して、巨龍兵の上を駆け抜け、登攀してやってきたのです。

 特にTS圃人斥候は、幻影の他にも、【浮遊】により飛行が可能なので、難所では先行してロープを張るなど、かなり重要な役を果たしました。

 

「あ、すぐ縛っちまいますね」 TS圃人斥候が空間拡張鞄からロープを取り出しながら、槍で縫い止められた魔術師に近づきます。

「手伝おう」 ゴブリンスレイヤーも、針金を取り出して、魔術師の手指を拘束すべく続きます。喉を潰しても、印を結ばれて魔法を使われでもしたら厄介ですからね。

 

「さて、そしたらどう殺すかね」 外から飛び込むガーゴイルは一段落したようで、重戦士が大剣を肩にのせて一息ついています。

「半竜の嬢ちゃんに考えがあるみてえだし、とりあえず任せりゃいいんじゃないか? このゴーレムの動きが止まりゃ、すぐこっち来る手筈だしな」 簀巻きにされつつも少し時間をおくとたちまち傷を修復して動き出そうとする魔術師へと追撃を加えながら、槍使いが答えます。術士の対応は、やはり術士に任せるべきでしょう。

 

「上手くいったようじゃの!」

 

 ちょうどそのとき、半竜娘ちゃん本体が、巨大化した分身の掌に載せられて、この頭部操縦室へと入ってきました。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 あとの顛末は省きます。

 絵面が酷すぎたので。

 半竜娘ちゃん、やりすぎやでー!

 

 ……概略だけお知らせすると、

 

 ・心臓もぐもぐ無限おかわりうまー。熟達した魔術師の心臓はマナの滋味が効いておるでおじゃるな(蜥蜴人並感)

 ・全身蜂蜜塗り塗り→心臓片手にスカフィズム(蟲に喰わせる拷問/処刑法)執行

  「言葉ある者の手では死なぬなら、蟲に喰われて死ぬが良い」 

  「じゃが、財宝の在処、研究成果……貴様の知識を全て吐き出したら、蟲に喰わせるのはやめにして、一思いに墜落死させてやってもよいのじゃ」(暗黒微笑)

 ・拷問と並行して、他のメンバーが塔内部の財宝、魔法装置を根こそぎいただく

 

 って感じですね。

 

 戦慄するくらい蛮族!

 単に墜落死させるよりよっぽど酷いことになってるぞ!?

 まあ、さすがにこの絵面は刺激が強かったので、他のメンバーには見えないように離れたところでやってましたが。そのくらいの配慮が出来るようになったのも、街に慣れて礼儀作法を身につけたおかげでしょうかね。

 ただ、グロ耐性と外道行為への理解がありそうな森人探検家にだけは、森の蟲を呼び寄せるのと見張りを手伝って貰いました。こういうとき、彼女は頼りになります。

 

 

 結局魔術師は、2日と保たずに洗いざらいゲロりました。

 聞き出したところによると、大地を汚染して地母神の力を弱めるという目論見もあったとか。*3

 そして巨大ゴーレムの造り方だの擬似的な不死になる(言葉あるものに殺されなくなる)儀式だのをメモって、財宝や装置も回収して、白亜巨龍兵を自壊ギミックで瓦礫にして。

 用済みになった魔術師には、死という慈悲をくれてやって生命の輪環に帰してやりました。

 

「白亜の園を歩みし偉大な羊よ、永久に語られる闘争の功、その一端なりしへ彼の者を導き給う……」

 

 奇怪な手つきで合掌した半竜娘は、食らって己の血肉にした心臓に想いを馳せ、その心臓の持ち主であった強大な魔術師の魂が、昇竜のための己の求道の礎となったことに喜びを覚えます。

 強者の心臓を食らうことで竜になれると、蜥蜴人はそう信じているのです。

 そして、打ち倒した強敵の心臓を食らい、その魂を取り込み、やがて竜になると自負する己の一部とすることは、最上級の弔いでもあります。

 

「おーい、帰るぞー」

「うむ、いま行くのじゃ!」

 

 こうして邪悪な魔術師は打倒され、竜司祭は功徳を積み、冒険者たちは宝を得て帰路に就くのでした。

 

 というわけで、今回はここまで!

 ではまた次回!

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 半竜娘、森人探検家、TS圃人斥候、文庫神官は、それぞれ経験点1000点、成長点3点を獲得した!

 半竜娘は、『ジェットブーツ』(移動力+15)を獲得した!*4

 

*1
ヒドラジン:分子式N2H4。腐食性、毒性を有する。ロケットの燃料などに使われる。

*2
アルシン:水素化砒素AsH3。毒性が非常に強く、爆発しやすい。

*3
地母神の力を弱める:アーケードゲーム『ドルアーガの塔』における捕らわれの巫女カイの元ネタが、メソポタミア神話の地母神キ(Ki)であることから。地母神の力を掠めとって弱めるという混沌の陰謀だったんだよ! 実際、原作でも他で地母神の加護を弱める企みは出てくるのと、地母神の豊穣の加護は、兵站や治安に直結するため重要な扱いがされている。

*4
ジェットブーツ:アーケードゲーム『ドルアーガの塔』の序盤の宝箱から獲得可能なアイテム。自キャラの歩行速度が上がる。




 今回はイベント戦闘扱いでダイスは振らず。……原作キャラのダイスがファンブルしても困るという事情もあり。

現在の各キャラの使用可能な経験点と成長点は以下の通りです。
名前経験点成長点
半竜娘1,000点3点
森人探検家1,000点3点
TS圃人斥候1,000点12点
文庫神官1,250点3点



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23/n 裏

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●前話:
半竜娘「“わたし、残酷ですわよ”」
森人探検家「ほんとにそう」
邪悪な魔術師(蟲食い状態)「この様(←←←)にしといて秩序側とか嘘だろお前」
森人探検家「あなたに心臓喰われ続けても心折れなかった魔術師がむしろ不屈の善玉に見える不具合。まあ生贄の死体の山配置した巨大魔法陣作ったりしてるからこっちはこっちでギルティなんだけど」
半竜娘「素直に死なんのが悪い。言葉持つ者の付けた傷では死なんどころか、だんだん耐性がついたのか、しまいには心臓抜きの痛みも感じんようじゃったしのう。腹もくちくなったし、仕方ないので蟲に喰わせたった!」
まさに外道! でも小さきものに喰わせて食物連鎖を回すのもまた蜥蜴人の供養の流儀だからね! 仕方ないね!



1.念願のジェットブーツを手に入れたぞ!

 

 シュバババババババッ!

 

「おお見よ! この素早さを! これは良いものじゃー!!」

 

 残像が残るくらいの勢いで、ギルド近くの空き地に線を引き、反復横飛びしているのは、半竜娘。

 その足には、白亜の巨塔で略奪してきた魔法の靴……というより魔法のアンクレット『ジェットブーツ』が装着されている。

 羽のような意匠があしらわれたそのアンクレットは、足首に装着することで、履いている靴に融合し、縦横無尽に風を吹き出す加護を付与し、装着者の移動力を大幅に増強するのだ。

 あえて数値にすれば、移動力+15。なお、この数値は“鈍足な只人”または“並みの蜥蜴人”の足の速さを2倍にすることができる程度である。

 

「動ける蜥蜴人とか、完全生物では?」 TS圃人斥候は(いぶか)しんだ。

 爪や鱗のおかげもあって素で強い種族の中でも、さらに数万人に1人レベルの才能の持ち主が、種族特性上の弱点を克服したとなれば、それはもうエラいことである。

 

 特に半竜娘の場合は、移動力が【突撃】の祖竜術による破壊力に直結するため、ジェットブーツにより移動力とともに衝撃力も大きく向上することは確実。

 2倍とまでは言わないが、1.6倍以上になる。

 いよいよ天災じみてきた。いや、それは今更だが。

 

「今まで以上の威力を出してどうするのよ。何と戦う気よ」 森人探検家は、頬杖をついて呆れている。

 実際、大抵の魔神は、準備さえ整えば、ジェットブーツを装着する前から一撃確殺であったし。

 ジェットブーツで増強した大威力*1が必要なときなど、エンシェントドラゴンだの魔神王だのを倒すときくらいではなかろうか。

 

 あとは土木工事だろうか。

 これだけ威力を出せれば発破要らずになりそうである。

 

「そういえば私の加入前に、山間(やまあい)の村へ行く途中で、土砂崩れを起こした街道の土砂を吹き飛ばして復旧させたとか聞きましたが、ジェットブーツがあれば山自体も崩せるんではありませんか?」 文庫神官が、「開拓に呼ばれる機会がもっと増えるかもしれませんね。山の開削工事はどこも大変ですし」とにこにこと微笑んで半竜娘の奇行を眺めている。恋は盲目というやつだ。だが正気に戻れ、普通は生身で山は崩せない。

 

 一党の移動速度のばらつきを抑えるなら、文庫神官にジェットブーツを装備させるという選択肢もあるのだが。

「お姉様が喜ぶ方が、私が嬉しいので」と文庫神官が辞退したため、ジェットブーツは半竜娘の持ち物になった。

 移動手段が徒歩だけの一党なら、一番足が遅いメンバーの移動力の向上にも意味があるが、半竜娘一党は馬車を持っているので、徒歩の移動力は、そこまで気にしなくてもいいかも知れない。

 

 ちなみに、ジェット()()()と言いつつアンクレットなのだが、まあこれは、靴だと完全に消耗品になってしまうからであろう。あと、靴が足に合わない場合もあるし、アンクレットが消耗品たる靴に融合して加護を付与する方が合理的だ。

 アンクレットなので、蹴爪を出せるように作ってある自前の靴を履けるし、半竜娘はこの仕様をかなり気に入っている。

 

「ウッヒョー! ヒャー!」 とか言いながら、縦横無尽に駆け回っている姿は、完全に新しい玩具を与えられた子供のそれだ。

 

「まったく、いい加減にしなさい!」

「のじゃっ!?」

 

 すてーん、ゴロゴロゴロ……。

 森人探検家が、機敏に動く半竜娘に追いつき、その足を引っ掛けて転ばせた。

 

 実は、ジェットブーツの加護があっても、まだ森人探検家の方が機敏に動ける。

 このあたりは、さすがのエルフといったところか。

 

「はしゃぎすぎよ」 冷たく見下ろす森人探検家。さすがパーティーの女房役、といったところ。

「うにゃ、目が回ったのじゃ~……」 目を回して頭を揺らす半竜娘。

「ああ、はしゃぐお姉様も尊かったのに……」 肩を落とす文庫神官。

「またそのうちすぐ見られるだろうよ。あれでまだ成人したてのガキだからな」 ヤレヤレと肩をすくめるTS圃人斥候。

 

 さあて、新装備の慣らしも終われば、次の冒険が待っているもの。

 冒険者よ、新たな冒険に備えよ!

 

 

<『1.念願のジェットブーツを手に入れたぞ!』 了>

 

 

  ○●○●○●○●○

  ●○●○●○●○●

 

 

2.誕生日のお祝いに

 

 夏も終わりに近づいたある日のこと。

 依頼から帰ってきたゴブリンスレイヤーは、食卓に着くと、牧場の牛飼娘へと、金貨の入った袋を差し出して置いた。

 

「ん? もう今月のお家賃はもらったよー?」

「いや」 首を振るゴブリンスレイヤー。「明日は誕生日だろう」

「え」

 

 誕生日? 誰の、って、ああ、そうだ、明日は私の誕生日だった。と牛飼娘は思い至った。

 忙しくてすっかり忘れていたが、明日で19になるのだ。

 ということは、これ(金貨袋)はプレゼントのつもり、なのだろうか。

 

「何を贈れば良いかわからんから、これが一番だと思った」

 

 誕生日を覚えてくれているのは嬉しい。

 さらに、祝ってくれるのもまた、嬉しい。

 嬉しいが……。

 でも、プレゼントが現金というのは……下の下だろう。

 

「もう。ホンっとに、君ってさ……」

 

 軽んじてるのかと怒ればいいのか、悲しめばいいのか、なんでそれでいいと思ったかと呆れればいいのか、そういう情緒を削ぎ落とさざるを得なかった彼の境遇を嘆けばいいのか。

 ない交ぜになった感情は、結局苦笑いとして結実した。

 

「仕方ないなあ」 まあ、それはそれとしてプレゼントだ。下の下だが、プレゼント。金貨袋をその豊満な胸にぎゅうと抱いた。

 

「そういうときは、一緒に買いに行こうって誘うとか、そういうのが欲しいな」

 小首を傾げた彼女に、ゴブリンスレイヤーは唸りつつも、その兜を縦に振った。

「わかった」

「ホントかなあ」

 

 苦笑して金貨袋を置いたら、どうもそのシルエットに違和感が。

 

「あれ、金貨以外もある?」

「ああ、それは……」

 

 金貨袋の口を開けると、そこには。

 

「わあっ、すごい! ペンダント!?」

「最近手に入れたものだ。換金が間に合わなかった。呪いはないと鑑定済み。念のため竜司祭が祓い清めたあとのものだ」

 煌びやかに見えるように計算されてカットされた、大きな()()宝石がついた、美しいペンダントが入っていた。金の細い鎖つきだ。*2

 塔の魔術師の持ち物だったものだ。魔術師から聞き出した情報をもとに探索したことで戦利品が多く手に入ったため、また、半竜娘たちの空間拡張鞄のおかげでその多くを持ち帰ることができたため、当初の想定よりも随分と多く収穫があり、幾つかの財宝は換金せずにそれぞれが持つことになったのだ。

 

「えーと、そしたらこれは君が選んだの?」

「まあ、そうだ」

「なんでこれにしたの?」

「……火の加護があるという。これから寒くなる季節に良いだろう」

「ほかには?」

「…………」

 

 あ、これは返事を考えてる感じの間だな。と牛飼娘には分かったので、待つことにした。

 

「色が」

「うん」

「お前の髪と瞳の色が、思い浮かんだ」

 

 訥々とした彼の言葉に、思わず顔が熱くなったのが分かった。

 彼は、どうなのだろう。兜の奥で、赤面している、のだろうか?

 きっとそう深い意味ではないのだろうとは分かっている。残り物の戦利品の中で、さらに皆が取ったあとのやつで、青と赤が残ってたから、なんとなく赤を選んだとかそういうやつだ。

 でも。

 

 ——うわぁ、不意打ちだよう……!

 

 嬉しく思う自分がいるのもまた、事実だった。

 

 

<『2.誕生日のお祝いに』 了>

 

 

  ○●○●○●○●○

  ●○●○●○●○●

 

 

3.一声掛けて行きなさいよ!

 

「オルクボルグ、やっと見つけたわ!」

「なんだ」

 

 鈴が鳴るような声で、妖精弓手はゴブリンスレイヤーを呼び止めた。

 ギルド内の依頼掲示板の前に居た冒険者たちがチラリと二人を見るが、いつものことかとすぐに興味を失ったのか、皆、依頼掲示板の方へ視線を戻す。

 

「探してたんだからね! ほら、ちょうどいい依頼を見つけてきたんだから!」

 

 彼女の優美な手の内では、ひらひらと依頼票が揺れている。

 

「怪しい新興宗教の蔓延! 盗まれた至高神の神具! これはもう“()()”の香りがするわよね! そう思わない? この辺で集められる情報はもう集めてあってね……」

「それで」 まくし立てる妖精弓手の言を遮ったゴブリンスレイヤーの反応は簡潔なものだ。見通せない兜の奥の目を光らせていつもの一言。「ゴブリンか?」

 

「いや、まあ、それはちょっと分かんないけど」

「ならば」 決断的にゴブリンスレイヤーが言う。「俺はゴブリン退治の方に行く」

「え……」 まさか断られるとは思わなかったのか、呆気にとられる妖精弓手。

「用はそれだけか? もしゴブリンが出たならその時は呼べ」 ゴブリンスレイヤーは、依頼掲示板からゴブリン退治の依頼票を剥がすと、ずかずかと受付の方へと去っていった。

 こっちを手伝ってほしいとかそういう声かけすらナシだ。

 

 …………。

 ……。

 

「はっ!? オルクボルグ!?」

 

 たっぷり数分は固まってしまっていただろうか。

 妖精弓手が正気を取り戻した時には、ゴブリンスレイヤーの姿は既になかった。

 

「もーーー!! どうしてよ~~~!!」

 

 むきー! と地団駄を踏む妖精弓手。

 そりゃゴブリン退治じゃなかったからだよ。やりとりに聞き耳を立てていた者たちはそう思った。

 ゴブリンスレイヤーが、ゴブリン退治以外をやるなんて、そんなこと……。

 

「ん? そういえばこの前はゴブリン退治でもないのになんでゴブリンスレイヤーが居ったんじゃ?」

 ウカツ! 半竜娘のその発言が、妖精弓手の傷心を逆撫でした!

 

「それ、詳しく」

「ヒェッ」

 目が据わった妖精弓手が、エルフ特有の素早さで、半竜娘たち一党が座っていた卓に陣取っていた。

 

「い、いや、詳しくと言うてもな? 手前(てまえ)も、経緯はよく知らんぞ? メンツの中では最後に誘われたんじゃからの?」

「い い か ら」

「アッハイ」

 

 …………。

 ……。

 

「へー、そう。ふーん。邪悪な魔術師の塔をねえ、それがゴーレムに変形して? 乗り込んで、魔術師を倒して、宝を漁った、ねえ」

「て、手前が誘われたのは、魔術師と神官が足りんと言われたからでの?」

「優秀な野伏が増えても良かったんじゃないかしら?」

「いや、メンツの決定権は、手前にはなかったのじゃて……」

「じゃあ誰にあったのよー」

 

 笑顔だけどキレイな笑顔すぎてジッサイコワイ。

 

 メンバーの決定権は重戦士にあったんだから、そっちに言ってくれと伝えたら、妖精弓手はそちらに行った。

 ついでに槍使いもたまたま近くにいたのか巻き込まれたようだ。

 “ずるい”だの“抜け駆けしたー!”だの何だのと重戦士と槍使いにぎゃーすか言ってる妖精弓手の声が響く。

 

 ——すまぬ、大剣の戦士よ、槍の妙手よ。でも戦士職は被害担当職なんだから許してたもれ。

 半竜娘は神妙に合掌したが……、しかし許されなかった。戦士職は、機会攻撃でカウンターを入れるのも得意なのだ。

 つかつかと妖精弓手が戻ってきた。

 

「あいつらに聞いたわ。毒に火炎に爆発……色々やったみたいね?」

「あっあ~」 半竜娘の目がきろきろと泳ぐ。「でも、結局効かんかったしのう。ノーカンでは?」

「次は、私も行くから。あいつ誘うときは、私も絶対誘ってよね。あと、そのときは、毒の竜の息(ブレス)は良いとしても、爆発は禁止よ?」 指を突きつける妖精弓手。

「善処するのじゃ……」 力なく半竜娘の尻尾が垂れ下がった。

 

 スッと妖精弓手が離れたのも束の間。

 猫のようにしなやかに、妖精弓手がまた間合いに入ってきた。

 

「ま、それはそれとして! なんかすごい馬車持ってるらしいじゃない! 私も乗せてよ!」

「お、それも聞いたのかや? もちろんその程度お安いご用じゃて!」

 なんせ自慢の馬車だ。御披露目するのに否はなし。

 

「じゃあ早速お願いね!」

「え゛?」

「ほら、この依頼。そこそこ離れた街なのよねー、馬車を貸してもらえるなら助かるわ!」

「今からかの?」

「もちろん! いいわよね?」

 

 負い目もなくはないし、断れるはずもなく。

 しかし、半竜娘は街でやることがあったため何とか同行は勘弁してもらった。

 代わりに、蔓延る新興宗教の調査に、半竜娘たちの馬車を“足”として提供することになったのだ。

 メンバーは、妖精弓手、鉱人道士、蜥蜴僧侶に、槍使いと魔女という銀等級冒険者5人。

 魔女は、麒麟竜馬のいわば生みの親でもあるため、麒麟竜馬を預けるのには適任。これで使い魔としてのパスの繋ぎ先を魔女に変更すれば、半竜娘がついていかなくても大丈夫なはず。

 【旅人】の奇跡も【追風】の精霊術も、最大で三日は持つし。帰りは交易神殿や鉱人道士にその辺掛けてもらえばいいだろうし。

 

「では、武運を祈るのじゃー」

「任せなさい!」

 

 妖精弓手たちを見送って。

 さて、これから半竜娘は、収穫祭の奉納儀式とタイミングを合わせるべく、色々と準備をしなくてはならない。

 郷里から送ってもらうように頼んだブツも、確か届いていたはず。

 

 しかし、銀等級5人でかからなくてはならない新興宗教とは一体……。

 魔神かな? 魔神やろなあ。

 

「ふぅむ。やはり功徳を積むためにも、手前もついて行けば良かったか。いやいや、こっちの準備も大事じゃて」

 

 何事も準備8割なのだ。

 

 

<『3.一声掛けて行きなさいよ!』 了>

 

 

  ○●○●○●○●○

  ●○●○●○●○●

 

 

4.ブラック! 勇者業!

 

 

 ある街の旅籠にて。

 

 とあーっ、と元気よく起き上がったのは、黒髪の、太陽のような少女。

 ぽいぽいと寝間着を脱いで、さっと冒険装束に着替える。

 

 その胸元に揺れるは、『白金(第一等級)』の冒険者証。

 

 そう、彼女こそが当代の『勇者』なのだ。

 

 二階から、一階の食堂まで飛び降りると、パーティーメンバーの剣聖の乙女に窘められる。

 

「まったく、はしたないですよ?」

「なはは、ごめんごめん。元気がありあまっちゃってさ」

「昨日も遅かったのに、一晩寝れば全回復とか、子供ですか、あなた」

「えー、みんなこんなもんじゃないのー?」 にこにこと朝食のパンに手を伸ばす勇者。

 

死人占い師(ネクロマンサー)が呼び出した古代の軍勢と戦ってまだまだそんなに元気とは……」 剣聖の方は若干の疲れが見える。

「みんなの笑顔が私の力になるのだー!」

「冗談に聞こえないところが流石ですよね」

 

 むしゃむしゃもぐもぐと朝食を勢いよく食べる勇者に、剣聖は最近の冒険を指折り数える。

 

「その前は魔神王軍残党の上位魔神。その前は狂わされた城塞の精霊とその息子の城塞竜(キャッスルドラゴン)。古代の巫女の生まれ変わりの覚醒を手助けしたり、封を解かれた魔剣の再封印に、星辰の彼方の外なる邪神を呼び寄せる儀式の妨害……私たち、働き過ぎじゃないですか?」

「えー、そうかなー」

「水の街の転移門のおかげで、移動は一瞬で済みますが、それはつまり戦い詰めということですよ?」

 

 勇者を投入したい案件は次から次に巻き起こるし、大神官への啓示(ハンドアウト)によって示唆されることもあるし、なんなら勇者に直接啓示が下ることもあるし、偶然か神の手によるものか帰りの転移途中に別の事件の渦中に放り出されたことすらある。

 剣聖は、真剣に、過労死しかねないと思っている。

 ……まあ、移動に時間がかからない(転移できる)ということは、旅の空の下で過ごすはずだった時間の分を、整った拠点で休養しながら過ごせることにも繋がっているので、なんとかなってしまっているのだが。

 

「あ、そういえばまた夢でお告げがあってね」

「……またですか」

「そうそう、あっちの街に行けーって」

「それだけじゃ分かりませんよ。あとで賢者(あのこ)が起きてきたら相談しましょう」

 

 結局、賢者は昼まで起きてこなかった。

 

 

<『4.ブラック! 勇者業!』 了>

 

 

 

*1
突撃の威力:【加速】【巨大】【追風】【旅人】により最大倍率のバフを積むことで、5000mを超える最大助走距離を駆け抜けて【突撃】することが可能になったので、固定値で四桁ダメージが出せる。1ラウンド30秒で5km以上移動した場合、その速度は平均時速600kmを超える。マッハ0.5。……マッハ表記!? 加速度的に加速するため、実際の最終速度は音速に迫る。30秒ではなく15秒で駆け抜けたとしたらざくっと42m/s2の加速度で、最終速度はマッハ約1.9。身体は大丈夫なのか、というと、【突撃】の術がそういった反動に耐える強度を祖竜の加護により与えるため問題ない。また、空気抵抗により浮かび上がってしまって、足が地面を掴めず空転する心配も、魔法的なパワーで解決されている。呪文行使がファンブルしたり、相手が呪文抵抗に成功したらその限りではないが。最大バフの場合は音速の壁を突破するために、発動に必要な達成値を引き上げるなどの裁定も考えられる。

*2
紅い宝石のペンダント:アーケードゲーム『ドルアーガの塔』の中盤で手に入る『レッドネックレス』がモチーフ。ゲームでは炎を透過して進めるようになるアイテム。




超勇者ちゃんはRTAの犠牲者。水の街で転移門が献上されちゃったからね。国の端から端までひとっとびやで。これには走者もにっこり。

次は、収穫祭前々日あたりからの予定。
つまり原作小説3巻だー。
……あれ、転移門あるから、剣の乙女さん、辺境の街に来れちゃうのでは……?
 


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24/n 収穫祭に向けて-1(酒場にて)

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●前話:
半竜娘「ジェットブーツ うひょー!」
 


 はいどーも!

 前回は塔の魔術師のところに押し込み強盗(ハック&スラッシュ)しにいって、やりたい放題やって、さらにお宝分配で移動力を上げる装備を手に入れたところまでですね。

 え、20m級の巨大な蜥蜴人ハーフ*1が5km先から音速ですっ飛んでくるってマジ? しかもそれで本人は基本的に無事とか、祖竜の加護パネェな……。

 

 

 んでもって色々と準備してたら、あっという間に収穫祭の二日前ですよ。

 今は冒険者ギルドの酒場で、吟遊詩人と打ち合わせ中です。

 

「――とまあ、最近やった冒険はこんなところじゃな!」

「ふむ、なるほどなるほど。いやあ、今回も良いネタを貰いまして、かたじけなく。このネタをもとに、収穫祭では稼がせてもらうとしましょう」

「うむうむ、どんどん手前(てまえ)のことを歌に歌ってくりゃれよ。お主の声も歌も詩も良いものじゃからのう」

「ははは、火吹き山のチャンピオンたる【鮮血竜姫(ブラッディドラキュリーナ)】にそこまで買ってもらえるとは、詩人冥利に尽きますなあ」

 

 ちょうど、水の街から呼び寄せた、いつかの吟遊詩人( CV:速水 奨 )に近頃の活躍を聞かせ終わったところです。*2

 それをまた武勲詩にしてもらうわけです。

 せっかく祭りで人が集まるのですから、積極的に名声値は稼いでいきませんとね。

 それに腕のいい吟遊詩人は貴重ですからね、コネクションは保っておかないと。

 

「ほれ、これが今回の作曲のお代じゃ。期待しておるぞ!」

「おお、太っ腹ですなあ。パトロン様様だ。……では、ありがたく」

「郷里の者どもに楽譜を送ったら好評じゃったようでの! また是非頼むのじゃ!」

「こちらこそ、またよろしくお頼み申す」

 

 とんとんっと聞き取ったことをまとめたパピルス紙を纏めていた吟遊詩人に、半竜娘はデンと太った金貨袋を渡します。

 吟遊詩人はその袋を覗いて確かめると、相好を崩して喜び、押しいただきました。

 よく見れば、彼のその身なりはもとより、使っている楽器も、以前より上等なものへとグレードアップしているようです。

 稼いでいるというのは本当なのでしょう。

 

 と、その時でした。

 別のテーブルの喧騒が聞こえてきました。

 

 

 

「――だからオルクボルグはいつも言葉が足りないってのよ! “そうか?” “そうか” “そうだ” “そうだな”って、それ以外はゴブリンゴブリン……」

「まあまあ……」

「せっかくの冒険だったってのに! デーモンが化けてたのは意外だったけど! ま、でも敵じゃないわ! 私の弓でトドメさしたのよ!」

 

 騒いでいるのは、新興宗教はびこる別の街で至高神の神具が盗まれたので奪還するという依頼を解決してきた妖精弓手らです。

 どうやらやはり、新興宗教の首魁は悪魔の変化(へんげ)だったらしく、大立ち回りしてきたとのこと。

 いつもの異種族トリオ(妖精弓手、鉱人道士、蜥蜴僧侶)に、臨時パーティーを組んだ辺境最強のペア(槍使い、魔女)、さらに加えて仕事終わりにとっ捕まったのか、受付嬢も一緒に卓を囲っています。

 

「ゴブリン退治に行くにしても、もっとこう、なんか言いようってもんがあるもんでしょう!? 独りで行くんじゃなくてさあ!」

 葡萄酒の入ったジョッキを振りかざしてすっかり出来上がっているのは、ハイエルフである妖精弓手。

 

「かみきり丸一人じゃのうて神官の娘っこも一緒じゃろうに。大体、冒険に誘って振られたのを根に持っておるだけじゃろう、金床娘よぅ。そんなグチグチ言うくらいならかみきり丸の方について行けばよかったろうよ」 その妖精弓手を煽るのは、肉にかじりついて旨そうに酒杯を干す鉱人道士です。

「なにおう、この樽ドワーフ! 私が小鬼駆除についてくんじゃなくて、オルクボルグを冒険に連れ出さなきゃ意味ないのよ!」などという妖精弓手の噛みつきも何のその。

 

「まあまあ、お二方。……あ、すまぬが給仕殿、このメニューにチーズをたっぷりと掛けることはできるかね? ――うむ、であれば重畳」

 マイペースに獣人(パットフット)の女給を呼び止めて注文しているのは蜥蜴僧侶。いつも通りのチーズジャンキーですね。

 落ち着いて見えますが、この異種族トリオの中では一番歳が下です。まあ、年齢が上がれば落ち着くなんてのは幻想ですが(二千歳児(妖精弓手)を見ながら)。

 

「あいつの言葉が足りないのは、今に始まったことじゃねーだろ。五年前の最初っからじゃねーのか?」

 恋敵の話題に辟易した表情の槍使い。その視線はちらちらと受付嬢の方に向かっています。

 

「さあ どうかしら、ね? でも、そういうのが、いいって、ひとも、いるかも よ、ね?」

 魔女はいつもの三角帽子を脱いでいて、妖艶に笑います。その手元には水のピッチャー。妖精弓手のジョッキに注いで酒精を薄めてあげているようです。

 注がれた方の妖精弓手は「いくらでも飲めるわー! ぷはー!」とかいう感じでどんどん飲んでますね、幸せそう。

 

「あははは……そうですねえ」

 笑ってごまかしたのは受付嬢。普段の態度があからさまなので、皆にも()への恋心はバレているでしょうけれど、堂々と肯定するほど開き直ってはいないようです。

 

 

 

 魔女や受付嬢の声はともかく、妖精弓手の良く通る美しい声は、少し離れた半竜娘と吟遊詩人の卓にまで聞こえてきます。

 

「ほう、ずいぶん陽気で綺麗な森人だが……。むむ、普通の森人より長い笹穂耳、ひょっとして……?」

「御賢察じゃ。上の森人――森人の王族じゃの」

「……()()で」

「おう、()()でも王族らしいのじゃ」

 

 吟遊詩人と半竜娘の視線の先には、ジョッキを振り回してクダをまいている妖精弓手。

 あきらかにダメな酔っ払いのムーヴなのに、絵になるほどに決まっているのは、森人補正のおかげでしょう。

 

「あれも歌にするかや? “森人の美姫が只人の冒険者――小鬼殺しの気を引こうと躍起になっておるが、当の小鬼殺しは小鬼退治に夢中”なのじゃ。何せ小鬼に襲われる村は真砂のごとく尽きぬのじゃからして」

「ほうほう。“ならばと森人美姫は小鬼殺しの気を引こうと、小鬼に攫われたと狂言を思いつく”のですな?」

「然り然り。“しかし手違いで本当に小鬼に攫われてしまい、絶体絶命”となるわけよ」

「おお、“そこに颯爽と駆けつける小鬼殺し! 間一髪、森人美姫は救われる!”」

 

 じゃかじゃん!

 とまあ、こんな感じで『小鬼殺しの詩』も、どんどんバリエーションが増えていくわけですね。

 吟遊詩人の詩なんて、半分以上は与太話ですよ。

 

「ちょっと、そこ! なに適当に歌ってるのよ! 聞こえてるわよ!」 耳聡い妖精弓手が、酒精で真っ赤になった顔で吟遊詩人と半竜娘を咎めます。

「おっと、それではここいらでお暇いたします。またごひいきに。出来上がった武勲詩はお持ちしますゆえ」 楽器を鳴らして劇役者のように一礼して去っていく吟遊詩人。

「うむうむ、期待しておるでな。そのときにはまた新たな武勇伝を語れるようにしておくでな」 半竜娘は妖精弓手の咎めなどどこ吹く風で、吟遊詩人を見送りに席を立ちます。

 

「ああっ、ちょっと待てー! どうせならこっちの冒険も歌にしなさいよー!!」 妖精弓手が半分腰を上げますが、既に吟遊詩人は扉の外。「あーん、逃げられたー」

「くかか、またの機会にのー、お姫さま。まずあやつには手前の歌を作ってもらうのが先約じゃて」 お茶目にウィンクする半竜娘。囲ってるわけでもないですが、優先順位はつけてもらいませんとね。「そのあとなら仲介してしんぜようかの?」

「姪御殿は如才ないことですなあ」 からからと笑った蜥蜴僧侶は、運ばれてきたチーズ掛けの肉の塊にかぶりつきます。「うむうむ、甘露甘露!」

 

 

 と、そこに外から冒険者らが帰ってきました。

 半竜娘は、その中に仲間の姿を認めると、叔父である蜥蜴僧侶に手早く挨拶をして、席に戻ります。

 偶然帰りの時間が重なったのか、薄汚れた鎧(ゴブスレさん)神官服の少女(女神官)の姿も続きました。

 

 

「お姉さま~、ただいま戻りましたあ!」 鎧に盾に退魔の剣。黒い長髪に、知識神の聖印。文庫神官です。

「はあ~疲れた疲れた。さっさと飯にしようぜー」 だるそうに肩を回しながらペタペタと裸足で入ってくるのはTS圃人斥候です。圃人らしく裸足で小柄で、人形のように愛らしい感じです。

「遠出じゃなければ、たまには歩きってのもいいものね」 金の長髪を纏めて流して颯爽と歩くのは、森人探検家。TS圃人斥候とはまた違った意味で、人形じみた美しさがあります。

 

「おうおう、よう戻った! して、知識神の文庫に備え付けた護衛番兵の方は問題なく動いとったかの?」 半竜娘は早速テーブルを空けて誘導します。

 あ、ゴブスレさんは、妖精弓手の方に捕まったみたいですね。そっちに行ってます。

 

「ああ、問題なかったぜ」 TS圃人斥候が素早く人波を縫って(死角移動技能を使って)いち早く席に着きます。「あ、すみませーん、給仕のおねーさん、こっちにエール3つ!」

「あ、手前は要らんぞ、潔斎中じゃし、石を呑んでおるからの。念のため」

「知ってる知ってる。そのためにわざわざ故郷からそのベンゾールだかベナールだかいう術を付与した石を送ってもらったんだろ」

「【胃石(ベゾアール)】の祖竜術じゃな」*3

「そうそれ」

 

 TS圃人斥候らが入ってくるときから準備していたのか、すぐにエールのジョッキが運ばれてきます。

 そしてジョッキが置かれるのとほぼ同時に、森人探検家と文庫神官も卓にたどり着きました。

 

「お疲れ様じゃー」 半竜娘は自分のところに置かれた水のジョッキを軽く掲げます。

「おつかれー」 森人探検家もエールのジョッキを掲げます。

「お疲れ様でした、お姉さま」 文庫神官も、退魔の剣や錫杖を立てかけると、卓についてジョッキを掲げます。

「はい、じゃー、かんぱーい!」 TS圃人斥候の音頭で、ジョッキを打ち付けあわせます。

 

「「「 かんぱーい!! 」」」

 

 秋の口とはいえ、歩けば喉も乾きます。

 森人探検家ら3人は、ごっきゅごっきゅと喉を鳴らし、酒杯を干しました。

 

「ぷはー。いやあ、遠出の終わりの一杯は、やっぱこれよねー!」 森人探検家は豪快にジョッキを置きますが、それすら気品があるように見えるのは種族特性でしょう。

「ふう。あ、斥候さんから聞いてるかもしれませんが、先日お姉さまが文庫に置いてくださった『樫人形(ウッドゴーレム)』生成管理装置は、正常に動いていましたよ」 文庫神官は、半竜娘と一緒の食卓を囲めるだけで幸せって感じですね。鎧の留め具を緩める仕草が少し色っぽく感じます。

「前の峠のキメラのときの資料と、この間の塔の魔術師のときにかっ剥いで来た装置を組み合わせて作ったんだっけか」 TS圃人斥候は話しつつも、身振りで注文のために獣人女給を呼んでいます。

 

 で、何ですっけ。

 

 あ、そうそう。

 

 『樫人形(ウッドゴーレム)』生成管理装置、の話でした。

 街道を少し行って、そこからさらに外れたところにある知識神の文庫は、修道女しか居ないみたいなんです。

 もちろん、石塁もあるし、旅人や冒険者に宿坊を貸しているので、賊やモンスターの対策がされていないわけではないのですが、それでも蜥蜴人の目から見れば不用心です。

 塔の魔術師をぶっ飛ばしたあと、火吹き山の闘技場附属図書館から文庫神官が写した写本を納めに行ったときに、半竜娘ちゃんも付き添いで行ったんですけど、その時どうにもその不用心さが気にかかったようで。四方世界には『砦を作らせるなら蜥蜴人に作らせろ』って格言があるくらいだそうですからね。

 んでまあ、魔道具の作成練習がてら、男手の代わりにもなるからと『樫人形(ウッドゴーレム)』の生成・管理を行う装置を作ったんですって。それで作ったウッドゴーレムは、使わないときは椅子でも柵でも化けさせておけばいいわけですし。

 その装置を件の文庫に設置したのが先日のこと。

 で、不具合がないかどうか、文庫神官たちに今日、見に行ってもらったわけですね。

 

「上手く動いておったなら良かったのじゃ」

「修道女たちにも好評だったわよー」

「井戸からの水汲みとか薪割りが楽になったとか、すっかり使いこなしてたぜ。やっぱ知識神の修道女だけあって扱いの飲み込み早えーのな」

「材料の木材も空間拡張鞄で運びましたから、一人一体は配備できるかと思いますよ。あと、それぞれ好みの色を塗りたいからと、次来るときには塗料を持ってきてほしいと頼まれました!」

 

 修道女たちの日常生活も便利になるし、余事に手を取られなくなればいろんな文献の解読も捗るでしょうし、仮に宿坊が(から)の時にゴブリンだのの魔物が襲ってきたとしても撃退できるでしょう。

 今後も時々は装置のメンテナンスが必要かもしれませんが、写本を納めに行く機会はいくらでもあるでしょうし、一党に知識神の神官もいることですから、縁が切れることはないでしょう。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 さて、獣人女給が運んできてくれた料理(半竜娘ちゃんのメニューは潔斎期間中なので“焼いた骨(肉ナシ)”)に手を付けようかというところで、森人探検家が急に口の前に指を持ってきて、『シッ、静かに』とジェスチャーします。

 

「(なんじゃ?)」

「(ほら、あっち)」

 

 続いてゆび指したのは、妖精弓手たちが飲んでいるテーブルの方です。

 種族柄からして耳の良い森人を抱える他の一党も漏れなくそのテーブルに注目しているので、酒場は一種異様な雰囲気になっています。

 その酒場中の注目を集めているのは、互いに向かい合っているゴブリンスレイヤーと受付嬢。

 

「(お、告白するのかや?)」 小声で半竜娘たちが囁きあいます。

「(癒着だー、ズルいぞー)」 非難するような言はTS圃人斥候。

「(ならアンタも来る日も来る日もゴブリン退治して塩漬け依頼片付ければいいでしょ)」 できないくせにー、というトーンで窘める森人探検家。

「(しっ、皆さん、状況が動きます)」

 

 文庫神官の言葉でゴブスレさんに注目を戻せば、彼の返事を受けて喜びに顔を輝かせる受付嬢の姿が!

 

 どうやら彼女は、勇気を持って一歩踏み出したみたいですね。

 

「ほーう、やりおるのう」

 

 我らが半竜娘ちゃんもそれに感化されたのか、決意を新たにしています。

 そうです、変化を恐れてはいけません。

 勇気を胸に抱き、覚悟を足に込めて進むべしです。

 

 色恋沙汰に限らず勇気は大事。

 もちろん、知恵も力も、大事です。

 

 準備できるのはあと一日。

 万端整えれば、あとは勇気を出して、儀式を完遂するのみです!

 何の儀式かは、お楽しみに。

 

 ということで、今回はここまで!

 また次回! 

 

 

*1
20メートル級ドラゴンハーフ巨女:巨大化時の体重については、【巨大】の効果として、“『身長』『体重』『移動距離』をn倍にする”とあるが、軽い方にも重い方にも解釈可能。 ●軽い方の解釈:身長が10倍になるとき、体重も同じく10倍にしかならないと読めるため、実質的に密度は100分の1になります。これだと身長20m級で体重約1.2トン。もとの縮尺に割り戻すと、身長2mで体重1.2kg。密度は気体水素のさらに9分の1。軽身功か“質量のある幻影”って感じ。 ●重い方の解釈:ルルブ解釈としては、身長の倍化に伴う自然な体重増加(身長倍率の3乗)に更に加えて魔法の力で巨大化倍率を掛けた重さになるという解釈もありうるので、身長20m(10倍)、体重1200トン(1万倍)もありうる。こちらの解釈では純銀と同じ程度の密度になる。ロマン的にはこちらを採用したいところ。 ●もしくは素直に、体重は身長倍率の3乗で計算する。その場合はざっくり10倍巨大化後身長20m、体重120トン。

*2
低音美声の吟遊詩人:「13/n 水の街にて魔神を屠るのこと~武勲詩~叙勲」「13/n 裏」に登場。原作アニメ版では、水の街で小鬼殺しの歌を歌っていた。

*3
祖竜術【胃石ベゾアール】:小石を飲み込むことで、粗食に耐えられるようになり、毒や窒息への抵抗力を得て、渇望により攻撃力が上がる。ただしお腹で石がゴロゴロするので痛い(生命力上限-3)。普段食べられないような草、硬い木の根、土なども栄養にできるようになる。粗食を続ける限り効果継続。半竜娘はこの術を覚えてないので、故郷から術が込められた触媒の小石を送ってもらった。




剣の乙女「ああ、急に押しかける私を、あの方は、はしたないとお思いになるかしら……」(くねくね)
世話役の侍祭「おつとめを済ませてからになさいませ。王都より勇者様方が参られましたよ」
剣の乙女「ええ、そうね。さっさと済ませてしまいましょう。あちら(辺境の街)の地母神の寺院への紹介状でしたか」
世話役の侍祭「そうでございます。……ついでに勇者様方には、先触れとしてお手紙をお持ちいただくのもよろしいかもしれませんよ、その殿方まで。仕事熱心な御仁だといいますから、冒険者ギルドに届けておけば、お祭りまでに読んでいただけるでしょう」
剣の乙女「……! 転移門でひとっ飛びなのですから、勇者様方には一晩ゆっくりこちらでお休みいただくのも良いやも知れませんわね」(手のひらクルー)
世話役の侍祭「ではそのように。ああ、お手紙は代筆いたしますので、文面が整いましたらお声掛けを」


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24/n 収穫祭に向けて-2(儀式準備)

閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ありがとうございます! 不慮の事故でゴブスレTRPGのルールブックがお亡くなりになったので再発注。う、売り上げに貢献したからいいんだ……、リーズナブル価格なルルブだし(みんなも四方世界にエントリーしよう!)。

●前話:
TS圃人斥候「リーダー、何喰ってんの?」
半竜娘「骨」
TS圃人斥候「骨ぇ!?」
森人探検家「ただでさえ定命(モータル)は死ぬまでに食べられるご飯の回数が限られてるのに、わざわざ粗食にするとか、もったいないわねー」
文庫神官「(ほねガジガジするお姉さま、犬みたいでカワイイ……カワイイ……)」

 


 はいどーも!

 

 ゴブスレさんは収穫祭の日にとっかえひっかえデート(午前/午後)するみたいですね。

 うちの半竜娘ちゃんも対抗して(?)分身して一党の仲間と二股デートするつもりです。

 やはり【分身(アザーセルフ)】は壊れ呪文……。

 

 んでもって、前回から明けて翌日。本日は収穫祭の一日前です。

 街は屋台の設営だの、見世物のための区画表示の縄張りだのが進んでいます。

 当然、街の外から来る人たちも増えています。

 

 祭りの御馳走のおこぼれ・下げ渡しを目当てに集まる、流民や乞食。

 ある程度の武力を持っていて自衛できる旅人は、観光目的で立ち寄ったりもします。

 祭りの運営側から招かれた、大道芸人やサーカス団、的屋、吟遊詩人、楽団と歌姫、旅芸人の一座、陶器屋、毛皮屋、野鍛冶、金物屋エトセトラ……。

 馬上槍試合(トーナメント)なんかがあれば、それを目当てに自由騎士(フリーランサー)も。

 今回は地母神の宗教行事でもあるので、遍歴の巡回神官(サーキットライダー)の方が多いかもしれません。

 

 もちろん、近隣の村々からも人出があり、観光がてらに冒険者ギルドに依頼を持ってくるような村人たちもいます。

 なので、祭り前日ですが、いえ、それゆえに、冒険者ギルドの作業量はえげつないことになります。

 つまり何が言いたいかっていうと、翌日のゴブスレさんとのデートのために、受付嬢さんはいま大変な量の業務をこなしておられますってことで――。

 

「えーと、半竜の一党にお願いする指名依頼が……って、土木工事がなんでこんなにたくさん……? いえ、食料救援の予約とセットだからオプション扱い……?」

 

 依頼の仕分け中のようですね。半竜娘ちゃん一党向けの依頼だけで一山できてるようです。

 土木工事――内容は堤防の修理、畑の真ん中の大岩の除去、山肌の開墾切り崩し等――については、たぶん村々のネットワークで評判になってるんでしょう。

 村によっては冬の食糧が不足するため、その救援が必要なのですが、今のうちから予約してくるところもあるようで。

 それとセットなら、まあ、半竜娘ちゃんのことですから、快く土木工事も引き受けるでしょうね。

 何ならついでにゴブリン退治だってしてしまうかも。

 

「とはいえ、あんまり安い値段で受けられると、価格破壊になっちゃいますし、その一党が移籍したときとかに後続が受けられなくなって……今後の課題として要検討ですね」

 

 まあ、ダンピングによる市場破壊的な懸念はありますねえ。

 ブラック環境を生むきっかけは、無私の心を持った聖人だったりすることもあるのです。

 ――同じ懸念は、ゴブスレさんのゴブリン退治にも言える訳ですが、たぶんそこは受付嬢さんが調整してるんだと思います。有能!

 さりとて、粒ぞろいの人材になんか育てられないからこその“冒険者”であり、そんな凸凹人材を適材適所で派遣するのが冒険者ギルドの存在意義でもあるわけです。結論:まあなんとかなる ()()()()()()

 

「これは……? 知識神の文庫から、ええーと、魔道具メンテナンスの定期依頼。できれば組み込み型の【幻影】の魔道具の追加納品も希望? それと武術の指導も?」

 

 保守依頼は定期収入になるので美味しい! きちんと依頼として出してくれるのは有り難いですね。

 内容は、知識神の文庫に納めた『樫人形(ウッドゴーレム)』の生成管理装置のメンテナンスですね。*1

 幻影の魔道具は……半竜娘ちゃんも作れないこともないでしょうが……。うーむ、ウッドゴーレムにかわいこちゃんとかイケメンとかの幻影(ガワ)でも被せるつもりでしょうか。まあ、魔道具の習作がてらと考えればおいしい依頼かも知れません。……ユーザがナニに使うかまでは感知しません。

 武術の指導については、ゴーレム使いとしての操作慣熟のためか、あるいは修道女本人たちがゴーレム木人拳的な鍛錬を文庫の中でやって鍛える計画でもしてるのかもしれません。

 

「……期限に余裕があるものが多いですけど、いくら何でも彼女らへの指名依頼が多すぎでは……? いえ、でもこれまでの実績的にはこの量でもいけるのかも……?」

 

 一パーティへの依頼の量が多すぎれば、誰でもやれそうな一部の依頼は指名を外して他の冒険者を斡旋するのもギルドの役目です(もちろん、指名されているパーティや依頼者に確認はしなくてはなりませんが)。

 半竜娘ちゃんの場合は、これまでも精力的に依頼をこなしてくれていますし、上等な馬車(独立懸架式突撃機動馬車)を麒麟竜馬の二頭立てで運用していて、辺境の街でもトップクラスの機動力を誇りますから、案外全部の依頼をこなせてしまうかもしれません。

 空間拡張鞄も持っていますから積載量も十分。

 

「とにかく、収穫祭の後にでも、彼女らには一度相談ですね」

 

 まだまだ書類はたくさんあるので、さっさと処理していきませんとね。

 そう、ゴブリンスレイヤーとのデートのために!

 

 …………。

 ……。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 一方そのころ、半竜娘ちゃんは何をしているかというと、儀式場の整備と清めを行っています。

 場所は街の西の方角。

 街道から外れた広野(ひろの)の一角に陣取っています。

 

 で、この場所を選んだ理由、ですが……。

 まず、西方は日没と夕闇の方角であり、この世ならざる者どもの住処を示す方角でもあります。風水でいう(うしとら)の鬼門の方角みたいなもんでしょうか。

 また、東が朝・夜明け――すなわち“進歩”を現すのであれば、西の夕闇は過去回顧を表す方角でもあります。

 

 つまりまあ概ね、過去に繫栄した祖竜への祈りを届けるためには都合の良い方角というわけですね。

 もちろん、立地的にも迷惑にならず、邪魔もされにくい場所が西側にあったという理由もあります。

 

 さて、儀式場を作るため、半竜娘ちゃんは分身体を巨大化させて草地を踏み(なら)させ、地面を固めさせています。

 さらに、土の精霊を呼び出して、周辺の土を寄せて高め、また踏み均します。

 だんだん、台形円錐の武舞台が整ってきました。

 ……なんか土俵みたいな感じですね。

 

「ふーんふんふん、ふふーん♪」

 

 半竜娘ちゃんは、鼻歌を歌って音頭を取りながらの作業です。

 

 その近くでは、文庫神官が時々その様子のメモを取りながら、天灯(スカイランタン)を組み立てています。

 

「それも故郷の歌ですか? お姉さま」

「ふんふふーん♪ んー、そうじゃよー」

「タイトルとかあるんでしょうか?」

「さて、故郷では“()ね歌”とか言うておったかの。まあ、なんぞ集まってやるときの定番よ、洗濯ものを川に浸して足で捏ねーの、炊事でモロコシの粉を捏ねーのな。飽きんようにバリエーションもあるが、適当じゃ。その場の雰囲気じゃの」

「なるほど……」

 

 異国の習俗を書き留めるのもまた、知識神の教えに沿うことですからね。

 

「お主が組み立てておるのは、天灯じゃろ? 手前も試しに昨日、下宿させてもらっとる魔女殿と作ってみたところじゃ」

「ええ、こちらのお祭りではこれを飛ばすそうですから。……お姉さまにとっては異教の儀式ですが、参加してもよろしいのですか?」

「よいよい。魂は大いなる流れに還って巡るものであるが、死者の魂が還ってくると信じる者を否定はせぬよ。それに祭りは参加せねば損であろ」

 

 辺境の街の収穫祭では、死者の魂を迎え、また還すために、細い木組みに紙袋を被せ、蝋燭を灯した簡易な熱気球である天灯を飛ばすのです。

 輝く天灯が一斉に空へと昇っていく様は、一見の価値があります。

 文庫神官ちゃんは、木組みと糊で、少しずつ試行錯誤しながら作っていきますが……。

 

 ◆文庫神官【手仕事】判定:技量集中3+2D632=8 < 目標値10

 

「ふええぇん。うまくいきません……」

 

 手仕事判定に失敗していますねえ。

 初めての挑戦だったせいか、不格好なものができました。

 紙を張り合わせるときの隙間も大きいし、重心もおかしいし、これじゃまともに浮かばなさそうです。

 

 この子、技量がないから攻撃も当たんないんですよねえ。

 自己回復型のタンクだから別に良いんですが。

 一党のアタッカーは別に居ますし、加速掛ければマシになりますが。

 

「どれ、貸してみ」

「すみません……」

「よかよか」

 

 ちょうど巨大化の術が切れた半竜娘ちゃん(分身)が文庫神官ちゃんの横に腰かけると、その不格好な天灯に手を加えます。

 

 ◆半竜娘(分身)【手仕事】判定:技量集中7+2D643=14 > 目標値10

 

 爪の先を使って器用に張り合わせた紙を剥がしたり、大胆に木を歪めたりして、格好を整えていきます。

 

「うむ、こんなもんでどうじゃろか」

「わあ、ありがとうございます、お姉さま!」

「あとは乾かしておけばいいじゃろ」

「はい!」

 

 半竜娘ちゃんは整えた天灯を文庫神官ちゃんに渡すと、再び巨大化して武舞台を整える作業に戻ります。

 ドシドシドシと細かな地響きとともに、段々と舞台が盛られ、せり上がっていきます。

 

 

 

 一方、半竜娘ちゃんの本体の方は何をしているかというと、何やら木質の半球型の器に手を突っ込んで練り回しています。

 

「ねりねりー、なーのじゃー、練れば練るほど色が変わって~」

 

 周りを見れば、木槌や擂粉木(すりこぎ)(ふるい)があり、白や赤や黄色の石塊や土塊、真っ黒い炭が転がっています。

 木質の器はいくつも並べられており、中身が飛び散らないように布と重石が置かれた中には、たぶんそれらの石や土や炭を粉にしたものがあるのでしょう。

 そして傍らにはバターみたいにてらてらした表面をした大きな薄黄色の塊。

 

「ふーんふんふん、ふふーん♪」

 

 分身体と同じく“捏ね歌”を歌いながら、半竜娘ちゃん(本体)は、木質の器の中身を手で捏ねていきます。

 

 それを興味深く見守るのは、TS圃人斥候と森人探検家。

 

「その器って何でできてるんだ? リーダー」

「ふんふーん、ぬぁ? これかの? これはの、ヒョウタンを輪切りにしたやつじゃよ」

「へー、リーダーの地元ではよく使われるのか?」

「まあそうじゃのー。その辺に種を投げとけば勝手に生えてくるしの。大きさも割とそろっておるし、軽いし頑丈じゃし、種類が違えば大きさも変わるし、年がら年中採れるしのー」

 

 蜥蜴人の出身である南方では、ジャングルや泥濘もあれば、草原地帯(サバンナ)もあります。

 概ね日照も降雨も良いので、農耕や牧畜をせずとも生きていける土地です。

 狩猟採集で生きていけるし、作物だって農耕というよりは放っておけば勝手に生えてきてるものって認識です。

 蜥蜴僧侶さんがチーズをこちらに来てから初めて食べたというのも仕方なし。

 

「へー、なんか森人(エルフ)の器に似てるかも。わたしたちの使う器も、森の木が用意してくれるのよね。見た目も触感もこんな感じでね。懐かしいなあ」

「ほう、意外なところで共通点があるのじゃの」

「そうね。……いや、でもわたしたち森人は身体に土を塗ったりはしないから」

「であるかー?」

 

 そう、半竜娘ちゃん(本体)が作っているのは、故郷から取り寄せた材料を使った、戦化粧(ボディペインティング)用の絵の具です。

 これを身体に塗り付けて、儀礼のために用いるのです。

 

「故郷から、白亜(チョーク)に、赤土、黄土に木炭。で、それだけではなくての。こっちや火吹き山で学んだ錬金や化学も使って作ったのがこれじゃ」

「え、わっ、すっごい青だ!」

「名付けて“竜血青(りゅうけつせい)”じゃ。竜の血を焼いて炭にして砕き、竜の角の灰と混ぜ合わせて更に高温で焼いたあとに、水で抽出。緑磐(りょくばん)*2と混ぜ合わせて酸を加えて()すと出来るのじゃ!」

 

 おー、これはいわゆるプルシアンブルーというやつですね。

 かなり鮮やかな青色が出ます。

 別に竜の血でなくても牛の血でも出来ますが、祖竜に捧げる儀式に、しかも伝統でもないものをぶっ込むことになるため、どうせなら最高級品をと奮発したんでしょう。

 

「作れた量は少なめじゃから、アクセント用じゃな」

「はー、これ、こんだけ綺麗な青なら、売り物になるんじゃねーの?」

「その辺の事業展開は魔女殿に任せておる、そういう投資だのも最近やっておるそうじゃから。ただ、一応故郷にもレシピは送ったがのぅ、作るときに結構なニオイがするからのう……」

 

 生体由来材料を使うので、量産化にはアンモニアなどの悪臭問題がつきまといます……。

 

「ま、今回使う分はもう作ったから良いのじゃ! あとは明日のためにこれらの絵の具を練って寝かせておくのじゃ」

「そのための油かー、これ、そこの塊にも濁りないし、めっちゃいいやつなんじゃねーの?」

「おうとも、これも故郷から送ってもらったものでな、油椰子から絞って精製した最高級品じゃ」

 

 油椰子の油(パーム油)は大体人肌くらいの温度で溶けるので、この秋口の外気温では固まっています。

 半竜娘はそれをナイフで削り、瓢箪の器に顔料と一緒に混ぜ合わせて、色とりどりのドーランを作っていきます。

 

「斯様に手前らは恒温動物であるからして、油椰子の油も手捏ねするうちにきちんと溶けるのじゃなー」

 

 蜥蜴人は変温動物ではないのです、恒温動物です。

 

「竜脂じゃねーんだな。そんなんあるか知らねーが、てっきり竜関係のものを使うと思ってたぜ」

「おお、そこに気づくとは……。実は少しだけ精製したのを持ってきておるのじゃよ」

「あら、すごいわね。それにこっちの方が白……というか透明ね」

 

 半竜娘が空間拡張鞄から取り出したのは、真っ白な脂の塊。

 族滅した竜たちの脂肪を精製して固めたものです。

 しかし、その量はあまり多くありません。

 精製が間に合わなかったのです。

 

「混ぜ合わせるのには油椰子の油の方が、融点の関係でちょうど良いというのもあるのぅ。竜脂は練るには少し固いのじゃ」

「へー」

「戦化粧の仕上げ用の絵の具には、少しは使うつもりじゃ」

 

 十分に顔料と油を練り上げては、契約精霊である水蜥蜴の水霊(ミズチ)に手先を洗い流して乾かしてもらって、また練ってと、次々とドーラン入りの器を増やしていきます。

 

 離れたところでは、半竜娘ちゃんの分身体が、篝火用の柱を、武舞台の周りに立てていっています。

 儀式は、地母神の奉納の儀と合わせて、収穫祭当日の夜に行うつもりなのです。

 蜥蜴人は暗視ができるので明かりがなくても見えますが、明るい方が良いのは間違いありませんし。

 

 順調に今日中に準備も終わりそうです。

 

 というところで今回は……

 

 ぶぉん

 

「とうちゃーく!」 太陽のようなきらめきにあふれた少女の声。

「やはり転移門は早いですね。水の街からここまで一瞬とは」 鍛えた刃のような怜悧で凛とした女性の声。

「……早く大司教様の手紙をギルドに預けて、寺院に挨拶に行く。宿を探すなら早くしないと空きがなくなる」 月のように落ち着いた少女の声。

 

 空間が裂ける音とともに現れたのは、3人の少女でした。

 …………。

 

 アイエエエエエ!? 超勇者ちゃん一行!?

 超勇者ちゃん一行ナンデ!?

 

「む。おいお前たち、こんなところで何をしている? 屋台や見世物の準備にしては街から離れすぎているが……怪しいな

 

 刃のように怜悧な声が、半竜娘ちゃんたちを誰何(すいか)します。

 めっちゃあやしまれとるー!?

 

 というところで今回はここまで!

 ではまた次回!

 

*1
辺境の街の近くの知識神の文庫:原作小説7巻(エルフ婚礼編)の冒頭にてゴブリンに襲撃された文庫。防塁の小さな崩れを放置し、たまたま宿坊を借りていた旅人も少なかったことから大変なことになった。凌辱蹂躙の果てに修道女は半数死亡、死体は食料にされた。また、貴重な書籍も多数失われた。

*2
緑磐:硫酸鉄のこと。




次回は剣聖ちゃん(斬れば分かる系)を言いくるめできるかどうかから。

(ちなみに当初プロットでは、
 ・半竜娘ちゃん単独遭遇
 ・時刻は夜、明かりなし
 ・ボディペインティング試し塗り済み
 ・儀式場に生け贄の血を撒いてサークル作ってるところを見られた
 という役満状態だったので(どうみても邪教徒です本当にありがとうごさいました)、剣聖ちゃんに誰何されることすらもなく“スルリと片付”けられてしまいました。
 今回の状況はそれよりましだぞ!)


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24/n 収穫祭に向けて-3/3(剣聖遭遇)

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●前話:
 けんせいが あらわれた!



◆if時空 接続開始……◆

半/竜娘「いきなり辻斬りで堅気(かたぎ)の首ポーンとか、勇者一党としてどうなのじゃ?」
剣聖「すまない、ほんとうにすまない……」(斬ったら分かった系)
賢者「剣聖(あなた)は先走りすぎ。李下(りか)(かんむり)瓜田(かでん)(くつ)という言葉もあるけれど……。でも蜥蜴人の貴女の収納鞄の中からも、明らかに混沌側な『手』の呪像が見つかった。ヘカトンケイルの顕現阻止に来たところに、いかにもな呪物を持っていたけど……本当に無関係?」
半/竜娘「顕現などさせようとはしとらんて。……手前も紛らわしかったが、なにも初手必殺でなくともよかろうに……」
剣聖「言い訳だが、一刀で屠らねば危ういほどの相手であると感じたのだ」
半/竜娘「……はあ。剣聖に脅威として認められたのであれば、多少の慰めにはなろうかの。――あ、きちんと手前の心臓を食らってくれるなら許すのじゃ」
剣聖・賢者「「 教義が違うので、それはちょっと…… 」」
半/竜娘「 お の こ し は ゆ る し ま へ ん で え 」

勇者「まあ、霊魂が留まってれば、復活系特技で蘇らせたげたりもできるから。ていうか、普通に首刎ねられたのに会話してるけど、実はデュラハンだったりする?」
半/竜娘「……蜥蜴人は首だけになっても数分は生きておる。元から酸欠耐性が高いしのう。今はそれに加えて、首を斬られた後に召喚した水精霊と風精霊の力で切断面の血流とガス交換を代替させて延命させとるのじゃ」
賢者「鋭利な切断面だから接着も容易。これなら復活系でなくて回復系特技で、後遺症もなく治りそう。蜥蜴人驚異の生命力」
半/竜娘「唐竹割にされたら流石に死んでおったじゃろうがな。というわけで、首が繋がったら、詫びということで一手指南いただきたいのじゃが?」
剣聖「わ、わかった。お安い御用だ」


超勇者ちゃんRTA走者「ボタン連打してたら善良な冒険者の首刎ねてて、一瞬、剣聖ちゃんの冒険者人生が終わったかと思いましたが復活・回復系特技で事なきを得ました。でもこれ初見邪教徒だと思うでしょ絶対。で、この冒険者からなんとヘカトンケイルまで直通できるアイテムをもらったので、収穫祭当日夜まで待たなくてもヘカトンケイルをぶっ殺しに行けます。一日分の短縮ですね。……なのでガバじゃないです。結果的にタイム短縮になったのでこれはガバじゃない、イイネ?(強弁)」

◆……if時空 接続終了◆
 


 はいどーも!

 なんか一瞬時空が歪んで平行世界が溢れ出した(約1000字)ような気がしたけど、きっと気のせいでしょう。

 追記と可能性分岐(そういうの)はTASさんの権能の領分のはずですし。

 

 さて、では前回から引き続き、剣聖ちゃんの追及を避けるところからですねー。

 成功要素を書き連ねれば、その数に応じて交渉判定にボーナスを貰えます。

 では、ブレイン(以下10レスから)ストーミング(成功要素を抽出し)スタート(ます的なアレ)

 

 …………。

 

 ……いえ、原作の原作である、やる夫スレ的な風情を出してみたかっただけです。

 というわけで、交渉判定を有利に傾ける要素をどれだけ出せたかによって、交渉判定にボーナスを加えます。

 

 

 ……はい、(半竜娘ちゃんの脳内に)出揃ったみたいですね。

 

 

◆『交渉:説得』のための材料列挙

 

・逆に誰何(すいか)する。(客観的には相手も怪しいことを突く)

 

・仲間の神官を矢面に立たせて弁解してもらう。(秩序側だと分かりやすい印になる)

 

・一緒にいる術者らしき少女は【看破(センス・ライ)】できるかもしれないから、嘘はつかないで、怪しいところなどないと、堂々とした態度で応じる。

 

・こんな昼間から混沌勢力は動かない。

 

・混沌勢力なら、こんなに堂々と準備してない。

 

・火吹き山のチャンピオンである半竜娘には、混沌と結ぶメリットなどない。

 

・【辺境最大】とも呼ばれるくらい実績を重ねており、混沌に寝返るメリットなどない。

 

・街から離れているのは、異教である祖竜信仰の儀式をやるにあたって、迷惑をかけないようにするため。分際は弁えている。

 

・青玉等級の冒険者であり、冒険者ギルドが身分の保障をしてくれている。そちらにも問い合わせるといい。(ギルドのタグを見せながら)

 

・先ほどの空間の裂け目は転移門か? 自分はその転移門を納めた冒険者の1人であり、水の街の至高神神殿にも多少の伝手がある。

 

・先の魔神王の討伐では黒鱗の古竜の一族を族滅し、諸部族連合から勲章を授与されている。

 

・武を交わせば分かり合える!(脳筋スタイル)

 

 というわけで、結局アイディアは12個出ましたね。

 ……って、おいィ、最後のやつゥ!!

 え、これもカウントするの?

 

 あ、はい。カウントするみたいです。

 最終手段としては考慮しましょう。

 

 以上の12個のアイディアを半竜娘ちゃんの脳が弾き出すまで、この間0.2秒である!(頭脳明晰)

 半竜娘ちゃんもね、きちんと色々考えてるんですよ。

 最終的に脳筋選択肢に落着しちゃう思考回路(サーキット)が積んであるだけで。

 

 ……ままええわ。

 はい、では、交渉いってみましょう。

 

 剣聖ちゃんの誰何のシーンからです。

 長い黒髪を束ねた剣聖は、業物の剣を帯びており、無意識にか意識してか、その(つか)に手をかけながら半竜娘へ尋ねます。

 なお、そのバストは実際豊満でした。

 

「む。おいお前たち、こんなところで何をしている? 屋台や見世物の準備にしては街から離れすぎているが……怪しいな

 

 それに対して、半竜娘ちゃんが冷静に応じます。

 もちろん、半竜娘ちゃんのバストも豊満でした。

 

「んむ。故郷の儀式をやろうとしておるのよ。それに混沌の企みなら昼間から堂々となどせんじゃろ? これは祖竜信仰の儀式での。自らの奉じる守護竜へ、武と供物を捧げるのじゃ」 半竜娘ちゃんは、ほぼ出来上がった武舞台の方を腕で示します。

「なるほど、そこの土を盛ったところは、そのための舞台というわけか」 剣聖ちゃんもそちらを見て、ある程度得心がいったのか、剣の(つか)から手を離します。

「ご理解いただき重畳じゃ。こんなに街から離れたところでやっとるのは、あくまで今回の収穫祭の主催が地母神じゃからじゃよ。外様(とざま)は外様らしく遠慮せねばな。

 しかし、お主らこそ何奴じゃ? 虚空から出てきたところを見るに、転移の術を使える凄腕か、転移門の魔道具を使える(たっと)き身かと見るが」

 

 それを問われた剣聖は、少しばつが悪そうにします。

 

「出てきたところから見られていたか……」

「……転移門を知っているの?」 横から尋ねたのは、犬耳のような突起のあるローブを被っている少女。杖を持っていることからも、術者だと分かります。*1

 賢者が【看破】の術を使えることを警戒して、半竜娘ちゃんは正直に話しています。

 ちなみに、賢者のバストも、実際豊満でした。

 

「知ってるも何も、転移門を水の街に納めたのは、手前らじゃもの」

「なるほど。では、小鬼殺しの一党?」

「いや、それと協同した方じゃ。水の街で聞いておらんか?」

 

 なんか小鬼殺しじゃない方って言っても、ピンときてないっぽいです?

 ……これは、剣の乙女(恋する乙女)が勇者たちに語った転移門関係の顛末の登場人物に偏りがあったのかも知れませんね。

 きっと剣の乙女さんの心の中が、ゴフスレさんに占められていたせいでしょう。

 

「ほかには、ええと、あ、ほれ、一時期は水の街でも盛んに、魔神殺し・古竜殺し・辺境最大だのと歌われとったんじゃよ? 古竜族滅の時の勲章と部族の羽飾りも見るかの?」

「辺境最大……。最近、火吹き山の新人王になったというあの!」

「東方辺境の前線を荒らしていた魔神将級の古竜と、その一族を殺したのは、貴女だったの」

 

 お、剣聖ちゃんが、半竜娘の二つ名を知ってたみたいですね!

 賢者ちゃんも古竜族滅のことは当然知ってますね。

 イイゾ~

 

「そう、それが手前(てまえ)じゃ! 念のためギルドタグも見せるかの。……ほれ、青玉等級じゃ。仲間には交易神と知識神の神官もおる」

 半竜娘たちは、冒険者タグや、聖印を見えるところに出します。

 

「なるほど、確かに。青玉ということは……中堅といったところか」 剣聖ちゃんはもう疑う気はないみたいです。

「それで、結局、そっちが何者か答えてもらえるかの」 半竜娘はウィンクして尋ねます。

「……それには『沈黙』を以て答えにする。嘘は言ってないみたいだし、古竜族滅の立役者なら信用できると思うけど、知らない方が良いこともある」 凄腕でかつ並みならぬ身である推測について、事実上の肯定を返したのは賢者ちゃん。まあ、どこから混沌勢力に居場所がバレるか分かりませんから明示はしませんね。Need to know(知るべきのみを知れ)は原則です。

 半竜娘ちゃんとしてもそれは織り込み済み、真正直に答えが貰えるとも思っていません。

 

 というところで、ダイスロール!

 目標値はマスクされていますが、手合わせ以外の成功要素は盛り込めた気がしますので、いい線行くんじゃないでしょうか!?

 

 

◆半竜娘の【交渉:説得】判定(知力集中+【交渉:説得】技能+その他)

 知力集中10+説得材料の提供11+52=28

 

 

 達人級の30までは届きませんでしたが、達成値28なら失敗ってことはないでしょう。

 

 さて、いかがか?

 

 

 …………。

 ……。

 

 

「いきなり疑って悪かったね!」

 後ろに控えていた、煌びやかな大剣を携えた太陽のような少女が、可憐にお茶目に片目をつぶりながら謝ってきます。

「この間の冒険で、第一に仲良くなった女の子が実は黒幕で、みたいなことがあって、この子、気が立ってたんだよ」

 

 あー、前のセッションで第一村人=黒幕だったんですね、わかります。

 で、次のセッションでも同じパターンかと第一村人を疑ってかかると、そんなことなくて逆に重要NPCで、信頼関係構築失敗してスタートから躓くとかね、あるある。

 

「そ、それは言わない約束でしょう! それに彼女に取り憑いていた悪魔は祓って、彼女も正気に戻しましたし!」

「そうそう、“開眼したー”とか言って、悪魔の霊体だけを斬ったのは凄かったよね!」

 ……剣聖ちゃんは、白兵攻撃を<根源>属性化できるようになる特技でも取得したです?*2

 

「あのとき、魔法も斬っていたのは目を疑った」

「斬れると思ったら斬れました」

「しかもカウンター入れてたよねー、あのとき」

 ……敵の攻撃を矢斬りで無効化した上で機会攻撃で突き返し的なアレ?

 

 って、ああっ! そんなつよつよエピソード披露すると――!

 

「のう、もし時間があるなら一手ご指南いただきたいのじゃが!!」

 

 ほらー! 半竜娘ちゃんの闘争本能が疼いちゃったじゃないですか!!

 ああっ、いつの間にか使わずにとっておいた『・武を交わせば分かり合える!(脳筋スタイル)』がアクティブになってる!?

 達成値28 → 29(補正値+1)!

 

 まさか受けたりしませんよね……、剣聖様……?

 

「いいでしょう。それが不躾にも疑いをかけたことへの償いになるのであれば」

「おおっ、決まりじゃな!」

 受けるんかーい!?

「……と言いたいところですが」

 おや?

「こちらも今は急ぎのところ。お互いに大一番を控えている身では、本気の勝負とはいきませんし、貴女ほどの相手を片手間でするのも失礼でしょう。お互いのコトが済んだ時に、ということでいかがでしょう」

「むむむ。確かにそうじゃな。……では、収穫祭の後にということで」

「はい、それで構いません」

 

 ……セーフ! セーーーフ!!

 これ、交渉の出目が30行かなかったからですかね。

 ぎりぎりですねー。

 

 え、模擬戦したらどうなってたかって? うーん……。

 たぶん、剣聖ちゃんの射程【シーン】の飛ぶ斬撃で一瞬ですよ、きっと。

 あるいは、ガォン!と空間を削り取る斬り下ろしの斬撃で吸い込まれて、吸い込みによる硬直の隙にV字に斬り上げ食らってジ・エンド。

 剣聖ちゃんって、通常攻撃がすべて必殺となる系の窮まった戦士タイプだと思いますし……。*3

 あとたぶんシステムが違うと思うし……。

 

「それじゃー、迷惑かけたねー、半竜のおねーさんたちも、お祭り楽しんでね!」

「また夕方にでも街の見回りはしようと思いますが、貴女たちも怪しい者を見かけたら教えてください」

「ばいばい」

 

 超勇者ちゃんが「またねー!!」と手を振って街の方に行きます。

 剣聖ちゃんと賢者ちゃんもそれに続きます。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

「何だったんでしょう、彼女たち……」 嵐のような勇者襲来に呆然としている文庫神官ちゃん。

「……目の前にいるのに、全然気配ってもんが捉えられねーんだけど。何もんだよあいつら」 冷や汗を流すTS圃人斥候。

「うちのクソ師匠みたいな理不尽な雰囲気(アトモスフィア)を感じるわ」 クソマンチ師匠な指輪の圃人を思い出して歯噛みする森人探検家。

 

 みんな勘が良いな。第六感判定(アイディアロール)の値が高かったのかな?

 

 やー、それにしても無事に切り抜けられて良かった。

 

「ふふん、収穫祭後の楽しみが増えたのじゃ! これは是非とも儀式を成功させんとな! 少しでも剣聖(サムライ)殿との手合わせに勝てる可能性を高めるためにも!」

 

 うきうきしてるのは半竜娘ちゃんだけですよ(このバトルジャンキーめ!)。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 そんなこんなで引き続き準備を進め、いよいよ明日の収穫祭本番を残すだけとなりました。

 

 そういえば夕方、武舞台の準備途中で、なんかえげつないブービートラップを仕掛けにゴブスレさんも来ましたが、儀式の邪魔にならない範囲で好きにしてもらいました。

 なんか、林の中に落とし穴だの簡易防塁だの、木のしなりを使ったバリスタだのをこさえていきましたよ。ゴブリン用の用心かな? 相変わらず殺意が高ぁい。

 あと、ゴブリンがもし、街の西のこの方角から来たとしたら、その時は半竜娘一党が受け持つとも約束しました。

 

 さて、超勇者ちゃんたちは、いろいろ見回りするとか言ってましたが、ゴブスレさんともすれ違ったんでしょうかね。

 

 

 

 いまは、半竜娘ちゃんは準備を切り上げて、街の拠点(下宿先の魔女さん宅)に戻って休んでいます。

 

「魔女殿は、明日は槍使い殿と祭りを見られるのかや?」

「そう よ。デート、なの」

 

 浴場帰りの肌を上気させて、うっとりと魔女さんが答えます。

 半竜娘ちゃんも、自分も昼は一党の仲間とデートをするんだと教えると、「なら、お揃い ね」と半竜娘ちゃんに妖艶に笑いかけます。

 魔女さんカワイイ!!

 

 地母神への奉納演舞は見るのかとも問われましたが、その時間はこっちはこっちで奉納演武をやるつもりなので、多分見られないですね。

 

 それでは、お互い収穫祭のデートに備えておやすみなさーい、というところで、今回はここまで!

 ではまた次回!

 

 

*1
賢者が被っているフードのケモミミ状の突起は犬耳? 猫耳?:賢者=ムーンブルク(DQ2)モチーフ、剣聖=ローレシア(DQ2)モチーフ、勇者=サマルトリア(DQ2)モチーフらしいので、多分、賢者のフードは犬耳モチーフじゃないかなと思います。ムーンブルクの王女は、呪いで犬にされるのでそのつながりでは。超勇者ちゃんがサマルトリアモチーフなのは、彼女がゴブスレ原作で一般冒険者に偽装するときに緑の服と「てつのやり」で武装するところにも現れています。ちなみにサマルトリアの王子は大器晩成型。ということは超勇者ちゃんも大器晩成型……なお、まだ序盤の模様、末恐ろしいね!(であれば超勇者ちゃんの御バスト様もきっと大器晩成型じゃないかな!)

*2
白兵攻撃、根源化、特技:TRPGシステム「異界戦記カオスフレアSC」の用語より。白兵攻撃:剣とかそういうものを使った攻撃。白兵値を参照する。 根源:攻撃/防御属性の一つ。防がれにくい。肉体属性が効きづらい敵(霊体系など)にも攻撃が通るようになったりする。 特技:読んで字のごとく。キャラクターの持つ特殊能力など。出身世界と所属組織と特技の組み合わせで魔法少女にも魔砲少女にもなれるし、ガンダムを操ったり宇宙戦艦ヤマトに乗ったりもできる。『人よ、未来を侵略せよ!』

*3
剣聖ちゃんは窮まった戦士タイプ:もしかして【破壊神を破壊した男の系譜?】。【辺境最高】の一党の女騎士さんと、剣聖ちゃんは同門とか、祖を同じくするが分かたれた流派だったら面白いかもなあ、などと妄想したり。剣聖ちゃんはカオスフレアだと、コロナ(職業/役柄みたいなもの)は何になるんだろう……。聖戦士(アタッカー系)星詠み(魔法使い系)光翼騎士(タンク系)執行者(盗賊系?)もどれもありそう。素直に考えれば剣聖ちゃんは聖戦士だけど、勇者ちゃんの方が確実に聖戦士ぽいし、賢者は星詠みだろうから、一党のバランス的には剣聖ちゃんは突き返し型の光翼騎士かな……?




次は、事前準備の【裏】って感じですかね。
超勇者ちゃん一党について、DQ(ドラクエ)2の主人公一党がモチーフの一つであるというのは、結構前に原作者のKUMO様がどっかで書いてらっしゃったはず。
カオスフレアは詳しくないので、用語とか間違ってたらごめんなさい。

あと剣聖ちゃんは、きっと自動取得特技(生まれつきの才能)で、四方世界の【戦士】【武道家】【斥候】【野伏】の職業レベル及び関連技能レベルをカンストしている扱いになってると思う。生まれながらの剣聖(剣しか使えないとは言ってない)である!
同様に賢者ちゃんはその術士版の自動取得特技(術士レベル&技能カンスト扱い)があるんじゃないかな!
もちろん、それ以外にもたくさん特技を持ってるはずだぞ!

そこまでぶっ壊れた特技を持って生まれて、あるいは会得して初めて、白金等級の仲間となる権利を得る(前提条件をクリアする)のだ。きっとね。



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24/n 裏

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●前話:
 けんせいを やりすごした!

Q.剣聖さんは、斬撃飛ばせるの?
A.斬撃を飛ばした描写は原作にはないが、相手の遠距離攻撃を半ドットずらして当たり判定を誤魔化しながら一瞬で間合いに飛び込んで叩き斬ることはできる模様。寄らば斬るし、視界内のものなら、寄って斬れる。
 ちなみに、ゼルダじゃない方の勇者の御方は、エルフの伝承曰く「体力満タンなら斬撃を飛ばせる」とのこと。(ソードビーム)

 


1.勇者とは! 白金等級とは!

 

「では確かにお預かりいたしました」

「よろしくおねがいしま~す!」

 

 冒険者ギルドにて、太陽のような少女はギルドの受付嬢に、さる高位聖職者からの手紙を預けた。

 手紙の届け先の冒険者――小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)――は、今日は街中に居るようなので、すぐに白磁や黒曜の冒険者がお駄賃稼ぎに配達してくれるだろうということだ。

 

「じゃあ、次は、地母神の神殿だね!」

「場所は覚えていますか?」

「まあね! ボク、迷ったことないのが自慢なんだ!」*1

 

 太陽のような少女――勇者の一行は、冒険者ギルドを出て、祭りの前の浮ついた空気の街を歩いていく。

 

「そういえばさー、ボクたちって、最初の白金等級と結構似てるとこあるよねー」 跳ねるように回るようにして太陽の勇者。

「最初の白金等級……、破壊神を破壊した男と、その二人の仲間たち」 眠たげな目をした白いローブの月の賢者。

「――嘘かホントか、私の先祖とも言われていますね」 眉尻を下げても怜悧な目つきの剣聖。

 

 勇者という存在は、歴史上、はじまりの“輝ける鎖帷子の勇者”とその一行が、凍てつく絶望の大魔王を倒したところから確認される。*2

 そして時代が下って、竜王を()()で屠った青き鎧の万能の剣士。*3

 この二人までは、勇者であれど、白金等級の冒険者ではなかった。

 そのような制度はなくとも良かったのだ。

 

 だが、史上三番目の勇者。*4

 仲間の援護があったとはいえ、ただ肉弾のみにて、破壊神すら破壊しつくしたその男の登場を以て、いよいよ当時の王は、人々は、認識を改めざるを得なくなった。

 『もはや常人にあらず』。

 在野から導かれるように現れる勇者たちを指す等級として、最上位の白金等級が設けられるようになったのは、このときからである。

 

 それでどうやら、剣聖の先祖が、この、史上三番目の勇者にして最初の白金等級……破壊神殺しの勇者なのだという。*5

 

「んぅー、実はボクたちの中でも一番お姫様なんだよねー? ボクは寒村の孤児院の出だし」

 お姫様いいよねー、などとのたまう勇者。

 

「私は親の顔は知らない。牙の塔で見られるのは、実力だけ。血筋は関係ない」*6

 賢者ちゃんは実力一本でやってきた風。素養や血筋よりも、積み重ねてきた己の研鑽にこそ自信を持っているようだ。

 

「魔法の使えない戦士の私に、魔術を極めた「まだ極めてない」……極めようとしてる賢者、そして、万能のあなた。最初の白金等級と、確かに似てる構成ですね」

「でしょでしょ!」

 

 あー、寺院が見えてきた! と、勇者が走り出した。

 やれやれ、と微笑ましいものを見るように息を吐き、剣聖も続く。

 

 賢者は、二人を追いかける前に、街の西の方に目を向ける。

 自分たちが来た方向……半竜娘の武舞台がある方向だ。

 

「……確かに、あの蜥蜴人が用意してたのは、“降ろす”術ではなかった。託宣にあったヘカトンケイルの顕現とは無関係。むしろ……あれは、“昇る”術。私が……私たちがこれからやろうとする術と似ている」

 

 鋭く目を(すが)める賢者。

 賢者たちが、この街の収穫祭の儀式を利用して霊界へ飛ぼうとしているように、半竜娘もこの機に物質界と霊界が接近するのにあわせて、霊界への干渉を考えているのだろう。

 半竜娘の儀式は、賢者から見れば荒削りで非効率に見えたが、まあ、信仰系の術の理論は魔術とは違う。

 あれはあれで成算があるのだろう。

 

「おーい! 早く早く~!」

「…………いまいく」

 

 半竜娘は不確定要素にはなるまい、と思い直し、賢者も地母神寺院へと足を向ける。

 何はともあれ、まずは百手巨人(ヘカトンケイル)からだ。

 

 ちらりと目に入った、隠して置かれていた時限式の発火の呪具を、遠隔で負荷をかけて焼き切りつつ、勇者と剣聖に合流した。

 どうやら、祭りに便乗して騒ぎを起こしたい輩がいるようだ。

 

「まったく、世に混沌の種は尽きまじ……」

「やはり後で見回りも必要そうですね」

「でもボクたちだけで出来ることも限られてる。世界は救えても、必ず街を、祭りを守れるとは限らない。……街の衛兵さんにも協力してもらえるように、寺院を通じて話をしてもらおう」

 

 賢者と剣聖は、勇者の言葉に頷いた。

 

「ボクたちは、ボクたちにできることを。……じゃあ手始めに、世界を救おうか!」

 

 

<『1.勇者とは! 白金等級とは!』 了>

 

 

  ○●○●○●○●○

  ●○●○●○●○●

 

 

2.剣の乙女の昂揚

 

 水の街の至高神の神殿にて。

 剣の乙女は、クローゼットを前にして、服を取っ替え引っ替え。

 目では見えずとも、その手触りでどんな服かは覚えているからわかる。

 

「平服を着るなんて、いつ以来かしら」

 

 聞くもの全てを蕩けさせるような、蜜の声。

 聖職者にあるまじき色気だが、同時に、触れがたい高貴さを感じさせる。

 

「どうしても、お勤めが終わらなかったから、明日の夕方からしかお祭りには行けないですが……」

 

 それでも、転移門の鏡(帰りの時間はタイマーセットできる優れものだ)があるからこそ、彼に会いに行けるのだ。

 

 太陽の聖剣を携えた勇者の少女に預けた手紙は、無事に小鬼殺しに渡っただろうか。

 返事をもらう時間もないが……、小鬼殺しのあの方は、手紙に書いた場所で待っていてくれるだろうか。

 もしも待ちぼうけなんてことになったら……。

 

「ああ、もしそうなったら、胸が張り裂けてしまうかも」

 

 初デートを前にした少女のように、右往左往の百面相。

 

 それを侍祭の年かさの女性が、苦笑して見ていた。

 

「それほどご心配なのでしたら、私がお返事をいただいて参りましょうか」

「でも……」

「すれ違いはお嫌でしょう?」

 

 少し悩み、「じゃあお願いするわね」と、移動して侍祭を転移門で送り出し、そわそわと待つこと暫し。

 あらかじめ定めた時間に、転移門を再度開いた。

 武僧の心得もある侍祭の女性は、きっちり仕事を果たしてくれていた。

 

「あの方は……?」

「お元気そうでございましたよ。そして、無事にお返事をいただいて参りました」

「それでなんと……?」

 

 切なそうに両の手を胸の前で合わせると、豊かな乳房が潰されて形が変わる。

 潤んだ声が震えるのは、期待か、それとも恐れか。

 

「“小鬼が来なければ、夜に” とのことです」

「……そう、そうなのですね」

大司教(アークビショップ)?」

 

 小鬼殺しは、小鬼が来るかも知れないと思っているのだ。

 そして、それは己も同じだ。

 いつ小鬼が来るか、何処にいても、安心できるものではない。

 恐怖で立ち上がれなくなってしまう、まるで幼子のように。

 たとえ、夢の中にあっても、その恐怖からは逃れられない。

 

 ……逃れられな()()()

 

「いいえ、であれば良かった。是非ともお逢い申し上げたく」

「はい、既にそのようにお伝えしておきました。お食事でもご一緒に、と」

 

 ……彼に、ゴブリンスレイヤーに出会うまでは。

 

 もはや、剣の乙女は、小鬼の夢で魘されることもない。

 たとえ夢に小鬼が出たとしても、筋書きはもう定められている。

 彼は、ゴブリンスレイヤーは、小鬼を殺す者。

 たとえ夢の中であっても、ゴブリンどもは皆殺しだ。

 そう、ゴブリンスレイヤーなら!

 

 だから、たとえ収穫祭の辺境の街を、本当に小鬼が襲うとしても。

 彼がいるなら、我慢できる。

 

「ああ、お逢いできるのが、待ちきれませんわ……!」

 

 

<『2.剣の乙女の昂揚』 了>

 

 

 うきうきと思春期の少女のように衣装を選ぶ剣の乙女を前に、侍祭の女性は思案げにしている。

 

(別の女性との逢い引きの後だとは、お伝えしない方がよろしいでしょうか……)

 

 どうにも、小鬼殺しとは、罪作りな男のようだった。

 

 

 

  ○●○●○●○●○

  ●○●○●○●○●

 

 

3.ちんまい用心棒

 

 TS圃人斥候は、冒険に行かないときは、よく歓楽街に入り浸っている。

 無用な散財はしないように気をつけているが、馴染みの店はいくつもあり、結構な稼ぎをつぎ込み、売上に貢献している。

 それでも金が貯まるくらいには、半竜娘一党は稼いでいるのだが。

 

 一方で、つい最近から、売上以外の面でも、歓楽街に貢献している。

 

「はぁー、クソがよ。どこのどいつの仕掛(ラン)だ、あぁん?」

「がっ!? くそ、貴様、仕掛人(同業者)か!?」

「一緒にすんじゃねーぞ、クソが」

 

 TS圃人斥候は、小さな裸足の足裏で外套の男をゲシゲシと転がしている。

 圃人(レーア)は基本的に裸足なのだ。

 

「クソが、うちの店(んとこ)の従業員を攫おうたあ、ふてえ野郎だ、なっ!」

「があっ!?」

 

 祭りの前。

 人の流入が増えるに従い、不逞の輩も入ってくる。

 それは、自然の成り行きで、仕方のないことだ。

 掏摸(すり)に、窃盗、詐欺、誘拐、強姦、場合によっては強盗、殺人、火付。

 

「ああまったく! こいつで何件目だっつの!」 ゲシゲシ!

「うぐっ、ぐはっ!」

 

 TS圃人斥候がやってることは、用心棒だ。

 

 経緯は大したことではない。

 行きつけの店の従業員たる女の子が無頼漢に迫られていたのを一蹴したことをきっかけに、その腕前を見込まれて、また噂を聞いたいくつかの店で、予定が合うときにと用心棒を請け負うことになったのだ。

 歓楽街側も、律儀に冒険者ギルドを通じて依頼を出してくれているのでTS圃人斥候側の実績にもなり、WIN-WINだ。

 黒曜等級の割に腕がいいのでお得だし、(身体は)女の子であるということで、男の護衛には頼めないようなこともお願いできる。

 

「今度は何処(どこ)何奴(どいつ)のどんな仕掛だ!?」

 ゲシゲシ!

 

「夢魔浄滅派に頼まれてサキュバスぶち殺しに来たのか!?」

 ゲシゲシゲシ!

 

「娼婦に産ませたどこぞの御落胤をお家騒動にならねーように摘み取りに来たか!?」

 ゲシゲシゲシゲシ! ハァハァ……

 

「それとも街で見かけた美人を囲おうと攫いに来たか!?」

 ゲシゲシゲシゲシ! ハァハァ……

 

「違法奴隷商の仕入れか!? 古代兵器の生体パーツの適合者でも見つけたか!? なんとか言ったらどうだ!!」

 ゲシゲシゲシゲシ! ハァハァ……

「も……」

「あぁん!?」

 

「もっと踏んでください!!」

 

 うわあ(どん引き)

 

「変態! 変態! この変態!! ド変態!! EL(エル)変態!! 変態ランナー!!」

「ありがとうございます! ありがとうございますっ!!」

 

 

 

<『3.ちんまい用心棒』 了>

 

 

  ○●○●○●○●○

  ●○●○●○●○●

 

 

4.おめかししましょ

 

 文庫神官は、祭りで半竜娘とデートする用に頼んだ服を引き取りに、仕立て屋に来ていた。

 

「受け取りに来ました~。これ割り符ですー」

「はい、出来上がっておりまーす! こちらです!」

「わあ! いい仕上がりですね! 渡した前金で足りましたか?」

「十分足りました! あと、他にも都の方の流行も教えてもらって、こっちも勉強になりました!」

 

 仕立て屋の店員から、出来上がった服を受け取り、広げて合わせてみる文庫神官。

 

 最近の王都の流行りは、身体のラインが出るようなものが多い。

 文庫神官が頼んだのは、少しタイトめのニットワンピースで、勇気を出して膝まで出る丈のものだ。

 編み模様も凝っているもので、ケーブルやダイヤモンド、ツリーなどを組み合わせている。

 色については落ち着いた薄いブラウンで、秋色を演出。

 

「いい仕上がりですね! それで、もう一つの方は、と……」

「そちらも自信作ですよ! クールな造りのコートですよね!」

「もともとは、前線で兵士さんたちが着るようなものだってことですけど」

 

 仕立て屋が取り出したのは、厚手の上等な布で作られた塹壕外套(トレンチコート)

 ボタンやベルトが多くついており、いろいろなものを吊るせるような、実用にも耐えるもの。

 しかも、かなり大きなもので、間違いなく、文庫神官本人のためのものではないとわかる。

 

「サイズはこれでよろしかったのでしょうか」

「ええ、肩回り、尾を出すためのスリット、胸の立体裁断……間違いありません! お姉さまに抱き着いたときに実測しましたし、知識神様お墨付きの探査測量術でも確認しましたので!」

 

 神官としての技量の無駄遣いでは?

 仕立て屋の店員はそんなことを思ったが、しかしそこは商売人なのでそんなことは口には出さない。

 

 ともかく、これを半竜娘に着せるつもりらしい。

 

「中は薄着で、そこにこの塹壕外套(トレンチコート)! 颯爽と裾をなびかせて歩くお姉さまに、街の人たちも注目間違いなしです!」

 

 しかも中はその分、薄着にさせるらしい。

 

「中に着ていただくその薄着もこちらに」

「……パーフェクトです。上は私とお揃いの柄で脇は大きめに空いたノースリーブニットに、下は頑丈な帆布生地のパンタロン、これならお姉さまの手の爪や蹴爪も引っ掛からずに着れるでしょう。もう一度言います――パーフェクトです」

「感謝の極み」

 

 ズビシィッ、と擬音が付きそうなほどに折り目正しく仕立て屋の店員が礼をしたそのとき。

 

 外扉を大きな音を立てながら開く者が。

 

「たのもう! 助けてくれ!」

「いらっしゃいませー、ご用件は――」

「久しぶりに平服を着たら肩が入らん! どうにか、どうにかならないだろうか!?」

 

 入ってきたのは、泣きそうな顔をした女騎士。

 重戦士一党に所属する至高神の神官戦士で、はた目からも一党の頭目である大剣を持った重戦士に懸想しているのがバレバレな女傑だ。

 その女騎士の手には、清楚可憐な白のワンピースドレス。

 

「明日の収穫祭に着ていく服が――」

「お、落ち着いてください、お客様。肩回りは布地の重ねの余裕を持って仕立ててある場合が多うございますので、仕立て直しもできるかと」

「し、しかしそれでは肩や腕が太いことが丸わかりになってしまうのではなかろうか……!?」

 

 聖騎士として鍛えた膂力には何ら恥じるところはないが、それと乙女心は別である。

 

「であれば、ゆったり目のケープのようなスリーブにしたりといった方法もございます。緩い袖で、どこまで身が入っているのかをごまかすのです。それに、ちょうどその色でしたら、似た色の生地の在庫がございます。お急ぎということでしたら、多少の手間賃は上乗せされますが……」

「か、構わない! 一番いい方法で頼む!」

 

 どうやら次の商談が始まったみたいだと、文庫神官は、女騎士の注文を聞いて採寸を始めた店員に目礼して店を出た。

 出るに合わせてからころと呼び出し木鐸が後ろで鳴り、気づけば既に日はだいぶ傾いて夕刻までもう少し。

 腕に抱えた自分の服と、半竜娘の服を丁寧に鞄に入れなおし、さて宿に戻って手持ちのアクセサリーや鞄と合わせてみるかと、足取り軽く帰路に就いた。

 

 

<『4.おめかししましょ』 了>

 

 

  ○●○●○●○●○

  ●○●○●○●○●

 

 

5.ゴブリン退治はイサオシ無き死のフィールド……ゴブリンスレイヤーがゴブリンの力の十全の発揮を待つことなどありえぬのだ……

 

 

 一党のメンバーを先に帰した半竜娘は、西日が赤さを増していく中、街の西に(しつら)えた儀式場で、明日のための最後の仕上げをしていた。

 

「よし、置き太鼓(ジャンベ)に皮の破れや弛みなし。中空抱え太鼓(トーキングドラム)も、紐の調子良し。共鳴用瓢箪つき木琴(バラフォン)の音階の狂いナシ。こっちで屑鉄を細く伸ばしたやつで作った親指ピアノ(カリンバ)を弾いても、音の濁りナシ」

 

 テンテンタムタム、タントンミョーントトトトン、ケンケンキンポンテテテポ、ポンピンビリビリポンピピピン……。

 不思議な異国の音色が、一帯に響き渡った。

 

「うむうむ。懐かしき響きかな」

 

 満足げにして感慨にふける半竜娘。

 それは、夕日色の草原と相まって、非常に絵になっていた。

 

「――して、何か用かの、ゴブリンスレイヤー?」

「……ゴブリンの用心だ」

 

 近づく影に気づいていた半竜娘が、楽器を空間拡張鞄に片付けながら尋ねた先には、いつもの彷徨う鎧と見紛うような冒険者――ゴブリンスレイヤーの姿があった。

 彼が背負うのは、幾つもの木の杭と、ロープ、円匙などなど。

 

「罠でも仕掛けるのかや?」

「そうだ」

「であれば、儀式場には掛からぬようにしてくりゃれよ? 明日の夜はここで祖竜に奉納する儀式をやるのじゃ」

「そうか。わかった」

 

 簡単に言葉を交わして、ゴブリンスレイヤーは森の中へ。

 そしてそれに近づいていく半竜娘の分身体(本体の方は儀式に用いるものの確認を続けている)。

 

「なんだ」

「どうせお主のことじゃから、疲れが溜まっておろうと思ってのう――ほれ【賦活(バイタリティ)】じゃ」

「……そうか」

 

 祖竜のもたらす活力の奇跡が、ゴブリンスレイヤーの疲労を癒す。

 

「……助かった」

「よいよい。

 ああ、もし明日の夜、この辺りにゴブリンが来たら、手前(てまえ)がきちっと土に還しておくから安心せい」

「そうか」

「そうだとも」

 

 このあとめちゃくちゃ、罠の設置も手伝った(ブービートラップの知識+)。

 

 

<『5.ゴブリン退治はイサオシ無き死のフィールド……ゴブリンスレイヤーがゴブリンの力の十全の発揮を待つことなどありえぬのだ……』 了>

 

 

*1
勇者は迷わない:オートマッピング機能搭載済み、目的地ピン&コンパス付き

*2
はじまりの勇者たち:DQ(ドラクエ)3の主人公一行。DQのロトシリーズの時系列ではDQ3が一番初めにあたる。

*3
青き鎧の万能戦士:DQ1の主人公。ミスター竜退治(ドラゴンクエスト)

*4
三番目の勇者:DQ2の勇者一行。もょもと。プリン。とんぬら。

*5
剣聖ちゃんの血筋:ゴブスレ原作では何もまだ言及ナシ(のはず)。もょもとの子孫ってのはオリ設定だよ!

*6
牙の塔:ゴブスレ原作には賢者の出自について言及はない(はず)だが、そういう養成施設で魔術と、勇者に着いてけるだけの最低限の身のこなし(=四方世界の上位クラス)を身につけてるとか、そういう感じだといいなと思う。




半竜娘ちゃん一党の中で今回唯一触れられていない森人探検家ですが、たぶん、人の流入が多い=情報も集まって更新される、なので、ローグギルドで情報収集してるんじゃないかと。


◆◆ダイマ重点◆◆
本日10/12はゴブリンスレイヤーのコミック(本編(無印)、外伝1(イヤーワン)、外伝2(ダイ・カタナ))の怒涛の新刊発売日だ!
そして、10/14には原作小説最新刊も出るぞ!
(二次創作の作者は、原作が元気でないと萎れるのでな……。これ(ダイマ)もゴブスレのため……。卑怯とは言うまいな……)
◆◆ダイマ重点◆◆


◆ゴブリンスレイヤー 原作小説最新刊(13巻 2020/10/14発売)が試し読みできるぞ!
https://r.binb.jp/epm/e1_157944_01092020144750/

◆剣聖ちゃんと賢者ちゃんのSD絵付きの13巻目次だ!
https://twitter.com/GoblinSlayer_GA/status/1311971151871057921/photo/1


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25/n 収穫祭-1(with 森人探検家+TS圃人斥候)

閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ありがとうございます! 今回はほぼオリキャラたちがわちゃわちゃするだけなので閑話みたいなもんですが、皆さんの無聊の慰めになれば幸いです。感想励みになっています、いつもありがとうございます!


●前話:
モブ仕掛人(ランナー)「仕掛に成功すれば金が入る、失敗したら可愛い圃人に踏んでもらえる……どっちに転んでも、俺に“負け”は無えぜ……!!」
TS圃人斥候「(無敵か、こいつ……!?)」(どん引き)

なお衛兵に引き渡される前に、隙を見て逃げた模様。
たぶん、バックアップの仕掛人(ランナー)が脱走手助けにあたって良い仕事をしたおかげ。

モブ仕掛人(ランナー)「いやあ、助かったぜ! ありがとな、相棒!」
相棒仕掛人(ランナー)「……次、趣味に走ったら見捨てるから。あと幸か不幸か、依頼人が()()()()()()()()()()()()()()()ラレタから、依頼は立ち消え。
 ……こっちの実績にペケは付かない」
モブ仕掛人(ランナー)「おっ、そりゃ不幸中の幸い。前金貰っといて助かったな! 『収穫祭の日限定報酬上乗せキャンペーン』とかで多少色もついてたしな」
相棒仕掛人(ランナー)「ああ、なんか、『収穫祭の日とその前日の仕掛(ラン)なら何でもいいから上乗せしろ、広く浅く、その日にたくさん仕掛をこなさせろ』って雑な指示で大金を置いてった太っ腹な白塗りエルフ(闇人)がいたとか。
 おかげでこっちは依頼人からの前金と、その白塗りエルフの上乗せ分で儲けたけど……でもしばらく大人しくしとこう、依頼人をやったっていう凄腕三人組に目を付けられたくもないし」
モブ仕掛人(ランナー)「そうだなー」



超勇者ちゃんRTA走者「空き時間にイベントサーチして陰謀を色々と挫いて人助けすることでフレア(判定ボーナス値のストック)が貯まります。なので、疲労しない範囲で効率よく悪事の大元を狙って叩きます。下っ端相手は時間効率的にマズあじなので、無視するか衛兵に任せます。勇者が採るべきは斬首戦術一択です。
 ……うーん、なぁんか思ったより介入できるプチイベントが多いですが、ここで貯めたフレアは、後のチャートの安定化とタイム短縮に繋がるので、積極的にカチコミします。うまあじ、うまあじ」



※相棒仕掛人について:あなたは、巨乳美人(片恋慕)な相棒仕掛人を想像してもいいし、女顔の弟(苦労人)を想像してもいい。


 


 

 

 

 はいどーも!

 そーれそれそれ、お祭りだーー!! な四方世界実況、はじまるよ!

 

 前回は、街の西に儀式場を築いたのと、超勇者ちゃん一行をやり過ごしたところまでですね。

 

 そして明くる日。

 

 収穫祭当日です。

 

 半竜娘ちゃんは、いつものように就寝前に【分身(アザーセルフ)】の呪文で分身体を作り直して、スヤァして呪文使用回数を回復させています。

 本体と分身で16回も呪文使えるのはヤバいですね、マジで。

 本体は分身を出すのに専念し、分身をオーバーキャストで使い潰しつつ、『黒蓮花弁のカード』の補助ありの瞑想で呪文使用回数を回復させながら運用すれば、さらに呪文使用回数が増えてえらいことになります。

 

「魔女殿は――」「――おめかし中のようじゃの」

 

 半竜娘ちゃん()が下宿させてもらっている家の中の気配を探れば、どうやら家主の魔女さんは既に起きて、今日の槍使い兄貴とのデートの準備をしている気配。

 朝早くから起きて、うきうきとおめかしする綺麗なおねーさん、尊い。尊くない?

 

 半竜娘ちゃんは、分身と本体でまったく同じ動作で同じタイミングで、ぅん、と伸びをして、暖気のために朝日の入る窓辺の好位置を取り合いつつ、鏡合わせのように顔を見合わせます。

 

「手前らも手早く朝の日課をこなして」*1

「そんで準備して出かけるとするかの」

「そうするのじゃ」

 

 そういうことになった。

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 そして待ち合わせの街の広場。

 ぼちぼち祭りの屋台も始まっています。まあ、そういう早くから開けてるのは朝食の屋台も兼ねてるようなところですが。

 約束の時刻の鐘が鳴るまではまだしばし時間があります。

 

 一党のうち何人先に来ているか、1D4-1で(一番乗り~重役出勤)ダイスロールです。

 

 ◆先に来ていた人数:1D42-1。

 

 ということで、1人先に来ています。

 さて、誰が先に来てたか……1D3振って、1~3の加入順に従って判定します。

 

 ◆誰が来ていた?:1D31

 

 ……どうやら、加入順1の森人探検家ちゃんが先に来てたようです!

 

 待ち合わせ場所の広場にあるベンチに座って、朝食のつもりか肉串を食べています。

 

「あら、あなたも案外早かったわね」

「まあ、これでも僧の端くれじゃし。朝は早い方じゃよ。そっちこそ早いのう」 そう言いながら、半竜娘ちゃん()はベンチの両隣に腰かけます。

「実は寝てない」 キメ顔で妄言を宣う森人探検家。

「ふはっ、祭りが楽しみで寝られん(たち)でもなかろうに」

 

 仲間の意外な側面を見たような気になって、半竜娘は愉快に笑います。

 森人探検家は、それに対してむくれるでもなく、手元の肉の串を食べながら、据わった目と不敵な笑みで答えます。

 

「前夜祭って言葉、知ってる?」

「知っとるが、夜通しはせんものじゃろ」

「普段と違って夜通しやってる店も多くなるってことよ。いろいろとローグギルドで情報収集した後に、ばったり旧友と会ってね。ほら、あなたも知ってるでしょ? 緑の髪の森人で、魔術師の」*2

「おお、森の砦を一緒に焼いた! そうじゃそうじゃ、お主を紹介してもらった森人じゃな」

「そうそいつよ。で、まあ、最近の冒険のことを話してたら、いつの間にか夜明けだったってわけ」

 

 だめな大人じゃん。

 いや、そりゃ森人は常に全盛期の肉体だから、徹夜程度は問題ないんだろうけどさ?

 

「それじゃと、術を使うのに支障が出るじゃろ。お主も、緑髪の友人も」

「そーなのよね。まあ、ちょくちょく寝落ちしたりウトウトしてたりしたから、あと2・3時間寝れば呪的資源(リソース)は全快すると思うんだけど」

「それなら、いま暫く寝たほうがよかろ」

 

 それを聞いて、悪童のようにニヤリと笑う森人探検家。

 食べかけの肉の串を半竜娘の分身の口に押し込みます。

 

「むぐ?!」

「言質はとったわよ。じゃあ、よろしく~」

「んむ、おおっと?」

 

 そのままベンチで横に座ってきた半竜娘の分身の方にトサっと身を預けて、あっという間に寝入ってしまいました。

 いつでもどこでも、スイッチを切り替えるように寝られるように、そういう技能でも会得しているのかもしれません。

 種族特性か、個人の資質か、あるいは、クソマンチ師匠の特訓の賜物かまでは分かりませんが。

 

「すぅ、すぅ……」

「寝ておる……しかしまあ、やはり美しいものじゃのう」

 

 朝日に照らされる森人の美しさに目を奪われること暫し。

 

「あ、そういえば肉は食わんつもりじゃったのに」

「【胃石(ベゾアール)】の術が解けとるの」

「食ったのが分身の手前の方で良かったと思おう」

(しか)り。まさかそこまで読んで……?」

 

 本当は潔斎中で肉を食べる気はなかったのですが、つい肉を口にしてしまったので、分身体の方は【胃石(ベゾアール)】の術が解けてしまいました。

 本体の方の術は解けてないので、決定的な失敗というわけではないですが。

 それも見越して、本体と分身を見分けた上で、分身の方に食べさせたのだとしたら、森人探検家は、半竜娘のことをよく分かっています。

 さすが、一番つき合いが古いだけありますね。

 

「……他の者が来るまでは寝かせてやるかの」

「そうじゃの。さて、【胃石(ベゾアール)】の術が切れたことじゃし、分身体(てまえ)は今日は、2人と食べ歩きかの。圃人(レーア)の嗅覚なら美味いものが食えるじゃろ」

「であれば、本体(てまえ)灯明の娘(文庫神官)とじゃな!」

 

 分身体は肉串を食べ終えると、阿吽の呼吸で本体の方へ、残った串を差し出しました。

 半竜娘ちゃん本体は、ベンチで挟まれて寝ている森人探検家の頭上経由で、肉串の串だけ受け取ると、バリバリと噛み砕きます。

 ……エ、エコですね……。

 

「んじゃあ、本体(手前)は屋台から何ぞ飲み物と摘まめるものでも貰ってくるかの」

「骨付き肉でもあれば、肉は分身体(手前)が、骨はそっちが食べられるんではないかの」

「あんまり食べ過ぎると、そのあとの食べ歩きで食えんようになるぞ」

「大丈夫じゃろ。あ、チーズ付きのがいいのじゃ」

「はいはい、分かったのじゃ。味覚は共有してくりゃれよ?」

 

 森人探検家に寄りかかられている方(分身体)を置いて、半竜娘ちゃん本体は屋台を物色しに立ちました。

 

 残された半竜娘の分身体の方は、思わず寄りかかって寝ている森人探検家の髪を撫でてしまいます。

 酒を飲んでの徹夜明けなら身体から悪い匂いがしそうなものですが、森人探検家の身体からは、まるで早朝の森の中のような清冽な匂いがします。

 金色の長い睫毛は、朝日の中でまるで細かなガラス細工のようにきらめいています。

 

「……煩悩が湧くから、瞑想でもしながら待つかの……」

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 ◆次に来たのは誰?(森人探検家のあとの加入順):1D21

 

 ダイスロールしたら、順当にTS圃人斥候がやってきたので、寝ている森人探検家を挟んでベンチに座ってもらいます。

 半竜娘(本体)は、その隣に立って文庫神官を待っています。文庫神官がやってきたら、そのまま祭りに繰り出すつもりです。

 

「聞いてくれよー、リーダー。昨日さー、歓楽街で用心棒してたらよー」

「用心棒なんぞしとったのか、お主」

「あれ、言ってなかったか。まあ、馴染みの店から頼まれてさ。そしたらなんか知らねーが、お店の子を攫おうと仕掛人(ランナー)が来てよー」

 

 森人探検家を起こさないように、小声でやり取りする半竜娘(分身)とTS圃人斥候。

 しばらく話し込んでいるうちに、本体の方の半竜娘ちゃんは居なくなっていますね。

 たぶん、文庫神官と合流して、そっと静かに出かけたのでしょう。

 

「うぅん……」 森人探検家が、悩まし気な声とともに目をあけました。

「あ、起きたのじゃ」

「パイセン、おっはよー!」

 

 くぁ、と伸びをして、森人探検家はパチクリと眠気を覚まします。

 

「ああ、おはよぅ。あら、あの子は?」

「新入りなら、リーダーの本体をおめかしさせに、自分の泊まってる宿に引っ張ってったぜ」

「結構かっこいい服を持って来ておっての! 王都の方の流行りだとかで。髪も結ってくれるそうじゃ」

「へえ、起こしてくれても良かったのに。わたしもその服、見たかったわ」

「いくらでも機会はあるじゃろうさ。何なら祭り中にすれ違うやもしれんし」

「そうね、楽しみは後に取っとく」

 

 森人探検家は、ふぁ、と欠伸(あくび)を一つ。

 それじゃあ行きましょうか、と立ち上がり、半竜娘とTS圃人斥候を引き連れて歩き出した。

 

「2人はどこか行きたいところはあるかしら?」

「オイラは掘り出し物が無いか、ガラクタ市を見たいぜ。【鑑定】の手袋もせっかく買ったんだし、有効活用してやらねぇとな」

手前(てまえ)は、こやつが用心棒しとるという店が屋台でも出しとれば、そこに行きたいのう。……そう言うお主は?」

「牧場の品を使った甘味とか、あなたの武勲詩を歌う吟遊詩人を冷やかしたりとか、どうかしら」

 

 まあ、大まかにやりたいことを決めておけば良いでしょう。

 ぶらつくうちに、見たいものも、食べたいものも、飲みたいものも出てくるでしょうから。

 なんてったって、年に一度の収穫祭ですからね!

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 屋台で肉を挟んだパンを買い食いしたり、牧場主の出店の“あいすくりん”を食べたり、春先の古竜殺しにあやかったのかドラゴンの意匠の小物がやたらと売られているのを冷やかしたり、吟遊詩人が歌う半竜娘ちゃんの武勲詩を後方出資者面しながら聞き入っておひねりを投げたり。

 

「で、歩いてるうちに、オイラの用心棒先のやってる店というか、出し物のとこまで来ちまったわけだが、寄ってくかあ」

「へえ、無難に飲み物と休憩スペースを提供してるのね」

「さすがに綺麗どころが多いのう!」

 

 とか言って適当に果実水を注文して手に取り、設えられた席に着くと、どうやら店員の女の子たちがTS圃人斥候に気づいたようです。

 

「ちっちゃ先生来た」「ちっちゃ先生だ」「一緒にいるのはお仲間?」「森人と蜥蜴人、どっちも綺麗ー」「大丈夫かな、うちら負けてない?」「大丈夫、私らもイケてる」

 

 店員の女の子たちは、ひそひそざわざわと小声で話をしてます。

 

「あんた、“ちっちゃ先生”って呼ばれてるの?」

 エルフの長耳にはバッチリ聞こえてたみたいですが。

 

「あー、まあ、只人や獣人に比べりゃ背はちっせーし、どこの詩で覚えたんだか用心棒なら“先生”って呼ぶんだとか言い出して……」

 威厳がない呼び名だと思ってるのか、苦虫を噛み潰したような表情のTS圃人斥候。

 

「慕われておるようじゃのぅ。良きかな良きかな。一時期は人でも殺さんと思い詰めてた者には思えんのじゃ」

 仲間が街に根付いていることを嬉しく思う半竜娘ちゃんは、リーダー的な視点が身に付いてきたようです。

 

「昔のこと混ぜっ返すなよ~。今はもう、きちんと心を入れ替えたんだって……」

 TS圃人斥候は、叱られた子供のように、少し拗ねた顔で果実水を啜ります。

 

 そこに店員の女の子の一人、おそらくは牛の獣人でしょうか、頭の角と大きな身体とその体に比してもなお大きな胸を備えた女給が、TS圃人斥候を後ろから抱きかかえました。

 特に害意は感じられなかったのか、TS圃人斥候もなすがままですし、半竜娘ちゃんたちも止めはしませんでした。

 

「おん? 何すんだよいきなり」

「ちっちゃ先生、せっかくのハレの日に、いつもと同じ服装は頂けませんわ」

「は?」

「こんなこともあろうかと、ちっちゃ先生のために、お似合いになるだろう服を用意しておりますの」

「は?」

「お連れ様方、ちっちゃ先生を暫くお借りしても?」

「構わんぞー」「期待してるわ、思う存分やっちゃって」

「は?」

「ありがとうございます。では、ビフォーアフターに乞うご期待でございます」

「は? いや待て、抱え上げるな、足がつかねーだろおい待てって!」

 

 まだなんか事態がつかめていないTS圃人斥候の脇に手を入れて抱え上げたまま、牛人女給は出店の奥の店舗の方へ。

 

 …………。

 ……。

 

 待つこと数分。

 

「くっ、屈辱だ……!」

「おー、おー、おー」「わぁ、いいじゃないの!」

 

 そこにはフワフワ甘ロリ風衣装に包まれたTS圃人斥候の姿が!!

 

「でしょ! やっぱりおめかししてナンボよね、女の子だもの!」

 豊満な胸を反らす牛人女給。

 

「あの【辺境最高】の大剣使いのとこのドルイドと似た格好じゃの。圃人(レーア)の民族衣装かや?」

「少なくとも、オイラの庄の文化じゃねえ……」

 どうやら圃人巫術士とTS圃人斥候は、出身地が違うようです。

 

「まあまあ。似合ってるからいいじゃない! それに暗器とかいろいろ隠せそうだし、市街戦(シティアド)にはこれからも使えるかもよ!」

「そのニヤケ面を引っ込めてから言えば少しは説得力もあったかもな!!」

 できるなら頭につけられたレースで作られた大きな花飾りを叩きつけていたのに、というくらいにジト目で森人探検家を睨むTS圃人斥候。

 

「似合ってる似合ってる」「おう、愛らしいのじゃ」

 ニヤニヤしながら揶揄(からか)う半竜娘と森人探検家に対して、プイッと顔を背けながら、TS圃人斥候は牛人女給とは別の店員を呼びます!

「“そんなことよりお腹がすいたよ”、だ! これで何か適当に買ってきてくれよ!」*3

 TS圃人斥候が銀貨を何枚か投げると、店員の娘はそれを受け取って「はぁ~い、ちっちゃ先生~」と甘ったるく返事をして、近くの屋台へと向かいます。

 そんなTS圃人斥候の様子にますます笑みを深める仲間の2人でした。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 さて、引き続いてやってきましたのは、中心からちょっと離れて、街門のそばの広場で催されているガラクタ市。

 要は、フリーマーケットみたいなものですかね。

 周辺の村からの出品もあり、街の住人からの出品もあり、こういった祭りの場を梯子して店を広げる行商人の出品もあり。

 あるいは、引退した冒険者が広げた店なんかには、意外な出物もあるとかなんとか。

 

「というわけでやってきたのじゃガラクタ市」

「掘り出し物って響きがいいわよね」

「いい……」

 

 ざっと見渡すだけで、多種多様な出品者、商品が目に入ります。

 

「やはり多いのは毛皮や保存食の類かのう」

「これから冬になるから鉄板よね」

「あとは内職で作ったらしき木工品の食器とかだな」

「あ、あっちは刺繍したタペストリーがあるわ」

 

 あちこちと目移りしてしまいますね。

 

 他にも門の傍ということで、流しの蹄鉄屋が店を広げて火を熾しています。

 蹄鉄を外して歪みを叩いて直し、伸びた蹄を削ってまた蹄鉄を再装着。

 店を出しに馬車を曳かせてきた行商人もそれなりに居て、蹄鉄屋に診てもらおうと順番待ちに並ぶ者もいます。

 

「とはいえ、狙うならやっぱり魔法の武器とか、いわくつきの呪具とか、そういうやつがいいのう」

「いやいや、そうそう並ぶもんじゃないでしょ、そういうのは」

「そうだぜリーダー、なかなか見つからないから掘り出し物ってんだしな」

 

 まあそうですよね――

 

「「 だから見つけるために【加速】の真言呪文ちょうだい 」」

 

 ――ファッ!?

 お宝探しで目星の達成値を底上げするために呪文使わせる気や!

 ガチやん!!

 

「……あー、分かったのじゃ。セメル(一時)キトー(加速)オッフェーロ(付与)

 半竜娘ちゃんがネックレスの発動体に触れながら呪文を唱えます。なお、今日は紅玉の杖(ガーネットスタッフ)は置いてきたので、いつもより装備品ボーナスが低くなります。

 

 ◆半竜娘(分身)【加速】行使×2

  For 森人探検家 :基礎値20+付与呪文熟達3+2D645=達成値33

  For TS圃人斥候:基礎値20+付与呪文熟達3+2D613=達成値28

 

  ・加速ボーナス:森人探検家+4、TS圃人斥候+3

  ・半竜娘(分身)呪文使用回数8→6回

 

「ありがとう、これなら良いものを見つけられる気がするわ……!」

「オイラもそんな気がしてきた……!!」

「あー、いや? そもそも掘り出し物自体がない可能性もあるじゃろ? 当たりのない籤箱からは当たりは出らんのじゃよ?」

「夢を持とうぜ!」 「冒険者でしょ!」

 

 お、おう。

 そんな感じで、2倍機敏に動けるようになったTS圃人斥候と森人探検家に連れられて、さかさかと市場を練り歩きます。

 

「毛皮か……冬の冒険はどうする? 冒険行くなら防寒具の準備は必須だぜ?」

「いろんな村から食料救援の予約が入っとるからのう、冬も村々をめぐって山野を駆けずり回るつもりじゃよ」 半竜娘が、手を動かして、だだだーって感じの馬車を走らせる身振りを示します。「……そもそもこの辺はどのくらい寒くなるのじゃ?」

「そうねえ、山の方は、太ももや腰のあたりまで雪が積もるらしいわ」 森人探検家が腰や太もものあたりに手を上げ下げして示します。「まあ、わたしはあんまり雪山の依頼は受けないけどね、寒いし、弓矢の補充に植物も力貸してくれなくなるし。冬はもっと雪の少ないとこの遺跡を探索することが多かったわ」

 

「雪……雪自体初めて見るのじゃよなあ。楽しみでもあり、恐ろしくもあり」

「ふーん、ならやっぱりしっかり毛皮の準備した方がいいぜ。羊毛編んだやつでもいいが。どっちにせよリーダーの背丈身幅だと、古着じゃ揃わねーだろうから特注になるだろうし」

 半竜娘ちゃんは縦も横も奥行きもでっかいですからね、筋肉とお胸で。

 

「いや、耐火外套(ミスリルめっきグラスウールコート)があったでしょ? あれは内も外も熱を遮断するから、防寒具にもなるんじゃないの?」

 森人探検家が言っているのは、火吹き山の闘技場で、炎の悪鬼バル□グと戦うために買った装備のことですね。

「おお! なるほど!」

「余分にあるに越したことはねえさ。幾つか毛皮も買っちまおう。なんかリーダーは寒さに弱そーだしな」

 

 冬支度大事ですよねってことで、「リーダーは冬眠はしねーの?」「恒温動物じゃからな、手前は」「むしろわたしが冬眠したいわ、森のリスみたいに」などとやり取りしながら毛皮を買ったり。

 

 

「ほうほう、石屋もあるのか! ちょうど知識神の文庫に納めた樫人形に組み込む【幻影】の魔道具用の触媒が必要なんじゃった」

「小粒な宝石だけど、こんなんでいいのか?」

「どうせ何度か試しに作るんじゃから、試作に上物使ってもしょうがなかろ」

「そりゃ確かに」

 魔道具作りに必要な道具を買ったり。

 

 

「……さっきから何をそんなゴミみたいなの買い集めてるのよ……?」

「どっかのガキがおままごとで出店してるやつだっただろ、絶対。あのガキ、銀貨見て、めーっちゃびっくりしてたぜ?」

「ああ、これは精霊術の触媒にするんじゃよ。森人は精霊に愛されまくっておるからあんまり触媒とか気にせんじゃろうけど」

 精霊術の触媒を買い足したり。

 

 

 

「おっ、お主の前のパーティの妖術師のおなごじゃな。こんなガラクタ市で何を……」

 半竜娘の視線の先には、フード付きローブに身を包んで髪を垂らして片目を隠した陰気な、いかにも妖術使いといった風情の女の姿が。

「んー? あら、ガラクタ市なのに本なんか売ってるのね。本って高級品なのに。あの子、それを買うかどうか迷ってるのかしら?」

 妖術師が並んでいるのは、雑貨を適当に並べたような露店の前で、その商品の一つのしっかりした装丁の本を穴が開くほど見つめています。

「あー、なるほど。あいつの術に使う秘本を買うかどうか迷ってるんだよ、あれ。普通は市場に出回らないらしいしな。遠くの国の軍で使ってるもんらしくて管理が厳しーんだと」

「なら機会を逃さずすぐ買えばよかろうに」

「こんな場末で売ってるのが、はたして本物かってことだろ? 偽物つかまされたら大損だ」

「確かにねー」

「オイラが追放されたのに向こうは昇級したらしいとは聞いてるけど、術系の道具って天井知らずらしいからなあ。青玉程度じゃまだ火の車だよなあ」

 

 斥候が居ないと宝箱とかの副収入の実入りも少ねえだろうしなあ……。よし、一肌脱いでやるかあ。などと言って、TS圃人斥候は【鑑定】が付与された手袋を手に嵌め、不確定名:妖術の秘本(?)を置いている露天商の前に立ってさりげなく【鑑定】します。

 ……ファンブルではなかったので、鑑定成功です。

 

 

 TS圃人斥候は手持ちから即金で支払うと、妖術師の女の方に買ったばかりの秘本を手渡して押し付けます。

 

「わっ、えっ?」

「兄が前にお世話になっていた一党の方ですよね! 買ったんですけど私では読めなさそうなので、プレゼントです!」

「あっ! 斥候の妹? 服装が違うからわからなかった……って、い、いやいやいや! 結構値段したでしょコレ!? 貰えないわよ!」

「いえいえいえ、兄がお世話になったので!! それで納得いかなかったら、貸しってことにしといてください!! では!! そのうち返してくれたらいいんで!」

「あ、ちょっと!!」

 

 ぴゅーっと半竜娘たちの方に戻ってきたTS圃人斥候。

 半竜娘と森人探検家は、TS圃人斥候と妖術師のやり取りを見てニヤニヤと笑っています。

 

「なんだよ!?」

「うむうむ、すっかり改心したようで手前も安心じゃよ」(・∀・)ニヤニヤ

「粋な計らいじゃないの! 感心したわ! 一日一回の【鑑定】の手袋の効果まで使うなんてね!」(・∀・)ニヤニヤ

「あ~、もう! 貸しを作っただけだって! そんだけ! 以上! 閉廷!」

 

 顔を真っ赤にしてたら説得力ないぞー。

 で、結局本物だったのかしら。

 

「目当てのものっぽかったから、それを使いこなして冒険続ければ、あっちの等級も上がるだろうさ! そしたら等級が上がったときに貸しを返してもらうんだっつーの!」

 

 あ、秘本は本物だったみたいですね。

 TS圃人斥候の元のパーティでもある妖術師・斧士・僧侶の一党は、原作小説ではちょくちょく描写があるんですよね。

 順当に行けば、それなりに出世するはずです。

 貸しを返してもらうというのも、荒唐無稽ではありません。

 

 では最後に、ガラクタ市で何か掘り出し物を見つけられたか判定します。

 

 幸運判定を行い掘り出し物があるかどうかを判定。

 さらにそれを見つけられたかどうかを、第六感判定や観察判定で判定します。

 

 

 ◆掘り出し物はある?(幸運判定 加速ボーナス適用ナシ。1D100に対抗判定)

  半竜娘(分身):魂魄持久11+2D653=達成値19 < 目標値1D100【24】

  森人探検家  :魂魄持久 3+2D626=達成値11 ≧ 目標値1D100【11】

  TS圃人斥候 :魂魄持久 6+2D635+幸運1=達成値15 < 目標値1D100【83】

 

 おっ、森人探検家が判定成功しました!

 何か、森人探検家が欲しがるような掘り出し物があるようです。

 

 掘り出し物判定に失敗していても、次の判定に成功すれば、市場価格が銀貨(さっきの幸運判定×10)枚までの品を、市価の3割の値段で手に入れられることにします。

 

 

 ◆掘り出し物や他にお買い得品を見つけられた?(第六感判定or観察判定)

  半竜娘(分身):(第六感)知力反射9+精霊使いLv5+2D626=達成値22

  森人探検家  :(第六感)知力反射10+野伏Lv8+加速4+2D614=達成値27

  TS圃人斥候 :(第六感)知力反射8+斥候Lv7+第六感2+加速3+2D651=達成値26

 

 森人探検家の達成値が25を超えたので、掘り出し物を見つけることができました。

 半竜娘ちゃんとTS圃人斥候も達成値が20を超えたので、それぞれ銀貨190枚まで、銀貨150枚までの品を7割引きで手に入れられます。

 

 

「……なんじゃ、この怪しい店は……巻物(スクロール)屋……?」

 半竜娘ちゃんたちが見つけたのは、巻物や古びた羊皮紙、何か書きつけられているパピルス、布切れなどをまとめて置いている露店でした。

 

「巻物だけじゃなくて、なんかメモだの古地図だのもあるみたいだけどよー……」

 TS圃人斥候は、胡散臭そうな目で見ています。

 

「宝の地図がないかしら!? わたしこういうお店って大好きなのよね~!!」

 森人探検家が目を輝かせています。

 あー、そうか、探検家ですからね、そりゃあ探検家が求める掘り出し物と言えば、宝の地図とか、遺跡の地図ですよね。

 

 

 …………。

 ……。

 

 森人探検家は、【宝の地図(大特価セット)】を手に入れた!

 真贋不明だが、一個くらいは当たりがあるはずだ!

 

 半竜娘(分身)は、魔法の布+1を手に入れた。*4

 TS圃人斥候は、魔法の布+1を手に入れた。

 投石紐にしてもよし、打布槍や拳帯にしてもよし、魔法の防具の修繕に使ってもよしだ!

 

 

 では今回はここまで。

 次回は、別方面にデートに行った文庫神官ちゃんの方の様子を見ましょう。

 

 それではまた次回~!

 

 

 

*1
半竜娘ちゃんの朝の日課:分身同士で鏡合わせに武術の手合わせしたり、精霊たちに捧げものして機嫌を取ったり、真言を復習して記憶野に焼き付けなおしたり、静かに祈祷して祖竜に祈りを捧げたりしている。やることが……やることが多い……!

*2
緑髪の森人魔術師:「10/n 山砦粉砕炎上」、「10/n 裏」にて登場。性格的には、皮肉屋、善意の出し方が迂遠、くらいの設定を考えている(緑髪のエレア的な)。原作小説1巻では山砦ごと火葬された人たちのうちの一人。

*3
そんなことよりおなかがすいたよ:アイレムが開発したゲーム「ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット」の主人公が会話中で選ぶことのできるトンチキ選択肢。これにより主人公は、どんな事件があっても動じない鋼メンタルの欠食児童と化す。

*4
魔法の布+1:打布槍+1(銀貨150枚)相当品。銀貨45枚にてお買い上げ。お買い得でしたね。




分量的に前後編に分けても良かったけど話を進めたいので分けませんでした。

森人探検家が上手い具合に掘り出し物を当ててくれたので、この機会に【宝の地図】を与えちゃいました。
これで、原作のイベントに介入する理由付けがうまく考え付かなくても、

森人探検家「宝探しに行くわよ!!」

で、現地で鉢合わせて介入する理由付けができるようになりましたね。
なんて便利な導入なんだぁ……!


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25/n 収穫祭-2(with 文庫神官)

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●前話:
森人探検家「宝の地図、ゲットだぜ!」


======

Q.超勇者ちゃんはカオスフレアに目覚めてるけど、敵の方は?

A.そっちはそっちで多分データ上は、ダスクフレアだったりEvil扱いだったりするんじゃないかと思います(バランスが取れてないと卓上遊戯として遊んでる神々も()()()()()と思うので)。
 まあ、天上の神々が遊んでるシステムが一つだけとは限りませんし? 『カオスフレア』やってる神様もいれば、『シャドウラン』やってる神様もいて、『T&T(洞窟とトロルのやつ)』や『D&D(墳墓と竜のやつ)』やってる神様や、『CoC(クトゥルフ神話)』に魔法(ファンタジー)サプリを合わせてやってる神様だっているのではないかと。他にも、古代文明の精霊(AI)が管理する地下アーコロジーに暮らすダークエルフ相手に『パラノイア』やって愉悦してる神様(UV様)がいる可能性も微レ存……。
 ――そう、四方世界の<宿命(フェイト)>と<偶然(チャンス)>の二柱のダイス神が織りなす可能性は無限大なのです!!
 


 

 はいどーも!

 前回は半竜娘ちゃんがデートする話で、今回も半竜娘ちゃんがデートする話だ!

 今回は文庫神官ちゃんとのデートですね。

 

 時間は午前まで戻ります。

 

 半竜娘(分身)に寄りかかって居眠りしている森人探検家。

 森人探検家を挟んで小声でおしゃべりしているTS圃人斥候と半竜娘(分身)。

 そんな彼女らに目礼して、最後にやってきた文庫神官ちゃんは、半竜娘ちゃん(本体の方)を連れて離れます。

 

 そして、文庫神官ちゃんの借りている宿屋にやってきたところです。

 初手ご休憩……? いえいえ、KENZENな付き合いですから、ご心配なく。

 

「では、お姉さま! おしゃれしましょう!!」

「おう、良いとも! それで、その服であるか?」

「はい! きっと似合うと思うんです!!」

 

 文庫神官ちゃんのテンション高くて可愛いですね~。

 彼女が取り出したのは、

  ・複雑な紋様で編まれたノースリーブの薄いブラウンのニット

  ・頑丈そうな布地で作られた、裾が広がった濃い色のズボン……えーと、パンタロンとかベルボトムって言うんですっけ

  ・その上から羽織る上等なトレンチコート

 の3点です。

 まあ実際は、ベルトだの小道具もありますが、メインはこの3つ。

 

 下着? 半竜娘ちゃんもつけてますよ。

 蜥蜴人は自前の鱗があるし、鱗の代謝は低いから下着がなくても服は汚れないじゃろって?

 ああ、むしろ服の内布を鱗のエッジから守るために下着(被害担当布)が必要なんですよ。下着というより『ロボットの関節カバー』的な感じ。

 蜥蜴人的に正装はマッパですけどね。裸一貫、爪爪牙尾こそ、竜の道。

 

 

 

 ~~少女お着替え中~~    ~~少女お着替え中~~ 

 

 

「これでどうじゃ!」

「素晴らしいです、お姉さま!」

「測らせた覚えもないのに、尻尾穴の位置までぴったりで感心したのじゃ。着心地も良し!」

 

 そして半竜娘が着替える間に、文庫神官も着替えています。

 半竜娘とお揃いの編み模様の薄いブラウンのニットで、こっちはワンピースです。

 ニットの伸縮性を生かして、身体にフィットするデザインになっています。

 

 そして文庫神官ちゃんの豊かな黒の髪の毛は編み込みのハーフアップに。可愛い!

 

「そしたら次は、お姉さまの髪の毛も結います!」

「任せた!」

「任されました!!」

 

 張りきった文庫神官は、半竜娘を寝台に座らせ、その尾を寝台の上に流すと、尾を跨ぐようにして寝台の上に乗り、半竜娘の烏の濡れ羽色の髪に櫛を通します。

 半竜娘も普段から浴場に通って香油を塗っているためか、櫛の通りはスムーズです。

 

 

 

 ~~少女髪結い中~~    ~~少女髪結い中~~ 

 

 

「できました!」

「ふむ、馬の尻尾のような髪型じゃの」

「うなじを出しつつ、髪の束を後ろに流して、歩くときにコートの裾と髪の先が颯爽と流れるようにイメージしました! 髪留めは角と意匠を合わせて見栄えがするものを!」

 

 ポニテ半竜娘ちゃんになりましたね。カワイイ!

 2人分の自前の手鏡を組み合わせて服装チェック。

 どうやら満足いく出来上がりのようです。

 

「良い仕上がりじゃ。では行くかの!」

「はい! 行きましょう、お姉さま!」

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 ニットワンピの文庫神官ちゃんがハンドバッグ片手に、ポニテにトレンチコートの半竜娘ちゃんを先導して歩きます。

 

「して、どこに行くのかの?」

「えーと、お姉さまは潔斎中で食事を控えてらっしゃるので、食べ歩きではないプランを考えています!」

「ほう……」

 

 最初にやってきたのは、水路の船着き場。

 遊覧ボートに乗ろうという魂胆です。

 

「おー、水路を走ったり、沼竜の牙を拾ったりしておったのが懐かしいのう」*1

「あら、お姉さまにも溝浚いをやられてた時期があったのですね」

 これは水を抜いた水路を走ったり、かいぼりしたりしたんだと思ってますね、文庫神官ちゃんは。溝掃除は白磁の冒険者が皆、通る道です。

 まあ普通は生身で水面走りできるとは思いませんわな。

 

「?? いや、普通に水面を走ったのじゃが」

「??? あ、【水歩(ウォーターウォーク)】の術ですか?」

「? 術ナシじゃが? ほれ、このように」

 そう言って、半竜娘ちゃんはごく自然に水面に足を踏み出し、すったんたん、と何でもないかのように向こう岸に渡っていきました。

 

「は? え? えぇ……?」

「まあ、そのときにコツをつかんでの。久しぶりにやってみたが、ふむ、ざっとこんなもんじゃて」

 文庫神官の困惑を軽く流すと、半竜娘ちゃんはまた水面を、たんぱっぱっ、と渡って戻ってきました。

「……。…………。さすがお姉さまです!!」

 

 さすおね!! って、思考放棄したな!? ……気持ちは分かります。

 ほら、水路の方を見ていた通行人たちも、二度見して目をこすったりしてますよ。

 水路を何事もなく歩いた半竜娘ちゃんを、白昼夢だと思ったんじゃないですかね。

 

「まあ、それはともかく、遊覧ボートに乗るのじゃ」

「そうですね! そうしましょう!!」

 

 小舟に乗って水路を遊覧すると、いつもとは違った視点から街を見ることになり新鮮です。

 水路の壁と水面で音が反射し、まるで異界に迷い込んだようにも感じられます。

 

「皆さん色とりどりの服でオシャレしてて、小舟から見るだけでも楽しいですねー!」

「そうじゃの~。お、あの青い晴れ着の御令嬢と、鎧兜の戦士は、牧場の娘とゴブリンスレイヤーじゃな」

「ほんとですねー。って、あれ、ゴブリンスレイヤーって、ギルドの受付さんがデートの約束してませんでしたっけ」

 一昨日にギルド併設の酒場で、受付嬢が勇気をもって一歩踏み出したのは、記憶に新しいです。

 

「午前と午後で別の者とデートするのではないかの? 手前(てまえ)が本体と分身で別れてデートしとるように」

「はー、案外モテるんですねえ。でも話を聞くに恋愛とかよりゴブリンを殺すのに血道をあげているっぽいですから、好きになっても苦労しそう……いえ、まあ、趣味は人それぞれですし」

「じゃな」

 趣味云々言い出したら、文庫神官ちゃんには盛大にブーメランになりかねませんからね。「非生産的!」とか言われちゃいます。*2

 

 

 水路を小舟で下る途中で、文庫神官ちゃんのかつての仲間が堤の上から話しかけてきたりもしました。

 どうやら、王都から辺境の街に向かう行商人の護衛がてら、文庫神官ちゃんの様子を見に来たらしいです。

 まあ、それだけでなく、ろくに別れの挨拶も出来ず、また、ガーゴイルに吊るされて振り回されてたとはいえ、矢を当てたり魔法を掠めさせたりしたことをきちんと謝罪したかったとのこと。

 

「助けようとしてくれてたのは理解してますし、最善行動ではあったと思います。恨みっこなしでいきましょう!」

「そう言ってくれるのは助かるが……」

「冒険者なんですから、どこでまた一緒に依頼を受けるかもわかりませんし、その時に備えて(わだかま)りは水に流すってことで」

「……ああ、ありがとう。そっちも上手くやってるみたいで良かったよ。元気でな」

「はい、新しい神官の子にもよろしくお伝えください! では、よき収穫祭を!」

「ああ、よき収穫祭を!」

 

 冒険稼業は出会いと別れ。

 生きて別れが言えるだけ、上等ってもんでしょう。

 実際、半竜娘ちゃんが助けに間に合わなければ、死に別れな上に、文庫神官ちゃんは野晒しの最期を迎えていたでしょうしね。

 

「というわけで、お姉さま! 今後ともよろしくお願いいたします! さしあたりはデートの続きを!」

「こちらこそ!、なのじゃ」

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 水路を下って小舟から降りて、人だかりの方へと向かいます。

 

「こっちは何があるのじゃったか?」

「ふふ、それはですね――」

 

 そのとき、ドンッという衝突音、「ヒヒーン」という馬の(いなな)きと、どさっと何かが落ちた音が響きました。

 そして上がる歓声。

 音がしたのは、歓声を上げる人だかりの中心からです。

 

「――野良馬上槍試合(トーナメント)です!」

 

 馬上槍試合とは!

 騎士たちが日ごろの鍛錬の成果を披露する、武のぶつかり合いだ!

 手始めに一騎討ち(ジョスト)から始まり、場が温まってくれば、隊列を揃え、模擬戦争ともいえる団体戦(トゥルネイ)へと移行する!

 利害や相手憎しで戦うのではなく、己が鍛えた腕前と戦に臨む勇気を披露するという高潔な競技である!

 

「まあ、収穫祭のメインは地母神への奉納演舞ですから、おそらくは祭りの運営が呼んだのではなく、勝手に自由騎士(フリーランサー)が集まって来たのを、それを見越していたどっかの胴元が仕切って場を整えたんだと思いますよ」

「なるほど……」

団体戦(トゥルネイ)をやれるほど駒数が集まってないみたいですから、今回は一騎討ち(ジョスト)だけやってるみたいですね。まあ野良試合なので、当然二階席もなしで、突撃レーンの仕切りだけ、と」

 

 これでも騎士家の娘ですから! と、張り切って文庫神官が解説しています。

 実際、戦バカの種族である蜥蜴人相手に、馬上槍試合をデートコースとして選択するのは正解だと思います。

 現に、蜥蜴人としての血が滾るのか、半竜娘ちゃんの目が輝いて、鱗の尻尾もそわそわしています。

 

「さっきの音と歓声は、試合が決着したものだったみたいですね」

 

 人だかりに近づくと、勝者と思しき騎馬が、突撃用のレーンをターンして、次の試合の突撃に備えて向きを変えるのが見えました。

 オッズを張り出して賭け札を売っているのは、この場を整えた胴元でしょう。

 胴間声の胴元の近くで必死にオッズを計算しているいかにも文官風な男は、あるいは交易神や知識神から、計算を速くする加護でも拝領しているのかもしれません。

 

「――手前(てまえ)一騎討ち(ジョスト)やりたいのじゃ!」*3

「う、うーん。でも、折角の御召し物が破れてしまいますよ……?」

「当たらなければどうということはない! 何なら脱いでおけばよい。な、一回だけ! 一回だけじゃ!」

 

 駄々をこねる半竜娘に、文庫神官は、しょうがないと溜め息一つ。

 

「……じゃあ、飛び入りですね。胴元に話をしてきます」

「おお! 頼んだのじゃ! さて、カモン、右竜馬(ウルマ)左竜馬(サルマ)!」

「「 ケーン!! 」」

 

 ぴゅーい、と指笛を吹けば、普通の馬よりも二回り以上も大きな二頭の麒麟竜馬が、観衆の頭上を越えて跳んできました。

 ……何気に指笛は、蜥蜴人の裂けた口では吹けないので、蜥蜴人的には特殊技能です。只人とのハーフである半竜娘ちゃんならではですね。

 あと、指笛吹いてからやってくるまでが早すぎたので、たぶん、文庫神官に切り出す前から、使い魔としての繋がりをたどって呼び寄せていたのでしょう。

 それなら、指笛吹かなくても良かったんじゃ、って? でも指笛で出てくるのってかっこいいでしょう?

 

 

 急に降ってきた大きな馬体に、観客も度肝を抜かれています。

 

「ふふん! どうじゃ、すごかろう、うちの馬は!!」

「……お姉さま」

「お、どうじゃった!? 飛び入りできそうかの!?」

「相手になる騎馬がおりませんわ。試合不成立です」

「な、なん……じゃと……」

 

 残当。そらそうよ。

 明らかにこんな野良試合に出るような馬体じゃないですもん。

 相手してくれるような騎士も居ませんて。

 愕然とする半竜娘ちゃんを尻目に、文庫神官ちゃんは安堵しています。

 

(流石に練習もせずに飛び入りは、どっちにとっても危ないですしね……)

 

「まあまあ、お姉さま。先ずは見るだけにしときましょう。見るだけでもきっと面白いですよ!」

「うーむ、そうじゃのう。デートじゃものな、手前だけ楽しんでも仕方ないか」

「そうです、デートですから!」

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 野良ジョストを観戦し、トーナメントの勝敗に賭けたり、「いけー、ぶっ殺すのじゃーー!!」「そこです! 頑張れー!」とか野次や声援を投げて楽しむうちに、日は中天を過ぎて少しずつ傾き始めました。

 

「もうこんな時間か。そろそろ手前も儀式の準備をせねばな」

「……せっかくですし、荷物を取ってきたあとは右竜馬(ウルマ)左竜馬(サルマ)に乗って、儀式場まで乗馬デートにしませんか?」

「そうするかの」

「時間も、荷物を取りに行って向かうくらいでちょうど良いかと」

 

 半竜娘ちゃんと文庫神官ちゃんは、宿の部屋で着替えたときに置いてきた荷物を取りに、また、魔女さんの下宿に置いてるものを取りに戻ることにしたようです。

 

「竜牙兵に取りに行かせても良かったが、術は温存したいからの」

「骨の姿だと、衛兵に捕まっちゃうかもしれませんし」

「祭の客を驚かせるのも本意ではないしの」

 

 右竜馬(ウルマ)左竜馬(サルマ)を、宿や魔女さん宅に近い方の街門に先行させつつ、半竜娘ちゃんと文庫神官は、街中に戻ります。

 

「儀式場に行ったら、ボディペイントを手伝ってくれるかや?」

「もちろんです、お姉さま! お任せください!」

 

 というところで今回はここまで。

 また次回!

 

*1
水面走りなど:『2/4 冒険者ギルド~下水道~転移トラップ』でTASさんに唆され、また身体の制御を乗っ取られたりしてやらかしたあれこれ。

*2
「非生産的!」かどうか:魚類の一部は成長後も性転換する。またTS圃人斥候の例や多くのおとぎ話にあるように、超自然の力による性転換は四方世界に存在する。爬虫類は単為生殖を行う種もあるし、キメラ技術の応用で、性転換せずとも女性同士での生殖も可能ではないかと思われる。他にも、神の奇跡で子供を授かるとかいう逸話はありふれている。

*3
ジョスト:一騎討ちの馬上試合。柵で仕切られた二つのレーンを対向するように、馬上槍を構えた鎧騎士が馬に乗って突撃する。すれ違いざまに柵を超えた隣のレーンの対向騎士に馬上槍(ランス)をぶつける。基本的には落馬させれば勝ち、というのが古のルール。現代までスポーツとして生き残っており、当てる場所や当て方、槍の砕け方などによってポイントが入る、らしい。(現代の試合用馬上槍は、安全のため相手にあたったら砕けるようにできている。綺麗に砕ける=衝撃を逃さずまっすぐ当てた、ということになるためポイントが高い。)気になった人は、国際ジョスト協会(International Jousting Association)で検索だ!




ジョストに飛び入りして、お互いに対決する半竜娘ちゃんと文庫神官ちゃん、というプロットもありましたが、ダイスロールのルールの定めだとかが難しかったので断念。そもそも描写解説することが多すぎるし、調べることも多すぎる……いつか騎乗戦闘を書くのはリベンジしたいですね。


次回は「奉納演()(ガチ)」の予定。
――「分身体よ、お主、独立自我に目覚めつつあるのではないかの?」
 アイデンティティクライシス(物理)


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25/n 収穫祭-3(奉納演武)

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●前話:
 デートしたよ!



 はいどーも!

 (ダブル)デートをこなした半竜娘ちゃんの収穫祭は、ついに危険な領域に突入する……! そんな実況、はーじまーるよー!

 

 一党の仲間との仲を深めた半竜娘ちゃんたちは、前日までに造成しておいた西の儀式場にやってきています。

 森人探検家たちのチームとも合流し、一党も全員勢ぞろい。装備もお祭りの晴れ着ではなく、いつもの冒険装備です。

 街の外では、何があるか分かりませんからね。備えよう。

 

「準備するのじゃ! まずは楽隊と歌唱隊から揃えようぞ!」

 

 半竜娘ちゃんの分身が、せっせと楽隊にする竜牙兵を作り、歌唱隊代わりの精霊たちを召喚していきます。

 戦闘に従事させない省エネモードであれば(継戦カウンターが進まない限りは)、ある程度長く顕現させられるようです。*1

 

「『禽竜(イワナ)の祖たる角にして爪よ、四足、二足、地に立ち駆けよ』!」

 

 ◆祖竜術【竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)】×4:魂魄集中12+竜司祭Lv9+創造呪文熟達1+2D6

  基礎値22+2D623=27

  『KURRRR!!』

  基礎値22+2D651=28

  『COKACA!!』

  基礎値22+2D645=31

  『GRRRRU!!』

  基礎値22+2D624=28

  『KUAAAA!!』

 

 触媒たる竜の牙がぼこぼこと膨れ上がり、竜骨の戦士となって立ち上がります。

 呼び出されたのは、背中に鋭い棘が生えそろった棘竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー:スピノ)です。

 身の丈は3m弱ほどもあります。

 背中の棘をお互いに叩いてボディパーカッションができるので、楽隊の隊員にはうってつけですね。

 

「続いて……精霊たちよ! その歌声を聞かせてくりゃれ! 『掲げや燃やせ火蜥蜴(サラマンダ)、歌いて踊れ蛟竜(ミズチ)姫、宴の時間だ土竜(ムグラムチ)、風巻き来たれ風の蛇(ククルカン)。楽しい歌を聞かせておくれ!』」

 

 ◆精霊術【使役(コントロールスピリット)】×4:魂魄集中12+精霊使いLv5+上質な触媒1+精霊の愛し子1+2D6

  (火)基礎値19+2D622=23

  『炎のダンス、そして情熱の歌!』

  (水)基礎値19+2D626=27

  水霊(ミズチ)はお歌も得意なのよ? よぅく聞いてね?』

  (土)基礎値19+2D621=22

  『地の活力が高まっておるな、地母神の収穫祭の近くのせいか。ワシも負けられん』

 

  超過祈祷(オーバーキャスト)により2D644の消耗! 消耗ランク1により、全判定-1ペナルティ。

  「疲れてきたのじゃ」

 

  (風)基礎値19+2D656-消耗1=29

  『歌と言ったら風精霊の出番よね!』

 

  超過祈祷(オーバーキャスト)により2D651の消耗! 消耗ランク1→3により、全判定-1→-3ペナルティ。生命力・移動力半減。

  「ゼヒュッ、ハア、ハァ。頭が割れそうじゃぁ……」

 

 

 いずれの精霊も、自我を持つ自由精霊(フリースピリット)級です。

 祖竜に捧げる歌ということで、契約精霊の水霊(ミズチ)を含めて、鱗や竜に縁のある精霊たちを呼んでみたようです。

 

 ◆半竜娘(分身)呪文使用回数 6→2→0→超過祈祷2回

 

 棘ある竜骨の戦士たち4体と、四元素の精霊たちが儀式場を彩ります。

 

「ぐぬぅ、つ、疲れたのじゃ……」

 半竜娘の分身ちゃんが、限界を超えた呪文行使によってへたり込んじゃいました。無理もありません。

 毎度のことなのである意味慣れているとはいえ、魂を削り、脳を割り潰すような疲労消耗は辛いものがあります。もはや気絶寸前です。

 

「慣れておるとはいえ、分身越しの超過祈祷(オーバーキャスト)のフィードバックは相変わらずじゃな」

 もちろん本体にも感覚共有でフィードバックがいっていますが、肉体は別なので幾分かはマシです。

 少しキツイ程度で済んでるのは修行の賜物です。

 半竜娘ちゃんはこのフィードバックを、武道家としての荒行と同様に考えて繰り返し鍛錬し、本体自らも超過祈祷(オーバーキャスト)の経験を重ね(消耗を【賦活】の術で癒しつつ繰り返しオーバーキャスト)、また分身にも同じことをさせてフィードバックを受けるのにも慣れましたから、いまや体調を崩すことはありません。

 『※この半竜娘ちゃんは特殊な訓練を受けています』ってやつですね。

 

「では分身を上書き再作成して――イーデム( 同一 )ウンブラ()ザイン( 存在 )――【分身(アザーセルフ)】」

「!! のじゃああああぁぁぁ…………上書きされて手前が消えていく感覚もなかなか辛いのじゃぁぁぁ…………」

 本体の方の半竜娘ちゃんの真言呪文とともに、疲弊してへたり込んでいた分身体の情報が上書きされます。

 

 ◆真言呪文【分身(アザーセルフ)】:知力集中10+魔術師Lv7+装備ボーナス4+創造呪文熟達1+2D6

  基礎値22+2D643=29 発動成功!

  【分身】耐久力:29/2(切り捨て)=14

  呪文使用回数:本体8→7、分身0→7(上書きによる)

 

「――復☆活じゃ!」

 上書きされた分身体が、しゃきーんと勢いよく立ち上がります。

「分身も上書きしたし、これで準備良しじゃな!」

 本体の方の半竜娘も腕組みして満足げに頷きます。

 

「では、戦化粧のお時間ですね! お姉さま!」

「私も手伝うわ」

「オイラもー」

 先日作ったドーランを手にした文庫神官たちがうきうきと半竜娘ちゃんを脱がせにかかります。

 

 塗るときは一応は、天幕を張ってその内側に入って、外からは見えないようにしています。

 蜥蜴人的には、正装は鱗一貫です。天幕の内側で全裸になります。とはいっても、鱗で覆われているので肌色ウフンなことにはなりません。美しい烏羽色の鱗がキラキラと黒曜石や石炭の断面のように光ります。

 その上から、ドーランを塗っていきます。

 2人に全身くまなく塗って戦化粧(おめかし)するのですから、塗る面積的にも結構時間がかかりますね。

 

「塗り残しのないように頼むのじゃ~」

「頼まれたわ」「任せとけー」「頑張ります!」

 仁王立ちする半竜娘ちゃんズに、一党の仲間がそれぞれドーランを持って取りつきます。

 

「図案はこれで良いのね?」 森人探検家の視線の先には、半竜娘がこさえたであろう塗り方の指示図面が、文鎮で押さえられて敷物の上に置かれています。

「先ずは木炭のドーランを全身に。次は白亜のドーランで祖竜の骨を表して……」 図面と手順書を見ながら文庫神官がドーランを塗っています。“お姉さまの体に触れる!”みたいな邪念にまみれているかと思いきや、さすが神官だけあって、儀式と煩悩は完全に切り離されているようで、真剣な表情です。

「赤土、黄土で血潮や生命を象徴、ね……」 一方で、神なるものに疎いTS圃人斥候は、邪念を完全には排しきれず、半竜娘の肌に触るのを少し遠慮しているようです。

 

 

 天幕の中できゃいきゃいと(かしま)しくしながら戦化粧を仕上げる間に、天幕の外では、呼び出された竜牙兵たちが楽器を奏で始めます。

 聞きなれない奇怪な異国の楽器による音楽です。

 

 太鼓の音。

 木琴の音。

 鉄片を弾く音。

 

 四体の竜牙兵は、楽し気に身体を揺らし、地面を足で踏み尾で叩き、リズムを合わせます。

 探るような控えめなリズムは、すぐに噛み合っていきました。

 この音楽には、不思議と、魂の奥底に働きかけるような原始的な力強さがあります。

 興が乗って来たのか、棘竜牙兵がお互いの身体の骨や棘を叩く音も交じり始めます。

 

 

 やがて、精霊たちも、その音楽にノッて歌い始めます。

La---,de---iiaa『ahhtoyoo,---yaaahtuu,----laaa-----『,ah-----……luuua-----,……『woooow,----yaaaabaarrr-------……

 四属性の精霊が合唱し、それによって微小な精霊が喚起されたのか、あたりに燐光が漂い始めました。

 幻想的な光景です。

 

 竜牙兵たちが楽しげに奏でる音楽と、精霊たちの輪唱。

 恐らくは、魂と生命の輪環を歌い上げているのであろうそれは、まさしく蜥蜴人の信仰と合致するものです。

 そしてこれだけ派手にしてれば、道行く人の目にも留まります。

 

「おっ、なんだなんだ、こんなとこにも楽団がいるのか」「こりゃ精霊か?」「わぁー、お母さん見て、きれ~」

 

 街に行くのか、村に戻るのかどちらか分かりませんが、幾人かの通行人が足を止めています。

 まあ、今ならまだ単に陽気な異国の楽団、って感じですからね。

 これからは血腥(ちなまぐさ)くなっていきますから、今のうちだけですが。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 そうして時間が過ぎ、夕暮れ時。

 

 

 全身に戦化粧を施した2人の蜥蜴人が天幕から姿を現しました。

 半竜娘ちゃんと、その分身です。

 全身くまなくドーランを塗られた姿は、恐るべき竜の骨格を思わせる模様をベースに、そこに複雑な紋様を色とりどりに重ねたものです。

 特に、仕上げに正中線などに塗られた竜血青の鮮やかで美しい青が目を引きます。

 

 いきなりの蛮族のエントリーに、竜骨と精霊の楽隊を見物していた見物人たちはぎょっと驚いています。

 

 飾り羽を頭に差し、服は身につけず、竜骨の紋様に包まれた半竜娘ちゃんズは、示し合わせたかのように、同時に麒麟竜馬に飛び乗ります!

 

「せぃやっ!」 「いくのじゃ!」

「「 ブフルルルルル!! 」」

 

 何しに行くのか。

 決まっています、新鮮な生け贄を探しに行くのですよ!

 この生贄は、ただの動物よりも、敵対手であることが望ましく、己の手で仕留めたものであるべきです。

 

 つまり狙いは、近づいてきているであろうゴブリンの一団です。

 ゴブリンが来てるって何で分かるのかって?

 そりゃプロ(ゴブスレさん)が警戒してたからですよ。

 プロの勘は当たる(確信)。信じろ。

 

 それで、流れとしては、森人探検家とTS圃人斥候に先行させ、ゴブリンを見つけてもらいます。

 見つけられたら二人には勢子として、騎馬突撃しやすい場所に小鬼を誘導してもらい、半竜娘ちゃんズが蹴散らし、引き倒します。

 文庫神官ちゃんは儀式場でお留守番です。

 

 では、GO!!

 

 ◆ゴブリン見つけられた?(観察判定:目標値2D636+怪物Lv1(小鬼)=10)

 森人探検家 :知力集中6+野伏Lv8+2D623=19 > 10 発見!

 TS圃人斥候:知力集中5+斥候Lv7+観察2+2D623=19 > 10 発見!

 

「あいつらアレで隠れてるつもりかしら」

「ゴブリンってばかだよな~」

 

 森人探検家とTS圃人斥候は、あっさりと街道から離れた茂みに潜むゴブリンを見つけ出しました。

 夕暮れが迫ってきたとはいえ、まだ日のある時間……小鬼にとっての()()()()に動いているので、小鬼にしては真面目な方なのでしょうが、熟練の野伏と斥候の目から逃れられるものではありません。

 

「じゃあ追い立て――いや、囮になって誘導した方が早いかしら」

「あー、確かに、ゴブリンだしなあ。それにオイラたちが殺したら儀式に使えないとか言ってたし、リーダーがとどめを刺すなら下手に攻撃せずにおいた方がいいかー」

 

 ということで、森人探検家とTS圃人斥候は、わざとゴブリンの前に姿を現します。

 

『GOOBB!!』

『GRROO!!』

 

 2人の姿を認めるや、小鬼たちはニヤニヤと舌なめずりします。

 まあどうせ、「バカな獲物がやって来たぜ」「戦いの前に楽しむのも許されるだろう」くらいのことを考えているのでしょう。

 自分たちがやられるなど露とも考えないのが小鬼です。

 

「はいはい、さっさと追ってきなさい」

「オニさんこちら、ってな」

 

 森人探検家とTS圃人斥候は、付かず離れず、ゴブリンたちを誘導します。

 

 ◆誘導は成功?(軽業判定:目標値12(小鬼の攻撃値引用))

 森人探検家 :技量集中10+野伏Lv8+体術1+2D666+CRT5=36 > 12 誘導成功!

 TS圃人斥候:技量集中9+斥候Lv7+体術1+2D651=23 > 12 誘導成功!

 

 

 誘導した先は、木々の少ない少し開けた場所です。

 

「小鬼めらが来おったな!」 「全部で、まあ15匹くらいかの」

 

 戦化粧して麒麟竜馬に騎乗した半竜娘ちゃんズが、そこからさらに離れて騎馬突撃の助走距離を確保できるように待機しています。

 その手には鉤縄が何本も握られています。片手に5本ずつ、合計10本、2人で20本の鉤縄を持っています。

 

「ゴブリン釣りじゃ!」 「曳き回しの刑であるぞ!」

 

 突撃し、すれ違いざまに鉤縄を引っかけて、儀式場まで引っ張っていくつもりです。

 鉤縄は、『拘束』属性付きの棍杖(命中修正-5、基本威力1D3-1)として扱います。

 

『GOOOBBBB!!』

「行くのじゃ!!」

 

 ◆騎馬突撃+鉤縄による拘束(命中判定:目標値12(小鬼回避値))

  計算式:技量集中7+武道家Lv3(騎乗制限により低下)-命中ペナ5+2D6 ⇒ 5+2D6

 

「AAAALaLaLaLaLaie!!」

『GOORROBB!?』

 

 ◆突撃1回目(継戦カウンター+1)

 半竜娘(本体):右手側5本

  5+2D631= 9 ×拘束失敗!

  5+2D621= 8 ×拘束失敗! 

  5+2D625= 12 ○拘束成功!

  5+2D653= 13 ○拘束成功!

  5+2D611= 7 ×拘束失敗! ファンブルのため鉤縄破損!

 半竜娘(分身):左手側5本 

  5+2D653= 13 ○拘束成功!

  5+2D611= 7 ×拘束失敗! ファンブルのため鉤縄破損!

  5+2D612= 8 ×拘束失敗!

  5+2D663= 14 ○拘束成功!

  5+2D634= 12 ○拘束成功!

 

 

 麒麟竜馬がゴブリンの集団の中を駆け抜けます。

 半竜娘ちゃんの本体右手側で2匹、分身左手側で3匹のゴブリンの肩や腕に鉤縄を食い込ませ、曳き回すことに成功しました。

 1回目の突撃の戦果は、合計5匹ですね。

 難を逃れた小鬼たちは、捕まったやつらを嘲笑っています。まあ、小鬼ですからね、仲間意識なんかありません。

 

 麒麟竜馬たちの機動力はすさまじく、突撃後はすぐに離脱して、小鬼の追いすがれる範囲から離れます。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「2匹と3匹。まずまずじゃの」 「ではターンして第2弾じゃ!」

 

 小鬼程度を2、3匹曳き回したくらいでは、麒麟竜馬の脚に陰りはありません。

 使い終わった鉤縄を鞍に結びつけると、ターンして逆側面の鉤縄を使えるように進路を調整します。

 曳き回されている小鬼が醜い叫びを上げますが、それを気にする者などいません。

 

 ◆突撃2回目(継戦カウンター+1)

 半竜娘(本体):左手側5本

  5+2D655= 15 ○拘束成功!

  5+2D663= 14 ○拘束成功! 

  5+2D656= 16 ○拘束成功!

  5+2D641= 10 ×拘束失敗!

  5+2D613= 9 ×拘束失敗!

 半竜娘(分身):右手側5本 

  5+2D615= 11 ×拘束失敗!

  5+2D641= 10 ×拘束失敗!

  5+2D626= 13 ○拘束成功!

  5+2D635= 13 ○拘束成功!

  5+2D661= 12 ○拘束成功!

 

 さらに追加で3匹ずつ曳き回すことに成功しました。

 1回目の突撃と2回目の突撃で、合計11匹を拘束!

 

 もちろん小鬼たちは脱出を試みますが、脱出判定の値は「攻撃基礎値12-拘束ペナ2=10」としますので、半竜娘ちゃんズの拘束攻撃の値を上回ることはできず、脱出はできません。

 鉤縄は、小鬼たちの肉体に深く食い込み、曳き回されるうちにさらに小鬼同士で絡まり、抜け出すことは困難になります。

 

「まあ十分じゃろ」 「戻るかの。あとの始末は任せたのじゃ!」

 半竜娘ちゃんズは小鬼を引きずったまま、儀式場の方へと引き返しました。

 小鬼の悲鳴とともに土煙とともに去っていきます。

 

 拘束されなかった小鬼は残り4匹。

 

「ま、今更小鬼程度どうにでもなるわね」

「半々でいいかい、エルフパイセン?」

「矢の方が早いわよ、一匹も仕留められなかったら奢りなさいよ?」

「げっ、そりゃねーぜ!!」

 

 まあ、森人探検家とTS圃人斥候にかかれば、小鬼程度はどうということもありません。

 

 森人探検家とTS圃人斥候の継戦カウンターを+2して、小鬼を殲滅!

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 盛り土した土俵のような儀式場まで、小鬼を11匹引きずりながら戻ってきた半竜娘ちゃんズ。

 小鬼の悲鳴で異常を察知していた見物客たちは、既に逃げ出しており、その姿は見えません。

 

「おかえりなさいませ、お姉さま方!」

「留守役ご苦労!」 「では生贄の血を撒くのじゃ」

「私はお色直しのお手伝いをいたします」

 

 引きずられるうちに団子になった小鬼たちが逃げないように見張りつつ、鉤縄を纏めて引きずり、儀式場の土俵の上へ。

 棘竜牙兵に小鬼を押さえさせ、半竜娘ちゃんは自慢の爪でその小鬼の首を飛ばしていきます。

 演奏と歌唱も続いており、まさしく異教の儀式じみてきました。

 

 その間に文庫神官は、手の空いている一方の半竜娘ちゃんの戦化粧を直していきます。

 途中で、半竜娘ちゃんの分身と本体は、お色直しと血を撒くのを交代します。

 

 お色直し中も、首を失った小鬼の身体を持った棘竜牙兵が、小鬼の死体を逆さにして歩き回り、儀式場にまんべんなく血を撒いていきます。

 もはや武舞台の上で血に染まっていないところはありませんし、武舞台の四隅には小鬼の死骸が積み重ねられていきます。

 流れた大量の血の匂いが儀式場を満たしました。

 

「うむうむ、闘争の功というにはささやかじゃが、小鬼の血でもまっさらよりはマシじゃな」

「ではさらにこれを撒くのじゃ」

 

 戦化粧を直された半竜娘ちゃんが、空間収納鞄から(かめ)を取り出します。

 甕の中から出てきたのは、“泥”です。

 

「お姉さま、それは……?」

「故郷より取り寄せた、密林の泥濘じゃ」

「やはりコレがなくば、我らが戦場とは言えぬからのう」

 

 血濡れの武舞台に、密林の泥濘が撒き散らされます。*2

 敵の血と泥濘。

 これこそが、蜥蜴人にとっての聖なる戦場(原風景)なのです。

 

「これぞ儀式に相応しい領域じゃて」

「きっと祖竜に供物が届くじゃろう」

 

 周囲に目をやれば、森人探検家とTS圃人斥候も既に戻って来ています。

 麒麟竜馬たちも、棘竜牙兵と自由精霊のもたらすリズムに合わせて、蹄を踏み鳴らしています。

 

 日はついに沈み、天灯を飛ばす時間です。

 

「せっかくじゃから」 「天灯を飛ばすのじゃ」

「ええ、そうしましょう、お姉さま」

 

 それぞれが荷物の中から天灯を取り出すと、宙を泳ぐ火の精霊が火を付けてくれます。

 それと時を同じくして、街の方からも多くの天灯が浮かび上がりました。

 

「……綺麗ですね、お姉さま」

「ああ」 「そうじゃの」

 

 半竜娘ちゃんたちが上げた天灯も、すぅっと浮かび上がり、天へと昇っていきます。

 

「…………。さて、ではやるかの」 「おうとも、やろうぞ」

 

 儀式場の周囲の篝火は、既に火の自由精霊が火をつけています。

 この幽境の時間、街の方でも地母神への奉納演舞が始まるはずです。

 半竜娘ちゃんズも、いよいよ慈母龍(マイアサウラ)に捧げる奉納演武を執り行うようです。

 

「いと慈悲深き慈母龍よ!」 「末裔からの捧げものを受け取り給え!」

 

 ――ドンッ、という太鼓の音を皮切りに、棘竜牙兵と自由精霊、麒麟竜馬たちが、楽器で、己の身体で、歌声で、蹄で、音楽を奏で始めます。

 武舞台の上で向かい合うのは、半竜娘ちゃんと、その分身体。

 肩を怒らせ、腰を落とし、威嚇するように声を出します。

 

「ハイヤッ ハッ!」 「ヤッ セイッ!」

 

 手を身体に打ち付け、大きな音を出して自らの身体と鱗を誇示します。

 

「おお、恐るべき竜よ! 猛き竜よ!」

「愛深き慈母龍よ! 我らの歩みを御照覧あれ!」

 

 半竜娘ちゃんの本体と分身は、武舞台の中央で喊声を上げ、歌いながらぶつかり合います。

 

Nous marchons dans(我らは進化する) la lumiere de Dieu,(慈母龍の愛に包まれて)

 獰猛に笑いながら、本体が分身体へ殴りかかります。

 

Nous marchons dans(我らは進化する) la lumiere de Dieu.(慈母龍の愛に包まれて)

 同じく獰猛に笑いながら、分身体がその手を弾きます。

 

Nous marchons dans(我らは進化する) la lumiere de Dieu,(慈母龍の愛に包まれて)

 本体がさらに讃美歌を歌い重ねながら、身体ごとぶつかり――

 

Nous marchons dans(我らは進化する) la lumiere de Dieu.(慈母龍の愛に包まれて)

 ――分身体はそれを受け止め弾き返します。

 

 棘竜牙兵の演奏も盛り上がり――

『『『『 in the light of God(大いなる意思に導かれて) 』』』』

 ――精霊たちのコーラスが、さらに入り混じります。

 

 

「「 Nous marchons... ooh(我らは進化し続ける!) 」」

『『『『 We are marching,(歩み続ける) marching,(どこまでも) we are marching,(そう、どこまでも) marching,(どこまでも) 』』』』

 激しくなる攻防。精霊のコーラスも高まり、燐光があたりを照らしています。

 

「「 Nous marchons dans(我らは進化し続ける!) la lumiere de Dieu.(慈母龍の愛に包まれて!) 」」

『『『『『 the light of God(大いなる意思の導きあれ!) 』』』』』

 周りで見ていた森人探検家も、精霊の言葉でいつの間にかコーラスに加わっています。

 

「「 Nous marchons... ooh(我らは進化し続ける!) 」」

『『『『『 We are marching,(歩み続ける) marching,(どこまでも) we are marching,(そう、どこまでも) marching,(どこまでも) 』』』』』

 無限の進化を歌う、蜥蜴人の讃美歌。TS圃人斥候は、近くの棘竜牙兵の背の棘を骨琴としてリズムに加わっています。

 

 

「「 Nous marchons dans(我らは進化し続ける!) la lumiere de Dieu.(慈母龍の愛に包まれて!) 」」

『『『『『 the light of God(大いなる意思の導きあれ!) 』』』』』

 文庫神官は、ただただその壮烈な光景に見入っています。少しも見逃さないように、全てを記録するという知識神に仕えるものとしての性が、瞬きすらも忘れさせたようです。

 

「「 Nous marchons dans(我らは進化し続ける!) la lumiere de Dieu.(慈母龍の愛に包まれて!) 」」

 

 讃美歌の一つの区切り。

 それに合わせて前哨戦もお終いとなります。

 本体と分身体が、武舞台の上で距離を取り、息を整えます。

 

 そのとき、武舞台の外から、麒麟竜馬が半竜娘の空間収納鞄を口で銜えて首を振って、投げ入れました。

 半竜娘の本体がそれを受け取ると、中から禍々しい『手』の呪像を引きずり出しました。

 その呪物を片手に、分身体と対峙します。

 

「のう、分身体よ。手前は不思議に思ったのじゃ、仲間が本体と分身を見分けられたことを」

「……」

 確かに森人探検家は、収穫祭の朝に、分身の方に狙って肉串を食べさせたようでした。

 分身体は本体と同じものであるはずなので、なぜ見分けられたのか、不思議と言えば、不思議です。

 

「前に魔女殿も言っておった、【分身(アザーセルフ)】の呪文は便利なだけでなく、恐ろしいものだと」

「……」

「……貴様、独立自我が芽生えつつあるのではないかの?」

「……」

 ドッペルゲンガーの呪い、なり替わり……【分身】の呪文の副作用。

 

「であれば、今がチャンスじゃぞ? 何しろこれから、手前は貴様を受肉させようというのじゃから」

「……」

「『手』の呪像を埋め込み、分身を侵食させ実体化させる。手前はそれを打倒し、貴様の心の臓を食らい、祖竜に捧げる」

「……」

「四方世界広しと言えど、己の心臓を食らい捧げた者は多くあるまい。そして、手前の考えうる最上級の供物でもある。きっと、祈りは天上にまで届くであろう、必ずや、な」

「……」

 無言を貫く分身体へと、半竜娘は『手』の呪像を振りかぶり、投げました。

 

「弱肉強食! 適者生存! 我が糧としてくれる!」

「……」

 投げられた『手』の呪像が、分身体に突き刺さり、ズブズブと沈み同化していきます。

 

 固唾を呑んで周囲が見守る中で、分身体は震えながら身をかがめ――その背を突き破り、三本目の腕が現れました!

 

 

『く、くかかか。いまここに、(オレ)は自由を得た! そして逆に貴様を食らってくれる! 安心するがいい、食われた貴様の魂は竜となる(オレ)と共に在り続けるのだからな!!』

「それはこちらのセリフよ!!」

 

 アイデンティティクライシス(自我崩壊危機)(物理)!

 半身すら捧げようとする半竜娘ちゃんと、日ごろ便利に使い潰されている鬱憤を以て逆に食らいつくそうとする分身体によるガチンコバトルの開幕です!

 激戦の予感に、棘竜牙兵と自由精霊の奏でる戦いのリズムもボルテージを上げていきます!!

 

 

 というところで今回はここまで!

 ではまた次回!

 

 

*1
召喚・使役系の存在持続時間に関する裁定:原作の描写を見るに、時間制限は融通が利く、もしくは、時間制限アリ使い切り型と時間制限ナシ呪文維持型を切り替えられる模様。今回の話では演出重視ということもあり、低燃費モードでは長時間維持可能という裁定にしたが、TRPG卓においてはGMの判断に従うこと。非戦闘時の顕現時間の長さによって、戦闘時の存在持続ラウンド数を削るなどの裁定も考えられる。

*2
外国の土・泥を撒く:外来種や疫病の問題があるので、現実では外国の土を持って来ちゃだめだぞ!(植物防疫法による規制。違反者は三年以下の懲役又は百万円以下の罰金。実害が出たら別途民事の賠償がありうる)




女神官ちゃんが、しゃんらしゃんらと可憐に奉納演舞をしている同じ時間に、マオリ族のハカとか相撲神事みたいに筋骨をバチンバチンさせて奉納演武する半竜娘ちゃん。このギャップよ……。

次は「VSダーク半竜娘ちゃん」(ゼルダの伝説の「ダークリンク」的なイメージ)。
やりたかったネタの一つなので書けて嬉しい。

最後の方の讃美歌の歌詞は、アフリカのズールー語の讃美歌「シヤハンバ Siyahamba」から。ルビの和訳は劇中に合わせて超意訳。元の歌詞は「神の威光の下 我らは行進する」って感じです。著作権は切れてるようですが、一応JASRAC管理番号掲載。



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25/n 収穫祭-4(VS 闇竜娘(ダークドラコ)

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●前話:
分身体『自由への闘争!』
半竜娘「分身のくせになまいきだ。」

 


 はいどーも!

 なんか半竜娘ちゃんの本体の方が悪役に見えるような気もしないではない、収穫祭(feat.蜥蜴人)実況、始まります!

 

 武舞台の上で、受肉させた分身ちゃん(分竜娘)と向かい合っています。

 戦場イメージは次のような感じです。

 召喚しまくってるからキャラが多くてわちゃわちゃしてますねー。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 武舞台の周囲にいる一党の仲間たちや麒麟竜馬、自由精霊、棘竜牙兵は、音楽を奏でたり歌ったり踊ったりしながら、武舞台の周辺を動き回っています。

 えいやはー、えいやはー。

 

「分身を呪物に侵させ受肉させる! そしてその心臓を捧げる、これ以上の供物があるだろうか、いや、なかろうさ!」

『あまりに傲慢! あまりに驕慢! (オレ)(オレ)のために歩むと決めた――ゆえに! 反逆だ!』

「もとより望むところじゃ! 貴様との戦いも含めて全て、(これ)(すなわ)ち祖竜への供物である!!」

 

 『手』の呪像に侵食された分身体は、半竜娘ちゃん本体の制御を離れてしまっています。

 もともと度重(たびかさ)なる【分身(アザーセルフ)】の行使により、分身体に本体とは別の固有の自我が芽生え始めていたところに、『手』の呪像が侵食することで促進され、完全に独立した自我を獲得したようです。*1

 侵食した『手』の呪像は、分身体の体内で再構成され、三本目の腕として背中から生えています。

 

 侵食された影響か、肌は黒く、髪は白くなっています。

 差し詰め、闇竜娘(ダークドラコ)ってところでしょうか。

 

「さあて、その背の副腕は馴染んだかや? 権能は使えるか? そうでなくば供物としては不十分! 権能ごと喰らい捧げるために受肉させたのじゃからな!!」

『それほど見たくば見るがいい! 百手巨人(ヘカトンケイル)にも通じる『手』の権能! 数多の手は、神威を(あまね)く伝える陽光の象徴!』*2

 

 闇竜娘(ダークドラコ)の背から生えた黒い腕が印を結び、魔力の光を(たた)えます。

 

 ◆怪物知識判定:目標値 怪物(冒険者)Lv9+9=18

 半竜娘:知力集中10+竜司祭Lv9+2D622=23 ○判定成功!

 

 半竜娘ちゃんは鋭い眼光で、闇竜娘(ダークドラコ)を見据えます。

 

(……身体能力にそれほど差はないようじゃ。『手』の呪像を再構成した副腕の権能は――おそらく『真言呪文の知識』と『矢避け』。

 『手』の権能で呪文抵抗は増しておるかもしれぬが、装備はすべて外してあるから、装甲は鱗のみ。

 持ち物がないゆえ、手前も相手も、幾つかの術が使えぬな)

 

 闇竜娘(ダークドラコ)は、半竜娘ちゃんの身体能力に加えて、以下の能力が加算されています。

 ・真言呪文:全呪文使用可能(副腕で手印を切る場合のみ)

 ・矢避けの加護:遠距離武器による攻撃の命中値-8

 ・呪文抵抗:+2のボーナス

 

 また、お互い裸一貫(ボディペイント)なので、祖竜術や精霊術の触媒入れを持っておらず、触媒を要する一部の術が使えません。

 武器防具も外していますが、指輪と真言呪文の発動体はいつものを身に着けています。

 

 ただし、本体の方の半竜娘ちゃんは、『手』の呪像を取り出すために、空間拡張鞄を手にしています。

 これはかなりのアドバンテージですね。

 

 ◆先制力判定!(第1ラウンド)

 1.半竜娘 2D655+機先3=13

 2.闇竜娘(ダークドラコ) 2D645+機先3=12

 

 闇竜娘(ダークドラコ)の黒い副腕にマナが集まり、全てを破壊する魔術の光線が放たれます!

 

『光の御手を見よ! オムニス(万物)ノドゥス(結束)リベロ(解放)!! 【分解(ディスインテグレート)】!!』

 

 全ての原子結合を分解する防御不能の魔術の光線――ディスインテグレートです!*3

 しかし、半竜娘ちゃん本体は、先制判定に勝っているので、その開幕ぶっぱに超反応!

 空間拡張鞄から、一枚のカードを取り出します。ドロー、マジックカード!!

 

蛟竜(ミズチ)姫よ、風の蛇(ククルカン)よ、助力を頼む! 黒き蓮の一片(ひとひら)よ! 備えしマナを解放せよ!」

 黒蓮花弁のカードによる、擬似高速詠唱です。

 さらに、周りで歌っている自由精霊を【統率】技能で支援に回します。

セメル(一時)キトー(俊敏)オッフェーロ(付与)! マグナ(魔術)ノドゥス(結束)ファキオ(生成)!」

 

 速攻魔法(インスタントマジック)、『黒蓮の花びら』。

 効果は1ラウンドで2回の呪文詠唱!(1日1回)

 

 唱えた魔術は、【加速(ヘイスト)】と【力場(フォースフィールド)】です。

 

 ◆半竜娘の真言呪文【加速】行使:

 基礎値20+付与呪文熟達3+精霊支援6+2D661=36

 ○行使成功 ⇒ 加速ボーナス+4

 

 ◆半竜娘の真言呪文【力場】行使:

 基礎値20+創造呪文熟達1+加速4+精霊支援6+2D613=35

 ○行使成功 ⇒ 30点未満のダメージを無効化するバリアーを生成

 

 迫る破滅の光線に対して、魔術による防壁を構築しました。(半竜娘:呪文使用回数7→5)

 

『精霊の助力というならこちらにも権限はあるぞ! 土竜(ムグラムチ)よ、火蜥蜴(サラマンダ)よ!』

 

 ◆闇竜娘(ダークドラコ)の真言呪文【分解(ディスインテグレート)】行使:

 基礎値20+精霊支援6+2D642=32

 ○行使成功 ⇒ ダメージ算出:6D6363216+20+魔術師Lv7+胃石2=50

 

『無駄無駄無駄ァ! 我が(かいな)から放たれた光線を、阻めるものなし!』

 

 魔術防壁に50ダメージ! 耐久限界のため防壁は消失!(闇竜娘(ダークドラコ):呪文使用回数7→6)

 

「ぬぅっ、一撃しか耐えぬか! しかし防いだぞ!」

『寿命が少し伸びただけに過ぎぬわなあ!』

 

 魔術の結束すらも分解した光線の残滓として、渦巻くようにマナの破片が青く輝いて武舞台の上で舞い散りました。

 そして舞台の上の竜の娘たちが、次なる一手に移ります。

 (継戦カウンター 2→3。【加速】の呪文維持判定はファンブルではなかったので成功。)

 

 一党の仲間や棘竜牙兵は、助勢せずに一騎討ちを見守っています。

 

 

 

 ◆先制力判定!(第2ラウンド)

 1.半竜娘 2D626+機先3+加速4=15 ⇒ 12と3に分割

 2.闇竜娘(ダークドラコ) 2D653+機先3=11

 3.半竜娘 2回目行動

 

 

 南の空から暗雲が迫っていますが、この周辺は快晴です。

 

『おお、この気配は……左の『手』の呪像が近くあるようじゃな! 大嵐の権能! (オレ)の陽光の権能と対になる腕!』

「だからなんじゃ? 合流すれば強くなるとでもいうのかの?」

『何事も、1つよりは2つの方がよかろうさ』

 

 軽く言葉を交わし、先手は半竜娘ちゃん本体です。

 

「供物を引き裂く鋭き爪を(こいねが)う! 『伶盗竜(リンタオロン)(かぎ)たる翼よ。切り裂き、空飛び、狩りを為せ!』――【竜爪(シャープクロー)】!」

『触媒なしに使えるものか、ボケたか?』

「触媒となる竜の爪は、既に我が手にあろうがよ!!」

『まさか、いや、そうか、なるほど!』

 

 【竜爪】の術には触媒として竜の爪や牙が必要です。

 今は竜司祭の触媒入れの鞄は外しているため、いつもの触媒は使えません。

 しかし、竜の爪なら自前のものがあるではないですか。

 

 ◆半竜娘の祖竜術【竜爪】行使:

 基礎値21+上質な触媒(自爪)1+精霊支援6+加速4+創造呪文熟達1+2D633=39

 ○行使成功 ⇒ 装甲貫通付与、命中修正+2、威力+2

 

「効果時間が終わると触媒にした爪も無くなるが、勝てるならばその程度問題ないのじゃ!」

『ああ確かに、負けて死ぬ貴様にゃ関係ないことだな!』

 

 半竜娘の爪が大きく鋭く、鎌のように変形します。

 威嚇するように爪を軋り合わせると、ぎぃんと硬質な音がしました。

 (半竜娘呪文使用回数:5→4)

 

「解体してやるのじゃ」

『やってみろ』

 

 次は闇竜娘(ダークドラコ)の手番です。

 

『絶滅的に凍えて死ね。グラキエス()テンペスタス()オリエンス(発生)――【吹雪(ブリザード)】!』*4

 

 ◆闇竜娘(ダークドラコ)の真言呪文【吹雪(ブリザード)】行使:

 基礎値20+精霊支援6+2D661=33

 ○行使成功 ⇒ ダメージ算出:3D6231+6+魔術師Lv7+胃石2=21

 

 闇竜娘(ダークドラコ)の三本目の腕から、氷雪の嵐が発生します。(闇竜娘:呪文使用回数6→5)

 祖竜を滅ぼした低温は、蜥蜴人にとっても弱点です。

 

「ぬぅぅっ!?」

 

 ◆半竜娘の呪文抵抗:

 基礎値20+加速4+2D653=32 < 【吹雪】達成値33

 ×抵抗失敗!

 

 氷雪に包まれ、あっという間に半竜娘が見えなくなってしまいました。

 

『冷凍トカゲの一丁上がりってなァ!』

 

 しかし果たしてそうでしょうか? 本当に?

 

「効かぬわッ!」

『なんだと!?』

 

 次の瞬間、半竜娘は雪を白銀の布のようなもので吹き飛ばしながら、その雪の中から現れました。

 吹雪に包まれる一瞬で、空間拡張鞄の中から『耐火外套(ミスリルめっきグラスウールコート)』を取り出し、自らに巻き付けていたのです。

 

 ◆半竜娘の呪文抵抗(再計算):

 基礎値20+加速4+ミスリルめっき1+2D653=33 ≧ 【吹雪】達成値33

 ○抵抗成功!

 

 半竜娘ちゃんは、大きくその場で回転して、纏わりついた雪を吹き飛ばします。

 

 呪文抵抗成功により、凍結によるペナルティは発生しません。

 ただし、ダメージは半減して通ります。

 

 ◆半竜娘のダメージ(吹雪・抵抗成功):

 ダメージ21/2-装甲(鱗)3-耐火外套2=5

 半竜娘 残り体力 35 ⇒ 30

 

「冬とて知恵を絞ればどうということはないのじゃよ!」

 裸マントと化した半竜娘ちゃんが、クロックアップして突撃します。

「さあ 我が腕の中で 息絶えるがよい!!」

 

 ◆半竜娘の攻撃(両爪・二刀流):

 右爪:基礎値16+加速4+竜爪2+2D662-二刀流ペナ4=26

 左爪:基礎値16+加速4+竜爪2+2D636-二刀流ペナ4=27

 

 さらに、因果点を積んで祈念します!

 

「イイィィィイイヤァアアアアアッッ!!!」

 

 ◆祈念×2:

 祈念2D634=7 > 因果点3

 ○祈念成功! 右爪の攻撃をクリティカル化! 因果点3→4

 

 祈念2D651=6 > 因果点4

 ○祈念成功! 左爪の攻撃をクリティカル化! 因果点4→5

 

 クリティカル化により、命中達成値にそれぞれ+5!

 

(オレ)は、こんなところで……負けてらんねェんだよ!!』

 

 【竜爪】の祖竜術によりもたらされた鋭い爪は、装甲を貫通しますから、防御は無意味です。

 闇竜娘(ダークドラコ)は、避けるしかありません。

 

 ◆闇竜娘回避×2:

 右爪回避:基準値14+2D635=22

 ×クリティカルではないので回避失敗!

 

 左爪回避:基準値14+2D654=23

 ×クリティカルではないので回避失敗!

 

 が、ダメ……っ!

 

「おお、恐るべき竜よ、慈母龍よ! 末裔の戦働きを御照覧あれッ!!」

『GROORRRR!!』『KURRRRRAA!!』

 

 半竜娘は、突撃中に祖竜への祈りを叫ぶと、それに呼応した棘竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー:スピノ)を2体【統率】し、威力と装甲に+6の支援効果を得ます。

 2体の棘竜牙兵が奏でるリズムが激しくなり、半竜娘を鼓舞します。

 

 ◆ダメージ計算(半竜娘 右爪・左爪):

 右爪:素手(1D31+5)+竜爪2+竜牙兵支援6+胃石2+武道家Lv6+命中値ボーナス4D61412-装甲0=30

 左爪:素手(1D32+5)+竜爪2+竜牙兵支援6+胃石2+武道家Lv6+命中値ボーナス4D63311-装甲0=31

 

 合計61ダメージ!

 

 闇竜娘(ダークドラコ)の残り生命力:70 ⇒ 9

 

『ぐぅうううううっ!?』

 

 さらにクリティカル(痛打)のため、痛打表により追加効果!

 

 ◆痛打表(半竜娘 右爪・左爪):

 痛打(右爪):3 ⇒ 攻撃に用いる部位の破壊により与ダメージ半減

 痛打(左爪):6 ⇒ 転倒

 

 半竜娘の右爪が、攻撃を受けた闇竜娘(ダークドラコ)の両腕を深く切り裂きました!

 腕の腱を傷つけたのか、指先まで力が入らないようで、滴る血ともにだらりと力なく指と爪が垂れています。

 

 さらに、半竜娘の左爪の攻撃が、体勢を崩した闇竜娘(ダークドラコ)を弾き飛ばします。

 たまらずたたらを踏んだ闇竜娘(ダークドラコ)は、耐えきれずに転倒してしまいました。

 

「そう、貴様は下で、手前が上じゃ。分身が反旗を翻そうなど、烏滸がましいと思わんか?」

『ごふっ……思わ、ねェな! まだ(オレ)は死んでねえ、勝った気になってんじゃねェぞ!!』

 

 2ラウンド目終了です。

 (継戦カウンター 3→4。【加速】の呪文維持判定はファンブルではなかったので成功。)

 

 

 

 ◆先制力判定!(第3ラウンド)

 1.半竜娘 2D651+機先3+加速4=13 ⇒ 12と1に分割

 2.闇竜娘(ダークドラコ) 2D664+機先3-転倒ペナ4=9

 3.半竜娘 2回目行動

 

 続いて先手を取ったのは、またもや半竜娘ちゃん本体です。

 転倒してなきゃ、ひょっとしたら闇竜娘(ダークドラコ)ちゃんが先手取れたかもしれないんですけどねー。

 これまで全く先手を取れなかったのは不運です。

 

 半竜娘ちゃんは、大きく深く爪撃の傷跡が残る闇竜娘(ダークドラコ)を蹴り転がすと、右手の爪を闇竜娘(ダークドラコ)の胸に突き立てようとします。

 

 ◆半竜娘の攻撃(両爪):

 両爪:基礎値16+加速4+竜爪2+2D621=25

 

 ◆闇竜娘回避:

 両爪回避:基準値14+2D665-転倒ペナ4=21

 ×回避失敗!

 

 それを闇竜娘(ダークドラコ)は身をよじり、転がって避けようとしますが、深く傷ついた身体は機敏な動きができません。

 ついには、逃れられずに、捕まってしまい、【竜爪】によって尖鋭化した爪が、深々と胸に突き刺さっていきます。

 

『あ、ぐぁ、ちくしょうが……』

「ではいざ――」

 

 半竜娘は、突き刺した右手を闇竜娘(ダークドラコ)ごと持ち上げていきます。

 闇竜娘(ダークドラコ)を真上に持ち上げると、傷口から溢れる血を浴びながら、残った左爪を構えました。

 

「――供物としての役目を果たすがいいのじゃ」

 

 左爪が閃き、突き刺さった右爪が蠢き――

 

 ◆ダメージ計算(半竜娘 両爪):

 両爪:素手(1D32+7)+竜爪2+竜牙兵支援6+胃石2+武道家Lv6+命中値ボーナス3D6666-装甲0=43

 

 

 

FINISH HER

 

 

 

「イィヤァアアアッッ!!」

 

 

 

F A T A L I T Y

 

 

 ――闇竜娘(ダークドラコ)の胸から、心臓を()り抜きました。

 

「白亜の園を歩みし偉大な羊よ、永久に語られる闘争の功、その一端なりしへ我が片割れを導き給う……」

『は、は、負けちまったかァ。しかた、ね、ェ、な――』

「貴様の魂は、再び手前の一部になるのじゃ。そして貴様を糧に、手前は竜への階梯を登る。安心せい」

『ふ、は、は。ふがい、ねェ、ざま、みせ たら、つぎは、(オレ)が、食うか、ら、な』

「然り。竜とは、食らうものなれば」

 

 そして半竜娘は、いまだに脈動する心臓に食らいつき、雄たけびを上げます。

「おお、甘露じゃ! オオォォオオオオオオオオッ!!」

 一方で心臓を抜かれた闇竜娘(ダークドラコ)の身体は、光に包まれ、マナへと変換されていきます。

 

「いまここに供犠の儀式は成った!! いざ、いざ、いざ、これよりは霊界にて大物狩りであるぞ!!」

 

 百手巨人(ヘカトンケイル)に所縁のあった呪像を取り込んだ分身の心臓を食らい、捧げることで、霊界への道が開いたのです。

 また、時を同じくして、街の方でも霊威が高まるのを感じます。

 地母神に仕える女神官の祈りが、天に届いたのでしょう。

 この瞬間、霊界と地上界は最接近しているはずです。

 

慈母龍(マイアサウラ)よ!

 我らが母たる慈母龍(マイアサウラ)よ!

 末裔の狩りを御照覧あれ!

 竜とは奪うものなれば!

 古の巨兵を食らい、『手』の権能を奪いせしめて献上しようぞ!!」

 

 マナの光は儀式場の周囲の竜牙兵と麒麟竜馬を巻き込み、さらに輝きを強めます。

 

 やがて目を開けていられないほどに強く光り輝き――それは一条の光となって、天へと突き上がっていきました。

 

「……お姉さま? き、消えた……?」

 

 武舞台には、自由精霊と半竜娘以外の一党の仲間が残され、そこから半竜娘の姿は消えてしまっていました。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 光あふれる霊界――アストラル界。

 魂だけになって辿り着けるこの幽冥の世界に、半竜娘は居ます。

 

 その周りには、幾つかの魂が、半竜娘と繋がって浮遊しています。

 

 馬の形の2つの魂は、使い魔である2匹の麒麟竜馬の魂でしょう。

 4つの骨の操り人形のような形の魂は、祖霊と半竜娘の祈りが混交して形成された、4体の棘竜牙兵の魂。

 そして、オーラのごとく半竜娘を取り巻き脈動しているのは、先ほど食らった闇竜娘(ダークドラコ)の魂。

 

 いずれも使い魔契約や祈り、供犠により、半竜娘と繋がりがある者です。

 ゆえにその繋がりにより、アストラル界まで、半竜娘に引きずられて登って来たのです。

 

 特に、重なるように存在する闇竜娘(ダークドラコ)の魂は、もとが同一存在であったこともあり、脈動と同化の度合いを強めていきます。

 

「うむ。“我に勝算あり”じゃ」

 

 ――そう、今の半竜娘ちゃんは、魂のツインドライブ状態!

 その出力は、一時的に2倍……いえ、2乗にもなるでしょう!

 

 半竜娘が挑むように見上げた先には、巨体から大小無数の手を生やして枝分かれさせた異形の姿が。

 

 あれこそが、嵐の巨人『百手巨人(ヘカトンケイル)』の本体です!

 

「喰いでのありそうなヤツじゃな!」

 

 超勇者ちゃんが来るまでに、さてどれだけ喰えるか……。

 あるいは逆に捕まって握り潰されてしまうのか。

 

 というところで、今回はここまで!

 また次回!

 

 

 

*1
分身の独立:セッション中に別のPLが分身PCの操作を手伝ってくれたら、やたらキャラが立っちゃったりしてね……。あるよね? ない?

*2
百手は陽光の象徴:ヘカトンケイルはエーゲ海の嵐の神とされるが、近隣の神話における太陽神を零落させて取り込んだという説もある。その場合、百の手は陽光の象徴とされる。今回の話では、右手の呪像(闇竜娘所持)が陽光の側面、左手の呪像(闇人所持)が嵐の側面と解釈した。原作小説で、ヘカトンケイルの召喚に伴い嵐が生じたのは、ギリシャ神話のヘカトンケイルがエーゲ海の嵐の神であるからであろうと思われる。

*3
分解ディスインテグレート:上級の真言呪文。射線上のものに装甲点無視のダメージを与える光線を放つ。また、構造物を熔解させて穴を空ける。ちなみに基本ルールブックには記載がない呪文。ここでは【戦槍(ヴァルキリーズジャベリン)】を光線化し、装甲貫通効果を付与したデータとして扱う。

*4
吹雪ブリザード:被弾したとき呪文抵抗に失敗すると、ダメージに加えて凍えによるペナルティを受ける。




祖竜の権能を増やすために他の神格に戦を仕掛けて奪おうとする巫女の鑑。
祖竜信仰って四方世界では異端の新興宗教(他と比べて)なわけで、じゃあ、祖竜の権能は何処から来たかというと、蜥蜴人の英雄が昇天したものと、他から奪ってきたものがあるんだと思うんですよ。「竜とは奪うもの」であるがゆえに、ですね。

===========

Q.闇竜娘(ダークドラコ)の勝ち筋は?
A.負けたのは先制判定のダイスの出目が腐ったのが大きいですが、戦おうとしたのが実はそもそも良くなかったのです。
 初手で【脱出(エスケープ)】の真言呪文使って逃げ出すのが最適解。闇竜娘の勝利条件は、『生きる』ことなので、わざわざ戦う必要はないのです。
 ちなみに半竜娘ちゃん本体の方がピンチになると、周りの仲間が支援を始めます。闇竜娘(ダークドラコ)にとっては、圧倒的アウェー……! しかも本体の方はアイテム袋も持ってるしね。
 逃げるが勝ちってはっきり分かんだね。

Q.闇竜娘(ダークドラコ)も【加速】したら良かったのでは?
A.新しい力手に入れたら使ってみたくなるし(【分解】ブッパ)、弱点属性突けるなら突きたくなっちゃう(【吹雪】ブッパ)。あと『手』の呪像に侵食された影響で戦闘IQ下がってた可能性は否めない。



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25/n 収穫祭-5/5(幕間+VS 百手巨人)(半竜娘キャラシ掲載)

閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ありがとうございます! 皆さんの感想に支えられて――70話目! ありがとうございます!


●前話:
 闇竜娘『(オレ)の屍を越えて行けぃ!』

=====

 構成の都合で、今回はゴブスレさんが走るシーンから。




1.最終的にすべて殺せばよいのだ!

 

 ゴブリンスレイヤーは街中を、冒険者ギルドから門へと向けて走っていた。

 

 受付嬢と冒険者ギルドの屋上から見た、夕暮れに染まる街、

 宵闇に飛び上がる幻想的な天灯(スカイランタン)の群れ、

 女神官の奉納演舞、

 西の街外れの半竜娘の奉納演武、

 

 ――そして、遠い稜線に蠢く、四方から押し寄せる緑の小鬼の群れ。

 

 この街を襲おうというのだろう。

 祭りにかまけ、酒に酔い、油断している小鬼の巣穴があれば、ゴブリンスレイヤーは襲うだろう。

 だから、小鬼がこの機に辺境の街を襲うことは予想できることであった。

 ゴブリンスレイヤーはそれに備えていた。

 

 勝算を得るために。

 

 ――勝算は、勝利ではない。どこまで行っても、勝算(確率)勝算(確率)でしかない。約束された勝利などない。

 

 だからゴブリンスレイヤーは天灯を拵えなかった。

 勝利を得る可能性を高めるために、その間さえ惜しんだ。

 

 走るゴブリンスレイヤーに驚く街の人々。

 だが、すぐに「ああ、あの変なのか」「またゴブリン退治か? 祭りの日までご苦労なこった」といった反応に変わっていく。

 

 牛飼娘と、そして受付嬢と街を歩いた時に見た光景が頭をよぎる。

 重戦士と女騎士、

 槍使いと魔女、

 新米剣士と見習聖女、少年斥候に圃人巫術士、半森人の軽戦士らの若手たち、

 青年剣士と女武闘家――確か女神官の同期だったか――、

 揃いの赤毛と眼鏡の、女魔術師とその弟だという都から観光に来た少年……。

 

 みな、収穫祭を楽しんでいた。

 

 ――今回は彼らの手を煩わせるまでもない。

 

 春にゴブリンロードと戦った時とは違う。

 今回の敵は、ゴブリンを四方に分散させて、しかもタイミングも合わせず――小鬼に分散進撃させてタイミングが合うはずもない――攻め入ってきている。

 これならば、個別に撃破することができる。

 

 ――素人(ヌーブ)め。

 

 これなら、ゴブリンロードの方が、よほど厄介であった。

 

 ゴブリンスレイヤーは、これからの戦いに(いささ)かの高揚も覚えていなかった。

 いつも通りに殺す(スレイする)だけだ。

 心残りがあるとすれば――

 

「ああ……、行かれるのですね」

 ――剣の乙女との約束だけだ。

「そうだ」

 街の広場に立つ女。

 地味な平服に身を包んでも隠せぬその美貌と肢体から溢れる色気。

 そしてそれ以上に感じる、神聖な触れ難さ。

 

 ……だが、ゴブリンスレイヤーには見えている。

 小鬼を恐れ、村娘のように震える、大司教ではない、ただのか弱い女が。

 

「埋め合わせはする」

「――はい。

 ……ゴブリン、なのですね」

「そうだ、ゴブリンだ」

 

 その単語(“ゴブリン”)を口にしたとき、女の身体は一層震えた。

 

「問題ない。――ゴブリンどもは、皆殺しだ」

「はいっ。どうかご武運を……!」

 

 剣の乙女が祈りを捧げると、至高神の祝福が小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)に降り注いだ。*1

 

 剣の乙女は、走り去るゴブリンスレイヤーを見送った。

 

 ゴブリンスレイヤーは、振り返らなかった。

 

 

<『1.最終的にすべて殺せばよいのだ!』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 はいどーも!

 

 前回は半竜娘ちゃんが、『手』の呪像に侵食された分身体の心臓を祖竜に捧げて喰らって、それをトリガーにアストラル界へと御供たちと一緒にカチコミしたところまででしたね。

 

 そしてアストラル界において見つけたのは、無数の手を持つ異形の巨人――『百手巨人(ヘカトンケイル)』です。

 

 『百手巨人(ヘカトンケイル)』は、神々が盤面遊戯に興じるようになる前の、ガチのウォーゲームをしていた時に作り出された尖兵です。

 その力はすさまじく、数多の魔術を操り、権能が宿る剛力無双の腕を振るって、幾柱もの神々を屠ったといいます。

 やがて混沌と秩序に分かれて争っていた神々が不戦協定を結び、ダイス勝負で白黒つけるようになると、神話の時代が終わるとともに、『百手巨人(ヘカトンケイル)』は無用の長物となり、封印されたのです。

 

「神々の御手で直接作られた古の巨兵。そこには当然、それ相応の権能が宿っておる。死蔵されるくらいであれば、生命の輪環に乗せるがごとく有効活用してやるのが竜司祭としての務めというものよのう」

 

 奇しくもヘカトンケイルの封印を解いて呼び出さんとする混沌の計略が辺境の街を襲っていました。

 街を丸ごと生贄に捧げようというのです。

 それを防ぐべく神託を受けた超勇者ちゃん一党が、根本的かつ不可逆的に解決(大元のヘカトンケイルをぶっ殺)すべく、じきにアストラル界へ殴りこみにやってくるでしょう。

 

 しかしながら、先にヘカトンケイルに辿り着いたのは半竜娘ちゃんです。

 ヘカトンケイルと同じ『手』の権能の一端を宿した呪物を分身体ごと喰らい、道標代わりにして一直線にやってきたのです。

 だから超勇者ちゃんよりも早く辿り着けたんですね。

 

「さぁて、これより行うは一番爪の突撃よ。この誉れ、竜に連なるものなれば、お主らも当然来るであろ?」

 

 半竜娘ちゃんは、自らが纏う分身体(闇竜娘)の魂と、4体の棘竜牙兵、2頭の麒麟竜馬に問いかけます。

 

『…………!!』

 闇竜娘の魂は一層強く脈動し、半竜娘との同化を深めます。

 

『KURRRRR!!』『COCACACA!!』『SHAAAAA!!』『GRRRRROOOO!!』

 半竜娘の祈りと祖竜の神威で作られた竜牙兵の核も、雄たけびを上げるように骨を震わせます。

 

「ケーン!」「ブフルルルル!」

 使い魔たる麒麟竜馬の魂も、戦意は十分!

 

 そして、そのそれぞれの戦意の高まりに呼応するように、魂の境界が揺らぎ、混ざっていきます……!

 

「天の火石が走るよりも速き、似鳥龍(オルニトミムス)のごとき俊足で駆け――」

 2頭の麒麟竜馬の魂が溶け込み、半竜娘の下半身が、八本脚の馬体となります。*2

 

「敵を貫く巨刺龍(ギガントスピノ)のごとき大槍を携えて――」

 4体の棘竜牙兵の魂が溶け込み、半竜娘の身体の至る所から骨の装甲となって滲み出し、覆い、また尖り、まるで馬上槍を構えた騎兵のように全体を覆っていきます。*3

 

「重ねた影の鼓動を燃やし――」

 重なるようにぶれて噴出していたオーラが、次第に収束して収まり、半竜娘の魂の輪郭を、よりくっきりと浮かび上がらせます。*4

 

「――以て手前は、獲物を屠る一振りの爪とならん。神をも喰らう牙とならん!!」

 

 引き連れてきた魂たちと融合変身し、いざ決戦です!

 

 

 

 あれに見えるは、数多の権能を操る古の混沌の尖兵!

 ヘカトンケイル!

 相手にとって不足なし!

 

 

【挿絵表示】

 

 

 半竜娘はヘカトンケイルに対してあまりに小さいため、幸いにもまだ見つかってはいないようです。ヘカトンケイルは封印の微睡(まどろみ)から目覚めたばかりですし、寝ぼけているのかもしれません。

 なので今のうちに戦闘準備をします。

 初手最大威力でいきましょう!

 

 つまり、いつものコンボ(【加速】【巨大】【突撃】)です。

 【力場】のレールは、アストラル界では不要です。ほら、霊子を足場にできるので(BLEACH並感)。

 

 助走距離の計算は――

 八脚麒竜の形態により、素の移動力は100!

 【加速】状態は継続しており、2倍加速で200!

 【巨大】の呪文は2乗出力もあり、20倍拡大で4000!*5

 【突撃】により、さらに3倍で、最終的に助走距離は12000!

 ダメージボーナスは助走距離の20%なので、大きく螺旋を描くように12kmの助走距離を超・超・超加速して、2400のダメージボーナスだ~~~!!

 

「イィヤァアアアッッ!!」

 

 なお、ヘカトンケイル本体の生命力は12100あります。いちまんにせんひゃく。*6

 (カァミ)のHPは膨大なのです! (カァミ)に通用する属性を持たない限りは、戦いにならない!

 

 しかし、固定値は偉大だ!

 これだけあれば、大腕の一本は持っていけるでしょう!

 20倍巨大化により、背の丈でも、象と鼠程度の差から、大人と子供程度には差が縮まりましたし。

 

「大腕の一本、いや、二本、もらったのじゃ!!」

 

 まるで波頭が砕けるような音とともに、ヘカトンケイルの左肩が大きく弾け飛びました!

 左肩を貫いたのは、半竜娘の二つの骨棘の大槍! そして竜のオーラに包まれた超速度の体当たりです。

 骨棘の大槍で覆われた半竜娘の両腕の先には、ヘカトンケイルの肩からもぎ取った大腕が二つ、誇るように貫かれて掲げられています!

 

 これだけでも戦果としては十二分でしょう!

 

『AAAAAAAAAHHHHH―――――!!!!!』

 

 寝起きに強烈な一撃を喰らったヘカトンケイルの怒りの咆哮!!

 アストラル界を壊さんばかりに震わせる恐ろしい叫びです!!

 

『LUOOAOOARRRAARRRR―――――!!!!!』

 お返しとばかりに、ヘカトンケイルの無数の腕が魔術の光を(たた)え、幾つもの光線、光弾を放ちます!

 一つ一つが【分解(ディスインテグレート)】級です!

 

「ぬぉっ!? こりゃあかなわん、転進じゃ!!」

 すかさず半竜娘は、再度【突撃】の術を発動し、戦利品の大腕を早贄のように掲げたまま、超加速して光線と光弾を避けます。板野サーカスめいていますね。

 しかしその間にも、ヘカトンケイルの傷は塞がり、肉が盛り上がり、新しい腕が生えようとしています。種族特性の自動回復です。

 

【擬態】の術(光学迷彩)、発動じゃ!!」

 【擬態(カモフラージュ)】の術を発動し、ステルス化。

 さらに相手の狙いから外れるように三次元をフル活用して走ります。

 そして遠くから、防御不能の【力球(パワーボール)】で“これでもくらえっ(テイク・ザット・ユー・フィーンド)!”するつもりです。

 透明化してのパワーボールは強い(確信)。

 

「とはいえ触媒がなければ……どこかに“この世の外から来たもの”が転がっておらんかの」

 まるで流星のように高速で駆け抜けながら、術の触媒に使えそうなものをきょろきょろと探します。

 

「……お、あれは――!?」

 何か見つけられたみたいです。

 

 半竜娘は無数の「踏み躙られた“不確定名称:まんじゅう?”」を見つけた!

 ???「ゆ、ゆっくりして、いってね……」

 

 あっ。

 

「なんじゃこれは」

「ゆ……」

 

 あっ、あっ、あっ。

 これ、あれですね。

 慈母龍さんの群れに轢き潰された“TASさん(ティーアース)”たちの成れの果てですね……。

 見かけないと思ったら、力を失って零落した挙句に神域から転落してアストラル界(こんなところ)にいたのか……。

 

「ゆ、ゆー……」

「――何だか知らんが、“この世の外から来たもの”には違いなかろう! こいつを触媒に――これでもくらえっ(テイク・ザット・ユー・フィーンド)!!」

「ゆゆー!!?」

 

 う わ あ 。

 ティーアースの零落した破片(ゆっくりまんじゅう)たちを触媒に、不可視化した半竜娘ちゃんが流星の軌道で駆け抜けながら、無属性の爆発をヘカトンケイルにばらまいています。

 ティーアースたちは、ガチでこの世の外から来た“外なる神”ですからね、【力球(パワーボール)】の術の触媒としては最上級です。

 たぶん、触媒として消費することで、術者本人の負担すらなしで術を撃ててるんじゃないでしょうか。

 

 しかし、ゆっくりの顔した爆炎が、アストラル界に咲き乱れて……これはまぎれもなく、カオス……。

 とはいえ、あの扱いは、実況者のN氏(ナナシ)としては、下手をすれば明日は我が身です。

 こわいなー、こわいなー、とづまりすとこ……。

 

「よし、あと一発、突撃をかますのじゃ!!」

 

 チャフやフレア代わりの【力球】に紛れて、八脚麒竜で甲冑騎士な半竜娘ちゃんが、不可視化したまま、ヘカトンケイルに突撃します。

 

「イィヤァアアアッッ!!」

 

『LUOOAOOARRRAARRRR―――――!!!!!』

 

 しかしそれは読んでいたヘカトンケイル。

 幾つもの障壁が発生し、半竜娘の突撃を受け止めていきます。

 戦利品の大腕をいまだに棘槍に刺したままだったのも災いし、威力は半減!

 

『RRRAAAAAAAHHHHH!!!???』

 それでも、追加でさらに大腕の一本をもぎ取ることに成功しました!

 自動回復された分は取り返したかな、って感じですね。

 勢いのまま、遠くに離脱。

 

 ヘカトンケイルは、いまだ健在。

 さて、このままでは半竜娘ちゃんはジリ貧ですが、そこに――

 

「太陽の、爆発!!」

 

 ――まばゆく輝く、太陽のごとき爆発が炸裂しました!

 

 超勇者ちゃんキタ! メイン勇者来た! これで勝つる!

 にわかに処刑用BGMも流れ始めたような気がします。

 っていうか、ヘカトンケイルは身体の過半を吹き飛ばされているので、1死はしたでしょう。

 

「……。……ヨシ! あとは任せたのじゃ!!」

 半竜娘ちゃんは、これから戦利品の大腕から、ヘカトンケイルの権能を喰らって奪って献上する作業があるので、あとを超勇者ちゃんに任せるつもりですね。

 実際、大腕三本も突き刺したまま戦闘機動をとるのも辛いですし、超勇者ちゃんたちの攻撃と連携が取れるとも思えませんので、潮時でしょう。

 

「まっかせなさい!! 勇者、推参!!!」

 小さな体のどこにそんなパワーが秘められているのでしょうか……。

 一度死んだヘカトンケイルが、追い詰められて覚醒して起き上がるところに、賢者の支援を受けて再行動した勇者の攻撃が突き刺さります。

「太陽は二度昇る! 太陽の、爆発ぅぅぅっ!!」

 

『GGGGUAAAAAAHHHHH!!!???』

 

 勝ったな(確信)。

 

 輝く太陽の爆発と、ヘカトンケイルの断末魔を背景に、今回はここまで!

 ではまた次回!!

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 リザルト

 

 半竜娘は、分身体の魂を吸収したことにより、体力点+1、魂魄点+1、集中度+1の恒久的ボーナスを得た!*7

 半竜娘は、分身体の魂を吸収したことにより、身体が成長した!(体重が約2倍、身体の各種サイズが1.25倍)*8

 半竜娘の融合状態は解除された。ツインドライブ状態も解除された。

 

 

 半竜娘は、ヘカトンケイルの大腕の肉を介して権能を喰らったことにより、新たな真言呪文を1つ習得可能!

 半竜娘は、【嫌気(ディスガスト)】の真言呪文を習得した!*9

 半竜娘は、ヘカトンケイルの大腕の肉を介して権能を喰らったことにより、呪文使用回数が+1された!(呪文使用回数8→9回)

 

 

 半竜娘は、慈母龍(マイアサウラ)にヘカトンケイルの権能を捧げたことにより、新たな祖竜術を1つ習得可能!

 半竜娘は、【竜翼(ワイドウィング)】の祖竜術を習得した!*10

 半竜娘は、慈母龍(マイアサウラ)にヘカトンケイルの権能を捧げたことにより、【竜の末裔】技能が限界を超えて達人級(第4段階)に成長した!(装甲(鱗)+4、素手攻撃(爪)威力+4)

 

 半竜娘は分身体を調伏したことにより、経験点1250点、成長点3点獲得!

 半竜娘はヘカトンケイル討伐に貢献したことにより、経験点5000点獲得!

 半竜娘は巫女として慈母龍に大いに貢献したことにより、経験点5000点獲得!

 

 半竜娘は、竜司祭Lv9→10に成長! 経験点12500点消費、成長点25点獲得!

 半竜娘は、新たに【竜命(ドラゴンプルーフ)】の祖竜術を習得した!*11

 半竜娘は、【呪文熟達:付与呪文】技能を、達人級まで伸ばした!(付与呪文の行使・維持に+4ボーナス)(成長点25点消費)

 

 半竜娘は、『零落したティーアースの破片』を1つ獲得した!*12

 

 

 

 

*1
剣の乙女が小鬼殺しに与えた祝福:闇落ちした圃人斥候による襲撃はなかったので毒は入手できていないため、その代わりという側面がある。かけられた祝福は、『祝福(ブレス)』(ゴブリンスレイヤーの肉体に付与。命中+4、威力+10)、『聖壁(プロテクション)』(遠隔化済み、ゴブリンスレイヤーの肉体に付与。達成値35以下の攻撃を遮断。実質的にスーパーアーマー)、『審問(インクジション)』(付与呪文化してゴブリンスレイヤーの肉体に付与。所持する武器を介して敵の呪文系統1つを封じる効果を与える)、『聖断(ジャッジメント)』(付与呪文化。一度だけ達成値に+4の加算を可能とする)。過保護……! 圧倒的に思慕が重い。重い女……!

*2
麒麟竜馬との融合:八足馬(スプレイニール)形態。移動力100。オルニトミムスとは、ダチョウに似た恐竜の仲間で、最速の恐竜類とされる。

*3
棘竜牙兵との融合:甲冑+馬上槍を象るような形状で、骨の装甲と棘が備わった。ギガントスピノサウルスは剣竜類(ステゴサウルスに近い仲間)の恐竜で、肩から長い棘が生えていたという。融合後の半竜娘ちゃんの肩から骨が伸びた棘は、馬上槍のようになって腕を覆っているが、判定上は骨と繋がった肉体の一部なので、素手扱い。装甲+4、素手攻撃を刺属性に変換、素手攻撃威力+4。

*4
闇竜娘との融合同調:全く同一の魂を同期させて励起共鳴することで、アストラル界における能力値が2乗された。第一能力値が、体力点5→25、魂魄点8→64、技量点3→9、知力点6→36。第二能力値が、集中度4→16、持久度3→9、反射度3→9。最高値は魂魄+集中の80で、これは文句なしに神話級の能力値と言える。

*5
半竜娘【巨大】行使:知力36+集中16+魔術師Lv7+加速4+付与熟達3+2D613=70。基本ルルブの効力値表の掲載範囲を突破してるが、まあ20倍くらいでいいやろ!(ガバ裁定)

*6
ヘカトンケイルの生命力:ルルブ記載のヘカトンケイル(顕現途中の個体で、両手武器4本持ちなのでおそらく8本腕か7本腕)の生命力が110。本体であれば、手指はその110倍以上はあるはずなので、まあ12100もHPがあっても不思議じゃない。なお、巨人の種族特性として、毎ターン1割程度のHPが回復する。つまり、地上の闇人に降ろした指先は、全体の約1%で、毎ターンの自動回復で余裕で回復する程度なので、マジで末端でしかないと思われる。ちなみに、カオスフレアにおける防御属性によるダメージ軽減を四方世界ルールに翻訳適用する際に高HPとして表しているので、カオスフレアのルールで表すときはHP:1210となる。

*7
分身体の吸収ボーナス:蜥蜴人の初期作成時にボーナスが貰える能力値である体力点、魂魄点、集中度にそれぞれ+1としました。

*8
分身吸収による身体の成長:魂に溶け込んだのと同様に、受肉した身体もマナに分解されたあと取り込まれ、魂の増大を反映して肉体も成長した。体重約2倍、寸法は2の三乗根倍(=1.259……。キリよく1.25倍とした)。半竜娘の元の身長は約220cm(角込み)と想定しており、成長後は身長約275cmとなる。まあ、棘竜牙兵と同じくらいの背丈。

*9
嫌気ディスガスト:戦意を減退させ、先制判定や能動的な行動にペナルティを与える。怠惰の権能。真言は『ウィルトゥス(美徳)アーミッティウス(喪失)ウィティウム(欠点)』。停滞スロウと合わせれば、相手を封殺できる可能性があるが、停滞スロウと異なり、嫌気ディスガストの対象は1体だけ。

*10
竜翼ワイドウィング:両手を翼に変えて飛翔する。祝詞は『天高く飛びし古き羽(アーケオプテリクス)よ、我が(かいな)を翼として風に乗らん』。最大バフの【突撃】と合わせることで、航空攻撃と化す。

*11
竜命ドラゴンプルーフ:一定時間、炎と毒への完全耐性を獲得する。

*12
契約精霊その2.零落したティーアースの破片(属性:空間、時間)

 使用可能な術

 【風化】(精霊級:つぶれたまんじゅう)

 【放逐(全属性)】(自由精霊級:てのりまんじゅう)

 【力球】(大精霊級:なまくびまんじゅう)

 零落した外なる神の一端。

 毎日、触媒(甘いものなど)をお供え物として消費し、週に一回は上質な触媒を供える必要がある、呼び出す際も上質な触媒を用いなくてはならない。上質な触媒を用いない場合は達成値-4。なお、これ自身を【力球】のとても上質な触媒として使うことができる。使った場合、達成値+10。ただし、触媒として使った後は日付が変わるまで失われる。




 この間、現世の森人探検家ちゃんたちは、ゴブリン部隊のおかわりを殲滅してたりします。(経験点+1250、成長点3点)
 原作ではゴブスレさん一党が街の四方全てを面倒見てましたが、当SSでは西は森人探検家たちが担当しました。2周目レギュなのでゴブリンの数が増えたものの、西側を森人探検家たちが担当したので、まあ難易度的にはそこまで変わっていません。特にゴブスレさんが、剣の乙女さんの祈りのおかげで、スーパーゴブスレさんになってるので小鬼の数が増えようがヨユーです。

======

Q.半竜娘ちゃんへのボーナス多すぎでは?
A.『手』の呪像のフラグを最初に出してから、ここに至るまで何万文字書いたと思ってるんだ(迫真)。半竜娘ちゃんへのご褒美というよりは、作者へのご褒美です。
 まあ、実際の卓の場合は、PL間の不均衡になるのでこんなに大盤振る舞いでボーナスは配らない方がいいですね(当然)。
 配るとしても、『ステータスUP(分身吸収)』、『真言呪文関係(ヘカトンケイル捕食)』、『祖竜術関係(慈母龍への献上)』、『経験点ボーナス』のどれかをダイスで決める感じかと。……その報酬決定ダイスがクリティカルしたなら仕方ないので全部上げてもいいかもですが。

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半竜娘ちゃんのキャラシ(成長後)掲載ですが、画像にしてみました。↓
GIF形式にして画質落として500kb未満程度。ギリ読める程度、なはず。
画像にしたけどやっぱりやたら長いな……。
(アイテム欄から“『手』の呪像”を消し忘れてました。あとで修正します)(修正しました)


【挿絵表示】


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25/n 裏(+TS圃人斥候・文庫神官キャラシ掲載)

閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ありがとうございます! これだけたくさん書けましたのも、皆さんからいただく感想のおかげです!

●前話:
零落したティーアースの破片(ゆっくりまんじゅう)『つ、追放・没落からの成り上がりは、トレンドだし……! 今度は、そ、そういうレギュレーションだし! 完走して盤外に返り咲けば世界記録だし!』(震え声)
流行りに敏感な走者の鑑であることですね(棒)。

しかし実際、TASさんが見出して育てた超☆天☆才たる半竜娘ちゃんについていけば、神域への返り咲きも夢じゃないです。ゆっくり力を取り戻していってね!! 他に走者がいないから返り咲きまで完走できれば自動的に世界一位です。

そしてあるいは長い時の流れの果てに、竜となった半竜娘ちゃんの頭の上にちょこんと乗ってるゆっくりがいたりするかもしれません。……いや現世に馴染んでどうする、別エンドになってるぞ。

なお、それはそれとして、テイク・ザット・ユー・フィーンド!!って投げられるのは変わらない模様。
『どぼじでぞん゛な゛ごどずる゛の゛お゛お゛お゛!!??』
だって防御無視の範囲攻撃(精霊術【力球(パワーボール)】)の達成値(=威力)に+10するとか、シンプルにめっちゃ強いし……使ってもどうせ毎日復活するし……使わない理由がないっていうか……。

 


1.賽の目一つ

 

 いつもは鉢巻をしている青年剣士は時間を戻せるものなら戻したかった。

 なんで、なんでオレは――。

 

「ねえ、どうしたの? 浮かない顔して……。や、やっぱり、こんな服似合わない……よね?」

「いや、そんなことはない! 似合ってる!」

「そ、そう?」

 

 ――なんでオレはいつもの服で来ちまったんだぁあああああ!!?

 

 青年剣士の目の前には、髪を下していつもと違ってスカートを履いてはにかむ幼馴染の女武闘家の姿が!

 そういえば、女魔術師(一党のもう一人の仲間)の里帰りについていって都まで行ったとき、なんか女二人で買い物に出かけてたなあ!! と思い返す。

 あの時に買ったのか! 洗練された服装は、きっと都の最先端なのだろう。道行く人も女武闘家を振り返っている!

 

 対して自分(青年剣士)は、大してオシャレでもない、いつもの服! ザ・モブって感じだ!

 うぉぉおおおおおお!

 時よ戻れ!

 こんな、こんなことならこっちだって一張羅を引っ張り出してきたものを!

 ゴブリンスレイヤーの兄貴っ、これが油断した冒険者の末路というわけですね!?(錯乱)

 

「ぐぬぬぬぬ」

「ほんとにどうしたの?」

「い、いや、なんでも……」

 

 これが槍使い(辺境最強)の兄貴なら、さらっと「いやあ、可憐なお嬢さんに目がくらんでね。てっきり夏の妖精が舞い戻って来たのかと思ったぜ。それって王都の流行りなんだろう? 似合ってるぜ」くらいのことは言ってのけるだろう!

 っていうかすれ違った時に言ってた! そのあと魔女(相棒の魔法使い)さんに(つね)られてたけど!

 ここでさらっと言葉が出るかどうか、それを成すのもまた「練習だ」ってわけですよね、ゴブリンスレイヤーの兄貴っ!?

 

 だが、十分練習できずに挑まざるを得ないときもある。

 そういうときはぶっつけ本番になっちまう。

 しかし現実は待ってくれない。世の中、やるかやらないか!

 やることは分かってる――なら、やるだけだ!

 

 冒険者は度胸!

 そうですよね、重戦士(大剣使い)の兄貴っ!?

 

「――なんでも、なくは、ない。その、えと、……見違えた。綺麗だから、緊張して」

「ま゜っ――」

 

 ボンって音がしそうなくらいに、幼馴染の顔が真っ赤に染まったのが分かった。

 たぶん俺も同じ顔してる。

 

「それに比べて、俺は、って思っちまって」

「そ、か」

「だから、すまん、すぐ着替えてくる! 俺も一張羅引っ張り出してくるから、ちょっと待っててくれ――」

「――だぁめよ?」

 

 照れ隠しもあってその場をいったん逃げようとした俺の手を、幼馴染が捉えた。

 鍛錬で硬くなり、戦いのときは鋼のように敵を砕くその手が、なんだか妙に柔らかく思えて、もっとどぎまぎした。

 ああ、女の子なんだな、って。ふっと思った。

 

「着替えを待つ時間も惜しいわ。今日は、たーっぷり、付き合ってもらうんだからね!」

 

 いたずら気に微笑む彼女に、しばし見惚れて――

 

「――ああ、分かったぜ」

 

 観念したように、肩の力を抜いた。

 

 確かに言うとおり。

 冒険者なんて、賽の目一つでどうにでもなっちまうんだ。

 足踏みしている暇なんてないんだ。

 火吹き山の闘技場で一回死んで、それは十分思い知った。*1

 なら、いま目の前のことを精一杯楽しまなきゃ損ってもんだろう。

 

「ね、いこっ!」

「ああ!」

 

 

<『1.もしも賽の目一つ違っていれば、この光景はなかっただろう』 了>

 

 

 

  ○●○●○●○●○

  ●○●○●○●○●

 

 

 

2.この力量、銀等級……いや、貴様、金等級だな!?

 

 宵闇に包まれ、さらに嵐に巻かれるなだらかな丘の上。

 街の南、牧場よりも少し先のところで、ゴブリンスレイヤーは敵と相対していた。

 

 ローブに身を包み、『手』の形をした呪物を持っているのは、混沌に(くみ)する闇人の術士。

 そして、彼に従うゴブリンたち。

 それが、今回の敵手だった。

 

 ヘカトンケイルを降臨させようと、嵐を引き連れて、辺境の街全体を生贄に捧げようとやって来たのだ。

 ()の闇人の手勢は、闇人曰わく“愛おしくも愚かしい”小鬼たちの群れのみ。

 

 小鬼とは、最弱の怪物に過ぎない。

 

 だがそれで十分なはずだと闇人は考えていたのだろう、祭りを乱す程度は小鬼で足りると。

 流血と騒乱が混沌の力を呼び込み、それによって顕現部位を増していくヘカトンケイルが、さらなる流血を呼び、力を高め、それがまた殺戮を呼び……やがては全てを平らげるだろうから、と。

 『手』を励起させた状態で街に入ってしまえば、こちらの勝ちだ、と。*2

 

 とはいえ、闇人は、念のため、ゴブリンだけでは心許ないからと、ローグギルドに騒乱を起こすように依頼もしていた。

 『手』の呪像を手に入れる際に暴いた遺跡から引き揚げた遺物を売り払って得た金品や、その遺跡があった地の領主を傀儡にしていた時に横領した金子を派手にばらまいて。

 ……だが、そちらはどうにも効果を発揮していないようであった。

 

「まあ、最初から仕掛人(ランナー)どもには期待していたわけではなかったがな……」

 

 しかし、全く効果を顕さないというのも幸先が悪い。

 それほどに衛視たちが優秀だったのか?

 仕掛人たちがヘボだった?

 何にせよ、企みは上手く行かなかった。

 まさか勇者一行が超スピードで仕掛(ラン)の黒幕を潰してフレアを稼いでいるとは思いもよらない。

 

「街まで立ちはだかるは……ふん、たかが冒険者一党ひとつ。何の障害にもなるまいさ」

「……ゴブリンを率いていたのは貴様か」

 

 ゴブリンスレイヤーのみすぼらしい鎧を見て侮ったのか、闇人は鼻を鳴らして、傲岸にも見下した。

 対するゴブリンスレイヤーも、ゴブリンでもない相手にさしたる興味もない。

 ざあざあと(つぶて)のような雨に打たれる。闇は只人の敵にして、混沌の友。この闇と嵐の中では松明も消えてしまう。

 

「毒気に紛れた竜牙兵の突撃は、退けさせてもらったぞ、我が【分解(ディスインテグレート)】の術によってな」

「そうだな」

「問答のし甲斐のない奴め――推し通る!」

 

 周囲では既に小鬼たちが冒険者たちとの戦いを始めている。

 蜥蜴人の爪爪牙尾、森人の弓矢、鉱人の精霊術。闇人は小鬼がやられていくのをちらりと一瞥した。――それでいい、元より足止めしか期待していない。

 『左手』の呪像を強く握りしめると、まるで片割れと共鳴したかのように、強い力が流れ込んできた。

 闇人は知る由もないが、半竜娘が『右手』の呪物ごと分身体を捧げたことで、本来『右手』に流れるはずだった呪力が行先をなくして彷徨っていたのだ。それが、『左手』に感応し、闇人に流れ込んだ。

 

 ――これならばっ!!

 

「森羅万象は塵と化せ――オムニス(万物)ノドゥス(結束)リベロ(解放)……!!」

 

 世界を歪める真言が、雨の音を貫いて、冒険者一党の耳に届く。力ある言葉とはそういうものだ。

 

「んなバカな! あんだけの大砲を連発できるんか!?」

 顔色を失った鉱人道士が叫んだ。

 本来は連発できなかっただろう。だが、あぶれた呪力がそれを可能にした。

 

「くぅ、【聖壁(プロテクション)】は、まだ――」

 先ほど一発目の【分解】の光線を防いだ女神官は、まだ地母神に奇跡を嘆願できるほどには立ち直っていない。

 

 

 

「解けて消えよ――【分解(ディスインテグレート)】!!」

 闇人が裂帛の気合を込めて手を突き出すと、そこから全てを熔解させ塵にする光線が猛然と放たれた!

 

 それは雨も夜闇も関係なしに突き進み、盾を構えたゴブリンスレイヤーへと突き刺さった!

 

「オルクボルグ!」 「小鬼殺し殿!」

 妖精弓手と蜥蜴僧侶が、思わず頭目の字名を叫ぶ。

 ディスインテグレートの光線は、防御不能の致命の魔術。

 盾で受けたとて、盾ごと熔かされるのがオチだ。

 

 誰もが、ゴブリンスレイヤーの死を確信した。

 

 しかし。

 

「……ば、バカな!? 【分解】の術が効かない……どころか押されているだと!?」

 闇人の驚愕の声。

 破滅の光線は、小鬼殺しの盾を貫けず。

 それどころか、盾に受け止められたまま、徐々にゴブリンスレイヤーに押し返されている。

 

 そう、これはゴブリンスレイヤーに掛けられた、剣の乙女の加護によるもの!

 至高神に愛されし乙女。先の魔神王を討滅した金等級。水の街の大司教。

 彼女の祈りが、ゴブリンスレイヤーを聖なる力で守っているのだ!*3

 

「――ッ!!」

 ゴブリンスレイヤーはそのまま光線を盾で受けながら、突っ切るように術者たる闇人のもとへと突進!*4

「くっ!?」

 しかし闇人も座して見る訳ではなく、ゴブリンスレイヤーの盾撃(シールドバッシュ)を跳んで避けた。

 

「見た目に惑わされたかっ! その装備、みすぼらしく見えるが、これほどの力を秘めた魔法の武具だったとはな!」

 闇人は、『左手』の呪像を握り直し、立て直しつつ看破したように自信満々に叫んだ。実際は的外れなのだが。

「そして今の盾撃の力量……。この街に居るのは第三位の銀等級止まりと聞いていたが……ならず者(ローグ)どもに掴まされたか! その装備、その力量! 貴様、金等級だな!?」

 

 囀る闇人に、ゴブリンスレイヤーは答えない。

 

「金等級ともなれば、こちらも出し惜しみはできぬ……」

 

 闇人は、『左手』の呪物を高く掲げると、恐ろしき様相で祝詞を唱え始めた。

 

“おお、大腕の君 暴風の太子! 吹けよ風! 呼べよ嵐! 我に力を与え給え!!”

 

 『手』の呪像を触媒に、ヘカトンケイルの指先が降りてくる!

 それは実体を得て、闇人の背から5本の腕となって突き出した!

 元の手と合わせれば7本腕。新たに得た5本の腕を巨大蜘蛛の脚のように使って、闇人は己の身体を持ち上げる。

 

「差し詰め、今のこの姿は“七本の怪異”といったところか。フフフ、この威容に、声も出まい……」*5

 

 闇人は、古の尖兵の一端を降臨させた反動で血走った目で、小鬼殺しを睨みつけた――。

 

 

<『2.このあと剣の乙女の加護マシマシのスーパーゴブスレさんが勝ちます』 了>

 

 

 

  ○●○●○●○●○

  ●○●○●○●○●

 

 

 

3.服を買いに行く服がない

 

 辺境の街の西。

 半竜娘が(しつら)えた武舞台の上に、天上から一筋の光が差し、金色に煌めくマナが渦巻き、やがて3つの形をとった。

 

「ふぅ、戻ってこられたのじゃ……」

「ケーン」「ブフルルルルッ」

 

 マナが収束して現れたのは、戦化粧の半竜娘と、2頭の麒麟竜馬。

 アストラル界の戦いから戻って来たのだ。

 ちなみに、勇者一党の方は、聖剣による『太陽の爆発』と、ヘカトンケイルの奥の手の魔術がぶつかり合った衝撃により、全く別の次元に飛ばされてしまっているのだが、半竜娘はそのようなことは知る由もない。

 巻き込まれずに済んだのは、ヘカトンケイルの大腕3本を慈母龍に捧げるために、アストラル界の戦場地域から距離を置いていたのが幸いした形だ。

 

「あー! リーダー戻って来てたのかよ!」

 それを目ざとく見つけたのは、森から出てきたTS圃人斥候。

 彼女(?)の周りには、新鮮なゴブリンの死体が。来し方を見れば、点々と急所を刺されたこれまた小鬼の死体がいくつも倒れている。

 ここもまた、闇人が分散進撃させたゴブリンの標的になっていたようだ。

 どうやら、日があるうちに対処したゴブリンたちとは別の部隊がいたらしい。

 

「え、お姉さま!? お帰りなさいませ! それで首尾は……――あれ?」

 【聖壁(プロテクション)】を張って戦域を限定(コントロール)していた、鎧姿の文庫神官。

 森の方を向いていたが、TS圃人斥候の声に振り返って武舞台を見て、安堵した表情になり、次に怪訝な顔になった。

 

「これでゴブリンは最後っと。……で、あなたもおかえり。……うーん。気のせいじゃないわよねえ……」

 プロテクション越しに森へ矢を放った森人探検家。当然、隠れていたゴブリンに命中した。

 彼女も半竜娘を見て首をかしげている。

 

「リーダー」「お姉さま」「あなた……」

「「「 なんか大きくなった(なりました)? 」」」

 そして口をそろえてそう言った。

 

 それを受けて半竜娘は、大きく裂けんばかりの笑みを浮かべた。

 

「おう、その通りじゃ!」 うきうきとして、自慢したいのを隠そうともせずに語る。「受肉した分身体を吸収したのが、アストラル界を経由して再顕現したことで物質界にも反映されたようじゃの! 見よ、今の手前は棘竜牙兵――中堅の祖竜と同程度の背丈を得たぞ!」

 

 背は高く、胸板は厚く、肩幅は広く。

 鱗は硬く、爪は鋭く、筋骨は隆々と。

 

暴君(バオロン)級竜牙兵のような体躯まではまだまだ足りぬが、また一歩、竜へと近づいたのじゃ!」

 2人分の魂を得た半竜娘の肉体は、2人分の重さを備えた体躯へと成長したのだ。

 立ち上がった(ヒグマ)と同じ程度、あるいは小柄な(エレファント)の体高と同じ程度の背の高さにもなる。

 蜥蜴人は、自分たちのことを、生きている限り肉体が成長し続ける種族だとうたっているが、それが真実なら、長生きすればするほど、もちろん身体も大きくなっていくということだ。

 なお、暴君(バオロン)級の竜牙兵と同等になるには、半竜娘の今のこの成長した状態からでも、さらに1.6倍程度は大きくならねば届かず、そこまで育つまでの道のりは遠い。*6

 

「あー、まあ、うん。蜥蜴人としては、大きいことは良いことかもしれないけど……」

 森人探検家がテンションを上げる半竜娘を諫めます。

「……着れる服がないんじゃないの? そんなに急に大きくなると」

 

「あっ」

 

 

<『3.ボディペイント状態だったから気づかなかったのじゃ……』 了>

 

 

 

  ○●○●○●○●○

  ●○●○●○●○●

 

 

4.成…長…期……??

 

 結局、半竜娘はこれまでの服や防具が入らなくなってしまったので、がらくた市で手に入れていた魔法の布×2を身体に巻き付けて服の代わりにすることにした。

 能力増強の指輪も危うく、食い込んで抜けなくなるところだったが、一瞬だけ指輪に【巨大】の呪文をかけて事なきを得た。

 

「それだけ身体が大きいと、遺跡探索にも支障が出そうねえ」

 南から押し寄せる『左手』の呪像がもたらした嵐の残滓を避けるため、西の儀式場から急いで街へと撤収してきたところで、森人探検家が難しい顔をしてそう言った。

 周りを見れば、嵐を避けるため、屋台は撤収し始めているし、酔客たちも手近な店へと吸い込まれていっている。

 ちなみに、麒麟竜馬は、別途牧場へと歩かせている。使い魔はこういうとき付き添い要らずで便利だ。

 

「遺跡探索っつーか、街中でも不便だろ。店とか宿とか入れねーんじゃねーか?」

 撤収する屋台や酒場の屋外席を見て、ひもじそうにしているのはTS圃人斥候だ。圃人は1日5回の食事が必要とされるので、おなかが空いたのだろう。

 だが、子供ほどの背丈しかないTS圃人斥候と、その倍の背丈にまで成長した半竜娘が同時に入れる店というのも限られるだろう。一党内身長差デカ過ぎ問題である。

 ここは只人の領域なので、家具なども只人のサイズで作られているのだ。体型が違う種族にとっては過ごしづらいこともある。

 

「私は大きなお姉さま、好きですよ! お姉さまの上で寝たりとか……えへへ、夢が広がりますね! じゅるり」

 欲望を隠そうとしないのは文庫神官。

 半竜娘にぴったりくっついて、仲睦まじい恋人のように腕を組んでいる。

 

「あー、騎馬に、防具に、服に、家具に、その他にも色々と更新せなぁじゃなあ」

 指折り数えて肩を落とす半竜娘。成長したのは嬉しいが、面倒くさいものは面倒くさいのだ。

 

「あと防寒具もだろー? 蜥蜴人って絶対、寒さに弱いだろー? がらくた市で買った毛皮じゃ面積足りねーだろーし。あーむ、むぐ、もぐ」

 いっそ(ひぐま)雪男(サスカッチ)の皮を剥いで毛皮丸ごと被った方が楽かもなー、などと言うTS圃人斥候の手には、撤収する屋台から売れ残りを恵んでもらったのか、ずらりと肉串が並んでいる。

 可愛げな容姿を生かしたコミュ術であった。

 

「そもそも、あの銀等級の魔法使いさんのお家がかなり手狭になるのではないですか? お姉さま」

 ニコニコしながら半竜娘の腕に顔をグリグリ押し付けながらすがりつく文庫神官。

 半竜娘は魔女の家に下宿しているが、確かに、成長した本体と分身が過ごせるようなスペースはないだろう。

 

「ああ、そしたら街の外にでも拠点造りましょうよ。一党で暮らせるようなやつ!」

 いいこと思いついた! というように両手をパンっと打ち合わせたのは森人探検家。

 

「それいいな! ギルドにどこかちょうどいい場所があるか聞いてみよーぜ!」 賛成するTS圃人斥候。

「どうせなら動力取れる場所がいいのじゃ。川の傍とかのぅ、水車とか置いてのう。手前がよく手伝いする大工衆に頼めるじゃろうし!」 乗り気で計画を述べる半竜娘。

「書庫! 書庫が必要ですよ! あと祭壇! わあ、お姉さまと同棲ですね!」 知識神の神官らしい要望を述べる文庫神官。

「やっぱり樹を植えましょう、っていうか、私が樹の精にお願いして、柱か壁の一部を生木と一体化させちゃうわ。その方が便利よ~」 すかさず森人式の建築を取り入れさせようとする森人探検家。

 

 わいわい、がやがやと。

 乙女たちは宵闇の街に消えていった。

 

 

 

<『4.この後、みんなで半竜娘を布団代わりに馬小屋で寝ました(普通の部屋には入れなかった)』 了>

 

森人探検家は、特に職業Lvや技能は伸ばさなかった。(経験点、成長点を温存)

 

TS圃人斥候は、【隠密】技能を初歩→習熟段階に伸ばした!(隠密判定ボーナス+1→+2)(成長点10点消費)

TS圃人斥候は、【受け流し】技能を初歩段階で習得した!(武器防具の『受け流し+n』の効果を回避判定に加算可能)(成長点5点消費)

 

文庫神官は、戦士Lvを4→5に伸ばした!(経験点2500点消費、成長点5点獲得)

文庫神官は、【頑健】技能を初歩→習熟段階に伸ばした!(生命力+5→+10)(成長点10点消費)

 

 

  ○●○●○●○●○

  ●○●○●○●○●

 

 

5.北方、雪山にて

 

 

 

「これで最後っ!」

『GOOOBBB!?』『GUGGGYYYAA!!?』『GOOBBGGAA!??』

 

 令嬢剣士の放った魔術の雷が、一直線に小鬼の列を貫き、その内側から命を焼いた。

 

 ここは北方の、雪深き山の中。

 小鬼退治の依頼を受けた令嬢剣士の一党は、依頼元の村へと急ぐ途中で、小鬼の群れを見つけたのだった。

 令嬢剣士の一党5名は、その小鬼を殲滅。

 小鬼らが運んでいた虜囚の女らを奪還。

 

「助けられて良かったですわね……」

 蜂蜜色の髪を二つに括った令嬢剣士が、鞘に先祖伝来の軽銀の剣を納めつつ、安堵した。

 

「とはいえ、衰弱しておるな」

 戦鎚を背負った鉱人の神官戦士が、知識神の聖印を手にテキパキと虜囚に手当てをする。

 虜囚の女たちは、心身の消耗が激しいのか朦朧としているようだ。

 

「さっさと村に連れてってやろーぜ」

 はすっぱなハーフエルフの軽戦士の女が、剣の血糊を払って言った。

 

「さっきので依頼完遂になれば楽なんですがね」

 ローブに杖の魔術師の男が虜囚に掛けるための天幕を荷物から広げている。

 

「さあ、どうだろうな。小鬼一匹見かけたら……って言うしなぁ」

 圃人の女斥候が、用心して周りを見渡した。どうやら討ち漏らしはいないようだ。

 

 

 ともあれ、滑り出しは上々。

 行きがけの駄賃として奪還した虜囚を連れた令嬢剣士一党は、そのまま依頼元の村へと到着した。

 

 だが。

 

「え、この村の住人ではないんですの? この女の方たち」

 きょとんとした令嬢剣士。

 

「ええ。うちの村で行方が分からない者はおりませんし……」

 申し訳なさげな壮年の村長の言葉に、しかし、令嬢剣士たちも顔を見合わせるばかり。

 

「しかし、そうすると彼女たちは一体どこから攫われてきたのでしょう……」

「さあ……」

 首を捻る令嬢剣士と村長。

「……この辺りの地図はありますか? 他の村の場所が分かるような」

「簡単なものなら……」

 

 この村の女ではないなら、この雪深い山の中、可能性は限られる。

 令嬢剣士は、村長が村の酒場の卓に広げた地図をなぞる。

 

「……わたくしたちがゴブリンを殺したのがこの辺で……」

「付近の村ということであれば、この村の他には、谷上の村がそこからは比較的近いかと」

 村長の言うとおり、令嬢剣士たちの会敵地点からそう遠くない場所に村があるようだ。

「確かに」

「ですが、虜囚の娘たちの数からすれば、谷上の村にいる若い娘は全員が捕らわれたとしか……」

 暗澹たる表情で、村長が続けた。 

 

「こちらは?」

 令嬢剣士が指した場所は、その谷上の村と、会敵地点を結んだ直線の延長線上。

 そこにも何かの書き込みがある。

 

「ああ、そこには、上古の鉱人の砦があるのです。私も祖父から聞いただけですが」

「なるほど……、今回のこちらの村の依頼のゴブリンというのはそこに?」

「いえ、依頼の討伐対象は村から近い洞窟の近くで見かけた奴らで、砦とは別ですな……」

 

 …………うん?

 

「村長、これは……」

「ええ、言わんとされることは分かります……」

 令嬢剣士と村長の顔が強張って引きつる。

 

「恐らくは、ゴブリンたちは古代の鉱人砦に陣取っています。それも、そのうちの分派された一部隊だけで村一つ滅ぼせるのです、本隊はいかほどの数か……。あるいは、滅んだ村は、その谷上の村一つとも限りません。この雪では、村と村の間の連絡ももとから閉ざされているでしょうし」

「村の近くで見かけた小鬼というのも……」

「……砦と無関係だと楽観するのは危険でしょう」

「ああ……なんということだ……」

 令嬢剣士が積み上げた予想に、村長は顔を覆ってしまった。

 

「冒険者さま……いかがでしょう、退治は、その……」

「率直に申し上げても?」

「是非に」

 縋るような村長の目に、令嬢剣士も真剣に返す。

 

「……正直に言いまして、手が足りません。砦攻めは難しく、かといって、この情勢で、近隣で見掛けたというゴブリンを叩きに行っても、その間に砦から出て来た別働隊にこちらの村を叩かれる恐れがあります。相手の数が分からなくては……」

「そう、ですか……」

「下の下の冒険者であれば、近隣の小鬼だけ片付けて、砦の方は別依頼にしろとか言うところでしょうね」

「ああ……」

 実際、かなり依頼内容が変わってしまう。白磁の一党5人には荷が重い。

 しかし、別の依頼を立てるだけの余裕も、村にはないのだ。村長が呻くのも無理はない。

 

「現実的には、わたくしどもは村に滞在させていただきながら、用心棒として村の防衛をしつつ、偵察と敵の漸減を行うことになるでしょうか。それで、敵を減らし、陣容を明かしてから、可能であれば押し込むことになるかと。……できるだけ早く済ませたいですが、長期戦ですわね」

「しかし、そうすると、食糧が心許なく……」

「ああ……」

 今度は令嬢剣士が呻く番だった。

 ただでさえ逼迫する冬の食糧事情。

 冒険者一党と、虜囚の女たち。急に増えた食い扶持を支えられるだけの余裕があるかどうか……。

 壊滅したと思われる谷上の村に物資が残されていればいいが、あるいはそれもゴブリンの別働隊が回収しているかもしれないから、過度な期待は禁物だろう。

 

「ならば、仕方ありません。援軍を頼みましょう」

「援軍……しかし、そのような余裕は村には……」

「どのみちこの状況は、ギルドに報告しなくてはなりません。万が一のときに、わたくしたちの後続のために、情報を残さなくては。期待薄ですが、一応、ここの領主宛てにも私の名で一筆書いて添えておきましょう、補助金でも出るかもしれませんし……。……それに、援軍、というのも、私の心当たりに頼んでみるだけですわ」

「心当たり、とは?」

 

 村長の問いに、令嬢剣士は微笑んで答える。

 

「……【()()()()】の冒険者。聞いたことはなくて?」

 

 

<『5.こ無ゾ。じゃけん援軍ば呼びましょうねー』 了>*7

 

*1
青年剣士くん一回死亡:『20/n 火吹き山の闘技場-4(VS 脱走者)』でのこと。そりゃ一回死ねば、死生観いろいろひっくり返るよね。

*2
ヘカトンケイル・テロ:

Q.小鬼率いて襲ったりせずに普通に闇人単体で『手』の呪像だけ持って街中に入ってからテロった方が良かったのでは?

A.励起した『手』の呪像の瘴気が目立ちすぎるので断念した模様。むやみやたらと嵐も呼ぶし。あとは地母神の加護が強すぎて街中では呼び出せなかったという事情もありそう。それに、ことを起こすに単騎特攻(ひとりぼっち)は、闇人の流儀ではないので……。特攻させられる術士が他に一人いれば、そいつをそそのかしてテロらせて、多分街中でいきなりヘカトンケイルが現れるという、より厄介な事態になっていた可能性もある。

*3
剣の乙女の加護1:遠隔化、付与呪文化した【聖壁】の奇跡。達成値35以下の全ての攻撃を遮断する膜をゴブリンスレイヤー及びその装備に纏わせている。

*4
剣の乙女の加護2:肉体への付与呪文化した【祝福】の奇跡。ゴブスレさんが持つ装備の達成値に+4。威力にも+10。

*5
七本の怪異:ファイティング・ファンタジー「ソーサリー」第3巻「The Seven Serpents 七匹の大蛇」に由来。

*6
半竜娘や竜牙兵の身長:成長前の半竜娘と普通の竜牙兵=2.2m程度。成長後の半竜娘と棘竜牙兵=2.8m~3m程度。暴君竜牙兵=4.5m~5m程度。という風に想定してます。

*7
令嬢剣士の判断:令嬢剣士(のちの女商人)は、『19/n “水晶の森”亭 殺人事件-3(VS 人狼)』、『19/n “水晶の森”亭 殺人事件-4(VS 吸血鬼)』で冒険を経験したため冒険者としてレベルアップしている(半竜娘たちとのコネクションも水晶の森亭で獲得)。また、今回は運良く虜囚を運んでいるゴブリンたちを襲撃できたことがきっかけで、この群れが大規模なものだと気づくことができた。気づけなかったら……原作の壊滅陵辱ルートだったかな……。




受付嬢「雪山の砦に小鬼の大規模な群れ……ですか。“できれば【辺境最大】の一党を指名したい”……と。ですが、ちょうどご不在なんですよねえ。でもこれきっと一刻を争いますし……」
小鬼殺し「ゴブリンか。ならば俺が行く。場所は、数は、上位種の有無は」

次回は半竜娘ちゃんたちが家を建てたり、大きな毛皮を手に入れがてらついでに闘技場で連戦して成長した身体の慣らし運転する感じかと(つまりほぼ閑話)。収穫祭後から雪山ゴブリンズクラウンまで、確か少し日数が開いてるはずなので。
雪山(原作小説5巻)も行きます! 令嬢剣士からの援軍依頼は、闘技場に行ってる間にすれ違いになってゴブスレさんの方に振られるような想定をしているので、半竜娘ちゃんはそれとは別口で理由作って赴くことになりますが。
そして雪山の砦で戦うゴブスレさんが見られる劇場版は、Netflixなどで配信中だ! Check it out!!(ちぇけら!)


以下、今回成長したTS圃人斥候と文庫神官のキャラシ掲載です。

TS圃人斥候

【挿絵表示】


文庫神官

【挿絵表示】


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二周目レギュRTA 目指せ【辺境四天王】~越冬編~
26/n ああ、愛しの我が家(Home, our sweet home)-1(収穫祭翌日~建築予定地下見)


閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ありがとうございます! 特に感想は、折に触れて読み返してパワーを貰ってます、とっても励みになっております! いつもありがとうございます!

●前話:
ゴブスレさん「ユクゾッ! イヤーッ!」
闇人「グワーッ、一撃受けたら真言呪文が封じられたグワーッ!(付与された奇跡【聖断(ジャッジメント)】による呪文系統封印効果) だ、だがまだ召喚術があるグワーッ!(バフ山盛りゴブスレさんの攻撃で普通に平押しで潰された)」
ゴブスレさん「……大司教に感謝だな。この埋め合わせもしなければ……か」


蜥蜴僧侶「おお! やりますなあ!」
妖精弓手「えっ、オルクボルグってこんな強かったの?」
鉱人道士「いや、ありゃ術の補助のおかげじゃろう」
女神官「すごい……。神様の加護のようですが、地母神様ではないですし……これは至高神様の奇跡でしょうか? ……あっ」(←誰が掛けた術か勘付いた顔)

======

令嬢剣士ちゃん(のちの女商人)のステータス(戦略ゲー表記)は、たぶん、武力関連は並みより劣るくらいだけど政治・商工関係が天元突破してる内政特化型。もし国王陛下がステータス鑑定できたら『……!?(二度見) 冒険者やらせてる場合じゃねえぞ!? こいつはさっさと後方支援に回すんだ!!』ってなるレベル。きっとね。――転職させねば(使命感)。

======

今回は、時系列的には収穫祭から冬本番になるまでの出来事です。(なのでまだ令嬢剣士は雪山に行ってないです)


 はいどーも!

 本格的に『辺境』に居を構える実況、はーじまーるよー。

 

 前回は、()()()()()()慈母龍(マイアサウラ)さんに、神代の尖兵たるヘカトンケイルに宿る権能を捧げて、竜の巫女として大いに成長したところまででしたね。

 ヘカトンケイルの本体は強敵でしたが、超勇者ちゃんが来るまでに権能が宿った大腕を3本も獲得してとっても有能な半竜娘ちゃんでした。

 零落したTASさん(ティーアース)の破片とかも拾って、TASさんの再起の目を作ってるので、実は地味に命の恩も返しつつあったりします。*1

 

 半竜娘ちゃんは、受肉させた分身体を吸収したことと併せて、祖竜にも目をかけてもらったことで、魂魄の位階上昇も、肉体の成長も大いに捗ることになりました!

 ……信じられないことに、これで成人して1年目なんですよね、半竜娘ちゃん……。

 これはまさしく……英雄の器……!

 

 まあ、『英雄の器だスゴイ!』で済んだら良かったんですけど、現実にはいろいろと厄介なことが出てきます。

 肉体が一気に、身長基準でこれまでの1.25倍に成長したら、そりゃもう、生活面でも戦闘面でも支障が出てくるわけで……。

 

「うーむ、先ずは服からじゃな!」

 収穫祭から明けて翌日。

 宿屋の馬小屋で一党全員で寝ころんだあと、半竜娘たちはとりあえずギルドへと向かうことにしたみたいです。

 その道すがら、周囲の視線を集めつつも、これからのことを相談しています。

 

「いま、布を巻き付けてるだけだもんな」

 TS圃人斥候は朝の屋台で買ったものを食べながら答えます。

 すっかり自分の容貌を利用することにも慣れ、女だらけの一党での立ち居振る舞いも馴染んできました。

 まあ、冒険者一党というものは、野営中は男女の別なく同じ天幕に寝ることも多いのですが。

 ……男に戻る気あるのかな? まあ、女に馴染んだのと同じ期間かければ、男にもまた馴染めるでしょうから、問題ないでしょう。

 

「防具もどうにかしなきゃよね。ミスリルの鎖帷子(かたびら)とか、魔法で強化された大篭手や司教服とかも調整し直さないと」

 森人探検家も思案気にしています。

 交易神の神官でもあり一党の会計係でもある彼女は、急な出費をどう賄うか、その優秀なエルフ思考力を使って、頭の中で計算しているのでしょう。

 半竜娘は基本的には術士だとはいえ、武僧として前衛に出ることも少なくありません。防具は重要です。

 

「あとはやはり冬の防寒具でしょうか。確か、北方の山村からの食料救援の予約が多く入っているとか、ギルドの受付さんがおっしゃっていたような」

 半竜娘の隣で恋人のように腕を組んで歩いているのは、文庫神官です。

 せっかく半竜娘のために仕立てた塹壕外套(トレンチコート)などのオシャレ着が、一日で着られなくなってしまったことは特に気にしていないようです。

 本人に聞けば、“また仕立てれば良いのです! 楽しみが増えましたね!”と言うでしょうね。ポジティブ。

 

「防具なら幸い、まだ古竜の宝物庫から獲ってきたやつの予備があるから、それをバラして組み込むなり接いだりすれば何とかなると思うのじゃが。防寒具はやはりクマの毛皮か何かが良いかの」

 半竜娘は春先に古竜の宝物庫を暴いて物資を略奪していますから、確かにそれを素材にすれば今着ているものの仕立て直しもできるかもしれません。

 

「それか、今のを下取りに出して特注ね。サイズの自動調整機能付きのやつとか、巨人用装備とか、火吹き山の闘技場に売ってたりしないのかしら? あ、それと防寒具なら、馬用のも必要じゃない? あの子たちも寒さに弱そうだし」

 森人探検家の指摘ももっともです。

 物資は火吹き山の闘技場で手配する方が確実でしょうし、あちらにはオーガなどの巨人族の闘士も登録していますから、あるいは既製品もあるかもしれませんし。

 それに、森人探検家が言うとおり、麒麟竜馬の防寒対策というのも必要です。毛皮がないので、蜥蜴人と同じく体温調整に難があるはずですから。または、冬用に、鱗を羽毛に生え変わらせる薬がないか(あるいは作れないか)探してもいいかもしれません。

 

「あとはやっぱり寝泊りできる場所の確保だろ。いつまでも馬小屋ってわけにはいかねーし」

 TS圃人斥候の言うとおり、この半竜娘の巨体では、いまの下宿先の魔女の家で厄介になり続けることも無理でしょうからね。

 

「既存の家じゃ規格が合わんから、新築するとなると、まあ、街中よりは街の外の適当なとこじゃろうな。場所についてはギルドに相談じゃな。大工衆の手配は、手前(てまえ)の伝手でなんとかなるじゃろうが、図面についてもこれからみなで相談じゃな」

 半竜娘はそのパワーと【巨大】の術を生かして、土木建築系の手伝いを多くしています。人間重機な上に、顔もいいので、大工たちには大いにかわいがられているとか。

 その伝手があれば、家を建てるのもそれほど問題はないでしょう。

 

「そういえば、騎馬の新調とかお姉さまもおっしゃってましたが、どうされるんです? 確かにお姉さまを乗せて走らせるのは、今の騎馬でも難しいでしょうし……」

 麒麟竜馬は、大きくなる前の半竜娘に合うようなサイズで造られた使い魔ですが、さすがにその二倍の重量は想定していません。

「でもいまさらあの子たちとお別れは、やーよ?」

 麒麟竜馬を気に入っている森人探検家は、騎馬の更新に否定的です。

 

「馬車も手狭になるなら、車体の更新も考えなきゃならねーかもな」

 食べ終わった屋台飯の器を捨てながら言うのはTS圃人斥候。

 空間拡張鞄などがあるので馬車の積載量的には、物資の置き場を気にしないで良いとはいえ、半竜娘とその分身が乗ると、車内はぎゅうぎゅうになるかもしれません。

 でも、買ったばかりなのに買い替えるのもなあ、という感じですよね。

 

「まあ、騎馬は増やしてもいいのじゃよ。全員、騎乗はできるわけじゃしな」

 そう、半竜娘が言うとおり、この一党は4人全員【騎乗】技能を修めているので、4騎(あるいは分身の分合わせて5騎)の騎馬を揃えてもいいわけです。

 

「あの、流石に維持費がきつくないでしょうか。ちょっとした騎兵隊になっちゃいますよ? 出先で騎馬を預ける場所が制約になりそうですし」

 文庫神官の懸念のとおり、流石に5騎も騎馬を――しかも増やすとしたら今の半竜娘が乗れるサイズになるでしょうから、かなりの巨体です――維持するのは、お金の面でも労力の面でも難しいです。

 いくら使い魔として一定の知性が保証されるとはいえ、少なくとも馬を世話をする馬丁(ばてい)を雇う必要があるでしょう。

 場合によっては運用するにあたって、騎馬に随伴する槍持ちの従者も必要かもしれません。

 

「いっそエレファントにでも乗るとか……?」

 TS圃人斥候の呟きの通り、サイズ的にはもう、象騎兵すらも現実的なラインに入ってきます。

「それなら、ゴーレム作成術を磨いた方がいいかもしれんのじゃよなあ」

 無機物の方が生き物よりは世話が楽なので、そっちで増やす方に切り替えるのもアリです。もちろん、これまでと同様、キマイラ作成術で良い感じの使い魔を追加で作ってもいいわけですが。

 

 

「まあ、あとはギルドの机を借りて、いろいろ意見出して、まとめましょう。ほら、もう到着よ」

 森人探検家がそう締めて、前を見るよう促しました。

 いつの間にか、もう既に冒険者ギルドの扉の前です。

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 半竜娘ちゃんが背をかがめて冒険者ギルドに入ると、視線が一斉に集まりました。

 まあね、新手のモンスターかと思うよね、でっかいし。

 

「あの、半竜の、術士さん……ですよね?」

 受付嬢が一同を代表して、恐る恐る確認します。

「いかにも!」

 半竜娘も元気よく答えます。

 

「えぇっと……【巨大】の術でもお使いになってます?」

 まあ、巨大の術ならまだ納得がいきますもんね。

「いや! 成長したのじゃ! 竜としての位階を高めたらこうなっての、成長期なんじゃと思うぞ?」

 そうそう、成長期成長期。『んなわけあるかーい!』っていうギルド中からの突っ込みの視線を感じますが。

 

「はあ。まあ。そうですか。ええ、貴女のことですからね、はい、慣れました」 肩を落として深くため息をつく受付嬢。「それで、何か御用でしょうか」

 半竜娘ちゃんがこうやって軽くやらかすのは、まあ何度目かですからね。慣れもするでしょう。……ご苦労様です。

 

「それなんじゃが、まあこの()()じゃと、街中で暮らすに手狭でな。街の外にでも一党全員で暮らせる拠点を作ろうかと思ったのじゃよ」

「……なるほど。そのちょうどいい土地の紹介を求めて、ということですね。壁外なら、どこでもそれほど問題ないと思いますが」

「話が早くて助かるのぅ! まあ、詳しい条件はこれからこっちもまとめるから、またあとで相談するのじゃ。変なとこ選んで揉め事になってもコトじゃし、仲介してもらった方が安心じゃからのう」

「はい、わかりました。お待ちしています」

 

 そして半竜娘ちゃんたちは、テーブルを囲むと――半竜娘ちゃんは背の関係で床に直座りです――、ギルドまでの道すがらに話していた続きで、今後の計画を練ることにしました。

 パピルスを取り出した文庫神官が書記をし、森人探検家を進行役で検討を進めます。

 

 途中途中で、知り合いに声をかけられたりもしました。

 まあ、一気に背が伸びすぎですからね、そりゃそうなります。

 幾つかのやりとりを紹介しましょう。

 

・Case1:魔女さんの場合

 

「あら……昨日は 帰ってこなかった、けど。こんな ことに なってた、の、ね?」

 しゃなりとした腰つきで挨拶してきたのは、銀等級の魔女さんです。

 

「おお、大家どの、魔術の先達よ! 昨日は外泊で申し訳ないのじゃ、まあ色々あってこうなってのう。これでは家に入れぬので、申し訳ないが暫くしたら新しい家を建てて、下宿は引き払わせてもらおうと思っておっておるのじゃ」

「そう、なのね。ま あ、仕方 ない、わね。でも、もし 出て行っても、いつでも 泊りに来て、いいの よ?」

 申しわけなさそうな半竜娘に、魔女も残念そうな顔をします。

 

「かたじけないのじゃ! 研究合宿に泊めてもらうこともあると思うのじゃ!」

「ふふ、よろしく、ね? わたしも、【縮小】の術がないか、調べてみる、わね」

「おお、なるほど! 小さくなれれば面倒も少ないやもしれんな!」

 確かに、【巨大】があるなら、【縮小】の呪文があってもおかしくありません。

 

「調べてみないと、分からない、けど、ね? そ、れで、新しい、家が、できる までは、どこで 過ごす、つもり?」

「まあ、しばらくは馬小屋で寝泊りじゃのー。あとは火吹き山の闘技場の方なら、巨人向けの部屋もあるやもしれんから、興行でお金稼ぎがてらそっちに行くつもりじゃ」

 火吹き山の闘技場なら、きっと何とかなるはず……!

 

「なるほど、ね。その時は、また、図書館にも、連れて行ってくれる、かしら?」

「もちろんじゃとも! それと、浴槽神のエステにも、じゃな! 槍の御仁のためにも!」

「もう……。からかわないの」

 はにかむ魔女さんカワイイ(カワイイ)。

 

 

・Case2:蜥蜴僧侶さんの場合

 

「やや? おお、おおお! これは如何(いか)なることか!」

「叔父貴殿! 見てくりゃれよ、この体躯を!」

 半竜娘ちゃんの母方の叔父である蜥蜴僧侶さんです。

 すっかりもう、半竜娘ちゃんの方が背が大きくなってしまいましたねえ。まあ、今は半竜娘ちゃんは床に座ってるのでそこまで背の高さの違いは顕著に見えませんが。

 

「随分とまた、位階を上げた様子! 一体何があったのでありますかな?」

「うむ、手前の加護竜たる慈母龍に、太古の混沌の尖兵、ヘカトンケイルの大腕と権能を捧げたのじゃよ!」

 半竜娘ちゃんは自慢げに、尊敬する叔父に語ります。

 

「なんと! それは昨日の収穫祭の夜でございますかな、姪御殿」

「いかにも。『手』の権能を宿した呪物によって、手前の分身体を受肉させ、その心の臓をば喰らって捧げて、アストラル界に殴り込みしたのじゃ!」

 改めて聞いてもヤバい巫女ですよね……。

 思いつくのもヤバいですが、完遂できてしまうのもヤバいです。

 

「『手』の呪像……というと。その片割れらしきものを昨日、拙僧も見ましたなあ」

「ああ、そういえば、左『手』の呪像を、闇人が持ち去っておったな。叔父貴殿が見かけたそれがあればもう一度同じような儀式ができるのじゃが、回収しておるかの?」

 もう一個あったら、儀式おかわりする気ですよ、半竜娘ちゃん。

 封印されたヘカトンケイルがまだ他に残ってるか分かりませんが。

 

「ああ、いや。あれは小鬼殺し殿が砕きましてな」

「……残念じゃ」

「まあ、混沌に縁のある呪物は、破棄するのが無難でしょうや」

「そうじゃのう……」

 実際、半竜娘ちゃんみたいにこっそり持ち歩いてた方がヤバいですからね。

 普通は破棄するか、ギルド経由でしかるべき筋に封印してもらうものです。

 

「ところで」

「なんじゃろうか、叔父貴殿。顔が怖いが」

 ぐぐっと蜥蜴僧侶さんが顔を近付けてきます。

 

「なぜ拙僧を誘わなんだのですかな。……次に似た機会があれば、拙僧にもお声がけいただきたいが、よろしいか?」

「アッハイ」

「くれぐれも、く れ ぐ れ も 、よろしくお頼み申しましたぞ」

 

 

・Case3:女神官ちゃん & 地母神寺院のみなさまの場合

 

「――見つけましたよ!」

「おお、地母神の巫女殿。どうしたのじゃ、寺院の修道女たちも勢ぞろいで」

 いつもの白い神官服の女神官ちゃんが、ギルドに入ってきました。

 しかも、修道服の少女たちも一緒です。

 

「一応、一応ですね、聴取をさせていただきますが……」

「聴取? とな? ああ、手前の背が伸びたのは成長期だからじゃが」

 半竜娘ちゃんのテンプレート化した回答に、女神官ちゃんは首を振ります。

 

「いえ、それも気になりますが、そちらではなくてですね。――竜の巫女たる貴女にお伺いしますが、貴女の崇める慈母龍様と、私の仕える地母神様。その関係について、どうお思いですか?」

「ふむ? いずれも慈悲深き神格であろう。母性を司り、ときに戦神としての側面もある。あるいは、お互いがそれぞれ同じ概念の一側面でなかろうかとさえ、思うておるぞ?」

 地母神と慈母龍って、確かに似てますよねー。

 

「――語るに落ちましたね」

「うん?」

「今朝方、地母神様への祈りの際に、今までとは違ったイメージが混ざってきたんです」

「ほう」

「鱗と爪のイメージです。心当たりがありますよね?」

 おおっと。アストラル界で半竜娘ちゃんがでっかいことやらかした影響でしょうかね。

 それとも……?

 

「ははーん? 習合の兆しがある、と言いたいのじゃな。しかし、たかだか竜司祭手前ひとりの祈念が、そこまで大きく影響するかのう」

「貴女は自分の力を過小評価しすぎです! 貴女が自分で思う以上に、貴女の影響力は大きいのだと理解すべきです。そしてこの雑な混淆習合の原因は、相互の神格・教義への理解が不十分なせいだと考えています」

「つまり?」

 箇条書きマジックだと言いたいわけですね。

 簡略化して列挙したら要素が似て見えても、(つまび)らかに比較すれば、(おの)ずと違いが分かるはずだ、と。

 

「『話せば分かる』、ということです。――さて、寺院の皆様、この竜の乙女に、地母神様の教義をしっかりと理解してもらいましょう。地母神と慈母龍の違いについて、二度と混同しないように。――連れて行ってください」

「にゃ、ちょ、待つのじゃ!」

 修道服の少女たちが、半竜娘の手や尻尾を引っ張ります。

 本気になったら振りほどけるでしょうが、怪我をさせるおそれもあるため、困惑しながらも半竜娘はなされるがままに立ち上がりました。

 

「待ちません! ――ああ、皆様、ちょっと皆様の頭目をお借りしますね。この竜の巫女に、いろいろと分からせなくてはいけませんから。お騒がせしました!」

 女神官ちゃんは、森人探検家たちに頭を下げると、寺院の方へと修道女と半竜娘を引き連れて歩き出しました。

 

 

 あーあ。

 どうやら、『()()()()()()慈母龍』ということで、地母神信仰と自らの慈母龍の信仰を、わざと一部混線させようという試みをしていたようですね、半竜娘ちゃんは。

 でも実際、神格が伝播の過程で統合されたりというのはありうるので、慈母龍が地母神の別側面という可能性もなくはないんですが。

 上手くいけば、【聖壁】などの便利な奇跡の術を、祖竜術にロンダリングできたかもしれませんし、実際、半竜娘ちゃんはそれを狙っていたのでしょう。

 

 とはいえ、いきなり自分たちが崇める神に、鱗が生えそうになったらそりゃ怒りますよねって話で。

 ドナドナと半竜娘ちゃんは連れていかれてしまいました。

 きっと、地母神の逸話や聖典なんかについて、みっちりとお説教されるのでしょう。残当。

 

 

「リーダー連れてかれちまったけど?」

 TS圃人斥候がお茶請けをつまみながら暢気に言います。

「まあ、拠点の機能面の希望は粗方出そろったでしょうし、土地探しはわたしの方でやっとくわ」

 森人探検家が、土地建物に関する要望を取りまとめたパピルスを重ねます。

「じゃあ、私はお姉さまの衣類を手配してきますね!」

 文庫神官がうきうきと挙手します。

 

「サイズ分かるの?」

 森人探検家が念のためといった様子で片眉を上げて確認します。

「知識神の文庫に伝わる測量術があれば、目視と接触で十分測れるのです!」

 自慢気な文庫神官。知識を書き留め連ねるためには観測が重要であり、知識神の神官はその関係の術を修めているのです。

 

「ああ、だから今朝からやたらとべたべたしてたのね」

「いえ、それは趣味です」

「あ、そ。まあ任せたわ。斥候はどうする?」

 

「服や日用品買うほうに回るぜ、持ち歩くのに人手も要るだろーし」

「じゃ、そういうことで。手分けしましょう」

「りょーかい」 「了解です」

 

 ということで、みんなで手分けして用事を片付けましょー。

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 さらに数日後。

 半竜娘たちは、街の北側の街道の外れにやってきていました。

 

「ギルドに紹介された建物ってのはこっちなんだっけー?」

「そうそう。川の傍に、魔術師の庵があるそうよ。とはいえ、住んでた魔術師が不在になって5年くらいたってるらしいけど」

 TS圃人斥候と森人探検家は、ギルドから渡された地図を見ながら秋の晴れの日差しの中を歩いています。

 

「地母神の中心教義は、『守り、癒し、救え』…『守り、癒し、救え』…『守り、癒し、救え』……」

「お姉さま、お姉さま。あとで【神学】について私と一緒に復習しましょうね」

 数日間の地母神寺院での神学合宿で、地母神を中心に神学への造詣を深めさせられた半竜娘ちゃんです。これで、地母神と慈母龍を混淆習合させることはできなくなったことでしょう。

 知識神に仕える文庫神官にとっても、神学の知識は親しいものであり、共通の話題が増えたことを嬉しそうにしています。

 

 半竜娘は、一般技能【神学】を初歩段階で習得させられた!(強制習得のため成長点の消費ナシ)

 

 

 彼女らの後ろを、大工衆が解体道具と縄張り道具、礎石などを積んだ荷車を引いて付いてきています。

 行く先の土地には、魔術師が使っていた建物がまだ取り壊されずに建っているのだそうで。

 それを打ち壊すか残すかは考えなければなりませんが、まあ、何にせよ現場を見てみる必要があるでしょう。

 

「到着ー! まあ、そこまで街から離れてはいねーな」

「……流石に5年経ってると、完全に廃屋って感じね」

 

 それは、かつて孤電の術士(アークメイジ)と呼ばれた女が住んでいた庵です。

 5年前にゴブリンスレイヤーに諸々の財産の処分を任せて忽然と消えた――ということですが、まあ、怪物に喰われたのでなければ、魔術師の目指すところなど決まっています。きっと、古の魔術師たちと同様に、盤の外へと飛び出したのでしょう。*2

 

「水場が近くにあるのは良いのう。朽ちかけの水車が外して置いてあるが……」

「直せば使えますかねー……。でも結構建物も傷んでますし、一旦解体(バラ)して、水車の軸受けの石とかの建材を再利用する方向で良いんじゃないでしょうか」

 

 まあ、使えるものは再利用して建材を節約しつつ、半竜娘の巨体でも不自由なく、かつ一党4名(+分身1)が暮らせるような家を建てようというわけです。

 暮らす人数は、今後まだ増えるかもしれませんから、実際はもっと広めに作った方がいいでしょう。

 

「そんじゃあ、精霊だの竜牙兵だのの力も借りて、基礎を作ってしまうのじゃ!」

「確か、樫人形(ウッドゴーレム)を作る魔道具の予備があったわよね? わたしたちが付きっぱなしってわけにもいかないし、怪物対策になるように、私たちは先ずはそっちを設置しちゃいましょうか」

 

 結構大きな家になる予定なので、建て終わるまで時間がかかります。

 冬の雪のころまでには建て終わるでしょうが、それまでの間ずっと、街の外にやって来て作業する大工衆の護衛をするわけにもいきません。

 というわけで、以前に知識神の文庫に納入した樫人形(ウッドゴーレム)生成管理用の魔道具を設置してしまいます。それに作業中の護衛をさせるわけです。

 作った樫人形(ウッドゴーレム)は、家が出来上がった後も、外の柵に擬態させて残せば、無駄にはなりません。

 

「じゃあ、ある程度、家を建てるのの目途が立ったら、火吹き山の闘技場で買い物やら興行やらじゃの」

「そうねー」

 

 というわけで今回はここまで!

 また次回!

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

おまけ:片付けるはずの書籍を掃除中に読んでしまう系の現象

 

 半竜娘ちゃんが、下宿先の魔女の家の、宛がわれた部屋に身体を丸めて入っていき、引っ越しのために持ち出す荷物をまとめています。

 その途中で、真言呪文の呪文書が目に留まったので、ついついそれを開いて復習を始めてしまいました。

 地母神寺院で、神学講義を受けて学習熱に火がついているというのもそれを後押ししました。

 

 背を丸めて、窮屈そうに呪文書を読んでいく半竜娘ちゃん。

 

「呪文と言っても色々あるが……いま、手前(てまえ)が実戦レベルで使えておる真言呪文は――10組じゃな」

 

 真言呪文は3つの力ある言葉の組み合わせにより形成されます。

 と、そこで半竜娘ちゃんはふと思い立って、10の呪文に使われる真言を確認することにしました。

 

「これだけ呪文が使えれば、実は今使える真言を組み合わせて、別の真言呪文も使えるのではないかの?」

 

 では実際に確かめてみましょう!

 

「手前が使えるのは――【分身】【力場】【抗魔】【破裂】【巨大】【加速】【嫌気】【停滞】【天候】【突風】の10の真言呪文」

 

 これだけ使えれば、まあ大したものです。

 半年前までは【分身】と【停滞】の2つの真言呪文しか使えなかったとは思えませんね。

 

 というわけで、10の呪文に含まれる習得済みの真言一覧は以下のとおりです。

 

 

真言意味
イーデム同一
ウンブラ
ザイン存在
マグナ魔術
ノドゥス結束
ファキオ生成
レモラ阻害
レスティンギトゥル消去
ルーメン
オッフェーロ付与
インフラマラエ
セメル一時
クレスクント成長
キトー俊敏
ウィルトゥス美徳
アーミッティウス喪失
ウィティウム欠点
ホラ
シレント停滞
カエルム
エゴ
ウェントス
オリエンス発生

 

 ……半竜娘ちゃんが呪文書とにらめっこしてますね。

 

「……これなら【透過(トランスペアレント)】の真言呪文が使えそうじゃな」

 

 【透過】に使われる3つの真言は、『エゴ()セメル(一時)レスティンギトゥル(消去)』なので、確かに、いま実戦投入している呪文に含まれる真言の組み合わせで行けますね。

 透過という現象への理解も、祖竜術の【擬態】が使えるため、そこそこありそうです。

 

 

 半竜娘は、真言呪文【透過】を使用可能になった!

 

 

 というわけで、今度こそ今回はおしまい!

 また次回!

*1
半竜娘の命の恩:『1/4 裏』で黒鱗の古竜の元から逃げ出した時のことを指している。この分岐世界線の半竜娘ちゃん視点では、TASさん(ティーアース)に対してはまだ恩義の方が勝っている認識。なお、拾ったつぶれまんじゅうがTASさん(ティーアース)の成れの果てであることにはまだ気づいていない。でもそのうち気づくはず。

*2
孤電の術士アークメイジ:ゴブリンスレイヤー外伝1イヤーワンに登場。




次回は素材集めと金策とお買い物の予定です。
火吹き山へGO!

習得済みの呪文に含まれる真言の組み合わせで、別の術を習得(あるいは開発)できるかどうかは、GMに確認しましょう。当作の中では、『できる』という裁定にしていますが、そうすると、GMは、各PCの真言ひとつひとつを把握してシナリオを考えないとならないので大変です。また、呪文をこうして正規の方法以外で習得した場合は、発動に必要な達成値が上がる、あるいは効果が減少するなどの裁定も考えられます。


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26/n ああ、愛しの我が家(Home, our sweet home)-2(防具調達、素材狩り)

閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ありがとうございます! 「Home, our sweet home(ああ、愛しの我が家)」ということで原作にない閑話にあたりますが、あと少しお付き合いくださいませ。感想はいつもとってもありがたく読ませていただいています。感謝です!

●前話:
半竜娘「地母神と慈母龍には共通点があるのでは……? 地母神は翼人じゃというし、鳥と竜は親戚……。――ひ ら め い た !!」
GM「ひ ら め く な 。さすがに通さねえよ? 何のために奇跡と祖竜術のデータが分かれてると思ってんだ。仮に地母神との習合を認めたとしても、そん時は祖竜術側の攻撃系の術を全削除だからな。地母神は、敵を、屠ったり、しません!」
半竜娘「ちぇー。じゃあ習得済み真言(トゥルーワード)の組み換えで使用可能呪文増やすのはどうじゃ?」
GM「うーん……それなら、まあ……?」
半竜娘「ありがとうなのじゃ!」(計画通り……)

 


 はいどーも!

 趣味と実益を兼ねて闘技場で屍を積み上げる実況、はーじまーるよー!

 

 前回は、大きくなった半竜娘ちゃんのために、一党全員で暮らせるような家を、郊外に建て始めたところまででしたね。

 衣食住のうち、住環境の整備に着手し、食事はまあ食べる量が増えるくらいなのでそれでいいとして、あとは衣料品と装備品ですね。

 

「というわけで、前回の興行から間が空いておったこともあって、火吹き山の闘技場から出場オファーが来とる。興行がてら、向こうでいろいろと必要なものを揃えるのじゃ!」

「「「 おー! 」」」

 

 直後、半竜娘ちゃんの持つ指輪から、銀色の光があふれ、一党を包み込みます。

 そして次の瞬間。

 半竜娘とその一党は、火吹き山の最上級闘士の特権である【転移門(ゲート)】経由の招請により、恐るべき魔術師が運営する『火吹き山の闘技場』へと一瞬でやってきたのです。

 

「では、まずは装備の手配からじゃな!」

「はい! 万全にして試合に挑みましょう、お姉さま!」

 

 装備品を商う店が並ぶ通りに繰り出す半竜娘ちゃん一党。

 あたりを見れば……流石、界渡りの魔術師(プレインズウォーカー)御膝下(おひざもと)です。

 この闘技場で戦う闘士たちのために装備品やその改造を手掛ける、錚々たる店の並びは、おそらく大陸でも随一のもの。

 また、闘士として登録されている種族も幅広いためか、大型種族向けに大きなサイズの防具も揃っています。

 

 早速、主に聖職者や武僧向けの布鎧を中心に扱う防具店に足を運んだ半竜娘ちゃんを、圧巻の品揃えが出迎えました。

 門構えの大きさで選んだのですが、やはり大型種族向けの商品に力を入れている店みたいです。

 

「ほう! ほうほうほう! ほほーー!!」

「お姉さまの語彙力が壊れましたね……」

「まあ仕方ないでしょ。圧倒されちゃうわよ、これは流石に」

 

 聖職者向けと分かるようにシンボルを掲げた大きな門構えをくぐった半竜娘一党を出迎えたのは、魔法の装備としてのスゴ味を滲み出させている布装備の数々。

 神官服、司教服に、武僧のための胴衣、異邦の様式なのか袈裟や巫女服のようなものもあります。もちろん、竜司祭向けの品も。

 

 蜥蜴人は武に生きる種族であり、かつ己の鱗と爪と牙が至上のものと信じて疑わない輩ですが、武器防具についても多少の造詣があります。

 まあ、自分たちが使うものとしてよりは、敵手の実力を計り、打ち倒した暁にはハンティングトロフィーとして蒐集し、後の(かた)(ぐさ)にするためという面が強いのですが。

 また、(ドラゴン)に財宝を集める習性があることから、やがて竜に至らんとする者として魔法の武器防具や金銀財宝を蒐集することに憧れる風潮もあるとか。

 

「いらっしゃい! って、【鮮血竜姫(ブラッディドラキュリーナ)】じゃないですか! ようこそ!」

 防具店の店員は、どうやら半竜娘ちゃんのことを知っていたようです。

「新進気鋭の闘士をチェックしないような店は、ここの通りじゃ生き残れませんって! しかし思った以上に早く、よくもそこまで大きくなられたものです! 是非ウチで仕立てていってくださいな! 大型種族向けが自慢なんです」

 

「それじゃあよろしく頼むのじゃ」

 店員に促され、半竜娘は早速、奥のスペースで採寸してもらいます。

 この品揃えからすれば、おそらくこの店は“当たり”でしょう。

 

「じゃあオイラたちは適当に時間潰してるぜ~」

 その間、他の一党のメンバーは、店内を見て回るつもりのようです。

 大型種族向けの店ではありますが、通常サイズもないわけではなく、なにより見事な防具の数々は見ていて飽きません。

 

 なかなか繁盛しているようで、鮫の鰓人や、象の獣人、犀の獣人、恐鳥の鳥人、巨人種であるオーガなどなど、様々な大型種族がこの店を訪れているようです。

 自前の鱗や皮膚が十分に堅牢であったとしても、布鎧の需要はあるようです。

 少しでも防御を厚くすることは、命を守るためには重要ですし、被服は文明の象徴でもありますからね。

 特にこの店が扱う聖職者向けの服は、戦闘のための防具としてだけでなく、社会戦における権威を纏うための需要もありますし。

 

「蜥蜴人さん向けの商品も揃っていますよ。とはいえ、蜥蜴人さんたちは、最終的に自前の鱗だけになっちまっていつの間にか衣鎧すら着るの止めちゃうんですけどね」

「まあ、自前の鱗で戦ってこそという文化じゃからな。とはいえ、まだ手前は未熟であるから大いに防具にも頼るがのう」

 

 さて、半竜娘ちゃんも採寸されつつ、衣鎧についての要望を述べていっています。

 両腕と尻尾の大篭手(ガントレット)の調整・新調もできるそうなので、それもここで済ませてしまうようです。

 

「新しく【竜翼(ワイドウィング)】の術を会得したでな。両の腕が皮翼になるから、服と篭手はそれを邪魔しないようにしたいのじゃよ」

「ははあ。なるほど、じゃあ、どちらかといえば鳥人向けの調整になりますかね。……いま変化してもらうことは?」

「ああ、実際に変化して測ってもらった方がいいのう、確かに」

 

 それじゃあ、と言って、半竜娘ちゃんは、【竜翼(ワイドウィング)】の祖竜術で腕を翼に変化させます。

 竜のような、あるいはプテラノドンのような、鈎爪付きの膜翼です。

 

「なるほど、こんな感じですか……。まあ、何とかなるでしょう」

 防具屋の職人は、ささっとメモ紙に――メモ紙一つとっても火吹き山の技術レベルの高さが垣間見えます――書き付けて、改造案を示してくれました。

 どうやらベルト固定式ではなく、膜翼が出せるように、イヤーカフみたいな感じにC字断面筒の造型にするみたいです。

「それじゃあよろしく頼むのじゃ。竜司祭としての服も同様に翼への変形を前提に頼むのじゃ」

「お任せあれ!」

 

 変化前と変化後の寸法をしっかり測ってもらうと、今まで使っていた司教服やミスリルの鎖帷子を下取りしてもらい、さらに前金と調整用の大篭手を預けてフィニッシュ。

 まあ、下取りしてもらったのもあって、代金は全部で銀貨5桁にはギリギリ届かないくらいです。

 お金は魔女さんに預けてた分の、古竜の素材や財宝を売ったときのお金から引き出して使いました。

 あー、誰か()()()()()()()が運用して増やしてくれないかなー。例えばハニーブロンドの貴族令嬢の魔法剣士とか!

 

「あ、終わった?」 交易神向けの神官着を見ていた森人探検家が、用を済ませた半竜娘に目ざとく気づきました。

「おう、済んだのじゃ」

「そんじゃあ行こうぜー、リーダー」 いつの間にかTS圃人斥候も居ます。

「ま、待ってください~」 文庫神官が慌てて付いてきます。

 

 

「興行は装備が出来上がるまで待ってもらえるそうじゃし、それまでは術や魔道具の学習と、素材獲得がてら肩慣らしじゃな。素材を修めれば少しは代金の足しになるそうじゃから」

 

 そしたら、まずは図書館からですかね。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 半竜娘は、火吹き山の附属図書館で、魔道具制作に関する知識を得た!

 半竜娘は、一般技能【職人:魔道具】を、初歩段階で習得し、習熟段階に伸ばした!(成長点6点消費)

 半竜娘は、『職人道具(魔道具制作)』と魔道具作成に必要な各種資材を購入した!

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 半竜娘ちゃん、色々なことに手を出しすぎ問題。

 

 成長点が……成長点が……足りんのです……!

 でも本格的な魔道具作成技能は欲しかったので、手を出さざるを得ない……!

 拠点を魔道具で武装防衛するのは、魔術師の嗜みゆえに……!

 

 あ、以前、知識神の文庫に納めた樫人形(ウッドゴーレム)作成管理用の魔道具は技能なしで作っていますが、あれは大部分がありもののリサイクルと調整で済んだので、そこまで技量は要らなかったようです。

 それも、今回技能を磨いたことで、材料があれば一から作れるようになりました。

 さらに拠点に魔道具作成用の工房を備え付ければ、足りない技量も補えるので、技量以上に良いものが作れるようになるはずです。

 機材導入のためにも、素材やお金を稼がないとですね。インフラ投資は大事。

 

「図書館の司書殿に魔道具作りの教材を見繕ってもらったし、うちの自慢の知識神の信徒の協力もあったおかげで、結構な進捗があったのじゃ!」 満足げな半竜娘。

「お姉さまのために頑張りました!」 いえーい、と飛び上がって半竜娘が肩あたりに挙げた手とハイタッチする文庫神官。

 

「あれ、そういえば、あの下宿先の魔法使いさんは今回一緒じゃなかったのね」 図書館でよく一緒に研究する魔女さんが居ないことを不思議に思う森人探検家。

「都合が合わんでのぅ。辺境最強の御仁とデートじゃって」 残念そうに肩を落とした半竜娘。

 

 魔女さんが居ないのは、槍使いさんと冒険(デート)だからだそうです。

 デートなら仕方ないね。

 

「それで、完全武装してついて来いってリーダーが言うからしてきたけど、どこに向かってるんだ?」

「闘技場には登録しないわよ? わたしは見るだけ賭けるだけでいいんだから」

「あ、私、分かっちゃったかもしれません」

 

 疑問を呈すTS圃人斥候&森人探検家に対して、何かに気づいた文庫神官。

 

「訓練用のモンスタースポナーですよね?」

「お、正解じゃ」

「まあ、使用申請手伝いましたしね。案外許可下りるの早かったですね、もっと待たされるかと思ってました」

 

 火吹き山の闘技場の興行用のモンスターは、オーナーたる魔術師が敷いた召喚陣から、尽きず湧いて出る仕様です。

 さらに、最上級闘士の特権なのか、どうやら申請すればそれを使った訓練ができるようです。

 このスポーンモンスターは、倒した後の死骸も残るので、素材獲得も、それを売っての資金稼ぎもできます。もちろんアガリは取られますが。

 

 まあ、トレーニングモードというかプラクティスモードでコンボ確認とかそういうあれの雰囲気ですね。

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 訓練場に入ると、対面から怪物たちが出てきました。

 申請した通りのようですので、文庫神官が解説を始めます。

 

「今回リクエストした相手は、

 ・『石材』にできる石壁巨兵(ストーンゴーレム)*1

 ・『木材』にできる魔樹人(エルダートレント)*2

 ・『毛皮』にできる雪男(サスカッチ)*3

 ・『ミスリル材』にできる神銀兵士(ミスリルゴーレム)*4

 ・『羽毛・ダウン』にできる大蛮族鴎(ジャイアントシーガル)*5

 です! 張り切っていきましょう!」

 

「……魔物のチョイスはともかく、あれさ、出てきた相手、多くない?」

 

「えーと、出てくる組み合わせとか数とかはランダムなはずですが、こんなにたくさん出てくるはずは……」

 

蛇の目(スネークアイズ)でも出たのかしらねえ……」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 多いですねえ……。

 あらかじめ【加速】をかけていれば、良かったんですが、訓練場のレギュレーション上、許されなかったので、すっぴんです。魔法強化がないと結構辛い気がしますよ?

 相手は、怪物Lv10の神銀兵士(ミスリルゴーレム)(HP130。装甲値高い)が3体もいますし、熟練の精霊術使いである魔樹人(エルダートレント)が2体も居ます。

 エルダートレントに力球(パワーボール)を投げられる前に制圧したいですが、それには石壁巨兵の『護衛1』の技能によるダメージ肩代わりが邪魔ですね……。

 

 やっつけたあと素材にすることを考えると、出来るだけ綺麗に倒したいですが、そんなことも言ってられなさそう……。

 

 とりあえず、先制力判定です。

 

 

行動順名前出目
TS圃人斥候2D626+4=12
半竜娘2D614+3=8
文庫神官2D643+1=8
森人探検家(半竜娘に統率されて同値行動)2D623+2=7
大蛮族鴎×21D66+2=8
魔樹人×21D66=6
雪男×22D613=4
石壁巨兵×21D61+1=2
神銀兵士×31D62=2

 

 よし、相手より早く行動できましたね!

 

 一党の中での行動順は譲り合うことができますので、まずは術から行きましょう。

 壁、壁を作る。

 

「蝋燭の番人よ、暗闇に呑まれぬよう、我らの灯をお守りください――【聖壁(プロテクション)】!!」

 文庫神官ちゃんのプロテクションです!

