RAINBOW X STORY (山形りんごをたべるんご)
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0.虹が降りたトキ



あかりちゃんがボイス1位になったので投稿するんご


え、アイマスじゃなくてラブライブじゃないかって?


……………山形りんごをたべるんご


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、この星に絶望の光が堕ちて来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光は世界を疾走(はし)り、多くの獣を解放した。

 豪咆が響き渡り、大地は震え、海は荒れ、空が破れる。振り下ろされる脚は小さきもの達を踏み潰し、放たれる火炎は樹々を焼き尽くし、兇悪な爪は街を殺していく。

 

 

 

 終わりの見えない地獄。正にそう呼ぶに相応しい惨状に小さな生命達は逃げ惑うが、迫る巨大な影を振り払う事は出来無い。その大きな力の前に只々擦り潰されてだけである。

 

 

 

 光が齎した闇により、世界の終焉が訪れたと誰もが思い、嘆き叫ぶのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「大丈夫か……!?」

 

 

 

 大地が激しく揺れ、空から火の粉が落ちてくる中を、1組の男女が逃げる。男は足を怪我している女性の肩を支えながら、決して見捨てる事無く進んでいた。

 彼らの背後にいるのは輝く巨大な絶望の闇。それは妖しく美しく煌めいている。

 

 アレからだけは、絶対に彼女を逃さなくては……!

 男は唇を噛み締め、出来るだけ速く前へと進む。立ち止まる訳にはいかない。何としてでも彼女を……彼女達(・・・)のことを救わなければならないのだから。

 

 

 

「こっちだ!!」

 

 

 声が聞こえた方を向くと、そこには1人の男性がいた。側には車があり、中には女性が乗っていてその人も「こっちに来て!」と叫んでいる。この2人は男の友人と言える者達であり、彼らの事を乗せて逃げようと考えているのだ。

 男は友人の方に向かって必死に進む。支えてる女性に「もう少しだ……!」と声を掛けながら。そして友人も、彼らを助ける為に走る。

 

 

 その時だった。空かは虹色の光が飛来したのは。

 ソレは闇の前に落ち、輝く巨人にの姿になった。光の巨人は闇に立ち向かう。2つの力がぶつかり合い、大空と大地に轟く。

 多くの人々が、そして車に辿り着いた彼らもその光景を驚きながら見ていた。

 

 

「何だ、アレ……?」

「綺麗……」

 

 

 巨人は暖かく美しい虹光を放ちながら闇と激突。その様はまるで守神だ。絶望の淵にいた人々の心に、光の巨人は希望の灯を点火させてくれた。

 

 

「急ごう!」

「あ、ああ!」

 

 

 光の巨人に見惚れていた彼ら。だが我に返り、早くここから離脱しようと友人の男が叫んだ。女性を車に乗せ、自分乗ろうとする…………が、男はある事に気付く。崩れかけたビルの近くに、蹲り泣いている小さな女の子がいたのだ。

 

 

「マズい…!」

 

 

 男は駆け出す。背後から聞こえて来る女性や友人の制止を無視して。女の子を助ける為に、揺れる地に足を取られながらも彼は走ってビルの所まで行った。

 

 

「もう大丈夫だ!」

 

 

 駆け寄って女の子を抱きかかえる。怪我も大して負って無くホッと息が溢れた。さあ、すぐに車に行こう。…………そう思った時だ。

 

 

「危ない!!!??」

 

 

 友人が思いっきり叫んでいる。そして空からは何か大きな音が聞こえる。見上げると目に映ったのは、紫色の雷撃がビルに炸裂し大きな瓦礫が落下してくる光景であった。突然の事に彼が反応出来る筈も無く……–––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 鳴り響く轟音、舞い上がる粉塵。ほんの一瞬の出来事である。煙が晴れ、女性達がそこに見たのは、落ちて来た幾つもの大きなビルの破片。そしてその下から伸びた腕と、広がっていく血溜まり。

 男と女の子が潰されて死んだと理解させられるには十分過ぎるものであった。

 

 

「あ……あなたああああああああ!!!??」

「ダメ!?」

 

 

 女性が絶叫して車から飛び降りそこへと走り出し、それを同じく降車して来たもう1人の女性が止める。

 泣き叫び何度も男の……愛する夫の名を女性は叫び続けている。それを聞いて心を痛めながらも、もう1人の女性と男性は友人として彼女のことを羽交い締めにして止めていた。もしこのまま向かえば、彼女も危険だからだ。

 

 

 

 そしてその一方、光の巨人は闇に追い詰められていた。

 巨人は大きな力を持っていたが、闇はそれ以上であった。このままでは敗北し、この星は滅亡する……。それだけはさせない為に、巨人は最期の力を振り絞る。

 

 

 放たれる光がより強くなり、巨人は気迫の声を発しながら闇に駆け出していき、そのまま闇へと激突していった。光と闇が混ざり合い、轟音が響く。そしてその二つが一つになったかと思うと一気に弾けた。光と闇は波動となってこの場を中心に世界へと広がり、更にこの星で荒れ狂っていた魔獣達を次々と封印していった。

 だがそれにより発生した衝撃波により建物を傷付け、窓ガラスを粉砕。その余波、女性達のことも吹き飛ばした。

 

 

 地面に倒れた3人はゆっくりと意識が遠退いていく。まず男性が気を失い、続いて先程まで女性を抱き締めていたもう1人の女性も目を閉じる。そして最後に残された彼女は、右手でお腹を抑えながら必死に夫の腕に左手を伸ばしていた。しかしそれが届く筈も無く、彼女もまた段々と景色が暗転していく。

 

 

「あな……た…………–––––––」

 

 

 

 

 意識が落ちる中最後に彼女は、腹部に何か優しい温もりを感じた…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後にスパークインパクトと呼ばれる事になる世界規模で起こった事件。これはその一端である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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–––––––––18年後。

 

 

 

 

 

 

 

 

「––––––––……っ」

 

 

 1人の少年が目を覚ます。ベッドの上で眠っていた彼は身体をゆっくりと起こした。周りを囲む白いカーテン、少し鼻で息を吸うと薬品らしき香りがしてくる。

 

 ベッドから降りて立ち上がり、カーテンを開く。辺りを見回すとどうやらここは医務室らしく、彼が寝ていた物以外にも何床かのベッドがあり、戸棚には資料があって、体重計や身長計なども置いてあった。

 

 ふと、彼は大きめの姿見を見つけた。そこに映されたのは自分自身の姿。どうやら彼は高校生らしく制服を着ており、首からは赤いネクタイが垂れている。

 じっと鏡の中の自分を見つめる少年。それに近付き右手で触れた後、彼はポツリと呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は……誰だ………?」

 

 

 

 

 

 

 





プロローグです。ここから少しずつ、物語は動き始めるんご。
どの様になっていくのかを楽しみながら山形りんごをたべるんご。

感想、質問、高評価、山形りんご、是非お待ちしてるんご。


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1.忘却ノ巨人


まずは第1話目、是非山形りんごを食べるながら読んでほしいんご





 

 

 

 

 

 

「俺は……誰だ………?」

 

 

 少年は鏡に映された自分の顔をまじまじと見る。しかし、自分が誰なのか全く思い出せない。名前が何なのか、何歳なのか、どんな性格なのか、これまでどんな人生を歩んで来たのか、何故ここにいるのか、何も覚えていなかった。見た目から分かるのは精々自分が男性であるという事くらい。襟足の少し長い黒髪、細い眉、翡翠のつり目で端整な顔立ちをしている。

 

 

「…………悪くは無いな」

 

 

 自身の頬を触りながら言葉を溢す。だが、今はそんな事言ってる場合では無い。どうにか思い出そうと頭を捻るが、やはり何も浮かんで来ない。

 

 

「んー…………ん?」

 

 

 ひたすら悩む少年。すると胸の内ポケットに違和感を感じた。手を突っ込んでみるとどうやら何かが入っている様子。取り出すと彼の手には、大きな端末の様な物があった。液晶が付いているが携帯にしては大き過ぎる。ボタンを適当に押してみたが反応は無し。 何だこれはと思いつつも、とりあえず自分の物っぽいのでポケットに仕舞う。自分のことが分かる物が何か無いかとズボンや上着のポケットを漁り始めたその時、部屋の扉が開かれた音がした。振り返ってみるとそこには9人の少女が、こちらを見て驚きの表情を浮かべていた。

 

 

「翔琉君!?」

 

 

 その中の1人である赤茶色の髪をした少女が彼に駆け寄って来て手を掴んだ。

 

 

「起きたんだね、急に倒れてびっくりしたんだよ……!?もう平気なの?まだキツいなら、寝てなくちゃダメだよ!?」

「お、おい……」

 

 

 彼が紡ごうとするよりも先に、他の少女達も彼の近くに寄って来る。

 

 

「もう!かすみん心配したんですよ!?」

「大丈夫?具合悪かったりしない?璃奈ちゃんボード『ハラハラ』」

「最近根を詰めてたみたいだし、疲れが一気に来ちゃったとか?」

「そんな時は彼方ちゃんと一緒にすやぴしようねぇ〜」

「先輩、あんまり無理しないで下さいね……?」

「曲作りは貴方に任せっぱなしだったからね……本当にごめんなさいね」

「キツい時はちゃんと言ってね?私達も手伝うから」

「とにかく、大事にはなっていない様でほっとしました……」

 

 

 少女達は矢継ぎ早に彼に言葉を掛ける。囲まれて困惑してしながら一人一人の顔を取り敢えず見る。尤も、内一人はどういう訳かスケッチブックに似顔絵を描いて隠している状態ではあるが。

 

 

「…………なあ」

「ん、どうかしたの?」

 

 

 少女に手を離させ、彼は皆を見ながら呟く。

 

 

 

「お前ら、誰だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

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 暗い部屋。パソコンの画面だけが光を放っており、その前には青い瞳の少女が座している。椅子の上に体育座りをし、身体を背もたれに任せ、手には人形が握られている。蒼い瞳が見つめる画面の中には、黒いナニカが映されていた。

 

 

《始めるのかい……?》

 

 

 ソレは少女に喋り掛けた。少女はくすりと笑う。

 

 

「まあ、せっかくだし最初は試運転って感じかなぁー」

《おやおやおや……では、やるとしよう》

「うん、お願い」

 

 

 

 少女は持っていた怪獣の人形を画面の前に置いた。それに向けて画面の中の存在は、闇を纏った手を翳す。すると怪獣の人形の目が、赤く邪悪な光を放った––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「全生活史健忘……所謂記憶喪失だね」

「記憶喪失……」

 

 

 少年は病院に来ていた。そこで医師から自身の状態を聞かされている。

 

 

「倒れた時の状況を聞いたけど外傷性では無さそうだし、検査結果が完全に出ない事には断定出来ないけど症候性の可能性も低そうだ」

「はあ……」

「心因性、つまり心的外傷やストレスによって起こされた可能性が一番高いかも知れない」

「ストレス…………覚えは無いですねぇ」

 

 

 彼のその言葉に「それはそうでしょ」と医師は笑う。

 

 

「希望するなら、一晩入院して様子を見る事も出来るけどどうする?」

「いや、大丈夫っすよ」

「…………何だか、あんまり驚いたりしてないね?」

 

 

 言われてみれば、記憶を無くしてしまっているというのに彼は驚いたり慌てたりしていない。

 

 

「さあ?元々、こういう性格だったんじゃないんっすかね?覚えてないけど」

「過去に記憶喪失になった人を何人か診たけど、君みたいなタイプは初めてだよ」

 

 

 そう言ってまた医者は笑う。記憶を失って本来ならパニックになったりするものなのだろうが、彼は飄々としてまるで気にしていない。「その内戻るでしょ」……そんな言葉を溢した後、椅子から立って診察室を出る。 それから彼はポケットからあの謎の端末ともう一つ、生徒手帳を取り出した。そしてそこに書かれている名前を呟く。

 

 

天地(あまち)  翔琉(かける)……か」

 

 

 天地 翔琉。 それが彼の名だ。虹ヶ咲学園音楽科の2年生でスクールアイドル同好会の部長であるらしい。手帳のメモ欄にはスクールアイドルに関する事が細かい字で色々と書かれており、記憶を失う前の彼は相当勉強していた模様。

 

 

「ふむぅ……」

「翔琉君!」

 

 待合所に来た翔琉に声を掛けたのは上原 歩夢。彼と同じクラスで同じ部活、そして幼馴染みである少女。この病院までは彼の付き添いで来てくれたのだ。

 

「上原……でいいのかな?」

「もう、他人行儀じゃなくて良いよ?いつもは歩夢ちゃんって読んでたんだよ」

「歩夢…ちゃん……」

 

 

 彼と彼女は産まれた日も時間も同じで家も隣同士、これまでの学校ではずっと同じクラスという奇跡的な関係であった。仲もとても良く、いつも一緒に遊んでいたらしい。 と言っても翔琉はそんな事全く覚えておらず初対面の様な感覚である為、いきなり名前呼びは少し気恥ずかしくも感じられた。

 

 

「ちゃん……は何か違うな…………歩夢、でいいか?」

「え?う、うん、いいけど……」

「どうした?」

「何だか、少し雰囲気が違うなって思っちゃって……。あ、嫌とかじゃないよ!?ただちょっとびっくりしただけだから」

 

 

 どうやら今の自分は前の自分とは違う性格だった様だ。

 

 

「そうか……なんか、悪いな」

「うんん、大丈夫。私こそごめんね……君が一番辛いのに変なこと言っちゃって……」

「…………帰るか」

 

 

 このままだと重い空気が流れてしまう。そう感じた翔琉は話題を変え、とりあえずここを離れることを提案した。歩夢はそれに笑顔で首を縦に振り、2人は病院を後にする事になる。

 

 

 

 

 

 帰り道を並んで歩く翔琉と歩夢。微妙な距離が2人の間にはあった。

 

 

「でもまさか、翔琉君が記憶喪失になるなんて……。一体何が原因なんだろう?」

「さあなぁ。俺は何にも覚えてないから、調べようが無い。正に未知の、Xの記憶ってな。だったら謎のまんまで良いんじゃないか?」

「良くないよ!?もしこのまま記憶が戻らなかったらどうするの!?」

「そん時はそん時だろ」

「そんなぁ……」

 

 

 事態を全然重く受け止めていない翔琉に歩夢は困り顔だ。

 

 

「まあ、なる様になるだろ。迷惑掛けるけど、宜しく頼むよ」

「それは良いけど……」

「ほら、さっさと帰ろう。両親に説明とかもしなきゃならんだろうし、歩夢も着いて来て……というか、先歩いてくれ。俺家分かんねえし」

 

 

 「ほら」と言って彼女の背を軽く押す翔琉。溜め息を吐き仕方ないと思いながら、歩夢は彼の半歩前を進んでいくのであった。

 

 

 

 その時である。爆音が鳴り響いて大地が揺れ、大きな咆哮が轟いたのは……。

 

 

「うおおっ!?」

「きゃあ!?」

 

 

 倒れそうになった歩夢を、翔琉は咄嗟に抱き締め支えた。

 

 

「大丈夫か!?」

「うん……あ、あれ!」

 

 

 歩夢の指差した方向。そこに居たのは50メートル程の非常に巨大な生物・怪獣であった。

 

 

「んなっ……!?なんだありゃあああああああああ!?」

「怪獣!?」

 

 

 黒い巨体、鋭い爪と牙、地に打ち付けられる尾、背に並ぶ鋭い背鰭、黄色く発光する角……恐ろしい姿をしたこの生物の名は熔鉄怪獣デマーガ。デマーガは雄叫びを上げながら、大地を踏み鳴らして進んでいく。

 

 

「ど、どうしよう!?」

「取り敢えず逃げるぞ!」

 

 

 翔琉は歩夢の手を取って怪獣の向かってる方とは逆の方向に走ろうとする。だが、歩夢は何故か足を止めた。

 

 

「ちょっと待って!」

「おっと!?何だよ!?」

「あの怪獣……学校の方に向かってる……!?」

 

 デマーガの向かう数百メートル先には彼女達の通う虹ヶ咲学園があった。奴は口と背鰭から火炎弾を放ちながら進んでおり、このまま行けば学校は破壊されてしまうだろう。

 

 

「まだ学校にはみんないるのに!?」

「あ、ちょ、おい!?」

 

 

 歩夢は怪獣を追う様に走り出した。向かった所で何も出来る事は無いのだが、止まってはいられなかった。翔琉の制止も聞かず、彼女は全力で走っていく。

 

 

「何やってんだよアイツは……!?」

 

 

 追うべきか、追わざるべきか。自分も走った所で彼女同様何も出来ない。記憶の無い自分に親身になってくれた歩夢を見捨てるのは心苦しくはあるが、もし彼女が死んだとしても彼の責任は問われないだろう。幼馴染であるとはいえ、今の彼にその記憶は無く歩夢は他人も同然で、助ける理由など無いに等しい。

 

 

「ッ……」

 

 

 唇を少し噛む。歩夢の背はどんどん小さくなっていた。

 

 

「ああああああああああッ!!!ちくしょう!!!」

 

 

 地面を思いっきり蹴って、彼は駆け出した。 見捨てて逃げてしまった方が間違いなく楽なのだが、それをやりたく無いと彼の心が叫んでいた。

 

「待てゴラァァァァァァァァァ!!!……って俺足速!?」

 

 

 予想外の自身の走力に驚く翔琉。歩夢との距離は瞬く間に縮まっていき、遂には追い着き追い越した。

 

 

「翔琉君!?」

「学校にいる奴らに電話しろ!!どうにかして俺があのデカ物足止めする!!」

「どうやって!?」

「ンな事俺が知るかあああああああああ!!!!」

 

 

 絶叫しながら歩夢を置いて翔琉は走る。デマーガの進行速度はそこまで速く無く、体格差を考えたとしても今の翔琉の速度なら並走どころか追い抜く事も可能だろう。時折デマーガの火炎弾によって崩れたビルの瓦礫が落ちてくるが、彼はそれを見事に躱しながら走る。

 

 

「あれ?俺ってもしかして運動神経最高か?」

 

 

 そんな事を思っていた時、空に2機の戦闘機が見えた。航空自衛隊が乗る様な機体とは明らかに違う派手なその戦闘機は、デマーガに向けて光線やミサイルで攻撃。その進行を食い止めんとしている。

 戦闘機の攻撃が当たり吠えながら止まったデマーガ。仕返しとばかりに、奴は戦闘機に向けて火炎弾を連続で放った。だが戦闘機は2機とも華麗に旋回してこれを回避。更に攻撃を続けていく。その光景を、翔琉は思わず立ち止まって見るのであった。

 

 

「うお……すげぇな」

 

 

 

 

 

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 Xio(ジオ)。 Xeno invasion outcutters(未知なる外敵からの防衛戦闘部隊)の略。地球防衛組織UNVER(アンバー)の実働を担う特殊防衛チームである。Xioには幾つかの班が存在し、特捜班は怪獣による災害、宇宙人による侵略などに対抗するエキスパートであり、その日本支部は東京郊外に置かれている。

 デマーガ出現の報告を受け、特捜班はその撃退の為に隊員達を現地へと向わせた。基地ではオペレーター達や隊長、副隊長、数名の隊員が戦況を見守っている。

 

 

「状況は?」

 

 

 小柄な女性がオペレーターに尋ねる。幼く見えるが彼女こそ、Xio特捜班の隊長なのだ。

 

 

「時速20km前後の速さで進行してたデマーガだけど攻撃を受けて止まったよー」

「でも身体が結構硬いみたいでダメージはあんまり無いみたいだねー」

「大型ミサイルでも撃っとくー?」

「まだ避難終了してないよー」

 

 

 間延びした話し方で解説する同じ顔をした双子の少女。髪の結び目と目の色が違うこと以外は全て同じだ。彼女達がXioのオペレーターなのだが、中学生か下手したら小学生くらいにしか見えない少女達がこんな場所にいてパソコンを見事に操作しているのはかなり違和感が感じられる。

 

 

「避難が完了してないなら、派手な攻撃は出来てないか……」

「どう、致しますか?」

 

 

 隊長の隣に控えていた屈強で少し強面な男性が尋ねた。彼はXioの副隊長である。

 

「先ずは住民の安全確保が先。マスケッティαとβはデマーガを足止め、その間に地上部隊は避難活動を迅速に進めて」

《了解!》

 

 

 隊長の指示に現場の隊員達が応える。民間人を守る為、Xioは行動を開始するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

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 一方で翔琉は、全力で走ってから先回りをしてデマーガの前方数十メートル先に立って……というか正確には放置された自動車を影にしてデマーガを見ていた。

 

 

「ハッ……迫力半端ないな」

 

 

 幸いデマーガは空の戦闘機に気を取られており、隠れてもいるから翔琉には気付く確率は低いだろう。

 

 

「さて、とりあえずこっから先に行かせない様にしたいんだがぁ…………マジでどうしよう?」

 

 

 勢いだけでここまで来たのはいいが、実際彼に出来る事は何も無い。あの戦闘機達に任せるのが一番賢いやり方だ。 

 

 

「バリケードでも作るか?まあ間違い無く蹴飛ばされるか、そもそも跨がれてしまうかだろうなぁ」

 

 

 どうするべきかと思案していると地面が大きく揺れた。デマーガが再び前進を始めたのだ。その速度は先程よりも速くどんどん翔琉がいる所に迫って来る。

 

 

「え、ちょ、やば!?」

 

 

 まずいと思い彼は駆け出す。しかし、最悪な事にその背後にデマーガの火炎弾が着弾した。爆発の衝撃を受けて、翔琉の身体は宙を舞い地面に叩きつけられる。

 

 

「がああああああ!?だあッ!?」

 

 

 ゴロゴロと転がった翔琉。派手に吹っ飛ばされたが大きな怪我はしてない様だ。

 

 

「痛ぁ………ん?」

 

 

 彼が地面に落ちた時、何かが懐から出て来た。保健室で見たあの大きな端末である。翔琉は這いながらそれに近付き拾う。すると彼の脳裏に、あるビジョンが映された。

 

 

「ッ!?な……んだ……!?」

 

 

 (もや)が掛かった様ではっきりとはしないそのビジョンに、彼は頭痛を感じる。何かを思い出せそうな予感がするが上手く集中する事が出来ない。 そしてそうこうしてる間に、デマーガが彼へと近付いて来ている……。

 

 

「しまッ……!?」

 

 

 けたたましい咆哮が鳴り、火炎弾が背鰭から次々と放たれた。それは翔琉の近くや付近のビルに炸裂して爆発。このままでは、確実に彼は死んでしまうだろう。 だが、まだ自分が何者なのか思い出せていないのに、こんな所で死ぬ訳にはいかない。翔琉は何かに突き動かされるかの如く、立ち上がって左手で持った端末を突き出す。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」

 

 

 そしてその端末の上部のスイッチを押し込んだ。側面のパーツがX字に展開し、そこから光が放たれた––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《X UNITED》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眩い光の柱が地上から天に向けて放たれた。そしてそれが消えるとそこには、1体の巨人が顕現していた。 巨人の出現に怪獣から逃げていた人々や、映像を見ていた人々、Xioの面々、翔琉の事が心配で後を追い掛けていた歩夢、そして何より巨人に変身してしまった翔琉自身が驚いていた。

 

 

「何だよ……これ……!?」

 

 

 ふと横を見ると、高層ビルの窓ガラスに自身の姿が映されていた。40m以上はあるであろう巨体、赤と銀のそして黒のボディはメカニカルな印象を受け、胸元にはX型の水晶の様な物が青く発光している。 一体何がどうなっているのか?突如起こった大きな変化に彼は戸惑いを隠せない。そこへ……。

 

 

「ん?」

 

 

 デマーガが雄叫びと共に牙を剥きながら襲い掛かって来た…………。

 

 

 

 

 

 

 





本作にはXioそしてUNVERが存在するんご。ただ設定や隊員編成、使用兵器などもいくつか本編とは違っているので別物と考えてもらってほしいんご。

何故かウルトラマンに変身した翔琉。次回、X対デマーガ。是非お楽しみしてほしいんご。

感想、質問、高評価、山形りんご、是非お待ちしてるんご。



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2.始まりのカネ



初戦闘回です。果たして翔琉はデマーガにどう立ち向かうのか?
それではどうぞんご





 

 

 

 

 

 

 

「か、かかかかか怪獣だあああああ!?」

 

 

 虹ヶ咲学園はパニックに陥っていた。突如現れた怪獣が火を放ち、街を破壊しながらながら学校に向かって来ているのだ。

 

 

「どどど、どうしようしず子、りな子!?」

「大きいし、こ、怖い……!?」

「速く逃げないと、こっち来てます!?」

 

 

 慌てるかすみとしずく。想定外の事態に、璃奈も持っていたボードが自然と下がっている。怪獣はどんどん近付いて来る。後十数分もすれば奴はここまで辿り着くだろう。急いで逃げなければ………彼女達は勿論、学校にいる他のみんなもそう思い行動をし始めようとした時だった。光と共に巨人が現れたのは。

 

 

「せっつー、あれ!」

「え、巨人……!?」

 

 

 突然現れた巨人に愛とせつ菜は驚く。

 

 

「すごーい!」

「あれも怪獣なの……?」

「お〜、おっきな人……」

 

 

 エマ、果林、彼方も衝撃を受けている。 虹ヶ咲学園と怪獣の間に立った巨人。その背中を、生徒達は見つめるのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Xioの作戦司令室も、モニターに映された巨人を見て驚愕していた。

 

 

「新たに巨人が出現したよー!」

「これってもしかしてー!」

「まさか……!?」

 

 

 オペレーターの2人、そして隊長が反応。隊長の傍らに立つ副隊長も目を見開いており、他の隊員達も驚きの表情を隠せない。

 

 

「ま、まままま、ままままままままさかぁ!?」

「わっ、ちょ!博士ぇ!?」

 

 

 白衣を着た小太りの中年男性がかなり態とらしい口調で驚いている。彼はXioの研究セクション・ラボチームのリーダーで武装やメカニックの開発を行って来た男だ。身体を退け反らせてひっくり返りそうになってる彼を、隣にいたラボチームのメンバーである女性が背後に回って支えた。

 

 

「ミキリ、ミハネ!巨人のスキャニングを急いで!」

 

 

 隊長の指示により、オペレーターである2人の少女・羽人ミキリと羽人ミハネは即座に現れた巨人のスキャニングを開始。

 

 

「全員、指示があるまで待機して。あの巨人、恐らく……」

 

 

 現場にいる隊員達にもそう指示を飛ばす。それから隊長は、巨人のことを見極める様にジッと見つめるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翔琉を心配して走ってきた歩夢。彼女もまた、突如現れた巨人を目撃して驚く事になる。

 

 

「凄い……!」

 

 

 足を止めて茫然とその姿を見上げる歩夢。勇しく、神々しい巨人を見つめていると彼女の胸の奥が速く脈打つのを感じた。巨人の存在に自分は感動しているのだろうか?そう思い胸に手を置こうと伸ばす……。

 

 

「…………そうだ、翔琉君!?」

 

 

 だが今はそんな場合では無い。急いで翔琉を見つけなければ。歩夢は再び彼の名を呼びながら走り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレ……嘘でしょ……?」

 

 

 暗い部屋の中でパソコンに映された巨人の姿を見て、少女は予想外の者の登場に目を見開く。そして同じく映像を見ている黒いナニカも少し驚いた様なリアクションを見せていた。

 

 

《おやおやおや……これはこれは。まさかこの世界にも彼らが居たとは》

「…………どうすんの、これ?」

 

 

 ちょっと不機嫌そうな顔で黒いナニカを少女は見る。

 

 

《なぁに、今日は試運転なのでしょう?なら、先ずはお手並み拝見といこうじゃないか》

 

 

 その言葉を聞いた少女は両足を伸ばして組んだあと机の上に乗せる。

 

 

 

 

 

「そうだね。どれくらい強いか見てあげないとね…………このウルトラマンが」

 

 

 

 

 

 

 

 

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 巨人に変身してしまった翔琉。彼が茫然としているところへ、デマーガは叫びながら突っ込んで来た。それに対して巨人が対応出来る筈も無く、まともに喰らって圧し倒される事になった。

 

 

「うおっ!?ちょ、待て!?」

 

 

 口を開いて牙向け、噛み付こうとするデマーガ。巨人はそれを両手でどうにか抑える。

 

 

「待って待って待って……マジで理解が出来ねぇ……!?ちくしょう!」

 

 

 記憶は無くなる、怪獣は出て来る、巨人になる、訳の分からない状況に彼の頭の中はパニック状態だ。とは言えこのままではやられてしまう……。巨人はヤケ糞気味にデマーガを蹴り剥がした。デマーガは飛ばされて地面に倒れる。

 

 

「ふぅー、頼むから一回落ち着いて……ぐお!?」

 

 

 フラフラしながら立ち上がった巨人。身体に付いた土埃を払っていると、同じく立ち上がったデマーガがすぐ様尻尾を振って叩きつけてきた。巨人は敢なく吹っ飛び、アパートを押し潰しながら倒れた。

 

 

「痛ぇ………いや、意外と、大丈夫っぽい?」

 

 

 ノーダメージとはいかないが思った程では無く、ひとまず起き上がる巨人。すると彼の耳に聞き覚えのある声が聴こえて来た。

 

 

「翔琉くーん!!何処にいるのー!?翔琉くーん!!」

 

 

 それは翔琉の事を探して叫んでいる歩夢のものであった。走り去って姿の見えなくなった彼を心配して大きな声を上げている歩夢。 しかし最悪な事に、それがデマーガの耳にも入ってしまった。デマーガはそのギョロリとした眼で彼女を捕捉。背中が赤く燃え上がり、口に炎が溜まっていく。それを歩夢に向けて放つつもりなのだ。歩夢もその事に気付いた。逃げようとするが、巨大な怪獣から敵意を向けられた事による恐怖で足が竦んでしまう。 そして容赦無く、火炎弾が歩夢に向けて放たれた…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?………………あれ?」

 

 

 思わず目を閉じた歩夢。しかし火炎弾が彼女を襲う事は無かった。目を開けてみるとそこには、自分の前で膝立ちをしていて火炎弾を受けた巨人の姿があった。

 

 

「私を……助けてくれたの……?」

 

 

 巨人は一度歩夢の方を見た後立ち上がる。 理解不能な状況ではあるが、この力があれば彼女を護り、怪獣と戦えるというのは分かった。ならばやるべき事は一つ。胸の水晶が輝きを放ち、巨人は気迫の声と共にデマーガへと駆け出した。

 

 

 勢いを付けたジャンプキックがデマーガの腹に直撃。奴は苦悶の叫びを上げて後退していく。そこへ巨人は間髪入れず接近して打撃を連続で打ち込んでいった。フック、ボディブロー、チョップ、そして回し蹴り。戦い方は何故か脳裏に浮かんできて分かる。絶え間無くデマーガを攻め立て反撃の隙を許さない。

 

 

 怪獣と戦う巨人の姿を見て、多くの人々が驚いていた。我々の事を守るかの様に戦っている謎の巨人。その姿はまるで正義のヒーローの様に見えた。 そして見ている人の中には、巨人のことを応援し始める人も現れてきている。

 

 

「一気にいくぜ……おわっ!?」

 

 

 デマーガもやられっぱなしでは無い。一瞬の隙を突いて爪を振るい巨人を攻撃。その胸に傷を付けた。更にお返しとばかりに火炎弾を放とうとする。…………だが、それはXioの戦闘機2機が放ったビーム砲にによって事前に阻止されてしまった。戦闘機は見事な軌道でデマーガの周りを飛んで攪拌しながら攻撃を続けていく。それはまるで巨人を援護しているかの様。実は、彼が歩夢を助けた場面を見たXio隊長が援護する様に指示したのだ。

 

 

「こりゃ助かる!」

 

 

 後方に側転してデマーガとの距離を開く巨人。そして彼は拳を握った右腕を横に振る。

 

 

「決める……!」

 

 

 胸の水晶が輝き、それから両腕を左へと振りかぶって同時に右脚を軸にして左脚を回す様に地面を抉りながら踏ん張る。その際、足の裏からエネルギーの余波が地面や周囲の建物に放射されていく。振りかぶった両腕を、巨人は胸の前でX字にクロスさせた。

 

 

「ザナディウム光線!!」

 

 

 クロスさせた腕から光線が放たれた。光線はデマーガに直撃。奴の叫びと共に大爆発が起こり、デマーガの姿は消失する。その時、直撃した際に拡がった光が圧縮されていった。

 撃破された怪獣。それを見て、多くの人々が歓声を上げた。

 

 

「終わっ……た……」

 

 

 戦いが終わり、巨人=翔琉は深く息を吐く。するとその身体は光り、彼もまた消失するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 巨人……ウルトラマンとデマーガの戦いを見ていた少女。デマーガが敗れ、ウルトラマンが勝利したのを目撃し、彼女の顔は不機嫌なものになっていた。

 

 

《負けてしまったねぇ》

「うっさい」

 

 

 脱いだ靴下をパソコンに投げ付ける。

 

 

《まあまあ、そう怒らないでくれ。……これから面白くなってきそうじゃないか》

 

 

 その言葉を聞いた少女はそっぽを向いて椅子から立ち上がり部屋の電気を点ける。部屋にあるガラスケースの中には幾つもの怪獣のフィギュア、そして怪獣や宇宙人が描かれたカプセルの様な物が並べられている。足元には色んな物が散乱しており、ハッキリ言って異様な雰囲気が漂っていた。

 

 

「まあいいよ。どうせ次で勝つから」

《ほう……何かするのかい?》

「もちろん。あんなの邪魔だし、早いとこ殺しとかないと」

 

 

 くすっと笑った少女は、その笑顔のまま黒いナニカに問い掛ける……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「手伝ってくれるよね…………ルギエル?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 翔琉は呆然としたまま膝を付いていた。巨人となって戦い怪獣を倒した–––––実感が湧かないが紛れも無く事実である。何も覚えていない筈の脳に流れてくる怒涛の情報量にパニックを起こしそうになる。そこへ、彼を探していた歩夢が現れて駆け寄って来た。

 

 

「翔琉君!?大丈夫!?もしかして、何処か怪我したの!?」

 

 

 彼の肩を歩夢が揺さぶった。それに対して翔琉は「いや……」と少し歯切れの悪い返事をしてからゆっくり立ち上がる。

 

 

「本当?本当に大丈夫なの?」

「ああ……」

「良かったぁ……。さっきの、何だったんだろうね……?」

 

 

 2人は先程まで巨人と怪獣が戦っていた場所を見つめる。

 

 

「さあな。俺の記憶と一緒で一切不明だ……」

「私のことを助けてくれたんだけど……味方、何だよね?」

「…………だと良いがな」

 

 

 ポケットの中にあるデバイスに上から軽く触れる。この力は何なのか?自分は何故巨人に馴れたのか?何もかもが解らない。翔琉にとって記憶同様、正に未知=Xと言えるものであった。

 

 

「X……」

「えっ?」

「あの巨人……X(エックス)だ」

 

 

 ポツリと翔琉は呟いた。 それと同時に鐘の音が鳴り響く。それはまるで、これから始まる彼の戦いの日々の幕開けを告げているかの様であった……––––––––

 

 

 

 

 

 

 

 






皆さんお気付きだろですけど、本作にはSSSS.GRIDMAN要素があるんご。そして謎の少女がかなりヤバい名前を出してるけど………どうなっていくのか、是非お楽しみにしてほしいんご。

では、感想、質問、高評価、その他、是非お待ちしてるんご



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3.スクールアイドル同好会


遅くなりましたが3話目、どうぞんご


 

 

 

 

 怪獣。古来よりその存在は世界各地の古文書や壁画などに記されていた。しかしそれらは所詮伝説上だけの存在であり実在はしないと考えていた。

 

 

 だが今から約90年前、太平洋にある髑髏島に向かったアメリカの調査団がそこに巨大な生物が生息していたことを政府に報告していた。この事は長らく伏せられていたのだが、ある事件を切っ掛けに公開されることになる。

 

 

 それは髑髏島調査から15年後。終戦直後のアメリカ・ニューヨークに四足の巨大生物が現れた。体長は60メートル前後、蜥蜴の様な姿。極めて凶暴な性格であり、素早い動きで町を破壊し、大きく裂けた口を開いて人間を捕食。水爆実験の影響で目覚めたとされるそれは猛威を振るい、ニューヨークを阿鼻叫喚の図に変えた。

 当時偶然ニューヨークに居て事件に遭遇した日本人がそれを見て怪奇なる獣・怪獣(KAIJU)と呼び、それが広まっていき、以降巨大生物の事を怪獣と呼称する様になる。

 その後、リドサウルスと名付けられた怪獣はアメリカ軍の開発した新兵器により絶命。約8000人の犠牲者を出した世界初の怪獣災害はこれにて終結する事になる。

 

 

 

 怪獣の出現、そして撃破は世界に伝えられ、それを成したアメリカは世界から評価される。しかし同時に、髑髏島に巨大生物が存在していたことを隠蔽しようとしていた事が露見し追求される事にもなった。

 

 また、この時期世界各地で怪獣の人形型オーパーツ・スパークドールズが発見された。最初はただの人形かと思われていたが、研究を進めていくとこれらには何と生命反応があることが判明。そして何らかの影響でのスパークドールズが実体化し怪獣となるという事件が、発見から数年後に発生し、以降多発する事になる。何故人形に生命があるのか?何が原因で実体化するのか?その謎は未だ解明されていない。

 

 

 

 リドサウルスの出現から10年後。日本に初めて、怪獣が出現。日本海から現れ上陸したその怪獣は圧倒的な力で都市を破壊。まで結成して間も無い自衛隊が立ち向かったが全く歯が立たず、アメリカ軍も出動したが全て破壊し尽くされた。

 日本を蹂躙した怪獣はその後、中国、ロシア、フランス、オーストラリア、アメリカにも渡り、各地域で猛威を振るう。その様から、奴は怪獣王として全世界から恐れられる事になる。

 

 

 奴の登場以降、スパークドールズの実体化も含めて多くの怪獣が現れる様になった。未開の地であったインファント島からの巨蛾、阿蘇山より現れた鳥獣、南海に現れた巨大な亀と蟹、人を殺す事に長けた怪鳥獣等、様々な危機に人類は直面する。更に、宇宙より異星人が地球を訪れる様になったのもこの頃からであり、その中には侵略を目的とした者も存在した。世界はこの未曾有の危機に対抗する為、地球防衛組織UNVERを設立。これが今から約60年前の出来事である。本部は当時まだ怪獣被害の無かった地域の一つであるスイスのジュネーブに置かれており、更にその実働部隊として特殊防衛部隊Xioを設立した。活動は有害鳥獣駆除取扱要項に則り、宇宙人に対する逮捕及び取調を行う権限もある。

 

 

 UNVER設立から5年後、地球人類は宇宙人とのより本格的なコンタクトを開始。以降、地球は様々な星と平和条約や不可侵条約を結んでいく事になる。しかし、友好的な宇宙人がいる一方、地球の資源を狙って侵攻をする者も多く現れた。

 

 

 

 そしてこの頃、スパークドールズと同じオーパーツの一つである怪獣カプセルの存在が確認される様になる。これは地球以外の星にもあるらしく、一説によるとある種族の科学者が創った特殊なカプセルを何者かが奪い、その模造品を創り出して様々な怪獣や宇宙人の遺伝子情報を回収して出来たのがこのカプセルらしい。この怪獣カプセルは宇宙各地に拡まっており、地球でも元々存在していた物、そして宇宙人が持ち込んだ物と、幾つものカプセルが発見された。

 

 

 

 

 

「–––––––––––以降も怪獣による災害や宇宙人による侵攻は続いており、この地球は常に危機に晒されていた。特に日本は怪獣の出現率、及び宇宙人の飛来率は共に世界一位であり、海外への移住を行う人も少なくない」

「ありがとうございます。そこまでで大丈夫です」

 

 

 ここは虹ヶ咲学園の教室。現在は授業中である。今行われているのは「怪獣学」という授業で、これまで怪獣や宇宙人によって起こされた大きな災害、事件や、それらに対してどう対処するべきかなどを学ぶ授業だ。約35年前から実施されており、怪獣や宇宙人は、良くも悪くもこの世界に生きる人間の一部となっている。

 

 

「ではこの続きを……天地さんに読んでもらいましょう。……天地さん?」

 

 

 リレー形式で教科書の内容を生徒達は読んでおり、次に指名されたのは翔琉であった。しかし彼は返事をしない。

 それもその筈、翔琉は机に伏して眠っていたのだから。

 

 

「翔琉君、翔琉君!」

 

 

 小声で歩夢が声を掛けて揺らす。すると彼はそれに反応をして顔を起こした。

 

 

「んっ………何だよ……?」

 

 

 目を擦りながら起床。そしてそんな彼の目前には、この教科の担当である教師・綾小路 涼風が立っていた。

 

 

「おはようございます天地さん。私の授業は心地良い子守唄になりましたか?」

 

 

 淡々と言う綾小路先生。表情は柔和だが目が明らかに笑っておらず、翔琉は思わず寒気を感じる。

 

 

「え、あ、いやぁ………おはようございます……」

「はぁ………。貴方が記憶喪失になって大変な事は聞いています。しかしだからこそ、この授業はしっかりと聞くべきです。昨日怪獣が現れた事は貴方も知ってますよね?」

「まぁ……それは……」

 

 

 だって自分が戦って倒しましたからね。などとは言える筈も無く黙っている。

 

 

「この怪獣学では怪獣や宇宙人が現れた際、どの様に行動するべきかも学びます。まあ、実際にそれらと対面した時それが役に立つかどうかは正直微妙なところもありますが……」

「いやダメじゃん」

「けれど、知らないよりは知っていた方が良いです。怪獣や宇宙人に対する知識を持つ事は、自分の命を守る事に繋がるのですから」

 

 

 ほんの1%でも、生存率を上げられるのであれば無いよりは遥かに良いという事なのであろう。翔琉はその言葉にコクリと肯く。そして綾小路が授業を再開しようとした時、チャイムが鳴った。

 

 

「では本日はここまでです。号令をお願いします」

 

 

 教壇に戻った先生にそう言われて学級委員長が号令。授業は終わって昼休みの時間が来た。

 

 

 

 

 

 

 

「ねえねえ天地君!記憶喪失って本当なの!?」

「確かに雰囲気変わってる気がする……」

「私達のことも忘れちゃったの?」

 

 

 昼休みになるや否や、彼の机の周りを多くの女子生徒が囲んだ。因みにこの寸前に彼に話しかけようとした男子達が押し飛ばされている。

 

 

「ま、まあな……何でかは俺も知らねえけど、気付いたら何も覚えてなくてよぉ………どうした?」

 

 

 女子達はポカーンとして彼の事を見ている。

 

 

「いや、天地君が俺って言ってるのがなんか新鮮な感じで……」

「前は“僕”だったもんね」

「雰囲気も前は何ていうか、人懐っこい大型犬って感じだったし……」

「天地君、性別問わず結構みんなから好かれてたんだよ」

「そう……なのか……」

 

 

 人懐っこい自分というものを翔琉は想像出来ないでいた。みんなから好かれている、というのも何となく変な感じがする。元々の自分がどういうものだったのか考えていると、そこへ歩夢がやって来た。

 

 

「もう、みんな!翔琉君困らせたらダメだよ?」

「おや?奥さんが夫を助けに来たみたいだよー」

「お、奥さん!?わ、私は別にそんなんじゃ……!?」

 

 

 慌てふためく歩夢とそれを揶揄う女子生徒達。そして先程吹っ飛ばされたことについて蚊の鳴く様な小さな声で抗議している男子生徒達。

 破茶滅茶な状況ではあるが、どうやら悪い奴は居ない様で安心して息を吐く。

 

 

「こんにちはー」

「うおっ!?」

 

 

 するとそんな彼の背後から、1人の少女が声を掛けて来た。耳元で話された事に驚きながら翔琉は振り向く。その先に居たのは吸い込まれそうな青い瞳に薄い桜色の髪を持つ少女。少女はニコニコしながら翔琉の事を見つめている。

 

 

「えっと……」

「本当に覚えてないんだねー。ま、私達あんまり話す方じゃ無かったから仕方ないか」

「そう……なのか?」

「うん。あ、私は新城野(あらきの) 明里(あかり)だよー。改めてよろしくー」

 

 

 笑顔でピースをする明里。その容姿はとても愛らしく、翔琉は少しだけドキッとしてしまう。

 

 

「おう……よろしく」

「ふふーん、はいこれあげる」

 

 

 そう言って彼女が渡して来たのはホットドック。ソーセージやレタス、玉子など様々な具が挟んである。彼がそれを受け取ったのを確認すると、明里はそのまま去っていった。

 

 

「…………美味」

 

 

 未だに揶揄われ困りながらも満更では無さそうな歩夢を見ながら、翔琉は貰ったホットドックを食べるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は経って放課後。授業も終わり、翔琉は歩夢に連れられてスクールアイドル同好会の部室に来ていた。部室内には既に歩夢以外の8人が集まっている。

 

 

「ここが、俺らの部室……」

「そうだよ。何か思い出せたりしない?」

「うーん…………ダメだ」

 

 

 考え込むが何も思い出せ無い。何となく懐かしさというか安心感は感じられる場所ではあるが、思い出せる事は結局何も無かった。

 

 

「そっか……。まあ、それなら仕方ないね。ゆっくり思い出していこう」

 

 

 笑顔でそう言ってくる歩夢に少し申し訳なくなる。

 

 

「そうだ!先輩に、改めて自己紹介しませんか?」

「確かに、私達の事も忘れているのなら、その方がいいですね」

「なら、かすみんからやりますね!」

 

 

 そう言って1人の少女が翔琉の前に出た。

 

 

「中須 かすみです!かすみんって呼んでくださいね!」

「わかったよ中須」

「かすみんです!!もう!先輩記憶を失う前は、かすみん!かすみん!って言いながら頭撫で撫でしてくれてたんですよ〜」

「本当か?」

「嘘です」

「嘘」

「かすかす嘘はダメだぞ〜」

「ぎゃー!?かすかすは禁止ですぅー!!」

 

 

 他の1年生2人と金髪の少女にバラされて手をジタバタしてるかすみ。みんなその様子に失笑しながら、続けて自己紹介をしていく。

 

 

「桜坂 しずくです。1年生で演劇部にも入ってます」

「私は天王寺 璃奈。改めてよろしくね」

「おう。てか、そのスケッチブック何だ?」

 

 

 昨日から密かに気になっていた事を彼は尋ねる。

 

 

「これは璃奈ちゃんボード。私は感情を顔に出すのが苦手だから、これを使って表現してるの」

「な、なるほど……。前見えなく無い?」

「意外と大丈夫。璃奈ちゃんボード『いえい』」

 

 

 言葉の通りボードの表情を巡ってから変えて翔琉に今の感情を伝える璃奈。それに少し驚いてる翔琉の事を見て微笑むしずく。

 

 

「次はアタシだね!宮下 愛だよ!気軽に呼んでいいから改めてよろしくね、かけるん!」

「ああ……ってかけるん!?それ、俺のこと!?」

「当ったり前じゃん!かけるんはかけるんだよ!」

「ええー……まあ、いいか」

「私は優木 せつ菜です。歩夢さんと愛さん、そして貴方と同じ2年生です。大変でしょうけど、私達がサポートしますから安心して下さい!」

「頼りにしてるよ」

 

 

 明らかにギャルな見た目でノリもギャルな愛と如何にもアイドルと言った服装をしているせつ菜。

 

 

 

「朝香 果林よ。読モもやっているわ。何か困った事があったら言ってね?お姉さんが優しく、教えてあげるから」

「近江 彼方だよ〜。よろしくね〜…………すやぁ……」

「エマ・ヴェルデだよ!スイスから留学して来たの。何かあったら私も手伝うから何時でも頼りにしてね?」

「ありがとうございます………え、1人寝てない?」

 

 

 大人のお姉さんという言葉が似合いそうな果林。立ったまま眠りに誘われていく彼方。柔和な笑みで彼方を支えるエマ。

 

 

「そして私、上原歩夢と部長のあなた。この10人がスクールアイドル同好会のメンバーなんだよ」

 

 

 翔琉の隣りに来てそう言う歩夢。

 こうして見ると全員個性的だと感じた。自分はこれまでこのメンバーを纏めて来たのか……そう思うと、これから改めてやっていけるのか少し不安になってくる。まあ、やれるだけやってみるかと、心の中で自分を奮い立たせるのであった。

 

 

「ねえ、今日部活終わったらみんなで遊びに行かない?かけるんにもう一度アタシ達のこと知ってもらいたいじゃん!」

 

 

 愛がそんな事を提案した。

 

 

「それは良いかも知れませんね!先輩はこの後お時間大丈夫ですか?」

「まあ、特に何も無いから大丈夫だ」

 

 

 しずくの問い掛けに彼はそう答えた。翔琉も皆の事をよく知りたいと思っているので丁度良い機会である。

 

 

「だったら決まりですね!特別にかすみんがエスコートしますよ!」

「なら、早く練習を済ませちゃいましょう」

 

 

 

 全員が練習をする為、移動を始める。翔琉もその背に続いて歩き出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

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 新城野 明里は暗い部屋の中にいた。彼女はスイッチを押して電気を点ける。照らされた部屋には幾つものスパークドールズや怪獣カプセルがガラスケースの中に収められており、机の上のパソコンには黒き異形のモノが映されている。

 彼女こそ、昨日デマーガを呼び出した元凶なのだ。

 

 

「ねえ、ルギエル。昨日のウルトラマンの事、何か分かったー?」

 

 

 鞄をベッドに放り投げながら異形のモノ=ルギエルに声を掛ける。

 

 

《いやいやいや。残念ながら、私にもサッパリだ》

「えー。つっかえないなぁー」

《これはこれはこれは、手厳しい……》

 

 

 

 笑いながら画面の中でお手上げと言う様なポーズをするルギエル。彼女はそれを無視してケースの中にある、とある怪獣カプセルに目を向けていた。

 

 

 

「あれさぁー。絶対邪魔になるよね」

《まあ、確かに今現在一番の障害だろうねぇ》

「ならさ、さっさと殺しちゃった方が良いよね」

 

 

 そう言った明里は見つめていた怪獣カプセルをケースから取り出した。カプセルに描かれているのは、深き闇を纏った暗黒の支配者。

 

 

《おやおやおや、いきなりそれを使うのかい?》

「うん。ちっぽけなカプセル一つの力だから出来るのはデッドコピーだけど、あのウルトラマンくらいなら楽勝でしょ」

 

 

 

 

 

 笑顔を見せる明里はカプセルを起動し、それに応じる様にルギエルは闇を放つ。その顔はとても楽しそうで、その瞳はとても美しい。しかし、彼女の心は誰よりも深く暗く黒く塗り潰されていた……––––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《エンペラ星人……!》

 

 

 

 

 

 

 

 

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・天地 翔琉

 

虹ヶ咲学園音楽科2年生。身長179cm。3月1日生まれの魚座。本作主人公。ある日、何故か記憶喪失になり更にウルトラマンエックスに変身する力を得ていた。記憶を失ってからは少し気怠けで楽観的な性格だが、心の中には熱く優しい想いを秘めた男子となっている。元々は高いコミュニティ能力と行動力を持ってスクールアイドル同好会を廃部の危機から救った(つまりスクスタのあなたと同じ性格)。記憶を失った理由もエックスに変身出来る理由も全て不明。

 

 

・ウルトラマンエックス

身長:45m

体重:4万5千t

飛行速度:マッハ9

疾走速度:マッハ2

水中速度:マッハ1.8

ジャンプ力:一跳び750m

腕力:8万t

握力:8万2千t

 

天地翔琉が変身するウルトラマン。エクスデバイザーの上部ボタンを押す事で《X UNITED》の音声が鳴り変身が完了する。これは本来のエックスへの変身方法と多少違うのだが理由は不明。戦闘方法は翔琉の脳裏に浮かんで来るらしい。必殺技は腕をクロスして放つザナディウム光線。この技には怪獣をスパークドールズにする効果がある。

 

 

・デマーガ

別名:熔鉄怪獣

身長:50m

体重:5万5千t

 

体の79%が溶けた鉄で構成された怪獣。黒い体は高い熱量を持ち、出現時にはその影響で川の水が沸騰してしまうほど。頭部の黄色い角に神経と熱源が集中しているのが弱点。口から熔鉄熱線を吐いて攻撃するほか、背から熔鉄弾を放つこともできる。

明里によってスパークドールズから解放されエックスと初めて戦った怪獣。街を破壊しながら虹ヶ咲学園がある方向に進んでいくが登場したエックスに阻まれ、彼が初変身に驚いていた事もあって最初は攻め立てていたが覚悟を決めたエックスに圧され、最後はザナディウム光線を喰らい敗れた。

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はこの作品での歴史、設定について大まかに説明しました。

本作にはウルトラシリーズ以外からも様々な怪獣が登場する予定です。名前を伏せた物も多いですが、過去に何が現れたのかは気付かれた人も多いと思われるんご……。

そして次回……最後に名前が出たあの暗黒の皇帝が君臨することに……果たして翔琉の運命は?
是非お楽しみにしてほしいんご。

それでは、感想、質問、高評価、是非是非お待ちしてるんご!



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4.皇帝コウリン



とても4話目とは思えないタイトルですが、さっそくどうぞ。


 

 

 

 

 

 Xio作戦司令室。そこで隊員達は昨日の怪獣デマーガと光の巨人ウルトラマンとの戦いをモニターで観ていた。

 

 

「ウルトラマン……。噂では聞いていたけど、まさかこの地球にも居たなんてね」

 

 

 Xio日本支部の隊長である女性・神山(かみやま) 沙優(さゆ)は、モニターに映るウルトラマンの事をじっくりと見る。

 これまで出会った宇宙人から、ウルトラマンという存在は何度か耳にして来た。M78星雲・光の国と呼ばれる星の出身で、宇宙警備隊という組織を結成し全宇宙の平和を守り続けている存在であると。それをこの目で目撃する日が来るとは思っていなかったので、彼女はとても驚いていた。

 

 

「ザムザ、貴方はこのウルトラマンについてどう思う?」

 

 

 沙優に問われた大柄な男、Xioの副隊長であるザムザ・ヘラクレスは、ジッとウルトラマンを見つめる。

 

 

「このウルトラマン、恐らく、戦闘に関しては、素人。そして、この日、初めて、ウルトラマンになった、かと」

「素人?でも、怪獣は倒してましたよ?」

「そうそう。しかも、スパークドールズに変えるっていう俺達じゃ絶対出来無い事やりやがったし」

 

 

 ザムザの言葉に疑問を感じたのは隊員である静原(しずはら) イヅルと霧山(きりやま) ハヤテ。イヅルは射撃に関しては右に出る者はおらず、ハヤテはマシンの操縦技術に長けている。

 

 

「このウルトラマンは最初、まるで自分の変化に戸惑っているみたいな動きをして怪獣に圧されていた。後半は戦えていたけど、その動きも何処かぎこちなさが残っているから。ですよね、副隊長?」

 

 

 隊員の1人である(とどろき) リュウジの解答にザムザは頷く。彼はベテランの隊員で皆の兄貴分的存在だ。

 

 

「いやぁー凄い……凄いッス!!」

 

 

 キーボードを高速で打ってウルトラマンを解析しながら、ヨレヨレの白衣を着たあまり手入れされていない黒髪の女性・水瀬(みなせ) 陽花(ひばな)は、分厚いレンズの赤い眼鏡の奥にある瞳をギラギラに輝かせながら興奮して鼻を鳴らす。

 

 

「この光線には対象をデータ化した後圧縮し、スパークドールズに変えています…!光線に含まれている成分は地球上には存在しない未知の物…!それに肉体も明らかに未知なる物で構成されている……!やばい、これはやばいッス!!あ、涎が……」

 

 

 滴る涎を拭き取る陽花。それを見てイヅルとハヤテが若干引いてる。

 

 

「このウルトラマンのデータをもっと解析出来れば、サイバー怪獣の実体化の実現も……!?」

「落ち着いて下さい水瀬さん」

 

 

 溜め息を吐きながらそう言うのは綾小路(あやのこうじ) 涼風(すずか)。最年少で入隊した天才少女で、様々なメカニックや技術の開発に貢献している。

 

 

「やっぱり、ウルトラマンはこの世界にも居たんだ……!」

 

 

 憧れの目でウルトラマンを見つめているのは新城野(あらきの) 紗季(さき)。格闘技術に優れた新米の女性隊員だ。

 

 

「あの日見たのは間違いじゃなかったんだ!」

「待て待て、お前がスパークインパクトの時に見たのと同じとは限らんだろ?」

「それは……そうかもだけど……でも、この世界にもウルトラマンが居るってちゃんと証明出来た!それだけでも十分ですよ!」

「やれやれ……何を言ってるんだか。まだコイツが味方かどうかも判別出来てないというのに……。そもそも、スパークインパクトのだって真実かどうか……」

 

 

 Xioのラボチームのリーダーである小太りの中年男、シャマラ・シャマー博士が呆れ気味に溜め息を吐き汗を拭く。

 

 スパークインパクトの際、東京で光の巨人を見たと証言する者が確かに居た。それだけで無く海外などの他の地域でも、白猿が現れ救ってくれた、巨大な亀が子ども達を守った、魔神像が動いた、琉球の守神が目覚めた、などの目撃情報があった。しかし、それは全て証言だけであって映像や画像などでの記録は一切残っていない。あの時、世界規模で電波障害が発生しており、カメラや携帯などの電子機器は使用不能になっていたのだ。また、事件のショックから幻覚を見る様になった人も多くおり、これらの証言もその一端ではないかと思われて来ていた。

 

 

「ウルトラマンって大きいねー」

「そうだねー」

「ミキリ達もこれくらい大きくなれるかなー?」

「ミハネ達ならこれくらい大きくなれるよー!」

 

 

 皆がウルトラマンに付いて考察や意見を述べている中、オペレーターである羽人(はねと) ミキリと羽人 ミハネは何処か呑気に話している。

 そんな時、巨大生物の出現を報じるサイレンが室内に鳴り響いた。

 

 

「原宿に巨大生命体出現したよー」

「タイプはA、映像をぉ……って、えーっ!?」

「嘘でしょー!?」

 

 

 ミキリとミハネは驚いて声を上げる。

 

 

「どうかしたの!?」

「こ、これを見て!」

 

 

 ミキリが映像を出す。そこに映されていたのは漆黒の巨人。黒いマントをはためかせたその姿は威風堂々としており、深き闇を纏っていた。

 

 

「な…!?」

「あれは!?」

「ば、ばばばばば、ばば、馬鹿なああああ!?」

 

 

 ザムザとリュウジ、シャマラ博士も驚き、博士に至っては尻餅をつく程だ。そしてザムザは、モニターに映されたその暗黒の支配者の名を呟いた……。

 

 

 

「エンペラ星人……だと……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

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 エンペラ星人が降臨する少し前。

 スクールアイドル同好会のメンバーは原宿駅に到着していた。これからみんなで翔琉の服を買いに行く事にいつの間にか決定していたらしく、目的の店へと歩いて行く。

 眉を顰めながら仕方なく付いて行く翔琉。時間も時間な事からか、帰宅する人が多く見られた。

 

 

「翔琉君、どうかした?」

 

 

 周囲を見回しながら歩いていると歩夢が声を掛けてきた。

 

 

「いや、昨日あんな事があったのに、案外普通だなって」

 

 

 彼の言う通り街の様子は、別の場所とはいえ怪獣が現れたという割に何時もと変わらない日常的なものだった。尤も、記憶喪失の彼が何時もと変わらないなんて言うのはおかしいだろうが。

 

 

「まあ、日本じゃ怪獣なんてそんなに珍しい事でもないからね」

「そうなのか?」

「うん。ていうか、今日先生が説明してたよ。ちゃんと起きて聞かなきゃダメだよ?」

「…………ごもっともで」

 

 

 バツの悪そうに目を逸らした彼を見て歩夢は笑う。

 そこにかすみが近付いて来た。

 

 

「翔琉先輩、歩夢先輩!何話してたんですかー?」

「かすみが可愛いなぁって話してたんだよ」

「ええっ!?そ、そんなぁ〜!もう、先輩ったらぁ〜!」

「嘘だ」

「ええーーっ!?先輩酷いですよぉー!?」

 

 

 嘆くかすみ、それを見てケラケラと翔琉は笑う。

 

 

「先輩ほんとに性格変わったんですねぇ……」

「みんな言うだが、そんなになのか?」

「そうですよ。前はそんな風にかすみんのこと揶揄ってきたりしませんでしたもん」

「この前までの君なら、普通に怪獣の話してたってかすみちゃんに言ってるよ」

 

 

 「そうなのか……」と呟いてから手を顎に当てる。

 元々の自分。それは聞けば聞く程、今の自分とはかけ離れているものとなっており、全く想像がつかない。記憶喪失とはそういうものなのか?もしや、自分は本当は天地 翔琉ではないのか?

 そんな考えが浮かんでいた時、背後から凄まじい爆音が鳴り響いた。

 

 

「何だ!?」

 

 

 翔琉を始め全員が振り返るとその先に、漆黒の巨人が佇んでいた。怪獣……というよりは巨大な宇宙人の様だ。全身真っ黒で、羽織るマントも纏う鎧も黒い。威風堂々たるその姿は、まさに暗黒の皇帝と呼ぶに相応しい。異様なまでの威圧感を持ったその存在に、この場にいた誰もが息を飲んだ。

 

 

「宇宙人……!?」

「またぁ!?」

「と、とにかく逃げましょう!?」

 

 

 せつ菜が先導し、全員逃げ始める。のだが……。

 

 

「あれ?翔琉君!?」

 

 

 ほんの一瞬目を離した隙に、翔琉の姿が見えなくなっていた。歩夢に続いて気付いた他のメンバー達も周りを見回すが逃げ惑う人々ばかりで彼は何処にもいない。

 

 

「え、ちょ、先輩何処に行ったんですかぁ!?」

「何処にもいない……!?」

 

 

 慌てふためくかすみと璃奈。そして歩夢も顔が真っ青になっている。

 

 

「探さないと!?」

「でも、このままだと危険よ!」

「果林さんの言う通りです……先輩の事は心配ですけど、私達も早く逃げないと!」

「で、でも!?」

 

 

 果林としずくにそう言われるが歩夢は翔琉を探す為に逃げる訳にはいかない。

 

 

「もしかしたら翔琉君、人混みの所為で逸れちゃったのかも……」

「だったら、かけるんもアタシらのこと探してるかも!とにかく今は逃げよう!?」

「いくよ、歩夢ちゃん…!」

 

 

 エマと愛、彼方の言葉に後ろ髪を引かれる思いになりながらも、翔琉がもう逃げていて後で合流出来る事を願いながら走り出すのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、彼女達から離れた翔琉はビルの裏路地に居た。そして出現した漆黒の巨人=エンペラ星人を見上げる。

 

 

「こちとらまだ変身して間も無いってのに………上等だコラ…!」

 

 

 変身アイテム=エクスデバイザーを取り出してその上部を押す。

 

 

《X UNITED》

 

「はああああああッ!!」

 

 

 X状の光を放つエクスデバイザーを上に突き上げると更に強く輝いてそれが彼を包み、その姿を光の超人にへと変化させた。ウルトラマンエックスの登場である。

 閃光を放ち切り揉み回転しながらエンペラ星人の前に着地。そしてエックスは奴にへと構えた。

 

 

「宇宙人ってやつか……何者だ?」

 

 

 エックスの問いにエンペラ星人は答えず、左手に黒い闇の炎を纏ってそれをエックスへと放った。

 

 

「うお!?」

 

 

 横に跳んで躱すエックス。炎は彼の背後にあった建物に直撃し、それを木っ端微塵に吹き飛ばす事になった。

 

 

「あッ!?てめえ……よくも!」

 

 

 拳を握り締めながらエンペラ星人に突っ込んでいく。エックスは接近して素早くパンチをキックを繰り出しすが、それらは全て躱され受け止められ無効化される事になる。

 更にカウンターの蹴りを喰らい、派手に吹き飛ばされてしまった。

 

 

「ぐおおお!?」

 

 

 地面に叩きつけられたエックス。奴の蹴りの威力は昨日のデマーガの攻撃とは比にならない程痛烈である。

 

 

「ぐぅ……コイツ、強い……!?」

 

 

 たった一発でかなりのダメージを受けた。この敵は自分よりも遥かに強いという事を、瞬時に理解させれた。コイツに勝てる可能性は低いだろうが、逃げ出す訳にはいかない。もし逃げれば、この街にいる歩夢達に危険が迫るのは間違い無いからだ。

 蹴りを受けた箇所を抑えながらフラフラと立ち上がるエックス。そして再びエンペラ星人に構えた。

 

 

「二戦目からこのレベルとか……さてはお前、RPGとかやった事ない奴かよ?」

 

 

 挑発する様に軽口を叩く。だがやはりエンペラ星人が答える事は無い。

 

 

「シカトとか……舐めるなよ!」

 

 

 再度エンペラ星人に接近。痛みに耐えながら先程よりも苛烈に攻撃を繰り出していく。しかしそれらも全て捌かれてしまう。全く動かずに、どんな攻撃も容易く無効化されてしまう始末に、エックスは奥歯を噛み締める。

 

 このまま続けてもまともに触れる事すら叶わない。そう考えたエックスは後方に跳んでエンペラ星人との距離を開ける。そして両腕を大きく振り被り、必殺の構えに入った。

 

 

「ザナディウム光線!!」

 

 

 腕をクロスして放たれた熱光線はエンペラ星人に直撃。これで一気に片を付けるつもりなのだ。

 

 

 

 

 

 

 しかし…………。

 

 

 

 

 

 

「な……!?くっ……!」

 

 

 エンペラ星人は胸に光線を受けても全く動ずる事無く立っている。表情は読めないが、まるで余裕とばかりに首を回す。

 

 

「ふざ……けんな!!」

 

 

 力を込め、凄まじい熱量の光線を放った。何としても奴を倒す為に、エックスは出せる力を振り絞る。そうして光線を放っていると、胸の青いタイマーが赤く点滅して鳴り出した。それはまるで彼に対して危険を警告している様だ。

 だがエックスは光線を止める事無く、より力を込めていく。

 

 

「うおおおおおおおおお!!!」

 

 

 全身全霊の攻撃。…………しかしエンペラ星人は、左腕を振ってそれを打ち消してしまった。

 

 

「嘘だろ……!?うっ…!?」

 

 

 驚愕するエックス。光線の照射によりエネルギーを大量に消耗した彼はふらついて膝を着いた。胸のタイマーはより激しく点滅し鳴っている。

 肩で息をするエックスを見下すかの様な仕草をした後、エンペラ星人は右腕に闇を溜めていく。

 

 

「不味ッ……」

 

 

 やられてしまう……。そう思ったエックスはどうにかしなければと立ち上がろうとするが、それよりも早く闇が放たれた。

 

 

「があああああああああッ!!??」

 

 

 闇はエックスの胸を貫き、悲痛な絶叫が辺りに響き渡る。そして彼はゆっくり倒れながら、光となって消滅した……。

 

 

 

 

 

 

 

 






エックス敗北。そしてスパークインパクトについても少しだけ触れた4話となりました。

エンペラ星人ですが、この個体は怪獣カプセルで召喚されたもので本来のエンペラ星人よりは弱体化してますが、それでも大抵のウルトラマンが独りで勝てる相手ではありませんご。

果たして彼はそんなエンペラ星人に勝てるのか?
次回もまたお楽しみに。

感想、質問、高評価、その他、是非お待ちしてるんご。



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5.新たなナカマ






 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっしゃぁー!死んだー!」

 

 

 自室にて、エンペラ星人がエックスを倒したのを見た明里は歓喜して両手を挙げ足をバタバタとさせていた。

 

 

《流石はかつてウルトラの一族に戦争を仕掛けた闇の皇帝。劣化品とはいえ、あの程度では相手にもならなかった様だねぇ》

「そうだねぇー。いきなりラスボスってのはアニメやゲームじゃ反則らしいけど、これはそういうのじゃ無いからね。邪魔な奴はサクッと殺しとかないと」

 

 

 そう言って笑顔を見せる明里。物騒な発言の割に、見た目だけは非常に可愛らしい。

 

 

《それでそれでそれで、この後はどうするんだい?》

「うーん、せっかくだし、少し遊ぼうかな」

《おやおやおや?これはゲームでは無いんじゃなかったのかい?》

「ゲームじゃ無いけど、私が楽しむ遊び(・・・・・・・)ではあるからね」

 

 

 そう言った彼女はマイクを取り出す。そのマイクを通して、かなり強く加工された彼女の声がエンペラ星人から放たれた。

 

 

《聞け!愚かな人間共。ウルトラマンはこのエンペラ星人の前に敗れた。ウルトラマンが消えた今、最早私に敵う者はこの星には居ない。全て、私の手に落ちたのだ!》

 

 

 PCの画面内ではエンペラ星人が両腕を挙げて雄々しく勝利を宣言し、更に光弾を放って街を破壊している。

 

 

《ウルトラマンを倒した者!私こそが最強の支配者!さあ、絶望するが良い!ハーハッハッハッ!!》

 

 

 最後にそう言い残すと同時にエンペラ星人は消えた。そして奴の怪獣カプセルが明里の手元に戻って来る。マイクを切った彼女は嬉しそうにカプセルを見つめキスをする。

 

 

「ふふっ、これから楽しくなってきそう」

 

 

 愛らしく目映い笑顔は、その裏にどうしようも無い程のドス黒い闇を秘めていた…………–––––––

 

 

 

 

 

 

 

-----------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 俺は暗い道を歩いていた。光は一切無く、手元すら見えない。五里霧中……いや、霧じゃなくて暗闇か。とにかく、何も分からないその場所を俺は歩き進んでいる。辺りを見回しても何も見えず、目を瞑っているのかと思う暗闇があるだけ。一体何がどうなってるんだか……。

 

 

 

 でもまあ、とにかく進むしかないと何故だか感じている。というか足が勝手に動くので俺はそれに従って只々歩くしかない。そうしていると遠くに、何か光る物があるのが見えた。

 

 

 

 ぼんやりとした今にも消えそうな弱い光。それが欲しいと思った俺は、歩きながら手を伸ばし……–––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ…………夢かよ」

 

 

 目を覚ました翔琉。見た事の無い天井、微かに香る薬品の匂いからここが何処かの医務室という事が分かった。昨日に続けて2日連続でベッドの上とは…………などと考えていた時、彼は自分があの宇宙人に敗れた事を思い出した。

 

 

「そうだ!アイツ……––––っ!?」

 

 

 ガバッと起き上がるが、胸に少し痛みが走った。

 あの時エンペラ星人の攻撃で胸を貫かれた様な気がしたが、抑えた胸に穴は空いておらず少しホッとする。ふと壁に掛けられていた時計を見ると長針は4、短針は10と11の間にあった。エンペラ星人と戦ったのが4時半頃だったから、そこそこ長い時間寝ていたみたいだ。

 すると扉が開き、1人の女性が室内に入って来た。

 

 

「あら、目が覚めたみたいね」

「アンタは?てか、ここは?」

 

 

 小柄で黒髪ポニーテールの女性は和かな顔で彼の質問に答えた。

 

 

「私は神山 沙優。防衛チームXioの隊長よ。そしてここはXio日本支部の基地・オペレーションベースX内の医務室。貴方は重傷を負って倒れてたところを、うちの隊員に救助されてここまで運ばれて来たの。あ、親御さんにはちゃんと連絡しているから安心して」

「なるほど……ありがとうございます」

「うんうん!きちんとお礼を言えるのは良い事よ。それよりぃ……」

「え?–––––いや、ちょ!?」

 

 

 沙優は翔琉に近付き、彼の病衣の胸元をバッと開いた。

 

 

「いやぁ、驚いたわねぇ。全治数ヶ月は掛かる傷が1日も経たずして治るだなんて……凄まじい再生力、流石はウルトラマンって言ったところね」

「ウ、ウルトラマン?」

 

 

 この状況、そして聞き慣れない言葉に翔琉は首を傾げる。沙優は病衣を元に戻し話を続ける。

 

 

「あら、知らないの?貴方が変身した巨人の名前よ」

「ああ、アレか。…………って、えっ!?いや、何で!?」

 

 

 さぞ当たり前の様に自分があの巨人である事を知っていた沙優に驚愕。あたふたとしている彼を見て、沙優は面白そうに笑う。

 

 

「言ったでしょ?倒れたところを救助したって。私達は貴方とあの宇宙人、エンペラ星人に倒されたのを見ていたの。だから、貴方がウルトラマンだっていうのを知ってるのよ。援護が間に合わなくて、ごめんなさいね」

