とある魔術の野比のび太外伝 とある魔術の幻想殺し (霧雨)
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とある暗部の幻想殺し

◇8月某日

 

 それは科学と魔術が交差する、または半原石の眼鏡の少年が学園都市へとやって来る1年前の出来事であった。

 

 

「下がって!くそ、ショック症状が出てる。とにかく我々に任せてください!!」

 

 

 デッドロックとの戦いが終わった後、中学3年生の少年──上条当麻の手足は見たこともないくらい不気味に痙攣していた。

 

 救急隊員の切羽詰まった声に、普段から流血に慣れている筈の彼らから見ても、まともな状態でないのは想像できた。

 

 だからこそ、思わず中学1年生の少女──食蜂操析は口を出してしまう。

 

 

「お腹の辺りに、燃料タンクが破裂した時の鋭い破片が刺さってるの。これだけでもなんとかしないとぉ・・・。」

 

 

「分かっています!だけど現状では無理なんです。ショック症状で体が痙攣しているからこんな状態で処置を施せば余計に傷口を広げてしまう!」

 

 

「病院まで待てない!なんとか麻酔力とかでなんとか出来ないのかしらぁ!?」

 

 

「ショック症状の原因は血圧の低下なんです。麻酔なんて使ったら益々下がる。ショック症状を止めるために彼の息の根まで止めてしまいかねない!そんな危険な方法は使えません!!」

 

 

「・・・」

 

 

 救急隊員は無線を使って搬送先の病院と連絡を取り合っているようだが、こちらは芳しくない。

 

 どうやらたらい回しの対象となっているようだ。

 

 このままでは間に合わないだろう。

 

 そして、彼は死ぬ。

 

 奥歯を噛み締めながら、食蜂は提案した。

 

 

「麻酔を使わずに痛みを消す方法があれば、この場で処置は出来るのかしらぁ?」

 

 

「何を・・・」

 

 

「私は心理掌握(メンタルアウト)超能力(レベル5)判定の精神能力を持っているわぁ。それを使えば、痛覚の遮断くらい手が届くんだゾ。それならこれ以上、血圧を低下させることなく、麻酔を施したのと同じように処置が出来る筈よぉ」

 

 

 僅かに救急隊員は旬順した。

 

 マニュアルの策定されていない間に合わせでギャンブルのように患者の命を救うこと。

 

 そのために民間人の、それも子供の手を汚させるかもしれない事。

 

 色々な問題が彼の頭の中を渦巻いていたのかもしれない。

 

 だが、その隊員はいつまで経ってもまともな返事を寄越さない無線機のマイクをフックに叩きつけ、こう言った。

 

 

「やりましょう。可能性があるのならば」

 

 

 だが、この時、食蜂操析が救急隊員に告げていなかった事実があった。

 

 彼女の能力は脳の水分を操ることで人の心を制御する。

 

 極端に血圧の下がった、つまり水分のバランスが崩れた状況では万全の性能を発揮できる保証はない。

 

 後に、ある医者は語る。

 

 しかし、それは本来の世界で上条当麻が辿る筈のものとは違ったものだった。

 

 

『これは記憶の遮断、かな?処置を施すより過去の記憶とそれ以後の記憶が分断されているみたいだね。まあ、日常生活には支障が無いみたいだから大丈夫だと思うけど』

 

 

 かくして、上条当麻は本来の世界で辿る筈だった“記憶の部分的な障害”という現象からは逃れることができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、これは少年に1つの悲劇と1つの幸運を同時に与えることとなることは、その時、誰も知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇1年後 5月某日 学園都市 某学区 とある研究施設

 

 

「ひっ・・・ひぃ・・・」

 

 

 か細い悲鳴をあげながら研究者は逃げ回っていた。

 

 男はこの研究所の責任者だ。

 

 だが、この施設でやっていることはどう考えても非合法な事であった。

 

 暗闇の五月計画。

 

 置き去り(チャイルド・エラー)を使い、、一方通行の演算パターンを参考に自分だけの現実(パーソナル・リアリティー)を最適化しようとした計画の名称だ。

 

 当然、これは個人の人格を他者の都合で植え付けようという計画なので、非人道的な行為なのは言うまでもない。

 

 そして、それを嗅ぎ付けて彼らを直接、討伐に来た暗部が存在した。

 

 

「まさか、セイヴァーが現れるとは!?」

 

 

 セイヴァー。

 

 救世主の名を冠するそれは、学園都市副統括理事長(・・・・・・)直轄の暗部組織である。

 

 その性質は他の暗部とは少々違う。

 

 具体的には統括理事長直轄のメンバーや、各々の統括理事の管轄下にあるスクール、アイテム、ブロックなどはそれぞれアレイスターの言葉を受けたり、統括理事会の傘下にあるエージェントの依頼を受けたりして動くが、このセイヴァーだけは違い、かなり独善的に動く。

 

 それは例え、その非道な実験が統括理事会のバックボーンを受けていたとしても例外ではない。

 

 噂ではその原因は副統括理事長がかなり独善的な人物であるからだとも言われているが、そもそもこの男は副統括理事長どころか、統括理事の一部しか知らないので詳しくは分かっていない。

 

 いや、そもそもセイヴァーという暗部組織の詳細すら、よく分かっていない。

 

 人数も、権力も、戦力もどれ程有るのか?

 

 噂では第五位が所属しているということは聞いているが、逆に言えばその程度のものでしかない。

 

 しかし、いずれにしても男が危機的な状況にあることは確かだった。

 

 だが、それでもそれだけならば、男は悲鳴を挙げずに、秘密の地下通路から逃げ出す無様な様を見せるだけで済んだかもしれない。

 

 だが、間の悪いことにセイヴァーが襲撃してきたのとほぼ同時に被験者の一人であった黒夜海鳥が暴れだしてしまい、研究者を次々と殺し始めている有り様だった。

 

 なので、余裕がない研究員はこうして無様に悲鳴を上げながら逃げようとしていたのだ。

 

 まあ、もっとも──

 

 

 

 

 

 

「よう、始めましてだな。くそ野郎」

 

 

 

 

 

 

 ──逃げられるかどうかは別問題であったが。

 

 そして、ツンツン頭の少年は左手に持っていた拳銃の照準を研究者の頭へと向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして、さよならだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇数時間後 研究者 外

 

 

「おお!大将、戻ったか」

 

 

 暗部組織のセイヴァーのリーダー、上条当麻を出迎えたのは同じくメンバーの浜面仕上だった。

 

 浜面は元々、駒場利徳という男が率いるスキルアウトに所属していたのだが、とある事情で上条の軍門に下ることとなったのだ。

 

 そんな浜面は、上条が肩に抱えている一人の茶髪ボブカットの少女に注目する。

 

 

「大将、そいつは?」

 

 

「例の実験の生き残りらしい。他の奴も居たけど・・・まあ、逃げられたからこの子だけを救出したんだ」

 

 

「そっか」

 

 

「それより、浜面。下部組織の奴等に連絡して此処の始末を頼む。食蜂も後で来るだろうから送ってやってくれ」

 

 

 上条はそう指示を出す。

 

 上条当麻のセイヴァーは、上条当麻と浜面仕上、そして、ここには居ないが、食蜂操析の3人の実行部隊たる上部組織と20人くらいの後始末担当の下部組織、更には10人くらいの上部組織の補助部隊から成り立つ。

 

 他の大手の暗部組織より人数が少ないが、これは上から下まで上条が選り好みして選抜しているからであり、そのお蔭で暗部としての質は良かったのだが、そのお蔭で規模は比較的小さい。

 

 しかし、補助部隊という他の暗部には無い組織もあり、装備も待遇も他より充実しているため、下手な警備員(アンチスキル)の部隊よりも強力な戦力を保有している。

 

 これは人格が破綻しているような人間ばかりを集めた猟犬部隊(ハウントドッグ)とあらゆる意味で対称的と言えた。

 

 

「大将はどうするんだ?」

 

 

「この子を病院に送っていく。あの医者ならなんとかなるだろう」

 

 

 あの医者、とは冥土帰しの事だ。

 

 死なない限り、どんな人間も治すという事を自称する程の腕を持っている医者であり、ある意味この学園都市で上条が一番信用している人間でもある。

 

 勿論、仲間である浜面や食蜂を信用していないという訳ではないのだが、それはそれだ。

 

 

「分かった。でも、さ」

 

 

「ん?」

 

 

「食蜂にはもう少し優しくしてやれよ。この前、聞いちゃったんだよ。その・・・行為をしているのをな」

 

 

「・・・」

 

 

「いや、大将の気持ちは分かるさ。この現状にイライラしているっていうことはな」

 

 

 浜面の言った『この現状』とは、自分達が幾ら暗部を潰しても潰してもキリがない、という事ではない。

 

 いや、勿論それもあるが、そこら辺はあまり強引にやり過ぎても廃絶は無理だろうと諦めている。

 

 問題なのは、食蜂が暗部に入ってしまったことだ。

 

 既に何ヵ月も前の事にはなっているが、未だに上条はどうしてもその事を許せず、彼女に嫌われるために彼女と肉体関係を持った。

 

 誤算だったのは、それで食蜂が益々上条の下を離れなくなってしまったことだろう。

 

 それが許せない、という負のスパイラルによって、どうしても上条は食蜂に優しく接する事が出来ていなかった。

 

 