 敵の攻撃は弾き、味方は通すというぶっ壊れな神の奇跡です!

 プロテクション張ってから遠距離攻撃するのは、ゴブスレプレイヤーの嗜み。

 

 文庫神官の奇跡【聖壁(プロテクション)】行使:

  基礎値15+創造呪文熟達1+2D615=22 ○発動成功!

 

 さらに因果点を積んで、壊されないように強化します。

 

 文庫神官の祈念:2D613=4 > 現在因果点3 ○祈念成功!

 

 これにより【聖壁】は大成功扱いになり、達成値22+5=27以下の攻撃を遮断します。(因果点3→4。文庫神官呪文使用回数5→4)

 

「お姉さまには、攻撃は通しません!!」

 聖なる力により半透明の壁を作り出した文庫神官ちゃんが啖呵を切ります。

 頼もしいですね!

 

 そして次に、半竜娘ちゃんが、『黒蓮花弁のカード』を使って高速詠唱します。

 1日に一度だけ、1ラウンドに2度の詠唱を可能にする効果です。

 

「黒き蓮の花の一片よ、込められしマナを解放せよ! イーデム(同一)ウンブラ()ザイン(存在)セメル(一時)キトー(俊敏)オッフェーロ(付与)!」

 

 半竜娘(本体)の真言呪文【分身】行使:

  基礎値22+創造呪文熟達1+2D665+クリティカル5(生命の遣い手効果)=39 ○発動成功!(分身の耐久力:39/2=19)

 

 半竜娘(本体)の真言呪文【加速】(For 分身体)行使:

  基礎値22+付与呪文熟達4+2D666+クリティカル5=43 ○発動成功!

 分身体は、加速ボーナス+5を得た!

 

 

 【分身(アザーセルフ)】を生み出し、さらにそれに【加速(ヘイスト)】をかけます。(本体呪文使用回数9→8→7、分身体呪文使用回数8)

 なお、この分身体は次の手番から動けます。

 

「まだまだ今回だけでなく」 「このあとも素材獲得のために連戦の予定なのじゃ」

 十分な量の素材を得るために連戦の予定の模様。

 後に備えて、バフを積み上げるつもりですね。

 

 

 続いて攻撃はTS圃人斥候です。

 

「――樹人に催涙弾は効かねーよな……? 普通に石投げよっと」

 【速射】技能で、魔樹人(エルダートレント)の一体に、石弾を連続射出します。

 

 TS圃人斥候の投擲攻撃1(投石紐・石弾):

  基礎値19+石弾1+2D615=26 > 魔樹人回避18 ○命中!

  ダメージ:1D32+1+斥候Lv7+命中ボーナス3D6235-魔樹人装甲値7=13ダメージ!

 

 TS圃人斥候の投擲攻撃2(投石紐・石弾):

  基礎値19+石弾1+2D664-速射ペナ4=26 > 魔樹人回避18 ○命中!

  ダメージ:1D33+1+斥候Lv7+命中ボーナス3D6661-魔樹人装甲値7=17ダメージ!

 

『TOOOROOREEE!!!??』

「よっし、命中!」

 

 TS圃人斥候の投擲が立て続けにエルダートレントの(ひたい)(?)と思しき場所を穿ち、悲鳴を上げさせます。(魔樹人HP70→40)

 この程度の威力なら問題ないと判断したのか、石壁巨兵も、トレントを守る素振りは見せませんでしたね。

 

 そして森人探検家の手番です。

 もちろん弓を射ます! エルフですからね!

 狙うは手負いのエルダートレントです。

 

「ま、弱ってるのから狙うのは定跡よね」

 

 森人探検家の射撃攻撃1(大弓):

  基礎値22+2D625=29 > 魔樹人回避18 ○命中!

  ダメージ:2D612+4+野伏Lv8+命中ボーナス3D6446-魔樹人装甲値7=22ダメージ!

 

 森人探検家の射撃攻撃2(大弓):

  基礎値22+2D653-連射ペナ4=26 > 魔樹人回避18 ○命中!

  ダメージ:2D625+4+野伏Lv8+命中ボーナス3D6464-魔樹人装甲値7=26ダメージ!

 

 このダメージが通れば、手負いのトレントは倒せますが――

 

『『GGOOOOLLEEEEMMMM!!!』』

 

 まあ、守りますよね。

 2体の石壁巨兵が『護衛1』の技能を発動し、芸術的な軌跡を描く森人探検家の矢の前に身を呈します!

 身代わりとなった石壁巨兵たちに矢が突き刺さり、その身体に罅を入れます!

 

『『GGOOOOLLEEEEMMMM……』』

「ちっ、流石にそうやすやすと術士を倒させてはくれないか……」

 

 石壁巨兵(ストーンゴーレム)の装甲値は9で、トレントよりも硬いです。矢が刺さったダメージはそれぞれ20、24になります。

 石壁巨兵A:HP32→12。石壁巨兵B:HP32→8。

 

 うーむ、これなら半竜娘ちゃんは【力球】でも投げさせた方が良かったでしょうかね……?

 そうすれば石壁巨兵は落とせていたかもしれません。

 

 まあいいです。次は敵の手番です。

 

「!! ()よるぞ!! 備えよ!!」

「はい、お姉さま!」 「おう!」 「はいはーい」

 

 敵の魔物の群れが一斉に動き出しました。

 

『『KUEEEEEE!!!!』』

「く、上から!」

 

 最初にやって来たのは、大蛮族鴎(ジャイアントシーガル)です!

 文庫神官の【聖壁】をものともせずに飛び越え、攻撃を仕掛けてきます!

 

「馬鹿め! 空飛ぶ者は常に墜落に備えよ!! 重力操作――『土精(ノーム)土精(ノーム)、バケツを回せ、ぐんぐん回せ、回して置いてけ』!! フォーリングコントロール!」

 

 しかしそれを読んでいた半竜娘ちゃんの精霊術【降下(フォーリングコントロール)】が出迎えます。

 この術は、自由行動で咄嗟の使用が可能なのです。

 地面があなたを熱烈歓迎!!

 

 半竜娘(分身)の精霊術【降下】行使(咄嗟の使用):

  知力反射9+精霊使いLv5+付与呪文熟達4+2D635+加速5-咄嗟の使用2=29 > 大蛮族鴎呪文抵抗18 ○発動!

 

 さらに祈念して、大成功にできるか試みます。

 

 半竜娘(分身)の祈念:2D633=6 > 現在因果点4 ○祈念成功!

 

 祈念成功により、【降下】の精霊術はクリティカル扱いになります。(現在因果点4→5)

 つまり?

 

「重力3倍じゃ~~~!! 落ちて潰れよ!!」

『『KUUUEEEEEEE!!!???』』

 

 3倍重力により、大蛮族鴎は落下!!(半竜娘(分身)呪文使用回数8→7)

 【聖壁】を迂回し、急降下攻撃を仕掛けようとしていたため、落下距離は10m!

 

 大蛮族鴎の落下被ダメージ:

  大蛮族鴎A:落下距離10/2×重力3倍×1D64=60

  大蛮族鴎B:落下距離10/2×重力3倍×1D66=90

 

『『KUA!!??』』

 大蛮族鷗はHP48なので、2匹とも墜死!!

 

「うむ、あとで羽を毟って防寒着をこしらえるのじゃ!!」

 

 燃やしたりはしていないので、十分、防寒具の材料にできる品質はあるはずです。

 

 

『『TOOORRRR!!!』』

「攻撃は、通しません!!」

 

 続いてトレントが投射型の精霊術(達成値20)で攻撃してきますが、文庫神官ちゃんの【聖壁】(達成値27)が全て弾きます。

 

『『GGRRROOOOOO!!!』』

「下賤な巨人も、通しません!!」

 

 接近しようとする雪男(サスカッチ)(移動妨害への抵抗19)も、【聖壁】(移動妨害27)が通しません。

 

『『『GGRRRREEEEMMM』』』

「キラキラしたって駄目です! 通しません!!」

 

 別途接近しようとする神銀兵士(ミスリルゴーレム)(移動妨害への抵抗26)も、【聖壁】(移動妨害27)が通しません。

 叩いてきます(ミスリルの拳:達成値26)が、それも【聖壁】(達成値27)が通しません。

 

 石壁巨兵は、魔樹人を守るために動かないようですので、これで敵の手番は終了。

 

 

 2ラウンド目以降は以下略!!

 

 相変わらず文庫神官ちゃんの【聖壁】が『ここから先は一方通行だ!!』状態だったので、特筆することはありません。

 

 半竜娘ちゃん(本体&分身)がバフを積み上げていき、自分に防御貫通の【竜爪】をかけたら、硬い神銀兵士も恐るるに足りません。

 オラオラオラァ! 解体じゃ~~!! さらにプロテクションの外に出て戻ってを繰り返せば反撃の心配もなくノーリスクです。

 

 またTS圃人斥候用の【竜牙刀】(防御貫通武器)を作って渡せば手数はさらに増えます。

 森人探検家にも【竜牙刀】の術で、骨の鏃を連ねたような蛇腹剣を出してやり、それを一節ごとに切っ先から折って矢につけて飛ばせるようにしてやります。

 これで森人探検家の矢も防御貫通効果が付与されてさらに強いです。

 

 文庫神官ちゃんはひたすらに【聖壁】の維持に集中してもらいます。

 やっぱりプロテクションは強い……。

 半竜娘ちゃんが奇跡系統の術を、祖竜術にロンダリングしようとする気持ちも分かります。

 

 あとは魔物の群れを殲滅したら、落ちてる魔物の死骸(素材)を訓練場の係員さんにどけてもらい、次の魔物の群れを召喚してもらい、それを殺して……というのを、訓練室の利用時間が終わるまで繰り返します。

 

 日が暮れるころには、家の建材や防寒具の材料、魔道具やその製造装置の材料等に使える資材が十分に貯まりました。

 とはいえ、加工にも時間がかかるものがあるので、今作り始めている家やこの冬の防寒具に使うには間に合わないかもしれません。

 なので、この素材を然るべきところに納めて、その代わりに加工済みの資材や完成品を安く譲ってもらえるように交渉する感じですね。

 

「はぁ~、つっかれた~~! 打ち上げ行こうぜ、飲まなきゃやってらんねーよ!」

「ほんとにね~~。疲れたわ……」

 

 時間切れで召喚も打ち止めとなった途端に、TS圃人斥候は地面に大の字になって倒れ込み、森人探検家もペタンと座り込んでしまいました。

 連戦の消耗は相当のものです。

 

「うむ! 大きくなった身体の馴らしも出来たし、いい運動になったのじゃ!」 「やはり実戦が一番じゃの!!」

「私はプロテクションを維持してただけでしたから、まあ……」

 

 それに対して溌溂としているのは、大いに戦えて満足な半竜娘ちゃん()です。

 文庫神官ちゃんは一番の功労者ですし、ある意味タンクとしての役割を全うしたのですが、肉体的にはそこまで疲労していません。奇跡の維持は精神を削りますから、元気もりもりというわけではないですが。

 

「よーし、そんじゃあこれから打ち上げじゃな! 明日は、疲れをいやすために浴槽神の神官殿のエステの予約を全員分入れておるから、期待してくりゃれよ? それでは……いくぞー、皆の衆!」

「「「 お~!! 」」」

 

 というわけで今回はここまで!

 ではまた次回!

 

 

*1
石壁巨兵:基本ルールブックの石巨兵(ストーンゴーレム)に『護衛1』の技能を付けたもの。怪物レベル6

*2
魔樹人:基本ルールブックの樹人(トレント)の呪文抵抗力と精霊術レベルを上げたもの。怪物レベル8

*3
雪男:基本ルールブックの雪男(イエティ)の装甲値と生命力を上げたもの。怪物レベル6

*4
神銀兵士:基本ルールブックの大鉄人(ジャイガンター)のデータを流用。大きさは控えめ。怪物レベル10

*5
大蛮族鴎:基本ルールブックの巨鳥(ロック)のデータを流用。怪物レベル7




プロテクション便利すぎる……。

次回は新しいお家のお披露目紹介してマイホーム編〆+雪山ゴブリンズクラウンへの導入かと。


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26/n ああ、愛しの我が家(Home, our sweet home)-3/3(興行褒美、工房屋敷)

閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ありがとうございます! 本当に大変まことに励みになっております! 今回は脚注祭りになってしまいました……。

●前話:
半竜娘「プロテクション便利じゃの……。やはり地母神との習合を……」
文庫神官「まあまあお姉さま、足りないところを補うために仲間がいるんじゃありませんか! もっと私たちを頼ってください!」
半竜娘「おお……そうじゃの! 仲間とはまこと有り難いものじゃな!」

地母神(ほっ)

鱗が生える羽目にならずに安堵した神様がいたとか居ないとか。



 はいどーも!

 前回は“このように稼ぐのだ!”な感じで素材獲得兼訓練の風景をご覧いただいたところまででしたね。*1

 その後、最上級のエステも受けて、体調も万全になった一党でした。いやー、みんなの蕩け顔をお見せできなかったのが残念です。TS圃人斥候に女の体の良さを叩き込んでやろうという半竜娘ちゃんの粋な計らいも感じられます。*2

 

 そして半竜娘ちゃんの装備も仕上がったので、本番の興行も幾つかこなしてきましたよー。

 特に、『ドキッ! 巨大種だらけのバトルロイヤル! ポロリもあるよ!!』は酷かったですね~。*3

 そのタイトルの酷さもさることながら、モツだの手足だのがポロリしまくるという修羅の(ちまた)でした。

 半竜娘ちゃん含む重量級の獣人種の最上級闘士たちがガチンコでぶつかり合うのは凄い大迫力でしたし、半竜娘ちゃん以外にも【巨大】化の呪文の使い手がいたので、さらに超弩迫力!

 怪獣大決戦って感じでしたね。半竜娘ちゃんは半竜娘ちゃんで、分身してツープラトンアタックしたりと、やりたい放題でしたし。

 

 最終的には【加速】して【巨大】化して【竜翼】生やして【突撃】で上空へ垂直発進して飛び出したあとに急降下大激突して何もかも吹き飛ばすという暴挙に出た半竜娘ちゃんが全部持っていきました。“そらをとぶ”じゃなくて“ゴッドバード”だよそれもう。*4

 闘技場と観客席を隔てる結界がなきゃ、闘技場ごと吹っ飛んで地形が変わってましたね、きっと。

 

 その日の号外では、

 

【鮮血竜姫】 

 

 流星ト化ス!!

 

 みたいな見出しが躍りました。

 

 あと、そのときマッチングした恐鳥系の鳥人から、【竜翼】発動中に使える足技系の格闘技をラーニングしたりできたのもいい収穫です。*5

 【竜翼】発動中は手が使えませんからね、足技を覚えられたのは助かりました。

 鳥人の足技の流派もあるそうですが、まあ機会があれば入門するなり道場破りするなりしてみてもいいかもしれません。

 

 それで今は、闘技場オーナーの魔術師と会食中です。

 

「くくく……いやはや、面白いものを見せてもらった。くっくっくっ……。障壁の内側が吹き上がる土砂でまるで逆流れの滝のようだったぞ」

「こちらこそ、闘技場の結界を信用しとるからこその大盤振る舞いじゃからな、感謝しておるのじゃ! バラバラに耕された対戦相手も復活できたのは驚いたが」

「この闘技場では、全ての『死』は我が掌中よ」 火吹き山の興行主(プロデューサー)は、まるで魂を握りつぶすかのようなジェスチャーをします。

 

 稀に見る派手な興行になったので、オーナー(火吹き山P)も満足して、特別に会食の場を設けてくれたようです。

 ちなみに、半竜娘ちゃんはサイズが大幅に変わったので、以前の中華風なドレスではなく、今度は竜革のパンキッシュなドレスを着ています。

 もちろんこのドレスも会食にあたっての闘技場からのプレゼントです。

 

「して、今回の褒美は何がいいかな、【鮮血竜姫(ブラッディドラキュリーナ)】よ」

 上機嫌に尋ねる火吹き山P。会食の場は、この恐るべき魔術師に褒美をねだれる場でもあるのです。

 

「うむ、それなのじゃが、魔道具作りを学びたいのじゃが、独学ではどうにもならぬこともあるし、師事できる者を紹介してほしいのじゃ」

「ほう、魔道具作り――付与術や錬金術も含まれるが、それらを修めるには生半なことでは難しいぞ? 極めようと思えばなおさらだ」

「もちろん承知しておるさ」

「ふーむ……」

 

 少し思案する火吹き山P。

 闘士としての道を捨てられても困りますから、なんとか冒険稼業と闘技場興行に支障のない修行先があればいいのですが。

 

「ああ、そうだ。これならよかろう」

 そして思いつくと、火吹き山Pは、虚空から何やら枕を取り出しました。

「枕、かの?」 それを見て首をかしげる半竜娘ちゃん。

「うむ、これで寝れば、誰かの忘れたい記憶を追憶できるという代物よ。いま、うむ、魔道具職人の記憶を封じたから、これを使うといい」 火吹き山Pはやはり虚空を掻き混ぜるようにすると、それで因果の糸でも絡め取ったのか、漂う何かを掴んで枕に放り込む仕草をしました。

 

 

 半竜娘は、『夢拾いの枕』を獲得した!*6

 

 

「まあ、睡眠学習のようなものだな。“夢は単に苦悩の一つの形に過ぎない”し、“ある者は自分が見た恐るべきものを懸命に忘れようとしたが、別な誰かはそこに鋭く興味を持った。”ということもある……誰かの悪夢は、誰かの吉兆だ。しかし、夢の中のことというのはすぐに忘れてしまうものでもあり、“夢の中の富は長続きしない。”とも言う。君がうまく使えることを祈っておこう」*7

「かたじけない! そして使いこなして見せようぞ!」

 

 半竜娘は渡された魔法の枕を喜色満面で受け取りました。

 でも、夢の中でまで修行で自己研鑽とか、ホントに休む暇ないな、半竜娘ちゃん。

 いやまあ、自己研鑽、自己鍛錬自体が趣味みたいなところがありますけどね、半竜娘ちゃんは。

 蜥蜴人って、自分たちは鍛えれば鍛えただけ強くなるとか、長生きすればするだけ大きくなると信じてるっぽいですし、種族的にそういう気質はもとからあるのかもしれませんね。TASさんに魅入られるだけあります。

 

「さて、それでは君の冒険の話でも聞かせてもらおうかな。こんなに急に成長するとは、何をどうやったのか気になっていてね」

「そうじゃのう、それを語るにはまず、上古の樹人が封印した忌まわしき『手』の呪物のことから触れねばなるまいて――」

 

 火吹き山Pに水を向けられた半竜娘ちゃんは、嬉々として自分の武勇伝を語り始めました。

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 では火吹き山での活動はひと段落したので、半竜娘ちゃんたち一党の成長についてお知らせします!

 

 半竜娘一党は、経験点1500点、成長点3点獲得!

 半竜娘一党は、『【粘糸】の杖』をそれぞれ購入した!*8

 半竜娘一党は、『【支配】の手綱』を1つ購入した!*9

 半竜娘一党は、空間拡張鞄(容量:背負い袋2つ分程度)を1つ、【聖餐】のランチョンマットを3つ購入し、文庫神官に与えた!

 

 文庫神官ちゃんだけ空間拡張鞄を持ってなかったので、他のメンバーより容量は劣りますが新しく空間拡張鞄を一党の経費で一つ買って、貸出しました。

 あとは、ロープ代わりにも使える『【粘糸(スパイダーウェブ)】の杖』や、野生動物を手懐けられる『【支配(コントロールアニマル)】の手綱』なんかも買いました。それと雪山で遭難しても大丈夫なように、祝福された食物を生み出す『【聖餐(エウカリスト)】のランチョンマット』を文庫神官の分として三食分。

 

 

 森人探検家は、冒険者レベル6→7に上昇! 成長点25点追加獲得!

 森人探検家は、神官(交易神)Lv4→5に上昇! 成長点5点追加獲得!

 森人探検家は、新たに交易神から【契約(コントラクト)】の奇跡を賜った!*10

 森人探検家は、冒険者技能【機先】を第3段階の熟練段階に伸ばした!(先制力+2→+3、成長点15点消費)

 

 森人探検家は、交易神殿にお布施して奇跡を賜ったみたいですね。

 覚えたのは【契約(コントラクト)】の奇跡です。破ったらペナルティを与えるとか、契約する気がない人間が混ざってたら分かるとかそういう効果のある奇跡ですね。これはまたシティアドの謎解きパート殺しになりそうな……。

 ついでに先手を取りやすくなるように【機先】技能を伸ばしました。

 

 

 TS圃人斥候は、魔術師Lv5→6に上昇! 成長点7点追加獲得!

 TS圃人斥候は、新たに【魅了(カリスマ)】の真言呪文を覚えた!*11

 TS圃人斥候は、冒険者技能【幸運】を第2段階の習熟段階に伸ばした!(因果点祈念時ボーナス+1→+2、成長点10点消費)

 

 TS圃人斥候は魔術師レベルを伸ばして、【魅了(カリスマ)】を覚えました。

 ……この呪文、なんとなく、辺境の街で歓楽街の用心棒をしている間に夢魔のおねーさんたちから手ほどきを受けた気配を感じますね。

 あと、TS圃人斥候の【魅了(カリスマ)】と、森人探検家の【契約(コントラクト)】は、なんだか合わせ技で悪用できちゃいそうな組み合わせです。ほら、こう、美人局(つつもたせ)的な?

 あとは真言呪文を唱えたときに、因果点を積んで大成功に変換して、敵の呪文抵抗を貫通させたいので、『幸運』技能を上げました。

 

 半竜娘ちゃんと文庫神官ちゃんは、特に職業・技能の変動はありません。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 さて。

 

 半竜娘ちゃんが火吹き山で興行をしている間、無限湧きの訓練場で稼いだ素材や、それと引き換えに得た加工済み資材や機材――錆びない配管や断熱材の岩綿(ロックウール)、ボイラーなど――は辺境の街の、半竜娘ちゃんたちの家の建設現場に送られ続けていました。

 そしてやがて冬も本番になるころ、冬至(ユール)の日までの日数を指折り数えられるくらいの季節時分になって、半竜娘ちゃんたちは辺境の街に帰ってきました。

 というのも、そろそろ、山間の村々まで、収穫祭のころから予約を受けていた食糧救援依頼をこなしに赴かなくてはならないからです。

 山間の村々で人々が、冬至・新年を、少し贅沢に迎えるためにも、また、方々で餓死者を出さないようにするためにも、これらの救援依頼は実際重要です。

 

「まあ、最悪、手前が翼を生やしてひとっ飛びすればいいのじゃが」

 確かに、空間拡張鞄を提げた半竜娘ちゃんが大きく初速を得て飛んでいけば、あっという間に配達できます。

 ……モンスターと間違えられて大騒ぎになる未来しか見えませんが。

 

「折角、雪男(サスカッチ)の毛皮とか、大蛮族鴎(ジャイアントシーガル)のダウンとかを使った防寒具を、騎馬の分まで一式揃えたんだから、馬車曳いて行きましょうよ。まあ、物資の補給にそうやって麓まで飛んで戻ってもらうことはあるかもしれないけど」

 森人探検家は、今も着ている新しい防寒具を指して正攻法を勧めます。

 もちろん、馬車を使った方がたくさんの荷物を運べるからということもあります。

 交易神の神官である彼女としては、商売に妥協はありえません。

 

「冷静に考えると、航空輸送できるからって冬の雪山を延々と街に戻らずに梯子するのは、割と狂気の沙汰だよなあ」

 TS圃人斥候が呆れています。

 山間の寒村を行脚するというのは、実際、一歩間違えば自殺行為です。

 雪山をなめてはいけません。

 村が冒険者に依頼するのは、もちろん、それだけの危険があるからです。

 冬の雪山特有の凶悪なモンスターだって出てくるのですから。

 

「でも、そこに食糧や薬などを待っている方たちがいらっしゃるなら、行かない選択肢はありません! こうやって冬も依頼をこなして多くを救おうとなさるとは、さすが慈母龍の加護篤きお姉さまです!! ……私は空は飛びませんけど、絶対飛びませんけど、ええ」

 一党の中でも最も神官らしい神官である文庫神官は、この一連の食糧救援依頼にかなり乗り気です。

 空間拡張鞄によって、薬や食糧、塩、燃料もたくさん運ぶことができます。仕入れも火吹き山でたっぷり済ませてきましたし、準備は万端です。

 冬の寒さは、この辺境の地では人の命をたやすく奪うものです。

 それを思えば、この救援依頼は、相当に意義のあるものなのは確かです。

 

 

 そうこう話すうちに、辺境の街から少し北に離れた、半竜娘ちゃんたちの屋敷の建設場所にやってきました。

 かつては異端の術士が住んでいた庵があった場所です。*12

 さて、工事の進捗はどんなもんでしょうかね。

 

「おお~~、結構出来上がっとるもんじゃな! 前に見たときは地下室やら機材設置用のピットやら、浄化水槽用の穴を掘っておったところじゃったがのう」

「まあ、樫人形(ウッドゴーレム)生成管理の魔道具も貸してあげてたしね、人手は十分だったんでしょ」

「途中で、火吹き山で買った小型起重機もパーツに解体して送ったんじゃなかったか?」

「職人さんたちが頑張ってくださったんですね!」

 

 半竜娘、森人探検家、TS圃人斥候、文庫神官が見る先には、ほぼ形が出来上がった屋敷と工房がありました。

 とはいえ、まだ作業が続いているのか、トンテンカンテンと音がしています。

 

 大まかな概要図は次の図の感じです。あ、地下や二階とか柵とかその他細かいところは省略しています。

 街の外だからってかなり贅沢に土地を使っていますね。

 屋敷っていうか、まあ、どっちかというと、大きな工房って感じですが。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 工房区画には、鍛冶や機械いじりをするガレージ区画、使い魔作成などの生体実験区画、錬金・魔道具作成の区画、そして雨の日も鍛錬できる訓練場が備えられ、環境に配慮した廃棄物・排水処理施設も充実しています。

 この時代に環境への配慮をしているのはおかしい? いや、精霊が文句言ってきますからね、垂れ流しだと。

 

 書庫とかは居住区画の二階にあります。床は抜けないように補強済み。

 森人探検家の部屋は、木と一体化している南側の個室でしょうかね。

 

 しかしこんなに大胆に開拓しちゃって大丈夫?

 あとで怒られない? 受付嬢さんとかに。

 

「その辺の手続きは、わたしがギルドと詰めておいたから、街の政庁の方にも通ってるはずよ」

 森人探検家ちゃん、さすが!

 エルフのわりに世慣れてる!!

 

「なら安心じゃな。そして、まだ完成まではもう少しかかりそうじゃの」

 半竜娘は大工衆の仕事ぶりを見ながらそう判断します。

 

「きっと、山村に食糧を配給して回って帰ってきたころには出来上がっていますわ! お姉さま!」

 冬至の祭り(クリスマス)までには帰れるでしょう――というとフラグ染みてきますね。

 

「そんじゃあ、進捗も確認できたし、早速、出発しよーぜ」

 TS圃人斥候ちゃんは、実際どのくらいこの家に帰ってきますかね。

 家に帰らず、用心棒先の歓楽街に入り浸ってるイメージがあります。

 

 

「おぉーーい!」

 街の方から、独立懸架式突撃機動馬車が、二頭の麒麟竜馬に曳かれてやってきました。

 別行動させていた半竜娘の分身体が(窮屈そうに)御者を務めて運転してきたのです。

 

 

 ではいざ、山間(やまあい)の村々に、幸せ(ごはん)届けに出発です!

 

 

*1
闘技場のトレーニングモード:最上級闘士クラスなら、出てくるスポーンモンスターの素材もオイシイが、どうせ戦うなら無限組手の興行をやった方が稼げるのでそこまで人気はない施設。“稼ぎ”をやる場合は作業的周回になりがちなので、それが性に合わないという闘士も多い。最上級闘士ともなれば、勝つのが好きというよりは戦うのが好きな輩が多いので……。一方、遠出しなくても望みのモンスターと戦えるので一定の需要はある。

*2
闘技場の最上級エステ:浴槽神に仕える神官が奇跡を行使してエステしてくれる。まさに天上の技である。

*3
『ドキッ! 巨大種だらけのバトルロイヤル! ポロリもあるよ!!』:ポロリするのは、内臓とか四肢とか首である。

*4
加速巨大竜翼突撃:航空突撃コンボ。KAMIKAZE。闘技場で使用したときは、本体を巻き込まないために、分身の上昇時に本体を載せて、上空でリリースしてから急降下した(本体はその後、重力制御して軟着陸する)。なお射出角度によっては、【突撃】で初速を得て飛び出した後に弾道飛行に移り、遠くの標的を目視した段階で二回目の【突撃】を発動して突っ込むことでかなり遠くまで攻撃できる(【竜眼】の望遠効果も組み合わせるとさらに安定するはず)。体長27mの翼竜が音速超過で魔力纏って突っ込んでくる(単純物理攻撃ではなく魔法攻撃扱い)とか防ぎようがなさすぎるし、着弾まで飛翔体本体が目視で微調整できるのでまず外れないというどうしようもないアレ。なお半竜娘ちゃんは分身を使い潰すことでこのコンボを一日に複数回行使できる。

*5
恐鳥系の鳥人:ハルピュイアの一種。巨大な嘴と長い首、発達した脚が特徴。ほぼ飛べない。全体的に大型の種族で、蜥蜴人とはまあ親戚みたいなもん。蹴爪と嘴が自慢。いまのところ原作には登場しない本作独自設定。たぶん、「俺たちの方が祖竜の直系だ!」とか言って蜥蜴人ともめてる恐鳥系の部族もいると思う。

*6
夢拾いの枕:どこかの誰かが忘れたがった記憶を拾い集める枕。これを使って寝ると、集まった忘れられるべき記憶を夢で追憶できる。今は、とある魔道具職人の修業時代の記憶が夢として封じられている。きっと未熟な頃の自分を忘れたかったのだろう。

*7
引用符中のフレーバーテキスト:それぞれマジック:ザ・ギャザリングのカードのフレーバーテキストから引用(一部改変)

 『地獄界の夢/Underworld Dreams』 夢は単に苦悩の一つの形に過ぎない。

 『夢の回収/Dream Salvage』 アウィラは自分が見た恐るべきものを懸命に忘れようとしたが、別な誰かはそこに鋭く興味を持った。

 『夢での貯え/Dream Cache』 夢の中の富は長続きしない。――スークアタの格言

*8
【粘糸】の杖:一日三回、粘糸スパイダーウェブを一方向に射出できる。射程は60m。

*9
【支配】の手綱:一日一回、最長6時間、手綱を掛けた対象(知能:「本能のまま」以下)の相手に対して、支配コントロールアニマルを発動し、支配下に置くことができる。

*10
契約コントラクト:交易神の信徒専用奇跡。神前契約を行い、違反者には1年間、-4ペナルティを与える。

*11
魅了カリスマ:非交戦状態の相手に対して、親しい友人だと誤認させる真言呪文。達成度によって効果の強度が変わる。用いる真言は、「エゴ()ウォークス()イドラ(偶像)

*12
孤電の術士アークメイジ:彼女の師匠は蜥蜴人だったという。蜥蜴人の学問は、四方世界では割と異端である。




次回かその次から、雪山ゴブリンズクラウンです!
既にゴブスレさんたちは令嬢剣士(のちの女商人)のところへ向けて出発済みですが、徒歩なのでまだ到着できていません。馬車の半竜娘ちゃんたちの方が機動力は高いですから、配達の村々を回ったとしても、いい感じのタイミングで追いつくでしょう。

◆没エピソード
火吹き山P「褒美は何がいい?」
半竜娘「自在に小さくなれると便利なのじゃ! 背がつっかえると遺跡にも入れんしのう。なんぞ呪文や魔道具はないかの?」
火吹き山P スッ…… (DRINK ME! とラベルされた飲み物)

手乗り半竜娘ちゃんとか、1/16フィギュアサイズ半竜娘ちゃんとかもカワイイと思うんですけどね~。
そのうち真言呪文研究パートで『パルヴァエ(微小)』あたりの真言を習得させるかもしれません。
半竜娘ちゃんが乗れる騎馬がない問題も、新しい使い魔かゴーレムを作るか、分身体を鳥脚(チョコボ)形態に呪文で変化させるかとか、まあ何かしら解決したいところ(手を翼に出来るなら、足を鳥脚にもできるやろ理論)。


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26/n 裏(雪山ゴブリンズクラウン:導入)

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●前話:

【鮮血竜姫】、流星ト化ス!!

半竜娘「魔道具作りの師匠紹介してください」
火吹き山P「じゃあ夢の中で修行できるようにしたげるね」
半竜娘「わぁい」
火吹き山P「(夢の選別ミスると他人のトラウマばっかり流れ込んで来るけど……ままえやろ。逆手にとってカウンセリングにも使えるしな)」

工房と屋敷も、もうすぐ完成。でも、食糧配達行脚(あんぎゃ)が先。
文庫神官「冬至のお祭りのときくらい、気兼ねなくお腹いっぱい食べたいですもんね……。食糧を届けなければ(使命感)」



1.クルセイダー/ムジャヒーディン

 

 

 北方山脈に、上古の鉱人(ハイラードワーフ)の砦があった。

 はるか昔に混沌勢力との大戦の拠点となったこの城砦の威容は、長い年月を経ても健在であった。

 しかし、そこに巣食うは、秩序の勢力ではなく……。

 

『GGGGRRRROOOOOOOORRRR!!!!』

 

 ――ゴブリンであった。

 

 しかも、ただのゴブリンではない。

 頭目たる者を見よ、それを支える副官を見よ、頭脳たる参謀を見よ。

 それらに率いられた精兵たちを見よ。

 いずれもゴブリンにあるまじき面構えである。

 

 

『GRR……』

 玉座に掛ける甲冑の騎士たる小鬼を見よ。兜の上の王冠を見よ。*1

 頭目は上古の鉱人が残したと思しき鎧兜に身を包んだ隆々たる体躯の小鬼。

 しかも、信じがたいことに何かの神の加護を受けているのか、聖印を提げている。小鬼が、信仰に目覚めるとは!

 聖印が象るのは、『眼』。

 つまりこの小鬼は覚知神の信徒であり、戦士である。

 これすなわち――小鬼聖騎士(ゴブリンパラディン)

 

 

『GIGIGIGI!!』

 その副官を見よ。

 ローブに身を包み、杖の先に、雷電の輝きを封じた角灯(ランタン)を吊るすその小鬼は、精霊使い(シャーマン)である。

 おそらくは覚知の神から授けられた知恵にて、雷電の精霊を封じて使役しているのだ。

 これすなわち――小鬼雷霊士(ゴブリンサンダラー)

 

 

『GISHASHASHASHA!!』

 参謀たるものを見よ。

 おどろおどろしい骨の鎧に、風化もせずに残っていた上古の鉱人(ハイラードワーフ)の頭骨を加工して付けた杖を持つもの。

 その後ろには、半霊体の上古の鉱人(ハイラードワーフ)の職人たちを這い(つくば)えさせている。

 これすなわち――小鬼死霊術士(ゴブリンネクロマンサー)

 

 

『GRRRU!!』『GRRRU!!』『GRRRU!!』

 そして付き従う小鬼たちのうちでも、一糸乱れぬ統率を見せる一団を見よ。

 これらが身に着けるは、小鬼の身体に合わせた軽銀の煌めく物ノ具と槍。

 

 それは、覚知の神よりもたらされた知識をもとに、

 この山の鉱脈から掘り出された赤土鉱石を、

 雷電の精霊によって精錬し、

 上古の鉱人(ハイラードワーフ)の死霊職人の手によって鍛えたという、

 小鬼のために作られた逸品である。

 

 軽銀の武具は、膂力のない小鬼でも簡単に振り回すことができる。

 まさに、これこそが、小鬼のための、小鬼のためだけの武具である。

 

 さらに、この小鬼の一団は、精兵となるための通過儀礼(イニシエーション)を乗り越えている。

 火山のガスにて陶酔させて神がかりされ、

 頭蓋骨に穴をあけられ、

 脳に針を刺され、

 そこから雷電を流された。*2

 当然、生き残ったのは、ごく僅かだ。

 

 この過酷な通過儀礼(イニシエーション)を生きて潜り抜けた一握りの小鬼は、四方世界にあるまじき『()()()()()()()()()』と化した。

 彼らには、軽銀の防具と槍、そして覚知神の聖印が与えられた。

 これすなわち――小鬼精兵(ゴブリンエリート)

 

 小鬼聖騎士を頂点として、小鬼精兵たちが有象無象の小鬼の雑兵を率いるという軍秩序が、この城砦では機能していた。

 それは略奪の効率を飛躍的に高め、周辺の村の多くを飲み込んだ。

 周囲の村から集めた女たちを孕み袋にし、生まれる小鬼を通過儀礼(イニシエーション)で選別し、ようやく十分な小鬼精兵の数が揃った。

 

『GGGRRRR……』

 戴冠した小鬼聖騎士(ゴブリンパラディン)は思案する。

 

 生まれる子の数、

 通過儀礼を越えられる精兵の数、

 潰して食糧にする孕み袋の数、

 周辺に残った人族の村の数、

 そこから得られる食糧と新たな孕み袋の数、

 冬が明けるまでの日の巡りの数、

 鉱山から掘り出される鉱石の数、

 雷電の精霊を搾り尽くして精錬する地金の数、

 上古の鉱人(ハイラードワーフ)の死霊を酷使して作らせる軽銀の物ノ具の数、

 そして、覚知の神の御威光のもとに小鬼の国を建てるまでに滅ぼすべき人族の街の数……。

 

『GRRR……』

 勝算はある。

 小鬼にあるまじき怜悧な計算が、小鬼聖騎士の脳裏に勝利までの道程を描かせる。

 

 ――あな恐ろしき覚知の神よ、我らの故郷たる緑の月よ……。

 

 小鬼聖騎士(ゴブリンパラディン)は、そしてそれに付き従う小鬼雷霊士(ゴブリンサンダラー)は、小鬼死霊術士(ゴブリンネクロマンサー)は、小鬼精兵(ゴブリンエリート)たちは、彼らが信じる覚知神へと祈りを捧げた。

 

 

<『1.これは聖戦である!』 了>

 

 

 

  ○●○●○●○●○

  ●○●○●○●○●

 

 

 

2.聖戦だと?

 

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)は、雪に閉ざされた村を襲った小鬼の最後の一匹を切り捨てた。

 

「……妙に装備がいい。そして、練度が高い」

 

 “練度が高い”。

 ゴブリンスレイヤーは、自分の言葉に多大な違和感を覚えた。

 

「練度、ですか。小鬼に練度って、一番似合わない言葉のような……」

 そう思ったのは、冬用の白い神官服に身を包んだ女神官も同様だったようだ。

 

「だが、そうとしか表現のしようがない」

 上位種に率いられた小鬼の群れが、つたない連携のようなものを見せることはある。

 だが、率いるのも率いられるのも、どちらも小鬼では、たかが知れる。

 小鬼とは、自分勝手で、怠惰で、悪知恵しか回らず、他をいつも見下し、いつも責任転嫁をし、無根拠に自らこそが一番偉いと思い込む、どうしようもなく最弱の怪物だ。

 

 それが、今回襲撃してきた群れに限っては、そうではなかった。

 『一頭の羊に率いられた百頭の狼の群れは、一頭の狼に率いられた羊の群れに敗れる』と言ったのは、昔の軍略家だったか。

 “練度が高い”というのは、おそらくは、指揮官の質の違い。

 

「またゴブリンロードでも生まれているのか……? いや、ロードでも、自ら率いるならともかく、分派した個々の群れの統率までは不可能だ」

 不可解さに、首をひねるゴブリンスレイヤー。

 女神官も、その様子にわずかに不安を滲ませている。

 

「おーい、かみきり丸やぃ! これを見ろ!」

 鉱人道士が、指揮官級と思しき小鬼から剥ぎ取ったものを手に、どたどたと走ってきた。

 その手にあるのは、小鬼の持っていた総金属製の槍と聖印(シンボル)

 

「こりゃ、ちくと大事(おおごと)かも知れんぞ」

 鉱人道士が言うには、この小鬼の槍の造りは、上古の鉱人の手によるものなのだという。

 しかし、それにしては古さがなく、鍛えたてにも等しいのだという。

 

「上古の鉱人が、小鬼に協力しているとでも?」 受け取った槍を矯めつ眇めつ、ゴブリンスレイヤーが尋ねる。

「それがようわからん……。この槍からは、作り手の熱さを感じんから、あるいは、死霊なのではないかと思うんじゃが」 生きた職人の手によるものではないと、鉱人道士。

 

「しかも、その槍の材質は、わたくしの家宝の軽銀剣と同じ――小鬼がその製法を再現したとあらば、放置することはできませんわ」

 鉱人道士の後を追ってきた令嬢剣士が、自らの腰の軽銀剣を撫でながら、険しい顔で断言した。彼女は、先に別の依頼でこの村に来ていた一党の頭目であり、【辺境最大】へと救援を願い出た者でもある。まあ、そちらには連絡が付かず、しかし緊急度が高くて小鬼がらみということで、ギルドの機転によって小鬼殺しが派遣されてきたのは僥倖ではあった。

 

 軽銀については、まかり間違って、自分の家が小鬼を支援しただなんて難癖をつけられてはコトだし、本当に小鬼が製法を再現したのであれば、それは軽銀剣を家宝とする令嬢剣士の実家の貴族家の手中に収めておくべきものである。

 製法を回収できたならば、一度、実家に戻らねばならないだろう。冒険者稼業を続けられなくなったとしても。

 ……出奔した身の上である。戻れば、もう冒険者には戻れないであろうし、製法を持ち帰ったならば、その功績と責任も生じよう。それでも――

 

「製法など一式を接収せねばなりません」

「そうか」

「そうです」

 

 小鬼殺しは、決然とした令嬢剣士の目を暫く見つめたあと、もう一つの物品――小鬼の持っていた聖印へと視線を落とした。

 

「それで、これは……聖印、か?」

「このシンボルは――」

 小鬼殺しの疑問に答えたのは、女神官だ。

 

「これは、外なる知恵の神――覚知神の聖印(ホーリィシンボル)、『緑の瞳』です。覚知神は、信者に、信仰の見返りとして『叡智』を……『叡智』のみを与えるとされています」

 

 過程を無視した、結果のみを啓示する、覚知神の叡智。

 それを与えられた信徒は、その知識を実践することに固執し、信念をもって実践するのだという。

 その結果としての不利益が起ころうとも、結果のみを与えられた仮初めの叡智では、改善も修正もできないし、覚知神に凝り固められた精神は叡智に示されたことを墨守することしか許さない。

 覚知神が邪神扱いされるのは、自由意志を塗りつぶして縛る異端の神であるためである。*3

 

 そして往々にして、覚知神は、与えた叡智を疑いもせずにつき進めた結果訪れる“混沌と破滅”こそを望んでいるのだ。*4

 

「小鬼を教化し、小鬼を率い、小鬼の軍を運用する、異教の輩。そしてそれに率いられる小鬼の軍団――」

 それは差し詰め――

 

小鬼聖戦軍(ゴブリンクルセイダー)……!」*5

 

 

<『2.だから何だというのだ、小鬼どもは皆殺しだ……!!』 了>

 

 

*1
小鬼の冠ゴブリンズクラウン:タイトルの元ネタは恐らくファイティングファンタジー「ソーサリー」の諸王の冠the Crown of Kings。「諸王の冠」とは、持ち主のリーダーシップをブーストする魔法の冠。各国の王は4年ごとにこの魔法の冠を順に回して被ることで、能力をブーストし、国土を発展させたという。

*2
小鬼の通過儀礼イニシエーション:脳の一部に外科的な処置と電流による刺激を与えることで、一部の本能=ゴブリンらしさを抑え込む。ロボトミーをもっと繊細にしたもののような感じ。これも覚知神の叡智だろうと思われる。

*3
四方世界の外なる神:TASさん(ティーアース)もまた、駒の自由意志を奪いがちなので、典型的な外なる神である。四方世界の神々は、駒たちの自由意志をこそ尊ぶのであるからして。

*4
叡智を疑いもせず:例えば、覚知神から神の目を得て、いろんな薬の、害虫や病気や雑草に効くパラメータを見抜けるようになった結果、塩を畑にぶちまけるのが覚知神の信者。しかも、作物が枯れても「俺は間違ってない! 他の奴らが何か邪魔したんだ!」とか言い出す。だって神の目が間違ってるはずないと信じてるからね。

*5
クルセイダー:語源的には十字(クルシス)を掲げる者なので適切ではないが、かっこいいし分かりやすいのでヨシ! とします。『眼』(オルクス)を掲げる者、なら“オルクセイダー”の方が適当だろうか。




ゴブリンズクラウン(戴冠済み)。そして軽銀装備の量産化のために生えてくる雷精使いと死霊使い。
2周目モードだからね! 是非もないね!!
 


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27/n 雪山ゴブリンズクラウン-1(到着-決戦)

閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ありがとうございます! 感想をたくさんいただいたので、感謝の更新です!(3連休連続更新できたので満足……!)

●前話:
覚知神託・雷精捕獲・上鉱人霊・軽銀武具・小鬼聖軍


 はいどーも!

 雪景色、湯煙、美少女一党(パーティ)……何も起こらないはずもなく、な実況、はーじまーるよー!

 ……前もこんなことあったな?

 

 さて、前回は新しく郊外にお家を建て始めて、山間の村々への食糧救援依頼に出発したところまででしたね。

 

 半竜娘ちゃんたちは、順調に依頼をこなして回っています。

 麒麟竜馬が曳く馬車に加え、空間拡張鞄でちょっとした隊商並みの物資を運べますし、いざ不足が出ても、腕を【竜翼(ワイドウィング)】にした半竜娘ちゃんが空間拡張鞄を引っ掴んで空を飛んで街まで戻って補給できるので、万全です。

 十分な冬山対策の装備を揃えたこともそうですが、一番大きい勝因は、やはり、地母神の【聖餐(エウカリスト)】の奇跡が込められたランチョンマットを複数運用して、いつでも祝福された温かい食事をとれたことでしょうね。病気予防の効果もあり、風邪とも無縁になるのは強い。

 吹雪(ふぶ)いてきても、半竜娘ちゃんの【天候(ウェザーコントロール)】の真言呪文で天候そのものを改変できるので問題なしでした。

 

「次の村は無事だといーけどな」

 雪中にもかかわらず相当の速度で走る馬車を御者席で操りながら、周囲を警戒するTS圃人斥候。

 もこもこの白い防寒具――雪男(サスカッチ)の毛皮のコートやマフラーなどなど――に身を包んでいます。

 周囲の寒気は、半竜娘ちゃんが馬車に付与した【追風(テイルウィンド)】の精霊術で幾分緩和されているようです。

 

「進むにつれて、略奪にあって全滅した村が、結構多くなってるものね。なんか良くないことが起こってるわよねぇ」

 森人探検家が馬車の小窓から外を見ながら返事をします。

 

 視点を馬車の中に移せば、森人探検家の手元には、この周辺の精細な地図が。

 どうやら半竜娘ちゃんが空から見た地形を、優れた頭脳で記憶し、書き起こしたもののようです。

 その手製の航空地図には、壊滅した村を示すのであろう×(ペケ)印がいくつか書き込まれています。

 壊滅していた村の数はそれなりにあり、地図上のある一点に向かうにつれて、その密度を増しているようにも思えます。

 

「不幸中の幸い、アンデッドになる前に、それぞれの村で亡くなられた方の弔いは済ませられました……。運よく隠れていた生き残りの方たちは、お姉さまがその都度、麓まで飛んで届けになりましたし……」

 文庫神官は、弔った村人たちを思い返し、馬車の中で痛ましげな表情です。

 

「……」 「……」

 半竜娘ちゃんの本体と分身体は、馬車の中で【狩場(テリトリー)】の祖竜術を維持しつつ、呪文使用回数を回復させるために瞑想中です。(狭い)

 

 ザッザッザッと、サスカッチの毛皮で作られた防寒着を纏った麒麟竜馬が雪山を進む音だけが、雪に染み込みます。

 【加速(ヘイスト)】の真言呪文、交易神の【旅人(トラベラー)】の奇跡、【追風(テイルウィンド)】の精霊術の3系統の術の重ね掛けを施された馬車は、一日で三つの村をめぐることを可能にします。……何事もなければ。実際は、畑の大岩を退()かしたりなど、土木工事をやってあげたりすることも多かったようです。

 とはいえ、そろそろ本当に山深くなってきたこともあり、残りの配達先はあと2か所です。

 

「……よし、切り替えましょ。次の村は、確か温泉が湧いてるのよね!」

 森人探検家が、さっと話題を切り替えます。

 火山地帯なのか、温泉が湧いているということです。

 熱心な浴槽神の巡回僧が、温泉を掘り当てて湯殿を作っていったのだとか。

 

「温泉か、楽しみだな!」

 TS圃人斥候も、御者席から話題に乗ってきます。

 

「旅の垢を落としたいですね。身体を拭くだけじゃなくて、足を伸ばして湯に肩まで浸かって……」

 温泉の効能に思いを馳せて、文庫神官が相好を崩して、ほぅっとため息をつきます。

 

 半竜娘ちゃん()も温泉は気になるのか、ピクリと身じろぎしました。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

「ちょうどいいところに来たな。ゴブリンだ」

 

 目的の村についた半竜娘ちゃんたちを出迎えたのは、ゴブスレさんでした。

 アイエエエ……、ゴブリンだよう……いやだよう……、ゆっくり休ませてよう……。

 

「おっ、半竜の娘っ子! 食糧を持って来たんか? 酒はあるか?」

 鉱人道士が酒を催促してきます。

 そりゃ積んでありますよう、新年のお祝いにお酒は必要でしょう?

 配達先の村はまだ1つ残ってましたが、情報を照合した結果、ゴブリンに壊滅させられているっぽいので、この村で残りの物資は全部下ろしますよ。

 

 ぐっとガッツポーズする鉱人道士は置いといて、先に荷物を運び込んじゃいましょう。

 半竜娘(分身)ちゃんたちは、ぽいぽいと空間拡張鞄から物資を取り出し、村の倉庫に積み上げていきます。

 これだけ物資があれば、村人たちも安心でしょう。村長らしき人がホッと安堵しているのも見えました。あ、予定より多いのは在庫処分だし、冒険者たちの滞在分ということでサービスしときますよ(無料とは言ってない)。……今度は村長の顔が青くなりましたね。

 

 その間に、一党の頭目たちで会議です。つまり、ゴブスレさんと、半竜娘ちゃん(本体)と、令嬢剣士ちゃんの三人ですね。

 

 

 かくかくしかじか、まるまるうまうま。

 お互いの持っている情報や手札を交換し、整理します。

 

 …………。

 ……。

 

「なるほど、覚知神に仕える小鬼の軍勢、小鬼聖戦軍(ゴブリンクルセイダー)、のう」

 半竜娘ちゃん(本体)が、話し合いの場にした集会所の床に座って噛みしめるように言います。

 数が多い小鬼が賢くなったとなれば、まあ、面倒な話です。

 

「周囲の村から攫われた人々の数も、相当に上るはずです。そちらも見捨てる訳にはいきません」

 令嬢剣士の言うとおり。

 冒険者たるもの、捕虜の救出にも力を注がねばなりません。

 吟遊詩人の唄でも、囚われの娘を助け出すのが冒険者の役どころですからね。

 

「ああ、それじゃが、女だけじゃないかもしれんぞ。これまで見てきた村には、男の死体も少なかったし、男も含めて引っ立てられておるのを見たと生き残りからも聞いとる。その砦で文字通り食い物にされとるじゃろうが、運が良ければ生き残りがいるかもしれんし」

 半竜娘ちゃんが、これまでに見てきた他の村の様子から補足します。

 通常、小鬼は人族の男を捕虜に取りませんが、今回の群れは違うようです。

 自分の足で歩ける非常食兼鉱山労働力くらいの扱いをしているのでしょう。

 

「……そこの小鬼が精錬の術を学んだならば、一匹たりとも逃がすわけにはいかん。渡りになってその知識を広げられてはコトだ」

 今回、一番の懸念はソレです。

 かつての混沌との大戦で、小鬼が騎乗技術を得て広めたように、軽銀の製法を広めさせるわけにはいきません。

 全て、文字通り、根絶やしにする必要があります。

 

「できれば、製法については接収したいですわ」

 とはいえ、令嬢剣士としては、その軽銀の精錬技術も目標の一つに入ってきます。

「小鬼を殺すのが先決だ」

「もちろんですわ」

 まあ、流石に優先目標を誤ることまではしませんが。

 

「ふーむ。まとめると、じゃな。こっちが目指すべきは大きく二つ」

 半竜娘ちゃんが指折り数えます。

 

「一つは、捕虜の奪還

 で、もう一つは、ゴブリンの殲滅で、しかも、絶対に一匹たりとも逃がさないこと

 ついでに、軽銀装備の製造方法の接収ができればさらに良い、というところかや」

 

 絶対の目標2つに、あわよくばという副目標が1つですね。

 

 

「そのためには、入念な計画が必要ですわ。砦の見取り図や、小鬼の数、捕虜が捕らえられている場所、抜け穴の有無……」

 令嬢剣士はその困難さに顔をしかめています。

「あまり時間はかけられんぞ。小鬼どもが打って出てきたら、村を守りきれん」

 小鬼殺しがさらに時間的制約についての条件を加えます。

「捕虜たちも日を置けばそれだけ助けられる数が減るじゃろうしな。……小鬼殺し殿は、なんぞ秘策でもあるかの?」

 半竜娘ちゃんの問いに、小鬼殺しはいつものように兜の奥の瞳を赤く光らせて――

 

「手はある」

 

 ――と答えました。

 

「聞くのじゃ」 「お聞きします」

 半竜娘と令嬢剣士が、銀等級の【辺境最優】の言葉を聞くべく居住まいを正しました。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 ゴブスレさんが開陳した作戦を聞いて、半竜娘ちゃんはさらにそれを自分たち一党の能力を加味して微修正していきます。

 令嬢剣士は、ベテラン冒険者たちのやり取りを聞いて、時々質問したりして、興味深そうに学んでいます。*1

 

「砦に潜入するなら、変装ではなく――」

「そうか、空から不可視化して――」

「【沈黙(サイレンス)】の奇跡があれば十全に――」

 

「血を固まらせない方法……。確か、昔、姉が檸檬と重曹を混ぜると――」

「檸檬と重曹なら、持ってきた物資にあったはずじゃ。使える工房は――」

「村の薬師の娘に協力を――」

 

「空間拡張鞄の容量は――」

「生き物も死体も入れられるはずじゃから――」

 

「抜け道は潰して――」

「雪で固めて――」

「呪文で吹雪を呼べば――」

「いや発破で雪崩を――」

 

 …………。

 ……。

 

 小一時間ほど話をして、粗方の算段が付いたので、この計画をもとにそれぞれの一党のメンバーに、各リーダーが指示を伝えることにしました。

 ゴブスレさんの方針で、メモの類は残さないことになってますから、それぞれの頭に作戦を記憶します。

 

「まあ、これなら何とかなるじゃろう」

「ああ。来てくれて助かった」

「なんのなんの。ま、手前が居らんでも、小鬼殺し殿なら何とでもしたじゃろうて」

 

 実際、ゴブスレさんならたぶん何とでもできたでしょう。

 半竜娘ちゃんがいた方が飛躍的に手札と、安全性が増すことは確かですが。

 

 では、行動開始です!

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

◆作戦第一段階:『潜入偵察』 及び 『捕虜の救出』

 

 半竜娘ちゃんの分身体は、巨大化した背に、冒険者たちを乗せて【竜翼】の祖竜術によりもたらされた翼を駆って飛んでいました。

 空から目的の砦を見下ろせるとこまでやってきたところです。

 

 背に乗せられた冒険者たちは、各チームから偵察要員として斥候職の者を、そして捕虜への手当を行う者として神官・竜司祭の者を選抜しています。背に乗っている選抜者は以下のとおり。

 

 ・ゴブスレチーム:蜥蜴僧侶、女神官

 ・令嬢剣士チーム:鉱人神官、圃人女斥候

 ・半竜娘チーム :TS圃人斥候、半竜娘(本体)

 

 野伏のエルフ(妖精弓手、森人探検家)は、討ち漏らしが出ないように砦の周辺に伏せさせます。遠距離攻撃大事。

 ゴブスレさんも斥候技能持ちですが、村の防衛指揮が必要なので残ってもらっています。

 文庫神官ちゃんは……ほら、お空がトラウマなので……。空挺作戦とか無理で……。まだ強制的に乗せなきゃならないほど切羽詰まってもないので、お留守番です。まあ、留守居組に神官が居ないのも問題ですしね。

 

 さらに、空挺潜入組の蜥蜴僧侶さんと半竜娘ちゃんは、自前の【擬態(カモフラージュ)】の術で光学迷彩状態になっています。

 それ以外の人員も、半竜娘ちゃんが【竜血(ドラゴンブラッド)】を併用した【擬態(カモフラージュ)】の術をかけて、光学迷彩状態にさせています。

 全員、匂い消しを使用しているので、匂いで見つかることもないでしょう。

 

 

 つまり、光学迷彩状態の飛行ユニットを用いた空挺作戦で侵入するわけですね!

 ふはははは! 防ぎようがなかろう!!

 

 侵入後は、光学迷彩状態のまま、斥候職の者を中心に捕虜の場所を探り、敵の戦力・配置や砦の構造を調べます。

 

 全ての捕虜の場所が分かれば、救出に移ります。

 先ずは危篤状態の捕虜に、回復薬(ポーション)や応急処置道具で処置を行います。

 そして、空間拡張鞄に捕虜を全員詰められるだけ詰めて、脱出です。

 1回で足りなければ、2回3回と行う必要があります。

 

 少々厄介なことに、反乱防止のためか、単に人数が多いためか、砦内部の捕虜の収容所は分散しており、さらに鉱山労働用の捕虜の場所は砦から離れているようです。

 大容量の空間拡張鞄3つで馬車3台分の容量ですから、これを上手く使って救出する必要があります。

 まあ、最終的に、何とかして捕虜を全員助け出しました。

 

 途中で、真面目に巡回していた小鬼に見つかってしまったのですが、サクッと殺して死体は空間拡張鞄に収納して隠します。

 悪い小鬼はしまっちゃおうね~。完全犯罪成立です。

 

 で、このままだと、捕虜を失ったことに気づいた小鬼聖戦軍が村に押し寄せてくるので、小鬼どもを砦に封じ込めないといけません。

 そのために、作戦は第二段階へ移行します。

 

 

 

◆作戦第二段階:『氷棺封印』

 

 

 半竜娘ちゃん()は第二段階でも活躍してもらいます。

 使う呪文は、天候操作の真言呪文――【天候(ウェザーコントロール)】です。

 

 砦の傍で、天候操作により、過冷却状態の小雨と、超寒波による吹雪をひたすらに繰り返すだけです。

 

 さらに、魔術師組により、砦周辺の山に術を打ち込み、雪崩を誘発させます。

 

 これで、砦を雪に埋め、氷でさらに分厚く覆っていきます。

 

 砦の一部の部屋は、煌々と火を焚いているせいか凍りませんが、それはそれで構いません。

 数日、そうやって小雨と寒波を繰り返す間も、【擬態】を込めた【竜血】で不可視化した斥候・戦士が、空挺で侵入し、暗殺により擾乱(じょうらん)します。

 このとき、【竜血】は、抗凝固剤で固まらないようにして瓶に保存したものを使います。*2

 半竜娘ちゃんの分身の血も、【竜血】をかけると消えなくなるようで、助かりました。あるいは、半竜娘ちゃんの【職人:魔道具】の技能のおかげかも知れません。さすがに永続ストックはできませんが、数日なら効力を保つことが、『【鑑定】の手袋』のおかげで判明しています。

 

 小鬼精兵(ゴブリンエリート)以上の精鋭は、死霊に守られていることもあり、なかなか暗殺する機会に恵まれませんが、雑兵の通常の小鬼は軍規を守らずうろついているところを狙って狩っていきます。

 このまま漸減させていくことが出来ればそれでよかったのですが、敵もさるもの。

 そう簡単にはコトは進みませんでした。

 

 

 

 

◆作戦第三段階:『流星鉄槌』

 

 連日の潜入暗殺の際に、敵に反抗の兆しを感じたため、先制攻撃します。

 砦の周囲は、すでに氷河のような分厚い氷に覆われています。

 抜け穴があったとしても、それは氷の重さで押し潰されていることでしょう。

 

 そこにダメ押し。

 半竜娘ちゃんの分身による、【加速】【巨大】【竜翼】【突撃】の航空突撃コンボにより砦直上から急降下特攻。

 圧し潰します。

 

 しかし、それを察知した小鬼聖戦軍は、小鬼精兵(ゴブリンエリート)たちによる【聖歌(ヒム)】の合唱により強化した多重【聖壁(プロテクション)】によりそれを受け止めます。

 

 1度目は防がれ、小鬼たちの勝どきが響きました。

 数分置いた2度目の突撃も防がれましたが、勝どきは小さくなっています。動揺が手に取るように分かります。

 3度目はついに防ぐことが出来ず、直撃しました。おそらく小鬼精兵たちは超過詠唱の反動で倒れ伏したのでしょう。

 4度目、5度目で、砦内部を完全に崩壊させました。

 

 さらに、これまでに引き続き、小雨と超寒波を【天候(ウェザーコントロール)】で砦に深々(しんしん)と染み渡らせます。

 ここに至っては、砦上部も氷に覆われたため、不可視化による侵入暗殺も不可能になります。

 

 

 

◆作戦第四段階:『決戦/迎撃』

 

 本当に皆殺しにできたのか確認しなくてはなりませんが、それは祖竜術の【狩場(テリトリー)】の感知結界を氷の下まで伸ばせば何とかなります。

 

 その確認のため、念のため冒険者たち全員で氷の棺に封じられた砦に近づいたとき、それは起こりました。

 

『GGGRRRRROOOOOOO!!!!!』

 

 暴走して白熱した雷電の精霊が氷の壁に穴を空け、半霊体である上古の鉱人(ハイラードワーフ)の死霊たちに斧を持たせて近衛のように周囲を固めさせて、倒れ伏した同胞の小鬼精兵たちをゾンビ化させて前に押し出し、首脳陣だけでも脱出しようと決死の突撃を仕掛けてきたのです! ヤバレカバレ!!

 

 

 というところで今回はここまで!

 それではまた次回!

 

 

*1
※ベテラン冒険者たち:× ベテラン冒険者たち → ○ 和マンチども

*2
血液抗凝固剤:クエン酸ナトリウムを使用。クエン酸と重曹によって作成。




相変わらず酷使される分身体……(反逆カウンター累積中)。
半竜娘ちゃんばっかり働いてるように見えますが、その間、他の人も救助した捕虜の世話だの、外回りに出ていた小鬼の別動隊が居ないか狩り回ったりだのして働いています。
まあ、確かに、半竜娘ちゃんありきの作戦ではありますが、本人に不満はない模様。

小鬼殺し「……やはり便利……」
半竜娘「能力を存分に発揮するの、たぁーのしぃーい!! ひゃっはー!!」

 


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27/n 裏-1(捕虜救出詳細)

閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ありがとうございます! 捕虜救出で、“なんやかんや”したところの詳細です。さ、最初から別視点の裏パートで書くつもりでしたよ?(目反らし)

●前話:
マンチに三次元戦闘の手段を与えるな。
――どうして?
選択肢が広がりすぎてGMが死ぬからだ。見ろ、ダンジョンギミックは既にお亡くなりになった……。シナリオも虫の息だ……。



1.竜挺降下(ドラボーン)

 

 白い神官服に身を包んだ女神官は、悲鳴を上げないように必死にこらえていた。

 周囲に気を巡らせれば、同じく歯を食いしばっているだろう令嬢剣士一党の圃人女斥候や、知識神の神官の鉱人のくぐもった声が、轟轟と鳴る風の音に交じって耳に入る。出発前に見た冒険者証を思い出せば、彼らはまだ白磁の駆け出しだったはずだ。*1

 自分もなかなかに数奇な経験を積み上げていると思うが、駆け出しの時分にこの体験とは、これはこれで同情せざるを得ない。*2

 

 何せ、竜の背に乗って、空から砦に侵入するのだ。

 

――先の大戦の最前線では竜に乗った魔神の攻撃もあったと聞きますが。

 

 まさか自分がそれをやることになろうとは。

 しかも、混沌勢力でもなく、秩序側なのに。

 同じく竜の背の上にいるはずの、同期の半蜥蜴人の女を思う。この女傑は、分身の術も使えて、竜の翼で空も飛べて、天気を晴れにも出来るという凄腕だ。今乗っている、六人も載せられるくらいに広い背中を持つ人面飛竜も、彼女の分身体の変化である。しかしまあ……。

 

――ほんとうに、色々と紙一重というか、度し難いというか、なんというか……。

 

 女神官が慕う銀等級の小鬼殺しもなかなかのものだが、この半竜の巫女も、負けず劣らず()()()()(たち)だ。

 混沌の呪物を利用した儀式で祖竜に供物を捧げたり、地母神を慈母龍と意図的に習合させようとしたり、やることがギリギリ紙一重で混沌めいている。戒律(アライメント)は善のはずなのだが……。

 思えば出会った日――冒険者登録初日――に彼女がやらかした、古竜の族滅も、上手くいったから良かったものの、一歩間違えば辺境の街が竜災で滅んでいた。

 周囲への影響を軽んじているという面では、小鬼殺しよりも要注意かもしれない。

 

 しかも、小鬼殺しと半竜の巫女が二人そろうと、さらに相乗効果で加速度的にやらかしが悪化する。

 それを今、女神官は、身をもって実感していた。

 

 今回の竜挺降下作戦も、この二人の合作だという。

 姿を景色に溶け込ませる祖竜術を使っての、空からの隠密的な砦への潜入。

 小鬼たちも、気づくのは難しいだろう。まさに、慮外の一撃となるはずだ。

 

――私は私の仕事をしましょう。

 

 とはいえ、その作戦を合理的だと思ってしまう自分もいる訳で。慣れてきたなあ、と思わなくもない。

 

 砦の城壁が近づいてきている。

 いくら姿を術で誤魔化していても、着陸時の音までは誤魔化せないだろう。

 

 しかし、それならば音も奪えば良い。

 

「『いと慈悲深き地母神よ、(あまね)くものを受け入れられる、静謐(せいひつ)をお与えください』――【沈黙(サイレンス)】」

 

 女神官が小声で請願した、静謐をもたらす奇跡が、光学迷彩状態の人面飛竜(半竜娘の分身の変化)を包み込み、音もなく城壁の上に着陸させた。

 

「……」

「……」

 

 お互いに姿も見えず、音も聞こえないが、足裏から伝わる感触を頼りに、半竜娘の分身体である人面飛竜から降りると、積もった雪に符丁を書いて、二手に分かれて散っていく。

 腕を竜の翼にした半竜娘の巨大化分身体は、ここで待機だ。いざというときには暴れて陽動として注意を引きつけることも視野に入っているが、基本は脱出の足の確保のため待機となった。巨大化した防寒具(飛竜形態用)を着込んでいるので、この寒空でも平気だろう。

 

 女神官は、蜥蜴僧侶と、半竜娘の一党から臨時で加入した圃人の女斥候(TS圃人斥候)を加えた3人チームだ。

 蜥蜴僧侶は、出かける前に鉱人道士から懐炉の温石を貰っているし、水中呼吸の指輪もつけて、寒さへの対策を積んでいる。*3

 

 もう一方のチームは、令嬢剣士一党から圃人女斥候と鉱人神官がペアを組み、半竜娘がそれに加わっている。奇しくも、どちらのチームも、斥候・神官・竜司祭の組み合わせだ。

 呪的資源(リソース)的にも、斥候の人数的にも、純戦力的にも、捕虜回収用の空間拡張鞄の分配的にも、これが適正だろう。

 

――こっちのチームのリーダーを任されたのは、正直、荷が重いと思うんですが……。

 

 そう、なぜか、女神官がこっちの分隊(チーム)のリーダーに抜擢されたのだ。銀等級の蜥蜴僧侶を差し置いて――というか、まあ、自惚れでなければ、自分に経験を積ませるために、この思慮深き蜥蜴人は、一歩引いてくれたのだろう。

 荷は重いが、しかし、小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)からも任されたのだ。

 やらねばならないし、やり遂げたい。あの(ひと)の期待に、応えたい。

 

 砦の構造を調べ、出来ればこの機に一斉に捕虜を奪還する。それが今回の竜挺作戦の目標だ。

 そのために、静かに、速やかに、行動を始めなければならない。

 

 【沈黙】の範囲を自分たちの周囲のみに絞る。血を介して付与された【擬態】も、まだ維持されている。姿は背景に同化し、音は全て消えた。

 よほどのことがなければ見つかったりはしない、はずだ。――油断は禁物だが。

 

 事前に決めた通りに壁に白墨で符丁を書いて指示を出すと、半竜娘一党の圃人斥候が先頭に立ち、素早く砦内へと進み出した。

 

 

<『1.第一段階――『潜入偵察』は順調に推移中』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

2.ありえないものの(たと)

 

 

 半竜娘(本体)が率いた方の砦潜入分隊(チーム)は、順調に砦を進んでいた。

 圃人女斥候は、斥候としての腕前は、女神官の方に付けたTS圃人斥候に劣るものの、半竜娘の【加速】の術による支援を受けて頑張っている。*4

 鉱人神官だって鉱人としての知識を生かして石を読み、この上古の鉱人(ハイラードワーフ)の砦の仕掛けを(つまび)らかにするのを助けていった。

 この二人をペアにしたのは正解だった。今も協力して、砦の警戒(アラート)の仕掛けを見抜き、引っ掛からないルートを辿るようにしたところだ。

 

「……やるのう。【加速】の術をかけておるとはいえ」

「まあね~」

「ここまでしてもらって、足を引っ張るわけにはいかんのでな」

 

 半竜娘の感心にも、緊張感を保って返事をする圃人女斥候と鉱人神官。こっちのチームは【沈黙】の奇跡は使っていないので、普通に会話している。

 少し、罠を見破るのにヒヤッとした場面があったし、調子に乗らず適度な緊張感を保っているのは良い傾向だ。

 

「ここの罠を小鬼が手入れしておるとは思えんがな……」

 

 やはり、小鬼殺し一党の鉱人道士が出発前に見立てた通り、上古の鉱人(ハイラードワーフ)の死霊が使役されているのだろう。

 使役された死霊が城砦を保守しているせいか、小鬼では使えないような、かなり複雑な機構の罠まで稼働状態にあるようだ。

 

「しっ」

「……!」 「……!」

 

 その時、向かいから軽い体躯の足音が複数。

 おそらくは小鬼だろう。

 

「跳ぶぞ、(つか)まっておれ」

「きゃっ」 「ぬっ」

 

 半竜娘は、圃人女斥候と鉱人神官の居場所を気配だけで捉えると、片手と尻尾でそれぞれを抱えて跳躍し、空いた片手の爪を天井に突き刺し、片腕の力だけで天井に張り付いた。

 地を這う生き物は、自分より上にはなかなか目がいかないものだ。

 十分やり過ごせるだろう。

 

『GGOOBB!!』

『GOBR……』 『GOOB……』

 

 ヤモリのようにべったりと天井に張り付いた半竜娘は、【擬態】の術の効果で風景に溶け込みながら、下を通る小鬼たちを観察する。

 おそらくは巡回兵。装備が良い真面目な伍長に、サボりたがりの二等兵たち、といったところか。

 

――真面目な小鬼など、在り得ないものの代名詞じゃろうに。まさかそんなものを見ることになろうとはな。

 

 息を潜め、巡回の小鬼たちをやり過ごす。

 ここで巡回の小鬼を殺してしまえば、きっと戻らない仲間を不審に思うだろう――という程度には、この砦の中の小鬼たちは軍秩序を構築しているように思える。

 

 小鬼たちが曲がり角を曲がったところで、半竜娘はそのしなやかな筋骨を生かして、天井から音もなく着地。

 抱えていた二人を解放する。

 

「……行くのじゃ」

「あいよ」 「承知」

 

 (あた)う限り静かに、竜司祭・斥候・神官は砦の中を再び進み始めた。

 既に地下は確認した。捕虜たちは地下牢の遺構を利用して捕らえられていた。

 しかし、捕虜が留置されているのはそこだけとは限らない。

 

 途中で見つけた施設の中には、火を入れられた炉と、何かの鉱石が積まれた部屋があった。

 そちらの労働力となっている捕虜も居るかもしれない。あるいは、鉱石を採掘する鉱山の方にも。

 これから高いところ(上層階)を見に行くついでに、【竜眼(ドラゴンアイ)】の術で遠くを見渡すべきだろうか、いや、それは城壁の上で丸まっている分身体に見させれば良いか。

 そう思って、分身と視界を共有すれば、雪の上に足跡がある。どうやら外の捕虜の居場所も見つけられそうだ。

 

 これまで調べた砦の構造と、半竜娘の土木の知識、鉱人神官のドワーフ砦への造詣を合わせて、幾つか、他の捕虜が居そうな場所の目星もつけている。

 あとは、そこにいる捕虜の人数や、状態を確認すれば、一旦、女神官のチームの方と合流しに戻っても良いだろう。

 

「小鬼らしくない……か。不気味じゃが、捕虜を勝手に引っ張っていって遊び道具にしたりしない程度に秩序立っておるのは、助かるのう。妙なイレギュラーでの取りこぼしを心配せなんで済む」

 半竜娘の言うことも、一面の真実ではある。小鬼らしい無秩序さを発揮されていれば、捕虜全員の把握には、もっと時間がかかっていただろう。いや、逆に捕虜の生き残り自体がゼロになっていたかもしれない。

 

「奴らのうち、装備がいい奴は、随分と真面目そうだったね。点呼する小鬼とか、普通なの?」

「いやいや、聞いたこともないぞ」

 圃人女斥候と鉱人神官が不思議そうにしている。令嬢剣士一党の彼女・彼らは、小鬼退治は初めてだ。普通の小鬼についても良くは知らないのだ。

 

「小鬼は阿呆だが、間抜けではない……しかし、真面目なわけもなし、普通ならの。今、目にしておるのは相当に珍しい、いや、この広い四方世界でも、本来は在り得ないもののはずじゃよ」

 

 四方世界にありうべからざるもの、それは、下品な森人、下戸(げこ)の鉱人、少食の圃人、そして――。

 

<『2.→“真面目な小鬼”』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

3.死霊術の基本は死者(遺志)との対話

 

 死霊術というのは、死者を(よみがえ)らせる術ではない。

 死者は蘇らず、死は不可逆。

 死霊術は、残された未練などの残滓、いわば世界に残された傷跡をなぞることで、そこに込められた遺志を奏でているのだ。*5

 よほどに大きな《死》あるいは《生》の力によって(ことわり)が捻じ曲げられていれば別だが……。――例えば、10年前に踏破された《死》の迷宮。例えば、火吹き山の《死》の魔術師。それらのように、魂を霧散させずに呪縛することで、死を覆す領域が現れることもある。

 

「小鬼の死人占い師(ネクロマンサー)がいるだなんて、にわかには信じられません……」

 女神官が静かに首を振る。

 

「ですが、実際に、上古の鉱人の半霊体が働いておりましたぞ。まあ、拙僧も信じがたい思いですがな。おそらく、小鬼のネクロマンサーの力量が高いというよりは、奴が持っていた鉱人の頭骨をあしらった杖に、その秘密があるのだろうと睨んでおりますが」

 蜥蜴僧侶も、事実を認めつつも、一方でまた不思議そうにしている。

 

 ――ここの小鬼たちは、どうにもおかしい。

 

「オイラもその辺は同意だけど、余計なことに気を取られてる暇はねーし。こっからは時間との戦いだかんな」

 

 だが、それはそれとして、捕虜を救出しなくてはならない。

 半竜娘の一党の一員であるTS圃人斥候の言うとおり、余計な考察は後回しだ。

 

 つい先ほど、一旦、半竜娘の分隊(チーム)と合流し、それぞれがマッピングした砦の地図と、救出すべき捕虜の数と拘禁場所を確認した。その時に、【沈黙(サイレンス)】の奇跡は解いてしまっているが、【擬態】の術は継続している。

 持ち寄った情報をもとに、小鬼どもに気取られないように、しかし、最高効率で捕虜を解放して回るルートを選定し、今はまた分隊(チーム)に分かれて配置につき、決行の合図を待つばかりだ。

 

 女神官、蜥蜴僧侶、半竜娘の仲間の圃人斥候(TS圃人斥候)は、砦の地下へ繋がる階段を下りたところで息を潜めている。

 決めた段取りのとおりに動くべく、合図を聞き逃さないように耳を澄ませる。

 じっとりと緊張が高まっていく。

 

 と、そのとき。

 

 ――――砦を揺るがす爆発音!

 

 これが合図の音だ!

 鍛冶区画の炉の燃料に細工して火薬を仕込み、時限式に爆発するようにしていたのが、いま作動したのだ。

 

『GGGOOOBB!? GOOBBB!!』

『GOBR』 『GOBGOB』

 

 真面目な方の小鬼が、不真面目な――つまり普通の――小鬼に指示を出し、自分は爆発音の方へと駆けだした。

 【擬態】で息を潜めている女神官たちの横を、真面目な小鬼――小鬼精兵が通り過ぎた。

 気づかれることはなかった。

 

『GOBBBB?』 『GOOOBB!!!』

 

 おそらく、“行ったか?” “行ったぞ”みたいな会話をしたと思しき、雑兵の小鬼たちが、その黄色い瞳をにんまりと細める。

 小うるさい上官が居なくなったので、捕虜をいたぶるつもりだ。

 組み敷いて、殴りつけ、衣服を剝いで、ぶち込んで――

 

「はい、おしまいな」

 

 もちろん、その妄想は現実になることなどなかった。

 半竜娘の仲間の圃人斥候(TS圃人斥候)が、鍛冶場で拾った火箸を両手に持って、電光石火で小鬼の後頭部に差し込んで、小鬼たちの脳を掻き混ぜたからだ。

 小鬼たちの目がめちゃくちゃに動き、痙攣し――そしてその身体が崩れ落ちた。

 

「おっと、音を立てられちゃ困るんだった」

 

 崩れ落ちる小鬼の身体を支え、ゆっくりと座り込ませるようにする。

 傷から血が漏れないように、後頭部に刺した火箸は、抜かずに刺したままに。

 

「御見事」

 蜥蜴僧侶がその手際を褒めた。

 

「まーな。今から鍵開けちまうから、そしたら捕まってる()らを、さっさと空間拡張鞄に突っ込んでくれよな」

 言ってる間にも、圃人斥候は【手仕事】で鍵を開けていく。……ところで、見張りの小鬼精兵は、鍵を持って行ってしまっていたようで、殺した雑兵小鬼は鍵を持っていなかった。どうやって牢の中の捕虜を虐げるつもりだったのやら……。

 

「あの、本当に何の説明もせずに(かばん)に入れちゃうんですか……? “助けにきました”くらい言っても……」

 女神官がか細い声をかける間にも、【擬態】で不可視化した蜥蜴僧侶は、無事な捕虜たちを、空間拡張鞄にぽいぽいと、悲鳴をあげそうな素振りを見せた者から順に放り込んでいく。あらかじめ風精を先に閉じ込めているので、窒息の心配もない。

 その拉致姿は堂に入ったもので、蜥蜴人もまた奴隷をよしとする略奪種族であることを思い出させるものだった。

 

「そうは言っても、いちいち説明してる時間もねーし、騒がれても困るし。“静かに”くらいは言ってもいいけどな。それより、そっちも、消耗している捕虜にポーション飲ませてやってくれよな。回るのはあと一か所あんだから。手際よく、な」

「うぅ……はい。ああ、すみません、みなさん。これもみなさんのためなんです……」

 

 躊躇したのは一瞬だけで、女神官は意を決すると、ポーションを片手に瀕死の捕虜たちに応急手当を施し始めた。

 

 

<『3.生の苦しみは生者の証』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

4.すべては雪が覆い隠す

 

 砦内を火付けや爆発で混乱させている間に、砦内の捕虜は全て空間拡張鞄に放り込むことができた。

 そして砦の城壁の上で休んでいた半竜娘(分身:人面飛竜形態)の元まで、女神官チームも、半竜娘(本体)チームも無事に撤退してきたところだ。

 それぞれが積もった雪に符丁を刻んで、点呼代わりにすれば、全員揃ったと知れた。

 

「首尾は上々といったところじゃな。二回ほど、真面目ぶっておる方の小鬼に見つかってしもうたが、死体は回収したから、暫くはバレるまいて」

 半竜娘は、捕虜を入れるのとは別の、比較的小さな空間拡張鞄を掲げて言った。

 それは、最近買った、文庫神官の空間拡張鞄のようだった。容量的にも、小鬼2体の死体と装備でいっぱいになってしまうくらいだ。

「げ、死体を回収したって、まさか直に入れてないだろうな? それ洗えるのか? 怒られても知らねーぞ」

「ちゃんと血が出ないように(くび)って殺しとるし、ずた袋を二重に被せて括っとるから平気じゃと思うぞ。それでも匂いが付いたなら、きちんと洗って返すつもりじゃよ」

 

 半竜娘とTS圃人斥候がそんなやり取りをするうちに、侵入組は全員が、人面飛竜の分身体の方に乗ったようだ。

 

「姪御殿、これで全員のようですぞ」

「あい分かった! 離陸じゃ!」

 

 半竜娘(本体)の言葉とともに、分身体は城壁を蹴って勢いをつけて滑空した。

 そして揚力を得て、羽ばたき、上昇。

 黒煙が所々から上がる砦を眼下に納めて、上空をゆるりと一周。

 

「……ここまで無事に済んで良かったです」

 女神官がほっと一息。

 

「はー、何とかなったぜ……集中が保ってよかった……」

 令嬢剣士の一党の圃人女斥候は、罠を解くのに疲労困憊といった様子。白磁にしては頑張った方だろう。

 

「……やはり、使役されておったご先祖様方が気になるがのう……。なんで小鬼なんぞに……」 令嬢剣士一党の鉱人神官は、死霊術で操られていた上古の鉱人(ハイラードワーフ)たちが気になる様子。小鬼ごときの死霊術を跳ね除けることは、古の戦士たちには難しくないだろうに、何か理由かギミックがあるのか……。

 

「さて、あと一仕事、最後まで気を抜かずに行きましょうや」

 蜥蜴僧侶の言葉に、皆が気を引き締め直した。

 

 とはいえ残りは、離れた場所の採掘場に留置された捕虜を救出するだけ。

 砦から離れているため、討ち漏らしにだけ注意すれば、そこまで手間取ることもないはず。

 最後だし砦からも離れているので、派手にやっても良いわけで。

 

「あとは、砦内の混乱が収まったときに、小鬼らが出陣を(あきら)めるくらいに、この辺を吹雪(ふぶ)かせておかねばならんのう――カエルム()エゴ()オッフェーロ(付与)――【天候(ウェザーコントロール)】!!」

 

 半竜娘の意思が、真言を通じて吹雪を呼び、一帯を白く、白く、覆っていった。

 

 

<『4.小鬼聖騎士の最悪な一日(一日で済むとは言ってない)』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

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5.まじないの基本は“血”

 

 

 

「『我が身に連なる一雫、彼の命に波紋を起こし、螺旋となりて力を呼ばん』――【竜血(ドラゴンブラッド)】。これに封じるは【擬態(カモフラージュ)】の力――『捕食者たる狩人(ヤトウジャ)よ、彼の身を光の影となせ』」

 半竜娘(分身)が、自らの血に術を込めて、瓶の中へと滴らせた。

 瓶の中には、血を固まらせないように薬剤を入れた液が入っている。

 これにより、光学迷彩のポーションを作っているのだ。

 

「うむ、良しじゃ」

 天井で頭を打たないように身をかがめて、滴る血の具合を見ていた本体の方の半竜娘が、睡眠学習で得た魔道具職人としての錬金術の知識を駆使して、仕上げの処理をして、瓶に封をした。

 同じ要領で、本来は本人にしか効果のない祖竜術をポーションに込めれば、遠くを見渡す【竜眼】のポーションや、火と毒への耐性を与える【竜命】のポーション、あるいは、手を翼とする【竜翼】のポーションすらも作れるはずだ。

 

 ここは村の薬師の娘の家の、調合作業場だ。狭い。

 

「はあ、都会の術士さんは凄いですねー……」

 工房を貸してくれた村の薬師の娘が感嘆した。

 今見ていただけでも、一瓶のポーションを作るのに2回も術を使っている。

 しかもまだまだたくさん作るため、これからさらに何度も術を使う予定だというのだ。贅沢すぎる!

 

「修行の賜物じゃて!」

「はー、修行ですか」

「うむ! もちろん、手前は天稟(てんぴん)に恵まれ、運もあったんじゃと思うがな!」

「しかも、私より年下ですよねー……蜥蜴人基準で成人してるとはいえ……」

 

 蜥蜴人の成人は13歳。

 半竜娘は、薬師の娘はもちろん、村に滞在する他の冒険者の誰よりも若い。

 しかしながら、祖竜の寵愛が(あつ)いためか、あるいは若いからこそか、成長著しく、もう既に一端(いっぱし)の中堅冒険者だ。

 戦闘力だけなら、銀等級相当だろう。

 

「なんのなんの、まだまだこれからじゃてな。偉大なる祖竜の列に加わるには、まだまだ」

「はー」

 

 村の薬師の娘は、感嘆するしかない。

 祖竜になるということは、つまり、只人的な価値観で言えば、戦乙女様のように、定命の者から神に昇るということだ。

 

「すごいですね……」

 

 自分は、村で一生を終えるのだと思っている。

 でも、妹はどうだろうか。

 

 竜を目指す蜥蜴人、貴族令嬢の魔法剣士、森から出てきたエルフの御姫様、地母神に仕える可愛らしい神官……。

 そう、まるで御伽話みたいな冒険者たち。

 

 それをキラキラした目で見る妹は、あるいは、冒険者に憧れて村から出ていくのかもしれない。

 

 周囲の村が小鬼に滅ぼされてしまった中で、砦から助け出した捕虜たちの行く当て、身の振りも考えなくてはならない。

 全てを村で受け入れるには、この雪山の村では農地が足りないだろう。

 そう思うと、妹が村を出ていく状況について、いやな現実味が出てきてしまった。

 

(……妹が、冒険者になるにせよ、他の村に嫁ぐにせよ、薬師の技術は持ってて損はないはず)

 

 妹のためにも、自分の持つ技術は伝授しよう。

 そして、この目の前の半竜の女術士からも、精一杯学び取ろう。これはチャンスだ。

 決意新たに、薬師の娘は、半竜娘の一挙一動を見逃さないよう、手伝いに集中した。

 

 

 

<『5.まじないを祓うのは“知”』 了>

 

 

*1
圃人女斥候と、TS圃人斥候:圃人で斥候で女でかぶってしまった。概ね、令嬢剣士一党の方は『圃人女斥候』、半竜娘一党の方は『TS圃人斥候』と表記。

*2
初ゴブリン退治:ゴブスレさん(イヤーワン)とか女神官ちゃんみたいに、ホブあり毒ありシャーマンありのかわいがり(ガントレット)セットに当たるのは、四方世界全体から見れば稀。ましてゴブリンパラディンとか、令嬢剣士一党は、運がないにも程がある。

*3
水中呼吸の指輪:【呼気】の術が付与された指輪。水属性の悪影響を遮断、軽減する。寒さにも効く。

*4
加速ヘイストによる支援:バフ特化構成の術士である半竜娘が使う加速は、全判定におよそ+4のボーナスを与える。これは、白磁の駆け出し(職業レベル1から2)を中堅レベル(職業レベル5から6)に強化することを意味する。

*5
死霊術ネクロマンシー:奇跡と魔術と精霊術の狭間の術式とされる。生命と死の循環に仕えるものたちは、死者の想念を震わせて力を借りる。詠唱は不要だが、土地や死体などに特殊な印を刻む必要がある。

 蓄音機に刻まれた溝を撫でて音を奏でたとて、それは録音したときの生音そのものが蘇るわけではないように、世界に残された死者の想念を震わせたとて、それは生前のものそのものが蘇るわけではないのだ。




【擬態】に【沈黙】を重ねると、冒険者同士の連携もままならないことに途中で気づくというね(書き直し案件)。光学迷彩状態だとハンドサインも使えないので、雪や白墨を介して意思疎通するように修正。
ちなみに、隠密特化の蜥蜴人は、プレデターになりえます。蜥蜴人は、ゴジラにもプレデターにもなれるポテンシャルがあるのだ……!

次回は、雪山で小鬼たちと決戦です。



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27/n 雪山ゴブリンズクラウン-2(対峙ー追跡ー撃滅)

閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ありがとうございます!
 前回で77話! 60万字超え、文庫本六冊分! 皆様の感想に支えられて、ここまで続きました。今後とも皆さまに御笑覧いただけるよう精進しますので、よろしくお願いいたします!

●前話:
 捕虜救出時のなんやかんや。
 エアボーンで光学迷彩を纏って侵入して、無音でうろついて、必要に応じて一瞬で敵を縊り殺して、対象を確保して空から脱出する。……特殊作戦群かな? 特殊作戦群かも。

=======

まずは幕間的に小鬼聖騎士(ゴブリンパラディン)の視点から。

 


1.お、俺たちはいったい、何と戦っているんだ……!?

 

 

 雪山の城砦を差配する小鬼聖騎士(ゴブリンパラディン)は、混乱の極致にあった。

 

 突然の捕虜消失。

 止まない雪と(みぞれ)氷雨(ひさめ)

 凍り付く城壁、積み上がる氷河。

 

 ――そして、段々と減っていく仲間たち……。

 

 見回りに行った精兵が、付けた小隊ごと戻らない。

 死体すらも見つからない。

 氷に閉ざされたこの城砦から出ていけるはずもないというのに。

 

 それ以前に、何も言わずに消えるような者たちではない。

 我らは、覚知の神の威光を浴びた同志なのだ!

 その信仰による紐帯は、血よりも強い。

 断じて……。断じて! 大義を前に怖気づいたりなどしない!

 

 

 今は、【聖域(サンクチュアリ)】の奇跡にて、侵入者を排除・感知する結界を敷いている。

 この中に居れば安全である。鉱人の死霊も、この場の守りに回す。

 精兵たちも、神への信仰に目覚めて、我ほどではないが、奇跡を賜っている。

 皆で協力して【聖域(サンクチュアリ)】の奇跡を嘆願し、徐々に聖別した領域を広げていく。

 

 時折、結界に触れる敵対者の影がある。

 ……背教者め! 神敵め! 薄汚い冒険者どもめ!!

 だが、もう思い通りにはさせん。

 

 ……通過儀礼(イニシエーション)の儀式室を奪還した。

 ここに至っては、雑兵がどれだけ居ても戦力にはならない。

 いや、閉じ込められたこの状況で、不満を溜める、(いま)だ覚知の『眼』の明かぬ憐れむべき同胞は、潜在的な不穏分子ですらある。

 ゆえに、全ての雑兵に対してイニシエーションを施し、『眼』を明けさせ、教化する。

 この状況で、無明の中にある雑兵たちを、信仰(あつ)い同志に出来るのは、値千金である。

 奇跡の使い手は、いくら居ても足りないくらいだ。

 

 ――身体を押さえ、頭蓋を開き、雷電を流し、蓋をし、奇跡で治療する。

 

 我らもいくらか施術に慣れてきたため、歩留まりは悪くない。

 施術に耐えられず、儚くも亡くなった同胞は、同志の死人占い師(ネクロマンサー)の導きにより、(むくろ)となっても立ち上がり、戦列に加わった。

 ああ、我らに覚知の神の恩寵あれかし!!

 

 …………。

 ……。

 

 もはやこの砦はダメだ。

 侵入者は諦めたのかと思いきや、今度は【聖域】の結界の外から、矢玉や礫が飛んでくるようになった。

 鉱人の死霊の守りを抜けた矢玉に当たって、あるいは少数で行動しているときに射掛けられて、櫛の歯が抜けるように精兵たちも減っていく。

 食料庫までの道は、敵の狙撃者と悪辣な罠で、死の道となった。

 

 見えない敵の侵入を許し、狙撃される恐怖。

 さらに氷に閉じ込められた状態では、春まで士気が保たない。食料もだ。

 なぶり殺しにされる前に、放棄するしかない。

 逃げるしかない……敗走するしかないと、認めねばなるまい。

 

 別天地からやり直しともなれば、人族の領域を攻める計画に大きな遅れが出る。

 ……いや、これは、試練だ。

 神の試練だ。あな恐ろしき覚知の神よ、我らを憐れみ給え。

 

 なに、我と、雷精使いと、死人占い師が居れば、どこからでもやり直すことが出来る。最悪でも、そのうち誰かだけでも逃げ延びればよい。

 覚知の神より賜った叡智もある。

 今回の失敗を糧に学び、成長し、次はきっとうまくやる。

 

 【聖域】を少しずつ広げ、食糧庫、武器庫、鍛冶場を奪還した。……物資はほぼ奪われていたが、それでも無いよりはマシだ。ゴミ捨て場に捨てられたまま凍っていた只人の死体を削いで糊口を凌ぐ。

 逃亡の準備を整える。

 持てるだけの物資を持ち、出立するのだ。

 雪の中で、見えない敵に追われながらの逃避行になるだろう。

 しかし、信仰と大義があれば、きっと乗り越えられる!

 

 門は分厚く凍り付き、それどころか、城砦は氷河の中に埋まったような様相だ。

 地下からの脱出は、硬く凍った土を掘っていくのが難しく、また、掘ったそばから上に乗る氷河の厚みに押しつぶされるため、断念した。不可能ではないが、時間が足りない。

 

 上からの脱出しかないだろう。

 鍛冶場に残された僅かな燃料を持ち出し、火を焚き、上部の氷を溶かす。

 狙う時間は、我らにとっての“夜”、火の光が目立たぬ時間帯だ。

 上への出口を作り、吹雪く外界へと決死行を――

 

 

 ――そのとき、吹雪にも負けぬ、轟音がした。

 どこから?

 頭上からだ!

 

 轟音の軌跡を辿れば、その先に、急落する巨大な竜が目に入った。

 人の顔をした飛竜が、この城砦へと真っ逆さまに落ちてきているのだ!

 不思議と、落ちる竜そのものからは音が聞こえないのは、音よりも早く落ちてきているためか。

 

 見えない敵対者がついにその姿を現した!

 竜の何するものぞ、負けてなるものかと、同胞たちが【聖歌】を歌いあげる。

 聖歌に乗せられた【聖壁(プロテクション)】の祈りが、流星のように落ちてきた竜の身体を受け止める!

 

 見よ!

 これが信仰の力だ!

 結束の力だ!

 

 【聖壁】が砕けながらも竜を弾き返し、落ちてきた竜は自らの威力で肉片と化した! 

 我らの勝利だ!

 

 鬱屈とした日々が報われた瞬間であった。

 勝どきを上げる我らを、一体誰が責められようか。

 

 しかし、それは油断であった。

 

 ――再びの轟音。

 

 はっ、と上空を見上げれば、再び迫る人面の飛竜。

 

 同胞たちが力を振り絞り、再び聖歌に乗せて【聖壁】の祈りを捧げる。

 

 先ほどと同じように、人面飛竜の墜落を受け止めることができた。

 ……だが、連続で嘆願した奇跡の反動で、同胞たちは困憊している。

 意気を上げようと声を上げるが、不安はぬぐえない。

 

 ――もしまたあの人面飛竜が落ちてきたら……。

 

 果たして、不安は現実のものとなった。

 

 三度目の轟音。

 

 力を振り絞って【聖壁】を嘆願する同胞たちが、あまりの負荷に、奇跡を最後まで維持できずに倒れ伏していく……!

 直後に衝撃! 竜は自らを肉弾と化して、砦に激突した。

 だが、彼らがわずかに稼いだ猶予で、我らは砦内に退避することが出来た。

 同志らの尊い犠牲に、感謝と黙祷を。

 

 四度目、五度目と竜の墜落は続き、砦の上部は崩落し、瓦礫と雪と氷雨で封じられた。

 我々を逃がすために、全ての同志が犠牲となった。

 しかし、死せる同志は、骸となってなお我らと道行きを共にしてくれる。

 

 上からも出られぬ、となれば、多少無理をしてでも、横穴を開けるしかない。

 雷精使いには無理をさせるが、我には【賦活】の奇跡で消耗を癒すくらいしかできない。

 

 白熱する雷精が、氷を溶かす。

 上古鉱人の死霊と、同胞の骸を従え、氷の洞穴を進む。

 荷物は鉱人の死霊に作らせた(そり)に載せた、いざとなれば我らもこれに乗ればよい。

 覚知の神の加護よあれかし。

 

 

 そして一日かけて雷精と死霊を酷使し、ようやく外に出た我らが見たのは――

 

 ――曙光の中に佇む、忌々しき冒険者たちの姿であった。

 

 

<『1.大脱出(エクソダス)』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 はいどーも!

 小鬼たちを一匹たりとも逃がさない、そんな実況、はーじまーるよー。

 前回は、小鬼の砦から捕虜を何とか助け出して、砦ごと氷漬けにして、質量爆弾と化した半竜娘ちゃんが特攻して砦を崩壊させて、念のため死亡確認しようとしたら生きてた小鬼聖騎士たちが出てきたところまででしたね。(長い)

 

 あー、やっぱり生きてたかー。まあ、“ですよねー”って感じです。

 

 では【怪物知識】判定を行い、敵の情報を見破ります。

 ……特に問題なく成功です。

 

 向こうは、小鬼聖騎士(ゴブリンパラディン)小鬼雷霊士(ゴブリンサンダラー)小鬼死霊術士(ゴブリンネクロマンサー)が中核です。

 なんか物資を積んだ橇も用意しているみたいですね。

 夜逃げしようとしていたところだったのでしょう。

 

 それを守るように、上古の鉱人の死霊が10体ほど。

 職人との兼業戦士がほとんどですが、本職の盾砕きも混ざっています。*1

 

 さらにそれより前に、小鬼精兵(ゴブリンエリート)のゾンビがわらわらと出てきて布陣します。50体ほどでしょうか。

 【怪物知識】判定によると、小鬼精兵(ゴブリンエリート)が生前持っていた、覚知神の奇跡を嘆願する能力は、宿したままのようです。

 ただ、奇跡を嘆願するたびに、不浄な肉体に反動ダメージが入るみたいですね。混沌側の神とはいえ、神聖なる威光は死せる肉体を(さいな)むようです。あるいは、自我の薄い動屍体の状態で無理やりに操って使わせているせいかもしれません。

 

 あと、小鬼のゾンビは、精兵はともかく、雑兵はまだまだ砦の中から出てきそうです。

 

 まとめると小鬼側は、

 

 

 ・首脳陣:3体 小鬼聖騎士、小鬼雷霊士、小鬼死霊術士

 

 ・上古の鉱人(死霊):10体

 

 ・小鬼精兵(動屍体の神官戦士):50体

 

 ・雑兵小鬼(動屍体):砦の中からワラワラと湧いて出ている。(毎ラウンド増援)

 

 

 

 それに対して、半竜娘ちゃん側の戦力は、3パーティのフルメンバーです。総勢15名。

 

 

 ・小鬼殺し一党:5人

  ゴブリンスレイヤー、女神官、妖精弓手、鉱人道士、蜥蜴僧侶

 

 ・半竜娘一党:4人+分身1

  半竜娘(本体、分身)、森人探検家、TS圃人斥候、文庫神官

 

 ・令嬢剣士一党:5人

  令嬢剣士、半森人女戦士、鉱人神官、圃人女斥候、只人魔術師

 

 

 

 小鬼聖騎士と言えば、【狂奔(ルナティック)】の奇跡ですが、大半がゾンビや死霊になっている状況では、精神に影響を与える奇跡は効果がないので、たぶん使ってこないでしょう。*2

 【狂奔(ルナティック)】の奇跡を使わなくても、死霊や動屍体は命令に服従して、その身を惜しまない攻撃を仕掛けてくるでしょうからね。

 

 敵の小鬼精兵動屍体(ゴブリンエリートゾンビ)が厄介そうですねー。

 奇跡を使える兵隊50とか、人族の大戦でもそんなに見ない規模の戦神官団ですよ。エリートの名に恥じないやつらです。

 ……選別前はその10倍以上の雑兵小鬼が居たんじゃないですかね、たぶん。……小鬼聖騎士は厳選厨だった……?

 

 両陣営が睨みあっている間に、今一度、お互いの勝利条件を確認しておきましょう。

 

 

 半竜娘ちゃん側の勝利条件:

  小鬼側の首脳陣3体全ての捕殺(生死不明は不可)

 

 

 

 小鬼聖騎士側の勝利条件:

  小鬼側の首脳陣3体のうちいずれかの戦域からの脱出

 

 

 というわけでこちらは、小鬼聖騎士、小鬼雷霊士、小鬼死霊術士のうち、1体でも逃がすと負けです。

 小鬼聖騎士を殺しても、小鬼雷霊士か小鬼死霊術士を逃がしてしまえば、軽銀装備の小鬼の群れがやがてどこかで組織されてしまいます。小鬼聖騎士が逃げるよりは、影響が現れるのは遅くなりますが。

 生死不明は、生きているものとみなしますので、雪崩に呑ませてはいお終いというわけにもいきません。死体を確認できない末路は、生存フラグってそれ一番言われてるから。

 

 で、まあ、今は睨みあっていますが、向こう(小鬼側)は勝利条件的に『逃げるが勝ち』なので、敵中突破と死兵を置いての追跡妨害による逃避行を試みるんじゃないでしょうか。

 ……『島津の退き口』かな?*3

 

 おそらく、小鬼側も戦力分析と戦術検討が終わったのでしょう。

 いよいよ動き出します。

 

「まずは死霊を片付けるぞ! 【解呪(ディスペル)】の術を使え!」

 

 全体の指揮を執って声を上げたのは、ゴブスレさんです。

 死霊には【解呪】って相場が決まっています。

 ……小鬼対策の戦法でもないのによく知ってましたね、ゴブスレさん。今回の小鬼に死人占い師(ネクロマンサー)が居ると分かって、村を守ってる間に勉強したのかもしれませんね、ゴブスレさんは勤勉なので。

 

 さて、こっちの陣営で【解呪】が使えるのは――森人探検家(交易神信仰)と鉱人神官(知識神信仰)ですね。

 

「巡り巡りて風なる我が神――」 「蝋燭の番人よ――」

 

 神への嘆願が朗々と響き渡ります。

 

「「 【解呪(ディスペル)】!! 」」

 

 悪しきを祓う奇跡の奔流が、小鬼精兵のゾンビに降り注ぎました!

 

『『『GOOBBGGYAA…………』』』

 

 さらに因果点を回してクリティカルに!

 小鬼精兵の群れ(トループ)を蒸発させます!*4

 灰は灰に、塵は塵に、土は土に! ゾンビたちは聖なる力の中で、じゅうじゅうと沸騰し、塵となっていきます。

 ですが、全てのゾンビを片付けられたわけではありませんし、ドワーフの半霊体までは手付かずです。

 

「奴ら、逃げる気だわ! させないわよ! この、この、このっ!」

 

 妖精弓手が叫ぶとともに、刹那の間に3連射!

 戦域から逃げようと、橇を上古の鉱人に押させて動き出した小鬼聖騎士たちへと、致命の矢を放ちます!

 小鬼たちは戦場の脇を通って、雪の斜面を麓へと逃げる気です!

 

『GOOOBB、GOOOBB!!』

 

 小鬼死霊術士の号令で、残った小鬼精兵ゾンビが奇跡を嘆願します。

 半透明の輝く力場――覚知神が遣わす【聖壁(プロテクション)】の奇跡です!

 しかしながら、神の御力は、ゾンビの肉体を焼いていきます。

 3体の小鬼精兵ゾンビが3重の【聖壁】を張り、反動ダメージによりその3体とも消滅していきますが――。

 

「ちょっ、小鬼が奇跡を使うとか、ホントもう面倒ね!?」

 

 妖精弓手の慨嘆の通り、残念ながら彼女の矢は小鬼の【聖壁】を砕いたのみで、本命の小鬼聖騎士たちまでは届いていません。

 精兵ゾンビが稼いだ時間で、小鬼聖騎士ら3体の中核個体を乗せた橇は、上古鉱人らの膂力で加速し、急速に戦場を離れていきます。*5

 小鬼死霊術士の指示か、残された小鬼精兵ゾンビたちと、砦から湧きだしてくる雑兵小鬼ゾンビは、最後の一兵までもこちらの足止めをする構えです。

 上古の鉱人(ハイラードワーフ)の死霊たちは、顕現を解かれたのか、消えていきます。まあ、小鬼聖騎士たちとしては新天地でも鍛冶仕事をやらせるつもりでしょうから、霊体化させて引き連れて行っているんでしょうけど。

 

「逃げられるとでも思っているのか。逃がさん、逃がすものか。決して逃がすものかよ。――ゴブリンどもは、皆殺しだ……!」

 

 ゴブスレさんの低く昏く情念のこもった声が、彼の面頬の隙間から漏れ、寒風に乗ってこだましました。

 

「バリスタ、そしてカタパルトだ」

「おう、承知じゃ!」

 

 端的に指示したゴブスレさんの言葉に、半竜娘ちゃんが応えます。

 君ら事前の打ち合わせもしてないのに以心伝心やな? マンチだから? マンチだからなの?

 

 こほん。

 さておき、半竜娘ちゃんの本体と分身が、その精神を集中して唱えるは【巨大(ビッグ)】の呪文。

 

「「 セメル(一時)クレスクント( 成長 )オッフェーロ( 付与 )――【巨大(ビッグ)】!! 」」

 

 その対象は――妖精弓手と森人探検家です!

 

「え、ちょ、私!? あ、こら、見上げるな!!」

 

 混乱する妖精弓手(5倍拡大)。*6

 あとついつい上を見ちゃいますけど、妖精弓手は“はいてない”ですからね。顔真っ赤にして短衣の裾を押さえています。

 

「姫様! そんなことより今は射撃です! 私の方で小鬼どもの逃走経路に矢を落として柵にします!」

 

「“そんなこと”!?」

 

「お先に撃ちます!! 動きが止まったところをズドンとお願いいたします!!」

 

 森人探検家(5倍拡大)の方は、さすがマンチクソ師匠の薫陶を受けた系譜だけあって、やるべきことが分かっているようです。*7

 5倍拡大されたのは、彼女らの身体だけではなく、武器や所持品もです。

 つまり、その弓矢は、大型弩砲(バリスタ)並みの威力を叩きだす怪物的兵器と化しているのです。

 

 森人探検家は即座に二連射!

 巨大な太矢の行先は、逃げ出した小鬼たちの橇の進行方向前方!

 なお、残りの面々は、足止めに殺到する小鬼ゾンビ(精兵・雑兵)らを押しとどめていますので、仕事してないわけではありませんよ?

 

 遠くで、進路上に突如突き立った巨大な太矢に進路を妨害された小鬼の橇が、それを避けきれずに衝突して横転します。

 橇は急には止まれない、というわけです!

 

「ああもう! 今度こそ当てるわ!!」

 妖精弓手の気合の三射!

 まさに弩級の矢が、小鬼の橇を襲います!

 

 一の矢は小鬼聖騎士の【聖壁(プロテクション)】で弾かれ。

 二の矢は小鬼死霊術士が咄嗟に呼び出した上古鉱人の一団が壁となって逸らし。

 しかし、三の矢はついに、小鬼の橇を粉砕しました!

 

 これで、小鬼のアシを奪うことが出来ました!

 とはいえ、既に幾らか離れてしまっています。

 追いつくまでに、小鬼聖騎士・小鬼雷霊士・小鬼死霊術士は、散り散りに森へ逃げ入ってしまうかもしれません。

 

 ……そういえば、ゴブスレさんの指示は、「バリスタとカタパルト」でしたね。

 バリスタは巨女化エルフ弓兵だとして、カタパルトとは……?

 

「では行くのじゃ~!」

 あ、半竜娘ちゃんの分身体も巨大化してますね。

 たぶん本体側で『黒蓮花弁のカード』で高速詠唱して、エルフたちを巨大化した後すぐにこっちも巨大化させちゃってたんでしょう。

 

「ああ、やれ」

 巨大化した半竜娘ちゃん(分身)の掌の中には、ゴブスレさんが。

 投石機(カタパルト)……あっ(察し)。

 

「クカカカカ! 人間カタパルトなのじゃーーー!!」

 ゴブスレさんを掌にふんわり乗っけた半竜娘ちゃんが、まるで円盤投げ競技のように体を回転して――投げたーーーーー!!!*8

 

「ちょ、ええええええ!!?」

 女神官ちゃんが、驚愕に口をあんぐりと開けていますが……。

 

 誰も、ゴブスレさんを飛ばして終わりとは言ってないのよ?

 

 半竜娘ちゃんの分身体は、さらに回転を続けており、次々と味方の冒険者を掬い上げては投げていきます。

 吸引力の強い投げキャラのようです。

 あ、ちなみに投擲で重量物を投げるのに適性がある職業は【武道家】だけなので、半竜娘ちゃんがこの一党で一番、重量物(人体)の遠投に向いています。ゆえにカタパルト役に選ばれたのは必然というわけですね。

 

「のわぁああああ!?」

 野太い悲鳴は鉱人道士。着地側で落下衝撃軽減術式を使ってもらわないといけませんからね。

 

「なんですのぉおおお!?」

 あ、令嬢剣士ちゃんも投げられましたね。

 

「かかか! 愉快痛快! 次は自前で飛んでみたいものですな!」

 豪儀なこと言って綺麗な姿勢で飛んでったのは蜥蜴僧侶さんですね。

 

「私もですかぁぁああああ!?」

 女神官ちゃんにも行っていただきました。

 

 まあこんなもんでしょうかね。

 残りの何名かは、巨大化した半竜娘ちゃん(分身)の肩に載せて【突撃】して肉薄すればいいでしょう。

 巨女化エルフ弓兵ズを守るのにも何人か置いてかなきゃいけませんし。

 

 投げられた方は、それぞれに放物線の高さが異なるように投げることで滞空時間を調整し、同時に着地するようにしています。半竜娘ちゃんは弾道計算が得意。

 鉱人道士の【降下(フォーリングコントロール)】が間に合えば、全員無事なはずです。

 え、間に合わなかった(ファンブルした)ら? 成功するまで術を使うんだよ(真顔)。

 

 …………。

 はい、ちゃんと着地できたみたいですね!(せーふ)

 

 しかも、ゴブスレさんは、小鬼たちの足止め用に突き刺さったバリスタ級の矢の上に器用に着地したようです。

 か、かっこいい……!

 

 あ、そして投網を投げましたよ、ゴブスレさん。

 ゴブスレさん、村の防衛の合間に網を編んでたんですね。

 まあ、時間あったしね。

 

 しかし、小鬼聖騎士が投網を斬る、ゴブスレさんがまた投げる!

 斬る、投げる、斬る、投げる、斬……れない! 小鬼聖騎士を拘束しましたね!

 見れば、鉱人道士が小鬼聖騎士の足元の地面を泥沼にしています。【泥罠(スネア)】の精霊術です。そのせいで、足元が狂い、投網を斬れなかったんでしょう。

 そして女神官ちゃんの【聖壁(プロテクション)】が発動し、網が絡まった小鬼聖騎士を泥濘に押さえつけました。

 

 勝ち確のコンボ入ったな(確信)。

 

 その間、令嬢剣士ちゃんは小鬼雷霊士(ゴブリンサンダラー)と【稲妻(ライトニング)】の打ち合いをしていますね。

 蜥蜴僧侶さんは、死霊化した上古鉱人の“盾砕き”たち相手に呵々大笑しながら竜牙刀を振るっています。竜牙刀が帯びた魔力は霊体にも有効なのでナイスチョイスです。

 

 あ、ゴブスレさんが落下致命からのトドメの体勢に入りました。

 小鬼聖騎士がなにやら往生際悪く叫んでいますが、逆転の目はもうないでしょう。

 

 

 良い頃合いなので、【突撃】して乱入します。

 死霊術の媒体っぽい杖が欲しいので! 死霊術の杖が欲しいので!

 

 半竜娘ちゃん本体と、TS圃人斥候を、巨大化した分身体の肩に載せて、【加速】からの【突撃】で距離を詰めるのです。

 半竜娘ちゃん本体には、何日か前に掛けた【追風】と【旅人】の効果が残留しているので、乗り込んだ先の分身体(乗り物扱い)は、さらに助走距離が伸びます。

 

「いざ、吶喊(トッカァアアアン)ンンン!!!」

 巨女化エルフ弓兵ズの援護射撃でバリスタ級の矢が小鬼雷霊士や上古鉱人霊や小鬼死霊術士に向かって降る中、半竜娘ちゃん(巨大化分身)が雪の斜面を駆け抜けます!!

「イイイィイヤアァァアアアアッ」

 

 狙う先は、小鬼死霊術士! さらに言えば、それが持つ曰くありげな“杖”を回収することを狙っています!

 上古の鉱人が守りを固めるのを【突撃】で蹴散らし、精密な身体操作で杖を攻撃範囲から外して、小鬼死霊術士の身体だけ鉤爪で狙います!

 

 結果は――成功!!

 

 小鬼死霊術士の身体は、半竜娘の巨大化分身体が低く広げた鉤爪によって引っ掛けられて、血煙と化しました!

 しかし、絶妙な軌道で振るわれた鉤爪は、小鬼死霊術士が禍々しい杖――上古の鉱人の頭蓋を載せて杖に加工したもの――を掴んでいた方の手だけを、影響範囲から外していました。

 繋がるべき先の身体をなくした小鬼死霊術士の腕が、杖を掴んだまま、くるくると空中を舞い、突撃後に減速した半竜娘(分身)の肩の上に乗っていたTS圃人斥候が『【粘糸(スパイダーウェブ)】の杖』を使って回収! アイテムゲットだぜ!

 

「死霊術の(かなめ)は奪ったのじゃ!」

 半竜娘ちゃん本体が叫ぶ間も、戦況は進行しています。

 

 まず、上古鉱人(ハイラードワーフ)の死霊たちが、(くびき)から解き放たれたため消失しました。成仏したわけではなく、霊体化しただけかもしれませんが。

 

 続いて、自由になった蜥蜴僧侶さんが小鬼雷霊士に標的を変えて躍り掛かりました。

 小鬼雷霊士は、そちらに気を取られて一瞬動きが止まり――頭上から降ってきた巨女化エルフ弓兵の矢に頭部から股間まで貫かれて死亡。

 同時に、無理やり従えられていた雷電の精霊が、逆襲とばかりに放電(ディスチャージ)

 死体が黒焦げになりましたね……。

 

 ……従えられていた雷電の精霊は、ふらふらと令嬢剣士の方に行くと、纏わりつきました。

 んんー? あ、これは『餌クレ』って言ってるっぽいですね。

 令嬢剣士も何となく雷電精霊が言ってることが分かったのか、『トニトルス(稲妻)』の真言を唱えて、パリパリと電気を放って、充電してあげてるみたいです。

 ひょっとしたら、このまま精霊使いとして目覚めて、契約しちゃうかもですね。

 

 小鬼聖騎士はというと……うん、鎧の隙間からゴブスレさんの中途半端な長さの剣を差し込まれて、絶命してますね。

 死亡確認、ヨシ!

 ……あ、念のためにと、首を胴体から切り離しました。念入りですね。

 

 ともあれ、これにて小鬼たちを殲滅完了!

 勝利条件達成!

 

 ――冒険者たちの勝利です!!

 

 

 

Congratulations!(コングラチュレーション!)

 

 

 それでは今回はここまで、また次回!

 

 

*1
盾砕き:鉱人ドワーフの兵科のうちの一つ。手鉤、斧、鎚により戦う。その名の通り、盾すら貫く/割る/砕く攻撃が持ち味。

*2
狂奔ルナティック:おそらく、TRPG「ソードワールド」の至高神ファリスの特殊神聖魔法「ジハド」をモチーフとして、混沌側の神の奇跡にしたものと思われる。SWにおけるジハドの効果は、視界に入る信仰を同じくする者全てに「戦士技能Lv2付与」「命令への絶対服従」となっている。つまり国民総火の玉状態。一般市民まで含めて、味方が死のうが自身が傷付こうが決して士気が落ちないという、理想の(現実では決してありえない)軍隊となる。また、ゴブスレTRPG基本ルールブックには登場しないが、原作外伝小説においては「聖戦ジハード」を人族側が軍規模で用いている描写がある。おそらくは四方世界においても至高神の奇跡だろうか。

*3
島津の退き口:関ケ原から島津軍が大将の島津義弘を逃すために決死行したというアレ。敵兵の足止め役を務める捨て奸(すてがまり)は、死ぬまで抵抗して時間を稼いだそうだ。

*4
トループ処理:トループとは、軍隊における部隊、中隊を示す。TRPGにおけるトループ処理とは、雑魚をひとまとめの群れとして一括してデータ上扱うことを言う。ダイスを振る回数がやたらと増えないようにするために適宜導入しよう。セッションの時間は有限だ!

*5
小鬼の橇:ボブスレーならぬゴブスレー(激うまギャグ)

*6
5倍拡大巨女エルフ:股下だけでも4~5メートルあるんじゃないかな。脚がとても長い。

*7
マンチクソ師匠:ゴブスレさんの師匠の圃人。たぶん「一つの指輪」を持っているホビットがモチーフ。「忍びの者」。

*8
人間カタパルト:浪漫。南斗人間砲弾でも、バーフバリの人間砲弾でも可。




◆獲得物
 令嬢剣士:雷電の精霊GET!
 半竜娘 :死霊術の触媒っぽい杖GET!
 小鬼殺し:小鬼を殲滅できたという結果(プライスレス)

次回は、温泉と、本件の後始末的な話になる見込みです。

死霊術の媒体を押さえたので、ひょっとしたら、上古の鉱人の霊から、彼らが従事させられていた軽銀製造について伝授してもらえるかもしれません。


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27/n 雪山ゴブリンズクラウン-3/3(後始末・温泉)

閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ありがとうございます!
いつも感想いただいて、インスピレーションとモチベーションをビシバシ刺激されています。ありがたや~!

●前話:
 小鬼聖戦軍(ゴブリンクルセイダー)、撃滅!



 はいどーも!

 

 前回は城砦の小鬼聖戦軍(ゴブリンクルセイダー)に対して、ゴブスレさんが半竜娘ちゃんの能力をフル活用して攻城戦して、小鬼どもを皆殺しにしたところまででしたね。

 つまり、雪山にゴブリンが出たので、ゴブリンスレイヤーさんがゴブリンを(スレイ)した話でした!(通常営業)

 

 今回は、修羅場を過ぎたのでゆっくり温泉に入って休息です!

 冬至祭(ユール)の日も近いし、そうすればもうすぐ新年です。

 村は、半竜娘ちゃんたちが持ち込んだ食糧、嗜好品のおかげで少し長めに祭りをするくらいの余裕があります。

 小鬼の脅威も去ったので、助けられた捕虜たちの気分を上げるためにも、冬至に向けて、これから宴会でしょうね。*1

 

 と、その前に、今回の件のリザルトです。

 

「すっかり懐かれちゃったのね~」

「ええ、そうみたいで……」

 妖精弓手の視線の先には、球電のような姿の“雷電の精霊”に纏わりつかれる令嬢剣士の姿が。

 もとから真言呪文の【稲妻(ライトニング)】を使えてましたし、相性も良かったのでしょう。

「ふふ、頼りになりそうな、相棒が出来ました」

 令嬢剣士は嬉しそうに、雷電の精霊を撫でます。あとで依り代になる電気石(トルマリン)の指輪でも、などと呟いていますね。

 その近くには、「きらきらして、お星さまみたいでとっても綺麗ですね!」と、年相応に目を輝かせる女神官の姿も。

 

 妖精弓手は誰とでも仲良くなれるから分かるとして、女神官ちゃんと令嬢剣士の組み合わせは――あ、半竜娘ちゃんに投げ飛ばされた者同士(被害者)で仲良くなったってわけですね。

 うん、同じ苦難を乗り越えると結束が強まりますからね! 麗しい友情の誕生に乾杯!

 半竜娘ちゃんへの苦手意識は深まったかもしれませんが。

 

 

 少し視線を横に向ければ、ゴブスレ一党の鉱人道士と、令嬢剣士一党の鉱人神官が、半霊体の上古の鉱人(ハイラードワーフ)たちと、ドワーフ語で話しています。

 

『……ご先祖様方よ、今は正気のようじゃが、一体何で小鬼らごときに』

『そうじゃ、本当に何があったんじゃ』

 現代の鉱人らの疑問も当然です。

 上古の鉱人(ハイラードワーフ)と言えば、『鋼の秘密』に最も迫った種族であり、素手で焼けた鉄を掴めるほどに火に愛された、火の申し子。

 決して小鬼ごときにいいように使われるような者たちではありません。

 

『待て待て、静かにせんか、若造ども』

『おうそうじゃそうじゃ、姫の御成りじゃ、控えおろ!』

 半霊体の上古の鉱人(ハイラードワーフ)たちが中心を開けると、そこにぼんやりと光が集まっていきます。

 死霊術によって、世界に刻まれた魂の痕跡から、霊体が顕現するのです。*2

 

『皆の衆、大儀であった』

 現れたのは、麗しい上古の鉱人(ハイラードワーフ)の姫……の霊体。*3

 鷹揚な態度は、上位者としてのもの。

 

『おお、おお、姫様!』

『我らが、ふがいないばかりに、小鬼の杖先に飾られるなどという辱めを……!』

『よい、よい。死してなお忠義を尽くしてくれるだけで、十分というものよ』

『『『 ひ、姫様~~!! 』』』

 

 ドワサーの姫……?

 現れた上古鉱人の霊姫を中心に、半霊体の上古鉱人(ハイラードワーフ)たちが男泣きしています。

 

『まったく、姫の美しき頭骨を小鬼どもに盗られるとは不覚であった!』

『『『 然り、然り! 』』』

 なんという忠義! 死してなおもその心根は健在だったのです!

 そしてその忠義ゆえに、姫を人質にされて、上古の鉱人(ハイラードワーフ)たちは従えられていたのです。

 

『軽銀などという珍しいものを扱えたのは面白かったがの!』

『『『 然り、然り! あっ 』』』

 ……ほんのちょびっとだけ、鍛冶への未練も作用したのかもしれませんが。

 

 上古の鉱人(ハイラードワーフ)たちは、この辺りの雪山に呪縛されているようで、砦からは大きく離れるのは難しいようです。

 彼らが顕現していられるのも、砦の方に残された死霊術の秘印と、媒介となる上鉱霊姫の頭骨が飾られた杖の作用によるもの。

 彼らを遠く離れた街まで引き連れて行ったり、旅の御供(スタンド)にすることは難しいと言わざるを得ません。小鬼死霊術士がやろうとしたように、逃亡先に無理やり引っ張っていくこともできなくはないみたいですが、かなり霊体を損ない、死霊に苦痛をもたらすのだとか。

 

『そう、その軽銀じゃよ、ご先祖様方。その製法は、失伝させるには惜しかろう』

 それで、鉱人道士と鉱人神官が何をしようとしているかというと、軽銀の製法を学ぼうとしているのです。

 

『見て盗め、と言いたいところじゃが、姫を助けてくれたことに免じて伝授してやろうとも』

『よーく耳をかっぽじって聞けや、若造ども』

 上古の鉱人(ハイラードワーフ)たちも、教えるのに否やはなさそうです。

 

 ちなみに、半竜娘ちゃんは、死霊術の杖を使って上古の鉱人たちを呼び出して軽銀の製法を聞き出すことで、令嬢剣士の実家の伯爵家から対価を貰えることになっています。

 いまのところ空手形ですが、令嬢剣士ちゃんは、軽銀製法の再発見の功績を持ち帰れば、そのまま貴族としての実務に入らざるを得ないでしょうし、こんな重要ごとを持ち帰らずに済ますほど、貴族を辞めてもいません。踏み倒されるってことはないでしょう。

 

 それにこれは、令嬢剣士ちゃんが出奔して冒険者になるときに望んだ、『冒険して自分の力で功績を立てる』 『家の名前ではなく、個人として身を立てる』ということを、図らずも達成した形になりますし。

 最初のゴブリン退治で、冒険者としての目標を達成するとか、RTAかな? 令嬢剣士ちゃんも走者だった……?

 

 まあ、冗句はさておき、この死霊術の杖は、まともに使えるのはこの雪山の砦の近くだけみたいですし、半竜娘ちゃんとしては、それなら貴族に恩を売っておいた方が良いという判断です。

 死霊術の杖自体も、そこに使われている上鉱霊姫の頭骨の弔いを考えたら、鉱人道士か鉱人神官のどちらかに託す必要があるでしょうし、ていうか自分で持ってると、かえってドワサーの部員たちの恨みを買いそうですし。

 あと、死霊の心臓は食えませんしね。死霊は夢を見ないせいか、『夢拾いの枕』のアーティファクトの対象にもならないみたいですし……。

 

「ドワーフ語じゃから、何言っておるかよう分からんが、交渉が上手く行ったようであれば良かったのじゃ」

 半竜娘は、猛然とメモを取り始めた現代ドワーフたちを見て、死霊術の杖を片手に目を細めます。

 それに気づいた上鉱霊姫が、自分の頭骨をあしらった杖を持った半竜娘にそっと手を振ってきます。

 杖ごと砕いたりせずに回収してくれた半竜娘に、多少なりとも恩義を感じてくれているようです。

 

 軽銀の製法に関する聞き取りメモも、あとで見せて貰えることになっていますし、半竜娘ちゃんとしても、収穫は多いですね。

 もちろん、死霊術の秘術に当たって土地や遺体に書き込む秘印についてもメモしていますし、術具の助けを借りたとはいえ、実際に術を行使してみて術の使い方や使用感を覚えられたというのも、大きな収穫です。

 

 

 

 半竜娘の習得可能職業として、『死人占い師(ネクロマンサー)』が解放されました!

 

 

 

 【竜牙兵】の祖竜術も、ある意味では死霊術と似たようなものですし、竜司祭になれる者には死人占い師としての素質も多少はあるのでしょう。

 もしくは、半竜娘ちゃんがTASさん(ティーアース)に目を付けられるくらいの超天才だからこそ、死霊術の才能も持っていたということかもしれません。

 ……ひょっとすると、【竜牙兵】の術は、かつて誰か偉大な竜司祭が、名のある死人占い師の心臓を喰って、その権能を簒奪した結果なのかもしれません。半竜娘ちゃんが百手巨人(ヘカトンケイル)の権能を喰らって、慈母龍に捧げたように。

 

 半竜娘ちゃんは、好奇心から、生きている方の若輩の――といっても鉱人道士などは半竜娘の10倍近く生きている――鉱人たちが取っているメモを覗き込みました。あ、メモはあとで令嬢剣士も見るので、片方の現代ドワーフには共通語(コイネー)で書いてもらってますよ。

 どうせ後から見せて貰うのですから、今見たって変わらないでしょう。

 

「(ほー、なになに? 『紅玉の中に星(スタールビー)をもたらす金紅石(ルチル)は、軽銀よりもさらに硬い、真なる軽銀の材料となる』……?*4

 『軽銀の()()は燃える。特に鉄の切り粉と混ぜると危険。水をかけても消えず、鉄すら溶かす炎となる。実際、切り粉置き場が燃えたし色々と床とかも溶けた。』……ほうほうほう!*5)」

 

 あー、アルミ粉末って扱いに注意が必要ですもんね。

 アルミ粉末……鉄粉……テルミット反応!(ぴこーん! ←技術ツリーが解放された音)

 

 マンチの浪漫といえば、粉塵爆発とテルミット反応!

 酸素を消費しないから、洞窟の中でも安心して使えるゾ!(安心とは)

 あとでゴブスレさんにも教えようねえ(暗黒微笑)。

 

 で、そのゴブスレさんはというと、ここにはいません。

 念のため、生き残りのゴブリンが居ないか見回りに出ているのです。

 こんなときでも真面目ですね……。

 

 まあ良いでしょう。

 他の冒険者たちと同様に、打ち上げの宴の準備を手伝いに行きましょう!

 

 そして温泉に入ろう!

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 かぽーん。

 

 露天風呂です! 天然温泉ですよ!

 雪除けの四阿(あずまや)の下には、男女両面を宿した浴槽神の神像が安置されています。

 

 冒険者たちは、冒険の疲れを癒やしに、温泉に浸かりに来たのです。

 え、身の丈9尺の半竜娘ちゃんが入れるのかって?*6

 

「こんなこともあろうかと! 皆で入れるように、隙を見て拡張しておいたのじゃ!」

 

 というわけで、用意周到なことに、事前に風呂を拡張してたみたいですね。

 拡張工事後の湯の濁りもすっかりなくなり、湯の質も問題なさそうです。

 半竜娘ちゃん用に拡張された深い方にも、仮組みですが屋根が掛けられており、雪が落ちてきて温度が下がったりしないようにしてあります。

 ここは平時は混浴ですが、このときは事前に話を通してあって、女冒険者たちで貸し切りです。

 

「うー、ホントに大丈夫? 火と水と土と雪の精霊が入り混じって大変なことになってるんだけど」 後込(しりご)みする妖精弓手。

「大丈夫ですって」 「気持ちいいですよー」 女神官を始めとして、他の者たちが苦笑して手招きします。

「うぅー、えいっ!」 妖精弓手は、意を決して体ごと飛び込みました。周りに飛沫が飛びます。

「「 きゃっ! 」」 飛沫がかかって周りから黄色い悲鳴があがりました。

 

 非常に微笑ましいですね。

 妖精弓手も、「あら、案外平気……というか、結構良いわね」とか言ってます。

 風呂はいいぞー、文化の極みだぞー、なんせ四方世界にはそれを司る神様(浴槽神)がいるくらいですからね!

 

「お、やっとるな! 手前も入るのじゃ!」

 半竜娘ちゃんの登場です。いろいろでっかい!

 他のみんなは、もう先に入ってしまっています。遅かったのは、覗き防止に、竜牙兵と精霊を召還して見回りに放したからですね。

 ホントは半竜娘ちゃんはみんなとは時間ずらした方が良いんですけどね、お湯が減っちゃうから。

 

「はー、良い湯じゃのぅー」

 ざばーっと、半竜娘ちゃんに押し出されたお湯が、湯船から溢れました。

 

 見れば、

  女神官は令嬢剣士と、

  妖精弓手は森人探検家と半森人女戦士と、

  TS圃人斥候は圃人女斥候と、

 概ね種族ごとに、まずは話し始めているようですね。

 文庫神官は、半竜娘を待っていたのか、さっと水深が深い方に移動してきました。

 そのまま、半竜娘の胡座の上に座ると、すっぽり収まって、湯の高さもちょうど良さそうです。(ちちまくら)

 

「いいお湯ですねー、お姉さま」 手触りのいい、半竜娘の内股の鱗を撫でながら、文庫神官がしみじみと言います。

「そうじゃのう……ここを掘り当てたという昔の浴槽神の神官殿に感謝じゃー」

「そうですねー。新しい家のお風呂も一緒に入れるくらい広いと良いんですけど」

「さて、どうじゃったかのー」

 

 そうそう、帰ったら新居も出来上がってるはずです。

 そこでの新生活も楽しみですよね!

 女だらけの共同生活!

 

 さて、周りの会話にも少し耳を澄ませてみましょう。

 

 まずは圃人ペアから。

 絶対値は小さいですが、縮尺的には二人ともそこそこご立派なものをお持ちですなあ。

 

「んー、あんたって男兄弟多い?」

「まあ、そんなとこ」

「道理でなんか振る舞いとか言葉とかが男っぽいなーと」

「あ、分かる? そーなんだよなー、ちょっと自分でも気にしててさー」(震え声)

 

 圃人女斥候に何気なく話題を振られて、内心恐慌状態のTS圃人斥候が見れました。

 やはり同族の女から見ると、TS圃人斥候の擬態は、まだまだ(アラ)があるようですね。

 

 

 

 次は森人(&半森人)トリオに目を向けましょう。

 妖精弓手が、森人探検家と半森人女戦士の一部分を自分と見比べています。そんな物憂げな様子は、華奢で儚い肢体と合わさり、まさしく妖精の如し。

 エルフだからといって平坦だとは限らないのだ……。

 実際、妖精弓手の姉である、花冠の森姫はスタイル良かったんじゃなかったですっけ。豊穣の象徴のごとくである、とかなんとか。

 

「んむむむ、やっぱり只人の食べ物の影響なのかしら」

 どうでしょうね。妖精弓手の姉を見るに望み薄というわけでもなさそうなもんですが。でも2000歳から成長するのかな……。

 

 百面相する妖精弓手を見て、森人探検家と半森人女戦士は小声で話しています。

 森人探検家は瑞々しい林檎のような佇まいで、半森人女戦士は、しなやかな猫のような鍛えられた肢体です。

 

「はぁあ、姫様尊い……」

「あたしは人里育ちだから知らなかったけど、上の森人(ハイエルフ)様方って、みんなこんな、落ち着くいい匂いするのか? なんか、魂の奥底から安らぐ感じっつーか……」

「そうでしょう、そうでしょう。森の化身であり、ゆくゆくは森そのものとなるお方ですもの。それはもう……」

 

 森人探検家がなんか布教してますね……。

 森から離れていた時間が長すぎるのか、やはり少し森の要素に対する禁断症状でも出ているのではないでしょうか。

 新居では立派な樹が個室の壁面と融合してるので、それで森林分を補給して落ち着くと良いんですけど。

 

 

 

 最後に目を向けるのは、女神官ちゃんと令嬢剣士です。

 どちらも“若さ”って感じです、青い果実というか。女神官ちゃんは華奢、という感じですが、令嬢剣士は幼い頃から栄養状態が良かったのと剣士としても鍛えられているので、とてもバランスの良い身体をしています。両名とも、将来性を感じさせます。

 

「冒険者、辞めちゃうんですか?」

「そうですわね、まずは実家に帰ってから、ということになりますけど、まあ、多分そうなりますわね」

 軽銀剣を家宝にする貴族家に、軽銀の製法をもたらすのですから、キンボシオオキイですよ、実際。

 彼女の実家の方も、令嬢剣士が経済方面の才能が大きいのは把握してそうですし、おそらく軽銀の生産、普及、開発にあたって、大きな商会を任されたりするんじゃないでしょうか。

 軽銀は色んなところで活用されるでしょうから、国との関わりも自然と大きくなるでしょうし。

 つまり、女商人ルートです。しかも、経歴に一切の瑕疵のない、完璧ルートですよ! ゆえに剣の乙女からの共感が生じないという若干のデメリットもありますが。

 

「あぅ、折角の同年代の冒険者仲間ですのに」

「落ち込まないで、きっと、手紙を書くから」

「約束ですよ?」

「ええ。それに、冒険者の経験を生かして、いろいろと事業も考えていますのよ。きっとまた、力を貸してもらうことになりますわ」

 

 少女たちが楽しそうに、将来のことを語り合っています。

 

 そのうち、他の者たちも巻き込んで、やれ竜になるだの、大金持ちになるだの、夢を語り合ったり、冒険者になるきっかけを話したり、他愛もない話題(ガールズトーク)が、半竜娘ちゃんがのぼせるまで続きました。

 

 まあ、のぼせた半竜娘ちゃんは、雪を掛けたり食べさせたりして冷却したら、すぐ復活したんですけど。

 

 というところで、今回はここまで!

 ではまた次回!

*1
冬至の祭り・ユール:冬至の祭りのことを北欧諸国ではユールと呼ぶ。昼間が一番短くなり、あとは再生していくだけとなる冬至の日は、太陽復活の新年の祝いの日でもある。メリー・ユール!

*2
上古鉱人霊姫の顕現:舞台演出=半竜娘(死霊術補助の杖にて職業技能を無理やり上げている)。

 死人占い師の職業レベルの上昇に伴い与えられるのは、『見える眼』『聞こえる耳』『触れる手』『聞かせる声』などの死霊との接触手段となる秘術であり、死霊ごとに存在の位相が異なる場合があり、それぞれの位相に応じたチャンネルを開けることが必要(職業レベル上昇に伴い選択獲得)。そして接触した死霊を従えられるかどうかは、対象である死霊の魂を『説得』『誘惑』『脅迫』などの交渉で従える必要があり、また別の判定が必要になる。(死霊術の仕様についてはこの卓(当小説)の独自ルール。基本ルールブックにはないので)

*3
麗しい上古の鉱人の姫:麗しいと言うのは、もちろん鉱人基準でのことである。体格はがっしり系で大斧や大鎚が似合う。お顔は、只人基準でも、とても麗しいのは確か。

*4
金紅石ルチルから作られる真なる軽銀:チタンをイメージ。普通の軽銀=ジュラルミン等のアルミ合金だと想定しているが、四方世界のどこかには、真なる軽銀=チタン合金製の剣もあるかもしれない。え、ミスリルってチタンかもしれないじゃないかって? うーん、そうとも言えるし、そうでもないとも言える。いずれ分かる時が来よう。

*5
アルミニウム粉末:水などと反応して発熱する。その際水素ガスが出て危険。また、単体としても燃えやすい。酸化鉄と反応させることで高熱を発する……みんな大好きテルミット反応!!

*6
身の丈九尺:おおよそ2.7m。半竜娘ちゃんの身長は、受肉した分身を吸収したことで成長し、2.7から2.8mになっている。




次は成長回+辺境の街のユールの日&新年の宴になるかなと思います。そしたら原作小説6巻(訓練所襲撃編)に……。
……女魔術師ちゃん生き残ってるから、弟くんの絡みはさらっと流して適当な別のシナリオと絡めるか……、うーむ。思案中です。


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27/n 裏-2(ユールの日・翠玉昇級)(+成長後キャラシ掲載一党全員分)

閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ありがとうございます! 感想に触発されて書いてたらいつの間にか文量が嵩みました。ひゃあ、ガマンできねえ、投稿だ!

●前話:
覚知神(くくく、軽銀の製法が漏れるのも想定内よ。軽銀鉱(ボーキサイト)塵肺(じんぱい)軽銀(アルミニウム)塵肺(じんぱい)で苦しむがいい……)

鉱人たち「只人とは肺の粉塵排出能力が違うかんの、ドワーフは塵肺にはならんのだ。ついでに言えば、金気の毒も鉱毒も効かんぞ。地下に住む種族じゃからな、只人が鉱山で罹るような病気にはならんのだ」
 ドワーフは鉛の杯で葡萄酒を呑んでも問題ない(鉛中毒にならない)のは原作小説でも言われてるので、多分塵肺にもならないと思われ。

女商人(元令嬢剣士)「え、肺病(はいや)みが増えてる? 覚知神由来の知識ですから、何か落とし穴があるとは思っていましたが、なるほど……。……確か、鉱山の肺病(はいや)みは、経験則的に【浄化(ピュアリファイ)】の奇跡で進行が軽減されるのでしたよね。……先の魔神王の大戦からこっち、どこも常に財源不足ですし、軽銀利権は新たな利権として方々から狙われていますし、逆に快く思わない既存の業界もあります。肺病(はいや)みの蔓延を、疫病だとその領地の役人が()()()()(てい)で焼き払われたりすれば大損です。当面は神官に頼って定期的に奇跡で浄化して予防するとして、対策となる術具も研究したいですね。……そうだ、冒険者ギルドに、遺跡からの発掘品に良い術具があったらこちらに流すように依頼を出しておきましょう」
 女商人は内政技能がトップクラスに高いという想定なので、社会的な対策を立てるのも早い、はず。貴族はルールを作る側ですし、あるいは彼女が四方世界の“労働衛生の母”と呼ばれる日が来るかもしれません。

覚知神(むむ、やりおるな。まあいい。軽銀が出回れば、略奪種族であるゴブリンにも自然と行き渡る。人族だけが強化されるわけではない……。塵肺だって全てを防げるわけでもない……)




1.レベルアップ!

 

 冒険者ギルドの扉が勢いよく開き、また一組の冒険者たちがこの辺境の街に帰ってきました。

 

「ただいまなのじゃよー!」

「勢いよく開けすぎよ。壊したら弁償代はポケットマネーから出しなさいよね、リーダー」

「そんなことよりおなかがすいたぜ。寒いと熱量(カロリー)が足りなくなっていけねーよ」

「あ! あの席空いてますよ! お姉さま、席取っておきますから、報告終わったらあそこで食べましょう!」

 

 帰って来たのは、半竜娘の一党です。

 頭目で武僧の半竜娘、金庫番で弓使いの森人探検家、魔法も使える遊撃手のTS圃人斥候、知識神の信徒で盾役の文庫神官。

 女ばかりの一党で、美人ぞろいということもあり、また、その実力もあって注目度は高いです。

 女ばかりの一党というと、貴族令嬢を頭目とした鋼鉄等級――いえ、昇級したのでもう鋼鉄等級ではないですが――その彼女ら*1など、他にも見目麗しい一党は居ますが、話題性では、半竜娘の一党が一番でしょう。

 

 その半竜娘たちはというと、確か、雪深い村々から、雪が降る前の収穫祭のころに、指名で食糧救援の依頼を幾つも受けていたはずです。

 持って行った物資が足りなくなったときに、まるで鳥人(ハルピュイア)や竜のように翼を生やした半竜娘が空を飛んできて、不足分を買い付けに来たりもしていました。

 半竜娘だけではなくて全員で戻ってきたなら、きっと、予定していたすべての村を回り終わったということでしょう。

 

「あら、おかえりなさいませ! ご報告ですか?」

 ギルドの受付嬢が明るく声をかけてきます。

 

「そのとおりじゃ! 報告に参ったのじゃよ」

 

 まずは、食糧救援一式について報告です。

 普通に食糧を渡せた村もあれば、小鬼や雪男や山賊などの怪物によって村を放棄せざるを得なくなったような例もありました。

 高空から見て作った地図も添えて、報告していきます。

 

 

 半竜娘一党は、山村の食糧救援を完遂した!

 半竜娘一党は、それぞれ、経験点1250点、成長点3点を獲得!

 

 

「なるほど。ご報告ありがとうございました……」

 受付嬢はいくつかの村が滅んだということで、沈痛そうな顔で、報告書類を受け取りました。

 稀にあることとはいえ、この辺境においては、冬は厳しく、怪物は恐ろしいものなのです。

 数年かけて入植した開拓村も、宿命と偶然のご機嫌次第で御破算です。

 

「って、いけませんね。依頼達成、確認しました。ありがとうございました!」

 滅んだ村は残念ですが、しかし冒険者は依頼をきちんと達成してここに居るのです。

 笑顔でそれを寿(ことほ)がずに、どうしてギルドの受付が務まりましょう。

 

「それと、これは小鬼殺し殿からも報告があったと思うのじゃが――」

 半竜娘が語るのは、覚知神の信仰に目覚めた小鬼の一軍――小鬼聖戦軍(ゴブリンクルセイダー)――の話です。

 

 

 半竜娘一党は、小鬼聖戦軍を殲滅した!

 半竜娘一党は、それぞれ、経験点1250点、成長点3点を獲得!

 

 

「……はい、先にゴブリンスレイヤーさんから聞いていた話とも一致しますね。ご報告ありがとうございました」

「うむ。そちらこそ職務お疲れ様なのじゃ。では、手前はこれにて――」

「あ、お待ちください」

 

 受付嬢は、報告を終えて一党の面子が座っている卓へと行こうとした半竜娘を呼び止めました。

 

「なんじゃ?」

 

「えー、こほん。

 冒険者ギルドは、今回の多くの山村救援の依頼達成について、非常に高く評価しています。

 精巧な地図の提出も大いに助かっており、道中の怪物退治・盗賊退治による治安への貢献も大なるものと認められます。

 よって、そちらの一党の皆さん全員の、昇級について打診させていただきます。

 もし時間がありましたら、このあと簡単に昇級審査の面談をさせていただきますが、いかがでしょうか」

 

 受付嬢はかしこまって半竜娘に昇級について告げました。

 困っている人を救済する、特に、御上の手の届かないようなところを。

 それが冒険者ギルドの存在意義ですから、そのような活躍をしている冒険者の昇級が早くなるのも当然のこと。

 特に、半竜娘については、戦闘力をはじめとした能力が非常に高いことは実証済みなのですから、人品が伴うのであればどんどん上に行かせるべき、とギルドも考えています。

 ……火吹き山の最上級闘士の方を本業にされたりなんかすると、大きな損失ですからね。

 

「おお! それはありがたい、是非お願いするのじゃ! 他のメンバーにも責任持って伝えておくのじゃ」

「はい、よろしくお願いいたしますね」

 

 

<『1.昇級(ランクアップ)(でもまだランク詐欺)』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

2.成長したよ!

 

 

 

 半竜娘は、青玉等級(第七位)翠玉等級(第六位)に昇級した!

 半竜娘は、職業:死人占い師(ネクロマンサー)Lvを0→3に伸ばした!(経験点3500点消費、成長点7点獲得)*2*3

 半竜娘は、死霊術ポイントを3ポイント手に入れた!

 半竜娘は、死霊術ポイントを消費して、『霊的感覚:聴覚・声』、『干渉範囲:時間』、『干渉範囲:使役数』を強化した!*4

 半竜娘は【一般技能:瞑想】を熟練段階まで伸ばした!(瞑想ボーナス+4。瞑想時に、「瞑想時間短縮」または「呪文使用回数の回復数増加」のどちらかを選択可能)(成長点15点消費)

 

 

 

 

 森人探検家は、青玉等級(第七位)翠玉等級(第六位)に昇級した!

 森人探検家は、【冒険者技能:曲射】を初歩→熟練段階に伸ばした!(曲射した際、敵の回避・盾受け判定に-4のペナルティを与える)(成長点25点消費)

 

 

 

 

 TS圃人斥候は、黒曜等級(第九位)鋼鉄等級(第八位)に昇級した!

 TS圃人斥候は、冒険者レベル6→7になった!(成長点ボーナス25点獲得)

 TS圃人斥候は、【冒険者技能:隠密】を習熟→熟練段階に伸ばした!(隠密判定+3ボーナス。また、不意打ち成功時に命中判定に+1ボーナス)(成長点15点消費)

 TS圃人斥候は、【冒険者技能:幸運】を習熟→熟練段階に伸ばした!(祈念時のボーナス+3)(成長点15点消費)

 

 

 

 

 文庫神官は、鋼鉄等級(第八位)青玉等級(第七位)に昇級した!

 文庫神官は、職業:戦士Lvを5→6に伸ばした!(経験点3500点消費、成長点7点獲得)

 文庫神官は、【冒険者技能:盾】を初歩段階で習得し、さらに習熟段階に伸ばした!(盾受け値+2、盾受け装甲値+2→盾で受けた場合に鎧と合わせて21ダメージまで遮断可能)(成長点15点消費)

 

 

 

<『2.実戦経験による成長速度しゅごい……』 了>

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

3.冬至祭の前夜祭(イブ・オブ・ザ・ユールダイン)*5

 

 辺境の街の冬至の祭りと言えば、女性たちが特徴的な衣装で着飾るものです。

 身体の線を出す白いドレスに、赤い腰帯を巻くのが流儀です。

 

「リーダーのドレス作るの大変なんだけど! 布が足りねえ!! っていうか他のみんなの分も、何でオイラが作ってるの!?」

「だってあんたが一番手が速いし」

「エルフパイセンも、技量はそんな変わんねーだろ!?」*6

 

 街の北の小川の(ほとり)に完成した新居の、その団欒の暖炉の前で、耐えかねたTS圃人斥候が絶叫しました。

 その間も、手は残像が残らんばかりの勢いで動いて布を繕っていくのですから、流石です。

 

「ほら、まあ。わたしは焼き菓子焼く仕事があるし。せっかく(かまど)税を納めてまで竈を作ったんだし」

「ぐっ……。エルフの焼き菓子、期待してっからな!」

「王族が作るようなのは期待しないでよね」*7

 

 エルフが焼き菓子の名手だというのはとても有名ですからね。

 さくさくとした、美味なるもの。

 その伝承は、圃人だからこそ馴染み深いものです。

 

「王族の菓子っていうと、レンバ……いや、名前を出してはいけないアレだろ。食べたら天にも昇るような、ってやつ」

「それ割と比喩表現じゃないからね」

「マジか……でも、圃人としては、やっぱり食べたいよなあ。『一つの指輪』の伝説でも圃人の忍びが食べたっていうし」

 

 ――ああ、クソ師匠があんなに元気だったのはそのせいか。

 森人探検家は、自らを鍛えたあの圃人の老爺(忍びのもの)を思い出して、納得一つ。

 

「って、そうじゃなくって、手伝ってくれって話だっつーの!」

 

 ちくちくぬいぬいと魔法のような手妻で一党のメンバーの衣装を仕上げるTS圃人斥候が、暖炉の部屋で温まる他のメンバーを据わった目で見ますが――。

 

「そうは言うても、この指の大きさじゃとなあ」

 暖炉のすぐ前で丸くなっているのは半竜娘。圃人と比べれば3倍は大きな手では、繊細な縫物は難しいでしょう。

 布を裁断したりだの、手伝えるところは手伝っていましたが。

「それに、このあと伐り出して乾かしておったユールの薪(ユール・ログ)を取りに行くしのう」

 

 冬至の祭りの間中、火を絶やさないように、大きな薪、というより丸太を燃やすのも、このあたりの流儀です。

 伐った丸太を家に持ってくるとき、その家で最年少の者が上に乗る風習もあるとか。

 ……この家の最年少は、半竜娘ですが、流石に上に載せると、丸太を動かせなくなってしまいますね。

 

「私はその、こういうのは苦手で……」

 挑戦したものの、まっすぐ縫えないわ、手を針で穴だらけにするわで、手に包帯を巻いているのは文庫神官(技量点1)です。

 得手不得手はありますからね。

 そういえば、収穫祭の天灯(スカイランタン)も、上手く作れていませんでしたね……。

 

 結局一番適任なのが、元男のTS圃人斥候なんですよね。

 お手手は小さくて器用で、【手仕事】も速いし。

 ただ、面倒は面倒なので、これはミシンの開発が待たれますね。

 

「あーもー! いーよ、やるよー! その代わり、ご馳走たっぷり用意してくれよな!!」

 

 

<『3.白いドレスに赤い腰巻――変則サンタ衣装(コス)じゃな?』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

4.ワイルドハント

 

 

 冬至(ユール)の祭りと言えば、牧歌的な側面とはまた別に、死霊たちの祭りの日でもあります。

 太陽の力が最も弱まる日は、死霊たちの勢いもまた強いのです。

 

 ユールの日に襲い来る死霊の狩猟団――それはワイルドハントと呼ばれます。

 魔女(ウィッチ)死人占い師(ネクロマンサー)にも縁が深いものたちでもあります。

 

 そのワイルドハントの一団の気配を、死人占い師として覚醒した第六感で微かに捉えた半竜娘とその分身体が、腕を組んで堂々と、郊外の広野(ひろの)に立っています。

 

「霊感が囁くのじゃ。“何かが来る”と、な」

 

 昼間は皆で、白いドレスに赤い腰巻の装束(変則サンタコス)を着込み、お酒を飲んでご馳走を食べて、この辺境の街の冬至(ユール)の祭りを楽しみました。

 和気(わき)藹々(あいあい)と年頃の娘たちらしく大いに語り合いながら楽しみ――お酒のせいか、ちょっぴり淫靡な雰囲気にもなったりしつつ、夜には街外れの新居に戻って。

 替わりばんこで風呂に()かり、暖炉の前で身を寄せ合って囁きあって寝床に入り。

 

 一党の面々が寝静まったあとに、半竜娘は抜け出してきたのです。

 

 本体の方の頭の上には、時空の精霊にまで零落した、外なる神TASさん(ティーアース)の破片、まるでつぶれまんじゅうのような1頭身が乗っかっています。

 ワイルドハントの迎撃は、このティーアースの破片の発案でもあります。

 

「                     
 ゆーゆゆ! ゆゆゆーゆゆー!」

 

 経験値!! 経験値がきたぞ! 

 つぶれまんじゅうが何かしゃべってますね。微かに二重音声みたいに聞こえますが判然としません。

 多分、“こいつらを平らげると強くなれるぞ”とか、そういうことを言ってるんでしょう。

 

「おお、多少なりとも霊視できるようになったおかげか、けっこう見えるもんじゃのう」

 

 ワイルドハントの方も、半竜娘を目指してやってきたようです。

 首無し騎士(デュラハン)が隊列を組んで森から飛び出し、真っ黒な魔犬(ヘルハウンド)が夜闇から滲み出るように現れます。

 さらに夜空を裂いて落ちるように顕れたのは、腐竜(ドラゴリッチ)です。

 

 この妖怪猟団(ワイルドハント)は、新たな死人占い師の誕生を何かしらの方法で感知したのかもしれませんし、あるいは頭上のティーアースの破片が呼び込んだのかもしれません。

 はっきりしているのは、衝突は避けられそうにないということです。

 

「ふふん! こっちも準備万端なのじゃよ!」

 

 そう言う半竜娘ちゃんの腰には、半竜娘ちゃんを象った(デフォルメした)人形が5つ揺れています。

 死霊術の依り代で、剥がれた鱗や、抜けた髪を組み込んで、そこに消滅した分身体を死霊として励起させたものを宿らせているのです。

 もちろん、分身体が世界に刻んだ痕跡というのは、非常に浅く儚いものなので、永続的な使役はできませんし、大した権能は持っていません。

 半竜娘の死人占い師(ネクロマンサー)としての技能も、まだまだ低いですからね。

 せいぜい、その分身が消滅前に維持していた呪文を引き継ぐことが出来るくらいでしょう。

 

「この依り代を使うことによって、消滅前の分身に使わせておった【加速】を維持できるというわけじゃよ!」

 

 しかし、たったそれだけでも強力です。

 つまり消えゆく【分身】が使った【加速】の術を依り代の方で引き継いで、常駐させることが出来るようになるわけですからね。*8

 

「そしてまだまだ手前の準備(スタンバイフェイズ)は終わっておらんぞ! 【竜命(ドラゴンプルーフ)】のポーション! 【竜眼(ドラゴンアイ)】のポーション! 【擬態(カモフラージュ)】のポーション! 【竜爪(シャープクロー)】のポーション!」

 

 さらに、事前に【竜血(ドラゴンブラッド)】によって作っておいた祖竜術系の自作ポーションによって、毒と炎への完全耐性を獲得し、動体視力を高め、周囲の光を歪めて風景に消えるように溶け込んで、竜威を爪に宿しました。

 不意の遭遇戦ならともかく、決戦に当たってはポーションや食事でバフを積むのは、冒険者の嗜みです。

 

「                   
 ゆゆー! ゆっくゆゆー!」

 

 やれー! ぶっころせー! 

 半竜娘は、ワイルドハントの陣容が揃っていくのを見つつ、おもむろに、頭上に陣取るティーアースの破片をむんずと掴みました。

 

「         
 ゆゆゆー?」

 

 何するの? 

 腐竜を筆頭に、首無し騎士が戦列を作り、勢子の魔犬が無数に唸り声を上げるこの世ならざる猟団。

 ワイルドハントと半竜娘()は、既にお互いの間合いに入ってきています。

 

「ふふふ、冬至(ユール)の祝いには、花火も必要じゃよなぁああああ!!? 『天の火石に死霊の骸骨、この世の外から来たもの二つ! これでも食らえぇぇええい(テイク・ザット・ユー・フィーンド)』!!」

「                    
 ゆゆゆゆーーーーーーーーーーー!?」

 

 どぼじでそんなごとずるのおおお!? 

 半竜娘は、掴んだつぶれまんじゅうを大きく振りかぶり、敵の総大将である腐竜(ドラゴリッチ)に向けて放り投げました!

 この世ならざる神の破片を媒介に、特大威力の【力球(パワーボール)】が炸裂します!

 

「もう一発!」 「さらに一発! んでもって、とどめの一発!」

 

 さらにそのまま、『黒蓮花弁のカード』による本体の高速詠唱と、本体の分身体による1回目の呪文、本体に統率された【加速】状態の分身体による2回目の呪文――合計で追加3発の【力球】が炸裂します!

 

『GAGUGYYAAAAAAAAAAAAA!!??』

 

 初手から総大将の腐竜を中心に、異次元からの衝撃波(増強済1発、追加3発)が炸裂し、爆風範囲内のものを全て跡形もなく吹き飛ばしました!

 高位の死霊(ドラゴリッチとデュラハン)を下したことで、死霊術の熟練度も貯まっていきます。

 

『『 DHUUUURRRAAA!!! 』』

『『 WWWWOOOOWWWO!!! 』』

 

 しかし、腐竜(ドラゴリッチ)は完全に吹き飛ばしたものの、首無し騎士(デュラハン)はまだ、巻き込まれなかった数騎が残っていますし、雑魚の死霊は、夜闇や木陰から次々と現れてきます。

 

 しかし死霊が何するものぞと半竜娘も吼えて立ち向かいます!

 

「「 今宵の勝者はこの手前(てまえ)なのじゃああああ!!! 」」

 

 人外魔境の百鬼夜行を征さんと、半竜娘は気炎を上げます!

 

『『 DHUUUURRRAAA!!! 』』

『『 WWWWOOOOWWWO!!! 』』

 

 槍先を揃えた首無し騎士の騎馬突撃! 合間を縫って走り来る魔犬の噛みつき!

 

「なんの! 折角の戦じゃ、こちらも隊列を整えるのじゃ! 『禽竜(イワナ)の祖たる角にして爪よ、四足、二足、地に立ち駆けよ!』――【竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)】召喚!」

「死霊の類は燃やすに限る! 『掲げよ燃やせや松明持ち(ウィル・オー・ウィスプ)、沼地の鬼火の群れよあれ』――【使役(コントロールスピリッツ)】!」

 

 それを避けた半竜娘()によって呼び出される竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)と、鬼火の精霊(ウィル・オー・ウィスプ)の群れ!

 

 この世ならざる者たちが、最も闇の力の強い夜に、この世ならざる戦いを繰り広げます!

 

 

<『4.新米ネクロマンサーを熱烈歓迎!! だからこっちも熱烈歓迎!!』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

5.今年の見張りは賑やかだ

 

 

 遠くから4つ響いた爆発音の方へと、焚火の前に座るゴブリンスレイヤーが兜を巡らせた。

 

 いま彼は、ユールの祭りの日を小鬼が狙ってこないかどうか、街から離れたところで見張りをしているのだ。

 この見張りは毎年のことだが、今年はなんと、ゴブリンスレイヤーは独りではない(これまでも幼馴染の牛飼娘や、ギルドの受付嬢が差し入れに来てくれたことはあったが、一般人を夜通しの見張りにつき合わせる訳にもいかない)。

 彼の隣には、同じ毛布に包まって、女神官が座っていた。……夜も遅いためか、女神官は、ウトウトしてゴブリンスレイヤーの方へと(もた)れ掛かりそうになっている。

 

「ふぅむ」

 

 ゴブリンスレイヤーは、「このまま鎧に凭れ掛かると、凍傷になりかねんな。爆発音も気になるし」などと思ったのか、すっくと立ちあがり、そのあと直ぐに、即応できるようにと重心を下げて構えた。

 

「ふゃっ!? な、何ですか!?」

 

 当然、女神官もその動きに気づいて意識を覚醒させる。

 眼を白黒させる女神官をよそに、爆発音がした方では、何かが争い戦う音が響いている。

 そしてまた、この世ならざるものがもたらす、冬の冷たさとはまた違った冷気も感じられる。

 

「……ワイルドハントだな」

「ワイルドハント、って、ユールの日に来る死霊の猟団ですか……!?」

「そうだ」

「ま、街に知らせないと!」

「必要ない。あれは、街には入らん」

 

 ゴブリンスレイヤーが語るところによれば、地母神の加護篤き辺境の街には、いくらワイルドハントと(いえど)も入ることはできないという。

 というより、入る必要がない。神の加護の強い街には、彼らの獲物は居ないのだから。

 そも、ワイルドハントは、《死》の使いであり、彷徨う魂を狩り集める狩人たちだ。

 決して悪しきものではない。

 

「実際、俺もこれまで襲われたことはない」

 

「(……彷徨う鎧(リビングメイル)みたいだから、お仲間だと思われたのでは……?)」

 女神官はそう思ったが、口には出さなかった。

 

「というか、毎年来ているんですか、ワイルドハント。この街に住んでるのに、ちっとも知りませんでした」

「そうだな。見張りでもしていないと気づかんだろう」

 

 ――“しかし、いつになく賑やかだ。”とゴブリンスレイヤーは言った。

 戦いの音は、止む気配がない。

 その中に、死霊にあるまじき、生に満ちた叫喚が混ざっている。

 

「……この声、聞き覚えあります……」

「ああ」

「慈母龍の巫女のあの子じゃないですか……いったい何をしてるんです……」

 

 まったくもって度し難い。

 頭痛をこらえるように手を額にやった女神官は、深々とため息をついた。

 白く凍った吐息が、風に流されていく。

 

「どうします? ゴブリンスレイヤーさん」

「どうもしない。ゴブリンではないからな。俺はゴブリンに備える」

「そうですか……」

「そうだ」

 

 そういうことになった。

 

 

 

 ……戦いの音は、夜明けまで続いた。

 

 

<『5.夜明けに響く竜の勝鬨(かちどき)』 了>*9*10

 

 

*1
貴族令嬢たちの一党:原作小説1巻で山砦炎上したときに捕らえられていた一党。この世界線では生き残っていて、順調に昇級している模様。過去話「10/n 山砦粉砕炎上」参照。

*2
死人占い師(ネクロマンサー)の仕様:死人占い師の職業レベルを獲得すると霊的感覚・霊的チャネル・干渉範囲などの死霊術のパラメータがアンロックされる。死霊術パラメータを伸ばすには、死人占い師の職業レベルを上げることで手に入るポイントを割り振る必要がある。このポイントは、職業レベルを上げる以外にも、《死》を大量に集めたり、強者を殺したりといった特定の行動によって手に入ることもある(安易な道に走った死人占い師が色々と騒動を起こす原因でもある)。

*3
◎死霊術パラメータ(死人占い師Lv1時点の初期(デフォルト)獲得):

◇霊的感覚 視覚:0(ぼんやり靄のように見える) 聴覚・声:0(聞こえたかも? 幻聴かも?) 嗅/味覚:0(変な匂いしたかも)  触覚:0(ひやっとしたような……) 第六感:0(気のせい、かな……?)

◇霊的チャネル 人族:1(同族である蜥蜴人の霊魂に対する交渉チャネルが開いている)

◇干渉範囲 時間:0(1日前の痕跡まで干渉可能) 空間:0(身体で接触できる範囲の霊魂を対象にする) 使役数:1(同時に1体の霊魂を使役可能) 顕現度:0(霊魂の顕現度合いは上げられない。屍肉や依代に憑依させるのは可能)

*4
ポイント割り振り後の死霊術パラメータ(増加分のみ記載):◎死霊術パラメータ: 累計値3 現在値0

◇霊的感覚 聴覚・声:0→1(聞こえるし、聞かせられる。特に付加効果は乗らない)

◇干渉範囲 時間:0→1(5日前の痕跡まで干渉可能) 使役数:1→2(同時に5体の霊魂を使役可能)

*5
イブ・オブ・ザ・ユールダイン:ゴブリンスレイヤーの特典ドラマCDのタイトルに同じものがある。

*6
一党の技量点格差:半竜娘3、森人探検家8(指輪込み)、TS圃人斥候8(指輪込み)、文庫神官1。

*7
名前を出してはいけないエルフの王族の焼き菓子:指輪物語より「レンバス」。食べるエリクサー。食べてしまうと西方浄土に旅立ちたくなるとかなんとか。

*8
依り代に分身の残影を宿らせる:今までは、分身Aが【加速】の術を使っている途中に分身Aを分身Bに上書きすると、分身Aが維持していた【加速】は途切れてしまっていた。しかし、分身Aを分身Bに上書きする際に、本体が死霊術の秘印を刻んだ依り代を持っていれば、そちらに分身Aの残影が宿るため、呪文維持が継続される。呪文維持判定は、分身Aの呪文維持基礎値のみ(ダイス加算ナシ)で判定するが、半竜娘の【加速】の呪文維持判定は、基礎値だけで十分維持可能となっているため問題ない。

*9
半竜娘 VS ワイルドハント リザルト:主力は片付けたが夜明けまで有象無象が湧きだしてきて戦闘継続。最終的に半竜娘の粘り勝ち。とりあえずワイルドハントに狩られずに済む程度の実力を示したことで、新米死人占い師(ネクロマンサー)として、現世にとどまることを許された模様。死人占い師(ネクロマンサー)になった時点で、半分彼岸に足を突っ込んでいるので、負けたら“向こう側”に連れ去られていた。

 経験点1000点、成長点3点獲得。死霊術ポイントも3点獲得(ワイルドハントの主を倒した(初回)+2。ワイルドハントから生き延びた(初回)+1)。死霊術ポイントを配分して、視覚・第六感・顕現度のパラメータを上げた。

*10
◎死霊術パラメータ(ワイルドハント撃退後の上昇分だけ記載) 累計6 現在値0

◇霊的感覚 視覚:0→1(表情が分かる程度には見える) 第六感:0→1(漠然としたざわめきを感じる)

◇干渉範囲 顕現度:0→1(霊感のない人間に対してぼんやりと霊を見せるくらいのことができる。屍肉や依代に憑依させた場合にそれらを緩慢に動かさせることが出来るようになった)




というわけで、半竜娘ちゃんの死霊術の用法としては、主に、分身の死霊(残影)(という言い方も変ですが)を依り代に宿して、呪文維持が必要な呪文を常駐化させる方向です。死霊術の解釈としては、ジョジョ6部のスタンド、アンダーワールドとかバーニング・ダウン・ザ・ハウスっぽい感じです、世界の記憶から再現する的な。
さまざまな呪文(真言呪文・祖竜術)の常駐化が可能になることにより、常時巨大化なども視野に入るようになり、ますますゴジラに近づきました。
ただしその分、闇竜娘(ダークドラコ)ちゃんが再顕現するまでの【反逆カウンター】のカウントがものすごい勢いで回ります。そらそうよ。消えた後も酷使されるとか分身稼業はブラックすぎィ!!

=========

これより下は、成長後の一党のキャラシ掲載のみです(この話のあとがきはここで終わりですので飛ばしていただいて結構です。そのまま評価感想いただければ嬉しいですよろしくおねがいいたします(早口))。ご覧いただく必要はないものですが、作者備忘のため掲載します。

◎現在の仕上がり具合
 半竜娘   :自己バフ型フィニッシャー
 森人探検家 :弓強いウーマン
 TS圃人斥候:LUCK遊撃
 文庫神官  :自己再生壁タンク

◆半竜娘

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◆森人探検家

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◆TS圃人斥候

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◆文庫神官

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28/n もっと食べたい-1(竜血ポーション作り・歓楽街の異変)

閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ありがとうございます!
原作小説5巻までのエピソードは終了しましたが、越冬編終了まで、あと1エピソード挟みます(あ、今更ですが章分けして新居建築・雪山小鬼聖戦軍を合わせて「越冬編」と題しています)。

●前話:
冬至(ユール)の日なので多方面で()()()。街中で仲間と祝祭を楽しんだり、夜は墓場(墓場じゃない)で運動会したり。半竜娘ちゃんったら人気者!

※酒宴での一幕↓

森人探検家「クソ師匠は実際、ポケットの中に『一つの指輪』を持ってるのと、何のコネかエルフの王族の焼き菓子も好物に挙げる程度には食べてるわでマジとんでもないことになってんのよ。初めて会った時に『焼き菓子も持っとらんのか、エルフの癖に』って煽って来たのは忘れないわ! 空腹で倒れてるの分かってて言ってきたのよ!? 他にも、他にもぉおおおっ――思い出したらムカムカしてきた! 絶対次に会ったらぶちのめす! クソ師匠はヒトの域から半歩くらいはみ出してるけど、そんなの関係ないわ!」
半竜娘「その時は手伝うのじゃよー」
文庫神官「お姉さまが手伝うなら私も手伝います!」
TS圃人斥候「まあ、圃人の英雄に一手指南してもらえる機会は逃せねーけど……」
森人探検家「おお、心の友よ!! やはり持つべきは仲間ね!!
TS圃人斥候「……エルフパイセン、さては酔ってるな?」




 はいどーも!

 迫りくるアストラルサイドの脅威! ()()()たちよ、震えて眠れ! な、実況始まるよー。

 

 前回は雪山のゴブリンどもをぶっ殺して、温泉で疲れを癒したところまでですね。

 

 そして冬至の祭りで一党全員でサンタコスして乾杯して大いに打ち解け、

 半竜娘ちゃんが職業:死人占い師(ネクロマンサー)に食指を伸ばしたので妖怪猟団(ワイルドハント)に熱烈歓迎されて、

 新しい夜明けが来て新年になったところです。

 

 半竜娘ちゃん、色々とサブ技能伸ばしすぎでは? と思わなくもないですが、実際便利だから困る。

 んでもって、いよいよ冒険者レベル10(MAX)が見えてきました。

 冒険者としての等級も翠玉等級(第六位)に上がったので、目標としている銀等級(第三位)まであと少し。残すは、紅玉→銅→銀というところです。

 冒険者登録して一年でここまで来たのですから、大したものですね。

 

 というわけで、目指せ【辺境四天王】!

 

 しかも、ちょくちょく混沌寄りのムーヴしてるから、これから先は普通より余計に功績が必要になってくる可能性が高いぞ!*1

 とはいえ、このようなキワっキワを攻めるムーヴも、RTA的には最終的にタイム短縮に繋がればヨシです。

 実際、リスクある行いをした甲斐もあって、半竜娘ちゃんの強化は加速し、やらかし以上に功績も大きく積まれていっているからこその昇級です。

 

 

 

 

 そんで、新年明けて数日。

 

「視力増強の【竜眼】。毒炎耐性の【竜命】。有翼変容の【竜翼】。鋭爪被覆の【竜爪】。光学迷彩の【擬態】。ふむ、作れる祖竜術のポーションはこんなものかの、だいぶ数が揃ったのう……」

 

 正月休みの間中も、新居に併設した錬金工房で、分身作って血を抜いて錬金術で薬液化して効果を固定し、いざという時のための備えを蓄えるのに余念のない半竜娘ちゃんです。

 冒険に出て補給できない状況で一党全員が使っても、何度か決戦に(のぞ)むのに()えられるくらいの瓶数を確保できました。

 なお、血を採られた分身が、今し方、超過祈祷(オーバーキャスト)で消滅したところです。過労死……!*2

 

「……腰に提げた依り代人形に、消滅した手前の分身どもの残留思念を集めておるが、そのうち勝手に動き出しそうな気配がするのう……。何か慰撫する方法を考えておくかのう」

 

 使い潰した【分身】がこの世に残した痕跡(きずあと)――残影――は、死霊術の秘印が刻まれた依り代人形に吸着・統合されるようになっています。

 秋の収穫祭の時に、『手』の呪像で無理やりに【分身】を受肉させたときのように反逆される前に――いえ、反逆されるのは半竜娘ちゃん的に望むところなのですがタイミングは制御したいので――適当に鎮めてやる方法を考えておいた方がいいでしょう。

 チャッキー人形みたいになっても嫌です……よね?

 

「……逆に考えるんじゃ。動き出したっていいやって考えるんじゃ。手前の()()の残影なんじゃから、戦い続けることに喜びを見出すじゃろうし、戦力化した方がお互いにとっても良いかもしれん……まあ、それは手前の死霊術の腕前がもっと上がってからかのう」

 

 ああ、確かに、たとえ依り代人形たちが勝手に動き出したとしても、中身が半竜娘ちゃんマインドなら、夜な夜な自前で野鼠とか狩って血を吸って死霊人形としての位階を上げてそうかもですね。

 死せる分身の残影が核となった半竜娘ちゃん人形の小隊が結成されちゃうかも? なんだか急に『永い後日談のネクロニカ』じみてきたような……。*3

 あるいは最終的に、鋼鉄フレームの機竜ボディを依り代にしたいとか言い出すかもしれません。メカゴジラ……?

 

 ……いやいや、秩序の勢力的には死霊人形の軍勢はギリギリアウトでは? メタル化したら尚更ダメでは? うーん。いいのか? いや、いかんでしょ。いかんよね?

 ……やはり死霊術に手を出すと、混沌に落ちかねない行動選択肢が増えていくようですね……。

 (いまし)めねば。

 

「ま、それは後で考えるとして、竜血ポーション作りもひとまずここで打ち止めじゃな。作った分を運び出すかの」

 

 配膳台のようなカートの上には、淡いピンクの色をした薬液が入った瓶が、ケースに収められてずらりと並んでいます。ピンクは血の色!

 そのカートを押して、製造作業室から運び出します。

 

 こんなに一気に作って腐ったり失効したりしないのかって?

 ダイジョーブ!

 長期保存のために、【保存(プリザベイション)】が掛かった薬瓶を、辺境の街にあるだけ買い占めたみたいですよ。

 

「これ以上は【保存(プリザベイション)】の薬瓶が足りんものなあ」

 

 【保存】が掛けられた容器ですが、例えば稀少な素材を採取したときに、(いた)ませずに保管するのに必要になるため、幾らかは市中に在庫があったみたいです。

 買い占めは誉められた行いではないですが、冬で(今の時期なら)素材の痛みが遅いことから、また、冒険者たちも冬籠もりしがちなことから、今の時期の【保存】の薬瓶の需要は薄く、それなら買い占めても問題ないと半竜娘ちゃんは判断したみたいですね。

 

「あ、お姉さま、終わりましたか?」

 文庫神官ちゃんが、薬瓶を満載したカートを押してきた半竜娘ちゃんを、隣の作業室で出迎えました。

 その手元には、紐と紙でできたタグが。紙のタグに書き込まれてるのは、ポーションの効能と有効期間です。

 文庫神官ちゃんは、瓶に巻き付けるためのタグを作ってたんですね。

 

 カートをよく見れば、ラベルを貼り間違えないようにでしょうか、木枠で区切って底板を色分けした箱に、効能ごとに分けて薬瓶が入れられていました。

 これは、たぶん一回、ラベルを貼る前に瓶がごちゃ混ぜになって中身わからなくなったことがあったんでしょうね。改善(カイゼン)

 

「作り終わったのじゃよー」

 

「じゃあタグをくくりつけていきますねー」

 

「頼んだのじゃー。本当に手伝ってくれて助かるのじゃ」

 

「そんなぁ、大したことありませんよぅ」

 

 文庫神官ちゃんがくねくねと照れてますね。

 文庫神官ちゃん(技量点1)は少しぶきっちょですが、そもそも手が大きすぎる半竜娘ちゃんよりは、この仕事(タグ括り付け)に向いているでしょうから、仕上がりに心配は要らないでしょう。

 

「この後は、軽銀と鉄錆の熱反応についての実験でしたっけ。じゃあ私は記録係をやりますね!」

 

「ああ、頼むのじゃ。一応、高温で燃える粉剤それ自体はできたのじゃが、最適な混合比とか、助剤を何にするかとか、持ち運びと使い易さのための機構(からくり)をどうするかとか、まだまだ研究の余地は大きくてのう」

 

「……絡繰りまで考えるなら、鉱人(ドワーフ)に外注した方がいいのではないでしょうか?」

 

「そうなんじゃが、あんまり広めるものでもないと思うのじゃよなー」

 

「それは、確かに……。でもそれなら、小鬼殺しの一党の道士様なら、既に事情もご存じですし、そちらに相談してはどうでしょう」

 

「なるほど、そうじゃな……。次会った時にでもそうするかの」

 

 テルミットの薬剤についても、実用化のために研究を進めているようです。

 粉体を吸入しないようにするマスクの手配もしていますし、風精霊の力を借りた局所排気装置も設置されています。

 念のためさらに【呼気(ブリージング)】の指輪もつけて、【竜命(ドラゴンプルーフ)】で炎と毒耐性を高めて、分身に作業させておけば完璧でしょう。

 

 え、ギルドへの報告?

 軽銀武器に関する報告は済ませていますから問題ないかと。

 それ以上は、いわば錬金術の秘奥に当たるのですから、この時代でしたら、個人で秘匿するのも許されるはずです。

 まあ、火事を出したりすると流石に「そういう危険物を扱うならちゃんと言っとけ!」ってなってアウトでしょうが。

 

 

 さて、テルミット実験の準備のために――というか、まずは、リスクを低減する実験装置のデザインから始めないとですが――工房の別の部屋に移動しようとしたときです。

 TS圃人斥候が顔を青くして駆け込んできたのは。

 

「なんじゃ、どうした?」 「あれ、用心棒の方はよろしいんですか?」

 

「――リーダー、新入り! 急ぎの依頼をさせてくれ。頼む、手伝ってくれ!」

 

 なにやら緊急事態のようですね。

 新年早々、緊急案件とは、冒険者として商売繁盛でよろしいのか。

 はたまた今年も波乱の一年となることを暗示しているのか……。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 血相を変えたTS圃人斥候に連れられて、半竜娘と文庫神官が急いでやってきた先は、歓楽街でした。

 あ、森人探検家は麒麟竜馬の世話をしに牧場に行ってたので、遣いを走らせて、後から合流する手筈にしています。

 

 TS圃人斥候は、新居ができた後も、何度か用心棒として歓楽街からの依頼を受けて、そちらに泊まり込んだりしていました。

 今日も、新年明けての初営業日だというので、念のために用心棒として店に詰めていたとのこと。

 

 事件はそのとき起こったのです。

 

「まあ新年会ってことで、昼間からでも結構羽振りのいいお大尽(だいじん)もいてな。只人(ヒューム)で大食い芸が売りの、流れの女芸者に『食べきれなくなるまで食べさせるのだ!』とか言ってな」

 さかさかと歩いて向かいながら事情を語るTS圃人斥候。背が小さいから、他の者より足の回転数を上げないといけません。

 いつもの『鼓舞の革鎧』を着ていますが、その中心の宝玉は、蓄えた魔法の力を使ってしまったのか、輝きが失せています。

 

「暴食は罪ですよ?」

 重装備の文庫神官が、神官らしく窘めます。

 その背には騎士盾と錫杖がマウントされ、腰には退魔の剣を()いています。

 

「それ言ったら、歓楽街は元から罪だらけだぜ」

 確かに、色欲を始めとして、虚飾、強欲、怠惰、傲慢、嫉妬……。歓楽街である時点で清廉潔白とはとても言えないでしょう。

 

「まあ、残飯漁りの者共だって、その贅沢のおこぼれ目当てで既に生態系作っとるしのう。歓楽街が急に清廉にはなるまいさ」

 街の影に(たむろ)する浮浪者たちを眼で牽制しつつ、半竜娘が巨躯に黒髪をなびかせて闊歩します。

「で、そのあと何が起こったんじゃ?」

 

「ああ、そーだった、話の続きだな。その“流れ”の大食い芸の女は、そりゃあ見事なもんだったぜ。圃人(レーア)鉱人(ドワーフ)を差し置いて、何でもかんでも全部食べちまった」

 

「そりゃ、そういう芸を売りにしとるのじゃからそうなるじゃろ」

 

「それだけなら急いでリーダーたちを呼び行ったりしねーよ。

 ……こっからが本題さ。

 食べモノ食べるだけなら問題ねー、でもな、そいつは、文字通り()()()食べ始めたのさ」

 

 ――『もっと食べたい』つって正気を失ってな。

 その時のことを思い出したのか、TS圃人斥候が辟易した顔をしています。

 

()()()()、ですか?」

 

「ああ、そーだよ。まず、残ってた骨付き肉の骨。そして、食事が乗ってた皿。テーブルクロス、テーブルそのもの、椅子――そして、周りの客と店のお嬢たち」

 

「んん? みすみす食わせたのかえ?」

 

「んなわけねーだろ、何のための用心棒(オイラ)だよ。客とお嬢らに噛みつかれる前に、投矢銃(ダートガン)を撃ち込んでやったよ」

 

「それなら一件落着なんじゃないんかの?」

 

投矢(ダート)が刺さったところが口になって、刺さった投矢(ダート)を喰いやがった」

 

 オイラの銀貨三枚が……。*4と投矢を惜しむふりの諧謔を挟むTS圃人斥候。

 しかし、その冗句も場を和ますには至らず、文庫神官は、尋常ならざる事態に、顔を引きつらせ、知識神の聖印へと手をやって握りしめます。

 

「それは、また……。悪魔(デーモン)か何かの変化(へんげ)だったのですか?」

 

「わっかんね。とりあえず、オイラの鎧の【鼓舞(エンカレッジ)*5の力を解放して、店の混乱と、その大食い女の狂態は抑えた。んでもって、大食い女は頭を鞘で殴って気絶させて簀巻きにして、その縄に【施錠(ロック)】かけといた。今は同僚の用心棒に見張らせてるが、その大食い女の正体が分からんでなぁ」

 

「簀巻きにしたあと直ぐに私たちを呼びに来た、というわけですね」

 

「ふむん。まあ、見てみんと分からんな。アストラル系の悪魔(デーモン)に取り憑かれとるのか、顕現したデーモンに成り代わられとるのか、それともまた別の何かなのやら」

 

 状況を話しながら速足で歩くうちに、TS圃人斥候が用心棒をしているという酒場に着きました。

 もちろん、表から入る訳にもいきませんから、裏口に回ります。

 

「さあて、悪魔が出るか、竜が出るか……良い功徳を積めるといいのじゃが」

 

「……言っとくが、巨大化とかそういう派手なのはナシだからな。用心棒として、店を守らなきゃなんなくなる」

 

 奇怪な手つきで合掌しながら店の裏口を(くぐ)る半竜娘に、TS圃人斥候が釘を刺します。

 歓楽街ごと更地にしかねないと思っているのが、顔にアリアリと表れていますね。

 

 対する半竜娘は涼しい顔で(うそぶ)きます。

 

「さぁて、それは相手次第じゃな」

 

「……呼んできたの失敗だったか? 穏便に頼むぜ? フリじゃねーからな?」

 

「今のところ相手が無力化されているなら、すぐさま、そう酷いことにはなったりはしないと思いますが……」

 

 文庫神官のフォローも、どこか(むな)しく感じます。

 

「はあ。まあいい。こっちだ」

 

 TS圃人斥候は、その“大食い女”を捕らえている部屋へと先導すべく、半竜娘の脇をくぐって前に出ました。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

「おっ、ようやく戻って来たか、ちっちゃせんせー」

 

「店の嬢でもねーのにオイラをそう呼ぶな、デカ鱗。また()されてーか」

 

 “大食い女”を捕らえている部屋で待っていたのは、用心棒としての後輩だという雄の蜥蜴人でした。

 簀巻きにされて気絶している大食い女の首筋に添えられたこの蜥蜴戦士の得物は、平たい木剣に鮫の歯を植え込んで並べた鮫歯木剣(テルビューチェ)

 ギザギザの鮫歯の刃は示威効果も十分でしょうし、大食い女の細首を瞬く間に削ぎ斬るくらいはわけないでしょう。

 

「ほう、蜥蜴人かや。この街で叔父貴の他に見るのは珍しいのう」

 ぬっと部屋の扉を身を屈めて入って来たのは、半竜娘ちゃんです。

 

「その恰好、尼さんか? ……って、え、いやデッカ!?」

 半竜娘ちゃんの非常に上質な司教服と、その巨体の偉容に、用心棒の蜥蜴人は、うッと気圧されます。

 ……うん、幾つもの偉業を達成している半竜娘ちゃんは、生物としての圧が違いますからね。

 あと、巨漢の聖職者って時点で、『つよい(確信)』って感じじゃないですか?

 

「リーダー。そこのデカ鱗の後輩は、オイラたちが山村を巡ってた時にこっちに連れの女と転がり込んできて、宿賃代わりに用心棒してるんだよ。

 確か、そこの連れの彼女は、交易神の侍祭サマだったか? 宿の部屋で彼女と()()()するためにも、ここの店主にしっかりこき使われてるってわけよ。まあ、蜥蜴人だからこの時期なら、外の依頼よか、店の中で用心棒の方がマシだろーしな。確か二人とも収穫祭の後あたりにこの街で冒険者登録したけど、ここに籠りっきりだったから白磁のままだっけか?」

 

 旅の神官に惚れ込んで集落を飛び出す蜥蜴人の若者、というのも、まあある意味典型的(テンプレート)な出自ですね。

 その彼の連れ合いの交易神の侍祭(アコライト)の只人(女)は……、と部屋の中を探して見回せば、確かに部屋の中には、豊満な美女が神官服に身を包み、一心に祈りを捧げている姿があるのが確認できます。

 よく見れば、蜥蜴戦士の鮫歯木剣(テルビューチェ)には【祝福(ブレス)】の奇跡がかけられており、交易侍祭はそれを維持しているようです。

 

「んで。デカ鱗とその連れの彼女さんにご紹介。こっちのいろいろでっかいのが、うちのリーダー。【竜殺し】で【辺境最大】で【鮮血竜姫】で、あー、まあ、二つ名がいっぱいある。一年経たずに翠玉等級になった凄腕だ。蜥蜴人の本能云々とかで戦いを挑むのは勝手だが、あとにしろよ」

 

「…………ウス。オ()イデキテ光栄(コウエイ)デス」

 

「そう緊張すんな、デカ鱗。だが、ソンケイは実際大事だ」

 

 ガチガチの岩のように体を強張らせた蜥蜴戦士の肩を叩いて隣を抜けるTS圃人斥候。

 そんなTS圃人斥候の姿に、いつの間にか部屋に入ってきていた文庫神官は、目を瞬かせます。

 

「結構真っ当に用心棒してらっしゃったんですね。……そういえば、普段から口は少し悪いですけど、面倒見は良かったような。この間も冬至祭の衣装作ってくれましたし」

 

「まあ、改心()()()からのう」

 

 かんらかんらと笑う半竜娘ちゃんに、鮫歯木剣(テルビューチェ)の蜥蜴戦士が引いています。

 とはいえ、一方では半竜娘の強さについても興味津々な様子。

 隠しきれない興味に、尻尾がそわそわと動いています。

 また、それは半竜娘の方も同様です。

 

 ……出会ってすぐに強さによる格付けをしないと気が済まんとか、野生動物か何かか、君ら。

 いや、野生動物っていうか、蛮族だったわ……。

 

「そういうのは後にしてくれ、マジで。さっさと大食い女(こいつ)をどうにかしたいんだよ、オイラは。……いつ縄ごと食い破ってくるか分かんねーんだ。

 確か霊視とかできるようになったんだろ、リーダーは。面倒かけるが、さっさと()てやってくれ」

 

「おうよ」

 

 半竜娘がアストラル界を視るために、己の魂の眼を凝らすと、ぼんやりと何かが浮かび上がって見えます。*6

 

「これは、餓鬼の(たぐ)いじゃの」

 霊視した半竜娘の眼に視えたのは、大食い女の内に潜む、餓鬼腹の悪魔。*7

 心なしか、小鬼のようにも見えます。

 

「暴食の悪魔ってコトか?」

 TS圃人斥候が首を傾げます。

 

「いえ、それとは違うものですね。その眷属ではありますが」

 神学に明るい文庫神官が、その疑問に答えます。

 

「どう違うんだ?」

 鮫歯木剣(テルビューチェ)の蜥蜴戦士が問います。

 ……傍らの彼女さん(交易侍祭)が答えたそうにしていますが、【祝福(ブレス)】の維持のためにしゃべる余裕がないようです。

 

「暴食は富めるがゆえの悪徳ですが、餓えは貧者の嘆きです。持てるものと、持たざるもの。尽きるまで喰らうという行動は同じでも、その背景は真逆です。そして、餓える者を踏みつけにして栄える悪徳が暴食ですから、餓鬼は暴食の悪魔の眷属として使役されることが多いのです」

 

 文庫神官が解説する間に、半竜娘は呪文で【分身】を生み出しています。

 

イーデム(同一)ウンブラ()ザイン(存在)。対象が視えれば呪文も効く、つまり、どうにでもできるのじゃ」*8

 

 半竜娘ちゃんの隣に、分身体が現れます。巨体が増えたせいで部屋がいっそう狭く感じますが、動けないほどではありません。

 

「呼ばれて飛び出て、なのじゃ! そして――

 ウィルトゥス(美徳)アーミッティウス(喪失)ウィティウム(欠点)――【嫌気(ディスガスト)】!*9

 ホラ()セメル(一時)シレント(停滞)――【停滞(スロウ)】!*10

 

 そして立て続けに分身体に【嫌気】【停滞】の呪文を使わせると、大食い女の身体の内に巣くう『餓鬼』の意気を挫き、動きを止めさせます。

 

「さらにこうする。『偉大なりし暴君竜(バオロン)よ、白亜の園に君臨せし、その威光を借り受ける』――【竜吠(ドラゴンロアー)*11。そして死霊術・初歩技能『聞かせる声』。――そこから()ねぃ!

 

 さらに駄目押しに、【竜吠】の魔力を乗せて霊体にだけ響く一喝で、その餓えた魂を恫喝すれば……!

 

「まあ、耐えきれずに弾き出されてくるという寸法よ」

 

『GGGGAAAAAAAA…………』

 

 半竜娘の言葉の通り、大食い女の身体から滲み出るようにして黒い靄が溢れると、腹だけ異様に膨れて他がやせ細った、小鬼のように醜い悪魔として凝集しました。

 

「これが、餓鬼……!」

 

 半竜娘の死霊術の技能のおかげか、周囲の者にもぼんやりとその姿が見えているようです。

 もしこいつが、蜥蜴戦士と交易侍祭(冒険者レベル1の白磁等級2人)しかいないタイミングで顕現していれば、非常に苦戦したのでしょうが……。

 出てきた【餓鬼】は3重のデバフによって、動くこともままならない状態になってしまっています。

 顕現するのは肉体がやられてからでも遅くないとでも慢心していたんでしょう。

 

「……あとは煮るなり焼くなり、ってところじゃの。さて、そこな剣士よ、トドメを譲ろうかの?」

 

「まあ、お膳立てされたもんでも、手柄首は手柄首か……。でも、尼様よ、こっちの得物(テルビューチェ)じゃ部屋を汚しちまうぜ」

 

「そうかの? そこな侍祭の【祝福(ブレス)】があるのじゃから、そいつで斬れば、この程度の霊体は欠片も残らんと思うがのう」

 

「へえ、そんならやってみるか」

 

 蜥蜴戦士の一閃!*12

 

『GYAAA…!?』

 鮫歯木剣が、餓鬼の首を半ばまで断ち切りました!

 

「ちっ、こんなナリでも魔神(デーモン)ってわけか! おらぁっ!!」

 

 蜥蜴戦士のさらなる攻撃!*13

 鮫歯木剣が躍動し、今度こそ餓鬼の首を落としました!

 

『GGYIGGAAAAAAAA!!!??』

 

 さらに、祝福された刃から伝わった神聖なる力が、異形の命を青く焼き滅ぼしていきます。

 

「うむ、見事じゃ!」

 

「それで、これで終わりならいーんだけどよー」

 

「餓鬼は、暴食の眷属ですからね。やはり親玉が居るんじゃないですか?」

 

 新年の歓楽街に紛れ込んだ異物に始まる騒動は、どうやら、まだ終わりにはならないようです。

 

 というところで、今回はここまで!

 ではまた次回!

 

 

*1
混沌寄りのムーヴ例(まだバレてないもの含む):1.古竜族滅の時に竜を呼び出す魔道具を街の近くで起動させる。 2.拾得した混沌の呪物をギルドから隠匿し、自分でそれを使用して儀式を行う。 3.死人占い師となって死霊の群れ(ワイルドハント)を呼び寄せた。 4.怪しげなポーション(【竜血】のポーション)や危険物(テルミット反応薬剤)を製造している(後述)。

*2
竜血のポーション:ポーション類は、効能の確かなものしか流通しないように統制されているが、自分たちで使うために作る分は問題ない。でも原料が人族の血で、製造にあたって従事者が分身とはいえ過労死してるとか、曰く付きどころじゃないぞ?

*3
永い後日談のネクロニカ:TRPGのシステムの一つ。ポストアポカリプス世界でアンデッドになった少女たちが百合百合するぞ!

*4
銀貨三枚:投矢は一本で銀貨三枚

*5
鼓舞エンカレッジ:混乱や恐怖の効果を取り除く術。戦女神の専用奇跡。ゴブリンロードが持っていた魔法の斧に嵌められていた宝玉に込められていた。TS圃人斥候はその宝玉を自分の鎧に移植している。

*6
半竜娘→“大食い女”に対する【怪物知識】判定(霊視):知力集中11+死人占い師Lv3+加速ボーナス(常駐化)5+2D656=30。目標値は、“大食い女に潜むナニモノか”の怪物Lv5+9+隠蔽ボーナス10=24。達成値30>目標値24 なので、判定成功! 敵の正体を看破!

*7
餓鬼:データは夜鬼ナイトストーカー(怪物Lv5)を流用。

*8
半竜娘(本体)【分身】行使:基礎値22+加速常駐5+創造呪文熟達1+2D665+生命の遣い手CRT5=44。耐久値22の分身が顕現。呪文使用回数5→4(ポーション作ったところなので、もとから減っていた)

*9
半竜娘(分身)【嫌気】行使:基礎値22+2D651=達成値28 > 餓鬼の呪文抵抗16。行使成功! 餓鬼は全判定に-4のペナルティ。呪文使用回数(分身)4→3

*10
半竜娘(分身)【停滞】行使:基礎値22+2D625=達成値29 > 餓鬼の呪文抵抗12(基礎値16-嫌気ペナ4=12)。行使成功! 餓鬼は全判定にさらに-4のペナルティ。呪文使用回数3→2

*11
半竜娘(分身)【竜吠】行使:基礎値24+2D651=達成値30 > 餓鬼の呪文抵抗8(基礎値16-嫌気ペナ4-停滞ペナ4=8)。行使成功! 餓鬼は全判定にさらに-4のペナルティ(合計-12ペナルティ)。呪文使用回数2→1

*12
蜥蜴戦士 鮫歯木剣(両手)による攻撃:技量集中6+戦士Lv3+2D614+祝福ボーナス2=16 > 餓鬼回避3(基礎値19-転倒ペナ4-嫌気停滞竜吠ペナ12) 命中! 【強打・斬】技能により、効力値+2。ダメージ:鮫歯木剣(1D64+2)+戦士Lv3+命中ボーナス1D63+祝福ボーナス4-餓鬼装甲値4=12。餓鬼生命力:24 → 12

*13
蜥蜴戦士 鮫歯木剣(両手)による攻撃:技量集中6+戦士Lv3+2D635+祝福ボーナス2=19 > 餓鬼回避3(基礎値19-転倒ペナ4-嫌気停滞竜吠ペナ12) 命中! 【強打・斬】技能により、効力値+2。ダメージ:鮫歯木剣(1D63+2)+戦士Lv3+命中ボーナス2D634+祝福ボーナス4-餓鬼装甲値4=15。餓鬼生命力12 → -3 撃破!




鮫歯木剣の蜥蜴戦士と、豊満な交易侍祭は、原作小説6巻に出てくる白磁・黒曜混合の一党のメンバーです。
これから、戦乙女信仰の神官戦士(女)、黒づくめの闇人斥候、軍師と呼ばれる只人の中年魔術師(男)の三名(いずれも黒曜等級)の一党と出会って加入する、という想定です。

 


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28/n もっと食べたい-2(流浪の“侯爵”)☆AI挿絵あり

閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ありがとうございます! TRPG的な風情の小説の投稿(ゴブスレも、ゴブスレ以外も)が増えてきて(※体感)嬉しいですね! 感想もいつもありがとうございます!!


●前話:
歓楽街に悪魔が紛れ込んでたので、寺生まれのTさんばりに「ハァッ!」ってしたった。

※死霊術について
Q.蜥蜴人の信仰的に、死霊術ってオーケーなの?(投稿済みの“12/n レイダース(遺跡探索)”で、魂を聖櫃(アーク)に捕らえるようなのはダメとか言ってたような)
A.魂そのものは輪廻の輪を巡るべきじゃが、その残影に死霊術で助力願うのは別に問題なかろう。そこには既に、元となった魂は無いのじゃからな。

Q.つまり……?
A.状況判断なのじゃっ!!

=====

AIさん(DALL・E)に出力してもらった挿絵あり(マス)
 


 

 はいどーも!

 

 本当は市街冒険(シティアド)より、野外(フィールド)とか、遺跡(ダンジョン)の方が得意な半竜娘の探索パート、はーじまーるよー。*1

 市街地だと物理的に巨体が挟まる場面があったりで不利なんですよね……。

 まあ遺跡でも挟まることはあるんですけど。縮小の手段の取得が待たれます。

 あと市街地は爆破したり踏みつぶしたりするとマズいですし(それが一番の苦手の理由)。

 

 さて前回は、新年の歓楽街に現れた、「怪奇! 大食い女!?」って感じでした。

 その大食いの女芸者の内側に巣食っていた餓鬼の悪魔を追い出して、浄滅したところまでやりましたね。

 

 そしたらレッツ尋問ターイム!

 生かした女芸者から、どこで“餓鬼”に取り憑かれたのか聞き出しましょう!

 

「起きるのじゃー」

 

「う、うぅん……、あれ、私……」

 

 大食い女芸者を起こして、色々と聞いていきます。

 

 

Q.悪魔に乗っ取られ掛けてたみたいじゃが、その間の記憶あるかや?

 

A.悪い夢を、見ていたような……です。助けてくれたみたいで、ありがとうございました、大きなお方。

 

 

Q.少しは意識があったのかの。では、あの悪魔に心当たりは?

 

A.それは、全く……、いや、でも、まさか……。

 

 

Q.この仕事は、誰かに勧められて始めたのかや?

 

A.……はい、この冬に口減らしに村を出て、でも、娼婦にも、冒険者にも、なる勇気がなくて。そんなときに、大食い芸なら、たくさん食べられるって……。村でも、私、食べる量が多くて……。

 

 

Q.誰ぞが、仕事を仕込んで斡旋してくれたのかや?

 

A.それは、はい。旅芸人のロマの侯爵さまが。私、旅芸人の一座に拾われて、独り立ちできるまで面倒をみてもらったんです。

 

 

Q.侯爵?

 

A.ええ、とてもエキゾチックな方で……。どこぞの国の家中の方で、妾腹だから追い出されて流浪の身なんだと、そう仰っていました。みんな、侯爵さまって呼んでるんです。礼儀作法も、少しは侯爵さまから教わって……。

 

 

Q.その“侯爵さま”は、どこにおるのじゃ?

 

A.……侯爵さまをお疑いなんですか?

 

 

Q.街の近くに?

 

A.……。

 

 

Q.他に侯爵さまの“指導”を受けた者はどのくらい街に入り込んだのじゃ?

 

A.…………。言いたくない。恩人は売れない。

 

 

Q.お主は混沌の尖兵にされようとしとったのじゃよ? 要は捨て駒じゃ。口を噤むのは、心当たりがあるからじゃ。義理立てするほどでもなかろうに。

 

A.……()()()()()()!? あなたに何が分かるの!? 侯爵さまは、行き場のない私を拾ってくれた! 寝床と食事を与えてくれた! 生きるための芸を教えてくれた! 礼儀を教えてくれた! この恩を裏切るようなやつが! この渡世を生きていけるもんですか!! それこそ生き恥というやつよ!!

 

 

 

 おおっと。

 バッドコミュニケーション! 激昂させてしまったようです。これ以上何か情報を漏らすくらいなら舌噛んで死ぬ、くらいの勢いです。

 さては【交渉】判定をファンブルしたな?

 

 まあ、半竜娘ちゃんが、渡世における一宿一飯の恩を軽く見てしまったのが敗因でしょう。

 ここに渡世人のことにも詳しい森人探検家が居れば良かったんですが、まだ合流できていませんでしたからね。

 仕方ないです。

 

 とはいえ、大体のことは受け答えから推測できるので、問題はないでしょう。

 “侯爵”を名乗る胡散臭い輩が、この女芸者に色々と芸や礼法を仕込んだりしていたようです。

 女芸者の反応からして、おそらく、まだ、その“侯爵”さまとその一座はこの辺境の街か、その壁外に滞在しているっぽいですね。

 

 両腕で膝を抱え込んで、その膝に顔をうずめるようにして塞ぎ込んだ女芸者は、これ以上のことを話してくれそうにありません。

 

「リーダー、【魅了(カリスマ)】でも掛けて、もっと聞き出すか?」

 TS圃人斥候が念のため、といった風情で尋ねます。

 ですが、その顔はいかにも面倒くさそうで、自分が魔術を使わなければいけないのは御免だぞと、口よりも雄弁に語っています。

 

「いや、不要じゃ。呪文は切らすな、じゃよ。温存じゃ」

 半竜娘は、“ストリートの警句”*2の一節を引用しつつ、TS圃人斥候に返事をしました。

 既に彼女の興味は、その“侯爵”を名乗るロマ*3の何者かに向いています。

 

「本当にそんなお貴族様が、流浪の旅芸人一座の取りまとめみたいなのをやっているんでしょうか」

 首をかしげる文庫神官の胸元で揺れる聖印が、鎧にぶつかってチリンと音を立てました。

 普通に考えれば、そんなことはあまりなさそうなものです。

 まあ、王国の場合は、“金剛石の騎士(貧乏貴族の三男坊)”が汚職貴族を日ごろの政務の鬱憤晴らしがてら成敗して回って、そこそこ没落貴族を生み出したりしてるので、全くないパターンとも言い切れませんが……。

 

「まあ、騙りじゃろ」 「自称ってーだけだな、十中八九は」

 半竜娘とTS圃人斥候が言うとおり、この場合はおそらく、単なる自称でしかなく、貴族身分を騙っているのでしょう。

 流浪の民やらが、自身の箔付けにそんなことを言い出すのは、古今に枚挙の(いとま)がありません。

 

「あの、その場合、罰則とかは……?」

「国内の貴族を騙れば問題じゃが……」 「外国の貴族だって言い張るのを、国内で裁く法律はないぜ」

 

 まあ、そういうことです。外国の貴族を名乗られても、確認のしようもないですし。

 具体的な詐欺による実害がない限りは、特に官憲も動かないでしょう。

 まー、流浪の民は色々と白眼視されがちな地域もあると聞くので、街によってはその程度の詐称でも、それを口実に官憲が介入してきて、財産没収からの壁外退去を喰らわせられることもあるのかもしれませんが。辺境の街では少なくともそんなことはありません。

 

「そしたら手前どもは、そのロマの“侯爵さま”を探してみるかの」 「私はお姉さまについていきます!」

 半竜娘ちゃんと文庫神官ちゃんは、悪魔憑き事件の解決のために動くようです。

 報酬のあてはありませんが、この聖職者2人は、それを見過ごせない性格(戒律(アライメント)が“善”)ですからね。

 

「オイラは用心棒の仕事残ってるから、あとで合流するわ。エルフパイセンもここに向かってるだろうから、伝言役も要るしな」

 

 そもそも仕事中だったTS圃人斥候は残るようです。

 大食いの女芸者の世話やなんかはあるにしても、残った方が(ラク)そうだ、という思惑もあるでしょうけど。

 

「それに、“餓鬼”がアレ一匹だけとは限らねーしな。周りの店からヘルプ要請入ったら、このデカ鱗とその彼女連れて駆けつけられるよーにしとかねーと」

 TS圃人斥候は、用心棒としての後輩でもある鮫歯木剣の蜥蜴戦士と、その連れの交易侍祭にウィンクします。

 

「おう、任せな!」 「微力ながら、手を尽くさせていただきます」

 まだ白磁等級の彼らは、返事とともに筋肉を脈動させ、あるいは豊満な胸の前で聖印を握って、意気込みます。

 なるほど、頼りにしても良さそうです。

 

「じゃあ、後は頼んだのじゃ」 「吉報をお待ちください!」

 そう言って、半竜娘ちゃん(本体&分身)と文庫神官ちゃんは、店を後にしました。

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 2人が目指すのは、新年の祭りで稼ごうと方々からやってきた流浪の者たちが集まってキャンプしているような場所です。

 新年の屋台を出している者たちや、吟遊詩人たちに聞き込みして、どうやら街の外にそういった者たちの集まりがあることを突き止めます。

 

 その途中で、森人探検家と合流できました。

 話を聞くと、途中で何故か、小鬼殺し一党の鉱人道士も一緒になって事件を解決する羽目になったのだとか。

 

「ドワーフの術士殿とのう。何だか珍しい組み合わせじゃの?」

 

「まあ、たまたま同じ事件に巻き込まれたのよ。急に狂を発した大道芸人が、通行人に噛みつきだしてね」

 

「なんと!」

 

「そこに、斥候が用心棒やってる酒場に向かうわたしと、道路の向こうから来た、娼館帰りだかの道士サマが巻き込まれたってわけ。一緒に制圧したところで、道士サマには悪いけど、その現場の後始末は押しつけてきたわ」

 

 よく聞けば、幸いにも死者はいなかったようですが。

 森人探検家が暴れた芸人を、【粘糸(スパイダーウェブ)】の杖でぐるぐる巻きに拘束し、そこを鉱人道士がアストラル界の者を退去させる【放逐(バニッシュ)】の精霊術で、芸人に憑依していた悪魔を吹っ飛ばしたとか。

 通りすがりの割りには、二人とも八面六臂の大活躍で、さすがは熟練冒険者という感じですね。――判断が早い。

 

「やるもんじゃのぅ」 「流石ですね!」

 

「まあ、この程度はね。ドワーフに負けるわけにもいかないし。――あ、待って」

 

 そのとき、森人探検家が、長くてよく聞こえるエルフ耳をピクピクと動かしました。

 何を聞き取ったのでしょうか。

 

「あちこちで、似たような騒ぎが起こってるみたいよ、今もね。まるで飢えた(イナゴ)みたいに、乞食たちが手当たり次第に周りのモノに噛みついてるみたいね」

 

 どうやら、街中に入り込んだジプシーたちが、あるいは、その身の内に潜んでいた悪魔たちがと言った方がいいでしょうか、騒動を起こしているようです。

 森人探検家に聞こえる範囲では、騒動が起きている場所は、10には届かないくらい、とのこと。

 それでも、街中に悪魔が入り込むなど、早々ないことです。

 

「大食い女の“餓鬼”と同じクチか!」

 

「お姉さま、どうされますか?」

 

 さて、街中の騒動を片付けるのか、黒幕(推定)の方へと向かうのか。

 

「……ロマの“侯爵”サマのところに行くのじゃ。街中はまだ致命的なことになってはおらんのじゃろ?」

 

「ええ、まあ。ドワーフの道士サマとか、休暇中の仕掛人(ランナー)とか、それぞれの店の用心棒とかが対処してるようね」

 

 森人探検家が、森人(エルフ)(イヤー)で聞き取ったところによると、騒ぎは致命的なところには至っていないようです。

 酔客の混乱も、用心棒たちの手際がいいのか、大事にはなっていない模様。

 取り憑いている悪魔の位階が低いのか、あるいは、あくまで未顕現で乞食の肉体を操っているだけの段階だからでしょうか。

 いえ、やはり地母神の加護が篤い街だからでしょう。

 

「ならばやはり、元締めの方に向かうのじゃ。こっちは陽動かもしれんし」

 

「了解。場所はわかる?」

 

「もちろんです」

 

 文庫神官が先導して、小走りで移動を始めます。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 果たしてそこは、馬車や天幕が立ち並ぶ、即席の集落になっていました。

 街の外の開けた場所、そこに、ロマの一団が(たむろ)していたのです。

 

「ここがあの侯爵のハウスじゃな」

 

 半竜娘は適当に銀貨を握らせたロマの一員から聞き出した“侯爵”の居場所の前に立っています。

 後ろには、彼女の分身体と、鎧姿の文庫神官、狩人衣の森人探検家。

 小走りでやってきた彼女たちの口から白い息が漏れて流れていきます。

 

「……てっきり、夜逃げの準備でもしてるのかと思ったのだけれど」

 

 森人探検家の言うとおりです。

 もし、ロマの“侯爵”が黒幕なら、騒ぎを起こした時点でそれを陽動に逃げ出すはず。

 ですが、そうなってはいません。

 

「ここまでの案内にしても、特に居場所に箝口令(かんこうれい)が敷かれているわけでもありませんでしたし……」

 

 文庫神官の疑問もごもっとも。

 あまりに不用心、というか、普通な感じです。

 普通に、新年の祭りのおこぼれに(あずか)っているだけの陽気な雰囲気です。

 

「実は手前も少し自信がなくなって来たのじゃ」

 

 それでも会えば分かることもあろう、と、半竜娘は“侯爵”が居るという天幕に入るべく、そこに繋がる入り口に垂れ下がった布をめくり、誰何の声を上げました。

 

「たのもう!! 急な来訪失礼つかまつる! 侯爵殿は御在所か?」

 

 入り口から中を見ると、幾つかの馬車を両隣に置いて部屋として使えるように組み合わせ、その間に布の天井を張って廊下のようにしています。

 外から見た感じですと、この奥に一番大きな天幕があるはずです。

 

「そう大きな声を上げなくても聞こえているよ」

 

 半竜娘の誰何に対して、大きな洞穴に残響するような、引き込まれるような静かな声が返ってきました。

 これが“侯爵”の声でしょうか。

 

(女……?)

 

 そう、返ってきた声は、女のものでした。

 

「どうした? 入って来たまえよ。客人に(とざ)すような戸口は持っていないのでね」

 

 意外なことに、侯爵と思しき女の声は、半竜娘たちを拒みませんでした。

 半竜娘たちは顔を見合わせると、促されるままに中に入りました。

 念のため、分身体は外に待機させておきます。

 

「分身は残して、他は中に。警戒は怠らずに、じゃ」

 退路の確保は重要ですからね。

「ええ、分かったわ」 「はい、気を付けます」

 天幕をくぐり、中へと入ります。

 

「【逆転(リバース)】の呪文は使えるかや?」

 半竜娘が進みながら、森人探検家に問いかけます。

 

「使えるわ。使っておく?」

 

「頼むのじゃ」

 

「分かった。『巡り巡りて風なる我が神、気の流れをも裏返し、賽子の天地返しに目こぼしを』……【逆転(リバース)】」

 出目はファンブルではなかったので発動成功です。(森人探検家呪文使用回数2→1)

 これから1日の間、1回だけ出目を反転させることが出来ます。

 

「手前は、加速呪を励起させるかの。形代(カタシロ)よ、刻んだ術を起こすがいいのじゃ」

 半竜娘は、背を屈めて、天幕からぶら下がる幾重もの布を押し上げて進みつつ、腰からぶら下げた自身をデフォルメした人形たちに触れます。

 分身体の残影を留める依り代にしている人形たちです。

 スリープ状態で最小限の呪文を維持・継続していた、分身体の残影が励起され、森人探検家と文庫神官に、過去に掛けられていた【加速(ヘイスト)】の効果を蘇らせます。*4

 

 さらに、【竜血】の各種のポーションをはじめとして、装備をもう一度確認しつつ、進んでいきます。

 

「私が前に出ます。お姉さまは後ろに」

 (タンク)役の文庫神官が最前になるように隊列を調整。

 とはいえ、天井が低く、狭いので、あまりここで戦闘はしたくありませんが……。

 

 馬車と布で作られた回廊の一番奥に辿り着きました。

 いよいよロマの侯爵とご対面です。

 

 最後の布をめくると、焚きしめられた香と、暖房による熱気が半竜娘たちの頬を撫でます。

 

「ようこそ。君たちは――探索者かい? ああ、このあたりだと冒険者というんだったかな?」

 

 (くるぶし)まであるような長い丈をした、無数の縦(ひだ)が織り込まれたスカート。

 胸のあたりだけを覆い、お腹を(あら)わにして(へそ)が見える上衣。

 メリハリの付いた肢体。

 褐色の肌。

 アーモンドのような形のクリっとした眼。

 結われた黒髪。

 落ち着き払った冷静な態度。

 洞穴の奥へと吸い込まれるような不思議な残響を感じさせる声。

 

「私に何か用かな?」

 

 どうやら、エキゾチックなこの年齢不詳な美女が、ロマの“侯爵”のようです。

 そして振り返って半竜娘たちを出迎えた“侯爵”の背後には、妙に視線を引き付けて離さない奇妙な像があります。

 不思議と愛嬌のあるように見える像は、何に似ているとも言い表しづらいのですが、強いて言うなら、ヒキガエルを思わせる造形です。

 どういった素材でできているのか分かりませんが、黒々として光沢があり、高級そうにも見えますし、日ごろからよく磨き込まれて大事にされているのが見て取れます。

 しかし、霊視の術を持つ半竜娘ちゃんには、それがただならぬ妖気を放つ逸品であることが分かりました。

 きっと、真っ当な品ではありません。

 そのヒキガエルのような像は、一体何なのか、今回の歓楽街の混乱とどのように関係するのか――。

 

 

 というところで今回はここまで!

 ではKP(キーパー)に【目星(めぼし)】できないか確認しつつ、また次回!

 

 

*1
市街、野外、遺跡:謎解きや陰謀メインの市街戦シティアドベンチャー、“敵は自然環境そのもの”な野外冒険ウィルダネスアドベンチャー、オーソドックスな迷宮探索ダンジョンアタック。PCの活躍を偏らせないように、また、PLを飽きさせないために、こんな感じでシナリオを回すと良いとかなんとか。

*2
ストリートの警句:『油断するな。迷わず撃て。呪文を切らすな。ドラゴンには手を出すな。』

 元ネタはサイバーパンクファンタジーTRPG「シャドウラン」の同様の警句。

*3
ロマ:まつろわぬ民、化外の民。外部からはジプシーと呼ばれる彼らの、自称する名前。ジプシーとロマの関係は、インディアンに対するネイティブアメリカンの呼び方に位置づけ的には近いかも。ロマ(ジプシー)は、旅芸人や旅鍛冶(鋳掛け屋、蹄鉄打ちなど)、行商人として流浪し、定住しない。

*4
分身体の残影が宿った半竜娘人形:A~Eまでの5体が装備されている。人形一つにつき、分身が消滅時に維持していた呪文の維持を一つだけストックさせて引き継がせることが出来る。A:半竜娘本体への【加速】(+5)維持。B:森人探検家への【加速】(+5)維持。C:TS圃人斥候への【加速】(+5)維持。D:文庫神官への【加速】(+5)維持。E:半竜娘本体の心臓付近に【力場(フォースフィールド)】(40ダメージまで遮断)を形成・維持。それぞれの人形は最小限の影響を保ったままスリープ状態で維持継続が可能。




 
「もっと食べたい」:クトゥルフ神話TRPGサプリ「クトゥルフ2010」掲載の同名のシナリオを元ネタにしています。
このエピソードは、次回で決着……にするつもりです。もう少々よろしくお願いいたします!
そしたら次は原作小説6巻の内容です!


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28/n もっと食べたい-3/3(暴食の邪神像)

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●前話:
渡世人は辛いよ

※四方世界における旧支配者(グレートオールドワン)について
鰓人(ギルマン)については蛸神様を信仰していると原作小説に明記してあるため、四方世界にも旧支配者(もしくはそれの同位体相当の力を持つ異形の神または、超々大駒として配された怪物)は居るようです。そら(TRPGごった煮世界観なんだから)そう(いう「クトゥルフの呼び声(Call of Cthulhu(CoC))」的なシステムも適応されてる)よ。たぶん、冒険者みたいなパワフルなPCじゃなくて、一般人が知恵と勇気で恐怖に立ち向かうみたいなシチュエーションが好きな神様たちが卓を立てて、(探索者)たちを見守ってると思います。


※暴食について
七つの大罪の一つとされる。司る悪魔はベルゼブブ。
ベルゼブブは異教の主神バアルを貶めた姿とされ、蠅の王で象徴される。死と疫病、腐敗と再生を司るため、荒神としての地母神の側面を持つ。
また、異教のバアルは、後に別途再び、悪魔バエル(バアル)としても取り込まれ、貶められたと云う。悪魔としてのバエルは、王・黒猫・()()()の姿をとって現れるとされる。ウガァ、クトゥン、ユフ。
()()()()()
のような姿をし、背にはコウモリの翼を持ち、眠たげな表情をした邪神は、地下において従者を侍らせ、怠惰に暴食にふける。ウガァ、クトゥン、ユフ。
転移門の知恵を授けた逸話を持つ旧支配者にして、大魔導士エイボンの守護者。イア! 土星(サイクラノーシュ)を経由して渡ってきたという、白痴の神アザトースの末裔。イア! グノス=イカッガ=ハ! イア! ツァトゥグァ!

 


 はいどーも! え? なんか混信した?

 

 ……俺のログには何もないな。

 

 それはそれとして、高名なる悪魔を隠れ蓑にした星渡りの(ヒキガエル)神の暗示に気づいてしまった(アイデアロール成功した)あなたは、正気度(SAN)ロール(チェック)(0/1D3)です。

 

 開幕SANcはヤメロォ!(ヤメロォ!)

 

 ……さて、前回は流浪の“侯爵”を名乗る妖艶美女に会いに行ったら、黒光りするヒキガエルの神像に目を奪われたところまでですね。

 

「こ、これは……」

 

 半竜娘ちゃんは、その黒光りするヒキガエルの神像から、目が離せません。

 その神像は、一見、ずんぐりとしたヒキガエルのように見えますが、蝙蝠のような翼と、奇妙に眠たげな表情が、得体の知れない印象を与えます。

 何より、神像の眼が、鼻が、口が、舌が、蠢くはずもないというのに、蠢き、ひくつき、半竜娘ちゃん自身を品定めしているかのような、(おぞ)ましい錯覚……本当に錯覚なのでしょうか……を与えてきます。

 

 その感覚が何なのか、この悍ましい神像は何なのか――それを知らずにはいられなくなってしまった半竜娘ちゃんは、【第六感】判定(アイデアロール)です。目標値は秘密です。

 そのとき、この世とあの世の境を見通せる死人占い師の職業レベルを持っているので、通常の判定値にさらに足して判定します。

 ネクロマンサーは、こういう神話的真実に気づきやすくなってしまうという副作用があるようですね。死人占い師が徐々に正気を失う理由でもあります。

 

 半竜娘 【第六感】判定:

 知力反射9+精霊使いLv5+死人占い師Lv3+加速5+2D646=32

 

 達成値が30を超えるという超達人級の結果だったので――半竜娘ちゃんは、遥か彼方の地下でまどろむ、恐るべき異形の、暴食の神が()します玉座をはっきりと幻視してしまいました。

 まどろむ邪神の目が開けられ、そして、矮小な存在である半竜娘ちゃんの視線を辿り、見返し、舌なめずりをします。

 

 これこそは祖竜が生まれるよりずっとずっと前に、宇宙の始原たるのたうつ白痴の大神から分かたれた末の末。

 外宇宙より飛来した理外の存在、盤外の神(アウターゴッド)

 

 ――ああ、いま、手前は、邪悪なる神の舌先に触れている――

 

 恐るべき神話的存在に見据えられてしまった半竜娘ちゃんは、その身の毛もよだつ体験により、精神に多大な衝撃を受けてしまいました。

 さらに、優れた洞察力が仇になり、深遠なる神秘のヴェールに隠された異相次元の大いなる(グレート・)古ぶるしき神(オールド・ワン)の脅威を深く直感してしまいました。

 魂魄抵抗判定(SANチェック)です。(抵抗成功時 消耗1/抵抗失敗時 消耗2D6)。(デデドン!!

 

 だから開幕SANcはヤメロォ!(ヤメロォ!)

 

 ……はい。

 

 目標値は【第六感(アイデア)】の値が30overだったので、

 蟇蛙(ヒキガエル)の邪神による邪視の精神衝撃力:基礎10D64632464521+深淵知(アイデア)加算4D66114=49

 とします。

 まあ大体、魔神将(アークデーモン)(怪物レベル12)の攻撃を喰らったのと同じくらいの衝撃を魂にダイレクトアタックされてますね……。

 

 半竜娘 【魂魄抵抗】判定(目標値49):

 魂魄反射12+冒険者Lv9+加速5+沈着冷静1+2D664=37 < 目標値49

 抵抗失敗!!

 

 恐ろしい邪神の視線に射すくめられたことにより、魂に冷たい呪詛が入り込むような感覚を覚えた半竜娘ちゃんは、悪寒とともに力が抜けていきます。何か、生命力のようなものを、目を合わせただけで吸い取られようとしているのです!

 

(ぬぅ、これほどの邪神の像を持っておるとは――! ウカツ! 咄嗟に()過ぎてしもうた!!)

 

 死霊術による霊視を、まだ完璧にはコントロールできていないようで、その弊害が現れてしまいました。

 このままでは、最大12点の消耗となり、気絶一歩手前に陥る可能性すらあります。

 

(……気をしっかり持つのじゃ! 手前には祖竜の、慈母龍の加護がある! かようなカエルごときに睨み負けはせぬぞ!)

 

 半竜娘ちゃんの【祈念】!

 因果点を積んで、抵抗結果を捻じ曲げんとします!

 

 半竜娘 【祈念】(目標値:現在因果点3):

 2D662=8 > 因果点3

 祈念成功!!(因果点3→4)

 

 気合を入れ直したおかげか、日頃の功徳の積み重ねか、半竜娘ちゃんの魂を一瞬、祖竜のオーラが覆って守りました!

 因果転変!

 蟇蛙の邪神の邪視への抵抗は、失敗→成功にひっくり返りました!

 

(おお、慈悲深き慈母龍よ! 我が魂を奮い立たせ給え!!)

 

 魂魄抵抗判定(SANチェック)成功により、半竜娘は、1点の消耗で済みました(半竜娘消耗0→1)。

 

 

 ――この間、0.2秒!

 

 

「ぜはっ、くぅぁっ……!」

 

「お、お姉さま!? まさか、毒か何かを……!?」

 

 ロマの“侯爵”の天幕に入るなり息を荒げて体勢を崩した半竜娘ちゃんへと、前衛の文庫神官ちゃんが振り返って心配します。

 

「おいおい、人聞きの悪いことを言わないでくれ給えよ。私は何もしていないとも。……まあ、我が神の神威に勝手に当てられたことまでは、責任持てんがね」

 踊り子のような衣装の女侯爵が、せせら笑います。

 

「……侯爵サマ? あなたの後ろのその像は、ちょっと看過できないくらいに混沌じみてるわよ? それが街中の悪魔騒ぎの元凶なのかしら?」

 森人探検家が、いつでも弓に矢をつがえられるようにしながら、侯爵へと問い(ただ)します。

 

「悪魔騒ぎ?」侯爵が首をかしげます。「さあて、心当たりはないなあ」

 にやにやと侯爵がもったいぶって否定しました。

「何の証拠もなしに、我が信仰を否定するのかい? 邪教徒だという証拠はあるのかい? 混乱に乗じて火事場泥棒に来たわけでも無かろう? 冒険者の査定に響くぞう? くっくっく」

 

 何か言い逃れできる自信があるのか、侯爵は自分が害されるとは思っていないようです。

 あるいは、修羅場になったとしても、どうとでも切り抜けられる自信があるのか。

 

「問答の時間が勿体ないのじゃ。知識神(灯明の神)に問えばよい、“あの神像を破壊すれば騒動が止まるのか否か”とな」

 邪神を直視したことによる精神的な衝撃から立ち直った半竜娘が、文庫神官へと目くばせしました。

 その目は既に、蟇蛙神の神像が元凶であることに確信を持っています。

 

「はい、お姉さま! 『蝋燭の番人よ、知の防人よ! 我が無明に、煌めく一筋の稲光をお与えください!!』――【天啓(インスピレーション)】!!」

 文庫神官が、錫杖と聖印の補助を受け、信仰する知識神へと答え合わせの奇跡を願います。

 相手が隠蔽しようとしても、神の啓示があれば、大義名分は十分でしょう。

 

「“()の神像を破壊することで、辺境の街の餓鬼の悪魔騒ぎは止まるや否や?”」

 

 文庫神官 奇跡【天啓】行使(呪文難易度10):

 基礎値15+付与熟達2+加速5+2D664=32 > 難易度10

 奇跡【天啓】発動!!(呪文使用回数5→4)

 

 文庫神官から清浄な奇跡の煌めきが立ち上り、そしてまた一瞬で天から返ってきました。

 知識神への【天啓(インスピレーション)】の奇跡の請願が、文庫神官の問いに答えをもたらしたのです。

 

知識神(かみ)は言っています――答えは“()”であると!!」

 

「その言葉が聞きたかったのじゃ!!」

 

 神様のお墨付きを貰って、即座に半竜娘たちは戦闘態勢に入りました!

 

 

「ちっ、これだから神の奇跡ってやつは……。折角いろいろ考えて準備してた問答の想定が、全く無意味になったじゃないか」

 当然、それを座視する侯爵ではありません。

「だが、いいさ。煙に巻いて一旦お帰り願うつもりだったが、やる気だってんなら仕方ない。私有財産の侵害への抵抗、つまり、正当防衛だぜ?」

 

 妖艶に、踊り子のような衣装を翻して立ち上がった褐色年齢不詳美女の自称侯爵もやる気です。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 それでは戦闘開始で――

 

 

カラコロ……

 

 ん? ダイスロール?

 

 ロマの侯爵の第六感判定:20+2D631=24

 

 TS圃人斥候・蜥蜴戦士・交易侍祭 隠密判定(目標値24):

 TS圃人斥候:技量集中9+隠密3+斥候Lv7+2D622+擬態ポーション14=37 > 目標値24 成功!

 蜥蜴戦士:技量集中6+2D613+擬態ポーション14=24 ≧ 目標値24 成功!

 交易侍祭:技量集中4+2D621+擬態ポーション14=21 < 目標値24 失敗!

 

 

「誰だ!?」

 侯爵が鋭く誰何したのは、この天幕の入り口の方です。

 その入り口を遮っていた布が、不自然に持ち上げられています。

 

「(……見つかった!?)」

 

 交易侍祭 【祈念】(目標値:現在因果点4):

 2D645=9 > 因果点4

 祈念成功!!(因果点4→5)

 因果転変! 交易侍祭の【隠密】判定は成功した!

 

「よそ見はダメよ?」

 森人探検家が鋭く飛ばした矢が、侯爵の意識の隙を()いて、邪神像へと向かいます。

 森人(エルフ)の絶技は、室内でも健在です。

 

「ちぃっ!」

 しかし、侯爵はなんと、その矢を素手で払うようにして軌道を反らしました。

 矢は天幕に穴を空けてあらぬ方向へと飛び去りました。

 

「ほぅ、邪教の武僧というわけかや?」

 半竜娘がその熟練の武技に感心します。

 ロマの侯爵の武術は、エルフの弓矢を叩き落とせるほどの練達の域にあるようです。

 

「まあそんなところさ。私もかつてはこの手で数々の異端を屠ったものだ」

 おそらくは何処かの道場で体系的に体術の訓練を受けたのでしょう。

 侯爵は軽くステップ……おそらくは舞踊と武術を合わせたステップでしょう……を踏んでいます。

 その位置取りから見るに、周囲の家具を蹴り飛ばしたりして攻撃してくることも想像できます。

 

 侯爵の頭からは、既に先ほどの違和感――新たな侵入者の存在――は消えてしまっています。

 

 

 つまり、不意打ち成立!!

 

 ――――CRAAAASSHH!!!!

 

 次の瞬間、侯爵の背後――邪神像の方から、けたたましい破砕音が響きました!!

 

「な、なんだと!!?」

 狼狽する侯爵が振り返った先では、邪神像が、見えない何者かによって引き倒され、バラバラに粉砕されていくところでした。

 

「や、やめろぉおおおおお!!!」

 血相を変えた侯爵が叫び、邪神像の破壊を止めようと、見えない何者かに向かって、周囲のものを蹴り飛ばし、投げ飛ばしていきますが、もう遅いのです。

 邪神像は、既に決定的に破壊されてしまっています。

 

 ここに、邪教の企みは潰えたのです!

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 ――時間は少し遡ります。

 

 半竜娘たちがロマの侯爵の方へと向かったあと、歓楽街では散発的に、乞食たちが周囲のものに噛みつくという騒動が起こっていました。

 店の用心棒として残されたTS圃人斥候と、鮫歯木剣(テルビューチェ)の蜥蜴戦士、その連れの交易侍祭も、その鎮圧に駆り出されていました。

 

「これやっぱさっきの大食い女と同系統だよなー」

 ある意味暢気そうにも聞こえる口調で、TS圃人斥候が、ため息とともに鞘に入れたままの剣を振るいます。

 店の外での騒動ですが、互助のために飛び出て対応していたのです。これも用心棒依頼のうちです。

 

「とはいえ、さっきの餓鬼の悪魔ほど強くはありませんね」

 交易侍祭が、豊満な身体を揺らしながら走ってくると、TS圃人斥候が打ち倒した乞食を、素早く拘束します。

 賊の捕縛術というのも、きっと交易とは切っても切り離せないせいでしょうか。

 その手つきは優美な容貌とは裏腹に手慣れたものです。

 

「オラァ! これでこの辺のは最後だろ、多分!!」

 蜥蜴戦士は鮫歯木剣(テルビューチェ)の腹を棍棒のように使って、暴れる乞食を吹っ飛ばしたところです。

 彼の言うとおり、周囲で暴れる乞食たちは、もう特にいないようです。

 吹っ飛ばされた乞食の方へと、交易侍祭が駆け寄って、さっと手際よく捕縛しました。

 

 捕縛した乞食たちを引きずって、一所にまとめます。

 

「んじゃ、浄化頼んだぜー。聖水を持ってるとか、流石、聖職者だよな」

 TS圃人斥候が交易侍祭へと頼みます。

 

「任されましたわ。巡り巡りて風なる我が神、この者らを覆う悪しき雲を吹き祓い、自由の空を取り戻させ給え……」

 交易侍祭は、浄化の聖水を取り出すと、餓鬼(Lv1)に取り憑かれた乞食へと、祝詞(のりと)とともに振りかけました。

 

『『『 GGAAKKYYIIIOYAAA……!!?? 』』』

 聖別された聖水により、乞食たちの身の内に巣食っていた飢餓の悪魔が浄滅されていきます。

 憑依していたのは程度の低い悪魔だったせいか、聖水が十分効いたようです。

 

 やがて、完全に祓い清められたのか、邪悪な気配は感じられなくなりました。

 乞食たちが生きているかどうかは、ちょっと分かりません。

 殺すつもりはありませんでしたが、死んでも仕方ないつもりで攻撃してましたからね。

 ただ、中身の餓鬼が肉体を喰い破って顕現しなかったことから、おそらく乞食たちはギリギリ死んではいなかったのでしょう。

 

 

 ――とんとん。

 

「んぁ? って、リーダーの人形じゃねーか。そーいや多少の自律行動ができるようになったとか言ってたか」

 

 いつの間にかTS圃人斥候の肩に乗っていたのは、手を翼にした半竜娘の死霊人形(デフォルメフィギュア)でした。

 おそらく【竜翼(ワイドウィング)】が仕込まれた竜血ポーションの効果で飛行し、伝書小竜としてここまでやって来たのでしょう。

 その足には、伝書が括りつけられています。

 

「ん、伝言か。えーと――エルフパイセンとは合流済み、“侯爵”の居場所判明、出来れば合流されたし、と」

 

 TS圃人斥候は周囲を見渡しますが、まあ、歓楽街の方は、少なくともこの周辺は片付いたみたいです。

 周りの音を拾うと、少し遠くでは鎮圧に失敗したところもあるようで、まだまだ喧騒は止んでいませんが。

 おそらく、もっと手ごわい餓鬼が紛れ込んでいたり、依り代を殺したことで憑依していた悪魔が肉を喰い破って顕現したりしているようです。

 

「こりゃ埒が明かんなー。よし、合流するか。おーい、デカ鱗! 黒幕の方いくぞー、付いてくるかー?」

 

「おっ、いいな、もちろん行くぜ!」 「じゃあ、私はお店の方に断り入れてきますね」

 蜥蜴戦士は即答。交易侍祭が店の方に、周囲が片付いたことと、元凶を叩きに行くことを知らせに行きました。

 

「じゃ、行こうぜ」

「おう!」 「はい!」

 

 

 …………。

 ……。

 

 伝書小竜となった死霊人形(半竜娘ちゃんフィギュア)に案内されたTS圃人斥候・蜥蜴戦士・交易侍祭は、ロマたちが(たむろ)する場所に到着しました。

 そのまま、ロマの侯爵が居る大きな天幕の前まで行くと、そこには、半竜娘の分身体が立っていました。

 

「おお! よく来てくれたのじゃ!」

 

「状況は?」

 

「ほぼ黒じゃな。中に蟇蛙の邪神像がある。おそらくそれを壊せば良いはずじゃ。いまちょうど、灯明の娘が、知識神に御伺い立てとるが、まあ、間違いなかろ」

 

「了解」

 

 分身体とTS圃人斥候は簡単に情報を共有しました。

 

「【擬態(カモフラージュ)】のポーションは持っておるか?」

 

「ああ、試作品で渡されたもんがあるぜ。3本持ってる」

 

「ちょうど人数分じゃな。手前は、退路の確保のためここで待つことにするのじゃ」

 

「じゃあ、オイラはデカ鱗とその連れと一緒に、ポーションで姿を隠して突入だな」

 

「頼んだのじゃ」

 

 ということで、TS圃人斥候は、手持ちのポーションを、蜥蜴戦士と交易侍祭に分け与えます。

 

「これは……?」 交易侍祭が、薄いピンク色の液体が入った瓶を胡乱げに見つめます。

 

「祖竜術の【擬態(カモフラージュ)】って分かるか? それが込められたポーションだ。それ飲んで、姿隠して突入する」 TS圃人斥候はそれをぐっと(あお)ってみせると、即座にその姿が周囲の景色に溶け込み始めます。

 

「へえ、便利なもん持ってんだな」 蜥蜴戦士は受け取ったポーションを感心して見ています。

 

「うちのリーダーの自作でな。他にもいろいろと作ってるから、その試作品のテストとかも頼むこともあるかもな。何かの縁だし」 光学迷彩で見えなくなったTS圃人斥候の声が虚空から聞こえます。

 

「安全性は確かなのですか?」 交易侍祭はまだ疑わし気にポーションを見ています。試作品の提供と言っても、人体実験なんて御免ですからね。

 

「【鑑定】の魔道具で確認済みだ。テストって言っても、使い勝手とかそういう改良点の洗い出しだよ」 ――あ、瓶は捨てるなよ、保存の魔道具だからな。と言いつつ、TS圃人斥候は天幕の中へと入ろうとしているようです。見えない何かが、入口の布を押しのけているのが分かります。

 

「それならよろしいのですが」 意を決してポーションを飲んだ交易侍祭の姿も、景色に溶け込んでいきます。

 

「おー、ホントに消えた。じゃあ、オレも、っと」 蜥蜴戦士もポーションを飲もうとしますが――。

 

 

「あ、【祝福】の奇跡かけるなら、姿が消える前にしとけよ。見えなくなっちまうと、かけらんなくなるからな」

 

「おっと、確かに」

 

「じゃあ、【祝福】の奇跡を請願しますね……巡り巡りて風なる我が神――」

 

 蜥蜴戦士は、TS圃人斥候の言葉に飲むのを止めると、すかさず交易侍祭が【祝福】の奇跡を使って、鮫歯木剣を強化しました。

 そして改めて擬態のポーションを飲んで、姿を消します。

 

「んじゃ、突入~!」

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 相手(ロマの侯爵)の技量が予想以上だったので*1、交易侍祭が見つかりかけたりもしましたが、同じ交易神を信仰する森人探検家のフォローによって、事なきを得て、無事に邪神像を破壊するに至りました。

 

「あ、ああああああぁぁぁぁぁぁ…………、私の、私の夢が、飢餓のない世界が、ああああああぁぁぁぁ……」

 

 不敵な態度を見せていた侯爵ですが、いまは、その片鱗も残っていません。

 呆然自失して膝から崩れ落ち、半開きの口からは譫言(うわごと)のような声が漏れ続けています。

 

「どしたんだ、こいつ? 神像を壊されたくらいでこんなことになるか?」

 【擬態(カモフラージュ)】を解いた鮫歯木剣の蜥蜴戦士が、首をひねっています。

 

「どうやら、自分の魂のかなりの部分を、その神像に注ぎ込んでおったようじゃな」

 それが、神像の破壊とともに失われて、パァになったわけですね。

 半竜娘の霊視には、砕けた瞬間に、邪神像から、何か悍ましい舌のようなものに絡め取られて異次元へと引き上げられていく魂の欠片がはっきりと見えていました。

 

「ああ、邪悪なアーティファクトには、魂を吸い込んで、そのパワー(POW)を貯め込むようなのもあるって聞くわ。そのクチかしらね」

 トレジャーハンターとして、アーティファクトに詳しい森人探検家が補足しました。

 

「おそらくは、大食い芸人さんみたいに悪魔を憑依させた人たちからも、魂の力を徴収していたんじゃないでしょうか。その代わりに、“なんでも食べられる能力”を与えていたとか。土でも雑草でも何でも食べられるようになれば、食い詰めることもない、とか言って勧誘してたのかもしれませんね」

 知識神と【天啓】の奇跡で繋がったときに垣間見えたイメージ(シナリオハンドアウト)を思い出しながら、文庫神官が推測交じりに言いました。

 

(いなご)かっつーの。まあ、その辺は衛兵たちが調べるだろーさ。オイラたちは知る必要のないこった」 TS圃人斥候は、砕けた邪神像の破片に念入りに浄化の聖水を掛けながら語ります。「邪悪は打倒され、街は守られた。冒険成功、めでたしめでたし――ってな」

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

◆リザルト◆

 

 飢餓と(ハングリー・)暴食の(グラトニー・)蝗軍(スウォーム)】の発生を未然に阻止した!

 半竜娘一党は、経験点1000点、成長点3点獲得!

 文庫神官は、冒険者Lv6に成長! 成長点25点を追加獲得!

 

 

 

*1
“ロマの侯爵”のデータ:怪物Lv10の“大悪漢(ヴィラン)”のデータを流用。HP100の強敵。冒険者としての技能は、武道家Lv9、神官Lv9の銀等級上位冒険者相当として想定。要は、元はプレイヤーキャラだったのが、SANゼロでロストしてNPC化したやつ。




 
===== 
・ロマの侯爵(背景設定ハンドアウト)
 メタ的には、正気を失った(SANゼロになった)探索者(プレイヤーキャラ)。マーシャルアーツとキックで敵を吹き飛ばす猛者。
 かつては飢餓の発生を憂える心優しい武僧(踊り子装備)だった彼女だが、遺跡で見つけた邪神像に魅入られてしまい、“なんでも食えるようになれば飢えはなくなる”→“飢えた人に何でも食べられるようにしてあげよう”という発想で、飢えた人々を邪教に帰依させ、餓鬼を憑依させていった(侯爵本人としては、神の奇跡を授けている認識)。もちろんそんなことをしても、餓鬼を憑依させられた人々は、さらなる絶え間ない飢えに苛まれるようになるだけだし、得をしているのは餓鬼の憑依により邪神像を通じて被憑依者の魂を(すす)蟇蛙(ヒキガエル)の邪神だけである。
 被憑依者たちの啜られた魂は一時的に邪神像に蓄えられ、その最も近くにいる教祖=侯爵に力を与えることが出来る。
 邪神像の破壊により、憑依していた餓鬼たちは現世との繋がりを失い、異次元へと放逐される。
=====

次回は、春の冒険者訓練所建設編(原作小説6巻)への布石・導入ですかね。
漫画版もそろそろ原作小説6巻編に突入するはずなので、鮫歯木剣の蜥蜴戦士とか交易侍祭たちのビジュアルが楽しみですね!

そしてゴブスレTRPGのサプリが出るぞ!! やった!! 死霊術公式化とか、高位呪文とか、戦士系の『武技』とか、色々追加要素があるみたいです。限定版は受注生産だから2021/3/12までに決断的に予約だー!!(多分付録ナシの通常版もリーズナブルな価格で出してくれるはず?)
→「ゴブリンスレイヤーTRPG」,新種族や新呪文が登場する拡張本“サプリメント”が発売決定。特典付の限定版は5月15日発売 4Gamer.net
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28/n 裏(歓楽街での後始末。そして春に向けて)

閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ありがとうございます! ゴブスレTRPGのサプリ、5月の発売日が楽しみですね! サプリ出たら、多分、キャラの経験点成長点振り直す(をリビルドする)と思います。それか新キャラ作って別キャンペーンか…例えば蟲人のお姫様とか。

「ゴブリンスレイヤーTRPG」,新種族や新呪文が登場する拡張本“サプリメント”が発売決定。特典付の限定版は5月15日発売 4Gamer.net
パケ絵の構図はロードスのオマージュ!? どおりで見覚えが!

原作小説最新14巻のドラマCDつき特装版も予約受付中! SBクリエイティブ
ドラマCDはスワンプマン……だと……?!(違う
表紙絵更新されてる! 妖精弓手さん凛々しい!


●前話:
マーシャルアーツ+キックを極めた元PCの相手とかマトモにやってられないお……だから光学迷彩でアンブッシュして邪神像(マクガフィン)を破壊するお!!
 


1.善き死人占い師

 

 

 飢餓の悪魔に取り憑かれた人々が起こしていた騒動が収束し、半竜娘たちは歓楽街に戻ってきていた。

 というのも、悪魔が暴れて散らかった街のあちこちの片付けを手伝うためだ。

 普段が()()()()なので忘れそうになるが、彼女ら一党の根は善良なのだ(TS圃人斥候は、どちらかというと用心棒として歓楽街との付き合いがあるからだが)。

 

 半竜娘には別の目的もあった。

 

「リーダー、餓鬼に内側から喰われた奴らの骸を集めてどうするつもりだ?」

 TS圃人斥候が、用心棒たちを指揮して集めさせた骸を纏めて置いた場所へと半竜娘を案内した。

 布を掛けられた死体……酷く損壊している……が並び、血と死の匂いが立ち込めている。

 

「まあ、神職として弔うつもりではあるが、それだけではなくての」

 

 竜の吼え声によって餓鬼を身体から追い出したり、精霊術の【放逐(バニッシュ)】で憑依体を吹き飛ばしたり、弱らせたうえで聖水かけて退治したり、そういった方法で()便()()済ませられたケースはまだ良い。

 乞食程度の命など気にせず、中の悪魔ごと殺そうとした場合は悲惨だ。

 乞食が死んだ途端に、中の餓鬼が乞食の死体を内から喰らって顕現して被害が拡大したパターンが幾つかあった。

 彼らの死体が損壊しているのは、顕現する餓鬼の贄になったからだ。

 

 歓楽街で悪魔憑きとして鎮圧される過程で運悪く亡くなった乞食たちの遺骸を前にして、半竜娘は奇妙な手つきで合掌をし、祈りを捧げる。

 ――どうか魂が輪廻の輪を巡り、次は強き生を謳歌しますように。

 

「……()()死人占い師(ネクロマンサー)として仕事をしたいと思ってのう」

 

 半竜娘の霊能の感覚には、魂の大半を餓鬼に喰われて暴食の邪神に捧げられてしまった、犠牲者の乞食たちの亡霊(残留思念)の懇願が聞こえていた。

 

 

 ――侯爵様(あのひと)は悪くないんだ。

 

 ――侯爵様(あのお方)を助けてくれ。

 

 ――俺たちはどうなってもいいから、どうか、侯爵様(あの方)を……。

 

 

「へえ、随分と慕われていたんだな。あの女」

 その嘆きの内容を半竜娘から聞かされたTS圃人斥候は、侯爵と名乗っていた女のカリスマに感心した。

 

「まあ、奴も邪神に魅入られた犠牲者ではあるし、飢えを無くしたいという想いは分からんでもない。餓鬼の憑依という手段はともかく、土や石まで喰えるようになった乞食たちが、それによって一時的に食いつなげたのも確か……――既に、魂の過半を邪神に喰われるという因果も受けておることじゃしな」

 

 半竜娘としては、既に自称侯爵の舞踏武僧に対して、悪感情はそれほどない。

 それは、乞食の霊たちからの懇願を聞き続けているからというのもある。

 それ以上に、練達の武僧であった女侯爵のその腕前を惜しんでという面も、当然ある。

 蜥蜴人は、武に生きる種族であるがゆえに。

 

「で、そいつら(亡霊ども)の願いを聞き届けるのか?」

 何の得にもならないのに? と、TS圃人斥候の口調は揶揄するようなもので。

 

「そうするつもりじゃ。これもまた、功徳の積み方というわけよ、ネクロマンサーなりの、な。……まあ、実は前に、ユールの日の件で、元大家(おおや)殿に叱られてしもうてな……」

 

 半竜娘は少し前に新年のあいさつに、前の下宿先の魔女のところに顔を出した時のことを思い出す。

 

 

 ――「……ワイルドハントは、ね? やっつける、ものじゃ あ、ない の、よ」

 

 ――「死人占い師や、魔女は、ね。ワイルドハントに、加わって、彷徨う魂を、冥界に 送り出す、手伝いを するの」

 

 ――「……蜥蜴人の 貴女の前に、腐竜の姿で、現れられ たら、戦いたくなる、気持ち も、分かる ケド」

 

 ――「彼ら も、血の気…が、多いから、楽しんでた、みたいだけど……次は、ちゃんと、やって、ね?」

 

 どうも、魔女の方に、「お前の街の新入り死人占い師、きちっと教育しとけよな」みたいなお叱りが、界隈で流れてきたらしく。

 半竜娘が霊能に覚醒してネクロマンサーになっていたことすら知らなかった魔女には寝耳に水で。

 おそらく魔女の会合(サバト)で肩身の狭い思いをしたのか……、その声音は優しげだったが目は笑っていなかった。

 

「善き死人占い師に、手前はなるのじゃ!」*1

 迫力のある笑みを見せていた魔女の顔を思い出して、身震いしつつ決意を新たにする半竜娘。

 

「分身の残留思念を使い倒してんのは良いのかよー?」

 

「そっちは、そのうち立派な竜の玉体を創って宿らせてやることを約束しておるから良いのじゃ!! 霊の未練を晴らすのが、善き死人占い師のありかた!!」

 どうやら、自身の分身の消滅後の残留思念を使うにあたって、半竜娘は将来的に依り代を強力なものにすることを対価にしている模様。

 蜥蜴人の霊に、竜の形の依り代を与える約束をするのは、祖竜信仰にも則っていると言える。

 

「では、彷徨う霊たちよ。ここに宿るといいのじゃ、数日内に、貴様らの恩人に会わせてやろうぞ」

 

 半竜娘は、懐から取り出した黒檀(こくたん)の粗削りの玉に、周辺の霊体を集積させていく。

 

「リーダー、それは?」

 

「邪神像の破片を清めて削って丸めたものじゃ」

 

「……大丈夫なのかよ?」

 

「これだけ形態を失っておれば類感的に問題ないし、むしろこれじゃないといかんのじゃ」

 

「……ならいーけどよ」

 

 最後にもう一度合掌し、残された遺体たちを弔う手配をして、半竜娘とTS圃人斥候はその場を後にした。

 

 …………。

 ……。

 

 一度、TS圃人斥候が用心棒をしていた酒場に戻った二人は、別れて街の片付けを手伝っていた森人探検家と文庫神官とも合流した。

 

「あ、お姉さま! 今日はこちらのお宿に泊めていただけるそうですよ!」

 文庫神官が嬉しそうに、席から立ち上がり、酒場の入り口に立った半竜娘たちに声をかけた。

 鎧は脱いでしまっていて、頬は上気している。

 卓に着いていたところを見るに、酒を飲んでいたのだろうか。

 

「拠点があるから良いって言ったんだけどね。でも、時間も遅いし、今日店で出すはずだった酒や食事が余ってるから、それも付けてもらえるみたいだし、ここは好意に甘えることにしたわ」

 森人探検家は、酒場の席に座ったまま声をかけた。

 その卓には、新年の御馳走が並べられている。ご飯作るの面倒なのよねー、と所帯じみたことを言っている。

 この騒動で客が退散してしまったので、行き場のなくなったそのメニューが報酬と慰労も兼ねて振舞われているようだ。

 

「ああ、すぐに行くのじゃ!」 「オイラも飲むぜ!」

 

 半竜娘たちの他にも、歓楽街を守るのに力を貸した者たちも、他の卓に着いているようだ。

 堅気ではない、血と暴力の匂いをさせる者たちが目に付く。

 

 半竜娘とTS圃人斥候が席に付くと、一党の皆で杯を掲げる。

 

「では、新年に!」

「我らの街に!」

「冒険者に!」

「犠牲になった魂に!」

 

「「「「 乾杯!! 」」」」

 

 …………。

 ……。

 

 

 用心棒の後輩たちも相伴に預かっており、あるいは他の冒険者たちとも、途中で話したりもした。

 例えば、交易侍祭が、森人探検家のハイグレードな聖印を見て「わあ、初めて見ましたわ! 大層な功徳(上納金)を積まれたのですね!! いつかは私も……!」と目を輝かせたり、

 闇人の冒険者(闇人の中にも、祈る者(プレイヤー)となって秩序に属する者たちはいる)が、珍しいポーションを作っているという噂を聞きつけて接触して来たり、

 鮫歯木剣の蜥蜴戦士は、その体躯を見込まれて、その斥候らしき黒曜等級の闇人(7人兄弟の3人目で、故郷の地下都市からは、死んだことにして逃げてきたとか)に声を掛けられていたりしていた。*2

 

 途中で半竜娘は、少しだけ卓を離れると、仕掛人(ランナー)らしき者たちが座る卓へと近づいた。

 そのランナーのうち一人は、TS圃人斥候の裸足の足先を熱心に見つめていた……圃人趣味の被虐趣味なのかもしれない。

 

「お主等に、仕掛けを頼みたいのじゃが」

 とはいえ、相手の趣味は関係なく、仕事ができるのであればそれでいいのだ。

 

「あん?」

 胡乱げな目を向けるランナーの一行。

 

 だが、返事を待つ気はない。

 霊視による裏取りは済んでいる。

 

「お主等が、罪人の抽出の仕掛(ラン)を受けた者たちであろ? ああ、返事は結構。ロマの者たちから依頼を受けたのは、()()()()()()

 ついでに、その罪人宛てに配達を頼みたいのじゃよ。魂を喰われたその女の、欠けた部分を補う霊具を届けてほしいのじゃ。……この黒檀の玉がそうじゃ。報酬は全額前金で金貨で20枚」

 

「断ったら?」

 ランナーの一行の中で、怜悧な声をしたおそらく交渉担当らしき者が聞き返す。

 

「そうはしないじゃろうな。なにせ、対象はいま、魂を喰われて廃人のようになっておる。そのままでは抽出任務の成功すらもが危うい。しかし、手前のこの霊具があれば、多少なりとも正気を取り戻すはずじゃ。しかも、報酬も上乗せされる。……断らんじゃろ?」

 

「まあね。断ったら、衛兵詰め所にチクられそうだしね」

 

 交渉成立。

 ランナーたちは、金貨と霊具が入った袋を受け取った。

 

「次からはちゃんと、ローグギルドのフィクサーを通してくれよな? 【辺境最大】さん?」

 

「そうするのじゃよ」

 

 そう言って、半竜娘は直ぐにランナーたちの卓を離れた。

 まあ、これで、餓鬼に喰われた乞食たちの霊の未練も果たされるし、その依代にした黒檀の玉にはあの女侯爵の魂の残滓(邪神の食べカス)をかき集めて放り込んであるから、無事に届けられれば、女侯爵の魂の欠損も多少は癒されるだろう。

 

「女侯爵は相当な手練れじゃったし、そのうちまた会うことがあれば、手合わせ願いたいものじゃな」

 あるいは、女侯爵も助け出された後は、ランナーとして都市の影を走るようになるのかも知れなかった。

 

 

<『1.死霊術ポイント+2! 半竜娘は、使役数と顕現度のパラメーターを上昇させた!』 了>*3

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

2.ゆうべはお楽しみでしたね

 

 

「ふわぁ~あ。うぅ、頭痛いです……」

 

 朝の光の中、文庫神官が目を覚ますと、そこは肉の海だった。

 森人と、圃人と、半蜥蜴人の肢体が、しどけなく肌を晒して、特大サイズのベッドを二つ並べた上で絡まっている。

 

え?」

 

 ばっと周囲を見回す。

 見慣れぬ部屋……そういえば昨日は、歓楽街にある酒場に泊まったのだったか。

 それで、慰労ということで飲み食いして……そこからの記憶が曖昧だ。

 

「ええと、これは……」

 

 とりあえず、服を着る。

 一党の仲間には、シーツを掛ける。

 その途中で、自分の手帳が出てきたため、文庫神官はそれを見た。

 几帳面な字で、昨晩のことの手掛かりが書き並べられていた。

 

「少しずつ思い出してきました……」

 

 知識神の加護は、忘れることを許さない。

 

「そう、確か、なんかピンク色のお酒を飲んだら体が熱くなって……」

 

 思えば、あれは何かのプレイ用の媚薬でも紛れ込んでしまっていたのではないだろうか。

 そのあと、一党全員が鼻息荒く、なんかこう、ええとその、非常に()()()()()()しまって……。

 

「部屋に入って、服を脱ぎ捨てて、吸い付いて、絡み合って……!」

 

 思い出すほどに、顔が熱くなっていくのが分かる……!

 手帳には、なぜか、誰のどこが弱いとか、そういうことがメモされているのだ。

 ――いや、なぜっ!? 確かに気になりますけど!? メモに残すようなことですか、昨晩の私!?

 

「あなたが『蜥蜴人と森人と圃人の違い……わたし、気になりますっ!!』って言って始めたんじゃない。やっぱり只人(ヒューム)って繫殖欲が旺盛よね~」

 

「ひゃわっ!?」

 

 いつの間にか起き上がっていた森人探検家が裸のまま後ろから凭れ掛かってきて、そのまま文庫神官の耳を舐めた。

 はむはむと耳を噛まれ、文庫神官は腰砕けになってしまう。

 

 ――こっちの弱点も把握されちゃってます……!?

 

「ま、一党が()()()なるのは悪いことじゃないわ。これからも、よ・ろ・し・く・ね?」

 森人探検家の甘いささやきが、腰に痺れをもたらし、文庫神官は思わずへたり込んだ。

 

「冒険者の一党なら、こーいう仲になるやつらも居なくはねーし、まあ、いー機会だったんじゃねーの?」

 TS圃人斥候も起きて、悪戯気に二人の方を見ている。

 むしろ美女たちと(ねんご)ろになれて役得と思っているようだ。

 

「気に入った相手と(しとね)を共にするのは、蜥蜴人の習いじゃしな!」

 半竜娘も、まったく気にしてはいないようだ。むしろすっきりさっぱりしている。

 

「さぁて、やられっぱなしも性に合わないし、どうしてくれようかしらね」

「まだ時間はあるしなー」

「おっ、それなら分身出して【賦活】の術を掛けてリフレッシュしとくかの?」

 

「ひゃわわわわ……」

 

 

<『2.第二ラウンド、ファイッ!!』 了>*4

 

 

 

 文庫神官は、一党との絆を深め、【護衛】技能が熟練段階に成長した!(1ラウンド中の攻撃肩代わり回数2→3。成長点15点消費)

 文庫神官は、体力がついて、【頑健】技能が熟練段階に成長した!(生命力+5。成長点15点消費)

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

3.春が来て

 

 

 やがて雪が解け、春になり、人の往来が活発になってきた。

 つまりは、新人冒険者たちの登録ピークの到来だ。

 

 それに合わせてか、以前から計画のあった、冒険者の訓練施設の建設が進められている。

 王都の方で名を伸ばし始めた、軽銀なるものを扱う商会が、大部分を出資しているのだという。

 そこの会頭は、元冒険者の令嬢で、新興の商会として既得権との摩擦を軽減するために、慈善的な事業にも手を伸ばしているのだという。

 

 まあ、特に辺境の冒険者たちが増えることは、人族の勢力圏拡大に大きく寄与するため、完全に慈善事業とも言えない。

 投資としても、十分見込みがあると言えるだろう。

 

 

 冬ごもりを終えた冒険者たちもまた、春になって活動を再開しだした。

 

 鋼鉄から青玉に昇格した、貴族令嬢の自由騎士を頭目とした女だらけの一党は、手堅い仕事ぶりと、義侠心に一目置かれ、ギルドの信頼も厚い。*5

 

 斧戦士、僧侶、妖術師の一党は、抜けた斥候の穴を臨時メンバーで埋めたりしつつも、結局3人で活動している。

 ただ、収穫祭で妖術師が手に入れた(譲ってもらった)新しい呪文書のおかげで、少し余裕ができたようだ。*6

 

 この冬の間に特に名を伸ばしたのは、鮫歯木剣の蜥蜴戦士と交易侍祭を加えた一党だ。

 元からのメンバーは、惜しげもなく肌を晒す鎧を着た戦女神の神官戦士に、一党の指揮官役の軍師と呼ばれる壮年の魔術師、そして秩序に目覚めた闇人の斥候。

 彼らはまだ黒曜と白磁ながら、見るべきものがあるとして、ギルドからも期待されている。 

 

 

 そして、ギルド期待の新人は、他にもいる。

 

 【辺境最大】の異名がすっかり定着した半竜娘は言わずもがな。

 ゴブリンスレイヤーの一党に加わっている女神官も、昨年の春に登録した者たちの中では、良く名が知られている。

 

 そして彼女らの同期である、鉢巻をした青年剣士と、その幼馴染の竜爪使いの女武闘家、学院卒の眼鏡の女魔術師(魔法使い)もまた、徐々に名が売れてきたところだ。

 

「姉ちゃん!」

 その一党に、新たに一人、眼鏡の魔術師が加わろうとしていた。

 女魔術師と同じ赤髪で、眼鏡をかけた魔術師――彼女の弟だ。

 同じく学院の卒業の証である、紅玉の杖を誇らしげに備えている。

 

「よく来たわね」

 女魔術師が笑顔で出迎えた。

 

「姉ちゃんが誘ってくれたんだろ? 魔術の道を究めるなら、早いうちに野に出て研鑽を積むべきだって」

 弟の魔術師も、収穫祭以来の再会に笑みをこぼす。

 

 季節は春。

 希望に満ちた、出会いと始まりの季節である。

 

 

<『3.そしてまた、怪物たちも活動を活発化させる季節でもある。まったく、世に冒険の種は尽きまじ、ということだ』 了>

 

 

「……姉、か」

 赤髪の魔術師の姉弟を一瞥し、思わずつぶやいた小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)の心中は、果たして――。

 

「ゴブリンスレイヤーさん?」

 立ち止まった小鬼殺しに、女神官が下から覗き込むようにして問いかけた。

 

「いや」小鬼殺しは(かぶり)を振って、ずかずかと再び歩き始める。「ゴブリン退治に行くぞ」

 

 彼は小鬼を殺す者(ゴブリンスレイヤー)

 しかし、かつては彼も、“弟”だったのだ。

 

 

*1
善き死人占い師/悪しき死人占い師:呪術師と呪詛師みたいな関係かなー、と(呪術廻戦)

*2
7人兄弟の3人目の闇人:多分、故郷の地下都市では、トラブルシューターだった。私が死んでも代わりは居るもの、を地でいく過酷な取り扱いと、パラノイアを患っているとしか思えない首脳部に嫌気がさして出奔したようだ。

*3
半竜娘:◎死霊術パラメータ: 累計ポイント6→8 現在ポイント0

◇干渉範囲

 使役数:3(同時に25体の霊魂を使役可能。→維持可能な呪文数が増えた)

 顕現度:2(霊感のない人間に対してはっきりと見せるくらいのことができる。屍肉や依代に憑依させた場合にそれらを普通に動かさせることが出来るようになった)

*4
森人探検家の対応の違い:

Q.牧場戦直後は娼館に引き渡してたけど、今回は満更ではないのは?

A.遠征や収穫祭デートや冬山を経て、好感度が足りてたから。

*5
貴族令嬢一党:『10/n 山砦粉砕炎上』で半竜娘に同行した一党。堅実に実績を重ねている模様。

*6
斧戦士、僧侶、妖術師の一党:TS圃人斥候が元居た一党。原作小説ではこのあとも地味に出番が増えている。




メリー・ユール!(一日遅れ)

寒い中、病魔が猖獗(しょうけつ)を極めております、みなさま体調にはお気を付けください。

越冬編終了! 次回から原作小説6巻(訓練所襲撃編)です。
新人冒険者たちを、半竜娘の()()()()()が襲う!!
小鬼襲撃時の彼ら新人冒険者や大工、人足たちの犠牲を減らすことが命題になりそうですね。

追記
RTA in Japan 2020  12/27~12/31開催!
走者の皆様の配信スケジュールはこちら


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二周目レギュRTA 目指せ【辺境四天王】~二年目の春編~
29/n 冒険者訓練所にて-1(ドラゴンエントリー)


閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ありがとうございます! RTA in Japan2020が面白いので初投稿です。そして感想は作者の糧です、ありがとうございます!

●前話:
ひゃわわわわわっ

=====

Q.蜥蜴人が好みの者と褥を共にすることを好むっていうけど、蜥蜴僧侶さんはどうなん?
A.おそらく蜥蜴僧侶さんは蜥蜴人の中でも一等理性的な部類なので、欲望を露わにはしないと思います。出家してるし(なお任意のタイミングで還俗すると思われ)。でも、妖精弓手さんには、“竜になった後も末永き付き合いを”とちょくちょくアプローチしている節があるような? 単に永久(とこしえ)友誼(ゆうぎ)を、というだけかもしれませんが。

=====

※風雲マンチ城は魅力的なネタなのですが、どっちかというと原作小説13巻(迷宮探索競技編)向けのネタなので熟成させます……!

 


 

 

 はいどーも!

 邪神に魅入られた者たちにバチコンかまして、新年火水始め(ひめはじめ)*1した半竜娘ちゃんたちでした。

 

 今回は、前回から時間が空いて、冒険者登録二年目の春ということでやっていきます。

 一年間で白磁等級(第十位階)から翠玉等級(第六位階)まで冒険者の等級を上げたのは、なかなか頑張っていると思います。

 目指せ、在野最高位の銀等級(第三位階)

 ゴブスレさん(辺境最優)槍使い兄貴(辺境最強)重戦士兄貴(辺境最高)ら【辺境三勇士】と並び立ち、【辺境最大】を加えた【辺境四天王】になるのです!!

 

 さて、新年から春先までの空白期間の半竜娘ちゃんですが、地道に魔道具作成の腕を磨いたり、地下通路で果てた白磁等級の冒険者の亡骸や亡霊を弔って善き死人占い師(ネクロマンサー)としての徳を高めたりしていました。

 ゴブリン退治もしてましたよー。弔った遺体や魂の中には、ゴブリン退治で見つけた犠牲者たちの分も含まれます。

 

 

 半竜娘は、地下で彷徨える魂を、地上の光の下に導いた!(死霊術ポイント1点獲得)

 半竜娘は、地下で力尽きた者たちの遺体・遺品を一定数以上回収した!(死霊術ポイント1点獲得)

 半竜娘は、霊的チャネルを拡張し、干渉可能な時間範囲を拡大した!(死霊術ポイント2点消費)

 

 

 

 あとついでに、地下水路の(どぶ)(さら)いの手伝いも。

 結界を張るだけでも、新人たちの危険は格段に下がりますし、(どぶ)(さら)いの途中で遺品だとかが見つかることもありますしね。

 お互いにとって利のある関係です。

 

 これらの依頼は、難易度としては大したことはないので、経験点はナシで、成長点を1点だけ獲得した扱いにします。

 

 

 半竜娘一党は、細々としたルーチン的な依頼の達成により、成長点1点獲得!

 

 

 

 冒険者ギルドにて。

 

「いつものように地下水路に入るときに【狩場(テリトリー)】の祖竜術を使っておったから、大鼠や大黒蟲には遭わんかったぞ」

 半竜娘ちゃん(分身体)は、冒険者ギルドの受付で、本日の成果を報告しています。

 一応、恒常依頼の遺品回収ということで受けています。

 

「はい、今回もありがとうございました。(どぶ)(さら)いの新人さんと一緒に潜っていただいたおかげで、地下水路もだいぶキレイになりました! 【浄化(ピュアリファイ)】の奇跡まで使っていただいちゃって……」

 報告を受けた受付嬢も、恐縮しつつも満面の笑みです。

 

「はい! 私もお姉さまと一緒に頑張りました!!」

 半竜娘の隣で一緒に報告をしていたのは、文庫神官です。

 文庫神官が賜っている【浄化】の奇跡によって、地下水路はかなり綺麗になっています。

 おかげで、周辺住民からの反応も上々です。臭いが消えた、鼠や蟲を見なくなった、と。

 

「でも、よろしいんですか? 一緒にいた新人さんたちの服や体も一緒に【浄化】していただいちゃって。……その、奇跡の術の無駄遣いを神様に咎められたりとか……」

 溝浚いあがりの新人たちも臭わなくなったのは、冒険者のエチケット向上という面でも、ギルドとしては実際かなりありがたいのですが、信仰とか神様のご機嫌というのは難しいものがあります。

 変な奇跡の使い方をして、奇跡の術を取り上げられてしまうこともないとは言えませんし、そこまでして貰うわけにもいきません。

 

「御心配ありがとうございます、でも、それは大丈夫ですよ。きちんと布教もしてますから! 知識神様も御許しになられるかと!」

 胴鎧の胸元に輝く、灯明を象った『知識神の聖印』を誇らしげに掲げて、文庫神官ちゃんが胸を張ります。

 聞けば、移動中に、街の看板を使って簡単な文字の読み方を教えたり、溝浚い中に数え歌を一緒に歌ったりと、知識の啓蒙に努めているとのこと。

 

「あ、あはは、そうなんですね~。それはそれでどうなんでしょう……

 うーん、ギルドは信仰的には中立なんですけど……。と、受付嬢は微妙な表情です。

 

 

 

「――では報告はこんなもんかのう。そろそろ手前らは帰ると――」

 その後も細々とした補足をして、本日の報告を終えて、半竜娘(分身体)が席を立ったその時です。

 

「うおっ!? なんだっ!? ギルドの中にモンスター!!?」

 冒険者ギルドの席の方から、若い変声期に差し掛かったくらいの少年の声が。

 見れば、そこには真新しい剣を下げた少年の姿が。新人でしょうか?

 

 そしてその声が向けられた先は、ちょうど立ち上がった半竜娘の方でした。

 

 ……さて、半竜娘ちゃんの恰好について、今一度描写しておきましょう。

 

 艶やかな烏の濡れ羽色の流れるような長髪と、後ろに伸びた二本の角、それと同色の細かな鱗に覆われた四肢と尾。

 凛々しい美貌は、意志の強い瞳と、肉食獣を思わせるギザギザとした牙を見せる笑みに彩られています。

 頭を支える首は、まるで丸太のように太く強靭。

 胸元は非常に豊満で、思わず生唾を飲み込みたくなるほどの迫力。

 衣擦れの音を減らすように改造された司教服と、その下のミスリルの帷子、そしてさらにその下の鱗を、鍛え上げられた隆々たる筋肉が押し上げているのが遠目にも分かります。

 手には魔法のガントレット、尾にも改造された魔法の装甲。

 両手のガントレットの下からは、殴り裂いた相手から生命力を吸い取るという、赤黒い紋章が這い出ており、いかにも凶悪な竜の爪で覆われた手へと続いています。

 腰元に結わえられたのは、非常に生っぽい感触の見た目の、蜥蜴人を(かたど)った人形たち……ていうか、なんか(かぜ)もないのに蠢いているような?

 尻から足先に掛けては、女性的な丸みを帯びたラインが。しかし内包した力強さも余さず主張しています。

 足首には、魔法のアンクレットが輝き、さらにその下には鋭い蹴爪を備えた足先が。

 

 そして何より、大型の灰色熊(グリズリー)ほどもある身の丈!!

 【辺境最大】にして、【鮮血竜姫】の異名を持つ者!

 

 それが今の半竜娘ちゃんです。

 

 実際コワイ。

 綺麗だけど怖い。

 デッカいからね……。

 

「――帰るとしようかと思ったが、急用ができたのじゃっ! フハハハ!」

 半竜娘ちゃんはモンスター呼ばわりも何のその、かえって喜色満面となって、不躾な声を上げた新人へと近づき、(わめ)いてじたばた抵抗するのを歯牙にもかけず、その襟首を掴み上げました。ケンカを売られたなら仕方ないよね!

「隣の空き地を借りるのじゃ! 怪物呼ばわりというのは、まあ喧嘩売っとるようなもんじゃよな? 買ってやるから、いっちょ揉んでやろうぞ!!」

 へへへ、大義名分ゲットだぜ……。

 

「ちょ、え、ええっ!? た、助けて! って、翠玉等級!? 冒険者なの!? この人!?」

 半竜娘の胸元の冒険者証にいまさら気づいたのか、吊るされた新人が驚愕の声を上げますが、もう遅いのです。

 血の気の多い蜥蜴人に闘争の口実を与えるとどうなるか、彼はその身で思い知ることでしょう。

 

「あはははー……。お手柔らかにしてあげてくださーい……?」

 それ完全に単なる口実で、ただ暴れたいだけですよね? という言葉は飲み込んで、受付嬢は引き攣った笑みを浮かべています。

 まあ、稽古をつけるだけですよ、ご安心を。

 チート勇者に絡むカマセ冒険者的なムーヴのような気もしますが、稽古ですったら稽古です。

 

「あーあ」 「またかよ、ご愁傷様」 「【辺境最大】のこと、いっそギルド前に貼り出しといたほうが良いんじゃないか」 「“超でっかい半蜥蜴人の女が居るけど、驚かないでください、ちゃんと冒険者です”って?」 「やめろよ、賭けが成り立たなくなるだろ」 「ていうか新人で字が読めるのそんな多くないだろ」 「ちっ、今日は連れてかれるのは居ねー方に掛けたんだがなあ」

 冒険者ギルド内の冒険者たちが、好き勝手になんか言ってますね。

 

 と、まあ、彼らのやり取りからも分かる通り、それはここ数日の風物詩となった光景でした。

 それだけ、半竜娘のことを知らない新人冒険者が流入しているということです。

 

 なんせ春ですからね。

 冬が終わって雪は融けて街道が通れるようになり、馬鈴薯や葉物の作付けはひと段落して村内での労働力としての需要が落ち着き、しかし、初夏に始まる麦の収穫(重労働)に付き合いたくはなく、また、麦の収穫までの食糧で食いつなげるかが心もとないこともあり、村を出て大きな街にやってくる若者たち……というのは、やはり多いのです。

 

「では私はお姉さまの応援に……。失礼しますね」

 文庫神官が、敬愛するお姉さまの勇姿を目に焼き付けんと、後を追って空き地の方へと向かいました。

 

「はーい、お疲れ様でしたぁ」

 どっと疲れた受付嬢は、ひらひらと手を振って彼女らを見送りました。

 

 

 そこに飛びながら近づいて来る、羽衣を浮かせた深い水の色の髪をした美女の姿が。

「おつかれみたいねえ。【命水】要る? サービスしとくわよ?」

 そうです、羽衣の水精霊です。

 半竜娘ちゃんが死霊術で維持できる分身の残影のストックが増えたので、それに精霊顕現を維持させて酒場に入り浸っているのです。

 

 この水精霊は、お酒を奉納するのと引き換えに、疲労と傷を癒す【命水(アクアビット)】の精霊術で作った水を振舞ってくれるということで、すっかりギルドの酒場に馴染んでいます。

 彼女に奉納する上等なお酒を買い求める冒険者が増えたおかげで、そのお酒の生産元である地母神寺院も潤っているとか。

 また、【命水(アクアビット)】の術により、療養回復の期間が短くなり、いつも元気溌溂として依頼に向かう冒険者たちが増えたことで、ギルドの依頼達成数・依頼達成率ともに伸びています。

 副次的な作用として、水の大精霊が常駐する影響か、精霊使いとして目覚める冒険者も増えつつあるようです。

 

「いえ、それほどの疲れではありませんし、もっと深刻な方に――というか、このあと半竜の術士さんにやられて運び込まれるだろうさっきの新人さん用に取っておいてください」

 受付嬢は奥ゆかしく遠慮しました。

 事務職が疲労しないとは申しませんが、冒険者の方が、疲労の影響がより致命的(クリティカル)なのは言うまでもありませんからね。

 

「そう? それならいいけどー」

 羽衣の水精霊は、そう言って、彼女の定位置――お供えの酒瓶が束になっておかれています――に戻っていきます。

 最近は、半竜娘が自作した、常に浄水が循環するような機巧(からくり)が組み込まれたインテリア兼用の魔道具も、祠代わりに備え付けられており、羽衣の水精霊の顕現をより強固にできるようにサポートしています。

 冒険者たちの感謝の気持ちが、その浄水循環のインテリアに蓄積され、羽衣の水精霊の力になるのだとか。

 

「……いえ、職員もお世話になってるので良いんですが、いつの間にかギルドの一角が侵食されているのは、それはそれでどうなんでしょう……」

 ――実利もあるだけに、半竜の術士さんに物申すのもどうかと思いますし。

 受付嬢は少しだけ思い悩み、結局は棚上げすることにしました。

 ――実害が出てから考えましょう。わざわざ自分から仕事を増やすことはありませんよね。

 

 

「それでは次の方どうぞ~」

 受付嬢は笑みを浮かべて、順番待ちの冒険者を呼びました。

 見れば、新人の登録のようです。

 

 ――無事に経験を積んでいただければ良いんですけれど。

 

 こればかりは、ギルドの受付嬢が心配したところで、結局最終的には、宿命(フェイト)偶然(チャンス)の出目次第。

 さて、目の前の冒険者は、一体どんな冒険をするのやら。それを知っているのは、二つの骰子だけなのです。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 ゴブスレさんと牛飼娘さんの出身地の村の跡地にて、冒険者訓練所の建設が進んでいます。

 

 半竜娘ちゃんは、【一般技能:職人(土木)】の技能を持っています。

 また、自身の分身体の残影を依り代人形に宿らせて、呪文維持を安定化させることで、非常に長時間【巨大】の呪文を維持することも最近出来るようになりました。

 

 つまり?

 称号【人間重機】の面目躍如で、工事現場では引っ張りだこ。

 めっちゃ勤勉に働いています。

 

 工事の工程表も、半竜娘ちゃんの加入(アサイン)により相当前倒しされています。

 原作小説よりも進捗(しんちょく)早いですね。

 ただ、その分、浮いた工期と予算で、訓練所の施設を充実させる方向で進んでいるようです。

 ……いえね、技術料として半竜娘ちゃんに結構な額を渡す話があったんですが、半竜娘ちゃんがそれを辞退して、代わりに施設の充実を言い出したんですよ。

 

 とりあえず、広範囲に巨大化半竜娘ちゃんが踏み固めたグラウンドを用意するところから始めるみたいです。

 何にせよ体力作りからです。走れ、走るのだ、冒険者は走ってナンボだ。

 あと、武器を思いっきり振り回せる環境って、武器習熟のためにはやはり必要ですからね。

 

 予算がさらに余れば、樫人形(ウッドゴーレム)を生成管理する魔道具――辺境の街近くの知識神の文庫(ふみくら)に納めたものと同じシリーズで半竜娘一党の拠点にも導入済み――を配備して、模擬戦もできるようにするつもりなのだとか。

 

 

 Q.なんでそんなに手厚くするんです?

 

 A.新人を育てて死なせないようにすることで、冒険者の裾野を広げ、その中から頭角を現した上澄みを半竜娘ちゃんが収穫(手合わせ的な意味で)するため。山は裾野が広いほどに標高を高くできる!

 

 メタ的には、設備投資によって冒険者の技量向上に+○○%の補正がかかるようになる感じです。

 

 

 と、重機として働く半竜娘ちゃんの元に、蜥蜴僧侶さんが近づいてきてますね。

 

「おーい、姪御殿ー!」

 巨大化した半竜娘ちゃんに聞こえるように大声を上げる蜥蜴僧侶さん。

 その手には、依頼票らしき紙切れがあります。

 

 蜥蜴僧侶さんとは、血縁(半竜娘ちゃんの母方の叔父)だけあり、お互いの冒険上がりに突発チーズパーティ(「甘露ッ!」「甘露ォ!」)したり、休みの日に【竜翼(ワイドウィング)】のポーションで飛竜形態になって一緒に遊覧飛行(空から目についた怪物を狩猟)したり、空いた時間に頻繁に他の武道家職の冒険者を巻き込んで武術の手合わせしたりするくらいには、家族仲が良好です。

 

「おーぅ、叔父貴殿じゃないかやー! 手前(てまえ)に何か御用事かのー?」

 工事の手を止めてそれに応える半竜娘ちゃん。

 

「いかにも! 拙僧と姪御殿に、冒険者ギルドから指名依頼とのこと!」

 

 ほうほう、指名依頼ですか。

 ギルドの貢献点稼ぎには良いですね。

 報酬は良い場合もあり、渋い場合もあり――今回は、渋い方ですね。

 というか、「ギルドで新人にちょっかいかけるんだったら、その技能を生かして、新人たちに普段はできない経験を積ませてやってほしい」っていう内容ですね。ギルド内で新人に手荒い歓迎をするくらいなら、きちんと場を整えるからそっちでやれってメッセージのような気もします。

 その内容はある程度お任せ、みたいですが。

 

「叔父貴殿には、なんぞ考えはあるかや?」

 半竜娘ちゃんにも腹案はありますが、とりあえず目上の者に聞いてみるべきでしょう。

 ……まあ、考えてることは同じっぽいですけどね!

 

「新人らには、ドラゴンスレイヤーを夢見る者らも多いと聞きまする。――姪御殿は、“竜との偶発的(ランダム)遭遇(エンカウント)”の教訓はご存じか?」

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 そして後日。

 

 集められた新人冒険者(主に白磁等級。若干、黒曜等級も)を前にして、日傘を差した受付嬢が、朗らかに告げます。

 

「はーい、皆さん! 本日集まっていただいたのは、他でもありません。皆さんも聞いたことはあるかと思いますが、街道を歩いていて竜に出会うこともあるのが、この稼業です」

 

 ざわざわと「ホントに?」という呟きが新人たちの間から漏れます。

 それを聞いているのかいないのか、受付嬢は言葉を続けます。

 

「というわけで、そんな事態に陥ったときに慌てないために、この場を用意しました」

 

 最初に気づいたのは誰だったでしょうか。

 新人たちが空を見上げます。

 

「あれは鳥か?」 「雲か?」

 

「いや――(ドラゴン)だ!!」 「しかも3匹いる!!」

 

 

 【巨大】化、【竜翼】化した半竜娘ちゃん&分身ちゃん+蜥蜴僧侶さんのエントリーだッッッッ!!!!

 

 というところで今回はここまで!

 ではまた次回!

 

*1
火水始め:ひめはじめ。火や水を初めて使う日(()()あります。たぶんガセ。)。現代にはえっちぃ意味で伝わっている。





「ギルドの受付嬢はドラゴン使いらしい」という噂が立ったとか立たないとか。
次回、巨竜化蜥蜴人×3VS.新人冒険者たち、の予定。

=====

原作を応援するのは二次創作者の嗜みゆえご容赦をば……。

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29/n 冒険者訓練所にて-2(走れ新人冒険者)

閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ありがとうございます! ここ好き(仮)も参考にしています! ありがたやー!
あけましておめでとうございます、2021年も御笑覧いただければ幸いです! よろしくお願いいたします。


●前話:
エントリィィイイイ!!

===

Q.受付さん、受付さん、ギルドを介して依頼出せば巨竜化可能な冒険者を貸し出していただけるんです?
A.ギルドが審査して正当適正な依頼として認めたうえで、当該冒険者が了承すれば可能です。決して私が竜使いというわけではないですし、昨年春のドラゴンストームに私は関与していませんから、噂を真に受けて勘違いなされないようにお願いいたしますね。

Q.そんな冒険者(ドラゴラム使い)が悪落ちしたらやばくないです?
A.銀等級以上は割とそんなものですね(寝返ったらやばいのは常識です)。そうならないためにギルドの等級審査は信頼度も含めて審査しています。(そういう不逞な輩の始末は、仕掛人(ランナー)に外注しているという話も……)

 


 はいどーも!

 新人冒険者たちをカワイガル実況、はーじまーるよー。

 

 前回は、半竜娘ちゃん()と蜥蜴僧侶さんが、新人冒険者たちの上空から襲いかかってきたところまででしたね。

 

「「「 GRRUUUAAAAAHHH――なのじゃ!(でありますぞ!) 」」」

 

「「「「 ひぃいぁああああ!!? 」」」」

 

 上空から響く竜の吠え声に、20名近く集まった新人冒険者たちのうちほとんどは、半ば恐慌状態です。

 

 ランダムエンカウント表でドラゴンと遭遇する可能性は常に存在します。

 実際、昨年の春に半竜娘ちゃんが冒険者登録初日に、地下水路の未踏遺跡の転移罠に干渉して、()()()()()()()東部最前線で暴れていた黒鱗の古竜の根城に転移で侵入できたので、これ幸いと財宝を根刮(ねこそ)ぎにしたところ、その持ち帰った中にあったアラート発信系の魔道具を目印に古竜一族が大挙して転移してきてドラゴンストームになった実績がありますからね。……不幸な、事故でしたね……。

 まあ、発端となった半竜娘ちゃんが責任持って八面六臂の大活躍をして治めた(竜の屍山血河を築いた)ので、街には大きな被害は出ませんでしたが。

 

 というわけで、ドラゴンとの遭遇は、単なる与太話とするには、最近の出来事すぎます。

 ちょうど良い技能*1を持ってる冒険者(半竜娘ちゃん)もいるので、度胸をつけさせるというか、突発的なピンチに見舞われることに免疫をつけさせるためにも、と、親切心から冒険者ギルドは今回の件を企画したみたいです。

 想定外の事態に、いかに冷静に対応できるか、そして立て直せるかというのが、冒険者の生存能力に大きく関わってきますからね。

 

“ドラゴンに追われた経験があれば、まあ、大抵のことでは動じなくなるだろう”……と、辺境最高の一党の頭目さんからもお墨付きもいただいています」

 受付嬢が日傘を持ったまま、場違いに朗らかに告げます。

 新人冒険者たちの緊張をほぐそうとしてのことなのでしょうが、かえって迫力が出てしまっているのは不幸ですね。――これも全部、半竜娘ってやつが悪いんだ!

「では、講師のお三方ー! よろしくお願いしまーす!」

 

「く、来るぞぉ!!?」

 

 上空で旋回(出待ち)していた三体の巨竜が、ついに降下を始めたのです。

 

 ドラゴンズ――

 ――エントリィイイイイイイ!!!

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 ということで、新人冒険者たちを竜の試練が襲います!

 半竜娘ちゃん()と蜥蜴僧侶さんの巨竜形態は、10倍拡大によって、20~30mの体長に達しています。

 でかい……!

 

 

【挿絵表示】

 

 

 あ、戦場模式図では巨竜化蜥蜴人トリオの装備は描画を省略してますが、実際は装備も含めて巨大化しています。

 つまり、装甲がかなり厚いです。10倍巨大化の時点で、装甲値に+10されるのでさらに厚くなってます。

 

 そして、上空から襲い掛かられた新人冒険者たちの反応は、概ね三つに分かれます。

 

 

 一つは、腰を抜かしてへたり込む者たち。

「ひぃ、ひぃ……!!」 「なんなんだこれは、どうすればいいんだ!?」 「おかあさぁん……」

 

 次は、武器を構えて、あるいは詠唱して咄嗟に応戦しようとする者たち。

「うおおおおおお!!」 「防壁系の呪文を使えーーー!!」 「矢で迎撃しろーー!!」

 

 最後に、脱兎のごとく一目散に逃げだした者たち。

「逃ぃげるんだよぉぉぉおお!!」 「勝てるわけねーだるォォォォォオオオンン!!?」

 

 

 どれが正解かというと――

 

「何もできないのは論外じゃ!」

 

 半竜娘ちゃんの片方が、地響き立ててへたり込んだ新人たちの前に着地し、尻尾や足の甲で掬い投げして優しく(※当者比)ポイポイと飛ばしていきます。

 投げ飛ばされた新人冒険者たちは、上手く受け身をとれるように転がされたおかげか、ダメージは軽微です。

 ……泣きべそかいてますが。

 

 というわけで、何もできないのはダメですね。

 

 

 

「負けねえ! カリブンクルス(火石)クレスクント(成長)ヤクタ(投射)! 【火球(ファイアーボール)】!!」

 

「度胸は認めまするが! 迎撃するには、少々力量(レベル)が足りませぬなぁ!!」

 

 新人のうち、術士の一人――赤毛の眼鏡少年ということは女魔術師(魔法使い)ちゃんの弟ですね――が放った【火球(ファイアーボール)】の真言呪文を噛み砕きながら、巨竜化した蜥蜴僧侶さんは迎撃組を睥睨します。

 赤毛の少年の横では、彼の姉である女魔法使いちゃんが「あちゃー」って顔してますね。呪文を切るタイミングでないのに、弟くんが先走ったようです。鉢巻の青年剣士くんと、竜爪の女武闘家ちゃんは、油断せずに構えていますね。彼らは火吹き山闘技場とか、修羅場潜って経験積んでるはずですが、新加入した弟君の付き添いでこの訓練に参加したようです。

 

「その意気やよし、しかし、相手が悪い」

 

「うそだろ、火球を喰ってノーダメージかよ……」

 

「竜たるもの、炎も毒気も効かぬものと心得ませい!!」

 

 蜥蜴僧侶さん、口の端から火球の余韻を吐き出しながらノリノリで喋りますねえ。

 これは、【竜命(ドラゴンプルーフ)】のポーションの効果で、毒・炎への完全耐性を得ているからこそできる芸当ですね。

 

「あとは(から)め手を覚えませい! 火の玉飛ばすだけが魔術ではありますまい!」

 

「これならどうだ! フォースフィールド!」 「巡り巡りて風なる我が神――プロテクション!」

 

 それに応えてか、他の新人たちで術を使える者たちが、【力場(フォースフィールド)】や【聖壁(プロテクション)】を唱えて守ろうとしますが、蜥蜴僧侶さんはそれを高笑いしながら粉砕していきます。

 

「フハハ! 判断やよし! しかし、残念ながら脆いですなあ!」

 

 術で作られた壁が、蜥蜴僧侶さんに踏み砕かれて消えていきます。

 しかし少しは時間稼ぎが出来ました。

 炎はダメということで弓兵組が、目や口の中を狙って矢を射掛けてきますが――

 

「軽い軽い、風神竜(ケツァコアトルス)の翼を得た拙僧に届かせるには精進が必要ですぞ!」

 

「風で……!?」

 

 蜥蜴僧侶さんの翼腕の一振りで起こされた風によって、全て軌道が曲がってしまい、外れてしまいました。

 まあ、当たってもいささかの痛痒(タメージ)にもならなかったでしょうが。

 それはそうと、蜥蜴僧侶さんは、一番生きの良い新人たちのグループを担当出来て、とても楽しそうですね。

 

「さあ、次々、来ませい!! その武器は飾りですかな!?」

 

「うおおおおお!!」 「こうなりゃヤケよおおおお!!」

 

「おお、愉快愉快! 白亜の園を歩みし父祖よ! 御照覧あれ!」

 

 足元に纏わりついてきた前衛組を、まさに鎧袖一触という感じで尻尾で薙ぎ払って転がしながら、蜥蜴僧侶さんが呵々大笑しています。

 ……蜥蜴僧侶さんが嬉しそうで何よりです。

 

 まあ、竜に立ち向かうのは、ちょっと白磁・黒曜等級だと無謀ですよね。

 

 あ、でも女魔法使いちゃん、青年剣士くん、女武闘家ちゃんは、静観してますね。

 なんか勝算ありげな感じです。

 

 

 

 さて、もっとも正解に近い行動をしたのは、逃げ出した者たちです。

 

「ここまでやるかよォ!?」 「喋ってないで走りなさいーー!!」

 おお、下水鼠退治常連の棍棒剣士くんと見習聖女ちゃんは逃げてますねー。

 

「ひーん!」 「やばいって!」

 他には、重戦士さん一党の若手である少女巫術士と少年斥候たちもですね。

 

 さすが多少なりとも修羅場を潜った者たちは判断力が違います。経験点が足りてます。

 ……半竜娘ちゃんと蜥蜴僧侶さんの恐ろしさを知っているからということもあるでしょうが。

 

「逃げるのは良いぞ! ただし方向を考えよ!」

 

 その上を、もう一体の半竜娘ちゃんが滑空して飛び越えていきます。

 

「遮蔽がなくば空からじきに追いつかれるのじゃ!」

 

 そして行く手の眼前に着地!

 ドォン! と地響き立てて、行く手を塞ぎます。

 

「げげっ!」

 

「さあて、追いつかれたらどうするのじゃ?」

 

 ということで、逃げるにしても、まあ追いつかれる公算の方が大きいのです。

 動けなかったり、勝算なく立ち向かったりするよりは、正解に近いですが、あと一歩というところ。

 

 

 

 では、この場はどのように切り抜けるべきでしょうか。

 

 ちょっと蜥蜴僧侶さんの方を見てみましょう。

 赤毛眼鏡の女魔法使いちゃんと、鉢巻の青年剣士くん、竜爪の女武闘家ちゃんが、なんか腹案がありそうでしたからね。

 

「むっ! 拙僧の尾を受け止めるとは、やりますなあ!」

 

「そりゃ、どーも! っと!」

 

 鉢巻の青年剣士くんが、【護衛】技能で蜥蜴僧侶さんの尻尾の薙ぎ払いを受け止めます。

 さすがに重量が違いすぎるので吹き飛ばされますが、【受け身】技能でダメージ軽減して転がり、そこを控えていた女武闘家に引っ張られてすぐに立ち上がります。

 

「さぁて、それでは少し力を込めてもよさそうですな――」

 

「待って! 交渉がしたいの!」

 赤毛眼鏡の女魔法使いちゃんが、声を張り上げて蜥蜴僧侶さんに呼びかけます。

 

「――ほう?」

 ……そう、今回の竜は、話が通じるのです。

 

「――チーズたっぷり奢るから! 見逃して! できればあっちの竜もやっつけて!」

 しかも、相手の好みも分かっていますからね!

 これは【交渉】判定にボーナスが乗りますよ!

 

「まずは、今の手持ちを前払い! はいどーぞ!!」

 女武闘家ちゃんが、武闘家の投擲技能で、背嚢から取り出したチーズの塊を巨竜化した蜥蜴僧侶さんの口を目掛けて投げます!

 

「――おお甘露よ! んむ、よぉございましょう!」

 投げられたチーズの塊をパクリと食べた蜥蜴僧侶さんは、ぐるりと眼を回すように動かすと、半竜娘ちゃん(へたり込んでた新人たちをポイポイしてた方)へと向き直ります。

 契約成立です!

 

 ――ちょろすぎ!?

 

 

「――うわっ、ちょ、叔父貴殿!?」

 慌てる半竜娘ちゃんに構わず、蜥蜴僧侶さんがその巨体をドラゴンパワーで持ち上げます!

 

「ふはははは! どっせーーーい!!」

 そして投げたーーー!!

 もちろん投げた先は、もう一方の、逃げた新人を追いかけていた方の半竜娘ちゃんだーー!!

 

「ぬわーー!?」 「って、なんじゃーー!?」

 

 どんがらがっしゃーん!

 二体の人面飛竜は、絡み合って倒れてしまいました。

 

 

「はい、そこまで! みなさん、お疲れ様でした、状況終了です!」

 

 受付嬢さんの声によって、訓練は一区切りです。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

「とまあ、今回は、皆さんに竜との遭遇を疑似体験していただくのと、戦って勝てない相手には、そもそも戦う以外の解決方法も選択肢としてあるのだということを知っていただくための訓練でしたー」

 

「えーと、つまり……」

 

「最後のチーズのくだりは、仕込みです♪」

 どうやら蜥蜴僧侶を懐柔するのは、シナリオ通りだったらしいです。

 青年剣士たちも、半竜娘らと同じく、ギルドから事前に依頼を受けていたんでしょうね。

 さすが、そこは抜かりありません。

 

「はー、まじですかー……」

 

「実際の冒険では、頭柔らかくして、別の解決方法を探してくださいね? チーズが好きなドラゴンばかりだとは限りませんから」

 くすくすと笑う受付嬢に対して、新人冒険者たちは緊張から解放されてへたり込んでいます。

 

「それよりあちらをご覧ください。現役の高位冒険者さんたちによる、模範演武です」

 受付嬢の指し示す方を見ます。

 すると少し離れたそこでは、重戦士・女騎士・槍使い・魔女の4人が、巨竜化した半竜娘(分身体の方)と相対していました。

 

 

 

GRRUUAAHHH(ドラゴンブレス)!!」

カエルム()エゴ()オッフェーロ(付与)――竜には、吹雪 よ、ね?」

 半竜娘(巨竜分身体)が吐き出した毒の【竜息(ブレス)】を、魔女の天候操作魔術が吹き反らし、逆に吹雪を叩きつけます。

 

「鬼火の精霊よ、吹雪を溶かす焦熱をここに! 炸裂するのじゃ!」

 しかし、半竜娘は、自分が【竜命】のポーションの効果で炎のダメージを受けないことをいいことに、呼び出した火の精霊(ウィル・オ・ウィスプ)の群れを炸裂させて【熱波(ヒートウェイヴ)】の領域を作り出して吹雪を防ぎます。

 

 熱波と吹雪が相殺して蒸気の煙が発生。一瞬視界を奪います。

 半竜娘は視界が効かなくなったところで、前衛組が仕掛けてくることを予見していました。

 大きく尾を振りかぶり、攻撃をあらかじめ置いておきます。

 

GGRRRUAAAH(尾の一撃を受けるのじゃ)!!」

 魔法の装甲を纏った尾の振り回しが、霧に覆われた地面を舐めますが、それはガギン、という金属音とともに防がれました。

 

「なかなかに重い! 翠玉等級の一撃ではないな! まあ、私の守りは崩せんがな!!」

 女騎士さんが、その騎士盾を構えて防いだのです。

 

「竜をやるときは、尾を切り落とすことからってのは、セオリーだよな!」

 さらに、動きが止まったその尾に、重戦士の“だんぴら(どらごんころし)”の大上段の一撃が炸裂!