 

 

 そう言った後、彼女は頭を下げた。

 

 

「そっかぁ……いや、大丈夫っすよ。多分、援護されても俺じゃ負けてただろうし」

 

 

 改めてエンペラ星人の強さを思い返す翔琉。こちらの攻撃は一切通用せず、更には全力の必殺技まで軽く弾かれる始末。正直、勝ち筋が全く見えてこなくて嫌になりそうだ。

 段々と億劫になってくる翔琉の頭を沙優が軽く撫でた。

 

 

「そんなに落ち込まないの。貴方はまだ生きてるでしょ?だったら何度だって立ち上がって向かって行ける筈よ」

「は、はぁ……てか、頭撫でるのはちょっと……」

「良いじゃない良いじゃない!まだ子どもなんだし」

 

 

 「よしよーし」と楽しそうに沙優は頭を撫でてくる。確かにまだ未成年で法的には子どもかも知れないが、高校生にもなってこんな事を女性からされるのは何とも気恥ずかしくなる。

 

 

「そういえば、俺が変身したアレってウルトラマンって言うんっすか?」

「ええ。遥か遠くの宇宙から来た正義のヒーロー、らしいわ。と言っても、私も初めて見たんだけどね」

「正義のヒーロー……でも、何で俺がそんなのに………?」

 

 

 記憶を失う前からそうだったのか?いや、歩夢達の話を聞く限りその可能性は低いだろう。と考えた時、歩夢や同好会メンバー達のことを思い出した。

 

 

「ヤッベ……アイツらに何て説明しよう……」

「もしかして、お友達?」

「まあ、そんなところっす」

「やっぱりねぇ。昨日から電話とかメッセージとかいっぱい着てたもの」

「マジかぁ…………ん?昨日から?」

 

 

 気になるワードが彼女から聞こえる。

 

 

「そうよ」

「いや、でもまだ10時20分って……」

「ええ、朝のね」

「朝ァ!?」

 

 

 ベッドから跳ね上がって窓際まで行きカーテンを開く。空は明るく、太陽が光を放っていた。

 

 

「嘘だろ……」

 

 

 がっくりと肩を落とす翔琉。こんなに長い時間連絡をしてないのだ。彼女達から大量にメッセージが来るのも無理はない。みんな間違いなく心配してるだろう。

 

 

「あー……とりあえず着替えてから着いて来てもらっていい?貴方の荷物を返したり、色々と話したい事もあるから」

「…………うっす」

 

 

 沙優に軽く背中を叩かれた翔琉は、彼女の言う事に従うのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 着替えた翔琉は沙優に着いて行き、Xioの作戦司令室に来た。室内にはXioメンバーが集っている。

 

 

「ここが、Xioの作戦司令室よ」

「へぇー……」

 

 

 周りを軽く見回していると、女性2人が彼に突っ込んで来た。

 

 

「君がウルトラマンなんだね!!凄い!私、ずっとウルトラマンに会いたかったから、会えて嬉しいわ!!」

「うおおおおおおおおお!!本物のウルトラマンに会えて感動っす!!!あ、とりあえず身体を調べさせて下さい!!!」

「ねえ、いつからウルトラマンなの!?もしかして!18年前のスパークインパクトの時から!?て事は私の命の恩人だね!!」

「脱いで!!脱いで下さい!!貴方の身体を隅々まで調べれば、サイバー怪獣実体化のヒントが得られるかも知れない!!嗚呼……興奮が止まらないっす!!」

「え、お、ちょ!?」

 

 

 大興奮でマシンガントークを放つ紗季と陽花の勢いに翔琉は圧倒されていく。このままではマジで脱がされるかも知れないと思っていた時、かなり大柄な男が2人の首根っこを掴んで止めた。

 

 

「むきゅ!?」

「ふぎゃ!?」

「やめろ。困ってる、だろ」

「ふ、副隊長ぉ〜……」

 

 

 副隊長。そう呼ばれた男は翔琉に目を向ける。その眼光は鋭く、2メートル近くはあろうかという巨体から見下ろされたという事もあり、翔琉は思わず息を飲んだ。

 

 

「ザムザ・ヘラクレス。Xio副隊長。これから、よろしく」

「あ、どうもっす。天地 翔琉です……」

 

 

 意外と丁寧な挨拶が来て少し拍子抜けしてしまう。そしてザムザに続いて、他のメンバー達も自己紹介を始めた。

 

 

「静原 イヅルだ。会えて嬉しいぜ、ウルトラマン」

「俺は霧山 ハヤテ。まさか、高校生がウルトラマンだとは思わなかったぜ!」

 

 

 ハヤテは彼の横に来て、その背を軽く叩いた。

 

 

「轟 リュウジです。これでも結構ベテランだから、分からない事とかあったら何でも聞いてね?」

「よ、よろしくっす」

「そしてさっき君に食い付いてた2人が……」

「あ、新城野 紗季です!ごめんね、ちょっと興奮しちゃって……」

「水瀬 陽花っす……あ、あたしも申し訳なかったっす……。それと、こっちはゴモラっす!」

 

 

 頭を下げる紗季と陽花。それから陽花は怪獣のスパークドールズを見せた。怪獣の名はゴモラ。聞くと、彼女にとってとても大切なものらしい。

 

 

「ゴモラはあたしの親友というか家族の様な存在っす!だから、最初はこの子でサイバー怪獣実体化の実験をやりたいんっすよ!」

「サ、サイバー怪獣?てか、そもそもスパークドールズって……」

「それに関しては、授業で触れた筈ですよ」

 

 

 何処と無く聞き覚えのある声に振り向くと、そこには学校で怪獣学の教鞭を取っていた綾小路 涼風がいた。

 

 

「え、先生!?何で!?」

「私はXioのラボチームとして活動しながら、虹ヶ咲学園で怪獣学を教えてるのです。私の知識が、子ども達に少しで役立てばと思いまして」

「なるほど……」

「でも驚きました。まさか天地さんがあのウルトラマンだったとは……」

「俺も先生がここにいる事に驚いてますよ」

 

 

 まさか先生がいるとは思って居なかった翔琉。そしてそれ以上に、まさか自分が受け持った生徒がウルトラマンだったという事実に対面することになった涼風。どちらも十分に驚いていた時、翔琉のもとにそっくりな顔をした少女2人が寄って来る。

 

 

「羽人 ミキリだよー!」

「羽人 ミハネだよー!」

「お、おう。てか、子ども?」

「むー!ミキリは子どもじゃないもーん!」

「むー!ミハネは子どもじゃないもーん!」

「げっ、わっ、ごめんって!?え、力強っ!?」

 

 

 ミキリとミハネはポカポカと翔琉のことを叩く。小学生くらいにしか見えない2人だが、思ったよりも力は強くその打撃は意外なダメージとなる。

 

 

「オッホン!そして私がこのXio、延いてはUMVERの頭脳である天才科学者のシャマラ・シャマー博士だ!」

 

 

 腰に手を当て胸を張り、鼻を鳴らして堂々と自己紹介をするシャマラ博士だが……。

 

 

「ごめんって、許してくれ!?な?」

「じゃあ、抱っこしてくれたら許してあげるー!」

「おんぶしてくれたら許してあげるー!」

「…………おう」

 

 

 やっぱ子どもでは、とミキリとミハネに対して思うが口には出さないでおく。なお、シャマラ博士には気付いていない。

 

 

「私を無視するなぁーーー!!??」

「おわっ!?…………オッサン誰?」

「オッサン!?」

 

 

 誰がオッサンかと文句を言おうとする博士だったが、イヅルとハヤテの2人に両腕を掴まれズルズルと引き摺られていく。その様子を何だこれと思いながら翔琉は見送るのであった。

 

 

「これが、Xioのメンバーよ。なかなか愉快でしょ?」

「確かに」

 

 

 防衛隊と言うのだからもっと堅苦しいのを想像していたが、何だか思ったよりラフな感じがした。それから彼は軽く喉を鳴らしてから自身も自己紹介を行う。

 

 

「天地 翔琉です。なんかそのエックス……じゃなくてウルトラマンってやつみたいです。……何でかは記憶無いんで分からないんっすけど。とりあえず、よろしくお願いします」

「エックス?」

「はい。俺、適当にあの姿のことそう呼んでたんっすよ」

「エックス……ウルトラマンエックスねぇ……。良いじゃない、コードネームはウルトラマンエックスに決定ね」

 

 

 翔琉と沙優によってあの姿の名がウルトラマンエックスに決まった。

 

 

「そうだ、貴方の荷物を返さないとね」

「あ、これなんっすけど、少し調べさせてもらったっす。いやぁー、かなり興味深い物でしたぁ……研究に役立つ事間違い無しっす!」

 

 

 鞄を渡す沙優に続いて、エクスデバイザーを陽花が差し出した。どうやら翔琉が眠っていた間に色々解析を行った様だ。

 

 

「まあ、壊さないなら別にどれだけ調べてもいいっすよ」

「本当っすか!?なら、また貸して欲しいっす!!!」

「は、はい……」

 

 

 激しく鼻息を鳴らしながら寄って来た陽花に身を引く翔琉。この人は少しやばい人かも知れないと思った時、涼風がニコニコしながらある物を渡して来た。

 それは彼の携帯。画面には複数件のメッセージや不在着信が表示されている。

 

 

「はい、どうぞ。貴方まず、こちらをどうにかしなければならないのでは?」

「…………ですよねー」

 

 

 正直かなり億劫だ。だがきちんと返事をしなければ後が怖い。翔琉はとりあえず、歩夢に電話を掛けることにした。

 

 

《もしもし翔琉君!?大丈夫!?今何処にいるの!?》

「ちょ、早」

 

 

 コールが鳴るより早く電話に出た歩夢。携帯の画面に食い付いてたのだろうか……。

 

 

《怪我して入院したっておばさんから聞いたけど本当に大丈夫なの?私、心配で眠れなかったんだからね……?》

「あー……もう大丈夫だ。Xioの人達に助けられたし。今日中には家に帰れるさ」

《ならいいけど……》

「心配掛けて悪かったな」

《ううん、大丈夫……じゃなかったけど、貴方が無事ならそれで良かった……》

 

 

 電話越しからの歩夢の声が少しずつ安堵のものになっていくのが伝わって来る。翔琉は彼女を不安にさせてしまった事に罪悪感を感じながらも、ここまで自分を心配してくれる存在がいる事に喜びも感じるのであった。

 

 

 歩夢とは二、三話した後通話を切り、それから他のメンバー達にも電話を掛けた。みんな歩夢同様凄く心配をしてくれており、自分という存在が同好会の中でとても大きなものであるのだと実感する。早く記憶を取り戻したい、みんなとの思い出を取り戻したい。そんな考えが頭の隅にふと浮かび上がった。

 

 

 

 

 

 

「さて、彼の電話も終わったみたいだし、作戦会議といきましょ!」

 

 

 沙優がパンッと手をみんなの注目を集める。

 

 

「作戦?」

「そ、エンペラ星人を倒す為のね」

 

 

 モニターに昨日のエンペラ星人の姿が映される。そしてその前にシャマラ博士と陽花、涼風が立った。

 

 

「このエンペラ星人なんっすけど、どうやら高エネルギーで形成された存在みたいっす」

「高エネルギー?」

「つまり怪獣カプセルによって召喚された可能性の高い、言わばエンペラ星人のダミーの様なものということです」

 

 

 翔琉の質問に涼風が答えた。

 ダミー……つまりは偽物ということ。その偽物にボコボコにやられたとなると、もし本物が現れたらどうなってた事やら……。

 

 

「怪獣カプセル……ってことは、誰かが呼び出したのか!?」

「そうなるっすね……」

「マジかよ……」

 

 

 驚くハヤテとイヅル。あのエンペラ星人は誰かが悪意を持って召喚した存在。一体誰が何の目的で……。

 

 

「召喚者の正体は最終目的は現状不明。けど、エンペラ星人を出した目的なら何となく見当が着いてるわ」

「え、マジで!?」

 

 

 翔琉の言葉に沙優は頷く。

 

 

「最後に奴が放った言葉からして召喚者はおそらく、ウルトラマンを倒す為に召喚したのだと思うの。妙にウルトラマンに拘ってたし」

「確かに、暗黒の支配者と呼ばれるエンペラ星人をこのタイミングで出したのは、ウルトラマンに対する明らかな殺意を感じますね」

 

 

 リュウジの発言に翔琉の表情が怪訝なものになる。何処の誰だか知らないが、たった一回しか変身してないのにそこまで思われるなんて心外である。

 

 

「だから天地君が変身すれば、奴はまたエンペラ星人を出すでしょうね」

「うげぇ……」

 

 

 勘弁して欲しいと思う翔琉。現状彼だけの力では、どう足掻いてもエンペラ星人には勝てないだろう。

 

 そう、彼だけでは…………。

 

 

「けど、心配する事は無いさ」

 

 

 リュウジが翔琉の横に着て、その肩に手を置く。

 

 

「そうだぜ翔琉」

「今のお前には、俺達が付いてるんだ」

 

 

 ハヤテとイヅルがグッと親指を立てる。

 

 

「ミキリもサポートするよー!」

「ミハネもサポートするよー!」

 

 

 ミキリとミハネも翔琉へと笑顔を向ける。

 

 

「あ、あたしも力を貸すっす!」

「勿論、私もです」

「何となく気に喰わないガキだが仕方ない。この私も手伝ってやろうではないか」

 

 

 陽花、涼風、シャマラ博士も彼と共に戦うという意思を見せる。

 

 

「君は、独りでは、無い」

「私達が一緒に戦うよ!」

 

 

 ザムザと紗季も決意の込められた強い瞳を翔琉へと向けて来た。そして沙優も、翔琉のことを見つめて優しく微笑み頷いた。

 

 今の彼は独りでは無い。Xioという、共に戦ってくれる仲間が出来たのだ。独りでは決して勝つことの出来ないエンペラ星人でも、仲間達がいるのなら話は別である。彼らは全身全霊で翔琉の事を信頼し、共に戦うという道を選んだ。出逢ったばかりで互いのことをまだ完全には理解出来ていないがそれでも信じると決めた。

 僅かながらに産まれた本当に小さな小さな絆。

 彼らがそれを信じると云うのなら、翔琉もそれに応えなければと拳を握った。

 

 

「分かた……俺も、みんなと一緒に戦います!」

 

 

 翔琉の強い叫びに、彼らは笑顔で頷いた。そして沙優は、高らかに宣言する。

 

 

「さあ、いくわよ!作戦名は、ウルトラ作戦第一号!」

 

 

 

 

 

 





Xioという心強い仲間と出逢えた翔琉。正体が最初からバレたりと大変だが、彼らと協力してエンペラ星人にリターンマッチを挑む。果たして彼は暗黒宇宙の大皇帝に勝てるのか?
次回の決戦をお楽しみに。



感想、質問、高評価、その他、是非お待ちしてるんご


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6.怪獣のヨロイ



お待たせしたんご!!!
エンペラ星人と決着!!

そして今回は他作品からの怪獣も登場!
それではどうぞ!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、新城野 明里は街中を上機嫌で歩いていた。昨日邪魔者であるウルトラマンエックスを倒せたのだからだ。これで自分を邪魔する者はいない。

 

 

「せっかくだしぃ、パンケーキでも食べて行こっかな?」

 

 

 空を見上げてながら鼻歌混じりに歩く明里の顔には華々しい笑顔が咲いている。これからきっと楽しい日々が始まると思うとワクワクが止まらない。

 

 

 そんな時である。ビルに備えられたモニターに、四足歩行の怪獣が映されたのは。人気の無い郊外に現れたらしい。長い首に青い身体、鼻先と頭に計4本の角があり、大きな咆哮を放っている。

 

 

「あ、野良の怪獣出たんだ」

 

 

 この怪獣、ミドロンは明里が呼び出した物では無い。恐らく元々この星にいた怪獣が暴れているのだろうと、明里は面白そうに見ている。もうウルトラマンもいないのだから立ち向かうのはXioだけ。あの防衛隊が必死こいて戦うところを精々見てやろうと明里は笑顔のままモニターを見つめた。

 

 

「…………えっ」

 

 

 

 

 

 しかしその笑顔はすぐに消え去ることになる。

 何故なら、ミドロンの前にウルトラマンエックスが現れたからだ…………。

 

 

「嘘でしょ……何で!?」

 

 

 あの時、確実に倒したと思ったエックスが怪獣と戦っている映像が流されている。彼女からしてみれば信じられない光景であった。何故奴が生きているのか?驚きと同時に、強い怒りが込み上がって来る。

 

 

「…………」

《おやおやおや、彼生きてたとはねぇ》

 

 

 スマホからルギエルの声が聞こえてくるが今はどうだっていい。無表情となった彼女はスタスタと歩き出す。そして辿り着いたのはとある小さなビルの屋上。そこから明里はモニター内で戦っているエックスを睨む。

 

 

「次こそ確実に殺してあげる」

 

 

 そう言ってから明里は、ポケットから取り出したエンペラ星人の怪獣カプセルを起動させた。

 

 

 

《エンペラ星人……!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エンペラ星人が現れたよー!」

「相変わらず真っ黒だよー!」

 

 

 Xio司令室。そこで沙優、ザムザ、ミキリ、ミハネはエックスとミドロンの戦いに乱入して来たエンペラ星人を見つめる。

 

 

「先ずは、第一段階、成功」

「そうね」

 

 

 ザムザの言葉に不敵に笑う沙優。

 

 

「イヅル、ハヤテ、紗季、第二段階に行くわよ。準備はいい?」

 

《もちろん!》

《いつでも行けますぜ!》

《はい!》

 

 

 スカイマスケッティαに乗るイヅル、βに乗るハヤテ、そして地上にいる紗季が沙優からの連絡に応えた。ここから、エンペラ星人を倒す為の作戦、「ウルトラ作戦第一号」が本格的に開始されるのだ。

 

 

「さぁみんな、頼んだわよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

------------------------------

 

 

 

 

 

 

 エックスを強く睨むエンペラ星人。それはまるで明里のエックスに対する不快感や怒りを表している様。エンペラ星人は右手に闇を纏い、大きく振り被りながらそれをエックスとミドロン目掛けて放った。放たれたそれは彼らの足下に炸裂して大きな爆発を起こす。

 

 エンペラ星人は更に連続で闇の光弾を放っていく。何としてもエックスを倒すつもりなのであろう。何度も何度も起こる大きな爆発。そしてエンペラ星人は、トドメとばかりに巨大な光弾を放った。凄まじい爆音と爆風が周囲へと拡がっていく。

 

 

 

 ––––––よし、やった!

 

 ビルの屋上でモニターに映る戦い、というより蹂躙の様子を見ていた明里はエックスの死を今度こそ確信した。ここまでやったのだから、昨日の戦いですぐに敗れたエックスが生きてる筈が無いと。

 

 

 

 しかし、爆風が晴れた時エンペラ星人の前に居たのは、無傷で仁王立ちしているエックスと、その横にいるミドロンの姿であった。

 

 

 ––––––嘘でしょ……!?

 

 信じられなかった。エックスも、そしてあろうことかミドロンまでもがあれだけの攻撃を無傷でいるのだから。ゆっくりとこちらに向かって歩いて来るエックス。エンペラ星人はそれを止めるべく光弾を連続で放っていく。明里の驚きや少しの焦りが反映されているのか、狙いは雑で全て足下などに着弾し爆発を起こす。エックスはそれらを全く気にする事無く、ただただエンペラ星人へと歩く。

 

 

 ––––––ちょっと、そんな奴早く殺してよ!?

 

 何故かこちらの攻撃が効いていないエックスに明里はより焦っていく。するとそこへ、Xioの戦闘機である2機のスカイマスケッティが上空からエンペラ星人に向けてミサイルを発射、それらは見事に命中する。更に命中した箇所はトリモチの様な物が付着し凝固していた。マスケッティが放ったのは特殊凝固剤入りのミサイルなのだ。空気中に触れる事で固まるそれは、エンペラ星人の動きに制限を与えていく。

 凝固物を剥ぎ取るエンペラ星人。しかし2機は次々とミサイルを放ち、更に凝固物で奴のことを固める。その様子をモニターで観てる明里は更に苛立ちと焦りが募っていき、それがエンペラ星人にも反映されていた。

 

 そんなエンペラ星人に対して走りながら向かっていくエックス。彼はジャンプして奴を飛び越え背後に着地。更に動き回って撹乱を行なっていく。エンペラ星人はエックスやマスケッティに向かって光弾を放っていくが擦りもしない。更に更に、地上からは紗季とリュウジが硝煙弾を奴の足元に放っていた。立ち込める赤い煙はエンペラ星人の身体に鬱陶しく巻き付いており、モニター越しに観ている明里は苛立って足を強く踏み鳴らす。

 

 その時、一つの光弾が偶然にもミドロンの方に向かっていった。光弾はミドロンに炸裂…………すること無く、何とミドロンの身体を擦り抜けてしまった。

 

 

 ––––––………は?

 

 その様子を目にした明里はポカンとし、それからとある考えに至る。素早く動くエックスに対し、エンペラ星人はばら撒く様にして全方位に光弾を放った。放たれた光弾の一発がエックスに当たる……否、エックスの身体を擦り抜ける。それを観た明里は確信し、同時に強い怒りが込み上げて来た。

 

 

 

 今エンペラ星人の前にいるエックスはただのホログラムなのだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うお……すげぇな、アレ」

 

 

 少し離れた場所でエンペラ星人とエックス、Xioの戦いを翔琉は見ていた。彼は先刻のオペレーションベースXでの作戦会議を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

『囮り?』

『そう。召喚者はウルトラマンを倒す為にエンペラ星人を呼び出してるのだから、まず第一段階としてウルトラマンを出してエンペラ星人を誘き出すの』

『じゃあ、俺が変身すればいいんすか?』

 

 

 翔琉の質問に、沙優は指と首を振って違うと伝える。

 

 

『君に変身してもらうのは作戦の第三段階よ。涼風、陽花』

 

 

 彼女から呼ばれた2人が、モニターの前に立った。そしてモニターには今回の作戦についての映像が映し出される。

 

 

『先ずは作戦地域の人々を避難させた後、ウルトラマンエックスのホログラムを登場させます』

『ホログラム?』

『そうっす。それから不自然にしない為に怪獣、今回はおとり怪獣ミドロンのホログラム映像も出すっす。それでその2つの映像を戦わせることで、きっとエンペラ星人はエックスを倒す為に現れる筈っす!』

 

 

 エックスとミドロンのホログラム映像を出してエンペラ星人を誘き寄せるのが作戦の第一段階。

 

 

『そんで、ノコノコと出て来たエンペラに、俺とイヅルがスカイマスケッティから特殊凝固弾を放って動きを封じていく!』

『コイツはあのレッドキングやシルバゴンの動きだって止められるんだ。あの真っ黒野郎も相当苦労するだろう』

 

 

 ハヤテとイヅルの言葉に、翔琉はなるほどと呟いた。

 

 

『更に私とリュウジさんで硝煙弾を撃つわ』

『硝煙弾って、あの煙出るやつ?』

『ああ。大量の赤い煙が発生する物だ。ホログラムのエックスに攻撃は出来ず、凝固弾で動けず、おまけに赤い煙、きっとエンペラ星人を召喚した者はイライラする筈さ』

『それが第二段階よ。相手の平静さを失わせるの』

『けど、そんなに上手くいくんっすか?』

 

 

 翔琉がそう質問すると沙優が答えてくれた。

 

 

『ええ。召喚者はおそらくとても幼稚な性格の持ち主だと思うの。いきなり強豪をぶつけてエックスを倒したかと思えば、無駄に芝居かかった台詞で勝ち誇る……内容もなんか頭悪いし、多分エックスを倒した後に調子に乗って勢いでやったんでしょうね。そんな相手なら、苛立たせるっていうのは充分効果のある作戦よ』

 

 

 前回の戦いから、エンペラ星人を操る存在に対して予想をつけていた沙優。他の隊員達も彼女と同意見の様で、翔琉だけがなるほどと納得する。

 

 

『そんな訳で作戦の最終段階。これはシンプルに貴方がウルトラマンエックスに変身してエンペラ星人を倒すだけよ』

『なるほど……けど、そんなに上手くいかどうか……』

 

 

 彼は一度はエンペラ星人に負けている身。やはり不安は尽きないのだろう。ましてや苛立った相手に逆にやられたりしないかとまで考えている。

 

 

『平静さを、失った、敵など、恐れる事は、無い』

『それに、いざって時には切り札も用意してるっす!』

『切り札?』

 

 

 陽花は頷いた後、1枚のカードを翔琉に差し出した。

 

 

『これはサイバーカードって言って、私達が長年研究を続けて来たサイバー怪獣のデータが入っているカードっす。元々はデータがあるだけで実体化などの実用化にはまだまだ遠かったんっすけど、貴方のデバイスを解析した事でこのカードをエックスの力として扱える様にしたっす!』

『俺の力?』

『はい!これがあれば、きっとエンペラ星人を倒せるっす!』

 

 

 鼻息荒くそう言う陽花。周りが苦笑する中、沙優が咳き込んで皆の注目を集める。

 

 

『さあ!これが作戦の全容よ!あんな操られてるだけの皇帝擬き、私達で玉座から叩き落としてあげましょう!』

 

 

 その言葉に全員が了解と答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが基地での出来事。そして第二段階までは見事に成功し、今エンペラ星人は纏わり付く凝固剤や煙に四苦八苦している。

 

 

「リベンジマッチだ……必ず勝つ!」

 

 

 翔琉はエクスデバイザーのスイッチを押し、それを空に高く突き出した。デバイザーから強い光が放たれた、彼をウルトラマンエックスにへと変身させる。

 

 

《X UNITED》

 

「ハァァァッ!」

 

 

 エックスはエンペラ星人の眼前に現れ、奴の顔面に拳を叩きつけた。予想外の不意打ちに、エンペラ星人はよろけて数歩下がる。

 

 

 ––––––アイツ……!?

 

「取り敢えず1発、借りは返したぜ」

 

 

 更に接近して拳や蹴りを打ち込んでいくエックス。エンペラ星人は凝固剤の所為で上手く動けない事や、操っている明里が煙の所為で奴の姿がよく見えていない事などから攻撃を受けてしまう。

 

 

「Xスラッシュ!」

 

 

 エネルギーを右手に纏い、(やじり)型にしたそれをエンペラ星人へと放った。少し怯んだエンペラ星人に、2機のマスケッティが光子砲を放ち、地上の紗季とリュウジが銃・ジオブラスターで撃つ。エックスとXioの連携の前に、エンペラ星人はどんどんと圧されていく事になる。

 

 

 ––––––何なのよ!?ふざけないでよ!?

 

 怒りと焦りで的確な指示が出せない明里は、喚き散らしながら屋上の柵を叩く。煙が晴れた時に見えたのは、身体の多くの部分を凝固剤で固められ、まともな動きの取れないエンペラ星人の姿。初登場した時の威厳は最早そこには無い。倒すのならば今であろう。

 

 

「それじゃあ、使ってみるか」

 

 

 エックス=翔琉はエクスデバイザーに、陽花から受け取ったサイバーカードを差し込んだ。

 

 

《CYBER GOMORA LORD》

《CYBER GOMORA ARMOR ACTIVE》

 

「うお!?」

 

 

 エックスの胸、肩、そして両腕にアーマーが纏われていく。胸にはXの文字、両肩は鋭い角の様で、両腕には大きなクローが備えられている。

 

 

「うおおおおおおおおおおお!!!??やりました!!!大成功っす!!!!」

「アレが、水瀬さんの?」

「そう!!!!人間と怪獣、そこにウルトラマンの力が入る事で完成した究極の発明!!!名付けてモンスアーマーっす!!!!」

 

 

 地上ではその様子をエックスとミドロンのホログラムを出していた陽花と涼風、シャマラ博士が見ていた。陽花は大興奮でシャマラの事を叩きながらエックスにキラキラとした目線を送っている。

 

 

「こりゃすげぇや。少し重いけど」

 

 

 纏われたモンスアーマー・ゴモラアーマーを見るエックス。そしてエンペラ星人にへと構える。

 

 

「さあ、決めにいくぜ!」

 

 

 駆け出したエックス。一気に接近して大きなクローを容赦無く振るう。その一撃は纏わり付いた凝固剤を砕きながら、エンペラ星人の肉体を引き裂いた。

 

 

 ––––––はぁ!?何よそれ!?反則でしょ!?

 

 明里が地団駄を踏んでいるが、エックスがそんな事知る由も無い。左の爪を突き出し、エンペラ星人の身体を思いっきり吹っ飛ばす。奴は大きな音を立てながら地面に倒れた。

 今こそ絶好の好機。エックスは両腕に凄まじいエネルギーを蓄積させていく。そしてエンペラ星人がフラフラと立ち上がったのと同時に、エックスは駆け出して即座に肉薄した。

 

 

「ゴモラ振動波ぁあああ!!!」

 

 

 エネルギーを纏った両腕のクローをエンペラ星人に突き刺す。膨大なエネルギーが体内に流れ込み暴発。エンペラ星人を粉々に吹き飛ばした––––––

 

 

 

 

 

 

 

 モニターでその結末を見届けた明里。信じられないものを目撃し、彼女は茫然としている。

 だらんと下げた右手にあるエンペラ星人の怪獣カプセルが握り潰され、その破片が彼女の指を傷付けた。スマホの中でルギエルが何か言っているが彼女の耳には入らない。

 

 ギリッと音が鳴るほどに奥歯を噛み締めた後、残った破片を投げ捨ててから明里は屋上を去っていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

-----------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫だ。病院に居たんだし、何も怪我とかしてないよ」

《本当?本当に大丈夫?》

「本当だって。今から家に帰るし、明日にはちゃんと学校いくから安心しろ」

《うん、分かった……。あ、でも後で家に行くから待っててね?》

「はいはい」

《はいは一回だよ》 

「はーい」

 

 

 戦いも終わり、皆は基地に戻っていた。そこの屋上で翔琉は歩夢に電話を掛けた。エンペラ星人が再出現したことから歩夢は翔琉がまた巻き込まれたりしていないかと心配になったらしくメッセージが届いていたからだ。彼女には病院で寝ていたと伝え安心してもらう。嘘ではあるのだが、自分がウルトラマンエックスだという事は言えないので仕方ない。通話を終えたあと翔琉が振り向くと、そこには沙優の姿があった。

 

 

「神山さん……」

「沙優、で良いよ。みんなは沙優隊長って呼ぶし」

「なら沙優隊長、ありがとうございました。皆さんが居たから、あのエンペラ星人とかいうのに勝つ事ができました。俺1人だったらどうなってたか……」

「みんなで力を合わせたからこそ勝てたんだよ。もちろん、翔琉の力もね」

 

 

 人間とウルトラマンの協力。それこそがエンペラ星人を撃ち破る鍵となったのだ。

 

 

「それからぁ……はいこれ!」

 

 

 そう言って沙優は何かの入った袋を差し出した。

 

 

「ん?何っすかこれ?」

「いいからいいから着てみて!」

 

 

 中にはどうやら上下セットの服が入っているらしい。とは言えここで着替える訳にも行かないので翔琉は沙優に連れられて基地の中に戻っていく……。

 それから数分後、着替えを終えた翔琉が作戦司令室に入って来た。彼が着ているのはXioの隊員服だ。ご丁寧に「KAKERU」と名札も付いている。

 

 

「おー!似合ってるじゃん!」

「いや、これって……」

「もちろん、Xioの隊員服だよ、翔琉隊員」

「はぁ!?隊員!?」

 

 

 まさかの言葉に驚く翔琉。それを見て周りのみんなは面白そうに笑っている。

 

 

「貴方にはXioに入ってもらうわ」

「で、でも俺まだ学生っすよ?」

「所謂インターンシップってやつよ。理由としては貴方のサポート、そして保護もある」

「保護?」

「ええ。もし貴方がウルトラマンエックスってことがバレたら一大事になるし、その力を調べたり利用する為に貴方や貴方の周りの人達に危害を加える者も現れるかも知れない。それを防ぐ為よ。もちろん学校優先で構わないし、給料はしっかり出すわ」

 

 

 確かに沙優の言う通り、これからの事を考えるとXioに入るのは正しい選択だろう。今回の戦いだってみんなのお陰で勝てたのだし、断る理由は無い。

 

 

「……よし!分かりました!これから一緒に、よろしくお願いします!」

 

 

 勢い良く頭を下げた翔琉。それを見てみんなは頷いた。

 

 

「よろしくね、翔琉隊員!」

 

 

 沙優が手を差し出し、それに気付いた翔琉はしっかりと掴む。

 

 

 ここから虹ヶ咲スクールアイドルの部長として、Xioの隊員として、ウルトラマンエックスとして、そして天地 翔琉としての物語が始まるのであった––––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

・エンペラ星人

別名:暗黒宇宙大皇帝

身長:56m

体重:4万9千t

出典:ウルトラマンメビウス 48話「最終三部作I 皇帝の降臨」

 

 3万年前に怪獣軍団を率いて光の国に侵攻した宇宙人で、宇宙警備隊が結成されるきっかけとなったウルトラ大戦争を引き起こした元凶。その戦いの中でウルトラの父のウルティメイトブレードとエンペラブレードで一騎打ちを、繰り広げ、右脇腹にはその古傷がある。その姿は各部にウルトラ族に似た意匠を持ち、黒い鎧とリフレクターマントを身に纏っている。レゾリューム光線という純粋なウルトラ戦士の肉体を分解する破壊光線を持つ、正にウルトラマンの天敵と言える存在。他にも念動力も使え、ウルトラマンを軽々と吹き飛ばす程強力で格闘能力もかなり高い。

 本作では明里がエンペラ星人の怪獣カプセルで呼び出した個体の為、能力は本来のエンペラ星人よりも低い。それでも強力な力を持っており、初戦でエックスを容易く撃破。その後エックスとミドロンのホログラムによる戦いを見た明里によって再度召喚されたが、Xioの作戦によって明里が平静さを失ったことでその力を上手く発揮出来ず、最後はゴモラアーマーを纏ったエックスのゴモラ振動波により爆散。カプセルは明里に握り潰されてしまった。

 ウルトラマンメビウスのラスボスにして、M78世界におけるウルトラシリーズ最大の敵。名前とシルエットのみがウルトラマンタロウの25話に登場していた。また、メビウスに登場する前にゲームや漫画作品にも登場している。ベリアルやトレギアの闇堕ちする原因の一端となっており、光の国のバランスを崩した存在と言えるだろう。

 

 

 

・ミドロン

身長:52m

体重:4万t

別名:おとり怪獣、又はリモコン怪獣

出典:宇宙猿人ゴリ 3話「青ミドロの恐怖」

 

 蜥蜴が公害が原因で巨大化したとされる怪獣。口から毒性青ミドロのガスを吐き出す。大きさを自在に変えれる珍しい怪獣で、巨大化したときに吐き出すガスが不足すると体が縮んでしまい、汚染された青ミドロを食べると元に戻る。

 今回の登場したのは過去に現れたミドロンのホログラム映像でエンペラ星人を誘き寄せる為にエックスと戦った。因みに映像に出されたミドロンはかなり大型の個体で、本来は35m前後のものが多いらしい。

 宇宙猿人ゴリ(スペクトルマン)に登場した怪獣。原作ではゴリが蜥蜴を改造して制作しており、リモコンで操作されていた。秘密基地建設の為の時間稼ぎとしてスペクトルマンと戦った。

 

 

 

 





ミドロンと聞いても皆さん「なんやこいつ?」としか思わなかったでしょう。それは正しい反応なのでご心配なさらず←
かなりマイナーな怪獣ですからね……。

Xioに入隊した翔琉。これからどんな運命が彼を待ち受けているのか……。
是非お楽しみに!

それでは、感想、質問、高評価、山形りんご、是非お待ちしてるんご!



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7.カレの日常



短いですがどうぞんご!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エンペラ星人との戦いから数日後の朝。翔琉はベッドから起き上がり、寝癖でボサボサの頭を掻いていた。ぐっと伸びをした後首を回すとボキボキと音がなる。布団を剥がして立ち上がり、カーテンを開くと朝陽が差し込んでくる。

 時刻は午前6時。外からは小鳥の(さえず)りが聴こえてくる。彼は部屋から出て洗面所に向かった。顔を洗い、髪を整え、口を濯ぐ。それから着替えて、リビングへと行く。

 

 

「あら、おはよう翔琉」

「っ、おはよ」

 

 

 リビングに居たのは翔琉の母親・天地 優里香。おっとりとした雰囲気の心優しい女性で高校生の母親とは思えない美貌の持ち主。記憶を失ってから初めて会った時、本当に自分の母親なのかと翔琉も疑った程。彼女はテーブルに朝食を並べてからその椅子に着席する。

 

 

「翔琉も座って。冷めない内に食べましょう」

「ああ」

 

 

 翔琉も座り、手を合わせてから朝食を食べ始めた。

 

 

「美味しい?」

「ん?うん、美味い」

「そう、良かった」

 

 

 にっこりと柔和な笑みを浮かべる母。翔琉は黙々とジャムの塗られたパンを食べている。

 

 

「あ、ほら、顔にジャム着いてるわよ」

「え、どこ?」

「ここよ」

 

 

 優里香はティッシュを取り、手を伸ばしてから翔琉の頬を拭く。自分でやろうとした事をやられて、少しむず痒い表情に彼はなってしまう。

 

 

「ちょっ……自分でやるからいいのに」

「ふふっ、良いじゃない。はい、取れたわ」

 

 

 困った様に翔琉は頭を掻いた。

 彼が記憶喪失になったと聞いた時、彼女は最初こそ驚いてたが意外とすぐに受け入れた。性格が前と違うことも特に気にしておらず、普段通りに翔琉と接している。

 

 

「学校の方はどう?困ってる事とか無い?」

「まあ、何とかやっていけてるよ。歩夢達もいるし」

「なら良かったわぁ。歩夢ちゃんや、部活のみんなには本当に感謝しなくちゃねぇ。あ、そうだ!今度みんなお家に呼んでパーティーでもしましょうよ!」

「何のパーティーだよ……」

「翔琉のXio入隊記念パーティーとか?」

「だからただのインターンだって」

 

 

 呆れ顔になってる翔琉を見て彼女は笑う。

 

 

「それにしも驚いたわぁ。まさか翔琉がXioに入るだなんて…………やっぱりあの人の子どもって事なのかしらねぇ」

 

 

 そう言って優里香はとある物に目を向ける。目線の先にあるのは仏壇。そしてそこには1人の男性の写真が置かれている。天地 大翔。優里香の夫であり、翔琉の父である男だ。

 

 

「あの人も困っている人を決して見捨てない人だったわ。最期のその時まで……」

「そう……なんだ……」

 

 

 写真の中の笑顔の父。翔琉はもちろん覚えていないし、更に言うなら大翔は翔琉が産まれる前に亡くなっているので記憶に無くて当然なのだ。

 強く、優しかったという父。そんな父が今の自分を見たらどう思うだろうか……。

 

 

 

 

 

 朝食を食べ終え学校に向かう準備を完了させ、玄関に行く。そこには優里香と歩夢が待っていた。

 

 

「おはよう翔琉君!」

「おはよ」

 

 

 挨拶を済ませ、靴を履く。

 

 

「じゃあ歩夢ちゃん、翔琉のことお願いね?」

「はい、任せて下さい!」

「本当に助かるわぁ〜。歩夢ちゃんなら、いつでもこの子を貰って良いからね?」

「何言ってんだよ。てか普通逆だろ」

 

 

 紅潮する歩夢。

 

 

「そ、そんな!?凄く嬉しいですけど、翔琉君の気持ちも大事ですし……」

「歩夢ちゃんが告白すれば一発よぉ〜!お義母さんって呼ばれる日が楽しみだわぁ〜!」

「そう、ですか?えへへっ……」

「…………なんか俺抜きで盛り上がってんな」

 

 

 そんな話の後、翔琉と歩夢は優里香に見送られながら家を出て学校へと向かった。手を振って2人を送った優里香はリビングに戻る。点けたままになっていたテレビにはウルトラマンエックスに関するニュースが流れていた。

 

 ニュースをじっと見つめる優里香。その瞳に秘められた想いは、誰にも分からない……。

 

 

 

 

 

 

 

------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 学校に向かう電車の中。隣同士座る翔琉と歩夢は揺られながら何気ない会話をしていた。

 

 

「けど本当にびっくりしちゃったなぁ。翔琉君がXioにインターンシップしに行くなんて……」

「ほら、この前宇宙人出たじゃん?その時Xioの人に助けられて、そっから色々あってさ。まあ授業で話聞いた時、少し興味あったしラッキーだったかな」

「へぇー。って、翔琉君授業中寝てたよね?」

「…………」

 

 

 無言で目を逸らす翔琉。

 

 

「まあ良いけど、怪我とかだけはしないでね?」

「大丈夫だって。Xioって言っても、俺が入ったのはラボチームっていう怪獣の研究とかがメインの所だから。怪獣と戦ったりする事はあんま無いだろうよ」

 

 

 実際にはウルトラマンとなって最前線に突っ込む事になるのだが、歩夢にそれを教える訳にもいかない。ラボチーム所属になったというのは本当なので、取り敢えずは彼女を安心させる為に少しだけ嘘を吐いた。

 

 

「でも、やっぱり少し心配かも……」

 

 

 歩夢は目を伏せる。エンペラ星人が現れた時、彼は怪我をして短時間とはいえ入院をしているから、またそんな事になったりしないか不安なのだろう。

 

 

「心配すんなって。それに、同好会の方もちゃんとやるからよ」

 

 

 Xioに入隊したとはいえ彼は虹ヶ咲スクールアイドル同好会の部長。その責任は果たすつもりである。

 

 

「うん……無理はしないでね?」

「おう」

 

 

 そうこうしてる内に降りる駅に着いた。2人は電車から降り、学校に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 学校に着いた2人は教室に入り、席に向かう。翔琉の後ろの席には明里が座って窓の外の空をボーっと見ている。

 

 

「よう、新城野」

「おはよう、新城野さん」

「ん……おはよー」

 

 

 翔琉と歩夢の挨拶に手を振って明里は応える。

 

 

「何だ、怪我したのか?」

 

 

 彼女の右指に貼られた絆創膏を見て翔琉が尋ねた。

 

 

「あー、うん、ちょっとね」

「大丈夫?」

「大した事ないよー。擦り傷だし」

 

 

 ひらひらとその手を振る明里。そんな彼女のことを、翔琉はじっと見つめている。

 彼はある事を思った。彼女の名字である「新城野」、それはXioのメンバーである新城野 紗季と同じものだ。もしや2人は、姉妹か何かなのでないかと。

 

 

「なあ?」

「ん、どしたー?」

「新城野ってさ……」

 

 

 それを聞こうとした時、始業を告げるチャイムが鳴った。

 

 

「ありゃりゃ、また後で聞くね」

「いや、大した事でもないしいいよ」

「そっ」

 

 

 明里にそう言ったあと、翔琉も歩夢も自分の席に座る。そして教師が教室内に入って来て授業を始めていき、彼らはそれを聞いて内容に集中していくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

「イベント?」

「そう!今週末にスクールアイドルのイベントがあって、それに私達は出場するんです!」

「へぇー」

 

 

 時は進んで放課後、部活の時間。スクールアイドル同好会の部室で、翔琉はせつ菜から今週末に行われるスクールアイドルのイベントについて説明を受けていた。

 今回のイベントはソロでの参加が可能で、ソロ活動をメインとする同好会のメンバー達はそれに参加するとのこと。最初はグループ参加のつもりだったが紆余曲折あり、最終的にソロで参加することになったらしい。

 

 

「てか、俺結構大事な時期に記憶失くしちゃったっぽいな……」

「あはは、そんなに気にしなくてもダイジョーブっしょ!」

 

 

 気にしてる翔琉の背を愛が優しく叩く。

 

 

「そういえば、みんな曲の作曲はあなたがしてくれたんだよ」

「はぁ!?俺がぁ!?」

「そうだよ〜」

 

 

 まさかの言葉に彼は驚く。彼女達の曲は練習の中で何度か聴いたが、それを自分が作ってただなんて思いもしていなかった。

 

 

「先輩の曲、かすみんとーっても大好きですよ!」

「ええ!みんなの歌詞とベストマッチしてます!」

「どれも凄くいい曲で、私も凄く好きだなぁ。ほら、見て」

 

 

 エマから譜面を貰い、これを自分が書いたのかとしみじみ見る。運動神経といい作曲能力といい、結構スペック高かったんだなと思ってしまう。

 

 

「俺凄かったんだな……」

「うん、翔琉さん凄い。璃奈ちゃんボード《キラキラ》」

 

 

 憧れの眼差し(ボード)を向ける璃奈。そう言われて悪い気はしないが、同時に今の自分が前の自分の様に作曲することが出来るのか少し不安にもなって来る。

 

 

「そんな心配そうな顔しなくても大丈夫よ」

 

 

 彼の心情を察した果林がそう声を掛けてきた。

 

 

「私やエマさん、彼方さん、しずくさんは元々スクールアイドルとしての経験がありますから、作曲の方も大丈夫です!」

「まじか。先輩達とせつ菜はともかく、しずくもやってたんだな」

「はい。私も前の学校でスクールアイドルとして活動してました」

 

 

 それを聞いた時ふとあることを思う。

 

 

「……お前入学したばっかで転校して来たのか?」

「その事は言わないで下さい……」

 

 

 苦虫を噛み締めた様な表情をするしずくを見て皆が笑う。

 

 

 

「さあ!大会も近いですし、練習を始めましょう!」

 

 

 せつ菜の言葉で皆は練習を開始していく。踊る彼女達を見ながら、前の様にサポート出来る様ならねばと翔琉は思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

-------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベーリング海のアドノア島。その中心にある活火山が轟音を立てながら揺れ噴火。黒煙が天に昇り、火口より溶岩が流れていく。

 

 更にもう一つ。噴火と同時に巨大な翼竜が飛び出した。

 

 

 真紅の身体を持つその翼竜は甲高い鳴き声を放った後、大きな翼で羽撃き、地上にある物を吹き飛ばしながら日本に向けて飛び立っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその様子を、赤と黒の異様な存在が、黒い瞳で見つめるのであった……–––––––

 

 

 

 

 

 






最後の文で皆さんお分かりかと思いますが、次回はあの怪獣が登場します。
そして……

感想、質問、高評価、山形りんご、その他、是非お待ちしてるんご!


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8.炎鳥ト雷竜


劇場版タイガが待ちきれない!!!!



 

 

 

 

 

 

 

 

「これって……」

「おおー」

 

 

 Xio司令室。そこでシャマラ博士と涼風、陽花が隊員達にある物を配っていた。それは翔琉の使っているエクスデバイザーにそっくりなデバイス。違う部分といえばカバーの色が金ではなく銀であることくらいだ。

 

 

「これは翔琉さん持つエクスデバイザーを解析して、そのデータから造られた、新型のジオデバイザーっす!」

「この天才であるシャマラ・シャマー博士の頭脳により完成した発明品だ!通信は勿論、他にも様々な機能を加えておいたぞ!さあ、者共!この私を崇めよ!!…………って無視するな!?」

 

 

 シャマラ博士が胸を張るがみんなは無視してデバイザーを見ている。

 

 

「新しい機能って、何があるの?」

「スパークドールズや怪獣の感情を読み取るガオディクション、サイバーカードの読み込み、利用、ウルトラマンエックスに変身した翔琉さんとの連絡を取る事も出来ます!」

「すげぇなぁ……」

 

 

 皆感心して声を唸らす。これら以外にも多くの機能が追加されており、怪獣との戦闘等に役立つ事は間違いないだろう。

 受け取ったジオデバイザーをメンバーが見ていた時、警報が鳴り響いた。ミキリとミハネは即座に席にへと戻りパソコンを操作。

 

 

「日本に向かって物凄いスピードで飛んで来る怪獣がいるよー!」

「タイプはBで飛行速度は約マッハ6!映像でるよー!」

 

 

 モニターに映し出されたのは真紅の翼竜。大きな鳴き声を発しながら猛スピードで海を引き裂きながら飛ぶ。

 

 

「あれは、ラドン!!」

「いえ、あの体色……ファイヤーラドンっす!」

 

 

 ファイヤーラドン。空の大怪獣と呼ばれるラドンの亜種個体。口より高熱の熱線・ウラニウム熱線を放つ事が出来る強力な個体だ。

 ファイヤーラドンは真っ直ぐに、日本目掛けて飛んで来ていた。

 

 

「イヅル、ハヤテ!すぐにマスケッティで出動!上陸する前に撃墜して!」

「「了解!」」

「ミキリ、ミハネはラドンの突破された場合の上陸地点を予測!ザムザは海岸から5km圏内に避難勧告!紗季とリュウジはその支援に向かって!」

 

 

 イヅル、ハヤテ、紗季、リュウジは即座に司令室から飛び出す。そしてそれ以外の者達もファイヤーラドンに対抗する為に行動を開始した。

 

 

「でも、妙ですねぇ……」

「何をしとる!?さっさとせんか!」

「あ、りょ、了解っす!」

 

 

 何かを違和感を感じた陽花であったが、博士に声を掛けられてすぐに戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 一方その頃虹ヶ咲では……。

 

 

「ワン、ツー!ワン、ツー!」

「ん〜……ここの腕はもう少し上に上げた方が良いかも〜?」

「かすみんをもっと可愛く魅せる為にはぁ……」

「やはり少し難しい振りに変えてみますか……何だか、燃えてきました!」

 

 

 みんなは週末のイベントに向けて個人で練習をしていた。各々がライバルという状況。それはみんなの中にある闘争心を燃え上がらせる。

 そんな中翔琉は、電子ピアノの前に座り楽譜や音楽の教科書と睨めっこをしていた。

 

 

「あら?何をやってるの翔琉?」

 

 

 果林が彼に話しかけてきた。

 

 

「ん?いや、作曲の勉強してるんっすよ」

「作曲の?」

「ほら、前も俺が作曲してたんだったら、やっぱ出来る様になっといたがいいかなって思って」

「なるほどねぇ」

 

 

 頑張っているみんなの力になれたら……。翔琉はそう思いながら作曲について学んでいたのだ。

 

 

「けどまあ……結構難しいもんっすねぇ……」

「弱気になってるの?」

「あー、ちょっとだけ」

「大丈夫よ。貴方ならまた素晴らしい曲を作れるわ」

 

 

 そう言って微笑んで来る果林。彼女のその姿に、翔琉は少しだけドキッとしてしまう。

 

 

「あら?もしかして、ドキドキしちゃった?」

「まさか……」

「そう?んー……」

 

 

 考える様に顎に指を置く。そして少し微笑んだあと、また彼に話しかけた。

 

 

「ねえ?少し相談があるんだけどいいかしら?」

「何っすか?」

「実は、踊っているとスカートがズレ落ちそうになっちゃうのよぉ。何か良い方無いかしら?」

 

 

 少し身体をくねらせ、悪戯っぽく笑いながら果林は翔琉にそう言う。因みにこれは記憶を失う前の彼にも言ったことだ。その時解決案は出されたのだが、もう一度彼のことを揶揄おうという魂胆なのだろう。魅力的な外観を持つ彼女にそんなことを言われれば、普通の男子なら赤面は必須であろう。

 

 

「ベルト巻けベルト」

「…………まあ……そうね……」

 

 

 しかし翔琉は一切動じること無く返した。

 

 

「けど、動いてたら緩んで落ちちゃうかも知れないでしょ?そうなったらぁ……ねぇ?」

 

 

 何も反応が無いのは面白くない。彼に赤面させるべく、もう一度アプローチをかけてみる。

 

 

「そうなったらめっちゃ笑いますわ」

「翔琉……逞ましくなったわね」

「いえい」

 

 

 ピースサインを向けてくる翔琉を見て、果林は困った様に溜め息を吐いた。以前は照れていたのだが、その可愛らしさは形を潜めたらしい。

 

 

「先輩、果林さん、どうかしましたか?」

 

 

 そこにしずくが声を掛ける。

 

 

「ちょっと彼を揶揄ってみたんだけど……失敗しちゃったわ」

「俺を手玉に取ろうなんて100年早いんっすよ。なあ、しずく?」

「は、はあ……。先輩、改めて変わったなぁって感じます……」

 

 

 少し苦笑いのしずく。そんな時、翔琉のエクスデバイザーに通信が入った。紗季からである。

 

 

「おや?ちょっとすまねえ」

 

 

 彼は一旦席を外し、部室から出て通信に対応した。

 

 

「はいはい翔琉っす」

《翔琉君!怪獣が現れたの!そして、それが日本に向かっているわ!》

「げっ、マジっすか?」

《こっちで対処はしてるけど、もしもの時は君の力を借りる事になりそう……》

 

 

 申し訳無さそうな雰囲気がデバイザーから伝わってくる。彼がウルトラマンエックスで仲間になったとはいえ、まだ子どもである翔琉のことを必要以上に巻き込みたいとは思っていないのだ。

 

 

「大丈夫っすよ」

《翔琉君……》

「みんなが、俺のこと考えてくれてるのは分かってますから。だから俺も、思いっきり戦えるんっすよ」

《……ありがとう、翔琉君!》

 

 

 次に聞こえたのは安心した声。この少年がウルトラマンで良かったと、紗季は心から思った。

 

 

「じゃ、頑張りますか!」

 

 

 通信を終えた後、頬を叩き気合いを入れる。それから翔琉は向かって来る怪獣迎撃の準備の為に駆け出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 なお、その際に同好会のみんなにそれを伝え忘れていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 海上ではファイヤーラドンと2機のスカイマスケッティが激しい空中戦を繰り広げていた。

 

 

「くらえ!」

 

 

 ハヤテの乗るスカイマスケッティαが複数のミサイルを放つ。誘導性のミサイルはファイヤーラドンに向かっていくが、奴は羽撃きその衝撃波でミサイルを全て破壊。更に口からウラニウム熱線をα機に向けて放った。

 

 

「マジかよ!?うおっ!?」

「ハヤテ!?くっそぉ……!」

 

 

 何とかハヤテは回避に成功。β機も光子砲で攻撃するが、ファイヤーラドンはそれを容易く躱す。高い飛行能力と速度、そして火力を誇るファイヤーラドンに、スカイマスケッティは苦戦を強いられている。

 

 

「コイツ、速い!」

「ちょこまかとぉ!」

《サイバーカードを使うっす!》

 

 

 陽花からの通信が入る。

 

 

「サイバーカードを?」

《ジオデバイザーをセットしてからサイバーカードをディスプレイにリードして下さい。そうすればサイバーカードに刻まれた怪獣の力を使う事が出来る様になります》

 

 

 涼風のその声と共に、彼らにサイバーカードが転送されて来た。

 

 

「やってみるか……ハヤテ!」

「応よ!」

 

 

 イヅルとハヤテは送られて来たカードをジオデバイザーに読み込ませた。サイバーカードから、怪獣の力がマスケッティに宿されていく。

 

 

《CYBER THUNDER DARAMBIA LORD》

 

「ダランビア電撃ウィップ!」

 

 

 超合成獣サンダーダランビアの力を秘めたサイバーサンダーダランビアカードをセット。ハヤテはマスケッティから電撃を纏った鞭をファイヤーラドンに向けて放った。ファイヤーラドンは回避しようとするが鞭は奴のことを追尾し、遂にはその足に巻き付いた。強烈な電撃が鞭を伝ってファイヤーラドンを痺れさせる。

 

 

《CYBER KINGJOE LORD》

 

「キングジョーデストレイ砲、発射!」

 

 

 宇宙ロボット・キングジョーを解析して作られたサイバーキングジョーカードをイヅルはデバイザーにセットし、動きを止められたファイヤーラドンに向かってエネルギー弾が放たれた。それは見事に命中。ファイヤーラドンは、悲鳴を上げながら海面に叩きつけられ沈んでいく。

 

 

「よし!」

「やったぜ!」

 

 

「やった!」

 

 

 コックピット内でガッツポーズをする2人。海岸から見ていたその様子を見ていたリュウジと紗季もぐっと拳を握る。上陸する前にファイヤーラドンを撃破する事が出来、皆はほっとして胸を下ろした。

 

 

 

 

 

 だが次の瞬間、ファイヤーラドンは海面から飛び出し咆哮を放った。

 

 

「何!?」

「マジか!?」

 

 

 ウラニウム熱線をマスケッティに向けて出鱈目に放った後、狂った様な眼をしたファイヤーラドンは羽撃いて一直線に海岸を目指す。

 

 

「マズい!」

「と、止めなきゃ!?」

 

 

 銃・ジオブラスターをファイヤーラドンに向けて放つリュウジと紗季。奴はその巨大で高速に飛ぶ事により、ソニックブームを発生させる。そんなものが上陸してしまったら地上は凄惨な事になってしまう。何としてもそれは止めなければならない。

 

 2機のマスケッティが、地上では紗季とリュウジが、ファイヤーラドンを止める為に必死に攻撃を仕掛ける。しかし、奴はそれらを喰らいながらもまるで何かに取り憑かれたかの様に陸地を目指す。このままでは残り数秒で上陸してしまう……万事休すか……?

 

 

 

 

 と皆が思った時である。鏃型の光弾がファイヤーラドンの顔面に激突し、奴の進行を止めた。

 

 

「あれは!?」

「来たか!」

「最高のタイミングだ……!」

 

 

 イヅルとハヤテはマスケッティの中から、リュウジと紗季は振り返ってから光の飛んで来た方を見る。そこに居たのは光の巨人・ウルトラマンエックスだ。

 

 

「ありがとう……ウルトラマン!」

 

 

 地上にいる紗季達に頷いた後、エックスはファイヤーラドンに構える。ファイヤーラドンは滞空して鋭い眼光をエックスへと飛ばしていた。

 睨み合う2体。先に動いたのはファイヤーラドンだ。エックス目掛けてウラニウム熱線を放つ。彼はそれを横に転がって回避し、起き上がりと同時にエックススラッシュを放った。だが奴もそれを難無く躱す。

 

 

「野郎……!」

 

 

 エックスは連続で光弾を放っていくが、ファイヤーラドンはアクロバティックな動きでそれらを全て回避していく。素早い奴を捕らえられず、逆にウラニウム熱線の反撃を放たれた。

 

 

「うおっ!?」

 

 

 光の壁・エックスバリアウォールを前面に展開して熱線を防ぐ。熱線はバリアにヒビを入れた。これをまともに喰らえばダメージは大きいだろう。空を自在に飛び回るファイヤーラドンに、エックスは翻弄されていた。

 

 

「くっそ、どうすっか……」

《何をしとるんだお前は!?》

 

 

 どうすべきかと考えていた時、シャマラ博士から通信が来た。

 

 

《お前も飛んで戦わんかい!》

「は?飛ぶ?」

《そうだ!そうすればまともに戦える!》

「馬鹿じゃねえの?人は飛べねえ」

《ば、馬鹿ぁ!?馬鹿だとぉ!?私は宇宙最高の頭脳を持つシャマラ・シャマー博士だぞ!!?それを馬鹿呼ばわりとはあああああ!?いいか!?今のお前は人間じゃなくてウルトラマンだろうがああああああ!!》

「あ、それもそうか」

 

 

 とりあえず納得したエックスこと翔琉。思いっきり地面を蹴り、彼は飛び上がった。

 

 

「えっ、ちょっ、うおお!?すげぇ……マジで飛んでる!」

 

 

 最初は手足をバタバタさせ少し不安定であったが、すぐに両手を前に伸ばしエックスは空へと舞い上がる。飛行したエックスに驚いたファイヤーラドンだったが、すぐにその鋭い(くちばし)を向けて彼に突っ込んでいった。

 

 ファイヤーラドンの突撃を躱すエックス。そのまま急上昇していく奴のことを彼は追う。速度はエックスの方が僅かながら上らしく、追い付いたエックスはファイヤーラドンの背に手刀を打ち込んだ。墜落しそうになるのを途中で体勢を整って何とか防いだファイヤーラドンは、エックスにウラニウム熱線を放つが彼は空を飛び回りそれを躱していく。先程迄とは逆の状況である。

 

 苛立ったのかファイヤーラドンは甲高い雄叫びを上げ、身体を燃え上がらせながらエックスへと突撃していく。エックスも対抗する様に身体に炎を纏う。

 

 

「アタッカーX!!」

 

 

 そして両手両足を広げ、眩い閃光を伴うX字の炎を放った。大技であるアタッカーXは突っ込んで来たファイヤーラドンに見事命中し、奴はきりもみ回転しながら海面に堕ちた。

 

 

「おし!」

《天地さん、聞こえますか?》

 

 

 涼風の声が彼に届く。

 

 

《新しいサイバーカードを転送します。それを使って下さい》

「新しいカード……なら、やってみますか!」

 

 

 地上に降りたエックス。そして彼は送られて来たサイバーカードをエクスデバイザーに差し込んだ。

 

 

《CYBER ELEKING LORD》

《CYBER ELEKING ARMOR ACTIVE》

 

 

 右腕に砲門の様な特殊アーム、左肩は怪獣の頭部の様な鎧。宇宙怪獣、放電竜の別名を持ち、電撃を自在に操るエレキングの力を宿したエレキングアーマーがエックスに纏われた。

 

 

《どうですか、エレキングアーマーは?》

「んー、ゴモラよりスマート」

《でしょう?》

《そんなぁー!?》

 

 

 涼風の満足した様な声と陽花の嘆きが聞こえるが取り敢えずは無視。右腕の砲門から電撃を鞭の様にし、海面から上がろうとしたファイヤーラドンに巻き付ける。そしてそのまま上空にブン投げる。

 

 

「終いだ……焼き鳥になりな!」

 

 

 砲門に電撃をチャージ。ダメージを受けて体勢を立て直せず、空で無防備になっているファイヤーラドンに向けてエックスはそれを放った。

 

 

「エレキング電撃波!!」

 

 

 放たれた黄色と青の電撃はファイヤーラドンに直撃。その凄まじい威力の前にファイヤーラドンは爆散、そしてスパークドールズにへと圧縮されるのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にしても変ですねぇ……」

 

 

 司令室にて陽花がそんな言葉を溢していた。

 

 

「何がー?」

「変なのー?」

「いや、ラドンは主に火口に生息していてるっす。彼らは基本的に、何らかの外的要因が無い限りこんなに長距離を移動する事は無い筈なんっすよ」

 

 

 自分の知るラドンの生態ではこんな行動をするのは妙だと彼女は思っているのだ。

 

 

「それにあのファイヤーラドン、何処かおかしな気がして……」

「じゃあ、アレも誰かが操っていたと言うの?」

 

 

 沙優の質問に、陽花は「分からないっす……」と首を振った。

 

 何か悪しき力が働いている。そう感じずには、いられなかった……––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「翔琉君」

「………はい」

「どうしてこんな事になっているか、分かる?」

「……いや、その……はい」

 

 

 戦いが終わった後、同好会の部室に戻って来た翔琉。鞄などを置きっ放しにしていたのでそれを取りに来たのだ。日も沈み掛けており、もうみんな帰っただろうと思っていたが、なんと全員残っていた。

 

 そして今、翔琉は頬を膨らませた9人の少女に囲まれている。

 

 

「マジですんません……」

「急に居なくなって、みんなかけるんの事心配してたんだよ!」

「そうだよ!何かあったのかと思ったんだからね……?」

 

 

 愛とエマは少し強めにそう言うが、その表情からは本気で心配だったという気持ちが強く伝わって来る。他のみんなからもそうだ。

 

 

「かすみん達、何度も連絡したんですよ!?」

「マジ?」

「そうだよ〜。けど、君出てくれなかったし〜」

「わ、ほんとだ」

 

 

 携帯には大量の着信履歴とメッセージがあった。

 

 

「全然出ないから凄く心配した。璃奈ちゃんボード《しくしく》」

 

 

 泣き顔のボードを璃奈は見せてくる。これには翔琉も心が痛む。

 

 

「マ、マジでみんなごめん!……今度埋め合わせするから許して?」

 

 

 両手を合わせてそう謝る翔琉。みんなは一度顔を見合わせた後、「はぁ……」と溜め息を吐いた。

 

 

「仕方ないですね、先輩は」

「前もパワフルだったけど、記憶を失ってから別方向にパワフルになった気がするわ……」

「とにかく、もうこんな事はない様にして下さいね?」

「うっす……反省します……」

 

 

 一先ずは許されたので取り敢えず立ち上がった。それから少し痺れる足をお仕置きと言って突いて来るかすみの頭を適当にわしわしと撫でておく。

 もうやるなとは言われたが、間違い無くまた抜け出す事になるだろう。その時は上手く言い訳しなければと、翔琉は密かに思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ただいま〜」

 

 

 新城野 明里は学校から帰宅した。海に出たという怪獣はウルトラマンが倒してしまったと聞いたが、彼女からすればどうでもよかった。

 

 

「お帰り、明里」

「あ、お父さん帰ってたんだ」

「今日は仕事が早く終わってな」

 

 

 リビングに居たのは新城野 広也(ひろや)。明里の父である。

 

 

「お母さんとお姉ちゃんは?」

「紗季は仕事で遅れるみたいだ。ほら、ニュースでも言ってただろ、怪獣が出たって」

「あー、それでか」

 

 

 明里は鞄をソファーに置くとキッチンに行き冷蔵庫を開けて中に入っていたオレンジジュースを取り出し、それをコップに注いでからぐっと飲む。

 

 

「母さんは何も聞いてないが、その内帰って来るだろう」

「ふーん」

 

 

 そんな話をしていた時、扉の開く音と声が玄関から聞こえて来た。

 

 

「ただいまー」

「お帰りー、お母さん」

「お帰り」

「あら、2人とも先に帰ってたのね」

 

 

 そう言って微笑むのは明里の母で広也の夫である新城野 利子(としこ)だ。

 

 

「母さん、どこに行ってたんだい?」

「んー?ああ、ちょっとお買い物にね。そしたら知り合いに会っちゃって、つい話込んじゃったのよ〜」

「母さん……」

 

 

 「ごめんね〜」と笑いながら広也に謝る利子。明里はやれやれと呆れた顔をした後、ソファーの上に置いてた鞄を取って自分の部屋に行こうとする。

 

 

「あ、そうだ明里。帰って来る時にケーキ買って来たから、一緒に食べましょ?」

「ほんと?やったー。じゃあ、これ部屋に置いて来るね」

 

 

 笑いながら彼女はそう答え、部屋に向かって歩き出す。自室に入った彼女は机の椅子に鞄を置く。横を見ると、そこにあるのは相変わらず大量のスパークドールズと怪獣カプセルの飾られた棚。そして机の上のパソコンにはダークルギエルの姿が映されている。

 

 

《お帰り明里》

「ただいまルギエル」

 

 

 声を掛けてきたルギエルに明里は振り返りもせずに返す。それから彼女は部屋を出てリビングに戻っていった。

 

 

「おー、どれも美味しそう」

「お姉ちゃんにも一個残しといてあげましょう」

「はーい」

 

 

 利子がケーキが並べ、3人はテーブルに着く。それから手を合わせた。

 

 

「いただきまーす」

 

 

 何の変哲も無い家族の生活がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 





ジオデバイザーは本編と違い、エクスデバイザーを基に造られたという設定になっています。

ゴジラシリーズよりファイヤーラドン登場!
本作ではラドンの亜種個体という設定です。この様に本編とは多少設定を変えて登場する怪獣も出てきます。

それともし登場してほしい怪獣や宇宙人などがいたら、リクエストを頂けると嬉しいです。

それでは今回はここまで。
感想、質問、高評価、山形りんご、その他、是非お待ちしてるんご!


















次回、ブラックホールが吹き荒れるぜ!




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9.ジクウを超えて




遅くなりましたが投稿しました!
今回なのですがなんと……なんとなんと!?


がじゃまる様の書かれている「ゼロライブ!サンシャイン!!」とのコラボ回となっています!!
ゼロとエックス、陸と翔琉が出会うことで始まる物語を是非楽しんで下さい!!

それでは早速どうぞ!!