「・・・分かっているよ」

 

 

 上条は浜面の言葉に、そう答えるのが精々だった。




上条当麻

暗部組織『セイヴァー』のリーダー。原作よりも身体能力が極めて増しており、聖人とまではいかないが、少なくとも身体能力だけでレベル5と張り合えそうな程はある。原作の人格と本質的には変わっていないが、同時に原作よりもかなり荒っぽい人物になっている。


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超電磁砲との出会い

◇6月17日 夜 第7学区 ファミレス

 

 

「よう、絹旗。奇遇だな」

 

 

「・・・なんだ。浜面ですか」

 

 

 学園都市の第7学区。

 

 中高生が多く通うこの学区で、常盤台中学に通う中学1年生の少女──絹旗最愛は偶然、顔見知りの仕事仲間(・・・・)である浜面に出会ったのだが、絹旗本人はがっかりした顔をしていた。

 

 絹旗は先月に助け出された際に、上条の居る暗部組織セイヴァーにそのまま配備されることが決まった。

 

 既に絹旗は常盤台中学に通う形で住を得ていたし、本人も大能力者(レベル4)なので、奨学金によって生活費も困っていなかったのだが、何か恩返しがしたいという事で暗部に参加したのだ。

 

 当然、上条は反対したのだが、スクールの垣根帝督などが、一方通行の演算パターンを得るために暗闇の五月計画の生き残りを狙っているという情報もあり、このまま表に出るよりは暗部に所属させた方が却って安全かもしれないという食蜂の説得により、渋々上条も了承することになった。

 

 

「悪かったな。大将じゃなくて。それより、どうしたんだ?こんなところで」

 

 

「いや、上条を超映画に誘ったんですが、断られてしまって・・・仕方なく一人で見てたんですが、これが超大外れで。散々でしたよ」

 

 

「そりゃ災難だったな。まあ、大将はそういう誘いを基本的には受けないからな」

 

 

 浜面はかつて自分が上条を食事に誘った時の事を思い出す。

 

 あの時もなんやかんやと上条は理由をつけて断ってしまい、付き合いが悪いという印象を抱いたのを覚えている。

 

 まあ、とは言っても、なんだかんだでお世話になってはいるので文句はあまり無いのだが。

 

 さて、そんながっかりしていた絹旗であるが、あることが気になったのか、それとも丁度良いと思ったのかは知らないが、絹旗は浜面に聞く。

 

 

「そう言えば、浜面」

 

 

「ん?」

 

 

「上条はその・・・もしかして、食蜂と超付き合ってるんですか?」

 

 

「・・・」

 

 

 浜面は少し黙った。

 

 絹旗がそんな曖昧な事を言うということは、上条と食蜂が付き合っているようには見えるが、聞く勇気が無かったか、あるいは上条と食蜂の歪な関係を見てしまったかのどちらかしか無かったからだ。

 

 だからこそ、浜面は無難な解答を行う。

 

 

「いや、付き合っているという訳ではないと思うぞ。まあ、そこら辺は二人にとって色々と複雑なんだよ」

 

 

「そうですか。いや、私も抱いてくれるように誘惑したんですが、超スルーされまして」

 

 

「・・・」

 

 

 浜面は今度は別な意味で沈黙した。

 

 おそらく、歪な関係を見たんだと直感したからだ。

 

 いや、それを抜きにしても、流石の上条も絹旗のような小さな子を抱きはしないだろう。

 

 なんせ、絹旗は一応は中学1年生であると言っているが、外見は何処からどう見ても小学生なのだから。

 

 学生服を着るよりもランドセルを背負っていた方がよっぽどしっくり来る。

 

 

「・・・なんですか、浜面?その目は」

 

 

「い、いや。何でもねえよ」

 

 

 だが、自分のそんな考えを察知されては自分の命に関わるので、浜面は慌てて否定する。

 

 そんな時、ふと思い出したのか、浜面はあることを絹旗に言う。

 

 

「そう言えば、絹旗。まだ言ってなかったが・・・ありがとな」

 

 

「なんですか?超いきなり」

 

 

「いや、これまで大将さ。仕事をやるときは一人で行動してたから。勿論、俺や食蜂が大将を援護する時もあったけどさ。基本的に大将は一人で仕事をやっていたから、絹旗が入ってくれてとても有り難かったんだよ」

 

 

 食蜂や浜面は基本的に正面戦闘には向いていない。

 

 食蜂は超能力者(レベル5)であるが、他の超能力者(レベル5)とは違って直接戦闘に向いた能力ではないし、浜面は拳銃や格闘の腕こそ上条より若干上だが、幻想殺し(イマジンブレイカー)を持っているという訳ではないので、異能の攻撃を防げるわけではないのだ。

 

 おまけに前兆の感知などという便利な能力を持っている訳でもない。

 

 よって、総合的な戦闘能力は浜面は上条より下なのだ。

 

 しかし、絹旗は違う。

 

 窒素装甲(オフェンスアーマー)は一応防御重視の能力だが、攻撃にも使えないことはないし、どちらにしても戦闘向きな能力であるという点には変わり無いのだ。

 

 だからこそ、上条の隣に並んで戦うことが出来る。

 

 

「浜面・・・超キモいですよ?」

 

 

「うぐっ、そこまで言うのかよ」

 

 

「まあ、気持ちは分かりますけどね。私だって、超仕事の時でも殺しの方はあまりさせて貰えませんから」

 

 

 絹旗は確かにセイヴァーに入って仕事をやるときもあったが、殺すときは殆ど上条や上部組織の補助部隊などがやっていて、絹旗には滅多な事では殺しの機会は巡ってこなかった。

 

 それでも殺す機会はやって来たが、殺した数は片手で数えられる程度だ。

 

 

「・・・なんだかんだで優しいんですよね、上条は」

 

 

 絹旗はそう思う。

 

 人を殺している以上、その人を優しいと感じることは普通の人間からすれば異常と思うだろう。

 

 しかし、それを言うなら戦場で戦っている兵士なども同じだ。

 

 彼らとて、どんな形であれ、人を殺しているのだから。

 

 だが、彼らに人の心が無いかというとそうでもない。

 

 もし人の心が無いのならば、PTSDなど起こすはずがない。

 

 

「・・・そうだな」

 

 

 浜面もまた、絹旗と同じような言葉を言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同時刻

 

 

「不幸だ・・・」

 

 

 上条はそう言って死んだ目をしながら現状を傍観せざるを得なかった。

 

 ちなみに上条の左には上条の左腕を掴んだまま恋人のように繋いで挑発的な態度を取っている金髪星目の少女(食蜂操析)が、右には少々苛立った様子のビリビリ少女(御坂美琴)が居る。

 

 どちらも凄い美少女であり、端から見れば両手に花の上条の事を人は羨むか、妬むかするかもしれない。

 

 だが、当の上条当麻からすればそうは思わないだろう。

 

 何故なら、この少女は二人とも一人で一国の軍隊とやりあえる超能力者(レベル5)であり、しかも双方が一触即発といった感じの状況なのだから。

 

 

(どうしてこうなった・・・)

 

 

 上条は嘆かざるを得なかった。

 

 事の始まりは数分前。

 

 上条は何人かのスキルアウトに絡まれていた茶髪の少女(御坂美琴)を助けようとしたのだが、その時に美琴の事を子供発言をしてしまい、スキルアウトとついでにこの少年を倒すために電撃を放つが、スキルアウトは倒したものの、この少年は無傷。

 

 それで美琴が詰め寄った。

 

 まあ、物凄く簡潔に言えばそんな感じであった。

 

 そして、これだけならば、本来の歴史(・・・・・)の流れである(下手すれば死ぬ)鬼ごっこをしてお仕舞いだっただろう。

 

 しかし、ここで食蜂が出てきたことで事態がややこしくなった。

 

 

「あんた、どういうつもりよ」

 

 

「どういうつもりって・・・それはこっちのセリフなんだゾ☆。御坂さんこそ、私の彼氏をどうするつもりぃ」

 

 

 御坂も口調からかなり苛立っていることは分かるだろうが、見る人が見れば食蜂も涼しい言葉を投げ掛けているものの、苛立っていることが分かるだろう。

 

 なんせ、食蜂にとってみれば、これは彼氏となった上条との初デートであり、良い終わり方をしたかったのに、ここで邪魔な宿敵(御坂美琴)が現れたのだから。

 

 しかし、御坂にとってもそれは同じだ。

 

 先程馬鹿にされた事と、自分の電撃を防がれたという上条に対する理不尽な怒りもそうだが、何処までもソリが合いそうにない女(食蜂操析)が男を連れて歩いていたのだ。

 

 おまけに彼女の能力が能力だけに、“ある可能性”を疑ってしまうのは当然の帰結だった。

 

 

「はぁ!彼氏ぃ!?あんた、まさか能力で操ってるとかじゃないわよね!!」

 

 

「そんなわけないでしょう!!ああ、分かったわぁ。嫉妬しているのねぇ。まったく、貧乳力の高い人は心まで狭いのねぇ」

 

 

「・・・なんですって」

 

 

 壮絶な言葉のキャットファイト。

 

 同族嫌悪とでも言うのか、二人はご覧のように仲が元からよろしくない。

 

 しかも、二人ともレベル5なので、そんな二人が本気で能力バトルを行えば、壮絶な事態となるのは目に見えている。

 