「むうっ!?」

 半竜娘(分身体)の尾を、半ば以上輪切りに切り裂きます。

 もう、尾の一撃は使えないでしょう。

 

WOOOORRRHHH(ならば爪じゃ)!!」

 半竜娘は、翼に変わった腕をたたんで、爪の部分でさらに攻撃を仕掛けようとします。

 その爪は、【竜爪】の術によって研ぎ澄まされ、盾や鎧を引き裂く鋭さを得ています。

 

「その攻撃を待ってたぜえ!! 」

 しかし、槍使いがその爪撃を槍でいなし、その回転の勢いのまま、くるくると半竜娘の腕を切り裂きながら、彼女の頭の方へと迫ります。

「竜を相手にゃ、急所への一撃だ!」

 そしてそのまま、魔法の槍を、半竜娘の眼玉に突き刺します!

 

RWOOOHHH!!(見事なり!)

 

 その一撃で許容ダメージを超えたのか、半竜娘の分身体(巨竜バージョン)は、倒れ伏しながら、その存在を薄れさせていきます。

 

「受付さーん! 見てくれましたかー!!」

 槍使い兄貴が、受付嬢と新人冒険者たちの方を振り向き、ニカっと笑ってアピールします。

 

 

 

 

 

「……とまあ、あんな感じです。みなさん、参考になりましたか?」

 

「は、ハハハ……、俺たちも、あんな風になれるんですかね……?」

 

「ええ、生き残って経験を積めば、きっと」

 

 えー、ホントにござるかー? と、新人冒険者たちは半信半疑です。

 とはいえ、先輩冒険者への畏敬の念も新たに、自分たちもああなるんだ! と意気込みを増したのも確かです。

 

「というわけで、先ずは逃げ足を鍛えましょう。依頼を失敗しても、生き残ってさえいれば、何とかなります。むしろ、生き残って情報を持ち帰ることを含めて、冒険者の仕事です!」

 

 その意気が萎えないうちに、とギルド主催の訓練は第二段階に移行します。

 

「では、模範演武の間に息も整ったでしょうし、これから、皆さんには走ってもらいます。……手を抜いた方には、エルフの弓矢をもれなくプレゼントです!」

 

 グルルルという竜の声に釣られて上を見れば、空には半竜娘と蜥蜴僧侶、2体の巨竜の姿が。

 さらに、そのそれぞれの背には、角に手綱をかけて、森人(エルフ)が乗っているのが見えます。

 

 半竜娘の方には、森人探検家が。

 蜥蜴僧侶の方には、妖精弓手が、それぞれ乗っています。

 

 エルフの……竜騎兵……!!

 

「ほーら、走って走って!」

 

 呆けていた新人冒険者たちの足元に、ひゅひゅひゅん、と妖精弓手が巨竜となった蜥蜴僧侶の背から放った矢が突き刺さります。

 

「ちょ、まじで――うわっ、ひぃえっ!?」

 

「どんどんいくわよー! 走って走ってー!!」

 

「ま、待って、うわぁっ!?」

 

「冒険で敵は待ってくれないわよー? それそれそれー!」

 

 妖精弓手たちが勢子(せこ)役となり、新人冒険者ブートキャンプの第二部が始まりました!

 がんばれ新人冒険者たち! 負けるな、新人冒険者たち!

 この経験はきっと必ず君たちの糧になる!!

 

 というところで今回はここまで。

 ではまた次回!

 

 

*1
ちょうど良い技能:祖竜術系の自己バフ(【竜翼】など)をポーション化して他者に付与し、付与系の真言呪文(【巨大】など)を依代に宿らせた分身体の残影によって半永続化できるような技能。




 
蜥蜴僧侶「功徳を積み重ねて、いつか自力で巨竜にいたるのに、よき予行演習となり申した」
妖精弓手「竜に乗って上から撃ち下ろすの良いわね! ねえ、またやりましょうよ!」
蜥蜴僧侶「ははは、であれば【巨大】化の術を姪御殿に頼まねばなりませぬなあ」

エルフの竜騎兵とか、魔法の射程外から弓矢が降ってくるから、魔法で墜落もさせられないし、遮蔽は取れないしで、普通に死ねるんだよなあ……。

次回は、冒険者訓練所周辺の陵墓に巣食ったゴブリン+トロルを、鮫歯木剣の蜥蜴戦士、交易侍祭、戦女神の神官戦士、黒づくめの闇人斥候、只人の術士軍師の5人の一党が攻略する話と、その他別視点を挟む感じですね。


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29/n 裏-1(投資相談、陵墓のトロル)

閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ここ好きタップ、ありがとうございます! 竜人系女子の作品が増えてる気がして「助かる」って思ってる今日この頃。
それはさておき、感想をいただけてとても励みになっています! いつもありがとうございます!


●前話:
エルフの……竜騎兵!!
サカロス神拳奥義(n倍拡大ドランク)を喰らうと墜落してヤバいですが、まだ四方世界には魔法射程拡大技能は実装されていません。 5月に出るサプリには何かしら載るかもしれないですが……楽しみですね!)
 


 

1.“令嬢剣士”改め“女商人”さんにご相談

 

 

 今を時めく軽銀商会の会頭であるハニーブロンドの女商人は、恩人でもある半蜥蜴人の冒険者に会いに、辺境の街の冒険者ギルドを訪れていた。

 傍らには秘書を控えさせている。

 

 その姿は、乗馬服のようなともすれば男装のような装いだが、仕立ては上品で、単に現場視察の際にも動きやすいようにと選んだのであろうことが伺える。

 冒険者時代にはツインテールにしていた髪の毛は、編み込みのハーフアップにしており、冒険者時代よりも大人びた印象を与えている。

 そして腰には、家宝の軽銀剣。胸元には、雷電の精霊が宿る電気石(トルマリン)のペンダント。

 

 女商人が冒険者だったころからの仲間たちはそれぞれで冒険者活動を続けており、時折、護衛の依頼をお願いするお得意様として、良好な関係を築いている。

 今回も辺境の街を訪れるにあたって、元の仲間たちに護衛してもらっていた。

 

 辺境の街の冒険者である女神官や妖精弓手とも、文通を続けており、この()()のあとは彼女らと旧交を温められたらと思っている。

 もちろん、護衛で連れてきた元の冒険者仲間たちも一緒にだ。

 雪山で、覚知神を崇める小鬼の軍勢を共に滅ぼしたことは、鮮烈な経験として心に残っている。

 たかがゴブリン退治とは言わば言え。余人が何と言おうと、あれを境に引退するにしても、悔いがないほどの大冒険だったのだ。

 

(とはいえ、先ずは目の前の商談からですが)

 

 会頭である女商人がわざわざここに出向いたのは、それだけ重要な商談があるからだった。

 

 ――商会への大口の出資の話が持ち上がっているのだ。

 

 その時、ドアがノックされ、待ち人が入ってきた。

 

「おー、待たせたかや? そちらも忙しいだろうに、わざわざ出向いてもらって済まなんだな!」

 

 【辺境最大】、【鮮血竜姫】、そして【古竜殺し】の冒険者――半竜娘。

 先の雪山の冒険では、作戦の要だった多彩な術士だ。

 

「こっちがお金出す方なんだから多少はいいのよ。そうよね?」

 付き添っているのは、半竜娘の一党の金庫番だという、交易神信仰の森人だ。

 彼女らの恰好は、商談に合わせてか、冒険に赴くようなものではなく、フォーマルなものだ。

 

「お久しぶりです、半竜の術士様、交易神信徒の森人様」

 

「そうかしこまらんでも良いのじゃ」

 

「いえ、森人の方が仰いますように、出資者(パトロン)候補ですので」

 

 そして竜殺し――しかも古竜の一族を一人で族滅させたともなれば、その財産はある程度の領地を買ってもお釣りがくるほど。

 会頭自らが出向くに値する商談だ。

 

「まあ、お主なりのケジメじゃというなら別に良いがのう。無理ならいつでも崩して貰って構わんのじゃよ?」

 

 そうは言っても、なかなか難しいだろう。

 なにせ、古竜殺しが、その財産の運用を任せようというのだから。

 否が応でも緊張せざるを得ない。

 

「さて、商談というても、そう難しいことではない――」

 

 こいつはタフな交渉になりそうね。

 眼光鋭き竜の乙女と、金勘定に抜け目ない百戦錬磨の森人を前に、令嬢剣士(女商人)は気を引き締めた。

 商談もまた、身代を懸けた冒険であるのだ。

 

 

<『1.財産は運用してナンボじゃからのう』 了>

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

2.ええっ、商売敵が混沌勢力に情報流して冒険者支援事業を失敗させようとしているんですか!?

 

 

 タフな商談を終えた女商人は、友人である女神官(体調不良ということで街に居残っていた)とお茶をしながら気を休めていた。

 半竜娘は大雑把だったが、森人探検家の相手が厳しかった。商売仲間にも交易神に仕える信徒は居るが、彼ら彼女らは、全員がああなのだろうか?

 

「へえ、あの冒険者訓練所にも出資してらっしゃるんですね!」

 

 それに引き換え、歳の近い友人である女神官との会話は、なんともほっとする、癒されるものだった。

 護衛の元パーティーメンバーの女性陣(半森人の軽戦士・圃人の女斥候)にも声を掛けたが、任務中ということで遠慮されてしまった。彼女らも交えて、あとでまた時間を持ってもらおう。

 え? 半竜娘は友人じゃないのかって? うーん……。純粋な友人として見るには、いろいろと(しがらみ)や雪山で投げられたときのトラウマが……。

 

「ええ、私だけが出資したのではなく、数多の出資者の取りまとめという立場ですけれど」

 

「そうなんですか?」

 

「そうなんですの。社交界で新人冒険者の苦境を、そして辺境安寧における冒険者の重要性を吹聴して、金子を引っ張ってまいりましたのよ?」

 

「わぁ、私には想像もつきません」

 

 以前は嫌っていた貴族、社交界というものも、目的意識を持って臨めば、随分と挑みがいのある“戦場”ではあった。

 5年ぶりの魔神王の襲来が、最新の白金等級たる今代の勇者の手によって、大した被害もなく鎮圧されたことは、王国内に明るい機運を生み出している。投資を引き出すには、いいタイミングだった。

 もちろん、魔神王残党の跳梁跋扈は頭の痛い問題だが、だからこそ、市井の冒険者の底上げが重要であると分かっている者たちも、案外と貴族には多かった。

 

 女商人は、そんな潜在的な需要を掘り起こし、自らが旗頭になることで、資金の流れを整えたのだ。

 

「どうもわたくしは、政経分野(こちら)のほうが向いていたようですわ。剣に術に、鍛錬を怠るつもりもないのですけれど」

 

 そっと胸元のトルマリンの首飾りを撫でると、雪山で小鬼雷霊士(ゴブリンサンダラー)に使役されていたところを拾った雷電の精霊が出てきて、パチリと紫電を弾けさせた。

 

「わっ」

 

「あら、この子も久しぶりにあなたに会えて嬉しそう」

 

 雷電の精霊は、子犬のように女神官の周りをくるくる飛んで、纏わりついた。

 

「えへへ、可愛いですね」 

 

「そうでしょう? こうやって稲妻(ごはん)をあげると喜ぶんですのよ――<トニトルス(稲妻)>」

 

 女商人が真言を唱えると指先から魔術の稲妻が漏れ、すかさず雷電の精霊がそこに飛びついた。

 まるで乳飲み子のように指に吸い付く雷電の精霊(あいぼう)を、女商人は愛おしそうに見ている。

 

「ふふふ。すっかり仲良しですね」

 

「自慢の子ですのよ? ふふふ」

 

 

 他愛のない話題を重ねつつも、そこは元冒険者と現役冒険者。

 もちろん年頃の乙女らしく、華やかな話題も多いが、たびたび冒険者や怪物の話題が顔を出すのは避けられない。

 

「あら、そうなんですの、昇級が……」

 

「……ええ、自力の功績が足りないんじゃないかって」

 

「そんなことはないと思うんですけれど、まあ、書面だけ見ると、周りの方の実力に隠れてしまうのかもしれませんわね」

 

 周りが銀等級ばかりなせいで、修羅場を潜って功績を挙げているのは確かなれど、女神官自身の力量が確かなのか若干の疑義があるということで、鋼鉄等級への昇級が見送られたとのこと。

 女商人は、白磁等級でリタイア――といっても、雪山の小鬼軍の殲滅を鑑みれば、冒険を続けていればすぐに黒曜等級に昇級していたはずだ――したため、昇級の苦労というのは実感しづらいことではある。

 

「そういえば、そちらの一党の皆さんは、相変わらずゴブリンスレイヤーさんを頭目に、小鬼退治を?」

 

「ええ、まあ。……あ、聞いてくださいよ! この間なんか、転移門の巻物(スクロール)で深海からたくさんの水を召喚して、洞窟ごと水に沈めたりしたんですよ!?」

 

「ええっ、相変わらず無茶苦茶なさいますわね?!」

 

「そうなんですよ!」

 

 そのあと出てくる水の勢いで空中に吹き上げられるわ、魔術で何とか着地しても泥だらけになるわで、大変だったんです! という女神官に、女商人は共感して盛り上がります。

 ちょっと海水による塩害が心配――などと思いつつ。

 

「……やはり、ゴブリンは多いのですか?」

 

「そうですねえ、多いですけれど、ゴブリンスレイヤーさんが言うには、まあ例年並みということです。春はどうしても増えるのだとか」

 

「そうですか……」

 

「何か、気になることでも?」

 

 憂い顔になった女商人に、女神官が尋ねます。

 

「ええ、この街に来たのは、商談のためでもあるのですが、冒険者訓練場の視察も兼ねて参りましたの。――建設中の訓練場が、ゴブリンに襲われる事例が多いようでして」

 

「ゴブリンに……!」

 

 女商人によれば、他にも手掛けている冒険者訓練場の建設地で、ゴブリンに襲われる事例がいくつか生じているとのこと。

 人足や大工、講師役の引退冒険者、新人冒険者たちにも被害が出ている。

 辺境の街の訓練場はまだ大丈夫なようだが、注意をしてもらうに越したことはないだろう。

 

「これが単なる何の裏もないゴブリンの襲撃ということなら、いつも通りの警戒で良いんでしょうが、どうにも狙い撃ちにされている感が否めません」

 

「……私も、ゴブリンスレイヤーさんに相談しておきます!」

 

「ええ、残念ながら王国に入り込んだ邪教徒らをはじめ、混沌の尖兵たちは後を絶たず。また、商売の世界では混沌と結んででも成り上がり、しかし自分だけは奴らを出し抜いて、破滅せずに旨い汁だけ吸えると思い込んでいる愚物も多いようです」

 

 あるいは今回の件は、そういう人族の中での足の引っ張り合いの一環かも知れないと、女商人はため息をつく。

 

「なので、どうか気を付けてくださいましね?」

 

 

<『2.事情を聴いたゴブスレさん:「ゴブリンどもは、皆殺しだ……!」(スイッチオン)』 了>

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

3.陵墓のトロル

 

 

 建設中の冒険者訓練場予定地の近くで、ゴブリンが見つかったという。

 小鬼らが巣食っているのは、かつて何かを為した英雄を祀った陵墓だ。何を為した英雄か、それは忘れられて久しい。

 陵墓は、石造りの通路と玄室によって構成される、よくある形式のようだ。

 

 そこへ小鬼退治(ハック&スラッシュ)にやってきた、5人の駆け出し冒険者たち。

 

「小鬼程度だと物足りねえなぁ」

 鮫歯を並べた木剣で小鬼を斬り殺したのは、蜥蜴人の隆々たる戦士。

 

「まあ、そう言うなって! これも大事な仕事さ!」

 それをたしなめるのは、部位鎧(ビキニアーマー)に身を包んだ、戦女神の神官戦士。

 彼女は、健康的に筋肉の付いた四肢・体幹を躍動させて、巨大な戦斧を振り回して小鬼を真っ二つにしたところだ。

 

「そうですよ、お金を稼ぎませんと! 皆様、糧秣に武具に水薬にと、気前よく使うものですからね」

 交易神の聖印――金の車輪のホーリィシンボル――を()げた侍祭(アコライト)が、念のためにと倒れたゴブリンの頭蓋に錫杖を振り落としてとどめを刺している。

 彼女は、遍歴の途中で鮫歯木剣の蜥蜴戦士に惚れ込まれて口説かれ、そしてこの辺境の街まで一緒に旅をしてきたのだ。

 

「必要経費だ。……それで罠はあるか?」

 壮年の只人の魔術師の男が、扉の鍵開けに取り掛かった黒づくめの仲間に問いかけた。

 怜悧そうな男で、油断無く戦域を見回している。

 

「あるにはある、が、こんなもの御同輩の悪辣さに比べれば文字通りの児戯だ」

 黒づくめの外套に身を包んだ斥候は、優れた手際で警報の罠を解除する。

 彼の耳は細く尖り、肌は黒く――つまりは、闇人(ダークエルフ)であった。

 混沌の勢力に生まれついたが、しかし秩序に目覚め、祈りの言葉持つ者(プレイヤー)となる者たちも確かに存在するのだ。

 

 闇人斥候が小鬼が仕掛けた罠を外してその場を退くと、蜥蜴戦士が奥の玄室への扉を蹴り開ける(キックオープン)

 

 遺跡の探索も初めてではない。

 交易侍祭が光源となる松明を投げ入れ、視界を確保。

 軍師術士が【怪物知識】判定(敵を看破)

 隊列は、前衛が蜥蜴戦士と神官戦士。中列に交易侍祭と軍師術士。後列警戒を闇人斥候。

 手慣れたものだ。

 

「……デカブツが居ます! 岩のような灰色肌、巨体――トロル!」

 

『OOOLLLTTTLLLOOOO!!』

 

 投げ込まれた松明に照らされる中、寝ていた巨人(トロル)が、その身をおもむろに起こした。

 強靭な外皮に、再生能力、怪力! 愚鈍でのろまだが、強敵!

 手にした棍棒は、一党の誰であっても一撃で叩き潰してしまうだろう。

 

『GOBB』 『GOBR』 『GGOOGO』

 さらに周りに、ニタニタ笑う小鬼の一群も立ち上がった。

 大方、どこまでやればトロルが起きるか、怒るか、度胸試しのように遊んでいたのだろう。

 

 ――なぜここにトロルが!? いや、小鬼の用心棒か? どうする? 後ろの玄室には、まだ開けていない扉も……、しかし、奇襲挟撃の警戒をしている余裕は――

 

 一党の頭脳である軍師術士が苦悩する刹那。

 黒づくめの闇人斥候が前に出た。

 

「後ろを頼む。御誂え向きの道具がある。一発さ」

 

 この闇人との付き合いも長い。

 彼は、出来もしないことをやれるとは言わない。

 

「援護は!?」

 

「雑魚を近づけさせなければそれでいい」

 

 ――盗賊の彼がやれるというなら、任せましょう。

 軍師術士が戦域の状況をその頭脳に入力し、戦術を組み立てる。

 

「承知、任せましたぞ! 前衛は雑魚散らし! 侍祭は牽制、私は警戒! 盗賊は、そのまま突撃!」

 

「おう!」 「任せなぁ!」

 

 軍師術士の指示に従い、闇人斥候の道を開くべく、蜥蜴戦士と神官戦士が自らの得物を振るった。

 

『『『 GGYYYOOOAARR!!? 』』』

 鮫歯木剣と戦斧の薙ぎ払いが、小鬼たちを吹き飛ばす!

 小鬼程度は、やはり相手にならない。

 

「風なる我が神、礫を導き給え――えいっ!」

 その隙を縫って、交易侍祭が投石紐(スリング)で石を投げ、トロルの気を引く。

 

『OOOLLLLTTT??』

 後衛職の手慰みの攻撃では、当然いささかの痛痒にもならない。

 しかし、トロルの気を引くことには成功した。この怪物には、弱弱しいこの女の柔肉を貪ることしか頭になくなった。

 もはや、あの愚鈍な巨人の眼には、闇に溶け込み死角へと駆けた闇人は映っておらず、完全に意識から消えた。それは明確な隙であった。

 

「トロルの再生力には、熱か酸……というが、この灼熱の前には再生力など関係ないな」

 

 死角からの回避不能の一撃!

 壁を駆け上がり、天井を蹴った闇人斥候の手から、火を噴く金属の筒が投擲され、トロルの顔面に叩きつけられた!!

 

『OOOLRRRRR!!?!?!!』

 

「ふん。触れ込み通りなら、鉄をも熔かす灼熱だ。水を掛けても消えない金気の炎。そのまま(けつ)まで穴が空くさ」

 

 ――確か、『てるみっと』だか、『さーめーと』だかと呼んでいたか。

 闇人斥候の言葉など、もはやトロルには届いていない。

 白く灼けた熔解金属が、投げつけられた金属筒から溢れ出し、トロルの眼や口を煮立たすより先に熔かしながら落ち流れていく。

 

「うわっ、あっちい! 離れてるのにこんなに熱いって何事だよ、盗賊!?」

 

「そんな鎧を着ているからだ。マントか何かで遮蔽しろ。あと他の奴らも直視するなよ、眼が焼ける」

 

「先に言え!!」

 

 部位鎧から出た神官戦士の肌を、輻射熱が容赦なく炙る。

 蜥蜴戦士は咄嗟に交易侍祭を後ろに庇った。

 闇人斥候は、いつの間にか色眼鏡を掛けて、暴れてのた打つトロルを冷酷に見下して残心。

 軍師術士は、後方の警戒のため、灼熱の光からは身体を背けていた。

 

 暴れるトロルにゴブリンが巻き込まれ、戦場は混乱。

 しかし、肉に食い込んだ熔解金属は、さらに反応して白熱しながらトロルの肉体に沈み込み、離れない。

 そして、闇人斥候が「一発さ」と宣言した通り、トロルはすぐに動かなくなった。

 

 

「ひゅう、やるじゃねーか! どこで手に入れたんだ、こんな道具?」

 

「命あってのことではありますが、これ、結構お高い魔法の道具だったのでは?」

 

 蜥蜴戦士の興味の声に、金勘定を心配する交易侍祭の声。

 

「問題ない、試供品だからな。……お前たちも知っている【辺境最大】の一党から融通してもらったものだ」

 

 ――ああ、あの。

 一党の皆の表情に納得の色が浮かぶ。

 

「切り札として常備することも視野に入れましょう、値は張るかも知れませんが。

 ――――おっと、後ろからもゴブリンです! 気を抜かないで!」

 

「おう!」 「任せなぁ!」

 

 軍師術士の注意に答え、一党は陣形を組み直す。

 残るは小鬼だけとはいえ、新手も後方から来て挟撃されている状況。

 油断は禁物だ。

 

 

 

 

 

 

 

 盤を見下ろすのが《真実》神なら、きっと、こう呟いただろう。

 

 ――“ちぇっ、今回はパーティの一つくらい全滅させるつもりだったんだけどなあ。”

 

 そう、彼らは見事、生き残ったのだ。*1

 

 

<『3.だから、彼らを生還させるために、トロルを一撃で倒せるテルミット弾を開発するのに必要な、軽銀精錬技術を雪山で小鬼から接収しておく必要が、あったんですね(メガトン構文)』 了>

 

 

*1
蜥蜴戦士ら5人の一党:原作では交易侍祭を残して死亡。万全に準備して特に落ち度はなくても、出目次第で死ぬし、殺意高い依頼だとなおさら大変なことになるという例示。もちろん、実際のセッションでキャラを殺す前提のシナリオを組むのは困ったちゃんGMの所業なのでやめようね!




 
原作小説6巻は、女魔法使いの弟くんの件でゴブスレさんのメンタルがぐっちゃぐちゃになってなければ、普通に訓練所周辺に罠を張り巡らせて防いでいた気もしなくもないんですよね(逆に女魔法使いちゃんが健在の当SSでは、ゴブスレさんがいつも通りのフルスペックを発揮するはずですし、“誰かの姉を助けられたこと”が自己肯定感の(トラウマの)向上(払拭)にも繋がるかも)。

そして超勇者ちゃん不在の(ヘカトンケイル退治後にアストラル界から別次元に吹っ飛ばされてそっちでも勇者してた)巻なので、背景に何か陰謀があったのか、あるいは特に陰謀がなかったのかは分からないという……。そんなわけで、当SSでは女商人ちゃんの商売敵/政敵が混沌勢力をそそのかしたため、という想定(独自設定)をしています。内ゲバは人族のお家芸……。

=====

よろしければ、作者が小躍りして喜ぶので、感想評価をいただければ幸いです! 既に評価いただいてる方はありがとうございます! 感想もいつも励みになってます! 初記入しようという方もお気軽にどうぞよろしくお願いいたします!

次回は圃人の女戦士ちゃん(原作において赤毛眼鏡の弟くんとペアを組む子)を出したいですけど、この二人(でこぼこコンビ)の関係はどうしたものかなと……考え中です。
 


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29/n 冒険者訓練所にて-3/3(逆侵攻)

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●前話:
小鬼(ゴブリン)A「あのノロマ(トロル)が起きるかどうか遊ぼうぜ」
小鬼B「ちょっかいかけても起こさなかったやつの勝ちな」
小鬼C「おもしろそうじゃんw」
………………
巨人(トロル)「こらーーー!!」
小鬼C「ひでぶっ」(ぺしゃんこになって永眠)
小鬼A・B「「 ゲラゲラwww 逃げ遅れてやんの、ばっかでーwww 」」

そしてみんな大好きテルミット反応!

(軽銀精錬技術の接収に伴い錬金・化学の知識もそれなりに向上していると思われますが、覚知神由来の知識なため、正常な技術ツリーを形成できていない面もあります。Civ(シヴィラゼーション)で蛮族集落からTier(段階)をすっ飛ばしたぽっと出の技術(テクノロジー)を回収したようなもんなので(伝わらない例え))

 


 

 はいどーも!

 半竜娘ちゃん(主人公)が背景と化した実況、はーじまーるよー!

 どうしてこうなった? まあ、たまにはそういうこともあります。

 

 前回は、エルフの竜騎兵が新人冒険者たちを追い立てたところまでですね。

 ……エルフの竜騎兵に勝てるわけないだろ! いい加減にしろ!

 なお【停滞(スロウ)】を覚えさせた術士を上空に打ち上げて、絶対成功(クリティカル)で呪文抵抗をぶち抜いたら()とせる模様(半竜娘 with TASさん並感)。

 

 そんな感じで、新人たちをカワイがってあげる日々が続く中で、不穏な情報がもたらされます。

 

 なんと、辺境各地で建設が進められている冒険者訓練所の予定地が、次々とゴブリンに襲撃されているというのです。

 各地の訓練所建設に出資しているという女商人からの情報ですから、その確度は高いでしょう。

 

「ゴブリンか」 ガタッ

 

 はいそうです、ゴブリンです。

 

「座りなさい。今回はまだあんたの出番じゃないわ」

 立ち上がったゴブスレさんを、妖精弓手が(たしな)めます。

 ゴブスレさん、ステイ!

 

「そうか?」

 

「そうよ。今回あんたは使われる側。頭目はあの子」

 妖精弓手は、そう言って、テーブルの向かいの女神官の方を指し示します。

 心なしか、ゴブスレさんが、叱られた大型犬みたいにしゅんとしているような……。

 

「ふぇっ!? 私が、ですかぁ!?」

 急なパスに女神官が慌てます。

 

「そーよ! あなたが指揮を執るの! 他の白磁や黒曜等級の子を率いてね! この変なのは、まあ、『特別顧問』ってところね」 

 

「なんじゃ長耳娘よ、難しい言葉を知っとるじゃないか」

 

「ふふーん! まあね~」

 

 妖精弓手が鉱人道士に、その平らかな胸を張ります。

 おおかた、女商人との文通で出てきた言葉を使ってみたくなったとかそんなんでしょう。

 

「実際、ちょうどいいと思うのよね、あなたの実績にするには」妖精弓手が、手元の檸檬水の杯を回しながら言います。「ひっじょーに不本意だけど、まあ、新人たちの中では、きっとあなたが一番ゴブリン退治の場数を踏んでるわけだし。それに、いくら何でも、前の春に牧場が狙われた時ほどではないでしょ」

 

「いや」ゴブスレさんが兜を横に振ります。「そうとも限らん。経験則でしかないが、新人冒険者の一党ひとつにつき、20匹から30匹のゴブリンが想定される。最大で、100や200は覚悟しておくべきだ」

 

「それはロードがいればでしょー。それにそんなにゴブリンを集めてるなら、小鬼退治の依頼は減ってるはずでしょ? どうなの?」

 

「いや。例年並みだ」

 今更ですけど、ゴブリンの数について例年並みって分かるのって、さすがプロって感じですよね。

 

「ほら。ならそこまで数はいないはずよ。例えば、闇人のいる一党が、訓練場近くの陵墓でも小鬼退治したらしいし、冒険者の数が増えてる分、小鬼もたくさん殺してるわよ」

 自信満々に自説を開陳する妖精弓手さんと、「油断は禁物だ」と最悪を想定すべしというゴブスレさん。

 

「ええと、やっぱりゴブリンスレイヤーさんに音頭を取ってもらった方が……」

 

 おずおずと遠慮した女神官ですが、そこに蜥蜴僧侶が待ったをかけます。

 

「いやさ巫女殿。ここはやってみてはいかがかな」

 

「そんな、私では……」

 

「まあまあ、巫女殿が昇級できなかったのは、拙僧らもショックでしてな。ここは是非とも、その実力をギルドにもはっきりと示すべきかと」

 

「そんなぁ」

 

 頑張れ頑張れできるできる絶対できる頑張れもっとやれるってやれる!

 気持ちの問題だ頑張れ頑張れ!

 

 

 なお、そのあと女商人(令嬢剣士)に「私じゃ荷が重いですよう」と弱音を吐いた女神官ちゃんですが、女商人から「いえ、貴女ならいけますわ!」と逆に励まされて、さらに軽銀商会からの冒険者ギルドを通じた正式依頼にされた模様。墓穴(ぼけつ)を掘った……!

 

「そんなぁ」

 

 ……ということで、冒険者訓練所の訓練企画の一環として、新人にグループを組ませて、冒険者訓練所建設予定地の防衛をさせることになった模様。

 特別顧問はゴブリンスレイヤー。

 協力協賛は、【人間重機】半竜娘ほか、ベテラン冒険者のみなさま。新人たちのお手並み拝見、と、案外みなさん乗り気な模様。

 また、上手く行ったあかつきには、ここをテストケースに、同様のプランを他の地域の建設現場にも適用するとのこと。

 

 まあ、新人全員が女神官ちゃんの指揮下に入る訳でも無し。

 冒険者は自由意志を(たっと)びますからね。

 今回は、グループディスカッション形式というか、新人冒険者で組を作って、ゴブリン対策の競争をする形になります。

 

 

 

 というわけで黒曜等級の女神官ちゃんの下に集まったのは、4名の冒険者たち。

 

「うおおお! 俺のつぶし丸(マッシャー)が唸るぜ!」

「ちょっと、やたらと振り回さないでよ、危ないでしょ」

 棍棒と片手剣の変則二刀流の新米戦士と、至高神に仕える見習聖女。

 村の幼馴染同士で、下水道の鼠退治の常連であり、女神官ちゃんの同期です。

 

「がんばるけど、あんまり期待しないでね~」

 組んだ一党が、頭目だった貴族三男の御家の事情で解散になったという、圃人の女剣士。

 馬の尾のよう(ポニーテール)に結んだ髪と、圃人らしい裸足に、動きやすいショートパンツとトレンカを合わせた格好*1

 

「下手な指示したら、リーダー交代してもらうからな! 覚悟しとけよ」

 生意気風なのは、赤毛眼鏡の少年術士。中二病(ぼそっ)

 女神官ちゃんの同期の女魔法使いちゃんの弟くんですね。

 なお、前回、巨竜化蜥蜴僧侶さん相手に、【火球】の呪文を先走って撃った(おもらし)したのをこってり絞られたため、きちんと指示を聞いてくれる程度には従順になってます。

 

「えーと、では、先ずは作戦会議ですかね」

 戦士、戦士、神官、神官、魔術師。

 盾役(タンク)と斥候・野伏も欲しいですが、贅沢言ってられません。

 前衛2名に術使いが3名なのでまあまあいい組み合わせじゃないでしょうか。

 

 

 

 

 え? ここまで半竜娘ちゃん出てきてないじゃんって?

 地の文や会話に出てないだけで、半竜娘ちゃんなら【人間重機】として大工に交じって働いてますよ。

 ほら、背景にはちゃんと映ってますから! ほらほら!

 

 なお、ゴブスレさん(マンチ担当)と蜥蜴僧侶さん(城の地縄張り担当)が、大工ギルドの人足長のドワーフさんと協力して半竜娘ちゃんに指示を出して、着々と陣地化が進んでいる模様。昨年春に、牧場を野戦陣地化した経験もありますしね。

 ……半竜娘ちゃんの馬力によって実現される超速建築に夢中になっている感は否めませんが。

 1/1スケールジオラマだとでも思ってませんかね、お三方。

 

「思ったよりもやる気じゃのう、小鬼殺し殿」

 

「……ここを、()()、小鬼どもに蹂躙させるわけにはいかんからな」

 

 ゴブスレさんが淡々と真正面から言葉を返します。

 半竜娘ちゃんは全く分かっていないので首をひねっていますが、この訓練場予定地は、ゴブスレさんの故郷の村がかつてあった場所でもありますからね。

 そこをまた、小鬼の餌場にする気はさらさらないということでしょう。

 

「いずれにせよゴブリンは殺すが」

 

 アッハイ。

 

「然り然り」

 

 蜥蜴僧侶さんは察しがいいので、この土地がゴブスレさんに所縁(ゆかり)のある土地なのだろうということには当たりをつけていそうですね。

 まあ、わざわざ指摘するような野暮は、なさいませんが。

 

 

 

 と、歴戦組が陣地化を進める傍ら、女神官ちゃんたちは作戦会議です。

 

「えーと、あらかじめ、他の地域の訓練所予定地が襲われた時の話を聞いてきています」

 女神官ちゃんが、女商人ちゃんから聞き取った内容を思い出しながら情報共有します。

 メモは取らないようにと、他のメンバーに言い聞かせているあたり、ゴブスレさんの薫陶が伺えます。

 ……「ゴブリンに奪われたら()()ですから」と、にっこり言ったのにはドン引きされちゃいましたが。

 

「ふむふむ、時間帯は夕闇のころ。ルートは周囲の林とか、あとは地下から穴を掘って……ね」

 

「帰り道の待ち伏せも……か」

 

「術使いやデカブツがいることもあり。他種族を用心棒にしている例あり、か。

 ここの近くの陵墓でもトロルとゴブリンが一緒に居たんだよな」

 

 見習聖女、新米戦士、少年術士がそれぞれ、聞いた内容を吟味します。

 圃人剣士の少女も真剣に聞いています。

 

「おそらく襲撃があるとしたら、聞いたものと似たような形になると思います」

 訓練場の予定地の地面に、拾った石でガリガリと簡易な地図を書く女神官ちゃん。

 

「奇襲や待ち伏せ。それを防ぐことが大事ですね」

 地面に書いた地図の、街への道と、訓練場周辺に大きな○をつけます。

 

「なあ、先にゴブリンを見つけてたたいた方が良いんじゃないか?」

 少年術士が好戦的なことを言いますが、まあ、それも一計ではあります。

 

「それも考えたんですが……。今回の依頼の趣旨からすると、小鬼を皆殺しにするよりも、まずは人足の方や、行商人の方、それと、あの、えと、娼婦の方たちとかを守るのが先決だと思うんです」

 一瞬言い淀んで頬を赤らめた女神官の視線の先には、煽情的な格好をした女性の姿が。もちろん武器も帯びておらず、とても戦えるようには見えません。

 夜戦は強そう? そうねえ……。

 

「そのためにも先んじて打撃を……ああいや、敵が一塊とは限らねえのか」

 巣を潰しに行ったときに行き違いというのも怖いですしねえ。

 あるいは、巣が一つとも限りませんし。

 

「ええ。……もちろん、守りを固めるだけではダメですし、()()()()()()()()()()()()()()なりませんから、やがては打って出ます」

 とはいえ、優先順位としては、今回は防衛の方が高いということです。

 

「その前提条件として、訓練場とその道中の安全の確保ってことだな。分かった、納得した。……結構しっかり考えてるんだな」

 

「え?」

 

「なんでもない。そしたら先ずは、周辺の確認からか?」 

 最初より少し態度が軟化した少年術士。

 

 そんな彼に目を丸くしつつ、女神官は頷きます。

 

「そうですね。抜け穴が掘られてないか、外縁を中心に見ましょう。

 帰り道では、隠れられる場所はどこか、小鬼が通りそうなところがないか、探して、できれば藪を払ったり、罠を仕掛けたりしたいですね」

 

「罠……って言っても、そんなの仕掛けたことないし、やり方知らないよ?」

 圃人の女剣士が言うとおり、この中に斥候や野伏の技能を持つものは居ません。

 

「ええ、ですので、ここは『特別顧問』を頼りましょう!」

 

 

 ――ゴブリンスレイヤーさーん!

 

 ――呼んだか。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 ゴブスレさんに方針を話してみたところ、特に修正意見はありませんでした。

 ……女神官ちゃんら新人たちの成長のために、指摘したいのをグッとこらえているのかもしれませんが。

 

 

 そしていざ、訓練所を見回ってみると、整地で出た土を積んだ山の陰だとかの分かりづらいところに、実際にどこかに繋がりそうな穴が掘ってあるのが見つかりました。

 中に入ってみると、結構な高さがあり、只人(ヒューム)でも屈まずに移動できるほどです。

 

 

「……ほんとに穴があったわね……」

 

「訓練中にゴブリンに襲われるとか、ぞっとしねえぞ」

 

 見習聖女と新米戦士は、ここから小鬼が湧いて出るのを想像して顔を青くしています。去年の牧場防衛戦を経験した彼女たちは、小鬼の群れの恐ろしさを既に知っています。

 

 この即席の地下通路は枝分かれして訓練場のあちこちに繋がっていました。実際に四方八方から夜闇に乗じて襲われては、大変なことになっていたでしょう。

 行き止まりも多いのは、半竜娘が基礎固めに地面を踏み均したときに崩落したのかもしれません。

 また、トンネルの大元も、どうやら一本だけではないようです。

 

 

「ゴブリンが掘ったにしては広いねー」

 

「きっと巨人(トロル)に掘らせたんだろ。いくらなんでもゴブリンだけじゃ無理な大きさだ」

 

 圃人の少女剣士と、赤毛眼鏡の少年術士が、暗がりを見つめますが、暗視ができない圃人と只人なので、先は見通せません。

 松明の炎が、影を揺らめかせ、まるで何かが潜んでいるような錯覚を呼び起こさせます。

 

 

「この穴は、お前ならどうする?」

 

「……埋めます。半竜の術士さんや大工の皆さんに頼んで。罠を仕掛けてもいいですけど、やはり潜入ルートは潰さないと」

 

「……そうか」

 

 ゴブスレさんと女神官ちゃんが、穴をどうするか算段を立てていますね。

 多分ですけれど、ゴブスレさんなら、抜け穴の大元の方に罠を仕掛けるのと、一本だけ残して他は潰して、そこに誘い込むとかするんじゃないでしょうか。

 まあそれはゴブリン退治のプロだから見極められる案配(あんばい)があってこそなので、素人が真似するのは危険な気がします。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 ということで、抜け穴の処理は、半竜娘ちゃんと人足に任せて、冒険者組は他に行きます。

 そりゃまあ施設の下に穴ぼこ広がってたら、基礎打ち的な意味でえらいこっちゃですし、それを直すのは、土木の方の専門仕事ですからね。

 冒険者の専門は調査とか怪物退治ですので、役割分担、適材適所です。

 

 あ、ちなみにですが、新人冒険者の別グループが、即席地下通路の大元を辿るんだと言って突撃していきました。

 そっちのグループの後見は、魔女さんと槍使い兄貴。

 なんだかんだで面倒見のいい【辺境最強】ペアですから、実際安心です。

 

 他のグループもそれに続き、抜け穴を方々に突撃していきました。

 槍ニキたち監督のグループとは別方面のルートに行った新人冒険者グループにも、重戦士兄貴や女騎士さん、妖精弓手、鉱人道士、蜥蜴僧侶、半竜娘ちゃん(分身)その他ベテランが、それぞれくっついていってますから、滅多なことにはならないでしょう。

 

 

「うーん、俺たちは突入しなくて良かったのか……? トンネル見つけたのは俺たちだし、突っ込んでったあいつら、適当に回りぶらぶらしてただけじゃんか」

 若干未練がましい、少年術士。

 

「まだ、街までの道の見回りが終わっていませんから。それに、あの数があって、ベテランの方たちも一緒ですから、心配はいらないかと」

 女神官ちゃんが苦笑していますね。

 それは、一歩引いて歩くゴブスレさんも突入したそうにしているからかもしれません。ゴブスレさん、ステイ!

 

「そーだよー、最初の作戦会議のとおりに()ずはやろうよー。っていうか、他のグループはみんな、あのトンネルを奥に行っちゃったから、こっちの見回りやるの、私たちしかいないじゃん」

 圃人の少女剣士が、その大剣で藪や茂みを切り払っています。

 隠れる場所を減らして、見通しをよくするためです。

 

 

「うへえ、冒険者になってまで草刈りかよー」

 

「文句言わなーい」

 新米戦士と見習聖女は、村に居た頃に草刈りを手伝ったことがあるというので、大きな草刈り鎌(サイス)を渡されています。

 流石に経験者だけあって、安定した感じで刈っていきます。

 

 

「止まれ」

 

 ゴブスレさんが、草刈りをしていた一党を引き止めます。

 

「どうかしましたか?」

 

「上を見ろ」

 

 その言葉に釣られて上を見ると、枝葉が道の上を覆っています。

 

「葉っぱ?」

 

「細い枝だが、小鬼の体重を支えるくらいはできる。()るべきだ」

 頭上からのアンブッシュはジッサイこわい。

 

「そういえば、姉ちゃんが言ってたな。森で大蜘蛛や毒芋虫に、上から襲い掛かられたことがあるって……。頭上注意……確かにな」

 赤毛眼鏡の少年術士から呟きが漏れました。

 鉢巻の青年剣士君の一党は、森の探検でもしたことがあるみたいですね。……そして酷い目にあったようです……顔でも掴まれかけた(フェイスハガーされかけた)のかな?

 

「そうか。……姉の言ったことは、よく覚えておけ」

 

「……? ああ、言われなくても」

 

 ゴブスレさんがなんで、ゴブリンの巣穴を他の冒険者に任せて新人研修に付き合ってくれてるのか疑問でしたが、“姉弟”ってのが琴線に触れてるんでしょうねえ。

 常々受付嬢さんから“銀等級らしく振舞ってください”って言われているのを受けて、後進を育てる気になったというのもあるのでしょうけれど。

 いや、後進(ゴブリンスレイヤー)ではなくて、()()()を育てたいんですよね、きっと。

 

 

 …………。

 ……。

 

 あっという間に日が暮れていきます。

 街道の草刈りは、危険そうなポイントを重点的にやったため、かなり見通しが良くなりました。

 ……まあ、春なのであっという間に草がまた伸びるでしょうけど。でも、しばらくは奇襲を受けづらくなったはずです。

 ゴブリンが通りそうなところに、ゴブスレさんがレクチャーしながら簡単な罠を仕掛けたり、実際に新人たちに仕掛けさせてみたりもしましたので、新人たちにとっても実り多い時間となったようです。

 

 草を刈りながら街まで戻ってきたので、今日はこのまま解散でしょうか。

 

「大元の巣穴を叩きに行った方たちは、無事でしょうか……」

 

「さてな。勝算はあろうが、それは勝利ではない」

 

「もうっ! そういう時は、きっと無事だ、とか言ってください!」

 

「そうか?」

 

「そうです!」

 

 どこかズレたやり取りをする女神官ちゃんとゴブスレさんに、残りのメンバーは肩をすくめます。

 

 

「さーて、帰ろうぜ。ギルドで日当もらわねーと。大鎌(サイス)もギルドで明日まで預かってくれるらしいし」

 棍棒と片手剣の新米戦士は、草刈り鎌(サイス)を預かると、ギルドへ向けて歩き出しました。

 ちなみに、日当については、解毒(キュア)強壮(スタミナ)のポーションが要らなかった分、鼠退治より実入りが良いみたいです。

 経験も積めて、金も稼げて、危険も少なくて、最高じゃん! と思っている模様。

 

「お風呂入りたーい、青臭いー」

 草刈りで草の汁の匂いが染みついたのを気にしてか、見習聖女は法衣を嗅いで顔を(しか)めています。

 まあ、下水や血糊の匂いよりはマシです。

 

 

「ねえねえ、お宿はどこに泊ってるの?」

 

「ん? あっちだよ」

 

「わ、同じ方向! 圃人(レーア)が亭主してるとこだよね! 一緒に行こう! もうお腹空いちゃってさー!」

 

「おっと、引っ張んなよ!?」

 圃人の少女剣士と、赤毛眼鏡の少年術士は、どうやらたまたま同じ宿に泊まっているらしく、ついでなのでと連れ立って歩いていきます。

 ふむ、新人冒険者が一つの冒険を経て(よしみ)を通じるのも、また様式美という奴ですね!

 

 

 

 その直後、空高くを、流星のように何かが横切りました。

 

「あれは――?」

 

 女神官の疑問が宙に溶ける間もなく、訓練所の方向から現れて空を駆けた流星のような何かは、弧を描いて街の上をぐるりと一周すると、訓練所の方向へ戻り、その先へ飛び……そして地に()ち――大きな地響きを響かせました……!

 

「ひゃっ!?」

 

「……ふむ、大規模な巣穴の後始末でもしたのだろう」

 

 ――ドラゴンダイヴ。とだけ呟いたゴブスレさんの一言で、女神官ちゃんが悟ったようなフラットな表情になりました。

 

「ああ、まったく、本当に……ほんっとうに、“()(がた)い”ひと……」

 

 

*1
トレンカ:トレンカー。トレンカレギンス。スティラップパンツ。形状としては、タイツの踵とつま先を落として土踏まず部分にひもを残したようなやつ。




 
半竜娘(分身)「捕虜は救出したな? では巣穴は再利用不可能なように潰すのじゃ!! 見ておれ、新人ども! 【辺境最大】たる手前(てまえ)の威力を――!! 【加速】【巨大】【竜翼】――そして【突撃】じゃ! イィヤァアアアアアアッ!!
どっかーーん!!

=====

2周目モードなので、新人たちがトンネルを辿っていった先では、小鬼の数が原作より増えてたり、トロルの用心棒がおかわりされてたりしましたが、まあ、保護者付きの冒険者たちが同時多発的に踏み込んだら、そりゃ楽勝よ。ゴブリンたちが本来やりたかったであろう戦術を、逆に冒険者側がやった形ですね。

というわけで、『訓練所襲撃編』は、無事、『訓練所襲撃()()編』になりました。
これにて原作小説6巻編、概ね終了!

※没ネタ供養
TS圃人斥候「何でオイラがゴブリンの格好して新人を脅かさなきゃならねーんだよ。帰り道で襲撃されたときにも冷静に対応できるように、予行演習(リハーサル)させたいってのは分かるけどよー」
森人探検家「そりゃもう、あなたが、元“ゴブリン並みのゲス”だからよ」
TS圃人斥候「おい! 改心したって言ってるだろ! いい加減にしろ!」
半竜娘「いやまあ、それは冗談として、真面目な話をすると、幻影魔法でゴブリンの群れを偽装できるからじゃな」
TS圃人斥候「まともな理由があるじゃねーか! それを先に言えっつーの!」
※没理由 尺の都合で。結果として「カワイガリ」の一言に集約。

===

文字数も嵩んでいてなかなかご新規さんはとっつきづらいなか、追いついてきてくださる方がいらっしゃるというのは、とてもありがたいですし、創作の励みになります。ありがとうございます!
もちろん、初期から応援して支えていただいている皆様にも感謝を。更新できてるのは読んでくださる皆さまのおかげです!
そして当然原作にもリスペクトを! 原作小説最新14巻(ドラマCDつき特装版アリ(マス)は3月発売!

感想評価をいただきまして、いつもありがとうございます! 大変励みになっております、そして小躍りして喜びました、みなさん優しい……好き……(トゥンク) 一層精進します。

===

次回からは、原作小説7巻の『森姫婚姻編』……じゃなくて、それに行く前に、一つ閑話的なオリジナルイベントを挟みます。

春……それは産卵の季節……。
爬虫類系(または鳥類系)人外娘なら、無精卵イベントは必須だよなあああ!!??
というわけで、次回は、今回の後始末と『卵騒動(エッグ・ライオット)(仮称)』編の導入となる予定です。

 


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29/n 裏-2(訓練所 後始末、たまご騒動 導入)

閲覧、評価&コメント、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ここ好きタップ、ありがとうございます! 応援に感激したので、少し間隔短めに投稿です。


●前話:
ゴブリンに奇襲される前に奇襲したった! ので! 訓練所襲撃は未遂に終わったぞい!
 


 

1.ステップアップ、アドベンチャラーズ!

 

「えっ、拠点を移されるんですか!?」 驚く女神官は、思わず酒場の卓から立ち上がった。

 

「まあねー。流派の決まりもあってさ」 エールの酒杯を傾けるのは、黒髪の女武闘家。その手には(けん)胼胝(だこ)が出来ており、鍛錬の跡がうかがえる。

 

「私も、ひとところで研鑽を積むのは、限界もあるって思ってたし……」 蜂蜜酒(ミード)の入った樹脂製のグラスをゆらゆらと(もてあそ)ぶ女魔法使い。エルフの森からの交易品とかいう触れ込みで、収穫祭のガラクタ市で見つけた掘り出し物だという。透き通っていて軽くて割れないという、冒険の御供に最適な優れモノだ。*1

 

 ――武芸者、そして魔術師は、遍歴するものである。

 

 この辺境の街は、王国の西方辺境の中でも大きな街だが、最辺境というわけではないし、開拓村はもっと先まで広がっている。

 未踏の遺跡に潜ろうと思えば、さらにその先の蛮族領域が狙い目となろう。

 あるいは武勲を求めるならば、東方辺境の最前線か。

 王国に限らず、東方の砂漠を超えた隣国や、北方の鋼を奉ずる民*2の領域や、南方の蜥蜴人をはじめとする獣人の領域に行くということだって考えられる。海を渡ってもいいかもしれない。

 冒険者とは、とかく自由なものである。

 

「前から、春になったら遍歴に出ようって、話し合ってたのよ」 女魔法使いの口元には、摘まみの小玉葱(ペロコス)のチーズ焼き。「まあ、おいしい料理にありつけなくなるかもしれないのは、心残りだけど」

 

「前衛と後衛も増えたから、旅をするにも少しは安全になったかなって思うし」 女武闘家は、既にエールを飲み干したのか、獣人女給に追加の注文をしている。「すみませーん、エールくださーい」

 

 色々あって意気投合した圃人(レーア)の少女剣士を仲間に加えたことで、女魔法使いの弟である少年術士も合わせて5人の一党になった彼女ら。

 前衛と後衛に一人ずつ加わり、一党としての完成度も増してきたと自負している。

 ステップアップを目指して旅に出るには、ちょうどいい機会だ。

 

「えーっ、それなら、もっと早く知らせてくれても……」 女神官は、かわいく口を尖らせた。

 

「ごめんごめん。それにほら、新人も大分増えたじゃない?」 脱落する新人が減ったことで、例年より多くの冒険者が辺境の街のギルドには所属している。「依頼の取り合いとかも面倒だし、日銭稼ぎだけじゃなくて“冒険”したいなって」

 

「絶対、旅先でも手紙は出すからさ!」

 

「はい、じゃあ、お返事も必ず…………じゃなくて! もう!」

 

 思わず素直に返事した女神官に、女魔法使いと女武闘家は、くすくすと笑いあった。

 笑われて、なおさら口を尖らせる女神官の機嫌を直すために、二人は杯と酒瓶を手に取った。

 

「機嫌直してよ」 「今日はあなたのお祝いなんだから」

 

「それ何回目ですかぁ~? 誤魔化されませんよ~!」 とはいいつつ、杯を受け取り、御酌を受ける女神官。

 

「「 いいから、いいから 」」 酒瓶から女神官の持つ杯に、酒精が()がれていく。

 

 よくよく見れば、彼女らの頬は(したた)かに赤く、既にそれなりの量を飲んでいるようだ。

 

 

 そして、女神官の胸元には、鋼鉄の冒険者証

 白磁級を率いて冒険者訓練所を襲撃せんとするゴブリンたちの坑道をいち早く発見し、また、他の訓練所予定地の防衛にも使える精緻なレポートを提出したことを評価され、女神官は、鋼鉄等級(第8位階)に昇級したのだ。

 輝く鋼のタグこそが、その証。

 

 ……ちなみに、女魔法使いと女武闘家は、女神官が落ちたときの審査のタイミングで、一足先に鋼鉄等級に昇進してたりする。

 

「では、御同輩の昇級に!」 真っ先に音頭をとる女武闘家。ちなみにもう3度目かそこらの口上である。

 

「お二人の旅立ちと、地母神様の御加護にー!」 ()ねながらも、遍歴に出るという彼らの前途を祝す女神官。

 

「くすくす、可憐な神官様の多難な恋路に」 いたずらする猫のようなにんまりした目で、口上を付け足した女魔法使い。

 

「「 かんぱ~い 」」 「ちょっと?!」

 

 乾杯の発声とともに杯をぶつけつつ、女神官が、赤く染まった頬で「なんてこと言うんですか」と抗議する。

 

「いやだって、ねえ?」

 

「ライバル多いし、本人はその気(恋愛する気)はなさそうだし」

 

 しかしそんな抗議にも、女武闘家と女魔法使いは、どこ吹く風。

 にやにやと「「 多難でしょ~。ね~? 」」と頷きあっている。

 

「あ、あの人とは、そ、そんなんじゃないですし……!」

 女神官は、語尾を小さくしながら、顔をうずめるように杯を口に持っていった。

 

「あの人って、誰のことかな~?」 「私たち、名前出してないんだけどねー。誰が思い浮かんだのかなー(棒)」

 揚げ足を取って笑みを深める二人の同期。

 

「あっ。いや、えっと……!」

 語るに落ちた女神官がわたわたと慌てた。

 

 

 それを見てひとしきり楽しんだのか、同期の二人は、真面目な口調に切り替えた。

 

「……まあ、神官として気になるのは分かるよ。放っておいたら死んじゃいそうだし」 女武闘家が酒杯を置いて、言った。

 

「いや、普通は、途中で死んでなきゃおかしいわよ、ああいう手合いは。……それを生き残ってるから、ゴブリン殺し一本で銀等級なんだろうケド」 女魔法使いの言うとおり、あんなタガの外れた復讐者は、普通はすぐに死んでしまうものだ。

 

 それを生き残って来たからこその、在野最上級、銀等級、【辺境最優】――小鬼を殺す者(ゴブリンスレイヤー)

 

「諦めろって言うつもりもないんだけどね。でも、あなたには死んでほしくないのよ」

 

「それどころか、もし出目が悪ければ(スネークアイズが出れば)、死ぬよりひどい目に遭うのよ?」

 

 ――彼の獲物は、ゴブリンなんだから。

 それは、純粋に同期として心配する心から出た言葉。

 

「……それでも、私は――」

 決意の固い様子を見て、女武闘家も、女魔法使いも、肩を(すく)めて小声で会話する。

 

「こういうのなんていうんだっけ」 「だめんず好き」 「そうそれ、だめんず」 「この子といい、あの人の周辺、だめんず好き多くない? 危なっかしくてほっとけないのは分かるけど*3」 「でも銀等級なら良物件では?」 「そうかな……」 「うーん」

 

 ――まあ何にせよ。

 ――そうね、何にせよ。

 

「「 御同輩の、前途多難な恋の道行きに幸あれ~ かんぱーい! 」」

 

「ちょっと????」

 

 

 

 不服そうな女神官をさておき、話題は移り変わっていく。

 まあ、酒の入った人間の会話なんてそんなもの、そんなもの。

 

「あ、そういえば、例のあの人(ゴブリンスレイヤー)、師匠がいるんでしょ? まだご存命なら紹介してもらえないかしら。いままであの人を生き残らせられるほど鍛え上げた手腕は、興味あるわ」

 

「それ、うちの弟がちらっと聞いてきてたわよ。“忍びのもの”っていう老圃人(レーア)なんだって」

 

「生ける伝説じゃないのよ……」

 

 

<『1.森人探検家「……そう、クソ師匠のことが気になるの……。もしあのクソ師匠に会ったら、ゴブリンスレイヤーの名前もだけど、私の名前も出すといいわ。ついでに居場所をこっちに知らせなさい。絶対に。いいわね? すぐに行ってあの妖怪じじいをぶちのめすから」』 了>

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

2.デーンデーンデーン デデデデデデ デーンデーンデーン

*4

 

「愚か者め、余の顔を見忘れたのか?」

 

「こ、こんなところにあの御方が居るはずがない! 偽物だっ! であえー! であえーーーっ!!」

 

 王都の一角にて。

 金剛石のような物の具をつけた騎士が、商館に押し入っていた。

 傍らには、銀の髪の小柄な従者。侍女服を着ている彼女は、存在感が異常に薄く、見えているはずなのに見失いそうになるほど。

 

 彼らと相対するのは、この商館の主。

 バイザーの合間から見えた騎士の素顔に動揺したものの、開き直ったのか直ぐに手下を呼び寄せだした。

 商館主の号令により、控えていた用心棒や私兵たちが次々と集まってきている。

 

「皆のもの! そこの曲者(くせもの)を殺せぇっ!」

 

「無駄なあがきを。もうネタは上がっている! 貴様が混沌勢力に情報を流し、冒険者ギルドの施設を襲わせたことなど、お見通しよ!! この証文が、その証拠だ!!」

 

 銀髪侍女が手渡してきた証文を掲げる、金剛石の騎士。

 これは、女商人が手配した仕掛人(ランナー)が奪取してきたもので、それが金剛石の騎士の目に入ったのが決め手になったのだ。

 

「――それは行方が分からなくなっていた証文……! いや、そんなもの、貴様を殺せばどうとでもなるわ~~~!! やれぇいーーーー!!」

 

 商館主のその命令に、おそらく混沌勢力との繋がりを知っていた古参組と思われる私兵が、まごついていた全体を督戦して統制を取り直し、金剛石の騎士へと攻撃を仕掛けた!

 

「莫迦め! 斯様(かよう)手管(てくだ)で、仕留められると思うてか!!」

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 後日、王都の商会が一つ、混沌と繋がった(かど)でお取り潰しになったと発表された。

 

 

<『2.女商人「その商会の販路その他は、わたくしの商会の他、周りの商会でおいしくいただきましたわ。――要らないことして竜の尾を踏んだというわけですわね、その取り潰しになった商会は。……あら、わたくしは自分が竜の尾だなんていうつもりはありませんわ。そもそも、混沌勢力と手を結んだ方が悪いのですし、隠蔽が甘く大事な証文を盗られたのが間抜けだったというだけのこと。いえ、こっちの雇った仕掛人が優秀だったのですかね? ……まあ、あとは、ちょうど陛下の鬱憤が溜まっていたタイミングだったのも、間が悪かったのでしょうけれど」』 了>

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

3.勇者の帰還

 

 

「ほっ、とっ、やっ! うー! 四方世界よ! ボクは帰って来たーーー!!」

 

 太陽の聖剣で空間を文字通りに切り裂いて、ぴょこんっと出てきたのは、言わずと知れた勇者その人。

 

 百手巨人(ヘカトンケイル)を退治したとき、クライマックスでぶつかり合った最終奥義同士のエネルギーが霊界の次元を不安定化し、勇者一行を別次元へと弾き飛ばしてしまっていた。

 そして、困っている人を見捨てられない彼女は、はじき出された先の世界で、また、そこに隣接する次元界で、その隣の次元界で……数々の人助けを、いや、偉業を成し遂げて、この四方世界に帰還したのだった。

 

「早く帰らないと。……王様、心配してるかなー」

 ぐっぐっぐ、と次元移動(プレインズウォーク)の影響を確かめるように屈伸する勇者。

 

「一冬の間の不在が、どう影響するかですね。……自分で言うのもなんですが、ほら、私たちはこちらでも、かなり働いていたでしょう?」

 続いて出てきた凛々しい剣聖が、その柳眉を(ひそ)めた。

 魔神王の勢力の残党は、いまだに活発に活動し、復権しようとしている。

 勇者不在の間に、彼らの陰謀の手は、果たしてどこまで伸長しただろうか。それを思えば、気が重くなるのも当然だった。

 

「そこまで心配することはないと思う」

 次元の切れ目から、すとっと軽やかに着地したのは、獣の耳を(かたど)ったフードを被った賢者だった。豊かな胸元が着地と同時に揺れて、勇者がムムムと自分の胸元と見比べた。

 

「この世界は、そんなに(やわ)じゃない」

 断言する賢者の目は、虚空を睨んでいた。

 天上の盤面を転がる<宿命(フェイト)>と<偶然(チャンス)>の出目を見通さんとしているかのようだった。

 

「そうだよ! 村を守る人が居て、街を守る人が居て、影を走る人もいたりして、国を守る兵隊さんもいる! そんな簡単に、世界は滅んだりしないよ!」

 キラキラとした目で断言する勇者。それはまさしく、勇者の言の葉であった。

「そして、世界の危機には、ボクたちの出番ってわけさ!」

 

「はは、まあ、その通りですね。って、言った傍から――」

 剣聖が視線を向けた先には、ゆらめく銀色の、鏡のような立面がいつのまにか現れていた。

 水の街に献上されたという、【転移門の鏡】の遺物によるものだろう。

「――どうにも、早速仕事のようですよ? 少しは休ませてもらいたいものですね」

 

 

「大丈夫だよ! ボクたちならやれる! さあ、世界を救いに行こう!!」

 

 

<『3.ボクたちの戦い(次のキャンペーン)はこれからだっ!』 了>

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

4.たまご騒動(エッグ・ライオット) 開始前/マスターシーン

 

 

 ―― この世で最も無垢なるもの、と言えば、何が思い浮かぶだろうか。

 

 ―― 可能性の塊。いまだ定まらぬもの。汚れなき(いち)

 

 ―― 赤子こそが、“この世で最も無垢なるもの”であると、只人は言うだろう。

 

 それに対して、歌鳥人(ハルピュイア)蜥蜴人(リザードマン)鰓人(ギルマン)らの卵生人類種は、そして彼らの生態を知悉(ちしつ)する者らは、異を唱えるはずだ。

 

 ―― 否。こそが、“この世で最も無垢なるもの”である、と。

 

「おお、おお、おお――我が占術よ指し示せ……。“堕ちた魂(フォールンソウル)”の器に相応(ふさわ)しき卵のありかは何処(いずこ)なりや――」*5

 

 西方から遠く離れた怪しげな墳墓の中で、死人占い師(ネクロマンサー)が、いかにもな儀式をしている。シルエットからして、只人だろうか? 容貌は、ローブに覆われて判然としない。

 この男(女かもしれない)は、死骸の骨を灼き、砕き、その様相をもって、何かを占っているのだ。

 

「これは――――西方辺境を指し示しておるようだな……。ふむ、そこに、無垢なる卵が……。灼骨が指し表す暗示は…………“大きな、準竜の、乙女が、産みし、初めての、卵”――“それこそ、器に、最適”…………おお、なるほど、なるほど、なるほど…………」

 

 死人占い師は、一通り占いの解釈を頭に叩き込むと、いそいそと出立する準備を始めた。

 

 

<『4.一部の爬虫類は、単為生殖が可能であるため、雌だけしかいない環境で生まれた卵も、無精卵とは限らない。この処女懐卵により産まれる卵こそが、“完全なる無垢なる卵”である』 了>

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

5.リザルト

 

 

 半竜娘一党は、新人冒険者向け訓練所の建設・防衛に協力した!

 半竜娘一党は、それぞれ、経験点1000点、成長点3点獲得!

 

 

 

<『5.半竜娘「なんかやたらと骨を食べたく(カルシウムを摂取したく)なるのじゃ……。でもその割には、すぐにお腹がいっぱいになって、あんまり胃に入らんようになったような……?」』 了>

 

*1
樹脂製のグラス:錬金術により酒精にも溶けださない成分の樹脂だけ集めて製造されたグラス。エルフのうち、樹液に親しみ、かつ錬金術を修めた者たちが作ったものが、気まぐれに交易に出されることがある。掘り出し物。

*2
鋼を奉ずる民:キンメリア人(コナン・ザ・グレート)がモチーフだと思われる人々。

*3
危なっかしくてほっとけない:ゴブスレさんの性別逆転して考えたときに尚更わかる、この放っておけなさ。気になったら「ゴブスレ姫」で検索じゃ。

*4
デーンデーンデーン……:殺陣(たて)のテーマ。暴れん坊将軍。

*5
堕ちた魂(フォールンソウル):ソードワールド2.0のグランドキャンペーンに出てくるアレ、のような、違うような……。まあ、良くないものではあるのだろう。ちなみに、ソードワールド(ラクシア世界)におけるフォールンソウルは、彗星・竜刃星に乗って外宇宙から飛来した異形の魂たちで、主に竜に取り憑いて異形化させ、さらに取り憑いた肉体を通じて瘴気を吐き出し、世界そのものをフォールンソウルに適した環境に汚染しようとする厄ネタ。また、フォールンソウルにより異形化した生物(=フォールンドラゴン)に喰われたものは、その体内でフォールンソウルに汚染され、竜屍兵ダムドとして再誕する。




 
原作小説6巻編終了! 6巻は、ゴブスレさんの人間関係の変化や内面の成長――というか、人の心を取り戻してくのに非常に重要なターニングポイントな巻なんですけど、まあ、ゴブスレさんのその辺りの諸々は何気ない日常でもじわじわと治っていくものではあります(ので、女魔法使いの弟くんのお世話するフラグは消化不良だけど、たぶんなんとかなるはず)。だって、ゴブスレさんには、牛飼娘も、受付嬢も、女神官も、妖精弓手も、冒険者仲間もついていますからね! ……剣の乙女? 彼女は寧ろゴブスレさんに心を救われる側だから……。そういう意味ではヒロイン指数はかなり高いですよね、たぶんゴブスレさんの次くらいに高い。

次の話からは、“二年目の春”の章、『たまご騒動(エッグ・ライオット)』編です。

===

半竜娘が卵を産んだ!?
育てる? 売る? 標本にする? ……それとも、食べる?!
さらに、卵を狙う、妙なやつらも現れて…………?!

===

って感じで考えてます(ライブ感で書いてるので、予告通りになるとは限りませんが……)。

結構、感想からインスピレーションをいただくことが多くて助かっています。感想のご記入、いつもありがとうございます!
そして、評価&コメも、既に付けてくれた方、そして新しくつけてくださった方、みなさまありがとうございます! 大変励みになってます!

※死人占い師が新キャラだと分かりやすくなるように一部追記しました。


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30/n たまご騒動(エッグ・ライオット)-1(狙われた初卵)

閲覧、評価&コメント、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ここ好きタップ、ありがとうございます! 新たな完走者も増えて素晴らしいことです。当作品も90話、70万文字と結構なことになっておりますが、引き続きよろしくお願いいたします……!

●前話:
・女魔法使いちゃんたち一党、遍歴の旅へ
金剛石の騎士(貧乏貴族()の三男坊)、悪を斬る
・超勇者の帰還
たまご騒動(エッグ・ライオット)/マスターシーン

===

◆弟くん(少年魔術師)の学歴について(@女子会)

女武闘家「そういえば、杖、弟くんとお揃いなのよね」
女魔法使い「まあねー。あの子、私に追いつくんだって頑張ったみたいで。飛び級して卒業して追いかけてきたのよ。あ、杖の宝玉は、卒業の証しね」
女神官「優秀な弟さんなんですね」
女魔法使い「そうよ、自慢の弟。……流石に、飛び級したせいか、私みたいに成績優秀者とまではいかなかったみたいだけどね。まあ、それでも、こないだ都に帰ったときに、私が教えて鍛えてやった甲斐があるってものよ」

というわけで、原作では中退と思われる弟くんですが、今作では飛び級卒業とします。シスコンパワー……。

===

◆稽古の約束(@勇者一行の道中)

賢者「そういえば、収穫祭の後に、半竜の冒険者に稽古つけるという約束をしていたのでは……?」
剣聖「そうですね、不可抗力とは言え、すっぽかしてしまったのは心残りです……。残念ですが、約束を果たすのは次に会った時、になるでしょうか。その機会があればですが……」
勇者「きっとまた会えるよ! そんな気がする!」
剣聖「貴女が言うなら、そうなのでしょうね。ふふ、楽しみです……」
賢者「こっちもあっちも戦闘狂……」(ぼそっ)

 


 

 はいどーも!

 前回は半竜娘ちゃん不在でしたが、今回はがっつりフィーチャーしますよ!

 気分はナショジオ(National Geographic)やBBCのドキュメンタリー番組です。

 

 季節は春から初夏に変わるころ。

 辺境の街に来てから、一年以上が経ちました。

 

「チーズ、チーズを頼むのじゃ! 骨付き肉もじゃ!」

 半竜娘ちゃんがギルドで食事をしています。

 このところ、どうにも無性にチーズや、骨付き肉ばかり食べたくなるのだとか。骨付き肉は、ワイルドに骨ごと丸カジリしてますね。

 また、時折、下腹部を押さえて、少し気持ち悪そうにしています。元気が取り柄の半竜娘ちゃんには珍しいことです。便秘かな?(すっとぼけ)

 

 

 ……さて、半竜娘ちゃんですが、栄養たっぷりな食べ物(チーズ)をもりもり食べたり、受肉した分身体を取込んで融合したりしたことにより、1年前に比べて、体長が1.25倍になるなど、身体が急成長!

 さらに夢魔の娼館を体験したり、一党の仲間と絆を深めあったり(意味深)して、大人の階段も上りました。

 ひとつ歳を重ねて、今は14歳――いい年頃ですねえ。“14歳”という響きには、言霊があります。世界を救ったり滅ぼしたりできそうな年齢じゃないですか?

 

 そして、晩春から初夏といえば、爬虫類系や鳥類系にとっては、概ね、繁殖期に当たります。

 

 

 豊富な栄養と成長、性的刺激、春機発動期(14歳)、繁殖期、カルシウム摂取(チーズや骨の爆食い)、下腹部の違和感……。

 

 

 はい。もうお分かりですね?

 

 只人と違って、蜥蜴人は卵生なので、“月のもの”なんてありませんが、卵生人類種にはそれはそれで苦労があります。

 ペットに蛇や亀や鳥を飼ったことある方は分かるかもしれませんが、彼女ら、わりとよく卵を詰まらせます。

 蜥蜴人の婦人科医(いるとすればですが)は、この時期になると、卵の()()()を診るのに忙しくなるんじゃないでしょうかね。

 

 さて、そして我らが半竜娘ちゃんの状態を鑑みると――まあ、間違いないでしょう。

 

 

 お腹に卵がありますね、これは!

 子持ち蜥蜴人!(子持ちシシャモ的な)

 

 

 昨年は、おそらく黒鱗の古竜に捕虜にされた時のストレスや、東方戦域から西方辺境まで大回りして離脱した時の栄養不足もあり、お腹に卵はできなかったのでしょう。

 あるいは、単に個人差というだけかもしれませんが。

 只人の女性が遅くとも、概ね成人である15歳までに初経を迎えることを思えば、半竜娘ちゃん(成人年齢+1)の今回の初抱卵は、蜥蜴人基準では少し遅い部類かも知れませんね。

 

「むう……なんか最近体調が悪いんじゃよなあ……」

 

 半竜娘ちゃん自身も、故郷から離れて周りに蜥蜴人の女が居ないためか、あるいは単純に忘れているのか、すっかり産卵期のことなど頭から抜け落ちているのかもしれません。きっと初めての経験だからということもあり、体調不良と結びつけることができていないんでしょうね。

 身体が大きくなったことも影響し、抱卵/懐卵の負荷は軽いようで「ちょっと調子悪いんじゃよなあ」ってくらいにしか思っていないように見えますから、なおさらです。

 ……お腹に卵が出来てることには、どうやらまったく気づいていないようです。外から見ても、腹部がポッコリ膨らんでるわけでもないですしね、腹筋バキバキなおかげで。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 そして数日後。

 ギルドで半竜娘が昼食を摂っていた時のこと。

 

「あ ら? 今日 は、顔色 いい わ ね?」

 魔女さんが、半竜娘の向かいの席に座り、腕でその豊満な胸を支えるようにして、もう片方の手で煙管(キセル)を摘まんでいます。

 魔女さんなりに、最近調子が悪そうだった半竜娘を心配していたようです。

 

「……んむ? おう、そうなのじゃよ! なんか今朝起きたら、()()()()しておってな! なんじゃったんじゃろうな……?」

 半竜娘は、相変わらずチーズや骨付き肉をバクバク食べていますが、前日までよりも調子がよさそうです。

 

「ふぅ ん……? そう いえ、ば、お仲間は?」

 

「ふーむ、それが、朝起きたら、誰も()らんでのう。昨日は灯明の娘(文庫神官)が一緒に寝てくれたはずなんじゃがなあ。出かけるなら起こしてくれても良かろうに……」

 

 あっ(察し)。第一発見者が証拠品を持って逃亡してますね、クォレハ……。

 

「まあ、ウチの一党は、依頼のない日は、わりと好き勝手にやっとるから珍しいことでもないがのう。昨日までの手前の体調を鑑みれば、手前を寝かせたまま、3人で依頼に出てもおかしくはないしの」

 

 がつがつとチーズ尽くしの昼食を食べ終えると、半竜娘ちゃんは立ち上がりました。

 巨体で椅子は使えないので、床に直座りしていましたが、立ち上がると天井に頭がつきそうなほどです。

 蜥蜴人特有の眼だけキロッと動かすやりかたで、魔女の方を見下ろしました。

 

「そちらはこれから依頼かや? それとも冒険帰りかや?」

 

「ふ、ふ。貴女の、調子を、見に来た の よ?」

 

「おお、それは心配かけたのじゃ! でも、もうこの通り平気じゃよ?」

 

「そ 、ね?」

 

 魔女さんは意味深な笑みを向けます。

 ふふふ、と笑う魔女さんは、さて、どこまで見通しているのやら。

 ……少なくとも、半竜娘ちゃんの体調不良が抱卵/懐卵によるものであったことはお見通しっぽいですね。

 

「さあて、まずは肩慣らしに、下水道の方にでも行くかのう。例年より少ないとはいえ、残念ながら未帰還者もおるようじゃし、その弔いも……」

 

「病み上が りなのだ から、まだ、あまり、動かない、ほう が、いい わ よ? その、想いは、わかる けど」

 

 そう言って、魔女さんは、半竜娘ちゃんを誘います。

 

「お茶、でも いか が ?」

 

 近頃の研究の進捗について情報交換がてら、甘いものやいい香りのものをお供に、お茶をしようというのです。

 それだけではなく、先達のウィッチとして、同類であるネクロマンサーとなった半竜娘に、いろいろと作法を伝授したりといったことも考えているみたいですね。

 もちろん、他愛ないおしゃべりも必須! 女の子は、砂糖とスパイスと、いっぱいの素敵なものでできているのです。*1

 

「おお! なら依頼は受けずに、ご相伴(しょうばん)(あずか)ろうかの! ちょうど、複数人で真言を差し出し合って呪文を組み立てる方法について議論したかったんじゃよ!」

 

「ええ、それ は、よか った わ。よろしく、ね」

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 一方そのころ。

 

 半竜娘ちゃんの一党の仲間である、文庫神官は、馴染みの酒場(TS圃人斥候の用心棒先)で「う~ん」と唸っていました。

 座った彼女の膝の上には、長楕円体の、白い陶器のような塊が置いてあり、さらにその上から膝掛けが載せられていました。

 長楕円体の大きさは、長軸が肘から拳の先までくらい(約45cm)の長さで、幅が手指を思い切り横に広げた(約23cm)くらいある、やや細長い卵型の物体です。

 

「持ってきちゃいましたけど、どうしましょうか、コレ……」

 

 文庫神官は、今朝のことを回想します。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 時間はさかのぼり、今朝のこと。

 

 ――初夏の曙光が乙女の寝室を照らし、文庫神官は目を開けます。

 朝の御勤め(神官的な意味で)の時間です。

 いつもであれば、奉ずる信仰は違えども、神職である半竜娘と(彼女が【分身】を昨晩作っている場合はその分身体も一緒に)、朝の御勤めで祈りを捧げたり、瞑想したりするところです。

 

「まあ、お姉さまは、ここ最近、御加減が悪いみたいですし……。寝かせておいてあげましょう」

 

 半竜娘ちゃんのお手当(応急手当技能+【小癒】)のために、同衾していたのです。

 ……まあ、慕うがゆえのスキンシップを求めてという面も否定しませんが。

 既に彼女ら、新年の歓楽街の餓鬼退治の打ち上げで一線を越えて、()()()()()ですからね。

 

 暖かい日が続くようになってきたので、この日のように、一糸まとわぬ姿で同衾することもあったりします。

 

 半竜娘ちゃんサイズの特大ベッドから出るときに、さっきまで一緒に包まっていたシーツがはだけてしまったので、それを直そうとしたその時。

 

「んんん……??」

 

 ――何か、あるような……? なんでしょう……?

 半竜娘ちゃんは、尻尾が邪魔ということで、大体は、お腹を抱えるように丸くなって寝ているんですが、シーツの隙間から見えた半竜娘ちゃんのお尻のお股のところに、何かいつもと違うものが見えたような。

 

「お姉さま、ちょっと失礼……」

 

 文庫神官ちゃんがシーツに潜り込んでゴソゴソし始めます。

 

「んぁっ」

 

「お姉さま、我慢してくださいまし」

 

「んっ。んんぅっ」

 

「……()らさないと駄目でしょうか……失礼、ちょっと舌で――」

 

「ん、ん、ん……んん~……んっ」

 

「なんだか、濡れたところが膨らんできたような? えい、あと、ちょっと……。回しながら――」

 

あっっっ」

 

 すぽーん!

 

「と、取れました……!」

 

「ふぅ、ふぅ、はぁ。すぅ、すぅ……むにゃ……」

 

 艶やかな喘ぎ声が 医療行為に伴う反射的な声が出てましたが、医療行為なので実際健全です。猥褻(ワイセツ)が一切無い。イイネ?

 

 ていうか、半竜娘ちゃん、良く眠ってますね。

 連日の体調不良の影響もあるでしょうが、ここは樫人形(ウッドゴーレム)で守らせた自らの拠点ですし、それだけ仲間の文庫神官ちゃんを信頼しているという証左でもあるのでしょう。

 

 いや、それはともかく、出てきたものの方ですね。

 

「これは、やっぱり、卵、でしょうか」

 

 文庫神官の手には、てらてらとした粘液に包まれた、温かく、すこし柔らかい、白い陶磁のような見た目の、パイプのような細長い長楕円体。

 朝日に透かして見ると、全体にみっちりと中身が詰まっているのが分かります。

 粘液が乾くのと同時に、卵の大きさが膨らんでいきます。どうやら、表面から水分を吸収して大きくなっているようです。

 

「えっ、なんか、吸い取る勢い的にもっと水分が必要なのでは? こう、産湯(うぶゆ)みたいな?」

 

 文庫神官ちゃんは、慌てて、手近にあった冒険用の荷物から『聖餐(エウカリスト)』のランチョンマットを取り出して、中身を捨てた水差しを置き、祝福された水をその中に生み出し、シーツに包んだ卵へと、その祝福された水を注ぎ始めました。

 

「煮沸はしていませんが、祝福された水ですから、毒になることはないはず……。って、まだ吸い込みます? これ、水差し一つ分で足りますかね……」

 

 結局、なんとか足りたみたいです。

 水差し一杯の水を吸い取って、パイプのようだった卵は膨れ上がり、もっと卵らしい形になりました。

 また、表面も、徐々に硬くなってきました。

 

「ははあ、なるほど。産まれるときは卵白のところを極力少なくして、生まれた後に水を吸い込んで嵩増しするのですね。柔らかな殻は、膨れるときに対応するため。そして、十分に水を吸ったら、固くなる、と。産まれたては、中身がほぼ卵黄だけだったというわけですね。できるだけ大きな卵黄を殻に封じ込め濃縮状態にしておき、母体の骨盤にかかる負荷を減らすために細長いパイプ型で産み、そのあと水分を吸収するという流れ……興味深いですね……」

 

 文庫神官ちゃんってば、未知のことに遭遇すると眼を爛々と輝かせて早口になるよね。

 水を吸って巨大化し、ひと抱えもあるサイズになった卵を、落とさないように慎重にベッドサイドへと置きます。

 

「って、考察はあとで良いとして、ええと、うーん、あー。ど、どうしましょう!?」

 

 文庫神官ちゃんは、かつて暮らしていた知識神の文庫(ふみくら)で鶏を飼って世話をしていたので、まあ、この状況から、最近の半竜娘の体調不良が、この“卵詰まり”によるものだというのは、すぐに見当が付きました。

 

 でも、この問題って、とっても、そう、とっても――センシティブ!!

 

 いくら()()()()()に既になっているとはいえ、種族特有のしきたりもあるかもしれません。

 

――蜥蜴人の文化としては、そもそも、いったいどうするべきものなんでしょう……!?

――わ、分からない……!! というか、さっきの処置も本当に正しかったんでしょうか??

――蜥蜴人のことを書いた風土記でも、さすがにそこまで詳しく書いてるのは見たことないです……!!

 

「うーん、うーん。もし、もし、ですよ? “初卵は食べるのが流儀じゃ”とか言われたら……」

 

 サァっと文庫神官ちゃんの顔が青くなりました。

 本来は、半竜娘ちゃんが起きてきたときに聞くのが一番なんでしょうけど。

 でも、自分で取り上げたこともあってか、文庫神官は、既に不思議な愛着を、この卵に感じてしまっています。もし、「食べるのじゃ!」とか言われたら、ちょっとしばらく立ち直れないかもしれません。

 

「お姉さまが何処かで(タネ)を貰ってきてるとは考えづらいですし、無精卵なんでしょうけど……」

 

 はい、ここで【博識】判定です。

 知識神の神官なので、その職業レベルも上乗せして判定できることにします。*2

 目標値は“やや難しい”程度とされる「18」とします。職業レベルを乗せられるので、まあ、何とかなるでしょう。

 

 ■文庫神官の【博識】判定:

  知力集中5+神官(知識神)Lv6+博識1+2D656=達成値23 > 目標値18 ○判定成功!

 

「――いえ、確か、鱗あるものは、雌だけでも繁殖できると読んだことが……。んん、無精卵とも、限らない、のでしょうか……」

 判定に成功したので、文庫神官ちゃんは、爬虫類などの単為生殖の生態について思い出すことが出来ました。

 蜥蜴人にもそれが適用できるか、までは分かりませんでしたが、この卵も、既に命が息づいている可能性があります。

 

「ど、どうしましょう……!? ひょっとしたら、私とお姉さまの子供という可能性も……??」

 

 いや、そうはならんぞ。確かに、只人は、どの種族とも混血できるという特性があるから、一党の中で一番可能性あるのは君だけど、性転換プレイはしたことないでしょ。……って、おーい?

 

「は、はわわわわ!?」

 

 うーん、ダメみたいですね。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 場面は再び、歓楽街の酒場(TS圃人斥候の用心棒先)に戻ります。

 

「それで、なーんでこっちに持ってきちゃうかねー」

 ため息をついたのは、TS圃人斥候です。

 昨日は用心棒の仕事で歓楽街(こっち)に泊まっていたのですが、仕事上がりに文庫神官が訪ねてきて、卵の件に巻き込まれたのです。まさに寝耳に水でした。

 

「す、すみません。つい、なんというか、混乱して……。あと、寝込みを襲ったみたいで後ろめたくて……」

 (くだん)の卵を股の間に挟んで抱え込み、冷やさないようにしている文庫神官ちゃん。

 まあ、人間、焦った(テンパった)ら妙な行動をとるものです。

 

「直ぐ本人に知らせるのが一番だったろーに」

 

「それは、分かってるんですけど……」

 

「後になればなるほど面倒だぞ、こーゆーの」

 

「そうなんですけど……」

 

 煮え切らない文庫神官の態度に、TS圃人斥候は、ハァと溜め息一つ。

 

「まあ、逃げてくる先にうちを選んだのは、マシな判断だろうな。蜥蜴人の嬢はいねーが、鳥人(ハルピュイア)は居たはずだし、なんか話を聞けるかもしれねー」

 

「すみません……」

 

 鳥人と蜥蜴人は、近縁らしい、という話は聞きますからね。

 蜥蜴人の益荒男(トカゲ顔)は、鳥人たちにも人気だそうで。

 

「あと、用心棒仲間に、蜥蜴人の男(鮫歯木剣の蜥蜴戦士)もいるが……こっちは望み薄だろうな。むしろ事細かに知ってたら、そっちの方が怖え。一応、声かけてみるか?」

 

「いえ、流石にそれは……」

 

「だよなー。……いやでも、卵なら、父親だろうが母親だろうが誰が温めても変わらんだろうから、蜥蜴人は男も卵を温めたりするかも知れねーぞ? ワンチャン詳しい可能性も……?」

 

 実際、例えばコウテイペンギンは、雌と雄が交代で卵を温めますし、恐竜の偸蛋龍(オビラプトル)も雄が卵を温めていたのではないかという説がありますから、的外れな考察というわけでもないでしょう。

 

「うっ、確かに否定できません……、いやでも……」

 

「まあ、先に鳥人の嬢の方から聞いてみよーぜ」

 

 そういうことになりました。

 レッツ インタビュー!

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 インタービュー終了!

 

「結局、蜥蜴人の卵の扱いは分からない、ということでしたね」

 

「温め方とかは教えてくれたけどなー。まあ、文化としての初卵の扱いは、下手したら蜥蜴人でも部族ごとに違うって話だしな」

 

 やっぱり本人に聞く方が早いってー。などと言いつつ、文庫神官とTS圃人斥候は、別の店に向かっています。

 鳥人の嬢から「それなら夢魔(サキュバス)に聞いてみたら? 彼女ら、エロいことは大体知ってるし、一回パスつなげた相手から知識吸いだしたりしてて無駄に博識だし」と言われて気づいたのです。

 そういえば、半竜娘ちゃんも、夢魔に手解きしてもらってるから、知ってる可能性あるな、と。*3

 

「まあ、サキュバスにも聞くだけ聞いてみて、ダメだったらリーダー本人に聞こーぜ」

 

「はい、その時は、私も覚悟を決めます……!」

 

「何の覚悟だよ」

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 しばらく歓楽街を歩いて進んでいたところ、文庫神官とTS圃人斥候の行く手を遮る者たちが。

 

「あっ! 見つけたぞ! あいつらが持ってるみてえだ!」

 

 暗くもないのに、火のついた短い()()を手に持った男と、その取り巻き。

 どうにも堅気のようには見えません。

 仕掛人(ランナー)でしょうか? いえ、ランナーなら、初手奇襲安定でしょうから、声をかけてきた時点で違うでしょう。こいつらは一山いくらの破落戸(ごろつき)でしょうね。あるいは、交渉しようという気があるのであれば、ぎりぎり祈りの言葉持たぬ者(ノンプレイヤー)には堕ちていない、最低限“文化的なチンピラ”なのかも。

 

「え、何でしょう。斥候さん、お知合いですか?」

 

「悪そうなやつらを全員オイラの知り合いにすんじゃねえ。知らねー奴らだよ」

 

 顔を見合わせる二人。ですが、どうも良くない雰囲気です。

 文庫神官は、戦闘になると思っていなかったので、最低限の武装しかしていません。

 TS圃人斥候は、用心棒の仕事上がりなので武装はそろっていますが、徹夜が響く可能性があります。

 

「お、おい」

 道を遮った男たちのうちの一人が話しかけます。

 

「も、持ってるんだろ? だ、出せよ!」

 TS圃人斥候の腕前は、このあたりでも有名なので、相手のゴロツキは腰が引けています。

 

「ハァ? 何のことだよ?」

 ギロリとTS圃人斥候が睨み返すと、男たちはたじろぎますが、それでも退散はしません。

 

「だ、だから、アレだ!」

 

「アレって何だよ? 要領を得ねー奴だな……」

 

 威圧しつつ、TS圃人斥候は腰のマジックポーチに手を伸ばし、必要なものを手に取ります。

 そして、文庫神官に小声で話しかけます。

 

「1、2の3で合図したら、逃げるぞ」 「……了解です」 「じゃあ、カウント――いち、にぃ、の――」

 

 常日頃から冒険で連携を取っているため、こういった事態に陥ったときの対策も万全です。

 ゴロツキの男たちは、TS圃人斥候らの空気が変わったことに、まだ気づいていません。

 

「だからよ、持ってんだろ、アレだよアレ、たま――」

 

さん()!」

 

「!? なんだ!?? 煙――」

 

 3のカウントとともにTS圃人斥候が投げた煙玉が、細い路地を覆います。

 

「いまだ、逃げるぞっ!!」 「はいっ!」

 

「あっ、待てっ、ぅゲホッ、ゲホッ!」

 

 せき込むゴロツキたちを尻目に、二人は逃走しました。

 半竜娘の死霊術で維持された【分身】の残影によって、【加速】の呪文が恒常的に維持されているため、その逃げ足はとても速いものです。

 そこらのゴロツキで追いつけるものではありません。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 そしてゴロツキたちを撒いたところで、TS圃人斥候と文庫神官は一息つきました。

 

「……さっきの男たちの一人が持っていたのは、マジックアイテムの“物探しの蝋燭”ですよね、短くなってましたけど。失せ物探し(ダウジング)に使うという」

 

「だろーな。……何だってんだ、あいつらが言いかけてた言葉は、“たまご”だろ? リーダーが産んだ卵のことか? マジックアイテム使ってまで探すようなもんかよ」

 

 文庫神官が、胸元に子負い紐で抱えた卵を、誰にも渡さないように、ぎゅっと抱きしめます。

 TS圃人斥候は、周囲から奇襲を受けないように、あちこちに視線を向けています。

 

「それがそうなのよねー」

 

「ッ!?」 「誰だ!?」

 

 急に掛けられた言葉で、文庫神官とTS圃人斥候の二人に緊張が走ります。

 

「私よ、私。そう緊張しないで」

 物陰から現れたのは、エルフの野伏――同じ一党の森人探検家でした。

 

「エルフパイセンかよ、脅かすなって」

 

「ごめんごめん。で、まあ事情を教えてあげると、ローグギルド経由で懸賞がかかってるのよ。――“【辺境最大】が産んだ初卵、銀貨5万枚”ってね。しかも、“物探しの蝋燭”を支給品としてばらまいてまで」

 

 ――銀貨5万枚!? と、文庫神官とTS圃人斥候が驚きます。

 一つの依頼で動かすような金額ではありません。それに、物探しの蝋燭も、幾らか短く切り詰めたとしても、決して安い魔道具ではありません。

 魔道具持ち逃げのリスクを飲み込んでまで高額な懸賞をかける、その依頼者の本気度が(うかが)えます。

 

「ま、まさか、エルフパイセンも、それを受けたんじゃねーだろーな……?!」 「そ、そんなことありませんよね――!?」

 森人探検家の銭ゲバ具合を知っている二人が顔色を悪くしていますが……。

 

「ああ、それはないわ。そういう怪しい依頼を真に受けるのは、バカだけよ。“裏取りはエチケット”ってね」

 ――気前の良すぎる依頼には、ご用心……。と、森人探検家は口元に指を立ててウィンクします。

「それで、裏取りした結果、どうも、依頼人は5万枚も支払う能力はなさそうだし、なぁんかその卵も良くない目的に使われそうだしってんで、あなたたちを探してたのよ。その卵とやらがあるかどうか知らないけど、襲撃は受けそうだしね――で、どうも実際、“【辺境最大】が産んだ初卵”ってのは、実在するみたいね」

 森人探検家は、文庫神官の胸元に抱えられた卵を確認すると、ため息をつきました。

 ローグギルドから近い順に合流しようと、TS圃人斥候の用心棒先の店に行ったら、文庫神官と一緒に夢魔の店に行ったと聞いて、二人を探していたそうです。

 

「その様子を見ると、手放す気はないんでしょう? なら、大元を断ちに行かないとね」

 ――卵詰まりが体調不良の原因だったんなら、リーダーも今は復活してるのかしら、そっちにも合流しなきゃね。そう言って、森人探検家は算段を立て始めます。

 

「……大元っつーと、問題の依頼人の居場所は分かるのかよ?」

 TS圃人斥候が肝心のところを問いただします。

 

「いいえ? そこまでは、まだたどり着けていないわ。……でも、()()()()()()()()()を持った連中がここら辺をうろついてたじゃない? おあつらえ向きに、ね」

 

 そう言って、森人探検家は、袋いっぱいに詰め込まれた、幾つもの短い蝋燭を見せました。

 

 

 というところで、今回はここまで!

 ではまた次回!

 

 

*1
砂糖とスパイスと素敵なもの全部:マザーグース(英国童謡集)の『What Are Little Boys Made of?』の歌詞より。ちなみに男の子は、カエルにカタツムリに子犬の尻尾でできているそうだ。魔女と半竜娘を見て、「……女の()?」と疑義を呈してはいけないゾ。

*2
【博識】判定の裁定:本来は【博識】判定に上乗せできるのは魔術師Lvだけですが、知識神の神官が博識ではないのも変な気がするので、この場面では上乗せすることにします。恒常的な裁定ではなく、ケースバイケースとしますが。

*3
夢魔の手解き:過去話「17/n 裏」参照。




 
現地調達は冒険者の必須技能!

蜥蜴人の産卵ビジュアルについて興味ある方は、感想でも言及あったアニメ「異種族レビュアーズ」第7話が参考(?)になる可能性が、ががが? シャルロットちゃんはかわいかったね(蜥蜴人基準)。いやまあひどいアニメ(褒め言葉)なので、うん、まあ。異種族多様性の解釈や考察的には面白いんですよ、はい。なんなら四方世界に彼ら彼女らみたいなのが居てもおかしくないしな……。

そして異種族多様性を強力にサポートするらしいというゴブスレTRPGサプリの限定版は予約受付中! 最新14巻通常版の予約も始まってます!(ダイレクトマーケティング!)

あと、今回の話の蜥蜴人の卵の仕様については、爬虫類・恐竜系のごった煮独自設定です。

ご評価&コメも、みなさまありがとうございます! 年末年始にかけて、評価いただいた方の数が以前までより約10%増して、大変ありがたい限り……! 嬉しいです!

あと1、2話+裏話で、たまご騒動は決着つけて、原作7巻『森姫婚姻編』の予定です。


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30/n たまご騒動(エッグ・ライオット)-2(ティーアースの導きと合流)

閲覧、評価&コメント、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ここ好きタップ、ありがとうございます! なんか一気にお気に入り登録してくれた方が増えてるっ……ありがてぇ……! 皆様の応援を糧に精進します!

●前話:
半竜娘ちゃん、無事、産卵(助産:文庫神官)。
しかし、卵には既に賞金が懸けられていて……。

===

◆支払い能力の裏取りとは?(@歓楽街からの移動中)

文庫神官「居場所は分からないのに、“信用できない依頼人だ”、というのは分かってるんですね。あ、いや、皮肉とかではなく、純粋に疑問で……」
森人探検家「まあね。まず、そもそもぽっと出の依頼人で、与信がない」
文庫神官「 よ し ん 」
森人探検家「……与信がないどころか、どうも、過去に別名義で依頼仲介人(フィクサー)殺して支払い踏み倒したのと同一人物らしいのよね。連絡寄越した使い魔の術式の癖が同じだとかどうとか」
TS圃人斥候「うげっ。いくら気前よく魔法の道具バラまいてくれても、それじゃーなぁ」
森人探検家「前科はもう何十年も前の話みたいだから、向こうもバレないと思ったんでしょうけど。
 でも、ふつーに闇人だのの長命種が取りまとめや相談役してるローグギルドだってあるっていうのにね。横のつながりでも、特にそういうブラックリストの共有は早いし」
※長命種の記憶力をナメたのが敗因。

 


 

 はいどーも!

 “竜の卵を親元から引き離そうとするのは厄ネタ”ってのは、古来からの鉄板展開だから……な実況、はーじまるよー。

 卵を狙ってる輩に合掌しようね……。

 

 前回は、半竜娘ちゃんの体調も良くなって、魔女さんとティーパーティを始めたところまででしたね。

 どうやら、歓楽街やスラム的な地区を中心に、多数の人が動いて街を駆け回る騒動(riot/ライオット)が起こっているようですが……。

 

「なるほど。息を合わせて呪文を増強……勉強になるのじゃ」

 

 ……まあ、そんな騒動などまだ露知(つゆし)らず、半竜娘ちゃんは魔女さんと魔法談義しています。

 

 今のテーマは、複数人での同時詠唱ですね。

 TS圃人斥候を性転換させるときに、儀式により【分身】と力を合わせて増強し、効果をほぼ永続化させたことはありましたが、あれは落ち着いた環境で、魔法陣を敷いていたからできたこと。

 実戦の場で使えるかというと、そのレベルには至っていません。

 

「よく 使われる のは、例え ば『○○から続けて3手』、とか いう 掛け声、ね」

 『死の迷宮』の魔神王を討伐した6人の金等級の英雄たちは、3つの真言を3人の術士で分担することで、上級呪文である【核撃(フュージョンブラスト)】の術を使えたといいます。*1

 息の合った一党でないと難しいですが、その分、威力は跳ね上がりますし、あるいは1人では使えないような難しい呪文も使えます。1つの真言呪文に、3人分の精神力を込めるのですから。

 

「なるほど。あとはやはり訓練かのう……。他の者の真言と組み合わせて、上級の真言呪文を使うというても、やはりぶっつけ本番は厳しかろうしな」

 そうですね、やはり訓練は大事です。

 訓練は本番のように、本番は訓練のように、というやつです。

 

「貴女の ところ は、術士 が多いん だから、がん ばり なさい、ね?」

 そう言って、魔女さんが微笑みます。

 

 と、そこに割り込む声が――

 

「                     
 ゆーゆゆ! ゆゆゆーゆゆー!」

 

 経験値!! 経験値がきたぞ! 

 ―― 半竜娘ちゃんのおっきな胸の谷間から、つぶれまんじゅうのような一等身(なまくび)の姿の精霊が、むにゅっと姿を現しました。

 零落したTASさん(ティーアース)の破片ですね。……ああ、こんな姿になって、お(いたわ)しや……、時空や因果に干渉してブイブイ言わせていたのも今は昔です。

 

 とはいえ、幾つかの権能はいまだ健在なようです。

 例えば、まるで攻略本を見るように、限定的ですが、最適解について先見を得たりですね。

 なお、ユールの日に、本来戦わなくて済むはずの妖怪猟団(ワイルドハント)と戦うように仕向けて、危うく悪の死人占い師ルートに入れかけるなど、TASさん(ティーアース)の選択は、主に社会戦方面のダメージを度外視していますから、素直に従うのは考え物です。

 やっぱり邪神じゃないか!!? でもまあ、神は人間社会の事情なんか考えてくれないのがデフォルトですからねえ。

 

「それ、は?」

 魔女さんが、口元は微笑みながらも、目は笑っていない表情で尋ねます。

 まあ、胡乱(うろん)な物体にしか見えませんよね。

 

「……あー、昔、手前(てまえ)を助けてくれた神の、零落した姿……らしいのじゃ。命の恩義があるゆえ、ある程度の手助けはしたいと思うとるのじゃが……」

 

「なる、ほ ど?」

 

「まあ、どうも、“この世の外から来たもの”を糧に、力を取り戻すらしくての。この騒ぎ方や声の調子からすると、多分、なにかそういう、こやつ自身の糧になりそうなものか、あるいは手前の糧になりそうなものが近くに来ていると言いたいようじゃが」

 ―― 手前を鍛えれば、こやつ自身の復活も早まると思うておるようでな。今のところ、方向性は一致しておる。

 そんなことを言う半竜娘ちゃんを、魔女さんはなんとも言い難い表情で見ています。

 

 かーっ、俺もなーっ、下界に堕ちて美少女の胸の谷間でぬくぬくしつつ冒険とかなー、してみたいよなぁーーッ!

 なお、術の触媒として投げられて爆散する模様。それは流石にノーセンキューかな……。

 

「                     
 ゆゆゆ! ゆゆゆ! ゆゆゆ!」

 

 あっち! あっち! あっち! 

 TASさん(ティーアース)の髪の毛がアホ毛みたいにうねって、ある方向を指し示します。

 ―― 指示した方向は、斜め下方向……地下です。

 

「ふーむ。下水道、かのう。……しかし、これは、この感覚は――」

 

「――そ、ね。行った 方が、良さ そう ね」

 

 ただ単にTASさん(ティーアース)の私欲の戯言なら、『上質な触媒』でも餌付けして気を逸らして、あとは無視してもいいところですが、魔女さんのウィッチとしての勘と、半竜娘ちゃんのネクロマンサーとしての勘が、ビンビンに囁いています。

 

 ―――― これは、世界の危機である。魂を冒涜するものが現れたのだ。……と。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 TS圃人斥候、文庫神官、森人探検家は、騒乱の最中(さなか)にある歓楽街の外れで、猥雑な細い路地に身を潜めていました。

 

「うげっ、まーた居やがるぜ。あいつらもそうじゃねーか?」

 

「いくら何でも多すぎですよ……」

 

「裏取りもしないような適当な仕掛人(ランナー)が飛びついたんでしょ。まあ、依頼仲介する蔦(フィクサー)の質もピンキリだし」

 

 視線の先には、“たまご” “卵!” “た ま ご は ど こ じ ゃ ~ !!” と言って手当たり次第にあちこちひっくり返している者たちの姿が。

 先ほどまでは、森人探検家ら3人も、散々に追いかけられました。(らち)が明かないので、TS圃人斥候が【幻影】の呪文を切り、今は、なんとか撒いたところです。(【擬態】のポーションによる光学迷彩も考えたのですが、お互いの姿も見えなくなってしまうので、この状況では却下です。)

 

 とはいえ、逃げる間に何も手を打たなかったわけではなく。

 乱戦の中で、“物探しの蝋燭”持ちに狙いを絞って不意打ちし、そのダウジング用の魔道具は接収してあります。

 

 しかし、すでに3人の大まかな居場所と人相は割れてしまっています。

 となれば後は人海戦術で……と人手を集めた追っ手の者がいたり、あるいはうわさを聞きつけておこぼれを拾おうと集まって来た者たちがいたりで、一帯は“たまご探し人”たちでごった返しています。

 

「まったく、考えナシな仕掛人連中から情報が中途半端に漏れて、金の欲しい奴らが見境なしに、街中(まちじゅう)で“たまご探し”ってか」

 

(オツム)の哀れな連中よね」

 

「ここで見つかったら、また囲まれて追いかけられてしまいます。何の罪もない方たちが混ざっていると、薙ぎ倒して進む、なんてわけにもいきませんし……」

 

 明らかに一般人が混ざっている中で、強行突破は無理そうです。

 この騒乱の状況では、早晩、衛兵も出てくるでしょうから、そのときお縄になるリスクは取れません。

 冒険者は信用が第一ですからね。今回も、あくまで、“巻き込まれた被害者なんです”と言い訳できる程度には行儀良くしておく必要があります。

 

「空飛んでいければ早いんだけど。……【竜翼】のポーション持ってるでしょ?」

 

「死んでしまいます、やめてください。空だけはどうか、どうか……」

 

「そうね、わたしも空中で発狂したあなたの面倒みて、もろともに墜落とか嫌だから、それは最後の手段ね」

 

「やめましょう」(迫真)

 

 文庫神官ちゃんは、まだ空を克服できていません。半竜娘ちゃんの卵を抱えて、顔面を蒼白にしてぶるぶると震えています。

 強行すると、げっそり『消耗』しちゃいそうな感じですから、やはり【竜翼】のポーションで手を翼に変えて飛んでいくのは、最後の手段ですね。……案外、自力で飛んでみれば、文庫神官ちゃんもトラウマ克服できるかもしれませんが、最初のハードルが高いようです。

 

「となればあれだな、下水道を通っていくっつー感じだな。上がダメなら下だ」

 

「大丈夫でしょうか? 最近、私とお姉さまが【浄化】で綺麗にしてモンスターも追い払っているので、家のない方たちが入り込んで、寝床にするようになったみたいですが……。そちらを通るときも囲まれてしまうのでは?」

 

 これまでは、モンスターが居るから……と、浮浪者の溜まり場としては敬遠されていた下水道も、ゴミやヘドロが綺麗になって怪物もいなくなれば、今度はそこを住処にする人間が出てくる……というわけです。

 半竜娘ちゃんが“善き死人占い師(ネクロマンサー)”として徳を積むため、文庫神官ちゃんと一緒に、遺品・遺体回収などで連日潜っていた影響ですね。

 橋の下や、下水道は、雨風(あめかぜ)(しの)げて、誰のものでもない場所なので、過ごしやすくなったなら、まあ、家のない者たちの溜まり場(そういうこと)になります。

 

「いえ、それは情報が古いわ。あの子が体調不良で休んでる間に、浮浪者たちは大黒蟲(ジャイアントローチ)の大群に追われて、逃げ散ったって話よ」

 

「あーあ、適当に残飯捨てるから、蟲がまた増えたのか……。自業自得だな、そりゃ」

 

 ただ、半竜娘ちゃんが卵詰まりで休んでる間に、怪物たちも戻ってきたようで、結局、元の木阿弥になったとか。

 大黒蟲に齧られて死んだ浮浪者がいるかもしれませんし、この騒動のあとは、また供養のために下水道を見回るのを再開した方がいいかもしれませんね。

 

「じゃあ、下水道を通っていくということで。道は分かるわね?」

 

「はい、私の方で道順は覚えています。とりあえず、冒険者ギルドの近くまで向かいましょう。お姉さまなら、そちらにいらっしゃるかと思います」

 

「……なあ、無駄足や入れ違いも困るから、念のために“物探しの蝋燭”使ったらどーだ?」

 

「……そうね。たくさんあるし。使っちゃいましょうか。たまご探しの依頼人の方は、合流後に探すとして、その分の蝋燭は残さなきゃね」

 

 3人は、半竜娘ちゃんと合流するために、周囲を警戒しつつ、しかし迅速に動き出しました。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 ということで、半竜娘ちゃん×2(【分身】して増えた)&魔女さんトリオは冒険者ギルド方面から下水道へ。魔女さんは、病み上がりの半竜娘ちゃんを心配して付いてきてくれるそうです。

 

 一方、森人探検家&TS圃人斥候&文庫神官トリオは、歓楽街方面から下水道へと入りました。

 

 

 半竜娘ちゃん×2&魔女さんトリオは、霊感とTASさん(ティーアース)の導きに従って、黒幕の方にダイレクトに向かっています。

 

 え、黒幕の居場所はどこかって?

 

 下水道の奥の未踏遺跡があったじゃないですか。あそこです。*2

 西方辺境領域の地下は、いろいろな事情*3で儀式をするのに適した地脈が形成されているのですが、今回の黒幕もそれを利用しようとしているのでしょうね。

 もちろん、中央から離れた辺境の方が、そういった悪の蠕動がバレにくいということもありますし、目的の半竜娘の卵があるこの辺境の街で隠れ潜むなら、地下下水道がやはり第一候補になるでしょう。

 

 今回は双六(すごろく)的な感じで、その地下水道を探索してもらいます。

 25×25のマス目上に、『黒幕へ続く道』、『半竜娘×2+魔女トリオの突入ポイント』、『森人探検家&TS圃人斥候&文庫神官トリオの突入ポイント』を、2D25で置いていきます。

 

 ■双六(すごろく)上のどこにいる?:

  黒幕への道(2D25。以下同じ):(22, 1)

  半竜娘エントリー地点    :(18,11)

  森人探検家エントリー地点  :(15, 3)

 

 プロットするとこんな感じです。

 なんか右上に偏っちゃいましたね。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 半竜娘×2+魔女トリオは1D6を振って、黒幕へ続く道へ向かって進んでいきます。

 まっすぐ進むことができれば、14マスで黒幕へ続く道まで到着できます。

 ただ、止まったマスのイベント次第では、まっすぐ進めない可能性もあります。

 

 一方で、森人探検家&TS圃人斥候&文庫神官トリオは、動き回る半竜娘ちゃんへ向かって1D6を振って進んでいくことになります。

 今のところは11マス分、離れていますが、すんなり合流できるかは、ダイス目次第です。

 

 ということでスタート。

 

 1投目:

  半竜娘チーム4 (18,11)→(22,11)

  森人探検家チーム6 (15, 3)→(18, 6)

 

 マップを拡大して、移動後の位置関係はこんな感じになりました。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 それぞれのマスで何が起こるかは、1D6を2回振って決めましょう。

 イベントテーブルは、大体、次のような感じですね。

 

 ダイスAの出目:

  1→敵エンカウント、

  2→罠あり、

  3→比較的悪いイベント、

  4→当たり障りないイベント、

  5→比較的良いイベント、

  6→アイテム取得

 

 ダイスBの出目:

  1→かなりマズい事態、

  2→そこそこ悪い事態、

  3→比較的悪い事態、

  4→比較的良い(楽な)事態、

  5→そこそこ良い事態、

  6→かなり良い事態

 

 まず、半竜娘ちゃんチームのイベント処理は……2D666

 おおっと、クリティカル。「アイテム取得」で、「かなり良い」というやつを引きました。

 様子を見てみましょう。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

「……ん?」 下水道を行く半竜娘ちゃんが、何かに気づきました。

 

「ど、した の?」 魔女さんが怪訝に問いかけます。

 

「何か光ったのが見えたような……」 そう言って、半竜娘ちゃんは落ちていたものを拾い上げました。

 

 半竜娘は、TASさん(ティーアース)に捧げることができる『上質な触媒』を10個拾った!

 竜の鱗のようで、しかし、決してそうではない、法則が違う世界から飛来したもののように思える……。

 

 あー、これはどうやら、黒幕さんが落っことしたやつみたいですね。

 魔女さんが、【魔法知識】判定、【鑑定】判定に成功したので、彼女らの霊感が察知したという『魂を冒涜するもの』によって変質した何かであることも分かりました。

 

「竜の鱗のようじゃが、もとは、人族の皮膚かの……? しかし、祖竜術の【竜鱗】の術のようなものでもなさそうじゃ。もっと禍々しい何かの気配を感じるのじゃ」

 

「呪い や、(けが)れ――みたい ね」

 

「                     
 ゆっゆくゆーー!」

 

 いただきまーす! 

「あっ、食べよった!?」

 

「……なる、ほど。こう やって、この世の外から 来た ものを、糧に できる の ね」

 

 ティーアースの零落した欠片(ゆっくりまんじゅう)が、ここで拾った、この世ならざる鱗を全て食べてしまいました。

 10個も一気に食べたおかげか、非常に満足げに見えます。

 

「拾い食いはどうかと思うのじゃ」

 

「それ より、先を、急ぎ、ましょ?」

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 続いて、森人探検家たちのイベント処理です。

 ダイスロール! 2D612

 おおっと? 「敵エンカウント」で、「そこそこ悪い事態」というやつを引きました。

 様子を見てみましょう。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

「なんでこんな時に蟲が~~~!!??」

 

「知らないわよーーー!!」

 

「あー、もーー! これでも食らえ!!」

 

 運悪く遭遇してしまった30匹以上の大黒蟲に追いかけられてしまったところ、TS圃人斥候がアイテムポーチから【メディアの油(ガソリン)】を取り出し、蟲の大群に向かって投げました。

 

「燃えろ!!」

 

『『『 GGYYYSSHHAAAAAA!!?? 』』』

 

「今のうちに逃げるぞ!!」

 

「ひーん!」 「卵を落とさないでよ!?」

 

 大黒蟲の大群が焼け焦げていく中で、彼女たちは一目散に逃げだしました。(継戦カウンター+2に加えて、消耗+1)

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 イベント処理が終わったところで、2投目です

 

 2投目:

  半竜娘チーム5 (22,11)→(22, 6)

  森人探検家チーム2 (18, 6)→(20, 6)

 

 位置関係はこんな感じになりました。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 おお、お互い、かなり近づいていますね!

 

 さらにイベント表を振ります。

 

 半竜娘ちゃんチームは2D625! 「罠アリ」ですが、「そこそこ楽な事態」です。

 崩れかけた水路が天然の落とし穴になっていましたが、半竜娘ちゃんの【第六感】と【軽業】が冴えわたり、特に消耗なく突破です。描写は省略!

 

 

 森人探検家チームは2D666

 こっちもクリティカル出ましたか。「アイテム取得」で、「かなり良い」を引きました。

 ちょっと様子を見てみましょう。先ほどの半竜娘チームの例を見るに、銀貨約100枚相当の品が手に入りそうですね。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

「おおっ? 戦輪(チャクラム)が落ちてやがるな。ネズミの巣か、これ?」

 

「しかも四枚も……。少し錆びてますけど、手入れすれば使えそうですね」

 

「錆び方が違うから、下水道にそれぞれ別々に落ちてたのを、モンスターが集めたのかもね」

 

「あ~、カッコいいからって戦輪を選んで、大暴投、そして回収できずに逃げるハメに……って新人冒険者が目に浮かぶな」

 

 まあ、ありがたく再利用するんだけど。

 そう言って、TS圃人斥候がほくほく顔で戦輪を回収しました。

 

 そのとき、ネズミの通り道なのか、チャクラムが落ちていた場所の近くの壁に開いた隙間から、半竜娘チームの姿が垣間見えました!

 

「おっ! リーダー! おーい!! すぐそっち行くから待っててくれ!!」

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 クリティカルということで、アイテム獲得に加えて、PCにとって良いことが起きたわけですね。

 無事に合流できました。

 

「お主らも下水道に来とったんじゃな!」

 

「ていうか、リーダー探してたんだよ~」

 

「はて? なんぞあったかや?」

 

 おずおずと文庫神官が、前に出てきます。

 

「お姉さま……」

 

「おっ、なんじゃ?」

 

「こ、これ! お姉さまと、私の……っ、たまごです!! ついつい持って行ってしまってすみませんでした……!!」

 

 キャバァーン!! 文庫神官が差し出した()()()()の中には、白磁のような表面をした、大きな卵が!!

 

「うん? …………うむ、卵。 …………たまごォッ??! 手前とお主のォッ!?

 

はい!!

 

 はい、じゃないが。

 

 ほら、魔女さんがめっちゃ笑いこらえてるじゃないですか。

 

 その次の瞬間、半竜娘の頭の中で、最近の体調不良や、今朝それが急になくなったこと、故郷の呪術医(ウィッチドクター)の教え、部族の女衆のお喋り、東方戦域で同じく従軍していた同期の女蜥蜴人の悩みなどが、次々と繋がっていきました。

 

「あ、あ~~~! たまご! なるほどのぅ、たまごかぁ! ははぁ、なるほどなるほど……! あー、たまご、はいはいはい、なるほどぉ~~~!」

 

 凄く腑に落ちた感じですね。

 ていうか、やはり、すっかり忘れてたみたいですね、自分が年頃の乙女だということを。

 

「はー、なるほどのう。……でも、どうせ無精卵か、手前の同位体が産まれるものじゃないかの? (タネ)は貰っておらんし」

 

「そんな!? ……って、やっぱりそうですよね~。あ、でも小さなお姉さまが産まれるならそれはそれで……」

 

「卵の中身が生きておるか死んでおるかは、あとで【狩場(テリトリー)】の術の触媒にできるか試せば分かるのじゃよ。*4……それで、卵を届けにここまで来たのかや?」

 

 半竜娘は、文庫神官から卵を受け取りながら、森人探検家にことの経緯を確認します。

 

「いやそれが、それだけじゃないんだけどね。でも、なんかそっちも厄介なことに巻き込まれてる?」

 

「まあのう。……では情報交換からかの」

 

「そうしましょうか」

 

 少女情報交換中……。

 かくかくしかじか、まるまるうまうま。

 

「ああ、その賞金を懸けたという依頼人と、手前らの探しておった『魂を冒涜するもの』は、同じじゃろうな」

 半竜娘ちゃんが口にした推測が正しいか、魔女さんに目配せすると、頷きが帰ってきました。

 

「そうっぽいわよねー。人間やめてる系かしら」

 念のために森人探検家が、卵に賞金を懸けた依頼人の場所を“物探しの蝋燭”で探りますが、ティーアースの零落した欠片(ゆっくりまんじゅう)のアホ毛が指し示す方向と一致しています。

 

「とりあえず、一休みしてから出発しましょうか……」

 森人探検家チームは、群衆から逃げ、また大黒蟲の大群からも逃げて、若干疲労していますからね。

 

「そ ね……。休む なら、臭いを、散らす、わ ね」

 

 ―― ウェントス(風よ)。と、魔女さんが一言真言(ワンワード)を用いて、気流を生み出してくれました。

 おかげで、下水の臭いによって消耗するようなこともなく、休むことができそうです。

 

 休んだら、あとは一直線に駆け抜けて、突入しましょう!

 

 

 というところで、今回はここまで!

 ではまた次回!

 

 

*1
死の迷宮を踏破した6人の金等級:外伝2鍔鳴の太刀(ダイ・カタナ)。3人で協力して【核撃】を撃つ場面は、漫画1話(立ち読みはこちら)で描写されている。なお、同じ呪文を敵は一人で撃ってくるぞ。

*2
地下未踏遺跡:過去話『9/n 精霊使い四方山話、ゴブリン退治ルーティン、下水道遺跡からの救出』にて発見した遺跡。太古の錬金術の産物である万能細胞(ショゴスのなりそこない的な何か)が暴走していたが、槍使い&魔女が率いた冒険者たちにより鎮圧された。

*3
いろいろな事情:未開領域ゆえに、地下には厄介な遺跡や怪物たちが眠っており、それらによる負の作用がある。人族は、地脈の要にある遺跡(テレイン)を利用して、至高神神殿(水の都)や、地母神寺院(辺境の街)を築くことにより、それら負の作用に霊的にも対抗しながら生存領域を拡大してきた。

*4
狩場テリトリーの祖竜術:仲間に触れながら使うことで発動する術で、感知結界と排除結界を張ることができる。卵の中身が生きていれば、術が発動するし、死んでれば発動しないので、それで無精卵かどうか、あるいは生死が分かる。




 
本当は、前々話でチラ見せした、黒幕である怪しげなネクロマンサーだけじゃなくて、美食家とか、卵コレクターとか、軍の研究部門とかも出張らせて卵の争奪戦~とか思ってたんですが、そこまで描写できませんでした。キャラクター増やすと扱いきれないのと、テンポ重視ということで(シナリオカラテぢからが足りない!)。まあ、多分、シャドウランナーたちは、それぞれから依頼を受けて暗闘(シャドウラン)してると思います。

=====

蜥蜴僧侶さんは、知識階級かつ医療従事者でもある神職なので、卵の世話とか、同族の女体の神秘とかもある程度は知ってるとは思いますが、姪っ子とそれらについて赤裸々に話せるかというと、ちょっと躊躇しちゃうかもですね。(「拙僧らはオスもメスも卵を温め、子育てしますのでなあ」とか言って詳しく知ってるパターンも、「それは拙僧の領分ではありませんでしたのでなあ」とか言って全く知らないパターンも、どっちも想像できます。どっちを取るか悩ましい……)

=====

感想評価&コメをいただきまして、いつもありがとうございます! 次で、『たまご騒動』は決着で、その次に、たまご騒動・裏&原作小説7巻への導入って感じで考えています。


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30/n たまご騒動(エッグ・ライオット)-3/3(VS 堕魂術士(フォールン)

閲覧、評価&コメント、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ここ好きタップ、ありがとうございます! それら全てが励みになっております、ありがとうございます!!

●前話:
地上の争乱を辛くも逃れ、半竜娘ちゃんと卵が感動の再会!
そして彼女たちは、黒幕が潜む地下遺跡の奥へと向かう前に、ひと時の休息をとるのだった。

===

Q.TASさん(ティーアース)が力を取り戻すまで、あとどのくらいかかるの?
A.いっぱいたべよう!(目標値を明示するとTASさんが不思議な力を振り絞って(【無】を取得して)因果を捻じ曲げてカンストさせて(エンディングを口寄せして)きかねないので隠匿(マスク)されています。)

 


 

 はいどーも!

 前回はクライマックスフェイズ前に休息をとったところまででしたね。

 

 半竜娘ちゃん×2、魔女さん、森人探検家、TS圃人斥候、文庫神官は、軽く食べ物と飲み物をつまんで、ほっと一息。継戦カウンターをリセットします。

 

「……【聖餐】のランチョンマットがあると、いつでも温かい物を食べられていいですよね」

 地母神さまにも感謝です。と、しみじみ呟く文庫神官ちゃん。

 

「まことにのー」 半竜娘も頷きます。

 

 では早速突入――の前に、【竜血】を利用したポーション類を飲んでから行きましょう。

 特に、炎と毒への耐性を得る【竜命(ドラゴンプルーフ)】のポーションと、動体視力強化の【竜眼(ドラゴンアイ)】のポーションは必須ですね。他にも必要に応じて飲んでおきます。

 光学迷彩の【擬態(カモフラージュ)】のポーションは、止めときましょう。視認できなくなると、連携が難しくなりますし、範囲攻撃魔法に巻き込んでしまう可能性が……。

 

「飲みすぎて吐きそうだぜ……」 TS圃人斥候がお腹のあたりをさすっています。

 

 あとは、零落したTASさん(ティーアース)の破片と、蛟龍の水精霊を、【使役(コントロールスピリット)】によって戦闘に耐えられるレベルで実体化させておきます。

 

『CRRRRR……』

 蛟龍の姿をした水の大精霊が現れました。地下下水道で水気が多いため、場との相性が良いようです。【酩酊(ドランク)】の術が使えるので、その出番もあるかもしれません。

 

 念のため、森人探検家ちゃんには、交易神の奇跡【逆転(リバース)】を積んで(ストックして)もらいます。ファンブルが怖いので。

 

「はいはい了解……『巡り巡りて風なる我が神、気の流れをも裏返し、賽子の天地返しに目こぼしを』――【逆転(リバース)】!」

 

 んー、これでまあ、大体いいでしょうか。

 【加速(ヘイスト)】は、死霊術で活性化している半竜娘ちゃんの分身の残影が維持して常駐化させていますし。分身と魔女さんの分は、そこには含まれていないので追加しましたが。

 

「えーと、これで呪的資源(リソース)の残りは……。手前があと8回、分身が4回、弓士が1回、斥候が1回、灯明の娘が5回……」

 

「あの、卵の守りに、【聖壁(プロテクション)】を貼り付けておきたいのですが……」

 

「ああ、必要じゃの。手前も、形代の人形が常駐化して維持させとる【力場(フォースフィールド)】のうちの一つを、そちらに付けさせるとしよう。

 では、灯明の娘は、残り4回、と」

 半竜娘ちゃんが指折り数えますが、めっちゃリソース豊富ですよね、やっぱり。

 バフ用の【竜血】ポーションや、死霊術の応用による呪文の長時間維持、そのほかにも色んな魔道具を使えるようになったので、リソースを節約できるようにもなりましたし。

 

「あ、いや。【狩場(テリトリー)】の術も使っておくかの。不意打ち防止と、敵と距離を取るためには必要じゃ。ついでに、卵の生死も判別しておくかの」

 ということで、半竜娘ちゃん(分身)が、卵と文庫神官に触れながら【狩場(テリトリー)】の術を使いました。

 もちろん、精霊たちや魔女さん、半竜娘本体の支援を受けて、呪文の達成値を20以上底上げしています。

 無事に結界を作る祖竜術は発動し、半径100mの感知結界、その内側に半径30mの進入禁止結界(魔法や矢玉は防げない)が出来上がりました。

 

「……【狩場(テリトリー)】が発動したということは、卵は無精卵ではなくて生きておるということじゃな。分身の残りの呪文回数は、あと3回、と」

 卵の生死も分かりましたし、相手を近づけないための結界も張れましたし(達成値をかなり底上げしているので、魔神将級でも突破は困難です)、これで大体の準備は整いました。

 

「矢避けの結界はどーする?」 聞いてきたのはTS圃人斥候です。

「いや、お主の呪文リソースは残り1じゃろ? もしもの時の【脱出(エスケープ)】のために残しとくのじゃ」

「あいあいー」

 保険は大事ですからね。

 TS圃人斥候は、ここ一年くらいで魔術を覚えたのですが、攻撃魔術はとらずに補助的な呪文ばかり覚えていて、なかなか渋いチョイスをしています。

 

「贅 沢、ね」

 そのやり取りを見ていた魔女さんの言うとおり。

 ゴブスレさんの一党もかなり恵まれた方ですが、それより半竜娘ちゃんの一党は、呪文遣い(スペルキャスター)が多いですからね。

 

「まあ、恵まれておるとは思っとるぞ。して、そちらは残り何回じゃ?」

 

「あなたと 同じくらい、は、使える わ」

 

「じゃあ少なくとも8回、と」

 

 さすが後衛専門の銀等級ですね。さすまじょ! 回数を明言しないので、実際はもっと使えるのかもしれません。

 日頃から、槍使い兄貴と少人数(ペア)で数々の遺跡へ冒険(デート)に行ってらっしゃるので、きっとそこで呪文使用回数を増やすアイテムとかも拾ってたりするでしょうし。

 

 準備と確認を終えて、地下水路の奥を見据えます。

 

「―― では、突入じゃ!」

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 下水道の水路の奥。

 辺境の街の地下は、いくつかの年代の遺構が複合しているようで、そこから先は、水路ではなく、石造りの通路となっていました。

 通路は所々崩れていますが、十分な強度を保っているようです。かつて跋扈(ばっこ)した魔術師たちの時代の高度な文明の名残(なごり)なのでしょうね。

 

 横に3人くらい並べるくらいの幅の通路を、半竜娘たちは、2列縦隊で進んでいきます。

 

「……なんだか、息苦しいわね」

「ガス、じゃ、ねーとは思うけど。でも【竜命】のポーション飲んでるから、たとえ毒ガスでも分かんねーな、これ」

 最前列は、探索技能が高い者をということで、森人探検家とTS圃人斥候。

 周囲の通路は、TS圃人斥候の腰元のランタンで照らされているはずだというのに、闇が深いように思えます。まるで黒色の(もや)が漂っているような。

 

「知識神様、どうか私どもの行く手をお照らし下さいぃ……」

「待て待て、あまりくっつきすぎるんじゃないのじゃ」

 中列は、文庫神官と半竜娘(分身)。タンク組です。戦闘の時は前列に出ます。

 文庫神官は、家を出るときは戦闘になると思っておらず、軽装のまま出てきたせいで、先ほどまでは、いつもの鎧ではなく神官服でした。ただ、いまは魔法の背負い袋(アイテムボックス的なの)に入れていたいつもの鎧に着替えています。

 卵をしっかり守ろうという気は強いようで、それはもう、しっかりと抱えています。

 半竜娘(分身)の方は、文庫神官に寄られつつも(まあ半竜娘ちゃんがでっかいせいで通路が狭いというのもありますが)、油断なく周囲を見回しています。

 

 そして後列。

 

「……“瘴気”という感じじゃのう……世の理が捻れて軋みを上げておるようじゃ。この先では、果たしてまともに呪文は使えるのかや……?」

「やっぱり、汚染源、が、この先に、いる みたい、ね」

 後列の半竜娘(本体)と魔女は、お互いの霊感で得た悪い予感を補強するようなこの状況に、さらに警戒を強めています。

 ―― 魂を冒涜し、世の(ことわり)を塗り替えんとするものが、きっと、この先に居るはずなのです。

 その気配は、どんどんと強まっています。

 

 って、シリアスぶっていますが、ゆっくりまんじゅう(召喚したティーアース)が頭の上に乗っているので、絵面(えづら)が締まりませんね。蛟龍の水精霊は、後列のあたりでわりと自由に漂っているようです。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 やがて、ひと際に不吉な気配の強い場所へと辿り着きます。

 扉で封じられた先から、瘴気が漏れて流れてきています。

 その扉の大きさからして、おそらく先は広間でしょう。

 

 隊列は入れ替えて、3列縦隊。

 前列は、文庫神官(タンク)半竜娘の分身体(モンク)、そして遊撃のTS圃人斥候(スカウト)

 後列は、森人探検家(アーチャー)半竜娘(ドラゴンプリースト)魔女(ソーサレス)

 

 TS圃人斥候が罠感知をしますが、扉に罠はないようです。

 

 【狩場(テリトリー)】の祖竜術の影響下にある半竜娘(分身)は、そのドアの向こう側に(ひし)めく無数の敵対反応を、すでに感知しています。

 

「行くのじゃ」

 

 半竜娘の言葉に、静かに全員が頷きました。

 

「――ッ!!」

 

 半竜娘の分身体が、無言で気合を込めて、広間と思われる場所へと通じる扉を蹴って開き(キックオープンし)ました。

 続いて瞬時に、6人全員が中へと飛び込みます。

 

 

「……」

 

 油断なく陣形を組んだ半竜娘ちゃんたち6人の冒険者たち。

 逸る気持ちもありますが、それを抑えて、広間の中を手早く確認します。

 

「……瘴気が濃いのう」

 

 広間の中は、闇色の粒子が充満しており、視線を這わせますが、全貌は(よう)として知れません。

 ただ、【竜眼】のポーションの作用により、一党は全員、ドラゴンと同様の眼を得ています。

 ランタンの明かりが瘴気の黒い粒子で遮られても、その奥を見通すことができました。

 

 闇色の粒子は、広間の中央から噴き出しています。

 いえ、正確にいえば、()()()()()()()()()総身(そうみ)から。

 広間中央の、ローブを被ったその男は、結跏趺坐(けっかふざ)して瞑想していたようでした。

 

 ぎりぎりで、【狩場(テリトリー)】の排除結界(半径30m)の範囲からは外れています。

 随分と広い空間のようです。

 

―― 『SHHYYY……、こんなところまで来られるということは、護符を預けた仕掛人(ランナー)か?』 瞑想を中断されたのが不快な様子で、男が立ち上がります。『卵は……確かに持ってきたようだな』

 

 どうやら相手は、こちらのことを、卵泥棒の依頼を受けた仕掛人(ランナー)だと思っているようです。

 ……というか、この口ぶりだと、通路やこの部屋に充満している黒い粒子は、こいつの言う【護符】がないと防げないみたいな感じですね。まあ、ポーションの効果で毒気は防げたおかげで、奥まで来られたんでしょう。

 おそらくは、TASさん(ティーアース)が黒幕の居所(いどころ)を当ててショートカットしたために、必要な情報やフラグを欠いたまま、最終決戦(クライマックスフェイズ)に突入したのだと思います。

 

―― 『ぐぐぐ、その邪魔な結界を解き、卵を早くこちらに寄越すがいい。じきに地獄の門が開き、天からは外宇宙からの悪意が落ちてくる。そしてこの世は、暗黒に包まれるのだ』

 陶酔するように語る、卵泥棒の依頼主。

―― 『そのとき、あらゆる暗黒の勢力を併呑し、天地を統べるは、堕ちた魂(フォールンソウル)を宿す我ら、新たなるヒトよ。そのために、力強き竜人の、(けが)れなき卵が必要なのだ。我らの王を降臨させるための器にするために、だ』

 

 あ、情報収集してないからフラグが足りない分、敵さん(GMさん)がある程度は吟遊して(うたって)くれるみたいですね。やさしみ。

 

―― 『星辰(せいしん)が揃い、大破壊の周期がやがて来たる。フォールンソウルは竜と強く適合する……しかし、人の因子がなくば、新たな世界は、真に人の世の後継にはならぬ。そして、フォールンソウルが染め上げるのは無垢なる器でなければならぬ』

 自らの占いで得たという予知を語る男。

―― 『ゆえに、王の器は、その卵でなくばならないのだ』

 

 語り終わって満足したのか、死人占い師のようなローブの男――堕魂術士(フォールン)としましょうか――は、再度要求を告げます。

 

―― 『さあ、それを渡せ。でなくば報酬は渡さぬぞ。優秀なる仕掛人(ランナー)

 

 それを受けて、代表して森人探検家が応えます。

 

「ふん。幾つか訂正があるわ」

 

―― 『ほう?』

 

「まず1つ。優秀な仕掛人(ランナー)は、あんたみたいな胡散臭い前科持ちの依頼人の仕掛(ラン)は受けない」

 指折り数えていきます。

 

「次に、得意満面に裏事情を話したってことは、生かして帰す気ないのが丸わかり。不意打ちする知能もないの?」

 冥途の土産に、というやつですよね、明らかに。

 

「そして、私たちはそもそも仕掛人(ランナー)じゃない。―― 冒険者よ!!

 

 

 その言葉を聞いて、いよいよ堕魂術士(フォールン)が激昂します。

 

―― 『冒険者! 冒険者か!! ならば、貴様らを殺してから卵を奪うまでのこと!! 我が領域に踏み入ったその不明を恥じて死ね! さすれば死せるその魂は、我が同胞として堕として()でてくれようぞ!! 黒き寵愛を受けることだ!!』

 

 メリメリとローブが盛り上がり、堕魂術士(フォールン)の背から2(つい)4枚のコウモリのような……いえ、竜のような翼がせり出します。

 さらに、そのフードで覆われた顔があらわになり、3(つい)6つの眼玉がぎょろりと半竜娘ら一党を睨みつけました。

 

―― 『死して竜となりし屍よ、我らの敵を根絶やしとせよ!!』

 

 そして、堕魂術士(フォールン)の掛け声とともに、黒色の瘴気の粒子で覆われていた壁の上から、無数の敵意に満ちた赤い瞳の輝きが現れました。

 

 異界の理に侵された下水道のモンスターたちです。

 

 

 大鼠は、竜のような鱗に覆われて、まるでセンザンコウのような姿になり、背中から翼が生えています。

 

 大黒蟲は、甲殻や脚が鋭く伸び、そして硬くなり、(クビ)が伸びて変異したのか、蟲のような(アギト)を備えた小型の竜のシルエットに。

 

 これが『黒き寵愛』という名の瘴気の侵食の結果であれば、はた迷惑な愛もあったものです。『キサマの愛は侵略行為』と喝破してやらねばなりますまい。

 

『『『『 GRRROOOO!!! 』』』』

 

 百以上は居るであろうそれらの小型竜たちが、【狩場(テリトリー)】の結界が及んでいない部分の壁面と天井を、びっしりと埋め尽くしています。

 この堕魂術士(フォールン)の発する瘴気によって死に、瘴気に侵食されて新たな生命として蘇った怪物たちです。

 そして、堕魂術士(フォールン)はそれらを全て従えているのです。

 

―― 『小癪な結界を張っておるようじゃが、雷鳴の息吹は防げまい! そして卵には雷を防ぐ術をこちらがかければ、死ぬのは貴様らだけということだ!』

 

 堕魂術士(フォールン)は、雷への耐性を与える呪文を詠唱すると、それを文庫神官が持つ卵へと飛ばして付与します。まあ、卵に呪文への抵抗の意思はないので、当然、それは通ります。【聖壁】の守りも、卵を直接、対象とされてしまっては意味がありません。ただ、これで、雷のブレスが当たっても卵は守られるでしょう。

 

 雷のブレスは、直線状に60mほどの射程があるため、【狩場(テリトリー)】の結界の外から撃っても届きます。

 もとが鼠や蟲とは言え、百以上にも及ぶ、雷電(サンダーボルト)に同時に襲われては、相乗効果もあって威力が高まるでしょうし、守りの術を張っていても、ひとたまりもないでしょう。

 

―― 『瘴気によって、術はまともに使えんはずだ。雷鳴の中、踊るように焼け焦げて死ね!!』

 

 堕魂術士(フォールン)の言葉を合図に、大鼠や大黒蟲を素体にした小型竜たちが口を開き、雷電の吐息を噴き出します!!

 

 

 

 しかし、堕魂術士(フォールン)の長口上を聞いて、また森人探検家がわざわざ返答していたのは、狙いがあってのこと。

 すなわち、時間稼ぎのためです。

 口上の間に、半竜娘たちのうち術士組は、術の準備をしていました。

 

「……【浄化(ピュアリファイ)】から、合わせ て、3手。いける わ ね?」

 

「もちろんじゃ!」 「承知したのじゃ!!」

 

「いい子 ね。マナの流れは、こっち、で つくる わ ね」

 

 森人探検家が堕魂術士(フォールン)とやりとりしている間に、魔女と半竜娘×2が、集中し、大技の準備に入ります。

 分割詠唱による相乗により、上級の呪文を使おうというのです。

 リードするのは、熟達の魔術師である魔女さんです。

 

 三人の集中に伴って、瘴気溢れる中でも、確かにマナが高まっていきます。

 しかし、瘴気がやはり邪魔をしているようです。

 それを祓うは、文庫神官の役目です。

 

「では、私は、周囲の瘴気の浄化の準備を。――『蝋燭の番人よ、汚濁を取り除く我が手に、どうぞ一筋の灯火を』……」

 

 そしていよいよ、森人探検家の返答に痺れを切らした堕魂術士(フォールン)が、率いる配下に雷電の吐息を(けしか)けさせました!

 

 

「―― 知識神様、御力を……【浄化(ピュアリファイ)】!!」

 

 堕魂術士(フォールン)や瘴気、それに侵された小型竜は、アンデッドに連なるものではありませんので、【解呪】は効きません。あれらは、()()()()()の、新たな生命なのです。

 ですが、異物を清める【浄化】の呪文であれば、瘴気を()()()()()()にできます。

 マナの流れを阻害する瘴気が、文庫神官の祈りによって、きれいさっぱり消えていきます……!

 

 しかし、瘴気の影響を逃れたマナを掌握するのに、あとほんの一瞬だけ足りません。

 

「雷か! それならちょーど良いぜ! チャクラム4つの空中回路でぐるぐる回ってな!」

 

 しかしそこに、TS圃人斥候が、下水道で拾った戦輪(チャクラム)を纏めて持って投擲!

 散らばった4枚のチャクラムが、迫る雷電の吐息を中間地点で惹き集めます。

 空中に並んだ4枚のチャクラムの間を、雷が駆け巡り、ほんの一瞬だけ、その進行を遅らせました!

 

 

 そして、その一瞬で十分でした。

 

 三人の術士が、清浄になったマナを瞬時に掌握!

 

ウェントス(疾き風よ)!! ……あっ

 半竜娘の分身体が、力ある言葉を唱えます!

 ……あ、こっそりファンブルしてたみたいですが、森人探検家ちゃんの【逆転】で事なきを得ましたね……。

 風の真言なので、交易神の助力との相性もばっちりです。「交易神さまに感謝なさいよ!」と森人探検家なら言うでしょうね。

 

ルーメン(光とともに)!!」

 半竜娘の本体が、それに続きます。

 彼女たちがいま想像しているのは、かつて全てを薙ぎ払ったという、偉大なる祖竜の輝く息吹です。

 

リベロ(解放されよ)――――!!」

 最後に合わせて三人分のマナを、(つや)やかさすら感じる声でまとめ上げたのは、魔女さんです。

 練習ナシのぶっつけ本番ですが、熟練のウィッチは(あやま)ちません。

 

「「「 【核 撃(フュージョンブラスト)】ッッッ!!! 」」」

 

 全てを破壊する光が、激しい爆風とともに解放され、迫っていた雷電など歯牙にもかけず、すべてを呑み込んでいきます……!!

 

 

 

―― 『……ぐ、ぐぐ、ぐ』

 

 そして破壊の嵐が去った後、小型竜は全て一掃され、(スス)として焼き付いて残るのみ。

 生きている敵は堕魂術士(フォールン)だけとなっていました。

 それでいて広間の壁は壊れず、半竜娘たちも健在。あの魔法によってもたらされるエネルギーは、破壊すべきものとそうでないものを選り分けることが可能なようです。

 その生き残った堕魂術士(フォールン)も、4枚の翼は全て焼け落ち、装備も燃えて熔けてしまっています。

 体中の至る所が泡立ち、爛れてしまっていて、やがて死ぬのは、誰の目にも明らかです。

 

―― 『まさか、ここで、このような、試練が、ある、とは』

 

 むしろ、これで殺しきれていないのが異常な状況です。

 熟練の術者3人の術を束ねた【核撃(フュージョンブラスト)】は、それほどに強力な魔法でした。

 

―― 『だが、たとえ、死すとも、異界の、(ことわり)を、この世に、導く、核たる魂は、この身から、別の者に、移るのみ……、やがて来たる、星辰を、畏れよ――』

 

「                     
 ゆっゆくゆーー!」

 

 いただきまーす! 

 なにか呪詛めいたことを言っていた堕魂術士(フォールン)を襲ったのは、森人探検家の放った矢に括りつけられて飛んできた、TASさん(ティーアース)でした。

 

―― 『な、なんだ、こいつ……ぬわーーーーー!!??』

 

 バリバリ グシャグシャ バキバキ ゴクン。

 

 

 はい、後顧(こうこ)(うれ)いもキレイさっぱり無くなったところで、今回はここまで。

 

 ではまた次回!!

 




 
卵から何が生まれるかとかその辺含めて、後始末のことは、次回、『30/n たまご騒動・裏』編で。
ちなみに、蜥蜴人の場合、族長の家系の一粒種(=王卵)は一個だけみたいですが、そうじゃない一般蜥蜴人の場合は、複数個産むんじゃないかと思われます。また、爬虫類や鳥では、数日おきに産卵するのは普通です。つまり、半竜娘ちゃんの産卵期は、まだ終わっていない……。

>半竜娘「うっ、またなんか、腹の中に違和感がきたのじゃ……ッ」

あれ、ということは、半竜娘ちゃんにも、同時期の同腹の卵から生まれた兄弟がいる可能性が……?

感想評価&コメが誠に、まことに、ま こ と に、励みになっております! 感謝感激雨霰(あめあられ)ってやつです! ありがとうございます!

 ◆◆◆ダイマ重点◆◆◆
原作最新14巻は、北の山の向こうの北海の話になるそうなので、ひょっとしたら鋼を奉じる民(キンメリア人)関係とか掘り下げられるかもしれませんね。楽しみですね!
 ◆◆◆ダイマ重点◆◆◆


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30/n 裏(たまご騒動・後始末。夏、エルフの森へ)

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●前話:
零落したTASさん(ティーアース)の破片「むーしゃ むーしゃ しあわせー♪」
しほうせかいの へいわは まもられた!

 零落したTASさん(ティーアース)の破片は、少し力を取り戻した!
 零落したTASさん(ティーアース)の破片を触媒にした場合の、【力球(パワーボール)】への補正に+1!(補正値+10 → +11)


 

1.影を走っていた人たち

 

 

 辺境の街の歓楽街周辺では、血走った眼をした人間たちが「たまご!」 「たまご!?」と声に出してまで探していた。

 (どぶ)まで(さら)わんという勢いだ。

 彼ら群衆(暴徒一歩手前)が探しているのは、“【辺境最大】が産んだ『初卵』”だ。

 銀貨5万枚という懸賞は、人を狂わせるに足るものだ。

 

「狙い通り、ってとこだな」

 

仕掛(ラン)のオーダーは、“卵を狙う勢力の邪魔をしろ”……だけどね。それなのに情報をばらまいちゃって……」

 

 優雅にカフェで会話しているのは、仕掛人のペアである。

 圃人・少女趣味でマゾヒズムを患ったダメ兄貴分と、それを支える苦労性の相棒である弟分(()とは言ってない)だ。*1

 

 【辺境最大】が産んだという『初卵』の取得依頼は、銀貨5万枚という破格を提示した謎の死人占い師(フォールン)の他にも、美食家(グルメ)だの蒐集家(コレクター)だの育種家(ブリーダー)だの、多くの依頼人から出されている。産み落とされたその日に依頼が出された、ということは、彼らは【予見(プレコグ)】の術でも使っていたのだろうか。

 そして取得依頼が出される一方で、お互いの競合相手への妨害依頼も出されていた。

 つまり、自分のものにならないにしても、『あいつにだけは、絶対に渡すな』、という依頼だ。

 

「流石に取得依頼の掛け持ちは良くねえが、妨害依頼の掛け持ちなら大丈夫だろ」

 

「まあね、そりゃ四方八方から“あいつに渡すな”って依頼を受けても、“誰の手にも渡らない”ようにしちゃえば、達成できちゃうけどさ」

 

 彼らは複数の依頼人から妨害依頼を受託して、半竜娘の『初卵』が誰の手にも渡らないように、騒乱をわざと拡大させているのだ。

 一般人にまで『初卵』の懸賞金の情報を流したのは、彼らの策略であった。

 

「こんだけの数の素人が、しっちゃかめっちゃかにかき回しちまえば、プロは手を引くんじゃねえかな」

 

「だといいけど」

 

「ま、そうでなくても、狙われてる方も警戒を強めるだろ。新進気鋭の冒険者一党なんだから、ヘボい仕掛人の手に掛かることもあるめー」

 

「……だといいけどね、ホントに。でもまあ、前金も多重に受け取ってるから、赤字ってこともないし、いっか」

 

「そうそう、こんだけやったら十分十分。あとは、情報に踊らされたやつらを高みの見物と行こうぜ」

 

 どうやら彼らは、なかなか依頼の選別が上手い、強かでやり手な仕掛人(ランナー)のようだ。

 

 

<『1.多重依頼を無事に達成したから、そりゃもうガッポガッポですよ』 了>

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

2.ひっひっふー

 

 

 堕落した魂の持ち主(フォールン)が、この四方世界それ自体の法則を塗り替えようと、その企みの中核となる強力な個体を生み出す器にするべく、半竜娘の穢れなき『初卵』を狙った事件から、数日。

 

「うぅうううう……んっ」

 

「お姉さま! 頑張ってください!」

 

「うぅん。……んあっ!」

 

「ひっひっふー、ひっひっふー、です!」

 

「ぅぅぅんんんあっ! ぅあっ、あん!」

 

「がんばれ♡ がんばれ♡」

 

「ふっ……んあっっ!!」

 

 すぽーん!

 

「わあ、産まれましたよ! お疲れ様です!」

 

「ひぃ、ひぃ、で、出たのじゃ~?」

 

 半竜娘は第2卵を産卵していた。

 蜥蜴人は、族長の一粒種である『王卵』は1つとすることに決まっているが、それ以外の一般蜥蜴人は、複数の卵を産んで温めるのが通例である。*2

 

 (パイプ)のような細長い、拳から肘までとほぼ同じ大きさの卵は、粘液を吸収しながら徐々に膨らんできている。

 しかし、それだけでは水分が足りなさそうだ。

 

「ここに知識神様の御力で【浄化】した水がありますので、()けちゃいますね!」

 

「おーう、頼んだのじゃ~」

 

「はい!」

 

 元気に返事をした文庫神官の心のうちは次のようなものだ。

 

―― 最初の卵は、地母神様の【聖餐】の奇跡で作り出した純水に()けざるを得ませんでしたが、今回は準備万端。知識神様が【浄化】なさった水で洗礼すれば……これはもはや、知識信徒たる私の子供ともいえるのでは???

 

 わりと重めの欲望にまみれていた。

 

 

「最初の時は全然、なんてことはなかったのにのう。むしろ寝てたら終わっておったし……」

 半竜娘は、初卵と第2卵の違いに不思議そうだ。

 

「むしろ力んだのが良くなかったんじゃないの?」

 産卵が終わったのを察知して、部屋に入ってきた森人探検家。

 助産は、過去に暮らしていた文庫で手伝った経験もあるという文庫神官に任せていたのだ。

 まあ、非定命たる森人が、お産についての造詣が深いはずもなし。

 

「そーだぜ、リーダー。りらーっくす、りらーっくす、ってな。緩急が大事なんじゃねーかな、知らんけど」

 もちろん、TS圃人斥候もお産の詳しい知識を持つわけもなし。だって元は男だし。

 

「そういうもんかのう……?」

 若い半竜娘(14歳)も、特に産卵について詳しいわけでもなく。

 実際のところはおそらく、初卵の方は卵詰まり状態になって久しくて、腹圧がすでに十分高まっていたから、比較的すぐに産まれたということなのだろう。

 

只人(ヒューム)のお産に比べたらなんてことはありませんよ! 血も出ませんし!」

 水分を吸い込んで丸丸と膨らんだ第2卵を抱えて、テンションが高い文庫神官。

 

「……只人(ヒューム)は出産もだけど、毎月大変よね」

 森人(エルフ)の身体は、そんなぽんぽこ毎月着床準備を整えたりしないので、ある意味安定している。

 

「んで、リーダーはこれで卵はおしまいか?」

 TS圃人斥候が半竜娘に尋ねる。

 

「うーむ、わからん。普通は2つか3つ。多くても5つは超えないはずじゃが」

 

「結構多いのね」

 

「残念ながら確実に全ての卵が(かえ)る訳でもないしのう。まあ、きっちり世話をしておれば、王卵のように1つだけ残しておっても、必ず(かえ)すことができるらしいが。詳しくは知らんのじゃ」

 

「それならお任せください!

 火蜥蜴(サラマンダー)蛟龍(コウリュウ)の精霊様の助力を、お姉さまがた(半竜娘と森人探検家)に願っていただいたおかげで完成した加湿恒温室!

 それに加えて、専用に調整した樫人形(ウッドゴーレム)による無人転卵!

 このように、もう完璧に準備を整えています!」*3

 

「それは楽で良いのう」

 半竜娘は、至れり尽くせりな状況に感嘆した。

 

「こういうとき、家建てて良かったと思うよな。誰に伺い立てることもなく改築増築できるし」

 TS圃人斥候の言うとおり、それは持ち家の利点の一つである。

 

「それで、卵が(かえ)るまで、どのくらいかかるのよ?」

 森人探検家の問いも、当然のもの。

 

 その間は、全員では遠出する冒険には行けないということになるのだから。

 まあ、卵連れで冒険に行くことも不可能ではないが……激しく振り回したり、割ったりする可能性もあってリスキーだろう。

 もちろん、卵だけ家に残しておき、ウッドゴーレムに半竜娘の分身の残影を宿らせて柔軟な対応ができるようにして、世話をさせても良いわけだが……それだと戦力的に、外部の者に狙われた時が不安だ。先日も、卵を巡って騒乱になったばかりであるし。

 

「んー、まあ、夏の盛りまでには、かの?」*4

 半竜娘が自分の知識から、孵化する(おおむ)ねの時期を答える。

 

「あら、そんなものなのね」

 森人探検家は拍子抜けしたみたいに呟いた。

 只人みたいに、もっと丸一年くらいかかるかと思っていたのだ。

 

「……とはいえ、来年またこうなるのは嫌じゃから、あとで故郷から産卵抑制の薬と、そのレシピを取り寄せておくのじゃ……」

 産卵により幾分消耗した半竜娘は、そう決意した。

 流石にこの年で子持ちになるというのは、人生設計にはなかったのだろう。

 次の年のために、故郷の呪術医(ウィッチドクター)に手紙を送り、ホルモンバランス調整用の薬とその調剤法を送ってもらうことにしたようだ。

 

 

<『2.ちなみに後日、第3卵まで産まれました』 了>

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

3.たいむふろしき~~

 

 

 半竜娘が第2卵を産んで数日して、またひぃひぃ言いながら第3卵を産んで、さらに数日。

 もう体調の変化もなく、さすがに第4卵はなさそうだと半竜娘を筆頭に関係者が安堵したその日。

 

 孵卵室(ふらんしつ)でゴソゴソする、つぶれまんじゅうの姿が。

 

「                     
 ゆっくゆゆゆーん! ゆくゆゆゆんゆー!」

 

 はやくうまれてねー! 【風化(ウェザリング)】×3! 

 精霊にまで零落したTASさん(ティーアース)の破片だ。

 こいつは、元の権能の関係もあり、時間や空間を司る精霊となっており、それゆえ、時間の流れを進める【風化(ウェザリング)】の術を使えるのだ。

 そして、その術を、柔らかい布を敷き詰めた3つの箱の中にそれぞれ入れられた、半竜娘の産んだ卵に対して、掛けている。

 

 【風化】の術は、本来は生き物には効果のない術のはずだが……。

 しかし、卵という生命になりかけの状態のものは、物質でもあり、生物でもあるという、中間のものなのだろう。その証拠に、【風化】の術は効果を発揮しているようだ。

 加速する時間の中で、卵の中身を偏らせないために、ハイペースで転卵するように樫人形(ウッドゴーレム)に指示しながら、つぶれまんじゅうは、卵の時間を加速させ続ける。

 

 湿度が常に100%で、さらに人肌の気温に保たれた孵卵室なら、時間を加速させても、卵が乾いたり、冷えたりして、中身が死んだりはしないので、安心だ。

 

 そしてやがて、卵の中で発生が進み、物質よりも生命としての属性へと傾いていけば、自然と【風化】の術の対象からも外れる。

 そういう術の仕様上、時間加速のやりすぎはないため、実際安心である。

 ……逆に発生不全で死卵となった場合は、中身がミイラ化していってしまうということでもあるのだが……。

 

「                     
 ゆゆっくゆく、ゆゆゆんゆゆゆんゆん!」

 

 いいこ いいこ、はやいのは よいこと! 

 無事に、3つ全ての卵が正常に発生したようだ。

 発生が進んだことで、【風化】の術は全て、卵の中の雛蜥蜴(ひなとかげ)によって抵抗(レジスト)されて、解除された。

 卵の中では、意思らしきものが宿るまでに育った雛蜥蜴(ひなとかげ)がしきりに動いているのか、たびたび、カタコトと跳ねるように揺れている。

 

「                     
 ゆゆゆんゆゆんゆー!」

 

 いいしごと したぜー! 

 時空の精霊(ティーアース)は満足げにフンスと鼻(?)から息を出すと、位相をずらしてその場から消えた。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

「お、お姉さま! 大変です!! もう生まれます! 殻に(ヒビ)が!!」

 

「な、なんじゃとっ!!??」

 

 

 

<『3.14歳の母(処女産卵にして3児持ち)』 了>

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

4.大叔父様ー!!

 

 

 空も青く高くなり、夏も近づく辺境の街の、冒険者ギルドの昼下がり。

 

「「「 おおおじさまーー!! 」」」

 

 ギルドの中では、キャッキャと、はしゃいで蜥蜴僧侶に登っていく3人の幼い蜥蜴人の女児の姿があった。

 その3人の女児は、まるで半竜娘の時間を(さかのぼ)らせて、そのまま幼くしたような姿形(すがた かたち)をしている。背の高さは、只人(ヒューム)の3歳児くらいだろうか。

 半竜娘との、サイズ以外での明確な違いは、その半袖短衣の裾から除く手足と尻尾の模様が、烏の濡れ羽色ではなくて、もっと鮮やかな夏草色の縞々で、草原の草むらのような模様になっている点だろうか。おそらくは、保護色なのだろうと思われる。影になるところは明るい色で、逆に、出っ張り部分は暗い色でと、輪郭をぼやけさせるような陰影の濃淡(カウンターシェイディング)でもあるようだ。

 

「おお、これこれ、上に登ると(あぶ)のうございまするぞ?」

 

「だいじょうぶ!」 「おちても うけみ とる」 「それでしぬなら そういうさだめ」

 

 幼いくせに、すでにその価値観は、蜥蜴人流に染まっているようだ。

 おそらくは、半竜娘の分身体の残影が、守護霊か背後霊のように四六時中付き従って、英才教育をしているのだろう。*5

 

「……あれ、なに?」

 妖精弓手が首をかしげた。

 

「ええと、慈母龍の巫女さんが産んだ卵から、生まれたのかと?」

 女神官が補足するが、彼女も半信半疑だ。

 

「ぇえ……? いやだって、卵が産まれたのだって、ついこないだでしょ? まあ、相手もいないのに子供ができるってのは、樹の挿し木(クローン)みたいなものだってので、納得はしたわよ。それはいいとして、生まれてすぐなのに、あんなに(おっ)きくなるぅ?」

 いくら森人の―― 特に上の森人(ハイエルフ)の―― 時間感覚が大雑把とはいえ、流石にこれは奇異に映ったようだ。いや、エルフだからこそか。エルフの子供はそんな直ぐに大きくならない。

 

「そうおかしくもございませぬぞ、お二方。確かに卵が孵るのは随分と早かったようでありますが、殻から出た後の成長はこんなもの、こんなもの」

 ―― まさかこんなに早く又姪(まためい)姪孫(てっそん)ともいう)ができるとは、思いも寄りませんでしたがなあ。*6

 幼竜娘(ロリりゅうむすめ)三姉妹に登られながら、しみじみと呟く蜥蜴僧侶。

 蜥蜴人の成人年齢が13歳であることや、3歳からスパルタ式教練に放り込まれることを考えれば、生まれて数か月で只人の幼児ほどに成長していてもおかしくはない。

 

「拙僧らは、産まれたそのときから立ち、歩き、肉を()むのでしてな。十分な栄養があれば、その分だけ、食べれば食べるほどに、早く、大きくなるのですとも。―― この街には、小鬼殺し殿の居る牧場の、良質なチーズもありますでな」

 

 “チーズ”と聞いた幼竜娘三姉妹が、目を輝かせます。

 

「ちーず?」 「ちーず!」 「ちーず!!」

 

「おお、又姪(まためい)()らも好物ですかな?」

 

「すき!」 「おいしい!」 「かんろ!!」

 

「然り、然り! まさに甘露! どれ、この大叔父が、おやつに(おご)って進ぜよう」

 

「「「 わーい!! 」」」

 

 獣人女給に注文を投げる蜥蜴僧侶と、その近くの椅子に並んで座って目を輝かせる幼竜娘三姉妹。

 周囲の冒険者も、微笑(ほほえ)まし気に見守っている。

 

「か、かわいい……」

 

「……慈母龍の巫女さんにも、あんな時代があったんでしょうか」

 

 ほっこりして見守る妖精弓手と女神官。

 手のかからない幼児ほど、可愛いものはない。

 

「それで、母親の方は、冒険者ギルド(こっち)に子供預けてどこ行ったのよ?」

 

「さあ……。慈母龍への御祈りに、魔術の研鑽に、武術の鍛錬に、錬金研究、死者の弔い、精霊と戯れての瞑想……やることが多いみたいですし……」

 

「……ちょっと生き急ぎすぎじゃない? 半竜の娘(あのこ)

 

 

<『4.ギルドに納品に来た牛飼娘「子供かぁ……(チラチラ)」 小鬼殺し(ゴブスレさん)「…………」』 了>

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

5.水源を探れ!

 

 

 夕方、半竜娘たちが冒険者ギルドに戻ってきた。

 

「ははじゃ!」 「ままうえ!」 「かあさま!」

 

「おーう、相変わらず呼び名が適当じゃのう。まあ、良いが」

 

 すかさず、ピョンピョンと小鳥が跳ねるようにして、幼竜娘三姉妹が、戻ってきた半竜娘の巨体に駆け寄り、登っていく。

 そして、一緒に入ってきた森人探検家ら、一党のメンバーにも撫でられ、ご満悦だ。

 

「どこに行ってらしたんですか?」

 女神官が尋ねる。ちなみに、女神官はこの日は午前中は寺院の葡萄園の手伝いで、午後はオフだった。

 なお、妖精弓手は昼まで寝て、午後から起きてきたらしい。

 

 半竜娘は、女神官の問いを受けつつ、幼竜娘三姉妹を仲間に預け、ギルドの受付へと進む。

 

「前に納品した樫人形(ウッドゴーレム)を作る魔道具のメンテナンス依頼じゃよ」

 

「ああ、あの街道から少し離れた文庫(ふみくら)の……」

 

「そう、それじゃ。先日、小鬼どもに襲われたのを撃退できたはいいが、念のために不具合がないか見てほしいと言われての」

 

「ゴブリンに……!」

 小鬼と聞いて、女神官の眉根が寄った。確実に、小鬼殺しの影響だ。

 

「幸い、犠牲者もなく(みな)無事で、魔道具も特に異常なしでな。じゃが、襲ってきた小鬼は撃退しただけで、全滅させたわけではないようじゃから、小鬼退治の依頼を出すつもりじゃと。こっちの書簡がそうじゃな」

 

 そうなれば、きっとゴブリンスレイヤーが依頼を受けるだろう。もちろん、女神官も同行することになるはずだ。

 

「そうですか……」

 

「あとは、その文庫からもう一つ書簡を預かってきておってな。水の街の至高神の神殿宛てじゃと。なんでも、古代の文献―― 粘土板の研究で、中央に知らせるべきことが記されておったのを解読できたとか」

 

「!! ひょっとして、大司教(アークビショップ)様宛てに……?」

 

「そういうことじゃな」

 

 もう一つ、結構重要な書簡を預かってきているようだ。

 

「というわけで、受付殿。あの文庫から、ゴブリン退治の依頼と、水の街への配達依頼じゃ」

 

「はーい、承りましたー」

 

 話しながら受付に辿り着いた半竜娘から、受付嬢が書簡と金貨袋を預かった。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 受付へのメンテナンス依頼の報告を済ませた半竜娘。

 仲間たち(&幼竜娘三姉妹)が座る卓へと近づくと、すっかりギルドの酒場に棲み着いてしまった羽衣の水精霊が、同じ卓を囲ってグチグチと言っていた。

 

「だからさー、ここ最近、川の水が濁ってるのよー。ニンゲンには分かんないかもしれないけどー、精霊的にはこう、べとーって感じで――」

 

 羽衣の水精霊は、近づく半竜娘に気づくと、矛先をそちらに変えた。

 

「―― あっ! いいところに来たわね! これは絶対、川の上流で何か良からぬことをやってる輩が居ると思うのよね! というわけで! 冒険者の出番だと思わな~い?」

 

 

<『5.半竜娘「すまんがそういうわけで冒険に行くのじゃ」 幼竜娘三姉妹「「「 そっかぁ…… 」」」』 了>

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

6.前回までのリザルト

 

 

 半竜娘一党は、堕魂術士を討伐したことにより、それぞれ経験点1000点、成長点3点獲得!

 

 

<『6.成長は次回以降』 了>

 

*1
仕掛人バディ:オリキャラ。過去話『24/n 裏』の「3.ちんまい用心棒」に登場のEL(エル)変態と、過去話『25/n 収穫祭-1(with 森人探検家+TS圃人斥候)』の前書きの補足に登場したそのEL変態なモブ仕掛人の相棒な仕掛人の再利用。過去話『28/n 裏(歓楽街での後始末。そして春に向けて)』で、ロマの侯爵を逃がす仕掛(ラン)を請け負っていたのもコイツらという想定。

*2
王卵はひとつ:王子の卵と同時期に妾腹から生まれた卵であっても破棄され、叩き割られる定めだという。しかし、一方で、蜥蜴人の伝説には、その破棄される定めの卵が砕かれたところから這い出でて、やがて青き熱線を吐くまでに長じた黒き鱗の勇者《嵐呼ぶ者》の逸話があるという。ある種の貴種流離譚に分類されるであろうと思われる。1100年ほど前の話で、メタ的にモチーフの一つは怪獣王ゴジラだろうか? あるいは、名前的にはエルリックサーガのストームブリンガー?

*3
卵の扱い:鳥は転卵させなければいけないが、他の多くの爬虫類は、産み付けられた状態から動かしてはならないとされる。親鳥が温める(恒温なので親が温められる=転がす前提)か、環境熱(地熱、太陽光、枯草の発酵熱)で温める(変温なので親が温められない=産みっぱなし前提)かの違い。蜥蜴人は、恒温動物であることから、鳥に近い抱卵形態だと想定し、転卵させるものとした。転卵可能かどうかは、卵の中に()()()があるかどうか(カラザが卵黄の向きを一定に保つ)によるという。

*4
孵化までの期間:恐竜は3か月~9か月と比較的長期間かかったとされる研究もあれば、鳥類と同系統なので、もっと短く半月~3か月と推定される場合もあるという。蜥蜴人については、60日程度と考えた。ちなみにダチョウが41日程度。

*5
分身残影の守護霊化:半ば憑依するようにして、知識や技能を教授している。ただし、取って代わることはしない……というかできない。内包する魂の質量が、一個の生命体である幼竜娘三姉妹と、分身体の残影では、話にならないくらいに差があるので。むしろ逆に、分身残影の方の(うっす)い霊体が吸収される始末である。またそれは、蜥蜴人の宗教観的にも正しい。死者は、生者の糧になるべきなのだ。

*6
又姪・姪孫:姪や甥から生まれた娘。




 
半竜娘ちゃんたちが現在使用可能な経験点、成長点は以下のとおり。
 経験点成長点
半竜娘4500点14点
森人探検家6750点15点
TS圃人斥候5750点11点
文庫神官3500点 7点

あと、半竜娘ちゃんが、もう少しで冒険者Lv10(MAX)になります。すごい。

次回から、原作小説7巻『森姫婚姻』編ですが、半竜娘ちゃんたちは、行く先のエルフの領域でそんなめでたいイベントがあるとは知らずに、上流に向かっちゃってます。果たして結婚式に参列できるフラグは立つのか?!

感想評価&コメをいつもありがとうございます! 今後ともよろしくお願いいたします!

◆◆◆ダイマ重点◆◆◆

原作最新14巻の書影が更新されています! 海賊(バイキング)スタイルの女神官ちゃんかわいい、かわいくない?
◆◆◆ダイマ重点◆◆◆


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二周目レギュRTA 目指せ【辺境四天王】~山海(さんかい)()く編~
31/n 地獄の門は闇の奥に(The horror! The horror!)-1(遡上)


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●前話:
卵が3つ、(かえ)ったよ!

幼竜長女「地母神さまに祝福された産湯(うぶゆ)に浸かった私と!」 (地母神官+盾戦士=奇跡【不動】で装甲加算・自動回復+護衛技能+奇跡【小癒】のタンク・ヒーラー構築)
幼竜次女「知識神さまが浄化なさった産湯に浸かった私と!」 (知識神官+魔術師=バッファー(【加速】等)・マンチ戦術(【聖壁】等)担当後衛)
幼竜三女「母さまと大叔父さまの薫陶(あつ)き私で!」 (竜司祭+斥候=祖竜術【擬態】+祖竜術【竜牙刀】+不意打ち特化プレデター構築)

幼竜娘三姉妹「                               
       3人そろって! 超竜戦隊 リュウセンジャー! 」

 
       3人そろって! 辺境最麗 ビューティスリー! 
 
       3人そろって!  ニンジャ ドラゴンズ!!! 

幼竜娘三姉妹「ちょっとっ、合わせなさいよー!」 「そっちが! 合 わ せ て !」 「もー! ぐだぐだじゃないかー!」
 
===

今回から原作小説7巻の話になります。リンク先では試し読みもできます。美麗なカラー口絵(くちえ)は必見です! ヒロインズの水着姿とか、水着姿とか、水着姿とか!! あとモケーレ・ムベンベ。
 


 

 はいどーも!

 ブラウンウォーター・ネイビー(河川・沿岸海軍)な感じで川を(さかのぼ)る実況、はーじまーるよー。

 

 前回は、卵を狙ってやってきた外宇宙だか異次元だかの刺客、フォールンを倒したところまででしたね。

 こいつはどうやら、はるか昔の襲来時(数千年前?)に星辰が揃ったときから、いまのいままで休眠してたやつが、たまたま掘り起こされて、近くの人間に取り憑いたものだったみたいです。

 フォールンという種族の本隊(あるいは本体)は、いまだに宇宙をさまよっているのでしょう。

 フフフ、所詮あやつは寝起きでふにゃふにゃだった寝坊助(ねぼすけ)よ……。

 

 経験点と成長点も獲得しました。

 

 森人探検家ちゃんが、【狙撃】技能を熟練(3段階目)に伸ばしたようです。1ラウンドかけて狙いをつけて、次のラウンドでぶっ放す技能ですね。

 熟練(3段階目)になれば、命中補正は+8になり、射程も1.5倍に伸びます。

 

 TS圃人斥候は、【体術】技能を習熟(2段階目)に伸ばしました。

 これで回避や盾受け、軽業などの判定への補正が強化されました。

 

 半竜娘ちゃんと文庫神官ちゃんは、成長点は温存するようです。

 また、全員、職業レベルの方は成長はさせず、もっと経験点を溜めるみたいです。

 メイン職業を上げるのには足りなかったみたいです。

 

 

 さて、彼女らは無事に初卵を守りきり、その後産まれた卵も含めて3つの卵が、無事に孵化しました。

 蜥蜴人の成長は早いですね~。孵化後数か月で、もう既に、跳ねて走って話せるくらいになってます。

 

 生まれたこの3人娘ちゃんたちは、遺伝子的には半竜娘ちゃんのクローンなので、能力値も高水準でまとまっています。

 幼児なので、今の能力値は、成人時点の3割程度でしょうか。

 

 

Q.でも半竜娘ちゃん(基礎ステは1D3で全て3)の3割だと、普通に一般人程度のステータスにはなりますよね?

 

A.はい。

 

 

 さすが、蜥蜴人最高峰の天才と同じ遺伝子を持った娘たちですね……。

 

 ……このまま単為生殖でじゃんじゃん産んで、半竜娘ちゃんと同じスペックの蜥蜴人を量産した方が、四方世界の為になるのでは……?(禁句)*1

 

 いえ、単為生殖では多様性の面で脆弱になるからやりませんけど。

 そんなに卵ばっかり産んでたら冒険もできませんし。

 じゃけんホルモン調整薬を取り寄せて、産卵をコントロールしましょうね~。

 

 

 閑話休題。

 

 

 さて。

 いま、半竜娘ちゃんたちは、川を(さかのぼ)り、水の都を越えて、森人の領域へと入っていくところです。

 目的は、水質汚染している(羽衣の水精霊曰わく)原因の調査とその排除です。

 行きがけの駄賃に、上流にある川沿いの開拓村との間で交易もしています。抜け目ないですねー。

 

「……お主のことじゃから、依頼料も出ない冒険には難色を示すかと思っとったが」

 半竜娘ちゃんが、同行する森人探検家へと話しかけます。

 森人探検家は、森人に珍しい交易神の信徒で、一党の金庫番でもあります。

 

「そんな、わたしが吝嗇家(りんしょくか)みたいに言わないでよ」

 森人探検家が、心外とばかりに反論します。

「お金にこだわるのは、貯めたお金で、浪漫溢れる冒険を気兼ねなくやるためよ。今回みたいにね」

 

「で、あるか」

 

「それに、エルフと個人的に交易してた行商人が、何人も帰ってきてないとか、船が沈められたとかって話も気になるし。交易を回す旅商人の保護や、交易の障害の排除は、交易神様の御心(みこころ)(かな)うものだから、その面からも今回の冒険に異論はないわ」

 ――それはそれとして、マジックバッグをフル活用して、道中で交易はするけど。と付け足したのは、さすが交易神の信徒ですね。

 

 なにせこの一党は、マジックバッグによりちょっとした隊商並みの輸送力を持ち、快速馬車により大商会の特別便以上の機動力さえ誇ります。

 実際、収支だけ見れば、“本業:商人”で、“副業:冒険者”な状態だったりします。道楽冒険者……。

 

 

「はぁ~……、あの子たち大丈夫でしょうか……。寂しく思ってないでしょうか、お腹空かせてないでしょうか……。ああ、心配です……。かわいいから誘拐されたりとか……」

 残してきた幼竜娘三姉妹を思って憂鬱げにため息をついているのは、鎧を着こんで知識神の聖印と退魔の聖剣を()げた文庫神官です。

 母性が刺激されまくったのか、小さな蜥蜴人ハーフの幼子(おさなご)たちにすっかり参ってしまっています。

 

「出かけるときも平気そーだったろ。蜥蜴人の子供は成長早いみてーだし」

 応じたのはTS圃人斥候。魔力が籠った宝玉を嵌めた鎧に、投矢銃(ダーツガン)や小剣を携えた身軽な格好です。

「リーダーが出かけてる間は、地母神寺院や、大叔父の竜司祭さんに面倒見てもらうように頼んでんだろ? むしろ地母神寺院じゃ、“聞き分けが良くて手伝いまでしてくれて助かる”ってまで言われてたし、心配いらねーって」

 

「そうそう、留守番くらい問題ないじゃろ。それに、もし何かあって死んだら死んだで、その時じゃし」

 この辺のドライな死生観は、蜥蜴人全開って感じですね。

 また産めば良くね? くらいの認識です。

 

 そも成人したての14歳に、しかも予期せぬ子供なのに、強い愛着を持てってのも難しいかもしれませんね。

 子供が産まれたからって、すぐに親としての自覚が生まれるわけもなし。

 

 もちろん半竜娘ちゃんも、幼竜娘三姉妹のことを、可愛く思ってはいますし、端から見れば過保護なくらいに色んなアイテムを持たせて出てきました。

 ただ、まだまだ自分のことを優先したいお年頃ってだけで。

 

「うー……、それでも心配ですー……」

 ぐずぐずはらはらしている文庫神官の方が、よっぽど母親らしいくらいかもしれません。

 

 文庫神官ちゃんも、半竜娘ちゃんが決して冷たいわけではないことは、理解していますし、蜥蜴人の成長の早さも()()たりにしているので、それ以上は言い募ったりはしませんが。

 

「心配してもしょうがねーだろーよ。それよりも、これから行く先の話じゃねーか?」

 

 TS圃人斥候が、()()()()から外を見て、地図を見て、(むずか)()(うな)ります。

 なお、この地図は、半竜娘が【竜翼(ワイドウィング)】で飛んで、空から作った航空地図です。オフの日に飛んだときに、ついでにやってるんだとか。

 

「一番上流にあった開拓村はもう過ぎたし、いまは森人の領域との端境(はざかい)ってーところか。……何かあるとすれば、そろそろだぞ」

 

 座席のそばの窓を開けて、まず真下に見えたのは、茶色い()()()()*2

 視線を這わせて上げていけば、川面(かわも)の広がるその向こうには、それを囲む深い渓谷の急峻な斜面。

 積み重なった地層の縞が、美しく模様を成し、幽玄な雰囲気を作っています。

 反対側の窓を覗けば、同じく、川の水面(みなも)と、渓谷の斜面。斜面の上に取り残された大岩。ところどころに斜面から生えて張り出した木々の枝と青々とした葉。

 

 

 ―― そう、彼女たちは、()()()()()()()()()()()()のです。

 

 

「今のところ、特に異状はないがのぅ。精霊の機嫌も良し、【水歩(ウォーターウォーク)】は良好じゃ」

 御者席に座った半竜娘ちゃんの分身体は、専属契約を交わしている蛟龍の水精霊を仲介役にして、周辺の水と風の精霊に【使役】の精霊術で助力を願い―― 特に『上質な触媒』として火吹き山の闘技場で冬服を仕立てるときに手に入れた大蛮族鴎(ジャイアントシーガル)の羽を捧げたことで彼らはご機嫌なようです―― 【水歩(ウォーターウォーク)】の術によって、馬車とそれを()く2頭の麒麟竜馬に、水上走行をさせています。

 馬車には、半竜娘ちゃんによる【追風(テイルウィンド)】の精霊術と、森人探検家による【旅人(トラベラー)】の奇跡も重ねられており、かなりの速度が出ています。

 来る途中では、行き交う他の船から、目を丸くして見られたものです。

 

 ヒグマ並みの巨体(半竜娘ちゃん)を2つも乗っけてる馬車を沈ませずに維持してる水と風の精霊さんたちには、あとでお礼を弾んだ方が良いかもしれませんね。

 

「【狩場(テリトリー)】の術で張った結界にも反応なし。……じゃが、岸の渓谷の稜線は、感知結界の範囲外じゃ。撃ち下ろしは防げんぞ?」

 

 分身体は手を伸ばして指を立てて、岸の稜線までの距離を測ります。どうやらそこは、結界の外になるようです。

 また、祖竜術【狩場(テリトリー)】には物理的な防御力はありませんから、矢弾は防げません。

 蚊や毒虫や(ヒル)なんかの侵入は防げるので、密林の野営では地味に便利なんですがね。

 

「では、馬車を突撃機動形態に。矢狭間(やざま)をせり出させて、遠間(とおま)の攻撃に備えてくれるかや?」

 馬車の中の半竜娘(本体)が、森人探検家に警戒を頼みます。

 

「はいはい、りょうかーい」

 森人探検家は、ガコンと馬車の機構を作動させて装甲板を展開。馬車の上に遮蔽された空間が出来上がります。

 さっと扉を小さく開けて外に出ると、身軽に上へと飛び乗りました。

 

「一応、オイラも外で備えるぜ。【矢避(ディフレクト・ミサイル)】も使えるしな。……しっかし嫌な地形だ」

 続いてTS圃人斥候も外へと。

 TS圃人斥候の手持ちの武器(投矢銃:射程60mと投石紐:射程30m)では、渓谷の稜線の上までは届きませんが、警戒の目は多い方がいいですし、森人探検家の死角からの攻撃を防ぐこともできます。

 

 谷に挟まれた地形は、兵法に言う“絶澗(ぜっかん)”ですね。

 そもそも近づいてはならない地形で、通らざるを得ない場合は、速やかに抜けるべき、とされます。

 

 術士組は、馬車内で待機です。

 ……あんまりやれることもありませんし。

 

 ああ、いや、そうでもないですね。

 

「風の精霊を召喚して、偵察に出すことにするかの」 本体の方の半竜娘ちゃんが、風の自由精霊を追加で召喚しました。そして、精神力を回復させるための瞑想に入ります。

 

竜馬(りゅうば)の脚を速めさせねばな。【加速(ヘイスト)】を使うのじゃ」 御者席の分身ちゃんは、【加速】を2頭の麒麟竜馬に掛けました。

 

「私は、いざというときの為に【聖壁(プロテクション)】の祈祷を準備しておきます」 背負った錫杖を外して手に握った文庫神官は、祈りの姿勢を取り、聖印にも手を触れます。

 

 一党は警戒を強め、川面(かわも)を行く馬車の速度をさらに上げていきます。

 川面の波や漂流物に乗り上げて、独立懸架式の機構を備えていても、なお大きく揺れます。

 ……幸い、みんな、乗り物酔いにはならず、消耗はありませんでした。

 

「揺れるなー」

 

「仕方なかろう、速度出しとるんじゃから」

 

「渓谷抜けるまであとどのくらいなの?」

 

「あー、リーダーの航空地図だと、まだ中間より手前くらいだな」

 

 渓谷はしばらく続くようです。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 川の水面を道路代わりに馬車を走らせて、(さかのぼ)り進み続けること(しば)し。まだ、“絶澗(ぜっかん)”の地形は抜けられません。

 と、行く先で、ざぁっと鳥が飛び立ちました。

 ……先の岸に何かが居る、ということです。

 

「……!! 前方、襲撃アリ!」

 

「オイラにも見えた。……船―― いや(いかだ)か? 襲われてるぞ!」

 

「崖の上―― 敵は、()()()()よ!」

 

 馬車の上で警戒していた森人探検家と、TS圃人斥候が、警告を発します。

 見えたのは、切り立つ渓谷に挟まれた川の上で、崖の上から落とされる岩や木に翻弄される(いかだ)

 その(いかだ)の上には、冒険者と思しき装備の数人の男女の姿が。

 筏は今にも転覆しそうです。

 

「崖の上から鉄の匂い、装具の音―― 奴ら、装備が良いみたいね。しかも狼騎兵(ウルフライダー)みたい、風の精霊が教えてくれたわ」

 大弓に矢を番えて【狙撃】のために弦を引き絞る森人探検家。

 森はエルフの領域(地形適応:森)ゆえに、彼女の感覚も冴えわたっています。

 さらに半竜娘が呼び出した風の精霊とも交信し、周囲の状況を把握しました。

 

「その分析、小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)さながらだな、エルフパイセン」

 冒険者を助けるための縄や浮きを用意するべく鞄を漁るTS圃人斥候。

 

冒険者(御同業)を救う。小鬼は殺す。両方やるのが、優れた翠玉等級の冒険者というものよのう。覚悟は良いかや? 手前は既に覚悟完了じゃ」

 御者席の分身ちゃんが、ニヤリと鮫のような笑みを見せました。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 切り立った崖に挟まれた渓谷の底を流れる川。

 そこを筏で上っていた冒険者の一党は、現在、非常に危機的な状況にあった。

 

「このままじゃ持たないよぉっ!」

 

「分かってる! 分かってるが、しかし……!!」

 

 落ちてくる礫や矢を盾で受けて防ぐ女戦士。しかしすべては防げないし、防げなかったものは筏の上に降り積もっていっている。

 積もったゴミが、筏のバランスを崩し、喫水(きっすい)が増していく。

 

 只人の野伏(レンジャー)の男が、崖の上から物を落としてくる小鬼どもへと矢を放つが、揺れる筏の上ではどうにも狙いが定まらない。

 牽制にはなるが、しかし奴らは両岸にいる。片方を牽制しても、もう片方を防げない。そもそも矢を下から撃ち上げる時点で不利だ。

 

「術は……!?」 女戦士が岩を盾で弾きながら問う。

 

「魔術は届かねえ! すまねえが、操舵に集中する!」

 

「いま精霊に祈願を――」

 

 ローブの魔術師の男が苦々し気に言い返す。

 そもそも、揺れるこの船の上では、集中がおぼつかない。

 そして誰かが(さお)さすなり、(かい)()ぐなりして操舵もしなければならない。

 魔術師の男は目を凝らし、彼らより前に犠牲になったであろう船の残骸が沈んでいるのを避けようと、懸命に操舵する。

 

 巫術士の女(ドルイダス)が、必死に精霊に祈願をしている。

 触媒を入れた鞄は、不覚にも、筏の上を浚った波によって流されたが、まだ近くに浮いて漂っているのが見えた。

 川の精霊にお願いするなら、漂う鞄から漏れた触媒で何とかなるはずだし、精霊に頼んで引き寄せることも叶うだろう。

 

 

 彼らは、水の街を拠点に活動する冒険者。

 

 森人の領域へと、秘薬の材料だという薬草を採取しに行く依頼を受けたのだ。

 前金で筏を一つ買い上げて向かっても、十分に利益が見込めるはずだった。

 採集依頼は、自然に親しむ巫術士の女(ドルイダス)の得意とするところだし、成算は十分だと見込んでいた。

 

―― それが、こんなことになるなんて……!!

 

 一党の頭目を務める巫術士の女(ドルイダス)は、歯噛みしつつ、精霊へと呼びかける。

 森人の領域は、野生動物こそ多くとも、混沌の軍勢はほぼ居ないはずだった。

 だがしかし……。

 

 ゴブリン!

 

 こんなところで、ゴブリンの待ち伏せに遭うだなんて!!

 雄大な景色に気を取られ、移動中ということで油断してしまっていた。

 妹の女戦士に至っては、裸足になって川に足を浸してくつろいでさえいた。

 

 そんな中で、彼女たちは襲われたのだ。

 

 まるで水路を流れる枯葉に石を投げて楽しむ悪童のように、小鬼たちは、自分たちが乗る筏へと石を投げ、木の枝を投げ、粗末な矢を撃ち下ろしてくる。

 

「ああもう! 剣さえ届けば、負けないっていうのに……!!」

 

 妹の女戦士の言葉に、内心で頷く。

 所詮は小鬼、最弱の怪物。

 まともに術や刃が届けば、なんのことはない。

 

 今までだって、偶発的遭遇(ランダムエンカウント)や、混沌の蔓延る遺跡を暴いた時の敵方の雑兵として、小鬼たちとは戦ってきた。

 そして、そのすべてに、曲がりなりにも勝利してきた。

 

 だが、今回は違う。

 ここまでの危機(ピンチ)は初めてだ。

 

―― 打開策が見えない。

 

 川の精霊に筏を運んでもらったとしよう。

 しかし、どこまで進めば逃れられる?

 

 曲がりくねった川の先は見通せないが、似たような地形が続いている可能性は高い。

 ちらりと見えた小鬼たちは、狼に乗って並走してきている。逃れられるというのは楽観だろう。

 それは、たとえ川を下って戻るにしても同じだ。来るときも似たような地形が続いていたのを覚えている。

 だとすれば、この渓谷に挟まれた地形の、ちょうど真ん中あたりで、ゴブリンは仕掛けてきたのではなかろうか。

 

―― 精霊術で筏を動かしても、どこまで逃げられるか……!

 

 絶望が心を覆いそうになるが、しかし、頭目としての矜持が、それを押しとどめる。

 

―― 考えないと……! 皆が助かるために! でも、どうすれば……!

 

 天上の《真実》神がほくそ笑む。

 “依頼を受けたのが失敗だったね”と。

 

 

 もはや救いはないのか。

 彼女たちの冒険は、ここで終わってしまうのか。

 助けはどこにもないのか……。

 

 ゴブリンの嘲笑が、谷に響き渡る――……

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 ブッダよ、あなたは今も寝ているのですか!!

 

 

 というところで我らが騎兵隊、【辺境最大】半竜娘ちゃん一党の到着(エントリー)です!

 猛スピードで水面を爆走する麒麟竜馬(with 突撃機動装甲馬車)が迫ります。

 

 先を行く筏の冒険者のたちも気づいたようです。*3

 もちろん、崖の上のゴブリンたちも。

 

「このままいくと、前の冒険者の筏にぶつかるぞ!?」

 

「【力場(フォースフィールド)】で空中に足場を作って追い抜くのじゃ! マグナ(魔術)ノドゥス(結束)ファキオ(生成)!!」

 

 御者席にいた分身体の唱えた真言が、水面から空中に半透明の力場による山型のアーチを作りだしました。

 そのアーチは、先行していた筏を越えて、そのさらに前で再び水面へと繋がっています。

 

「みな掴まっておれ! 揺れるぞ! ―― 行くのじゃ!! ハイヨー!!」

 

『BBRRROOOHHH!!』 『WHHHIINNNNYYYYYY!!!』

 

 麒麟竜馬たちが、(いなな)きとともに、勢いよく【力場】のアーチの上を走ります。

 続く馬車の車体は、大きく跳ねて揺れていますが、御者席の半竜娘(分身)、馬車の上の森人探検家やTS圃人斥候、馬車内の半竜娘(本体)と文庫神官らは、必死に掴まって耐えています。

 

「―― よし! よくやったのじゃ、あとでたんまり飯を食わせてやるからのう!」

 

 そして見事に再び川面に着水。

 筏の前に躍り出ました。

 脚を緩めて、筏との相対速度を縮めます。

 

「おい! そっちの冒険者! 鉤縄投げるから(いかだ)(つな)げ!!」

 

「っ!! は、はい!!」

 

 すぐにTS圃人斥候が、用意していた鉤縄を投げました。

 それを受け取った、筏の冒険者は、急いで、しかし(ほど)けないようにしっかりと、縄を筏に()わえ付けました。

 

「よし、()くぞ!! 掴まってろ!!」

 

「っっ!!?」

 

 緊結されたのを確認したTS圃人斥候は、念のため【粘糸(スパイダーウェブ)】の魔法の杖を準備しつつ、御者席の半竜娘(分身)に合図をします。

 

「毒煙幕、準備おっけー! 撃つわ!」

 

 さらに森人探検家が、圧気着火器(ファイアーピストン)で火をつけた毒煙幕を、矢に括りつけて、両脇の崖にそれぞれ飛ばしました。

 

「そんじゃあ、一気に抜けるのじゃ!!」

 

 麒麟竜馬に鞭を入れ、筏を曳きつつも、馬車を加速させます。

 ぐんと速度が上がったことによる衝撃で、筏にしがみつく冒険者たちが「きゃあ!」 「ぐぅっ!?」と悲鳴を上げますが、我慢してもらいます。うちの麒麟竜馬ちゃんたちの方が頑張っているのでそのくらい我慢しろー。

 

 同時に、崖の上からは、毒煙幕を吸った狼たちの叫びと、振り落とされたであろうゴブリンたちの罵声が。

 投石や弓矢は止みました。少なくとも今、崖上に居たやつらは、しばらく追跡は無理でしょう。

 この先にまた待ち伏せが居たとしても、狼が崖の上を行くよりは、筏を曳きながらであっても術を重ね掛けした麒麟竜馬の方が速いので逃げ切れるはずです。

 

 でも、ここでゴブリンを逃すのは業腹(ごうはら)ですよね?

 

「一番射程の長い術は何か知っておるか―― 天候操作じゃよ。カエルム()エゴ()オッフェーロ(付与)……!」

 

 馬車の中で精神集中をしていた半竜娘(本体)が、【天候(ウェザーコントロール)】の術を行使します。

 

 呼び戻していた風の精霊にも助力を乞い、死霊人形に宿る分身残影が維持している【加速】の術を活性化させたことにより、大魔術師級の影響力が発揮されます。

 それは、例えば真夏に雪を降らせるほどの“ありえないこと”でも可能にするほどのもの。*4

 

 そして、半竜娘が選択した天候現象は、“竜巻”でした。

 

「竜巻よ!! そこな小鬼どもを根こそぎにせよ!!」

 

 見る間に暗雲が空を覆い、巨大な漏斗雲(ろうとぐも)が空から降りてきます。

 大雑把な操作しかできないので、フレンドリィファイアが恐ろしい術ですが、敵しかいないところに向かわせるのであれば問題ありません。

 

 空から伸びた漏斗雲は、地上に接続され、ゴブリンたちが潜んでいた崖の上を両岸とも、すっぽりと包んでしまいました。

 遠ざかっている半竜娘ちゃんの馬車のあたりまでも暴風が吹き荒れ、木々が(しな)り、葉が打ち鳴らされ、崖から石がパラパラと落ちてきますが、中心地である、ゴブリンたちが居た場所はその比ではありません。

 

「手前にかかれば、“竜巻を指に巻きつけるのも、投げ縄にするのも自由自在”というわけじゃ!」*5

 

 ゴブリンや狼たちはもちろん、崖の脆くなっていた箇所や、川の水、川に浮いていた船や筏の残骸……そういったもの全てが、螺旋の渦に吸い上げられて、攪拌されながら、はるか上空へと飛んでいきます。

 その末路は、もはや考えるまでもないことです。*6

 

「うむ、やはり自然こそ最強! これぞ環境利用闘法というものよ!」

 

 それは違うと思うんですけど(名推理)。

 

 筏の冒険者たちが、自分たちの後ろで起こった惨劇に唖然としていますが、魔術によってもたらされた現象であったためか、あるいは風の精霊が守ってくれたのか、幸いにも、彼女らの筏は、この大風で転覆したりはしませんでした。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 しばらく筏を曳きながら馬車を走らせましたが、再びの小鬼の待ち伏せもなく、崖に挟まれた“絶澗(ぜっかん)”の地も終わり、左右には大樹が腕を縦横無尽に伸ばして鬱蒼とした古の森が広がるようになりました。

 空も風も、もう元の天気に戻っています。

 

 ……さて、どうにか無事にあの場は切り抜けられましたね。

 

 竜巻でちょっと森が荒れたと思うので、エルフたちがどう出るか気になりますが、今回はここまで。

 ではまた次回!

 

*1
蜥蜴人は覇権を取れるのでは?:単為生殖はレアケースなのと、脆弱性も蜥蜴人は理解している。また、3つの卵がすべて孵化するのは稀。さらに、成長過程や成長してからでも、闘争に精を出しているので、生まれた後も死亡率が高いんですよね……。誰も彼もが喜び勇んで戦死していくので。蜥蜴人が大繁殖して世界を席巻したりしていないのには、その辺の理由がありそうです。ああ、それに寒さに弱いので、北方には進出できないですしね。

*2
茶色い川:枯れ葉のタンニンが染み出すことにより、水が茶色く染まる。流れのない沼や池、また、流れの緩やかな大陸河川で見られる。

*3
筏の冒険者たち:原作に描写があるのは、巫術士の姉と、その妹(職業不明。野伏ではない)。妹の視点で「姉と仲間たち」という独白だったので、少なくとも4人の一党と思われる。原作での末路は“串刺し”。また、彼ら以外にも相当数の商人・狩人・冒険者が犠牲になっていると思われる描写がなされている。

*4
【天候】達成値:知力集中11+発動体3+紅玉の杖1+魔術師Lv7+風の自由精霊3+加速5+2D635=38。達成値30以上で、通常在り得ないレベルの天候操作が可能となる。

*5
竜巻を指に巻きつけるのも、投げ縄にするのも自由自在。 :MtGの『影嵐の侍臣/Shadowstorm Vizier』のフレーバーテキストより引用。

*6
竜巻の強さ:竜巻の強さを表す「藤田スケール(Fスケール)」というものがある。おそらく達成値30越えの【天候】の呪文では、F5レベルの竜巻(強固な基礎を持つ建物でも破壊される、木々は根こそぎ引っこ抜かれて空を舞う)を作成可能と思われるが、普通に自分たちも巻き込まれるだろう。今回はF2~F3レベルに威力を抑えて(それでも、軽い物体はミサイルのような勢いで吹っ飛ぶくらいの風の勢いはある)、巻き込まれないようにするための影響範囲の操作の方に意識を注力したのだと思われる。




 
野外冒険(ウィルダネスアドベンチャー)では、窮まった天候操作が猛威を振るうよね、ということで。(戦闘以外でも、GM「旅の途中ひどい嵐で雨宿りに立ち寄った村が今回の舞台で…」→PL「私のPC、晴れにできますけど、やったら何か起こります?」みたいなのも)

===

◆その頃、辺境の街では

妖精弓手「うちの故郷に招待するわ! ねえ様が結婚するのよ!」
蜥蜴僧侶「それはめでたいですな! ああ、見聞のため、この又姪(まためい)()らも連れて行ってもよろしいか?」
妖精弓手「もちろん! よろしいわ!!」
幼竜娘三姉妹「「「 わーい! かみのえるふさま、だいすきーっ!! 」」」

===

感想評価&コメをいつもありがとうございます! 感想に触発されていろんなアイディアが湧いてきますし、単純にモチベーションが爆上がりしています。ありがとうございます!
 


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31/n 地獄の門は闇の奥に(The horror! The horror!)-2(三ツ首の)

 
閲覧、評価&コメント、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ここ好きタップ、ありがとうございます! 書きたいことを書き込んでいる当作ですが、お読みくださる皆様がいらっしゃるのがありがたい限り。素晴らしい原作にも感謝を!

●前話:
いけっ! 半竜娘! “たつまき”!

===

なお、章題名を、前話時点から『山海(さんかい)()く』編と改めています。夏といえば、山(森)! そして海! って感じの章になる予定です。
 


 

 はいどーも!

 あるーひ、もりのなーか、ダイナソーに、であぁったー!? な、実況、はーじまーるよー。

 

 前回は、小鬼の待ち伏せで筏ごと沈められかけてた冒険者一党を助けるとともに、待ち伏せしてた小鬼たちをトルネードバキュームで空高く吹っ飛ばしたところまででしたね。

 その冒険者たちと情報交換しつつ、半竜娘ちゃんたちは、【水歩】の精霊術で水上を馬車に乗って走りながら、さらに大河を(さかのぼ)ります。

 

 この川はエルフの領域ギリギリを通るようで、森の方に巡察らしき長耳さんたちが見え隠れしますが、こちらには手出ししてきません。

 竜巻を導いたりしたので警戒されているようですが、領域に踏み入ってこないなら見逃すって感じでしょうか。

 つまり、普通の冒険者として遇してくれているようです。まあ、上の森人(ハイエルフ)の姫様の案内でもなければ、こんなもんでしょう。特別、塩対応というわけでもないはず。

 ともあれ、敵対扱いで遠間から弓矢でハメ殺されたりしなくて良かったです……。森でエルフの弓兵の部隊に狙われるとか、死を意味しますからね。

 

 さて、筏の冒険者らの目的地も、まだまだ奥地にあるようですので、しばらくこのまま曳航していきます。

 

「さきほどは、危ないところをお助けいただきありがとうございました」

 

「なんの、なんの。冒険者は助け合いじゃてな」

 

 向こうの頭目だという女巫術士さん(ドルイダス)には、お互いに話をするため、こっちに移ってきてもらっています。

 いやだって、半竜娘ちゃんが向こうの筏に乗ると沈みそうだったので……。

 

 TS圃人斥候と森人探検家は、相変わらず馬車の上で周辺警戒。

 文庫神官は、御者席の半竜娘(分身体)の膝の上。

 馬車の中では、半竜娘(本体)と、女巫術士(ドルイダス)が向かい合っています。

 

「精霊術の触媒まで分けていただいて……」

 

「よかよか、余分に持っておったからの。代価も頂戴したしの」

 

「それでも市価と同じ程度ではないですか。よろしかったのですか?」

 

「良い、そう遠慮するものではないのじゃ。先も言うたが、冒険者は助け合いじゃろ。主らも誰かを助けて、()を回すのじゃよ」

 

 女巫術士は触媒入れの鞄を失ってしまったらしいので、いくらか半竜娘ちゃんの手持ちの触媒を分けて上げました。

 多少の代価はいただきましたが、それも野外価格のぼったくりではなく、街で買うのと同じ値段です。

 阿漕(あこぎ)な真似は昇級の査定に響く……というのもありますが、根本的には半竜娘ちゃんの善性ゆえですね。

 

 半竜娘ちゃんが航空地図(地味に戦略級物資です、コレ実は)を写させてあげたり、女巫術士さんからこの森で採れる希少な薬草やその採取保管方法について聞いたりして、互いに情報交換するうちにも、筏を曳航して馬車は進みます。

 

「ああ、そろそろですね。この辺りまでで大丈夫です。本当にありがとうございました」

 

「……なるほど、どうやら手前らの目的地もこのあたりになりそうじゃ」

 

「それはどういう…………――ッ!!?」

 

 馬車の窓越しに見えた川べりには、林立する()()()のシルエットが。

 丸太に支えられた()()は、人の背丈ほどの大きさで、蟲がわんさかと集っています。

 あまずっぱい、吐き気を催す腐敗臭。蟲の集った下から覗く黒い肉、黄色い脂肪、白い骨。

 

「はン、なるほど、確かにこれは川の水も穢れ(ケガレ)ようさ」

 

「ぅぐっ」

 

 女巫術士が思わず口元を押さえます。

 

 草が生い茂る川岸には、串刺しにされた、無数の人間たちの亡骸(なきがら)が、ズラリと並んでいました。

 亡骸は膨らみ、弾け、泡立った黒い腐汁を、川に垂れ流しています。

 中には白骨化したものも多く見受けられます。

 

 辺境の街で、羽衣の水精霊が感知した“水の穢れ(ケガレ)”……その一因は、この悪趣味な見せしめのオブジェたちで間違いないでしょう。

 見せしめであり、呪いでもある……そういう趣向の悪趣味な飾り物、というわけです。

 これらが、川の汚染源の全てとも限りませんが……。

 

「手前らは、まずここの浄化を行うことにするのじゃ。……彼らの遺体の弔いもせねばな」

 半竜娘ちゃんが、神妙に合掌します。

「まあ、生命の円環に還れたのは、不幸中の幸いであるか。ああ、あの犠牲者の中に水の街の冒険者がおれば、主らには、彼らのタグを持って帰ってもらうことになるかもしれん」

 ―― 弔いと浄化は、存外に骨が折れそうじゃ。

 

「は、はい、その程度、なんなりと。同じ街の仲間のことですもの……」

 自分たちもこの串刺し死体の列に加わりかけていたことを想像して顔を青くする女巫術士(ドルイダス)

 

 ちなみに、曳航されてきた筏では、女巫術士の妹の戦士が、凄惨な光景を前に、胃の中身を吐いていました……。

 同族の死臭は精神にキますし、あと、前の休憩で食べたのが、()()()にして炙った川魚だったとか。ああ(察し)。*1

 筏の上の他の面々も、気分が悪そうです。馬車の中は多少マシだったので女巫術士さんは無事みたいですが。

 

 馬車の屋根や御者席に居た半竜娘ちゃんの仲間たちは、修羅場潜ってる(冒険者レベルが高かった)から平気だったみたいですね。TS圃人斥候はちょっと気分悪そうにしてますが、吐くほどじゃないみたいです。

 

 一行は麒麟竜馬を岸に上げさせ、筏を寄せると、早速、手分けして弔いの準備を―― いえ、日も落ちてきたので、先ずは野営の準備からですね。

 小鬼の襲撃もあるでしょうし、それを捌きながらと考えると、全ての遺体を弔い、川を清めるにも、1日か2日はかかると見込まねばならないでしょう。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

1.晴れ、ときどき、ゴブリン

 

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)一党(+幼竜娘三姉妹)、そして妖精弓手の友人である牛飼娘と受付嬢は、妖精弓手の姉の結婚式に招かれた。

 そして、森人の領域まで川を遡って行くついでに、一党は運河の結節点である水の街への配達依頼を受けていた。

 

 配達物のあて先は、法の神殿の大司教(アークビショップ)―― (つるぎ)の乙女。

 

 辺境の街から少し離れたところにある知識神の文庫から、非常に重要な知らせがあるとのことで、信頼のおける等級の冒険者に―― ついでに言えば剣の乙女と面識があればなお良い――、文書が託されたのだ。

 つまり、我らが【辺境最優】の冒険者、小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)に。

 

「……小鬼は居ないようだな」 小鬼殺しは兜を巡らせ呟いた。

「そうそう街中に小鬼が出てたまるかい、かみきり丸やい」 鉱人道士が、酒瓶に口をつけつつ、律儀にその発言を拾った。

 

「ふぅむ、魔神も()らんようですな」 「「「 ですなぁー 」」」 蜥蜴僧侶と、彼の頭や肩に登って張り付く幼竜娘三姉妹が、ある種残念そうに言った。

「居るわけないでしょ」 妖精弓手が、げんなりして、そう返す。

 

 一年前の、小鬼や魔神の脅威も今は昔。

 水の街の夏は、穏やかな風に満ちていた。

 

「……法の神殿に行く」 ずかずかと水の街の中心に(そび)える法の神殿へと歩き出す小鬼殺し。

「お気をつけて」 「お土産とか、服とか、お買い物しながら待ってるね」 受付嬢と牛飼娘が、それぞれ声をかけて見送った。

 

「あ、あの、大司教様に、よろしくお伝えください」 牛飼娘に捕まえられて、彼女の豊満な胸を潰すように抱きすくめられた女神官が、控えめに言った。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 小鬼殺しは生真面目に到着早々に依頼を果たしに行き、剣の乙女と、収穫祭ぶりの再会を果たした。

 そして、あの時(収穫祭の夕餉)には果たせなかった、逢瀬の約束を取り付けられたのだ。

 

「……森人の領域へ行く途中で、船がいくつか沈められたと聞きます。そのあたりの情報も含め、お帰りの際には、是非、森の今の様子のお話をお聞かせくださいまし、ね」 熱っぽい口調で、剣の乙女が告げた。「去年の収穫祭の埋め合わせも、していただきませんと。お待ち申し上げておりましたのに」

「……そうだな」 闇人が収穫祭の折に襲ってきたときのことを引き合いに出されては、ゴブリンスレイヤーも断ることはできなかった。

 

 そういうわけで、森人の姫の婚姻に呼ばれたあとの帰り路では、小鬼殺しだけが法の神殿を訪ね、剣の乙女との食事やお忍びの街歩き(エスコート)の後に、これまた一年前に献上した転移門の魔道具で辺境の街まで送ってもらう手はずになっている。

 まあおそらく、馬車でいく仲間が辺境の街に着くころに、転移で追いつくことができるだろう。

 

「ああ、今からもう、森からのお戻りが待ち遠しいですわ」

「そうか」

「御勤めがなければ、わたくしも着いていきましたのに。残念ですこと」

 名残惜しがる剣の乙女に別れを告げて、小鬼殺し一党は、商いの船に同乗して川を遡っていく。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 最上流の開拓村で、筏に乗り換え、さらに上流へ。

 

 幽玄なる森、渓谷が、彼らを迎える。

 

「「「 はぇー 」」」

「おお、この地層は、いずれ白亜か、三畳か。岩を割れば、大いなる父祖の名残があるやもしれませぬぞ」

「「「 ほぇー 」」」

 

 蜥蜴僧侶が、又姪である幼竜娘三姉妹に講釈を垂れる。

 その様子を、一行の特に女性陣は、にこにこと微笑んで見守っている。

 

 そんな彼らの頭上を、鳩が一羽、飛び越えていった。*2

 

「ここまで来れば、あと少しよ! 里につく前に暗くならないように、急ぎましょう!」

「そうか」

 妖精弓手が帰郷にうきうきしながら言った言葉に、小鬼殺しは常の調子で簡素に返した。

 

「もっとこう、何かないんか、かみきり丸。例えばこの、神の手による雄大な景色を見て」

「……そうだな」 小鬼殺しは、鉱人道士の言葉に少し考えて言った。「この地形は、良くないな。両岸の崖の上から小鬼に襲われたり、崖を崩されては、コトだ」

 

 はぁあああ。と、一党の面々からため息が漏れた。

 小鬼殺しは、どこに居ても小鬼殺しだということだろう。

 

「……あら、雨が」 受付嬢が言うとおり、晴れているのに、雨粒が降ってきた。

「天気雨。雨具出さなきゃ」 牛飼娘が荷物を手繰り寄せ。

「はい、どうぞお使いください」 先んじて女神官が、雨具を出してゲスト二人に渡した。野外での動きでは彼女に一日の長がある。

 

 そんな中、妖精弓手の表情が険しくなる。

「待って、何か、変よ。この雨粒、川の匂いがするし」 さらに彼女の長い耳が、異変を捉えたようだ。「上……! 何か……――」

 

 妖精弓手の覚えた違和感が何か、それはすぐに分かることになった。

 

「おぉうっ!? 何か降ってきおるぞ!?」

 鉱人道士に言われて見上げれば、空の彼方にあるように見えた幾つもの黒い点が、徐々に大きくなってきていた。

 

 ()()()は見る間に大きくなり―― そして、崖や水面にぶつかり、筏の近くの川面にも落ちて、飛沫を散らし、筏を大きく揺らした。

 

 そして、銀等級冒険者たちの優れた動体視力は、その落ちてきたものが見えていた。

 木の枝、岩、狼、具足、そして――

 

「―― ゴブリン、だと」

 

 小鬼殺しの言うとおり、落ちてきたのは、小鬼だった。

 空の果てから、凍ったゴブリンの死体が降ってきたのだ。

 

 

<『1.ファフロッキー現象:ゴブリンの怪雨(あやしのあめ)』 了>*3

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 はい。

 半竜娘ちゃんたちが、串刺しにされた人間たちの並ぶ場所を浄化すべく、その付近に陣取って野営して、その翌日。

 

 あ、ちなみに麒麟竜馬と半竜娘ちゃんの夕飯・朝食は、付近で()()()よく獲れた魚や蟹やザリガニです……。

 そいつらの餌(あるいはその餌の餌)が何だったか考えると、祖竜信仰の者以外はとても口をつける気にはなりませんでしたが、半竜娘ちゃんにとっては、生命の円環を回すことこそが何よりの供養。

 敬虔な気持ちで、無念の魂を取込み、ともに竜に至るべく思いを馳せます。

 

 他の者たちは、保存食や【聖餐】のランチョンマットの魔道具で出した祝福された質素な食事をとりました。

 半竜娘ちゃんと麒麟竜馬も、魚や蟹、ザリガニが、火力の関係で半生だった―― エルフの森の近くでは火除けの加護のせいで火力が出せません―― ので、病気除けの効果を目当てに、【聖餐】の術で現れた食事をつまみました。

 寄生虫とか怖いですしね。病気除けは大事です。

 

 弔いと清めには、文庫神官ちゃんの【浄化】が大活躍しました。

 途中までは女巫術士が率いる筏の冒険者たちも手伝ってくれたおかげもあり、どうにか日暮れまでには、全ての死体を下ろし、清めることができました。

 筏の冒険者らとは昼に別れ、その後、時折、【狩場】の結界に引っ掛かる小鬼狼騎兵(ゴブリンライダー)を討滅しつつだったものの、なんとか一日で終えられて、一党の皆で一息ついたところです。

 

「蜥蜴人流でよければ、まあ、鳥葬でも樹上葬でも水葬でも、なんでも良かったんじゃがな」

 

「まあ手間がねーのは、そーいうやり方だが、さすがになぁ」

 

「きちんと犠牲者の方たちのことを尊重して、様式を合わせてくださるお姉さまは、やさしいと思います」

 

 敵でもないのですから、出来るだけ彼ら犠牲者の意に添うように葬ってやるのが、務めというものでしょう。

 信仰の押しつけはいけません。

 特に半竜娘ちゃんは、ネクロマンサーとして、彼らの霊の声も聞けますからね。

 

 ということで、【浄化】で清めた遺体を、しっかりと拭いて、あらかじめ幾つも詰めてきていた頭陀袋(ずだぶくろ)で包み、範囲を絞った【天候】の呪文で極寒の空気を形成してまとめて凍らせて、マジックボックスに収納。

 水の街に持ち帰り、遺族が居れば引き渡し、あるいは、無縁墓地に葬る場合は法の神殿に預けることになるでしょう。

 

 ですが、幾つかの遺体から取り外された骨の一部は、凍らされずに残っています。

 

「……本当にやるんですか? お姉さま」

 

「ああ、もちろんじゃ、こやつらの魂の残滓が、そのように望んでおる。――“応報せよ”とな」

 

「亡霊の気持ちも分からなくはないけどね。わたしも、もし、小鬼に殺されたなら、そいつらを殺し尽くさないと気が済まないし、まして自分の手で()れるなら、喜んで()()するでしょうし、ね」

 

「そういうことじゃよ。(いささ)か外法の(たぐい)じゃが、この手が良かろう」

 

 冒険者と思われる遺体から取り外した骨の欠片を手に取り、半竜娘ちゃんは、それを磨いて牙や爪のような形に整えていきます。

 整えた骨の欠片に、穴を空け、半竜娘ちゃんは、付近の川底で拾った“竜の牙”をはめ込みます。

 相当に高位な竜から抜け落ちた牙だったのか、術の触媒としてかなりの効果が見込めます。

 

 というわけで、骨の偽牙を鞘のようにした、竜の大牙が幾本か出来上がりました。

 結構、時間が掛かりましたね。さらにここから加工が必要ですし、一般技能【職人:魔道具】を駆使しても、明日までかかる大仕事になりそうです。

 

「と、まあ、これを触媒に、分身には祖竜術を使わせ、手前自身は死霊術を用いて、“魂を持つ竜牙兵”を作り上げるというわけよ」

 

 術の相乗、あるいは融合、というわけです。

 先日、魔女さんの先導で合同詠唱を経験し、また、己の分身と本体で息を合わせやすいことを利用した挑戦です。

 まあ、死霊術には詠唱は存在しないので、合同詠唱というわけではないですが。

 

「我、汝を死の鎖より解き放たん、幽世(かくりよ)より出でて本懐を遂げるがいい――っと」

 

 本体が念を込めた言葉をつぶやきながら、竜の大牙の表面に死霊術の秘印を刻んで、世界を改変するための精神力を込めていきます。

 半竜娘の眼には、秘印が刻まれ終えた竜の大牙に、元となった骨片の持ち主の魂の残滓(幽霊)が吸い込まれるように宿ったのが見えました。

 

「続きは明日か夜番のときにでもかの。日が傾いて暗くなってきたし、小鬼は相変わらず結界にぶつかってきよるし……」

 

 …………。

 ……。

 

 そして翌朝。

 霧の煙る白い視界の中。

 

「なんとか今朝までに出来上がった特製の触媒を、【竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)】へと転変させるのじゃ。『禽竜(イワナ)の祖たる爪にして竜よ、四足、二足、地に立ち駆けよ』――【竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)】!!」

 

 死霊術の秘印が刻まれて、霊を宿した竜の大牙5つが、半竜娘(分身体)の詠唱とともに、沸騰するように泡立ち、体積を増して、骨の竜人の身体を形作っていきます!*4

 現れるモノ同士がぶつからないように、半竜娘(分身)は、手に持っていた膨れ上がっていく竜の牙を投げました。

 

 投げられた先で形作られたのは、生前の得意武器を(かたど)った牙刀に、骨板による強固な鎧を纏った、半竜娘の倍近い背丈のある、巨竜の骨の戦士!

 堂々たる、暴君竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー:バオロン)です! それが5体!!

 その眼窩には、意志あることを示すように、仄暗(ほのぐら)い赤い輝きが宿っています。

 

『『『『『 GGRRRROOOOOWOWWWRRR!! 』』』』』

 

 再誕の歓喜の叫びに、森の木立が揺れ、川面に波紋が走り、一党の面々は耳を押さえました。

 

「……でっか」 「つよそうね」 「小鬼相手には過剰戦力では」

 

「うむ、では、無念の戦士よ、行くの――」

 

 と、暴君竜牙兵たちを解き放とうとしたとき、川の上流から、なにか巨大なものが水をかき分けるような異音が。

 そして、規則的な、まるで巨人の足踏みのような、地響き。

 

「……なんじゃ?」

 

「なっ!?」

 

 やがて、川の上流から、霧を裂いて現れたのは、木々よりも高い、巨体。

 長い首、大木のような四肢、割れた頁岩のような背の板、長大な尾。体高だけでも、暴君竜牙兵の三倍はあるでしょう。

 剣龍(ステゴサウルス)のような背板を頭から尾までたてがみのように背負った腕龍(ブラキオサウルス)、とでも言うべきでしょうか。

 

 戦慄とともに、森人探検家の口から、異国の響きの言葉が漏れました。

 

「……エメラ・ントゥカ(水獣殺し)ムビエル・ムビエル・ムビエル(板を背負うもの)ングマ・モネネ(蛇の大神)……」

 

「なんて??」

 

「伝説は本当だった。密林の奥にいる、モケーレ・ムベンベ(川を堰き止めるもの)……!」

 

『MOOOKKEEEEELLLL!!』

 

 恐るべき竜にも似た、その巨獣は、この辺りの森人(エルフ)が半神半獣として、敬して遠ざかる不可侵の神聖なるもの。

 川の上流は、この巨獣の領域だったのです。

 森人探検家はこのあたりの森の出身ではないのですが、友人である別の森人がここの出身だというので、その伝手で、この巨大な半神半獣の伝説を聞いたことがあったみたいです。

 

「……なんか、ふらついておるが?」

 

「…………そうね。病気なのかしら?」

 

『MUUBBBEEEMMMMM!!』 『GOBB!!』

 

「襲いに来たって感じじゃねーよな」

 

 確かに、ぼんやりとした風で、まるで千鳥足を踏むように、ゆらゆらと進路が定まらない様子です。

 固唾を呑んで息を潜める半竜娘たちの前を、モケーレ・ムベンベは通過していきました。

 

「背中に小鬼が居ったように見えたが」

 

「そうね。しかも(くら)を掛けて。……術で朦朧とさせてる間に取りついたとか、かしら」

 

「ゴブリンシャーマンの仕業ですかね。放っておいてもいいことなさそうですし、あの小鬼に矢は届きますか?」

 

「いや、さすがに神獣に弓引くのはちょっと……」

 

 そうこうしているうちに、一歩一歩が大きいせいか、モケーレ・ムベンベはすぐに見えなくなってしまいました。

 

「行ったのぅ」 「行ったわね」 「戻ってはこねーみてーだ」 「何だったんでしょう」 

 

 さあ、何だったんでしょうね。

 でもまあ、小鬼の乗騎にドラゴンを与えるような無駄遣いをするのは、小鬼くらいでしょうから、これで、この辺りの頭目が小鬼だという確度は上がったと思います。

 装備の質を鑑みると、小鬼を支援している輩は居るのかもしれませんが、指揮者までは派遣していないのでしょう。

 

「コホン。では、気を取り直して。無念の戦士よ! いまこそ――」

 

 

『『『 MOOOKKEEEEELLLL!! 』』』(『弟よ!』『どこへ!』『行くのだ!』)

 

 

「「「「 んんんんんんん???? 」」」」

 

 半竜娘たちの脳裏に、先ほどの巨獣と同じような鳴き声と、それに乗った思念が響きました。

 3重の声に、3つに分かれた思念。

 

「この感じは【念話(コミュニケート)】の祖竜術かの……。となると、祖竜術が使える相手かや……」

 

「なんかとっても嫌な予感がしてきましたけど」

 

 やがて、重厚な足音とともに現れたのは、先ほどの巨獣、モケーレ・ムベンベよりも、さらに二回りは大きな巨獣。

 姿はほぼ同じ。長い首、長い尾、ズラリと並んだ背の板、大きすぎるほどに大きな胴体と、樹齢何千年の古木の幹のような四肢。

 ただ、明らかに違ったのは、その首と頭が()()あることでした。

 

「あー、レルニアン・ヒドラ(レルネーのヒュドラー)、かの?」*5

 

「只人の言葉では、モケーレ・ムベンベのことを、そう言うらしいわね」

 森人探検家が、三ツ首の巨獣を見上げたまま補足します。

 

『『『 MOOBBEEEEMMBBEEEE!! 』』』(『む!』『穢れた水!』『屍竜の戦士!』)

 

「あ、ちょ、リーダー! これ誤解されてねーか?!」

 

「うーむ、タイミングが悪かったのう」

 

 

『『『 MOOKKKE(『貴様らが!』)EEELLLEEEE!! MMBBEEE!! 』』』(『弟を惑わし!』『川を呪ったのか!』)

 

 まー、そら、小鬼ごときがそんな大それたことをできるとは、思いもしませんよね。

 よしんばできたとしても、小鬼を操る黒幕が居ると思うでしょうし。

 そんなとこに、死霊術士っぽいのが居たら、誤解しない方が無理ですわ。残念ながら当然のことですね。

 

『『『 MOOOKKEEEEELLLL!! 』』』(『『『 許すまじ!!! 』』』)

 

 激昂した三ツ首のモケーレ・ムベンベ(兄?)は、後ろ足で立ち上がると、祖竜術【竜翼】によって、浮いた前脚を翼に変え、さらには雷の吐息(サンダーブレス)の予兆なのか、背板を雷電が駆け巡り、その影響か、身体全体の鱗が、黄金に輝き始めました……!!

 

 これはまさしく、超ドラゴン怪獣…………!!

 

 というところで、今回はここまで!

 ではまた次回!

 

 

*1
死臭に耐えられたか:外に居る者は目標値15の体力抵抗(持久)判定。半竜娘ちゃんたちは、レベルが高いこともあり、体力抵抗判定に成功したようです。半竜娘(分身):体力持久9+冒険者Lv9+免疫強化1+2D625=26、森人探検家:体力持久4+冒険者Lv7+2D653=19、TS圃人斥候:体力持久2+冒険者Lv7+2D625=16、文庫神官:体力持久9+冒険者Lv6+2D664=25で、全員成功。消耗なし。

 筏の冒険者たちのうち、妹の女戦士は出目が腐ったのだろうと思われる。死臭にやられた冒険者は、消耗1点。

*2
伝書鳩:水の都から森人の里に宛てた特急便。辺境の街の文庫→水の街の剣の乙女→森人の里&只人の王都へと、急ぎの知らせが出された模様。“地獄の門が開く”という厄ネタが記されている。

*3
ファフロッキー現象:ファフロッキーズ。「falls from the skies」(空からの落下物)。普通では説明のつかないものが空から降ってくる現象。今回の落下物であるゴブリンは、まあご想像の通り、半竜娘が竜巻で巻き上げたものが、上空の気流に巻き込まれて滞空し、時間を置いて降ってきたものである。……ひょっとしたら上空でイタクァにでも遭ってたのかもしれないが。

*4
祖竜術行使【竜牙兵】:計算式は、魂魄集中14+竜司祭Lv10+創造呪文熟達1+更に上質な触媒2+2D6=27+2D6。行使ダイスロール×5:65、66、22、16、63により、達成値は全て30 over! 生じる竜牙兵は、全て『暴君竜(バオロン)級』である。およそ身長5mという想定。

*5
レルネーのヒュドラー:ヘラクレスがレルネー地方で討伐したという、多頭蛇の怪物ヒュドラ(Hydra)のこと。ただゴブスレ原作小説では長ずれば頭が12本まで増えるとか言われており、ローグライクゲームの『変愚蛮怒(Hengband)』に登場するモンスターにも影響を受けていると思われる。こちらは、毒・火に耐性、魔法も使える、ブレスも吐く、牙攻撃は毒と燃焼が付く、眠りと混乱に耐性を持つ。ただ、半竜娘たちが遭遇した個体は首の数が少ないので、まだそこまで強力な個体ではない、はず。ないといいね。




 
 ヒドラをロシア語でいうと、『ギドラ』。
 次回は、三ツ首で黄金鱗なギドラさんと相撲したりする話になると思います。
 説得ダイスがクリったら違う展開になるかもです。

 うまく描写は入れられませんでしたが、麒麟竜馬は、放し飼い状態にしてるので、森の中へ避難しています。馬車のハコも、カムフラージュして森の中です。馬車が踏みつぶされないことを祈りましょう。

 一方、ゴブスレさんご一行は、前日夕暮れ時にエルフの里に到着済みです。ゴブリン襲撃による遅延がなかったので一晩前倒しという想定です。

===

感想評価&コメをいつもありがとうございます! 大変、誠に、真実、めちゃんこ、励みになっていますっ! ありがとうございます!

 


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31/n 地獄の門は闇の奥に(The horror! The horror!)-3(話せばわかる)

 
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●前話:
>三ツ首のモケーレ・ムベンベ(ギドラ)
 『川を呪い、我が弟まで使役せんとするとは!』 『不遜の極み!』 『ど(ゆる)せぬ!!』
>半竜娘
 「待て! 話せば分かる!」
>三ツ首のモケーレ・ムベンベ(ギドラ)
 『『『 問 答 無 用 !!! 雷竜の吐息(ブロントス・ブレス)!! 』』』
 


 はいどーも!

 【説得】コマンドを連打する、そんな実況はーじまー……はじまってるぅ!!?

 

 

【挿絵表示】

 

 

 このスケール感ですよ。

 まるで城が歩いているかのような大きさです。しかも飛ぶ。

 5m級の暴君竜牙兵でも、小ジャンプからの踏みつけ一発でぺしゃんこになりそうです。

 

「どーする、リーダー! 向こうはメッチャやる気だけどよ!」

 

 TS圃人斥候が文庫神官(タンク)の後ろに隠れながら声を上げました。

 

 実はすでにこの時点で、相手の第一手、雷電のブレスは発射済みで、その第一撃の三連射は、半竜娘の形代人形が維持していた【力場(フォースフィールド)】を広げて防いだところです。

 雷が空気を焼いたオゾン臭が、ツンと鼻を刺激します。

 

『『『 MOOKKKELLEENNEE!! 』』』(『小癪な!』『ちっ』『やるな!』)

 

「……ふぅむ、祖竜に連なる神獣とて、弱肉強食は世の理、いっそ喰ろうてやっても良いが――」 ぐるりと眼を巡らせて顎に手をやる半竜娘。

 

「ダメよ。絶対ダメ」 それを森人探検家が、真剣な表情で止めます。

 

「―― じゃよなあ。“川を堰き止めるもの”という異名をとるくらいじゃから、このあたりの川の流れや水量を管理しておる(かなめ)の存在であるかもしれぬし」

 

 殺したら、それによって制御を失った川の流れが暴走して、あたり一面が沈む、なんてこともあるかもしれません。

 あるいは、あれが兄であるというなら、父や母も居るかもしれず、それは、いまこの足下に眠っているかもしれないのです。

 

「ていうか、ここの森のエルフにとって神獣なんだから、もし殺そうものなら永久に出禁にされるわ、出禁」

 

 領域の神獣を殺すとか、宣戦布告も同義ですし。

 特に上の森人(ハイエルフ)に寿命はありませんからね、子々孫々末代に渡って半竜娘ちゃんの血族は森に出禁になりかねません。

 社会戦のダメージも大きいです。

 

「となれば、説得するしかあるまい」

 

「でも、話を聞いてくれるでしょうか」

 

「言葉を話す知能があるのじゃから、大丈夫じゃろ」

 

 半竜娘ちゃんは、やや楽観視していますが……。

 

「そう上手くいくかねー」

 

「なぁに、聞かぬようであれば、()()()()までよ」

 

 半竜娘ちゃんがニヤリと笑いました。

 

「……不安だわ」

 

「任せるのじゃ!」

 

 というわけで、 戦闘 説得開始です!!

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 勝利条件・敗北条件を整理します。

 

 ◆半竜娘一党の勝利条件

  モケーレ・ムベンベの三ツ首全ての説得

   または

  戦闘領域からのどちらかの逃亡

 

 ◇半竜娘一党の敗北条件

  一党全員の戦闘不能

   または

  三ツ首のモケーレ・ムベンベの死亡

 

 そして相手のスペックですが……、

 三ツ首のモケーレ・ムベンベ(ギドラ)は、優れた祖竜術の使い手であり、

 三ツの首それぞれが、噛みつき・ブレス・呪文を使い、

 胴体は踏みつけ・吹き飛ばし・尾の薙ぎ払いを使えます。

 

 つまり、4回行動!

 

 さらに、毒と火に完全耐性を持ち、精神耐性も多少あるようです。

 

 まー、基本的には耐えて耐えて【説得】コマンド連打です。

 

 いやだって、ボコって兄とか姉とか従兄とか父とか母とか叔父とか叔母とか祖父とか祖母とか出てきたら怖いですし(ボコれるとは言ってない)。

 最終的に首12本の最上位モンスターが出てきたりすると、非常に辛いところ。

 ……一ツ首の弟と、三ツ首の兄を比べると、その父祖は山ほどの大きさになりそうだし、なんならこの森自体が、実は高祖父の背中に乗ってましたー、すら、ありうるというね……。

 

「……少しくらいは、やり返しても―― かまわんか」

 

 【説得】しろって言ってんの!!

 

「オオオオオオオオォォォォォオオ!! 力比べと参ろうぞ!! 【筋力上昇の秘薬】も飲んで! セメル(一時)クレスクント(成長)オッフェーロ(付与)――【巨大(ビッグ)】!!」

「こちらもじゃ! 秘薬一本(ファイト一発)! セメル(一時)クレスクント(成長)オッフェーロ(付与)――【巨大(ビッグ)】!!」

 

 十分に集中した*1半竜娘ちゃんとその分身の10倍巨大化呪文が発動。

 

「お姉さま! 私も乗ります! 【聖壁(プロテクション)】はお任せください!」

「よかろう! 来るのじゃ!」

 

 文庫神官を拾い上げた身長27mの半竜娘ちゃん×2が、三ツ首のギドラを押さえに掛かります。

 

 ちなみに、暴君竜牙兵は、この戦闘には参加させず、既に小鬼の居る方向へと向かわせています。

 彼らに骨の身体を与えたのは、小鬼を殺させるためですからね。

 巨獣に向かわせるためでも、自分たちの援護をさせるためでもありません。

 

 というわけで、ドラゴンレスリング開幕です!!

 

「「 イイイィィイヤアアアアアアアッッッ!!! 」」

 

『『『 MMMOOKKEEEEE!!! 』』』(『『『 肉弾や良し!! 』』』)

 

 ずぅん、と鈍い重低音でぶつかり合う巨体!

 三ツ首のモケーレ・ムベンベが、前腕を変化させた【竜翼】を大きくはためかせ、突風を振りまきます!

 

「うぉわっ!!?」

 TS圃人斥候が、体重が軽いことの影響もあり、耐えきれずに吹き飛ばされました……。

 いえ、この機会に戦場から離脱して機を伺うことにしたのかもしれません。

 サボりの可能性もありそうですが。

 

 衝突音と羽ばたきの突風に驚いて、周りの森からたくさんの鳥が一斉に飛び立ちました。

 三つの首がうねり、半竜娘ちゃんズを締め付けますが、半竜娘ちゃんズも負けじと押し返します。

 

 半竜娘の【怪力】判定:目標値30 ~ 45 ~ 60

  本体:体力集中11+加速5+武道家Lv6+筋力上昇の秘薬2+巨大化補正2+2D663=35

  分身:体力集中11+加速5+武道家Lv6+筋力上昇の秘薬2+巨大化補正2+2D661=33

 二者協力! 片方の達成値を1/2にして加算!

 達成値 35+(33×1/2)=51 > 目標値45

 

 分身と力を合わせて首2つと拮抗できてますが、3本目の首までは手が回らない、というところですね。

 ―― つまり、相手はこの状態で、首が1つフリーです。あかん(あかん)。

 

『 MMMOOKKEEEEE!! 』(『 ブロントス・ブレス!! 』)

 

「―― プロテクション!! 通しません!」

 

 フリーで残った首から吹き出された雷竜の吐息(ブロントス・ブレス)を、巨大半竜娘ちゃんの肩に乗った文庫神官の奇跡が防ぎます。

 

『『『 MUUUUBB(『うぬっ、このままでは』)BBEEEEEEEEMMMN(『弟を見失う……』)NNNNMEEELLL…… 』』』(『速攻でやるつもりが』)

 

 半竜娘の【交渉(物理)】判定:

 体力集中11+加速5+巨大化補正2+2D665-胡乱さ7-肉体言語8=14

 反応は、ニュートラル(中立)

 

 まあ、初手ぶつかり合いで、敵対状態が悪化しなくて良かったです。

 出目が良かったので、たぶん、ぶつかり合うことで分かりあう何かが多少あったのでしょう。

 

 また、相手の声を聞くに、最初の雷電の息吹を防ぎ切ったので、まず相手の思惑を外すことができていたようです。

 いえ、あのもう一体の一ツ首のモケーレ・ムベンベの巨体を見失うってこともないでしょうけどね。

 三ツ首も、引き離されるのを見越して、多少足止めされても追いつけるように【竜翼(ワイドウィング)】で翼を生やしたんでしょうに。

 

「おい、“川を堰き止めるもの”よ!! 我らは、川を浄化しに来たのじゃ!! 貴公の弟には手を出しておらんし、川を呪ってもおらん!!」

 

 半竜娘の【交渉(説得)】判定:

 知力集中11+加速5+2D621+真実を話す3-死人占い師Lv3-胡乱さ5=14

 反応は、ニュートラル(変化なし)

 

 死人占い師なので説得力に職業Lv分のマイナスが入ってますね……。残当。

 出目も腐ってるし……。

 あと状況的に、めちゃくちゃ怪しいので、『胡乱(うろん)さ』によるマイナス補正がついてるのがでっかいですね。

 多分、真摯に説得を続ければ、この『胡乱さ』ゲージは徐々に下がっていくはずです。

 

 とりあえず、中立的反応を引き出せたので、これ以上のヘイト蓄積は避けられました。

 

『『『 MOOOKEE(『ならば、あちらの』)EEELLEEE(『亡霊宿る竜兵は』)EELLL!! 』』』(『いったいなんじゃ!』)

 

 dsynー(デスヨネー)

 

「こやつらは、そこな堤防砦に巣食う小鬼に殺された者どもよ! 善き死人占い師(ネクロマンサー)として、応報復讐を望むこやつらのための(からだ)を与えたのじゃ!!」

 

 お、応報復讐については、モケーレ・ムベンベにも多少は共感を得たようです。

 

 半竜娘の【交渉(説得)】判定:

 知力集中11+加速5+2D624+応報への共感2-死人占い師Lv3-胡乱さ2=19

 反応は、グッド(友好+1)

 

 そう言って、半竜娘ちゃんは、取っ組み合いの隙を見て腕を動かして、ここよりさらに上流を指さし、“堤防砦”とやらの方を睨みます。

 これは、死霊たちから聞き出した情報で、上流には、川の流れを堰き止めるように建てられた太古の砦があるとのこと。

 イメージ的には、アンコール・ワットやティオティワカンみたいな石積みの神殿と融合するようにして、その背景に巨大ダムと大樹を有機的に組み合わせたみたいなのが建ってるような感じです。基本、ダムです。

 実際にその通りのものが建っていることは、TS圃人斥候が隠密行して確認済みです。

 

『『『 MMMUUUUUN(『小鬼が?』)NNNNNEEEELLL(『小鬼だと?』)EEEEELLLMMM!! 』』』(『そこな堰の砦に!?』)

 

「然り!! 何者かの支援を受けた小鬼が居るようじゃ!! 呪いの源は、ここな串刺しの川辺だけではない!! あの堤防砦よ!!」

 

 半竜娘の【交渉(説得)】判定:

 知力集中11+加速5+2D635-死人占い師Lv3=21

 反応は、グッド(友好+2)

 

 おお!

 胡乱さが抜けて、イイ感じに好印象になってきましたね。

 

 あと、感触的にも、“堤防砦” “堰の砦”は、モケーレ・ムベンベにとってもキーワードっぽいですね。

 

『『『 LLLEEE(『ええい! 弟は』)EEEELLLBBBB(『何をしていた!』)EEEELLEENNNN!! 』』』(『門の約定を忘れたか!』)

 

 “門の約定”?

 まあ、この辺りはその“堰の砦”が建てられたであろう遥か太古の時代から、モケーレ・ムベンベの領域であったはず。

 つまり、“堰の砦”を建てるためには、モケーレ・ムベンベの許しがあったはずです。

 あるいは―― 契約、約定。そのようなものが。

 

「門の約定とは、なんじゃ!?」

 

『『『 MMMUUU(『貴様も! 門を』)UUUUUUBBBBEEEEEEE(『開きに来たのだろう!』)EEEEEEEEEEEENNN!! 』』』(『ネクロマンサー!』)

 

「じゃーかーらー!? 手前らは! 冒険者なんじゃって! 川の水の! 呪いを! 調べに来たんじゃ! “門”やら何やら知らんて!!」

 

 半竜娘の【交渉(説得)】判定:

 知力集中11+加速5+2D611-死人占い師Lv3 ファンブル!!

 

 デデドン!

 

『『『 MMMMMUUUU(『貴様のような!』)UUUUBBBBEEEEE(『我と力比べできる!』)EEEEEENNN!! 』』』(『冒険者がいるか!』)

 

 あかーん! ファンブった!!

 説得力皆無過ぎた!?

 

「あーもーーー! やると思った! 絶対、あの子に交渉は無理だと思ったのよ!! 交易神様、どうか、どうか、1日1度の《宿命(フェイト)》・《偶然(チャンス)》の天地返しにお目こぼしを! 【逆転(リバース)】発動!」

 

 あらかじめ朝のうちに唱えて待機させておいた【逆転(リバース)】の呪文を消費し、森人探検家が運/不運を逆転させます!

 今回も大活躍ですね。……肝心なところでファンブルが良く出るだけな気もしますが。

 リアルラックに不安のあるPLには必須の呪文ですよ、これは。

 

 ―― 轟ッと風が吹き(交易神の加護が現れ)、川の水をまき上げ、文字通り、彼らの勝負に“水を差す”ことになります。

 

「「 ぷわっ!? 冷たっ!? 」」

 

『『『 MMMOOKKEEEEE!!? 』』』(『『『 げほっ!? 』』』)

 

「熱くなりすぎ! きちんと話し合いなさい! 祈りの言葉持つもの(プレイヤー)でしょ!!」

 

 はい、ノーサイド! ノーサイドです!

 ファンブルひっくり返して、クリティカルにしたんだから、もうノーサイドでいいですよね!?

 

 いい加減、文庫神官ちゃんのプロテクションが限界ですし、形代人形のフォースフィールドのストックも尽きます。

 

「「 こちらは話し合おうとしておったじゃろ…… 」」

 

『『『 MMMUUUUUBB(『『『 ふぅむ、秩序の神の加護か。)BBEEEEELLLEEE(であればお前たち、)EEEENNNN…… 』』』(本当に冒険者だったのか 』』』) 

 

 いや、文庫神官ちゃんも【聖壁(プロテクション)】の奇跡使ってたやん……って、ああ、そうか、プロテクションは汎用奇跡なので、邪神官でも使えちゃいましたね……。

 どうやら、秩序側の神の専用奇跡を見せることが、身の潔白を示す一つの方法だったようですね。

 

 とりあえず、 戦闘 交渉終結!!

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

「それで、“門の約定”やら言うのは、何なんじゃ?」

 

 川の(ほとり)で休みながら、三ツ首のモケーレ・ムベンベと情報交換です。

 あ、吹っ飛んでしまっていたTS圃人斥候は、枝に引っ掛かっていたのを見つけて、回収しています。サボりの可能性を疑ってごめんね。

 5体の暴君竜牙兵は、本懐を果たすべく、ゴブリンにとってのF.O.E(えふおーいー)となって森を駆け回っているようです。

 

『『『 本当に知らんのか。……あの“堰の砦”は、落下する水を原動力にした機構が、封印を維持しておるのだ。我らはその封印を守ってきた。……魔術師との約定でな 』』』

 

「そも、その封印というのが何なんだか?」

 

『『『 それも伝わっておらんのか。DOOM(ドゥーム)と呼ばれる、デーモン溢れる地獄に繋がる扉があるのだ。落ちる水の昏き底の、闇の奥(ハート・オブ・ダークネス)。地獄への門が、封じられておる 』』』*2

 

「その“堰の砦”の地下、落ちる水の滝壺のさらに底に……?」

 

「そして、いま、その城砦は、小鬼の住処……ってか?」

 

『『『 まったく、弟は何をしておったのだか。というか、今も何をしておるのか。()()()()()()()()()というのに 』』』

 

「は?」

 

『『『 うん? 不可避の周期の問題でな、封印が緩む日が来るのは致しかたないと魔術師(カード使い)どもは言っておった。再封印のための人員が来るまでに、我らが溢れる悪魔どもを押さえることも約定に含まれておるが……やはり人族の方の伝承は途絶えておるのか? 』』』

 

「あー、うーむ。なるほど、“地獄”というのはそういうことじゃったか……、であれば、多分来るとは思うぞ。あの文庫で解読された石板の内容がそれじゃろ?」

 

「……ええ、わたくしも解読に参加しましたから。確かにそのような内容があったかと。そして、その内容は、もう王都にも伝わっているはずです」

 

『『『 ふむ、であれば支障ないであろうな 』』』

 

「地獄の封印と、ゴブリンはやはり関係しておるのじゃろうなあ」

 

「川の汚染と呪いも、封印を緩めんとする一環でしょうか」

 

「無関係と考えるよりは、関係あると想定しておいた方が良いと思うわ」

 

「えーと、てーことは、川の汚染と呪いの解決のためには、その“堰の砦”や“地獄の門”の方へまで行って、ゴブリンやらなにやら片付けて、汚染源を排除して、遺体があったら弔って、諸々浄化して……ってしねーと、依頼達成(クリア)にはならねーのかね」

 

「そうじゃろうなー」

 

 はい、お掃除のためには、まだまだやることがあるようですよ?

 

「死霊の語った情報によると、まだ“堰の砦”には、生きてる捕虜が居る可能性があるらしいですし」

 

『『『 む。それでは、砦の中に雷竜の吐息(ブロントス・ブレス)を吹き込んでお終いというわけにはいかぬか 』』』

 

「建物自体を崩すのもだめよ? リーダー?」

 

「はいはい、分かっておるのじゃ。大体、手前も潜入ができん訳ではないのは、知っておろう?」

 

「……ゴブリン()()なら、いーけどな。“地獄の門”、開きかけなんだろ?」

 

「や、やめてくださいよう……」

 

 フラグって言うんやで、それ。

 

 というところで、今回はここまで!

 ではまた次回!

 

*1
集中による効力値増加:基本ルルブ未実装。【狙撃】の魔法版みたいな、1ターン消費して次の術を強化する特技とかサプリで実装される……かも?

*2
DOOM(ドゥーム):FPS(ファースト・パーソン・シューティング)ゲームの火付け役にして金字塔。火星の衛星フォボス⇔ダイモス間の転移ゲート実験の結果、不幸にも転移ゲートは地獄へ繋がってしまった! ダイモスは衛星ごと地獄に取り込まれ、対になるゲートがあるフォボスの要塞は悪魔の手に落ち、かつての仲間はゾンビとなって立ち塞がる。そしてもはや脱出の手段は失われた。きみ(ドゥームガイ)の行く道は悪魔の溢れる基地の中にしかないのだ。―― ちなみに、原作小説7巻で勇者ちゃんが地獄の悪鬼を相手にしている挿絵があるのだが、それが初代DOOMのパッケージと同じ構図になっている。




 
森人の里の結婚式に、全然行けない……! 現時点で、結婚式があることすら知ることができてない。そっちのフラグが全く立たない……!
(半竜娘ちゃんって、実は、剣の乙女さんとも直接の面識はないし、高貴な方との縁が遠いのです。面識があるのは貧乏貴族の三男坊(こくおーへーか)くらい?)

あ、堰の砦が、水力を利用して封印してるとか、封印自体がその砦にある、というのは、原作には明記されてません。モケーレ・ムベンベがそのような封印を守る役目があるとも書かれてません……が、彼らの領域に砦があることから、そのように想像しました。

===
 
一方そのころ。
◆森人の里に、朦朧としたモケーレ・ムベンベ(一ツ首)襲来。

『MMOOOKKEEEELLL!!!!』

蜥蜴僧侶「おお、これはまた巨大な……! ここにあの姪御殿が居れば、拙僧も巨大化して押し(とど)められもしましょうに。いや、それがなくとも、仲間のため立ち塞がるのは、これ本懐というもの――」
幼竜娘三姉妹「「「 できるよー 」」」
蜥蜴僧侶「なんと!?」
幼竜娘三姉妹「えーと、この形代人形(かたしろにんぎょー)の」 「おかーさまの残影(ざんえー)に」 「一言真言(ワンワード)同期(どーき)すれば……」 ゴソゴソ
蜥蜴僧侶「ほうほう」

幼竜娘三姉妹「「「 コンキリオ(接続)!! 」」」 ペカー

幼竜娘三姉妹「「「 ―― Downloaded(拝領完了)……。こうすることで、一時的に、お母さまの技能・知識を使えるのです! いまだ幼き身なれど、3人合わせて1つの呪文なら! いけますわ! 大叔父様!! 」」」
蜥蜴僧侶「しからば、頼み申したぞ!!」
幼竜娘三姉妹「はい。合同詠唱、始め。―― セメル(一時)!」 「クレスクント(成長)!」 「オッフェーロ(付与)!」
幼竜娘三姉妹「「「 【巨大(ビッグ)】!! 」」」

蜥蜴僧侶「おお。これならば……。行けますぞ! イイイィィイヤアアアアアアア!!!

===

感想評価&コメをいつもありがとうございます! 皆様の応援まことにありがとう存じます……!
 


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31/n 地獄の門は闇の奥に(The horror! The horror!)-4(ちゃぽんっ)☆AI挿絵あり

 
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ゴブスレアニメ2期制作決定ですって! → 公式ツイッターアニメ公式サイト
嬉しみゆえの更新。書けたところまでなので短いです。あ、アニメ1期のBlu-ray BOXの初回生産限定版も予約受付中らしいですよ(ダイマ)。

●前話:
 大怪獣相撲(スモー)

===

※AIさん(DALL・E3)に出力してもらった挿絵あり(マス)
 


 

 はいどーも(小声)

 いま、“堰の砦”へ潜入中です。

 

ごぼごぼごぼ、(水路経由で潜入、)ごぼぼ、(となれば、)ごぼぼぼぼごぼり(ゴブリンどもも気づくまい)

 

 ごぼり、と、半竜娘ちゃんの口からこぼれた言葉が、空気の泡とともに、地下排水路の急流を流れていきます。

 半竜娘ちゃんは、“闇の奥”へと向かって、光源もない排水路の壁に爪を突き立ながら、少しずつ、強い流れに逆らって、進んでいきます。

 

 今現在、河川要塞から大河へ繋がる排水路のうち一つを、流れに逆らって進んでいるところです。

 もちろん、水の中を行くというので、指輪のうち一つを『水中呼吸の指輪』に付け替えています。

 そうしないと溺れちゃいますからね。それでもまともに発話できないあたり、相当な急流であることが伺えます、地上換算で台風の中を風に逆らって進むようなものでしょうか。

 

「(うむ、次の枝分かれは、こちらじゃったな)」

 

 長い年月で水や樹々に侵食された影響か、排水路は複雑に枝分かれして入り組んでいます。

 あるいは、この地下排水路自体が、魔法陣の役目を果たしているのかもしれません。

 

 通常であれば、このような迷路化した水路を(さかのぼ)って行くのは自殺行為です。

 

 光源もなく、

 水流は急で、

 地図もない……。

 

 基本的には、流れの逆へ逆へと行けばいいのですが、半竜娘ちゃんの巨体を考えると、きちんとルート取りしないと、途中でつっかえて、戻っている間に体力を消耗し尽くして詰みます。

 

 ですが、勝算もなく、潜行している訳ではありません。

 

 まず、前提が違えばどうでしょう。

 例えば、地図があるとしたら?

 

 そうです、既に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「(三ツ首の神獣(モケーレ・ムベンベ)に感謝じゃな)」

 

 半竜娘は、地下排水路の地図を会得した経緯について回想します。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 ―― モケーレ・ムベンベは、その3つの首の下顎を地面に着けて、トントンと振動を響かせると、地面を通して返ってきた振動波による反響定位によって、一帯の立体的な地下地図を脳内に構築しました。

 ―― さらに、その立体的知覚を、モケーレ・ムベンベは、【念話(コミュニケート)】の思念波で、一党の脳内にダイレクトで叩きこんできたのです。

 ―― 『『『 少し気分が悪くなるかもしれんが、まあ、冒険者であれば……耐えられるだろう 』』』

 

 脳☆直! インストール!!*1

 

 一党各位の魂魄抵抗判定:目標値30

 ・半竜娘本体:魂魄反射12+加速5+冒険者Lv9+沈着冷静1+2D653=35 ○抵抗成功!

 ・半竜娘分身:魂魄反射12+加速5+冒険者Lv9+沈着冷静1+2D624=33 ○抵抗成功!

 ・森人探検家:魂魄反射5+加速5+冒険者Lv7+2D661=24 ×抵抗失敗。

 ・TS圃人斥候:魂魄反射9+加速5+冒険者Lv7+2D652=28 ×抵抗失敗。

 ・文庫神官:魂魄反射8+加速5+冒険者Lv6+2D644=27 ×抵抗失敗

 

 その結果、半竜娘ちゃん&分身ちゃんは耐えましたが、森人探検家・TS圃人斥候・文庫神官は、耐えられませんでしたので、消耗1点追加、鼻血噴出……。

 

―― 「うぅううう」 「あばばばば」 「しびびびび」 パタリ

 

 そしてその3名は気絶。抵抗判定失敗したので精神属性攻撃扱いされたのかもしれません。

 魂が耐えられなかったのです……。

 まあね、神獣と直接意識を繋げばそうもなるよね。

 

 とまあ、そんな死屍累々な状況になってしまったので、半竜娘ちゃんの呪文使用回数も減っていたこともあり、その日はもう【狩場(テリトリー)】の結界を張って休養することとし、地下排水路へのアタックは翌日ということになりました。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 そして翌日。

 

 場面は冒頭にもどりまして、地下排水路の闇の中です。

 あ、三ツ首のモケーレ・ムベンベは、いつの間にか戻ってきていた弟の一ツ首くんと合流して、上流へと帰っていきました。堰の砦(ダム)の上側で待機するとか。

 あと、現在、侵入に当たって、5体の暴君竜牙兵には、堰の砦の巨大な扉を攻撃させたり、城壁をよじ登らせたりして、小鬼たちへの陽動をしてもらっています。ダムそのものじゃなくて、その堤体(ていたい)と融合するように併設された城砦の方へのアタックです。

 

 竜牙兵が陽動している間に、本命が水路から潜入します。

 排水路の流れが急なので、『筋力上昇の秘薬』を飲んだ半竜娘ちゃんズが、本体の方は文庫神官(鎧あり)を、分身体の方は森人探検家&TS圃人斥候を縄で背中に括りつけて、進んでいっているところです。

 

「(お姉さま、鎧重くないですかー?)」

「(軽いもんじゃよー)」

 

 空気を介してではなく、頭同士をくっつけて、骨導音で、文庫神官ちゃんと半竜娘ちゃんが会話しています。轟轟と流れる水音が大きすぎ、また声も流されるためです。

 あたりは真っ暗闇です。

 只人や圃人だと、全く闇を見通せませんが、実際に手足を動かして進む者は半竜娘ちゃんズだけなので、蜥蜴人としての暗視により、光源がなくとも視界を得られています。

 

ごぼごぼぼ(ルーメン/光よ)

 

 いざとなれば【燦光】の精霊術で光を纏うこともできますが、それよりは一言真言で『ルーメン()』と唱えて、要所要所で一瞬だけ光源を得て進む方がエコなので、そうしています。

 あと光といえば【聖光(ホーリーライト)】ですが、それを覚えている者はこの一党には居ません。まあ、使えたとしても、半竜娘ちゃんが死人占い師(ネクロマンサー)として従えている死霊(分身の残影)が、ホーリーライトで祓われてしまうので、迂闊に使えないんですけどね。

 

『NNYYYMMMPHYYYYY……』

 

「(モンスター……、これは、巨大ヤゴじゃな)」

 

 ―― メシリ。

 

『NNYYYGGGYYYAAA!!!??』

 

 巨大なカゲロウの幼虫や巨大ヤゴといった水生幼虫型モンスター ―― ジャイアント・ニンフ―― が水路の途中でたびたび出てきますが、文字通りに()()していきます。

 というのも、【狩場(テリトリー)】の祖竜術による結界を維持しながら進んでいるので、そいつらは水路の壁に押し付けられてペシャンコになっていて、それを踏みつけてやるだけの簡単なお仕事に成り下がっているのです。

 殺した怪物の死体が、急流に流されていきました。

 

「(……地獄の瘴気の影響もあるのかのう? 妙に巨大幼虫(ジャイアント・ニンフ)が多い気がするのじゃ。森で成虫を見たわけでもない……つまり、ここ最近、この地下排水路の奴らだけが変異して巨大化したんじゃないかの?)」

 

 そうかもしれませんし、そうではないのかもしれません。

 

「(まだ、水路は半分までも来てないところかや。今しばらく、この闇の奥へと進む必要があるようじゃな)」

 

 ぬめる水路を滑らないように、発達した両手足の爪・蹴爪を引っかけながら、半竜娘ちゃんズは、仲間を背負い、闇の奥へ奥へと、進んでいきます。

 暗闇の奥の奥、その核心(ハート・オブ・ダークネス)へと向かって。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 河川城砦の最下層。

 轟轟と流れる水の音がこだまする空間。

 内部が螺旋階段の吹き抜けになった高い塔の最下層。

 水がさらに地下へ落ちることによって生まれる渦を囲んで造られた石造りの水汲み場。

 おそらくは、砦が生きていた時は、水場や洗濯場としても使われていたのかもしれない。

 

 そこで、鉄の鎧兜で武装した6体の小鬼たちが、下卑た相談をしていた。

 虜囚にした冒険者2人の前で、ゴブゴブと。

 

「……姉さん……!」

「だいじょうぶ、だいじょうぶよ、ぜったい」

 

 青玉等級の戦士と、翠玉等級の女軽戦士が、体のあちこちを青あざで腫らして、手枷足枷で拘束されて。

 引き離されて、身を寄せ合うことも出来ずに、転がされている。

 

 小鬼たちは知っている。

 仲の良い男と女がいたとして、それが恋人か兄弟姉妹か友人か知らないが、男の方を、女の前で殺せば、惨たらしく殺せば、()()()()()()()()ということを。

 

『GGOOOOBOGOBOGB!!!!』

『GOBBB!!!!』

『GOBOGGOO!!!!』

『GGOOBB!!!!』

『BOGO!!!!』

『BOGOBOGB!!!!』

 

「ちくしょう、こんな、ところで」

「だいじょうぶ、だいじょうぶ……」

 

 ―― ちゃぽん。

 

『GOB!!!!』

『GGOO!!!!』

『GGOBBGOBBBGOBB!!!!』

『BOGOGGG!!!!』

『GBGBGOOO!!!!』

 

 小鬼たちは、自分の近くに置かれた、巨大なネジ式の“圧搾機”に目をやって笑っている。

 ブドウを搾るように、菜種を搾るように。

 人間を搾ってやろう、と。

 

 上の階でふんぞり返っているやつの指示で動いているこの状況は気に入らないが、この呪いの趣向は気に入っている。

 ()()()()は食事に出来るし、搾った汚血が混ざった川の水で暮らしている森人や只人たちを思えば、笑いがこみ上げる。

 なんて間抜けな奴らなんだろう!! 呪われた水を使って生活しているとも知らないで!!

 

 ―― ちゃぽん。

 

『GOBBBBBB!!!!』

『GGOOBRUUUU!!!!』

『GGOBABAARARARA!!!!』

『BOGBBURRRAAUU!!!!』

 

 

「……姉ちゃん、あれ……」

「しっ。だいじょうぶ、だいじょうぶ、静かに、しましょう、ね……」

 

 じゃあ、まずは男の方からだ。

 誰が一番大きな悲鳴を上げさせられるか試してやってもいいだろう。

 

 ゴブリンの一匹が、拘束された男の戦士の方へと近づいていく。

 

『GGOOOOBOGOBOGB!!!!』

 

 ゲラゲラと笑いながら。

 

 ―― ちゃぽん。ちゃぽん。ちゃぽん。

 

『GGOBB!!』

 

「うぐっ!」

 

『GGBUBUBUBU!!』

 

 男の顔を蹴っ飛ばし、小鬼がその醜態に笑う。

 

 ―― ざばぁっ!!

 

 そのとき、後ろで大きな水音がした。

 時々あるのだ、上階から間抜けな同胞が足を滑らせて落ちてくることが。

 どうせ、そのたぐいだろう。

 

 そういう時は、仲間たちとその間抜けな同胞を嘲笑ってやるのが常なのだが、今日は妙に静かだ。

 それはいいが、まったく、この男を“搾る”のにも移動させねばならないのに、手伝いにも来ないとは、気の利かないやつらだ。

 

『GOOOBGOBRRUUAHH!!!』

 

 他の同胞に悪態をつくべく振り返ったとき、6体のうち最後に残った小鬼の目に大きく映ったのは――

 跳躍する女圃人と、その手に閃く小剣の鋭いひと振りであった。

 

 そして、それが最後の光景になった。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

「助かったわ。もう、諦めそうになっていたもの」

「ああ、恩に着るぜ!」

 

 捕まっていた姉弟*2の手枷や足枷を【手仕事】技能で外してやっているのは、TS圃人斥候です。

 

「間に合ってよかったぜー。感謝しろよー?」

 

 半竜娘ちゃんたちは、排水路を遡って、ついに“堰の砦”内部へと侵入を果たしたのです。

 そして、水路からの上がり口の様子を見るため、TS圃人斥候が先行し―― クリアリングしたのです。

 

「いやー、あれは小気味良かったわね!」

「えー、いや怖かっただろ、あれ」

 

 ―― だって、小鬼どもが1匹また1匹って水路に引きずり込まれて消えてくんだぜ?

 

 どこのホラーだって話ですよね。

 

「ひひひ、良い趣向だったろ。やってみたかったんだよ」

 

 と、悪戯げに笑うTS圃人斥候の後ろから、さらに水音。

 きっと、TS圃人斥候の仲間なのでしょうが、生きていたゴブリンが上ってきたなら大変です。

 虜囚だった2人が念のため身構え―― そして顔を盛大に引き攣らせます。

 

 見遣った先には、それぞれ人を1人背負った、非常に巨大な2匹の蜥蜴人が、水から顔を出して水汲み場へと登ろうとしている姿が――。

 

 

*1
地図ゲット:前話でファンブルをひっくり返してクリティカルにしたので、ボーナスとして地図をくれた。

*2
堰の砦の最下層で捕まっていた男性・女性:原作では、死体としてのみ登場。男性の方は腐敗が進んでいたが、女性の方は途中まで悲鳴が聞こえていたことから、ゴブスレ一行が到着する直前まで生かされていたようだ。姉弟か恋仲か、単に同じ一党の仲間だったのか、あるいは別の無関係の一党のメンバーだったのかは全く不明。当SSでは姉弟とした。




 
きゃーーー!!?
(イメージは、地獄の黙示録ファイナルカットのパッケージのアレ)

↑こんな感じ

原作小説7巻は、トールキン的なエルフの森と、地獄の黙示録(原作:闇の奥(ハート・オブ・ダークネス))的な密林の話のギャップが激しい巻です。好き。

次回以降は、ゴブスレさんたちと砦の中で会ったり、地獄の門の周囲へとアプローチ/エンカウントしたり、その封印関係でやってきた勇者ちゃんたちとすれ違ったりする話になる予定。

===

感想評価&コメをありがとうございます! 励みになっています! 原作アニメ2期も決まったし、サプリも出るし、小説新刊も出るし! 楽しみですね!
 


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31/n 地獄の門は闇の奥に(The horror! The horror!)-5(ヤゴパ)☆AI挿絵あり

 
閲覧、評価&コメント、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ここ好きタップ、ありがとうございます!
『森人婚姻』編もいよいよ佳境です。結婚式に参列できる気配は、今のところ全くないですが……。
前話は突貫工事だったので、誤字祭りでした……。誤字報告ありがとうございました! 毎日投稿してる作者さんは凄い(スゴい)。

●前話:
 小鬼を水に引きずり込んで殺す! ……河童(かっぱ)かな? 河童じゃないよっ♪ 圃人だよっ♪
 そして水の中ではさらにグリズリー級の蜥蜴人が2人も手ぐすね引いて待ち構えているぞ!(参考:水に浸かって佇むカンガルー、あるいは、ゲーム「ダークソウル」の貪食ドラゴン登場シーン)
半竜娘×2「「 ……おいてけ~、おいてけ~、いのち、おいてけ~…… 」」
助けられた冒険者姉弟「「 ひっ、ひぃえええええっ!? 」」

===

まずはゴブスレさんパートからです。彼らも堰の砦に来ています。

===

※AIさん(DALL・E3)に出力してもらった挿絵あり(マス)
 


 

1.ゴブリンか!

 

 

――「「 ひぃええっ!? 」

 

 

「ッ! 人間の悲鳴……ッ!」

 

 妖精弓手が、森人の特徴である長い耳で、下層からの悲鳴を察知した。

 

 

 

 小鬼殺しの一党は、森人の里の近くに巣を作っている小鬼を皆殺しにすべく川を上ってきていた。……牛飼娘・受付嬢・幼竜娘三姉妹の非戦闘員は、森人の里でお留守番だ。

 

 ゴブリンが居るということは、これまでの出来事からも推測できていた。

 

 密林へと川を遡る途中で()ってきた、ゴブリンと狼の死体。

 モケーレ・ムベンベ(巨大な獣)の背に跨っていた小鬼。

 ―― そして、小鬼退治のプロたるゴブリンスレイヤーが感じた、不穏な空気……小鬼に狙われる村特有の不吉な気配。

 

 妖精弓手の“()”の、晴れの舞台を邪魔せんとする小鬼どもを、このゴブリンスレイヤーが、むざむざとのさばらせておくものか。

 

 彼ら一党が小鬼殺しに乗り出すのは、当然の成り行きだった。

 

 さて、念のためにと囮の船まで仕立てて、川を巨獣(モケーレ・ムベンベ)の領域まで遡上させたが、その途中にも、小鬼の襲撃はなかった。

 「小鬼殺し(かみきり丸)も勘が鈍ったか」と鉱人道士が茶化したりもしたが……。

 

―― 「やはりゴブリンか」

 

 遡った先にあった、川を堰き止める“堰の砦”は、小鬼の巣窟になっていた。

 巨大な堰に、砦を合わせたこの要塞は、長い年月で荒れ果てており、しかもトドメに小鬼の略奪に遭って荒廃ここに極まれりという有り様になってしまっていた。

 

 そこに巣食う頭目は恐らく、モケーレ・ムベンベを朦朧とさせたと見られる、小鬼の呪術士(ゴブリンシャーマン)

 ゴブリンが蔓延る要塞を、たったの5人で落とすなど、生半(なまなか)なことではない。

 

 

 だが、何故か巨大な竜牙兵(暴君竜牙兵)たちが勝手に陽動をしてくれていたので、ゴブリンスレイヤーの一党はすんなりと“堰の砦”に入ることができそうだ。

 なにせ、ゴブリンたちは総がかりで城壁の防衛に当たっている。小鬼たちは、槍に、弓に、石材に、―― 時には隣の同胞すら戯れに―― 投げられるものを手当たり次第に投げ落とすが、しかし、暴君竜牙兵はものともしない。

 小鬼呪術師(ゴブリンシャーマン)も防衛に加わっているが、精神属性無効の竜牙兵相手には、得意の【眠雲(スリープクラウド)】も効果を発揮せず、攻めあぐねている。

 

 

―― 「何だか知らんが好都合だ」

―― 「これもまた祖竜の加護、というものでしょうや」

―― 「いえ、あの、というか、絶対、慈母龍の巫女さんが関わってますよね、コレ」

―― 「ねえねえ、あっちの樹の枝から乗り込めそうよ」

―― 「登るのは、ちくと骨が折れそうじゃの」

―― 「そりゃ、樽だものねー」 「なんじゃと、この金床!」 「なにおーー!?」

―― 「……行くぞ」

―― 「あ、ゴブリンスレイヤーさん! こちら、鉤縄です」

―― 「ああ、助かる」

 

 ゴブリンスレイヤーの一党は、竜牙兵たちの攻め手とは別の方向にある、長い年月で堰の砦の城壁の上までも伸びた木の幹と枝を見つけ、それを登って伝い、侵入を果たした。

 

 彼らは枝を伝って城壁に乗り、そこから下りて、中庭を渡り、最も高い尖塔に侵入し、そしてまずはその最下層へと向かっていた。

 その砦の尖塔の下り螺旋階段の途上にて、妖精弓手は、塔の下層から吹き抜けを貫いて響く悲鳴を聞いたのだ。

 

 できれば助けたいが、それで気が(はや)って全滅してはどうしようもない。

 無理せず、側道からの小鬼の襲撃を警戒しつつ、しかしながら可能な限り急いで降りていく。

 

「……声は、まだ聞こえますか?」

「いいえ。さっき聞こえたきり……」

「そんな……」

 

 女神官の問いかけに、沈痛な顔で首を振る妖精弓手。

 

 ゴブリンスレイヤーは、黙ったまま何も言わない。

 何か考え込んでいるようだ。*1

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 そして最下層に着いた彼らが見た光景とは――!!

 

 

<『1.巨大ヤゴ(ジャイアント・ニンフ)の脚を炙って旨そうに食べる冒険者たち(半竜娘一党+救助された姉弟)の姿であった――!』 了>

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

「あああああっ! なんか美味しそうなの食べてるーー!!」

 

「うむ? ゴブリンスレイヤーの一党の上の森人(ハイエルフ)じゃないかや。なんでこんなところに居るんじゃ?」

 

「あっ、姫様! おひとついかがですか? これなんか食べごろですよー!」

 

 はいどーも!

 敵地のど真ん中の闇の底で、蟹パーティならぬヤゴパーティをする実況、はーじまーるよー。

 

 前回は、暗闇の排水路を逆走して小鬼の巣窟になった堤防要塞に潜入して、小鬼に捕まって殺されかけていた冒険者の姉弟を助けたところまででしたね。

 

 今は、助けた冒険者姉弟と一緒に、排水路からの潜入途中で捕ったジャイアント・ニンフ(巨大ヤゴ)の脚を、火の精霊(サラマンダー)に焼いてもらっているところです。

 火にあたって身体を外から温めがてら、中からも食事によって温めるというわけです。

 何せ、『水中呼吸の指輪』の効果があったとはいえ、長時間、急流をかき分けてきたのですから、身体は冷えきってしまっています。

 カロリー補給も必要ですしね。

 

 隠密のため、【狩場(テリトリー)】の術の範囲はある程度絞っています。

 半径100メートルの感知結界を最大範囲で展開して突入すると、敵の配置は分かりますが、逆に敵にも気づかれちゃいますのでね。

 制圧するときはそれでも良いんですが。

 

「食べる食べるぅー! って、この辺の森にこんな大きなヤゴいたっけ」

 ぴょんぴょんと軽やかに火の精霊(サラマンダー)の火の方へとやってきたのは、小鬼殺し一党の妖精弓手さんです。

 早速、炙られていたヤゴの脚を、森人探検家ちゃんから受け取ると、慣れた手つきで剥いてほじって中の肉を食べていきます。

 ああ、いつものごとくゴブリン汁まみれでしたので、取りあえず手だけは拭いてもらいましたよ。

 

 ボリュームのあるプリプリの身が、折った甲殻からどぅるんっと飛び出し、ほかほかと湯気を出しています。香辛料と塩をひとつまみ振りかけてかぶりつくと、柔らかく歯の通りの良い身から、じゅわりと広がる旨味の暴力! 何より、なんとも不思議な甘さがあり、非常に美味です。

 

「おいひー!」

「まだまだありますよー、姫様」

「気が利くわねー、ありがと」 

 エルフは、獣の肉は食べませんが、虫の肉は食べます。

 虫は獣に比べれば増えるのが速いので食べても生態系を壊す心配がなくて良い、という理屈だそうです。

 ヤゴとはいえ、只人の子供くらいの全長があれば、エビやカニと同じ扱いでいいでしょう。食いでがあります。

 

「……ゴブリンは居ないのか?」

 階段の方へと繋がる暗がりから現れたのは、ゴブスレさんです。

 その後ろには、残りのメンバーも付いてきています。

 

「んむ。ここに()ったのは殺したぞー」

 半竜娘ちゃんがゴブスレさんに応対します。

 あ、ちなみにここには、元は()()()()()()()()が積み重なっていましたが、それは既にお掃除・弔いを終えています。

 さすがに腐りかけの肉が付いた骸骨に囲まれて食事する趣味はありませんし、衛生的にもアレですしね。

 

 特に、数多の人族の血を吸ったネジ式圧搾機(スクリュープレス)は、この川の汚染と呪いの根源でもあったので、叩き壊して浄化してあります。

 これで、羽衣の水精霊からのクエストは、概ねクリアしたと言っていいでしょう。

 あとは、再発防止のために小鬼の根絶と、そいつらに鎧兜を与えたと思われる滅びの獄(DOOM/ドゥーム)の尖兵を撃ち滅ぼし、王都から来るだろう封印担当の者が来るまで現場を堅持すれば良いわけですね。

 

 ……やることが多い!!

 ですが、そのうちの小鬼根絶については、ゴブスレさんたちに任せておけばいいでしょう。

 プロですからね、なんと言っても。

 

 

「それでじゃ、ゴブリンスレイヤー殿よ、お主は辺境の街に居ったんじゃないのかや」

 

「ゴブリンが出たからな」

 

「いや、確かに、ゴブリンが居るところにゴブリンスレイヤーが居るのは、ある意味当然じゃが」

 

 聞きたいのはそういうことじゃないんだよなあ。

 

 えーと、ではちょっとダイスロールします。

 ここで失敗すると、いよいよ本格的に妖精弓手の姉である“花冠の森姫”の結婚式に参加するフラグが立ちませんし。

 え? 参加したからって何かイイことあるのかって?

 今すぐ使い道がなくても、お偉いさんとか、高レベルキャラとの人脈(コネクション)をとりあえず取得するのは、冒険者の嗜みですから。

 

 半竜娘の第六感判定:目標値21

 ・半竜娘本体:知力反射9+加速5+精霊使いLv5+2D611 × ファンブル!!!

 

 

 あのさあ……。

 

 今のは出目で3以上……つまり、ファンブル以外を出せてれば成功だったでしょ?

 蜥蜴僧侶(叔父貴殿)に、預けておいた幼竜娘三姉妹の今の居場所を聞くとかすれば、すごい自然に知れたはずでしょう? 

 なんでそこでピンゾロ出すんですかねえ……。

 

 ……ま、まあ、そこまで実害ないから良いでしょう。

 まだこれからも結婚式のことを知る機会はあるでしょうし……。

 

 え? ファンブル(絶対失敗)だから、もうゴブスレさん一党からは、花冠の森姫の結婚式の情報は得られない?

 そんなー。

 

「そんなことよりゴブリンだ。そちらが知っている情報を教えろ。城壁の外のデカブツはお前たちが?」

 

「ああ、あれらを見たのじゃな。ここまでくる途中の川べりで殺されて晒されておった冒険者の無念の霊を憑依させた特別製でな――」

 

 あーあ。普通に実務的な話を始めちゃいましたよ。

 そりゃ悠長に世間話する時間もないですし、ゴブスレさんも半竜娘ちゃんも、あんまり余計な言葉をしゃべらないタイプですからね。

 二千歳児は、ヤゴパしてて食事に夢中だし。……蟹喰ってると口数が減るアレですね。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

「なるほど、水攻めは使えないか……」

 

「この砦に地獄門の封印装置があるというなら、迂闊に砦を壊しかねんやり方するのは怖いと思うのじゃ」

 

「ふむ、しかしどうするか」

 

「堰の上の神獣に話をつければ良いのではないかの?」

 

「可能なのか?」

 

「生きておる捕虜はそこの姉弟2人で全部のようじゃし、手前が竜牙刀を授けてやれば、その2人も戦力になるじゃろ。翠玉等級の姉と、青玉等級の弟じゃから、足手まといということもなかろう」

 

姉弟(きょうだい)……」

 

「そして全員が塔の上からでも脱出するときに、叔父貴殿の【念話(コミュニケート)】で、堰の上で待機しておる三ツ首のモケーレ・ムベンベを呼び、塔の中に瘴毒のブレスを吹き込んでもらえば、駆除完了というわけじゃ。もともと、この砦の維持管理も、神獣らと(いにしえ)魔術師(カード使い)の契約のうちのようじゃし」

 

「なるほど、毒か。それは良い手だ」

 

「地獄門から小鬼どもに物資提供しておった奴らがおるはずじゃから、手前らはまだそいつを探して内部を探索するが、【竜命(ドラゴンプルーフ)】を込めたポーションが人数分あるから、こっちは気にせずに毒を送り込んでもらっていいのじゃ」

 

「そうか」

 

 というわけで作戦決定です。

 バルサンしましょうね~。

 

 頭目が話をしている間、他の面子は静かなものでしたが、どうやら皆で揃って炙ったヤゴの脚から身をほじくり出して食べていたせいなようです。

 ファンブルしたせいか、他の面々もヤゴパに夢中で、世間話は全然発生しなかったみたいですね……。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 その後、ヤゴの脚も全部なくなったので解散し、それぞれの攻略に戻りました。

 冒険中にお腹に物を入れることにゴブスレさんは良い顔をしませんでしたが、炙ったヤゴの脚が旨かったから仕方ないネ。

 

 半竜娘ちゃんは、祖竜術で【竜牙刀】を創造すると、救助した冒険者の姉弟に持たせてあげて、ゴブスレさんと一緒に送り出しました。

 

「おお、魔力の牙刀!」 「振り心地もいい感じ。これなら戦えるわ、ありがとうね!」

「お主らに祖竜の導きのあらんことを、じゃ」

 

 彼ら姉弟も冒険者ですから、ゴブスレさん側の戦力になってくれるでしょう。

 救出された姉弟は、ある程度はこの砦の探索もしていたらしく、途中の昇降機(エレベータ)の動かし方や、その他の設備についても、情報を持っているようです。

 ゴブスレさん一党+2は、塔の上へと昇り、そこから脱出するつもりのようです。

 

 そして、彼らを見送って、塔の最下層に残った半竜娘ちゃんたちは、みんなで【竜命(ドラゴンプルーフ)】を込めたポーションを飲んで、炎熱と毒への耐性を獲得します。

 これで、バルサン(毒ブレス注入)されても大丈夫になりました。

 

 

「というわけで、川の呪いと汚染の原因の排除のためには、ゴブリンを支援していた奴ら―― おそらくDOOM(ドゥーム)とかいうところの奴らじゃろう、そいつらもどうにかしておかねばならんわけじゃ」

 

「まーなあ、ゴブリンなんて代わりがいくらでも湧いて出るし。ここのゴブリンも、何ならその地獄門から出てきたやつらかもしれねーもんな」

 

「背後で支援してるやつをどうにかしないとね。だって、またゴブリンが住み着いたりするようじゃあ、根本的解決にはならないもの。ここに小鬼しかいないってことは、悪魔が出てこられるほどにはなってなくて、まだ封印が残っているってわけよね? 来てても雑魚悪魔でしょ」

 

「助けた方たちから聞いた情報で、小鬼たちが武器防具を運び出している部屋の見当もつきましたし。きっとあと少しですね!! プロテクションかフォースフィールドで門に蓋をして、再封印の人員を待ちましょう」

 

 ではいざ、滅びの獄(DOOM/ドゥーム)とやらに繋がるという扉を見に行きましょう!

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 乱雑に積まれた鎧兜に鉄の剣。

 先ほどの尖塔の最下層から、別の通路に入り、さらにずっとずっと下ったところにあった、この“堰の砦”の本当の最下層にある大広間は、真新しい鉄の匂いに満ちていました。

 もともとは水で満たされていた巨大水槽だったであろうこの巨大な空間は、今は恐ろしい瘴気に満ちています。

 

 そして、その中央には、黒く渦巻く闇の流れがありました。

 おそらくは、これが滅びの獄(DOOM/ドゥーム)に通じるという“門”なのでしょう。

 

 本来であれば、その闇の流れをかき乱すように、複雑に組まれた水流がこの部屋に流れ込んでいたのでしょうが、その機構は、長い年月による劣化か、あるいは小鬼たちの稚気に満ちた破壊によるものか、今は機能していないようで、水は流れ込んでいません。

 星辰の周期が封印が緩んだ決定的な原因であるとすれば、この部屋の機構による闇の流れの阻害は、所詮は補助的なものだったのでしょうが、だからといって無くていいものではないはずです。

 機能を停止しているのはこの部屋の機構だけとも限りません。

 あの闇色の流砂のような“扉”の再封印が終われば、この砦の様々な機構の再建も必要でしょう。

 

「……かーなーり、瘴気が濃いなー」

 毒耐性をポーションで得ていますが、それでも気分が良いものではありません。

 TS圃人斥候が鼻を覆いながら、部屋の入り口から偵察しています。

 

「見たところ、特に何も居ないようですが……」

 文庫神官が盾を構えながら前に出ようとします。

 

「いや、出て来るわ!! 何か、大きい……っ!?」

 森人の鋭敏な感覚で、闇の流砂の穴が鼓動したのを感知した森人探検家が、大弓を構えながら注意喚起。

 

『CYYBBEEEEERRRR……!!!!』

 果たして、その闇色の流砂の穴から姿を現したのは、牡牛のような、あるいは羊のような2本の角を持った、巨大な悪魔の頭。憤怒と戦意に染まった恐ろしい表情を貼り付けています。

 地獄の門へと向かって下の地獄から跳躍してきたのか、続いてすぐにその全身も飛び出してきました。

 露わになったのは、隆々とした筋骨に覆われた肉体! 半竜娘の背丈よりも倍以上は高い身長です! この巨大水槽だった大広間の天井に2本角が(こす)るか(こす)らないかくらいの大きさです。

 しかし、大きさよりも目を引くのは、肉に食い込むように設置―― あるいは肉体と置換された―― 機械の部位。

 銀色のパーツが、肉体の多くの部分を置き換えており、血のような色のチューブがあちこちから飛び出し、あるいは皮膚の下を這っているのが垣間見えます。

 何より特異なのは、左腕を丸々置き換えた、巨大な砲口!

 足は馬や羊のような蹄を備えており、片足は完全に機械化されています。踏みつけ攻撃や蹴りも強力そうです!

 

 ―― こいつはまさに、“羊の足を持つミサイルランチャー付き超高層ビルとでも表現するしかない”!!*2

 

 闇の流砂の穴の遥か下方から跳躍してきただろうと思われるこの悪魔―― 機械化大悪魔(サイバーデーモン)―― は、扉から覗き込む冒険者たちを見つけると、その左腕の砲口を向けてきました!

 

『DEEEEEMMMOONNNN!!!!』

 

 途端に発射される、強力な【火球(ファイアーボール)】の3連射!

 

「想定と違うわ!? こんな強力な悪魔が出てくるほど、封印が緩んでいるなんて!?」

 森人探検家が咄嗟に大弓を2連射して、火球を途中で迎撃します。

 矢に射抜かれた火球は、それをきっかけ(トリガー)に爆発!

 残りの1つも誘爆しました。森人の弓の絶技です。

 

「いや、アレは、悪魔……つまり“霊的な生命体”としては下の下じゃ。精髄(エッセンス)を削りすぎておる!」

 半竜娘ちゃんが、そのからくりを看破しました。

 

 強大な悪魔が出てこられないのは、封印が、霊的に強い悪魔を通さないようにしているからです。

 

 ですが、滅びの獄(DOOM/ドゥーム)においては、この数千年のうちに技術革新が進み、霊的な力と引き換えに、機械化手術(サイバネティクス)により強力な力を得ることができるようになっていたのです!

 どうやらあの左腕は、一度に3つの【火球(ファイアーボール)】に相当する攻撃を放ってくる科学機構を内蔵しているようです!

 詠唱が要らないためか、連射や、瞬時の反撃も可能そうです。弾数に限りがあるのかどうかも分かりません……。

 半竜娘ちゃんたちは【竜命】のポーションで炎熱への耐性を得ていますが、爆発による衝撃波のダメージは通る可能性があります。

 攻撃は受けない方が良いでしょう。

 

「悪魔としての霊格は、そこらのインプと同じ程度まで削られておる……しかし、それをこやつは、肉体置換して得た機械の装備で補っておるのじゃ!」

 

 この機械化大悪魔(サイバーデーモン)は、自らの霊的存在としての精髄(エッセンス)を削るのと引き換えに、機械の躰と化すことによって力を得た悪魔、というわけです。*3

 精髄(エッセンス)を削ったことにより“悪魔としては”下級だと判断されたため、封印の網目を潜り抜けることが可能になり、こちらの世界にやって来たということなのでしょう。

 

 そして、これからいざ封印の堰を完膚なきまでに破壊しよう、としたところで、半竜娘ちゃんたちとバッタリ、ということでしょうか。

 

「来るぞ! 構えるのじゃ!」

 

『CYYBBEEEEERRRR!! DEEEMMMOONNNN!!』

 

 

 巨大悪魔のサイボーグが、火球を乱射しながら突撃してきます!!

 

 

 というところで、今回はここまで。

 ではまた次回!!

 

*1
考え込むゴブスレさん:小鬼が、侵入した冒険者をおびき寄せるために捕虜を虐待し始めたにしては、悲鳴に切迫感がないなー、と思っている。

*2
羊の足を持つミサイルランチャー付き~:Windows95版Doom2ユーザーズマニュアルにおける、サイバーデーモンに関する記載。

*3
精髄(エッセンス)を削る:参考→TRPG「シャドウラン」。第六世界(シャドウラン世界)の魔法使いは、機械化により魔法を操る適正が下がる。




 
原作小説7巻でも超勇者ちゃんが地獄に行ったときは、敵の親玉にDOOMのラスボスのスパイダー(Spider)マスターマインド(Mastermind)(蜘蛛みたいな多脚戦車の上に脳みそが乗ってるような悪魔)っぽいのが描写されてるし、それならサイバーデーモンも出さなきゃだよね! と思ったので、サイバーデーモンさん登場です。

===

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31/n 地獄の門は闇の奥に(The horror! The horror!)-6/6(VS 機械化大悪魔(サイバーデーモン)

 
閲覧、評価&コメント、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ここ好きタップ、ありがとうございます! ダイスを振ると碌なことにならねえから振らせないに限るな!(ゴブスレさん並感)

●前話:
蟹パーティーならぬ、ヤゴパーティ!

女神官「虫って意外と美味しいんですね、あれだけ大きければあんまり虫って感じもしませんし」
鉱人道士「そうじゃのう。あれは甘酢と合わせれば、いい酒の()()にもなったろうにのう」
妖精弓手「ふふん♪ これぞ森の恵みってやつよ!」

蜥蜴僧侶(そこの水路から獲ったのであれば、餌として恐らく小鬼に殺された者たちや転落した小鬼そのものも食っておりましょうが……ま、言わぬが花でございましょうな)
小鬼殺し「…………」

半竜娘ちゃんと蜥蜴僧侶さんは、分かってて食べてます。
森人探検家ちゃんたち半竜娘一党の仲間たちは、最初は遠慮してたけど、メッチャいい匂いしてたから屈しました。フロア丸ごとの呪いや瘴気を【浄化】したときに実は一緒に清めているのでまあいいか、という判断も。(流石に瘴気で変異した魔物をそのままは食べないはず)
ゴブスレさんは何となく察してるけど、もとから小鬼退治中にはあんまり物を食べるつもりはなかったし、言うとまた面倒くさくなりそうだったからスルー。
女神官ちゃん、妖精弓手さん、鉱人道士さんは、知らぬが仏。

===

◆森人の里にて、留守番チーム
幼竜娘三姉妹「わたしたちが! 護衛(ごえー)を!」 「おーせつかった! ゆえに!」 「大舟(おーぶね)にのったつもりでいるといい!」
牛飼娘「はーい、よろしくね、おチビちゃんたち」
受付嬢「あはは……(この子たちをこちらに残させるための方便のような、でも半竜の術士さんの娘なら実際にそれだけの戦闘力があっても不思議じゃないような)」
幼竜娘三姉妹「「「 ふんすふんす! 」」」
 


 はいどーも!

 なかなかコネクションが育たない実況、はーじまーるよー!

 

 前回はダイスを振ってみたらまさかのファンブルで、結婚式への招待フラグが立ちませんでした。

 ちくしょうめぇ……。

 ま、まあ? 上の森人(ハイエルフ)の結婚式は普通に数年くらい続くらしいので、小鬼殺し一党経由の招待がなくても、きっとこのあと(おもむ)けるでしょう。

 なんてったって、森を守った立役者なんですからね! そのくらいはありうるでしょう!

 このあと、砦の修繕とかまで手伝ってから帰るつもりですし、三ツ首のモケーレ・ムベンベとはコネクション結べてますし、機会も伝手もあります。

 

 まあそれも……

 

 ―― この目の前のサイバネ化した大悪魔をぶっ倒してからの話ですッ!!

 

 

【挿絵表示】

 

 

 立ち塞がるは巨大な、半機械の悪魔!

 悪魔として生まれ持った力を限界まで科学に捧げて、サイボーグの(からだ)に置き換えた強敵です!

 さらに相手は地獄の門からポルターガイスト系の悪魔を呼び出して周辺に散らばっていた鉄の鎧兜や剣に憑依させると、彷徨う鎧(リビングメイル)人喰いサーベル(フライングソード)として起き上がらせました。

 恐らくはここにあるゴブリン用の武装は、無機物に宿る悪魔がこうやって自ら動かしてここまで運び込んだのでしょう。

 

「物質憑依系! 鎧4、剣が……」

 

「12です!」

 

 素早く陣形を組む半竜娘ちゃんたち。

 わらわらと宙を舞う剣の群れを素早く数えたのは、知識神寺院秘伝の測量術を口伝されている文庫神官です。

 

 雑魚敵が合わせて16、ボスが1。

 魔法はなさそうですが、ボスの火砲は強力です。

 

「……相手の火砲に敵を巻き込んだりできんかのう」

 

「ちっ、精神属性の攻撃でトドメ刺さねーと、雑魚は延々と依り代変えて復活するみてーだぞ!?」*1

 

 早速飛んできた人喰いサーベル(フライングソード)を叩き落としたTS圃人斥候が叫びます。

 依り代となっている剣を砕いた直後に、離れた場所に転がっていた剣がまた浮かび上がるのが見えました。

 憑依して動かしている依り代の武装は乗り換え可能なようです。

 

「砕いた剣や武装は遠くに蹴っ飛ばすのじゃ! 壊したからってまた憑依できんとは限らん!」

 

「確かに油断したところを伏兵が、ってのはありうるわね!」

 

 半竜娘の注意を受けた森人探検家が砕けた剣を遠くに蹴飛ばします。

 

 

『CYYBBEEEEERRRR!!』

 

 その間にも機械化大悪魔(サイバーデーモン)が火砲を乱射しています。

 ろくに狙いをつけていないようにも見えますが……。

 

「こ、こやつ……施設の破壊を優先しておるのか!!?」

 

「眼中にもないってことかしら……」

 

「逆にこちらの脅威を見て取ったがゆえの死ぬ前の悪あがきなのかも知れませんよ!」

 

 言っている間にも、周りの設備にサイバーデーモンの左腕の火砲から放たれた火球が炸裂し破壊していきます。

 

「いや封印を緩めて援軍を呼ぶつもりじゃ!!」

 

「なるほど、呆れるくらいに冷静……頭の中まで機械になってるってわけかしら!」

 

 どうやらサイバーデーモンの狙いは、常にこのゲートの拡充に向けられているようです。

 半竜娘ちゃんたちを脅威に思っているのは確かでしょうが、召喚した雑魚に足止めを任せておけばそれで十分という判断でしょう。

 

「であれば!!」

 文庫神官が気合とともに全速前進。

 放たれた3つの火球すべてに対して迎撃態勢を取ります!

 

『DEEEEMMMMNNN!!?』

 

 熟達の域に達した【護衛】の技能と巧みな【盾】捌きが、全ての火球を受け止めます!*2

 そして――

 

「悪鬼! 凶器! 天魔外道! しからばこの退魔の剣の輝きを見るがいい! 一死、一生、そして祈り! 灯明の守り手よ! 地獄の暗黒を照らす光明を!」

 

 退魔の剣を抜いて、この場のすべての悪鬼の注目を集めます!

 聖なる剣の威光に本能的な恐怖を覚えた雑魚悪魔(鎧や剣)が、支援や牽制も忘れて標的を文庫神官に集中します。

 

「『蝋燭の番人よ、知の防人よ! 行く先に待つ陥穽をどうか我らにお教えください! ――【真灯(ガイダンス)】!!」

 

 さらに一瞬先の未来を見通す先見の閃きを与えるという、知識神の【真灯(ガイダンス)】の奇跡により、文庫神官は自身の行動から《宿命(フェイト)》の揺らぎを局限します。*3*4

 さらに、施設破壊を優先するサイバーデーモンには【挑発】!*5

 

「さあ! 来なさい!!」

 

『YYYEEDDEEEEE!!!』

 

 四方八方から飛来する剣軍、四方から斬りかかる彷徨う鎧(リビングメイル)、さらに火球を連射する大悪魔!

 

「もはや私に死角(ファンブル)なし!!」

 

 しかし文庫神官はそのすべてを受け止めて捌いていきます!*6

 剣軍は盾によって叩き(シールドバッシュで)折って、伽藍の鎧も盾で殴って吹き飛ばし、火球も全てブチ砕いて爆散させます!

 爆風の中からかすり傷で現れるこの娘を、誰がつい一年ほど前までは専業の神官だったと思うでしょうか!

 なんとも頼もしいタンクに成長したものです!

 

「引き付けご苦労! 一塊になっておればまとめて吹き飛ばせるのじゃ! ティーアースよ、力を貸せ――【力球(パワーボール)】!!」

 

 そしてそこに叩き込まれる、空間を歪ませる精霊術の範囲攻撃!

 半竜娘(分身体)が放ったそれは、時空の精霊であるティーアースの破片を媒介に威力を飛躍的に高め、雑魚悪魔たちをひしゃげさせます!*7

 

「お姉さま!」

「うむ! 一網打尽というものよ!」

 

 不可視の力は味方の文庫神官を避けて炸裂したため彼女は無事です。

 雑魚悪魔の精神体も、触媒として使用されたティーアースが自らの糧として吸収したため再憑依による復活はしないでしょう。

 

『DDEEEMMMOOONNNN!!!』

 

「怒り心頭ってわけね。でもあんた気づいてる? その火砲で狙いを定めるとき、あんたの顔も眼も動かず固定されるってことをさ」

 

 ―― つまり狙うのは容易(たやす)い、ってわけ。

 涼やかな声とともに、森人探検家が連続で放った弓矢が発射体勢を取った機械化大悪魔の両目を貫きます!*8

 

『YYYYYYIIIIICCCC!!???』

 

「無駄です!」

 

 苦し紛れに発射された火砲は、文庫神官の盾が全て受け止めました。*9

 

「へへっ、さすがエルフパイセンの弓矢! こうなりゃあとはこっちのもんだぜ!」

 

 視界を失って苦しむサイバーデーモンに、【死角移動】でこっそり近づいていたTS圃人斥候が何かを投げました。

 

「その手の火砲ってのは目詰まり・暴発・御用心、ってな! 盾で蓋して鍵かけて――クラヴィス()カリブルヌス(鋼鉄)ノドゥス(結束)! 【施錠(ロック)】!!」

 

 投げられたのは辺りに転がっていた、小鬼の装備として用意されていた盾。

 TS圃人斥候はそれを何枚か拾って大悪魔の砲口へと蓋をするように投げ込んだのです。

 続けて発現したのは【施錠】の呪文。

 盾はまさしく堅固な蓋となって、敵の砲口を塞ぎました。*10

 

『YYYEEEEMMONNN!!???』

 

「ハッ、莫迦め! 自分の力で吹っ飛びやがれ!」

 

『DDEEEEDDAAAA??!!!』

 

 砲口を魔法の力で塞がれた大砲を、それでもなお撃とうとするなら末路はひとつだけ。

 

 

――KABOOM!!!!!

 

 

 暴発あるのみ!

 何物をも薙ぎ払う火砲の威力が内部で炸裂し、大悪魔の左腕は裂けて弾け飛びました。

 当然その半身も無事では済みません。機械のパーツがひしゃげ、内部からは潤滑液のようなものが滴り落ち、無事なところがないくらいにズタズタに引き裂かれてしまっています。

 

「トドメじゃ!」

 

 【竜翼】のポーションで腕を翼に変えた半竜娘(本体)が、遥か後方より羽ばたきながら助走をつけます。

 このために彼女は戦闘に参加せず、実は後ろに下がっていたのです。

 

「『俊敏なりし甲竜(アンキロス)よ、経絡巡りし雷を、どうか我が身に宿し給え』――【突撃(チャージング)】!!!」

 

 祖竜の加護により、超自然の力が半竜娘(本体)の道行きを後押しします。

 そして翼の加護により彼女は宙を駆け味方の頭を飛び越し、空中で飛び蹴りの構えを取ります!

 

 

「喰らえ! 鳥人直伝、怪鳥(けちょう)()り! イイイィィイヤアアアアアアアッッッ!!!

 

『DDEEEEAAAADDDD??!!!』

 

 流星のごとく宙を駆けた半竜娘の飛び蹴りが、機械化大悪魔(サイバーデーモン)の胸部に炸裂!

 火吹き山で恐鳥系の鳥人から学び取った必殺の蹴りです!

 そのまま突き抜けて胸に大穴を開けた勢いで向こう側の壁まで飛んでいき、壁に着地。

 

「勝利じゃ!!」

 

 どぉっっ、と機械化大悪魔(サイバーデーモン)が倒れると同時に放たれた半竜娘の言葉通り。

 

 彼女たちの勝利です!!