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とあるアナザースペースの静岡県沼津市内浦。そこには激突する大きな三つの影があった。一つは全身が金属質な外皮で覆われた宇宙人・ガルト星人アイザラ。もう一つは竜の様な胴体の胸元から頭部までが真っ二つに裂かれており、そこから別の竜の頭が覗いているという不気味な姿をした怪獣・ガイモス。

 

 最後に青と赤のボディ、頭部には2つの宇宙ブーメランを付けた鋭い眼光の戦士。幾多も悪を打ち砕いて来た若き勇者・ウルトラマンゼロだ。そしてゼロの中には、彼と一体化して共に戦って来た少年・仙道 陸がいる。

 

 ゼロ=陸とアイザラ、ガイモスは戦いを繰り広げていた。

 

 

『ガルト星人アイザラ……怪獣や兵器を売り歩き、いくつもの星々を地獄に変えた死の商人。噂には聞いてたが、この星に何の用だ!?』

「ここに来たのはただの下見さ。まあ、貴様がいるのは予想外だったがなぁ……」

「なら、運が尽きたって事だな」

『ああ。ここでてめえの罪を償わせてやる!』

「言ってくれる……。かつてウルトラセブンに倒された同胞の怨み、貴様で晴らしてくれるわ、ウルトラマンゼロォォ!!」

 

 

 アイザラが腕から光弾を連射。ゼロはそれを軽快な動きで躱して接近し、頭部の宇宙ブーメラン・ゼロスラッガーを手に取ってそれを振るう。アイザラも対抗し、2体は激しい接近戦を展開する。回し蹴りをアイザラは放つがゼロはしゃがんで回避し、素早くゼロスラッガーで二度斬りつけた。鋼鉄の身体から火花が散り、奴を後退させる。

 

 

「チッ……!ガイモス!」

 

 

 アイザラより指示を受けたガイモスは口と両肩から火炎弾をゼロ目掛けて放った。

 

 

「ッ、ゼロ!」

『分かってる!』

 

 

 放たれた火炎弾を跳躍して避け、それと同時に彼は青い光に包まれ姿を変える。

 

 

『「ルナミラクルゼロ!」』

 

 

 浄化と超能力を駆使する青き超スピード戦士。守り抜く力を宿したルナミラクルゼロへと変化。そして自身の周囲に、光のゼロスラッガーを複数作り出した。

 

 

『ミラクルゼロスラッガー!』

 

 

 それを地上のガイモスへ飛ばす。ゼロスラッガーの群はガイモスの身体に傷を付けていき、奴に悲痛な叫びを上げさせる。

 着地したゼロはそのまま超高速で動き、苦しむガイモスに接近。右掌を腹にへと押し付けた。

 

 

『レボリウムスマッシュ!』

 

 

 掌から衝撃波を放ちガイモスを吹き飛ばした。手足をバタバタさせながら吹っ飛んだガイモスは、敢えなく地に伏す。

 

 

「おのれぇ!」

 

 

 怒りのままにアイザラはゼロに光弾を放っていく。しかし、そんな物が彼らに通用する筈も無く、最も容易く躱されてしまう。

 

 

『どうしたどうした!?そんなもんか!?』

「くっ、舐めるなァ!」

 

 

 業を煮やしたアイザラは左腕にビーム砲の様な物を着ける。そしてそこから、光のネットを放った。ネットはかなり大きく広がり、ゼロは予想外だったのか引っ掛かってしまった。

 

 

『うお!?ンだよこれ!」

「馬鹿!調子に乗るから……!」

『はあ!?俺の所為かよ!?』

「どう考えてもそうだろうが!?」

 

 

 言い合うゼロと陸。そんな2人に、アイザラは巨大なレーザー砲を取り出してその銃口を向けエネルギーをチャージ。復帰して横に並んだガイモスの放つ火炎弾と共に、強力なレーザービームを放った。それにより、ゼロは凄まじい爆風の中に呑み込まれていく。

 

 

「どうだ!?これが俺様の作り出した兵器の力!貴様の様な愚か者は圧倒的な力の前に、不様に死んでいくのだァ!!ハァーハッハッハッ!」

 

 

 勝利を確信したアイザラはゲラゲラと笑い、ガイモスも嬉々として吼えている。山一つを軽く吹き飛ばす威力のビームを喰らわせたのだ、いくらゼロと言えども生きてる筈が無い。

 

 …………と思っていたが……。

 

 

 

 

 

「ハッハッハッ…………はあ……!?」

『「うおおおおおお!!」』

 

 

 ゼロは赤い輝きを放ちながら、無傷のままこちらへと突っ込んで来るではないか。信じられない光景に、アイザラもガイモスも開いた口が塞がらない。

 

 

『「ストロングコロナゼロ!」』

 

 

 燃え盛る炎と鋼の肉体を持つ超パワー戦士。前に進む力を宿したストロングコロナゼロとなった彼らはそのまま一直線にアイザラとガイモスに接近し、ダブルラリアットを2体に叩き込んだ。2体は強烈な一撃を受けて倒れる。ゼロは倒れたガイモスの尻尾を掴み、思いっきり空へと投げ飛ばした。

 

 

『ウルトラハリケーン!!』

 

 

 竜巻と共にきりもみ回転しながら上空に飛んでいくガイモス。それに対しゼロは左手首のブレスレットを叩いた後、右腕に超高温の爆炎を纏ってガイモスに解き放つ。

 

 

『ガルネイトッ、バスタァァァァァァ!!』

 

 

 解放された爆炎はガイモスに激突。その凄まじい威力の前に、ガイモスは粉々に砕け散った。

 

 

「馬鹿な!?俺様のガイモスが!?」

「残りはお前だ!」

「ふざけるなァ!」

 

 

 地を叩いた後、アイザラはゼロにへと駆け出す。そして何度も殴り掛かるが、彼らは全て軽く往なしカウンターに腹にパンチを2発、そして流れる様に回し蹴りを胸元へ打ち込んだ。それにより胸元には亀裂が入る。

 

 

「ぐおお……!?くっ……こんな宇宙、やってられるか!!」

 

 

 アイザラは右手首に着けられた腕時計型の装置を操作。すると上空に、時空の穴が開いた。

 

 

「あれは!?」

『時空の穴……まさか、他の宇宙に!?』

「そうだ!俺様はこの装置で、幾つもの並行宇宙を渡り商売をして来たのだ!そして既に、これと同じ物をとある連中に売り付けている」

『何だと!?』

「アイツらなら良い仕事をする。この装置の素晴らしさを全宇宙に広げてくれるだろうさ!」

 

 

 両手を高らかに挙げて笑うアイザラ。並行宇宙を自由に移動出来るだなんて物が悪人共の手に渡り悪用されれば大きな被害を産むだろう。

 

 

 

「今は引くが、いずれまたこの世界に俺様は来る。その時が貴様とこの星の最後だァ!」

 

 逃亡する為に空に開いた時空の穴へ飛ぼうとしたアイザラ。しかしそれよりも速く、ゼロが接近してその肩を左手で掴み止めた。

 

 

「っ、貴様離せ!?」

「………させるかよ」

「は?」

 

 

 怒りに満ちた陸の声がアイザラの耳に届く。

 

 

「この宇宙も、他の宇宙も!お前みたいな奴の好きにはさせるかよ!」

 

 

 雄叫びと共にゼロから漆黒の闇が溢れ出し、肉体を黒く染めていく。闇に堕ちたとあるウルトラ戦士の力を宿したゼロダークネスが、アイザラの前に降臨した。放たれる威圧感に、アイザラは息を呑む。

 

 

「そ、その力は……!?」

「うおおおおおおおおおッ!!」

 

 

 ゼロは呆けているアイザラに接近し、右拳を打ち込んだ。強烈な一撃に吹っ飛んでいくアイザラ。ゼロは奴が地に着く前にまた接近して連続で右拳を叩き込んでいく。

 

 

「ぐあああ!?うぐぅぅぅ!?」

「これまでの行い、償いやがれ!!」

 

 

 思いっきり振り被ってからの右ストレートがアイザラを吹き飛ばして海に叩き付けた。最早虫の息でフラフラと立ち上がるアイザラに、ゼロの鋭い眼光が放たれる。

 

 

「終わりだああああああああ!!」

 

 

 ゼロスラッガーを胸に装着。そしてそこから、陸の咆哮と共に凄まじい闇の力を持った光線をアイザラに向けて放出された。

 

 

「なッ!?ば、馬鹿なああああ……!?」

 

 

 どれだけ強固な身体を持っていてもそれに耐え切れる筈が無く、アイザラはガイモス同様、爆発四散することになった……––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いが終わり、時空の穴が閉じていくのをゼロは見つめる。アイザラの言っていた事が本当ならば、今この瞬間、別の宇宙で悪意ある者が活動している。それを見捨てる事は宇宙警備隊であるゼロには出来ない。だが、この宇宙を離れる事も、同じくし難かった。

 

 

「いこうぜ、ゼロ」

 

 

 そんな心情を察した陸が、彼にそう声を掛けた。

 

 

『陸……けど、アイツらは……』

「何言ってんだよ。俺らがいなくてもアイツらが大丈夫なことくらい、お前もよく分かってるだろ?」

『…………そうだったな』

 

 

 目線を向けた先にいるのは9人の少女。その中心にいる1人の少女がゼロと陸に対して頷いた。

 

 –––––心配しないで。

 

 彼女がそう伝えて来たのは間違いなく感じられた。

 

 

『なら、いくぜ陸!』

「ああ!」

 

 

 ウルティメイトブレスレットが輝き、白銀の鎧・ウルティメイトイージスが纏われて、ゼロはウルティメイトゼロとなる。その力によって並行宇宙への道が開かれ、彼らはそこへと飛び込んでいった。

 

 

 その先である戦いと出会いを、この時彼らはまだ想像もしていなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

「スパークドールズの輸送?」

「ああ。基地にあるスパークドールズをなんとか研究所って所に送るんだとよ。んで、その時ここの近く通るから、俺はそのまま拾われて同行するって感じだ」

 

 

 同好会の部室で翔琉とスクールアイドルの9人は話していた。今日は土曜日、そしてスクールアイドルのイベントの前日。練習は午前中だけにして、後は明日に備えて身体を休めることにした。そして練習が終わった部室で彼はかすみから何処かに行こうと誘われた時にスパークドールズ輸送のことを話をしたのだ。

 

 

「それって、つまりは護衛ってことでしょ?大丈夫なの……?」

 

 

 心配そうに歩夢がそう尋ねる。

 

 

「いやいや、ただの付き添いだって。俺あくまでもラボチームっていう所の所属なんだぜ?そんな護衛だなんて事はしねえよ」

 

 

 ケラケラ笑いながらそう言うが、彼が同行するのは歩夢が言った通り護衛の意味がある。スパークドールズを狙う宇宙人は多く存在するのでいざと言う時の為に翔琉は一緒に行くと自分から進言したのだ。とはいえそんな事、彼女達にはとても言えない。

 

 

「ま、そんな訳だからこれから行って来るよ」

「むぅー、先輩と遊びに行きたかったですぅー」

「また今度な」

 

 

 かすみの頭をワシワシと撫でた後翔琉は部室を出ようとする。

 

 

「気を付けてね?」

「大丈夫大丈夫」

 

 

 背を向けたまま手をひらひらとさせ、彼は部室を出た。ただスパークドールズを研究所に運んでいく車に乗ってるだけの簡単なこと。トラブルなんてそうそう起こる筈も無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って思ってた時期が俺にもありましたあああああああああああああ!!」

 

 

 結論から言うととんでもないトラブルが起きた。

 

 あれから15分後に紗季が運転する車に乗せてもらった翔琉。彼らが乗る車にスパークドールズが載せられており、他にもリュウジと涼風、陽花が乗る物とハヤテとイヅル、シャマラ博士が乗る物の2台が護衛としている。

 他愛のない話をしながら走る事約30分。突如巨大な影が彼らの車に大きな影が覆い被さった。何だと思い車窓から身を乗り出して空を見た翔琉が見た物は、腹部に五角形の口を持つ巨大な鳥の様な怪獣であった……。

 

 

 

 

「何なんっすかあれはぁ!?」

「私だって知らないよぉ!?」

 

 

 全力で車を走らせて逃げる紗季と翔琉。怪獣は彼らの車を狙ってずっと追いかけて来ている。

 

 

《ベムスターっすよ、ベムスター!》

「べ、ベム!?妖怪人間!?」

《別名宇宙大怪獣、腹部の口で何でも呑み込んでしまうとんでもない怪獣っす!》

「あれ口かよ!?」

 

 

 紗季はどうにか撒こうと必死に車を走らせるが、鳴き声を発しながらベムスターは車を追い回す。

 

 

「てか何で俺らの車狙ってんだよアレ!?」

「もしかして、スパークドールズがこの車にあるのを知ってるの!?」

《ベムスターは高エネルギーを求める性質があります。もしかしたらスパークドールズのエネルギーに反応してるのかも知れません》

「なるほど……てか、冷静に分析してないで助けて下さあああああい!?」

 

 

 紗季の叫びが轟く。

 

 

「とりあえず俺行ってきます!」

「気を付けてね!」

「それ出る前も言われて気がするぅぅぅ!」

 

《X UNITED》

 

「オラァァァァ!!」

 

 

 エックスに変身し車から飛び出した彼はベムスターにアッパーを叩き込んだ。ベムスターは堪らず地面に落下。

 

 

「よく見ると意外と可愛いな」

《ベムスターは過去にいくつもの宇宙ステーションを呑み込んでる凶悪な怪獣っす!》

「可愛くねぇな!」

 

 

 駆け出して立ち上がったベムスターにチョップ。更に続けてキックを叩き込んだ。ベムスターは鉤爪で攻撃していくが、エックスはそれらを躱す。

 

 

「そんな短い手足で届くかよ!」

 

 

 素早く蹴りを繰り出していく。リーチの差を活かしてベムスターに攻撃をさせる間を与えず追い詰める。

 

 

「おっし、一気にトドメを……おわっ!?」

 

 

 強烈な一撃を放とうとした時、真横から衝撃を受けてエックスは吹っ飛んだ。何んだと思い見上げると、そこには蛇を連想させる怪獣が涎を垂らして立っていた。

 更に空が割れ、そこから青い芋虫に手足を生やした様な怪獣……否、超獣が現れる。

 

 

 

 

「レッサーボガールに超獣バキシム!?」

「怪獣が、一気にこんなに……!?」

「な、何がどうなっとるんじゃ!?」

 

 

 車を停止させ、Xioの面々は降車してエックスのことを見る。3体の敵に囲まれ、彼は戸惑いながらも構えている。

 

 

「くっそ、マジかよ……!」

 

 

 怪獣達に向かっていくエックス。先ずはレッサーボガールに拳を放つ。怯んだところに追撃をしようとするが、バキシムが鼻からミサイルを発射し妨害。エックスは仰け反ってしまい、そこへベムスターがタックルして来て彼は後退する。

 踏ん張って倒れそうになるのを耐えたエックス。怪獣達はそんな彼へと突っ込んでいき攻めていく。抜群の連携の前に、エックスは翻弄されてしまう。

 

 

「あの怪獣達、連携が取れてる……まさか、誰かに操られて……!?」

「ご名答!」

 

 

 涼風の言葉に、背後から返答が飛ばされてきた。振り返るとそこには三つの影があった。人型ではあるが明らかに人では無い異形の姿である。

 

 

「何だお前らは!?」

 

 

 ジオブラスターを向けるハヤテ、イヅル、紗季、リュウジ。それを見て奴らはニヤニヤと笑みを浮かべている。

 

 

「俺はヒッポリト星人ケイプ!」

「俺様はナックル星人ジェイラ!」

「デスレ星雲人ダイロだ!」

「「「我ら、脱獄ハンターズ!!」」」

 

 

 ばっちりとポーズを決める3人の宇宙人。彼らは脱獄ハンターズと呼ばれ、とある宇宙で数々の犯罪行為を行なって来た凶悪集団。捕縛されて投獄をされるがそのたびに脱獄を繰り返し、それすらもパフォーマンスと考えるとんでもない奴らなのだ。

 

 

「あの怪獣達を操ってるのがお前達という事か」

「ああ、そうだ。怪獣を操り華麗に獲物を奪う。俺達、かっこいいだろ?」

「ただの泥棒だろうが!?」

 

 

 ケイプに対してハヤテが吠えた。

 

 

「ヒッヒッヒッ、何とでも言いやがれ!」

「このスパークドールズは俺達が貰っていくぜ!」

 

 

 いつの間にかスパークドールズの入ったジェラルミンケース2つをダイロが持っていた。紗季が目を離した一瞬の隙に奪っていたのだ。

 

 

「あ、しまった!?」

「この馬鹿!?何を取られとるんじゃ!?」

「ご、ごめんなさいぃぃ!?」

「とにかく取り戻すぞ!」

「「「了解!!」」」

 

 

 リュウジがケイプへ、ハヤテとイヅルがジェイラへ、紗季がダイロへと向かっていく。脱獄ハンターズもそれに応える様に向かっていき、戦いが繰り広げられる。陽花、涼風、シャマラ博士の3人は、近くの柱に隠れてその様子を見守る。

 

 リュウジが素早い連打をケイプは身体に打ち込む。少し退がるが、ケイプはすぐに持ち直し豪腕を振るった。それをリュウジはそれをしゃがんで躱し少し距離を開く。

 

 

「俺と渡り合うなんて、なかなかやるじゃないか?」

「そりゃどうも」

 

 

 ジオブラスターをジェイラに向けて撃つ。だが奴はそれを笑いながら躱していき、ツインガンを連射。2人は近くの物陰に隠れる。

 

 

「ヒッヒッヒッ!」

「くそ!面倒な野郎だ!」

「弱音吐くな!」

 

 

 紗季はダイロからスパークドールズを取り戻す為に何度も手を伸ばすが、全てヒラヒラと躱されてしまう。業を煮やした彼女はダイロの顔面目掛けてハイキックを放った。しかしそれも容易く避けられてしまった。

 

 

「くっ!スパークドールズを返しなさい!」

「へっ!嫌なこった!」

 

 

 

 一方、エックスは3体の相手に苦戦を強いられていた。多対一は初めてであり、更に連携が取れてることもあっていい様に弄ばれていた。爪が、牙が、角が、嘴が、エックスを傷付ける。

 

 彼に対して、ベムスターは角からのビーム、バキシムは腕からの火炎放射、レッサーボガールは目からの破壊光線を放った。それを喰らってエックスは悲痛な叫びを上げながら吹っ飛んでしまう。倒れて苦悶の声を漏らしながら横に目線を向けた時、彼の視界には脱獄ハンターズと戦うXioメンバー、そしてもう1人、意外な人物が映った。

 

 

「歩夢……!?」

 

 

 しゃがんで物陰に隠れている歩夢の姿。部活が終わった後、買い物をしていたが最悪なことにこの戦いに巻き込まれてしまったのだ。

 震えて頭を抱えている歩夢。こんな恐ろしい事態に遭遇してしまったのだから無理もないだろう。

 

 

「お?良いもん見つけたァ!」

 

 

 エックスの視線から歩夢の存在に気付いてしまったジェイラはハヤテとイヅルの足下に連射した後、彼女に一気に近付いた。

 

 

「よおォ?」

「ひっ……!?」

 

 

 ジェイラは歩夢を引き寄せ、銃口を当てる。

 

 

「歩夢!?」

「動くなよ!このガキぶち殺されたくなかったならなァ!」

 

 

 その言葉によりXioもエックスも動けなくなる。

 

 

「よくやったジェイラ!」

「野郎!?」

「卑怯者!」

「ケッケッケッ!やっちまいなお前ら!」

 

 

 怪獣達が一斉に襲い掛かって来た。奴らの猛攻に晒され、エックスのカラータイマーが鳴る。

 

 

「ぐああああ!?」

 

 

 歩夢が人質に取られている以上、エックスもXioも手出しは出来ない。まさに大ピンチの状態。

 …………その時である。上空に時空の穴が開いたのは。

 

 

「何だありゃ!?」

「あァ?」

「あれは……?」

「空間に穴……まさか新手!?」

「何かいるぞ!?」

「まさか……」

 

 

「あ、あれは……?」

 

 

『ゼェア!』

 

 

 時空の穴から光の翼を拡げて飛び出したのは、最強の勇者・ウルティメイトゼロだ。

 

 

「ウルトラマン!?」

 

 

 ゼロはすれ違い様のウルトラゼロキックで怪獣達を吹っ飛ばしてから着地。その堂々たる姿を顕現させた。そしてウルティメイトイージスを仕舞ってからエックスに声を掛ける。

 

 

『よう……久しぶりだな、エックス、大地』

「ここって大地さん達の世界だったんだ」

「は?俺天地なんだけど?棒線一本足りてないぞ」

『は?天地?お前何言ってんだ?』

「いやいや、アンタが何言ってんだよ?てかアンタ誰?」

「大地さんじゃない……え、でもエックスは?」

「うん、俺エックスだよ。天地 翔琉でもあるけど」

『……どういう事だ?』

 

 

 妙に話が噛み合わない彼ら。そんな話をしていた時、ケイプが奇妙な銃を取り出して銃口をゼロに向けた。

 

 

「噂に名高いウルトラマンゼロォ……これで消えちまいな!ブルトン弾!」

『ッ、危ねえ!』

「うお!?」

「ゼロ!?」

 

 

 トリガーが引かれて銃からブルトンの力を持った弾丸がゼロに放たれた。弾丸はゼロの前で炸裂、空間に穴が空いて彼らを吸い込もうとする。ゼロは咄嗟にエックスを押し飛ばし、陸を自身から分離させた。

 

 

『ブルトンとかマジかよ!?ちくしょおおおお!?』

「ゼロォォォォォ!?」

 

 

 吸い込まれて異次元に飛ばされてしまったゼロ。突然の登場からの退場。余りに目まぐるしい展開にエックスは困惑するしかない。

 

 

「な、何がどうなって……」

 

 

 彼が戸惑っていた時、ケイプ、ジェイラ、ダイロの3人はアイザラから買い取った移動装置を使って次元の穴を開いた。

 

 

「ズラかるぜ、お前ら」

「おう!」

「お前もついて来い!」

「え、えっ!?」

 

 

 3人はその穴へと入っていく。スパークドールズと、人質にした歩夢を連れて。

 

 

「な、待て!?……ぐっ!?」

「させない!」

「新城野さん!?」

 

 

 追おうとするがダメージの大きいエックスはそれをする事が出来ず、膝をつき変身解除されてしまう。怪獣達も大きな時空の穴を潜って奴らの跡を追って去った。だが、レッサーボガールが穴に入ろうとした時、その尻尾に紗季が飛びついた。彼女もまた、次元の穴に消えていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛ぅ……あ、歩夢……」

 

 

 フラフラしながら歩く翔琉。歩夢を助けなければ……その思いで歩みを進めるが現実どうしようもない。

 

 

「ぐっ……!?」

 

 

 痛みの限界で倒れそうになったその時、誰かが彼のことを支えた。

 

 

「っ………あ、あんたは……?」

「大丈夫っすか……?」

 

 

 見上げた先にいたのは仙道 陸。ウルトラマンゼロと一体化していた少年。

 翔琉と陸。この出会いが、これから起こるストーリーの幕開けであった……–––––––

 

 

 

 

 

 

 






翔琉の前に現れた陸とゼロ……と思ったら異次元に飛ばされてしまったゼロさん()
スパークドールズは奪われ、歩夢が攫われてしまい、更には紗季も……。初っ端からとんでもない展開になってしまったコラボ回1話目。これからどんなことが起こるのか、是非お楽しみに!


今回現れた敵、まずはガルト星人アイザラとガイモス。これらは平成ウルトラセブンに登場したガルト星人とガイモスの別個体という設定です。
そして次は脱獄ハンターズ!大怪獣ラッシュ ウルトラフロンティアからの参戦です!彼らはそれぞれ元の宇宙人が出た作品の怪獣を従えています。このハンター達の活躍もご注目下さい!



では、また次回!

感想、質問、高評価、その他、是非是非お待ちしています!


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10.イージスの光

遅くなりましたが記念すべき10話目にしてゼロライブとのコラボ回2話目!

拐われた歩夢、彼女を救う為に飛び込んだ紗季、そして異次元に飛ばされてしまったゼロ……。この波乱の展開を翔琉と陸は乗り越える事が出来るのか?

それでは早速どうぞ!


 

 

 

 

 

 

「くっ……ここは……?」

 

 

 ヒッポリト星人ケイプの放ったブルトン弾によって異次元に飛ばされてしまったゼロ。彼が今いる場所はまるで砂漠の様に辺り一面砂場となっていて、空は不気味なピンク色。少なくとも地球では無いのは確かだ。

 

 

「とにかく早いとこ戻らないと………ッ!?」

 

 

 背後から殺気を感じ、ゼロは横に飛ぶ。彼がいた場所には薙刀の刃が突き刺さっているではないか。

 

 

「お前は、マザラス星人!?」

 

 

 夜叉、又は般若の様な鬼面の顔を持った和装の女が薙刀を振り下ろしていた。ここは鬼女マザラス星人の住む世界だったのだ。

 

 

「忌々しいウルトラ族……何でここにいるのかは知らないが、私が殺してやる!!」

 

 

 そう言ってマザラス星人シデビルは再度薙刀を振るう。マザラス星人はかつて仲間をとあるウルトラマンに倒されており、しかもそのウルトラマンというのは偶然にもゼロの師匠であるウルトラマンレオであった。師弟関係については知らないが、彼女はゼロを倒すことで仇を取ろうとしているのだ。

 

 

「チッ……どいつもこいつも敵討ちって、そもそも俺は関係無いだろうが!」

「黙れぇ!」

 

 

 鋭い突きを躱すゼロ。彼女の攻撃は苛烈であり、逃げ出す隙を見つけるのは困難であろう。

 

 

「急いでるってのに、面倒くせえ奴だぜ!」

「キエェェェェェェ!!」

 

 

 早急に蹴りを着けて陸のもとへと戻るべく、ゼロは文字通り鬼気迫る勢いで薙刀を振り上げて接近して来るシデビルに構えた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 Xio司令室。あの後、メンバー達は集まっていた。時刻は午後8時。歩夢と紗季が消えてからもう6時間が経過している。

 

 

「博士、陽花、涼風。2人の行方は分かりそう?」

「うーん、どうやらこの宇宙にはいないみたいっすねぇ……」

「この宇宙には?どういう事だ?」

「新城野さんのジオデバイザーの反応を、Xioの衛星システムなどを利用して宇宙全域でサーチしてみました。しかし、反応は無く……」

「つまりアイツら、少なくとも紗季はこの宇宙にはいない。恐らく並行宇宙の何処かにいるんだろうってことだよ」

 

 

 

 落ち込む陽花、苦虫を噛み潰した様な表情となる涼風。どれだけ探しても歩夢と紗季は見つからない。早く見つけなければ、彼女達がどうなってしまうか……。

 

 

「並行宇宙って、どういうことだ?」

「現在自分達が存在する宇宙とは別の宇宙が複数存在する、これが多次元宇宙・マルチバースという理論です。私達がいる宇宙と並行して存在している宇宙の何処かに、新城野さんと上原さんはいる可能性が考えられるということです」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!それって助けに行けるのか!?」

 

 

 慌てて聞いたハヤテに、陽花と涼風は悲痛な表情で首を横に振る。

 

 

「博士、何とか、ならないのか?」

「馬鹿を言うな。並行宇宙の移動装置なんて、そう簡単にぃ……––––––」

 

 

 ザムザに質問されたシャマラ博士。無理だと切り捨てようとしたが、途中で言葉が止まった。そして何かを思い付いた様に考え込む。

 

 

「お、おーい、博士?どうかしたのか?」

「腹でも壊したか?」

「黙らっしゃい!!…………もしかしたら或いは…!」

 

 

 ハヤテとイヅルを一喝した博士はPCのキーボードを高速で打ち始めた。その唐突な行動に、他の者達はどうかしたのかと少し戸惑っている。

 

 

「そ、そういえば、翔琉君はどうしたんですか?」

「彼なら屋上よ。それと、あの彼も」

「仙道 陸君、でしたっけ?」

 

 

 リュウジに「ええ」と頷く沙優。机の上には、彼がゼロの探索の為の役に立てばと調べる事を許可してくれたウルトラゼロアイが置かれている。

 

 

「2人にして、大丈夫、でしょうか?」

「大丈夫よ。今は若者のことは若者に任せましょ」

 

 

 笑いながら彼女はザムザにそう答えた。

 翔琉と陸。2人のウルトラマンに変身する少年。彼らの出会いがどの様な結果を生み出すのか……想像こそ出来ないが、今はそれを見守ろうと彼女は考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 Xio基地の屋上。翔琉はそこで夜空を見つめている。この宇宙の何処かに歩夢と紗季はいる。しかし2人を助けに行こうにも何処にいるのか分からないし、そもそも方法が無い。おまけに明日、歩夢にはスクールアイドルとして出なければならないイベントがある。急いで助けなければそれにも出ることが出来無い。

 

 

「何が超人、ウルトラマンだよ……!」

 

 

 柵に拳を強く叩きつける。強大な力を持っているというのに、いざという時に何も出来無い自分の愚かさに強く苛立ちを感じていた。

 

 

「よお」

「っ、なんだアンタか……」

 

 

 そんな翔琉の背後から声を掛けて来たのは陸だ。彼は翔琉の隣に並んで柵に寄り掛かる。

 

 

「まさか、大地さん以外にエックスと一体化した人がいたなんてびっくりだよ」

「だからその大地って誰だよ?それに一体化って、エックスもアンタんとこのゼロってやつみたい意思があったってのか?」

「少なくとも、俺が出会ったエックスはな」

 

 

 エックスに意思があると言われても翔琉はピンと来ない。自分の中には天地 翔琉の意識しかなく、ウルトラマンエックスの意識は感じられないからだ。

 

 

「俺が記憶喪失なのと何か関係あんのか……?」

「記憶、無いのか?」

「ああ。てか、今はんな事どうでもいいか……くそっ」

 

 

 額を柵に打ち付ける翔琉。それでも良い考えは思い付かなず、鈍い痛みを感じるだけ。何も出来無い自分に、(はらわた)が煮えくり返る思いだ。

 

 

「あんま自分を責めるなよ」

 

 

 そんな彼に陸が言葉を掛ける。

 

 

「気持ちは理解出来る。けど自暴自棄になって周りが見えなくなってしまったら、大切なものを傷付ける事になってしまうかも知れないし。それだけ強い力を、アンタは持ってるんだ」

「何だよ、それ……?」

「経験談ってやつだよ。前に怒りに任せて戦って、それで大切な仲間を傷付けてしまったことがある……。闇に呑み込まれてしまったら、とんでもない事になってしまうんだ」

 

 

 苦々しい事を思い出したのだろうか、陸の表情は少し暗い。

 

 

「アンタの仲間はきっと無事だし、助けに行く方法もきっとあるって信じてみようぜ。やる前から諦めたら、本当に何も出来無くなっちまう」

「………信じる、か」

「まあ、俺も先輩達に言われたことなんだけどな」

「先輩って、他にもウルトラマンっているのか?」

「ああ、いっぱいいるぜ」

「マジかよ……」

 

 

 自分やゼロ以外にもまだウルトラマンがいるということに驚く翔琉。陸の言葉が響いたのか先程までの不安や怒りの様な感情はその顔から消えている。

 

 

「なあ、気になったんだけど連れ去られた女の子って、友達なのか?」

「友達っつーか、幼馴染みって奴だ。まあ、俺記憶無いから覚えてないんだけどな。でも、こんな俺でも優しくしてくれる良い仲間の1人だよ。スクールアイドル頑張ってるし」

「スクールアイドル!?この宇宙にもあるのか!?」

 

 

 スクールアイドルという台詞に強い反応を示す陸。彼もまた、自分のいた宇宙でスクールアイドル達と共に歩み、輝きを探して来たからだ。

 

 

「まあな。てか、アンタのところにも?」

「ああ。いやー、俺ら以外の宇宙にもいたんだな……ゼロや他のウルトラマン達は俺のところで初めて見たみたいだし、他には無いのかなって思ってたぜ」

「珍しいものなのかもな。案外、アンタの知ってるスクールアイドルも、この宇宙に居たりして?」

「なんか有り得そうだな」

 

 

 笑い合う2人。側から見れば友人同士の様に見える。

 

 

「……天地 翔琉」

「え?」

「いや、ちゃんと自己紹介してなかったなって思ってさ。俺は天地 翔琉、ウルトラマンエックスだ」

「仙道 陸。ウルトラマンゼロ……は今居ないけど、後で挨拶させるよ」

 

 

 互いに手を出し合って握手する姿は、友人同士の様では無く友人であると言えよう。宇宙を超えた友情がここに結ばれたのだ。

 

 

「あ、翔琉いたー!」

「お客さんもいたー!」

 

 

 そこへミキリとミハネが飛び込んできた。

 

 

「どうしたお前ら?」

「早く来て!」

「急いで来て!」

「「紗季ちゃん達を助けに行けるかも!!」」

 

 

 思いもしてなかった彼女達の台詞。翔琉と陸は互いに見合って頷いた後、ラボに向けて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、違う、こっちだ!」

「あ、わりぃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 惑星ギレルモ。地球から数千光年以上離れたその星に、脱獄ハンターズと彼らに拐われた歩夢はいた。彼女は身体を縛られて動けなくなっており、その隣りにはスパークドールズの入ったジェラルミンケースが置かれている。ベムスター、バキシム、レッサーボガールの3大怪獣も、彼らの近くで餌を捕食などしている。

 

 脱獄ハンターズの3人は、下賤な声を放ちながら談笑していた。

 

 

「ウルトラマンゼロが出て来た時はどうなるかと思ったが、流石ケイプだぜ」

「あの野郎、今頃異次元で苦しんでるだろうな?ヒャヒャヒャッ!」

「こんな事もあろうかと、アイザラからブルトン弾を掠め取ってて正解だった。流石は俺と言うところだな…」

 

 

 ケイプがゼロに撃ったブルトン弾はアイザラから購入した物では無く、奴の隙を見て盗み出したものだったのだ。

 

 

「なんか知らねえウルトラマンも居たが、大した事無かったなぁ」

「ああ!もう少し骨のある奴用意しとけってんだよ!人質取られただけで、すぐ動けなくなる腰抜けとか俺様の相手にならねえっての!」

 

 

 デスレ星雲人ダイロとナックル星人ジェイラの笑い声が響く。歩夢はそれを聞いて顔を顰めた。

 

 

「お?何だ小娘、文句あんのか?」

 

 

 ジェイラがそのマントヒヒなどの猿を連想させる顔を彼女に近付ける。異形な存在に恐怖を感じながらも歩夢は口を開いた。

 

「わ、私を、どうするの……?」

「地球人の女は高く売れる。どっか適当な星に売り飛ばしてやるよ」

 

 

 ケイプの言葉に歩夢の顔が青ざめる。売られるだなんて言われたら無理もない。そんな彼女の様子を見て、3人はゲラゲラと面白そうに笑っていた。

 

 

 そしてその様子を、紗季がジオブラスターとナイフを手にして隠れてから見ていた。何とか隙を突いて歩夢のことを助け出そうと考えているのだ。ゆっくりと物陰に潜み、匍匐前進をしながら歩夢に近付いていく。脱獄ハンターズは歩夢から少し離れてまた談笑しており、彼女を助けるなら今がチャンスだろう。

 歩夢の背後まで来た紗季は、彼女の背を軽く叩く。

 

 

「へっ!?」

「しっ!静かにしてて、今助けるからこっちを見たらダメよ?」

 

 

 ナイフを使い、歩夢を拘束している縄を切っていく紗季。

 

 

「もう少し……切れた!」

「あ、あの……」

「いい?合図したら隣のケースを一つ取って後ろに走るの。わかった?」

「はい…!」

「よし…………せーの!」

 

 

 紗季、歩夢はケースを一つずつ持ち走って逃げる。

 

 

「な!?」

「ネズミがいたのか!?おわっ!?」

 

 

 追って来ようとする脱獄ハンターズに紗季は走りながらジオブラスターを連射。奴らはそれにより足を止めた。

 

 

「走るよ!」

「はい!」

 

 

 

 2人は奴らから逃げる為に必死に走っていく。

 

 

「チッ……お前ら、捕まえろ!」

 

 

 ケイプの指示によりベムスター、バキシム、レッサーボガールが咆吼を上げ、大地を踏み締めながら彼女達を追い掛ける。

 

 

「か、怪獣が!?」

「止まっちゃダメよ!」

 

 

 捕まれば悲惨な目に遭うのは明白。何としても逃げ延びる為に、歩夢と紗季は必死に走っていくのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「2人を助けに行けるって本当か!?」

 

 

 ラボに着いた翔琉と陸の2人。翔琉は開口一番、集まっている仲間達に尋ねた。

 

 

「フフフッ、この私を誰だと思っとる?宇宙最高の天才であるシャマラ・シャマー様だぞ!私に不可能などぉ……なああああああああい!!!」

 

 

 PCを操作していたシャマラ博士が勢い良くエンターキーを弾いた。するとPCの横にあった機械から、1枚のサイバーカードが現れる。その表面に描かれてたのは……。

 

 

「え、ゼロ!?」

「そう!これこそは、あのウルトラマンゼロが使っていた時空を超える力を再現したサイバーカード!!名付けてウルティメイトゼロカードだ!!」

 

 

 翔琉はそのカードを手に取った。ゼロが見せた時空を超える能力をこのカードが有れば使用出来、歩夢達を助けに行く事が出来る。見えて来た希望に、彼は表情が綻んだ。

 

 

「あ……けど、場所は……」

「それなら大丈夫。紗季の持っているジオデバイザーの反応を追えば行ける筈よ。彼女は歩夢ちゃんを助ける為に、あの中に飛び込んだ……きっと一緒にいる。それにウルトラマンゼロも助けに行けるわ」

「え、ゼロも?」

「ええ。きっとコレが、そこまで導いてくれる」

 

 

 そう言って沙優は陸にウルトラゼロアイを返した。

 

 

「よし、なら行くか陸?」

「ああ」

 

 

 翔琉と陸は駆け出し、再び屋上に着く。それから翔琉はエクスデバイザーを取り出してスイッチを押し変身。

 

 

《X UNITED》

 

 

「それじゃあ、早速……」

 

 

《ULTIMATE ZERO LORD》

《ULTIMATE ZERO ARMOR ACTIVE》

 

 

 ウルティメイトゼロカードをエクスデバイザーに装填。カードが読み込まれ、エックスの身体にゼロが装着していた鎧・ウルティメイトイージスが纏われた。これがウルティメイトゼロの力を宿したアーマー・ウルトラマンゼロアーマーである。

 エックスが陸に手を伸ばすと、彼は光球に包まれてエックスの掌に収まる。

 

 

「いくぞ!」

 

 

 時空の穴が開き、エックスはその中へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぐああっ!?』

 

 

 マザラス星人シデビルの薙刀の柄がゼロの腹に叩き込まれた。後方に退がるゼロ。彼女は意外にも強く、更に早く陸の元に戻らないとという焦りもありゼロは苦戦を強いられていた。

 

 

「喰らいな!!」

『うぅ……何!?』

 

 

 銃を取り出してそれをゼロに向ける。するとそこから光が放たれ、彼の身体はみるみる縮んでいった。

 

 

『なぁ!?何じゃこりゃあ!?』

 

 

 地球人程のサイズに縮小化した自分の身体を見て驚くゼロ。マザラス星人がこんな力を持っているなんて聞いた事が無い。恐らく彼女も、アイザラの様な武器商人から購入したのだろう。

 

 

「ククク……小虫めが、一思いに潰してやろう」

 

 

 ゼロの方に近付いていくシデビル。逃げようにも、圧倒的な体格差故に難しい。万事休すか……と思った時だった。

 

 

 

 

 

 

「おらァ!」

「何だ!?」

『ダカラソレオレノー』

 

 

 ゼロアーマーを纏い時空を超えて、ウルトラマンエックスが現れた。エックスはそのままの勢いで、シデビルのことを蹴り飛ばす。彼女は悲鳴を上げながらかなり遠くまでぶっ飛んでいく事になった。

 

 

「ん?勢いで蹴っ飛ばしたけどアレ敵だよね?え?ねえ敵?」

『敵だから安心しろ』

「そっか。てか何でアンタ小さいの成長期ならぬ衰退期?」

『んな訳あるか!?』

 

 

 そんなやり取りをした後、エックスは一度変身を解除し翔琉となる。そしてここまで運んで来た陸と共にゼロの所に来た。

 

 

「ゼロ、無事だよな?」

『まあな。俺の心配なんて、二万年早いぜ』

「別に心配はしてねえよ」

『へっ、生意気な』

 

 

 軽口を叩き合う陸とゼロ。それからは2人が強い絆で結ばれ信頼し合っているという事が伝わってくる。

 

 

「はいはい、積もる話は後にしてくれ」

『お前は……』

「俺は天地 翔琉。ウルトラマンエックスだ」

『大地じゃ無いエックス……それに、エックスの意識も無いのか?』

 

 

 ゼロから見たらこの天地 翔琉という男は何とも妙な存在である。しかし、今はそれを気にしている時では無いだろう。

 エックスに蹴り飛ばされたシデビルが薙刀を杖にして立ち上がり、こちらに向かって鋭い眼光を飛ばしていた。

 

 

「おのれぇぇ……!!許さんぞおおおお!!」

『チッ……陸!』

「ああ!」

 

 

 陸とゼロの2人は再び一体化。陸が持っていたウルトラゼロアイに輝きが宿る。翔琉もエクスデバイザーを手に持って彼の隣りに並んだ。そしてそれぞれの変身アイテムを構え起動させる。

 

 

「シェア!」

「はああああッ!」

 

《X UNITED》

 

 

 2人によるダブル変身。シデビルの前に、ゼロとエックスが堂々たる姿を現した。放たれる鮮烈な光に思わず足を止めてしまったシデビル。その一瞬の隙に、2人のウルトラマンは光線を発射。

 

 

「ザナディウム光線!!」

『ワイドゼロショットォ!!』

「しまっ……!?ぎぃやああああああああ!!?」

 

 

 油断してしまったシデビルは光線に対応する事が出来ず、直撃を受けて粉砕されてしまった。

 

 

「うっし」

『それじゃあ次だ。もたもたしてると置いてくぞ!』

「いやアンタ場所分かんねえだろ!?」

 

 

 ゼロはウルティメイトイージスを纏って空へ飛ぶ。そしてエックスも再度ゼロアーマーを装着して飛んだ。歩夢と紗季……大切な仲間達を救い出す為に、彼らは時空の穴へと迷わずダイブするのであった……。

 

 

 

 

 

 




ゼロアーマー登場!

翔琉と陸の本格的な絡み。彼にはウルトラマンの先輩として翔琉にアドバイスを送ってもらいました。陸っぽさが出せているか不安になりながら書いてましたがどうだったでしょうか?

そして今回登場した怪獣・マザラス星人シデビルはウルトラマンレオに登場したマザラス星人が元ネタです。ゼロを苦戦させるという意外な強豪になりましたが、2大ウルトラマンの光線の前に敢えなく散ることに。


次回は遂にエックス、ゼロvs脱獄ハンターズ!
果たして彼らは脱獄ハンターズを倒し、歩夢達を救う事が出来るのか?次回もぜひお楽しみに!


それでは今回ここまで!
感想、質問、高評価、山形りんご、その他ぜひぜひお待ちしてるんご!



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11.激闘ウルトラファイト


遅れてすいません←


劇場版タイガ、遂に観ました!!
いろいろありましたがこれでタイガも完結しましたねぇ


それと実映画を見た日にゼットライザーを買ったのですが、死ぬ程楽しくて永遠に遊んでられます←
メダルの組み合わせ次第でオーブやジードのゲームオリジナル形態にまでなれるとか凄過ぎる……
ロッソとブルのウインドやグランドまで出来るとかマジでやばい玩具ですのでまだ買おうか迷っているという人が居るのなら是非おすすめします


さて、コラボ回も遂に大詰め!
今回は全力のバトル回となっていますので楽しんで頂けたら幸いです!

それではどうぞ!




 

 

 

 

 

 

 

 惑星ギレルモの大地を踏んで地響を鳴らしながら進む、ベムスター、バキシム、レッサーボガール。それらから歩夢と紗季は必死に逃げていた。怪獣達は咆哮をし2人のことを追い回す。そしてヒッポリト星人ケイプ、ナックル星人ジェイラ、デスレ星雲人ダイロも銃を手に、ゲラゲラと下衆な笑い声を発し(わざ)と外して発砲しながら追い掛けて来る。彼女達の恐怖心を煽っているのだ。

 

 

「ほらほら、ちゃんと逃げないと死んじまうぞぉ〜?」

「ヒャッヒャッヒャッ!ほらよぉ!」

「きゃ!?」

 

 

 足を絡ませた歩夢が転ぶ。紗季はすぐに彼女に駆け寄った。

 

 

「大丈夫!?」

「は、はい……」

 

 

 歩夢の足は震えており、すぐに立ち上がって逃げる事は難しそうだ。そんな彼女を守る為、紗季は銃を構えて庇う様に脱獄ハンターズの前に立った。

 

 

「お?何だ、やる気か?」

「この子も、スパークドールズも、私が守ってみせる!」

 

 

 強い瞳で脱獄ハンターズを紗季は睨む。奴らはそれを見てニヤニヤと笑う。武器を持っていようが所詮は小さく脆弱な人間。捻り潰し殺すことなど容易い事だ。

 紗季も敵わない事は重々理解している。だがそれでも逃げ出して諦める訳にはいない。自分の背後には、守らなければならないものがある。

 

 

「安心して」

「えっ……?」

「貴方のことは必ず助ける。そして翔琉君や仲間達のもとに帰してみせるわ!」

「フンッ、やれるもんならやってみろォォ!」

 

 

 彼女の決意を嘲笑う脱獄ハンターズ。そして奴ら3人は巨大化、紗季と歩夢を怪獣達と共に見下した。

 

 

「売り飛ばすのは辞めだ。たっぷり恐怖と絶望を味合わせて殺してやるよ!」

 

 

 腕を振り上げたケイプ。豪腕が迫り来ると予測した2人はぐっと目を閉じた…………その時である。

 

 

 

 

 

「おらぁ!」

『シェア!』

 

 

 空に穴を開けて、鎧を纏ったエックスとゼロの2人が飛び込んで来た。突然の2大ウルトラマンの登場に全員が驚く中、彼らは着地すると同時に右腕の剣を奮って脱獄ハンターズと3体の怪獣を吹き飛ばした。

 

 

「かけ……じゃなくてエックス!それに、もう1人のウルトラマン!?」

「無事か、お前ら?」

「は、はい!」

「おし、なら隠れてろ。サクッと片付けて地球に帰るぞ」

 

 

 エックスにそう言われた紗季と歩夢はジェラルミンケースを持って岩陰に隠れる。それを見たエックスとゼロは通常形態に戻り脱獄ハンターズらの前に立った。

 

 

「貴様らァ……!」

「邪魔しやがって!」

「まずお前らから潰してやろう」

『へっ……さっきの借りはしっかり返してやる!いくぜ陸、翔琉!』

「ああ!俺らに喧嘩売ったこと、後悔させてやるよ!」

「纏めて畳んでやるよ……いくぜぇ!」

 

 

 全員が大地を蹴って駆け出す。2対6という数だけ見れば不利な状況だが、翔琉も陸達も決して怯むことは無い。

 

 

『オラァ!』

「よっと!」

 

 

 2人は脚を伸ばし、ダイロとジェイラを蹴り飛ばした。そこへ3体の怪獣が爪を振るうが彼らはそれらを躱して逆にキックやパンチで素早く攻撃していく。ゼロのアッパーがバキシムの顎を捉え、エックスの蹴りがレッサーボガールの首に炸裂。

 

 

「調子に乗るなァ!」

「うるせえ長鼻ブサイク!」

 

 

 ケイプはエックスに向かってツインソードを出鱈目に振り回すが彼は回避していき、両手首を捕まえて動きを止める。

 

 

「おのれェ……!」

「歩夢のこと拐ったツケも、紗季を襲ったツケも、スパークドールズをパクったツケも!しっかり払ってもらうぜ!」

『フッ!オラァ!』

 

 

 ベムスターが突き出した嘴を受け止めてそのまま投げ飛ばしたゼロ。そして彼はエックスの背に向かってエメリウムスラッシュを放つ。エックスは当たる直前でしゃがんだ事で回避、それにより光線は彼の前に居たケイプに命中、更に続けてエックスのパンチが腹に炸裂して下がった。即席の連携である。

 

 

「ぐおお!?」

『やるじゃねえか』

「まあな。……って頭少し掠ったぁ!?」

「あ……煙り出てる」

『おう、悪り悪り』

「この野郎、俺味方だぞ!?」

 

 

 口喧嘩を始めてしまった2人。一方間違えれば悲惨な事になっていたのだから無理もない。脱獄ハンターズ達から見れば、その様子は自分達のことを舐めている様にも思えたらしく、彼らの表情は怒りに染まっていく。

 

 

「コケにしやがってェ!」

「ぶっ殺してやる!!」

『上等!てめえら何かじゃ2万年早えってこと、教えてやる!』

 

 

 走り出した脱獄ハンターズと怪獣達。ゼロとエックスもすぐに喧嘩を止めて構え向かっていく。エックスはダイロ、ベムスター、バキシムと、ゼロはケイプ、ジェイラ、レッサーボガールと激闘する。

 

 

 

 

 

 

 

《CYBER GOMORA ARMOR ACTIVE》

 

「しゃあッ!」

 

 

 ゴモラアーマーを装着したエックスがその強靭な爪でベムスター、バキシム、ダイロを切り裂いていく。ベムスターの鉤爪を受け止めてから爪を突き出し、バキシムの角を躱してその背を切り裂いた。

 

 

「ぐううッ!?クソがあああああ!!」

 

 

 ダイロは肉体の一部を剣に変化させてからそれを引き抜き斬り掛かっていく。エックスは爪でダイロの斬撃を全て往なし、逆に回し蹴りを叩き込んだ。

 

 

「ぬうっ!?あああああ!!」

 

 

 後退した後、怒りの声を上げながら剣をエックスの頭上へと思いっきり振り下ろした。しかし……。

 

 

「よっと!」

 

 

 彼はそれを爪で容易く受け止めてしまう。

 

 

「何!?」

「へへっ、そら!」

 

 

 腕を振り上げてダイロの剣を弾いた。両手を上げて無防備な状態となったダイロにエックスは一歩踏み込み、エネルギーを纏った両爪を突き出した。

 

 

「ゴモラ振動波ァァ!!」

 

 

 強烈な一撃を受け、ダイロは悲鳴を上げながら吹っ飛んでいく。奴は地面に叩きつけられ苦悶の声を漏らしている。

 

 

「ぐっ……うう……」

「どうだ!んっ、おっと!」

 

 

 ダイロを吹っ飛ばしたエックスにベムスターが角からベムスタービームを撃ち、バキシムが頭の角をミサイルにして放った。だがエックスはそれらを全てゴモラアーマーの爪を振り回して防ぐ。

 

 

「お次はこれだ!」

 

《CYBER ELEKING ARMOR ACTIVE》

 

 

 エレキングアーマーにアーマーをチェンジさせた彼は右腕の砲門から電撃の鞭を伸ばしてバキシムに巻き付ける。そしてバキシムのことを宙にへと持ち上げた。

 

 

「そぉぉらぁ!」

 

 

 持ち上げたバキシムをベムスターの頭上に振り下ろして叩きつけた。衝突した2体は積み重なって倒れる。

 

 

「そんじゃあ、いくぜ?」

 

《ULTIMATE ZERO ARMOR ACTIVE》

 

 

 再度ゼロアーマーを纏ったエックス。その剣に光を込め右上から左下へ、そして左上から右下へと振り払った。

 

 

「ソードレイ・クロス・ゼロ!!」

 

 

 X字型の斬撃が飛び、2体を纏めて斬り裂く。その威力に耐えられずベムスターとバキシムは爆散し、スパークドールズに圧縮される事になった。

 

 

「よし。さて、残るはぁ……あれ?」

 

 

 残りのダイロにトドメを刺そうと奴が倒れた場所に目を向けたがそこには居らず、周りを見回してもダイロの姿は無い。実はエックスがバキシム、ベムスターと戦っていた隙に、こっそり持っていたケイプの次元移動装置を使って逃げ出してしまっていたのだ。

 

 

「うわ、マジかよ。仕方ねえ」

 

 

 何処へ行ったか分からない以上、ゼロアーマーの力で追うのも難しい。一先ずは残りの敵を倒し、歩夢達を助ける事を優先することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ブラックホールが吹き荒れるぜ!』

 

 

 ケイプ、ジェイラ、レッサーボガールを素早く強力な格闘技で圧倒していくゼロ。彼らの攻撃も巧みに躱し、逆に強烈な一撃をお見舞いしていく姿は正に最強の戦士と言っても過言では無い。

 

 

『ウルトラゼロキック!』

「があああ!?」

 

 

 炎に包まれた足をケイプに叩き付けた。その威力に奴は吹っ飛んでしまった。

 

 

「ちょ、調子に乗るなァァ!」

 

 

 二丁の銃を手にしたジェイラがそれを乱射。更にレッサーボガールも破壊光弾を放つ。

 

 

「ゼロ!」

『応!』

 

 

 強く蒼い閃光に包まれたゼロ。光は放たれた攻撃を全て打ち消し、彼を変化させる。高潔なる蒼き2人の光の巨人の力を持つ剣士、グランナイトゼロが姿を現した。

 

 

『「グランナイトゼロ!』」

「な!?だからどうしたあああああ!!」

 

 

 絶叫しながらブーメランを取り出し、渾身の力でゼロ目掛けてブン投げた。

 

 

『甘い』

 

 

 それをゼロは当たる寸前で冷気を纏った衝撃波を掌から放ち叩き落とす。ブーメランは瞬時に凍り付き、地面に落ちると同時に砕け散ってしまった。

 

 

「そんな!?」

『ナイトビームセイバー!』

 

 

 ウルティメイトブレスレットより蒼い光剣が伸びる。そしてその刃に極寒の冷気を纏わせながら、ジェイラとレッサーボガールへと彼は走っていく。2体は近付けさせない為に光弾などを放っていくが、高速で動くゼロを捉える事は出来ない。

 

 

『アブソリュートゼロレイド!!』

 

 

 すれ違い様に、迸る極令の刃を横一閃に薙ぎ払ったゼロ。ジェイラはギリギリで横に跳んだので掠っただけで済んだが、レッサーボガールは見事に斬り裂かれ凍て付いてしまった。立ち止まったゼロは振り返り、左腕を天に突き上げ光のエネルギーを溜めていく。そしてそれを終えた後、腕を十字に組んで蒼い稲妻と冷気を纏った必殺光線をレッサーボガールな放った。

 

 

『リキデイトシュート!!』

 

 

 凍っているレッサーボガールが回避出来る筈も無く、奴は粉々に粉砕。それを見たは続けて刃の掠った左肩に目を向けた。その箇所は凍結しており、ジェイラの血の気が引く。

 

 

「ぐ、ぐうう!?クソがああああ!!」

 

 

 やけくそでハンドガンを連射。しかしゼロは目の前に水の障壁を精製して防いでしまった。

 

 

『大人しく降参しろ。お前じゃ俺達には勝てない』

「だ、黙れぇ!?何で俺様がお前らなんかにやられなきゃなんねえんだよぉ!?ふざけんじゃねえ!!」

「お前達の身勝手で、どれだけの命が傷付いたか分かってんのかよ……?」

「知るかよ!別に誰がどれだけ死のうが俺様には関係ねえ!!ハンター達も、他の宇宙の連中も、そしてお前らだって!!俺様の為に働いて、俺様の為に死ねばいいんだよぉ!!」

 

 

 他人の事など一切顧みない、非常に身勝手な叫びを放つジェイラ。彼は宇宙の全てが自分の為の駒程度にしか思えていないのだ。とんでもないエゴイストであるジェイラに、ゼロと陸の怒りが爆発する。

 

 

「ふざけんじゃねえ!!」

『命ってのはなァ、助け合いながら生きていくモンなんだ!お前の都合で、生き死にを決めていいモンじゃねえ!』

「これ以上お前に、誰も傷付けさせはしない!!」

 

 

 彼らの怒りを表現する様に、ゼロの身体から金色の爆炎が溢れ出した。

 

 

『「クラッシャーブレイブゼロ!』」

 

 

 正義と無限。真紅の巨人2人の力を宿したゼロ。左手を天に突き上げ、その先から業火を纏った光剣を伸ばしていく。何処までも伸びていく剣を、ジェイラに向けて振り下ろした。

 

 

『プロミネンスパニッシャー!!』

「しまっ……ぎぃやあああああああああ!?」

 

 

 横にズレて躱そうとしたが間に合わず、右腕を斬り落とされてしまった。情け無い悲鳴を上げながら、不様に地面でジタバタと悶えるジェイラ。

 

 

「ふざけるなァァ!?ふざけるなァァァァ!!!??俺様が、こんな所でぇぇえええ!!??」

『おふざけは此処で終わりだ』

「俺達の炎で、お前の歪みを焼き尽くす!」

 

 

 胸のエンブレムから炎が発生し、ゼロの目の前に巨大な火球を精製。両腕を掲げて光をスパークさせ、それを眼前の巨大な火球に叩き付け打ち出した。

 

 

『ダグビュームバーストォォォォ!!』

 

 

 火球は立ち上がったジェイラに直撃。奴は断末魔を上げる暇も無く、燃え滓となって消滅することになった。

 

 

 

 

 

「くうっ……ジェイラ!?」

 

 

 ジェイラとレッサーボガールの死を目にしたケイプ。辺りを見回すとダイロ、ベムスター、バキシムも居らず、右手の剣を撫でながらエックスがこちらに歩いて来るのが見えた。

 

 

「さて、残りはお前だけか」

『お前の罪、しっかり償わせてやる』

「よし、行くぞゼロ!」

 

 

 ゼロの中で、陸は2人のウルトラマンの描かれたカプセルを取り出した。

 

 

『ギンガ!オーブ!』

 

 

 起動すると同時に幻影として現れたのは銀河の覇者、闇を払う光の戦士。

 

 

『ビクトリー!エックス!』

 

 

 そのカプセルを装填ナックルに入れた後、続いてもう一つのカプセルを起動。現れたのは勝利を掴む英雄、そして……。

 

 

「え?エックス?今エックスって言った?え、俺のことだよね?ねえ?ねえ?」

「翔琉うるさい」

「あ、はい」

 

 

 

 2つのカプセルを装填したナックルを、ウルトラゼロアイを合体させたライザーで読み取る。

 

 

《ネオフュージョンライズ!》

 

「『俺に限界はねえ!!」』

 

 

 目元にライザーを掲げてトリガーを押し込んだ。4人のウルトラマンの幻影がゼロに重なり眩い輝きを放っていく。

 

 

《ニュージェネレーションカプセル!α!β!》

《ウルトラマンゼロビヨンド!》

 

 

 4つに増えたゼロスラッガー、銀色のボディに紫のラインが走る。神秘的なその姿を、ゼロは堂々と現した。

 

 

『俺はゼロ……ウルトラマンゼロビヨンド!』

「おぉー」

 

 

 ビシッとポーズを決めたゼロの隣で拍手するエックス。彼からはあまり緊張感を感じられない。冷ややかな目線を送りながらゼロはゼロスラッガーを頭から外して合体させ、ゼロツインソードにして手に持った。

 

 

「お前ら……殺してやる!!」

「上等だ、やってみな?」

「『俺達の刃を刻み込め!」』

 

 

 刃を手にした彼らは駆け出した。

 ケイプとゼロが打ち合って火花を散らしていく。怒りのままに2本の剣を振り回すケイプだが全てゼロは受け止め躱し、隙を突いて胴を薙いだ。そして怯んだケイプに、跳躍したエックスがゼロを飛び越えてウルティメイトソードを突き出す。強烈な突きを喰らい、剣を2本とも手から落として後方に退がっていくケイプへ、更にゼロがエックスを飛び越えて気迫の声と共に刃を振り下ろした。

 

 

「げああああ!?」

『いくぞ翔琉!』

「はいよ!」

 

 

 並んだ2人のウルトラマンは、煌めく刃に光を込めて振るった。

 

 

「『ツインギガブレイク!!」』

「ウルティメイトソード!!」

 

 

 2人の斬撃がケイプに炸裂。弧を描きながら派手に吹っ飛んでいった。

 

 

「ぐおおおおお!?があ!?………ぬぅぅ……こ、ここで死ぬ訳にはァァ!?」

 

 

 地面に叩き付けられたケイプ。ここから逃げようにも次元移動装置は無く、もう戦うしかない。ケイプはロングライフルを取り出し、そこから強烈なビームをゼロとエックス目掛けて放った。高威力のそれを喰らえば、いくらウルトラマンとはいえ一溜まりも無いだろう。

 

 

「喰らうかよ!」

 

 

 しかし、エックスはイージスを分離させて盾とし自分達の前に出してビームを完全に防いだ。

 

 

「な……にィ……!?」

 

 

 ケイプは驚き目を見開く。もう状況を打開するケイプに手立ては無い。

 エックスはイージスを手に取り、ゼロの前に片膝を着いてしゃがみ巨大な弓の形状にし光の弦を引き絞る。そしてゼロも、自身の周囲に八つの紫色の光球を出現させた。

 

 

「さあ、チェックメイトだ!」

『銀河の果てにブッ飛ばしてやるぜ!』

 

「『「クロスオーケストラ!!!』」」

 

 

 

 極光の矢をエックスが打ち、八つの光線をゼロが放つ。2つの必殺技が重なり、凄まじい光を放ちながらケイプに向かった。そしてそれはケイプに直撃し、更なる光を放出する。

 

 

「がああ!?ば、馬鹿なあああああああああああ!!!!??」

 

 

 彼らが背を向けると同時に、ケイプは倒れて大爆発。爆発に、2人のウルトラマンの勇姿が照らされた–––––

 

 

『俺達に勝とうなんざ––––』

「2万年早いぜ!ってな」

『ちょ、お前なぁ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫だったか、お前ら?」

 

 

 戦いが終わり、エックスとゼロは隠れていた歩夢と紗季の所へと行った。

 

 

「は、はい。ウルトラマンエックスさん、喋れたんですね」

「そりゃ喋るさ、普通に」

 

 

 エックスが普通に喋れている事に少し歩夢は驚いた。一方、紗季はキラキラした目でゼロを見ている。

 

 

「あの!?」

『っ…………』

「あ、あれ?」

「おい、呼ばれてんぞ」

「どうしたゼロ?」

『え、ああ、すまん。どうした?』

 

 

 少し呆けていたゼロだが、エックスと陸に声を掛けられてハッとする。

 

 

「一緒写真撮って下さい!」

『写真かぁ。勿論いいぜ』

「やったぁー!あ、エックスはズレて」

「はぁ!?ンでだよ!?俺省んなよ!?」

「じゃ、じゃあ、エックスさんは私と撮りましょう!?」

 

 

 紗季はゼロと、歩夢は少し不機嫌そうにブツブツと文句を言ってるエックスと持っていたスマホで写真を撮った。それから、彼女達はエックスの掌の上に乗る。

 

 

「なら、帰るか」

「はい!」

 

 

 空に時空の穴を開け、彼らはそれを抜けて地球にへと帰還をするのであった––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





やりたかった戦闘回、如何だったでしょうか?

ゼロが変化したグランナイトゼロ、クラッシャーブレイブゼロは「ゼロライブ!」でのオリジナル形態となっています。

その強力な力で敵を倒していき、そして最後はオリジナル合体技でケイプを撃破!

書いてて凄く楽しかったです笑



次回でコラボ回エピローグ。是非お楽しみに!



感想、質問、高評価、その他、山形りんご、ぜひぜひお待ちしてるんご


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12.ゼロから輝き歩く道


コラボ回エピローグ!
戦いを終えた翔琉と陸、ゼロの最後の邂逅を、短いですがお楽しみ下さい。

それではどうぞ!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピピピッと目覚し時計のアラームが鳴る。それに気付いて目を覚ました翔琉はボタンを押して止める。時刻は朝6時。起き上がり首を回して鳴らした後、彼は隣りのベッドで寝てる人物に向かってさて枕をぶん投げた。

 

 

「起きろ」

「わぷっ!?」

 

 

 投げられた枕は見事にその人物=陸の顔面に命中し、覚醒させることになる。

 

 

「っ……お前なぁ……」

「さあ、気持ちの良い朝だぜ」

「鼻が痛くて目覚め最悪なんだけど?」

「わりぃわりぃ」

 

 

 悪びれた様子も無く適当に謝る翔琉。それを見た陸は「はぁ……」と溜め息を漏らした。

 

 

〈よう、起きたな〉

「ゼロ……気付いてたんなら受け止めろよ」

〈良いだろ別に。ぶつけた方がすぐ起きそうだったし〉

「だろー?流石ゼロ、分かってんじゃん」

 

 

 どうやらここに陸の味方はいないらしい。彼はまた溜め息を吐くことになる。

 

 

「あんま溜め息ばっか吐いてると、幸せが逃げるぞ?」

「誰の所為だよ」

「ん?あ、俺か?」

「俺が善子並に不幸になったら責任とって貰うぞ」

「誰だよ善子って?てか、俺男は趣味じゃねえんだ」

「俺だってそうだ……よっ!」

 

 

 陸の投げた枕が翔琉の腹に命中し、空気を吐き出して倒れ悶絶。それを見て陸と彼の中にいるゼロが笑う。

 

 

 

 

 この地球に戻って来た後、もう夜も遅かったので陸はXio基地内にある空き部屋に一晩泊まることになった。せっかくなので翔琉も同室に泊まることにし、そこで互いの宇宙でのこれまでの事などについて話そうとしたのだが、意外とすぐに翔琉が寝落ちした為話せたのは自分達の事を少しくらいだ。

 因みに陸が結構壮絶な人生を歩んでいて翔琉は若干引いた。

 

 

 歩夢と紗季も大きな怪我は無く、歩夢はイベントの事もあるので涼風に送られて帰宅した。彼女の両親に事情を、非難されるのを覚悟の上で説明したがそんなことはされず、逆にこうして無事に助け出してくれた事を感謝されたらしい。

 

 

 逃げた脱獄ハンターズ・デスレ星雲人ダイロの行方は分かっていない。ゼロ曰く、デスレ星雲人の殆どが狡猾で卑怯な手を使ってくる恐ろしい種族だという。ダイロも何かしらの手段で復讐をしてくる可能性がある為、今後警戒を強めていかなければならない。

 

 

 何はともあれ事件は解決。無事スクールアイドルのイベントが開催される日を迎えることが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めて、今回はありがとう。貴方達のお陰で2人を助けることが出来たわ」

 

 

 Xio基地の屋上。自身の宇宙に帰る陸とゼロを見送る為に翔琉、沙優、紗季、ザムザ、陽花、涼風がそこに集まっていた。

 

 

「いえ、俺らも助けられましたし」

 

 

 お礼を言ってきた沙優に陸はそう答える。

 

 

「本当にありがとうね!凄く感謝してるわ!」

「感謝、する」

「あ、もしまたこちらに来た時はいろいろ調べさせて欲しいっす!」

「はぁ……水瀬さん」

 

 

 紗季、ザムザも礼を言い、陽花はゼロ、そして彼と一体化してる陸のことを調べたいと言うが涼風が抑える。それを見て陸は苦笑い。

 

 

「まあ、もしこっち来た時は遊びに来いよ。飯でも奢ってやる」

〈お、そりゃいいな〉

「そん時は楽しみにしてるよ」

 

 

 硬く握手する2人。

 

 

「翔琉、スクールアイドルの仲間達は大切にしろよ?」

「ああ、分かってるって」

「それにお前なら多分、この宇宙にきっといる俺達が関わってるスクールアイドル達とも仲間になれると思う」

〈確かに、アイツらともダチになれそうだ〉

「へー、なら会ってみたいな。なんて言ったっけ、そのスクールアイドル?」

 

 

 風が吹き抜ける中、翔琉の問い掛けに陸は笑みを浮かべてから答えた。

 

 

「–––––––––Aqours。輝くスクールアイドルだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウルティメイトゼロとなった彼らが宙に浮く。翔琉達はそれを見上げていた。

 

 

 

《翔琉、この宇宙は任せたぞ?》

「いや……宇宙規模はちょっとしんどいなぁ……。責めて市町村規模か、最大でも都道府県規模だと助かるんだがぁ」

《馬鹿、何言ってんだお前は?》

「冗談冗談。お前から貰った力でそこそこ頑張るわ。ちょっと動き難いけど」

《ったく……一言余計な所は似てるかもな。それとスクールアイドル達の輝きもしっかり守りな。それはいつか、お前の力になる筈だ》

「輝き……か。なんか詩的な感じだな。お前歌詞とか書けるんじゃないか?」

 

 

 揶揄う様にそう言う翔琉。呆れた様なリアクションをするゼロを見て彼はケラケラ笑う。口が悪く適当な所の目立つ翔琉ではあるが、それでもこの世界を守ってくれるだろうとゼロと陸は感じていた。

 

 

《じゃあな》

「また会おう」

「ああ、いつかまたな陸、ゼロ」

 

 

 ゼロは左手の親指、人差し指、小指を立てたサインをし、翔琉もそれに応える様に拳を突き出す。それからゼロは天に時空の穴を開け、その中に飛び込んで去っていくのであった。

 

 

「行っちゃったね」

「そうっすね」

 

 

 

 彼らが去っていった空を見つめる翔琉達。

 

 ほんの僅かな時間の邂逅ではあったが、それは間違いなく彼らに大きな影響を与えるものであった。ふと、エクスデバイザーを見てみると、そこには1枚のカードが現れている。ウルトラマンゼロのサイバーカードだ。彼らの置き土産なのだろう。

 

 それを手にする翔琉。これはおそらく翔琉と陸、ゼロとの絆の証でもある。またいつの日か、共に並び立てる時を願って彼は輝く空に目を向けた––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

----------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事自分達の宇宙に戻って来た陸とゼロ。内浦の地に降り立ち陸の姿に戻る。横を向くとそこには朝日に照らされて輝く美しい海が広がっていた。

 

 

 

「向こうの内浦も、こんな感じなのかな?」

〈きっとそうだろうな。帰り際に見に行っとけば良かったぜ〉

「確かに」

 

 

 そんなことを話していると背後から彼らを呼ぶ声が聞こえて来た。振り向いた先にいるのはこちらに手を振ってくる9人の少女達の姿。自分達のことを呼びながら向かって来る彼女達へ、陸も歩き出すのであった。

 

 

 

 

「ただいま、みんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「やべぇ!遅れる!」

 

 

 イベントがある会場まで走っている翔琉。陸達を見送った後、かっこつけて黄昏てたら時間がやばい事になっていたのだ。高い身体能力を持つ肉体をフルに活用して全力で彼は走り抜ける。そしてどうにか、時間内に会場に辿り着く事が出来た。

 

 

「あ、翔琉くーん!」

 

 

 入り口では歩夢達、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のメンバーが揃っていた。翔琉は彼女達の元へと走りそこに着いた。全力で走ったこともあってか少し息切れしている。

 

 

「はぁ……はぁ……わりぃ、遅れた!」

「よかったぁ、何かあったかもって心配してたんだよ?」

「先輩、遅いですよ!」

「かけるん寝坊したー?」

「寝坊かぁ……彼方ちゃんも寝たいなぁ……」

「先輩、こっちです!」

「もう少しで遅刻でしたよ?」

「けど、間に合って良かったね!」

「遅刻するんじゃないかって、少し心配した」

「遅刻なんて許されないわよ?」

 

 

 歩夢、かすみ、愛、彼方、しずく、せつ菜、エマ、璃奈、果林、全員翔琉の到着を待ち侘びていた様だ。

 

 

「ちょっといろいろあってな」

「大丈夫なの?」

「へーきへーき。さあ、それよりも……」

 

 

 息を立て直した彼はイベント会場に目を向けた。

 

 

「スクールアイドルか……。ちゃんと見るのは初めてだな。みんなの姿、しっかり見させてもらうぜ?」

 

 

 翔琉のその言葉に全員が強く頷いた。

 陸達の言うスクールアイドルの輝き。それを見ることが出来るかも知れないと思うと、楽しみで妙に心が弾む。

 

 

「よし、行こうぜ!」

 

 

 彼にそう言われた後、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の10人は会場内にへと勇んで歩いていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






これにて「ゼロライブ!サンシャイン!!」コラボ回、終了です!

皆様如何だったでしょうか?
改めて、コラボして下さったがじゃまる様には感謝いたします!本当にありがとうございます!


今回は陸の話でAqoursのことを知ったり、地味にダイロが生き残っていたり、と今後の伏線というか足掛かりの様なものもありました。
これからそれらがどう影響するのかも、お楽しみ頂けたらと思っています。

さて、あと2、3話程で所謂第一章が終わり、次の展開に移ることになっていきます。これからも応援の程、よろしくお願いします!

今回はここまで!
感想、質問、高評価、その他、山形りんご、ぜひぜひお待ちしてるんご!



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13.動き出すアクイ


ギャラクシーファイト第2弾……本当に予想外で驚きました……!
グレート、パワード、ネオス、セブン21、マックス、アーリーベリアル、まさにM78オールスターズといった感じの作品になりそうですね!ただひとつ言わせてほしい。



……………………ゼノンどこ?