 そんな二人の間に挟まれた上条は再びこう呟く。

 

 

「不幸だ・・・」

 

 

 上条がそんな二人をなんとか必死に宥めたのは、それから二時間も後の話だった。



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虚空爆破事件

◇7月18日 早朝 学園都市 第7学区 学生寮

 

 

「はぁ・・・たくっ、ビリビリの奴」

 

 

 上条は愚痴りながら、のんびりと床に寝転がる。

 

 あの出会いから1ヶ月ちょっとが経ったが、美琴との因縁は何故か続いていた。

 

 つい昨日は、河原で真剣勝負を挑んできたほどだ。

 

 途中で逃亡したが、一晩中追いかけられることとなった。

 

 どうやら、美琴には完全に目を付けられてしまったらしい。

 

 それでも、上条はこれを苦には思っていなかった。

 

 それどころか、無意識のうちに笑顔を浮かべている有り様だった。

 

 久々にこの学園都市での日常の空気を味わったからかもしれない。

 

 

「・・・操析との関係も清算しなきゃいけないな」

 

 

 上条は同じ常盤台生という事で、食蜂を思い出しながらそう呟く。

 

 現在は食蜂が彼氏と言ったことで、彼氏彼女の仲になっている筈なのだが、実を言うと微妙にそうとは言えない状態だった。

 

 何故なら、確かに食蜂は上条に告白したが、上条の方は言葉にするでもなく、それを曖昧に首を縦に降るだけで返してしまったからだ。

 

 しかし、食蜂はそんな曖昧な表現しかしなかった自分に対しても、キチンと向き合ってくれている(と上条は判断しているが、実際は食蜂の方にちょっぴり打算が有ったりする)。

 

 

「さて、そろそろ朝飯にするか」

 

 

 上条はそう言いながら、朝飯に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇7月18日 昼 セブンスミスト 周辺

 

 

「あんた、名乗り出ればヒーローよ」

 

 

 御坂美琴は少年──上条当麻に対してそう言った。

 

 しかし、それも当然の話だろう。

 

 先程起きた御坂美琴の友人である初春飾利を狙ったセブンスミスト爆破事件では、自身の代名詞でもある超電磁砲(レールガン)の展開が間に合わず、上条の幻想殺し(イマジンブレイカー)によって救われる形となったのだから。

 

 確かに名乗り出ればヒーローだろう。

 

 だが、上条の出した答えは──

 

 

「はぁ?何言ってんだ、お前?みんな、助かったんだからそれで良いだろ。誰が助けたかなんか問題じゃないだろ」

 

 

 上条はそう言いながら、御坂の前から立ち去っていった。

 

 そして、一通り離れると、ある人物に向かって電話を行う。

 

 

『──はい』

 

 

「ああ、絹旗か?仕事中なら悪いんだけど、確保には成功したか?」

 

 

『いえ、大丈夫です。超成功しましたから』

 

 

 絹旗はそう言いながら報告する。

 

 ちなみに彼女が確保した人物の名は介旅初矢。

 

 先程起きた虚空爆破(グラビトン)事件を起こした犯人だった。

 

 そう、本来の世界(・・・・・)とは違い、あそこに上条が居たのは偶然ではなかった。

 

 上条はここ最近頻発している虚空爆破事件を追って、暗部としては風紀委員とは別なルートから犯人を追っていたのだ。

 

 そして、風紀委員ばかりが襲われていることと、重力子の拡大地点に丁度避難誘導をしている風紀委員が居たことで、次の標的はその人物と上条は推測した。

 

 ついでに最近噂になっているレベルアッパー。

 

 未だどういう構造かは分からないが、上条はそれを実在のものだと仮定して、虚空爆破事件の犯人を搾り上げた結果、介旅初矢の名前が浮かび上がった。

 

 つまり、キチンと情報を手に入れた上で上条はあそこに居たのだ。

 

 もっとも、犯人についてはそうでも、爆弾に気づいたのは偶然だったが、これらの事をまさか御坂に話すわけにはいかない。

 

 まあ、風紀委員や警備員のような正規のものとは違う非合法な捜査なのだから当たり前だが。

 

 それで、相手が能力者であり、尚且つ上条が手を放せない状況であったので、仕方なくメンバーの中で上条に次いで直接戦闘能力の高い絹旗に確保をお願いしたのだ。 

 

 

「じゃあ、尋問をするから操析のところまで連れていってくれ」

 

 

『超りょうか──ザザッ』

 

 

「絹旗?」

 

 

 上条は絹旗に対して再び呼び掛ける。

 

 だが、返事は来ない。

 

 

「・・・」

 

 

 心配になった上条は現場に急行することにした。

 

 そして、先程別れ、虚空爆破(グラビトン)事件の犯人を探していた御坂美琴とそれに襲われた絹旗を目撃することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同日 夕方 第7学区 風紀委員第177支部

 

 

「本当にごめんなさい!!」

 

 

 御坂は絹旗に向かって思いきり頭を下げる。

 

 あれから上条や白井の介入によって、絹旗の無実は晴れ、犯人であった介旅初矢は白井によって逮捕されたが、絹旗は地味にダメージを受けてしまい、この177支部で治療を受けていた。

 

 流石に今回の事には彼女も盛大に申し訳ないと思っており、こうして全力で謝っていたという訳である。

 

 そんな彼女を苦笑した様子で見ながら、同じくこの支部に連れてこられた上条はこれからどうするかを考える。

 

 

(不味いな。介旅は風紀委員に取られちまった)

 

 

 そう思いながらも、実際は上条にも彼が所属するセイヴァーにも、大して打撃はない。

 

 彼からしてみれば、虚空爆破事件に限っては、犯人さえ何らかの形で捕まればそれで良いのだから。

 

 ましてや、被害者は全員風紀委員(ジャッジメント)だ。

 

 ここは風紀委員が介旅の身柄を取り抑えるのが筋というものだろう。

 

 しかし、上条が今、気にしていたのは幻想御手(レベルアッパー)についてだ。

 

 実在するのかは不明であるが、もし有ったなら有ったで、不自然な点が多すぎる。

 

 1つは、何故そんなものを開発した研究員が公表しないのか?

 

 それには2つ考えられる。

 

 1つ目は、何らかの副作用が有り、それが有るから公表せず、学生を実験台代わりにしている。

 

 もう1つは、そういった副作用が無いか、それとレベルアッパーで本当に能力者のレベルが上がるのかを試している。

 

 特に前者については食蜂操析曰く、

 

『能力者はレベルに応じて演算に使う頭脳の負荷が違うわぁ。特に低能力者や無能力者なんかはレベルが突然1上がっただけでも相当な負荷の筈よぉ。ましてや、これが2以上上がる事になったら、まず間違いなく脳が負荷に耐えられず、昏睡か、死に至るんだゾ☆』

 

 らしく、そういった“安全装置”がもし着いていなかった場合、相当危険な代物であるという事を意味している。

 

 だからこそ、上条達はそれについて情報収集を行っているのだが、結果は芳しくない。

 

 それもその筈。

 

 学園都市には180万人以上の学生が居る。

 

 仮に実在したとしても、それを使っているのがほんの一部の人間であれば、ほぼ分からないのだ。

 

 ましてや、どういった方法でレベルアップをしているのか分からない状態では尚更苦労する。

 

 ネットに書き込みでもしてくれれば話は別だが、“今のところは”そんなものはない。

 

 もっとも、アレイスターが使っている滞空回線(アンダーライン)でも使えば話は別かもしれないが、当然、アレイスターがそんなものを使わせてくれるわけもない。

 

 だからこそ、ここに来てレベルアッパーに繋がるかもしれない介旅を一旦確保して、食蜂に記憶を読み取らせることでどういったものか調べる事を目論んでいたのだが、その目論みは端から破綻することになっていた。

 

 それを感じ取ったのか、絹旗も風紀委員が用意してくれた椅子に座りながら、どうするのかと目で尋ねている。

 

 

(・・・一度確保されちまった以上、諦めるしかねぇか)

 

 

 上条は介旅の身柄を諦めることにしていた。 

 

 そして、花を盛ったような髪飾りを着けた少女──初春飾利に向かってこう言う。

 

 

「あっ、すまねぇんだけど、これから用事があってさ。そろそろ、調書、終わりにして欲しいんだけど」

 

 

「あっ、大丈夫です。調書は取り終えましたから。もう帰っても良いですよ」

 

 

「ありがとう。じゃあ、絹旗。また後で」

 

 

 そう言い残し、上条は風紀委員第177支部を去っていった。

 

 ・・・余談であるが、絹旗はこの後、御坂によって上条の事を問い詰められ、回り回ってどういう訳か、上条が食蜂に笑顔で問い詰められることとなるが、それはまた別のお話。



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禁書目録編
邂逅の始まり


◇7月20日 早朝 第7学区 学生寮

 

 

「・・・ふぅ、ようやく逃げ切ったは良かったんですけどね」

 

 

 上条はそう言いながら、もう電源の入らない冷蔵庫を見詰める。

 

 ちなみに電源の入らない理由は簡単だった。

 

 昨夜、某ビリビリ少女がここら一帯の電力供給を行っていた発電所を落雷によってショートさせてしまったからだ。

 