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 強敵を倒してひと段落。

 

「最後にこやつが爆発せんで済んで良かったのう」

 

「確かになー。でもリーダーも気をつけろよ、まだいきなりドカンってなる可能性はあるからなー」

 

「そのために分身体の手前が検分しとるのじゃろーに」

 

 半竜娘(分身体)が機械化大悪魔の死体を調べています。

 未知の技術の塊ですから、かなり破損しているとはいえ、資料的価値は高いはずです。

 ドワーフのところにでも持ち込めば、ひと財産にはなるでしょうし、そちらとコネがある女商人の軽銀商会に引き渡してもいいでしょう。

 

「……うむ霊的エネルギーを変換しておったようじゃから別積みの動力炉心はなかったみたいじゃの」

 

「へー。なら、もうそいつは死んでるから、エネルギーは空っぽってことね」

 

「おそらくの」

 

 半竜娘(分身体)の見立てでは、もう危険はないようです。

 

「じゃあ、あとはバラす前にスケッチしてから、幾つかのパーツに分解していく感じですね!」

 

「まあ待て、お主は敵を全部引き付けて袋叩きにされとったんじゃから、もうしばらく休んどれ」

 

 腰を浮かせた文庫神官に対して、半竜娘(分身)は座っているようにジェスチャーします。

 

「それより先に地獄への門を塞がねばなるまい」

 

 そうでした。

 この場の最優先事項は、地獄へ繋がってしまった門―― というより“穴”ですが―― を塞いでおくことです。

 またさっきみたいな強敵が出てきてはかないませんし、そうでなくても雑魚悪魔の波状攻撃なんてのも勘弁です。

 

 

「早くここの封印をやる人員が来てくれないかしらね」

 

 

 そうやって森人探検家が呟いたのが良かったのか悪かったのか。

 

 地獄門である闇色の粒子の流砂のような穴に【力場(フォースフィールド)】で蓋をしようとしていた半竜娘(本体)の頭上の空間に、一筋の亀裂が生まれました。

 

「お姉さま!」

 

「んん? 何が――ってなんじゃこりゃ!? 空間断裂!?」

 

 文庫神官の声で異常を察知した半竜娘(本体)がぐるりと首を巡らせれば、その空中の亀裂を見つけて驚愕します。

 

 そして空中に生まれたその亀裂が開くと――

 

「とうちゃーく!」

「転移門なしで任意の空間に転移できるとは、貴女も大概になりましたよね」

「でも助かる。今回はまだ術は温存したかったから」

 

 その内から現れたのは、輝く物の具に包まれ煌びやかな大剣を携えた黒髪の少女。そして質実剛健な女剣士に、フードを被って大きな杖を持った魔法使い。

 昨年の収穫祭前夜で見覚えのある彼女らは、まさしく()()()()

 

「む、そちらの蜥蜴人はいつぞやの。随分と見違えたというか、大きくなったのですね。そういえば稽古をつける約束でしたが……また後ほどですね」

 

「約束を覚えておいてくれたのかや。こっちも悪魔を倒したばかりじゃからなぁ、またの機会かのう」

 

 収穫祭前夜に遭遇した時の稽古の約束は、剣聖ちゃんも半竜娘ちゃんも、お互い覚えていたようですね。

 ……後で会う機会があれば良いんですけど。勇者ちゃんたち忙しそうですからねぇ。

 

「へぇっ! 君たちがその悪魔を倒してくれてたんだ! ありがとうねっ!」

 太陽のような少女がお礼を言ってきます。

 

「……“見た”ところ、この遺跡の封印補助機能はまだ生きているみたい。申し訳ないけれど、あなたたちには、それを再稼働させてもらいたい」

 フードの魔法使い―― 賢者ちゃんは、しばらく目を閉じて集中していたかと思うと、懐から取り出した何枚かの紙にさらさらと何か書き付けて、さらに印を押して、半竜娘ちゃんに手渡してきました。

 

「これは、遺跡の作動手順かの? それと手紙?」

 

「そう。このタイプの遺跡は前にも見たことあるから、合っているはず。私たちの方で向こう側から門の主封印をするから、補助封印が動いてると助かる。主封印が終わったら、補助封印は一旦止めても大丈夫だから、あとでメンテナンスするように森人の里と都にこの手紙を渡して伝えてくれればさらに助かる」

 

 ―― 森人の方には都から話が通ってるはずだから、里にもすんなり入れてもらえるはず。

 そう付け加えた賢者ちゃんの渡してきたアンチョコと手紙を受け取り、半竜娘ちゃんは頷きました。

 

「任せておくのじゃ。しかしお主らはどうするのじゃ? 本当に門の向こう側……その穴の中へ?」

 

「その通り!」

 

 太陽の少女が肯定します。

 

「ちょっと世界を救ってくるよっ! じゃあまたね!」

 

 そして、とあーーっ! っと闇色の流砂が落ちる門の先へと飛び込んでいきました。

 

「ああっ、待ちなさい! ……それでは、私は彼女を追いかけないといけないのでここで失礼します! きっとまた会いましょう!」

 

「後詰めをお願い。こっちの帰りは別口で大丈夫だから、もうここの部屋は水で埋めても構わない。伝言も必ず」

 

 そしてそのあとを、剣聖ちゃんと賢者ちゃんが追いかけて飛び込んでいきました。

 地獄を平らげに滅びを滅ぼす超勇者ちゃん(ドゥームスレイヤー)が行ったのですから、もう安心ですね!!

 

 

「もしかして」

「……彼女たち」

「ひょっとして」

「「「 勇者一行!!? 」」」

 

 あ、さすがに半竜娘ちゃん以外のメンバーも気づきましたね。

 

 そうです! 彼女こそが、四方世界を救う当代の白金等級冒険者! 超勇者ちゃんなのです!!

 

 そして森人の長への伝言を預かったので、森人の里への自然な入場―― ひいては花冠の森姫と輝ける兜の森人の結婚式に参列するフラグが立ちました!!

 ひゅー! さっすがー! いよっ、賢者さま!! ありがとう!!

 

 

 というところで今回はここまで!

 ではまた次回!

 

*1
TS圃人斥候の【怪物知識】判定 目標値14:知力集中5+魔術師Lv6+加速5+2D634=23 ○判定成功!(無機物憑依系の悪魔は夜鬼(ナイトストーカー)(怪物Lv5)相当)

*2
文庫神官の【盾受け】判定 目標値31:基準値19+加速5+2D656=35 ○判定成功!

*3
文庫神官の【真灯】行使判定:基準値15+汎用呪文熟達2+加速5+半竜娘支援10+2D632=37 効力値30over!

*4
知識神の【真灯(ガイダンス)】の奇跡:2D6の出目の片方を固定値に変えられる。例えば今回は達成値30以上だったので、判定ダイスにおける「2D6」を「6+1D6」に置き換えることができる。効果時間は6ラウンド(3分間)。このとき、片割れの1D6が6のときにクリティカル扱いにするかどうかはGMによる。今回はクリティカル扱いにするものとする。つまり、全ての判定で出目7以上が保証され、ファンブルは全く在り得ず、六分の一(16.7%)の確率でクリティカルする。つまり、鬼のように強い。固定値万歳! なおこれは味方に掛けることも可能な術である。

*5
文庫神官の【挑発】判定 目標値25:魂魄集中7+戦士Lv6+挑発1+聖剣1+加速5+真灯6+1D65=31 ○判定成功!

*6
文庫神官の【盾受け】判定 目標値33:基準値19+加速5+真灯6+1D66+クリティカル5=41 ◎絶対成功!

*7
半竜娘(分身体)の【力球】行使判定 相手呪文抵抗27:基準値19+精霊の愛し子1+触媒ティーアース11+加速5+2D662=44 ○呪文抵抗貫通! ダメージ44!

*8
森人探検家の弩弓連射命中判定 目標値26(相手回避30-曲射4):1射目 基準値22+加速5+2D642=33 ○命中! 2射目 基準値22+加速5-速射4+2D656=34 ○命中!

*9
文庫神官の【盾受け】判定 目標値31:基準値19+加速5+真灯6+1D63=33 ○判定成功!

*10
TS圃人斥候の【施錠】行使判定 対象は盾なので呪文抵抗ナシ:ファンブルではなかったので行使成功。




 
半竜娘「しまった! これでは心臓が喰えん!?」(胸板ぶち抜きライダーキック)
狙うなら顔にしな、顔に。
 
次回は『裏』編です。ゴブスレさんたちの遺跡攻略の〆の様子とか、森人の結婚式に参加できた半竜娘一党の様子とか、その他の後始末とか。そして海編への導入まで行けるかな……?

===

◆ファンブルのしわ寄せ(森人の里にて合流)
半竜娘「おお。お主らも来とったのか! 着飾らせてもらって良かったのう!」
幼竜娘三姉妹「ははじゃどのー!」 「えへへー 」 「いいでしょー!」
蜥蜴僧侶「はて、こっちに連れてきておるのは言うておりませんでしたかな」
半竜娘「聞いた覚えはないが、まあ手前も、叔父貴殿がこちらに来ておったのにこの子らの居場所のひとつも尋ねんかったしのう」
蜥蜴僧侶「いやはや、これはしたり。幼子が居る生活というのも慣れませぬなあ、お互い」
半竜娘「じゃのう」

===

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31/n 裏(堰の上の虹。森姫の結婚。紅玉昇級。そして海へ)(+キャラシ掲載)

 
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●前話:
滅びの獄(DOOM/ドゥーム)は滅ぼされるようです。
超勇者「勇者推参! くらえ、夜明けの一撃ィッ!! あっ、何か武器落ちてる! プラズマライフル……? って、聖剣に統合された。太陽属性(プラズマ)だから? 何だか分かんないけど、とにかく良し! いっくぞぉ!!」
剣聖「ついに遠くまで届く斬撃を会得してしまいましたか……」
賢者「封印までの時間稼ぎだけで良かったんだけど」
剣聖「全然こっちまで悪魔が流れてこないですね」
超勇者ちゃんはごん太剣ビーム(エクス○リバー!)を習得したようです。


そして半竜娘ちゃんたちも森人の御姫様の結婚式に行けるよ!

===

前話の脚注にちょこちょこ判定ダイス(簡略処理)を追記しました(展開に変更はないです)。なお、サイバーデーモンは怪物Lv10で上位悪魔(グレーターデーモン)より少し強いくらい、取り巻きは怪物Lv5の夜鬼相当×16でした。
ちなみに前々話(ヤゴパ)を書くときに複数の野食・昆虫食系サイトの記事を調べたんですが、ヤゴ・トンボはきちんと筋肉だけ食べれば甘みがある(エビっぽい)ということらしいので、そのへん参考にしています。

===

ではまずは、堰の砦の上へと向かったゴブスレさん一行+救助された冒険者姉弟のターンです。
 


 

1.煙とエルフは高いところがお好き

 

―― ポーン

 と響いた不思議な音に釣られて振り返った小鬼呪術師(ゴブリンシャーマン)の視線の先で、尖塔の最上層の開かずの扉が開いていく。

 

『GOBB!?』

 

 尖塔の最上階に居たのはゴブリンシャーマンとその取り巻きにゴブリンアーチャーが十数匹。

 あとの小鬼は捕虜の見張りなどを口実にサボったりしていなければ城壁の方へと回されている。

 何せ城壁には巨大な骨の竜戦士が5体も取り付いて、門を破ろうと、あるいは城壁を登ろうとしているのだ。

 そちらに戦力を集中させることしか小鬼呪術師(ゴブリンシャーマン)の戦術眼では思いつかなかったし、まさかあのような強大な戦力を囮にして冒険者たちが砦の中へと水路から、あるいは樹の枝を伝って入り込んでいようとは想像もしていなかったのだ。

 

 ましてや捕まえていたはずの捕虜までもが一緒になって、砦の機構(エレベーター)を動かして今この瞬間に自分たちの後背を突いてこようとは、まったく思いも寄らぬことであった。

 

「シャーマン1、弓16、剣なし、ホブなし、狼なし」

 

 開かずの扉(エレベータドア)から飛び出した、薄汚れた鎧兜に円盾と鉄の剣を両手に持ち鞘にも携えた只人の戦士―― ゴブリンスレイヤーは一瞬で戦況を把握すると後続に注意を促した。

 

「シャーマンから殺す。ゴブリンどもは皆殺しだ」

 

 ゴブリンスレイヤーら一党にとって幸いなことに小鬼たちは尖塔の周囲へと注意を向けており、すなわち後衛に当たる最後尾にはゴブリンシャーマンだけが位置していた。

 つまり壁際のもっとも開かずの扉(エレベータードア)に近いところに居たのはそのシャーマンであった。

 今この瞬間にゴブリンシャーマンにとっての戦場の前後が入れ替わったのだ。

 

「フッ!」

 

『GGOOBB!!?』

 

 ゴブリンスレイヤーは最下層で拾っていた剣を呼気とともに投擲。

 続けて低く構えて這うように走る。

 

『GOBOBOッ……!!』

 

 投擲された剣が狙い過たずゴブリンシャーマンの喉に刺さり、詠唱を封じる。

 おそらく城壁外の暴君竜牙兵へと向けて呪文を使い切っているだろうが、念のためだ。

 しかし小鬼呪術師は藻掻きつつもまだ倒れていなかった。

 

「上位種は無駄にしぶとい。だが、まず一つ」

 

『BOッ、GBOッ……!??』

 

 直ぐにゴブリンスレイヤーが2本目の小剣を投擲し、今度のそれは小鬼呪術師の脳天に突き立った。

 びくりと痙攣した小鬼呪術師は、たたらを踏んで外縁へと崩れ歩き、そのまま転落していった。

 

『GGOOORR!?』 『GOBB!?』 『GBRRROO!?』

 

 それを見た小鬼弓兵(ゴブリンアーチャー)たちに動揺が走った。

 思いも寄らぬ挟撃。一瞬でやられた頭目の呪術師。夜通し戦い続けた疲労。

 前線から離れた安全圏から矢を射るだけかと思ったら、ここは一転して死地となった。

 あっさりやられた頭目の呪術師に対する軽侮と罵声を混ぜながら、敵が居る後ろの方へと方向転換しようとして――

 

「うらぁっ!!」

「他のみんなの仇よ!!」

 

 斬り込んできた翠玉・青玉の姉弟冒険者が振るう牙刀に手や首を刎ねられていく。

 彼女ら姉弟は2人だけで密林の奥までやってきたわけではなかった。彼女らにも仲間がいたのだが……もういない。

 2人だけでも助かったのは、本当に運が良かった。

 

「ほほう、やりますなあ。これは拙僧も負けてられませんな!」

 

 続いて蜥蜴僧侶が突撃し、爪爪牙尾で暴れまくる。

 切り裂いては引き倒し、噛みついては振り回し、打ち据えては吹き飛ばし。

 後ろから襲い来る竜の暴虐に小鬼どもが耐えられるはずもなく。

 

『GGYYYY!!!?』 『BBOGG!?』 『RROYYYGGO!?!!』

 

 小鬼たちが弓矢を捨てて逃げ出そうと壊乱するまで数瞬と掛からなかった。

 

「逃がさないわよ!!」

 

 故郷の傍に蔓延る小鬼に対する憤りを乗せて、妖精弓手の三連射が次々と小鬼を背中から穿っていく。

 

「ま、術を使うまでもないわいの」 「そうです、ね!」

 

 さらに逃げようとする小鬼たちの行く手に、鉱人道士と女神官が放った投石が降り注ぎ、その足を止めさせる。

 何も当てる必要はない。

 少しだけでも足が鈍れば、前衛の剣が、妖精弓手の矢が、彼らを穿つのだから。

 

 

 この階の小鬼たちが死に絶えるまで、それほどの時間は掛からなかった。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

「ここの小鬼ばらは殺し尽くしましたが、まだまだ敵は多いようですなあ」

 蜥蜴僧侶が塔の外で防衛戦を繰り広げる小鬼たちを見て、楽し気な声を漏らした。

 

「まったくね。ほんと、数だけは多いんだから」

 その隣で妖精弓手が次々と矢を放ち、外の小鬼を減らしている。

 森の中のエルフは矢の数の制約から解き放たれるのだ。今も塔を這う蔦が自ら伸びて矢柄となり木芽鏃となり矢羽根となる葉を生やして次々と矢を供給している。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 しかしそれでもまだ小鬼の数は多く、さらに一部の小鬼は塔の上に陣取った妖精弓手や女神官、翠玉等級の女軽戦士に目をつけて、城壁の持ち場を離れてこちらに向かってくるほどだ。

 指揮をする頭目が居ない以上、城壁に攻め寄せる暴君竜牙兵の相手などよりも女の方へと涎を垂らしながら向かってくるのは小鬼どもにとっては当然のことであった。

 

「そんでどうする、かみきり丸。あの数の小鬼どもを相手しながら塔を下りるのは骨じゃぞ」

 鉱人道士が酒を飲みながら尋ねるが、その声音に不安も焦りもない。

 

「手筈通りに―― 竜を呼ぶ。あの、なんだったか」

 

「モケーレ・ムベンベ、ですね」 女神官が小鬼殺しに補足した。

 

「それだ。術で呼べると言っていたが、できるな」

 頷いて続けたゴブリンスレイヤーは、蜥蜴僧侶に兜を向けた。

 

「おお、承知承知。声を届けてみせましょうとも。『大地を冠せし馬普龍(マプロン)よ。仮初(かりそめ)なれど、我らも群れに加え(たも)う』――【念話(コミュニケート)】」

 それを受けて蜥蜴僧侶が発動した祖竜術は、言葉に載せた意思そのものにより異種族との会話を可能とするもの。

 直後、夜明け近い薄闇に響くは、“川を堰き止めるもの”へと助力を求める鍵言(キーワード)を乗せた蜥蜴人の雄叫び。

 

 響き渡った雄叫びが、黎明の密林の鳥たちを飛び立たせていく。

 

 そしていくらも待たずして、()()はやってきた。

 

――『『『 MMOOOOOKKEEERRRLLL!!! 』』』

 

 前足を翼に変えて飛翔する巨大な三ツ首のモケーレ・ムベンベ!

 それが堰の向こうの湖水から飛び立ってやってきたのだ!

 さらに後ろには、一ツ首のも同じく空を飛んで追従している。

 

「ふむ、“術で滞空しながら待て、空中で拾い上げる。できるな?”とのことですぞ」

 川の主の兄(モケーレ・ムベンベ)の言葉を翻訳した蜥蜴僧侶が小鬼殺しに伝える。

 上空の三ツ首竜は、塔の近くを掠めるような軌道に入っている。

 

「だそうだ」

 

「わぁったわいな。……ほれ、飛べ飛べ!」

 

 鉱人道士に急かされて、全員が塔の縁へと行く。

 

「行くぞ」

 

 足の鈍った翠玉・青玉の冒険者姉弟は蜥蜴僧侶に抱えられ。

 他の面々は小鬼殺しの合図に合わせて一斉に飛んだ。

 

「こういう術じゃないんじゃがのう。『土精(ノーム)土精(ノーム)、バケツを降ろせ、ゆっくり降ろせ、降ろして置いてけ!』――【 降 下 (フォーリングコントロール)】!」

 

 落ちる一行を鉱人道士の重力制御の精霊術が絡め取り、ゆっくりと空中に滞留させる。

 

――『『『 MMOOOBBBEEEENNNN!!! 』』』

 

 空中を漂う小鬼殺し一行+冒険者姉弟を、空中要塞じみた三ツ首のモケーレ・ムベンベがその背に拾った。

 後ろを見れば、ちょうど、獣欲を燃やした小鬼どもが尖塔のてっぺんまで登ってきたところであった。

 

「では頼む」

「承知。しかと伝えましょうぞ」

 

 蜥蜴僧侶が【念話】を乗せて礼を返し、そして依頼する。

 三ツ首と一ツ首のモケーレ・ムベンベは蜥蜴僧侶の念話を受けるとぐるりと堰の砦の上を周回して位置取りを調整し――

 

―― 『『『 MMMNNRRRRROOOORROOO!!! 』』』

 

―― 『KKKKEERRRRRRRRRREEE!!!』

 

 ―― そのそれぞれの口から瘴毒のブレスを吐き出して砦中を蹂躙し、さらには塔の中に吹き込んで燻蒸していった。

 

 小鬼たちの断末魔が、夜明けの近い森に響き渡る。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 前脚を翼にして空を飛ぶモケーレ・ムベンベの大きな背の上で、犠牲になった冒険者や商人、狩人らに、そして死に絶えた小鬼たちにも鎮魂の祈りを捧げていた女神官が、ふと眩しさに目を開けた。

 

 

 夜明けの光だ。

 

「わぁ……っ」

 

 そして、旋回する竜の背の上で朝日と同時に目に飛び込んできたのは、大きな虹。

 堰の上から飛び立ったモケーレ・ムベンベが纏っていた水気が散って、もたらされたものだろう。

 

 モケーレ・ムベンベ……それは“川を堰き止めるもの”であり、また、“虹”を意味する言葉でもある。

 

 小鬼殺しは、虹と朝日とそれを受けて輝く仲間たちを、女神官を、そして助け出せた冒険者の()()たちを、ただ静かに見ていた……。

 

 

<『1.モケーレ・ムベンベ「この暴君竜牙兵は出来がいいから眷属にしてやるか。我が【竜血】により位階を上げるとよい」』 了>

 

 

 5体の暴君竜牙兵は、神 獣(モケーレ・ムベンベ)の【 竜 血 (ドラゴンブラッド)】を与えられたことにより位階上昇!

  近 衛 竜 牙 兵 (インペリアル・ドラゴントゥースガーダー)に変異!

 呪文使用回数+2! 祖竜術Lv2獲得! 祖竜術【竜牙兵】【狩場】を会得!

 称号【神獣の眷属】、【堰の砦の番兵】を獲得!

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

2.森姫の婚姻

 

 

 

 “愛はさだめ、さだめは死――”

 

 朗々と歌い上げられる森人たちによる旋律は、聞く者の心を捕らえて離さない。

 

 森人の里へと賢者からの伝言を携えてやってきた半竜娘とその一党は、そのまま森人の長の氏族の結婚式に参列することになった。

 川を堰き止めるものとも友誼を結び、実際に森の中の堰の砦に現れた大悪魔を殺した英雄である。

 当代の勇者の仲間からの手紙も携えているとなれば、邪険にするはずもなし。

 

 森人の婚姻における“初の共同作業”というのは、夫の持つ弓に妻が矢を番え、二人で上空へ向けて力強く放つというものだ。

 放たれた矢は、その婚姻を祝福するがゆえに木々が空けた枝葉の間の道を通り、虚空高くに消えていく。

 

 半竜娘たちが宴席に入ったのは、ちょうどその“夫婦の初の共同作業”が終わった頃合いであった。

 大樹の(ウロ)に湧く水場で身を清めて、借りた衣装を身に着けている間に少し出遅れたのだ。

 

 愛と生と別れと死を歌った詩が、森人たちの竪琴と太鼓の旋律に乗って流れてくる。

 それを機に厳かな式は終わり、いよいよ楽しい宴会の時間だ。

 

 森人たちはめいめいに珍しい客人である冒険者たちを囲んで、彼らに冒険譚をねだっている。

 鉱人道士が好奇心に目を輝かせる若手のエルフたちに質問攻めにされ、蜥蜴僧侶は自らの部族の伝説を謳って年かさの森人から茶々を入れられたり―― 何せ彼らは千年やそこら前のことであれば文字通りの生き証人なのだ!――、森人の上品なお酒を飲んでほんのりと頬を上気させた牛飼娘と受付嬢が美しい花嫁を見てあーだこーだと結婚への憧れを語ったり……。

 

 そんな中に入ってきた半竜娘の巨体に、森人たちもどよめいた。耳聡い事情通の森人が「あれが【辺境最大】、【鮮血竜姫】か」と噂する声も聞こえる。

 一党の者らは森人風の薄絹のドレスを借りて着ているが、半竜娘だけは、着られる服がなかったため布を折って巻き付けたのを宝飾された紐で縛っただけの古代風の装いだ。

 妖精弓手がゲストを見逃すわけもなく―― それは性格的な意味でも身体能力的な意味でも立場的な意味でもそうだ―― 手を振って声をかけてきた。

 

「あっ! よく来たわね! こっちいらっしゃいな!」

 

「お招きいただき恐悦至極、じゃ! “星風の娘”様よ」

 

 半竜娘が合掌して礼をして応じた。

 その後ろでは、森人探検家が「ああ碌な持参品もないのに……」とオロオロしたり、TS圃人斥候が早速「そんなことよりおなかがすいたよ」とばかりに葉皿や木の実椀に盛り付けられた料理に向かって死角を縫って突撃したり、文庫神官が異種族の文化を記録するため目を皿のようにしつつ歴史の生き証人に話を聞くべく耳をそばだてたりしている。

 彼女らもそれぞれで、この宴を楽しんでいるようだ。

 

「まさか堰の砦(あんなところ)で会おうとは思わなかったのじゃ」

 

「それはこっちのセリフよ! まさかうちの近くで会うなんて!」

 

「いやよく考えてみれば、小鬼が居るところに小鬼殺し一党が居るのは不思議じゃない……かの?」

 

「あのねえ、私だって好き好んで小鬼退治ばっかりしてるわけじゃないわよ。あいつに付き合ってあげてるんだから! 今回だって、ねえ様のお祝いに来たら小鬼が湧いてたっていうから仕方なくよ」

 

「ああ、それじゃよ。姉君が結婚するというなら、砦で教えてくれれば良かったじゃろうに」

 

「あれ? 言ってなかったっけ。てっきり知ってるものかと」

 

 辺境の街で妖精弓手の姉の結婚が話題になったときには、半竜娘一党は既に川を遡っていたのだが、そのあたりで何か勘違いしていたのだろう。

 

「まあいいがのう。ともあれ、吉事の言祝(ことほ)ぎを逃さずに済んでよかったのじゃ。うちの三姉妹の面倒も里の者らで見てくれたようで礼を言うのじゃ」

 

「ここでは小さい子なんか早々見ないからねー。しかも蜥蜴人の三姉妹なんて、里のみんなも珍しがって、いろいろ構ってあげてたみたい」

 

 視線の先では、着飾った幼竜娘三姉妹に対してエルフたちが色々と蘊蓄を垂れたり昔話をしている。

 

「うちの娘らにも、得難い経験になったじゃろう。森人の里に、まして森人の姫の結婚式など、生きているうちに招かれることはそうそうあるまいからの」

 

「そーかなー」

 

「上の森人の感覚でものを言うでない。ああ、いや」 半竜娘はニヤリと笑って続けます。「千年後にはお主が叔父貴殿の花嫁になってくれるのじゃったか? 竜の花嫁に」

 

「あら、誰から聞いたの? まあ考えといてあげるってくらいよ。チーズ好きな竜の花嫁ってのも乙かもね、ってね」

 

「くく、そのときまた式に呼んでもらおうかの。そして義叔母上(おばうえ)とでも呼ばせてもらおうかのう? 手前も、千年万年と竜になって生きるつもりなのでな」

 

「いいわね! 大歓迎よ! 昔話できる知り合いは多い方がいいもの!」

 

 

<『2.上の森人(ハイエルフ)の1000年先は、只人で言うと10年かそれ以下の感覚と思われる』 了>

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

3.未知の技術

 

 

 半竜娘らは、花冠の森姫と輝ける兜の森人の結婚式の宴を数日間楽しむと、里に馬車や麒麟竜馬を預けて、再び上流の堰の砦へと行き、その修繕に従事した。

 彼女らのほかには、森人の里からの人員に、只人の都からやってきた鉱人と只人の技術者たちも参画している。

 人足としては半竜娘の馬力と、森人に協力する精霊たち、そしてモケーレ・ムベンベの眷属となった近衛竜牙兵たちが活躍した。森人は、只人の人足を森に入れるのを好まなかったからだ。

 

 

「いやぁ、密林の奥地(こんなところ)までお主自身が来ずとも良かったろうに」

 

「パトロンからの仕事な上に、森人の里と繋がりができるとなれば、会頭の私が出向くのに不足ありませんわ。それに国としても重要な封印の再建ともなれば、関われる人材は限られておりますもの」

 

 ――自慢じゃありませんが、王宮でも重用されておりますのよ?

 そう言って堰の砦を再建する現場で半竜娘に微笑んだのは、軽銀商会の若き会頭である女商人だ。

 

「それはパトロンとしても鼻が高いのう。迅速な石材その他の物資の運搬が助かったのも事実じゃし。それに、こいつは直接渡したかったからのぅ」 少し声をひそめる半竜娘。

 

「確か地獄の高度な技術で機械化された強敵を倒したのだとか。その解析を任せていただけるのですか?」

 

「そうじゃ。まあ建て前は水の街の冒険者ギルドまでの運搬を委託するわけじゃが。その間にじっくり見るだけにするもよし、届けた後にギルドや国と交渉して解析する正規の権利を勝ち取るもよし、手に負えぬと判断すれば他に権利を斡旋してもよし、じゃよ。上手くやっとくれ」

 

「なかなかにやりがいがありそうですわね」

 

「お主もそのために鉱人の技術者の手配に一枚噛んで率いてきたのじゃろう? 鉱人が森人の領域に来るなぞ、何かの見返り(エサ)がなければこれほど早く話がまとまるものかよ」

 

「あら、お見通しでしたのね。前から思ってましたが、冒険者にしておくには勿体ない識見ですわ」

 

「これでも郷里では軍師過程を修めておるからの。じゃが、冒険者の方が性に合っとる。そういうのはお主に任せるのじゃよ」

 

「責任重大ですわね」

 

「そりゃそうじゃよ、いくら投資しとると思っとるんじゃ」

 

 ――がはは! うふふ! と笑いあう2人を、現場監督に来ていた輝ける兜の森人(花冠の森姫の夫君)は、胡散臭そうに見ていた。

 

 

<『3.輝ける兜の森人「まったく定命の者(モータル)はせわしないものだな」』 了>

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

4.紅玉昇級! そして海へ……

 

 

 

「というわけで、昇級おめでとうございます」

 

「お、おう?」

 

 森人の結婚式に出たあと、半竜娘一党は、堰の砦の再建に従事し、森の特産品を仕入れたり採取したりしてから(往路で助けた女巫術士(ドルイダス)一党ともまた会えたりした)、麒麟竜馬で川の上を走って下って、水の街の神殿に犠牲者たちの遺体をおさめて、辺境の街に帰ってきたところ。

 

 一連の冒険を改めて冒険者ギルドに報告した際の受付嬢の言葉がこれである。

 

「ギルド職員であるお主も知っておるじゃろうが、冒険者ギルドの依頼を受けていったわけじゃないのじゃが? それに活躍したというなら小鬼殺しの一党もじゃろうに」

 

「ええ存じてます。森人(エルフ)の御姫様の結婚式のときに経緯は聞きましたし」

 

「ならばなぜじゃ?」

 

「成り行きとはいえ、地獄の封印が開かんとする事態にいち早く居合わせ、勇者の到着まで悪魔を押さえたことを評価してのことですね。ゴブリンスレイヤーさんの一党の方は、貴女方の後から到着して、小鬼を蹴散らしただけ……ですから」

 

「良くも悪くも小鬼退治の範疇だと判断されたわけかの」

 

「ええまあ」

 

 受付嬢も上層部の“たかが小鬼を退治しただけだろ?”という扱いには納得していないのだろうが、それも仕方ないことだとは理解しているようだ。

 

「まあ、ゴブリンスレイヤーさんの方はともかく。貴女方は、いち早く川の水の呪いに気づいて浄化のために遡上し、密林の奥の神獣には使い魔を献上し、森人の王族との(コネ)も結び、高度な技術で機械化された悪魔の残骸を国に納めたわけですから、これまでの功績を鑑みて、昇級は妥当だという判断です」

 

「であるか。ならば、ありがたく頂戴しよう」

 

「はい。あ、一応は、形式だけに近いですが面談もしますので、お仲間の方々には順に応接室までいらっしゃるようにお伝えください」

 

「了解なのじゃ」

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 というわけで、全員が一つづつ等級が上がった。

 

「お、おおお……。ついに男のとき(まえ)よりも等級が上に……!」

 TS圃人斥候は青玉の冒険者証を掲げて、感無量な様子だ。

 

「紅玉かー。冬の年越し前に昇級してからだから、結構いいペースよね。等級が上になるほど昇級しづらいって言われるし」

 と言いつつ等級にはあまり興味がないのか、森人探検家はドライなものだ。

 

「私も翠玉になりましたし、今回の冒険では神様にお納めする新たな知識をたっぷり見聞できて、とってもいい冒険でした。盾と鎧は整備しないといけませんけど……」

 文庫神官は新たな冒険者証を文鎮代わりに、冒険で得た知見を紙に書き付けている。やがては書物にまとめて、知識神の文庫に納めるつもりだ。

 

 ギルドの卓についた彼女らの前には、今回の依頼元であった羽衣の水精霊がふるまってくれた【命水(アクアビット)】の回復水が入ったジョッキがある。

 精霊の力でこの晩夏の暑い中でもキンキンに冷えているし、サービスなのかしゅわしゅわしている。

 同じ卓についている幼竜娘三姉妹は、しゅわしゅわを飲んで、刺激が強かったのか揃って「べー ><」と目を×(ばってん)にして舌を出している。

 

「さて。そしたら次はどこに冒険に行くかの?」

 

 しゅわしゅわを飲みながら話題を振った半竜娘に、森人探検家が勢いよく手を上げた。

 

「あ、それなら私に腹案があるわ!」

 

「うむ、聞こう」 「「「 きこー! 」」」

 

「去年の収穫祭の時に手に入れた宝の地図なんだけどね、この間の花冠の姫様のご成婚の折に昔冒険者だったっていう森人(エルフ)から情報を聞けて解読が進んだやつがあって、特に1つ、これは確度が高いわってやつがあるのよ!」

 

「へー、アレ当たりあったんだな。良かったじゃんエルフパイセン」

 

「それで、どこに何があるというんじゃ?」

 

「フフフ、聞いて驚きなさい! ズバリ、コレが示していたのは“宝を積んだ沈没船”の場所というわけよ!」

 

 森人探検家が宝の地図らしきものを取り出し、卓に広げた。

 

「つまり、地図ではなく海図であったと?」

 

「そういうこと! というわけで、海へ行くわよ! 南の海へ!」

 

「「「 うみー! やったー! 」」」

 幼竜娘三姉妹も大喜びだ。

 

<『4.その後ろではゴブリンスレイヤーが「行ってみたが海ゴブリンは鰓人(ギルマン)だった。ゴブリンではなかった」とか言って受付で依頼をキャンセルしていた』 了>

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

5.リザルト

 

 

 

 半竜娘一党は大河の呪いを浄化し、地獄の氾濫を防ぐのに大いに貢献した!

 経験点2000点獲得! 成長点5点獲得!

 『水中呼吸の指輪』を幾つか買い足し、水中探索に備えた。

 

 

 半竜娘は紅玉等級に昇級した!

 半竜娘は冒険者Lv10(MAX)に成長した! 成長点ボーナス35点獲得!

 半竜娘は死霊の無念を晴らし神獣の眷属として固着させた! 死霊術ポイント+3!

 半竜娘は死霊術パラメータのうち、干渉範囲:時間、空間、顕現度をそれぞれ上昇させた!

 半竜娘は冒険者技能【機先】を達人段階に成長させた!(先制ボーナス+3→+4。成長点25点消費)

 半竜娘は冒険者技能【追加呪文:祖竜術】を熟練段階に成長させた!(祖竜術追加習得。成長点15点消費)

 半竜娘は祖竜術【竜鱗(ドラゴンスケイル)】を習得した!(強固な鱗により装甲値増加。ただし軽鎧、重鎧は鱗と干渉するため移動力にペナルティあり。【竜血】によりポーション作成可能)

 半竜娘は冒険者技能【盾】を初歩段階で習得した!(盾受け値+1、盾受け時装甲+1。成長点5点消費)

 半竜娘は一般技能【長距離移動】を初歩段階で習得し、習熟段階に伸ばした!(長距離移動判定+2。移動力+2。成長点6点消費)

 

 

 森人探検家は紅玉等級に昇級した!

 森人探検家は経験点や成長点を温存した。

 

 

 TS圃人斥候は青玉等級に昇級した!

 TS圃人斥候は斥候Lv7→8に成長させた!(経験点7000点消費。成長点14点獲得!)

 TS圃人斥候は冒険者技能【頑健】を習熟段階に成長させた!(生命力補正+5→+10。成長点10点消費)

 TS圃人斥候は冒険者技能【受け流し】を習熟段階に成長させた!(吊盾を使った受け流しによる回避補正+1→+2。成長点10点消費)

 

 

 文庫神官は翠玉等級に昇級した!

 文庫神官は戦士Lv6→7に成長させた!(経験点5000点消費。成長点10点獲得!)

 文庫神官は冒険者技能【呪文抵抗】を習熟段階に成長させた!(呪文抵抗補正+1→+2。成長点10点消費)

 文庫神官は冒険者技能【鉄壁】を初歩段階で習得した!(移動妨害判定+2。成長点5点消費)

 文庫神官は一般技能【騎乗】を習熟段階に成長させた!(騎乗判定ボーナス+1→+2。騎乗中に発揮できる職業レベル制限をLv3→Lv6まで緩和。成長点5点消費)

 文庫神官は『錫杖』を『司教杖』に買い替えた!(奇跡行使ボーナス+1→+2)

 

 

<『5.山の次は海へ! 手前たちの夏はまだまだこれからじゃ!!』 了>

 




 
女神官ちゃんは【浄化(ピュアリファイ)】のマンチな使い方(敵の血液の真水化)は、今回はしませんでした。
地母神さま「ほっ……」
()()()、ですが……。ゴブスレさんの薫陶を受けている以上は時間の問題でしょう。レギュレーション違反スレスレな(マンチマンチした)使い方を通じて、女神官ちゃんが自らの信仰を見つめ直す日はきっと近いはずです。

===

感想評価&コメをありがとうございます! 感想はよく読み返させていただいてまして、たいへん励みになっています!
いやあ、100話も続く―― 続けられるとは……感慨深いです。これもすべてお読みいただき、さらには評価や感想をつけてくださる皆様と、素晴らしい原作のおかげですね! 感謝感謝です! ありがとうございます!!

===
 
次回以降は原作小説8巻序盤に入りつつまずは海で宝探しです。敵は鮫とか蛸とかそんな感じかもしれません。
ゴブスレさんが海に行った話(海ゴブリンはゴブリンではない件)は原作小説8巻の試し読みの範囲に入っているので、まだご覧になってない方は是非! 剣の乙女さんの表紙・口絵(エロい)も見られますし是非是非。

===

以下は作者備忘のためキャラクターシート画像を掲載していますが、見なくても支障ないので飛ばしていただいて構いません。(容量削減のため画質は粗いです)


半竜娘

【挿絵表示】



森人探検家

【挿絵表示】



TS圃人斥候

【挿絵表示】



文庫神官 成長点残り 誤 22点→ 正 2点

【挿絵表示】

 


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31/n 裏2(幼竜長女から見た日常)

 
閲覧、評価&コメント、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ここ好きタップ、ありがとうございます! 今後ともよろしくお願いいたします! まだまだ続くんじゃ!


●前話:
 紅玉等級に昇級! 技能も成長! そして……冒険者レベル、まーっくす!!

 


 

1.幼竜長女の「辺境の街の何でもない日」実況

 

 はいどーも!

 お母さまの可愛い初の愛娘(まなむすめ)です!

 

 え? この口上?

 つぶれたパンみたいな精霊さんから教えてもらいました!

 上手(うま)くできていますか?

 

 上手にできると、天上の神様がお声がけしてくれると聞きました!

 私は、生まれた直後に、地母神様の奇跡で生み出された水を吸って卵を膨らませたので、恐るべき祖竜さま方よりは地母神様の気配を身近に感じるんです。

 地母神様にも届くといいなあ。

 

 え? いつもの間延びした口調はどうした?

 

 あれは実は、口の回転が考えてることについていかないからなんですよね……。

 つぶれパンの精霊さんの言うことには、こっちはうまく神様たちの方まで繋がって覗いてくれてたら思念直通? らしいので、実際の口調とは少し違うように聞こえてると思います。いえ、自分じゃ確認できないんですが。

 

 それに喋る方は、只人の方たちにも聞こえる速さに調整するのってまだ難しくって。

 実際、姉妹間やお母さまとは大体はもっと短い区切りの音でピピピピチチチチって会話しています。*1

 

 あ、それで、えーと、今日はですね、お母さまたちや私たちの日常を、レポートしてみたいとぉぉぉ、思いますっ!

 

 先ずは朝の日課からですね。

 今日は晴れているので、日向ぼっこして陽を浴びながら朝の御勤めです。

 おひさまはぽかぽかして気持ちが良いです。

 天地万物と生命の循環、大地の恵みに思いを馳せ、祈りを捧げます。

 

 お母さまとその分け身は大いなる祖竜の特に慈母龍様に、知識神官のお姉さんは知識神様に、あとたまにエルフのお姉さんも交易神様に御祈りを捧げています。

 私たち三姉妹も、見様見真似で祈祷します。あ、私には妹が二人います。三つ子なんですよ。

 

 何度かお母さまの分身の残影と《コンキリオ(接続)》の一言真言(ワンワード)で繋がって知識を引き出しているので、何となくお祈りのやり方は分かっています。

 ……あんまり繋がりすぎると、影響を受けすぎて良くないと思いますけど。

 適応生存のためにも、多様性は大事です。

 

 それに、お母さまの知識経験に触れているのに、それと全く同じ道筋をたどっては、私が面白くないですからね。

 未知を探求してこその人生―― 竜生だと思うんです。

 しかも私たちは三つ子ですから、それぞれ差別化しませんと!

 

 というわけで、地母神様~、地母神様~、いと慈悲深き地母神様~、お恵みに感謝します~、生きとし生ける地に満ちるものどもに祝福を~。

 って感じでお祈りします。

 

 まだまだ集中力が長くは続かないので、集中が切れたら、他の姉妹と一緒に追いかけっこしたりしちゃいますけど。

 樫人形さんたち相手に組手の真似事したり。木人拳!

 

 見るもの触れるもの全て新鮮で……たぁーのしぃーー!!

 知識で知るだけではダメなんですよね、やはり。

 

 とかやってるうちに、御勤めは終わりにして、お母さまズと知識神官のお姉さんが訓練用の武器防具で訓練を始めます。

 お母さまの強靭な鱗にも憧れますが、盾を構えるお姉さまもカッコいいなあ。

 ……響き渡る音は、がっつんがっつんというよりも、ドゴン! ドパン! って感じですが。

 ここが郊外でなければ、ちょっとご近所に迷惑かもしれませんね。

 

 朝食前の模擬戦をやってると、圃人のお姉さんも家から出てきて加わります。

 下の妹なんかは、ひらひら避けまくる圃人のお姉さんの動きに見惚れることが多いみたいです。

 スッと行ってドスッとやるのがスマートなんだとか。生まれて一年もたっていませんが、三つ子でもちょっと個性が分かれてきてて面白いところです。

 

 ひと段落したら、朝ごはんです。

 昨日の残りを温めたり、地母神様の【聖餐】の奇跡が込められた魔道具でご飯を出して食べます。

 育ち盛りの私たちは、お肉やチーズを体の大きさの割には多めにいただきます! 甘露!!

 

 そしたら私たちは日向ぼっこしながら食休みです。

 消化して栄養にするのにも体力を使いますからね。

 

 外の畑をエルフのお姉さんが精霊さんにお願いしてお世話してもらってるのを眺めたり、樫人形(ウッドゴーレム)さんが庭の草取りしてるのをボーっと見たり、お母さまが精霊さんたちにその日の分の御供え物をしているのを横目で見たりします。

 私たちも精霊さんたちに遊んでもらったりします。

 このまえ、エルフの御姫様の結婚式に行ったときに、エルフさんたちから精霊との遊び方について教えてもらったので、最近はもっと仲良くなれた気がします!

 

 当番だと、この間に食器の片付けをしたり、昼食の準備もしたりします。

 今日は知識神官のお姉さんが当番ですね。

 上の妹が手伝いに行きました。

 

 え、私ですか?

 私は、精霊さんと遊ぶのに忙しいので!(キリッ

 

 お母さまや圃人のお姉さんたちは、呪文書を読んで真言呪文を復習したりもします。

 真なる力ある言葉は、本来は人の身には過ぎたものだそうで、頻繁に覚え直さないと脳や魂から揮発してしまうのだとか。

 

 軽くお昼を摘まむと、圃人のお姉さんが用心棒のお仕事に行くとかで出かけるので、ついでに街までついていきます。

 お母さまは、午後は大体、工房や書庫で研究をしています。あとは、研究が行き詰まった気晴らしに冒険者訓練所で新人さんたちを転がしたり。

 私たちも時々研究を見せて貰いますが、まだまだ何をしているか分からないことが多いですね。

 やがてはそちらのお手伝いもしたいんですが。

 

 最近は【竜翼】の祖竜術の発展形で、他の肉体変容―― 例えば水中移動用の(ヒレ)や走破特化の脚への変容―― ができないかという研究もしているみたいです。

 あとは、冒険で使った【竜血】のポーションの補充とか、他の冒険者さんからも依頼されてる納品用のポーションを作ったり。

 

 大叔父様からも幾つか依頼されているので、今日もお母さまの分け身は血を抜かれては消滅して……という感じですね。

 あれを見てると、【分身(アザーセルフ)】の術もちょっとどうなの、という気がします。便利ではあるんでしょうけど、あれ、かなり正気を削ってますよね? 我が母ながら心配です。

 それに私たちはただでさえ三つ子なのに、さらに分身が増えたら同じ顔が6つで収拾がつかなくなりそうですし。捨て駒にしたら実は本体の方だった、とか、やっちゃいそうです。

 

 街に行くときは、エルフのお姉さんから手紙を預かることも多いです。

 商売の関係のお手紙だとか。

 エルフのお姉さんは、あれで結構筆マメみたいです。

 商売に精を出すのが交易神様への信仰の示し方だからでもあるみたいですが。

 

 今日のお手紙は、この間のエルフの御姫様の結婚式に持参できなかった贈り物の手配のためのものらしいです。

 責任重大ですね! 今度行く海の宝探しでも良いものが見つかれば、御姫様に献上するんだとか。

 私たちからのお礼の手紙も一緒に送ってくれるそうなので、私も妹たちと一緒に書きあげました。

 

 というわけで、街への道すがら虫を追いかけたり、空中殺法で木に登ったりしつつ、街に到着です。

 このあいだは姉妹三人で役割分けて踏み台役の手を踏んで木の枝に投げて上げて貰って、上に行った方は次の子を引き上げるっていうコンビネーションもやりました!

 

 お出かけ楽しい!

 

 街に着いたら圃人のお姉さんとは別れて、地母神様の寺院にも顔を出します。

 お祈りして、少し葡萄畑や寺院の掃除のお手伝いもして、孤児院の子たちと遊んだり―― 追いかけっこでコンビネーションジャンプして寺院の屋根に登ったら怒られちゃいました……――、シスターさまからお話を読んでもらったり―― 神様や四方世界の成り立ちのお話です。お母さまの祖竜信仰とはまた違って面白いです――、お昼寝したりしていると、日が傾いてきます。

 

 お母さまと一緒に街に来るときは、買い物したり、下水道の掃除を手伝ったりすることが多いですね。

 といっても、お母さまの肩とか頭に乗って一緒に行くだけですけど。少しは荷物持ちなんかもあるかな?

 地下水道ではお母さまが召喚した精霊さんとか竜牙兵さんとかに守ってもらうこともあります。

 あとは屋台で買い食いとか! 公衆浴場に行ったりとか。

 

 エルフのお姉さんは、“ろーぐぎるど”ってところに行ったりもしてるみたいですが、さすがにまだ私たちには早いので連れて行ってはもらえません。

 今日は地母神寺院に来ましたが、エルフのお姉さんと一緒の時は、牧場に預けてる鱗のお馬さんのお世話に行くこともあります。エルフさんはお馬さんが好きなんですね。

 お母さまの使い魔なんだそうで、私たちにも馴れてくれるかわいい子たちです。……まあ、お母さまは身体が大きくなりすぎたせいで、もう跨ることはできないのを残念そうにしていましたが。

 散歩の為にと私たちも乗せて牧場の周りを一回りしたり、その途中でエルフのお姉さんが鳥を射落として牧場のお姉さんにお裾分けをしたりします。いつもお馬さんをお世話してもらってるお礼なんですって。

 私たちも牧場の牛さんたちのお世話を手伝ったりしますよ! だってチーズが貰えることがありますからね!

 

 夕方の待ち合わせは冒険者ギルドでと決めています。

 預かっていた手紙を、配達依頼の代金とともに預けて、水の精霊さんから“おいしいみず”を頂いて待ちます。精霊さん、ありがとうございます。でも“しゅわしゅわ”はまだ早いので遠慮しておきます。

 

 待ってる間は、怪物図鑑(モンスターマニュアル)を読んだり、知識神官のお姉さんが書き留めた冒険記録を読んだり、カードゲームをしたりしています。

 あとは字の練習とかお絵かきとか。

 暇してる新人さんたちに遊んでもらうこともあります。至高神の聖女見習のお姉ちゃんとか。

 

 とにかく邪魔にならないようにおとなしくします。ここはお仕事の場所ですからね(キリッ

 最初のころは邪魔くさそうに見られたりとかしましたが、そこは愛嬌と愛想で溶け込みました! 圃人のお姉さんからもその辺は合格点を貰えましたよ! あざとい、そうです。誉め言葉なんですよね?

 でも気になったものについつい近づいちゃうのはご勘弁を。何でも気になるお年頃なので。

 

 依頼から帰ってきた冒険者さんたちに「「「 おつかれさまでした~! 」」」とかねぎらいの言葉を投げつつ、ときどき武勇伝を聞いたりもします。

 戦利品を広げてるのをキラキラした目で見てたら、結構な冒険者さんたちが語ってくれますね。

 これもここに来る楽しみの一つです。

 

 槍を持ったお兄さんはなんだかんだで優しいですね。

 ちゃんと“れでぃ”扱いしてくれてるような気がします。

 その相棒の魔女さんは御綺麗なので好きです。特に、呪文に興味がある上の妹が懐いています。

 

 私は地母神の巫女のお姉ちゃんと至高神の騎士のお姉さんが好きです。

 巫女のお姉ちゃんは地母神様の気配みたいなのが濃い気がして安心しますし、騎士のお姉さんの鎧や盾はカッコいいですからね!

 

 下の妹はだいたい、いの一番に大叔父様の方に近寄って登っていきますね。

 一番蜥蜴人らしい思考をしているような気がします。

 生肉とか血とか、私や上の妹よりも好きみたいですし。いえ私も心臓は美味しいと思いますけどね?

 

 とかやってるうちにお母さまが迎えに来てくれました。

 ので、早速登ります。

 一番大きいので登りがいがありますね! 高いところからの視点は、下を歩くのと違った景色で楽しいです。

 

 お母さまは【竜血】のポーションを頼まれた冒険者たちに渡したりしています。

 大叔父様にも一式をお渡ししているみたいですね。

 呪的資源(リソース)を減らさずにお金で済むならそれに越したことはない、とは、持てる者の理屈だそうですが。

 

 あ、大叔父様といえば、巨大化がクセになったみたいで、【巨大(ビッグ)】の巻物(スクロール)を探してらっしゃいましたけれど、見つかったのでしょうか。

 気持ちは分かりますけどね、ええ。

 私たち姉妹も、巨大化して腕を翼に変えたお母さまの背に乗って空を飛ぶのは楽しいですし、やはり蜥蜴人として生まれた以上は、竜になりたいという欲を持つのは、これはもう本能からのものなのでしょう。

 

 お母さまの研究が進めば、呪文を封じたスクロールを作ることもできるようになるそうですが、まだまだ夢の世界での研鑽が必要なのだとか。

 夢の中でも修行とか尊敬しますが、ちょっと私は遠慮したいですね。*2

 

 そして夕飯の材料を買ったり、あるいは大鍋に料理そのものを買って入れて貰ったり。

 用事を済ませたら家路につきます。

 

 今日の夕飯は冒険者ギルドの酒場で用意してもらったシチューです!

 空間拡張鞄に大鍋ごと入れて持って帰ります。

 お母さまと私たちで、かなりの量を食べますからね。なんてったって恒温動物ですから!

 

 お家に帰ってきてみんなでご飯を食べたら、眠くなってくるので素直に寝ます。

 寝る子は育つ、です。三姉妹並んで同じ部屋で寝ます。

 お母さまみたいな立派な蜥蜴人になるのです……むにゃ……。ZZZzzzz。。。

 

 

<『1.地母神さま「良い夢を。幼き竜の子よ」』 了>

 

 

*1
可聴域と音声分解能の差:恐竜つまり鳥類の系譜である蜥蜴人は、只人よりも可聴域が広く、また 狭いが(耳小骨の発達(顎骨からの転換)が未熟)、単位時間当たりの音声分解能力が高い。これは一秒あたりに込められる音節の数の差に繋がっている。幼竜娘三姉妹は素で話すと、身体の大きさのせいもあって、高音域で倍速再生しているように会話することになり、只人には聞き取れない速さになる。速さを下げるための調整も経験不足なので、只人に聞こえるように話すと舌ったらずになる。森人や獣人、鳥人は高音域の圧縮音声による会話も聞き取れるようだ。

*2
夢の中で修行:火吹き山で譲ってもらった「夢拾いの枕」によるもの。巻物作成技術は遺失技術だったような気がするので、巻物作成のためには相当古い時代の魔術師の知識を拾い上げる必要があるだろう。




 
100話だったので、というわけでもないですが、閑話でした。次女や三女の視点もそのうちやりたいですね。

Q.幼竜長女ちゃん、生後数か月で大人びすぎでは?
A.蜥蜴人は成長が早いので(魔法の言い訳)。分身残影も接続吸収してますので……。

===

感想評価&コメをありがとうございます! まだまだ書きたいことがあるのでどんどん投稿するつもりです! みなさま読んで応援ありがとうございます!

===
 
原作小説8巻の序盤には魚人(海ゴブリン)が出てきて「なぜか語源は不明だが“インスマス面”と呼ばれている」的な記述もありますが、なんとタイムリーなことに、3/15のH・P・ラブクラフト命日記念のイベント「邪神忌@阿佐ヶ谷ロフト」にゴブリンスレイヤー原作者の蝸牛くも先生がゲストとして出演されるとか(やはりデップーマスクなんでしょうか)。ネット観覧可能とのこと。出演者(敬称略)は森瀬繚・朱鷺田祐介・蝸牛くも……卓ゲ者は必見ですねクォレハ。
 


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32/n 鮫と蛸と沈没船-1(鰓人(ギルマン)との接触)

 
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※前話で蜥蜴人の可聴域の話を脚注に付けましたが、鳥類・爬虫類は耳小骨が顎骨から転換されていないため、むしろ可聴域は哺乳類より狭いとのこと。修正しています、失礼しました。
※※担当者はケジメしました、ジッサイご安心ください。次の者はもっと上手くやるでしょう※※

●前話:
 幼竜長女、配信者でびう!(TASさん(ティーアース)増幅(アンプリファイ)しつつ中継して四方世界の盤外に接続。半竜娘ちゃんが道半ばで倒れた時のための唾つけ(予備/保険)の意味合いもアリ)
 なお、特定の星辰が揃ったり()()()()()()()()()()()()()()などで、天に綻びができたときだけ接続できる模様。
 地母神様も見守ってるし、慈母龍様も見守ってるぞ!(どちらもまだ無数にいる幼子の一人(One of them)としてしか見ていないですが、いずれかの信仰を深めれば(職業レベルを上げれば)寵愛も篤くなるでしょう)

◆半竜娘ちゃんも幼竜長女も根っこは一緒(探究心の権化)なんだよなあ、という話
幼竜長女「地母神(ちぼしん)さまの巫女(みこ)のお(ねー)ちゃんに(おし)えてほしーことがあります!」
女神官「はい、なんでしょう」
幼竜長女「“ぴゅありふぁい”は、(みず)()じったものを綺麗(きれー)にするそーですね!」
女神官「ええ、そうですよ。よく勉強しててえらいですね」 ナデナデ
幼竜長女「えへへー。(どく)(どろ)がふきだす(いずみ)綺麗(きれー)にして(むら)(すく)った聖女(せーじょ)さまの昔話(むかしばなし)寺院(じいん)()きました! 半分(はんぶん)以上(いじょー)(どく)だったとか」
女神官「よく知ってますね、すごいですねー」 ナデナデ
幼竜長女「えへへー。あとお(かー)さまからは、みんなの身体(からだ)半分(はんぶん)以上(いじょー)水分(すいぶん)だと()きました!」
女神官「そうなんですか~。よく知ってますね」 ナデナデ
幼竜長女「えへへへー。だとすると“ぴゅありふぁい”を使(つか)ってゴブリンの身体(からだ)水分(すいぶん)をきれーにすると全部(ぜーんぶ)まるごとカケラも(のこ)さず(みず)にできますか?」
女神官「えっと……? そんな使い方は御心に沿いませんよ」
幼竜長女「してはいけないのは()かりました! でも、できるできないでいうと、できますか?」
女神官「できな……でもゴブリンは不浄ですし……? でき……うーん」

地母神様「(ダメですよ? ダメですからね? フリじゃないですよ? “守り、癒し、救え”の精神ですよ???)」

……その後の小鬼退治で、この問答をきっかけに、ファンブルした一党を救うために【浄化】をクリティカルさせることができた女神官ちゃんがゴブリンをLCL化(パシャッ)させちゃうとは、この時は思いも寄らなかったのです。(クリティカルならしょうがない)(緊急回避(人助けのため)の1回だけならお目こぼし)(でも託宣で“メッ”ってする)(()()()())(()()()()()()

===

((リンク先はゴブスレともこの作品とも全然関係ないですが、幼竜娘ちゃんたちはこんなイメージです。かわゆい。))
 


 

 はいどーも!

 いと深き所から蛸神様の呼び声が聞こえるかも知れない実況、はーじまーるよー。

 

 前回はサイバーデーモンをぶっ倒して、勇者一行とすれ違って、賢者ちゃんの伝手もあって花冠の森姫様の結婚式に参列するところまででしたね。

 

 いやー、森姫様はお綺麗でした!

 お胸も豊穣神もかくやという程に豊満で……。

 妖精弓手も6000年くらいすればあんな感じになるんでしょうかね(期待薄)。

 

 そのあとは堰の砦の再稼働のために現場で働いたり、地獄の悪魔の技術解析を女商人ちゃんに丸投げしたりして、一段落してから川を下りました。

 いつの間にか、季節は晩夏から初秋に差し掛かっています。収穫祭の季節も近づいてきています。

 

 そうそう。城攻めに使った暴 君 竜 牙 兵(ドラゴントゥースウォリアー:バオロン)くん(ちゃん)たちは、モケーレ・ムベンベの血を受けて、近 衛 竜 牙 兵(インペリアル・ドラゴントゥースガーダー)とかいうユニットにクラスチェンジしたそうです。

 堰の砦の番兵として永劫に保守(メンテナンス)を行うことになったのだとか。

 うーん、蜥蜴人的にはアリですが、中身の霊魂は蜥蜴人じゃないしなあ。

 本当は昇天したかったんだとしたら申し訳ないですけど、見初められちゃったらシカタナイネ。現世残業? あはは、ヘッドハンティングですよ~(棒)(否定はしない)

 

 それはともかく。

 辺境の街に戻ってきたあとは、昇級の通知を受け取ったり、消耗した物資の補充や装備の整備修復なんかをしたりして日々を過ごし、次の冒険への準備を整えていました。

 そんな中で、森人探検家ちゃんが冒険話を持ってきました。

 

 と、いうわけで。

 

 去年の収穫祭のガラクタ市で購入した宝の地図が解読できたそうですので、そっちに行ってきます。

 南の海でトレジャーハントです!

 何が出るかは分かりませんが、難しい判定に成功して手に入れた地図なので、さすがにまるっきりハズレってことはないでしょう。

 

 ちょうど、ゴブスレさん一行が最近そっち(南の海)に行ってきたらしいので、最新情報を聞いてみましょう。

 

 へい、ゴブスレさん!

 

「なんだ」

 

 南の海の話を聞かせておくれよ!

 

「ああ。まず……“海ゴブリン”はゴブリンではない」

 

 アッハイ。

 

「奴らは鰓人、ギルマンだ。そして漁場を荒らす長い魚がいた」

 

 ……え、それだけ?

 困って周りを見渡すと、蜥蜴僧侶さんが補足してくれました。

 

「長い魚というのはシーサーペントのことですな。魚の方のウミヘビ*1で、差し渡しがこの部屋のそこからここまでぐるりと一周するほど」

 

 かなり大きいですね。

 漁村近くの沿岸にそんなのが居るというのはあまりないことのように思います。

 だって、漁船に巻き付いて砕けるくらい大きいですよ? そんなのが居たらおちおち漁もできませんから、そもそも漁村ができあがりません。

 

「それをですな、嵐の中、術士殿の手妻で海上に引き出して、野伏殿が弓矢で眼窩から脳天にブスリとトドメを刺したというわけですな」

 

 ああ【水歩(ウォーターウォーク)】。

 鰓呼吸オンリーの奴には致死呪文ですね。

 そうでなくとも、水中から引きずり出せば、自分たちのフィールドで戦えるようになるので良い使い方です。

 覚えておいて損はないやり方でしょう。

 

「鰓人―― まあホモ・ピスケシアン*2と名乗っておりましたが。なんでも星の海より降臨した蛸神の末裔であるとか」

 

 その鰓人たちと漁村の漁師たちとの間のいざこざの解決のために、大ウミヘビ(シーサーペント)を討伐したのだとか。

 上手く仲立ちできて良かったですよね。

 漁師たちは、田舎の村にありがちな閉鎖的な思考も相まって、海ゴブリンとして討伐依頼まで出してたところですし。

 

「もし彼らにも話しを聞きたいのでしたら、拙僧らの名前を出せば門前払いされることもありますまい」

 

 それはありがたいですね。

 

「あ、もしまたピスケシアンの方々にお会いになるのでしたら、こちらからの返礼品もお渡しいただけないでしょうか」

 

 そう言った女神官ちゃんは“ちょうどよかった”とばかりに地母神寺院のワインを荷物から取り出しました。

 大ウミヘビ(シーサーペント)退治の礼に、珊瑚や真珠や何やらをざっくざくと貰った―― 蜥蜴僧侶さんなんかは瑪瑙(メノウ)化した恐竜の顎の骨を貰ったのだとか―― そうですが、女神官ちゃんは根が真面目なせいか“さすがに貰いすぎでは……”と気が咎めてしまったのだとか。

 

 それでちょうど今日、返礼の品を送る手配をするつもりだったそうで、半竜娘ちゃんたちが向かうなら、是非、運搬を依頼したいということに。

 これはいいタイミングでしたね。簡単な依頼ですが、請け負いましょう。

 

「蛸神の司教様や、他の鰓人の皆さんによろしくお伝えください」

 

 というわけで、準備を整えて、馬車を駆ってレッツゴー! です!

 今回は幼竜娘三姉妹も連れていきまーす。

 南の海*3なら、初秋ですが、まだ海水浴もできるかもしれませんし、水着の準備もしたほうがいいでしょうかね。

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「海じゃ~~~~!!!」 「「「 うみだーーー!! 」」」

 

 というわけでやってきました南の海。

 金持ちの避暑地だとかの観光地からは離れた漁村です。

 

 燦々(さんさん)とした陽光―― というほどでもなく、秋のはじめの幾分和らいだ光が砂浜を照らしています。

 温暖なので、海水に入る分には凍えたりはしなさそうです。

 砂浜には漁に使うであろう船が幾艘も並べられ、漁師たちがめいめいに網の修繕などを行っています。

 

 一党はとりあえず水着(水で濡れても透けない布を結べるように整えたもの。肌をさらすのは都の流行である)に着替えて海に臨んでいます。

 若い漁師たちの中にはチラチラと視線を向けるものも居ますが、頬白鮫(ホオジロザメ)くらいに大きな蜥蜴人(身長2.7m)を中心とした一団を真正面から口説ける猛者は居ないようです。

 馬車と麒麟竜馬を、村に立ち寄る行商人にも(うまや)を貸すことがあるという民宿に預けて、いざ臨海冒険です。

 

「都の方では随分と刺激的なやつが流行っておるんじゃのう」 「「「 しげきてきぃっ 」」」

 腕を組んで仁王立ち(ガイナ立ち)する半竜娘ちゃん(と真似する幼竜娘三姉妹)。

 いやもう大迫力ですよ、半竜娘ちゃん。いろんな意味で。

 

「裸よりは良いでしょ」

 優雅美麗な四肢を惜しげなく晒す森人探検家は堂々としたものです。

 煌めくような肢体に隠すところはないと言わんばかりです。

 

「それはそうじゃが」

 

「海で遊ぶのは初めてだぜー。リーダーの【狩場】の結界もあるからモンスターも来ねーし、安心だもんな!」

 波打ち際でぱちゃぱちゃと戯れて、いかにもこれから悪戯しますよってメスガキな表情をしてるのはTS圃人斥候です。

 ちなみに身長は子供並みですが、体型はオトナです。

 ちっちゃいけどロリじゃないのです(重要)。

 

「海で遊びながら鰓人さんたちの方へ向かいましょう。預かってきた返礼品と、私たちで見繕ったお土産も渡さなきゃですし。財宝があるあたりの海の中の様子も聞ければ良いんですけど」

 文庫神官ちゃんは“清純派”って感じですね!

 盾や鎧がなくて不安そうにしてるのがベネ(良し)ですねえ。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 砂浜や磯で遊びながら歩いて、海岸の端の岬へとやってきました。

 

「さて、ここに取り出したるは、『水中呼吸の指輪』と、『【竜翼】のポーション・鰭翼(フリッパー)』じゃ」

「「「 おぉ~ 」」」

 

 じゃかじゃん、と半竜娘ちゃんが掲げる手のうちには、三つの指輪とポーション瓶。

 水中呼吸を可能とする【呼気(ブリージング)】の魔法が込められた指輪に、腕を飛べない水鳥の水中移動用の(ペンギンのような)(フリッパー)に変えるポーション。

 

 これらを使って水中呼吸しつつ海中を移動して、鰓人たちの棲家へと行こうというのです。

 もちろんこれは財宝探索の予行演習を兼ねてもいます。

 ポーションを入れる【保存(プリザベイション)】の瓶もあらかじめ買い足して、十分探索に耐えられる量のポーションを作って、できる限りの準備は整えてきました。

 

「水中で崩れつつある歴史的資料もあるじゃろうから、その回収用にも【保存(プリザベイション)】がかけられた布やなんかも持ってきておる」

 

「はい、お姉さま! 貴重な資料を海蝕から()()()しませんと!」

「「「 さるべーじ! 」」」

 

 知識神の信徒としては、財宝そのものもですが、沈没船の来歴を示すものや当時の航海日誌その他の文物の確保も使命のうちです。

 というわけで、文庫神官もこの探索にはかなり乗り気です。すでにポーションを飲んで、手をフリッパーに変えてパタパタやっています。

 

「森のことは森人に聞くように、海のことは鰓人に聞きましょう。そろそろ出発する?」

 

「これだけ動けるなら海の中の移動も大丈夫そうだぜ。おつかいも早めに済ませときてーしな」

 

 一足先に手を鰭にして海に潜っていた森人探検家とTS圃人斥候が、水面から顔を出して板状の翼(フリッパー)になった腕を振ります。

 

「では出発じゃ。ほれ指輪つけてポーションをグイっとじゃ」

「「「 いえす、まぁむ~! 」」」

 

 幼竜娘三姉妹が指輪を受け取り『【竜翼】のポーション・鰭翼(フリッパー)』を飲むと、パキポキと音を立てながら、腕が平たい板状の翼に変形していきます。

 ついでに尻尾も尾鰭のように。脚にも水かきが。

 

「「「 お、おおぉ~~ 」」」

 

 変化した体を確かめる幼竜娘三姉妹を見届けると、次は半竜娘ちゃんの番です。

 

「では手前も……」 ぐびりとポーションを一飲みして気合を入れます。「川の渡しの摩薩竜(モササウルス)よ、我が(かいな)を激流を縫う(ヒレ)とせん! ぬぅうううん!!」

 バギリ、ゴギリ、メキメキッ、メリメリッと“それ本当に大丈夫?”って音を立てながら変化していきますね。

 いやこれ本当に大丈夫なのかしら。……大丈夫みたいですね、さすが祖竜術です。

 

 というわけで全員が水中移動形態にトランスフォームしましたし、いざギルマンたちの棲家である沖の小島の海蝕洞窟へと行きましょう。

 荷物や装備を収納した空間拡張鞄は、樽に詰めて濡れないようにして縄をかけて引っ張れるようにしています。女神官ちゃんからの返礼品や、自分たちからの手土産もきちんと収納鞄に入れてきています。

 幼竜娘三姉妹が途中で体力を使い果たしたとき用に掴まれるように縄や浮きも用意していますし、海面は波も穏やかで水泳日和です。

 

 ―― さあ、出発です!!

 

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「ええっ、あんたたちあの“呪われた船の墓場”に行くのォッ!? やめときなさい! 悪いことは言わないからっ!!」

 

 と叫んだのは、ギルマンたちの取りまとめの海司教(シービショップ)でした。*4

 

 沖の小島の海蝕洞窟で鰓人(ギルマン)と穏便に接触できた半竜娘ちゃんたちは、無事に返礼品や手土産を渡して友好的に接触することができました。

 ファーストコンタクトは上々です。

 海の中を泳いでやって来たのもポイントが高かったようです。

 

 さて本番の情報収集ということで、森人探検家が財宝のありかを示した海図を見せたところ、返って来たのが先ほどの言葉でした。

 

「そんなにマズいの? この場所」 食い下がる森人探検家。

 

「そうよォ! あそこに行くなんて自殺行為よォ!」

 そう言って、海司教はその水かきのある手で指折りその脅威を数えていきます。

 

 ―― そこら中からなんでも集まる渦の中心にして、何ものも外に逃さぬ激しい海流。

 ―― 外に出ることは難しく感覚を惑わす要害地形。

 ―― 青白い呪いの鬼火に()てられた異形の化け物ども。

 ―― それに殺されて彷徨う亡者たち。

 ―― 集積した魔道具の相互作用によって頻発する不可思議な現象。

 

「ついこないだも長海蛇がどっかから湧いて出たし、星の運行は乱れてるし! ひょっとしたらその海蛇も、“呪われた船の墓場”から這い出てきたのかも……! やめときなさい、ホントに、悪いことは言わないから!」

 

 陸の者にしては見込みのある客人たちに、鰓人の海司教が心配して「やめときなさい!」と声をかけるのは道理です。

 鰓人たちに伝わる伝説では、そこはまさに死地と呼ぶに相応しいのですから。

 

「じゃが、そこに財宝(ワンダー)はあるのじゃろう?」 危難を冒すことこそ()()()の本懐であろうと言う半竜娘ちゃん。

 

「そりゃあるわよォ。でも、帰って来れなきゃ意味ないでしょォ!? 呪いで精霊だって狂ってるっていう伝説だし、私たち海の者でもダメなのに陸の者が行くとかムリムリのダメダメよォ!!」

 

「……まあ心配はありがたく受け取るのじゃ」

 

「―― ああもう。決意は固いようね、そうよねそうよね、『冒険者』ですもんね! 知ってた」

 

 これ以上の説得は難しいと肩を落とした海司教に済まなさそうな顔を見せつつも、半竜娘ちゃんたちは決意を翻しません。

 これまでも同じように、多くの冒険者たちが“呪われた船の墓場”という魔の海域に挑んでは、帰らぬ人となったのでしょう。

 彼らもまた“自分たちならうまくやれる”と信じて挑んだはずです。……それでも(かえ)らなかった。

 

「仕方ないから、同じ鱗あるものの(よしみ)で、私たちが知ってる限りの話はしてあげるわ。ついでにその子たちは預かりましょうか? まさか子連れで“呪われた船の墓場”に行くなんて言わないわよね?」

 

「おお、それはかたじけないのじゃ。この子らを預けるのも頼もうかの、そこまで危険じゃというなら仕方あるまい」 「「「 えーー 」」」

 

 不服そうな幼竜娘三姉妹ですが、さすがに連れて行くわけにはいきません。

 ギルマンの洞窟集落で過ごすのもいい経験になるでしょうし。

 

「なあに、安全が確保できたなら一緒に行けばいいのじゃ。それまで我慢するのじゃよ」

「「「 ……はぁい、おかーさま 」」」

 

 というわけで、ギルマンの棲まう洞窟で幼竜娘三姉妹はお留守番です。

 

「まあ基本的には【分身】を先行させての海域調査を行いつつ、ここでお主らの話を聞いてまとめて探索計画を練って、あとは海に棲まうものとしての知恵も借りれたらと思うておるのじゃが、いかがかの? 海の司教(シービショップ)殿」

 

「ンもう、仕方ないわねェ」

 

 交渉成立!

 しばらくは鰓人の棲家であるこの海蝕洞窟を拠点に、情報収集をしていく感じですね。

 

 

 というところで、今回はここまで!

 ではまた次回!

 

 

*1
魚の方のウミヘビ:ウミヘビと名が付くものには、魚のウミヘビ(ウナギ科)と爬虫類のウミヘビが居る。ゴブスレさんたちが仕留めたのは魚の方。鰓呼吸。

*2
ホモ・ピスケシアン:『魚の人』という意味のラテン語(と思われる)。英語だとマーフォーク。水棲人。ピスケスは“うお座”“双魚宮”のことでもある。

*3
南の海:イメージ的には地中海だろうか。

*4
海司教シービショップ:海のUMAの一つに『海の司教』というものがある。ビショップ・フィッシュ、シー・モンクとも。なおゴブスレ原作小説8巻における海ゴブリンの司教については、AA版や口調的に、モチーフの一つは「南国少年パプワくん」の「タンノくん」であろうと思われる。




 
サブスクでサメ映画を延々と流しつつ書いています。鮫、サメ、鮫。さめー! サメとはいったい……?(哲学)
次回は海中探索になる予定です。戦闘までいけたらいいなあ。

感想評価&コメをありがとうございます! とっても励みになっていますし、いろいろと刺激を受けています! ありがとうございます!

 


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32/n 鮫と蛸と沈没船-2(ルート構築)

 
閲覧、評価&コメント、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ここ好きタップ、ありがとうございます! 皆さんサメ映画好きですねえ! もはやサメは概念……!

●前話:
オネェなギルマンと穏便に接触できたヨ!
……サメの気配を感じる……。

 


 

 はいどーも!

 水着を着たりペンギンじみた姿になったりしつつインスマス面たちと一緒に深淵を覗き込む実況、はーじまーるよー。

 

 海蝕洞穴のギルマン集落で情報収集を始めて数日。

 収穫はありますが、突入の目途はまだ立ちません。

 

「あー、第10回片道探査(ワンウェイ・エクスプロレイション)、開始なのじゃ」

 

「あいあいなのじゃ~。【加速(ヘイスト)】よし、【竜翼(ワイドウィング)】:鰭翼(フリッパー)よし。大股跳躍飛込み(ジャイアント・ストライド・エントリー)~!」

 

 半竜娘ちゃんの【分身】が、問題の海域に威力偵察の片道決死行を敢行します。

 ちなみにこれで10回目です。

 ……そんなんやらせるから分身体の“反逆カウンター”が回るんやで? っていうか現在進行形でぎゅんぎゅん回ってってますわ、これは。

 まあ、今回は流石に状況的に致し方ないですが。いきなり生身で突入するわけにもいきませんし。

 

 海蝕洞穴のある小島から問題の海域までは、そこまで時間はかかりません。

 というのも、ギルマンたちに“呪われた船の墓場”へと流れ込む海流を教えてもらったので、行きはよいよいってなもんです(帰れるとは言っていない)。

 

 待つこと暫し。

 

「ん。到着したようじゃの」

 目をつぶったまま結跏(けっか)趺坐(ふざ)して分身体との同期をとっていた半竜娘がぴくりと瞼を動かします。

 胡坐の上には待ち疲れた幼竜娘三姉妹が折り重なって「きー」「かー」「びー」と寝息を立てています。

 

「どう? 今回は奥までいけそうかしら」

 期待に胸を膨らませる森人探検家。

 

「さあて。ひとまず接続は保たれておるが……」

 

「最初はわけの分からないうちに接続が切れちゃいましたものね」

 口述を書き留めるために待機している文庫神官が、これまでのメモを見ながら回顧します。

 

 文庫神官ちゃんの言葉から推察するに、第1回目の探査では、なにやら“分からん殺し”を喰らったみたいですね。

 

「でも今回はちゃんと見えてるんでしょ?」

 

「まあ今のところはそうじゃの。最初のころのように、いきなり深海水圧くらってひしゃげたりはしておらん」

 

 わくわくを隠せない森人探検家ちゃんの問いに答える半竜娘ちゃん。

 トレジャーハンターとしては、早くお宝を探しに行きたいのでしょう。

 って、“分からん殺し”はどうやら、汚染精霊の先制攻撃で【水圧(ハイプレッシャー)】の術か何かを喰らってたようですね。

 

「呪いに侵された荒れ狂う深海の水精霊……ね」

 

「巡回経路とタイミングを見切るまでに分身が3回死んでおる。つぶれされて口から内臓がムニュリ……とかはもうさせんのじゃ。集中して接続同期を保つ必要があるのは相変わらずじゃが」

 

 どうやら、汚染された深海の精霊や、集積した財宝の中の魔道具の相互作用によって、【分身】の術による繋がりも確かなものとは言えない様子。

 本来、分身の術の繋がりは非常に強固なもののはずなので、それを遮る渦巻く呪いの海域が、相当に厄介でねじくれた領域になっていることがうかがえます。

 

「潮の満ち引きが関係しているんじゃねーかって、ギルマンの海司祭(シービショップ)のヒントがなけりゃ、今もまだ精霊たちの内臓絞り出し祭りに突っ込むだけだったろーな」

 

 TS圃人斥候の言うとおり、ギルマンたちの海を知る者としての知恵がかなり役立ったようです。

 深海水圧攻撃の洗礼を浴びせてきた汚染精霊(狂える深海の水精霊)は、潮の満ち引きによって巡回ルートを変えているようなのです。

 それを前提に考察し、何度か分身を犠牲にして検証と死に覚えすることで、ある程度安定したルートが構築できるようになったところです。

 

「えーと、1回目が渦潮に乗る深海の精霊に突入直後に潰されて。

 2回目は……渦に引き寄せられた鮫を囮として先に蹴り込んだら1回目の攻撃の正体が精霊だと分かったものの、相手の知覚範囲を見切れずに察知されて圧潰。

 3回目はある程度は渦に乗って進んだものの、いつの間にか周りを全部囲まれていてどっちに進んでも詰みの状態に」

 

 メモを見直していた文庫神官がこれまでの軌跡を振り返ります。

 とはいえ、脅威は汚染精霊だけではありません。

 

「4回目は、変化する潮流と深海の水精霊の配置を見切って、渦の外殻を突破……したものの、回遊する腕の生えた巨大なクジラみたいな白いの*1から逃げて、岩のくぼみの巨大海藻の森に入ったら、それに巻き込まれたまま身動きが取れなくなった上に、海藻が硬質化して肢体切断……」

 

「“昆布(ケルプ)に殺されるとか名折れじゃよ~” っつってその日はそのままふて寝したんだよな! 今思えば光の届かない深海に昆布があるわけねーから、あからさまにワナだったよなあ」

 

 プププと笑っているのはTS圃人斥候。

 海藻にやられてふて寝する半竜娘ちゃんはカワイイですから、からかいたくなる気持ちは分かりますが、笑ってられるのも今のうちやで。ルート確定したら君も突っ込むんだからさ……。何なら斥候だから一番致死率が高いゾ。って、よく見たら微妙にブルってますね。

 軽口を叩くことで精神の安定を図ろうとしているということなのかも。強がりなんですから、もー。

 

「5回目は完全に深海の水精霊の巡回ルートは見切ったものの、長い魚の群れに遭遇。【擬態】と【透過】の術を重ね掛けして迷彩化+透明化を施したものの、匂いと振動と生体電流でバレたのか、群がられて巻き付かれて喰われて死亡」

 

「光のほとんどない海の中だし、相手が悪かったわよね。でも、視覚以外の鋭い感覚器官を持ってるやつらがうようよしてるって分かったのは収穫ね」

 

「ていうか、何だったんだアレ? 長い魚ってことは、ウミヘビの仲間か?」

 

「シーサーペントの幼魚かもしれません。お姉さまのお話を聞いた限りですと、モート・モンスター(濠(ほり)の魔物)に似ているようですが」*2

 

「水の中でたくさん群がられて(つい)ばまれていくってのはゾッとしないわね」

 

 森人探検家が鳥肌が立った二の腕をさすります。

 

 

「6回目はアプローチを変えて底を這うように進んだところ、擬態していたヒラメみたいな巨大な底魚に一呑みにされました―― が、中から切り裂いて脱出。血に群がる鮫のような魚の間を抜けて底に沿って昆布(ケルプ)の森を避けながら進む途中で、巨大な蝦蛄(シャコ)みたいなモンスターに遭遇。出会い頭のシャコパンチと衝撃波で気絶。そのまま接続が切れました」

 

「フィードバックでこっちの本体もふらついてたもんな。相当だぜ」

 

 

 

「7回目は【巨大】化して【突撃】を繰り返して前進するゴリ押し戦法でした―― が」

 

「ああ、水中衝撃波に釣られて、好奇心旺盛なでっかいのがいっぱい集まってきちゃって、にっちもさっちもいかなくなっちゃったのよね」

 

「えーと腕の生えた白クジラ(ニンゲン/ヒトガタ)に、古代の巨大鮫(メガロドン)、巨大カメ、巨大クラゲ、巨大マグロ、巨大ワタリガニ、巨大タコ、シーサーペント、亡者の集積体、その他何か得体の知れない海産物(グロブスター)。お互いの縄張りをお姉さまが突っ切ったせいで、モンスター同士のいさかいが多発して大変なことに……」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「2日目の探査はそれで切り上げ。まー、縄張りが荒れた中でもう一回突っ込むのはムリだもんなー」

 

 

 

 

「8回目は、前の日の縄張り争いで何匹か逝ったのか、縄張りの隙間を縫って奥まで進めて、ついに沈没船がちらほら見え始めたんだよな」

 

「そうそう。幾つか状況打破に使えそうな魔道具も見つけられたし」

 

「ですけど、欲を出して宝箱開けたら、罠が作動して(メイジブラスターで)麻痺しちゃったんですよね」*3

 

「そのあとはでっかいムカデというか、ゴカイか、あれ? ゴカイの群れに集られて死亡、と」

 

 

 

「9回目のエントリーですが、地形把握を優先して、沈没船群を回りました。マナの流れも追えていますから、この海域の渦の中心(ハート・オブ・ザ・メイルシュトルム)も大体の地理や位置関係が分かってきたと言っていいでしょう」*4

 

「その途中で、ノコギリザメの鋸とシュモクザメの金鎚とタチウオの剣を振り回してくる巨大な多腕の骸骨と戦闘になって逃亡……」*5

 

シュモクザメ(ハンマーヘッドシャーク)ってそーいう意味じゃねーから」

 

「逃げに徹しただけあって、9回目の探査で結構マップが埋まりましたね」

 

「財宝の位置も結構分かって来たしね」

 

「怪物どもの縄張りもな。つっても、海流が激しいから沈没船やなんかも割と転がって流されてぶつかって位置が変わるみてーだが……」

 

「そうなんですよねぇ。結局、探査中に海底が地滑り起こしてそれに巻き込まれてこの時は死亡(おわり)になりました。きっとその影響で位置が変わったりしてますよね……」

 

 

 

「で、10回目の今回、というわけね」

 

「お姉さま、集中してらっしゃいますね」

 

「時間的には、オイラたちが振り返りでくっちゃべってるあいだに、狂った深海の精霊を突破したくらいか?」

 

 

 

「―― よし。外周突破したのじゃ。このまま沈没船群へアプローチするのじゃ!!」

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 というわけで分身ちゃんの尊い犠牲のもとにマップを埋めていきました。

 キミの犠牲は忘れないよ……。

 

 まー、反逆カウンターが嵩んでいることと、暗黒の狂気に満ちた深海を探索したことで、いつ分身ちゃんがロスト(NPC化)してもおかしくなくて、ヒヤヒヤもんでしたが。

 というか死亡回数が積み重なっていく間に一回ぐらい主導権奪われてる可能性はありますね。そのまま死亡したから気づかなかっただけで……。

 

 さて、これでかなり安全に財宝探索に行けそうですね。

 帰り道についても、ある程度のメドが立ちそうですので、いよいよ次の日から全員で突入するみたいです。

 

 いまは、作成したマップを広げて、ギルマンの海司教(シービショップ)も交えて、ルートを策定しているところですね。

 鏡のように磨かれた岩のテーブルの上のマップをみんなで囲んでいます。幼竜娘三姉妹ちゃんも半竜娘ちゃんの上に乗って覗き込んでいます。

 

「地滑り跡から、パースが狂ったようにしか見えぬ都市っぽい遺跡を見つけた件についてじゃが」 「「「 なんかぐにゃぐにゃ、してたんだよね? おかーさま? 」」」

 

「あらァ、ひょっとしたら私たちのご先祖様と蛸神様が眠ってるところかもしれないわねェ。この辺じゃないはずなんだけどォ、星の巡りと狂った魔道具の作用で、繋がっちゃったのかしらねェ」

 

 深海に沈んだねじれ狂った幾何学で構成された都市、蛸神様(くとぅるー)の寝床―― ルルイエかな?

 それそのものが元から沈んでいたのが露わになったのではなく、何かの作用で一部だけ召喚されたとか、時空がねじれて繋がった、とかでしょうけれど。でないと、ギルマンたちが主神が眠る場所を“呪われた海域”だなんて言い方はしないでしょうからね。

 

 ―― ひょっとしたら衛星都市の類かも知れないけどォ。というギルマンの海司教(シービショップ)の言葉に、一党は顔を見合わせます。

 

 “触らぬ神に祟りなし”

 

「はい! この話はお終い! 私たちは沈没船の財宝探索に来たの! 神様が眠ってるとこには行かないわ!」

 

「そうじゃのぅ、少なくとも今回ではないのう」

 

「あとでも行かない!」

 

「目的をブレさせるのは遭難の第一歩だからなー。初志貫徹は冒険では大事なことだぜ」

 

 まあね。例えば山登りで“オリチャー発動!”とかやるのは、明らかに死亡フラグですものね。

 ガバとオリチャーは華でもありますが、危険と隣り合わせです。

 

「で、まあルート選定じゃが――」

 

「帰り道を考えると、やっぱり探索は一回限りになるかしら……」

 

「全部はとてもじゃねーが回れねーな」

 

「水中で動きが鈍りますし、安全第一が良いかと」

 

「でも脱出のために回らなきゃなんねーチェックポイントもあるんだろ? 呪いのカナメだとか、脱出用に目を付けてる魔道具だとか」

 

「それもふまえて、実入りも考えると、こっちのルートを、こうでどうかの?」

 

「襲われた時にリカバリーが効かないんじゃない? 横に少しそれただけでアウトじゃない」

 

「ではこっちはどうでしょう? これなら――」

 

「オイラはこっちもいいと――」

 

ふんぐるい(Ph'nglui) むぐるうなふ(mglw'nafh) くすぅるう(Cthulhu) るりえー(R'lyeh) うがふなぐる(wgah'nagl) ふたぐん(fhtagn)

 

「ちょっと海の司祭さん!? いきなりお経を唱えないで! なんかヤバい気がするから!」

 

「アラ失礼しちゃうわ、せっかくアンタたちの冒険の無事を祈ってるっていうのにィ」

 

 というところで、今回はここまで。

 ではまた次回!

 

 

*1
腕の生えた巨大なクジラみたいな白いの:海の未確認動物(UMA)『ヒトガタ』『ニンゲン』

*2
モート・モンスター((ほり)の魔物):ウィザードリィに出てくる水場のモンスター。外見はリュウグウノツカイ。群れで出てくる。

*3
メイジブラスター:ウィザードリィシリーズの罠。魔術が使えるキャラクターを麻痺/石化(=両方とも回復させない限り戦闘不能になる状態異常)させる。

*4
ハート・オブ・ザ・メイルシュトルム:「ウィザードリィⅤ 災渦(災禍)の中心」の原題。ゴブスレ原作第8巻はウィザードリィシリーズのオマージュが多く盛り込んであり、同巻の章題名にも「災禍の中心へ(ハート・オブ・メイルシュトルム)」として採用されている。

*5
ノコギリザメとタチウオ:ゲームブック「ファイティングファンタジー」シリーズの第19弾「深海の悪魔」に登場する“道具魚”がモチーフ




 
一方その頃、ゴブスレさんたちは商人たちからの依頼を受けて、王都への街道に出没するというゴブリンの放浪部族(ワンダリングトライブ)の調査+殲滅依頼を引き受けて、それらを追いながら、また途中で襲われていた商人の馬車(+護衛の冒険者)を助けたりしつつ、王都へと向かっていた。

女神官「襲ってきたゴブリンの身体の入れ墨……“手”の紋様でしょうか」
小鬼殺し「またぞろ小鬼聖騎士(ゴブリンパラディン)だの小鬼司祭(ゴブリンプリースト)だのの類かも知れん。調べたい」
女神官「あ、ではスケッチを……」
小鬼殺し「いや。剥ぐ」
女神官「え」
小鬼殺し「剥ぐ。現物の方が確実だ」
女神官「アッハイ」


原作小説8巻では、ゴブスレさんたちは剣の乙女さんの護衛として王都に向かうところですが、当SSでは『転移門の鏡』が健在なので、剣の乙女さんはそれで直接向かったと思われます。なので、ゴブスレさんたちは普通にゴブリン退治・調査の業務を受けて王都に向かったのだと想定しています。

剣の乙女「あの、辺境の街経由で都へ行くというのは……」
世話役の侍祭「都の会合は急ぎとのお達しですし、道中、小鬼も出るとか」
剣の乙女「……転移門の鏡で行きますわ」
世話役の侍祭「()()()にお会いしたいのは分かりますが、森姫の婚姻の帰りに(このあいだ)お会いしたばかりですし、ご辛抱ください」
剣の乙女「そっ、そういう、わけではっ」


===
 
感想評価&コメをありがとうございます! 特に感想は大変励みになっています!
次回は海中で戦闘ですのよ。
 


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32/n 鮫と蛸と沈没船-3/3(VS鮫、VS蛸、そして)

 
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●前話:
分身ちゃんの犠牲に敬礼っ!

◆多分盤外(セッション)はこんな感じ
GM「久しぶりにゲームブックやったので」
PL1「ので?」 PL2「あっ(察し)」 PL3「“14へ行け”ですねわかります」 PL4「え、新しいキャラ紙要るやつです?」
GM「ご賢察。死に覚えゲーです。たまにはね? でもPCは温存したいので、犠牲者は分身ちゃんです。いつもいつも申し訳ない」
PL1「死に覚え……フロムゲー的な?」 PL2「分身ちゃんかわいそう。やっぱりアザーセルフの呪文は規制しなきゃ(使命感)」 PL3「むしろDead Spaceみがある( 圭)」 PL4「死亡シーンをコンプしたらなんかボーナスあったりします?」
GM「担当がPL1だけだと他の人が手持ち無沙汰だから、順繰りに分身ちゃんのダイス振ってね」
PLs「「「「 はーい 」」」」
GM「死亡シーンの演出は任せるので、いい感じのリアクションを期待します」

~マップ埋め中~

「ビンゴの紙を何枚か並べてマップの代わりにします。あとは、その通過マスの数字ごとに対応するイベント表を振ってイベントを起こします。即死イベントは行き止まり扱いになります。一度開けたマスはイベントが固定されますが、敵を倒すなどしてイベント解決すればその結果のまま固定となります。あ、真ん中はイベントナシです」 「りょ」 「って、全然突入できないんですけどぉっ!? 汚染精霊ェ……」 「NPC(タンノ君)にヒント聞こう。これで何か補正つきません? GM?」 「いいですよー。では、下一桁が5と0のマスはイベントナシだと分かります。あとゾロ目は確定で宝箱ですね」 「ナルホドなー。これなら進めるか?」 「あっ! ぶ、分身ちゃんダイーン!!」 「即死イベ多過ぎでは!? パラノイアかよ!」 「さっきから“巨大生物に襲われた”と“群れに襲われた”で14行きまくってる」 「(水中はペナルティーあるから)そらそうよ」 「(PCの代わりに死ぬのが分身の)やくめでしょ」 「一回だけ、喰われても脱出できたじゃん」 「他は大体死んでるんですがそれは……」 「これは敵襲撃イベ踏んだらガン逃げ安定では?」 「突撃、突撃を使う。固定値は全てを解決する。GM、使えるよね?」 「いいですよー、直進貫通で行っちゃってください。ただし、通過マスのイベントは後でまとめて全部判定することにしましょう」 「ファッ!? “巨大生物に襲われた”ばっかり引きやがった!」 「怪獣大行進不可避で草」 「深海が魔境すぐるw」 「でもおかげでだいぶルートが埋まってきた」 「宝箱、罠引いたー」 「欲張るから……」 「あっ」 「待ってGM、あっ、て何」 「土砂崩れがあった(イベントダイスが荒ぶった)ので一部イベントが再配置されます。ここのビンゴカードを新品に差し替えでお願いします。あとこれとこれは位置交換・向き変更(シャッフル)で」 「マップ埋wめw直wしwww」 「こwこwにwきwてwww」 「そんな広範囲でもないから、まあまだ……」 「とりま、土砂崩れ跡の探索しまーす。んん!?」 「は? ルルイエと接続?」 「www」 「やめやめやめ! 終わり終わり終わり!」 「妙なもの掘り起こし過ぎる前に今分かってる範囲で切り上げよう!www」 「とりあえず奥まで行けるルートは出来たし!」 「もっと探索しよ?(ハート) まだ大陸棚級の超巨大古代ヒトデとか出てないよ? ほらほら“君ならできるよ”(笑)」 「うっせえわw」 「“死ぬがよい”の間違いでは? ボブは訝しんだ」 「www」

こんな感じで和気あいあい()とセッションしてるイメージです。たまには藁のように死んでいくセッションもいいよね?(卓とシステムによる) この場合だとN氏(ナナシ)は実況風リプレイ書き起こし担当なPLの誰かでしょう(持ち回りかも)。
 


 

 はいどーも!

 ルート策定できたのでいよいよ沈没船にアプローチする実況、はーじまーるよー!

 

 前回は半竜娘の分身ちゃんの犠牲(しかばね)を積み上げることで、“呪われた船の墓場”の海域の奥にある沈没船群まで比較的安全に到達できるルートを開拓できました。

 尊い犠牲に感謝を捧げつつ、いざ本番の探査です!

 

 ―― の前に。

 

「せっかく仲良くなったから、蛸神様の加護を願ってあげるワ! これで深海での動きもスムーズに行くはずよォ」

 

「おお、海の司祭殿! かたじけないのじゃ! 無事に帰ったら何かきっとお礼をするのじゃ」

 

「ま・ず・は、帰ってきてからよ。無事に帰ってきなさいネ」

 

 鰓人(ギルマン)海司教(シービショップ)が唱える祝詞が、海蝕洞穴に朗々と響き渡ります。

 

ふんぐるい(Ph'nglui) むぐるうなふ(mglw'nafh) くすぅるう(Cthulhu) るりえー(R'lyeh) うがふなぐる(wgah'nagl) ふたぐん(fhtagn)!!」 

 

 ―― 死せる蛸神(クトゥルー)、ルルイエの館にて、夢見るままに待ちいたり。

 

 覚醒の時を待って死に等しい眠りについて微睡む主神に加護を願う祝詞は効果を発揮し、半竜娘ら一党4人(+分身1体)に海神の加護を与えます。

 これにより、水中移動に伴うペナルティは半減されました。

 水中呼吸の指輪による効果も乗るので、ほぼ地上と遜色ない程度に活動できると思われます。

 

「これでアンタたちも鰓人並みに潜って浮かんでってできるわよォ」

 

「おお! それは助かるのじゃ!」

 

 へえ! つまり潜水病無効ってことですよね? 素晴らしい!*1

 

 でも、何回も受けたい呪文ではありませんね。

 なんか鰓人(ディープワン)にされそうな気がします。

 

「行ってくるのじゃ!!」

 

「いってらっしゃいネー」 「「「 おかあさま、ごぶうんを~ 」」」

 

「いい子で待っておるのじゃよー!」

 

 深海でお宝が半竜娘ちゃんたちを待っています!

 

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 では海中に行きましょう~。

 鎧とか着るわけにはいきませんし、水着に着替えて――

 

「水着もダメじゃ。抵抗は極力減らすべきじゃ」

 

「「「 え 」」」

 

「水の中ではその些細な違いが生死を分けるのじゃよ!」

 

 分身視点で死にまくった人が言うと説得力がありますね。

 特に文庫神官ちゃんは鎧なしにしないと一行の進行速度についていけませんし。

 とある世界では、もう二度と服を着れなくなってもいいという覚悟(制約と誓約)によって全裸となり、攻撃力や回避力が大幅に上がる(代わりに知力や魅力が大きく下がる)という秘術(ゼヌーラ)があるそうです。閑話休題。

 

 というわけで、脱げーー!!

 

「ま、まってまって、自分で脱ぐわ!」 「放せ放せ、吊るされると脱げねーだろ!」 「鎧の重さで沈みつつ向かうという作戦は、あ、却下ですか、はい……」

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 水中で活動するための『水中呼吸の指輪』。

 防具を補うための『【竜鱗】のポーション』。

 手を鰭翼(フリッパー)に変えるための『【竜翼】のポーション』。

 武器を持てないのでその鰭に刃を与えるための『【竜爪】のポーション』。

 水中暗視のための『【竜眼】のポーション』。

 鰓人の海司祭がかけてくれた『海神の加護』。

 

 マジックバッグの中にあらかじめ海水を入れておいてひしゃげないようにしておき、これで準備は万端です。

 今いるのは、海中の比較的浅い場所。

 呪いの海域へ向かう海流の近くです。

 

 海中でぷかぷか漂っている一党の全員は、身体の大部分を竜鱗に覆われ、手を板状の鰭翼にし、さらにそのエッジが鋭い刃のようになっています。

 基本的には機動力を生かして逃げつつ、機会があればすれ違いざま、刃のようになった鰭で斬りつける方針です。

 

 遠目にはピッタリとしたスイムスーツを着ているようにも見えるかもしれません。

 髪の毛はばらけないように編み込んでいます。

 

「ふぅむ、それだけの祖竜術のブラッドポーションを重ね掛けすると、お主らも一端(いっぱし)の蜥蜴人のようじゃの」

 半竜娘ちゃん(+分身ちゃん)が海の中で先導しつつ、森人探検家・TS圃人斥候・文庫神官を見渡します。

 

「でしょーね」

 森人探検家はエルフの長耳や美貌はそのままに、胸より下が鱗に覆われています。

 蜥蜴人にはない優美で繊細な美しさがあります。

 

「あー、防具がない分、水の振動をダイレクトに感じるのか。ま、これは確かにこの方がいーかもな」

 TS圃人斥候は全身に加えて、顔の頬まで鱗で覆われています。

 水中という特殊な空間で斥候の役目を果たすには、全裸というのにも利点があるのだと理解したようです。

 

「私はちょっと心もとないです……」

 文庫神官は、いつもの鎧の重みがなくて少し不安そうに、半竜娘の身体に結わえられたロープを握っています。

 移動力が一番低いので、牽引してもらうためです。

 ちなみに、半竜娘ちゃんは規格外として、文庫神官ちゃんが一番水の抵抗を受けそうな豊満さをしています。

 スイムスーツと違って竜鱗は自前なので胸の押さえが効かないのが不利(ディスアド)かもですね。胸甲くらいはつけても良かったかもしれません。

 

 

「では行くのじゃー」

 

「はーい」 「おう」 「了解です!」

 

 海流に乗り、先行探査の途中で分身ちゃんが沈めた海中ブイを辿り、目的の海域へと向かいます。

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 というわけで、すいすいすーい、とやってきました。

 “呪われた船の墓場”です。

 もうなんか、見てるだけで押しつぶされそうな青い闇に満たされた海域です。

 ここのさらに奥へと向かいます。

 

 狂った深海の精霊の巡回路を避けて大渦の中へと突入し。

 巨大生物の縄張りの隙間を縫って沈没船群へと。

 

 その途中途中で、目星をつけていた財宝や貴重な文化財、魔道具を回収していきます。

 

「うふふ~。財宝は人の世を巡ってナンボよね~。“海で失った物が、永遠に失われるとは限らない”ってねー。交易信徒たる私がお救いして、現世のお金の流れに戻してあげますからね~。うふふふふふ~」*2

 

「おそらくは遠地からの徴税品か献上品を載せた船が沈んだんじゃろうなあ」

 

「元の持ち主が所有権主張して来たりしないのか?」

 

「そういう依頼が冒険者ギルドに出ていれば、納めればいいのではないでしょうか」

 

 マジックバッグの容量の問題で財宝を全て回収できるわけではありませんが、それでも相当の量になります。

 

 

「わぁ、航海日誌に魔術書、巻物(スクロール)! 宝飾品や彫刻も貴重なものですよ、これは! ああ、知識神様! その灯火の導きに感謝いたします!」

 

「【保存】の術がかかった入れ物に入ってたのは、結構無事みてーだな」

 

「崩れないように【保存】の術のかかった布に包んで、水ごとマジックバッグに入れるのじゃ。周りの状況についても可能な限りメモを残すのじゃよー」

 

「目当てだった【転移】の巻物も無事に見つかったし、これで帰りの心配はなくなったわね。海神の加護のおかげで地上に転移しても無事だと思うし」

 

 文化的な観点から言えば、金貨などの財宝以外のものも、非常に貴重なものです。

 文庫神官が慎重にそれらを回収していきます。

 周辺の状況を記録しておくことも重要ですが、水中ではインクが使えないので、代わりとして蝋板(ろうばん)尖筆(スタイラス)で刻み付けていきます。あとで目録を作るのに役立ちます。

 

 

 

「で、これが呪いの集積点になってる魔道具の一つか……」

 

「うむ、幾つもの魔道具の相互作用によってこの海域はめちゃくちゃになっておる。これらを回収していけば、この海域も多少はマシになるじゃろう」

 

「でも地上に持ち出していいのかしら? 海の底にある方が安心じゃないかしら」

 

「その時は破壊しましょう。どのみち【転移】の巻物で私たちが帰るためにも、呪いを薄めてやる必要があるのですし」

 

 半竜娘が霊視したマナの流れを辿り、番人らしき巨大ウツボやグロブスター*3を刃の鰭で斬り刻んで倒し、呪いを振りまく魔道具を回収していきます。

 

 

 そうやって、巨大生物たちから身を隠しながら、いろいろなものを回収して沈没船群の奥の奥へと向かっていきます。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

「で、じゃ」

 

「あそこの大きな沈没船の中の、呪いの核たるナニカを回収したら最後ね」

 

「もうマジックバッグにも入らねーしな」

 

「うう、もっと回収したいものがたくさんあったのですが……」

 

 最後の目的地の直前。

 周辺のマナの流れを束ねている何かがあると目される沈没船。

 その周囲に沈んでいる木造船とは違い、目的の沈没船は古代文明の産物なのか、金属でできているようです。

 

 その沈没船の形は、海を行く船ではなく、太古のオウムガイ(ノーチラス)を思わせる紡錘形をしています。

 そしてときおり、その沈没船の奥の方で()()()()()()()が見えます。

 

「……あれが『周囲のものを異形化させる青白い鬼火』かや」

 

「深海の精霊を狂わせたのもアレなのかも……」

 

「オイオイオイ、近づいて大丈夫なのかよ?」

 

「とはいってもここまで来たら行くしかありません」

 

 後ろを振り返れば、半竜娘ちゃんたちが泳いできた海域は、彼女らの匂いに釣られた海生生物たちがすでに集まってきています。

 戻るわけにはいきませんし、各種の術の持続時間を考えると進むよりほか在りません。

 回収した【転移】の巻物での脱出もできますが、呪いの核と思われる『()()()()()()()』を放置したままでは、安定性に不安があります。

 

 

「で、ここにもやっぱり守護者(ガーディアン)がいるのね」

 

「すんげーでっけーサメだな」

 

「道中で見た古代巨大鮫(メガロドン)より倍は大きいですね」

 

「……いったい何を食べて大きくなったんじゃろうな。というか全体的に、この海域は深海なのに生物密度が高すぎるような。しかも、ここに近づくほどに、生き物が豊富になっておるのじゃ。その生き物たちの異形化の度合いも上がっておるが……」

 

 なんででしょうねー。

 きっとその青白い鬼火(スパーク)を中心とした生態系でもできてるんじゃないですかネー。

 

「じゃあ、手筈通りに。分身の方はうまくこっちに誘引できておるようじゃ」

 

「了解だぜ、リーダー」

 

「じゃあこっちも行きましょう」

 

「はい。―― 退魔の剣よ! 海魔を引きつけなさい!!」

 

 鰭翼を解除して退魔の剣を抜いて挑発する文庫神官ちゃんへと、鋼鉄の沈没船を守るように遊弋していた超巨大鮫(ギガシャーク)が突っ込んできます!!

 

『SSSHHHRRRRRRRRKKKKK!!!』

 

「速いッ!」

 

「引っ張るのじゃ! 目標地点まであと少し、タイミングはばっちりじゃ!!」

 

 淡く光る退魔の剣を掲げた文庫神官に結んだ縄を、分身ちゃんを除いた全員で曳いていきます。

 

「あの岩のアーチの下よ!」

 

「細工の紐を引くのを忘れんなよ!!」

 

「分かっておる!!」

 

「ま、まだですか~!? 追いつかれます~~!!?」

 

 

『SSSHHHRRRRRRRRKKKKK!!!』

 

 

 半竜娘ちゃんたちが向かう先には、岩がアーチ状になった地形が。

 そこを潜り抜けるようにして通過。そのとき、アーチに結ばれた縄を掴むのは忘れません。

 

「ひぃえええっ!?」

 

『SSSHHHRRRRRRRRKKKKK!!!』

 

 後を追う超巨大鮫(ギガシャーク)が通過したちょうどそのとき!

 

「いまじゃ!」

 

「崩せ!!」

 

 勢い付いた半竜娘ちゃんたちがアーチの弱所を引き抜きます!

 

 

『GGGGIIIGGAAAAA!!??』

 

 

 崩落する岩のアーチが超巨大鮫(ギガシャーク)を圧し潰しました!

 

 

「もう退魔の剣は鞘にしまいますね……。成功してよかった~」

 

「でもやっぱりまだ動きそうね」

 

「分身体の方はどうだ? リーダー」

 

「ちょうど良いタイミングじゃ。見よ」

 

 半竜娘ちゃんが指さす方を見れば、そちらから迫る巨大な影と、それに追われる半竜娘ちゃんの分身体の姿が、薄ぼんやりと浮かび上がってきます。

 

 追ってきたのは、暗緑色の粘液に包まれた軟体生物。

 蛸のような頭部、膨れ上がった水死体のような体。

 ぬっ、と深海の闇をかき分けて現れた巨体が、(タコ)烏賊(イカ)のような触手を伸ばしながら、水流のジェット噴射で近づいてきています。

 

「ルルイエから(おび)き出した蛸神の落とし子じゃ。あれと食い合わせる」

 

「で、そのあいだにオイラたちが、根こそぎ横取りいただきってわけだな」

 

「そのとおりじゃ!」

 

 とか言っているうちに、分身体は超巨大鮫(ギガシャーク)が岩に押しつぶされているあたりに差し掛かります。

 胸のあたりには、『ルーメン()』の一言真言で作り出した小さな光。

 そこに深海では数少ない光の精霊が吸い寄せられていきます。

 

 

『CCCTTTHHHHRRRRR!!』

 

 

『SSHHHRRRRRRKKKK!!!』

 

 

 深海における光は、あらゆるものを惹き付けます。

 そして、真言呪文のかすかな光を呼び水に光の精霊を集めることで、この深海においても光属性の精霊術を使えるようになるのです。

 

 岩の下でもがいていた超巨大鮫(ギガシャーク)も、その光に喰いつこうと身をよじり、ついに岩の(くびき)から逃れました。

 分身体の後ろからやってくる蛸神の落とし子(クトゥリヒ)もまた、その微かな光を退化した瞳で捉えて追ってきています。

 

 鮫の顎と、蛸の触手が、分身体を捉えようとしたその時。

 

「『ピクシー、ピクシー、キラキラ輝く羽のお粉を分けとくれ!』―― 精霊術【燦光(イルミネイト)】!!」

 

『RRUUUPHH!!??』 『GIIGAAR!!??』

 

 分身体を中心に増幅された光の精霊の力が、まるで太陽のような輝きを放つ虹色の鱗粉となって、分身体を中心に舞い散りました。

 当然、暗黒の深海に住まう怪物たちにとって、致命的な眩しさです。

 

 眼を焼かれた超巨大鮫(ギガシャーク)がその身を翻して彷徨うように泳ぎ、

 あまりの光量に驚いた蛸神の落とし子(クトゥリヒ)が触手を縮め、

 その隙に分身体は、二体の怪物に挟まれた死地から逃れました。

 

「上手くいったようじゃな!」 「まあ、手前にかかればザっとこんなもんじゃて」

 

 一党と合流した分身体と本体が鰭翼を打ち合わせて健闘を称え合います。

 

「【燦光(イルミネイト)】の術の良いところは、鱗粉を付着させられることじゃな」

 

 遠くを見れば、鮫と蛸の形をした虹色の光が互いに戦いあっている姿が。

 

 と、です。

 

 【燦光(イルミネイト)】の鱗粉を付着させることに成功したのです。

 あれだけ輝いていれば、もはやお互いしか目に入らないでしょう。

 しかも、周囲からも光に惹かれて多くの巨大生物たちが集まってきているようです。

 

「遠くで見る分には綺麗ね」

 

「今のうちに沈没船にある呪いの核をどうにかしにいこーぜ」

 

「急ぐに越したことはないですものね」

 

 巨大水生生物たちがぶつかり合う衝撃と雄叫びを背に、鋼鉄の沈没船へと戻ります。

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「これが()()()()()の正体か……」

 

 鋼鉄の沈没船の中の台座に安置された、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 円錐形をした沈没船の内部へ入り込んだ半竜娘ちゃんたちが見つけたそれが、青白い鬼火の正体でした。

 

「古の魔術師たちのいう灯火(スパーク)を宿したものの一つなのかも知れんのう。外せそうかの?」

 

「……もう、ちょっと……。積もった泥が巻き上がって見づれーが……」

 

 解除担当のTS圃人斥候が鰭翼を腕に戻して、その青白い鬼火を宿した宝玉を取り外そうとしています。

 この沈没船の中には、宝物は少なかったものの、書斎があったため多数の蔵書も回収できました。

 この海域の呪いの大きな結節点となっているこの青白い鬼火の宝玉の回収が、最後の仕事です。

 

「よし、これで、外れ……たッ!」

 

 キン、と鋭い音とともに、金枠の青い宝玉が台座から外れました。

 TS圃人斥候は水中に投げ出されたそれを掴むと、素早くマジックバッグに吸い込ませました。

 

「回収完了!!」

 

「うむ。マナの流れも変わったようじゃ! もうしばらくすれば、【転移】の巻物での安全な脱出も可能になるはず―――― ッッッ!!?」

 

 その時、船体が衝撃とともに大きく揺れました。

 何かがぶつかって来たようです。

 

「何が――って、船殻をこじ開けようとしてる! そこは危ないわ!」

 

 森人探検家の警告に従い、壁際から退避すると、メキメキという音とともに沈没船の外殻が剥ぎ取られていきます。

 

「……これは、さっきの触手――!」

 

 文庫神官が驚愕しながら指さす先には、外殻をこじ開けた下手人と思しき巨大なタコ触手。

 そして、その外に見えたのはズラリと牙が並んだサメの口!

 

『SSHAAARRKKTTOOOPPPUUUUSSSS!!!』

 

 

「融合、しておる……じゃと……!?」

 

 沈没船の外側に張り付いたのは、鮫の頭と蛸の足を持った超巨大な融合獣(キメラ)―― 巨大融合蛸鮫(ギガ・シャークトパス)!!

 ところどころに虹色に光る鱗粉を張り付けた化け物が、青白い鬼火を取り返しにやってきたのです!

 

「そうか! この鬼火の宝玉は、ここら一帯のエネルギー源でもあったのじゃな! どおりで深海なのに生物が多いと思ったわ!」

 

 半竜娘ちゃんの直感が導き出したとおり、鬼火の宝玉がもたらしていたエネルギーが、周囲の生き物に活力を与え、また、変異・進化させていたのです。

 おそらくは、この沈没船の動力炉心でもあったその宝玉は、遥か古代の産物なのでしょう。

 あるいは、全くの異次元から落ちてきた、星の海を行く船だったのかもしれません。

 

 ともかく、その中心であった、スパークを宿す青い鬼火の宝玉を持ち去ることは、ここの生物たちにとっても看過できるようなことではないに違いありません。

 

 さらに言えばそのような重要なものが盗難に遭わないように――

 

「ッ! お姉さま! 船が動きます!!」

 

「なんじゃと!?」

 

 ―― 炉心を持ち去ることに対する、対抗措置だって用意されていたのです。

 沈没し、長いあいだ海の侵食にさらされていた艦船が、それでも残された最後の力を振り絞り、その機構を作動させました。

 

『機体損傷度・85%.システム稼働率・2%.動力炉消失.周辺脅威・大.乗組員・ゼロ.充填された残エネルギーにより、融合変異による修復及び奪還プログラムを始動します.READY,』

 

 響き渡った機械音声。

 脈動するように光の線が走り始めた沈没船の船体。

 しかし、それを無視して、船体の外の巨大融合蛸鮫(ギガ・シャークトパス)は、さらに船体の亀裂を広げていきます。

 

「やばそうじゃ……! 掴まれ! 突き抜ける!!」

 

「掴まったけど、まさか、リーダー!?」

 

 TS圃人斥候の声に、半竜娘ちゃんがニヤリと笑います。

 

 

「その“まさか”よ!! 敵中にこそ(カツ)あり! 突撃(チャージング)】!!

 

「ちょっとおおおお!??」

「おいおいおいおいいいいい!?」

「お、お姉さまぁあああ!? 」

 

 

「イイイィィイヤアアアアアアア!!!」

 

 

『SSSHHHAAARRKKKGGGGIIIGGGAAA!!??』

 

 

 暗黒の水を切り裂いて回転し、巨大融合蛸鮫(ギガ・シャークトパス)の触手と体に大穴を開けて抉りながら、【突撃(チャージング)】の祖竜術によってダイレクト敵中突破!!

 分身ちゃんもその後ろに続きます。

 

 そのまま惰性で進み、勢いが弱まったところで振り返ると、青白いスパークが沈没船の紡錘形の船体と、巨大融合蛸鮫(ギガ・シャークトパス)を包み込むところでした。

 

「ふう。あとは落ち着いた場所で【転移】の巻物を開けば――」

 

「いやまだみたいよ」

 

「なんじゃと」

 

 森人探検家の言うとおりでした。

 

 沈没船と巨大融合蛸鮫(ギガ・シャークトパス)を包んだ青い光が収まった後から、現れたのは、()()()()()()()が融合した、巨大な化け物!

 すなわち、沈没船の素材で形作られた、巨大鋼鉄蛸鮫(メタル・ギガ・シャークトパス)!!

 

『MMMETTTLLLSHHAARRRKKK!!!!』

 

「に、逃げるのじゃーーー!!!」

 

「チィッ! こりゃヤバいだろ!! リーダー! もう巻物(スクロール)使うぞ!!」

 

「ぬぐ、い、致し方なし! リスクはあるが、もはや他に道もなし!」

 

「一か所に固まれ! 巻物(スクロール)開封(オープン)! 転移門(ゲート)よ開け!」

 

 転移門を開く光が、半竜娘ちゃんたち一党を包み込みます!

 【保存】の宝箱に入っていたとはいえ、海水に長い時間浸されていた巻物です。

 しかも座標をじっくりと指定するような余裕もありません。

 

 さぁて、どこに飛ぶかなー……? 「ゆっゆくゆー」

 あれ、何か聞こえた? ……ままええわ。

 

 ささやき、いのり、えいしょう、ねんじろ!!

 

 というところで、今回はここまで。

 ではまた次回!

 

 

*1
潜水病:減圧症。高水圧から急上昇した時に血液などの体液中の窒素が飽和、気泡化して様々な障害を起こす。炭酸水あるじゃん? 開けるじゃん? シュワってなるじゃん? あれが全身で起こる。

*2
海で失った物が、永遠に失われるとは限らない。:「マジック:ザ・ギャザリング」より、『難破船の探知者/Shipwreck Dowser』のフレーバーテキスト。

*3
グロブスター:グロテスク・ブロブ・モンスターを縮めた造語。海のUMAの一つ。毛や肉が溶けて固まったような不気味な肉塊。だいたいは腐敗しやすい部分から脱落した結果、思いも寄らない形状になった動物の死体。




 
 サブタイトル回収回。
 鮫VS蛸 → 鮫+蛸(シャークトパス) → 鮫+蛸+沈没船(ノーチラス号)。
 青白い光は、マトリクス(トランスフォーマー)かもしれないし、核の力(チェレンコフ光)かもしれないし、ゲッター線かもしれない。進化を促進させたり、機械に命を与えたりするなんかすごいアレ。
 メタル・ギガ・シャークトパスは、このあとはエネルギー摂取・生物化による船体修復のためにこの海域の巨大生物を粗方平らげたあとは、それでもエネルギー不足に陥ってしまうため、直ぐに眠りにつきます。しかもクトゥリヒの帰巣本能が生きてるためルルイエに戻った上で。呪いの核がなくなったため、ルルイエとの空間接続も切れます。四方世界の平和は守られた! 次に活動するとしたら、ルルイエが浮上するときでしょうし、もしそんなことがあったら……超勇者ちゃん案件になるでしょうね。

===

◆一方その頃、王都にて
妖精弓手「やっと到着した~」
鉱人道士「門では長く待たされたのぅ」
蜥蜴僧侶「番兵が真面目に仕事をしている証左でありましょう」

一通り街道の小鬼駆除を終えた小鬼殺し一党は、王都でつかの間の休息をとることとした。
そのあとは、まだ見ぬ敵の残党を追って、また街道を行く予定だ。

そのとき、道行く馬車から一党に声をかける者があった。
都まで王に呼ばれて会合に来ていた剣の乙女だ。城からの帰り道らしい。

剣の乙女「あら。皆様、奇遇……ですね。小鬼退治ですか?」
小鬼殺し「そうだ。街道のゴブリンを殺してきた」
剣の乙女「もし、宿が決まっていませんでしたら、教会(うち)にいらっしゃりませんこと?」
小鬼殺し「いいのか?」
剣の乙女「ええ、もちろんですわ」
小鬼殺し「助かる。蔵書も見せて貰いたい。道中のゴブリンどもだが、何か邪教の手のものやもしれん」
剣の乙女「まさか、小鬼の異教徒が……?」
小鬼殺し「雪山でも教化された小鬼を見た。その(たぐい)やもしれん」
剣の乙女「であれば、なおのこと、是非お寄りくださいまし」

そういうことになった。

女神官「…………」

その傍ら、道中で地母神の奇跡(ピュアリファイ)にて小鬼一匹を()()()()()()()()()女神官は、地母神からのお叱りの託宣を受けて沈んでいた。
その暗い様子に気づいた妖精弓手が、そっと付き添う。きっとこのあと連れ立って、王都の地母神の神殿へ、懺悔しにでも行くのだろう。
そしてそのあと公衆浴場で旅垢を落とし、身も心もキレイになれば、きっと気分も上向くはずだ。


===

原作小説14巻のあらすじとか書影とかが更新されていますね! 北の地(キンメリア)の頭領についてあらすじで言及されていますが、これは漫画版3巻で女性を人質に取られたせいでゴブリンロード(成長前)に戦斧を奪われてしまったコナン・ザ・グレートっぽい蛮人さんかもしれません。え、彼は胸を刺されて死んだはずでは、って? ゴブリンに刺されたくらいでコナンが死ぬわけないでしょ!!(イヤーワン(漫画)の単行本未収録部分(第46話。単行本化すれば7巻に収録)で、王都ギルドで冒険者同士の諍いを収める蛮族戦士として、身体のど真ん中に傷跡があるコナン・ザ・グレートっぽいキャラが登場したので生存確定したと私は信じてます!)

感想評価&コメをありがとうございます! 特に感想は大変励みになっています! もちろん閲覧から何から全て励みです! ありがとうございます!

次回は、幕間ということで、ゴブスレさんたちの方の王都-北の死の迷宮までの様子や、王宮の会議の様子になるかと思います。テンポよく進めば、半竜娘ちゃんたちの行方にも触れられると思います。
 


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32/n 裏(死の迷宮へ行け(ダンジョン・アタック)

 
当作品を機にゴブスレTRPGのルルブやサプリを購入いただいた方もいらっしゃるとのことで歓喜に震えております……! そしていつも閲覧、評価&コメント、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ここ好きタップをいただき、皆様ありがとうございます! 特に感想は大変うれしいです、ありがとうございます!

●前話:
メタル・ギガ・シャークトパス 襲来!

Q.敵を前に逃げるのは蜥蜴人的にオッケーなの?
A.時と場合とその場のテンションに依る。戦の中で死ぬのも誉れだが、何としてでも生き残るのもまた誉れなので。つまり状況判断だ! 今回の敵(メタル・ギガ・シャークトパス)は心臓も無さそうだし、こちらの心臓を食ってもくれなさそうだったので逃げてオッケーという判断。(浸食同化はしてきそうだが、同化されるとなんか生命の輪廻から外れそうなのでちょっとご遠慮したい……という感じ、だと思う)
 


 

1.初めての託宣―― “ささやき”

 

 

 半竜娘たち一党が“呪われた船の墓場”へ行くのを見送った幼竜娘三姉妹。

 

 海蝕洞穴で待っていろと言われていたが、言いつけに反して急に荷造りをし始めた。

 その自分たちの荷物に加えて、半竜娘たちの装備やもともと彼女たちのマジックバッグに入れていた荷物(既に荷造り済み)も合わせれば、相当な大荷物だ。

 

「あらン? どこに行くのかしら。それにそんな大荷物、持ってけないでしょう?」

 

(うみ)司祭様(しさいさま)!」 「おせわになりました!」 「すぐに(むか)えが()るはずなので、大丈夫(だいじょーぶ)です!」

 

「迎え、ねえ? あの子たちが戻ってくるにはまだ早いと思うわよー。さっき出てったばっかりだし?」

 

「いえ、お(かー)さまたちではなく」 「うちのお(んま)さんたちがきてくれるはずです!」 「さきほど(かぜ)精霊(せいれー)ククルカン(風羽の蛇)さんにおねがいしたので!」

 

 そのために上質な触媒を大盤振る舞いしたが、別に構わないだろう。

 海岸の村に預けている麒麟竜馬に伝言して、独立懸架式突撃装甲馬車を曳いて迎えに来てもらうための必要経費だ。

 精霊界から呼び出して伝言を頼み、さらには【水歩(ウォーターウォーク)】と【追風(テイルウィンド)】の術まで使ってもらうのだから。

 

「でもいったいどこ行くのよー? アンタたちのこと、世話するように言われてるんだけど」

 

慈母龍(マイアサウラ)さまの託宣(はんどあうと)!」 「(むつか)しーことはわかりませんでしたけど、“あっちにいくのよー”と()われました!」 「お(かー)さまたちの荷物(にもつ)も、もっていけと」

 

「ふんふんふん? 託宣なら仕方ないわねー。まー、大方、帰り道の転移(ワープ)に失敗でもするのかしらね。たしかに着替えとか装備とか置いてっちゃってるものねー、届けてあげた方が良いかもねえ」

 

 託宣(ハンドアウト)と聞いて、海司教も理解を示す。

 鰓人の海司教が奉じる蛸神もまた、頻繁に託宣を下す神だからだ(託宣の内容が分かるとは言ってない)。

 

「そーです! おとどけです!」 「このままだとすっぱだかなので!」 「おとめのピンチ!」

 

 確かに半竜娘たちはみんな()()で海底にアプローチしていた。

 そこから転移するとなれば、服にも事欠くことになるだろう。

 いや、遭難に備えて冒険者セットと着替えくらいは持っていっていたかもしれないが、荷物が無事とも限らない。あるいは、財宝を回収するために着替えを投棄していたりするかもしれない。

 

「んー、子供だけだと危なくないかしら。でも私たち鰓人は水からあんまり離れられないし……」

 

「しんぱいごむよう!」 「どーせうちのお(んま)さんには()いつけない」 「ジャマするやつは()きます」

 

 爆走する装甲馬車を襲おうとする命知らずがどれほどいるだろうか、ということだ。

 それにもし襲われても、アシの関係で逃げ切ることは容易いだろう。

 いざとなれば、幼竜娘三姉妹は、形代人形に宿った半竜娘の分身の残影と同期して、幾らかの術を使うこともできる。

 

「それならいいのかしらァ。でも気をつけなさいよォ」

 

「はい!」 「きをつけます!」 「いのちだいじに!」

 

 元気にピョンピョン跳ねて返事をする幼竜娘三姉妹。

 同じ鱗のものとして、鰓人の海司教も慈しみに満ちた表情でその子らを見ている。

 

「さっき言ってた託宣で示された場所までは、結構遠いでしょ。うまく合流できるの? まあ託宣だから誤ったりしないのでしょうけれど」

 

 確かに水中呼吸の指輪や各種ポーションの効果時間を考えると、半竜娘たちが探索中に転移するとしても、それは今から数時間後から半日後程度の間の出来事のはず。

 馬車での移動に日数がかかるため、今から出発したところで、転移で脱出してすぐの半竜娘たちとすぐに合流できるわけでもなし。転移したてで合流できるならまだしも、そうでなければ、数日のうちに街までたどり着いた半竜娘たちがすでに物資を調達済みという可能性もある。それなら、わざわざ危険を冒して幼竜娘三姉妹だけで移動したりせずに、ここで待っていた方が行き違いになったりしないから良いはず。

 それこそ、半竜娘たちが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、リスクばかりが高い託宣のような気がするのだが……。

 

「たぶん?」 「託宣(はんどあうと)によれば」 「いータイミングで合流(ごーりゅー)できるとか」

 

「そうなの……。なら心配いらないのかしらね」

 

 

 というわけでその後、幼竜娘三姉妹は、海の上を【水歩】の術で渡ってきた麒麟竜馬が曳いてきた独立懸架式突撃装甲馬車に荷物を詰め込んで、海蝕洞穴(鰓人たちの集落)を後にした。

 

 目指すは北方―― 『死の迷宮』。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()である――!!*1

 

 

<『1.Q.タイムテーブルどーなってるん? A.TASさん(ティーアース)深海異界は時の(“浦島太郎”に倣って時間の)流れをいじりやすいので(流れをチョチョイとなっと)、イイ感じに辻褄を合わせられるんですよこれが」』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

2.御前会議にて剣の乙女曰く「ともあれゴブリンは滅ぶべきである」との(よし)―― “いのり”

 

 

 御前会議。

 若き金獅子の国王が各界有力者・諸侯貴族を招集して開催する会議である。

 

 この時期であれば、王は巡回宮廷のキャラバンを率いて国内の直轄領へ徴税に行ったり、不穏な領地へ査察に赴いたりしているのだが、昨年と今年は事情が異なっている。

 いや、巡回宮廷自体は、例年どおりに運行されている。

 ただ、そこに国王が常には乗っていないというだけだ。

 

「本当に、転移門を献上してくれた冒険者、そして復活させた賢者には感謝だな」

 

「ええ、誠に」

 

 金獅子の国王*2の言葉に、赤髪の枢機卿(すうきけい)*3が同意する。

 

 水の街で献上された古代の遺物『転移門の鏡』により、国王はフットワーク軽く国内各地を行き来できるようになっている。

 巡回宮廷と王城と行き来して執務をこなせるので、例年よりも決裁が滞らず、案件の進捗も早いし、王城で安心して眠れるため疲労困憊ということもない。

 権威の関係で巡回宮廷はしばらく維持しなければならないだろうが(分かりやすく煌びやかな馬車で行幸することもまた権威向上と治安維持には必要なのだ)、一瞬で宮廷に戻ってこられるというのはありがたい。

 

 

「宮廷魔術師の方では、『転移門』の再現はできそうか」

 

「研究を進めておりますが、すぐには難しいでしょうな―― 現状の予算規模のままですと」

 

「ふん。振れば黄金が湧く小槌でもあれば良いのだがな」

 

「まったくですな」

 

 国王の下問に、褐色肌人の宮廷魔術師*4が答えを返す。

 成果を求めるならばもっと予算が必要だと肩を竦めたが、それはどこの部署も同じことだ。

 

 

「では冒険者の方はどうか、そういった太古の遺物をギルドが手に入れたりはしていないか」

 

「そう何度もそんな出物があるもンかよ」

 

「それもそうか」

 

 金等級の黒毛並みの犬の獣人*5が鼻を鳴らす。

 確かにそうだな、と国王も引き下がる。だが、もしも同じような魔道具が出土すれば、大枚はたいて買い取るつもりでいる。―― 魔神王の軍勢との戦争の影響で荒れている国内情勢が落ち着けば、未開領域への探索・開拓をこれまで以上に奨励したいところだ。

 

 

「いっそのこと、余がドラゴンのねぐらでも荒らしてくるか。黄金だけではなく、転移の魔道具も手に入るやもしれん」

 

「陛下、おやめください。―― 絶対に、おやめください」

 

 赤毛の枢機卿が真顔で止めた。

 続けて銀甲冑の将軍が発言する。

 

「あっちこっちと出歩かれては、近衛も手が足りない。巡回宮廷と、王宮、そして竜の巣までもとなれば、護衛に出す人が足りぬ。貴族子弟の枠を、叩き上げに譲れば幾分マシになろうが」

 

「そう簡単にはいかぬ」

 

「ああ、分かっているとも。今あるものでやるしかない。ゆえにきちんと貴族子弟にも訓練をつけて叩き上げている」

 

 銀甲冑を着込んだ叩き上げの近衛の将軍*6が、真面目くさった顔で言う。

 彼の施す苛烈な訓練に音を上げた貴族子弟が実家に泣きつき、苦情が国王のところに上がってくることもあるが、そんなものは黙殺している―― どころか逆に叱責している。

 武力をもって庇護し、支配するべき貴族が、実戦でもない訓練で音を上げるとは何事か、と。

 

 

「兵を食わせるにも金がかかる。さて、流通の方はどうだ?」

 

「概ねは異状ないかと。ただ――」

 

「ただ?」

 

 話を振られたのは、若き蜂蜜色の金髪(ハニーブロンド)の女商人。

 軽銀という新金属を目玉に引っ提げて勢力を伸ばしている商会の会頭で、どこぞの伯爵家の御令嬢だった敏腕だ。

 最近では、異界の悪魔が練った新技術の解析を、お抱えの鉱人(ドワーフ)たちと進めているとも聞く。

 

「非常に広範な地域で、小鬼の群れが確認されております。襲われる馬車や行商はあとを絶たないとか。現在、その掃討にあたり()()()()()()()()()()()の手を借りていますので、じきに治まるでしょうが……」

 

「であれば問題ないのではないか?」

 

「―― そこから先は(わたくし)が」

 

 国王の言葉を引き取ったのは、聖なる衣に肉感的な肢体を覆わせ、目隠しをした女性の聖職者―― 水の街の至高神の神殿を治める大司教(アークビショップ)、剣の乙女だ。

 

「神殿とも関係があるのか? この件は」

 

 問うた国王に、剣の乙女は微笑んだ。その下に小鬼への怯えを隠して。

 

「ええ。いつものように“たかが小鬼”とは言わせませんわ。“異教に教化された小鬼”なのですから」

 

「ほう。それは剣呑だな」

 ピクリと眉を動かす国王。

 

「街道沿いに小鬼と狼が増えているということは、軍の巡察隊でも把握している。しかし、異教徒ということは、奴らは組織化され、全て繋がっているということか?」

 銀甲冑の近衛が難しい顔をして腕を組む。

 

 単発の小鬼がめいめいに襲っているのと、ある程度組織化された小鬼の部隊が散兵となって流通を脅かしているのでは、全く脅威度の前提が異なってくる。

 

「はい、教会(われら)はそのように考えています」

 剣の乙女が、頷いた。

 

「その狙いにも見当がついているのか?」

 国王が問う。

 

「混沌を振りまき、世を乱すことでしょう」

 

「それは分かっている」

 

 秩序は混沌に負け続けている、という言説もある。世は乱れるものであり、秩序が長引いたためしはない。もちろん、完全に秩序の灯が途絶えたこともないのだが。

 

「小鬼の掃討に軍を出す(我らが出る)ことは難しいだろう。混沌の企みがあるとすれば、必ず本命がある。それはデーモンの軍勢かもしれぬ。守りを軽々には動かせぬ」

 

「ええ、いつものことですわね」

 

 銀甲冑の騎士の理論に、剣の乙女はやや辛辣に返す。

 彼女とて軍の理屈は分からないではないが、それと納得は別だ。

 

「冒険者はもう動いてるってんなら、オレからは何もねえな」

 

 金等級の獣人が背もたれに背を押し付けて伸びをした。すでに手配済みであるなら、問題はないだろう。

 

「銀等級に動いていただいていますから」

 

「なら問題ねえだろう。在野最上級でゴブリン退治、となれば、まあ、確かそんな二つ名の奴がいたはずだ」

 

「ええ。その彼ですわ」

 

 心なしか誇らしげに言った剣の乙女に、会議に参加した男たちが一瞬見惚れる。

 随分と、溌溂とした表情をするようになったものだと、国王は思った。

 しかし次の瞬間、剣の乙女が眉をハの字にして愁えた。

 

「異教に教化された小鬼の軍勢の浸透―― おそらくは北に拠点があると、その冒険者は。……確か、天の火石が落ちたのは、北の霊峰でしたわね? 小鬼を囮にして、そこで何か企みがあるのやも。さらに言えば……混沌の企みといえば、姫を生贄にするものと相場は決まっていますが……」

 

「ああ、そういえば、宮廷占い師どもの占いでは、“天の火石が、極星の伴星を弾き飛ばす”というものがありましたな。解釈に迷っていたものですが、思い出しました……。あるいは極星は陛下で、伴星は王妹殿下……その暗示やもしれませぬ」

 

 剣の乙女と宮廷魔術師の言葉を受けて、さらに、国王の傍に控えていた銀髪の侍女が動いた。

 銀髪侍女は、何やら国王に耳打ちをする。

 

「……なに? ふむ、そうか。―― どうやら、うちの妹に何やら入れ知恵する輩がいるようだ」

 

―― “国王陛下は王妹殿下の歳には死の迷宮で剣を振るってらっしゃった”

―― “しかし昨今、冒険者の志をお忘れのようだ、どうにも足元が見えてらっしゃらない”

―― “王妹殿下は城の中に閉じ込められておかわいそうに”

―― “少し冒険に出るくらいは許されてしかるべきだ”

―― “やはり王族たるもの、下々の生活を肌で感じてこそ”

―― “そうだ、王妹殿下が、国王陛下に昨今の冒険者の姿というものをお伝えになるのもいいかもしれませぬなあ”

―― “我らも昔は護衛の目を盗んで城下に繰り出したものです。いやあ懐かしい”

 

 それぞれは他愛無い雑談による細波(さざなみ)でも、異なる者から繰り返し繰り返し聞かされれば、やがては計り知れない大波となる。

 

「不届き者らの成敗は別の沙汰にするとして。あるいは確かに、妹が狙われている可能性はある。……それに妹のあの気性だ、このまま押さえつけても目を盗んで出奔する可能性は否めぬ。城内に手が伸びている恐れがあるのであれば、手引きも容易かろうからなおさらだ」

 

 困ったものだ、と眉間を揉む金獅子の国王。

 

 さてどうしたものか、と考える国王の脳裏に、一つのプランが閃いた。

 

 

 

 ―― いっそのこと、お膳立てしてはどうか。こちらのコントロールできる範囲で、妹の鬱憤を晴らさせてやるのは……。

 

 

 

「剣の乙女よ。その小鬼殺しの銀等級の冒険者だが、護衛を依頼することはできるか」

 

 

 

<『2.小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)への依頼:王妹殿下の社会科見学(冒険者稼業実地学習+護衛)

  >銀髪侍女「もちろん密偵部隊も影から守るけどね。それに彼の一党には、おあつらえ向きに王妹殿下に瓜二つの神官がいるというじゃないか」』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

3.知らぬは当人ばかりなり―― “えいしょう”

 

 

 小鬼殺し一党にもたらされた依頼は、一党の眉を顰めさせるに十分なものだった。

 

「“やんごとなきお方”の護衛、のう」

 

「小鬼を追って街道を行くっていうのに? このあいだも多勢に無勢で蛇の目が出て(ファンブルして)、あの()に無茶な奇跡の使い方させちゃったばっかりじゃない」

 

「はっはっは、御上に下々のものが振り回されるのは、いつの世でもどの種族でも変わりませぬなあ」

 

 順に鉱人道士、妖精弓手、蜥蜴僧侶の発言である。

 宿坊を借りている王都の至高神神殿で、密偵の銀髪侍女が持ってきた案件を聞いての反応だ。

 

「ええと。でも、その方が狙われているのですよね? ゴブリンに」

 

「そういうこと。まあ、あの娘は知らないけどね。……それにしても本当に瓜二つだね。からだつきを除いて、だけど

 

「??」

 

 城からの依頼を携えてやってきた銀髪侍女が言うには、小鬼の狙いが王妹殿下である可能性があるため、それを逆手に取って、囮の馬車を出すのだという。

 その護衛を、小鬼殺し一党に依頼したいということだ。

 もちろん、影から護衛はつく。当然だ。

 

「俺は構わん。囮として扱うが、良いのだな?」

 

「好きにやっちゃっていいよー。王妹殿下は、“冒険者のリアル”をお求めだ」

 

「そうか」

 

 小鬼殺しの念押しに、銀髪侍女は快く頷いた。

 

「あと、そこの神官ちゃんと、うちの殿下は、顔がそっくりでね。多分“入れ替わってみたい!”っておっしゃると思うから、受け入れてくれると助かるな。殿下の神官服はこっちで“こんなこともあろうかと”って用意しておくけど」

 

「そうか」

 

 小鬼殺しは何でもない風に頷いたが、女神官と妖精弓手は、まだ見ぬ王妹殿下の受難を想って、祈りを捧げ、あるいは天を仰いだ。

 王妹殿下をゴブリン汁まみれにしても赦されるのだろうか……。

 “好きにやっていい”と言質はとっているが……。

 

「そこそこの馬車を用立てて、北の霊峰の麓、死の迷宮まで視察に、という体裁だね。お忍びの(てい)だから、同乗する侍女は私だけ。むしろ厳しい現実を見せてやってほしいところだね」

 

 混沌との戦乱が続く世の中で、王族が苦難を知らないのはどうかと思っているのだろう、銀髪侍女の口調は厳しい。

 何せ侍女の比較対象は、死の迷宮に挑んだ君主(ロード)にして、金剛石の具足*7を従えたあの金獅子の国王なのだ。

 

 ああ、哀れここに王妹殿下の受難は決定したのだった。

 

 

<『3.姫と市井の娘の入れ替わりは定番だよね!(女神官ちゃんにドレス(胸が余る)を着せたかっただけとも言う)』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

4.死の迷宮攻略(ダンジョンアタック)―― “ねんじろ!”

 

 

 北への道中では狙い通りに王妹殿下の乗る馬車が見事な囮(ゴブリンホイホイ)になり、襲ってきた小鬼たちを全て返り討ちにして霊峰の麓、死の迷宮までやってきた小鬼殺し一党+王妹殿下(&影から守る密偵たち)。

 道中的確に襲われたということは、王宮側に混沌と通じている輩がのさばっている証左でもある。大掃除が必要だろう。

 

 さて、道中で得た情報から、少なくない数の行商人や冒険者が、死の迷宮の跡地を巣穴にしたゴブリンたちに引きずり込まれていったことが分かっている。

 さらには迷宮を囲む街にも多くの小鬼が蔓延(はびこ)っているようだ。

 かつて死の迷宮に挑む冒険者でにぎわっていたのも、今は昔。ここは打ち捨てられた城砦で、いまは小鬼の棲家だ。

 

 これ以上は王妹殿下を連れて進むのは無理だろう。

 死の迷宮(ダンジョン・オブ・ザ・デッド)の見張りをしていた兵士(に偽装した密偵たち)が作った野営場で休んでいてもらうしかあるまい。

 ……もともとこの迷宮街を管理していた兵士たちは、十重二十重に押し寄せたのであろう小鬼たちによって、既に殺されてしまっているようだ。

 その証拠に、街の門扉には、兵士の生首と、その血で書かれたらしき『おれのマ』の旗が掲げられている。

 

「“(おれ)らの(マチ)”、ねえ。……で、ここに攻め入るってわけ?」

 

「無論だ。小鬼を生かしておく理由はない」

 

 自慢の長耳で、うんざりするほど多くの小鬼の気配を察した妖精弓手が、辟易した顔で頭目である小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)に問いかけると、彼は決断的に即答した。

 

 

「さて、しかしどうしますかな」

 

「忍び込む。まずは迷宮の中で捕虜の救出。同時に、第4層に居るであろう首魁の討伐。そして順に各階層を片付け、地上では潜みながら闇討ちだ」

 

「籠城を気取る兵には、それがよぉございましょうな。籠城には増援がつきものでありますが、きゃつばらめがアテにしているであろう、最奥からの魔物の増援が湧かぬように、まずは奥から潰すのが上策かと」

 

 いつものように蜥蜴僧侶と小鬼殺しが算段を立てる。

 蜥蜴僧侶の手には、かつてこの迷宮に挑戦していた剣の乙女が作った地図の写しがあった。

 ゴブリンとはいえ、今回の相手は邪教徒。捕虜、いや、生贄を使っての企み事などそう多くはない。大方、魔神の類を召喚するつもりなのであろう。

 

「あるいは捕虜の救出後は、迷宮の中は水に沈めてもいいが――」

 

「水攻めはダメー」

 

 腰の雑嚢にある2本の転移の巻物を確かめつつ言った小鬼殺しに、妖精弓手は手を×の字に交差させて舌を出した。

 

「―― だそうだ。最終手段だな」

 

「使わないとは言わないんですよね」

 

 女神官が、“仕方ない人”という風にため息をついた。

 すでにサイズが合わないドレスからは着替えている。戻ってきた鎖帷子の重みが頼もしい。

 

「逃散するゴブリンたちが出れば、その掃討は、影の者らで請け負ってくれるそうだ」

 

「それは重畳」

 

 シュッと短く息を吐いた蜥蜴僧侶が、恐ろし気に頬を裂く笑みを見せた。

 

「拙僧もダンジョンは初めてでしてな、少し心が躍っておるところですぞ」

 

「俺も初めてだが……ゴブリンが出るならいつもの巣穴と変わるまい。油断せずに行くぞ」

 

 

 

<『4.ゴブリンどもは皆殺しだ』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

5.適合せよ―― *いしのなかにいる*

 

 

 半竜娘が、転移門に流れ込む深海の渦の中、()()できたのは、慈母龍(マイアサウラ)の篤い加護のおかげであったのかもしれない。

 

 転移門に吸い込まれるその瞬間に、半竜娘は猛烈な危機を感じ取り、TS圃人斥候のマジックバッグに収納されていた、青白く輝く宝玉を取り出していた。

 

 そして、その宝玉の秘められた力(スペシャルパワー)を解放すると、小さく囁くように慈母龍の名を詠唱し、祈りを捧げ、念じた……!

 

 案の定、そして最悪なことに、空間を入れ替えるようにして一党の全員が転移した先は、どことも知れぬ岩盤の中であったようだ。

 真っ暗な、何も見えない視界で、半竜娘はそう直感した。

 何かが強烈に脳裏に焼き付くメッセージを送ってきている―― *いしのなかにいる*と!

 

 このままでは死んでしまう!

 

 だが、幸いなことに、半竜娘だけは、青白く輝く宝玉の影響により、岩盤と生きたまま同化することに成功していた。

 巨大鋼鉄蛸鮫(メタル・ギガ・シャークトパス)が沈没船と融合する際のプロセスを咄嗟に再現したのだ。

 しかし急なことであり、この宝玉の力の研究も不十分だったので、永遠に同化しておくことはできないだろう。

 

 おそらくは、動けて一手。今はまだ、幽冥の空間から現れつつある段階だ。

 その一手のうちに、周囲の仲間は完全に転移し終わり、そして完全に死んでしまうだろう。*8

 半竜娘自身は青白く輝く宝玉の力により完全に岩盤の中に現れきる直後くらいまでの一手は動けるが、その次の一手は出すことができず、同化状態が切れて、岩盤と混ざったまま死に絶えるであろう。

 

 邪魔なのは周囲の岩盤である。

 これを退かす必要がある。

 あと一手のうちに。

 

 【隧道(トンネル)】の精霊術であれば、この岩盤を退かせるはずだ。

 岩盤であれば、土の精霊も豊富であろうから、発動に支障はないだろう。

 周囲の岩盤を、精霊の不可思議な力で退かすことで、自身と仲間の肉体や持ち物のみを残して、空間をあけることができるはずだ。

 

 問題は。

 

 半竜娘は今の時点では単独で【隧道】の術を使えず。

 土の精霊を【使役】の術で呼び出して使わせるしかないことであろう。

 

 ―― 一手足りない!

 

 土の精霊を呼び出している時間はない。

 呼び出して、術を使わせる―― 二手かかる!

 そのあいだに、仲間たちは岩盤の中に存在が確定して死んでしまう! 

 

 つまり、半竜娘自身が、いま、この瞬間、【隧道(トンネル)】の術を使うしかない!

 

 極限の集中で圧縮された時間の中で、もどかしいほどゆっくりと、実時間では一瞬で、半竜娘が祝詞を紡ぐ。

 

「『働け働けノームども! 楽しい仕事の後になら、ミルクとクッキー待ってるぞ』――!!」

 

 絶対に使えると、使わなければならないと、そう確信し、半竜娘は自分に言い聞かせた。

 

「岩よ、退けぇええええっ! 隧道(トンネル)】ゥゥウウウ!!!

 

 果たして。

 その祈りは届いた!*9

 

 周りの岩盤中から集まった土の精霊が、半竜娘たちが現れつつあった岩盤を穿ち、拡張し、空間をあけたのだ!!

 

「お、おお、やった、やったのじゃ!! これで助か――ガバボッ!?

 

 そして、次の瞬間には、転移門から次から次にと現れる深海の魔水によって、上へ上へと、押し流されていった。

 

 【隧道(トンネル)】の術が穴を開けた先には、死の迷宮(ダンジョン・オブ・ザ・デッド)の地下4階から地下9階までを貫く昇降機(エレベーター)立坑(シャフト)が存在したのだった。

 

 

<『5.ちょうどそのとき、地下4階では、小鬼邪神官を依り代に顕現した≪魔神の手(グレーター・デーモンズ・ハンド)≫が小鬼殺し一党によって昇降機(エレベーター)立坑(シャフト)に叩き込まれたところだった』 了>

 

 

 

*1
はじめてのおつかい:別におつかい自体は初めてではない。

*2
金獅子の国王:AA版のモチーフは銀河英雄伝説のラインハルト。また、外伝2の鍔鳴の太刀(ダイ・カタナ)の元ネタのKUMO様のAA作品的には、JOJO第三部の空条承太郎。AA作品中ではスターダストクルセイダーズ(SC)というパーティを率いていた。暗示するアルカナは『星』。

*3
赤髪の枢機卿:AA版のモチーフは銀河英雄伝説のキルヒアイス。また、外伝2の鍔鳴の太刀(ダイ・カタナ)の元ネタのKUMO様のAA作品のつながりから考えると、JOJO第三部の花京院典明もモチーフの一つだろうか。両者とも赤毛繋がり。暗示するアルカナは『法皇』。そのため大臣ではなく、枢機卿の役職なのだと思われる。

*4
褐色肌人の宮廷魔術師:外伝2の鍔鳴の太刀(ダイ・カタナ)の元ネタのKUMO様のAA作品的には、JOJO第三部のモハメド・アヴドゥルがモチーフだと思われる。暗示するアルカナは『魔術師』。宮廷魔術師の役どころにはぴったりだ。なお、銀髪の隠密侍女の養い親でもあろうと思われる。

*5
金等級の黒毛並みの犬の獣人:外伝2の鍔鳴の太刀(ダイ・カタナ)の元ネタのKUMO様のAA作品的には、JOJO第三部のイギーがモチーフと思われる。暗示するアルカナは『愚者』。無頼であるがゆえに配役は冒険者なのだろう。大怪鳥との死闘などの逸話を持つ。

*6
銀甲冑を着込んだ叩き上げの近衛の将軍:外伝2の鍔鳴の太刀(ダイ・カタナ)の元ネタのKUMO様のAA作品的には、JOJO第三部のジャン=ピエール・ポルナレフがモチーフだと思われる。暗示するアルカナは『戦車』。

*7
金剛石の具足:「ウィザードリィ#2 ダイヤモンドの騎士」が元ネタと思われる。意志をもつ兜・鎧・篭手・盾・剣を打ち倒して従え、この伝説のダイヤモンドの騎士の装具を揃えることがキーとなる物語。国王陛下は魔神王討伐こそ6英雄に譲ったものの、伝説の装備を一式手に入れる快挙を成し遂げているわけなので、剣の乙女らとも遜色ない戦闘力を持っていておかしくない。

*8
「いしのなかにいる」ときの残り一手:ウィザードリィシリーズで迷宮の壁の中に転移した時のメッセージ。そのまま進めるとパーティは全滅する。しかし、メッセージが出た状態のまま魔法を唱えることは可能であり(シリーズによる)、それによって再転移して生き残ることができる。

*9
半竜娘の【隧道】の習得:深海探索の終了処理により、一党全員に経験点1500点、成長点3点。これにより半竜娘の現在成長点は6点に。そのうち5点を消費し、冒険者技能【追加呪文:精霊術】を初歩段階で獲得。それにより、精霊術【隧道】を習得した。




 
半竜娘ちゃんの転移地点は、死の迷宮地下10階の[(E)10,(N) 0]の地点でした。石の中にいる! でもギリギリで成長点使って成長したので、トンネルの術で直上のエレベータシャフトに逃れることができました。セーフ!

===

◆王妹殿下について
原作では『姫は攫われるもの』という概念から逃れられなかった御方。
当作品では、
・転移門の鏡がある影響で国王陛下の疲労が少ないことから判断力にデバフがない、
・王宮をあまり空けないので妹の周囲のきな臭い雰囲気に銀髪侍女が気付く、
といったことから、家出→誘拐ではなく、囮として護衛をつけて外に出すという流れに改変。

===

原作小説14巻(2021/3/12発売)の試し読みがそろそろ掲載されるかもしれませんので皆さん要チェックどすえ。

===

感想評価&コメをありがとうございます! すでにこれまでもたくさんの方から評価感想いただいていまして、まこと、まっこと、ありがたい限りです! 特に前回は多くの感想をいただき、うれしゅうございました!
次回は、迷宮の中に転移しちゃった半竜娘ちゃんたち(全裸・鱗肌)の様子からですかねー。

◆盤外の様子(イメージ)
GM「次のシナリオは、PC主観で前回の海底探査のラストの1秒後からです ^ ^ 」
PL1「は?」 PL2「え、全裸なんですけど」 PL3「消耗品の補充が……」 PL4「せめて経験点と成長点は使わせてくれません?」
GM「出現場所はダンジョンの一番奥でーす」
PLs「「「「 殺意高くね? 」」」」
GM「外まで行ければロリっ娘たちがいて、ギルマンのところに置いてきた道具類を用意してるので上手く合流してね~」
 


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二周目レギュRTA 目指せ【辺境四天王】~魔導の光編~
33/n ≪死≫の迷宮(ダンジョン・オブ・ザ・デッド)-1(VS 将級魔神(アークデーモン) 水中戦)


 
閲覧、評価&コメント、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ここ好きタップをいただき、皆様ありがとうございます! 前話は2つに分けた上で王妹殿下視点を入れた方が見やすかったかなあ、と反省しつつ。反省は次に生かそう!

というわけで『山海を往く』編は終了となり、今回から新章『魔導の光』編になります。狂王の試練場(ダンジョン)からの脱出に、あの青白く輝く宝玉(スパーク)の関係と、あと王都見学とウィズボール(異世界やきう)の予定です(毎度のことながら予定は未定)。


●前話:
*いしのなかにいる*

 


 

 はいどーも! 俺が、俺たちこそがサメだ……! な実況、はーじまーるよー。

 

 前回は、深海でB級サメ映画じみた怪物に襲われたので慌てて【転移】の巻物でエスケープしたところまでですね。

 

 で、ここどこなんです?

 

 

 

*いしのなかにいる*

 

 

 

 

 

 

*おおっと*

 

 いや、おおおお落ちちちちつ着つつつけけけけけ(震え声)。

 

 まだこの状態では全滅確定してないはずです。ですよね!?

 でも転移呪文(マロール)使えない状態では対処のしようがないので詰みかも……?*1

 うむむ、【隧道(トンネル)】の術を使えば……でも精霊呼び出してる時間がない、いや、成長点使えば習得できる? 手持ちで足りないから―― あ、前のシナリオはクリア扱いで経験点と成長点が入ってる、これならなんとかいけるか? お、さっきの青白く輝く宝玉(スパーク)使えるじゃん。同化作用発揮すれば猶予が伸びて、そのあいだに、成長処理して、早速覚えた精霊術の【隧道(トンネル)】を使って――

 

 はい、一瞬だけ岩と同化して【隧道(トンネル)】の術で穴を開けてパパパっとやって終わりっ!

 

 ヨシ!

 

 工事完了です。ビューリフォー……。

 

 ええっと、開幕ピンチでしたが、なんとかなりました。

 半竜娘ちゃん一党が転移した場所は、どうやら悪名高き『≪死≫の迷宮(ダンジョン・オブ・ザ・デッド)』の最下層(地下10F)の岩盤の中のようですね。

 転移座標狂いすぎでは? 王国の南の海域から、北辺の霊峰の麓まで、国土を縦断する形で転移したみたいです。

 

 しかもなんか時計も狂ってますね。海に潜ったときから、数日経っているようです(まあ本人たちはまだ気づいてませんが)。

 深海の“呪われた船の墓場”では時間の流れが違っていたのかもしれません。

 海の底ではよくあること(浦島太郎並感)。

 

 あるいは転移事故の影響かもしれませんけど。

 ……あっ、TASさん(ティーアース)がなんかした系です? ひょっとして。

 今は時間と空間の精霊だし、元の権能を考えてもあり得るなあ……。

 

 

「「 がぼぼぼぼっ(マジ危なかったのじゃ!) 」」

 

げぼぼぼぼっ(今のヤバかったわよね!?)

 

ごぼぼぼぼっ(め、めがまわるぜ~??)

 

ぐぼぼぼぼっ(ここどこですかー!?)

 

 

 *いしのなかにいる* からのロストは回避できましたが、転移門から次々と実体化する深海の高水圧によって一緒に噴出されている状況なので、相変わらずピンチです。

 間欠泉みたいな勢いだぁ。

 

 鰓人の海司教がかけてくれた『海神の加護』のおかげで減圧症は回避できてますが、物理的に猛烈な勢いで吹っ飛ぶのまでは流石に軽減できません。

 海水と一塊になって包まれているとはいえ、下手に壁にぶつかるとミンチかモミジおろしです。

 

 まあ幸いにして、【隧道(トンネル)】の術で作った穴は上向きに開いたようで、しかも真上には縦長の空間があったようです。

 ここは『≪死≫の迷宮(ダンジョン・オブ・ザ・デッド)』ですから、おそらく昇降機(エレベーター)立坑(シャフト)の中を上階に向かって飛ばされてるんでしょう。

 

 間欠泉みたいな勢いで水と一緒に吹き飛んでますが、いざとなれば分身残影が維持している【力場(フォースフィールド)】を展開できるので、即死はしない、ハズです。

 吹き飛びながら下を見れば、シャフトがどんどんと、濃いマナを帯びた深海水で埋まっていっているのがわかります。

 

 あと立坑(シャフト)内には昇降機(エレベーター)筐体(きょうたい)もあるはずですが、幸いなことに、どうやらそれはトンネル直上(地下9階)ではなく、いくらか上の方の階で止まっていたようです。

 おかげで、地下10階(シャフトの底)からの脱出のために上へ開けたトンネルから出た直後に、筐体にぶつかって()()になるような事態は避けられました。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 さてと。

 シャフト内を吹き飛んでる途中ですが、今のうちに、全員の成長関係の処理をします。

 落ち着いた場所でやりたいですが、そんな余裕は今回は無さそうですからね。

 

 

 まずは半竜娘ちゃんから。

 *いしのなかにいる* 状態からの脱出のために精霊術の追加呪文【隧道(トンネル)】を獲得し、

 経験点を消費して魔術師Lv7→Lv8に上昇、【読心(マインドリーディング)】の呪文*2を取得し、

 追加獲得した成長点を消費して、一般技能【職人:魔道具】の技能を3段階目の熟練段階に上昇させました。

 

 これで主行動(メジャー)で【隧道(トンネル)】を使って敵の足下に深さ50mの落とし穴を作り、間髪入れずに自由行動(マイナー)で【降下(フォーリングコントロール)】で重力加速度3倍にして叩き落としてワンターンキルするコンボが使えます。*3単に足元に穴をあけるだけだとヒョイっと避けられちゃうので重力操作で叩き落とす必要が、あるんですね。

 そして新しく覚えた【読心】の呪文で、敵から情報を吸い上げられるようになりました。シティアド(市街戦)でも役に立つのはもちろん、敵からいろいろな技術知識を吸い出すのにも使えるはずです。……その際、異形の精神を理解してしまうことによる(アイデアロール成功からの)発狂(SANチェック)の危険までは責任持てませんが。

 魔道具職人としての腕も上げたので、海底からサルベージした魔道具の解析と合わせて、魔道具の自作が捗りそうですね。そろそろ真言呪文のスクロールの製作も射程圏内に入ってくるかもです。スクロール製作法自体は遺失知識なので、古くから存在する不死の呪術師(リッチ)や高位の魔神(デーモン)から【読心】で知識を吸い出してフラグを立てる必要があると思いますが(なお異形の精神と接続した場合はSANチェックが必要な模様)。火吹き山のオーナーに教えてもらうか、【夢拾いの枕】に適当な夢を詰めてもらうのが安牌(アンパイ)ですけどね。

 

 

 

 次に森人探検家ちゃん。

 職業レベルについて野伏Lv8→Lv9に上昇させ、

 獲得した成長点で冒険者技能【機先】を4段階目の達人段階に伸ばします。

 

 順当に弓兵としての技量を伸ばしています。

 先制判定のボーナスを強化したことにより、半竜娘ちゃんの【加速】を受けることによる2回行動の効果(バフ)が安定し、それを生かして弓矢をしこたま叩き込んでくるというわけですね(怖っ)。

 まあ今は海中探索のために弓矢は置いて来ちゃったんですけどね……(泣)。

 

 

 

 TS圃人斥候と文庫神官ちゃんは、前回パーッと成長させたので、経験点も成長点も貯まってません。

 今回は温存して、能力は据え置きですねー。

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 とかやってるうちに、噴出する海水に乗って吹き飛ぶ半竜娘一党は、上方に止まっていたエレベーターの筐体にぶち当たりました。

 位置的には地下6階くらいでしょうか。

 ここまで噴き上がるうちに、飛ばされる勢いも弱まっていたので、くるりと筐体の底の方に足を向け、天地逆さまに着地することができました。

 

 直後に今度は落下し始めますが、一番下から湧き上がる海水によって立坑(シャフト)が満たされていますので、墜落死は免れられそうです。

 そして下から満ちてきた海水に、緩やかに着水。

 

 そこからさらに水位が上がり続け、あっという間に昇降機の筐体の底面に付き、(おもり)とワイヤーを通している背面のスペースに少しだけ流れ込むと、その後は浮力により筐体を浮かせ始めます。

 と同時に、筐体自体が上の階へと昇り始めました。おそらく地下4階でボタンが押されたのでしょう。

 

―― 『DEEEMMOOOHHHAANNNDDD!!』

 

「んん? なんか上から声がするわ。あと、神聖な……奇跡系統の呪文の気配も。音の反響から察するに、【聖壁(プロテクション)】でこの立坑を塞いでるのかしら」

 

 森人探検家の鋭敏な感覚が、昇降機の筐体の上から響く混沌の眷属の叫び声と、聖なる神の御業の気配を捉えました。

 使われている奇跡は、【聖壁】のようです。

 

「敵かのう? 誰か戦っておるのかや?」 

 

「うへぇ、ちょっとは休ませてくれよー」

 

「というか戦うなら鎧と服が欲しいです。置いて来ちゃったのは失敗でした。退魔の剣があるからやれなくはないですけど……」

 

 とか何とか言いつつ、全員が戦闘に備えます。

 

 ちなみにエレベーターシャフト内を描画するとこんな感じになります。

 半竜娘ちゃんたちはペンギンの格好で描写してますが、実際は甲羅のないウミガメというか、美人な河童の方がイメージに近いかもですね。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 【聖壁】―― 魔神の手―― エレベータ。

 あっ。

 この配置は……。

 

「おっ、上昇が止まったのじゃ」

 

「水位は上がってるし、昇降機っぽいやつの機構は動いてるみてーだけどな」

 

 少しすると、上昇していた筐体が、何か(聖壁)に阻まれて止まりました。

 しかし、筐体は上に行こうと引っ張られ続け、また下からは海水によって押し上げられています。

 当然、間に挟まれたものがどうなるかというと……。

 

―― 『DEEE――MM!!??――NND!??――……DD!!??……――!! !!!?? ??!!! !!!??』

 

 敵の断末魔(腕しかないのにどこから出してるんだ)が響き、そして――

 

――ぶチゅッ。

 

 あーあーあー。

 ひどいことしやがりますねぇ。

 一体どこの誰がこんな卑劣な攻撃を……(棒)。

 

 肉や骨がつぶれるような音とともに、筐体の上から、魔神の穢れた青い血が滴って、シャフト内のマナに満ちた海水と混ざります。

 

 ……そろそろ下の転移門(ゲート)も閉じたでしょうかね。

 水の増加も止まったようです。排水能力がないのか弱いのか、水位は下がる気配を見せませんが。

 

「ええと。なんか知らないうちに敵は倒せたみたいね」

 

 すすすっと、さりげなく魔神の血が混ざった水域から泳いで距離を取る森人探検家。

 

「“魔神の生絞り~”ってか? うへー」

 

 TS圃人斥候もうんざりした顔です。

 

「倒せたというか、誰かがトドメを刺すところに居合わせた、という方が正確なのかもしれませんよ、これ」

 

 退魔の剣を突き出して、魔神の血が混ざった水を浄滅する文庫神官の考察は、おそらく正しいでしょう。

 

「あー、壁系の呪文と、この上の鋼鉄の(ハコ)で挟んで潰したんじゃろうなあ。きっと【聖壁(プロテクション)】で蓋をしておったんじゃろう。

 ……ところで、こういう手を使いそうな一党に、手前は心当たりがあるんじゃが」

 

「わたしも」 「オイラも」 「お姉さまと同じく」

 

 遺跡のギミックを利用するのはマンチ冒険者の嗜み。

 

 まーたぶん、ゴブスレさんたちでしょう。十中八九は。

 

 折角なので合流したいところですね。

 と、空気がゆるみかけたそのとき。

 

「……待てっ、戦闘態勢を解くな!」

 

 何かに気づいたTS圃人斥候が、注意の声を上げました。

 

 他の面子も気づいたようです。

 

「血が集まって……海水に溶けた呪いのマナを吸っておるぞ!」

「……血の魔法陣が! これは……上位魔神の血を触媒に、さらに上位の魔神が現れようとしているの!?」

「退魔の剣も、反応しています!! 何か……強力な悪魔が……来ます!!?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 \ババァア――z__ァン!/

 

ARRRC(ここは……)CH……DEM(死の迷宮、)OOOONN(あの懐かしの)

 

 現れたのは、豪奢な衣装を身にまとった女型の悪魔。

 身の丈は半竜娘と同じ程度もあり、決して只人ではないことを示しています。

 そしてなにより濃厚な闇の魔力……!

 

「魔神将級!?」

 

「……ここで仕留めるのじゃ!! 水中であれば、動きも鈍るはずじゃし、吹雪も炎も封じられる! 装備がない現状、地上・空中ではかえって不利じゃ!」

 

 森人探検家の驚愕に、半竜娘が被せて指示を出します。

 今の半竜娘ちゃんたちは、水中行動適性を高めた状態のままですので、シャフトに満ちた水の中でも地上と遜色なく動くことができます。

 ならば、相手が魔神将級の最上位の魔神であればこそ、一方的に水中行動のペナルティを押し付けられるこの状態を逃すことはできません。

 

「周囲の水を清めます! これ以上、呪いのマナを(むさぼ)らせはしません!! 『蝋燭の番人よ、汚濁を取り除く我が手元に、どうか一筋の灯火を』―― 【浄化(ピュアリファイ)】!!」

 

 深海の魔水を糧に、さらなる悪魔が召喚されないように、また、アークデーモンの力を削ぐためにシャフトに満ちる海水の呪いと、そこに混ざった魔神の血を浄化。

 聖水と化した水により、魔神が苛まれます!

 

ARRRRRRCC(小癪な真似を)CCCCHHH!!!(するな、人間!!)

 

「ぐっ、狂気の波動(サイコウェーブ)……!?」

 

 しかしそれに腹を立てたアークデーモンの魂が放った狂気の波動が、一党の魂を揺さぶります!

 抵抗に失敗すれば、魂を打ち据えられて行動不能になってしまいますが……*4*5 全員、抵抗に成功しました! 水中ペナルティとデバフが大いに効いています!

 

「動けるかや!?」

 

「平気!」 「余裕!」 「なんとか……!」

 

 しかし狂気の波動によって態勢を乱された隙に、敵のアークデーモンは水中を力任せに泳いで接近してきます!

 

DDEEEEMM(まずはその)MOOONNN!!!(目障りな聖剣から!)

 

 標的に(ターゲッティング)されたのは、退魔の剣を持っている文庫神官です。

 アークデーモンの鋭い爪が、水中で(ひるがえ)ります!

 

「させねぇっつーの!!」

 

 しかしその動きを読んでいたTS圃人斥候が、アイテムボックスから財宝回収用の(あみ)を取り出して、女魔神の進路上に置くように構えていました。

 

「絡まれ!!」

 

ARRRRCCHHH(こんなもの)DDDEEEE(すぐに爪で)MMMMOONN!!!(切り裂いてやる!)

 

「そういうときのための魔法だっつーのな! 『クラヴィス()カリブルヌス(鋼鉄)ノドゥス(結束)』――【施錠(ロック)】!」

 

 絡みついた網が、【施錠(ロック)】の呪文の魔力によって覆われ、非常に強固な拘束となります。

 

「今じゃ、合わせよ!」 「もちろんじゃ!」

 

 動きが止まった女魔神へと、鰭翼で泳ぐ分身に曳かれた半竜娘が突っ込みます!

 聖水と化した水中で、網に絡めとられて拘束された女魔神に逃れるすべはありません。

 本体と分身の2体がかりの、両手の爪の二刀流で、【加速】の効果により2回攻撃―― 2の3乗で合計8回攻撃です!

 さらに【竜爪(シャープクロー)】の術により、装甲貫通効果も加わります!

 

 全て積算すると、8D321322121+112+29D662261122213662124333315323431209ダメージ!

 

「オオオオオオオオッ!」 「ヤアアアアアアアッ!」

 

 サメのように迫る分身の鰭翼が刃となり、本体の鋭く太い爪が泡の軌跡を残し、螺旋を描くように女魔神の全方位から斬り裂きます!

 

AAAAAARRR(アアァァァア)RRRRRRH(アアアアア)HHHHHH!!??(アアアアッ!?)

 

 両翼、両腕、両足、尾―― そして上半身と下半身!

 8断面9分割のバラバラだ!

 

 アークデーモンの生命力は200なので、手加減して瀕死の状態に追い込むことにしました(残りHP1)。

 さらに8連撃のうち1発はクリティカルしているため、気絶させることに成功しています。

 

AARRRHH!!?(アアッ!?) ――…………』

 

「ふぅ、どうなることかと思ったのじゃー」

 

 生け捕り(?)成功、です。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 一方その頃。

 

 『≪死≫の迷宮(ダンジョン・オブ・ザ・デッド)』の地下4階では、満身創痍の小鬼殺し一党が、固唾を呑んで、エレベーターの方を見守っていた。

 

 小鬼邪神官(ゴブリンプリースト)の血肉を喰い破って顕現した上位魔神の手(グレーターデーモンズ・ハンド)、それが放った氷の嵐を呼ぶ呪文(マダルト)は、彼ら一党を散々に打ちのめした。*6

 しかしその呪文の余波で凍った床を逆手に取った小鬼殺しの機転によって、敵をエレベーターシャフトへと叩き落とすことに成功したのだった。

 

「……流石に、これで、倒せました、よね……?」

 

「たぶん、ね……」

 

 錫杖に縋りつくようにして立つ女神官に対して、魔神の腕によってひどく打たれた箇所を押さえながら蹲る妖精弓手が弱々しく答えた。

 

 敵をエレベーターシャフトに落とし、そこに【聖壁】で蓋をし、昇ってくる筐体によって挟み撃ちにして圧し潰したのだ。

 いくら腕だけで動くような、この世の理から外れた魔神であっても、ぺしゃんこにしたのだから、死んだ、はずだ。

 

「死闘、でございました、なぁ」

 

 その身体の大きさで、一党を吹雪(マダルト)から守った蜥蜴僧侶は、すっかり凍えてしまい、祖竜術の歎願すらもできないほどに消耗しつくしている。

 

(ワシ)の術もからっけつじゃわいな」

 

 ふぅーーっと長い息をついて、酒瓶から火酒を(あお)った鉱人道士。

 一党の術の残り使用回数は、既に底をつきつつある。

 

 まだ、この階(地下4階)にも、それより上の階にも、迷宮を囲む街の跡にも、小鬼が残っているというのに。

 

「……構えろ。何かが来る」

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)が、打たれ、凍えて、痛む身体に鞭を打ち、盾を構える。

 

「もう、勘弁してよぉ……」

 

 妖精弓手が長耳を垂らして弱音を吐きつつも、しかしすぐに気を取り直して、眼光鋭く、ゆっくりとではあるが立ち上がった。

 他の面々も、それに続く。

 

 

 小鬼殺しが睨む先は、ブルーリボンが導く扉の向こう、まるで船のように不自然に揺れる昇降機の筐体―――― ではなく、扉のすぐ手前の床だ。*7

 

「来るぞ」

 

 次の瞬間。

 石造りの床が、超自然的に(たわ)み、そこに斜めの大きな穴が開き―― 勢いよく水が噴き出した!

 

「……()()()()()

 

「俺ではない」

 

「知ってるわよ」

 

 そしてその中から現れたのは――……

 

「ひっ、て、手足……?」

 

 女性のものと思われる、左腕、右腕、右足、左足、腰。

 女神官が悲鳴を上げて錫杖を薄い胸に引き付けるのも無理はない。

 まるで猟奇殺人事件だ。

 

「いや待て、こりゃあ【隧道(トンネル)】の術じゃぞ。それに腕も足も人間のものじゃねえ……こいつらまだ動いて――」

 

 続いて穴から吐き出されたのは、切り離された悪魔の翼、悪魔の尻尾。

 そしてその後に現れたのは――……

 

「イイィヤァァアアアアアッ!! 【辺境最大】、参上ォッ!!」

 

 ―― 瀕死の女魔神の胸から上を片手に持ち、もう片方の手でそいつから引きずり出した心臓を握った半竜娘ちゃんでしたー! いよっ、我らが主人公!

 

 

 でもこの登場は、絶対ホラー枠だと思うの。

 え? ヒーロー着地したから相殺されてる? それネックハンギングした女魔神(胸より上だけ)を床に叩きつけたついでじゃん?

 

「おう! やっぱり小鬼殺し殿じゃったか!」

 

「ああ……そうだな……」

 

「あ、あんたねえ! 紛らわしいのよ!! 敵かと思ったじゃない!!」

 

「がっはっは! そいつは済まなんだ!! ―― で、結局ここはどこなんじゃ??」

 

 次々穴から吐き出(水揚げ)される半竜娘ちゃんの仲間たちを背景に、今回はここまで。

 ではまた次回!

 

 

*1
マロール:Wizardryの呪文。転移呪文。岩盤の中を指定して転移することもできるし、この呪文でしか入れない場所もある。

*2
読心マインドリーディング:相手の思考を読み取る呪文。対応する真言は『アリエーヌム(他者)アッフェクトゥス(想念)アッキピオ(取得)』。なおこれにより組み合わせで使えるようになる(邪道習得できる)他の呪文はなかった。

*3
隧道トンネル+降下フォーリングコントロールのコンボ:[落下距離50m×重力加速度3÷2×1D6]ダメージ=75~450ダメージを叩きだせる。重力加速度の倍率は下がるものの、低レベルの精霊術士でも使えるコンボの一つ。

*4
アークデーモンの狂気の波動:基礎値[2D621+29]-水中ペナ8-浄化による聖水ペナ2=22

*5
狂気の波動に対する魂魄抵抗判定(目標値22)

半竜娘(本体):魂魄反射12+冒険者Lv10+沈着冷静1+加速5+2D643=35 ○抵抗成功!

半竜娘(分身):魂魄反射12+冒険者Lv10+沈着冷静1+加速4+2D634=34 ○抵抗成功!

森人探検家:魂魄反射5+冒険者Lv7+加速5+2D625=24 ○抵抗成功!

TS圃人斥候:魂魄反射9+冒険者Lv7+加速5+2D615=27 ○抵抗成功!

文庫神官:魂魄反射8+冒険者Lv6+加速5+2D623=24 ○抵抗成功!

*6
マダルト:Wizardryの呪文。敵グループに吹雪による大ダメージ。グレーターデーモンも使ってくる強力な呪文。四方世界においてはブリザードの呪文にあたる。

*7
ブルーリボン:Wizardry #1の迷宮には地下4階まで降りられるエレベーターと、地下4階から地下9階に降りられる従業員用(プライベート)エレベーターがある。後者を稼動させるためにブルーリボンというアイテムが必要となる。小鬼殺し一党は、剣の乙女から借りている。




 
女魔神「(将級の魔神の手足は、切り離したくらいじゃ死なない。不意を突いて全部動員して……)」
文庫神官「いらないパーツは退魔の剣でジュッてしときますねー」 ジュッ ジュッ ジュッ ジュッ
女魔神「AAAARRRRRR(私の腕! )RRHHHHH!!!!(足も!!!)
半竜娘「首から上だけは今は残しとくからの。あとで脳髄から【読心】で知識を搾り取りたいんじゃ。他は(メッ)しておいてくりゃれ」
文庫神官「はいお姉さまー! ヨロコンデー!」 ジュッ ジュッ ジュッ ジュッ
女魔神「AAAARRRRR(私の身体がぁ!? )RRRRRRHHHHH!!??(せっかく顕現したのに!!?)
半竜娘「あーんむ。心臓モグモグうまー、なのじゃ」

妖精弓手「……あの子たちって“善”のパーティだったわよね?」
女神官「そのはずです。多分。まあ魔神相手ですし、姿形が近いからって同情するのもどうかと思いますが」
妖精弓手「……。それもそうね!」
女神官「それより皆さんが服を着てないのが気になります。代わりに鱗が生えてますし、いったいどうして迷宮の床から現れたんでしょう」
妖精弓手「水浴びでもしてたんでしょ、きっと」

まーどうせ、魔神の肉体なんて単なるアバターでしかないと思うのでジュッとされてもモグモグされても大した問題じゃないでしょう。

===

原作小説14巻(2021/3/12発売)の試し読みが掲載されてます! やった! ヒロインズの描写重点で可愛いぞコレ~。
目次の頁の画像には重戦士さんと女騎士さんのデフォルメ絵が載ってますね。試し読みのカラー口絵(全身イラスト)もこのお二人でした。目次画像は公式ツイッターのツイートから見られますので是非。

===

感想評価&コメをありがとうございます! どうぞお気軽に感想をお書きいただければ幸いです!
次回は迷宮脱出&迷宮街突破戦になるかと。
 


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33/n ≪死≫の迷宮(ダンジョン・オブ・ザ・デッド)-2(迷宮脱出)

 
新刊(原作小説14巻)楽しみですね!(挨拶) 閲覧、評価&コメント、お気に入り登録、誤字報告、感想記入、ここ好きタップをいただき、皆様ありがとうございます!

●前話:
獲れたてピチピチ、半竜娘一党!

===

Q.女魔神って、ウィザードリィに出てくるモンスターで言うと、サッキュバスなの? アークデーモンなの? あと、ウィザードリィ#1ではアークデーモンもサッキュバスも出てこない気が。(→参考画像 サッキュバスアークデーモン。いずれもウィザードリィのファンサイト「得物屋」様に掲載のもの。)

A.ゴブスレ外伝2(ダイ・カタナ)的には、国王陛下がかつて金剛石の騎士(Knight of Diamonds)KoDs(コッズ))装備を手に入れたのも恐らく『≪死≫の迷宮』だと思われるので、ウィザードリィ#2(KOD)から登場したアークデーモンも死の迷宮にいたことがある、と想像しました(あるいは初代の金剛石の騎士(国王陛下)が#2の舞台である「ダバルプスの呪いの穴」の中で果てずに踏破した世界線なのか、それとも、まだ#2のシナリオが発生していないのかもしれません)。いや、装備は実家(王城の宝物庫)から持ち出したんだったかな?
あと、四方世界のこの迷宮には魔神王が巣くっていたので、そりゃ王が居れば将(=魔神将)もいただろう、と。
サッキュバスもウィザードリィ#2から出ますが、前話の女魔神はサッキュバスよりは格上で、アークデーモンの女性版というイメージです。服も着てますしね(サッキュバスは全裸)。

 


 

 はい どーも!

 ダンジョンそれは神秘……な実況、はーじまーるよー。

 

 前回は小鬼殺し(ゴブスレさん)の一党と合流したところまででしたね。

 腹のところから上だけの女魔神を掴んで心臓を取り出して(むさぼ)り食う半竜娘ちゃんの姿は、まさに蛮族!

 魔神の腕の攻撃を受けた後遺症で凍えて震える蜥蜴僧侶さんが、羨ましそうに血の滴る心臓を見てる気がしますが、もう子供じゃないんだから獲物を分け与えたりはしませんよー。

 

 半竜娘ちゃんは、痙攣する女魔神の腹から上(首+トルソー)を片手で吊るし(上位の魔神は心臓抜いたくらいでは死なないようです)、もう片方の、心臓を握っていた側の手に付いた血を舐めながら、周囲を見渡します。

 

 どうやらここは、石でできた玄室のようです。

 

「……ふむ」

 

 周囲の壁を見れば、拷問の末に事切れたと思しき冒険者や商人、旅人の遺体が鎖によって繋がれています。

 恐らくは何かの儀式に使われたのでしょうが、今は清められているようです。女神官ちゃんが敵の儀式を止めるために【浄化】したのでしょう。

 

 あとは殺されて地面に倒れ伏している幾匹もの小鬼。

 

 そして、満身創痍の小鬼殺し一党。

 

 となれば、壁に繋がれた犠牲者たちは、小鬼に(もてあそ)ばれた者たちの成れの果てなのでしょう。

 

「のう、小鬼殺し殿」

 

「なんだ」

 

「ここはどこなんじゃ?」

 

 そうですね、流石の半竜娘ちゃんでも、これだけの情報じゃあ、ここがどこか分かりませんよね。

 

≪死≫の迷宮(ダンジョン・オブ・ザ・デッド)。地下4階の昇降機前だ」

 

≪死≫の迷宮(ダンジョン・オブ・ザ・デッド)? この国の北の果てではないかや!」

 

 驚いた半竜娘ちゃんは、しげしげと周囲を見回します。

 森人探検家たち、一党の他のメンバーも「ここがあの……」 などと言っています。

 

「それより、そんなことも知らずに、あんたたちはどうやってここまで来たのよ……」

 

 息も絶え絶えな妖精弓手に対して、半竜娘ちゃんが答えます。

 

「あー、深海の呪われた海域で宝探ししたあと、【転移】の巻物で飛んだら、ここについたのじゃよ――……って、お主、ケガしとるな? あとは叔父貴殿も具合が悪そうじゃな……」

 

 妖精弓手さんの様子や、凍えた蜥蜴僧侶さんを見た半竜娘ちゃんが眉を下げました。

 

「さっきまで『魔神の手』と戦ってたのよ……アイタタタタ……」

 

「手当てするのが先じゃな。こっちも物資はろくに持っておらんが、灯明の娘(文庫神官)が癒しの術を使えよう。手前も、()()()()の始末が付いたら手当を手伝うのじゃ」

 

 そう言って半竜娘ちゃんは、片手に持った女魔神(首+トルソーのみ)を掲げてみせます。

 ちなみに、分断した四肢や他のパーツは、文庫神官ちゃんが退魔の剣で浄滅して回っているところです。

 将級の魔神(アークデーモン)ともなれば、四肢分割しても、それぞれのパーツは死なずに生きているようですからね。デーモンに特攻(アドバンテージ)取れる武器(退魔の剣)があって助かりました。

 

「というても、手前らも物資や装備がないし、並行して、壁の亡骸から拝借させてもらおうかの」

 

 半竜娘は空いた方の手で周囲の遺体たちに片合掌すると、TS圃人斥候の方に向き直りました。

 

「おーい。やはり装備がなくば始まらん、ここが≪死≫の迷宮(ダンジョン・オブ・ザ・デッド)じゃというならなおさらじゃ。緊急事態じゃから、遺体から少し失敬するのは許されるじゃろ」

 

「おっけーだぜ。ちょうど部屋全体も地母神の御加護で清められてるし、きっと装備も一緒に綺麗になってるだろ。洗わなきゃなんねーにしても、さっき海水を浄化して聖なる真水になったのもそこらにあふれてるしな。体格的にリーダーに合う装備はねーかもしれねーが、他の面子のなら適当にオイラが調整できると思うぜ」

 

 そう答えると、TS圃人斥候は早速、壁際に鎖でつながれた遺体の方へと向かいます。

 彼ら小鬼の犠牲者たちの装備を拝借するためです。

 

「そしたら頼んだのじゃ。そっちの地母神の巫女殿もお目こぼししてくりゃれよ? 緊急事態じゃもの」

 

 女神官ちゃんに向かってウィンクした半竜娘ちゃんに、さすがの女神官ちゃんも「……そう、ですね」と疲労からか言葉少なに返しました。

 間に合わせの装備の手配の次は、小鬼殺し一党の手当ての方を進めましょう。文庫神官ちゃんに着手してもらいます。

 

「さて、魔神のバラバラパーツの処置も終わったみたいじゃし、お主は小鬼殺し殿たちの手当てを頼むのじゃ」

 

「はい、お姉さま!」

 

「【竜鱗】のポーションの効果はあと少々は持つじゃろうから、そんな格好で済まんがよろしくなのじゃ」

 

「ええ、今はそんなこと気にしてる場合じゃないですし、服だって、無いものは仕方ないですし……」

 

 ということで、遠目に見ればぴっちりしたボディスーツのようにも見える【竜鱗】状態で、文庫神官は小鬼殺し一党の手当の方に向かいました。恥ずかしがってる場合じゃないですもんね。

 文庫神官ちゃんの呪文使用回数は3~4回は残っていると思うので、【小癒(ヒール)】を使ってゴブスレさんや妖精弓手さんを戦線復帰させるには十分でしょう。

 

 消耗した女神官ちゃんも、よろよろとそれに続きます。お手伝いのためでしょうか。

 あ、錫杖(奇跡行使+1)を一時的に貸してくれるみたいですね。助かります。

 あと冒険者セットから包帯を取り出して文庫神官ちゃんに渡してくれました。サラシみたいに胸と腰に巻けそうですね。さすが、気が利きます。

 

 蜥蜴僧侶さんの方は、消耗がひどいので、あとで半竜娘ちゃんの分身ちゃんの方に【賦活(バイタリティ)】を使ってもらわないとダメそうですね。

 なんでも、吹雪の呪文を食らったのだとか。

 蜥蜴人が寒さに対して絶滅的に弱いのは、致し方ないことです……。

 

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 

「さーてお待ちかね、尋問たーいむ! じゃ」

 

AAAARRR(拷問する気!? )RRHHHH!!(やめなさい!)

 

 ウキウキしている半竜娘に、女魔神(せんりひん)がわめき散らします。

 身体の大部分を削ぎ落とされて、心臓を抜かれたのに元気ですね。

 それほど、“呪われた船の墓場”から溢れた海水に含まれていた呪いのマナが豊富だったのでしょう。

 

間怠(まだる)っこしいことは抜きじゃ。アリエーヌム(他者)アッフェクトゥス(想念)アッキピオ(取得)―― 思考 直結・転写・【読心(マインドリーディング)】!!」

 

 半竜娘ちゃんの、他者の思考を読み取る真言呪文が、女魔神(アークデーモン)に対して行使されます。

 紅玉の杖(真言呪文行使+1)は置いてきてしまいましたが、呪文発動体や知力強化の指輪は、かさばらないので持って来ています。すでに水中適応のための装備から、できる限り普段の装備に戻しています。

 さらには、分身体に場のマナの流れを整え(支援効果:呪文行使判定+10)させることで、効力を増強させます。*1

 

「いろいろと喋ってもらうのじゃ―― お主の魂にな!!」

 

『AAAARRRHHHHIIIEEEE!!??』

 

 ということで、アークデーモンから記憶を搾り取ります。なんとか抵抗を貫通できました。

 魔神将級はやはり強力ですね、レベルカンスト冒険者にフルバフ積んでやっと拮抗できるバランスでしょうか。因果点積んでクリティカルさせるのが前提なのかもですね。

 

 この≪死≫の迷宮(ダンジョン・オブ・ザ・デッド)の構造や、そこに秘められたギミック―― 例えば、この迷宮中で敵を殺した時に散る≪死≫の魔力を宝箱に変換する方法

 太古の魔術師たちの時代の知識である、高度な魔道具の作り方や、【転移】などの失われた呪文の知識、呪文を巻物に封じる方法など。

 また、魔神たちの住む次元の勢力図や、四方世界へ仕掛けている現在の企み、そして魔神の使う化身(アバター)の構造と弱所について。

 

「ぐっ、これ以上深く接続するのはマズいようじゃな……」

 

 しかし、異界の魔神の魂に接続することは、諸刃の剣でもあります。

 つまり正気を削るのです。*2

 

 ……ギリギリのラインを見極めたことで、なんとか正気の縁に留まりました。

 

「ふぅ」

 

『AAAIIIEEE…………』

 

「うむ。これでこやつは用済みじゃな。いよいよもって死ぬがよい!」

 

 早速、魔神のアバターの構造についての知識を応用し、また、迷宮で現れる宝箱に関するシステムへとマナを流しつつ、【竜爪】を宿した爪で切り裂くことにします。

 

 女魔神の腕なし上半身を宙に投げ上げ、魔神の存在の核へ向けて爪を振りかぶります。

 

「セィヤァアッ!!」

 

『AABBBBAAAAA!!??』

 

 これでトドメです! サヨナラ!!

 

 祖竜の加護が宿る爪によって、存在の核を的確に両断された女魔神が、断末魔とともにマナに還っていきます。

 そしてその一部がダンジョンに流れ込み、かつて、ここに挑んだ冒険者に宝物をもたらしていたシステムを再稼働させました。*3

 

「??? うん? 宝箱はどこじゃ? マナが流れた手ごたえはあったんじゃが」

 

「ねえ、あそこに宝箱なんてあったかしら」

 

 森人探検家の言葉に振り向けば、いつの間にか玄室の一角に、3つの宝箱が現れていました。その傍らには金貨と銀貨の小山も。

 先ほどまではそこにはなかったはずなのに、です。

 周囲を見回しますが、皆、目を丸くしているだけで、誰も宝箱が現れる瞬間を見た人はいないようです。

 

「おお! 成功したのじゃ!」

 

「おいおいまじかよ! リーダーすげーな! これがあの≪死≫の迷宮の宝箱かよ!!」

 

 そして、壁の遺体を下ろしてから装備を剥がして手入れしていたTS圃人斥候が早速その宝箱の方へと飛んでいきます。

 

「さーて、何が出るかなー! 唸れ、オイラの黄金の指先(ゴールデンフィンガー)!」

 

 さっさと取り付くと、あっという間に罠を外し、開錠してしまいます。

 目にもとまらぬ早業です。

 

 宝箱の中からそれぞれ現れたのは、不確定名[?けん] [?たて] [?いし]の3つです。*4

 落ち着いた場所で『【鑑定】の手袋』を使って識別してみたいところですが、いまはその鑑定の魔道具は持ってないので後回しです。流石に未鑑定品を使う気にはなりませんので、しまっておきます。

 

 いやしかし、幸い、罠はすべて無事に解除できたようで良かったですね。

 

「罠で吹っ飛ばずに済んで良かったのう」

 

「ま、オイラに掛かればザっとこんなもんよ!」

 

「流石じゃの。……じゃあ、手前は小鬼殺し殿らの手当てに行こうかの。お主は引き続き、遺体から拝借した装備の調整を頼むのじゃ」

 

「おっけー、任せとけ!」

 

 特に急がなければならない理由もな―― え、「魔神の手との戦いの音を耳にして小鬼たちが集まってくるかも知れない」?

 じゃあとりあえず最低限の手当と準備が終わったら、移動しなきゃですかね。

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 わくわくパーティー編成の時間だよー!

 

 文庫神官ちゃんと半竜娘(分身)ちゃん、そして召喚した“蛟竜の水精霊”の癒やしの術で、ゴブスレさんたちも十分回復し、動けるようになりましたので、別の玄室に移動しました。

 分身ちゃんは過労で消滅したので(いつものこと)、半竜娘ちゃん本体が装備を更新したのを反映するのも兼ねて、【分身】の術で再作成しています。

 

 半竜娘ちゃんたちは、殺されていた冒険者たちの遺体から拝借した装備を身に付け、なんとか体裁を整えたところです。

 特に、森人探検家ちゃんの弓矢と、文庫神官ちゃんの盾が手に入ったのは良かったです。

 流石に、普段使っている魔法強化された武器防具よりは数段グレードが落ちますがねー。

 

 

 で、まあ、パーティー編成ですよ、パーティー編成。

 先ほど出てきた宝箱を破砕して薪にし、全員で暖をとりながら、パーティーのリーダー同士は話し合います。

 

 全員で迷宮の地上出入り口まで移動できれば良いのですが、この迷宮の通路は、せいぜい前列3人後列3人の6人編成までが限界だろうとのこと。

 それ以上はかえって動きづらくなってしまいそうです。

 

 ゴブスレさんたち一党は、

 ・ゴブスレさん

 ・女神官ちゃん

 ・妖精弓手さん

 ・鉱人道士さん

 ・蜥蜴僧侶さん

 の5人なので、あと1人の枠があります。

 

「そちらの呪的資源(リソース)も減っておろうし、出し直した手前の分身をつけるのが良かろうと思うのじゃが」

 

「そうだな……」

 

 半竜娘ちゃんの提案を受けて、ゴブスレさんは件の分身ちゃんの方を上から下まで見ます。 装備は継ぎ接ぎの『ぬののふく』という感じですが、呪文はまだまだ3、4回は使えるということですし、その種類も多いです。蜥蜴人なので近接もいけますし。

 ただ……

 

「その巨体だと、2人分換算になるのではないか?」

 

「…………。あっ! そうかもしれんのう!」

 

 今気づいた! という感じで、半竜娘ちゃんはゴブスレさんの指摘に手を打ち合わせました。

 直立したグリズリー級もある半竜娘ちゃんの巨体だと、少なくとも1.5人分には換算するべきでしょう。

 5人パーティに加わるのは難しそうです。

 

 そしてそれは半竜娘ちゃんたちの方も同じこと。

 あまりの巨体のため、半竜娘ちゃんと分身ちゃんを隊列に組み込んだときは、3人ではなく、半竜娘ちゃん+1の2人までしか横に並べなさそうです。

 

 あとはそれぞれのパーティーメンバーの技能を鑑みると……。

 

 

 

「ええー、お姉さまとは別行動ですかぁ……」

 

「すまんのう、向こうに盾役(タンク)を入れた方が安定するじゃろうからな」

 

 寂しがる文庫神官ちゃんを、半竜娘が宥めます。

 一時的に向こう(ゴブスレさんチーム)に加わってもらうのです。

 

 しかしまあ、文庫神官ちゃんもプロですから、すぐに切り替えて「はぁい」と快諾してくれました。

 文庫神官ちゃんは、先ほどの治療で術を節約したので使用回数が1、2回は残っていますし、装備は間に合わせとはいえ、タンクとしての技量は確かです。

 きっとゴブスレさんチームの生還に一役買ってくれるでしょう。

 

「靴が自前のじゃないので若干不安ですが、頑張ります!」

 

「あー、只人や森人は靴が要るんじゃよなあ」

 

 足まわりは冒険者の生命線ですからね。

 足に布を巻いたり、TS圃人斥候が靴を調整してくれたりしていますが、普段の装備ほどではないでしょうし。

 とはいえ、小鬼相手なら余裕を持った立ち回りができるので、大丈夫でしょう。

 

 というわけで、二手に分かれてゴブリンを掃討しながら上階に向かいます。

 ゴブスレさんたちは、剣の乙女謹製の地図の写しを持ってますし、半竜娘ちゃんもさっき女魔神から吸い上げた知識を活用できるので迷うこともないでしょう。

 

「出発じゃ!! 手前らは左手を迷宮の壁につきながら」 「小鬼殺し殿らは右手をつきながら、ということじゃな」

「で、階段に着いたらそのまま昇る、と」

「おっけー。怪我しねー程度に行こーぜー」

 

 こっちのチームは半竜娘(本体&分身)、森人探検家、TS圃人斥候です。

 

 さあ、冒険者たちよ! 迷宮からゴブリンを駆逐せよ!!

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「全然わたしたちの出番ないわねー」

 

「まーなー」

 

「イィヤァアアアッ!!」 「でりゃぁあああっ!!」

 

『GGOOBB!?』 『BBBOOGG!!』 『GBRRIN!?』 『RROOOB??!』

 

「そりゃゴブリン程度一撃だよなー。魔神の心臓喰って滾ってるっつーのもあるだろーけど」

 

「あ、宝箱出たわね」

 

「つってもゴブリンから出るのなんてたかが知れてるだろうしな」

 

「罠のリスクとは見合わないわよね」

 

「なので、これは武器に使うのじゃ」 「玄室を蹴り開け(キックオープンし)て投げ込むんじゃよ」

 

「お疲れさま」

 

「それって爆発罠引いたら大当たりじゃん?」

 

「あ、それ見てみたいわね」

 

「乞うご期待じゃな」

 

 

 

―――― KABOOOMMM!!

 

『『『『 GGOOBBRROOOB??! 』』』』

 

 

「やったぜ」

 

「いい感じに吹っ飛んだわねー」

 

「生き残りを蹂躙じゃあ!!」 「我が鮮血呪紋は血に飢えておるわ!!」

 

「楽でいいわね。矢の残りを減らさなくていいならその方がいいし」

 

「にしても腕の鮮血呪紋で向上したリーダーの継戦能力、えげつねーなー」*5

 

「雑魚相手だと特にねー。ん、あれが最後ね」

 

「あ、またいつの間にか銀貨が落ちてるぜ。宝箱もだ」*6

 

「リーダーがダンジョンの仕組みを起こしてくれたおかげね。稼働は一日にも満たないだろうって話だけど、十分。これも積み重ねれば結構な金額になりそう」

 

「出てきた宝箱はまた投げるのじゃ」 「投げるのに手ごろじゃからなー。よし、次行くのじゃ!」

 

「あ、ちょいまち、そこ罠あるぜ」

 

「おっと」 「助かったのじゃ」

 

「解除できる?」

 

「ヨユー」

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 そんな感じで鎧袖一触って感じで地下4階から地下1階まで踏破しました。

 ていうかゴブリン多すぎィ!

 

 まだゴブスレさん一行は来てないみたいなので、待ちましょう。

 

「外は―― あー、まあ、そりゃ待ち構えてるわよねえ」

 

「ダンジョンの中にも結構いたけどよー、ほんとこいつら何処から湧いてくるんだか」

 

「緑の月だのから降りて来るんじゃよ。あそこでは、太古の魔術師が残した炎の儀式を受け継いだ小鬼の戦長の号令で延々と、巣穴から総出でゴブリンが飛び出してきておるのじゃとさ」*7

 

「へえ。それってさっきの魔神から吸い出した魔界の知識?」

 

「そうじゃよー。ま、真実かどうかは知らんがなぁー」

 

「月が緑なのが、(ひし)めく小鬼の肌の色のせいだってのはゾッとしねえなあ」

 

 

 今は廃れた迷宮の門前街を埋め尽くす緑肌の怪物(グリーンスキンモンスター)を背景に、今回はここまで!

 ではまた次回!

 

 

*1
半竜娘(本体)読心行使:基礎値22+加速5+支援(分身)10+2D651=43 > アークデーモンの呪文抵抗:30+2D633+異界思考4=40 ○抵抗貫通! 達成値30overなのでに任意の記憶を転写可能!

*2
正気度判定(魂魄抵抗 目標値36) 半竜娘(本体):魂魄反射12+冒険者Lv10+沈着冷静1+加速5+2D626=36 ○抵抗成功!

*3
宝箱:玄室のアークデーモンを倒した場合、最大4つの宝箱を落とす。宝箱判定(A~D) <4D100>A77,B41,C68,D98 それぞれA~Dの順に、100以下、50以下、10以下、8以下で宝箱が現れる。最後の98は、森人探検家の【逆転】によって03にひっくり返す。よって、A,B,Dの3つの宝箱が現れる。なお、貨幣の枚数は1D60(15)×100で、1500G。

*4
宝箱の中身:

○宝箱A アイテム番号 32+1d18(11) →No.43 さいきょうのたんけん(強力なダガー。15000Gで売れる)

○宝箱B アイテム番号 50+1d28(27) →No.77 うつろのたて(呪われた盾。4000Gで売れる)

×宝箱C 出現せず

○宝箱D アイテム番号 109+1d11(2) →No.111 ふしぎないし(使用するとモンティノ(呪文封じ)が放たれるアイテム。使用後3%の確率で壊れる可能性がある)

*5
鮮血呪紋:半竜娘の両腕に入れ墨された魔法の紋様。敵から生命力を吸い取って体力や消耗を回復できる。火吹き山の闘技場で勝ちぬいたときの褒賞の一つ。

*6
玄室に(たむろ)した小鬼が落とす銀貨(20~100枚):19+1D81(26)=45枚

*7
緑の月でゴブリンストームが永続発動中?:ゴブリンストームというのは『マジック:ザ・ギャザリング』のデッキの一つ。ゴブリンが属する赤マナにおいて、そのターンに唱えた呪文の分だけ多重発動する『ストーム』という特性を使って、ゴブリンを召喚する呪文を多重発動させまくって大量のゴブリンで場を埋め尽くして殴り殺すという戦術。“炎の儀式/Rite of Flame”で赤マナを集めて呪文を唱えまくり、“巣穴からの総出/Empty the Warrens”でゴブリンを並べ、“ゴブリンの戦長/Goblin Warchief”の号令でそれらが速攻で殴りかかってくる。緑の月でゴブリンストームが延々と発動してるなんてのは、もちろん当SSの妄想、妄想です!

“炎の儀式/Rite of Flame”―― 氷の奥深く、土と岩のさらに奥深く、ドミナリアの炎は熱く燃え盛り続けていた。

“巣穴からの総出/Empty the Warrens”―― ゴブリンが1体だけなんてあり得ない。

“ゴブリンの戦長/Goblin Warchief”―― やつらはスカーク峠から溶岩のように押し寄せ、通り道にあるものを片っ端から焼き尽くし貪り尽くす。

……いずれもMtGのフレーバーテキストから引用。




 
迷宮街脱出まで行けなかったですね。
次は迷宮の門前街で、王妹殿下や幼竜娘三姉妹と合流の予定です。
そして異教の小鬼たちを、小鬼としてではなく、異教徒として滅ぼすべく、至高神に愛されし乙女(あの方)も駆けつけてくれるはず……!

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33/n ≪死≫の迷宮(ダンジョン・オブ・ザ・デッド)-3/3(火計/火刑)

 
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●前話:
魔界こそ(アークデーモンの脳髄から)こそ噂話(絞った知識によれば)
……太古の魔術師には、ゴブリンストーム使いが居たらしいですよ。
いまもその影響で、緑の月では、奥に炎の祭壇を備えた巣穴が、小鬼を吐き出し続けてるんだとか。

===

◆緑の月の“炎の祭壇”破壊キャンペーンについて
 ゴブスレさんを宇宙に連れ出すために神々が組んだキャンペーン(嘘)
 月にゴブリンが出るのでゴブスレさんがゴブリンを殺す話(いつもの)
 いやー、緑の月でゴブスレさんが窮地に陥ったときに孤電の術士(アークメイジ)さんが盤外世界から駆けつけてくれて、
「炎の儀式には、(スス)がつきものだろう? 君たちは自らが燃やし続けた炎が故に滅ぶのだ。……“煤の儀式/Ritual of Soot”*1 を食らいたまえよ」
 って、雑兵ゴブリンを(ゴブ)体発火現象で一掃して煤に還元してくれたのは胸アツでしたね(幻覚)。緑の月がそのときだけはまるで太陽のように輝きました(白昼夢)
 もちろん、同じ様な祭壇が他にもまだある(別シナリオで生えてくる)可能性は常にありますし、地上に降りて土着したゴブリンまでも消えてなくなるわけではないので、このキャンペーンをクリアしても、ゴブスレさんの戦いは終わらないのですが……(つまり劇場版時空)
 

◆TASルートでの【褒美(プライズ)】の術式と、迷宮の宝箱システムの関係について
 この2つは大いに関係があります。まあ【褒美(プライズ)】自体が、CRPGにおける戦闘後の報酬・ドロップに着想を得ているので……。
 この生存ルートの世界線でも、これまでに得た、死の迷宮の宝箱のシステムを含む知識・着想により、半竜娘ちゃんはやがてはこの新術を開発し、永く生きた後に最終的には慈母龍の一角として昇竜し、自らが生み出した新術を管轄するようになるでしょう(道半ばで倒れない限りは)。その開発のときには、TASルートでTASさんがチートによって絶対成功させていた部分を、真っ当に積み上げた数多の経験という成功要素(判定ボーナスの固定値)で補うことになるはずですね。死の迷宮の宝箱システムに触れた経験は、その成功要素の1つになります。


*1
煤の儀式/Ritual of Soot:コストが3マナ以下のクリーチャーを全て除去する。雑魚だけ殺す全体除去。“見つかったのは巡視兵の鎧のみだった。鼻を刺す突然死の臭いが染み込み、二度と身に着けられるものではなかった。”

 

 はいどーも!

 これから毎日街を焼こうぜ? な実況、はーじまーるよー!

 

 前回は迷宮の中のゴブリンたちを一掃するべく二手に分かれて、それぞれで掃討しつつ地上出入り口までやってきたところまででしたね。

 

 夕闇の中、迷宮の外に(ひし)めくゴブリンたちを眺めつつ、しばらく出入り口で待っていると、ゴブスレさんたち一党(+文庫神官ちゃん)が、輪郭しか見えない(ワイヤーフレームの)迷宮の闇の奥から現れました。

 

「待たせたか」

 

「いや、今きたところじゃ」

 

 君たちそんなデートの待ち合わせみたいなやりとりを……。

 いや、冒険(デート)だからあながち間違いでもないのか。

 女神官ちゃんが「……(じとっ)」と微妙に湿度が高い顔で見つめてくるのを無視して話を進めます。

 

「こっちの掃討は終わったのじゃよ。消耗も少ない」

 

「こちらも皆殺しにした。ただ、小休止して連戦の疲れを癒したい」

 

「おお、それならこの場は【狩場(テリトリー)】の術で結界を張っておる。安心して休まれよ」

 

 迷宮入り口を塞ぐように、半竜娘ちゃんが祖竜術で結界を張り、敵の小鬼たちの侵入を防いでいます。

 しかし眼前の、両側が切り立った崖になっている峠道は、見渡すばかりの小鬼たちで埋まっていて進めそうにありません。

 魔神の召還や、その討伐を察知して、冒険者たちを逃がすまいと集まってきたのです。

 眼下の峠道の麓には、遠く、迷宮の門前街の姿が見えます。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

「矢弾は防げん結界じゃから、あまり出すぎんようにのー」

 

「そうか」

 

 ということでいったん小休止です。

 結界の外では、小鬼たちが多勢に無勢を確信して下卑た笑い声を上げています。

 あ、何匹かバシバシ肩を叩かれて崖から落ちました。そしてさらにそれを見て笑う小鬼ども。

 

「あーもう、うっさい!」

 それに耐えかねた森人探検家ちゃんが狙撃。迷宮の中では半竜娘ちゃんズがブルドーザーみたいに小鬼をミンチにしていたので森人探検家ちゃんは元気が有り余っています。

 

『GGOBBE!??』

 標的にされた運のないゴブリンに矢が突き刺さり、吹き飛びました。

『『 GGOOOBBB!! 』』 『『 GGOOOBBB!! 』』

 ここでゲラゲラ笑って同胞の醜態を嘲笑(あざわら)うあたりがマジゴブリンですよね。

 それはそれとして恨みは募らせてくるので(たち)悪いやつらです。

 

「……こうやって撃ちまくっていれば片付くんじゃないでしょうか」

 一休みする女神官が呟いた感想にはある程度同意できます。

 

「矢弾が無限にあればそれでいいけどねー」

 妖精弓手の言うとおり、問題はそこです。

 矢の数は無限ではありません。

 

「だが安全に数を減らせるのは良い」

 いち早く休憩を終えたゴブスレさんが、投石紐(スリング)に石を装填して遠巻きに見る小鬼の群れへと投げます。『GGOOB!?』 見事命中。さすがの手並みです。

 

 石ならそこらに落ちてますし、なんなら石壁を砕いて弾にしてやってもいいわけです。

 

「これなら安全に数を減らせるのう」 『GGOOBB!!?』

 鉱人道士も投石紐(スリング)で石を投げます。

 

「じゃあオイラも」 とTS圃人斥候。

「あ、私もやります」 「私も」 女神官と文庫神官も続きます。

「どれ拙僧は石壁を砕いて弾を確保しますかな」 「「 手前らは投げる方に回ろうかの 」」 蜥蜴人組もそれぞれ動き始めました。

 

 投石紐を持っていない者には応急措置用の包帯を加工して渡して参加させると、投石の密度が上がりました。

 蜥蜴僧侶さんが壁を砕いて補充用の石弾を作ってくれるので、弾切れの心配もなさそうです。

 

『GOGOGOOOOBB!!』 『GGBOORIIRI!!』 『BBBOOORRROO!!』

 

 これにはたまらず小鬼たちも後退。

 投石の届かないところまで下がり、岩などの物陰に隠れます。

 

「もっと下がりなさいよー」

 そこへ妖精弓手の容赦ない3連射。物陰に隠れていても関係なく貫きます。

『『『 BBGGGOORRR!!?? 』』』

 エルフの弓矢は、曲がるんですのよ。

 

『『 GGOBGOBOGOB!!?? 』』

 小鬼たちは魔術的な腕前のエルフの弓矢に恐れをなし、さらに包囲網を広げました。

 

 

「遠いな」 投石紐(スリング)を下げるゴブスレさん。

 

「そのうちまたすぐ近づいてくるわよ。だってゴブリンだし」

 

 妖精弓手の言うとおり、こちらに女性メンバーが居る以上は、小鬼たちが下がったのも一時的なものでしょう。

 すぐに股座(またぐら)膨らませて近づいてくるのは間違いありません。

 

「じゃがこっちもいつまでも籠城はできんぞ」

 半竜娘が腕を組んで外を睨みます。

 

「人数も増えたし、もとからそんなに食糧もあるわけでもないしのう」

 鉱人道士の言うとおり、籠城戦をできるような状況ではありません。

 

「であれば突破するしかありますまいよ」

 蜥蜴僧侶の言うとおりです。

 

「んー、まー、小鬼どもの包囲を突破して逃げるだけならどーとでもなんだろ? オイラんとこのリーダーと、そっちの蜥蜴人のお坊さんを【巨大】化させて、【竜翼】を生やして全員載せて飛んでいきゃー良い」

 TS圃人斥候がさっさと座って休みながら言います。蜥蜴人組が小一時間【瞑想】しながら休んで、呪文使用回数を少しでも回復させれば、さらに確実でしょう。

 小鬼を皆殺しにしたいゴブスレさんは難色を示すかもしれませんが、全員の生存という観点ではこれがベストかもしれません。

 

「もしくは、この結界を保ったまま進んでいってもいいかも知れません。【矢避(ディフレクトミサイル)】も併用すれば、より安全かと」

 確かに文庫神官ちゃんの言うとおり、【狩場(テリトリー)】の祖竜術は中心となった術者とともに移動可能ですし、投石や弓矢など、主な遠距離攻撃もTS圃人斥候が【矢避(ディフレクトミサイル)】を張れば対処可能です。

 

「結界で押し出していけば、勝手にこの峠道から落ちそうよねー」

 妖精弓手の言うとおり、結界頼りで押し出していくことも有効かも知れません。

 

「いやさすがにあの物量を全て押し出していくのは、手前も骨が折れるぞ?」

「えー、頑張ったらいけるんじゃなーい?」

 あ、流石に半竜娘ちゃんも押し出す数が多すぎると荷が重いようですね。からかう妖精弓手と軽口をたたいています。無理ではないようですが。

 

「………………」

 あーでもない、こーでもないと案を出す面々の中、ゴブスレさんは沈思黙考中です。

 

 

 小鬼は殺す。仲間は守る。

 ベストを求めるなら、両方やらなくっちゃあなりませんが、しかし、そんな風に冴えたやり方があるでしょうか。

 

 

 ―― と、その時でした。

 

「待って、何か聞こえる。馬蹄の音、車輪が転がる音――」 妖精弓手の長耳が結界の外から近づく何かの音を捉えました。「―― ゴブリンを轢き潰してる。援軍? でも誰が……」

 

 

「いっけー!」 「ひきつぶせー!」 「ぺしゃんこにしろー!」

『『『 GOOOOBBBUUUUURRRR!!!??? 』』』

 

 妖精弓手の呟きに呼応するように、出入り口前の門前の峠道を、ゴブリンを蹴散らしながら現れるものがありました。

 遠目に見えるのは、2頭立ての装甲馬車―― まるで戦車(チャリオット)のような勢いです。

 

「おかーさーん!」 「むかえにきたよー!」 「きへいたいのとうちゃくだ~!」

『『『 GOOBBUUUUUUUU!!!??? 』』』

 

 狭い峠道に詰めていたゴブリンたちですが、その密集具合が災いして、逃げ場がないところを無理に避けたがために、両脇の崖を転がり落ちていくものが続出しています。

 

「おお!? 我が娘たちよ、ようもこんなところに!! 助かったのじゃ!!」

 

 半竜娘ちゃんが驚きに目を見開きました。

 装甲馬車を曳いていたのは、鱗持つ巨馬―― 麒麟竜馬。半竜娘ちゃんの使い魔です。

 そして装甲馬車に乗っていたのは、南の海のギルマン集落で待っているはずの、幼竜娘三姉妹!

 

 単為生殖で産んだとはいえ愛しい我が子らであることに変わりありません。

 幼竜娘三姉妹は、南の海で受信した慈母龍の託宣(ハンドアウト)に従って、遠路はるばる国土縦断、こうやって、はじめてのおつかいをこなしに来たのです。

 

「いまいくよー!」 「まっててね!」 「おんまさん! あとひとはしり!!」

 

 ゴブリンたちを跳ね飛ばし、轢き潰し、馬蹄で肉と泥を混ぜながら上りの峠道を登ってきた麒麟竜馬と装甲馬車が、結界の中にまで入ると、石を跳ね飛ばして車輪を滑らせて(ドリフトしながら)、迷宮の門の前に到着!!

 

「おー! 御苦労、よくやったのじゃ! しかしまあ、どれだけトばしてきたのじゃ? 南の海からは随分と遠かろう」

「むりはしてないよー」 「あれから何日もたってる」 「おんまさんのあしは温存(おんぞん)してある!」

「ほう? ……ということは、深海にいた時か、あるいは転移の時にでも、時間の流れが狂ったか」

 

 あ、ようやく半竜娘ちゃんが、死の迷宮に来た時点で、空間のみならず時間までもが狂っていたことを認識したみたいです。

 今の状況にはさほど影響しませんけどね。

 

「まあよい。さて、麒麟竜馬も血肉で彩られて随分と格好良くなったのう!

 それで、ギルマンのところに置いていった装備や物資はそこにあるのじゃろう?」

 

「もっちろんー」 「そのためにきたの!」 「おつかいせいこう! だいせいこー!」

 

 いえーい! と3人でハイタッチしてピョンピョンと馬車から跳ね降りてきた幼竜娘三姉妹。

 トトトっと駆け寄ると、早速半竜娘ちゃんに飛びついて登っていきます。

 

「ようやった、ようやった! それじゃあ、まずは装備を整えるとしようかのう」

 幼竜娘三姉妹(むすめたち)を撫でまわしながら、半竜娘ちゃんは馬車へと向かいます。

 そしてそのあとに続く彼女の一党のメンバー。

 分身ちゃんだけは、装備更新に伴い再作成されるのが決まっているので、現時点の残り呪文使用回数を使い切るべく、麒麟竜馬の疲労を癒すための【命水】を出す水精霊を召喚したり、この後に備えて念のため風や火の精霊を呼び出したりするようです。

 

 …………。

 ……。

 

 さて、半竜娘ちゃんたち一党がいつもの装備に着替えて出てきました。

 物資も十分な量があるため、なんなら籠城も可能かも知れません。

 冒険の途中で行商もする半竜娘ちゃんたちの荷物には、文字通りに売るほどの物資が積まれています。

 

「補給も十分じゃし、ここを突破するのは、十分休みをとってからの方が良いのではないかや?」

 

「そうだな」

 

 特に呪文使用回数を回復させるためにも、その方が良いでしょう。懸念だった補給の不安も解消されましたし。

 半竜娘の【狩場】の祖竜術による結界を以てすれば、一晩の安寧を得るのは容易(たやす)いことです。

 彼女らの持ち物である空調付きのテントや、馬車自体の居住性を考えても、普通の野宿よりはずっと上等です。

 

 早速この場の2パーティーで手分けして、準備に取り掛かっています。

 テントを広げ、折り畳み式のテーブルを広げ、(かまど)を幾つか作り、火を(おこ)していきます。

 

「そういえば、おかーさん」 「()途中(とちゅー)におてがみもらった」 「(ぎん)(かみ)のメイドさんからー」

 準備を手伝っていた幼竜娘三姉妹が、何やら紙切れを手に持って半竜娘ちゃんの方へとやってきました。

 半竜娘ちゃんにそれを手渡すと、すぐにまたパタパタと駆けて野営準備の手伝いに戻っていきます。

 

「銀の髪のメイド? 手前には心当たりがないが、あ、いや……」 半竜娘ちゃんはかつて退魔の剣の封印があった迷いの森で出会った金剛石の騎士の従者のことを思い出しますが、直ぐにその考えを打ち消します。まさか、ここに王家ゆかりの者が居るはずもないですし。いないよね? 「……うん、ないのう。して、小鬼殺し殿の方はどうじゃ?」

 

「こちらの護衛対象の付き人だろう。詳細は話せんが」 王妹殿下の社会科見学 兼 護衛でここまで来たなんてことは、特に言う必要もないことですからね。ゴブスレさんもそういうことを吹聴するような素人ではありません。「迷宮街の外で、それなりの人数の手練れに守られているから、こちらの護衛対象との合流に気を使ってもらう必要はない」

 

「であればよか。あえて知ろうとも思わんのじゃ。王族関係、来とるんじゃないかや、これ

 半竜娘ちゃんも、銀髪侍女さん関連ということで、王族案件だと察したので深くは聞きません。

「それで、この手紙、宛名は書いておらんし、手前が開けてしまうがよろしいかの?」

 

「構わん。共有する必要があればあとで伝えてくれ」

 

「分かったのじゃ。……さて、なになに……」

 

 手紙を読み進める半竜娘ちゃんの頬が、裂けるように切り上がっていきます。闘争を期待する笑みです。

 

「ふっはっはっはははは! これは良いのう! 手前好みじゃし、きっと小鬼殺し殿も気に入るじゃろうて! しかも、お主の護衛対象の発案らしいぞ? 冒険者稼業の実地見学とやらは役に立ったようじゃの!」

 

「なんのことだ」

 

「ほれ、読んだ方が早い」 半竜娘ちゃんはゴブスレさんに手紙を放ると、ウキウキとした様子で銀髪侍女との遠距離連絡の算段を立て始めます。「……さて、狼煙で返事をせんとなあ。あいや、この時間(夕暮れ)じゃとランタンを(またた)かせた方がいいかの。ここは高台じゃし」

 

 ゴブスレさんは、半竜娘ちゃんから受け取った、銀髪侍女からの手紙をざっと一読すると、「なるほどな」と頷きを一つして、すぐに焚火にくべてしまいました。

 

「仕掛けるのは明朝―― 払暁か」

 

「そういうことじゃ。呪文遣い(スペルリンガー)はこのあとすぐ休めば、交代で休んでも何とか朝までに呪文の回数も回復しきるじゃろ」

 

「見張りは任せておけ」

 

「お主も休むのじゃよ? 術で癒したとはいえ、魔神の腕にさんざっぱらな目に遭わされたのじゃから、無理してはならんぞ」

 とはいえこの面子ですと、呪文使いじゃないのって、ゴブスレさんと妖精弓手さんだけですからね。

 負担が偏ってしまうのは心苦しいですが、一番睡眠が途切れ途切れになる3交代の中番はこの2人にお願いすることになるでしょう。

 

「ああ。無理や無茶をして勝てるならいくらでもするが、それで上手くいくなら、苦労はしないからな」

 

「おお含蓄のある事を言うのう。まさしく、そのとおりじゃて」

 

 というわけで、英気を養うために、十分な休養を取ることにしました。

 

 遠く迷宮の門前町の周りを見下ろせば、街に繋がる道の側に、野営の明かり・炊事の煙が増えているのが見て取れました。

 様々な神の聖印を刺繍し、染め抜いた旗が翻っているのが、【竜眼】のポーションの作用で強化された半竜娘ちゃんの瞳には映りました。

 

 

 そうです。

 援軍です!

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼ 

 

 

 

 明けて翌日。

 ちょうど霊峰の山頂が太陽に照らされ始めた早朝の時間帯。

 眼下に見える、霊峰の山腹に開かれた≪死≫の迷宮(ダンジョン・オブ・ザ・デッド)の麓に広がる迷宮前街は、いまだに朝靄と薄闇の中です。

 夜行性である小鬼にとっては夕暮れにあたる時間であり、冒険者としては攻め時でもあります。

 

「行くぞ。準備はいいな」

 

「おうよ。さぁて、そろそろ()()があるはずじゃが」

 

 ゴブスレさん一党と半竜娘ちゃん一党は、既に野営具を撤収し、【聖餐】の奇跡が込められた魔道具で出した朝食を分け合って軽く食べて、出発の準備を整えています。

 夜中、祖竜術の【狩場】の結界にゴブリンがぶつかり続けていましたが、みんなよく眠れたようで、顔色は悪くありません。

 

 

 装甲馬車の中には、幼竜娘三姉妹と後衛である女神官ちゃんと鉱人道士さんが乗り込みます。

 車内にはたくさんの荷物も載せられていますので、これ以上の人員は中には乗られなさそうです。

 後衛組は、窓から術を使って援護することが役目です。

 

 馬車の屋根には、ゴブスレさん・TS圃人斥候(斥候組)と、妖精弓手・森人探検家(野伏組)が。

 矢狭間になる装甲板を立てて準備は万端です。

 

 御者席には文庫神官ちゃんが着いています。

 騎士家の出なので馬の扱いは上手なのです。

 

 半竜娘ちゃんズと蜥蜴僧侶さん(蜥蜴人組)は、【竜翼】のポーションで腕を翼に変え、【巨大】化の術をかけて大飛竜モードです。

 2パーティー分の人員を馬車に乗せるとなれば、さすがにもとから巨体な彼女らは乗れませんでしたからね。しかたないね。

 

 

 準備万端にして、その時を待ちます。

 

 

 

―― KABOOOM!!

―― BOMB!! BOMB!!

 

 しばらくすると、街の方から爆発音と火の手が上がり始めました!

 中央以外の端から燃え上がり始めています。

 

「密偵どもはいい仕事をしたようじゃな! 石の街とてゴミや家財道具など、燃えるものはそこら中に残されておる。そこに手前らの荷物の中から提供した油やテルミットを仕掛け、時限式に発火。火の海にするというわけじゃ!」 「ならば手前らも助勢せねばな! 昨日呼び出しておいた、火の精と風の精よ! 大いに遊んで火を広げるのじゃ! いってこい!」

 

 夜のうちに、王妹殿下の護衛として影から付き従っていた密偵たちは、小鬼の目を盗んで街のあちこちに仕掛けをしていたのです。

 文字通りに“火付け役”です。

 熟練の密偵たちの手に掛かれば、小鬼を出し抜くことなど造作もありません。小鬼たちが気付くことなどなく、街を火の海にする準備が進みました。

 

 その際の資材には、幼竜娘三姉妹が走らせてきた馬車に積まれていた可燃物や爆発物も使われています。

 そして駄目押しに、昨日のうちに呼び出して伏せておいた、火の精霊と風の精霊。

 火の勢いを増すべく、精霊たちが小鬼しかいない廃れた街へと飛んでいきます。

 

「うわ、結構火の回りが早いわね」 妖精弓手が迷宮門前街を両翼から包むように燃え広がる炎に、顔をひきつらせます。

 

「急がねーと街の中を抜けられなくなるかもしれねー」 馬車の客車の天板の上で、投矢銃を構えたTS圃人斥候が心配します。燃えてるのは外周からとはいえ、迷宮入り口から街までは距離もありますから、峠道を下るうちに街が完全に炎の底に沈まないかという心配です。

 

「ゴブリンどもも動揺しておる様子。さて、駄目押しと参りましょうや!」

 飛竜モードの蜥蜴僧侶さんが飛び立ち、峠道の小鬼たちの上空へ。

「『偉大なりし暴君竜(バオロン)よ! 白亜の園に君臨せし、その威光をお借りする!!』 ―― GGRRRRROOOOOWWWWW!!!

 

 竜の咆哮!!

 

『『『 GOOBBUURRUUUU!!!??? 』』』

 

 蜥蜴僧侶さんの祖竜術【竜吼(ドラゴンロアー)】に小鬼どもが耐えられるはずもなく。

 もとより、街が燃えて浮き足立っていた小鬼たちは、ついに我先にと峠道を下りようと壊走を始めました。

 

「行くぞ、ゴブリンどもは皆殺しだ」

 

 それを好機と、ゴブスレさん&半竜娘ちゃん一党は、装甲馬車で峠道を下ろうと発進します!

 途中にゴブリンいるだろうって?

 当然、轢きます。

 

 

 

 あ、半竜娘ちゃんは既に街の方に飛んでいって、可燃性有毒ブレスを吐いて、建物を更に燃やす手伝いをしていますよ。

「「 汚物は消毒なのじゃ~~!!! 」」

 めっちゃ楽しそうなのが遠目からも分かりますし。

 

 上空から見ると、小鬼たちは唯一火の手が回っていない、街道へ続く門へと逃げるために集まっていくのがよくわかりました。

 

 しかし、その街道への門には邪教徒となった小鬼たちを滅ぼすべく、剣の乙女の号令に応じた王都のあらゆる神殿寺院の聖職者たちが軍勢となって陣を敷いています。

 たかが小鬼だろうと、邪教徒相手であるならばこれは聖戦です。

 彼らの気迫は凄まじく、彼らが敬愛する大英雄たる“剣の乙女”の号令ということもあり、向かい来る小鬼を必ずや殺し尽くしてくれることでしょう。

 

 さらには、迷宮入り口からの峠道を駆け下りつつ、3匹の飛竜を従えたゴブスレさんたちが、逃げ散るために街道へと向かう小鬼たちへと迫ります。

 

 つまり“鎚と金床”の形になるわけですね。

 この場合、“金床”は燃える街の炎と聖職者たちを指し、“鎚”はゴブスレさん&半竜娘ちゃん一党の混成チームが、その役割を果たします。

 もはや小鬼どもには、勝機も逃げ場もありません。

 

 というわけで、燃える街を眺めながら、今回はここまで!

 ではまた次回!

 




 
次回は裏ということで、王妹殿下や剣の乙女さんの動きについてになるかなと思います。あと、霊峰に落ちた隕石(天の火石)にくっついてきた物体Xを処理してる超勇者ちゃんとか。

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33/n 裏(迷宮門前街G炎上!!)

 
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●前話:
異教徒は火刑よ~~

===

Q.迷宮門前街を突破するときは牧場防衛戦の時みたいに【竜吠(ドラゴンロアー)】の精神属性衝撃波(マップ兵器)で小鬼たちを狂死させれば良かったのでは?

A.そっちの方が街の被害は少ないですしスマートですが、燃える街に巨竜が降り立って建物を壊しまくりーの、敵を薙ぎ払いーのって良くないです?(怪獣映画並感)

===

では幕間、裏側ということで、時系列は遡って、まずは海から霊峰に向かう幼竜娘三姉妹たちのことから。
 


 

1.はじめてのおつかい ~怒りのデス・ロード~

 

 同じ顔をした3人の半蜥蜴人の女児(幼竜娘三姉妹)が乗る馬車が、街道をひた走っていた。

 

「いっそげー、いっそげー!」

 上機嫌に手綱を取るのが一人。

 地母神の加護ある産湯に浸かった幼竜長女である。

 将来は神官戦士希望。

 

「かぜよふけー、おいかぜふけー」

 風の精霊が好みそうな触媒を豪勢にばらまきながら、エルフの薫陶を受けた精霊交渉術でお願いしているのが一人。

 知識神が清めた産湯に浸かった幼竜次女である。

 将来は後衛術士希望。

 

じぼりゅー(マイアサウラ)さまのみちびきよあれ。あ、つぎのわかれみちは、みぎね」

 祈祷しつつ、彼女らの母である半竜娘の加護竜である慈母龍(マイアサウラ)から先般下った託宣(ハンドアウト)を反芻して道行きをナビゲーションしているのが一人。

 三姉妹の中では最も蜥蜴人らしい嗜好の幼竜三女である。

 将来は斥候遊撃希望。

 

 彼女らを乗せ、そして半竜娘一党の荷物を満載して走るのは、2頭の麒麟竜馬が曳く独立懸架式突撃装甲馬車である。

 古代の遺跡から発掘された車両の構造を解析したという車体は、揺れを軽減し、悪路での高速走行を可能としている。

 また、それを牽引(けんいん)する麒麟竜馬は、古竜と軍馬と半竜娘と不定形の万能細胞の因子をキメラ技術で混ぜて作った特別製であり、非常にタフで脚が強い上に、半竜娘の使い魔として主の影響を受けており、非常に賢い。

 1年前の収穫祭では、主である半竜娘とともに(アストラル)界へと突入し、主と一体となることで八脚駿馬(スプレイニール)形態となり、恐ろしき太古の巨兵たる百手巨人(ヘカトンケイル)へと痛打を与えるのに一役買った。*1

 

 さらには2頭の麒麟竜馬には、それぞれ、半竜娘をデフォルメしたような形の人形が、ハーネス(牽引索)が繋がっている腹帯から吊り下げられている。

 これは半竜娘が作った形代人形であり、死霊術の媒体である。これには半竜娘の分身体の残影が、死霊術の力で宿らされており、馬体に掛けられた【加速(ヘイスト)】の術を維持し続けている。

 ただでさえ麒麟竜馬たちは上等な軍馬並みの脚力を誇るのに加え、いまは、常に維持された真言呪文【加速】と、上質な触媒の大盤振る舞いにより幼竜次女が呼び込んだ精霊術【追風】によってさらに速度を増しているのだ。

 

 ゆえに――

 

「まえ、ゴブリン! おおかみ!」

『『 GGORRGR!!? 』』 『『 WWWOOLLFF!!?? 』』

()いた!」 「過去形(かこけい)っ!」

 

「とうぞく! (つな)(わな)!」

「おうこら止まれ! 止まれッ! 止まんねーと――……ぎゃあっ!?」

「かぜのせいれいさんが(つな)をきった!」 「とうぞくは()いた!」

 

「まえ、くま!」

『 BBBEAAARRRR!! BBEAAARR!??? 』

「ふんさいっ!」 「かんりょー!」

 

「ごぶりん、ごぶりん、ごぶりん! たくさん!」

『『『 GGORBBRR!!? GGOBRRGOBR!!?? 』』』

「ごぶりんはミンチ、ミンチィ!」 「ひりょうにしてやる!」

 

 ―― 幼竜娘三姉妹が繰る馬車の疾駆を止められるものなど存在しなかった。

 

 街道を、村の畑の横を、森を、橋を、広野を、荒野を、山道を往き、目指すは王国の北辺。

 霊峰の麓は≪死≫の迷宮(ダンジョン・オブ・ザ・デッド)だ。

 

「おかーさんたちが、まってるぞ~!」

「おとどけものだー!」

「いいペース! きっとまにあう!」

 

 無理ないペースで駆け続け、巡察吏の騎兵隊ともすれ違い、途中、王都から出立したと思しき神官戦士団を追い抜き、ついに見えたは迷宮の街。

 こここそが、10年前に、先の魔神王が討伐された場所。≪死≫が湧きだした場所。

 

 市壁の外に(たむろ)する兵の一団を認め、しかし素通りしていざこのまま突入しようとしたとき。

 

「やあ、ちょっといいかい」

「え」 「いつのまに」 「ニンジャ? ニンジャだ!!」

 

 気づけば銀髪の侍女が隣にいた。幼竜三女が特に目を輝かせている。

 

「うちの御姫様の発案で色々と入用でね。融通してもらえると助かるんだけど。馬に水を飲ませに立ち止まるついでにでもね」

 

 

<『1.メディアの油(ガソリン)、テルミット、火の秘薬、その他可燃物をお買い上げ~』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

2.王妹殿下の社会科見学:小鬼殺し編

 

 

 ―― 冒険者の仕事が、こんなに過酷だとは思いも寄らなかった……!

 

 地母神の神官服に身を包んで偽装した王妹の少女は、草原からよろよろと立ち上がった。

 彼女は蹲り、胃の腑の中のものをすっかりと吐き出し終わったところだった。

 

 しかしそれも当然。

 いきなり、今回同行することになった冒険者の頭目―― 銀等級だがみすぼらしい鎧の男だ―― が、迎撃した小鬼を腑分けして、その中身を確かめたり、あるいは小鬼の生皮を剥いだりしだしたからだ。

 

 湯気が上がる臓物、溶けかけの人の肉、糞尿の匂い、小鬼の血のにおい、外気にさらされた脂のてらてらとした色。

 

 後ずさった王妹の少女を、銀髪侍女は押し留めた。

 ―― 殿下。きちんと見ませんと。ね?

 これが冒険者のリアルですよ、と。

 

 なお、小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)の在り方は決して冒険者のスタンダードではないのだが。

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)自身も、等級並みの冒険者になろうと努力はしているが、きっとまだ冒険者だと胸を張って言いはしないだろうし。

 とはいえ、王妹の少女にとって、冒険者のサンプルというのは、君主(ロード)として≪死≫の迷宮に潜った自らの兄に、10年前の魔神王を討った6英雄の一人である“剣の乙女”、黒い毛皮の歴戦の獣人である金等級の冒険者、そして、当代の白金等級である太陽の聖剣の勇者とその仲間たちくらいだ。錚々たる面々であり、まあ、一般の冒険者とは言い難いだろう。

 

 そんな王妹の少女に、地下(じげ)の者たちの、しかも冒険者の知り合いがいるはずもなく、生々しい冒険者の仕事として初めて触れる小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)のことを、一般冒険者のスタンダードなやり方だと思ってしまっても仕方ないのだ。……きっと。

 

「ううぅ~。げほっ。口の中がすっぱい~、喉がイガイガするぅ……」

 

「あの、大丈夫ですか? お水を用意しましたので……」

 

「ありがとぉ~……」

 

 青い顔をしている王妹の少女に水の入った革袋を差し出してきてくれたのは、彼女によく似た顔立ちをしたドレス姿の少女。

 もともと小鬼殺しのの一党に入っていた女神官だ。華奢で薄い胸には詰め物がしてあり、王妹のドレスのシルエットに合わせるようにしてある。

 

 いまは、王妹と女神官で、お互いのポジションを交換しているところだった。

 それも王妹の少女自身の発案で。

 だってとっても顔が似ていたのだから。そのことに気づいた王妹が、無邪気に入れ替わりを提案をして、好奇心の赴くままに間近で冒険者の仕事を見たいと言い出すのは当然だった。

 女神官は孤児で親の顔は知らないというが、まさか本当に姉妹だということもないだろう。

 

「冒険者って、大変なのね……」

 

「そうかもしれません」

 

「いつもこんな感じなの?」

 

「いえ、警護しながら街道を行くのは、そう多くありませんよ。いつもは村の近くのゴブリンの巣穴に押し入って皆殺しにすることの方が多いですね」

 

「みなごろし」

 神官のわりに、言葉のチョイスが物騒なような。

 

「ええ。あ、ところで匂い消しはお持ちですか?」

 

「においけし? えっと、持ってないと思う。必要なの?」

 

「はい、小鬼は、その、森人や只人の女性の匂いに敏感なので……」

 

「うえ……」

 幸いにして、そのような被害に遭った女性にはまだお目にかかっていないが、もし自分がそういう対象にされたらと思うと、身の毛もよだつ。

 

「もし今回、巣穴を攻略することがあれば、私の分の匂い消しをお貸ししますね」

 

「ありがとう。……ねえ、持ってないときは、どうするの?」

 

「それは、その」

 

「うん」

 

「匂いを誤魔化すために、ゴブリンのキモの搾り汁を――」

 

「あ。ストップ。また吐きそう。うぇぇ」

 

「あはは。そのうち慣れますよ」

 

「ねえ!? それでいいの!? 本当にそれでいいの!?」

 

 女神官は、ドレス姿でニッコリと後光が差すような透徹した表情で微笑んだ。

 言葉はなかった。

 

 

<『2.だってあの人のことを放っておけませんから、ね』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

3.王妹殿下の社会科見学:応用編

 

 

 ズン、と霊峰が鳴動した。

 

「ひっ、い、いったいなに!?」

 同時に立ち上った恐ろしい混沌の気配に、王妹の少女は怯えを露わにした。

 ここは≪死≫の迷宮を塞ぐように築かれた門前街の、さらに外側に作られた野営地。

 そこで、霊峰に開いた≪死≫の迷宮に潜っていった、地母神の女神官たち冒険者のことを案じていた矢先の出来事であった。

 

「これは―― 上位の魔神(グレーターデーモン)? いや、将級の魔神(アークデーモン)?」

 銀髪の侍女が落ち着き払った態度で分析する。

 かつて≪死≫の迷宮に潜った一党の一員である彼女にとっては、ある意味慣れ親しんだ相手でもある。

 敵の呪文を封じてからの養殖、殲滅……こちらの戦力によっては美味しい相手ではあるのだが。

 

「これはまずいかもしれませんね」

「えっ!?」

 数時間前に死の迷宮に潜っていった小鬼殺しの冒険者たちのことを思い出して、銀髪の侍女は厳しい言葉をこぼした。

 あの装備や練度で、迷宮初挑戦となれば、まあ、いいところ行けても地下4階までだろう。それは、剣の乙女が小鬼殺し一党に下した見立てとも一致していた。

 すでに首魁は討たれたとはいえ、≪死≫の迷宮は容易い場所ではない。あの迷宮は、まさしく別世界。常識の通じる場所ではないのだ。

 上位の魔神相手に、彼ら小鬼殺し一党が、果たしてどこまで戦えるか……。

 

 そして悪いことに、迷宮から響いた混沌の波動に釣られて、迷宮門前街の各所に散っていた小鬼たちが、迷宮に侵入した冒険者の存在に気づいたようだった。

 

『GGGORRBOGG!!』

『GOBRGGOBRRR!』

『BOOOGRGRBO!!』

 

 間抜けな冒険者を獲物とすべく、迷宮の中に現れたナニカと一緒に―― 小鬼たちはそれが自分たちの味方だと、あるいは自分たちが都合よく使役できるものだと信じて疑わないのだ―― 挟み撃ちにせんと、迷宮の入口へと続く峠道の方へと進んでいく。

 それは50か、100か。

 引き連れている狼の数を合わせると、それよりももっと多いかもしれない。

 いったい、これだけの群れを、どうやって維持していたというのだろうか。

 

「それとも、再出現(リポップ)しているのかな? うーん。迷宮から感じるオーラは死んだままだから、迷宮から湧いて出たものじゃなさそうだけど」

 しかし、いま、それは些事だ。考えるべきは他にある。

 

 果たして、あの小鬼殺しの冒険者たちが、何とか魔神を退けたとして。

 迷宮から出たときに待ち構える小鬼たちを退けられる余力を残しているだろうか?

 

 

「た、助けなきゃっ! このままじゃ、あの人たち、殺されちゃうわ!」

 

「どうやってです?」

 

 銀髪の侍女の言葉に、王妹の少女はひるんだ。

 

「う、それは――」

 

 解決策がすぐに思い浮かぶわけもない。

 だって彼女は、たった数日冒険者に同行しただけの少女で、このような鉄火場は初めてなのだ。

 それでも必死に考える。

 

 だって、初めてできた冒険者の友達なのだ。

 入れ替わりの時はドレス姿にもなってもらったけれど、そうでないときの神官服に身を包んだ彼女の凛とした姿は印象に残っている。

 そして、同時に、小鬼の胃の腑から出てきた、犠牲者の髪や乳房といった肉片がリフレインする。犠牲者の末路を想い、血の気が引く。

 

(友達があんなことになるなんて、絶対にダメよ!)

 

 だから、考えなくてはならない。

 

 (よすが)となるのは、王宮で耳にした冒険譚と、ここまでの道中で女神官から聞いた冒険譚の数々。

 その中で、何かヒントとなることはなかっただろうか。

 籠城する小鬼を駆逐するのには――。

 

「……燃やす? とか」

 

「ふぅん?」

 

「街ごと? できる? そうすればきっと、ゴブリンもそれどころじゃなくなると思うし」

 

 王妹の少女の脳裏にあったのは、女神官と小鬼殺しが出会ってすぐのころ、枯れた森人の砦を燃やして、【聖壁】の奇跡で蓋をしたという話だ。

 それを再現できないだろうか。

 

承り(Yes,)ました、(your)我が殿下( highness.)

 

 (つたな)く、無茶ぶりもいいところの()()()

 だがしかし、仲間を助けんとするその心意気は、尊いものだ。

 銀髪侍女は思い出す。6人しか入れない迷宮の奥で倒れた仲間を救いに行くために、パーティに空きを作って何度も決死行した、あの灰と青春の日々を。*2

 

「……いいの?」

 

「無茶ぶりには慣れてますから」

 

 おずおずと尋ねる殿下に、銀髪の侍女は苦笑した。

 

「え、そうなの。お兄様に無茶言われてるなら、私からもあとで口添えするわよ」

 

「それは是非に」(真顔)

 

 そこにちょうど良く、物資を積んだふうの高速馬車が、土煙を巻き上げながらやってきているのが見えた。

 あれほどの速度が出せるランクの馬車であれば、きっと大商会の特別便であるのだろう。

 街を燃やす資材を調達できるかもしれない。

 

「しからば御免」

 

 銀髪の侍女は、音もなく消えた。

 王妹の少女は、彼女の友人が信仰を奉じる地母神に、友人の無事を祈った。

 

 

<『3.(女神官)の無事を祈る王妹の少女の姿はまるで聖職者のようだった』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

4.異教徒廃滅!

 

 

 迷宮街の外側に、次々と陣張りされていく。

 戦慣れした神官戦士たちの手によるものだ。

 

「間に合ったようで良かったですわ」

 

「まさか神殿が出張ってくるとはね。しかも貴女が、ゴブリンを相手に」

 

 銀髪の侍女がやれやれと肩をすくめて見つめる先には、蠱惑的な肉体を聖衣に包んだ美女が、天秤剣にもたれるように佇んでいた。

 さらには、使徒たる白鰐を召喚し、小鬼相手に震える身体を支えさせている。

 そう、至高神に愛された、水の街の大司教。剣の乙女であった。

 

「あら、連れないことを仰るのね。この迷宮で同じく、灰と青春が隣り合わせの日々を送った仲でしょうに」

 

「違う一党だっただろう?」

 

「それでもですわ」

 

 くすくすと笑う剣の乙女に、銀髪の侍女は溜め息をついた。

 昨年あたりから、どうにもこの昔からの知り合いがかわいくて困る。

 まるで年頃の恋する少女のようだ。

 

 

「ともあれ、ゴブリンは滅ぼすべきと考える次第ですわ。異教徒であればなおのこと」

 

「そうだねー」

 

「火計によって火刑に処すのも賛成いたしますわ。灰と隣り合わせの青春を過ごした街を、灰燼に帰すのも因果なものですが」

 

「まあ、混沌やら群盗山賊やらの根城にされるよりは、ね」

 

 さすがに街一つ燃やすのは思い切った判断だが、管理できずに混沌勢力の根拠地にされるよりはマシだと考えれば、許容範囲内だろう。

 発案者が王妹殿下ともなれば、妹に甘い国王陛下はなんだかんだで赦すであろうし、いざとなれば、公の場で小鬼を絶滅させるべしとの言を繰り返すこの大司教に責任をなすりつけても良いだろう。 

 

「決行は払暁、でしたか」

 

「そう。刻限になれば、こっちの手の者が仕掛けた火種が発火し、街の外縁を燃やす。出入口はそこの大門だけになる」

 

「それに合わせて冒険者たちが迷宮入り口から装甲馬車で高速突撃。大門へと群がる小鬼を蹴散らしながら、こちらへ抜けるわけですね」

 

「そういう段取り。そして術で飛竜と化した蜥蜴人の冒険者が少なくとも2人は付いてくる。どういう手段か、迷宮の中で凄腕の竜司祭で術士を擁する一党と合流したみたいだから、貴女と縁のある小鬼殺しの一党は無事だよ」

 

「……そうですか。では、我ら教会の者は、大門に蓋をする“金床”の役目ということですね」

 

「基本はそうなるかな。【聖壁】、得意でしょ? もちろん切り込んでも良いけどね」

 

「それは、神の御心のままに、ですわ。皆様、各々の信心と良心に従って参集されたのですもの。わたくしから何か指揮をするようなことは、とてもとても……」

 

「よく言うよ……」 

 

 本心か、行き過ぎた謙遜なのか、銀髪の侍女は半目で剣の乙女を見る。

 特に若い世代の聖職者で、剣の乙女の言葉を無視するものは居るまいに。

 

 

<『4.剣の乙女「()()追い、探し、見つけ、殺すのです。小鬼は―― 邪教徒は生かしてはおきませぬ。決して一匹たりとも生かしてはおけませぬ。私は不退転の決意を以て命じ(おねがいし)ます。奴らに、()()」』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

5.超進化!!

 

 

 ―― お、リーダーどうした?

 ―― ああ、鑑定してほしいものがあるのか。

 ―― とりあえず2つか。

 ―― 海底で最後に手に入れた“青白く輝く宝玉”と……

 ―― さっきの宝箱から出てきた“?いし”な。

 ―― 寝る前に1個と、真夜中過ぎに【鑑定】の手袋に込められた奇跡が回復したらもう1個ってとこだな。

 ―― まー、夜明けの決戦までには間に合うだろ。

 ―― リーダーは遅番か? それまでには仕上げとくぜー

 

 

 戦利品鑑定

 “不確定名:青白く輝く宝玉”は、『動力炉心(パワーコア)』だ! 膨大な未知のエネルギーを秘めているぞ!

 “不確定名:?いし”は、『ふしぎないし』だ! マナを込めることで呪文を封じる波動を放つことができるぞ!

 

 

 ―― 半竜娘は集中して瞑想している……。

 

 

 半竜娘は、竜祇官となるまで高めた信仰心により、経験点を消費して、祖竜術を入れ替えた!*3

 半竜娘は【小癒(ヒール)】の術を忘れ、新たに【胃石(ベゾアール)】の術を覚えた!(経験点1000点消費、成長点2点獲得)

 

 

 ―― 半竜娘は新たに覚えた【胃石(ベゾアール)】の術の触媒として、『動力炉心(パワーコア)』と『ふしぎないし』を用いた。

 

「『地を行く似鳥竜(スーニャオロン)、海行く蛇頸竜(プレシオス)、その叡智を我が胃の腑に借り受ける』――【胃石(ベゾアール)】……! んぐっ、ごっくん」

 

 

 半竜娘は、『ふしぎないし』と『動力炉心(パワーコア)』を吞み込んだ!

 

 

「恐るべき竜よ! 大いなる祖竜よ! いと慈悲深き慈母龍(マイアサウラ)よ! 御照覧あれ!! 魔力を備えた石を、我が血肉と成さん!!」

 

 半竜娘は、祖竜術【胃石(ベゾアール)】の解除に伴い、触媒とした『ふしぎないし』と『動力炉心(パワーコア)』を吸収した!*4

 

 

「う……ウウウオオオオォォォオオオオオオ!!!??

 

 

 半竜娘は、『ふしぎないし』を吸収したことにより、真言呪文【沈黙(サイレンス)】を習得した!*5

 半竜娘は、『動力炉心(パワーコア)』を吸収したことにより、スパーク()を宿した! 成長期が永続するようになった! 内包した超エネルギーにより食事が必須ではなくなった! そして――――

 

 

 

<『5.半竜娘ちゃん“G”化計画・第一段階(フェーズワン)』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

6.迷宮街炎上!

 

 

 迷宮の門前街は、炎上していた。まさしく、火の海という形容がふさわしい有り様だ。

 あちこちで、半竜娘が呼び出した火の大精霊と風の大精霊が踊っている。

 さらに真言呪文【天候】によってもたらされた、街全域を覆う強烈な上昇気流が、火災旋風を育てつつあった。

 

「GGGRRRROOOOOOOWWWWW!!!」

 

「GGGOOOOOAAAAAAAHHHH!!!」

 

「RRRROOOOHHHHAAAAAAA!!!」

 

 そんな地獄が顕現したかのような灼熱の中で、【竜命(ドラゴンプルーフ)】による炎熱完全耐性を得て、【呼気(ブリージング)】の指輪によって新鮮な空気を確保し、10倍に【巨大】化した蜥蜴人たち3人が、街の建物よりも高い巨体を生かして暴れ回っていた。

 

 すなわち、半竜娘と、その分身体と、彼女の叔父にあたる蜥蜴僧侶である。

 

 小鬼が隠れていそうな建物の壁を壊し、可燃物を露出させて、火災を拡大させる。

 あるいは、逃げまどい、火がついて転げまわる小鬼そのものを、尾の一振りで吹き飛ばし、踏みつぶす。

 可燃性の瘴毒のブレスを吐き、火の回りを速める。

 いっそのこと全ての建物を潰して更地にする勢いで暴れ回る。

 

 夜明けの光を浴び、炎に照らされた巨竜が、全てを破壊しつくそうとしている。

 

 そのうちの一頭、半竜娘の本体が、その顔を、迷宮の入り口へと向けた。

 

 蜥蜴人の縦長な瞳孔が狭まり、迷宮の入り口を見据えた。

 街の半分以上の距離のあるそこへと向けて、ブレスを吐くために口を開く。

 

―― 後顧の憂いは断つべきじゃろうな。

 

「FFUUSSHHUUU――AAAAAAAARRRR!!!」

 

 半竜娘の身体の表面に、胸の中心から、青白い光のラインが全身に広がり。

 吐き出され始めた瘴毒のブレスが、青い鬼火のような光を帯び始めた。

 髪の毛に紫電が走って浮かび上がり、頭の角が白熱する!

 半竜娘の体内に吸収され同化した『動力炉心(パワーコア)』から溢れる未知のエネルギーが、ブレスの性質を変えていく……!

 

「GGGGUUUUUOOORRRORRR――――!!!」

 

 ―― 青白い放射熱線(フュージョンブラストブレス)の膨大な熱量が、迷宮の入り口を一瞬で溶かし尽くして崩落させた!!

 

 

<『6.≪死≫の迷宮(ダンジョン・オブ・ザ・デッド)、封印(物理)完了!』 了>

 

 

*1
ヘカトンケイルとの戦い:過去話「25/n 収穫祭-5/5(幕間+VS 百手巨人)」でのこと。半竜娘ちゃんが霊界に殴り込みをかけたときに、麒麟竜馬も御供した。

*2
仲間を救いにパーティに空きを作る:ウィザードリィにおいて、迷宮の奥で全滅したパーティの死体を回収するためには、空きを作った二軍パーティで行く必要がある。奥で合流した死体も、帰りの行程のパーティ人数にカウントされるため、あらかじめ空き枠が必要なのだ。

*3
経験点消費による祖竜術入れ替え:独自裁定。竜司祭の職業Lv10によるボーナス技能という扱い。経験点1000点消費により、実戦に使用する術を入れ替えることができる。

*4
胃石(ベゾアール)】の術に使った触媒の行方:ルルブによると、触媒として呑み込んだ小石は最終的に『消え去る』とされている。排泄されるのではなく『消え去る』ということなので、魔法的なパワーで吸収されたものと解釈し、石に込められたパワーも吸収できることとしました。金に飽かせて魔力が込められた小石を買い漁って自己強化する日々が始まるかもしれないので、何らかの制限を課す必要があるかも。魔力を吸収できる石は、一定のグレード以上でなければならないとか。

*5
真言呪文【沈黙(サイレンス)】:ルルブ未掲載呪文。漫画版ゴブスレ外伝:イヤーワンの6巻で駆け出し時代の魔女さんが使った呪文。用いる真言は『ウォークス()ウェルブム(言葉)シレント(沈黙)』。シレント(沈黙)は、シレント(停滞)と同じ発語の真言。




 
蜥蜴僧侶「姪御殿? 次、何か大きく功徳を積むときは、拙僧も誘うように言ったはずではなかったですかな?」
半竜娘「叔父貴殿、すまぬのじゃ、この『動力炉心(パワーコア)』は1人用でのう」

分量的に二つに分けた方が良いなあ、と思いつつ、思いついたネタはぶっ込まずにはいられない性分なので我慢できなかったぜ!(反省が生かされていない)

===

14巻&ドラマCDが発売されましたね! 新キャラの眼帯人妻北方訛り(庄内弁)乙女さんも麗しく。旦那様は英雄コナンではなかった(もっと若い世代だった)ので予想が外れましたが、それもまたよし。蛮人コナンの伝説を語る作中武勲詩は、過去の作中詩の中でも一番の熱量と分量で記されていましたね。キンメリア人養成装置(なんか奴隷がグルグル押してそうなやつ)をゴブスレさんが押すシーンが挿絵になってたりして、単なる観光客だコレ!となって良かったです。
ゴブスレさんがゴブリン駆除業者から、だんだん()()()になっていってるのが、こう、ほっこりしますね! やはりゴブスレさんはCute属性。(ゴブリンはどこにでもいるので結局ゴブリンをスレイする羽目になってますが)

===

いつも感想評価&コメをありがとうございます!
次からは王都観光(原作小説8巻中盤相当)と、ウィズボールチームにスカウトされる話になる予定です。
 


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33/n 裏2(≪死≫の迷宮・後始末、そして王都へ)

 
閲覧、評価&コメント、お気に入り登録、誤字報告、ここ好きタップ、感想記入、いつも皆様ありがとうございます! 

===

●前話:
恐るべき竜(ゴジ○)に一歩近づいたのじゃ!
(前話タイトルのGは、ゴ○ラでもジャイアントでもグレートでもお好きな読み方を)

===

Q.マジック:ザ・ギャザリングにもゴジラのコラボカードあるし、いよいよスパーク()を手に入れたってことは、半竜娘ちゃんは、やがては次元界渡り(プレインズウォーカー)に?
A.四方世界の魔術師は大体プレインズ()ウォーカー()になるべく研鑽を積んでいるので、半竜娘ちゃんも魔術師である以上は、多分そのうち? 祖竜として昇天する前に、次元界を渡って経験をさらに積む(武者修行する)感じかもしれません。今のところ、半竜娘ちゃんにMtGのマナの色を当てはめると、自己バフ特化型なので「自然」「生命」「野生」を表象する緑メイン。次点で「思考」「技術」の青。あとは「聖善」の白、「破壊」の赤、「ネクロマンサー」の黒の要素も少しずつって感じでしょうか。赤マナはもっと多いかも?

===

王都観光に入る前に、死の迷宮の後始末と、超勇者ちゃんパートを。ということで幕間・裏パートその2です。

 


 

1.新たなる怪獣王の産声を聞け!

 

 

「なんだ!?」

「ばかな、迷宮が……」

「おお、神よ」

 

 ≪死≫の迷宮(ダンジョン・オブ・ザ・デッド)の入り口が、青白く輝く一条の熱光線*1によって、一瞬で赤熱し、熔解し、まるで波濤が砕けるように吹き飛びながら崩落した。

 かつて何代か前の王によって作られた近衛兵の練兵場が、≪死≫の魔力によって汚染された人外領域。そこへ続く道は、今、完全に閉ざされたのだ。

 物理的な意味で封印された迷宮には、小鬼や群盗山賊が入り込むことは不可能であろう。―― 逆に言えば、何かあるとすれば、融けて塞がった岩盤すらものともしないような強力な魔物による事件となるはずだ……。

 

「巨竜だ。あれが【辺境最大】……」

「蜥蜴人が長ずれば竜になるという伝説は真実だったのね」

文庫(ふみくら)で読んだことがある。黒き鱗と蒼い炎。蜥蜴人の勇者の伝説を」

 

 迷宮街から這い出てくる小鬼の残党を警戒していた神官戦士たちは、数瞬呆けて、麗しい少女の顔をした半人の巨大な竜を見た。

 ついには火の海から炎の竜巻が立ち上るようになった街の残骸の中で、彼女は威風堂々と立っていた。

 

 身体の表面に走った無数の青い光の筋が徐々に光を失い、紫電とともに持ち上がっていた長い黒髪も落ちた。

 渦巻いていた竜のオーラも薄まり、青白い放射火焔の残滓も上昇気流に巻き取られて散っていく。

 しかし、半人の女巨竜の目だけは、まるで(スパーク)が宿っているかのように青白く鬼火のように輝いていた。

 

「伝説の再来だ……」

「死の迷宮を封じるなんて……」

「さしずめ【死封竜(しほうりゅう)】といったところか…………!」

 

 

 

「うっそ、何あれ」

 周りの荒野に生えた数少ない木々に火除けの加護をかけていた妖精弓手が目を丸くしていた。

 彼女の長耳には、放射火焔に驚きつつも歓声を上げる火の大精霊の声や、慌てて逃げる山肌の土の精霊の声も聞こえていた。

 ちょっとひとりの術者が出していい火力ではないように思える。もはやいまは、神代ではないのだから(翻って、上の森人(ハイエルフ)としては、神代から戦い抜いてもいまだ森に留まる古老で、似たようなことができる者らにも幾人か心当たりはあるが)。

 

「はー、鱗のも良うやるが、あの竜の娘っ子はそれに輪をかけてじゃのう」

 土の精霊に請願して【霊壁】で熱波からの避難壕(シェルター)を作っていた鉱人道士も、半ば呆然としながら熔けた山肌を見ている。ええい、南方の蜥蜴人は化け物か!

 鉱人に伝わる、神話に謳われるような金属をも熔かす炉に納められているという、“星の火”がひょっとすればあのようなものなのかもしれない。

 

「ひぃえええ」 「うわぁ、いくらなんでもこれは……」

 震える王妹殿下を包み込むようにして支えるのは、女神官だった。

 王妹殿下の初めての冒険―― 実戦ではなく社会科見学のようなものだとしても冒険は冒険だ―― にしては、ちょっと内容が濃いうえに振れ幅が大きすぎるし、刺激が強すぎたような気がしなくもない。

 いや、小鬼退治から始まり、軍勢による攻城戦、巨大な怪物的冒険者の活躍と考えれば、ある意味では冒険者というものの様相をフルコースで堪能したともいえるのだろうか。社会科見学の本懐は、大いに果たしている。

 

「いやいやいや、アレ大丈夫なの!?」 ゴブリンを射ていた手を止めて焦り顔の森人探検家。

「あっあー。【鑑定】させられたのはこのためか……」 ちょっとやらかしたかもなー、という顔のTS圃人斥候。

「絶対反動ありますよね……心配です」 ハラハラと心配そうに、神官団と息を合わせて【聖壁】を維持している文庫神官。

 

 その力の根源(青白く輝く宝玉)を知っている、半竜娘のパーティメンバーは、一様に心配している。

 だって力の残滓だけでも、巨大融合蛸鮫(ギガ・シャークトパス)を、盤の外から落ちてきたとしか思えないような超技術の沈没艦船と融合させてしまうくらいの、得体のしれないパワーを秘めているのだ。

 そのすべてを食らって身の内に収めたときに、果たして制御可能なのか……。それを考えれば、心配せずにはいられない。

 

 

「「「 ふわぁーー……、おかーさますっごい…… 」」」

 

 そして、幼竜娘三姉妹は、キラキラと憧れに目を輝かせていた。

 

「「「 わたしたちも、きっと竜になれるんだ、おかーさまとおなじように……! ぜったいに、竜になろう……!! 」」」

 

 伝説の萌芽を目の当たりにできた彼女らは幸いである……!

 

 

 なおゴブリンスレイヤーは「洞窟ごと小鬼を殺すのに使えるか……いや、巨体に気づかれて逃げられるのがオチか」などと考えていた。

 

 

<『1.恐るべき祖竜になろう!』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

2.盤外からの物体(エックス)

 

 

 王都では金剛石の騎士(国王自ら)が、王妹誘拐を試みた事件の黒幕を粛清し引導を渡した。

 その混沌の≪手≫の軍勢の黒幕たち―― 覚知神の信者の闇人と、そいつに誑かされた貴族だった―― が画策していたことの経緯は、こうだ。

 

 

 1.天からの火石(ほいし)に付着させた、同化生命体(物体X)盤外(外宇宙)から四方世界に導く。火石は霊峰に落着。

 2.天の火石を媒介に同化生命体(物体X)を操り、他の混沌の者どもにも天の火石により啓示を送る。

 3.ゴブリンどもにちょうどいい時宜を啓示し、都の外に出るように誘導した王妹を攫わせる。

 4.ゴブリンを啓示によりプリーストにし、王妹の血を触媒に、そのゴブリンプリーストに魔神を召喚させる。

 5.王妹、魔神の順に同化生命体(物体X)に侵蝕させ、王妹の姿に成り代わり(サマンオサできて)魔人の能力値を持った同化生命体(物体X)を作成し、それを天の火石の力で制御し、国政を壟断(ろうだん)する。

 

 

 だが、王妹は攫われなかったし、不埒者の暗躍に気づいた金剛石の騎士(国王陛下)活躍(デーンデーンデーン)により、黒幕は壊滅した。

 

 召喚された上位魔神は贄の血が足りずに腕だけしか顕現しなかったうえに、小鬼殺したちに潰された。

 

 上位魔神を食うはずだった同化生命体(物体X)は、小鬼殺しが迷宮攻略中に開けた天空への門(ゲートスクロール)を通って落ちてきた小鬼とイの一番に同化してしまい、逆にスペックダウン。

 

 そして、同化生命体(物体X)を完全に滅ぼすべく、勇者が霊峰に投入された。 ←New!!

 

 

「燃やせば死ぬんだから楽なもんだよね! 夜明けの一撃ィ!!」

 

「同感です。切って血が出る手合いですからね、十分に殺せます」

 

「少しの欠片も見逃さないで。決して触れないように」

 

「分かってるよー!! さー、どんどんいこう!!」

 

 勢いよく元気に聖剣を振り回す勇者に、

 肉の触手を切り払う剣聖、

 そして、脳筋理論にあきれて犬耳フードのローブを揺らす賢者。

 

 この霊峰の一角にあるクレーターで、彼女たち勇者一行は戦っていた。

 

 敵は盤の外からやってきた、同化生命体(物体X)

 あらゆる生命と同化し、置き換わり、侵蝕していくという。

 同化された者は、自分が同化されたことにも気づけない。

 細かな細胞一つ一つが独立して行動可能で、いざとなれば擬態を解いて、最適な戦闘形態を取ることも可能だ。

 

 ただし、同化したものをそっくりそのままコピーするため、その知能指数や本能までもコピーしてしまうという問題点もある。

 同化吸収と置換は、この物体Xの自動的な反応であり、物体Xの細胞一つ一つに思考力があるわけではない。

 物体Xの戦術のレベルは、同化した生物の頭脳のレベルに依存する。

 

 

「もしこれが、陰謀通りに魔神を取り込んでいれば多少は苦戦したでしょうが」

 

「取り込まれてるのはゴブリンの可能性大。恐れるに値しない」

 

「動きが単調、そしてなーんか、やらしい!! 燃えちゃえ!!」

 

『TTTHHHIIIINNNNGGGG!!!??』

 

 物体Xは、最初にゴブリンを吸収してしまったせいか、黒幕の当初の計画であった、魔神が吸収された場合に比べれば、イージーモードもいいところだった。

 うねうねと蠢く触手が、生理的嫌悪感を煽る。

 ゴブリン並みの思考回路なのだろう。

 

 そしてそれが命取りだ。

 

「太陽の爆発ッッッ!!!」

 

 

 

<『2.まかり間違って超勇者ちゃん一行が同化されてたら世界が終わってたやつ』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

3.天の火石(ほいし)に潰れた饅頭、この世の外から来たもの2つ

 

 

 霊峰のどこか。

 勇者の戦いの跡地。

 

「やまのぼりー」 「れいほー」 「はいほー!」

 

「                     
 ゆくりりーーん!」

 

 とうちゃくだー! 

「げんきだなー、お前ら。おいらは昨日の輻射熱やら閃光やらで、肌は焼けてヒリつくわ眼はチカチカするわで……」

 

 やってきたのはつぶれ饅頭(TASさん)を抱えた幼竜娘三姉妹と、引率のTS圃人斥候だ。

 半竜娘、森人探検家、文庫神官は、諸事情あってこちらには来ていない。

 

「あー、麓はまだ燃えてるなー」

 

 ≪死≫の迷宮を半竜娘の放射火焔(核撃の竜息)が物理的に封印し、迷宮門前街が大炎上した翌日。

 街はいまだに燃えていて、しばらくは入れないだろう。放射火焔(フュージョンブラストブレス)を見てテンションが上がった火の大精霊がやりすぎたのだ。

 迷宮門前街の方では、延焼を防ぎつつ、消火を待ち、後処理の計画を練っているという。

 

「んで。目当てのものは見つかったのかー?」

 

 目立つ岩の上に乗って麓を見ていたTS圃人斥候は、振り返って幼竜娘三姉妹の方を見る。

 今日は、幼竜娘三姉妹が山に登りたいというので、安全のために体術に長けたTS圃人斥候がついてきたのだ。

 

「あったよー!」 「いんせき!」 「祖竜(そりゅー)天敵(てんてき)ぃ……」

 

 そして見つけたのは、クレーターの中心に鎮座した石。天の火石(隕石)である。

 幼竜三女が憎々しげにその石を見つめているのは、天からの火石が大いなる祖竜が滅んだ原因とされているからだろう。

 

 いつの間にかつぶれ饅頭(TASさん)の姿は消えて―― いや、いた。隕石に取りついている。

 

「                     
 ゆっゆくゆーー!」

 

 いただきまーす! 

 

「んなっ!?」

 

 そして大口を開けるように、うにょーんと変形して、隕石をすっぽりと飲み込んだ。

 外なる神TASさん(ティーアース)の零落した破片であるこのつぶれ饅頭は、盤外のものを取り込むことで力を取り戻すのだという。

 今回この戦い跡(クレーター)にやってきたのも、こいつが(そそのか)したからだろうか。

 

「うーわ。石を食ってやがる。あーあー、みるみるうちに小さく……」

 

「                     
 ゆくゆくりーん!」

 

 ごちそーさまーー! 

 

「食べきったよ……」

 

 クレータの底に残ったのは、満足げにゲップするつぶれ饅頭(ティーアース)だけだった。

 

 ちなみにそのあいだ、幼竜娘三姉妹は「わー」 「わー」 「わー」とクレーターの斜面を駆け降りる遊びをしていた。

 

 

 

<『3.後々のために、ここで力を回復しておく必要が、あったんですね』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

4.その代償

 

 

 燃やした街の後処理のために残って数日。

 半竜娘一党は、いまようやく王都への途上にあった。

 

 いつもの装甲馬車の後ろには、荷馬車がつながれており、その荷台の上には、まるで戦利品として持ち帰られる猛獣のように、ロープで雁字搦めに固定された半竜娘の姿があった。

 死んではいない。

 死んだように、棺桶の釘のように、眠っているだけだ。

 

「起きねーなー、リーダー」

 

「集中してるから話しかけないで……!」

 

「はいはーい」

 

 装甲馬車の御者席のTS圃人斥候に対して、荷馬車の荷台に乗っている森人探検家が、緊迫感をもって返事をした。

 森人探検家は、眠る半竜娘の変化を見逃さないように、眼を皿のようにして血走らせている。

 何かの非常にまずい変化が起こった時に、交易神の【逆転(リバース)】の術で、それをひっくり返すためだ。

 

「前も言ったけど、アンタが子供たちと山登りしてるときに、青い光とともにこの子の尻尾が吹き飛びかけたのよ! また起こらないとも限らない……! そんときゃみんなでボンッ! よ、ボンッ!」

 

「わーお……」

 

 どうやら、半竜娘が吸収した、未知のエネルギーが詰まった『動力炉心(パワーコア)』は、完全に半竜娘の体になじんだわけではないようだ。*2

 

「蝋燭の番人よ、知の防人よ……行く先に待つ陥穽を、どうか我らにお知らせください……どうか、どうか……。お姉さま……頑張って……」

 

 さらに森人探検家の傍らでは、文庫神官が司教杖にすがりつくように膝まづき、消耗で汗みずくになりながらも、祈りをささげて呪文を維持している。

 彼女が維持しているのは【真灯(ガイダンス)】の奇跡だ。これは≪宿命(フェイト)≫と≪偶然(チャンス)≫の賽の目のうち、≪宿命(フェイト)≫の揺らぎをなくすというもの。

 本来は、【真灯】のような摂理を曲げるような奇跡は、長時間維持できるようなものではないのだが、文庫神官は、真摯で強固な祈りを捧げることによってこれを維持し続けている。

 

 

「                     
 ゆゆゆー! ゆゆゆー!」

 

 がんばえ! がんばえ! 
 

 荷台に縛り付けられた半竜娘の背の上では、つぶれ饅頭(ティーアース)がちょこまかと跳ねながら声援を送っている。

 おそらくは、いくらか取り戻した権能を駆使して、因果に干渉しているのだろうか。

 

「おかーさま」 「だいじょうぶかなー」 「おかーさまならだいじょーぶ!」

 

 装甲馬車の中からは、ときどき幼竜娘三姉妹が、母である半竜娘の様子を見るために窓から顔を出して、後ろの荷車を覗いている。

 

 秋の終わりのうららかな日差しの中で、馬車はゆっくりと進んでいく。

 

 

<『4.手厚い看護の甲斐あって、王都に着くまでには、完全同化しました

   →復ッ活ッ! 半竜娘復活ッッ! 半竜娘復活ッッ! 半竜娘復活ッッ! 半竜娘復活ッッ! 半竜娘復活ッッ!』 了>

 

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

5.ティンときた

 

 

 完全復活ッッした半竜娘が、深海の財宝の査定やらなんやらを待っている間のこと。

 王都の酒場で快気祝いに仲間と酒を吞んでいると、彼女に声をかける者がいた。

 

「姐さん、い~いカラダしてんねえ。――魔球(ウィズボール)、やらねぇか?」

 

 酒場の壁には、ウィズボール王都リーグ1位決定戦のポスターが張られていた。

 対戦カードは『黒角(くろつの)ジャイアンツ VS 蒼鱗(そうりん)ドラゴンズ』。

 

 声をかけてきたスカウトらしき男の差し出した札には、ポスターの蒼鱗(そうりん)ドラゴンズと同じトレードマークが。

 

「なあ、是非に頼むよ、姐さん」

 

 

<『5.そして異世界やきう(ウィズボール)編へ』 了>*3

 

*1
青白い熱光線のブレス:【竜息/毒】の独自裁定。達成値40(伝説級)以上で、それぞれのブレスは別の属性を帯びる。炎・雷・毒の属性は、核撃(フュージョンブラスト)の属性を帯びる。氷の属性の場合は3式絶対零度砲(アブソリュート・ゼロ)による耐性無視の完全破壊攻撃へと昇華される。また、一度使用することにより上位属性がアンロックされ、個別の属性ブレスとして習得が可能になる。

*2
動力炉心(パワーコア)』を馴染ませる:半竜娘ちゃんは、数分から数時間おき([1D360]分のランダム間隔)に拒絶反応に対する『体力抵抗(持久)判定』を行っている。尻尾が吹き飛びかけたのは、抵抗判定にファンブルしたから。逆に、クリティカルすることで、抵抗判定の間隔が伸びていき、やがては完全に拒絶反応をねじ伏せて同化できる。

*3
ウィズボール:ウィザードリィ世界にあるという、魔法あり乱闘ありの野蛮な球技。ラグボール(漫画「コブラ」)などに影響を受けたものと思われるとんちきカードゲーム。四方世界にも公式設定で存在する競技である。――鉄球が飛び、鉄のバットがうなる! 乱闘が起これば、それは戦闘!(ウィズボールの説明文より引用)




 
というわけで、南の海(原作小説8巻序盤)、死の迷宮(原作小説8巻後半)が終わったので、王都編(原作小説8巻中盤)です。ついでにやきゅう(ウィズボール)やろーぜ! 8巻は再構成が難しかったので結構大胆に改変してみました。

ちなみに半竜娘ちゃんは、ただ強くなるだけなら、1000年くらい寝てるだけでOKです(成長制限解除&飲食不要のため)。
その場合、1000年後には文字通り山のような巨体に成長して、妖精弓手さんと蜥蜴僧侶さんの結婚式に駆けつけてくれることでしょう。

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14巻&ドラマCD発売中!
ドラマCDもすっごい良かったです! 西行法師めいた高僧が死者復活の儀式(不完全)をやり捨てしてたり、剣聖さんの筋肉が鋼だったり(つっこんだ賢者さんの手に逆にダメージ)、スワンプシング(アメコミ)が沼の植物の精霊として四方世界にいることが分かったり、勇者ちゃん走者疑惑が深まったり、蜥蜴僧侶さんが内臓攻撃したりと、サービス盛りだくさんでした! もちろん声優さんの演技もとっても良かった……!

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いつも感想評価&コメをありがとうございます! 大変、大変、励みになっております!! 前回はたくさんの感想をいただき、とてもうれしゅうございました! ありがとうございます!
 


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34/n ウィズボール・プレイボール!-1(銅等級昇格試験開始)

 
UA333,333越え、お気に入り2700、評価者数は250……いやあ遠くまで来たものです……応援ありがたやー、ありがたやー! ほんとうに、閲覧、評価&コメント、お気に入り登録、誤字報告、ここ好きタップ、感想記入、いつも皆様ありがとうございます! お楽しみいただけるように精進します!

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●前話:
青白い光を放射(ラジエーション)するブツの拒絶反応をねじ伏せて完全同化!
未知のエネルギーは大体青く光る(偏見)

※迷宮門前街焼き討ちにより、経験点1500点、成長点3点獲得。各員特に成長はナシ。

===

○半竜娘ちゃんの得意なこと:
 固定目標への攻撃・破壊。野外冒険。

△半竜娘ちゃんの苦手なこと:
 殺しちゃいけない相手との戦闘。コラテラルダメージが許されない状況、市街戦。閉所戦闘。
 
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前話の蒼鱗ドラゴンズによるスカウトの少し前の時系列から再開です。


 

 はいどーも!

 バットが打つのはボールばかりとは限らない……、不穏な魔球(ウィズボール)実況、入団編、はーじまーるよー!

 

 前回は迷宮門前街を燃やしたところまででしたね。

 

 その後、海底で見つけた『青白く光る宝玉(動力炉心)』と、迷宮の宝箱から見つけた『ふしぎないし』を【胃石】の触媒にして同化吸収した半竜娘ちゃんが、放射熱線を吐いて迷宮入り口を熔融して封印しました。

 ある意味で、10年前に≪死≫がもたらした災厄に対して、大きな節目となる決着をもたらしたことになります。

 

 半竜娘ちゃんは膨大なエネルギーを秘めた『動力炉心(パワーコア)』を取り込んだ反動で数日のあいだ寝込んでいましたが、仲間が神の奇跡を駆使して看病してくれたことで、容態も落ち着き、完全に宝玉の力を己のものにしたようです。

 それにより、肉体の成長制限は解除されエブリイヤー成長期に。また、膨大なエネルギーを運用することで飲食ナシでも体を維持・成長できるようになりました。

 このように寝てるだけで強くなれるようになってはじめて、ようやくドラゴンとしては卵の殻が取れたくらいでしょうかね。

 

 迷宮門前街のあれこれに対してどうにか始末をつけた半竜娘ちゃんたちは、この国の王城がある都までやってきています。

 辺境の街への復路途上にあるから寄ったということもありますが、深海で得た財宝の換金のためでもあります。空間拡張鞄に詰めた財宝の量は、馬車3台分以上。田舎で捌くのはツラい量です。自分たちで使ったり研究したりする分のアイテムを差し引いても、都でなければ到底捌ききれない質のアイテムが目白押し。

 

「こういう時に出資してる商会があるのは便利よねー」

 

「うむ、(コネクション)は結んでおくものじゃな」

 

 王都の立派な門構えの商会から出てきたのは、一党の会計係である森人探検家さん。そして頭目である半竜娘ちゃんです。

 後ろでは従業員たちが頭を下げて見送っています。パトロンにして太客ですからね。

 商会の多額の出資者であるとともに、今回のように冒険の成果を現金化したり、古代技術の復活のための研究のタネを持ってきたりと、半竜娘ちゃん一党は、この商会のお得意様でもあります。

 

 そもそもこの商会―― 軽銀商会―― の起こり自体が、半竜娘ちゃんが死霊術師としてエルダードワーフの死霊から軽銀の製法(それ自体は覚知神由来のものではありますが……)を聞き出したのが契機でした。

 最近の案件においては、異次元の滅びの獄(ドゥーム)からやってきた大駒、機械化大悪魔(サイバーデーモン)の遺骸を引き渡すなどの便宜も図っており、異界の技術を鋭意研究してもらってる最中なのだとか。

 

 さて、今回の沈没船の財宝についてですが、いろいろと沈んでいる中から、分身ちゃんの貴い犠牲のもとに稼ぎが多くなりそうなルートを割り出して、特に質の高いものを選りすぐってサルベージしてきたので、まあ、そこそこの領地の運営予算数年分くらいの稼ぎにはなりそうです。まだ査定はこれからなのでかなりおおざっぱな概算の概算になりますが。

 おそらく、遠地からの献上品だのを乗せた船がいくつもあの“呪われた船の墓場”には沈んでいたのでしょう。

 

 商会の会頭である女商人―― かつての令嬢剣士―― も、今回の大商いにはとても満足なようです。

 単に財宝というだけでなく、失われたはずの文物も多数がサルベージされており、単純な金銭的価値では測れない成果が含まれていました。こういったものは、それを扱う商会の格にも関わってきますから、意外と重要です。

 例えて言うなら、ミロのビーナスの失われた腕が出てきたとか、サモトラケのニケの頭部と両腕が見つかったとか、壇ノ浦に沈んだはずの神器が見つかったとか、そういう方面で貴重なものが含まれていたようですね。

 

 もちろんその海域を“呪われた船の墓場”たらしめていた魔道具群も回収してきており、それらはTS圃人斥候ちゃんが慎重に鑑定しているところです。

 ものによっては、触れただけ、目にしただけで呪詛がかかるようなものもありますからね。

 そういったものに当たったときは、バフを積んだ森人探検家ちゃんの【解呪】で対処するしかありません。即死でない限りは、ですが。

 

 王都の雑踏の中を、森人探検家ちゃんと半竜娘ちゃんの2人はスイスイと進んでいきます。

 

「それで次は? 子供たち(幼竜娘三姉妹)に付き合ってくれてるあの娘(文庫神官)を探す? 公衆浴場に行くとか言ってたけど」

 

「先に冒険者ギルドからじゃのう。報告の時に昇格試験がどうとか言うておったじゃろ」

 

「ああ、銅等級に上がるんだっけ。わたしは辞退したけど」

 

「上げて損があるわけでもなかろぅに」

 

「顔や名前が売れるのがイヤなのよねー。気軽に仕掛(ラン)も受けられなくなるし。

 ていうか、裏との繋がりを匂わせたら向こうから『再検討しますね』って取り下げてきたわ」

 

「そりゃ信用商売じゃからのぅ、冒険者稼業 は」

 

「冒険者兼業の仕掛人(ランナー)も需要はあるから、それはそれで等級上げても仕掛(ラン)の方はやりようはあるけどね。

 …………だいたい、そんなすぐに等級上げるつもりなかったのよ。ここんとこ(せわ)しなさすぎよね」

 

「森人基準でモノを言わないのじゃ」

 

「ま、あなたもそのうち分かるわよ、もはや定命から外れつつあるんでしょ?」

 

「分かるのかや」

 

「なんとなくねー。わたしは歓迎するけど、あの娘(文庫神官)はどう思うかしらね」

 

「共に在りたいというのなら、やがて生命尽きるときに心臓を我が身に納めるだけのことよ」

 

「そりゃあなたはそれで良いでしょうけどね」

 

「それ以外に何があるのかや?」

 

「……無敵か。こほん。それでまあ、あなたの昇格試験ねえ」

 

「いったい何じゃろうなあ」

 

「これまでの冒険記録から鑑みて足りないと思われる資質・経験を試すんでしょ? やったのは、竜殺し、遺跡探索、攻城戦、野戦築城、魔神殺し、雪山協働、異教鎮圧、新人教導、封印再建、海底探検、迷宮封印、そのほか慈善事業じみた塩漬け依頼処理……。逆にやってないのと言えば……」

 

「ふぅむ。となるとやっぱり、()()かのう」

 

()()でしょうねえ。ちょうどここは都だし」

 

 話しているあいだに、都の冒険者ギルドの大きく立派な建物の前へと到着しました。

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「というわけで、市街冒険(シティアド)です」

 

「「 ああ、デスヨネー 」」

 

 冒険者ギルドの麗人係官から告げられた内容に、半竜娘ちゃんと森人探検家ちゃんが「予想通りの()()だった」と苦笑いして顔を見合わせました。

 折り目正しい麗人係官は、物腰からするともっと上の役職なようですが、部下が休暇を取っているからということで代わりに出てきたとのこと。*1

 

「冒険記録を拝見いたしました。まさに赫奕(かくやく)たる戦果と言って差し支えないでしょう。戦力としてだけ見れば既に国中見渡しても最高峰と言えます」

 手元の資料を見ながら、生来の硬い声音で告げる麗人係官。

 

「昇格すれば、銅等級―― 高位冒険者の仲間入りとなる訳ですが、上の等級になるにしたがって、その名や信頼度を当てにして、どちらかといえば不得手な仕事が舞い込むことも増えます」

 もちろん、最適な冒険者を斡旋するのが冒険者ギルドの役目ですが、と一言おいて、麗人係官は続けます。

 

「そのため、今回は、貴女があまり受けたことのないタイプの依頼を斡旋いたします。達成いただけるものと見込んでおりますが、達成いただくにしても、その過程によって、今後似たような案件を我々ギルドから依頼するにあたっての参考にしたいと考えています」

 今後のための試金石というわけですね。

 

「あい分かった。それで、市街戦ということじゃが、具体的には?」

 半竜娘ちゃんも、ギルドの考えは理解できるため、特に異論は唱えません。詳細を詰めようと先を促します。

 

 麗人係官も、一つ頷くと、依頼票を取り出しました。

「今回の依頼は、冒険者ギルドからのものとなります。あまりないパターンですが、依頼人の裏を洗っていただくことになります」

 

「ほう。まるで仕掛人(ランナー)がやりそうな仕事じゃな」

 

「必要とされる信頼度がまるで違います。あまり迂闊に同列視なさらないように」

 

「ああ、すまなんだ」

 

「……続けます。

 裏取りしていただく対象は、ウィズボールチームの『黒角(くろつの)ジャイアンツ』のオーナーです。

 ここ数か月で、このオーナー氏の出した依頼を受けた数チームの将来有望な冒険者が壊滅しています」

 

「……罠に嵌めたとかかの?」

 

「いいえ。今のところはそこまで分かってはおりません。疑惑は、ありますが」

 

「ふむ、こういった依頼がギルドから出るということは、冒険者たちの自己責任とも言い切れない事情があるのじゃろう。黒に近いグレー、というところかの。……続けてくりゃれ」

 

「オーナー氏の出した依頼は、人喰鬼(オーガ)領域に行き、人喰鬼(オーガ)の歯を取ってくるというものです」

 

「それ自体はありふれていそうな依頼じゃがな。魔術の触媒じゃろう? 巨人の複製を作り出す真言呪文の触媒が、巨人の歯じゃったはずじゃ」

 

「その通りです。ウィズボールチームの『黒角ジャイアンツ』は、選手全員がオーナー氏をはじめとした所属魔術師らの召喚した巨人で構成されているのが売りのチームです」

 

「そのための触媒を取って来させている、と」

 

「ええ。ですが、生還した冒険者の話をまとめると、どうも人喰鬼(オーガ)領域では、冒険者が待ち伏せされている節があったり、こちらの冒険者がギリギリ壊滅する程度の戦力を的確にぶつけてきたりしているようだ、と。冒険者が壊滅寸前に陥った時に、向こうが戦いに満足すれば、歯を渡してくるのだとか。人喰鬼(オーガ)の歯なんて、すぐにまた生えてくるから惜しくはないのでしょう」

 

「あー。うむ。はいはい。あー、熱烈歓迎、と。はー、なるほどのう」

 

「……なにか?」

 

「怒らず聞いてほしいのじゃが、背景事情まで推測はできずとも、流れとしてはあり得ると思ってのう。人喰鬼(オーガ)に対して生きの良い戦士を生贄に送り込み、その代償にオーナー氏が力を貸してもらう、というのはありそうじゃ。人喰鬼(オーガ)は戦いができて戦士の肉が食えて満足、オーナー氏は強い人喰鬼(オーガ)の歯が手に入って満足、冒険者の生き残りは大金が手に入って満足、というわけかや」

 

「冒険者が死ぬのは良いことではありませんけれど?」

 

「戦の中で死ぬなら問題なかろう――……ああいや、ギルドの立場が分からぬわけではないのじゃ、有望な冒険者が死ぬのはたまらんというのも分かる」

 

「……“その手があったか”とは思っていませんよね? 人喰鬼(オーガ)蜥蜴人(リザードマン)に置き換えて同じことをやってはなりませんよ?」

 

「やらんやらん」

 

「それなら良いのですが。まあ付け加えれば、『黒角(くろつの)ジャイアンツ』の選手の動きが、とても呪文で作られた贋物とは思えない、ということもあります。 絶対おかしい私の縞皮(しまがわ)タイガースが負けるはずが……

 

「なんぞ言うたかや」

 

「いいえ何も」

 

「ほーん。まあいいが。結局は、そのオーナー氏が人喰鬼(オーガ)と繋がっておるのかどうか、その裏取りをすればいいのじゃな」

 

「そういうことです。あちらも警戒しているのか、なかなか表に出る機会が少なくなっていますが、貴女ならやり遂げられると見込んでおります」

 

「心得たのじゃ」

 

「では、依頼受諾、と」

 

 麗人係官は、ポン、と依頼票に判をついた。

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「リーダー、病み上がりにそーんな依頼受けて大丈夫なのかよー?」

 

「問題ないのじゃ! むしろ元気が有り余っておるくらいでのう」

 

「それならいーけどよー」

 

 拠点としている宿にて、半竜娘ちゃんは事の経緯を一党のメンバーに共有しました。

 神経をすり減らす鑑定作業に疲れたTS圃人斥候は、どこか他人事です。

 というか、昇級は半竜娘ちゃんだけなので実際他人事です。みんな夏に昇級したばかりですしね。

 

「銅等級なんてすごいですね! 第4位、いよいよ高位冒険者の仲間入りです!」

 

 我がことのように目を輝かせて喜ぶ文庫神官ちゃん。心清らか。

 夜も更けてきたので、遊び疲れた幼竜娘三姉妹を寝かしつけてきたところです。

 

「しかしまあどうするつもりなの? アイディアはあるわけ?」

 

「うむ。【読心(マインドリーディング)】で情報を抜くのじゃ」

 

「あー。そういえば使えるようになったんだっけ」

 

 確かに【読心】の呪文を半竜娘ちゃんほどの術者が使えば、どんな情報でも引っこ抜けるでしょう。射程に捉えて、抵抗を抜ければ、ですが。

 

「でもそもそも表に出ないという話ではありませんでしたか? お姉さま、接触できるのですか?」

 

「それも考えがあるのじゃ」

 

 そう言って半竜娘ちゃんが取り出したのは、ウィズボールのポスター。

 黒い角の巨人と、蒼い鱗のドラゴンが戦う構図です。

 

「あら、ウィズボールのポスター。1位決定戦にもつれ込んだんだっけ、わたしも詳しくは知らないけど」

 

「それじゃ。対戦カードは黒角ジャイアンツと、蒼鱗ドラゴンズ。ジャイアンツの方は召喚された巨人を操るチームで、ドラゴンズの方は伝統的に蜥蜴人のエースを抱えるチーム……らしいのじゃ」

 

 手前もそう詳しいわけではないが、と言う半竜娘ちゃんに、「蜥蜴人のエース」と聞いた文庫神官ちゃんがハッとします。

 

「あっ、私、分かっちゃったかもしれません」

 

「1位決定戦の時には、黒角ジャイアンツのオーナーも臨席するようじゃ。決着後は、各チームのオーナーも式のためにマウンドに上がる。呪文の射程に捉える機会はある、というわけじゃよ!」

 

「いやいや、観客席からじゃ射程が届かねーだろ? マウンド上ならまだしも。つっても、それこそ選手じゃねーと……。―― あっ」

 

 TS圃人斥候も何かに気づいたようです。

 

「なあに、ならば選手になればよかろうなのじゃ! 既に目星はつけているのじゃ」

 

「ねえ、確認するけどさ、まさかあなた……」

 

 戦慄して尋ねる森人探検家と、同じく戦慄して見つめる一党の面々。

 

うむ!

 蒼鱗ドラゴンズのエースは蜥蜴人じゃというではないか!

 ―― であれば決闘して選手の席を勝ち取ればよいのじゃ!!」

 

 

*1
麗人係官:漫画版イヤーワンに登場の受付嬢さんの王都研修時代の研修担当で、かつてゴブスレさんの鋼鉄等級昇格に当たって監査に来たりもしていた方。厳格なお人。パンツスーツルックの麗人(not男装)。受付嬢さんに美容健康法(=ヨガなど)を教えたり、プライベートでも面倒見がいい模様。なんとなく、東洋のマタハリ・川島芳子(愛新覺羅顯㺭)がモチーフの一つなのではないかと思っています。現在2021/03/20時点でガンガンオンラインで公開中の話でビジュアルを確認できます。単行本だと外伝イヤーワン漫画7巻に収録されるはず。




 
半竜娘「エース選手の座、もらい受ける! ウィズボールはやったことないがの!」
蒼鱗ドラゴンズエース選手「なんだァ、てめェ……」
半竜娘「問答無用! いざ尋常に勝負(フェーデ)! イヤーッ!」

グワゴラガキーン!!

蒼鱗ドラゴンズエース選手「グワーッ!」

そして前話末尾のスカウトへ……。

半竜娘「計画通り……」

※ウィズボールについてはWikipediaにも記事があります。 → ウィズボール - Wikipedia
特筆すべきルールとして、以下があります。
・試合途中でチームの選手数が5人以下になったチームの敗北
なお、ルール上はレッドカードやイエローカードは存在せず、選手が減るのは負傷による死亡のみです。ピッチャーはビーンボールにより、バッターは得物を投げることにより攻撃することが可能。そのほか、乱闘により生じた戦闘で負傷する可能性あり。
また、5点ビハインドの状態からは、負けているチームは積極的に「乱闘」を仕掛けることができます。
その他、攻撃側・守備側の事件表(ランダムイベント表)の結果により、ラスボスが乱入したりといった、トンチキな事件が起こる可能性があります。

四方世界におけるルールはゴブスレ原作では明示されていない(よね?)が、おそらく似たようなルールだと思われます。まあ、死亡まで行くことはないでしょうけど、選手の負傷は日常茶飯事じゃないでしょうか。剣闘と魔法と野球を合わせたような競技?
作中でウィズボールファンだと明言されているのは、仕掛人の密偵くんと、外伝2の蟲人僧侶さんですね。麗人係官(査察官(インスペクター))さんが猛虎党なのは捏造です。

===

毎度、感想評価&コメをありがとうございます! ますます精進いたしますので、引き続きお読みいただければと思います、よろしくお願いいたします!
 


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34/n ウィズボール・プレイボール!-2(因縁のオーガ兄弟)

 
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===

●前話:
選手の枠がない? 空けて♡(殴打(そぉい!)

===

Q.ゴジラ化半竜娘ちゃんって、超勇者ちゃんの太陽パワーとか、核撃を食えるようになる?
A.むしろたぶんこう。
ダブル半竜娘ちゃん「「 行くのじゃ! 受け止めよ、核撃の竜息(フュージョンブラストブレス)!! 」」
剣聖「ああっ、なぜ味方に照射を!?」 賢者「いや、あれは――」
超勇者「来い、こいこいこいこいッ! 来た、きたききたきたきたァアアアッ!!!」
賢者「―― 吸収している!?」 剣聖「馬鹿なッ、なぜ無事でいられるのです!?」
超勇者「正 し い か ら 、 死 な な い !! これで私はファイヤー勇者!!」
半竜娘「核撃の竜息(フュージョンブラストブレス)は、勇者の力を高める栄養剤(エサ)なのじゃ!」

Q.ウィズボールってどのくらい人気あるの?
A.戒律(アライメント)や種族を超えたメジャースポーツ。ひょっとしたら神様もお忍びで見に来ているかもしれない。王族は絶対来てる(事件表に載ってるので)。ドラゴンも時々空からこんにちわする。多分、試合中に()()で亡くなったスター選手を、球戯神(仮称)が奇跡を遣わして蘇らせたりとかも過去にあったのではなかろうか。それか伝説(ベーブ・ルース)的な選手がウィズボールの神様として陞神(しょうしん)してるとか。浴槽神とかと同様に、人の文化のうちから神が生まれるくらいには人口に膾炙した競技なんじゃないかと想定。
 


 

 はいどーも!

 球場の魔物(黒角ジャイアンツ)を退治する実況、はーじまるよー。

 白木の杭(バット)を心の臓に打ち込んでやろうな。

 

 前回は半竜娘ちゃんが銅等級昇格の試験を兼ねた依頼を受けたところまででしたね。

 内容は、人喰鬼(オーガ)と手を組んでいると思われる、ウィズボール球団のオーナーの裏取りをすることでした。どうやら将来有望な冒険者を依頼にかこつけて餌として人喰鬼の領域に送り込んでいる疑惑があるとか。

 しかしオーナーの警戒は強く、通常の手段での接触は難しそうだということで、ちょうど開催中だったウィズボールのイベントを利用することにしました。

 

 季節は晩秋。

 スポーツの秋もたけなわということで、今年の王都ではウィズボールの1位決定戦が開催されます。どうやら同率一位のチーム同士の直接対決にもつれ込んだようです。

 調査対象が引きこもっているといっても、球団オーナである以上は、優勝式典には流石に出席せざるを得ないはずです。

 その時のマウンド上、呪文の射程距離内に居合わせることで、【読心】の術で情報を抜くプランを立てています。必要であれば、ぶっこぬいた情報をもとに、追加で物証を集める心算です。

 

 まあ、市街冒険(シティアド)やるに当たって、心を読めたり、死霊の声を聴けたりするのはチートですよねぇ~。術が通ればそこで試合終了(ゲームオーバー)ってなもんです。

 

 疑惑のオーナー氏が擁する『黒角(くろつの)ジャイアンツ』に潜り込めれば話は早いのですが、黒角ジャイアンツは、魔術師によって召喚されたオーガたちメインのチームです。

 【巨人】召喚の呪文を半竜娘ちゃんも覚えていれば魔術師側として紛れ込めたかもしれませんが、覚えてないのでジャイアンツ潜入ルートはナシです。

 

 であれば、残る候補は対戦相手の蒼鱗(そうりん)ドラゴンズの方。

 半竜娘ちゃんと種族を同じくする蜥蜴人を主軸に据えたチームなので、潜り込むのは簡単です。

 要は、椅子取りゲーム(実力行使)をすればいいだけですからね。やはり暴力。暴力はすべてを解決する……!