 

 

 

 

 

 

 

「よっしゃ、みんなグラス持ったかー?」

「うん!」

「オッケーですよ!」

「それじゃあ……」

『せつ菜、優勝おめでとー!!』

 

 

 放課後のスクールアイドル同好会部室。そこに集まったメンバー達は、机の上にお菓子を広げ、ジュースの入ったグラスを持って乾杯をしていた。今日は先日行われたスクールアイドルイベントの打ち上げをしているのだ。

 イベントの結果はしずく、愛、果林、エマが入選。そしてなんとせつ菜が優勝を果たした。今回はその祝勝会も兼ねている。

 

 

「皆さん、ありがとうございます!」

「それと、しずく、愛、朝香先輩、ヴェルデ先輩、入選おめでとう」

「先輩、ありがとうございます!」

「ありがとねかけるん!」

「ありがとう!まさか入選出来るなんて思ってなかったよー」

「フフっ、ありがと。何だか爽快な気分だったわ」

 

 

 翔琉の言葉に4人は礼を言う。

 それから本格的にパーティーが始まった。皆は雑談しながらお菓子やジュースを楽しんでいる。因みに彼方はかすみに寄り掛かって眠っていた。

 

 

「どうだった、初めて見たスクールアイドルの感想は?まあ、本当は初めてじゃないんだけど」

「ん?ああ、そうだなぁ……」

 

 

 歩夢にそう聞かれて瞳を閉じ、あのライブを思い返す……。歩夢、かすみ、しずく、愛、璃奈、彼方、エマ、果林、せつ菜。虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のみんなはもちろんのこと、それ以外のスクールアイドル達もステージの上で輝いていた。陸とゼロが言っていたのはこの事なのだろう。確かにこれは守り続けなければならないなと思い笑みが零れた。

 

 

「翔琉君?」

「何て言うか、こう……良かったとか凄かったとか、そんな言葉だけで片付けられないモンがあったっていうか……見てて胸が熱くなってるのが分かったし……」

 

 

 上手く纏め切れずいる翔琉を見て歩夢は思わず笑ってしまう。

 

 

「ふふっ。翔琉君が感動してくれて良かった」

「感動かぁ……確かにめっちゃ感動したんだと思う」

「貴方が記憶を失くす前、初めて見たスクールアイドルのライブを見た時も、そんな表情してたなぁ」

「そうなのか?」

「うん。思えば、そこから始まったんだね。貴方と私の、スクールアイドルとしての道は」

 

 

 歩夢はお揃いのパスケースを買いに秋葉原に行った後、街頭ビジョンに映し出された18人のスクールアイドルによるライブ映像を翔琉と共に見たあの日のことを思い返す。

 

 偶然流れたその映像を見た翔琉は強く感動し、それを間近で応援出来る様な存在になりたいと思って虹ヶ咲学園のスクールアイドルを探す。そこで廃部寸前だった同好会で頑張るかすみと出会い、彼は廃部を阻止する為に部員集めを始めた。翔琉はまず歩夢を誘い、ステップアップの為に演劇部で修行をしていたしずくを再び呼び戻し、その熱意で愛の闘争心を奮い立たせ、ボードで感情を表現する璃奈に無限の可能性を感じ、勉強に苦戦した彼方と一時帰国してたエマも無事戻って来て、果林の言葉から同好会の在り方を見つけ、影ながら同好会を見守っていたせつ菜を仲間とし、最後にみんなの後押しで部長の座に就いた。

 

 部長となった彼はみんなの支えとなる為、時に悩みながらも働いていった。その姿は輝いており、歩夢は楽しそうに頑張る翔琉を見て心から喜びを感じていた。

 

 

「何て言うか……記憶が有ろうが無かろうが、俺はスクールアイドルを応援する運命にあったのかもな?…………ちょっと寒いな、この台詞」

 

 

 少し照れた様に首の後ろを掻く翔琉。

 

 

「そんなことないよ。私はかっこいいと思うな」

「ふっ、ありがと」

 

 

 歩夢に礼を言った後、彼は立ち上がった。

 

 

「もう少しで無くなりそうだし、追加で飲み物買って来るわ」

「あ、だったらかすみんも着いていきます」

「おう、なら行くか」

 

 

 寄り掛かっていた彼方を退かしてかすみが手を挙げ、2人は部室を出てから購買に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

「この学校、本当に広いよな……迷子になりそう」

「迷ったらかすみんに任せて下さい!」

「そうするよ」

 

 

 かすみと一緒に校内を歩いていく翔琉。

 

 

「先輩は、この前のイベントどうでした?」

「楽しかったよ。なんつーか、みんな輝いてた」

「でしょでしょ?先輩が楽しかったのなら、かすみんも嬉しいです!」

 

 

 人差し指を頬に当ててあざといポーズを取りながらかすみは笑う。

 

 

「けど、かすみんが入選出来なかったのだけは納得出来ません」

「次頑張れば良いさ」

 

 

 かすみの頭を翔琉はわしわしと撫でる。すると彼女は嬉しそうな表情に変わった。

 

 

「じゃ、じゃあ、次もかすみんのこと応援してくれますか?」

「ああ、もちろんだ」

 

 

 彼がそう言うとかすみはその頬を紅く染める。

 

 

「えへへっ、ありがとうございます!かすみん、先輩の為に次は絶対1番になりますね!」

 

 

 笑顔となるかすみを見て翔琉も笑みを溢す。翔琉は彼女からの分かり易いまでの好意を感じていた。きっと共にスクールアイドル活動をしていく中で彼に惚れたのだろう。

 

 しかし、彼女が好きになったのはあくまでも記憶を失う前の翔琉であり今の自分ではない。かすみだけでなく歩夢や他の者達も、恋愛感情の有無に関わらずそうなのだろう。皆優しく接してくれているが、心の中では今の自分は天地 翔琉の皮を被った別人に見えているのかも知れない。

 

 

「早く戻らねえとな」

「何か言いました?」

「かすみが可愛いって言ったんだよ」

 

 

 また彼女の頭を翔琉は撫でる。彼女達の為にも早く記憶を取り戻し、本来の天地 翔琉に戻らなければと彼は思うのであった。

 

 

 

 

「あ、先輩あれ」

「ん?」

 

 

 2人の目に映されたのは1人の女子生徒とそれに話しかけてる2人の男子生徒。どうやら男子生徒達が彼女のことをナンパしてるらしい。そしてその声を掛けられてる生徒というのが……。

 

 

「新城野じゃねえか」

「知り合いですか?」

「ああ、クラスメイトだ。アイツ、ナンパされてんのか……まあ、モテそうだしな」

 

 

 明里に対する彼の言葉にかすみは少しむっとする。

 

 

「それって、あの先輩が可愛いってことですか?」

「え?言い様によっちゃ、そう聞こえるな」

「むぅー……先輩って、もしかして女誑しですかぁ?」

「誰がだ馬鹿」

 

 

 そうこう話していると、明里達の方に動きがあった。1人の男子生徒が彼女に一歩近付き、もう1人がその手を掴んだ。明らかに和やかな雰囲気ではない。

 

 

「あれ、大丈夫ですかね……?」

 

 

 心配して明里の方を見るかすみ。翔琉もそろそろやばいと思ったのだろう、彼女らの方へと歩き出した。

 

 

 

 

 教師に頼まれて内心嫌々プリントを運び終わった後帰宅しようとしていた時、新城野 明里は不運にも2人組の先輩に声を掛けられてしまった。

 

 

「君だろ、2年でめっちゃ可愛いって噂の子!」

「今から一緒に遊びに行かない!?俺ら良い店知ってんだよ!」

「あはは……いやぁ、ちょっと……」

 

 

 適当に流して去ろうとするが彼らはそれを許してくれない。

 

 

「カラオケとかも良いんじゃない?」

「お、それ良いね!君歌上手そうだし!」

「大丈夫!変なことはしないからさ!」

 

 

 そうは言ってるがその瞳からは下心が見え見えだ。明らかに変なことをするつもりだろう。

 

 ウザい。殺したい。

 

 彼女の中に殺意が湧く。この二つの汚物が凄まじく邪魔だ。さっさと殺して帰りたい。

 

 

「ね、行こう行こう!」

「ほら早く!」

 

 

 1人の男子生徒が彼女の腕を掴んだ。その行動は彼女の殺意を一気に頂点にまで到達させる。

 殺そう。誰か見たのならそれも殺そう。彼女がそう決め、ポケットの中にある怪獣カプセルに手を伸ばそうとした、その時……。

 

 

「え?」

「辞めましょうや先輩方」

 

 

 明里の腕を掴んでいた男の腕を、別の男が掴んだ。翔琉だ。

 

 

「女の子怖がらせるなんて男としちゃ三流でしょ?」

「はぁ?何だてめえはァ!?」

 

 

 突然の翔琉の乱入に明里はポカンとしてしまう。そして彼の元にかすみも小走りで寄って来た。

 

 

「コイツあれじゃね?スクールアイドル同好会の」

「ああ、記憶喪失になったっていう2年の奴か」

「おー、俺もしかして有名?」

「女に囲まれて調子乗ってるって有名だよ」

 

 

 顔を顰めさせる翔琉。彼自身はそんなつもり無いのにあんまりである。

 

 

「何だよ?てめえは大量の女とイチャイチャしてる癖に、俺らにはケチ付けんのかよ?」

「いや別にそんなのじゃないっすけど、相手明らかに嫌がってんじゃないっすか。それなのに無理矢理なんて、男らしくないじゃないって思うっすよ」

「ンだとォ!?」

 

 

 明里から手を離し翔琉の腕を払った男子生徒は、翔琉へと拳を突き出した。しかし彼はそれを軽く回避。男子生徒は転ぶことに。

 

 

「な!?」

「大丈夫かー、新城野?」

「へっ?うん、まあ」

「おーけー、おーけー」

「無視してんじゃねえ!?」

 

 

 もう1人の男子生徒も翔琉の背後から殴り掛かって来た。だがそれを彼は手を背後に回してノールックで受け止めた。

 

 

「何!?」

「先輩見え見え。そんなんじゃ当たりゃしませんよ」

 

 

 パッと手を離すと男子生徒はよろけて転んだ。

 

 

「さて、俺そこそこ強いんで喧嘩しても不毛だと思うんっすよ。それでもやりますー?」

「な、舐めてんのかこのガキ!?」

「いやいや、一つしか違わないんだからガキは無いっしょ?」

「うるせえ!!ふざけやがってぇ……!?」

 

 

 2人共立ち上がり翔琉のことを睨む。が、片方がかすみのことに気付いた。

 

 

「お前、もしかしてスクールアイドルか?」

「え、そ、そうですけど……?」

「ケッ、スクールアイドルっていうから可愛い子だらけかと思ったらこんな普通な奴も居たなんてなァ」

「えっ……」

「どうせこの男に股開いてから入れて貰ったんじゃないか?二つの意味でなァ!」

「ハハッ、だろうな!こいつ大して可愛くな–––––」

 

 

 彼らが台詞を続けようとするのを遮る様に、その顔面の横を翔琉の拳が勢い良く通った。

 

 

「うるせぇ……黙ってろ」

 

 

 鋭い目で2人のことを翔琉は睨み付ける。その瞳からは先程までのふざけたものは無く、強い怒りが発せられていた。これ以上余計なことを喋れば間違いなく次は拳を炸裂させるつもりだろう。2人の男子生徒は腰が引け、みっともない声を出しながらそそくさと走り去っていった。

 

 

「ったく……」

 

 

 かすみの方に振り向いた翔琉は彼女の頭に手を置く。

 

 

「気にすんな。あんなアホの言葉なんて」

「べ、別にかすみん気にしてませんけど……」

「嘘つけ、ショック受けましたって顔してるぞ」

「そんな……ことは……」

 

 

 歯切れの悪いかすみ。一方で明里は翔琉のことを不思議そうに見ていた。

 

 

「ねえ、天地君」

「ん、何だ?」

「どうしてあの人達に喧嘩売ったの?」

「別に喧嘩売ったつもりは無いんだがぁ……まあ、新城野が困ってたみたいだし、助けなきゃって思ったからだよ」

 

 

 かすみの頭を優しく撫でながら翔琉はそう答えた。クラスメイトが面倒ごとに巻き込まれているのを彼はどうにかしたかったのだろう。

 

 

「そっか……そうなんだね」

 

 

 彼女にはその行為が少し信じられなかった。態々自分から余計な出来事に首を突っ込むなんて普通はしない筈。けど目の前の彼はそれをやった。自分の為じゃなく、彼女の為に。

 

 

「そういうことさ。……ッ!?」

 

 

 そんなこんな話していた時である。突然地面が激しく揺れ出した。翔琉は咄嗟にかすみと明里のことを抱き寄せてしゃがませる。これはまさか……と思い窓から外を見てみると案の定、1匹の怪獣が地中から這い上がっていた。

 

 

「か、怪獣ぅ!?」

「チッ、マジかよ……!」

 

 

 背中から頭部まで頑丈な殻で覆われ、大きな一本の角を持った二足歩行の怪獣は雄叫びを上げ、大地を踏み鳴らしながら学校の方へと移動して来る。

 

 

「かすみ、新城野、お前ら早く逃げろ!」

「先輩は!?」

「俺は部室行って他の奴ら逃がすから!いいか、ちゃんと逃げろよ!?新城野もだぞ!」

 

 

 そう言ってから翔琉は走り出す。背後からかすみが声を掛け、明里が不思議そうに見つめるが彼は止まることなく駆けていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 そして翔琉が向かったのは部室ではなく屋上。人目を避けながらここまで来た彼はエクスデバイザーを取り出す。

 

 

「さて……止めてやりますかぁ!」

 

《X UNITED》

 

 

 光に包まれた翔琉はそこから飛び出してウルトラマンエックスにへと姿を変えた。そしてその勢いのまま怪獣=ゴルメデに蹴りを叩き込んだ。ゴルメデは吹き飛び、エックスは着地して砂埃を巻き上げる。

 フラフラと立ち上がり、怒りの込められたエックスのことを睨むゴルメデ。けたたましい咆哮を放ち、エックスへと突っ込んでいく。彼も向かってくるゴルメデに構えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 エックスとゴルメデの激突。それを見つめる黒い瞳があった。赤と黒の身体、銀の鉄仮面からは二本の角が伸び、瞳には深い闇を宿している。まるで道化師を想わせるソレは戦う二つの巨体を見ながら、ゆっくりと歩き出していった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・ファイヤーラドン

別名:火炎翼竜怪獣

身長:50m

翼長:120m

体重:1万5千t

出典:映画「ゴジラvsメカゴジラ」

 

 プテラノドンの生き残りやその卵が放射性物質などを浴びた事により突然変異を起こして誕生したとされる怪獣、それがラドンでおる。幾つかの種が確認されており、このファイヤーラドンもその一つで特に強力な種。高速で飛行する事でソニックブームを起こしたり、口からウラニウム熱線を吐いて戦う。

 原作ではラドンが強化された姿であったが、本作ではラドンの亜種の一つとして登場。アドノア島を飛び出して日本に襲来しようとしたが海岸でXio、そしてエックスの妨害に遭う。エックスと飛行戦を繰り広げ、熱線を吐いて倒そうとするがアタッカーXを受けて海面に落下。更にエレキングアーマーによるエレキング電撃波を喰らいスパークドールズになってしまった。本来ラドンは何か理由が無い限り生息地から大きく移動する事は無い筈だが、今回の個体は長距離を移動してまで日本に来ているがその理由は不明である。

 ゴジラ怪獣の中でもトップクラスの知名度を持つラドンの強化個体としてスクリーンデビューを果たしたファイヤーラドン。新たな武器を手にしてメカゴジラとガルーダに挑んだが……。その感動的最期は必見である。

 

 

 

・ガルト星人

個体名:アイザラ

別名:メタル宇宙人

身長:2〜50m

体重:150kg〜4万t

出身地:ガルト星

出典:平成ウルトラセブン EVOLUTION EPISODE:3「ネバーランド」

 

 全身が甲冑の様な金属質の皮膚で覆われた宇宙人。ミュー粒子を操る力を持っている。武器は両手から放つ光弾や瞬間移動能力。後者は本作では使用することは無かった。

 様々な武器を開発し、それを宇宙人達に売り捌く死の商人。自分が売った武器でどれだけの命が失われようが不幸になろうが気にしない傲慢な性格。ガイモスをパートナーとし、様々な宇宙で武器を売り混乱を招いていた。下調べの為寄った地球で偶然ゼロ=陸に遭遇。その身勝手で傲慢な性格が彼らの逆鱗に触れ、最期はゼロダークネスの前に敗れた。

 アイザラとはオランダ語で鉄という意味。作者がゼロを活躍させたいという理由の為に即興で生まれたガルト星人の別個体である。本編でのガルト星人の声はライダーや戦隊でもお馴染みでグレンファイヤー、ギンガでのイカルス星人を務めている関智一氏だ。

 

 

 

・ガイモス

別名:妖邪剛獣

身長:60m

体重:5万9千t

出典:平成ウルトラセブン EVOLUTION EPISODE:5「アカシックレコード」

 

 竜の様な胴体の胸の辺りから頭部までが真っ二つに割れており、そこから別の怪物の顔が現れ覗いているというグロテスクなデザインの怪獣。口と両肩からの火炎弾が武器。

 アイザラのパートナーとしてゼロに挑む。しかしガイモスの攻撃はゼロに一切通用せず、最期はウルトラハリケーンで空高く吹っ飛ばされたあと、ガルネイトバスターを喰らった爆発した。

 前述した通りスペースビースト程では無いがウルトラ怪獣にあまり見られないグロテスクな容姿で体色もセブンの怪獣としては派手。モデルとなったのはデザイン担当者が図書館で偶然目撃した京都・西住寺にある顔が二つに裂け、その中から新しい顔が出ている宝誌和尚立像という仏像である。

 

 






次回、「14.魔人の名はファウスト」

感想、質問、高評価、山形りんご、その他、是非是非お待ちしてるんご


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14.魔人の名はファウスト





 

 

 

 

 

 

 

 虹ヶ咲学園の近くにて、エックスは古代暴獣ゴルメデと戦っていた。角を突き出したり蹴りを繰り出したりしてエックスに攻撃していくゴルメデだが、彼はそれらを躱していき逆に手刀を胸に打ち込んだ。怯んで後退するゴルメデ。そこにエックスは追撃の蹴りを放つ。ゴルメデは堪らず倒れて地響きを鳴らした。

 

 

 

 

 その様子を、かすみも校内を走りながら見ていた。途中揺れで転びそうになりながらも、何とか持ち堪えて避難するべく走っている。と、彼女はある事に気付いた。

 

 

「あれ?新城野先輩!?」

 

 

 一緒に逃げていた筈の明里の姿が見当たらないのだ。走っている内に逸れてしまったのだろうか。周りを見回しても何処にも居ない。

 

 

「もうー!新城野先輩も翔琉先輩も、かすみんを置いて行かないで下さいよー!?」

 

 

 泣き言を叫ぶかすみ。早く逃げてしまうのが一番良いのだが、明里はもしかしたら何処かで怪我をして動けなくなってしまっている可能性だって無きにしも非ず。とりあえず彼女は、明里を捜す為に校内を奔走する事にした……。

 

 

 

 

 

 

 叫びながら突っ込んでいくゴルメデだが、それをエックスは横に飛んで回避。ゴルメデは止まった後すぐに振り返って火炎弾を放った。しかしエックスは身体を反らしてそれを避けて逆にXスラッシュを放った。光弾はゴルメデの顔面に見事に命中し、奴は堪らず悲痛そうな鳴き声を上げる。

 

 

「楽勝だな」

 

 

 戦って分かったが、このゴルメデの強さは大したものでは無い。油断さえしなければ問題無く勝てるだろう。彼はゴルメデにトドメを刺す為に、ゴモラアーマーを装着しようとした………その時である。

 

 

「ん、何だ?」

 

 

 彼らの周りからドス黒い闇が浮き上がってきたのだ。闇は紅の稲妻を纏いながらエックスとゴルメデを囲いドーム状に彼らのことを包んでいく。

 

 

「何だこれ……!?一体何が!?」

 

 

 エックスもゴルメデも突然の出来事に困惑するしかない。

 闇はそのまま彼らのことを完全に包んでしまった。その光景を虹ヶ咲校内の生徒達も息を呑んで見つめる。闇によって形成されたドームは、数秒後に消えた。すると……。

 

 

 

 

「き、消えた……!?」

 

 

 闇のドームが消えた後に、エックスとゴルメデの姿は無かった。一体何が起こったのか?それを見ていた誰もが理解出来ず困惑するのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 Xio基地司令室。隊員達は怪獣出現の報告を受けて行動を開始していた。

 

 

「虹ヶ咲学園付近に怪獣が出たよー」

「虹ヶ咲学園って翔琉お兄ちゃんの学校だよねー?」

「そうだよー」

 

 

 キーボードを操作しながらミキリとミハネが告げる。

 

 

「この怪獣はゴルメデっすね。主に湖川付近や地下に生息してる怪獣っす」

「東京の地下にも居たって訳かよ」

「とにかく出動しないと!」

「そうね。イヅル、ハヤテ、リュウジ、紗季!マスケッティに乗って出動よ!」

『了解!』

 

 

 隊長である沙優の言葉を受けて4人は格納庫に向かおうとする……が。

 

 

「「待って!!」」

「ッ、どうしたの2人共?」

 

 

 ミキリとミハネが大きな声を出して皆のことを止めてしまった。2人は驚いた様子でPCの画面を見ながらゆっくりと口を開いていく。

 

 

「エックスと……」

「ゴルメデが……」

「「消えちゃった!!」」

『は、はあぁ!!??』

 

 

 まさかの言葉に全員が驚愕。彼女らの言う通り、エックスとゴルメデの反応は綺麗さっぱり消えてしまっている。一体何故突然2体が消えたのか?余りにも突然の出来事に、Xioメンバーの誰も理解出来ないでいた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「何だよ、ここは?」

 

 

 エックス、そしてゴルメデは不気味な空間の中にいた。赤黒い空、不規則に明滅する不気味な光。悪寒が身体中を襲う。まるで全身を生温かい空気に撫でられてる様な、それとも凍てつく風が身体を包んでいる様な……何とも形容し難い感覚が、エックスのことを襲っていた。

 一方ゴルメデもこの空間に酷く怯えていた。本能からここが、恐ろしい恐ろしい場所であると理解したのだろう。先程までの威勢の良い叫びでは無く弱々しい呻き声が口から漏れている。

 

 

「ッ……」

 

 

 背後から足音が聴こえてきた。エックスは振り返り、ゴルメデもそちらに目を向ける。そこに居たのは、赤と黒の巨人。深淵を連想させる黒い瞳を鈍く輝かせる道化師の姿であった。その者の様はまるで……。

 

 

「ウルトラ……マン……?」

 

 

 そう、自身と同じウルトラマンの様であった。しかし、纏っている邪悪な気配がソイツはウルトラマンでは無いと痛感させている。ゴルメデもこの空間に来た時以上に怯え身体を震わせていた。

 今エックスの目の前にいるのは、容姿だけがウルトラマンに似た恐ろしいナニカ。全神経が鋭敏となり、彼は謎の存在である闇の巨人を強く警戒する。

 

 

「ウルトラマンじゃねえ……何だてめえは?」

 

 

 エックスが問い掛けるが闇の巨人は何も答えず、手を天に向けた。すると空から、闇の波動とでも言うべき様なモノが発生してゴルメデに落下。ゴルメデは目を見開き、苦しむ様に凄まじい咆哮を放つ。

 

 

「なっ!?お前何を……!?」

 

 

 踠くゴルメデ。そしてゴルメデは姿を変質させていった。頭部の装甲が後ろへと二つに分かれ捲り上がり二本の角を後頭部に形成、更に複数の突起物が隆起する。瞳は血で塗り潰された様に赤い。身体にも葉脈の様に赤いラインが走っており、明らかに凶悪化したというのが見て取れた。

 ゴルメデが狂花したカオスゴルメデは咆哮を放ち、エックスに向かって進撃していく。

 

 

「マジかよ!?」

 

 

 カオスゴルメデの突進を受け止めたエックス。しかしその強力なパワーにより身体は後退させられてしまう。

 

 

「ぐっ……!?」

 

 

 どんどんとエックスは押されていく。そしてカオスゴルメデが身体を振ったことによって彼は飛ばされてしまい、地面へと叩きつけられた。苦悶の声を漏らすエックス。そこへ闇の巨人が歩み寄って来る。闇の巨人はエックスの首を掴んで無理矢理立ち上がらせ、強い力で締め付けていく。

 

 

「がぁ!?くっ……お前……何、なんだよ……!?」

 

 

 抵抗するが闇の巨人の力が強く……というよりもエックス自身の力が上手く入らなくて拘束を外すことが出来ない。この空間に来てから、何故か力が弱まっているのだ。

 

 

「くそっ……!どうなって–––––おわっ!?」

 

 

 闇の巨人はエックスのことをぶん投げた。エックスはまた地面に叩きつけられてゴロゴロと転がった。

 

 

「ぐぅ……。これって……やべぇかも……?」

 

 

 胸のカラータイマーが鳴る。これは危険信号で彼の体力の低下を意味している。フラフラしながら立ち上がるエックス。正直かなり厳しいが倒れる訳にはいかない。逃げることも出来ない以上、彼には戦うしか道は残されていないのだ。拳を握ってカオスゴルメデと闇の巨人に構える。

 

 

「てめえは一体、何者だ!?」

 

 

 エックスが再度問い掛ける。すると闇の巨人は鼻を鳴らし、言葉を紡いでいった。

 

 

–––توشیکو (ダーク)……شینشیرو(ファウスト)……–––

 

 

 放たれた言語は理解出来ないが、そこに秘められた意味は理解出来た。ダークファウスト……それが目の前にいる闇の巨人の名。

 

 

「ゲーテかよ……まあいい。とっととブッ潰す!」

 

 

 大ピンチなのは百も承知。しかしそれでも必ず勝って元の世界に戻る為に、エックスは走り出した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「翔琉せんぱーい!!新城野せんぱーい!!何処ですかー!?」

 

 

 ウルトラマンと怪獣が消えてから、かすみは翔琉と明里のことを探していた。翔琉の携帯に電話を掛けたが繋がらず、今彼女は中庭を探している。

 

 

「もう!本当に何処行ったんですか2人共ー!?」

 

 

 声を大にして呼び掛けるが返事は返って来ない。はぁ……と溜め息を吐いた時、ふと先程男子の先輩2人組から言われた言葉が頭を過ってしまう。

 

 

「普通の子……可愛くない子……」

 

 

 心無い言葉。翔琉は気にするなと言っていたがやはり気にしてしまう。胸の中にモヤモヤとした何かが浮かんで来る……この感情は一体何なのか?かすみにはまだ理解を出来ていないかった。

 

 

「……?何だろう……」

 

 

 彼女は木の下に何かがあるのに気付いた。近付いてみるとそれは黒い空間の歪の様なものであった。

 

 

「何、これ?」

 

 

 異様なそれに恐怖を感じるかすみ。しかし同時に、ソレに対する興味も出て来た。恐る恐る、彼女はソレに向かって手を伸ばしていく。募ってしまった好奇心が、恐怖に勝ってしまったのだ。

 手は黒いソレに近付いていき、遂には触れてしまう。そして………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

 

 かすみは気付いたら奇妙な場所にいた。赤黒い空と大地。まるでのこの世の終わりの地かと思わせる様な場所。どうしてこんな所にいるのかと困惑していると背後から大きな音が聴こえて来た。振り返るとそこには……。

 

 

「あ、あれって……!?」

 

 

 彼女が目撃したのはウルトラマンと、それを容赦無く攻め立てる怪獣と巨人の姿であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・ベムスター

別名:宇宙大怪獣

身長:46m

体重:6万1千t

出典:帰ってきたウルトラマン 18話「ウルトラセブン参上!」

 

 宇宙大怪獣の別名の通り宇宙、約1000年前のおうし座かに星雲の爆発による影響で誕生したと言われている怪獣。腹部にある五角形の口・吸引アトラクタースパウトで何でも吸収してしまう。角からはベムスタービームという破壊光線を放ち、空をマッハ5で飛ぶ。

 ナックル星人ジェイラの操っていた怪獣。高エネルギーを求める習性を利用してスパークドールズを探し当てた。初戦ではリーチの差でエックスに優位に立たれたがバキシム、レッサーボガールの援護によって勝利する。2戦目ではデスレ星雲人ダイロ、バキシムと共にエックスと戦うが圧倒され、ソードレイ・クロス・ゼロによりバキシムと一緒に斬り裂かれスパークドールズになった。

 スペシウム光線などのウルトラマンジャックの技を尽く無効にした強敵。しかしウルトラセブンがジャックに渡したウルトラブレスレットにより一瞬で切り裂かれてしまった。宇宙ステーションを職員ごと丸呑みというトラウマクラスなことをやっているが、意外にもトラウマ扱いされてない珍しい怪獣。

 

 

・バキシム

別名:一角超獣

身長:65m

体重:7万8千t

出典:ウルトラマンA 3話「燃えろ!超獣地獄」

 

 芋虫と宇宙怪獣を合成して造られた超獣。超獣は怪獣よりも強力な生物兵器。腕から火炎やロケット弾を放つ。更に頭部の角は誘導ミサイルとなっており、ホーミング効果も持っている。最大の特徴は空を割って現れること。

 ヒッポリト星人ケイプの操ってた超獣。ミサイルや火炎を武器にエックスと戦うが、最期はベムスター共々斬り裂かれてスパークドールズになった。

 超獣の中でもトップクラスの人気と知名度を持ち、ウルトラ怪獣屈指のデザインと言われる事もある程。空を割って現れるというのは他の超獣もやっているが、やはり最初にやったバキシムのイメージが強い。因みにゼロライブを書かれているがじゃまる氏の推しウルトラ怪獣だったりする。

 

 

・レッサーボガール

別名:高次元捕食獣

身長:2〜47m

体重:200kg〜4万7千t

出典:ウルトラマンメビウス 21話「虚空の呼び声」

 

 宇宙空間のウルトラ・ゾーン内にある怪獣墓場に漂う小惑星に生息。仲間の死骸も捕食するまでに貪欲で食欲旺盛。ボガールという高い知能と能力を持つ怪獣と同族だが、こちらは知能も低く特殊能力も持たない為レッカー(劣っている)と名付けられた。基本的に人間大の怪獣だが、仲間を食べることで急速に巨大化する。

 デスレ星雲人ダイロの操っていた怪獣。初戦ではベムスターとバキシムと一緒にエックスを追い詰めた。しかし惑星ギレルモでゼロと戦い、手も足も出ないまま最期は氷漬けにされ斬り裂かれた。その為唯一スパークドールズ化していない。

 当初はインペライザーを出す予定だったが最終的にレッサーボガールに変更。本作では常時強大化状態で戦っており、最終形態にはならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ダークファウスト参戦。その正体、目的や如何に?
そしてカオスゴルメデですが本来はカオスヘッダーがゴルメデをコピーして誕生した怪獣なのですが、本作ではダークフィールドのエネルギーによって変化したものになっています。

このピンチを、エックスは乗り越えられるのか?

それではまた次回お会いしましょう。
感想、質問、高評価、その他、山形りんご、是非是非お待ちしてるんご。


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15.ダイヤモンドは砕けて


お待たせしたんご!!






 

 

 

 

 

 カオスゴルメデがエックスを羽交い締めにする。それにより動けないエックスに、ダークファウストが容赦無い攻撃を叩き込んでいく。拳が幾度となく彼の身体に叩き込まれていき苦しめる。エックスは脱れようと捥がくがカオスゴルメデの強靭な力とファウストの痛烈な攻撃によってそれが出来無い。

 

 

「ぐっ……!があっ!?だあ!?」

 

 

 ファウストの攻撃が止まることは無い。エックスのカラータイマーの点滅スピードが早くなっていく。

 

 

「だったら!」

 

 

 この状況を打開するべく、翔琉はサイバーゴモラのカードをエクスデバイザーに装填した。ゴモラアーマーの力があれば、奴らを撃破出来ると考えたのだ。しかし……。

 

 

「おい……どうなってる!?」

 

 

 デバイザーは何も反応せず、鎧が装着される事は無かった。逆転の一手を容易く潰されてしまい、彼は奥歯を噛み締める。

 

 

「こんのォ……!舐めんなァ!」

 

 

 やけくそになって蹴りを放つ。だがそれを、ファウストは背後に軽く跳んで回避してしまった。そして闇の光球をエックスとカオスゴルメデの頭上に放った。光球は炸裂し、弾雨となって彼らへと降り注いだ。

 

 

「ぐお!?がああああ!?」

 

 

 エックスはカオスゴルメデと纏めて吹き飛ばされてしまう。拘束は外れたものの、代償として受けたダメージは非常に大きかった。

 

 

「ぐう……ううぅ……」

 

 

 倒れて苦悶の声を漏らすエックス。カオスゴルメデも相当なダメージを受けたのか苦しんでいる様子である。しかしそれでもカオスゴルメデは自身の身体を無理矢理起き上がらせた。この怪獣は最早ファウストの完全な支配下にあり意思など無い。ただ道具として使い潰されるしかないのだ。立ち上がったカオスゴルメデは血を流しながらも、その牙をエックスに向けて襲っていく。彼はどうにかそれを寝転んだまま蹴り飛ばした。

 

 そしてこの恐ろしい光景を、何故か空間内に入ってしまったかすみは目撃していた。目の前で繰り広げられる戦い……というよりは一方的なエックスへの攻撃に、恐怖から身体が震えている。更にこの空間が、彼女の恐怖をより加速させていた。

 

 

「な……何ですかこれ……!?」

 

 

 地球を守る為に戦っていると言われてるウルトラマンエックスが痛め付けられている。信じられないこの状況にかすみは困惑。膝は震え、額には汗。瞳からは涙が溢れている。

 

 

 立ち上がったエックスであったが、すぐにカオスゴルメデが接近して爪で彼の身体に傷を付ける。更にファウストが手から光弾を放ち、エックスは火花を散らした。

 

 

「ぐあああああ!!?」

 

 

 派手に吹っ飛んで岩山の様な物に激突しそれを砕いて倒れたエックス。彼に限界は近い。このままで死んでしまうかも知れない。そんな事を考えてしまったかすみの方を、首をグルリと回してファウストが向いた。

 

 

「ひっ……!?」

 

 

 更に震え上がるかすみに、ファウストは地響きを鳴らしながら近付いていく。下がろうにも足が震えて動かせず、体重だけが後ろに掛かったことでかすみは倒れる。

 

 

「きゃっ!?」

「うっ……かすみ………何……で……?」

 

 

 かすみが居ることに、そして彼女にファウストが迫っていることに気付いたエックス。

 

 

「チッ、させるか…………があっ!?」

 

 

 立ち上がり、かすみを助ける為に走り出す。しかしカオスゴルメデがそんな彼に向けて口から強力怪光という破壊光線を発射。背中にそれが直撃し、エックスは前のめりになってから倒れた。

 ファウストはかすみの側に立ち、能面の様な顔を彼女へと近づけた。

 

 

「いや……!来ないで……!」

 

––– အမှောင်(闇が)…… ပေါ်လာ(見える)……–––

 

 

「え……えっ……?」

 

 

 訳の分からない言葉。しかしその意味だけはしっかりと頭の中に流れ込んで来る。何とも言えない気持ち悪さに、かすみは思わず吐き気を感じてしまう。

 

 

「何なんですか……!?かすみんの、闇って……!?一体、何を……!?」

 

––– မင်းရဲ့(お前の) အမှောင်ထု(闇を)ကျွန်တော့်ကိုပြပါ(見せてみろ)……––––

 

 

 そう言ってファウストが手を翳すと、かすみの意識はゆっくりと落ちていくのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あれ?」

 

 

 目が覚めた時、かすみは虹学の廊下に立っていた。周りには普通に歩いている生徒や教師。いつもと変わらぬ風景。先程まで怪獣が暴れていた筈。それに自分は……。

 

 

「うっ!?」

 

 

 何かを思い出そうとした最近、彼女の頭をズキリと痛みが襲う。まるで思い出すなと警告している様だ。

 

 

「そうだ、先輩やみんなは……!」

 

 

 翔琉と同好会のみんなことが気になり、かすみは取り敢えず部室へ向かって走り出した。そんな彼女の背に、周りの生徒達が冷たい視線を送っている事などつゆ知らずに……。

 

 

 

 部室に辿り着いたかすみはその扉を開けて中に入った。室内には自分以外の8人のメンバーがいる。しかし何故か彼女達の表情は暗く、翔琉の姿も無い。何かあったのだろうかと思いながら、かすみは8人に声を掛ける。

 

 

「みんな、どうかしたの……?」

 

 

 すると返って来たのは、全員からの敵意の込められた眼差しであった。

 

 

「どうかした、ですって?」

「かすみさん、それ本気で言ってるんですか?」

「え……えっ?何を……?」

 

 

 果林としずく、そして他の者達の視線がかすみに刺さる。何がどうなっているのか分からないでいると瞳に涙を溜め、人一倍強い怒りを秘めた歩夢が口を開いた。

 

 

「ふざけないで!」

「歩夢、先輩……!?」

「貴女の……かすみちゃんの所為で、翔琉君が死んだんだよ!!」

「…………は?」

 

 

 思考が止まる。

 

 翔琉が死んだ……?そんな筈は無い。自分は彼と数分前まで一緒に居たのだ。一緒に話し、一緒に歩いていた筈……その翔琉が死んだなど、彼女には信じられなかった。

 

 

「嘘です……そんなの嘘です!!先輩が死んだだなんて、絶対嘘––––」

「嘘じゃない!!!」

 

 

 かすみの叫びを、それよりも大きな声で歩夢が掻き消す。

 

 

「あの子は死んだの……。全部かすみちゃんの所為……かすみちゃんが、あの子を殺したの!!」

「そ、そんな筈は……!?」

「アンタの所為だよ!!」

 

 

 歩夢に続き愛もまた、怒りに任せて叫んだ。

 

 

「アンタが翔琉を殺したんじゃん!!アンタが居たから翔琉は……!!」

「私達の大切な仲間……それをかすみさんは奪ったんですよ!?なのにその態度、許せません!!」

「かすみちゃんが、居なければ……!」

「全部……全部かすみちゃんが悪いんだよ!」

「絶対に許せないよ……!」

 

 

 せつ菜も、璃奈も、エマも、彼方も。かすみに対して決して許さないという怒りをぶつけた。それから8人からの容赦無い罵倒が彼女へと浴びせられていく。普段の彼女達からは想像出来無い様な罵詈雑言が口から飛び出しており、それはかすみの心に傷を付け追い詰めていった。

 

 

「ちが……う……か、かすみんは………!?」

 

 

「貴女なんて居なければよかった」

「貴女が居たから大切な人が死んだ」

「貴女は邪魔でしかなかった」

「貴女の所為で私達は苦しんだ」

「貴女が全部悪いんだ」

「貴女が全て奪っていった」

「貴女は私達の仲間に相応しくなかった」

「貴女はスクールアイドルなるべきじゃなかった」

 

 

 震える身体、支えられない脚、霞む景色、絞め付けられる心。耐えられずに、彼女はその場にへたり込む。

 背後に何か気配を感じた。振り返えると目に映ったのは男子生徒の足元。まさか翔琉が生きていたのか。そう思い彼女は顔を上げた。

 

 

 

 かすみが目撃したのは、頭部や口から血を流し血塗れとなった翔琉であった。衝撃的なモノを目にした彼女は言葉を詰まらせる。

 

 

「せ……ん……ぱい……!?」

「お前の所為で……俺は死んだ」

 

 

 光の無い目がかすみを見下ろす。

 

 

「お前と一緒に居なければよかった。お前と出会わなければよかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

––––お前なんか、可愛くないのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何よりも拘っていた「可愛い」。誰よりも大切な人からのそれを否定するその言葉がトドメとなる。

 そしてそれと同時に翔琉の身体は弾けて、彼女の眼前で血と肉片を撒き散らした。血が彼女の頬に当たり伝う。更なる追い討ちを受けて、かすみの中で何かが砕け散った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てめえ……かすみに、何しやがったァ!?」

 

 

 地に伏せたまま、エックスはファウストへと吼えた。彼の目には座り込み、虚な瞳で空を見上げながら痙攣を繰り返すかすみの姿がある。

 

 

「何とか言え……ぐはぁ!?」

 

 

 立ち上がろうとしたエックスのことをカオスゴルメデが蹴り飛ばした。彼はごろごろと転がっていく。胸のカラータイマーは更に激しく点滅を繰り返している。

 

 

–––– သိပ်မိုက်မဲတာပဲ(愚かだ)……––––

 

「ンだと……?」

 

–––– မင်းက(貴様は) စွမ်းအား(力の) အဓိပ္ပါယ်(意味を) နားမလည်ဘူး(理解していない)……––––

 

「力の意味……?」

 

–––– ကြောင်းပါဝါ၏(その力の事だ)––––

 

「何のこった……。てか、普通に日本語喋れよ。耳には変な言葉に聴こえんのに頭に意味だけ伝わってきて気持ち悪いんだよ……」

 

 

 膝立ちになりながら挑発する様に言うエックス。しかしファウストがそれに乗る様子は無い。それから逆に指をクイクイっと動かして彼のことを挑発してきた。立ち上がったエックスは拳を強く握り締めながらファウストとカオスゴルメデに構える。限界は近く、カラータイマーは激しく鳴り息は荒れ肩を上下させているが彼は決して負けられない。

 

 

「かすみから離れろ、能面野郎……!」

 

–––– ဟမ်ဟ(フフフッ)……––––

 

「笑ってんじゃねえぞゴラァァァアッ!!」

 

 

 かすみを救う為に、エックスは地面を強く蹴った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・ヒッポリト星人

個体名:ケイプ

別名:地獄星人

身長:216cm〜62m

体重:307kg〜8万3千t

出典:大怪獣ラッシュ ウルトラフロンティア

 

 ケイプ、ナックル星人ジェイラ、デスレ星雲人ダイロの3人からなる違法なハンティングと脱獄を繰り返す凶悪集団・脱獄ハンターズのリーダー格。自信過剰なナルシストで、何度も繰り返す脱獄や違法ハンティングも自分の力や地位を誇示する為のパフォーマンスとして楽しんでいるだけにしか過ぎない。主な武器はツインソードとロングライフル。難攻不落の禁固8万年の異名を持つ。

 パフォーマンスの一環としてXioの輸送するスパークドールズを狙う。バキシムを配下にしておりエックスを退け、アイザラから掠め取ったブルトン弾を使ってゼロを異次元に追放するなどした。最期は仲間も配下も全て失い、やけくそでエックスとゼロに立ち向かうも敵わず、2人の合体技の前に敗れ去った。

 アーケードゲーム作品「大怪獣ラッシュ ウルトラフロンティア」からの参戦。資料が少ない為、口調や性格は若干オリジナルで、身体データもオリジナル。

 

 

 

・ナックル星人

個体名:ジェイラ

別名:暗殺宇宙人

身長:208cm〜46m

体重:168kg〜1万2千t

出典:大怪獣ラッシュ ウルトラフロンティア

 

 脱獄ハンターズの技師。傍若無人の懲役5万年の異名を持ち、一般的なナックル星人よりもかなり細身な体格をしている。目的の為なら周りの被害など考えない自分勝手な卑劣漢。主な武器はブーメランとツインガン。

 仲間達と共にスパークドールズを強奪する為にXioの輸送車を襲撃。配下していたベムスターを利用してスパークドールズのある車を狙わせた。Xioとの戦闘中、偶然その場にいた歩夢を人質に取り戦局を有利にしそのまま彼女を拉致した。最期はケイプ、レッサーボガールとゼロに立ち向かうが圧倒され、焼き尽くされた。

 こちらも「大怪獣ラッシュ ウルトラフロンティア」からの参戦。口調や性格、身体データは勿論オリジナルである。

 

 

・デスレ星雲人

個体名:ダイロ

別名:策謀宇宙人

身長:228cm〜67m

体重:188kg〜2万t

出典:大怪獣ラッシュ ウルトラフロンティア

 

 脱獄ハンターズの策士担当。他者の報酬を掠め取る事を得意とし、それを当たり前に考えているという大変厚かましい性格で神出鬼没の前科500犯と呼ばれている。自身の外骨格の一部を脱獄する際の道具や戦闘の武器にしたりなど、かなり器用な一面を持っている。軟体動物の如き柔軟な身体を小型化して身を隠す事も可能。

 レッサーボガールを配下にして仲間と共に輸送車を襲撃。その後惑星ギレルモでエックスと激突。ベムスター、バキシムと共に立ち向かうが全く歯が立たず2体の怪獣は倒されてしまった。しかし、実はケイプの転移装置を掠め取っており、それを使い隙を見て逃亡し、脱獄ハンターズ唯一の生き残りとなった。その後の経路は分かっていない。

 こちらもオリジナル要素多め。唯一倒されることなく生き残ったが……。

 

 

 

 





ファウストによって追い詰められ、心を砕かれたかすみ。
果たして翔琉は自身も絶体絶命の状況の中で、彼女を救えるのか?

感想、質問、高評価、山形りんご、その他、是非是非お待ちしてるんご!



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16.私と貴方のワンダーランド




虹ヶ咲アニメ10月スタート!!!
今から待ちきれないですね!!!

そんな嬉しいお知らせを貰った後の回がこれというのもアレですが、かすみん回是非お楽しみ下さい。
それではどうぞんご!!



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ずっと可愛いものが好きだった。

 

 

 可愛い服、可愛い花、可愛い動物、可愛い人。それらに憧れ、自分もそうなりたいと強く願っていた。

 

 そしてある時、彼女はスクールアイドルというものを知る。可愛い衣装を見に纏って歌い踊る姿はとても眩しく、何より可愛かった。可愛さを求める彼女がこんな風になりたいと思うのは当然の流れであった。スクールアイドルに、誰にも負けない可愛さを持つスクールアイドルになる為に、彼女は必死に努力を重ねた。

 

 

 しかし、ここでまさかの事態が起こる。個々の事情や考え方の違いから活動が上手くいかず、休止状態に追い込まれてしまったのだ。一人、また一人とメンバーが部室から去り、残されたのは彼女だけ。そして遂に同好会には廃部が言い渡された。ずっとなりたかったスクールアイドルにせっかくなれたのに、こんな所で終わりたくない……そう思い部室を必死に部室を守ろうとしてきた彼女だったが、限界は近かった。

 

 

 ある日、1人の生徒が扉をノックして開き部室に入ってきた。背の高い黒髪の男子生徒。整った顔立ちをした彼の翡翠のつり目と彼女は視線が合った。まさかスクールアイドル同好会が廃部になった後この部室を使うというワンダーフォーゲル部の人間だろうか?部が廃部になるのは月末。なのにもう奪いに来るなんて……取り敢えず彼女は泣き真似をして相手を追い払おうとした。しかしどうやら彼はワンダーフォーゲル部の人じゃないらしい。彼女の泣き真似に慌てた後、彼は柔和な笑顔を向けてから口を開く。

 

 

「僕、スクールアイドルを探してたんだ!」

 

 

 

 これが中須 かすみと天地 翔琉の初めての出逢いであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「かすみちゃん、見つかった?」

「ううん……何処にも居ないよ……」

「かけるんも居ないし、ほんと何処行ったんだろ?」

 

 

 虹学内で、歩夢、愛、せつ菜、果林、エマ、彼方、しずく、璃奈の8人は居なくなったかすみと翔琉のことを探していた。携帯をかけるが繋がらず、教室や向かった筈の購買など思い当たる場所は粗方探し終えたが何処にも2人は見つからない。

 

 

「怪獣も居なくなったのに、まだ何処かに隠れているのかしら?」

「でもあの怪獣、何だったでしょう?ウルトラマンと一緒に消えてしまいましたし……」

「何だか不自然な感じでした。それに怪獣とウルトラマンを消したあの黒い何か……少し怖かったです……」

「しずくちゃん、よしよし」

 

 

 震えるしずくを彼方が撫でる。

 

 

「そうだ!私、保健室の方探してみるね。もしかしたら怪我をして運ばれたりしてるかも知れないし」

「分かったわ。じゃあ私達は外の方を探してみましょう」

 

 

 歩夢は他のメンバーと別れ、翔琉とかすみが無事見つかることを祈りながら保健室に向かう。階段を降りていく歩夢。すると彼女は、とある人物と出会う事になった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 翔琉とかすみは生徒会室に廃部を取り消してもらうべく直談判に向かった。そこで部の存続の為に言い渡された条件は部員を10人集めること。抜けてしまった部員達とかすみを合わせても5人なので後5人新規で集めなければならない。それはかなり困難な道であるだろう。

 

 

「はぁ……部員を10人だなんて……困りましたぁ……」

「けど、頑張って部員集めないとね!」

 

 

 落ち込むかすみを励ます翔琉。

 

 

「本当に困りました……でも一番困るのはぁ……はぁ……。こんな風に溜め息を吐くかすみんも可愛いってことなんですよねぇ……」

「あ、あはは……」

「むっ、先輩今かすみんのこと変な子だと思いませんでした?」

「そんなことないよ!それに、かすみちゃんみたいに自分に自信を持つこともスクールアイドルには必要なんだって思う。自分を好きでいられないと、他の人から好きになってもらえないもんね」

 

 

 笑顔でそう言う翔琉に、彼女は思わずきょとんとしてしまう。まさかそんなことを言われるなって思ってもいなかったのだ。

 

 

「…………かすみん、そんなこと初めて言われました。先輩変わってますね」

「そ、そうかな?」

「そうですよ!ふふっ、先輩もかすみんも変わり者同士ってことですね!」

「そうだね。じゃあ変わり者同士一緒にがんばろう!」

「おー!」

 

 

 握った手を上に挙げる2人。部員を集めてスクールアイドル同好会を絶対に存続させる為、かすみ達は改めて気合を入れるのであった。

 

 

 

 

 

 それから翔琉はまず歩夢を仲間に引き入れ、しずく、愛、璃奈、彼方、エマ、果林、せつ菜を同好会のメンバーにする事に成功した。そして最後に彼自身が入部することで同好会を存続させる事が出来たのだ。

 

 同好会の為に必死に動いてくれた翔琉。そんな彼と一緒に過ごした時間はかすみにとても充実感を感じさせてくれた。自分と共に、そして自分の為にこんなに動いてくれる人がいるなんて彼女には初めてのことだった。

 

 彼の優しさに触れた彼女の胸には熱いものが込み上げてきていた。それが何なのかはまだ彼女には分からないが嫌なものでは無く、寧ろ心地良さを感じさせてくれるものであった。もっと彼と一緒に居たい……彼の心に触れてみたいと思ってしまうは自然な事であったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 先程までエックスとゴルメデが戦っていた場所の上空をハヤテが乗るマスケッティαが飛んでいた。

 

 

「こちらハヤテ。現場に到着しましたが、エックスとゴルメデは影も形も見当たりません。異常の様なものも一切無いですね……」

《そう……。今博士達に周辺を調べてもらってるけど、こちらも手掛かりは無しね……》

「一体何処に行ったんだ……?」

《地上を涼風と紗季が調査してるから、ハヤテはもう少しだけ調べてみて》

「了解です」

 

 

 沙優隊長の通信にそう返し、レーダーや周囲の景色に注意しながらハヤテはマスケッティを飛ばす。

 そして地上では涼風と紗季の両隊員が突如消え連絡の着かないエックス=翔琉の捜索を行なっていた。ジオデバイザーの機能を使って辺りをスキャニングするが、手掛かりは何も見つからず状態でいる。

 

 

「翔琉君、何処に居るんだろう……?」

「解りません。ただ、彼とゴルメデが消えた際の映像を見た限り、何か外的な要因に依るもので間違い無いでしょう。ゴルメデにあの様な能力はありませんし」

「誰かが翔琉君と怪獣を連れ去ったってこと……!?」

「はい。恐らくエックスを狙ってるのかと思われます……。以前のエンペラ星人も、その謎の存在に召喚された可能性が高いかと」

「狙いは翔琉君……」

 

 

 推測を立てていく涼風。誰かが翔琉を狙っているかも知れかないという事に、紗季は怪訝な表情となる。少し前まで何の変哲の無い普通の高校生だった彼がこの様な事態に巻き込まれてしまったのは自分達に責任があるのかもと考え、彼女は翔琉に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。

 

 

「翔琉君、無事ならいいけど……」

「とにかく今は捜索を続けましょう。何か手掛かりが見つかるかも知れません」

 

 

 紗季と涼風は再び翔琉を捜し始めた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その捜索されている翔琉=エックスは仰向け大の字で地に倒れ、ダークファウストに踏み付けられていた。果敢にファウストとカオスゴルメデに立ち向かったエックスであったが、やはり体力的に限界だったのと2体が強力だったこともあり叩きのめされる事になってしまった。

 

 

––––လူမိုက်(馬鹿めが)……––––

 

「ぐう……うぅ…………」

 

 

 強く踏まれ意識が次第に遠退き、景色がぼやける。カラータイマーは更に激しく点滅し身体の力が抜けていく。もう終わりか……彼の脳裏に「死」という文字が浮かび上がってきた。

 

 

––––သေခြင်း(死ね) ဘာမှမ(何も) နိုင်ဖြစ်ခြင်(出来ずに)––––

 

「があッ!?」

 

 

 より強い力でファウストは彼を踏み付けた。肺から空気が吐き出され激痛に襲われる。

 

 死ぬ……ここまでか……。

 

 そんな考えに頭を支配されかけた時、彼の瞳にかすみの姿が映った。ここで諦めたら、彼女も死ぬかそれ以上の悲惨な事になるのは明白だろう。それを許す事など……。

 

 

「出来るかよおおお……!おらぁ!!」

 

 

 足を振り上げてファウストを蹴り飛ばす。奴がよろけて足を退けた隙に、彼は残された力全てを振り絞って立ち上がりかすみ目掛けて走り出した。気迫の声と共に彼女に手を伸ばすエックス。

 

 

「かすみぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

 

 エックスの身体が強く光輝く。そしてその光はファウストとカオスゴルメデを怯ませ、彼とかすみのことを包み込んだ……––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 翔琉が記憶を失う少し前、かすみは翔琉と部室で2人きりになった時があった。練習が終わり着替えてから荷物を置き忘れていたのに気付いた彼女が部室に来た時、翔琉がパソコンを使って作業していたのだ。

 

 

「先輩、お疲れ様でーす!何してるんですかー?」

「ん、お疲れ様かすみちゃん。今度のライブで歌う曲の確認してたんだ」

 

 

 彼女に気付き、ヘッドフォンを取ってから見せて来たパソコンの画面にはメンバーの曲の楽譜が映されている。

 

 

「そうなんですね。先輩が作ってくれた曲、とーっても良い曲でした!かすみんの歌詞にぴったりです!」

「あはは!だったら良かったよ!頑張った甲斐があったな」

 

 

 自分の為に頑張ってくれた。その事がかすみは嬉しくて胸が熱くなってしまう。頬も少し紅潮していた。

 

 

「でも、もうすぐライブだって思うと何だかワクワクしてくるな〜。楽しみで今から夜も眠れなくなりそう!」

「いやいやいや。ライブまだ結構先ですからね?今からそんな調子だったら倒れちゃいますよ?」

「あー……それは困るなぁ……。しっかり寝なきゃ!」

 

 

 翔琉の反応を見て彼女は思わず笑ってしまった。歩夢も言っていたが、こういう何処か抜けているところも彼の魅力なのだろう。

 

 

「そういえば、先輩はスクールアイドルやらないんですか?」

「え、ええっ!?僕が!?」

「はい。男性のスクールアイドルって滅多に居ませんし、インパクトあっていいんじゃないかなーって思うんですよ」

 

 

 彼女が提案してきた事が予想外だったらしく翔琉は少しあたふたとしている。

 

 

「それに先輩は……その、か、かっこいいって思います!!だから結構人気もぉ––––」

 

 

 そこまで言って彼女はあることを考えてしまう。それは翔琉がスクールアイドルになってどんどん人気者になっていき、自分の近くから居なくなるという事だ。彼がスクールアイドルをするのは良いと思うが、遠い存在になるのだけは絶対に嫌だった。彼にはずっと側で自分のことを見てて欲しい……そんな我儘を彼女は思っていた。

 

 

「大丈夫だよ」

 

 

 かすみの想いを察したのか、翔琉は頭に優しく手を置く。

 

 

「僕はずっとかすみちゃんやみんなのことを、一番近くで応援するから。それだけは、絶対に約束するよ」

 

 

 優しく笑う翔琉。

 

 嗚呼……やっぱりこの気持ちはそうなのかとかすみは理解する。誰よりも自分のことを見ててくれるこの人が、翔琉のことが私は好きなのだと……–––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 けれど、もうその先輩は居ない。

 自分が恋した先輩は、自分が殺してしまったのだから。

 

 闇の空間の中で、暗く不気味な色の泥の様なモノが彼女の足先から這い上がってきてゆっくりと身体を包んでいく。感覚が次第に失くなっていき、自分が何なのかも段々解らなくなる。

 

 でももうどうでもいい。

 早く終わらせてくれ。早く殺してくれ。かすみはもう全てを諦めていた。どうせ私は可愛くないのだから、生きてても仕方ない。大好きな人を殺し、大好きな人に否定された私に意味なんか無い。

 

 もう限界だ…………早く……死なせてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かすみぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

 

 

 

 

 轟いた大きな叫びにかすみはハッとして顔を上げる。

 

 

 

「えっ……?どう、して……?」

 

 

 

 この声を忘れる筈が無い。何故ならこれは、誰よりも大好きな人のものだから。見上げた先に見えたのは、こちらに突っ込んで来ながら手を伸ばす翔琉の姿だった。

 

 

 

 

 

 






感想、質問、高評価、その他、山形りんご、是非是非お待ちしてるんご!!







次回「カワイさ無敵級」


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17.カワイさ無敵級





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死んだと思っていた翔琉。それがかすみの前に現れ、闇の中を突き進みながら右手を彼女に向かって伸ばしている。

 

 

「先輩……!?何で……死んだんじゃ……!?」

「勝手に殺すな!!手を伸ばせ!!」

 

 

 闇が彼を追い払おうとするが翔琉はそれを払いながらかすみの方へと向かっていく。

 

 

「ダメ、ですよ……私が居たら、先輩は……」

「ああ!?何のこっちゃ!?とにかく早く手ぇ出せや!!」

「だからダメです!!私が居たら、先輩が死んじゃいますから!!可愛くない私は……先輩の側に居たらいけないんです……!」

 

 

 涙を流すかすみ。先程見たのは幻だったのかも知れないが、自分が居たらきっとそれは現実になってしまう。そんな事を彼女は思ってしまい翔琉を拒絶する。しかし……。

 

 

「うるせえええ!!てめえが勝手にンなこと決めんな!!俺がかすみを見捨てる訳ねえだろうがぁ!!!」

 

 

 彼は闇を気合いで吹き飛ばし、一気に接近してきた。

 

 

「俺が死ぬだと?ふざけんな!!そう簡単にくたばるかよ!!まだ記憶も取り戻せてねえし、それにまだお前らのライブ見足りねえんだ!!もっと見るまで死ねねえんだよ!!」

 

 

 突き出された右手。かすみが手を伸ばせば、それを掴むことが出来るだろう。

 

 

「それにお前がお前を信じなくてどうする!?誰よりも自分の可愛さを信じていたのはかすみだろうが!!諦めるな!!前向いて進め!!かすみを可愛くないとか言う奴は、俺がブッ飛ばしてやる!!だから自信持て!!かすみは可愛いし、自分を信じていれば何処までも、無敵級に可愛くなれんだよ!!」

 

 

 強い眼差しでかすみを見る翔琉。それに吸い寄せられる様に彼女は手を伸ばしていく。そしてその手を、翔琉はしっかり掴んでから彼女のことを纏わり付いてる闇から引き上げた。顔と顔が近付く。驚いた様子でおり、少し涙の跡のあるかすみの頬を優しく撫でてから彼は微笑んだ。

 

 

 

 

「ほら、可愛いじゃないか」

 

 

 

 

 その言葉で、胸が熱くなる。

 

 記憶を失っても、この人は私の為にこうして行動してくれた。その事が嬉して仕方なかった。私のことを可愛いと言ってくれたのも同じくだ。嗚呼……やっぱりこの人が、先輩が大好きだ。かすみはガバッと翔琉に抱き付く。2人が暖かな光に包まれ、より強く輝いていった。

 

 かすみは彼の胸に顔を埋め、小さな声で嬉しそうに呟いた……。

 

 

 

 

 

「先輩……大好きです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 光が次第に弱まりそして収まる。ダークファウストとカオスゴルメデはエックスとかすみが居た所に目を向けるが、そこにはどちらも居ない。何処に行ったのかと辺りを見回すとすぐに見つける事が出来た。エックスはファウスト達から離れた場所に膝立ちで座っており、その掌にはかすみが乗せられている。

 彼はかすみを優しく平たく大きめの岩の上に寝かせた。気を失ってはいるが、その顔は先程までの絶望したものではなく、憑物が落ちた様な安堵に満ちた表情だった。かすみに一度目線を飛ばした後、立ち上がってファウストとカオスゴルメデの方を向く。

 

 

「散々うちの後輩を虐めてくれたなクソ共……タダで済むと思うなよ?」

 

–––– အဲဒီခန္ဓာကိုယ်(その身体で) ငါဘာလုပ်နိုင်မလဲ(何が出来る)?––––

 

「何だって出来るさ……」

 

 

 エックスの胸のカラータイマーが輝いたのと同時に1枚のカードが輝きながら翔琉の前に飛び出す。彼はそれを掴み、迷うこと無くエクスデバイザーに装填した。

 

 

「俺はウルトラマンだ!!」

 

《ULTRAMAN ZERO LORD》

 

 

 この空間・ダークフィールド内ではエックスの力は半減し、サイバーカードも使用出来無い。しかし、以前友から貰ったカードは何故か輝き使用することが出来た。理由は不明。諦めないエックスの強い想いが起こした奇跡という他ないだろう。

 

 ウルトラマンゼロのサイバーカードから、ゼロの力がエックスへと流れ込んでいく。そして彼の目の前に、ゼロの使用していた三日月状の大剣・ゼロツインソードが現れた。その刃を掴み、ファウストとカオスゴルメデにそれを向けて構えた。瞳には奴らを必ず倒すという気概で満ちている。

 

 

「こっちも限界ギリギリだしな……速攻で潰す!!」

 

 

 大地を蹴って2体へと駆け出した。ファウストとカオスゴルメデは光弾を放つがエックスはそれを躱したり大剣を振り回して弾いてから無効化し、まずファウストに接近。

 

 

––––မင်း(貴様)……!?––––

 

「おらああッ!!」

 

 

 エックスの右拳が、ファウストの頬に叩き込まれてその身体を吹っ飛ばす。ファウストは不様にも地面に叩き付けられた。

 そして彼はすぐにカオスゴルメデに向き直り、ゼロツインソードを横に振り斬りつける。そして奴が悲痛な叫びを漏らしながら少し下がった後、エックスは前に出て大剣を地面に突き立て支えにしてから跳び上がり、炎を纏った蹴りをカオスゴルメデに放った。強烈な一撃を受け、カオスゴルメデも大きく吹き飛ばされてしまう。

 

 

 

 エックスは止まらない。フラフラしながら立ち上がったファウストに向かって走り接近し、大剣を乱雑に振るう。ファウストはどうにか躱していくがダメージが有る為かなり危うく、とうとう右手首付近を斬り裂かれた。斬られた傷口からは赤黒い光が血の様に吹き出ており、ファウストは苦悶の声を上げ腕を抑えながら後退していく。エックスが更なる追撃をしようとした時、立ち直ったカオスゴルメデが再び突撃してきた。角を突き出しての突進を、エックスは大剣で受け止める。

 

 

「いい加減……てめえもうぜぇ!!」

 

 

 大剣を上にへと思いっきり振り払い、カオスゴルメデを上空へと投げ飛ばした。そして彼自身もそれを追う様に飛び上がる。

 

 

「プラズマスパークスラッシュ!!」

 

 

 高速で接近し、眩い閃光を放つ刃をすれ違い様に横一閃に振るいカオスゴルメデを斬り裂いた。カオスゴルメデがそれに耐えられる筈も無く、見事に爆発四散する事になる。

 地面に着地したエックス。次はファウストを叩き斬る番だと、振り返る刃を構えた。しかし…………。

 

 

「ん……?何処に行きやがった……?」

 

 

 ファウストの姿は何処にも無かった。気配も感じられず、どうやら逃げてしまったらしい。

 

 

「チッ…………ッ!?」

 

 

 身体がフラつき倒れそうになるが、ゼロツインソードを杖にして何とかそれを防ぐ。肉体的には、既に限界を超えていたのだ。

 

 

「あー……しんど………」

 

 

 空間が次第に消滅していき、元の景色に戻っていく。それを見ながら、彼は翔琉の姿へと戻るのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ん………あれ……ここって?」

 

 

 かすみは校庭の木の下で目を覚ました。周りにあるのは何時もと変わらない風景。先程まで見ていたのは夢だったのだろうかと思える程に何の変哲の無い物だ。

 

 

「お?起きたみたいだな」

 

 

 声を掛けられたので隣りを見ると、そこには木に寄りかかって立っている翔琉がいた。

 

 

「先輩!?おっととっ……」

「ちょ、馬鹿。いきなり立つんじゃねえよ」

 

 

 立ち上がろうとしてフラついたかすみを翔琉が支える。

 

 

「あ、ありがとうございます……。先輩どうしてここに?やっぱり、さっきのって夢じゃないんですか!?」

「さっきの?何のことだ?」

「私のこと助けてくれたじゃないですか!?」

「うん、まあ確かに、何かその辺で涎垂らして寝てたかすみを今こうして面倒見てはいるな」

「そうじゃなくてぇ!?ていうか涎!?」

 

 

 かすみは急いで口の周りをゴシゴシと手で乱暴に擦った。因みに嘘であるので涎など垂れている筈も無い。

 

 

「嘘だよ」

「ちょ、酷いですよ先輩!?」

 

 

 頬を膨らませて怒るかすみを見て彼は笑う。

 結局さっきのは夢だったのか。凄く苦しくてつらい思いもしたが、翔琉が助けに来てくれたのも現実では無かったというのは彼女からしたら悲しい事であった。あの時彼に抱いた想いも、ただの自分の中での空想でしかなかったのだろうか……。そう思い少し寂しさを感じた時、翔琉が優しく頭に手を置いた。

 

 

「せ、先輩……?」

「なあ、かすみ。お前は自分のこと、どう思う?」

 

 

 翔琉からの質問。そこに悪ふざけの様なものは感じられず、かと言って堅苦しくも感じない。一瞬ポカンとしたかすみであったが、それに対する答えはもう決まっていた。

 

 

 

「それはもちろん!かすみんは無敵級に可愛いと思ってます!」

 

 

 

 胸を張ってとびっきりの笑顔で堂々と答えるかすみ。

 もう迷いはしない。私は私を強く信じ、誰よりも大好きでいるんだ。彼女の迷い無きその決意を、翔琉も感じ取ることが出来た。

 

 

「よし!かすみはそうでなくっちゃな」

「はい!これからどんどん可愛くなっていくかすみんから、目が離せなくなりますよ〜?」

「楽しみにしてるよ」

 

 

 2人は互いに笑い合う。そんな時、こちらに向かって歩いて来る1人の少女の姿が見えた。

 

 

「おーい、2人共ー」

「ッ、新城野じゃん」

「新城野先輩!良かったぁ〜、無事だったんですねぇ……」

「うん、何とかねぇ〜」

 

 

 そう言ってやって来た少女=明里は手をひらひらと振る。そこでかすみはある事に気付いた。

 

 

「え、新城野先輩怪我してるじゃないですか!?」

「あ、これ?いやぁ〜、逃げてる途中で転んじゃって……」

「全然無事じゃないじゃないですかぁ!?」

 

 

 明里の右手首から前腕にかけて包帯が巻かれていた。

 

 

「捻ったのか?」

「うん、そんな感じ」

「…………そっか」

「まあ、大した怪我じゃないから大丈夫だよ」

「大丈夫じゃないですよぉ!?」

 

 

 彼女の怪我を見てかすみはアタフタとしている。自分と逸れたことで明里が怪我をしたのかもと思っているのだろう。

 

 

 

「あははっ。心配してくれてありがとね。えっとぉ、中須かすみちゃんだよね?」

 

「はい!かすみんって呼んで下さい!あ、そうだ。先輩のこと明里先輩って呼んでいいですか?」

 

「良いよぉ。せっかくだし、お友達になろっか?」

「ぜひ!」

 

 

 何だか意気投合し楽しそうに話している2人。この2人は案外相性が良いのかも知れないと、やり取りを見ながら翔琉は思った。

 

 

「そうだ、他のみんなが2人のこと捜してたよー」

「本当ですか!?だったら早く行かないと……先輩、行きましょう!」

「あ、俺ちょっとやる事あるから、2人で先に行っててくれ」

「やること?」

「そう、やること」

「んー、なら仕方ないですね。すぐに来て下さいよぉ?」

 

 

 

 かすみに対して「分かってる分かってる」と適当な返事を返した翔琉。そしてかすみと明里が校舎に向かって歩いていきある程度離れた後、彼は口から血溜まりを吐き出した。

 

 

「ガハッ、ガハッ……!あー……畜生……最悪だぁ……」

 

 

 ファウストとカオスゴルメデとの戦闘は彼にとって凄まじい負担となった。木に寄り掛かってなければ立てないまでに翔琉は疲弊していたのだ。体重を木に掛けながらゆっくりと座り込む翔琉。あれだけボコボコにされて、よく生きていたなと自分でも関心してしまう程にはダメージを受けていた。

 

 

「翔琉君!?」

 

 

 そこへやって来たのは彼を捜索していたXio隊員の紗季と涼風だ。

 

 

「大丈夫……って酷い怪我!?一体何があったの!?」

「一先ず救護班を呼びます。気を確かに」

「だ、大丈夫っすよ、これくらい………ッ!?」

 

 

 無理に笑ってから立とうとするが上手くいかず、倒れそうになったところを2人に支えられた。

 

 

「全然大丈夫じゃないでしょ!?」

「無理は禁物ですよ、天地さん?」

「っ…………すんません……」

 

 

 結局翔琉はXioの医療施設に搬送される事になった。また同好会メンバーに怒られるかも知れないが仕方ないだろう。意識が若干薄くなっていく中、彼は今日自分の前に立ち塞がったモノのことを思い返す。

 

 

「ダークファウスト……何者だったんだ……?」

 

 

 突如現れ、自分を襲って来たダークファウストという存在。ウルトラマンの様な外見をした謎の怪物。奴の正体が何なのか?彼にはまだ解る筈も無かった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 その日の夜、人通りの無い裏道を必死に走る2人の男子高校生の姿があった。彼らは昼間に明里をナンパし、かすみを嘲笑った虹ヶ咲学園の男子生徒である。

 

 

「ひ、ひぃぃぃぃ!?」

「な、何なんだよぉ!?」

 

 

 全力で走る……というか逃走する彼らの背には、2つの異形と云うべき存在が迫っていた。

 1体は黒いスリムな身体で両腕に剣を備えた赤い目の宇宙人で、もう1体は鋭い爪で月明かり反射しながら追って来るマントの様な物を着けた宇宙人だ。

 ツルク星人とヒュプナス。2体の宇宙人は狩り……というよりも遊んでいるかの如く接近したり離れたりしている。時折掠める様に剣や爪を振るって彼らの恐怖心を煽り更に追い詰めていく。

 

 

「助けてくれえええ!?」

「うわああ!?」

 

 

 転んでしまった2人に宇宙人達が迫る。彼らの表情は恐怖で引き攣っており、それを愉しむかの様な嗤い声が宇宙人らから聞こえてきた。

 

 

「く、来んじゃねえ!?」

「あ、ああ、あっちに行きやがれ!?」

 

 

 持っていた通学バックかポケットの携帯などを取り出して奴らに投げるがそんな物が効果ある筈もなく、ツルク星人とヒュプナスはじわじわと距離を詰めて更なる恐怖を掻き立てる。それらから逃げようと後退る2人。だが直後、後ろより伸びて来た光る触手が彼らのことを捕捉し持ち上げた。

 

 

「うわああああああ!?」

「ひぃぃぃ!?な、何が!?」

 

 

 振り向くとそこに広がっていたのは一面の白霧。そしてその中から、頭頂部に巨大な単眼を持ち、足元に巨大な口のある昆虫に似た怪獣が姿を見せた。この怪獣・ゴングリーは伸ばした触手で2人のことを強く締め付ける。骨の軋む音、肉の潰れる音、皮膚の千切れる音、そして凄まじい絶叫。ゴングリーはそれら全てを口の中に放り込んで掻き消した。

 

 

 怪獣も宇宙人も消失し、静寂に包まれたこの場に1人の少女が現れた。明里である。

 

 

「フフッ、楽しかったー」

《おやおやおや……ご機嫌じゃないか明里》

「うっざい馬鹿を殺せたからねぇー。あの馬鹿達の最期の声、笑えたなー。あはは」

 

 

 笑う明里。その左手にはツルク星人、ヒュプナス、ゴングリーの怪獣カプセルがあった。彼らを殺せた事に、良い充実感を感じていた。

 

 

「じゃあ、行こうか」

《ああ。そういえばウルトラマンはどうするんだい?》

 

 

 ウルトラマンという単語に明里は反応する。

 

 

「うーん。さっさと殺したいんだけどねぇ……」

《なら、彼ら(・・)を使うかい?》

「まあ、その辺は適当にやっていいよ」

 

 

 本当にどうでもいいと言った感じの態度を取る彼女。以前エンペラ星人を仕向けてまでエックスを殺そうとした人物と同じとは思えない様子だ。

 

 

《おやおやおやおや……》

「じゃあ、そういう感じでよろしくねー」

 

 

 明里は歩いて去っていく。そんな中ふと思い返すのは昼間、自分のことを助けてくれた翔琉と友達になったかすみのこと。初めての気持ちを感じさせてくれた彼らのことを思うと、何だか少しだけ気分が良くなる。

 

 

「フフッ……」

 

 

 軽い足取りで、明里は帰っていくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 とある廃倉庫。そこにいるのは複数の宇宙人達が屯していた。そしてそんな奴らに話を掛けているのも宇宙人……デスレ星雲人ダイロだ。以前脱獄ハンターズとしてXioとエックスを襲撃したが撃退され、1人だけ逃げ出した者だ。

 ダイロは宇宙人達の真ん中にいる者に対して交渉をしている。その者は地球人の男性の姿をしているが、これは擬態によるものであり本来の姿ではない。

 

 

「なるほど……コイツがターゲットか」

「ああ。アンタ程の殺し屋なら、楽勝だろ?報酬は言い値で払うから、そいつをぶっ殺してくれ!」

 

 

 その言葉に口角を上げたその宇宙人はダイロから受け取った2枚の写真を投げたあと、それにナイフを投げた。投げたナイフと共に、写真は壁に貼り付けられる事になる。

 写真には、エックスと翔琉が写されていた。

 

 

「殺し屋?確かにそうだが、ちょっと違うなぁ……」

 

 

 首のチョーカーに触れると全身が鎧に包まれた。武器である手斧を刃をギラつかせ、ダイロに見せ付ける。

 

 

 

 

 

「俺は超一流の殺し屋(エースキラー)だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 物語は進んでいく。誰も止めることは出来ず、清濁併呑しながら。歌い続ける少女達を守る為に戦う者、己の欲の為に動く者、退屈を満たす為に戦う者、最後に残るのは誰なのか?それを知り得る者はまだ居ない。

 

 

 青く輝く海。そこで出逢う少女達。それが次なる物語の鍵。輝きを求める者達との邂逅は、彼に何をもたらすのだろうか–––––––

 

 

 

 

 

 




かすみ個人回、そして第一章、これにて終了です!
ファウストという強敵をゼロの力で何とか退けてかすみの命と心を救う事に成功した翔琉。しかしファウストはまだ生きており油断は出来無い状態……。奴の目的は何なのか?それが明かされるのはまだ先になりそうです。

そして怪獣を利用して人間を殺した明里。今回召喚したのは「ウルトラマンレオ」よりツルク星人、「ULTRASEVEN X」よりヒュプナス、そして「SSSS.GRIDMAN」よりゴングリーになります。翔琉、かすみと友達になった一方でルギエルと共に怪しい動きをする彼女……一体何が目的なのか?
彼女の今後にもご注目下さい。

更に、漫画「ULTRAMAN」より、エースキラーの参戦です!
生き残っていた脱獄ハンターズのダイロに翔琉の殺害を頼まれたエースキラー。どの様な戦いになるのか、是非お楽しみに!