 あの時、ネットに書き込みをされた情報を元に上条はスキルアウトに接触を計ろうとしたのだが、どういう訳か御坂美琴に先回りされてしまい、結局、短気な美琴がスキルアウトとの交渉に耐えられるわけもなく、結局、スキルアウトとの(ほぼ一方的な)能力バトルが始まってしまい、その過程でむきになった美琴が10億ボルトの落雷を落としてしまい、(これまた不幸なことに)近くにあった上条のところを管轄する発電所がショートしてしまったという訳である。

 

 

「まったく、これはどうにかしないと・・・」

 

 

 そう思いながら、上条は良い天気なので、布団を干そうと考え、ベランダに出て行こうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは上条がとある少女と出会い、科学と魔術が邂逅する10秒程前の出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇7月20日 朝 第7学区 寮前

 

 

『──ふむ、どうしたのかね。副統括理事長(・・・・・・)

 

 

 インデックスが去ってから暫くして、上条は今日もレベルアッパーの事を調べるために学生寮の外へと出た。

 

 だが、その前にとある単語が気になってアレイスターに電話を掛けたのだ。

 

 ちなみに副統括理事長とは、上条の役職であり、かつてアレイスターが与えられたものだ。

 

 つまり、上条は事実上、学園都市のナンバー2であり、条件付きではあるが、統括理事会の決定をも一部覆せる程の権限を持っている。

 

 もっとも、彼の事は学園都市では統括理事長及び統括理事会とその側近しか知らず、暗部でも上位の権限を持つスクールやメンバーですら、彼の存在を知らない。

 

 

「アレイスター、少し聞きたいことがある」

 

 

『なにかな?』

 

 

「魔術、という単語を知っているか?」

 

 

 その瞬間、両者の間に僅かな沈黙が走る。

 

 しかし、アレイスターはゆっくりと上条の問いに答えを返した。

 

 

『何故、私が知っていると思ったのかな?』

 

 

「まあ、最初は俺も信じられなかったけどな。今、思い出したんだよ、お前の異名を」

 

 

 アレイスターの異名。

 

 それは『魔術師アレイスター・クロウリー』である。

 

 学園都市やその外の人間がこれを聞けば、魔術師と呼ばれるくらいに科学で功績を挙げている天才的な人間と思うかもしれない。

 

 事実、上条も先程まではそう思っていた。

 

 だが、この異名が本来の意味、すなわち『魔術を使う人間』という意味だったらどうだろうか?

 

 上条はそれを思い至っていた。

 

 勿論、気にしすぎという考えかもしれない。

 

 だが、そう思わせない程度にはアレイスターの力が圧倒的すぎたのだ。

 

 それを考慮すれば、大分見方も変わってくる。

 

 

『ふむ、如何にも私は君の思った通りでの魔術師だよ。それで、だからどうしたのかね』

 

 

「インデックスを何故、学園都市に入れたんだ?」

 

 

『・・・言っている意味が分からないな』

 

 

「惚けても無駄だよ。確かにあのシスター服には特殊な細工が成されていたみたいだけど、光学迷彩化や赤外線迷彩化はされていなかった。仮にその効果が有ったとしてもさっき無くなったからな。お前の探知網ならもうインデックスの存在を探知している筈だ。お前、インデックスをわざと入れただろう」

 

 

『・・・』

 

 

「沈黙は肯定と取るぞ?それで、だ。お前、魔術師に何らかの因縁が有るだろう?でなきゃ、学園都市なんていう魔術とは対極な科学都市の長になろうなどとは普通考えないだろうからな。もう一度聞くぞ?何故、インデックスを学園都市の中へと入れた?」

 

 

『・・・ふむ、そこまで分かってしまったか』

 

 

 アレイスターはあっさりと上条の言葉を認める。

 

 これについては流石の上条も意外に思った。

 

 まさか本当に認めるとは思わず、はぐらかされると思っていたからだ。

 

 

『まあ、構わない。教えてあげても良い。ただし、その前に1つだけ君に情報を与えよう』

 

 

「なんだ?」

 

 

『君は完全記憶能力というものを知っているか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同日 第7学区 窓のないビル

 

 

「ふむ、幻想殺しは順調に成長を続けているな」

 

 

 上条との通話を終えたアレイスターはそう呟く。

 

 そして、別の計画の内容をモニターに出した。

 

 

「では、第2のプランを開始するとするか」

 

 

 こうして、アレイスターによって学園都市から一人の使者がとある眼鏡の少年の家へと向かうこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同日 昼 第7学区 ファミレス

 

 第7学区のファミレス。

 

 そこでは一人のツンツン頭の高校生ごろの少年と金髪の美少女がとある事を話し合っていた。

 

 端から見れば異様な光景に見えるだろう。

 

 何故なら、金髪の少女の方は常盤台中学のサマーセーターを着用しており、お嬢様だという事が一目で分かるが、少年の方は顔立ちはある程度整っているものの、冴えない感じだったのだから。

 

 身分違い。

 

 言葉には出さないが、そんな二人の関係であったが、そんなものは両者にとっては今さらであるので、全く気にしてはいなかった。

 

 

「介旅が昏睡状態になった?」

 

 

 上条は食蜂が持ってきた情報に少々驚いた様子を見せる。

 

 上条も一応は能力アップによる副作用の過程の1つとして昏睡の可能性は考えてはいたが、まさか今頃それがなるとは思わなかったのだ。

 

 

「そうよぉ。あと御坂さんたちもどうやら私達の案件に手を出し始めているわぁ」」

 

 

「・・・」

 

 

 そう来たか。

 

 上条は内心で舌打ちをせざるを得なかった。

 

 上条当麻にとって、御坂美琴は日常の象徴になり始めている。

 

 そんな彼からしてみれば、今回の事は1つ間違えば彼女を暗部へと身を落とすことにもなりかねないのだ。

 

 そういった裏がありそうな案件に関わるというのはそういうことである。

 

 だからこそ、上条は御坂よりも先にこの案件を解決しなければならない。

 

 

「で、レベルアッパーについては何か情報が掴めたのか?」

 

 

「ごめんなさぁい。あの不良の人とぉ、絹旗ちゃんが必死に集めてくれているんだけど、今のところは情報は無いんだゾ☆」

 

 

「そっか。大人しく情報を待つしかねえな」

 

 

 そこまで言ったところで上条は思案する。

 

 これまでレベルアッパーは確実にレベルを上げると証明するために一部の学生たちを実験台にしていると思っていたが、介旅の様子を見る限り、何かが間違っているような気がする。

 

 具体的に何が間違っているかは分からない。

 

 上条がそういうことの専門家であれば何かが分かるのかもしれないが、あいにく上条の知識レベルは落ちこぼれ一歩手前である。

 

 食蜂に聞けば分かるかもしれないが、残念ながらこの違和感を上手く説明できそうにない。

 

 だからこそ、上条は一旦、とある話題に切り換えることにした。

 

 

「ところで、食蜂。魔術って有ると思うか?」

 

 

「なに?突然」

 

 

「いや、まあ、少し気になることがあってな」

 

 

「・・・そうねぇ。そうと言われるくらいの現象、あるいは能力者なら居そうだけど、実際には魔術なんて存在しないわ」

 

 

 食蜂はきっぱりとそう言った。

 

 そう、これが学園都市の常識だ。

 

 全ての不可思議な現象は科学によって解明できる。

 

 それが学園都市のモットーでもあるのだから。

 

 そして、学園都市で教えを受けている人間もまた同じ。

 

 特にその中でもトップクラスに入る食蜂ですら、いや、だからこそなのかもしれないが、このような考えだ。

 

 もしかしたら、上条が遭遇した魔術もまた、学園都市の能力とは違う概念で出来ているだけで、科学的に解析することも可能なのかもしれない。

 

 

(でも、なんか可笑しいんだよなぁ)

 

 

 上条はそこにもまた違和感を感じていた。

 

 そんな疑問を抱いたまま、この後、絹旗と浜面が合流し、情報交換をした後、4人は別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、この日の夕方、上条はインデックスを追っていた炎の魔術師と遭遇することとなる。




ちなみにこの作品の上条さんは知識レベルこそ原作と変わらないものの、頭の切れは原作の数倍になっています。


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邂逅後

上条VSステイルは原作通りです。どのみち、結果が同じになるので、それほど変える必要はないと考えました。


◇7月20日 深夜 第7学区 総合病院

 

 上条は手術室の前でインデックスの怪我の治療を担当した冥土帰しに尋ねる。

 

 

「どうでしたか?」

 

 

「ふむ、まあ、問題はないね。明日には目を覚ますだろう」

 

 

「そうですか、良かった」

 

 

 上条は安堵していた。

 

 あれから上条は炎の魔術師──ステイル=マグヌスに遭遇し、彼を撃破した後、携帯で浜面や補助部隊に連絡し、気絶したステイルの回収を命じ、上条自身はインデックスをこの病院へと連れてきていた。

 

 本来の世界(・・・・・)では、インデックスが学園都市のIDを持っていなかったことから、冥土帰しの医者ではなく小萌先生の元へと行った上条であるが、この世界では上条は副統括理事長の権限を持っており、更には統括理事長の黙認も取り付けていたことから冥土帰しの病院へと運び、治療を受けることができたのだ。

 

 

「ところで、今時、刀傷なんて珍しいね。しかも、あの深さから見るに、相当な力で斬り付けられたようだ」

 

 

「そうですか・・・」

 

 

 上条は冥土帰しの言葉を受けながらこう思った。

 