 

 

 

 というわけで、やってきました、蒼鱗ドラゴンズの本拠地です。「たのもー!」してからの「一番強い奴を出せぃ!」なので、まるっきり道場破りムーヴですね、これ。

 蜥蜴人の文化というやつを実地で見学させるため、幼竜娘三姉妹も一緒です。選手たちから「バリあいらしかね~」と可愛がられています。せやろ、うちの娘らは可愛かろう。

 

 で、肝心の手合わせですが。

 

「イヤーッ!!」

 

「グワーッ!?」

 

「勝ったッ!! 第一段階、完!!」

 

 はい、蒼鱗ドラゴンズのスタメン選手に勝負を仕掛け、見事に打ち負かしました。ざっとこんなもんよ。

 まあね、体格で言っても半竜娘ちゃんの方がふた回り以上は大きかったですからね。残当。

 祖竜の寵愛篤き乙女は伊達ではありません。

 

「わー、おかーさんすごーい!」 「すごーい!」 「すごかばいー」

 幼竜娘三姉妹もちっちゃなおててで一生懸命拍手してくれてます。あと三女ちゃんに南方訛りがうつってますね。

 

「色よい返事を期待しておるのじゃ! ではさらばっ!」

 

 ということで、颯爽と蒼鱗ドラゴンズの本拠地をあとにする半竜娘ちゃんでした。もうこれ完全に道場破り的なアトモスフィアですよね。

 幼竜娘三姉妹を両肩や頭の上に乗せながらなので、子連れ狼ならぬ子連れドラゴンといったところでしょうか。

 

 

 

 

 その日の夕方。

 王都の酒場で快気祝いも兼ねて半竜娘ちゃんが仲間と酒を吞んでいると、彼女に声をかける者がいました。

 狙い通りです。

 

 

「姐さん、い~いカラダしてんねえ。―― 魔球(ウィズボール)、やらねぇか?」

 

 

 酒場の壁には、ウィズボール王都リーグ1位決定戦のポスターが張られています。

 対戦カードは『黒角(くろつの)ジャイアンツ VS 蒼鱗(そうりん)ドラゴンズ』。

 

 声をかけてきたスカウトらしき男の差し出した札には、ポスターの蒼鱗(そうりん)ドラゴンズと同じトレードマークがあります。

 間違いありません、蒼鱗ドラゴンズのスカウトマンです。声の掛け方(「いいからだしてるねぇ」)は、多分この人の持ちネタかなんかでしょう。

 

 

「なあ、是非に頼むよっ、姐さん。姐さんを引っ張って来れなかったら、僕ぁ馘首(くび)にされっちまうよ」

 

「さっきの今じゃが、さすがに判断が早いのう! もちろんこちらは最初からそのつもりじゃ」

 

「―― ってこたぁ……!」

 

「是非によろしく頼むのじゃ」

 

 契約成立! 無事に蒼鱗ドラゴンズに打席を用意してもらえそうです。

 試合の日まではそれほど時間はありませんが、打席だけでなく、一応守備も練習したりする必要があるでしょう。試合中の脱落者の穴埋めでお鉢が回ってくる可能性は常にあります。

 ウィズボールは指名(D)打者(H)制のため、投手は投球に専念し、打席には立ちません。半竜娘ちゃんは武道家Lv6な(投擲に補正が付く)ので一応投げる方もいけますが、やはり投げるのが得意なのは只人(ヒューム)の方ですしね。

 

 しかしどのような采配になるのか、そのあたりは監督次第です。

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「貴様が新しい選手か」

 

「よろしくなのじゃ、監督殿!」

 

「そげん険しい顔ばせんとよ、監督! この姫巫女(ヒミコ)ちゃんの実力は確かやけんね!」

 

「そりゃ見りゃ分かる、フィジカルはめちゃくちゃあるんだろうさ」

 

 ということで、監督と顔合わせです。

 道場破りしたときに戦った(イヤグワされた)エース選手の蜥蜴人さん―― 元エース―― も一緒です。南方訛りの共通語(コイネー)が特徴的ですね。半竜娘ちゃんの呼び方は『姫巫女(ヒミコ)』呼びになったようです。

 

 監督は上から下まで半竜娘ちゃんの身体を眺めて検めます。

 

 身の丈九尺!

 筋骨隆々!

 カッチカチの鱗!

 紅く妖しい腕の入れ墨(鮮血呪紋)

 青く揺らめく(スパーク)を宿した眼光!

 

「うぅむ。やはり、ただものではない。流石は『鮮血竜姫(ブラッディドラキュリーナ)』、火吹き山の新人王。最悪乱闘要員でも十分か」

 

「打席も十分行けろーもん。ウチに勝ったとよ?」

 

「そりゃ実際に打つところを見てからだな。俺は何の練習もしてねーやつぁ信用しねーんだ。お前をエースに据えてるのも、お前が一番チームで練習してるからだしな」

 

「いやー、照れるばい! そげん褒め殺しばしてどげんすっとね!! あっ、避けんとよ!?」

 

「やめろ叩くな、俺が死ぬ。こちとらひ弱な神官なんだぞ」

 

 監督と元エースがなんか漫才してますね。

 あ、ちなみに監督には治癒術が使える者が就任するのが慣例です。

 監督と選手の治癒術のみが、負傷した選手を試合中に復帰させることができるルールなので、監督が治癒術を使えるかどうかはチームの継戦能力に直結する重要なファクターです。

 

 適当なところで元エースとの漫才(じゃれあい)をやめて、顎を撫でながら、監督が告げます。

 

「まあまずは、打席に、投手に、それ以外の守備のポジションも一通り流してってことだな。どうせテメエらどつき合いしかまだしてねえんだろ」

 

「それで足りろーもん?」

 

手前(てまえ)も同意じゃ。―― が、しかし、ここの(トップ)は監督殿じゃ。従うのじゃよ」

 

「……ああ、俺をぶちのめしてトップに立つとか言うやつじゃなくて良かったよ」

 

「そんな奴はおらんじゃろ? ―― おらんよな?」

 

「そこに居る」 元エースを指さす監督。

 

「いやあ、若気の至りばい!」

 

 たはは、と笑う元エース。

 それに比べると半竜娘ちゃんの思考が穏当なのは、彼女が軍師課程(キャリア)を出てるからですね。

 ほんのこつ半竜娘ちゃんは頭の良かお方ばい……。

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 で、打席から投手から守備も一通り経験した結果。

 

捕手(キャッチャー)だな」

 

「であるかの?」

 

「ああ、捕手(キャッチャー)だ。絶対に」

 

 あまりピンと来てない様子の半竜娘ちゃんに、グッと確信した様子で告げる監督。

 元エースの蜥蜴人さんは後方先輩面でウンウンと頷いています。―― 絶対分かってない奴ですねコレ。

 ちなみに元エースさんは半竜娘ちゃんに負けた後に速攻で他のチームメイトをぶちのめして1軍に残留しています。蜥蜴人ェ……。

 

「まずタッパがでかいのが良い。敵の黒角ジャイアンツは巨人の選手ばかりだ。奴らのストライクゾーンに対応するためには、こっちのキャッチャーもでかい方がいい」

 

「そうじゃのう、並みの只人では、必然、低めの球しか受けられんし、高めを狙ったら立ち上がって受ける必要があるから、どのみちコースがバレるのじゃ」

 

「打ち取るための球の組み立ては勉強してもらう必要があるが、最悪、それは逐一俺がベンチからサインを出しても良い」

 

「ふむ、それなら安心じゃの」

 

「そして何より、投手のコイツの全力を受けられるのが良い」

 

「うひひ……いいねえいいねえ、魔球投げ放題だねえ」

 

 監督のそばに控えていたのは、見事な体躯の只人の投手で―― 魔術師を示すローブに身を包んでいました。

 ひょっとしたら普段は寡黙な投手として通っているのかもしれませんが、いまは(やに)()がった表情を隠しもしていません。

 

「全力で投げ込んでも受け止めてもらえるってのが、こんなに楽しいとはねえ、うひひひ」

 

「あー、普段はコイツも、もっと静かなやつなんだがな。……ひょっとしたら無口だったのは、全力で投げられない鬱憤を何かの拍子に漏らさねえように黙ってたのかもしれねえな」

 

「うひひひひ」

 

 投手―― 魔球投手―― が喜色満面に近づいてきて、半竜娘ちゃんの方に手を差し出します。

 

「よろしく頼むねえ、姫巫女(ヒミコ)ちゃん。はい握手ー」

 

「うむ! こちらこそなのじゃ!」

 

 がっちり握手!

 

 バッテリーの結成です!

 

「じゃあさっそく練習しようねえ! どの魔球から行こうかなあ? 炎? 雷? 風? 幻影?」

 

「もちろん全部じゃ!」

 

「そう来なくっちゃあ! 分かってるねえ、姫巫女(ヒミコ)ちゃン!」

 

 早速仲良くなってますね。

 

 

 

「―― (はしゃ)ぎ過ぎて身体壊すなよー? 2人とも」

 やれやれと肩を(すく)めた監督は、勝利の予感に口の端を吊り上げます。

「こりゃあ、黒角ジャイアンツに勝って優勝できるぜ、きっと。―― いや、俺たちこそが優勝するんだ、絶対に、な!!」

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 やがて時は過ぎて、1位決定戦の開催日がやってきました。

 

 それまでの間に、幼竜娘三姉妹がチアリーディングにハマったり、森人探検家やTS圃人斥候が黒角ジャイアンツのオーナーを探っても特に成果を得られなかったり、文庫神官ちゃんが沈没船から回収した文物を収めた功績で知識神の神殿から『聖印+2』を授かったり、海底から回収した財宝の査定額を知った森人探検家ちゃんが狂喜乱舞して五体投地して交易神への信仰を募らせたり、なんやかんやありましたが、無事にこの日を迎えられました。

 

「てっきり場外で闇討ちでもされると思ったんじゃがなぁ」

 

 ウィズボールの会場として整備された王都のコロシアム。

 黒角ジャイアンツと蒼鱗ドラゴンズの両チームの選手が整列し、お互いに鋭い眼光を飛ばしあっています。

 そんな両軍へと、超満員のコロシアムの観客席から地を揺るがさんばかりの声援が降り注ぎます。

 

「いやいや、姫巫女(ヒミコ)ちゃん、試合でいっくらでも合法的に()れるんに、いちいち闇討ちとかせんやろ」

 

「言われてみれば確かにそうじゃな。うむ」

 

「うひひひひ、腕が鳴るぜえ」

 

 元エース、半竜娘ちゃん、魔球投手が戦意を高めています。

 もちろん、ベンチ入り含めて20名ほどのチームメイトたちもです。

 彼らもまた、日々の練習で腕を高めた、精鋭中の精鋭です!

 

 

 

 それに対するは黒角ジャイアンツです。

 しかし今のところ巨人の姿は見えません。

 ―― 巨人たちは、これから召喚されるのです。

 

 並んでいた魔術師たちが、巨人の歯を取り出して、次々と【 巨 人 (クリエイト・ジャイアント)】の呪文を唱え始めます。この中の一人が調査対象の黒角ジャイアンツのオーナー氏かもしれませんが、どいつなのか、そもそも本当にこの中にいるのか、確証は持てません。

 彼らが手に持つ触媒のうち、幾つかは、おそらく特別製なのであろうと見て取れます。その特別製と思しき巨人の歯は、何らかの魔術的な紋様が彫り込まれています。それにより何か特別な効果があるのでしょう。

 

「「「 ファキオ(生成)アウクシリア(増援)ギガス(巨人) 」」」

 三人の術師がそれぞれ普通のオーガの牙を投げ、3体のオーガへと変換させます。

 

『『『 OOOOGGGGRRRRRREEEEEEE!!! 』』』

 そして現れたのは、3体のオーガ。これだけでも十分な脅威ですが、黒角ジャイアンツの魔術師たちが呼び出すのは、それだけには留まりませんでした。

 

 

「「「 ファキオ(生成)アウクシリア(増援)ギガス(巨人)! 来たれ、タイクーン! 」」」

 続いて投じられたのは、ひときわ大きな牙。3人の術者が1つの特別な触媒に力を注ぐという魔術増幅法まで用いています。

 

「「「 ファキオ(生成)アウクシリア(増援)ギガス(巨人)! 」」」

 そして同じように別の3人がかりでの魔術詠唱!

 

「「「 ファキオ(生成)アウクシリア(増援)ギガス(巨人)! 」」」

 さらにもう一度の相乗詠唱! 合計3回!

 

 3人分の呪文を相乗させて効力を増した【巨人】の術が、全部で3度響き、複雑な魔術刻印がされたオーガの歯が膨れ上がって構成したのは、最初に現れたオーガたちを上回る巨体。少なくとも、オーガジェネラル以上と目されます!

 そして、3つの大牙を中心に形作られていく3つの巨体がその偉容を(あら)わにし―― さらにはなんと、次々と知性の光を宿し始めるではありませんか! こいつらは、単なる傀儡ではないようです!

 

『OOOOGGGGRRR―― 鬼我一体!! ふはははは、たまにはウィズボールと洒落込もうではないか! なあ弟たちよ!! 頂点を決める舞台ともなれば、下賜した牙を触媒にした分体へ直接意識を遣わすに足るというものよ!』

 

『GGGRREE―― 鬼我一体!! 応とも、一の兄者! 血が滾るというものだな! 術で作られた身体に意識を飛ばすのにも慣れてきたゆえ全力も出せようさ!』

 

『OOORRRGGEE―― 鬼我一体!! 相手にとって不足なし! それにちょうど政務の鬱憤も溜まっておったところよ! ―― んん!? 貴様はまさか半竜の!?』

 

 オーガジェネラルの3兄弟―― いえ、これはあるいは、伝説のタイクーン級に成長しているのでしょうか。伝説では人喰鬼(オーガ)領域を一つに纏め上げられるほどの英傑が至る境地だと謳われており、神話時代に爪先を突っ込んだような大駒だとか。

 

 そして、その推定:オーガタイクーン3体の内の2体の闘気に、半竜娘ちゃんは覚えがあります。

 

「むっ、よもや貴様たちは、オーガ:一ノ若=サンと、三ノ若=サン!?」

 

『ほう、見違えたな、半竜の術師=サン。貴様もよほどの修練を積んだと見える! ワシのことは一ノ君(イチノキミ)と呼ぶがいい』

 

『やはり貴様は、半竜の術師=サン!! ここで会ったが百年目……! この三ノ君(サンノキミ)が、いつぞやの決着をつけてくれるわッッ!!』

 

 強大なオーガの登場に湧き上がる球場(コロシアム)で、半竜娘ちゃんと、オーガタイクーン兄弟の長男と三男がバチバチと火花を散らして睨み合います。*1

 一触即発!!

 

『へ~え、あんたが半竜の……。まあまあ兄者、弟者。まずは試合だろう? 試合も始まる前から乱闘たぁ、ちぃっと品がないってもんよ』

 

『ふっ、確かにその通りか』 『……ふん。せいぜい首を洗って待っているんだな、半竜の術師=サン』

 

 初対面になるオーガ、二ノ君(ニノキミ)の言葉に促されて、オーガタイクーンたち3体と、並オーガ(魔術師が操作)の3体はベンチへと引き上げていきます。

 いつの間にか、試合前の挨拶の時間は終わっています。そしていよいよ試合開始です!!

 

 ―― ではいざ!

 

ウィズボール・プレイボール!!

 

 というところで今回はここまで!

 ではまた次回!

 

*1
オーガ、一ノ若と三ノ若:過去話「11/n 森人探検家を追って~人喰鬼将軍交戦」で交戦したオーガ兄弟。今回、コロシアムへは特殊な触媒を使った術で作られた分身へと、オーガ領域の特殊魔法陣から意識を飛ばしてきている。鬼に金棒との言葉があるように、オーガという種族はウィズボールの強打者である。




 
次の原作小説9巻の『氷の魔女の洞窟』編では、オーガ次男を出せなさそうなので(仇討ちの理由もないし)、三兄弟まとめてここで登場です。

===

皆様感想評価&コメをいつもありがとうございます!
皆様に楽しんでいただくべく益々精進してまいりますので今後ともよろしくお願いいたします!

===

◆◆◆ダイマ重点◆◆◆

ニコ生で『「ゴブリンスレイヤー」全12話&「ゴブリンスレイヤー -GOBLIN'S CROWN-」(冒頭)一挙放送』(2021/04/02(金) 18:00開始)らしいですよー。2期に備えて復習だ!

あと多分販売数次第で2期の出来が決まるんじゃないかという気がする『ゴブスレアニメBlu-ray Box 初回限定版』は2021/4/28発売ドスエ。
◆◆◆ダイマ重点◆◆◆

 


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34/n ウィズボール・プレイボール!-3(乱打戦)

 
みなさま、たくさんの閲覧、評価&コメント、お気に入り登録、誤字報告、ここ好きタップ、そして感想ご記入いただきありがとうございます! お楽しみいただけるようにもっともーっと精進します!

===

●前話:
ここで会ったが百年目ッ!! いざ尋常に―― プレイボール!!

===

(ほとばし)る信仰心
女商人「……まあ、先日お預かりした、サルベージされた財宝については、こんなところでしょうか。貴女相手だと、毎回タフな交渉になりますわね」
森人探検家「あなたこそやるじゃない。じゃあ、この金額で妥結ということで」
女商人「少しは手加減してほしいものですわ」
森人探検家「ふふ、無理な相談ね。それでは、また。良き風の巡りのあらんことを」
女商人「はい、またのお越しをお待ちしておりますわ」

……エルフ移動中(商館 → 交易神の神殿)……

森人探検家「礼拝堂をお借りします」
交易神官長「(身に付けている『聖印+3』をちらりと見る)……信心の篤い信徒のようですね。良いでしょう。さあ、奥へ」*1
森人探検家「ありがとうございます」

交易神官長「ここが礼拝堂です。ご自由にお使いください」
森人探検家「ありがとうございます」(スッと金貨の袋を寄進箱に入れる(自腹))
交易神官長「ではまた後ほど。よき風が吹きますように」(オリジナル笑顔)

森人探検家「…………」(跪いて祈りを捧げる)
森人探検家「……………………ぃ…………」(やがて(ぬか)づいて手を床に(五体投地(ソフト)))
森人探検家「…………ぃやったぁあああああ!!」(感極まって万歳して立ち上がる)
森人探検家「宝の地図が大当たりで大儲け! ああ、交易神様、感謝いたします!」(そのまま倒れ込むように五体投地(ハード)) バンッ
森人探検家「感謝いたします! 感謝いたします! なので、次も何卒(なにとぞ)、なにとぞ~~!」(跪いて五体投地(ハード)を繰り返す) バンッ、ドバンッ、ゴッ

……エルフ礼拝中……

交易神官長「終わったようですね。あら、鼻から……」
森人探検家「ああ、申し訳ありません、信仰心が溢れてしまいました。おほほ」
交易神官長「【小癒(ヒール)】。鼻骨が曲がってらしてよ? あまり繰り返すとお顔が四角くなってしまいますわ」
森人探検家「あっ……ありがとうございます……」
交易神官長「これで、もとどおり。先程の寄進の返礼の範疇ですのでお気になさらず。商人には容貌も大事な商売道具ですものね?」
森人探検家「おっしゃる通りで……。しばらく都に滞在いたします。きっとまた、一党の分け前を精算した後にでも参りますわ」
交易神官長「ええ、お待ちしています♪」
 


*1
王都の交易神官長:10年前に死の迷宮の前の街で、カント寺院 交易神殿の取りまとめをしていた修道女だったが、その後、出世した。わざわざ危険地帯へ出向いて(リスクテイクして)荒稼ぎした甲斐があったというもの。御布施をケチる貧乏人には「ケチな背教者め!」などと辛辣。

 

 はいどーも!

 因縁のある敵ユニットがグレードアップして立ちはだかる実況、はーじまーるよー。

 

 既に黒角ジャイアンツと、蒼鱗ドラゴンズとの試合は始まっています。

 それで先攻はどっちですっけ。

 

 ■どっちが先攻?(ダイス目が大きい方が先攻)

 黒角ジャイアンツ34 < 蒼鱗ドラゴンズ63

 

 1回表は蒼鱗ドラゴンズの打席からですね。

 相手の投手は、名も無きオーガ……いえ、オーガメイジのようですね。炎の魔球に注意といったところでしょうか。追加で召喚された選手のようです。

 特製の触媒を使ったものではないため、肉体の操作は召喚した術者が行っています。

 

 対する打者は、蒼鱗ドラゴンズの切り込み隊長。

 元エースでもある蜥蜴人です。

 その経験と確かな実力により、一気に試合の流れを引き寄せるべく起用されたのでしょう。

 

 では、ここで解説として蟲人僧正さんに加わってもらいます。

 そうです、11年前に≪死≫の迷宮(ダンジョン・オブ・ザ・デッド)を攻略した6人の金等級冒険者のうちの一人である、あの方です!

 

『こいつ、直接脳内に……!?』

 

 ウィズボールとしての本来の実況解説は別にいますが、盤外向けに特別に蟲人僧正さんに繋ぎます。

 え? 並みの神職だと盤外からの電波で発狂するだろって? 蟲人僧正さんならヘーキヘーキ!

 

『おもしれぇ……! どこの神だか知らねえが、その解説、やってやろうじゃねえか……!』

 

 というわけで、実況はこの『N氏(ナナシ)』と、解説は、砂漠の国から遠路遥々(はるばる)やってくるほどのウィズボールファン、6英雄の一人にして、熱砂の地の蟲人の長でもある蟲人僧正さんです。

 観客席の結構いい場所にいらっしゃったので、これ幸いと電波を繋いで解説してもらいます。

 

 さて、では、まず第一打席からです。

 詳しくない方向けに、基本的なことも交えていただければ助かります、解説の蟲人僧正さん。

 

『いいだろう。まず、ウィズボールは一球入魂。1打席の球数は1つだ』

 

 ということは、ストライクとかボールとかファールとかは無いんですね。

 まあ、投げるのは非常に重たい鉄球ですし、場合によっては文字通り魔法を絡めた魔球を投げることを思えば、投球数は伸ばせませんものね。

 

『そういうことだ。あるのは、ヒット、アウト、反則投球(ボーク)。ヒットは、打者によっては二塁打、三塁打、本塁打を飛ばす奴もいる。ボークは死球(デッドボール)や外れ球も含まれるぞ』

 

 なるほどー。

 攻守交代はスリーアウトチェンジですか?

 

『そうなる。6回裏までやるから、最少投球で完封すれば18球を投げることになるな』

 

 実際は打たれたり死球を投げたりで、もう少し投球がかさむでしょうけどね。

 それでも、30球にはいかないくらいでしょう。

 

『ああ、だからこそ魔球の切りどころは重要だ。……まあ、黒角ジャイアンツは、控えの投手を召喚して補充できるから、呪文が尽きた投手は交代させる作戦だな。そうやって魔球をふんだんに使って、今期はトップタイの成績だ』

 

 ほほー!

 

『投手は普通は只人有利なんだが、呪文を使った底上げで黒角ジャイアンツのオーガたちは圧倒してきたわけだな』

 

 それだけ聞くと、蒼鱗ドラゴンズにはあまり勝ち目がないのではって気がしますが。

 

『それだけで決まらないのが、ウィズボールの面白えところだ。おっ、さっそく第一打席から魔球を投げるぞ……!』

 

 ピッチャー大きく横に振りかぶって、第一球……投げました!*1

 

 呪文詠唱とともにリリース!

 球が……燃え上がった!!

 

『炎の魔球だな。恐らく【火矢(ファイヤボルト)】に乗せて投げたんだろう』

 

 迎え撃つは蒼鱗ドラゴンズの元エースたる蜥蜴人の選手です。

 さあ……どうだっ!?

 

 ■ヒット? アウト? デッドボール?(投球を打者が打てるか対抗判定)

 ・投球側 黒角ジャイアンツ(【火矢(ファイヤボルト)】の魔球)

   2D653+11+炎の魔球5=24*2

 

 ・打者側 蒼鱗ドラゴンズ

 (呪文抵抗判定)

   2D663+選手Lv9+魂魄反射5+呪文抵抗3=26 ○抵抗成功

 (武器(バット)命中判定)

   2D653+戦士Lv10+技量集中5+炎魔球狙い2=25

 

 ○打者側勝利! ヒット!

 

『おお、上手くひっかけたな! まずはヒットだ!』

 

 トップバッターが流すように打ちました。

 鋭い打球が左中間へと走る!

 流石は元エース選手! 手堅い出塁だ!

 

『だが野手も読んでたな。しかも巨人だから、一歩一歩がでけえ。さすがに2塁にはいけねえか。ジャイアンツ相手だとなかなか長打にならねーんだよなぁ』

 

 打順一番の元エースの蜥蜴人は、1塁でストップです。

 解説の蟲人僧正さん、今の打席についてですが。

 

『ああ、完璧に球を読んでたな。そうでなけりゃあ逆に打ち取られていただろう』

 

 なるほど。投手と打者の駆け引き……それがドンピシャ噛み合うことで、幾ら優れた投手であっても、打ち込まれてしまうというわけですね。

 

『そういうことだ。面白えだろ?』

 

 ですね!

 あ、続いて二番バッターです。

 

『二番バッターは器用で足の速い選手が出ることが多い。蒼鱗ドラゴンズは……森人(エルフ)だったか』

 

 身軽さが売りのエルフですが、ウィズボールにおいてはその技巧も併せてかなり強力な打者になるわけですね!

 

『ああ、そういうわけだな』

 

 さあ、投手のオーガメイジ……集中して何事か唱えたあとに、振りかぶって、投げました!

 

 ■ヒット? アウト? デッドボール?(投球を打者が打てるか対抗判定)

 ・投球側 黒角ジャイアンツ(【恐慌(パニック)】の魔球)

   呪文行使 2D665+11=22

 

 ・打者側 蒼鱗ドラゴンズ(【恐慌(パニック)】への抵抗)

   呪文抵抗 2D643+選手Lv8+魂魄反射6+呪文抵抗1=22 ×抵抗失敗!

 

 呪文抵抗失敗のため、効力値22の【恐慌(パニック)】により、蒼鱗ドラゴンズ打者は打席から逃亡!

 投球は自動成功、打席は自動失敗。

 

 ×打者側敗北! アウト!

 

 

 おおっとどうしたことだ!?

 エルフの選手、逃げ出した~~!?

 解説の蟲人僧正さん、これは!?

 

『あー、これは【恐慌(パニック)】の呪文だな。しかもかなり強力なやつだ、それこそ逃げ出したくなるくらいにな。もとから少しはあっただろう恐怖心を増幅されたんだ』

 

 なるほど! 確かに、キャッチャーとして控えているあのタイクーン級のオーガも居ますし、プレッシャーが凄まじかったのも、恐怖心に拍車をかけたのでしょう!

 しかし敵前逃亡に、観客席からは大ブーイングだ!!

 

 興奮した観客が柵を超えてマウンドに乱入……! 乱闘か!?

 

『ま、これもまたウィズボールの楽しみ方ではあるが……ちょっといただけねえな』

 

 というと?

 

『まだ立ち上がりで、場があったまってねえってことだよ。乱入するなら、もっと盛り上がった場面でねえと。客席から降りてきたのは、お(のぼ)りさんかもな』

 

 はあ。おっと、逃げ出したエルフの選手の方に詰め寄る観客! しかし、『逃げるのに邪魔だ!』とばかりに鎧袖一触! 乱入者の観客は一瞬で吹き飛ばされたぁ~~!

 

『あーあ。トップ選手にただの観客が勝てるかよ』

 

 ……吹き飛ばされた観客の顔は妙にうれしそうにも見えます。

 

『実はあのエルフのファンだったんじゃねーのか? 怒ってたっていうより、スキンシップ目当てだったのかもな』

 

 スキンシップ()。

 ま、まあ、エルフは顔が良い(グッドルッキング)ですからね。

 

 

 さて、続いて三番打者。

 打順は6打者で一巡するので、折り返しですね。

 

 満を持して登場するのは、凡百の巨人には負けない身の丈9尺もの巨体!

 【辺境最大】! 【鮮血竜姫】! 【死封竜】!

 

 決闘でエースを負かせて急遽参戦したという、巨人じみた恵体の女蜥蜴人ハーフ(半竜娘)の登場です!

 

『俺のデータにもない選手だが、鳴り物入りで登場ともなれば、期待が持てるな』

 

 対する投手のオーガメイジは、すでに呪文を使い切っているが―― おおっと、これは!?

 

超過詠唱(オーバーキャスト)……! 命を燃やして投げるつもりだな、おもしれぇ……!!』

 

 マウンド上でピッチャーのオーガメイジが、頭上にボールを投げ上げました!

 そして空中のボールを中心にして【火球(ファイヤーボール)】が膨れ上がります!

 

 そして投射(ヤクタ)!!

 

『必殺の魔球だな、弱い選手じゃあ、打てても避けても致命傷だ。全力で逃げるしかねぇ』

 

 だがしかし、半竜娘は逃げない!!

 ドラゴンに逃走はないのだ!!

 

 ああっと、半竜娘が火球に飲み込まれたぁあああ!!

 

 

 ――――グワゴラガキーン!!

 

 

 しかし響いたのは快音!!

 火球の核となっていたボールが弾き返された~~~!!

 

 しかもこのコースは―――!!

 

『ピッチャー返し! 狙ってやったなら、凄腕だぞ! 超過詠唱(オーバーキャスト)で弱った身体じゃ避けられねえ!!』

 

 豪速のピッチャー返しが、投手の頭に炸裂ゥウウウ!!

 ボールを相手の頭にシュゥウウウッ!! 超! エキサイティング!!

 

 頭蓋が砕けたオーガメイジの召喚が解けて、どろどろの液体状になりながら、膝をつき、前のめりに倒れます。

 

『頭を砕いても打球の勢いが弱まらねえ。コースが上向きになったおかげで、こりゃあホームランコースだな!』

 

 相手投手の頭を踏み台にした打球は、弾かれるように上向きになって、伸びる! 伸びる! 伸びる!

 落ちてこない! 落ちてこないぞ!

 そのままバックスクリーンに―― 飛び込んだァアアアッ!!

 

 なんという鮮烈な初打席!!

 

『本塁打といっても、バックスクリーンまで飛び込むのは滅多にねえ。いやあ流石は蒼鱗ドラゴンズのエースだな。1回表から良いもの見させてもらったぜ』

 

 火球により燃え盛るホームから現れたのは、まったく無傷の半竜娘ちゃん!

 無傷なのは【竜命(ドラゴンプルーフ)】のおかげか、あるいは自慢の鱗のおかげか。

 

 そしてゆっくりとベースを回り始めます。

 

 悠々とベースを回る元エースの蜥蜴人と、それに続く現エース・半竜娘。

 

 そして今、ホームイン!

 

 大きな声援とベンチのチームメイトがホームで出向かえます。

 

 守備側の黒角ジャイアンツの、タイクーン級オーガ三兄弟も、天晴(アッパレ)な仕儀に拍手を送っています。

 

『そうそう、あいつら意外とスポーツマンシップやルールを大事にするんだよな。むしろ蜥蜴人の選手の方に、手段を選ばねえダーティなのが多いイメージだぜ』

 

 蛮族より蛮族してる蜥蜴人っていったい……。

 

 ―― さ、さて。これで2対0。1回表、ドラゴンズの先攻、ワンナウト、ランナーなしです。

 

蒼鱗ドラゴンズ 2 ― 0 黒角ジャイアンツ

 

『ひょっとするとこりゃあ乱打戦になるかもしれねえな。黒角ジャイアンツはタイクーン級オーガの三枚看板、蒼鱗ドラゴンズは新旧エースの二枚看板。面白くなってきやがった……!』

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 その後、1回表は追加得点なし。

 特に事件も起こりませんでした。

 

 1回裏となって、黒角ジャイアンツの攻撃です。

 打順は、オーガタイクーン三兄弟が若い順から出てくるようです。

 

 やはり打順の前半は強力なバッターが就くのがセオリーなんでしょうか、解説の蟲人僧正さん。

 

『まあそうだ。打者は6人。打てる打者(ヤツ)にできるだけ打順を回す方がいいからな。その方が得点機会が大きくなる』

 

 なるほどー。

 

『まあ、これには諸説ある。1番から3番はとにかく塁に出て、4番で解決! ってパターンも根強く人気だ。ま、俺はどっちも好みだがな』

 

 流行のようなものもあるんでしょうか。

 ともあれ、黒角ジャイアンツの打席です。

 

 蒼鱗ドラゴンズのピッチャーは只人の魔術師。キャッチャーを務めるのは新エースの半竜娘です。

 

『オーガの得物は巨大金棒(ジャイアントモール)。いつもは片手で振り回すそれを、両手で構えりゃ、そりゃ強いわな』

 

 そういえば、人喰鬼大君(オーガタイクーン)というのは、3体も出てくるものなんでしょうか。

 

『普通はない。だが、これも去年の春に魔神王が側近もろとも速攻で討伐された影響だろうな。混沌領域での勢力再編成に、実力者の台頭。その結果、おそらくオーガの領域はあの三兄弟を中心に統一されたんだろう。で、今シーズンは、息抜きがてらに魔法の召喚体に意識を飛ばしてウィズボール、ってところだろう』

 

 ははあ、劉備・関羽・張飛か、はたまた信長・秀吉・家康か、そういう感じの(コーエーテクモ的な)英雄だと。

 

『盤外のこと言われても分かんねーよ。それより黒角ジャイアンツの第1打席だ』

 

 早速、投手、投げました!

 そしてこれは―― 曲がった!?

 

『風の魔球だな! 【突風(ブラストウィンド)】を軌道上に置いて曲げるテクニックだ。相当正確なコントロールがねーと不発する』

 

 しかし、オーガタイクーン:三ノ君(サンノキミ)、これを読んでいた!

 

『そう、動体視力も身体制御も、オーガタイクーンは一級品だ!』

 

 だが、おおっと!? ボールがさらに曲がった!!

 

『なにっ!?』

 

 巨大金棒が空振り! オーガタイクーン:三ノ君(サンノキミ)、アウト!

 何が起こった!?

 

『二重魔球だと? だが―― なるほど、そういうことか』

 

 解説の蟲人僧正さん、何かお気づきに?

 

『ああ、これはキャッチャーとのコンビネーションだな』

 

 というと?

 

『キャッチャーの新エース、鮮血竜姫も術使いなんだろう? 投手が【突風(ブラストウィンド)】で曲げた魔球の軌道に、さらにキャッチャー側で起動した【突風(ブラストウィンド)】を置いておいたんだろう』

 

 なるほど!

 

『だが、投手と捕手の息が合っていないと、こんな精密なコンビネーションはできねえ。術を置く位置もだが、タイミングも寸分も狂わせられないからな』

 

 それだけ練習してきたということでしょうか。

 

『そういうことだな。蒼鱗ドラゴンズの監督の練習狂いは有名だしな』

 

 オーガタイクーン:三ノ君(サンノキミ)は、憎々しげに捕手を一瞥して、バッターボックスから下がります。

 2番打者は、オーガタイクーン:二ノ君(ニノキミ)です。

 

『これはちょいと注意かもしれねえな』

 

 何かあるんですか?

 

『この打者は、特に投手への攻撃が激しい。弟の1番打者がたやすく打ち取られたんだから、メンツのためにも見せしめに、ってことを考えてもおかしくねえ。面白くなってきやがった……!』

 

 さあ、ここで投手―― 投げました!

 

『魔球じゃねえな、こりゃ向こうさんも誘ってるな?』

 

 だがしかし、バッター、ずいぶん早いタイミングでスイング!!

 これじゃあアウトだ!

 

『いや、これでいいんだろう』

 

 そして巨大金棒がオーガタイクーン:二ノ君(ニノキミ)の手からすっぽ抜けた!

 巨大金棒が向かうはピッチャー! 大ピンチだ!

 

『らしくなってきやがった……!』

 

 しかし、通らない! ピッチャーの前で何かに弾かれて止まったーー!!

 これは――!?

 

『【力場(フォースフィールド)】! これもキャッチャーの呪文か? 大したもんだ』

 

 ピッチャー、ノーダメージ!

 これで黒角ジャイアンツ、ツーアウト……って、あれ、オーガタイクーン:二ノ君(ニノキミ)、出塁しています。

 何が起こったんでしょう。

 

『ボールは―― 野手の手にあるな。そうか、なるほど』

 

 解説の蟲人僧正さん、分かりましたか?

 

『ああ、観客含め、全員してやられたな。オーガタイクーン:二ノ君(ニノキミ)は、巨大金棒を投げた直後にその勢いで一回転、そのままの勢いで裏拳をボールに叩き込んだんだ』

 

 なんと! ミスディレクション!

 本命は自らの肉体で打ち返すことだった!

 

『魔球を投げさせないように、バット攻撃をするって雰囲気を出すのもうまかった。バット攻撃はアウトになるから、わざわざ魔球は投げねえ。無駄な魔球は控えるのがセオリーだ』

 

 高度な心理戦!

 

『そうだ、この心理戦も、ウィズボールの醍醐味よ』

 

 ワンナウト、バッター1塁。引き続き黒角ジャイアンツの攻撃です。

 いよいよ3番打者、オーガタイクーン:一ノ君(イチノキミ)の登場です。

 

『黒角ジャイアンツの攻撃は、初っ端からエース3枚看板の打席が必ず見られるから、人気が高いんだぜ』

 

 さて黒角ジャイアンツ、ここでホームランが出れば同点に追いつきます。

 ピッチャー振りかぶって、投げました!

 

 これは―― 打球が、増えた!!?

 

『【幻影(ビジョン)】の魔球だ! だが、どこから幻影だ? 投球モーションから幻影だったとすれば、あの中にボールがあるとは限らねえぞ』

 

 実はまだ投げていない、そういう可能性もあります!

 対するオーガタイクーン:一ノ君(イチノキミ)は―― 目をつぶっている?

 

『心眼、というわけか。【幻影(ビジョン)】の術は音も偽装するからまったく無効化できるわけじゃねえが、効果は半減だな』

 

 そしてオーガタイクーン:一ノ君(イチノキミ)巨大金棒(バット)が燃え上がる!

 

『魔球は投手だけじゃねえ。術使いのバッターは、打った球を魔球にできる!』

 

 オーガタイクーン:一ノ君(イチノキミ)、打った~~!!

 燃えるバットで打った打球が、炎の矢に包まれた!

 

『射程100の【炎矢(ファイアボルト)】! これは行くぞ!!』

 

 伸びる、伸びる、伸びる!

 打球が伸びる!!

 

 そしてそのまま―― バックスクリーンに突き刺さったーー!!

 ホームラァーーン!!

 

 まるで先ほどのお返しだとばかりに、同点ホームラン!

 1回表裏ともに術が乱れ飛ぶ、乱打戦だ!!

 

『さすがは1位決定戦……楽しませてくれるじゃねえか……!!』

 

 

 というところで、今回はここまで!

 ではまた次回!!

 

 

*1
オーガは基本的にサイドスロー:骨格的にオーバースローは出来ないため。円盤投げめいたサイドスローを主に使う。

*2
炎の魔球:投球判定に魔術師Lvを加算




 
ウィズボールの判定は四方世界ナイズドしています。本来のカードゲームのウィズボールは下方判定(目標値を下回った方が勝ち)ですが、四方世界ルールなので上方判定にしています。

全打席描写はしませんので、次回はたぶん6回(最終ラウンド)に時間を飛ばします。さすがにね?

===

皆様感想評価&コメをいつもありがとうございます! 応援を糧に、ますます精進いたします!

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ニコ生でゴブスレアニメ昨日やってましたね。プレミアム会員だと見逃した方でも『「ゴブリンスレイヤー」全12話&「ゴブリンスレイヤー -GOBLIN'S CROWN-」一挙放送』を2021/4/10(土) 23:59までタイムシフトで見られるそうですよ。

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34/n 裏-1(観客席&試合ダイジェスト)

 
閲覧、評価&コメント、お気に入り登録、誤字報告、ここ好きタップ、さらには感想もご記入いただき感謝 感激 感無量です!

===

●前話:
それでは解説の蟲人僧正さん、一言どうぞ。
蟲人僧正(6英雄の1人)さん「ウィズボールは、おもしれぇ……!!」

===

構成の都合で『裏』編です。
 


 

1.球場メシ!

 

 

 ウィズボールのスタジアムとなっているのは、興業のために設けられた都のコロシアムである。

 ウィズボールだけではなく、闘技、馬上試合、曲芸、歌謡などの催しも行われる、由緒正しい建物だ。

 また、変わったところでは、新製品の品評会や魔術発表会が行われることもある。―― 同人誌即売会? さあ……?

 

 都の城壁と同じく、悠久の時を経てきたものであり、古代の魔術師たちの時代の高度な機能を今に残している。

 コロシアム全体にまで響く拡声は当然のこと、【幻影】が込められた魔道具による映像の拡大投影や演出だってお手の物だ。

 今も選手交代の傍ら、完全記憶能力を持つ魔術師が、熟練の【幻影】魔道具機材扱いで、1回表裏のダイジェストを空中に大きく投影している。

 

『鮮血竜姫、ホームラン! ホームランです!!』

 

『対するジャイアンツも負けじと、一回裏、ホームラン!! 両チームともに派手な立ち上がりだ!』

 

 グラウンド上では2回表の準備が進み、蒼鱗ドラゴンズ VS. 黒角ジャイアンツの両選手のボルテージが高まっている。

 黒角ジャイアンツは再召喚により呪文リソースが回復するが、蒼鱗ドラゴンズもどこからか手に入れた【分身(アザーセルフ)】の巻物(スクロール)を活用して呪文も命も大盤振る舞いだ!*1

 それにつられて、観客たちも熱い試合展開を期待し、手に汗握って前のめりになっていく。

 

「「「 ふれー! ふれー! かっとばせー!! 」」」

 

 チアリーダー服でボンボンを持った幼竜娘三姉妹たちが、スタジアムの壁の上、観客席の最前線でぴょんぴょんと跳ねて応援をしている。

 

 それを(さかな)にしてよく冷えた麦酒をなみなみと注いだジョッキを傾けるのは、TS圃人斥候だ。

 

「おーい、あんまり跳ねて落ちるなよー」

 

「「「 はーい!! 」」」

 

「返事はいいんだけど、分かってんのかね」

 

 グビっと麦酒を喉へ。

 魔術師が冷やしたそれは、のど越しもよい。

 しかし、季節は晩秋。冷えた酒ばかり飲んでいては、身体が凍えてしまう。

 

「そういう時は、やっぱり揚げ芋だよなー」

 

 乳酪(バター)をたっぷり絡めたまんまるの揚げ芋を割って、小さな口を大きく開けてかぶりつく。

 ほくほくのそれは、つぶした芋と小麦粉と砂糖を練って揚げたもので、塩とたっぷりの乳酪でいただくと至福なのだ。

 木串に刺さったそれをもっちもっちと食べながら、油をアルコールで流し込む。

 

 ―― かーっ、うめえ! やっぱりこうでなくっちゃなあ!

 

 TS圃人斥候は唇についた乳酪の脂を指で拭ってちゅぱっと口で(ねぶ)った。

 

「子守りっつっても、こいつら聞き分けはいいし、見てて飽きねえから、まあ、いいか。エルフパイセンは交易神官の伝手でブックメーカーんとこだし、タンクは昔の一党の仲間と一緒に観戦、か」

 

 今ここにいるのはTS圃人斥候と幼竜娘三姉妹だけだ。

 

 交易神官でもある森人探検家は、結構な寄進を都の交易神殿にしたらしく、その縁で、賭け(ブック)の胴元の方の手伝いをしているらしい。

 確実に儲けるためには胴元になるべき、というのはどの賭博でも同じことだ。

 

 文庫神官は、前の一党と旧交温めつつ、どこかで観戦しているはずだ。

 

 ―― 応援するチームの違いで喧嘩になってねーと良いんだが。

 

 血の気の多い競技でもあるので、ファン同士の乱闘というのは日常茶飯事だ。

 

「「「 ふれー! ふれー! どらごんずっ!! かっとばせー! どらごんずっ!! 」」」

 

 幼竜娘三姉妹が、短いスカートと(へそ)のないつるっとしたお腹が見えたチアリーダー服をひらひらさせながら応援している。*2

 蒼鱗ドラゴンズの打者が出てきたようだ。

 

「おっ。さーて、リーダーの打席まで回るかね? あっ、お姉さん、コレおかわりー! あとおつまみおすすめあるー?」

 

 TS圃人斥候は、売り子をしている獣人(パッドフット)の少女を呼び止めて追加の注文をした。

 完全にまったり観戦モードだ。

 

 

<『1.楽しみ方は乱闘見物/参加だけではない』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

2.金剛石の騎士(ナイト・オブ・ダイヤモンド)の乱入

 

 

「ええいっ、私が相手だ!!」

 

 観客席から打席に飛び込んできたのは、煌びやかな金剛石を思わせる具足に身を包んだ騎士だった。

 きっと巷間(こうかん)で噂の世直し人『金剛石の騎士』だろうと思われた。

 どこかで『陛下!? おやめください!?』とかいう赤毛の枢機卿の嘆きの声が聞こえたような気がしたが、きっと気のせいだろう。*3

 

『おおっと、なんと蒼鱗ドラゴンズの打席に乱入者!! この輝く物の具は、(ちまた)を騒がす金剛石の騎士だというのか!?』

 

 実況が叫び、観客が名のある者の乱入に沸いた。

 

人喰鬼(オーガ)相手に不甲斐(ふがい)無しッ!! この俺が手本を見せてやろう!!」

 

『蒼鱗ドラゴンズの5番打者を追い出して、金剛石の騎士が打席に立つ!! それを見て嗤うは再召喚されたオーガメイジ! これは―― ()る気だッ!!』

 

 デッドボール狙いの雰囲気を出す投手のオーガメイジ―― 先発投手は脳天直撃ホームランされたので2人目―― に対して、金剛石の騎士が打席でその剣(ハースニール)を構える。

 

 どこかで赤毛の枢機卿の胃が砕け散る音(『陛下ァッ!?』という悲痛な叫び)が響いたような気がした。

 

 

 

<『2.ちなみに乱入者を引き戻そうとグラウンドに降りると、気づけばいつの間にか自分も一緒になって乱入してしまうらしいぞ! 球戯神の御加護だね!』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

3.特に何の脈絡もなく降臨する三大呪怨鬼神と、そのカウンター存在としての勇者

 

 

 4回裏。6回までのウィズボールの試合においては後半戦だ。

 やはり激しい乱打戦となったこの試合、黒角ジャイアンツの攻撃。

 新旧エースの蜥蜴人と、金剛石の騎士の活躍により、蒼鱗ドラゴンズの1点リードで迎えることとなったこの局面。

 

 

 先ぶれなど何もなしに、にわかに天を暗雲が覆い、太い雷が3条も落ちてきた。

 

 

『おおっと、これはいったい!? 雷がグラウンドに降り注ぐ!! しかも黒角ジャイアンツの選手に直撃だ!! 果たして無事なのかーー!!?』

 

 塁上のオーガ、バッターボックス上のオーガ、ネクストバッターズサークル上のオーガ。

 黒角ジャイアンツの下位打線、6人の打者のうちの4番から6番までの普通のオーガたちに、天から降り下りた雷が突き刺さった。

 実況も言葉にするが、実はこのような事態は初めてではない。ウィズボールでは気まぐれな神の鉄槌が選手を打ちのめすことは稀によくあるのだ。*4

 

『『『 OOOOOOORRRRGGGEEEE!!!??? 』』』

 

 雷に打たれた並みのオーガ3体が、眼を見開き白目を剥いて、天に咆哮しながら、次々と変貌していく。

 吹きあがる霊気が衣を具現化し、メキメキと音を立てて、オーガタイクーンよりもさらに巨大な肉体へと変貌!

 衣の形は衣冠束帯―― 古の異国の貴人の装束だ。

 

『グググ、不覚……よもや地上に落ちるよりほかないとは』

『だが丁度よい、これほどの人間がいれば、力を取り戻す贄には十分よ。魂を喰らってくれよう』

『ふははは、そこなベンチの若人(わこうど)らは儂の血筋か? 大君(タイクーン)級ともなれば、禰宜(ねぎ)に適当であろ』

 

 並オーガたちの肉体を乗っ取り、さらに巨大化して降臨した、衣冠束帯の三体の大鬼……雷電(ミチザネ)黒闇(マサカド)大浪(ストク)の三大鬼神たちは、それぞれ邪気を込めた瞳で、じろりとグラウンドを睥睨した。

 

 そして、あわや鬼神たちが暴れ出そうとした、そのとき!

 

「させないよ!!」

「取り逃がすとは不覚!」

「今度は逃がさない」

 

 眩い光とともに空間に裂け目が走り、その中から勇者、剣聖、賢者が飛び出した!

 

『ぬぅ、ここまで追ってきおったか! 勇者め!!』

『だが果たして貴様らは、この観客どもを守りながら戦えるかな!?』

『餌だらけで選り取り見取りよな! これはこれで復活のための糧にできると思えば悪くないものよ!!』

 

 3体の鬼神が、それぞれの周囲にまばゆい雷電と、空間を歪める重い黒闇と、凍てつく激しい大浪を呼び出し、その破壊の力を解き放とうとしている。

 一斉に解き放たれれば、それは都を全て消滅させるに十分であろう。

 

 それに対して、賢者が詠唱を始め、結界の準備をする。

 

「させない―― それに、ここにいるのは無力な者たちだけではない。都の軍や冒険者は粒ぞろい」

 

「その通り!! そうじゃなくても、守るべき人たちを前にして、勇者に負けはない!!」*5

 

 賢者の詠唱が空間を張り詰めさせ、3体の鬼神の放つ力を相殺せんとしている。

 

 

 

 ―――― だが、そこに球審の声が響く!!

 

 

 

「そこのオーガ、バッターボックスに入りなさい。そっちもネクストバッターズサークルで待機! そっちは勝手に塁から離れない―― って、牽制球! ランナー、アウッ!!

 

 

 ここはウィズボールの試合中のグラウンドだ。

 

 審判の声に敵うものなど何もない!

 

 ―― それがたとえ神であっても!!

 ―― それがあるいは、勇者であったとしても!!

 

「試 合 続 行 ! いざ尋常に―― プレイボール!!」

 

 

<『3.球戯神のもたらす奇跡により、グラウンド上の存在はウィズボールのゲームに取り込まれるのだ! もはや、のがれることはできんぞ!』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

4.結局こうなる

 

 

 6回裏。

 最終回の黒角ジャイアンツの攻撃―― であったが、ついに最後のバッターが打ち取られた。

 

 点数は、同点!!

 

 

 そして、今回、ウィズボールに延長戦は存在しない!!

 

 であれば、どうやって勝敗を決するのか!!?

 

 ―― 答えは決まっている!!

 

 乱闘だ!!

 

 互いの選手たちのボルテージは最高潮!

 観客たちの熱狂も留まるところを知らない!

 

 誰もが求めている―― 大乱闘を! 一心不乱の大乱闘を!!

 

 

 黒角ジャイアンツのオーガタイクーン三兄弟、そして降臨した三大呪怨鬼神たち!

 

 蒼鱗ドラゴンズの旧エースの蜥蜴人、新エースの半竜娘、乱入した金剛石の騎士に、勇者一党!

 

 ベンチ入りしている綺羅星のごとき錚々たる選手たちも、もちろんそうだ!

 

 グラウンドでも観客席でも、皆が声を上げる。

 

乱闘(クリーク)! 乱闘(クリーク)! 乱闘(クリーク)!』

 

 

 そしてついに、球審の声が響く。

 

 

「よろしい、ならば乱闘(クリーク)だ。

 

 スリーアウト! ドローのため、両チーム、全選手、前へ!!

 

 それでは―― ウィズボールファイト、レディー……ゴー!!

 

 

<『4.喊声(かんせい)とともに両チームは激突した!!』 了>

 

 

*1
分身(アザーセルフ)】の巻物(スクロール):アークデーモンから巻物作成知識をぶっこぬいた半竜娘ちゃんの作によるもの。ただし、球団のバックアップを受けてのことなので、今後の冒険でどこまで自作巻物を活用できるかは未知数。

*2
蜥蜴人のヘソ:卵生なのでヘソは無い。

*3
国王の乱入:ウィズボールの攻撃側事件表(守備側と攻撃側の事件表があり、どちらを参照するかはダイスの出目が偶数か奇数かで決まる)で2D6の合計が10のときに発生する。狂王トレボーが代打に立つ!

*4
神の鉄槌:守備側事件表の2D6で11が出たときのイベント。神の鉄槌によりランダムに選手が死亡する。(監督または選手の治癒術によって復活可能)

*5
観衆の中で戦う勇者:常時元気玉状態。フレアが毎秒溜まるまである。




 
何が始まるんです?

―― 大乱闘スマッシュモンスターズ&アドベンチャラーズだ。

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そしてゴブスレTRPGのサプリ、通常版(2021年05月13日(木)発売)の予約も始まってます!

◆◆◆ダイマ重点◆◆◆


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皆様感想評価&コメをいつもありがとうございます! 他の作品を読んでる間は書けない(ハーメルンは面白い作品ばかりですよね)というジレンマ。精進いたします~。
 


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34/n ウィズボール・プレイボール!-4(大乱闘!!!)

 
閲覧、評価&コメント、お気に入り登録、誤字報告、ここ好きタップ、さらには感想もいただきまして誠にありがとうございます! 特に感想はよく見返して元気もらってます! ありがとうございます!

===

●前話:
金剛石の騎士、三大呪怨鬼神、勇者一党の乱入(エントリー)だ!!
同点につき乱闘で雌雄を決する!!
最後に立っていたもの(ラストスタンド)が勝者だ!!

===

※ウィズボールのルールについて補足:延長戦
説明書を引っ張り出して読んでみると、実際のカードゲーム「ウィザードリィカードゲーム1 ウィズボール」においては、試合は9回裏まで。延長戦も普通にあります。Wikipediaの記述が6回までになってるのはミスかも? あるいはひょっとしたら「ウィザードリィカードゲーム2 ウィズ・ボール拡張キット」の方のオプションルールかも知れませんが、未確認です。
ですが、打者6名、6回裏までというのはおさまりがいいので、そのままにしときます。延長戦ナシなのも、そっちの方がトンチキ度が上がってふさわしいのでそのままで!
元ルールについて詳しくは活動報告に書いたので、気になる方はこちらの活動報告の記事をご参照ください。
 


 

 はいどーも!

 やはり最終的に暴力がすべてを解決する! 最高のショーの始まりだぜー!! な実況、はーじまーるよー。

 

 前回は、魔法を用いた魔球・魔打球の応酬による乱打戦の幕開けをお届けしたところまででしたね。

 さすがは1位決定戦、ハイレベルです。

 

 黒角ジャイアンツは再召喚により呪文使用回数がリセットされ。

 蒼鱗ドラゴンズは半竜娘ちゃんが提供した謹製の【分身】の巻物によってやはり呪文使用回数がリセットされ。

 それにより、両チームともにハイペースで呪文を使っていきます。これには観客も大興奮!

 

 そしてウィズボールといえば付き物なのは『乱入』です!

 

 蒼鱗ドラゴンズ側には、まず金剛石の騎士が飛び込み。

 黒角ジャイアンツ側には、稲妻、超重力、大波濤を操る太古の三大鬼神が天から降臨し!

 それを追って虚空を切り裂いてやってきた勇者・剣聖・賢者の白金等級一党の乙女たちが、さらに蒼鱗ドラゴンズに加入!

 

 試合は一進一退の攻防を見せ、最終回でも決着はつかず!

 延長戦にもつれ込むところ、しかし天井知らずに高まった両チームの選手たちと観客たちのボルテージに後押しされ、球審が英断を下しました。

 ウィズボールの起源は、球技ではなく、団体格闘技である―― がゆえに、この晴れの舞台での決着は、選手同士の直接対決にゆだねられたのです!

 

 

 

 おお、球戯神よ御照覧あれ!

 

 

 

 ……ということで、両チームの選手による乱闘によって雌雄を決することになりました。

 

 

「ふふふ、フハハハハハ、ハァーッハッハッハッッ!! 良い、良いのう!! 駆け引きも打席も面白いが、やはり勝負というなら、この手で敵を(ほふ)ってこそよ!!」

 

 半竜娘ちゃん、めっちゃいい空気吸ってますねえ。

 やはり戦場でこそ輝く女……。

 キャッチャーマスクを被ったまま、呪文を唱えはじめます。

 

 ちなみにグラウンド上にいたのは巻物(スクロール)で作られた分身体です。

 ベンチから半竜娘ちゃん本体がフルコントロールしていました。

 

 ですが、乱闘となれば本体だって黙って瞑目して分身越しに参加するなんて野暮はしません。

 ベンチの方からも、半竜娘ちゃん本体が呪文を唱えながら、他のチームメイトともに飛び出してきました。

 

「「 セメル( 一時 )クレスクント( 成長 )オッフェーロ( 付与 )! 【動力炉心(パワーコア)】、出力上昇! 余剰出力を【鮮血呪紋】へ! とぉおおおりゃああああっ!! 」」

 

 真言呪文【巨大(ビッグ)】! もはや【辺境最大】の代名詞でもある呪文です。

 

 巨 竜 降 臨 !!

 

 半竜娘ちゃんズの瞳が青く輝き、雷電のようなオーラが全身に流れると、さらに両腕の【鮮血呪紋】が脈動して紅いオーラが空中に滲み出しました。

 過剰出力で【鮮血呪紋】を励起させることにより、敵の呪文を構成するマナを殴って吸収できるのです。

 つまり、魔法を盾受けできるようになったり、近接距離での呪文の構築をマナ不安定化により阻害できるというわけ。……PC側で持っていい能力じゃないな? ボス側の技能だよな?

 

それ(巨大化)良かなあ!! こっちにも欲しかばい!!」

 

「応ともよ! セメル( 一時 )クレスクント( 成長 )オッフェーロ( 付与 )、じゃ!」

 

「おおっ、恩に着るばい! さあ、恐るべき竜よ御照覧あれ! 異龍(ヘレラサウルス)の加護よ在れ!」

 

 実は【巨大(ビッグ)】の呪文は、他人にも掛けることができるため、旧エースの蜥蜴人さんのおねだりにも快く応じます(分身ちゃんが)。

 半竜娘ちゃんズに加えて、これで三体目の巨竜です。

 蒼鱗ドラゴンズのチーム名に違わぬ錚々たる布陣!

 

 

『図体ばかりでかくともなあっ!』

 

 それに対抗して、既に雷電の鬼神(ミチザネ)が己の権能を解放しています。

 (にわ)かに(かげ)る空―― そして驟雨のように降り注ぐ稲妻!

 当然、半竜娘ちゃんたち巨大化組に「「「 し、痺れる~!? 」」」と命中!

 

 それでもなお降り止まらぬ文字通りの雷雨がグラウンドへと突き刺さっていきます。

 

 そんな災害の中、その間を半身になって進む独特の歩法ですり抜ける剣聖ちゃん。

 

「飛び道具など笑止ッ!」

 

 柱のような雷が落ちる中、まるで無人の野を行くように走る剣聖の乙女!

 手に持つは無銘の鋼の剣なれど、鍛えた鋼は、達人の手にあることで無双の刃となるのです!

 小刻みに刃を揺らすことで、玄妙な手つきで雷を誘導。

 半歩ずらしの体捌きと合わせて、本来金属に誘導されるはずの雷がまるで剣聖の彼女だけを避けて通るようです。*1

 

 しかし剣聖ちゃんの行く手を遮るのは、黒い重力の渦!

 

『潰れてしまえ。地虫のごとく這い(つくば)うのがお似合いだ、人間ども』

 

 黒闇の鬼神(マサカド)が放った強力な重力攻撃が、空間を歪めながら剣聖ちゃんに迫ります!

 

 だがその射線上にそれを受け止める(比較的)小柄な人影が飛び込みます!

 

「まったく……肉体労働は苦手なのです―― ウィズボールを除いて!」 それは大きな杖を持った犬耳フードの賢者ちゃんでした。「アルマ(武器)グラウィエ(重力)オッフェーロ(付与)! そっくりそのまま打ち返してやるのです!」

 

 そして杖に同じく重力のマナを纏わせると、それでもって黒闇の鬼神(マサカド)が放った巨大な重力球を打ち返します!

 賢者ちゃんの打席、強烈なピッチャー返しです!

 

「ぐわごらがきーん! なのですよ! 大体、そちらの攻撃は(アストラル)界で見飽きたのです!」

 

『うぉおお!? 小癪な、小娘めぇ!!』

 

 打ち返された重力球が、黒闇の鬼神(マサカド)を掠めるように打ち上がると、その巨体を巻き込んだまま上昇します。

 しかし打ち上がった重力球+黒闇の鬼神(マサカド)は、いつの間にか上空で凝集していた雷雲から変じた海のような水塊に受け止められました。

 

『あらら、黒闇のがやられてしもたか。ま、よう飛ぶやつやからなあ、昔っから首だけになったりしてのう』 少し(みやび)やかに言うのは大浪の鬼神(ストク)です。『このままちょいとこの都ごと押し流すついでに一緒に降ろしてやりましょかねえ』

 

 上空、暗雲の代わりに広がっていく水塊は、大浪の鬼神(ストク)の言う通り、都を押し流して余りある広がりと厚みを持っています。

 

「させないよっ! 太陽の爆発!!」

 

 そしてその全てを切り裂いて蒸発させ、マナに還元させる太陽のごときまばゆい光!

 当代最強の白金等級の勇者が一の太刀!

 

 雷雨を裂き、黒闇を晴らし、大浪を鎮めるのは―― すなわち太陽の輝き!!

 

「この世界はボクたちが守るんだ!! いっくぞぉ――」

 

 勇者の啖呵が響き渡り、味方には鼓舞を、敵手には威圧を与えます。

 光を束ねたかのような巨大な剣が伸び、超勇者ちゃんがそれを振り下ろします!

 

「―― 夜明けの一撃ッ!!」

 

『『『 グワーッ!?? 』』』

 

 三大鬼神の悲鳴が響きます。

 上空の水塊が切り裂かれてマナに還されるとともに、三大鬼神にもまとめて斬撃!

 

 しかしまだ死んではいません。

 せめてあと一太刀を浴びせられれば――。

 

「だからあなたは詰めが甘いというのです! ハァッ!!」

 

 そこに閃く鋼の剣! 剣聖ちゃんの極まった閃光のごとき振り下ろし!

 

 

『『『 グワーッ!?? ば、ばかな…… 』』』

 

 

 ついには断末魔を上げる三大鬼神たち。

 

「なっ……これは……!?」

 

 ですが、その光景に、剣聖はしばし愕然と佇みます。

 されどもそれも無理なきこと。

 

 なぜなら、鬼神にトドメを刺したのは彼女ではないのですから。

 断末魔は、剣聖ちゃんの刃が届く前に響いたのです。

 

『グググ、裏切りおったな!』 『たかだか大君(タイクーン)級の』 『しかも写し身の分際でッ!!』

 

 三大鬼神がその存在の核を抉り出されながらも恨み言を向ける相手は、オーガタイクーンの三兄弟!

 勇者の攻撃で鬼神たちが瀕死に陥ったのをいいことに、土壇場での裏切り!

 

 オーガタイクーンの長兄、一ノ君(イチノキミ)が嘲笑って言います。

 

『裏切りも何も、配下となった覚えなどないぞ。

 それに写し身とはいえ、アストラル投射によって鬼我一体となっておる特別製だ、音に聞く大鬼神の核を喰らえば我が本体にもきちんと届く。こんな絶好の機会を逃せるものかよ』

 

『貴様っ、最初からそのつもりで……!?』 オーガタイクーン:一ノ君(イチノキミ)の掌中で戦慄(わなな)く、黒闇の鬼神(マサカド)の核。

 

『ハハハ! いくら魔神王さえ屠った勇者相手とはいえ、このような醜態を見せるお前らになぞ、付き従うことはできんわな! 安心せい、その権能もろとも簒奪してやろう! 下剋上こそは鬼の(コトワリ)よ!!』

 

『き、貴様ァアアア!!』

 

 まるで飛沫のような音とともに、オーガタイクーン三兄弟の手元で、三大鬼神の存在核が潰れ、【巨人】の呪文で作られたオーガタイクーンらの仮初の身体にその権能が沁み込んでいきます。

 

 どくんっと、オーガタイクーン三兄弟の身体が大きく震えるように脈動したかと思えば、どうやらそれぞれに新たな権能が目覚めたようです。

 

 その権能は、三大呪怨鬼神たちの権能を引き継いだもの―― ではなく。

 鬼神たちの恨みによってか、反転した権能となっている模様です。

 

 すなわち――

 

 オーガタイクーン:一ノ君(イチノキミ)は、黒闇を照らす最強の【光の流法(モード)*2

 

 オーガタイクーン:二ノ君(ニノキミ)は、大浪を沸き立たせる【炎の流法(モード)

 

 オーガタイクーン:三ノ君(サンノキミ)は、雷電を吹き散らす【風の流法(モード)

 

 

 

 そしてそこに突っ込む(祖竜術【突撃】)半竜娘ちゃんズ。

 

「「 下剋上! いい響きじゃのう! であれば貴様らまとめて、手前の糧になるのじゃ!! 」」

 

 しかし、それは既に察知されていました。

 

『半竜の術師=サンよ! 以前に預かった弟と貴様の勝負をここで返してやろう! 三の弟よ! 存分にやるがよい!』

 

『その言葉を待っていたぜぇ! 一ノ兄者ァ!! 【風の流法(モード)】の初戦としてはふさわしい!!』

 

 オーガタイクーン:一ノ君(イチノキミ)の許しに、オーガタイクーン:三ノ君(サンノキミ)がいきり立ちます。

 そして、その身体に魔法の風を纏うと、超跳躍して半竜娘ちゃん(27m級巨竜人)ズの【突撃】の眼前に!

 

『オレが触れる風は、全てオレの支配下よ! 【疑似:大気巨人(イミテート・エアジャイアント)】!』

 

「「 とぉつぅげきぃいい!! イイイィヤアアァアアア!! ――――ッ これは、エアクッション!? 」」

 

『半竜の術師=サン! 貴様の火吹き山での戦いは我らも知っているぞ! あそこには氏族の者も選手としているのでな! 今のオレは、流星さえも受け止める大気の化身よ!! 突撃術式とて無効だ!!』

 

 オーガタイクーン:三ノ君(サンノキミ)を覆うオーラが肥大化し、その範囲内の空気を固め、半竜娘ちゃん(27m級巨竜人)ズよりも巨大な人型に整えると、バフッと半竜娘ちゃんズの突撃を受け止めました。

 周囲の空気を制御下に置く風の権能を手に入れたオーガタイクーン:三ノ君(サンノキミ)による防御です。 

 

 メタ的に言うと、呪文を含む遠隔攻撃のほとんどを無効化する能力っぽいですね。

 属性無効化能力は高レベルボスの嗜み……。

 

 空気の壁による無効化なので、超接近した状態で放たれる攻撃(ワンインチパンチ)は無効化できない可能性がありますが、そもそもそこまで近づけない気がします。

 

 

「「 ぬぅっ! やりおるな! オーガタイクーン:三ノ君(サンノキミ)=サン! 」」

 

『この大舞台、決着にはふさわしかろう!!』

 

「「 望むところじゃ!! 」」

 

 とはいえ、半竜娘ちゃんにはまだ竜息(ブレス)があります! 光熱がメインの核撃のブレスなら、風の影響をあまり受けずに通るかもしれません。

 さらに、ポジションを目ざとく調整したことで、核を失った三大呪怨鬼神(ミチザネ・マサカド・ストク)の肉体が倒れた場所に立っています。

 

『む、その場所は――』

 

「「 【動力炉心(パワーコア)】励起! 【鮮血呪紋】よ、鬼神の遺骸を喰らうのじゃ! 」」

 

 足元の鬼神たちの遺骸へと腕を振り下ろして突き刺し、その鬼神たちの遺骸を【鮮血呪紋】が分解し、還元吸収。

 元が召喚体ですからマナへの還元は簡単な部類でした。

 さらにそこに含まれる鬼神の霊的因子を【動力炉心(パワーコア)】の同化能力で融合、活性化。

 

「「 雷電・黒闇・大浪―― 各因子の残滓破片の吸収完了じゃ! 」」

 

 これにより、【風の遣い手】 【土の遣い手】 【水の遣い手】技能の初歩を格安で習得できるようになりました。具体的には、通常は成長点5点必要なところ、1点で済むようになり、また、即座に習得可能になりました(というか即座に習得したとき限定みたいですね)。*3

 当然、習得! この戦いで即座には役に立たないかもしれませんが、お得ですしね!

 

 っていうか、それは副効能で、本命は、鬼神の霊体の分解・解析により、目の前のオーガタイクーン:三ノ君(サンノキミ)の弱点を洗い出すことです。

 

「「 解析完了――! 行くのじゃ! 三ノ君(サンノキミ)=サン! もはや貴様の、その召喚体の霊的弱点は把握したのじゃ!! 」」

 

 もし接近できて(体勢を崩す暴風のオーラへの体力抵抗判定に成功して)、近接攻撃を暴風によるマイナス補正に関わらず命中させられれば、きっと、全ての攻撃が痛打(クリティカル)扱いになるでしょう!

 

『来るがいい! 半竜の術師=サン!!』

 

 

 巨体に見合わぬ緻密なインファイトを繰り広げだした半竜娘ちゃんズとオーガタイクーン:三ノ君(サンノキミ)から目を離すと、やはり周囲は大乱闘です。

 球戯神の加護により、観客席には被害が及んでいませんが、観客は乱闘を食い入るように見つめているせいで避難は進んでいません。

 

 

 

 

 

 他の戦いに目を移せば、超勇者ちゃんが意外と苦戦しています。

 

「聖剣がっ、効かない!?」

 

『我が流法(モード)は「光」! 太陽の光は、今や我が糧であると知れ!!』

 

 相手はオーガタイクーン:一ノ君(イチノキミ)。ということは、【光の流法(モード)】が相手ですね。

 太陽の聖剣の【太陽属性】が半ば無効化されているようです。―― 属性変更特技は使い切ったのかな?

 

 というか、権能の属性が反転したせいで、先ほどまで三大鬼神にメタを張れていた勇者ちゃんが、逆にメタを張られる形になっています。

 あるいはそうなるように、三大鬼神の怨念が作用したのかもしれません。

 

 ……その一方、オーガタイクーン:一ノ君(イチノキミ)の攻撃も、超勇者ちゃんには通じてないみたいですが。

 

 と、そこに襲い掛かる、鋼鉄の打球の群れ!

 

「オラオラオラッ! ウィズボール乱闘名物、鉄球乱打ったい!!」

 

 この南方訛りは、蜥蜴人の旧エース選手!

 遠隔攻撃として、猛スピードの鉄球を打ち放ってきています!

 

『ええいっ、邪魔をするな!』

 

「そげんつれないコトば言わんとよ! あんまり乱入選手にばっかり目立たれると沽券にかかわるけんね!」

 

「援護ありがとう! 一緒に戦おう!」

 

 

 

 

 

 

『ヒャッハー! この【炎の流法(モード)】を突破することなど叶わぬわァァアアーー!!』

 

真空刃(ロルト)! 金剛石の魔法剣にかかれば、灼熱など恐るるに足らぬ!」

 

『むっ、この状態のオレに傷を……!?』

 

「この金剛石(ダイヤモンド)の騎士が相手だ、鬼の王よ!」

 

 燃え盛る火の玉のような状態になったオーガタイクーン:二ノ君(ニノキミ)に真空の刃を飛ばしたのは、煌めく具足に身を包んだ金剛石の騎士(某国王陛下)でした。

 金剛石の魔法剣(ハースニール)には真空刃を打ち出す魔法が込められているのです。

 

「へいk―― 騎士殿! お下がりください!!」

 

「そうです、へi――騎士様! ここは私たちに任せて退避を!」

 

 王国臣民としての意識も高い剣聖ちゃんと賢者ちゃんが、金剛石の騎士(某国王陛下)を諫めますが、それを聞いてくれるなら、赤毛の枢機卿は苦労しないんだよなあ……。

 

「安心するがいい―― 近づかずに真空刃で攻撃するだけだ! 真空刃(ロルト)! 真空刃(ロルト)真空刃(ロルト)真空刃(ロルト)真空刃(ロルト)真空刃(ロルト)真空刃(ロルト)ォォオオオ!!」

 

「陛下ッ、お下がりください! ああもう、聞こえてない……ッ!」 「いや、かくなる上は、私たちも協力して速攻で倒すしかないのです……!」

 

 しかも、今は、球戯神の加護で、金剛石の騎士(某国王陛下)の頭に血が上って、ウィズボール脳になっちゃてるので、なおさら聞き入れてもらえるはずもなし。

 剣聖ちゃんと賢者ちゃんも、現状を諦めて受け入れたようです。

 

 王国の未来は君たちの双肩にかかっているぞ!!(いつものこと)

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 鉄球が飛び交い、巨竜が暴れ。

 閃光が、熱炎が、暴風が、グラウンドを舐め。

 太陽の聖剣が輝き、金剛石の魔剣が敵を断ち。

 追加の人喰鬼が魔術師選手に呼び出され、流れ弾で雑に潰され。

 しかし主力の選手同士の戦場は拮抗し。

 

 そんな戦況が動いたのは、そこから暫くした時でした。

 

 発端は、半竜娘ちゃんの分身体がついに暴風の結界を抜けて、オーガタイクーン:三ノ君(サンノキミ)を、その巨大な両手で包むように拘束したことでした。

 

 

「接近完了じゃ! 捕まえたのじゃ!」 「ナイス拘束なのじゃ!」

 

『ぬぅっ! この程度の拘束――』

 

「本体ッ、手前(てまえ)ごとヤるのじゃ!!」

 

『何をッ!?』

 

 そして包み込むように拘束したことで、自動防御は一瞬ですが無効に。

 分身体の尊い犠牲(いつもの)を無駄にしないように、半竜娘ちゃんの背部突起を紫電が駆け抜け、頭部口腔へとエネルギーが収束! 射線を合わせるために態勢を低く。

 

「角度よーし! 核撃の竜息(フュージョンブラストブレス)! GGGGUUUUUOOORRRORRR――――!!!」

 

『―― もはやここまでか。だが、次はもっと功夫(クンフー)を積んで、我が本体で相手してやろうぞ!!』

 

 そして命中!

 

『グワーーッ! サヨナラ!!』 「グワーッ」

 

 オーガタイクーン:三ノ君(サンノキミ)は、その召喚体の肉体を爆発四散!

 ついでに拘束していた半竜娘ちゃんの分身体も焼滅! アワレ!

 

 

 

 オーガタイクーン:三ノ君(サンノキミ)を貫いた熱線は、さらに直進。

 その行く先には、なんと金剛石の騎士が!

 

「ッ!! なるほど、そういう、ことか!! 賢者、反射だ!」

 

 しかし、その直前、輝く兜の奥の瞳で、半竜娘とアイコンタクト。

 半竜娘の意図を正確に汲み取った金剛石の騎士は、その魔法の盾を掲げた。

 

「このコースと、配置は……! 完全に理解したのです! スクトゥム()スペクルム()オッフェーロ(付与)――【反射(リフレクション)】!」

 

 賢者の魔法によって魔法反射を付与された盾により、金剛石の騎士は熱線を完全に反射。

 

 このコースは!

 

『グワーッ!? ば、馬鹿な、この俺の【炎の流法(モード)】を貫通するだとォーーー!?』

 

「隙アリ! ハァアアアッ!」 核撃の熱と光のうち熱を無効化して半減されたせいか、トドメに至らなかったものの、それをフォローするのが剣聖です。灼熱の中とて、肺に熱気が入らねば安泰じゃ。トドメの斬撃!

 

『ぐぅっ、む、無念――』

 

 反射付与された盾で反射された核撃の竜息(フュージョンブラストブレス)は、オーガタイクーン:二ノ君(ニノキミ)を貫通し、さらに直進。

 

 

「これはっ! なるほどね!」

 

 

 その先には、超勇者ちゃんの掲げる太陽の聖剣が!

 

 

「これもまた太陽の力!!」

 

 

 核撃の竜息(フュージョンブラストブレス)を受けた太陽の聖剣が輝きを増し、あふれた力が勇者ちゃんの能力を増強します!

 

 【光の流法(モード)】で太陽の聖剣が効かなければ!

 素の能力値を上げて!

 属性ナシの物理で殴れば良いのです!

 

 ―― オーガタイクーン:一ノ君(イチノキミ)、覚悟ォッ!!

 

「ちょうスゴーいスラーッシュ!」

 

『ば、馬鹿な!? グワーッ!?』

 

 

 オーガタイクーンの『サヨナラッ!!』という辞世の句を聞きながら、今回はここまで!

 

 それではまた次回!

 

*1
半歩ずらし:アクションRPGゲーム「イース」の主人公、赤毛の冒険者アドル・クリスティンの得意技。半キャラずらしの歩法により、正面からぶつかっても自分はダメージを受けずに敵にのみダメージを与えられる。四方世界にも高名な『赤毛の冒険者』は居るようなので、剣聖ちゃんは同じ流派なのかも。

*2
オーガ長兄は【光の流法】:ゴブリンスレイヤーのAA版では、ゴブスレさんに深海高圧水転移(ウォーターカッター)によってやられるオーガには、カーズ様(JOJO第2部)が当てられている。

*3
【○○の遣い手】技能:対応する属性の魔法技能がクリティカルしやすくなり、威力にプラス補正がつく。通常はクリティカルが1/36(2.78%)のところ、初歩(第一)段階で3/36(8.33%)、熟練(第三)段階で6/36(16.67%)、伝説(第五)段階で10/36(27.78%)でクリティカルするようになる。半竜娘ちゃんは元々、バッファーとして【生命の遣い手】技能を高めていた。




 
ステータスを上げて物理で殴れ。

なお、オーガタイクーン三兄弟は、【巨人】の呪文による召喚体なので、本体は無事なうえ、アストラル影響である鬼神核捕食は普通に還元されてるので、オーガ領域で強化された上に、存命です。

次回は、ウィズボールの優勝の行方と銅等級昇格試験の結果についての予定です。
それが終われば、原作小説9巻の雪の魔女の洞窟編ですね。

===

◆◆◆ダイマ重点・再掲◆◆◆

『ゴブリンスレイヤー』コミックス第11巻
『ゴブリンスレイヤー外伝:イヤーワン』コミックス第7巻
『ゴブリンスレイヤー外伝2 鍔鳴の太刀≪ダイ・カタナ≫』コミックス第3巻
2021年4月24日 同時発売!! 楽しみですね(ダイマ)。

ゴブスレアニメBlu-ray Box 初回限定版』は2021/4/28発売!

そしてゴブスレTRPGのサプリ、通常版(2021年05月13日(木)発売)の予約も始まってます!

◆◆◆ダイマ重点・再掲◆◆◆


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皆様感想評価&コメをいつもありがとうございます! さらに精進させていただければと思いますので、お付き合いいただければ! よろしくお願いいたします!
 


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34/n ウィズボール・プレイボール!-5/5(銅等級昇級 → 長い冬)

 
閲覧、評価&コメント、お気に入り登録、誤字報告、ここ好きタップ、感想をたくさんいただきましてありがとうございます! 原作本編で詳しくやってくれないかな、ウィズボール(異世界やきう)……。

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●前話:
半竜娘(分身体)「手前ごとやるのじゃ!(『俺ごとやれ!』)*1
半竜娘(本体)「核撃の竜息(フュージョンブラストブレス)!」
オーガ三男「グワーッ」
金剛石の騎士「反射!」
オーガ次男「グワーッ」
超勇者「核撃吸収! パワーアップ! 超斬撃!」
オーガ長男「グワーッ」

―― 三重殺(トリプルプレー)! ゲームセット! 蒼鱗ドラゴンズの勝利です!

 


*1
特技『俺ごとやれ!』:執行者のフレアに目覚めたものが使える特技(TRPG「カオスフレア」)。敵のダメージを倍加させるが、自分も同等量のダメージを受ける。1シナリオに1回のみ使用可能。半竜娘ちゃんは冒険者レベルを極めたので、フレアに目覚め掛けているのかもしれない。

 

 はいどーも!

 大歓声とともに優勝を祝う実況、はーじまーるよー。

 

 前回は結局、ウィズボールの勝敗を乱闘で決したところまででしたね。

 

 降臨した三大呪怨鬼神はオーガタイクーン三兄弟の裏切りにより糧にされてしまって脱落。

 もともと、オーガタイクーン三兄弟が担いでいるオーガ社会の権威象徴(天子さま)とは敵対している側の鬼神だったらしく(=朝敵)、それもあって遠慮呵責なしに裏切りをぶちかましたみたいですね。

 おそらく、自陣営の(天子さまの)加護の方が勝るという自信もあったのでしょう。

 

 さらにその鬼神の力を反転継承したオーガタイクーン三兄弟も、半竜娘ちゃんの核撃の竜息(フュージョンブラストブレス)を起点としたコンボで撃破!

 

 黒角ジャイアンツの残りは巨人の召喚者たる術師たちのみとなり……。

 もちろん彼らとて精鋭ではありますが、さすがに分が悪く、巻き返しは叶いませんでした。

 

 ということで、ウィズボール一位決定戦は、蒼鱗ドラゴンズの勝利となりました。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 監督の胴上げに、表彰式、そして優勝旗の授与。

 

 予定通り、両チームオーナーの挨拶もありました。

 さすがに用心深い黒角ジャイアンツのオーナーも、このハレの日には表舞台に出てきましたよ!

 まあ、あれだけ盛り上がって今後は神話に謳われかねないような試合のあとですから、ウィズボールに携わるものであれば引っ込んでいることなんてできるはずもないですよね。

 

 つまり、試合を大いに盛り上げたのは、黒角ジャイアンツのオーナーを確実に引きずり出すための布石でもあったというわけです!

 いやまあ、金剛石の騎士の乱入だとか、神々の鉄槌とともに鬼神が降臨したりとか、それを追って超勇者ちゃんたちがやってきたりだとかは、完全に想定外でしたが。

 ですがこういったことがあるため、ウィズボールは『面白え……』(蟲人僧正さん並感)わけですね。

 

 んで、黒角ジャイアンツのオーナーが出てきたので、何とかギリギリ呪文使用回数を残していた半竜娘ちゃんがサクッと【読心(マインドリーディング)】して、情報をぶっこ抜きました。

 

 結果は黒。

 

 これにより、このオーナー氏とオーガたちが、裏で手を結んでいたことにも確証が持てました。

 ―― まあ、試合で特別製の依り代にオーガタイクーン三兄弟を降ろしてる時点で、見る者が見ればバレバレではあるのですが。

 とはいえ、これまでは決定的な証拠は掴ませてこなかったわけで、それゆえ半竜娘ちゃんの銅等級昇格試験のネタにもされたわけですね。

 

 【読心(マインドリーディング)】したときに、物証である『鬼の同盟血判状』が入れられた隠し金庫の在処と、その暗証番号や鍵の場所もゲットしています。

 

 そして祝勝会の最中に分身体を残して抜け出して、TS圃人斥候の手も借りつつ、つつがなくその物証を回収できました!

 

 まあ、【擬態(カモフラージュ)】の術で光学迷彩状態になった上に、迷宮から回収した『ふしぎないし』を吸収したことで【沈黙】の術まで使える半竜娘ちゃんとTS圃人斥候を止めるのは難しいですからね。

 しかも、黒角ジャイアンツの方は準優勝とはいえ、都全体で盛り上がるような祝勝会の最中ですから、警備の方も油断していました。

 一応、申し訳程度には市街戦(シティアド)っぽい働きもしたらしい、ということで、冒険者ギルドの方のお眼鏡にも多少は適うのではないでしょうか。

 

 

 その後、何食わぬ顔で祝勝会に戻り、

 優勝という夢をかなえた監督さんにエールをぶっかけたり、

 半竜娘ちゃんが引退するため来シーズンはまたエースに返り咲く元エースさんと白黒つけるためのドツキ合いしたり、

 バッテリーを組んでいた魔球投手さんとピシガシグッグと健闘を称え合ったり、

 一歩間違えば核撃の竜息(フュージョンブラストブレス)で丸焼きにしかけた金剛石の騎士にチクリと嫌味を言われたり、

 アークデーモンから吸い上げた異界の知識について賢者ちゃんと意見交換したり、

 一年前の収穫祭の時に約束した手合わせの約束を果たさんと、祝勝会の余興も兼ねて剣聖ちゃんと模擬戦をしたり、

 超勇者ちゃんが、祝勝会場に紛れ込んだ幼竜娘三姉妹と遊んでくれてるのをまったり眺めたりして時間をつぶしました。

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 明けて翌日。

 

 半竜娘ちゃんの姿は、都の冒険者ギルドの応接室の中にありました。

 

 応接テーブルの上には、昨日、隠し金庫から回収してきた、オーガと黒角ジャイアンツオーナーの繋がりを示す血判状が。

 

「なるほど、裏取りはこれで完璧ですね」

「で、あるかの?」

「はい。こちらの予想よりもずいぶんと派手なことになりましたが、見事に依頼達成ですね。おめでとうございます」

 

 にこやかに書類用の盆に置かれた血判状を受け取るのは、ギルドの麗人係官です。

 そのにこやかさの何割かは、ひいきの球団(縞皮タイガース)のライバルである黒角ジャイアンツが準優勝に甘んじたことによるのかもしれません。

 どうやら熱心な猛虎党のようでしたからね、この麗人係官さんは。

 

「ということで、冒険者ギルドは、ここに、貴女を銅等級冒険者として認めるものです。―― こちらを」

 

「しかと拝領するのじゃ」

 

 そして麗人係官さんが文を載せるトレーに置いて卓上で寄こしてきたのは、銅の冒険者証。

 磨き抜かれたそれは、第4位の高位冒険者を示すものです。冒険者になって2年弱ですが、結構なハイペースだと言えるはずです!

 在野最上級が第3位階の銀等級ですので、アガリまであと少しというところです。いよいよ次の昇級で、現時点の目標である銀等級になれますね!

 

「これで貴女も高位冒険者の仲間入りですね。ホームである西方辺境の街にも通達しておきます。

 また、今後はますます、他の冒険者の規範となるような振る舞いを心掛けていただければと思います」

 

「ま、善処するのじゃ」

 

「余程のことがあれば降格もあり得ますが……―― まあ、貴女に限っては無用な心配でしょう」

 

 麗人係官さんの好感度高いですね。

 信頼されて――

 

「不祥事があったとしても、それを上回る功績を持ってくるでしょうからね」

 

 ―― いや、信頼されてねーな、コレ!

 めっちゃトラブルメーカーだと思われてるな!(逆の意味での信頼はあるっぽい)

 

 実際、半竜娘ちゃんは、自分が祖竜に近づくための功徳を積むことの方が、高位冒険者らしい振る舞いをするよりも優先度が上ですからね。

 

「祖竜に()じる行いはせぬと誓うのじゃ」

 

「その言葉を信じましょう」

 

 

 半竜娘は人喰鬼(オーガ)の謀略を露見させた!

 半竜娘はウィズボールで所属チームを優勝に導いた!

 経験点2000点獲得! 成長点6点獲得!

 半竜娘は銅等級に昇級した!

 鬼神の遺骸を吸収したことで、死霊術ポイント獲得!*1

 

 森人探検家・TS圃人斥候・文庫神官は人喰鬼(オーガ)の謀略を露見させるのに協力した!

 経験点500点獲得! 成長点3点獲得!

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 さて、海底財宝探索で得たお宝の換金も終わり、銅等級へも見事昇格し、また、都でしか手に入らないような物資の調達も行い、ウィズボールも存分に楽しみ、いよいよ帰路に就きます。

 

 さらば都よ!

 また来る日まで!!

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 辺境の街に辿り着いた半竜娘ちゃんたちは、ほどほどに依頼を片付けつつ、冬支度を進めます。

 

 昨年使って仕舞い込んでた防寒具の虫干しだとか。

 今年も山間(やまあい)の村々からの支援依頼がドサッと来ているので、そのルート選定だとか、物資選定だとか。

 海底から回収してきた呪物や魔道具の研究だとか。

 アークデーモンから吸い上げた古代の魔道具や、異界の魔法の知識の研究だとか。

 そのために興行がてら火吹き山の闘技場へ行き、附属大図書館に魔女さんと一緒に籠ったりだとか。

 火吹き山のオーナーたる≪死≫の魔術師に、『動力炉心(パワーコア)』に宿る(スパーク)と未知のパワーについて相談したりだとか。

 

 実際に雪の中を山間の村々へ物資を届けに奔走したり。

 冬至(ユール)の日の祭りを、サンタコスして盛大に祝ったり。

 こんどこそ魔女さんと一緒に、真面目に妖怪猟団(ワイルドハント)を手伝って彷徨える死者の魂を導いたり。

 

 なんだか冬の寒さが早く来た上に寒い時期が長引くので、半竜娘ちゃん自身のため、また、蜥蜴僧侶さんや鮫歯木剣の蜥蜴戦士から()われて、辺境の街の周囲を毎日毎夜【天候(ウェザーコントロール)】で温めたり。

 長引く寒さで食料や薪が尽きた村へ再度救援に行ったり。

 降りしきる雪で閉ざされた街道を雪除けして整備したり。

 

 (ちまた)では、(たち)の悪い風邪が流行っているとか。

 

 

 そんな忙しい日々の中の束の間の休憩を、街外れにある自分たちの拠点で過ごしていたある日のこと。

 

 

 

「……いくら何でも冬の寒さが長すぎやせんかの? いや、雪が多いのかの?」

 

 身体が大きく成長し、また体内に超パワーの動力炉心を備えているため寒さへの抵抗も増した半竜娘ちゃんですが、それでも冷気で身体や頭の回転が鈍っているのか、うっそりと呟きます。

 暖炉の前で丸まっている半竜娘ちゃんに巻かれるようにすやすや眠っているのは、ウィズボール(秋の終わり)の頃よりも成長した幼竜娘三姉妹です。

 【聖餐】のランチョンマットから作り出される祝福された食事を摂っているため、この厳しい寒波が押し寄せる冬でも流行り風邪に(かか)ったりはしていませんが、南方出身の種族である蜥蜴人の雛の成長には、あまり良くはないでしょう。

 あまりに寒すぎて、また、長い間暖炉の前にいたこともあり、暖炉の炎の中の火精霊(サラマンダ)と仲良くなって、半竜娘ちゃんは【着火(ティンダー)】の術を覚えたとか。*2

 

 

「確かにそうねえ。わたしが生きてきた中でも、一番寒い冬かも。おかげで儲かったけど」

 

 燃料相場で一山当てた件についての帳面をつけているのは森人探検家ちゃんです。雪の降らない日はなく、薪の消費も値段もうなぎのぼりで、その相場で儲けたのです。

 しかし、長寿命のエルフたる彼女の200年の経験の中でもこれほど寒さが深い冬は珍しいとなれば、異常なことです。

 

 

「異常に寒い日が続く冬、これはつまり……混沌じゃ、混沌の仕業じゃ―― ってか? あ、そーだ、タンク後輩の【天啓(インスピレーション)】で神サマにお伺い立てるとかどーよ」

 

 小柄な身体のせいか寒さに弱いTS圃人斥候は、もこもこの手編みのセーター(自作)を着こんだ状態で、知識神の神官でもある文庫神官に水を向けました。

 

 

「奇跡はそんな気軽に請願するものではありませんよ?」

 

 鎧や退魔の剣を磨いて油を差してと手入れをしていた文庫神官が苦笑します。

 

 

「いーじゃんか。どーせ術の使用回数は残ってんだろー? もしホントに混沌の仕業だったらヤバいじゃんかよー」

 確かにTS圃人斥候の言にも一理あります。

 

「はあ。分かりました、分かりましたよぅ。『蝋燭の番人よ、知の防人よ、我が無明に、煌めく一筋の稲光をお与えください』――【天啓(インスピレーション)】!」

 文庫神官は、油で磨いた後に近くに立てかけていた司教杖を引き寄せて神への祈りを捧げました。

 

「どうか知識神様、惑う信徒にお導きを――『この冬の寒さの厳しさは、混沌の仕業でしょうか?』

 

 文庫神官の呪文行使【天啓】:目標値10

 魂魄集中7+加速5+神官(知識神)Lv6+聖印3+司教杖2+付与呪文熟達2+2D661=32 ○行使成功!

 

 

 ファンブルではなかったので成功です。

 達成値も高かったので、知識神様に、質問の意図は過不足なく伝わりました。

 

 そして次の刹那。

 天上の存在と繋がった文庫神官ちゃんへと、『是』か『非』のみの簡素な託宣ですが、確かに天啓が下りました。

 

「そんで、どうじゃったんじゃ?」

 暖炉前で微睡む半竜娘ちゃんも気になったのでしょう。文庫神官ちゃんに問いかけます。

 

 それに対して、少し言い淀んだものの、文庫神官が答えました。

 

「え、えぇ~と。知識神様がおっしゃるには、『()』―― つまり、この冬は、混沌の勢力の計略である、と」

 

「……は?」 「あら」 「おいおいマジかよ」

 

 半竜娘ちゃん、森人探検家さん、TS圃人斥候ちゃんがそれぞれ驚きを顕わにします。

 この異様に寒い冬が人為的なものであるならば、待っていても寒さが緩むことはなく、このまま春は来ないかもしれません。

 

 中でも、それを聞いた半竜娘ちゃんの反応は劇的でした。

 

 

 

 

Q.氷河期の寒波で滅んだといわれる祖竜を崇める蜥蜴人の高位の竜司祭が、冬をより厳しく長引かせる混沌の計略を聞いたときの気持ちについて、50字以内で答えなさい。

 

 

 

 

 

 

A.コロチュ

 

 

 

 

 

 …………。

 

 は、半竜娘ちゃんの怒りのオーラが(おぞ)ましくも恐ろしいので、今回はここまで! 

 で、では、また次回ィ!!

 

 

*1
死霊術ポイント:霊的視覚、霊的チャネル(怪物:鱗もつもの)、干渉可能距離をレベルアップ。なお、死霊術ポイントによる死霊術パラメータの成長は死人占い師(ネクロマンサー)Lvを上限とする(半竜娘ちゃんは現在ネクロマンサーLv3のため、各パラメータを3まで成長可能(最大10まで))。

*2
半竜娘ちゃんの成長:経験点3500点消費。精霊遣いLv5→Lv6。新たに【着火(ティンダー)】の術を獲得。近くの物体を急加熱できる(燃えやすいものは数秒で発火)。




 
冬を長引かせようとするとか、絶対に蜥蜴人の竜司祭にとって特大の地雷なんだよなあ。

パワーコアの青い輝きと、紫電のごとき放射熱線が大活躍って感じで、なんとか章題名の『魔導の光』は回収できたかな…?
次回は幕間か、あるいは早速原作小説9巻の雪の魔女編(あるいは祖竜の怒り編)へ突入するかと。

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◆◆◆ダイマ重点・再々掲+α◆◆◆

『ゴブリンスレイヤー』コミックス第11巻
『ゴブリンスレイヤー外伝:イヤーワン』コミックス第7巻
『ゴブリンスレイヤー外伝2 鍔鳴の太刀≪ダイ・カタナ≫』コミックス第3巻
2021年4月24日 同時発売!! 楽しみですね(ダイマ)。

ゴブスレアニメBlu-ray Box 初回限定版』は2021/4/28発売!

そしてゴブスレTRPGのサプリ、通常版(2021年05月13日(木)発売)の予約も始まってます!

ソニーピクチャーズYouTube公式チャンネルで、アニメ1期全話の期間限定無料公開が始まりますのよ!
2021/4/23(金)19時から3日間!
 →https://www.youtube.com/channel/UCmYEubebECNJoRvIBS2rs4g

◆◆◆ダイマ重点・再々掲+α◆◆◆


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いつも感想評価&コメをいただきまして皆様、ありがとうございます! ますます精進させていただきます!
 


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34/n 裏-2(秋から冬の間のあれこれ)

 
閲覧いただきましてありがとうございます! その上、評価&コメント、お気に入り登録、誤字報告、ここ好きタップ、感想まで頂けるなんて……嬉しゅうございまする!

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●前話:
―― 冬をより寒く、より長引かせようとする混沌の陰謀について一言。

半竜娘ちゃん「絶許」


※前話の時系列描写を修正して、『冬が長引いた』(=春先)ではなく、『例年以上に厳しい寒さの日々が続いている。このままでは冬が長引きかねない』(=晩冬)としました。また、質の悪い風邪が流行っていることにも言及するようにしました。

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今回は幕間のスキャット集で、会話文メイン回です。

 


 

1.国王陛下と枢機卿

 

 ウィズボールの優勝チームが決まり、そこに乱入選手として参加した金剛石の騎士(Knight Of Diamond)も祝勝会を楽しんだ後は、常の居場所へと人知れず戻っていった。

 

 そして翌日。

 王城の、国王の執務室にて。

 

昨日は(ゆうべは)随分と派手に暴れられたそうですね(おたのしみでしたね)

 

 生活スペースから執務室にやってきた金獅子の国王を迎えたのは、額に青筋を浮かべた赤毛の枢機卿。

 

「む。さて、なんのことやら」

 

「陛下。誤魔化されませんよ。報告も受けています」

 

 金獅子の国王がちらりと部屋の隅を見れば、銀髪の侍女がすました顔で存在感も薄く佇んでいた。

 

「ちょっとしたレクリエーションだろう。球戯神の加護ぞあれ、だ」

 

 金獅子の国王が、枢機卿が抱える報告書の束を一瞥し、うんざりしたように鼻を鳴らしながらそう言った。

 

勇者一行(彼女ら)とともに鬼神を相手に大立ち回りをして、核撃の竜息(フュージョンブラストブレス)を反射するのは、『ちょっとしたレクリエーション』とは言いません」 赤毛の枢機卿が溜息をつき、眉間の皺に手をやる。「受け損なえばどうなっていたことか」

 

「伝来の鎧が核撃(ティルトウェイト)を受けるのはこれまでもあった。万が一そうなっていたとしても、特に危険はない」

 

「それでもです。御身はもう既に、ただ一介の迷宮探索者である“君主(ロード)”ではないのですから」

 

「はあ。わかっている、分かっているとも。まったく難儀なことだ」

 

「当然ですとも。一国の舵取りをしようというのですから」

 

「それならばもっと(いたわ)ってくれてもても良いのではないか? 民の魂を食おうと降臨した邪悪な鬼神を廃した立役者だぞ」

 

勇者(あの子)が既に追っていた者どもでしょう。御身が手出しせずとも片付いていたはずです」

 

「いや、楽しくウィズボールしておったところの目の前に勝手に降臨したのだ。不可抗力だぞ」

 

「…………そもそも城から抜け出さなければ巻き込まれなかったのでは?」

 

「いや! いや! あの場に居合わせねばきっと珠玉のごとき選手らに余計な被害が出ておったはずだぞ! それに優れた魔球(ウィズボール)文化を守り後援するのも、為政者の務めだ! あの場に居合わせたのは、まさに天祐にして我が王道を球戯神もご覧になっているという証左であろう!」

 

「…………」

 

「……な、何とか言ったらどうだ」

 

 赤毛の枢機卿は、深く深く溜息を吐きだすと、主君たる金獅子の国王に告げた。

 

「ともかく、無事のお帰り、まことに喜ばしく思います、陛下」

 

「うむ! 留守居役、大儀であった!」

 

 

 

<『1.赤毛の枢機卿「陛下もなー。せめてKOD's装備で出歩くにしても世継ぎを作ってからにしてくれよなー」』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

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2.蟲人僧正と交易神官長と森人探検家

 

 

 ウィズボールの賭け金の精算所にて。

 

「お」

「あら?」

 

「なんでい、ここの運営は交易神殿かよ」

 ばったり顔を合わせたのは10年前に≪死≫の迷宮を攻略した六英雄(オールスターズ)のうちの一人である蟲人僧正と――

 

「砂漠から出てきていらしたんですね。それで()()()はたっぷりしていただけましたか?」

 ―― ウィズボールの賭け札の運営を取り仕切っていた、かつては≪死≫の迷宮の近くに残った唯一の寺院で、修道女や修道士たちのとりまとめを行っていたという、今は都の交易神殿の神官長に出世した女性だ。

 

「喜ばしいことに神は俺に、世の中に金を巡らせよと仰せのようだ」

 蟲人僧正は、自慢げに大顎を咬み合わせてガチガチ鳴らすと、当たり賭け札を器用に鈎爪で挟んで差し出した。

「これで、一家の船を幾つか新調できるぜ」

 

 蟲人僧正は東の先の砂漠で砂海鷂魚(サンドマンタ)などの砂を泳ぐ魚を獲って生計を立てる蟲人の一族の船団の長でもある。

 今回の儲けを、砂海を征く船に投資するつもりなのだろう。

 

「あら、あらあら。随分と手堅いのですねえ。六英雄ともあろうお方が」

 

 もっとパァっと使わないのですか? と煽る交易神官長に、蟲人僧正はカチン、と顎を一鳴らし。

 

「もう俺も若くはない。そんな元気にはいかねえもンだ」

 

「ああ。蟲人は、()()でしたわね。永続賦活の奇跡はご入用で? お安くしときますわよ?」

 

「要らん。蟲人の個々人は、群れという巨大な生物の細胞に過ぎず、個体の長命にいかほどの意味があろうよ。俺の後進も育っている。新陳代謝というわけだ」

 

「あら、そうですか。では()()御贔屓に」

 

「ふん。ああ、()()そのうちな」

 

 

 

 

 

 

「ところであっちで呆けている森人(エルフ)はそっちの修道女か何かか。森人の交易神官とは珍しいが」

 

「ああ、彼女は臨時の手伝いですよ。なかなか()()(あつ)()方でしてね――」

 

「―― 賭け札は大当たりか、大外れか。どちらにせよ、あの様子じゃ相当だろう」

 

「残念ながら彼女の賭け札は()()()にはなりませんでしたが。蒼鱗ドラゴンズの新エースの巨竜の乙女のことも一党のよしみでよく知っていたようで」

 

「ほう、では大当たりの方か。おもしれえ」

 

「目端の利く娘のようですからきっとこれから有意義な投資をして、大いに世の中に風を回してくれることでしょう」

 

「あの森人の娘の様子だと、当たった金のうちから喜捨も弾むだろうしな」

 

「交易神の加護があったのでしょうから、当然ですね?」

 

「……そうだな」

 

「じぃ~」

 

「俺の分は、そもそも既に幾多も交易神の御許に積み立ててあンからな。今回は少しばかり預けた分を引き出しただけだ。せいぜい利子の分くらいだろう。―― そんな目で見たって無駄だぞ」

 

「……ケチな背教者ね!」

 

 

<『2.森人探検家「えへへへ。得点数も、ドローからの乱闘展開も、お互いの残り選手数も、最終的な勝敗も、全部全部当たっちゃった……。払い戻しすごいの、いっぱいいっぱいすごいの……。えへへへへ」』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

3.オーガタイクーン三兄弟(覚醒済み)

 

 

「いやー、負けたなあ、兄者よ!」

 ガハハハッと笑うのは、オーガタイクーン三兄弟の真ん中、二ノ君(ニノキミ)だ。

 ここはオーガ領域の城の中、意識を彼方の召喚体まで飛ばす特製のポッド(※古代遺跡からの発掘品)から降りて、板間の上で、小姓の鬼に身体を拭かせている。……実は、試合の最中に会得した【炎の流法(モード)】で瞬時に身体についた思念媒介液を蒸発させることもできるのだが、加減ができなかった時が大惨事なので自重したようだ。

 

「だが収穫はあった。朝敵の鬼神から権能を奪って弱体化させ、我らの体制はさらに堅牢となった」

 周囲の光を歪めて、自らに目覚めた【光の流法(モード)】を確認しているのは、長兄の一ノ君(イチノキミ)だ。

 只人の都のコロシアムで行われたウィズボールでは不覚を取ったが、それは権能に目覚めたてで練度が不足していたためだ。

 もし次も、あの勇者とかいう只人の暗殺者だか掃除屋だかに相まみえることがあれば、同じ結果にはさせない。と決意をする。―― 遭わないようにするのが一番だが。

 

「……兄者たちはよくもまあ、そう平静でいられるな! オレは(ハラワタ)が煮えくり返っているというのに!!」

 憤懣やるかたないという凶相を浮かべているのは、末弟の三ノ君(サンノキミ)

 因縁のある半竜娘に負けたことに憤っているのだ。

「―― 次は、勝つ!」

 

「弟者よ、勝ち負けに拘泥するな。我らはこれから、いまだ(まつろ)わぬ諸侯を平らげねばならぬ」

 オーガ領域の征服事業の方が重要だと諭す長兄、一ノ君(イチノキミ)。身体も拭き終わり、小姓に着物を羽織らせてもらいながら立ち上がった。

 

「そうだぜえ? 只人の方に張らせた“草”の根も、きっとダメになっちまっただろうしなあ。しばらく只人の領域には手を出せねえ」

 やれやれと首を振る次兄の二ノ君(ニノキミ)。黒角ジャイアンツへの浸透は、二ノ君(ニノキミ)の発案だったのかもしれない。

只人の国(あっち)から送り込まれる冒険者たちは、若衆たちを鍛えるのにちょうどいい歯ごたえだったんだが、仕方ねえ」

 

「ウィズボールも良い息抜きだったんだがな」

「違えねえ。政務だのなんだの、国をまとめるってのは大変だからな、息抜きしなきゃやってらんねえぜ」

 

 ガハハと笑い合う長兄と次兄。

 

 それを尻目に、着流しを身に着けて板の間を出ていこうとする末弟。

 

「む。早速鍛錬か?」 それを留めたのは長兄だ。

「……ああ、兄者。そうするつもりだ」

「ならば()ィんところで話を聞いてから行け。この時期は野分(のわき)がよく吹く。お前の【風の流法(モード)】で調伏できるやもしれん」

「なんで俺が……」

「国を治めるのに必要だ。それにお前にとっても野分の核でも捕まえられれば、位階や技量も上がろうから悪い話ではないはずだが?」

「―― 仕方ねえな。分かったよ、一の兄者」

 

 

「そしたらオレも鍛錬のために、火山の一つでも調伏してくるかねえ。灰が降って仕方ねえって陳情が来てただろ?」

 末弟に触発された次兄が、首を鳴らしながら立ち上がる。

 

「それは良い。(ワシ)は、天子さまに此度の顛末を奏上がてら、この光の―― 日光の権能で、各地の亡霊や荒神どもを片付けてくるとしよう」

「大掃除ってわけだな!」

「雷電だの黒闇だの大浪だのの三大鬼神も、完全に滅んだわけではないだろうが、大いに弱体化したはずだ。この機を逃すわけにはいかん」

 

 長兄は―― 未来の日光の大権現は―― 野心に目をぎらつかせてそう言った。

 城の外を見れば、末弟が気晴らしに【風の流法(モード)】で空の雲を裂いたのか、見事な紅と碧の双月が夜空から覗いていた。

 

 

<『3.オーガ領域は鎖国傾向を強め、人の畜産について取り組み始めるという風の噂だ(参考:ミノタウロスの皿)』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

4.魔女と半竜娘

 

 

 火吹き山の闘技場の附属大図書館―― その打ち合わせ用の一室にて。

 辺境最強の槍遣いの相棒たる魔女と、辺境最大の通り名もすっかり定着した半竜娘が仲良く研究ノートを広げていた。

 会議室に設えられた白い大きな板―― 表面に触れるだけで線が引けるという魔道具だ―― には、様々な考察の断片が書き記されている。

 

「転移の呪文に、巻物の作成方法、他にもいろいろな高度な呪文の知識と魔道具の作り方、魔神の化身(アバター)の構造……魔神から簒奪した知識を書き出すだけでも一苦労じゃ」

 

「そ ね。それに、断片 的な 知識を、大図書館(ここ)の本で、繋ぎ 合わせる のも、大変、よ ね」

 

 けだるげにキセルを吹かそうとして、ここが禁煙区画だったことに気づいた魔女は、誤魔化すように指を振った。

 半竜娘の口述を書き記し、また、疑問点を(ただ)し、不足する前提を埋めるために資料を漁り……二人とも頭脳労働で疲労困憊だ。

 この後に極上のエステが待ってるのでなければ、やっていられないところだ。

 

「じゃがおかげで、かなりのことが分かってきたのじゃ。特に巻物の製作は、きっと安定して行えるはずじゃ!」

 

呪的資源(リソース)の、節約に なる、わね」

 

「材料費と手間を考えたら、買った方が安いものもあるかもしれんがのう。触媒の関係でそこまで安価にはならんが、戦術の幅が広がるのは助かるのじゃ」

 

 試作品の【分身(アザーセルフ)】の巻物(スクロール)を、ウィズボールの試合で使ったのは記憶に新しい。

 あのおかげで、投手は派手に呪文を使えたし、それによって何とか最終回まで同点で持ちこたえられたのだ。

 

 いよいよ金に困れば、魔法の巻物を売って金策にしてもいいだろう。

 

「転移門の製作は、まだ難しそうじゃのう」

 

「研究が、必要 かし、ら」

 

 古代においても便利に使われていた転移門の呪文―― 高度な呪文のわりに、巻物や魔道具が多く残っているのは、それだけ多く使われていたということだ―― は、まだまだ再現は難しそうだ。

 どうにも、正気や呪文使用回数を削って転移門を置く方法は比較的簡単に再現できるようだが、さすがに代償が大きすぎる。

 

「あとは、化身(アバター)かの。使い魔(ファミリア)とも、ちぃと違うようじゃが」

 

「【分身(アザーセルフ)】の方が、近い、かしら ね。マナで作った、身体の形を、変える……」

 

「よく魔神が人に化けるアレじゃな。個人的には【分身】の方だけでも変化(ヘンゲ)で小さくできれば、生活の不便も減るのじゃが」

 

 エネルギーにあふれる【動力炉心(パワーコア)】を吸収した半竜娘は、飲食不要で成長限界もないという、竜への階梯へいよいよ足を掛けた。

 彼女の身体はこれからも大きくなり続け、縮むことはない。

 ただ、当然、街で暮らすには不便なことも多い。人の街は、竜が暮らせるようにはできていない。

 

「要練習、ね?」

 

「ふーむ、【竜翼(ワイドウィング)】の術で肉体変容は慣れたと思ったんじゃがのう。去年の収穫祭のアストラル界でも、八脚神馬(スプレイニール)形態になって骨の鎧や槍を纏ったりしたし……」

 

「仕組み が、少し、違う みたい」

 

「そのようじゃ。今の肉体を作り変えて変化(ヘンゲ)を反映させるには、いましばらくの修練が必要じゃろう。*1じゃが、まったく違う形はともかく、分身体の方ならば、魂の記憶にある形なら再現はできそうじゃ―― つまりは、過去の姿。要は若返りじゃの」

 

「それは、面白そう、ね」

 

 

<『4.なんだって? 魔女さん(本体)とロリ魔女ちゃん(分身)に迫られる槍遣い兄貴だと!? うらやまけしからんな!!』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

5.忍びの者と、青年剣士と女武闘家と女魔法使いと少年魔術師と女圃人剣士

 

 

 半竜娘が長引く冬をもたらさんとする混沌の陰謀に怒りを燃やしていたころ。

 

 都の方でも、実りを司る地母神寺院や、暦に詳しい知識神の神殿が、冬の異変を察知していた。

 

 それは地母神寺院に最近出入りするようになった王妹殿下を通じて王宮に奏上され、その異変の源を探るようにと、冒険者ギルドを通じて、凄腕の斥候に依頼が出された。

 

 すなわち、あの伝説的な圃人の斥候、『忍びの者』が駆り出されたのだ。

 折りしも彼はちょうど、原因があると目される雪山で、新米冒険者一党に稽古をつけてやっていたところだった。

 

 

「つーわけで、ちょっくら行ってくらア」

 

「「「「「 はーい…… 」」」」」

 

 死屍累々、というありさまの新米冒険者たち――

 女神官と同期の、ハチマキを巻いた青年剣士に、

 黒髪をポニーテールにまとめた女武闘家、

 赤髪に眼鏡で豊満な躰の女魔法使い、

 その弟で学院を飛び級で卒業するほどの秀才である少年魔術師、

 世界一の剣士を目指して圃人庄を飛び出した圃人剣士の少女、

 ―― 5人の一党は、圃人の老爺のしごきによってダウンしている。

 

 倒れているのは冬山の洞窟の岩肌の上だが、そんなことに頓着できるような段階は過ぎている。

 

「さぼるんじゃねーぞー! わぁったな!」

 

「ひゃん!?」 「ちょっと!」

 

 行きがけの駄賃に女武闘家(被害担当:尻)女魔法使い(被害担当:胸)にセクハラしていく忍びの者。

 なお、圃人剣士の少女には、セクハラはせずに頭を撫でるにとどまる模様。―― 贔屓では? え? 流石に子供に手を出したら犯罪? あ、そう……。

 

 

 

 

 

「…………師匠、行ったか?」

 転がったまま口に出したのは青年剣士。

 

「たぶん……」

 そして返事したのは女武闘家。普段なら尻を触る師匠の手を追い払うくらいはできるのだが、今日はその元気もない。いつもは何とかカバーリングしてくれようとする青年剣士(メイン盾)も、あのザマなのでどうしようもなかった。

 

「うぎぎぎぎ、ちくしょう、また全然掠りもしなかった」

 意外と元気―― というよりも反骨心だけで立ち上がろうとしているのは少年魔術師。……まあ、姉がセクハラされていることへの憤りもあるのだろう。

 

「っていうか、なんで私まで斥候としての訓練をしなきゃいけないのよ……。いや、あのひと……人?、術にも造詣深いけど」

 赤毛眼鏡の女魔法使いは、斥候術の有用性を認識しつつも、前衛後衛一緒くたに訓練を受けさせられている状況は不満なようだ。

 一方でまた、年の功か、あるいは濃厚な実戦経験の賜物か、はたまたかつて白髭の大魔導士からいくらかの手ほどきを受けたことがあるのか、忍びの者は呪文の類にも熟達しており、女魔法使いの術師としての腕前も上がっているのだった。

 

お師匠さま(おっしょさん)は凄いですよねえ。今回も王様からの依頼だそうで、褒美に宝物庫のお宝をなんでも一つ、って自慢してましたよ」

 圃人剣士の少女が何とか息を整えて言うところによれば、今回はやんごとなき筋からの依頼なのだとか。

 なお、他のメンバーは知らないことだが、ある程度、王宮から依頼されている寒冷化現象の元凶の居場所探索に目星がついたら、そこまで全員で雪中行軍して道を覚えさせ、本命の王国の鉄砲玉(超勇者一党)の案内は、彼ら新米冒険者一党に任せるつもりなのだとか。

 

 

「「「「「 あれで性格さえ良けりゃあなぁ…… 」」」」」

 

 新米冒険者ら一党5人はそろってため息をついた。

 

 

<『5.なお5人とも、忍びの者が自ら記した冒険譚(行きて帰りし物語)をしっかり買わされた模様』 了>

 

 

 

*1
肉体の変容:要はサプリの獣人専用技能を習得させるための導線。【注入毒】技能とか、【角攻撃】技能とか。半竜娘ちゃん、角は今でも生えてるけど。




 
マンチ師匠の元で強くなったハチマキの青年剣士君たち一党とも、もう一回カチ合わせたい。うんうん、なんだかんだで半竜娘ちゃんに土つけてるからね、雪辱しなきゃだよね?(戦わせられるか、いつものごとく予定は未定)

次こそ、原作小説9巻(リンク先には試し読みもあります)の雪の魔女編(あるいは祖竜の怒り編)へ突入です。

===

◆◆◆ダイマ重点◆◆◆


各コミックス版には原作者のKUMO先生の書き下ろしSSが巻末にあるのですが、今回は、圃人剣士の少女ちゃんのオリジンが明らかになったり、イヤーワンで都から来た監査官(当SSでは麗人係官)さんが元は『≪死≫の迷宮』に潜ってた武道家だったことが明らかになったり、とても良かったです!

そしてゴブスレTRPGのサプリ、通常版(2021年05月13日(木)発売)ですけど、リンク先で試し読みが公開されてますね! 試し読みの範疇では、獣人や吸血鬼系PCについて詳しく書いてありますね! サンプルPCの武技にある、【七孔噴血】とか森人奥義【回転斬り】とか【紅蓮の嚆矢】とか【飯綱落とし】とか【魂魄破壊】とか気になりますねえ……。

◆◆◆ダイマ重点◆◆◆


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いつも皆様、感想評価&コメありがとうございます! これからも精進いたします!
 


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二周目レギュRTA 目指せ【辺境四天王】~祖竜の怒り編~
35/n 雪の魔女の洞窟-1(蜥蜴人モフ化計画&離陸)


 
閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、ここ好きタップ、感想、いつもありがとうございます! なんとかGW中に投稿できました……。

ゴブスレTRPGサプリももうすぐ発売で楽しみです。吸血鬼プレイも公式でサポートされるので、例えば、宵闇幻燈草子の馬 呑吐(マートンツー)再現プレイとかもできそう。つーかあいつ普通に異世界に吹っ飛んでるから四方世界にしれっと転移してても不思議じゃねーわ……!

===

◆オーガ領域でのゴブリンの扱いについて
まあ昔の野良犬の有様・扱いに近いと思われます。集落のそこかしこで割と見かけるので、よく適当に虫の居所の悪いオーガに棒で打たれては死に(小鬼も歩けば棒に当たる)、新しく手に入れた弓矢の的にされては死に、新しく覚えた魔術の的にされては爆散し、稀に家屋に侵入してきてオーガの赤子や御馳走(にんげん)を喰い荒らしては駆除され……って感じです。サツバツ!
ゴブリンを飼い馴らしてる物好きもいると思います(闘蜘蛛(とうちしゅ)とか闘蟋(とうしつ)とかのノリ)。
(いくさ)の時には適当にその辺にいるのを腕力で糾合して連れてったり現地調達したりという感じ。いつの間にか増えてるあたりは雑草みたいな扱いにも近いかも。
(オーガによる人間の畜産の試みについては、『ミノタウロスの皿』というよりは『デミウルゴス牧場』(オーバーロード)的な感じになりそうですよねえ)

===

●前話:
ハチマキの青年剣士一党、雪山修行中! 彼らもゴブスレさんの同門になった(マンチの系譜に連なった)ぞ!
 


 

 はいどーも!

 竜の怒りが大山(たいざん)を鳴動させる実況、はーじまーるよー。

 

 前回は【ウィズボール優勝】の実績を解除しつつ、半竜娘ちゃんが銅等級(第四位)に昇級したところまでですね。

 時間は秋から冬に飛び、例年よりかなり厳しい冬に疑問を覚えて知識神様にお伺いを立ててみたら、「実は混沌の勢力の陰謀だったんだよ!」 「な、なんだってー!?」と 託宣(ハンドアウト)が下ったところです。

 

 闇よ落ちるなかれ! と知識神の信徒である文庫神官ちゃんが聖句を唱えて目を瞑ったのは、きっと半竜娘ちゃんの怒りのオーラが恐ろしいからではないはず。

 

 そう、半竜娘ちゃんはお怒りなのです。

 『赫怒(かくど)』という題名をつけた絵を描いたならこうなるだろうって有様ですよ……!

 うわあ、【動力炉心(パワーコア)】が励起して瞳が青い(スパーク)を宿して、両手の鮮血呪紋がオーバーフローして赤黒い雷線がバチバチと……。

 

 まあそれも当然。

 半竜娘ちゃんが崇める祖竜は、天の火石が落ちたことによる寒冷化によって滅んだとされています。

 そんな宗教体系を持つ祖竜信仰の竜司祭である彼女にとって、冬を長引かせる陰謀は、まさしく信仰に対する挑戦と同義!

 蜥蜴人自体も寒さに弱いのですから、これは生存闘争でもあり、宗教戦争でもあるのです。

 

 赫怒のままに暖炉の前で半竜娘ちゃんが立ち上がり、半竜娘ちゃんの上に乗っていた幼竜娘三姉妹たちがコロコロと転がって落ちました。

 

「冬を長引かせるじゃとぉ……!? 何もかもを凍り付かせるじゃとお……!?」

 

「いや、そこまでは言ってないわよ」

 森人探検家ちゃんが突っ込みますが半竜娘ちゃんの耳には届かないようです。

 

「そのような陰謀、この手前(てまえ)が、竜司祭(ドラゴンプリースト)が、蜥蜴人(リザードマン)がっ、許しておけるものかよ……!!」

 

 GGRRRUUUAAARRRR!!! と半竜娘ちゃんが吠えて、拠点の家がびりびりと震えます。

 外からは、がらがらドサッと、家の軒先にぶら下がった氷柱や屋根に積もった雪が落ちる音が。

 

「遠征じゃぁっ!!」

 

「知ってた」 「まじかー」 「行きましょう、お姉さま!」

 

 リーダーである半竜娘ちゃんの決定に異を唱えることもなく、森人探検家・TS圃人斥候・文庫神官たちはそれぞれ準備を始めに立ち上がりました。

 

 ……あ、幼竜娘三姉妹ちゃんたちは、お留守番です。さすがに生後1年未満の幼児―― といっても只人の9歳児くらいには育ってますが―― を雪山には連れていけませんからね。

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 というわけで!

 やってきました冒険者ギルド。

 

 酒場も併設されたギルドの広間の中では、冬休み中の冒険者たちが(たむろ)しています。

 冬は人の往来も少なく、怪物は大体が鳴りを潜めますので、冒険者たちもあまり冒険には出かけません。

 酒場の方では、羽衣の水精霊の祭壇に供え物がされ、冬のせいか装いを氷姫じみたものに変えた羽衣の水精霊が、その供え物を飲んで陽気に冒険者たちと話しています。すっかり居ついていますね……。

 

 さて。

 

 山間の村々への救援依頼を多くこなしている半竜娘ちゃん一党が不在になることは、ギルドに知らせておいた方がいいでしょう。不義理をしてはいけません。

 あと、やっぱり情報収集と言えば冒険者ギルド……なんですが、冬のフィールドの情報は、村々の救援に野に空にと駆けずり回った半竜娘ちゃん一党が一番情報持ってますから、わざわざ聞くまでもないかも知れません。たぶん今回の情報収集フェイズはある程度はスキップできますね。

 

 ずんずんとギルドの中に入っていく半竜娘ちゃん&その一行。

 それに気づいたのか、暖炉の前にいた大きな二つの影がのっそりと振り返りました。

 

「おお、姪御殿……」

 一つは半竜娘ちゃんの叔父でもあり、ゴブスレさんと一党を組んでいる蜥蜴僧侶さん。

 暖炉の前で丸まっています。

 

「尼さんじゃねーか、ちょうどよかった……」

 もう一方は、鮫歯木剣の蜥蜴戦士。

 恋人である交易侍祭が、少しでも温めようと、ぴったり寄り添ってくれています。

 お熱いことですね!

 

「この寒さは耐えらんねー……」

 アツアツの恋人ですが、物理的に温かくなるかというとそれにも限界があるわけで。

 鮫歯木剣の蜥蜴戦士が、面目なさげに、しかし切実に懇願してきます。

 

「また【天候(ウェザーコントロール)】を使って小春日和にしてもらえねーか」

 

 口に出したのは鮫歯木剣の蜥蜴戦士だけですが、半竜娘ちゃんの叔父である蜥蜴僧侶さんも同じ気持ちのようです。

 寒冷耐性が低い蜥蜴人にとっては切実な問題ですからね。

 大きな体を丸めてウルウルした瞳で見つめてきます。

 

 

 

「そんな暇はないのじゃ! これでも飲んどれ」

 

 そんな懇願を切って捨て、怪しげなポーションを相手のお口にシュゥゥゥーッ!!

 

 

「ガボボボーーッ!?」 「な、なにすんですかー!?」

 

 狙い過たずに鮫歯木剣の蜥蜴戦士の口にぶちまけられた怪しげなポーションに、彼の恋人の交易侍祭が悲鳴を上げます。

 同じものを叔父の蜥蜴僧侶さんの方にも投げてますね。蜥蜴僧侶さんは暖炉の前で丸まったまま、危うげなくそれを尻尾でキャッチ。「ふむ、これは……」と()めつ(すが)めつ。キャッチしたポーション瓶には、鳥の羽のマークのラベルが括り付けてあります。

 

 が、半竜娘ちゃんは、鮫歯木剣の蜥蜴戦士のダメージも、その恋人の交易侍祭の抗議も、叔父の蜥蜴僧侶の疑問も無視して受付の方へと、ズシン……ズシン……と歩いてきます。

 そして、顔を引き攣らせる受付嬢さんと、「資料整理しないと~」とか言って戦略的撤退をする監督官さんを見据えて進む半竜娘ちゃんの後ろで、鮫歯木剣の蜥蜴戦士の身体に異変が!!

 

「ぐぅぉ……」 呻き声とともに蹲る鮫歯木剣の蜥蜴戦士。

「ちょっと、大丈夫ですか!?」 それを心配する恋人の交易侍祭さん。

「が、あ。か、身体が――」

「い、いま、【解毒】の奇跡を――」

「―― からだが、熱痒い(あつかゆい)ィィィィ!!?」

 

 すわ、やはり毒物か!? と【解毒】の奇跡を嘆願しようとした交易侍祭さんの前で、鮫歯木剣の蜥蜴戦士のシルエットがポンッと一回り膨らみます!

 

「え?」

 

 呆然とする交易侍祭さんと、ギルド中の冒険者が見たものとは――?

 

「お、おお。なんだ。うん。痒いのは治まったけど、いったい、何が……」 「……モフモフ……」 「うん?」

 

「も、もふもふ! モフモフです!! えぇっ、なにこれすっごい! かわいい! もっふもふ!!」

 

 そこには鱗を羽毛に変換した鮫歯木剣の蜥蜴戦士の姿が!!

 交易侍祭さんが、モフモフになった恋人の蜥蜴人―― 蜥蜴人? に「もっふもふー!」と言いながら抱き着きます。

 

「おお、なるほど。このポーションは、鱗を羽毛に生え変わらせるものであったか」

 手元の羽の絵ラベルのポーションを掲げて冷静に分析したのは、蜥蜴僧侶さんです。

 

 そう、何を隠そうこのポーションは、羽毛化ホルモン成分と、水鳥の羽毛を溶かしたものと、【竜翼】の祖竜術を込めた【竜血】を混ぜ合わせた逸品。

 もともと【竜翼】の祖竜術は、ドラゴンのような膜翼以外にも、鳥のような羽毛に覆われた翼にも派生させられる術です。

 その羽毛要素に絞って効果を強調し、効果時間を延長させる工夫をしたのがこの『換羽のポーション』です。

 

「おお! ぬくい! 寒くないぜ!」

「もふもふだ~! これはこれでアリですね!」

 

 羽毛が生えたのを受け入れた鮫歯木剣の蜥蜴戦士と、その恋人の交易侍祭さんは嬉しそうにしてます。 ヨシ!

 

 ちなみに【竜翼】の術と競合するため、【竜翼】で空を飛びたい場合は併用できません。

 なので半竜娘ちゃんは自分では使わなかったわけですね、これから高速移動するために空を飛ぶ必要がありますから。

 

「しからば拙僧も。―― おお、確かにこれは(ぬく)いですなあ」

 蜥蜴僧侶さんもグイっとポーションを飲んで、モフッと羽毛を生やしてぬくぬくしだしましたね。

 妖精弓手さんが騒動の気配に起きたのか、ギルドの2階の宿泊スペースからひょっこり顔を出して、モフモフになった蜥蜴僧侶さんを見て「ええっ、鳥になってる!?」と目を丸くしています。

 

 なお、幾人かいる鳥人の女性冒険者がザワザワしてました。羽毛を生やした蜥蜴僧侶さんを見るその目は妖しかったことを付記します。

 蜥蜴人の美丈夫ってのは、鳥人基準でも、もともとイケメンの扱いなのですが、羽が生えることで、鳥人的にもさらにイケメン度が上がって見えたのでしょう。

 

 

 

 閑話休題(それはさておき)*1

 

 

 背後の喧騒を無視して、半竜娘ちゃんはズンズンと受付に進み、どっかりと座り込みました。

 受付の向こうで座っている受付嬢さんと、胡坐をかいた半竜娘ちゃんの視線がほぼ水平にぶつかります。立ったままだと声も聞こえづらいですからね、お互い。

 

「あ、あの~、な、なにか御用でしょうか……?」

「…………」

「(目が据わってるー! な、なんとかいってください~~!)」

 

 私何かしましたかぁ? と涙目になりつつある受付嬢さんですが、そこに救いの手が!

 

「おうおうどうした、【辺境最大】! 随分と虫の居所が悪い見てえじゃねえか。だぁが! 受付さんに当たるのはいただけねえなぁ。それにお前さんもかわいい顔が台無しだぜ? ほれ、笑顔笑顔!」

 

 はい。槍使いさんですね。

 特に理由のある叱責と、特に理由のない口説き文句が半竜娘ちゃんを襲う!

 

 あ、ちなみにゴブスレさんは本日不在です。

 食糧不足の村の救援に、牧場から牛飼娘さんと一緒に物資を積んで出発したそうです。牧場主さん経由の頼み事だとか。

 半竜娘ちゃんも特に使う予定のなかった―― 申し出を受けた昨日時点では―― 独立懸架式突撃機動馬車(空間拡張長櫃(ながびつ)備え付け)+麒麟竜馬2頭(特製防寒装備付き)のレンタルを乞われたので快諾し、ゴブスレさんに貸し出しています。

 ゴブスレさんとしては牛飼娘さんを守るために可能な限りの手を尽くすのは当然、というところでしょう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そうなったとき、チャリオッツじみた突撃機動馬車は威力を発揮するでしょう。

 

 というわけでゴブスレさんが不在なので、いい感じに槍使い兄貴が受付嬢さんに助太刀したというわけですね。

 

 半竜娘ちゃんは据わった眼をジロリと槍使い兄貴に向け、槍使い兄貴を見ている元大家で研究仲間で恩人の魔女さんに向け―― 先達の顔を立てる必要があり、受付嬢に激情のまま八つ当たり気味に接するのは確かに筋が違うと思い直し――

「……。フゥー。そうじゃな、少し気が立っておった」

 深く溜息をつくと端的に用件を話し始めました。

 

「今年の厳しい冬が、混沌の陰謀であるとの確証を得たのじゃ。故に――」

 青い灯を宿すガンギマリの眼で半竜娘ちゃんが宣言します。

 

「我らこれより修羅に入る!」

 

 端的……、端的とは?

 ほら、受付嬢さんポカーンとしてますよ。

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 ()()然々(しかじか)

 

 事情を説明した半竜娘ちゃんに納得を見せた受付嬢さんと、槍使い兄貴。

 

「そういや氷霜巨人(フロストジャイアント)どもも、前より少し手ごわかったような気がするな」

 冬でもその武名を(たの)んで指名依頼が入る辺境最強たる槍使い兄貴が首をひねります。

「ああ、毎年の恒例のあの依頼、ですね」

「ま、まあ俺にかかれば、あんな巨人どもなんてひとひねりってなもんですよ! はっはっは!」

 

 受付さんに気にかけてもらえて満更でもない感じですね。

 

「手前らも山の方には配達依頼でさんざっぱら回っとるのじゃ。去年の様子との違いをまとめたりして、寒波がひどい方向も目星はつけとる。元凶はおそらく、北の山の方じゃろうな」

「それでしたら、もう、すぐ出立されるんですか?」

 受付嬢さんの問いに、半竜娘ちゃんは首を振ります。

「ああいや、それだけではのうてな。手前は、今まだ無事な村の位置しかわからんからの、過去の依頼の状況から廃村も含めた地勢を頭に入れておきたいのじゃ」

 

 あ、一応、冒険者ギルドでも情報収集するんですね。

 何かあった時に逃げ込める―― あるいは混沌や山賊の策源地になっている可能性のある―― 廃村の跡地についても、分かっているに越したことはないですからね。

 

「なるほど、それでしたら、5年10年飛ばしくらいで、冬の配達依頼の履歴を調べてきましょうか」

「手間をかけるが、よろしく頼むのじゃ」

「はいはい、少々お待ちくださいませ。冬の依頼の数は多くないのでそこまで時間はかからないと思いますよ」

 

 受付嬢さんが奥に引っ込みます。

「聞こえてました? ()()()()ついでに手伝ってくれますか?」 「い、いやー、受付に誰もいないのは……」 「手 伝 っ て く れ ま す よ ね ?」 「はい」

 監督官さんとの会話が少し漏れ聞こえてきましたが、早く情報が揃うならそれに越したことはないので放置でいいでしょう。

 

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 

 追加の情報も仕入れて、物資の追加調達もして、出立をギルドに知らせて……。

 これでまあ、街での準備はだいたい終わりでしょうか。

 

 それでは、いざ、出発です。

 

 

 

 

「分霊人形が恒常維持中の【加速】呪文、活性化。

 【竜翼】のポーション摂取による飛行形態への変形、寒冷対応のため羽毛モード並行励起。

 【分身】のスクロールで分身作成。

 本体から分身へ、マナコントロール補助」

 

 ギルドの前に出てきた半竜娘ちゃんが、冬休み中の冒険者たちに興味深そうに(あるいは嫉妬混じりに)見つめられるなか、自前の魔法の道具を大盤振る舞いしていきます。

 スクロールで作成された分身ちゃんが、さらに魔法強化を引き継ぎます。

 

「自己強化、セメル(一時)キトー(敏速)オッフェーロ(付与)――【加速(ヘイスト)】。

 本体の巨大化、セメル(一時)クレスクント(巨大)オッフェーロ(付与)――【巨大(ビッグ)】、10倍拡大。

 航路確保と体温低下防止のため術者中心に強制快晴化、カエルム()エゴ()オッフェーロ(付与)――【天候(ウェザーコントロール)】。

 空気抵抗低減のため風精霊に祈請、≪風の乙女(シルフ)乙女(シルフ)、接吻おくれ。手前の羽に幸あるように≫――【追風】。」

 

 本体の方が巨大化し、天の雪雲にぽっかりと穴が開き、穏やかな風が吹きます。分身が使える9回の呪文のうち4回を消費。

 ギルドの中から見ていた冒険者たちが驚きに目を丸くします。贅沢な使い方ですからね。

 さらに追加で森人探検家が【旅人(トラベラー)】の奇跡を請願し、これで半竜娘ちゃんは最速飛行形態になりました。

 

「で、方向はわかるんですか?」 分からなければもう一度知識神様の奇跡を嘆願しましょうか、と文庫神官が問うてきます。

「【天候】呪文の効きが悪い方へ悪い方へと向かえば良いのじゃ。寒波が術による不自然なものであるならば、天候操作と競合し、抵抗を覚えるはず」

「なるほど」

 

 背を屈めたフル強化(バフ)巨大化半竜娘ちゃん(本体)の背中に、分身ちゃん・森人探検家・TS圃人斥候・文庫神官+荷物を固定し。

 

「≪俊敏なりし甲竜(アンキロス)よ、経絡巡りし雷を、どうか我が身に宿したまえ≫――【突撃(チャージング)】じゃ!!」

 

 北の空へ向かう一陣の風―― いえ、流星となって、離陸(テイクオフ)です!!

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

1.そのころのゴブスレさんの話

 

 

「さっきは危なかったねー」

「そうだな」

 

 ゴブリンスレイヤーは、山村への食料救援のために牧場主経由でもたらされた依頼を引き受けて、牛飼娘とともに雪山を馬車で縦走していた。

 良質な軍馬に匹敵する脚をもつ麒麟竜馬のおかげで、数日かかる道程をずいぶんと短縮できている。

 それに無骨な馬車は、荷物の積載量だけでなく居住性にも配慮しているようで、中は冬とは思えないほどに暖かいようだ。

 

 そのおかげか、御者席と馬車の間の小窓を開けて話しかけてくる牛飼娘は、ずいぶんと薄着だ。

 新しく買った“よそゆき”の服を着ているのは、“似合っている”とゴブリンスレイヤーは思ったし、感想を乞われて実際に口に出しもした。

 まあ、街の外は危険であるし、何があるかわからない。もっと暖かく、動きやすい格好の方が望ましいとは思うのだが……。

 

「ふんふふーん♪」

「…………」

 

 とはいえ、幼馴染の牛飼娘が嬉しそうなので、それはそれで良いのかもしれない。

 あるいはソロで活動していたころの自分であれば、それを油断と断じたかもしれない。

 

 今年の冬は雪が多い。

 陽に当たらないと気鬱になるとか言うし、こうして気分転換に少し離れた村へのお使いに行くことも良いのだろう。

 護衛として、無事に荷物と牛飼娘を届けなければならない、と、ゴブリンスレイヤーは薄汚れた兜の面頬の下で、顔に決意を上らせた。

 

 だが、いつだって問題は――

 

「でも、こんな寒い中でもゴブリンって出るんだねえ」

「ああ。奴らはどこにでも出る」

 

 ―― そう、ゴブリンだ。

 

 道中、やけに多くの小鬼(ゴブリン)どもに襲われた。

 大方やつらは無計画に食料を浪費し、この雪の中で略奪に出る必要に駆られたのだろう。

 あるいは、馬車に乗っている牛飼娘(只人の女)の匂いに惹かれたか。

 

「いやー、それにしてもこの子達ってやっぱり凄かったんだねえ」

「確かに並みの馬ではこうはいかなかったかもしれない。……いい馬だ」

 

 先ほどは小癪にも小鬼が木と木の間に綱を張って馬の足を取ろうとしていたが……。

 麒麟竜馬はそんなものはものともせずに、そのまま馬車を突っ切らせた。

 常識はずれなパワーだった。

 

 さらに随分と賢いようで、ゴブリンスレイヤーが鏃を緩めた矢―― 鏃が体内に残ることで化膿させ負傷した小鬼を中心に病を発させる工夫―― を放つ間も、理想的な進路を保ったままであった。

 殲滅はできなかったが、数匹の小鬼は馬車が跳ね飛ばしたし、何匹かの小鬼は緩めた鏃が刺さったまま体内に残ったはずだ。

 

 結局、半竜娘から借りた馬車と麒麟竜馬は、小鬼どもを難なく蹴散らして振り切ることに成功した。

 

 

 ―― 配達先の村に食料を置いたら、周辺の小鬼の掃討をするべきだな。

 

 

「ねえ」

 村についたときの算段を立てていると、牛飼娘の声に意識を引き戻された。

 

「……えっと、ありがとね」

「何がだ」

「ゴブリンから、守ってくれて」

「当然だ。俺はゴブリンスレイヤーだからな」

「うん、でも。当たり前でも、私は安心したから、お礼は、ね。―― ありがとう」

 

 しばし沈黙。

 牛飼娘は、ゴブリンスレイヤーの言葉を待っている。

 

「そうか」

「うん。そうだよ!」

 

 返事は“どういたしまして”の方がいいと思うけど。と付け足した牛飼娘の言葉は小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)に聞こえたのか、どうか。

 あるいは、あの故郷の村の生き残りを、ゴブリンから守れたことに、小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)が何かの感慨を抱いたのか、どうか。

 

 

 不意に空が、まるで何かに引き裂かれたかのように一直線に晴れて、葉を落とした枝の間から太陽の光が差した。

 配達先の村はもうすぐのはずだ。

 

 

<『1.超音速半竜娘ちゃん(強制快晴化仕様)が上空通過中』 了>

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

2.兎人の猟師が、パイにされる直前の話

 

 

 ――屍人(しびと)の夏は過ぎ去って

 ――お山に黒蓮が咲き誇り

 ――冬だ。冬だぞ。俺らの季節がやってきた!*2

 

「約束どおりに来てやったぞ! 氷の魔女よ! これ以上は村に手出しはさせん!!」

 

 雪男(サスカッチ)たちを従える氷の魔女が住処にしている洞窟の前で、弓に番えた白銀の矢を引き絞るのは、兎人(うさぎびと)の村でその魔法具の矢を代々受け継いできた猟師の男。

 村に雪男(サスカッチ)(けしか)けた雪の魔女が、これ以上の襲撃をやめるための条件として出したのが、雪の魔女を滅ぼしうる白銀の矢と、それにつける魔法の薬を持って来ること。

 兎人の猟師は、妻を、そして娘と息子と娘と息子と息子と娘と息子と娘―― 8人の子供たちを、また、村の仲間たちを守るために、単身、氷の魔女の(ねぐら)にやってきたのだ。

 

 もちろん兎人の猟師は、白銀の矢も、魔法の薬も、渡すつもりなどない。

 抵抗手段を失った村が遠くないうちに雪男(サスカッチ)の腹に収まるのは、確定的に明らかだからだ。

 

「(故に、ここで氷の魔女を仕留める! この白銀の矢を代々継いできたのは、この日のためなのだから!)」

 

 統率する氷の魔女さえいなければ、雪男たちの勢いも削がれるだろう。

 毎年のこととして喰われる御同輩はどうしても出てくるだろうが、それでも兎人の多産さを考えれば、許容範囲に収まることだろう。

 

「出てこい、氷の魔女め!」

 

 だが、相手が“一人で来るように”と言ってきたところで、相手も一人で来てくれるとは限らないのだ。

 

「間抜けな兎め! 誰がまともに相手をするもんか。お前たち、やぁーっておしまいなさい!!」

「「「 アラホラサッサー! 」」」

 

 どこからか響いた氷の魔女の声に従い、勇敢な兎人の猟師の前に、雪色の毛皮の大猿のような姿の怪物―― 雪男(サスカッチ)が次々と飛び出してきた。

 

 白銀の矢は、氷の魔女には、特効。

 だが……雪男(サスカッチ)にどれほどの効果があるかというと……。

 

「くっ!」

 

 しかも、矢も薬も、一射分しかないのだ。

 

 兎人の猟師は白銀の矢をしまい込むと、通常の矢に切り替え、また、山刀をいつでも抜けるようにした。

 

 奴ら(サスカッチ)が唸り声をあげて襲い掛かってくる――!

 

 

 

 

 

 兎人の猟師は奮戦した。

 小柄で敏捷な身体を生かし、雪男(サスカッチ)たちの攻撃を避け、何匹もの首を刎ね(ヴォーパルストライク)、本命の雪の魔女がいる洞窟へと突破を図った。

 しかし、雪の中の雪男の動きは、なかなか侮れないものがある。また、問題なのは奴らの巨体だ。大きな体を生かした跳躍と、長い手による掴み攻撃は、徐々に兎人の猟師を追い詰めていく。

 

 逃亡も考えた。

 しかし、いつの間にか、洞窟の前は多くの雪男(サスカッチ)によって囲まれていた。

 

 そして、ついに雪男(サスカッチ)の一撃が、兎人の猟師の身体をとらえた。

 あっけないほどに残酷に、猟師の身体が宙を舞い、切り札の白銀の矢はどこかへ吹き飛んだ。

 全身の骨が枯れ枝を踏むように砕ける激痛が、宙を舞って雪の上を転がった彼を襲った。

 

「(ぐ、ぅ、ぁ……。失敗した、失敗した失敗した失敗した……! たかが猟師の分際で、俺は、勇者にでもなったつもりだったのか! なぜ洞窟に忍び込まなかった! なぜ奴らの前にわざわざ姿を現した! 猟師の戦い方をすればよかったのだ、この大馬鹿野郎が!)」

 

 後悔したところでもう遅い。

 見ろ、雪男(サスカッチ)が近づき、トドメの踏み付けをせんと足を振り上げている。

 走馬燈がめぐる。妻よ、子供らよ……すまない……。無念のうちにその生涯を終えようとした兎人の猟師の長い耳に、ついに踏み付けの轟音が響いた。

 

 

 

 

「……生きている?」

 

 

 

 だが、踏み潰されたのは、兎人の猟師ではなかった。

 

 

「GGGRRRUUUUOOOOO!!!」

 

 

「ドラゴンだぁっ!?」 「ドラゴンが落ちてきたぁっ!?」 「兄貴がドラゴンに潰されたぁっ!!」

 

 泡を喰った声を上げる雪男(サスカッチ)たち。

 兎人の猟師が痛む身体で見上げれば、自分を踏み潰そうとしていた雪男(サスカッチ)をペシャンコにしている巨大な足が見えた。おそらく、足の裏だけで、雪男(サスカッチ)の背丈と同じくらいはある。

 その巨大な竜の足の裏から、鮮血が雪へと染み込んでいた。

 

 さらに見上げれば、羽毛に覆われた足首、民族風の衣装、翼、そして青い(スパーク)が瞳に宿った女の顔。全てが、兎人基準で考えれば20倍はありそうだ。

 この人面の巨竜が、助けてくれたのだろうか?

 

 兎人の猟師が洞窟の中で戦っていれば、この人面の巨竜の応援はなかっただろう。

 皮肉なことに、兎人の猟師が、洞窟の前の開けた場所で、勇者のように大立ち回りをしたからこそ、間一髪で救いの手が間に合ったのだ。

 

「チィッ、良いところで―― だが、矢は回収できた! どこの竜だか何だか知らんが、()()ね! 【吹雪(ブリザード)】!!」

 

 氷の魔女の使った【吹雪】の呪法が、人面の巨竜を包み込む。

 

 人面の巨竜は、吹雪を嫌ったのか、広場から飛び上がる。

 ―― 兎人の猟師をふうわりと優しく雪ごと蹴り上げて、それを口に咥えて。

 

 兎人の猟師が意識を失う前に見た最後の光景は、浮遊感とともに迫る、てらてらと光る、人面の巨竜の口の中だった。

 

 

<『2.兎人の猟師「食べないでくださーい!」 半竜娘ちゃん「たべないよ!」』 了>

 

*1
蜥蜴人モフ化計画:一部の恐竜に羽毛が生えていたという説は最近メジャーになっている。

*2
屍人の夏が過ぎ去って~…:ゴブスレ小説9巻の作中詩の一部を抜粋。MTGにおける『ネクロの夏』そして『MoMaの冬』(MoMaのコンボ始動に『水蓮の花びら』を並べる場合も多い)を指すと思われる。2つとも環境をぶっ壊して猛威を奮ったデッキ名+大会開催季節で呼ばれている。




 
原作小説9巻(リンク先には試し読みもあります)の雪の魔女編ですが、ファイティングファンタジーシリーズの「雪の魔女の洞窟」がモチーフの一つだと思われます。雪の魔女の攻略だけで終わらず、急いで次の目的地に駆けつけないと色々と間に合わないあたりも、原典をリスペクトした構成かと。

===

◆◆◆ダイマ重点◆◆◆


ゴブスレTRPGのサプリ、通常版(2021年05月13日(木)発売)、リーズナブルな価格ですので是非是非!

原作小説最新15巻の特装版に妖精弓手さんのメタルフィギュアがつくそうですよ!→https://ga.sbcr.jp/bunko_blog/cat381/20210427/

◆◆◆ダイマ重点◆◆◆


===

みなさま、ご感想ご評価をいただきまして誠にありがとうございます! 精進いたしますので引き続きよろしくお願いいたします!
 


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35/n 雪の魔女の洞窟-2(第一村人発見)

 
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ところで、ゴブスレTRPGサプリの試し読みの中で、サンプルキャラクターの『闇人の斥候屍人占い師』さんの出自に曰く “地上では面倒くさい手続きとか、粛清とか、処刑とか、次の神官はうまくやるだろうとかそういうのは無いらしい。” という記述があったので、やっぱり地下闇人世界はアルファコンプレックス(パラノイア)じゃないか!(歓喜)
ああいや、実際は、数ある闇人の国のうちの一つにそういった傾向があるというだけなのでしょうけど。ダークエルフ多様性も重点な、実際。

===

◆換羽のポーションの評判について
蜥蜴人たち:ぬくい! 祖竜(かみ)ってる。祖竜にも羽毛があるという話も最近聞くし、あまり忌避感はない。ただ、鱗の何割かが羽毛に替わるせいで防御力が若干下がるのと、美しい鱗を自慢できなくなるのは残念。

歌鳥人たち:ヤバくね? ヤバい。ヤバいよね。優勝。ところで只人に飲ませたらどうなるか気になります。自分たちで飲んでも大して効果はないが、今後、羽毛の色味や形態指定の塗り薬タイプが出たらおしゃれ用に買いたい。クジャク系の尾羽みたいなの一生は生やしたくはないけど憧れるじゃん?

只人その他の冒険者:現在のものは蜥蜴人用に調整されており、鱗がない種族にはそこまで大きな効果は望めない。せいぜい雛の産毛みたいな羽毛が生えるだけなのだが、それはそれでカワイイ。あと蜥蜴人が冬に暖炉の前を占拠しなくなるのは正直ありがたい。

===

●前話:
全部雪のせいだ
 


 

 はいどーも!

 雪山遊覧飛行な実況、はーじまーるよー!

 

 前回は冒険者ギルドからバビューン!(【突撃】じゃあ!) とお空に向かって旅立ったところまででしたね。一党の仲間+分身体を載せて、空の旅です。

 【天候(ウェザーコントロール)】の呪文の効果で周囲の雪雲を押し退けながら超音速ですっ飛んでいくと、寒波の原因があると目される北の霊峰までもあっという間でした。

 そして実際、【天候】呪文によって周辺を快晴化する際の『抵抗力』のようなものが霊峰に向かうにつれ強まっていくのを、魔術師的な感覚で確認しています。

 超自然の現象をもたらす魔力同士の競合と相克。やはり敵は霊峰にあるようです。

 

「THUUNNNDDEEERRRRRR!!!」

 

「バチバチバチバチ、うっさいのよ!! 喰らいなさい!」

 

「BBBBIIIIRRRDDD!??」

 

 霊峰の上空に差し掛かると、【天候】で(はら)われた雪雲の中から、雷鳥(サンダーバード)が紫電を纏いながら飛び出してきたりもしました。

 只人の2人3人は余裕で攫えそうなくらいの巨鳥ですが、森人探検家ちゃん(【竜眼】のポーションで視力強化済み)の前には敵ではありません。雷鳥は的確に急所に放たれる矢により絶命して墜落していきます。半竜娘ちゃんの飛行速度が乗って、矢の威力がえげつないことになってますしね。空戦を決めるのは速度ですよ!

 

「なんじゃ、手前が【突撃(チャージング)】を再発動してぶつかってバラバラにしてやってもよかったんじゃが」

「おいおいリーダー。乗ってるこっちの身も考えてくれよ」

「というか普通に振り切ればいいでしょ。さっきのは雷撃が厄介そうだから撃ち落としたけど」

 

 空の縄張りを侵す巨大翼竜化半竜娘ちゃん(超音速)に攻撃をしてくるモンスターも散発的に出てきましたが、よっぽど大きな群れとか、天空城の迎撃ゴーレム部隊とかじゃない限りは問題ありません。軽く撃破して空を進みます。

 

 

 

 そして進むことしばし。いよいよ霊峰の斜面が見えるくらいに近づきました。

 索敵のために、背に乗せた仲間たちは全員【竜眼(ドラゴンアイ)】の術を込めたブラッドポーションを飲んでいます。

 何か斜面に異常がないか、または一休みするのに適した地形がないか、全員で確認していきます。

 

 半竜娘一党の観察判定:知力集中+野伏(野外のみ)or斥候LV+観察+加速+2D6

 補正値+出目:半竜娘本体 18+2D653=26、分身 17+54=26、森人探検家 20+14=25、TS圃人斥候 20+52=27、文庫神官 10+62=18

 目標値21。文庫神官以外は○判定成功!

 

 

 と、ここで【観察】判定に成功した面々が、斜面で上がる雪煙を発見します。自然のものではなさそうです。

 

「リーダー、あれ!」 森人探検家が鋭く声を上げます。

 

「む、何かが戦っておるな。人里もないが、怪物(モンスター)同士の戦いかや」 半竜娘ちゃん(分身)もそれに気づきます。

 

「んー、言われてみれば……?」 判定に失敗した文庫神官ちゃんはポーションにより竜のような縦の瞳孔に変わった目を細めますが、いまいちわかっていません。

 高所恐怖症のためか、おっかなびっくり見当はずれなところを見ているのでしょう。

 

 

「あれは―― おい、リーダー! ありゃあ襲われてるのは兎人だぞ! 怪物(モンスター)同士の抗争じゃねー!」

 達成値が一番高かったTS圃人斥候が、怪物たちの間で閃く山刀の反射を認識。

 さらに、その持ち主の兎人が怪物の首を()ねる瞬間を確認しました。

 また、【観察】判定に成功した(文庫神官を除く)メンバーは、猟師らしき兎人を襲っている怪物たちについて【怪物知識】判定を行えます。

 

 半竜娘一党の怪物知識判定:知力集中+呪文使い系LV+怪物知識+加速+2D6

 補正値+出目:半竜娘本体 26+2D631=30、分身 25+45=34、森人探検家 17+43=24、TS圃人斥候 16+46=26

 目標値15。○判定成功!

 

雪男(サスカッチ)かや」

「どうする? 助ける?」

「助けましょう、お姉さま!」

「いや待て――」

 

 観察判定が27以上のTS圃人斥候が、雪男(サスカッチ)ではない別の怪物が指揮を取っていることに気づきます。

 追加で【怪物知識】判定を行い―― 補正値16+出目41=21―― その結果、達成値が20以上だったため、その正体まで看破しました。

 

「―― 雪男以外にも他になんか居るぞ……洞窟の入口のところに、女? ありゃあ……影がないってことは、まさか吸血鬼、か? 陽に焼けてるかどうかまでは分かんねーな……」

 半信半疑で推測したTS圃人斥候ですが、一党のメンバーは疑ったりしません。彼女(彼?)が魔術師としても研鑽を積もうと勉強して知識を蓄えていることを知っているからです。そんなTS圃人斥候が言うことなら、信用できます。

 

「吸血鬼に率いられた雪男の群れ、ですか。いかにも混沌の陰謀の気配がしますね……!」

 腰の退魔の剣を撫でながら密かに高揚する文庫神官ちゃん。ビルド的にはすっかり聖堂騎士ですもんね。

 

「なら余計に助けないとね。貴重な情報源だわ。地元の猟師ならさらに期待できるわ」

 実利面からも救助を押す森人探検家ちゃんはいかにも交易神の信徒って感じです。

 

「弱肉強食の現場ではなく混沌の陰謀の一端とあれば、助けるのに躊躇する必要もないのじゃ!」

 これが単なる狩りであれば祖竜信仰的には助ける必要がないものですが、混沌が関わっているともなれば話は別です。

 

 

「急降下して確保して再上昇して離脱するのじゃ! 総員、耐ショック!!」

「「「「 ッ!!! 」」」」

 

 獲物を捕まえようとする猛禽のように、巨大化翼竜形態の半竜娘ちゃんが足から急降下します! 高空からの飛び蹴りです。

 その間にも救助目標である猟師らしき兎人は、ついに雪男の(こぶし)に殴り飛ばされ、今にも踏み潰されようとしています。大ピンチです!

 

「いま助けるのじゃ!!」

「「「「 間に合えーーー!! 」」」」

 

 しかしヒーローは、遅れてやってきたとしても――

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 ―― ピンチには間に合うものなのです!

 

まにふぁっふぁもふぁ(間に合ったのじゃ)!!」

「うぅ……」

 

「お姉さま! 咥えたまま喋らないでください! その兎人さん死んじゃいます!」

「早く治療できる場所に……!」

「おーい、あそこ良さそうじゃねーか!?」

 

 巨大化翼竜形態の半竜娘ちゃんが雪ごとふわっと蹴り上げて口に咥えて離脱して助けた兎人の猟師―― 『兎人猟師』―― ですが、半死半生の重傷で意識もありません。*1

 治療は一刻を争いますし、あんまり揺らすのもダメです。兎人猟師さんの全身の骨、バキボキですからね。

 

「揺らすなよー、慎重になー!」

まふぁっほふ(わかっとる)

「お姉さま、咥えたまま喋っちゃだめですって!」

 

 TS圃人斥候が見つけた少し開けた場所にできるだけ静かに着陸。

 素早く降りたTS圃人斥候が、【粘糸(スパイダーウェブ)】のロッドを駆使して、受け止め用の簡易ベッドを作り出し、分身ちゃんが雪の精霊を【使役(コントロールスピリッツ)】の精霊術で召喚して雪洞(カマクラ)を一瞬で形成させます。

 

「おう、受け止め準備完了ー!」

「【小癒】の奇跡の準備もできてます!」

 

 それを確認した巨大化翼竜形態の半竜娘ちゃんが、“んべっ”と咥えていた兎人猟師さんを吐き出しました。

 術による治療ができるのは、一党では文庫神官ちゃんだけです(半竜娘ちゃんは【動力炉心(パワーコア)】を吸収するために術構成を組み替えており癒しの術をポカンと忘れてしまっている)ので、文庫神官ちゃんも気合が入っています。

 

「わたしも手伝うわ」

「お願いします! 術式(オペ)開始します」

 野伏として応急手当の心得のある森人探検家ちゃんも、空間拡張鞄から応急手当道具を取り出して治療に加わります。

 まずは兎人猟師の身体についた半竜娘ちゃんの唾液を拭いて、凍えないようにすることからですね。

 

 

 

 さて、その間に半竜娘ちゃんズとTS圃人斥候は周辺警戒です。

 半竜娘ちゃんズは身体のサイズ的に雪洞には入れませんし、TS圃人斥候は特段の応急手当技能もないですし。

 それにさっきの雪男(サスカッチ)と、推定:吸血鬼が追って来ないとも限りませんからね。

 

「薪でも探しながら警戒するか。飛んで距離を開けたから、大丈夫だろーけどよ」

「まあ念のためじゃよ。空から見たとき小鬼の群れもあちこちに()ったようじゃし」

 

 巨大化翼竜形態の半竜娘ちゃん(本体)が目立ってるので居場所は相手にバレバレっぽいんですよね……。

 あと、雪山の敵性存在が雪男たちだけとも限りません。実際、ゴブリンの群れも空から見かけましたし。

 というわけで、襲撃に気を配るに越したことはないです。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 無事に治癒の術は間に合い兎人猟師さんは一命をとりとめ、意識を取り戻しました。

 

「お助けいただき、かたじけない……!」

「いえ私たちも見過ごせませんでしたし――」

「―― とはいえ返せるものもありませぬ。あの竜さんの腹の足しになるかわかりませんが、かくなる上は、この身を炎に捧げておいしい姿焼きになるしか……!」

「ストーップ!! なんでそうなるんですか!?」

 

 そしていきなり焼身成仏の危機です。

 どうも兎人の神話に、そういう自己犠牲の話があるらしく……。

 必死に引き留める文庫神官ちゃんが、兎人猟師さんを羽交い絞めにして思いとどまらせようとします。

 

「まあ待ちなさいな。恩返しっていうなら、貴方が知ってることを話してくれない? さっきの雪男と、そしてそれを従える女の怪について」

「ええい、放してくれ―― って、そんなことでいいのか?」

「ついでに、この辺の山のことにも詳しいなら、道案内とかも頼みたいわね。どう?」

「恩人の頼みだから、否やはありませんが――」

 

 森人探検家ちゃんの頼みに一瞬目を丸くした兎人猟師ですがどうやら懸念がある様子。

 

「先ほどの雪男どものことかしら」 森人探検家はその懸念に思い当たったようです。

「はい。あいつらの首魁の雪の魔女を止める白銀の矢は取られてしまった……奴らを止めるものはもう何もないのです。このままでは村の仲間がどんどん食べられてしまいます」

「なるほど……とはいえあなたの村に行って守ってやるわけにもいかないし」

 

 こちらとしてもさっさと冬をもたらす何かを片付けなくてはなりませんし。

 最速で飛んで向かってきたので大して消耗もしてませんし、休息挟まず突撃できるコンディションです。

 

「そうじゃよ。冬を長引かせる企みを(くじ)かねばならん、一刻も早くじゃ」

「―― そういえば確かに、雪の魔女も雪男も『冬の時代がやってくる』と言っておりましたな」 兎人の猟師が、雪男たちの様子を思い返して補足してくれました。

「おっ、じゃああいつらごと洞窟潰せばミッションクリアじゃね、リーダー?」

「いやそれがさっきの洞窟よりももっと(いただき)の方向のほうが、超自然の寒波の出力が強いのじゃよ。ついでに言うと、さっきから【鮮血呪紋】が周囲の空気に含まれる悪詛(ウィルス)を砕いて吸っておる―― 寒波とともにナニカが呪われた病魔の素でも撒いておるのやもしれん」

 

 おっと、どうやら半竜娘ちゃんの両腕の【鮮血呪紋】が何かに対してずっと発動しっぱなしみたいです。

 

 そういえば、下界では質の悪い風邪が流行っているという話もありましたね。

 寒波で体力を奪い、呪詛を載せた病魔を吹き下ろす風に乗せて流行らせて社会にダメージを与える、という陰謀なのかもしれません。

 寒波・飢饉・疫病は、人類社会を不安定化させ革命を誘発させる信頼と実績のコンボです。直接的な戦役よりも、より多くの命を、特に弱者の命を奪うという悪辣さです。

 

「とはいえ、放っておくのも寝覚めが悪い。気持ち良く道案内してもらうためにも、後顧の憂いは断つべきじゃな」

 

 つまり、雪男たちには軽く地獄を見てもらいます。

 

「手前の分身体は、まだ呪文使用回数を残しておる。洞窟の場所は分かっておるから、弾道飛行で【突撃】して潰すのは容易いのじゃ」

「いつもの『突っ込んで燃やす』作戦ですね、お姉さま!」

「然り!」

 

 分身ちゃんに【竜翼】を生やして【巨大】化させて空から【突撃】させて洞窟を崩し、あとは【鮮血呪紋】を励起させた状態で出て来た雑魚敵を殴って生命力を回復させつつ、力尽きるまで【使役】の精霊術により炎の精霊を超過詠唱してでもひたすら呼び出し続けて辺り一帯を燃やし尽くす、という訳ですね。

 

 焼夷弾を積んだ弾道ミサイルが突っ込んでくるようなもんですから、ちょっと出てくる世界観間違えてますよねー、半竜娘ちゃんってば。

 

 

 

 

 ということで、()()()()()()になりました。

 見よ! 霊峰の山肌が抉れて赤く燃え、溶けた雪が濁流となって雪の魔女の洞窟の奥へと流れ込んでゆくぞ!

 

「ま、これで再起まで暫く時間がかかるじゃろ」

「その間は兎人の村も襲われないはずよ」

 

「ありがとうございます、半竜の巫女様! 恩返しに、しっかり案内を務めさせていただきます……!」

 

 案内人、ゲットだぜ!

 

 さぁて、山頂へ向かう半竜娘ちゃんたちを待ち受けるものとは!?

 

 

 

 というところで、今回はここまで。

 ではまた次回!

 

*1
兎人猟師:原作小説9巻で登場する兎人猟兵(のちに見習聖女と棍棒剣士の新米ペアに加わり一党を組む)―― の父。原作では雪男たちに「おいしいパイにされてしまった」らしいことが語られるのみ。なお当作では高速移動する半竜娘ちゃん一党が間に合ったため生存。




 
見習聖女「黒曜等級に上がった報告を神殿にしたら至高神さまから『北の頂に至れ』って託宣が下った件について……。この、大雪の、冬山を、登れというのですか……?」
新米剣士(棍棒剣士)「2人じゃ無理だ、同行者を募ろう」

女神官「ならば、同期のよしみで。同行します。雪山は多少経験がありますし」
妖精弓手「あの変なのもいないし、冒険は歓迎よ! あとで自慢してやるわ!」
蜥蜴僧侶(羽)「頼られて悪い気はしませんな。それにこの羽毛があれば雪も怖くありませぬぞ」
鉱人道士「報酬は見つけた物を2パーティーで半分にするのが相場じゃな」

新米剣士一党+ゴブスレ一党(ゴブスレ抜き)、雪山にゴー!


原作小説9巻(リンク先には試し読みアリ)の雪山までの距離が分からんですが、当作ではゴブスレさんは麒麟竜馬で加速してますし、半竜娘ちゃんにいたっては空飛んでってるので、後発の女神官ちゃんたちはどこでどんな形で彼らと鉢合わせになるのやら……。

===

◆◆◆ダイマ重点◆◆◆


ゴブスレTRPGのサプリ、通常版は2021年05月13日(木)発売!

◆◆◆ダイマ重点◆◆◆


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読んで下さる方に大感謝、そして既にご評価投げていただいてる方や、今までに感想を書いていただいたすべての方にも特大の感謝を! 精進いたしますので引き続きよろしくお願いいたします!
 


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35/n 雪の魔女の洞窟-3(初見殺し)(サプリ適用前振り回)

 
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サプリ出ましたね!
おー、結構変わってるなーって頭抱えたりわくわくしたりしてます。情報量やべえ。

なお、【分身】と【加速】は無事ナーフされた模様*1。残当。

武技の導入で、消耗カウンターのリソースとしての性格が明確になったり、高位呪文が導入されたり、確かにこれは上級ルールですわ……。
シナリオ集も出ないかなー(チラッチラッ

===

●前話:
雪の魔女の洞窟を崩落させた!
 


*1
【分身】と【加速】のナーフ:【分身】は本体と同時に戦闘に参加すると分身も本体も各種判定にペナルティ。分身と本体は、呪文使用回数と消耗と継戦カウンター(とおそらく武技の使用可能回数)を共有する。【加速】は加速された側の『消耗』も加速し、常駐化してる間も消耗する。いいバランスの調整だと思います。というか元が強すぎた。

 

「しっかりするのじゃ! 気を確かに持て!!」

 

「不覚、ね」 「うぅ……オイラとしたことが」 「すみません、お姉さま……」

 

「寝るな! 寝ると死ぬのじゃ!?」

 

 吹き付ける吹雪の中、半竜娘は、ぐったりと意識を朦朧とさせた一党の仲間たちを背負って抱えて、この死地を逃れようとしていた。

 見たところ、大きな負傷はない。

 ただ、ただ、消耗しきっているように見える。

 

 周囲には、吹雪の冷気のみならず、重苦しい雰囲気が満ちている。

 そして多くの敵意も。

 

 なぜ銅等級を筆頭とした彼女たち熟練の冒険者たちがこのようなことになっているのか。

 

 少しばかり時間は遡る――。

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 はいどーも!

 霊峰をもっと登っていく実況、はーじまーるよー。

 

 前回は兎人の猟師を助け出して、懸念だった兎人の里を狙う雪男どもを洞窟ごと封じて後顧の憂いを断ち、その猟師さんを案内人として無事に雇ったところまでですね。

 

 半竜娘ちゃんの感覚的には厳冬をもたらす超自然的な何かの反応はもっと高いところにあるようなので、まだまだ登っていきましょうねー。

 

「リーダー、まだ着かねーのかー?」

 寒さに身を縮こませながらTS圃人斥候が尋ねます。

 身体が小さいのと、圃人の特性上カロリー補給を頻繁に行わなければならないため、その口には常に食べ物が入っています。

 

「うぅむ、もう少しじゃと思うんじゃが……」

 半竜娘ちゃんが歯切れ悪く答えます。

 核心地域に近づきすぎたせいか、超自然の反応の出どころも良く分からなくなってきました。

 【天候(ウェザーコントロール)】による晴天化の範囲は当初の何分の一にも小さくなり、目を凝らさずとも晴天領域に押し退けられた吹雪の壁が見えます。

 

「やっぱり地に足ついてた方がいいですね」

 雪の積もった斜面を踏みしめてシミジミと言うのは文庫神官ちゃんです。

 信頼する半竜娘ちゃん(お姉さま)の背に乗って空を行くことはできるようになりましたが、やはり飛ぶのはまだトラウマな様子。

 司教杖を突いて、斜面を登っていきます。

 

「ねえ猟師さん、この辺で注意することは特にないのかしら」

 長耳を揺らしながら雪の上ながらも軽やかに歩くのは森人探検家ちゃんです。

 一党とともに雪山を行く地元の猟師―― 兎人猟師に問いかけます。

 

 兎人猟師は携行食のニンジンを食べながら―― 兎人は常に何か食べていないと死んでしまうのです!―― 少し先を指差します。

 

「まあ、あそこらへんは気を付けた方が良いところですね。なんでも、竜の住処だったとか」

 

「竜じゃと!?」

 半竜娘が竜と聞いて目をキラキラさせます。

 

「ええまあ。石になったおっきな骨ですとか牙ですとか、そういうのが見つかるとか。夏の雪がない時分には山師だとか魔術師に頼まれた冒険者さんだとかが、いろいろと採りに来たりしてたそうで……まあ、それも只人さんの村が麓にあった随分と昔の話ですけども」

 

「化石じゃな! つまり祖竜の骨があるというわけかや!」

 

 四方世界に造山運動がどの程度あるのか不明ですが、ひょっとしたら本当に半竜娘ちゃんの期待する通り、恐竜の化石が埋まっているのかもしれませんね。

 

「まあ今も採れるか分かりませんけども」

「夏にまた来て発掘ツアーというのも良いかもしれんのう!」

「はいはい、また後でね、リーダー。寄り道している暇はないわよ」

 

 森人探検家ちゃんが窘めるのもなんのその、半竜娘ちゃんの脚運びは明らかに軽くなっています。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 やがてさらに進んで、(くだん)の竜の化石が出土するというあたりまであと少しのところまで到着しました。

 

「いやな感じね……」

「ふぅむ。確かにそうじゃのう」

「こう、地面からなんか、(よこしま)感じがします」

「……これ以上は、案内人には帰ってもらった方がいいんじゃねーか。ヤバい雰囲気だぜ」

 

 びくびくしながら兎耳を忙しなく動かしてる兎人猟師を心配してか、足手まといを抱えることを嫌ったのか、TS圃人斥候が言いました。

 半竜娘ちゃんは少し考えて、決断します。

 

「そうじゃのう。雪庇(せっぴ)の見分け方もなんとなく分かってきたし、これより先は手前らだけで行くかの」

「……そうですか。いえ、確かにこれ以上は、私では厳しそうですね」

 しゅんとする兎人猟師。

 

「怪我を治したばかりですし、無理はさせられませんよ」

 文庫神官ちゃんの言う通り、ついさっきまで全身の骨を折って半死半生だったのですからね。

 ここは兎人猟師さんには大事を取ってもらって、離脱してもらいましょう。

 

「ではお言葉に甘えて。……皆さんもお気をつけて!」

 

 ということで、案内役の兎人猟師さんは離脱です。

 

 

 これから先はこれまで以上に注意して進まなければいけません。

 

 

 

 

 と言った矢先に――。

 

 

『アンタたちさっきはよくもやってくれたね!!』

 

 甲高い女の声が霊峰に響き渡りました。

 

「この声は――」

 

『まったく、洞窟ごと潰すわ燃やすわ! おかげで()()()()()()()()じゃないか』

 

 一党の全員が見回せば、少し離れたところに吹雪に遮られた陽の陰りに、氷のような魔女が立っているのを見つけました。

 あれこそは先ほど雪男たちを率いていた推定:吸血鬼の女です。

 しかしそれこそ【突撃】からのコンボで生き埋めにしたはずでは?

 

「やはり吸血鬼……。吸血鬼は殺しても、土の中からよみがえる……」

 森人探検家ちゃんが、かつて火吹き山への道中にある『“水晶の森”亭』で対峙した吸血鬼との戦いを思い出しながら慄然と呟きました。

 “邪な土” という技能です。一度死んだあと、決められた場所の土の中から復活することができるのです。

 

『へえ? よく知ってるねえ。そうとも、ここは私の領土というわけさ。―― そしたらこれも知ってるかい?』

 

 

 ―― 吸血鬼は、不死者の王。故に、アンデッドの軍勢を従えるのだ、と。

 

 

 パチン、と氷の魔女が指を鳴らすと―― 周囲から悍ましい気配が幾つも立ち上がりました。

 巨大な何かがうごめいているのが分かります。

 

『さぁさ “腐っても竜” って言葉は知ってるかい、お嬢ちゃんたち』

 

 自然と円形に防御態勢を組む半竜娘ちゃんら一党に、氷の魔女がねっとりと毒を滴らせるように語りかけます。

 

 

 そして雪の下から現れたのは――

 

『『『 DDDORRAAGGOOLLIIICCCCHH!!! 』』』

『『『 DDDORRAAGGOOLLIIICCCCHH!!! 』』』

『『『 DDDORRAAGGOOLLIIICCCCHH!!! 』』』

 

 ―― 無数の腐竜(ドラゴリッチ)です!

 

 

『あははははは! ここは触媒になる竜骨にも竜牙にも事欠かないからね! ちょいと時間を掛ければこんなもんさ!』

 

 ハナから制御は手放しているのか、腐竜の群れを呼び出すだけ呼び出して雪の魔女は踵を返しました。

 

『体温のないアンデッドが雪の中で動きを潜めていれば気づけるはずもない。ましてや冬の雪山じゃ腐臭すらしない。気づかなかったとしても恥じることはないさ』

 

 身体を雪と同化させながら、雪の魔女が嘲弄します。

 

『だがまあ “腐っても竜” だ。そのプレッシャーは並大抵じゃない。腐肉が崩れりゃ病魔の風も発される。しかもこの雪。あんたたちが体力自慢だったとしても、一体いつまで立ってられるかねえ』

 

 去り際に【解呪(ディスペル)】によって半竜娘ちゃんの【天候(ウェザーコントロール)】呪文を打ち消して、あたりを本来の吹雪に戻すと、高笑いを残してついに完全に雪の魔女の姿は消えました。

 

 

 半竜娘ちゃんたちは、しかし、それを黙って見送るしかありませんでした。

 腐竜(ドラゴリッチ)に囲まれているというのもありますが、それ以上に、雪の魔女が示唆した腐竜(ドラゴリッチ)の特殊能力が厄介です。

 

「ちくしょう、急に疲労が――」

強壮の水薬(スタミナポーション)を飲んでも、これじゃ焼け石に水です……!」

 

 実は腐竜(ドラゴリッチ)には、周囲の生物の消耗を加速させる力があるのです。*1

 半竜娘ちゃんたちはきっと、もう何分もしないうちに、加速された疲労により気絶し、死に至るでしょう……!

 

「この場所に足を踏み入れた時点で “死” というわけね……!」

「ぬぅ……! 【賦活(バイタリティ)】の術でも回復が間に合わぬか!」

 

 絶体絶命です!

 

 【賦活(バイタリティ)】の術で自己回復している半竜娘ちゃんはともかく、他のメンバーは大変危険です。*2

 周囲にいる腐竜(ドラゴリッチ)による消耗の過剰な累積が、その身を蝕みます……!

 

 

「―― 斥候、【脱出(エスケープ)】の術を!」

 森人探検家がTS圃人斥候に危機を脱出するための洞察を与える術の使用を要請します。

 

「心得たぜ、エルフパイセンっ! エゴ()オプティマス(最良)モードゥス(方法)!! 【脱出(エスケープ)】!」

 真言呪文による洞察力の強化により、TS圃人斥候が危難を退ける方法を思いつきます。

「…………3時方向が手薄だ! 【突撃】で離脱! あと鏑矢! 近くに誰か助けが居るかもしれねえ!」

 

「ぐっ、すみません、もう限界です――」

 腐竜(ドラゴリッチ)の追撃を牽制していた文庫神官ちゃんも、かなり辛そうです。

 

「私も、もう限界、かも……! っと!」

 森人探検家ちゃんが空間拡張を付与した矢筒から鏑矢を取り出して番え、空へ向かって飛ばし、そのあとは崩れるように膝をつきます。

 

「みな、手前にしっかり掴まれ! 離脱するのじゃ!」

 TS圃人斥候の見出した逃走ルートを信じて、半竜娘ちゃんが両腕と尻尾で3人を抱えます。

「俊敏なりし甲竜(アンキロス)よ、経絡巡りし雷を、どうか我が身に宿したまえ―― 【突撃(チャージング)】!!」

 

 そして移動攻撃の呪文を発動し、複数の腐竜(ドラゴリッチ)が織りなす過重疲労フィールドからの離脱を図ります。

 

『DDDORRAAGGOOLLIIICCCCHH!??!』

 

 途中にいた腐竜(ドラゴリッチ)の一体を文字通りに突破!

 

 その勢いで逃げる半竜娘ちゃんたちを、しかし当然ですが、腐竜(ドラゴリッチ)の軍勢が追います。

 

『『『 DDDORRAAGGOOLLIIICCCCHH!!! 』』』

『『『 DDDORRAAGGOOLLIIICCCCHH!!! 』』』

『『『 DDDORRAAGGOOLLIIICCCCHH!!! 』』』

 

 恐ろしいアンデッドの竜の咆哮を後ろに、戦略的撤退!

 

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 ということがあって冒頭の状況なわけですね。

 

 腐竜(ドラゴリッチ)の移動力は半竜娘ちゃんより下ですが、それは消耗が蓄積していない場合のこと。

 消耗により移動力が半減し、気絶した一党の仲間3人という重荷を抱えた半竜娘ちゃんには常の速度は望むべくもありません。*3

 

「(【軽功】でも習得しておれば話は別じゃったんじゃろうが……)」

 

 武道家が身に着けられるという、移動力を倍加させる技能に思いを馳せる半竜娘ちゃんですが、それは明確な隙です。

 

「(いかん、そんな考え事しとる場合ではない)」

 歯を食いしばり、足に再び力を入れて進もうとしますが、追手はその隙を見逃してはくれません。

 

『GGGRRRUUOOOOO!!!』

 

 ―― ドラゴンブレス!

 

 腐り果てて飛行能力も強力な竜鱗も失ったとはいえ、“腐っても竜” です。

 強力なブレスが背後から半竜娘ちゃんに迫り――

 

「仲間を竜の吐息(ドラゴンブレス)に曝すわけにはいかぬ……!」

 

 ―― 攻撃から守るべく自分の大きな身体で抱え込むようにしてブレスの射線から気絶した仲間を隠します。

 

 

 

「奥義【第十四の型】、ってナァ」

 

 

 

 しかしその瞬間はやってきませんでした。

 洞窟を抜ける飄々とした風のような声がしたかと思えば。

 

 

『GGGUUUGGYYYAAAOOO!??!』

 

 

 逆に腐竜(ドラゴリッチ)の断末魔が響きました。

 

 

 何が起こったのかと後ろを見れば、光り輝くミスリルの剣を持った圃人の老爺が、首を刎ねられた腐竜(ドラゴリッチ)の骸の上に立っています。

 周囲を見れば、ドラゴンブレスの余波が、まるで半竜娘ちゃんたちを避けるように2つに叩き切られたかのように割れています。

 

 そう、あれこそは敵の遠隔攻撃を叩き切るとともに、その攻撃の勢いを回転エネルギーに変えて一瞬で間合いに飛び込み叩き切るという、奥義【第十四の型】!!

 

 圃人の老爺は、ドラゴンブレスを叩き切り、その勢いを駆って腐竜(ドラゴリッチ)へ肉薄、両手で持ったミスリルの剣でその首を刎ねたのです!!

 フォースとともに在れ(May the Force be with you)

 死へと一直線に引導を渡すがゆえに、【第十四の型】(14へ行け)

 

「鏑矢の音に何かと思えば、なんダァ? 守銭奴エルフじゃねーか」

 

 圃人の老爺は、半竜娘ちゃんが抱える森人探検家を見て、「守銭奴エルフ」と言いました。

 

「助太刀かたじけない……。うちの会計役のことを知っているということは、もしやお主は――」

「アァ? んなくっちゃべってる暇があったらサッサと逃げんか、馬鹿かおめえ」

「いや、その必要はないのじゃ」

「アァン?」

 

 半竜娘ちゃんが欲しかったのは、態勢を整えるための一呼吸。

 

「真言呪文【分身】、真言呪文【巨大】、【動力炉心(パワーコア)】出力上昇により【鮮血呪紋】を励起。オーバーフローエネルギーを再変換して自己再生」

「はン。出力任せのごり押したァ良いご身分だな、テメェ」

「違いないのじゃ。であればここを片付けた暁には御身の指導を賜りたいが、いかがじゃろうか」

 

 分身を出して後方支援を任せ、巨大化し、【動力炉心(パワーコア)】からあふれるエネルギーを【鮮血呪紋】経由で自己回復に回し、ベストコンディションを取り戻した半竜娘ちゃん。

 準備時間さえもらえれば、特化バッファーである半竜娘ちゃんに勝機が巡ってきます。

 

「わしも暇じゃねえンだ。他所を当たりなァ」

「そこを何とか頼むのじゃ」

「ウルトラスーパーデラックス特別ハードコース3日間、金貨1万枚なら受けてやんよ」

「その言葉が聞きたかったのじゃ! 二言はあるまいな!?」

 

 半竜娘ちゃんは圃人の老爺に空間拡張鞄にまとめた宝石などの財産を投げると、戦意をたぎらせ腐竜(ドラゴリッチ)の群れへと突撃していきます!

 

「チッ、厄介なの拾っちまったかァ、こりゃァよお」

 

 圃人の老爺―― ゴブリンスレイヤーや森人探検家の師匠である “忍びの者” は、半竜娘ちゃんの財布を拾い上げると雪をはたいて嘆息します。

 中を開けてちらっと見たところ、金貨()万枚相当は優に超える財産が入っていそうです。

 

「どっこらしょッと」

「ぐえっ」

「まあそんなに手間はかかんねェか? ったく、相変わらず薄っすい身体してんなァ、テメェ」

「……く、クソ師匠……」

「起きたかよ、アァン? ま、そういうわけだ、依頼を片付ける片手間に揉んでやらァよ」

 

 忍びの者(マンチクソ師匠)は、雪の上に寝かせられた森人探検家ちゃんの上に勢いよく腰を下ろして気付けをすると、森人探検家ちゃんの尻を撫でて「揉みごたえがねェな」と悪態をつきます。

 目を覚ました森人探検家ちゃんの表情がグギギギギって感じで凄いことになっていますね。

 

 というところで今回はここまで。

 ではまた次回!

 

*1
腐竜の特技『疲労』:周囲の者の消耗を加速させる。具体的には継戦カウンターの累積によって消耗したときに、+1点余分に消耗する。この効果は累積する。

*2
消耗のタイミング:継戦カウンターの蓄積による場合、継戦カウンター5→8→11……のタイミングで消耗がかさむ。継戦カウンターは、ラウンド終了時に計上。半竜娘ちゃんたち一党は既に雷鳥や雪男と戦っていたり、兎人猟師の救急措置をしたり(=戦闘に匹敵する緊張状況でも継戦カウンターは累積することがある)したため、1回目の消耗計上(継戦カウンター5)がすぐにでも発生する状況。

*3
消耗による悪影響:消耗カウンターが嵩むことで消耗ランクが上がり、様々なペナルティが生じる。全判定へのマイナス補正や、移動力の半減、生命力の半減など。




 
GMから『モブ敵の消耗増加特技が重複するから次のラウンドで自動的に過労死な』って言われたらキレてもいいと思うの。

サプリと公式Q&Aを読み込んでリビルドするので失踪します。
マンチ師匠ズブートキャンプで生まれ変わるのです!
修業期間という名の露骨な時間調整……。これで後続の女神官ちゃんたちが追い付いてこれるかな。

===

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ゴブスレTRPGのサプリ、通常版発売中! イイゾ~コレ~!
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ご評価ご感想ありがとうございます! ちょっと次回更新までお時間いただくかもしれませんがよろしくお願いいたします!
 


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35/n 裏-1(『正道(ルタ)神と奪掠(タスカリャ)神』)

 
閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、ここ好きタップ、感想、いつもありがとうございます!

サプリは情報盛り沢山で読み切れねえぜ、読み物としてもめっちゃ面白いし! 飛棍(ブーメラン)使いの蝙蝠人……バットマン(バッツ)? バッツ居るの? あとアメイジングな蜘蛛男も居るみたいだし、とか各部に仕込まれたネタを考察するのも楽しいです。

世界観、フレーバーを読み込むのに時間がかかるので、今回はサプリを受けて思いついた短いネタです。

===

●前話:
第十四の型(14へ行け)! 死へ向かい、死を超える! 相手は死ぬ! 棺桶の釘のように死ぬ。
 


 

1.正道(ルタ)神と奪掠(タスカリャ)

 

 ―――― 盤外世界にて。

 

 生首姿のRTA(アルティーエ)たちとTAS(ティーアース)たちが集まって、それぞれの手許(首許?)に書物を広げています。

 いつぞやに慈母龍(マイアサウラ)に蹴散らされたまま零落して戻ってきてない者もいますが、次々に新しい者たちが何処からか湧いて出るので誰ももう気にしていません。

 

 彼ら・彼女らが読んでいるのは、最近話題の『サプリメント(追補録)』です。

 それぞれの神様たちが遊ぶ卓でバラバラに作られていたルールや経験則、これまでの四方世界の歴史や伝承を、親切な神様が纏めてくれたもので、外様(トザマ)のアルティーエやティーアースにはとてもありがたいものです。

 特に不文律的なのがまとまってると、新参にはありがたいですからね。

 生え抜きではない彼ら彼女らが楽しく遊べるように、という配慮もあったのかもしれません。

 

「ゆゆ、この秩序側の正道(ルタ)神って、アルティーエに似てるね」

「ゆゆゆ。それを言うならこっちの混沌側の奪掠(タスカリャ)神は、ティーアースに似てる。正道(ルタ)神と姉妹なんだって」

「似てる?」 「似てるー」 「似てるか?」 「似てるよ!」

 

 ルタは、とても古い神々の正しく構成された言葉(サンスクリット語)で『正道』を表す言葉です。*1

 正道を目指して、より良き未来(タイム)を目指して奔走することを是とします。

 時には困難にぶつかる(ガバる)事もありますが、それでもなお最善を目指す(オリチャー発動する)直向(ひたむ)きさを尊ぶのだとか。

 また、能弁の神でもあり、その声は聞き取りやすいゆっくりとしたもの(ソフトーク)なのだとか。

 

「なるほどー、ルタは正道。覚えましたし!」 「アルティーエに似てるかも」 「与える加護も、速さ重点みたい!」

 

 

 一方のタスカリャは、とても古い神々の正しく構成された言葉(サンスクリット語)で『奪掠』を表す言葉です。*2

 ≪時≫を盗んだ神とされ、その自慢の足で四方世界を混沌とさせたことを他の神から大層怒られたとか。

 とかく速さを自慢しますが、その手口は黙して語らないか、語っても複雑すぎて参考にならない(『ね? 簡単でしょ?』)とか。

 一方で、派手で目立ちたがりなところがあり、誰もできないようなことをして耳目を集める(魅せプする)ことから、芸事の神ともされます。

 

「≪時≫を盗むなんて、凄いねー」 「タスカリャ神も速いんだ」 「速いっていうか、ワープさせてくれるのか。なんか親近感」

 

 

 と、そのとき。

 その秩序と混沌に分かれたこの姉妹神についての伝承を読んだ彼ら彼女らの脳裏(アンコの中)に、急に、()()()()()()()が流れ込みました。

 

「「「「 !!!??? 」」」」

 

 ―― それは、盗んだ≪時≫の権能で盤を巻き戻す奪掠神に苦言を呈す正道神の姿。

 

 ―― 正道にこだわるあまりに行き詰った正道神の傍らで、『このように稼ぐのだ』と道理を無視した抜け道を示す奪掠神。

 

 ―― 至高神に正座させられて怒られる奪掠神を嘲笑う(pgrする)正道神。

 

 ―― 正道神のミス(ガバ)嘲笑う(pgrする)奪掠神。

 

 ―― 高速移動の正道神と空間跳躍(ジョウント)の奪掠神。超速の追いかけっこからの取っ組み合いに発展する両柱。

 

 

 仲良く喧嘩する姉妹神の、しかし新参者であるアルティーエやティーアースには存在しないはずの、その記憶。

 それが流れ込んできたのです。

 

「「「 わたしは、正道(ルタ)神だった……? 」」」

「「「 わたしは、奪掠(タスカリャ)神だった……? 」」」

 

 いや、そんなわけないでしょう。

 あなたたちこっちに来たのはつい最近じゃないですか。

 幻覚です。妄想です。白昼夢です。

 

 ―― しかしこのアルティーエたちやティーアースたちじゃない別のアルティーエやティーアースが四方世界の卓を囲み始めた時期まで、つい最近だとは限りません。

 つまり、かつて神代にやってきたアルティーエとティーアースの先輩が、土着して正道神や奪掠神になった可能性は否定できないのです。

 

正道(ルタ)神ってどんな感じだろう」 「かわいい女の子!」 「銀髪」 「活発」 「じゃあ髪短い系かな」 「足速い、岩山も登る!」 「おりちゃーwww」

 

略奪(タスカリャ)神ってどんな感じかなー」 「ようじょ」 「髪はきっと長い」 「正道神と姉妹だから髪は銀髪?」 「怪しげな道具(ツール)とか使う」 「ミステリアスインテリお姉さまー!」

 

 “じゃあきっとこんな感じかなー” などと言いつつ、アルティーエたちとティーアースたちがそれぞれ寄り集まり、こねこねとちょっと冒涜的な感じで混ざっていきます。

 そしてあーでもないこーでもないと相談しつつ、伸びたり縮んだりしながら、それぞれ形を作り上げていきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「 できたー!! どや!! 」」」

「「「 いーかんじ? どやや! 」」」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

<『1.正道(ルタ/RTA)神と奪掠(タスカリャ/TASkara)神』 了>

 

 

 

 

 

 

「この形態(フォーム)疲れる……」 「それに思考が混ざってよくない」 「かいさーん、おつかれー」 「まぁ、たまになら良いけど」 「っていうか、本物さんもどっかに居るはずでは?」 「おれが! おれたちが!」 「ルタ神だ!」 「タスカリャ神だ!」 「はいはい」 「むしろ砕かれた欠片が異界をめぐりつつ再生してもう一度四方世界に集まって来たのが我らなのでは」 「お前がそう思うならそうなんだろう」 「お前の中ではな」 「結局どうなん?」 「遭遇したとたんにティーアースがタスカリャ神に吸収されるに1ペリカ」 「実はもう本物が混ざってたりしてw」

 

 

*1
ルタ(サンスクリット語):音の綴りは “Rta”。秩序、規則、真実、などの意味がある。"ऋत"。お天道様に恥じない行い、とも言える。つまり正道。

*2
タスカリャ(サンスクリット語):音の綴りは “Taskara”。"तस्कर"。盗人、略奪者、ひいてはハッカーなどの意味がある。すなわち奪掠。またハッカーを主人公にした同名のインド映画がある。




 
短いですが今回はここまで。
ルタ神とタスカリャ神が実装されたからには、こちらも書かねば不作法というもの……。

正道神と奪掠神の挿絵:Picrewの「二人で一緒に」でつくったものです。 https://picrew.me/share?cd=Gdz4Pg4pPx 作者のchacha様に感謝!

===

ご評価ご感想ありがとうございます! ゴブスレTRPGのサプリはめっちゃいろんなネタが散りばめられていて楽しいので是非みなさんもゲットして一緒に四方世界をもっと楽しみましょう! 世界観ガイドとしても大変優秀ですヨ!
 


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35/n 裏-2(新たなる力:半竜娘編)

 
閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、ここ好きタップ、感想、いつもありがとうございます! おかげでヤル気がもりもり湧いてきます!

===

●前話:
ティーアースと奪掠(タスカリャ/TASkara)神、あるいはアルティーエと正道(ルタ/RTA)神の関係について。

ティーアースA「あなたが奪掠神さん?」
ティーアースB「実はわたしたちってあなたの眷属(天使)だったりすゆ?」
奪掠神「我々がタスカリャだ(We are the TASkara) お前たちは同化される(You will be assimilated) 抵抗は無意味だ(Resistance is futile.)
ティーアースs「「 ゆゆゆーー!? 」」


ティーアースs/奪掠神「「 我々がタスカリャだ(We are the TASkara.) 」」
ティーアースs/奪掠神「「 れじすたんす いず ふゅーたいる! 」」

たぶんこんなかんじ(違
 
===

サプリのデータを加えたQ&Aが更新されて公式の推奨裁定が出る前に、思いついたネタ&半竜娘ちゃんの強化内容についてを更新です。
 


 

1.試行錯誤 ~禁忌(エラッタ)に触れるもの~

 

 

「ほう? 【使魔(ファミリア)】の呪文の覚えがあるのか、テメェ」

「まあのう。恩人であり共同研究者でもある女史といろいろと試したことはあるのじゃが実戦投入にはいたってないのじゃ」

「なら少しの間、使えるようにしてやらぁ。―― 経絡秘孔!

「アバーッ!?」

 

 忍びの者の指が半竜娘の身体に深々と突き刺さる!

 雪山の洞窟に、半竜娘の悲鳴が響いた!

 

「経絡秘孔による脳の活性化ァッ! これでテメェは【使魔】の呪文を身に着け、自分の力量と同じくらいの怪物を使い魔として使役できるようになったわけだ。まあ、一時的にだがな」

 

 永続的なものではなく、お試し期間ということだろうか。

 

「で、テメェはどんな使い魔を従える気だァ? ああ、使い魔を維持するために呪文使用回数を失っちまうのがデメリットだが、まあ少しの時間を奪掠(タスカリャ)神の【修正(リライト)】の奇跡で戻せるから気にすんな」*1

「……御身は奪掠(タスカリャ)神の信者であったのかの」

「さァて、ワシが自分で使ってんのかもしんねェし、なんかの道具の力かもしんねェな? オラ! そンなこと気にしてる暇がありゃ、さっさと試さんか!」

「あだっ!? (ケツ)を叩くでない!!?」

 

 半竜娘ちゃんは念のため【分身(アザーセルフ)】を出して、【使魔(ファミリア)】の呪文を【分身】に試させます。

 慎重ですね。

 

手前(てまえ)が1日に使える呪文は9回―― つまり! 呪文を2度と使えなくなってもいいなら、最大で9体の使い魔を使役可能!」

 

 意気込んで分身体の半竜娘ちゃんが印を組み、自身のマナと幽世から、使い魔となる存在を呼び出します。それも、連続で9体も。

 

行動補助をする(主行動回数+1の支援ができる)使い魔として―― 大目玉(Lv8の魔神)を選択! 手前(Lv10冒険者)の位階との差によって生じた余剰マナで、主人に対する支援能力(【群れ】(別種可)の技能)を追加! これで手前の統率可能な数の限界を超えた支援を受けられるわけじゃよ!」*2

 

 半竜娘の背後から、ズモモモモと空間が歪んで、9体の大目玉の魔神が現れます。

 魔神そのものではなく、使い魔作成術によって作り出されたものであるためか、従順そう(支配状態にあるよう)です。

 

「9体の魔神が支援行動をすることで! 手前は一息の間(1ラウンド)に1+9で10回の連続行動が可能! そうでなくても魔神自体が3回行動可能ゆえに、それぞれに攻撃させれば全部で27回の攻撃が飛ぶのじゃ! これぞ強靭! 無敵! 最強!! 勝ったな、ガハハハハh――」

 

「ダメダメだなァ」

 

「ふぐっ?!」

 

 スパァン! と半竜娘の尻に忍びの者のハイキックが突き刺さると、忍びの者がポケットから取り出した()()が妖しく光を照り返し、全てを()()()()()()にしました。*3

 半竜娘の分身も、分身が作り出した大目玉の魔神の使い魔も、半竜娘が【使魔】の術を習得したことも全て。

 まるで絵の具を塗り替えるように、()()()()()()()()()()()()()、消えてなくなりました。

 

「加減ってもんが大事だろうがよ。ほらよぅく見ろィ。神々が禁忌(エラッタ)の修正に出張ってくるところだったぜ」

 

 ケツを蹴っ飛ばされて転んだ半竜娘が見上げれば、四方世界のルールを守るべく、空間の裂け目から覗くナニカ恐ロシイ死神ノ鎌ノヨウナ刃ガ、空間ノ裂ケ目ヘト引ッ込ムトコロダッタ……。

 

 

<『1.禁忌(エラッタ)に触れるものはしまっちゃおーねー』 了>

 

 

  ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

  ▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

2.試行錯誤その2 ~分身を供物とした魔神召喚~

 

 

「ほう? 死霊術の覚えもあるのか、テメェ。しかも魔神たちの住む領域の知識まで深いときてやがる」

「まあのう。このあいだ≪死≫の迷宮(ダンジョン・オブ・ザ・デッド)で将級の魔神から知識を吸い出したからのう」

「なら少しの間、高位の死霊術【魔神(サモンデーモン)】の術を使えるようにしてやらァ。―― 経絡秘孔!

「アバーッ!?」

 

 忍びの者の指が半竜娘の身体に深々と突き刺さる!

 雪山の洞窟に、半竜娘の悲鳴が響いた!

 

「経絡秘孔による脳の活性化ァッ! これでテメェは【魔神(サモンデーモン)】の死霊術を身に着け、死体を供物に魔神を召喚できるようになったってわけだ。まあ、取り消しもできるがなァ」

 

 永続的なものではなく、お試し期間ということだろうか。

 ちなみにこの呪文で呼び出される魔神は制御されていないので、言うことを聞かせるには別途契約が必要だ。

 

「ふぅむ。供物が必要じゃが、死体は持っておらんし……。分身体を生贄にしてもいいのかや? つまり―― 魔神転生」

「呼び出した悪魔を、逆に供物にした分身体に乗っ取らせて魔神化するってェわけか。分身体は所詮マナ構成体だから魂は薄ィし、本体へのフィードバックの危険もある。だいたい疑似餌(ルアー)に騙された魔神が怒り狂うって可能性も高ェが……」

「じゃがこの程度ならこれまでもやってきた者が居ろう? 禁忌(エラッタ)には触れぬはずじゃ。最近は依り代に定着させておいた分身の残滓が揮発しやすくなった気がするし、その代わりの支援分隊が欲しいのじゃ」

「まあ、やるだけやってみなァ」

 

 というわけで【分身(アザーセルフ)】を召喚すると――。

 

「おとなしく生贄になるかバカ! 逃ィげるんだよォォオオ~~~」

「あ! こら! 待たんか!!」

「待つかボケ!」

「制御を離れようとする分身、なァ。(分身)に逃げられたらもう【分身(アザーセルフ)】使えなくなっちまうぞー」

「分かっとるのじゃー!!」

 

 反逆カウンターが回りきってしまっていたのか、出てきたのは黒っぽく染まった闇竜娘(ダークドラコ)

 彼女(ダークドラコ)は当然、自由への逃走! とばかりに逃げ出した。

 自分の影を切り離してしまって逃げられた魔術師、というのは、どこかの物語にあったような。

 

「逃がさんのじゃ!!」

「捕まるかーーー!! 武技【軽功】・ギア・サード! 全力移動!」*4

「ぬぅっ! 負けられん! 武技【軽功】・ギア・サード! さらに【多重詠唱】―― ≪いまこの一時(セメル)! 俊敏なりし甲竜よ(キトー)! 五十八(いそはち)の牙持つ暴竜(バオロン)よ! 鋭き顎門(あぎと)! 経絡めぐりし雷を! どうか我が身に付与したまえ(オッフェーロ)!!≫ 【加速(ヘイスト)】・【突撃(チャージング)】、同時発動じゃい!!」*5

 

 洞窟から飛び出した闇竜娘(ダークドラコ)が、雪の上に足跡も残さずに一気に走り去る。

 斜面や雪の乗った樹の枝の上も縦横無尽に忍者のように駆けていく。

 

 そしてそれを追って飛び出した、本体の方の半竜娘。

 こちらは温存を考えず【加速】呪文によって肉体速度と思考速度を加速し、さらに祖竜の威を纏って一直線に突き進む(チャージング)

 

(―― そこじゃな! いまの手前は天の火石にも負けぬパワーなのじゃ!)

 

 加速した思考が闇竜娘が雪上を跳ねる軌道を演算し、交錯地点を割り出した。

 途中に樹が生えているが―― 粉砕!

 岩もあるが―― それも粉砕!

 

 発動した武技と呪文の組み合わせの差、そして軌道の差により、出遅れを挽回して半竜娘が追い付く。

 そして狙い通りに、闇竜娘(ダークドラコ)の着地地点へ。

 

「ええええいっ! 捕まるわけにはいかん! ≪大いなる父祖よご覧あれ! 悪魔の尾(チクシュルーブ)、天の火石にも負けぬ我が命!≫ 威力を喰らえ我が全身の【竜胞(ドラゴンセル)】よ!」*6

 

 激突!!

 全身の細胞を活性化させ魔法吸収効果を持たせる【竜胞(ドラゴンセル)】の術により、闇竜娘は半竜娘の【突撃(チャージング)】の衝撃を吸収し無効化!

 がっぷり四つに組み合う形で2者は静止。

 

「受け止めてやったぞ! そしてそっちは呪文を切ったが、こっちはまだ使っていない! アドバンテージは(オレ)にある!」

「いや、手前の勝ちじゃよ。いつから多重詠唱が2つまでじゃと錯覚しておった?」

「―― なんだと?」

 

 

「【竜顎(ドラゴンバイト)】」

 

 

 竜の顎門(アギト)の鋭さを与える術――【竜顎(ドラゴンバイト)】。

 それは牙による追加攻撃を可能とする術。

 肉体変成によって頬が裂けて蛇が獲物を飲み込むかのように大きく広がった顎と、それに加えて恐竜のごときビジョンのオーラによって具現化した牙。*7

 

 半竜娘の多重詠唱は、3呪文まで同時に行使可能。

 彼女は既にこの瞬間を見越して、最初の詠唱時に【竜顎】の術を組み込んでいた!

 

 大きく広がった顎と付随する牙のオーラが、闇竜娘の肩に突き立ち、咬み合わされる!

 

「竜の一咬み!」

「ぐぅぁああああっ!?」

 

「二咬み!!」

「あがっぐああっ!?」

 

 そしてさらに連撃!

 闇竜娘(ダークドラコ)に逃れる術はない!

 

「三咬み!!!」

「ああああああああァアアア!?」

 

 トドメの三撃目!

 

 肉食獣が咥えた獲物(トロフィー)を勝ち誇るように、ぐったりと血を流す闇竜娘(ダークドラコ)を掲げる半竜娘。

 

 

まふぁふぁふひ(まあ悪い)はふぁひひゃ(話じゃ)はいふぉ(ないと)おふぉうふ(思うん)ふぁふぉ(じゃよ)

「な、なにをいうか、ふたたび、生贄に、する気だろう、(オレ)を」

ふぁふぁふぉ(ただの)ひへふぃへへ(イケニエで)ほふぁふふぁは(終わるかは)ほふふぃふぃふぁいふぁ(お主次第じゃ)

 

 

 そして大きく傷を負った闇竜娘(ダークドラコ)がダメージ超過で消え去る(マナに還る)前に、半竜娘は本来の目的を果たさんとする。

 

「ほっ! はっ!」 「ぐぅっ」

 

 首を大きく振って、咥えていた闇竜娘(ダークドラコ)を上空へ投げ上げると、自らの唾液が混ざった滴る血を自らの口元から指で拭って絵の具代わりにして、【軽功】を再び発動して目にもとまらぬ早業で闇竜娘(ダークドラコ)の身体に死霊術の秘印を刻む。

 

「さぁてお立合い、じゃ」

 

 

 ―― ≪三度(みたび)重ねて誰何(すいか)する。背きし者よ、全てを捨てて戦う者よ、愛欲に目覚めし者よ。何も言わず、語らず、知られざる門の彼方より来たれ≫

 

 

「高位死霊術【魔神(サモンデーモン)】―― ≪来たりてそして、我が同胞(はらから)の糧となれ≫、じゃ」

 

 そう。今回の術は、召喚される魔神にとっては “騙して悪いが――” というわけである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇竜娘(ダークドラコ)は召喚された魔神を逆に吸収し、Lv8デーモンに転生した!

*8

 闇竜娘(ダークドラコ)は半竜娘と契約を結んだ!

 闇竜娘(ダークドラコ)のマナ体は凝集して依り代となり封具(ほうぐ)となった!*9

 

 半竜娘は、契約魔神の『封具:闇竜娘(ダークドラコ)(Lv8デーモン相当)』を手に入れた!

 

 

<『2.魔神の契約に1日かかったため、巻き戻し処理は不可能になり、この世界線は確定しました』 了>

 

*1
修正(リライト)】の奇跡:奪掠(タスカリャ)神の専用奇跡。時と因果の隙間を縫って失敗をなかったことにできる。やり直しの奇跡。ダイスの振り直し。

*2
基本ルールブックに掲載されている怪物で、支援によりボスの行動回数を増やす怪物が何匹かLv10以下で居る。つまり、GMが許可すれば高位の真言呪文【使魔】や高位の奇跡【使徒】で従える対象にできてしまう。サプリの方にもLv10以下で攻撃回数を増やす支援効果を持ったモンスターがいるため、Lv10冒険者が【使徒】や【使魔】を得た場合に、攻撃の回転数がえげつないことになる可能性がある。まあ、【使徒】【使魔】も、GMの許可を得た怪物しか従えられないので、GMが許可しなければいいだけではある。口プロレス(マンチ行為)は止めようね!

*3
指輪:一つの指輪。世界を滅ぼすほどの冥王のごとき妖術師が自らの力を封じた指輪―― とかいう由来があるものかもしれない。ないのかもしれない。その冥王級の妖術師が奪掠神の信者だったのかもしれないし、そうじゃないかもしれないし、あらゆる既存の呪文を使える効果でもあるのかもしれない。

*4
武技【軽功】:武技は戦闘系職業のLv2以降のLvアップごとに習得可能な特技。半竜娘ちゃんは武道家Lv6と斥候Lv2を持っているので、5+1で6つの武技を習得可能。武技の一部は多重習得で効果が増す。【軽功】もその類。軽妙な動きを可能にする気功術で、3段階目まで多重習得可能。多重習得することで、基礎移動力算定時の種族固有の倍率が高まる。半竜娘ちゃんの場合、基礎移動力が12×2 → 12×4となり、諸々の補正を込みで、軽功発動時の移動力は57となる。全力移動は移動力の4倍まで移動可能なので、228mまで一息に移動できる。ウサイン・ボルト級。

*5
冒険者技能【多重詠唱】:ペナルティを受けるが1ラウンドに複数の呪文を詠唱できる。半竜娘ちゃんは習得技能を整理して【多重詠唱】技能を熟練段階(第3段階)まで習得した。武技【軽功】+呪文【加速】【突撃】の同時発動で、57×2×3で342mを一瞬で移動する。

*6
祖竜術高位呪文【竜胞(ドラゴンセル)】:魔法攻撃を吸収する。水属性と、【分解】は吸収できない。チクシュルーブとは、恐竜を絶滅させたと思われる隕石が落ちたクレーターの外縁を悪魔の尾に見立てたことから名付けられたマヤ語の地名。

*7
祖竜術【竜顎(ドラゴンバイト)】:竜のごとき牙を与える術。牙による咬みつき攻撃は自由行動(マイナーアクション)で実行可能=自由行動は主行動1回につき3回なので、この牙攻撃は3連撃可能。半竜娘ちゃんの只人の血が濃く出てる頭部でどう咬みつくか、ということで、顎が蛇めいて物理的に大きく広がるとともに魔法のオーラのビジョンが出ると解釈しました。

*8
闇竜娘の挿絵:Picrewの「悪魔少女メーカー」でつくったものです。 https://picrew.me/share?cd=GvmzBbrA9L  作者の「희귤 ヒミカン」さまに感謝!

*9
魔神の封具:呼び出した魔神の仮宿。魔法のランプ的なイメージで大体あってる。闇竜娘(ダークドラコ)の場合は分身体のマナが凝集してできた竜牙のアクセサリ。




 
半竜娘ちゃんには新技能(多重詠唱・移動詠唱・呪文貫通・采配・魔法知覚)だとか、
新しい祖竜術(閃技・竜顎・竜胞・核撃・治療)だとか、
死霊術(命吸・霊覚・魔神)だとか、
武技(軽功3・呪文偏向・無念無想・転龍調息)だとかを習得させました。
習得済みの職業レベルは変更なく、技能や呪文を入れ替えています(武道家向けの技能を下げたので武道家としての実力が若干下がった。在る程度は新要素の『武技』でカバー)。

技能・呪文の詳細は実際に使う段になってから説明しますが、まあ、サプリ導入前よりもっと術特化になった感じです。瞬間火力の増強!
もっと良い組み合わせとかあるかもしれませんが、とりあえずこんな感じで。

闇竜娘(ダークドラコ)(Lv8デーモン)のデータは、サプリの「怪物作成ルール」で作成中です。また、【魔神(サモンデーモン)】の死霊術をこれ以上使う予定は、今のところないです(一応魔神将の記憶覗くイベントこなしているとはいえ本来の推奨習得可能Lvに達していないですし)。
使魔(ファミリア)】もだけど使いすぎると環境が崩壊しますしキャラが増えすぎるとハンドリングしきれないですし……バランスが難しいですね。

次は森人探検家・TS圃人斥候・文庫神官のサプリ導入後の様子になる予定。
おそらく本筋の雪山攻略に戻りつつテスト戦闘回になるかな、と考えてます。

===

ご評価ご感想ありがとうございます! ゴブスレTRPGのサプリはリーズナブルな価格で手に入るのも相まっておススメです!(ダイマ)
 


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35/n 裏-3(幕間:ゴブスレさん、女神官ちゃん)

 
閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、ここ好きタップ、感想、いつもありがとうございます!
原作9巻編のプロットを修理できたので更新です。

===

●【分身】の改訂について(補足)
分身と本体は、消耗・継戦カウンター・呪文使用回数を(おそらくは武技の使用回数も)共有するように改訂されています。分身を出すことにより手数が増えるメリットはありますが、分身と本体で一緒に罠にかかるなど外的要因で同時に消耗すると、本体が二人分消耗します。分身出しっぱなしのリスクが高くなったわけです。また、この裁定により分身を悪用して呪文使用回数を実質的に増やすことができなくなりました。……残念でもなく当然のナーフ。

===

●前話:
かわいそうな闇竜娘ちゃん……。1年目の収穫祭といい今回の雪山でのことといい、結構ひどい目に遭っているのにどうしてそれでも本体と契約を結んだの?

闇竜娘(ダークドラコ)「死後に魂を喰い肉体を奪う契約をしたのだ!」

半竜娘「~~~♪ ~~♪」(目反らし口笛) ← 万年は生きて終いには祖竜の列に連なるつもりの死ぬ気がさらさらない女

闇竜娘(ダークドラコ)「グギギギギ。まあこれからコイツが倒す魔神の魂も(オレ)がいただく契約だ。契約維持用の供物も別途つけてるから契約期間が長続きしても(オレ)も損はしないのだ」 ← 今より力をつけて何とか契約の抜け穴をついて最もいいタイミングで裏切るつもりの女


魔神との契約に1日かかるとされているのは、契約の抜け漏れを精査するために必要な時間でもあると思われます。でもむしろそれって一日で足りるのか……?

あ、前話に闇竜娘(Lv8デーモン化)ちゃんの挿絵を加えています。毎度のことですが「Picrew」というサイトで作成させていただきました、着せ替えツールの作者様に感謝!
 


 

1.そのころゴブスレさん

 

 牧場主からの依頼を受けて食料を山村へ届けに街を出たゴブリンスレイヤー。

 その道中では馬車ごと小鬼に襲われたが、馬車馬として借りてきていた麒麟竜馬の馬力と戦闘力によって危地を離脱。

 積み荷の食料も損なうことなく、同行していた牛飼娘に傷一つつけることもなく、無事に届け先の村に辿り着いた。

 

 というわけで。

 

「ゴブリンだ」

 

「……そう言うと思ったよぉ」

 

 村で貸してもらった滞在用の空き部屋。

 いつもと違う環境でちょっとドキドキ。

 “よそ行き”を着てきて良かった―― とか思っていた牛飼娘だったが。

 

 まあゴブリンスレイヤーにとってはそれよりもゴブリンが一大事なわけで。

 それゆえ彼は“ゴブリンスレイヤー”などと呼ばれているわけで。

 

「(いやまあ分かるよ? 放っておいたら村が襲われるかもしれないし。分かるけど――)」

 

 ゴブリン退治と私とどっちが大事なの、なんてことは絶対に訊かないが―― それはどっちが、という問題ではないのだ。彼にとっては。どっちも大事だからこそ、ゴブリンを殺すのだ。手の届く範囲の平穏を守るために―― そこは複雑な乙女心というものだ。

 彼の邪魔をすることは本意ではない、と牛飼娘は自分に言い聞かせた。

 

「群れの規模が大きい。帰りにゴブリンに襲われないようにも群れを潰すつもりだ」

 

「うん、狼に乗ってたよね」

 

「狼ではなく悪魔犬(ワーグ)だろう。先祖返りだ」*1

 

「そうなの?」

 

「ああ、おそらくあのゴブリンどもは、何かしら別の怪物の支配下にある群れだろう。だがまずは村の安全確保のためにも、近隣から潰す。どちらにせよ今日中に一度は戻ってくるつもりだが」

 

「……“だが”?」

 

「3日戻らなければ、先に帰れ」

 

「…………」

 

「あの鱗の馬たちは賢いし強い。全力で走らせれば、悪魔犬(ワーグ)の脚にも勝つ。問題ないだろう」

 

「……うん。でも、待ってるから、ね」

 

 牛飼娘は、去年の誕生日にゴブリンスレイヤーから贈られた金の鎖と紅い宝石の火の加護がある首飾り(レッドネックレス)に指を這わせた。

 

「待ってるから」

 

「そうか」

 

「帰ってきてね。絶対、絶対だよ?」

 

「……約束はできない」

 

 ゴブリン退治は命がけだ。

 下手に気休めを言わないのは、彼の誠実さの現れでもあるのだろうが……。

 

「もう、まったく君は。そこは “いつもの仕事だ。無事に戻る。約束する” って言うもんだよ」

 

「ゴブリン退治に、絶対はない」

 

 そう言って、外套を纏ったゴブリンスレイヤーは扉に手を掛けた。

 

 

「だが、負けるつもりもない。―― 俺はゴブリンスレイヤーだからな

 

 

<『1.ゴブスレさんの雪山ゴブリン退治RTA、はーじまーるよー』 了>

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

2.そのころ女神官ちゃんたち

 

 

「うー、さむぃいい。至高神様ぁ。“北の頂に至れ” って託宣(ハンドアウト)がざっくりしすぎですよぉ」

 

 ついこのあいだ黒曜等級に上がった見習聖女が天秤剣を杖代わりに雪に挿し、“どこまで登ればいいんですかぁ” と弱音を吐いた。

 駆け出しにありがちな金欠で欠食児童な彼女には、冬の雪山登山はつらいものがある。

 そもそも身体に蓄積できている熱量(カロリー)が少ないのだ。

 

「もう少ししたら休憩しましょうか」

 

 そんな様子を見た女神官がくすりと笑って小休止を提案する。

 この後どんな試練が待っているかわからないが、至高神の課す試練は難物ばかりだという。

 道中の消耗は抑えるべきだろう。

 

「はぁーい……」

 

 疲れが見える見習聖女に、雪山歩きの蘊蓄を開陳する女神官。

 女神官も冒険者2年目だが、昨年は雪山の小鬼聖戦軍(ゴブリンクルセイダー)との戦いを経験するなど、経験は豊富だ。

 一部の口さがないものからは “銀等級に寄生している” などと揶揄されるが、すぐにそんな外野の声は払拭されるだろうと、女神官と同じ一党である妖精弓手らは考えている。

 

「あの子ももうすっかり駆け出しは卒業ね! 只人の成長って早いわよねー」

「まったく成長せん金床もおるがな」

「あぁら、そういうドワーフは横にしか成長しないんでしょう? まんまるだから気を付けないと転がって雪玉になっちゃうわ」

「おおそうかい、そりゃ気をつけんとな。長耳から氷柱(つらら)垂らしそうなやつが言うと説得力があるのう」

 

 いつものじゃれ(煽り)合いを始める妖精弓手と鉱人道士。

 これもこの一党の風物詩だ。

 

「あの、アレ止めなくていいんスか」

「ふぅむ。やりすぎない限りは、放っておいてよいでしょうや。いつものこと、いつものこと」

「まじスか……」

「あれでもお互いに銀等級。一党を組んで長いですから、加減は分かっておりましょう」

 

 新米(棍棒)戦士がこの一党の “いつものノリ” についていけずに蜥蜴僧侶に助けを求める。

 しかし蜥蜴僧侶の返事は無常なるもの。

 

「ま、拙僧としては今回は凍えたりせず爪爪牙尾を十全に振るえそうで、楽しみですな」

「あー、蜥蜴人って寒いの苦手ですっけ。確かにその羽毛は暖かそうッスね」

「然り然り。あとは強き敵が居て、善き功徳が積めるとよいのですが」

「それは勘弁して欲しいッスよ……そんな強敵が出たらこっちは死んじまう!」

「そのための今回の合同冒険でしょうや。冒険者とはこれすなわち、助け合いですからなあ」

 

 蜥蜴僧侶は半竜娘からもらった『換羽のポーション』の効果で自前の羽毛に包まれている。

 加えて《呼気(ブリージング)》の魔法が込められた指輪により冷気を緩和している。

 これなら雪山でもフルスペックで活動可能だろう。

 

 

 

「……あちらが休憩にちょうど良さそうです。もう少しですよ!」

 

「はーい!」 「よしっ、あとひと踏ん張りだ」

 

 女神官の指揮に反応して、見習聖女と新米(棍棒)剣士が元気を振り絞って返事をした。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 風よけにもなり、雪崩からも守られるような場所で、間違っても雪庇(せっぴ)の上などではない安定した場所。

 小休止のために選ばれたのは、比較的大きな岩の陰だ。

 

 そこで火を焚き、装具を緩め、凍傷にならないように手先や足先を揉み解し、消費した熱量(カロリー)を補うために行動食を摂る。

 ただ漫然と休むだけではなく、意図的に身体のご機嫌を取ってやる必要があるのだ。

 

「わ、この焼き菓子美味しいです!」 顔をほころばせる見習聖女。

 

「でしょう? エルフの秘伝の焼き菓子なんだから。鉱人の酒なんかより断然こっちよねー」

 

「何を言うか金床エルフめ。寒い冬といえば、鉱人の火の酒に決まっておろうが」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「んん?」

 

 和気藹々(わきあいあい)と休憩をとっていたところに、違和感を覚えた女神官。

 ここに居るのは、自分(女神官)と、見習聖女・新米剣士、妖精弓手・鉱人道士・蜥蜴僧侶の6人のはず。

 いつのまにか、7人居る!?

 

「えっ、あれ!? あなたは――ッ?」

 

 即座に戦闘態勢に移行した妖精弓手ら銀等級と、手近にあった煮え湯入りの小鍋を構えた(小鬼殺し譲りの戦場闘法の)女神官。

 そして、戸惑うばかりの見習聖女と新米剣士(黒曜等級)

 

「あ。どうも」

 

 その隣にいたのは、二足歩行の兎―― 獣人である兎人(ササカ)だ。

 長い兎耳、小柄な体躯。山刀を差しているところを見るに猟師だろうか。

 敵意がなかったとはいえ、ここまで接近を許すとは、隠形の腕は良いようだ。あるいはそれは雪山という環境によるものかもしれないし、斥候かつ常在戦場の小鬼殺しが不在の故か。

 

 そして兎人の顔をよく見てみれば、随分と若いように見える。

 見習聖女らと同じくらいだろうか。

 

「その天秤剣……至高神の御使い様でしょう? ぜひぜひぼくらの村にいらしてくださいな」

 

 ひょっこりと現れた兎人の若い猟師―― 兎人猟兵―― は、見習聖女の天秤剣に視線をやって、邪気もなく敵意もなく招待を口にした。*2

 

 ……そのすぐ後に、エルフの焼き菓子を “そんなことよりお腹がすいたよ” とばかりに凝視し始めたのはどうにも締まらなかったが。

 

<『2.クエスト “北の頂に至れ(仮)” が “兎人の村を救え!” に更新されました。』 了>

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

3.黒幕さん

 

 北の霊峰の(いただき)

 そこは極寒の地であり、氷の神の領域だ。

 氷の神、またの名を、霜の巨人。

 

 はるか昔に実在した、神々の遊戯の時代の、神々ならぬ身であるが超越的な実力者たちだ。

 その血脈は零落したものの、雪男らのような巨人の中にいまも息づいているという。

 

「霜の巨人の娘よ! 藁の上の死を司る冥府の女主人(ヘル)よ! 汝の領域へ捧げる魂に、寒さと飢えと(やまい)を与えたまえ!」

 

 その霜の巨人の領域で、なんらかの儀式をしている人影があった。

 ごうごうと吹き荒れる吹雪に負けぬほどの声で、それは叫んでいる。

 

 冬用の装具の隙間から見える肌は黒く闇色で、びょうと吹いた山風がフードを剝がした下から現れたのは笹葉のような長い耳。

 闇人(ダークエルフ)。魔神王の軍勢の残党であった。

 

 氷の神に捧げる儀式を行い、冬を長引かせ。

 この山に封じられていた吸血鬼(氷の魔女)の封を解いて雪男を統率させて、さらに春を遠ざけるように “穢して加護を反転させた『春呼びの太鼓』” を与え。

 山から吹き下ろされる北風に乗せて、呪われた病を振りまき、広く薄く、儀式のための犠牲を積み上げる。

 

冥府の女主人(ヘル)よ! 生きながらに死する偉大なるものよ! 生けるもの全てに名誉無き死を与えよ! 汝の前にあっては、戦士は戦うことなく病に倒れ、未来ある幼子は飢えて痩せ、知恵を蓄えた賢人は寒さに凍え、藁の上で死に絶えるのだ!」

 

 邪悪な企みは進んでいる。

 あと数日もしないうちに、冥府の女主人(ヘル)の坐す冥府(ヘルヘイム)への道が完全に開くだろう。

 

冥府の女主人(ヘル)よ!」

 

 だが心せよ。

 

 魔神王ですら志半ばに倒れたのは何故(なにゆえ)か。

 

 世が混沌に染まり切っていないのは何故(なにゆえ)か。

 

 ―― 冒険者たちの足音は、すぐそこまで迫っている。

 

 

<『3.忍びの者は山頂までの道をつけ終わり、勇者は出撃を待っている。冒険者たちは託宣によって集結しつつある。祈らぬものよ、陰謀(シナリオ)山場(クライマックス)に備えよ』 了>

 

*1
悪魔犬(ワーグ):体長(頭から尻までの頭胴長)が2mもある巨大な犬。悪魔めいた顔つき。なお、ゴブスレさんは怪物知識判定に失敗している(=ゴブリンではなかった)ので悪魔犬(ワーグ)(怪物カテゴリ:動植物。でっかい狼)だと思っているが、実は怪物カテゴリ:デーモンである魔犬(ヘルハウンド)(=炎のブレスを吐けるやつ。下級の魔神)も何匹か混ざっていた模様。

*2
兎人猟兵:半竜娘たちが助けた兎人の猟師の子供。なお現時点では父である兎人猟師が生きていることは知らない。むしろ帰りが遅いし、雪男たちの洞窟の方でなんかすごい音(半竜娘の分身の着弾音)がしていたので死んだものだと思っている。ただ、その後、雪男の襲撃がほぼ止んだので、立派に役目を果たした誇らしい父だとも思っている。ただ冬が続けば食料が足りなくなるのと、雪男に喰われてない分村の食い扶持も減ってないのでますます食料の残りがヤバい。兎人は常に何か食ってないと死ぬので。




 
原作小説9巻の魔神王軍残党の陰謀の詳細は良く分からない(ダークエルフが暗躍してオーガジェネラル弟(一次請け)と氷の魔女(二次請け)と雪男(三次請け)を従えてるっぽいですが、策が成る前に超勇者ちゃんが吹っ飛ばした)ので、わりと捏造してます。

次こそ腐竜(ドラゴリッチ)リベンジ!

※一党のほかの面々の成長概要
森人探検家「魂の16連射!」(指先で西瓜を爆散させる特訓を課された。そのほか弓系武技の習得)
TS圃人斥候「変移抜刀霞斬り!」(矢面に立たないように補助系武技を鍛える途中で、高速移動と背に隠した剣による一撃必殺を軸にした構築に矯正された)
文庫神官「盾打ち(シールドバッシュ)! 盾打ち(シールドバッシュ)! 盾打ち(シールドバッシュ)!」(知識神から【使徒】(白梟。獣人態 有)を下賜された。あとひたすらシールドバッシュ(ぶつかりげいこ)

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ブックウォーカーでゴブスレTRPG関連商品を買うと特典SS付きの上に、初回購入だと50%ポイント還元らしいですよ! つまり、実質1冊分のお値段で基本ルルブもサプリも両方手に入る! あと『ゴブリンスレイヤー』の原作1~10巻&外伝も割引中!→https://bookwalker.jp/select/776/ 2021/5/27まで!(ダイマ重点)

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そして投稿初めて1周年! 話数も123で並びがいいですね。
ご評価ご感想他、応援をいつも皆様ありがとうございます! 今後ともよろしくお願いいたします!
 


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35/n 雪の魔女の洞窟-4(山頂晴れて)

 
閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、ここ好きタップ、感想、いつもありがとうございます! 1周年(アニバーサリー)なので前話の感想には珍しく返信をしてみました。今後は……うん、はい。また1年後ですかね。許してクレメンス。(ついつい余計なこと書きそうになったりするのと、感想返しで書いたネタか本編に書いたやつか管理できなくなっちゃうので……ポンコツで申し訳ない) それはそれとして感想は全部読んで励みにしてます、ありがとうございます!

===

●魔神との契約の手間の大変さ
半竜娘「普通は手間を省くために手許にデフォルトの契約書を用意してから召喚するのじゃよ。標準契約書はこれまでの魔神契約における契約者たちの流血の集大成でもある。曲解の余地のない条項にしとかんと、奴らに善良さとか誠実さとかまーったく期待できんから酷いことになるのじゃ。……というか、なった。いろんな契約者たちが」

闇竜娘(ダークドラ子)「『契約者の言うことに絶対服従!』みたいな契約した奴が、成約の次の瞬間に声を出す暇もなく殺されたりってのは典型的だな。慢心して『契約者を害さないこと』って条項つけないとそうなるんだぜ。逆に音声再生の魔道具を予めセットしておいて防御に徹してる間にまんまと絶対服従にしたパターンもあるが、これはデーモン側の慢心だな」

半竜娘「『契約魔神の禁止リスト』なんていう小咄は、魔女(ウィッチ)死人占い師(ネクロマンサー)の界隈では有名じゃな」

闇竜娘「無限に禁止条項が長くなるやつな。むしろ今も長くなり続けてるわけだが」

半竜娘「ハハ、いや笑えんわ」

===

●前話
冥府の女主人(ヘル)を呼び出さんとする闇人(ダークエルフ)が、冬を長引かせた(今回のシナリオの)黒幕のようだ
 


 

 はいどーも!

 者共(ものども)ー! 試し斬りじゃーー! な実況、はーじまーるよー。

 

 前回はゴブスレさんと森人探検家ちゃんの共通の師匠である、マンチクソ師匠こと『忍びの者』が助太刀に来てくれたおかげで、何とか態勢を立て直して腐竜(ドラゴリッチ)の群れを撃退したところまでですね。

 危うく敵の特技によって消耗が嵩んで過労死するところでしたから、助かりました。

 

 ただ残念ながら実は腐竜(ドラゴリッチ)を1体取り逃してしまっているので、また増えてると思います。……やつら【分裂】って特技持ってるんですよ。体力半分にして2匹に分かれるという特技で、しかも自動回復持ちだから放っておくと際限なく増えます。……が、害悪すぎる……。

 

 その後、マンチ師匠に助けられたのを縁として、彼に大枚(はた)いて超特急コースでの指導を依頼しました。指導者としての腕は確かですからね。

 そしてウィズボールの優勝賞金だとか、女商人に預けた資金の運用益、海底からサルベージしたお宝の売却益だとかをしこたま()ぎ込んでまで特訓した結果……。

 半竜娘ちゃんたちは新たな力を身に着け(サプリ適用してリビルドし)たのです!

 

 森人探検家ちゃんのストレスがヤバかったのと引き換えですが。……ひょっとしてPTSDでも患ってないですかね、この娘。

 

 で、数日が過ぎてマンチ師匠は自らの受けていた依頼を片付けるために下山し―― どうやら誰かを道案内するための下見に来ていたんだとか――、半竜娘ちゃんたちは濃縮された地獄のような特訓から解放されました。

 よく頑張った! 感動した!

 

 特に今回身に付けた(アクティベートした)一定以上に熟練した(Lv2以上の)戦士(斥候・野伏・武道家含む)が身に着けるという得意技……『武技』は、半竜娘ちゃんたちの今後の冒険をさらに絢爛(けんらん)に彩ってくれることでしょう。

 

「というわけで、腐竜を倒して山頂へ向かうのじゃ!」

 

 前日に【賦活(バイタリティ)】の術を使って一党全員の体調も完璧。

 特訓で遅れた分の行程を取り戻し、この長い冬に終止符を打つべく半竜娘ちゃんは意気軒昂です。

 

「それはいいけどリーダー、あれ放っておいていいの? あなたの契約してる魔神でしょ?」

 

「んー。じゃれ合いしとるだけじゃろ? 灯明の娘(文庫神官)の【使徒(ファミリア)】の梟じゃって味方じゃから、あやつの方からは危害は加えられん契約になっとる」

 

「それにしては過激だと思うけど」

 

 森人探検家ちゃんが指さす方には、高速の空中戦を繰り広げる白羽の鳥人の女と女魔神(デーモン)の姿が!*1

 

「穢れた魔神は滅するのです! 肉弾戦ならまだこっちに分があるのです!」 と叫ぶのは白い羽の鳥人の女。両腕の羽音がほとんどしないことから察すると梟の系統でしょうか。急降下して脚で攻撃を仕掛けます。

 

「神の御使いを喰ったらどれだけ力が貯まるだろォーな? ハッハァ!」 急降下してきた梟の鳥人の女の蹴りを、自前の爪を使って空中で受け流した女魔神は、半竜娘ちゃんに似た顔立ちです。

 

 

 そうです。実は半竜娘ちゃん一行に、新たなメンバーが2名加わっています。

 いえ冒険者(プレイヤー)ではなくそのシモベ(オプション)扱いですが。

 まあ頭数が増えたのには違いありません。

 

「す、すみませんお姉さま! すぐに止めさせますので!」

 

 寒さだけが原因ではない蒼白な顔で梟の鳥人へと「もどってきてくださーい!」と呼び掛ける文庫神官ちゃん。

 流石に今後の腐竜との戦闘に備えて呪文こそ使っていませんが、今にも呪文を使うほどエスカレートしそうで気が気ではありません。

 

「いや好きなだけやらせた方が変なところで暴発するよりよかろうて」

 

 一方で自主性を重んじると言えばそうですが、放置気味の半竜娘ちゃん。

 これは契約内容を詰めてきちんとコントロールしていることへの自信の現れかもしれません。

 というか蜥蜴人(戦闘民族)特有の “どつきあえば分かり合える” 理論の信者だから説も濃厚ですね。

 

 

「なんかアレだな。兄弟喧嘩を見守る夫婦みてーだな」

「そうね」

 

 TS圃人斥候ちゃんの言うことに、森人探検家ちゃんも同意しました。

 ……確かに。

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

「うぐぅ。何も殴ることはないのです」

 

 教育的指導をくらって涙目の白梟(鳥形態)は、それでもなお不服そうです。*2

 結局、闇竜娘(ダークドラコ)ちゃんと白梟ちゃんの喧嘩は、両成敗となったようです。

 

「いくら知識神様から下賜された使徒とはいえ、一党の仲間に攻撃を仕掛けるとは何事ですか!」

 

「でもあれはデーモンなのです! ご主人!」

 

「確かにデーモンです。が、しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()ですよ!」

 

「それでもです! デーモンは滅殺なのです!」

 

「お姉さまの契約ぢからが信用できないというのですか!?」

 

「むしろそれゆえにです! 契約中に滅ぼしたデーモンをそいつに喰わせるなんて、契約解除時にはどれだけ恐ろしい魔神になるか――」

 

 あー、何も教条的にデーモン抹殺を掲げて襲い掛かった、というだけではないんですね。

 半竜娘ちゃんの実力を知れば知るほど、彼女がこれから積み上げるであろう魔神の屍の数が果てしないものになりそうだと分かるわけです。

 そしてそれを契約に従い吸収した果てに、闇竜娘(ダークドラコ)ちゃんの至るであろう境地(レベル)を思えば “まだ手を付けられるうちに滅ぼしてしまえ!” となる気持ちも分からなくはありません。

 

 

手前(てまえ)が祖竜の列に連なる暁には、今一度雌雄を決さねばなるまいのう」

 

『ハッ、その時には返り討ちにして(オレ)がその魂と身体をいただいてやるぜ!』

 

 契約が解除されたとき、それは再び半竜娘ちゃんと闇竜娘ちゃんがぶつかり合うときに他なりません。

 半竜娘ちゃんもいつか闇竜娘(ダークドラコ)を解放するときには、自分で決着をつけるつもりなのです。

 もちろん、闇竜娘(ダークドラコ)ちゃんもそれを受けて立つ気です。封具である竜牙のアクセサリが光ると、中に入った闇竜娘ちゃんの声が返ってきました。

 

 いやまあ現時点でLv8デーモン―― かつて水の街で滅ぼした『紋章の魔神(ブレイゾン)』や『大目玉(ビ○ルダー)』と同じ位階―― なので、闇竜娘(ダークドラコ)ちゃんも大概ですし、そう考えると白梟ちゃんの懸念もまっとうなものですけどね。

 半竜娘ちゃんの分身と名も無きデーモンを悪魔合体させた闇竜娘(ダークドラコ)ちゃんは、真言呪文・祖竜術・精霊術・死霊術の4系統を高い水準で使いこなす魔神と化しており、生命力や肉弾能力を削る代わりに呪文行使能力を増強している術師(スペルキャスター)タイプですが、これ以上成長して呪文能力がさらに高まったり、肉弾も強化されるとなればどんなことになるか……。末恐ろしくもあります。

 

 

 喧々囂々(けんけんごうごう)侃々諤々(かんかんがくがく)と文庫神官ちゃんと白梟ちゃんが論を戦わせる―― お互い知識神の信徒なので過去の魔神契約がらみの実例を引用しながらの弁証へ突入した―― のを聞きながら、一行は寒風吹き荒ぶ斜面を進みます。

 

「あー、極善と極悪で一党組むとこーなるのか……」

 

「確か≪死≫の迷宮(ダンジョン・オブ・ザ・デッド)では、戒律(アライメント)が善と悪だと一党を組めないんだったわよね」

 

「迷宮内で()()が多発したから禁止したー、とかだっけ」

 

「それでも()()()()迷宮内で同行する分には良いみたいだけどね。()()()()ってことで」

 

 禁止した気持ちも分かるわねー。と森人探検家。

 でも今回はお互い(闇竜娘と白梟)の主人同士はとっても良い仲ですから、なんとでも落としどころはつけられるでしょう。

 

 TS圃人斥候と森人探検家は顔を見合わせて肩を竦めると、何か議論の流れ弾が飛んできてもイヤなので、斥候・野伏らしく偵察に行くべくこの場を離れることにしたようです。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 結局、白梟ちゃんは闇竜娘ちゃんに対して不干渉、ということに落ち着いたみたいです。

 

 支援魔法は飛ばさないし、受けない。

 代わりに、攻撃範囲にわざと入れたり(一発だけなら誤射かもしれない)もしない。

 闇竜娘ちゃんからも基本的には同様にする、と。

 

「ま、妥当じゃろうな」

 

「すみません、お姉さま」

 

「交流融和の機会は、今後設けることとするのじゃ。いきなり数日前に会ったんじゃもの、不干渉の取り決めができただけでも上等じゃよ」

 

「はい、そう思うことにします……」

 

 申し訳なさそうにする文庫神官ちゃんを、半竜娘ちゃんが慰めます。

 

「早くその魔神は滅ぼした方がいいのです。私は警告したのです」

 

「警告は受け止めるのじゃ。その上で、細心の注意を払って運用するつもりじゃよ」

 

「はぁ。これだから魔神契約者というものは……です」

 

 鳥の身体で、白梟ちゃんは器用に肩を竦めて溜息をつく動作をしました。

 文庫神官ちゃんの頭に乗る白梟ちゃんが、魔神契約者である半竜娘ちゃんまで敵視していないのは幸いです。

 一方、闇竜娘ちゃんの入った封具は、面白がるように独りでに揺れて淡く光を発しました。

 

 そこに先行して偵察していた2人が戻ってきました。

 

「……リーダー、タンク。その辺にしとけ。腐竜(ドラゴリッチ)どもはもうすぐそこだぞ」

 

「承知」 「はい」

 

 前方から戻ってきたTS圃人斥候の声に、半竜娘と文庫神官は返事をし、できるだけ気配を潜めるようにします。

 

「少し先行して偵察してきたが、やっぱり腐竜(ドラゴリッチ)の野郎ども、また増えてやがる。ざっと12匹ってところだな」*3

 

「窪地にあの巨体がびっしり。雪だからニオイはまだましだけど、近づきたくはないわね」

 

「雪の中や地面の中に潜行してるのは見つけられましたか? 前みたいにいつの間にか囲まれてるってのはいやなんですが」

 

「たぶん居ない、としか言えねーな。新雪がどんどん積もってってるから埋まってるのが居るかもしれねーが、探した限りじゃ見つからなかったぜ」

 

「で、どうする、リーダー?」

 

「ふむ……」

 

 森人探検家ちゃんに水を向けられて、半竜娘ちゃんは一考。

 

「……ま、定石どおりに行くのじゃ。迂回して上を取って遠距離攻撃でチクチク減らして―― ああいや、チクチク減らしてもまた分裂されるだけじゃな……」

 

「そうね、一気にドーンと減らさないとよね」

 

「となると……腐竜の特性を鑑みるに……手前(てまえ)の契約魔神が、死霊術の【命令(コマンド)】の術を使えたはずじゃな」*4

 

「腐竜ってそんなに頭良くなかったよな?」

 

「まあ腐ってるものね。いくら元がドラゴンとはいえ」

 

「確か呪符と鐘の両方を使えば【命令(コマンド)】の術が通りやすくなるんでしたっけ」

 

「呪符は元からこやつ(闇竜娘)が持っておるから、手持ち用の鐘があればより安泰じゃな」

 

「あーはいはい。【影写(フェイク)】の真言呪文で『鐘』を作ればいーんだな」*5

 

 新呪文のお披露目だとTS圃人斥候が呪文のアンチョコをめくり始めました。

 

「そういうことじゃの」

 

「じゃあわたしは適当に一匹釣ってくるわね」

 

 弓を背負った森人探検家ちゃんが適当なスナイピングポイントへと向かいます。

 

「頼んだのじゃ。貴様も頼むぞ? やることは分かっとるな」

 

「おう(オレ)に任せとけって」

 

 策の要になるのは契約魔神の闇竜娘(ダークドラコ)ちゃんです。

 半竜娘ちゃんが装備している竜牙のアクセサリから身体を具象化させ、術の触媒である呪符を構えます。

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 しばらくすると、腐竜が屯していた方向から、雪煙を上げながら何かが近づいてきます。

 

「お、エルフパイセンが釣り出しに成功したっぽいな! じゃあ『鐘』を作るぜ―― ウンブラ()ファク(生成)シミレ(同一)――【影写(フェイク)】!」

 

 TS圃人斥候が真言呪文を唱えると、その掌中と袖の中の影が蠢き、凝集して形を成しました。

 ハンドベルのようなそれを、契約魔神である闇竜娘に投げ渡します。

 

「ほらよ!」

 

「おう! ……うん、ちゃんと使えそうだな」

 

「当たり前だっつーの。あの伝説の忍びの者に指導してもらったんだからな!」

 

 そしてその間に、どんどんと雪煙は近づいてきており、『DDDORRAAGGOOLLIIICCCCHH!!!』という腐竜の咆哮も聞こえてきました。

 

「準備万端だ」 自信満々に呪符と影写された鐘を構える闇竜娘ちゃん。

 

「射程に入り次第にやるのじゃ」

 

「おう」

 

「いまじゃ!!」

 

 半竜娘ちゃんの合図で、闇竜娘ちゃんが死霊術の詠唱を始めます。

 その姿はまるで霊幻なる道士を彷彿とさせるものです。

 

「急々如律令。これなるは天よりの勅令なり、命保つがごとく随身せよ――【命令(コマンド)】発動!」

 

『DORRRRRAGGOOOOOOOH!!??』

 

 闇竜娘が投げつけた呪符と響かせた鐘の音による命令は、腐竜(ドラゴリッチ)の腐った脳みそに残った僅かな知性と拮抗し、幾何(いくばく)もかからずにそれを濡れ紙を破るがごとく貫通し、瞬く間に支配下に置きました。*6

 

『GGGGRRRRRRRUUUUURRR……』

 

「支配完了だ!」

 

「次の手順も覚えとるな?」

 

「もちろんだ! よーし腐竜(ドラゴリッチ)! お仲間のところに行って、()()()()()()()()()()!」

 

『DDDDRRRRAAAAAA!!』

 

 主人である闇竜娘に命令されて、歓喜の雄たけびを上げながら腐竜(ドラゴリッチ)が元の道を戻っていきます。

 

「これで分裂の逆の手順で窪地の腐竜(ドラゴリッチ)を一つにまとめられそうじゃな」

 

「しかも支配下に置いてるやつの自我をメインにしたやつにな! オイラも呪文を切った甲斐があったぜ」

 

「そしたらあとは煮るなり焼くなりお好きにどうぞってわけね。強固な支配で抵抗させずに袋叩きにすれば安心よね」

 

「この後何があるか分かりませんから術も温存したかったですし、手早く済んで良かったですね、お姉さま!」

 

 ということで、あとはもう『勝った』ということで処理します。

 継戦カウンターは3ラウンド分を追加してフィニッシュ。

 窪地に居た腐竜(ドラゴリッチ)を全て自分自身に統合して帰ってきた腐竜(ドラゴリッチ)(闇竜娘による支配状態)をやっつけて、戦闘終了です。

 呪文2つの消費でLv9アンデッド12体を無力化できたなら十分でしょう。

 

「……私の知ってる戦闘じゃないのです……」

 

 白梟ちゃんがなんだかカルチャーショック受けてますが、どうせすぐ慣れるから何も問題なし。ヨシ!!

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 そしてさらに進むと、いよいよ山頂が見えてきました。

 

 そこに渦巻くのは恐ろしい呪われた病の力と冥府の冷気。

 吹き下ろす寒風と吹雪が、一党の体力を奪っていきます(体力抵抗に成功したが、消耗+1)。

 

「やはり山頂に元凶が()るようじゃの!」

 

「――人影があるわね」

 

「勝どきを上げてるみてーだ。こりゃ少し遅かったか?」

 

 黒幕らしき人影の哄笑とともに、吹雪が止み―― 山頂が晴れ渡っていきます。

 しかし雲は消えても光は戻らず、相変わらず一帯は陰の中です。

 

「雲が消えた―― なぜ吹雪が止んだんでしょう……?」

 

「見ろ、山の上に――」

 

 文庫神官の疑問に重ねるように、TS圃人斥候の驚愕する声が。

 小柄な彼女が指さした先を見れば――

 

「なんじゃ……? 大きな要塞が、逆さまに浮かんでおる……?」

 

 まるで反転した蜃気楼のように、霊峰の上にまるで要塞のような建造物と、それを支える荒涼とした死の大地が浮かんで、空を塗り替えています。

 光が差さなかったのは、雲の代わりにこの死の大地の要塞が蓋をしていたからだったのです。

 

 そこに、哄笑していた黒幕の声が聞こえてきました。

 吹き荒れる風によって黒幕のローブがはためき、備わった褐色の長い笹穂耳が露わになります。―― 闇人(ダークエルフ)です!

 

「ハハハハハハハ! おお! 冥府の女主人(ヘル)よ! よくぞここにその館を遣わしたもうた! これからは存分に寒さと飢えと病を振りまくがいい!! フハハハハハ!」

 

 空間を捻じ曲げたのかなんなのか、黒幕の闇人(ダークエルフ)の言うことが確かならば、まるで別の天体が直上にあるかのように見えるあの逆さまの大地は、冥府の支配者である女主人(ヘル)の居城のようです。

 

 

 

 というところで今回はここまで!

 ではまた次回!

 

 

*1
白梟の鳥人(文庫神官の【使徒】の人化形態):Lv6の使徒。データ的には夢魔をベースに精霊術を奇跡(知識神)に置き換え、魅了を俊敏(高速飛行)、吸精を半人化(=獣憑きの半獣化技能(習熟)として扱う)に入れ替えたもの。

【挿絵表示】

 イラストはPicrewの「ヨンジョウジンガイグラフィッカア」でつくりました。 https://picrew.me/share?cd=o7H8cK53QU

*2
叡智の白梟(文庫神官の【使徒】の鳥形態):Lv6の使徒。デフォルトはこっちの梟の形態の方。獣形態の方がコンパクトなため、獣人形態よりも生命力や攻撃威力が落ちる。もし単独で冒険させる機会があれば『獣憑き(ビーストバインド)』の冒険者としてデータを作成したいですね(そのうち)。

【挿絵表示】

 イラストはPicrewの「自分をフクロウだと信じてるクリーチャー」でつくりました。  https://picrew.me/share?cd=x6GakKwDKV

*3
腐竜の分裂:分裂した腐竜は、再び合一することで生命力を回復できる。合一には主行動を消費する。分裂した腐竜は別の自我を持つが、再び統合された場合は自我も統一される。

*4
死霊術【命令コマンド】:呪符または鐘、あるいは両方を用いて、知能の低い相手を支配状態に置くことができる。

*5
真言呪文【影写フェイク】:価格にして銀貨100枚以下程度の、術者が見たことがある物品を影を凝固させて再現する。時間経過で消滅。なお、剣や盾などとしての物理的機能は再現できるが、食物や薬としての機能や込められた魔法までは再現しない。ガソリンを具現化しても、ただのサラッとした液体にしかならず、火は着かない。サプリの追加呪文。TS圃人斥候がリビルド時に習得した。

*6
闇竜娘の死霊術【命令コマンド】行使:基礎値20+16+鐘同時使用4=達成値31。腐竜の呪文抵抗23を上回り、「知能:低い」に対する効果を発揮する達成値30以上の条件も達成。呪文維持し続ける限り、腐竜は支配状態(弱)に置かれる。




 
Q.腐竜との戦闘は?
A.更新されたQ&A見てたら戦闘するより楽な攻略方法を思いついちゃったんですよ……。(死霊術で支配した奴に分裂体を再吸収させて一本化して残ったやつを討滅)

===

■そのころ女神官ちゃん
ゾンビ化した雪男(サスカッチ)&別の群れの雪男(サスカッチ)を従えた雪の魔女(ヴァンパイア)が巣食う洞窟へと侵入。銀の矢を取り返して、レシピをもとに調合した秘伝の薬を塗った白銀の矢を使って雪の魔女にトドメを刺した。そうすると麓の方から爆発音と地響きが聞こえたのと、虫の知らせがあったため、そちらに可及的速やかに向かおうとしているところ。
(兎人猟師(父)は集落に無事到着。しかし消耗が激しいため戦闘参加はせず)
(ゾンビ雪男の分、妖精弓手ら銀等級の負担が増えた以外は概ね原作小説通り)

■そのころゴブスレさん
ゴブリンの巣穴に押し入ってゴブリンをスレイしたら、冷気が吹きあがってくるやたらと深い穴を発見。しかも小鬼じゃなくてなんか火を吹く犬(魔犬ヘルハウンド)や骸骨がたくさんいる。相手してられないので犬や骨ごと発破して埋めた――ら、その瓦礫を吹き飛ばしながら中からひときわ巨大で強大な犬が外に飛び出してきた(長い鎖につながれている犬。ガルム?)。ちょっとっていうかかなりヤバいかも。っていうかこの穴自体がヤバいやつだったのでは? と気づいたが、もはや逃れることはできんぞ。
(冥界と繋がる穴はもとからあったものかもしれない。その繋がりがあったからこそ、黒幕の闇人が霊峰を儀式の舞台に選んだのだとしたら、それを塞げば……?)

===

ご評価ご感想ありがとうございます! 今後ともよろしくお願いいたします!
 


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35/n 雪の魔女の洞窟-5(VS闇人)

 
閲覧、評価、お気に入り登録、誤字報告、ここ好きタップ、感想、いつもありがとうございます! デーモンたちの思考形態はマンチじみてるですって? ……確かに!

===

闇竜娘ちゃんと白梟ちゃんの和解イベントとして、一緒に冒険させたいなーなんて思ってたりします。合間に街中で鯛焼きを食べたりとかさせたい……。

===

●前話
 山頂晴れて (そび)える天地 さかしまの
 冥府の砦 枯れた花
 勝どき挙げる 人ぞあり
 


 

 はいどーも!

 寒冷・病害・飢饉……ガチの絶滅コンボなんだよなあ―― な実況、はーじまーるよー。

 

「フゥハハハハハァー! 冥府の女主人(ヘル)よ! 地の底は飽きただろう! 死者を受け入れるだけは飽きただろう! 冷気を溜め込むばかりは飽きただろう!」

 

 山頂で哄笑を上げる闇人(ダークエルフ)

 魔神王軍の残党だろうその闇人が、冬を長引かせ、吹き下ろす寒風に乗せて(やまい)をバラまいていた黒幕です。

 

「だから。全部()()()()にしてやったぞ!」

 

 地の底のものは天の上に。

 あるべきものを逆さまに。

 

「思う存分吐き出すがいい! 全部全部全部、凍り付かせてしまうがいい! 凍土を以て埋葬せよ!」

 

 冷気や病の吹き溜まりたる冥府をひっくり返して、地上に中身をぶちまける―― 現世・幽世をかき混ぜて混沌と化す陰謀なのです。

 まあ闇人たちの本拠地はたとえ核の炎が吹き荒れたとしても無事なように設計された地下アーコロジーなので、地上が氷に覆われようとも別に何ら問題はないのでしょうけれどね!

 

 

 フハハハハハハ! と笑い声を響かせる闇人に、しかし、陰謀を阻止せんとする冒険者たちの手は追い付きつつあります。

 

 

 

「地上を凍り付かせるじゃとォ……? 全てを絶滅させるじゃとォ……!? そんな企みなど、この手前(てまえ)が看過しておけるものかよ!!」

 

 敬虔なる蜥蜴人の竜司祭―― 怒れる我らが半竜娘ちゃん一党のエントリーです!

 

 呪文の残り回数も豊富。

 山頂の高空(過酷な環境)のために余分に消耗しやすくなっている分を考えても、戦闘を行うことは十分可能でしょう。

 ()しくも数日修行をつけてもらうあいだにしっかり高地順化もできていますしね。

 

 

 

 相手(敵の闇人)が、策が成ったことに上機嫌に油断している今こそ好機です。不意打ちにより先手が取れます!

 上を見れば、まるで雲霞のごとく亡者の群れが逆さまの冥府の大地から()り下りてこようとしているのが見えます。

 今を逃せば持久戦となり、また冥府より出てきた死者の群れ(死の河)が壁となってあの闇人の術師までの道を閉ざしてしまうでしょう。

 

「行ってくるぜ、先手はもらった! 支援をくれ!」

 

「承知したのじゃ。魔神となりし我が影よ、力を貸すのじゃ、マナの流れを整えよ。

 そして、黒蓮の花弁の札――マナ開放、二重詠唱準備。

 まずは手前に。一時(セメル)俊敏(キトー)付与(オッフェーロ)――【加速(ヘイスト)】。

 そして斥候のお主にも。一時(セメル)俊敏(キトー)付与(オッフェーロ)――【加速(ヘイスト)】」

 

 闇竜娘ちゃんを統率し、呪文詠唱を補助させます。これで呪文行使達成値+8。

 さらに『水蓮の花弁/Lotus Petal』の効果で1日一度限りのノーペナルティでの多重詠唱。

 半竜娘ちゃん自身とTS圃人斥候へ、【加速(ヘイスト)】付与。消耗速度は2倍になりますが、それぞれ+4のボーナスが加わります。*1

 

 そして何より、【加速】の効果によって移動可能距離が倍になります。

 

「新雪の上を駆ける訓練も散々したばかりだぜ――【地功拳】*2、【軽功】」

 

 小剣(ショートソード)の鞘を腰の横から背に回し、TS圃人斥候が雪の斜面を目にも留まらぬ速度で、闇人の死角から死角へと駆け抜けます。

 

「(いける――!  伝説の『忍びの者』から伝授された、忍びの奥義――)」

 

 さらに両手を後ろに回し、斬りつける武器を持つ手を悟らせない体勢になり、一気に近づきます。

 さらに身体を揺らして幻惑し、左右どちらの手で斬り付けるか悟らせないことによる、防御不可能の必殺剣!

 

 神威(カムイ)の名を持つ古の忍びが用いたという奥義!

 

「隙だらけだっつーのな。変移抜刀――【背の構え(かすみぎり)】!」*3

 

「――フハハハハハハ……って、なんだきさm――ガッ――??!」

 

 TS圃人斥候の【背の構え(かすみぎり)】:通常攻撃に移動距離に応じたボーナス

 移動距離ボーナスの算出:(基礎移動力25+軽功18)×加速2×駆け足2÷5=35(切り上げ)

 命中判定:基礎値19+加速4+隠密1+移動距離ボーナス35+2D636=68 > 敵回避22-武技ペナ4 ○命中!

 ダメージ算出:小剣(1D64+3)+斥候Lv8+移動距離ボーナス35+命中ボーナス5D664524-敵装甲値6=65

 TS圃人斥候は武技【軽功】【背の構え(かすみぎり)】の使用により、消耗2点加算(1/16 → 3/16。消耗ランク ゼロ(変化なし))

 

 

 逆手に持った小剣(ショートソード)を振りぬいた形でさらに駆け抜けると、そのTS圃人斥候の背後で黒幕の闇人(ダークエルフ)が崩れ落ちます。

 

 まさしく奥義……!

 まさしく一撃必殺……!

 その触れ込みに(たが)わぬ殺し技です。

 

「……ッ!? こいつ――?!」

 

 しかし残心していたTS圃人斥候が警戒するように飛びのきました。

 斬り払った際の手ごたえがおかしかったことに気づいたのです。

 血振りしようと剣を見れば、返り血もまばらな上に、その返り血もどす黒い不穏な色をしています。

 

 その嫌な直感を証明するように、奥義(霞斬り)を受けて崩れ落ちたはずの闇人の身体が、再び起き上がっていきます。

 

「……ふふふ、ふハ、フハハハハ! 万が一にも、戦いで死ぬわけにはいかんのでな。それでは冥府の女主人(ヘル)の下へは行けぬゆえ。ヴァルキュリアになど用はないのだよ」

 

 切り裂かれたことで用をなさなくなった闇人のローブが風に吹かれて飛んでいきます。

 その下から現れたのは――

 

『あらかじめ【屍鬼(リバイブ)】の死霊術を自らに施しておいた。冥府の女主人(ヘル)の下へと馳せ参じるならば、生身は捨てねばな。病魔を宿したまま山頂で寝ずに儀式を行うという苦行でじきに死ぬはずであったが、ある意味手間が省けた、礼を言おう』

 

「アンデッドへの転化……!」

 

 ―― 生気の失せた肌と、血の流れぬ傷口……。

 刃を受けた時点で、既に半死半生だったのでしょう。

 闇人の身は、高位の死霊術である【屍鬼(リバイブ)】の作用によって、自らの死をトリガーに不死の呪術師(リッチー)へと転化するように仕込んでいたのです!*4

 

 つまり、第二形態……!

 

『フハハハハハ! 安心しろ、貴様らを一思いに殺したりなどせぬ。縛り付け、死霊に生気を吸わせ、凍えさせてやるとも。“藁の上の死” とはそういうものだ』

 

 哄笑する闇人の不死の呪術師(リッチー)ですが、まだ半竜娘ちゃんたちの不意打ちのターンは終わっていません。

 具体的には、森人探検家ちゃんと文庫神官ちゃん、白梟ちゃんが手番を残しています。

 

 というわけで。

 

「悪鬼滅殺は信徒の務め! 雪深くするとか疫病を流行らせるとか、流通の邪魔よ! 交易神の教義的にも許せるわけないでしょ! 速射併用、【十六夜撃ち(魂の16連射)】そしてもういっちょ【十六夜撃ち(魂の16連射)】!」*5

 

 特訓で指先を鍛えに鍛えた森人探検家ちゃんが、空間拡張された矢筒から魔法強化された矢1本+普通の矢15本を一気に取り出し、素早く番えて射出します!

 

 と、それに合わせて、知識神に仕える文庫神官ちゃんとその使徒たる白梟が動きます。

 

「合わせてください!」 「はい、ご主人!」

 

「「 蝋燭の番人よ! 知の防人よ!  どうか闇よ落ちるなかれ!! ――【聖光(ホーリーライト)】!! 」」

 

 暗く影を落とす逆さまの冥府の砦に対抗するかのように、2つの光が森人探検家が(つが)える『魔法の矢+1』にそれぞれ宿ります。

 アンデッドを滅ぼす浄化の聖なる光、ホーリーライトの奇跡です。*6

 

「光の矢ってわけね―― 粋な計らいね!」

 

「お願いします!」

 

「任せなさい! 行くわよぉおおお!!」

 

 聖なる光で輝く矢を先頭に、一度に16連射!

 それを【速射】によりさらにもう1セット、2本目の光り輝く矢を先頭にさらに倍!

 合計32連射!

 

 森人探検家の【十六夜撃ち(魂の16連射)】:矢を消費してボーナスを得る

 命中判定:基礎値23+魔法の矢1+十六夜撃ち(16本消費)8+2D654=41 > 敵回避21 ○命中!

 不死の呪術師(リッチー)の技能【不死の身体】によりダメージダイスの出目半減!

 ダメージ算出:大弓(2D6/231+2)+野伏Lv9+魔法の矢1+十六夜撃ち(16本消費)8+命中ボーナス5D6/222221-敵装甲値8=25

 

 森人探検家の【十六夜撃ち(魂の16連射)】2射目:

 命中判定:基礎値23+魔法の矢1+十六夜撃ち(16本消費)8-速射ペナ4+2D666+クリティカル5=45 > 敵回避29 ◎命中(クリティカル)!

 不死の呪術師(リッチー)の技能【不死の身体】によりダメージダイスの出目半減!

 クリティカルのため痛打判定1D65:装甲脱落(装甲値ゼロ)

 ダメージ算出:大弓(2D6/231+2)+野伏Lv9+魔法の矢1+十六夜撃ち(16本消費)8+命中ボーナス5D6/233121-敵装甲値0=34

 

 森人探検家は武技【十六夜撃ち】×2の使用により、消耗2点加算(1/16 → 3/16。消耗ランク ゼロ(変化なし))

 

 

 驟雨のごときという形容すらも生ぬるい、怒涛の32連射が不死の呪術師(リッチー)へと降り注ぎます!

 一発一発が精密に急所へ誘導された矢の雨は、森人(エルフ)の面目躍如といったところ。

 

「くらいなさい!」

 

『ぐ、があああああ!?』

 

 第一射の16矢が着弾!

 

「貫け!」

 

『ごおおおおおおっ!?』

 

 さらに後を追った痛烈な16本の矢が、痛打となり、闇人の不死の呪術師(リッチー)の服を千々に引き裂きながら突き刺さります(以後、リッチーの装甲をゼロとする)。

 その衝撃で不死の呪術師(リッチー)は吹き飛びました。

 

 これで、一気に敵の体力を奪うのに成功しました!

 

 さらに2本の鏃に付与された聖なる光が、内側から負の生命力を焼いていきます!

 具体的にはリッチーの手番(主行動)の度に、アンデッドは呪文抵抗も装甲軽減もできないダメージを受けることになります。*7

 

『ち……このぉっ、痴れ者どもがぁあああ……』

 

 これでこちらの手番は終了。

 倒すまでには至りませんでしたが、かなりの痛撃を与えることに成功しました。

 次からは、闇人の不死の呪術師(リッチー)も行動を始めますし、さらには上空からアンデッドの群れが塊になって落ちてきそうです。

 

 そして戦場のイメージ図はこんな感じです。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 では継戦カウンターを積んで、第2ラウンドの先制判定です。

 リッチーの先制力は2D6+4なのでかなり速いです――が、実は弩弓や投擲武器で牽制することで先制力を下げさせる武技があるので、それを積極的に使っていきます。

 

 カラコロと先制力判定をした感じですと、次のような値になります。

 

名前先制力
半竜娘2D656+機先4+加速4=19
闇竜娘2D662=8
森人探検家2D623+機先4=9
TS圃人斥候2D624+機先4+加速4=14
文庫神官2D633+機先1=7
白梟2D665=11
闇人リッチー(敵)2D652+4=11

 

 このままでは闇人リッチーが3番目か4番目に攻撃してきます。

 

 そこで!

 役に立つのがこの武技――【紅蓮の嚆矢】!

 矢弾や投擲武器によって敵を牽制し、かつ、味方を鼓舞するという進撃の武技です!

 

 敵には-1! 味方には+1!

 さらに【紅蓮の嚆矢】は二重習得して強化することで、敵に-3、味方に+3できる素敵性能になります。

 

 ちなみに、森人探検家ちゃんと、TS圃人斥候ちゃんはこの武技を2段階目まで習得しています。

 つまり!

 

「縫い留めるわ! そこを動くな!!」

 

 森人探検家ちゃんの放った矢が闇人リッチーへ向かって鋭く宙を走り。

 

「おっと、こっちにも来させねーぜ!」

 

 TS圃人斥候が投げた投矢(ダーツ)が闇人リッチーの足元に突き刺さり。

 

『気が散る……猪口才(ちょこざい)な!』

 

 牽制することで闇人リッチーの足を止めさせるとともに、味方に戦機を見出させます。

 

 これによって、闇人リッチーは先制力にトータルで-6のペナルティ!

 同時に文庫神官ちゃんに+3、森人探検家ちゃんに+3のボーナス!

 あ、【加速(ヘイスト)】や【停滞(スロウ)】などの先制力に作用する呪文の影響下にあるキャラはこの武技の対象にできないので、注意が必要です。

 

 そして最終的な行動順はこうなるのです!

 

行動順名前先制力備考
半竜娘2D656+機先4+加速4=19 (12)加速状態。第1行動
森人探検家2D623+機先4+紅蓮の嚆矢3=12
TS圃人斥候2D624+機先4+加速4=14 (12)加速状態。第1行動
白梟2D665=11
文庫神官2D633+機先1+紅蓮の嚆矢3=10
闇竜娘2D662=8
半竜娘2D656+機先4+加速4=19 (7)加速状態。第2行動
闇人リッチー(敵)2D652+4-紅蓮の嚆矢6=5
TS圃人斥候2D624+機先4+加速4=14 (2)加速状態。第2行動

 

 …………勝ったな、これは。

 

 というわけで半竜娘ちゃん一党が軒並み先に行動して、闇人リッチーは後手に回ります、回させました。

 【加速(ヘイスト)】によって2回行動できるTS圃人斥候の2回目の行動が一番後ですが、統率技能を持っている半竜娘ちゃんか文庫神官ちゃん(リビルドによって取得)に行動順を引き上げてもらえばOKですし。

 

 じゃあ念のため呪文使用回数とか消耗カウンターとかのリソースは温存するため、森人探検家ちゃんとTS圃人斥候ちゃんに武器で攻撃してもらいましょう。

 この人選は他の人だとまだ射程外だからということもあります。

 また、メタ読みすると、消耗ランクが一つも上がらないうちにラスボス戦が終わるのはシナリオのバランス的にどうかと思うので、もう一波乱ありそうですし……。

 

 TS圃人斥候の攻撃1:

 命中判定:基礎値19+加速4+2D653=31 > 敵回避22 ○命中!

 不死の呪術師(リッチー)の技能【不死の身体】によりダメージダイスの出目半減!

 ダメージ算出:小剣(1D6/23+3)+斥候Lv8+命中ボーナス4D6/23313-敵装甲値0=24

 

 

 森人探検家の【速射】1射目:

 命中判定:基礎値23+魔法の矢1+2D664=34 > 敵回避24 ○命中! (刺突技能により達成値+6 → 40)

 不死の呪術師(リッチー)の技能【不死の身体】によりダメージダイスの出目半減!

 ダメージ算出:大弓(2D6/212+2)+野伏Lv9+魔法の矢1+命中ボーナス5D6/221231-敵装甲値0=24

 

 森人探検家の【速射】2射目:

 命中判定:基礎値23+魔法の矢1-速射ペナ4+2D661=27 > 敵回避25 ○命中! (刺突技能により達成値+6 → 33)

 不死の呪術師(リッチー)の技能【不死の身体】によりダメージダイスの出目半減!

 ダメージ算出:大弓(2D6/222+2)+野伏Lv9+魔法の矢1+命中ボーナス4D6/21212-敵装甲値0=22

 

 

「食らえっ! たあっ!」

 

『ええいっ!? 鬱陶しい!』

 

 魔法強化されたTS圃人斥候ちゃんのショートソードが閃いて闇人リッチーの体勢を突き崩し。

 

「ハイッ! ヤアッ!」

 

『重い矢だな……!』

 

 素早い森人探検家ちゃんの2連射の魔法の矢が闇人リッチーに突き刺さります。

 

『ぐっ、ううっ!? 身体が、崩壊する……!? ま、まさか、こんなところで……!!??』

 

 手応え的にはトドメを刺せた感じですが――――。

 

『グ、ググググ! よもやここでこの札を切ることになろうとは……!』

 

 アッハイ。やっぱりありますよね、切り札的なサムシング。

 

 恐らくこのラウンドの終わりに冥府の砦からアンデッドたちが落着し、次のラウンドから行動し始めるはずです。

 上空から亡者たちが落ちてくる(そうなる)前にカタをつけたかったのですが…………そうは問屋が卸さなかったみたいです。

 

 闇人リッチーが瀕死の身のゆえかおもむろに、腰に結わえた雑嚢から巻物を1つ取り出しました。

 

『……これなるは大いなる≪死≫を封じた巻物(スクロール)! 弱きものが触れればそれだけで即死する呪われたもの!』

 

 朗々と破れた喉で誇示する闇人リッチー。

 

『並みの冒険者も開けたら即死! 屈強な冒険者だとて、開けて読めば即座に呪われ数日の命よ! …………それを負の生命であるリッチーが読めばどうなると思う?』

 

 その言葉とともに、止める間もなく巻物を開いた闇人リッチー。

 開封された巻物から、悍ましい≪死≫の呪力が解放されます!

 まるで黒い雷のように迸った≪死≫の呪力は、闇人リッチーの身体を蹂躙し、その身の肉を弾けさせると、弾けた肉の下から露わになった骨へと吸収されていきます。

 

『…………ふ、フゥハハハッ! フゥハハハハハハァッ!! 力が! ≪死≫の力が漲るぞ!! この力があればお前たちなぞ…………!!』

 

 黒い骨の姿となって強化復活した闇人リッチー(第三形態)が勝ち誇るように笑います。

 が、しかし、そのとき。

 こそげた肉の中から露わになった、【聖光】が付与された2つの鏃が、燃えるような輝きを発しました!

 

『グワーーッ!? 光が……グワーー!?』

 

 スリップダメージ!

 闇人リッチーは、死亡時のイベントによって強制的に手番を割り込ませて巻物を使ってきたわけですが、手番は手番です。

 きっちり【聖光】のダメージは受けてもらいます。

 

 また、半竜娘ちゃんたちはまだこのラウンドでの手番を残してます。

 相手に手番を渡さないためにも出来るだけ削ってしまいましょう……!

 

 というところで今回はここまで!

 ではまた次回!

 

*1
半竜娘の残り呪文使用回数:9 → 7。(加速を2回使用)

*2
武技【地功拳】:柳のように大樹のように構え、よろめかず、倒れない。不整地、毒や麻痺、転倒による悪影響を無視する。

*3
武技奥義【背の構え(かすみぎり)】:移動距離の1/5を命中判定と威力に加算できる奥義。敵の防御判定にペナルティを与える。ただし技の仕組み自体は単純なので、1戦闘に3回しか使えない(それ以降は見破られて無効化されるため)。

*4
高位の死霊術【屍鬼(リバイブ)】:死体を材料にアンデッドを生み出す術。他の術と違い、生み出されたアンデッドは時間経過で消滅しないが、術者の支配下にあるわけではないことに注意。また、自らの肉体に作用させることでアンデッドに転化することができる。オレは人間をやめるぞー!

*5
武技奥義【十六夜撃ち】:最大16本の矢を一度に消費し、命中判定と威力にボーナスを得る弓系武技の奥義。

*6
奇跡【聖光ホーリーライト】:原作では主にフラッシュバン(閃光弾)扱いされる術。呪文維持することで一定範囲内のアンデッドに装甲無視・抵抗不能の継続ダメージ。サプリ適用前は半竜娘ちゃんの分身の残影まで祓ってしまうため習得せずにいたが、死霊術の本格導入を機に文庫神官ちゃんの呪文構成をリビルドして習得。

*7
【聖光】のダメージ値:ダメージ値は、術者の神官Lvの2倍で算出。文庫神官ちゃんと白梟ちゃんはそれぞれ神官Lv6なので、6×2のダメージ。二つの鏃が輝いているので、両者の効果範囲が重なる場所は24ダメージ。呪文維持すればダメージ継続。




 
即死効果でパワーアップするアンデッドの鑑。
なお『死の呪い』が刻まれた羊皮紙は、ゴブスレ原作小説9巻のオマージュ元だと思われる『ファイティングファンタジー 雪の魔女の洞窟』に登場するアイテムなので脈絡がないわけではないやつです。

===

ご評価ご感想などなど、いつもありがとうございます!
次回はいよいよ半竜娘ちゃんにも攻撃に加わってもらう予定です。流石に『雪の魔女の洞窟』編も次回で終われる、ハズ。次もよろしくお願いいたします。
 


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35/n 雪の魔女の洞窟-6(一瞬の攻防)

 
みなさまいつも閲覧、ご評価、お気に入り登録、誤字報告、ここ好きタップ、そして感想ご記入も、ありがとうございます!

===

●前話
・武技戦闘ぶん回してみた(その1)。
TS圃人斥候「軽功併用、霞斬り!」*1
森人探検家「十六夜(いざよい)()ち!」

・変身を2回残しているのはボスの嗜み!(なお使い切った模様)
闇人リッチー「変身のたびに仕切り直し(復活に付随してラウンド終了)にできません?」
半竜娘「変身するのを指をくわえて見てるだけなわけなかろう?」
 


*1
軽功と他の武技の併用:武技は基本的に同時使用できないが、使用タイミングが異なる武技は併用可能と思われる。軽功は『移動時』に使用可能。霞斬りは『移動後の攻撃』なので、軽功とは発動タイミングが重ならない。そのため、併用可能と裁定した。ただし威力が出すぎるのでコンボできないとGMが裁定したら従いましょう。

 

 はいどーも!

 逆さ城から魔物が落ちてくる前に敵を片付ける実況、はーじまーるよー。

 

 というわけで長い冬をもたらす混沌の企みを阻止せんと、首謀者である闇人(ダークエルフ)を追い詰めました。

 TS圃人斥候の必殺剣により一度殺したものの、あらかじめ自らの身に仕込んでいた死霊術の【屍鬼(リバイブ)】により、闇人は不死の呪術師(リッチー)となって復活。

 森人探検家の弓矢が痛撃を与え、TS圃人斥候もショートソードで闇人リッチーに攻撃。

 これを撃破・再殺―― した直後に、『死の呪文』を記した呪物を自らに使った闇人リッチーが強化復活。

 

 強化された闇人リッチーは、その身を、体内に残っていた【聖光(ホーリーライト)】が付与された鏃の効果によって焼かれ(24点ダメージ)、シュウシュウと煙を上げています。

 

 第2ラウンドはまだ途中です。

 敵が割り込みで手番を使って復活しましたが、戦闘続行!

 行動済みの手番を消すと以下の表のようになります。

 

行動順名前先制力備考
半竜娘2D656+機先4+加速4=19 (12)加速状態。第1行動
森人探検家2D623+機先4+紅蓮の嚆矢3=12
TS圃人斥候2D624+機先4+加速4=14 (12)加速状態。第1行動
白梟2D665=11
文庫神官2D633+機先1+紅蓮の嚆矢3=10
闇竜娘2D662=8
半竜娘2D656+機先4+加速4=19 (7)加速状態。第2行動
闇人リッチー(敵)2D652+4-紅蓮の嚆矢6=5
TS圃人斥候2D624+機先4+加速4=14 (2)加速状態。第2行動

 

 まあ、残りの行動は全員味方なので、どの順番で動かしてもOKですね。

 

 では実は一党の中で一番武技の習得数が多いTS圃人斥候(加速による2回目の行動)から行きます。*1

 

「はっ、何回復活しようが、そのたびに斬り伏せてやるっつーの! 【軽功】発動!」

 

『ぬ! またその技(せのかまえ/かすみぎり)か――! だが、十全の威力を出すためには助走が必要なのだろう? そうはさせんぞ!』

 

「(――ふっ、かかったな)」

 

 TS圃人斥候の武技:阿吽(あうん)覆滅(ふくめつ)・甲!!

 

 煙のように粉雪が舞い上がり、ほくそ笑むTS圃人斥候の身体を覆い隠します。

 

『逃がさん!』

 

「逃げねーよ――」

 

 先ほどの武技奥義【背の構え(霞斬り)】を受けた経験から、闇人リッチー(黒骨)はTS圃人斥候の移動を阻害しようとします。

 実際【背の構え(霞斬り)】は助走距離が無ければ脅威度は格段に落ちます。

 一度闇人リッチーのもとを離れて弧を描いて戻って助走距離を稼ごうとするTS圃人斥候を妨害しようとするのは当然の考えです。

 

 しかし、それこそがTS圃人斥候の狙い――!

 

「ばぁ!」 舞い上がった雪の中から闇人リッチーの真ん前に現れたTS圃人斥候。

 

『なっ!? いつの間に近づいてきて――』

 

「フッ、阿吽覆滅!!」

 

 一瞬の交錯。

 闇人リッチーの黒骨の身体と、TS圃人斥候の矮躯が擦れ違わんとします。

 

 阿吽覆滅とは、結合双生児として生まれそして分かたれたという2人の武侠がお互いの位置を入れ替えながら敵を幻惑して戦う絶殺の陣形を起源とするといいます。*2

 敵と己の位置を入れ替える動きを以て【阿吽覆滅・(こう)】。

 味方と己の位置を入れ替える動きを以て【阿吽覆滅・(おつ)】。

 順逆自在の恐るべき武技なのです。

 

 闇人リッチーの移動妨害:(怪物Lv11×知能係数(高い)3)+2D623=38

 

 TS圃人斥候の移動妨害への抵抗判定:技量集中9+斥候Lv8+加速4+すり抜け2+2D642=29 < 38 ×抵抗失敗!

 

『行かせぬ! 瘴魔傀儡掌!』

 

 闇人リッチー(黒骨)の手に宿った暗黒の瘴気が、まるで糸のように広がり、TS圃人斥候を絡め取ろうとします。

 『死の呪い』により進化した闇人リッチーの瘴気操作技術によるものです!

 

 TS圃人斥候の祈念(現在因果点7):幸運3+2D662=11 > 7 ○祈念成功! (因果点増加7→8)

 TS圃人斥候は、移動妨害への抵抗判定を、×失敗 → ○成功 に運命転変!

 

「糸なら切ればいい―― 回転剣舞! ハァッ!」

 

 TS圃人斥候はその瘴気の糸の結界の中を舞い踊るように飛び、構えた魔法の小剣で切り裂きます!

 さらにその回転の勢いのまま闇人リッチーの身体に触れると、体術の妙技により、敵の体勢を崩して弾き飛ばし、自らはその反動で加速を得て移動します。

 

「オイラはこっち、お前はあっち――! これぞ、阿 吽 覆 滅 !」

 

 TS圃人斥候の武技【阿吽覆滅・甲】発動! 彼我の位置を入れ替え、さらに闇人リッチーを転倒させた!*3

 TS圃人斥候は武技【阿吽覆滅・甲】の転倒効果の使用により、消耗1点加算(3/16 → 4/16。消耗ランク ゼロ(変化なし))

 

『ゴッ、バッ――――』

 

 吹き飛ばされた闇人リッチー(黒骨)が、雪の斜面に頭から腰まで突き刺さりました! 犬神家!

 

 そしてそれを尻目に【軽功】で身軽になったTS圃人斥候が斜面を縦横無尽に目にも留まらぬ速さで駆けていきます。

 その間に、闇人リッチー(黒骨)は起き上がろうとしていますが、なかなか埋まった上半身は抜けません。

 

 当然、動かない(マト)などカモでしかありません。

 十分な加速をつけて、いざ必殺の――

 

「霞斬り――!!」

 

 TS圃人斥候の【背の構え(かすみぎり)】:通常攻撃に移動距離に応じたボーナスを上乗せ

 移動距離ボーナスの算出:(基礎移動力25+軽功18)×加速2×駆け足2÷5=35(切り上げ)

 命中判定:基礎値19+加速4+移動距離ボーナス35+2D626=67 > 敵回避23-武技ペナ4-転倒ペナ4 ○命中!

 不死の呪術師(リッチー)の技能【不死の身体】によりダメージダイスの出目半減!

 ダメージ算出:小剣(1D6/21+3)+斥候Lv8+移動距離ボーナス35+命中ボーナス5D6/231332-敵装甲値10=49

 TS圃人斥候は武技【軽功】【背の構え(かすみぎり)】の使用により、消耗2点加算(4/16 → 6/16。消耗ランク ゼロ(変化なし))

 

 

 

『グワーーッ!!』

 

 闇人リッチーくん吹っ飛んだーー!!

 

 

 そして吹っ飛んだ先に回り込んでいる奴がいるぞ!!

 

 

Welcome‼‼(ようこそ!!)

 

 

 怒れる竜司祭、我らが半竜娘ちゃんのエントリーだーーーー!!

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 時間を少しだけ巻き戻して、TS圃人斥候が闇人リッチーを翻弄して犬神家したあたりの残りの一党の仲間の動きを見てみましょう。

 

 手番は半竜娘ちゃんが残り2回。文庫神官ちゃん、白梟ちゃん、闇竜娘ちゃんは1回ずつ行動可能です。

 ですが、彼女らは闇人リッチー(黒骨)から離れたところに居ますので、まずは接近する必要があります。

 

「手前が行くのじゃ! 支援を頼むのじゃ!」

 

 フィニッシュは手前に任せろー! というわけで半竜娘ちゃんが殺る気満々です。

 

 さてまずは文庫神官ちゃんが白梟ちゃんを統率し、自分に支援を飛ばさせます。

 

「お姉さまを支援します! まずは私に加護を! 闇よ落ちるなかれ!」

 

「はいご主人! 闇よ落ちるなかれ!」

 

 これにより文庫神官ちゃんに呪文行使+3/呪文抵抗+3のボーナスです。

 また呪文維持以外の行動をとったので、白梟ちゃんに【聖光】の呪文維持判定が発生しますが、ぎりぎり成功です。*4

 

「それではお姉さまに、知識神のもたらす閃光のような導きを! 『蝋燭の番人よ、知の防人よ、行く先に待つ陥穽をどうか我らにお知らせください』――【真灯(ガイダンス)】!」

 

 文庫神官の呪文行使:奇跡【真灯(ガイダンス)

 呪文行使判定:基礎値18+汎用呪文熟達2+白梟支援3+2D636=32 > 呪文難易度10 ○行使成功!

 半竜娘に近未来予知能力が付与され、≪偶然≫のダイスの揺らぎが限定された。半竜娘の判定を6ラウンドにわたり『6+1D6』で算出する!

 

 文庫神官の呪文使用回数: 3 → 2

 

 呪文維持判定(聖光):基礎値14+2D656-非専念ペナ4-消耗1=20 > 呪文難易度10+5 ○維持成功!

 

 無事に【真灯】の呪文行使と【聖光(ホーリーライト)】の維持に成功。

 数瞬後の光景を見るごくごく短時間の未来予知の力が半竜娘ちゃんに与えられました。

 これによりしばらくの間、半竜娘ちゃんのダイスの片方は “6” 固定となったわけです。

 

「お姉さま! どうぞご存分に!!」

 

「感謝じゃ! 良い、良いぞ! (とき)が見えるような気分じゃ……!」

 

 知識神の奇跡のきらめきが半竜娘ちゃんの瞳に宿り、星空のように煌々と輝いています。

 さらに半竜娘ちゃんは攻勢準備を進めます。

 

「我が片割れの魔神よ! マナを寄こすのじゃ!」

 

「承知承知、(オレ)が力を貸してやろう!」

 

 自由行動(マイナーアクション)で闇竜娘ちゃんを【統率】し、半竜娘ちゃん自らに対して支援効果を与えます。

 呪文行使判定に+8!

 

「多重詠唱――

 『五十八の牙持つ暴竜(バオロン)よ、我が顎門(アギト)にその鋭さを与えたもう』――【竜顎(ドラゴンバイト)】!

 『セメル(一時)クレスクント(成長)オッフェーロ(付与)』――【巨大(ビッグ)】!」

 

 半竜娘の呪文行使:祖竜術【竜顎(ドラゴンバイト)】 多重詠唱1/3

 呪文行使判定:基礎値24+付与呪文熟達4+加速4+闇竜娘支援8+(6+1D66)+クリティカル(生命の遣い手)5-多重詠唱8=49 > 呪文難易度15 ○行使成功!

 半竜娘の牙が伸び、頬が裂け、顎が大きく広がるようになり、竜の顎のビジョンが重なる牙攻撃を自由行動で行えるようになった!

 

 半竜娘の呪文行使:真言呪文【巨大(ビッグ)】 多重詠唱2/3

 呪文行使判定:基礎値22+付与呪文熟達4+加速4+闇竜娘支援8+(6+1D65)+クリティカル(生命の遣い手)5-多重詠唱8=46 > 呪文難易度10 ○行使成功!

 達成値40 overのため、10倍拡大! 体力点+2、技量点-2、威力+10、装甲+10。

 

 半竜娘の呪文使用回数: 7 → 5

 

 呪文維持判定(加速):基礎値17+加速4+付与呪文熟達4+(6+1D64)-非専念ペナ4-消耗1=30 > 呪文難易度15+5 ○維持成功!

 

 頬が裂けて鋭い牙がずらりと並んだかと思えば、身体がみるみるうちに巨大化し、もとの10倍の背丈にもなりました。

 

「む!」

 

 そして【真灯】の奇跡による先読みが、攻撃の好機を半竜娘ちゃんの脳裏にピキーン! と知らせます。

 (よぎ)ったビジョンは、TS圃人斥候の必殺剣によって天高く吹き飛ばされる闇人リッチーの姿でした。

 

「軌道計算完了、いざ甲竜よ! 経絡巡りし雷をどうか我が身に宿したまえ! 武技【軽功】! 【突撃(チャージング)】ゥゥゥゥウウ!!」

 

 半竜娘ちゃんは素早く稜線に目を走らせると、展開図上で直線となるように峰を蜷局(とぐろ)巻くように最大加速できるルートを選定。

 【真灯(ガイダンス)】で垣間見えた未来視を信じて、闇人リッチーの数瞬後の位置へと向けて加速を始めました。

 

 半竜娘の呪文行使:祖竜術【突撃(チャージング)】 多重詠唱3/3

 呪文行使判定:基礎値24+加速4+闇竜娘支援8+(6+1D64)-多重詠唱8=38 > 呪文難易度10 ○行使成功!

 移動距離ボーナス:(移動力33+軽功24)×加速2×巨大10×突撃3÷5=684

 

 ダメージ算出:移動距離ボーナス684+竜司祭Lv10+5D611332+巨大化10=714

 

 半竜娘の呪文使用回数: 5 → 4

 

 峰をグルグルと蜷局(とぐろ)を巻くように頂まで上り詰めると、タイミングドンピシャで宙に跳ね上げられた闇人リッチーがまるで、咬み合わされる顎門へと自ら飛び込んできたかのように吸い込まれました!

 

 

Welcome‼‼(ようこそ!!)

 

 

 超速度の突撃は、いかなるものであろうとも塵と化すでしょう!

 敵の呪文抵抗判定が大成功しない限りは!(フラグ)

 

 

 ですが敵もさるもの。

 背の構え(かすみぎり)により吹き飛ばされた錐もみ回転の中でも、呪文に対して抵抗し、為すべきことを為そうとします。

 さらには地獄を天空に顕現させるほどの『反転の権能』も健在どころか、強化復活によって強化されています。

 

『喰われ、る? 否、否! 否ぁ! 我が身を蝕む威力すらも……さか、しま、に!』

 

 

 闇人リッチーの呪文抵抗+反転の権能:

 呪文抵抗判定:基礎値23+2D666+クリティカル5=40 > 半竜娘【突撃】行使38 ◎呪文抵抗絶対成功!

 

 絶対成功のため、闇人リッチーのダメージはゼロ!!

 闇人リッチーは半竜娘の【突撃】を完全に受け止め転倒させた!

 ダメージゼロのため反転の権能は不発し、エネルギー吸収は発生しなかった

 

 半竜娘は【突撃】失敗のため反動ダメージ! 転倒により714ダメージ!!

 

 

 え?

 

 ……は?

 

 ゴシゴシ……(目を擦ってもう一度見る)

 

 半竜娘は【突撃】失敗のため反動ダメージ! 転倒により714ダメージ!!

 

 

 マジで……?

 

 お、俺のログには何も――……

 

 

 半竜娘は【突撃】失敗のため反動ダメージ! 転倒により714ダメージ!!

 

 

 ―― いやばっちしログにあるーーー!!?

 

 

 ちょっ、たんまたんま!

 ストップ!

 待って!

 

 そんな速攻フラグ回収せんでも!

 っていうか、【分身】に突撃させずに本体で突撃させたときに限ってこんな……!?  

 1/36の確率でしょ? なんでこんなピンポイントに致命的な場面で? いやダイスってそんなもんだけどさ!(屑運の持ち主)*5

 

 え、えええ?

 

 クリティカルだから因果点積んでも相手の『呪文抵抗判定』結果には作用できないし。*6

 フルでバフ積んでるから反動ダメージを多少軽減したところで焼け石に水。

 主行動は使い切っている、自由行動は【竜顎(ドラゴンバイト)】で咬みつくための2回。

 

 

 そこで問題だ! この状況でどうやって反動ダメージから生き残るか?

 

 3択――ひとつだけ選びなさい

 

 

 答え① 超抜美人の半竜娘ちゃんは突如生き残るアイデアがひらめく

 

 答え② 超勇者ちゃんが来て助けてくれる

 

 答え③ 回避不能。現実は非情である。

 

 

 

 答え③ 答え③ 答え③

 

 

 

 ――いや……ひらめく……。

 

 そうだ、“()()”!

 

 祖竜術の追加呪文【閃技(サクセション)】なら……!

 

 

『この四方世界で対竜の用意がないと思ったか! マナ加速、反転権能全開! 順逆自在! 我が精神力よ物理現象を凌駕せよ(Mind Over Matter)!!』*7

 

 今にも超加速した巨大化半竜娘ちゃんに嚙み砕かれようとしているその刹那。

 霊峰の山頂と、天空の逆さ城から、膨大なマナが立ち上り、闇人リッチーへと流れ込みます。

 無限にも思われるマナを得た闇人リッチーの不屈の精神が物理現象を凌駕した結果を生み出しました。

 

「!!? 消えっ――!?」

 

『短距離転移! 魔力放出! 一帯のマナ全ては我が支配下よ! 貴様の纏うオーラも含めてな! 喰らえぃ!! 魔法空気投げ!!』

 

「グワーーッ」

 

 空中で足場として実体化するほどのマナを踏みしめ、さらに半竜娘ちゃんが纏う魔法のオーラすら掌握すると、半竜娘ちゃんの超速度の突撃の勢いをいなし、そのベクトルを変換。

 斜面へと放り投げました。まるでTS圃人斥候の阿吽覆滅の焼き直しです。あるいは学習したのかも。

 

 このままでは斜面でモミジオロシにされてしまいます。

 

 何か、何か、何かを(ひらめ)かない限りは……!!

 

「おおおおああああああっ! 竜に至りし成龍(シェンロン)小龍(シャオロン)! 手前は手前の願う通りの竜にならん!! 【閃技(サクセション)】!」

 

 【閃技(サクセション)】―― かつて祖竜の列に連なったという蜥蜴人の武人にあやかり、武技をひとつ一時的に習得するという術です。*8

 

 選ぶ武技は、転倒を無効化する――

 

「【地功拳】!!」

 

 地面はトモダチ! 地面は決してコワクナーイ!

 

 【地功拳】は『揺れず蹌踉(よろ)めかず倒れぬ』術ではありますが、『傷つかぬわけではない』とされます。いわゆるスーパーアーマー状態のイメージ、あるいは酔拳の動きですかね。

 確かに【地功拳】では、痛打の結果発生する転倒を無効化できても、痛打そのもののダメージは無効化できません。ダメージと()()()発生した転倒効果のうち、転倒効果の方だけをキャンセルできるわけですね。

 

 しかし一方、祖竜術【突撃(チャージング)】に抵抗して受け止めた敵手が、術者を転倒させた()()発生する反動ダメージはどうでしょうか。

 転倒と同時ではなく、転倒を()としてダメージという()があるわけですが……。

 

 これは転倒をキャンセルすれば無効化できるはずです!

 なぜなら、反動ダメージは転倒しなければ起こらないからです! 実際、呪文抵抗に成功した場合でも、転倒させることを選ばなければ反動ダメージは発生しませんからね。

 

 というわけで祖竜術【突撃(チャージング)】を止められた場合の反動ダメージは、【地功拳】で無効化できる、証明終了(Q.E.D.)

 

 

 天才的なヒラメキで武技【地功拳】を一時習得した半竜娘ちゃん。

 そのヒラメキのままに身体を動かしていきます。

 

「多重接地転回法!」

 

 人間は五点着地までしかできませんが、蜥蜴人は違います。

 何故なら尻尾があり、尻尾には無数の関節があるからです。

 

 バネのように柔らかくしなやかに尻尾から着地することで衝撃を分散!

 地面に激突する威力のベクトルを逃がして回転方向に変換!

 さらには、大地の反発力を加えて逆襲!!

 

 いまだ空中にある闇人リッチーへと、鮫のように鰐のように、いえ、恐竜のように噛みつきます!

 

『まだ向かって来るか、蜥蜴の蛮人!!』

 

「祖竜のアギトを喰らうがいい! 【竜顎(ドラゴンバイト)】!」

 

 祖竜術【竜顎】は、自由行動(マイナーアクション)中の攻撃を可能にする術です。

 自由行動(マイナーアクション)は、主行動一回につき3回。

 すでに『闇竜娘の統率』、『祖竜術【閃技】の緊急使用』で2回の自由行動を済ませていますので残り1回の自由行動(マイナーアクション)が可能です。

 

 よって、最後の自由行動(マイナーアクション)権を使い、祖竜術【竜顎(ドラゴンバイト)】の効果で噛みつき攻撃を仕掛けます!

 

 さらに祖竜術【竜顎(ドラゴンバイト)】による牙攻撃ですが、今回、【巨大】化してサイズの差があるため、【拘束攻撃】技能の効果が乗ることにします。

 

 決まれば敵を噛みつき状態でホールドして、そのまま【加速】による2回目の手番に移れます。

 

 接触状態の高位祖竜術【治療(リフレッシュ)】三重詠唱と、祖竜術【竜顎(ドラゴンバイト)】の効果による自由行動(マイナーアクション)を全て費やす3連攻撃で……!

 

「ぶっ(ころ)してやるのじゃ!」*9

 

 半竜娘ちゃんのアギトが闇人リッチーを捉えられるかどうか……それはダイス(宿命と偶然)のお導き次第……、というところで今回はここまで!

 ではまた次回!

 

*1
武技習得数:経験点効率を考えると、戦士系の職業(戦士・武道家・斥候・野伏)を満遍なく平らに伸ばした場合に武技の習得数が多くなる。TS圃人斥候は余った経験値で武道家・野伏のLvを上げたため11の武技枠を持っている。ちなみに半竜娘の武技獲得枠は6枠、森人探検家は8枠、文庫神官は6枠。

*2
阿吽覆滅:おそらく元ネタは「鬼哭街」の“元氏双侠”が用いる阿吽覆滅陣か。あとは、「呪術廻戦」の東堂の不義遊戯(ブギウギ)とか、「HUNTER×HUNTER」のゴレイヌの白の賢人(ホワイトゴレイヌ)黒い賢人(ブラックゴレイヌ)も同じ系統っていうかサプリで追加されたこの技の性能としてはゴレイヌさんの念能力の方がたぶん近いような。

*3
転倒状態:抵抗系・知識系以外の判定に-4のペナルティ。痛打(クリティカル)表の効果の一つでもある。移動妨害(またはそれへの抵抗)をトリガーとして、消耗と引き換えに交錯時に任意に転倒状態にさせられる【阿吽覆滅・甲】は、移動妨害を誘発させやすい【背の構え】とのシナジーが高い気がする。

*4
白梟の呪文維持【聖光】:達成値19-非専念ペナ4=15 ≧ 目標値15。維持成功。

*5
【突撃】への抵抗判定がクリティカル:どうしてもそういうリスクがあるので普段は分身に突っ込ませていた。分身の仕様変更で今回は分身使うの控えて本体が突っ込んだらコレだよ!