さて、これにて一章が終わり、次回から第二章「Aqours編」となります!以前陸から話は聞いていたAqoursとの本格的な邂逅が彼に何をもたらすのか、是非お楽しみにしていて下さい!

それでは今回はここまで!
感想、質問、高評価、山形りんご、その他、是非是非お待ちしてるんご!



次回、Aqours編スタート!



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18.輝キ放つ海で

遅くなってすいません!

今回から遂にAqours編スタート!!
そして現れるのはあの怪獣……。

それでは早速どうぞ!!




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雲一つ無い青空、ギラつく太陽、深緑の木々に止まり鳴く蝉。正に夏というこの日、翔琉はバスに揺られながらとある場所へ向かっていた。窓の外の景色をぼーっと眺めている翔琉。隣りにはXio隊員でラボチーム所属、翔琉の先輩となる水瀬 陽花が座っている。

 少し不機嫌そうな表情をしている彼に、陽花が声をかけた。

 

 

「何だか、嫌そうな感じっすね?」

「ん?あ、ああ、すんません……」

「いいっすよ気にしなくて。まあ、翔琉さんの気持ちも分からなくないっすから」

 

 

 陽花と共に移動していることと彼が少し不機嫌な理由。それは少し時を遡ることになる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 約1ヶ月前にとある地に突如として怪獣が現れた。怪獣は出現した休耕田で眠ったり起きたりを繰り返しているだけで動くことなく、光合成を行い排泄をしないという植物の様な性質を持っていた。一切の害が無く、その地ではこの怪獣を利用して町興しをしようと考えており、Xioは町の住民との協議をし怪獣を保護下に置いてモニタリングをしていた。

 

 

 

 

「このタイプGの怪獣何ですが、これを見て下さい」

 

 

 Xio司令室に集まったメンバー達。彼らの前に立つ陽花と涼風はモニターへの注目を促した。そこには2つの多角形のグラフが映されている。涼風は説明を続けていく。

 

 

「これは怪獣の栄養値を表したものです。右は現れてすぐの、左は2日前に測定したものです」

「何か、明らかに小さくなってるな」

 

 

 イヅルの言う通り、右のグラフはバランス良く綺麗な形をしているが、左のものはかなり小さくなっておりバランスも悪い。

 

 

「つまり、この怪獣は栄養失調になってるってこと?」

 

 

 隊長である沙優の言葉に陽花が頷いた。

 

 

「けど、この怪獣は光合成をして生きてるんだよね?最近は天気も決して悪くなかったし、何故こんな事に?」

「もしかして、普通に食事が必要なのか?」

「いえ、試しに目の前に野菜や魚、肉などを置いてみたんっすけど、どれにも反応を示さなかったので食事はしないみたいっす」

 

 

 リュウジとハヤテの疑問に陽花が答える。水を与えたりもしてみたが、それでも栄養値が上がる事をなかった。脳波も弱っていてこのままでは死んでしまうかも知れない。

 

 

「町の、住民は、何と?」

「怪獣の治療を望んでいます」

「怪獣に攻撃性は無い。観光の目玉にもなるし、町としては死なせたくないのだろうな…………ん?なんじゃ、翔琉。変な顔しおって」

 

 

 シャマラ博士の言う通り、翔琉は眉間にしわを寄せて怪訝な表情をしていた。

 

 

「え、いや……だって、怪獣が出たんでしょ?だったら悠長なことしてないでさっさと倒すべきじゃないんっすか?」

 

 

 これまで怪獣や宇宙人と戦って来た彼にとって、それらの存在は悪しきモノであるという認識が強く、それを町興しに利用する為に保護したり、弱っているからといって治療したりしようとするのは理解し難かった。怪獣がいるのなら早急に駆除する。それが彼の考えなのだ。特に前回戦ったダークファウストのことがその思想を強くさせているのだろう。驚異的な力でかすみを精神的に追い詰め、翔琉のことを痛め付けたファウスト……奴に対する怒りが、怪獣や宇宙人を殲滅すべきだという考えを加速させた。

 

 翔琉の言葉を聞き、他のメンバー達は彼の思考を理解して少しだけ笑った。その反応に翔琉が何だと思っていると、紗季が代表する様に口を開く。

 

 

「翔琉君は、怪獣は全部倒すべきだって思うの?」

「そりゃまあ……現に怪獣の所為で碌でもない目に遭ってますし」

「けど、この怪獣はまだ何もしてないよ?」

「でも、いつ暴れたっておかしくは無いじゃないっすか?だったら先に倒してしまった方が……」

 

 

 あくまでも倒すべきだと考える翔琉。そんな中、沙優がある提案をする。

 

 

「今回の作戦、翔琉君も現地に赴いて参加してみない?」

「へ?」

「今は夏休みで授業も無いし、良い機会だと思うの。私達Xioのことをよりよく知ってもらえるね。勿論無理強いはしないけど、どうかしら?」

「まあ、別に構わないっすけど……同好会のみんなには話通せばいいだけだし……」

「なら決まりね!ハヤテ隊員、イヅル隊員、紗季隊員、涼風隊員は先行して現地に向かって。翔琉隊員は陽花隊員と一緒に後から合流を。作戦の指揮は涼風、陽花のラボチーム2人に任せるわ。シャマラ博士とミキリ隊員、ミハネ隊員は基地からモニターで状況を観察してサポート。リュウジ隊員とザムザ副隊長はいざという時に備えて基地で待機。それじゃあ、Xio出動!」

 

『了解!!』

 

 

 沙優の命を受けて、Xioメンバー達は行動を開始したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで母に許可を取り、同好会のメンバーに話しをしてから、翔琉は陽花と共にバスに乗って目的地まで向かっているのだ。しかし、やはり怪獣を助けるというのことにはまだあまり納得出来ていないらしい。

 

 

「怪獣なんて、俺からしたら敵にしか思えない……。アイツらの所為で、沢山の被害が出てる訳だし。ささっさと倒してしまうのが、一番じゃないかなって」

「なるほどぉ。確かに、翔琉さんの言い分も分かるっす」

 

 

 だけど、と陽花は言葉を繋ぐ。

 

 

「怪獣もこの星に生きてる仲間なんっすよ。それに宇宙人だって、広い宇宙に生きてる仲間。とても尊い命なんっす。だから私達は、それを無闇矢鱈に奪う様な事はしたくないんっすよ」

「それはぁ……分からなくはないですけど……」

 

 

 怪獣や宇宙人は倒すべきだと考えてる彼だが、別に安易に命を奪う事を好んでいる訳ではない。少しモヤモヤしている翔琉に、陽花はカバンからあるものを取り出して見せた。それはスパークドールズである。

 

 

「それって確か、ゴモラでしたっけ?」

「そう!あたしの家族っす!」

 

 

 怪獣が家族とはどういうことなのだろうかと彼は不思議そうな表情を浮かべる。

 

 

「あたしの両親はUMVERの研究者だったんっす。父は考古学者としてスパークドールズを、母は宇宙物理学者として宇宙誕生の謎を研究してたんです。このゴモラは父の研究対象で、小さい頃からあたしは父の目を盗んでこの子に話しかけていたっす。それに、両親はそれぞれの研究をしながら怪獣との共存の道を探してました」

「共存の道……?」

「はい。人間と怪獣、そして宇宙人達と共存していく世界……それが2人の夢でした。だから、大きくなったらあたしもそれを手伝いって思ってたんっす。でも……」

 

 

 そこまで話した後、彼女の顔は少し曇る。

 

 

「18年前、2人はスパークインパクトで亡くなりました……研究所を怪獣が襲って瓦礫の下敷きになったんっす」

「…………怪獣のこと、恨まなかったんっすか?」

「そりゃあ、最初は恨みましたよ……大好きな両親を殺されたんですからね。けど、2人の言葉を思い出したんっす」

「言葉?それって一体……」

 

 

 首を傾げる翔琉。陽花が思い出したという言葉が何なのか、それを聞こうとした時バスのアナウンスが鳴った。どうやら降りる停留所にもうすぐ着くそうだ。

 

 

「もう着くみたいっすね。ほら、アレ」

 

 

 彼女が指差した方向に彼は目を向けた。

 陽に照らされ輝く海。白い砂浜。緑の生茂る山。そしてその風景に妙に馴染んでいる青い巨体……アレが件の怪獣。弱々しく揺れるだけで特に何もしてない。

 

 

 ここは静岡県沼津市内浦。自然に満ちた美しい町である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 目的地に着いた翔琉と陽花。町では数日後に行われる祭・沼津サマーフェスティバルの準備が進められていた。既に幾つかの露店が出されており、そこには怪獣まんじゅうや怪獣せんべえ、怪獣みかんパンなる物の他にも、あの怪獣を美少女に擬人化させたキャラクターの描かれたTシャツなどまでが売られていた。

 2人は市長に案内されて怪獣の姿がよく見え、店のいくつか出されている場所に来ていた。怪獣は相変わらず動かない。

 

 

「いや〜、怪獣のお陰で毎日がお祭りですよぉ〜!観光客もどんどん増えてて本当に怪獣様々です!」

 

 

 嬉しそうに語る市長。呑気そうな市長を見て翔琉の眉間に少しだけシワがよる。それに気付いた陽花が彼の背を軽く叩いて優しく諫めた。

 

 

「その怪獣が栄養失調なのは放っては置けません。ここはどうか一つ、お願いします」

 

 

 市長は彼らに頭を下げる。観光資源としてと云うのもあるが、1人の人間としてその命を心配しているのだろう。

 

 

「任せて下さい。あたし達が、責任を持って怪獣を治療するっす!ね、翔琉さん?」

「へっ?あ、はい。が、がんばるっす」

「いやぁー、頼もしい限りです!」

 

 

 楽しそうに笑う市長、陽花と苦笑いする翔琉。するとそこへ、市の職員が大慌てでこちらに走って来た。

 

 

「た、たた、たた大変です市長!!」

「どうした、そんなに慌てて!?」

「か、かかか怪獣……怪獣……!」

 

 

 まさか怪獣が暴れ出したのかと思いすぐに振り向く翔琉だったが、怪獣は特に動いていない。

 

 

「怪獣の名前をウラッシーにするかヤマゴンにするかでめっちゃ揉めてます!」

「なぁぁぁぁぁにぃぃぃぃ!?内浦のウラッシーが良いに決まってるだろ!?ヤマゴンなんて古臭過ぎる!!」

「でもうちっちーと被ると言う人が」

「名前が似てるなんてよくあるわ!!仕方ない!私が説得しよう!!ではお二人共、怪獣のことよろしくお願いします。せっかくなので祭りの方も見て行って下さい。行くぞ!!」

 

 

 市長と職員はバタバタと走り去っていってしまった。「嵐かよ……」と呟く翔琉と苦笑する陽花。

 

 

「とりあえず、あたしは他のみんなと合流しますね。翔琉さんはせっかくなんで、この辺りを観光してきたらどうっす?」

「でも、大丈夫っすか?」

「はい。作戦開始時には連絡しますんで、それまで自由に行動してもらって大丈夫っす。それにこの町の自然に触れて、少しリフレッシュして気分転換してきたらどうっすか?」

 

 

 今回の作戦のことやファウストのことでいろいろと頭を悩ませてる翔琉への心遣い。彼はそれを受け取ることにし、「なら、行ってきます」と言ってから取り敢えず海の方へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 10分程歩いて砂浜に辿り着いた翔琉。目の前に広がるのは陽光を受けて輝く雄大な青い海。青空には白い雲が流れており、うみねこの声が鳴り渡っている。振り向くとそこには山が3つ。そしてその間にあの怪獣……異様な風景にも思えるが妙に馴染んでいる。

 

 

「怪獣との共存、か」

 

 

 バスの中での陽花の言葉を思い出す。それと同時にこれまでの戦いのことも。

 デマーガ、エンペラ星人、ラドン、ケイプ、ジェイラ、ダイロ、ベムスター、バキシム、レッサーボガール、ゴルメデ、そしてダークファウスト。今まで戦った全ての怪獣や宇宙人が敵意や悪意を持って牙を剥いてきた。翔琉の身体にはそれによる傷が幾つも刻まれている。見つめる先にいる動かないあの怪獣も、いずれ暴れ出して自分と戦う事になるのだろうと彼は考えていた。

 

 

「無理だろ、そんなの……」

 

 

 こんな生物達とどう共存しろと言うのだ……陽花には悪いが、絶対に無理だという考えが彼の頭の中に浮かんでいた。

 

 そんな時強い風が吹き、彼の目にあるものが映った。こちらに向かって飛ばされてくる1枚のタオルとそれを追い掛けて走っている1人の少女の姿。タオルは翔琉の頭上を通り過ぎようとした為、彼は大きく跳び上がりそれを見事にキャッチした。

 

 

「おしっ」

「あ、ありがとうございます!」

 

 

 少し息を切らしながらこちらに走って来たオレンジ色の髪の少女は翔琉に頭を下げた。翔琉はそんな彼女に「ほれ」と掴んだタオルを渡す。

 

 

「よかったぁ〜!これお気に入りのタオルだったから、無くなったらどうしようかと思ったよぉ〜!」

「なら、飛ばさないようにな」

「うん!あれ?もしかしてその服、Xioの人ですかぁ!?」

 

 

 今の翔琉はXioの隊員服を着ている。少女は彼のそれを見て目を輝かせた。

 

 

「え、まあ、そんなところかな」

「じゃあじゃあ、ホオリンガのことを見に来たの!?」

「ホオ……リンガ?」

「あの怪獣だよ!」

 

 

 彼女の指差す先にいるのは動かない怪獣。奴の名はヤマゴンでもウラッシーでもなくホオリンガと云うらしい。けど、何故この少女は怪獣の名を知っているのだろうか?それとも適当に命名しただけなのか?

 

 

「なあ、何でアイツの名前知ってるんだ?」

「私の仲間が教えてくれたんです!その子、ホオリンガのこと詳しいから!」

「仲間?」

「あ!そういえばまだ自己紹介してなかったですね!」

 

 

 少女はキラキラと輝く笑顔を翔琉へと向け、自身の名前を口にする。

 

 

「私は高海 千歌!スクールアイドル、Aqoursの一員です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翔琉とAqours。これが初めての出逢いであり、彼の運命がまた少し動き出した瞬間でもあった––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





始まったAqours編、前半はホオリンガの話となります。
そしてウルトラマンX本編で書かれた怪獣との共存についても少しずつ触れていくつもりです。
千歌と出逢った翔琉。Aqoursについては陸から名前だけ聞いてた彼ですが、この出逢いが何をもたらすのか、是非お楽しみに。

それではまた次回

感想、質問、高評価、その他、山形りんご、是非是非お待ちしてるんご!



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19.不動ノ怪獣

遅くなってごめんなさい!

虹アニメ、良いですね……めちゃくちゃ面白いです!
そしてZも毎回楽しくて最高です!

ウルトラもラブライブも盛り上がってる2020年!
虹Xも頑張っていきます!

ではAqours編2話目、早速どうぞ!!


 

 

 

 

 

 

「あーあー、つまんないなぁー」

 

 

 同好会の練習中、かすみがそんなことを呟いて床にゴロンと寝転がった。

 

 

「かすみさん、ちゃんと練習しないとダメだよ?」

「そうだぞかすかすー。訓練なんてやめてくんれん(・・・・)なんて言わんでくんれん(・・・・)!ってね」

「だってだってぇ!先輩いないとつまんないんだもん!あと、愛先輩かすかすって呼ばないで!」

 

 

 身体を起き上がらせて膨れるかすみを見て皆が笑う。翔琉は内浦にXioの隊員として向かっている為、今日と明日は同好会の練習に参加しない。

 

 

「翔琉君、大丈夫かなぁ?また怪我とかしてないと良いけど……」

「確かに少し心配……璃奈ちゃんボード『ハラハラ』」

「多分大丈夫なんじゃない?だってほれ」

 

 

 これまで怪獣絡みで数度入院してる彼のことを心配してそわそわしてるエマと璃奈に彼方がスマホを見せた。そこに映されていたのはあの全く動かない怪獣、ホオリンガの姿だ。

 

 

「この怪獣、ずっと動かないで眠ってるばっからしいからねぇ〜。羨ましいなぁ〜」

「翔琉達はこの怪獣を退治しに行ったのかしら?」

「何も悪い事してないのにですか……?」

「そんなの可哀想……」

 

 

 何もしていないホオリンガをXioが倒すかも知れないという思い、可哀想だと感じるしずくと璃奈。その2人にエマが「大丈夫だよ」と声を掛けた。

 

 

「Xioは無害な怪獣の保護や怪我をした怪獣の治療もすることがあるから、今回もそういうこと何だって思うよ」

「エマ先輩、詳しいんですね」

「スイスにいた時に勉強したんだ。Xioの本部はスイスのジュネーヴにあるんだよ」

「じゃあ、かけるんもこの怪獣の保護の手伝いに、静岡まで行ったんだね」

「そう!静岡県の沼津市内浦!あのAqoursのいる浦の星女学院がある所です!正直、羨ましいです……!」

 

 

 興奮して声を上げているせつ菜。スクールアイドルが大好きなせつ菜からしたら、彼の内浦行きは羨ましいのだろう。彼女の表情を見てみんな笑っている。

 

 

「Aqoursかぁ……そういえばアキバであの子と一緒に見たのが、μ'sとAqoursの合同ライブだったなぁ」

「確かそれを見て、先輩はスクールアイドルを応援したいって思う様になったんですよね?」

「うん。あの日が私達にとってスクールアイドルとしての道の始まりだったのかもね。まあ、翔琉君は覚えてないだろうけど」

 

 

 翔琉と一緒に出掛けた帰りに、秋葉原のビルにあるモニターで見たμ'sとAqoursのライブを思い返す歩夢。あの時翔琉がそれを見て強く感動し、それがきっかけで彼はスクールアイドルを応援する為に動き出してここまでやって来た。記憶を失うというアクシデントもあったが、それでも翔琉はスクールアイドルであるみんなの為に一生懸命になっている。

 

 

「今頃かけるん、Aqoursに会ってたりするかもよ?」

「だとしたら羨ましいです!!」

「流石にそれは無いんじゃないかなぁ〜?」

「ふふっ、どうだろうね?」

 

 

 彼の話題で盛り上がる同好会のメンバー達。一方その翔琉はというと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇー、高海の家って旅館やってんだ」

「うん!十千万っていう所だよ。露天風呂が自慢なんだー!」

 

 

 海辺で知り合った高海 千歌と共に内浦の町を歩いていた。彼女に町を案内してもらいながらある場所を目指しているのだ。千歌の明るい性格と同い年ということもあり、2人は意外早く打ち解けて来ていた。

 

 

「けどまあ、まさかAqoursのメンバーと会えるとは思ってなかったわ」

 

 

 スクールアイドルAqours。

 

 以前、こちらの宇宙に来たウルトラマンゼロと一体化している青年・仙道 陸から話を聞いていたスクールアイドルだ。この宇宙にもいるんじゃないかと話していたが、まさか本当にいるとは思ってなかった。そういえば彼女、部室に飾ってあるポスターに写っている人物に似ている様な……。

 

 

「チカもスクールアイドルやってる人と会えるなんてびっくりだよー!」

「いや、俺はアイドルやってないからな。ただのサポートだ」

 

 

 「あ、そっかー!」と言って笑う千歌。どうやら彼女は翔琉もアイドルをしていると思っていたらしい。

 

 

「つーか、俺がアイドルなんて向いてねえよ」

「そうかなー?結構いけると思うよ!」

「無理無理」

 

 

 アイドルなんて柄じゃない。そうこう話してる内に、目的の場所に辿り着いた様だ。

 

 

「ほら、ここだよ!」

 

 

 着いた場所は浦の星女学院。千歌の通っている女子校である。ここにホオリンガについて知っている千歌の仲間がいると聞きこうしてやって来たのだ。

 

 

「ていうかさ、俺男だけど入っていいの?」

「んー、いいんじゃないかな?多分」

「んな雑な……」

 

 

 ふと目線を横に向けた時、ある物が目に入った。校門に貼られている貼り紙。

 

 

「廃校……?」

 

 

 そこに書かれていたのは廃校に関する知らせという文字。

 

 

「おーい!こっちだよー!」

「お、おう」

 

 

 ちゃんと読もうとするより先に千歌に呼ばれた彼は彼女の方へと歩いていった。

 

 

 

 途中ですれ違う女子生徒に好奇の目でみられたりしながらも、2人が辿り着いたのは屋上。ホオリンガのことも見えるそこには8人の女子生徒がいた。

 

 

「みんなー!」

「あ、千歌ちゃん」

「おかえり千歌」

「おかえりー!って、その人は?」

「観光の人?」

「ずら?」

「勝手に連れて来てはダメですよ?」

「ひっ……!?」

「千歌ちゃんのBoy friendかしら?」

 

 

 皆彼女と共にいる翔琉のことが気になっている様子。その中で赤い髪をツインテールにした少女は表情を痙攣らせていた。

 

 

「違うよ鞠莉ちゃん。この人は天地 翔琉君!Xioの人でホオリンガのことを調べる為に来たんだって!」

『Xioの!?』

「ああ、よろしく」

 

 

 千歌の紹介に驚くみんな。すると1人の少女が勢い良く彼の元に寄って来た。

 

 

「じゃあこれって、本物のXioの制服なの!?」

「ま、まあ、そうだが……」

「凄い!いいなぁー!ねえ、ちょっと脱いで!」

「は?」

「いいでしょ!?ちょっとだけ!ちょっとだけでいいから!」

「いや、ちょ、待てや!?」

 

 

 少女は目を輝かせ息を少し荒くしながら翔琉の上着を脱がそうと試みて来る。翔琉は必死で抵抗するがこの少女意外と力が強い。傷付けない程度に力を込めて引き剥がそうとはするものの、なかなか離れてくれず苦戦している。そしてその少女に千歌ともう1人赤い髪の少女が掴みかかって止めた。

 

 

「ダメだよ曜ちゃん!?」

「そうよ落ち着いて!?」

 

 

 2人により引き離された曜という少女。

 

 

「な、何だったんだ……?」

「あはは、ごめんなさい。その子制服が大好きで……」

「いや、だとしても普通いきなり脱がすか?」

「んー……本当にごめん」

 

 

 青い髪の少女が苦笑いしながら謝り、彼も特に怒る気は無く溜め息を吐くだけだ。

 

 

「私は松浦 果南。この学校の3年でAqoursのメンバーです」

「あ、先輩だったんだ。俺は高海が言った様に天地 翔琉って言います。Xioでインターンさせてもらってる虹ヶ咲学園の2年生っす」

「わたくし達と同じ高校生なのにXioに所属してるなんて凄いですね。わたくしは黒澤 ダイヤと申します。果南と同じ3年生です」

 

 

 果南とダイヤの自己紹介に、翔琉は自身も改めて自己紹介をしてから頭を下げる。

 

 

「私は小原 鞠莉!3年生よ!気軽にマリーって呼んでね?」

「あー……それは勘弁っす」

「私は桜内 梨子。千歌ちゃんと同じ2年生です。そしてこっちがぁ……」

「2年の渡辺 曜です。ごめんね、つい興奮しちゃって……」

「別に大丈夫だから、気にすんなよ」

 

 

 謝る曜に気にするなという彼の前に、颯爽と頭にシニヨンを作った少女が立った。

 

 

「フフフッ……我名はヨハネ!この現世に堕天した悪魔よ!」

「…………」

「このヨハネに出会えたなんて、貴方はとても幸運だわ。どう?私のリトルデーモンになって、一緒に堕天しないかしら?」

「え、何コレ?」

「指差すなぁ!?コレって言うなぁ!?」

「この子は1年生の津島 善子ちゃんだよぉ〜」

「よ!?よよよよ、よよよ善子じゃなああああああい!!?」

「はいはい津島ね」

「うっ……名字呼び……。ちょっとやり辛い……」

 

 

 ヨハネ……もとい善子を適当に流す翔琉。ふと、ダイヤの背後に隠れてこちらを伺っている少女の姿が目に入った。先程翔琉を見て少し表情を攣らせた赤髪の子だ。

 

 

「…………」

「う、ううぅ……」

「こらルビィ。貴女もちゃんと挨拶なさい」

「は、はい……。く、黒澤 ルビィでしゅ!……あ、噛んじゃったぁ……」

「ごめんなさい、わたくしの妹なのですが、この子は男性の方が苦手でして」

「ああ、成る程」

「ごめんなさい……」

「別にいいよ。無理すんな」

 

 

 申し訳なさそうに目を伏せるルビィ。少し意地の悪いことをしている様で何とも言えない気持ちになってしまう。そんな中、最後の少女が翔琉のことをじっと見ながら近付いてきた。

 

 

「?」

「マルは国木田 花丸ず……です」

「国木田か。よろしく」

「はい。お兄さん、ホオリンガのこと調べに来たって言ってたけど、どう調べるんですか?」

「ああ。なんかあの怪獣弱ってるらしくてさ。だから、注射ブチ込んで栄養与えるらしいぜ」

「注射!?」

 

 

 花丸は驚き目を見開く。

 

 

「そんなの絶対ダメずら!!ホオリンガは病気じゃないずら!!」

「は、はぁ?いや、でも現にアイツ弱ってるし……」

 

 

 ホオリンガの方を向いて見ると相変わらず弱々しく鳴いてるだけで動かないでいる。そしてそのホオリンガにXioのマスケッティがゆっくりと近付いていた。陽花が作戦開始時には連絡をすると言っていた筈だがと思いスマホとエクスデバイザーを見てみるが何も来ておらず、それどころか何故か繋がらなくなっていた。

 

 

「圏外か?いや、でもあり得ねえよなそんなのは……」

「とにかくダメ!!やめて欲しいずら!!」

「千歌からもお願い!」

「え、あー……いや、でもよぉ……」

 

 

 必死に翔琉に訴える花丸と千歌であるが、陽花と連絡が取れない以上どうしようも出来ない。

 そうこうしてる内にマスケッティはスカイモードからタンク型のランドモードに変形。栄養剤の入った治療弾の込められたレール砲をホオリンガへと向ける。そしてその弾丸を発射した。放たれた弾丸は見事に顔の横辺りに命中し、栄養剤を注入していく。

 

 

「嗚呼!?」

「ホオリンガ!?」

 

 

 その様を見て声を上げる花丸と千歌。周りのAqoursメンバーも息を呑み、翔琉もどうなるのだろうかとホオリンガを見つめた……。

 

 

 

 

 

 

 怪獣の栄養値の低下は止まった。

 しかし、数秒の停止の後ホオリンガは咆哮を放ってから触手を動かし身体を捩らせて暴れ出した。栄養値はどんどん上昇していき、地底に伸びていた根っこが地面から飛び出して周囲を破壊していく。

 

 

「何!?」

「ホオリンガぁ!?」

 

 

 ホオリンガから伸びる根は木々を倒し、古くて使われなくなった小屋を破壊する。

 

 

「止めなきゃ!?」

「ずら!」

「ちょ、千歌ちゃん!?花丸ちゃん!?」

 

 

 千歌と花丸がホオリンガの元に向かう為走っていき、他の7人もそれを追って走る。それを見送った後、翔琉はエクスデバイザーを手にしてからホオリンガを睨んだ。

 

 

「やっぱ怪獣ってことか……こんなのと共存なんて出来るかよ!」

 

 

 これまで見てきた怪獣達同様暴れて周囲を破壊してるホオリンガを見て、彼は改めて怪獣との共存だなんて無理だと感じた。奴も早く倒すしかない。翔琉はエクスデバイザーの突き出してからエックスに変身しようとする…………が。

 

 

「ちょっと何やってんのよ!?」

「ッ!?」

 

 

 上部のスイッチを押す寸前で背後から声を掛けられた。驚いて振り返るとそこには善子がいる。どうやら着いてきていなかった翔琉のことを呼びに戻ってきたらしい。

 

 

「貴方も早く来てよ!」

「いや、ちょ、おい!?」

 

 

 善子に手を引かれて行く翔琉。無理矢理振り解く訳にもいかず、彼はそのまま彼女と共に千歌達を追う事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、行っちゃったか」

 

 

 その者は翔琉のことを見下ろしていた。

 まるで透明な足場があるかの如く上空に立っており、浦女を出てホオリンガの所へと連れて行かれている彼のことを笑みを浮かべながら見ている。その手には、赤くて丸っこい怪獣のスパークドールズが握られていた。

 

 

「変身してあの怪獣殺してくれたら面白かったのに……残念だなぁ」

 

 

 実はこの者が、手にしている怪獣のスパークドールズの力を利用して電波障害を起こし翔琉に他者との連絡を出来無い様にしていたのだ。

 

 

「まあいいや。まだ時間はいっぱいあるんだから、ゆっくりたくさん遊ぼうね……人間擬き、そしてウルトラマン擬き君」

 

 

 そう言うとソレはまるで煙の様に、そこから消えてしまった–––––。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 一通り暴れたホオリンガは少しだけ落ち着いたのか身体の方はあまり動かなくなってきた。しかし根はぐんぐんと伸びており、この前では内浦全体が奴の根が拡がり沼津にまで至るだろう。

 

 

「怪獣の栄養値が異常なまでに上昇していってます。どうやら、栄養剤が予想以上に効き過ぎてしまったみたいです」

「うう……もう少し慎重にやるべきだったっすぅ……」

 

 

 ホオリンガの様子を見ながら落ち込む陽花。

 

 

「怪獣に攻撃の意思は?」

「ありません。ただ薬が効き過ぎた事で体組織が活性化し、自分でもそれをどうにも出来ていないだけだと思われます」

 

 

 紗季の問いに涼風がそう答える。ホオリンガに悪意は無いのだ。

 

 

「それと、これは先程分かったのですがあの怪獣が眠っていた大地の辺りの植物ホルモンが上昇をしていました」

「それってどういうことだ?」

「怪獣が、周囲の土壌を豊かにしていたんっすよ。恐らく、自分の栄養を地面に送っていたんだと思うっす」

「でも、どうして?」

 

 

 イヅルとハヤテに聞かれるが、それは陽花達にも分からない。この地を豊かにする為にホオリンガはやって来たのだろうか?何れにせよ、今はこれ以上根が拡がらない様にしなければ。

 

 

「町外れの原っぱに移動させましょう。そこで解毒剤を打ち込んで栄養素を排出させます。完全に排出し切るには丸2日掛かりますが、この原っぱに移動させれば大きな被害を出す事は無いでしょう」

「けど、どうやって怪獣を動かすの?」

「このサイバーカードを使うっす!」

 

 

 陽花が取り出したのは2枚のサイバーカード。

 

 

「これは磁力怪獣アントラーと磁石怪獣ガルバンのカードっす!まずアントラーの磁力光線で怪獣を磁石化。それからガルバンの力でマスケッティで引き寄せながら怪獣を原っぱへと移動させるっす!」

 

 

 作戦の説明を受け、それならいけるだろうと紗季、イヅル、ハヤテは準備をしようとする。が、その時千歌と花丸が彼女達の元に辿り着いた。

 

 

「あ、あの!?」

「あれ、貴女達は……」

「Xioの人達ですよね!?ホオリンガを、そっとしておいて下さい!」

「ホオリンガ?もしかして、あの怪獣?」

 

 

 頷く2人。更に他のAqoursのメンバー、そして翔琉もやって来る。

 

 

「翔琉君!連絡取れなかったけど、何かあったの?」

「ていうか、この子達ってあのAqoursだよな?何でここに?」

「いろいろありまして……。あ、けど、何で繋がんなかったかわ俺もわからないっす」

 

 

 紗季とハヤテと話す翔琉。その横ではAqoursのみんなが涼風と紗季にホオリンガをこれ以上刺激しないでくれと頼んでいた。ホオリンガを動かすと聞いて、彼女達のショックを受ける。

 

 

「お願いです!ホオリンガを動かさないで下さい!」

「ホオリンガは、あそこに居たいずら!」

「わたくし達からもお願いします!」

 

 

 頭を下げるAqoursのメンバー達だが……。

 

 

「皆さんの気持ちは分かりました。しかし、これ以上被害を出さない為にも、あの怪獣は動かさなくてはなりません」

「ホオリンガには申し訳ないことをしてしまったとは思いますが、このままじゃ町が大変なことになってしまうっす……」

 

 

 Xioからしたらこれ以上ホオリンガによる被害を出させる訳にはいかない。Aqoursの皆がホオリンガのことを想っているのは分かるが、何としても移動させたいのだ。彼女達だって町に被害が出るのは望んでいない。どうしようも無いので、これ以上何も言えなくなってしまった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 オペレーションベースXのXio司令室。隊長である沙優がある物を見ていた。それは翔琉の証言から描かれたダークファウストのモンタージュだ。

 

 

「ダークファウスト……一体何者なのかしら?」

「見た目はまるでウルトラマンですよね……」

 

 

 リュウジの言う通り、外見だけならばウルトラマンに酷似している。しかしその本質は全くの別物で、非常に危険な存在だったと翔琉は話していた。

 

 

「闇の、ウルトラマン、なのか?」

「闇に落ちたウルトラマンか……知ってる事には知ってるが、奴とは無関係だろう」

「奴ー?」

「誰ー?」

 

 

 シャマラ博士の台詞にミハネとミキリが反応する。

 

 

「お前らだって聞いた事があるだろ?あの恐ろしい存在を」

「それって何なの?」

「奴の、名は……」

 

 

 

 ザムザが沙優の問いに答えようとした時だった。内浦のホオリンガに、更に大きな動きが起きたのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ごめんずら、ホオリンガ……」

 

 

 Aqoursの9人はホオリンガのことがよく見える高台に来ていた。皆落ち込んでおり、特に千歌と花丸の落ち込み様はかなりのもの。この2人はホオリンガに対して強い思いを持っている様だ。ホオリンガの上空にはマスケッティが滞空しており、前面にはXioの車両が停車している。これから移動作戦を開始するのだろう。

 溜め息を吐く2人。そこへ翔琉がやって来た。

 

 

「よっ」

「翔琉君……」

「むぅ」

「………何か用ずら?」

 

 

 ホオリンガをこんな状態にしてしまったXioのメンバーであるということからか花丸からの目線は少し痛く、善子も彼のことを強めに睨んでる。だが翔琉はそんなものを気にする事なく千歌の隣りに座った。

 

 

「お前らさ、何でホオリンガのことそんなに大事に思ってるんだ?アイツは怪獣だぞ?」

「確かに怪獣だけど、あの子も私達と同じで内浦に生きる仲間だからかな」

「仲間……」

 

 

 「うん」と千歌は力強く頷いた。

 

 

「怪獣って、危険だとか怖いってイメージがあるかも知れないけど、それは怪獣だって一緒だと思うだ。だからお互いのことをちゃんと分かり合えば、共に生きていける仲間になれる……私はそう思うんだ!」

 

 

 そう語る千歌の表情を見て翔琉は思わず息を呑む。余りにも輝いていたからだ。千歌だけじゃない。梨子に曜、花丸、ルビィ、善子、果南、ダイヤ、鞠莉……皆ホオリンガのことを想い、共に生きたいと考えるその在り方は彼には眩しく思えていた。

 

 

「共に生きる仲間、か」

「それに、ホオリンガはね……」

 

 

 続けて何かを言おうとした千歌であったがハッとして口を塞いだ。

 

 

「ん、どうした?」

「え!?あ、いやぁー……べ、別に何でもないよ!?」

「そ、そうずら!?千歌ちゃんは何も言おうとしてないずら!?」

 

 

 慌てふためくのが明らかに怪しい。コイツらは何を隠してるのかと思っていた時、移動作戦が開始しマスケッティからの磁石パワーによりホオリンガの身体が少しずつ浮き出す。

 しかしホオリンガはそれに対して激しく抵抗し暴れ出した。

 

 

「ホオリンガ!?」

 

 

 ホオリンガは必死で抵抗する。絶対にこの場から離れたくないと意志を表示してる様だ。ハヤテとイヅルの乗るマスケッティはホオリンガを引き上げ様とし、車両に乗っている紗季ももう一枚のガルバンのカードを使ってサポートするが、ホオリンガが余りにも激しく暴れる為なかなか上手く上がらない。

 

 そうこうしてると、ホオリンガの瞳が青から赤に変わった。まるで怒りを表している様であり、ホオリンガは背中と口の部分から黄色い粒子を勢いよく噴射した。粉末はマスケッティと車両の前面を覆っていき見えなくしてしまう。

 

 

《嘘だろ!?》

《前が見えねえ!?》

 

《な、何なのコレ!?》

 

 

 前が見えなくなった事により操縦が狂い、ホオリンガは地上に落下した。解放されたホオリンガであるが怒りは収まらず、粒子の放出を続ける。粒子は風に乗り、辺りへと拡散していった。

 

 

「何だよ、これ……は、はっ、はっくしゅん!?」

「はくしゅん!?はくしゅん!?な、何……!?」

「くしゅん!?ま、まさかこれって!?」

 

 

 

 粒子を吸ってしまった翔琉とAqoursは目の痒みとくしゃみに襲われた。そう、ホオリンガが出しているのは人間には最もよく効くもの、花粉だ。このまま花粉が噴射されていけば、内浦は人が住めない状態になってしまうだろう。

 

 

「くそ……どうすれば……はくしゅん!?––––ん?」

 

 

 変身してホオリンガを倒すというのが一番手っ取り早いだろう。しかし、先程の彼女達の話を聞いた所為かそれはどうも興が乗らない。ならばどうしたらいいかと考えていた翔琉の手を、花丸が握った。

 

 

「あの、見て欲しい物があるずら!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いろいろ詰め込んでしまって長くなりました←
次回でホオリンガに関しては蹴りが着きます。
花丸が翔琉に見せたい物とは何なのか?次回をお楽しみに!


感想、質問、高評価、その他、山形りんご、是非是非お待ちしてるんご!!


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20.共に生きるホシ



ウルトラメダルが何処にも無い!!!!!
そんな悲しみの中の20話、どうぞ!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

花丸に連れられて、Aqoursの皆と共に翔琉はとある場所に来ていた。そこは花丸の実家でもある寺だ。彼女は翔琉を居間まで連れて行ってテーブルの前に座らせると、一旦そこから出る。そしてすぐに戻って来てからテーブルの上にある物を広げた。

 

 

「これは?」

「太平風土記ずら」

「太平風土記……てか、これって」

 

 

 正式名称・日本太平風土記。これは8世紀頃に書かれたとされている古文書であり、そこには古来に出現した怪獣や起こされた災害などについてが記されている。因みに翔琉がエックスとして最初に戦ったデマーガのことも書かれている。文書自体は複数存在しているがその殆どは所謂写しであり、原本は由緒正しき家に保管されているとのこと。

 花丸の家にある太平風土記は先祖代々から受け継がれて来たもので、家宝として丁重に扱われている。

 彼女から見せられた太平風土記のページにはあの怪獣、ホオリンガに関する事が書いてあった。

 

 

「ホオリンガは、内浦で眠って山になる……」

「昔からホオリンガはこの内浦に来て、そして山になる怪獣なんだずら。お父さん、お爺ちゃん、ひいお爺ちゃんもそうだったずら」

「じゃあ、あのホオリンガも?」

「うん。ホオリンガがあそこから動かないのは、近くに家族がいるから……。あの子はみんなと一緒に居たいだけなの!だから、あの子を殺さないで欲しいずら!」

「私達からもお願い!ホオリンガを助けて!」

 

 

 Aqoursの皆は翔琉に懇願する。これ以上ホオリンガに苦しい思いをして欲しくないのだろう。

 どうするべきかと翔琉が思考している時、大きな音が響いた。外に出てみるとホオリンガが更に激しく暴れていた。花粉もより大量に撒布されていく。

 

 

「ホオリンガ……もうやめて!?」

「ホオリンガ!」

「お願い、落ち着いて!」

 

 

 叫ぶAqours。しかしその声はホオリンガには届かない。

 

 

「…………お前達はここに居ろ」

「え、翔琉君!?」

 

 

 ホオリンガのいる方向に走り出した翔琉。そして一度立ち止まって彼女達に振り向いた。

 

 

「何とかしてみるから、絶対そこから動くんじゃねえぞ!」

 

 

 彼は再び、ホオリンガ目掛けて走り出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 Aqoursから見えなくなった所で翔琉は立ち止まってエクスデバイザーを取り出す。ホオリンガを止めるにはスパークドールズにするか殺してしまうのが簡単であろう。しかし、それをするのは千歌や花丸、Aqoursの皆の想いを裏切る事になる。

 

 

「それは嫌だよなぁ」

 

 

 エクスデバイザーを突き出して上部のスイッチを押す。彼女達の望みに応える為、ホオリンガを助ける為に彼はウルトラマンエックスにへと変身するのであった。

 

 

「あ、あれって!」

「もしかして!」

「ウルトラマンエックスだぁ!」

「あれが、ウルトラマン……!」

「It's wonderful!」

「何という大きさ……!」

「凄いずら……!」

「大きい……!」

「まさに現代に甦りしネフィリム!」

 

 

 

 ホオリンガの目の前にエックスは降臨する。彼の登場にAqoursも、そしてホオリンガも驚いた様子だ。

 

 

「さて、一先ずはこの花粉どうにかしねえとな」

 

 

 これ以上花粉被害が広がったら悲惨な事になってしまう。それを止める為にどうすべきか……そう考えていた時、彼はあることを思い付いた。

 

 

「……くそっ」

 

 

 エックスは上空に光を放ち、自身とホオリンガを包む様にバリアをドーム状に展開した。それはまるで、あの日ダークファウストが自分を隔離する為に闇の空間を作った時と似ている。

 

 

「嫌な奴のこと、思い出させるなよ」

 

 

 花粉の被害はこれで抑えられる。顔の横に突き刺さっている治療弾を引っこ抜く為にエックスはホオリンガへと近付いていく。しかし、ホオリンガは根を振り回して叩き彼の進行を妨害。

 

 

「チッ!少し落ち着けって!––––おわっ!?」

 

 

 首、そして腰に根を巻き付けられてしまった。そしてそのまま、ホオリンガはエックスのことを怪力で持ち上げてしまう。逃れる為に捥がくが、強力な力で締められてる所為で抜けられない。

 

 

「この……いい加減にしろ!」

 

 

 根を掴み、そこから軽く電流を流し込んだ。突然のことに驚いたホオリンガは思わずエックスを解放。彼は大地に降り立つ。軽く頭を振って体勢を整えた後、エックスは右手をゆっくりホオリンガへと向けていく。

 

 

「ピュリファイウェーブ!」

 

 

 エックスの手から放たれた光はホオリンガを優しく包み、心を落ち着かせると同時に治療弾を除去し、体内に溜まっていた余分な栄養を排出させた。ホオリンガの瞳は赤から青へと戻っていく。もう怒っていないという証拠なのだろう。

 

 バリアが解除されて皆がホオリンガの姿を確認出来る様になった。落ち着いた様子のホオリンガを見てAqoursの皆は胸を撫で下ろし、Xioメンバーも安堵の表情を浮かべていた。するとホオリンガの身体が淡く光り始める。そして一度天に向かって鳴いた後に、ホオリンガは文字通り山となりこの内浦の町に恵みを与えるのであった––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 全てが終わり、翔琉は高台から山となったホオリンガのことを見つめていた。側には千歌と花丸、そして陽花もいる。

 

 

「あれがお父さんで、あっちがお爺ちゃん。そしてあれがひいお爺ちゃんとひいひいお爺ちゃんずら」

 

 

 山を指差していく花丸。遥か昔から、この内浦はホオリンガの恵みを受けて生きて来たのだ。

 

 

「怪獣の恵み、か」

「凄いでしょ?私達はお婆ちゃんのお婆ちゃんの、そのまたお婆ちゃんの時から、ずっとホオリンガと一緒に生きてたんだよ!」

 

 

 表情をキラキラさせながらそう言う千歌を見て翔琉は笑みが溢れる。怪獣や宇宙人は倒すべきだと先程まで考えていた翔琉であるが、この件を通してその考え方は変わり始めていた。ただ倒すのでは相手のことを理解し、本当にそれが正しいのかを考える事。それが大切なのだと思う様になっていたのだ。

 

 

「おーい、チカー!マルちゃーん!」

「あ、果南ちゃん!じゃあ、私達そろそろ行くね」

「ああ。いろいろありがとな」

「マル達の方こそ、ホオリンガを助ける為に頑張ってくれてありがとうございます」

 

 

 翔琉と陽花に頭を下げてから千歌と花丸は果南達がいる所へと去っていった。それを見送った後、翔琉はサイバーゴモラとサイバーエレキングのカードを取り出して見つめる。

 

 

「思えば、俺も怪獣から力を借りてたか」

「あはは、そうっすね」

「怪獣との共存……何となく、悪くはないなって思えてきました」

「この地球は豊かな恵みのある星なんっす。だからそれを分け合って一緒に生きていくことが絶対に出来るってアタシは信じてるっす」

 

 

 そう言って彼女はゴモラのスパークドールズを手にした。自然豊かな星である地球。怪獣達もこの星で共に生きる仲間であり、いつの日かきっと争う事無く彼らと絆を結べる未来が来ると彼女は信じていた。翔琉もそんな世界になれば良いなと少しだけ思う。

 陽花が手にしているゴモラに、彼は軽く触れる。

 

 

「いつもありがとな、ゴモラ」

 

 

 共に戦ってくれる仲間への感謝の言葉。それに応える咆哮が、聴こえた様な気がした––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あれがウルトラマンエックスです、マスター」

「へー、あれがねぇ」

 

 

 遠く離れた山道から翔琉を見つめる数人の集団があった。普通の人間なら特殊な機械でも使わない限りは決して見えない距離の筈だが、彼らは問題無く翔琉のことが見えている。

 

 

「ここで仕掛けますか?」

「いや、まだだ。依頼だと出来るだけ苦しめてから殺せっめ話なんだ。ここじゃまだ早い」

 

 

 彼らはダイロに雇われた殺し屋集団。そしてマスターと呼ばれているこの男こそ、リーダーである超一流の殺し屋ことエースキラーなのだ。エースキラーは懐から数枚の写真を取り出す。そこに写されていたのは歩夢やかすみ達、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のメンバー達だ。

 

 

「コイツら、利用出来そうだな……。標的(ターゲット)にはたっぷり地獄を味わって貰うとしますか」

 

 

 踵を返し歩き出すエースキラー。配下の者達もそれに追従する。恐ろしい毒牙を向けられている事に、翔琉も同好会の皆も気付く術は無かった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 夜、新城野 明里は自室にて、下着姿の上に大きめのシャツを羽織るだけという扇情的な姿で机の前に座り、脚をその上に乗せていた。机の上にはスパークドールズや怪獣カプセルが乱雑にばら撒かれている。

 

 昼頃にウルトラマンエックスが内浦に出たというニュースを見たが別にどうでもよかった。少し前まで殺したいと思っていた相手であるが今はあまり興味が湧かない。まあ、邪魔をするというのならしっかりと殺さなければならないが。

 

 翔琉とかすみという友達が出来た事が、彼女の心に新たな満足感を与えていた。思わず溢れる笑み。そんな時、背後に何か気配を感じた。椅子を回転させて振り返るとそこには……。

 

 

「やあ、初めましてだね」

 

 

 内浦で翔琉のことを空から見つめていた謎の人物。ソレが彼女の目の前にいた。中性的な顔立ち、艶やかな黒髪、すらりとしたスタイル、高くも無く低くも無い声。男性なのか女性なのか全く分からないの人物が明里に笑顔を向けていた。

 

 

「誰、アンタ?」

「ボクはカタラさ。よろしくね、ダーク––––」

 

 

 カタラと名乗る者が言葉を続けるより先に光弾がその頬を掠めた。明里は立ち上がりカタラのことを睨んでいる。

 

 

「出てってくんない?邪魔なんだけど」

「そんな邪険にしないでくれよ。ボクは君と友達になりたくて来たんだからさ」

「不法侵入って言葉知ってる?私泥棒の友達とかいらないから」

「ははっ、酷い言われ様だね」

 

 

 怪しさしかないカタラに明里の苛立ちが募っていく。するとカタラは黒いカプセルを取り出してそれを彼女に投げた。カプセルは明里の豊満な胸に弾かれて床に落ちる。落ちた際に上向きになった面を見て、彼女の表情に少しだけ変化が起きた。

 

 

「あげるよ、それ」

「これって……でも、何で?」

「カプセルがあるのは怪獣だけじゃないってことさ。代わりと言ったら何だけど、君の力を少し貸して欲しいんだ。どうかな?」

 

 

 少しだけ考える明里。それからしゃがんで落ちていたカプセルを彼女は拾った。

 

 

「分かった。友達にはならないけど、ビジネスパートナーくらいにはなってあげる」

「うーん……本当は友達が良かったんだけど、今はそれで我慢するしかないか」

 

 

 ちょっと困った様に笑うカタラと、そんなの見向きもせずカプセルを見つめるだけの明里。

 

 

「で、何すればいいの?」

「そうだなー……じゃあまずは、ウルトラマンエックスに挨拶かな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新たな戦いは既に始まっている。狙われるのは彼だけで無く、その仲間達も。襲い来る魔の手からは逃れられず、ただ立ち向かうしかない。深く暗い闇は、光を塗り潰すべく広がっていく。

 

 明里が見つめるカプセル。そこに描かれているのは、黒き王の姿であった–––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ホオリンガ回これにて終了です!
翔琉の怪獣に対する考えに変化を与える回ともなったこの話、いかがだったでしょうか?

そしてその裏で動き出す者達……。
エースキラー達傭兵集団の魔の手は同好会メンバーに向けられていき、謎の人物カタラは明里と手を組むことに。
混沌としていくこの状況、ぜひお楽しみ下さい。

Aqours編はもう少し続きます!
彼女達と翔琉の邂逅もぜひお楽しみに!

それでは今回はここまで。

感想、質問、高評価、その他、山形りんご、ぜひぜひお待ちしてるんご!



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21.ワタシ達の輝き



虹アニメ最高




 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……」

 

 

 朝。目を覚ました翔琉は布団から起き上がる。軽く首を回した後、彼は立ち上がってからカーテンを開いた。射し込んでくる朝の日差し、そして目の前に広がるのは内浦の美しく雄大な海。

 

 ホオリンガ騒動の後、翔琉は内浦に暫くの間滞在することを決めた。理由は沼津サマーフェスティバルで行われるAqoursのライブ。それを見れば、同好会のスクールアイドル活動に何か役立てられるかも知れないと考えたからだ。陽花や沙優にそのことを伝えたところ快くOKを出され、何と宿泊費を負担してまでくれた。これまでエックスとして戦って来た事に対するちょっとしたお礼とのこと。母や同好会のメンバーにも連絡を行い内浦に留まるとを伝えた。かすみがぐずったがしずくと璃奈に任せることに。

 

 ホオリンガが居なくなった事で市長に怒られるかとも思ったが、Aqoursのみんなから事情を聞き、怪我人も出ず大きな被害も無かったことから特にお咎めは無かった。寧ろ怪獣が変化した山としてあのホオリンガ山(市長命名)を観光名所にしていくらしい。

 

 

 布団を畳み着替えを終えた時、襖の奥から声が聞こえてきた。返事をすると襖は開けられ、そこに居たのは2人分の朝食の乗せられたお盆を持っている千歌の姿であった。

 

 

「おはよう翔琉君!」

「おはよ」

 

 

 翔琉が今泊まっているのは十千万という旅館。そこは千歌の実家でもある。宿泊する場所を探していた際、千歌に声を掛けられうちに来ないかと言われたのだ。

 

 

「朝ご飯持ってきたから一緒に食べよ!」

「ああ、いいぜ」

 

 

 朝食をテーブルの上に並べる千歌。それから2人は一緒に朝食を食べ始めた。

 

 

「今日は何するんだ?」

「準備はだいたい出来てるから、今日は明日に向けての最終チェックかな。ライブの方も最後にもう一度通しでやりたいし」

 

 

 今回の祭り、Aqoursの皆はライブだけで無く町内案内放送、出店、本部での仕事など祭りの運営に大きく関わっている。それを聞いた時まじかと翔琉は驚いた。しかし千歌達からすれば自分達の町の祭りなのだから自分達の手で作っていくのは当たり前のことらしい。彼女達のその思いに感銘し、翔琉も出来るだけの手伝いを行った。その中で皆と仲良くなり、名前で呼び合う様になった者もいる。ルビィは未だに少し彼のことが怖いらしいが、避けられないだけマシだろう。

 

 

 

 ダイヤと果南は会場の安全チェックを行っていた。当日は迷子や落し物が発生した場合の放送呼び掛け、救護室での対応なども担当するらしい。その様子を翔琉も見せてもらい、怪我人や急病人が出た場合どの様にして迅速に対応していくかを共にシミュレーションしていった。実はXioで救急救命について学ばされていた事もあってか彼の知識はとても役に立ち、いざという時は翔琉も救護班として手伝うことになった。

 

 

 

 鞠莉は他県など遠方から来る観光客の宿泊地の確保。彼女は淡島ホテルのオーナーの娘であり、祭りの間は格安で宿泊出来る様に頼んだとのこと。連絡船も普段より多く運航するそうだ。翔琉もホテルへと連れて行かれたが、その豪華な内装には圧巻させられた。十千万からこちらに来ないかと鞠莉に聞かれたが、その時隣りにいた千歌から抱き付かれて止められたことにより移動することはなかった。

 

 

 

 花丸とルビィは祭りでの放送を担当。この町の歴史、そして今回の目玉でもあるホオリンガのことを放送で伝えるそうだ。彼女達共に原稿を考えようとした……のだが、翔琉がいるとルビィが萎縮してしまうので彼女がいる時は手伝う事は出来ず。彼女も悪気は無いので翔琉は特に何も言わず、時折花丸が見せて来た原稿を見て少しアドバイスをする程度に留まった。そうして陰ながら手伝ってくれてたことを知ったルビィは何とか彼にお礼を伝えようと頑張ってるらしい。

 

 

 

 善子と曜は出店の料理の準備をしていた。2人はAqoursの中でも料理が得意なメンバーである。しかし、善子には一つ問題があり、それは味付けがかなり辛くされてしまうということだ。ハバネロパウダーを容赦無くぶっかけたたこ焼きは凄まじく辛く、翔琉も食べてみたが舌が死ぬかと思ったそうだ。名前もブラッディムーンステックと実に厨二病臭く流石にこれは改良すべきだと言うと渋々了承してくれた。曜は玉子で焼きそばを包んだヨキソバという物を作っていた。以前作った物を改良して今回は魚介たっぷりの作品になっているらしい。食べてみたがこれがまた美味であり沼津サマーフェスティバルの目玉になりそうだ。

 

 

 

 千歌と梨子は沼津サマーフェスティバルで披露する新曲を作成していた。千歌は作詞、梨子は作曲を担当しており、曲も歌詞も既に完成してはいたのだが、千歌は何か物足りなさを感じてるらしい。その事で翔琉も交えて3人で話し合った。何か、何かが足りずしっくり来ないという千歌。翔琉と梨子は歌詞を見せてもらったが文句無しに良いものであり賞賛したが、それでも彼女は頭を抱えている。そんな時、千歌は翔琉に祭りといえば何を連想するかと聞かれた。彼が思い浮かべたのはAqoursの皆がこの祭りの為に力を合わせて準備をしていたこと。Aqours以外にも町の人達が一つとなり協力し合ったことでこの祭りは開催に向けて進んでいる。一人一人の力が重なって大きな力へとなる……この町の人達を見て、彼はそれを強く感じていた。その事を千歌に伝えると、彼女は「それだ!」と何かを閃いた様で歌詞ノートに書き殴り始めた。どうやら悩みは解決したらしい。キラキラと輝く表情でいる千歌を見て、翔琉と梨子は笑い合った。

 

 

 

 

 そんなこんなもあった中、遂に明日は祭りの本番。それに向けての最後の準備を今日は行うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

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 駿河湾海上。その上にカタラは立っていた。空を見上げ、その後海を見るカタラ。その顔は笑顔で何かを愉しんでいる様だ。

 そんなカタラの隣りに、突然と現れた者が居た。赤と黒の魔人・ダークファウストである。

 

 

「やあ、来てくれたんだね。嬉しいよ」

 

 

 和かに笑うカタラ。ファウストは特に反応も見せずただ立っているだけだ。

 

 

「じゃあ始めようか。ちょっとした挨拶を」

 

 

 カタラが手を挙げると、天空と海底に穴が空いた。そしてそこから異形の影が現れる。天から来たのは円錐状の機械の様な存在。海から来たのは頭部に鋭刃を備えた怪獣。

 咆哮と駆動音を響かせながら、2つの巨影は内浦に向けて進み出した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 朝食を終えた2人は浦ノ星女学院の屋上に来ていた。既に他のAqoursの8人が来ている。

 

 

「おっはよー!みんなー!」

「おはようチカ。翔琉も」

「うっす」

 

 

 9人は準備体操とストレッチをし、それを終えてから最後の練習を開始した。その様子を見守る翔琉。記憶を失ってから始めて見るAqoursのライブ……練習とはいえそれに彼は圧巻されてしまった。虹学のみんなのものとはまた違った感動が彼の胸に湧き上がって来る。その眩しさに彼は魅入られていた。

 

 

「すげぇ……」

 

 

 曲の終わりと共にポロリとそんな声が溢れる。大きなミス無く曲を通せた彼女達は互いに喜び合っていた。そしてそれを見てハッとした翔琉は皆にタオルを配っていった。

 

 

「お疲れ、みんな」

「わー!ありがとう、翔琉君!」

「サンキュー!翔琉!」

「このヨハネへの供物……褒めて遣わすはリトルデーモン」

「はいはい。花丸、黒澤にはお前から渡しといてくれ」

「ふふ、了解」

 

 

 渡されたタオルをルビィへと持っていく花丸。受け取ったルビィは少し申し訳なさそうにしながら頭を下げる。

 

 

「翔琉君のアドバイスもあったから、最高の曲に仕上がったよ!本当にありがとね!」

「俺は大した事してねえよ」

 

 

 翔琉は頭を掻いて少しだけ照れた様子。それ見て他の皆が笑っている。

 

 

「あー、そういえば、少し気になったんだが……」

 

 

 露骨に話題を変えようとする翔琉。それに対して千歌は「何?」と可愛らしく首を傾げた。

 

 

「この学校ってさ、廃校になるのか……?」

 

 

 最初にここに来た際に気になっていた校門横に貼られてあった廃校の貼り紙のことについて尋ねた。

 

 

「うん、そうなんだ。この浦女はね、今の1年生が卒業したら廃校になっちゃうんだ」

「なのにスクールアイドルやってるのか?」

 

 

 学校が無くなるというのにスクールアイドルをやるのに意味はあるのだろうか。どれだけその名を広めようと、無くなってしまうのならそんなことをしてもあまり意味は無いんじゃないかと翔琉は思ってしまう。

 

 

「初めてスクールアイドルを見た時ね、凄い感動したんだ!私達と同じ高校生が、こんな風に輝いてるだなんてびっくりした!だから私も、そんな風になりたいって思ったの!輝いてみたいって思ったんだ!」

 

 

 キラキラしながら語る千歌。ただ純粋に輝きたいという想いをひしひしと感じさせられた。

 

 

「それに私達がたくさん輝けば、浦女の名前はみんなの心に残ると思うの!だから私はこの想いをみんなに届けたい!そしてみんなと一緒に輝きたい!例え無くなってしまうとしても……そう思ってスクールアイドルをしてるんだ」

 

 

 みんなで輝いて、その心に浦ノ星女学院を残す。そうすれば浦女は永遠に残り続けると千歌やAqoursの皆は考えていたのだ。

 

 

「そうか……何か良いな、それ」

「でしょ?」

 

 

 笑顔の千歌を見て翔琉も釣られて笑ってしまう。Aqoursが何故こんなに輝いているのか、その理由が少しだけ分かった気がした。

 そんな時、梨子がスマホを持って千歌に近付いて来た。

 

 

「千歌ちゃん、これ……」

「ん?…えっ、台風!?」

 

 

 梨子が千歌に見せたのは、突如発生した台風がこの内浦に向けて接近しているというニュースだ。台風はかなりの出力らしく、その影響で雨雲も接近していた。

 

 

「あと少ししたら大雨になりそうですね……」

「これは切り上げて帰った方がいいかもね」

「えー!?」

 

 

 ダイヤと果南の言う通り、早く帰らなければ豪雨に遭遇することになるだろう。千歌は不満そうだが仕方ない。

 

 

「じゃあ、みんな急いで帰りましょう」

 

 

 鞠莉の言葉に皆「はーい」と応えた。明日の祭りは大丈夫だろうか……そんな不安が皆の胸の中に浮かび上がっていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






Aqoursとの絡みはダイジェストになってしまいました。
理由としては一人一人やっているとかなり長くなってしまうからです。かなりやっつけになってしまって申し訳ないです……。

2体の怪獣を呼び出したカタラ。そしてその隣にはファウストの姿が……。
どうなっていくかお楽しみに!

迫る台風、沼津サマーフェスティバルはどうなってしまうのか?
そこにもご注目下さい。

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22.アラシを撃て


ギャラファイ、Z、虹アニメ、何れも素晴らし過ぎて尊死しまくってる作者です()
愛さんマジでハンパない……好き……。

そんな中のAqours編5話目、どうぞ。



 

 

 

 

 

 

 その日の夜、外からは豪雨と暴風により凄まじい音が聴こえて来ていた。木々が揺れたり、飛ばされた何かが壁や地面に勢いよくぶつかる音も響いてる。それを客室で聴いてる翔琉。このまま旅館が飛ばされてしまわないかと少し不安になっていた時、襖の方から千歌の声が聞こえて来た。

 

 

「翔琉君、いる?」

「開けていいぞ」

 

 

 戸を開けて入って来る千歌。その後ろには梨子、曜、ルビィ、花丸、善子、果南、ダイヤ、鞠莉がぞろぞろと並んでいた。

 

 

「いや何で全員いるんだよ?」

「あははー」

 

 

 淡島住みの果南と鞠莉は風が吹き海が荒れて来ていたので千歌の家に泊まることになり、沼津市内住みの善子も安全を考えて泊めてもらうことに。すると自分も泊まりたいと曜が言い出し、羨ましそうにしてた花丸とルビィも誘われ、ルビィが泊まるならとダイヤもとなり、最終的に梨子も巻き込んでAqours全員が千歌の家に泊まることになったのだ。

 

 

「ごめんなさい、わたくしと果南、梨子さんは止めたのですが……」

「どーせ千歌と渡辺、小原先輩でしょ?」

「はい……」

「やっぱり……」

 

 

 呑気に笑ってる千歌、曜、鞠莉の3人を見て翔琉とダイヤは溜め息を吐く。

 

 

「てか、妹さんは大丈夫なんっすか?」

「ル、ルビィなら大丈夫です……!」

「少し震えてるぞ」

「ううぅ……。で、でも、言いたいことが……」

 

 

 深呼吸をするルビィ。それから彼女は翔琉の前に立った。

 

 

「あ、あの……放送の原稿を考えるの手伝ってくれて、ありがとうございます……!」

 

 

 ガバッと勢いよくルビィは頭を下げた。勇気を振り絞り、自分の気持ちを伝えたのだ。その彼女の想いはしっかりと翔琉の胸にも届く。

 

 

「ああ。別にいいさ」

 

 

 優しく笑う翔琉。頑張ったルビィのことをダイヤと花丸が良くやったと褒める。

 その後テーブルを出し、それを囲んで彼らは座った。

 

 

「ねえ!虹ヶ咲のスクールアイドルのこと教えてよ!」

 

 

 

 千歌がそう発言する。思えばその辺のことは全然話していなかった。

 

 

「いいぜ。って言っても俺もまだアイツらとは1ヶ月くらいしか過ごしてないというか、それしか覚えてないというか……」

「何それ、どういうことなのよ?」

「俺記憶喪失なんだよ、実は」

『えっ!?』

 

 

 記憶喪失だということをまだ彼女達に伝えていなかった翔琉。そんな重要なことを言われ、当然Aqoursの皆は凄く驚いている。

 

 

「WAO……だ、大丈夫なの、それって?」

「大丈夫大丈夫、全然問題無いっすよ」

 

 

 呆気からんとしている翔琉だが、正直聞いちゃいけないことを聞いてしまったのではないかとAqoursの皆は少し申し訳なさそうな表情になってしまっていた。それを彼は察したのか彼女達のことを見ながら笑う。

 

 

「別に気にすんなよ。記憶無くても、みんなのお陰で結構楽しいし」

「みんなって、虹ヶ咲の?」

「ああ。あの9人がいるから、俺も毎日楽しくやっていけてるよ」

 

 

 みんながいるから、こうやって楽しい日々を送れている。だから彼自身は記憶が無くてもそれを杞憂に感じることは無かった。尤も、早くみんなの為にも取り戻さなければとは思っているが。

 

 

「そっか……それ程大切なんだね、翔琉君にとって虹ヶ咲の人達は」

「そうだな」

 

 

 歩夢、かすみ、しずく、果林、愛、彼方、せつ菜、エマ、璃奈。彼女達の存在は彼にとってまさに掛け替えのないものなのだ。

 

 

 それから虹ヶ咲での活動、みんなとの思い出、Xioに入ってからの事などを話した。千歌達もAqoursであったことや学校での出来事などを語ってくれた。台風により祭りが中止になるかもという思いが皆の中にはあったが、今それを言うのは無粋であろうと考え誰も話題にする事は無かった。そうやって楽しく話していた時、エクスデバイザーに通信が入る。沙優からだ。

 

 

「お、わりぃ」

 

 

 一旦廊下に出てから応答する。

 

 

「翔琉っす」

《翔琉君?実は怪獣が出たみたいなの》

「え、何処にっすか?」

《台風の中、かしら》

 

 

 眉を顰める翔琉。台風の中だと言われても正直ピンと来ない。

 

 

《余りにも不自然な発生だったから調べてみたの。電波障害が酷くて時間が掛かったけど、あの中には熱源反応があることが分かったの》

「つまり、あの中には何かがいるってこと……?」

《そう。そしてその何かが、台風の原因でもあるわ》

 

 

 台風を起こす怪獣と聞いてこれまたどういうことかと彼は思う。

 

 

《台風や嵐を発せさせる怪獣は結構いるっす。バリケーンやシーゴラス、バッサー種、チタノザウルスなどです!その他にも––––》

《はいはい陽花、そこまで》

「あ、陽花さん居たんっすね……」

《サイバー怪獣実体化にもう少しで成功しそうなんです!あとは出力の調整さえ出来れば理論上は完璧っす!それもこれも、ウルトラマンエックスのデータがあったお陰!翔琉さんには本当に感謝してるっす!》

「お、おう……」

 

 

 通話越しでも凄まじい圧を感じてしまう。サイバー怪獣の実体化については何度か陽花から聞かされており、成功すれば共に戦う仲間となるであろう。

 

 

《その話もまた今度ね陽花》

《あっ……すいません、つい熱くなっちゃって……》

《とにかく、このままだとこの台風は翔琉君のいる内浦に上陸することになるわ。今はまだただ強い台風ってだけで済むかも知れないけど、もしこれ以上近付いたり上陸なんかしたら尋常じゃない被害が出てしまう。だから、翔琉君に出動してもらいたいの。マスケッティだと強風の影響で上手く戦えないだろうし、早急に叩かないといけないから》

「了解っす。こっちも台風なんかで祭り中止とか嫌なんで、さくっと叩き潰して来ますよ」

《お願いね》

 

 

 通信を切り、翔琉はいつもの調子で歩き出した。そして今は誰も居ない入り口まで来てからエクスデバイザーのスイッチを押してウルトラマンエックスにへと変身。

 

 Aqoursの皆に何も伝えずにそんな事をしたので、彼が居なくなったと大騒ぎになるのはこの数分後であった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 高く飛び上がり、雲の上から目標まで飛んでいくエックス。体力は消耗するが、暴風と豪雨の中を飛んでいく方がきついだろう。

 

 

「ッ、アレか」

 

 

 目標である台風を目視し、その目の上で停止。そして瞳から透視光線を放ってその中を覗く。

 

 

「何かいる……?」

 

 

 彼の目は台風の中にいる何か(・・)を捉えた。エックスは「よし」と呟いた後、その何か向かって一気に突っ込んでいく。そしてエックスはソレを掴んで海にへと向かい、そのまま海面に叩き付けた。大きく上がる水柱。やはりソレが台風の原因だったらしく、風が少し弱まる。

 

 

「さあ、大人しく……うおっ!?」

 

 

 抑えで付けようとしたエックスだったが、ソレは彼から逃れて宙に浮く。怪獣……というよりは銅鐸の様な形を珍妙なロボットであった。鯨の鳴き声の様な音を放ち、表面には赤い何かが刻まれている。

 

 

「あれって……確か篆書体(てんしょたい)、だったよな?」

 

 

 篆書体とは漢字の書体の一瞬であり、広義には秦代より前に使用されていた書体全てを指すが、一般的には周末の金文を起源とし、戦国時代に発達して整理され公式書体とされた小篆とそれに関係する書体を指す文字だ。奴にはそれに酷似した文字が刻まれており、古文の授業で習ったことを覚えていた彼は目を凝らしてそれを読む。

 

 

「天界……」

 

 

 刻まれていたのは「天界」という文字。これこそが台風を発生させていた自然コントロールマシーン・テンカイである。テンカイは逆さまにひっくり返ると、再び暴風を起こした。

 

 

「ぐおおお!?」

 

 

 数万トンという巨大がいとも簡単に浮き上がり海面に叩き付けられる。更にテンカイは風を吹かせ大波を起こす。

 

 

「くそ、野郎……くっ!?」

 

 

 波と風で体勢を整えられないでいるエックス。必死に捥がく彼であったが、そこへ更なる衝撃が彼を襲った。

 

 

「何だ!?」

 

 

 強力な力で抑えられる。それを行っているのは大きな怪獣だ。まるで刃の様に高質化した吻の鋒を向け突き出す。この怪獣の名はナイフヘッド。海底に発生する裂け目から現れる怪獣ブルーという青い血液の流れている怪獣の種の1体だ。巨体で抑え付けるナイフヘッドにより、エックスは海中へと引き摺り込まれていく。

 

 

「こんのぉぉぉ……ふざけんな!!」

 

 

 やけくその右フックを叩き込んで逃れたエックスは一気に海面に上がった。ナイフヘッドもそれを追って浮上する。

 空にはテンカイ、海にはナイフヘッド。1対2と不利な状況だが負けられない。と思った時、背後から嫌な気配を感じた。溜め息を吐きながら振り返ると、そこには翔琉が最も嫌う相手が存在していた……。

 

 

「チッ……またお前かよ」

 

–––––………သတ်ပစ် (殺す)

 

 

 海面に佇むのはダークファウスト。最悪の敵の出現に、エックスの怒りは高まっていく。

 

 

「お前らは……倒していい相手だよなぁ?」

 

 

 ホオリンガとの件から怪獣との共存も考える様になった彼であるが、明らかな敵意と悪意を持って襲い掛かってくるこの3体は生かすべきでは無いと判断した。

 

 

《CYBER ELEKING LOAD》

《CYBER ELEKING ARMOR ACTIVE》

 

 

 エレキングアーマーを纏ったエックスは、その砲門を構える。

 咆哮しながら突撃してくるナイフヘッド。その刃を彼は砲門で受け止め、それから顎に左アッパーを打ち込んだ。青い血を撒き散らしながらナイフヘッドは倒れる。そこへダークファウストが光弾を放ち、テンカイが突っ込んで来る。

 

 

「なんの!」

 

 

 エックスは光弾を横に飛んで躱し、テンカイに向かって電撃鞭を伸ばした。電撃鞭はテンカイに巻き付き、強烈な電流を流し込んでいく。

 

 

「うおらあああああああ!!」

 

 

 鞭を振り、そのままテンカイのことをナイフヘッドにへと叩き付けた。それと同時に稲妻がスパークする。

 

 

「どうだ……ッ!?」

 

 

 ファウストが拳を握って襲い掛かって来る。寸前でそれを回避し、逆に電撃を纏った砲門を叩き込んだ。更に蹴りやパンチでよりファウストのことを攻め立てた。

 

 

–––––နူ(ぬぅ)……!