 もしかしたら、あの魔術師以外にも仲間が居るのではないか、と。

 

 あの魔術師は刀を使うタイプには見えなかったし、もし使ったのが彼だったとしても、それでは戦闘の時に自分に何故使わなかったのかという疑問が残る。

 

 ましてや、あの動きからして上条のような接近戦タイプではなく、中距離攻撃型の人間だ。

 

 やはり、刀を使う人間として考えれると、どう考えても不自然に見える。

 

 そう考えると、出てくる結論は1つだけだ。

 

 

(しかし、そうなると、その仲間が浜面達と遭遇してしまう可能性があるな)

 

 

 少し軽率だったかと、上条は後悔した。

 

 上条も出来るならば、自分に次いで戦闘能力の長けた絹旗か、あるいは自分が残ってステイルを直接回収したかったのだが、前者は常盤台生というであり、出入りに厳しいと聞いていたので、こんな時間に呼び出すことは気が引けたし、後者はインデックスを早く治療するために病院に運ばなければならなかったので不可能だった。

 

 しかし、今思い返せば、絹旗に少々無理させてでも来て貰うべきだったかもしれないと上条は思っていた。

 

 

(一応、あの魔術師が起きて戦闘になった時のために耐火服は着ておけと言っておいたけど、もし仲間が肉弾戦特化のタイプだったら、少し対処が難しくなるだろうな)

 

 

 既に浜面には回収する予定のステイルは大能力者(レベル4)クラスの発火能力者だと伝えてあるし、防火服を着ておけとも言ったので、急行した浜面と補助部隊は防火服を着ているだろう。

 

 この防火服は学園都市製なので、例えあの3000という熱さでも、おそらく耐えきることができる。

 

 だが、魔術師の仲間が全く別の性質を持っているとなると話は別だ。

 

 防火服はある程度は打撃への態勢があるが、流石に駆動鎧(パワードスーツ)程ではない。

 

 故に、上条は魔術師の仲間と遭遇してしまった場合、おそらく彼らは苦戦するだろうと思っていた。

 

 

(くそっ!早く戻った方が良さそうだ)

 

 

「先生、ちょっと急用が出来ちゃいました。帰ります」

 

 

 上条は一方的にそう言いながら、自らの寮へと向けて帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇7月21日 朝 第7学区 総合病院

 

 

「なるほど、そんなことがあったんですか」

 

 

 第7学区の総合病院。

 

 そこにはセイヴァーの上部組織の人員全員が集まっていた。

 

 あれから懸念されていた襲撃は無かったが、浜面が現場に着いた頃にはステイルは既に居なくなっており、仲間が居たことはほぼ確定することとなっていた。

 

 しかし、同時に向こうがおそらく撤退したことで、上条達は無事に一夜明かせる事が出来たわけだが、上条から事情を聞いた浜面は若干震えていた。

 

 当然だろう。

 

 下手をすれば、とんでもない敵といきなり戦うことになっていたかもしれなかったのだから。

 

 

「それで、これからどうするのぉ?」

 

  

 そう言ったのは食蜂だ。

 

 どうするのか、とはレベルアッパーについての調査を続けるのか、それともここで少女を守る為に防御を固めるのか、という問いである。

 

 正直、この施設にはこれといった防衛施設はないので、昨夜上条が倒したステイルクラスが襲撃してきたら容易に陥落してしまうだろう。

 

 そうなると、この病院に人員を割かなければならないわけだが、当然、捜査のペースは落ちることとなるだろう。

 

 上条はその点を考慮し、ある結論を出した。

 

 

「・・・戦力を2つに別ける。浜面と食蜂は補助部隊と下部組織を使ってレベルアッパーについての調査を進めてくれ。俺と絹旗は交代制でこの病院を守る」

 

 

 戦力分散。

 

 それは結果がどっち付かずになる可能性も高くなってくるので、あまりお薦めは出来ない案だったが、この状況では仕方がないと言えた。

 

 現に他の3人も異論はないのか、上条の言葉にこくりと頷いている。

 

 

「分かったぜ大将。なるべく早く片付けてそっちの仕事を手伝う」

 

 

「上条さん、気を付けてねぇ」

 

 

 浜面と食蜂はそう言いながら去っていった。

 

 そして、残された上条と絹旗もまた、各々の任務を達成するために己の担当の仕事へと就く。

 

 それはインデックスの目が覚める数時間前の出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇7月24日 夜 第7学区

 

 

「とうま、早く行こう!」

 

 

「ああ、分かってるよ」

 

 

 あれから3日。

 

 インデックスが入院している間、上条と絹旗は交代でインデックスの警護をしていた。

 

 そして、今日、無事退院することが出来て、上条の寮に戻ったのだが、不幸なことに上条の寮の風呂が壊れた為、こうして銭湯に向かっているという訳である。

 

 

「・・・しかし、浜面の奴、遅いな」

 

 

 同時期に行われていたレベルアッパーの捜査は浜面達の担当であったが、幻想御手(レベルアッパー)事件そのものは御坂美琴によって、数時間前に既に解決している。

 

 どうやら後一歩のところで出遅れてしまったらしく、浜面達が現場に駆け付けた頃には既に事は終わっていたらしい。

 

 食蜂は電話先で御坂に先を越されたと喚いていたし、上条もそれを聞いた時は流石に顔をひきつらせたが、今更どうこうできよう筈もないため、食蜂は常盤台の門限の事があるためパスするとして、浜面には自分達への合流を命じていたのだが、いっこうに合流する気配が無かった。

 

 

「可笑しいな。事故でもあったのか?それにしては連絡がないのは可笑しい」

 

 

 もしくは敵の襲撃を受けて連絡が出来ない状態なのかもしれない。

 

 上条はそう思い、試しに此方から連絡してみようと考えて携帯を取り出そうとし・・・すぐに異変に気づいた。

 

 

(可笑しい。人が居ない)

 

 

 第7学区はこの時間帯、この通りには人通りは多いとは言えないが、そこそこ通る。

 

 故に、人が全く居ないという事は本来あり得ないのだが、上条には1つだけ心当たりがあった。

 

 それは4日前、炎の魔術師と戦った時、同じような感覚を上条は覚えたのだ。

 

 

「・・・なるほど、人を一定の区画から追い出す術か。そんなものがあるなんて流石だな。なぁ、魔術師!」

 

 

 上条がそう言うと、何処からともなく一人の女性が現れた。

 

 

(・・・おいおい、今のはテレポートか何かだよな。そうだと言ってくれ)

 

 

 上条は冷や汗を流す。

 

 これがテレポートだったならば、上条にも戦う術がある。

 

 テレポートはタイムラグが起きるので、それを逆用すれば良いのだから。

 

 まあ、実際は言うほど簡単ではないが、上条ならばそれを実行するほどの実力も自信もあった。

 

 だが、問題なのは、今、彼女が行ったのがテレポートなど一切使用していない、つまり、単純な身体能力だけでそこに移動していた場合だ。

 

 人体で上条が目で追うことの出来ない速度という事は、最低でも音速は越えているだろう。 

 

 当然の事ながら、普通の人間がそんな速度を出せる筈もないし、能力者でもそんなことが出来る人間はごく限られる。

 

 そして、その事が表すのは、彼女は単純に強いという事でもあるのだ。

 

 上条が少々唖然としていると、目の前の女性──神裂火織は上条に向けてこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「神裂火織と申します。インデックスをこちらに引き渡して欲しいのですが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは上条と聖人の初邂逅となった。



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上条VS神裂

◇7月24日 夜 第7学区

 

 

「・・・嫌だね」

 

 

 神裂の問いに、上条は一瞬の後、きっぱりとそう答えた。

 

 まあ、それも当然だろう。

 

 神裂の風貌や武装からして、上条の推察する『刀を持った炎の魔術師の仲間』とは、十中八九、彼女で間違えないだろう。

 

 とすれば、インデックスの背中を斬りつけたのも彼女である可能性が高い。

 

 それを考えれば、恐怖に屈しでもしない限り、インデックスを引き渡すことはまずあり得ない。

 

 だが、上条は恐怖に屈しなどしないし、逆に良心に訴えてきて彼女がインデックスの正式な保護者であったとしても上条の返答は変わらない。

 

 そもそも自分より小さい少女を斬りつけるような女性を信用できる筈がないのだから。

 

 そして、神裂は上条の返答を受けて、ゆっくりと目を閉じた。

 

 

「仕方、ありません」

 

 

 そう言いながら、神裂は刀に手を掛ける。

 

 上条もまたそれを警戒するが──

 

 

 

ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ

 

 

 

 7つのレーザービームのような残像が上条の目に移る。

 

 しかし、上条は避けない。

 

 避けられそうにないという事もあるが、それ以前に避けようとしたら却って危ないという事に気づいたからだ。

 

 何故なら、その攻撃は全て自分を避けるような弾道で進んでいたのだから。

 

 しかし、その攻撃の威力は折り紙付きだろう。

 

 でなければ、学園都市製の道路のコンクリートが抉れる訳がない。

 

 

(しかし、本当にレーザービームか?)