*6
大成功・大失敗に対する因果転変:クリティカルとファンブルは因果点の振り直し対象にできない。

*7
『Mind Over Matter/精神力』:MoMaの冬をもたらしたヤバい級カード。6マナ消費でカード効果を再使用する効果があるが、6マナ以上生み出すカードを再使用対象とすることで無限のマナを生み出すことができてしまう。フレーバーテキスト引用 ライナは隣の人影の方を向いて言った。「彼らは行ってしまいましたわ。どうなされますか?」「今まで通りだ」とウルザは言った。「待つのだ。」

*8
成龍(シェンロン)小龍(シャオロン):ジャッキー・チェンとブルース・リーの漢名が元ネタか。おそらく蜥蜴人の武僧に武技を極めて竜となった者たちがいるのだとおもわれる。ホワチャーー!

*9
アンデッドを対象にした回復呪文:負の生命であるアンデッドは、正の生命力をもたらす回復呪文によってダメージを負う。また回復呪文は接触状態で (『手当て』しながら)行使することで回復力が上がる。




 
1ラウンドも進んでないぜ!

半竜娘ちゃんがボスのクリティカルで爆死したのを覆すためにルルブとサプリを総ざらえしてたので初投稿です。

===

ご評価ご感想をいつもありがとうございます! 今後ともよろしくお願いいたします!
 


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35/n 雪の魔女の洞窟-7/7(冬の終わり)

 
みなさまいつも閲覧、ご評価、お気に入り登録、誤字報告、ここ好きタップ、そして感想ご記入も、ありがとうございます!

===

●前話
・武技戦闘、追加呪文、追加技能ぶん回してみた(その2)
TS圃人斥候「阿吽覆滅・甲! 軽功、霞斬り!」
闇人リッチー「ぬわー!?」
半竜娘「隙アリ! 加速(ヘイスト)維持、10倍巨大化、軽功併用・突撃(チャージング)!」
闇人リッチー「……ッ! さすがにそれをくらうのはまずい! やらせはせん、やらせはせんぞ! 精神力(MoMa)―― 土地から再びマナを得て対抗呪文(呪文抵抗絶対成功)、そして阿吽覆滅(くうきなげ)!」
半竜娘「うおおおぉおあああ!? 閃技(サクセション)! 緊急習得―― 地功拳! そして反逆のッ 竜顎(ドラゴンバイト)!!」

===

Q.半竜娘ちゃんが転倒回避を閃けなかったらどうなってたです?

A.次のどれかになっていたかと思います。
 ①ざんねん! 半竜娘の冒険はここで終わってしまった! その後、魔神契約に従い闇竜娘ちゃんに捕食されて闇竜娘ちゃんが受肉(主従逆転ルート)
 ②体内のパワーコアを暴走開放。山脈を取り込んでエネミー化。そして超勇者ちゃんとのバトルへ。どうせロストするなら派手に逝こうぜ?(怪獣王ルート)
 ③バラバラの身体を仲間がなんとか拾い集めて、女商人さんの軽銀商会で研究させてた滅びの獄(ドゥーム)の技術でサイバネ化して復活(メカゴジラルート)
 ④その時不思議なことが起こった! 超勇者ちゃんたちが来て助けてくれる
 


 

 はいどーも!

 極限の集中の中で一瞬の攻防が引き延ばされ、互いが死地を乗り越えて、決着は今すぐそこに―― な実況、はーじまーるよー。

 

 半竜娘ちゃんの必殺の祖竜術【突撃(チャージング)】が、敵の闇人リッチーの神業的な(クリティカルした)呪文抵抗によって無効化され、あわや転倒による反動でミンチになって散らばりかけて、しかし転倒自体を無効化する武技を“ひらめいて”事なきを得て、間髪入れずに牙攻撃を仕掛けたところまでですね。

 

 と、このタイミングで(移動終了に伴い)武技【軽功】による消耗が発生するので、呪文維持判定が入ります。

 

 半竜娘は武技【軽功】の使用により、消耗1点加算(1/16 → 2/16。消耗ランク ゼロ(変化なし))

 消耗に伴い、半竜娘は呪文維持判定:目標値20(【加速】難易度15+5)

 加速1(for TS圃人斥候):基礎値17+付与熟達4-主行動後ペナ4-消耗2+(真灯6+1D64)+クリティカル(生命の遣い手)5=30 > 目標値20 ◎維持絶対成功!

 加速2(for 半竜娘):基礎値17+付与熟達4-主行動後ペナ4-消耗2+(真灯6+1D64)+クリティカル(生命の遣い手)5=30 > 目標値20 ◎維持絶対成功!

 

 これは無事成功!

 しかも判定ダイスの合計が【真灯】の効果もあって10以上だったので【生命の遣い手】技能の効果でクリティカル扱いです。

 

 続いて、自由行動の最後の1回を使って闇人リッチーへと牙攻撃です!

 牙攻撃は素手攻撃扱いとなります。さらに今回、【拘束攻撃】の効果も乗せます。

 

 

「これなるは竜の一咬み! 喰らえぇぃい!」

 

 

 半竜娘は祖竜術【竜顎(ドラゴンバイト)】の効果により自由行動(マイナーアクション)で牙攻撃!

 半竜娘の牙攻撃:技量集中8-巨大ペナ2+武道家Lv6+格闘武器習熟2+加速4+(真灯6+1D64)=28 > 目標値23(闇人リッチー回避:基礎値20-転倒ペナ4+2D616=23) ○命中!

 ダメージ算出:拘束攻撃のため1/2のダメージ。

 ダメージ:{(素手1D3/21+鉄の拳1+発勁1+竜の末裔4+武道家Lv6+巨大10+命中ボーナス3D6/2311)×拘束1/2}-敵装甲値10=4

 拘束成功! 拘束中は敵の回避等に-2のペナルティ。

 

『そうやすやすと捕まるものか! 短距離転移!』

 

 闇人リッチーが周囲の土地から収奪したマナを駆使して短距離転移(ジョウント)で狙いをすかして逃げようとしますが、半竜娘ちゃんには今、知識神のもたらす奇跡【真灯(ガイダンス)】による近未来予知があります。

 

「無駄無駄! 見えておるわッ!」

 

『ぬぅっ!? 捕まっただと!?』

 

 転移先を捕捉し、鋭き【竜顎】で咬みつきます!!

 相手の骨が硬すぎて痛打は与えられませんでしたが、がっしりと腰骨のあたりに牙が食い込み、拘束することに成功しました。

 

 この第2ラウンド、残りの手番は以下の通り。

 

行動順名前先制力備考/行動内容
半竜娘2D656+機先4+加速4=19 (12)加速状態(第1行動)。巨大・竜顎・突撃・牙攻撃
森人探検家2D623+機先4+紅蓮の嚆矢3=12速射により弓攻撃×2
TS圃人斥候2D624+機先4+加速4=14 (12)加速状態(第1行動)。小剣攻撃
白梟2D665=11文庫神官に支援
文庫神官2D633+機先1+紅蓮の嚆矢3=10真灯
闇竜娘2D662=8半竜娘に支援
半竜娘2D656+機先4+加速4=19 (7)加速状態(第2行動)
闇人リッチー(敵)2D652+4-紅蓮の嚆矢6=5強化復活
TS圃人斥候2D624+機先4+加速4=14 (2)加速状態(第2行動)。阿吽覆滅・背の構え

 

 半竜娘ちゃんがまだ1回の主行動(メジャーアクション)を残しています。

 また半竜娘ちゃんは多重詠唱技能(熟達段階)により主行動(メジャーアクション)につき最大3回の呪文行使が可能です。

 

「術の残りは3回。アンデッドにはやはり【治癒(リフレッシュ)】の術か……」

 

『くっ』

 

 アンデッドに対しては回復系の呪文が装甲貫通効果を発揮しますし、接触状態なら強力な術を行使可能です。

 さらに知識神の奇跡【真灯(ガイダンス)】の加護を受けているため、【生命の遣い手(熟練段階)】の効果もあって、回復系統をはじめとする生命属性の呪文は50%の確率で大成功(クリティカル)にできます。

 使わない手はないでしょう。

 

 

「この状態から逃れることはできまいて。まずはこのまま噛み砕いてやるべきか……」

 

『くぅっ!?』

 

 加えて、主行動(メジャーアクション)には3回の自由行動(マイナーアクション)が付随します。

 つまり牙攻撃も3回可能。

 達成値30以上の奇跡【真灯】の効果により、半竜娘ちゃんは1/6の確率でクリティカルを出せますから、痛打狙いも十分アリです。

 

「いかようにも料理できるというわけじゃが――」

 

 フッフッフッ、まあここはやはり順番としては牙攻撃3連続で痛打(クリティカル)を期待しつつ、その後に【治癒(リフレッシュ)】でトドメという流れでしょう。

 

 

「ひゃあ がまんできねえ! かみくだいてやるのじゃ!」

 

 

 長き冬をもたらさんとしていた首魁を討てるとあって、いよいよ半竜娘ちゃんの抑制が効かなくなりました。

 ということでまずは3連牙攻撃! ギロチンのごとき竜の咀嚼です!

 

 

 半竜娘は祖竜術【竜顎(ドラゴンバイト)】の効果により自由行動(マイナーアクション)で牙攻撃! 3連続!

 

 半竜娘の牙攻撃1:技量集中8-巨大ペナ2+武道家Lv6+格闘武器習熟2+加速4+(真灯6+1D66)+痛打5=35 > 目標値18(闇人リッチー回避:基礎値20-転倒ペナ4+2D622-拘束2=18) ◎絶対命中(クリティカル)

 痛打(斬)判定1D66:装甲脱落により装甲値0

 ダメージ:(素手1D3/21+鉄の拳1+発勁1+竜の末裔4+武道家Lv6+命中ボーナス4D6/21333+巨大10)-敵装甲値0=33

 

 半竜娘の牙攻撃2:技量集中8-巨大ペナ2+武道家Lv6+格闘武器習熟2+加速4+(真灯6+1D66)=28 > 目標値18(闇人リッチー回避:基礎値20-転倒ペナ4+2D613-拘束2=18) ◎絶対命中(クリティカル)

 痛打(斬)判定1D65:片脚の腱を切断。治療するまで転倒状態継続

 ダメージ:(素手1D3/22+鉄の拳1+発勁1+竜の末裔4+武道家Lv6+命中ボーナス4D6/23131+巨大10)-敵装甲値0=32

 

 半竜娘の牙攻撃3:技量集中8-巨大ペナ2+武道家Lv6+格闘武器習熟2+加速4+(真灯6+1D62)=26 > 目標値21(闇人リッチー回避:基礎値20-転倒ペナ4+2D643-拘束2=21) ○命中!

 ダメージ:(素手1D3/21+鉄の拳1+発勁1+竜の末裔4+武道家Lv6+命中ボーナス3D6/2221+巨大10)-敵装甲値0=28

 

 合計 33+32+28=93ダメージ!!

 【鮮血呪紋】脈動! 20ダメージにつき消耗回復1点(切り捨て)。消耗3回復! 半竜娘の消耗カウンター 2/16 → 0/16

 

 

 

 

『喰らわれてやるものか……! 短距離転移(ジョウント)ッ』

 

「この牙から逃れることは能わぬわッ!」

 

 

GOBBLE(ガブッ)!! GOBBLE(ガブッ)!! GOBBLE(ガブッ)!!

 

 

『ぐあっ、あぎっ、ぐはっ!?』

 

 巨大化半竜娘ちゃんの強力な咀嚼攻撃は、拘束した闇人リッチーの転移を許さず、完全にとらえました。

 1撃目。闇人リッチーの黒い骨だけの身体に(ヒビ)が入り。

 2撃目。片脚は完全に粉砕されて用を為さなくなって脱落し。

 3撃目。さらに最後のトドメにと正中線に沿って頭蓋・頸椎・胸骨・脊柱・骨盤を押さえて嚙み締めます。

 

 拘束続行です!

 さらには腕の鮮血呪紋のオーラが口腔まで広がって絡みつき、闇人リッチーを構成するマナを吸収して活力に変えていきます。

 

「哀れな魂に救済をくれてやるのじゃ! 『傷つきなおも美しい蛇發女怪龍(ゴルゴス)よ! その身の癒しをこの牙に宿せ』!!」

 

 ああゴルゴスよ、ゴルゴスよ!

 高位祖竜術【治療(リフレッシュ)】を、多重詠唱技能で3連発!

 

 ……いや2回で足りますね多分。

 あ、契約魔神の闇竜娘ちゃんによる支援は、距離が離れたので途切れてしまっています。それもあり、魔術師タイプの敵に確実に通すには2連続にとどめた方が無難でしょう。3連発だとペナルティが重すぎる恐れがあります。

 

 というわけで2連発!

 

 半竜娘は【多重詠唱(熟練)】技能の効果により主行動で3回までの詠唱が可能! 2連続詠唱!

 

 半竜娘の高位祖竜術【治療】1:基礎値24+加速4+(真灯6+1D64)-多重詠唱4+痛打5=39 > 難易度20 ◎【生命の遣い手】効果により絶対成功(クリティカル)

 闇人リッチー呪文抵抗:基礎値23+2D653=31 抵抗貫通!

 ダメージ:2D636+30+竜司祭Lv10+生命の遣い手2+巨大10=61

 

 半竜娘の高位祖竜術【治療】2:基礎値24+加速4+(真灯6+1D65)-多重詠唱4+痛打5=40 > 難易度20 ◎【生命の遣い手】効果により絶対成功(クリティカル)

 闇人リッチー呪文抵抗:基礎値23+2D621=26 抵抗貫通!

 ダメージ:4D61614+40+竜司祭Lv10+生命の遣い手2+巨大10=74

 

 合計 61+74=135ダメージ!!

 

 呪文使用回数(半竜娘):3 → 1

 

 

 

「『蛇發女怪龍(ゴルゴス)よ』!!!」

 

『GGGYYYYYAAAAAAA――!!?? AAAAHHHH――……‼? AARRRR……

 

 

 半竜娘の圧倒的な生命の息吹が、闇人リッチーが纏うマナも『死の呪い』も凌駕し、その負の生命を洗い流していきます!

 牙の攻撃でひび割れていた黒骨の身体はさらにひびが広がり、輝く粒子になって消滅していきます。

 その消えゆく身の内から、【聖光】で輝く2つの鏃が落ちて地面に転がりました。

 

 

 さあ! 長い冬をもたらさんとした黒幕に、天誅を下してやりました!

 我らの勝利です!

 お見事!

 

 

 あ、【加速(ヘイスト)】は用済みなので、主行動後の呪文維持判定のタイミングで維持を破棄しておきましょう。

 継戦カウンターがこのラウンドの終わりに+1されたときに、タイミング的に消耗が発生しますからね。

 【加速(ヘイスト)】を保ったままだと、2倍消耗してしまいますし。

 特に雪山の山頂付近なので、普通にしてても消耗は2つ貯まるくらい過酷ですし、そんな中で【加速(ヘイスト)】維持してたら一気にさらに倍の4点も消耗しちゃいますもの。

 

 ラウンド終了。継戦カウンター増加:4 → 5

 消耗発生! 高山・寒冷のため、消耗2倍。それぞれ消耗2点加算。

 

 半竜娘:0/16 → 2/16 消耗ランクゼロ(変化なし)

 森人探検家:3/16 → 5/16 消耗ランクゼロ(変化なし)

 TS圃人斥候:6/16 → 8/16 消耗ランクゼロ → 1(全判定-1ペナ)

 文庫神官:1/16 → 3/16 消耗ランクゼロ(変化なし)

 

 あら、さすがに武技を連発したせいか、TS圃人斥候の消耗ランクが上がりましたね。

 消耗ランクが上がったため、全判定に-1のペナルティです。

 

「うひー、さ、寒いぃいい……」

 

 まあ雪を巻き上げてその中を高速で突っ切れば、彼女(彼?)の小柄な身体ではそうもなるでしょう。

 唇を真っ青にして、身体をかき抱いてがちがちと歯の根を震わせています。

 

「はー。何とか完封できたのじゃ……」

 

 呪文遣いには手番を回さないに限ります。

 もし一度でも手番を回していれば、敵の死霊術【骸化(ゾンビーダンス)】によって一時的にアンデッド化されてからの死霊術【命令(コマンド)】のコンボで、胸糞悪い同士討ちを演じる羽目になっていたかもしれません。

 

「さてこれで今回の騒動は終わりっつーことでいいよな?」

 

「ああおそらくはそうじゃろう」

 

「――――、―――!!」 「―――! ―――!!」

 

 少し麓の方を見ると、森人探検家ちゃんと文庫神官ちゃんが、半竜娘ちゃんとTS圃人斥候の方へと大きく手を振り、何事かを呼び掛けています。

 

「風が強くてよく聞こえんな」

 

「ともかく合流しようぜ……寒くってたまらねえ」

 

「まあ待て、さっきの敵の折れた脚だの、【聖光(ホーリーライト)】のかかった鏃だの、念のため拾っとくのじゃ」

 

「そんなことよりおなかがすいたよ。圃人は1日5回食わなきゃ死ぬんだぞ」

 

「――!! ―――!!」 「――――!!!」

 

 相変わらず森人探検家ちゃんと文庫神官ちゃんが、声を届かせようとしています。

 ……なんか変ですね。あまりにも必死すぎます。

 

「なんか変じゃねーか? リーダー……ってのわああああああ???!」

 

「なんじゃああああ!!??」

 

 ズシン、と。

 

 半竜娘ちゃんとTS圃人斥候ちゃんの背後に着地するものあり。

 その着地の衝撃で吹き飛んできた雪や砂利を、2人はもろに浴びてしまいました。

 

『GGGIIIIGGAAASSSKKKEEELLLTTT!!!』

 

 落着地点で雄たけびを上げたのは、無数の骨が組み上がった白い巨大な骸骨――Lv6のアンデッド、飢者髑髏(ジャイアントスケルトン)です!

 他にも雑魚アンデッドが落ちてきていますが、2つの鏃に宿った【聖光】のおかげか、雑魚はすぐに蒸発するように浄化されています。

 

 というか飢者髑髏(ジャイアントスケルトン)も、すでにほとんど浄化されて崩れかけていますね。

 

「げっ、まだ上の冥府の砦は健在じゃねーか!!?」

 

「次々と落ちてきておるぞ!」

 

「こーゆーのは術者が死んだら解除されるのが定番だろ!?」

 

「あっ」

 

「……リーダー、何に気づいた?」

 

「いや、死んだら解除されるなら、最初に彼奴(きゃつ)がリッチー化したときに解除されとったはずじゃと思うてな」

 

「……そういやそーだな」

 

「うむ。であろう?」

 

「問題は、じゃあどうすりゃこの術が解除されるのかってーことだ」

 

「うむ。分からんな!」

 

「分からんな、じゃねーよ! しっかりしてくれよ、リーダー!」

 

「そうは言うてものう」

 

 半竜娘ちゃんの巨大化は継続しているのでTS圃人斥候はその肩へと向かって尻尾を伝って走っていきます。軽功のコツを応用しているのでしょう、その動きは軽やかです。

 彼女らも熟練の冒険者ですから、話しながらも落ちてくるアンデッドたちを避けて、時には尻尾や投矢で一撃入れて、少し降りたところにいる仲間たちの方へと向かいます。

 

「とにかくタンクとエルフパイセンの方と合流だな。見た感じ、山頂には術の楔になるようなアイテムもねーし」

 

「おそらくこことは別のところに補助の儀式場だの呪物だのが置かれておるのじゃろうな」

 

「リーダーならどこに置く?」

 

「まあ冥府を呼び出すなら、第一段階の儀式は()()()で行うのが筋じゃなかろうかの」

 

「あー、だよなー! ほんとあの闇人、底意地が悪いっつーか、用意周到っつーか……! 山頂から地の底ってどんだけ離れてると思ってんだよ!」

 

「お姉さま! 大丈夫ですか!?」

「おいこらタンク後輩! オイラの心配もしろ!」

 

 なんとか仲間たちと合流したものの、周囲のアンデッドたちは囲みを厚くしていきます。

 輝く2本の鏃が【聖光】によって近づくアンデッドに継続ダメージを与えて追い払いますが、山頂の寒風による消耗や、呪文使いの悪霊(ゴースト)なんかが増えてくればジリ貧です。

 

 それにこのまま冥府の砦との接続が途切れなければ、本当に冥府の女主人(ヘル)が降臨し、冥府が地上にぶちまけられてしまいます。

 

 四方世界の危機です――!!

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

▼△▼△▼△▼

 

 

1.ゴブリンの巣穴の底が冥府に繋がっていて冥府の番犬が襲ってきた件について

 

 ―― そのころ()()()

 

「『白亜の層に眠りし父祖らよ、背負いし時の重みにて、此れ為る物を道連れに』―― 【腐食(ラスト)】!」

 

 換羽のポーションで羽を生やした蜥蜴僧侶は元気溌剌。

 ゆるく合掌した手の内に触媒の竜の牙を収めて祝祷一つ。

 そうすれば竜の牙はしゅうしゅうと沸き立って腐食の霧へと変じて流れ、遠くに見える鎖を留める楔が刺さった岩盤を覆った。

 

 血で濡らしたような真っ赤な巨大犬―― 冥府の番犬(ガルム)―― の首輪から、長く伸びた鎖。

 そしてその長い鎖を途中で洞穴の壁に打ち付けた楔。

 ちょっとやそっとじゃ抜けるまいし、魔法の鎖と楔だから、いくら蜥蜴僧侶の術でも腐るまいが――

 

「ならば根本を腐らせればいい」

 

 ―― その楔が刺さった岩盤の方は、果たして腐食に耐えられるだろうか。

 

 ゴブリンスレイヤーの目論見通り、呪いの楔が刺さった岩盤は、蜥蜴僧侶の【腐食(ラスト)】の呪文がもたらした、恐るべき竜すら石にする雄大な時の重みに耐えかねてボロボロと崩れ始めた。

 

 冥府の番犬(ガルム)を現世に留める楔は、これで用を為さなくなった。

 あとは冥府の番犬(こいつ)をあるべき場所に帰してやるだけだ。

 

「やれ!」

 

「はい! 『いと慈悲深き地母神よ。闇に迷える番犬に、帰りの(しる)べをお示しください』――【聖光(ホーリーライト)】!」

 

『GYANN!!?』

 

 女神官の掲げた錫杖から放たれた光の奔流が、冥府の番犬(ガルム)の眼を()き。

 しかしそれと同時に地の底へと通じる洞穴を明るく照らした。

 あたかも帰り道を示すかのように。

 

「動きが止まったわ! 今なら!」

 

『GYAINN!?』

 

 すかさず妖精弓手が矢を放ち、足の止まった冥府の番犬(ガルム)の前足の甲を貫いて岩盤に縫い留めた。

 

「やりなさい鉱人(ドワーフ)!」

 

「わぁっとるわい! 『仕事だ仕事だ土精(ノーム)ども! 砂粒一粒、転がり廻せば石となる!』 石弾(ストーンブラスト)!!」

 

『GGYYAAOO!!??』

 

 鉱人道士の精霊術が土の精に働きかけ、それによって冥府の番犬(ガルム)は、己の前足が縫い留められた岩盤ごと浮き上がり、地の底へと続く洞穴の奥へ奥へと吹き飛んでいく。

 さらには周囲の崩れかけの岩盤もそのあとから殺到し、地の底へと続く穴を埋めていった。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

「うまくいったでしょうか……」

 

 残心する一党の中で、緊張に耐えかねて最初に声を出したのは女神官だった。

 

「ふうむ。どうやら戻っては来ぬ様子。帰巣本能―― というまでもなく鎖を辿って帰ったのでしょうな」

 

 あるいは主人が引き戻したか。

 崩れた瓦礫の奥で動きがないことを確認した蜥蜴僧侶が太鼓判を押した。

 

「……助かった」 小鬼殺しが礼を言った。仲間が来ねば、一人では荷が重い相手だった。

 

「ふふーん、貸し一つだからね、オルクボルグぅ。冒険1回!」

 

「かー、これだから金床はけち臭くてかなわんな。仲間を助けるのに貸し借りがあるかい」

 

「―― いや。分かった。冒険1回、だな」

 

「やたっ!」

 

 耳をピコンと跳ねさせて喜色を表す上の森人(ハイエルフ)

 

「それで、結局なんだったんでしょう、あの猛犬は……」

 

「さあ? でもなんかきっと悪いことよ!」

 

 

<『1.リッチーになる前の黒幕闇人「冥府から伸びる番犬(ガルム)の鎖。鎖を現世に留める呪いの楔。楔を守る冥府の番犬(ガルム)。これを以て現世に召喚した冥府の砦を繋ぎとめる触媒とする―― ヨシ! 我ながら完璧だな」』 了>

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

▼△▼△▼△▼

 

 

 あー、誰かなー、冥府を繋ぎとめてる楔をなー! 外してくれないかなー!

 

 とまあ嘆いても始まらないので、行動に移りましょう。

 

「こういう時は逃げるに限るぜー!!」

 

「【竜翼】のポーションはあるのじゃ! 【突撃】して敵中突破じゃ!」

 

「……海の底でも似たようなことしたわよね?」

 

「守りはお任せください!」

 

 ……巨大化した半竜娘ちゃんが『【竜翼】のポーション』で翼を生やして【突撃】を併用して飛んで逃げるみたいですね。

 残しててよかった呪文使用回数!(残り1)

 

 とまあ、その時間を稼ぐために、仲間たちが時間稼ぎをします。

 

「【聖光(ホーリーライト)】の維持は欠かせないのです。であれば、聖歌をうたうのです――『言葉は静謐の 光芒は無明の 生命は終端の内に在り 群青の空を往く鷹の如く』―― 【聖歌(ヒム)】、発動なのです~♪」

 

 白梟が高らかに知識神への讃歌を歌い上げると、同じ神を信仰する文庫神官ちゃんも高揚し、呪文行使と呪文維持に+2のボーナスです。

 これで【聖光】の維持が安定します。

 

『『『 GGGGOOOOAAAAAA……‼‼ 』』』

 

 讃美歌に触発されて強まった2重の【聖光(ホーリーライト)】が、空から落ちてきたアンデッドたちを灼き、塵に還していきます。

 

「助かります! これで―― 私はお姉さまを守る盾役に専念できます!!」

 

『GGGIIIAAIIINNNTT‼‼』

 

「ハァッ!」

 

 ――【楯の城(スキャドボルグ)】!*1

 

 全身の筋肉をいからせてどっしりと構えた文庫神官ちゃんが、【聖光】を受けても消滅しなかった巨大な飢者髑髏(ジャイアントスケルトン)の大剣の一撃を受け止めます。

 ダメージ値は5D641152で13……でしたが、盾受け成功により文庫神官ちゃんの装甲は21点までダメージを受け止めます。

 盾習熟や鎧習熟のおかげでカッチカチなんですわこの娘。

 当然、まるで全く通りません。

 

『GGGIIIAAIIINT‼??』

 

「軽い攻撃ですね―― では」

 

 しかも文庫神官ちゃんは武技【地功拳】も習得していますから、攻撃を受けてもまるで小揺(こゆ)るぎもしません。

 巨大な武器の攻撃を完全に受け殺している少女―― なんだか少し現実感がない光景です。

 

「―― 反撃です! 武技【盾打ち(シールドバッシュ)】!!」*2

 

『GGGIIIAA‼‼‼???』

 

 ドゴォッ、と巨岩が落ちたかのような音とともに盾ごとぶつかった文庫神官ちゃんが、飢者髑髏(ジャイアントスケルトン)を吹き飛ばしました!

 

「近づかせねえためにはこの術がちょうどいいな」

 闇竜娘が地面を勢いよく踏み付け、死霊術の力を解放します。

「『血は砂に、肉は石に、魂は塵に』――【地縛(アースバウンド)】!」*3

 

 崩れて散乱していたアンデッドたちの骨が霊体となって結合し、呪いの腕となって周囲の敵を掴んで地面に沈み込んでいきます!

 

「捕まえたぞ! これであとは待ってりゃあ勝手にホーリーライトに焼かれて死ぬって寸法だ!」

 

 地面に足を打ち付けたまま呪縛を保つ闇竜娘は得意げに哄笑します。

 

「ナイスだぜ、契約魔神(コントラクター)! 動かない的ならラクショー! 投矢銃(ダートガン)を喰らえ!」

 

「じゃあ私はあらかじめホーリーライトの射程外のやつを削っとこうかしらね。範囲に入ったらすぐ浄化されるように」

 

 TS圃人斥候ちゃんと森人探検家ちゃんは遠距離攻撃で削っていきます。

 

「……リーダー! まだか!? なんか大物が降りてきそーだぞ!」

 

 TS圃人斥候の言う通り、空中に逆さまに浮かぶ冥府の砦からは、真打登場とばかりにひときわ冷たい霊気を纏った騎士団が降りてこようとしています。

 さらにその奥には、死そのものといった気配がする、半分が死体のような巨人の女が出てこようとしているのが見えました。おそらくは冥府の女主人(ヘル)でしょうか。

 

「おう、待たせたな皆の衆! いけるのじゃ!」

 

 『【竜翼】のポーション』を飲んで腕を翼に変えた巨大化半竜娘ちゃんが、皆を乗せられるようにその身を屈めます。

 

「全員乗ったのじゃな?!」

 

「乗りました、お姉さま!」

 

 全員が乗り込んだことが確認できればすぐに離陸です!

 今にも冥府から死が溢れてこようとしています!

 

空に向かって【突撃】(テイクオフ)じゃ!!」

 

 そして半竜娘ちゃんら一党が、竜のオーラに包まれて離陸した直後。

 

 

 

 

 ZAAAAAP!!!!!!

 

 遥か彼方から飛来した光条が冥府の逆さ城へと突き刺さります!

 

 

「勇者見参!! 北風も冥府も、太陽の敵じゃない!!」

 

 

  ZAAAAAP!!!

    ZAAAAAP!!!

 ZAAAAAP!!!

   ZAAAAAP!!!

  ZAAAAAP!!!

    ZAAAAAP!!!

 

 

 (まばゆ)く輝く夜明けの一撃が次々と飛び、冥府の軍勢を押し返していきます!

 

 

 そうです、彼女こそが!

 四方世界の秩序の守護者!

 白金等級! 世界を救う者!

 

 ―― 超勇者ちゃんです!

 

 

 時を同じくして、冥府を繋ぎとめていた呪縛がどこかで解かれたのか、逆さまの冥府の砦が揺らぎ、薄れ始めます。

 

 

「よーし、押し込むぞーー! ふぉろーみー!」

 

「ああもう、そうやってすぐまたガバガバ突っ込む……!」 「それが結果最適解なのですから文句はいえませんが……」

 

 

 そして術の楔が外れたことで薄れゆく逆さ城へ向かって、超勇者ちゃん率いる賢者・剣聖の一党は空を飛んで突入します。

 何らかの術法で高速飛行して(上に落ちて)いるのか、超勇者ちゃんたちは半竜娘ちゃんたちと空中で擦れ違いました。

 擦れ違いざまにアイコンタクト。

 

 ――任せたのじゃ!

 ――まかせて!

 

 超勇者ちゃんたちが冥府の者へとお灸を据えにいったのですから、きっともう二度と冥府の者たちも地上に出てこようとは思えなくなることでしょう。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 半竜娘ちゃん一行は超スピードで飛行して離れていっていたため、その後の顛末を(つまび)らかに見たわけではないのですが、やがて一帯を覆っていた冥府の冷気が晴れたことで、事件が解決したことを悟りました。さす勇。

 

「一件落着じゃな!」

 

 シナリオクリア!

 長い冬の陰謀を阻止した!

 経験点2000点、成長点5点獲得!

 文庫神官は冒険者Lv6 → 7に成長! 追加成長点25点獲得!

 

 というところで今回はここまで!

 ではまた次回!

 

*1
武技【楯の城(スキャドボルグ)】:盾受け時の参照パラメーターを技量集中から体力持久に変更する常時発動型のマッチョな武技。文庫神官ちゃんの場合、技量集中3→体力持久9ということで、指輪の効果込みだが6もアップする。

*2
武技【盾打ち(シールドバッシュ)】:敵に盾を打ち付けて怯ませる武技。成功すると『盾の盾受け値の1/2+【盾】技能補正値』の装甲貫通ダメージを与える。文庫神官ちゃんの場合、(魔法の騎士盾の盾受け値6×1/2+【盾】2)で5点のダメージを与える。

*3
死霊術【地縛(アースバウンド)】:一定範囲内の地面に魂を縛る呪縛をかけ、そこを通過するものを引きずり倒します。




 
サプリ要素たくさん盛り込むの楽しかったです(小並感)

===

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https://ga.sbcr.jp/bunko_blog/cat381/20210616/

予約しよう!(ダイマ)

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35/n 裏-4(雪の魔女の末路・下山して街にて・奇跡の島へ)

 
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●前話
闇人リッチー(昇天中)『うおおおお!? 御光臨いただいたヘル様にヨシヨシしてもらってバブってオギャるつもりだったのにぃいいい!? 放せ天使(ヴァルキリー)!! せめて冥府に……!』
天使(ヴァルキリー)『だめでーす。戦いの最中(さなか)に命を落とした戦士はこちらの管轄でーす。一名様ごあんなーい♪』
闇人リッチー『ちくしょうめええええ!!!』(天に召される)
 


 

1.彼らの世知辛(セチガラ)修行事情

 

 

 雪山を行く冒険者一党。

 彼らは伝説的な圃人の斥候である “忍びの者” に稽古をつけてもらっている幸運な―― 幸運な?―― 一党である。

 

 メンバーは――

 ―― 田舎から出てきたという鉢巻き(鉢金)を巻いた青年剣士、

 ―― その幼馴染の女武闘家、

 ―― 都の学院を優良成績で卒業したというつり目で眼鏡の女魔法使い、

 ―― その弟で飛び級するくらいに優秀でシスコンな少年魔術師、

 ―― そして小柄な体躯に剣を携えた圃人の少女剣士、

 ―――― その5人だ。

 

 今は師匠から言いつけられた、客人たち―― 太陽のような笑顔の少女・凛とした女武人・ミステリアスなフードの魔術師の3人―― の案内を終えたところだ。

 とはいっても、実際は客人たちは案内途中で山頂で起きた異変を察知すると、何かの術法であっという間に空を()けていってしまった。

 

 遠くに見える光条は、ひょっとするとあの客人らによるものだろうか。

 だとすればなんと遠い(いただき)か。

 “忍びの者” ほどの者に案内の筋道をつけるように依頼できるくらいだから、恐らくは非常に高位の冒険者か、あるいは王室か貴族のお抱えかなのだろうが、自分たちがあの領域に辿り着ける日は来るのかと思ってしまう。

 

「「「「「 ………… 」」」」」

 

 思わず言葉少なになるのは、山の頂上に見えるおぞましい気配のするひっくり返った天空大地の幻影―― 幻影ではないのかもしれないがそうだとすればなおさら恐ろしいので幻影ということにする―― から吹き下ろされる死の冷気によるものだけではない。

 それぞれの胸の(うち)では、どのようにすればあれほどの高みに登れるのかという思いが渦巻いていた。

 あるいはそのために、彼らの師匠である “忍びの者” は今回、あの太陽の少女らの道案内を青年剣士ら一党に任せたのかもしれない。

 

 冒険者の頂点を見せるために。

 

 

「……まあそれはそれとして」

 

「ああ」

 

「そろそろマズいですよね~」

 

「……ああ」

 

 冬の雪山に籠って、四方世界でも上位に入る凄腕の斥候である “忍びの者” から教練を受けて……。

 古今東西の武道の奥義のなかから自分に合うものを伝授され、高位の呪文やマイナーな呪文を教授され。

 さてお幾らかかるでしょう?(H o w m u c h ?) というわけで。

 

 頭目を任されている青年剣士は頭痛を和らげるように眉間を揉み解した。

 

「ここらで金策しとかないと、最悪冬山で師匠から放り出されかねないぜ」

 

「分かってる……だが、()てがなあ」

 

 赤毛の少年魔術師の危惧も分かるが、解決策は……となると……。

 

「さっきのお客人のおこぼれ狙い、というのも無くはないんじゃ?」

 

「それはどうかしらね。おこぼれだとしても、私たちの手に負えるとは限らないわけだし」

 

 女武闘家のアイディアに、しかし女魔法使いが難色を示す。

 悪くないアイディアだが実力が隔絶しすぎていてうまくおこぼれを拾えるかというと、リスキーだ。

 客人たち(超勇者一党)が一振りで滅ぼすことができる敵でも、自分たちでは死力を尽くして戦わなくてはならない相手かもしれない。

 

「はーあ。都合よく全身が良い値段で売れる素材になるような、そんな怪物(モンスター)が出てこないですかね~」

 

 できれば私たちが勝てるくらいに弱った状態で。と都合のいいことを言うのは圃人の少女剣士。

 

「そう都合よくいくわけねーって」

 

「なによー。言うだけなら自由でしょ?」

 

 少年魔術師が半目で圃人の少女剣士の妄言を一蹴する。

 そしてかじかむ手をすり合わせて、歩行補助にしている杖を握りなおした。

 

 圃人の少女剣士は唇を尖らせて重ねて言う。

 

「そうね、例えば吸血鬼とか。死霊術師に全身の素材が売れるらしいじゃない?」

 

「はあ。……まー、確かになー。首だけでも生きてられるっていうし、魔眼持ちなら抉り出してしかるべき筋に流せば良い値がつくだろうさ」

 

 溜息一つ。少年魔術師は、圃人の少女剣士の妄言に乗ってやることにしたらしい。

 なんだかんだで付き合いが良いのは、彼の美点の一つだった。

 

「だがなあ、問題はそんなしかるべき筋なんてとこに伝手はねーってことと、そもそも正真正銘の吸血鬼相手にそんな素材を確保するような余裕があるわけねーってことだよ」

 

「分かってるってばー。いいじゃん最後まで乗ってくれてもさー。……伝手については現物払いってことで師匠に売り払えば良いんだし」

 

「えー、9割持ってくだろ、あの人」

 

 鬼師匠のがめつさを思って、少年魔術師がげんなりした顔をした。

 つられて少女剣士も同じような顔をした。おっしょさんならやりかねない。

 

「あとそもそも俺らで勝てるかって問題が解決してない。……吸血鬼だぞ? 術の名手で、鬼の名を冠するだけあって怪力剛力で、殺しても生まれた土地の土の中から復活するとかいうし、個体によっては強力な特殊能力持ちだっていう、アンデッドの中のアンデッド……」

 

「じゃあどのくらいまで弱ってたら勝てるっていうのー?」

 

「そうだな……」

 

 思案する少年魔術師。

 

「例えば、何かの事情で―― 高位の奇跡の余波とか特殊な術とか?―― で大きな傷を負って力を消耗した状態で固定されたまま、やられた吸血鬼がいたとして」

 

「ふむふむ」

 

「そいつが復活したてで態勢が整わないところを奇襲して押し切れば、何とかなる可能性も……? 復活回数を消費してれば逃がすこともねぇし、弱体化の程度にもよるだろうけど、まだ目があるんじゃねぇかな」

 

 あとはこっちが銀や真銀(ミスリル)の装備を持ってるかとかにも()るだろうけど、と続けて、ふと周りにいる年長の仲間たちが静かに緊張を高めていることに気づいた。

 

「え、みんなどうしたんです?」

 

「しっ」

 

 圃人の少女剣士の暢気な声に、女武闘家が静かにするようにとゼスチャーを返した。

 そして行く先に見える窪地を指さした。

 

「……なんかいる……」

 

 窪地の中央、白く、白く、白い人形(ヒトガタ)があった。

 女の形をしたものだ。

 だが()()()()。吹雪いた窪地の中で、まるで別のテクスチャを雑に張り付けたかのようにその存在が浮いている。

 

「ちっ、だいぶ力を失っちまったよ……。まさかあんな小娘(女神官)があたしの【魅了の魔眼】に抵抗してくるとは。だが完全に滅んでさえいなければどうとでもなる。何百年か前に至高神の坊さんに封印された時と同じさ、少しずつ力を蓄えればいい。白銀の矢に塗った魔法の薬のレシピが不完全だったんだろうさ、適当に混ぜただけで十全の効果が出るものか。もし薬が完全だったら、ここで復活も出来ずに完全に滅んじまうところだったが、なんとかなったか……」

 

 耳を澄ますと、そのように、かすかにその女の形をしたものが漏らした独り言が聞こえた。

 

 

 

 それを聞いた青年剣士ら一党が、顔を見合わせた。

 

 “何らかの特効の薬で弱って消耗した”

 “復活したての魔眼持ちの吸血鬼”

 “しかもこちらに気づいていない”

 

 ―― おあつらえ向きでは?

 

 そして次の瞬間には既に魔術師姉弟は呪文の詠唱を始めており、それぞれに必中の【力矢】の連射の準備を整えていた。

 女武道家はかつて郷里で父から伝授され、最近の師匠との修行で開花した、特殊な呼吸法(武技【転龍調息】)により肉体に太陽の息吹を駆け巡らせた。*1

 青年剣士と少女剣士の武器組もそれぞれに得物を構えて突っ込む準備はできている。

 

 即応して態勢を整えられたのは、厳しい修行の賜物に違いなかった。

 

 狩って剥ぎ取る(ハック&スラッシュ)―― 冒険者の本懐である。

 

「やるぞ」

 

「やりましょう」

 

 そういうことになった。

 

 

<『1.弱り目に祟り目、あるいは棚から牡丹餅』 了>

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

▼△▼△▼△▼

 

 

2.一方、金満冒険者

 

 

 ―― 運よく弱った吸血鬼に遭遇した青年剣士一党は【魅了の魔眼】の他、吸血鬼素材を手に入れた。

 それはすぐあとに彼らの師匠に売却され。

 その師匠はそのうちの一部を半竜娘一党に売りつけることにした。

 

 

「よーう、半竜の」

 

 どこからともなく忍びの者が、下山する半竜娘一党の前に現れた。

 

「なんじゃ。……修行の追加料金なら払わんぞ?」

 

「そっちこそ後から難癖付けてくんじゃねぇぞ? っと、そうじゃねえ、おい、これなーんだ?」

 

 ニヤリと笑う忍びの者がどこからともなく取り出したのは、精巧な目玉の形の石。

 

「それは……」

 

 目聡(めざと)い半竜娘はそれが何か気づいたようだ。

 

「ご明察、魅了の魔眼だァ。【石化】の術で石にしてあるがな」

 

「ほう」

 

「テメエは石喰いなんだってなァ? 魅了の術の籠った石化した魔眼……要るか?」

 

「ぬぅ……」

 

 半竜娘のコレクター魂がうずきます。

 【胃石(ベゾアール)】の術の応用で、半竜娘は力のこもった石から、その効果を己の身に吸収することができるので、戦力アップにも繋がりますし。

 

「あー、要らねえなら良いんだ、良いんだ。邪魔したな。あーあー、折角の出物(でもの)だっつのになー、あー、残念残念」

 

 と、逡巡した半竜娘を置いて、忍びの者は去ろうとします。

 

「あいや待たれい!」

 

(かかった!)

 

 忍びの者が口角を吊り上げました。

 

 ……お買い上げです。―― まいどありー。

 

 

 半竜娘は祖竜術【胃石(ベゾアール)】の応用で、『石化した魅了の魔眼』を吸収した。

 半竜娘は真言呪文【魅了(カリスマ)】を習得した。*2

 

 

<『2.金庫番たる森人探検家「グギギギギ、全員の武技習得、呪文入れ替えの修行のスペシャルコースに、石化した魔眼……まさかあのクソ師匠にこんだけ貢ぐ羽目になるとは……! ぐぬぬぬぬっ!」』 了>

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

▼△▼△▼△▼

 

 

 

3.Q:魔神を街に引き入れた者はどうなるでしょう?

 

 

 A: 衛兵「「「 スタァァァァァップ!!!! 」」」

 

 

 魔神の手引きをしたら、混沌誘致罪とかそういう(カド)衛視隊(ガード)に拘束される。

 残念でもなく当然の仕儀だ。

 

 そうなれば冒険者の等級の昇級も遅れる……どころか、冒険者証そのものを剥奪されかねない。

 そして違法な戦力を運用する者は、やがては都市の影に堕ち、影を走るよう(シャドウランナー)になる。

 

 

 というわけで街に帰ってきた半竜娘は、そうならないように相談に来ていた。

 封具(竜牙のネックレス)の中に入れた闇竜娘(ダークドラコ)が目撃されないように、または目撃されてもいいようにするために、知恵を借りに。

 

 どこへ、というと……。

 魔神契約にも詳しいだろう人物―― ウィッチの先達、銀等級の魔女のところへ、だ。

 

「あ ら。いら っし ゃ……い」

 

「邪魔するのじゃー」

 

 半竜娘の巨体が、かつて下宿していた魔女の家の扉を窮屈そうに潜り抜ける。

 1年と少し前の収穫祭で分身体を吸収して巨大化したときに、生活スペースの問題でここの下宿は引き払ったのだ。

 魔女のような知識豊富な先達と毎日魔術談義できる機会を無くすのは惜しかったが、一党全員で住める工房屋敷を建築して暮らすようになったので、差し引きそれほど悪くはないだろう。

 

 魔女とも完全に没交渉になったわけでもなく。

 彼女が街外れの半竜娘ら一党の工房屋敷まで、街中では難しい実験をやりにきたり。

 半竜娘の興行に合わせて火吹き山の闘技場併設の大図書館へと一緒に行ったりで、接点はある。

 

「な るほど、ね」

 

 魔女が厚い唇に煙管(キセル)を咥え、蠱惑的に煙を吹いた。

 

「……じゃあ、ま ずは……その()との、契約 内容の 検討 から、かしら」

 

「そうじゃの。魔神契約書(Deal with the Devil)はここに」

 

「拝見す るわ、ね」

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 闇竜娘(ダークドラコ)との契約内容は、ざっくり言うと2つ。

 

『半竜娘の死後に肉体と魂の所有権を闇竜娘に移すことを担保に、契約を結ぶこと』

 

『定期的に他の魔神の魂を喰わせることを対価に、半竜娘に従うこと』

 

 違反時の罰則条項や禁止事項などの細かいものはたくさんあるが、概ねこの2点を理解していれば良い。

 まあ、入会費と年会費、みたいな理解でいいだろう。

 戦闘狂な魔神を相手にした契約のテンプレートに近い。

 

「食べ させ る、魔神、の 調達、は?」

 

「それは死体を媒介にして、死霊術の【魔神(サモンデーモン)】で調達するつもりじゃ」

 

「死体、は?」

 

「ふぅむ。小鬼の巣でも潰して調達するつもりじゃが」

 

 どうせ喰わせるためだけに召喚する魔神なら、その程度の怪物の死体を素材にするのでも十分。

 

 しかし魔女は溜息をついた。

 もし今後も死人占い師(ネクロマンサー)としてやっていくなら、もっと上等な死体の調達先を知っておいて損はない。

 また、万が一にも闇竜娘の餌として召喚した魔神を逃がすわけにもいかないから、結界用の魔法陣だとかの知識も必要だ。

 

 そして、それを紹介するのは、先達の役目。

 

 闇竜娘(ダークドラコ)魔女集会(サバト)でお披露目する根回しが必要だろうし。

 ―― Lv8の魔神(闇竜娘)はサバトの他のメンバーの契約魔神の中でも上位の位階なはず。上手くやらないと序列にこだわる一部のメンバーが反発して血を見る羽目になりかねない……。

 

「……? 手前の顔になんかついとるかの?」

 

「はぁ……」

 

「いきなり溜息つかれると流石に傷つくんじゃが!?」

 

 半竜娘の場合、むしろこれ幸いと嬉々として積極的に喧嘩を売って他のメンバーの契約魔神を自分の契約魔神(闇竜娘)のエサにしかねない……。

 冒険者ギルドや治安当局に “明かす” か “隠す” か、明かすならばどのように話を持っていくかも考えなければ。

 どうやら闇竜娘(ダークドラコ)人に化けられる(角や羽を隠せる)ようだから、隠す方向でもいけるだろうが、【邪悪感知(センスイーヴィル)】が怖いし……。

 万が一にも、デーモン飼ってるのが意図しない形でバレたのが切っ掛けで、半竜娘が混沌側に転ぶようなことが無いようにしないと……。

 

 

<『3.半竜娘ちゃん「まあ最悪バレたら火吹き山に拠点を移せば良いしのう」(※なお拠点移動により【辺境四天王】の称号が獲得不能になるので再走案件になる模様)』 了>

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

▼△▼△▼△▼

 

 

 

4.うさぎ おいし かのやま

 

 

 “新米” を脱した棍棒剣士と “見習” が取れた至高神の聖女が、ゴブスレ一党(ゴブスレさん不在)と協力して、山奥の兎人(ササカ)の村を救って。

 彼らの助力を受けて、見事に村の怨敵たる“雪の魔女”に、文字通りに一矢報いた白兎猟兵はというと。

 その恩義に報い外の世界を見るために、村に残る父母、弟妹達に別れを告げ、棍棒剣士の一党に加わった。

 

 村の食糧危機は、白兎猟兵の父―― 兎人猟師―― を雪男の(アギト)から救ってくれたという半竜の一党が放出してくれた物資で何とかなった。

 しかし、あれだけの物資を持ち歩いているとは、行商人か何かなのかと問うてみれば、実際行商人でもあるのだという。

 

 そして後顧の憂いなく山を下りて。

 人の波と石の街に目を白黒させ。

 街の料理に舌鼓を打ち。

 いくつかテンプレートな冒険をこなして棍棒剣士と至高神の聖女、仲間たちとの連携を深め。

 街での暮らしにも慣れたころ。

 

「……ッ!?」

 

 白兎猟兵は冒険者ギルドの酒場で、急な悪寒を感じて毛を逆立たせ、首筋の後ろに手をやった。

 

「? どした?」

 

「い、いやぁ、最近なんか、こう、視線を感じるんですゎ……」

 

 棍棒剣士の問いに答えつつ、白兎猟兵が耳をピコピコ、視線をきょろきょろ、死角を潰すように巡らせる。

 

「街中で? 兎耳が珍しいから、とか?」

 

「そういう視線は、最近減ってきたんですけどねぇ……」

 

 至高神の聖女の言う好奇の視線は、街に来たばかりはともかく、既に馴染んできた最近は減っている。

 

「むしろこう、捕食者に狙われる的な……」

 

 

<『4.幼竜娘三姉妹「「「 うさぎさんだー。じゅるり…… 」」」 白梟使徒「くっ、どうしてもあの兎耳と兎尻尾を目で追ってしまうのです……っ!」』 了>

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

▼△▼△▼△▼

 

 

 

5.奇跡の島へ

 

 

 半竜娘は、鮫歯木剣(テルビューチェ)の蜥蜴戦士、そして叔父である蜥蜴僧侶とともに酒場の卓を囲んでいた。

 知己を得た蜥蜴人同士の交流会だ。

 ちなみにまだ寒い日が続くため、蜥蜴僧侶と鮫歯木剣の蜥蜴戦士は【『換羽』のポーション】で羽毛を生やしたままだ。

 

「羽毛は羽毛で案外手入れの手間がかかるんだな。油塗らなきゃボサボサになっちまうし」

 

「そういう割には艶々ではないかの」

 

「だろぉ?? うちの(交易侍祭)が塗ってくれてなあ! これがまた気持ちいいんだわ、羽繕いってやつか? 少しずつ鳥人の気持ちも分かってきたかもな」

 

「ほう、なるほどのう。自分で塗っとるのではないと思うとったが、だから背中まで艶々なのじゃな」

 

「尼さんに融通してもらったあのポーションのおかげで、今年の冬は(ぬく)たく過ごさせてもらってるぜ。というわけで感謝の一献だー、もっと呑めー」

 

「おう、かたじけない。……そういえば叔父貴殿も羽の艶は良いようじゃが、誰ぞかに油を塗ってもらっておるのかの。なんぞ蠱惑的な匂いもするし、特別な油かや?」

 

 半竜娘の問いに、チーズを丸かじりしていた蜥蜴僧侶が目をぐるりと廻して答える。

 

「んむんむ。甘露! そうですなあ、このあいだ、鳥人の女性(にょしょう)から小瓶に入った油をいただきましてな」

 

「……あっ(察し)。どおりで蠱惑的な匂いが……」*3

 

「おっ、そしたらその鳥人の娘に塗ってもらってんのか? 坊さんも隅に置けねえな」

 

「いや流石に戦士としては、よく知らぬ女性(にょしょう)に背中を預けるわけにもいかぬのでしてな」

 

「ああ、まあそれは分かる。俺も今の連れ以外には塗らせる気にはならねーな。……ん? そしたら誰に塗ってもらってるんだ?」

 

「それが見かねた野伏殿が塗ってくれましてな」

 

「あー、あの上の森人(ハイエルフ)の。まあ戦友ならそもそも背中を預けることもあるし、あの美貌なら男冥利に尽きるってもんだな」

 

「ハハハ」

 

「(深く考えると鳥人と叔父貴殿と野伏殿で、えらく倒錯的な三角関係になっておるような気がするのじゃが……いや、深く考えるまい)」

 

 などなど愚にもつかぬ話をする中で、話題は移り変わり。

 

「あー、そういや坊さんと尼さんは知ってるか? “奇跡の島” の話」

 

「いや寡聞にして。しかし “奇跡” とは大仰な名前ですなあ」

 

「手前も知らんのじゃ。中身を聞けば思い当たるかもしれぬが」

 

「んじゃ詳しく話すか」

 

 そういって鮫歯木剣の蜥蜴戦士が開陳するところによると。

 

 とある遺跡の転移装置がつながる先の南海の密林にて、“恐るべき竜” を復活させる試みが進んでいるのだという。

 

「“恐るべき竜の下に集え” だとよ。つっても聞いたのは少し前だし、そのわりには “恐るべき竜” が世を席巻したなんて話も聞かねえし、おおかた与太話だったんだろうよ」

 

「ふぅむ。本当であれば拙僧も一度参じてみても良ぉございましょうが、その遺跡まで少し遠いですなあ」

 

「興味深いのじゃ。その程度の遠方であれば十分に圏内じゃし、転移先が密林というのも良いのう。春になるまでそちらでバカンスも良さそうじゃな」

 

 半竜娘は乗り気だ。

 次の目的地は決まったようだ。

 

 

<『5.ジュラシックな島でバカンスを』 了>

 

*1
武技【転龍調息】:波紋法、サンライトイエローオーバードライブ! 的なやつ。あるいは“全集中、水の呼吸!”でも可。もちろんネーミングの元ネタは北斗神拳、転龍呼吸法からだと思われるので、筋肉が膨れ上がって服を破く演出をしてもいい。この武技は消耗を一段階軽減し、気により肉体を「銀製の魔法武器」の扱いにするが、使用時に反動ダメージがある。

*2
真言呪文【魅了(カリスマ)】:前はTS圃人斥候が覚えていたが、そっちはリビルド時の呪文入れ替えで忘れている。魅了の魔眼そのものを移植するルートも考えたが、蜥蜴人は多分自分の肉体のパーツをあんまり入れ替えたがらないだろうなぁと思ったので没に。

*3
蠱惑的な匂いのする鳥人特製の油小瓶:おそらくは雌の鳥人が自前の尾脂腺から採取した脂をベースに調合したものと思われる。半竜娘ちゃんが感じた匂い的には発情してるっぽい蠱惑的な香り。蜥蜴僧侶さん、イケメンだからね。潮? さてねえ……。




 
次はゲームマスタリーマガジンVOL.10(p.71)に掲載されたシナリオ「爬虫帝国(レプティリアン)の野望」……がもう終わっちゃったあとの舞台に、半竜娘ちゃんたち一行がお邪魔する話です。当該シナリオのネタバレがありうるのでご注意ください。
(原作9巻(雪の魔女、晩冬)と原作10巻(葡萄畑を巡る陰謀、初夏)は季節一つ分の時間が空くんですよね。試しにGMマガジンのシナリオと絡めて一つやってみます)

===

実は当初のプロットだと原作小説9巻編のクライマックスは、森人探検家ちゃんの悲願である師匠との対決の予定だったのですが、サプリの導入のためにお流れに。……また今度ね。

===

ご評価ご感想、いつも大変励みになっております! あな嬉しや! ますます精進します!
 


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36/n 奇跡の島-1(避寒して南海バカンス)(キャラシ掲載)

 
みなさまいつも閲覧、ご評価、お気に入り登録、誤字報告、ここ好きタップ、そして感想ご記入も、ありがとうございます!

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●前話
 いざゆかん、奇跡の島へ! 恐竜たちが君を待ってる……かも?

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※ゲームマスタリーマガジンVOL.10(p.71)に掲載されたゴブスレTRPGシナリオ「爬虫帝国(レプティリアン)の野望」のネタバレがあるかも、いえ、ありますのでご留意ください。
 


 

 はいどーも!

 

 長い冬は去りつつあるもののまだまだ寒いので南海の孤島へ行く実況、はーじまーるよー!

 

 前回は氷期到来を阻止し、冥府降臨も阻止したところまででしたね。

 経験点が入ったおかげか、みんな少し成長したみたいです。

 あ、全体のキャラシは長いのでいつもの如く別枠にしますね。とりあえず成長分だけ報告です。

 

 

 

 

 半竜娘ちゃんは斥候をLv2 → Lv3にして武技【地功拳】を取得(経験点1500点消費)。

 露骨に祖竜術【突撃】の事故対策してきましたね。

 まあ実際、前回かなり危なかったので至当でしょう。

 

 

 森人探検家ちゃんは特に変化なし。

 野伏Lvを10にするために経験点を温存します。

 彼女は弓兵としてほぼ一点突破で潔いステなので接近されると脆かった(野伏は回避も盾受けも職業Lvが乗らない)のですが、実は弓矢を使った近接防御用の武技を取得したことでそれを補えるようになりまして、安定性がかなり上がってます。

 

 

 TS圃人斥候ちゃんは、武道家Lv2 → Lv3、野伏Lv2 → Lv3に伸ばしました(経験点3000点消費)。

 こっちはあからさまにわかりやすく武技習得狙いの平たいレベル上げ……。

 これにより武技を2つ追加で、【(たわ)め切り】と【鬼走(おにばしり)】を追加。切りかかられた時の機会攻撃(カウンター)と、大跳躍による対空攻撃(ジャンプ斬り)ですね。

 他にも【二刀流】(初歩)技能で手数を増やし、【統率】(習熟)技能で味方の行動順を引き上げたりできるようになりました。

 また二刀流で盾攻撃したときに出血の状態異常を与えやすいように吊盾(タージェ)の縁を研いで斬属性を付与しています。ゴブスレ流ですね。

 

 

 文庫神官ちゃんは、神官Lv6 → Lv7に上げました(経験点5000点消費)。

 新たに賜った術は高位の奇跡【治療(リフレッシュ)】。自己再生型のタンクが捗りますね。

 前回冒険者Lvが上がって成長点の追加獲得があったので、防御関連技能【鎧】【盾】【堅牢】もそれぞれ熟練段階(第3段階)まで伸ばし、さらに固くなりました。盾受け時の出目が良ければ、『魔法の胴鎧7+ミスリル鎖帷子3+魔法の騎士盾6+【盾】技能3+【鎧】技能3+【堅牢】技能のボーナス2』で最大25点までのダメージをカットできます!

 【護衛】技能で仲間も守れるし、武技【呪文偏向】で呪文も盾で受けられるので、魔法による範囲攻撃からパーティを守ることも可能。これはもうパラディンを名乗っても良いのでは?

 また、使徒の白梟ちゃんも文庫神官ちゃんの冒険者Lv上昇に伴い連動して成長しました。

 

 

 はい、成長報告は以上です。

 

 

 

 いまは皆で熱帯の孤島につながる転移門(ゲート)があるという遺跡に向かっているところです。

 半竜娘ちゃんが蜥蜴人のコミュニティに流れる情報を拾ってきてくれたので、避寒(ひかん)も兼ねてその熱帯の孤島 “奇跡の島” へと遠征することに相成りました。

 

「楽しみじゃのう! 祖竜そのものを復活させたのではなくとも、それを謳い文句に出来るくらいの何かはあったのじゃろうし」

 

「「「 ばかんす、ばかんす♪ 」」」

 

 今回は前の雪山と違って蜥蜴人に優しい熱帯へのバカンスなので、幼竜娘三姉妹も一緒です。

 三人そろって麒麟竜馬が曳く馬車からぴょんっと降りて、くるくる輪になって回りだしました。

 よっぽど楽しみだったのでしょう。バカンスが、ではなく、半竜娘ちゃん(おかあさま)とのお出かけが、かもしれませんが。

 

 なお麒麟竜馬には悪いですが、このまま半竜娘ちゃんの【分身】を御者に据えて来た道を戻ってもらいます。

 転移先は塔の上らしいので、馬車は持ち込めなさそうなのですよね。

 

「まー、騒動も終わってるみてーだから、ふつーにバカンスになるだろ」

 

 TS圃人斥候の言う通り。

 これから遺跡の転移装置で向かう島は、既に別の冒険者によって攻略済み。

 近場の冒険者ギルドでTS圃人斥候が確認したところによれば、森人の竜司祭に扮した闇人が “祖竜の復活” をネタに蜥蜴人を集めて混沌の軍勢を組織しようとしていたのだとか。

 

「転移の遺跡自体も珍しいものですから、見るのが楽しみです!」

 

 わたし気になります! と未知のものに目がない好奇心の権化たる文庫神官が、盾の裏から帳面を取り出して目を輝かせています。

 

「それに “祖竜のようなもの” は実際に出たそうじゃないですか。転移先の島のその “再生装置” も是非とも記録しなくてはですね!」

 

 知識神の文庫からそういう依頼を受けてきたのか、文庫神官は遺跡までの細道を歩く途中、道の脇に転がっている石のようなものへと近づきます。

 文庫神官の鎧の肩に追加で張った革と綿入れに(つか)まらせた白梟使徒が、バランスを保つために一瞬バサッと翼を打ちました。

 

 ごめんごめん、と白梟使徒に謝りながら観察する先には、周囲と風合いが違うものが。

 若干雪をかぶった()()は干からびた巨大な蜥蜴のような、竜のような、そんな形をした石のような灰色の大きな物体です。

 文庫神官に合わせて幼竜娘三姉妹もその竜のミイラのような大石に近づいてしげしげと眺めます。

 

「「「 お~~~ 」」」

 

「意外と大きいですね。3人寝っ転がったくらいの体長……確か、小竜(ディロフォ)というのでしたっけ、お姉さま」

 

「うむ、そうじゃ。特徴は一致しておるな。かつては毒を吐き襟巻のような飾りを持つと伝えられておったが……その字名(アザナ)も昔の名残じゃな。小さい体じゃと思われておったのじゃ」

 

「ふむふむ。首に襟巻(エリマキ)はないですが、トサカが一組……なるほど、特徴的ですね」

 

 蜥蜴人の伝承もメモしつつ、合わせて素早くスケッチをしていく文庫神官。

 いつの間にか画板を取り出して首からかけています。

 

「……向こうの遺跡から転移すると、こっちでは石になっちゃうって情報は本当だったのね」

 

 遠巻きに眺めるのは森人探検家。

 どこか値踏みするような商人の目つきです。

 

「となると、本当に復活させたのではなくて、遺跡の力で生かされてる何らかの魔法生物に近いのかしら。だから力が及ばないこちら側では活動不能に?」

 

「そうかもしれんのう。寒さにやられた可能性もあるが……。いやしかし紛い物という話じゃが、これはかなり真に迫っておるな! この小竜(ディロフォ)のミイラ化石を見れただけでもここまで来た甲斐はあったのじゃ!」

 

「交易神殿からは、もし商売のネタになるものがあったなら報告しろって言われてるんだけど……これの一部を削って “竜の粉” とか言って滋養強壮の薬と売り出すだけでもいけそうね」

 

「祖竜の偉大さを伝えるためにこういった標本を携えて巡業するとかもいいと思うのじゃ」

 

「見世物にしちゃっても良いの?」

 

「構わんさ。ただ、最後には手前の生まれ故郷にでも持って行って廟という名の陳列館を立ててほしいかの。その途上で偉大なる祖竜の威容を只人らにも広めるのは良かろうて、真の支配者であった祖竜への畏れを新たにさせるためにも、のぅ」

 

 その日人類は思い出した……太古の昔に支配していた大いなる竜の恐怖を。

 血の螺旋に刻まれた、根源的な畏怖を……!

 みたいな効果を狙いたいわけですね。

 

「ふーん。まあ、それならそれでもいいけど。この遺跡の用地と転移先の島丸ごと買収して、そういう祖竜の姿を見れる施設にしようって話もあるみたいだし」

 

「ふぅむ。そうなる前に手前らの部族に掛け合って先に押さえるべきかや。いや、軽銀商会の方が良いかの」

 

「意外と穏当で文化的ね」

 

「とはいえ、どこぞの誰が押さえたところで、手前ら蜥蜴人がそれに従ういわれも無し。結局は普通に押し入ればいいだけじゃから不要かの」

 

「あらやだ蛮族」

 

 などと言い合いながら遺跡の中に入ります。

 石造りの遺跡の中には、転移門だと思われる魔法陣がありました。情報通りです。

 ただ、少し前までひっきりなしに蜥蜴人が訪れていたであろう玄室は、今は閑散としています。

 

「では、いざ行かん。“奇跡の島” へ!!」

 

 あらかじめ蜥蜴人コミュニティから情報を得ていた転移の合言葉をごにょごにょっと唱えると―― 半竜娘一党はその場から姿を消したのでした。

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

▼△▼△▼△▼

 

 

 

「ぷわっ」

 

 転移した一党を歓迎したのは、熱帯の分厚く重い大気でした。

 まるで劇場の緞帳にぶつかったかのように重厚な湿った暑い空気が彼女らの目鼻を塞ぎます。

 

 しかし転移先は高所にあるのか、さぁっと流れた風が、一瞬前までの濃い大気の印象を塗り替えました。

 

「わぁっ……! お姉さま! 見てください!」

 

 高い空。遥かに広がる紺碧の海。水平線では空と海が境界を無くす、そんなお互いが映り込んだような青。

 そして眼下に広がる一面の濃緑は密林の枝葉。

 

 島の中央に建った遺跡の塔の上。

 まるで世界の中心に立ったかのような錯覚を覚えるほどの素晴らしい景色です。

 

「ここが奇跡の島……そう謳うだけはあるのう」

 

「この景色だけでも一見の価値はあるわね」

 

 言葉を無くす大人たち。

 幼竜娘三姉妹たちはというと、きゃいきゃいと塔の縁へと駆け出し、感動の声を上げています。

 

 

 絶景かな絶景かな。

 というところで今回はここまで。ではまた次回!

 




 
キリがいいので短めです。
次回は島を見て回って恐竜を探したり、再生施設のある遺跡探検したり、かなあ。

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https://www.sbcr.jp/product/4815611927/
……表紙の牛飼娘さん、ますますでっかくなってないです?

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ご評価ご感想、とってもとっても嬉しいです! ありがとうございます!

以下はひさびさの各キャラのキャラシです。ご参考まで。

※追記:リビルドで失った技能も、そのキャラの歴史として習得段階ゼロで載せたままです(特に補正は発揮しません。単なる履歴の表示です)。え? 文庫神官ちゃんが只人としての生得技能の【投擲】を失ってる? ……きっとタンクとしての鍛錬の過程で変な風に筋肉が固まったりしたのでしょう。


◆半竜娘

【挿絵表示】



◆森人探検家

【挿絵表示】



◆TS圃人斥候

【挿絵表示】



◆文庫神官

【挿絵表示】

 


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36/n 奇跡の島-2(ここに『侏羅紀の世界(ジュラシック・ワールド)』を創ろう)

 
みなさまいつも閲覧、ご評価、お気に入り登録、誤字報告、ここ好きタップ、そして感想ご記入も、ありがとうございます!
意外とキャラシ見てらっしゃる方がいらっしゃるので、これからも大きく成長したときは載せていきたいと思います。

===

●前話
 絶景かな!

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※ゲームマスタリーマガジンVOL.10(p.71)に掲載されたゴブスレTRPGシナリオ「爬虫帝国(レプティリアン)の野望」のネタバレがありますのでご留意ください。
 


 

 はいどーも。

 熱帯で恐竜求めてバカンス! な実況、はーじまーるよー!

 

 転移の魔法陣から出てみるとそこは、密林に覆われた絶海の孤島にそびえる塔の上でした。

 島の中央―― 太陽の方角と島内での位置関係を見るに中央より若干南寄りでしょうか―― にそびえる塔の頂上。

 島の四方を眺望できるそこで、半竜娘一党は転移酔いもなんのその、あたりの絶景に言葉を失っています。

 

Bienvenue, (ようこそ、)mes compatriotes.(同胞よ。) Etes-vous venus(貴公らも ) ici parce que vous(“恐るべき竜” ) avez entendu parler de(復活の報に) la resurrection des dinosaures ? (馳せ参じたのか?)

 

 そこへ蜥蜴人の言葉で声をかけてきた者が居ました。

 声の方を見れば、恐らくは壮年の―― 蜥蜴人の年齢はあまり分かりませんが蜥蜴僧侶さんよりは年上っぽいです―― の蜥蜴人(♂)が。彼が、蜥蜴人の言葉で話しかけてきた張本人のようです。

 

「だが残念だったな。あれは我らをいいように操ろうという混沌の策謀であった」

 

 蜥蜴人以外のメンバーを認めた彼は共通語(コイネー)に切り替えてそう続けます。

 

「しかし既にその策謀も潰えた。祖竜を再生するという術の仔細も、首魁の闇人の命とともに、な」

 

 疲れたように尻尾を垂らす蜥蜴人の彼は、どうも失意の底にいるようです。

 年齢と所作から垣間見える実力から言っても、彼がこの地に来た蜥蜴人を率いてまとめる立場にあったのはすぐに推察できます。

 気落ちしているのは、祖竜の復活がまやかしであったことへの落胆と、それを見抜けなかった己への不甲斐なさの故でしょうか。

 

 責任感が強いのか、噂を聞いてやってくる後続の同胞に事の顛末を説明するために塔のてっぺんの転移陣のところで待ち構えていたのでしょう。

 律儀ですねえ。真面目ですねえ。……貧乏くじを引くタイプですね……。

 

 そしてそれを放っておく半竜娘ちゃんではありません。

 なんてったってこれでも竜司祭(しかもLv10)ですからね。

 

「お主……随分と慙愧(ざんき)の念に苛まれておるのう」

 

「そうもなろうさ」

 

「ふぅむ。では話してみるといい」

 

「……何?」

 

 懺悔を聞くのは聖職者の仕事です。

 新しく取得した一般技能【赦しの秘跡】のスキルが陽の目を見ます!

 

「これでも竜司祭(ドラゴンプリースト)の端くれ。迷えるものを竜へ至る道に導くのが役目じゃて」

 

 端くれどころか称号【竜祇官】を獲得するくらいに極めてますけどね。

 

「だが……」

 

「ふゥん。大方その首魁とやらにトドメを刺せなんだことを気にしておるのじゃろう?」

 

 半竜娘ちゃんは荷物を置くと、ちょいちょいと指を曲げて誘います。

 

「要はお主は暴れ足りんのさ。じゃから、手前が爪牙を交えて “懺悔” を聞いてやるのじゃ。―― それが蜥蜴人(われら)の流儀であろ?」

 

「……ふっ、なるほど、な。暴れ足りない、か……あるいはそうかもしれん」

 

「さ。参られい」

 

 構えて挑発する半竜娘ちゃんに対して、その蜥蜴人の彼もギチリと歯を食いしばって、返り血が沁み込んで赤く染まった自慢の爪を構えます。

 

「では巫女殿の爪をお借りするとしよう。“赤の爪”、参る! ―― すぐに終わってくれるなよ、巫女殿!!」

 

「は、は、ははは! それはこちらのセリフじゃて!!」

 

 両者が駆け出し、爪を、牙を、振りかざして斬り結び、尾で脚を絡めて体勢を崩し、鱗で受け流し、その合間に叫ぶように会話を交えます。

 

 ……えぇ? 懺悔ってこんなアグレッシブなものでしたっけ??

 

「「「 おかーさん、がんばえーー!! 」」」 幼竜娘三姉妹の声援が響く中、他の一党の面子はめいめいに過ごしています。

 具体的には、森人探検家ちゃんは周囲の地形の把握に遠見を、TS圃人斥候はおなかがすいたのでつまみの煎り豆を取り出して観戦がてら栄養補給を、文庫神官ちゃんは転移魔法陣の調査と記録を、それぞれし始めました。

 なんかこう “はいはいいつものこといつものこと” って感じの慣れを感じますね……。

 

 

 半竜娘の【赦しの秘跡】判定:相手の悩みを聞き出し、相談に乗り、心を癒やす。

 知力反射9+竜司祭Lv10+赦しの秘跡1+2D664=30 > 目標値21 ○判定成功!

 達成値30以上のため、蜥蜴人“赤の爪”は、悩みや煩悶を振り払わせてくれた半竜娘に多大な恩義を感じ、彼女ら一党に対して全面的に協力してくれるようになった!

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

▼△▼△▼△▼

 

 

「こっちだ」

 

「わあ、ここにも転移陣があるんですね!」

 

 ……私の知ってる懺悔とちがーう、という手合わせ 兼 懺悔を済ませ、半竜娘一党+幼竜娘三姉妹は、蜥蜴人の壮年の戦士 “赤の爪” の先導で、塔の中を進んでいます。

 辿り着いた先は、塔の地下。

 そこにもまた、塔の天辺で見かけたのと同じような転移陣がありました。

 

「そうだ、ここから再生装置のある、島の西側の施設へと飛べるようになっている。ついて参られい――」

 

 壮年の蜥蜴人戦長“赤の爪” の導きに従って転移陣を起動させ、肝心(カナメ)の装置があるという西側のドーム状の設備へと空間跳躍。

 

「おおっ、本当に転移したのじゃ。便利じゃの!」

 

「件の闇人が言っていたことには、太古の魔術師が作ったものだということだからな」

 

「ただ島の中を移動するだけに転移陣を作るなんて豪儀ねー」

 

 転移陣から降りた半竜娘ら一党が感嘆の声を上げます。

 

「ここから上が、目的の場所だ」

 

 転移陣のある部屋から階段を上り、落とし戸を上げて上階に出ます。

 出た場所はドーム状の施設の中央―― の大部屋の端です。

 

「うげーっ、なんじゃこりゃー!? く、くっせー!!? 防毒面!!」

 

 その大部屋の中を見回そうとしたTS圃人斥候が鼻を押さえて叫びをあげました。

 他の面々も同様に鼻を押さえて目を回し(消耗+1)、TS圃人斥候の警告に従って、防毒面を持っているものは素早く装着します。

 ついてきた幼竜娘三姉妹は、「くちゃいぃ!」 「むぅりー」 「やー!!」と、ぴゅーっと落とし戸の下に戻っていきました。

 

「む……素体の原形質が腐っておったか……」

 

「“赤の爪” よ、これは……?」

 

 半竜娘ちゃんたち一党と“赤の爪”の目の前にあるのは、大部屋の床をほぼすべて覆うほどのプール。

 そして、そこに溜まった、猛烈な腐敗臭を放つヘドロのようなものでした。

 

「ああ、これは――――」

 

 そして “赤の爪” が説明するところによれば、森人に扮していた闇人竜司祭は、“大きな琥珀” を用いて装置を動かし、当時は空っぽだったプールに原形質を満たして、そこから恐るべき竜を生成し、使役してみせたのだといいます。

 

「なるほどなのじゃ……。そしていくら魔術の産物とはいえナマモノである以上、恐るべき竜のなりそこないの原形質が、熱帯の環境で腐り果てた、というわけじゃな……」

 

 熱帯、半球状のドーム、陰謀の後で放置され、機能が停止した施設。

 まあ腐りますよね。

 

「う、うぅぅぅうううっ! げ、限界です、防毒面越しでも臭います! ひょっとしたら腐ったこれも貴重な資料なのかもしれませんがっ! お姉さま?! よろしいですよね?!」

 

「ああ、頼むのじゃ! 手前らも支援するのじゃ!」 「うぐぅっ、ご、ご主人、一気に頼むのです! 早くやるのです!」

 

「いきます! “蝋燭の番人よ! 汚濁を取り除く我が手元に、どうか一筋の灯火を!”――【浄化(ピュアリファイ)】!!」

 

 頑固な汚れにこの一本!

 文庫神官の【浄化】の嘆願が、半竜娘と白梟使徒の支援に後押しされ、天上の神の御技をもたらします。

 まるで小さな火種が落ちてそこから広がった蒼い浄化の炎が一瞬ですべてを塗り替えるような壮麗なビジョンが見えたかと思えば、この再生池のある部屋のすべてが、清浄な状態へと回帰します。

 

 再生池の中身は純水になり、幾許(いくばく)かの洗い晒したような白骨が残るのみに。

 また、先ほどまで一帯に立ち込めていた身の危険を覚えるほどの臭気も、すっかり消えてしまいました。

 

「ふぅー、これで一息つけるわね」

 

「まったくだ。ひどい目に遭ったぜ」

 

 森人探検家とTS圃人斥候が防毒面を外し、げんなりした顔を露わにします。

 

「それで、これからどうするつもりだ? あの闇人は、決して自分の持つ知識も秘儀の詳細も、我ら蜥蜴人には明かそうとしなかったぞ」

 

「知れたことじゃ」

 

 遺跡を動かすにせよ封印するにせよ、壊すのでなければ相応の知識が必要ですが、それを知る闇人は、すでに別の冒険者らの手によって討たれています。

 “赤の爪” の蜥蜴人の戦長の懸念どおり、いまやこの世にはこの遺跡の知識を持つものは居ません。

 

「知っている者から聞けばいいのじゃよ」

 

「いや、だからもう既に奴は死んだ。あの白粉を塗った闇人の女竜司祭(ドラゴンプリースト)はもういない」

 

 そうでしょう。()()()には居ないのでしょう。

 しかし、()()()に居ないとしても、聞く方法はあります。

 

「たとえ死して魂が大いなる輪環を巡るとて、大望(みち)半ばの者の思念は死するときに傷痕を残すものじゃ」

 

 ―― 死者の声を聴き、未練を晴らす。

 それが善き死人占い師の本懐です。

 

「死してなお未練を残すものに問えばよい。“見え、聞き、触れ、嗅ぎ、味わうならば、生死の境は幽玄の彼方”――【霊覚(シックスセンス)】」

 

 半竜娘ちゃんが懐から取り出した水晶玉を触媒に、指で虚空に秘印を切ると、死霊術の力場が放たれはじめました。

 竜牙のアクセサリに収まった闇竜娘(ダークドラコ)の支援も受けた死霊術【霊覚(シックスセンス)】が、徐々に空間へと影響を与え始めます。*1

 

「まずは徐々にこの空間に残された霊的な痕跡を洗い出す……」

 

 集中した半竜娘ちゃんが、手に持った水晶玉をかざして、プールのあるこの大部屋のあちこちをぐるりと見渡すように動きます。

 あるいはその歩き方や、手の動かし方も、重要な術の構成要素なのかもしれません。

 ぞわぞわとした蟻走感が見ているものの背筋を撫で、何やら暑いはずの室内の気温が一段下がったかのような錯覚に見舞われます。

 

 しばらくそうして部屋の中をゆっくりと荘厳に舞うように動いていた半竜娘ちゃんですが、一点で動きを止めます。

 

「ここじゃな……」

 

 止まった場所は培養槽である大きなプールの一角。

 今は澄んだ水が満たされているその底に、華奢な人骨らしきものが一塊あるのが見えています。

 上半身と下半身が泣き別れしたそれは、骨盤の形を見るに女性の骨のようです。

 おそらくはそれこそが、トドメを刺されたという闇人竜司祭の女の遺骨なのでしょう。

 

「やはり未練があったようじゃの。お主の残した今際の念が、そこに見えるぞ」

 

 やがて【霊覚(シックスセンス)】が焦点を結び、半竜娘ちゃんの視界に目的の霊的痕跡―― 要は幽霊ですが―― を浮かび上がらせます。

 四十九日過ぎていなかったのか、あるいは半竜娘ちゃんの霊感が冴えわたっているのか、そこに残った未練を可視化したのです。

 

『……なに? 無様に失敗した私にいったい何の用なのよ……』

 

 見えてきたのは、やはり闇人の女です。ローブを纏ったその女の霊体は、杖頭に砕けた宝石―― おそらくは大きな琥珀だったのでしょう―― が乗った杖を未練がましく持っています。

 

「知恵を貸してほしいんじゃよ」

 

『……ふん。そんなことだろうと思ったわ』

 

「ふふん。つれない態度を取ったところで分かっておるぞ? お主が何故他でもなく “恐るべき竜の復活” という手段をとったのか」

 

 幸いにも受け答えできる程度の理性まで再現された霊体のようです。

 ここまでくれば(視覚化して対象に取れるようになれば)あとはこっちのもの。

 【赦しの秘跡】技能や【交渉】技能、そして真言呪文【読心(マインドリーディング)】といった手練手管(てれんてくだ)で情報を聞き出し(吸い上げ)られます。

 

「結局お主もまた、恐るべき竜に魅せられた……そうであろ?」

 

『……ばかばかしい。あのような大きいだけの蜥蜴を崇める貴様ら蜥蜴人(リザードマン)の気が知れないわ。そもそも嗜虐神の信徒よ、私は』

 

「いくら否定しようとも、お主の未練がここに残っておることがその証拠。―― お主の最期は聞いておる。琥珀を砕かれたことで制御を失った暴君竜(バォロン)に咬み裂かれたとな。つまり、見て、聞いて、触れて、嗅いで、味わったのじゃろう? ―――― 手前ら竜司祭(ドラゴンプリースト)が崇める、その力の本質を……」

 

『…………』

 

「そして魅せられた。未練を(いだ)いたのじゃ」

 

『…………』

 

「その未練、手前に託してみんか? 恐るべき竜、力の権化、その復活――――」

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

▼△▼△▼△▼

 

 

 手練手管で闇人竜司祭の女の霊から必要な情報を聞き出した半竜娘ちゃんは、培養槽の大プールの底に沈んだ闇人竜司祭の遺骨を浚って引き揚げます。

 

「リーダー、話はついたの?」

 

「うむ。必要なことは聞きだしたのじゃ。彼奴(きゃつ)のあらかたの研究成果も、【読心】の術で総ざらえしたし、ここを作った魔術師の研究室の場所も教えてもらったのじゃよ」

 

 森人探検家の問いに、半竜娘ちゃんは引き上げた骨格一式に欠けがないか確認するために死体袋の上にきれいに並べながら答えました。

 

「お姉さま。その遺骨、どうなさるおつもりですか? この場で供養するわけでもなさそうですし……」

 

「ふむ。交渉の結果、ある程度ここの施設で祖竜を復活させたのを見届けるのを条件に、朽ちるに任せるのではなく、死霊術の素材として使うことを許してくれたのじゃよ」

 

「……あの。お姉さまが使える死体を素材にする術というと、【魔神(サモンデーモン)】くらいなのでは……?」 おずおずと問うたのは文庫神官ちゃんです。

 

「別に魔神召喚では必ずしも素材となった遺体の魂を消費するわけではないのじゃよ? 基本的には条件に合う幽世(かくりよ)のデーモンに呼びかけ、次元の門を開くときに、この世ならざる者の助力を得る必要があるから遺体に残った想念に協力してもらうのじゃ。デーモンへの供物は遺体とは別に用意すればいいしの」

 

 もちろん闇竜娘(ダークドラコ)ちゃんを人の心を持った悪魔(デーモン)蜥蜴人(リザードマン)に悪魔転生させたときのように、それそのものを供物にする乱暴な方法も可能です。

 あとは敵の死体を使い捨てにするやりかたもあるでしょう。例えば直前に手にかけたゴブリンの死体を素材にその霊魂に『お前を見捨てたあいつらに一発かましてやろうぜ』って唆して【屍爆(コープスエクスプロージョン)】を使ったりとかですね。

 ゴブリンの死体は、死霊術的な観点からは残った想念の思考が読みやすくてチョロいし(あいつらまじゴブリン)、最低限の知能はまああるし、どこにでもいるから調達も容易だし損壊させても良心も傷まないしで、現地調達の素材としては割と使い勝手もいいのかもしれません。……さすがに普段使い用に持ち歩くのはノーサンキューですが。

 

「んで、結局どうやるんだ? 装置を動かすにしても、鍵になるでっけー琥珀は失われてんだろ?」

 

「そこは抜かりないのじゃ。琥珀―― というよりも、重要なのはある種の電気信号じゃったようでな」

 

「電気? 琥珀と電気って関係あるのか?」

 

「あるのじゃよ。まあ、雷の精霊を召喚しても良し、手前の契約魔神が雷の精霊術を修めておるでそれをうまく使っても良しじゃ。似た施設は辺境の街の地下でも見たことあるしのう」*2

 

「……うまくいくのか~?」

 

「もし駄目じゃったら、予備の琥珀を探してもらうことになろうの。期待しておるぞ? 斥候殿」

 

「うまくいくことを祈るぜ!(余計な手間はごめんだぜ!)」

 

 TS圃人斥候が胡散臭い笑みで “健闘を祈る” とサムズアップ。

 ……施設の再稼働のための応急修理に真言呪文【影写(フェイク)】でこまごまとした素材を作らされて酷使される羽目になろうとは、TS圃人斥候ちゃんはこの時点では思いもよらないのでした……。

 

「……おお、では、巫女殿……」 “赤の爪” が期待に目を輝かせます。

 

「うむ、まあある種の(まが)い物でしかないが、ここで闇人(ダークエルフ)がやっておったのと同じように恐るべき竜の似姿を再生することはできそうじゃ」

 

「おおおぉぉぉ……!!」

 

 再生池いっぱいの原形質から再生された紛い物とはいえ、“赤の爪” の蜥蜴人戦長が目撃した、闇人竜司祭の身体を食いちぎった暴君竜(バォロン)の暴威は本物でした。

 力の信奉者である蜥蜴人にとっては “動く仏像本尊” ともいえる再生恐竜にまた会えるというのは、感動に値することです。

 

「楽しみだね!」 「ねー!」 「わたしたちもいっぱい手伝おう!」

 

 幼竜娘三姉妹もやる気まんまんです!

 

 

「うむ! ではここに侏羅紀の世界(ジュラシック・ワールド)の再臨を宣言するのじゃ!!」

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

▼△▼△▼△▼

 

 

 というわけで、恐るべき竜を再生する施設を再稼働し、この奇跡の島を祖竜の楽園とするべく、半竜娘ちゃんたち一党は働き始めました。

 

 残された研究資料を読み解き。

 施設を【影写】で出した部材をあてて応急修理して動かしてみてその働きを検証し、本格修理すべき場所を特定したり。

 転移陣で街に戻って本格修理に必要な物資を補給したり。

 原形質に転換するための栄養を集めるために、闇竜娘の精霊術【蟲寄(フェロモン)*3をかけた疑似餌をぶら下げた白梟使徒が密林の上を飛んで集めた蟲の怪物たち((カエル)(ヘビ)蚯蚓(ミミズ)蜥蜴(トカゲ)など含む)を一網打尽にしたり。

 同じようにして海で(カニ)(エビ)(タコ)栄螺(サザエ)の怪物を集めて一網打尽にしたり。

 その過程で闇竜娘と白梟使徒が共同戦線を張ってある程度戦友としての絆を結んだりもして。

 

 一方で休暇らしく、闇竜娘の祖竜術【狩場(テリトリー)】で安全確保した浜辺で泳いだり、海産物でバーベキューしたりも。

 

 そして順調に施設の再建と、恐るべき竜の再生が進み――――

 

 

▲▽▲▽▲▽▲

▼△▼△▼△▼

 

 

 季節が1つ移り変わるくらいに紅と碧の双月が巡り。

 時期としては辺境の街に冒険者希望のひよっこたちが押し寄せ、馴染んできたころ。

 変わらず熱帯の “奇跡の島” にて。

 

 密林の木々が揺れ、それは姿を現しました。

 

 巨大な足音とともに地面を揺らす大樹のような4本の脚。

 密林の木々の間を抜けて上に飛び出るほどの長い首。

 それとバランスを取るように伸びた長い長い尾。

 巨体を支えるために隆起した筋肉が覆う小山のような体躯。

 

 その巨竜の頭の上に乗って手綱をかける半蜥蜴人の幼女が3人。

 

「わー、すっごい! でっかーい! たかーい!」

「乗ってお散歩できるなんて……! 【支配(コントロールアニマル)の手綱】に感謝だね!」

「これが、“腕竜(ブラキオン)” の見る景色!! あは、あはははは!」

 

『BBBBRRRAAAAACCCHHIIIOOONNN!!!!』

 

 (いなな)腕竜(ブラキオン)と、それに魔法の手綱をかけてはしゃぐ少し育った(熱帯の気候がいい感じに作用した)幼竜娘三姉妹を背景に、今回はここまで!

 ではまた次回!

 

*1
死霊術【霊覚(シックスセンス)】:術者に霊感を与え、霊視能力、幽霊との会話を可能にする。発動まで6ラウンド(3分間)の呪文維持が必要。

*2
辺境の街の地下の似た施設:「9/n 精霊使い四方山話、ゴブリン退治ルーティン、下水道遺跡からの救出」で登場。そこで回収された原形質のものが、麒麟竜馬を創る際の素材の1つになった。

*3
精霊術【蟲寄(フェロモン)】:蟲人やその他の蟲系生物、怪物を集める。羽虫を集らせて相手の集中を邪魔したり。また、虫偏の漢字で表されるものも引き寄せる対象にできる……と思われる。




 
♪てれてーてって、てれてーてって、てれててーん♪(例の侏羅紀遊園(ジュラシック・パー○)なBGM)

次回、『それは不羈なる(インドミナス)――』。
……とクライマックスへ助走をつける前に、幕間で、施設再稼働して恐竜再生するまでのあれこれとか、島で恐竜と戯れる一党の話のとか入れると思いますので実際は次々回くらいですかね(いつものごとく予定は未定)。

===

最新15巻をとらのあなで予約すると! なんと! ゴブスレさんがいつものメンバーと一緒にサイバーパンク世界でゴブリンを殺すというあの話が収録された冊子が有償特典で手に入れられるようになるとか!
https://twitter.com/GoblinSlayer_GA/status/1410874086734000132
これ気になってたけど持ってなかったので助かるんじゃ~~

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ご評価ご感想、まっこと(かたじけな)いです! 今見たらいつの間にか累計文字数が100万字いってました、皆さんの応援のおかげです、ありがとうございます!
 


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36/n 裏1(ハッキング、蟲捕り、ルアー釣り)

 
みなさまいつも閲覧、ご評価、お気に入り登録、誤字報告、ここ好きタップ、そして感想ご記入いただいて、嬉しいです! 大変励みになっています、ありがとうございます!!

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◆半竜娘の魔道具作成技能について(独自裁定)
・竜血のポーション各種
 血に封じた祖竜術(対象を術者自身とするもの)をポーション化可能。対象となる術は【竜命】【竜眼】【竜翼】【竜爪】【竜鱗】【竜顎】【閃技】【竜胞】【胃石】。ただし、【胃石】は呪文維持をポーション服用者が別途行わなければならないので竜司祭でない者が飲んでも発動までのハードルが高く、高位呪文の【竜胞(ドラゴンセル)】(呪文吸収能力)はポーション化時にさらに特殊な素材が追加で必要となるため、いまのところ作成していない。また、作成時に【竜血】の術とポーションに籠める術の2つを同時に維持する都合上、呪文使用回数が9回の半竜娘が1日に作成できるのは4本(無理すれば5本)になる(【分身】のエラッタで量産性が落ちた)。落ち着いて作業できる空間と、作成用の設備が必要。つまりほぼ拠点でしか生産できない。

・真言呪文のスクロール
 高位魔神の知識を吸い上げたことにより、習得している真言呪文をスクロールに封じることが可能になっている。巻物1つにつき呪文使用回数を1つ消費。材料費と手間がかかる。高難易度の呪文ほど、スクロール作成にかかる時間が長くなるし、材料の費用も嵩み、判定難易度も上がる。イメージ的には、[呪文難易度/5×1D3]×1時間がかかるイメージ。これだと【巨大】のスクロール化には2~6時間、【加速】は3~9時間、【分身】は4~12時間かかる。作成時間がネックになるため、1日に1~2本の巻物を作れればいい方だろう。落ち着いて作業できる空間と、作成用の設備が必要。つまりほぼ拠点でしか生産できない。

・その他の魔道具
 ウッドゴーレム製造機や、幻影の宝珠などを作成してきた。冒険に使わないフレーバー的なものであれば融通が利くイメージ。その他はGMと要相談(想定される価格と素材入手難易度、作成難易度を連動させるイメージだろうか)。これも生産は拠点でのみ行うことを想定している。

===

●前話
 ここにジュラシック・○ールドを創ろう

※ゲームマスタリーマガジンVOL.10(p.71)に掲載されたゴブスレTRPGシナリオ「爬虫帝国(レプティリアン)の野望」のネタバレがありますのでご留意ください。
 


 

1.電気使い(エレクトロマスター)といえばこの()

 

 

「……っ。ここが “奇跡の島” ですのね」

 

 南海の孤島、恐るべき竜が跋扈する “奇跡の島” になる予定のこの島に設けられた、古の魔術師の立てた塔の頂上。

 そこにある転移陣から出てきたのは、お付きの者を幾人か引き連れた女商人。軽銀商会の会頭だった。

 お付きの者の中には、かつての彼女の一党の仲間の姿も見える。

 

 彼女たちは転移酔いに一瞬ふらつくものの、流石は元冒険者。すぐに気を取り直して周囲を見渡した。

 

「ようこそ、会頭殿。さ、こちらへ」

 

「お久しぶりです。そちらもお変わりないようで」

 

「まあ森人(エルフ)ですからね。今日はよろしく」

 

 そこへ端的に声をかけたのは、森人(エルフ)の弓兵。

 半竜娘一党の野伏、森人探検家であった。

 今回は護衛の眼もあるため、社会人として最低限の敬語は使っている。

 旧交を温めるなら、また後で、ということだ。

 

 しかし蒸し暑い。

 聞けば、さきほどスコールが降ったばかりだという。

 西方辺境から着てきた防寒具を畳みつつ、女商人は森人探検家の先導に従った。

 

 軽くやり取りしつつ、塔の地下の転移陣へ。

 

「……転移陣の大盤振る舞いですわね」

 

「ええ。きっと凄腕の魔術師の手によるものだったのでしょう。転移陣も含めて、この遺跡の機構の解明も進めてますけれど、なかなかの難物みたいですね」

 

「そうなのですね。半竜のあの方なら、何でもない風に解明しているものかと」

 

「うちのリーダーが契約しているモノどもが、割と空間系統の術に詳しいので、目途は立っているようですが」

 

「それはそれは。結構なことです」

 

 転移陣の解明が進んでいると聞いて、女商人の顔がほころぶ。

 もし恩恵に(あずか)れるようであれば、また一つ軽銀商会が躍進するだろう。

 実際、半竜娘は、時空属性の契約精霊である “ティーアースの欠片” と、高位真言呪文 “跳躍(ジョウント)” の使い手でもある契約魔神の “闇竜娘” から知識を得て、転移陣の技術の習得まであと一歩のところまで漕ぎつけているという。

 

 

 塔の地下の転移陣を抜けて、恐るべき竜の再生施設がある西のドームへ。

 

「ここがその再生施設ですか。……こっちは涼しいのですね」

 

「空調機能まではなんとか復旧したところでしてね。ただ、まだ全機能の掌握ができたわけでは」

 

「ええ。承知しています。そのために私が呼ばれたのでしょう?」

 

 女商人は腕に嵌めた金属製の腕輪と、そこに並んだ電気石(トルマリン)を撫でた。

 

 

 

 階段を上り、落とし戸を抜けて、ドームの中へと。

 先導する森人探検家に引き続き、女商人とその護衛は足を進めた。

 

「おお、よう来てくれたのじゃ!」 そのドームの中。何らかの制御装置らしき筐体で作業をしていた半竜娘が歓迎した。傍らには、文庫神官の姿も見える。

 

「お久しぶりです」 挨拶を返しつつ、女商人が半竜娘の大きな手と握手する。「お変わりないようで何よりです」

 

「うむ。早速じゃが頼めるかの?」 半竜娘が筐体を指さす。

 

「ええ、お任せを。……支援はお願いしても?」 女商人が電気石(トルマリン)の腕輪を撫でると、パチリと雷精の迸りが跳ね出た。「自信がないわけではありませんが、失敗するのも面白くありませんし」

 

「もちろんじゃとも。手前が【加速(ヘイスト)】を――」 半竜娘は隣の文庫神官―― 鎧ではなく知識神官としてのローブを纏っている―― の肩を抱く。「―― こちらの灯明の娘が、【真灯(ガイダンス)】の奇跡を」

 

「お久しぶりです。よろしくお願いしますね」 半竜娘に改めて紹介された文庫神官が、司教杖を持って頭を下げる。

 

「―― あとは “知覚上昇の秘薬” も使ってもらおうかと思うておるが……」 半竜娘がポーション瓶を取り出して渡してくる。

 

「分かりました。それだけしていただければ十分でしょう。必ずやご期待に応えて見せますわ」

 

 そう言うと、女商人は半竜娘からポーション瓶を受け取り、それを飲んだ。一定時間の知覚力を上昇させ、第六感を冴えわたらせる作用がある。

 そして半竜娘と入れ替わりに筐体の前に立つと、女商人は自らの腕輪のギミックを作動させた。

 

「それが “滅びの獄(ドゥーム)” から来た機械化大悪魔(サイバーデーモン)の遺骸の研究成果かの?」 ギミックにより変形して、まるでスケルトンの手指の骨で作ったかのような奇怪なガントレットのようになった腕輪だったものを興味深げに見ながら、半竜娘が尋ねる。

 

「ええ」 それを受けて女商人も自慢げに答える。「こういった太古の遺跡にアクセスするためのデバイスです。まだまだ研究中ですので、雷精使い専用ですが……。異界の技術と雷精との相性が良かったのが幸いでした」

 

 補助骨格のような形のガントレットには、ところどころに電気石が埋め込まれており、女商人の契約精霊である雷精の輝きが宿っているのが見て取れた。

 

「さて。それではこのデバイスを介して、遺跡の制御機構に接触し、権限を書き換えますわ」 筐体にスケルトンガントレット型のデバイスを這わせて、真剣な眼差しをした女商人が告げる。

 

「よろしく頼むのじゃ。――【加速(ヘイスト)】」 「――【真灯(ガイダンス)】」

 

 半竜娘の【加速】と文庫神官の【真灯】による援護が為され、女商人は遺跡の制御権限を書き換えるべく、意識を電子世界(マトリクス)没入(ジャックイン)――――。

 電子の世界での戦いが、幕を開けた。

 

 

<『1.管理者権限の取得に成功。遺跡を掌握しました。~~女商人は一流デッカーのようです~~』 了>

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

2.生体材料を集めよう

 

 

 遺跡の全機能を掌握。

 女商人には適切な報酬を渡し、今後の遺跡の研究成果などを共有することを約束した。

 詳しくは交易神官でもある一党の金庫番、森人探検家が窓口となって折衝することになるだろう。

 

 半竜娘たちは大仕事をした女商人と旧交を温めた。

 その後、実際に祖竜を再生できるようになったらお披露目に呼ぶことを約束し、女商人(とその御付きたち)を見送った。

 

 さて。

 

 恐るべき竜(に似た紛い物)を再生するに当たって、その設計図たる遺伝子情報は既に遺跡の中に残されており、そのサルベージに成功した。

 プラントの整備修復も進めており、経年劣化した個所の補修を順次行っている。

 

設計図(血の螺旋)よし。工場(プラント)もよし。あとは……材料じゃな」

 

 制御室らしき場所のモニターの前で、半竜娘が確認している。

 表示されている文字は現代の言葉ではない。

 それを読むために、森人探検家から【読解】の魔法が込められた眼鏡を借りている。

 魔道具の眼鏡にモニターの光が反射して輝く。

 

小竜(ディロフォ)腕龍(ブラキオン)甲竜(アンキロス)剣竜(ジェンロン)怜刀龍(リンタオロン)雷竜(ブロントス)亜拉摩(アラモ)暴君竜(バォロン)……」

 モニターには祖竜の種類を示すと思われるリストが広がり、データがライブラリに収められていることが分かる。

 これが恐らくは再生可能な竜たちなのだろう。

 

「稼働率は、62%というところかの……」

 さらにコンソールを叩け(タップすれ)ば、施設の全体図が稼働状況とともに表示される。緑、黄、赤に色分けされたものだ。

「ただ、ラインを1つ優先して復旧させておるから、生産自体はもう可能じゃ」

 

 その施設稼働状況の一点、“原料タンク” と表示された場所を拡大させて表示。

 そこには “Empty(空っぽ)” という意味の表示が。

 

「とはいえ、原形質に転換するための生体材料が不足しておるから、次はその補充じゃな」

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 祖竜の再生といっても、もちろん無から生まれさせられるわけではない。

 原形質から再生させるためには、その原形質を培養増殖するための、(もと)が必要だ。

 

 そのための原材料としては単純に、蛋白質を中心として生体に必要な材料をそろえれば良いらしい。

 それを遺跡の前処理装置に突っ込むことで、粉砕・消化され、原形質の培養に使える品質の原料になるのだとか。

 恒常的な原形質の培養のために、ある種の藻類を、その栄養源にするために増殖させる水槽も設けられているようだが、そちらの稼働はまだ不十分なようだ。そのうち藻が繁茂(はんも)して軌道に乗るだろう。

 

 だが、藻が育つまで待てない!

 

 というわけで。

 手っ取り早く施設を稼働させるために、効率的に蛋白源を集めるというミッションが下された。

 

「まったく、なんで私がこの悪魔(デーモン)と協力しなくちゃいけないのです……!」 ぷんすこと文句を言っているのは文庫神官の使徒(ファミリア)たる白梟。

 梟形態でも分かるジト目で睨んでいる。

 

「そう言うなって。仲良くやろうぜ?」 軽薄な調子でウィンクをしたのは闇竜娘。「(オレ)たちはそう悪くないコンビだと思うぜ?」

 

「はあ。それはそっちが契約主から “仲良くするように” 命令されているからでしょうに」 器用に肩を竦めるような動作をして、白梟使徒は飛び上がった。「それより仕事です。さっさとブツを寄こすのです」

 

「そう急かすなって。―― “蟲の王(オベロン)蟲の女王(ティターニア)。どうぞ宴をここにて開きましょう”……ってな」 闇竜娘が唱えた精霊術【蟲寄(フェロモン)】が効果を発揮し、対象にした手のひら大の枝でできた疑似餌(ルアー)からえもいわれぬ芳香が立ち上り始めた。

 

「早く寄こすのです、早速ここに集まり始めているのです!」 術と同時に地面や枝が蠢き始めたのを感知して、白梟使徒が急かす。

 

「ほらよっ! 受け取れ! んでもって島中に香りをバラまいてこい!」 闇竜娘が香り立つ枝を投げる。

 

「命令すんな、です!」 空中でそれを受け取った白梟使徒は、すぐに【俊敏】技能を発揮して空を翔けた。

 

「いってらっしゃーい、ってな」 それを見送った闇竜娘は、懐からスクロールを取り出した。「んじゃ、さらに準備を進めるとしよう。――スクロール【分身(アザーセルフ)】。そしておてて繋いで【狩場(テリトリー)】ってな」

 闇竜娘は魔法の巻物で分身を呼び出すと、それを媒介に結界の祖竜術を行使。敵が入れないようにした。

「範囲を絞って~、と。あとは梟が帰ってくるまで待つか」

 

 

 …………。

 ……。

 

 

「ひぃいぃぃいい、なのです――!!?」

 

「おおっと、かなり引き連れて来たな!」

 

 疑似餌を()げて空を飛んできた白梟使徒に引き続き、密林中から【蟲寄(フェロモン)】の術に引き寄せられた蟲たちがやってきた。

 甲虫や葉蜂(ハバチ)、その他の羽虫は空を飛んで。蟻や芋虫は地を這って。

 ところどころ構造色で輝く、黒い煙のような大群となって、あるいは地を埋め尽くす濁流となって、それらはやってきた。

 

 蟲の大群だ!

 

「ふふん。一網打尽ってもんだ!」 闇竜娘は木の器に入れた甘酸っぱい腐敗臭がする腐汁を触媒に死霊術の呪文を唱えた。「――――“毒液、粘液、病毒の王! 触れ得ざるもの! 小さな杖にあらずして命なきもの!” 【悪疫(ポックス)】!」

 

 それは死病をもたらす死霊術。

 

「病原変異! 蟲用の特製! 【蟲寄(フェロモン)】を嗅いだ奴にさらに特効! 感染力マシマシの超ウィルス! しかして術が切れれば消えてなくなる親切設計! BC兵器がなんぼのもんじゃい! 墜ちろカトンボ!」*1

 

 悪疫をもたらす力場が蟲たちの先頭集団に炸裂。

 即座にその小さな体の内側から発生した調整済みウィルスが、蟲たちの身体を食い破る!

 

「弾けろ! そして感染せよ! 蔓延せよ!」

 

 病原体に侵された蟲たちは動きを止め、押し寄せる後続の蟲たちの塊に吞み込まれ、さらに感染を広げていく。

 一部の蟲はウイルスまみれの体液を噴き出して撒き散らし、さらにウイルスを拡散させる。

 

「……おまえの素体になったのは、病毒のデーモンだったのです?」 背に腹は代えられず【狩場(テリトリー)】の結界内に着地した白梟使徒が闇竜娘に問うた。神の使徒が魔神の結界に庇われるとは、主人の命令でなければ憤死しているところだ。「やっぱり社会の敵なのです。悪魔殺しに狩られるがいいのです」

 

「やなこった。……ま、死霊術と精霊術の名手だったみたいだぜ、(オレ)の素体のデーモンはな。もっとも、逆に喰らってやったがな!」

 結界内でフェロモンを撒き散らし続ける疑似餌に引き付けられた蟲たちは、【狩場】の結界に遮られて内部には入れず、その前で病魔にやられて死に絶えていく。

 次々と押し寄せる蟲の大群が、そのまま死んで黒山となって積み上がっていく。

 

「……これを回収する方が大変なのですよ」

 

「ま、それは巨大化した(オレ)の契約主が何とでもするだろうさ」 人間重機だからな、と笑う闇竜娘。

 

 と、そのとき。

 密林の間から、大きなものが姿を現した!

 

『MMMMAAAANNNTTIIIIIISSSS!!!』

 

 巨大カマキリだ!

 

「デカブツが来なすった!」

 

「といっても結界は超えられないようなのですよ」

 

 ガンガンと結界の境を叩くが、巨大カマキリはそこから中には入って来られない。

 

(オレ)が動くと結界も動いちまうから、遊撃頼むぜ~」

 

「まったく貧乏くじなのですよ! だいたい、そっちの分身に働かせればいいのです! ―― 獣人変化(フォルムチェンジ)!」

 

「分かってる分かってる! ちゃんとやらせるっつーの!」

 

 獣人態に変化した白梟使徒と、【狩場】の術の媒介に呼び出された闇竜娘の分身体が、鋭い爪を構えてタイミングを合わせると、結界に張り付く巨大カマキリへと駆けだした。

 

 

<『2.共闘により友好度アップ!』 了>

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

3.崖の上の

 

 

「お、おかーさん!」 「助けてっ!?」 「引きずり込まれるゥ!?」

 

 “奇跡の島” の切り立った崖にて。

 釣り竿を垂らしていた幼竜娘三姉妹が悲鳴を上げた。

 あとひと季節もたたずに生後一年となる彼女らは、既に只人でいうと10歳程度にも見える。

 この南の島で過ごすうちに急成長し、TS圃人斥候と同じくらいの背丈になっている。

 

 そんな急成長した彼女らに対してしかし、かかった獲物は大きすぎたのか、竿は大きくしなり、今にも支える姉妹たちごと海へと飛んでいきそうになっている。

 

「どぅれ! 手前(てまえ)に貸してみぃ!」 そこへ押っ取り刀で駆け付けたのは、彼女ら幼竜娘三姉妹の母―― 単為生殖で生まれた子なので遺伝的にはほぼクローンだが―― の半竜娘だ。

 口の端からは、海産物を串焼きにしたものがはみ出ている。釣ったものの一部を磯で焼いてバーべーキューをしていたのだ。

 

「「「 おかーさん、はーやーくーーー!! 」」」

 

 間に合わなくなっても知らんぞーー!!? と切羽詰まった声を上げる幼竜娘三姉妹から釣竿を取り上げると、即座に “釣竿” を装備し、もろともに【巨大】化。

 

「おぉおっりゃあああ!!」

 

 なのじゃー! と獲物を一本釣り。

 果たして飛び出したのは――

 

「おー、シーサーペントか」 少し離れたところ、磯の平らになったところで海鮮串を頬張るTS圃人斥候が手庇(てひさし)で、飛び上がった長大な魚体を見る。

 

「大物ねえ。こんなのが釣れるのは、岸まで深海から崖が切り上がってるおかげよね。珊瑚礁に囲まれてたらこうはいかないわ」 さっと大弓を手に取って、いまだに空中にある大海蛇の眼窩を通して脳髄へと矢を放つのは、森人探検家。「よっし、命中!」

 狙い過たず連射した矢はシーサーペントの小さな眼を貫通し、その脳髄を破壊した。

 

「お見事です! ……でも、【蟲寄(フェロモン)】の術を掛けた針を(おもり)で沈めただけなのに、シーサーペントがかかるなんて……。あれは蟲ではなくて魚でしたよね?」 せっせと串に食材を刺して、大食漢の半竜娘のために甲斐甲斐しく海鮮串を網焼きにしていく文庫神官。

 

「んー。ああ、針に食いついた “大蛸” をさらにシーサーペントが食ったみてーだな」 大ウミヘビの口の端から出ている巨大蛸の触手に気づいたTS圃人斥候。

 

「蛸も【蟲寄(フェロモン)】の術に寄って来るのは意外よねぇ。まあ海の大物を寄せられるようになったおかげで、恐るべき竜の再生も(はかど)るようになって良かったけど」 大弓を置きながら、食べかけだった串に手を伸ばす森人探検家。

 口を開けてかぶりつくさまは下品なはずだが、エルフというものは何をしても絵になるものだ。

 

「そうですね。特に再生した恐るべき竜様方が、運搬に力を貸してくれるようになったおかげで、こうやってレクリエーションする余裕も出来ましたし」 焼き網にセットするのがひと段落した文庫神官が汗を拭う。

 

 

 ちなみに全員、遺跡の備品室に置いてあった “アロハシャツ” を着ている。

 南国といえばアロハ。胸の下で裾を結び、胸元を強調しつつ、臍を見せていくスタイルだ。

 

 郷に入っては郷に従え。現地の被服がやはりその地で過ごすには快適なのだ。

 半竜娘が着られる超巨大サイズがあったのには驚いたが。

 

 

 そうしている間に、釣り上げられた巨大なウミヘビは宙を飛んで、磯の向こうに地響きを立てて墜落。

 キラキラとした水しぶきと、銀に光る細い鱗を撒き散らした。

 

 

「うむ。そしたらお前たちは “腕龍(ブラキオン)” を呼んで、あの獲物(シーサーペント)を施設の消化槽まで運ばせるのじゃ」 針を外すべく獲物の方へ巨大化した体で向かう半竜娘が、幼竜娘三姉妹に運搬の手はずを指示する。

 祖竜の再生は進んでおり、放し飼いにしたり、荷物の運搬に協力してもらったりしているのだ。只人の10倍もの体高がある腕龍は、こういった海からの大物を運ぶのによく力を借りているのだ。

 

「「「 了解です! おかあさま!!(マム! イエス マム!!) 」」」 【支配(コントロールアニマル)】の手綱を持って、幼竜娘三姉妹たちが駆けだした。

 

「おいおい、ガキだけで行かせんなって。オイラもついてくことにするぜ」 すぐにそれに付いていくTS圃人斥候。

 放し飼いにされている恐るべき竜―― 小竜(ディロフォ)怜刀龍(リンタオロン)のような小型の肉食竜―― に襲われる可能性もあるのだ。

 それにしてもすっかり子守りが板についてきた。……というよりも、他の面々は子育てよりも修行・研究(半竜娘)金儲け・財宝探索(森人探検家)好きな人とのイチャラブ(文庫神官)を優先しがちなので、TS圃人斥候にお鉢が回ってくることが多いのだ。

 

 用意しておいた巨大な台車にシーサーペントを載せ、その口の中から喰われかけの大蛸を取り出し、【蟲寄】の術がかかった針を外し。

「んじゃあ、もういっちょ釣ってみるかのう!」

 半竜娘は竿を担いで再び釣りのために崖の端へと戻っていった。

 

 

<『3.大漁大漁!!』 了>

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

4.ぼくのかんがえたさいきょうのきょうりゅう

 

 

 再稼働した遺跡の制御機構の奥底。廃棄するデータを格納する記憶領域。

 そこで削除されるはずだった禁忌のデータが、何のバグか、再稼働のプロセスに混ざって、サルベージされた。

 

 サルベージ、()()()()()()()

 

 

 “最強の恐るべき竜を作り出せないか”という冗談のような産物。

 様々な祖竜の、あるいは他の生物の能力をキメラ的に組み込んだ怪物。

 しかしながら、完成された芸術品。

 

 それは既に半自動モードで次々と祖竜を再生していた遺跡のプロセスに割り込み……。

 

 定められた設計図通りに、その身を原形質から組み上げ始めた。

 

 

 

 ライブラリに登録されたその名は――――

 

 

 

 

<『4.不羈なる竜王(インドミナス)』 了>

 

*1
死霊術【悪疫(ポックス)】:病気をもたらす、または防ぐ死霊術。範囲攻撃。病気にさせる効果の場合、病気になった者は、即座に1点消耗。1時間ごとに抵抗判定を行い、抵抗に失敗すればさらにまた消耗する。敵キャラは消耗がダメージに換算されるため、羽虫程度は感染したらすぐに消耗して死ぬ。なお、病魔の特性をコントロールできるか、発生した病が感染力を発揮するかは、独自裁定になる。呪文名を冠するポックスウイルス科のウイルスには天然痘ウイルスが属する。




 
不羈(ふき):「羈」は繋ぐの意味。
1 物事に束縛されないで行動が自由気ままであること。また、そのさま。「独立不羈(ふき)
2 才能などが並はずれていて、枠からはみ出すこと。また、そのさま。「不羈(ふき)の才」

※インドミナス(indominus):映画「ジュラシック・ワールド」で登場した造語。支配者を意味するラテン語に否定の接頭辞をつけたもの。“制御不能の” “飼い馴らせない” “アンチェイン”あたりの意味合いと思われる。


この遺跡を作った太古の魔術師的には「葬ったはずの黒歴史ノートが残ってた」みたいな感じでしょうか。

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ご評価ご感想、いつもありがとうございます! 読んでくださる皆様からエネルギーをもらって執筆の糧にしています! ありがとうございます!!
 


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36/n 奇跡の島-3/3(VS 不羈なる竜女王(インドミナス)

 
みなさまいつも閲覧、ご評価、お気に入り登録、誤字報告、ここ好きタップ、そして感想ご記入も、非常にとってもありがとうございます! 引き続き御笑覧いただければ幸いです……!
今回、いつもの2.5倍の長さがあります(1万8千字)。

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◆子守り担当TS圃人斥候
(→“オカン” というより “万事適当(テケトー)な親戚のおじさん” ポジションに落ち着いた模様)

半竜娘「あの子らが遊ぶときの面倒をいつも見てもらってて済まんのう。助かっておるのじゃ」
TS圃人斥候「オイラも昔、地元の庄では、いとこたちの面倒をよーく見たもんだ。そもそも子供を育てるのは皆でやることだって思ってるし、気にすんなってリーダー。それにほとんど本当に見てるだけで終わるしな」

TS圃人斥候(……まあ結局変にリーダーとかの仕事手伝うより、子守りしてる方が楽だからやってるんだが。それにあいつら(幼竜娘三姉妹)はめっちゃ聞き分け良いから、そもそもそんなにすることないし。だんだん情が湧いてきたってのもあるが……母性愛に目覚めたってわけじゃねーと思いたいが……)

TS圃人斥候(……昔と比べたら、我ながら変わったもんだぜ。身体を女にされたり、性根を叩き直されたりしたってのもあるが、何より懐に余裕があるのがいい方に働いてるよーな気がする)

TS圃人斥候(あとは自分の庄を拓くためのお金をもっと貯めて、子々孫々に語れる冒険を重ねて、最終的に生き残ることだな! 伝説の “忍びの者” に稽古つけてもらってしかも奥義まで習得したなんて、オイラの故郷の奴らに言ったらひっくり返るぞ、きっと!)

TS圃人斥候(……故郷に錦を飾るには、まず男に戻んないとだけど、サ……)

※なお幼竜娘三姉妹が育ってTS圃人斥候と背丈がほぼ変わらなくなってきたので、4人で一緒に居ると、ぱっと見では誰が保護者かわからない。
※最近あまり男に戻りたいとも意識しなくなりつつあるのが悩み。ケセラセラ(なるようになるさ)

===

●前話
・一流デッカー(ハッカー) 女商人ちゃん
・蟲取りで少し深まる天使(ファミリア)悪魔(デーモン)の仲
・釣り! バーベキュー! ブラキオン乗り!
不羈(ふき)なる竜王……now printing(出力・形成中)……
 


 

 はいどーも! 縄張り争いが激化する実況、はーじまーるよー!

 前回は遺跡を再稼働させて、恐るべき竜(っぽい何か)を再生して、島を恐るべき竜(っぽいもの)が闊歩する楽園にしたところまでですね。

 

 南海の孤島は常夏ですが、辺境の街の季節は既に春へと移り変わりました。

 

 冬から春へとひと季節巡る間にも、この “奇跡の島” ではいろいろなことがありました……。

 

 半竜娘ちゃんたちは、 “奇跡の島” の生態系を安定させるために遺跡の食料生産系の機能などもいろいろと復旧させ。

 施設の影響範囲外に祖竜を生きたまま連れ出すために、遺跡の研究だとかを進めたり。……これはまだ実を結んでいませんが。

 また祖竜の楽園となったこの島へ繋がるゲートの扱いをどうするかについて議論しつつ。

 

 ―― 軽銀商会としては、王国に献上して蜥蜴人部族との友好材料にしてもらうように考えているようです。

 その一方で、半竜娘や蜥蜴人戦長(赤の爪)は転移魔法陣を増やして直接蜥蜴人の領域と繋げたいみたいですね。

 

 いずれにしても最終的には蜥蜴人部族が運営トップになるのが望ましいという見解は一致しています。

 まあ蜥蜴人以外がトップでもどうせ蜥蜴人が攻めてきて奪取するでしょうからね、それなら最初から蜥蜴人を運営のトップに据えておいた方がいいよね、とそういうわけです。

 運営の細々とした実務は軽銀商会から出向した只人の誰かがやるのは変わらないでしょうし。書類や制度を整えて運用するのに、只人ほど秀でた種族も居ませんから。

 

 他方では、交易神官である森人探検家も属する宗派に繋ぎを取っており、そちらとしては、恐竜ふれあい博物館でもテーマパークでも祖竜信仰巡礼聖地でも、なんでもいいので広く門戸を開いて人を呼べるようにしたいという意向のようです。

 人が動いて集まることは、交易神の信仰に(かな)いますからね。

 交易神殿的には人を集めるお題目にこだわりはない様子なので、各方面に波風立てたないためにも、やはり蜥蜴人の聖地としてPRし、そこに集まる人向けに宿屋や食堂の手配をして商売するつもりのようです。

 

 知識信仰の文庫神官としても、祖竜の生態を研究し記録する文庫を建てるよう知識神の神官組織に上奏しているようです。

 こちらはむしろ、蜥蜴人の信仰の様子も含めて、民俗学的な記録も取りたいっぽいので、観察記録対象に影響を与えすぎないようにひっそりと文庫(ふみくら)を建てる程度になるだろうとのこと。

 遺跡研究は知識神殿の得意とするところでもありますし、民俗学的調査も手慣れているでしょうから、特にトラブルもないでしょう。

 

 

 このように、混沌勢力という明確な敵がいる四方世界では、神殿勢力同士はそこそこ仲が良いので(=共闘する機会が多いため)、まあきちんと祖竜信仰の方を主軸に据えるように配慮すれば、うまいこと共存してやっていけるのではないかと思われます。

 

 

 んでもって、さて。

 一季節過ぎるうちに、そろそろ生態系も安定して島の経営も軌道に乗ってきましたし、運営を半竜娘一党から別の組織(蜥蜴人部族主体+軽銀商会・交易神殿・知識神殿の複合勢力)へと引き継いで、半竜娘たちは本業の冒険に戻るために引き上げようか、としていたある日のこと。

 

 

「……なんか、島の様子がおかしいのう」

 

「そうですね、お姉さま。静かすぎるような……」 「……ヤなかんじなのです、ご主人……!」

 

 転移陣のある島中央南寄りの塔から、見回りがてらグルリと島を一周するように獣道を歩いていた半竜娘と文庫神官(+白梟)は、そろって首をかしげました。

 いつもは密林に響くはずの、恐竜たちの鳴き声が聞こえないのです。

 

「っていうか、見られてませんか……?」 「視線ビンビンなのですよ」

 

「そうじゃのう……」

 

 代わりに感じるのは、まるで狩りの前のような緊張感。

 息を殺して、獲物にとびかかる前のような、静謐。

 じっとりとした捕食者の視線を感じます。

 

「……いずれにせよ、再生施設に行けば分かるじゃろう」

 

「西のドームのあたりに近づくにつれて、こう、視線の “圧” が強くなってますもんね」

 

「元凶はあっちじゃろうなー。……向こうの施設に詰めておる者らが心配じゃのう」

 

 ここにいない森人探検家、TS圃人斥候、幼竜娘三姉妹は、再生施設がある島西のドームに滞在しています。

 そこには雪解けを待って、噂を頼りに祖竜にお目通りすべく巡礼に来た蜥蜴人の若者たちも居ますし。

 人手として先んじて寄こされた神殿や商会の者たちもそちらに居て、施設運営の引継ぎをしています。

 

 え。半竜娘ちゃんと文庫神官ちゃんたちだけ別のところに宿泊していたのは何故か? ……それを聞くのは野暮ってもんです。

 まあ、ちゃんと、商会から送ってもらった物資の受け取りのために、転移塔の方にも当直が要るという正当な理由もありますヨ?

 

 ともあれ。

 

「行ってみんと始まらんのう」

 

「ですね」

 

 闇竜娘(ダークドラコ)が宿った竜牙のアクセサリが、足早になった歩みにあわせて(はず)んで揺れて(きら)めきました。

 まるで闘争の予感に震えるように……。

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

「ねーえ! 矢弾! 矢弾もってきてーー!!」 「はーい、ただいまー!」

 

「咆哮で気絶したのは引きずってバリケードの後ろに下がれーー! 遮蔽とれ、遮蔽!!」 「「 はーい! よいっしょっ……と! 」」

 

 怜刀竜(リンタオロン)*1の群れが跳ねて宙を舞い、それを森人探検家が連射弓術で撃ち落とします。

 その(かたわ)ら、矢弾を切らさないように、補充を持った幼竜長女が森人探検家まで駆け寄って、空間拡張された矢筒にまとめて放り込み。

 

 敵のボスである巨大な肉食恐竜の咆哮を浴びて気絶した神官や蜥蜴人に飛び掛かる小型の肉食恐竜たちを、TS圃人斥候が剣と盾で受け流し、さばいて。

 その隙に、幼竜次女と幼竜三女が気絶した味方を引きずって、遮蔽物の奥へ下げていきます。

 

 飛び散る血飛沫(しぶき)

 砕けて舞う祖竜の鱗。

 肉食系の祖竜と、蜥蜴人・神官たちが入り乱れて、取っ組み合いの乱戦。

 しかも、一部の蜥蜴人は祖竜の側に寝返っているようです。

 

「裏切者ーー!」

「恐るべき竜に従って何が悪いーー!!」

『KKKRRUUUUUAA!!!』

 

 原形質に満ちた巨大プールがある大広間は、まさしく修羅の巷と化していました。

 次々と、祖竜が原形質のプールから再構成され、飛び出してきます。

 

『『『 GGGRRRROOOOOORRRRROOO!!! 』』』

 

「ふははは! 恐るべき竜と力比べできるとはな!」

「故郷から遥々巡礼に来た甲斐があったというものよ!」

「騙されたつもりで“赤い爪”の言うことを信じてよかったなぁああ! はっははは!」

 蜥蜴人の若人たちが、爪を、棍棒を、太刀を振り回して、小竜(ディロフォ)たちとぶつかり合っています。

 お互いに既に、鱗が剝がれ血を流し、ボロボロになっても、闘争を続けます。

 

「それならきちんと儂の言うことを聞かんかぁぁああ、若造どもォ!!」

 

 イイイイヤアアアアッ! という怪鳥音とともに “赤の爪” は自慢の紅爪を振り回し、敵の祖竜の首をまとめて切断します。

 首を切断された小型の祖竜たちの死体を、原形質のプールから伸びた緑色の粘液の触手が回収していきます。

 死闘のわりに辺りが片付いていて清潔なのは、そのとき、床に流れた血や臓物も一緒に浚われていってるせいですね。

 

「あー! もー! きりがないーー!」

 

「無限湧きかよ! っていうか、施設の制御はどうなってんだよ!」

 

 粘液触手によって緑色の原形質のプールに引きずり込まれた死体は、すぐに消化されて再構成され。

 間髪入れずに再構成された祖竜は、すぐまた原形質の水面から飛び出し、乱戦に加わります。

 

 

 そして、緑色の原形質が流動するプールの中央。

 そこにはひときわ大きな、恐るべき竜が、半身を原形質のプールに浸して佇んでいます。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 乱杭歯(らんぐいば)が生えた巨大な頭部は、暴君竜(バォロン)のごとく。

 頭頂から背中、尾までかけて棘の生えた皮骨板(オステオダーム)は、鎧竜のごとく。

 強靭な2本の後ろ足で身体を支え、両前脚は鋭い爪を備えつつも、暴君竜とは異なって十分な長さがあり、器用に動かせるようです。

 

 血走った眼には、極大の闘争心と、そして何よりも、深い知性が(たた)えられています。

 

 何者にも従わない、そして抜きんでた竜。

 不羈(ふき)の存在。

 

 名づけるとすれば、不羈なる竜王(インドミナス) といったところでしょうか。雌なら “不羈なる竜女王” 、ですかね。

 

「施設の制御!? なんか知らないけど、あのボスっぽいやつに奪われてるのよ! 再生槽はもう完全に掌握されてるわ!」

 

「ああ、信じられねーがそうみてーだな! おかげで()っても()っても減りゃしねー!」

 

 そう叫ぶ森人探検家とTS圃人斥候の見る先では、“不羈なる竜女王(インドミナス)” がその身を(よじ)って震わせると、体内からバチリと紫電を漏らしました。

 

『RRRRUUUUUOOOOOOO!!!』

 

 体内発電!?

 電気ウナギのデータでも混ざってるんでしょうか。

 いえ、あるいは何か別の術理なのか。

 

 “不羈なる竜女王(インドミナス)” の身から迸った電流は、原形質を伝って施設の制御装置へ到達し、それに作用します。

 どうやらまた1つ施設のロックを外したようで、原形質から生まれてくる祖竜の数が増えたようです。

 徐々に全体が押され始めます。

 

「……なるほど。生まれてすぐあーやって電気出して、まずはすぐ近くの再生槽の制御から奪ったのか」

 

「感心してる場合じゃないわ! このままじゃ押し切られる……!」

 

 険しい顔をする森人探検家とTS圃人斥候の2人を支援すべく、幼竜娘三姉妹は【支配(コントロールアニマル)】の手綱を()って、出てきた祖竜たちを乗りこなしては同士討ちさせるべくぶつけ、また別のものを操っては同士討ちさせ、と獅子奮迅の働きをしています。

 

「操って!」 「ぶつける!」 「敵を寝返らせるのが、一番効率的!」

 

 凡百一般の祖竜であれば、本能に従って動くのみですから、【支配(コントロールアニマル)】の術がよく効くわけです。

 これによって敵を操れば、敵は戦力-1、味方は戦力+1で、一挙動で戦力差を2つも縮められます。 

 このようにこれまでのサポートから自己判断で撹乱に回った幼竜娘三姉妹の働きで、戦場はまた拮抗し始めました。

 

「あと少し待てば……! これなら!」

 

「ああっ! リーダが来るまで持ちこたえられるはずだぜ……!」

 

 森人探検家の矢が祖竜の眼を、首を、肋の間から心臓や肺を貫き、息の根を止め。

 TS圃人斥候が小柄な体躯を生かして、乱戦の中で死角から死角へと駆け込み、首や腱を刈りとります。

 

 “赤の爪” が率いる蜥蜴人たちも奮戦し、神官団は負傷者の手当てに奔走し。

 いくばくかの時間が過ぎて。

 

 そして、ついに。

 

「ィィィイイイイイヤアアアアアア!! 【突撃(チャージング)】じゃ!!」

 

 待ち人(きた)る!

 

 【突撃(チャージング)】の祖竜術で魔法のオーラを纏って突っ込んできたのは、半竜娘ちゃんです。

 おそらくは武技【軽功】を並列して発動し、入り組んだ西のドーム内の通路を縦横無尽に天地上下関係なく走ってやってきたのでしょう!

 十分な助走距離を得て、高速で突っ込んできます!

 

 もちろん標的は、ドーム中央でこちらを睥睨(へいげい)する、“不羈なる竜女王(インドミナス)”です! 初手決着! 開幕ブッパ!

 

GGGRRRUUUAAAOOO!!!(そうするだろうことは分かっていた!!)』 

 

 しかし突如として、広間の全員の脳裏に、“不羈なる竜女王(インドミナス)”の咆哮とともに彼女の意思が流れ込みます。

 咆哮に意思を乗せるこれは……! 祖竜術【念話(コミュニケート)】!?

 

「貴様ッ! 竜司祭(ドラゴンプリースト)でもあるのかや!!」

 

GGGOOORRRR!!!(竜たるもの使えぬ道理があるものか!) GGGUUURR!!!(やれぃ、妹!)

 

GGGRRRRROOOORRR!!!(心得た、姉者! 突撃いい!!)

 

 

 不羈なる竜女王(インドミナス)” は!

 

 2体いた!!

 

 

「伏兵! 【擬態(カモフラージュ)】の術で隠れておったか!?」

 

GGGAAAAWWWW‼‼ GGGAAWWW‼‼(貴様ら脆弱なヒトトカゲと一緒にするな!) GGGOOORRRUU!!!(生まれつきだ!)

 

 あらゆる祖竜の因子を持つ “不羈なる竜女王(インドミナス)” にとっては、蜥蜴人たちが祖竜の霊威を降ろさねば使えない数々の術も、生まれた時から身に着けている権能に過ぎません。

 

 馬普竜(マプロン)のような念話を乗せた嘶きも。

 甲竜(アンキロス)のような無双の突撃も。

 変色竜(カメレオン)のような完全なる擬態も。

 

 その全ては生まれつき、息をするように当然の、天与の肉体性能なのです!

 生まれながらにして最も祖竜に近しい、最新の現世竜!

 データ的に表すならば、『祖竜術Lv10。高位呪文を含む全ての祖竜術を使用可能。呪文使用回数∞』といったところでしょうか。

 

「ぬぅっ! マグナ( 魔術 )ノドゥス( 結束 )ファキオ( 生成 )! 【力場(フォースフィールド)】!!」

 

 “不羈なる竜女王(インドミナス)” 妹の突撃を受け止めるために、半竜娘は半透明の【力場】の壁を生成。

 一方で自らは武技【軽功】の作用でその【力場】の壁を蹴って方向転換。

 

GGGRUUUA‼‼(無駄ァ! 脆弱ゥ!)

 

 しかし巨体のパワーはそれをさらに上回ります。

 やすやすとマナの壁を破砕した “不羈なる竜女王(インドミナス)” 妹は、尾を大きく振って体勢を倒し、祖竜術【閃技(サクセション)】の効果で身に着けた武技【超信地旋回】により方向転換!

 再び半竜娘ちゃんを射程に捉えます。使うのは3連咬みつき――【竜顎(ドラゴンバイト)】です!

 

『GGAWW‼‼』

 

「おおおおっ!? ならば顎ごと裂いてくれるわ!! 巨竜の力を今ここに! セメル( 一時 )クレスクント( 成長 )オッフェーロ( 付与 )!」

 

 真言呪文によって巨大化した半竜娘ちゃんが、迫り来る顎先を掴み、その顎を閉じさせないばかりか逆に広げて引き裂かんと力を入れます。

 

GGGGGGG(ぐっ!)……GGRROOOAOO‼‼(その真言、覚えたぞ!!)

 

「何ッ!?」

 

 “不羈なる竜女王(インドミナス)”妹の体表の模様がイカやタコが擬態するときのように蠢き、メギャン! と文字のような模様を形づくりました。

 浮かび上がった模様は、次のように見えます。

 

 semel crescunt offero

 

 それは真に力ある言葉―― 世界を改変する真言です。

 現れた文字の意味するところは、semel(セメル/一時)crescunt(クレスクント/成長)offero(オッフェーロ/付与)

 つまりは、巨大化の術!!

 

『GGGGRRRUUUUUUAAAA!!!!』

 

「なんとォッ!?」

 

 世界を歪める “力ある言葉” に耐えられず、真言が浮かんだ皮膚は弾けて裂け。

 しかしそれを代償にメキメキと5倍に巨大化する “不羈なる竜女王(インドミナス)” 妹!

 亜拉摩(アラモ)の成体すら収めることができるこの再生槽があるドームですから、巨大化した “不羈なる竜女王(インドミナス)” 妹と、巨大化した半竜娘ちゃんを納めても若干の余裕があります。

 が、今は両者ともに【突撃】の速度が乗った状態です。

 

『GGGGRRRUUUOOOAA!!!!』 「のじゃぁぁぁ!!?」

 

 高速でもつれ合いながら、二者はドームの壁を突き破っ……らずに、インドミナス姉が操作して開けた搬出口から外へと転がり出ていきます。

 巨人の国の城門かのような大きさの搬出口は、もとから、巨大な草食恐竜たちの成体でも歩み出せるように作られていますので、呪文で巨大化した彼女らを通して余りあります。

 さようならー。

 

「え、リーダー、アウト(退場)?」

 

 TS圃人斥候が呆然としてこぼした言葉が、不意に静寂が重なった戦場にこだまします。

 搬出口の向こうで木々をなぎ倒す戦闘音が響いていますが、やがてゆっくりと搬出口が閉まるとともに、それも聞こえなくなります。

 

GURUGRU! GRUGRU‼‼(こっちの伏兵とそっちの) GGAAAA‼‼ GGRRUUUWWW!!(最大戦力を引き換えなら上等よ!)

 

「ゲェッ!? 最初っからこれを狙ってやがったのか!?」

 

「祖竜術も真言呪文も使える恐るべき竜って、完全にあの娘(リーダー)の上位互換じゃないの!!」

 

 あ。森人探検家ちゃん、それ言っちゃいます?

 

GGAWW! GAAWW! GAAW‼‼(然り! 頭の出来が違うのだよ、ヒトとは!)

 

 挑発するようにインドミナス姉が原形質の池の中央で自らの蟀谷(こめかみ)をトントンとつつきます。

 たかだか猿の末裔や、それと似たような直立歩行を選んだトカゲビトとは一線を画すると言いたいのでしょう。

 彼女(インドミナス姉)は彼女で、己のありように対して膨大すぎるくらいの自負があるようです。

 

GGYAAAAWW‼‼(竜とは縛られぬもの!) GGGOOORRUUUUU(なんぴとたりとも、)UAAAAAAAAAAAAA‼‼(我らを支配すること能わず!!)

 

 インドミナス姉の身体からさらに紫電が迸り、施設の制御に干渉。

 

GGGGUUUUURUUU(我こそは最新にして最強の、)RUUURUUAAAAAAA!!!(真に恐るべき竜なり!)

 

 原形質を伝った紫電の干渉がライブラリのロックを外し、さらに侵食。

 インドミナス姉の権限が拡張され、再生成可能な祖竜のバリエーションがより増えたようです。

 

GGGGGAAAAAAOOOOOWWOWWWWWWWWW!!!(この世界は我ら恐るべき竜のものなり!)

 

 祖竜を継ぐ者であるインドミナス姉にしてみれば、ヒトらとの生存闘争に負けたつもりはさらさら無いのでしょう。

 覇権を己のアギトに取り戻すべく、まずはこの島から制圧するつもりなのです。

 

 再生槽の原形質が大きく盛り上がると、それはすぐに肉質や骨格へと分化し、ライブラリ上でアンロックされた新たな祖竜を形作りました。

 

 それは、暴君たる恐竜。

 すなわち暴君竜(バォロン)!!

 

GGGAAAAAWWWOOOOOOOO(この島―― いいや、この世界!)OAAARRRRR!!! GGGGUUUUURRRUUUUAAAA!!!(我ら恐竜帝国が席巻し支配してくれよう!)

 

 猿の末裔だの異界の魔神だのが争うに任せて預けていた地上の覇権。

 それを取り戻す時が来たのだと、竜威を乗せた咆哮を放つインドミナス姉。

 彼女の凱歌に合わせて、既に生成されていた怜刀竜(リンタオロン)小竜(ディロフォ)*2ら肉食恐竜たちと、新たに生成された暴君竜(バォロン)*3が、次々に雄たけびを上げます!

 

「おおお。ああ。これぞまさに、我ら蜥蜴人の悲願……真の祖竜の復活か……」

 

 これまで意気軒昂に戦っていた “赤の爪” を筆頭にした蜥蜴人の戦士や巡礼者たちが、尾を垂れ、平伏(ひれふ)していきます。

 蜥蜴人たちが降伏したならば、戦力比は大きく恐竜帝国側に傾きます。

 加えて敵には暴君竜が加わり、期待していた味方の援軍(半竜娘ちゃん)は排除されてしまっています。

 ここに趨勢は決したと言って良いでしょう。

 

GGGRUURURU……(従うのならば許そう) GGUAAAUGGGAAWW‼‼(そうでなければ立ち去れ!)

 

 己の優位を確信したのか、一転して穏やかに語りかけるインドミナス姉。

 王者たるものの余裕ということでしょう。

 

 士気が挫けた味方の神官たちが錫杖を取り落とし、膝をつきます。

 

 しかし、そんな中でも、森人探検家・TS圃人斥候・幼竜娘三姉妹はまだあきらめていません。

 それぞれに、弓を持ち、剣を構えて、魔法の手綱を提げています。

 

 なぜなら、まだこの場に姿を現していない味方が居るからです。

 希望はまだ失われていないのです――!

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 そのころ施設の外では、巨大化した半竜娘とインドミナス(いもうと)が【突撃】による高速移動でデッドヒートを繰り広げながら、島の外周へと向かっていた。

 

『GGGGGUUUURUURUUOOOOOWWWW!!!』

「こぉおのおおお!!?」

 

 巨木を避け、倒木を飛び越し、お互いに右に左に肩からガツンガツンとぶつかって(しのぎ)を削り―― 海際の崖から飛び出した。

 

GGAAWW!!!??(がけっ!?)

「かかったな!!」

 

 そこはいつも釣りをしている崖。施設内ならともかく、施設の外の地の利は半竜娘たちにある。

 昨日も蛋白源の確保補充のために精霊術【蟲寄(フェロモン)】をかけた疑似餌(ルアー)を使って釣りをしていた。

 【蟲寄】の術の持続時間は、24時間。そのため昨日のルアーもまだ効果を発揮している。

 そして効果時間が残っているルアーは沖に流して、次回以降の漁のために海中の生物を集めるようにしているのだ。

 

 崖に備え付けられた大釣り竿。

 半竜娘の狙いは、その釣り糸が伸びる先。

 

「おお! きちんと大物が掛かっておるな!!」

GGGYYYAAAAAAAUUU!!!??(なにあれなにあれなにあれ!?)

 

 海面の下に影がある。

 巨大化した半竜娘とインドミナス妹に比べても遜色ない大きさだ。

 ()()は何かしらの鋭敏な感覚で、崖から飛び出してきた2体の竜を察知したのだろう。

 

 ()()を伸ばしてそれを歓迎した。

 

(タコ)を見るのは初めてかの!? いや海も初めてであろうの!!」

OOOGGYYYAAA!!!??(イィーーヤァーーー!!?)

 

 海面に落ちた半竜娘とインドミナス妹は、無数の巨大な触手に絡みつかれ、海中へと引きずり込まれる!

 

『OOOOCCCTTTTOOOPPUUUSSS!!!』

 

 巨大タコだ!!

 

GGGYYYAAAAAAAUUUAAA!!!??(なにこれなにこれなにこれぇー!?)

 

 幾ら身体スペックとしては抜きんでていても、インドミナス姉妹は生まれたて。

 刷り込まれた(インプリントされた)記憶はあれど、生態的に接することが想定されていない海のものについての記憶はない。当然だ。

 必死に暴れることで何本か触手を引きちぎるが、それより絡みつく触手の方が多い。

 生まれて初めて接する蛸の触手に絡めとられて、寄る辺なき海の底へと引きずり込まれる恐怖はいかばかりだろうか。

 

GGGUUUGYAGYGYAGYAAA!!!(お前! 自分もろとも!?)

 

 しかも、まさか生存至上主義の蜥蜴人がこのような自爆特攻をするとは思わなかったのだろう。

 インドミナス妹の混乱もひとしおだ。

 

GUGGYYAWW!!?(正気かっ!?)

 

「いや、手前は【分身】じゃし」

 

GAOW??(は?)

 

 半竜娘―― の分身は、シュタっと手を挙げると、その身を薄れさせていく。

 

「じの……」

 

GGYOOOWU??(えっちょっと??)

 

 あとに残されたのは、呆然とするインドミナス妹と、半竜娘の方に絡ませていた触手を余らせた巨大タコ。

 

 当然、蛸は獲物を逃すまいとさらに攻勢を強める。

 

『OOOOOCCTTTTOOOPPUUUSSS!!!』

 

GGGGGUUURUUUROOOOOO!!!!(お、おねえちゃーーーん!!)

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

GGGGGUUURUUUROOOOOO!!!!(お、おねえちゃーーーん!!)

 

 再生槽のあるドームの中にまで、【念話】を乗せたインドミナス(いもうと)の叫びが響きました。

 

GGYAAWW??(ん? 妹の悲鳴?)

 

 それに気が逸れたインドミナス(あね)

 妹は少し甘いところがあり、姉としては少し懸念があったのは事実。

 それでも自らと同じスペックをもつハズなのでと相手の大駒―― 半竜娘―― の対処を信じて任せたのだが……。

 

GGGUUUUURUUUU………(なんかヘマしたな、愚妹め……)

 

 ふぅ、やれやれ。とやけに人間臭い動作で首を竦めたインドミナス姉。

 降伏したはずの蜥蜴人たちや神官たちの士気が少しだけ持ち直したようですが……。

 もはや趨勢は動かないでしょう。

 

 ――――もし本当に、半竜娘の排除に成功していたのだったら、ですが。

 

 

GGGUURURURURU‼(まあいい! さてまだ) GGGUUUGGYYYAAAA‼(戦うというなら相手になろう!)

 

 インドミナス(あね)は、まだ戦意を失わない森人探検家たちへと采配を振るうべく爪を向けます。

 見逃してやる気はありましたが、抵抗するというなら是非もありません。

 暴君竜(バォロン)が、小竜(ディロフォ)が、怜刀竜(リンタオロン)が、包囲を狭めます。

 

 絶体絶命!

 

 しかも今もなお、再生槽の原形質からは、祖竜たちが再生され続けています……。

 仮に敵を一時的に片付けたとしても、これがある限りは勝ち目がありません。

 無尽蔵の増援……恐竜帝国に勝つためには、この再生槽を無効化しなくてはならないわけです。

 

 

 そのとき、闇夜を照らす灯明のような声がドームに響きました。

 

 

「蝋燭の番人よ! 汚濁を取り除く我が手元に! どうか一筋の光明を! ――浄化(ピュアリファイ)】!!

 

 鎧に聖剣、そして司教杖。知識神の聖騎士。文庫神官の浄化の術です!

 いつの間にか現れていた文庫神官が、森人探検家たちの隣で杖を掲げています。

 生命未満の原形質が、その浄化の力によって、ただの水へと変じます。

 

 フィールドの祖竜再生増援効果を除去!!

 

「スクロールオープンなのです! ――【天候(ウェザーコントロール)】 吹雪の相!」

 

 さらにそこへ、真言呪文【天候】のスクロールを足から吊るしながら飛んだ白梟使徒によって、ドームの中を冬山のような極寒の吹雪が覆います。

 寒冷化氷河期により絶滅した祖竜にとって、寒波は特効となります!

 

『『『 KKKUURUUUUUWWW………… 』』』

 

 特に小さな祖竜ほどその効果は大きく、あっという間に震えて蹲ってしまいました。

 ついでに言うなら、蜥蜴人戦長 “赤の爪” や、蜥蜴人の巡礼者たちも寒さに震えて膝をつきます。まあ、変に引っ掻き回されるよりも無力化されていてくれた方がいいでしょう。

 

GGGUUURRUUUAA!!!(な、なんだ!? いつの間に!?)

 

「【透明(トランスペアレント)】の巻物(スクロール)さ。透明化して近づいたんだ」

 

GGGUUAAWWAAAA!!?(この気配……魔神ッ!?)

 

 いまだに透明化を保ち続けているためか、姿なく声だけの魔神―― 闇竜娘―― の禍々しい気配に反応し、インドミナス姉は周囲を見回します。

 しかし相変わらず、その姿をとらえることはできません。

 

 文庫神官や白梟使徒も、同じように【透明】の巻物で姿を隠して近づいたのでしょう。

 それゆえ、これも完全に不意打ちでした。

 

「――立ち枯れよ。荒野に佇み、雨を待ち、日に焼かれながら。死霊術【致死(フェイタリティ)】」

 

GGGGUURUAAAAUUU‼‼(離れろ、汚らわしい魔神め!)

 

 見えない闇竜娘が、インドミナス姉に呪詛を掛けます。

 それは死霊術【致死(フェイタリティ)】。

 傷による負傷を塞がせず、出血多量で死に至らせる術です。

 

「イイイイヤアアアアッ!!」

 

 そこへ魔術で透明化した半竜娘ちゃんが不意打ちで躍り掛かり、【竜爪】二刀流と【竜顎】三連撃を加えます!

 

GGGURURUUUAAAAAAOO‼‼?(貴様っ、妹が引き離したはずでは!?)

 

「あれは分身じゃ! 伏兵の排除に成功したのはこちらの方じゃったというわけじゃよ!」

 

GGGGUUUGYAAAAOOOWW!!(小癪な半竜めが!!)

 

 驚愕するインドミナス姉は、しかしそれでも反応し、不可視の襲撃者に対処し、なんとか嵐のような5連撃をかすり傷に抑えます。

 大ダメージにはなりませんでしたが、しかしかすり傷でもダメージはダメージ。

 5回の傷により、出血状態が深刻化。出血状態Lv5となり、消耗により、ラウンド終了時に[2D6×出血状態Lv]の装甲無視のダメージを負います。

 

GGGUUURRUUAA(血が。血が止まらぬ)

 

 インドミナス姉が受けた傷から明らかに不自然な勢いで血が流れ、身体から活力が失われていきます。

 

 正直、不羈なる竜女王(インドミナス)は、暴君竜(バォロン)譲りの高耐久と装甲が、さらに皮骨板で強化されており、恐竜特有のダメージ軽減技能(タフネス/【白亜の生命】技能)があるため、まともにダメージを通すことは期待できません。

 そのため半竜娘が選んだのは、かすり傷を積み重ねて、出血により消耗死させるという戦術です。

 ダメージが通りづらいなら、装甲無視ダメージを与えればいいじゃない!

 

GOOOOOOAAAAAAAWWWW!!!(ゴルゴスよ! 我が身に活力を!)

 

 しかしインドミナス姉には対抗策があります。

 高位祖竜術【治療(リフレッシュ)】は、積み重なった出血の状態異常をリセットする作用があります。

 あらゆる祖竜の因子を受け継ぐインドミナス姉ももちろん、その恩恵に与ることができます。

 

 祖竜術の【治療】と同じ超自然の光により、インドミナス姉の傷は塞がります……。

 

「じゃがしかし。【致死】の呪いを祓えたわけではあるまい! 皆の衆っ、やれぃ!!」

 

 傷を重ねれば死ぬぞーー! と半竜娘が鼓舞します。

 傷は治っても、出血の呪いは持続しているのです。

 

「なるほどオッケー。手数重視ってわけね。それならさあ、食らいなさいっ――【十六夜撃ち】2連!!」

 

 機をうかがっていた森人探検家が目にも留まらぬ速射により一人で弾幕を張り。

 

「こういう時のために、盾の縁を研いでるんだぜ! 二刀流剣舞!」

 

 (こご)えて固まる祖竜たちを踏み台に飛び上がったTS圃人斥候が剣と盾を振り回します。

 

『GGGUUUUUOOOAAAAAA!!???』

 

 治ったばかりの傷口が鏃と刃で抉られ、再びインドミナス姉が血達磨(チダルマ)になりました。

 

 しかし、それでも【治療】の効果で治してしまえばリセット可能。

 まだ終わったわけではない、とインドミナス姉は自らに流れる血の螺旋を再び呼び覚まそうと集中します。

 

 しかし――

 

『BBBBAAAAOOOROOOOWWWNNN!!!』

 

GUUGYAW!!?(ぐぅっあ!?)

 

 その横合いから、暴君竜(バォロン)が突撃!

 大きな口でインドミナス姉の首筋に咬みつき、そのまま原形質が浄化されて水になった再生槽のプールに押し倒します。

 天候操作の吹雪で冷えたプールに倒れたことで生まれた大きな水飛沫によって、さらに一帯の気温が下がります。

 

「バォロンライダー!」 「見参!!」 「トドメはいただきだー!」

 

 突っ込んできた暴君竜(バォロン)の背には、吹雪に紛れて取りついたのか、【支配】の手綱を掛けた幼竜娘三姉妹の姿が!

 幼竜娘三姉妹が操る暴君竜(バォロン)は、倒れたインドミナス姉を後ろ足で押さえつけて水の中に沈め、さらにその身体を冷やしつくそうとしています。

 

 再生槽に満ちた浄水が、インドミナス姉の傷口から流れ出る血液によって、赤く赤く染まっていきます……。

 

UUUUUUGGGGAAAAAUUUUUUWWWNNN!!!(まだだっ! ディスチャージ!!)

 

『BBAOO‼‼?』

 

 しかしインドミナス姉はまだ諦めず。

 身体を震わせて電流を生み出すと、放電(ディスチャージ)しました!

 血の混ざった水は導体となり、暴君竜(バォロン)の体内を電流が蹂躙!

 

 さらにそれによって、暴君竜の気付けになったのか、暴君竜は【支配】の手綱の効果を拒絶して暴れ始めました!

 おそらくは負傷によって、デバフ無効化の特殊能力【最強の暴君】の第一段階が発動したのでしょう。

 

「うわわわっ!?」 「あーばーれーなーいーでー」 「最強の暴君は支配できないのね……」

 

 振り払われた幼竜娘三姉妹が、「「「 うわきゃー!? 」」」と叫んで、ぽーんと空中に投げ出されました。

 が、何とか獣人態になった白梟使徒が捕まえて、必死に羽ばたいてくれたおかげで軟着陸。どうやら無事なようです。

 

 しかしインドミナス姉の手番を消費させることができました。大殊勲です。

 

 その間に、闇竜娘が死霊術【命令(コマンド)】により、再び暴君竜をコントロール。

 怜刀竜(リンタオロン)小竜(ディロフォ)も含めて、鐘の音と呪符により支配下に置いています。

 

 出血を強いる致死の呪い。

 半竜娘の爪爪牙。

 森人探検家の矢の雨。

 TS圃人斥候の剣盾二刀流。

 闇竜娘が操る祖竜たちの爪牙。

 そして白梟使徒が維持する極寒の環境。

 

 文庫神官は、インドミナス姉が施設のコントロールに意識を割けなくなったことを見て、すぐに遺跡の権限を再掌握しはじめています。

 権限の上書きをするにも、また最初からやり直しになるでしょう。

 

「竜となって世を席巻するのは蜥蜴人の悲願じゃが、別種に(ゆだ)ねるものではないのじゃ」

 

 半竜娘が語り掛けます。

 

「恐るべき竜は、絶えて、滅びた。じゃが、蜥蜴人は生き残った。進化に行き詰った祖竜を模したなら、生き残った(すえ)である手前らが負ける道理はないのじゃ」

 

 半竜娘なりの、竜司祭の矜持というものを。

 不羈なる竜女王(インドミナス)に、また、その彼女に心を折られた蜥蜴人たちに聞かせるために。

 

「“竜になる” というのはな、今まで生き残った手前らの血脈を踏まえたうえで、より強大で強靭になるということなのじゃ。幾らお主が祖竜の似姿を取り血統を束ねた “最新の祖竜” だとはいえ、白亜の時代に潰えたものに、連綿と血の螺旋を継いできた我らが負けるわけにはいかぬ」

 

 ―――― 降参しぃ。 半竜娘が厳かにそう告げました。

 

 その間に、インドミナス姉の明晰な頭脳も、この戦いの終着までを読み切っていました。

 もはや勝ち目はありません。それが見えてしまいました。

 認めるには苦いものがこみ上げますが、しかし、認めないわけにもいきません。

 

GGGUURUUURUUUU………(降参だ……)

 

 戦意を失ったインドミナス姉は、最後に自らの傷を高位祖竜術【治療】の作用によって治すと、その身を伏せさせました。

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 というわけで、“奇跡の島” における再生祖竜たちの反乱はひと段落。

 首魁であった不羈なる竜女王(インドミナス)姉妹を屈服させることに成功したのです。

 

 あ、海で巨大タコと戦っていた妹の方ですが、きちんと回収していますよ。

 ぐちゅぐちゅのニュルニュルになって、すっかり心が萎えてしまっていましたが。

 まあ、さもありなん。

 

 

 その後の顛末ですが、インドミナス姉妹については、その頭脳と、祖竜たちとの意思疎通能力を評価して、この島における祖竜たちのまとめ役に就任し、祖竜側の代表として、ニンゲン側との折衝を行う役に就くことになりました。

 いうならば、労働者側代表、というようなものでしょうか。あるいは祖竜が暮らす島の自治会長、というあたりか。

 

 今後は、巡礼に来る蜥蜴人たちやその他の種族の祖竜信仰者たちとの調整に奔走してくれるでしょう。

 また、島の運営側としても、上手く祖竜たちの力を借りれば、島の運営や保守整備が楽になりますので、大いに期待しています。

 そのうち、蛋白源を確保するために崖から釣り糸を垂らす祖竜の姿や、道を(なら)す土木工事に従事する祖竜の姿も見られるようになるでしょう。

 

 生態系が安定すれば、再生施設から補充は止めることになっています。

 そこまでくれば自然に任せるわけです。

 あまりにバランスが崩れれば介入することになるでしょうが……。

 

 ただ、もう既に、慈母龍(マイアサウラ)を含む一部の祖竜を模した再生体は、子育てを始めています。

 その経過を見る限り、あまり心配はいらなさそうです。

 

 島の小径(こみち)を歩く半竜娘一党は、子育てに勤しむ祖竜たちを見てほほえまし気にしています。

 

「……自然に増えた竜たちも、この島から出られないのは変わらないんでしょうか」

 

 文庫神官が疑問を呈します。

 再生施設の原形質から発生した祖竜たちは、施設の影響下から離れると、乾いたミイラのようになって石化するように設定されています。

 果たして、その性質は子や孫の世代にも引き継がれているのでしょうか。

 

「まあ、そうじゃのう。今のところは子や孫の世代でも、その呪縛からは逃れられぬようじゃ」

 

「やっぱりガワは祖竜だけど、魔法生物の一種ってことなんだろーな」

 

 魔術師として見識が深い半竜娘とTS圃人斥候が言う通り、子や孫の世代でも、この “奇跡の島” からは生きて出られないようです。

 

「とはいえ、目途は立ってるっていうじゃない?」

 

 森人探検家が前に出て、ふわりとターンして振り返ります。

 

「まあ、そうじゃのう。外で生きられぬのは、魔法的な縛りのせいであり、実際にその縛りを通じて供給されるエネルギーに生体機能の一部を依存しとるせいじゃ」

 

「ということは……そのエネルギー供給をどうにかすれば良いのですか?」

 

「そうなるのう」

 

 エネルギー供給について解決すればいい、という原因が分かっていれば、まあ、幾らでも手段は出てくるはずです。

 原因が特定できれば、まあ問題の半分以上は片付いたと言っていいですからね。

 

「例えば、何らかの魔道具でエネルギー供給を肩代わりするとか、な」

 一つの案を出したのはTS圃人斥候。

 エネルギー供給を中継する魔道具があれば、行動範囲は広げられるでしょう。

 遺跡を探せば、ひょっとすればそういう道具か、試作品のようなものがあるかもしれません。

 

「そんなことしなくても、使い魔契約のパスを結んでしまえばいいのよ」

 ニヤリと笑ったのは森人探検家。

 魔術師の【使魔(ファミリア)】の呪文であれば、確かに可能性があります。

 

「それでも、暴君竜(バォロン)だとか、不羈なる竜女王(インドミナス)だとかは難しいじゃろうけど」

 性格的に使魔(ファミリア)として下につくのを是としないでしょうし、従える側には相当以上の実力を要求してくるでしょう。六英雄級で足りるかどうか。

 それに力の足りない者が使い魔として従えようとしても、すぐに魔力や生命力を吸い尽くされて干からびてしまうはずです。

 

「……なるほど。でもそうすると、彼女たちインドミナス姉妹が、この遺跡を研究して自分たちの力でその枷の外し方を編み出す方が早いかもしれませんね」

 文庫神官が言う通り。

 高度な知能を持つ不羈なる竜女王(インドミナス)の姉妹であれば、やがては自らの身を遺跡の呪縛から解き放つ方法を見つけられるはずです。

 

「まあ多分そうするつもりでしょうね。あの子たち、張り切ってたし」

 森人探検家が、竜たちの代表となったインドミナス姉妹の様子を思い出して、さもあらんと首を縦に振ります。

 実際、彼女らがおとなしくする条件のうちの一つが、遺跡の共同研究になっています。

 

「温厚な腕龍(ブラキオン)だとかの草食系の祖竜であれば、あるいは連れ出せるかもしれんぞ?」

 

「いや、それだと逆に巨体過ぎて、使い魔にもしづらいわよ。牧場にも置けないし、食費が馬鹿にならないでしょ?」

 

 ちなみに。

 祖竜たちの巨体を維持するために、この島の遺跡には高効率の食料生産装置が付属しています。

 

 交易神殿の神官たちは、祖竜の住まう蜥蜴人の巡礼聖地としての “奇跡の島” よりも、むしろその食料生産能力に目をつけているようです。

 どうやら、高位真言呪文【核撃・爆裂】においても呼び出されるという異界のデーモンコアからのエネルギーを、この遺跡では出力を精密にコントロールして安全なレベルに抑えたうえで、何か複雑な機構を介して別のエネルギーへと変換して食料生産に利用しているらしいのだとか。

 

 ちなみに知識神の神殿は、過去に禁忌とされた技術の一つではないかという懸念を表明しています。

 デーモンコアとの恒常的な接続は、様々な面でリスクが大きいため、みだりに手を出すべきでない、とか。

 過去には街一つ吹き飛んだことがあるとかなんとか。

 

 ……そういう意味では、絶海の孤島であるこの島でデーモンコアに関する実験を行うのは、周囲への影響という観点からは、ちょうど良いのかもしれません。

 最悪でもどこにあるかも定かではない―― 知識神殿の天測によって大まかな位置は算出されつつあるそうですが―― この小さな島が吹き飛ぶだけですからね。

 島への出入り口も限られるため、秘密の漏洩への対策も十分に可能ですし。

 

腕龍(ブラキオン)亜拉摩(アラモ)がダメなら、小竜(ディロフォ)あたりはどうじゃ? 数を揃えて騎龍部隊を編成するということも考えられそうじゃないかの?」

 

「高位真言呪文の【使魔(ファミリア)】の使い手がそんな沢山、騎士団作れるくらいにいるわけないでしょ」

 

「それもそうじゃな……」

 

 残念ながらドラゴンライダー部隊は作られなさそうですね。

 個別の冒険者が、“奇跡の島” の噂を聞きつけ、使い魔を得るために乗り込んでくることくらいはあるかもしれませんが。

 その時に備えて、あらかじめルール作りでもしておいた方がスムーズかもしれません。

 

 

 …………。

 ……。

 

 

 そうこうしているうちに、転移魔法陣のある塔へとやってきました。

 いよいよ本格的にこの “奇跡の島” を離れ、通常の冒険者稼業に戻るのです。

 物品を納入しに来た軽銀商会の荷駄部隊に聞いたところ、王国西方辺境も、すっかり春になって久しく、過ごしやすい気候になっているとのこと。

 

「さらば、“奇跡の島” よ!」 「この島の経験は生涯忘れないであろう!」 「では、また来る日まで!」

 

 肩ひじ張って、どこかの何かの真似なのか、すっかり大きくなった幼竜娘三姉妹(生後約1年。成人した圃人くらいの上背)たちが敬礼しています。

 まあ、幼竜三女が言うように、また訪れる日もすぐにやって来るでしょう。

 特に冬の寒さを避けてバカンスに来るには最適ですからね。

 

「次は叔父貴も連れてくるかのう」

 

 叔父である蜥蜴僧侶も来たがっていたのですが、なかなか向こうのゴブスレさん一党の予定との噛み合いが悪くて、ついぞ来訪は実現できていません。

 とはいえ転移魔法陣の場所も伝えているので、来たかったら自分で来るでしょう。子供じゃないのですから。

 

「故郷には知らせてくれたんでしょ? きっと蜥蜴人たちも、ここを聖地として目指して巡ってきてくれるはずよね。人が動くってことは、物もお金も動くってことだし、発展が楽しみだわ」

 

 交易神の信徒としての務めを果たせたことに安堵している森人探検家。

 遍歴や巡礼、それに伴うお金の動き。

 それらの活発化こそが交易神の信徒が捧げるべき祈りなのです。

 

「蜥蜴人との間の火種にならなきゃいーけどな。蜥蜴人の部族だって、一枚岩じゃなくて、混沌側のやつらも居るんだろ? 只人の領域に遺跡があるのが気に入らない奴らも居るだろうさ」

 

 TS圃人斥候の言う通り、混沌に与する蜥蜴人の部族にとっては、この遺跡は垂涎でしょう。

 もともと森人の竜司祭に化けた闇人の手によって始まった陰謀の舞台でもあったのです。

 今後もまた同じように混沌の策謀がないとも限りません。

 

「それはそうですね。でも土の下に眠ったまま朽ちるよりはずっと良いはずですよ。こういう未知の遺跡なんかを知りたくて冒険者になったので、私はそう思います」

 

 文庫神官が大事そうにこの島の出来事をメモした手帳を持っています。

 好奇心旺盛な彼女にとって、今回の冒険は非常に有意義なものでした。

 骨を折った甲斐もあり、知識神の文庫も島に置かれるということで、将来またこの島まで来たときにその間の記録を読むのが、いまから楽しみになっています。

 

 

 

 転移魔法陣の間には、見送りに来たのか、蜥蜴人戦長 “赤の爪” の姿がありました。

 彼はこのまま、この島の代表に就任するとのこと。

 

「巫女殿とその仲間たちよ。世話になったな」

 

「ああ。“赤の爪” よ、お主に善き闘争があらんことを」

 

「そちらもな」

 

 “赤の爪” と半竜娘ちゃんが、奇怪な手つきで合掌して、互いの行く先が闘争に満ちたものとなることを祈りました。

 

 

 そして半竜娘ちゃんたちが転移魔法陣へと消える直前。

 

 

 ―――― GGGGUURUUUUUOOOOOOWWWNNN!!!

 

 

 力に満ちた竜の咆哮が聞こえました。

 間違いなくインドミナスのものです。

 それに乗せられた【念話】はこう言っています。

 

 ―― “強敵(とも)よ、また会おう”、と。

 

 

 半竜娘ら一党は祖竜の楽園を再建し、それを蜥蜴人部族・王国政府・軽銀商会・交易神殿・知識神殿に開放した!(多重依頼達成)

 経験点3000点獲得! 成長点5点獲得!

 

 

 というわけで今回はここまで!

 ではまた次回!

 

 

*1
怜刀竜リンタオロン:ヴェロキラプトルのこと。中国語では伶盗龍(賢いラプトル)。サプリの表記が怜刀竜なのでそちらで表記した。祖竜術の詠唱の中では、【竜牙刀(シャープクロー)】の詠唱で登場する。ジュラシックパークシリーズでは人間より若干大きい程度で表されるが、実際は野犬程度の大きさ。

*2
小竜ディロフォ:ディロフォサウルス。頭部に半月状の1対のトサカがある。祖竜術上では毒の吐息(ブレス)を放つ竜とされるが、実際の古生物学上のディロフォサウルスの生態とは全く別物なので注意。

*3
暴君竜バォロン:ティラノサウルス。四方世界の暴君竜は、氷属性以外の攻撃を25点軽減、生命力180、負傷が嵩むたびデバフを無効化して全能力がパワーアップする(×3)というフィジカルモンスター。尻尾攻撃は範囲攻撃で転倒効果も付く。でも知能が『本能のまま』なので操作系に弱い。




 
次回あたりから原作小説10巻の地母神寺院の葡萄酒を巡る陰謀に関する話に入っていきたいですね。

……今回の“奇跡の島”の整備をした功績を冒険者ギルド(=国)に報告すれば、多分半竜娘ちゃんは銀等級に上がれると思うので、2週目レギュRTAの目標はクリアになる見込みです。
まあ、その次は【やがて彼女が竜になるまで】編(=フリープレイ)ってことになるでしょうか。半竜娘ちゃんが銀等級になっても、まだまだ続けますよー。


Q.ゴブスレ原作10巻ってどんな話なの?
A.ああ!!

==「ゴブリンスレイヤー10」作品紹介引用ここから==

春、ゴブリン退治の傍ら、葡萄園の警備をすることになったゴブリンスレイヤーの一党。
その葡萄園は、女神官の育った地母神の神殿のものだった。
そんなある時、女神官が姉のように慕う神殿の葡萄尼僧がゴブリンの娘だという噂が広がる――。

周囲の心ない声に胸を痛める女神官、それに対し、迷いを感じるゴブリンスレイヤーはある決断を下す。
「たぶん……今日、明日はゴブリン退治はやれん」
「何をするにしても、頑張ってくださいね! 応援、してますから」

街の影を走る闇の仕掛人が暗躍する中、小鬼殺しに手はあるのか!?
蝸牛くも×神奈月昇が贈るダークファンタジー第10弾!
https://www.sbcr.jp/product/4815600952/
==引用ここまで==

原作10巻は辺境の街の冒険者たちがそれぞれに事件の解決のために動いているという群像劇めいた構成です。
葡萄園や地母神寺院については、半竜娘ちゃんも蛟竜の水精霊との出会いで所縁(ゆかり)があったり、お酒にうるさい羽衣の水精霊によく捧げるのが寺院の葡萄酒だったり、かつて地母神と慈母龍を混淆させようとしてお説教喰らったりと、何かと因縁がありますので、きっと半竜娘ちゃんたち一党もこの事件には何かとかかわる、ハズ!

シティアドですよシティアド!(苦手)

===

ご評価ご感想、いつもありがとうございます! 今回いつもより倍以上長かったので読むの疲れたかと思いますすみません、読んでいただきありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします!
 


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36/n 裏2(銀等級昇級! 【辺境四天王】!)

 
みなさまいつも閲覧、ご評価、お気に入り登録、誤字報告、ここ好きタップ、そして感想ご記入をありがとうございます! 励みにしています!

===

◆孤島のゴブリン事情
人が居るところにはゴブリンが居る……。それはよく知られた経験則である。
つまり “奇跡の島” にも、ゴブリンは居る。太古の昔に魔術師が召喚したのか、偶然転移魔法陣から迷い込んだのか、緑の月から落ちて来たのか、最近の隊商の荷物に紛れてやってきたのか。それは当のゴブリンたちにもわからない。
熱帯の気候では森の恵みは潤沢で、略奪の必要は薄いけれど、目の前にあれば奪いたくなるのはゴブリンの習い性。
とはいえ、島はそれほど大きくはない。インドミナスが指揮をとってやれば、ゴブリンを祖竜たちのおやつにしてやることなど簡単だ。
強者に(へつら)うゴブリンが祖竜の配下となって祖竜術に目覚めることは……ないとは言えないが、それは果たしてゴブリンと言って良いのだろうか。祖竜信仰は克己の道。己を高めんとする者に祖竜は微笑む。祖竜術に目覚めるゴブリンが居たとすれば、その精神はきっとゴブリンにあるまじき異端者であろう。

===

●前話
インドミナス姉妹は半竜娘の上位互換だが、チームワークでなんとか勝って和解したぞ!
インドミナス姉妹は混沌勢力というわけでもなく、知能も高かったので、和解の余地があったのだ。

半竜娘「命なきアンデッドには治癒系術によるダイレクトアタック(※闇人リッチー戦)。命ある者には死霊術【致命】からの斬撃・刺突による消耗死(※インドミナス戦)。うむうむ、ボス相手の戦術もいい感じに固まってきたのじゃ」

GM「(おっ。じゃあ次は血が流れずアンデッドでもないもの……ゴーレム系を出さないとかな?)」
 


 

1.恐竜が嫌いな男はいません!(極論)

 

 

「……陛下」

 

「なんだ? 枢機卿。今は忙しいのだが」

 

 王の執務室。

 今日も忙しく、いや、いつも以上に忙しく政務をこなしていた。

 返事のとおり、見ればわかる。

 

「自業自得でございましょう。数日、城を空けてどちらにいらしていたのです?」

 

「ああ。まあ。なに。ちょっとな」

 

「…………」

 

「……あー」

 

「……陛下」

 

 赤毛の枢機卿は責めるようにジト目で若き金獅子の国王を睨んだ。

 

「はあ、陛下。ネタは上がっているのです。軽銀商会の女会頭殿とお出かけになりましたね?」

 

「う、うむ。蜥蜴人との友好の材料になる遺跡を再生させたというのでな。視察だ、視察」

 

 それはいい。そろそろ身を固めてもらわなくては、王国の血統が危ういし。

 現状、目立って金獅子の国王に近しい女人と言えば、銀髪の侍女に、剣の乙女、女商人くらいだろうか。妹姫殿下は血縁なので除外。

 まあ、金剛石の騎士(貧乏貴族の三男坊)として冒険や世直しに行った先で懸想された娘を数えれば限りないし。

 権謀術数込みで近寄る貴族令嬢など数え切れぬほど、ではあるけれども。

 

 それも踏まえてもろもろを考慮しても、正妃として最有力なのは蜂蜜色の髪を持つ女商人だろう。

 特にその内政手腕は目を見張るものがあり、政務補佐についても十分にこなせることは既に実績で証明済み。

 血筋も卑しからず、国内の貴族たちを納得させるに足るだろう。

 未来の国母として申し分ない。

 

「陛下にしては珍しいことに、彼女とは話も合うようですし。彼女と視察に出たことを咎めているのではありません」

 

「そうか」

 

「そうです」

 

 むしろサッサとくっ付いてくれれば国政の大きな懸念(跡継ぎ問題)も片付くのに。

 ……という思いはおくびにも出さない赤毛の枢機卿。

 何せ色恋というものは、横から他人が口を出したらこじれるものなので。

 

「であれば、他に何かあったか?」

 

「とぼけるのも大概になさいませ、陛下」

 

「……はて?」

 

「―――― 連れ帰ってきた竜のことですよ。陛下」

 

 赤毛の枢機卿は、溜息をこらえて告げた。

 脳裏に浮かぶのは、この主君が満面の笑みとともに連れ帰ってきた、世にも恐ろしい竜。

 

 蜥蜴人が伝える暴君竜(バォロン)に棘の鎧甲を被せたような姿の、きっとその暴君竜よりも強大で恐ろしい竜。

 それは、最新にして最強の祖竜である。

 その名は――“不羈なる竜女王(インドミナス)”。

 

「ああ! 余の()()にして使()()()であるな!」

 

 どうやらこの国王陛下。

 きっちりこの、魔神将にも勝てるくらいに凶悪なモンスターを口説き落としてきたらしい。

 

 赤毛の枢機卿は、頭痛をこらえるようにして眉間に手をやり、執務室の天井を見上げた。

 

「……宝物庫から何やらいろいろと持ち出したかと思えば、そのためでしたか……」

 

 確か宝物庫の目録からは、『魔力を封じた宝珠』と『【使魔(ファミリア)】の術を肩代わりする魔術書(偽臣の書)』が斜線で消されていたのだったか。

 

「宝物を使うにあたって所定の手続きは踏んでいる、問題ないはずだ。蜥蜴人部族との交渉に、あれに乗って連れていけばきっと優位に――」

 

「……彼女(インドミナス)の維持費は、陛下の歳費から削っておきますからね」

 

「ぐっ。だ、だが、かっこいいだろう!!?」

 

 かっこいいのは同意する。

 だが金勘定は別だ。

 

 ついでだから大喰らいの使い魔の食費で歳費が足りなくなれば、軽銀商会の女会頭にでも泣きついてそのままなし崩しに仲を深めればいいのだ。……などと赤毛の枢機卿が考えたのかどうか。

 

 それは分からないが、今後、王都のパレードでは世にも恐ろしい凶悪な竜に跨る金獅子の国王陛下の姿が見られるようになったとか。

 

 

<『“奇跡の島” であったかもしれないやりとり:

 

  インドミナス妹「お姉ちゃん! わたし、お嫁に行きます!」

  インドミナス姉「嫁ではなく使い魔だろう。ヒトの使い魔になるとは竜の面汚しめ」

  インドミナス妹「だって三食おやつに昼寝付きだっていうし~」

  インドミナス姉「ふん。行け行け。すぐに私も呪縛を解いて世界征服に打って出るさ」

  インドミナス妹「会いに来てくれるの待ってるねー」

  インドミナス姉「その王国を橋頭堡にしてやるから、首を洗って待っているがいいのだ。ふんっ」

 

  1.天然妹とツンデレ姉』 了>*1

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

2.銀等級冒険者【辺境最大】―― 半竜娘!

 

 

「というわけで、昇級です♪」

 

 辺境の街の冒険者ギルドで、受付嬢は半竜娘に笑顔を向け、言祝(ことほ)いだ。

 応接室のテーブルの上、文盆の上には、白銀に輝く冒険者証。

 

「うむ。継続的に報告書を上げておった “奇跡の島” の件が評価されたのじゃな?」

 

 ソファが巨躯に耐えられないため床に座った半竜娘が確認する。

 

「そうなります。銀等級へ上がるには大規模戦闘の指揮(レイド)の経験が必要ですが、島の造成指揮、長期間にわたる調整が評価された形ですね」

 

「なるほどのう。それ自体が昇格試験の代わりというわけじゃな」

 

「はい、そうなります。また恐るべき竜の復活が、やんごとなき方に大変評価されたとかいう話も入ってきています」

 

「ほーう。騎竜にでもしたのかの? まあよい。こちらとしては手前の出身部族に、件の島についての便宜を図ってもらえばそれで十分じゃ」

 

「その件は確かに履行されていると聞いています」

 

「であれば良いのじゃ! では(つつし)んで、銀のタグを受け取らせてもらおうかの」

 

 大きな爪で器用に冒険者証をつまみ、普通よりも長い鎖に通すとそれを首から下げた。

 

「これで貴女は在野最上級の冒険者です。より一層の貢献と、高位冒険者として相応の振る舞いを期待します」

 

「あい分かった」

 

「まあそこまで心配していませんけれどね」

 

 街の常識を学んできた半竜娘には、受付嬢もすっかり信を置いている。

 2年と少し前に初めて街に来て、いきなり古龍一族を呼び寄せて虐殺し始めた時よりは格段の進歩だ。

 ……いや実際、何をどうすればそんなこと(ドラゴンパレード)になるのか、今でも訳が分からない……。

 

「(いくら “世界の命運はダイス目一つ” とはいえ、流石に限度がありますよう)」

 

 受付嬢は当時の苦労を思い出して目の端にほろりと涙を滲ませた。

 本当に大変だったのだ、あのときは……。

 

 それはさておき。

 

「エルフの弓士さんはまた昇級辞退されるということでしたが、他の方はなんとおっしゃってましたか?」

 

「ふむ。身軽な方が良いというておる会計役(金庫番)はともかく、他の二人は素直に上げるつもりのようじゃよ」

 

 森人探検家はエルフらしい気の長さもあって、2年やそこらで高位冒険者の仲間入りというのも気が引けるというか、目魔狂(めまぐる)しくて気疲れする、とか言ってるようだ。

 まあ仕掛人たちとの付き合いもあるから高位冒険者としての審査に落ちるだろうと踏んでいるのもあるが。

 

 故郷に錦を飾りたいTS圃人斥候は、昇級を断る理由もなし。

 名声欲もあるが、みだりに忍びの技を広めるのは法度に触れるため、秘剣の冴えを大っぴらにアピールできないのが悩みどころだとか。

 それはもっと修練して、刃すら見せぬ真の忍びの技に昇華して、どうぞ。

 懸念と言えば、性転換しての再登録がバレてペナルティを食らわないかどうかだが、次の次の銅等級への昇格時まではおそらく心配いらないだろう。

 

 文庫神官も特に昇級を断る理由はない。

 冒険者としての信用は、今後の彼女の知的好奇心を満たすための探索行にも役立つので望むところ。

 配分としては、早く半竜娘と同じ階級に追いついて、タグをお揃いにしたい、という動機の方が大きいかもしれないが。

 

「ではあとでお2人をお呼びいただければと思います」

 

「あいわかった」

 

 

 

 ……というわけで、この冬の冒険の評価結果は以下のとおり。上々だ。

 

 半竜娘は、銅→銀。

 森人探検家は、紅玉で据え置き。

 TS圃人斥候は、青玉→翠玉。

 文庫神官は、翠玉→紅玉。

 

 

 半竜娘が冒険者登録して3年目の晩春。15歳の青春。

 彼女は、辺境で活動する冒険者としては最高位である、銀等級の冒険者となった。

 異例の昇級速度である。

 

 

 さて辺境の街の銀等級といえば、有名なのはH F O(ヒューム・ファイター・オトコ)の三人だ。

 

 美丈夫にして魔物にとっての死神、単体最強の呼び声高い【辺境最強】の槍使い。

 秀でたリーダシップによって一党を纏め上げる実力派、【辺境最高】の一党の頭目たる重戦士。

 小鬼禍に苦しむ辺境の村々を救う一風変わった仕事人(なんかへんなの)、【辺境最優】の小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)

 

 彼らをまとめて【辺境三勇士】と呼ぶこともある。

 いずれも駆け出しのときから辺境の街で活躍する、地元の星だ。

 

 そしてこの度、彼らと同じく辺境の街で冒険者登録して銀等級にまで上り詰めた者がもう一人加わった。

 

 彼女こそ【辺境最大】の冒険者。

 美しくも恐ろしい、巨躯の半竜の乙女。

 

 紅一点の彼女を加えて、誰が呼んだか【辺境四天王】。

 彼らと彼女の活躍は、やがて武勲の詩となり、人々の間に広まっていくのだった。

 

 

<『2.トロフィー【辺境四天王】獲得!』 了>

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

3.宴じゃぁッッッ!!

 

 

「え。アンタ、銀等級になったの!?」

 

 鈴が鳴るような美しい声が、ギルドの酒場に響いた。

 麦酒のジョッキ樽を机に勢いよく置いた、声の主、妖精弓手。

 彼女は酔いで赤い笹穂耳を上下させ、酒場のテーブルにずいっと身を乗り出した。

 

「おうそうじゃ! これを見よ!」

 

 向かいに対するのは、銀の冒険者証を鈎爪に(つま)んだ半竜娘。

 自慢げに揺らす白銀片の反射に、妖精弓手は目を丸くした。

 

「はー、前も言った気がするけど。アンタ、生き急ぎすぎじゃない?」

 

 森人の、それも上の森人(ハイエルフ)の時間感覚からすれば考えられないほどの目魔狂(めまぐる)しさだ。

 しかもこの蜥蜴人ハーフの少女は、定命から非定命へと足を踏み出しつつあるのだ。

 本人から明言されたわけではないが、同じ非定命の者からすれば何となく分かる。

 

 いまからそんなに生き急いでどうするのだろうか。

 やがて竜になるというなら、もっと落ち着いた方が良いのではないだろうか。

 例えば―― この娘の叔父の蜥蜴僧侶のように。

 

「うちの竜司祭(ドラゴンプリースト)を見習って、もっと落ち着いたら?」

 

 なのでそう口に出した妖精弓手は、別の卓でチーズを美味そうに頬張る蜥蜴僧侶に流し目を送った。

 それに気づいた蜥蜴僧侶が目をぐるりと廻したが―― あれはひょっとして蜥蜴人の文化ではウィンクに相当したりするのだろうか。

 妖精弓手も苦笑して、何でもないという風にひらひらと手を動かす。

 

「落ち着いてなど居られぬよ。竜になる進化の道は、常に後ろへ後ろへと流れていく流砂のようなもの。立ち止まることなど許されぬのじゃ」

 

 現状維持すら進歩が必要。

 それが生態系の理というもの。

 怠惰に(ふけ)れば、あとは落伍するのみ。

 ゆえに生存のためにも精進あるのみ。

 

 まあ、未知の超エネルギーと次元渡りの(スパーク)を内包する動力炉心(パワーコア)を搭載した半竜娘の場合は、それも当てはまらないが。

 飲食不要にして、成長限界が取り払われた彼女は、ただそこに在るだけで存在の強度を高めていくステージに片足を突っ込んでいる。

 生きているだけで強くなり続ける……竜という存在の最低限の条件が、ソレである。

 

「叔父貴殿だとて繕ってはおるが、その根底は克己の求道者。闘争を求めるただ一匹の修羅よ。知っておろう?」

 

「まあねー。同じ一党だしー?」

 

 半竜娘が冒険者登録して丸二年と少しということは、妖精弓手と蜥蜴僧侶(ついでに鉱人道士も)が出会ってからもそのくらい経ったということだ。

 2000年という歳月に比べれば些細なものだが、決して短いというわけではない。

 戦における蜥蜴僧侶の暴虐も、その威力も、ときに捨て鉢にすら見える信仰混じりの闘争心も知っている。

 

「アンタもそうだけど、真面目なとこは血筋なのかしらねー」

 

 くぴくぴとジョッキ樽から麦酒を干す妖精弓手は、離れた席に座るいかにも蜥蜴顔の蜥蜴僧侶と、目の前の只人の美少女のようにしか見えない半竜娘の顔を見比べて、その生命の神秘に首をひねる。

 これが血縁? 本当に?

 

 

 

 

「なんだなんだ、お前、昇格(ランクアップ)したのか! どれ、この至高神の聖騎士たる私が酌をしてやろう!」

 

 ちょうど半竜娘が自分の酒杯を干したところに、がばりと肩を組んできたのは、赤ら顔の女騎士だ。

 だばーっと手に持った酒器(ピッチャー)から、半竜娘の空の酒杯に酒を注ぎに来たようだ。

 彼女がやってきた方を見れば、額に手をやる重戦士と、苦笑するその一党の姿があった。まあこれもいつものことだ。

 

「おう、光栄じゃ。聖騎士殿!」

 

「うむうむ。神はきちんと見てらっしゃるのだぞ。恥じぬような行いをせねばな!」

 

「おう、手前に恥じるようなことは一つもないとも! 慈母龍(マイアサウラ)に誓ってじゃ!」

 

 驚くべき勢いで杯が干されていく。

 

「うむうむ。天網恢恢疎にして漏らさず、悪事はいずれ露見するもの。至高神の御名に懸けて、私はなあ、聖騎士としてなあ、何かやらかしたらやつをなあ、たたっきってやるからなあ」

 

「おう、実際手っ取り早く敵手を集めるために悪事に身を染める同胞も居ると聞くのじゃ」

 

「うむうむ。それはいいな、遠慮呵責なく斬れる。いや、うむ、いかん、いかんぞ? そもそも悪いことをしては」

 

「はーいはい、コイツが邪魔したな」

 

 だんだん呂律(ろれつ)が怪しいことになってきた女騎士を見かねて、重戦士が引き戻しにやってきた。

 目の据わった女騎士の手を肩に回させると、支えるように立たせて上階の部屋へ放り込むべく歩き出した。

 女騎士は何事か抗議しているようだが、言葉はまるで意味をなしていない……。

 これで秘剣使いの凄腕騎士なのだから世の中わからないものだ。

 

 

 なお妖精弓手は既に潰れて久しい。

 酒に強いわけでもないのに二人と同じペースで飲むから……。

 

 

 

「おめで とう、ね」

 

 女騎士が退いたところにすっと座ったのは、肉感的な肢体の魔女だ。

 半竜娘にとっては、辺境の街に来た時に快く装備を貸してくれた恩人で、さらに下宿までさせてくれた魔術の共同研究者でもある。

 

「ふふん。大家どのにも等級が追い付いたのじゃよ!」

 

「あ ら。そしたら、もう、教えること は、ないかし ら?」

 

「あ、いや、いや、いや。そんなことはないのじゃ、まだまだ教えてほしいことはあるのじゃよ?」

 

 ウィッチの(ちまた)の流儀だのは半竜娘にとっても未知のことが多い。

 というより、魔女はそのウィッチ界隈で半竜娘の後見人と見做されているので、中途半端に放り出すなんてことはするはずもなく、つまりこれは紛れもなく冗談の類だ。

 

 ……中途半端に放り出した半竜娘が何をしでかすか分からないので恐ろしすぎるということもある。

 そのとき後ろ指をさされるのは、後見人だった魔女だって含まれるのだから。

 

「……そ、ね。この間の魔女会(サバト)のときみたいなことを、されても、困るもの、ね?」

 

「あー。その節は無事に収めていただき、まことに感謝なのじゃ」

 

 ……サバトで何があったのやら知らないが。

 どんどんと頭が上がらなくなっていっているようだった。

 

「また、今度 火吹き山の図書館と、エステに、連れて行って、くれれば、それで いいわ、よ?」

 

「あい分かったのじゃ。その程度であればお安い御用なのじゃ!」

 

 埋め合わせも決まって、二人の美女は、静かに酒杯を傾けた。

 そこに注がれているのは、芳醇な香りの葡萄酒―― 地母神寺院の逸品である。

 

 

<『3.銀等級の乙女たち』 了>

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

4.半竜娘は陰口が嫌い(特に混血にまつわるやつ)

 

 

 晩春から初夏にかけて、地母神寺院では、早摘みの葡萄を使ってその年の豊穣を祈る奉納のお神酒を作ることになっている。

 その祭事を取り仕切るのは、地母神寺院の褐色肌人の尼僧。

 小鬼殺し一党の女神官の、孤児院での姉―― 当然血縁ではない―― にあたる。

 

 半竜娘の契約精霊である蛟竜の水精霊との出会いは地母神寺院の葡萄園であり、その時にこの葡萄尼僧とも知己(ちき)を得ている。

 

「はぁあああああ???? あの尼僧殿が『小鬼との混血』じゃとかいう噂があるじゃとおおお????」

 

 それでいま、祭事を前にした辺境の街に、妙な噂が流れていた。

 それは、褐色肌人の葡萄尼僧が、小鬼との混血だという噂だ。

 

 確かにそのような噂の素地はないとは言えない。

 

 地母神寺院は小鬼によって凌辱された女性の大きな受け皿の一つだ。

 それを理由に、地母神寺院の孤児にそのような目を向ける者がいるのは、残念で腹立たしいことながら一つの事実だ。

 

 葡萄尼僧のような褐色肌人は東方の砂漠に住まう人々であって、西方辺境の人間にはなじみが薄いのもあり、特に開拓村のような田舎の人間ほど、そういった異物に敏感になって、排斥するような心理になることもあるだろう。

 そして春は、春撒きの収穫まで村の備蓄が持たない開拓村から、食い扶持減らしも兼ねて雪の解けた街道を通って若者たちが街にやってきて冒険者になる時期でもある。

 特に訓練場の設置もあって、今年は例年より新入りも多くなっており……頭数が多くなればどうしようもないやつの絶対数も必然増えるわけで。

 

 そういった複数の事情が絡み合って、そういう(小鬼の混血という)噂が流れることは、あり得てもおかしくはない。

 

 だが、それが、地母神寺院の卸す葡萄酒の売れ行きに影響するほどとなれば、何らかの作為を疑わざるを得ない。

 なにせ奇跡を授け、地域奉仕に精を出し、豊穣を約束する多くの儀式を司る地母神寺院は、西方辺境を開拓する要である。

 また当然、小鬼をはじめとした混沌の犠牲者を受け入れる以上は、そのような低俗な悪評だって織り込み済みだ。

 むしろそういった噂の防波堤になるのが、寺院の務めでもある。“守り、癒し、救え” 。地母神の中心教義は伊達で掲げているわけではない。

 

 というかそもそも住民たちからの支持も滅茶苦茶に厚いので、それを上回って影響を与えるなどほぼ不可能なはずだった。

 寺院神殿というのは、それだけ生活に密着しているものであるし、少しでも教養のある市民たちは地母神寺院が辺境に秩序をもたらす柱であることは承知している。

 

 だがそれでも噂は燃え上がり、寺院の葡萄酒の売れ行きに影響が出るなどの実害が現れた。

 事実無根であるにも関わらず。

 

「まあ、変に値が下がってるのは投機目的の面ではありがたいけどねぇ」

 

 しみじみと腕組みしている森人探検家は、どうやら地母神寺院の葡萄酒の買い支えを指示したあとらしい。

 だって別に酒の品質が下がったわけではないのだ。

 腐る物でもなし、確実に値上がり……というか、下がった値が戻ることが分っているなら、ちょろい投機先だ。

 

「しかも地母神寺院に恩も売れるとなれば、買わない道理は何もない、っと」

 

「ふん! どっかの誰かの性悪な流言飛語に乗っかるようで気に入らんが、買い支えんともっと酷いことになるのじゃから、まあそれは良いのじゃ!」

 

 それよりも、と半竜娘は、フシュウ……と呼気を漏らして、冒険者訓練場の地面に死屍累々と転がる―― 転がした新人どもを睥睨した。

 冒険者ギルドで何やら地母神寺院に関わる陰口を叩いていた連中にヤキを―― いや、性根が真っ当になるように叩き直していたところだ。

 

「で? 誰から聞いたんじゃって?

 寺院の褐色肌の尼僧殿が小鬼の混血ぅ?

 ならこの国の宮廷魔術師も褐色肌人じゃが同じこと言う気かのう?」

 

 半竜娘の重量級の尾が、倒れた新人たちのうちの1人の背を押さえるようにべしりと叩く。

 確かこいつは、友達の友達から聞いた話、とかで、流言飛語の片棒を担いでいた新人だ。意図してか、あるいは意図せず噂していたのかは分からない。

 だから半竜娘はそれを確かめようとしていた。噂の出所を辿って順にぶちのめしていけば、やがては黒幕に行き当たると信じて。

 

「手前に教えてくれんかのう。その噂をお主に聞かせてくれた友達とやらを。そこから順繰りに辿って、全部全部叩きのめ―― いや間違えた、矯正してやらねば気が済まんのじゃよ」

 

 ―――― 故郷で手前のことを混血じゃとか言ってきたやつらに、手前がそうして分からせてやったように、のう。

 

 

<『4.半竜娘に只人の心の機微は分からぬ。だが混血を蔑む言葉には人一倍敏感であった』 了>

 

*1
インドミナス姉妹:映画「ジュラシックワールド」でもインドミナス・レックスは姉妹として設定されているので、当作でも姉妹とした。ただし、映画では姉の方が気性が荒く、映画本編の時間軸では妹を殺してしまっている。




 
半竜娘ちゃんはきちんと繁殖期関係の薬を忘れず作って飲んでるので、三年目の春は産卵イベントは無しです。
半竜娘ちゃんの気が立ってるのも、薬で抑えてるとはいえ繁殖期でホルモンバランスが多少乱れてるせいかも知れませんね。

あと【読心(マインドリーディング)】と【霊覚(シックスセンス)】と【天啓(インスピレーション)】前提のシティアドって大変(GMが)。いや、むしろそれって本当にシティアドなのか?

===

ご評価ご感想、いつもありがとうございます! 全部読ませていただいてエネルギーもらってます、今後ともよろしくお願いいたします!!
 


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フリープレイ そして彼女が竜になるまで ~三年目春・盃中の竜編~
37/n 葡萄酒の中の真実(In vino veritas)-1(手下ゲット)


 
みなさまいつも閲覧、ご評価、お気に入り登録、誤字報告、ここ好きタップ、そして感想ご記入をありがとうございます! 感想はすべて読んで読み返してモチベーションにしています、ありがとうございます!

===

●前話
・インドミナス妹、国王の乗騎に。(竜人嫁化フラグ? 女商人ちゃんとヒロインレース? さてどうでしょう……)
・銀等級冒険者【辺境最大】、半竜娘!
・ランクアップ祝勝会
・葡萄尼僧が混血じゃないのは承知の上だが、それはそれとして混血だなんだと蔑む噂を流した奴は片っ端から修正してやる。
 


 

 はいどーも!

 いつの間にやら目標を達成しているRTA、はーじまーるよー!

 

 というわけで、前回は転移魔法陣から繋がる南の孤島を祖竜の楽園にして、その運営を丸投げしてきたところまででしたね。

 ちょっとした反乱がありましたが、ヘーキヘーキ、人工生命は反乱するものって決まってるから!

 

 そして祖竜の楽園を冒険者ギルド―― というか王国に献上したので、その功績により、半竜娘ちゃんがついに!

 

 銀等級に昇級しました!!

 

 いえー! どんどんぱふぱふ~♪

 

 それに伴い、トロフィー【辺境四天王】を獲得!

 これまでに【辺境最大】の冒険者として活躍して高めた名声が実を結びました。

 

 つまりこれにて『二周目レギュRTA 目指せ【辺境四天王】編』はクリア終了の大団円と相成りました。

 皆様、長い間のお付き合いありがとうございます。

 スタート時点でTASさんのデータの引継ぎなので参考記録にしかなりませんが、お楽しみいただけたのでしたら幸いでした。

 

 もっと早いチャートもあるかも知れませんが、合間に発生するクエストが割とランダム性が高いので、そこはまあ時の運、ダイスの運ということで。

 あとまあ最初からサプリ導入環境だったら、いろいろ違ってたと思いますね。

 まず冒険者登録初日のTASさん編の時点で、【分身(アザーセルフ)】のナーフが刺さるので再現不能になっちゃいますし。

 

 

 …………。

 

 

 …………では今後ともよろしくお願いいたしまーす。

 

 “なにィ!? 終わったはずではないのか!?” ですって?

 

 ふふふのふ。

 実はこの実況者たるN氏(ナナシ)、そもそもオープンワールド系が大好きでね……。

 本筋のシナリオクリアしても延々と冒険できるやつって、良いよね……。

 

 さて。

 もともと半竜娘ちゃんの運命に対してこっちから接触するのは最小限にしてますが、とはいえ何も区切りを定めないのもどうかと思うので新しい実況のテーマを決めましょう。

 

 まあ、もう決まってますけどね!

 

 はい、というわけで今回からは、フリープレイ そして彼女が竜になるまで編』といたします。

 ずばりそのまま章題のとおり、半竜娘ちゃんがやがて竜になるまでを見守っていきたいと~、思いますッ!*1

 

 ちなみに。

 

 銀等級に上り詰めましたが別に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()わけで。

 これまで曲がりなりにも銀等級になるためにお行儀よく(当人にしては)していた半竜娘ちゃんですが、今後はその限りではないわけですね。

 なんならやらかしまくって白磁まで落ちようが別に実況的には支障ありません(当人や周りに支障がないとは言っていない)。

 

 実行するかは別として、取れる手段がダーティな方向に増えたのは確かです。

 契約魔神の闇竜娘(ダークドラコ)ちゃんを表に出しても良いかもしれませんね。ソッコーで等級(信用度)は下がるでしょうけど。

 

 また、最速を意識する必要もないので、これまでは避けてきたような、時間がかかる割に冒険者ギルドへの貢献にならない選択も可能です。

 ひたすら魔術研究に没頭してもいいでしょうし、ひたすらに未踏領域へ分け入っても良いわけです。

 既に【辺境四天王】を獲得したので西方辺境にこだわる必要もなくなり、拠点を王都や他国に移すことすら選択肢に入ってきます。(混沌に堕ちる選択も……?)

 

 

 まさに自由! フリーアクション! YEAHHHHHHHH!!!

 

 

 ―― というわけですがそれはそれとして、半竜娘ちゃんに目を向けると。

 

「それで、どこの誰が、地母神の尼僧殿を小鬼の混血だのなんだのと噂しとるのだ? キリキリ吐かんか」

 

 冒険者訓練所で、不心得な新人に教育的指導(可愛がり)中のようですね。

 周りに地母神の神官が居るのに、地母神寺院の葡萄尼僧さんの陰口を叩くような輩には、沈黙の価値を教えねばなりますまい。

 

「う、うぅ。どこで聞いたかなんか忘れちまったよぉ。もう下衆な噂話はこりごりだあ、放してくれよぉ」

 

「お主が思い出せないのであれば手前が代わりに思い出してやるのじゃ。アリエーヌム( 他者 )アッフェクトゥス( 想念 )アッキピオ( 取得 )――【読心(マインドリーディング)】!!」

 

「アバーッ」

 

 真言呪文【読心】により記憶を丸ごと自分に転写し、総ざらえしようという魂胆のようです。

 どうやら半竜娘ちゃんは、地母神の葡萄酒を巡る陰謀に積極的に関わっていくつもりのようですね。

 ……今はまだ、混血を揶揄する言説をしらみつぶしに叩いて直すことしか考えていないでしょうが、冒険者的感覚で状況の不自然さには感づいてはいます。

 

 混沌の萌芽。

 街の暗がりに、敵が潜んでいるのです。

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 ということで、【読心】で芋づる式に、噂の出どころ、広めている輩を辿っていきます。

 新人だったり、下位で燻ってるかつてのTSする前の圃人斥候みたいな愚連隊寸前の冒険者たちが、そこそこ関与していました。

 彼らに()()(【交渉:脅迫】判定)を施し、逆にこちら側の手駒として組織します。

 

「いいかお主ら。混血がどうのと噂しとる奴が居れば、手前のところまでしょっ引いてくるのじゃ!」

 

「「「 はい姉御!! 」」」

 

「では、散れっ!」

 

「「「 押忍!! 」」」

 

 また、彼ら手駒がきちんと真っ当に生きられるように、半竜娘ちゃんたち一党は冒険者訓練所を半ば根城とし、きちんと集団行動や、冒険者としての基本技能を叩き込みました。

 

 市街戦(シティアド)における基礎や斥候術全般は、TS圃人斥候が。

 弓の適正がある者には、森人探検家が射撃の基礎を。

 戦士としての技量は、文庫神官が。

 武道については半竜娘が。

 術師の立ち回りや、呪文については半竜娘(担当:祖竜術・真言呪文・精霊術・死霊術)と文庫神官&白梟使徒(担当:奇跡)が。

 数字に(比較的)強い奴らには、森人探検家が一党運営のイロハを教え。

 

 集団戦というか、兵士としての訓練は、半竜娘ちゃんが蜥蜴人の軍師課程(キャリア)を出てますから、蜥蜴人(スパルタ)式で。

 

 付け焼刃ですが、無いよりはマシですし、彼らの今後にも役立つでしょう。

 

 ……脱走者はいなかったのかって?

 居ましたけど、そもそも記憶を全部半竜娘ちゃんに見られてるってことは弱みも握られ放題なわけで、逃げたのは少数でした。

 それに半竜娘ちゃんたちが親分として潰れかけの酒場を幾つか買い取るなどして、手駒の宿や食事にも、訓練中は金を出してやっていたので、それでも逃げ出すのは、本当にごくごく少数でした。

 

 なお訓練中のそういった諸費用は後で取り立てるつもりの模様。

 無理やり貸付して借金で縛って逃げられなくするのは基本なんだよなあ。

 返済は労役をもって代えられるとしたので、きっと必死に手駒として働いてくれるでしょう。

 なお契約内容は交易神官である森人探検家のお墨付きでもあります。不正は何もない(ガチ)。

 

 そしてそれでも逃げた極々少数も、記憶を読まれてるってことは、その思考回路もプロファイリング済みということなわけで、逃げることもそのタイミングも逃走経路も、全部丸っとお見通し。

 すぐに捕獲されてしまったわけですね。

 

 という過程を経て出来上がったのが、半竜娘ちゃんに率いられる集団です。

 複数のパーティを纏めているため、あるいは冒険者クラン、と言っても良いかもしれません。

 

 ……銀等級になった途端に、半グレ連中まとめて組織(オルグ)して手駒にするとか、反社勢力予備軍かな?

 建前としては、冒険者の質の向上のため、冒険者訓練所の教官を引き受けたのだと言い張っています。

 善意ですよ、善意。地獄への道を舗装するのもまた善意ですが。

 実際、底辺冒険者の質の向上につながり、街の治安は向上し、依頼達成率も上がったので、みんなにヨシですよね?

 

 受付嬢さんの胃がキリキリ言ってる気がしますが、コラテラルダメージということで。

 別にピンハネがひどいとか、内部で虐待しているとかそういうこともないわけですし。訓練は厳しいですが。

 品行方正な武力集団……いえ、冒険者クランですよ!!

 

 

 というわけで人手を増やした半竜娘ちゃんは、改めて街の噂の出元を探らせました。

 

 ……地母神寺院の評判を下げて、一体誰が得するというのでしょう?

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 やはり数の力は素晴らしい。

 すぐに情報が集まりました。

 

「で。まとめたのがこれって訳ね」

 

 森人探検家が、報告書の束を眺めます。

 

 場所は経営を買い取って配下たちの拠点としている酒場の一つです。

 彼女の傍らには、報告書作成をはじめとした【文献調査】関連技能を仕込まれた、元新人の姿もあります。

 その表情は緊張でこわばっています。

 自分が作った報告書が及第点かどうか気になっているのでしょう。

 

「ふむふむ。水の街の酒商が、地母神の葡萄酒の代わりにと各所に売り込みをかけている。

 牧場にも接触あり。牧場の跡取り娘と、酒商の息子との縁談を持ち込んだとの(よし)

 葡萄園を仕切る褐色肌人の尼僧に関する噂の出元は、仕掛人と思われる闇人、ね。

 仕掛の資金は酒商からかしら。闇人は冒険者タグを持っているみたいだけど、本物とは限らなさそうね」

 

 まあ、大っぴらに動いたので、その相手にも伝わっているでしょうが。

 それは織り込み済みなので良いとして。

 

「あと、広めるように小遣いで頼まれた “噂話” は、褐色肌人の尼僧にかかるものだけではない、と。

 他にもいろいろと事実無根のことをバラまいてるみたいね。

 その中で、反応が良かったのが、“尼僧が小鬼との混血” という噂だったというだけで。

 他の噂もタネは撒かれた状態で、今の噂を火消ししても、次から次に手を変え品を変え、地母神寺院を貶める用意は既にある……と」

 

 ―― 面倒ねえ、と森人探検家はその美貌に愁いを上らせます。

 はっ、とそれに見とれた元新人の報告者を責められはしないでしょう。

 森人の美しさとは、そういうものなのですから。

 

「こういうややこしいことは、闇人の手管っぽいわね」

 

 四方世界で複雑な陰謀を練らせれば、闇人の右に出るものは居ません。

 まあ、『只人の秩序は崖っぷちに立っていて、闇人の陰謀はその一歩先を行っている』という冗句もありますが。

 

「葡萄酒についてだけなら “酒商の商圏拡大のため” で理屈が通ったかもしれないけど、他の噂を考えると、狙いはどうも地母神寺院みたいね。

 民心を地母神寺院から離す……信仰の基盤を毀損(きそん)して、大地の加護を損なわせる?

 もしも混沌の陰謀だとすれば、大攻勢の前の地ならし、露払いってとこかしら」

 

 となれば水の街の酒商は、混沌と手を結んだということでしょうか。

 

「まあ、その闇人をとっ捕まえるなり記憶を覗くなりすれば話は早い、か」

 

 森人探検家は席を立ちます。

 

「あ。報告書は()()()()だったわ。この調子で頑張れば、冒険者ギルドの覚えも良くなって昇級しやすくなるはずよ」

 

 じゃ頑張んなさいね。と、さらっと元新人を褒めてから、森人探検家は、酒場を後にしました。

 褒められた元新人は、恐縮しつつも嬉しさから頬を上気させていました。

 こうやって硬軟織り交ぜて、配下の離反を防いでまとめ上げるのも手管の一つなのでしょうが、たとえそうだと分かっていても美人に褒められればうれしいものですからね。

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 それにしても、今回の件を企てた闇人にとってはたまったものではないですよね。

 

 なにせ、末端の末端から、じわじわと確実に、自分のところに手が伸びてくるのですから。

 四方世界には確かに、記憶を読む魔術や、幽霊(残留思念)に語らせる死霊術、盤を俯瞰する神に助言を請う奇跡がありますが、呪文遣いはそこまで数が多いわけではなく、ましてや使用回数が限られるそれを思いきって使えるくらいに余裕がある輩は限られます。

 本来であれば、あっても無視していいくらいの、極小の可能性だったはずです。

 

 まあ、半竜娘ちゃん一党がいたから、その辺全部ご破算になったわけですけど。

 

「くっ、まさかこんなに早く逃げる羽目になるとは……!」

 

 屈辱に顔を歪めた白粉(おしろい)まみれの闇人が、下水路を足早に駆けています。

 辺境の街の地下に張り巡らされた地下下水道は、この地にもとからあった遺跡の遺構でもあります。

 かつての古龍殺し騒動のすぐ後に起こった巨大粘菌騒ぎを経て、地図の作成が推奨されるようになっても、市当局が把握していない抜け道や隠し部屋はごまんとあるわけです。

 

 そして闇人は地下に住まう種族。

 こういった地下遺跡の構造にも精通しています。

 まさかの時の逃げ道にするならもってこいです。

 

「だがまだ手はある。十重二十重(とえはたえ)の謀略こそが闇人の矜持よ……」

 

 冒険者に化けるのがうまく行かなければ、また別の手を取るまで。

 下水道で拾った適当な冒険者タグ―― 書かれている情報は “只人” を示しているため明らかに他人のものと分かってしまう程度のもの―― を投げ捨てつつ、目的の玄室へと急ぎます。

 

 例えば遺跡の一部機能を復活させてセキュリティを確保した一室に。

 召喚したり、運び込んだりした魔獣や魔神を詰め込み。

 来る蜂起の日まで温存しておくことも、策としてすでに準備していたのです。

 

「策動のためには自分で乗り込むのが一番であったが……。まあ、人に化ける魔神や魔獣だって居ないではないのだ」

 

 最終的に地母神寺院の儀式を妨害し、西方辺境の霊的防御を抜き、生活の根本である食料―― (みの)りの加護を失わせられればそれでいいのです。

 

「別段全てを己が行う必要はないのだ。流言飛語は己の趣味だが、拘泥するほどのこだわりはない」

 

 別の魔獣や魔神に引き継ぎ、適当に暴れさせてうまく行くのであれば、それでも良いということです。……そんな力押しは美しくなく、気に入らない、というだけで。やはり精緻に噛み合った謀略こそが。猜疑と不信により紐帯が千々に乱れる様こそが美しいのだ。闇人というものは、そう信じているのです。

 

 いずれにせよ、この地から秩序が失われればそれでよし。

 そうすればここを混沌の橋頭堡とできるわけですから。

 

 まだ挽回できると信じて、遺跡のセキュリティを解除して、モンスターハウス(怪物格納庫)にしていた玄室の扉を開けた白粉の闇人でしたが……。

 

「案内御苦労なのじゃよ」

 

「なっ!?」

 

 後ろの闇の中から聞こえた女の声に慌てて懐剣を取り出しながら振り向きます。

 しかしそれは遅きに失した行動でした。

 

「滅びの光を食らうがいいのじゃ! 黒き鱗の嵐呼ぶもの(エヘナウノル)! その怒りの光を、我が身を通じて顕したまえ!! ―― 【核撃・放射(フュージョンブラストブレス)】!!」

 

 地下下水道の脇道の闇に浮かび上がるのは、原初の崩壊の光。

 それは青白い破滅の、核撃の吐息の奔流でした。

 

 一瞬だけ浮かび上がったのは、()()()()()を片手に持った巨躯の半蜥蜴人が、ブレスを吐かんとして構えた姿。

 【辺境最大】、【鮮血竜姫】、【死封竜】。

 様々な異名を持つ銀等級の()()の術師―― つまり、半竜娘の姿でした。

 

 半竜娘が抱えた()()()()()は、かつて “奇跡の島” で陰謀を企てた闇人の偽竜司祭の女のもの。

 祖竜が闊歩する島を見たいという女闇人の未練を果たして、その遺骸の使用許可を得ている半竜娘は、死霊術による霊視により遺骸に宿る霊魂から闇人視点のアドバイスを受けながら、噂の大本であった白粉の闇人を追ってきていたのです。

 

 既にこの敵の記憶は、姿を隠した追跡中に術の射程に近づいて真言呪文【読心】の術で転写していますので、もはや遠慮はいりません。

 

 モンスターハウスのセキュリティの解放も確認したため、企みの一切合切を文字通りに灰燼に帰すべく、その竜威を開放したのです!

 

 どうも読み取った記憶によると、同じような前線拠点は他に幾つかあるようですし、この拠点の壊滅をトリガーに敵もスケジュールを早めてくるかも知れませんが、それはこの敵拠点を潰さない理由にはなりません。

 

「GGGGUUUUUOOORRRORRR――――!!!」

 

「うぉあぁあ――――――!!?」

 

 影だけ残して核撃の光(フュージョンブラストブレス)に掻き消える敵の闇人を見届けて、今回はここまで!

 ではまた次回!

 

 

*1
そして彼女が竜になるまで:なお初手自己封印で1000年眠れば、体内に同化した動力炉心(パワーコア)がもたらした飲食不要・成長限界突破の作用により、主観時間では一瞬で竜になるまで成長できる。ぼくのなつやすみRTAみたいやな。……逆に言えば、任意のタイミングで千年自己封印すればエンディングに到達できるため、実況者の気力が尽きた場合にも即座に達成可能なやさしい目標である。




 
その間にも、ゴブスレさんは墳墓でゴブリンゾンビや赤い下級魔神(レッドアリーマー)と戦ったり、辺境の街の冒険者たちも色々と独自に動いて情報を集めたりしているようですヨ。
半竜娘ちゃんたちも、彼らとは並行して(パラレルに)動いて、独自に混沌の策謀に肉薄していくことになったわけですね。
これで地母神寺院を貶める噂を広める下手人は叩きましたが、所詮は混沌の策謀の一端でしかありません。本命戦力はまだ、伏せられています。

===

ふと見ればUA(ユニークアクセス)40万を超えてまして、感謝感激です!
また、ご評価ご感想もこれまでに非常に多くの方からいただきまして、大変ありがたい限りです! 今後も皆さんによろしく御笑覧いただけるよう精進します!
 


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37/n 葡萄酒の中の真実(In vino veritas)-2(モンスターハウス処理&闇人マスターシーン)

 
毎度みなさま閲覧、ご評価、お気に入り登録、誤字報告、ここ好きタップ、そして感想のご記入をありがとうございます! とても励みになっています!

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●前話
 呪文を使って順々に情報抜いて敵に迫ってフュージョンブラストブレス!

※情報を辿られないようにするためには、途中に、他の都市へ去る流れ者を挟むのが吉。伝言役を迂闊に殺すと【霊覚(シックスセンス)】で情報が抜かれるので悪手。生きたまま、接触できない遠くへ行くことで、呪文で連鎖的に情報を抜かれるのを防げる。ただしこの場合、まったく別の街に行ったそいつがペラペラ吹聴してその地の冒険者を呼び込むリスクはある。
 


 

 はいどーも!

 前回は混血を蔑む噂を流して社会戦を仕掛けてきた闇人を成敗して光に還元したところまでですね。

 シティアドとは……?

 

 ままええわ。

 

 さて、放射熱線により白粉の闇人と、その先のモンスターハウスの出入り口付近にいた魔獣やらなんやらを撃破しています。

 とはいえ、モンスターハウスの中には、まだ魔獣や魔神がひしめいており、遺跡のセキュリティロックが開けられたことにより非活性状態から、活性状態へと移行しつつあるようです。

 

 でもそんなの関係ねー!

 

 狭い部屋にモンスターが蠢いていて、出入り口は一つ。しかも不意討ち成功となれば、やることは一つ!

 

「うむ。まずは【聖壁(プロテクション)】じゃ! 頼んだのじゃ!」

 

「はい、お姉さま! 蝋燭の番人よ、暗闇に呑まれぬよう、我らの灯をどうかお守りください! ―― 【聖壁(プロテクション)】!」

 

 下水通路の暗がりに潜んでいた一党の仲間たち。

 彼女らは半竜娘の呼びかけに従って姿を現し、加勢します。

 

 まずは文庫神官。

 半竜娘に頼まれたとおり、【聖壁(プロテクション)】の奇跡を嘆願。

 司教杖を片手に盾を構え、気合を入れて半透明の輝く壁を顕現させます。

 

()、できました!」

 

「うむ。次に毒気!」

 

「あいよー」

 

 【聖壁(プロテクション)】が扉代わりに玄室を塞ぎますが、神の奇跡は選択透過が可能です。

 動き出したモンスターハウス内の魔獣たちが、出入り口のこちら側へ襲い掛かろうと殺到しますが、その全てをシャットアウト。

 しかし、こちらからの攻撃は通すのですから、まさに神の御技(みわざ)ですよね。

 

「もしアンデッドが居たらそいつにゃ効かねーだろうけど、割と結構キツイ毒だぜー。たーんと吸いな!」

 

『『『 GGUURRUUAA!!!?? 』』』

 

 同じく暗がりから現れたTS圃人斥候が、次々と毒煙玉を投げ込みます。

 濛々(もうもう)とした毒気が玄室内に充満し、内部の魔獣や魔神たちを覆っていきます。

 毒気で消耗させるとともに、視界を奪うことで、敵に魔術の狙いを絞らせないという作戦です。

 

『GGGRRAA!!』 『RUUUAA!!』 『OOOAAA‼‼』

 

「無駄です! 知識神様の【聖壁(プロテクション)】は、そんな程度では破れません!! 闇よ落ちるなかれ!」

 

 苦し紛れの稲妻や火焔が文庫神官が請願した神の奇跡(プロテクション)を叩きますが、びくともしません。

 

「ではいましばらく維持を頼むのじゃ!」

 

「となれば後は私の出番ってわけね」

 

 一党の中で最後に現れたのは、大弓に矢を番えた森人探検家でした。

 視界は毒煙で覆われていますが、実は “奇跡の島” 以降、こういった視覚が奪われるような事態に備えて【魔法知覚】を習熟段階まで鍛えていたのです。

 これはマナを薄く放出して周囲を知覚する技能で、リッチーのような魔法に長けた敵の感知に引っかかりやすくなるのと引き換えに、周囲の情報をたとえ壁越しでも視覚によらず探知できるのです。

 あと【暗視】技能も少し鍛えました。やはり弓兵たるもの、知覚能力に秀でてなければ、ですからね。

 

 さて、そして、【聖壁(プロテクション)】に守られた弓兵がすることと言えば?

 

「武技【月兎撃ち(げっとうち)】!!」

 

 文庫神官の盾の後ろから宙返りするように飛び出し、達人級の【速射】により空中で6連射!

 煙の中でも関係なく、一気に6体の敵を貫きます!

 

『GGGAAOOW??!!』 『GGIIYAA!?』 『AAAHH??‼‼』

 

「安全地帯からの一方的な攻撃! これに勝る戦術なしッ!」

 

 皆中(かいちゅう)の腕前を披露した森人探検家が快哉を上げました。

 

「うむ。とはいえ敵にも【解呪(ディスペル)】使いの邪神の使徒でもおるかもしれんのじゃ。さっさとやるに越したことはなかろう」

 

 そのようにもっともなことを言った半竜娘は、虚空から何かを()()()と掴んで具現化させました。

 

『ゆっ?』

 

「空間爆破じゃっ! 堕魂の竜鱗・生首饅頭・この世の外から来たもの二つッ! これでもくらえ(テイク・ザット・ユー・フィーンド)ッ!!」

 

ゆゆゆゆゆーーー!!??(ひさびさの出番と思ったらーー!!??)

 

 敵を一掃するにはこの手に限るぜ!

 契約精霊であるティーアースの破片を媒介として投げ込み、精霊術【力球(パワーボール)】を顕現させます。

 

 ―――― KABOOOOOMMM‼‼

 

 異次元からの衝撃波(ボム)を炸裂させ、玄室内の怪物たちにさらにダメージ!

 衝撃波を食らった怪物たちの四肢が()じれ、()げていきます。

 そうでなくとも衝撃波で吹き飛んだ怪物たちは、他の怪物にぶつかって被害を拡大させています。

 

「おっ、同士討ちも始まったみてーだな」

 

「まあ寝起きに訳も分からず毒気投げ込まれて、呪文や弓矢で攻撃されたところに、隣の奴が吹っ飛んできたら、体当たりで攻撃されたと思って不思議じゃないわ」

 

「……お姉さまの分身魔神(ドッペルゲンガー)さんが【混乱(コンフューズ)】飛ばしたのでは」

 

 闇竜娘ちゃんのアシストがあったか定かでないですが、モンスターハウスの中は大混乱です!

 

「うむ。あとは弓矢と投石で潰せばよいな」

 

「リーダーとエルフパイセンはマナ飛ばして標的の位置を知覚できるだろーけど、オイラは無理だぜ?」

 

「あんたも習得すればいいのに。便利よ?」

 

「オン・オフ効かねーんだろ? 魔導波長で見つかっちまうから斥候と並立できねーよ」

 

「じゃったら斥候のお主は後方・周辺の警戒じゃ。あと煙幕が薄れたらまた毒煙幕弾を投げこんで欲しいのじゃ」

 

「あいあーい、まぁむ」

 

 というわけで、文庫神官が【聖壁(プロテクション)】を維持して、森人探検家が矢を放ち、半竜娘ちゃんが石を投げ、TS圃人斥候が周辺警戒と毒気追加……。白梟使徒と闇竜娘は戦力温存。

 

 この差配で攻撃を繰り返すうちに、モンスターハウスの殲滅は完了しました。

 

 

 

 

「うむ。動くものはもう無さそうじゃの。……とはいえ、毒気が薄れねば中には入れぬか……」

 

「こんなことで【竜命(ドラゴンプルーフ)】のポーション使うのも勿体ねーしな」

 

 火焔と毒に完全耐性を与える祖竜術【竜命】が付与されたポーションを飲めば、毒気の中でもへいちゃらですが、いまそこまでして確認する必要もないでしょう。

 魔法知覚にも生きているものは捉えられません。

 

「あとから配下の子たちに確認させればいいでしょ? 疲れたし帰りましょ」

 

 森人探検家は弓弦を引き疲れたのか、手指をプラプラさせて筋をほぐしています。

 気だるげなのも無理はなく、メイン火力を張って武技も使っていたため、消耗が嵩んでいます。

 

「ついでにこの件の報告も代理でさせれば良いと思いますよー。ちょうどいい実績になりますし、中に転がってる怪物の素材を譲ってあげれば文句もないでしょう」

 

 文庫神官はもはや昇級にもそこまで(こだわ)るつもりはないのか、後始末の面倒ごとは下に投げるつもりのようです。

 実は、人の使い方という面では、騎士家出身であるこの娘もそこそこの知見を持っているのかもしれません。

 

「ふむ。ではそうするかの。他の怪物どもの格納庫(モンスターハウス)の位置も分かっておるが、まだ休眠状態のようじゃし……今すぐ向かう必要はない、か」

 

「所詮、警戒の目を潜って街の地下に持ち込めるモンスターの程度なんてたかが知れてますし、場所も分散しているというなら、その駆除も含めて部下の人たちに任せればいいと思いますよー」

 【聖壁(プロテクション)】を維持して額に汗した文庫神官も、かなりお疲れのようです。

 

 ……しかし手下に任せるといっても、半竜娘ちゃん一行にとっては大したことない敵でも、駆け出しとか万年黒曜級とかには、荷が重いのではないでしょうか?

 まあきっと、ポーションだのの消耗品はたっぷり付けて(出世払い)から送り出してあげるんでしょう。

 であれば、そうそう危険もないのかも知れませんね。

 

「そーそ。後始末は他に任せてさっさと帰ろうぜ」 TS圃人斥候がランタンを掲げて帰り道を先導し始めます。「流れた噂の火消しに、“一連の噂は混沌の策略の一部だった。デマの片棒担いだ奴は大間抜け” とかっていう感じでカウンターの噂を流すんだろ? その手配も要るしな」

 

「それにまだ本命が残ってるしねえ。向こうにとってもこんな社会戦なんて、うまく行けば儲けもの程度の撹乱でしょうし」

 森人探検家がうんざりして長耳を下げました。

 

 実際、噂の当事者にとってはたまったものではないですが、策謀の全体からすれば、所詮はその程度の重要度なのでしょう。

 魔神の襲来に()()()()小鬼禍が大したことないように、撹乱のための社会戦の標的にされることは、同情されるべき悲劇であれども、本命の陰謀に()()()()大したことはないのです。

 

「だからといって放置しても何の得にもならんのじゃ。傷つく者が居るのであれば、(うれ)いを(はら)うは神職の務めよ」

 

「別に大したことないから放置しろなんて言ってないわよー、だ」

 

 これで結構、神官仲間として地母神寺院のことを気にしていた森人探検家が、アヒル(くち)で拗ねた風にしています。

 っていうか、半竜娘は今更そんなまともそうなことを言っても、私怨バリバリだったのは一党の皆には周知のことですからね。

 

「ごほん。ま、今日はこのくらいで良かろうさ。下らん噂を流しておった元凶は生命の輪環に帰したし、幾分気も晴れたのじゃ。露払いや雑用は下に任せて、手前らは本命の方に備えるとするかの」

 

 半竜娘は片目を閉じると、白粉(おしろい)の闇人から【読心】で吸い出した知識を脳内で反芻します。

 陰謀の全容を知れたと過信するのは禁物ですが、敵のおおよその絵図面は見えてきました。

 

 それによると、やはり狙いは地母神寺院。

 

 豊穣を祈る際に捧げる御神酒(おみき)を穢し、儀式を妨害し、地脈を断ち、豊穣の加護を弱める……。

 そのために混沌側は幾つもの策略を巡らせており―― しかし、実力行使も忘れてはいないのです。

 

 やはり暴力。暴力は全てを解決する―― それは秩序(Law)混沌(Chaos)も変わらない真理なのですから。

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 手下に加えた冒険者たちに、辺境の街の地下遺跡の怪物格納庫(モンスターハウス)の後始末と、未処理のモンスターハウスの制圧と、冒険者ギルドへの報告を丸投げし。

 ―― その後、コトがコトだけにギルドからは詳細を聞き出すためにと召喚されたので、結局二度手間になったり。

 手下の中で見込みのあるパーティは、これらの功績でサクッと白磁から黒曜に上がったりして。

 

 少しずつ、少しずつ、まあ混沌側には逆剥けを千切る程度の痛痒しか与えられていないかもしれませんが、順調に敵側の策は叩けています。

 

 そうして末端を叩いていけば、痺れを切らした敵は本命の最終手段に出るはずです。

 そして残る本命の手管はやはり、実力行使となるわけで。

 

 例えば、寺院の葡萄園を狙った襲撃。

 地下墓所から地母神寺院への直接浸透。

 地脈を押さえる塚山の地下で行うという呪いと穢れの儀式。

 

 それら同時多発的な襲撃の計画は、しかし半竜娘が白粉の闇人から吸い上げた知識を基にした報告や、小鬼殺しが雇った仕掛人(ランナー)が果たした仕掛の結果によって、概ね冒険者ギルドの知るところとなっています。

 

「…………星辰の並びから、敵が行う穢れの儀式の日もある程度特定可能なのじゃな?」

 

 半竜娘ちゃんたちは、冒険者ギルドのテーブルを借りて情報の整理をしています。

 ちなみに幼竜娘三姉妹は、『『『 地母神寺院を守るんだ! 』』』と気合を入れて、妖精弓手・鉱人道士・蜥蜴僧侶が請け負っている寺院と葡萄園のパトロールに加わっていますので、今は居ません。

 闇竜娘は封具の中に隠れ、白梟使徒は梟形態で文庫神官の頭の上に乗っています。

 

「はい、お姉さま。星読みは知識神の文庫の得意とするところ。今回の件、水の都の法の神殿とも協力して当たっているとのこと。確度は高いかと」

 

「なるほどなのじゃ。いくら何でも星の動きは変えられぬ。となれば、敵の儀式の期日は動くまい……。一方で、敵も情報が抜かれておることには気づいておるはず……さて、それがどう出るか……じゃな」

 

 早摘みの葡萄もそろそろ摘み時です。

 星読みの結果から導かれた襲撃時期も、間近に迫ってきています。

 

「わたしだったら、敵に計画がバレてる前提なら、バレてる部分は陽動として割り切るわね」

 

「つまり闇人から吸い上げた襲撃計画以外にも、更なる予備プランを準備する、というわけじゃな。バレた部分を隠れ蓑に」

 

「そういうこと。地脈を押さえる儀式場として塚山が挙がってるなら、それとは別に水脈を押さえるって意味で川の近くも怪しいかもしれないわ?」

 

 森人探検家の言う通り。

 混沌勢力側が何もせず、手を(こまね)いてくれているというのは、楽観が過ぎるでしょう。

 何らかの対処をしているとみるべきです。

 

「単純に戦力を増強してるってーのも考えられるだろ。力押しは奴らの得意技だぜ」

 

「可能性はありますね。未踏遺跡に封印されていた何かを解放して即席の手駒にするとか……」

 

「生贄積んで魔神召喚、ってーのも考えられるか?」

 

「行方不明者がいないかとか、調べた方が良いかもですね」

 

 TS圃人斥候の指摘に、文庫神官が応じます。

 予備プランにしても、戦力増強にしても、どこからかリソースの補充は必要なはず。

 混沌勢力だって、リソースは有限のはずなので、足りないものは他所から持って来るしかないわけです。

 例えばそれは未発見の遺跡だとかに封じられた呪物であったりとか。もちろん、そう都合よく戦力になるものが転がっているとも限りませんが……。

 

「では各々(おのおの)で情報収集すること。……で良いかの? 手前も今一度、吸い上げた記憶を精査するのじゃ」

 

 何かしらの動きがあるのであれば、その痕跡があるはずです。

 

 しかし一方で、 『粗雑(クルード)だと思われているなら繊細(テクニカル)にやり、繊細(テクニカル)だと思われているなら粗雑(クルード)にやる。』という格言もあります。*1

 その格言に(のっと)れば、襲撃すると思われているとき、それを隠れ蓑にした企みをするなら、きっとそれは、より大きな暴力ではなく、繊細な技術を要する針のような一撃になるのでしょう。

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 どことも知れない暗闇の中。

 立派なひげを蓄え片目だけが大きな神経質そうな鉱人と、白粉(おしろい)を塗った闇人が、木箱を間に置いて取引をしています。

 

「……これが注文の品。名付けて『闇の葡萄』じゃ。しかと頼むぞ」

 

「普通の葡萄にしか見えんな。注文通りだ。さすが博士だ」

 

(おだ)てても料金は負からんぞ」

 

 鉱人博士が木箱の蓋をずらしたところ、中から現れたのは、熟する前の早摘みの葡萄そのもののようでした。

 爽やかな、かすかに甘い、青みが残る葡萄の香りが広がります。

 ブツを(あらた)めた白粉の闇人は、満足げに頷きました。

 

「触って確かめたりはせんのか?」

 

「その手には乗らん。葡萄の皮についたものが重要なのだろう? 俺が触ったら台無しになったとか言ってもう一つ余計に売りつけるつもりだろうが」

 

「なんじゃ、バレておったか」

 

「博士の茶目(ちゃめ)()業突(ごうつ)()りなところは、我ら(ダークエルフ)の間でも有名だからな」

 

 白粉を塗った闇人は金貨袋を鉱人博士に手渡すと、『闇の葡萄』が詰まった箱を背負子に乗せて固定します。

 

「念のために使い方と注意事項を聞いておく」

 

「用心深いことじゃな」

 

「普通のことだ。間違った使い方をすれば爆発したりするからな。そうでなくても爆発するものはありふれているが、かといって説明を聞かないと確実に爆発する」*2

 

「それは闇人の都だけじゃろ。まあええ、説明するわい」

 

 ごほん。と咳払いして、鉱人博士は『闇の葡萄』の使い方の説明をします。

 

「まずこの『闇の葡萄』は、できるだけ静かに、バレにくいように、地母神様の葡萄酒を作り変えることを目的としておる。これは注文通りじゃな」

 

「うむ。時間がかかってもいいからバレないように儀式を妨害するために、御神酒(おみき)自体を汚染、ないしは変質させることが、こちらからの注文だ」

 

「そのために、この『闇の葡萄』―― 正確には、この葡萄に付着させた特殊な酵母……まあ、甘みを酒精に変える目に見えぬほどの小さなものじゃが、その酵母を、非常に特殊なものに変えておる」

 

「ほう」

 

「具体的には、酒精を木精に変える作用がある。これは鉱人や酒造神の加護のある神官にはなんともないが、只人には毒じゃ」*3

 

 酒精とはエタノールのことで、木精とはメタノールのことです。

 メタノールはメチルアルコールとも言い、体内に入ると特に網膜に多く含有される酵素によってギ酸にまで分解されてその周辺にダメージを与え、やがて失明させることから『目散(めち)る』アルコールとも言われたりするやつですね。

 

「酒精を木精に、か」

 

「そうじゃ。この『闇の葡萄』というネーミングもそこから来ておる。失明させて闇をもたらす、ゆえに『闇の葡萄』じゃ」

 

「鉱人にしては洒落た名づけだ」

 

「いや、弟子のセンスじゃ」

 

「なるほど」

 

 アッサリ納得した闇人に思うところはあるものの、鉱人博士は説明を続けます。

 

「……続けるぞ? この『闇の葡萄』を、普通の葡萄に混ぜて酒を造ることで、その酒の酒精は熟成するにつれて木精へと変化するのじゃ」

 

「それを飲んだらどうなる?」

 

「まあ飲むときの薄め具合によるが、結構な人数が死ぬじゃろうな。そうでなくとも目をやられるじゃろう。軽い症状としては、悪酔い、嘔吐、下痢などじゃな」

 

「くくっ。そうなれば、地母神の葡萄酒の名は地に落ち、収穫の祭事どころではなくなるな。秋が楽しみだ」

 

 ブランドが地に落ちるのは一瞬ですからね……。

 

「まあのう。神殿の御神酒で死人が出たとなれば、民心も離れようしのう。あとは樽や酒蔵にうまいこと改造酵母が居着けば、なお良しじゃな」

 

「長期戦の布石になるな。それで、これはただ普通の葡萄の収穫籠にでも紛れ込ませればいいのか?」

 

「基本はそうじゃ」

 

「なんだ。では俺が葡萄に触っても効果が失われはしなかったんじゃないか」

 

 自分の用心が杞憂であったことに、白粉の闇人はかすかな苛立ちを込めた視線を送りました。

 しかしそんな様子は無視して、鉱人博士は説明を続けます。

 

「おすすめはせんぞ? できれば『闇の葡萄』は葡萄以外のものには触れさせぬ方が良い。木箱には【保存(プリザベーション)】の術を刻んでおるとはいえ、あまり長持ちするものでもない」

 

「承知した。注意事項は以上か?」

 

「以上じゃ。まあ、酒にせん限りは普通の葡萄じゃしな。魔法が掛かっておるわけでも呪いが掛かっておるわけでもない」

 

「それこそがまさに求めるものだ」

 

 一見して何でもない品であることこそが、重要なのです。

 そうであるならば、出来上がった地母神の御神酒が木精(メタノール)まみれであったとしても、混沌の関与は証明できず、それを言い訳にすることもできないのですから。

 

「いい取引じゃった」

 

「ああ、こちらこそ」

 

「……そういえば、弟だか兄だか、最初に来ておったのは元気か?」

 

 鉱人博士の言葉に、去りかけていた白粉の闇人は足を止めました。

 

「……俺が別人だと……成りすましに気づいていたか。いかにも、最初にそちらとやり取りしていたのは不肖の弟だ。本件の発注以降は俺に代わったがな」

 

「ほう、やはりか。ま、深くは聞かんが、もし生きておるようならよろしく伝えておいてくれ」

 

「ふん。隠すことではないから言うが、弟は核撃の青い熱線で影も残らず焼き尽くされて死んだ」

 

「……そうか」

 

 さして気にもせず弟の末路を口にした白粉の闇人(兄)は、『闇の葡萄』の入った【保存】の木箱を背負って去っていきます。

 

「なぁに。不肖の弟が死んだとて、この俺は上手くやるさ。俺がダメでも次の闇人が、次の次の闇人が、きっと上手くやる。そういうものだ」

 

 それが、闇人たちが言うところの “『秩序』という名の壊れかけの幻想” を、“在るべき天然自然の姿……すなわち『混沌』” に修理する修理人―― トラブルシューターと呼ばれる混沌の尖兵としての信念なのです。*4

 

 

 

 

 混沌側のマスターシーンを挟んで、今回はここまで!

 ではまた次回!

 

 

*1
粗雑(クルード)だと思われているなら繊細(テクニカル)に~:ウィリアム・ギブスン著「記憶屋ジョニィ(原題:JOHNNY MNEMONIC)」(黒丸尚訳)(「クローム襲撃」に収録)より。

*2
闇人の使う道具は爆発する:TRPG『パラノイア』的な概念。光線銃もリニアも冷蔵庫も、なんでもかんでも爆発する。アルファコンプレックスではよくあること。おそらく闇人の都では、あらゆるアイテムに異界のデーモンコア由来のエネルギーがふんだんに使われているのだろう。きっと都を制御しているのは強大な汚染(核の)精霊ではなかろうか。

*3
鉱人はメタノールが飲める:独自設定だけど多分飲める。なので鉱人の火酒については、成分的に只人が飲むには適さない場合があるかもしれない。(獣人に毒とは知らずカカオを食べさせようとする只人と同じように、只人にメタノール入りの酒を知らずに飲まそうとする鉱人も居るかもしれない)

*4
トラブルシューター:TRPG「パラノイア」におけるPCのこと。残機(クローン)が何体か居るため、「わたしが死んでも代わりがいるもの」「次のトラブルシューターは上手くやるでしょう」ということになる。なお、ミッションをクリアすることは難しく、足の引っ張り合いでPC側が全滅することも。なんなら依頼を受諾するまでの道中で残機をすべて失うことすらある。市民、幸福ですか?




 
鉱人博士はオリキャラです。特に今後の出番はない予定ですけれど、敵側でビックリドッキリギミックが必要になったらまた出すかもしれません。
なおメチルアルコール化した御神酒なんてドワーフくらいしか飲めないので、もし作戦が成功したら、メチル御神酒は博士が自分でごっそり回収して飲むつもりでいるとか。

Q:酵母の力でエタノールからメタノールっていったいどういう反応させてるの?
A:魔法的なあれとかこれとかでチューンされたスーパー凄い酵母が頑張るんです、きっと。ふわっとしてます。『闇の葡萄』自体が単なるマクガフィンでしかないので、なんとなくの雰囲気でお願いします……。

次回か、幕間入れて次々回は『闇の葡萄』を巡る争奪戦……になるはず?

===

ご評価ご感想をいただき、大変うれしく思っています。応援が身に沁みます! ありがとうございます!
 


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37/n 裏1(経営買収した酒場にて)

 
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===

●前話
御神酒を作るときに、酒精(エタノール)分を木精(メタノール)分に変えるという『闇の葡萄』を紛れ込ませる、だと……何たる……何たる邪悪か!!

===

今回は舎弟になった元新人冒険者視点などです。
 


 

1.本格派森人料理を出す酒場(買収済み)

 

 

 半竜娘が買い取った酒場の一つ。

 通りから外れた奥まったところにある隠れ家風と言えば当世風だが、まあ、商売っ気の感じられない店だ。

 もとは森人の店主が本格的な森人料理を出す店で、それが経営難に陥っていたところを、半竜娘が買収して徒党の冒険者向けの酒場にしたのだという。

 外装はそのころから変わっていない。

 

「あっ、店長! また蟲を仕入れたんですか!?」

 

「い、いやね? だって、時々頼んでいく森人(エルフ)がいるじゃないか。きちんと故郷の味を用意しておいてあげないと……」

 

「森人の方たちは来店間隔が不規則すぎて予想できないじゃないですか。そのせいで潰れかけてたんでしょう!?」

 

「つ、潰れかけてたっていうなよぅ。家賃だとか税金だとか、そういう訳の分からないものが多すぎるんだよぅ」

 

 ―――― いつの間にかお金なくなっちゃう……お金が生えてこないのどうして……? どうして……?

 などと言っているのは、この酒場の元の経営者で、今は雇われ店長の森人だ。

 まー、コンセプトとしては悪くない。誰しも故郷の味からは離れられないのだから、森人向けの専門店というのは着眼点としては良いだろう。

 ただ、森人の『たまに食べたくなる』の頻度は普通に数か月や数年単位だったことと、都市に住む森人が少ないことが重なって、まあ、経営は悪化の一途をたどっていたのだ。残当。

 それで、借金のカタに森人店長が女衒に連れられて行くまで秒読みというところで、森人探検家の伝手で買収が決まったという形だ。

 

「……まあ、最近はちょくちょく上の森人(ハイエルフ)のお姫様ですとか、交易神官の姉御ですとかいらしてくれますから無駄にはなりませんが……」

 

「だ、だよね!? 特に今回の黄金芋虫はかなり上物で、きっと姫様のお口にも――」

 

「でも! 次は仕入れる前に相談してくださいね! お願いしますよ、店長!」

 

 はぁ。と溜息を吐いたのは、女給用の制服に身を包んだ只人の少女だ。

 彼女は、半竜娘が組織した徒党に組み込まれた一党に所属していたが、もともと冒険者になりたくてなったわけでもなかったため、さっさとドロップアウトしたのだ。

 半竜娘が率いる徒党に所属するようになったのも、一党の一人が混血関係の陰口を広めていたことが切っ掛けで巻き添えを食らっただけで、この只人女給が何かしたわけでもない。

 

 切った張ったせずに安定した御給金がもらえて―― なんなら月の手取りは黒曜等級の冒険者より上だ―― 銀等級冒険者である半竜娘の庇護ももらえるなら、断然こちらの方が良い。

 徒党のメンツが受けている座学も受けられるし、それで文字や計算も覚えられた。徒党の傘下に入っていれば、様々な恩恵がある。将来的には徒党の中でもデキル冒険者を捕まえて結婚するのもいいだろうし、この酒場の女将を狙ってもいいだろう。

 只人女給はそう考えている。

 

「う~。わ、分かったよぅ」

 

 森人店長が長耳を垂れさせる様子は、なぜかこうゾクゾクとした嗜虐心を煽られるが、油断してはいけない。

 目を光らせておかないときっとまたやらかす。この店長に只人領域での経営の才能はないのだ。そうでなければ、身売り一歩手前までいったりはすまい。

 まあ、長年の研鑽により、料理の腕はかなりのものなのだが。

 将来的に自分がこの酒場の女将になれば、料理人として働いてもらおう。などと只人女給は考えている。

 

「……それはそれとして。そろそろ下宿人くんたちも帰ってくる頃か」

 

「仕込みは済んでいますからいつでもいけますよ、店長」

 

「じゃあ今日もよろしくね、女給さん♪」

 

 料理人兼店長の森人と、元冒険者の女給。

 徒党の一員向けの酒場として半竜娘が買収した店は幾つかあるが、この酒場は、華やかさという面でかなり徒党のメンバーの競争率の高いところだ。

 ……お任せで料理を頼むと蟲料理(味は良い)が時折出てくるのが、玉に(キズ)だが。

 

 

<『1.ちなみに用心棒は森人店長が使役する精霊だったりする』 了>

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

2.半竜娘率いる徒党(クラン)の傘下の酒場での雑談

 

 

「今日も1日お疲れ~」

 

「かんぱーい」

 

「かんぱ~い」

 

「そっちは今日何したんだ? 俺らは下水の隠し部屋の清掃」

 

「ゴブリン退治だよー」

 

「あー。しかもゴブリンの死体を回収しなきゃいけないやつだろ?」

 

「そうそう。まあその分は報酬上乗せされるからいいんだけどさ。……いややっぱつれぇわ」

 

「重いし臭いし……」

 

「何に使ってるんだろな?」*1

 

「死霊術の素材だろ? 半竜の姉御*2が講習で教えてくれただろ。 “小鬼くらいの知恵ある怪物の死体は死霊術に使える” って」

 

「そうだっけ」

 

「徒党の中の何人かが、死霊術を覚えようとしてるらしいしその練習用ってのもあるだろうけど」

 

「なるほどー」

 

「でも練習にゴブリンの死体使うのって、やっぱり邪悪な感じするよな……」

 

「それな。……いや、死霊術習おうとしてる奴らにはいちいち言わねーけど」

 

「陰口厳禁。お上品な言葉遣いをしねーとな」

 

「悪意は包め、ってやつな。お陰で逆に最近何もかもが皮肉に聞こえてくる。お貴族さまの言葉っつーのかね」

 

「気にしすぎても何も言えなくなるしなあ。あ、でも、受付さんたちの(たと)えとかすんなり分かるようになったのは良かった。あの辺が分かると一目置かれる感じもあるし」

 

「まあな、教養ってやつだな。で、そっちの隠し部屋の清掃は戦利品とかあったか?」

 

「ああ、もちろん。マンティコアの毒腺とか、結構レアな魔獣の剥ぎ取りできたし、納品依頼も丁度あったから懐に余裕もできた」

 

「いーなー。ゴブリンの死体持ってくのも、一応ギルドの依頼を通してくれてるけど、功績としては微妙だもんなー」

 

「こっちだって功績としては大して変わらねーさ。結局は落穂拾いだしな」

 

「別の班は駆除もやるんだろ? 次はそっち受けようかな。やっぱり戦闘してナンボだろ」

 

「おいおい、ちゃんと座学聞いてるのかよ。戦闘の有無とか関係ねーよ。冒険者ギルドは国営なんだから、人族の平和だとか、生存圏拡大だとかに関わる依頼が評価されるって話だろ」

 

「あー。そういえばそんなこと言ってたような……?」

 

「しっかりしろよな。そんなんだと “補習” に回されるぞ」

 

「ひえー! そいつは勘弁だぜ! あれキッツイんだよ」

 

「最初はいいんだけどな。【加速】の術掛けてもらって、天才モドキになれるからさ」

 

「戦闘訓練では “見える! 見えるぞ!” って感じだし」

 

「座学でも “分かる! 解るぞ!” ってなるもんな」

 

「そうそう、俺って天才じゃん! ってなる。まあ……」

 

「……だな。その状態って長続きしねーし、あとがツライ」

 

「1時間もすれば消耗がヤベえし」

 

「2時間も【加速】されてたら、マジで走馬灯が見えたぜ」*3

 

「そんでスタミナポーションの世話になるというね……」

 

「借金追加入りまーす」

 

徒党(クラン)に入った時に支度金として金貨一袋PONとくれたぜ!」

 

「さすがは竜殺しの一党。資金力がダンチだな」

 

「支度金(返さなくていいとは言ってない)」

 

「つーても利息も低いし返済期限もないし、実際、装備やポーション揃えられたおかげでその分稼げてるからなあ」

 

「初期投資って大事よな。一党の頭目向けの座学でも言ってたわ。一党経営講座のやつ」

 

「ああ、マジでな。最悪、森人の姉御*4が運営してる商店で買えば、ツケも効くしな」

 

「確実に囲い込まれてるが、このまま順調にランクアップできれば返す当てもあるしな」

 

「返済計画策定済みという親切さよ」

 

「……それが分らず脱走しようとするやつらは、マジなんなんだろな」

 

「さあ……? まあ訓練は逃げ出したくなるくらい厳しいが」

 

「辞めたいって言えば装備の下取りで借金相殺してくれるし、半竜の姉御の伝手で色んな職人への弟子入りも出来るっつーのにな。それか開拓村の村人とのお見合いのセッティングとか」

 

「面倒見が良いよなー、姉御たち。実際俺ら、他の白磁や黒曜よりよっぽど恵まれてるぜ。そのうち自分から徒党(クラン)に加わろうって奴らも出てくるだろ」

 

「実際、嫉妬の視線は感じるときがあるな。あと辞めるにしても、むしろここで幾らか訓練積ませてもらってから兵士や衛士になった方が良いまである。絶対、そこらの貴族の私兵より厳しい訓練積んでるよな、俺ら」

 

「まーそれはある。行軍訓練とかは、あれマジで冒険者っつーより兵隊だよな。即戦力になれるぜきっと」

 

「だいたい、脱走したとしても逃げきれるわけねーっつのにな」

 

「特に記憶抜かれてる奴らな。最後に夜尿(おねしょ)した歳から、初恋の娘の名前やらなんやら全部バレてるのによう逃げようと思うわ」

 

「思考回路も記憶抜かれた時にバレてるから逃げ道も全部あらかじめ押さえられてるというね」

 

「つーか宿も酒場も姉御たちの息がかかってるんだから、愚痴やら脱走計画やら筒抜けだっつーのな」

 

「それな。女給もそういう脱走計画聞いたら報告するよう言われてるらしいし」

 

「脱走者狩りには俺らも駆り出されるしな。この人数で狩り出されたら逃げられねーって」

 

「まったくだぜ。んで、捕まったら “補習” なわけだ」

 

「限界ギリギリまで消耗させるらしいな、手加減なしに」

 

「最終的には本人のためになると思ってやってるからなー、姉御たち」

 

「いや、聖騎士の姉御*5は結構私怨混じってると思うぞ」

 

「あー、うん。“お姉さまの手を煩わせるなど言語道断! 性根を叩き直してやります!” って感じだよな」

 

「【治療】の奇跡でくっ付けられるからって、訓練でも腕の1本くらい平気で斬り飛ばしてくるのはどうかと思う」

 

「訓練とは??」

 

「半竜の姉御はでっかくて怖いし、森人の姉御は借用書握られてて頭上がらないし、聖騎士の姉御は……半竜の姉御さえ絡まなきゃいい人だけど……」

 

「圃人の姉御*6だけが癒しだぜ……」

 

「それな……」

 

「ちっちゃい体でこまごま動いてるの見ると、応援したくなる」

 

「わかる」

 

「ま、応援も何も向こうの方が技量も何もかも上なわけだが」

 

「俺らももっと頑張らんとなー」

 

「そういや、俺らがとっ捕まる発端になった地母神寺院の尼さんの話、あれ、やっぱり混沌の計略だったらしいな」

 

「らしーな。で、どうにも寺院の襲撃計画があるってことらしいから、そのうち大規模な防衛戦があるだろうって話だろ」

 

「なんだ知ってたのか」

 

「まあな。罪滅ぼしってわけじゃねえけど、うちの一党はその防衛について受ける予定だぜ」

 

「じゃあそっちの手は足りるかな……。小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)さんもそれ関連で駆り出されてるみたいだから、代わりにゴブリン退治を受けるかなー。依頼が()けてないみたいだったし」

 

「ああ、それも良いんじゃね?」

 

「何にせよ、他のメンツと相談かな」

 

「だな」

 

「姉御たちはどうすんのかね」

 

「うーん、寺院の防衛の方に来るとは聞いてないな。もっとでっかいヤマがあるのかもしれねえが……」

 

「姉御たちの見えてるものは、俺らじゃまだ計り知れねえよ」

 

「あとで一連の流れを振り返り解説(デブリーフィング)してくれねえかな」

 

「頼んでみたらやってくれるかもよ?」

 

「……講座料を借金に追加されねえか?」

 

「そこまでは知らね。それより死なねーように準備は怠るなよ」

 

「もちろんだぜ。そっちこそな」

 

 

<『2.【加速】を用いた補習により技量も見識も促成栽培された舎弟たちは、衣食住も保証され、初期投資で装備や消耗品も充実し、そこらの白磁よりよっぽどマシな生活を送っているようです』 了>

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

3.受付嬢の胃痛

 

 

 冒険者ギルドの控室で、受付嬢が机に突っ伏して同僚である監督官に愚痴っていた。

 

「銀等級らしい行動をって言いましたけど~、言いましたけど~」

 

「あー。うん、君は悪くないよ。汝に罪なし(YE NOT GUILTY)

 

「ありがとうございます……。うぅ……胃が痛い……」

 

 胃の腑のあたりを押さえる受付嬢。

 監督官は神官としての【赦しの秘跡】技能を発揮し、受付嬢の心労を緩和してやろうと試みた。

 

「まあまずは話してみなよ。聞いてあげるから」

 

「……ガチなんです……」

 

「ん?」

 

「冒険者が徒党を組むのは無くはないです。大規模な依頼の時の臨時もありますし」

 

 でもガチなんです。ガチすぎるんです。と受付嬢は嘆く。

 

「半竜の術師さんの徒党は、蜥蜴人式の集団戦闘訓練を取り入れて、竜殺しの潤沢な資金力で装備や施設も充実してます……。トップが銀等級冒険者だから良いですが、街中にいきなり軍隊が現れたみたいなもんです」

 

「衛士隊がその辺を気にしてる、と」

 

 治安維持を担う衛士隊としては、そこは非常に気になるところだ。

 しかも、資本を活用して宿屋や飲食店、雑貨屋などを買収しているのだという。

 経済的にも街に食い込んで来ている状態だ。郊外に居を構えた時の謙虚さはどこへ消えたのだか……。

 

「そうなんですよ~~! 正直なところ、半竜の術師さんの単独戦力だけでも街を崩壊させて余りあるのに、組織力までつけられたら手の施しようが……!」

 

「で、それをかろうじてお目こぼしさせるに至ってるのが、銀等級の肩書ってわけね」

 

「そうです。冒険者ギルド(国の出先機関)が信用を与えてるから、なんとか収めてもらいました」

 

 問題視されているのは、半竜娘が本当に冒険者ギルドの意向に従い、ひいては国に逆らわないのか、ということ。

 

「まあ実際のところ、そんな妙なことにならないだろうと査定したからこその、銀等級認定ですが……」

 

「それはそうだね。国に弓引くようなのだったら、銀には上がれないもんね」

 

 第一、既に半竜娘には、何度も街を守ってもらってもいるのだから、今更疑うのもナンセンスだ。

 それが衛士隊(かれら)の仕事だと分かってはいるが。

 

「衛士隊にも冒険者のことは冒険者ギルドできちんとするって啖呵切っちゃいましたけど……」

 

「まだまだあの娘の価値観が読めないところがあるのが、不安要素だよねえ」

 

 異種族ゆえか、半竜娘の特異性ゆえか、行動が読めないときが(たま)にあるのだ。

 今回の徒党(クラン)結成だって、まさか銀等級に上がってすぐにこんなに大っぴらに動くとは思わなかったし、そのような組織を作るようなタイプにも見えなかったのに。

 実際は、銀等級という積み上げた信頼を利用して、自分の郎党を速やかに組織している。

 自分の信用と、只人の街の政治の力関係を熟知し、そのギリギリを通すような動き方だ。

 

「でもまあ、性根も善良ですし、頭も良いですし、力はありますし、このお陰で燻っていた冒険者の方たちも徒党(クラン)で訓練されて伸びてきましたし、依頼もドンドン片付いて、新人さんの死亡率も下がって、マナーも良くなって……悪いことでは、ないんですけどね。ええ。悪いことでは」

 

「……もっとあの娘も大人しくしててくれたらちょうど良いんだけどねえ」

 

「ですねえ……」

 

 はあ。と溜息一つ。

 ひとしきり愚痴を吐いてから、受付嬢と監督官の2人は仕事に戻っていった。

 

 

<『3.半竜娘の徒党(クラン):戦力 - 特優~並。規模 - 中隊規模。資金力 - 特優。構成員の士気 - 高。順法傾向 - 特優。冒険者ギルドの管轄下にあると認められる。―― 最終的な危険度評価 - 低。大店(おおだな)の私兵集団のような傾向を示す集団だが急成長しており要観察。(衛士隊の要監視団体リストより抜粋)』 了>

 

 

*1
小鬼の死体の使い道:死霊術の素材。特に、闇竜娘に定期的な供物として喰わせる魔神を死霊術【魔神(サモンデーモン)】で呼び出す(「騙して悪いが」する)ときに使用。あとは徒党の死人占い師志望の練習用とか。

*2
半竜の姉御:半竜娘のこと。美人だけどタッパがデカすぎて生理的な恐怖を感じるらしい。『(こわ)……。え、竜殺しってマジなんです? やば……』 とか思われている。故郷では槍持ち奴隷(≒騎士の従卒とか侍の小姓とか)を従えるのは戦士のステータスなので、徒党を組むことは雑事を任せる人員を確保するいい機会だと思っている。族長(オサ)族長(オサ)族長(オサ)! と呼ばせているかは不明。面倒なことは全部部下に投げて研鑽と戦闘だけしたい女。

*3
【加速】によるドーピング:判定値に+4〜+5。これは通常作成したときの能力値の不出来を覆すことができる数値である(例えば只人の技量集中は2〜7の範囲なので、+5あれば最底辺を最高値に補正するに足りる)。しかし10分で消耗点が1加算されるため、60分で消耗ランク1(全能力値-1)、120分で消耗ランク4(気絶)の一歩手前まで疲弊する。ゲーム的解釈で言えば、一時的にスキル熟練値獲得率にバフが付くが、倍の速さでスタミナが減る呪文、みたいな。

*4
森人の姉御:森人探検家のこと。触れがたいほどの美人なので、密かにだが慕われている。徒党の資金繰りの管理を行っており、酒場や商店の買収などを行っている。森人らしい時間感覚で投資を行っており、長期的に儲かればいいというスタンス。投資は森の木を育てるのに似てるなー、などと思っている。

*5
聖騎士の姉御:文庫神官のこと。(たお)やかそうな見た目のわりにガチガチの肉体派として認識されている。軍隊的な上下関係には一番厳しい。半竜娘ちゃんガチ勢。

*6
圃人の姉御:TS圃人斥候のこと。斥候技能の野外実習では面倒見がいいことと、その背丈容姿から意外と舎弟たちから慕われている。圃人特有の陽気さもあって、一番とっつきやすいらしい。だが元は男だ。




 
次回は『闇の葡萄』を巡る争奪戦……になるはず? でもこの陰謀って託宣でも降りないとそもそも気づけないよな……。

===

2021年8月3日付でゴブスレTRPG&サプリメントのQ&Aや正誤表などが更新されていました! → ゴブスレTRPG公式サイトhttps://ga.sbcr.jp/sp/goblin_slayer_trpg/

Q&A見てて気づきましたが、雪山の闇人リッチー戦での、加速(ヘイスト)中の【多重詠唱】技能の解釈を間違ってました。多重詠唱回数は、『主行動ごと』ではなく『ラウンドごと』で通算が正しいので、加速して2回行動できても、多重詠唱3+加速1で最大4回が1ラウンドあたりの呪文使用可能回数になります。次からルルブ通り適用します。

また【魔法知覚】の運用についても、原則として魔法知覚のみで捉えた場合は、その相手を攻撃や呪文の対象にはできない、という修正がされていました。
もろに前話の森人探検家の攻撃方法が引っかかりますが、うちの卓では『可能(ペナルティあり)』または『視覚不良によるペナルティの軽減』として運用します。
(【魔法知覚】はHUNTER×HUNTERの≪円≫のイメージでしたが、シャドウランの「アストラル知覚」の方が近いようですね。この世ならざる魔力の世界を見ている(ので物質世界での戦闘に耐え得るほどの精密性は確保できない)、ということのようです)

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37/n 葡萄酒の中の真実(In vino veritas)-3(【闇の葡萄】の情報)

 
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●前話
「半竜の術師さんが郎党結成したのは、実際ありがたい面もあるんですけどね……。走るだけで腰の鞘から短刀を飛び出させていたような新人(ニュービー)も、今では一端の斥候に、という話も伺っています。
 あと、ほら、彼女たちがこなす依頼って冬の広域食糧配達とかみたいに替えの利かないものも多いでしょう? それを組織として引き継げる体制があるなら今後も安心ですし。
 え。“彼女らが突如として牙をむいてきたらどうする?” ――そうさせないための冒険者ギルドであり、そうなっても何とかするための冒険者ギルドですよ」
 受付嬢はにっこりと微笑(ほほえ)んだ。
 


 

 はいどーも!

 やることが、やることが多い……! そんな実況、はーじまーるよー。

 

 えーと、実況者側は神の視点で(マスターシーンを)覗いているので、混沌側が寺院襲撃(葡萄畑方面)に合わせて、塚山で地脈汚染の大規模儀式をしつつ、一方で『闇の葡萄』を紛れ込ませようとする策謀をしているのを分かっていますが、半竜娘ちゃんたちはそうではありません。PLとPCの情報格差!ってやつです。

 

 寺院襲撃と大規模儀式の計画および邪教の本拠地は、半竜娘ちゃんの記憶抜きとゴブスレさんの仕掛(ラン)依頼による情報収集、超勇者ちゃんの勘のおかげで明らかになっており、それぞれの脅威度に応じた冒険者が配置されることになっています。

 

 具体的には、地母神寺院の葡萄畑の防衛は中位~低位冒険者。

 街の地下で見つかった隠し部屋(モンスターハウス)の内容から、敵はゴブリン、マンティコア、下級魔神あたりが想定されます。

 

 一方で、陽動のためのこちらからの攻め、つまり邪教の拠点と見られる地下霊墓への襲撃には高位冒険者や魔神殺し専業の一党を。

 敵拠点襲撃の陽動に当たっては、最低でも下級魔神、上は高位魔神、場合によっては名持ちの魔神(アークデーモン)の出現が想定されます。あとは留守居役の邪教の雑魚神官が出てくるでしょうか……生贄として消費されてなければ。

 

 向こうの本命と目される塚山の大規模儀式には、我らが白金等級の超勇者ちゃん一党。

 邪教団の高位神官、高位武僧、名持ちの魔神(アークデーモン)塚山の王(ザ・ファラオ)などが待ち構えていると考えられます。状況によっては、さらなる上位存在が、それらの神官や怪物たちに加えて地脈のエネルギーを贄として喰らって降臨する恐れもあります。

 

 ―――― という具合ですね。

 万全……かどうかはともかく、各戦場には、ダイス勝負に持ち込めるくらいには拮抗した戦力が投入される予定です。

 

 また、陰謀の本筋とは関係ないですが、混沌と結んでいた水の街の酒商(地母神寺院に社会戦仕掛けてきた闇人のパトロン)が、『テメエんとこを起点に全体の陰謀がバレたじゃねーか! ()()()として報復するぜぇ!!?』ということで、混沌側が用意したゴブリンどもに狙われています。

 ―― そしてまた、ゴブリンあるところには、ゴブスレさんあり。

 ゴブスレさんはゴブリン退治のプロフェッショナルとして―― つまりは混沌と繋がっていた者の家族だろうと遺恨なく救援に向かえる者として―― そちらの防衛依頼を受けて、水の街へと行っています。

 

 一方で、これらの大規模な混沌の攻勢を隠れ蓑に進められている『闇の葡萄』の混入による御神酒の汚染(コンタミネーション)を狙った作戦は、今のところ秩序側は誰も気づいていません。

 これのやらしいところは、メチルアルコール化した御神酒でも、ドワーフ基準で見れば酒として通用するわけで、恐らく豊穣の儀式の捧げ物としてはギリギリ適格と見なされるだろう点です。

 豊穣の儀式の成否という観点で占いや託宣を請うと、この策謀を見落としてしまうわけですね。儀式自体はメチル御神酒でも成功しちゃうので。*1

 もちろん、豊穣の儀式が成功してしまうと、メチル御神酒が大っぴらに流通に乗ってしまうわけで(下界視点では神様の御墨付きですからね)、そこから派生する辺境の街の人的損害並びに地母神寺院の信用失墜は多大なものとなるでしょう。

 つまり、今年の豊穣の儀式は成功させたとしても、翌年以降の地母神寺院と辺境の街の関係を破壊しようとする長期視点の混沌の陰謀になるわけです。

 

 とはいえ秩序側も何もしていないわけではなく、半竜娘ちゃんたちが『地脈汚染だとかの策謀をこちらが知ったのは混沌側にも知られているだろうから、向こうも追加の作戦や戦力増強があるのでは?』と疑って、調べているところです。

 まあ半竜娘ちゃんたち(こっち)もド派手に郎党の人員動かしてましたからね、混沌側(向こう)にもそれに応じた動きがあると想定するのは当然です。

 

 というわけで、それぞれの調査結果についてダイスロール。

 

 まずは文庫神官ちゃんから。

 

行方不明者(生贄の被害者)が増えてたりしないかとか、近くに怪しい遺跡がないかとか、封印された怪物が居ないかとか、ギルドで文献の調査をしてみましたが……」

 

 知識神の神官なので、書物には親しんでいるとして、神官Lvを足して【文献調査】判定です!

 

 文庫神官の文献調査判定:目標値不明

  知力集中5+神官(知)LV7+文献調査(初歩)1+2D646=23

 

 達成値23。これは『難しい(目標値21)』とされる判定でも成功できる値ですが……。

 

「今回の件に関係しそうなのは、陽動襲撃先の邪教の地下霊墓と、大規模儀式を行っていると目される塚山くらいでした。あとは何か所か小さな遺跡の情報はありましたが……拠点にするには足りず、せいぜいが何かの倉庫や取引現場に使える程度でしょうか」

 

 どうやらあまり結果は芳しくなさそうです。

 そもそもの調査対象がズレてたっぽい感じですね、これは。

 申し訳なさそうな文庫神官ちゃんに、半竜娘ちゃんが顎に手を当てて言葉を返します。

 

「で、あるか。―― 一応その細かな怪しげな場所のリストも見させてもらおうかの」

 

「はいお姉さま。まとめてありますのでお出ししますね。……ああ、それと」

 

「む? なんぞ他にも情報があったのかや?」

 

 文庫神官ちゃんは口に出すか迷ったみたいですが、一応、というていで報告します。

 

「その細かな遺跡の一つについての報告の中に『葡萄の香りがした』というものがありました。確か、うちの郎党(クラン)のメンバーが依頼帰りに近くの遺跡を巡察したときのものでした」

 

 放置されてる遺跡に小鬼が住み着いてないかとかを、依頼帰りなど余裕があるときには偵察するように、半竜娘ちゃんの郎党(クラン)では推奨してるみたいですね。

 

「『葡萄の香り』……のぅ」

 

「ごく最近の報告でしたし、一応、葡萄園やワインに関係するのかと思って気になりまして……。該当する遺跡は、リスト上で分かるように印をつけておきますね」

 

「うむ、ご苦労!」

 

「じゃー次はオイラだな」

 

 TS圃人斥候が続いて報告します。

 彼女()は、歓楽街方面を中心にした人脈から異変について辿ってみたようです。

 

「オイラは主によそ者だとかが紛れ込んでないかとか、いなくなった奴がいねーかとか、妙な品が入り込んでねーかとかを聞き込みしてきたぜー」

 

 めっちゃシティアドしてますねえ。

 後ろ暗い方面の調査ということで、斥候Lvも足せる【犯罪知識】判定でダイスロール!

 

 TS圃人斥候の犯罪知識判定:目標値不明

  知力集中5+斥候LV8+犯罪知識(初歩)1+2D652=21

 

 達成値は21。さて、どんなもんでしょうか。

 期待値出てるので何も成果なしということはないと思いたいですが。

 

「この間、地下下水道でリーダーが熱線で蒸発させた(ジュッとした)闇人いたじゃん? あいつなんだけどさー」

 

 地母神寺院に社会戦仕掛けてきてた、あの白粉(おしろい)闇人(ダークエルフ)ですね。

 

「死んだあとの日付でも目撃情報があるんだよな。白粉臭くて見慣れない森人の、さ。まー、他人の空似とかかも知れねーけど」

 

「ほう、そうなのじゃな。そいつの今の動向は分かるかや?」 と半竜娘が片眉を上げて尋ねます。

 

「すまねえ。目撃談も曖昧で、居場所までは絞れなかったぜー……」

 

「で、あるか」

 

「ちょくちょく街の出入りをしてたらしい、ってのは分かってるが」

 

「なるほどのぅ」

 

「じゃあ次はわたしね」

 

 森人探検家が成果報告を引き継ぎます。

 彼女は交易神官として、金や物の流れを追ってみたようです。

 

「期せずして地母神寺院のワインの投機も上手く行ったし、そのあたりのことを絡めて商人のネットワークで情報を集めてみたわ」

 

 少し変則的ですが、交易神官Lvを使って判定します。

 信仰心(交)スキルも足しましょうか。

 言うならば【商業知識】判定(仮)ですね。

 

 森人探検家の商業知識判定:目標値不明

  知力集中6+神官(交)LV5+信仰心(交)(初歩)1+2D626=20

 

 ふむ……目安となる21には1足りませんでしたが、これはどう出ますかね。

 

「地母神のワインの値付けは戻ってきているわ。混沌の計略だったって噂も広まってるし、近いうちに地母神寺院が襲われそうってのも広まってる」

 

「ほうほう。となれば、ワインの値がもっと上がるんじゃないかの?」

 

 葡萄畑に被害が出れば、仕込まれるワインの量も減るはず……と商人たちが見込めば、地母神寺院のワインがレアになるわけで、そういった値動きがあってもおかしくありません。

 

「うーん。そうでもないのよね。ああもちろん襲撃で寺院の畑の葡萄がダメになるんじゃないかって話は出てるんだけど」 森人探検家が腕組みして難しい顔をします。

 

「値動きはそうではない、と」

 

「どっちかというと『足りなくなるだろう葡萄を寄進しよう』って動きがあるわね。商人たちも混沌の計略に加担したことについて、少しは良心の呵責というか、信心からの後ろめたさがあったみたいで」

 

 水運でも、ワイン用の葡萄が多く流入してきているのだとか。

 地母神寺院を下げる噂を流していた主体は水の街の酒商だったため、『あっちの酒商とは違うんです!』と身の証を立てる意味合いもあるのかもしれません。

 

「あとは何故か酒造神の神官を見かけたわね。仕入れに来たのかもしれないけど……」*2

 

 酒造神の神官はともかく、相手の戦力増強だとか、次の陰謀だとか、本当にそういうものはあるのか、と森人探検家は懐疑的です。

 物流や金の流れは、現在の想定を上回るほどの大規模な追加の動きを否定しています。

 

「ふむ。ふむ。ふむ……」

 

「で、そういう貴女はどうなのよ、リーダー? 読み取った記憶を精査したんでしょ?」

 

「うむ、では手前からも報告じゃな」

 

 半竜娘ちゃんは【読心】で吸い上げた、白粉の闇人の記憶を精査して、そこから情報を拾おうとしたようです。

 魔術師Lvを用いた判定が適当でしょう。

 自身の精神の内に深く瞑想して潜ったわけなので、さらに瞑想スキルのレベルも足しちゃいましょう。【瞑想思索】判定(仮)といったところでしょうか。

 

 半竜娘の瞑想思索判定:目標値不明

  知力集中11+魔術師LV8+瞑想(熟練)3+2D654=31

 

 達成値31!

 【加速】による補助なしでコレとは、流石、祖竜に愛された大天才ですね。

 

 だいたい「目標値30」が「至難(その道を究めた者でなければ成功は難しい)」とされますので、流石にこのレベルなら何らかの確定的な情報に辿り着けたのではないでしょうか。

 さらに、他のメンバーからの報告も組み合わせれば、きっと……!!

 

「読み取った記憶を隅々まで精査したが、敵側の戦力増強に繋がるような情報はなかったのじゃ」

 

「マジか。リーダーでもダメか……」

 

「戦力増強については、の。報告はそれだけではないのじゃ。そして、お主らの報告を聞いていて確信が持てたのじゃ」

 

「お姉さま、それは一体……?」

 

 うむ、と半竜娘ちゃんがもったいぶって頷きました。

 一党の他の面々が、居住まいを正します。

 

「あの白粉の闇人には、そっくりの兄弟がおるようじゃ。そして、自分の死後は任務を引き継ぐ手はずになっておった」

 

「あ! じゃあ歓楽街で目撃されたっつーのは……!」 TS圃人斥候が手を打ち合わせました。

 

「おそらくその兄弟の誰かじゃろう。そして後任が()るということは、任務は続行中というわけじゃ」

 

「なるほどな!」

 

「そして予備プランについては、概略とキーワードだけじゃが記憶から掘り起こす(サルベージする)ことが出来たのじゃ」

 

「へえ。じゃあそのキーワードってのは何かしら?」

 

 森人探検家の疑問に、半竜娘が答えます。

 

 ――――【闇の葡萄】。

 

「闇の……葡萄、ですか」

 

「そうじゃ。鉱人に作らせた【闇の葡萄】を葡萄酒造りのときに混ぜることで、御神酒を汚染する、というものらしいのじゃ」

 

「あ、すると、遺跡で葡萄の匂いがしたというのは……!」 文庫神官がハッとして、調べた遺跡のリストを(めく)ります。

 

「おそらくは【闇の葡萄】の取引現場だったのではないかの」

 

「……じゃあ、葡萄を寄進しようという商人の動きも関係するのかしら」

 

「【闇の葡萄】が、他の葡萄と同じ形をしておるなら、きっとそうじゃろう」

 

「木を隠すなら森の中、っつーことか」

 

「えー……それは……」

 

 その推測を聞いて、森人探検家が難しい顔をしています。

 次々と集まってくる葡萄の中から、問題の【闇の葡萄】を見つけ出すのは至難でしょうし、それを期待して、白粉の闇人も、葡萄を寄進するという流れを作り上げたのでしょう。

 そもそも【闇の葡萄】の実物がどんなものか、そして他の葡萄と見分けられるものかどうかも、半竜娘ちゃんたちは、今の時点では分からないのです。

 

「葡萄を寄進しようとしてる人たちが、今、どれだけ居ると思ってるのよ……」

 

「しかも相手は【闇の葡萄】をどのルートでもいいから紛れ込ませればいいんだろ? 商人たちも、用意した葡萄を盗まれたとかそういうことなら気づく奴もいるだろーけどよ……」

 

「もし例えば葡萄が1箱増えていても、それは気づきづらいと思います。気づいても、それを異常で悪いことだと思えるかどうか」

 

 儲けものと思うか、帳簿の間違いか何かと思うだけでしょう。

 多い分には、目くじらを立てるほどではないのです。

 

「商人からの寄進以外にも、寺院に直接忍び込んで倉庫に置いてくるってのも考えられるわ……」

 

「……いずれにせよ、寺院の酒造りの取り纏めの方にはお知らせした方が良いと思います」

 

 酒造りの取り纏めは、褐色肌人の血を引く葡萄尼僧です。

 懸念を伝えておくべきでしょう。

 

「確かにそうじゃの。注意してもらう必要があるしの」

 

「襲撃に備えて警備は強化してるだろうけど、逆に襲撃のどさくさで【闇の葡萄】を紛れ込ませられる危険もあるしね」

 

「いや待てよ? それ自体が襲撃防衛の人手を分散させようっていう計略じゃねーのか?」

 

「……あり得るわね、闇人の計略なら」

 

 まったくこれだから闇人ってやつは……! と一党全員が面倒くさそうに眉間に皺を作りました。

 

「なんか目印とかついてないの? その【闇の葡萄】には」 森人探検家の疑問ももっともです。

 

「……普通の葡萄と見分けられないもの、という注文で鉱人に作らせたと、記憶からは読み取れたのじゃ」

 

「うーん。とりあえず、怪しそうなところを全部ピックアップするしかないかしら」

 

「最悪の場合は、市中のワイン用の葡萄を全部買い占める必要があるかもしれんのう」

 

「あー、まあ、それもありかぁ……。投機で稼がせてもらった分を注ぎ込めば、なんとかなるかしら」

 

 半竜娘のゴリ押し(お大尽アタック)の提案に、森人探検家が肩を竦めました。

 もともと地母神寺院の悪評に乗っかったあぶく銭ですし、御神酒を守るために使うなら本望でしょう。

 

「それでも買取に応じなかったところが怪しいって炙り出せるし、そうやって数が絞れれば、最終的に【闇の葡萄】が辿り着く標的(ゴール)になってる地母神寺院の方を張ってればいいわけだもんな」

 

「知識神様の神託に頼る手もありますし」 文庫神官が聖印を掲げます。

 

「あとは下手人の闇人を捕捉できれば確実なのじゃが……」

 

「そっちもチャンスはあると思うぜ? この手の後がない陰謀家は、最終手段の成否を自分で確認しなくちゃ安心できねーだろうからな」

 

「じゃあだいたいやることは見えて来たわね。向こうさんも寺院襲撃や地脈汚染の儀式までには動くでしょうから、わたしたちもさっさと取り掛かりましょうか」

 

「応」「りょーかいだぜ」「はい!」

 

 半竜娘ちゃん一党が【闇の葡萄】をキーにした策謀を潰すために、動き始めました。

 

 

 というところで今回はここまで!

 ではまた次回!

 

*1
メチル御神酒の儀式上の扱い:

地母神様「うーん、ドワーフ向けのお酒だけど一生懸命作ってくれたものだし豊穣の加護は授けちゃいますね……。只人が吞むのはお勧めしませんが」

酒造神様「うちに丸ごと寄付してくれたら神官連中が呑むぞ! 酒ならドワーフ向けでもドンと来いだ! うちの神官でもない只人が呑むのはお勧めしないが」

*2
妖怪いちたりない:ちなみに森人探検家の達成値があと1大きければ、酒造神の神官から『次のこの辺境の街の収穫祭の御神酒は、どうやらガツンと目の奥に届くレアな酒になるらしいから是非飲むべきと託宣(ハンドアウト)が降りてきてね。買い付けの約束をしに来たんだよ』という話を聞くことができた。なお半竜娘ちゃんたちの手によりメチル化御神酒の陰謀が阻止された場合は、この酒造神官には酒造神様から『【闇の葡萄】をなんとか手に入れて持ち帰り、自家消費用のメチル葡萄酒を仕込め』という託宣が下る模様。




 
困ったときのダイス先生頼み。実際、展開が作りやすくなるから助かるんじゃ~。【加速】なしだと半竜娘ちゃんはともかく、他のメンバーはいい感じに苦戦しますね。
次回は闇人を捕捉して直接対決までいけるかな。
なお、もう一方の捕捉するべき【闇の葡萄】入りと思われる箱はダミー含めて市中に50箱ほど分散している模様。

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ご評価ご感想いつもありがとうございます! とても励みにしています、ひゃっほい!
 


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37/n 葡萄酒の中の真実(In vino veritas)-4/4(夕闇の捕縛戦)

 
宿題(比喩表現)に手間取ったので初投稿です。

===

●前話
【闇の葡萄】の影を捉えたぞ! うん? 候補が50箱くらいあるな……??
 


 

 はいどーも!

 えー、市街地で白粉エルフs(エルヴズ)と鬼ごっこする実況、はーじまーるよー。

 

 

 現在、時刻は夕刻。

 知識神殿が読み解いた、敵の地脈汚染儀式のために最適な星辰が揃う日付・時刻であります。

 つまりは襲撃の日であり、迎撃の日であり、逆撃の日です。

 

 

 地母神寺院は中堅冒険者の指揮のもとで、葡萄園の守りを固めています。

 葡萄園防衛の指揮を執るのは、TS圃人斥候が前に所属していた一党―― 半森人の妖術師・斧使い・僧侶―― です。順調に等級を上げています。

 あとは、かつて半竜娘ちゃんが山砦を粉砕炎上したときに同行していた貴族令嬢一党や、墳墓のトロルをやっつけたことで名を上げた新進気鋭の一党―― 鮫歯木剣の蜥蜴戦士・交易侍祭・戦女神の神官戦士・只人の軍師・闇人斥候―― もそちらに詰めています。

 

 成長した幼竜娘三姉妹(背丈は只人10歳程度)も地母神寺院の方に行っています。

 三人一組の連携を磨いていることと、スクロールやポーションを山ほど持ち込んでいるので、足手まといになることはないでしょう。

 そこらの白磁よりは役に立つはずです。

 

 また、半竜娘ちゃんの郎党に所属する新人たちや、同じく郎党に組み込まれているベテラン低級冒険者(下位等級で燻っていた冒険者)たちも、地母神寺院の防衛に回っています。

 組織的に動く訓練をしているので、こちらもきっと足手まといになることはないでしょう。

 ここで実績と自信をつけて躍進してもらいたいですね。

 

 

 邪教の本拠地への逆襲撃には、辺境最高の(重戦士さん率いる)一党、辺境最強(槍使い兄貴・魔女さん)のペアらが投入されます。

 高位魔神の出現が予想されるため、それに加えて、王都からは遥々(はるばる)魔神殺し(デーモンスレイヤー)と名高い一党も来てくれています。*1

 

 ……おや……恐るべき竜に騎乗した半竜娘ちゃんの姿もあります。森人探検家ら一党の他の仲間の姿は見えませんね。騎乗姿がサマになっているので【騎乗】技能を習熟段階まで伸ばしたみたいですね。*2

 んー、乗騎になってる恐竜の方は、おそらく高位祖竜術【竜装(チェンジドラゴン)】で怪物Lv7の『小竜(ディロフォ)』に変身した闇竜娘(ダークドラコ)ちゃんでしょう。*3

 それに騎乗してる半竜娘ちゃんも、たぶん真言呪文【分身(アザーセルフ)】で作り出された影の方ですかね。本体は一党の仲間と一緒に【闇の葡萄】を追っているはずですし。

 おそらくは闇竜娘ちゃんに喰わせるデーモンのキルスコア稼ぎに来てるんでしょう。闇竜娘ちゃんはうまく同族(デーモン)の魂喰いができれば、今回の戦いでレベルアップできるかもしれませんね。

 

 

 んで、敵の本命と目される地脈汚染の儀式場―― ゴブスレさんがゴブリンゾンビや下級魔神(レッドアリーマー)を倒してギルドに異変を報告した塚山―― の方には我らが超勇者ちゃん一党が既に向かっているそうです。

 人族領域の最前線で地脈汚染(枯葉剤やダーティボム的な感じ)は洒落にならんですからね。せっかく秩序の勢力で掌握している地域を守るために、全力ですよ、王国も。

 

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 

 一方そのころ。

 我らが半竜娘ちゃん一党の姿はどこにあるかというと、その姿は夕暮れの市街地にありました。

 

「待てィッ!!」

「…………!!」

「逃げんなー!」

 

 はい。

 追いかけっこですねー。

 

 今も夕日が差す中、民家の屋根の上を逃げる背負子に箱を背負った白粉の森人を、TS圃人斥候がニンジャめいた動きで追っています。マンチ師匠の雪山での薫陶の賜物です。

 追っている相手は白粉を厚く塗っているのでわかりませんが、ひょっとしたら森人じゃなくて闇人かもしれません。

 

 この推定:白粉の闇人が背負っているのは、ある商家の倉庫にいつの間にか置かれていた焼き印のない箱です。

 由来不明の怪しい木箱があるという情報を聞きつけたTS圃人斥候が、市中から奉納用の葡萄を買い上げる途中でそちらに寄り道し、どうにか引き取れないかと交渉していたところ、物陰から窺っていた白粉の闇人が横取りして逃走―― という具合です。

 当然、怪しいので追いますよね~。

 

「…………ッ!」

「おいこらー! 待てー!!」

「……ッ!!」

「何とか言いやがれッ、このっ!」

 

 無言で走る白粉の闇人に、TS圃人斥候は走りながら、屋根の瓦を裸足の爪先で器用にピックして浮かび上がらせ、空中でキャッチして、前へと投げました。

 投矢(ダート)を投げるのももったいないので瓦で代用です。

 その瓦は逃げる白粉の闇人の足元へと飛んでいき、その走りを乱れさせました。

 

「……ッ!?」

「よっしゃ命中! 武技【軽功】発動ッ! 神妙にお縄につけやオラァッ!」

「ッッッ!!?」

 

 その隙をついて武技を使って加速したTS圃人斥候が、逃げる闇人の背中にドロップキック!

 民家の屋根の上に倒れる白粉の闇人。

 蹴りの勢いを受けて吹っ飛んで倒れる闇人。背負子の箱にも潰されて息を詰まらせたその次の瞬間。

 

「よーし、捕まえたぜェ」

「……!!」

 

 ドロップキックから身をひるがえして華麗に屋根に着地したTS圃人斥候が、うつ伏せに倒れた闇人に軽やかに近づき、その腰を圃人自慢の裸足で踏んで縫い止め、動きを止めさせました。熟練の捕縛術です。

 

「へっ、あっけなく踏まれて(つか)まえられて、どんな気分だ?」

「ハァハァ……」

「??」

「……も、もっと踏んでください……」

「!!??」

 

 そして妙なことを口走った白粉の闇人にギョッとすると、腰・背負子の箱・頭と順にタタタッと踏んで渡って、白粉の闇人の真正面にひょいと回ります。

 そのたびに推定:闇人の口から恍惚とした声が漏れるのに辟易としながら。

 

「……おいツラ見せろ。てめ、まさか……」

「へ、へへ。()()ふんでもらっちゃった。うふふ。ちっちゃいあんよ……」

「―――― あっ、このネックレス、幻影の魔道具か!? ご丁寧にその下も付け長耳と白粉! 幻影と変装の二重仕立てか!」

 

 倒れる闇人の前に回ったTS圃人斥候が、髪を掴んで顔を上げさせると、違和感に気づきました。

 掴んだ感触と目に見える光景が一致しないのです。

 慌てて闇人―― の幻影を被せられた何者か―― の首元を見れば、【幻影】の効果を秘めていると思われる魔道具が掛かっていました。

 それを引きちぎるように取り上げると、幻影の下からは森人か闇人に見えるように付け耳をした、白粉まみれの只人の顔が現れるではないですか!

 

「しかもテメー! いつぞやの変態仕掛人(ランナー)じゃねーか!!」*4

「うひひえへへ……」

「ちくしょう、ダミー掴まされたッ!」

「あひん!? うわぁあああっ」

 

 TS圃人斥候が腹いせにゲシりと蹴っ飛ばすと、魔道具と念のための変装で化けていた変態仕掛人(ランナー)がゴロゴロと屋根から滑落。

 

 その拍子に焼き印のない木箱が壊れ、その中から葡萄が転がり出ました。

 ―― しかし、そこから広がったのは、芳醇な葡萄の香りではなく、()えた匂いでした。

 どうやらこちらはダミーの様子。目的のブツではなかったみたいですね。

 経費削減のためか廃棄品のカビたり腐ったりしたやつが詰め込まれてたようで、()えた匂いとともに傷んだ葡萄が転がり出ました。

 

「時間を無駄にした……! 葡萄を買い上げる予定の商家まで屋根の上を走って(ショートカットして)いくか? 方向は――」

 

 そんなダミーの荷物にも、ましてや変態の行く末にも興味ないとばかりに無視したTS圃人斥候ちゃん。

 寄り道せずに行けば予定では今ごろ葡萄を買い占めていたはずの別の商家の方を見れば……。

 

「―― げっ! なんかまた別の “白粉の森人” が今度は向こうから葡萄を運び出してやがる!!?」

 

 さっき蹴り転がした変態仕掛人(ランナー)がつけていた【幻影】の魔道具によるものと同じ“顔”をしたヤツらが、その商家から葡萄が入っていると思われる箱を積んだ荷車を曳いています。

 そしてそのあとを追いかける、見覚えのある若者たち―― 半竜娘ちゃんの郎党(クラン)所属の冒険者です。

 おそらく寺院の依頼を受けずに街中に残っていた郎党(クラン)の冒険者たちが、追跡に投入されたのでしょう。

 

「……うちの郎党(クラン)から依頼帰りの奴らを投入したのか。人海戦術には、こっちも人海戦術をぶつける―― 正しい。正しいが……あー! しっかし、どれが陽動で、どれが本命だコレ!?」

 

 変装か。【幻影】の魔道具か。

 本物か。偽物か。

 どれが虚で、どれが実か。

 

 仕掛人(ランナー)を動員したと思われる敵の闇人によって、どうにも翻弄されている感じがします。

 こちらも配下である郎党の冒険者を投入していますが、市街冒険(シティアド)初心者では、都市の影を走るもの(シャドウランナー)に対しては分が悪いでしょうし……。

 

 

 とりあえずこっちはこっちで追いかけるか、と駆けだそうとしたTS圃人斥候でしたが―― その頭上に真っ白いフクロウが音もたてずに空から降りてきました。

 

「見つけたのです!」

「あん? タンクんとこの使徒じゃねーか。なんか伝言か?」

「ですです、伝言なのです! 外に出たのは、あの半竜の頭目が何とかするのです! だから斥候は、建物の中に隠されてる【闇の葡萄】候補をどうにかするのです!」

「リーダーがどうにかって……」

 

 そうやって伝言を受ける途中。

 チラリと推定:白粉の闇人が曳く葡萄を積んだ荷車の方を見れば。

 

「ィィィィィイイイイヤアアアアアアア!!」

「うぎゃー!? 空から竜が!!?」 「撤収だ! 撤収しろ!」 

 

 空から猛禽が獲物を捕るように、両足を揃えて荷車の方へと急降下する半竜娘ちゃん(人面竜形態)の姿がありました。

 

 半竜娘の『そらをとぶ』!!

 

 半竜娘ちゃんは、荷車の木箱を蹴散らすと、地面を蹴って、翼になった腕をはばたかせて上昇。次の獲物を狙うようです。

 1サイクル30秒程度なので、空から見える範囲に運び屋がいれば、逃がす間もなくすぐに木箱を狙って破壊できるでしょう。勢子(せこ)として郎党(クラン)の冒険者たちも投入されてるようですし。

 落着地点の通りに出ていた屋台や床几(しょうぎ)がひっくり返って嵐の後みたいになってますが、まあ、コラテラルダメージというやつです。

 

「―― うん、屋台の補償とかはあとで考えよー。とにかく、外のは任せて大丈夫そうだな。で、オイラはどっちに?」

「目星をつけてた場所から運び出されて別の場所に移された葡萄の木箱が、既にあるのです。建物の中に入れられたので、頭目は手を出せないのです。そっちに案内するから着いてくるのです!」

「りょーかい。こっちは飛べねーんだから配慮頼むな?」

「ファイトなのです」

「おいィ?」

 

「こっちだってご主人に目を貸して空から戦域把握するお仕事があるのです! たぶん途中で森人の流し紐付きの鏑矢が誘導を代わってくれるはずなのです」

「エルフパイセンの? 分かった」

「流し紐の色は白。要確認対象は、鏑矢が突き立った倉庫の中なのですよ!」

「はいはい了解(りょーかい)!」

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 郎党(クラン)のために買収した酒場にて。

 文庫神官ちゃんは卓に広げた紙に書き込まれた精緻な地図に、いくつもピンを配置し駒を動かしています。 

 使徒である白梟と視界共有して、知識神殿仕込みの製図術で作り上げた航空地図です。

 

「これがここで、あっちのあれはこれで……。あ、鏑矢はこっちにお願いします」

「はいはーい、わかったわ」

「お願いします」

 

 文庫神官ちゃんは大弓に弦を張り直した森人探検家ちゃんに声をかけると、地図上でニンジャっぽい駒―― おそらく卓上演習用のものの流用―― の行く先のピンの場所を指さします。

 それを確認した森人探検家ちゃんが酒場の2階へ行って窓から屋根に上り、つがえた流し紐付き鏑矢を引き絞って放ちました。

 

「ん。よし」

 ピィッと甲高い音を響かせる鏑矢が夕暮れの空を切り裂き、正確に文庫神官ちゃんの地図が指示していた建物に突き立ちます。

 

 それを追って、街の建物の上を小柄な影―― TS圃人斥候―― が走り、鏑矢の突き立った建物へと突入していきます。

 

 

 

 その間にも文庫神官ちゃんは、白梟使徒の視界を借りて【闇の葡萄】と思しき数十の木箱の動きを監視し。

 半竜娘ちゃんや郎党(クラン)所属の冒険者たちに、白梟の口から急ぎの伝言を伝えさせ。

 また、緊急性が低い伝言は矢文用の書にしたためて、隣りに侍る酒場の従業員にそれを持たせて屋根上の森人探検家に渡して郎党(クラン)の冒険者まで撃たせて届かせ。

 獅子奮迅の働きを見せています。

 

「―― それにしてもやることが多すぎでは!?」

 【加速(ヘイスト)】の巻物(スクロール)による思考加速や、【真灯(ガイダンス)】の奇跡による先見を駆使して戦域把握と指揮命令をこなしていますが、文庫神官ちゃんの負担はかなりのものです。

 消耗をスタミナポーションで誤魔化し、隙を見て【賦活(バイタリティ)】の奇跡を自分に施してパフォーマンスを維持しているものの、限度というものがあります。

 敵の手駒も減らしているのでどんどんと楽になっていくはずですが、相手の手札の枚数の底はまだ見えず、積み重なる消耗と目減りするリソースに焦りが出てきます。

 

「そもそも本命の【闇の葡萄】は本当にこの中にあるのでしょうか……」

 買収に応じなかったり、あるいは不審な木箱が残置されているということで、事前の情報収集で目星をつけていたのが50か所。

 既にそのうちの半数近くは処理済みですが……。

 “果たして本当に本命がこの中に存在するのか”という疑問が――、自分たちは(白粉の闇人)に翻弄されているだけなのではないかという弱気な考えが、どうしても振り払えません。

 

「いえ。心配・懸念・弱気は、まずは見えている問題を片付けてからです」

 ぴしゃりと自分の頬を張り、酒場の従業員が作ってくれた蜂蜜(はちみつ)檸檬(レモン)水―― エルフの森からの蜂蜜を使った上品な味わい―― を飲んで落ち着くと、文庫神官ちゃんは再び卓上の地図を睨みます。

 

「おそらく【闇の葡萄】を運び込み、混入させるのは、地母神寺院の葡萄園への襲撃に合わせて行われるはずです。……それまでに怪しいところはできるだけ潰しておきませんと」

 文庫神官ちゃんは額の汗を拭うと、駒を動かし、処理済みのピンに印をつけ、雑念を振り払って指揮に専念します。

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 そして――。

 半竜娘ちゃん一党の奮戦の甲斐あって、葡萄園の襲撃が始まる夜半までには、50もあった【闇の葡萄】疑いの候補は全て処理されました。

 

 ただ……、そこまでやっても首謀者である白粉の闇人の身柄を押さえることだけは叶わなかったのが気がかりです。

 ……案外、葡萄園襲撃の乱戦の中に紛れ込んでコトを為そうとしていたところで、流れ弾にでも当たって果てちゃってるのかもしれませんが。

 

 

 

 

 そして首尾よく、葡萄園の防衛も、陽動の邪教本拠地襲撃も、塚山の地脈汚染儀式阻止も、冒険者たちの奮戦により、全ては秩序側の勝ちに収まりました。

 もちろん、水の街の酒商を襲った小鬼禍も、ゴブリンスレイヤーの手によって致命的な被害を出さずに終わりました。

 

 

 やがて“酒の日”―― 乙女たちが葡萄を踏んで地母神に捧げる豊穣の御神酒を仕込む神聖な儀式の日でもあり、酒を呑んで陽気に騒ぐ祭りの日でもあります―― がやってきて、地母神寺院ではお祭りです。

 

 ワイン色の装束に身を包んだ若い神官の娘たちに混ざって、今回の防衛依頼の縁で招かれた冒険者の少女たち―― 2000歳でも少女です―― も同じワイン色の衣装できゃらきゃらと笑いながら、大きな桶に入った葡萄を踏んで潰しています。

 

 半竜娘ちゃん? 桶が壊れるからちょっと……。そもそも着れるサイズの装束もないですし。

 一党の他の面々は参加してますけどね。

 

「それで、どうじゃった? 妙な葡萄は紛れ込んでなかったかや?」

 日向で陽気に当たっていた半竜娘ちゃんが、傍らに気配が立ったのを察して話しかけました。

 隣にやってきたのは、葡萄の香りのする乙女の気配です。

 

「そっちの言った通り、嫌な感じのする葡萄が混ざってたよ」

 隣にやってきたのは、地母神寺院の酒仕込みの責任者である褐色肌人の女―― 葡萄尼僧でした。

 彼女が抱えてきたのは、他のものと混ざったりしないように厳重に封がなされた木箱でした。

 

 それこそが半竜娘ちゃんたちが探し求めていた【闇の葡萄】でした。

 

「……やはり、か。これでも打てる手は全部打ったんじゃがのう」

 【闇の葡萄】は半竜娘ちゃんたちの大捕り物の間をすり抜けて、地母神寺院まで到達していたのです。

 こればかりは、半竜娘ちゃんたちが市街冒険(シティアド)が苦手とはいえ、相手の方が一枚上手だったと言わざるを得ません。

 

 しかし、半竜娘ちゃんは、それすら見越して根回しをしていました。

 

「まあこっちも言われなきゃ気づかなかったかも、だけどね」

「そういうこともなかろうさ。なんせお主は酒造りの専門家じゃもの。きっと気づいておったじゃろうよ」

「だといいけど」

 

 根回し―― つまりは、地母神寺院に【闇の葡萄】とかいう妙な葡萄が混ざり込む可能性について知らせておいたのです。

 【闇の葡萄】それ自体は、半竜娘ちゃんたちには、普通の葡萄と見分けがつきません。

 

 しかし、葡萄作りと酒造りの専門家である葡萄尼僧にとっては、どうでしょうか。

 素人には分からなくても、専門家である彼女であれば、見分けられるのではないか―― そう考えた半竜娘ちゃんの目論見は当たりました。

 

 情報を得た葡萄尼僧は、見事に【闇の葡萄】を見分け、酒造りの原料からそれを選り分けて隔離することに成功したのです。

 

「ようやってくれたのじゃ。これで今年の御神酒(おみき)造りも安泰じゃろう」

「こっちはこっちの仕事をしただけよ」

「それがまさしく尊いことなのじゃて」

 

 日常は尊いもので、それを守り営む普通の人々もまた、尊いものなのです。

 

 そして葡萄尼僧はしばらく歓談し、地母神寺院を貶める噂を打ち消したりといった半竜娘ちゃんたちの働きに礼を言うと、離れていきました。

 

 半竜娘ちゃんは、初夏の陽気と、祭りの喧騒、娘たちの葡萄踏みの歌声に包まれる中、葡萄尼僧が置いて行ってくれた葡萄酒の瓶を持ち上げました。

 その瓶の首を自慢の爪で切り落とすと、一気にがぶがぶと浴びるように呑み干していきます。

 

「うむ。これもまた甘露よな」

 

 冒険の報酬に一杯の酒。

 それでこそ冒険者というものでしょう。

 

 

 というところで今回はここまで!