 

「くらえ……エレキング電撃波ァァ!!」

 

 

 至近距離で電撃光線を放つ。間近で強烈な攻撃を受けたファウストは苦悶の声を上げながら吹き飛んで海面に叩き付けられた。

 それからエックスはテンカイとナイフヘッドの方に目を向ける。2体はそれぞれ体勢を立て直そうとしている最中であった。

 

 

「折角だ、とっておき見せてやるよ」

 

 

《CYBER BEMSTAR LOAD》

《CYBER BEMSTAR ARMOR ACTIVE》

 

 

 翔琉が読み込ませたのはサイバーベムスターのカード。以前倒したベムスターのデータから生まれたサイバーカードだ。それにより構成されたベムスターアーマーをエックスは纏う。左手には、ベムスターの腹部を模したシールドが備えられていた。

 新たな姿になったエックスにナイフヘッドが突っ込む。しかしその刃は、ベムスターシールドによって容易く止められてしまった。

 

 

「甘いんだよぉ!」

 

 

 シールドを横に振り払って弾き、更に回し蹴りを叩き込んだ。腹部にそれを受けたナイフヘッドは吹っ飛んで倒れる。そこへテンカイが突進を仕掛けるが、エックスはそれに向かってシールドを投げた。シールドはブーメランの様に回転しながら飛んでテンカイと激突。その威力に耐えられなかったテンカイは火花を散らしながら海へと落ちていく。

 そしてその落ちた先にいたのは起き上がる為に頭を上に向けていたナイフヘッド。その鋭い刃に、テンカイは見事突き刺さってしまった。

 

 

「お、ラッキー」

 

 

 刃はテンカイのボディに刺さり、そのままコアも貫く。それによりテンカイは敢えなく起動を停止することになった……。重厚なテンカイが刺さったことでナイフヘッドは取り乱して暴れる。必死に引き抜こうとしてる様だが、かなり深くしっかりと刺さったらしくなかなか抜けない。

 

 

「こりゃいいや––––ッ!」

 

 

 紫色の光弾が飛来。ファウストが放った光弾だ。エックスはそれをシールドで防ぐ。

 

 

「てめえの面は見たくねえんだがなぁ」

 

––––––ကိုယ်လည်းပဲ(私もだ)

 

「そりゃ奇遇な……なら来いよ!」

 

 

 突き出した両拳に闇のエネルギーを纏い、その腕を開いた後再びそれを突き出した。それと同時に、闇の破壊光線が放たれた。ダークファウストの必殺技・ダークレイ・ジャビロームである。

 

 

「上等!!」

 

 

 光線をシールドで受け止めるエックス。凄まじい威力にその身体が少しずつ圧されていくが、それでも彼は諦めずに受け止め続け、何とその光線を吸収していく。

 

 

–––––ငါ့ကိုသေခွင့်ပြုပါ(死に晒せ)……!

 

「断……わる!!」

 

 

 シールドは見事にダークレイ・ジャビロームを吸収し切った。それに驚いてるファウストにシールドの吸収口を向ける。するとそこから、奴の光線がそっくりそのまま反射され放たれたのだ。

 

 

「ベムスタースパウト!!」

 

 

 ファウストに向かっていく光線。くらえば奴もひとたまりもないだろう。が、その射線上にナイフヘッドが躍り出て来た。テンカイが刺さっていることで前が見えず、不運にもそうなってしまったのだ。光線はナイフヘッドに直撃。ファウストは助かったと細く笑む……。

 

 

「ならば諸共だあああああ!!」

 

 

 グッと力を込めるエックス。放たれてる光線に自身の力も足し、ナイフヘッドをファウスト目掛けて押していく。驚いた時にもう遅く、ファウストはナイフヘッド、テンカイと激突することになった。

 

 

–––––ဘာလုပ်မလဲ(何だと)……!?

 

 

 凄まじい爆発が起こって奴らを呑み込む。そして大きな水柱が立ち、衝撃で空の雨雲が掻き消された……。

 

 

 周囲に落ちるナイフヘッドの肉片とテンカイの残骸。しかしファウストを倒せた様な形跡は何処にも無く、恐らく逃げてしまったのだろう。

 

 

「チッ……」

 

 

 奴を倒せなかったのは残念だが、ひとまずテンカイによる台風の脅威は去った。一件落着。これで内浦が蹂躙される様な事態にはならない。雨雲が消えた空には、美しい星が輝いているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 深夜。戦いを終えた翔琉は旅館に戻って来た。そういえば何も言わずに居なくなってしまったことを思い出し、どう言い訳しようか考えながら静かに部屋へと戻っていく。そうして誰にも見つかることなく自身の部屋の前まで辿り着けた。部屋に明かりは灯っておらず、どうやらみんな千歌の部屋にでも戻って寝てるのだろうと翔琉は思った。

 

 

「よし……」

 

 

 戸を開けてから部屋に入った…………瞬間、足に何か妙な感覚を感じた。何かを踏み付けた様だ。何かと思い目線を下げるとそこには……。

 

 

 

「………いや何でだよ?」

 

 

 そこに居たのはサメの寝袋を纏って寝ている善子。翔琉の足は見事にその顔面を踏み付けていた。そっと足を退かす。少し苦痛そうな表情を見せているが起きはしなかった。

 更によく見てみると、Aqoursの全員が揃いも揃ってこの部屋で眠っているではないか。実は彼女達は突然いなくなった翔琉を探し回った後、彼が戻って来ることを信じてここでずっと待っていたのだ。しかし翔琉が全然戻って来なかった為全員寝落ち。結果この状況が生まれてしまった。

 

 

「こりゃ明日怒られるだろうなぁ……」

 

 

 溜め息を吐き、彼は眠っている彼女達をもう踏まない様に注意しながら敷いてあった布団の中に潜る。

 その中に千歌がいて思わず大きな声が出て全員を起こしてしまい、説教をくらって更にその説教がうるさいと千歌の姉2人に怒られる事にはなってしまうのは、この数秒後である……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





「ウルトラマンガイア」よりテンカイ(天界)、映画「パシフィック・リム」よりナイフヘッドが登場しました!本作での彼らの設定は追々。
新たなる力、ベムスターアーマーでダークファウストも見事退け、今回翔琉は快勝することが出来ました。

そしてお気付きの読者様もいるかも知れませんが、本作でのAqours達はG's版を基にしています。なので一部関係性や設定などがアニメと違う部分があります。ダイヤの果南や鞠莉への呼び方などが分かり易かったかも知れません。

さて、次回で遂にAqours編はラスト!
最後まで是非お楽しみ下さい!

感想、質問、高評価、その他、山形りんご、是非是非お待ちしてるんご!


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23.輝けるアクア



Aqours編ラストです!
それではどうぞ!





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。翔琉とAqoursの皆は朝から海岸に来ていた。昨夜のテンカイが起こした台風により、砂浜や町のあちらこちらにゴミや木の枝、葉などが散らばり悲惨な状態になっている。怪我人が出たり、家屋が倒壊する様な大きな被害こそ出ていないものの、こんな状態では沼津サマーフェスティバルを開けるかどうかかなり危うい。

 

 

 ダイヤが代表として祭りの実行委員と電話で話をしている。その表情は少し暗く、嫌な結果が齎せられるのではと皆思ってしまっていた。

 

 

 通話を終えた彼女は、一度息を吐いた後こちらを向く。

 

 

「祭りは中止だそうです……」

「そんなぁ!?」

 

 

 誰よりもこの祭りを楽しみにしていたであろう千歌が落胆し大きな声を出した。

 

 

「この後正式に発表されて、それから片付けと撤去作業に入ることになります」

「仕方ないよね……。大きな被害こそ無かったみたいだけど、この有り様じゃ……」

 

 

 果南の言う通り、こんなに散らかっている以上清掃作業を優先しなければならない。それに飾り付けや屋台用のテント、特設ステージにも破損箇所があるらしいので開催は難しいだろう。

 

 

「せっかく放送、練習したのに……」

「無駄になっちゃったずら……」

「料理も食べて貰えないんだね……」

「ブラッディムーンスティックが……。もしかして、これもヨハネのせいなの……?」

 

 

 ルビィ、花丸、曜、善子……その他のみんなも酷く落ち込んでいる。この日の為に頑張ってきたのに、その全てが無駄になってしまった……辛い現実に皆の心には暗い影が立ち込める。善子に至っては自分の不運体質が原因ではないかとまで考えていた。

 

 

「んな訳ねえだろ」

 

 

 善子の頭に軽くチョップを入れてながら翔琉がそう言う。別に誰の所為でも無い。強いて言うならあの怪獣・テンカイ、そしてそれを操ってたであろうダークファウストの所為だと彼は思う。

 

 

「まだ中止の発表はされてないんっすよね?」

「ええ。正式発表は一時間後の予定になってます」

「だったら町の人達に呼び掛けて、会場を直すことって出来ないんっすか?撤去と片付けが出来るんだったら、それもいけると思うんっすよ」

 

 

 彼のその発言に、皆はハッとした。

 

 

「待って下さい。気持ちは分かりますが流石にそれは……」

「いや、出来るか出来ないかなら、出来るんじゃないかな?」

「そうよね……撤去作業に手を貸してくれるんなら、復旧作業だって手伝ってくれる筈!」

 

 

 ダイヤが少し難色を示すものの、果南と善子の言う通り決して不可能ではないだろう。皆の表情に希望が見えて来る。

 

 

「どうするよ、千歌?」

「わ、私……?」

「まだ間に合うぜ。やるか、やめるか?」

 

 

 そう千歌に尋ねる翔琉。梨子と曜も彼女に声を掛けた。Aqoursとしてどうするか……最後にそれを決めるのはリーダーである千歌だ。

 

 

「やだ……諦めたくない!せっかくみんなで頑張って来たんだもん……。こんなことで終わりになんてしたくない!」

「よく言ったぁ!!」

 

 

 勢いよく千歌の頭に手を置いてワシワシと撫でる。そして彼女のその言葉を聞いて、他の皆も決意を固めた。みんなで力を合わせれば、この困難だってきっと乗り越えられる筈と。

 

 

「よっしゃ、なら早速行動開始だああああ!!」

『おーーー!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからの彼女達の行動は早かった。

 

 まずはダイヤと鞠莉が代表として運営の説得に向かった。みんなで力を合わせればきっと祭りの開催に漕ぎ着けること、この日まで頑張って来た人達の努力を無駄にしたくないということ、そして観に来てくれている人達の為にも必ず開催したいということを伝えた。彼女達の必死の説得、そして彼らもこの祭りをここで諦めたくないという気持ちがあった為、規模は縮小されるが開催されることが決まった。

 

 

 参加の確定を喜ぶ千歌達。ならばこれからやることは一つ。皆はゴミ袋、軍手、トングなどを用意し、町の清掃作業に取り掛かった。放送で町の人達にも手伝いを呼び掛け、それに応じた人達が道具を持ってゴミを拾ったり、壊れた設備の修復に取り掛かってくれている。そんな中、なんと観光に来て十千万や淡島ホテルなどに泊まっていた人達も手伝うと言ってくれた。祭りを見たいという気持ちは彼らも同じなのだ。

 

 

 多くの人達が、一つの目的の為に手を取り合って協力する。素晴らしいその様子を、翔琉は写真に収めた。そして彼も、みんなに負けられないと気合いを入れて作業に向かっていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 昨夜までとは打って変わり、穏やかな波が引いては押し寄せている海岸。先程までゴミが散乱していたこの場所だが、今は町の人達がそれを拾ったことによって綺麗になっている。

 

 

「よし、この辺りはこれで終わりだな」

「さっさと次に行こうぜ」

「ん、あれは……」

 

 

 2人の男性がパンパンになったゴミ袋を持ってから移動しようとしていた。その時、片方の男性は妙なものを目撃する。海の方から上がってくるずぶ濡れの女性だ。白いワンピースの様な服を来ており、所々赤く血が滲んでいる。長い桃色の髪の所為で顔は見えず、フラフラと覚束ない足取りでそよ女性は海から這い上がり素足で砂浜を踏み締めていた。

 

 

「お、おい、アンタ!?大丈夫なのか!?」

 

 

 まさか台風で海に落ちたのか?怪我もしている様だし、早く助けなければと2人は駆け寄っていく…………が、女性は髪の間より覗いた瞳を見て2人の足は止まる。

 

 

 まるで自分達のことを殺してやるとでも言わんばかりの凄まじい眼光。それを受けた2人は動く事が出来ず、恐怖に震える。

 女性はその後フラフラと歩いていき、そのまま何処かへ消えてしまった。彼らはその様子をただ見送るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 清掃、そして修繕作業が全て終わり、遂に沼津サマーフェスティバルは開催された。いくつかカットされたプログラムやどうしても出すことが出来なくなった出店もあったが、それでもこうして開催する事が出来たのは、一重に皆の頑張りのお陰だろう。

 

 

 

 

 

 

「おー、すげえ熱気だ」

 

 

 会場は多くの人で賑わっていた。みんなの笑い声、出店から漂う美味しそうな匂い、響き渡る太鼓の音。記憶を失った翔琉にとっては全てが初めての体験であり、胸の高鳴りが止められなかった。

 

 

「翔琉ー!」

 

 

 自分を呼ぶ声を聞いて振り返ってみるとそこには果南と善子の姿があった。

 

 

「先輩、津島」

「はいこれ、ここまで手伝ってくれたお礼」

 

 

 そう言って果南はたこ焼きの入ったパックを渡して来た。これは善子が作ったものである。

 

 

「…………食えるよな?」

「失礼ね!?ちゃんと美味しいわよ!!」

 

 

 前回食べた時凄まじく辛かったことを覚えている彼は少し警戒していた。取り敢えず大丈夫だと言う善子のことを信じて一つ口に運んでみる。すると……。

 

 

「おっ、普通に美味い」

「ふふーん!でしょ?これぞブラッディムーンスティックEXよ!」

「普通にたこ焼きだよ」

「それはしーっ!」

 

 

 どうやら普通にたこ焼き名義で販売されてるらしい。まあ、ブラッディなんちゃらなんて名では呼び辛く手を出し辛いだろう。残りのたこ焼きもパクパクと食べていく翔琉。その様子を善子がじっと見ていた。

 

 

「ん、何だよ?」

「その……色々とありがとね。いっぱい手伝ってもらったし、貴方のお陰でこうしてお祭りが出来たからそのお礼をって思って……」

 

 

 少し顔を赤らめながらそう言う善子。普段の彼女からはあまり見られないしおらしい態度。それを見て果南と翔琉はニヤニヤとする。

 

 

「な、何よその顔は!?ていう果南も!」

「別にー?ねぇー、翔琉ー?」

「何もー?なぁー、先輩?」

 

 

 彼女のことを揶揄う2人。善子は頬を膨らませて怒り、それを見てまた2人は笑っている。そんなことをしているとルビィの放送が会場に流れた。

 

 

《皆様、本日はご来場下さり、ありがとございます。台風で開催が危ぶまれたサマーフェスティバルですが、皆様のご協力のお陰で、こうして開催することが出来ました》

 

 

 堂々とした声で放送をするルビィ。台風に関することもアドリブで絡めており、その素晴らしい話ぶりに足を止めて聴き入る人もいる程だ。

 

 

「あ、私そろそろ本部テントの手伝いに行かないと」

「私もお店に戻らないきゃ」

「おう。また後でな」

 

 

 手を振り果南と善子のことを見送る翔琉。さて、次は何処に行こうかと考えながら最後の一個になったたこ焼きを食べようと爪楊枝で刺してから口へ運ぼうとした。その時である。

 

 

 

 

「やあ、初めまして」

「ッ!?」

 

 

 突如背後、しかもかなり耳元から声を掛けられた。バッと振り返るとそこに居たのは美しい容姿をした人物。中性的な顔とスタイル。男性なのか女性なのか、見た目だけでは判断の難しい。おまけに声も中性的な為、裸にでもしない限りどっちなのかが判別が出来ない程である。

 やや警戒しながら、翔琉はその人物に名を尋ねる。

 

 

「誰だ……アンタは?」

 

 

 彼の質問を受け、その者は和かな笑顔と共に口を開いた。

 

 

「ボクはカタラ。君と同じ存在さ」

「は?あ、ちょ!?」

 

 

 そう言ってからカタラと名乗った人物は翔琉の手元にあったたこ焼きをパクリと食べてしまう。

 

 

「何んすんだ!?」

 

 

 怒る翔琉であるが、カタラはまるで気にすることなくこれまた楽しそうに笑っていた。その様子に彼はどこか不気味さを感じる。

 

 

「何なんだよてめえは……?」

「言ったでしょ、君と同じ存在だって。まあ、ボクの方が少し進んでるかもだけどね」

「意味わかんねえよ。頭イカれてんのか?」

「いやいや。何を正常とし、何を異常とするか。それは君が決めるものでは無いだろ?だからボクは、至って正常さ」

 

 

 何処が正常だと腹の底で毒吐く。それが表情に出てしまうが、カタラはまるで意に介せず彼の耳元にまた顔を近付けていく。

 

 

「お、おい……」

「喜んで貰えたかい、ボクからのファーストプレゼントは?」

「は、はぁ?」

「怪獣2匹……なかなか楽しめただろ?」

 

 

 翔琉は素早く距離を取る。

 昨夜怪獣が2匹出現したこと。それはまだ発表されておらず知る者はXio関係者くらいで一般人が知る由など無い。なのにこの者はそれを知っていてしかもプレゼントなどというふざけた言い方をして来た。そのことから彼は、ある考えに至る……。

 

 

「まさか貴様、ファウストか……?」

 

 

 鋭い眼光でカタラを睨み付ける。あの時テンカイとナイフヘッドと共に現れたダークファウスト……その正体が今目の前に居るコイツではないかと翔琉は考えたのだ。

 

 

「いや、違うよ。ボクは彼女じゃない。ただの協力者さ」

「協力者、だと?」

「そう。彼女の……というよりはあの子の、かな?」

 

 

 そう言うとカタラは踵を返して軽快な足取りで歩き出す。

 

 

「おい、待て!?」

「また会おうね、擬き君」

 

 

 人混みの中に入っていくカタラ。翔琉はそれを追い掛けるが何故か追い付くことが出来ず、カタラの姿は煙の様に消えてしまった。

 

 

「カタラ……一体何なんだよ……?」

 

 

 カタラ。その名を口にし頭に刻む。底の見えない相手に少し背筋が凍る様な感覚が走った。奴が何者なのかはまだ分からないが、これから先奴とは何度も出会い争う事になるのだろう……何となくそれだけは感じられたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 特設ステージにて、Aqoursのライブが始まろうとしていた。先程のことが頭から離れない翔琉ではあるが、取り敢えず今は彼女達のステージに集中しなければと両頬を軽く叩く。

 そうこうしているとステージ上にAqoursの皆が現れた。

 

 

「皆さんこんにちは!スクールアイドルのAqoursです!今日は集まってくれてありがとうございます!最後まで皆さんに楽しんでもらえるよう、精一杯歌います!聴いて下さい–––––」

 

 

 

 

 始まるライブ。それと同時に会場を更に凄まじい熱気が包んだ。多くの人達から歓声が湧き上がり、誰もがこの瞬間を楽しんでいた。

 悩みに悩んで完成した歌詞。懸命に練習したダンス。そしてたくさんの人を笑顔にしたいという彼女達の想い。それらが観に来てくれてる全ての人達に伝わり、大きな輝きを生み出しているのが伝わって来た。胸が熱くなり震える–––翔琉はそのステージに圧倒され、目が釘付けとなっている。

 

 

「これが……Aqours……!」

 

 

 身体中を駆け巡る感動。記憶を失う前の自分も、これを感じていたのか……。眩いステージに魅了され、そして同時にこんなライブを歩夢、かすみ、しずく、果林、愛、彼方、せつ菜、エマ、璃奈……虹ヶ咲のみんなと一緒にやりたいという想いが込み上げて来た。

 

 いつの日か、この瞬間に負けないくらい輝くライブを……!

 それを夢見ながら、翔琉は精一杯Aqoursのライブを楽しむのであった–––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 翌日の昼。翔琉は沼津駅の前に着ていた。長らく内浦に滞在していた彼だが今日、遂に東京へと戻るのだ。そしてそれを見送る為に、Aqoursのみんなが来てくれていた。

 

 

「とうとう帰っちゃうんだね……」

「ああ」

「寂しくなっちゃうなー……もういっそ、内浦に住んじゃえば良いのに」

「こら、チカ。わがまま言わないの」

 

 

 彼がいなくなる事に不満そうな千歌を果南が諫める。それを見て翔琉は笑うのであった。

 

 

「みんなありがとう。お陰で、スクールアイドルの輝きってやつが少しだけ見えてきた気がする」

「お礼を言うのはこちらの方ですわ。貴方にはたくさん手を貸して頂きましたから」

「ルビィも、翔琉さんに会えて良かったです!」

 

 

 頭を下げてくるダイヤ。最初はあれだけ翔琉にビビっていたルビィも今では彼の目を見て堂々としている。

 

 

「また是非内浦に来てね?その時は一緒にダイビングしよ?」

「そうだね、内浦の海でたくさん遊ぼ!」

 

 

 果南と曜とそう約束。そういえば内浦の海でまだ遊んでいないことを思い出す。今度来た時は満喫したいものだ。

 

 

「次に来た時はマリーのホテルのSuite roomに招待するわ!」

「今度ゆっくり、作曲に付いて話ましょ。貴方の作る曲、もっとたくさん聴いてみたいから」

 

 

 鞠莉と梨子から提案されたスイートルームに作曲の話。どちらも楽しみだ。

 

 

「もっといっぱいお話したかったずら……」

「むぅ……また来なさいよね?貴方はヨハネのリトルデーモンなのだから!」

 

 

 残念そうにしている花丸と善子の頭をわしわしと撫でる。

 彼女達とまた会える日が今から楽しみになっている。

 

 

 

「本当にいろいろありがとう!東京でも頑張ってね!」

「ああ。みんなも元気でな!」

 

 

 手を振り、駅の中へと入っていく翔琉。それをAqoursの皆は見えなくなるまで手を振り返して見送った。数日間のAqoursと翔琉の邂逅。それはお互いの胸に輝く思い出となった。翔琉は早くこの胸に感じたものを虹ヶ咲のみんなに伝えたい……そう思い、少し駆け足でホームにへと向かって行くのであった––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







これにてAqours編、終了です!
駆け足ではありましたが無事終わる事が出来てほっとしています。

Aqoursと出逢いその輝きに触れた翔琉。それが今後にどう影響していくのか、是非お楽しみに!

そして謎の人物カタラとの遭遇。これもまた、翔琉に少しずつ影響を与えていきます。どの様なことになっていくのか、そこにもご注目下さい。

それでは今回はここまで……ではなく、もう少し続きます。最後までお楽しみを。


感想、質問、お気に入り、高評価、その他、是非お待ちしています!

















 東京駅に着いた翔琉。駅前で一度荷物を置いてからグッと身体を伸ばす。みんなは元気にしているだろうか?そんなことを考えていると携帯が鳴った。しずくからである。


「よお、しずく。今丁度駅着いたところだ」
《せん……ぱい……》


 電話越しに伝わる彼女の声は震えており明らかに様子がおかしい。


「どうかしたか?」


 そう聞くが返答は無く、すすり泣く様な声が聞こえて来るだけ。そして十数秒後、しずくから聞かされたのはとんでもない内容であった……。





《歩夢さんと……果林さん、せつ菜さん、……璃奈さんが、拐われました……!》
「何だと……!?おい、それってどういう……!?」


 しずくに事の詳細を聞こうとしたその時、翔琉の前に異様な黒ずくめの集団が現れた。そして先頭に立っている者がタブレットを取り出して画面を彼に見せ付ける。そこに映されていたのは、十字架に張り付けにされた様な状態になっている、歩夢、果林、せつ菜、璃奈の4人の姿。
 

「な……!?」


 衝撃を受ける翔琉。同時に空が破れる様な音が鳴り、大雨が降り注ぎ、凄まじい雄叫びが響き渡るのであった……–––––







次回、「24.殺シ屋」



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24.殺シ屋



エース兄さん最高!!!!!!
アニガサキ最高!!!!!!

と叫んでますが今回は虹学キャラがほぼ出ません←
代わりにと言ったらあれですが、ウルトラマンZに登場したあの超獣が登場します。エースキラーといえば……。

そんな感じで始まるエースキラー編、早速どうぞ……



 

 

 

 

 

 

 

 

 暗雲と豪雨の都心。そこでけたたましい雄叫びを上げながら暴れる怪獣がいた。右手に鉄球、左手に鎌、頭部には剣が備え付けられたその悪魔の様な怪物は鼻先から火炎を吐いて街を破壊。傍若無人な暴れっぷりを見せる。この怪獣……いや、超獣の名はバラバ。殺し屋超獣の別名を持つとんでもない化け物だ。

 鉄球の先端を鞭として伸ばしビルを貫く、放置されてた車を踏み潰す、鎌を振って鉄橋を崩す、先の二又に分かれた尾を道路に叩きつける、火炎で逃げ惑う人々を焼き殺す。恐るべきこの超獣は情け容赦無く都心を蹂躙していった。

 

 荒れ狂うバラバの元へ、2機のマスケッティが駆けつけた。α機にはハヤテとリュウジが、β機にはイヅルと紗季が乗っている。それを見て不気味にバラバは笑う。

 

 

「くらえ!」

 

 

 両マスケッティから光子砲が放たれる。それはバラバに当たるが敢えなく弾かれてしまった。

 

 

「効いてない……!?」

「だったらこれだ!」

 

 

 β機がミサイルを放った。だがそれもバラバの表皮に弾かれて地に落ちて爆発。

 

 

「ちょ、余計な被害出してどうするのよ!?」

「う、うるせえ!」

 

 

 その後も攻撃を続けていくのだがまるで通じない。2機のマスケッティを無視して、バラバは破壊の限りを続けていく。頭部の剣を光らせてショック光線を放ち高層マンションを破壊。崩れていくそこからは、逃げ遅れていた人々の悲鳴が響いた……。

 

 

 

 

 やりたい放題のバラバ。その様子はXio司令室でもモニタリングされていた。

 

 

「超獣……厄介な」

「怪獣よりも強靭な力に加えて、強力な兵器も備えている……本当に厄介な相手っす」

「ヤプールめ、いらん置き土産を残していきおってぇ!」

 

 

 涼風、陽花、シャマラ博士が毒吐く。

 

 

「マスケッティに攻撃が一切効かないなんて、強敵ね……翔琉君は?」

「それが、連絡が、着きません」

 

 

 先程から翔琉に連絡をしているのだが何故か通じない。もう既に内浦から東京に着いててもおかしくない時間の筈。

 

 

「いつもなら怪獣が出たらすぐに来る筈なのに、何かあったんでしょうか?」

「少し、おかしい、かと」

「気になるわね……ミキリ、ミハネ。彼の学校や家の方に連絡して––––」

「「大変だよ!?」」

 

 

 学校などの連絡ルートからどうにか翔琉とコンタクトを取れないかとミキリとミハネに聞こうとした時、2人が驚いた声を上げた。

 

 

「どうかしたの?」

「この雨大変だよー!」

「この雨が超獣を守ってるよー!」

「雨が、超獣を?」

 

 

 バラバを中心に半径1km程の場所に降り注いでいる雨。なんとこの雨が、バラバの身体に降ることで特殊なバリアを表面に形成し攻撃を無効化させていたのだ。しかもこの雨には更に恐ろしい事実が秘められていた……。

 

 

「「この雨、放射線が放出されてるよ!」」

「何ですって!?」

 

 

 超獣バラバによって降らされてるこの雨は、放射能の雨なのだ。バラバのことを守り、更に放射性物質で街と人を汚染していく恐ろしい雨に、沙優隊長を初め司令室にいたメンバー、そして通信でそれを聞いた出撃しているメンバー達も驚愕する。

 

 

「最悪ではないか!?」

「この放射線量……10分浴び続けたり、汚染された雨水の近くにいるだけでも人体に悪影響を齎らします!」

「建物の中や地下に避難を……いや、でもそれだと超獣によって直接攻撃を受けてしまう確率が上がってしまうっす……!?」

「α機、β機!超獣に絶え間無く攻撃して!効かなくてもいいから、動きを止めるの!」

 

《了解!》

《了解!》

 

「涼風、すぐに自衛隊や近隣の警察、消防にもこのことを通達!ミキリ、ミハネは翔琉君の位置を早急に捜し出して彼に連絡を!シャマラ博士はあの雨について解析を続けて!」

「了解です!」

「「了解だよ!」」

「今やっとるわい!」

 

 

 指示を飛ばしていく沙優。放射能……その恐ろしさは過去より学んで来ており、それ故に早くこの状況を何とかしなければと躍起になっていた。

 

 

「こうなったら……!」

 

 

 陽花はゴモラのスパークドールズをカプセルの中に入れ、サイバーゴモラのカードをスタンドに置いてからパソコンを操作し始める。バラバが暴れ、エックスも何故か現れないこの状況を打開する為に、彼女はあるものに賭けることにしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 一方その翔琉はというと謎の黒ずくめの集団に従い、共に港にある倉庫の前に来ていた。都心ではバラバが大暴れをしており倒さなければならないことは分かっているが、コイツらは歩夢、果林、せつ菜、璃奈の4人を誘拐している。もし言う事を聞かずに戦いに向かえば4人の命が危ないだろう。バラバのことはXioの仲間達に任せ、自分は歩夢達を助けに向かうしかなかった。

 

 

「ほら、入れよ」

 

 

 1人の男にそう促され、彼は扉を乱暴に開けて倉庫内に入る。すると翔琉の目に、植物の枝の様な触手に身体を縛られ十字架に捉えられているかの様な状態になっている歩夢、果林、せつ菜、璃奈の姿が映る。よく見ると、その触手は1人の宇宙人と思わしき者から伸びていた。

 

 

「お前ら!!」

 

 

 叫び駆け出す翔琉。しかしその前に、銃を構えた複数の者達が立つ。

 

 

「てめえら……一体何者だ!?」

 

 

 仕方なく立ち止まる翔琉。怒りを込めて叫ぶと、それに応える様に鎧を身に纏った男が前に出る。

 

 

「初めましてウルトラマン。俺様のことはそうだなぁ……超一流の殺し屋、エースキラーとでも呼んでくれ」

「自分で超一流とか言う奴って、大抵最後には死ぬよな」

「安心しろ、俺はそんなヘマしないんだ」

「で、そのエースキラーさんが何の用だ?あとそいつら解放しろ」

「ハハッ、面白い事言うねぇ。そう言われて人質をすんなり返す殺し屋は何処にも居ないだろうよ」

 

 

 エースキラーのことを翔琉は強く睨む。しかし奴はそれを気にすることなく飄々としていた。

 

 

「俺達は依頼を受けてお前を殺しに来たんだ。まさかターゲットがあのウルトラマンだって聞いた時は、流石の俺も驚いたぜ。まあ、それでもちゃんと殺るのが、俺の良いところだ。しっかり殺されてもらうぜ?」

「ふざけんなクソが」

「いいねいいねぇ!粋の良い若者は大好きだぜ。その方が殺し甲斐があるしなァ……。態々人質を連れて来たのも、お前にやる気になってもらう為なんだ。せっかくだから楽しませてくれよな」

 

 

 完全に遊び感覚でいるエースキラー。奴からしてみれば翔琉を殺すことなど容易い事であり、せっかくウルトラマンを殺すのならせめて楽しもうという舐め切った魂胆なのだろう。歩夢達を人質にしたのもただ彼と遊ぶ為の玩具としてだ。周りの連中もエースキラーと同じ様だ。そんなふざけたエースキラー達に対し、翔琉の怒りはより湧き上がっていく。

 手斧の刃を翔琉に向けるエースキラー。彼もエクスデバイザーを手に取って構えた。

 

 

「まあ人質といっても、コイツらはお前を誘き出す為だけの餌だ。別にお前が向かって来たからって殺しはしねえから安心して掛かって来な」

「信用しろってか?」

「しなきゃお前が死ぬだけだ」

「チッ…………やってやんよ!!」

 

 

 デバイザーの上部を押してエックスに変身する翔琉。普段と違って人間サイズでだ。拳を構える彼のことを見て、エースキラーは愉しそうに笑い声を上げた。

 

 

「ハハハッ!ウルトラマンを殺せば、俺らもより箔が付くってもんだ。さあ、楽しませてくれよ?」

 

 

 地を思いっきり蹴って駆け出したエックス。怒りを込めた拳を、怒号と共にエースキラーへと放つのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 Xioのバラバへの攻撃は続いていた。放射能の雨に守られたバラバにそれらは一切通じておらず、奴の動きを少し止めるだけではあるがそれでも自衛隊達による民間人の救助活動の時間稼ぎにはなる。

 

 

《CYBER KUMONGA LOAD》

 

「クモンガデスクロスネット!」

 

 

 サイバークモンガのカードを読み込ませたマスケッティαから、電磁ネットが放たれてバラバを包み込んだ。ネットを引き千切ろうとバラバは暴れるが、高い強度を持つそれに苦戦をしていた。

 

 

「よし!」

「ハヤテ、ここは任せる。俺は下に降りて救助を助けてくる」

「了解ですリュウジさん!」

 

 

 そう言うとリュウジは煙の様にスッと消え、次の瞬間には地面に降り立っていた。そして放射能の雨の中を躊躇なく走っていく。ハヤテはそれを気にすることなく、ネットから逃れようとしているバラバを睨んでいる。β機に乗るイヅルと紗季も、バラバを抑える次なる一手を思考しながら奴の周りを飛んでいた。

 

 

「取り敢えずこれで少しは抑えられそうだが、どうすだよこの化け物……てか、翔琉は何処いったんだよ!?」

「弱音吐かないの!とにかく今はアイツを止めるわよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな中、沙優隊長は指揮権をザムザ副隊長に預け、とある人物の元に来ていた。UNVER日本支部の支部長である北森(きたもり) 耕一郎(こういちろう)の所だ。

 

 

「こんな時に何用かね、神山君」

「こんな時だから来たんですよ、北森支部長」

 

 

 彼は沙優隊長がまだ研修生だった頃からの恩師とも言える存在であり、彼女をXio日本支部の隊長にと推薦したのも北森支部長なのだ。宇宙人や怪獣に対してタカ派とも取れる様な高圧的な対応をすることも暫しだが基本的にはXioに一任しており、彼女達の行動に余計な介入をすることなく決定を尊重してくれるXioにとっての良き理解者である。

 

 

「この超獣、コードネーム・バラバは放射線を放つ雨を降らせており、それによって都心を汚染。更にこの雨で自身にバリアを張っています。このまま雨が降り続ければ都心の放射能汚染は深刻になり、バラバにダメージを与える事も出来ません」

「放射能に関しては対策チームを早急に編成し現地に向かわせるつもりだ。しかし、大元であるあの超獣と雨をどうにかしなければそれも出来ない」

「だから、ある兵器の使用許可を貰いに来ました」

「…………まさか」

 

 

 彼女の言う兵器という物に心当たりがあるのだろう。北森支部長は眉を顰めるが、沙優隊長は構わず彼の目を真っ直ぐ見ながら口を開いた。

 

 

 

「レディエーションデストロイヤーGの、使用許可を申請します」

 

 

 

 これ以上バラバによる被害を拡めない為に、彼女達は自分達に出来る事を一生懸命にやっていくのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・ゴルメデ

別名:古代暴獣

身長:54m

体重:6万9千t

出典:ウルトラマンコスモス 2話「カオスヘッダーの影」

 

 凶暴な性格の怪獣で硬い角と背中の殻、強靭な脚力を利用したキック、口からの火炎弾を武器にして暴れる。リドリアスという天敵の怪獣が存在し、激しく争っているところが暫し目撃されている。

 虹ヶ咲学園付近に現れた……というよりもダークファウストによってそこに連れて来られてしまった怪獣。エックスと戦うが圧倒され、挙げ句の果てには現れたファウストによってカオスゴルメデにへと変化させられてしまった。

 コスモス2話に登場。ウルトラシリーズ第一期の怪獣の様なシンプルなデザインが特徴。ウルトラQに登場したゴメスのオマージュ怪獣でもある(天敵のリドリアスは、ゴメスの天敵であるリトラのオマージュ)。

 

 

・カオスゴルメデ

別名:古代暴獣

身長:54m

体重:6万9千t

出典:ウルトラマンコスモス 2話「カオスヘッダーの影」

 

 ゴルメデが外的要因により強化させられた姿。頭部には沢山の赤い突起があり、後頭部には大きな角が生え口からは強力怪光という破壊光線を放つ。

 ダークファウストにより、ダークフィールドから降り注いだ闇のエネルギーでゴルメデが強化。この時点でゴルメデ自体は既に死んでおり、動く死体人形状態である。ファウストと共にエックスを追い詰めたが、かすみを救い活気を取り戻した彼の猛攻を受け、最期はプラズマスパークスラッシュによって斬り裂かれた。

 本編ではゴルメデのデータをコピーしたカオスヘッダーが実体化した姿だが、本作ではダークフィールドによって強化させられた怪獣となっている。

 

 

 

 







放射能、放射線に関してですが、私がそこまで詳しい知識を持ち合わせてないので本来のものと違う独自設定が入ってくると思いますがご了承下さい。

今回のエースキラー編ですがXioのメンバー、つまりオリジナルキャラ達がメインの話になってきます。そしてウルトラマンA 13 、14話のオマージュもちらほらとあります。
バラバと戦うXio、エースキラーに嵌められたエックス、彼らは窮地を乗り越えれるのか?
そして沙優隊長が使用しようとしてる「レディエーションデストロイヤーG 」とは何なのか?
次回もまたお楽しみに。

感想、質問、高評価、その他、是非是非お待ちしてるんご!



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25.脅威ノ殺戮者



少しずつお気に入りが増えてて嬉しいであります!
感想も貰えるともっと嬉しいであります!

そんなお願いを置いておき、対エースキラー編2話目、早速どうぞ!




 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レディエーションデストロイヤーG……か」

 

 

 北森支部長の呟きに沙優隊長はコクリと頷く。

 

 

「レディエーションデストロイヤーGは放射性物質を破壊、消滅させることが出来ます。それを使いあの放射能の雨を消滅させ、その後最大火力で超獣を撃破するという作戦です」

 

 

 放射能の雨さえ無くなってしまえばバラバには攻撃が通るようになる。だから沙優は早急にその兵器の使用すべきだと考えていた。しかし、北森支部長はそれを渋っている様に見える。

 

 

「……あれはG対策兵器。つまり、()に使う為の物だ。製作コストも高く、現在配備されているのも3機しかない。それを易々とあの怪獣に使用するのを、上層部の連中が黙っていると思うか?」

「放射能の恐ろしさはこの国の人間が良く知っている筈です」

「それ以上に、奴の恐ろしさを知っている。それが我が国、そして世界だ。奴に有効な可能性のある兵器をこんな所で使おうとは思わんだろうな」

 

 

 溜め息を吐く北森支部長。

 奴……それはこの世界を何度も危機に陥れた怪獣の王。レディエーションデストロイヤーGは本来その怪獣王を倒す為に開発されたG対策兵器の一つなのだ。強力なG対策兵器の殆どは製作コストが高く時間も掛かる為生産数が少ない。そんな貴重な物を、強敵とはいえバラバに使うということは確実に上層部の人間達は認めないだろうと彼は思っていた。

 

 

「このまま超獣が暴れ、雨が降り続ければより多くの犠牲者が出て、更に放射能汚染は拡がっていきます。それを許容することは出来ません」

 

 

 彼女は強い瞳で北森支部長のことを見つめる。これ以上バラバによる被害を増やさない為にも、彼女はレディエーションデストロイヤーGの使用許可を求めていた。

 互いに見合い暫くの沈黙の後、北森支部長は口を開いた。

 

 

「私の方から話は通そう。喧しい連中も黙らせる。レディエーションデストロイヤーGの使用を許可する」

「ありがとうございます!」

 

 

 深々と頭を下げる沙優。一方北森支部長は溜め息を吐いていた。これから文句を言って来そうな上層部の人間を黙らせなければならないのだから骨が折れるだろうし、使用すればまだ一般に公開していないこの兵器の説明を世間やマスコミに求められるだろうからそちらの対処も考えなければならない。かなり大変なことになるだろう。その心中を察したのか沙優は彼に声を掛けた。

 

 

「大丈夫です。北森さんの平和を守りたいという想いは、きっと全ての人達に伝わります」

「だと良いがな……。レディエーションデストロイヤーGを搭載した機体をこちらで用意する。パイロットをこちらに寄越したまえ。準備完了次第何時でも出せるようにしよう」

「それでしたら大丈夫です」

 

 

 北森支部長の言葉にそう返した沙優。その顔は、何処か自信に満ちたものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 倉庫内にて、エックスとエースキラーの勝負が繰り広げられていた。

 

 

「オラッ!ハァッ!」

 

 

 しかし実際は勝負と言える様な状況では無い。エックスの放つ攻撃は全てエースキラーに易々と躱されて逆にカウンターを食らっており、奴は余裕の笑い声を上げている。

 

 頭部目掛けての上段蹴りを放つエックス。だがエースキラーはそれを身体を反らせて躱し腹を蹴る。体勢をすぐに立て直してから正拳突きを放つがこれもまた容易く避けられてしまった。技量差に加えて、歩夢達が捕らえれていることへの焦り。エックスは赤子の様に弄ばれていた。

 

 

「くそ……!舐めんなゴラァ!」

 

 

 思いっきり振り被ってのパンチ。エースキラーはそれを容易く左手で受け止めてしまう。

 

 

「なッ、この……!?」

「弱いねぇ……その程度でここまで生きて来れたのは褒めてやるが、弱過ぎる」

 

 

 エースキラーの姿が消える。何処に行ったのかと辺りを見回そうとした次の瞬間、背中に強烈な痛みが走った。

 

 

「瞬間移動……だと!?」

「いやいや、ただ速く動いてるだけだよ。まあ、お前にはそう見えるかもだけどなァ!」

 

 

 奴は再び動き二又のマチェットでエックスを斬り付ける。目に止まらぬスピードで動きながら、エースキラーは彼のことを何度もマチェットで斬る。エックスはそれを躱すことが出来ずただ嬲られるだけだ。

 

 

「ハハッ!ホラホラどしたァァ!?しっかり躱さねえと死んじまうぞォ!?」

「ぐッ!?がッ、ぐうう!?だあッ!?」

 

 

 態と致命傷は外しながらエックスを痛め付けていく。反撃をしようにも、打撃は全て回避されてしまいどうしようも無い。

 

 

「このッ……調子に–––––ッ!?」

 

 

 何とか打開しようとエースキラーを睨み付けた時、横から強烈な衝撃が彼を襲い吹き飛ばした。積まれていたドラム缶に突っ込んでしまう。痛みに耐え、埃を払いながら立ち上がり顔を上げるとそこには3m以上はある大きな異星人が居た。この異星人・ウヴェルヴ星人が彼のことを殴り飛ばしたのだ。

 

 

「ぐっ……!?何の……ッ」

 

 

 「何のつもりだ!?」–––––そう叫ぼうとした時に大きな影が彼に覆い被さる。咄嗟に横に跳ぶエックス。彼が居た場所にはウヴェルヴ星人よりも巨大な異星人の拳が叩き込まれクレーターを作っていた。ブラックキング……かつて地球に現れた怪獣ブラックキングと非常に酷似している事からこの異星人もそう呼ばれている。

 

 

「チッ!どういう事だこれは!?」

「別にサシでやるなんて言ってないからなァ」

 

 

 エックスの周りをエースキラーの配下である複数の異星人達が取り囲んだ。ケムール人、セミ人間、タダ、バド星人、ゴドラ星人、ヴァリエル星人、アトランタ星人、ザム星人、レイビーク星人、イルド、ナターン星人、ナルチス星人、ノワール星人、ターラ星人、セミ女、クカラッチ星人、ガルメス人、カッダー星人……様々な異星人達が武器や爪、拳などを構えている。

 

 

「…………ああそうだな、そうだったなぁ!!」

 

 

 エースキラーの屁理屈に怒りを爆発させる。圧倒的に不利な状況だが歩夢達を助ける為にも退く訳にはいかない。床を拳で殴り付けてから、彼は異星人の軍団へと立ち向かっていく。

 

 襲い掛かってくる無数の弾丸やレーザー光線。それをくらいながらもエックスは走り、目前に居たバド星人を殴り飛ばした。そこにザム星人が鋏を突き出したが彼はそれを手で払って逸らしたが、カッダー星人の投げナイフが背に刺さる。

 

 

「がっ!?」

 

 

 怯んだ彼のことをターラ星人、アトランタ星人、ケムール人、イルドが刃物で斬り付けた。そして異星人達の攻撃よりが苛烈化していき、エックスはそれに晒されていくことになる。鋭い攻撃が彼の身体を傷付け、体力を奪いカラータイマーが点滅する。ゴドラ星人の鋏、クカラッチ星人の爪などが容赦無く彼を追い詰めていった。ダメージが溜まり足下がフラついているエックスのことを、勢い良く走って来たブラックキングが殴り飛ばした。

 

 

「ぐうう、があああああッ!?」

「ハハハッ!殺っちまえ!」

 

 

 その様子を楽しそうに見るエースキラー。彼が指を鳴らすと宙に映像が浮かび上がってきた。映されているのはネットを破って再び暴れるバラバの姿だ。

 

 

「殺せ殺せ!放射能の雨に守られたバラバが、負ける筈がねえんだよ……!」

 

 

 ブラックキングの一撃により、エックスは地面に叩きつけられた。

 

 

「く………そ…………」

 

 

 このままでは自分も歩夢達も殺されてしまう……。最悪4人だけでもどうにかして助け出さねばと、痛ぶられながらも彼は機を窺っていた。見詰める先にいるのはネペンテス星人によって磔にされている歩夢、せつ菜、果林、璃奈。一人一人助けてては隙が大きいので一遍にやらねば……。エックスは拳をギリッと握り締める。

 

 

「どうしたァ?もう終わりかァ?ウルトラマンのくせに情けねえなァ」

「うる……せえ………舐めんなよ……」

「お、そうそう!そう来なくっちゃ面白くねえ!」

 

 

 立ち上がるエックスを見て、エースキラー達はニヤニヤと嫌らしく嗤う。そしてダガレット製の弾丸を放つハンドガンを彼に向けた。他の銃を持った異星人達もその銃口を向ける。

 

 

「ハチノスって奴にならない様、精々耐えてくれよ!」

 

 

 一斉に銃が彼にへと放たれた。エックスは腕をクロスして弾丸の嵐に抗う。もう少し、もう少しで歩夢達を助けられる隙が出来る……彼はその好機を待ってひたすら耐えていた。

 

 

「………………今だ!」

「ッ!?」

 

 

 エックスは一気に飛び上がり、右腕にエネルギーを纏いながら回り込む様にしてネペンテス星人にへと接近。彼を追って放たれる弾丸を躱しながら、纏っていたエネルギーをカッターの様にしてから4人を縛り付けてる蔦に向かって放った。カッターは見事に彼女達の足の下の蔦を一気に切り裂き、そして宙に投げ出された4人をエックスは纏めて抱えてから積まれていた木箱の後ろに隠れた。

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ………なんとか、なったな………」

 

 

 だいぶヤケクソ気味な方法ではあったが、なんとか上手くいった。彼女達は気を失ってはいるが目立った外傷は無く、命に別状は無さそうだ。後は速攻で奴らを倒すだけ……まあ、それが一番の難関ではあるがやらなくてはみんな殺されてしまう。絶対にやり遂げなければと決意した時、怒号が倉庫内に響き渡った。

 

 

「くそがああああああああ!!!??下等生物の分際で舐めた真似をおおおおおお!!!!殺す!!殺す!!必ず殺す!!!!!」

 

 

 どうやら先の行動がネペンテス星人の逆鱗に触れたらしい。怒り狂うネペンテス星人のことを見てエースキラーは笑っている。

 面倒な事になってしまった……エックスがそう思い頭を抱えていると微かに声が聞こえた。歩夢が目を覚ましたのだ。

 

 

「ッ、歩夢!?」

「………っ、かけ……る…君」

「大丈夫か?何処か痛むとかないか?」

 

 

 彼の質問に「大丈夫だよ」と彼女は答えた。安堵してから木箱から顔を出してエースキラー達の様子を窺うエックス。奴らはゆっくりとこちらに向かって来ていた。ネペンテス星人とブラックキングが今にも飛び出しそうな勢いでいるが、それをエースキラーが制している。奴はあくまでも楽しみながらエックスを殺すつもりなのだろう。

 

 

「歩夢、せつ菜達を起こしてから早く此処から逃げろ」

「えっ、でもそれじゃ……」

「大丈夫だ。俺もアイツら全部ぶっ飛ばしてからすぐ追い掛ける」

「うん……気を付けてね」

「応よ」

 

 

 一気に飛び出して特攻、後は止まる事なく暴れまくる。無茶苦茶な手段だがもうコレしかない。覚悟を決めて一歩踏み出した時、彼はある事に気付く。

 

 

「………なあ、歩夢」

「何?」

「何で俺が“翔琉”だって知ってんだ……?」

 

 

 エックスの正体が翔琉である事はXioのメンバー以外知らない。ましてや歩夢達が知ってる筈が無い。だが彼女はさっき間違い無く彼のことを翔琉と呼んだ。何故なのか……?

 

 真相を確かめるべく振り返った彼の目に映ったのは、歪な笑顔と共に剣を振り下ろしてくる歩夢の姿であった–––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 新城野 明里はベッドの上で布団を被って包まっていた。電気は点いておらずカーテンも閉め切っていて暗い部屋を、電源の入ったパソコンの画面だけが照らしている。そこに映されているのは都心で暴れるバラバ、そしてそれと戦うXioの映像だ。

 

 

「…………」

 

 

 しかし明里はその映像を見ることは無くただ布団の中で沈黙している。

 

 

《おやおやおや、興味は無いようだね》

 

 

 ルギエルが声を掛けるがそれも無視。彼女は少しゴソゴソと動くだけ。

 

 

《やれやれやれ。まあ、仕方ないか》

「フフッ、そうだね」

 

 

 すると新たな声が聞こえて来た。明里は黙り込んでおり、勿論ルギエルの物でも無い。

 新たな声の主はカタラ。当たり前の様に現れてパソコン前の椅子に座ってにこにこと笑っている。

 

 

「どうしたんだい明里ちゃん?動きたくないのかな?」

「…………」

「反応無し、か。ちょっと寂しくなっちゃうな」

 

 

 あははと笑うカタラ。それが不愉快だったのか、彼女は動き布団を少しだけ捲る。

 

 

「また不法侵入なんですけど。まじキモい」

「良いじゃないか。君とボクの仲だろ?」

「そんな仲じゃないから。うざい死ね」

「酷いなぁー」

 

 

 そう言ってまた笑うカタラに明里は強い不快感を覚える。この男だか女だか分からない奴は掴み所が無く気味が悪い。ハッキリ言って持ってるスパークドールズや怪獣カプセルを渡してから死んで欲しいと彼女は思っていた。

 すると数回のノックの後、部屋の扉が開けられた。開けたのは明里の母である利子だ。

 

 

「明里ー、ホットケーキ作ったんだけど食べる?」

「うーん、うん。もう少ししてから食べる」

「そう。冷めないうちに降りて来なさい」

 

 

 利子は笑顔で明里にそう言ってから扉を閉めた。カタラやパソコンに映るバラバの映像には目もくれてない。

 

 

「てな訳だから帰って」

「ボクも明里ちゃんのママのホットケーキ食べたいんだけどいいかな?」

「ダメに決まってるでしょ馬鹿キモいうざい死ね」

「はいはい」

 

 

 暴言をどれだけ吐かれてもカタラは気にせず飄々てしており、それが明里の気に触りイライラさせる。でもここでもキレ散らかしても仕方ない。彼女は布団から左手を出して部屋の入口付近を指差す。

 

 

「そこ、綺麗にしといて」

 

 

 

 明里が指差した場所は、赤く汚れていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 寸前で剣を躱したエックス。彼の目の前には剣撃を外したことに不満そうな表情を浮かべている歩夢がいる。

 

 

「チッ、外したか。完璧な作戦だと思ったのによォ」

「お前、歩夢じゃねえな……誰だ?」

 

 

 彼がそう問いかけると、歩夢の姿をしたソレはニヤリと笑い、せつ菜、果林、璃奈も立ち上がって彼女の横に並ぶ。歩夢が首元を触ると、その姿は可愛らしい少女から異形の生物にへと変わる。髑髏の様な顔の、骨肉逆転した身体を持つ異星人。その目にはエックスに対しての強い恨みが込められていた。

 

 

「よおォォ……久しぶりだなァ、ウルトラマンエックス。俺を忘れたとは言わせねえぜ……?」

「お前は!?……………誰だ?」

 

 

 お約束の様な返しをするエックスに異星人はズッコケる。

 

 

「脱獄ハンターズのデスレ星雲人ダイロ様だ!!忘れるんじゃねえ!!」

「え、マジで誰だ?」

「ふざけんなああああああ!?」

 

 

 デスレ星雲人ダイロ。以前ヒッポリト星人ケイプ、ナックル星人ジェイラと共に脱獄ハンターズとしてエックス、そしてこの宇宙に来たゼロと陸と戦った者だ。戦闘のどさくさに紛れて逃走したダイロはエースキラーと接触し、自身をボコボコにした翔琉を狙う様に依頼したのだ。

 

 

「ふざけてんのはどっちだ?歩夢に化けるとか、気持ち悪いことしやがって」

「大事な幼馴染に殺された時のお前の顔を見たかったからなァ」

「趣味悪……。ってことはそいつらも?」

「ああ、そうだ」

 

 

 せつ菜、果林、璃奈も本当の姿に変わる。ピット星人、サーペント星人、ブリス星人だ。

 

 

「じゃあ電話して来たしずくも」

「“変声期を使ったんですよ、先輩”……どうだ、似てるだろ?」

 

 

 ケラケラ嗤うダイロに舌打ちするエックス。初めから狙いは彼のみらしい。

 そこにネペンテス星人の蔦が襲って来た。エックスは後方に飛んでどうにかそれを躱す。

 

 

「正に万事休すって奴だろ?さあ、どうするよウルトラマン?」

「どうもこうもあるか。てめえら纏めてぶっ飛ばす、それだけだ!」

 

 

 駆け出すエックス。それに対して異星人達も武器を振り上げて走り出した。ぶつかり合う彼らであるがやはりエックスの部が悪過ぎる。ダイロ達が加わった事でより悪化しており、彼は猛攻に晒されていく事に。光線技を撃とうにも妨害され放つことが出来ない。何度も何度も攻撃を受けて遂には変身が解除されてしまった。

 

 

 

「ぐはっ!?」

 

 

 地面をゴロゴロと転がっていく翔琉。身体の至る所に傷を負い血が流れていて、口からも吐血している。

 

 

「ぐっ……うう………」

「あー、もう終わりかな?」

「黙……れ……くそが………」

 

 

 翔琉は立ち上がれない程に痛めつけられており、エースキラーへの反論も弱々しい。

 

 

「トドメは俺が刺してやるよ。お前が大好きな幼馴染の姿でなァ」

 

 

 ダイロは再び歩夢の姿となり、剣の鋒を翔琉に向けながら歩いていく。彼にとって大切な幼馴染である歩夢の姿で彼を殺す……非常に悪趣味な趣向だ。

 

 

「ざけんな……!」

「ヒヒヒッ!不様に死に晒せええええ!!」

 

 

 剣が振り下ろされていく。エースキラーの言う通り正に万事休すか………と思ったその時、倉庫天井の一部が轟音とに爆発した。何事かと剣を止めた歩夢(ダイロ)も含めて全員が上を向く。

 

 

「チッ、何が––––ゴハッ!?」

 

 

 何者かが急接近し、歩夢(ダイロ)のことを殴り飛ばす。更に空から小柄な影が二つ元気な声と共に降りて来て翔琉の側に着地し、もう一つ大きな影が彼を守る様に現れた。

 

 

「ア……アンタらは……!?」

 

 

 翔琉を守る為に現れたのは、Xio隊員であるリュウジ、オペレーターのミキリとミハネ、そして副隊長のザムザであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・ホオリンガ

別名:不動怪獣

身長:42m

体重:10万3千t

出典:ウルトラマンX 10話「怪獣は動かない」

 

 光合成を行い排泄をしないという植物の様な特徴を持つ怪獣。地面に大量の根が行き渡っている為、見た目の大きさの割にかなり重い。不動怪獣の別名の通り殆ど動かない大人しい怪獣であり、大地に栄誉を送って豊かにしていた。最終的にその場で山となることが目的。有事の際の攻撃手段として根を触手として操ったり、花粉を噴き出す事が出来る。名前の由来は日本神話に登場する火遠理命(ほおりのみこと)より付けられた。

 内浦に突如現れた怪獣で何もするの事なくただその場に居た。その事から内浦の観光名所にしようと考えられ、沼津サマーフェスティバルの目玉として扱われていた。栄養値が低下していた為Xioによる治療が行われるが、ホオリンガは自身の栄養を大地に送るという生態を持っており、この栄養低下は正常な事であった。事情を知っている花丸やAqoursメンバーが治療を止めようとするが時既に遅く、栄養がオーバーフローしたホオリンガは暴れてしまう。しかしエックスの力によって余分な栄養は抜かれ、最後には無事山となった。

 ウルトラマンX本編に登場した怪獣。本編では坂根村に現れたが似たような田舎町という設定を活用して本作では内浦に出現させた。花のポジションは寺生まれで内浦の歴史に詳しい花丸が担当。偶然にも名前が似ていた。Aqours編でのメイン怪獣である他、翔琉が怪獣や宇宙人に対する考え方を改めることになった相手でもある為本作としてもかなり重要な位置にいる怪獣である。

 

 

 






全員偽物だった虹ヶ咲メンバー←
実は19話以降彼女達はまだ登場してないんですよ。次回にはちゃんと出せるようにしなければ……。

今回はエースキラーのメイン配下として漫画版「ULTRAMAN」からネペンテス星人、ウヴェルヴ星人。そしてアニメ版からブラックキングが登場。更に複数の宇宙人達がエースキラー傘下として登場しています。皆様は全員分かりましたか?
更にゼロライブコラボ回の生き残り、デスレ星雲人ダイロも
再登場。歩夢達に化けるという狡猾な手段で翔琉を追い詰めました。

そしてそんな大ピンチの彼を救ったのはザムザ、リュウジ、ミキリ、ミハネの4人。レディエーションデストロイヤーGの使用許可も降り、次回からXioの反撃が始まります。そして遂にアレも………是非次回もお楽しみに。

感想、質問、高評価、その他、是非是非お待ちしてます!




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26.ジオ総力戦



遅くなりました!

ギャラファイ2、更なるサプライズもあり最高ですね……。

今回色々詰め込んだ結果1万文字を超えてしまう結果に……その分楽しんで頂けると嬉しいですので早速どうぞ!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして、ここに……?」

 

 

 翔琉の前に現れたザムザ副隊長、リュウジ、ミキリとミハネの4人のXioメンバー達。何故彼らがこの場に現れたのか、その理由は少し時間を遡る事になる……。

 

 

 

 

 

 

 

 ミキリとミハネの2人は翔琉を捜す為に頑張ってパソコンを操作していた。虹ヶ咲のスクールアイドル同好会のメンバー達や彼が今朝まで会ってたというAqours、学園の教師、自宅。とにかく思い当たるところ全てに電話をしてみたが皆、翔琉の所在を把握していなかった。街中の監視カメラなどの映像も調べたが駅前で複数の黒服の人物達に従い車に乗り込む所は映っていたものの、バラバの降らす放射能の雨の影響なのかそれ以降の映像は乱れており足取りは掴めなかった。

 

 

「うーん、見つからないねー」

「うーん、見つからないよー」

 

 

 エクスデバイザーや彼の持ってるスマホの位置情報を探してみたがそれでも見つからず、捜索は八方塞がり状態であった。

 

 

「やはり、何者かに、拉致された、可能性が、高いか」

「だろうな。翔琉のやつを抑えてる間にバラバで地球侵略とでも考えとるんだろう。………まあ、そんな事この天才であるシャマラ・シャマーが許さんがなぁ!!」

 

 

 シャマラ博士は凄まじい勢いでキーボードを叩いていく。それに併せてモニターも目まぐるしく移り変わっていき、最後にとある場所のマップを移したものになった。港にある倉庫の場所だ。

 

 

「アイツはここだ。間違いない!」

「何故、そうだと?」

「タイプA、宇宙人共の反応をサーチしたのだ。アイツは複数の宇宙人に拉致された。ならばソイツらの反応が大量にある所にいるのは間違い無いだろう。全身を覆う様な服装でいたという事は地球人への擬態が出来ないタイプが多い証拠であり、そう言った宇宙人は特殊な反応を出してる者も多い。それにどうやら下っ端連中には擬態装置の様な物も持たせてなかったのだろう。だからこうやって特定出来たという訳だ!」

「なるほど……」

「「おー、すごーい!」」

 

 

 えっへんと胸を張るシャマラ博士をミキリとミハネが手を叩いて褒め、涼風も感心した様にも手を叩いている。するとその隣で、陽花が大きな声を上げた。

 

 

「出来たああああああああああ!!!」

「おわっ!?な、なんだいきなり!?」

「遂に完成っす!少なくとも、理論上では上手くいく筈……!」

「まさか、サイバー怪獣ですか?」

 

 

 涼風の質問に陽花は頷いて肯定した。

 

 

「しかし、実体化実験は今まで尽く失敗して来た。今回はエックスのデータがあるとは言え、成功出来るのか?」

「します!させます!ここで成功させてバラバを倒さないと、より多くの犠牲が出る……そんなの絶対にさせないっす!だから、使用許可を下さい!」

 

 

 ぶっつけ本番だが必ず成功させ、サイバー怪獣を呼び出しバラバを倒す。ザムザにサイバー怪獣の使用許可を求める陽花の瞳はその決意の炎で燃え上がっていた。

 

 

《良いわよ陽花》

「ッ、隊長!?」

 

 

 室内に響いたのは沙優隊長の声。いつの間にか通信が繋がっていた様だ。

 

 

《責任は私が取るわ。貴女とゴモラなら、きっと出来る。放射線の防護服を着てから現場に向かって》

「はい!」

「隊長、翔琉の、居場所が、判明、しました。複数の、宇宙人に、拉致、されて、いました」

《そう。ならザムザ、貴方が彼を助けに行ってあげて。応援としてリュウジにも行くように伝えるわ》

「了解、しました」

 

 

 ザムザが頭を下げる。

 

 

「ミキリもいくよ!」

「ミハネもいくよ!」

《ダメって言っても貴女達は行きそうね》

「お兄ちゃんを助ける!」

「絶対に助ける!」

《分かったわ。ザムザの指示に追従して頂戴。それと博士、貴方にも頼みがあるの》

 

 

 その言葉にシャマラ博士は少しだけ嫌そうな顔をする。

 

 

「まさか私にも現場に行けとか言わんよな……?」

《大丈夫、博士ならそこからでも出来る事だから》

「あー……そういう事か」

 

 

 何をして欲しいのか察したのだろう、彼は納得し少し面倒臭そうな顔になっていた。

 

 

《涼風は司令室をお願い。何かあったらすぐに連絡を》

「はい」

《それじゃあみんな!Xioの力を見せてやるわよ!》

 

–––––了解!–––––

 

 

 

 沙優の号令にみんなが応える。翔琉を救い、バラバを倒し、そして多くの人々を守る為に、地球を防衛するXioメンバーはそれぞれ動き出していった。

 

 

 

 

 

 

 エースキラーとその配下である異星人達の前に立つザムザとリュウジ。ミキリとミハネの2人は倒れていた翔琉を起こし、怪我の応急手当てを器用に行っていた。

 

 

「翔琉君は休んでて。コイツらは僕と副隊長で片付けるから」

「けど……」

 

 

 奴らは強い……2人にそう伝えようとした時、ミキリとミハネが彼の手を握った。

 

 

「大丈夫だよー!」

「心配ないよー!」

「えっ……?」

「「2人とも強いもん!」」

 

 

「おいおい、Xioが怪獣ほっぽり出していいのかぁ?」

「問題、無い」

「向こうは仲間達が片付けてくれるさ。だから僕達はお前達を片付けるよ」

「言ってくれる……お前ら、殺っちまいなァァ!」

 

 

 エースキラーの号令を受けて異星人達が一気に駆け出す。それに合わせてザムザとリュウジも迎え撃つ。

 

 ゴドラ星人とザム星人がリュウジに鋏を振るう。しかし彼は頭を下げてそれを回避し、2体に素早く蹴りを撃ち込んだ。ピット星人が銃で狙うがそれも難無く躱しながら接近していき拳を鳩尾に叩き込み、更に回し蹴りを放ってピット星人を吹っ飛ばしガルメス人にぶつけた。

 

 

 ザムザはゆったりと歩きながら異星人達に近付いていく。ターラ星人とアトランタ星人が襲い掛かるがほんの僅かな動きでそれを見切り、一瞬で打撃を放って2体を沈める。イルドとナルチス星人、バド星人が武器を手にして向かうが、奴らも瞬く間に叩き伏せられてしまった。

 

 

「す、すげぇ……!?」

 

 

 圧倒的な強さで異星人達を制圧していく2人の姿に翔琉は目を奪われている。そこにウヴェルヴ星人がものすごい勢いで向かって来た。拳を振り被り、翔琉達へと放つ。当たればひとたまりも無い剛腕。しかし……。

 

 

「は……?えっ……!?」

 

 

 それが彼に届く事は無かった。何故ならミキリとミハネの2人が彼の両脇を抱え、高くジャンプしてウヴェルヴ星人のパンチを躱してしまったからだ。子どもの……というか人間のジャンプ力とは到底思えないものに驚く翔琉。そもそも彼女らは先程天井から飛び降りており、明らかに人離れしている身体能力を見せていた。

 

 

「いくよミハネ!」

「いくよミキリ!」

 

 

 着地後翔琉のことを置いた2人はウヴェルヴ星人に向かって走り出す。そのスピードは凄まじく、ウヴェルヴ星人が放つ攻撃を彼女達は笑いながら躱していた。奴もこんな子どもが自分の攻撃を易々と躱すことに驚いている様子。

 

 

「アイツら、まさか……ていうか、もしかしてここに居る全員……」

 

 

 ザムザ、リュウジ、そしてミキリとミハネの戦い振りを見て翔琉はある考えが浮かび上がる。そしてそれが間違い無いものだと分かるのはこの後の事だ。

 

 

 

 

 

 

「ええい!死になさい!!」

 

 

 ネペンテス星人の蔦がリュウジへと向かっていく。先端を鋭くしたそれで彼のことを貫いてしまおうというのだ。だが、リュウジは右腕を振るい、その蔦を切り落としてしまう。

 彼のその腕を見てみると、まるで鎌の様な形状に変化を遂げていた。

 

 

「なッ!?貴様、一体……!?」

「昔は変身生命体、なんて呼ばれてたよ。まあ、ただの元旅人で今はXioの隊員さ」

 

 

 轟 リュウジ。彼はかつて自分達の故郷の星から追放された友人達を追って宇宙を旅していた異星生物だ。有機物にも無機物にも自在に変身出来る力を持っており、地球ではこのリュウジの姿で活動している。長旅の後に友人達と出会えたリュウジは地球人のことを彼らから聞いて興味を持ち、その後この宇宙にある地球に住むことになったのだ。

 

 

「それじゃ、いこうか」

 

 

 駆け出したリュウジ。擦れ違い様にナターン星人とセミ女、ケムール人を切り裂いた。そしてネペンテス星人に接近してその鋭い鎌を振るう。ネペンテス星人は蔦で動きを止めようとするがそれらは全て切り落とされてしまった。

 

 

「ぐっ!?貴様ァァ!!」

「よく吠える植物だ。インテリアには向かないね」

「黙れえええええ!!?」

 

 

 

 

 

 ヴァリアル星人、セミ人間、ダダ、ノワール星人、ブリス星人がザムザの足元に転がる。彼のその強さは圧巻であった。

 

 

「ひゅー、やるねぇ……。けど、コイツはどうだ?」

 

 

 ブラックキングがその巨大を震わせながら足を振り上げ、それをザムザへと落とし踏み潰そうとする。だが………。

 

 

 

「おいおい……マジかよ……」

 

 

 ザムザはその足を何と片腕で止めてしまった。予想外の怪力にエースキラーもブラックキングも驚いている。ザムザはそのまま奴の足を掴み、思いっきりぶん投げてしまった。ブラックキングは轟音と共に地に叩きつけられる。

 そして同時に、ザムザも本来の姿へと変化する。銀の身体に群青の模様、昆虫の様な頭部では金色の目が輝いており、黒いマントを羽織った堂々たる姿。首から下だけ見ればウルトラマンの様にも見える。

 

 

「貴様、グレゴール人か?」

 

 

 ザムザ・ヘラクレス。彼はヘラクレス座M-16惑星グレゴール星出身のグレゴール人なのだ。宇宙格闘士の別名を持っている強者。とある理由からこの星に来た彼は紆余曲折あってXioの副隊長となっていた。

 

 

「来い」

 

 

 手招きしてブラックキングとエースキラーを挑発。2体はそれに乗って彼へと突っ込んでいく。ブラックキングは剛腕を振るうが容易く彼は受け流し、それに合わせて高速で動きながらマチェットでエースキラーが仕掛けるが、ザムザはそれも読み切って回避していった。

 手応えを得られない事に業を煮やしたブラックキングが大振りの一撃を放った。しかしそれは躱されるだけではなく、勢いを利用されて投げ飛ばされることになってしまう。

 

 

「これはこれは面倒な……」

 

 

 凄まじい強さのザムザに、流石のエースキラーも息を呑むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ウヴェルヴ星人の周りで跳び周り奴を撹乱するミキリとミハネ。その中で彼女達も本来の姿へと変化する。

 

 

「じゃーん!」

「ばばーん!」

 

 

 羽人 ミキリと羽人 ミハネ。彼女達は過去に地球を侵略しようとした共生宇宙生命体の同族であり、侵略に反対したことから追放されギラッガスの忌み名を与えられた者達の子孫。薄い水色の人型宇宙生命体であるミキリとダークグレーに桃色の目が付いた羽根型生物のミハネ。彼女は2人で1人であり、これまでずっと共に生きて来たのだ。

 

 

 ミハネがウヴェルヴ星人の周りを飛び、その素早い動きで奴を翻弄している。そしてその隙にミキリが両腕から光弾を放って攻撃。威力は高くない様だが、連続でヒットしている為ウヴェルヴ星人は苦痛の声を漏らしていた。

 

 

「ミハネー!」

「ミキリー!」

「「合体!!」」

 

 

 ミキリの背中にミハネが合わさる。これが彼女達の共生宇宙生命体としての姿。2人は高速で飛びながら、ウヴェルヴ星人に光弾を放つ。合体した事によりパワーアップしたその攻撃はウヴェルヴ星人の顔面に当たり、身体を地に沈めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 超獣バラバがワイヤーを振り回して飛んでいる2機のマスケッティを狙う。ハヤテの乗るα機とイヅル、紗季の乗るβ機は奴の攻撃をなんとか掻い潜りながら飛んでいた。兵装の段数が残り少なく、そもそも放射能の雨に守られているバラバに攻撃は一切通じない。

 

 

《やばいぞ、このままじゃ!?》

《じゃあどうするだよ!?》

《どうにかするのよ!!》

 

 

 街に攻撃を向けさせない為に高度を上げて飛んでいるが、奴がいつまた街に攻撃を向けるか分からない。このままでは限界が……3人がそう弱気になり始めた時であった。

 

 

 

 

 

 

「ハーッハッハッハァーッ!」

 

 

 突如、青い身体の蛙を人型にした様な滑稽な宇宙人がバラバの前に高笑いと共に現れた。宇宙人は掌をバラバに向けて円を描く様に回しながら何も言えない奇妙なポーズを取っている。

 

 

《な、博士!?》

《何してるの!?》

 

 

 この宇宙人はシャマー星人。あのシャマラ・シャマー博士の本来の姿だ。シャマー星人は元々15cm程度の大きさしかない種族なのだが、彼は特殊な薬品を開発して肉体を人間サイズに巨大化させる事に成功している。

 

 バラバがシャマラ博士に鎌で斬り掛かる……がその鎌は博士の身体をすり抜けてしまった。実はこの巨大かシャマラ博士は幻影であり、本物は涼風と共にXio司令室にいるのだ。その為ハンマーや鎌でどれだけ攻撃しても、博士には一切通用しない。

 

 

 

 

 

 