 

 

 上条はそれを疑問に思う。

 

 レーザービームは言うまでもなく光の速さで直進する。

 

 だが、光の速さは秒速にして30万キロにも及び、時速に直すと10億8000万キロという途方もない速さとなる。

 

 それほどの速さとなると、流石の上条も前兆の感知こそ出来ても、視認することは出来ないだろう。

 

 しかし、視認することの出来る範囲であった。

 

 おそらく音速は越えていただろうが、逆に言えばその程度だ。

 

 それでも脅威なのは間違いないが、光速に比べればかなりましな事もまず間違いない。

 

 

(だが、そうなると、あのレーザービーム擬きの正体はなんだ?)

 

 

 上条はそう思案するが、それを遮るように神裂は声を掛ける。

 

 

「もう一度、聞きます」

 

 

 言葉を一旦切りながら、彼女は上条に最後通諜を行う。

 

 

「インデックスをこちらに引き渡してください」

 

 

「嫌だね」

 

 

 上条はそう返答しながら、神裂に向けてダッシュした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上条の取った戦法はシンプルそのもの。

 

 先手必勝。

 

 彼女が何かをする前に撃破することだ。

 

 勿論、上条が神裂を殴るよりも、向こうがあのレーザービーム擬きを放ってくるのは分かっている。

 

 あれだけの攻撃をする相手だ。

 

 上条クラスのダッシュ攻撃にも十分対応できる戦闘センスを持っているだろう。

 

 だからこそ、上条は1つの賭けを行う。

 

 

(ここだ!)

 

 

 

ドン!ドン!ドン! 

 

 

 

 上条は左腕で拳銃を引き抜き、レーザービームに向かって3発の銃弾を発射する。

 

 使った弾頭は衝槍弾頭(ショックランサー)。 

 

 それは能力者暴走用の対策として造られた表面に特殊な溝を刻む事で、銃弾をなぞるように迫る“衝撃波の槍”を作り出し、破壊力を何倍も増幅させている代物である。

 

 弾丸が空気との摩擦で発生させる熱で溝は消滅し、敵対組織に回収されても仕組みがバレないという利点もある。

 

 欠点としては溝の存在から弾速が若干通常の物よりも遅くなる事であるが、それも極僅かであるので、普通なら気にならない程度でしかない。

 

 もっとも、相手が銃撃戦に慣れた人間などであれば、多少、大きな欠点となるかもしれないが、それは戦術でカバーすれば良い。

 

 もっとも、相手が化け物でもあれば話は別であるが、そんな化け物など滅多に出ては来ない。

 

 しかし、上条にとっては不幸なことに、目の前の神裂火織は正真正銘、聖人という名の化け物だった。

 

 上条もそれを分かっているからこそ、神裂本人ではなく、レーザービーム擬き──七天七刀を狙った訳だ。

 

 そして、破壊力という点では通常の何倍もある衝槍弾頭(ショックランサー)の3発の弾丸は7つのレーザービーム擬きの1つに命中した。

 

 

「なっ!?」

 

 

 神裂は驚いた。

 

 自分の放った七閃──7つのワイヤーの内、1つのワイヤーが衝槍弾頭(ショックランサー)の攻撃によって文字通り断ち切られた。

 

 残るワイヤーは6つ。

 

 だが、それで十分であり、残る6つのワイヤーの内、幾つかが上条の肉体を掠めた事で、流石の上条も痛みに耐えかね、後退せざるを得なかった。

 

 おまけにその時の攻撃の衝撃のせいで、拳銃も取り落としてしまう。

 

 

「ぐっ・・・くそっ」

 

 

 上条は出血した左腕の血を拭いながら、攻撃が失敗したことに、思わず罵声を放ってしまう。

 

 しかし、収穫もあった。

 

 

(どうやら、さっきの奴はレーザービームじゃなくて、ただのワイヤーみたいだな)

 

 

 上条は先程、衝槍弾頭(ショックランサー)によって断ち切られ、打ち捨てられたかのようにアスファルトの上に転がっているワイヤーを見ながらそう考察する。

 

 どういうからくりなのかは分からないが、向こうはあの7本のワイヤーを使って相手にダメージを食らわせるらしいという事は分かった。

 

 しかも、ほぼ同時に7本のワイヤーが殺到してくるので逃げ場はほぼ無い為、幾ら上条でもあっても回避するのは不可能だ。

 

 そうなると、先程のように拳銃でワイヤーを断ち切るしかないのだが──

 

 

(衝槍弾頭(ショックランサー)入りの銃は落としちまったしなぁ)

 

 

 上条は先程落とした自分から3メートル程離れた位置にある銃をチラリと見る。

 

 拳銃そのものは無事ではあるが、この状況で向こうが拾わせてくれるわけがない。

 

 予備の拳銃はあるが、入っているのは通常の弾頭だ。

 

 これは前述したように、衝槍弾頭(ショックランサー)の弾速が遅いことから、それをカバーするための策だったが、今回ばかりは裏目に出ていた。

 

 

(くそっ・・・不幸だ)

 

 

 上条はそう思いながら、向こうに対して自分がどう動くべきかを思案する。

 

 今の攻防によって神裂は上条の事を強い、またはそこまで行かなくとも“油断ならない相手”という印象は与えてしまっただろう。

 

 つまり、今後の攻撃は全く油断も隙もないということになる。

 

 もっとも、今の攻防でそれすら判別できないような愚か者であれば、上条も勝機を見出だせるのだが、あいにくそのような様子は無さそうだった。

 

 

(いや、待てよ。奴は俺の拳銃の弾丸の中身なんて分かってないだろうな。・・・しょうがねえ、あの手を使うか)

 

 

 上条は予備の通常弾頭入りの銃を取り出すと、神裂の前に放り投げた。

 

 

「・・・は?」

 

 

 流石にこの行動には意表を突かれたのか、神裂は一瞬キョトンとしてしまう。

 

 だが、それこそ上条の狙っていた隙だった。

 

 上条は神裂が上条から拳銃へと気を逸らした隙を狙い、先程取り落とした衝槍弾頭(ショックランサー)入りの拳銃を拾い直し、神裂に向けて発砲する。

 

 

 

ドン!ドン!

 

 

 

 2発の銃弾が神裂へと向かうが、神裂はわざわざ七閃で塞ぐのは愚策だと判断し、そのご自慢の身体能力でかわした。

 

 通常の弾頭の場合でさえかわされそうなその運動性の前では、それより弾速が遅い衝槍弾頭(ショックランサー)の銃弾など当たるわけもなく、2発の銃弾は空を切った。

 

 

「ちっ!」

 

 

 上条は舌打ちしながらも、落ち着いて神裂の動きを捕捉しようとする。

 

 そして、背中からゾクリとした感触がして、上条は咄嗟に後ろを振り向く。

 

 そこには上条に手刀を喰らわせようとする神裂の姿があった。

 

 

「うおっと!!」

 

 

 上条は咄嗟に左手の拳銃を盾にする。

 

 ガシャッという音と共に、拳銃は壊れるが、これでチャンスは出来た。

 

 上条はその手刀をしてきようとした神裂の右手を自身の右手で掴む。

 

 すると──

 

 

「えっ?」

 

 

 神裂は自分が行使していた筈の聖人の力が発動しないのを自覚した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 形成が逆転した瞬間だった。



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インデックス

◇7月24日 夜 学園都市 第7学区 

 

 幻想殺し(イマジンブレイカー)は触れた異能を打ち消す働きの他に、触れた人間の異能の能力を発動させない働きがある。

 

 それは丁度1週間前に河原で行われた御坂美琴との戦い?でも証明されている。

 

 しかし、そんなことは知らない神裂からしてみれば、なにがなんだか分からない。

 

 いや、そもそも神裂は幻想殺し(イマジンブレイカー)の効果や存在をよく知らない。

 

 ステイルから炎を掻き消したとは聞いているが、それだけで“異能を打ち消す右手である”と判断するなど、絶対不可能だ。

 

 炎限定かもしれないし、もしかしたら他の能力も有るのかもしれないのだから。

 

 右手以外使っていなかった事から、右手以外では発動しないのだろうが、逆に言えばその程度の情報である。

 

 そして、自身の体に上条によって右手で触れられた瞬間、幻想殺し(イマジンブレイカー)によって自分の中の聖人の力が打ち消される。

 

 勿論、上条が右手を離せば復活するが、逆に言えば離さない限りは聖人の力は戻らない。

 

 そして、聖人の力が無ければ、神裂は18歳の女性に過ぎなくなる。

 

 もっとも、神裂の方も戦闘で鍛え上げられているので戦闘慣れしていない学生が相手だったならば、聖人の力無しでも振り払うことが出来たかもしれない。

 

 だが、残念なことに、上条は戦闘慣れしている学生だった。

 

 そして、上条は右手で掴んだまま、神裂の頬を左腕で思いっきり殴った。

 

 

「うごっ!」

 

 

 神裂の頬に鈍い痛みが走る。

 

 だが、それに構わず、上条は左手を奮い続ける。

 

 そして、一通り殴った後、上条は神裂にあることを問う。

 

 

「1つだけ聞くぞ。なんでこんな力が有りながら、女の子一人を追い回すなんて真似が出来たんだ?」

 

 

「・・・」

 

 

「答えろよ!」

 

 

 

ドゴッ

 

 

 

 答えない神裂に対し、上条はまた左手で殴った。

 

 上条は普段ならば、女性に対してよっぽどの事でもない限り、ここまですることはない。

 

 だが、これはよっぽどの事に入るだろう。

 

 何故なら、彼女がインデックスという小さな少女を追いかけ回して刀で斬りつけた事は明らかなのだから。

 