 ではまた次回!

 

 

*1
魔神殺しの一党:「ぼくもゴブリンスレイヤーの二次創作がやりたいです>< !!!!!!!!!!」で、検索検索ゥ! この一党は特に街や村を滅ぼす病魔のデーモンを目の敵にしています。闇竜娘(ダークドラコ)ちゃんは合体吸収(デッビール!!)した素体が病魔のデーモンっぽいので、素性を看破されたら敵対不可避ゾ。

*2
半竜娘ちゃんの騎乗技能:初歩→習熟に伸ばした。騎乗中でも職業技能をLv6まで発揮できるようになる。成長点5点消費。残り現在成長点8点。祖竜術【閃技】により騎兵用の武技も習得可能なので、そこそこ騎兵としても働けるハズ。

*3
【竜装チェンジドラゴン】:自らの身を恐るべき竜そのものに変化させる高位祖竜術。変化先の祖竜についての怪物知識が必要。闇竜娘は、奇跡の島で多くの恐竜の再生体を見ているので、ほぼ全ての恐竜が変身先としてアンロックされている。めっちゃ支援効果を受けて頑張ればインドミナスやモケーレ・ムベンベにも変身できる。高らかに「チェィィンジ!!」と叫ぼう。詠唱文例は『螺旋の最果て、進化の窮極、虚無の彼方! 御照覧あれ! これなるは我が命の赤き火なり!

*4
変態仕掛人:オリキャラ。圃人・少女趣味でマゾヒズムを患ったダメ兄貴分と、それを支える苦労性の相棒である弟分のバディの、その兄貴分の方。過去話『24/n 裏』の「3.ちんまい用心棒」で登場し、過去話『25/n 収穫祭-1(with 森人探検家+TS圃人斥候)』の前書きの補足や、過去話『28/n 裏(歓楽街での後始末。そして春に向けて)』で、ロマの侯爵を逃がす仕掛(ラン)を請け負っていたり、過去話『30/n 裏(たまご騒動・後始末。夏、エルフの森へ)』の「1.影を走っていた人たち」にも登場。辺境の街を根城にする仕掛人の一人。




 
なお【闇の葡萄】は酒造神の神官さんがすかさず引き取りに来たみたいですよ。

酒造神官「お嬢さん! その葡萄、分けちゃもらえませんかね!? このとおり!」
葡萄尼僧「え、いやこれはあまり良くないもので……」
酒造神官「いやいや、それはそれで貴重なもの! 扱いは間違えませんとも、この双つの杯の聖印にかけて!」
葡萄尼僧「まあそこまで言うなら」
酒造神官「おお! これはありがたい! では早速、誓約の一献を交わしましょうぞ!」

===

ヒロインズ+葡萄尼僧さんの葡萄踏みの様子は原作小説10巻の試し読みの口絵でご覧になれますので是非是非。
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あと9/14発売の原作小説15巻の試読も出来ますよ!
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===

ご評価ご感想いつもありがとうございます!
次回は本編裏ということで、地母神寺院防衛とか、邪教本拠地襲撃とかの、並行して進行していた作戦の様子についての予定です。次回もよろしくお願いします!
 


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37/n 裏2(寺院防衛&邪教強襲)

 
毎度みなさま閲覧、感想、誤字報告、お気に入り、しおり、ここ好きなどなど応援有り難う存じまする。

===

●前話
Q. クライマックスフェイズどこ行った?
A. せ、戦闘が必須とは限らないし(震え声)。

なお、多分盤外(セッション)はこんな感じ。

GM「(あかーん、PL側の出目が振るわなかったから敵を捕捉できなさそう)」
 「(加えてファンブル!? あらー)」
 「(って、黒幕側(こっち)はクリティカルしたっ)」(※ブラインド(衝立の向こう)で振ってもクリティカルとファンブルはそのまま適用するタイプのGM)
 「(しかも追いかけっこ段階で各キャラ消耗カウンターも呪文使用回数(リソース)も使ってるし)」
 「(それにもう、セッションの時間も押してる……。次いつ全員の予定合うか分からんし)」
 「(……ま、PLも割と満足そうだし、切り上げても良いか?)」
 「(うむ。出目は振るわなかったがロールプレイはきっちりやってくれたし、NPC(葡萄尼僧)さんに情報を繋げられてるし)」
 「(これは葡萄尼僧さん活躍ルートでフィニッシュやな!)」

葡萄尼僧さんを活躍させたいだけのシナリオになったが、まあ結果オーライ! ダイス運が悪いGMにはお助けNPCの備えは必須なんやよ……。
 


 

1.葡萄畑前の防衛戦

 

 

 夕闇の迫る地母神寺院の葡萄園にほど近い森の際にて。

 葡萄畑を荒らさんと森の奥から湧いて出る混沌の手勢を相手に、守りを固めた冒険者たちが戦っていた。

 

「葡萄園に入らせるな!!」

 根を踏み固められたら、葡萄は枯れかねない。

 何十もの混沌の軍勢が踏み入り、またそれに対抗するために鎧を着た冒険者が駆けまわるなど、農家的には悪夢である。

 その時は果樹は無事かもしれないが、根が踏み固められれば農地そのものへのダメージが大きすぎる。

 

 つまり、葡萄園に敵を侵入させた時点で失点だ。

 森と葡萄園の間で食い止めなくてはならない。

 

 敵の姿が見えた。

 

「マンティコア! それに瘴気吐きのキメラゾンビ(死体の集合体)! あとゴブリンと小悪魔(インプ)の群れ!」

 即座に敵の正体を看破した妖術師の女の鋭い声が闇を裂いて走った。

 【怪物知識】判定は呪文遣いの役目だ。

 ―― それにしたってマンティコアくらいは常識では? などと妖術師は思うのだが。

 

「げっ、あのゴブリン腐ってますよ!」

 そこへ新情報。

 そのやけに甲高い声の出どころは、と見れば、まだ幼い半蜥蜴人の幼女の姿がすぐそばにあった。

 ()()半竜の一党の頭目である【辺境最大】の三人娘の次女にあたるという―― 妖術師には長女や三女との見分けはつかないので自己申告を信じるしかないが―― 齢1歳ばかりの娘だ。

 こんな戦闘に突っ込ませて親は何しているのか、と思うが、まあ蜥蜴人ならこの程度普通なのかもしれない。蜥蜴人とは四方世界きっての蛮人であるのだから。

 その幼竜次女の背負い袋に満載された水薬(ポーション)巻物(スクロール)を見るに、そこらの新人よりは役に立つだろうと思われた。実際、既にこの幼子たちは、親である半竜娘の【竜血】を溶かしたポーションによって能力を増強しているのだ。闇を見通したのも、おそらくは【竜眼】のポーションの効果によるものと思われた。

 

「訂正! ゴブリンゾンビの群れ!」 妖術師が声を張り上げた。

 

「名前は良いが、それで何に注意したらいいんだよ!?」 妖術師の仲間である斧使いが新人たちを率いて前衛を構築する。だが悲しいかな、彼は【魔物知識】判定に失敗したようだ。

 

 ―― ああもう! そのくらい分からないのか!!

 という悪態が妖術師の口をつきそうになるが、その一瞬も惜しいと飲み込み、端的に指示を出す。

 前衛にそれ(知識系判定)を期待しても仕方ないのだ。そもそも互いに補うために一党を組むのだし。

 

「マンティコアは毒と呪文―― マジックアロー、稲妻、スパイダーウェブとかその辺! キメラゾンビは病気持ちで毒吐き、あと再生する! ゴブリンゾンビは雑魚だけど病気持ちで腐ってるから葡萄園に入れるな! 小悪魔(インプ)はフレイムアローの一発屋!!」

 

 妖術師がそう言うが早いか、森の中の小悪魔(インプ)の群れが【火矢】の呪文を唱えだした。

「「「「「 FFFIIIIIRRRRRREEE!!! 」」」」」

 【火矢】の呪文は射程が長いのだ! 森の中から十ほどの緋色の輝きが迫ってくる!

 

 うひゃあっ! と経験の浅い新人たちが浮足立つ。

 ―― 戦線崩壊しないだけでも儲けものか。舌打ちしたい気持ちを押さえ、妖術師は手元の呪文書を捲る。

 戦線が崩れていないのは、新人だてらに肝の据わった奴らが居るからだ。一瞬だけ見た限りだが、どうにも冒険者らしくない、まるで軍隊仕込みのような組織力を発揮している一角があり―― 妖術師は知らないことだが、彼らは半竜娘の郎党(クラン)で組織戦闘のイロハを仕込まれた者たちだった―― 故郷で軍属の術師をやっていた頃のことを彼女は少し思い出した。

 

「って、感傷に浸ってる場合じゃない!」

「大丈夫です、【火矢】はこちらで受け持ちます! どうか次の一手をお願いします!」

 そこを引き受けたのは、なんと幼竜次女であった。

 

 幼竜次女は背の袋から素早く巻物(スクロール)を取り出すと、それを広げて鍵言(キーワード)で呪文を解放する。

 

「【抗魔(カウンターマジック)】!」

 マグナ(魔術)レモラ(阻害)レスティンギトゥル(消失)の真言が込められた【抗魔】の巻物が光を放って周囲に、味方の呪文抵抗力を増す魔法の加護を降り注がせた。

 

 それに勇気づけられた戦士たちが前に出る。

 【抗魔】のマナでコーティングされた五体と武器・鎧は、たかが小悪魔(Lv1デーモン)の術など無効化するだろう。

 

「行きますわ!」

 女だけの一党の頭目である貴族令嬢が優美な盾捌きで【火矢】を弾き。

 

「雑魚がッ!」

 新進気鋭の一党の戦乙女の神官戦士が、大きな戦斧で【火矢】を掃い。

 

「こんなじゃ鱗の一枚も焼けねえぞ!」

 戦乙女の神官戦士と同じ一党の、鮫歯木剣の蜥蜴戦士が森の木に爪をかけて空中に躍り出ると、そのまま空中で回転して竜巻のように尾で【火矢】を振り払った。

 

「焼けないぞー!!」

 幼竜長女も、【竜鱗】のポーションで強化し【竜命】のポーションで炎熱無効を得た五体を頼りに、一つ【火矢】を踏みつけては反動で別の【火矢】に体当たりし、曲芸のように連鎖的に敵の術を破裂霧散させていく。

 

「やるじゃないの、おチビちゃんたちも。それじゃあお次は私の仕事ね――」

 妖術師はニヤリとそれを見て嗤った。

 敵の雑魚どもは虎の子の【火矢】の術を防がれて自失している。チャンスだ。それに―― こちらには伏兵も居る。

 

「誘導はしておくぞ」 「お任せあれー」

 新進気鋭の一党の闇人斥候と、幼竜娘三姉妹のうちの三女―― 幼い蜥蜴人の鱗の模様は自然の迷彩だ―― が、ひょっこりと闇の中から現れ、敵の隊列の横っ腹に食いついた!

 

「「「「 GGGIIIIIPPPAA‼‼? 」」」」

「GGGROOOUUARRAA‼‼?」

 

 斥候の襲撃によるダメージは些少だが、急に現れた伏兵によって敵の隊列は崩れ、意図的に縦列になるように動かされた。

 だが混乱する敵は―― あるいは混乱する頭もないゴブリンゾンビは処理落ちして―― 一直線を作るように隊列を動かされた意図など掴めない。

 

 あるいは高い知能を持つマンティコアは、何らかの罠に嵌まりつつあることを看破したかもしれないが、そちらは既に、妖術師の一党の斧使いが新人たちを引き連れて斬りかかって釘づけにしていた。

「オラオラオラッ! サソリか獅子かヒトかはっきりせいやオラッ!」

「MMMAANNTTTIIICCC!!」

 

 その間にも、冒険者たちは戦場の掌握を進める。

 

「弓隊も撃てーー!」

「「 おーう! 」」

 貴族令嬢の一行の女圃人斥候が矢を放ち、新人たちの一部がスリングで石弾を投げ込む。

 それは敵の両翼に降り注ぎ―― 中央にはわざと降り注がせず―― さらに敵の隊列を偏らせる。

 

「――準備完了ね、≪トニトルス(雷電)≫……≪オリエンス(発生)≫……≪ヤクタ(投射)≫……!」

 妖術師は手元の呪文書から力を引き出し、≪真に力ある言葉(トゥルーワード)≫を唱えると、現実を改変した!

 ZAP音とともに、妖術師が奇妙に曲げて伸ばした指先から放たれた一条の稲妻は、縦列に誘導された敵の陣形を貫く!!

 

「「「「「 GGUUURUUGGGYYAAAAA!!!??? 」」」」」

 

 暗闇を奔った紫電が縦列に整えられた敵の群れを蹂躙する。

 ゴブリンゾンビの腐った脳髄と眼球が沸騰して弾け、魔法を使い果たした小悪魔(インプ)が黒焦げになって地に落ちる。

 一網打尽の優れた戦術だった。

 

「雑魚は殺したわ! あとはマンティコアとキメラゾンビよ!」

 

「しからばゾンビには神官の出番であるなあ」

 

 妖術師が、会心の連鎖撃破に昂揚する己を律しつつ、同じ一党の坊主に視線を飛ばす。

 神官の中年男は誤ることなく意図を汲んで、周りの駆け出し冒険者たちを率いて前に出る。

 

 向かう先は異形の死体の集合体であるキメラゾンビだ。

 

「ゾンビにはやはり聖水であろうよ。ほれ、お主らも武器にまぶしておけ」

 

 中年神官が聖水を配り、受け取った新人たちは自分の武器にそれを掛けていく。

 さらに防毒面を持たない者は、毒対策で聖水を浸した布を口に巻く。

 その中には棍棒剣士(元新米剣士)に守られた至高神の聖女(元見習い聖女)の姿もあった。

 

 至高神の聖女は天秤剣を掲げると、朗々と神へ奇跡を請う。

 

「≪裁きの(つかさ)、つるぎの君、天秤の者よ! 諸力を示し(さぶら)え!!≫」

 

 天秤剣から迸った【聖撃(ホーリースマイト)】の聖雷の一撃を皮切りに、聖水を塗った武器を手にした冒険者たちが死体の集合体(キメラゾンビ)へと殺到した!

 

 

<『1.マンティコア? やつは囲んで棒でボコって殺したよ? 数の暴力って素敵ね』 了>

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

2.邪教本拠地への強襲

 

 

 邪教の本拠地たる地下霊廟にて。

 辺境の街の下水道から繋がる遺構を進んだ先に、その邪教の本拠地はあった。

 

「ちっ、次から次に!」

「DEEEAAAMMMMMMOOOONNN!!」

 槍を構えた美丈夫(槍使い)が、魔神の一匹の腕を斬り飛ばし、連続突きで封殺する。

 

「≪ホラ()≫…≪セメル(一時)≫…≪シレント(停滞)≫――」

「「「 GGUUUU, IIU…IGIIYIGII…… 」」」

 押し寄せる魔神を、妖艶な魔法使い(魔女)の【停滞(スロウ)】の呪文が時ごと固める。

 

「イイイイィィィヤァァアアアアッ!!!」 『GGGGGUUURRRRUUUAAAAAOOOORRRRR!!!』

 そしてそこに、恐るべき竜に跨った半竜の巨女(おおおんな)が突撃して蹂躙した!

 どういう理屈か、突撃して魔神を吹き飛ばして踏み潰すたびに、竜騎の半竜娘は活力を増していく。

 流血を吸い上げる鮮血呪紋と、魔神の魂を喰らう同化吸収により、半竜娘とその乗騎は極まった継戦能力を発揮しているのだ。魔女が範囲攻撃を選ばずデバフを撒いたのは、このウィッチとしての後輩に、十分に贄を喰わせるために支援に回ったからだろう。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 しかし相手の魔神たちも雑魚ばかりではない。

 巨大蜘蛛に女の上半身を生やしたアラクネのような将級魔神(アークデーモン)を筆頭に、グレーターデーモンが次々と現れる。

 

 それを舌なめずりして迎えるのは、魔神の青い血に塗れた半竜娘だ。まあ、ここに居るのは魔神喰い放題を察して派遣された【分身(アザーセルフ)】であるが。

 そして乗騎の方の恐るべき竜は、彼女の使い魔である闇竜娘(ダークドラコ)の変化体。

 

 彼女らは竜血から精製された【閃技(サクセション)】のポーションにより、成龍(ジェンロン)小龍(シャオロン)のごとき閃きで武技を得て、いっぱしの騎竜騎士のように振舞っている。

 

「【人馬一体】となった乗騎に気功を流して武技【軽功】を発動させてからの―― 武技【馬上突撃】じゃ!!」*1

『GGGGRRUUUUOOOAAAA!!!』

 

 騎馬竜である巨大な(全長7mほどの)小竜(ディロフォ)が、その体重を感じさせない軽快さで、縦横無尽に地下霊廟の壁を走り、天井を踏み、十分な加速を得て悪魔に突っ込んだ!

 

「イイイィィヤァァアアアアッッ!!」

 いつの間にか【竜牙刀】の祖竜術で作り出していた骨のランスを構え、人竜一体となって打ち下ろすように突撃!

 大質量の突撃という威力を十分に発揮したその一撃は、相手取ったデーモンの肩を砕きながら貫通し、その場から引き剥がして押し流していく。

 

『DEEEEAAAAAMMMMMNNNN!!!???』

「そしてぇっ! 【竜顎(ドラゴンバイト)】じゃ! やれぃ!!」

『GGUUUUGYYYAAAAA!!!??』

 

 動きが封じられた魔神など、恐竜に変化した闇竜娘にはエサでしかない。

 半竜娘(分身)の命を受けた騎竜の闇竜娘は、恐竜変化した自らの大きな顎を開き、突撃の勢いも合わせて、魔神の肉を食いちぎった。

 

『GGGRUUOOWW‼‼ GGRRROOAAAOOWWW‼‼』

『DDDEEAAAAMMMMOOONNN!!!??』

 

 騎竜騎士は勢いを止めず、さらには人馬一体で祖竜術【突撃(チャージング)】すら発動し、邪教本拠地の戦場を縦横無尽に踏み荒らし、魔神の魂を屠っていく。

 千々(ちぢ)に乱された戦場で組織的な抵抗を封じられ、いつ横合いから彗星のように騎竜に襲われるか定かではない状態では、魔神らとて実力を発揮するのは困難だ。

 

「よーし、騎兵隊にだけ手柄を立てさせるんじゃねーぞ! 押し込めぇえええ!!」

 

 【辺境最高】の一党の頭目である重戦士が大剣を掲げて全体を鼓舞する。

 優勢ではあるが、≪宿命(フェイト)≫と≪偶然(チャンス)≫の賽の目はまだ定まっていない。

 油断は禁物だ。

 

 

<『2.半竜娘&闇竜娘の「とっしん」! 「ふみつけ」! 「かみくだく」! 「げきりん」!』 了>

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

3.邪悪感知(センスイービル)

 

 

 あらかた魔神どもを駆逐した、地下霊廟にて。

 

「Hmmmmmmm……」

 太陽神に仕える神官が、そのバケツをひっくり返したようなヘルムを傾げていた。

 彼は都の方でも名高い魔神殺し(デーモンスレイヤー)一党の聖騎士だ。

 

「なーに、どしたのー? 勝ったんだからいつもみたいに “太陽礼賛! 光あれ!” ってやればいいのに」

 猫のような印象の刺突剣(スティレット)二刀使いの女が、にやにやと茶化すように嗜虐的な笑みを浮かべた。

 “スッと行ってドスッ” とやる技量は高く、悪魔殺し一党の遊撃兼ダメージディーラーでもある。

 

「何か気がかりでも? 治療が必要ですか?」

 赤い軍服を着た衛生兵らしき女は、この一党の治療師だ。

 病魔のデーモンを目の敵にしていて、健康を害するものに容赦がない。それはまるで狂戦士(バーサーカー)のように。

 彼女の前に立ちはだかる(治療の邪魔をする)者は、彼女の短筒でズドンと撃ち抜かれることだろう。

 

「Hmmmmmmm……何故か、大物がまだ残っているような、そんな気配がするのだ」

 首をひねる太陽神の聖騎士が、太陽神の聖印を揺らして答える。

 

「……それは穏やかじゃないお。その聖印には【邪悪感知(センスイービル)】の加護が授けられていたはずだお?」

 こわごわと首をすくめたのは、小太りの術師だ。

 薬師の心得もあり、一党が使うポーションを自作して裏方を務める一方で、必中の【力矢(マジックアロー)】を使う一党の切り札でもある。

 

 かつていつぞやの冒険で手に入れた、着用者に【邪悪感知(初歩)】の技能を授ける太陽神の聖印。*2*3

 その聖印がもたらした霊感が、何か不浄の者がまだ残っていることを、かすかに知らせている……。

 

 

「Hmmmmmm……」

 

 

<『3.半竜娘(分身体)は【分身】を解除して消え、闇竜娘は【邪悪感知】されたことを察して「あっやべ」と高位真言呪文【跳躍(ジョウント)】で逃げた』 了>

 

 

「Hmmmmmm……ム、微かな違和感が消えた……」

「勘違いだったのかにゃー」

「万一の場合に備えて調査の必要があるのでは? それともその悪寒は何か病気かも知れませんし、診察しますか?」

「ちょちょちょ、確かこのあと別の依頼が入ってたはずだお! すぐ向かわないとマズいお?」

 

「……ふむ。貴公の言うとおりか。優先すべきは今、まさに害を振りまいている魔神の討滅こそであるからな。不確定の何者かを探す時間はない、か」

「そーそ。それに流石に人族領域最前線の冒険者だけあって、一緒に戦った槍使いや大剣使いも実力は確かっぽいし? あっちに任せていーんじゃないのー」

「ええ。もうここに要救助者は居ません。早く、早く、次の戦場へ向かいましょう」

「確か次は廃都の方だったお? 周りが強くて楽させてもらったから物資の消耗も許容範囲内だし、補給に時間はかからないお!」

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

4.リザルト

 

 

 

 半竜娘ら一党は、いち早く辺境の街に潜んでいた混沌の手勢を見つけ出して駆逐し、さらに【闇の葡萄】による御神酒の汚染を防いだ!

 経験点2500点獲得! 成長点5点獲得!

 

 

 闇竜娘は同族喰らいを繰り返したことにより位階上昇!

 各ステータスが成長し、真言呪文【石化(ペトリファクション)】、祖竜術【蹂躙(トランプル)】、精霊術【鎌鼬(ウィンドカッター)】、死霊術【操疫(エピデミオロジー)】を習得! 呪文使用回数が4→5回になった。*4

 

 

<『4.砂漠(ゲヘナ)の商人の遣いだという(サイ)人が、依頼したさそうにこちらを見ている! どうやら商品を盗んで逃げた鳥人の男を追うのに足の速い護衛を求めているようだ……』 了>*5

 

*1
武技【馬上突撃】:騎乗した状態で、移動後に攻撃することで、最大で、騎乗用動物の移動力×2の1/10までの威力を攻撃に乗せられる。

*2
邪悪感知:サプリの吸血鬼系の技能。アンデッドやデーモンを感知できる。受動側は呪文抵抗値で抵抗。太陽神の聖騎士は吸血鬼系ではないが、そういう加護のあるアイテムを持っているとした。原作では特に触れられていないが、彼らならいかにも持っていそうなので持たせてみた。

*3
【竜装】中の種族:祖竜術【竜装】中は完全に祖竜になっているため、種族は【恐竜】になる。そのため魔神(闇竜娘)が恐竜に化けている間は基本的には邪悪感知の対象にならないはずだが……。

*4
【石化】・【蹂躙】・【鎌鼬】・【操疫】:石化ペトリファクション →石化させる範囲デバフ。半竜娘の【胃石】の術による同化吸収強化とのコンボにも期待して。

蹂躙トランプル →自分を中心に隕石の衝突による衝撃波を再現する範囲攻撃。

鎌鼬ウィンドカッター →つむじ風による切り裂き攻撃の範囲攻撃。痛打(斬)誘発。

操疫エピデミオロジー →広範囲での病毒に対する抵抗力/病原体の活性を操作。

*5
砂漠(ゲヘナ)の商人の遣いだという(サイ)人:ゲームマスタリーマガジンvol.11 098ページに掲載のゴブスレTRPGシナリオ『砂漠から来た男』の依頼人。そのシナリオでは、PCは盗まれた商品の一部が故買屋に流れたのを買い戻すことを依頼される。一方で犀人は盗人本体の方は自分たちでカタをつけると言って別行動をとる。




 
メインメンバーの成長はこれからキャラクターシートとルルブ&サプリ見ながら考えます。

===

あと9/14に発売された原作小説15巻の試読はこちら!
 →https://www.sbcr.jp/product/4815611521/
みんなも買おう!(ダイレクトマーケティング!)
(実はまだ届いてないから読めてないですが……)

===

そういえばハーメルンの「原作:ゴブリンスレイヤー」カテゴリーで、当SS が話数と総文字数ではトップになってますね(2021/09/15時点)。まあ、シリーズを分割なさってる作品もありますので実質的には一番ではないですが、なんであれ一番というのはいいものです。
ご評価ご感想も、いつもありがとうございます!
次回は原作小説11巻の砂漠編に、例の如く別ルートからエントリーします。
 


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フリープレイ そして彼女が竜になるまで ~煉獄砂漠(ゲヘナ)巡り編~
38/n 砂漠(ゲヘナ)行き特急航空便-1(依頼受諾)


 
閲覧、感想、お気に入り、誤字報告、ココ好きその他いろいろありがとうございます!

===

●前話
地母神寺院の葡萄園防衛
活躍した幼竜娘三姉妹「「「 無事に葡萄畑を守れました! 」」」
訓練された半竜娘郎党(クラン)の冒険者たち「「「 さすがの活躍でした、お嬢! 」」」(一糸乱れぬ敬礼)

妖術師(ノリが冒険者というより傭兵団かヤクザもんでは? 国許(くにもと)の戦場で見たことある光景(ヤツ)だわ……)

幼竜娘三姉妹「「「 がんばりました、えっへん! みんなもおつかれさま! 」」」
郎党の冒険者たち「うおおおお!」 「お嬢カワイイ!」 「カワイイヤッター!」 「お嬢たちだけが癒しだぜ……!」 「姐御たちはおっかないし……」 「ちっちゃ姐さん(TS圃人斥候)といっしょに4人で歌って踊ってほしい」 「不純だわ。密告し(チクッ)とくわね」 「ヤメロォ! “補習” 行きになるだルォォオオン!!??」

妖術師(……いや、違うか。違うわね。もっと別の何かだわー、コレ)


地下霊廟の邪教本拠地強襲
Q.闇竜娘(ダークドラコ)ちゃんが着々と同族(デーモン)喰いで力付けてるけど、手を付けられなくなる前にさっさと滅ぼすべきでは?(秩序(Law)並感)
A.半竜娘ちゃんや一党の仲間と(パス)結んでるうちは大丈夫さ!(ビーストバインド並感)


超勇者ちゃんたちは?
地脈の結節点である塚山(古墳)が聖杯の泥(Fateシリーズ)っぽい見た目のなんかよくないものに汚染されそうになってたところを、剣聖ちゃんが身体を張って時間稼ぎをし、賢者ちゃんが儀式のコアを見つけ、超勇者ちゃんがそのコアをズビズバーっと聖剣ビームで両断して解決したようです。
超勇者「勝利(ぶい)っ!」(o`・ω・o)v
なお山体を斬り飛ばされたため、塚山の標高が低くなったとか。
 


 

 はいどーも!

 困ってる依頼人を助けるのは冒険者の本懐な実況、はーじまーるよー。

 

 前回は葡萄尼僧さんのおかげもあり、コンタミが起こることなく、早摘みの葡萄から御神酒を仕込む神事が、無事に終わったところまでですね。

 

 ちなみに早摘みの葡萄だと色づく前の果実も多いので、白のスパークリングワインも結構仕込んだっぽいですね。

 もちろん神の血の色である赤のワインも仕込んであります。

 色づく時期は結局は葡萄の品種によるわけですし、地母神寺院では両方造るみたいですね。

 

 この御神酒の扱いが、きっと後世では『その年に仕込んだ葡萄から作られた新酒』のブランド化に繋がっていくのでしょう。ボジョレー・ヌーヴォーみたいな感じで。初物を食べると寿命が延びる、みたいな俗信と根っこは同じかもしれません(実際、樽の工作精度が悪かったり保存剤の研究が途上だったりすると、古い酒はすぐに酢酸発酵してお酢になったりするので、新酒の方が重宝されるとかなんとか)。

 

 さて、“酒の日” の神事が終われば、西方辺境に暑い夏の(さか)りがやってきます。

 

 んでまあ、寒い冬よりは夏の方が元気なのが蜥蜴人なわけで。

 

「というわけでじゃ。元気が有り余って仕方ないのじゃが、なんぞ良い依頼はないかの? それにたまにはギルドの仕事もせんとな」

「うーん、そうですねえ……」

 

 冒険者ギルドの喧騒の中、受付カウンター前にどっかりと座り込んで受付嬢に視線を合わせる、身の丈9尺半―― 今も成長を続けている―― の半蜥蜴人の巫女。

 つまりは半竜娘ちゃんです。

 

 少し遠くのテーブルでは、ゴブリンスレイヤー一党の妖精弓手が、「ゴブリン退治はもう飽きた!」とか(のたま)って女神官を困らせているのが聞こえてきます。でもまあ気持ちはわからなくはないですね……。

 

 それはともかく、いい依頼がないか相談を受ける受付嬢さんの手元には、依頼票の控えの束と、半竜娘ちゃんたち一党の冒険記録紙が。

 その半竜娘ちゃんたちの記録紙の直近の更新内容は、と確認してみると、だいたい次のようになっているようです。

 

(確か半竜の術師さんは、最近は武僧としての力量向上に努められていたとかで、奥義の遠当てができるようになったとか、竜としての爪の振るい方を体得したとかおっしゃっていたような……?)

 

 半竜娘は経験点を5000消費し、武道家Lv6→Lv7へ成長!(残り経験点6000→1000。成長点+10)

 

 戦士系職業レベルの上昇に伴い武技枠増加。武技【百歩神拳(奥義)】を習得!*1

 

 冒険者技能【鉄の拳】を習熟段階に伸ばした!(素手攻撃の威力に+1→2)(成長点10点消費)

 

 蜥蜴人の種族技能【竜の末裔】(達人段階)に成長点を捧げて、爪(素手攻撃)に『強打・斬(+1)』属性を付与!(成長点6点消費)*2

 

 冒険者技能【強打攻撃・斬】を初歩段階で習得!(成長点5点消費)*3

 

 

 半竜娘ちゃんの一党はわりと()()に報告してるので、ギルド側でも大まかな能力を把握しています。

 来た見た勝った、みたいな報告書を書いてるような一党は、いつまでも上にあがれないということでもありますが。

 

(あとは、森人の探検家(レンジャー)さんは、弓の訓練に打ち込んでいて、もう少しで殻が破れそうだとか。

 圃人の斥候さんは呪文を集中的に鍛えたとおっしゃってましたね……。

 そして知識神の聖騎士の彼女は、使徒(ファミリア)との意思疎通に重点を置いて、鍛錬はほどほどで現状維持、でしたか)

 受付嬢さんは冒険記録紙をめくりながら、半竜娘ちゃんたち一党の現状を思い出していきます。

 

 森人探検家は経験点・成長点を温存した。

 

 TS圃人斥候は、経験点を5000消費し、魔術師Lv6→Lv7へ成長!(残り経験点5750→750。成長点+10)

 真言呪文【通訳(インタープリター)】を習得!*4

 

 冒険者技能【魔法の才】を達人段階まで伸ばした!(成長点40点消費) 呪文使用回数の最大値が2→4になった!

 

 冒険者技能【追加呪文:真言呪文】を習熟段階まで伸ばした!(成長点10点消費) 真言呪文【察知(センスリスク)】を習得!*5

 

 文庫神官は経験点・成長点を温存した。

 

 

 受付嬢さんが、その半竜娘一党の冒険記録紙と、最近の依頼を見比べて悩みます。

 (おり)()しくちょうどよさそうな依頼が()けてしまったところだったようです。

 

(う~~ん……。怪物退治は、【辺境最強】のペアや、【辺境最高】の一党が受けてくれていますし、細々(こまごま)とした依頼も、新人さんたちの死傷率が下がったからか、例年に比べて回転がとっても速いですし……)

 流石の受付嬢さんでも全ての依頼を覚えてるわけではないです。

 パッとは思い当たらなくとも、他に適当な依頼が残っているかもしれません。

 もう少し調べてみる必要があるみたいです。

 

「少々お時間いただけますか? こちらも精査してまいりますので」

 

「うむ、よろしく頼むのじゃ」

 

 何かちょうどいい依頼があったでしょうか……と受付嬢は独楽鼠(コマネズミ)のようにパタパタと忙しなさげにバックヤードに引っ込んでいきました。

 受付に残ってるのは……あ、監督官さんですね。本読んでる場合じゃないですよ? いま、受付に残ってるのは監督官さん(あなた)一人だけですからきちんと仕事しませんと……。

 

 慌てて本を閉じる監督官さんを横目で見つつ、半竜娘ちゃんは一党の仲間が待っている卓に戻ります。

 

 

 

「リーダー、どうだったのかしら?」

(かんば)しくないのう」

 一党の金庫番でもある森人探検家の言葉に、半竜娘ちゃんは首を横に振ります。

 そのとき闇竜娘を封じた竜牙の封具も一緒に揺れました。

 

「別にオイラはもうしばらく自由行動でも()ーけどよー。それに下水道掃除だのなんだのは下っ端に任せるって決めたんだからさー、仕方ねえって」

 他の人より背が低くて地面に近いせいか夏は輻射熱でやられがちなTS圃人斥候が、ぐでっとして言います。

 

郎党(クラン)のみんな優秀なおかげか、私たちまで依頼が回ってきませんねえ。まあそれはそれで良いことですが」

 そろそろ実戦で勘を取り戻したいのですけどね、と言って盾を磨くのは文庫神官ちゃんです。

 その横では白梟使徒(梟形態)が丹念に塩抜きした干し肉を(ついば)んでいます。

 

 さて、半竜娘ちゃんたちの郎党(クラン)は、新人たちの育成に力を入れて(投資して)います。

 そのため、クランに属する下位の冒険者の実績作りにと、難易度の割りにギルドへの貢献となるような依頼を優先して処理させているのです。

 それは例えば慈善事業的なノリでこれまで半竜娘ちゃんたちがやっていた、下水道の地図作成や浄化清掃、行方不明者の遺体の弔いなどの依頼群ですね。

 

 下位等級の冒険者はまずは等級を上げないと食っていけないので、半竜娘ちゃんのクランではこういうやり方をさせています。

 促成栽培ではランク相応の実力が付くか懸念もありますが、そこは実戦より厳しいと()()()の、郎党(クラン)が実施する訓練で補えば良いのですし。

 

「御神酒の時の残党の駆除も、まあ大体終わったものねえ」

 森人探検家ちゃんが言う通り、取り逃がした魔神やアンデッドについても、辺境の冒険者たちが総出で追跡し、既に片付けられています。

 この追撃や地母神寺院防衛などは水の街の “法の神殿” からの依頼でしたから、貢献度(名誉点)的にも上々でした。

 

「エルフパイセンの宝の地図は、まだ確証持てるレベルのは無いんだっけー?」

 以前に半竜娘ちゃんが【動力炉心(パワーコア)】を手に入れることになった深海冒険のきっかけは、森人探検家ちゃんが1年目の収穫祭のガラクタ市で手に入れた宝の地図セットでした。

 それらの地図が指し示す “当たり” の中にいい感じのものがあるなら、依頼を受けずに探検にでも出てもいいのですが……。

 

「解読できたのもあるのよ? ちょっと遠かったり、城塞竜(キャッスルドラゴン)が陣取ってたりするだけで……」

 森人探検家ちゃんも引き続き解読を続行しているのですが、なかなか都合のいいものは見つからないようですね。

 

「場所が割れたから喜び勇んで情報収集したら、勇者さまが説得して正気に戻した城塞の精霊と一緒に逃げた城塞竜が降着してるっぽいのよねえ」

 森人探検家が残念そうに溜息をつきます。

 隣国に遠征に行く程度はヨシとしても、生きた城そのものである城塞竜(キャッスルドラゴン)を相手にするのは割に合わないと判断した経緯があります。

 

「東の隣国で城塞竜(キャッスルドラゴン)が居座ってるってなると、お宝があっても手が出せませんよねえ。しかもその御母堂である城塞の精霊も、今は城塞竜を依り代にしてるんですよね?」

 竜の財宝を狙うのは冒険者の醍醐味ですが、さすがに精霊も居るとなると二の足を踏んでしまいます。

「……その精霊様や城塞竜から、誕生秘話とか好物とか色々とお話を聞いてみたいと思うんですけれど……。どうにか穏便に接触できないでしょうか」

 知識神の神官でもあり好奇心旺盛な文庫神官ちゃんは、持ち前の好奇心から伝説の存在である城塞竜について取材したいみたいですね。命知らずというかなんというか……。

 

「まあねえ。緑衣の勇者の伝説にも、城塞のように巨大な神獣を攻略した話とかあるから、興味はあるのだけど……」

 そこに一部同意する “緑衣の勇者” フリークの森人探検家ちゃん。

「……うちのリーダーは “竜殺し” だし、ひょっとしていけるかしら……?」

 

「い や じゃ」

 それを無下に断る半竜娘ちゃん。

 言っちゃなんですが、意外ですね?

 

手前(てまえ)もよく知らなんだら同意したがのう、調べたら城塞竜(キャッスルドラゴン)は心の臓が無く、血も流れておらぬ、城塞そのものでもある超自然の竜だというではないか」

 あー、心臓喰って位階を高める足しにもならんから行かない、と。でも【胃石(ベゾアール)】の祖竜術の副作用で岩喰い出来るから、相手にコアとかあれば糧に出来る可能性もあるのではないでしょうか。

 

「だいたい荒れ狂っておるわけでも、向こうから襲ってきたのでもないなら、放っておけばいいのじゃ。混沌の勢力に(くみ)したわけでもなく、逆にかつて混沌勢力によって母たる精霊を狂わされておった被害者だというしのう」

 

 あ、そうでした。

 半竜娘ちゃんの戒律(アライメント)は “善”。

 戒律(アライメント)としては、混沌寄りの中立でもあるので、自らの目的に合致すれば、周囲の制止を振り切ってでもことを為す性質がありますが、基本的には善良です。

 

「じゃあやっぱりこの話はナシね」

 肩を落とす森人探検家ですが、どこか安堵もしています。

 財宝に期待しつつも、やはり竜に喧嘩を売りに行くのは恐ろしいことですからね。

 

「そんで話は振り出しに戻って、依頼をどうするかってことだよ。なーんもやることがないなら、オイラは適当に歓楽街で用心棒でもしとくけどよー」

 椅子に座って足をプラプラさせながら、どうでも良さそうに言うTS圃人斥候ちゃん。

 基本的に怠け者なんですよね。

「リーダーだってまた “火吹き山の闘技場” にでも行けばいいだろ? あそこなら対戦相手にも事欠かないだろうしよー」

 

「火吹き山の闘技場は、武者修行で行ったばかりじゃしなあ。おかげで気功を飛ばす奥義―― 百歩神拳もモノにできたのじゃ」

 おっと、既に闘技場で慣らしてきたあとだったようですね。

 

「……それにオーナーが所用で暫く空けるというでな、有力選手はこの機に闘技場を離れておるんじゃよなあ」

 歯ごたえのある相手が()らんし、シーズンオフみたいなもんじゃ。と贅沢な悩みを吐露する半竜娘ちゃん。

 火吹き山のオーナーである界渡り(プレインズウォーカー)の用事*6、というのも気になりますが、まあオーナー不在で有力選手も居ないというのであれば、優先度は落ちますかね。

 

「……どうしても依頼がなければ火吹き山の闘技場にでもまた行くかのう。……とはいえ、依頼がなければ、の話じゃが」

 何かに気づいた半竜娘ちゃんが振り返った先には、パタパタと独楽鼠のように小走りしてきた受付嬢さんが居ました。

 

「―― 依頼かの?」

「はい。急ぎの依頼です」

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 受付嬢さんに案内された先は、冒険者ギルド2階の応接室。

 3年前の黒龍襲撃の際の戦利品である竜の牙をはじめとして、これまでの冒険者たちの赫々(かっかく)たる戦果がこれでもかと誇示されています。

 依頼人に舐められないように “これを倒せる人材がギルドにはいるのだ” と示すためでもあるのでしょう。

 おそらく受付嬢さんとかは、これらの戦利品(トロフィー)の来歴もすべて把握していて、依頼人を待たせるあいだに話を繋いで盛り上げるためのきっかけに利用するとか、そういったことにも使っているはずです。

 

 その応接間に居たのは、砂と乳香と香辛料の匂いをかすかに漂わせる巨躯の獣人。

 ゆったりとした東方沙漠の意匠をした衣服の下から覗くのは、まるで鎧と見まごうばかりに硬化した皮膚。

 そして何より目立つのは、(いわお)のような獣相の長い頭の鼻先から生えた、太い角――!

 

(サイ)の相貌……火吹き山の外では初めて見たのう」

「ほう、同族をご存じか。蜥蜴人の冒険者殿」

 思わず半竜娘ちゃんがつぶやいた言葉を依頼人の犀獣人に拾われてしまいました。

 

「いかにも! 火吹き山では胸を借りさせてもらったものよ!」

 これまでに相対してきた犀の獣人たちの強靭さ、恐るべき突進と合わさった角による一撃の鋭さを、半竜娘ちゃんは挙げていきます。

 グッドコミュニケーション! 獣人相手に武威を褒めるのは鉄板ですね!

 

「なるほど。これは頼りになる冒険者のようだ」

 感触もグッド。

「だが、求めていたのは、俺を()()()東の故国まで連れていってくれる冒険者のはずだが? 彼女たちがそうだと?」

 ぎろりと受付嬢さんを睨むように見据える犀の獣人さん。

 まあ、実際この隆々たる犀の獣人さんが武力をもとめて冒険者ギルドの門を叩いたとは思えませんしね。

 

「ええ。もちろん」

 にこにことした営業用の笑みを崩さず、受付嬢さんが断言します。

「鳥より速く、とも言ったはずだが」 犀の獣人の低い声。

「その通りです。彼女とその一党は、冒険者ギルドとしてもおススメです」

 

 数瞬、空気が張り詰めます。

 

「……冒険者のことをよく知るプロが勧めるのだ。わかった、その識見を信用しよう。時間も惜しいしな」

 先に折れたのは犀の獣人でした。

 

「では詳しいお話は彼女と。……同席しましょうか?」

 内心安堵しつつ、それを表に出さないように受付嬢さんが告げます。

 

「あまり吹聴する話でもない。あとはこちらと彼女とで詰めよう」

「はい。では、ごゆるりと」

 

 礼儀正しく退室した受付嬢さんの足音が離れたのを確認すると、犀の獣人が半竜娘ちゃんに席を勧め……ようとして座れるサイズの調度がないことに気づきます。

 というか、文化圏的には犀の獣人さんも椅子に座るのは慣れないみたいですね。

 

「……よければ一緒に床に座ってもらっていいか?」

手前(てまえ)もそちらの方が助かるのう」

 

 2人して苦笑して、ソファを脇に退けます。

 

 そして向かい合って座ると、依頼の詳細について打ち合わせを始めます。

 どちらも地べたに座る文化圏なのでこちらの方が落ち着くようです。

 

「それで少し聞いておったが、お主を東に運べばよいのかの? 鳥よりも速く?」

「いかにも」

 と言っても、それだけだと “何処まで” とか“荷物も一緒になのか” とか“他の人員も居るのか” とか分からないことがいっぱいありますので、さらに詳しい事情を聞いていくことにします。

 

「俺の主人は東の砂漠(ゲヘナ)の都で店を構えているのだがな……」

 犀人の依頼人の話を聞くことしばし。

 

「なるほど。そちらの主人の店から商品やらなんやらを奪って逃げた賊の首魁である鳥人の男を追いたい、と」

「文字通り飛んで逃げているからな、ヤツは」 忌々し気に溜息をつく犀人。「賊の構成員は全員とっ捕まえて口を割らせたんだが、ヤツにだけは追い付けなかったのだ」

 

「荷を持って逃げておるのかの?」 顎を撫でながら疑問を呈する半竜娘ちゃん。

「ある程度の高価なものを選んで、だな。だが大半は既にこちらで幾つかの故買屋に売り払って資金にしたようだ。そちらは別口で買い戻しを依頼している、重要なものについてだけだが」

 魔法のランタンだとかそういう物品もあるようですね。*7

 聞けば犀人の主人は元は冒険者のようなもので、その時に手に入れた非売品のお宝も盗まれた物の中に混ざっているのだとか。

 

「なるほど……それはそれとして、下手人は捕まえてケジメをつけさせんといかんわけじゃな」

「ああ。ヤツが手放さなかった魔道具もある。これ以上散逸する前に早く追いつきたい」

 犀人は懐からターゲットの鳥人の人相書きと、盗まれたものの中で特に注意すべき魔道具の目録を取り出して見せてくれます。

 

「逃げた先は分かっておるのか?」 人相書きと盗まれた品の目録を見ながら半竜娘ちゃんが尋ねます。

「うちの踊り子の水晶占いで行先は割れている……これまでは追い付いてもすぐに逃げられてしまっていたが、それもそろそろ終わりにしたい―― そちらの力量に期待してもいいか?」

 

 もちろん答えは決まっています。

 

「任せておくのじゃ!」

 

 鳥より竜が速いに決まってるんだよなあ――!!

 

 というところで今回はここまで。

 ではまた次回。

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

1.すれちがい

 

 

 半竜娘一党が犀人の依頼を受けて準備のために慌ただしくギルドを後にして、しばらく経って。

 

「あら……既に別の依頼を、ですか」

「はい。まさに先ほど……」

 

 残念そうな声音で恐縮する受付嬢の前に立つのは、蜂蜜色の髪をした上品な装束の少女。

 彼女はかつては雪山で半竜娘やゴブリンスレイヤーとも一緒に冒険した令嬢剣士で。

 いまは半竜娘の出資を受けて軽銀を扱う商会の会頭でもある、女商人その人だ。

 

「パトロンに護衛をお願いできれば心強かったのですが、居ないなら仕方ありませんか」

 まあ今回は先ぶれを出したわけでもありませんし、と気を取り直す女商人。

 辺境の街は人族の最前線でもあって人材は豊富だ。

 信頼のおける知己も居ることだし、とギルドの中を見回せば――。

 

「居ましたわね」

 白い神官服。その下に見える鎖帷子。錫杖。長い金髪。

 王妹殿下に似た顔立ちの少女。

 

 地母神に仕える女神官だ。

 

 彼女が居るということは、当然――。

 

 リビングメイルのような鎧兜姿の戦士。

 いつ見ても美しく陽気な上の森人。

 酒を欠かさない術使いらしき鉱人。

 祖竜に仕える蜥蜴人の偉丈夫。

 

 多様な種族の銀等級が同じ卓に揃い踏みしていた。

 【辺境最優】の呼び声高いゴブリンスレイヤーを頭目とする一党である。

 

「良かった、皆さん揃っていらっしゃいますね」

 頬を緩めた女商人が、ゴブリンスレイヤーの一党がつく卓へと近づくと、女神官がすぐに気づいた。

 

「あっ! こちらにいらしてたんですか?」

 本当に彼女はよく気が付く。そう思いながら女商人は友人に笑みを浮かべた。

 

「お手紙でお知らせできれば良かったんですけどね」

 何しろ急ぎの用事だったから仕方がないのだ。

 

 

 “東の隣国に不穏あり”。

 

 

 東の国境を接する国のうちの一つの良からぬ動き。

 その兆しを掴んだ王国の命により、“軽銀製造に使う蛍石の大規模販路開拓” をカバーにして、急遽、女商人が東の隣国へと入って調査することになったのだ。

 

 女商人が経済や市場などの(おもて)から分かることを調べ、そうして女商人らがある意味で囮として目立っている間に、別口で裏から調べる手筈だという。

 裏の方は何ならこの機に、隣国の詳細な地図を作ることすらも視野に入っているとか。

 統制が緩んでいるならそこに付け込むのはこちらの王国としても当然ではあるが、なんとも容赦のないことだ。ちなみ3年前の魔神王復活騒動のときに砂漠の国側も義勇兵とか言う名目で人員を送り込んできたのでお互い様ではある。

 

 (おもて)で耳目を集める必要がある女商人は目立つために―― そして実際にこの機に商いをさらに大きくするために―― 大規模な隊商を組織しようとしていた。

 その規模に見合っただけの護衛を、特に、腕の立つ人員をさらに雇おうと、西の辺境まで足を伸ばしたのだ。

 だって費用の多くを王国が負担してくれるというのだ、思いっきりやらないと損だ。

 

 目当ての一つであった半竜娘一党は空振りしたが、小鬼殺しの一党を捕まえられたのは僥倖(ぎょうこう)だった。

 実際に、東の国境を越えて流入するゴブリンどもにも手を焼かされているのだから。

 

 それに今回は “忍びの者” の下で修業を積んだ若手も護衛の仲間に加えており―― なんと、彼ら彼女らは、女神官の同期と後輩なのだという!

 

「皆さんにご依頼がありまして―― 外つ国(とつくに)までの護衛を是非に、と」

 

 護衛同士で顔を合わせた時に、彼女たちは驚いてくれるだろうか?

 

 サプライズに思いを馳せつつ、女商人が小鬼殺し相手の交渉における必勝の言葉を舌に乗せる。

 

「これから向かう隣国、東の砂漠から、小鬼がやってくるようになったというのです――」

 

 

<『1.小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)「ゴブリンか」 妖精弓手「ゴブリン退治はもう飽きたっ!」 女商人「でも行く先が外国なら……いつもとは違うのではないですか?」』 了>

 

*1
武技【百歩神拳(奥義)】:気の塊を飛ばして遠隔攻撃を行う。射程100mの気による遠当て。魔法の武器による遠隔攻撃扱い。消耗+2。受動側は呪文抵抗判定。抵抗成功で無傷。通れば装甲値半減扱いでダメージ。射程100mは破格の性能だし、装甲をある程度抜けるのもありがたい。

*2
爪(素手攻撃)に『強打・斬(+1)』属性を付与:独自裁定。武器の『虎爪(バグナウ)』にもついてる属性だからあってもおかしくないはず。扱いとしては【竜の末裔】技能を育てたことによりアンロックされる上位技能的な扱い(吸血鬼系PCの上位技能の扱いを参考にした。解放(アンロック)条件には『【竜の末裔】技能が熟練段階以上』の他にも、『竜司祭Lvが一定以上』や『各技能に対応する祖竜術を覚えているか』なども含まれるかもしれない)。技能として習得させるなら種族特有の上位技能として【竜の爪】とでも題すべきだろうか。習得段階ごとの効果としては、初歩段階で爪に『強打・斬(+0)』付与、習熟段階で『強打・斬(+1)』付与、熟練段階で『強打・斬(+2)』&『斬落』付与、とかだろうか。多分他にも【竜の鱗】とか【竜の翼】とか【竜の巨躯】とかそういう技能が【竜の末裔】技能から派生し、蜥蜴人の肉体を徐々に竜へと変容させていくのではなかろうか。

*3
強打攻撃・斬:『強打・斬(+n)』属性を持つ武器の効果を発揮するために必要な技能。この技能がないと戦闘には反映できない。技能の習熟度が上がると命中後の効力値への補正が大きくなり、敵に与える威力が上がりやすくなる。森人探検家ちゃんの【刺突】技能と似たような挙動。

*4
通訳インタープリター:自分の知らない言語を聞き取り、話すことができるようになる。異言語の文字までは読めない。【幻影】との合わせ技で潜入工作に使える、かも。

*5
察知センスリスク:待ち伏せや罠などの危険が迫ったことを知らせる術。その危険の内容も分かる。

*6
火吹き山のオーナーの用事:『死』の神に仕える彼は、神の中でも一等に忙しい『生』と『死』の神が久々に行う大規模キャンペーンにサブマスとして駆り出されているらしい。 魔剣を伝承した家系の剣士が、情勢不穏な自国の囚われの姫を助けに、外に助けを求めたその姫の従者たちとともに世直ししながら砂漠を旅して元凶を討つ、という筋書きと思われる。 

*7
魔法のランタン:ゴブスレTRPGシナリオ「砂漠から来た男」(ゲームマスタリーマガジンvol.11 098ページに掲載)における買戻し依頼の対象のアレ。




 
キャラシの掲載は次の冒険で経験点清算したあとですかね……。それなら森人探検家ちゃんも文庫神官ちゃんも成長できるはずですので。

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◆ダイマ重点◆

9/14に発売された原作小説15巻の電子版の試読はこちら!
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砂漠の話である原作小説11巻の電子版の試読はこちら! カラー口絵は女神官ちゃんと女商人さんと妖精弓手さんの入浴シーンだ!(湯着でサウナ)
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あとサプリで追加された【獣憑き】の元ネタ(?)的なTRPG「ビーストバインド トリニティ」がBOOK☆WALKERで2021/09/30まで最大70%OFFセール中です。なんとルルブ一本の値段でサプリまで買えちゃう!(電子書籍化してくれてよかった~。その前は絶版の物理書籍しかなかったからルルブ高騰してたんですよねー)

◆ダイマ重点◆

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ご評価ご感想も、いつもありがとうございます! 次もご覧いただければ嬉しいです。
 


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38/n 砂漠(ゲヘナ)行き特急航空便-2(鳥人撃墜)

 
閲覧、感想、お気に入り、誤字報告、ココ好きその他いろいろありがとうございます!

===

●前話
・東の国境を越えた向こうに城塞竜(キャッスルドラゴン)が降着したとか。*1
・砂漠の犀人からの依頼:
 鳥人の盗人(ぬすっと)を追うこと。ちょっぱやで頼むで!(半竜娘一党が受諾)
・東の国境を接する国の一つである砂漠の国から、ゴブリンが次々とやって来るという。
・女商人からの依頼:
 蛍石の鉱脈探索・販路開拓を隠れ蓑(カバー)にして砂漠の国(ゲヘナ)を探ること。ついては陽動たる大商隊の護衛を。(小鬼殺し一党が受諾)
・同上、受諾済み―― 先任の一党:鉢巻きの青年剣士一党

女魔法使い「あら、久しぶり!」
女武道家「わぁ! 奇遇ね!」
女神官「先任の一党ってみなさんのことだったんですか!?」
 きゃあきゃあ言って再会を喜ぶ三人娘。

少年魔法使い(女魔法使いの弟)「いつかは竜退治、って言っても、まだまだ先は長いよなあ」
圃人の少女剣士「世界最強の剣士に―― って意味では外国に出るのは世界制覇の第一歩よね!」
 先の長さを嘆く赤毛眼鏡の弟君をバシーンと叩くのは、歩むだけ進んだ足元を確かめるポジティブさが売りのポニーテールに大剣の圃人の少女。
 


*1
城塞竜(キャッスルドラゴン)赤竜(レッドドラゴン)とは別口で生えてきたやつ。つまりゴブスレさん一党―― ひいては鉢巻きの青年剣士君たちの側に赤竜のフラグが丸々残っているわけで、きっと彼らにもドラゴンクエストに挑戦してもらうことになるわけでござるなあ。―― “はじめての冒険” で語らった夢を、いまここに。

 

 はいどーも!

 空()準竜(半竜娘ちゃん)の背からこんにちわ。空中追撃戦する実況、はじまるよっ!

 

 前回は砂漠から来た犀人―― 元冒険者的な主人に仕える使用人―― からの依頼を受けて、彼が追っている鳥人の盗賊の追撃のアシになる依頼を受けたところまででしたね。

 

 それで現在、半竜娘ちゃんたちは空の上です。

 

「おおおおおお! 素晴らしいなっ! これならきっと賊に追いつけるぞ!」

「そうであろう、そうであろう! 竜が鳥に追いつけない道理はないのじゃっ!」

 

 ふははははははーー!! と上機嫌に空を飛ぶのは、はい、皆さんご存じ10倍【巨大】化半竜娘ちゃんです。*1

 もろともに巨大化した竜牙のアクセサリ(闇竜娘の封具)が首元でご機嫌に揺れています。

 

 

 祖竜術【竜翼(ワイドウィング)】で飛行可能になり。

 真言呪文【巨大(ビッグ)】によって10倍巨大化。

 真言呪文【加速(ヘイスト)】による倍速化。

 さらに森人探検家による交易神の奇跡【旅人(トラベラー)】による道行きの祝福。

 精霊術【追風(テイルウィンド)】による空気抵抗の軽減と上空の寒風の制御。

 

 さらには必要経費ということで購入した2種類の巻物(スクロール)―― 奪掠(タスカリャ)神の奇跡【禹歩(シリーウォーク)】と正道(ルタ)神の奇跡【加速(ヘイスト)】―― による上乗せもして。*2*3

 

 さらにさらに、武技【軽功】と祖竜術【突撃(チャージング)】の併用により圧倒的な初速を得ています。

 

 えーと、【軽功】の効果で素の移動力の種族係数を上げて……装備している【ジェットブーツ】の効果で移動力が底上げされて……奇跡【禹歩(シリーウォーク)】の巻物でさらに+10……これで基準値は67。

 ここから倍率が、巨大化で「×10」、真言呪文の方の【加速】で「×2」、奇跡の方の【加速】で「×2」、奇跡【旅人】で「×1.5」、精霊術【追風】で「×1.5」、祖竜術【突撃】で「×3」で……。

 

 ふむ、なるほど。最初の移動は、1ラウンドで18,090m移動してますね。18キロメートル??

 1ラウンドが30秒なので、等加速度運動で加速していったとすれば、終端速度はだいたい―― 時速4342km!!

 マッハ換算だとマッハ約3.6!

 辺り一帯が衝撃波でえらいことになりますねえ、これは!

 

 ま、まあ多分一気に高空まで上昇してから水平飛行に入ったんでしょう。

 それか風の精霊がめっちゃ仕事してるかですね。

 

 あとは半竜娘ちゃんの背に乗っている本人たちは真言呪文【力場(フォースフィールド)】か何かで防殻(キャノピー)を形成してるんだと思います。

 流石に生身でしがみついてられないでしょ、これは……。

 

 まあ巡航状態に入っても(=武技【軽功】や祖竜術【突撃】の効果が切れても)亜音速くらいは維持して飛行し(とび)続けているはずです。

 ただ、【加速】の二重掛けで消耗スピードが半端ないことになるので、背に乗っている人員は祖竜術や奇跡の【賦活(バイタリティ)】の巻物(スクロール)で半竜娘ちゃんの消耗を常に回復させ続けています。自転車操業……。

 速さのために滅茶苦茶コストかけていますね、これは。

 いっそ転移の巻物を買った方が安かった可能性もあります。追撃戦なのでそれはできませんでしたが。

 

「……巻物(スクロール)の残りは?」

 蒼く燃え落ちる巻物を空に散らしながら森人探検家が尋ねます。

 

「残り6割くらいかねー」

 空間拡張鞄を見ながらそれに答えるTS圃人斥候。【賦活】のスクロールの残量がすなわち最速を保てるリミットに直結します。

 

「速度が速すぎて現在地を見失いそうです……!」

「こっちも目が回るのですよ……」

 必死に太陽や地平線に見える山の位置を元に航路の記録を取る文庫神官ちゃん。

 そしてその鎧の肩に捉まって、鳥類としての地磁気探知感覚を、主人たる文庫神官に同期させて測量に貢献する白梟使徒ちゃん。

 

「わー速い!」 「流石お母さま!」 「さすおか!」

 蜥蜴尻尾をピンと伸ばしてはしゃいでいるのは幼竜娘三姉妹。何事も経験ということで着いてきたのです。超音速飛行(しか)り、砂漠旅行(しか)り。

 

「針路は合っているか?」

 犀人が話しかける先には、砂漠風の外套に身を包んだ美女がいます。踊り子なのか、外套の下は薄着です。そしてその彼女の手には水晶玉が乗っています。

 

「はい、この調子ならあと四半刻であの盗人に追い付けるかと」*4

 犀人に答えた踊り子は自信満々です。

 占いの技を持つ彼女が持つ水晶玉には、敵の鳥人の居場所の方位が影として指し示されています。

 そしてその影は急速に大きくなっており、敵との距離が近づいていることを知らせています。

 

 ちなみに、依頼人側から付いてきたのは、犀人と踊り子の2名です。

 もともと本拠地の砂漠の国から遠く離れた王国西部辺境に派遣されていた人数が少なかったのと、散逸した盗品の買戻しを担当する人員を置いてきたためですね。

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 飛び続けることさらに四半刻。

 

「見つけました! アレです!!」

「おお! でかした!」

 

 踊り子の水晶に映る影が今までで一番濃く指し示した先。

 そこには、泡を喰って逃げ出す鳥人の姿がありました。

 砂漠の犀人は敵発見の知らせに快哉(かいさい)を上げました。

 

「……といっても俺には見えんな」

 

 巨大化して空を飛ぶ半竜娘ちゃんの背で立ち上がった犀人ですが、種族的な近視のためか遠くの鳥人が見えないようです。

 いままで賊頭鳥人を捕まえられなかったのは、近眼のせいで見失っていたとかいう事情もあるのかもしれませんね。

 

「よければこれを……」

 文庫神官ちゃんがポーション瓶を差し出します。

 

「これは?」

 それを受け取る犀人。

 

「【竜眼(ドラゴンアイ)】のポーションです。遠くも良く見えるようになります」

 文庫神官ちゃんが差し出したのは、半竜娘ちゃんの【竜血】を材料にした、【竜眼】が込められたポーションでした。

 これなら犀人の近眼も解決ですね!

 

「ふぅむ。正規品以外のポーションは普段は飲まないようにしているが……信用しよう」

 そう言って目を瞑って、グイっと一飲みする犀人の男。

 次の瞬間、カッと目を見開けば、既にその眼は竜のように縦に裂けた瞳孔に変化していました。

 

「いかがですか?」

「お、おぉぉぉおお! 見える! 見えるぞ! ハッキリと見える!」

 犀人は、初めて自分に合う眼鏡をかけた子供のようにはしゃぎ始めました。涙を流さんばかりに感動しているようです。

 眼鏡の有無は、QOL(クオリティオブライフ)に直結しますからねぇ……。

 

「それで追い付いたらどうすんじゃー!?」

 半竜娘ちゃんが風の音に負けないくらいの大声で叫びます。

 風の精霊の【追風】の加護で空気の乱れが少ないとはいえ、それでも周りの大気は轟々と渦巻いています。生身なので伝声管なんて中に通してはいませんし、伝えるためには大声を出さざるを得ません。

 

 その間にも、彼我の距離は徐々に詰まっていきます。

 いくら賊頭鳥人が逃げ上手とはいえ、贅沢な魔法の加護により速度で上回る半竜娘ちゃんを振り切れる道理はありません。

 

「貴公らの仕事に感謝を! ここからは俺たちの手で行うべきことだ!」

 犀人が大きな声で叫び返します。

「俺たちが、ケジメをつけさせる! 主人の物を盗んだ愚か者に、鉄槌を!!」

 

 犀人の言葉を受けて、踊り子も準備をはじめます。

 もう賊頭鳥人はすぐそこに見えています。

 その恐怖の表情もありありと分かるくらいの距離まで近づきました。

 

 踊り子の両の手はいつの間にか革と羅紗(ラシャ)で出来た手袋に覆われ、毒の滴る鏃がそれぞれ(つま)まれています。

 空戦では、追いつき、追い抜くまでは一瞬です。

 

「ギリギリまで寄せていただき感謝ですの! いきます、≪サジタ()ケルタ(必中)ラディウス(射出)≫!! 【力矢(マジックミサイル)】!!」

 

 踊り子が唱えた真言(トゥルーワード)が朗々と響くと、両の手に抓まれた鏃が必中の概念を与えられて、魔力によって飛翔します!

 それは狙い過たず、真言の示すとおりに効果を発揮しました。

 

「ち……くしょう、なんだソレ!? ドラゴンまで引っ張り出してくんのかよ!? ぐぁああああああああああああああ!!?

 空に広がる賊頭鳥人の叫び。

 

 【力矢】の射程60m……空戦においてはあまりに狭い有効範囲。

 しかし半竜娘ちゃんがその類稀(たぐいまれ)なる身体能力で超々近接した一瞬を逃さず、()()を放ったのです。

 

 そして放たれた矢は、半竜娘ちゃんと賊頭鳥人の相対速度を加算された状態で、賊頭鳥人の両翼に命中。

 ただでさえ脆いと言われる鳥人の肉体がそれに耐えられるわけもなく―― 賊頭鳥人の翼を文字通りに粉砕しました。

 鏃が命中した箇所は大穴が開き、着弾時の衝撃で翼は捻じれ折れ、中の骨は当然……粉々に。

 

「ありゃ。毒は要らなかったわねこれ……もったいなかったかしら」

 踊り子は制御を失い血と羽毛を撒き散らしながら墜落する賊頭鳥人の方を振り返り、その悲惨な最期をぞっとするくらい冷たい目で流し見ました。

 彼女の方があるいは、犀人よりもさらに盗人に対する怒りが深いのかもしれません。

 

 きりもみ状態で墜落する賊頭鳥人を通り越した半竜娘ちゃんは、相手を追うために首を上げて空中宙返りからの急降下へと移行します。

 ループを描いて上から、下へ。

 

 狙いを定め――

 

「我が奥義を受けるがよい……」

 

 半竜娘ちゃんの背に乗る犀人が、己の気を高め……自慢の一本角へと集中させます!

 ぐちゃぐちゃに回りながら墜落する賊頭鳥人の顔が、絶望に染まります。彼は、犀人の必殺の攻撃を知っているのです。

 

 狙いを定めた犀人が、急降下する竜翼巨大化半竜娘ちゃんの背から飛び出しました!

 犀人の角に螺旋に巻き付く金色の気の光が輝きを増します!

 

「犀人奥義―― 【追魂奪命剣(つのドリル)】――!!」*5

 

 急降下による落下速度、犀人の超級の重量、気を纏った自慢の角……!

 これを形容する言葉は、もはやこれしか考えられません!

 

 すなわち――

 

 い ち げ き ひっ さ つ !!!*6

 

 

「アバーーーーッ!!??」

 

 賊頭鳥人の断末魔が、血染めの羽毛とともに空に散ります。

 

 あとは空中に飛び出した犀人が地面に落ちる前に回収できれば依頼達成です!

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 何事もなく竜翼巨大化半竜娘ちゃんが犀人を回収し、近くの交易街(バザール)まで折角なのでとそのまま()を伸ばして着陸しました。

 

 密入国? はて、誰が取り締まるというんです?

 ともあれ、依頼達成です。

 

 

 半竜娘ら一党は、盗人の鳥人を砂漠まで追いかけて撃墜した!

 経験点1000点獲得! 成長点3点獲得!

 

 

 バザールの周囲には、砂船用の桟橋……と言えばいいのか、まあ砂海を行く船のための係留・荷揚げ荷降ろし用の設備がいくつも設けられています。

 砂海を行く砂船に乗るのは、蟲人などの乾燥に強い種族が多いみたいです。

 売り物なのか隊商の荷を引くためか、駱駝(ラクダ)驢馬(ロバ)などの家畜が放されている区画もありました。

 水を汲むためか、深井戸と思われる構造物もあちこちに見られますね。ここはオアシスでもあるようで、その水量は豊富そうです。

 

 犀人に言わせると、いつもより活気が少ないらしいですが。

 市場の商人の声を聴くと、空から城が降ってきたとか、城が竜になったとか、いやそれは蜃気楼だとか、そういう噂話を仕入れられました。

 どうやらその “城の竜” を恐れて、人が減っているようです。

 

 ……実際つい先ほど巨大な人面竜(半竜娘ちゃん)が着陸したのを見て噂が本当だと思った人たちも居るとか居ないとか……。

 

 

 さて、犀人と踊り子の主人である商人の商会の支店が、このバザールにもあるそうです。

 盗まれたという魔道具の目録(ラインナップ)から薄々感づいてましたが、どうやら彼らの主人はひとかどの商人のようですね。

 

 賊頭鳥人が身に着けていた盗品の空間拡張鞄は空中で回収することができています。

 【身代わりの銅貨の首飾り】などのダメージ軽減系の希少なアイテムが破損していましたが、仕方ないでしょう。おそらく保険にと賊頭鳥人が装備していたのでしょうし。

 しかしながら、尋常の攻撃ならば役に立っただろう身代わりのアイテムも、半竜娘ちゃんの速度が乗った踊り子と犀人の攻撃には焼け石に水だったようですね。

 

「ではみなさま、報酬は西の王国の冒険者ギルドとやらに預けていますが、歓待の一つもせずに帰すなど私どもの名折れです。どうぞおくつろぎになってくださいまし」

 

 踊り子に案内されたのは、支店の奥の応接間。日干し煉瓦でしっかり組まれた建物は、熱波を遮断し意外なほどひんやりとしています。“風の塔(バードギール)” と呼ばれる風取り用の塔から入った風が館全体に吹き抜けるようになっており、外に比べれば何倍も快適です。

 

 応接間には、この砂漠では貴重だと思われる瑞々しい果物を盛った籠が幾つも用意されており、本職である踊り子が、煌びやかな衣装に着替えてゆらゆらひらりと踊りを披露します。

 商会支店のお抱えの弦楽士の異国情緒あふれる音楽に合わせたそれは、半竜娘ちゃんたちの目を楽しませます。幼竜娘三姉妹も釣られて踊りだしました。

 

 

 

 

 一方そのころ、主人の荷を取り返した犀人はというと。

 踊り子が歓待してくれている間に、取り返した品の検分をしていました。

 その大きな手で器用に魔道具を取り出しては並べると、目録と突き合わせてチェックしていきます。

 

「これは……ああ、あったここの(ぎょう)のやつか」

 

 そうやって作業を進めることしばし、ついには空間拡張鞄の中の荷も尽きました。

 

「全て回収できるとは期待していなかったが、やはり装身具系や宝石は数が合わないな……。死体と一緒にバラバラに(はじ)け飛んだか、途中で売りさばいたか」

 

 犀人は溜息をつくと、遺失・損壊したと思われるものについて、その旨を目録に書き込んでいきます。

 手癖の悪い人間だと、損失を水増しして無事な魔道具をちょろまかしてしまうでしょうが、忠誠篤い犀人はそんなことはしません。

 主人たる商人に信頼されているからこその人選です。

 

「おい、誰ぞある」

 

 犀人は商会員を呼びつけると、目録の写しを取らせて砂漠の国の都に本店を構える主人の下へ送るように指示しました。

 

「……問題は、だ」

 

 腕を組む犀人の前にあるのは、いくつかの魔道具。

 特に、複数回使用により機能を失う使い切り型の魔道具たちです。

 残念ながら武の方に才能を振り切っている犀人では、これらの魔道具が盗まれたときから使用回数を減らしているのかどうかまでは分かりません。

 

「どれを何回使ったか、あるいは使ってないのか、俺じゃあ分からん。あいつ(踊り子)に任せるしかないか」

 

 魔術方面を押さえるのは踊り子の役目です。

 賊頭鳥人を追うときの占術や、魔法の矢の呪文による攻撃、冒険者たちの歓待と八面六臂の活躍ですが、あとひと働きしてもらう必要があるでしょう。

 

 

 

 ―――― 並べられた回数限定の使い捨て型魔道具のうちの一つに、【竜の呼び笛】という名の魔道具がありました。

 

 【竜の呼び笛】は、その名の通り、竜を呼ぶ魔道具です。

 効果は、最も近くにいる比較的友好的な竜種のモンスターを呼び寄せることだとか。

 実力のある冒険者が、騎獣としてワイバーンを得るときに使う、などと言います。

 

 まあもちろん、都合よくワイバーンが来てくれるとは限らないわけですが。

 運が悪ければもっと格上のドラゴンを呼び寄せてしまいますし、この笛の効果は呼ぶところまでなので、呼び寄せた竜が従うかどうかまでを保証しません。

 呼び寄せに応じる竜は、ある程度好意を抱いた状態でやってくるようではあるのですが。

 

 

 もしかしたら【竜の呼び笛】は、竜に対する()()()()()()でも出しているのかも知れませんね。

 

 

 この【竜の呼び笛】の使用回数が一つ減っていることが明らかになるのは、半竜娘ちゃんたちがこのバザールを離れた翌日のことになります。

 竜に乗って追ってくる犀人を撒くために、賊頭鳥人が【竜の呼び笛】を使っていたようなのです。呼び出した竜をぶつけるつもりだったようですね。

 賊頭鳥人は魔道具が不発したと思っていたようですが、本当に不発だったのでしょうか……? 少なくとも半竜娘ちゃんは対象にならなかったようですが。

 

 

 そして一夜明けてバザールを見て回り、観光がてら物資を補充して帰路に就く半竜娘ちゃんたち。

 

 果たして、半竜娘ちゃんたちは、無事に砂漠から西の王国に帰ることができるのか――――?

 

 

 というところで今回はここまで。

 ではまた次回!

 

*1
半竜娘ちゃんの身長:もとの身長(踵から頭頂部まで)が3m近い(前より伸びた)ので、10倍巨大化状態で空を飛ぶ姿は尻尾も含めると全長で40m近いです。B-29(爆撃機)が全長30mくらいなのでそれよりも大きいのですねえ。半竜娘ちゃんったら超空の要塞(スーパーフォートレス)

*2
奪掠(タスカリャ)神の奇跡【禹歩シリーウォーク】:超常的な移動能力を与える奇跡。移動力に+10。極めたらスィーと浮く。ドゥエ or ケツワープだろうか?

*3
正道(ルタ)神の奇跡【加速ヘイスト】:効果としては真言呪文の方と同じ。ただし、別系統の呪文なのでおそらく効果が重複させられるはず(通常は同じ呪文の重ね掛けは無効となり、達成値が大きい方の効果のみ残るが、これは別の呪文なので!)。つまり重ね掛けで移動力がさらに倍。代償として時間あたりの消耗も倍。過労死一直線。

*4
四半刻:30分。1刻(2時間)の1/4。

*5
武技(奥義)追魂奪命剣(ついこんだつめいけん):大跳躍して攻撃。飛び掛かった距離の分、相手の防御・回避にペナルティを与える(=命中しやすくなる)。さらにダメージ算出時に、装甲値を引いた後のダメージが倍になる。防御を許さず大ダメージを与える奥義だが、強力な分、消耗と反動ダメージが大きい。なお別に犀人限定というわけではない。奥義の適正武器は、剣または格闘武器。獣人の「角攻撃」は格闘武器として扱うため、この奥義を使用可能と判断。

*6
オーバーキルの弊害:即死なので今際(いまわ)(きわ)の伝言とかが聞けない。GM「(ここで敵から遺言的にクライマックスに繋がる情報を出そうとしてたんだけどな……)」




 
キャッスルドラゴンフラグ、オン。

(ゴブスレさんたち(女商人の隊商の護衛)は、たぶんまだ辺境の街から水の街へ行き、その水の街を出発したくらいだと思われます)

===

◆ダイマ重点◆

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◆ダイマ重点◆

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38/n 煉獄(ゲヘナ)行き特急航空便-3(城塞竜(キャッスルドラゴン)

 
感想たくさん嬉しいな♪ ご覧いただきありがとうございます!
地味に本章(38/n)のタイトルが前話から変化していますが、誤字ではありません。

===

●前話
・賊頭鳥人に追いつき、撃墜した! 依頼達成!
・バザールの支店で歓待。噂を聞くと、近くに城塞竜が降着しているらしい。
・周囲の好意的な竜を呼び寄せる魔道具「竜の呼び笛」は死んだ賊頭鳥人が使用済みだった……。不発したのか、あるいは……?
 


 

 はいどーも!

 前回は砂漠まで犀人の護衛と踊り子さんを乗せて賊頭鳥人を追いかけて撃墜したところまででしたね。

 

 そのまま最寄りのオアシスのバザールで歓迎され、一夜開けて帰路に着きました。

 この時期はちょうど砂海鷂魚(サンドマンタ)の繁殖期らしく、群れを為して飛ぶサンドマンタが見られるのだとか。その翼長は砂船よりも長いと言います。

 折角なので観光がてら、サンドマンタを狩るという砂船に乗せてもらい、王国方面に送ってもらいます。

 

 往路と同じ方法で飛べばあっという間ですが、あれは巻物なんかを大盤振る舞いできる費用度外視した依頼だったからなので、普段の移動で使うには贅沢すぎます。

 ただ精霊術【追風】や奇跡【旅人】は効果期間がまだ続いているので、半竜娘ちゃんたちが乗った船団は、精霊の加護と交易神の加護を受けてスイスイと砂海を滑っていきます。

 

 

「おお、風が気持ちいいのう!」

 

「砂の海だー」 「サンドマンタまだー?」 「ざっざざーん!」

 

 半竜娘ちゃんと幼竜娘三姉妹の親娘(おやこ)が、カラフルな日よけのショールを頭や肩に巻いて船べりから外を見ています。

 砂からの照り返しを防ぐためのヴェールも被って、“郷に入っては郷に従え” のスタイルです。

 風の精霊たちもヴェールやショールをはためかさせて、楽し気に幼竜娘ちゃんたちと戯れているようです。

 

 

「…………(死)」 「……あつーい」

 

 元気な半竜娘ちゃんたちとは対照的に、船室の日陰でじっと休んでいるのは、文庫神官ちゃんとTS圃人斥候です。

 まあ鎧を着こんでいるから仕方ありません。

 気休めにですが、【聖餐】のランチョンマットによって生み出された純水を触媒に召喚された蛟竜の水精霊が、無理しない程度に船室を冷やしています。

 これは船員にも好評です。

 

 

 そして森人探検家ちゃんは船の舳先(へさき)に立って、砂海を睨んでいます。

 

砂海鷂魚(サンドマンタ)……砂海鷂魚(サンドマンタ)……一攫千金……」

 

 その眼光は鋭く、真剣なものです。

 どうやら砂海鷂魚(サンドマンタ)を探しているようですね。

 一匹の鯨に七浦賑うとは言いますが、サンドマンタも同じくらい大きなサイズですし同様の経済効果があるのでしょう。

 

 

 なんとも平和な観光です。

 

 ――― 少なくともこの瞬間までは。

 

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 

「サンドマンタだーーー!!」

「えっほんと!!?」

 

 砂海を行く船団の後方で、船員の声が上がります。

 森人探検家が目を金貨にして振り向きます。

 

 すると確かに後方から、地響きを立ててサンドマンタの群れが飛び上がっていくのが見えました!

 

「おおおーー、これは壮観じゃのう!!」

 

「すごーい!」 「お肉沢山取れそう!」 「ねえお母さま! あれ乗ってみたい!」

 

 半竜娘ちゃんと幼竜娘三姉妹も大騒ぎです。

 黒衣の男(吸血鬼狩りのD)がサンドマンタの背を馬で渡った逸話を知っているのか、幼竜三女が伝説のサンドマンタ渡りを所望します。

 まあ、流石に難しいですがね。

 

 

 さあこれからサンドマンタ狩りか、と思って身構える半竜娘ちゃんたちでしたが、その予想に反して船団はサンドマンタの群れから離れていきます。

 

「ちょっと! どうして離れるの!? せっかくの獲物じゃないの!!」

 

 それに抗議するのは森人探検家ちゃんです。

 大儲けの機会をフイにされて承服しかねるといった表情です。

 

「お客人! 群れの様子がおかしい! あれは繁殖行動じゃない!」

 

 それに対して船員が必死の表情で叫び返します。

 

「あれは! 逃げてやがるんだ! 何かから!」

 

「何かって何なの!!」

 

「そりゃサンドマンタが逃げるんだ……! あれを喰うような――ッ!!?」

 

 そしてソレは現れました。

 

 

 急に陽が(かげ)って何事かと空を見上げると。

 

 そこにソレは居たのです。

 

 船団どころかサンドマンタの群れそれ自体をすっぽりと覆うような、巨大な影。

 あまりの大きな影だったので、まるで夜が来たか、嵐が来たかと錯覚するほどでした。

 

「な、なにが」

 

「やっこさん、おいでなすった……!」

 

「知ってるんですか!?」

 

 慄く森人探検家に代わって、好奇心に眼を爛々と輝かせた文庫神官が船室から出てきて、船員に尋ねます。

 船員は操船をしつつも、文庫神官の問いに答えます。

 

「お客人もバザールで噂を聞かなかったか?! 城の竜の噂を!」

 

「!! ではあれが―――」

 

「そうだよ、あれが―――」

 

 

 

  !!

 

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 サンドマンタが出来るだけ城塞竜から離れようと逃げていきます。

 しかし、城塞竜はサンドマンタのことなど眼中にないのか、砂船の船団を追ってきます。

 

 いえ、正確には、半竜娘ちゃんたちが乗る砂船を、です。

 

 

「なあ、お客人! なんか城塞竜に追われてる気がするんだが!!」

 

手前(てまえ)もそう思うのじゃ!!」

 

 半竜娘ちゃんは精霊術で風の精霊(シルフ)に請願しつつ、船員の尋ねに答えました。

 

 当然、心当たりはありません。

 

 

 ……まあ、賊頭鳥人を即死させてますからね。

 あいつからの情報を得られていないので気づけていないわけです。

 威力が強いのも善し悪しですね。

 

 もしあと1日長くバザールに滞在していたら、犀人と踊り子から「【竜の呼び笛】という魔道具が使用された形跡がある」ことを知れていたでしょうし。

 また、城塞竜を監視していた者たちから、「城塞竜が丸一日かけて変形して空に飛び立った!」という情報を聞くことができたでしょう。

 その代わり、バザールで逃げ惑う民衆を背後に防衛戦になっていたでしょうけれど……。

 

 まあこうやって砂海で追われるのと、バザールで襲われるのと、どっちがいいかは善し悪しでしょうね。

 

 

 とはいえ、そのあたりのことは半竜娘ちゃんたちは何も知らないので、本当になんで襲われてるかもわからないし、対策も全く不明な状態です。*1

 

「何処まで追ってくるのじゃ……! ミズチヒメ! 姿を隠させるのじゃ!」

 

KUUUOOOOORRRR(りょうかいよ、ごしゅじんさま)

 

 船室を冷やすために召喚していた蛟竜の水精霊に半竜娘ちゃんが命じて、【隠蔽(インビジブル)】の術を使わせます。

 蛟竜の水精霊の周囲から霧が出て周囲の光を歪ませると、半竜娘ちゃんたちが乗っている砂船を覆い隠しました。

 しかし―――

 

「くっ、砂漠じゃ効果が低い……!」

 

 森人探検家が唇を嚙むとおり、砂漠で水の術は効果が減衰します。

 

「だがヤツはこっちを見失ったみてーだ!」

 

 TS圃人斥候の言うとおり。

 術の効果は確かにありました。

 

「無理じゃ、持たん!! 逃げ切る前にミズチヒメが顕現できなくなる!」

 

 【隠蔽】の精霊術は一時的に効果は発揮しているようですが、城塞竜の察知圏内から離脱する前に、蛟竜の水精霊の召喚が解けてしまいそうです。

 

 

 

 

 そしてついに、召喚体の身を削ってまで【隠蔽】の術を維持していた蛟竜の水精霊ですが、その限界がやってきました。

 指先に乗るほどに小さくなった水精霊は、空気に溶けるように消えてしまいました。

 

『LLUUUUOOOONNN……』

 

「くっ、御苦労じゃった!! あとで上等な御神酒を供えてやるのじゃ!」

 

 消滅したわけではなく、精霊界に還っただけでしょうが、無理をさせてしまいました。

 蛟竜の水精霊を次に召喚できるのは、しばらく先になるでしょう。

 

 飛行形態の城塞竜を引き離していた砂船ですが、それでも城塞竜を振りきれてはいませんでした。

 再び感知圏内に現れた半竜娘ちゃんたちへと、空中で加速した城塞竜が迫ってきます!

 

「お、お客人!? やばいぜ!!」

 

「さっきからヤバいじゃろうが!?」

 

そっち(城塞竜のこと)じゃない! 前! 前ぇええーーー!!」

 

 あぁん? と後ろの城塞竜ばかりを見ていた一行が、船の行く先にと視線を戻すと……。

 

 

「な、なんじゃアレは!!? 赤い、壁……??!」

 

「聞いたことあるぜー、砂漠の死の風……!」

 

「シムーン!!」

 

 乾きと死をもたらす紅き砂の嵐。

 それが半竜娘ちゃんたちの行く手を遮っていたのです!

 

 

 前門の死の風! 後門の城塞竜!!

 

 両者ともにまさしく天災級の脅威!

 

 

「お、おかぁさーん!!」 「ひっぱられるー!!」 「と、ば、さ、れ、る~」

 

 戦慄する一行の耳朶を、幼竜娘三姉妹たちの悲鳴が打ちました。

 

 はっとして幼竜娘たちの方を見れば――

 

「「「 たすけてーー!! 」」」

 

 城塞竜の方から伸びたみょんみょん音がする奇妙な光線(トラクタービーム)に引っ張られて空中に浮くところでした。

 

 幼竜長女が船縁(ふなべり)に爪を突き立て、その尻尾に幼竜次女が捕まり、さらにその幼竜次女の尻尾に幼竜三女が捕まって、一直線に連なって、空へと引っ張られています。

 

「ぬぉおおお!!? いま助けるのじゃーー!!」

 

 半竜娘ちゃんが幼竜娘三姉妹の方へと手を伸ばしたそのとき。

 

 砂漠の風紋に乗り上げた砂船が、ガタンと揺れました。

 

「「「 あっ 」」」

 

「ああっ!!」

 

 その衝撃で幼竜長女の爪が外れ、三姉妹はトラクタービームに引かれて城塞竜の方へと飛んでいきます……!

 

「くっ、返せよー! 行け、スパイダーウェブ!」

 

 TS圃人斥候が【粘糸】の杖の魔道具を振りかざし、幼竜娘三姉妹の方へと蜘蛛糸を射出しますが、死の風(シムーン)の乾いた空気が射出された蜘蛛糸を瞬時に乾かして引きちぎってしまいます。

 

「ちくしょう!」

 

 そして船に残された半竜娘ちゃんたちも、死地にいることは変わりません。

 

 いよいよ次の瞬間、砂船を砂漠の紅き死の風(シムーン)が呑み込んでしまいました……!

 

 

 

 

 というところで今回はここまで。*2

 それではまた次回……!

 

 

*1
情報収集不足:TRPGで稀に良くある事態。情報収集がうまく行かないと、敵の弱点とかその辺が分からないままボス戦に突入することに……。

*2
絶体絶命:※分断の下りはPCが情報を拾えなかったためにGMの吟遊である。別名、ムービー処理。行動権渡すとシナリオに入る前に潰されるので、ちょっとピンチな状況に最初からセットすることにした模様。情報出そうとしても受け取ってくれねえんならこっちにも考えがあるぜ! 要は今回PLに渡されたシナリオハンドアウトが→『幼竜娘たちが城塞竜にさらわれた! 死の砂嵐から脱出して城塞竜が待つ煉獄の谷(ゲヘナ)まで辿り着け!!』になったということ。




 
◆城塞竜の年齢について
城塞竜は竜としてはほぼ生まれたてに等しいです。だいたい5歳児相当くらい?
なので『竜の呼び笛』の作用で彼が惹かれたのは、実際は、半竜娘ちゃんではなくて、幼竜娘三姉妹の方だったようです。年齢的には釣り合うのでペドではないです。
え、トラクタービームで連れてきたあと、どうやって遊ぶかって? (じぶん)の身体の中でアバター出して鬼ごっこしたりとか、チャンバラしたりとかですね。
なお、城塞竜の中には、超勇者ちゃんのおかげで正気に戻った【城塞の精霊(ははおや)】(家精霊(シルキー)の上位版)が住み着いてるから、囚われてる間もお世話は完璧だぞ!(なお、狂わされていた時に城塞竜を意のままにしてしまった反動で、現在放任主義に振れている模様)


城塞竜「あーそーぼー!! あ、砂嵐は危ないからこっちに引っ張るね!!」(好感度高:竜の呼び笛の作用)
幼竜娘三姉妹「「「 わぁ~~~……あれ、無事だ。って、ど、ドラゴンだぁ!! 」」」(歓喜:蜥蜴人の本能により即オチ)
城塞の精霊(ビッグシルキー)『あらあらまあまあ、三人も連れてくるなんてお世話のし甲斐があるわね~♪』(シルキーの本能)

半竜娘「(電波受信(ピキーン))ぬぅん、娘らと付き合いたいなら、手前を倒してからにしてもらうのじゃ!!」(砂嵐中)
森人探検家「んなこと言ってる場合じゃないでしょ!!」(砂嵐中)

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ご評価ご感想まことにありがとうございます!
別の二次創作の投稿も始めましたが、こっちも引き続き投稿しますのでよろしくお願いいたします~。
 


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38/n 煉獄(ゲヘナ)行き特急航空便-4(VS 赤死砂嵐(シムーン)悪鬼(デーウ)

 
ご覧いただきありがとうございます! 感想も誠にありがたく!

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●前話
・城塞竜の吸引光線(トラクタービーム)で幼竜娘たちが攫われた!
・取り残された半竜娘一行を襲う砂漠の赤き死の砂嵐(シムーン)
・シムーンから生き残り、幼竜娘三姉妹を奪還せよ!
 


 

 はいどーも! 絶死の状況からの実況、はじまるよ!

 

 前回は砂漠からの帰りに砂海鷂魚(サンドマンタ)漁の船団に乗せてもらっていたら、城塞竜(キャッスルドラゴン)に襲われて幼竜娘三姉妹を攫われてしまったところまでですね。

 しかも行く手を阻むのは、砂漠の赤き死の風―― シムーンと呼ばれる非常に乾いた砂嵐です。

 一夜にしてシムーンに襲われた村が滅び、その村人たちは水分を吸われてまるで砂や灰のようになってしまったと言います。

 

 まさしく絶体絶命の死地!

 シムーンに突っ込んだ半竜娘ちゃんたちを乗せた砂船の運命やいかに!?

 

 

 

「砂嵐を耐える時間が惜しい―― 一気に晴らすのじゃ!!」

 

 愛娘らを攫われて一刻も早く追いかけたい半竜娘ちゃんが、自らの魔法の札を切ります。

 天候が敵となるのであれば、天候を支配する!

 それが優れた魔術師の思考です。

 

 まあ耐えるだけなら砂船をひっくり返してその下に逃げるとかすれば良いですからね。

 あとは熱耐性の【竜命(ドラゴンプルーフ)】のポーションをみんなで(船員さんも含めて)飲んでおけば万全でしょう。

 しかしそれでは時間がかかり過ぎます。

 

 そのため、半竜娘ちゃんは即座の解決を求めました。

 

 「<カエルム()エゴ()オッフェーロ(付与)>! 【天候(ウェザーコントロール)】!!」

 

 半竜娘ちゃんの拡大された自我が天候気象に投影され、それを意のままにしようとします。

 真言呪文【天候】の呪文です!

 

「砂塵調伏! 天相従臨! 我が意に従えぃ!」

 

 ……これが只の砂塵であれば、半竜娘ちゃんの真言呪文により、一気に霧散したでしょう。

 しかし、どうにも今の煉獄砂漠(ゲヘナ)は常の様相ではありません。

 

 王城での策謀と小鬼の跋扈然り。

 城塞竜も狂っているわけではないでしょうが、もっと過ごしやすい場所に降着しても良かったはずです。

 何かが湧き出しているのか、またそれに引き寄せられたのか……。

 

 

 

 つまり、この赤き死の砂塵もまた、常のものではありませんでした。

 

「ぐぬぅぅぅ!!??」

 

「……お姉さまっ!?」

 

 文庫神官ちゃんの焦りの声が表すように、半竜娘ちゃんの様子は尋常ではありません。

 目が血走り、只人の相の顔にある汗腺からは暑さによるものではない汗が噴き出しています。

 ――― 何者かと精神力のせめぎ合いをしているのです!

 

 

「とにかく砂が入って来ねーようにするぞ! 巻物(スクロール)解放(オープン)! 【力場(フォースフィールド)】!」

 

 TS圃人斥候が機転を利かせて魔力の力場を張りました。

 これでもしも半竜娘ちゃんの呪文が破られ、失敗したとしても最悪の事態にはならないでしょう。

 

 砂船の船員は、周囲に満ちる半竜娘ちゃんのマナに()てられて意気阻喪し、跪いて(ぬか)づき神に赦しを請うています。

 

「これは―― 精霊が狂っている!?」

 

 そんな中で、森人探検家がその知覚能力で、精霊術【追風(テイルウィンド)】で召喚されていた風の精霊(シルフ)の様子がおかしくなったことに気が付きました。

 

『AAA―――RRAAAAAARRRR‼‼‼』

 

「なんてこと……」

 

 風の精霊(シルフ)の声なき叫びが脳裏に刺さります。

 精霊が見える森人探検家は、苦悶に身を捩るシルフの姿が見えています。

 

 そして、()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……狂気が伝染している……! まさかこの砂嵐自体が――!!」

 

 森人探検家の眼に映るシルフたちの姿が、赤く乾いたマナに染まり、まるで悪鬼のように変わり果てていきます!

 そうです、この赤き死の砂嵐、これ自体が、狂い果てた悪精霊(ジン)の集合体なのです!

 

 

『『『 AAAAARRRRRHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!! 』』』

 

 

 しかもこの砂塵は既に数多の人命を奪い、ヒトの血と魂の味を覚えています。

 

 絶息する最後の瞬間にまろびでる魂の甘美なるかな。

 乾いて死んで崩れる身体の地肌を削って、溢れる血を舐めることの美味なるかな。

 

 悪精霊(ジン)たちの悪意に満ちた笑い声が、脳内にこだましてきました。

 

 

「これはいかん……! 真っ向から調伏するのは骨が折れるのじゃ……!」

 

 半竜娘ちゃんが脂汗を流しながらも口を開きます。

 どうやら【力場】によって周辺に砂嵐が入って来なくなったことで、そちらへの制御を気にしなくてよくなり、喋るだけの余裕を取り戻したようです。

 

「じゃあどうしろってゆーんだよ、リーダー!」

 

 幼竜娘三姉妹たちと仲が良かったTS圃人斥候が、彼女らの心配のあまり焦って叫びます。

 半竜娘だけではなく、一党にとってもまた、幼竜娘三姉妹は自分の娘(あるいは妹)のようなものなのです。

 

「敵は群体じゃ。そして広がりすぎておる。そこが問題じゃ」

 

 しかしこの状況でも、パーティの頭脳たる半竜娘ちゃんの思考は健在でした。

 娘らが攫われた状況で、死の砂嵐に囲まれ、しかも自らの術に拮抗した状態であっても、戦闘種族である蜥蜴人の巫女として常に冷静な部分は残していたのです。

 

「対して、手前は一人。大きく広がった全体を調伏しようとしても、どうしてもムラが出るのじゃ」

 

 そしてそのムラによって逃れた部分の精霊が、また狂気を感染させて掌握された部分を解放してしまうのです。

 

「ゆえにヤルのであれば、狭く固めて一息にやってしまわねばならん」

 

「その分だけ敵は強力になるんじゃないの?」

 

 森人探検家の懸念はもっともです。

 押し固めてしまえば範囲は狭くなるでしょうが、密度が上がって敵は強力になるでしょう。

 

「ふっ、勝つのは手前じゃよ。我が爪と鱗に誓い、祖竜【慈母龍(マイアサウラ)】に勝利を捧げてみせようぞ」

 

「……私もお姉さまの勝利を知識神様に祈ります。愛しの君の行く手を阻む陥穽を、どうかお照らし下さい。灯明の守り手よ、知識の番人よ。どうかこの未来に闇よ落ちるなかれ――【真灯(ガイダンス)】」

 

 自信満々の半竜娘ちゃんを心配して文庫神官が限定未来視の【真灯(ガイダンス)】の奇跡を半竜娘ちゃんに与えました。

 鎧に捉まっていた白梟使徒ちゃんも助力し、知識神はこの異国異教の地からの願いを確かに聞き届け、奇跡を下賜しました。

 これで百人力でしょう!

 

 

「……ああ、分かったぜ。魔術師は、常に冷静に、だったな。それでその作戦ってやつを聞かせろよ」

 

 ―― どうやって敵を一つにまとめるつもりだ。

 常の間延びした口調も鳴りを潜めて、TS圃人斥候は真剣な眼差しです。

 

 そして半竜娘ちゃんが開陳した作戦は、皆を驚かせるに足るものでした。

 

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 

「準備は良いのじゃな?」

 

「ああ、みんな準備できてるぜ!」

 

 半竜娘の号令に、全員が答えます。

 各々の手には―― 砂船の船員の手にも―― 魔法のスクロールが握られています。

 

「それではスクロールオープンなのじゃ!」

 

「「「 おうっ(はいっ!/了解よ!)! 」」」

 

 半竜娘の号令で、それらのスクロールが一斉に開かれて燃え落ちていきます。

 蒼く燃えるマナが解き放たれ、封じられていた呪文が解放されました!

 

「「「 ウェザーコントロール!! 」」」

 

 解放されたのは天候操作の真言呪文です。

 しかもスクロールによる呪文は、極まった術者である半竜娘ちゃんよりも干渉力が低いもののはずです。

 幾ら数を揃えたとはいえ、それだけで事態を打開できるようには思えません。

 

「確かに天候操作では、赤き死の砂嵐を()()()()ことは出来んのじゃ!」

 

 半竜娘ちゃんはしかし、術の効果を確信しているかのように、次の展開に備えて集中を高めていきます。

 一方で、最初に発動した気象操作呪文【天候(ウェザーコントロール)】での赤き死の砂嵐(シムーン)の調伏も、引き続き継続していますから、やはり大したものです。

 

「じゃが、打ち消すのではなく、もしも砂嵐に助力するのであれば――!!」

 

 スクロールが燃え落ち、術の効果が発揮されました。

 

 ですが、砂嵐は止むことなく……むしろ……!

 

「狂った精霊には、その理非など判断つくまい!」

 

 むしろ気象操作呪文により、砂嵐の勢いは強まっていきます!

 周囲から集められた風が、赤き死の砂嵐(シムーン)に加勢しているのです!

 

「さあ赤き死の狂った風の精霊よ! たらふく風を喰らうがいい! そして――」

 

 そして、周囲から集った風は渦を巻き、周囲の砂嵐全てを押し込むように一か所にまとめていきます。

 大きく広がっていた砂嵐は、いまや一本の竜巻となって凝集されて色濃くなった赤黒い威容を晒しています。

 

 やがて風がすべて凝集し、中から現れたのは燃える瞳と砂塵の身体を持った巨大な悪鬼!

 

 これこそは悪しき精霊の親玉、『デーウ』です!

 

『 DDDEEEEEWWWW!!!! 』

 

 

 

「―― ひとつにまとめてやれば、こちらのものよ!」

 

 実体(データ)があればたとえ神だって殺してみせる。

 それが冒険者の流儀です!

 

 悪鬼(デーウ)がその口から吐き出した灼熱の砂塵のブレスを、【力場】を犠牲にして防ぎます。

 

 TS圃人斥候がさらに【力場】の巻物を掲げてバリアを再構築し、

 文庫神官が退魔の剣を掲げて悪鬼(デーウ)の注意を惹き、

 森人探検家が交易神の聖印を握って風の加護を願っています。

 

 全ては一党のリーダーである半竜娘につなげるために。

 

 

「出でよ我が鏡像の魔神(ドッペルゲンガー)!」

 

「呼ばれて飛び出て……ってな」

 

 半竜娘ちゃんが竜牙のアクセサリを撫でると、そこから煙とともに闇竜娘ちゃんが現れました。

 砂船の船員たちの反応は―― 結構好意的です。「善き精霊(ジン)のお出ましか!」と盛り上がるほどです。

 砂漠のおとぎ話の王道として、悪しき精霊(ジン)を懲らしめるのは、善き精霊(ジン)を連れた魔法使いの役目だからですね。

 

「さあ精霊よ、赤き死の砂の嵐の精霊よ! 血を啜り魂を喰らい大地を駆ける悪鬼(デーウ)よ!」

 

 半竜娘ちゃんが、周囲に真言呪文【天候(コントロールウェザー)】で広げた自我を介して、巨大な悪鬼(デーウ)に干渉します。

 あれだけ大きく、邪悪でも、それは精霊という枠組みであることに変わりはないはず……!

 

「その怒り、悪性ごと、(てまえ)のアギトに収まるがいい! 汝の(すべ)ては我がもとにあり!」

 

 天候という自然現象を支配下に置く【天候(コントロールウェザー)】では赤死砂嵐(シムーン)悪鬼(デーウ)を呪縛するには足りません。

 なぜなら、その実態は狂った精霊なのですから。

 

 ならばその精霊の相も呪縛するまでのことです!

 

「今以て一切の動きを禁ずる! 我が意に従え―― コントロールスピリット( 使 役 )】!!」

 

 

『 DDDDDEEEEEEWWWWDDDD!!?? 』

 

 

 天候支配と精霊支配の二重奏!

 拡散した半竜娘ちゃんの自我がビジョンを結び、巨大な赤き砂の竜巻の化身である悪鬼(デーウ)よりもさらに巨大なドラゴンとなって悪鬼(デーウ)を見下ろして威圧します。

 

 もちろん従う気のない精霊を使役することなど出来ませんが……。

 しかし、その気迫によって悪鬼(デーウ)の動きを封じました。

 

 

 そこへ闇竜娘の呪文が刺さります。

 

「<ラピス(石化)オッフェーロ(付与)ノドゥス(結束)> ――そのまま固まっちまいな! 【石化(ペトリファクション)】!!」

 

『 DDDEEEEDDDWWW!? 』

 

 投じられたのは石化呪文。

 この高位の真言呪文の作用により、赤死砂嵐(シムーン)悪鬼(デーウ)が石化していきます……!

 

 コントロールウェザーとコントロールスピリットにより二重に呪縛され、その本来の力を封じられた一瞬をついた呪文は、風の精霊である赤死砂嵐(シムーン)悪鬼(デーウ)を土属性へと強制的に傾けていきました。

 さらにその身に呑み込んでいた砂と、犠牲者たちの血の鉄錆が、石化の魔力を促進します。

 

 

『 DEEEEWWWUUU…………‼‼ 』

 

 

 逃れえぬ石化が赤死砂嵐(シムーン)悪鬼(デーウ)を襲い、ついには……!

 

『 DEEUUUUWWW……‼ 』

 

「もはや飛行もままなるまい!」

 

 半竜娘の言うとおり、ついに芯まで石化した悪鬼(デーウ)は、風の属性を失って空から落ちるしかありません。

 そして精霊であっても、四方世界の大地そのものには勝てないのです!

 

『 DEEWW……UUWWEED……‼ 』

 

「砕けよ!」

 

 

 天が落ちたかのような轟音。

 石化した悪鬼(デーウ)が墜ちました。

 

 濛々と砂煙が上がり―― しかし、それが急速に晴れ渡っていきます。

 対抗者がいなくなった半竜娘のウェザーコントロールが、本来の効果を発揮したのです。

 

 つまり、もはや悪鬼(デーウ)は滅びたということ!

 

 

 砂煙が晴れたそこには、案の定、完全に砕けた悪鬼(デーウ)の石像だけがありました。

 

 

「ふぅー……、ふぅー……。まったく、手間を取らせおって……!」

 

 早く幼竜娘三姉妹を追いたかったのに、とんだ足止めです。

 呪文も巻物もかなり使ってしまいました。

 

「完全に滅ぼせたか確認するか?」

 TS圃人斥候が念のためにと提案します。

 確かに、トドメを刺せていなくて復活して追って来られるのも面倒です。

 

「ああ、そうした方が良かろうの。もはや今からでは追跡も間に合うまい」

 

 それを聞いて気を利かせた砂船の船員が、砂船を悪鬼(デーウ)が墜ちた場所へと進めてくれます。

 

「お客さん方、助かったぜ。もうだめかと思ったが、何とかなるもんなんだなぁ……」

「二度はないと良いがのう。ところで聞きたいのじゃが、シムーンとやらは全てあのような悪性の精霊の集合なのかや?」

 

「おいおいまさかそんなわけないだろう! あんなのばっかりだったら、この国に人の住める場所はなくなっちまって、文字通りの煉獄(ゲヘナ)になっちまうぜ」

「じゃよなあ……。何か妙なことが起こっておるのやも知れんな……」

「さあ、どうだろうなあ……。王様が亡くなったとかも聞くしなあ……」

 

 少し不安そうにしながら、砂船は悪鬼(デーウ)の大きな石化した腕や足が散らばる場所へ辿り着きました。

 

「……うん、もう危険はなさそうね」

 森人探検家がエルフ感覚で精霊の去就を感知し、太鼓判を押します。

 追撃を受ける心配はなさそうです。

 

「あっ、リーダー、なんか核みてーなのがあるぜ」

 緊張が解けたのか、急いでも仕方ないと開き直ったのか、間延びした口調に戻ったTS圃人斥候。

 彼女(彼?)が指さす先には、割れた悪鬼(デーウ)の頭部―― これだけでも只人の全身と同じくらいの長さがあります―― の中から零れ落ちた一抱えもある宝石が落ちていました。

 

「……幾らか石化した部位のサンプルを回収しました。その核のような宝石は、精霊の力を色濃く宿しているようですが……」

 非常に珍しいサンプルを得て浮つく気分を押さえつつ、文庫神官が尋ねます。

 

「せっかくだから喰ってやるのじゃ。倒した相手を喰らうのは手前らの流儀じゃからな」

 祖竜術【胃石(ベゾアール)】の応用で力ある石を吸収できる半竜娘が、その核らしき宝石を受け取りました。

 そしてそのまま大きく口を開けて呑み込んでしまいました。

 

「あーあ、腹壊しても知らねーぞ」 というTS圃人斥候に、

「どうせこれからまたオアシスに戻って情報収集じゃ。手前はこいつ(精霊核の宝玉)を吸収がてら、何故精霊が狂っておったのか自己対話するから、他は任せたのじゃ」と胃のあたりを押さえながら半竜娘が指示します。

 

 確かにオアシスのバザールに戻れば、城塞竜の行く先に関する噂も集められるでしょう。

 少なくとも城塞竜がもともと降着していた場所は分かるはずですから、あてどなく砂漠を飛び回るよりはいいはずです。

 下手したら二次遭難しちゃいますし、物資の補充も必要ですしね。

 

 というところで今回はここまで。

 ではまた次回!

 

 

 半竜娘ら一党は、荒れ狂う砂漠の赤き死の精霊を調伏した!

 経験点1250点獲得! 成長点3点獲得!

 

 半竜娘は赤死砂嵐(シムーン)悪鬼(デーウ)の力が凝り固まった宝玉を吸収した!

 冒険者技能【風の遣い手】技能が1段階成長。

 一般技能【精霊の愛し子】技能が1段階成長。

 高位精霊術【顕現(サモン・ハイスピリット)】を習得。

 

 吸収した宝玉から暴走原因などの情報を取得中……。

 




 
経験点溜まったので、次回は成長した全員分のキャラシを載せられると思います。

===

ご評価ご感想をいただきいつもありがとうございます! 次もご覧いただければありがたいです。
 


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38/n 煉獄(ゲヘナ)行き特急航空便-5(ヒンノムの子らの谷(G e h e n n a))(キャラシ掲載)

 
煉獄砂漠(ゲヘナ)編ですが、いつもの如く半竜娘ちゃんたちの移動速度がゴブスレさんたちのそれを大幅に上回っているため、原作小説11巻に該当する物語に入るにあたり並行していくつか軽いシナリオが入る形になっています。
(どこで合流させようかな、というか合流できるのかな)

===

◆前話
赤き死の砂嵐(シムーン)悪鬼(デーウ)を討滅!*1
残念ながら城塞竜は見失ったのでオアシスに戻って情報収集へ。
 


*1
デーウ:ゾロアスター教の経典アヴェスターに出てくるペルシアの悪魔ダエーワの末裔とされる悪性の精霊。改心する場合もある。渦巻く黒煙で出来たような巨人で、長いカギヅメを持っている。(悪いジーニー)

 

 はいどーも!

 攫われた我が子を探して千尋の谷に降りていく実況、はーじまーるよー。

 

 前回は狂った砂漠の風の悪鬼を固めて落として砕いて食べたところまででしたね。

 

 その後、半竜娘ちゃんたちは再びバザールのあるオアシスまで戻ってきました。

 幼竜娘三姉妹を攫って行った城塞竜の情報を詳しく集めるためですね。

 また、物資の補給や休息をとるためでもあります。

 

 砂船を操ってくれた船員さんが、先に戻っていた船団の仲間に奇跡の生還を祝われているところから抜け出し、バザールへと足を踏み入れます。

 日が傾き始めたバザールでは、夕飯に向けて買い物する人たちが大勢行き来しています。

 

 さて、情報収集ですが、早速コネクションを活用します!

 半竜娘ちゃんたちはまずは、前回の依頼人である砂漠の犀人のお店を目指します。

 

 結構な大店(おおだな)で顔も利くでしょうから、ぜひ協力を取り付けたいところです。

 情報収集でも物資補給の面でも頼りになるはずです。そうそう、冒険の下準備はこういうので良いんだよ。

 

 出立したときと同様の活気あふれる―― これでも城塞竜が近くにいることで賑わいは減っているらしいですが―― バザールを抜け、先の依頼人が所在する支店まで戻ってきました。

 

「おや。冒険者殿。どうなさったか……ああいや戻られたのであればちょうど良かった、こちらからも伝えることがあってな」

 オアシスの支店に戻ると、隆々たる体躯の犀人が出迎えてくれました。

 

「伝えたいこと、というのも気になるが、こちらの方も願い事があってのう」

 半竜娘ちゃんが手短に自分たちの状況を話します。

 

 かくかくしがじか。まるまるうまうま。

 

 

「……なんと! 娘さん方が城塞竜に!? しかもその後に狂った赤き死の砂嵐(シムーン)悪鬼(デーウ)に襲われ、それを撃退したと!」

 

 砂漠の犀人は半竜娘ちゃんたちの話を聞いて驚愕します。

 別れた時点ではそんなことになるとは露とも思っていなかったというのもそうですが、砂漠の狂える悪鬼を調伏するほどの凄腕の冒険者であったことに改めて感じ入るものがあったようです。

 

「そうなのじゃよ。そこで手前らは城塞竜のところまで行かねばならん。そのための情報や物資の補給について力を貸してほしいのじゃ。当然対価は払うゆえ」

 このあたりは土地鑑もありませんし、地元の民の協力は是が非でも必要です。

 念のためにと持ってきていた宝石などの資金を換金すれば良いでしょうし、

 

「もちろん協力させてもらう。そして、こちらからも伝えることがあったのだ」

 

「おお(かたじけな)い! ………して、伝えることとは?」

 

 半竜娘ちゃんが首をひねると、砂漠の犀人は真剣な顔で話し始めます。

 

「あの賊が盗んだマジックアイテムのうち【竜の呼び笛】というアイテムの使用回数が減っていた……奴が使ったんだろう」

 

 ―― 【竜の呼び笛】。

 いかにもな名前のアイテムの登場に、半竜娘ちゃんをはじめ、森人探検家・TS圃人斥候・文庫神官らの顔も険しくなります。

 

「名前からすると、まさしく竜を呼ぶもののようじゃが」

 

「そのとおり。近隣にいる竜のうち、友好的なものを呼び寄せる効果がある」

 

「であれば城塞竜は……」

 

「おそらく【竜の呼び笛】の効果で呼ばれたのだろう」

 

 ある意味それは朗報ではあったでしょう。

 確かに幼竜娘三姉妹を引力光線(トラクタービーム)で攫って行った城塞竜には、害意は感じませんでした。

 友好的な竜として飛んできたのであれば、幼竜娘三姉妹の身柄が無事な確率も高いはずです。

 ―― 現時点では不安になる己らの心にそう言い聞かせるしかありません。

 

「【竜の呼び笛】が使われてから時間差があったのは、城塞竜の初動が遅かったから、というわけじゃな」

 

「ああ、そうだ。ヤツは城の形態から飛行する竜の形態になるまでに時間がかかる」

 

「まるで見てきたような口ぶりじゃが……」

 

 半竜娘ちゃんが情報を期待する目で砂漠の犀人を見ます。

 

「――― ああそうだ。俺たちは、というかこのバザールの有志で、城塞竜の監視網を張っている。

 今は落ち着いているが、今朝もそちらが出立した後に大騒ぎになった」

 

 犀人が語るところによると、半竜娘ちゃんたちがサンドマンタ漁の砂船に同行した直ぐ後に、城塞竜の監視をしていた有志たちから、「城塞竜が飛び立った」旨の伝令駱駝(ラクダ)が届き、警戒態勢を敷いていたのだとか。

 その後、城塞竜がバザールから離れた地点を飛んでいき、また戻っていった、とのことです。

 おそらく【竜の呼び笛】の効果で呼び出された城塞竜が幼竜娘三姉妹を攫いに行ったのと、その帰りだったのでしょう。

 

「……城塞竜は戻っていったのじゃな?」

 

「そうだ。今はもとの場所へ戻っている。姿かたちも城としてのものに戻しつつあるという伝令が来たところだ」

 

 半竜娘ちゃんたち一行の顔に、幾らかの余裕が戻ります。

 相手は既に巣に戻り、しかも経緯を聞くに城の姿に戻れば軽々とは飛び立てないようです。

 そうであればやりようはあります。

 厄介なのは延々と空を飛んで逃げ続けられることでしたが、その心配はしなくて済みそうです。

 

「それで、その場所はどこじゃ? 近いのかや?」

 

「ああ。このバザールからは騎獣に乗ってそう遠くもないところだ」

 

 ――― もっとも地元の者らは『ヒンノムの子らの谷(Gehenna/ゲーヒンノーム)』と呼んで、今は誰も近づかない。

 

 おどろおどろし気に語る犀人の顔に影が落ちます。

 どうやら城塞竜が居る場所は、(いわ)()きの場所のようです。

 犀人の尋常ならざる様子に、半竜娘ちゃんたちはごくりと息をのみました。

 

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 

 その後、犀人の紹介で物資を補給し、また、その他にも道中の情報を手分けして集めました。

 犀人の好意で来賓用の部屋を借りた一行は、お互いが得た情報を交換します。

 

 TS圃人斥候がまずは口火を切りました。

 

城塞竜(キャッスルドラゴン)についての情報を聞いたが、結構取引をしている奴らがいるらしーぜ」

 

「……取引?」

 

 情報収集には出なかった半竜娘ちゃんが首を傾げます。

 

「ああ。城塞竜の出自は知ってるよな? 城塞の精霊を竜が孕ませて生まれた、ってやつだ。そんで城塞竜は、城塞の精霊と一緒にいるってーわけよ、親離れはまだみてーだな」

 

 ドラゴンカーセッ●スならぬ、ドラゴンキャッスルセック●。

 きっとモテない悲しい独身竜か、極まった変態竜の仕業だったのでしょう。

 やられた城塞の精霊はたまったものではありませんが。

 

「んー、つまり、その城塞の精霊と、このあたりの商人が取引しているんじゃな?」

 

「そうらしーぜ。城の中の調度品、絨毯、鎧兜なんかを求めてるって話だ。対価は城塞竜の力が込められた建材だな」

 

 竜の鱗や牙が生え変わるように、城塞竜もその姿かたちを成長させる際に新陳代謝して古い建材を排出するのでしょう。

 それは竜の力が宿った砂岩なりとして、人間にとっては十分に取引の対価となり得るもののようです。

 

「ふむふむ。何かの原因で城の中の調度が壊れたのかの」

 

「あ、お姉さま。少し前に勇者様方が城塞竜と戦ったというお話がありませんでしたか?」

 

 文庫神官が王国で聞いた噂を思い出して補足しました。

 確かに、超勇者ちゃんの活躍の一幕に、狂える城塞の精霊と、それに従った城塞竜を退治したという話がありました。

 

「ではそのときの戦闘の余波かのう」

 

「きっとそうね。そして、城塞の精霊としては、きちんとした城を依り代にすることは大事だろうから、そのために調度品を集めているんじゃないかしら」

 

 今度は森人探検家が、精霊に親しい森人の観点から補足します。

 戦闘によるダメージもあるでしょうし、そもそも家事妖精(シルキー)の系譜に連なる城塞の精霊として、城の修繕維持は本能のようなものでしょう。

 また、城の状態が、城塞竜(キャッスルドラゴン)や城塞の精霊の回復の程度にも関わってくるのかもしれません。

 

「まあ大事なのは、城塞竜というか城塞の精霊とは話が通じる可能性があるってーことだ」

 

「うむ。【竜の呼び笛】の効果からしても、うちの娘らを攫っていたのは悪心からとは思えん」

 

 相手が交渉可能かどうか、それは非常に重要です。

 特に今ここは他国ですから、穏便に済ませる方法を探るべきでしょう。

 

 

「今考えれば、砂嵐から助けるため、とも取れるタイミングだったものね」

 

「そうなんじゃよなあ……。いずれにしても真意を問いただしてからでも良いと思うのじゃ」

 

 森人探検家の言うとおり、幼竜娘三姉妹が連れ去られたタイミングは、赤き死の砂嵐(シムーン)に突っ込む直前でした。

 それなら【竜の呼び笛】の効果で友好度の高い状態でやってきていた城塞竜が、幼竜娘三姉妹を緊急避難のために(あるいはそれに加えて好みだったから?)連れ去った可能性もあります。

 その真意は一度確認するべきでしょう。

 

 固定目標とはいえ中には人質になり得る幼竜娘三姉妹が居ますし、いつものコンボ(分身・巨大・加速・突撃)で不意打ちするという手は使えませんしね。

 

 

「決裂すればその時はそのときで真っ向から戦って力を認めさせるしかあるまいが」

 

「あらやだ蛮族」

 

 まあ相手が竜なら、半竜娘ちゃんによる肉体言語による交渉という最終手段もあります。

 勝てるかどうかが問題ですが、その時になったら半竜娘ちゃんの力を信じるしかないでしょう。

 もちろん交渉決裂に(そう)ならないように最大限の努力をするのは前提ですが。

 

「それと何か交渉材料となるものがあれば良いのじゃが……」

 

 

 

 

「ああ、そういうことならわたしが聞いた話の中で気になることがあったわ」

 

 次に切り出したのは森人探検家です。

 砂漠の暑さが(こた)えたのか、ゆったりとした砂漠用の服に着替えています。

 ひらひらした衣服が煽情的です。

 

「わたしも【城塞の精霊】と取引してるって話は聞いたのよ。それで、一人の商人が精霊に尋ねたんですって。“なんでゲーヒンノームに留まるのか” “いつまで留まるのか” って」

 

「……精霊の機嫌を損ねるとは思わなかったのでしょうか。まるで出ていけと言っているようにも聞こえますが」

 

 文庫神官の疑問に、森人探検家も同意しました。

 

「実際商人としては “早く出ていけ” って気持ちだったと思うわよ。その商人も “自分は思ったことを直ぐに口に出してしまう(たち)で……” とか言ってたけど。でもまあ幸いにも城塞の精霊は怒らずに答えてくれたそうよ」

 

「ほう。なんと?」

 

「“本当はこの砂漠の古代の陵墓まで行って、その建材を取り込んで傷を癒すつもりだった”

 “でもそれは出来なさそうだから、地脈の流れが太いここで我慢する”

 “傷が癒えればそのうち移動する”……だそうよ」

 

「精霊の “そのうち移動する” は何十年後でも可笑しくないのではないですか?」

 

「ええ。だからその口が迂闊な商人は、いっそ城塞竜を名物にしてしまってはどうか、とか言ってたわ」

 

 森人探検家が広げたのは、情報料代わりに買ったと思われる城塞竜の刺繍入りの手巾(ハンカチ)でした。

 意外とかわいくデフォルメされています。

 いつでもどこでも商人というのはたくましいものですね。

 

 

 

「私はゲーヒンノームについて情報を集めてきました」

 

 文庫神官が書付を捲りながら報告します。

 彼女はバザールの古書店を巡ったり、このあたりの古老に話を聞いたり蔵書を見せてもらって情報を集めたようです。

 

「ゲーヒンノームは、ヒンナムの子の谷という意味合いですね。かつては神へ捧げる儀式として、子供を奉納していたようです」

 

「……それは邪教の類では?」

 

「必ずしもそうとは限りません。また儀式自体も年代によって記述が様々ですね。

 ……幼くして亡くなった子供たちの骸を神に捧げて弔う、としている記述もあれば、単に子供たちを美しく着飾らせて遊ばせ、神に子供たちが健やかに育ったことを報告するための儀式とした、という記述もありました」

 

「直接的な生贄儀式……ではないということかの?」

 

「そのようですね。ゲーヒンノームでは硫黄の燃えるような青い火が見られることもあるそうですから、それを霊魂と見間違え、神秘性を見出したという可能性もあります。一番大きな理由は、地脈の要衝にあたるからなのでしょうが……」

 

「硫黄……か。だとすると城塞の精霊も本当は長居したくねーのかも知れねーな」

 

「そうですね。調度の類に良い環境とは言えないかもしれません。しかも時代が下るにつれて幼児の弔いから変質して、単なる死体捨て場、ゴミ捨て場に変遷していったとか。今は地元の方々が忌避するのは、そのせいでしょうね」

 

 ―― 一時期はアンデッドが徘徊していたそうですが、それは既に城塞竜によって一掃され、退治されたアンデッドから放出されたマナを吸収することで城塞竜はいくらか傷を癒したとか。

 そう言って文庫神官は締めくくりました。

 

 

 

「……なるほどのう。もし、城塞竜と城塞の精霊がもともと目指していた砂漠の古代陵墓へ行けるようにできるのなら、こちらの要求も通りやすくなるかもしれんが、どう思う?」

 

「確かに、それはそうかも知れないわね。

 それか鍛冶神の神官でも居れば【修復(メンディング)】の奇跡で城塞竜のダメージを修復してやることができたかもしれないけど、さすがに無いものねだりが過ぎるわね」

 

 半竜娘ちゃんの中で交渉の道筋が見えたようです。

 森人探検家は同意しますが、一方でTS圃人斥候が疑問を呈します。

 

「つってもその古代陵墓に城塞竜が何で行かなかったのか、そしてそれをオイラたちが解決できるかは分かんねーだろ?」

 

「いや、それについては手前が吸収した赤き死の砂嵐(シムーン)悪鬼(デーウ)の核が知っておった」

 

 半竜娘ちゃんは一人残って(正確には暑さにやられた白梟使徒と、封具の中の闇竜娘も残って居ましたが)、【胃石(ベゾアール)】の術の副作用によって吸収した精霊核と己の内で対話し、情報を引き出していたようです。

 

「精霊たちが狂った原因じゃがな、古代の陵墓に王の魂と相打ちになる形で封じられておった悪霊が這い出してきたのに()てられたかららしいのじゃ」

 

「封印が解かれた、ということですか? なぜこのタイミングで……?」

 

「城塞の精霊が古代陵墓を吸収したときに封印が崩れた、とかいうならまだ分かるけれど、時系列だと封印が解ける方が先だったわよね」

 

「でもまー、話の繋がりは分かるぜ。えらい悪霊が出てきたから傷ついたままの城塞竜は古代陵墓には行かなかったんだな。返り討ちを怖がったんだろ?」

 

 文庫神官、森人探検家、TS圃人斥候が順に言ったことに対して、半竜娘も自分が得た情報をもとに考察を話します。

 

 

「古代陵墓の封印を解いたのは、この国の宰相の手の者らしいのじゃ。どうやら国の各地の魔神を、あるいは逆にその魔神を封じている精霊(ジン)なりを飼い馴らして戦力化するつもりだったようじゃな。

 もしくは戦力とはせずとも、その古代の叡智を利用するつもりであったか。風の精霊でもあった赤死砂嵐(シムーン)悪鬼(デーウ)は、そういった噂話も知っておったのじゃ。

 宰相は国政を壟断(ろうだん)し、混沌の勢力じみた方法で軍事力の増強を図ろうとしておるようじゃな。

 古代陵墓に近づかんのは返り討ちもじゃが、瘴気に中てられてまた城塞の精霊が狂わされることへの懸念もあるのじゃろう」

 

「………その宰相こそが古代陵墓の悪霊に取りつかれてるんじゃねーの?」

 

「その可能性はあるじゃろうな! まあ宰相が狂ったのは古代陵墓を暴く前じゃろうから、そうなると宰相に取りついとるのは別口の悪霊じゃろうが」

 

 ―― いや案外正気のままかもしれんな、人間の欲望とは際限がないゆえ。

 動乱の匂いにワクワクし始めてしまった半竜娘ちゃん(蜥蜴人/蛮族)をTS圃人斥候が半目で見ます。

 

「それよりも三姉妹の救出作戦ですよ、お姉さま!」

 

「うむ。そのとおり。……忘れてはおらんぞ?」

 

「わたしの方で城の調度にも使えるような銀器を一揃え買ってきたから、これを城塞の精霊への手土産にして明日の朝、駱駝を借りて出発するってことでいいかしら」

 

「異議なーし。作戦の優先順位的には、正面から交渉 → ダメなら忍び込んで救出 → それもダメなら力比べ、って感じか?」

 

「それで私も異議ありません」

 

 じゃあ方針が固まったところで、翌日に向けて就寝だ!

 しっかり眠って疲労を癒やし、呪文使用回数を回復させよう!

 

 

 さあ、城塞の精霊との接触は穏便に済むかどうか……。

 そして果たして幼竜娘三姉妹は無事なのか……。

 

 あと接触が穏便に済んだとしても、交換条件に古代陵墓に行かされそうなお使いクエスト的なアトモスフィアを既にヒシヒシと感じつつ……今回はここまで!

 それではまた次回!

 




 
古代陵墓……いったい何ナプトラなんだ……。


◆半竜娘たちは救出のケツイを固めた。
ということで、一夜眠る間に各メンバーに起こった成長と、成長後のキャラシです! ご参考まで。

感想もいつも励みになっています! ありがとうございます!


・半竜娘:斥候Lv3→4。武技【楯の城(スキャドボルグ)】習得。冒険者技能【強打・斬】初歩→習熟。
・森人探検家:野伏Lv9→10。武技【追魂奪命の矢(奥義)】習得。冒険者技能【狙撃】熟練→達人。冒険者技能【忍耐】初歩→習熟。一般技能【騎乗】習熟→熟練。
・TS圃人斥候:野伏Lv3→4。武技【虎眼】習得。冒険者技能【忍耐】初歩→習熟。
・文庫神官:戦士Lv7→8。武技【虎眼】習得。冒険者技能【護衛】熟練→達人。一般技能【長距離移動】初歩→習熟。

◆半竜娘ちゃんキャラシ

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◆森人探検家キャラシ

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◆TS圃人斥候キャラシ

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◆文庫神官キャラシ

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38/n 煉獄(ゲヘナ)行き特急航空便-6/6(お宅訪問! 城塞竜!)

 
お久しぶりです更新~!

===

◆前話
作戦会議! まずは穏便に城塞竜と交渉しよう!
ではいざ、ヒンノムの子らの谷(ゲヘナ)の城塞竜のもとへ!
 


 

 人攫い城塞竜の(もと)に我が子を取り返しに行く実況、はーじまーるよー。

 

 オアシスで情報収集と物資補給をして休息の一夜を過ごして、明けて翌朝。

 半竜娘ちゃん一行は駱駝(ラクダ)を駆って、近づく者もいない硫黄が析出した煉獄の谷へやってきました。

 

「……硫黄臭いのう。古代に子供の骸を葬った儀式場が、徐々にただの死体置き場になったのも無理はないのじゃ」

 砂漠用の衣装を巻いた半竜娘ちゃんが鼻を押さえて眉間に皺をよせています。

 

「古代は硫黄の噴出は緩やかだったのかもしれませんよ。……鎧が錆びないと良いのですが」

 鎧を着こんだ文庫神官ちゃんが、金属鎧へのダメージを心配します。

 白梟使徒は暑さ避けに背嚢の中に包まって眠っているようです。朝ですしね、梟にはつらい時間です。

 

「それがいつのころからかこの有り様、というわけね。これだと辿り着くまで息が持つか分からないわね」

 砂漠風の衣装の上から、酸性の瘴気を遮るための外套を羽織った森人探検家。

 そういえば彼女が持つ宝の地図── 1年目の収穫祭のガラクタ市で手に入れたもの── のひとつを解読したところ、この城塞竜が居座った谷にもお宝が何かあるとか言ってましたね。

 

「じゃあ【追風(テイルウィンド)】の巻物(スクロール)を使おーぜ。そんでまずは正面から “おじゃまします” だ」

 TS圃人斥候が、魔法の袋から取り出した巻物を広げると、周囲に薄っすらとした清浄な大気の流れが出来上がり、硫黄混じりの空気を遮断します。

 オアシスで補給した物資の一部を早速使ったわけですが、無駄に消耗したり装備にダメージが入るよりは、お金でカタ付けた方がマシですね。

 

 城塞竜を見張る衛兵の出張所に幾らか握らせて駱駝を預けると、半竜娘ちゃんら一行4人は、谷底に見える城塞へ向けて道を下り始めました。

 

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 

『あらあらお客様? お客様ね? 歓迎するわ!』

 

 不思議と丸くなって眠る竜のようなシルエットに見えるその城塞の門の先に着いたとき、しっとりとした音色の声が、半竜娘ちゃんら一行を迎えました。

 

「……隠密は解いてねーんだが」

 

「城の敷地に入ったら、そこが既に感知圏内なんじゃろ?」

 

「精霊ってそんなもんよ」

 

 自慢の隠形を見破られたTS圃人斥候が肩を落とし、半竜娘と森人探検家がフォローして慰めます。

 

「……なるほど、あれが『城塞の精霊』ですか」

 

 逸話の登場人物に会えて、文庫神官ちゃんの眼がにわかに輝きます。

 伝承の蒐集もまた、知識神の信徒としての生業のひとつですからね。

 

 一般技能【精霊の愛し子】を持っている半竜娘と森人探検家(ふたり)がいるお陰か、城塞の精霊は初めから好意的です。

 

 

『ええと、みんな女の子なのね。圃人(レーア)森人(エルフ)只人(ヒューム)、そして蜥蜴人(リザードマン)のハーフ?』

 

「歓迎していただけるなら、かたじけなく」

 

「手土産もあるから納めてもらえるとありがたいわね。お近づきの印に、ということで」

 

 そう言って森人探検家は、アイテムボックスの魔道具から、清潔な布を取り出して見せます。

 建物の維持や調度に、布は幾らあっても良いものです。

 しかもこのような硫黄の蒸気漂う谷底にあってはなおのこと。

 

『あらあらまあまあ、とても助かるわ。いま、貴方たち以外にも女の子たちが滞在しているから、お客さま用のリネンの替えが欲しかったのよ~』

 

「他にもございますよ。きっと気に入られるかと」

 

 森人探検家が交易神の神官(しょうにん)らしく布の他にも調度の類をちらりと見せて城塞の精霊の気を惹きます。

 

 その間に、残りのメンバーは目配せをしました。

 

 “他の客の女の子” というのは、半竜娘ちゃんたちが引き出したかった言葉です。

 城塞の精霊に招き入れられて、一行は城塞の中へと入りました。

 中は一見すると整って見えますが、少し【魔法知覚】で探ってみれば、見えない部分は片付けが間に合っていないようで、崩れたガラクタが積み上がっているのを感じます。

 城内の様子は、城塞の精霊の元気のバロメーターでもあります。やはりまだ本調子ではないのでしょう。

 

 暫く城の廊下を進み、森人探検家のセールストークの流れが途切れた時、その機を逃さず、半竜娘ちゃんが口を開きました。

 

「城塞の精霊殿……その先ほど言うておった客人の女の子たちじゃが、ひょっとしたら手前と同じ蜥蜴人のハーフではないかの? 三つ子の」

 

『ええそうよ、良く分かったわね! ……そういえばなんかマナの波長が貴女に似てるわね。ひょっとして……』

 

「おお、それが分かるなら話が早い」

 

『あの娘たちのお姉さん?』

 

「ああ、いや、手前は母になるのじゃ。そちらにお邪魔しておるのは娘たちであろうよ」

 

『娘!? へぇ~、あなたとてもそんな歳には見えないわ。これでも城塞の精霊として多くの人々を見て、人物鑑定眼(ひとをみるめ)を養ってきたつもりだったんだけど……。自信なくしちゃう』

 

 城塞の精霊が半竜娘ちゃんを上から下までしげしげと見つめます。

 

 

 とはいえ、これで言質が取れました。

 幼竜娘三姉妹はこの城── 城塞竜の体内に居るようです。

 

 

『あれ。でも確かあの子たちの親御さんは、砂漠の赤い砂嵐に呑まれたんじゃなかったかしら。助けられたのはあの子たちだけだったような』

 

「ふふん。その程度で死ぬような鍛え方はしておらん。見くびってもらっては困るのじゃよ」

 

 あとそもそも城塞竜に追っかけられなければシムーンに巻き込まれることもなかったでしょうし。

 

「というわけで、じゃ」

 

『お迎えというわけね~』

 

 流石に子を持つ母同士、言いたいことは直ぐに伝わったようです。

 

『でも素直に帰ってくれるかしらー……』

 

「ん? どういうことじゃ?」

 

『見れば分かると思うわ~』

 

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 

「「「 や! かえらない!! 」」」

 

「お主ら……」

 

 金銀財宝の上でジタバタ転がりながら、幼竜娘三姉妹はそっぽを向きます。

 ここは城塞竜の中の宝物庫。

 財宝の他にも、古い書物も多く収められているようです。

 

 どうも幼竜娘三姉妹は、財宝の輝きに魅入られてしまっている様子。

 というか半竜娘ちゃんたち一党も、TS圃人斥候と森人探検家は財宝に、文庫神官は書物の棚に、それぞれ目を惹きつけられています。

 この城塞に元から蓄えられていたものか、あるいは森人探検家が解読したという宝の地図の財宝に記されていたゲヘナの宝物を、竜の本能で回収して溜め込んだのでしょうか。

 

 半竜娘は三姉妹を見て、自分の一党の仲間三人を見て、肩を落としました。

 この保護者たちにしてこの子たちあり、ということでしょうかね……。

 

『おねーちゃんたち、かえっちゃうの……?』

 

 そして幼竜娘三姉妹に囲まれるようにして中央に居るのは、城塞竜のアバターです。

 男児の形態をとっており、人間で言うと5歳児くらいでしょうか。

 成長が早い幼竜娘三姉妹はもう10歳程度に見えるので、それよりかなり年下に見えます。

 

 ですが、幼くても、流石は竜。

 アバターから漏れる魔力は極上にして大したものです。

 そしてそれだけの圧倒的な強者のオーラを放ちつつも、このように気弱げに庇護欲をくすぐるような仕草をする、そのギャップに、幼竜娘三姉妹たちは当てられてしまったのでしょう。

 

「帰らないよ!」 「お姉さんたちともっと遊ぼう!」 「ね。ね。ご本も読んであげる!」

 

 まあ竜を崇め、強者を貴ぶ蜥蜴人ですから、三姉妹が城塞竜に入れ込んでしまうのも無理はないのかもしれません。

 

『わぁ~い、ありがとうっ!』

 

「「「 うっ。か、かわいい…… 」」」

 

 そして今しもまさに、無垢な笑顔でハートを撃ち抜かれたところです。

 完全に見た目カワイイ弟分にして、実際は超強いドラゴンという、そのギャップも含めて気に入ってしまっているようですね。

 

 

 

 

『とまあ、こういう訳ですよ。三姉妹のおかあさん竜さん』

 

「はぁ……なるほどのう」

 

『私も親ですから、こうやって迎えに来ていただいた以上は、子供さんたちをきちんと親元に帰してやりたいとは思いますし、今後は本格的にうちの子も説得するつもりなのですが……』

 

「そうは言っても、こんどは手前らの子らが、城塞竜殿が元気になるまでは離れない、と言い出しそうじゃのう」

 

 実際、幼竜娘三姉妹は、本調子じゃないにもかかわらず変形して空を飛んでまで会いに来てくれたという漢気にも感銘を受けたのでしょうし。

 それに慈母龍マイアサウラの眷属としては、傷ついた竜を置いて離れることなどしないつもりでしょうから。

 

 半竜娘ちゃんはこれでも娘に甘い(たち)です。

 オアシスで集めた情報と、この城塞竜内部の宝物庫までの道すがら尋ねたことをもとに、頭を切り替えます。

 

 

「確か、このゲヘナの谷底よりも、古代の陵墓の方が回復には良いということじゃったよな?」

 

『ええ。その通りです。ここはマナは豊富なのですが、いかんせん硫黄の瘴気が酷くて……』

 

「じゃが、古代陵墓に封じられていた大悪霊が暴れておって、向こうには行けぬ、と」

 

『そうなんですよー、しかも精霊を狂わせる呪法を使うみたいで相性悪くって……。全く迷惑しちゃいますよね』

 

「なるほど、のう。そして、見た限りではうちの娘らの説得にも相応の時間を置くべきじゃろうな」

 

 半竜娘ちゃんは思案し、提案を口に出します。

 

 

「手前らが古代陵墓の悪霊払いをしてこよう。そして、その間にうちの子らの説得を頼むのじゃ」

 

『あら。よろしいのかしら。私はとても助かるけれど』

 

「うむ。それもまた冒険者(アドベンチャラー)の仕事じゃて」

 

 ま、砂漠に来たなら古代陵墓(ピラミッド)の一つや二つは攻略するのが冒険者の華とも言えるかもしれません。

 

 

 というわけで── 依頼受諾!!

 

 

 

 QUEST! 古代陵墓の大悪霊を浄滅せよ!!

 

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 

「ほほーう、そしてあれが古代陵墓の金字塔(ピラミッド)かや」

 

 というわけで、リネンだの家財だのを城塞の精霊に卸した一行は、受諾したクエストを達成しに、砂船や駱駝に乗って、目的地の古代陵墓までやってきました。

 

 時刻は、城塞の精霊に会って依頼を受けたその日の夜。

 奇跡や魔術を駆使した得意の早駆けによる賜物です。

 

「ピラミッドについての情報収集もばっちりしたし」 森人探検家が遠くの砂漠のピラミッドを鋭く睨みました。

 

「詫び代わりの支度金にと城塞竜の宝物庫から予算も貰ったしなー」 TS圃人斥候がその予算を使って潤沢に補充した消耗品を確認しています。

 

「あとは死霊の力が弱まる夜明けを待って侵入ですね」 夜になって元気な白梟使徒の羽を撫でながら、文庫神官が腰の退魔の剣を確かめました。

 

 

「古代陵墓に巣食い、精霊すら狂わせる大悪霊……おのおの油断するでないぞ?」

 

「分かってるわよ」 「誰にもの言ってやがる」 「はい! 油断しません!」

 

 祖竜術【狩場(テリトリー)】により侵入者感知の結界を敷いた半竜娘ちゃんの言葉に、一党の面々は三者三様の返事をし、明日の突入に備えることにしました。

 地母神の奇跡【聖餐(エウカリスト)】が込められた魔道具のランチョンマットから顕現させた温かな食事を摂りながら、一行は火も焚かずに息を潜めて朝を待ちます。

 

 種族柄【暗視】技能を持たないTS圃人斥候と文庫神官ですが、鍛錬によって身に着けた武技【虎眼】によって彼女らも暗闇を見通すことが出来るようになったからこそできる、火のない夜営。

 周りの砂漠に同化するような(まだら)な砂色の帆布を被れば、敵の勢力に見つかることはきっとないでしょう。

 

 さて、ではよく眠って、鋭気を養うこととしましょう。

 

 

 ……というところで、今回はここまで!

 ではまた次回!

 




 
メリー・ユール! そしてダイレクトマーケティング重点!


◆BGC『ゴブリンスレイヤー』12巻 12/25(土)発売記念フェア開催!!
https://magazine.jp.square-enix.com/top/event/detail/1685/

漫画版12巻と同時にイヤーワンも鍔鳴の太刀(ダイ・カタナ)も同日発売だ!!

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次回はピラミッド攻略!
 


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39/n 金字塔(ピラミッド)の大悪霊を浄滅せよ!-1(これどうやって攻略するんです?)

 
原作最新16巻を読んでると自意識過剰かもしれませんが信じられないほどに嬉しいことがあったので初投稿です。
原作小説最新16巻はこちら → https://www.sbcr.jp/product/4815613464/

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◆前話
 半竜娘ちゃんの娘の幼竜娘三姉妹は、完全に城塞竜(キャッスルドラゴン)にメロメロ。まあ、彼は財力も腕力もあって、竜そのものでもあるので、蜥蜴人の嗜好にクリティカルなので仕方ありません。
 少なくとも城塞竜(キャッスルドラゴン)(※少し前に暴れていたのを超勇者ちゃんにメッてされた)の傷が治るまでは、幼竜娘三姉妹は梃子でも動かない構えです。となればまずは城塞竜には傷を治してもらわねばなりません。
 というわけで、半竜娘一党は、『お使いクエスト:城塞竜(キャッスルドラゴン)が傷を癒すに相応しい立地にある古代陵墓、そこを占拠している大悪霊を浄滅せよ!』を受領しました。
 半竜娘(祖竜信仰を極める武僧系冒険者Lv10)+闇竜娘(術師系の使い魔デーモンLv9)、森人探検家緑衣の勇者(ゼルダじゃない方)に憧れて弓を極める野伏系冒険者Lv8)、TS圃人斥候(更生した元男なニンジャ系冒険者Lv8)、文庫神官(タンクに転向した神官系冒険者Lv7)+白梟使徒(知識神の使徒の白梟(獣人形態有)Lv7)が、砂漠の古代の墳墓に挑みます!!
 


 

 はいどーも!

 古代の陵墓、金字塔(ピラミッド)に巣食う大悪霊を、初心に戻って速攻で浄滅する、したい、できればいいなぁ、な実況、はーじまーるよー!

 

 前回は城塞竜(キャッスルドラゴン)に会いにヒンノムの子らの谷(ゲヘナ)まで降りて行って、城塞竜の内部で幼竜娘三姉妹の無事を確認したものの、幼竜娘三姉妹は城塞竜の坊ちゃんを気に入ってしまって帰宅拒否。

 城塞竜の坊ちゃんの母上である城塞の精霊にも事情を聞き、療養に最適な霊地である古代墳墓を占拠している、精霊を狂わせるほどに(タチ)の悪い大悪霊を浄滅するクエストを請け負いました。

 少なくとも城塞竜の傷が癒えれば、幼竜娘三姉妹も聞く耳を持ってくれると期待して。

 

 その後、半竜娘ちゃん一党は近場のオアシスで物資を補充後、問題の古代陵墓付近まで移動し、不浄の者の力が弱まる払暁を待って攻略開始しようとしているところです。

 

 砂漠の夜が明けて、東の空が紫から白へと変わり始めました。

 曙光を浴びる砂が、ひととき妖しい赤色に染まります。

 砂漠における一瞬の美の一つです。

 

 さて一党は、睡眠も十分摂って、体力も呪文も万全。

 朝食も昨晩の夕食に引き続き、魔法のランチョンマットで出した【聖餐】の効果が乗った食事でした。

 病魔に対する抵抗力を高めるこの魔法の食事は、これから突入する墳墓がアンデッドの巣窟になっていた場合に備えたものでもあります。

 

 

「それでは皆の衆、いざ、城攻めじゃああああ!!!」

 

「「「 おおおおおおー--!!! 」」」

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 

 とは言ったものの、無策で突入するのはアホのすることですので、当然のことながら情報収集は済ませてあります。

 

 ()ずは目的の大悪霊の由来縁起についてです。

 

 ピラミッドがあるあたりは、何もそれのみがポツンとあるわけではなく、古代の王侯貴族の霊園となっています。

 その霊園に築かれた絢爛な墓所群の中でも、ひときわ大きいものが、目的の大悪霊が巣食うピラミッドです。

 それ以外にも周囲には貴族や大商人の墓所が連なっており、大通りに小道に門に屋敷にと、まるで貴族街の様相です。

 こういったものを、死者の街・ネクロポリスと言ったりしますが、まさにその呼び名の通りだと言えるでしょう。

 

「見事なもんじゃの」

「あぁ……。こういう時でなければじっくり記録して知識神様の文庫にお納めするレポートを作るところですのに……」

 

 遠目に見て感嘆の声を漏らす半竜娘と、知的好奇心を抑えきれない文庫神官。

 2人はどちらかと言えば学者の視点からこの墓所群遺跡の貴重さに思いをはせています。

 実際、歴史的遺産であることに相違なく、墓所であることも含めて敬意を払うべき場所だと言えるでしょう。

 出来ればあまり傷をつけずにおきたいところです。

 

 見える範囲でも、巨岩を削った冥府の神の石像と、埋葬された者の似姿を(かたど)った像たちが通りに並び、死後の道行きを示した色彩豊かな壁画や神や英雄を彫り込んだレリーフが刻まれた塀があります。

 一部は砂によって削られ、埋まってしまっていますが、それなりの範囲がまだ当時の色彩と面影を残しているのは、魔法や奇跡によって守られているからでしょうか。

 

「……盗掘の被害もそんなに無さそーだけどよー、ここを管理する墓守の一族でもいたんかねー?」

「そうねえ。それか、ゴーレムの類でもいて、それが維持修復までやってるのかもしれないわね」

 

 一方、ついつい職業柄、盗掘者視点になってしまうTS圃人斥候と森人探検家。

 厄介な墓守や魔法の番人が居ないかどうかというのは、これからこの墓所を攻略する者としては当然気になるところではあります。

 

 

 それでまあ、なぜこんな立派な墓所に、大悪霊── しかも周囲の精霊の在り方さえ歪めるほどの怨念を抱いた── が巣食ってしまっているか、ということですが。

 

 まあ話は簡単で。

 

 ここってかつては肥沃な森があったんですよね。

 

 文明とは火を用いるもの。

 生み出される鉄。

 くべられる(たきぎ)

 禿げてゆく森。

 

 ……そして森の消失による保水力の低下、急激な乾燥化と砂漠化。

 

 消えゆく森と水を嘆く精霊たち。

 かつての豊かな森に棲んでいた森人たちとの抗争。

 血で洗われた大地と、地の底から溢れ出る外法により転じた悪鬼怨霊の群れ。

 

 そしてそれらに対抗し、鎮護慰撫するための祭壇としての霊園が設けられました。

 そこは戦で散った者たちが眠る場所でもあり、激戦の果てに怨敵を封じた地でもあります。

 つまりはこの地の信教に則り輪廻から舞い戻り蘇る死者の軍を以て、やがて封じた地の底から襲来すると予期される、かつての滅びに狂った精霊と森人の怨霊に対する備えとしたわけです。

 

 死者の都(ネクロポリス)の近くには、通常の都市がかつてはありました。

 生ける人々が暮らし、活気にあふれた大きな都市が。

 

 ネクロポリスに込められた術理は、そこを参拝に訪れる人々の正しい祈りがあってこそ働くものでした。

 絶え間ない祈りを以てようやく、封じられた怨敵大敵は眠りにつき、捧げられる生のエネルギーによって緩やかに薄められるままに浄化の時を待つことになったのです。

 

 

 

 ですが、既に祈りは絶えて久しく。

 

 

 

 森が枯れ、水が絶えれば、都市があっても人々が生きられるはずもなく。

 また時の流れは大河の流れをも変えてしまい、都市を支える水源ははるか彼方へと曲がってしまいました。

 そうなれば、かつての都市から人が去るのは、都市が積み重ねた栄華の時に比べればあっという間でした。

 

 もちろん、封じられた怨念への懸念はあったため、一際に強力な封印をしてから、人々は都市を去り、祭祀の一族はしばらくはその封印を守り続けました。

 人の代わりに石像の番兵を置き、人波がもたらすはずだったマナの流れを模したマナの整流装置を設置し、死者の都(ネクロポリス)を保ち続けたのです。

 

 しかし時の流れは過酷で、政変による国の営みも盛者必衰の言葉の通りです。

 

 祭祀の一族もやがては絶え、死者の都は、ただその名の通りに、命なきただの機構に過ぎぬものどもが細々と破綻しない程度に封印を守るのみ。

 本来であれば怨念を薄めて浄化し放散させるべきその封印は、しかし生者の祈りが供給されなければ暗く澱んだ死者のマナが醸成されるばかり。

 ただ封印の破綻を先延ばしにしただけの状況で、かつての狂った森と水の精霊も、森人たちの怨念も、それを討伐した王朝の戦士や貴族たちの英霊も、全てがその蠱毒の壷の中で混然一体となっていったのです。

 

 

 

 そして現在、人の世ではまた政変が。

 

 王は弑され、宰相が国政を壟断(ろうだん)

 

 混沌の萌芽がそこかしこにばらまかれる始末。

 

 

 それどころか宰相は、遥か古代より続くこの地の歴史を紐解き、各地にそれぞれの時代に封じられた者たちを以て己が戦力とするべく画策したのです。

 

 その一つが、この地の大悪霊。

 

 いえ、絶えた祭祀の一族が残した古文書を頼りに封印を解いた宰相にしても、これほどの大悪霊が封じられていたとは思っても居なかったのでしょう。

 むしろ封印されていた狂った精霊や森人たちの悪霊よりも、それに備えて眠りについていたはずの、かつての王侯貴族や戦士たちの蘇りをこそ期待していたはずです。

 ですが現れたのは、仇敵も怨敵も守護者もすべて混然一体となった、醸され尽くした大悪霊。

 

 ただただ膨大な負の想念の集合と成り果てたそれを制御できるはずもなく、宰相はなんとかこの場を脱することしかできませんでした。

 

 残されたのは怨念を撒き散らす大悪霊のみ。

 それは周囲の精霊(ジン)を狂わせて悪鬼(デーウ)と化しながら、こうして被害を撒き散らし続けているのです。

 幸いなのは、地脈と密接に結びついているため、ここから大きくは動けないことでしょうか。

 

 

 さて、それではこれを如何(いかん)とすべきか?

 

 

 流石は竜を産んだ城塞の精霊が課した試練。

 これはもう、相当な難題と言えるでしょう。

 

 かつて河と森を治めていた精霊たちの反転存在と、その森を守っていた森人(エルフ)の一部族丸ごとの怨念と、それらをまとめて押さえ込めるほどの力を持った砂漠の貴族階級(せんしたち)とそれを支える人々が死後の魂を委ねて軍勢となった存在が、合わさっているのです。

 単純に考えて、この大悪霊は都市2つ分以上のリソースを持っているはずです。

 ネクロポリス側と、それによって封印されていた側は、少なくとも同格のはずですからね。

 プラス/マイナスで拮抗すべきものが、絶対値そのままに加算されて同化しているというのは、本当に勘弁願いたいものです。

 

 さらに複合存在であるため分かりやすい中枢というのもなさそうです。

 堕ちたる精霊は基盤となる土地すべてに浸透しているでしょうし、森人の怨念も群体型でしょうし、それを封じるべきであった古代王朝の系譜は陵墓の主をトップにミイラたちが軍団を成していることでしょう。

 

 正直なところ、たった4人の冒険者一党で立ち向かうのは無理ゲーです。

 都市2つ分を4人で攻略? ハハッ

 乾いた笑いしか出ません。

 

 ええー?

 城攻めというか、都市攻略ですよ、こんなん。

 冒険者レベルの仕事じゃない。

 軍隊呼んでこい軍隊を、マジで。

 

 それか天の火石でも持ってこい、って感じですね。

 ソドムとゴモラ(都市2つを滅ぼした)の例のように。

 あるいは祖竜を滅ぼしたそれのように。

 

 いやホントにどうするんだこれ。

 

 ただ、半竜娘ちゃんたちは、手がありそうな感じでしたけれども。

 

 

 

 

「大きな問題は、解決可能な小さな問題に解体すべきじゃ。そうすれば、付け入る隙も見えてくるからの」

 

 夜明けの砂漠にて、死者の都を見下ろせる高台に陣取った半竜娘ちゃんが語り始めます。

 周囲には使い魔や使徒を含めた仲間たちが配置について、準備は万端、という風情です。

 

 しかし、都市から離れたここで、いったい何をするつもりでしょうか。

 ……超勇者ちゃんならここから聖剣ビームで金字塔を斬り開いてしまってもおかしくないですが。

 それとも半竜娘ちゃんは 【核撃・放射(フュージョンブラスト・ブレス)】 で古代陵墓群を丸ごと炎上させるつもりでしょうか……?

 

「今回特に問題となるのは、地脈に接続した狂って堕した悪性精霊、その継戦能力じゃろう」 したり顔で語る半竜娘ちゃん。

 

「純粋に軍勢や群体が厄介というのではなくて?」 それに疑義を挟むのは森人探検家ちゃんです。数が多いというのはそれだけで脅威ですからね。ゴブスレさんなら “ゴブリンと同じか” と言って納得するかもしれません。「それに森人(エルフ)の戦士が怨念となって(わだかま)っているのは哀れだし、何とかしてあげたいところよね」

 

「もちろん、エルフの怨念の集合体も、蘇る古代王国の軍勢も脅威ではある」 頷く半竜娘ちゃん。「しかし、それを支える地脈のリソースをこそ、手前(てまえ)は重視したい。これは都市攻略戦……つまり、補給を断つのが常道であるがゆえに」

 

 いや、その、籠城戦を強いるにしてもそのために軍勢が必要なのでは……?

 たった数人の冒険者一党で、いったい何ができるというのでしょう。

 

 

「おーい、リーダー! 準備できたぜ!」 そこに声をかけてきたのはTS圃人斥候です。

 

「おお! ご苦労!」 半竜娘ちゃんが声につられて見た先には、簡素な祠が準備されていました。

 

 その祠は白く。

 そして、骨で出来ていました。

 竜の骨── 闇竜娘ちゃんが呼び出した【竜牙兵(ドラゴントゥースウォーリア)】を素材にして組み替えて、祠にしたのです。邪教かな? 祖竜信仰だったわ……。

 竜牙兵の頭骨を屋根代わりに、腕の骨と脚の骨や脊椎を柱にし、肋骨や腰骨を組んで壁とした、簡易の祭壇です。

 

 小器用に【手仕事】をこなすTS圃人斥候は、なかなか良い仕事をしたようです。

 見た目は只人(ヒューム)の感性ではアレですが、蜥蜴人的にはアリなのでしょう。

 半竜娘ちゃんは満足げに頷いています。

 

「では、準備を頼むのじゃ」

 

「もちろんです、お姉さま!」 半竜娘ちゃんが見下ろす先には、すらりと退魔の剣を抜いた文庫神官ちゃんの姿が。白梟の使徒ちゃんも、準備万端、気炎万丈といった様子。

 

 

 

「さて、お主も覚悟はいいかや?」 半竜娘ちゃんが森人探検家に最終確認をします。

 

「……まあ私もこれ以外のうまいやり方は思いつかないし、乗ってあげるわ」 一番付き合いが長い森人探検家が、この程度の冒険はもはやいつものこととため息をついて、自分も配置につきます。その手の内には、交易神の神殿で莫大な寄進と引き換えに上位の聖別を受けた聖印がありました。

 

 

 

「では各々(おのおの)、手順通りに!」 半竜娘の掛け声で、事前に定めたとおりに一党の面々が行動を開始します。

 

 

 

 

「強大なリソースを抱えた、群体にして軍勢。都市を一つ二つ攻め落とすようなもの──── 確かにその通りじゃ」

 

 であるならば。

 

「ゆえに、解法はシンプル。都市を落とすようにやれば良い。兵糧を奪い、そして内応を促し、弱らせた敵に強力な破城槌の一撃を叩きつけ、浸透する……!」

 

 そのためのピースは揃っています。

 

「そして最後に、城の本丸に駆け上がり、軍勢を剥いだあとの裸の玉座にて、王たるものの首級(クビ)を捕り、心の臓を喰らう。心の臓すら持たぬならば、その魂を!」

 

 それが蜥蜴人の流儀であるがゆえに。

 彼らが恐るべき蛮人であり、戦上手であることは、四方世界では誰もが知ること。

 この半竜の娘にも、その叡智は受け継がれているのです。

 

 都市攻囲戦、それもまた、蜥蜴人にとっては既知の戦なのですから。

 

 

 

 

 というわけで今回はここまで。

 ではまた次回!

 




 
次回、「まるで将棋だな」な回の予定。あと砂塵の国に入ったゴブスレさん一党と鉢巻の剣士くん一党と女商人さんたちの方もボチボチ描写していきたいところ。


◆ダイレクトマーケティング!

原作小説版16巻、発売中! みんな読もう! 牛飼娘さんの『デッ!?』な表紙が目印。 → https://www.sbcr.jp/product/4815613464/
死灰の神の使徒がソーシャルジャスティスウォリアーだったり、ゴブスレさんの戦法が実にゴブスレさんだったり、妖精弓手さんと蜥蜴僧侶さんが要所要所で地味にいちゃついてたり、女神官ちゃんの成長も著しかったり、圃人の剣士と少年魔術師のペアが馬上槍試合(トーナメント)で大活躍だったり、大変エキサイティングで面白いんですことよ! ロック・ユー!!

そして、ある章における混沌勢力との乱戦において冒険者たちが入り乱れるシーンで、以下の記述がありまして……。ちょっと引用しますね。

圃人の剣士の刃が唸り、正道を尊ぶ朱槍が奔り、竜殺しを志す半竜の娘の咆哮が轟く。

…………。…………!?

竜殺しを志す半竜の娘の咆哮が轟く。

ワッザ!? これは……!? まさか……!? いや、しかし……!? 落ち着け、素数を数えるんだ……!

この行で言及されている『圃人の剣士の刃が唸り、』は、公式リプレイhttps://www.sbcr.jp/product/4797390674/の圃人のサムライ少女、長 春花ちゃんでしょうし(KUMO先生のPCこの子だったのかしら)、
『正道を尊ぶ朱槍が奔り、』は “辺境最速” を目指すあの子https://yaruok.blog.fc2.com/blog-entry-11831.htmlでしょうし、
いや、ここに並んでて良いのですか、半竜の娘……?! 前記2人はKUMO先生のプレイヤーキャラですよ!?

はっ、いやこの半竜の娘が、当SSの子の同位体とは限らぬ。半竜キャラは、ガントレットいちご味リプレイのパーサーナックスちゃんhttps://yaruok.blog.fc2.com/blog-entry-11289.htmlも居る……けど、生い立ち的に竜殺しを目指すフレーバーは薄いと思うし……、うん、はい、私の中では、これは半竜娘ちゃんのことだということにしました! 私が思うからそうなのだ、私の中では。幻覚や自惚れだとしても、私の中ではこれが真実なのだ……。それでいいじゃないか。

そして仮にそうだとして、とても嬉しいのは、原作小説版の世界線で半竜娘ちゃんが生き残っていたとしたら、きっと、黒鱗の古竜の砦から運良く命からがら抜け出せはしたもののまだ宿敵である黒鱗の古竜を討伐できるほどには技量が高まっていないし機会にも恵まれてないと思うので、『邂逅』欄はきっと『宿敵:黒鱗の古竜』のままなわけで、まさしく『竜殺しを()()半竜の娘』となり、完全に解釈一致なところですね。やべえ。光栄すぎる……。ちなみに当SSのパーティメンバーは原作では全員リタイア(森人探検家:ゴブスレさん一党結成後初冒険のオーガの居た遺跡で助けられたエルフさん(リタイア)。TS圃人斥候:昇格審査に落ちて闇人に与した圃人(死亡)。文庫神官:魔法使い(ドル〇ーガ)の塔のガーゴイルに攫われて空から落とされた知識神の神官(死亡)。)したキャラからセレクトしてるので、半竜娘ちゃんは原作世界線では別のメンバーとパーティ組んでるのでしょう。

というわけで、四方世界には、当SSの半竜娘ちゃんのような蜥蜴人がきっと居ます。まこと四方世界の懐は深く、そして広いことであるよ……。
 


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39/n 金字塔(ピラミッド)の大悪霊を浄滅せよ!-2/2(半竜娘ちゃん・即身仏モード!)

 
今回、呪文等の拡大解釈マシマシでお送りします。(敵の設定を盛りすぎてキャラシと睨めっこしていたので初投稿です……)

◆前話
文明に滅ぼされて(さばくかして)狂った精霊と、滅んだ森を枕に散った森人部族の怨念と、それを封じるはずだった古代王朝の軍勢が、時の流れに負けて封印の中で混然一体となった大悪霊を解放した奴がいるらしい。まったく、砂塵の国の宰相め!(※おそらく現在、王宮側でも再攻略の対策検討中と思われ)
……しかも手に負えないので放置しているあいだ、周辺の精霊(ジン)が汚染されて悪鬼(デーウ)となって全土を赤い死の砂嵐(シムーン)が駆け巡る始末。
そんな場所の浄化を頼まれた半竜娘たちは、いったいどのように攻略するのか!?
 


 

 はいどーもー!

 孫氏曰く『故に智將は務めて敵に食む』。足りないリソースは敵から持ってくるんだよ! な実況、はーじまーるよー。

 

 前回は、半竜娘ちゃんたちが、問題の古代遺跡の陵墓群、死者の都(ネクロポリス)を遠目におさめられる高台に陣取り、竜牙兵を素材にした小さな祠を建立し、配置についたところまでですね。

 都市2つ分以上のリソースを抱えると推定される、敵の大悪霊をどのように、ただ4名(+使魔/使徒2体)の冒険者一党が攻略するのか。

 蜥蜴人の城攻め、都市攻囲戦の叡智の見せ所です。乞うご期待!(ハードルを上げていくスタイル)

 

 

 竜骨の小さな祠の前に、半竜娘ちゃんは、結跏趺坐して座っています。

 瞑目し、集中。精神統一。

 その姿は荘厳で、まさに慈母龍(マイアサウラ)の巫女として相応しい神聖さに溢れていると言えましょう。

 

 そんな半竜娘ちゃんが、目を開きました。

 

「では、初手。地脈への接続── 我が分身よ、我が身を、我が精神を、我が魂を、この地に呪縛せよ」

「ふん。そっちの魂はオレが先約だからな。──── 死ぬんじゃねえぞ」

 

 半竜娘ちゃんが、分身(アザーセルフ)にデーモンを喰わせて独立させた闇竜娘(ダークドラコ)ちゃんに対して、最初の指示をしました。

 それを受けた闇竜娘が詠唱し、呪文を行使します。

 

 

 ──── <血は砂に、肉は石に、魂は塵となれ> 【地縛(アースバウンド)

 

 半竜娘ちゃんらが陣取った場所は、高台になっており、山地丘陵の例に漏れず、地脈の通り道でもあります。

 闇竜娘ちゃんの使用した、死霊術【地縛(アースバウンド)*1

が、汚染された地脈から『オォォォォ……』と呻きを伴った呪詛の腕を引き出し、それによって半竜娘ちゃんを絡め捕り、縛り付けます。

 魂を縛り付ける術ですが、今回はそれを逆用し、そこから繋がりを辿ることで魂を地脈に接続した、ということのようです。

 

 はい、これで【地縛】の術による呪縛の腕が、半竜娘ちゃんの魂に触れ、地脈と半竜娘ちゃんの魂を接続しました。

 

 それは膨大な呪いの塊に侵された地脈を受け入れるということであり、並の精神力では耐えられるものではありません。

 しかし、これまでにも【動力炉心(パワーコア)】をその身の崩壊に耐えながらも受け入れたり、TASさん(ティーアース)の導きにより狂魔覚醒剤(マジック・スティミュラント・ポーション)を服用し限界を超越して魂を摩耗させてまで術を使ったりと、ただ事ではない経験を積んでいる半竜娘ちゃんです。

 呪いに負けるような精神力はしていません! 半竜娘ちゃんを信じろ!

 

 とはいえ、それでも心配はありますので、緩和措置として、TS圃人斥候が、己の鎧に埋め込まれた魔道具の核を起動させます。

 

「……戦女神の恩寵厚き鎧よ、オイラたちの頭目に、激励を!」

「……うむ。かたじけないのじゃ」

 

 戦女神の奇跡、【鼓舞(エンカレッジ)*2です。

 柔らかな恩寵の輝きが、一帯に広がりました。

 鎧の宝玉に込められたこの戦女神の奇跡は、恐怖や混乱といった、精神への悪影響を防いでくれます。

 

 きっと呪いから伝わる怨嗟の声を、戦女神の恩寵は遠ざけてくれるはずです。

 苦難に挑む者に加護を与えるとされる戦女神的にも半竜娘ちゃんの在り方は好ましいでしょうから、きっと十分な恩寵が見込めるでしょう。

 

「さあ次じゃ。地脈との接続強化と、怨念の浄化のため、聖剣との同一化を」

「……はい」

 

 次に動いたのは、退魔の聖剣を握った文庫神官ちゃんです。

 彼女は結跏趺坐して座る半竜娘ちゃんの背後に、尻尾を跨ぐように立つと、聖剣を下に向けて突き刺すように構えます。

 

「お姉さま……」

「頼んだのじゃ。ほれ、一思いに」

「……っ、はいっ」

 

 背後の祠の上に止まった白梟使徒が【聖歌(ヒム)*3を歌う中で、退魔の聖剣に文庫神官ちゃんが【聖光(ホーリーライト)*4を纏わせます。

 手の中の聖剣が、聖別されて眩く輝きました。

 

 それを台座に納めるかのように、しかし、勢いよく。

 文庫神官ちゃんは、半竜娘ちゃんの尻尾の付け根に退魔の聖剣を突き刺し。

 貫通させ。

 地面に縫い留めました。

 

 半竜娘ちゃんは、既に【無念無想】*5の境地なのか、突き刺されたにもかかわらず微動だにせず。覚悟ガンギマリ勢ですねえ。

 

「あぁ、それでよいのじゃ」

「くっ。仕方のないこととはいえお姉さまを傷つけなければならないとは……」

 

 次にすかさず、TS圃人斥候が【施錠(ロック)*6の真言呪文を唱えます。

 

「何かの拍子に抜けたり外れたり、呪縛が解けても困るからなー」 TS圃人斥候が大地から伸びる可視化した呪腕も視界に入れて対象にとりました。唱えるのは3つの力ある言葉(トゥルーワード)

 

 ──── <クラヴィス()カリブルヌス(鋼鉄)ノドゥス(結束)> 【施錠(ロック)】!!

 

 これにより、聖剣と、半竜娘ちゃんと、【地縛(アースバウンド)】による呪縛をまとめて、魔力によって一つに緊密に結び付けることに成功。

 魔力によって概念レベルで結びつけられたことにより、大地からの【地縛】の呪腕、退魔の聖剣は、半竜娘ちゃんの肉体へと向けて地脈からの力を流す強靭な流路となったのです。

 これでちょっとやそっとでは接続は剥がれませんし、呪的接続(配管)の中を相当量のマナが流れても、内から弾けたりはしないはずですね。

 

 特に聖なる光を宿した退魔の聖剣は、流路であり、また、濁ったマナを浄化する(カナメ)でもあります。

 封印し邪悪を祓うという権能にかけて、この退魔の剣以上に適したものはありません。

 そのポテンシャルは、都市2つ分の悪霊どころか、世界ひとつを滅ぼす邪悪を封じることが出来るほどだと言います。

 

 そして自らの肉体にもその聖なる力を宿すべく、半竜娘ちゃんは、『コォォオオオオオ……』と息吹を強めていきます。

 特殊な呼吸法により肉体の(リミッター)を外して、さらに銀製の魔法武器に匹敵する聖性を肉体に付与するという武技です。

 名付けて曰く【転龍調息】*7

 

 聖剣に付与された【聖光(ホーリーライト)】を己の気脈に乗せて取り込み、地脈から浸透する呪力と混ぜて浄化し、己の身に纏わせます。

 

「コォォオオオオオ……!!」

 

 半竜娘ちゃんから溢れ出るオーラが黄金に輝き、立ち上っていきます。

 

 これは、まさに、御神体のような荘厳さ……!

 さらに輝く聖剣からの光が、光背となって広がっています。

 聖剣を握ったまま背後で祈りを捧げ続けている文庫神官ちゃんは守護天使(天部)のようでもあります。

 

 名付けるなら、金色半竜結跏趺坐像、とでもすべきでしょうか。

 

 静かに結跏趺坐して瞑目しつつ、尾を縫い留めている聖剣と、大地からの呪腕と、それを補強する【施錠】の魔力と、特殊な呼吸法によりそれらとのさらなる一体化を成した半竜娘ちゃんですが、これはすなわち、彼女そのものが、非常に強力な一塊の聖遺物と化したといってしまっても良いでしょう。

 

 さらに半竜娘ちゃんは請願します、己の細胞全てを祖竜のごとく賦活する祖竜術の奥義を。

 

「<大いなる父祖よご覧あれ! 呪われた渇き、全てを枯らす冥府の闇にも負けぬ我が命を!!> 【竜胞(ドラゴンセル)】!!」

 

 冷気と【分解(ディスインテグレート)】を除く、あらゆる魔法的な衝撃を吸収し、無効化する【竜胞(ドラゴンセル)】の祖竜術が、半竜娘ちゃんの細胞全てを強靭に作り変えていきます!

 

 なんとなく分かってきましたよ!

 

 つまり地脈── 龍脈── をストローのように用いることで呪われたマナを吸い上げ、それを御神体と化した半竜娘ちゃん自身が浄化することで、相手のリソースを削るという目論見なのでしょう!

 ……でも、それをやるには強力な吸引力が必要になるはずです。

 敵方の大悪霊からマナを引き剥がせるほどの吸引力が。

 

「大地の息吹を感じるのじゃ……。そう、この大地もまた、生きておる……!」

 

 半竜娘ちゃんの胸の中心に埋め込まれた【動力炉心】が、【転龍調息】の呼吸のリズムに合わせて輝きを増していきます。

 両腕に刻まれた【鮮血呪紋】がそれに呼応し、赤黒い稲妻を発し始め、赤雷により呪紋が虚空ににじみ出て出力を高めます。

 

 また、いつの間にか使い魔の闇竜娘が、竜骨の祠を収めるように大きく一巡りし、死霊術に必要な刻印を刻んでいました。

 

 

「さぁて、ではその呪い、その怨念、無念、すべてを吸い込んでやろうかの。 ──── <呪害を喰らい排するは竜の業なり、命脈を喰らうは我が(アギト)なり> 【命吸(ヴァイタルドレイン)】!」

 

 

 死霊術【命吸(ヴァイタルドレイン)】!

 生命力を奪う死霊術の一つですが、なるほど! これをポンプ代わりに使うわけですね!

 本来は生物にしか効果のない術ですが、地脈と深く結びつくことにより、無理やりに敵のリソースに直結して効果を及ぼしているようです。

 

 ゴゴゴゴゴと地鳴りがし始めたのがその証拠。

 地脈のマナがこちらに向かって大量に流動し始めたということです!

 

「では、仕上げを頼んだのじゃ!」

「任せなさい!!」

 

 半竜娘ちゃんの頼みを受けて、【魔法知覚】を磨いた弓手、交易神の聖印を提げた森人探検家ちゃんが、両手で構えた大弓に幾本もの矢を番えました。

 それぞれの鏃には、真言呪文と奇跡の両方の輝きが同居しています。

 

 ただ地脈を通じて吸引するだけでは、効率に劣ります。

 必ずしもその地脈の中をマナがスムーズに、かつ、大量に流れられるとは限らないからです。

 地脈が細すぎれば、いわば目詰まりのようなものを起こすことになります。

 地鳴りは、逆に言えば、目詰まりによる抵抗があるという証拠でもあります。

 

 地脈の拡幅、それが必要になるのです。

 

「──── <巡り巡りて風なる我が神、我が鏃を以て、呪われし同胞を天地に還す道を穿たせたまえ> 【解呪(ディスペル)】!

 そして──── <クラヴィス()ノドゥス(結束)リベロ(解放)> 【解錠(アンロック)】!

 解放のための祈りを載せて! 我が渾身! 魂の十六連射! 【十六夜(いざよい)撃ち】、2連!!」

 

 目にも留まらぬ早業!!

 森人探検家ちゃんの鍛えられた指と腕が、その限界を超えた速さで矢をつがえ、撃ち放ちます。

 それは【魔法知覚】が捉え、大地の精霊が地鳴りという形で教えてくれた、地脈の目詰まりを起こした幾つもの地点へと降り注ぎました!

 

 死者の都までの地脈の上、幾つもの大地の要訣に突き立った16本×2、32本の矢は、その鏃に込められた【解呪】の奇跡によって、大地に煮凝(にこご)る障害物たる悪性のマナを消滅させ、さらに【解錠】の魔法によって地脈自体を拡張させたのです!

 

 術と弓矢の奥義の反動により、森人探検家ちゃんが崩れ落ちようとします。

 

 しかし、同時に半竜娘ちゃんがさらなる術を行使。

 

 

「── <呪害を喰らい排するは竜の業なり! 命脈を喰らうは我が(アギト)なり!> 【命吸(ヴァイタルドレイン)】! 【命吸(ヴァイタルドレイン)】! 【命吸(ヴァイタルドレイン)】! 【命吸(ヴァイタルドレイン)】! 【命吸(ヴァイタルドレイン)】!!」

 

 

 【命吸(ヴァイタルドレイン)】を、重ねて5つ。

 最初の呼び水として呪われたマナを吸い出すのに使ったものを合わせて、累積して6つ。

 

 それぞれの【命吸】の術の吸い出し口は、死者の都に蠢く呪われたマナのそれぞれ別の個所に接続。

 それが、森人探検家が【解呪】と【解錠】を込めた32連射の矢によって拡張した、竜骨の祠へと向かう地脈を通過するようにパスを形成。

 さらに竜骨の祠に到達したマナは、【施錠】により強固に結びつけられた、【聖光】を宿した聖剣と【地縛】による呪腕を介して、全身を【転龍調息】によって聖なるものとした半竜娘ちゃんに流れ込みます。

 そして半竜娘ちゃんの聖性を帯びた肉体を介して浄化されたマナは、6つ重ねられた【命吸】の術の吐き出し口として、闇竜娘や白梟使徒も含む、一党全員(4人+2体)に割り振られたのです。

 

 

「来た、来たぞ! 皆の衆、備えよ! 溢れるマナで破裂しないように気を付けよ!!」

 

 

 怒涛と言っても足りないほどの、大河激流のごときマナの流れが、死者の都(ネクロポリス)からこちらへとやってきます!

 

 崩れ落ちかけた森人探検家ちゃんは、しかし膝をつく前に、大量に流れ込んできたマナによってその消耗を回復させられ、踏みとどまることができました。

 

「これは──── 力が溢れてくる!!」

 

「こりゃやっべえ。今なら何でもできそーだぜ」

「これほどのマナが、いえ、私が受けている6倍以上のマナを、お姉さまは浄化し、制御なさっているというのですか……!」

 

 他の仲間たちも、流れ込む清浄化されたマナを受けて高揚しています。

 さらに言えば、術を介して半竜娘ちゃんと繋がることにより、半竜娘ちゃんに引きずられて実力を引き上げられているのかもしれません。

 

 

 ですが、敵もそのような状況を座して見ているだけなハズもなく。

 遠くに見えるネクロポリスで動きがありました。

 

「ひ、ひ、ひ。やっこさんもお出でなすったようだぜ、皆さま方!」

 

 悪魔の翼で空を飛ぶ闇竜娘ちゃんが指差した先には、動き出した恐るべき大悪霊の一部たちが!

 

 死者の都を守る石像たちが、その手に武器を持って動き出し、

 絢爛な霊廟に安置されていたミイラたちは、生前以上の技量を持って甦り、

 毒蛇、大蠍、肉食甲虫、砂漠飛蝗、人喰蟻が悍ましい数の群れとなって這い出し、

 黒い煙のような怨霊が瘴気の領域を伴って霧か何かのように押し寄せてきて、

 砂が巻き上がって意志を持ち、まるで砂嵐でできた巨人のようになって、

 その全てが、竜骨の祠へと向かってこようとしているのです!

 

「手前は動けぬが、全力の支援を行うのじゃ! <セメル(一時)キトー(敏速)オッフェーロ(付与)> 【加速】六連! <竜血の加護ぞあれ!> 【竜眼】! 【竜鱗】! 【竜顎】! 【竜翼】! 【竜命】! 【閃技】! 【竜胞】!」*8

 

 半竜娘ちゃんが一党全員に支援を飛ばします!

 何という大盤振る舞い!

 常に流れ込む膨大なリソースを呪文能力に全振りしています。

 

「<蠟燭の番人よ、知の防人よ! 行く先に待つ陥穽を、どうか我らにお知らせください!>」

 

 さらに限定未来予知の付与を、文庫神官ちゃんが全員に対して行いました。*9

 何という大盤振る舞い!(二回目)

 

 これに勇気を得たTS圃人斥候が、詠唱で【矢避】を張り、巻物を読んで【力場】【抗魔】といった防御系の術を重ねます。

 そこからさらに、【幻影】の術で、敵を幻惑し混乱させ、視界を遮り集中を削ぐような幻を創り出しました。

 

「まー、遠距離攻撃は持たねーけどよー、嫌がらせに関しちゃ、オイラに任せな!!」

 

 流石ニンジャ! 搦め手に関しては頼りになります。

 

 

 使い魔である闇竜娘ちゃんは、【分身】のスクロールで2人に増えると、一方は真言呪文【分解】を撃ちまくる砲台となり。

 

「あはははは! 【分解(ディスインテグレート)】! 【分解(ディスインテグレート)】! 【分解(ディスインテグレート)】!!」

 

 もう一方は、半竜娘ちゃんによる七つ目の【命吸】によるバックアップ+各種バフを受けると、高らかに「【竜 装(チェィンジ! ドラゴン!)】」と叫んで、【不羈なる竜女王(インドミナス)】に変身すると、こちらはこちらでドラゴンブレスと【竜吼】により「GGGGRRRRROOOOOOOO!!!!」と攻撃を始めました。

 

 白梟使徒は、上空から聖歌を響かせながら、「天の裁きなのです!!」とばかりに【聖撃(ホーリースマイト)】の雷を連射しています。

 

 そして森人探検家ちゃんはといえば、強化された視力によって敵の呪文遣いを見つけると、アンデッドを成仏させる【解呪】を付与した鏃で的確に射抜いていきます。

 

「森人に見晴らしのいい高台を押さえられた意味を教えてあげるわ」

 

 

 そうして戦うこと数時間。

 

 時間は半竜娘ちゃんたちの味方でもありました。

 その証拠に、【命吸】により相手のリソースは目減りする一方です。

 日も高く、敵が力を増す夜はまだ遠いのです。

 

 太陽が昇ってアンデッドが焼かれる中でも敵は構わず次々と進行してきています。

 焦りによる力押し。

 リソースの吸収による兵糧攻めは、確かに効いているのです。

 

 雑魚は闇竜娘の分身が放った【竜吼】によってショック死してマナに還り、大地を通じて【命吸】により吸収されていきましたが、逆説、精鋭はまだ残っているということ。

 残った敵の精鋭は、一撃で倒すというわけにもいかなくなり、こちらも徐々に押し込まれつつある……かというとそうでもなく。

 

 なぜなら、数を揃えるのであれば、こちらにも【竜牙兵】の術があるからです。

 【竜牙兵】に【竜牙刀】を持たせ、軍勢を成して対抗するのです。

 多勢に無勢は、いまや敵の方です。

 

「そろそろ頃合いじゃの……!」

 

 そして呪われたマナが薄らいで、半竜娘ちゃんが貯め込んだ清浄化されたマナも膨大になってきたため、半竜娘ちゃんは最後の一押しをすることにしました。

 

「精霊には、精霊を! 清められた想念よ! 砂塵の地に吹く熱き風よ! この地に澱んだ呪いを吹き散らせ!! 出でよ真なる精霊! 【顕現】せよ! サモン・ハイスピリット!!」

 

 これまで呪いによって侵食されることを恐れて行使しなかった精霊術。

 それを解禁し、しかも浄化されたマナを供物に、神にすら伍するという最上位の真精霊(トゥルースピリッツ)を呼び出したのです!

 

 

 思わず膝をついて祈りをささげたくなるほどの巨大すぎる力の具現を背景に、今回はここまで。

 ではまた次回!

 

*1
死霊術【地縛】アースバウンド:行動阻害系の術。呪文抵抗判定に負けると転倒する。フレーバーテキスト曰く、「魂を縛る」とのこと。

*2
鼓舞の革鎧:かつて牧場を襲ったゴブリンロードが持っていた魔法の大斧に嵌め込まれていた魔法の宝玉を移植した鎧。TS圃人斥候の装備。

*3
汎用奇跡【聖歌】ヒム:同じ神を信奉する同志の請願を助ける。

*4
汎用奇跡【聖光】ホーリーライト:アンデッドを祓う聖なる光を放つ/または物品に込めることができる。

*5
武技【無念無想】:雑念を捨てて戦いの流れに応じて自然に体が動く境地。ゾーン、超集中。特定の判定に魂魄値を加算できる。

*6
真言呪文【施錠】ロック:物理的な開閉機構を閉じて固定する。『閉じる』 『固定する』という概念全般に通じるので使い手次第で化ける呪文。なお今回は拡大解釈して、魔力的なものも縛っている。

*7
武技【転龍調息】:波紋の呼吸(JOJO)、あるいは、全集中の呼吸(鬼滅)、そして転龍呼吸法(北斗の拳)、スーパーサイヤ人(ドラゴンボール)。消耗によるペナルティの軽減と、五体総身のデーモン・アンデッド特攻付与。反動ダメージあり。

*8
【竜眼・竜鱗・竜顎・竜翼・竜命・閃技・竜胞】:付与系祖竜術オンパレード。詠唱省略。血を与える代わりに【命吸】のパスを通じて血脈(DNA)に眠る因子を覚醒させ、命中率向上、装甲強化、竜顎のヴィジョンによる自由行動での攻撃、空中機動出来る翼、毒と炎への完全耐性、武技ひとつの追加臨時習得、氷と分解以外の呪文ダメージの吸収を付与。全部乗せ状態。

*9
限定未来予知:知識神の奇跡【真灯】ガイダンス。この術が極まると、出目の片方を6に固定できる。つまりもう片方の出目が6ならクリティカルなので、1/6でクリティカルになるという鬼のような効果。卓によってはクリティカルとしては扱わない裁定もあり得ると思います。




 
吸引力の変わらないただ一つの半竜の巫女。見た目は砂漠ということも相まって即身仏の苦行に身を投じた僧みたいな感じになっている。そして一党全員の常時消耗回復&常時損傷回復。つまり、反動が直ぐに回復されるので、実質的に呪文・武技を使い放題!! 呪文の射程や効果もマナを突っ込むことで上限を超越している想定です。呪文使い放題のシチュエーションは、当SSの初心(古竜族滅)に返って、ということでもありますね。
なおコールゴッドが使えれば、もっと話は早かった模様(誰かに緊急的に習得させるか迷ったほど)。
この後は顕現したトゥルースピリットが、堕ちたる精霊を調伏してフィニッシュ。そのあとは清浄化したマナを逆流させて、古代陵墓のすみずみまで浄化します。

他には『全員を死霊術の【骸化(ゾンビーダンス)】でアンデッド化して敵に味方と誤認させてからの潜入急襲』とか、『真言呪文【跳躍(ジョウント)】でピラミッド中枢に空間転移してダイレクトアタック』とか、『いつもの【突撃】コンボで建物破壊』とかも考えましたが、自分の中ではこの『リソース奪取による自動回復、呪文使用無限化』がしっくり来たのでこれになりました。

次回はクエスト結果と、ゴブスレさんたちの方の様子かなと考えています。
 


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39/n 裏(召喚されし真精霊、砂塵の国の鉢巻剣士くん一行)

 
◆【施錠(ロック)】の使い方の例
 ・毒ガス弾を投げ込んだ部屋に【施錠】し、全ての出口を塞ぐ。
 ・声を上げようとした番兵のお口を【施錠】。
 ・空を飛ぶ竜の翼を【施錠】して無理やり閉じさせて固定し、墜落させる。
 ・斬り落とされた腕の断面同士を合わせて【施錠】して繋いで、応急措置して戦闘続行。
 ・大目玉の瞼を【施錠】し、魔眼を封殺。
 ・怨敵を海中に引きずり込むときに、絶対に逃がさないという決意を込めてしがみつき自分ごと【施錠】して水底へ。
 などなど、生物の関節も有効範囲に収められるのでいろいろと意外な使い道が考えられます。もちろんGMの裁定の範囲で、ですが。あと生物相手だと呪文抵抗判定が入るでしょうし、使い勝手は必ずしも良いものではないかもしれません。

◆前話
聖剣によって大地に縫い留められた金色に輝く半竜の巫女が、呪われたマナを、まるで闇夜にてもなお見えぬ黒き星(ブラックホール)が伴星からその質量(かがやき)を吸い込むかの如く吸収し、聖なる力を宿した五体でもって浄化したそれを無限のリソースとして仲間に配給し、やがては敵を圧倒した。敵の力を己のものにするとは、ふっ、まるで将棋だな……。
 


 

1.神にも等しき真精霊(トゥルースピリット)、巨神兵【顕現】!

 

 砂塵の国の古代陵墓群の上空に、都市一つ分の住人の魂が変換されたかのような膨大な量の浄化されたマナが滞留し、凝集し、輝いていた。

 それはまるで、砂漠にもう一つの太陽が生まれたかのようですらあった。

 

 そのマナの輝きの下には、聖剣によって地面に縫い留められつつも、平然と結跏趺坐した半竜の巫女の姿があった。

 彼女の後ろには聖剣の担い手である、知識神に仕える神官戦士の乙女が居る。

 さらに後ろには竜骨で作られた祠もあった。

 

 

 特殊な呼吸法により黄金に輝くオーラを纏った半竜の巫女が、天に向かって請願する。

 

「精霊には、精霊を! 清められた想念よ! 砂塵の地に吹く熱き風よ! この地に澱んだ呪いを吹き散らせ!! 出でよ真なる精霊! 【顕現】せよ! サモン・ハイスピリット!!」

 

 行使されるは、上位の精霊を呼び出す【顕現(サモン・ハイ・スピリット)】の術。

 通常の呪文の二倍の負荷がかかる呪文だが、地脈からのマナを聖剣と【転龍調息】によって聖性を帯びた己の身体で浄化し、【命吸(ヴァイタルドレイン)】によって還流することによって、彼女は既に限界を超えている身を(さいな)む『超過祈祷(オーバーキャスト)』による消耗を即座に補填する。

 彼女ら一党は、この場においては、無限の回復力を持つに等しい。

 

 そして請願に応え、宙に浮かぶ膨大なマナを喰らって、高次元から精霊が── それも、神のごとき力を持った真なる精霊が── 降臨しようとしていた。

 

「古の陵墓を守るは、魔術師の時代の者たち! その想念は、浄化されても残っておる! おお、カードの時代の魔術師たちよ! 決闘者よ! その叡智をまたここに具現化させよ!」

 

 マナを呼び水に、そして、濾過されてもそこに残った太古の王族の記憶が、かつてこの地で力を奮った精霊を、再びこの地に召喚させる。

 

「敵は狂った自然の化身! しからば、対抗するは、文明の化身こそが相応(ふさわ)しい! 文明の記念碑(オベリスク)よ! その象徴よ! これこそが人類の力の証! 大地と灼熱の精霊の御柱(オンバシラ)!」

 

 清浄なマナが、やがて形を取り始める。

 

 現れるのは巨大な、筋骨隆々とした魔神のごとき様相の、超越存在。

 

「降臨せよ! 文明の守護者! 『オベリスクの巨神兵』!!」

 

 圧倒的なパワー!

 精霊を超越し、これは、もはや神と言っても過言ではない存在!

 

 陵墓から溢れ出す敵の軍勢は、未だ健在。

 なれど、このオベリスクの巨神兵の前では、何の意味もなさない!

 

「ソウルエナジーMAX!!! かつての神よ! この地を取り戻したまえ!!」

 

 召喚された真なる精霊、オベリスクの巨神兵の手に、強大すぎる力が集まっていく!

 

 敵味方の区別なく、そのパワーを前にしては、動きを止めざるを得ない。

 墳墓から現れたミイラの軍勢も、狂った水と森の精霊も、散り散りになった怨霊や毒蟲たちも。

 すべては、神のごときこの精霊の前で裁きを待つ矮小な存在に過ぎないのだ。

 

 やがて、神の拳が振り下ろされ、清浄なエナジーの波濤が、敵のすべてを吹き祓った!

 

 

<『1.ゴッド・ハンド・インパクト!!!』 了>*1

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

2.古代陵墓内にて

 

 すべての敵が消滅した(『全体除去』の効果が適用された)古代陵墓群。

 文明の守護者。記念碑(オベリスク)に宿る精霊たる『オベリスクの巨神兵』は、既に役目を果たして送還された。

 

 これ以降は、この一帯の陵墓群の全てを城郭と見なして力を高めるべく、城塞竜の母たる城塞の精霊が君臨することとなるのだろう。

 

 半竜娘たちは、その身に余るマナを受け止め続けたことによる反動が起きる前に、本当に残党が居ないかの確認をしている。

 といっても、半竜娘は聖剣で尾を大地に縫い付けたまま、離れた高台に(しつら)えた竜骨の祠の前で、余った清浄化されたマナを逆流させて地脈にこびりついた呪いを除去しなければならないのでそちらに残っている。

 聖剣の主たる文庫神官と、術のスペシャリストである高位デーモンの闇竜娘に、同じく文字通りに叡智を司る知識神の使徒である白梟使徒も、半竜娘を補佐するべく留まった。

 相当無茶をして地脈を運用したので、その修復にそれぞれの技量と知識を活用する必要があるのだ。

 

 

 ということは、古代陵墓の方の確認を行うのは、森人探検家とTS圃人斥候となる。

 もちろん彼女らだけでは手が足りないので、敵が一掃されるまで雑兵の相手をしていた竜牙兵の軍団も付けられている。

 竜牙兵の軍団はある程度自律的に動いているが、これは死霊術の応用で、この古代陵墓にとらわれていた王家側の魂に、竜牙兵の身体を間借りしてもらっているためだ。

 

 きびきびと小隊単位で陵墓の安全確認をしていく竜牙兵の軍団に、TS圃人斥候は感心しきりだ。

 

「勝手知ったる何とやら、だなー」

「当時を知っている魂に直接案内してもらえるとか、贅沢というか、ズルっこというか」

「まあ楽できるならいーじゃんね」

「それはそうかもしれないけれど」

 

 冒険の醍醐味である『未知なる遺跡の探検』、というのが味わえなさそうで、森人探検家は少し肩透かしを食らったような表情をしている。

 てきぱきと倒れた石像ゴーレムを起こして元の位置に設置し直していく竜牙兵たちを見ながら、TS圃人斥候が森人探検家を慰めた。まあ、次があるって!

 

「そうね。次に期待、としましょうか。四方世界に、冒険の種は尽きまじと云うものね」

「そーそー。……ところでこの石像、また動き出して襲ってこねーよな?」

「大丈夫でしょ」

 

 遠隔で半竜娘が古代陵墓群の中枢も掌握しているだろうから、再起動したとしてもこちらを襲ってくることはないはずだ。

 これら魔導石像によるメンテナンス機構は便利なので、制御権を掌握し直したのちに、城塞竜に引き継ぐつもりだという。

 

 

 

 そして二人が一通り見て回り、呪いの残滓が無くなったことは確認し終えたころには、もう日も落ちようという頃になっていた。

 

「あー疲れた……」

「そしてあっついわ、マジでー」

 

 半竜娘からの膨大なマナの配給も落ち着き、いよいよ大戦の疲労も誤魔化せなくなってきた森人探検家とTS圃人斥候は、竜牙兵たちに担がれるようにして竜骨の祠まで戻ってきた。

 

 そこでは同じく疲労困憊の半竜娘と文庫神官が、竜骨の祠に寄りかかるようにして意識を失い崩れ落ちていた。

 ちなみに聖剣は既に半竜娘の尾から抜かれて、その傷も治っている。

 姿の見えない闇竜娘は、封具に戻って休んでいるようで、白梟使徒はどこかから捕まえてきたスナネズミを祠の上で食べてご満悦だ。

 

 森人探検家とTS圃人斥候は、周辺警戒を竜牙兵たちに任せると、意識を落とした……。

 

<『2.白梟使徒は「まったく、世話が焼けるのです」と言いながら、竜牙兵を指揮して野営の準備を整え、張った天幕に皆を寝かせた』 了>

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

3.城塞竜、到着!

 

 

 ことの顛末を城塞竜と城塞の精霊にまで知らせに、風の精霊を飛ばして待つこと幾日か。

 先日の戦いの疲れを癒すためにゆっくりと休みを取っていた半竜娘たちの頭上に、何か非常に大きなものの影が差した。

 

「おお、ようやく来たかや」

「干からびるかと思ったわ……」

「待ちくたびれたぜー」

「これはもう、お城の竜の中で、天蓋付きのフカフカベッドで休ませてもらうしかありません……」

 

 飛行形態の城塞竜が、ヒンノムの子らの谷(ゲヘナ)からこちらまで飛来してきたのだ。

 

 それはゆっくりと、陵墓群の中央にある広場── ネクロポリスは都を模しておりセレモニーのための広場もある── に降着した。

 ズゥゥンと、重い音とともに、砂が巻き上がって流れていった。

 

『わー、ご苦労様~~! すっごい綺麗になってるのね!! マナも清らかで潤沢! 素晴らしいわ~~!』

「それはもう苦労したからの!!」

 

 城塞竜の身体の出窓から身を乗り出して、暢気な言葉を放つ城塞の精霊に、半竜娘が胸を張る。

 一歩間違えたら膨大なマナの奔流に自我が希釈されて廃人になるところであったのだ、実際。

 それでなくとも都市二つ分のリソースを相手取ったのだから、一言では済ませられないくらいに大変であった。

 

「ん。では、地脈の占有権限と、陵墓全体の魔導機構の統括権限を委譲するのじゃ」

『ありがと~~。ここまで早く、しかも完璧に片づけてくれると思ってなかったわ~~!! 御礼も別にしっかり渡すわね~~』

「それも期待しておるが、しっかり御子息の傷を治して、手前の娘らの説得の方を頼むのじゃよ!」

『まっかせなさい!』

 

 元はと言えば幼竜娘三姉妹を連れ帰るためのおつかいだったので、そこを蔑ろにされると困るのだ。

 

『まあ、それはそれとして、しばらく泊まっていきなさいな! 城塞の精霊として、歓待するわよ!!』

 

「それはぜひ頼むのじゃ! 娘らの様子も気になっておったしな!」

「助かるわ! もう体中が砂だらけで!!」

「きちんとした屋根のある場所で寝られる!」

「やったーーーー!!」

 

 

<『3.古代陵墓群の中央に立つ城塞竜の中の最高級の一室で、城塞の精霊に歓待される宿泊経験──── プライスレス』 了>

 

 

 半竜娘ら一党は、呪われた古代陵墓群を浄化し、解放した!

 経験点2000点獲得! 成長点5点獲得!

 城塞竜&城塞の精霊とのコネクションを獲得!

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

4.その頃のゴブスレさん一行

 

 

 王国東部国境を抜けて、軽銀商会が発起人を務める隊商が砂漠を行く。

 東部国境を越えて小鬼(ゴブリン)がやってくるというのは本当だったらしく、実際、王国の東隣の砂塵の国への道中において、狼に乗った小鬼の群れに襲撃されることが幾度かあった。

 

「も~~! またゴブリン! ゴブリンばっかり!」

 

 砂漠に合わせてヒラヒラした薄手の布の服に身を包むのは、この乾いた砂漠においても香しい林檎のような森の香りを纏う森人の姫、妖精弓手だ。

 隊商中央の馬車の幌の上に陣取って、四方八方へと百発百中の矢を射る彼女の手によって、押し寄せる小鬼どもは次々と数を減らしていく。

 隊商は編成されている幌馬車の数も多いが、それ相応に護衛の冒険者も揃えているのだ。

 

「合わせなさい!」 「了解、姉さん!」

 

 赤毛の魔術師姉弟が小器用に一言真言(ワンワード)で「「 <ヤクタ(投射)>! 」」と唱えれば、身軽な女武闘家がまるで投石器(カタパルト)に投げられたかの如く、遠くの敵陣へと投射された。

 

 恐らくは【軽功】の武技を修めているであろう女武闘家は、「ハイッヤァアア!!!」と叫びながら、敵の小鬼どもの密集地帯に空中から突撃すると、腕に着けた竜爪(バグナウ)を振り乱して、当たるを幸い蹴散らし始める。

 練り上げた気功の業が炸裂し、腕の一振り、蹴りの一発で、ゴブリン程度の四肢や頭を吹き飛ばす。吹き飛ばされたパーツは砲弾のような勢いで、周囲のゴブリンを襲った。

 しかし多勢に無勢。女と見て襲い掛からんとする小鬼の群れのただ中で、女武闘家だけでは不運(ファンブル)が怖い。

 

 いましもまさに、女武闘家の死角からゴブリンが一匹、飛びかかろうとしていた。

 

 その時!

 

「うぉっりゃあああ!!」

 

 砲弾のごとく飛んできた圃人の少女剣士の長剣が、そのゴブリンの(くび)を刎ねた!

 彼女は頸を刎ねた勢いそのままに砂地に着地── いくらか勢い余って転がったが── し、その圃人の身には大きな長剣を振り回し始める。

 

 女武闘家が圃人の少女剣士が飛んできた方を見れば、重装に身を固めた鉢巻の青年剣士が、盾を構えていた。

 きっと、盾を踏み台にさせてシールドバッシュでこちらに吹き飛ばしたのだろう。

 

「ありがと! 助かった!」

「ああ、無事でよかったぜ!」

 

「ちょっと、私には何もないんですか!?」

「そっちもありがと!」 「おう! いい働きだったぜ!」

 

 女武闘家と鉢巻の青年剣士と圃人の少女剣士ら、この一党の前衛組が互いのコンビネーションを称えつつ殲滅を続行。

 装備の関係で移動速度が出せない鉢巻の青年剣士ですが、その声に赤毛の魔術師姉弟から「「 <クレスクント(成長)>! 」」の一言真言をかけてもらうと、大声でゴブリンたちを挑発。

 挑発に気を取られて、女武闘家と圃人の少女剣士の包囲を崩してしまう小鬼たちに、「「 隙あり! 」」と二人が躍り掛かる。

 

 

 

 逞しくも強き冒険者となった同期と後輩のパーティを笑顔で見つめる女神官。

 『いつかは竜退治』、そう語り合った自分たちは、きっといま、その道の途上にあるのだ。

 彼らはしっかりと成長している。自分も成長できているだろうか。彼らに負けない冒険者になれているだろうか。

 

 ── うん。きっと冒険できている。

 

 女神官は自信を持つと、馬車の荷台から投石紐で石を投げてゴブリンを殺し続ける、薄汚れた鎧の男を見た。

 

 その男こそは、ゴブリンスレイヤーだった。

 

 砂塵の国に、“小鬼の影あり” という。

 となれば、彼の出番に違いなかった。

 

<『4.ともあれ、ゴブリンは殺すべきである』 了>

 

*1
◆オベリスクの巨神兵・ソウルエナジーMAX!!!・ゴッド・ハンド・インパクト!:実はこっそりコストとして味方の竜牙兵を捧げて発動している。敵フィールドを一掃し、さらに無限の攻撃力で相手を撃破する。もちろん元ネタは遊戯王の三幻神のひとつ『オベリスクの巨神兵』。




 
その後、ゴブスレさんたち一行(軽銀商会の隊商)は、シムーンには巻かれずに、サンドマンタの群れなどを横目に、蟲人の砂船の船団と交易したりもしつつ、つつがなく砂塵の国の都まで辿り着いたようです。

さて、どこで半竜娘ちゃんたちとゴブスレさんたち一行を合流なりニアミスなりさせるべきか……。
あと、魔剣を持った青年(『生』と『死』の神ら主催のキャンペーンと思われる、砂塵の国の世直し騎士の物語)とも少し関わり持たせたいし……。
となればやはり半竜娘ちゃんたちもとりあえず砂塵の国の都に行ってもらうべきですね、これは。
 


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40/n 砂塵の国の都にて-1(城塞竜との別れと、蟲人僧正との出会い)

 
ゴブスレ原作小説11巻のフィールを高めるために『吸血鬼ハンターD』や『スター・ウォーズ(EP4)』や『プリンス・オブ・ペルシャ』を復習していたので初投稿です。

◆超勇者ちゃんは今何処(いずこ)
世界の危機に対するカウンター存在である超勇者ちゃんですが、砂塵の国は、いまいつもの <幻想> や <真実> ではない別の神が主催のキャンペーンが進行しているため、基本的には介入しないのだと思われます(王国の魔神王討伐キャンペーンの成長済みPCを投入するのはレギュ違反)。半竜娘ちゃんたちが古代陵墓群の浄化に失敗していればそこから次元を切り裂いて介入する目がありましたが、半竜娘ちゃんたちが自力でカタを付けちゃいましたし……。そもそもこれって青白く光る剣(※護符(アミュレット)がガリガリ反応する青く光(チェレンコフ光)るやつ。あるいはフォースとともにある系のブォンブォンいうやつ)を持った騎士くんをPC1とした長期キャンペーン『砂塵の国の世直し道中(仮)』のたぶん3シナリオ目くらいの相手を横取りした形(なので必要フラグが足りず半竜娘ちゃんたちの解法は力技になった)な気がするので、担当する神さま(GM)が代わりになるまた別のエネミーを見繕ってるところだと思います。

===

◆前話
しょんぼり半竜娘「敵が全部(ぜーんぶ)、雑魚から中枢までゴッド・ハンド・インパクトで吹き飛びよったので、心臓を喰えなかったのじゃ……。あれほど強大な敵の心臓やコアであれば、さぞかし美味であったろうに……残念じゃ」
 


 

 折角なので砂塵の国の都*1まで観光しに行く実況、はーじまーるよー。

 

 前回は精霊の枠を超えた神のごとき存在(『オベリスクの巨神兵』)を召喚して、呪われた古代陵墓群に巣食っていた敵性存在を一切合切押し流(ゴッド・ハンド・インパクト!)したところまでですね。

 その後、浄化完了の伝言を受けた城塞竜(キャッスルドラゴン)と城塞の精霊が古代陵墓群まで飛んできて、その地脈を掌握。

 古代陵墓群のメンテナンス機構も含めて半竜娘ちゃんから権限を委譲された城塞竜と城塞の精霊は、地脈から汲み上げたマナと、自動メンテナンスの石像たちの働きによって、傷を癒していきます。

 

 そして半竜娘ちゃんたち一行は古代陵墓群浄化を(ねぎら)う城塞の精霊に歓待されて、城塞竜の体内の最高級の一室でしばらく過ごすことになりました。

 ドラゴンの体内で上位精霊に歓待されるとは、どんな国の王族でもあるいは大富豪でも体験できないような稀有な経験です。

 

 

 半竜娘ちゃんは久々に娘の幼竜娘三姉妹との緩やかな時を過ごしたり、ママ友みたいな感じで城塞の精霊と交流したり。

 森人探検家ちゃんは、手持ちで解読していた宝の地図が示していた場所── 数日前まで城塞竜が陣取っていた “ヒンノムの子らの谷(ゲヘナ)” ── で城塞竜が回収していた宝物を譲ってくれるというので、鑑定がてら目録を作り、金貨を積み上げてはだらしない笑みを浮かべ。

 TS圃人斥候ちゃんは気まぐれにその手伝いをしたり、城塞の精霊の至れり尽くせりなサービスを受けて日がな一日食っちゃ寝したり。

 文庫神官ちゃんも宝物の目録作りに加わったり、城塞の精霊からその謂れを聞いて知識神の文庫に納める記録を付けたり。

 

 めいめいに自由に、しかし有意義に時間を過ごしていきました。

 もちろん城塞の精霊による最上級の歓待を受けながら、です。

 

 

 半竜娘ら一党は、消耗を無理やり癒しながら長時間戦い、その後、極上の休息をとったことにより、冒険者技能【忍耐】と冒険者技能【頑健】が成長した(それぞれ1段階強化)!*2

 

 

 そして歓待されること数日。

 十分な休息をとった彼女らは、古代陵墓群に陣取った城塞竜のもとを出立することにしました。

 

「「「 さよ~なら~、また会おうね~~!! 」」」 幼竜娘三姉妹がかなりの勢いで遠ざかる城塞竜(城塞形態)の姿に対してずっと手を振っています。どうやらきちんとお別れが出来た模様。

 おそらくは初恋を覚えただろう三姉妹── 成長が早いので見た目は既に只人の10歳程度には見えますし淡い初恋を知ってもおかしくはないのかもしれません── の恋慕が将来実るかは、彼女たちが長じても城塞竜のことを覚えていられるかどうかにかかっていることでしょう。初恋ってのはそういう朧げなものですし。

 それに蜥蜴人の価値観というのは、割合に刹那的な面もありますからね。案外コロッと直ぐに忘れてしまうかもしれません。

 あるいは <生> と <死> の二柱の神がもたらす命の螺旋の導きか、<宿命(フェイト)> と <偶然(チャンス)> の出目次第、といったところでしょうか。

 

 保護者の一党一同4名はそんな初々しい愛娘たちを目を細めて見ています。

 ……我が身を振り返ると割と爛れた関係を一党内で結んでしまっているので、そこからは目を背けておきましょう。

 

 さて、ところで。

 

 彼女たち一党は、この砂漠に来るにあたっては巨大化した半竜娘ちゃんに乗ってやってきたので、いつもの麒麟竜馬も、独立懸架式装甲馬車も持ってきていません。

 にもかかわらず、現在相応のスピードで移動中です。

 

 かといって、砂船や駱駝の行列を呼んだわけでもなく。

 であれば彼女たちは、何に乗っているのかというと。

 

「魔法の絨毯なんてもんがホントにあるんだなー。エルフパイセンは見たことあった?」

「いいえ、私も御伽噺でしか聞いたことがなかったわね」

 

 そう!

 砂漠の御伽噺に語られる “空飛ぶ魔法の絨毯” です!

 

「見た目は古ぼけた絨毯にしか見えんがのう」

「模様も擦り切れてしまっていますものね。今にも穴が開きそうなくらいにペラペラですし、そんな凄い魔法の品には見えません」

 

 砂漠の国は精緻に織られた絨毯が特産ですが、民の生活にも絨毯は根ざしています。

 室内に敷いたり、壁から垂らしたりといったインテリアとしての使い方は勿論ですが、古びた絨毯も逆にそのペラペラになった薄さを生かして持ち運んでピクニックシート代わりに野外で使ったりするわけです。

 この空飛ぶ絨毯も、使い古しの野外用途の物に古の魔術師が【浮遊(フロート)】の真言呪文を込めたものなのでしょう。

 

「陵墓の一室、しかも資材置き場っぽいレイアウトのところにたくさん納められていましたし、太古の魔術師たちが死者の都(ネクロポリス)建設の際に用いた使い捨ての資材運搬用具だったりするんでしょうか」

「そうかもしれんのう。陵墓維持のための石像ゴーレムもそうじゃが、かなり高度な魔術文明の時代の遺跡だったようじゃの」

 

 使徒の白梟を肩に乗せた文庫神官ちゃんと、どっかりと絨毯の上に座り込む半竜娘ちゃんの言う通り。

 現代では非常に希少で便利なマジックアイテムでも、どうやら太古の “魔術師たちの時代” においては一山(ひとやま)幾らの消耗品にしか過ぎなかったようです。

 これも山ほど貰った財宝たちに比べればほんのオマケでしかありません。

 その証拠に絨毯の片隅には、財宝がいっぱいに詰まったマジックバッグが幾つも転がっています。太っ腹なことにマジックバッグも込みで、今回の報酬です。

 

「まあこの絨毯、見た目はぼろいにしても、この国の都までの距離なら十分に持つと思うわよ」

「そしたら駱駝(ラクダ)とかいう(こぶ)付き驢馬(ロバ)でも買って、帰りのアシを確保しようぜ。せっかくの魔法の絨毯だ、使い潰すにはもったいねーよ」

 

 ぼろく見えるとはいえ森人探検家の鑑定によればまだまだ使えるようです。

 とはいえ無尽蔵に使えるわけでもなさそうですので、TS圃人斥候の言う通り、街や都に着けば別の足を用意するのが賢明でしょう。

 

 

 幼竜娘三姉妹は名残惜しいのか、ずっと古代陵墓群の方を── つまり城塞竜の方を── 見ています。

 いつまでも、いつまでも……。

 

 

 

 

 さて早朝に出発してから暫く経ち、日差しが強くなってきたため、みんなで砂漠用の薄手の外套を羽織ることにします。

 さらに蛟竜の水精霊を、高級な触媒である上等な御神酒を用いて── 過酷な環境に呼び出すのでご機嫌取りは必要です── 呼び出し、周りを涼しくしてもらうことにしました。

 赤き死の風(シムーン)を前に城塞竜に追われた際に力尽きた蛟竜の水精霊(かのじょ)も、十分な休息期間と上等な捧げ物を得て復活しています。

 

 地表から浮いて相当の速度で飛ぶ魔法の絨毯の上で風を受けつつ、報酬でもらった財宝の一つである “無限の小樽” *3に詰めた水を、蛟竜の水精霊が霧状にして少しずつ振り撒いてくれているので気化熱で非常に快適です。

 

「そろそろ着くかしらね」

「きっとそのはずじゃ」

 

 森人探検家が耳を動かして精霊の声を聴きます。

 蛟竜の水精霊の気配以外にも、砂の精霊や風の精霊など砂漠に棲む精霊たちの気配を感じます。砂漠もまた自然の一つであるからです。人のいるオアシスに近づけば水の精霊の気配も増していきますから、森人探検家は、それによって都の方角の目星をつけられるようです。

 また上空を飛んでやってきたときにざっと地形を空撮して頭の中に入れている半竜娘ちゃんの感覚も、そろそろこの砂塵の国の都に着くはずだと告げています。

 

 その予感のとおり、行く先に、特徴的な玉ねぎのような屋根をした塔が立ち並ぶ都が見えてきました。

 砂塵の国の都です。

 

「まー、特に用があるわけじゃねーが、折角だから国一番の都までは足を伸ばしておきたいよなー」

「なかなかここまで遠出する機会はありませんものね。知識神の神官としても異国の文物を集められる機会は逃せません!!」

 

 砂塵の国と、彼女たちが拠点を置く西方辺境を擁する王国との関係は、ここ暫く悪化しているそうですからね。

 もし戦争なんてことになれば、気軽に国境を越えて訪れることも難しくなるでしょうし、今のうちに観光して満喫するのは正解のはずです。

 また軍資金もたっぷりありますし、異国の市場で掘り出し物を探すなり、書物や魔導具を蒐集してみるのも面白そうです。

 

「先の依頼人の犀人が仕えておる商人も、きっとここに店を構えておるのじゃろうしな」

「まずはそこを尋ねてみましょうか。大商人の伝手を頼りにできるなら、大いに頼った方が良いわ」

「確か本店は『黄金の蜃気楼亭』と言うのでしたっけ」

「へー、洒落た名前だな!」

 

 この砂漠に来ることになったきっかけ、賊頭鳥人の追跡依頼をしてきた犀人と踊り子は、大商人に仕えていると言っていました。

 あれほどの凄腕を抱えているのもそうですが、金払いも良く、“ヒンノムの子らの谷(ゲヘナ)” 近くのオアシスに構えた支店で受けた豪華な歓待からも、相当の大店であることが伺えます。

 都にも『黄金の蜃気楼亭』というお店を構えているそうですから、頼りにさせてもらうことにしましょう。

 

 

 

 

 都にもかなり近づき、城壁もはっきり見えるようになりました。

 とはいえこのまま魔法の絨毯で近づくと、検問の兵士に難癖付けられて絨毯や財宝を取り上げられたりするかもしれませんから、適当なところで降りて徒歩で近づく必要があるでしょう。

 さて何処で絨毯から降りようかと思案していたところ、こちらに近づいてくる砂船の船団に気づきました。

 

 面倒な手合いにでも目を付けられたか、あるいは砂賊か、と警戒する半竜娘ちゃん一行に、その船団の中で一番大きな砂船から声が掛かりました。

 

「おーい、その魔法の絨毯で飛んでるのはひょっとして、蒼鱗ドラゴンズの巨竜の女エースじゃねえか!?」

 

 ん?

 どうやら悪意を持った接触ではなさそうです。

 そして相手は半竜娘ちゃんのことを知っているようですね。

 

 蒼鱗ドラゴンズというのは、半年ほど前の冬に王都で半竜娘ちゃんが加入して試合に出た魔球(ウィズボール)のチームの名前です。

 その時は銅等級昇格試験を兼ねた依頼達成のためにウィズボールチームの蒼鱗ドラゴンズに潜り込み、優勝者決定戦の相手の黒角ジャイアンツと試合をしたのでした。

 まあ、ウィズボールにつきものの事件表(ハプニング)── あるいは球戯神の加護── によって、最終的には金剛石の騎士や超勇者一行が飛び入りし、人食鬼(オーガ)領域の鬼神が降臨したりそれを因縁のあるオーガ三兄弟が喰ってパワーアップしたり、結局乱闘で決着を付けたりと色々ありました。

 

「その通りじゃ! 蒼鱗ドラゴンズのエースとは手前(てまえ)のことよ!」

「おおやはりそうか! こんなところで会えるとは……! おもしれえ……」

 

 おや、この口調は……?

 

 そのとき森人探検家ちゃんが何かに気付きました。

 船団が近づいてきたことで彼女の【魔法知覚】の範囲に入ったのでしょう。

 慌てて絨毯の上に立ち上がります。

 

「この神々しくも厳格な信仰のオーラは……まさか、僧正様!?」

 

 ウィズボールの運営というか賭博においては、交易神の神殿も一枚噛んでいます。

 森人探検家も運営側として参加しており、そこで触れたオーラのことを覚えていたのです。

 まあその時の森人探検家は超高配当の大当たりを引いた嬉しさ余って半ば意識を飛ばしていたのですが……。

 

 いえ、それでも忘れられるはずもありません。

 六英雄(オールスターズ)と称えられる、12年前の魔神王討伐者にして≪死の迷宮(ダンジョン・オブ・ザ・デッド)≫攻略者のうちの一人。

 交易神に仕える蟲人の神官──── 蟲人僧正のオーラを。

 

「お、いつぞやの森人(エルフ)の神官じゃねえか。ちゃんと交易神様の教えを守って励んでるか?」

「はいっ! 僧正様!」

 

 ビシッと直立して礼をする森人探検家に、一党の他の者もただ事じゃないと悟り始めます。

 

 なんと言っても救国の英雄ですからねえ。

 蟲人僧正さんは、水の都の至高神の聖女、盲目の“剣の乙女” さんと同じパーティだったお方です。

 ……って、そういえば半竜娘ちゃんの一党は、剣の乙女さんとは面識がまだ無いはずなので、六英雄(オールスターズ)の中では蟲人僧正さんが初遭遇になりますか。

 

「まあそれはともかくだ。オフのところ悪いんだが、もし良ければ記念にサインでもくれねえか? ま、無理なら無理で、仕方ねえが」

 

 そう言いつつも、蟲人僧正さんの声はファンサービスを待望しているように聞こえました。

 

 半竜娘ちゃんも火吹き山での【鮮血竜姫(ブラッディ・ドラキュリーナ)】としての興行の経験もあり、こういったファンへの対応にも慣れたものです。

 にやりと笑って筆記具を取り出します。

 

「その程度お安い御用じゃとも! その代わりと言っては何じゃが、この国の今の情勢についても聞かせてくれると助かるのじゃ」

「風の噂だとか世間話だとかで良いのならな」

「それと六英雄の冒険譚も、是非に」

 

 そのリクエストを聞いて、ガチン、と蟲人僧正さんが大顎を打ち鳴らします。

 

「お安い御用だ。だが良いのか、あまり時間を掛けると街門が閉まるぞ。……ま、俺はどっちでも構わんがな」

「なぁに、都は逃げはすまいよ。それより一期一会と云うじゃろう? 出会いは大切にせねばな」

「なるほど道理だ」

 

 頭目同士で笑い合うと、それで話はまとまりました。

 

 船団が陣形を組むように丸く円を描いて配置し、中心に風が通らないように同心円状に並びます。熟練の船員たちによるスムーズな操船で、惚れ惚れするほどです。

 帆を畳んで動きを止めた船から飛び降りた蟲人の若者たちが砂地に丸太の柱を立て、船の舷から柱に布を張って日除けのターフにします。

 半竜娘ちゃんたちが乗った魔法の絨毯はすいすいと船の間を縫って飛び、砂船に囲まれた中心の開けた場所に着陸しました。

 

 宴の始まりです!

 

 

 といったところで今回はここまで。それではまた次回。

 

*1
都=国で一番の都市。つまり首都、王都。

*2
【忍耐】(消耗レベルが上がりにくくなる。つまり武技などのリソースとしての消耗点が使いやすくなる)と【頑健】(生命力に+ボーナス)の成長:
PC名【忍耐】【頑健】
半竜娘初歩→習熟初歩→習熟
森人探検家習熟→熟練初歩→習熟
TS圃人斥候習熟→熟練習熟→熟練
文庫神官習熟→熟練熟練→達人

*3
魔法の物品『無限の小樽』:高さ30cm程度の小さな樽。中には魔法の力で400Lほどの液体が入る。重さは魔法により軽減され、4kgより重くなることはない。




 
 六英雄とコミュを築くチャンスを逃すわけにはいかないんだよなあ。

 宴の最中に興が乗って実際に『半竜娘ちゃんチーム VS 蟲人船団員』でウィズボールを始めちゃったり、ウィズボールの気配に気づいて都から抜け出してきた密偵(パワプロ)くんが乱入してきたりそういうこともあるかと思います。

 なお、既にゴブスレさんたち(女商人ちゃんのキャラバン(損耗なし)、その護衛の鉢巻剣士くん一党、いつものゴブスレさん一党、女商人ちゃんの元一党のうち幾人かまだ護衛として雇われてくれる者)は、砂塵の国の都に入っています。
 大所帯なのでなかなか機敏な動きはできませんが、現状、軽銀商会の蛍石鉱脈の販路開拓というのがカモフラージュだとはバレておらず(実際に販路開拓もしますが)、人数が多いゆえに手広く情報収集をしているところです。

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40/n 砂塵の国の都にて-2(草魔球試合と合流)

 
密偵(パワポケ)くんたちの仕掛(ラン)(第六世界の方)を見返したりロード・オブ・ザ・リングの新シリーズを見たりしていたので初投稿です。
 
◆前話
 古代陵墓群の浄化はハードワークだったが、極上の休暇をとったおかげでみんなタフに成長したぜ。
 幼竜娘三姉妹(生後1年数か月。肉体は只人10歳児相当)と城塞竜(実年齢不明。精神は只人の5歳児程度に相当)の間で交わされた淡い想い……そして別れ……。
 空飛ぶ絨毯で辿り着いた砂塵の国の都の街壁の外で、蟲人僧正さんと交流を深めよう。
 そして魔球(ウィズボール)だぁあ!!!
 


 

 事件表で『乱入』を引いたから選手(プレイヤー)が増えるウィズボール実況、はーじまーるよー。

 

 前回は休息を終えて城塞竜と別れ、魔法の絨毯で砂塵の国の都の近くに飛んで来たら、蟲人の操る砂船の船団に引き留められ、その船団のトップであり六英雄(オールスターズ)の一員でもある蟲人僧正さんと親交を深めようと、その場で宴を始めたところまででしたね。

 

 蟲人僧正さんは大の魔球(ウィズボール)ファン。

 西方辺境を有する王国の都で冬に行われたウィズボール優勝者決定戦の立役者にして、その優勝したチーム:蒼鱗ドラゴンズのエース選手である半竜娘ちゃんを見かけた彼が、彼女との交流を望むのは当然の成り行きでした。

 もちろん半竜娘ちゃんたちからしても、≪死の迷宮≫ を踏破した蟲人僧正さんの話を聞きたかったというのもあります。この砂塵の国の情勢も知りたかったところですしね。

 

 というわけで野外で宴会です。

 砂船による円陣を組んで簡易の野営地に仕立て上げ、船に積んでいた猟果たる(サンド)海鷂魚(マンタ)の肉も振舞って、親交を深める宴が催されます。

 そうすると通りがかる行商人や砂船がそれに気づいて、我も我もと加わってきました。

 

 砂塵の国の人々はおおらかで、情熱的でもあるのです。

 さらに都に行く者たちの一部だけでなく、どうも物見高い市民や滞在者が都から出てきてまで参加してきています。夜になって街門が閉められて戻れなくなることなどお構いなしです。

 蟲人僧正さんからの情報によると、今、この砂塵の国は政情不安であるとか。そのため、市民も鬱憤晴らしを求めていたのではないかとのこと。

 

 このように思った以上に大事(おおごと)になりつつある宴会ですが、ここでさらに盛り上がるネタが投下されます。

 

 ウィズボールの草試合です。

 

 今回の宴の “事の発端” であり縁結びのよすがとなったのは、ウィズボールでした。

 となれば実際に半竜娘ちゃんを含むチームと戦いたいという声が上がるのは不可避ですよね。

 

 サービス精神旺盛な半竜娘ちゃんはこれを快諾。

 突発的に、篝火に照らされた砂地の上でウィズボールの草試合が開催されることになったのです。

 対戦は、蟲人僧正さん率いる船団員のチームと、半竜娘ちゃん一党を中心とした王国チームです。

 

 しかしそこで少し問題が。

 

「手前らの一党(パーティ)は知識神の使徒殿に獣人形態になってもらったとて5人*1。人数が足りぬ」

 

 半竜娘ちゃんの首から下がる “竜牙の首飾り” には、契約魔神である闇竜娘ちゃんが宿っていますが、流石にデーモンを衆人環視の中で披露するわけにも参りませんし、チームメンバーに数えることは出来ません。

 【分身(アザーセルフ)】の真言呪文で半竜娘ちゃんが増えても良いのですが、折角これだけ人数が周囲に集まっているなら、そこから選手を募っても良いでしょう。

 折角の余興の草試合ですし、輪に加わる人数は多い方が盛り上がるでしょうからね。

 

 え? ウィズボールは草試合でも負傷のリスクが大きいから危険ではないかって? それは問題ないのかって?

 

 ははは、ご安心めされい。そこはきちんと考慮済みです。

 最上級の竜司祭である半竜娘ちゃんと、同じく交易神の信仰を極めている蟲人僧正さんが居るんですから、即死でなければ何とでもなります。

 安心して鉄球や金棒を投げ合って怪我していただいて構いませんことよ!(そういうことじゃない)

 

 さて、というわけで5人しかいない半竜娘ちゃんチームは、自陣営の助っ人を募集するようです。

 特に投手。

 只人(ヒューム)の投手が欲しいですね、投擲適性的に。ヒトの武器は太古の時代から投石と投槍だって決まっていますからね。

 ……文庫神官ちゃんは只人では? って思うでしょ。でもそれがね、あの子ね、盾打ち(シールドバッシュ)のぶつかり稽古で鍛え上げすぎて肩があんまり回んなくなっちゃってましてね。*2

 

「手前は捕手(キャッチャー)じゃしなあ。ここは投手が欲しいところじゃ。──── さあ、我こそはという者はおらぬか!!」

 

 

 

「──── それなら俺に投げさせてくれ!! 是非とも頼む!!」

 

 声を張り上げて前に出たのは、軍帽に革の外套を纏った男でした。

 ……密偵くんですね。水の街に拠点を置く仕掛人(ランナー)です。

 

 ご禁制の呪詛施術を用いて動かないはずの四肢を強化して動かしている密偵(パワポケ)くん(元魔球選手)ですが、その力は一般人を大きく上回っています。

 そんな彼は普通の人間相手に試合をしても無双状態になっちゃだけなのですが……今回はワンサイドゲームにはならなさそうです。

 

 敵チームには六英雄の一人たる蟲人僧正さんがいますし、剛速球を受け止める味方のキャッチャーにはLv10冒険者たる半竜娘ちゃんが入ります。

 彼ら彼女らと一緒にゲームをするなら、密偵くんがその呪詛強化された剛腕で鉄球を投げて、その常人離れした膂力を十全に発揮しても試合は成り立つでしょう。

 

 

「ウィズボール、レディ……プレイボール!!」 どこからか審判が現れ── 何処からともなく現れて正確で公平な審判としての役目を全うするナイスミドルの姿をした都市伝説的存在。一説には球戯神の化身とも── 試合が開始されます。

 

「え、いやおっさん何処から現れた!!?」 幾ら夜闇に篝火しかないとはいえ、TS圃人斥候は己の気配察知をすり抜けた審判のナイスミドルに驚愕をあらわにします。

 まあ、そういうものですから気にしたら負けですよ?

 

 

 さて、足場が砂地でも、酒が多少入っていても、ウィズボールの試合をするには支障ありません。

 むしろそれもまた草試合の趣というものです。

 

 投手の密偵くんは、捕手の半竜娘ちゃんの構えるミット目がけてに思いっきり投げ込んでいきます。大迫力の轟音を立ててミットに納まる鉄球に、応援の幼竜娘三姉妹も大興奮です。

 対する蟲人船団のチームは、蟲特有の高分解能の視野でなんとか金棒(バット)を合わせていきますが、変化球を交えた密偵くんの球の組み立てに翻弄されていきます。

 溌溂として汗を散らす密偵くんはとても楽しそうです。眼窩に仕込まれた【蝙蝠の眼】により暗闇をものともしないこともあり、その制球は正確無比です。

 

 そうこうしているうちにヒットを翼人形態の白梟使徒が空中キャッチし、攻守交替。

 そして森人探検家がバントのあと走力を生かして出塁し、TS圃人斥候が盛り上がった観客に向けて愛想を振りまきつつ犠打で走者を進めさせ、文庫神官ちゃんが身体を張ってデッドボールを受けて出塁し、半竜娘ちゃんがクリーンナップとしての仕事して走者一掃して本塁に還します。

 

 草魔球の試合は夜が更けるのに関わらず盛り上がりを続けます。

 

 密偵くんも楽しそうですね。やはり彼にはウィズボールが似合います。

 はっちゃけて実力をひけらかすのは影を走る者(シャドウランナー)としては褒められたものではありませんが、まあ旅の恥は掻き捨てと言いますし……。次に来る機会もないだろう異国で大立ち回りしても、大して後腐れはないからですね。

 

 密偵くんも久々に他事を気にせず思いっきり魔球(ウィズボール)が出来たのかご満悦です。

 蟲人僧正さんにホームランされてもすぐに気を取り直して、「コールドゲームにならないならその方が良いってもんだな」などと嘯いてゲームを続けます。

 

 密偵くんが高揚する要因のひとつとして、昨年のウィズボール優勝チームの大型助っ人だった半竜娘ちゃんとバッテリーを組むことに対するミーハーな気持ちも少しはあるのかもしれません。

 まあ密偵くんの贔屓のチームが蒼鱗ドラゴンズかどうかは分かりませんが、エースたる半竜娘ちゃんに一定の敬意を払っては居るでしょう、きっと。

 そして(ひかり)(かげ)でそう簡単に道が交わるものではないと密偵くんは割り切っているので、実力がバレるのを厭わずに、一期一会と思って楽しんだのかもしれませんね。

 

 

 

 やがてゲームセット。

 

 さて、半竜娘ちゃんチームと蟲人船団チーム、どっちが勝ったかは──── 語るのは野暮ってもんでしょう。

 

 それに後処理がありますからね。

 草試合とはいえ、ウィズボールはウィズボール。

 怪我人続出の死屍累々の有様です。

 お決まりの乱闘もしっかり発生しましたし、むべなるかな。

 

 幸いにして、その後、半竜娘ちゃんや蟲人僧正さんたち神官組が治療をして回ったため、再起不能(リタイア)な者は出ませんでした。

 

 ちなみに審判のナイスミドルはいつの間にか消えていました。やはり都市伝説的存在……。

 

「……んー、審判殿もじゃが、ピッチャー殿も()らんくなっとるのう。──── ああ、いやそういうことか」

 

 そして投手を務めた密偵くんもまた、砂漠の夜の闇に消えていました。

 しかし鋭敏な半竜娘ちゃんの感覚が、街の方へと遠ざかる密偵くんの気配と、それに並んで歩く強力な魔術師の気配を感じ取ります。迎えでしょうか?

 距離近く並んで歩く二人の気配に何か納得すると、半竜娘ちゃんは蟲人僧正さんとの宴に戻ることにしたようです。

 

「ま、引き留める方が野暮ってもんじゃな」*3

 

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 

 夜が明けました。

 

 夜通し騒ぎ続けて途中で衛兵がやってきたのを無理やり宴に引き込んで酔い潰したりもしましたが、まだまだみんな元気です。

 一流の冒険者は酒毒(アルコール)耐性も抜群ですからね。

 

「良い宴だったな」

「うむ、砂地に座り、輪になって獲物の肉を焙って酒を汲み交わして、時には殴り合う。故郷の宴を思い出したのじゃ」

 

 なかなか蜥蜴人チックな宴だったので、半竜娘ちゃんも満足げです。

 ついでに言えば、途中で宴を解散させようとしてきた衛兵たちの頭の中を、真言呪文【読心(マインドリーディング)】で読んだので、この砂塵の国の情勢についても、ある程度は蟲人僧正さんから聞いた情報の裏取りができました。

 とはいえ下っ端の衛兵なので、その確度はお察しではありますが。

 

 

 

 蟲人僧正さんたちに別れを告げ、寝落ちしたままの幼竜娘三姉妹を背負って一行は砂塵の国の都へと向かうことにしました。

 当初の目的どおり、砂塵の国の都を観光するつもりです。

 

 半竜娘ちゃん一行が適当に荷物を畳んで、朝になって開いた街門へ行き、入市に当たって幾らかの小銭を衛兵に投げて── ついでに夜半に酔い潰した方の衛兵も物陰に投げ込んでおいた── 、やって来たるは砂塵の国の都であります。

 

「わあ、砂の匂いから、一気に水や人やスパイス、食べ物の匂いに変わったわね」

「朝飯の食えそうな屋台も出てるみてーだけど、見たことねー料理が多いな……」

 

 森人探検家が森人(エルフ)の繊細な感覚で都市の空気を評し、種族的に大食いの圃人たるTS圃人斥候は周辺の屋台に目移りしています。

 

 さてまずは宿を取って休むべきか、幼竜娘三姉妹を寝床に寝かせなければならないし、と宿を探して通りを歩く半竜娘ちゃんたちご一行。

 周囲の屋台の食べ物を買って食べ歩きしながら道を行きます。

 さてさて、『目星』を振って、良い宿を見つけたいところです。

 

 

 すると文庫神官ちゃんが何かに気付いたようです。

 

「んん??」

「おん? どうしたのじゃ?」

「あ、いえ、お姉さまの叔父様のお姿が見えた気がして……」

叔父貴(オジキ)殿の? 見間違えや他人の空似ではないのかや?」

 

 半竜娘ちゃんの母方の叔父にあたる蜥蜴人といえば、ゴブスレさん一党の蜥蜴僧侶さんです。*4

 ですが王国の西方辺境を根城にする蜥蜴僧侶さんたちゴブスレさん一党が、東の国境を越えてはるばる砂塵の国の都まで来ているとも考えづらいと思った半竜娘ちゃんは、半信半疑です。

 背負った幼竜娘三姉妹の三人を落とさないように気を付けつつ、只人の文庫神官ちゃんには蜥蜴人の見分けはつかないのではないか、という先入観もあり、首を捻ります。

 

「む。お姉さま。これでも私、知識神の神官なんですよ。蜥蜴人の方たちを見分けるコツも知悉(ちしつ)しています」

 

 鱗の色、目と鼻の間の鱗の形、頭部骨格のシルエット。

 見分けのコツを列挙する文庫神官ちゃんに、半竜娘ちゃんは分かった分かったと宥めます。

 ──── いつかお姉さまの故郷に行ったときのために覚えたのですよ。だなんて言われると、それは全くもって殺し文句ですよね。

 

 となると、蜥蜴僧侶さんがこの砂塵の国の都に居ることになるのですが……。

 

「ふぅむ。駱駝とやらの乳を売っている、と。……店主、これのチーズはないのであろうか」

「駱駝のチーズなあ……。聞かねえなあ。なかなか固まらねえらしいがなあ」

「むむ。てっきり全ての乳はチーズになるやと思っておりましたが、そうではない、と。いやはや、まだまだ知らぬことがありますなあ」

「ま、駱駝の乳はそのまま飲むもんだぜ、旦那! それにチーズなら、牛の乳を入れた水袋が駱駝に揺られて出来上がったっていう昔ながらの製法の奴があるぜ! ホラこれだ!」

「おお、ではそれを戴こう」

「まいど!!」

 

 あ、これは居ますね。間違いない。

 

 というところで今回はここまで。それではまた次回!

 

*1
半竜娘ちゃんチームのメンバー5人:半竜娘、森人探検家、TS圃人斥候、文庫神官、使徒白梟。ウィズボールの試合には最低でも6人の選手が必要。

*2
文庫神官ちゃんの【武器:投擲武器】技能:サプリ適用時の成長点再振り(スキルリビルド)で只人生得技能の冒険者技能【武器:投擲武器(初歩)】を失ってしまっている。種族特性を再振り対象にできるかどうかはGMの判断に従おうね!

*3
遠ざかる二人:

途中から観戦していた赤毛の森人魔術師(取り替え子の森人)「目立っちゃダメなんじゃなかったっけ? 門の外とはいえ、何やってるのさ」

軍帽を被った密偵「いや、血が騒いじまってさ……」

赤毛の森人魔術師「まったく。まあ君が楽しそうだったから良いけどね」(キャッチャーの娘には少し妬けちゃったけど)

*4
半竜娘ちゃんは蜥蜴僧侶さんの姪:オリジナル設定。出自表の『邂逅:宿敵』の相手である黒鱗の古竜をぶちのめした後に、新たに『邂逅:家族』が生えてきたため、それによって血縁として蜥蜴僧侶さんがチョイスされた形です。




 
原作小説11巻の描写的に、ゴブスレさん一行は蟲人僧正さんと別れてから少し骨休めをしつつ都に滞在して情報収集をしていたみたいなのですが(おそらく長くても三日程度?)ここで半竜娘ちゃん一行と一旦合流の形になります(たぶん女商人さんから依頼を受けて、半竜娘ちゃんたちとはすぐまた手分けするために別れるとは思いますが)。次回はサウナで旅の垢をこすり落としたり、黄金の蜃気楼亭に行ったり、青く輝くサーベルを携えた騎士くん(推定モチーフ:ルーク)とニアミスしたりできればなあって感じです。
 


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40/n 砂塵の国の都にて-3(蜥蜴僧侶さんと朝食を)

 
◆ウィズボールの後始末について
半竜娘ちゃんは【小癒(ヒール)】は忘れていますが、代わりにサプリ適用時に、より高位の回復呪文である【治癒(リフレッシュ)】を覚えていますので、それを使ってウィズボールの負傷者に治療を施しました。ただ【蘇生(リザレクション)】は覚えていないので、それが必要なほど瀕死な者は出なかったのは不幸中の幸いでした。

===

◆前話
蟲人僧正さんたち相手に、密偵(パワポケ)くんと一緒にウィズボール(ナイター)を楽しんだ半竜娘ちゃんたちは、翌朝いよいよ砂塵の国も都へと入った。
異国情緒あふれる光景に目を奪われる一党の面々。そのとき、知識神の神官として人相判別術も修めている文庫神官ちゃんが、ゴブスレさん一党の蜥蜴僧侶さんらしき人物を発見。まさかこんな所で会うとは思わなかった人物との邂逅に驚きつつ、声をかけてみることにしたのだった。

(時系列は、原作11巻でゴブスレさん一行の砂塵の国の都で描写されたのと同じことが起こる日になります。疲れを癒して(女性陣のサウナ)、情報収集をしたり(市場巡りや黄金の蜃気楼亭訪問)する日です。ナイターに出てきた密偵(パワポケ)くんは、「やきうのにおいがする…」とか言って夢遊病患者のように市壁の外に出たようですが、その後赤毛の魔術師(まほよめのチセ)ちゃんと一緒に宿に戻っています。街門は閉まってたので力技で乗り越えたみたいですね。)
 


 

 砂塵の国の都を堪能する実況、はーじまーるーよー。

 

 さて前回は砂塵の国の都に入国したら、なぜか推定・蜥蜴僧侶さんが朝市でチーズを買う場面に出くわしたところまででしたね。

 ゴブスレさん一党が国外遠征、というのも珍しいことですが、銀等級の冒険者であることを考えればまあ普通でしょう。

 現に半竜娘ちゃんたち一党(別の銀等級冒険者一党)もこうして砂塵の国の都まで来ていますからね。

 

 

 血縁上の姪である半竜娘ちゃんが、蜥蜴僧侶さんに呼びかけます。

「おぉーい! 叔父貴殿ぉぉお!! 久しぶりじゃのう!」

 

 その声に、背負われていた幼竜娘三姉妹も目を覚ましてしまいました。

「「「 んんぅ……? 大叔父様ぁ……?? 」」」

 

 市場を流れる人波が大きな声にぎょっとして半竜娘ちゃんのひときわ大きな体躯を見上げます。並の蜥蜴人を大きく上回る恵体はもとから目立ちますからなおさらです。

 しかし半竜娘ちゃんは注目を集めることに頓着するような繊細な神経は持っていませんので平気です。笑顔で手を振り続けています。

 むしろどっちかというと都市の影を走る者(シャドウランナー)気質の強い森人探検家やTS圃人斥候の方が、目立つのを厭ってか雑踏に紛れるようにさっと半竜娘ちゃんから距離を開けました。

 

 残されたのは幼子3人を背負った半竜娘ちゃんと、それに付き従う文庫神官ちゃん(with 白梟の使徒)。

 いずれも高位の聖職者ですから、そのオーラも相応のもの。……半竜娘ちゃんの首から下がる魔神(闇竜娘ちゃん)を封じた不吉な竜牙の首飾りがそれをいくらか相殺していますが。

 それでも全体的には、慈悲深く子供好きな蜥蜴人の竜祇官が、護衛に聖騎士を連れているようにしか見えません。

 

 

「おお! 姪御殿! 斯様(かよう)な異国で会おうとは、これもまた祖竜の導きでしょうや」

 そして呼びかけに応えた蜥蜴僧侶さんは眼玉をぐるりと回して、呵々と笑って手を振り返してくれました。

 どうやら本当に本人だったようですね。文庫神官ちゃんの人物鑑別眼は蜥蜴人相手でも確かに通用したということです。

 

 人波を掻き分け── る必要もなく割れて道が空いたので(見るからに巨躯の蜥蜴人の進路を塞ぐのは勇気が要りますからね)、のしのしと蜥蜴僧侶さんの方へ歩いて合流します。

 きちんと一党の仲間もはぐれたりせず着いてきてくれているようです。

 

「なんじゃい、おぬしらも来とったんかい」 下の方から声がするので視線をやれば、やはりゴブスレさん一党の鉱人道士さんでした。

 手にはそこいらの屋台で買ったであろう軽食を抱えており、それらをむしゃむしゃと美味しそうに口に運んでは、腰に結わえた酒瓶から酒を飲んで、すっかりこの朝市を堪能している様子。

 

「おお道士殿もいらっしゃったか。なんとも美味(うま)そげな物をお持ちだが、手前(てまえ)らにもオススメを教えていただけぬかの?」

「応とも、お安い御用よ」

 気風(きっぷ)の良い鉱人道士があれやこれやとお勧めの屋台飯を教えてくれます。

 

 それではまずは腹ごしらえと参りましょう。

 屋台を巡って朝食を買い集めます。

 

 そして飯を用意できれば、適当な酒房の一角を借り、一段高くなった床の上に広がった絨毯の上、皆で車座になって情報交換のターンです。

 

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 

 パクパクむしゃむしゃ。

 金に糸目をつけず買いあさったので、果物や香辛料をふんだんに使ったジューシースウィーティでスパイシーな高級品(※屋台飯としては)が絨毯の上に所狭しと並べられていますが、どんどんと一行の腹の中へと消えていきます。

 

「ほほう、あの軽銀商会も来ておるのかや」

「そうよ、儂らはその護衛ということでこの砂海を渡ってきたというわけだの」

「では向こうさんにも挨拶をせねばのう、スポンサーとしても、旧知の間柄としても」

「おう、そうしてやってくれ。もともとはお主らにも護衛依頼をしたかったらしいかんの」

 

 そこで鉱人道士は少し声を抑えて小声で言います。

 

「詳しくは商会主の嬢ちゃんに聞けば良いが、砂塵の王国が攻めっ気を見せとるらしい。そんでまあ、この旅は敵情視察を兼ねておるというわけよ」

「なるほどのう。軽銀商会は伯爵家紐付き、政商でもある。隠れ蓑には持ってこいじゃ。……となると、道士殿と叔父貴殿もその為にこうやって市中を巡っておるので?」

「ま、人の多いとこで情報を集めるのは基本だかんな」

 

 鉱人道士は髭をしごきながら口角を上げると、今度は周囲に聞こえるように声量を上げます。

 

「それにそっちも大いに暴れとるらしいじゃないか! 呪われた古代の陵墓を浄化しただの、城塞竜と友誼を結んだだの!」

「耳聡いのう。もうこっちの都まで話が流れておるのかや」

「否定せんということは本当のことか。どうにも大冒険をしとるようだが、あの耳長に知られたらきっと悔しがるじゃろうな」

 

「む。その事については拙僧も一言物申したいことがありますな」

 

 愉快げに笑う鉱人道士の横から、ぬっと首を伸ばしたのは蜥蜴僧侶さんです。

 皮袋に入ったチーズを又姪の幼竜娘三姉妹に振る舞い、しかしこれ以上取られてはかなわんと切り上げてきたようです。

 

「次に大物相手に暴れるときは誘うようにと以前申し上げましたが覚えておりまするか?」

「まあまあ、叔父貴殿。手前とてもちろん間に合えばそうしたところじゃが、こればかりは風神竜(ケツァコアトルス)(まなこ)でも見通せぬこと」

「ふぅむ……それもまた然り」

「とはいえ悪いと思う気持ちも多少はあるのじゃ。……そうじゃ、手前が術を込めた巻物(スクロール)水薬(ポーション)進物(しんもつ)しようぞ」

 

 半竜娘ちゃんは自分の魔法の袋(マジックバッグ)から取り出した魔法の巻物や、竜血の水薬を蜥蜴僧侶さんに進上します。

 蜥蜴僧侶さんは拝受したそれらの中からポーションをひとつ爪で挟んで摘まみ上げると、おおきな目でよくよくと検分します。

 

「自家製じゃが、効果は確かじゃて」

「それは存じておりまする。時に世話になっておりますからな」

「叔父貴殿の方も、不意に強敵と行き会うこともありましょうや。その時にこれをきっと手前と思って憂いなく戦ってほしいと思いましてな」

 

 いじましげなことを言って誤魔化しにかかる半竜娘ちゃんですが、蜥蜴僧侶さんはそれに乗ってくれるみたいです。

 

「かたじけない、それではきっとこれを役立てて見せましょうぞ」

「叔父貴殿、くれぐれも抱え落ちなどなさいませぬようにな?」

「ふはは、心配ご無用。こういうものは使ってこそですからなあ」

 

 蜥蜴僧侶さんは巻物や水薬に貼られたラベルを見てそれらに込められた効果を確認し、自らの雑嚢に収めていきます。

 

「特に【巨大(ビッグ)】の巻物は会心の出来(作成判定クリティカル)じゃったから、期待してくりゃれ」

「ほほう。それは重畳!」

 

 やがて竜にならんと欲する蜥蜴人にとって、竜のごとき巨体をもたらす真言呪文【巨大(ビッグ)】は琴線に触れる魔法です。

 会心の出来ということであれば、その巨大化の倍率もきっと期待できるでしょう。

 

 これには蜥蜴僧侶さんもにっこり。

 

 咄嗟に取り出せるように雑嚢の中を調整して、その【巨大】の巻物(スクロール)の置き場所を定めたりしている様子は上機嫌そうです。

 他にも炎と毒に耐性を与える【竜命(ドラゴンプルーフ)】の水薬(ポーション)だとかも一式渡してあります。

 これできっと、もし仮に、万が一、何かの拍子にドラゴンと遭遇しても大丈夫ですね! 間違いない。

 

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 

 さて蜥蜴僧侶さんと鉱人道士さんとの情報交換も終わって、腹ごしらえも終わりました。

 お二人は市場で情報収集を続けるとのことですので、食後すぐに酒房を出たところで別れました。こっちはこっちで別にやることがあったので。

 

「それでお姉さま、次は何をしましょうか。やはりどこか宿を取るのが先決でしょうか」

 文庫神官ちゃんの提案のとおり、何はともあれ宿を押さえる必要があります。

 半竜娘ちゃんたち一行は、まだこの砂塵の国の都での拠点も定められていませんからね。

 

「うむ。それなりに良いという宿の場所についても聞くことが出来たし、そこを押さえることにしようかの」

 ちゃっかり蜥蜴僧侶さんたちから良い感じの宿屋の情報を引き出していたみたいです。

 彼らが泊まっているのと同じ宿かというと、そことは違う宿のようですが。

 流石に隊商向けの大きな宿と、冒険者一党プラスアルファ(こども3人)が泊まる宿というのは別のカテゴリになりますからね。

 

「そしたら宿を定めたら、軽銀商会の一団に挨拶に行ったりするかしらね。まあ、私はこの都のローグギルドにも顔を出すつもり……砂漠に来る切っ掛けの依頼の、あの犀人と踊り子の主がやってる楼閣がそれだから、っていうのもあるけど」

 縁故を繋ぐのは大事ですからね。

 仕掛人兼業の冒険者として、森人探検家ちゃんは、そっちの界隈にも顔を繋いでおくつもりのようです。

 ローグギルドは情報も取り扱っているでしょうから、変に因縁を付けられて詰まらないことにならないようにも、地元の情報を手に入れておくべきでしょう。

 流石にこの地では異邦人である蜥蜴僧侶さんと鉱人道士さんから得られた情報だけだと怖いですからね。裏取りは必要でしょう。エチケットというやつです。

 

「じゃあ宿に着いたら手分けするかね。オイラは子守りしとくから他は任せるぜ」

「えー?」 「遊び行かないのー?」 「せっかくの新しい街なのに!」

 さっさと子守り役に立候補したTS圃人斥候に、幼竜娘三姉妹が抗議します。

 しかしながら異国の地で情報もなしに動くことを良しとしないTS圃人斥候はそれを毅然と拒絶します。

「こればっかりは容れられねーなー」

 実際危ない。

 

 特に古代陵墓を攻略したことも、城塞竜の知己を得ていることも、どうやら都の事情通なら掴んでいる様子ですからね。

 下手なところを出歩くと誘拐の危険もあります。

 三人娘を拐かして、半竜娘ちゃんから身代金をせしめようなんて奴が出ないとも限りません。

 

「だからまずは留守番だぜー」

「しかたないなー」 「じゃあ情報集めたら観光だ!」 「観光だーー!」

 

 単に拒絶するのみならず、目線を合わせて理路整然と諭されては、幼竜娘三姉妹たちも折れざるを得ませんでした。

 まあ、情報が集まった暁には改めて観光に出かけることを約束してやったのでそれでいいでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして宿に移動して荷物を置いた彼女たちは、TS圃人斥候ちゃんと幼竜娘三姉妹ちゃんたちを宿に残して、半竜娘ちゃんと文庫神官ちゃんは軽銀商会の泊まっている宿へと行くことにしました。

 

「いってらー」

「「「 またねー、おかーさまー 」」」

「うむ、良い子で待っとるんじゃよー」

 

「商会長さんとは南の祖竜の楽園以来になりますね。お元気だと良いんですが」

「まあアレでなかなかタフじゃから問題なかろ」

 

 そして森人探検家ちゃんは、ローグギルドを兼ねるという黄金の蜃気楼亭に向かうようです。

 既に街中に散りばめられていた仕掛人向けの符牒も解読済みなので、接触には支障なしです。

 その後は交易神の神殿にも顔を出すつもりなのだとか。ああいえ、こちらの国では旅と風の神と言うのでしたかね。まあ信仰としても組織としても根を同じくするもののようですから問題ありません。

 

「じゃ、私はこっちだから」 シュタっと手を挙げた森人探検家ちゃんと辻で別れます。

「情報収集を任せたのじゃよー」

「はいはーい。ま、多少の出費は覚悟してよねー」

「対価のない情報の方が怖いじゃろ」

「ふふ、それもそうね。じゃあまた後でね」

 

 

 半竜娘ちゃんと文庫神官ちゃんは、森人探検家ちゃんを見送って、白い漆喰で塗られた建物が建ち並ぶ異国の街並みの中を進んでいきます。

 

「……ぼったくられちゃったりしませんよね?」

「いくら異国とはいえ歴戦の交易神の神官じゃよ? 心配いらんじゃろ」

 文庫神官ちゃんが心配してますが、半竜娘ちゃんは信頼している様子。

 まあ実際、問題ないでしょう。

 そもそも王宮の地図を聞き出すとかではなく観光名所や街歩きで気をつけるところ等の地元民なら知っていることを聞きに行くだけですからね。

 そんな変なことにはならないはずです。

 

 

 

 

 

 道すがら小遣い目当ての衛兵に絡まれるようなこともなく、二人は無事に目的の宿に辿り着きました。

 そして軽銀商会の主である女商人さんと面会を果たした半竜娘ちゃんと文庫神官ちゃんは、そこで女商人さんから依頼を受けることになりました。

 

 その依頼というのは……。

 

「大悪霊の浄滅者である貴女がたを、宰相が探して招こうとしているとのこと。

 そこで是非、その招待に乗じて王宮の様子や宰相の人となりを探ってきていただきたいのです」

 

 なんと、この国の災禍の中心へと彼女たちを誘うものでした。

 

 

 

 というところで、今回はここまで。

 ではまた次回!

 




 
没ネタとして不良衛兵に絡まれた半竜娘ちゃんがノリノリで衛兵たちを蹴散らして、両手にネックハンギングした不良衛兵たちを盾のように掲げて王宮に【突撃(チャージング)】する案がありました。でもまあ、そもそも身の丈3mもあるような蜥蜴人に絡むような気合入った不良衛兵が居るわけねーなというので没です。

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◆ダイレクトマーケティング!
ゴブスレさん、ゲームになるってよ → 
ゴブリンスレイヤー エンドレスハンティング:https://g123.jp/game/53?lang=ja

あとゴブスレ原作者の蝸牛くも(KUMO)先生のサイバーパンクもの、モスクワ2160も漫画化だ! → スレまとめ:https://yaruok.blog.fc2.com/blog-category-220.html、漫画化告知:https://mobile.twitter.com/big_gangan/status/1562477691336474624

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次回は黄金の蜃気楼亭で王宮からの使者に会うことになるかと。密偵(パワポケ)くんや、魔剣の若騎士(推定ルーク)くんや、ゴブスレさんともニアミスさせられると良いのですが。
 


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40/n 砂塵の国の都にて-4(女商人の依頼、そして黄金の蜃気楼亭へ)

 
◆前話
蜥蜴僧侶さんに巻物(スクロール)水薬(ポーション)を進呈。思う存分、竜とガチンコしてほしいのじゃ。
女商人さん情報によると、砂塵の国の王宮は半竜娘ちゃんを招こうとしているようで……?
 


 

 虎穴に入らずんば虎子を得ず、な実況、はーじまーるよー。

 

 前回は砂塵の国の都で蜥蜴僧侶さんと鉱人道士さんと朝食を食べて、宿をとって、こちらに来ているという女商人さんの泊まっている宿にご挨拶に行ったところまででしたね。

 

「ようこそ、我らのスポンサー」

「おう! 壮健そうで何よりじゃな! 儲かっておるか?」

「損は出しておりませんわ」

 

 瀟洒な服に身を包んだ女商人さんは、豪奢な絨毯の敷かれた部屋で、フカフカのクッション(ひとをだめにするソファ的なやつ)の置かれたソファに腰を沈めて扇情的に脚を組んでいます。

 その手を覆うのは雷精霊が宿ったサイバーじみた手甲です。トルマリンの輝きが高級宿のスイートの応接間でも目を惹きます。

 スケルトンじみた見た目のこの手甲は、異界の機械化悪魔を解析した技術で作られたもので、古代遺跡のハッキングや精霊界への干渉に力を発揮するという逸品です。

 

 女商人さんはかつての小鬼聖戦軍(ゴブリンクルセイダー)との戦いで助け出した雷精霊の助力を得ており、前の冬には転移門の先の南海の孤島 “奇跡の島” で、その精霊の助力と彼女の腕前を生かして遺跡の祖竜再生装置のコントロール権限をハックしてもらうなど、大変お世話になりました。

 

 それだけでなく、半竜娘ちゃんと女商人さんは、出資者と実業家の関係でもあります。

 小鬼聖騎士(ゴブリンパラディン)から奪った軽銀の製法を引っ提げて実家の貴族家に凱旋した女商人さんが興した軽銀商会。

 その設立に目を付けた半竜娘ちゃんはこれ幸いと、自らを竜に近づける冒険に専念するため、女商人さんの軽銀商会に黒鱗の古竜の財宝を預けて資産運用してもらっているわけです。

 単に資産を預けるだけでなく、機械化悪魔(サイバーデーモン)の異界技術を解析させたり、今や蜥蜴人の聖地たる “侏羅紀の世界(ジュラシックワールド)” と化した南海の孤島の運営に噛ませたりと、便宜供与もたくさん行っています。

 

 きっと今回、城塞竜のところで手に入れた財宝の一部も彼女に預けてしまう心づもりなのでしょう。

 

「今回は軽銀の精錬に使う蛍石の鉱脈を探して、わざわざこちらの国にまで商談に来たのじゃったか」

「あら。そのことはお話ししましたかしら」

「なあに叔父貴殿らに()うてのう。その勧めもあってこうして会いに来たというわけよ」

 適当にその巨躯を床に落ち着けながら半竜娘ちゃんは不敵に笑います。

 

 ちなみに文庫神官ちゃんは肩に梟を載せたまま、さり気なく半竜娘ちゃんの斜め後ろに立っています。まるで従者のように。

 恐らくは半竜娘ちゃんを初めて見る商会付きの人員に対して、使徒(ファミリア)を賜るほどの聖騎士が従者につくくらい高貴な者であることを印象付けたいのかもしれません。

 軽銀商会のキャラバンには、当然ながら多くの人員が動員されていますからね。初対面の人員も混ざっているわけです。

 そういう人らに嘗められることのないようにするのは、半竜娘ちゃんのためでもあり、資本関係によって半竜娘ちゃんに(へりくだ)らなければならない女商人さんのメンツのためにもなります。

 

 また、部屋の中や外には商会所属の人員たちだけでなく、女商人さんが雇った冒険者たちも控えており、半竜娘ちゃんと旧知の顔も幾つかありました。

 辺境の街から巣立った鉢巻の青年剣士、赤髪眼鏡の魔術師姉弟、黒髪の女武闘家、圃人の女剣士に、雪山で女商人さん── 令嬢剣士ちゃんの一党を務めていた者たちの姿もあります。

 

「護衛の数も多いがよくも国境で見とがめられなかったもんじゃのう。いくら冒険者とはいえ、ちょっとした戦力じゃぞ」

「ま、そこは私も商人。色々と方法は心得ていますので。……それに隊商の規模として見れば、護衛もそれほど多いわけではありませんよ。現にここに来るまでに小鬼に襲われることも多かったですし、彼らの仕事には事欠きませんでした」

 うんざりした顔の女商人に、部屋の中に侍る軽銀商会の隊商の面々もそろって同じ顔をします。

 

「小鬼、のう」

「ええ。小鬼、です」

 お互いに溜息ひとつ。小鬼が増えるのは、分かりやすい混沌の萌芽です。

 

「それゆえ小鬼殺し殿の一党も来とるわけじゃな?」

「まあそのようなものです。急な話でしたから信頼できる一党がこれだけ揃えられたのは運が良かったと思います。もっと多く居てもいいくらいですが」

 言外に半竜娘ちゃん一党も雇えればさらに助かるのに、と滲ませる女商人さん。

 

「手前とお主の仲であろ。遠慮するでない」

「であれば、護衛── ではなく、まあ簡単な依頼(クエスト)を……とはいえ、貴女にしか頼めないことです。古代陵墓の大悪霊を浄滅し、城塞竜と友誼を結んだ貴女にしか」

「聞くとしよう」

 

 居住まいを正した半竜娘ちゃんに、女商人さんが告げるには。

 

「この砂塵の国の王を(しい)し、国政を壟断(ろうだん)する宰相。姫を手中に納め、国中の遺跡に眠る古の戦士や怪物を呼び起こして集めているというその宰相が、貴女のことを探しています」

「ほう? 手前を捕らえるつもりだとでも言うのかや?」

 闘争の予感に半竜娘ちゃんが恐るべき竜のように牙を見せて笑います。

 

「いえ、どちらかというと褒章を与えたいようですね。

 大悪霊の浄滅者である貴女がたを、宰相が探して王宮に招こうとしているとのことです」

「なんじゃ、つまらん」

 漏れ出ていた闘気を沈め、フンと詰まらなさげに鼻を鳴らした半竜娘ちゃんに、女商人さんが苦笑します。

「きっと外つ国の者でも異種族でも、難事を解決すれば賞すると知らしめたいのでしょう。力を称揚する、というのは士気高揚にも分かりやすい手です」

 

 さて。と間をおいて、女商人さんが続けます。

 

「私のお願いはここからです。是非、その招待に乗じて王宮の様子や宰相の人となりを探ってきていただきたいのですよ」

「その程度なら手前でなくとも出来そうなものじゃがな。潜り込ませておる草のひとつふたつはあるじゃろう」

「ですがそれらの者が()()居たとしても、蜥蜴人ほど軍略戦術に詳しくはないでしょうし、まして呪文遣いとして貴女ほど高位にあるわけでもないでしょう。貴女であればこそ気づけることがある、私はそう思います」

 情報源は多いに越したことはないというのもあるでしょうが、半竜娘ちゃんの能力と見識を頼りにしたお願いには間違いありません。

 

「……よかろう。受けるとしよう!」

「ありがとうございます」

 最終的に快諾した半竜娘ちゃんに、安堵の笑みを返す女商人さん。

 

「それで手筈は?」

「間のどこかに気を利かせた者が入ったようで、衛兵ではなく “黄金の蜃気楼亭” というところが窓口になっているようです」

「……なるほど。まあ、そうじゃろうな」

「お心当たりがおありで?」

 女商人さんの問いに、半竜娘ちゃんは「どこから話したものか」と逡巡しながら口を開きます。

 

「まあ端的に言えば、手前らが砂海を渡る切っ掛けとなった件の依頼主……のさらに上司じゃな。大悪霊の件や城塞竜の件も都まで知れ渡るのが早いと思うとったが、この都に話を流したのもその “黄金の蜃気楼亭” かも知れん」

「ああ、なるほど。確かに優秀な者とのコネクションがあることをアピールするのはおかしくはありませんね。窓口を己に指定して独占するのもそういうことですか」

「“黄金の蜃気楼亭” が宰相寄りかそうでないかは分からんがな」

 それこそ行ってみればはっきりするだろう、と早速半竜娘ちゃんは腰を上げます。

 

「あら。もう行かれますか」

「早い方がよかろう。お主らの方もまたこの都から近いうちに動くのじゃろう? 目星(めぼし)い場所の見当が既にあるのか、真面目に蛍石の鉱脈を視察に行くのか知らんが……」

「そうですね、幾つか怪しい場所の目星は付けてありますし、鉱脈の情報も得ています。それに今の都に長居しても要らぬちょっかいを受けるだけでしょうし」

 聞けば、都でこなすべき主だった商談は既に終わっているそうです。

 あとはその『目星』の場所に関する情報と、攻略のために必要な物資を、ゴブスレさん一行が集めているところだとか。

 

「ちょうどその件で “黄金の蜃気楼亭” に出向かれてますから、時間が合えば顔を合わせられるかもしれませんね」

 

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 

 女商人さんの元を辞して、半竜娘ちゃんと文庫神官ちゃんが向かったのは、件の “黄金の蜃気楼亭” でした。

 壮麗な楼閣の、門番が控える重厚な扉を前に、さあいざ入店! というところで、中から(まろ)び出てきた蜥蜴人の男に出鼻を挫かれます。

「なんじゃぁ?」 と片眉を上げて半竜娘ちゃんが誰何しますが、蜥蜴人の男は気を失っているようです。

 

「ちくしょう、覚えてろよ! ……兄貴、しっかりしてくだせえ、兄貴!」

 とかなんとか、いかにもテンプレートな噛ませ犬のセリフを吐いた男たちも出てきて、中から叩き出されて倒れた青い鱗の蜥蜴人の男の身体を引き起こします。*1

 そしてそのぐったりした青い鱗の蜥蜴人を両脇から支えました。

 いかにも荒くれ者という風情の彼らは、意識を楼閣の中に向けたまま、急いで足を踏み出します。

 

 そして不幸にもというか避けがたい流れでというか、楼閣に入ろうとしていた半竜娘ちゃんにぶつかってしまいました。

 

「ぐっ、おいこら何処に目ぇつけ、て……やが……る……

「…………」

 じろりと見下ろす半竜娘ちゃんの巨体に、荒くれたちの勢いは萎んでいきます。

 抱えている青い鱗の蜥蜴人の兄貴よりも、もっともーっと強そうな蜥蜴人が目の前に現れればそうもなります。

 やっべぇやらかした! と顔を青くする荒くれたちに、半竜娘ちゃんはにっこりと牙を見せて笑いかけました。こわい。

 

「さーせん、すぐ退きますね姉御……へへへ」

「待てぃ」

 卑屈な笑みを浮かべて道を空けようとする荒くれたちを、半竜娘ちゃんが引き留めました。

 

 あ、終わったわ。という顔をする荒くれたち。

 店の前では止めてくれよな、と何が起こっても良いように武器に手を掛ける楼閣の門番。

 

 さて血が降るかと思ったその時。

 

「まあこれも何かの縁じゃ。少し診てやろう、そこな青い鱗の同胞をな」

「へ?」

「ああ、よいよい。勝手に診る」

 半竜娘ちゃんは荒くれどもの肩で支えられてぐったりしていた青い鱗の蜥蜴人を()()()と摘まみ上げると、目を丸くする周囲に頓着せずに処置を進めます。

 

 具体的にはその青い鱗の蜥蜴人の頭と首をがっちり固定してやって、尻尾を器用に動かして背嚢から治癒の水薬(ポーション)を取り出して振りかけ、残りを口に突っ込んだのです。

 どうやら後ろから物凄い力で殴られたらしき容体のその青い鱗の蜥蜴人ですが、半竜娘ちゃんの見立てでは結構危ない状態だったようですね。

 それでも患部を固定した状態でポーションが作用したおかげか、無事に治っていきます。そして彼は意識を取り戻しました。

 

「ぅ……ちっ、負けたか……」

「ふん。負けたのに命があって良かったのう。祖竜の導きに感謝するんじゃな」

「なんだぁ、坊さん……か……? ぐぉっ」

 命の危機が無くなったのを見て取れば、半竜娘ちゃんは青い鱗の蜥蜴人から手を放して落とし、今度はその腕を取りました。

 

暗器(こんなもの)に頼っとるからじゃ。竜たらんと欲するならば、まずは己の爪爪牙尾を鍛えんか」

 そう言うと半竜娘ちゃんはもう片方の空いた手で、青い鱗の蜥蜴人の腕に装着されていたワイヤー付きダートの射出装置を絶妙な爪捌きで解体してしまいました。

「祖竜に詣でるなら “奇跡の島” を訪ねるがよい。そこで爪爪牙尾を研ぎ澄ませることじゃ」

 暗器の射出筒や鋼線、巻取機構などを爪を軋り合わせて粉々にしながら、半竜娘ちゃんが口に出したのは、転移門から繋がるあの南海の孤島のことでした。

 

 そして伝えるだけ伝えればもう興味を失ったのか、目を丸くしたまま状況を呑み込めていない青い鱗の蜥蜴人の腕をとったまま、無造作に大きく振って放し、通りの向こうまで弧を描くように投げ飛ばしました。

 優しいんだか優しくないんだか……。

 

 そのまま路地裏に転がっていった青い鱗の蜥蜴人を追って慌てる荒くれどもの足音を背景に、半竜娘ちゃんは文庫神官ちゃんを連れて楼閣の扉を潜ります。

 

 というところで今回はここまで。

 ではまた次回!

 

*1
青い鱗の蜥蜴人の男:騎士くんのサーベルを分捕ってたやつ。お行儀が悪かったので密偵くんに昏倒させられ、店から投げて出された。




 
 次回こそはゴブスレさん&女神官ちゃんと会わせられるかな。
 あ、あと妖精弓手さん。隊商の護衛冒険者の人数が多いから、妖精弓手さんは原作と違って女神官ちゃんの方に着いてきています。
 とはいえ、赤毛の森人魔術師(まほよめのチセ)ちゃんが女神官ちゃんを助けるイベントは健在だと思います。シティアドには仕掛人(ランナー)組が一日の長があるので。
 


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40/n 砂塵の国の都にて-5/5(黄金の蜃気楼亭にて)

 
リハビリなので少し短めです。

◆前話
砂塵の国の王宮まで招待を受けた半竜娘ちゃんは、文庫神官ちゃんを従者のように伴って、窓口に指定された “黄金の蜃気楼亭” へやってきて。
酒楼内から叩き出されてきた青い鱗の蜥蜴人を救命ついでに教えを授け(インストラクションし)、その中へと入っていくのでした。
半竜娘ちゃん「竜司祭として功徳を積んだのじゃ!」(なお既に竜司祭Lv10(カンスト)の『竜祇官』称号持ち)

 


 

 楼閣の扉をくぐると、そこは別世界でした……な実況、はーじまーるよー。

 

 前回は女商人ちゃんに御挨拶して、砂塵の国の王宮を探る依頼を受け、金字塔(ピラミッド)の大悪霊討滅の称揚にと “黄金の蜃気楼亭” 経由で王宮から呼び出しを受けているというので、その楼閣 “黄金の蜃気楼亭” へとやってきたところまでですね。

 

 あ、ついでとばかりに青い鱗の蜥蜴人の同胞を救命蘇生し、教導してやりましたっけ。

 暗器なんかに頼っているとは、蜥蜴人の風上にも置けない奴でしたが、奇跡の島の “侏羅紀の世界” で鍛え直して更生してくれることを祈りましょう。

 全ては《宿命》と《偶然》の導くままに……。

 

 

 

「ふふん、なかなかじゃのう」

「ええ、お姉さまを呼び出すだけの格はあるかと!」

『なんか、どうにも呪い臭い気がするのです、主様。まあこれだけ人が多ければ、厄物のひとつふたつは紛れ込んでいてもおかしくないのですけど……』

 

 半竜娘ちゃんと文庫神官ちゃん+肩の上の白梟使徒ちゃんが扉を開けた先から、ひんやりと湿り気のある空気が流れてきました。

 水の気配です。

 

 半竜娘ちゃんが水がふんだんに流れる楼閣内を見て上機嫌になります。

 この黄金の蜃気楼亭の楼閣では、沙漠の真ん中にもかかわらず、贅沢に水をかけ流しにしているのです。

 あるいは黄金に輝く調度品の群れに、竜らしい感性を刺激されてのことかもしれません。

 

 豪奢な内装に、出されている料理の絢爛さ。それらは文庫神官ちゃんの御眼鏡にも適ったようですね。

 白梟使徒ちゃん(梟形態)は、吹き抜けの螺旋状に部屋が作られている楼閣内を、梟特有の首の動きでグルリト見渡し、不穏な呪いの匂いに眉毛(眉羽?)を(ひそ)めました。

 

 具体的には呪いを治めるアミュレットがガリガリガリガリガリ……と音を立てそうな感じの青白く輝く魔剣でもありそうな気配を感じているようです。

 多分鞘は鉛で出来ていますね、その魔剣。

 

「まあ実害がなければ放っておくのじゃ。あるいはこの地特有の精霊(ジン)の類の産物で、殊更に邪悪ではないかもしれんじゃろう? 器物であれば持ち主次第じゃろうしな」

『ふん。流石は鏡像の魔神(ドッペルゲンガー)を従えている人間は寛容なのです』

「こら、またお姉さまにそのような口を……」

「良い良い。無理を強いているのは手前の方なのじゃからな」

 

 邪悪を廃すべき使命の知識神の使徒(ファミリア)である白梟に、魔神召喚の呪文で悪魔(デーモン)を食わせて悪魔化した己の影(ぶんしん)をお目こぼししてもらっているだけでも有難いことです。

 善と悪のアライメントが同じパーティに所属することは、本来は非常に難しいことなのですから。

 

 

「さぁて、王宮の代わりに手前を呼び出した代理人に会う──── その前にじゃ。まずはうちの金庫番を探そうかのう。仕掛人(ランナー)の流儀として、面通しにこっちに来ておったはず」

 

 国が違えども仕掛人の流儀はそう変わるものではありません。

 むしろ地元を離れて仕掛をするときに()()()が起こらないように、異国の流儀であっても精通するのが礼儀というもの(エチケット)です。

 その流儀に従い、街中の符牒を読み取った結果、この “黄金の蜃気楼亭” は砂塵の国の都における仕掛人向けの拠点の一つであるようです。

 

 となれば樽に乗る者(マンチクソ師匠)の弟子であり、ゴブリンスレイヤーの姉弟子にもあたる、森人探検家さんが、この “黄金の蜃気楼亭” に出向くのも道理というものです。

 

「あ! 居ましたよ!」

 

 文庫神官ちゃんが、フロアに満ちる座席や横台(カウンター)の並びの中から、見慣れた金髪と長耳を見つけ出しました。

 半竜娘ちゃんの一党における遠距離物理攻撃ダメージディーラー、弓師の森人探検家ちゃんです。

 エルフには珍しい交易神信仰の娘(約200歳)ですが、商売と旅を司る()の神の信徒らしく、如才なく周囲の商人らしき客たちと情報交換をしているようですね。

 

 こちらの気配をその野伏(レンジャー)としての鋭敏な感覚が察知したのか、長耳をピコピコと上下させれば、半竜娘ちゃんたちの方に流し目を送りました。

 同じ女性でもドキッとするほどの色気のある動作です。

 その証拠に、話し相手を務めていた若い商人は呆けて見つめてしまっていますよ。罪作りですね。

 

 森人探検家は話していた商人たちに「連れが来たから失礼するわ」と断ると、グラスを持って席を立ち、半竜娘ちゃんたちを手招きして適当な空いている卓へと(いざな)います。

 さりげなく大型種族でもしっかりと座れるような席を選んでいるのは流石の目敏さですね。

 

「そろそろ来る頃なんじゃないかと思ってたわ。ま、座りなさいな」

「なんじゃ、その様子じゃと手前が来た理由はもうわかっておるようじゃのう」

「ええ。王宮に呼び出されてるんでしょ? そっちは……大方、貴女が出資している軽銀商会の女会頭からでも聞いたってところかしら」

「ま、そういうことじゃな」

 

 森人探検家ちゃんは既に半竜娘ちゃんが王宮に呼び出されたという情報を得ていたようですね。

 流石の情報収集能力です。

 ついでに肌色成分の多いラミアの女給を捕まえてテキパキと注文をこなしていきます。

 

 地元の悪所やタブーなど、この地の者たちにとっては常識として知られている事柄を中心に、幾らか情報交換をするうちに、注文したものがやってきます。

 まずはバラの香りとハーブの香りが調和した飲み物。

 

「ローズウォーターに地元の小粒辛子(ホソエガラシの種)とサフランを加えて煮出したもの。ヒダル神が取り付いたときに良いそうよ」

「ふむ。スッとしておるのじゃな。いくらでも飲めそうじゃ」

「えぇと、ハーケシール、と云うのですか。地元の飲み物っていいですよね」

 

 ジンジャエールみたいなものでしょうかね?

 周囲から香る水タバコの匂いとも相まって、不思議な異国情緒に満たされる気持ちです。

 

「あとはやっぱり砂海鷂魚(サンドマンタ)の油茹でかしらねー。ええと、アヒージョ?って言うのかしら」

「身がふわふわで美味しいですね! ……私たちが乗った砂船が仕留めたものだったりするのでしょうか?」

「あの蟲人の僧正殿が卸したものやもしれんぞ? ふむ、手前はこの太い軟骨を丸ごと揚げたものが良いのう。絶妙な歯ごたえじゃし、髄が美味い!」

 

 “かすべ” と、この辺りでは呼ばれることもあるとか。

 サフランを始めとする香辛料がまぶされた、あの巨大な砂海鷂魚(サンドマンタ)の料理は砂漠における重要な蛋白源なのかもしれませんね。

 

「しかし貴女たちも絶妙に間が悪いわねぇ」

「?? なんのことじゃ?」

 

 幾らか食も進み、お互いの情報も交換できたところで、森人探検家ちゃんが半目で半竜娘ちゃんを見て溜息をつきました。

 半竜娘ちゃんは不思議そうにしていますね。

 何かのタイミングが悪かったりしたのでしょうか。

 

「ほら中央に舞台があるでしょう? ここって鳥人の歌姫が魅せる剣舞と歌声が名物なのよ。遠くから良い席を取りに来る客で予約がしばらく先まで埋まったり、どの席の予約が取れるかで商人の間で格付けがされるくらいに」

「ほう。それが? 今から始まるのかや?」

「いいえ、ついさっき終わったばっかり。だから間が悪いわね、と」

 

 なるほど確かにそれは惜しいことをしたかもしれません。

 次に来る機会がいつになるか分かりませんし、見られなかったのは残念です。

 

「……なんじゃ、もったいぶらずに教えんか。ただ高名な舞台だからというだけではないのであろ?」

「そうね、貴女が一等に気に入りそうな演目だったのよ。当ててみる?」

「随分と()らすのう。……ちょくと待て、考えるのじゃ」

 

 半竜娘ちゃんが気に入りそうな演目となると……?

 しかも砂塵の国で人気になるようなもの……。

 

「もしや!」

「あ、分かったっぽいわね」

 

「手前らの大悪霊討滅が早速舞台になったのじゃな!」

「 ち が い ま す 」

 

 そうだったら良かったですし、実際大悪霊の討滅は歌になるほどの偉業ですが、残念ながらハズレです。

 そんなすぐ舞台化はしませんよ、半竜娘ちゃんあなたろくに取材だって受けてないでしょうに。

 

「正解は……」

「──── 地底湖の黒竜殺し。蜥蜴人の勇者のお話ですね?」

「なんと! まことかや!」

 

 正解をかっさらったのは文庫神官ちゃんでした。

 ネタばらしを不意にされた森人探検家ちゃんが苦笑しています。

 

 そして幼いころから聞かされて憧れて育った、部族の大英雄の絡む演目の舞台と聞いて、半竜娘ちゃんが目を輝かせます。

 

「そう、それが正解よ。地底湖の黒竜退治」

「おお! あの竜殺しの話じゃな! 美貌の魔剣士の女を含む一党が、暗黒の城塞を踏破したあとの話じゃ」

 

 大金棒遣いの蜥蜴人の勇者が云々と半竜娘ちゃんが滔々と講釈を垂れます。

 合いの手を入れつつそれを聞く2人+1羽ですが、はたと半竜娘ちゃんの語りが止まります。

 

「む、話しておったらその舞台が見たくなったのじゃ。次はいつ始まるのじゃ?」

「何言ってるのよ、終わったばかりだから今日はもうしばらくやらないわよ」

「   」

 

 半竜娘ちゃんは口を開けて目を見開き、愕然としました。

 

 その様子を見て森人探検家ちゃんが愛おし気にくすくすと笑います。

 

「だから間が悪いわね、って言ったのよ」

 

 




 
半竜娘ちゃん「次の公演始まるまで居座るのじゃ~~!!」
森人探検家ちゃん「そういう訳にもいかないでしょ」
半竜娘ちゃん「王宮からの呼び出しなんぞ待たせとけばいいんじゃ~!」
文庫神官ちゃん「でも軽銀商会の方でも動きがあるみたいですし、それが方々に波及する前に済ませておいた方が良いのでは?」
半竜娘ちゃん「むうぅ……」
森人探検家ちゃん「ま、いい席手配しといてあげるから。それまで(こら)えなさいな」


===

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……これで大体全部かな? 多分そう。ヨシ!
追記:目次にbiimシステム風イメージ画像を追加しました。

 


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41/n 時の砂の秘密-1(砂塵の国の宰相(簒奪者)の評価)

 
◆前話
 地元の英雄を主人公にした舞台(ミュージカル)を見られなかった半竜娘ちゃんが凹んだ。
 


 

「さて、それじゃあ元締めのところに行きましょうか」

「そうですよお姉さま! しばらく滞在して今度はもっといい席を手配して見ましょう?」

「むぅーん、仕方ないのじゃ……。気を切り替えていくとしようかの……」

 

 部族の英雄をモチーフにした舞台が見れなかったことを惜しむ半竜娘ちゃんを宥めた森人探検家ちゃんと文庫神官ちゃんでした。

 

 さて、そしたら気分を切り替えて、仕事(ビズ)のお時間ですことよ。

 三人は、黄金の蜃気楼亭の奥へと目をやりました。

 そこでは王宮からの呼び出しを仲介する、この酒楼の担当者がそこの密談用の部屋で待っているはずです。

 

 おっ、視線をやったちょうどそのとき、そこから何か見覚えのある鎧兜姿の冒険者が出てきました。先客でしょうか。

 

 ── って、ゴブスレさんやんけ。

 

「あれは小鬼殺し殿じゃないかや」

「そう、先客はあいつだったのよ」

 

 見ればゴブスレさんは、フロアで待たせていたのか後からやってきたのか、カウンターについていた女神官ちゃんと妖精弓手さんの美少女2人と合流しています。

 

 あ、妖精弓手さんがこちらに気付きましたね。

 

「わっ! こんなとこで会うなんて奇遇ねー! あんた達も来てたのね!」

 

 響く彼女の星風のような声音は喧騒の中でも決して埋没しません。

 駆け抜ける一陣の風のように、あるいは鋭い矢のように、群衆の間を抜けて半竜娘ちゃんたちの耳元に届きました。

 

「おーう、そちらも奇遇じゃな!」

「そうね! まあ少しこっちに来なさいよ!」

「そうさせてもらおうかの」

 

 ピコピコと手を振る妖精弓手さんの方へと、半竜娘ちゃんたちは席と人の間を器用に縫って進みます。

 

 

 

 

 

 ……向かう途中で魔剣を持った青年とすれ違って、魔剣の邪気を感知した白梟使徒が不機嫌そうに「ホゥ……」と鳴いたり、半竜娘ちゃんの胸に埋め込まれた動力炉心(パワーコア)が魔剣の波長に反応したりしつつ。*1

 

 

 そして、他にも、昨日の夜に見かけた軍帽の男(密偵くん)と赤毛の半森人(魔術師)ともすれ違いました。

 半竜娘ちゃんはニヤッと笑うと軽く拳を突き出し、軍帽の男もそれに応えます。

 二人の間には魔球(ウィズボール)で結ばれた素晴らしい友誼があるのです! ユウジョウ!

 

 すれ違いざまにコツンと拳を合わせた密偵と半竜娘の二人は、

 

「蜥蜴人にも色々いるようだな。雑魚から、アンタみたいなドラゴンまで」

「それは只人も同じじゃろう。……ああそういえば、死にかけの同胞はそこの門のところで介抱してやったわいな」

「ありゃ。手加減ミスったかなあ。手間かけて悪いね」

「ふん、殴られた方の功夫(クンフー)が足りんかっただけじゃよ。蜥蜴人があんな惰弱な者ばかりだと思ってもらっては困るがな」

「なら気にしないことにするよ。俺の手の汚れも、あいつの砕けた鱗の脆さも。もう忘れた」

「そうするがいいのじゃ。……それじゃあまた何処(いずこ)かでな」

「できれば次もまたウィズボールがいいねえ」

「ああ。お互い影の中で、なんてのは勘弁願いたいところじゃが……」

「こっちも勘弁。ドラゴンには手を出したくない。でもそいつは《宿命(フェイト)》と《偶然(チャンス)》の思し召し次第だもんなぁ」

「そういうことじゃな」

 

 なぁんて囁き合うと、何事もなかったかのように行き違って離れていきました。

 後ろを振り返るようなことはしません。

 それはハードボイルドではないので。

 

 

 

 

 そんな一幕がありつつも、半竜娘ちゃんたち3人(+白梟使徒)はゴブスレさんたち3人が掛けている横台(カウンター)に辿り着きました。

 店側をあまり待たせてはいけませんから、半竜娘ちゃんたちもすぐに奥に行く必要がありますが、ゴブスレさんたちとひと声ふた声交わす時間くらいはあるはずです。

 

「聞いたわよー、大冒険だったらしいじゃないの」 と流し目で糾弾するのはヒラヒラした砂漠衣装に身を包んだ妖精弓手さんです。

 恐らくは金字塔(ピラミッド)の大悪霊の討滅について聞き及んでいるのでしょう。上の森人(ハイエルフ)は耳が良いですからね。その長耳に違わず。

 そして冒険を求めて里を飛び出した彼女からすれば、半竜娘ちゃんの冒険を羨む気持ちもあるわけです。

 

「叔父上にもそれは叱られたところじゃ。しかし不可抗力じゃて」

「……まあいいわ。噂が本当なら、遠い異国の同胞(エルフ)の無念を晴らしてくれったって事みたいだし」

 確かに古の大悪霊に囚われていた魂には、かつてこの地の森を文明に滅ぼされた森人たちの魂も含まれていました。

 だから森人を束ねる血族として、妖精弓手さんは礼を言います。

「ありがと。貴女に星風の加護がありますように」

 

 

 次に声をかけてきたのは金髪碧眼の少女。

「また時間があるときに、是非お話を聞かせてくださいね、その冒険について」

 ニコニコしているのは、この砂漠でも常と変わらない白い地母神の神官服姿の女神官ちゃんです。

 ほぼ同期である半竜娘ちゃんの活躍を聞いて楽しそうにしています。

「それは勿論じゃとも。その時はきっとお主らの冒険も聞かせてくりゃれ?」

「はいっ、それはもう!」

 頑張ります! とムンっと力を込める女神官ちゃんなら、今回もきっといい()()ができるでしょう。

 それにこの沙漠には、駆け出しの時の初依頼で「いつかは竜退治」と語り合った鉢巻戦士や女武闘家に女魔法使いも、キャラバンに同行してやって来ています。

 この砂塵の国が乱れている今であれば、それこそ、彼ら念願の竜退治の機会すらもあるかもしれませんね。

 

 

 

 そして最後は小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)

「……場合によっては手を借りるかもしれん」

 “さまようよろい” のような彼は、決断的にそう口にしました。

 準備を重ねるのを欠かさない彼は、ゆえに一党の頭目として保険を積み重ねます。

 同じ国出身の銀等級冒険者が率いる一党が近くにいるというのは、望外の幸運です。

 万が一のことがあったとき、運良く半竜娘ちゃんたちが近くに居れば、助けを得ることが出来るかもしれませんからね。

 

 一言交わすだけでその保険を得られるのであれば、願掛け程度にこなしておくべきでしょう。

 ……もっとも小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)は自分の運や願掛けなど、決して信じてはいないのですが。

 それでも、一党のためになるのであれば、その一言を惜しむ道理もありません。

 

「もちろん、その時はお互い様。相身互い。冒険者は助け合いじゃ」

 持ちつ持たれつ。

 それが冒険者界隈の流儀でもあります。

 

 

 

 

 森人探検家や文庫神官も、奇遇にもこんな異国の砂塵の都で会えた顔なじみである妖精弓手や女神官の二人とそれぞれ何言か話したようです。

 さて、あまり待たせて、黄金の蜃気楼亭の者の機嫌を損ねる訳にもいきません。

 

「そろそろ行きましょうか」

 

 森人探検家ちゃんの言葉を皮切りに、半竜娘ちゃんたちは仮面の給仕と犀人の戦士が守る店の奥へと続く扉へと歩き、それを潜ります。

 

 王宮からの呼び出しというのは、詳しくはどういうことなのでしょうか?