「ふっ!馬鹿め!超獣と言えど所詮獣!こんな簡単な手にも引っ掛かる様じゃ、私の敵では無いわ!ハッハッハッ!」

「博士、少し静かに」

「………はい」

 

 

 

 

 

 

《みんな、お待たせ!》

 

 

 そんな中、2機の通信機から声が響く。沙優のものだ。そして戦場に、彼女の乗るマスケッティγが急行した。

 

 

《隊長!》

《待たせたわね!博士、そのままバラバの気を引いてて!》

「任せるが良い!」

 

 

 バラバの周りを妙な動きで飛び回る博士。奴はそれが幻影である事に気付いておらず、鬱陶しい相手を殺そうとして武器を振るい続ける。その為、雨雲に向かって飛ぶγ機には気付けていない。

 

 

《さあ、コレで消し飛びなさい!》

 

 

 沙優がトリガーを押し、レディエーションデストロイヤーGが放射能の雨を降らせている雨雲に放たれて中で炸裂。雨雲は数度閃光を放った後、跡形も無く消し飛んでしまった。

 

 

《付近一帯の放射能の数値急速に低下、このまま消滅します。バラバを守っていたバリアも消失を確認しました。水瀬さん、今です》

 

 

 車内で待機していた陽花が涼風からの通信を受けて降り、バラバを見据える。その手にはジオデバイザーとゴモラのサイバーカードがあった。彼女はそれをデバイザーに装填。

 

 

《CYBER GOMORA LOAD》

 

 

 するとサイバーゴモラのスパークドールズが彼女の前に出現した。陽花はそれを左手で優しく握る。

 

 

「ゴモラ……あの超獣の所為で多くの犠牲者が出てるっす。翔琉君は今こちらに来れなくて、アイツを止めるにはもう貴方の力を借りるしかないっす。これ以上犠牲を出さない為に、みんなを守る為に、あたし達に力を貸して欲しいっす……!」

 

 

 大切なパートナーに語り掛けた後、彼女は一度深く深呼吸をしてからサイバーゴモラの足裏のリードサインをデバイザーに読み込ませた。

 

 

 

 

 

《REALISE》

 

 

 

 

 

 眩い閃光と雄々しい咆哮。それと共に出現したのは巨大な1体の怪獣だ。重厚でメカニカルなその身体、巨大な爪と逞しい角、太く長い尻尾。サイバーゴモラが今、陽花の想いに応えて起動したのだ。

 

 

「成功した!!」

《あれが、サイバーゴモラ!》

《やったわね陽花!》

「よーし……!ゴモラ、いくっす!」

 

 

 陽花の言葉を受けてサイバーゴモラはバラバへと駆け出す。バラバは火炎を放ってそれを止めようとするが、サイバーゴモラはものともせずバラバに突撃した。バリアが解けた事により無防備となっている奴は堪らず倒れてしまう。

 

 立ち上がったバラバは剣を光らせショック光線を放つがサイバーゴモラは両腕でそれをガードしながら突っ込み、爪を振るってその肉体を引き裂いた。

 

 

《すげえ……!強いぞ》

《ああ!バラバを圧倒してやがる!》

 

 

 サイバーゴモラの攻撃は止まらず更にバラバを攻めていく。爪が、角が、尾が、次々とバラバへ炸裂していった。バラバも鎌とハンマーで反撃を試みているが、防がれたり躱されたりしてどれも届かない。

 

 後退して距離を取ったバラバは頭部の剣をサイバーゴモラへ飛ばす。しかし彼はそれを右の爪を振るって弾き返した。剣は回転しながらバラバの方に返っていき、その腹に突き刺さる。刺された腹から血が噴き出し、悲鳴と共に吐血した。

 

 

《私達も行くわよ!》

《はい!》

《よっしゃ!》

《了解!》

 

 

 3機のマスケッティがバラバに向かい光子砲を放った。更なる追加攻撃は奴に大ダメージを与え大きな隙を作る。

 

 

「ゴモラ!」

 

 

 それを見た陽花の声を聞いてサイバーゴモラは走り出し、あびせ蹴りの様に前転しながら尻尾をバラバの脳天に叩き付けた。その威力は余程凄まじかったのか、衝撃でバラバの両目玉が飛び出し手足をジタバタさせながら奴は地面でのたうち回っている。

 

 悪魔の様な超獣も、平和を守る為に戦う戦士には敵では無いのだ––––––

 

 

 サイバーゴモラの爪がバラバの鎌とハンマーを砕いた。両腕から火花を散らしながらバラバは苦悶の叫びと共に後退。

 

 

「今っすゴモラ!サイバー超振動波!!」

 

 

 陽花の声を聞いてからサイバーゴモラは両腕の爪と角にエネルギーを集め、高速でバラバへと接近し、ゼロ距離で振動波を叩き込んだ。その強烈な威力にバラバは悲鳴を上げ、そして内部から粉々に砕け散っていった。

 

 

《よしっ!!》

《うおおお!?やったぜ!!》

《やったあ!》

《ふう……一件落着ね》

「やった……!やった!!ありがとう、ゴモラ!!」

 

 

 サイバーゴモラに手を振る陽花。それに応える様に一度吼えた後、サイバーゴモラはスパークドールズの姿に戻る。陽花はそれを優しくキャッチした。

 

 

 「お疲れ様っす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雨が上がった頃、倉庫内での戦いにも終局が迫っていた。

 

 

 自身に向かって飛んで来るギラッガス、つまりミキリとミハネにウヴェルヴ星人は拳を突き出した。2人は分離してそれを躱し、ミハネはウヴェルヴ星人の顔面に張り付く。突然目の前が真っ暗になった事に驚いている奴へ、ミキリは銃を取り出して発砲した。放たれたのは強力な麻酔弾。ウヴェルヴ星人は襲い来る強烈な眠気に堪えられず、地面に倒れ眠りに着いた。

 

 

「やったねミハネ!」

「やったねミキリ!」

 

 

 

 

 

 

 襲い来るネペンテス星人の蔦を右腕で切り払って行くリュウジ。蔦は即座に再生可能とはいえ痛みは有るのでネペンテス星人は強く怒りを感じていた。

 

 

「貴様あああああああ!!!」

 

 

 更に激しく蔦で攻撃していくが、やはり全て切られてしまう。

 

 

「その程度じゃ、僕は捕まえられない」

「黙れ黙れえええええええええ!!!!」

 

 

 蔦を一本に纏めて肥大化させ、それをリュウジに向かって振り下ろす。一気に彼を叩き潰すつもりなのだ。当たればひとたまりもない一撃。だがリュウジの鎌はそれすらも切り裂いてしまった。

 

 

「ぐあああああああああ!!??」

 

 

 藍色の血とネペンテス星人の悲鳴が噴き出す。苦しむネペンテス星人にリュウジは駆け出し、右腕を鉄球に変化させてからそれを奴の鳩尾に叩き付けた。

 

 

「がッ……!?おの……れぇ………–––––」

 

 

 それにより、ネペンテス星人は意識を手放し倒れることになった。

 

 

 

 

 

 

 ブラックキングのラッシュを、ザムザは躱していく。どれだけ強い一撃も、当たらなければ意味が無い。苛立つブラックキングの攻撃は更に大振りとなって威力を増すが隙も大きくなるので当たらない。

 叫ぶブラックキング。そこへザムザは一瞬で接近し、拳を打ち込んだ。拳はブラックキングの腹を貫き、奴は口から血を垂れ流しながら地面に沈んだ。

 

 

「おいおいマジかよ……」

 

 

 ウヴェルヴ、ネペンテス、ブラックキング、そして他の配下の宇宙人達も倒された。残っているのは自分と依頼主であるダイロのみ。まさかの展開にエースキラーは驚いている様だ。

 

 

「貴様も、ここで、終わりだ」

「ケッ、冗談……。悪いがこんな事で廃業なんて、真っ平ごめんだ」

 

 

 マチェットを構えてザムザに高速で接近して斬り掛かり、彼はそれを躱しながら攻撃を放つ。エースキラーも彼の攻撃を躱し、互角の勝負が展開される。

 どちらも引く事無く一進一退の攻防となっており、その凄まじい戦いを見つめながら翔琉は息を呑んだ。自分を圧倒したエースキラー、そしてそれに負けないザムザ。更に幼い姿でありながらウヴェルヴ星人を軽く倒してしまったミキリとミハネ、ネペンテス星人が手も足も出なかったリュウジ、彼らの強さに圧倒されていた。

 

 

「すげえ………ッ」

 

 

 しかしそんな中、彼はある事に気付く。歩夢の姿から本来の姿に戻ったダイロが倉庫から出て逃げ様としていたのだ。

 

 

「逃がすか……!」

 

 

 もう逃がす訳にはいかない。翔琉は痛む身体を押しながらダイロを追って走り出した。

 

 

 

 

 エースキラーの振り下ろしたマチェットをザムザが白刃取り。奴がほんの少しだけ驚いたその僅かな隙に、ザムザは蹴りを叩き込む。強烈な攻撃に怯むエースキラー。ザムザはマチェットを取り上げて投げ捨て、回し蹴りを頭部にブチ込んだ。

 

 

「チィッ……!?」

 

 

 ザムザは止まらず踏み込んで顔面を殴る。それから高速かつ重いパンチのラッシュがエースキラーへと叩き込まれていった。

 

 

「ぐおおッ!?がッ!?があああッ!?」

 

 

 一度隙を見つけたらそこを徹底的に攻め反撃に転じさせない。あくまでも殺し屋のエースキラーでは、生粋の戦士であるザムザ相手に1対1の勝負では分が悪かった。

 

 

「クソッ……ふざけ……!?」

「終いだ」

 

 

 突き出した拳が胸に刺さり鎧を砕く。エースキラーは喀血しながらフラフラと数歩後ろへ退がっていった。下がってしまった頭を上げた時、エースキラーの目に入ったのは自分を取り囲むザムザ、リュウジ、ミキリ、ミハネの姿。このダメージではここから逃げ出すのは不可能。エースキラーは溜め息を吐き、敗北を悟った。

 

 

「あー……くそ……。最悪だ」

「お前の負けだ」

「大人しく、投降し、着いて、来い」

「そうだな俺の負けだ」

 

 

 諦めた様に両腕を挙げるエースキラー。

 

 

「けど、投降はごめんだ」

 

 

 いつの間にかエースキラーの左手にはスイッチが持たれていた。奴がそれを押すと、ネペンテス星人やウヴェルヴ星人、ブラックキングなどの倒れていた宇宙人達に凄まじい電撃が流れ、全員を黒焦げにして焼き殺した。

 

 

「な……お前!?」

「どうせ死ぬならさくっと逝った方が良いだろ?てな訳であばよ」

 

 

 エースキラーは銃を取り出して自身の顳顬(こめかみ)に当て、迷う事無くトリガーを引く。奴の頭は果実の様に弾け飛び、その身体は地面に堕ちていった……。

 

 

「自死、か……」

「……何故でしょうか?」

「解らん。プライドか、或いは、情報抹消か」

 

 

 頭部の無いエースキラーの遺体はドロドロと溶解し跡形も無く消えてしまった。他の宇宙人達の焼死体も誰が誰だか判別出来ないレベルで損傷している。

 

 

「ミキリ、ミハネ、ここは、任せる。リュウジ、翔琉を、追うぞ」

「「りょうかーい!」」

「了解です」

 

 

 一先ずの処理をミキリとミハネに任せ、ザムザは居なくなっていた翔琉のことをリュウジと共に追うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ!はあ!くっ、冗談じゃねえぞ……!?」

 

 

 必死で逃げているデスレ星雲人のダイロ。

 翔琉を殺したいと思い再び地球に来たダイロであったが、ダイロが殺害を依頼したエースキラー達はXioに倒されてしまい、このままでは自分も捕らえられてしまうか下手したら仲間だったケイプやジェイラの様に殺されてしまうかも知れない。そう考えたダイロはもうどうでもいいと思いこの場から逃げ出したのだ。

 

 

「俺様は……こんな所で、終わっていい俺様じゃねえんだ……––––ッ!?」

「待てやああああ!!」

 

 

 轟いた恫喝に驚き振り向くと翔琉が勢いよく飛び込んで来ており、拳をダイロの顔面に叩き付けた。

 

 

「ぐはああ!?」

「お前……逃げられると……思うなよ!」

 

 

 倒れたダイロの上に乗っかり押さえ付ける翔琉。彼自身ボロボロで動くのもやっとな状態だったが、逃がさない為に必死でダイロを押さえ込んでいた。しかし今の彼には難しかったのかすぐに返されてしまい地面を転がる。

 

 

「くっ!?」

「この……クソが!」

「がはッ!?」

 

 

 起き上がったダイロは倒れてる翔琉の横っ腹を蹴り飛ばした。低空で吹っ飛び地面を転がっていく翔琉。それを見て、ダイロは自身の身体から剣を引き抜いた。せめてコイツだけは殺す……そう思い剣を振り翳して走り接近していく。

 

 

「死ねえええええええ!!!」

「ぐぅ……!?」

 

 

 これ迄のダメージと今の一撃の所為で立てないでいる翔琉にダイロが迫る。ザムザ達の姿が見えたがあの距離からでは間に合わない。

 

 

「はああああああああ!!!」

 

 

 振り下ろされていく刃。このままでは殺される……。

 いや、そんな訳にはいかない。必ず生きてまた彼女達の元に戻るんだ……そう強く思いながら、彼は手を前に突き出した–––––

 

 

 

 

 

「ッ!?な……何だ……これは……!?」

 

 

 するとダイロの刃が、否、ダイロ自身の動きがまるで金縛りにあったかの様に止まった。何が起きたのか理解出来ないダイロに、翔琉は手を翳したまま立ち上がり、その手を少しずつ握っていく。

 

 

「ぐっ!?ぐぐうッ!?ま、まさかァァ!?」

 

 

 ダイロの身体が浮き上がった。全身が凄まじい力で締め付けられ、身体に亀裂が入る。強烈な痛みに、ダイロは悲鳴を上げる。

 

 

「はあああ……はあッ!!」

 

 

 両腕を大きく回してから胸の前でクロス。するとダイロは全身から血を噴き出しながら吹っ飛んでいった。地面に叩き付けられてから数メートル転がってから止まる。数度の痙攣の後、ダイロの身体は完全に動かなくなってしまった。

 

 

「はあ……はあ……何だよ……これ?」

 

 

 自分の掌を見つめる。自身が発したその力に、彼は困惑していた。明らかに人間技では無く、何故こんな事が出来るのか……。訳の分からないでいると彼の所にザムザとリュウジが近寄って来た。

 

 

「大丈夫かい、翔琉君?」

「え……あ、はい」

「さっきの、力は、一体?」

「いや、それが俺にもよく……」

 

 

 ダイロ、エースキラー達は倒れた。だが同時に謎も生まれた。翔琉のこの力は何なのか?無くした記憶やウルトラマンエックスに変身出来ることとやはり関係があるのか?自身の身体をよく見ると、負っていた筈の傷が既に塞がっていた。

 

 深まっていく自分の謎に、彼は少しだけ恐怖を感じていくのだった––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ふぅー。漸く一息つけるわね」

「コーヒー淹れますね」

「お願い、する」

 

 

 夜、Xio司令室には沙優、ザムザ、涼風がいた。バラバとエースキラーの件に付いての報告書を作成し終えた彼女達はコーヒーを飲んで寛いでいる。

 

 

「それにしても、大変な一日だったわね今日は」

 

 

 バラバの発生させた放射能の雨による汚染は奴の死と同時に完全に消失。放射線被曝苦む人々も現れることも無い。

 

 

「何ともご都合主義な気もしますが……」

「まあ、放射能で苦む人が現れるよりいいでしょ?」

 

 

 沙優の言葉にザムザは「確かに」と答えた。

 

 

「そういえば隊長、一つ気になっていたんですが……」

「何?」

「あのレディエーションデストロイヤーGという兵器に付いてです」

 

 

 レディエーションデストロイヤーGに関してはまだ一部上部の人間にしか伝えられておらず、今回の件でその存在が公開される事になった。

 

 

「やはり、()に対抗する為に造られたのですか……?」

 

 

 涼風のその言葉に対する返答が気になったザムザも沙優のことを見つめていた。彼女は2人を見た後、その首を縦に振る。

 

 

「そう……この国に最初に現れた怪獣。そして全世界に爪痕を刻んでいる人類最大の天敵……。あの怪獣王と戦う為に造られた兵器よ」

 

 

 幾度と無く世界を蹂躙した怪獣の王。どんな大怪獣も決して敵わないこの地球の生態系の頂点に立つ存在の一つ。究極の生命体であるそれを倒すべく造られたのがレディエーションデストロイヤーGだ。

 

 

「いずれ、翔琉も、戦う、事に、なるで、しょうか?」

「そうね……そうかも知れないわ」

 

 

 仮にエックスとそれが戦ったとして。そこにXioの援護があったとしても、奴には決して勝てない。沙優達も、そしてきっとここに居ないメンバー達もそう確信するだろう。それ程迄にあの怪獣王の力は異常なのだ。

 

 怪獣王との激突。それが決して来ない事を、沙優は心の中で強く願うのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ただいまー!」

 

 

 戦いを終えた紗季は自宅に帰って来ていた。

 

 

「あらお帰りなさい」

 

 

 彼女を出迎えたのは母である利子(としこ)だ。

 

 

「お父さんは?」

「まだ帰って来てないわ」

「じゃあ明里は?」

「ここだよー」

 

 

 階段からゆっくりと降りて来たのは紗季の妹である新城野 明里。彼女を見つけた紗季はパアッと明るい表情となり抱き締めにいった。

 

 

「おー!愛しの妹よー!お姉ちゃんが帰って来たぞー!」

「ちょっとお姉ちゃんくすぐったいよー」

 

 

 抱き締めながら頭を撫でる紗季と少し困った様な表情になってる明里。その様子はとても仲の良い姉妹そのものだ。

 

 

「ほらほら、ご飯にするから紗季は早く荷物を部屋に片付けて来なさい」

「ちぇっ、はーい」

 

 

 紗季は名残惜しそうに明里から離れた後、荷物を持って階段を上がり自室に向かう。その途中でカタラとすれ違うのだが彼女はそれが見えていないかの様に気にせず歩いていく。

 

 

「へぇー、良い家族だね」

 

 

 明里にそう声を掛けたが彼女は無視。そして母親と一緒にリビングの方に向かっていった。

 

 

 

 

 

 床には血の足跡が幾つも残されている。けど紗季も利子も、この後に帰って来た家長である広也もそれを気にすることは一切無かった。

 

 みんながテーブルを囲み夕食を食べる。ごくごく当たり前の幸せな家庭。何の変哲も無い普通の家庭。それが明里の家族なのだ––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・テンカイ(天界)

別名:自然コントロールマシーン

全長:48m

体重:8万4千t

出典:ウルトラマンガイア 7話「地球の洗濯」

 

 銅鐸の様な形をした自然コントロールマシーンと呼ばれる謎の機械。回転する事で風速80kmの巨大台風を発生させることが可能。胴体には篆書体という文字で「天界」と刻まれていた。テンカイが作った台風が通り過ぎた跡は、フロンやメタンといった有害物質が無くなっている。一見このまま放置しても良さそうに見えるが、実際は酸素濃度が強くなっており酸素中毒になってしまうので危険。更に暴風により地上には甚大な被害を出すことになる。

 カタラに召喚され別宇宙より現れた。台風となって沼津に接近していたがエックスの妨害に遭う。ナイフヘッド、ダークファウストと共に戦うも最後はベムスターアーマーのシールドの直撃により落下した際にナイフヘッドの刃に突き刺さりコアを貫通させられた事によって機能を停止した。

 ガイアに登場した自然コントロールマシーン。台風を起こせる怪獣として他にシーゴラスやバリケーンなども候補に上がったが(シーゴラスは正確には竜巻)、最終的にテンカイに。自然コントロールマシーンは当初「古代人が破滅将来体と戦う為に作った兵器」という設定だったらしい。

 

 

 

 

・ナイフヘッド

別名:衝角怪獣

体長:96m

体重:26万1千t

出典:映画「パシフィック・リム」

 

 海底に発生する次元の裂け目から現れる怪獣ブルーと呼ばれる青い血液を持つ怪獣の1体。プリカーサーと言う異次元の知的生命体が送り込んで来る生物兵器であり、このタイプの怪獣達はプリカーサータイプと呼ばれた独自のカテゴリーが設けられている。約30年前から主にアメリカに出現しており、登場頻度は決して高くないものの怪獣ブルーには強い毒性があったり、積極的に人口密集地を狙ったりなどするので非常に脅威であった。ナイフヘッドはカテゴリー3のプリカーサータイプで、硬質化した刃物の様な頭部が武器。カテゴリー3の中でも最大クラスの重量を誇っている。

 本来はプリカーサーの侵略兵器なのだがカタラが強制的に拝借し操って内浦に向かわせた。エックスと戦うが圧倒され、テンカイが頭に刺さりそれを抜こうとしていた際にエックスのベムスタースパウトの射線上に入ってしまい、テンカイ共々吹き飛ばされて爆死した。なお、流れ出た怪獣ブルーの処理はXio海上部隊が行った。

 パシフィック・リムの序盤の戦闘で登場した怪獣。2020年に裂け目から出現。ロミオ・ブルーの追跡を振り切ってアラスカ州アンカレッジに向かい、その道中で漁船「ソルトチャック号」を襲おうとして救助に現れたジプシー・デンジャーと交戦し苦戦させるも腹部にプラズマキャノンを2発喰らって吹き飛ばされる。 しかしこの攻撃には耐えており、油断していたジプシーを海中から急襲。頭部の口吻で左腕を切断、更にコクピットのある頭部に爪を突き刺してパイロットのヤンシー・ベケットを殺害してしまった。その後残されたロンリー・ベケットの決死の攻撃で倒されたが、この戦い以降、対怪獣戦争は人類側から怪獣側に優位が変わっていくことになった。因みにモデルはガメラシリーズに登場したギロンではないかと言われている。

 

 







という訳で今回はXio回となりました。
彼らの活躍や実はいた宇宙人組の正体、サイバーゴモラの登場など盛り沢山となった本話でしたが如何だったでしょうか?
ザムザはウルトラマンダイナに登場したグレゴール人、リュウジはウルトラマンGに登場したリュグロー、ミキリとミハネはウルトラマンコスモスに登場したギリバネス(ギラッガス)、シャマラ博士はウルトラマンマックスに登場したジャマー星人が元ネタとなっています。
そしてエックスといえば忘れてはならないサイバーゴモラも登場。
更に翔琉は謎の力に目覚めダイロを殺害……。

とにかくXioメインの話になった為ラブライブ要素がほぼゼロに……次回からは久しぶりに虹学サイドに戻ることになりますのでお楽しみに。

さて、次回ですが愛さんメインの話となっていき、そしてとあるウルトラヒーローも登場します。前回とは違いセルフコラボみたいな感じになりますが是非楽しみにしていて下さい。
Xでゼロの次といえば……。

それでは今回はここまで!
感想、質問、高評価、その他、是非是非お待ちしています!





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27.不良なトモダチ



Z、虹アニメ、ギャラファイ……どれも最高で週末が楽しみ過ぎます()
そして次のクロニクルシリーズにはティガ!!
これも期待大ですね!

さて、今回からは愛さん回となります!そして……
早速どうぞ!!




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある廃ビルの一室。そこに3人の人間……否、宇宙人が居た。スラン星人、バット星人、そしてゴドレイ星人の3人は何やら困っている様子である。

 

 

「しまったぁ……ほんと最悪だぁ……」

 

 

 しゃがみ込み頭を抱えているスラン星人。彼はある物を無くしてしまいそれでショックを受けているのだ。その肩にゴドレイ星人が手、というか爪を置く。どうやら励ましてるつもりらしい。だがスラン星人はそれを払い除けて勢い良く立ち上がった。

 

 

「元はといえばお前がしっかりしてなかったのが悪いんだぞ!!」

 

 

 ゴドレイ星人を叱り付けるスラン星人。彼はそれに圧されてあたふたとしていた。

 

 

「まあまあ、落ち着け」

 

 

 そんな2人の間にバット星人が仲裁に入る。

 

 

「何はともあれ奴から逃げ切り、こうしてこの地球に侵入は出来たんだ。一先ずは良しとしよう」

「しかしだなぁ……」

「それに、アレを探す手ならもう既に思い付いている」

「ほんとか!?」

 

 

 驚くスラン星人にバット星人はそのデカい頭を縦に振る。そして2人に耳打ちをした。

 

 

「……ふむふむ。なるほど、そんな手が!」

「どうだ?これならすぐに見つけられるし、目的も達成出来る。一石二鳥というやつだ」

 

 

 胸を張るバット星人にゴドレイ星人が拍手。

 

 

「よし、では早速取り掛かるとしよう」

「おお!」

 

 

 彼らの高笑いが辺りに響く。何処か小物臭いこの3人の宇宙人。しかしこれが、壮絶な戦いの始まりになる事など、この時誰も知る由は無かった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 虹ヶ咲学園のスタジオ内。そこではスクールアイドル同好会のメンバー達が練習に励んでいた。室内には冷房が点けられていて快適な温度となっている。みんなが柔軟や筋トレ、ダンスの練習などをしてる所を、翔琉は眺めていた。と言っても目を向けているだけであって思考に囚われており、心ここに在らずといった感じである。

 

 原因は勿論、数日前のエースキラーとの戦いだ。戦いの果てに翔琉は謎の力を使用する事が出来る様になり、それでダイロを殺した。ダイロの亡骸を解剖したところ、人間で言う骨や筋肉はズタズタに、そして心臓や肺、脳などの内蔵機器は圧縮され潰された様になっていたらしく、まるで臓器を握り潰したあと体内で爆弾でも爆発させたかの様だと、解剖を担当した職員が言っていた。こんな事が出来る存在はこの広い宇宙と云えどもそうそう居ないであろうとも。

 

 彼自身の肉体についても再び検査が行われた。骨、筋肉、内臓、血液、神経、皮膚、その他体組織は間違い無く地球人のもの。何度調べてもその結果は変わらず、彼が地球人であることをデータ状では示していた。しかし地球人では考えられない異常な迄の回復能力や身体能力を持っている事も間違い無い。

 

 調べれば調べる程矛盾にブチ当たり、自分というモノが何なのか分からなくなって来る。自分は本当に翔琉なのか?そもそも地球人なのか?この力は、何の為の力なのか?

 

 目線を彼女達から落として自分の掌を見つめる。これまでノリと勢いで戦ってきた彼であったが、流石にこればかりはそうはいかない。もし自分が地球人で、翔琉で無かったのなら彼女達とこうして居ていいのか……?そんな考えがふと浮かび上がり、それを消す様に頭を振った。

 

 

「翔琉君、どうかしたの?」

 

 

 歩夢が翔琉に声を掛ける。

 

 

「んっ?いや、別に」

「嘘。何だかここ最近、ずっと思い詰めた様な顔してる」

 

 

 彼女の台詞にぐうの音も出ない。幼馴染で付き合いの長い歩夢は、例え記憶を失い性格の変わっていても翔琉の変化にはちゃんと気付くのだろう。他の皆も心配そうな表情で彼に近付いて来た。

 

 

「先輩、大丈夫ですか?」

「先輩が元気無いと、かすみん悲しいですぅ〜」

「何か悩み事でもあるの?」

「やっぱり、Xio関連の事かしら?」

「まあ……そんな感じっす。ちょっと面倒な課題と言うか何と言うか……」

 

 

 誰も彼もが翔琉ことを想い聞いて来るのだが真実を教える訳にもいかず、適当なことを言って誤魔化すしかない。

 

 

「私達にも手伝えることはありませんか?貴方の負担を少しでも軽減出来ればと思うのですが……」

「大丈夫だよ。これは俺の問題だから、俺で蹴りを着けないと」

「でも、1人で悩むのはあんまり良く無いと、彼方ちゃんは思うなぁ〜」

「平気平気。ほら、翔琉君ボード《やったるでー!》」

 

 

 璃奈の璃奈ちゃんボードを取り、それを自身の顔の前に持ってくる。

 

 

「それ璃奈ちゃんボード《疲れた……》だよ」

「………慣れねえ事はするもんじゃねえな」

 

 

 ボードを返してから彼は立ち上がり手を叩いた。

 

 

「はいはい!とにかく練習再開だ!ほらほら早く!」

「え、あ、ちょっと!?」

 

 

 彼女達の背を押していく翔琉。これ以上この話題を出すべきでは無い。そう考えて明るく振る舞うのであった。

 

 

「あっ!ごめん、アタシ今日はもう抜けていいかな?」

「別にいいけど、何か用事か?」

「う、うん、そんな所!じゃあ、また明日ね!」

 

 

 そう言って愛は荷物を纏めてからスタジオを出ていく。

 

 

「愛さん、最近あんな感じだね」

「お家のお手伝いが忙しいとかかなぁ?ほら、愛ちゃんのお家ってもんじゃ焼きのお店なんでしょ?」

「まあ夏だし、観光客とかで忙しいのかもな」

 

 

 夏休みを利用して地方から東京観光に来る人も多いだろう。それで愛の店も繁盛していて忙しく、それで彼女が手伝っているのかも知れない。

 

 

「さぁ、私達はもう少し練習していきましょう」

「そうですね」

 

 

 練習を再開する愛以外のメンバー達。翔琉がふと外に目を向けると、走って校内から出て行く愛の背中が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「UNVER本部からの訪問者?」

「ええ。こちらにいる桑井(くわい)博士は本部でスパークドールズを研究しているの。と言っても、みんな知ってるでしょうけど」

 

 

 Xio司令室にて、沙優隊長は本部からXio日本支部に来た桑井博士のことをメンバーに紹介していた。ザムザ、リュウジは別件で現在海外に出ている。

 

 

「勿論っす!スパークドールズ研究に於ける第一人者……!!こうしてお会い出来るなんて光栄っす!!あ、握手してもらってもいいですか!?」

 

 

 目をキラキラと輝かせながら桑井に握手を求める陽花。桑井はそれに笑顔で応じた。

 

 

「水瀬博士夫妻の娘さんだね?君のことはよく聞かされてたよ。幼いのにとても聡明なお嬢さんだと」

「ほ、本当っすか!?なんか、恥ずかしいっす……」

 

 

 陽花は頬を掻く。父と母の話題が出て、その両親に褒められていたという事を聞いて少し気恥ずかしくなったのだ。

 

 

「後ろのお二人は?」

「私の助手とボディーガードです。ボディーガードの方はゴードン。そしてこちらは……」

 

 

 頭を下げるゴードン。そしてもう1人の男性が前に出る。

 

 

戸河(とかわ)瑞斗(みずと)です。よろしくお願いします」

 

 

 礼をしたあと頭を上げ、柔かな笑顔を向ける戸河と名乗った男。彼は数日前から桑井の助手として働いているらしい。優秀な人材らしく博士も信頼してるとのこと。

 

 Xioメンバー達も自己紹介を終えた後、桑井は真剣な表情となって話を始めた。

 

 

「実は、皆さんに頼みたい事があるんです」

「頼みたい事、ですか?」

 

 

 涼風の疑問に桑井は「ええ」と応える。

 

 

「ここに来る途中、宇宙人と思われる者から襲撃を受けました」

「え、大丈夫だったんっすか!?」

「ゴードンに助けられましてね。こうして無事でいられました」

「レーダーにその様な反応はなかったが……」

「かなり高速で動く宇宙人でした。恐らくレーダーでも捕捉出来なかったのでしょう」

 

 

 そう言われてシャマラ博士は唸る。そんな事があるのだろうか?しかし実際起こってしまった事ではあるし、事実なのだろう。

 

 

「そんな訳でどうにか宇宙人からは逃げ切れたのですが、少し……いや、かなり重大な問題が起きまして……」

「問題?」

 

 

 少し言い難そうな表情の桑井。すると代わりに戸河が前に出て口を開く。

 

 

「襲撃を受けた際、あるスパークドールズを紛失してしまったんです」

「スパークドールズを!?」

 

 

 申し訳なそうな桑井達3人。超高速での襲撃を受け、命こそ無事であったがその際、研究対象であったとあるスパークドールズを入れていたケースが無くなってしまったとのこと。周辺を捜索したが見つからず、Xio日本支部に手を借りようと考えたのだ。

 

 

「もし一般市民が拾って何か起きたり、その宇宙人が手に入れてしまっては大変なことになります……どうか、皆さんで探して欲しいんです!責任は私にあり、身勝手なことを言っているのは承知してます……けど、アレを放置しては大きな被害が出てしまいます!この通り、お願いします!」

「私からもお願いします!」

 

 

 頭を下げる桑井、戸河、ゴードン。

 

 

「勿論協力します!悪意ある宇宙人が現れ、その上スパークドールズが紛失したとあっては黙ってられません。必ずそのスパークドールズは見つけるっす!」

「そうね……。こちらとしても見過ごせない事態だし、早速捜索を開始しましょう。それで、そのスパークドールズは一体?」

 

 

 彼らの頼みを承諾するXioメンバー達。それから紛失したというスパークドールズが何の怪獣の物なのかを尋ねた。桑井は深刻そうな表情をしながらパソコンを操作し、それをモニターに映した。

 

 

「なッ……!?」

「この怪獣は……!?」

「おいおい、本当か!?」

 

 

 怪獣を見て皆は驚く。その怪獣の名は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼットン……宇宙恐竜ゼットンです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 練習を終え、翔琉は歩夢とかすみ、しずくと共に秋葉原の街を歩いていた。かすみに誘われて遊びに来ていたのだ。翔琉を元気付けたいというのが理由らしい。彼女にオススメされたコッペパン屋で買ったコッペパンを食べ、ウィンドショッピングを楽しみながら街を歩く4人。しかし、やはり翔琉の顔は時折沈んだ様なものになる。

 

 

「翔琉君」

「んっ?ああ、何だ?」

「あれ見て」

 

 

 彼女が指差した方にあったのは大きなモニター。そこにはスクールアイドルのライブ映像が流されていた。

 

 

「あれって、東雲学院のスクールアイドルだよね?」

「ええ。確か彼方さんの妹さんが所属してた筈です」

 

 

 画面に映る彼女達のパフォーマンスを4人は見つめる。

 

 

「あの日を思い出すなぁ」

「あの日?」

「うん。初めて貴方と一緒にスクールアイドルを見た日。その場所もここなんだよ」

 

 

 歩夢と2人で出掛けた際、ここで見たμ'sとAqoursの合同ライブが全ての始まりだったと彼女は話してくれた。あの時の翔琉の顔はとても輝いていたと。

 

 

「覚えてないな……」

「大丈夫、きっと思い出せるよ」

「…………だと良いが」

 

 

 暫く画面を見つめる4人。そんな時、かすみがあるものを目撃する。

 

 

「あれ?あれって愛先輩では?」

 

 

 かすみが目を向けている方向には裏路地に入っていく愛の姿があった。

 

 

「お店の手伝いではなかったのでしょうか?」

「でも、何であんな所に?」

 

 

 周りを少し気にしている様子だった愛。側から見ればその様子は少し怪しく感じる。

 

 

「怪しい……追いかけましょう!」

「え、でも……それは良くないんじゃない?」

「もしかしたら、何か悪い事に巻き込まれてるかも知れないじゃん!ね、翔琉先輩と歩夢先輩も追いかけるべきだと思いますよね?」

 

 

 かすみにそう言われて少し困った様子の歩夢。一方翔琉は彼女達に特に返答する事なく、小走りに愛が入っていった裏路地へと向かった。

 

 

「え、翔琉君!?」

「先輩!?」

「あ、待ってください!かすみんも行きますぅー!」

 

 

 彼の後に続いて3人も走る。

 狭く複雑な路を歩き、愛の背を追う翔琉達。見つからず、見失わない程度に距離を置いて確実に追跡していた。そして暫く行くと今は使われていないであろうスクラップ場に辿り着いた。そこにある小屋の中に愛は入っていく。

 

 

「あそこだね……」

「愛さん、何であんな所に?」

「まさか、悪い男に呼び出されて……!?」

 

 

 変な妄想して顔を青くかすみ。とはいえ可能性として無いとは言えず、寧ろ高いかも知れない。そう思うと歩夢としずくは顔も青くした。

 

 

「……お前ら待ってろ」

「え、ちょ、翔琉君!?」

 

 

 3人を置いてから翔琉は小屋にへと近付く。中から妙な気配がし、何となく嫌な予感がしていた。入り口に立って耳を傾け中の音を聴く。すると愛の話し声が聴こえて来た。

 

 

 

 

 

「いやー、遅くなってごめんねー!今日も同好会で大変だったんだー!」

 

 

 そしてそれに対する返答なのか妙な音も聴こえた。

 

 

「はいこれラムネ!ささっ!これでグイッといっちゃって!」

 

 

 ポンっとラムネの瓶を開ける音が響く。普通の友達なのか?ならば何故こんな所で落ち合っているのか?それと先程から相手の声が聞こえないのも気になる。

 

 

「ラムネ飲む時は一緒に羊のお肉を食べるのが良いと思うんだ!ラムネに合うのはラムね(・・・)なんてね!」

 

 

 相変わらず微妙なダジャレが炸裂してる。これを記憶を失う前の自分は大爆笑していたらしいから信じられない。話し相手からの反応は特にない様だ。因みに歩夢、かすみ、しずくの3人がいつの間にか翔琉の背後に来ていた。

 

 

「面白い!?本当!?ありがとー!いやー、今の愛さんも結構自信あったんだよねー–––––」

「いや笑ってねえだろ!……………は?」

 

 

 突っ込みながらドアを勢い良く開ける翔琉。そして彼は目の前の光景に彼も、そしてその背中越しからそれを見た歩夢達も固まってしまった。

 

 

「え!?かけるん!?それにみんなも!?」

 

 

 驚く愛。だがそれ以上に翔琉達は驚愕している。少しぎこちない動きになりながら、翔琉は愛の前にいるソレを指差した。

 

 

「お前……何だ、ソイツ……!?」

 

 

 黒を基調とした身体。二本の触角。目らしき物の窪みのある顔の真ん中には黄色い発光体があり、胸にも二つ大きな物がある。フォルムとしては人型に近いが、決して人ではないソレはヤンキー座りのまま翔琉達の方を向き、一言呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼットン……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








宇宙恐竜……ではなく、ウルトラゾーンより「不良怪獣ゼットン」の登場です!
これは流石に予想外だったのでは?笑
何故こんな怪獣が登場したのか?それは次回以降に明らかとなります。

そして冒頭ではスラン星人、バット星人、ゴドレイ星人が登場。バット星人は平成版では無く昭和版の見た目となっています。ゴドレイ星人は本編では無差別に破壊行為を行う宇宙人でしたが、今回の個体は無口で何処か少し抜けた感じの個体となっています。
彼らは良くアニメとかにいる三馬鹿的な感じだと思って下さい←

そしてXioには桑井博士達からゼットンのスパークドールズの捜索依頼が……。

そんな中で自分の存在が分からなってきている翔琉。迷う彼は、果たして答えを見つけられるのか?

それでは今回はここまで!
感想、質問、高評価、その他、是非是非お待ちしています!



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28.サイコーの出会い


愛さん編2話目!
そしてあのヒーローが……!

早速どうぞ!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼットン。別名宇宙恐竜。恐竜といっても、ティラノサウルスやトリケラトプス、ブラキオサウルスなどの巨大な蜥蜴の様な怪獣では無い。見た目に関してはクワガタやカミキリムシなどの甲虫を人型にした様な姿をしている。

 

 その戦闘力は恐ろしく、テレポーテーション、全方位を守るバリア、光線を吸収し増幅して跳ね返す能力、両手から放つ波状光線、頭部から放つ1兆度にも及ぶ火球と一切の隙が無い。素の防御力も非常に高く、前面からの攻撃にはほぼ無敵。パワー、格闘能力も高く殴り合いに於いても負ける事はない。

 

 過去に神奈川、愛知、シドニー、サンフランシスコ、ロンドン、リオデジャネイロ、北京に出現しており、その際はゼットン星人やバルタン星人によって連れて来られ阿鼻叫喚の地獄を作り出した。

 

 ゼットンの恐ろしさは記録に残され、多くの人間がそれを胸に刻んでいる………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそのゼットンが今、翔琉達の目の前に居た。人間大の大きさで、ラムネを片手にヤンキー座りをしたゼットンが。何とも言えないこの状況に、彼らは開いた口が塞がらない。

 

 

「い、いやー、見つかっちゃったかぁ。あははー」

 

 

 後頭部を掻きながら笑う愛。

 

 

「あ、愛……何だコイツは……?」

「ゼットンだよ!」

「ぜ、ぜぜぜ、ゼットンって、あのゼットンですかぁ!?」

 

 

 ゼットンという単語にかすみが慄く。歩夢としずくもだ。

 

 

「うん。多分そのゼットンで合ってるよ」

「確か、めっちゃやべぇ怪獣だよな……?」

 

 

 翔琉も授業で奴のことを知っていたのだろう。その恐ろしい存在であるゼットンが何故か聞いていた巨大な姿でなくこんな小さな姿でいるのか……?

 

 

「てか、何処で拾ったんだこのゼットン?」

「それはねー––––」

 

 

 彼女はゼットンと出逢った日のことを語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日前。その日は練習が休みだった為、愛は散歩をしていた。川沿いを歩く彼女。真夏日ではあるが時折り吹く風が冷たくて気持ち良い。

 

 

「うーん!今日もいい天気!愛さんも空に輝く太陽みたいになりたいよう(・・・・)!」

 

 

 ぐっと背伸びをする愛。今日も何か良い事が起こりそう、そんなことを思いながら彼女は夏空の下を歩いていく。

 

 そんな時、何か妙な音が愛の耳に聴こえて来た。どうやら橋の下かららしい。

 

 

「何だろう?猫かな?」

 

 

 音の聴こえて来た方に向かっていく愛。その場所に着くと、そこに居たのは……。

 

 

「か、怪獣!?」

 

 

 地面に座っている怪獣の姿であった。顔の真ん中にある発光機関を光らせ奇妙な音を鳴らすその怪獣に、彼女は見覚えがあった。というより知らない者は居ないであろう、過去にこの国も恐怖のドン底に落としたことがある脅威の怪獣・宇宙恐竜ゼットンである。

 

 ゼットンは愛の方に目を向けた。しかしそれだけで特に何もせず偶に鳴くだけ。

 

 

「君ってゼットン、だよね?」

 

 

 愛からの質問に頭を縦に振って答える。

 

 

「やっぱりかぁ。でも、ゼットンって大きい怪獣じゃないんだっけ?」

 

 

 授業で聞いていたゼットンは60m程の巨大な怪獣であった。しかし今目の前にいるゼットンは2m程度の大きさしかない。それに恐ろしさも微塵も感じられない。

 

 ボーッとしているゼットン。彼(?)を見ていた愛はあることに気付く。

 

 

「あれ?君怪我してるよ!?」

 

 

 ゼットンの左腕に傷が付いていたのだ。血らしきものは出ておらず彼も気にしてない様だが放って置けないと思い、愛は水の入ったペットボトルとタオルを取り出す。そして傷口を水で洗ってからタオルを巻いて塞いだ。

 

 

「これでよし!痛くは無い?」

 

 

 巻かれたタオルを不思議そうに見つめるゼットン。

 

 

「どうしよう……やっぱXioに通報した方が良いのかな?でもそれだとどうなるか分からないし………うん、よしっ」

 

 

 捨てゼットンを拾ましたなんて言ったら大部隊がやって来てしまい、それによって彼が殺されてしまうかも知れない。何となくそれは嫌だと感じた愛は、取り敢えずゼットンのことを匿うことにしたのだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てな訳なの」

「どんな訳だよ」

 

 

 愛からゼットンとの出逢いのあらましを聞いたのだが翔琉達は少し理解に苦しんでいた。

 

 

「その、大丈夫なんですか……?」

「大丈夫って何が?」

「いやだってゼットンですよ!?怪獣ですよ!?危険じゃないですか!?」

 

 

 慌てるかすみだが無理もないだろう。目の前にいるのはあの恐ろしいゼットンなのだから。

 

 

「大丈夫大丈夫!この子は何にもしないよ。ほら!」

 

 

 愛は何とゼットンに抱き着いた。その大胆な行動を見て皆驚くが、彼女は気にせずゼットンに頬擦りしてる。何とも奇妙な光景だ。

 

 

「襲われたり、しないのですか……!?」

「しないよー。だってゼットン優しいもん!」

 

 

 確かにゼットンは愛に抱き締められても特に何もしない。それどころか少し喜んでいる様にも見える。表情は一切分からないし喋りもしないが。

 

 

「ほら、みんなもおいでよ!」

 

 

 ゼットンから離れて手招きする愛。それに従って翔琉達はゼットンの方に近付いていった。歩夢、かすみ、しずくは翔琉の後ろに隠れて少しおどおどしてる。

 

 

「よ、よお?」

 

 

 手を上げゼットンに挨拶する翔琉。彼はじっと翔琉のことを見つめている。暫く沈黙が続く。

 

 

「お、おい、お前らも何か言えよ!」

「え、ええ!?」

「私達もですか!?」

「そうだよ早くしろよ!俺だけなんて何か気不味いだろ!?」

「うぅー、仕方ないですねぇ……」

 

 

 小声で話合った後、歩夢達も前に出てゼットンに声を掛けた。また反応は無い……かと思いきや、ゼットンは勢い良く立ち上がった。

 

 

「ッ!?」

 

 

 襲われるのかと思い、拳を握って構える翔琉。歩夢達も驚き身体を硬直させた。しかしゼットンは何かを仕掛ける様なことはせず、くるりと彼らに背を向けると背後にあった箱を開けて漁り出した。そしてまた彼らに振り向き箱の中から取り出した物を突き出す。4つの流星の形をしたオモチャのバッジだ。

 

 

「………は?」

「もしかして、私達にくれるの?」

 

 

 歩夢の問いにゼットンは頭を縦に振る。出されたそのバッジを歩夢としずくが取り、少し警戒しながらかすみも取って、最後に翔琉が取った。

 

 

「愛さんもそれ貰ったんだ!ほら!」

 

 

 彼女はポケットから同じバッジを出して見せた。どうやらゼットンにとってそれは友好の印らしい。何処で拾って来たのか分からないが。

 

 

「これでみんなもゼットンと友達だね!」

 

 

 そう言って愛はにっこりと笑う。歩夢、しずく、かすみの3人はこちらに対して敵意を向けず、寧ろ好意を見せてくれているゼットンへ少しずつ警戒が解けている様だ。ちょっとずつ近付き、彼に話し掛けてみている。その様子を、まだ警戒心の解けない翔琉が側から見つめていた……。内浦の一件で怪獣との共存に興味を持ったとはいえ、流石に相手が相手では身構えてしまう。

 そんな時、彼のエクスデバイザーに通信が入る。翔琉はみんなに断りを入れてから外に出て通信に出た。

 

 

「はい、どうかしました?」

《天地さん、実は協力してほしいことがあるんです》

 

 

 連絡をして来たのは涼風だ。

 

 

《実はある怪獣のスパークドールズが行方不明になっていて、それの捜索を手伝って欲しいんです。今XioメンバーやUNVERの職員達で探しているのですが見つからなくて……》

「なんか、大変そうっすね」

《ええ……そのスパークドールズというのがとても危険な怪獣でして、早急に回収しなければならないのです》

「何なんです?」

 

 

 涼風に質問する翔琉であったが、それを聞かなきゃ良かったと数秒後に思うことになる。

 

 

《ゼットンという怪獣です》

「…………は?」

《ゼットンです。宇宙恐竜ゼットン。前に授業で教えましたよね?》

「え、あ、いや……まぁ……」

 

 

 

 授業で教わった事は覚えている。だが問題はそこでは無く、そのゼットンが今まさに自身の近くにいることだ。しかも幼馴染や友人、後輩達と一緒に。余りにも予想外の状況に、翔琉は固まっていた。

 

 

《……どうかしたんですか天地さん?》

「べ、別にどうも………あ、もしも仮に、仮にですよ?ゼットンが実体化したらどうなるんっすかね?」

《まあ、Xio総力を挙げてスパークドールズ化、或いは駆除をする事になります》

 

 

 その返答を聞いて何とも言えない気持ちになる。愛はゼットンのことを本気で友達と思っており、どうやらゼットンの方も彼女のことを気に入っている様子。チラリと中を見ると先程まで怖がっていた歩夢、しずく、かすみの3人も彼を囲んで楽しそうにしていた。スパークドールズなんかにしたら間違い無くゼットンはXioやUNVERに保管され、もう愛が会う事は出来なくなるだろう。そうなると思うとモヤモヤとした気持ちになり、駆除なんかは絶対にしたく無いと考えしまっている。

 

 

《天地さん、何か隠してます?まさか、ゼットンを見つけたとか?》

「へ!?いや、そんな訳無いじゃないっすかー、あはは!あ、じゃあ俺も頑張って探してみるっすね!それじゃ!」

《あ、天地さんちょっと––––》

 

 

 通信を強制的に切る。これ以上話してたらボロが出るかも知れないからだ。………もう出てたかも知れないが。

 

 

「はぁ………どうしよ」

 

 

 再び小屋の中を覗く。楽しそうな彼女達、特に愛はゼットンを3人に紹介出来たという事もあってか満面の笑みだ。Xio隊員としてやるべき事を放棄してゼットンのことを匿ってしまった翔琉。これからどうなるのか?どうすべきか?頭の中に浮かぶ悩みが頭痛をさせていくのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 月面に1体の怪獣が降り立った。奴の名は凶獣ルガノーガー。両腕も顔の様になっていてまるでミツ首龍に見える緑溢れる星をいくつも破壊して来た恐るべき怪獣。全身武器の凶悪な存在であり、とある者達に嗾けられ地球を破壊し人類を皆殺しにするべく向かっていたのだ。乗せられるのは少し癪だが自身にとって最も好む事である破壊と虐殺を行えるのなら文句は無い。ルガノーガーは邪悪に口を歪めながら、地球へ向けて飛んでいた。

 

 

 しかし、ルガノーガーの行動を妨害してくる者がいた。それは謎の真っ赤な球体であり、ルガノーガーに体当たりを仕掛けてきた。鬱陶しい球体を破壊するべく、ルガノーガーは一旦月に降りたのだ。球体もそれに合わせてルガノーガーの前に降りていく。そしてその中から、赤い巨人が姿を現した。

 

 

 真っ赤な身体、胸には金と銀のプロテクター、左腕には神秘の輝きを放つ手甲が装備されている。拳を握ってルガノーガーに構える巨人。最強最速の力を持つ彼の名は、ウルトラマンマックスだ。

 

 

 

 

「シェアッ!」

 

 

 眼前に立つ邪魔者に怒りと憎しみを込めて咆哮した後、ルガノーガーは肩の角から雷撃を放った。マックスはそれに向かって突っ込んでいき、全て躱してから接近し強力なキックを撃ち込んだ。胸の装甲板でダメージは軽減されたがそれでも数歩退がる。

 

 

 マックスは続けて飛び込み手刀を打つ。更にパンチやキックを放ちルガノーガーを攻めていった。奴も負けじと牙の付いた両腕を振るうがマックスは躱し、防ぎ、見事に対応していた。隙を突きルガノーガーの首を掴むマックス。そしてそのまま一本背負いの要領で奴のことを投げ飛ばしてしまった。

 

 地面に叩きつけられ転がっていくルガノーガー。奴は立ち上がり両腕と頭部から熱線を放つ。だがマックスは前面に両手を突き出してバリアを発生させ防いだ。

 

 

 ルガノーガーは尻尾をマックスへと伸ばす。この尾はエネルギーを吸収する事が出来る。しかしマックスはそれを飛び上がって回避。そして頭部のブーメラン・マクシウムソードを飛ばし、ルガノーガーの尻尾を切り落とした。悲鳴を上げるルガノーガー。更にマクシウムソードは奴の両肩の角も切ってしまう。これで奴はもう雷撃を放つことは出来ない。

 

 

 マクシウムソードを収納し月面に降りたマックス。そんな彼に向かってルガノーガーは再度熱線を放った。マックスは超高速移動・コメットダッシュを使用し躱し、そのまま動き回りルガノーガーを翻弄する。ルガノーガーは熱線を連続で放つが全て回避されてしまった。

 マックスは超光速でルガノーガーに向かい、強烈なドロップキックを叩き込んだ。キックを受けた奴は吹っ飛び、装甲板には大きな亀裂が刻まれる。

 

 

「フッ!」

 

 

 数回バク転してルガノーガーとの距離を開いた後、マックスは左腕を天に掲げた。装着されているマックススパークに光のエネルギーが溜められていき、チャージ終了と共に肘を曲げて立て、そこに右手を当てて逆L字型に組む。すると組んだ左腕から強力な必殺光線が放たれた。これがマックスの必殺技・マクシウムカノンだ。

 

 マクシウムカノンは立ち上がったルガノーガーの胸に直撃。ルガノーガーは装甲板で防ごうとしたが既に破れているそれでは防げる筈も無く、光線はルガノーガーの身体を装甲板ごと貫いた。そして断末魔を上げると倒れ、ルガノーガーは木っ端微塵に爆散するのであった。

 

 

 

 

「あの地球か……」

 

 

 戦いを終えたマックスは地球に目を向けていた。青と緑の宝石の様な美しい星。かつて彼は別の宇宙の地球に滞在し、そこでとある9人の少女達と共に物語を紡いだことがある。今でも色褪せること無く鮮明に覚えているその記憶。彼にとってそれはかけがえの無いものであり、地球はもう一つの故郷と言っても過言では無かった。

 

 その地球に今危機が迫っている。例え彼が訪れた地球とは別だとしてもそれを見過ごす訳にはいかない。

 

 

「行かねば」

 

 

 地を蹴って飛び立つ。目指すのは地球。大切なその星とそこにある無数の命を守る為に、マックスは光の速さで地球へ向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「うーん、なかなか見つからないっすねぇ……」

 

 

 陽花はゼットンのスパークドールズを捜索する為、紗季、ハヤテ、イヅルと共に街に繰り出していた。桑井博士の助手である戸河も一緒だ。

 

 

「悪い宇宙人に拾われてなきゃいいんだけどなぁ」

「そうなったら最悪だろ……」

 

 

 そうハヤテとイヅルがボヤく。ゼットンと戦うという事態は出来る限り避けたいと彼らは願っていた。

 

 

「ゼットンが暴れたら甚大な被害が出るでしょう……早急に回収しないと……」

「大丈夫っすよ戸河さん!」

 

 

 過去に愛知に現れた際には約9000人の死者行方不明者を出しており、更に過去のサンフランシスコでは約2万人の死者を出して復興に3年掛かる程の大被害をもたらしている。そんなゼットンがこの東京で暴れたらどれだけの被害が出るか……焦り不安になっている様な戸河に、陽花は心強い声色で声を掛けた。

 

 

「ゼットンはあたし達が必ず見つけるっす!だから、心配しないで下さい!」

「水瀬さん……ありがとうございます」

 

 

 陽花に礼を言う戸河。それから彼女は「よーし!」と気合いを入れ直してジオデバイザーでスパークドールズを探知しながら駆け出した。憧れである桑井博士とその助手である戸河の役に立ちたいという一心なのであろう。

 

 

「陽花さん、めっちゃ張り切ってるなぁ」

「ええ。とても心強い限りです」

「よし、じゃあ俺達も頑張るか!」

「だな!」

 

 

 陽花に負けていられないと、紗季とハヤテ、イヅルの3人も改めて気合いを入れ捜索を始める。

 だから彼女達は気付いていなかった。戸河が一瞬、不敵な笑みを浮かべた事に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







愛とゼットンの奇妙な(?)友情。それとXioに板挟みとなってしまう翔琉。ゼットンを探す為に頑張る陽花。何か裏のありそうな戸河……。そんな感じで物語は進んでいきます。そして……


最強最速のヒーロー・ウルトラマンマックス登場!!

今回は愛編でもありマックス編でもあります。どの様に展開していくのか、是非お楽しみに!
因みにこのマックスですが本編とは別人のオリ主設定になっています。どの様な人物なのかは追々説明させてもらいます。

では今回はここまで!

感想、質問、高評価、その他、山形りんご、是非是非お待ちしています!




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29.タノシイを終らせない為に



ゼノオオオオオオオオン!!!!!
レジェンドオオオオオオオオ!!!!
ゼットオオオオオオオオ!!!!
歩夢うううううううううううう!!!!!

色んな感情がウルトラやばいことになってます←

とりあえず愛さん編は3話目をどうぞ




 

 

 

 

 

 

 

「あ〜…………はぁ……」

 

 

 虹ヶ咲学園にて、翔琉は柵にだらりと寄り掛かって溜め息を吐いた。原因はもちろんゼットンのこと。

 

 あの日から数日。彼は時折ゼットンの所に愛と共に行くようになった。ゼットンに会いたいからではなく、もしもの時の為の見張りをする為にだ。まあゼットンは相変わらずボーッとしており、愛達が持って来た食べ物や飲み物を食したり、偶に外に出て日向ぼっこをするくらいで、これが本当に話に聞いていたゼットンなのか正直疑わしい。中身だけ別の何かに変わってないだろうかと思ってしまう。愛は毎日楽しそうにゼットンの所に向かっており、彼と楽しく喋っている。と言っても愛が一方的に喋り、ゼットンは相槌を打っているだけではあるが。しかしそれでも彼女は楽しいそうだ。

 

 Xioの皆には未だにゼットンのことは話せていない。ゼットンを探している桑井博士達に翔琉もあったが、彼らはゼットンを強大な力を持つ危険な物だと語っており、話してしまえば確実にゼットンは捕獲されて本部に送られるか最悪駆除されてしまうだろう。身勝手ではあるが愛のことを想うとそれは避けたいと考えてしまっていた。沙優や涼風をどうにか誤魔化しながらゼットンのことを隠し続けているがそれもいつ迄持つか……。下手したらもうバレてるかも知れないなんてことも思ってしまい頭痛が加速する。

 

 

「危ない奴は消される、か」

 

 

 自身の掌を見つめる。その強い力故に皆から恐れられ排除されそうになっているゼットン。強い力を持つという点では彼と今の自分が重なって見えた。自分ももしこの力が世間にバレてしまったら、ゼットンの様に恐れられてしまうのだろうか?そうなれば、虹ヶ咲の皆からも畏怖の目を向けられてしまうだろうか?

 

 

「ッ……」

 

 

 拳を握り締めて頭を振り、その考えを払おうとするがなかなか拭えない。もし彼女達に拒絶されたら……。想像すると何とも言えない恐怖が彼の胸の中に湧いてしまう。

 

 

「……………おわッ!?」

 

 

 そんな時、彼の左の頬に冷たい何かが当たった。いきなりのことに驚いて飛び跳ねる翔琉。何かと思い振り向くと、そこには缶ジュースを持った愛の姿があった。

 

 

「愛、お前なぁ……」

「あははっ!はい、どうぞ」

「……どうも」

 

 

 手渡されたジュースのフタを開けて口の中に流し込む。愛は翔琉の隣りに来た。

 

 

「ごめんね」

「あ?何がだ?」

「あたしの所為でかけるんに余計な悩み増やしちゃって……」

 

 

 翔琉が何かに悩んでいることは知っていた愛であったが、今回のゼットンの一件の所為で悩みを更に増やしてしまった。その事を彼女はずっと気にしていたのだ。

 

 

「別に気にしてねえよ」

「でも、かけるんすっごく疲れた顔してる」

 

 

 確かに否定は出来ない。ここ数日余り眠れておらず顔には疲労の色が見られる。それでも倒れてないのも、自身の力の為だろうか。

 

 

「確かに疲れてはいるし、ゼットンのことだってどうすっかなって悩んでる」

「そう、だよね」

「なあ……何でアイツのことそんなに大切に想えるんだ?アイツはゼットン、最強クラスの怪獣だぞ。その力が自分に向けられたらとか、考えたりしねえのか?」

 

 

 愛はゼットンに対して一切の恐れを持っておらず、ごくごく自然に友達として接している。何でそんなことが出来るのか翔琉には解らなかった。奴が暴れれば愛は簡単に殺されてしまう。そうなるかも知れないと彼女は考えないのだろうか。

 

 

「うーん、考えたことないな。だって、愛さんとゼットンは友達だし!」

 

 

 友達だから。彼女がゼットンを信じる理由はそれだけ。とてもシンプルだがこれ以上のものは無いだろう。

 

 

「友達……か」

「そっ!それにね、怪獣の友達はこれが初めてじゃないんだ」

「えっ?それって……」

 

 

 愛は少し寂しそうな瞳を空に向けながら話し始めた。

 

 

「小さい時にね、小っちゃな怪獣を今みたいに見つけたんだ。それでみんなに内緒で橋の下で隠れて飼っていたの。ちっちゃいからチビスケって名前付けて、学校が終わったらすぐに遊びに行ってた。左目を怪我してて少し開きにくそうしてたけど可愛くて、あたしにすっごく懐いてくれて、怪獣って怖いだけのものじゃ無いんだって思えた!」

 

 

 けど……と彼女は言葉を続ける。

 

 

「チビスケは段々大きくなっていって、隠れて飼うのが難しくなって来たんだ。後で聞いて知ったんだけど、あの子はゲスラっていう猛毒を持った怪獣だったの。チビスケも多分自分が大きくなって毒が強くなっていってるのが分かってたみたいで、私に擦り寄る事が無くなって来た。それが拒絶されてるみたいに思えてさ……何だか少し寂しいなって」

 

 

 チビスケは毒を愛に喰らわせない様にする為に離れていたのだろうが、事情を知らなかった当時の愛からすれば急にチビスケが自分を拒絶し始めた様に思えたのだ。

 

 

「どんどん大きくなって、もう触らせてもくれないし、どうすれば良いか分からなくなってきちゃって……。それでね、Xioに報告したんだ。怪獣がいますって。………けど、それが間違いだった」

「間違い?」

 

 

 翔琉の疑問に、愛は首を縦に振る。

 

 

「Xioは悪い怪獣が居るって思ったみたいなの。1人があたしのこと抱きかかえて、残りの人達が銃でチビスケを撃ってたのを今でも覚えてる。それでチビスケは逃げてしまったんだ。死んじゃったのか生きてるのか、今でも分かんない」

 

 

 気付けば愛の瞳は潤んでいた。数ヶ月の付き合いだが、こんな彼女を見るのは初めてだ。

 

 

「別にXioのことを恨んだりはしてないよ。そりゃあ、当時は少しだけ恨んだけど、あの人達はやるべき事をしたんだって今では理解してる。ちゃんとしてなかったのは愛さんの方……。助ける方法はきっとあった筈なのに、チビスケのことが段々怖くなって楽な方を選んでた」

 

 

 愛は涙を拭い翔琉の方を向く。

 

 

「だからさ、もうあの時みたいな思いはしたくないんだ!ゼットンが愛さんやみんなと友達になって仲良くしてる所を見せたら、Xioの人達だってあの子を殺さないって思うの!だからかけるん、あたしに力を貸して!」

 

 

 頭を下げる愛。身勝手なことは重々承知済み。それでもゼットンとずっと友達でいる為に、殺させない様にする為に、翔琉に協力して欲しかったのだ。もうチビスケの時の様な後悔をしたくないから。

 

 翔琉はそんな彼女の頭に両手を置く。そしてわしわしと全力で撫でた。

 

 

「えっ!?ちょ、かけるん!?」

「オラオラオラァァ!!」

「いや、ちょ、ダメだって!?髪崩れちゃうじゃん!?」

 

 

 一頻り撫で回した後、彼は愛から手を離した。彼女は少し剝れながら髪を直していく。

 

 

「酷いよかけるん!もう!」

「ハハッ、お前意外と髪サラサラなんだな?てか地毛か。染めてんのかと思ってた」

「染めるなんてしないよ。愛さんこの髪好きだし!」

 

 

 そう言ってにっこりと笑う愛。やはり笑っていた方が良い。だから、彼女のこの笑顔を守る為にゼットンと共に居れる道を探そうと翔琉は思うのであった。

 

 

「でもまぁ、こんだけ大切に想われてるとか、ゼットンに嫉妬するわ」

 

 

 ふとそんな言葉を溢す翔琉。自分と同じ様に大きな力を持ちながらも、自分と違い誰かに大切に想われてるゼットンの事が少し羨ましく思えたのだ。

 

 

「何言ってんの?かけるんもだよ」

「は?」

 

 

 愛は翔琉の手を取り優しく握る。

 

 

「かけるんだって愛さんの大事な人だよ!それに、みんなだってそう思ってる!」

「…………例え俺が、化け物みたいな力持ってたとしても、か?」

「もちだよ!かけるんが何であろうと、かけるんはかけるん!愛さんの大好きな友達だよ!」

 

 

 太陽の様な愛の笑顔が、暗くなっていた翔琉の心に暖かな光を優しく灯す。どれだけ大きな力を持っていようが関係無く、彼女にとって翔琉は大事な友達なのだ。その考えが揺らぐ事は決して無い。拒絶すること自分を無く受け入れてくれる愛の想いは、翔琉の悩みを消していく。

 

 

「そっか……友達か」

「うん!だから、悩みがあるなら何時でも相談していいからね!」

「いや、なんか楽になったから大丈夫だ」

「え、そうなの?」

「ああ。ゼットンのこと何とかなる様気張ってみる。俺もアイツの、友達だしな」

「本当!?ありがとうかけるん!!」

 

 

 翔琉に抱きつく愛。ゼットンやみんなと一緒に居られることを思うと楽しみでワクワクが止められなかったのだ。

 

 

 

 

 だがこれまでの様子を、物陰から見ていた者が居たことに、彼らは気付いていなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 Xio司令室内には沙優、シャマラ、ミキリ、ミハネが居た。他のメンバー達はゼットン捜索の為出ており戸河もそれに同行。桑井博士とゴードンは現在与えられた部屋にいる。

 

 

「しかし、これだけ捜索しても手掛かり一つ見つからんか……。やはりもう誰かに拾われとるんじゃないのか?」

 

 

 パソコンを操作しながらシャマラがそう言う。レーダーなどを使っても探しているがゼットンは未だに見つからないでいた。

 

 

「何処に行ったんだろうねー?」

「何処かわかんないねー?」

 

 

 数日経っているがこれといった進展は無し。翔琉が何かを隠している様ではあるが、沙優は彼が最近自身の力に悩んでいることを知っていた為、敢えて言及せず暫く見守ることにしていた。

 

 ただ悪戯に時間だけが過ぎていきどうしたものかと思ってたいた時、通信が入って来た。外部からのもので誰からかは不明。怪しい通信だが一先ず彼女はそれを取った。

 

 

「はい、Xio司令室。––––––えっ?貴方は……」

 

 

 聞こえて来た声とその話の内容に目を丸くする沙優。そして通信が終わると同時に、彼女は険しい表情と共にシャマラ達に声を掛ける。

 

 

「ミキリ、ミハネ、桑井博士達の部屋に行って彼らがいるかを確かめて!」

「ど、どうかしたのか?」

「紗季、聞こえる!?」

 

 

 彼女の指示を受けて桑井博士の部屋に向かっていく2人。その後すぐに沙優は紗季に通信を入れた。

 

 

《隊長、どうかしました?》

「戸河さんはいる?」

《え、戸河さんですか?そういえば先程から姿が見えないですね……》

「博士居なかったよー!」

「ゴードンさんも居なかったよー!」

 

 

 沙優とミキリ、ミハネの報告を聞いた沙優は眉を顰める。

 

 

「おい、まさか……」

「ええ……。どうやらいっぱい食わされたらしいわね」

 

 

 一度頭を押さえる沙優。それから彼女はすぐに全員へと指示を飛ばしていく。桑井博士達の真の目論み、それを打ち砕く為に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「さて……」

 

 

 高層ビルの屋上から街を見下ろしているのはカタラ。手には2つのスパークドールズが握られている。

 カタラは神経を研ぎ澄ませる様に目を閉じる。そして暫くしてからそれを開き口角を上げた。

 

 

「スラン星人、バット星人、ゴドレイ星人、ゼットン……そしてウルトラマンマックス。なかなか豪華な役者達だ。なら、豪華な前座を用意して上げないとね」

 

 

 カタラは左手に持っていたスパークドールズの背中の部分を右手に持っていたスパークドールズに押し付ける。異様な音が鳴り響くと同時に、闇の力が漏れて閃光が放たれた。そして右手の怪獣は新たなる姿へと変化を遂げ、それをカタラはビルから投げ捨てた。

 

 

「行っておいで、ラゴラス。いや……ラゴラスエヴォ」

 

 

 投げられたそれは巨大化し大地に降り立つ。進化怪獣ラゴラスエヴォは怒号と共に熱と冷気を纏った光線を放ち、街に地獄を齎すのであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ!?」

「うおっ、何だ!?」

 

 

 突然の地鳴りに驚く翔琉と愛。2人はゼットンに会うべく向かっている途中であった。フラついた愛を翔琉が支えて何とか持ち堪え見上げる。彼らの目線の先に居たのは赤熱化したマグマの様な身体を持つ怪獣。道路に足跡を刻みながら進む怪獣ラゴラスエヴォは口から超温差光線を放って街を破壊していく。

 

 

「おいおいマジかよ……!?」

 

 

 予想外の事態に唖然としている翔琉の隣りで、愛は顔を青くしてラゴラスエヴォが進んでいく方向に目を向けていた。

 

 

「あの方向……ゼットンがいるところだ!」

「あ、おい!?」

 

 

 ラゴラスエヴォの進む先にはゼットンの隠れている小屋がある。このままではそこが破壊されてゼットンが潰されてしまうかも知れないと思った彼女は一心不乱に走り出した。

 

 

「チッ、クソが!」

 

 

 エクスデバイザーを取り出す翔琉。走っていってしまった愛のことも追わなければならないが、一先ずは怪獣をどうにかしなければならない。

 

 

《X UNITED》

 

 

 デバイザーの上部を押し光を解放。翔琉はウルトラマンエックスとなり、ラゴラスエヴォにへと殴り掛かった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






タイガからチビスケ、そしてマックスからラゴラスエヴォの登場!
そして次回から愛さん編はクライマックスに入っていきます。
次回も是非お楽しみに!

感想、質問、高評価、その他、是非是非お待ちしてるんご!



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30.宇宙恐竜シンゲキ



遅くなってしまいすいません……!

ウルトラマンZ、そしてアニメ虹ヶ咲が遂に最終回を迎えました。双方共素晴らしい作品で毎週土曜日がこんなに楽しみだったことは今まで無かったかも知れません。
終わってしまったことは悲しくありますが、最高の作品に出会えて本当に良かったです。
両作品に関わった全ての方々に心より感謝を。


それでは!愛さん編の続きをどうぞ!