 そして、上条が戦ってみた感じでは、この女性はかなりの強者だ。

 

 何故そんな実力を持つ女性がそんなことをするのかもよく分からなかったし、だからこそ怒りを抱いた。

 

 そして、神裂はボロボロになりながらも、上条に対してこう答える。

 

 

「───せぇんだよ」

 

 

「あ?」

 

 

「うるっせぇんだよ!!ど素人が!!」

 

 

 あまりの怒声に上条は若干眉をしかめ、殴るのを止める。

 

 だが、それだけだ。

 

 もう神裂に抵抗できる力など残されていなかった。

 

 しかし、最後の気力を振り絞る形で、神裂はこう叫ぶ。

 

 

「インデックスはね!1年ごとに記憶を無くさなきゃ生きていけないんですよ!!でも、分かりますか!!折角出来た思い出が作るごとに失われていくその悲しみが!!」

 

 

 それは紛れもなく神裂の本音だった。

 

 彼女はインデックスとは親友だったのだが、完全記憶能力と10万3000冊の魔道書が占める記憶の容量の割合によって、1年ごとに記憶を消さなければインデックスが死ぬと言われていたのだ。

 

 最初の頃は我慢できた。

 

 思い出はまた造り直せば良いと思っていたからだ。

 

 だが、いつの頃からか、それが辛くなり、最終的に彼女を狙って追い掛け回す方に回ってしまった。

 

 しかし、そんな日々を送ってきた神裂からすれば、インデックスと会ってたった数日の上条にそんなことを言われるのは心外だ。

 

 神裂はそう思っていたが──

 

 

 

 

 

「ふざけんな!!!」

 

 

 

 

 

 ──上条の答えは違った。

 

 

「インデックスの事なんて一瞬も考えてねえじゃねぇか。てめえの臆病のツケをインデックスに押し付けてんじゃねぇぞ!!」

 

 

 上条はそう言いながら、左手の拳を再度振り上げ、今度は神裂の腹に思いっきり叩き込んだ。

 

 それは普段ならば痛みは走ってもどうにか立て直せる程の痛みではあったが、先程から、連続して打撃を受けていた事と、上条に説教されたことによる精神的動揺によって神裂は意識を落としてしまった。

 

 そして、その瞬間、最後に思ったのは──

 

 

 

 

 

 

 

 

(イン・・・デックス)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──あのかつての親友であった銀髪のシスターの事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇7月27日 深夜 第7学区 学生寮

 

 

「・・・やっぱり、問題はインデックスの魔術陣が何処に在るかだな」

 

 

 あの神裂との戦いから更に3日後。

 

 上条は珍しく勉強していた。

 

 とは言っても、彼が勉強していたのは学校で行うような勉強ではない。

 

 魔術の勉強である。

 

 上条は既にインデックスの記憶が消去せざるを得ない状況を何らかの魔術によるものだと既に確信していた。

 

 切っ掛けは丁度1週間前。

 

 上条とインデックスが出会い、そして、別れた直後にアレイスターと話した会話からだった。

 

 あの時、上条はアレイスターからインデックスが完全記憶能力者であること、それを利用して10万3000冊の魔道書を記憶させられていること、更にはその魔道書が記憶の85パーセントを占めており、残り15パーセントは1年で満杯になってしまうと、イギリス清教の長が部下達に伝えており、インデックスの命を助けるためには毎年記憶を消すしかないと囁いていることなどを知らされた。

 

 正直、1番目と2番目の事については上条はあまりピンと来なかった。

 

 確かに完全記憶能力者という単語は何処かで聞いたことがあるし、それを利用して魔道書という魔術の根幹を成すべきであろうものを記憶させるという事は分かる。

 

 しかし、魔道書の何が凄いのかは科学サイド所属の上条に理解できる筈もない。

 

 精々、10万3000冊という数で『なんか凄そう』と思う程度である。

 

 そして、最後に至っては何故、そんな今時小学生でもトリックが分かりそうな詐欺に引っ掛かるのかが分からない。

 

 完全記憶能力者は生まれつきの能力なので、赤ん坊の記憶も覚えている。

 

 しかし、1年で造る思い出で15パーセントずつ増加し、100パーセントで脳がパンパンになって死ぬのならば、単純計算で7歳になる頃には105パーセントになるので、そのローラという女の言うことがもし正しいとするならば、インデックスはおろか、完全記憶能力者全体が7歳までに死んでなければ可笑しいことになる。

 

 上条は別に脳の専門家ではないが、掛け算くらいならば出来るし、頭のキレも鋭いのでこの矛盾にすぐに気が付いた。

 

 念のため調べてもみたが、やはりそれらしい記述はない。

 

 上条の担任である小萌先生にも聞いたが、やはり完全記憶能力者にはそんな現象がないという。

 

 ということは、ローラが部下を騙して記憶を消すように仕向けた。

 

 そうとしか考えられなかった。

 

 もっとも、それを簡単に飲み込んでしまう部下の方も馬鹿な連中だと上条は吐き捨てていた。

 

 イギリス清教は世界三大宗派の一角と言われるだけあり、イギリスを含め英連邦諸国53ヶ国に影響を及ぼしている。

 

 だが、それだけの勢力を誇っている組織がこんな嘘に簡単に騙されるということは、所属している人間が余程の馬鹿か、人員がかなり少ないのか、はたまたローラによって洗脳されているかのどれかでしかないと上条は考えていた。

 

 まあ、これらの事も正直、上条にとってはなんの興味も無いことだ。

 

 如何に向こうがインデックスに与えた仕打ちによって苦悩していようが、実際に記憶を無くして、何も分からないまま1年間その身を狙われ続けたインデックスの苦痛とは比べ物にならないのだから。

 

 それよりも上条が問題にしていたのは、インデックスの記憶消去についてだ。

 

 こんな嘘をついて消去するくらいだ。

 

 何かイギリス清教にとって不味いものを見てそれを記憶してしまったか、それとも魔道図書館に特化させるために人間としての記憶を定期的に消させているかのどちらかでしか無いだろう。

 

 そして、もし後者であったら、かなり胸糞が悪い話になる。

 

 それも問題なのだが、上条が気にしていたのはインデックスに爆弾か何かを仕掛けていないかという事だ。

 

 別にそれは物理的とは限らない。

 

 魔術的な何かの爆弾のようなものをインデックスに施していないかという疑いが上条の中にあったのだ。

 

 上条がそう思った理由としては、こういう例えがあった。

 

 仮にインデックスの所属をイギリス清教ではなく、学園都市だとして、インデックスの頭脳に詰まっているのを10万3000冊の魔道書ではなく、学園都市の科学技術だったとしよう。

 

 これを学園都市上層部はなにもしないで野放しにしておくだろうか?

 

 答えはNOだ。

 

 親しい人間にうっかりその秘密を漏らさないように、その記憶を定期的、それも自動的に消去させるような真似は学園都市であったらやる。

 

 もっとも、学園都市だったら、そもそも記憶はさせないだろうし、百歩譲ってやったとしても記憶ではなく、科学技術の方を消すように仕向けるだろうが、そこら辺の事情はたぶん魔術サイドでは学園都市とは違うのだろう。

 

 となれば、インデックスには時限式の爆弾のようなものが施されていることになる。

 

 それも記憶を消去しないと解除されないような狡猾な罠が。

 

 それだけでも問題なのだが──

 

 

「もう1つの問題はそれを解除するときに、その時に魔術発動のスイッチが発動して、侵入する敵を自動的に排除する可能性だな」

 

 

 魔術師とて、全員が全員、馬鹿という訳ではない(たぶん)。

 

 中にはインデックスの時限爆弾に気づくものも居るだろう。

 

 そういった人間が時限爆弾を解除しようとした時の迎撃策も存在する可能性が高いと上条は踏んでいる。

 

 なにせ、これだけの狡猾なことをする人間だ。

 

 それくらいのことをしないと、逆に不気味である。

 

 それに魔力が無いというのも不自然だ。

 

 インデックス曰く、『魔術とは才能の無い者が才能の有る者に追い付くために考え出されたもの』。

 

 つまり、この世界の魔術は、上条が以前に漫画で見た何処ぞのタイプムーン(型月)シリーズのような神秘や魔術回路という血統や才能に大きく作用されるような代物とは正反対であり、むしろ手順さえきちんとしていれば、誰でも使える代物らしい。

 

 学園都市で能力開発を受けた者であっても、一応、使うだけなら出来るそうだ(ただし、血管が破裂したりするらしいが)。

 

 もっとも、『誰でも使える』という特性があるために、魔術の存在は知られていないらしい。

 

 まあ、考えてみれば当たり前だろう。

 

 魔術というものは、ものにもよるが、中には世界や国単位を滅ぼすようなとんでもない術式が有るらしい。

 

 それがあちらこちらで使われていれば、どれだけ無秩序な状況になるかは考えたくもない。

 

 しかし、これはインデックスの状況とは矛盾している。

 

 インデックスは誰でもある筈の魔力が無いという。

 

 一見、そういう特性なのかと思われるが、こう置き換えてみたらどうなるだろうか?