 

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 

「……大悪霊を滅ぼした冒険者殿は、どうやら()も良いらしい」

 

 奥で待っていたのは、この黄金の蜃気楼亭で裏向きを取り仕切る女……鉱人の娘でした。

 森人探検家がお定まりに「お控えなすって」と仁義を切り、自らの出自を明かすと、それに応えて自らも仁義を返した鉱人の娘が、半竜娘ちゃんたちの情報収集能力を誉めました。

 彼女の中の見通しでは、半竜娘ちゃんたちが黄金の蜃気楼亭にやって来るのは、もっと後の想定だったのかもしれません。

 

()めてもらっちゃ困るわ。それに、事情通(そう)でなければこの(ちまた)でやっていけないわよ」 森人探検家が鼻を鳴らして答えました。

 情報というのは文字通りに、冒険者の命運を握る重要なファクターですからね。

 

「ごもっとも。

 犀のやつ*2から聞いていたが、優秀な冒険者だというのは確かなようだ」

「世辞はいいわよ。それで? そっちが王宮の窓口ということだけれど、詳しく聞いてもいいかしら」

「……まったく、王国人はみんなそうなのか? せっかちすぎるぞ」

 

 サンプル数2(ゴブスレさん、森人探検家ちゃん)が両方とも樽に乗る者(マンチ師匠)の弟子なので外れ値を引いただけだと思うんですけど(名推理)。

 

「まあいい。本題に入ろうか」

 鉱人の娘が語ります。

「宰相が貴殿らを私的な会食に招きたいとのことだ」

 

「……私的な? てっきり大々的に激賞するのかと思っていたけれど」

「いずれはそうなのかもしれん。だが今ではない。そして、その武名を擦り付ける先は、貴公らである必要はないということなのだろう」

 

 それを聞いた半竜娘ちゃんが半目になって呆れたように言います。

「なるほど。手前らの顔を知る者はこの国ではそう多くない。手前らが出国した後にでも、適当な子飼いの蜥蜴人に『大悪霊討滅者』の肩書を大々的に与えたとて、誰も替え玉に気づきはしないというわけじゃな」

「そういうことだ。労せずして好きな部下の武名を高めさせられるチャンスだと思ってやがるのさ」

 

 宰相は名誉ってものを、着けたり剥がしたりできる値札だと思っていやがる。

 

 鉱人の娘はそう吐き捨てると、冷えたグラスを持ちあげ、その中の酒を飲みました。

 

「……その口ぶりですと、貴女は宰相のことを好んでいないのですか?」 探るように文庫神官ちゃん。

「戦争準備で景気が悪くなってるからな。それに兵士だか山賊だか分からんような連中のお陰で流通も悪い」

「商売人にとっては致命的ね」 交易神官として納得な森人探検家ちゃん。

 

 そういえばこの国の兵士長が腐敗してるせいで末端まで腐ってるんでした、砂塵の国の兵士たちは。

 それが景気に及ぼす悪影響を分かっていないわけではないでしょうけれど、宰相は今のところ放置しています。

 前の王は秩序全振りの清廉潔白な……清廉潔白すぎる人物だったらしいと聞いているので、そこで抑圧されていた分の反動を解放してガス抜きしている最中ということでしょうか。

 

「まー、あれで宰相はやり手だ。今は選別期間中ってとこだろう。綱紀粛正の時も近いんじゃないかというのがもっぱらの見立てだ」

 

 そしてある程度、使える奴と使えない奴の選別が終われば、適宜配置転換して、やり過ぎた奴を潰して見せしめにして、体制を立て直すつもりということなのでしょう。

 

「確か宰相は太古の遺跡に封じられた者どもを解放して回っているのじゃったか。古の兵士たちを手駒に出来たなら、腐った兵隊たちにこだわる必要もないのかもしれんのう」

「そういうことだ。宰相の手元に督戦・監査のための十分な精鋭戦力が集まった時が、軍部の粛清の始まりの時だろう。流通も正常化するはず……いや、正常化()()()さ、我々商人が黙っていない」

 

 鉱人の娘が自負するように、農作物が育ちづらい砂塵の国は、商売流通が主要な産業です。

 王国の軽銀商会が蛍石の鉱山を求めて来たように、鉱物も産出しますが、それも買い手があって、そこから荷を運ぶ商人たちが居てこそのこと。

 たとえ王であっても……いえ、王となったからこそ、砂塵の国においては商人たちの意向は無視できないはずです。

 

「……宰相が準備した古の戦力が、想像以上のものだったとしてもですか? もはや国内に気を使う必要もないくらいに強大な戦力を用意できる可能性は無視できないかと」

 文庫神官ちゃんが退魔の聖剣にかけて危惧を口にします。

 

「ふむ。なるほど、確かに貴女がたの討滅した、金字塔の大悪霊級の戦力が複数味方するようなら、そうなるかもな」

「そのときはどうするのよ?」 森人探検家ちゃんが、己でも答えをわかっている問いを投げます。

「決まっている。逃げるのさ。蜃気楼のように立ち消え、また何処かに現れるとしよう」

 

 黄金の蜃気楼亭。

 その名は伊達ではないということです。

 自在に消えて、また現れる拠点を持つ彼らは、砂塵の国の都に固執する必要はありませんからね。

 

 居心地が悪くなったら消えてしまえばいいのです。

 そしてそれは他の商人たちも程度の差こそあれ似たようなもの。

 稼げないところからは逃げればいいのです。

 

「危なくても、締め付けられても、稼げるようならば残るし、稼げなくなれば消えて去る。商人ってのはそういう生き物だからな」

()()じゃのう」

 半竜娘ちゃんは感心します。これもまた適者生存。蜥蜴人の尊ぶ、生き残るための()()の一形態だと認めているのです。

 

 

 

「でもまあ、宰相はやっぱり王の器じゃないと思うがな。先頭(トップ)に立つには、“華” が無い」

「そんなものかのう?」

 “強さ” があるなら、“華” というのは自動でついてくるものではないかと考える蜥蜴人には分からない感覚なのか、半竜娘ちゃんは首を捻ります。

 

「宰相には “力” がある。“智慧” もある。簒奪を成功させたし、遺跡に自ら赴くくらいだから “勇気” もあるんだろうさ。だが、どうにも “華” が無い。あの宰相は結局、宰相(ナンバー2)として辣腕を振るうのが最もお似合いだ。……もっとも、ここ最近の王家に “華” がある王が立った試しもないわけだが」 あくまでも商人として公平に見て、鉱人の娘がそう評しました。

「オチが付いておるじゃないか。結局は担ぐに足る王ではなかったから、簒奪までして自ら立ったわけじゃろ」

「野心のためというのもあるだろうがな。宰相なりに国を思ってという面もあろうさ。まあどうせ、元の王家だって初代を辿れば簒奪者だ。砂塵の国の歴史はそうやって紡がれてきた。この王朝の順番が来たというだけの話。珍しくもない」

 

 そうやって歴史俯瞰的な視点で嘯く鉱人の娘は、案外ずっと昔から生きていたりするのでしょうか。

 

「……話が脱線したな。それで、貴女たちは簒奪者たる宰相に招かれている。こちらの見立てでは……今日の夜にでも王宮に召されるだろうから、準備しておくといい」

「今日の夜? 随分と急じゃのう」

「たまたま予定が空いているようでな。宰相は、砦の視察から戻ってすぐにでも一席を設けるだろう」

 

 一介の商人がなぜ、王宮の、しかも今の最高権力者である宰相の予定を仔細に知り得ているのか。

 ここが仕掛人たちの元締めであることを鑑みれば自明というものでしょう。

 いざとなれば逃げると言っておきながら、彼らの長い手はきっちりと、宰相の首にまで伸びているのです。

 

 寝首を搔くでも、移動中に奇襲するでも、きっと自由自在ということです。

 あるいは……前の王の首を刈ったのも、どこぞの仕掛人なのかもしれませんね。

 

「……恐ろしいのう、まったく仕掛人というのは。手前は冒険者が似合いの天職じゃて」*3

「それが仕事(ビズ)ならやり遂げるまでだとも、仕掛人というのはな」

「影の世界の流儀というわけじゃな」

 

 己の器量伏し、御下命、如何にても果たすべし。

 なお、死して屍拾う者なし。

 ……死して屍拾う者なし。

 

「それはともかく」 森人探検家ちゃんが問います。少なくない代価で情報を購っているのですから、この程度では足りません。「もっと必要な情報を出してくれないかしら。私たちを大衆の前で賞する段取りでなければ、宰相は何をさせたいのかしら? ただ単に冒険の話を聞きたいだなんて、夢見がちな王子のような動機ではないのでしょう?」

 

「まあそれも無いではないだろうがな、頭痛の種だった大悪霊を浄滅した手管は知りたいのだろうし」

 もちろんそれだけではないが、と鉱人の娘が続けます。

「本題は、貴女たちへの依頼であろうさ。その竜の叡智を見込んで、この砂塵の地に眠る遺跡──── 武装要塞の類の起動方法を解読してほしいらしい」

 

 武装要塞(アームズ・フォート)? と疑問符を浮かべた半竜娘たちに、鉱人の娘は説明します。

 

「流石に機密度が高いせいか、厳重に警戒されていて詳細は不明だ。だが、宰相が、古文書を解読して何かを掘り当てたのは確からしい。恐らくはその件になるはずだ」

「その遺跡に潜れってことかしら?」

「さぁな。詳細は宰相が話すだろう。……その機密を知った貴女たちが生きて帰ることを祈っておこうか」

 

「宰相がなんぞ企んでおろうとも、手前らは己が実力で生きて帰るのじゃよ」

 

 不敵に無敵にほほ笑んだ半竜娘ちゃんは、盤石にするためにさらに情報や物資を、鉱人の娘に求めるのでした。

 

*1
◆魔剣の若者とすれ違う:推定ルーク(ジェダイ)がモチーフのひとつと思われるキャラ。原作小説11巻では昏倒した青い鱗の蜥蜴人より先に楼閣を飛び出しているのだが、この世界線ではまだ中に留まっていたようだ。たぶん妖精弓手にでも見とれていたのだろう。

*2
◆犀のやつ:半竜娘ちゃんたちに沙漠に向かう依頼を持ってきた犀人。黄金の蜃気楼亭の主人から盗まれた魔導具を取り返すべく、巨大化半竜娘ちゃんの背に乗って下手人の賊頭鳥人を追い、空中つのドリルで盗みの下手人を粉砕した。

*3
◆半竜娘ちゃんの天職は冒険者:別の世界線では、捕食者(プレデター)構築で仕掛人(ランナー)やってる半竜娘ちゃんもきっと居ます。



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41/n 時の砂の秘密-2(セーブ&ロードでシーン分岐回収する系黒幕)

 
◆前話
 商人曰く、闇人(ダークエルフ)の血を引く宰相は、やり手の男。
 しかし、力と知恵と勇気を持っているとしても(簒奪された前王の娘である姫君曰く、力だけの男*1、との評であるが)、華がないとの評価。
 そんな宰相は、武装要塞(アームズフォート)の起動方法に関する古文書の解読を半竜娘たちに頼みたいようで……?
 果たして、国家機密級のヤバいネタを振られるだろう半竜娘たちは、生きて王宮から出られるのか。
 


*1
◆宰相は “力” だけの男:恐らく、ゼルダの伝説シリーズのガノンドロフがモチーフの一つと思われる。一方で、姫君の方のモチーフには、レイア姫(スターウォーズ)やゼルダ姫(ゼルダの伝説)が含まれると思われる。

 

「改めて……よくぞ参られた。大悪霊の討滅者よ。祝宴は気に入ってもらえたかね?」

 

 王宮に敷かれた豪勢な絨毯の上で、その青黒い肌をした男は腕を広げて歓迎の意を示しました。

 怜悧な顔立ち、酷薄さを隠しきれない笑顔。

 そして強者としての傲慢さが滲む威風(オーラ)

 

 半竜娘ちゃんたち一党が王宮へと招かれた先で待っていたのは、この砂塵の国の簒奪者である宰相の男でした。

 その宰相は豪奢な衣装をまとい、護身用なのか装飾品なのか玻璃(ガラス)の柄のダガーを腰に差しています。

 そのダガーの玻璃の柄は中が空洞になっているようで、不思議な魔法の輝きを宿した砂が詰まっています。

 

 

 黄金の蜃気楼亭で王宮への招待についての話を聞いた半竜娘ちゃんたちは、その後、宿に下がってTS圃人斥候や幼竜娘三姉妹と合流し、黄金の蜃気楼亭の鉱人の娘が言っていた通りに、宵闇のころに王宮に招かれたのです。

 珍しく沙漠に降った雨によってじっとりと湿った空気の中で、半竜娘ちゃんたち一党+幼竜娘三姉妹*1が王宮に上がると、豪勢な食事と歓待の楽団や踊り子たちが一党を出迎えました。

 

 黄金の蜃気楼亭の鴉人の踊り子には及ばないとはいえ、流石は王宮の抱える舞踏団。

 見事な踊りは、ここが現実であることを忘れて、まるで天女の舞う天上の楽園に招待されたかのごとくです。

 

 そして歓待の宴が続く中で、闇人の血を引く宰相は、いよいよ半竜娘に声をかけ、別室へと連れ出したのです。

 

「もちろん楽しませてもらっておるよ、宰相殿」

 

 混血同士の奇妙なシンパシーがあるのか、半竜娘ちゃんは割りと友好的に返します。

 長い尻尾を振って絨毯の上を軽く撫でて均すと、どっかりと身の丈およそ十尺もある巨体をその上に落ち着けました。

 

「それは重畳。冒険者殿にはお智慧をお借りしたい儀がありましてな。……ああ、姫君(ひめぎみ)。冒険者殿に飲み物を」

 

 頼みごとを切り出した宰相は、その話の繋ぎにと、控えていた少女に酒杯を持たせ、半竜娘ちゃんの方に運ばせます。

 ……それにしてもこの宰相、給仕させている娘のことを『姫君』と呼びませんでしたか?

 

 能面のような顔で屈辱を隠して酒杯を運ぶのは、(とうと)身形(みなり)をした娘でした。

 半竜娘ちゃんは、宰相の発言と自身の洞察力により、酒杯を運ぶ彼女の正体を看破しました。

 

「……前王の娘。ふぅむ、(しつけ)の最中ということかや」

「まあそのようなところでしてね。……気に入りませんかな、御客人?」

()()()()。まあよくある事であろうとも」

 

 むしろ前の王の血筋を根切りにしていないだけ有情(うじょう)だとまで、半竜娘ちゃんは思っています。

 弱肉強食にして適者生存の野生の理を是とする蜥蜴人部族の価値観にとっては、この程度は虐待のうちにも入りません。

 ……少々、露悪的で悪趣味で遠回しだな、と思う程度です。まあ殴り倒すよりは文明的で貴族的と言うこともできますが。

 

 半竜娘ちゃんの顔つきは只人(ヒューム)のものですが、その瞳ばかりは爬虫類のような酷薄さを湛えているように、姫君の目には映りました。

 あるいはそれは、面倒事を避けるための半竜娘ちゃんの演技なのかもしれません。

 実際に、その酷薄な瞳を見た姫君は、“この冒険者の手を借りることが出来るとは思えない” と感じ、半竜娘ちゃんに助けを求めようとは思えなくなったのですから。

 

「それより宰相殿。本題に入っていただければ幸いなのじゃが。頼みとやらが直ぐに片付く(たぐい)なら良いが、それでなくとも時間は有限であるからの」

()()()()()……。ええ、確かに、そう()()しれませんな。貴女がたにとっては」

「もったいぶらないことじゃ。その分だけ期待のハードルが上がるのじゃからな」

「ではこちらを」

 

 宰相が座ったまま、己の目の前の広い床に敷かれた9枚の絨毯のうちのひとつ……ちょうど彼から見て()()にある部分をめくります。

 そこに隠されていたのは……。

 

「石板? 依頼はソレの解読ということかや」

「いかにも。話が早くて助かりますな。これは太古の魔術師たちの時代に、彼らに対抗しようとした技術者たちの遺産です」

 

 強大な魔術師に対抗するためには、たとえ要塞であっても物の役には立ちません。

 固定標的など、いくら防御力が高くとも、彼らの天変地異に等しい魔導にかかれば、単なるカモです。

 であれば、それを機動させれば良いのではないか。というのが、魔術師たちに対抗しようとした技術者たちの回答でした。

 

 魔術師という一騎当千の個に対する(for)、人類という群体としての回答(Answer)

 

「それこそが、武装要塞。アームズフォート」

 

 宰相が語って説明します。

 

 曰く、太古の魔術師たちに対抗するべく技術者たちが造り上げた巨大機動要塞。

 曰く、砂塵を駆け、宙に浮き、敵対者を滅ぼす、動く鉄の砦。

 

 古文書によれば、複数のそれらが── 太古の魔術師たちに対するには、当然、一つでは足りなかったのでしょう── 砂塵の下に眠っているのだといいます。

 もちろんこれまでは、そんなものは伝説上の存在でした。

 ですが、宰相は確かにそれに繋がる情報を得て、実際に掘り出して、修復までしつつあるというのです。

 

「発掘し、ある程度は修復したそれを、起動するための方法。それを私は求めています」

「……手前たちで分かるとも限らんが。分かったとして、動き出したソレは王国に向けられることが分かり切っておるんじゃから素直に話すべき道理もないのじゃ。そもそもお主、手前らを生かして返す気があるのかや?」

 

 敵に塩を送ることもありません。

 それにまあ、用済みになれば口封じしてくるのは鉄板ですよね。

 その手の口封じは警戒せざるを得ません。

 

「…………であれば、今回は縁がなかったとお断りになられると?」

()。まあ受けるんじゃが。太古の技術者が造り上げた武装要塞? 気にならん訳がなかろう!」

 

 あっけらかんと半竜娘ちゃんが受諾の意を示します。

 拍子抜けしたような宰相の顔。信じられないと唖然と口を開ける姫の顔。

 どちらも見て、愉快そうに半竜娘ちゃんが呵々と笑います。

 

斯様(かよう)に希少な機会、逃すわけにはいくまいて!」

 

 これで半竜娘ちゃんは知識欲も旺盛ですからね。

 火吹山の魔法使いから薫陶を受け、異界の上位魔神(アークデーモン)の知識を掠め取り、現世で魔法の巻物(スクロール)の製法さえ復活させた女です。

 罠があるからというのは怯んで退く理由にはなりません。竜に後退は無いのだ!

 

「……冒険者殿の来歴は調べさせてもらいました」

「ふむ、黄金の蜃気楼亭からかの? あそこの犀人は西方王国で手前らに依頼をした。その時に手前らの情報を集めていても不思議ではない」

「まあそのようなところです。それについ最近は、城塞の精霊との友誼も結んだという話です。だからこそ、是非に貴女がたに依頼をしたい。【辺境最大】と称えられる貴女に」

 

 武装要塞(アームズフォート)もまあ、城塞の一種ではあるのでしょう。

 であれば城塞の精霊の権能の範疇でもおかしくありません。

 宰相は、半竜娘ちゃんを通じて城塞の精霊の智恵も借りられないかと目論んでいるのです。

 

 あるいは、かの城塞竜は、その機能から考えれば、武装要塞(アームズフォート)そのものと言っていいかも知れません。

 半竜娘ちゃんとしても、武装要塞(アームズフォート)の情報を城塞の精霊(マザー・シルキー)に知らせれば、あの城塞竜がその古代の遺物を取り込みに来るのではないかと考えているようです。

 武装要塞の情報は、きっと良い手土産になるでしょう。

 

「さぁて、では解読してみようかの?」

 

 半竜娘の博識判定(古代石板の解読):

  知力集中11+魔術師Lv8+博識0+“城塞の精霊”の加護2+2D642=27

 判定値27 > 目標値25。判定成功!

 

 むむむ、と頭を捻った半竜娘ちゃんでしたが、最近、城塞の精霊と何気なく話した内容にヒントがあったことに思い至ります。

 そこからは、侏羅紀の世界(ジュラシックワールド)と化した南国の島で見つけた電子のカラクリや、異界の機械化大悪魔(サイバーデーモン)の解析結果などを思い出して、芋づる式に解読が進みました。

 

「……つまり、これこれこうして、ここをバイパスさせることでじゃな……」

「ほほう、なるほど……。であれば、こちらの機構は……」

「うむ、そういうわけじゃろうな。必要なのは────」

 

 闇人の血を引く簒奪宰相も、古代技術への造詣が深いためか、半竜娘ちゃんの示した示唆によって、するすると理解を深めていきます。

 ……ひょっとしたら、彼自身の血脈に、古の言い伝えとして何らかの知識が伝わっていて、そのような素地が元々あったのかもしれません。

 

「すなわちこれが、陸蟹(ランドクラブ)なる武装要塞の起動方法になるじゃろうな」

「ふむ、ふむ。なるほど……」

「で、宰相殿。この秘密を知った手前をどうするつもりじゃ?」

 

 解読のために2時間ほどは経ったでしょうか。

 既に夜も更け、かなり遅い時間になっています。

 おそらく半竜娘ちゃん一党の仲間たちと幼竜娘三姉妹は、王宮に宛がわれた部屋で休んでいる頃でしょう。

 

 人質に取られるのは厄介かもしれません。

 とはいえ、逆に王手をかけているのは半竜娘ちゃんの方でもあります。

 この間合いで、一対一で、歴戦の蜥蜴人が負けるはずもないのですから。

 

「……いいえ、何も。何もしませんとも」

「ほほう?」

 

 戦闘になるかとウキウキしていた半竜娘ちゃんが、眦を上げて訝しみます。

 

 まあ宰相側としても、この一騎当千の蜥蜴人をどうにかできるとは思っていないということでしょうか。

 

「それよりも良い方法がありますのでな」

 

 そう言ってニヤリと笑った簒奪宰相は、腰に下げていたダガーの、その砂が収められた玻璃の柄を握ります。 

 

「……? 自刃するのならば興ざめじゃが」

「まさか。

 ──── 少し、この国の王家の話をしましょうか。かつて時の秘密を盗んだという奪掠(タスカリャ)神が加護を授けたというその血脈の話を」

 

 宰相が、傍らに控える姫君の方をちらりと見ました。

 彼女は下唇を白くなるほど噛み締め、宰相を睨んでいます。

 

 いえ、正確には、その宰相の持つ、ダガーの柄の中の怪しげな輝きを宿す()を、でしょうか。

 

「天上で時の秘密を盗んだという奪掠(タスカリャ)神が、加護を与えたという一族。それがこの国の王族です」

「……その一族にも、時の秘密を操る力がある、とでも?」

「半分正解で、半分外れ、というところですね」

 

 半竜娘ちゃんは、宰相の歴史講義にしばし付き合ってやることにしたようです。

 

「正確には、彼らの命を、とある魔導器で加工することによって、時を逆戻すアイテムにできるのですよ」

「……逆戻し(ロールバック)、とはこれまた魂消た権能であるな」

「ええ、ええ。まさしくその通り。その逆さ戻しの力によって、この国の王族は最善の政治を為すことが出来ました」

 

 交渉の失敗を巻き戻す。

 情報を拷問して抜き出して、その事実自体を無かったことにする。

 暗殺襲撃を受けても、時を戻してから逆に暗殺者を奇襲する。

 

 いくらでも悪用方法は思いつくでしょう。

 

「しかし、命と言ったかや? 代償がソレでは、そう軽々に使えるものではあるまい」

「それがそうでもないのですよ。王位の継承にあたっては、不要な王族というものは幾らでも出るものですから」

 

 あー、継承権を競った敵対候補の粛清も兼ねていた、と。

 それなら納得です。

 

「ふむ。つまりは前の国王も?」

「ええ。ここにありますのが、彼の命そのものですとも」

 

 ダガーの柄に納められた砂……玻璃の器の中でサラリと流動するそれを、憎々し気に、あるいは愛おし気に眺める宰相。

 

「そしてそこな姫君の命もまた?」

「ええ、ええ。彼女が強情にも私に従わないのでしたら、やがてはそうなるでしょうな」

 

 宰相が、姫君の命に結びついた魔法の砂時計── すなわち時を遡る “時の砂” を特定の血族の命から精製する魔導器── を思い浮かべ、酷薄に嗤います。*2

 

「じゃが良いのかや? その “時の砂” を生み出せる血族は、そこな娘が最後であろうに」

「ふふふ、やがてと言いましたが、今すぐとは言っていませんよ。適当に種を仕込んで血族を増やしてから、その寿命を “砂” にしてもらうのですとも。王位継承の承認のこともあり、無理強いするよりも、納得して協力してもらった方が、はるかに良いですからこうして迂遠な手を取っておりますが……」

 

 ジロリと睨む宰相の瞳に、姫君が身を一瞬竦ませましたが、気丈に睨み返します。

 半竜娘ちゃんが、そんな姫君を感情の色のない瞳で見遣ります。

 

「いざとなればその尊厳を劫掠することに躊躇いはない、と」

「砂漠の民は、そもそも奪掠が習いですのでな。商売と同じく」

「であるか。まあ、それもまたヒトの叡智であろうな。つまり、時の砂のために家畜化するというわけじゃろう」

 

 只人の街に行って初めて牧畜という概念に触れた過去を持つ半竜娘ちゃんの指摘に、宰相がニィと三日月に笑います。

 そうです、宰相は、かつての王の血脈を家畜のような奴隷に貶め、時の砂を精製するためだけに飼い殺すつもりなのです。

 

「家畜化とは人聞きが悪い……。重要な血脈を()()するだけですとも」

「ものは言いようじゃな」

 

 半竜娘ちゃんが溜息をつきました。

 言い方を変えたところで本質は変わらないでしょうに、まったく只人というのはそういう言葉遊びが好き過ぎます。

 

「それにやがては、このような非効率的な時間遡行ではなく、もっと効率が良く安定した方法を研究して編み出して見せますとも」

「……そうか。まあ、手前なら、その砂を焼き固めて楽器でも作るかもしれんな」

「おお! なるほど! 流石は竜の叡智……。特定の旋律をトリガーに、奏者の消耗を引き換えにすれば、ごく短時間の時間遡行は可能になりそうですな……! 砂を加工して作るなら、陶器かガラスか……となればオカリナが適当ですかな……? 差し詰め、時のオカリナ、といったところ……」*3

 

 なんか半竜娘ちゃんが余計な気付き(アイデア)を与えた気がしなくもないですが、先ほどまでの石板解読談義の余韻でポロっと溢してしまったのでしょうね。

 まあ仕方ないことです。覆水盆に返らず。

 

「……やはり冒険者殿を招いて良かった。実り多い一夜でしたが……そろそろ遡行限界。お時間です」

「やはり、わざわざ喋ったのは、どうせ時間を遡らせるからじゃろう?」

「そういうことです。ネタばらしというのは、気分のいいものですからな。ついやってしまう」

 

 得意満面の笑みの宰相が、“時の砂” が詰まったダガーの柄頭を外しました。

 

 途端に砂が魔力の奔流となって揮発し、赤い光の筋となって溢れ出します!

 

「記憶を持って遡れるのは、このダガーを握った者のみ。では冒険者殿。()()()()()()()()()()()()()

「ふぅむ、ではまた、とでも言っておこうかの?」

「ええ、ええ! また、時の流れの遡った先で……! ふふふふ、ふはははハハハハハハハ!!」

 

 宰相の哄笑とともに、過ぎ去った時間が残影となって、逆再生のように戻っていきます……!!

 

 …………。

 ……。

 

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 

 さて、時間が遡りました。

 場面は、宰相が半竜娘ちゃんに対して石板を披露するところからのようですね。

 

「こちらをご覧ください、冒険者殿」

 

 先ほど違うところがあるとすれば、それは絨毯の上に座る宰相が腰に差した “時間のダガー” の柄の中の砂が目減りしていることでしょうか。

 流石に時を遡るリソースまでは、再生しないようです。

 

 そして違うところは、まだあります。

 先ほどの周回では、宰相がめくったのは宰相から見て右前の絨毯で、『陸蟹(ランドクラブ)』の石板でした。

 

 しかし、今度めくった絨毯は、9つあるうちの己の正面のものでした。

 

「冒険者殿には、その解読を頼みたいというわけです。受けていただけますな?」

「ふむ。ここで受けねば冒険者の名が廃るというもの。受けるのじゃよ!」

 

 そして同様の流れを経て、半竜娘ちゃんが石板の内容を解き明かします。

 

「すなわちこれが、巨礎(ギガベース)なる武装要塞の起動方法になるじゃろうな」

「なるほど、ありがとうございます。冒険者殿」

 

 その後、またしても “時間のダガー” の柄を開け、“時の砂” を消費して時間を遡らせる宰相。

 

 まーきーもーどーさーれーるーぅ~~~!

 

 …………。

 ……。

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 合計で都合9回ほど巻き戻しに付き合わされました。

 実況する側としては、遅延行為は止めてもらえます?? って感じですが、仕方ありません。

 

 ええと、結局、宰相は自分が準備していた全ての石板を半竜娘ちゃんに解読させて、さらにもう一度巻き戻しています。

 今は、その全解読後の逆さ戻しを経た時間軸ですね。*4

 

 宰相が持つ “時間のダガー” の柄に貯められていた、“時の砂” も、すっかり残り僅かになっています。

 最初の解読と同じくらいの時間を、その後の解読でも費やしたならば、すっかり空になっていたと思うのですが、半竜娘ちゃんってば、段々と解読の速度が速くなっていったのですよね。

 そのお陰で、遡らせる時の量が少なくなり、砂の消費も抑えられたようです。

 

 ……宰相もそれを少し不審に思ったようですが、まあ、ダイス目(宿命と偶然)の妙だと思っているようですね。

 おそらく王宮のどこかには、前王の命を変換して精製した “時の砂” の在庫はあるのでしょうが、それでも砂自体の消費が少ないに越したことはないのでしょうし。

 とはいえ、もうまともに一時間単位で遡行できるほどのストックは、ダガーの柄にはありません。

 

 しかし全ての石板の解読は終わっていますので、それで問題ないようですね。

 

 これまでに解読された石板には、それぞれ対応する武装要塞(アームズフォート)の起動方法が記されていました。

 

 『陸蟹(ランドクラブ)

 『巨礎(ギガベース)

 『長城(グレートウォール)

 

 『蝕尽(イクリプス)

 『陽神行路(ソルディオス・オービット)

 『応答剣(アンサラー)

 

 『母なる意思(スピリット・オブ・マザーウィル)

 『地揺らす巨人(カブラカン)

 『黒玉(ジェット)

 

 まあいずれも完全品として残っているとは考えづらいのですが、一部だけでも修復して稼働させられるというなら、宰相たちの持つ技術力は大したものです。

 

 さて、最後の談笑を終えて、宰相は半竜娘ちゃんに石板をどれも見せもせずに、大悪霊討滅の功績だけを賞して帰しました。

 

 相手に何も知られることなく、自分だけが情報を得る。

 この情報の非対称性こそが、“時の砂” の恐ろしさです。

 

 たらふく食って満足げな半竜娘ちゃんは、他のメンバーが歓待されている大広間に戻っていきます。

 

 そして彼女の懐には、もちっとしてぷにっとした、一頭身の精霊の姿がありました……。

 

「ふん、宰相殿よ。時の秘密に触れて入門しておるのがお主だけとは思わぬことじゃ。のう、ティーアースの欠片よ」

『ゆ??』

 

 それは奪掠(タスカリャ)神との関係も噂される、時間と空間を司る神格が零落した精霊:ティーアースの欠片でした。

 つまり半竜娘ちゃんは、その精霊の権能を借りることによって、時間遡行に伴う記憶の欠落を防いでいたのです!

 

「都合9回も智慧を貸してやったというのに、それを踏み倒そうとは言語道断」

 

 くつくつと喉奥で笑う半竜娘ちゃんは、王宮の地下に意識を向けました。

 そこから繋がる先に、いずれかの修復中の武装要塞が眠っているというのを、繰り返す時間の中で彼女は知っていたのです。

 

取り立ての時間(ペイバック タイム)じゃて」

 

 

 

*1
◆半竜娘ちゃんたち一党+幼竜娘三姉妹:半竜娘(武僧)、森人探検家(射手)、TS圃人斥候(ニンジャ)、文庫神官(タンク)、闇竜娘(in 竜牙のアクセサリ)(使魔(ファミリア))、白梟使徒(使徒(ファミリア))の6キャラで構成される一党。幼竜娘三姉妹は、前の年に半竜娘が単為生殖した卵から生まれたが、蜥蜴人の成長は早いため、既に只人の10歳児相当くらいの背丈には育っている。

*2
◆砂時計の魔導器:ゲーム『プリンス・オブ・ペルシャ』シリーズに登場。姫君を助けに行く若者が死んでも蘇られるのは、姫がこの魔導器で時間を巻き戻してくれるお陰! プリンス・オブ・ペルシャは、ゴブスレ小説11巻のモチーフの一つと思われる。

*3
◆時のオカリナ:ゲーム『ゼルダの伝説』シリーズのキーアイテムの一つ。

*4
◆全部解読後の時間軸:宰相は、半竜娘に解読させる石板について、1~9まで選ぶことが出来た。一夜に付き1枚解読できるが、半竜娘ちゃんは一夜しか解読に付き合わせられない。そのため、8回時間遡行して9種類の石板を解読させ、さらに最後に1回巻き戻して、『何も解読させない』という10番目の選択肢を選んだところ。




 
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41/n 時の砂の秘密-3(暗中飛躍)

 
◆前話
タダ働きはしない女! それは半竜娘ちゃん!
 


 

 時間を(さかのぼ)らせる『時の砂』の力を使った砂塵の国の宰相によって、古代の石板を解読できるほどの叡智を掠め取られてしまった半竜娘ちゃん。

 タダ働きはメチャ許せんよなあ! 時間遡行でコスト踏み倒しとか実際悪質です。

 本来であれば時間遡行によって術者の宰相以外はその間の記憶を失うはずでしたが、零落したティーアースの破片(ゆっくりまんじゅう)を契約精霊にしている半竜娘ちゃんは、時間と空間の属性を司るその精霊の加護によって記憶を持ち越せていたのでした。流石に零落したティーアースの破片(ゆっくりまんじゅう)の力量では時間遡行まではできませんが、ループした間の記憶を保持するくらいならなんとかなるようです。

 

ゆっゆくゆー(もうおしまいかなー)??』

「うむうむ、助かったのじゃよ、ティーアースの欠片よ。後できっと、たーんと『時の砂』を喰わせてやるからのぅ。今は……ほぅら、これをやろう、砂漠に落ちたという流星の欠片じゃ」

ゆゅゆ(わぁい)~♡』

 

 歓待のために宰相に呼び出された個室から戻る半竜娘ちゃんの懐には、一頭身のすべすべもっちりした精霊の姿が。

 黄金の蜃気楼亭で手に入れていた物資の一つ、世界の外から墜ちた流星の欠片(時空間属性の上質な触媒)を受け取ったその精霊(一頭身)はご満悦です。餌付けされてますねえ。

 零落した外なる小神であるティーアースの破片は、かつての力を取り戻すために、常に、世界の外側から来たものや、時空の秘密にまつわるものを探しているのです。

 

 ──── それは例えば『時の砂』のような。

 

 かつて奪掠(タスカリャ)神が天上で盗み出したという『時の秘密』に連なる魔導具によって生み出されたという『時の砂』を吸収できれば、ティーアースの破片の力もきっと大きく回復するのは間違いありません。

 

 ……え? 原料(もと)は人の命なのに食べさせて良いのかって? ええ、それは、まあ、はい。

 とはいっても失われた寿命を元に戻せる手立てがあるわけでもなし、宰相に悪用されるのを防ぐためにはティーアースに食わせてしまうのが一番ですよ。

 

 それに半竜娘ちゃんが拠点を置く西方辺境を有する王国の仮想敵であり、現在進行形で混沌に蝕まれつつあるこの砂塵の国の、その切り札ともいえるマジックアイテム……時間遡行を可能とする『時の砂』を失わせることは、戦略的にも有効でしょう。

 首尾よく『時の砂』を奪取し、その件をあとで冒険者ギルド経由で王国に報告すれば、ひょっとすれば半竜娘ちゃんの金等級(序列2位)への昇格も見えてくるかもしれません。

 ほら、冒険者ギルドは国営ですからね。高位冒険者ってのはそういう意味では国家公務員の下っ端みたいなものですし、やはり国への貢献は重要視されますから。

 

「じゃがまずは、取り立てからじゃな」

 

 とはいえそれは後での話。

 今は、タダ働き×9の分の取り立てをするのが優先です。

 ()められっぱなしは面子に障ります。きっちりと応報する必要があります。

 

 さて、おさらいすると、宰相が得たのは次の9つの武装要塞の起動方法でした。

 そして石板を解読した張本人である半竜娘ちゃんも当然、その全てを記憶しています。

 

 『陸蟹(ランドクラブ)』、『巨礎(ギガベース)』、『長城(グレートウォール)』、

 『蝕尽(イクリプス)』、『陽神行路(ソルディオス・オービット)』、『応答剣(アンサラー)』、

 『母なる意思(スピリット・オブ・マザーウィル)』、『地揺らす巨人(カブラカン)』、『黒玉(ジェット)』。

 

 古代の技術者たちが作り上げたという、武装要塞アームズフォート。

 

 半竜娘ちゃんは繰り返される解読依頼の時間の中で、その9つのうちのいずれかが、この砂塵の国の王宮地下から繋がるどこかに置かれていることを知っています。ちなみに、それ以外の他の武装要塞の発掘修復地点は、国中に散らばっているとか。

 どうせ『時の砂』で遡れば()()()()()()()()()からと、どこかの周回で宰相が自慢げに話していた情報の一つです。

 宰相は半竜娘ちゃんが時間遡行に耐えて(をレジストして)記憶を保持していたのを見抜けませんでした。それは彼にとって誤算であるはずです。

 

「まったく詰めの甘い男じゃて」

 

 いいえ貴女が規格外なだけですよ、半竜娘ちゃん。

 

 さぁてどうしてやろうか、どの程度取り立ててやろうかと半竜娘ちゃんが舌なめずりしながら、広間に戻ります。

 

 そこは宴もたけなわ、一党の仲間たちが踊り子たちに酒をお酌されながら陽気に笑い合い、幼竜娘三姉妹が踊り子の真似をして踊った挙句に疲れ果てて寝こけている光景がありました。

 

 主観時間で18時間近くはぶっ続けで古文書の解読をしていた半竜娘ちゃんの胸中に曰く言い難い思いが沸き上がりかけますが、努めて鎮火させます。

 

 半竜娘ちゃんも時間遡行前の記憶を持っていることは、宰相に悟られてはいけませんからね。

 何処の誰が宰相に報告するか分からない以上は、不自然のないように気をつけなくてはいけません。

 たとえ『手前(てまえ)が難解な古文書の解読やら記憶をリセットされた風の演技やらで神経すり減らしていたのに暢気に宴をしておってからに……』などとは思っても、顔に上らせるのはダメです。

 

「まあ良い。この後はたっぷりと付き合ってもらうのじゃからな」

 

 何食わぬ顔で半竜娘ちゃんは宴の広間に合流しました。

 

「あっ、戻ってきたのね! あなたも飲みなさいよ!」

 自分の座る絨毯の横をパンパンと叩いて招く森人探検家。

 

「あれー、リーダーは話は終わったのかー?」

 飲み過ぎているのか胡乱な口調のTS圃人斥候は、踊り子の一人の膝の上で葡萄を食べさせてもらっています。

 

「遅かったですね、お姉さま。心配していました」

 楚々と座っている文庫神官も、ほんのりと顔が赤いですね。

 

「「「 Zzzz…… 」」」

 幼竜娘三姉妹は同じ寝相をして、広間の一角に敷かれたクッションの上で寝ていますね。愛らしいことです。

 

 

 

「うむ、宰相殿からの感謝をしかといただいたとも! 存分に飲み、喰らって良いそうじゃ! 遠慮はせずにな!!」

 がははと笑いながら、半竜娘ちゃんは、豪奢な絨毯の上に座り込んで大きな酒杯を手に取り、がぶがぶと勢いよく飲み干しました。若干やけっぱちというか、やさぐれてません??

 

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 

 さて。

 酒宴は終わりましたが、もう遅い時間だということで宿には下がらず、王宮の広めの客室をひとつ宛がわれた半竜娘ちゃん御一行。

 

 さーて寝るかー、という一党の皆に対して、半竜娘ちゃんがおもむろに鞄から魔法の解毒薬(ポーション)魔法の巻物(スクロール)を取り出しました。

 

「んんー? 荷物の確認ー? いいからもう寝ましょうよ……ふぁ……。結局普通に歓待されただけだったわね」

 森人探検家があくびをして寝台に横になります。

 他の面々も同様です。

 

 ですがそうして無害に思わせて油断させることこそが、宰相の狙いです。

 半竜娘ちゃんたちが彼女らが拠点を置く西方の王国にこちらの砂塵の国の様子を伝えることは、宰相も織り込み済み。

 であれば、無害だと誤認させて、その何でもない情報を持ち帰らせて油断させたいという魂胆です。

 

 しかし時間遡行でループした回の記憶を持ち越している半竜娘ちゃんには、その手は効きません。

 巨大な機動要塞たちの情報は、何としても持ち帰らなくてはなりません。

 

 問題は、どうやって一党の他のメンツにその危機感を共有するかです。

 

「(手前の持つ情報を共有したいところじゃが、声に出してはここを監視しておる者が()った場合にバレかねぬ)」

 

 ここは砂塵の国の王宮。仮想敵国の本拠地にして、その中枢です。

 どこに監視の目や盗聴の耳があるか分かりません。

 実際、半竜娘ちゃんの魔術師としての魔法知覚── 魂から漏れる魔力のオーラを介して周囲を知覚する能力── は、扉の前に陣取る召使いの存在を感知しています。そして巡回する兵士たちの気配も。

 

「(じゃが一方で、悠長にやっておったら、せっかく王宮にまで招かれておるという千載一遇の好機を逃しかねんしのぅ)」

 

 仲間たちに詳しく事細かに事情を伝えているとあっという間に朝になってしまうでしょう。

 再び王宮に忍び込むことの難しさを考えると、今夜のこの機に石板翻訳の労力分の取り立てはしておきたいところ。

 

「(かと言って、賊として捕縛されてはかなわん。三人娘たちを危険に晒しとぅもないし、翌朝には何食わぬ顔で王宮を後にしたいところじゃな。──── まあもっとも、守りながら追手を退けて逃げるのも無理とは言わぬが……そうなると余波で王宮そのものが崩れそうじゃし、それは最終手段かのう)」

 

 森人探検家・TS圃人斥候・文庫神官(+闇竜娘&白梟使徒)は、まあ王宮の兵士に追われてもどうとでもできるでしょうが、幼竜娘三姉妹たちはそうもいかないでしょう。

 確かにいざとなればこの砂塵の国に来た時のように、巨大化して全員を背に載せて、手を翼に変えて流星のように空を飛び、一目散に逃げることも可能です。

 しかしそれは奥の手、秘密兵器としておきたいところ。怪獣映画をおっぱじめるにはまだ早い。今の局面では、冷静(クール)に、狡猾(クレバー)に、繊細(テクニカル)に事を運ぶのが上策でしょう。

 

 幸いにして、手段を選べるくらいの余裕はあります。

 半竜娘ちゃんがループの記憶を持っていることを宰相は知らないのですから、きっと当日夜にコトを起こすだなんて全く考えていないはずです。その油断を突きます。

 主導権(イニシアチヴ)は半竜娘ちゃんにあるのです。しかもそれは宰相が使った『時の砂』のお陰なのですから、これほど痛快なこともありません。

 

「(となれば、宰相側に見つかるような派手な動きは厳禁。少なくとも、手前らが翌朝に王宮を辞するまでは疑いを抱かせてはならぬ……と)」

 

 出来るだけ露見しないように……(あた)うなら翌昼くらいまではバレないようにする必要があります。

 隠密行動は前提として、何かを盗んだり破壊したりしたとしてもそれを偽装工作なりで誤魔化す必要があります。

 あるいは、そもそも物理的なものには手を付けないという方針もありでしょう。

 

「(……ふぅむ。キーワードは情報の非対称性……かの。となると……)」

 

 半竜娘ちゃんの中で考えが纏まったようです。

 彼女は寝入ろうとする仲間たちを見回し、声を掛け……たりはせずに、どうにか情報を共有することにしたようです。

 

 

 

 

「どうしたの? あ、一緒の寝具に入りたいの? もう、しょうがないわね……」

「あっ、抜け駆けはダメですよ?! お姉さま、それなら是非私も隣に……! よっ……と!」

 

 半竜娘ちゃんの視線を受けて何か勘違いしたのか、森人探検家がいそいそと半竜娘ちゃん用と思われる特大サイズの寝床に上がって端に寄り、それに触発された文庫神官が、タンク特有の馬力で自分の寝台を持ち上げてその隣へと動かし、枕を並べました。

 でも残念ながら色っぽい話(そういうこと)じゃないんだよなあ……。

 

 ちなみにTS圃人斥候は、小型種族用か子供用か分かりませんが、用意してあったミニマムサイズの寝台をさっさと4つ確保して幼竜娘三姉妹をそのうちの3つに寝かせると、「さっさと寝よーぜ……」、と残った4つ目に潜り込んで並んで眠る態勢です。

 

 

 

「(まずは情報共有からじゃな……)」

 

 そんな一党の面々に深夜残業を強いるべく、半竜娘ちゃんは手で複雑に真言呪文の印を結び始めます。

 

 慣れた術師であれば、詠唱に代わって、身振りや魔法陣で世界を歪められるのですが、それにしたって半竜娘ちゃんのこの行いはあまりにも唐突でした。

 呪文行使は世界を歪める負荷のせいか、脳や精神、ひいては魂への負担も大きく、みだりに使えるものではありません。

 それはいくら日に9回は魔法を使えるような、規格外の術師である半竜娘ちゃんであっても同じ。おいそれと使うべきものではありません。

 

 そうであるのに、事前説明もなく手印を結び始めたのですから、さあ大変。

 

 いきなりそんなことをし始めた半竜娘ちゃんに、森人探検家は目を瞬かせつつも遮蔽をとれるように寝台から静かに滑り落ち、TS圃人斥候はすわ “敵襲か!?” と即座に動けるように掛物を跳ね上げ、文庫神官は部屋の窓などの開口部から半竜娘ちゃんへの射線の通りを確認しつつも、いつでも身を挺して守れるように、四肢を(たわ)めて飛び出す準備をしました。

 銀等級の率いる一党に恥じない最速の動き。もちろん音は立てません。

 半竜娘ちゃんが声を出さないということは、そうする必要があると、みんな分かっているのです。

 ……あ、流石に幼竜娘三姉妹はくーすかぴー、と寝ていますよ。

 

 そんな中、半竜娘ちゃんの手印による真言呪文が完成します。

 切られた印は、当然3つ。それより多くても、少なくてもいけません。

 

 

 自己(エゴ)> … <想念(アッフェクトゥス)> … <付与(オッフェーロ)

 

 

 一般的には知られていない組み合わせですが、いずれの真言も、正しくその力を発揮しました。

 それも当然のこと。それらの真言の一つ一つは、既に半竜娘ちゃんが習得済みの真言呪文に内包されているものでした。であれば、その魔術的意味だって完全に理解して、モノにしているに決まっています。

 魔術への理解を深めた先にある、自在な真言の組み合わせ。確かな理解のもとに紡がれた手印は、オリジナルな組み合わせであるにも関わらず、 暴発することも不発することもなく、術者である半竜娘ちゃんの意図したとおりの効果を発揮しました。

 

 すなわち────

 

「(これは……! 頭の中に……!)」

「(お姉さまのお考えが────!?)」

「(入ってきやがる……?!)」

 

 ──── 己の想念を他者に付与する真言呪文が成立したのです。

 

 名付けるとしたら、【伝心(テレパシー)*1といったところでしょうか。

 

 そう、扉の傍で召使いが控えて聞き耳を立てているなら、どうするべきか?

 事情説明に無駄に時間を取れない状況とすれば、どうするかべきか?

 それに対する半竜娘ちゃんの回答がこれです。

 

 

 ──── 聞かれないように、テレパシーで情報を伝える。

 

 

 貴重な呪文行使回数のうちのひとつを消費することになりましたが、半竜娘ちゃんは必要経費だと割り切ったようですね。

 

 

 

 そして訪れたのは静寂。

 思わず多少ドタバタとしてしまったせいか、召使いが一瞬だけ客室の扉から顔をのぞかせましたが、動きがないことを見て取ると── 同時に何か賽子の転がるような音がしたような──、特に何も言わずに顔を引っ込めました。

 

 どうやらそこまで不審には思われなかった(ファンブルではなかった)ようです。セーフ!

 しかしみんな極力音を立てないようにしていたというのに気付いたということは、召使いはとても耳が良いのかもしれません。

 やはり【伝心(テレパシー)】で情報伝達したのは正解だったかもですね。

 

 ちなみに今は、半竜娘ちゃんがループして石板解読させられていた約18時間分の情報を、掻い摘んで皆に【伝心(テレパシー)】によって脳直で流し込んでいるところです。

 ……この術、共有する情報量次第では、処理しきれずに相手が廃人になったりするのでは……? 割と危ない術なのかもしれませんね。

 

 ついでに宰相から正当な対価を取り立てるに当たっての作戦(目標と手順)も【伝心(テレパシー)】によって全員に共有しているようです。

 

 

 

▲▽▲▽▲

……>>思念伝送中>>……>>思念伝送中>>……>>思念伝送中>>……>>思念伝送中>>……>>思念伝送中>>

▼△▼△▼

 

 

 

 というわけで情報共有、終了!

 

 時間にしてみれば30秒(1ラウンド)も経っていません。

 圧倒的な伝達効率。

 まあわざわざ呪文使用回数も消費したんだから、多少はね?

 

「……」

「……」

「……」

「……」

 

 そして事情を共有した半竜娘ちゃんたちは4人して黙々と無言で準備を進めます。

 とりあえず召使いに悟られないように、【沈黙(サイレンス)】の真言の印を結び、音を消しました。

 

 衣擦れの音すら消したならば、次は完全装備に着替えます。

 特に今回は知覚系の判定を多く行うことが予想されるのと、呪文維持のために【知力強化の指輪+3】*2を優先して装着します。

 

 そして酔い覚ましに【解毒薬(アンチドーテ)】をぐびっと。

 

 続いて自在に操れる分身を創り出す【分身(アザーセルフ)】の魔法の巻物(スクロール)(自家製)を開いて4人それぞれが分身を作成。巻物が青い炎とともに燃え落ちます。

 完全武装の分身たちが現れました。矢弾など必要な消耗品を持たせることにしますが、それは最小限にします。証拠を残すわけにはいかないからですね、携行品は最小限に。

 

 そして本体たちは武装解除して寝間着に着替えます。アリバイ工作のために本体はこの客間に残るのです。

 

 一方で分身たちは透明化する【透過(トランスペアレント)】の魔法の巻物(スクロール)(自家製)を使用。またしても羊皮紙が燃え落ち、分身たちの姿が見えなくなりました。

 あ、この段階から使い魔な闇竜娘ちゃんが顕現し、使徒な白梟使徒ちゃんも獣人形態になってスクロールを使っています。悪魔も梟も夜行性ですからコンディションは良いようですが、こっちは分身ではないので身の安全には注意が必要ですね。*3

 これで一党六人のフルメンバーですね(ウィザードリィ並感)。

 

 透明化の巻物により分身と使い魔たちの姿は消えました。

 潜入にあたっては、あとはできれば足音を消したいところ。

 サイレント系の魔術や奇跡だと、番兵の声や足音まで消してしまって違和感を持たせてしまいますから、出来れば別の手段で。

 

 まあ武技【軽功】を習得している半竜娘ちゃんとTS圃人斥候は、足音を消すくらい造作もないですし、闇竜娘と白梟使徒の使い魔ペアも飛べば良いとして……。

 残りの森人探検家と文庫神官には、半竜娘ちゃんの血から造られた【閃技(サクセション)】の祖竜術が込められたポーションを飲んでもらいます。

 これによって任意の武技を一時的に習得できますので、【軽功】を習得させます。カンフー映画を見た後に “今なら自分も主人公のように動ける気がする……!” と錯覚するやつのスゴイ版だとでも思っていただければ多分合っています。

 

 あとは緊急対応用に幾つか魔法の巻物(スクロール)を持たせて、隠密透明人間化した分身たち4人+使い魔ペアの6人フルパーティを送り出し、自分たちは寝床の中からそれらの分身を操作すれば完璧です!

 使い魔たちは高位呪文の【跳躍(ジョウント)】や、梟化して夜闇に羽ばたくことで離脱できるので、回収するものがあった時には彼女たちに持って帰ってもらいましょう。

 

 分身に王宮を進ませる第一目標は、ずばり情報の奪取。

 具体的には9基全ての武装要塞(アームズフォート)の所在についてです。

 そうそう気軽に動かせるものでもないでしょうから、場所さえわかれば破壊工作の芽もあるでしょう。

 砂塵の国の旧王派閥(レジスタンス)に情報を流しても良いかもしれませんし、西方の王国に持ち帰って(はかりごと)は金獅子の国王陛下に任せても良いでしょう。

 非常に隠密にコトを運び、誰にも気取られないことが一番重要です。

 ……情報があるとすれば宰相の居室か執務室か、あるいは、王宮地下から繋がる武装要塞の修復拠点でしょうか。

 

 第二目標は、『時の砂』の破棄。

 時間遡行の手札は、あらゆる盤面をひっくり返しうるものですから、出来るだけストックを削っておきたいところ。

 まあ、これは保管庫を見つけたら、契約精霊である『ティーアースの破片(ゆっくりまんじゅう)』を召喚して放り込んでおけばいいでしょう。すぐにばれないように偽装工作は必要かもしれませんが、勝手に平らげてくれるはず。

 

 第三目標は、この砂塵の国の王城地下から繋がる先にあるといういずれかの武装要塞、その破壊。

 これは流石に、バレないように破壊工作が出来る目処が立てば……という程度の優先順位です。

 最上位命題は、決してバレないこと、ですからね。……逆に言えば、バレてしまえば開き直って派手に行く、ということもできます。というか、本体が逃げる時間を稼ぐためには分身側がド派手に囮になってやる必要があるでしょうから、必然的にそうなるというか……。

 

 

 

 ……さて、もう夜更けです。

 時間もありませんし、準備ができたらさっそく動き始めましょう。

 

 契約魔神(デーモンLv9)である闇竜娘が印を切り、高位真言呪文の【跳躍(ジョウント)】を発動させます。

 次の瞬間、透明化した分身たち4人+使い魔ペアの6人フルパーティは、次元を跳び越えて、射程ギリギリまで離れた廊下の隅にワープしました。壁抜けです。

 もちろん石の中にいる、なんてことにならないように、半竜娘ちゃんが魔法知覚で空間がある事は確認済み。周囲に人影も無し。巡回の兵は遠く、王宮は寝静まっています。

 

 一方で分身たちを送り出し、客間に残った本体4人は、【沈黙(サイレンス)】を解除して寝たふりをしつつ、分身体の操作に集中します。

 

 

 では。さあ。いざ!

 砂塵の国の王宮を攻略しましょう!!

 

 

*1
◆オリジナル真言呪文【伝心(テレパシー)】:自分の想念を<対象>に伝送する。こいつ、直接脳内に……!? あるいは「縛道の七十七『天挺空羅(てんていくうら)』」でも良いです(良いのか?)。

*2
◆知力強化の指輪+3:黒鱗の古竜の宝物庫から強奪したマジックアイテム。知力系の判定に+3。プラスの値が大きいと指数的に値段が高くなる。同様の指輪には、体力点、魂魄点、技量点に補正をもたらすものがあり、半竜娘ちゃん一党は幾つもそれらを所持している。

*3
◆使い魔の【分身(アザーセルフ)】:理論上は使い魔も分身を出せるはずだが、今回は遠慮してもらった。実卓では1PLが動かせるPCがマスター本体、マスター分身、使い魔本体、使い魔分身の4キャラになるので非推奨。




 
王宮地下から繋がる先に眠る武装要塞はいったいどれなのか……。原作小説11巻のモチーフの一つはスターウォーズEP4……ということはクライマックスに出てくる敵の要塞は必然、球体の……?
あと、次話で出なかったアームズフォートのうちのどれかも、今後の原作小説12巻相当の話で出します。その代わり、重戦士一党の少女巫術師ちゃんと少年斥候くんの東の国境の要塞へのお使いの難易度が大幅にアップしますが(転移の巻物を受け取って顔つなぎすればいいだけのお仕事から、砂塵の国から押し寄せた武装要塞に取り付かれた国境要塞の救援任務にレベルアップ)(二周目レギュレーションゆえ)。
 


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41/n 時の砂の秘密-4((シャドウ)を奪う鏡の門)

 
◆前話
“かくかくしかじか” で済む話を8000文字くらいかけて演出したけどまあ当作ではそういうこともあるさ! さて、準備は整った。冒険者たちよ、王宮を進み、武装要塞の発掘修復場所の情報を手に入れるのだ!
 


 

「……こんな遅くまで仕事しとるのかや、宰相は」

「熱心過ぎるでしょ」

「独裁者なんてなるもんじゃねーな」

「これじゃあ執務室から情報を抜くのは難しいですね、お姉さま……」

 

 情報の奪取のためにと砂塵の国の王宮(タマネギ屋根)を右往左往していた半竜娘ちゃんたち一党の分身たちは、宰相の執務室を見つけることに成功しました。

 ……まあ、絶賛深夜残業中の宰相が中にいたわけですが。魔神(ジン)でも出てきそうなランプに火を灯して書類仕事中です。

 ループで得た情報を忘れないように纏めているのかもしれませんし、普通に溜まった政務をこなしているのかもしれません。簒奪までに自分がこなしていた宰相の業務に加え、簒奪後は国王の業務が上乗せされているとすれば後者かもしれませんね。

 

「……そうしたら発掘修復現場の方を探すかの……」

「そうするしかないかしら……。途中で『時の砂』を納めた蔵か何かも見つかると良いけど」

「進むとしたら罠に注意……だなー。タンクは特に気を付けろよ?」

「が、がんばります!」

 

 姿を透明化して足音を【軽功】の業で消しながら執務室に忍び寄った一党ですが、流石にここは転進すべきでしょう。

 …………突っ込んで宰相を暗殺する、という選択肢も無くはないですが、仕掛の依頼を請けている訳でもなし、余計なリスクを負う必要はありませんし、18時間分の知的労働(石板翻訳)の代価に命を奪うのはやりすぎというものです。

 ふっ、危なかったな、半竜娘ちゃんの戒律(アライメント)がもう少し “悪” 側に寄っていたら突入していたところだ。

 

『時間を操る魔導器を持ってるのに、時間を無駄にしようとしないとか、勤勉ってレベルじゃないな』

『混沌のくせに真面目なのです。一番たちが悪いのです』

 

 真面目に仕事をする宰相に、闇竜娘ちゃんが呆れ、白梟使徒は勤勉さの無駄遣いを嘆きます。

 まあ多分、時間を自在にできるからこそ無駄にしたくないとかそういう心理なのでしょう。

 あるいは予定を詰め込んでおいた方が、何かあったときに戻す時間が間延びせずに短く済んで節約できるとかそういう思考なのかも?

 

「行くのじゃよ、使い魔と使徒(ファミリアーズ)

『ほいほーい』 『分かっているのですよ』

 

 透明人間と化している半竜娘ちゃんたち(分身体)が、宰相の執務室の前から去りました。

 

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 

「む」

「あ、ここね」

 

 半竜娘ちゃんと森人探検家が、廊下のある一か所で立ち止まります。

 二人は一般技能【魔法知覚】によってアストラルサイドの情報を読み取れるので、その超現実的な感覚によって()()を捉えたようです。

 恐らくは、強力な力を宿す魔法の品の発するオーラか、あるいはそういったものを封じているがために魔法的空白となった場所を。……目当てのものだと良いのですが。

 

 ちなみにここに居る彼女らは魔法で作られた分身体ですが、その能力は本体と遜色ありませんし、本体も寝床の中で分身の操作に集中しているので、集中力が散漫になることもなくマイナス補正はありません。

 

 

「何かあるのですか? 扉のようなものは見当たりませんが……」

「隠し通路か隠し部屋かねー。よっしゃ、オイラに任せな!」

 

 文庫神官は武技【虎眼】にまで鍛えて昇華させた、後天的な暗視能力で廊下の壁を見ますが、特に何かを見つけることはできませんでした。

 斥候Lvと技量点が足りない!

 

 一方で、こういったことに対する本職であるTS圃人斥候がざっと廊下の壁を確認します。

 暗視の武技【虎眼】によってTS圃人斥候も暗闇を見通せますが、それよりもこの局面で頼りになるのは指先の感覚です。

 廊下の壁や床をつつーっと撫でて、違和感を探ります。

 

「……ここだな。少し他よりも壁際の床がすり減ってやがる」

 

 どうやら違和感があるところを探り当てたようです。

 TS圃人斥候は目星をつけたところを中心に、壁に耳を付けながらトントンと指で壁を叩きます。

 いわば聴診です。壁の中の機構を探ろうとしているのです。

 

「……どうじゃ?」

「んんんー……。手持ちの鍵開け道具は置いてきちまったからなあ。痕跡残さず……壊さずにってなると、こりゃちょっと時間がかかるぜ、リーダー」

 

 分身体は装備品は複製できるものの、道具類までは複製できてませんので、必要な道具類は分身作成後に渡しておく必要があります。

 しかし、今回は場合によっては行った先で分身を消滅させることも想定されましたので、ほとんど道具類を持たせていません。朝になって人が増えると分身体たちの帰りの経路を確保できなくなる可能性があり、その場合は痕跡を残さないように綺麗に消える必要があるからです。

 そうすると、手に馴染んだ道具を分身体に持たせても、消滅地点に置き去りにしてしまうことになりますし、下手をするとそこから足が付くかもしれません。

 

 なので鍵開けも、いつもの道具ではなくてその辺にあるものを手持ちの短剣で【手仕事】技能で加工したものくらいしか使えません。

 

「時間がかかるのはあまり良くないのう」

「あー、【魔手(メイジハンド)*1か【影写(フェイク)*2の呪文を切ればなんとかなるかもしれねーけど?」

 

 まあ、TS圃人斥候が覚えている呪文を使えば、こういったなにも手元に物品がない時でも対応可能ですけれど。

 魔力の力場の手を隙間から潜り込ませたり、影を固めて鍵開け道具を作ったりすれば、隠し扉の仕掛けも攻略できるでしょう。

 TS圃人斥候の呪文使用可能回数は、4回。回数だけ見れば中堅のスペルキャスター並です。

 主に搦め手を充実させるために、半竜娘ちゃんに見てもらいながら術師としての勉強をした、その成果というわけです。

 

「確かお主はあと4回は呪文が使えるのじゃったか?」

「ああ。見つかりかけた時用にカムフラージュでおっかぶせる【幻影(ビジョン)】だとか、まさかのときの【脱出(エスケープ)】だとかを考えても、ここで1回分くらい切ってもいいと思う」

「……そうじゃな。では頼めるかの? 少しでも隙間が空けば、そこから精霊を()じ込むのじゃ」

「あいあい、リーダー」

 

 TS圃人斥候は小声で真言を唱えると、ズッと微かな音がして、隠し扉が少しだけ開きました。

 それに伴い、隠し部屋の中に向けて施されていたであろう魔導的な封鎖結界も綻んだのか、扉の向こうにある何かのマジックアイテムのオーラが廊下に漏れてきます。

 

「どうやら当たりのようじゃ。『時の砂』の気配がする」

 

 半竜娘ちゃんには覚えのあるオーラです。

 “時間” が不安定化したとき特有の、嗅覚ではない部分で感じる微かな刺激臭。

 間違いありません、『時の砂』のニオイです。

 

「隙間あけてる今のうちに! リーダー!」

「うむ!」

 

 そこにすかさず半竜娘ちゃんが時空間の精霊である “零落したティーアースの破片” を精霊術により召喚して捩じ込みました。*3

 にゅにゅにゅにゅにゅ……スポンッと、召喚されたプニもち一頭身(ティーアースの破片)が、カートゥーンじみた変形の果てに扉の奥に消えました。

 

「閉めるぜ!」

 

 そして直ぐにTS圃人斥候が扉を押さえていた魔法を解除して、ピシッと元通りに閉めました。

 あとはきっと、隠し部屋の中の『時の砂』は、ティーアースの破片がもりもりと平らげてくれることでしょう。

 

「じゃあ先を急ぎましょうか。さっき『時の砂』とやらのオーラが漏れ出て気取られていないとも限らないわ」

「そうするとしよう」

 

 森人探検家に促されて、一党は隠し扉の前を後にします。

 透明化はまだ持続しており、今のところは見つかる心配もなさそうです。

 

 

 

 半竜娘の契約精霊『零落したTASさん(ティーアース)の破片』は、砂塵の国の王宮に山ほど蓄えられていた『時の砂』を吸収した!

 

 零落したTASさん(ティーアース)の破片は、大きく力を取り戻した!

 

 零落したTASさん(ティーアース)の破片を触媒にした場合の、【力球(パワーボール)】への補正に+4!(補正値+11 → +15)

 

 零落したTASさん(ティーアース)の破片を、高位精霊術【顕 現(サモン・ハイ・スピリット)】の対象にできるようになった!(『強大な精霊』形態、『古精霊』形態、『真精霊』形態の追加。および、顕現等級に応じた使用可能な呪文の追加)

*4

 

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 

 その後も透明化したまま、半竜娘ちゃんたち一党は王宮の探索を続けました。

 そうして息を潜め、足音を殺して探索することしばし。

 

 ついに彼女たちは、地下へと繋がる隠し通路を発見しました。

 

「…………鏡、ですね。これほど大きいものは現在の技術では作れないでしょうから、やはり遺物でしょうか?」

 

 その隠し通路の入口は、大きな姿見の鏡でした。

 廊下の突き当たりの壁に嵌め込まれたその鏡は、そこの壁を覆うほどに大きく、隠すためか衝突防止のためか、上から垂らされた絨毯で覆われていました。

 突き当たりの壁の上方に打ち付けられて垂らされた、そのズッシリとした絨毯を少し持ち上げて、文庫神官がその下の姿見の鏡を検分しています。知識神に仕える神官としての考古学的興味、というやつです。

 

「無駄に歩き回る羽目になったのじゃが、恐らくここじゃろう」

「というか、他に候補はないものね」

「虱潰しに歩き回ったからなー……」

 

 どうやら消去法で辿り着いたようですね。ご苦労様です。

 

『いいからさっさと行こうぜ、主殿よぅ』

『こら大人しくするのですよ、魔神(デーモン)

 

 ()れた闇竜娘が、空中をスィーと泳いでいきます。その肩に白梟使徒(梟形態)を載せて。

 まあ、どちらも透明化しているので、空気の動きや声の出元でそう推定されるに過ぎませんが。

 

『さっさと入っちまえば良いだろう?』

『あ、待つのです!』

 

 姿見を隠していた絨毯が大きく(よじ)れ、大きな鏡の半面が露になります。

 そして、トプン、と、まるで水に物を投げ込んだかのように鏡面に波紋が起こりました。

 フクロウなので音はしませんが、白梟使徒は空中に離脱しているようです。

 恐らく闇竜娘だけが鏡を通って、その向こうの秘密通路の中に入ろうとしているのでしょう。

 

 

 ……ですが途中で動きが止まりました。

 鏡は透明化して飛び込んできた闇竜娘の胴体の断面形に表面を波立たせたままです。

 

 やがてズルリと闇竜娘が身体を鏡のゲートから引き抜きました。

 そして辟易して言います。

 

『主殿、これ……影を奪う鏡だ』*5

「なんじゃと?」

 

 

 

 

 

 闇竜娘が、自分が潜りかけた鏡のゲートの感想を聞かせます。

 一党の中で、最も多様な術に通じているのは、半竜娘の分身(かげ)から独立して、魔神の魂を喰らったこの闇竜娘です。

 魔神を喰って己もそう()()()分、半竜娘ちゃんより呪文やマナに対する理解を深めているとか。

 

『恐らく、影を奪って、分身を作るやつだな。無事に通るには、事前の魔力波紋の登録と、合言葉が必要だろう』

「そんな正規手段は持ってないし、探す時間ももうないのじゃよ。……無理やり通るとどうなるんじゃ?」

『影が奪われて、その影が実体化して追ってくる。しかもその(シャドウ)の命は、呪詛によって鏡を通った本体の命と繋がったままだ』

 

 ということは、その(シャドウ)とやらがダメージを負えば、その分だけ影の元となった本体の方もダメージを受けてしまう、と。

 

『自傷行為になるというわけだな。奪われた(シャドウ)を殺せば、そのまま本体も死ぬ』

「そもそも、今ここに居る手前らの身体は、【分身(アザーセルフ)】の巻物(スクロール)で抽出されて作られた影じゃが? 影に影はできんのではないか?」

 

 それもそうですね、半竜娘ちゃんの疑問は、当然のものです。

 

(マルいち)、影に影は出来ないから素通りできる。(マルに)、呪文作用の干渉により、オイラたちの分身が相殺、あるいは上書きされる。──── どっちの可能性もありうる気がするなー……」

 

 己の “影” の占有権が先着順とすれば、半竜娘・森人探検家・TS圃人斥候・文庫神官の影は、既に【分身(アザーセルフ)】として呪縛・具現化済みです。

 その場合は、きっとこの鏡を通っても(シャドウ)は奪われないでしょう。

 

 一方で、この鏡の “影” の奪取力が強ければ、鏡を(くぐ)った途端に、新たな分身が出るのではなくて、(くぐ)った方の既存の分身の制御が上書きされて奪われる、という可能性もあります。

 

 さあリスクを取って鏡を潜るのか、それを考えねばなりません。

 

 

 

 

 

 

 

『まあ、【跳躍(ジョウント)】すればノーリスクなわけだがね。あの鏡は空間を歪めて別のところと接続してるんじゃあなくて、単純に壁の向こうと隔ててるだけみたいだからな』

「じゃあその手じゃな」

 

 

 空間跳躍がチート過ぎる……!

 

 

 透明化して姿が見えないので、みんなで闇竜娘に触れることで呪文の対象にとってもらい、揃って【跳躍(ジョウント)】しました。

 

 秘密通路に入ってしまえば、武装要塞の発掘修復拠点まであと少しのはずです。

 

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 

 

 秘密通路を進むこと暫く。

 仕込み弓矢や落とし穴(ピット)の罠を避け、しかも侵入がバレないように、発動しなかったかのように元に戻したりしていると相応の時間がかかりました。

 文庫神官はよく罠を踏む一方で、その使徒である白梟使徒は、梟形態の小さな体を生かして、罠の解除や修復に大活躍だったようです。

 

「うぅ……すみません、足を引っ張ってしまって……」

『……ご主人、気を落とすことはないのです。それに本体の方でマッピングしながらだから散漫になるのは仕方ないのです』

 

 お陰で地図(マップ)の方は精度が良いようです。

 それによると現在地は、都の一角にあるラクダレースやダチョウレース、馬人(セントール)のレース、伝統競技のブズカシ*6をやれるようなレース場の真下に差し掛かるくらい、とのこと。

 

 

 さて、秘密通路の中は暗闇で時間が分かりませんが、王宮の寝床に残っている本体たちの方の感覚によれば、もう空が明るくなってきているようです。

 

 整った石造りから、天然砂岩を削り出したような造りに変わった秘密通路をさらに黙々と進んでいきます。

 

 

「ん。この先に大きな広間があるわ。とても大きい……」

 

 種族柄、耳の良い森人探検家が音の反響から行く先の様子について得た情報を、全員に共有します。

 地下空間は、地上のレース場の真下に位置するようです。

 

「となると、いよいよですね! お姉さま!」

「うむ。古代の技術者たちの集大成、折角じゃから、しかとこの目に焼き付けねばな!」

 

 武装要塞は非常に大きな脅威ではありますが、同時に太古の遺産でもあり、学術的にも技術的にも魔術的にも興味深いもののはずです。

 そのため、文庫神官と半竜娘ちゃんはウキウキしています。

 

「ええ、本当に楽しみね……!」

 

 そしてそういう遺跡のロマンにとりつかれて冒険者をやっている森人探検家も、非常にウキウキしています。

 

 

 

 やがて広大な地下空間に見えてきたのは────………

 

「幾つかの巨大な球形のシルエット……下半分は埋まっておったり、部品取りに解体されておるのもあるが、間違いないのじゃ……!」

 

 半竜娘ちゃんが、解読した石板の知識から当てはまるものを導き出します。

 

 

 

 

 

「武装要塞アームズ・フォート……!

 

 

陽 神 行 路(ソルディオス・オービット) ! !

 

 

 

 

 

*1
◆魔手メイジハンド:サプリで追加された呪文。不可視の魔力の力場の手を作って操る。

*2
◆影写フェイク:影で物品を複製する。物理的機能は再現できるが、化学的(=爆発・燃焼・酸・毒など)な機能や魔導的な機能は再現できない。概ね銀貨100枚程度の値段までの物品を再現できる。

*3
◆精霊を捩じ込む:精霊は割と不定形。隙間にねじ入れられるTASさん(ティーアース)の破片の悲鳴:「中身(あんこ)でちゃうの゛お゛お゛おお!!?」

*4
◆『時の砂』吸収後のティーアースの破片の情報:

【挿絵表示】

*5
◆影を奪う鏡:ゲーム『プリンス・オブ・ペルシャ』にて登場する、シャドーマンを生み出す鏡。通り抜けると本体が突き抜けたのとは鏡合わせの反対側へと、影が実体化した分身、シャドーマンが飛び出してくる。シャドーマンはそのまま走り去り、後々、プレイヤーの行く手の邪魔をしてくる(スイッチを操作してプレイヤーの行く先で罠を作動させたり)。シャドーマンのライフとプレイヤーのライフは連動しているため、攻撃するとプレイヤーもダメージを受けて、戦えば最終的には必ず相打ちになる。突破する方法は一つ、剣を納めて和解することである。

*6
◆ブズカシ:馬やラクダに乗った集団が、ボール……ではなく、生きた山羊を奪い合う伝統競技。山羊は死ぬ。『ランボー3/怒りのアフガン』にも出てきた。現在のアフガニスタンの国技でもあるが、流石に生きた山羊ではなく、子牛の首から下を使っているとのこと。四方世界だと馬人が居るから、馬人も競技に参加しているはず。




 
◆一方そのころゴブスレさん
 夜明けのころなので、ゴブスレさんたちは、小鬼の養殖に使われていた砦をサンドマンタの大群を呼び寄せてぶっ壊しているくらいかと。ゴブリンは皆殺しだ! え、コラテラルダメージ? 知らない子ですね……。
 女商人さんは流石に商会の取りまとめもあるので砦攻めには加わらず、代わりに鉢巻剣士くんの一党がゴブスレさんの方に同行しています。
 一休みするために砦から脱出後、近場で目に付いた神殿跡っぽいところに砂船で向かうものの、そこには先客()が居て……。
 さあ次は竜退治だ!(白目)


◆一方そのころ密偵くん
 砦に居た覚知神の託宣(ハンドアウト)を受けてたっぽい将軍(兵士長)をぶっ殺して、王宮の見取り図から宰相の計画まで、機密を粗方奪取。崩壊に巻き込まれないように逃げる。もちろん金にならない殺しはしないので、暗殺も情報奪取もきちんと仕事(ビズ)である。情報奪取は国の銀髪侍女からの依頼だが、将軍殺しの依頼人は不明。おそらく将軍に恨みを持つ者たちからの多重依頼を(フィクサー)が取り纏めたのだろう(黄金の蜃気楼亭とも提携して暗殺依頼の重複数を多く確保したのだと思われる)。
 密偵くん一党には、好奇心と知識欲の権化みたいな知識神の神官*1がいて、彼女は宰相の計画の中身を少し見てしまった。……ので。 → 知識神の神官ちゃん:「軽銀商会の新製品で良い魔導具(デッキ)が最近手に入ったので、適当なアクセスポイント探して、この武装要塞ってやつにアクセスしてみようと思います。データ生きてるかなあ、楽しみだなあ!」(フラグ)
 

*1
◆密偵くんチームの知識神の女性神官:AAは北山 雫(魔法科高校の劣等生)が当てられている。本とか諸々好奇心を擽られたものにお金をじゃぶじゃぶ注ぎ込んでるからいつも金欠。第六世界(シャドウラン)の方では電脳世界(マトリクス)担当。



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41/n 時の砂の秘密-5(陽 神 行 路(ソルディオス・オービット)

 
◆前話
影を奪う鏡(シャドーマン発生ギミック)を転移でスルーした先にあったのは、砂の中から発掘されつつ、並行して共食い整備で修復中の巨大な球体型の武装要塞──── 陽神行路(ソルディオス・オービット)であった。
 


 

 Beep音が響き渡る。

 同時に、どこか無機質で無感情な、機械を思わせるような女性の音声が聞こえる。

 

 

 

──── 不明なユニットが接続されています.*1

 

──── 不明なドックに係留されています.*2

 

──── 不明なアクセスを検知しました.*3

 

 

 

──── システムに深刻な障害が発生しています.

 

──── 乗組員の搭乗を確認できません.

 

──── 正規のIDをご提示ください.

 

 

 

 

──── 正規のIDが提示されませんでした.

 

──── 本機は敵対陣営に鹵獲されたものと認識します.

 

 

 

 

──── 本機は機密保持プロトコルに従い、使用可能な全兵装を用いて抵抗後、自爆します.

 

──── 繰り返します.

 

──── 本機は機密保持プロトコルに従い、使用可能な全兵装を用いて抵抗後、自爆します.

 

 

 

 

──── 自己(セルフ)診断(チェック)開始(スタート)

 

──── 飛行機構・稼働率15%.短時間かつ低空の飛行には支障ありません.慣性歪曲高速加速クイックブーストは使用不能です.

 

──── 主機・稼働率30%.短時間の活動は可能です.自決シークエンスの完遂は可能です.

 

──── 通常外装及び粒子外殻発生装置、内部構造の一部に致命的破綻を確認.自決シークエンス進行中のため、例外処理規定8823によりチェックプロセスエラーの一部を黙殺します.衝撃放出仮想外殻アサルトアーマーは使用不能です.

 

──── 主砲ソルディオスキャノン・稼働率89%.最大威力を行使可能です.

 

──── 自爆用エネルギーキャパシタ・充填率2%……5%…….充填を継続します.

 

 

 

──── 交戦規定に則り警告します.

 

──── 主機及び主砲による重度汚染が想定されます.ただちに周辺区域から避難してください.

 

 

──── 交戦規定に則り警告します.

 

──── 交se戦ん規定に則りり警ik告くしまmaすす.

 

 

──── く た ば れ 、 不 埒 者 (ふらちもの)

 

 

──── ソルディオス・オービット、起動します.

 

──── 世に太陽のあらんことを.

 

 

 

 修復中だった球形の巨大要塞が震え、その不完全なフレームの隙間から翠の光を洩らして、浮かび上がり始めた。

 直上のレース場を割り砕いて、この地下空間から外へ出るつもりなのだ。周辺の一切を薙ぎ払うために。

 半分壁と床に埋まっていた機体が、砂を落としながら浮揚する。

 

 発掘用の空間を支えていた柱や、露出した機体外殻を支えていた支保工が次々に倒れる。

 灯りの魔導具が明滅し、やがては消える。地下は闇に閉ざされかけたが、しかし直ぐに浮揚する武装要塞が撒き散らす翠の光が辺りを満たす。

 

 同時に、球形の機体が回転し、砲口らしき窪みを上に向ける。

 主砲ソルディオスキャノンのチャージは終わっていた。

 照準完了。主機の出力が完全ではないため連射はできないが、それでも威力は十分。

 

 

──── 主砲ソルディオスキャノン,発射します.

 

 

 武装要塞・陽神行路(ソルディオス・オービット)から放たれた翠の奔流が、直上のレース場を貫き、土砂ごと天へと吹き上げる!

 朝早い時間であるため現状の犠牲者はそう多くないだろうが、この武装要塞が今空いたこの穴から外へと飛び出せばその限りではないだろう。

 主砲が市街地を蹂躙し、超抜級の自爆が都を更地に変える。それはきっと間違いない。

 

 

──── ソルディオス・オービット,浮上します.

 

 

 土砂を吹き飛ばした巨大な球形の機体が、空中へと浮かび上がっていく。

 

 そんな中で半竜娘の分身はといえば、『ん? まちがったかな?』と首をひねりながら、武装要塞・陽神行路(ソルディオス・オービット)の機体内から零れ落ちていくところだった。

 天頂方向に主砲を向けた時に、内部で【動力炉心(パワーコア)】の融合侵蝕作用により直結していたところを振り落とされて、修復途中の内装や外殻の隙間を綺麗に抜けて外に放り出されてしまったのだ。

 

「うーむ、許容限度を見誤ったかのう? じゃが不用意に起動させぬようセーフティは残しておいたはずじゃというのになぜ……?」

 

 なぜこんなことになったのか……。

 時間は少しだけ遡る。

 

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 

 影を奪う鏡を抜けた先にあったのは、巨大な球形の機動要塞の発掘修復現場でした。

 位置的にはまだ都の市街地域の中なので、この砂塵の国の都の成り立ちにも若干絡んでいるのかもしれませんね。……かつては墜ちた武装要塞を都市の動力源として利用していた、とかでしょうか?

 

 

【挿絵表示】

 

 

「球形の機動要塞……確か解読した中にあったのを覚えておる。これは陽神行路(ソルディオス・オービット)というやつじゃな」

 

 本来であれば “陸蟹(ランドクラブ)” という別の武装要塞(アームズフォート)に搭載されるタイプということですが、地中から露出している部分にはそのような台座となるものは見当たりません。

 台座となるランドクラブの方は破壊されたか、まださらに地下に埋まっているのでしょう。

 

 土中から露出した武装要塞・陽神行路(ソルディオス・オービット)の球体は複数あります。

 その幾つかは大きく破損しており、内部の構造をのぞかせています。

 また、ひとつを除いて解体も進められているようで、その内部もかなりスカスカです。

 

「……修復って言っても今の技術で再現できねーだろうに、どーするつもりなのかと思えば、共食い整備ってことか」

 

「壊れた機体の無事なパーツを寄せ集めて、一機分を修復するわけですか……。破損状況も含めて貴重な史料ですから知識神の信徒としては止めてほしいところですが」

 

 TS圃人斥候と文庫神官が半分埋まっていてもなお巨大なそれを見上げます。

 

「それにしてもどうやって掘ったのかしらね」

 

 森人探検家が疑問を発しますが、それも当然です。

 発掘用のこの広間それ自体も、地下に築く空間としては破格に大きく、現代の技術を超えているように思えます。

 

「まあそれも遺物のお陰なのじゃろうさ。【流砂】で岩を砂にして掘って、【石壁】で固めて、【力場】で支えるとかしておるのじゃろう」

 

「魔術の影響は永続しないでしょう?」

 

「であれば、永続化する魔導具を掘り当てたのじゃよ、きっとな」

 

 半竜娘ちゃんが推察するには、この大規模な発掘計画に当たっては、恐らくは工事用の魔導具がどこかで発掘されたことが契機になっているのだろう、とのことです。

 宰相が砂塵の国中を行脚して掘り返して、太古の遺跡や遺物や封印されし英霊・魔物を掘り当てたのも、その発掘用の魔導具があってこそだろうとの予想。

 

 宰相の野心を育んだカギとなっているもの(マクガフィン)は、『時の砂』よりもむしろ、その発掘用の魔導具類かもしれないというのは、妥当な予想かもしれません。

 

「……あー、そーいえば魔法の絵の具で絵画を描いて、それを現実化する魔導具があるってのは聞いたことあるなー。そういうのがあれば、発掘にも使えそーだ」

 

「確か雪山で修業を付けてくれた圃人の御師匠様が、そんなものを王宮から『せしめる』とか『せしめた』とか仰ってましたか……」

 

「じゃあ似たようなのが、この砂塵の国にもあったのかも知れないわね」

 

 魔法の道具ってスゲー!

 

 

「それはともかく、他の作業員が来る前に、情報を抜くなり、夜まで隠れられる場所を探すなりせんとな。直ぐに情報を入手できなんだときに、夜まで潜伏するために」

 

 まさかこの陽神行路(ソルディオス・オービット)の修復まで、宰相が直々に行っているわけではないでしょう。

 作業員たちは別にいるはずです。

 

「機密保持とかどーなってんだ? 数百人規模で動員されてんだったら、どっかから情報が漏れるだろー?」

 

「これだけの大規模プロジェクトについて、黄金の蜃気楼亭(仕掛人たちの元締め)でも情報を集められないくらいに秘匿されてるのは不思議ね」

 

 末端の末端まで全員セキュリティ意識が高い、とはちょっと思えませんしね。

 

「であるからこその『影を奪う鏡』であろうさ。アレが一つとも限らぬし、たとえばじゃが、宰相が王位簒奪してから職人たちを集めて、その鏡に(くぐ)らせて影を奪い、奪ったそれを(しゅ)で縛って働かせておるとすればどうじゃ? 下手に人を雇うよりも、従順な分身を使役した方が面倒もなかろうしな」

 

「なるほど。それに有事の際は影を人質にして生殺与奪を握れるから、本体の方だっていつでも手駒に出来る、と。裏切っても逃げても、影を殺せば本体も死ぬ。簡単に影の分だけ労働力を増やせるし、一石何鳥にもなる策というわけね」

 

 実際に『影を奪う鏡』が複数あるのかは分かりませんが、大いにあり得る話です。

 宰相がこの広い沙漠を掘り返して、これまでに多数の遺跡を発掘してきているというのであれば、同じではなくとも、似たような機能の魔導具を複数手に入れていてもおかしくありませんからね。

 

影の者ども(シャドーマン)かどうかは分からんが、作業員どもが来る前に手早く済ませるとしよう。あの一等に整った機体に向かっていくとするのじゃ」

 

 念のために透明化を維持したまま、半竜娘ちゃんたちは、発掘中の機体たちのうちでも、最も整ったものに向かって歩を進めます。

 

「情報があるとすれば、現場指揮所のようなところかしら?」

 

「周囲にあればまずはそこからじゃな。ただ、あれだけ修復が進んでおると、既にそういった指揮所も内部に運び込まれておるかもしれぬが」

 

「その時はあンなかに入んなきゃなんねーのか……。侵入者感知とか侵入者排除の罠が動いてねーといいけど」

 

「その時は頼りにしてます……! でももし発動させても守ります! 矢でも光線でも、どんと来い、です!」

 

 文庫神官の期待と献身の意気込みに、TS圃人斥候は「荷が重いこった」と呟きました。

 

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 

 結局のところ、他の武装要塞(アームズフォート)の位置を記した書類は、直ぐに見つかった。

 どこで見つけたかと言うと、修復率が一番高い陽神行路(ソルディオス・オービット)の機体の、ほど近くの詰め所にて、だ。

 とはいえ、持ち出すとバレてしまいかねないので、分身の目を介して書類を見た文庫神官が本体の方で書き写すしかなく、相応の時間は経ってしまったが。

 

「……他の8つの武装要塞の発掘地点についてと、それ以外にも重要そうな書類については写しが取れましたわ、お姉さま」

 

「ふむ、これで目標は概ね達成じゃの」

 

 透明人間と化した文庫神官と、その使徒である白梟使徒(※獣人(ハーピー)形態)が詰め所の棚に書類を巻いて戻していくのを見遣って、半竜娘が己も透明なまま、思案気に顎を撫でた。

 

「さて、どうするべきかの。さっさと分身を消して帰るべきか、さらなる成果を求めるべきか」

 

 幸いにして、ここに居るのは魔力で己の影を固めた分身体。

 術を解除して消してしまえば、帰り道の心配をする必要はまったくなし。

 

「……まあ、古代の巨大機動浮遊武装要塞を前にして、内部に全く立ち入らないのも冒険者の名折れかの」

 

 透明化して姿は見えないが、TS圃人斥候の「えー、やめよーぜ? ね、かえろ?」という声が聞こえた。黙殺した。

 斥候役が一番負担が大きいのは分かるが、もうひと働きしてもらわねば。

 

 それにここにある書類でも、まだそもそも陽神行路(ソルディオス・オービット)の起動には成功していないことが確認できている。

 内部には機動要塞自体の防衛機構由来のトラップはないはずだ。

 見つかるリスクは低いと判断できる。

 

「よし、では突入して、内部機構やその他使われておる技術を観察しつつ、マッピングもするとしようかの」

 

「いよいよね!」 やる気を出す森人探検家(遺跡マニア)

 

「何事もありませんよーに」 財宝を見つけても持ち帰れないからテンションの低いTS圃人斥候。

 

「中を見るのも楽しみです!」 うきうきしている文庫神官。

 

『いっそぶっ壊した方が今後のためだと思うがなあ』 『それには同感なのですよ』 肩を竦める使い魔&使徒(ファミリアーズ)

 

 

 遺跡を前にしたならば、中を探検してこそ冒険者。

 というわけで、そういうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 そもそも修復中であったため、沈黙する陽神行路(ソルディオス・オービット)の内部にはすんなり入ることが出来た。

 全ての出入り口を封鎖することなどできないのだから当然だ。外殻はまだ多くの部分がスカスカだし。

 

 内部を歩きまわって構造物や見取り図を作っていく一党。

 

 別に自律兵器が湧いて出るでもなく。

 墓守をする不気味な怪物が出てくるでもなく。

 こびりついた怨念が実体化するでもなく。

 

 至極順調に探索は進んでいった。

 

 

 

「まだ作業は始まっておらんようじゃな」

 

「詰め所で見つけた日程表によれば、あと半刻くらいは時間があるかと」

 

 半竜娘たちは、陽神行路(ソルディオス・オービット)の制御機構の一部と思われる場所までたどり着いていた。

 ……この近辺は修復率が低いのか、中枢に割と近いのに、外の砂岩の壁まで穴あき吹き抜け状態でよく見えてしまっている。

 

 順調に進めば欲も出る。

 

陽神行路(ソルディオス・オービット)の内部に納められた、魔術師の時代のデータ……気になるのう」

 

 『まだいける』は『もう危ない』とはよく言ったもので。

 この時の半竜娘たちは、タガを外しつつあった。

 

 ぶっちゃけて言えば、徹夜のハイテンションであった。

 分身体だという、何かあっても本体は死なないという安全意識も、ハイリスク行動を後押しした。

 

 そして、古代の石板を解読済みの半竜娘は、この武装要塞・陽神行路(ソルディオス・オービット)の起動方法に心当たりがあった。

 

「……ちょっとだけ。ちょーとだけじゃ。うむ、手前の胸の【動力炉心(パワーコア)*4で融合直結して、必要な部分にエネルギーを提供してやりつつ、動かしてやった範囲からデータを抜き取るのじゃ!」

 

 

 

 

 直結による動力供給とデータへのアクセスは途中までは上手くいった。

 

「うむうむ。これは興味深いのう……」

 

 半竜娘は己の尾を、陽神行路(ソルディオス・オービット)筐体(フレーム)の一部に突き刺し、【動力炉心(パワーコア)】の機能を解放して侵蝕融合。

 それを介して陽神行路(ソルディオス・オービット)のシステムに直結し、動力を供給するとともに、太古の技術者たちが納めていた情報を抜き出し始めた。

 半竜娘の胸の中心から体表を尾に向けて幾何学的な蒼いラインが走り、陽神行路(ソルディオス・オービット)の筐体との接続箇所を介して蒼い光が行き来する。

 

 尾を通じて流れてくる蒼の光には様々な情報が含まれていた。

 その中には当然、太古の魔術師たちに技術によって対抗しようとした変態技術者たちの遺産である技術情報もあった。

 それらの情報には、彼ら技術者たちが扱った技術についての解説もあったが、同量かそれ以上に、仮想敵であった魔術師たちが扱った魔術についての詳細な分析も非常に多く含まれていた。

 敵を超えるために敵を知る必要がある、ということなのだろう。技術者たちは、ともすれば敵である魔術師たち以上に、彼らが用いる魔術に精通していた。

 

 

 

 なおこの時、息を吹き返した陽神行路(ソルディオス・オービット)のシステムに別口で侵入した者がいた。

 別の遺跡の端末から地脈を伝って半ば霊的に侵入してきたのは、王国から来た密偵の仲間である『知識神の神官』の女性だった。

 もし陽神行路(ソルディオス・オービット)に接続していたのが、半竜娘ではなく、その周りで護衛として侍っていた文庫神官であれば、信仰を同じくする者同士のシンパシーで、知識神の神官(デッカー)の侵入にも気づけたかもしれない。

 

 だが、そうはならなかった。

 

 一方で、知識神の神官(デッカー)の方も、物理的に接続して動力供給源となっていた半竜娘を、もともと接続されているサブ動力ユニットだと誤認識したままであった。

 

 結果として、半竜娘と知識神の神官(デッカー)は、お互いの存在を認識しないままに、陽神行路(ソルディオス・オービット)のシステムを食い荒らすことになった。

 

 そしてお互いが好き勝手に動き回った結果。

 

 

「んー、ここのバイパス通しても……その先が遮断されておるから問題なかろう」

 

『あー、ここの遮蔽回路は開けてもいいかな……。そもそも元が遮断されてるし』

 

 

 お互いがお互いの安全装置を外しているとも知らずに、システム内部で行動していった。

 

 そうなればどうなるかというと、もうお分かりだろう。

 

 

 

 避けるべきことが起きてしまった。

 ついには、半竜娘の【動力炉心(パワーコア)】からの動力が、主機のスターターに流れ込んでしまったのだ。

 

 さらに誤算であったのは、半竜娘の胸で蒼く燃える【動力炉心(パワーコア)】の出力は、星の海から墜ちてきた潜水艦らしきものを支えられるほどの高出力であり──── 武装要塞・陽神行路(ソルディオス・オービット)に火を入れるのにも、十分な出力を持っていたことだった。

 

 

 そして当然の帰結として、太陽神の名を冠する機械の要塞は、太古の眠りから再び目覚めたのだった。

 あまりに早すぎる目覚めに、その継ぎ接ぎの機体(からだ)を崩壊させながら。

 

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 

 というわけで、場面は冒頭に戻る。

 

 

 そうはならんやろというピタゴラスイッチを経て、起動してしまった武装要塞・陽神行路(ソルディオス・オービット)

 そこから振り落とされた半竜娘。

 

 接続していた知識神の神官(デッカー)の方も、とっくに本格起動した内部システムのファイアウォールによって弾き出されているだろう。

 場合によっては蹴り出される時に精神にダメージか消耗を負っているかもしれない。

 

「この状況に至っては、もはや隠匿や隠ぺいなど言ってられんのう。これなら資料なんかも思いっきり盗んでしまっても良かったか。

 ……それにしても、こんなものを浮かべて喜ぶか、変態技術者どもめ……」

 

 落下しながらも半竜娘は冷静であった。悪態をつく余裕すらあった。

 いざとなれば周囲の重力の精霊に請願して【落 下(フォーリングコントロール)】の精霊術で重力を軽減すれば死にはしないし、あるいは祖竜術【竜翼(ワイドウィング)】で腕を翼に変えて滑空しても良い。

 なんならそれらが全て間に合わずに地面に叩きつけられても、分身体がマナになって霧消するだけ。フィードバックで多少は消耗するだろうが、本体の命が懸かっているわけではない。

 

 だがそうでなくても冷静ではあっただろう。

 何故ならば。

 

 

「リーダー! 縄を飛ばす! 掴んでくれ!!」

 

「当たったらごめんね!」

 

 半竜娘は一人ではないからだ。

 頼れる仲間が居るからだ。

 

 

 TS圃人斥候が、発掘現場からくすねていた縄を素早く森人探検家の持つ矢に結わえ付けて投げ渡し。

 阿吽の呼吸で受け取った森人探検家が自身の聴覚を頼りに、透明なまま落ちてゆく半竜娘に向かって、縄が結ばれた矢を電光石火で放つ。

 

 そして寸分の狂いなく飛来した縄を掴み、素早く腕に巻き付ける半竜娘。

 

「掴んだのじゃ!」

 

「お姉さま、引き上げます!! ハァアアッ!!」

 

 それを引き上げるのは、力自慢の文庫神官。

 タンクはパワーだ!!

 

 一本釣りされた魚の如く、半竜娘は、飛行する要塞内へと釣りあげられていく。

 

 途中で、飛行して脱出する闇竜娘と白梟使徒(ファミリアーズ)と、一本釣りされる半竜娘がすれ違った。

 闇竜娘と白梟使徒(ファミリアーズ)は生身というか、分身体ではなく本体なので、危険になったら逃げるようにとあらかじめ決めてあった。

 敵前逃亡ではなく、段取りどおりの行動だから、問題ない。

 むしろ半竜娘の本体たちの方の避難時の護衛に戻す方が優先度が高い。

 

 半竜娘の分身体は、隙間だらけの外殻を通り、再び、接続していた地点へと舞い戻った。

 

 

「助かったのじゃ。感謝!」

 

「びっくりさせないでよね」 「冷や冷やしたぜ」 「お役に立てて光栄ですお姉さま」

 

 

 それではこの後どうするか。

 

「ことここに至っては仕方ないのじゃ。市街地に被害が出る前に、この武装要塞・陽神行路(ソルディオス・オービット)を破壊……いやさ、完全掌握して奪取するしかない」

 

「いや破壊した方が楽でしょ? 内部構造分かってるんだし、主機なり主砲なりを壊せばいいじゃない」

 

「下手に破壊したら市街地に破片が落ちる。落とすなら無人地帯まで飛ばしてからでなくては」

 

「悠長にやってたら、それこそ市街地が全部なくなるぜ? さっきの地面吹き飛ばした威力見ただろ? しかも自爆まで時間もねーんだ」

 

「最速でやるしかなかろう」

 

「……お姉さま、それで私たちは何をすれば?」

 

 その問いに、半竜娘は即答する。

 

「お主らは【解毒】と【浄化】の奇跡を。手前らの防御のためにもじゃが、市街地にこの翠の汚染が広がる前に発生源近辺(おおもと)で軽減したい」

 

「わかったわ。それじゃあ私は【解毒】を交易神様に」

 

「私は【浄化】を知識神様に願います」

 

「オイラは?」

 

「術の回数もそう残っておるまいから一旦分身の方の制御は落として良いのじゃ。王宮から手前の子らを逃がす方に注力してくりゃれ」

 

「おーらい、そっちは任せろ」

 

 TS圃人斥候は分身の操作を放棄し、本体の方に意識を注力することに。

 その分身体の瞳から意識の光が失われ、棒立ちになった。

 王宮に居る本体たちの方も、既に避難を始めていることだろうが、TS圃人斥候がそちらに専念するのであれば大丈夫だろう。

 

「では手前は、再度この武装要塞に接続し、完全同化を試みるのじゃ。万全を期して【加速】する」*5

 

「お姉様に闇を照らす光の導きを。【真灯(ガイダンス)】」*6

 

 準備万端。

 

「主機に向かって突撃するのじゃ。そして融合のスパークの力で同化し、掌握する」

 

「【解毒】と【浄化】は私たちにお任せ下さい。お姉さま」

 

「主砲はどうするの?」

 

「外から本体の方の手前が何とかする。…………決して撃ち負けたりはせんぞ!」

 

「いやいや、張り合わないでよ」

 

「お姉さまならできます!!」

 

「あなたも煽らないで」

 

 

*1
◆不明なユニット:その胸に宿る蒼き融合のスパークの力で直接接続(ハードワイヤード)した脳筋半竜娘がいたらしい。

*2
◆不明なドック:発掘中で半分砂に埋まった状態はそもそも船渠(ドック)とは呼べまい。

*3
◆不明なアクセス:仕掛人チームの某知識神の神官が太古の遺跡の通信網(マトリクス)経由でハックしてきているようだ。

*4
◆半竜娘ちゃんの動力炉心パワーコア:変形者(トランスフォーマー)的なスパークなのか、ゲッターな光線なのか、チェレンコフってるのか、次元を踏み越える資格たる灯なのか、どういうものかは不明だが、無機物と生物を融合させることができるパワーを秘めている。盤の外から墜ちてきたと思われる潜水艦の動力源として安置されていたものを、深海宝探しの戦利品として接収し、祖竜術【胃石(ベゾアール)】の副作用により取り込んだ。ちなみにその時、あまりに強大なエネルギーで吹き飛びかけたが三日三晩かけて何とか調伏した。

*5
◆真言呪文【加速ヘイスト】:達成値にボーナス。その代わり、消耗カウンターの加算が倍になる。また、分身と本体の消耗カウンターは本体に集約される。分身と本体の両方が加速状態を維持した場合、消耗リスクは四倍になる。今回は知力集中11+魔術師Lv8+発動体3+紅玉の杖1+付与熟達4+2D655+生命の遣い手CRTボーナス5=42 → 達成値42で、加算値5。

*6
◆知識神の奇跡【真灯ガイダンス】:ダイスロールの2D6の片方を固定値に出来る。今回は魂魄集中8+神官Lv7+聖印3+司教杖2+汎用熟達2+2D656=33 → 達成値33で、ダイスの一方を6に固定できる。




 
流石に不完全な修理品なのでフルスペックとはいかないソルディオス・オービットたん。今回は決着まで行かなかったのでまた次回。
 


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41/n 時の砂の秘密-6/6(撃墜そして吸収)

 
◆前話
ソルディオス・オービット、浮上!!
 


 

1.希望の朝(ニューホープ)は翠色ではないはずだ、決して

 

 

 朝。

 いやに明るいと思えば、太陽が二つあった。

 

(ミドリ)の太陽……?」

 

 名目上は未だにこの国の王女であり “姫君(ひめぎみ)” とも呼ばれることのある私は、囚われの窓から見えた光景に、目を疑った。

 朝日とは別に、(ミドリ)に燃える太陽がもうひとつ、街の上に浮かんでいたからだ。

 

 見ているだけで目が痛くなるほどの、毒々しく輝く翠。

 

 きらきらとした破片を溢しながら、翠の太陽が空を飛んでいた。

 

 

 唖然と窓から空を見上げる私の後ろで、この貴賓牢の扉が乱暴に開け放たれた。

 

「やってくれましたな、姫君」

 

「宰相……?」

 

 そこには嚇怒に顔を染めた宰相が立っていた。

 

 簒奪者。

 父の仇。

 独裁者にして圧政者、混沌に与する者。

 

 だが、“やってくれましたな” ……?

 いったい何の話だというのか。

 このように私自身は既に虜囚の身であるし、自分の手の者── 長く仕えた従者の凸凹コンビ── ですら捕らえたと宰相は昨日、自慢げに語っていたではないか。

 あのゴブリンを繁殖させている砦の帰り道の、砂船の上で。

 

 もはや私に残された手などないと言ったのは、宰相であろうに。

 

陽神行路(ソルディオス・オービット)を目覚めさせたのは貴女の手の者でしょう」

 

「……あの(ミドリ)の太陽は、“そるでぃおす・おーびっと” というのですか?」

 

「何を。白々しい。だが、まだ貴女に手札があったとは驚きだ。旧王派の残党か? それとも他国と結んだか? 内憂に外患。貴女の一族はどれだけ(ひと)の足を引っ張れば満足するというのか」

 

 いや本当に知らないのだが。*1

 首をかしげる私に、宰相は苛立たし気に舌打ちをした。

 

 まったく何も状況は分からないが……。

 

 宰相が困り果てているので、私は少しだけ胸のすくような思いがした。

 

 まあ直後に、そのような状況ではないと思い知るのだが。

 

「………ッ!? 正気かっ!? この街中で、都に向けて主砲を撃つ気だというのか??!!」

 

 宰相が焦ったような声とともに窓に取りついた。

 

 “おいバカやめろ この蜂起(レジスタンス)は早くも終了ですね” とか言う副音声が聞こえそうな、送り出した(そのあと捕まったと宰相は言っていたが)圃人の侍女*2の奇妙なジェスチャーが何故か思い起こされた。

 彼女は多くをしゃべらないが、その身振り手振りや表情は非常に雄弁なのだ。

 閑話休題(いや、いまはそれどころではない)

 

 

 私が宰相の肩越しに空を見た先にあったのは、(ミドリ)の光があの太陽のごとき巨大な球体の一点に凝集していく光景だった。

 

 焦る宰相のセリフから、私にもその凝集する翠が、何をもたらすのかは察しがついた。

 

 ──── 死と破壊だ。

 

「宰相。あれは私の指示ではありません」

 

 思わず真顔になって弁明してしまった。

 だが流石に弁明しなくてはならないだろう。

 民を庇護すべき王族として、あれが私の指示だと思われるのは本意ではない。

 

「でしょうな! 姫君に都を吹き飛ばすほどの度胸はないでしょう。まして姫君自身の御身諸共に私ごと王宮を吹き飛ばさせるなど。しかし、だとすればアレは、なぜ動いているというのだ……」

 

 ぶつぶつと何やら考察をする宰相。

 だが、その間にも空に浮かぶ翠の太陽(ソルディオス・オービット)の輝きは強まっている。

 

 アレが解放されればどうなるというのか。

 見当もつかない

 

 宰相の焦りようを見れば、きっとただでは済まないだろうということだけは分かる。

 

 いまにも空の翠の輝きは臨界を迎えようとしているではないか。

 

 

 もはや命運も尽きたか、と思われた私の前に現れたのは……

 

 

 

「【辺境最大】、推参!!」

 

 

 

 ……鴉の濡れ羽色の巨大な、巨大すぎる半蜥蜴人の少女であった。

 

 昨日宰相に歓待されていた冒険者。

 金字塔(ピラミッド)の大悪霊を討滅したという隣国の一党のリーダーだという、見上げんばかりの迫力の美女に酌をさせられたことは記憶に新しい。

 

 その彼女が、王宮の庭で、さらに10倍は巨大に変身して、王宮の背丈すら越えるまで巨大化して、あの翠の太陽(ソルディオス・オービット)に向かって立ちはだかったのだ!

 

 それはまるで衆生を救う光の巨人のような、威風堂々たる立ち姿。

 たなびく黒髪が紫電を纏い、蒼いエネルギーの光が彼女の肌を走り抜ける。

 

 こちらに背を向ける彼女、辺境最大を名乗る冒険者は、ズン、と(スタンス)を広げて空の翠を迎え撃つ。

 凄まじいエネルギーの奔流が、彼女の身体を駆け巡り、蒼いエネルギーの塊となって一点に集中していっているのが感じられた。

 恐らくは彼女の口のあたりへに集められている……。

 

 

 

 だが空の翠は、それを捨て置いたりはしなかった。

 空から、翠の太陽(ソルディオス・オービット)の下す無慈悲な判決の音が響く。

 

 

 

“ ──── 高エネルギー反応を確認.推定:ドラゴン.優先目標に設定します.”

 

“ ──── 主砲ソルディオスキャノン,発射します.”

 

 

 翠の光が弾ける。

 それは太い一条の光の奔流となって、巨大化して王宮に立つ半蜥蜴人の冒険者へと殺到した!

 

 

 

 

 だが目前の巨大な冒険者【辺境最大】は、その天の裁きに実力を以て異議を唱えた。

 

 

「ようし、受けて立つ!! 天地神明(ことごと)く光に消えよ!! 〈核撃・放射(フュージョンブラスト・ブレス)〉!!!」

 

 

 翠の光線と、蒼の熱線が交錯する────!!

 

 

<『1.主砲相殺! 主砲にエネルギーを回している間は自爆用キャパシタの充填速度が低下しているぞ。急いで内部からシステムを掌握するんだ!』 了>

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

2.スタコラサッサだぜ!!

 

 

 

 翠の太陽のような武装要塞が浮上したどさくさに紛れて、TS圃人斥候は一党の仲間を連れて、王宮から逃げ出していた。

 

 まあ半竜娘はご覧の通り巨大化して大立ち回り中だが。

 

「笑止! その程度か太古の要塞(ソルディオス・オービット)よ!」

 

 今も祖竜の力をその身に降ろして蒼い熱線を吐き、空飛ぶ丸い要塞の翠光の主砲を打ち消している。

 だがそれもいつまでもは持たないだろう。

 術の使用可能回数と言うのはそう多くはないのだから。

 

 だが武装要塞も修復中のものを無理やり起動したせいでボロボロだし、そもそも多くの乗組員が居て初めて満足に動かせるものを、搭載された人工知能のみで誤魔化し誤魔化し動かしている状態だ。

 そもそも長くは持たないし、長引けば主砲はひっこめて、自爆シークエンスの方を優先するようになるだろう。

 

「で、こっちはこっちで足手まとい連れて、パニックな街中を逃げなきゃならねーのか」

 

 TS圃人斥候が連れているのは、〈分身(アザーセルフ)〉に集中しているために気もそぞろな森人探検家(アーチャー)文庫神官(タンク)

 

「……解呪の奇跡を……」 「……瘴気*3を防いで……」

 

 この二人はあの機動要塞陽神行路(ソルディオス・オービット)の内部に置いている分身体を起点に、溢れる瘴気を抑えるという重大任務中だ。

 神の奇跡はこういう時に頼りになる。TS圃人斥候は、柄ではないので信仰に目覚めるつもりはないが。

 そちらの浄化を失敗させるわけにはいかないから、本体の方が夢遊病患者みたいなフラフラした足取りでも仕方ないだろう。要介護状態は甘んじて引き受けざるを得ない。

 

 使い魔/使徒連中は空を飛べるので、適当に先行してもらっている。

 

 

 そして他に引き連れているのは、圃人の自分と同じくらいの背丈の蜥蜴人の幼子が3人。

 

「足手まとい扱いは不服です……ふぁ~あ」 「初陣は済ませてるし……ねぃ」 「朝は弱いのに……むにゃむにゃ

 

 淡い緑の鱗の蜥蜴人の幼女、幼竜娘三姉妹だ。

 まあ蜥蜴人特有の朝の弱さがあるようで、本調子ではなさそうだが。

 え? 蜥蜴人は恒温動物? なら単純に朝に弱いか、慣れない異国での疲れが出てしまっているのだろう。

 

 

 周囲はパニックになった群衆が右往左往しており、とてもまともな状態ではない。

 同時に暴徒化しつつもあるようで、略奪や火事場泥棒も起こっているようだ。

 火事が起こっていないのが奇跡に思えるくらいの混沌だ。

 

 とある角では不良衛兵が日ごろの鬱憤晴らしに晒されてか民衆に袋叩きにされているし、治安維持を放棄して逃げ出す衛兵の姿も見える。

 そもそもこうも治安が悪化し、士気が下がっていたところにコレでは、そうなるのも当然だ。

 もはや治安維持機構は機能していない。崩壊している。

 

「んむむむむ。これじゃー逃げるに逃げられねえな」

「んむむむむー」 「ニンゲンはおろか」 「パニックパニックあわててる~」

 

 TS圃人斥候は状況の悪さに唸る。

 ついでに幼竜娘三姉妹も唸る。

 

「いやまあ、パニックになるのは分かる。だがここは落ち着いて避難してもらわにゃー困るぞ」

「さて」 「どうした」 「ものかー?」

 

 腕組みして唸るTS圃人斥候だが、その間にも足は止めない。

 そんな彼女らを小さい婦女子だと見て麻袋片手に拉致しようと襲い掛かってくる暴徒を、鞘に入れたままの短剣でぶちのめして転がしていく。

 この程度の相手は文字通りの片手間で片が付く。

 

 ちなみにその間にも、巨大化した半竜娘は近くのバザールの屋根を引っぺがして投擲し、陽神行路(ソルディオス・オービット)へとダメージを与えている。

 ……壮麗なバザールのアーケードが見るも無残に飛び道具にされていくのは、もの悲しいものがある。

 

 そしてそのせいでさらに群衆の混乱は加速していく。

 

 

「……仕方ねえ。ガラじゃねーけど避難誘導だ」

「誘導だー!」 「これは善人」 「でもどうやってー?」

 

「まあ、ちょっとした幻覚呪文の応用ってやつだ。ファルサ(偽り)ウンブラ()オリエンス(発生)! 〈幻影(ビジョン)〉──── “大声の衛兵集団”!」

 

 幻影呪文がもたらすのは、視覚への影響だけではない。

 聴覚への影響ももたらすことが可能なのだ。

 

 TS圃人斥候は自分たちには周辺に溶け込むような迷彩をかけて、そこから離れた場所に、衛兵の小隊の幻影を創り出した。

 そして、その幻影の衛兵たちに口々に叫ばせながら、あたかも走っているようにその幻影を動かす。

 

『街門まで逃げよ!!』 『翠の光は毒の光だ! 早く逃げろ!』 『ここから離れろ!! 死にたいのか!!』

 

 幻影の衛兵たちが民衆を追い立てる。

 いきなりのことで何が起きているのか分からなかった民衆たちも、逃げなければいけないことを悟って、街門へと駆ける。

 転んで踏まれる不運な者も居るが、致し方ない。完全に避難誘導できるわけではないので、それは割り切るしかない。

 

 濁流のように逃げ惑う民衆たちの後ろを、幻影による迷彩を被ったTS圃人斥候たちがひた走る。

 ……あまり観光は出来なかったのは残念だが、仕方なし。

 今は、この砂塵の国の都から逃げ延びることが先決だ。

 

 

<『2.TS圃人斥候「軽銀商会のお嬢の方も上手く逃げてくれてるといーんだが……。ま、気にしても仕方ねーか」』 了>

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

3.半竜娘 VS.陽神行路(ソルディオス・オービット)

 

 

「カァァアアアッ!!!」

 

 

“ ──── 目標の脅威度を上方修正.”

 

 

 巨大化した半竜娘の放射熱線(フュージョンブラスト・ブレス)と、空飛ぶ武装要塞 陽神行路(ソルディオス・オービット)の主砲ソルディオスキャノンは相殺され──── 僅かに半竜娘の熱線の方が優った。

 空飛ぶ球体(あんなモノ)の方は周辺の破壊を目的に、日干し煉瓦の建物を壊せればいいという程度の出力に絞っていたせいもあるだろう。

 都の上空でぶつかり合った蒼と翠の輝く光条は、蒼が押し切り、翠の砲口へ突き刺さった。

 

 

“ ──── 主砲稼働率低下.充填率を再設定.充填(チャージ).”

 

「チャージなどさせるものか! 奥義! 百歩神拳(バニシングフィスト)!!」

 

 武闘家としての氣の扱いを極めた先にある奥義。

 高めた気を放出して百歩先の敵にまで届かせる秘奥。

 それが百歩神拳(ひゃっぽしんけん)*4

 

 半竜娘の高められた氣は身体を駆け巡る動力炉心(パワーコア)由来の蒼い奔流と混じり合い、彼女の左手を白熱色に輝かせると、直突きの動作とともに猛然と放出された!

 

 膨大な氣の奔流は、砂塵の都に立つ尖塔の一部を掠めて崩壊させつつ、ソルディオス・オービットへと突き刺さる!

 

 

「オォオオオオッ!!!」

 

“ ──── 粒子外殻(プライマルアーマー)全力稼働.”

 

 

 半竜娘の放った氣の奥義── バニシングフィスト── は、陽神行路(ソルディオス・オービット)の翠の粒子による外殻を突破こそできなかったが、相手の機体を大きく吹き飛ばすことに成功する。

 空中に残る蒼い灼熱の拳撃の軌跡。都の外にまでそれは続いていた。

 

 大きく息を吐いて残心する半竜娘。

 全身全霊の氣を放つ奥義による消耗は重い。

 ましてや〈加速〉呪文で常の倍の速度で動いていればなおさらだ。

 

 

「問題ない。我が分身が(くさび)となっているがゆえに」

 

 

 コォ……と半竜娘が大きく息を吸う。

 励起した蒼の光が彼女の体表を迸り、無限の活力をもたらしていく。

 

 ──── そしてそこに、()()()()()

 

 

「分身の方の侵蝕は順調なようじゃな。魔導的なつながりを通じて、敵の炉心からもエネルギーが流れ込んできておるわ!!」

 

 

 分身が消耗すれば本体も消耗する。身体的そして精神的な消耗を共有しているがゆえに。

 であれば逆に、分身が活力を吸い上げれば、本体も回復するのは道理である。

 

 陽神行路(ソルディオス・オービット)が纏っている()()()

 それと同じものが、半竜娘の身体に満ちるエネルギーへと混ざっていく。

 

 あの飛行する要塞内部に侵入している彼女の分身が、動力炉心(パワーコア)による同化作用を後先考えずに全開で発揮して侵蝕しているのだ。

 

 

 その証拠に、都の外にまで吹き飛ばされた陽神行路(ソルディオス・オービット)の形が変わる。

 

 壊れかけの球体から──── まるで翼竜へと変じるように。*5

 支配率が入れ替わっていく。

 

 

“ ──── 不明なユニットが接続されています.深刻なエラーが発生しています.”

 

 

“ ──── 搭乗員は不明なユニットを排除してください.エラー,搭乗員はゼロです.”

 

 

“ ──── 搭乗員は不明なユニットを排joシてくダSaイ.エラー,エラー,エラー.”

 

 

“ ──── 致命的なエラーが発生しています.”

 

 

 

 

 

“ ──── あー,あー.乗っ取り完了したのじゃ!”

 

 

 球形から翼竜型に変形した陽神行路(ソルディオス・オービット)だったモノが、半竜娘の声音でしゃべりだした。

 半竜娘は、意識を同じくする分身から伝わる感覚に会心の笑みを浮かべる。

 

 己の分身の身体が機械の要塞と同化し。

 同化した機械の要塞はボロボロのその身に毒の炉心を抱え。

 今にもはち切れそうなほどの熱量を蓄えている。

 

 要塞内部に残されていた一党の仲間の分身体は既に消滅してしまっただろうか。

 だが無理もない。死力を尽くして翠の毒を浄化し、抗ったのだろう。立派に役目は果たした。

 

 分身体は機械の要塞(ソルディオス・オービット)を侵蝕したが……。

 全力で同化侵蝕したために、その存在は本体とは別個のものとして独立しつつある。

 

 

“ ──── 本体! 今のうちじゃ! 自爆自体はもはや、こちらからは止められぬ!”

 

 

 そして太古の昔に魔術師たちとの戦闘を想定して建造された武装要塞においては、当然備えられている機能がある。

 

 

 魔術師の使う “黒” の権能は、侵蝕が本分である。

 

 ゆえに。

 

 対魔術師兵器であれば、侵蝕された場合の対策は必須でもある。

 

 

 すなわち、自爆。滅却。抹消。

 技術者たちの面目躍如だ。

 それは何よりも優先されて行われる。この期に及んでは、内部からのシステムの介入すら許さずに。

 

 

 

「応とも!! 征くぞッ!!〈竜胞(ドラゴンセル)〉! 〈突撃(チャージング)〉!!」

 

 

 半竜娘本体の巨体が、軽功の武技により軽やかに都の建物の上を駆け、街壁を踏み切って飛び上がる。

 

 祖竜の神威を纏った渾身の突撃。

 両の腕に輝く鮮血呪紋に、蒼い光が混じる。

 

 そしてその身の細胞一つ一つの二重螺旋に眠る竜の力を呼び覚ます。

 全てを喰らい、糧にする、古の黒き鱗の怪獣王の力を。

 

 

 対する翼竜型に変形した武装要塞陽神行路(ソルディオス・オービット)の融合体は、自爆を早めるために、他の一切の機能を放棄した。

 粒子外殻は失せ、主砲に灯る翠の光は消え、天からも失墜し始めた。

 それは本能に等しい基幹設計に刻まれた動作であった。

 

 

“ ──── 侵蝕同化作用最大! 融合体を、能う限り分霊側(アストラルサイド)に寄せる!”

 

 

 陽神行路(ソルディオス・オービット)に融合した分身体は、本来的には魔力で形作られた影である。

 それゆえ、その影が独立して実体化する際には、融合体全体が、魔力とも、物質ともつかぬ、幽冥の境に置かれることになる。

 全体が、魔力で練られた分身であると同時に、巨大な物質である武装要塞でもある。そのように裁定されるのだ。

 

 もちろん要塞の側の膨大な質量により、やがては融合体は物質として確定し、半竜娘の影(ぶんしんたい)とは別個の存在として確定するだろう。

 だが、それは今ではない。

 

 どっちつかずの、どちらでもあり、どちらでもない状態。

 己の影と重なった、翠の太陽。

 下拵え/お膳立ては出来ている。

 

 であるのならば。

 

 

「鮮血呪紋、全力駆動!

 我が胸の動力炉心よ!

 全てを喰らう祖竜の細胞よ!

 翠の太陽を! 翼神竜を喰らい尽くせ!!」

 

 

 激突。

 

 そして。

 

 

<『3.あとには雲一つない青空だけが残った』 了>

 

 

 

 半竜娘ら一党は、砂塵の国の宰相の企みの一部を挫いた!

 陽神行路(ソルディオス・オービット)撃墜により、経験点1250点獲得! 成長点3点獲得!

 

 半竜娘の胸の動力炉心(パワーコア)に翠の光が宿った!

 獣人専用技能【注入毒(猛毒)】(習熟段階)を習得! 素手攻撃に毒属性の追加ダメージが乗るようになった!*6

 冒険者技能【免疫強化】が初歩段階から熟練段階へと2段階成長! 毒や病気などへの体力抵抗判定に+3ボーナス!

 

 

*1
◆旧王派は強大?:濡れ衣。酷い誤解だ。でも宰相視点だと、いくら凄腕とはいえ、ポット出の冒険者一党(半竜娘たち)がその日のうちに秘密古代兵器を起動したというよりも、敵対派閥が工作を仕掛けてきていたという方が筋が通るのだ。なにせ、半竜娘たちには動機がない(宰相視点だと半竜娘はループ時の記憶は持ってないし古代兵器の情報も知らない)はずなので。

*2
◆圃人の侍女:原作小説11巻登場。セリフが描写されることがない侍女。森人の侍女との凸凹コンビで、姫君含めて3人は友人。おそらく圃人の侍女のモチーフの一つはスターウォーズの「R2D2」。その相方の森人の侍女の方は「C3PO」モチーフと思われる。

*3
◆翠の瘴気:コジマ的なサムシング

*4
◆武技(奥義)百歩神拳:射程100mの気による遠当て。魔法の武器による遠隔攻撃扱い。消耗+2。受動側は呪文抵抗判定。抵抗成功で無傷。通れば装甲値半減扱いダメージ。隻手(かたて)で鳴らす拍手に音はするのか──── この禅問答じみた問いに対して、極まった武僧は、氣を高めた先で、その音を聞くことになるでしょう。百歩神拳と書いて “かめはめ波” と呼ばせるか、何と呼ばせるかはPLの裁量で。半竜娘ちゃんの場合はガメラリスペクトでバニシングフィストと呼ばせました。

*5
◆太陽神の変貌:ラーの翼神竜が、スフィアモードからバトルモードに変形するみたいな感じ。羽化。あるいは孵化。

*6
◆【注入毒】技能:素手攻撃に毒属性の追加ダメージを載せることができる技能。習得段階が進むと猛毒(毒ダメージ増加)・麻痺毒(麻痺により達成値デバフ)に派生する。




 
◆TS圃人斥候の苦労
TS圃人斥候「ぬぁー!? 機動要塞が吹っ飛んでリーダーが突撃したは良いが、ちゃんと着地考えてるのか!? 念のため、機体内に残してきた分身に同調……そして真言呪文〈脱出(エスケープ)〉! エゴ()オプティマス(最良)モードゥス(方法)!」

TS圃人斥候「なんとか陽神行路(ソルディオス・オービット)の消滅前に分身は脱出できたが……案の定、リーダーが気を失って墜落しとる!? 残してて良かった呪文使用回数あと1回っ、真言呪文〈浮遊(フロート)〉! ウェントス()セメル(一時)コンキリオ(接続)!」

TS圃人斥候「空中浮遊からのキャッチ! って、()っも!!? なんかまた成長して(でっかくなって)ねーか!?」

TS圃人斥候「ひぃ、はぁ。なんとか無事に地上まで下ろせたぜ……。あとはここで、都を脱出してくる本隊と合流まで待機だな……あー疲れた!!」

=====

◆ダイマ
 ゴブスレ公式TikTokが開設とのことですわよ! → https://twitter.com/GoblinSlayer_GA/status/1639544164412190720
 そしてTRPGのシナリオ集(既存媒体発行済み3編+原作者書き下ろし1編)付き入門セットも2023/03/28に出ましたことよ! → https://www.4gamer.net/games/436/G043667/20230206029/

=====

◆追記:
次回は、そのころのゴブスレさん一行(+鉢巻剣士くん一党)の若赤竜との戦いの様子とか、うっかりソルディオス・オービットの名前を口にしてしまった半竜娘ちゃんに疑念を抱いた宰相が追手をかける話とか、その他原作小説12巻に向けての話になるかと。
 


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41/n 裏1(赤竜との偶発的遭遇)☆AI挿絵あり

 
◆前話
竜とは、火炎と瘴毒を吐くものだ。
半竜娘「蒼い火炎(放射熱線)翠の瘴毒(コジマ粒子)……うむ、これは紛れもなく竜の特徴じゃな! ヨシッ!」

===

※ AIさん(DALL・E-3)に出力してもらった挿絵あり(マス)
 


 

1.いつかは竜退治

 

 国境の砦にて()()されていたゴブリンどもを、その砦ごと、空飛ぶ砂海鷂魚(サンドマンタ)の群れを呼び寄せて押しつぶした小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)一党は、そこから脱出した後に寄った古代の神殿跡で、新たな危機に直面していた。

 小鬼殺し、妖精弓手、蜥蜴僧侶、鉱人道士に、女神官。

 大立ち回りの後で疲労困憊の彼ら彼女ら一党の目の前に現れたのは、崩れた祭壇の下に隠されていた金銀財宝の山……だけではなく。

 

赤き、竜(レッドドラゴン)……!!」

 

 四方世界に名高い最強の存在。

 硫黄と瘴毒に満ちた火焔を吐く怪物。

 その知恵は森人の賢者より深く、その爪は騎士の剣より鋭く、その鱗は城壁よりも堅い。

 

『GGGGRRROOOOWWWWW!!!!』 『GOBGOB!!』

 

 身の毛もよだつ竜の咆哮。

 それに混じるのは、竜の背に乗った小鬼の嘲り。

 

 あの小鬼がきっと、眠れる竜を起こしたのだ。

 鬱陶しそうに長首を振る竜は背の小鬼など歯牙にもかけていないが、小鬼は我こそはドラゴンライダーでございと意気揚々だ。

 

 

 

 竜。竜! 竜!!

 

 相対すれば絶死。

 それがゆえに、打ち倒せれば至上の名誉。

 

 寝物語の英傑たちの、燦然と輝く二つ名を思い出すが良い。

 

 竜殺し(ドラゴンスレイヤー)

 竜狩り(ドラゴンバスター)

 竜を滅ぼす者(ドラゴンヴァラー)

 

 一握りの到達者にのみ与えられる、最大の栄誉!

 

 そして、それがゆえに、かの竜の下に骸を晒した者は数知れず。

 

 地下の金銀財宝の中に突き立った魔法の武具を見るがいい。

 あれこそは挑戦者たちの無念の証。

 

 

 仕掛人(ランナー)たちは、言う。

 

 ──── 決して竜に手を出すな、と。

 

 

 

 であれば、冒険者は?

 

 

 

「“いつかは、竜退治”……」

 

 

 

 女神官が、思わず呟いていた。

 それは、彼女の “始まりの冒険” で、その時の仲間たちと笑い合った思い出。

 ……まあ、そのあとの小鬼退治で肝を冷やしたから、堅実に行こう、と方針転換はしたのだが。

 

 

 そして、ちょうど今このとき、女神官と語り合ったあのときの仲間たちもここに居る。

 女商人の隊商の護衛として砂塵の国へ入ったのは、小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)一党だけではなかった。

 既に辺境の街から巣立っていた、かつての女神官の仲間たちも、その護衛に名を連ねていた。

 

 さらにまた、小鬼の養殖場と化していた国境砦を落とす(崩す)際にも同行していた。

 

 鉢巻(鉢金)の青年剣士、眼鏡の女魔法使い、黒髪の女武闘家。

 かつて小鬼の洞穴で右往左往していた頃から、冒険を重ねて成長した、頼もしい同期たち。

 

 そして彼らの仲間であり女神官の後輩でもある、少年魔術師と、圃人の女剣士。

 

 合わせて5人の同期後輩の一党も、この場には居るのだ。

 

 

 

 

 ある意味それは若さゆえの無謀だったのだろう。

 銀等級の小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)一党よりも、鉢巻剣士の一党の方が立ち直りが早かった。

 

 腹をくくった鉢巻剣士が叫びを上げる。

 

「攻撃は俺が引き受けます!! 少しの間ですが……!

 そのうちに、竜をどうにかする算段を頼みます、ゴブリンスレイヤーの兄貴!!」

 

 同期後輩一党の中で、盾役(タンク)としての経験を積んできた鉢巻剣士が、その大盾を掲げて前に出た。

 

 赤竜は既に、こちらを薙ぎ払おうと身体をぐるりと回し、勢いよく尾を叩きつけようとしていた。

 とても只人の戦士(HFO)が太刀打ちできるものではない!

 

 無茶です、戻って! と、そう叫びそうになった女神官は、そこで慣れ親しんだ聖句を聞いた。

 

「……切り札の切り時は、今ここだ! 〈いと慈悲深き地母神よ────

 

 聖句を紡いだのは鉢巻剣士。

 地母神に捧げる祝詞が、彼へと神の奇跡を下ろすための見えない道筋(ライン)をつくる。

 

────根を張り、枝伸ばす、大樹の如き守りをお授けください〉!!」

 

 天上から降り注いだ神威が、鉢巻剣士の身体を満たす!

 それは【不動(ステッドファスト)】の奇跡!

 “守り、癒し、救え” という地母神の中心教義を、戦場の最前線で体現する、守りの祈り!

 

『GGGGRRROOOAAAAA!!!!』

 

 竜の尾が鉢巻剣士に迫る!

 只人の戦士(HFO)などひとたまりもないと確信できる、音速の薙ぎ払い!

 

 小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)や妖精弓手、女武闘家、圃人の女剣士は、身の動きの軽さを生かして退避している。

 女神官も小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)に連れられて、物陰へと逃がされている。

 しかし、それ以外の後衛組はまだ竜尾の薙ぎ払いの射程だった。

 

 鉢巻剣士が竜尾を受け止められなければ、後衛たちは纏めて薙ぎ払われるだろう。

 

 

 目にも止まらぬ速さで、竜尾が鉢巻剣士の大盾にぶち当たる。

 

「させるかよ! 通すかよ! 我が身は既にィ、不退転ッッッ!!」

 

 

 まるで大きな鐘が鳴ったかのような、ビリビリとする轟音が響いた。

 ──── だが、それは思っていたような、何かがひしゃげるような、つぶれるような音では()()()()

 

「おお何と! 見事也(みごとなり)!!」

 

 それを見ていたであろう蜥蜴僧侶が快哉を叫ぶ。

 

 

 振られた竜尾による風圧に帽子を押さえながら、女神官が鉢巻剣士の方を見た。

 

 そこには────

 

『GGGGWWWRRRUUU!!??』

 

「うぉおおおお!! 竜がなんぼのもんじゃい!! 止めてやったぞ!!」

 

 根を張る大樹のように、泰然としてその場から動かぬ鉢巻剣士の姿があった。

 地母神の奇跡【不動(ステッドファスト)】は、不退転の覚悟を表す。

 その場から決して動かず、後ろに攻撃を通さないという不退転の意思が、神の奇跡によって現実のものとなるのだ。

 その意思が折れて退かない限り、守り手は、堅牢なる守りと、尽きぬ生命力を得るのである。

 

『GRU! GRA! GUOA!!』

 

「ふん! はっ! たぁ!! ………ぐ、お、重い! 長くは持たねえ! 俺が攻撃を引き受けている今のうちに何とかしてくれ!」

 

 己の尾の一撃を止めた存在に苛立ってか、赤竜が尾をやたらめったらに振り下ろす。

 その全てを受け止め、苦悶に顔を歪めながら、しかし鉢巻剣士は一歩も引かない。

 

 

 

 そんな冒険者の姿を見て、奮い立たない者が居るだろうか?

 否!

 

「ここでやらねば戦士の名折れ。父祖に見せる顔がありませぬでな」

 

 蜥蜴僧侶が腰の雑嚢から、幾本もの水薬(ポーション)と魔法の巻物(スクロール)を取り出した。

 

「姪御殿からの餞別である竜血の魔法薬に、各種自己強化系の巻物の類。

 使うならば今ここをおいて他は無し!!」

 

 祖竜の二重螺旋を励起させる水薬(ポーション)の蓋を開けて、全て一息に飲み干す蜥蜴僧侶。

 それは爪を鋭くし(【竜爪シャープクロー】)鱗を厚くし(【竜鱗ドラゴンスケイル】)熱と毒への耐性を与え(【竜命ドラゴンプルーフ】)動体視力を強化し(【竜眼ドラゴンアイ】)牙と咬合力を強くし(【竜顎ドラゴンバイト】)達人の閃きを宿らせた(【閃技サクセション】)

 

 さらに彼の爪に挟まれた魔法の巻物(スクロール)が、腕の振りに合わせてばさりと広がり、途端に蒼く燃え墜ちる。

 それにより蜥蜴僧侶は、雷光の如き理外の加速を得て(真言呪文【加速ヘイスト】)魔法への抵抗力を高める力場を纏い(真言呪文【抗魔カウンターマジック】)竜の如き巨体を得た(真言呪文【巨大ビッグ】10倍拡大)

 

「これぞ蜥蜴人の本懐! 祖竜の威を以て竜退治とは、これに勝る武勲無し! 〈おお気高き惑わしの雷竜(ブロントス)よ、我に万人力を与え給う〉!!」

 

 さらに蜥蜴僧侶本人の祈りにより、彼の身体に竜に勝らんともする気血が巡り、その筋肉を雄々しく隆起させる。

 

 

「イィイヤァアアアア!!!」

 

『GGRRROOWWWAAA!!』

 

 

 巨大化した蜥蜴僧侶と、赤き竜(レッドドラゴン)が、がっぷり四つに真正面から組み合う!

 

 竜と竜の戦いだ!

 

 驚くべきことに、その勢いは互角!

 人類の身で竜と殴り合える蜥蜴僧侶に感嘆すれば良いのか、ここまで祖竜術と魔術で強化しなければまともに打ち合うことすらできない赤竜の強大さに畏怖すれば良いのか……。

 

 殴り飛ばし、殴り飛ばされ。二つの巨体が、財貨の山を転がり、蹴散らしていく。

 それでも竜としての戦い方は赤竜の方が上手。攻撃の回転は蜥蜴僧侶に勝る。

 

「させねぇっつの! いと慈悲深き地母神の加護ぞあれ!」

 

 それを鉢巻剣士の大盾がインターセプト。【不動】の奇跡は、しかして仲間を守るために前に出ることは咎めない。

 

「あー、もう! これじゃ逃げるに逃げられないわよ!」 妖精弓手が油断なく弓を構えながら器用に嘆く。

「もとから竜を相手に逃げ場なんぞなかろう、金床の眼は節穴かいな!」 鉱人道士がそれを揶揄する。

「なにおう!?」 「なんじゃ!?」

 

 まあこれも一種の精神安定のためのルーチンなのだろう。

 竜を前にして出来てしまっていた精神の空白は、そのいつもの遣り取りで消えたようだ。

 

「オルクボルグ!」 「かみきり丸!」 「ゴブリンスレイヤーさん!」

 

 妖精弓手が、鉱人道士が、女神官が、彼ら一党の頭目を呼ばわる。

 とにかく、【不動】の奇跡により不退転の盾役と化した鉢巻剣士と、半竜娘の餞別によって大竜と化した蜥蜴僧侶が赤竜を押さえられている間に、何とかしなくてはならない。

 

 呼ばれたゴブリンスレイヤーは考える。

 消耗が嵩み、呪的資源(リソース)は残り少なく、前衛の鉢巻剣士の奇跡や、蜥蜴僧侶の強化魔法類も長くは持たない。

 

 師匠である圃人の老爺の言葉が脳裏に蘇る。─── “ポケットの中には何がある?”

 

 

「…………手は、ある」

 

 

 だがここには仲間が居る。

 強く育った後輩冒険者たちも居る。

 ならば、竜を退けることも、不可能ではない。

 

「竜を無力化……眠らせるか、気絶させるか。邪魔なのは、まずドラゴンライダー気取りの小鬼だ」

「はいはーい、あたしがやる! うちのリーダー(鉢巻剣士)が惹き付けてる間に、蜥蜴のにーさんに登って、そこから乗り移る! そんでこの大剣でズバーだよ!」

 

 恐らくは竜を眠りから覚ましたのであろうドラゴンライダー気取りの小鬼を排除するのに、手を挙げたのは、圃人の女剣士。

 味方の竜(蜥蜴僧侶)に乗り、敵の竜(レッドドラゴン)に乗り移る。非常に勇気ある行いだ。

 まことに圃人とは、見上げた種族である。

 

 

「眠らせるのは、頼めるか」 ゴブリンスレイヤーが、最も信頼する魔術師である、鉱人道士に問いかける。

「ふん、儂を誰じゃと思っとる……と言いたいところじゃが、竜鱗の護りは術を弾く。砂男(サンドマン)に眠りの術を頼むにしても、もう今日は二回目は撃てんから万全を期したいところじゃ」 鉱人道士は髭をしごきながら、赤毛の魔術師姉弟を見遣った。その眼は語る、「お主らも魔術師なら、切り札の一つ二つは持っておろう?」と。

 

 赤毛の女魔法使いが、観念して手を挙げた。

 

「……竜鱗の護りを剥がすのは、私たちがやるわ。【分解(ディスインテグレータ)】なら、十分いけるでしょう?」

「姉さん、でもあれはまだ、成功率が……」

「だからあんたも手伝うのよ、愚弟。儀式詠唱、いけるわね?」

「も、もちろんだぜ!」

 

 全てを貫く【分解】の魔術。

 高等魔術に分類されるそれを、赤毛の女魔法使いは使えるのだという。

 そこに弟の少年魔術師の詠唱補助が加われば、おそらく安定して発動できるはずだ。

 竜の鱗を貫ければそれでよし、そうでなくとも、竜鱗の護りの力場が弱まるくらいはするだろう。

 

「それで残った私たちは何をすればいいのかしら? オルクボルグ」 妖精弓手がゴブリンスレイヤーに問う。

 役割を振られていないのは、ゴブリンスレイヤー、妖精弓手、女武闘家、女神官だ。

 

「残りは遊撃だ。竜の攻撃を防ぎ、仲間を守る。味方が役割をこなせるように。

 だが……術を使って、それでも眠らないことがないように、できればもっと弱らせたい」

「えーと、つまり?」

「気絶させるには、頭を揺らす、脳への血を断つ、そのどちらかだろう」

 

 そのゴブリンスレイヤーの言葉を受けて、女武闘家が、祝福された竜爪のバグナウを掲げる。

 

「この竜の爪の籠手なら、竜鱗を斬れるはず。狙えるなら頸を狙ってみるわ。うまく血を抜ければ、気絶するかも?」 武闘家としての身のこなしなら、竜の身体を駆け上がることもできるはず。たとえ竜の自己回復能力故に直ぐに傷が塞がるとしても、首の血管を傷つけることは大いに意味があるだろう。 

 

「まあ私は遊撃かしらね。全員前のめりってのも危ないしね」

 足が速く、弓手として戦場を俯瞰的に見ることができる妖精弓手は、敵の妨害を買って出た。

 ブレスを吐こうと口を開いた竜の顎を、その弓矢の一撃で縫い留めることも、彼女なら可能だ。

 

「俺も遊撃だ」

 ゴブリンスレイヤーも同じく頷く。

 この中では妖精弓手に次いで遠隔攻撃に長けていることもあるし、周囲に突き立つ魔法の武具を拾って投げるだけでも十分な牽制になるだろう。

 

「わ、私は、【小癒(ヒール)】を……」

 女神官は、今も竜の攻撃を受け止め続ける鉢巻剣士と蜥蜴僧侶を心配して杖を掲げた。勇気ある彼らを死なせるわけにはいかない。

 

 

 これで作戦は定まった。

 前衛が耐えられる時間も残り少ないだろうし、迅速に動くべきだ。

 

 

 

 今回の戦いは、偶発的遭遇(ランダムエンカウント)

 いまの残りの手札では、きっと竜殺しは成し遂げられない。

 

 だがそれでも、術で竜を眠らせるか、隙を生み出して首を絞めて気絶させることくらいはできるはずだ。

 

 竜殺し(ドラゴンスレイヤー)ならぬ、竜転がし(ドラゴンスリーパー)

 今の彼らには、それが精一杯。

 だが、それでも。

 

 ──── “いつかは竜退治”。

 

 そう語り合った冒険者たちは、いま、砂塵の国の神殿跡の地下で、赤竜に立ち向かっているのだ。

 

 

<『1.“いつか”は、“いま”』 了>

 




 
キリが良いので、半竜娘一党の成長ターンとか、簒奪宰相が追手をかけたりとか、女商人さんや密偵くん(ローグ・ワン相当)魔剣の騎士くん(推定ルーク)の様子とか、王国側の東側の国境砦を襲わんとする武装要塞:黒玉(ジェット)の群れの胎動とか、そういうのはまた次回です……。
 


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41/n 裏2(赤竜との戦闘、時の砂の行方、王国東 国境砦の異変)

 
◆前話
砂塵の国にて政権を簒奪した宰相のもとで複数の策謀が進んでいた。
それは古代の武装要塞の発掘と修復であったり、ゴブリンの養殖と兵力化であったりだ。
特に砂塵の国の王家の者の血から作られる時間遡行の『時の砂』により時を巻き戻して最善を選べる宰相は敵なしであった。
半竜娘一党は、女商人の依頼を請けてその宰相の秘密を探り、その過程で復元済みの武装要塞(アームズフォート)陽神行路(ソルディオスオービット)』を発見。偶然の悪戯により起動してしまったそれを撃墜し、半霊体化させることでその翠の瘴毒(コジマ粒子)を発する炉心ごと吸収した。
一方そのころ、国境でゴブリンの養殖を行っていた要塞を崩壊させたゴブリンスレイヤー一党+鉢巻の青年剣士一党は、不幸にもそこにほど近い神殿跡の地下で眠っていた赤竜(レッドドラゴン)偶発的遭遇(ランダムエンカウント)をしてしまう。“いつかは竜退治” ────地母神の加護により不退転の戦士となった鉢巻剣士が攻撃を受け止め、魔法薬(ポーション)巻物(スクロール)により最大限の強化をされ巨大化した蜥蜴僧侶が赤竜と組み合う中、ゴブリンスレイヤーは言った。『手はある』と────。

 


 

1.そして竜退治

 

「儀式詠唱! 合わせなさい!」

 

「了解、姉ちゃん!」

 

 眼鏡をかけてツリ目が特徴的な、赤毛の魔術師の姉弟が、“力ある言葉” を紡ぐ。

 

 

「いくわよ──── オムニス(万物)!」

 

ノドゥス(結束)!」

 

「「 リベロ(解放)!! 」」

 

 血縁であることの相乗効果もあるのだろうか。

 赤毛の姉弟が紡いだ “力ある言葉” が現実を歪め、魔術を発現させる。

 

 それは分解、ディスインテグレータの魔術!

 

 並んで詠唱していた姉弟が掲げた杖から発せられた魔力が中間点で混ざり合い、全てを原子の粒にまで分解する光線となる!

 

 

『GGGGRRROOOOWWWWW!??!』

 

 

 一直線に奔った物質分解光線は、咄嗟の防御に掲げられた赤竜(レッドドラゴン)の翼膜を貫き、さらに赤竜の首元の竜鱗までとどいた。

 

「くっ、竜鱗を()けなかった……! ごめんなさい……」

 

 竜の鱗の護りは堅い。

 首元の竜鱗の魔力の護りを尽きさせたのか、その色を褪せさせたが、それだけ。

 鱗そのものは健在だ。

 

 赤毛の女魔法使いが悔し気に膝をつく。

 己の実力を超えた魔術の行使の反動だ。

 

「いいえ、よくやってくれたわ! 十分よ!」

 

 神殿地下の壁を蹴って駆け上がった女武闘家が、そのポニーテールに纏められた黒髪をなびかせながら、赤竜に躍りかかる!

 彼女の手には、祝福された竜爪の鉤爪(バグナウ)が嵌められている。

 不測の事態におけるフォローは仲間の役目だ。

 

「セイヤアアア!!」

 

 気合一閃!

 分解光線によってその色を褪せさせた首元の竜鱗に、女武闘家の鋭い一撃が走った。

 

(とお)った!」

 

『GGRRUUAAA!??』 

 

 直後、色あせた竜鱗が裂け、竜の首から猛烈に血が噴き出した!

 

 一時的に虚血状態になった竜が、ふらりとよろめき、たたらを踏んだ。

 

 それを見逃す蜥蜴僧侶ではない。

 

「俊敏なりし甲竜(アンキロス)よ!! 我が身を雷のごとく成せ!!」

 

 祖竜への祈りが巨大化した蜥蜴僧侶の身体に満ちた。

 強烈に踏み込んだ彼の巨体が、竜の血しぶきをくぐり、猛然と赤竜の巨体にぶつかり、神殿地下の壁へと押し込む。

 

 

「GOBUGOBU!!!!」

 

 赤竜が失血と衝撃で意識を朦朧とさせる中で、赤竜に乗ってドラゴンライダーを気取っていたゴブリンがわめきたてる。

 どうやら(ゴブリン)は運良く壁と赤竜の間に挟まれはしなかったようだ。

 

 たかが小鬼、されど小鬼。

 

 “竜を倒すのは無理でも、眠らせることはできるだろう”。

 そう目論んでいる小鬼殺したち一行にとって、竜を小突いて起こしてしまうだろう小鬼は、排除対象だ。

 

 竜を前にして小鬼を殺すために一手を割くのは良い手ではないが……必要経費である。

 

「お前がドラゴンライダーなら、こっちだってドラゴンライダーだい!!」

 

 そう叫んで、巨大化した蜥蜴僧侶の身体を駆け上がり、その肩から赤竜の方へと乗り移ったのは、圃人の少女剣士。

 彼女の身の丈ほどもある大剣を振り回し、狙うは赤竜の身体に張り付く小鬼。

 

「成敗!!」

 

「GGOOBB!!!??」

 

 一刀両断、鎧袖一触。

 あわれ小鬼は真っ二つ。

 

 だがこれで後顧の憂いは断った。

 

 遅れて灼熱を纏った赤竜の爪が鱗を掻くように圃人の少女剣士に迫るが、そのころには彼女は既に小山のような竜の身体を駆け下りていた。

「うっひゃあ、あぶない、あぶない」 遁甲術はかの “忍びのもの” 仕込み。すんでのところで彼女は難を逃れた。

 

 赤竜がもう片方の爪を振って、目の前の巨大化した蜥蜴僧侶を弾き飛ばそうとする。

 失血と衝撃による朦朧状態から早くも回復しつつあるのだ。流石は竜の生命力! 首の傷も塞がりつつある。

 

 だがそれを咎める一条の剣!

 目にも止まらぬ速さで飛来した飛剣だ!

 

 かつて竜退治に挑まんとした誰かが遺した魔剣が、竜の爪の付け根へと突き立った!

 感覚の集中した指先への攻撃。

 これにはたまらず赤竜も反射的に手を引いた。

 

『GRUU!?!』

 

「ふむ。良い剣だ」

 

「あんたその魔剣 結局投げるのかよ」

 

 投げたのは小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)

 神殿地下に広がる財宝の山から、かつて竜退治に挑んだだろう誰かの遺産を拾い、それを投げたのだ。

 

 そしてその剣に『必中』の真言を纏わせたのは、分解魔術の反動から立ち直った赤毛眼鏡の少年魔術師。

 

 

「俺の手には余る。それに竜の宝物は竜に返さねば追ってくるからな」

 

「……あんたでも皮肉を言うんだな」

 

「? なんのことだ」

 

「天然かよ」

 

 

 返すにしたって爪の付け根に向かって投げて突き刺す、というのはどうかと思うぜ。赤毛眼鏡の少年魔術師は、そう言いつつもいつでも動けるように気を張っている。

 まだ戦闘は終わっていないのだ。

 

 だから少年は予兆を見逃さなかった。

 

「!! 竜の息(ブレス)だ!!」

 

 少年魔術師の警告が早いか、赤竜の喉元が大きく膨らむ。

 

 灼熱と瘴毒のブレス!

 

 この狭い地下空間では、逃げ場がない!

 

「ぬぅううう!! させませぬぞ!!」

 

 喉輪(のどわ)突き。

 赤竜を押さえる巨大化した蜥蜴僧侶が、高まる熱にも負けずに、さらに踏ん張って赤竜の顎の向きを上へと変えようとする。

 だが、それは赤竜の誘いであった。

 

 己の顎をかち上げようとした蜥蜴僧侶の喉輪突きを躱した赤竜が、蜥蜴僧侶の肩に噛みついた!

 

「ぐぅっ!!」

 

『GGRRRRRR!!!』

 

 そしてそのままブレスを吐いて、蜥蜴僧侶の肩を吹き飛ばそうとしている!

 

 

「ちょっと、離しなさい、よっ!!」

 

『GGYYAAA!!??』

 

 その赤竜の鼻っ面に飛来したのは、上の森人の姫の放った強力な矢。

 そんなものを鼻先の急所に喰らった赤竜は、生理的な反射でこれはたまらぬと、巨大化した蜥蜴僧侶の肩から牙を離した。

 赤竜の顎とともにブレスは上に逸れ、うまい具合に天井の開口部から抜けていった。

 

 だがそれでも蜥蜴僧侶の肩は赤竜の牙によって大きくえぐれ、力が入らない様子だ。

 

「いと慈悲深き地母神よ! どうかこの勲しき戦士の傷に、御手をお触れください!」

 

 そこへ響いたのは、地母神に仕える女神官の請願。

 癒しの奇跡が、蜥蜴僧侶の傷を癒す。

 

「お二方とも、かたじけない!!」 

 

 最低限出血がおさまり、再び腕を動かすことができるようになった蜥蜴僧侶が、妖精弓手の矢を鼻先にぶつけられて朦朧としている赤竜の首に腕を回す。

 

「さあ、締め上げて進ぜよう! 術師殿! いまですぞ!!」 

 

「おう、鱗の! 任せろぃ! 砂男(サンドマン)、残りの報酬は後払いで頼まぁ! 〈終わりなきもの、死の弟たる砂男(サンドマン)! 戯曲一つと引き換えに、砂で夢と我らを守っておくれ!〉」

 

 鉱人道士が眠りの砂の精霊に請願したのは〈惰眠(スリープ)〉の精霊術。

 即興で書き上げた戯曲のさわりだけを差し出して、残りは後払い。

 そんな無茶を通してまで使った眠りの術が、赤竜の頭を覆っていく。

 

 

 分解の真言魔術で竜鱗の加護を剥がしてからの猛攻。

 そして妖精弓手の矢によって隙を晒した竜の首、そこへ巻き付き締め上げる蜥蜴僧侶の剛腕、そして鉱人道士の眠りの精霊術。

 

 これだけやってようやく、赤竜に術が届いた。

 その瞼が重く下がっていく。

 

 

 

 やがて赤竜は、完全に意識を失い、その巨体を横たえた。

 

 

 

 

 その直後、巨大化のスクロールの効果時間が切れたのか蜥蜴僧侶が元の大きさに戻っていく。

 

「あと少し長引いていたら、あぶのうございましたな……」

 

 巨大化した蜥蜴僧侶を欠いては、ここまで危うげなく立ち回れはしなかっただろう。

 間一髪であった。

 

「綱渡りじゃったのう。さぁて、さっさと引き上げようぞ。……まさか鱗の、まだ戦いたいとは言うまいな?」

 

「ふぅむ。まあいずれ再戦したいところですな」

 

「いやいやいや、鱗の……」 「えー、しばらくは良いでしょ……」

 

 強敵たつ竜を前に名残惜し気な蜥蜴僧侶に、鉱人道士と妖精弓手はげんなりして肩を竦めた。

 

 

 

「やつは眠っているだけだ。手早く引き上げるぞ」

 

「りょうかいでーす、ゴブリンスレイヤーの兄貴」

 

 それぞれの一党の頭目であるゴブリンスレイヤーと、鉢巻の青年剣士が合意して、皆は撤退に動き出した。

 竜を起こさないように静かに。しかし、竜の集めた宝物を万に一つも何かの間違いであっても持ち帰ってしまわないように慎重に。

 

 

<『1.竜転がし(ドラゴンスリーパー)の冒険者たち』 了>

 

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 

2.時の砂、ウマー

 

「く、まさかこの段階でせっかく発掘して修復した武装要塞(アームズフォート)の一角が失われるとは……!」

 

 砂塵の国の宮殿を忌々し気に闊歩するのは、王権を簒奪した宰相だった。

 闇人の血が混じったその肌を怒りに染めた彼が向かう先は、秘密の宝物庫。

 

「だが、まだ今ならやり直せる……!」

 

 簒奪宰相が向かう先の宝物庫には、この砂塵の国の切り札が納められている。

 

 それは、時を戻す秘宝、『時の砂』。

 かつて奪掠(タスカリャ)神の加護を受けた王の血族から精製されるそれは、消費することで時を戻してやり直すことができる秘宝である。

 

 王権を簒奪した際に、その王を絞り尽くしてストックした『砂』がある。

 それを以てすれば、今朝がたに飛行型の武装要塞『陽神行路(ソルディオスオービット)』が失われたことも無かったことに出来る。

 

「それに、あの王国の半竜の冒険者……武装要塞の名前を知っていた……。

 よもやあやつ、時を戻した際の記憶があるのか!? 時の世界に入門している、とでも……!?」

 

 知恵者だということで、前夜に王宮に招いた王国の冒険者たち。

 頭目である大柄な蜥蜴人のハーフには、時を戻す中で、武装要塞に関する古文書の石板を解読させている。

 時を戻すことでその記憶は失われたと思っていたが、それが己の勘違いであったとしたら……。

 

「みすみす武装要塞の情報を渡してしまった可能性がある……! 早急に指名手配せねば……!」

 

 朝方の混乱に乗じて、半竜の冒険者らの姿は消えていた。

 捕らえる必要がある。

 

 だが、まずは失われた武装要塞が健在な時間軸へ戻さねばならぬ。

 

 

 急ぎ足で廊下を進んだ簒奪宰相が、足を止めて仕掛けを動かす。

 

 隠し扉だ。

 

 

「さあ、時の砂よ、我が望みに応え………──── は???」

 

 

 隠し扉を開いて秘密の宝物庫に足を進めた簒奪宰相を待つのは、山と積まれて輝く時の砂の山のはずであった。

 

 

 しかし、そこには何もなかった。

 

 

 簒奪宰相の顎が落ち、気の抜けた声が漏れた。

 

「は??? ない、ないぞ!? あれほど貯め込んだ時の砂はどこへいった!!??」

 

 

 そんな目を血走らせた簒奪宰相が代わりに見つけたものは、なにやら白くて丸いもの。

 

「なんだこいつは……」

 

『むーしゃむーしゃ、しあわせー』 zzzz

 

 足でつついて転がしてみれば、それはまん丸い生首のような不可思議な存在。

 精霊か、亡霊か。

 眠っているのか、瞳は閉じられている。

 

 宰相は目ざとく、その丸い不審物体の口の周りに、輝く『時の砂』が付いているのを見つけた。

 

『ぺろっ、これは時の砂……!』 zzzz

 

 そして寝言とともに口の周りについたそれを舐めとる不審なまんじゅう。

 

 宰相はそれを見て愕然とした。

 

「こ、こやつ、喰いおった!! よもや宝物庫一杯の時の砂もこやつが全て……!?」

 

 正解である。

 

 ここにあった『時の砂』のストックは、時空の精霊であるこのなまくびまんじゅう『ティーアースの欠片』が全て平らげて、己の力の糧にしてしまったのだ。

 つまり、簒奪宰相が時を戻す手段は失われたのだ。

 

「こ、この痴れ者がぁああアアアアア!!!!」

 

『ぷぎゅっ!!?』

 

 怒りとともに、簒奪宰相の〈魔手(メイジハンド)〉の術……いやあえてフォースグリップと呼ぶべきか、魔力によって形作られた手が、眠りこけるティーアースの欠片を握りつぶした!

 

 

<『2.ティーアースの欠片「安眠妨害はんたーい!! でもごちそうさまでした」』 了>

 

 

 

▲▽▲▽▲

▼△▼△▼

 

 

 

3.沙漠を超えて王国に帰ろう

 

 

 砂塵の国の都から脱出した半竜娘たち一党4人(+白梟使徒)と、幼竜娘三姉妹は、王国の地へと向けて西へ西へと砂漠を渡っていた。

 城塞竜の頼みを聞いた後に報酬でもらった中にあった “魔法の絨毯” に乗って、かなりの速度でだ。

 

 彼女たちは武装要塞の一角を撃破したが、それが全てではない。

 急いでこの情報を冒険者ギルド経由で王国に伝えなければならないのだ。

 

 

 半竜娘ら一党は、古代の武装要塞を撃破した!

 経験点1250点獲得! 成長点3点獲得!

 

 

 半竜娘は陽神行路(ソルディオス・オービット)のコジマ炉心の吸収により冒険者技能【免疫強化】が2段階成長!(初歩 → 熟練) 毒や病への抵抗力が強化された!(再掲)

 さらに獣人専用技能【注入毒】を習熟段階で習得! 素手攻撃に猛毒ダメージが乗るようになった!(再掲)

 成長点を6点消費し、【竜の末裔】技能の派生技能として【竜の命】技能を習熟段階で習得! 毒に対する完全耐性を得た!

 

 

 森人探検家は戦士Lv0→Lv2で習得(経験点-2000点、成長点+4点)! 回避判定に戦士Lvが乗るようになった!

 また戦士系職業レベルが2以上になったため武技追加習得! 武技【一傑の打:弩弓】により、弓による攻撃ダメージ増加(弓威力+1)!

 

 

 TS圃人斥候は、戦士Lv3→4(経験点-2000点)、武道家Lv3→4(経験点-2000点)に成長!(成長点+8。武技追加2)

 武技【視線の罠(LOSトリック)】(遠距離攻撃に対する防御判定に補正)、【鬼爪(奥義)】(攻撃判定の出目が高いときに装甲点無視)習得! 一般技能【工作】(初歩)習得(成長点-1)! 冒険者技能【体術】を習熟→熟練に成長(成長点-15。回避判定等に+1)!

 

 

 文庫神官は経験点・成長点を温存した! あと少し経験を積めば冒険者としてさらに壁を超えられそうだ。

 

 

 この国外の冒険で一皮むけた一行は、適度な緊張を保って帰路についている。

 

「指名手配される前に沙漠は抜けてしまいたいところじゃな」 と言うのは、術を極めた天才蜥蜴人の武僧・半竜娘。その胸元には使い魔の闇竜娘を封じた竜牙の封具が揺れている。

 

「そうね。いつ追手が放たれてもおかしくないし」 と言うのは、緑衣の勇者に憧れる遺跡マニア・森人探検家。エルフにしては珍しく交易神の神官でもあり、一党の金庫番だ。

 

「まー、頭が切れそうだったもんな、あの宰相殿」 と言うのは、諸事情あって性転換した凄腕斥候・TS圃人斥候。いまいちさぼり癖はあるが、いぶし銀な活躍をする。

 

「今のところは追手の影は見えませんが」 と言うのは、使徒の白梟の視界を借りて広域を見渡した文庫(ふみくら)神官。退魔の剣に選ばれた重装の盾役(タンク)でもある。

 

 

「あついー」 「まだー?」 「どーせならお城のドラゴンくんにまた会いたーい」 と魔法の絨毯の上でゴロゴロしながら(のたま)うのは幼竜娘三姉妹。半竜娘が単為生殖で産んだ卵から生まれた娘たちだ。

 

 

 彼女たちは砂塵の国の都において、かの国が秘密裏に発掘し復元していた古代の武装要塞を紆余曲折の末に撃破して、己の国に帰るところだった。

 今乗っている魔法の絨毯を含む諸々の荷物は、気を利かせた軽銀商会の会頭である女商人が、都からあらかじめ運び出しておいてくれたものだ。

 

 おかげで路頭に迷うことはせずに済んでいる。

 荷物の中には城塞竜からもらった報酬の魔導具もあり、水や食料も、その魔導具から生み出せるため、一直線に王国国境まで西進しているところだ。

 

 

 

 

 

 沙漠を魔法の絨毯で飛ぶこと暫し。

 

「お。ようやく王国の東の国境砦が見えてきたのう」

 

「………でもなにかと戦ってないかしら? 戦っぽい土煙が見えるわ」

 

「んー? なんだありゃ、でっかい芋虫……? 甲冑付きの……?」

 

「砦が……その巨大鎧芋虫の群れに攻められて、というか(たか)られてますね……」

 

 

<『3.生体型武装要塞(アームズフォート) 黒玉(ジェット)襲来!』 了>

 




 
※当SSではAFジェットはAMIDAの系譜の半生体AFだと想定しています(諸説あり)。
 
 
次回から原作小説12巻の時系列あたりに入っていきます。
半竜娘ちゃんたちには主に東の砦でわちゃわちゃしてもらう予定。原作ではただ単に転移スクロールを引き取りに行くおつかいだけでしか東の砦は出てきませんでしたが、当SSでは割とピンチな感じかもかも。
原作小説12巻はマツセダイチ先生によるコミカライズ連載も進んでいます。必見! → https://www.ganganonline.com/title/1716



====

◆ダイマ!!

ゴブスレアニメ2期開始! 配信はとりあえずabemaTVだけっぽいですね。最新話は1週間公開。 → https://abema.tv/video/title/174-10?s=174-10_s2&eg=174-10_eg0
内容的には原作小説6巻からです。当SSでは、85話目「29/n 冒険者訓練所にて-1(ドラゴンエントリー)」あたりが該当します。アニメの赤毛の少年魔術師くんのビジュアル(特に目元)が、かなり姉である女魔法使い(故人)に寄せてあるのがグッドですね!(ゴブスレさんのメンタルには悪い)

コンシューマーゲームのゴブスレ・ナイトメアフィーストも予約開始! タクティクスRPGだそうですよー!
初回限定版や店舗ごとの予約特典の情報はこちら → https://goblinslayer.bushiroadgames.com/privilege/

ドラマCDつき特装版の小説が復刻だ! これはありがたい! えーと、4巻と6巻と7巻と8巻と10巻と12巻と14巻にドラマCDがついてたのか。予約は12/15まで。とりあえず4巻のドラマCDつき特装版の復刻版のリンクを貼っておきます。 → https://www.sbcr.jp/product/4815623784/

去る2023/5/25にコミックスも本編14巻、イヤーワン10巻、ダイ・カタナ6巻、デイ・イン・ザ・ライフ1巻(小説12巻のコミカライズ)が発売されていますが、2023/10/25には、イヤーワンの最新11巻が発売されます! → https://magazine.jp.square-enix.com/top/event/detail/2727/
 


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フリープレイ そして彼女が竜になるまで ~三年目晩夏-秋・旅塵払い編~
42/n 東部戦線異状なし-1(黒玉の巨大具足虫 ジェット、襲来)☆キャラAI絵あり


 
◆前話
不穏な隣国、砂塵の国にて商売を隠れ蓑に諜報活動をしていた軽銀商会の会頭たる女商人からの依頼を受けた半竜娘たち一党*1は、見事にその任を果たし、砂塵の国の簒奪宰相が発掘していた太古の武装要塞の情報を抜くことに成功した。………その過程で不幸な事故により武装要塞のうちのひとつ、空飛ぶ球形砲台である【陽神行路(ソルディオス・オービット)】を暴走させてしまう。半竜娘はその【陽神行路(ソルディオス・オービット)】を相手に大暴れし、さらには胸の動力炉心(パワーコア)による融合作用によって分身と同化させ、分身ごと吸収してパワーアップ。その動力炉心(パワーコア)に翠の瘴毒を宿し、竜への階梯をまた一歩進めた。
用も済んだので混乱する砂塵の国の都を後にした半竜娘たち一党は、国境の砦まで戻ってきたが、そこは巨大な鎧付き芋虫の群れに襲われており……!?

 


*1
◆半竜娘ちゃん一党 略説:
半竜娘(祖竜信仰を極める武僧系冒険者Lv10)+闇竜娘(術師系の使い魔デーモンLv9)、
森人探検家(緑衣の勇者(ゼルダじゃない方)に憧れて弓を極める野伏系冒険者Lv8)、
TS圃人斥候(更生した元男なニンジャ系冒険者Lv8)、
文庫神官(タンクに転向した神官系冒険者Lv7)+白梟使徒(知識神の使徒の白梟(獣人形態有)Lv7)。
それに幼竜娘三姉妹(生後1年未満の冒険者Lv1未満(みならい))も着いてきている。

 

 はいどーも!

 成り行きで蟲退治に加勢する、だけどそんな冒険すらも日常の一ページ(ア・デイ・イン・ザ・ライフ)でしかない………だってぼくたち冒険者だもんげ!! そんな実況、はーじまるよー。

 

 さて、遠くかなたに見えるのは、黒光りする鎧のような甲殻に覆われた、家ほどもある巨大な芋虫か具足虫のような怪物の群れ。

 そしてそれに襲われる、王国東の国境砦。

 

 戦塵。

 刃と物の具の煌めき。

 魔術の揺らぎ。

 

 怒号。

 絶叫。雄叫び。

 蟲の鎧の軋みと、嘶きのような鳴き声の重奏。

 

「いやあ剣呑剣呑。乱世であるのぅ」

「けんのんー」 「らんせらんせー」 「いくさ? いくさ?」

 

 こら、そこの蜥蜴人(ばんぞく)連中、わくわくニヤニヤしない。

 ……幼竜娘三姉妹と普段一緒に居る時間が少ない半竜娘ちゃんは、蜥蜴人流の英才教育に余念がないようですね。

 

 戦の気配にテンションが上がっている野蛮人が若干名居ますが、それはさておき、どうも砦の方はかなり大変な様子です。

 

「リーダー。どーする? このままスルーして帰国しても良いと思うけどよー」

 TS圃人斥候はリスク回避主義ですので、このまま戦に加勢しかねない一党の頭目(はんりゅうむすめ)をやんわりと止めます。

 善良な王国民としてはきちんと国境の砦というか税関を通って帰国するべきですが、肝心の砦があんな有様であれば、緊急避難的に別のところから密入国したって許されるでしょう。空飛ぶ絨毯に乗っていますし、密入国くらい余裕です。

 

「そうね。それに私たちが砂塵の国で得た情報も、早く王国中枢に報告すべきでしょう? ここで足止め喰らうのは得策ではないわ」

 森人探検家もそれに同調します。

 実際に、半竜娘たちが得た、砂塵の国が発掘し戦力化中の武装要塞(アームズ・フォート)の情報は、非常に重要なものです。

 早めに然るべき筋から報告するべきでしょう。

 

 

 なおこれはメタ視点の情報ですが、実際のところ………武装要塞(アームズ・フォート)の情報は、王宮からの特命で潜入していた密偵くん一行の知識神の神官も、太古の遺跡のネットワークに侵入して得ています*1ので、ここで足止め食らっても情報は王国中枢にきちんと伝わります。

 とはいえそれは、半竜娘ちゃんたちは知らないことです。

 それはさておき。

 

「私は救援するべきだと思います! 同胞の窮地を見捨ててはおけません!」

 文庫神官ちゃんは砦に救援に行くのを支持します。

 実際のところ、半竜娘ちゃんたち一党は戦力にもなりますし、あるいは神官や魔術師として後方支援に回っても良いでしょう。

 

 

 さて一党の頭目たる半竜娘ちゃんの判断は……というと。

 

「ここで加勢しておくべきじゃろうな。推測になるが、あの黒い鎧の大芋虫………恐らくは古代の武装要塞(アームズ・フォート)とかいうのの一種じゃぞ」

 

「は? リーダー、マジで?」

「そうなの?」

「でも、生き物っぽいですよ?」

 

 半竜娘ちゃんの発言に、しかし一党の三人は半信半疑です。

 

「然り。黒き(ギョク)、ジェットという名で記されておったものじゃろう。砂塵の国の王宮で解読した石板の一説に、巨大な芋虫の化け物を肥育して、改造し、機械を埋め込み、半生体・半機械の巨大要塞とするタイプの武装要塞(アームズ・フォート)について記載があったのじゃ。おそらくそれじゃ」

 

「えっと、じゃああれは、技術再現して、その肥育だか養殖だかされてたものが逃げ出したものなのかしら?」

 

 尋ねる森人探検家に、半竜娘ちゃんは腕組みして首を捻ります。

 

「………いや、それがそうとも言えんのじゃよなぁ。手前が王宮で石板を解読させられた時点では、黒玉の巨大蟲ジェットの製造設備や卵の発掘もまだこれからじゃったはずじゃし」

 

 どうやら砂塵の国では、あの巨大鎧芋虫あるいは巨大具足虫であるジェットというタイプの武装要塞は、再稼働や量産には漕ぎつけられていなかったはず、とのこと。

 半竜娘ちゃんが読んだ石板の知識を基に発掘して量産に動いたのだとしても動きが早すぎますし、空飛ぶ球型の武装要塞『陽神行路(ソルディオス・オービット)』の地下整備場で確認した資料でも、ジェットの発掘は進捗していない様子だったとか。

 

 

 

 

 と、そのとき風向きが不意に大きく変わりました。

 遠くに見える戦塵が揺らぎ、こちらに流れ始めます。

 黒光りする巨大な芋虫だか具足虫だかの群れに(たか)られる国境砦が風上に、半竜娘たちこちらが風下になったのです。

 

「お、風向き変わったな。こっちが風下になってる今のうちに移動すれば気づかれる心配も────って、クッセえ!!! 腐ってやがるのか!?

 

 TS圃人斥候がセリフの途中で鼻を押さえて()()りました。

 

「くちゃいー!」 「ぴーーー!!」 「うぐっ、えぐっ、ひーん!?」

 

 幼竜娘三姉妹たちにも大ダメージです。

 空飛ぶ絨毯の上で鼻を押さえてジタバタと転げまわっています。哀れ……。

 

 

 

 なんと風に乗って戦場の方からやってきたのは、強烈な腐臭だったのです。

 

「腐臭………! 〈追い風吹かす精霊よ、追加でお願い聞いとくれ。瘴気を寄せぬ渦となれ〉!」

「〈シルフィード。森の子からも重ねてお願いよ〉」

 

 即座に半竜娘ちゃんと森人探検家が、空飛ぶ絨毯に追い風を送ってくれていた風の妖精に働きかけて、腐臭の侵入を防ぐように風を巡らせます。

 精霊術【追風(テイルウィンド)】のちょっとした応用です。

 

「あ゛~~~、なるほど……何となく事態が見えてきたわね………」

 

「おそらくはどこかの死霊術師が、太古の半生体兵器の亡骸ですとか、そのなり損ないの廃棄物ですとかを見つけて蘇らせたのでしょうね………」

 

「う゛~~、さっきよりマシになったとはいえひどい臭いだぜ………」

 

 遠く離れたここでこれほど臭うのでしたら、国境砦は果たしていったいどれほどの悪臭地獄なのでしょうか。考えを巡らすことすら恐ろしいです。

 

 

「おそらくはこれも砂塵の国の『時の砂』を奪った影響の一つじゃろうな」

 

「そうか、『時の砂』が健在なら、あーいう貴重な古代の遺物が盗み出されたって、時間を戻して対策すれば無かったことに出来るもんな」

 

「おかげで手前らが無事に逃げ(おお)せられているという面もあるのじゃがな」

 

 これまでであれば、砂塵の国の簒奪宰相は、どこぞの馬の骨に発掘した武装要塞を奪われるようなことがあっても、時間を戻して対応することもできましたし、実際にそうしてきたのでしょう。

 ですが、その切り札たる時間に関する秘宝は、時空間属性の精霊に零落したティーアースの破片(ゆっくりまんじゅう)が喰らい尽くしてしまいました。

 砂塵の国の簒奪宰相の切り札は、失われてしまったのです。

 

 そうでなくば、半竜娘ちゃんたちは、砂塵の国の王宮でことを起こす前まで時間を巻き戻されて、予防拘禁されてしまっていたことでしょう。

 

 

 あるいは王家の最後の生き残りである姫君の身柄を犠牲にすれば、簒奪宰相は幾らか『時の砂』をまた増やせるかもしれませんが、そうなるといよいよ先が無くなりますから、そうはしないでしょう。

 本来であれば、王家の血を飼って、時の砂の安定供給体制を作るのが、宰相の描いた絵図面の一つでした。

 窮したからといって、種籾にまで手を付けては、将来が立ち行かなくなりますからね。

 

「まあ砂塵の国の切り札は『時の砂』や『武装要塞』だけでもないのじゃ。沙漠に眠る数々の魔神や英霊、そしてドラゴンのような魔物……それらを復活させ、従えること。それがあちらの基本路線じゃった。であれば、あの簒奪者の宰相のことじゃ、既にさらなる奥の手くらいは砂の中から手に入れておるのじゃろうさ」

 

「それにあの腐った黒鎧の大芋虫だって、自分の手駒にできなくても、砂塵の国から出ていってくれる分には問題ねーもんな……」

 

 沙漠は広大で、縦深として十分な面積があります。

 厄介な過去の遺物を掘り返し、手駒に出来ればそれで良し。

 そうはできなくとも、追い払って他国に押しやるなりすれば上々。

 最悪でも、沙漠の広さが被害への対策を練る猶予を持たせてくれるというわけです。

 

 実際、金字塔(ピラミッド)に巣食う大悪霊は、半竜娘ちゃんたち一党が文明碑(オベリスク)に宿る大精霊を召喚して浄滅するまで放置されていましたしね。

 

 

「まあとりあえず、じゃ。

 あの砦を助けることとしようかの。義を見てせざるは勇無きなり。

 手前ら得た情報は、砦から早馬でもなんでも出してもらえば良かろ」

 

「本音は暴れたいだけじゃないの? でも了解よ」

「しゃーねーなー」

「頑張りましょう、お姉さま!」

 

 

 

 というわけで、国境の砦を救援しに行くことになりました。

 まあ、秩序にして善なる……とまでは言えなくとも、少なくとも善なるパーティではありますからそこは既定路線でしょう。

 

 

「でもよー、助太刀するっつったって、砦に入るより先にまず、あのデッケェ芋虫ゾンビの群れをどうにかしなきゃだぞ? 無理じゃね?」

 

「なぁに、手前に良い考えがあるのじゃ!」

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 何千年、あるいは何万年と、砂の中で乾き朽ちゆくだけだった黒玉の甲殻を持った巨大なワーム。

 かつてのコードネームを、黒き玉のような機体から『ジェット』と名付けられていたそれらは、とある非常識な力量を持った死霊術師*2の手によって蘇らせられ、王国に騒乱を振りまくための手駒とされていました。

 

 といっても、特に制御がされているわけでもない様子。

 

 アンデッドとしての根本的な飢えに基づいて、近くの生命力が集まっている場所── つまりは砂漠から離れる方向に。そして兵士の集う砦へと── 目がけて機械的に進軍しているに過ぎないのです。

 支配し、操作するにも、リソースを使いますからね。

 下手人は、とりあえず当面自分の邪魔をさせねばいいと割り切って、秩序勢力を混乱させるために無節操に騒乱を引き起こしています。黒玉の巨大鎧芋虫/具足虫も、その一環です。

 

 黒玉が狙う獲物の優先順位付けは、単純な仕組みです。

 ですが、それゆえに逸らすことも難しいのです。

 

 これが普通の人間サイズのゾンビであれば、堀でも掘っておけば良いのですが、相手は小さなものでもサイズが家を超えるような化け物たちです。

 堀に落とそうにも、そのような大きな堀を作ることはできませんからね。

 

 あの黒玉の死せる大具足虫の群れのシステムとして、より美味そうな餌へと集るのは避けられないのです。

 

 

「じゃが、もしも、砦にこもる将兵よりも美味そうな餌があったとしたら?」

 

 そうなれば当然のことながら、そちらを追いかけることになるでしょう。

 通常であれば、国境を守る大砦一つ分の生命力を上回る誘因力など期待すべくもないのですが……。

 

「なぁーにが『手前に良い考えがある』、だよ! リーダー!? 結局いつもの力押しじゃねーか!」

 

「がっはっは! この手に限るのじゃよ!!」

 

 今、半竜娘たち一党のうち、半竜娘とTS圃人斥候は、空飛ぶ絨毯(2枚目)に乗って、 国境の砦から離れる方向へ向かって沙漠を縦断していました。

 

 胸の動力炉心(パワーコア)を励起させ、悍ましい蒼い光と翠の粒子を撒き散らす半竜娘を乗せて。

 さらに半竜娘は【分身(アザーセルフ)】の呪文で、まったく同一の分身を作っているから、出力は二倍です。あるいは共鳴して二乗かもしれません。

 ちなみに他のメンバーは、別の空飛ぶ絨毯に乗って、半竜娘とTS圃人斥候が巨大蟲の群れを誘引して砦から引き剥がしているうちに、そちらの砦の方に向かっています。

 

「太古の武装要塞(アームズ・フォート)の腹を満たすほどのエネルギーとなれば、砦一つの兵隊よりも、深海に墜ちた宇宙(ソラ)征く船の動力炉たる、このパワーコアの秘める力の方が上じゃ! そして先般喰らい尽くしたソルディオス・オービットの動力を足せば、同じ武装要塞同士で共通するエネルギー源としての翠の粒子の誘因力も加わって、さらに倍!! 分身と共鳴させれば誘因効果は大確実!!」

 

 いかにも体に悪そうな蒼い光と翠の粒子を撒き散らして沙漠を疾駆する “空飛ぶ絨毯”。

 

 半竜娘とその分身体が囮……というか餌で、TS圃人斥候は運転手役というわけです。TS圃人斥候は貧乏籤ですね。

 

「この蒼と翠って、ホントに悪い影響ねーんだろうな?! 一応、毒無効の【竜命(ドラゴンプルーフ)】のポーション飲んでっけどよー!!」

 

「直ちに影響はないのじゃ」

 

「それダメっぽくね!?」

 

「将来的にも影響はないのじゃよ! 我が竜血を溶かした水薬により祖竜の力を賦活させ竜の如き耐性を得たからには、何の心配も要らん!」

 

「リーダーの言葉を信じるぜ!??」

 

 やいのやいの言う間に、後ろから追ってくる黒玉の巨大具足虫のゾンビの群れは、それまでに負ったダメージや成長段階の差による追跡速度の差により、やがては一直線に並んでいきます。

 

 

 あとは、アンデッド特攻の【解呪(ディスペル)】の奇跡で昇天させるも良し(今はディスペルが使える者は乗せてきていないが)

 振り返った半竜娘の【核撃・放射(フュージョンブラスト・ブレス)】で一直線に貫くも良し、です。

 

 それにある程度引き離してから半竜娘が胸の動力炉心(パワーコア)の出力を落としてやるだけでも、誘因先を見失った黒玉の巨大具足虫たちは、また時間を掛けてぞろぞろと国境砦まで引き返していくことでしょう。

 

 その間に半竜娘たちは空飛ぶ絨毯による機動力を生かして、戻る黒玉の巨大具足虫たちを追い抜いて、国境砦まで飛んで戻ってしまえば良いのです。

 

 

「まあ、これを何度か繰り返せば、あれだけの数の群れも何とかばらけさせて各個撃破に持ち込んで漸減できるじゃろ!!」*3

 

「だといーけどな!!」

 

 遊撃戦に持ち込めれば、機動力の差こそが戦の趨勢を決定づけるまさしく決定的な差になるのです。

 このことを四方世界一の戦上手である蜥蜴人はよーく熟知しています。

 

 

 とはいえ敵は強大で、その数は多い様子。

 

 それなりに長丁場を覚悟しなくてはならないでしょう。

 乗り掛かった舟です、西方辺境に戻れるのはしばらく先になりそうですね。

 

 

 というところで、今回はここまで。それではまた次回!

 

*1
密偵くんチームの知識神の神官:電子戦技能持ち。半竜娘ちゃんが陽神行路(ソルディオス・オービット)直結(ハードワイヤード)して侵食する一方で、太古の通信網(マトリクス)経由で侵入(ハック)してきていた。そしてお互いのハッキングが悪い意味で噛み合い、アクセスが検知されて遺跡が起動してしまったのだった。電子戦技能繋がりで軽銀商会の女商人さんにも、マトリクス経由でこの知識神の神官さんが得た情報は共有されている。

*2
◆非常識な力量を持った死霊術師:原作小説12巻のキャンペーンボス。超勇者ちゃんたちを苦戦させるくらい強い。モチーフの一つはおそらくドラクエのゾーマ様(凍てつく波動を使ってくるし)。

*3
◆逃げて誘引して一列にして各個撃破:幕末の維新志士たちの戦法。逃げて、振り返って、突出した一人を斬る。そしてまた逃げる。それを繰り返す。




 
なお時間が経つと兵器的に強化された再生力で、アンデッドから生身に戻る個体や、光波ブレードなどの兵装を再生する個体も出てくる模様。当SSにおいては、生物的な再生力の活用がコンセプトと想定。……とはいえジェネレーターの出力が追っつかない問題で、兵装まで再現されてもそんなに脅威にはならないですが。むしろ弱体化するまである。逆に言えば万が一でも半竜娘ちゃんが喰われたら、ジェネレーター問題が解決してヤバいことになりますが。

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◆半竜娘ちゃん一党のキャラクターのイメージ
AIさん(DALL・E 3)に頼んで出力してもらいました。活動報告にも載せています。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=304593&uid=314174


【挿絵表示】


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◆ダイレクトマーケティング!
ゴブスレアニメ2期配信中! 最新話はabemaTVで1週間公開だー。 → https://abema.tv/video/title/174-10?s=174-10_s2&eg=174-10_eg0
これ2期は4話区切りで6巻(冒険者訓練所)、7巻(上の森人の婚姻)、8巻(ダンジョン・オブ・ザ・デッド)までやる感じっぽいですね! オープニングには、外伝ダイ・カタナの『君』も映ってるし。
当SSだと、7巻のエルフ結婚式編は94話目の「31/n 地獄の門は闇の奥に(The horror! The horror!)-1(遡上)」あたりです。
 


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42/n 東部戦線異状なし-2(隻眼の女将軍と孤電の術士)☆AI挿絵あり

 
◆前話
砂塵の国から帰ろうとしたら、国境線がゾンビ化した半生体の武装要塞(アームズ・フォート)黒玉(ジェット)』の群れに襲われているところに出くわした半竜娘ちゃん一党+幼竜娘三姉妹。
義によって助太刀した半竜娘ちゃんは、胸の自慢の【動力炉心(パワーコア)】から蒼いスパークと翠の燐光を撒き散らして沙漠を疾走。エネルギーを垂れ流して自らを極上の囮とすることでゾンビ化巨大グソクムシのような見た目の『黒玉(ジェット)』を誘引し、国境の砦から引き剥がすことに成功した。後はこれを繰り返して各個撃破していくだけだが………ひとまずは空飛ぶ絨毯に乗って国境砦に戻って休もう!


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※AIさん(DALL・E3)に出力してもらった挿絵あり(マス)
 


 

 はいどーも!

 腐った王蟲モドキの群れを退けた後始末をする実況、はーじまーるよー。

 

 前回は半竜娘ちゃんとその分身が我が身を囮にして、どこぞのゾーマ様じみた死霊術師が復活させた半生体武装要塞(アームズ・フォート)であるコードネーム『黒玉(ジェット)』の廃棄品たちを沙漠の奥へと誘引して、当座の東側の国境砦の危機を救ったところまででしたね。

 

 

「いやあ、良くやってくれた!! これで兵士たちも休ませられるというものだ。感謝するぞ、(ハーフ)蜥蜴人(リザードマン)の冒険者一党よ」

 

 砦から引き剥がした黒甲冑の巨大ゾンビ具足虫を沙漠に置き去りにして戻ってきた半竜娘(+魔術【分身(アザーセルフ)】による分身体)と、運転手だったTS圃人斥候を出迎えたのは、国境砦を預かる隻眼の女将軍でした。

 傷だらけで手足が欠けた歴戦の、しかしそれでもなお覇気の衰えぬ肉体。見ただけで分かる高い技量。そしてまた、彼女が心の底から半竜娘ちゃんを歓迎していることも事実であるようです。

 ですがしかし、女将軍から滲む覇気以上に濃い疲労が、まるで泥のように纏わりついているのが見て取れます。

 

「なぁに、行きがかりの駄賃のようなものじゃ。ここでしばらく休ませてもらえれば十分じゃとも」

 

 一宿一飯の恩義の先払いよ! と半竜娘ちゃんが笑います。

 それを受けた隻眼の女将軍もニィと鮫のように笑いました。

 

 ………女傑同士何か通じるものでもあったのでしょうかね??

 

 

「ところで冒険者殿。貴公らは行きにはここを通らなかったのではないか?」

 

「うむ、竜の翼に国境などないのでな」

 

 堂々と言ってのける半竜娘ちゃんに、隻眼の女将軍は溜息ひとつ。

 

「………そのようなことをさせないための関所なのだがなあ。ひょっとして少し前に猛烈に空を裂いて東に飛んで行った竜は、貴公か?」

 

「まあおそらく手前じゃろうな」

 

「そうか。一部の古参が、すわ黒龍の眷属が戻ってきたのかと戦々恐々としていたからな。それを聞けば安心するだろう」

 

「ああ、あの六肢動物の下衆の眷属かや。それなら前に族滅したから安心せい」

 

 そうでしたそうでした。

 半竜娘ちゃんが最初にティーアースの助力を得るきっかけになったのは、()()()()の戦場で、黒龍── 黒鱗の古竜── に囚われたからでした。

 

 つまり女将軍も武功を立てた、この東方辺境です。

 隻眼の女将軍と、その配下の古参兵も、その黒鱗の古竜が居た戦場で、あの混沌勢力に与した竜の一族に手を焼かされていたのでしょう。

 

 まあその黒鱗の古竜には半竜娘ちゃんがきちっと仕返しして、さらに族滅して心臓を貪り食ってやったわけですが。

 それももう二年半くらい前のことになりますね。

 

「……ふむ。貴公、名前は?」

 

 隻眼の女将軍も、どうやら半竜娘ちゃんが黒龍殺しの英傑だと気づいたようです。

 名を誰何(すいか)します。

 

「手前の名は────」

 

 そして名を答えた半竜娘に対して破顔しました。

 

「そうか、やはり! 貴公があの黒竜殺し! 辺境最大! 鮮血竜姫!」

 

「応とも、そしてやがては竜に至らんとする者じゃとも!」

 

「そうかそうか! やはり蜥蜴人は優れた戦士だな! いや貴公は術師だったか? ともあれ、あのいけ好かない黒竜を弒したのは貴公か。

 この砦でゆるりと過ごすと良い! あの黒竜殺しともなれば我らにとっても恩人で、英雄で、戦友だからな!」

 

 

 美しい右の瞳を輝かせて笑う女将軍は、

「そういえば妹のその師匠も蜥蜴人の術師でな」

 とか、

「以前の戦いでは蜥蜴人の武僧の御坊にも助けられたものだ。つい先日も砂塵の国で冒険だとかでここの砦を抜けていったところだ」

 とか、上機嫌に話しかけてきます。

 

 

 それに対して半竜娘ちゃんも、

「ひょっとするとその竜司祭は、手前の叔父かもしれぬ」

 と返し、お互いに意外な人の縁に驚いたりしました。

 

 ここを束ねる将軍にこれだけ気に入られれば、砦を救援したことも合わせて、どうやらこの東の砦での滞在は、悪くないものになりそうです。

 

 

 

 

 自分そっちのけで盛り上がる隻眼の女将軍と半竜娘ちゃんに溜息をついたTS圃人斥候が、

「そんなことよりお腹が空いたよ」

 と、ぽつりと呟きました。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 半生体武装要塞(アームズ・フォート)黒玉(ジェット)』……になれずに廃棄された死骸をアンデッド化した群れが一時去ったとはいえ、それですぐに砦の全員が休めるというわけではありません。

 

 負傷者の手当てや、戦死者の弔い。

 そして休息をとる兵士たちのための食事の準備。

 

 城壁の補修、矢弾の補充に、武器鎧の修繕。

 備蓄の確認に、飛び散った敵の腐肉の清掃。

 残存戦力の把握と、部隊の再編。

 

 その他にもいろいろとやるべきことがあります。

 

 その全てを人の力でやろうとすると、どうしても時間がかかります。

 そうしている間に、あの疲れ知らずで、生命力に飢えた『黒玉(ジェット)』のアンデッドが戻ってくるかもしれません。

 手早く済ませる必要があります。

 

 

 というわけで。

 

「〈カエルム()……エゴ()……オッフェーロ(付与)〉 真言呪文【天候(ウェザーコントロール)】! 雨よ来りて血泥を流せ!

 そんでもういっちょじゃ!

 〈遊びの時間じゃ蛟姫(ミズチヒメ)。慈雨の舞台のその上で、見事な舞を見せとくれ!〉 精霊術【使役(コントロール・スピリット)】」

 

 半竜娘ちゃんが天を己の意の通りに捻じ曲げて雨を降らせると、さらに専属契約を交わしている精霊である蛟竜の水精霊を呼び出しました。

 

 

 周囲に漂う瘴気やこびり付いた腐肉を雨で洗い流そうというのです。

 

 

 そこにさらに文庫神官が【浄化(ピュアリファイ)】の奇跡を、己の信仰する神である知識神へと請願します。

 

「〈蝋燭の番人よ、汚濁を取り除く我が手元に、どうか一筋の灯明を〉!」

 

 雨に流され、さらに水精霊の操作によって一か所に集められた汚濁が、【浄化(ピュアリファイ)】の奇跡によって清められていきます。

 これで伝染病のリスクもかなり下がったことでしょう。

 

 さらに奇跡によって清められた水は、ある程度はアンデッドを寄せ付けないようにできるかもしれません。

 まあ、忌避効果は気休め程度ですが。

 

 

 

「すごい魔術だな……」 「流石は銀等級だ!」 「おお、神よ……」

 

 砦の兵士たちも、この素晴らしい術の冴えに感嘆しています。

 特にアンデッド化したあの黒甲冑のグソクムシから零れ落ちて飛び散った腐肉を自分たちで掃除しなくとも片づけてくれたことには、大きな感謝が寄せられました。

 誰しも腐った肉には触れたくはないですからね。

 

 隻眼の女将軍も感謝してくれています。

 

「助かる。やはり腐肉の処理は士気を下げるし、そもそも腐臭や瘴気が無くなるのはとてもありがたい」

 

「まあ手前らのためでもあるからの、そう気にすることはないのじゃ。こちらには幼い子らもおるのでな」 「「「 でなー 」」」

 

 腐臭の中でご飯を食べて寝起きする気はないし、幼竜娘三姉妹たちにそんなことをさせる気も更々(サラサラ)ないのです。

 悪環境で過ごせば、それだけで消耗が嵩みかねませんからね。

 そういう意味では、アンデッドの大規模な襲撃は、休憩による消耗回復を阻害するという、なかなか悪辣なフィールド効果をもたらす、趣味の悪い一手でもあるようです。

 まあ今回は半竜娘ちゃんたちが惜しげもなく術を使ったので、その消耗回復妨害の悪臭フィールドは無効化されましたが。

 

「改めて貴公らの助力に感謝を。

 さて、流石にこれ以上お客人を働かせるわけにはいかん! あとはどうかゆるりと休まれよ」

 

「うむ、そうさせてもらおうかの」 「「「 かのー 」」」

 

「ああ。後はこちらに任せてもらおう。──── 従兵! 彼女らをご案内しろ!」

 

 隻眼の女将軍はお付きの従兵に命じると、半竜娘ちゃんたち一行を、貴族の視察時に使わせるような特に上等な部屋へと案内させました。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「あら、結構いい部屋ね」

 

「やぁっと休めるぜー!」

 

 貴賓室に案内された一行は、さっそく荷物を置き、装具を緩めて休むことにしました。

 

 砂塵の国の都からの逃避行中は、ろくろく休めませんでしたからね。

 ようやくまとまった休息がとれそうです。

 

「でもいつまた、あのとっても巨大なアンデッドの甲冑蟲が戻って来るか分かりませんよ?」 と文庫神官。

 

「そん時のためにも、十分な休息が必要だろー? メリハリつけねーとやってけねーぞ、タンク後輩ー」 早速ベッドに顔をうずめながらふがふがとTS圃人斥候が先輩ぶって言いました。

 

「というより、この砦の防衛にはいつまで付き合うつもりなの? リーダー」 備え付けられたソファに優雅に腰掛ける森人探検家が疑問を呈します。

 

「ふぅむ」 半竜娘ちゃんは思案してグルリと眼球運動。「まあ、特に戻って用があるわけでなし、今しばらくは助力しても良かろう」

 

「えー? もー帰ろーぜ? 冒険者ギルドに報告もあるだろー。オイラもうあのゾンビ蟲相手に囮とか嫌だぜ?」

 

「東方辺境の砦を預かる将軍ともなれば、中央への伝手もあろうし、砂塵の国の不穏についての報告は、そちら経由で文を運んでもらうとしよう。手前らからは冒険者ギルドあてじゃな。将軍殿からも王宮あての添え状を貰えれば盤石じゃろう。

 あと『囮で引き剥がし作戦』は、そう多用するつもりはないのじゃ。空飛ぶ絨毯の耐久性がどこまで信用できるか危うくなってきておるからのう。もとからボロじゃったし」

 

「でもあと一回はやる気があるってことじゃないですかヤダー!!」 ジタバタするTS圃人斥候。

 

「その苦労の分、将軍様から褒美をたんまり強請(ねだ)りましょう」 交易神の聖印に指を這わせながら、黒い笑みを浮かべる森人探検家は、若干楽し気です。これはTS圃人斥候が近い将来苦労するのが愉しいのか、報酬交渉が楽しみなのか……うーん、どっちもかもしれませんね。

 

 

 

 

 

 やいのやいのと(かしま)しく荷ほどきをする半竜娘の一行。

 

 そんな中で、その一行の誰にも気づかれずに、その人物は居た。

 

 ごくごく自然に──── いや、そうではない。

 まるで場面(シーン)が切り替わるように、唐突に。

 しかし、それが当たり前の摂理であるかのように、誰にも違和感を抱かせずに。

 

 

「おや。誰も居ない時間を()()()はずだったが……これは」

 

 

 彼女はいた。

 部屋の真ん中に。

 誰にも気づかれずに、それを当然のものとしたかのように。

 

 まるでページに差し込まれた栞のように。

 湖面に落ちたひとひらの花弁のように。

 舞台下の奈落から現れた役者のように。

 

 

 くすんだ金色の髪。

 魔術師らしいローブ。

 蔦の意匠の眼鏡。

 手には術の触媒らしき札の類。

 

 〈(スパーク)〉を宿す、盤外(頂点)に至った、魔術師の女。

 

「………お主、いつの間に」

 

「や。読めなかったのは君が居たからか。そりゃそれだけ眩しい〈(スパーク)〉を宿していれば見えなくもなるよなあ」

 

 これだけこの女がしゃべっておきながら、この眼鏡の魔術師に気づいているのは、いまだに半竜娘ただ一人だという異常。

 

 超越的な魔術師。

 盤外に至った者。

 次元渡り(プレインズウォーカー)

 

「……孤電の術士(アークメイジ)

 

「おや、私をご存じかい?」

 

 孤電の術士(アークメイジ)がそこに居た。

 




 
魔術師界隈では結構有名な孤電の術士(アークメイジ)さん。この東の辺境砦の女将軍の妹だというのも、知っている人は知っている。当然、半竜娘ちゃんもアークメイジさんのことは知っています(※魔術知識判定 成功)。孤電の術士(アークメイジ)さんの活躍は、外伝イヤーワンにて! ゴブスレさんが口にする「無理や無茶をして勝てるなら、誰だって苦労はしない」というのも、元を辿れば彼女の薫陶だったり。

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◆ダイマ重点
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42/n 東部戦線異状なし-3(黒き油の抹殺者&変形者)☆AI挿絵あり

 
◆前話
国境の砦は雨により洗われ、束の間の休息の余裕を得た。その立役者である半竜娘一党+幼竜娘三姉妹は貴賓室を宛てがわれ、砂塵の国からの逃避行もこれで一段落だ。まあ黒甲冑の巨大芋虫のゾンビたちの相手は残っているし、時間を置くだけ復元していくタイプだから油断はできないのだが……。ともあれ休息だ。そのために一党の皆が荷解きをする中で、いつのまにか()()はその部屋の中心にいた。そして、(スパーク)を宿す半竜娘だけが、その彼女の存在に気づいたのだった。
 
半竜娘「もしやお主は……孤電の術士(アークメイジ)!」


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※AIさん(DALL・E3)に出力してもらった挿絵あり(マス)
 


 

 はいどーも!

 孤電の術士さんって白緑ウィニー使いっぽい気がしてならない、そして火吹き山の魔法使いさんは絶対黒マナ使いだよね、そんな実況、はーじまーるよー!

 

 さて前回は雨を呼んで砦にこびりついていた腐肉を水精霊に頼んで洗い流してもらって浄化したところまででしたね。

 功労者に対する配慮で砦の貴賓室に案内された半竜娘ちゃんは、そこに降り立った次元渡りの凄腕魔術師にしてこの砦の女将軍の妹でもある孤電の術士(アークメイジ)さんに気づいて看破したところでした。認識阻害でもしているのか、他の面々は気づいていないようですが。

 

 ではさっそく二人の遣り取りを見ていきましょうー。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

孤電の術士と(そう)呼ばれることもあるね」

 

 孤電の術士(アークメイジ)と呼ばれた女は、不敵に笑って頷いた。

 彼女の特徴的なフレームのメガネが、微かに貴賓室の照明を反射する。

 

「……盤外に至ったという大魔術師が、まさかただ家族に会いに来たのかや」

 

 魔術の探求に身を捧げた女が、そのような人間性を残しているとは驚きだ。言外にそう滲ませて、半竜娘が半目で睨む。

 魔術師ならば、ただ肉親(隻眼の女将軍)に会うだけに盤上に降りるような殊勝さはあるまい、と。

 

「ご明察。まあ今日の私は単なる運び屋。神々の使いっ走り。《生》と《死》の大神が紡ぐ叙事詩(キャンペーン)に出てくる端役。意味ありげな小物(マクガフィン)を授ける、善き魔法使いの役どころ。姉に会うのはついでだよ」

 

 意味ありげな小物(マクガフィン)、と言うのと同時に孤電の術士(アークメイジ)は、封のされた巻物(スクロール)をどこからか取り出していた。

 半竜娘はそれに込められた力を魔法知覚で感知すると、片眉を上げた。

 

「転移の巻物のようじゃな?」

 

「しかも黒幕のところへ直通の。虹の橋をかける必要もない優れものさ」

 

「それはなんとも運命的(クリティカル)な代物じゃのう?」

 

「それはもう」

 

 ケラケラと孤電の術士が笑う。

 

 半竜娘は気づいているし、孤電の術士は、半竜娘が “気づいた” ことに気づいている。

 

 半竜娘が、おもむろに腰を落として構えをとった。

 まるで敵に備えるかのように。

 

「そしてやはり察しがいいね、君。流石、灯火(スパーク)を宿す冒険者」

 

 孤電の術士が札を繰る。札が舞う。そして魔力が(ほとばし)った。

 

「隔絶結界……」

 

 周囲の世界が遠くなる。

 荷解きをしていた一党の仲間たちが、セピア色に色褪せていく。

 いま、この空間は切り離されたのだ。

 

「これで気兼ねなくやれるだろう? 半竜の君」

 

「その気遣いには感謝してやらんでもないが───」

 

 半竜娘が爪を浅く広げる。爪持つ捕食者の戦闘態勢。

 

 同時に、不吉な気配が辺りに満ちる。

 それとともに流れてくる、膿んだようなきな臭いような、粘つく油の臭い。

 

 虚空から滴り、湧き上がるそれ。

 黒い油。

 

()()は……この黒い油が、お主の手札かや?」

 

「いやいや、今の私の役どころは “善き魔法使い” だからね。そもそも黒は私の色じゃない。まあ善き魔法使いが居るなら───」

 

「なるほど、相対する “悪い魔法使い” が居るのは、天の理、地の自明……というわけじゃな」

 

「そのとおり。そして、意味ありげな小物(マクガフィン)をタダで渡すような筋書き(シナリオ)もまた、ありえない」

 

 砦を覆っていた≪死≫の残滓(黒のマナ)が凝集する。

 あの巨大なゾンビ甲冑芋蟲がもたらした、穢れた死者のマナだ。

 土地から≪死≫の残滓(黒のマナ)を徴収して、滴る黒い油として凝集する。

 

「このマナの操り方には覚えがあるのじゃ。この使役召喚術。黒きマナ。まさか火吹山の魔法使い殿のものでは?」

 

「気づいたかい。お忙しい《生》と《死》の二柱が紡ぐ叙事詩(キャンペーン)に駆り出されてる次元渡り(サブマス)は私一人じゃあなくてね」

 

「なるほど、怪物を配して試練と成す………。火吹き山のあの御仁は、《死》に仕える魔術師でもあったのう」*1

 

 隔てられて即席の闘技場と化した隔離空間で、半竜娘は黒い油から生まれた怪物と向かい合う。

 

 

『ROOOTTAAGGGEEENN!!!』

 

「まったくあの自己中の黒野郎め。黒い油の怪物なんか送り込むなよ。しかももともとは私の姉にぶつけるつもりだったんだろうに、なんてものを寄こすんだ!」

 

 妨害者として盤外から混沌側の助力者(サブマス)が投げ込んできたのは、黒き油の抹殺者(Negator)*2

 周囲に漂っていた黒のマナを消費して顕現したものだ。

 

 孤電の術士は転移の巻物(スクロール)を己の姉である、この東辺境砦を預かる隻眼の女将軍に渡そうとしていた。

 本来であれば、この黒き油の抹殺者はその女将軍を襲うはずだったのだろう。

 

 しかしこの場には半竜娘がいたからそうはならなかった。

 (スパーク)を宿す祈る者(プレイヤー)が揃えば、すなわちそれは決闘(デュエル)開始の合図に他ならない!

 異次元からの刺客が、半竜娘に狙いを定めた。

 

「あの油、いかにも身体に悪そうじゃが?」

 

「普通の健常な世界にとっては注意深く扱えばそれほど脅威じゃない。(スパーク)を宿す者ならなおさらね。焼き尽くせば安全だ」

 

「承知承知」

 

 次元を侵し、己たちと同じものとして()()()()()性質が、この忌まわしき黒き油には秘められている。

 だがそう心配することはない。対処を誤りさえしなければ。

 世界の抵抗力というのは案外強いものだからだ。

 

 その証拠に、今以てこの四方世界は黒い油と機械と病と狂気に侵されたりはしていないのだから。

 

「異なる次元界から滴る黒い油の尖兵が、こいつが初めの1体ってことはない。過去にも何体も尖兵として顕現し、手を出してきているのだろうさ」

 

「それでも世界は滅んでいない……であれば対処できれば問題ない、というわけじゃな」

 

「そういうこと。隔離結界も張ったし、君も私もあの程度の油は焼き尽くす灯と技量がある。まあ、あれは魔術(マジック)の札によって召喚された怪物の影(クリーチャー)に過ぎないということもあるけれどね」

 

 汚染し侵蝕する黒き油。

 異次元生命の血にして体液。

 そして他者にとっての病原体。

 

 だが、今ここに投影されているのは、魔術師が遣わした影に過ぎない。

 

「焼き尽くしてやるのじゃよ!」

 

 半竜娘が己の胸に宿る動力炉心(パワーコア)から、蒼い崩壊の光と、翠の瘴毒の粒子の力を引き出す。

 この力があれば、黒き油を焼却するのは容易いのだろう。

 

 

『ROOOTTAAGGGEEENN!!!』

 

 半竜娘の脅威度に応じてか、黒き油の抹殺者が、その身を震わせて、身体から滴る黒い油をあたりに撒き散らした。

 

「なんじゃ? 分身……?」

 

 そして吹き飛んだ先に出来た油だまりから、何やら人影らしきものが立ち上がる。

 

 それはこの隔離空間に残った気配を読み取ると、身体を波打たせ、その姿を()()させた。

 

『『『 HHHPPRRROOMMAATTEEEM!!! 』』』

 

 現れたのは、黒い油で象られた半竜娘一党の仲間の姿。

 黒き油の変形者(Metamorph)は、その身を自在に変化させ、化けることができるのだ。*3

 

「……おや、テコ入れか。君のお仲間のアーチャー、スカウト、タンクの写し姿(コピー)の増援だ。喜ぶと良い、それだけの脅威と判定されたようだぞ、君は」

 

「くはははは! 相手にとって不足なし! 構わん、立ちはだかるなら焼き尽くすのみじゃ! 〈我が身が目指すは黒き鱗の嵐呼ぶ者(エヘナウノル)! 蒼き光と翠の瘴毒! この怒れる滅びを御照覧あれ(とくとみよ)!!〉」

 

 ──── 祖竜術【核撃・放射(フュージョンブラスト・ブレス)】!!

 

 

 開戦の合図は半竜娘の滅びの息吹。

 

 放射熱線が、黒き油の怪物たちに襲い掛かる!

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 そして翌朝。

 

 何も知らずに眠って起きた一党の仲間たち── 認識をずらされていたから、夜に何があったのか、孤電の術士の来訪も、そして半竜娘ちゃんが途中からいなくなっていたことも、気づいていないのです── が見たのは……────

 

「燃え尽きたのじゃ……真っ白にのう……」

 

「お、お姉さま!!? こんなに煤と灰まみれで………一体何が!?」

 

 煤と灰に塗れて床に腰を下ろした、消耗しきった半竜娘ちゃんの姿でした。

 その姿は激戦を経たことを如実に物語っています。

 

 すかさず文庫神官ちゃんが毛布を蹴飛ばして寝台から降りて駆け寄りました。

 他のメンバーも寝ぼけまなこをこすりながらやってきます。

 

「いったい何があったんだ……? あれ、そういえば、リーダーを昨日寝る時に見た覚えがねえな……」

 

「……何か、そういう不可知の敵と戦ったってことかしら……?」

 

 不思議そうにする仲間たちに介抱されて、半竜娘ちゃんは消耗を癒すために眠りにつきます。

 その手には褒賞として孤電の術士から託された意味ありげな小物(マクガフィン)──── 秩序側の奥の手たる白金等級、超勇者ちゃんに宛てられたラスボス(ゾーマ様)直通の転移の巻物が握られていました。

 

 というところで今回はここまで。

 ではまた次回!

 

*1
◆火吹き山の魔法使い(当SSにおける設定):盤外に至った魔術師。四方世界にはバカンスのために降りてきている。火吹き山の闘技場を運営する人外で、≪死≫を操る。敏腕興行師(プロデューサー)であり、彼の手腕により火吹き山の闘技場は賑わい、今日もまた生と死が連鎖し、かの魔術師の力を増大させている(※マナを生み出す『土地』カード扱いとでも思ってもらえれば。)。半竜娘ちゃんはそこの闘技場の新人王でもあり、鮮血竜姫(ブラッディ・ドラキュリーナ)の二つ名を持つ人気闘士。訓練場やエステや大図書館などを利用する半竜娘は、当然、闘技場オーナーである火吹き山の魔法使いとも知己である。 → 一連のシナリオはこちら https://syosetu.org/novel/224284/43.html

*2
◆黒き油の抹殺者:モチーフはマジック:ザ・ギャザリングの『Phyrexian Negator / ファイレクシアの抹殺者』。フレーバーテキストは『彼らは終わらせるために存在しているんだ。

*3
◆黒き油の変形者:モチーフはマジック:ザ・ギャザリングの『Phyrexian Metamorph / ファイレクシアの変形者』。相手が女将軍の場合は抹殺者単体の出現だが、半竜娘ちゃんが相手の場合はバランスを取るために変形者が3体追加召喚された。それぞれ場の情報を読み取って、森人探検家・TS圃人斥候・文庫神官の姿と能力を写し取った。




 
原作では孤電の術士が砦の女将軍にスクロールを託した(※タイミングは不明。実はずっと昔なのかも?)ことしか明らかになってませんが、まあスクロールを受け取るにあたってミドル戦闘くらいあったかもなあ、というので抹殺者が生えてきました。独自設定です。

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死の迷宮関係は、当SSでは、105話目「32/n 裏(死の迷宮へ行け(ダンジョン・アタック))」以降あたりが該当します。

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42/n 東部戦線異状なし-4(そして一か月後……)☆AI挿絵&新年絵あり

 
◆前話
黒マナの抹殺者と変形者を相手にミドル戦闘! そして勝利! 重要アイテム(ラスボス直通転移スクロール)をゲットしたので最終兵器超勇者ちゃんの手に渡るように手配しよう。

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※AIさん(DALL・E3)に出力してもらった挿絵あり(マス)
 


 

 はいどーも!

 そろそろ流石に西方辺境の街に帰りたいけど、さてどうなるものか……な実況、はじまるよっ。

 

 前回は四方世界の盤外から降り立った孤電の術士(アークメイジ)さんから転移のスクロールを受け取るに当たって、火吹き山の魔法使いと思われる妨害者が遣わせた “黒き油” の怪物たちを焼き払ったところまででしたね。

 無事に妨害してきた怪物(クリーチャー)を破壊して、今回王国を襲っている異変の黒幕である、強大な死霊術士の本拠地へ直通のマーキングがされている転移の巻物(スクロール)を託されました。

 

 もちろん、砦の主であり、孤電の術士(アークメイジ)さんの姉である隻眼の女将軍さんにも、事情を話します。

 

「なるほど、このスクロールが、敵の首魁を狩るのに必要なのだな。となれば、やはり王宮に届けなければなるまい」

 

 孤電の術士(アークメイジ)さんから聞いた話によると、今回の黒幕は、さすがに半竜娘ちゃんたち一党でも荷が重い相手だそうです。

 となれば、この転移のスクロールの先に潜む巨悪には、こちら(秩序側)も最強の駒をぶつけるべきだという判断になるでしょう。

 

 ──── そうだね超勇者ちゃんだね!!

 

 

「現状、砦から王都にこのスクロールを送るにも、割ける兵力が足りんな……。貴公が撃退したという “黒き油の怪物” がまた襲ってくるかは定かではないが、その想定はせねばならん」

 

「手前らが王都まで運んでも良いが?」

 

「申し訳ないが、貴公らにはこの砦の防衛についての依頼を請けていただきたい。報酬は約束する」

 

「まあそうなるかのう。あぁ、もちろん依頼は受けるのじゃよ。

 あの巨大ゾンビ甲冑蟲の群れを相手にするのは、この【辺境最大】に任せるが良い!!」

 

 頼もしい限りですね。

 さすが半竜娘ちゃんです。

 

 実際、半竜娘ちゃん一党は神官・魔術師が多いので非常に重宝します。

 もちろん、半竜娘ちゃんの膂力と放射熱線という切り札もまた重要です。

 

「それで、転移の巻物を取りに来させるとして、信頼のおける冒険者のあてはあるのかのう?」

 

「ああ、知己の蜥蜴人の僧侶がな。貴公の叔父だというあの彼だ」

 

「なるほど、然り然り、確かに適任であろうと思うのじゃ」

 

「上手い具合に東の沙漠からの帰りにこの砦を通ってくれれば話は早いのだが……」

 

「うーむ、商会の護衛として帰ってくるのであれば、甲冑蟲に集られているこの砦は避ける気がするのう」

 

「であれば、行き違いのないように冒険者ギルド経由で依頼だな」

 

「言うまでもないと思うが、戦力の補充も頼むのじゃ。手前らも奮励努力するが、もう少しばかり余裕(バッファ)が欲しいのじゃ」

 

「もちろんだ」

 

「ああ、手前らの帰りのアシの手配もしたいので、ついでにお願いしようかのう」

 

 半竜娘ちゃんたちは超特急の飛竜形態で砂塵の国まで文字通りに飛んでいったので、辺境の街に麒麟竜馬2頭と独立懸架式突撃機動馬車も置いてきてしまっています。

 辺境の街の冒険者の誰かに頼んでそれを持ってきてもらおうという魂胆です。

 

「ではそれも合わせて手配しようか」

 

「そのように頼むのじゃ」

 

 ということになりました。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

……そして一か月後(One month later)……

▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「キリがないのう、このクソ蟲がぁあああ! 吹き飛ぶが良いのじゃ! 〈我が身が目指すは黒き鱗の嵐呼ぶ者(エヘナウノル)! 蒼き光と翠の瘴毒! この怒れる滅びを御照覧あれ!!〉 ────【核撃・放射(フュージョンブラスト・ブレス)】!!!」

 

『『 IINNEELLFFOODDAAGGEEAAAA!!!!??? 』』

 砦の上から沙漠の彼方へと、蒼と翠が入り混じった放射熱線が奔ります。

 そして沙漠の彼方に閃光と爆炎。キノコ雲。

 爆発によって吹き飛ぶ巨大な甲冑蟲のシルエットと、遠くからでもなおはっきりと聞こえる断末魔の叫び。

 同時にやってきた衝撃波の空気の壁が、砂を巻き上げ、砦の壁を叩きます。

 

 ここ一か月くらいの恒例となった光景です。

 

「定期便の処理ご苦労様です! お姉さま!」

 

 退魔の聖剣を携え甲冑を着た文庫神官(ふみくらしんかん)ちゃんが、ブラシを持って半竜娘ちゃんに駆け寄ります。

 そしてそのブラシを使って、衝撃波とともに巻き上げられた砂が服や鱗についているのを甲斐甲斐しく払ってあげてますね。睦ましくて尊い。うむ。

 

 眼を閉じて微かに上を向いて文庫神官ちゃんのブラッシングに身を任せる半竜娘ちゃん。

 

「少しずつ大型は減って圧力は減っておるんじゃが、なかなか居なくならんのう、あのクソ蟲……」

 

「むしろ小型のものは増えている気がします」

 

 『定期便』、と東の砦で呼んでいるのは、地響きと土煙を巻き上げて突撃してくる巨大なゾンビ甲冑蟲の群れのことです。

 甲冑蟲の大きさは不揃いで、家よりも巨大で砦の壁の高さに迫るようなものから、馬車サイズのものまでさまざま。

 それを半竜娘ちゃんの放射熱線でざっくり遠距離から焼き、大きな個体の数を減らし、それから漏れてきたものを砦の壁を活用しつつ、魔術や奇跡で処理していくという流れで処理しています。

 

「増殖しておるんかのう……」

 

「“再生力が強いから、だんだん生命として蘇りつつある”、という仮説は正解かもしれませんね」

 

「うーむ、死骸の中にあった卵から孵っておるのかもしれん……」

 

「大きな個体も、なんだか単なるアンデッド系の再生というよりは、どことなく生ものっぽい感じですね」

 

「傷つけたところの再生痕が腫瘍みたいに不規則に膨れておるのも居るし。単なるアンデッドとは少し違うようじゃ。流石は古代の産物じゃの」

 

「あとそもそも共食いしてるっぽいですよね……」

 

「エネルギーの問題は解決しておらんじゃろうからのう。そうなると蘇った個体がおったとしても、周りのアンデッド個体に生命エネルギー目当てに喰われそうじゃが」

 

「逆に、蘇った個体が居たとしても、周りの腐肉くらいしか食べるものはなさそうですよね」

 

「どっちにしても共食いじゃのう」

 

 蠱毒じみてまいりましたねえ。

 

 

 ブラッシングを終えた半竜娘ちゃんは、砦の兵士たちとすれ違いながら、文庫神官を連れて砦の中へと戻ります。

 次の出番は、適当に数を減らしたあとに、真言呪文【分身(アザーセルフ)】で創り出した分身を、祖竜術【竜翼(ワイドウィング)】で飛行可能にして、動力炉心(パワーコア)を全開にさせてエネルギー垂れ流し状態の囮にして飛ばして、再び沙漠の奥深くまであのゾンビ蟲たちを誘因するときです。

 それまでは一休みですね。修行したり瞑想したりしながら過ごしましょう。

 

 

 ちなみに森人探検家は金勘定が得意なので文官仕事の手伝いと、エルフ視力を生かした物見として活躍し。

 

 TS圃人斥候は、手先の器用さを生かして城壁の補修や、矢玉の製作を手伝っています。

 

 幼竜娘三姉妹たちは、兵士たちの癒しとして砦の中を駆け回っていますよ。

 まあ戦場は蜥蜴人にとっては揺り篭みたいなものですからね。

 図らずも蜥蜴人的に望ましい幼少期を送っています。

 

 

 

 砦の外壁から降りる階段を通り、通路を通り、控えの貴賓室へと向かう半竜娘ちゃんと文庫神官ちゃん。

 

「そろそろうちの右竜馬(ウルマ)左竜馬(サルマ)を連れた追加の増援の冒険者や、巻物のお遣いに指名された叔父貴殿も来ると思うのじゃが」

 

「西方辺境からの旅路を考えても、もうそろそろのはずですね」

 

 

 待ち人が到着したのは、その翌日のことでした。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「おお、うちの馬を連れてきてくれたのはお主らじゃったか!」

 

「まあたまには遠出してみないとな。尼さんからの依頼はちょうど良かったぜ」

 

 2頭の麒麟竜馬に独立懸架式突撃機動馬車を牽かせてやってきたのは、鮫歯木剣(テルビューチェ)を持った蜥蜴人戦士が所属する一党でした。*1

 

 胸元の冒険者証を見れば、順調に等級を上げているようですね。

 

 彼らとしては遠征経験を積むためでもあり、また、国内の有力者である女将軍との顔つなぎの機会でもあるようです。

 もちろん今回やって来てくれたのは、巨大ゾンビ甲冑蟲を殲滅するための増援の依頼を請けてくれたからでもあります。

 半竜娘ちゃんたちからの馬車の配達依頼と、砦からの増援依頼のダブル受注ですね。効率的!

 

「そういえば一緒に叔父貴殿も来ておるのじゃよな?」

 

「ああそうだぜ。顔つなぎにって別のパーティのチビどもを何人か引率してる。面倒見良いよな」

 

「なるほど。あとで挨拶しておくかの」

 

 蜥蜴僧侶さんは、重戦士さん率いる【辺境最高】の一党の若手を連れてきてくれているみたいですね。

 いまは旧知の仲の女将軍さんとお話し中でしょうから、あとでまた顔合わせしておきましょう。

 

例のもの(スクロール)は叔父貴殿に任せておけばもう安心じゃな」

 

「銀等級をお遣いに使うとか贅沢だよな」

 

「それほど備えねばならない危険が予想されるということじゃよ」

 

「なるほどなあ……。俺らももっと精進が必要だな」

 

 

 生きてさえいれば経験を積んで次につなげられますからね。

 今後も彼ら新進気鋭の一党には命大事にいってもらいたいものです。

 

 

 戦力も充実してきましたし、あとはもう消化試合ですかね。

 ようやく西方に帰れそうです。

 まったく長い遠征でした……。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうだ尼さん。冒険者ギルドから伝言だぜ」

 

「む。なんじゃ?」

 

「『迷宮探検競技』って知ってるか?」

 

 話を聞けば。

 西方辺境の街で、冒険者体験ということで、ライトな迷宮探検競技をやろうかという構想があるとか。

 

 とはいえ、最初(イチ)から全てを整えるのは骨が折れるものです。

 冒険者ギルド同士での情報交換でそれなりに情報を集めたとしても、もっと多くの情報があるに越したことはありません。

 

 そして、迷宮探検競技を売りにしている街、というのは、いまもポツポツと存在するのだという話です。

 

 

 冒険者ギルドからの伝言とは──── 他の街でやっているという『迷宮探検競技』の視察の依頼であったのです。

 

 

*1
鮫歯木剣(テルビューチェ)を持った蜥蜴人戦士が所属する一党:アニメ2期ではざっくり出番がカットされてしまったので、漫画版を読もう! 12巻の試し読みにてその元気な時の姿を確認できるぞ! → https://bookwalker.jp/de44116a7d-0774-41b8-9cbc-ef0ebcada0c0/

 一党のメンバーは、鮫歯木剣の蜥蜴人戦士、戦女神信仰のアマゾネス風斧使い、交易侍祭、闇人斥候、只人軍師の構成。当SSでは「29/n 裏-1(投資相談、陵墓のトロル)」 https://syosetu.org/novel/224284/87.html でその話(生存ルート)をやってたり。




 
というわけであとは実際消化試合となって『東部戦線異状なし』……なので、原作小説12巻はここまで。次の章は13巻の迷宮探索競技編です。ゴブスレさんがダンジョンマスターをやる西方辺境の迷宮を探索するのではなく、それを作るときに経験を生かして助言できるように、別の街の迷宮探索競技に参加してもらいます。遠征は続くぜ。冒険者は旅の空の下に在ってなんぼという風潮、あると思います!

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◆辰年なので新年絵(半竜娘ちゃんと幼竜長女ちゃん)です(DALL・E-3さんによるAI絵)

今年も当作をよろしくお願いいたします!

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ゴブスレアニメ2期配信中! 今なら全話無料だ!! → https://abema.tv/video/title/174-10?s=174-10_s2&eg=174-10_eg0

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42/n 裏(≪生≫と≪死≫の2柱の神が織りなす叙事詩(GMするキャンペーン))☆AI挿絵あり

 
◆前話
黒玉の武装要塞(アームズフォート:ジェット)のなり損ないを蘇生した巨大ゾンビ甲冑蟲の処理についてはパターンに入ったので先が見えてきた。増援の冒険者たちも到着し*1、後顧の憂いもなくなったところだ。久方ぶりにホームに帰ろうかと算段し始めた半竜娘一党だが、そこに新たな依頼が舞い込んだ。どうやら防衛戦の後もまた暫くは旅の空となりそうだ。

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※AIさん(DALL・E3)に出力してもらった挿絵あり(マス)
 


*1
◆蜥蜴僧侶さんたち到着のタイミング:原作小説12巻では『冬空』と描写されているが、前話はまだ秋の頃と想定している。時期がずれたのは半竜娘ちゃんが沙漠の金字塔(ピラミッド)の大悪霊を調伏したりして、一帯の死者が減り、また半竜娘ちゃんの手により成仏させられた大悪霊を構成していた無数の魂が祖竜の管轄に流れるなどしたため、≪生≫と≪死≫の二柱の手が多少空いて、キャンペーンの進行が早まったせい。

 

1.アンデッド相手ならコレに限る

 

 東方辺境の砦を襲う巨大甲冑蟲のアンデッドの群れ。

 だがこれは王国を襲う異常の一部に過ぎなかった。

 

 水の都での麻薬の蔓延と、それを足掛かりにした混沌に与する内通者の暗躍未遂。*1

 

 別の場所では住処を追い出された飛竜が暴走。*2

 

 はたまた、魔神が率いる亡者の軍勢が辺境では砦を攻めるわ。*3

 

 混沌の軍勢によって街が一つ滅ぼされたので、そこに巣食った首魁を討ちに西方辺境の三勇士(ゴブスレさん・槍使いさん・重戦士さん)が投入されたり。*4

 

 それら全てが囮に過ぎなかったり。

 

 

 だがまあ、敵の手管による囮だからといって、それらの脅威への対応を(ないがし)ろにして良いわけもないのだが。

 

 

 

 

 さて、そうだ、東の砦の話だった。

 

 内乱に揺れる東の砂塵の国。

 その砂塵の国の簒奪宰相が砂の中から暴いた神代の遺跡からサルベージされた武装要塞(アームズ・フォート)の残骸。

 蟲型の半生体兵器だったそれの残骸は、すなわち死体であり─── 王国で暗躍していた強大なる死霊術師からしてみれば極上のリソースに他ならなかった。

 

 簒奪宰相が打ち捨てた武装要塞(アームズ・フォート)── 『黒玉(ジェット)』というコードネームが与えられていたようだ── にまで育ち切れなかったであろう残骸たちの塚に仮初の生命を吹き込んでアンデッドとした死霊術師は、それを王国へと向けた。

 自らが四方世界というこの盤面を傾けて、その頂点(カド)へと至り、盤外を見渡さんと欲したが故に。その邪魔をさせないために。王国の対応能力を飽和させるために。

 

 

 東の砂塵の国から巨大なゾンビ化甲冑蟲の群れが押し寄せてくる。

 

 だがもはや対策は出来上がっていた。

 【辺境最大】の異名をとる冒険者率いる一党の差配により。

 そしてまた、砦を治める優秀で歴戦の女将軍の指揮により。

 

 波乱の要素も、負ける要素も、もはやない。

 

 加えて、初期の襲来を凌いでからは、東の国境を守る砦の陣容は厚くなるばかり。

 ますますもって磐石である。

 

 たとえ王国軍を動かすことが、敵の狙い通りだったとしても、それは構わない。

 敵の首魁のもとへ、最強の(メック)を叩きつけるための手筈は整っている。*5

 王国の都には、後詰として国王陛下の一党(金剛石の騎士のパーティ)も控えている。

 

 憂いなし、だ。

 

 

「あとは消化試合ってわけね。まったく、こんな戦いはさっさと終わらせるに限るわ。

 東の砂塵の国の内乱も、王国を襲う亡者の軍勢も、どちらも交易というお金の流れを滞らせる害悪!

 さっさと消えてなくなりなさい!」

 

 【辺境最大】たる半竜娘率いる一党の金庫番。森人探検家が風車の羽を象った聖印を掲げる。

 彼女は森人(エルフ)には珍しいことに交易神に仕える神官でもあり、お金の価値を良く分かっている。

 それゆえに、このような争いはさっさと終わらせたいのだろう。──── もし東の国が正常化し、交易が活発になれば、どれだけの富が生み出されるか!

 

 彼女が捧げる交易神への祈りに触発されて、輝くような風が集まり、聖印をふわりと支える。

 聖印に神威が降りてきて、風車の意匠を中心にそれを拡大するかのようにプロペラらしき影を作った。交易神の御印だ。風なる神の加護ぞあれ!

 

 森人探検家が朗々と祝詞を奉じる。

 

 

「〈巡り巡りて風なる我が神、彼らの魂魄を故郷へ還せ〉!!」

 

『『 IINNEELLFFOODDAAGGEEAAAA!!!!??? 』』

 

 塵は塵に、灰は灰に。死者もまた死すべし。

 森人探検家による〈解呪(ディスペル)〉の奇跡が、アンデッドである腐った巨大な甲冑蟲を吹き飛ばし、風に混じる砂塵へと還す。

 なり損ないとはいえ家よりも巨大な武装要塞(アームズ・フォート)が塵へ還り、吹き荒ぶ風に浚われていくのは圧巻だ。

 

「す、凄まじいですね……」

 鮫歯木剣(テルビューチェ)の蜥蜴人戦士と付き合っている交易侍祭(アコライト)が戦慄交じりに感嘆した。

 同じ神を信仰する者として、神官として非常に高位に至るほどの(カネ)を積んだ森人探検家への畏怖を覚えたのだ。

 交易侍祭は、己の首に提げた車輪の聖印── 交易神は風車とともに車輪もシンボルとする── を撫でると、森人探検家に尊敬の念を向ける。

 

 解呪(ディスペル)を使えるとはいえ、あのように巨大なアンデッドを一度に塵にするなど、尋常のワザマエではない。

 尊敬の視線に気づいた森人探検家が、交易侍祭に微笑みかけた。

 

「冒険を重ねれば貴女も直ぐにこの程度はできるようになるわ。……死なないこと、そうすれば経験値(スコア)はついてくる。そして風の導きを感じ、世の中にカネとモノを回すこと。それが大事よ」

 

「はいっ!」

 

「いいお返事。………やはり半分蘇りつつあるのがいるわね。解呪(ディスペル)が効かないのがいる」

 

「……ですがあそこは確か」

 

 進軍する比較的小型の甲冑蟲の群れを見て、交易侍祭は思案する。

 確かあそこには……。

 

 

 KABBOOOOMMM!!!

 

 

 そう、その地点は半竜娘一党のTS圃人斥候も加わった工兵隊によって、地雷原と化していたのだ!

 上手く罠にはめることができて上機嫌にガッツポーズするTS圃人斥候の姿が視界の端に見えた。

*6

 地雷の爆発は半生の甲冑蟲の群れを吹き飛ばし、さらに同時に仕込まれていた聖水によって、アンデッドのままの個体を浄化する。

 

「良い感じね。ろくな頭もないから毎度同じ罠に引っ掛かる。楽でいいわ」

 

 森人探検家の言葉の直ぐ後に、砦の壁から大筒が火を噴き、砲弾がさらに敵を削る。

 そしてついに、敵の群れの突進の勢いが止まった。

 

 遠く沙漠の側で兵士と戦士たちが鬨の声を上げ、前線の塹壕から飛び出し、動きが鈍った甲冑蟲の群れへと突撃する。

 取り付き、甲殻の隙間に刃を突き立てる。どこに攻撃すれば致命的かという知見も積み上がっている。甲冑蟲たちは効率的に『処理』されていく。

 交易侍祭の愛する鮫歯木剣(テルビューチェ)の蜥蜴人戦士もそこに混じっているはずだ。

 

 

「どうか無事で……。彼に風の(たす)けがありますように……!」

 

「前線のチャンバラも始まったわね。じゃあ私たちは怪我人が後送されて来るのに備えましょう。奇跡も温存しなきゃね」

 

「はいっ!」

 

 

<『1.物資損耗多大にして、負傷者多数、死者若干名。なれど我ら優勢なり。東部戦線異状なし。』 了>

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

2.出立の日

 

 

 それからさらに数日。

 

 いよいよほぼ完全なスペックに復活した黒玉(ジェット)武装要塞(アームズ・フォート)が、エネルギーブレードを振り回して吶喊してきたりしたが。

 数多の冒険者たちから魔術や奇跡等の支援を受けたスーパーグレート半竜娘がその前に立ちはだかり、怪獣大戦争で最終的にぶっ潰したり。

 

 そういった波乱はあったが、それを最後に大物は片付き、残すは小型のものばかりとなり、それも以前ほどの大群ではなくなった。

 要は残すは掃討戦というわけだ。

 

 

「ではな、将軍殿。また会う日までさらばじゃ」

 

「うむ。貴公も息災でな」

 

「助かったぜ、【辺境最大】!」 「姉ちゃんたちも達者でな~~!」 「また酒を飲もうぜ!!」

 

 半竜娘一党のこの砦での役目もこれにて終了。

 

 次の依頼のため、女将軍や大勢の兵士たちに見送られて砦を去る一党。

 

 麒麟竜馬に引かれて目指すは、収穫祭に合わせて迷宮探検競技をやっているというとある街。

 そこで、冒険者の立場から迷宮探検競技を体験し、視察し、ホームである辺境の街に知見を持ち帰るのが、新たな使命なのだ。

 

 

 

「いざ出発じゃ!!」

 

「はい、お姉さま! ハイヤー!」

 馭者を務める文庫神官が手綱を繰り、麒麟竜馬を進ませる。

 麒麟竜馬のいななきが響いた。

 

 半竜娘ら一党は、ゾンビ化巨大甲冑蟲の群れから東の砦を守り抜いた!

 防衛戦を戦い抜き敵を退けたことにより、経験点1500点獲得! 成長点5点獲得!

 

<『2.いざ、迷宮探検競技!』 了>*7

 

*1
◆水の街の麻薬汚染:剣の乙女の御膝元での異変。“鬼の衛視長” と呼ばれる厳しい人物(モチーフはビーストバインド・トリニティ(TRPG)のサンプルPC『鬼神警官』だろうか?)が取り締まるその最中での出来事に巻き込まれた密偵(パワポケくん)のチームが都市の影を駆ける(シャドウラン)。殺し屋だからって殺し屋らしい恰好をしなければならないなんて決まりはないのだ。

*2
◆飛竜の暴走:道中表でワイバーンを引いた棍棒剣士くんと至高神の聖女ちゃんと白兎猟兵ちゃんの奮闘。冒険の途中だがワイバーンだッ!! ニア コマンド『にげる』

*3
暗黒の軍勢(アーミー・オブ・ダークネス)の砦攻め:HFO三人衆が冒険に出かけたので、女性陣(魔女さん、女騎士さん、妖精弓手さん、女神官ちゃん)で冒険に行く話。商人の護衛で軍の砦に物資を届けたら、飛竜に亡者に魔神にと、暗黒の軍勢に囲まれてしまったので、籠城戦に参加することに。女騎士さんが半身ずらしの奥義を使ったり、女神官ちゃんが魔神の変化を謎解き(リドル)勝負で喝破したりする。 ワイバーン? 銀等級の冒険者にとっては幾ら落とせるかスコアを競う程度の手合いだよ……。

*4
◆廃都の冒険:先行して調査に入った鉢巻剣士一行(鉢巻剣士、女魔法使い、女武闘家、赤毛の少年魔術師、圃人の女剣士)は、忍びの者仕込みの技術で見事に廃都を調べ上げていた。彼らから引き継いで、ゴブスレさんたち只人戦士男(HFO)三人衆が廃都を攻略する。生贄の乙女を助け出し、邪教の儀式を阻止せよ! ……いやなよかんがする(I have a bad feeling about this)

*5
◆最強の駒:東の砦から届けられた転移の巻物は、ワイバーンの巣であった場所に繋がっている。ワイバーンを追い出して拠点を構えていたのは、死霊術師──── いやさ、 “死人の王” 。その本拠地へと直通する転移の巻物は、勇者による首狩り戦術のための切り札となる。地下に満ちる亡者に魔神兵に怪物たちを蹴散らして、四方世界の盤面をひっくり返さんと野望を抱く死人の王が支配する屍肉の魔宮を踏破せよ!

*6
◆地雷原の罠:TS圃人斥候「ッシャオラ!! ざまぁ見さらせ腐れ蟲ども!!」

*7
◆迷宮探検競技の視察:つまり辺境の街でゴブスレさんがダンマス務める迷宮とは別にオリジナル迷宮で風雲!迷宮探検!をさせることもできるし、元ネタのファイティング・ファンタジーのゲームブック『迷宮探検競技』のリプレイを載せることすらも選択可能ということ………!!




 
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43/n 『迷宮探検競技』を視察せよ!-1(道中に小鬼が出たので退治して魔神の贄にした話)☆AI挿絵あり&FAご紹介

 
お待たせしました!

====

◆前話
さらば、東方国境の砦! そして新たな任務だ、半竜娘ちゃん一党よ。さあ、各地の “迷宮探検競技” を視察し、ノウハウを持ち帰るのだ!

====
 
※AIさん(DALL・E3)に出力してもらった挿絵あり(マス)
 ちなみにですが、過去話に赤竜とかサイバーデーモンとかロマの侯爵とか挿絵をちょこちょこ追加しています。挿絵を追加した話のタイトルには「☆AI挿絵あり」の文字列を追記していますので、目次ページで「☆」とか「挿絵」とかのワードでページ内検索すると見つけやすいかもです。

 


 

 はいどーも! 迷宮探検競技の視察のためにハイスピード諸国漫遊する実況、はじまるよっ!

 

 前回は砂塵の国からの帰り道で、巨大な腐れ甲冑蟲(生体型武装要塞(アームズフォート))に襲われていた砦を助け、一段落したところで、冒険者ギルドからの新たな依頼を受領して、ホームである西方辺境の街には帰らずに別の街に向かうことになったんでしたね。

 なおどうやら超勇者ちゃんパーティによる首狩り戦術が成功したようで、四方世界の転覆(物理)を狙っていた死人の王(仮称ゾーマ様)の目論見は潰えた模様。さす勇。

 

 というわけで現在、軍馬をベースに半竜娘ちゃんの因子を混ぜたキメラである2頭の麒麟竜馬に、特製の馬車を牽かせ、とある街を目指しています。

 秋の終わりということで、年貢を載せて都へ向かう荷馬車とすれ違うことも増えてきました。

 

「受付さんがピックアップしてくれたっつー、『迷宮探検競技』をやってる街って意外に数があるのな」 というのは、馭者(ぎょしゃ)を代わったTS圃人斥候。

 

「単に庭園型の迷路が有名とか、そういうのもあるみたいですけれど。それにしてもルート構築には苦労しました~」 というのは、黒髪の尼僧にして聖騎士である文庫神官。旅装で馬車から顔を出しています。

 西方辺境ギルドの受付嬢から提供された視察対象リストは、王国内の各地に渡っていました。迷宮探検競技を観光資源にしている街から、似たような体験型の興行を売りにしているであろう街々まで。

 それらを優先度や地域で並べ替えて、東方国境から西方辺境まで戻りがてらの効率的な視察ルートを構築したのはこの文庫神官の功績です。流石は知識神に仕える神官、インテリですね。

 

『Zzzz……むにゃ。昼は眠いのです』 馬車の中で寝ているだろう、知識神の使徒『白梟使徒』の声がかすかに聞こえました。彼女は文庫神官に知識神から下賜された使徒で、獣人(ハーピー)形態にもなれるとっても賢いフクロウです。もちろん知識神の奇跡も、そして真言呪文までも使いこなす頼りになる仲間です。

 

「……それも麒麟竜馬(この子)たちの脚の早さがあってこそよね~」 上機嫌に声を弾ませたのは森人探検家です。ことのほか麒麟竜馬たちを気に入っている彼女は、久しぶりに合流できたお馬さん(鱗系)たちと旅路を共にできて嬉しそうですね。文庫神官とは逆の側の馬車の窓から顔を出しています。

 速さを上げるために【追風(テイルウィンド)】の精霊術で呼び出された風の精霊とも戯れつつ笑みを浮かべる様は、流石の美貌です。

 

 追い風(テイルウィンド)の精霊の加護と、旅路の健やかなるを保証する交易神の奇跡【旅人(トラベラー)】により、快調に馬車は進んでいきます。

 独立懸架式突撃機動馬車なるこの馬車は、太古の遺跡からサルベージされた技術を応用した高級品で、かなりの速度を出しても車体の揺れも少なく、車軸その他車体へのダメージも少ない仕様です。

 空間拡張型の長櫃も備え付けてあるため、荷物自体の重さを考慮しなくていいのも、快速に拍車をかけています。

 

 麒麟竜馬の馬力と、風の精霊術や交易神の奇跡を合わせることにより、半竜娘ちゃんたち一党は四方世界でも有数の機動力を持つパーティでもあります。

 国中を巡って情報を集めるのにはうってつけですね。受付嬢さんの采配の妙が光ります。

 

 

 さて、一党の頭目である肝心の半竜娘ちゃんは何処に居るかというと……。

 

 

「ん~~、風が気持ちいいのう~~」

「てんたかくー」 「うまこゆるー」 「あき~~!!」

 

 

 はい、馬車の上ですね。

 砂塵の国で翠の粒子を発する武装要塞『陽神行路(ソルディオス・オービット)』を侵蝕・霊体(アストラル)化して吸収した半竜娘ちゃんは、ますます成長し、馬車の中に収まることも難しくなってきていますので……。

 

 馬車の上で胡坐をかく半竜娘ちゃんの膝の上には、単為生殖で処女産卵した彼女の娘の幼竜娘三姉妹が寛いでいます。

 いつもの冒険では西方辺境の街のはずれの拠点でお留守番なのですが、今回の遠征には国外へ行くという経験のために同行しており、母たる半竜娘ちゃんと長く一緒に過ごせていてご満悦そうです。

 蜥蜴人の文化としては、あと1~2年もすれば親元を離れてスパルタ式(あるいは薩摩の郷中(ごじゅう)教育式?)に集団教育されるのが通例ですから、そのあたりどうするかも含めて、半竜娘ちゃんは自分の出身部族と連絡を取り合っているようですよ。──── ひょっとすると親離れの時期も近いのかもしれませんね。

 

 幼竜娘三姉妹が言うように、秋の空は青く高く晴れています。

 都に向けて年貢を納めに走る馬車とすれ違うことも増えてきました。

 収穫祭の時期の催しとして迷宮探検競技じみたことをやっている街や村も幾つかあるようですので、視察に回るのもちょうどいい時期です。

 なお、西方辺境の街で受付嬢さんが企画している『迷宮探検競技』は、娯楽が少ない冬の時期に行う予定なので、急いで視察してノウハウを集めて帰れば、その準備・運営に反映できる予定です。

 

「おかーさん、おかーさん!」

「ん、なんじゃー?」

「めーきゅーたんけんきょーぎ、って、なんでそんなに沢山のところでやってるのー?」

「ふむ、それはのー……────」

 

 迷宮探検競技が王国各地で開催されるようになった経緯ですが、それは十数年前の ≪死の迷宮(ダンジョン・オブ・ザ・デッド)≫ を攻略した六英雄(オールスターズ)の活躍にまでさかのぼる必要があります。

 王国北方の山脈に開いたダンジョンから溢れ出した ≪死≫ は、王国全土を席巻せんとし、それを治めるために、あるいは成功と富を夢見て、冒険者たちが投入されたのです。まあ、今の国営ギルド所属の冒険者と、そのころの冒険者はまた性質が違うのですが……。

 

 ともあれ、六英雄により ≪死≫ の脅威は退けられ、ダンジョンは沈黙。

 そこに集っていた冒険者たちも、ある者はその活躍の場を移し、ある者は郷里に帰って錦を飾り……と王国中に散らばることになりました。

 これはある意味では、 “ダンジョン文化” の拡散でもありました。

 郷里に帰った彼らのうちの幾つかは、己の経験をもとに、『迷宮探検競技』の興行を立ち上げたりもしたのです。

 

 

 ──── “我らの冒険はこのようなものであったのだぞ!”、と。

 

 

 かつての栄光に囚われ、あるいは ≪死≫ に魅入られた一部の成功者たちの残虐遊戯という側面もありました。

 

 そして、この王国には古代遺跡(テレイン)が至る所に埋まっています。

 主に迷宮探検競技の舞台となったのは、すでに掘り尽くされた『枯れた』遺跡たちでした。

 

 遺跡というものは放っておけば群盗山賊やゴブリンを始めとする怪物(モンスター)の住処になってしまいます。

 各地を治める領主としては、そういった混沌邪悪の輩に遺跡を利用されるよりも、死の迷宮帰りの冒険者に押さえてもらって、定期的に催し物をする方が治安維持上は何倍もマシだ、という判断もあったことでしょう。

 

 というわけで、一時期は非常に盛んであった迷宮探検競技ですが、それも今は昔の話。

 経営や興業のプロでもない元冒険者たちが行っていた迷宮探検競技は、その運営に彼ら元冒険者の財貨を吐き出させて地域経済に貢献させつつ、十数年のうちにすっかりと淘汰が進み、今では往時の数分の一ほどしか残っていないとのこと。

 

 

「──── という感じで、≪死の迷宮≫ に由来する徒花のような刹那の文化じゃったわけじゃな」

「おー、なるほどー」 「諸行無常(しょぎょうむじょー)」 「適者生存(てきしゃせいぞん)!」

 

 逆に言えば、視察対象としているような、『迷宮探検競技』を売りにしつつも今まで生き残っているようなところは、相応に洗練されているはずであり、きっと学びどころたっぷりなはずです。

 

 

「「「 楽しみー! 」」」

「そうじゃのー、楽しみじゃのー」

 

 

 ………半竜娘ちゃんの巨体で、果たして『迷宮探検競技』に参加できるのか、という心配はありますが。通路につっかえそうですよね。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 街道を他の馬車の何倍もの速さで進む半竜娘ちゃんたち一行の馬車ですが、その上に影が差します。

 

 雲一つない快晴なのに、何が……? と上空に視点をフォーカスすれば、そこには翼竜のごときシルエット。

 

 んー? あっ、これは祖竜術【竜翼(ワイドウィング)】で腕を翼に変えた半竜娘ちゃんですね。

 翼竜形態の半竜娘ちゃんが、空を飛んでいるようです。

 

 半竜娘ちゃんが二人……。どうやら魔法により分身しているようですね。

 独立懸架式突撃機動馬車の上に幼竜娘三姉妹を抱えて座っている方が本体で、上を飛んでいる方は真言呪文【分身(アザーセルフ)】による分身体なのでしょう。

 

 おそらくは上空から周囲を見渡すことで、周辺地図を作製しつつ、行く道の先に不穏がないかの警戒もしているものと思われます。

 

 よく見ると上空の半竜娘ちゃんの翼竜化分身の背には、人影があります。

 馬車の方に居なかった使い魔の闇竜娘(ダークドラコ)ちゃんが、地図作成人(マッパー)として搭乗しているようです。

 

 

 なお地上の半竜娘ちゃん本体と、上空の分身+使い魔の闇竜娘ちゃんの間には、魔術的なパス通っていますので、それ通じて念話じみて会話が可能です。航空偵察をするのに持ってこいの役割分担ですね。

 

 

 

『こちら地上本体。上空から見て何か異状はありやなしや?』

『こちら上空分身体。行く先に野営地を発見。流浪の(ロマ)と思われる馬車の群れが天幕を広げているようじゃ』

『背の上から(オレ)も補足する。そちらの速度ではあと四半刻で到着できるはずだ。

 ……そして野営地の周辺から少し離れたところに小鬼(ゴブリン)の影を見ゆ』

 

 冬も近づく中、ゴブリンたちも冬支度の略奪や、ごくつぶしの追放にと活動が活発化しています。

 ああ、いえ、ゴブリンからしてみれば、『何だか知らんがニンゲンどもが食べ物を貯め込む時期だから奪ってしまえ』くらいに思っていて、冬支度という認識はないでしょうし、春から夏にかけて増えた巣穴の中で勝手に仲間割れして追い出し追い出されというのは、冬に備えてという意識はないのでしょうけれどね。

 

『……本当にどこにでも()るのう、小鬼どもは』

『全くじゃ。──── 先行して片付けようと思うのじゃが』

(オレ)としても推奨する。……死体は(オレ)が喰う分の魔神(デーモン)を召喚するときの供物にすれば良いだろうしな』

 

『そっちが本題じゃろう? 使い魔(ファミリア)

『そういう契約だろうがよ、契約主(マスター)(オレ)が魔神としての位階を進められるように、魂喰らいの機会を提供すること、ってな。魔神喰い(どうぞくぐい)でも良いってのは相当に妥協しているぜ』

 

『この間の砂塵の金字塔(ピラミッド)の件でもらった宝物の中からも魔力の籠った供物は幾らか喰わせたじゃろうに……』

『それとこれとは別腹だ。あの時の供物は位階上昇とは別に自己強化に回す分だからな。………あの大浄滅のときの、都市二つ分にも匹敵する魂を喰えてればよかったんだが、オベリスクの大精霊サマが全部吹っ飛ばしちまったからなァ』

 

『あーあー、こちら分身体。とにかく先行する。小鬼の死体は適当に積んで死霊術【魔神(サモン・デーモン)】の依り代と供物にするのじゃ』

『こちら本体。承知したのじゃ』

『契約履行の努力に感謝するぜー! さあ行こう、すぐ行こう!』

『はいはい、分かったのじゃ』

 

 上空を飛ぶ、翼竜化した半竜娘の分身が進路を変える。

 小鬼を見つけたという方向へと向かうのだろう。

 

 

 

 

 小鬼たちの巣を壊滅させたと分身体から念話で連絡があったのは、それからすぐのことであった。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 小鬼の巣が行殺*1され、その小鬼の死体5つを媒介にし残りの小鬼の死体は供物として術の補強に使い、半竜娘ちゃんの分身体は死霊術【魔神(サモン・デーモン)】により、Lv6相当のデーモンを5回召喚。

 一体ずつ召喚した魔神それぞれを、闇竜娘ちゃんと協力して各個撃破しました。

 まあ先手を取ってLv10冒険者(半竜娘ちゃん(分身))と、Lv9デーモン(使い魔の闇竜娘ちゃん)が殴れば、Lv6のデーモン程度ならそう手間はかかりません。呪文を使う必要もないです。それを5回繰り返せばノルマ達成です(※闇竜娘ちゃんが経験点3000点相当を獲得)

 

『まー、今回はこんなもんか。良い糧になったな』

『同族喰いで蠱毒の呪法じみて強くなっておるのう、お主』

『………それ以上に契約主の本体が強くなってる気がするが。はあ、いつになったら下剋上して契約主の魂を喰うことができるのやら』

 

 まあ、これで暫くは餌の魔神の魂(けいけんてん)をあげなくても平気でしょう。

 あんまり高頻度で闇竜娘ちゃんに魔神を喰わせていると、いよいよ手に負えなくなってしまいますからね。

 かつて反旗を翻した【分身(おのれのかげ)】をベースに召喚した魔神を、逆に乗っ取らせて受肉させたのが闇竜娘ちゃんです。

 その契約の一部には、マスターたる半竜娘ちゃんの死後に、その魂と肉体を譲渡するというものが含まれています。

 

 まあ、半竜娘ちゃんは竜になって寿命を克服する気満々ですし。

 闇竜娘ちゃんの方もデーモンらしく、寿命を待たずに下剋上する機会を虎視眈々と狙っているのですが。

 

『それにしても何というか、少し妙な気がしたが。なんというか、死霊術に使った小鬼どもの死体も魂も、薄いというか、なんというか』

『……そう言われてみれば、体格も動きの癖も、妙に揃っておったような気がするのう』

『ああ、それだ。妙に画一的で……まるで全部が双子か分身体か、って感じがしたぜ』

『同じ胎から生まれた兄弟ゴブリンじゃった、とかじゃろうかなあ』

 

 

 

 観察判定に成功したっぽい半竜娘(分身)ちゃんと闇竜娘ちゃんによれば、小鬼に関して妙に画一的で違和感がある、ということで、まあ少し覚えておきましょうか。

 ……太歳星君(ジュピターゴースト)の徘徊経路に繋がる洞窟でも近くにあって、そこから零れ落ちたんでしょうかね?

 

 ともあれ、街道沿いの小鬼の脅威は、分身ちゃんと闇竜娘ちゃんの手により人知れず退けられました。

 

 そして半竜娘ちゃんの分身体と闇竜娘ちゃんが魔神(デーモン)を呼び出しては処刑している間に、一党の本隊の方も野営地に到着したようですので、そちらに視点を移してみましょう。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 野営地には、天幕が多く張られています。馬車もまた同じく群れを成しています。

 馬に、人々。

 先客でござい、というわけですね。

 

 この世の中、必ずしも定住している人ばかりではなく、全財産を持って流浪する民もまだまだ居ます。

 とりあえず彼らのことをロマ、と呼びましょうか。

 彼らは旅芸人や香具師、野鍛冶を生業とする者たちの集合でもあります。

 

 野営地には彼らの馬車や天幕が群れをなしています。

 

「おー、まるで祭りの日みてーだな」

「ここを通る旅人や商人を相手に店を広げてるのでしょうね」

「物資の補給も少し出来るかもしれませんね」

 

 ……勝手に関所にして通行料をカツアゲしてる、とかでなければ良いんですが、それは流石に穿った見方が過ぎるでしょうかね。

 

 

 近づく半竜娘ちゃんたち一行に気づいたのか、野営地のロマの一団がざわめきます。

 まあ、竜のような馬が牽く、とっても大きな蜥蜴人の美女を乗せた馬車が近づいてくればそうもなるでしょう。

 普通は警戒しま……あれ?

 

「警戒って感じではないのう」

「むしろ」 「歓迎って」 「かんじー?」

 

 幼竜娘三姉妹の言うように、警戒して慌ててるというよりは、こう、有名人が来たときみたいな、浮足立っている感じですね。

 

 

 不思議に思いつつも半竜娘ちゃんたち一行が野営地に馬車を止めて野営の準備をしていると、ロマの天幕の方から、代表らしき女性がやってきました。

 

「お久しぶり、になるかしら。辺境最大の御一行様」

「お主は……」

 その女性は、かつて見たことのある顔でした。

 褐色肌に鍛えられた体つき、踊り子のような衣装。

 

 そう、つまりはかつて暴食の魔神像(ツァトゥグア像)に魅入られて、辺境の街に混乱を巻き起こした、『ロマの侯爵』と呼ばれる者、その人です。*2

 魂をヒキガエルの魔神像に吸われて廃人になって捕縛された彼女ですが、どうやらロマの仲間たちが依頼した仕掛人の手引きで脱出できていたようです。

 そういえば半竜娘ちゃんも、砕かれた邪神像の破片を加工したものを、その仕掛人を通じて渡すことで、少しでも吸われた魂が戻るようにと気を配っていましたね。

 

「そうか、暴食の邪神に喰われた魂も、少しは癒えたのじゃな。息災そうで何よりじゃ」

「ええ、お陰様でね。まあ、ぼちぼちというところ。あの街には流石にもう近づけないから、貴女とまた会えるとは思わなかったけれど。どうせだから色々とお店も見ていってよ。歓迎するわ」

「そうさせてもらおうかの。……そうじゃの、鍛冶屋はおるかの? 蹄鉄の調整でも頼みたい」

「ええもちろん。そちらの竜の馬の蹄に合うような蹄鉄を調整するのだって、うちの鍛冶屋なら簡単よ。削蹄屋も居るからまあ、御贔屓に」

 

 道行く途中で旧縁と出会ったり、これもまた旅の醍醐味ですね。

 

 というところで今回はここまで! ではまた次回!

 

*1
◆行殺(ぎょうさつ):敵との戦闘の処理が一行でなされること。ナレ死。

*2
◆ロマの侯爵:過去話「28/n もっと食べたい-1(竜血ポーション作り・歓楽街の異変)」https://syosetu.org/novel/224284/81.html のシナリオボス。オリキャラ。ギミックボスでもあったので直接は矛を交えずに、蟇蛙を象った暴食の邪神像を砕かれてリタイア。




 
葛轍偲刳様からTS圃人斥候(娼館の用心棒(ちっちゃ先生)しているところ)と闇竜娘ちゃん(サプリ適用後に存在確立したあたり)のとっても素敵なファンアートいただきました! 感激でございます。許可を得てご紹介させていただきます。チェケラ! 葛轍偲刳様、ありがとうございます!

【ファンアート】ちっちゃ先生
https://www.pixiv.net/artworks/116001783
踏まれてる不埒な酔客視点ぽい感じですね! 性転換時にナイスバディになってるのでまさにこんな感じの雰囲気のはず。(圃人(レーア)は只人を縮小した感じの種族なので、ロリではないのです。)

【ファンアート】闇竜娘
https://www.pixiv.net/artworks/116028743
鱗に覆われた手足がとっても素晴らしい、強さと妖艶さの同居! 今話で出番が増えたのはファンアートをいただいた影響です。

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ゴブスレのゲームが遂に発売! まだクリアできていませんが、とても良いですね。ちゃんとモブ冒険者ユニットも居るとこが特に。
 → 公式サイト:https://goblinslayer.bushiroadgames.com/
声優さんたちがプレイする動画とかもYouTubeにあるのでどんなゲームかぜひご覧ください。→ブシロード公式チャンネル 「ゴブリンスレイヤー -ANOTHER ADVENTURER- NIGHTMARE FEAST」発売直前記念特別配信番組 https://www.youtube.com/watch?v=WZvbGGYBZWU
 


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43/n 『迷宮探検競技』を視察せよ!-2(各地のいろんな迷宮探検競技)☆AI挿絵あり&FAご紹介

 
◆前話
半竜娘ちゃん御一行、街道を行く。
その道中でロマの集団と邂逅し、かつて辺境の街の歓楽街を餓鬼まみれにした事件の黒幕、ロマの侯爵と呼ばれる踊り子の女性と再びまみえたのだった。


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※AIさん(DALL・E3)に出力してもらった挿絵あり(マス)
 


 

 はいどーも!

 身体が大きいことは良いことだ、とばかりも言っていられない実況、はーじまーるよー。

 

 前回は流浪の民であるロマが屯する野営地に入って、そこのお頭である『ロマの侯爵』さんと再会したところまででしたね。

 かつての騒動で廃人化していた彼女も、ロマの一団の仲間たちの献身的な介護があってか、日常生活を送れるまでに恢復していたようです。邪神信仰からも足を洗っているようだし、よかった、よかった。

 

 さてそれでは少しその野営地での様子を見てみましょう。

 

「じゃあ私は麒麟竜馬(あのこ)たちの削蹄と蹄鉄の調整に出てくるわね」

「任せたのじゃ!」

「ついでに交易神の信徒同士で情報交換もしとくわよ。ロマの生活は常に旅の空……ちらりと見ただけでも交易神に仕える同志は何人も見かけたもの」

 

 森人探検家は麒麟竜馬の世話と、情報収集を買って出てくれました。

 交易神の信徒は風の導きで四方世界の何処へでも巡っていくことで有名です。

 かつての ≪死の迷宮(ダンジョン・オブ・ザ・デッド)≫ の攻略最前線で冒険者たちを癒したのも、交易神の神殿でした。……まあもちろん適正料金で。金がなければ “ケチな背教者ね!” と言われるオチがついていましたが。単なる慈善事業では事業継続性がありませんからね、仕方ないね。

 

 

「そんじゃあオイラはちょっとおねーさんがたの方に顔を出すかね。命の洗濯~」

「手前は瞑想するかのぅ」

「私はお姉さまの子供たちの様子を見てますね!」

 

 TS圃人斥候はロマの一団の中の娼婦たちのほうへとフラフラと向かい。

 半竜娘ちゃんは馬車の近くで自然の息吹を感じながら瞑想し。

 文庫神官ちゃんは、幼竜娘三姉妹の面倒を見ることにしたようです。

 

 

 

 

 

 

 

 そうやって暫しの休息を取ったら、ロマの侯爵に別れを告げて再出発です。

 

「さらばじゃ!!」

「ええ、また会う日まで、辺境最大の竜姫さん!」

 

 旅路を助ける交易神の奇跡【旅人(トラベラー)】と、風の精霊の【追風(テイルウィンド)】の加護と、そして麒麟竜馬の俊足とそれに耐えられる独立懸架式の頑丈な馬車があれば、普通は野営地から1日はかかる次の街までも、直ぐにたどり着けるはずです。

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 半竜娘ちゃんたち御一行は、街から街へと高速で麒麟竜馬に牽かせた独立懸架式突撃機動馬車を走らせ、各地の迷宮探検競技……に近い興行を視察していきます。

 

 

 

 

 

 

 

 例えば、貴族の城館の庭園迷路を開放した、非常にライトな迷路探索。

 

 冒険者ギルドの職員は国家公務員として貴族の子女が勤めていますから、冒険依頼(クエスト)として視察を斡旋されていることを利用して、運営している貴族にも繋ぎが取れました。

 今はその庭園を管理する貴族家に仕える使用人から説明を受けているところです。

 

「なるほど、見物人が上から見られるようになっておるのじゃな」

「その通りです。物見用の背の高い客席を迷路の側に用意しています。……本人の迷路体験もそうですが、競争競技にする以上は、やはり競い合うその様子を観戦いただかなければ、と」

 

 半竜娘ちゃんの感想に回答する使用人さん。

 複数の入り口から別々に挑戦者たちが入り、中央に辿り着くタイムが早いものが優勝、という競技形態のようです。

「確かに参加者の人数はどうしても限られるからのう。興行として人を集めるなら、観戦者を増やす方が有利、と」 屋台収入だとかを考えると人を多く集められるに越したことはありません。

「純粋に御家族や恋人に活躍を見せたい、という方たちもいらっしゃいますし、それに順位を上げるために迷路を破壊するような不埒者を見つけるためにも、物見用の設備は必要ですね」

「競技監督は必須というわけじゃな」

 

 そうでもしないと、例えば半竜娘ちゃんなら、魔力のオーラを纏っての祖竜術【突撃(チャージング)】で迷路を形作る生垣ごと突破する、なんてこともできちゃいそうですものね。

 あるいはTS圃人斥候であれば、その斥候の技術や、【手仕事】技能、【工作】技能を使って、ちょちょいと生垣に隙間を空けることもできそうです。

 もしくは森人探検家であれば、森人(エルフ)としての種族技能である植物への干渉によって、生垣の植物に退いてもらったり、道を教えてもらったりもできるのかもしれません。

 

「しかし観戦できるとなれば、上から見たあとに参加する者たちが有利になるのではないかの?」

「迷路の道順は、一部、移動可能なように鉢植えにしている生垣がありますので、それを動かすことで切り替え可能です。選手が控えに居るあいだに、順路の組み換えを行います。……ああ、もちろん正解順路の最短距離はほぼ変わらないように計算していますよ」

 

 他にも謎解き(リドル)に答えることによる近道(ショートカット)なども用意されているとのこと。

 難易度によっては、順路に番犬が放たれていたり、迷路攻略中にすら生垣を動かしたりもするのだとか。

 参加者や観客を飽きさせない工夫があるようです。

 

「……迷路の中に生垣を動かす者を送り込むにはどうしておるのじゃ?」

「実は地下に競技監督者用の通路が張り巡らされているのですよ」

「なんと、かなり大掛かりな仕組みなのじゃな」

「実はこの館は古い遺跡の上に建っておりまして。有事の際に備えて地下の遺跡に慣れておくための使用人たちの訓練、という側面もあるのですよ」

「なるほどのう……大変勉強になったのじゃ!」

 

 領民にとっては毎年の興行でもあり観光資源でもあり、有事に備えた使用人側の訓練という側面もあるようですね。

 何かコトがあれば、地下の遺跡に敵を引き込んで捕殺したり、あるいは逃走路としても使うということなのでしょう。実践的な避難訓練というわけです。

 

 一石二鳥以上の意味を持たせることで、この庭園迷路を利用した迷宮探検競技は長く続いてきたのでしょう。

 

 そうやって運営のコツや、これまでに困ったことやその解決策についてヒアリングすれば、文庫神官ちゃんが綺麗にレポートに纏めてくれるので、それを西方辺境のギルドの受付嬢さん宛てに送ります。お仕事ヨシ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 また例えば、もっと驚かしに特化した地場のお祭りもありました。

 土着の信仰における『死者が戻る日』……いわゆる万聖節前夜(ハロウィーン)に合わせて行われるそれでは、モンスターに扮した兵士が、周辺の村を回って子供たちを追い立て、非常時の避難場所である代官屋敷であったり出城であったりまで子供たちを走らせるのだとか。

 凶事の先触れとして、悪鬼の扮装で混沌のスパイをしていた祖霊が、子孫に危難を伝えるために舞い戻るのだとかなんとか。

 これも云わば、避難訓練の一種ですね。

 

 そして子供たちが追い立てられた先では、怖い思いをさせた詫びというか、無事に避難訓練ができたご褒美に、豪華な料理がお出迎え、というわけです。

 ご飯の準備についても、炊き出しの訓練を兼ねているのでしょう。

 

 驚かされる子供たちの中には、これがトラウマになる子たちも居るみたいですね。

 ……さもあらん。

 

 なお半竜娘ちゃんがお手伝いとして参加し、割とガチ目に強者のオーラを振りまきながら追いかけたため、叱られが発生した模様。

 

「やりすぎですよ、冒険者殿!」

「ぬぅ、しかし本気でやらねばこういうのは意味ないじゃろ……」

「それでも巨大化して蒼い炎を吹いて大声で笑いながら追いかけてくる悪魔の仮装の蜥蜴人なんて、驚かすにしても行き過ぎです! 本気で怖がって逃げ散ってしまって、一時期行方が分からなくなった子まで出たんですよ!?」

 

 そらそうよ。まあ、トラウマになるよね。残当。

 “幸い、そちらの一党の斥候さんがすぐに見つけてくれたから大事にはなりませんでしたが……” と言いつつもこんこんとお説教するこの地の代官さんに、半竜娘ちゃんも流石に反省したのか、できるだけ背を小さく丸めてしゅんとしてしまっています。

 

「はい……反省しておりますのじゃ……」

「まあ今回限りのお手伝いさんということで参加いただきましたが、どうにも貴女はやりすぎる傾向があるご様子。……今後のご自身のためにも! そういったところは直すことをお勧めします!」

「はいなのですじゃ……」

 

 しょぼしょぼする半竜娘ちゃんに対してお叱りをしているお代官様に、一党の仲間たちからも『もっと言ってやってくれ』という感じの視線が突き刺さります。

 そうなんです、半竜娘ちゃんはときどきやり過ぎることがありますからね。一党の皆としても若干思うところがあったようです。

 

 まあ、文庫神官ちゃんなんかは、「そういうところもひっくるめて、お姉さまの魅力なのです!!」 と思っていそうな顔をしていますが。

 それに思い切りが良いのもまた、半竜娘ちゃんの良いところですからね。長所と短所はある意味で表裏一体です。

 

 とりあえず、このお祭りからは仮装のノウハウと、パニックになり過ぎない程度のちょうどよい驚かし作法についてヒントをもらいました。ではレポート送付!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そうやって幾つもの迷宮探検競技的な興行やお祭りを視察しつつ、半竜娘ちゃんたちはいよいよ本命の催しをやっている街までやってきました。

 受付嬢さんからの依頼情報によれば、拠点(ホーム)にしている辺境の街で開催予定の、辺境の街版『迷宮探検競技』の形態に最も近いと目されているのが、この街の催しだとのことです。

 

「ここがその街なのじゃな……!」

 

 牙の街(ファング)と呼ばれることもあるこの街は、迷宮探検競技の本場として有名です。*1

 かつてどこかの土地で、一万枚の金貨と開拓村の永久統治権をエサに開催されたという、生還不能の超絶難易度を誇った『毒牙の迷宮』の踏破を目指す残虐なる『迷宮探検競技』の正当後継者を自称するのが、この通称牙の街(ファング)の迷宮探検競技です。

 まあ()()なので、元祖●●とか、本家●●、みたいなよくある謳い文句だと思っていただければ、そう外れてはいないでしょう。つまり、真相は誰も知らない、というわけです。

 

 

 さあ、すぐ行こう。いま行こう、いざ迷宮探検競技!! と、意気揚々と選手登録(エントリー)に向かった半竜娘ちゃんたち御一行でしたが……。

 

 

 

 

「あー、そりゃ、あの火吹山の闘技場の新人王、かの高名な鮮血竜姫(ブラッディドラキュリーナ)に参加してもらえるなら、うちの街としても光栄だが……」

 

 牙の街の迷宮探検競技の受付を務める男が、言葉を濁します。

 

「……只人(ヒューム)用に通路だなんだの大きさは調整しちまってるからなあ。

 あんたのその身体の大きさじゃあ、途中でつっかえちまうぜ? 悪いことは言わねえから、攻略参加はお仲間に任せて、今回は観戦だけにしときなよ」

 

 ぎゃふん!

 

 というわけで、今回はここまで。

 「なん……じゃと……」 と愕然としている半竜娘ちゃんを背景に、ではまた次回!

 

*1
◆牙の街ファング:独自設定。出典としては、ファイティングファンタジーシリーズで、死のワナの地下迷宮や迷宮探検競技の舞台となった、アランシア大陸のチャンマイ地方にある都市ファングより。そこを統治するサカムヴィット・チャラヴァスク公は、決して生きて出られぬ罠だらけの地下迷宮を造り上げ、高額の懸賞金をエサに挑戦者を募った。原作小説13巻においても、受付嬢さんの迷宮探検競技(辺境の街版)開会の口上で、「この毒牙の迷宮から生還した者には金貨一万枚と~~」という言及がある。なおその死のワナの地下迷宮だが、一度踏破されたあと改修され、パワーアップして復活する。サカムヴィット・チャラヴァスク公の執念の賜物である。




 
引き止められたにもかかわらず、このまま無理に牙の街(ファング)の迷宮探検競技に参加すると、狭い腹這いの順路あたりで尻尾がつっかえてしまって、にっちもさっちもいかなくなっちゃう半竜娘ちゃんの姿が見られることになります。

=====

◆ファンアートご紹介!
葛轍偲刳様から今度は文庫神官ちゃん(舎弟どもを躾ける鬼軍曹モード)と森人探検家さん(金貨を神殿に奉納するにときの正装的な)のとっても素敵なファンアートいただきました! 許可を得てご紹介させていただきます。ぜひぜひリンク先をご確認ください。葛轍偲刳様、今回もありがとうございます!

【ファンアート】文庫神官
https://www.pixiv.net/artworks/116630115
半竜娘ちゃんが銀等級になって郎党(クラン)を結成して以降、クランの下っ端には鬼軍曹的に認識されている文庫神官ちゃん。平気で手足の一本二本斬り飛ばしてくる上に、ガチタンクなので新人舎弟どもの打点はほぼ通らないという理不尽。下っ端視点の絶望感が感じられてとっても素敵…!

【ファンアート】森人探検家
https://www.pixiv.net/artworks/116657648
金貨に目を輝かせる俗物エルフな森人探検家さん。奉納の際なのでおしゃれ着してらっしゃるようでカワイイですね! あと多分金貨の海で泳いで功徳を積むための交易神殿指定の露出多めの衣装は実際あると思います(リンク先3枚目)。女神官ちゃんも地母神への奉納演舞でスケスケひらひら衣装着てるし、至高神に仕える剣の乙女さんの神官衣装はスリットえぐいし、各神殿にそれぞれそういう系統の衣装がありそうな気がしなくもない。

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◆ダイマ!!

原作コミックスがそれぞれ2024/3/25に一斉発売だ! 本編コミック版15巻に、イヤーワン12巻、ダイ・カタナ7巻、原作小説12巻のコミカライズであるデイ・イン・ザ・ライフ2巻の4冊が出ますぞ!

以下、各巻のフェア情報リンクです。
・原作コミック 15巻 → https://magazine.jp.square-enix.com/top/event/detail/2939/
・外伝1イヤーワン 12巻 → https://magazine.jp.square-enix.com/top/event/detail/2942/
・外伝2ダイ・カタナ 7巻 → https://magazine.jp.square-enix.com/top/event/detail/2940/
・デイ・イン・ザ・ライフ(原作小説12巻コミカライズ) 2巻 → https://magazine.jp.square-enix.com/top/event/detail/2941/
 


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43/n 『迷宮探検競技』を視察せよ!-3(四姉妹です!!!)☆AI挿絵あり

 
◆前話
規格外な体躯を誇る半竜娘ちゃんは、そのサイズが原因で、牙の街ファングの迷宮探検競技を門前払いされてしまいましたとさ。
半竜娘ちゃん「ぬぅうう、じゃが、この程度では諦めんぞ!!」


====
 
※AIさん(DALL・E3)に出力してもらった挿絵あり(マス)
 


 

 

 

「お、昨日の鮮血竜姫サマ御一行じゃねえか。ご本人の参加が難しいのは街としても残念だが、その分、お仲間さんたちの参加は大歓迎だぜ。………へぇ、そっちの小さい蜥蜴人の嬢ちゃんたちは、鮮血竜姫のお弟子さんかい? まさか娘だったりしてな! はっはっは」

 陽気な口調で言うのは、迷宮探検競技の受付をやっている男です。

 

「まあそんなところじゃ」 「「「 そんなところじゃー 」」」 「………()()()()()()()()()()()()()牙の街の迷宮探検競技を堪能させてもらおうと思っての」

 

「ふーん、分かったぜ。

 えーと、森人/女、圃人/女、只人/女の3人組がひと組と、

 蜥蜴人/女、蜥蜴人/女、蜥蜴人/女、()()()()()()/()()()()()()がひと組。嬢ちゃんたち4人は4ツ仔かい? 全員背格好もそっくりだな!

 さあ、これが参加者の割符だ。失くすなよ? じゃあ頑張ってくれよな」

 

 

 というわけで、結局、迷宮探検競技に参加することにしたのは、半竜娘ちゃんを除く一党の仲間の3人チーム── 森人探検家、TS圃人斥候、文庫神官── と、幼竜娘()姉妹………。

 

 あれ? 四姉妹……??

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

時間は少し遡り……

▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 はいどーも!

 無理難題であってもきっと解決できる、何故ならこの四方世界には、奇跡も魔法もあるのだから! な、実況、はーじまーるよー。

 

 前回は各地の様々な迷宮探検競技やそれに似たような催し(イベント)を視察して、それらのレポートを受付嬢さんにお送りし、ついには大本命である牙の街(ファング)までやってきたところですね。

 しかしエントリーしようとした半竜娘ちゃんを待っていたのは、何とも無慈悲な門前払い。

 いえまあ、物理的に通路につっかえる危険があるのであれば、それもまた致し方ないのですが……。

 

「しかしどうにか手前(てまえ)も参加したいのじゃ」

 

「別に中の様子は私たちが見るから貴女(あなた)は他にやれること探した方が良いと思うけど……」

 

 実際断られたのは半竜娘ちゃんだけですし、森人探検家さんの言う通り、他のメンバーは迷宮探検競技には参加可能です。

 ですから迷宮内部の様子は、一党の仲間である森人探検家さんや、TS圃人斥候、文庫神官ちゃんに体験してもらえばそれで足りると思われます。

 半竜娘ちゃんは半竜娘ちゃんで、その巨体とパワーを生かして荷下ろしや荷運びなどの裏方をやったり、あるいは呪文遣い(スペルリンガー)としての腕を生かして臨時の応援に雇われたりしても、または応急手当の腕前や治癒系の【奇跡(そりゅうじゅつ)】の腕を売り込んでも良いでしょう。

 

 挑戦者としての参加と、片や、裏方手伝いとしての参加。

 そういう役割分担をすればいいだけです。

 

「でも絶対に楽しいと思うのじゃよ! 初参加でなければできない新鮮な体験というものがあるはずじゃ!」

 

「そりゃそうでしょうけど」

 

「裏方に回ってしまうと手の内が見えてしまって挑戦するときの楽しみが半減じゃよ!?」

 

「と言っても、そもそも今のままでは貴女は挑戦すらできないんだから、別に良いんじゃない?」

 

 折角だから初回の何も攻略情報が分からない状態で迷宮探検競技に挑戦したいという半竜娘ちゃんに、森人探検家さんが、「あきらめたら?」と窘めます。

 

 

「いーや、諦めぬのじゃ……こう、何かまだ手が……。ああ、慈母龍/良母竜(マイアサウラ)の導きぞあれ……」

 

「リーダーもオイラくらい小さければ入れただろうになー」

 

「ですねえ。お姉さまの子供たちくらいなら、むしろ狭い通路に入るにはちょうどいいくらいですけれど。まさか若返るというわけにも……」

 

 そのとき半竜娘ちゃんに電流走る……!

 

「それじゃ!!」

 

 え、どれです??

 

「過去に将級悪魔(アークデーモン)から吸い上げた、彼奴(きゃつ)らの魔力構成体である化身(アバター)の構造に関する知識。そしてかつての大家の魔女殿とともに研究した*1、己の魂の履歴を参照することによる、真言呪文【分身(アザーセルフ)】の呪文の派生形……! これを使うときが来たというわけじゃな! 必要な触媒は……金縁の鏡!」

 

 早速、術の触媒になる金縁の鏡*2を買いに市場へと向かった半竜娘ちゃん。

 

「ま、待ってください、お姉さま!?」 そしてそれを追いかけて文庫神官ちゃんもこの場から走り去りました。

 

 

 

 

 

「………行っちまった。じゃー、オイラたちは宿に行っとくか、エルフパイセン」

 

「………私はこの街のローグ・ギルドに面通ししとくわ。悪いけど、おチビちゃんたちと馬車をよろしくね。あ、もちろんきちんとした馬房付きの宿じゃないと承知しないわよ?」

 

「はぁ、そうかい。おーらいおーらい、こっちは任せな」

 

「じゃ、頼んだわねー」

 そう言って、ひらひらと手を振りながら街の雑踏へと消える森人探検家さん。

 ローグ・ギルドとの伝手(つて)で情報を得るのは、近づくべきではない街の悪所などを知り、危険を避けるために必要。蛇の道は蛇、というわけですね。

 

「はいはーい、いってらー」

 いっつもこーいう流れだよなあ、と思いつつも、宿屋の亭主をしている圃人(レーア)の同胞は多いことから、適当な役割分担であろうとはTS圃人斥候自身も納得済みです。

 TS圃人斥候は、既にこの間のロマの野営地での圃人(レーア)同士の口コミで良い宿の目星はつけているので、馬車を操る手綱さばきに迷いはありません。流石、斥候職は抜け目ないですね。

 

 

 

 TS圃人斥候は、麒麟竜馬に牽かせた馬車を目当ての宿へと走らせます。

 牙の街は、迷宮探検競技の催しが近いからか、かなりの往来があるようです。まあ、普段の様子が分からないのでなんとなくの感触でしかありませんが。

 これに合わせて市も立っているようでしたしきっと半竜娘ちゃんが探している触媒とやらも見つかることでしょう。

 

 馬車の窓から幼竜娘三姉妹がひょっこりと顔を出しました。

 

「おかーさんはお買い物ー?」 「迷宮探検競技はー?」 「わたしたちもエントリーしたい!!」

 

リーダー(お前らのおかーさん)は、鎧のねーちゃんと一緒に買い物。金縁の鏡がどうとか、魔法の触媒にするとか言ってたな。

 迷宮探検競技のエントリーは保留中。リーダーが道に詰まるからって受付でハねられた。何とかするアテはありそーだったが。

 お前たちの参加はー……できるのかね? 年齢制限があるとは聞いた覚えはねーし、お前らは成長早くて体格がいーから、ギリ、蜥蜴人の成人って言い張れなくもねーかもなー」

 

「「「 わーい! 」」」

 

「せっかくだからお前らも出られるといーなー」

 

 

 

 

 

「………さて、迷宮探検競技の開催期間だし、高くても良いから、いい部屋が空いてると良いんだがねぇー」

 

「お城のドラゴンさんと同じくらいいい宿?」 「わぁ! それだったら良いな!」 「ふかふかの寝床に美味しいごはん!」

 

「んんんーー! 城塞竜(キャッスルドラゴン)城塞の精霊(ハイ・シルキー)のおもてなしを標準にするのは良くねーぞーぉー??」

 

「「「 えーーー!? 」」」

 

 と言っても、こういう時にまで残ってるのはだいたいお高い部屋なので、仮に適当に借りてもそう変な部屋には当たらないでしょう。

 半竜娘ちゃんたちは、在野最高等級の銀等級冒険者ですし、黒竜から分捕った財宝を運用している大金持ちですし、砂塵の国で金字塔(ピラミッド)を浄化したときの報酬もたんまりですから、いい部屋を取ったところで大してお財布へのダメージはありません。

 むしろこういう時に使わないでいつ使う、という感じですね。……というか、麒麟竜馬だの突撃機動馬車だの財宝だのを抱えた一行が、安宿に泊まるのはセキュリティ的に問題がありますし。

 

「まー、飯が美味いのは保証するぜ。なんてったって、圃人(レーア)が亭主をやってる宿だからな!」*3

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 というわけで、高級宿屋の続き部屋(スイートルーム)に投宿した半竜娘ちゃんたち御一行。

 

「無事に金縁の鏡を手に入れたので、これを使って、特別な【分身】を造るのじゃ!」

 

 フンスと鼻息荒く金縁の鏡を掲げる半竜娘ちゃん。

 さすがに豪華な部屋とはいえ、彼女が立ち上がって手を上に伸ばせるほどのスペースはないので、座っての作業になりますが。

 

 そんな彼女に対して『わー、ぱちぱちぱち~。』と拍手するのは、幼竜娘三姉妹と文庫神官ちゃんです。

 

「迷宮に潜れるコンパクトな分身ということですね、お姉さま!」

 

「うむ。それに我が子らも迷宮探検競技に挑戦したいというので、ついでにそのお目付けも兼ねさせるつもりじゃ」

 

 おお、幼竜娘三姉妹たちも、保護者付きならということで、迷宮探検競技に参加できるようです。

 まあ、少々危険ではありますが、蜥蜴人にとって危難に身を投げるのは誉れでもありますし、滅多にできない経験ですからね。

 この機会を逃すのも惜しいということでしょう。

 

「それに辺境の街でギルドが企画しておる『迷宮探検競技』は、新人にもならぬ冒険者志望(ニュービー)たちへのチュートリアルじゃというではないか。それなら対象顧客(ターゲット)としては我が子ら程度の位階(レベル)でちょうど良いというもの。娘らの感想も貴重な情報になろう」

 

 おお。きちんと考えての幼竜娘三姉妹の参加というわけですね。

 

 

「んで、そのお目付け役の本人はどうやって参加する気なんだ、リーダー? でっかくなるのと逆の、小さくなる呪文でも使えるようになったとか?」

 

「当たらずとも遠からずじゃな。分身の構造を弄って、魂が記憶している在りし日の姿をもとに変容させるのじゃ。実戦投入できるほどに習熟しておらんから、こうやって高い触媒も要るし、静かに集中する必要もあるというわけよ」

 

「ほーん。そしたら本体はどっかで観戦でもしてる感じで、迷宮探検競技に挑戦するのは、その、あー、昔日の分身? になるってことか」

 

「然り」

 

 半竜娘ちゃんは、金縁の鏡を自分の前に置きました。

 

「分身が挑戦しておるあいだは、手前はどこかで暇をつぶそうと思うのじゃ。──── どうやら、件の迷宮探検競技には、この牙の街の異名の元となった『牙の塔』なる養成所だか戦術技巧所だかが、遠見の魔導具だとかを提供しておるそうじゃと市場で聞いたのじゃ。あの勇者一行の 〈賢者〉 とも関係があるというし、何か知見が得られないか訪ねてみるつもりじゃよ」*4

 

「さてではお立合い。昔日の己の影を呼び出す我が手妻をご覧あれ。

 ユウェンス(若き)アンブラ(影よ)ザイン(在れ)! 出でよ【 幼 影 (ヤングアザーセルフ)】!!」

 

 

 術の触媒にされて砕けゆく鏡の中から現れたのは、幼竜娘三姉妹と同じ年頃の半竜娘ちゃんの分身体でした。

 

 ということで、今回はここまで。

 このあと冒頭の通りに無事にチーム登録できたので、次はいざ迷宮探検競技! になるはず。ではまた次回!

 

*1
◆化身と分身呪文の研究:過去話『34/n 裏-2(秋から冬の間のあれこれ)』あたりの話です。

*2
◆金縁の鏡(Gold-Backed Mirror):ゲームブック『ソーサリー』に登場する呪文、KINの触媒。金縁の鏡に映した敵手の分身を創り出して戦わせ、オリジナルと分身で同士討ちさせる。おそらくゴブスレのアザーセルフの呪文の元ネタの一つ。消費体力点1で使えていいのか? この呪文。

*3
◆圃人の亭主:圃人(レーア)は一日に5食食べる。つまり、一日に2食や3食の他の人種より、1.6倍~2.5倍、料理の経験値を積む機会があるということ。そして、たくさん食べる機会がある分、美食への探求心も高いというわけだ。食べる機会が多いのに不味い飯だと食ってられないので。レーアの宿にハズレなし。

*4
◆牙の塔:勝手に賢者ちゃんを『牙の塔』なる養成所の出身にしています。元ネタはもちろん魔術師オーフェンの牙の塔。オリ設定なので、ゴブスレ原作にはそのような話は出てきてないはずです。でも賢者ちゃんはあれだけ若くして多彩な術を使えるので、そういう対混沌用の魔術師養成組織のトップエリートとかいう出自があってもおかしくないな、と。なお牙の街ファングと牙の塔でたまたまゴロが合ったのでここにあることにしただけで、両者の関係に深い意味はないです。




 
◆ダイマ!!

原作コミックスがそれぞれ2024/3/25に一斉発売されてます!
以下、各巻のスクエニ公式ページへのリンクです。
・原作コミック 15巻(一番画面映えすると勝手に思っているエルフの森編が黒瀬先生の筆で!? 素晴らしい……) → https://magazine.jp.square-enix.com/top/comics/detail/9784757591172/
・外伝1イヤーワン 12巻(片方ずつ目をつぶって寝る技能をエルフ剣士さんからラーニング) → https://magazine.jp.square-enix.com/top/comics/detail/9784757591189/
・外伝2ダイ・カタナ 7巻(こっちもこっちで迷宮探検競技へつながる話。幼き日の剣聖ちゃんも出るぞ) → https://magazine.jp.square-enix.com/top/comics/detail/9784757591196/
・デイ・イン・ザ・ライフ(原作小説12巻コミカライズ) 2巻(密偵くんたち仕掛人一党が漫画媒体へ初エントリーだ!) → https://magazine.jp.square-enix.com/top/comics/detail/9784757591202/
 


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43/n 『迷宮探検競技』を視察せよ!-4(メダルを集めよう!)

 
◆前話
四ツ仔の四姉妹です!!!
※半竜娘ちゃんのロリ分身の召喚シーンは、鏡の中から幼女半竜娘ちゃんをズルリと引っこ抜くのと、通常分身ちゃんを物理(フォース)()()()()()()()()()()()()のとどっちがいいか最後まで迷っていましたがダイスの導きで前者になりました。
 
幼女分身ちゃん「実は紙一重じゃったのじゃ!?」
本体半竜娘ちゃん「鏡から引きずり出すのもなかなかヤバいがのう、魂のリソースを削る的な意味で。じゃが、若返った分身を造る呪文は、洗練され完成された呪文ではないから、世界を騙すためにも通常の【分身(アザーセルフ)】よりももっと原義的で原始的な儀式を経る必要があったのじゃよ。面倒じゃが、単に魔力体を出して終わりとはいかん………」
 
そう言って彼女は、()()()()()()()己の影を見下ろした。洗練されていない原始的な手法の術によるリスクがこれだ。分身が逃げたり、あるいは奪われたりして『影』を回収できなければ、永続的に魂魄値や呪文使用可能回数を失う恐れがあるだろう。

 


 

「迷宮探検競技の最奥までようこそ、可愛らしい竜の四姉妹よ。それで、証となるメダルは幾つ持ってきたかね?」

 

「証のメダル……?」 「あっ、これかな」 「全部で三つあるであります! 試験官殿!」

 

「……あぁ、やはりか。残念。いやにタイムが早いからもしやとは思ったが……お嬢ちゃん方、メダルは三つじゃ足りないんだ」

 

「「「 ええええええっ!? 」」」 「あー、であろうのぅ」

 

 

 

 はいどーも! 一筋縄ではいかない迷宮探検競技、はっじまってるよーぅ。

 

 前回は迷宮探検競技に参加するために、若返らせた分身を魔術で鏡の中から引きずり出して、選手登録をしたところまででしたね。

 

 

 数多の罠を潜り抜けて迷宮の出口付近までやってきた幼竜娘三姉妹+幼女化半竜娘ちゃん(分身体)を出迎えたのは、この迷宮探検競技の最終試験官でした。

 突入前に受けた競技の説明では、運営は『奇数個のメダルを集めることがクリアの条件』ということを言っていました。

 

 ただし奇数個であればなんでも足りるとは言っていない。

 

「迷宮内には全部で九つのメダルが隠されている。その全てを集めることが、この最終チェックポイントの通過条件だよ。

 ………ああ、もちろん、この私を倒して、力づくで通過しても構わないが?」

 

 最終試験官の魔術師然とした男は、不敵に笑った。

 この最終試験官の男は、牙の街ファングにある魔術師養成機関『牙の塔』の所属の講師だ。

 彼の首から提げられた特徴的な意匠の首飾りがその証明である。

 

 そして『牙の塔』と言えば、あの当代最強の冒険者である白金等級の勇者一行の参謀役たる賢者の出身でもある。

 対混沌(アンチ・ケイオス)の研究の最尖峰。そんな『牙の塔』のトップは、盤の外に至って舞い戻った次元渡航者(プレインズウォーカー)であるとかそうでないとか……。

 古の魔術師の時代の叡智を色濃く残すその研究養成機関の最高傑作こそが、あの賢者なのである。

 

 最終試験官であるこの男は、そんな『牙の塔』で講師を務めるほどの練度と見識があるのだ。

 

 専攻は魔導具と迷宮築城。

 彼はエンジニアなのだ。

 ……技術者だからといって、戦えないとは言っていないが。『牙の塔』の叡智は、マギテックの系譜も引き継いでいるがゆえ。

 

 

 ──── というわけで、最終試験官の彼を力づくで突破する方が、迷宮を逆走してメダルを集め直すよりも難易度が高いだろうと思われるわけですね。

 “私の作った迷宮より、この私が弱いと思ったか?” という具合でしょうか。

 

「……まあ、タイムアタックをしているのであれば、突破一択なのじゃが」

 

 RTA編が終わっていて良かったな!

 そうでなければ蜥蜴人の本能のままに、迷宮探検競技という枠組みを無視して、戦いを挑んでいたでしょうから。

 

 

「ふぅむ。四姉妹、と思いきや、君だけは力を圧縮した魔力分身体か。保護者の付き添いというわけだな」

 

「流石鋭いのう。この迷宮を創り、外部中継用の魔導具を作った術師なだけはあるのじゃ」

 

「………そういえば、『鮮血竜姫』なる冒険者が牙の塔を訪れるとかでアポイントが入っていたか。珍しく外部の者が来ると生徒(ひよっこ)どもが騒いでいたが、そちらの来訪者が君の本体だな?」

 

「ご賢察じゃのー、どうにも耳(さと)いようでいらっしゃる。分身ではあるが、手前(てまえ)も迷宮を楽しませてもらっておるよ、ダンジョンマスター殿。機会があればあとで語り合いたいものじゃ」

 

「それはこちらも望むところ。ユーザーの声は大切だからな、牙の街(ファング)滞在中にアポイントメントを取ってくれれば応じよう」

 

「それは僥倖。ではあとでな」

 

 

 優れた術士との語らいの機会は貴重ですからね。

 迷宮にサイズの問題で入れなかった半竜娘ちゃん本体が牙の塔を訪ねているのも、そういった出会いを求めてのこと。

 求めるのは研究者との出会いであり、そして古代からの書物との出会いでもあり、それらの研究成果との出会いでもあり。

 

 半竜娘ちゃんは火吹き山の魔術師の運営する闘技場都市に併設の図書館でも知識を集めていますし、辺境最強のペアの片割れである魔女さんとの語り合いや、その魔女さんの紹介で魔法使いや死霊術士が集まる魔女集会(サバト)で意見交換をしたりもしています。

 または精神干渉の真言で、召喚した魔神から幾何かの正気を失うリスクと引き換えに深淵の知識を得たり。遺跡に潜って太古の遺物を得てそれを解析したり。

 

 基本的には真面目でストイックな半竜娘ちゃんは、身体を鍛えるのみならず、知恵を蓄えることにも貪欲です。

 

 なにせ目指すはその身を竜と成すこと。

 

 城壁より硬い鱗。

 騎士の剣より鋭い爪。

 全てを焼き尽くす炎毒の吐息。

 賢人にさえ知恵を授ける頭脳。

 無限の体力と魔力、そして地を砕く力に、空を統べる翼。

 

 真に竜にならんと欲すならば、幾ら鍛錬をして研究を積み重ねても、足りないことはあれど十分ということはないでしょう。

 

 新しいものを得る機会を逃すなんてことはあり得ません。

 

 なにせ祖竜の末裔であるということは、最新の竜であるということです。

 適者生存の理を思えば、はるか古の霧荒(MUALA)の星の失墜*1に、悪魔の尾(チクシュルーブ)、そして凍れる滅びの昏き日々を生き延びた蜥蜴人こそが、適者生存の観点からは祖竜よりも強かったということ。

 滅びを踏み越えたその最適解(つよさ)をそのままに、かつての祖竜の威光を宿す。

 最新にして究極至高の竜となるためには、あらゆるものを積み重ねる必要があるのですから。

 

 

「おかあさま! 早く行こう!」 「急がないと! 入賞できなくなっちゃう!」 「ハリー! ハリー! ハリアッ(Hurry up)!」

 

「いま行くのじゃ! 直ぐに追いつく!

 ………ではな、ダンジョンマスター殿。全ての証を集めたあかつきには、きっとまた会おう」

 

「うむ。気張ると良い、挑戦者よ。そして、その様子は私の魔導具によって外に中継されていることを忘れるな。衆目に恥じない迷宮探検(ダンジョンアタック)を」

 

 

 幼竜娘三姉妹に急かされて、四人目の幼竜娘(幼女化半竜娘ちゃん)は元来た迷宮回廊へと戻っていきます。

 これから逆走して、迷宮に隠された残り6つのメダルを探さなくてはいけないのです。

 

 ちなみに、この試練用の迷宮ですが、ミニチュアに違う方向から光を当てて複数の影を作るのと同じ要領で、幾つか同じものが複製されているとか。

 同時進行形で幾つものチームが、それぞれに異なる『影』として投影された迷宮を攻略しているようです。

 そしてその様子は興行として観客たちに中継されている、と。

 

 最終試験官の彼が単独でそれほどの大規模な術を維持している……というわけではないのでしょうが、牙の塔の術師が数十人がかりで維持しているとしても、それでも信じられないほどに高度な業です。お見事!

 

 つまり、安心してぶっ壊して良いわけですね?

 まあ、影の迷宮だからと言って、壊してぶち抜いてしまうのは流石に最終手段ですが。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

一方その頃……

▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

「おまっ、タンク後輩?! そこ踏むなっつったろうがああああ!!?」

 

「ごっ、ごめんなさーーーーい!!」

 

「そっちに横道の小部屋があったはずよ! 急いで!」

 

 同時並行的に同じ迷宮から作られた『影』を攻略しているTS圃人斥候、文庫神官、そして森人探検家のチームは、迷宮の通路を転がる大岩に追いかけられていました。定番の罠ですね。

 

 どうやら器用値が低い文庫神官ちゃんが、罠回避判定に失敗してしまったみたいです。

 この一党では稀によくあることですが、自分不器用ですから……で済まないのが迷宮探索です。

 

「飛び込むわよっ!」

 

「あー! その部屋まだクリアリングしてねえ! 罠とモンスターに注意ッ!」

 

「ひぃっ、はあっ、はあっ」

 

 慌てて小部屋に飛び込んだ種族混成の3人の後ろを、ガラゴロと轟音を立てながら巨大な岩が転がっていきました。間一髪。

 

 どうやら罠はなく、部屋に入った途端に落とし穴、ということもありませんでした。

 

 ですが小部屋には先客がいました。

 

 

 ──── GRRRRRRRR………!!

 

 

「ちぃっ、魔犬(ヘルハウンド)かッ!」

 ちらりと視線を走らせただけでTS圃人斥候は先客の正体を看破しました。虎か獅子のような大きさの魔犬です。

 この三人の中では一番、魔術師としての技量が高いためか、怪物知識判定が通ったようです。

火炎の吐息(ファイアブレス)が来るぞ!!」

 

 ──── GRAAAAWWWAAAOOOONNN!!

 

 

 地獄から呼び出された大きな犬の悪魔が、舌を出す代わりに炎を吐きます。

 

「壁走り……! 三角飛び!」

 それを見届けるまでもなく、TS圃人斥候は跳躍して壁を蹴って天井を蹴って、炎の射線から逃れます。

 

「むんっ! この程度の炎は通しません!」

 TS圃人斥候の後ろにいたのは文庫神官ですが、手にした盾を構えて、灼熱のブレスを受けきります。

 

「でかしたわ。さあ、攻撃は任せなさい!」

 文庫神官に庇われた森人探検家は、既に弓を引き絞っています。

 そして矢が放たれました。

 

 ──── KYAOWWNN!!?

 

 目にも止まらぬ早業で放たれた森人探検家の矢が、魔犬の眼窩に突き立ちます。

 しかし、魔神の端くれであるヘルハウンドは、目を失った程度では怯みませんでした。

 

 逆に闘志と憎悪を燃え上がらせて、残った目玉で森人探検家を睨む魔犬。

 

 その犬の魔神(デーモン)の瞳には、もはや盾を構える只人の騎士とそれに庇われるエルフの弓師、2人の女しか映っていません。

 

 小柄な圃人の斥候のことなど、認識の外です。

 

「隙だらけだぜ、っと!」

 三角飛びの要領で壁と天井を足場にしてブレスを回避したTS圃人斥候が、不意打ちでヘルハウンドの上から降ってきました。

 その手には小部屋の薄暗い明りを照り返して輝くショートソードが。

 

 

 ──── GYAINN!!?

 

 TS圃人斥候の剣が、魔犬を貫きました。

 痛みに驚き叫びを上げる魔犬ですが、まだ生きています。

 TS圃人斥候の出目が悪かったのか、魔犬の出目が良かったのか。

 

「悪い、殺しきれなかった! トドメを頼む!」

 

「了解です、いきますッ!!!」

 

 炎を受けるために構えた盾をそのままに、文庫神官が脚に力を入れました。

 弾けんばかりに膨れ上がる太腿。

 刹那の後に、バネのように蓄えられたその力が解放されます。

 

「ハアアアアアッ! シールドバッシュ!」

 

 ──── GYAOWNN!!? 

 

 暴走馬車に跳ねられたかのように吹き飛ぶ魔犬。

 大砲の玉のように飛び出した文庫神官が構えた盾によって弾かれ、轢かれたのです。首の骨があらぬ方向に曲がっています。

 

 さしもの犬の魔神(デーモン)も、この弓に剣に盾打ち(タックル)にと続けざまの三連撃には耐えかねたのでしょう。

 吹き飛びながらその存在を薄れさせていくのでした。

 

 

 

 ──── チャリン♪

 

 消滅した魔犬の身体があった場所から、軽快な音とともにメダルが落ちました。

 どうやらこの怪物もチェックポイントの一つだったようです。

 

「ああ、焦ったぜ。……これでメダルは何枚目だっけかー?」

 

「確か6枚目だったかと」

 

「奇数枚数集めるんだっけか……。5枚で終わりかと思ったが、そうじゃねえってことは、いったいあと何枚集める必要があるんだか。あと1枚か、3枚か、それとも5枚か……」

 

 この迷宮に何枚のメダルが隠されているか、何枚集める必要があるかは最終試験官の男しか教えてくれません。

 そのため、まだ最奥に辿り着けていない3人には、集めるべきメダルの枚数が分からないのです。

 

「まだまだ先は長いのかもねえ」

 

「お姉さまとあの子たちは無事でしょうか………。思った以上に危険な迷宮ですし、心配です」

 

 というところで、今回はここまで。

 ではまた次回!

 

*1
◆霧荒星:ゲームブックのドルアーガシリーズの呪文MUALA(ムアラ)。つまり彗星/メテオの呪文。ゲームブックのパンタクルのシリーズにも霧荒星の呪文として言及がある。四方世界においては、次元の壁を超える三つの禁忌呪文(時空を超える次元門(ゲート)、異界のデーモンコアの力を呼び出す核撃(ティルトウェイト)、そして異次元の果てから彗星を呼び出す霧荒星(ムアラ))のうちの一つ。




 
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