 

 その時限爆弾や迎撃策そのものに魔力が使われている、と。

 

 そうなれば、大分話が違ってくる。

 

 

「さて、そうなると何時爆発するか分からないインデックスを早めに何とかしなければならないんだけど、どうしようかねぇ」

 

 

 上条がそう考えていた時、インデックスを預けていた食蜂から携帯で連絡が入った。

 

 内容はインデックスの容体の急変だった。

 

 

     

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、7月28日午前0時。

 

 本来の世界通りに、インデックスの首輪の解除が行われ、上条は記憶を失うことになった。



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1つの物語の終わり。

補足

上条VSペンデックスですが、こちらも原作と展開は変わりません。ただし、原作ではステイルと神裂が上条当麻を手伝いましたが、この作品では上条が幻想殺しを使って強すぎる異能のエネルギーを別方向(今回の場合は上)に反らす術を原作よりも早く身に付けた為、最初から最後まで一人でなんとかしました。そして、最後の羽の大群をインデックスを庇う形で幻想殺しで打ち消し続けましたが、運悪く最後の1つが原作で上条当麻が羽に当たった位置と同じ位置に当たってしまった為、彼は記憶喪失になりました。


◇7月28日 朝 学園都市 第7学区 総合病院

 

 

「しかし、良かったのかい?本当のことを言わなくて?」

 

 

 ここは上条の病室。

 

 先程まではインデックスが居たが、上条が無事を知らせたら、喜んで他の皆にも知らせると走っていった。

 

 普段ならば病院内で走らないでくれと内心で苦言の1つでも言ったであろうが、今はそんな事を気にしている場合ではなかった。

 

 それはそうだろう。

 

 冥土帰しは死なない限りはどんな難病も治して見せたが、今、目の前にはその治せない患者──上条当麻が居たのだから。

 

 しかし、彼は記憶を失った。

 

 幸い、彼の記憶は特殊な事情で思い出記憶が解離されており、あの食蜂に助けられた瞬間である8月から現在までの約1年間までの記憶は無事であり、インデックスの事を覚えていることが出来た。

 

 しかし、逆に言えば、上条はそれ以前の14年間分の記憶を失って、いや、破壊されてしまった。

 

 つまりは上条が幼少期時代をどう過ごしたか、そして、どうして学園都市に来たのか、そういった事も一切覚えていなかったし、これからも思い出すことがないようになってしまったのだ。

 

 勿論、覚えているのは食蜂に助けられたあの瞬間の8月からなので、その食蜂に出会う少し前に親しくなっていたあの蟻の少女の事も上条の記憶からは消去されてしまっている。

 

 これは間違いなく悲劇と言える現象である。

 

 もっとも、その破壊された記憶の中に、この世界の上条当麻が覚えている1年間がプラスされた本来の世界(・・・・・)よりは大分マシな被害とも言えるのだが、人生の年月的には15が14になったところであまり変わりはない。

 

 しかし、上条は悲観していなかった。

 

 

「ええ。あいつの事はちゃんと覚えていますし、わざわざこんなことを言う必要も無いでしょう」

 

 

「・・・」

 

 

 上条にそう言われれば、冥土帰しには黙るしか選択肢は存在しない。

 

 元々、治すことが出来ないわけだし、患者の上条にそう言われてしまえば、それを尊重すべきだ。

 

 

「じゃあ、僕はそろそろ行くね」

 

 

「ええ、では、退院までよろしくお願いします」

 

 

 そう言って冥土帰しは部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にありがとうございました」

 

 

 冥土帰しと入れ代わりでやって来たのは、神裂とステイルだった。

 

 代表として神裂が礼を言っていたが、反対にステイルは苦虫を噛み締めるような顔をしていた。

 

 それもそうだろう。

 

 彼らは本来の世界(・・・・・)では、インデックスを救う際に上条当麻の助力をしたことで、舞台の立役者の一角となることが出来た。

 

 また某魔神が創った世界においては、彼らが主役としてインデックスを救っている。

 

 だが、この世界においては彼らはただの傍観者に過ぎなかった。

 

 いや、傍観者で済んだらまだ良かっただろう。

 

 何故なら、彼らはインデックスを狙う悪役として終わったというのが、この世界の、この物語の、彼らの事実だったのだから。

 

 苦虫を噛み締めたくなる気持ちも分かる。

 

 

「お前らに礼を言われる筋合いはねぇよ。インデックスの為にやったことだしな」

 

 

「いえ、それでも、です。インデックスを助けてくださって、本当にありがとうございます。それで、インデックスの事なのですが──」

 

 

 神裂は上、つまり、イギリス清教の最大主教であるローラ=スチュアートのインデックスへの方針を告げる。

 

 そして、上条は当初こそ顔をしかめていたが、特に異論は無かったので、ローラの方針に従うことにした。

 

 何故なら、そこにはインデックスを上条に預ける旨が綴られていたからだ。

 

 連れ戻すと言うのならば、この病院で一戦交える事も辞さないと考えていた上条であったが、そういうことならば特にそういうことをする必要はないので安堵していた。

 

 ただ、油断は出来ないだろう。

 

 聞く限りだが、そのローラ=スチュアートという人物はかなり狡猾だ。

 

 普通ならば、そういった狡猾な人物は強力な駒を手放したりはしない。

 

 また首輪を付けに来たり、はたまた何処かに別の爆弾があって、それを突然起爆させたりなどといった事をやりかねない。

 

 だからこそ、上条は二人に対して、こんな問いを投げ掛けた。

 

 

「なあ、1つ聞きたいんだけど・・・」

 

 

「なんでしょう?」

 

 

「もし、これから先、あんたらの所属するイギリス清教とインデックスと敵対関係になる、何てことになったらどうするつもりだ?」

 

 

 これは是非とも確認しておきたいところだった。

 

 今後のためにも二人を味方に着けておきたいが、この問いに即座に答えられないようでは信用に値しないのだ。

 

 もっとも、上条の方もいきなりこんな問いを行ったので、即座に返事が返ってくるとは思っていなかったのだが──

 

 

「そんなの、決まっているだろう?」

 

 

 意外な事に、その問いに答えたのはステイルだった。

 

 

「インデックスを守る。あの子は僕のような間抜けな人間のせいで怖い思いをしたし、それ以前に僕自身も致命的な失態を犯してしまったからね。贖罪の意味でも、ただ純粋にあの子を守りたいという意味でも、僕はイギリス清教に喧嘩を売ってでもあの子を守って見せる」

 

 

 ステイルははっきりとそう言った。

 

 それを聞いた上条は安心した。

 

 確かにステイルと自分は根本的に馬が合わないのだろうが、インデックスの事に関してだけ言えば信用に値する、

 

 これで自分になにかあった時、インデックスはステイルを頼みにすることが出来る、と。

 

 

「・・・」

 

 

 しかし、ステイルとは別に、神裂は即座に答えることが出来なかった。

 

 いや、迷っていたと言っても良いだろう。

 

 何故なら、神裂はインデックスの事を大事に思ってはいるが、ステイルのように何を置いても守るという重い決意までは抱けなかったからだ。

 

 勿論、インデックスの為に命を賭けられるという点ではステイルと同じなのだが、例えばインデックスの命を捨てれば100人の命を救えるという状況になった時、ステイルとは違い、神裂はインデックスの方を選べると断言できなかったのだ。

 

 無論、これは間違いではない。

 

 確かに中途半端であり、人が聞けばイライラするような考えであるが、神裂の信念は『救われぬ者に救いの手を』なのだ。

 

 上条も似たような信念を持っているが、上条の場合は救いを求める者と自分が救いたい者を救うという信念であり、神裂とは違う。

 

 まあ、副統括理事長という権限を持つとはいえ、普通の学生の延長戦に過ぎない上条と、聖人である神裂では抱える責任が全く違うので比べようが無いのだが、少なくともインデックスにとっては上条の方が安心して身を置けるということは間違いないだろう。

 

 まあ、それは兎も角、この瞬間、上条が自分が万が一の事態に陥った時は、インデックスはステイルに預けることを決意した事は確かだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ 

 

 

「上条さぁん。具合はどうかしらぁ?」

 

 

「あっ、食蜂。待っていたよ」

 

 

 次に来たのは食蜂だった。

 

 そして、この時、上条はあることを食蜂に告げることを決めていた。

 

 

「食蜂、あのな。大事な話があるんだ?」

 

 

「なにぃ?」

 

 

「俺と付き合ってくれないか?」

 

 

「ふぇ?」

 

 

 上条の告白に、食蜂は思わず変な声を出してしまった。

 

 

「ど、ど、ど、どういう事かしらぁ?状況が全く読み込めないんだけどぉ?」

 

 

「いやさ。何だかんだ言って、お前にはちゃんとした告白が出来なかったから、これを機にと思ってな」

 

 

「あ、ああぁ。そういうことねぇ」

 

 

 食蜂は納得したような顔をするが、その顔はかなり赤い。

 

 何時もはクールぶっている?食蜂であるが、やはりこういう好きな人からの直球な告白には弱いのだ。

 

 

「それで、返事はどうなんだ?」

 

 

「ふふっ。そんなの決まっているじゃなぁい」

 

 

 

 

 

 食蜂は1年にも及ぶ恋募がようやく叶った嬉しさで思わず涙を流しながら、こう返答した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「喜んでお受けします、当麻さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時の笑顔は、上条曰く、思わず見惚れてしまう程の笑顔だったという。




これで禁書目録編は終了です。上条と食蜂は今話で繋がりましたが、作者は別に上食主義者ではありません、どちらかと言えば、上琴、あるいは上鳴主義者です。


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