 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼットンの元へと走る愛の背で、エックスとラゴラスエヴォが激突していた。大地が揺れ閃光が煌めく中で、彼女は大切な友達であるゼットンのところへと止まらず走り続ける。

 突然の揺れで途中転んでしまったりもしたが、彼女はその度に立ち上がり足を前へと進める。

 

 

「ゼットン!?」

 

 

 辿り着いた小屋の扉を勢い良く開ける愛。そこにはゼットンが相変わらずヤンキー座りをしていた。

 

 

「良かったぁ……無事だった……!」

 

 

 揺れの所為で棚が倒れたり床に物が転がったりしているが、ゼットン自身は無傷だ。

 

 

「ここは危ないから、一緒に逃げよう!」

 

 

 愛はゼットンの手を引いてから立たせて小屋の外に出る。するとそこには、桑井博士、戸河、ゴードンの3人が立っていた。

 

 

「あの……貴方達は?」

「私達はUNVERの者です。ゼットンを回収する為に来ました。しかし驚きました……まさかこんな事になっていたとは……」

 

 

 人間程の大きさになっているゼットンを見て驚いている桑井達。あの宇宙恐竜がこんな風になっていただなんて夢にも思わなかった。戸河がタブレットの様なデバイスを出してゼットンのことをスキャンしたところ、どうやら何やら特殊な電磁シールドが彼の身体に膜の様に張り付いており、それで反応をキャッチ出来なかった様だ。

 

 

「何はともあれ見つかって良かった。さあ、お嬢さん、ゼットンを此方に渡してくれませんか?」

 

 

 桑井は柔かな笑みと共にそう言って手を差し出す。

 

 

「……ゼットンは、どうなるんですか?」

「勿論スパークドールズに再変換しますよ。ソレ(・・)はとても危険な怪獣ですからね。さあ、此方に」

 

 

 表情は笑っているが目は笑っていない。それにゼットンをまるで物の様に扱っている節が見受けられる。彼らにゼットンのことを任せるのは危険だ。そう判断した愛はゼットンを庇う様にして前に出た。

 

 

「何の真似でしょうか?」

「貴方達にゼットンは渡さないよ!」

 

 

 そんな彼女の姿を見て、3人は嘲笑う。

 

 

「何と愚かな……良いですか?ソレは怪獣なんですよ?とても危険な存在です。早急に排除しなければならない物なのです」

「ゼットンは危険じゃない!この子は、とても優しい子だよ!」

「何を言ってるのだか……」

 

 

 頭を抑える桑井。それから戸河とゴードンに合図を送り、2人を愛の方へと向かわせた。歩いて迫る彼らに身構える愛。

 

 

「止まりなさい!」

 

 

 その時、ジオブラスターを構えた紗季、イヅル、ハヤテ、そして陽花と涼風がいた。彼女らの銃口は戸河とゴードン、桑井に向けられている。

 

 

「これこれはXioの皆さん……一体何の真似でしょうか?」

「惚けても無駄よ」

「もうネタは上がってんだよ」

「はて?何のことやら……–––––ッ!」

 

 

 首を傾げる桑井。しかし次の瞬間、彼は右腕をXioメンバーの方へと突き出した。するとそこから紫色の稲妻が放たれ、それは彼女達の足元に当たり火花を散らす。彼女達はその衝撃で身体を吹き飛ばされてしまった。

 

 

「ぐあっ!?」

「ガハッ!?」

「くぅっ!?」

「嗚呼……!?」

 

 

 驚いている愛に再度戸河とゴードンが迫る。今度は歩いてではなく一気に駆け出してだ。恐怖で目を瞑りながらもゼットンの前で庇う様に彼女は腕を拡げる。大きな音が響き、襲い来るであろう衝撃に身を固くする愛……。しかしいつまで経っても何も襲って来ることは無く、逆に桑井達の困惑する様な声が聞こえて来た。何かと思い瞼をゆっくり開けると、1人の男の背が瞳に映った。そしてその男の前では戸河とゴードンが倒れている。

 

 

「貴方は……?」

 

 

 首だけを振り返らせた男の顔を見て愛は目を丸くした。そして彼を見た桑井達やXioの面々も驚いている。現れた男の顔、それが彼の前で倒れている戸河と瓜二つだったからだ。

 

 

「大丈夫かい、君?」

「う、うん……」

「良かった。その怪獣と一緒に、少し下がっててくれ。––––もう逃さないぞ、お前達」

 

 

 一歩前に出て桑井達3人にそう告げる男。彼を見て、桑井と立ち上がった戸河、ゴードンは不敵に笑う。

 

 

「現れたな、本物の戸河 瑞斗!」

「ほ、本物の?」

「じゃあ、彼が情報をくれた人か……!」

 

 

 先刻Xioに入った通信の内容。それはXioに来た桑井、ゴードン、戸河が偽物であるということ、奴らがゼットンのスパークドールズを悪用する為にXioメンバーを利用しているというものだった。そしてそれを伝えて来た者こそがこの本物の戸河 瑞斗なのだ。

 

 

「いい加減正体を現したらどうだ?スラン星人、バット星人、ゴドレイ星人!」

「…………クククッ……クハハハハッ!!」

 

 

 高笑いと同時に、彼らは真の姿を現した。桑井はスラン星人ソルア、戸河はバット星人タクニア、ゴードンはゴドレイ星人クアトとなる。

 

 

「コイツらが……本物の桑井博士はどうした!?」

「嗚呼。彼なら始末したよ」

「始末ですって……!?」

「生きていられても邪魔なだけだしなぁ。奴に化けたお陰で楽にXioに潜入出来たし、ソイツとの戦闘で無くしていたこのゼットンを見つけ出すことも出来た。お前達に感謝しているよ」

「お前らあああああ!!」

 

 

 タクニアの言葉を聞き、怒りに任せてイヅルとハヤテがジオブラスターを奴らに発砲。しかしクアトがタクニアの前に出てそれを両腕で防ぎ、ソルアは超高速で移動してそれを躱して次の瞬間には愛の目の前に居た。

 

 

「邪魔だ!」

「きゃっ!?」

 

 

 愛を押し退けて腕から黒い稲妻をゼットンに放つ。ゼットンは苦しみながら再び小屋の中に戻っていった。

 

 

「ゼ、ゼットン!?」

 

 

 中から閃光が数度漏れ、中から何かが膨れ上がって来て小屋を拡げて破壊。膨れ上がった何かの正体は、紛れも無くゼットンだ。

 

 

「行け!最強の怪獣、宇宙恐竜ゼットンよおおお!!」

 

 

 今の彼からは先程までの優しさは感じられない。破壊の化身、最悪の怪獣として、ゼットンはこの星に降臨した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ULTRAMAN ZERO LOAD》

 

 

「いくぜ!」

 

 

 ウルトラマンゼロの力を纏ってラゴラスエヴォに突っ込んでいくエックス。そんな彼にラゴラスエヴォは超温差光線を放った。しかしエックスはウルトラゼロディフェンダーを即座に出して攻撃を防いだ。

 

 

「いいねぇ、ゼロの力。使い易い!」

 

 

 ディフェンダーを瞬時にウルトラゼロランスに変化させ、それをラゴラスエヴォに向けて投擲。放たれた槍は見事に奴の腹を貫いた。その場所から血を噴き出して苦しむラゴラスエヴォ。エックスは一気に接近し、奴の身体を持ち上げる。

 

 

「ウルトラハリケェェェェエエエエエンッ!!」

 

 

 ラゴラスエヴォを空高く回転させながら投げ飛ばした。上空に舞い上がり無防備となった奴にエックスは目を向ける。

 

 

《ULTIMATE ZERO ARMOR LOAD》

《ULTIMATE ZERO ARMOR ACTIVE》

 

 

 ゼロアーマーを纏い、それを弓型へと変形させて鏃をラゴラスエヴォに狙いを定める。光の弦を引き絞り、最大の一撃を奴へ向けて放った。

 

 

「ファイナルウルティメイトォゼロォォォッ!!」

 

 

 光の矢が一直線に進んでラゴラスエヴォを貫き、跡形も無く粉砕してしまった。

 

 

「よーしっ。いや、マジで陸とゼロ様様だわ……んっ?」

 

 

 背後からの轟音に振り返るエックス。彼の目に映ったのは巨大化したゼットンだった。

 

 

「ゼットン、お前どうして……?」

 

 

 その姿に驚いている彼に、ゼットンは容赦無く頭部から火球を放った。火球はエックスの胸に直撃し、彼は堪らず吹っ飛んでビルを圧し潰しながら倒れてしまう。

 

 

「があッ!?ぐっ……!?」

 

 

 倒れたエックスへゼットンは瞬間移動して瞬時に接近し、彼に馬乗りになって首を絞める。

 

 

「おい、やめ……ろ……!?」

 

 

 エックスはどうにかゼットンを引き剥がそうとするがその凄まじい力に負けてそれが出来ないでいた。ギリギリと絞められ追い詰められていくエックス。そんな彼にゼットンは強靭な腕を何度も何度も叩き付ける。

 

 

「ぐぅッ!?ガハッ!?」

 

 

 最強怪獣の名は伊達では無い。決して容赦すること無く、エックスを叩きのめす為にその力を振るう。

 

 

 

 

 

 

 

「ゼットン!!やめて!?」

 

 

 愛が叫ぶがゼットンは止まらない。

 

 

「フハハハハハッ!!どうだ!?これがゼットンの力だ!!」

 

 

 高笑いを上げるソルア。タクニアとクアトも実に愉快そうに笑っている。

 

 

「アンタ達、一体何が目的!?」

「目的?決まってるだろ。ウルトラマン達の抹殺だ!」

「ウルトラマンの!?」

「そうだ!我々はウルトラ一族に仲間達を殺されている!これはその復讐なのだ!まずはあのウルトラマンエックスを殺し、そして!」

 

 

 ソルアは瑞斗のことを指差した。

 

 

「その次はお前だ!戸河 瑞斗……いや、ウルトラマンマックス!!」

 

 

 瑞斗がウルトラマン。ソルアによる衝撃の発言に驚いているXioのメンバーと愛。

 

 

「やはり私も狙いだったか」

「当たり前だ!私とクアトの同族は貴様によって倒されている!その怨み、晴らさずにはいられんのだ!」

 

 

 奴の言葉に同調する様にクアトも唸り声を上げる。このマックスは過去にスラン星人とゴドレイ星人を倒しているらしく、それ故に奴らに強く憎まれているのだ。

 

 

「貴様らM78星雲の連中には私の仲間達も数多く殺されている……楽に死ねると思うなよ!」

 

 

 タクニアは懐から新たにスパークドールズを取り出してそれを天に掲げる。奴の手にあるそれは、どうやらゼットンのスパークドールズの様だ。

 

 

「それは!?」

「見せてやろう、ゼットンの養殖に置いて宇宙一であるバット星人のこの私が育て上げた、最強のゼットンをォォォ!!」

 

 

 スパークドールズが煌めき、タクニアが投げるとそれは巨大化しもう1体の宇宙恐竜ゼットンとして大地に降り立った。………が。

 

 

「………え?」

「何だ、あれ?」

「いや……え?」

「ゼッ……トン?」

 

 

 グオーだかブモーだか、そんな感じの唸り声を上げるバット星人タクニアが呼び出したゼットンの様な何か。いや、間違い無くゼットンであるのだが、見た目が正直今エックスと戦ってるゼットンやこれまで地球に現れたゼットンとは似ても似つかない。体色がくすみ、肥満体型でブヨブヨしており、まるでゼットンの劣化品の様な印象を与える。

 

 ゼットン二代目とでも云うべきであろう存在に、それを見た者達は困惑をしていた。

 

 

「ええい!何だその反応は!?コイツも立派なゼットンなんだぞ!!」

「いや、正直弱そう」

「はぁ!?」

「ああ。余り脅威を感じない」

「何ぃ!?」

「めっちゃ太ってるっすね……」

「そ、それはパワーを高めた結果であってだな!?」

「愛さんが良いダイエット教えてあげようか?」

「いや、だから太ってる訳ではない!!」

「だから辞めとけと言ったろ?あれを連れて来るのは」

「ソルアまで!?」

 

 

 多方面からボロクソ言われてしまうタクニアとゼットン二代目。

 

 一方、どうにかゼットンを押し退けてから転がり、距離を開いて立ち上がったエックスもゼットン二代目に目を向けた。二代目ゼットンはエックスを威嚇する様に鳴く。

 

 

「………誰だゼットンと豚のキメラ連れて来たのは?」

「誰のゼットンが豚だァァ!?行けぇゼットン!そのふざけたウルトラマンを殺してしまえェェェ!!」

 

 

 エックスに向かって走り出すゼットン二代目。しかし遅い。彼は対抗して走り出し、思いっきりドロップキックを叩き込む。ゼットン二代目は敢えなく倒れてしまった。それから彼は倒れたゼットン二代目に跨り、先程まで自分がゼットンにやられていた様にパンチを叩き込んでいく。

 

 

「オラオラオラオラァァ!!–––––どわッ!?」

 

 

 調子に乗ってゼットン二代目をボコボコ殴っていた所をゼットンによる蹴りを受けて吹っ飛ばされてしまう。

 

 

「クソッ……とはいえゼットン2匹は流石にヤバいだろうな……」

 

 

 立ち上がった構えるエックス。ゼットン二代目も立ち上がりゼットンと並んでいる。

 

 

「デブを倒してゼットンを正気に戻す。やるしかねえか」

 

 

《CYBER GOMORA ARMOR ACTIVE》

 

 

「さあ、いくぜ!」

 

 

 ゴモラアーマーを身に纏い、エックスは大きな爪を振り翳しながら駆け出していく。2体のゼットンも彼に向かい走る。先に来たゼットンに爪を振り下ろすがテレポーテーションで回避されて背後に回られ背中に打撃を受けてしまい、更に遅れて来たゼットン二代目の突進をモロに喰らってしまった。

 

 

 どうにか耐えるがゼットンがまた瞬時に接近して腕を叩きつけ、ゼットン二代目が白い火球を放った。爪で何とか防ぐが衝撃までは殺せず後退。奥歯を噛み締めているエックスに、ゼットンが連続で1兆度の火球を放っていった。流石にそれには耐える事が出来ず、彼は大きく吹き飛びアーマーは解除されてしまった。

 

 倒れてしまうエックス。それを見てソルア達が再度笑う。

 

 

「ハハハッ!ではそろそろ、我々も行くぞ」

「ああ」

 

 

 閃光を放ちながらソルア、タクニア、クアトも巨大化し、愛達を見下ろす。

 

 

「貴様らの役目は終わった……消えろ!」

 

 

 ソルアの言葉の後にクアトが胸から破壊光線を、愛やXioメンバーがいる場所に向けて放った。迫る光線に目を瞑る面々……あんなものが直撃したら一巻の終わりだろう。

 

 しかしその刹那、瑞斗が懐から取り出した金色のアイテムを掲げて光を蓄える。そしてそれを左腕に装着。すると真紅の光が放たれ–––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ……あれ?」

「これは……?」

 

 

 愛と紗季、陽花、涼風、イヅル、ハヤテの6人は何故か先程とは別の場所、広場の様な所に来ていた。そして彼女達は何かを感じて上を見る。そこに居たのは……。

 

 

 

 

 

 

「赤い、ウルトラマン…!」

 

 

 真紅のボディ、金と銀のプロテクター、胸には青いタイマー。彼こそ戸河 瑞斗の本当の姿、ウルトラマンマックスである。

 

 マックスは愛達に一度頷いた後、超音速で動きソルア達3体と2体のゼットンを弾き飛ばしてエックスの元に来た。そして倒れている彼に手を差し伸べる。

 

 

「ぐっ……アンタは……?」

「私はウルトラマンマックス、君の味方だ。立てるか?」

「あ、ああ……」

 

 

 マックスの手を取ってエックスは立ち上がる。そして並び立っていたソルア、タクニア、クアト、ゼットン、ゼットン二代目の方に目を向けて構えた。

 

 

「メタボじゃない方のゼットンを救いたい。手を貸してくれ」

「良いだろう。スラン星人達他の連中は任せてくれ」

「頼りになりそうだ」

 

 

 2人のウルトラマンは、ゼットンを救いソルア達を倒す為に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自室にて、明里はパソコンの画面に映されたエックス達の戦いを見ていた。

 

 

《おやおやおや。まさか、新たなウルトラマンが現れるは…….。厄介極まりないねぇ》

 

 

 紙パックのオレンジジュースを吸いながら画面を見つめる明里。怪獣達と戦うエックス、そして新たに現れたマックスを見ていると何だかイライラしてくる。最近はそんな事思わなかったが、カタラと接触した時くらいからまたそんな感情が湧いて来ていた。

 

 

 中身の吸い終わった紙パックがくしゃっと潰れ、彼女はそれを適当に放り投げた。それから手近にあった3つの怪獣カプセルを掴み取る。

 

 

《久しぶりにやるのかい?》

「いいでしょ別に。あんなでかいの、2匹もいたらウザいし」

 

 

 明里はカプセルを一つずつ起動させていく。

 

 

《ゼットン……!》

 

 

 まず起動させたのはゼットンの怪獣カプセル。

 

 

《パンドン……!》

 

 

 次は双頭怪獣パンドンの怪獣カプセル。そして最後に……。

 

 

《マガオロチ……!》

 

 

 星を喰い尽くすという伝説を持つ恐ろしい存在、大魔王獣マガオロチのカプセルを起動させた。3つの怪獣カプセルは光とそれぞれの鳴き声を放ちながら闇に包まれて浮遊し、やがて一つに融合。完成したその怪獣カプセルを明里は手にした。

 

 

「それじゃあ、いってらっしゃい」

 

 

 明里は愛らしい笑みと共に、その怪獣カプセルを起動させた––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ゼッパンドン……!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ゼットンの闇堕ち、スラン星人達の正体バレ、ゼットン二代目登場、そしてマックス参戦と詰め込みまくりになった記念すべき30話目でもあったのですが如何だったでしょうか?

本作でウルトラマンマックスに変身する……というよりマックスが変身してたのは戸河 瑞斗という青年です。彼に関する詳しい設定などは後々公開していきます。
マックスも本格参戦、そして今回のボス怪獣も判明し話はクライマックスへと進む!


それと近々とある方とのコラボをお知らせ出来そうですので是非お楽しみに!


感想、質問、高評価、ここすき、その他、是非是非お待ちしています!




次回、「友アンド愛を信じて」



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31.友アンド愛を信じて



今年ラスト投稿です!
それではどうぞ!


 

 

 

 

 

 

 

 

 スラン星人ソルア、バット星人タクニア、ゴドレイ星人クアト、ゼットン、ゼットン二代目は火球や光線、稲妻、光弾、ミサイルなどを放って迎え撃つが2人はそれらを掻い潜って進んでいき、エックスはゼットンにタックルして他の連中から離していく。

 

 

「チッ!うおっ!?」

 

 

 ソルア達がエックスとゼットンの所に行こうとしたのを、マックスがマクシウムソードを放って阻止。

 

 

「お前達の相手は私だ」

「フンッ、良いだろう」

「まずは貴様から血祭りにしてくれよう!」

 

 

 ゼットン二代目が手先からゼットンナパームという火炎を、クアトが胸から破壊光線をマックスに向けて放った。しかしマックスはジャンプしてそれを回避し、急降下キックで2体を纏めて蹴り飛ばしてしまう。

 

 そこへソルアとタクニアが接近していき腕を振るうが、マックスはそれも見事に躱して逆にパンチやキックを叩き込んでいく。

 

 4対1と不利な状況下であるがマックスは決して臆すること無く立ち向かい、寧ろ奴らに強烈な攻撃を浴びせていって圧倒していた。

 

 

「お、おのれぇ!?」

 

 

 タクニアは両腕の鋏からミサイルを発射。マックスは回し蹴りでミサイルを叩き落とし、マクシウムソードを投げた。投げられた刃はタクニアの身体を切り裂いて大きなダメージを与える。

 彼が無防備になったのだろうと思ったゼットン二代目が背後から突撃しようとするが、それを察せられ回避されてしまい、マックスに腕を掴まれてから思いっきり投げられることになった。投げられたゼットン二代目はその先にいたクアトに激突し2体は倒れ込んでしまう。

 

 

 ソルアが超高速でマックスに向かう。マックスも同じく超高速で動き何度も激突を繰り返す。

 

 

「シュアッ!」

「くっ!?」

 

 

 腕を振るって攻撃していくがマックスは受け止め回避し、カウンターを叩き込む。腹部に強烈な拳を喰らい退がっていくソルア。更に続けてキックを撃ち込まれて奴は吹っ飛んだ。

 

 

「ぐおおっ!?」

「ソルア!?お、おのれぇ!?」

 

 

 並ぶソルア達に対してマックスは拳を握り構える。最強最速と呼ばれているマックスを相手するには、奴らでは少々役不足の様だ。

 

 

《REALISE》

 

 

 そこへ更に陽花がサイバーゴモラを召喚。サイバーゴモラはマックスの横に並んで咆哮を上げた。

 

 

「あたし達も一緒に戦うっす!」

 

 

 彼女の言葉に頷き、サイバーゴモラと共に宇宙人達に構えるマックス。そんな彼らにへと奴らは向かっていき、マックスとサイバーゴモラもそれに対抗する為走り出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼットンを止めるべく彼にしがみ付くエックス。だがすぐに払われて張り手を受けて後退してしまう。

 

 

「があッ!?くっ……ゼットン、俺だ!翔琉だ!思い出せ!」

 

 

 何度も呼び掛けるがゼットンに変化は見られない。テレポートでエックスの眼前に迫り、至近距離で火球を撃ち込んで来た。彼は堪らず吹き飛び、背後にあったビルを崩しながら倒れてしまう。

 

 

「ぐああああああッ!?ッ……どう、すれば……!?」

 

 

 痛む胸を抑えながら身体を起こす。ゼットンを抑えようにもその強力な力ですぐに返され圧倒されてしまい、カラータイマーも鳴っていてこのままでは彼を助けることなど出来ない。どう打開するべきか……彼がそう考えていた時であった。

 

 

「ゼットン!!」

 

 

 聞こえて来た叫び声の方に目を向けると、そこには愛の姿があった。ここまで必死に走って来たらしく額には汗が滴り、練習着も濡れて張り付いている。

 

 

「お願い!やめてゼットン!?」

 

 

 彼女はゼットンに向かって必死に叫んだ。それに気付いたゼットンは一歩一歩愛の方へと向かっていった。彼女の想いが届いたのかと思われたが、ゼットンは愛に向かってその腕を振り上げた。

 

 

「まずい!」

 

 

 エックスは即座に飛び出してゼットンを羽交い締めにし、愛に対して腕を振り下ろすのを止める。

 

 

「馬鹿やめろ!?そいつはお前の友達だろうが!?」

 

 

 全力で抑えながらゼットンにそう言うが、彼は聞く耳を持たず暴れて抵抗。

 

 

「この……!?おい、逃げろ!長くは持たねえ!」

 

 

 愛へと逃げる様に叫ぶエックス。このままでは振り解かれ、愛に対してゼットンの腕が叩き付けられてしまうことになるだろう。

 

 

「嫌だ!」

「はあァ!?何言ってんだお前は!?」

「もう逃げたくない!ゼットンは私の大切な友達だから、どんな事になっても絶対に助けたい!」

 

 

 かつてチビスケを助けられなかった事が脳裏に浮かぶ。もうあんな事を繰り返さない為に。もうあんな思いをしない為に。大切な友達を助ける為に、愛は真っ直ぐな目でゼットンを見つめながら一歩も引く事は無かった。

 

 

「ゼットン、これ見て!」

 

 

 彼女が取り出したのは出会った時にゼットンがくれた流星マークのバッジ。それをゼットンへと見せ付ける。

 

 

「君がくれた、友達の証だよ!私だけじゃなくて、歩夢にも、かすみんにも、しずくにも、そしてかけるんにもくれたでしょ?みんな君からこれを貰えたことをとても喜んでるんだよ!」

 

 

 バッジを見て、そして愛の言葉を聞いて、何かを思い出しそうなのかゼットンの力が次第に弱まっていく。

 

 

「お願い、思い出して!!君の友達のことを……私達のことを!!」

 

 

 愛の必死に叫びを聞いたゼットンが身体を痙攣させ頭を押さえる。友達との大切な記憶が、呼び起こされそうとしているのだ。今がチャンスだと思ったエックスは彼を軽く後方に押し退けてから離れた。

 

 

「ピリュファイウェーブ!」

 

 

 右手より放たれた浄化光線の光がゼットンを包む。そしてそれが晴れた時、ゼットンの先程までの凶暴さは潜め、愛の事を思い出して彼女の方を向き頭を下げるのであった。

 

 

「ゼットン!」

 

 

 元の優しいゼットンに戻った様で安心し笑みを浮かべる愛。ゼットンはエックスに近付いてからまた頭を下げる。謝罪とお礼を含んだものなのであろう。

 

 

「戻って良かったよ。さあ、アイツらぶっ飛ばすぞ」

 

 

 ゼットンの肩を軽く叩いてから戦っているマックス達の方に振り向く。ソルア達を倒すべく、彼らもそちらの方へと参戦するのであった。

 

 

 エックスがアタッカーXを、ゼットンが1兆度の火球を放つ。それはソルア、タクニア、クアト、ゼットン二代目に命中し4体を吹っ飛ばした。それからエックスとゼットンはマックス、サイバーゴモラの横に並ぶ。

 

 

「友を救う事は出来た様だな」

「ああ、お陰様で。それと、コイツが噂のサイバーゴモラか。頼りにしてるぜ」

 

 

 サイバーゴモラはエックスの言葉に応える様に咆哮。

 

 

「そんじゃあ、みんな……行くぜ!」

 

 

 エックスの号令に合わせて立ち上がったソルア達へと彼らは駆け出す。

 

 

 

 

 向かって来るサイバーゴモラに対してミサイルを放つタクニア。しかしそれらは全て大きな爪で防がれ、サイバーゴモラはどんどん接近し猛烈な突進を食らってしまう。

 

 

「ぐほぉ!?ゴ、ゴモラ如きに私がああ!?」

「ゴモラ如きとは何ですか!桑井博士の命を奪ったアンタ達を、あたしは絶対許さないっす!」

 

 

 陽花の怒りに呼応し、サイバーゴモラから闘気が放たれた。鋭い爪を何度も振るってタクニアの身体を裂き、流れる様に身体を回転させ尻尾を叩き付ける。強烈なラッシュを受けたタクニアは堪らず吹っ飛んで倒れた。

 

 

 

 クアトがマックスに向かって爪を振るった。彼はそれを受け止めて、胸元にパンチを叩き込む。胸を抑えて後退するクアトに、マックスはマクシウムソードを投げた。マクシウムソードは縦横無尽に飛び回り、クアトを斬り付けていく。

 

 マクシウムソードを戻し、再びクアトへと構える。クアトは胸から破壊光線をマックスに向かって放った。マックスは眼前に光のシールドを形成して防ぐ。それを見て悔しがり地団駄を踏み、それからマックスに向かって突進していった。マックスも奴に向かって走り、飛び蹴りを繰り出した。命中すると同時に光がスパークし、クアトを吹っ飛ばすのであった。

 

 

 

 

 ゼットンはゼットン二代目と戦っていた。鳴きながらゼットンに飛び掛かる二代目だが、ゼットンはテレポートして躱す。潰れたカエルの様にビタンッと地面に落ちる二代目。ゼットンはその背中を容赦無く踏み付け、そして蹴り飛ばす。

 

 

 どうにか立ち上がれたゼットン二代目はナパーム弾を連続して放った。ゼットンはバリアを張り、それらを全て防ぎ切ってしまう。驚いている二代目に対し、ゼットンは1兆度の火球を放つ。火球は二代目の顔面に直撃し、奴は堪らず倒れてしまった。

 

 

 本来なら二代目の方が能力値は高い筈なのだが、ゼットンはその能力差を物ともせず圧倒していた。

 

 

 

 

 

 

 ソルアの顔面に、エックスの拳が叩き込まれた。

 

 

「グハッ!?く、くそが……!」

「よくも俺の友達を利用したり泣かせたりしてくれたなァ……!落し前はしっかり着けてもらうぞゴラァァ!!」

 

 

 腕を大きく振り被り、右ストレートを放つ。だがソルアは高速移動でそれを回避し、更に彼を円で囲む様に動いて残像を作り出して分身。そして腕から怪光線をエックスにへと放つ。

 

 

「ガッ!?」

「「「フハハハッ!どうだ、これが私の力だ!」」」

「チッ……」

 

 

 残像がエックスを囲み嘲笑う。どれが本物なのか普通ならわからない。普通なら……。

 

 

「そこだ!」

「ごはぁッ!?」

 

 

 エックスは右斜め後ろに跳んで蹴りを放った。すると蹴りは見事にソルアに炸裂し、奴のことを吹っ飛ばしてしまった。

 

 

「ば、馬鹿な!?何故!?」

 

 

 ウルトラ戦士とはいえそう簡単に見破れる筈が無い。そう確信していたのに最も容易く看破されてしまい動揺を隠せないでいるソルア。何故なのかとエックスに聞くと予想外の返答が来た。

 

 

「…………勘」

「ふざけんなァァ!?」

 

 

 タクニア、クアト、ゼットン二代目もソルアの所に吹っ飛ばされて来る。

 

 

「さて、どうやらそろそろシメといこうじゃないか」

「おのれぇ……!?」

 

 

 エックス、マックス、ゼットン、サイバーゴモラは必殺技の体勢に入った。このまま一気に決めるべく、皆力を溜めていった…………のだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ、ぐあッ!?」

「ダァッ!?」

 

 

 そんな彼らに対して幾つもの破壊光弾が降り注いだ。堪らずエックス達は膝をつく。一体何なのか?そう思い顔を上げると、そこに居たのは恐ろしいモンスターであった。

 

 

 

 胴体はゼットンと似通っており、両肩からは赤い突起が伸びていて両手両足には鋭い爪、顔は鮫や深海魚を連想させる様な凶悪なものになっている。長く太い尾で地面を叩き、ゼットンと何かを混ぜた怪獣はエックス達の前に立って咆哮した。

 

 

「何だよ、アイツは……!?」

 

 

 突如現れた怪獣に驚いているエックス達に向かって、ソイツは容赦無く光弾を放っていく。

 

 

「があッ、くッ!?」

 

 

 強烈な威力と凄まじい連射に追い詰められていくエックス。マックスとサイバーゴモラ、ゼットンも苦しんでおり、先程までの優勢は一瞬で無くなってしまった。

 

 

「何だか知らんがチャンスだな……」

「ああ、我々も……!」

 

 

 ソルア達も立ち上がりエックス達に光線や光弾を放っていった。弾幕の嵐が彼らを包み傷付ける。

 

 新たに現れた怪獣が前面に大きな火炎弾を生成した。それをエックス達へとぶつけてしまうつもりなのだろう。怪獣は火炎弾を、彼らへと飛ばした。あんな物喰らってしまったらひとたまりも無い。万事休すかとエックスが覚悟を決めた……その時である。

 

 

「な、ゼットンッ!?」

 

 

 何とゼットンがエックス、マックス、サイバーゴモラを庇う様に立ち上がり、腕を拡げて火炎弾を受けた。バリアを張る暇も無かったのだろう。強力な防御力を持つゼットンとはいえ、その一撃は痛烈なものであり……。

 

 

「ゼットン!?」

 

 

 愛の悲鳴が響く中、ゼットンは火炎に包まれた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







ゼッパンドン襲来!
この強力無比な怪獣を前に、心を取り戻したゼットンが……。果たしてエックス達はどう立ち向かうのか?次回をお楽しみに!



本年度最後の投稿になるこの回ですが、ここで重大発表があります。




なんとこの度、かつて蒼人様が連載をなさっていた「メビライブ!サンシャイン!!〜無限の輝き〜」とコラボさせて頂くことになりました!!

エックスとメビウス、ヒカリ、そして翔琉と未来、ステラがどの様に関わりどんな物語となるのか、是非是非お楽しみにしていて下さい!
投稿は来月中を予定しています!


重大発表も出来た所で、今回はここまでとさせて頂きます。

感想、質問、高評価、ここすき、その他、是非是非お待ちしています!

それでは皆様、良いお年を!



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32.光るココロと共に








 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おい、何だあの怪獣は!?」

 

 

 突如現れた謎の怪獣に避難誘導を行なっていたXioメンバー達も驚きを隠せない。怪獣は光弾を連発してエックス達を攻め立ててる。

 

 

「怪獣のスキャン終わりました。これは……」

「どうかしたの?」

「あの怪獣はやはり合成怪獣の様です。1体はゼットン、もう1体はパンドン。そして未知の怪獣の反応が1体混ざっています」

 

 

 涼風が怪獣をスキャンし分析していく。どうやらあの怪獣はゼットンとパンドン、そして謎の怪獣3体による合体怪獣らしい。

 

 

「ゼットンとパンドンって……じゃあ、アイツはゼッパンドンってか」

「安直では?」

「この際名前なんかどうでもいい!とにかく避難誘導ももうすぐ終わるんだ、エックス達を援護しにいくぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼットン!?」

 

 

 エックス達を庇い、怪獣・ゼッパンドンによる火炎弾の直撃を受けてしまったゼットンはゆっくりと後ろに崩れ落ちていく。それをエックスがギリギリで受け止めた。

 

 

「おい、ゼットン!しっかりしろ!?」

 

 

 身体のあちらこちらが焼けており、顔中央部の光も弱々しくなっていてそのダメージが凄まじいものだというのは見ただけで理解出来る。

 

 

「ゼットン……!?」

 

 

 愛もゼットンの元へと走っていく。そして辿り着いた場所の見上げた先に居たのは、瀕死状態のゼットンと、彼に何度も呼び掛けるエックス。

 

 

 一方、マックスとサイバーゴモラは向かって来ようとしていたゼッパンドン達へ、ゼットン達を守る為に突っ込んでいった。先程までは有利に戦えていた彼らであったが、ゼッパンドンと勢いを取り戻したゼットン二代目、スラン星人ソルア、バット星人タクニア、ゴドレイ星人クアトの5体相手では流石に厳しく、奴らの猛攻に晒されていく。

 ソルアとタクニアの爪がサイバーゴモラを叩き、ゼッパンドンの尾、ゼットン二代目の腕、クアトの蹴りがマックスに打ち込まれる。

 

 

 

 

 

 

「ゼットン!?おい、目ぇ開けろ!?何処が目か知らねえけど!!」

「ゼットン……ゼットン!!」

 

 

 ゼットンは震えながら手を伸ばす。それをエックスはしっかりと握った。そして彼の方を向き、ゼットンはゆっくりと頷く。

 

 –––––愛を頼む……自分自身の死期を悟り、そう伝えているかの様だった。

 

 

「おい……何だそれは、ふざけんなよ!?カッコつけてんじゃねえ!!死ぬなんて許さねえぞ!!」

 

 

 ゼットンは次に愛の方を向く。彼女の目には涙が溜まっており、今にも溢れ出しそうだ。そんな愛に向かって、ゼットンはポツリと呟いた……。

 

 

 

–––––………ア…イ……。

 

 

「……!?ゼ、ゼットン!?

 

 

–––––トモ……ダ…チ……アリガ……トウ……。

 

 

 

 本来のゼットンに地球の言語を話す能力は無い。無い筈なのだが、今彼は間違いなく愛に対して精一杯の感謝の想いを伝えた。この事は、常識では考えられない、愛とゼットンの友情が起こした奇跡としか言い様がないだろう。

 

 彼女の頬を涙が伝う。ゼットンの肉体は次第に崩れていきそして……。

 

 

「おい……おい!?何だよこれ、どうやったら止まるんだよ!?ゼットン!ゼットン!!」

 

 

 彼の肉体は完全に風化。ゼットンは死を迎え消滅するのであった––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ゼットンが消滅するところを明里はパソコンのモニターで見ていた。

 

 

「馬っ鹿だねー。怪獣のクセにウルトラマンを庇うなんてさ」

《ああ、全くその通りだ》

「怪獣は暴れて、街壊して、人殺してればそれでいいのにね。何がしたかったんだろ、あのゼットン?馬鹿じゃん」

 

 

 ゼットンのことを嘲笑う明里。それに対してルギエルもその通りだと頷く。

 

 

「まあいいや。さっさとウルトラマン達殺しちゃってね、ゼッパンドン……」

 

 

 妖しく楽しそうに、モニターだけが明るく光る部屋の中で彼女は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「………ぐぅ……!?うおおおおおおおおおおおおッ!!!」

 

 

 膝から崩れ涙を流す愛。そして怒りを爆発させて咆哮し、ゼッパンドン達へと飛び込んで行くエックス。瞬時にエレキングアーマーを纏い、電撃の鞭を奴らへと振り回した。

 

 

「ぐほっ!?」

「があっ!?」

「喰らえやあああああ!!」

 

 

 ソルア、タクニアを叩き、続けてゼッパンドンに打ちつける……が、ゼッパンドンは何と口で受け止めてしまった。更に鞭を引き千切り、何とそれを丸呑みしてしまう。

 

 

「なッ……!?クソがああッ!!」

 

 

 だったらと必殺のエレキング電撃波を放った。しかしゼッパンドンは緑色に光る六角形のシールドを出してそれを防ぎ、更に破壊光線を放ってエックスを吹き飛ばした。

 

 

「があああ!?」

 

 

 アーマーが解除され地面に倒れたエックスに、マックスが駆け寄る。

 

 

「大丈夫か?」

「くっそ……あの野郎、絶対許さねえ……!」

 

 

 支えられながら立ち上がったエックスは再度ゼッパンドン達に向かって行こうとするが、その肩をマックスが掴んで止めた。

 

 

「よせ!怒りに囚われたまま、戦ってはならない」

「はあ!?何言ってんだよ!?こちとらアイツらに友達殺されてんだぞ!!ブチ切れるに決まってんだろうが!?」

 

 

 マックスに掴み掛かるエックス。その身体からは、黒いモヤの様なモノが滲み出ていた。怒りに駆られている彼のことを、マックスは冷静に制する。

 

 

「落ち着け。君の友達が、それを望んでいると思うか?」

「それはッ!?………」

 

 

 エックスは何も言い返せなくなる。ゼットンは愛を守り、奴らを倒す事は願っているだろうが、彼が暴走して怒りのままにゼッパンドン達を殺戮する事など望んではいない筈。それを思うと、湧き上がっていた怒りがスッと引いていった。

 

 

「心に光を灯し、愛する者達を守る為に戦う。それがウルトラマン……未来を掴む、我々の力だ。」

「それが、ウルトラマン……」

 

 

 掌を見つめるエックス。先程愛から貰った言葉、そして今マックスから伝えられたウルトラマンとしての在り方。それが翔琉の心に染み渡っていき、光となる。

 

 そんな時、彼らの側にサイバーゴモラが飛ばされて来た。どうやらゼッパンドンの攻撃により吹き飛ばされてしまったらしい。サイバーゴモラに寄るエックスとマックス。前方に目を向けると、そこにはこちらへと向かって来るソルア、タクニア、クアト、ゼットン二代目、そしてゼッパンドンの姿があった。

 

 構えるエックス、マックス、立ち上がったサイバーゴモラ。全員ダメージを負っており不利な状況ではあるが、ゼットンの想いを無駄にしない為にも、彼らは自分達の心を奮い立たせ怪獣達の前に立つ。

 

 

「フンッ、ウルトラマン共め!我々が皆殺しにしてくれるわ!!」

 

 

 啖呵を切って駆け出すソルアに続いて他の怪獣、宇宙人達も大地を蹴る。徐々に縮まっていく距離……その時である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおっ!?」

「な、何だ!?」

「あれは……?」

 

 

 ウルトラマン達と怪獣達の間に、大きな赤い光の玉が空から降りた。光は晴れていき、その中から現れたのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無事か、マックス?」

 

 

 赤いボディに銀のラインとプロテクター。マックスにとって唯一無二の親友であり、神秘の巨人ウルトラ戦士の1人、ウルトラマンゼノンが彼らの前に降臨した。

 

 

「来てくれたんだな、ゼノン!」

 

 

 ゼノンは振り返りマックス、それからエックスを見ると彼に向かってエネルギーを分け与えた。点滅していたエックスのカラータイマーが青い輝きを取り戻す。

 

 

「サンキュー」

「礼には及ばない。さあ、いくぞ!」

「嗚呼。フンッ!」

「うっし……ハァッ!」

 

 

 怪獣達に構えるエックス、マックス、ゼノン、そしてサイバーゴモラ。彼らの背中を見て、ゼットンが死んだ悲しみを払う様に涙を拭った愛は思いっきり叫ぶ。

 

 

「負けないで、ウルトラマン!!!」

 

 

 愛の願いを受け、戦士達は大地を蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スラン星人ソルアが腕から怪光線をサイバーゴモラに放つ。だがそれをものともせず、サイバーゴモラはソルアに向けて突っ込んでいき、奴の眼前に迫る。

 

 

「フンッ!」

 

 

 突進が当たる寸前、ソルアは高速移動でそれを回避。そしてサイバーゴモラの周りを囲いながら動く。

 

 

「フハハハハッ!貴様に私の動きが見切れるかァ!?」

 

 

 エックスには理不尽な理由で看破られてしまったが、人間の造った怪獣程度には対応出来まいとソルアは笑っている。

 

 

「くぅ……!そうだ!ゴモラ、地面にサイバー超振動波っす!」

 

 

 陽花の指示を受け、サイバーゴモラは地面に向かって爪を突き立て超振動波を放出。超振動波は彼を中心に全方位へと放たれて囲んでいたソルアの本体と分身全てに炸裂し、分身は打ち消され本体は仰反って後退する。

 

 

「ヌゥッ!?」

「今っす、ゴモラ!」

 

 

 轟く咆哮を上げた後、サイバーゴモラは光を放ちながらソルアに突撃。爪と角を突き立て、奴の体内へとサイバー超振動波を叩き込んだ。

 

 

「ば、馬鹿なあああああああああッ!!!??」

 

 

 送り込まれていくエネルギーに肉体が耐えられず、ソルアは内側から爆発四散。身勝手な理由で桑井博士の命を奪ったソルアを、陽花とサイバーゴモラは無事撃破することが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 胸から破壊光弾を連射するゴドレイ星人クアト。ウルトラマンゼノンはアクロバティックな動きで華麗にそれを回避し接近。そして延髄蹴りを叩き込んだ。更に怯んでクアトへと連続でキック、パンチ、チョップを打ち、奴をどんどん追い詰めていく。

 

 

「フッ、ハッ!」

 

 

 カポエイラの様な動きで逆立ちからの蹴りをクアトの顔面に炸裂させる。クアトは顔を抑えてながら後退していき、ゼノンはそこへ追撃の跳び蹴りを叩き込んだ。

 

 過去にマックスと共に幾多もの敵を撃ち破って来たゼノン。彼にとってクアト程度の相手を倒すことはそう難しくない。やけくそで振られる爪を容易く躱し、受け止め、すぐに身体を寄せて膝蹴りを打ち、続けて勢いを付けた回し蹴りを腹部に打ち込んだ。

 

 身体をくの字に曲げて大きく吹き飛び地面に叩きつけられたクアトに対し、ゼノンは腕を広げてエネルギーを溜め、その腕を逆L字に組んだ。組んだ腕から、超高出力の必殺光線・ゼノニウムカノンがクアトに向けて放たれる。

 

 爪を盾にして防ごうとするがゼノン最強の光線を受け止められる筈も無く、ゼノニウムカノンによってクアトは爪を砕かれ身体を貫かれ、敢えなく粉砕されるのであった。

 

 

「よしっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハアッ!」

 

 

 マックスの右腕に、神秘のアイテム・マックスギャラクシーが装着される。その様子を見て、バット星人タクニアは怖気付く。

 

 

「そ、それがどうしたああああ!!」

 

 

 しかし逃げる訳にもいかないので、やけくそでミサイルを発射する。だがそれを、マックスはマックスギャラクシーより形成された光の刃で斬り裂いて着弾する前に破壊した。

 

 

「何ぃッ!?」

「終わりだ、バット星人タクニア!」

 

 

 マックスギャラクシーを撫でる仕草をした後、それをタクニアに向けて突き出し先端から必殺光線を放った。これこそがマックス最強の必殺技・ギャラクシーカノンである。

 

 

「ぐぅ…!?ぐあああああああああああッ!!??」

 

 

 光線はタクニアの胸を貫き、跡形も無く粉砕。愚かな野望を企んだ宇宙人三人組は、全て討ち取られる事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エックスはゼットン二代目に連続パンチを放つ。彼の凄まじい攻撃によりゼットン二代目は反撃する隙も見出せずにいた。

 

 

「うおらああああ!!」

 

 

 ゼットン二代目の腕を取り、エックスは思いっ切り投げ飛ばした。奴は背中から地面に叩きつけられて悶絶。

 

 

「さて……んっ?」

 

 

 翔琉のポケットの中で何かが光る。取り出して見るとそれはゼットンから貰った流星マークのバッジ。輝くバッジは、なんとサイバーカードに変化した。描かれているのはゼットンにそっくりなサイバーゼットンの姿。これはゼットンが翔琉に託してくれた想い、絆の証なのだろう。

 

 

「ありがとう、ゼットン!」

 

 

《CYBER Z-TON LOAD》

《CYBER Z-TON ARMOR ACTIVE》

 

 

 両腕と胸にゼットンと似た様なアーマーが装着。これこそが最強怪獣と呼ばれる宇宙恐竜ゼットンの力を宿した最強の鎧・ゼットンアーマーだ。

 

 

「ゼットン、一緒にいくぜ!」

 

 

 駆け出してゼットン二代目に接近し、エックスはその右腕を叩きつけた。それは防御しようとした奴の腕ごと圧し潰してしまい、更に左腕を突き出す。後退していくゼットン二代目に、エックスは腕のアーマーから三日月型の光弾を放った。光弾の直撃を受けたゼットン二代目は更に退がっていくことになる。

 

 

「これが俺と、ゼットンの力だ!!」

 

 

 燃え上がるエックス。その炎を胸元集約させ、彼はゼットン二代目に向けてそれを放った。

 

 

「ゼットン火炎弾!」

 

 

 撃たれた火炎弾はゼットン二代目に直撃。奴は断末と共に爆発した。

 

 

「残るは……」

 

 

 ゼットン二代目を倒したエックスは最後の敵、ゼッパンドンに目を向ける。マックス、ゼノン、サイバーゴモラも奴に構えた。

 

 

「さあ、クライマックスといこうかぁ!!」

 

 

 無数の光弾を放って来るゼッパンドン。エックスも光弾を撃っていき、マックスは光刃を振るってそれを撃ち落としていく。そしてゼノンとサイバーゴモラが走って接近しキックと爪で攻撃。喰らったゼッパンドンは少しだけ後退する。

 

 

「セアッ!」

「ハッ!」

 

 

 マックスも瞬時に近寄り光刃で斬り、続けて瞬間移動して来たエックスが火炎を纏った両腕を叩き込んだ。彼らは更に続けて怒涛の攻撃を仕掛けていく。ゼッパンドンも反撃をしようとするがそれを許さず畳み掛けていった。

 

 マックスとゼノンの光線がゼッパンドンに向かってはなたれた。ゼッパンドンは2枚のシールドを出現させてそれらを何とか受け止める。その隙にサイバーゴモラがエネルギーを溜めていき、彼の前に立ったエックスが軽く飛んでからシールド・ゼットンシャッターを全身に纏う。

 

 

「決めるぜ、みんな!」

「「応!」」

 

 

 2人のウルトラ戦士の光線は威力を増し、奴のシールドを撃ち破って直撃。そこへサイバーゴモラによって撃ち出されたエックスがゼッパンドンに高速回転しながら突撃していった。マックスとゼノンの光線のエネルギーがエックスに纏わり、その威力をより向上させていく。

 

 

「コンビネーションマキシマム!」

 

 

 強烈な突撃攻撃を受け、ゼッパンドンは最後の叫びと共に爆死するのであった––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








ウルトラマンゼノン登場!!
マックス客演回を書く上でこれだけは絶対にやりたかったので、何とか書けて良かったです。

3人のウルトラマンとサイバーゴモラ、そしてゼットンの想いによってゼッパンドン達に無事勝利。宇宙人達の野望も打ち砕く事が出来ました。次回は愛さん編にしてマックス編のプロローグになります。是非お楽しみに。

そしてお知らせがあります。
なんと、以前コラボさせて頂いたがじゃまる様の書かれるコラボ作品「ウルトラのキセキ 〜One More Sunshine Story〜」に、この作品が参加させて頂くことになりました!
このコラボ作品は私以外にも今度コラボさせて頂く蒼人様、そして「ラブライブ!サンシャイン!!〜大地と海の巨人〜」を書かれていたカズオ様も参加する大きな企画となっていますので、皆様是非読んで下さい!

それでは今回はここまで!
感想、質問、高評価、ここすき、その他、是非是非お待ちしてるんご!




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33.未来へゴーイング



愛さん編ラストです!!




 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いが終わった夕暮れのビル屋上。翔琉はそこに居た。そして彼の前には1人の男性が立っている。

 

 

「アンタが、さっきの……」

「嗚呼。私はウルトラマンマックス。地球人・戸河 瑞斗を名乗り、かつてこことは別の宇宙にある地球の守りについていた者だ」

 

 

 「そして……」と言葉を繋げながら背後を向く瑞斗。すると光と共に、ウルトラマンゼノンがその大きな姿を現した。

 

 

「彼はウルトラマンゼノン。私の大切な仲間だ」

「マックス……瑞斗さんにゼノンっすね。俺は天地 翔琉、ウルトラマンエックスっす」

 

 

 互いに自己紹介を終えた後、瑞斗は何故自分がこの宇宙にいるのかを語り出した。

 

 とある惑星で闇の力を感知したマックスはその調査の為に宇宙を飛んでいた。その際にソルア、タクニア、クアトと遭遇。この3体は彼が感知した闇の力を利用するべくここまで来たとのこと。奴らが攻撃を仕掛けて来た為戦闘となった。マックスは奴らを追い詰めていくが一瞬の隙を突かれて逃亡を許してしまい、ウルトラサインを飛ばして闇の力の調査をゼノンに託してから奴らを追って途中怪獣の妨害を受けながらもこの宇宙まで来たのだと。

 

 

「私が奴らをこの宇宙に来る前に倒し切れていれば、君達に迷惑をかけることも無かっただろう。申し訳なかった」

「あ、いえ、気にしなくて大丈夫っすよ。それに2人のお陰で、俺は助かったんっすから」

 

 

 頭を下げる瑞斗に翔琉はそう返した。

 

 

「助けられたのは私の方だ。本当に感謝してる。これはそのお礼だ」

 

 

 瑞斗が変身アイテムであるマックススパークを取り出して前に突き出すとそれが光った。そしてゼノンも翔琉に向けて手を伸ばし光を放つ。するとそれらの光が翔琉の手元に来て、2枚のサイバーカードにへと変化した。描かれているのはウルトラマンマックスとウルトラマンゼノンだ。

 

 

「この星の未来は君達自身の手で掴み取らなければならない。その為に私達の力が必要になる時は使ってくれ。君ならきっと、正しい使い方が出来る筈だ」

「2人の力……有り難く使わせてもらうっす」

 

 

 にっこりと笑った後、瑞斗は光に包まれてマックスの姿に戻りゼノンの隣りに並ぶ。一度翔琉のことを見て頷き、それから彼らは空へと飛び去っていく。そんなマックスとゼノンのことを、翔琉は見えなくなるまで見送っていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 机の上に散らばってるゼッパンドンの怪獣カプセルの欠片を右手で乱暴に払った。3人のウルトラマンと2体の怪獣によって敗北することになったゼッパンドンに、明里はもう興味を持ち合わせて無い。だらんと、イスの背もたれに身体を預ける。

 

 

「………ほんとにうっざ」

 

 

 自分のやりたい事を邪魔するウルトラマンという存在。早くこれを消してしまいたいという一度は収まっていた思いが再び焔の様に沸き上がって来る。

 

 

《おやおやおやおや……エックスとかいうのだけでも鬱陶しいのに、ウルトラマンがこんなに出て来るなんて本当にびっくりだねぇ。もし彼らもこの地球に住み着いたらどうするんだい?》

「そんなの知る訳ないでしょ?もう、うざいから話しかけないでよ」

 

 

 ルギエルの映されていたパソコンも机から乱暴に払い落とす。床に叩きつけられた事によって、液晶が割れ破片が飛び散った。

 

 彼女は椅子から立ち上がってスパークドールズや怪獣カプセルが並べられた棚の前に来る。邪魔と言わんばかりにそれらを掻き分け倒しながら、奥に有ったある物を手に取り引っ張り出した。

 

 

「そろそろ本気で、殺そうかな」

《今まで本気じゃ無かったのかい?》

「うっさい死ね」

 

 

 彼女の手に握られている物。それは黒く、中央にオレンジ色の宝玉の様なものがあるスティック状の禍々しい気配を放つ物体であった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 数日後。愛はゼットンを匿っていたあのスクラップ場に来ていた。しかし、ゼットンが巨大化して暴れてしまった影響からかこの場所は完全に更地にする事が決まり、入ることが出来なくなっていた。何か、彼との思い出の品が残っていないかと思って来たのだが仕方ないかと軽く息を吐いた後振り返る。するとそこには翔琉の姿があった。

 

 

「かけるん……」

「よっ」

 

 

 

 

 

 場所を移動した2人は近くの公園のベンチに座る。夏休み中ということもあってか、遊び回る子ども達で賑わっている。

 

 

「しっかし暑いなぁ……溶けちまいそうだ」

「あははっ。かけるん暑いの苦手?」

「多分寒いのも苦手だ。一年中春ならいいのになぁ?」

「愛さんは春も夏も秋も冬も好き!春はお花見で、夏は海水浴でしょ。秋は紅葉狩りに、冬は雪合戦!他にもいっぱいやりたい事あるんだもん!」

 

 

 笑顔でそう言う愛に翔琉は思わず失笑してしまう。実に彼女らしい答えだ。

 

 

「そうだ、これ」

 

 

 翔琉はポケットから1枚のカードを取り出して愛に差し出した。彼が出したのはサイバーゼットンのカードである。

 

 

「これ……ゼットン?」

「ああ。何つーか、ゼットンの想いが込められたカードみたいなもんだ。愛が持ってたらきっとアイツも喜ぶさ。あ、この事は誰にも言うなよ?」

 

 

 サイバーカードはウルトラマンエックスやXioに力を与える重要なアイテム。それを一般人に渡すなど絶対にやってはいけない事。露見すれば重罪となるのは間違い無い。それを承知の上で、翔琉はゼットンの想いから生まれたこのカードは愛が持つべきだと考えていた。

 

 しかし愛は受け取ったカードを見詰めた後、それを翔琉にへと返す。

 

 

「愛?」

「かけるんが持ってて」

「いや、けど……」

「これはきっとかけるんが持つものだと思うんだ。だからほら、ね?」

 

 

 出されていたカードを翔琉は改めて受け取った。

 

 

「分かった。ゼットンの力、決して無駄にはしないよ」

「うん、よろしくね」

 

 

 互いに笑い合う翔琉と愛。

 

 

「………ありがとね、かけるん」

「ん、何がだ?」

「愛さんのこと、励ます為に来てくれたんでしょ?」

「さあ、どうだか」

「隠さなくてもいいのにー。照れてるの?」

 

 

 照れ隠しから、頬を突いてくる愛の指を払う。

 

 

「ふふっ」

「ふんっ。………泣きたきゃ泣いていいんだぞ」

「えっ?」

 

 

 あんな事があって辛くない筈が無い。愛が無理をしているのは明白だ。

 

 

「だ、大丈夫だよアタシは……!」

「大丈夫な訳ないだろ。俺だって、まだ辛いんだ。無理なんかしなくていい。思いっきり泣いていいんだぞ」

 

 

 翔琉のその言葉を聴いた時、愛の胸に熱いものが込み上げてきた。

 

 

「あ、あれ?」

 

 

 ぽろりと溢れる一つの涙。そしてそれに続いて次から次に涙は出て来る。思い出すゼットンとの日々。短い間だったが毎日楽しく、掛け替えの無い時間であった。

 

 

「……ねえ、少し胸借りていいかな?」

「好きなだけ使えよ」

 

 

 翔琉の胸に顔を埋めて涙を流す愛。そんな彼女のことを彼は受け入れ、右手をその頭の上に優しく乗せた。

 

 

「ありがとう……翔琉」

 

 

 

 

 

 失ったものは大きい。けれどそれを糧にして未来へ進んで行かなければならない。それでも今は、こうして悲しみ止まることだって許されるだろう。

 

 夏空の下で、彼らは大切な友を想うのであった–––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戸河(とかわ) 瑞斗(みずと)

 

ウルトラマンマックスの地球人としての姿。身長176cm。別の宇宙にある地球で、26歳の教師として滞在していた。元は光の国の文明監視官であったが、地球に怪獣が現れた際、自らの命も顧みずに子どもを助けようとしたある少女の姿に感動し、彼女を助ける形で地球に降り立った。以降、この星のことを気に入り、守る為に戦う。冷静で厳格なところもあるが、基本的に心優しい人物。実はその地球にはμ'sが存在しており、彼女達の通う音ノ木坂学園の教師であった。東條希に半ば騙される形でオカルト研究部の顧問になっていた彼だが、部がスクールアイドル部と統合されることになった為、自然とスクールアイドル部の顧問にもなってしまう。学園を廃校の危機から救う為に頑張る彼女達のことを応援し、更に地球を狙う侵略者や暴れる凶悪怪獣達と戦い抜いた勇士だ。

 

 

 

・ウルトラマンゼノン

 

マックスと同じく文明監視員のウルトラマン。当初、人類は危険な文明ではないかと考えており、マックスに光の国へ帰還するべきだと説得していた。しかしマックスの話しや、誰かや何かの為に一所懸命になれるμ'sや地球人を見て次第にその考えは変わっていく。強敵ゼットンによってマックスが苦戦していた時、ゼノンは彼を助け神秘のアイテム・マックスギャラクシーを授けた。そして彼も地球を守るウルトラマンとして立ち上がるのだった。地球では決まった姿を持たず、老若男女様々な姿なってマックスやμ'sのことを影から助けていった。

 

 

 

 






これにて愛、そしてマックス編終了です!
思ったより長丁場になって投稿も遅くなったりしてすいませんでしたあ!!!←

本作でのウルトラマンマックスこと戸河瑞斗ですが、実は無印「ラブライブ!」、しかもその漫画版と「ウルトラマンマックス」のクロスした世界の住人という設定になっています。以降本作に登場するオリジナルのウルトラマン達も大体そんな感じでラブライブ作品とクロスした世界からの客演といった形になっていきます。
ゼノンは「ウルトラマンネオス」のセブン21の様に様々な人間の姿になって行動していたという設定も。

さて、何とか終わったマックス客演。愛さんをもう少し書けていればといくつか後悔もありますが取り敢えずほっとしています。
次回から少しだけ間話を挟み、それからメビライブコラボ編へと突入する予定ですので皆様是非お楽しみに!

それでは今回はここまで!
感想、高評価、質問、ここすき、その他、山形りんご、是非是非お待ちしています!



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34.ソノ在り方



遅くなりました!
そしてかすみん誕生日おめでとう!!






 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ……」

 

 

 少し開いたカーテンから、夏の陽射しが差し込み翔琉の顔に掛かる。目を覚ました彼は首を回して鳴らしてから時計を見た。時刻は10:52。学生が起きるには遅い時間だが、夏休みで尚且つ同好会の活動も今日は無いので良いだろう。腹に掛けてた薄い敷布団を除けて立ち上がる。寝汗で少々ベタつくシャツを脱ぎ、洗面所へと向かう。シャツを洗濯機に入れたから顔を洗い、それから翔琉はリビングへと歩いた。

 

 

 

 

 

「翔琉君おはよう」

「おはようございます先輩!って、何で裸なんですかぁ!?」

「ちょ、かけるん!?」

 

 

 するとそこには母である優里香の他に、歩夢、かすみ、愛の姿があった。

 

 

「………何でいんの?」

 

 

 歩夢は家が隣り同士の為、まあ分からなくは無い。だが何故かすみと愛までもがいるのか?実は2人とも今日は翔琉と遊びたいと思ったらしく、昨日の夜に連絡を入れていたのだ。しかし翔琉はその時既に眠っており返信は無し。今朝改めて連絡してもなかなか返って来なかったので、自宅まで赴いたとのこと。歩夢の家の隣りと前から聞いていたので彼女に連絡してここまで来て、扉を叩いてみたら優里香からせっかくだから中で待っていてと言われたのでこうしてリビングで彼のことを待っていたのだ。

 

 

「おはよう翔琉。朝ご飯どうする?もうすぐお昼だけど」

「軽く食べるけど、その前にシャワー浴びてくるよ。汗やばいし」

「むぅ〜!裸で来るなんて、先輩えっちですよぉ〜!」

 

 

 そう言って赤くした顔を手で覆いながら指の隙間から翔琉の身体をじっくりと見るかすみ。愛と歩夢も少し顔を赤くしている。

 

 

「はいはい。えっちな先輩はさっぱりしてくるから少し待ってろ」

「うぅ〜……何か言い方が卑猥ですぅ……」

「お前が言うな」

 

 

 手をひらひらと振りながら翔琉は踵を返して風呂場へと向かっていった。歩いていくその背中を歩夢は見つめる。

 

 

「翔琉君、何だか最近筋肉付きましたよね?」

「そーなのよー!気が付いたら亡くなった主人より大きくなってるし、また背も伸びてるんじゃないかしら?」

 

 

 そう言って優里香は笑う。元々170後半の長身だった彼だが、今はもしかしたら180cmに達しているかも知れない。

 

 

「先輩大きく羨ましいです。かすみんに少しくらい分けてくれればいいのに」

「小っちゃいかすかすも可愛いよ!」

「ほんとですかぁ〜?ってかすみんです!!」

 

 

 楽しく談笑する4人。そんな彼女達の耳に、点いていたテレビからニュースの音声が聴こえてきた。内容はここ最近多発している怪獣災害と宇宙人犯罪、そしてウルトラマンエックスに関してのものである。ゲストとして怪獣評論家や元政治家、ジャーナリスト、そしてXio隊長の沙優が出演している。

 

 

 

 

《今から2ヶ月前、デマーガという怪獣が出現した際に突如として姿を現したこの巨人。巨人はデマーガを倒し、その後姿を消しました。以降、次々と現れる怪獣や宇宙人を巨人は倒していき、その様子はまるで人類を守ってくれている様にも見えると世間では話題になっています。この巨人はウルトラマンエックスと名付けられ、Xioは共に戦っていますが、この巨人は我々人類の味方なのでしょうか?》

 

 

 アナウンサーは沙優に質問を投げ掛けた。

 

 

《はい。彼、エックスは確かに謎の多く不確定要素ではあります。しかし現段階では味方と言って間違いないでしょう。18年前のスパークインパクトにて出現したとされているウルトラマンと同一の者なのかは不明ですが、何らかの関連性があるのでないかと考えています》

《現段階、と言う事は今後敵になる可能性も考えられるという事ですか?Xioはそんな危険性も秘めた存在に我々の平和を預けているのですかねぇ?》

 

 

 ジャーナリストが嫌味を込めてそう尋ねた。評論家と政治家も賛同する様にうんうんと首を振っている。

 

 

《そうですね。ウルトラマンエックスが敵となり我々に牙を剥く可能性は、低いといえ決してゼロとは言い切れません》

《でしたら––––》

《ですから》

 

 

 政治家の言葉を遮り、沙優は宣言をする。

 

 

《その時は、我々Xioがウルトラマンエックスを排除します》

 

 

 その発言にスタジオに居た全ての人は勿論のこと、放送を観ていた人達も驚き唖然としていた。

 

 

《い、いや、幾ら何でも排除は……なぁ?》

《そ、そうだ。それはやり過ぎなんじゃあ……》

《ウルトラマンは一応我々を守ってくれているのだし……》

 

 

 彼女の発言を受けて急に掌を返す3人。もう少し何か言ってくるかと思ったら、こうもあっさり返されるとは思っていなかったらしい。

 

 

《我々の使命は人類を、地球を守る事です。確かにウルトラマンエックスは我々を守ってくれています。しかし、もしも彼がその力を人類に向けるというのなら、その時は総力を持って彼を殺します》

 

 

 Xioは地球と人類を守ることを使命としている。だから例えエックスが何度人々を救い地球を守ったとしても、敵対するというのならその時は決して容赦する事無くXioはエックスを抹殺するだろう。それだけの覚悟が、Xioにはあるのだ。

 

 

《あ、ありがとうございます沙優隊長。それでは次のコーナーに参りましょう》

 

 

 何とも言えない空気になったスタジオをどうにかする為にアナウンサーは番組を次のコーナーに移らせる。

 

 ニュースを見ていた歩夢、愛、かすみは呆気に取られていた。

 

 

「なんか、凄い内容だったですねぇ……」

「う、うん」

「ねえ、歩夢とかすみんはウルトラマンのことどう思う?」

 

 

 愛が2人に対してそう尋ねた。

 

 

「かすみんは良い人だって思いますよ。何度も助けてもらってますし、きっと地球を守るヒーローなんだってせつ菜先輩も言ってましたし!」

「私もかすみちゃんと同意見かな。それに、前に危なかった所を助けてもらった事もあるから。愛ちゃんは?」

「愛さんも2人と一緒。ウルトラマンは、アタシ達人間の友達だって思うんだ!」

 

 

 彼女達は何度も人類を、そして自分達を助けてくれたウルトラマンエックスが味方であると信じていた。

 

 

「ふふふっ。3人とも、ウルトラマンのことが大好きなのね」

 

 

 彼女達を見て優里香が笑いながらそんな事を言う。

 

 

「大好きかぁ、そうなのかもね!」

「うん、私達のヒーローだもんね」

「まあ、かすみんとしてはウルトラマンがかすみんのファンになってくた方がいいんですけどね!」

 

 

 また改めて4人は会話をしていく。優里香は娘が増えた様に感じてとても楽しく感じていた。この中の誰かが翔琉と交際をして将来的に結婚でもするだろうか?いや、この子達以外にもまだ同好会の子はいるらしいし、もしかしたらそっちから……。歩夢とそういう関係になるものばかりと思っていたが気が付いたらハーレムみたいな状態。本人は大変かも知れないが、見てる側として面白いなと彼女は思っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、浴室に入った翔琉。丁度良い温度のシャワーを浴びながら、彼は自身の掌や身体を見る。結構な数の戦いを経験して来たが、この身体には傷一つ無い。自分で言うのも何だが、なかなか綺麗な肌だ。背も高く、筋肉もしっかり付いていて顔も良い。更に元々は優しくて温和な性格だったことから記憶を失う前翔琉はかなりモテたのではないかと彼は思った。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 記憶喪失前の翔琉と今の翔琉は大きく性格が違い、まるで自分が彼を乗っ取った様にも少し前までは感じていた。けど今はそんなネガティブなことは考えず、とにかく前を向いていかなければならない。記憶が有ろうが無かろうが、自分は天地翔琉でありウルトラマンエックスなのだから。

 

 

「よし、出るか」

 

 

 シャワーを止めて身体を拭き、浴室を出た翔琉。改めて身体を拭いて服を着てからリビングにへと向かった。着いてみると4人が楽しそうに話している。

 

 

「お!おっかえりーかけるんっ」

「遅いですよー先輩!」

「烏の行水よりマシだろ?」

「あ、髪乾かせてないよ」

 

 

 歩夢が立ち上がって彼の側によりその髪を触る。

 

 

「ちゃんとドライヤーで乾かさないと」

「自然乾燥でいいだろ?面倒だし」

「だーめ。ほら、こっち来て」

「あ、ちょ」

「あー!ずるい!かすみんも行きますぅ!」

「アタシも!」

 

 

 歩夢に連れられていく翔琉とそれに続くかすみと愛。その背中を優里香は微笑みながら見送るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

----------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新城野 明里は自宅で朝ご飯を食べていた。目の前では母の利子と父の広也が並んで座っている。2人の前には皿が並べられ手にはスプーンが持ってある。

 

 椅子の上で体操座りをして目の前にある適当に皿に盛られてる切られたリンゴがあり、彼女はフォークにそれを刺してから口に運んでいく。テーブルの上に置かれたスマホには、ダークルギエルの姿が映されていた。

 

 

「ねえ、ルギエル。何か面白いことしてよ」

《おやおやおや……相変わらず無茶な注文をしてくるねぇ》

「出来ないの?」

《それは君が一番よく解ってるだろう?過剰な期待は嬉しいが荷が重い》

 

 

 困った様な口調になるルギエル。まあ実際は微塵も困ってないのだろうが。明里もどうでもよくなったのか何も言わずまたリンゴを食べる。何となくテレビを点けてみるとXioの隊長がウルトラマンエックスに対する考えを述べていた。

 

 

《敵になるなら殺す、か。人間とは本当に身勝手な生き物だと思わないかい?》

「そんなもんでしょ、人間なんて」

 

 

 「それに……」と言葉を続ける。

 

 

「どうせあのウルトラマンは、私が殺すから」

「だったら、ボクも手伝うよ」

 

 

 にこにこと笑顔を浮かべながら、カタラが堂々とリビングに土足で入って来た。

 

 

「汚すなクソが」

「女の子がそんな汚い言葉使っちゃダメじゃないか。あっ、でも君は––––」

 

 

 適当に掴んだ皿の一枚をカタラへと投げる。皿はカタラの鼻先でまるで見えない壁にぶつかったかの様に粉々に割れてから乗っていたサラダと共に床に落ちて撒き散らされた。

 

 

「ごめんごめん。余計な事は言わないでおくよ」

「ついでにさっさと帰ってくれない?」

「そんな事言わないでよ。せっかく面白い事を考えたから、それを教えに来たのに」

「興味無い。消えろ。死ね」

 

 

 何処までも辛辣な彼女に「はいはい」と両手を挙げながらカタラは背を向ける。

 

 

「あ、でも一応言っとくね。……明里ちゃんは並行宇宙って知ってるよね?」

「それが何?」

「ボク、ちょっとある宇宙に遊びに行くんだ。そこでちょっとやってみたい実験があるからね。だから……」

 

 

 カタラの手には、2つの怪獣カプセルが握られていた。明里の部屋から盗って来た物である。一つは巨大なる破滅を齎す天使の皮を被った悪魔。もう一つは5体の凶悪な獣が混ざり合った王。

 

 

「お前……」

「コレ、貰っていくね」

 

 

 そう言うとカタラの姿は煙の様に消える。

 

 

《よかったのかい?》

「どうでもいい。並行宇宙で、アイツ死なないかなぁ……」

《多分無理だろうねぇ》

「分かってるから一々言わないでバカ」

 

 

 ルギエルの映るスマホを手で払いテーブルから落とす明里。最近自分をイライラさせるものが増えている。早くそれらを全部消して楽しい生活を取り戻さなければ……。胸元から黒く禍々しい棒状のアイテムを彼女は取り出す。これでウルトラマンを殺してしまおう。そう考えると、思わず可愛らしい笑みが溢れてしまった。

 

 そしてそんな事が起こっている間にも利子と広也はひたすらにスプーンを動かし、何も入っていない皿に当てて金属同士の触れ合う音を鳴らし続けていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 






コラボ回まであと2話の予定です。
感想、質問、高評価、ここすき、その他、是非是非お待ちしてるんご!



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35.キモチ揺れて






 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翔琉は歩夢、愛、かすみと共に外に繰り出していた。歩夢の提案で外に出掛けることになり、かすみの提案で最近出来たというスクールアイドルのショップに向かっているのだ。

 

 

「そういえばかけるん、内浦はどうだったの?Aqours会えたんだよね!」

 

 

 愛が翔琉にそう聞いて来た。

 

 

「凄かったぜ。ライブを目の前で見て圧倒されたし、感動した。……アイツらはさ、輝きってのを求めてスクールアイドルを始めたんだ」

「輝き、ですか?」

「ああ。アイツらの学校、浦ノ星女学院は廃校が決定している。だから目一杯輝いて、学校とAqoursを多くの人の胸に刻み込もうってしてんだ」

「そうだったんだ……凄いんだね、Aqoursって」

 

 

 Aqoursの皆と過ごした日々を思い返す。共にサマーフェスティバル開催の為に手を取り合い、真近で見た彼女達の輝き。それは確かに翔琉の胸に刻まれた。これからもAqoursは輝き続け、人々の心を照らしていくだろう。同好会の皆を見守りたいと思うのと同じくらいに、Aqoursの輝いていくこれからを見てみたいと彼は感じていた。

 するとかすみが少し頬を膨らませて翔琉のことを見ている。

 

「先輩、何だかAqoursの肩持ち過ぎじゃないですかぁ?まさか!?かすみんを見捨ててAqoursのいる学校に行くつもりじゃ……!?」

「ンな訳あるか。てか、浦ノ星は女子校だから俺は行けねえって」

「女装したらいけるんじゃない?」

「こんなクソでけえJKなんかそうそういるかよ」

 

 

 呆れ気味に話す翔琉の左腕を、かすみがガッチリとホールド。

 

 

「かすみんの翔琉先輩は絶対に渡しません!」

「ちょ、おい」

「アタシもー!」

「おまッ」

 

 

 更に反対側の腕に愛が抱き付き、2人は翔琉のことを引っ張っていく。やれやれと言いながらも、彼は身を任せるのであった。

 そしてその背を、歩夢が微笑みを浮かべながら見つめて着いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、おーい!みんなー!」

 

 

 そんなこんなで途中でどうにか2人から解放され目的の店まで進んでいる道中、聞き覚えのある癒しボイスが耳に入って来た。振り向くとそこに居たのはエマ、果林、彼方の同好会3年生メンバーだ。

 

 

「先輩達、おはよーございますっ!」

「おっはよーみんな!」

「うっす」

「みんなおはよ〜。お出かけ中〜?」

「はい!これから最近オープンしたっていうスクールアイドルのお店に向かってるんです」

「あら、なら私達と同じじゃない」

 

 

 どうやら彼女達も目的地は同じらしい。

 

 

「なら朝香先輩、ヴェルデ先輩、近江先輩も一緒に行きましょうや。大勢の方が楽しいっすし」

「ふふっ、良いわね」

「うん!愛さんも賛成!」

「みんなでお出掛け、嬉しいな!」

「よし、決まりっすね」

「でもぉ、その前にぃ〜」

 

 

 彼方が翔琉の前に立つ。

 

 

「な、何っすか?」

「そろそろ彼方ちゃん達のことを、苗字じゃなくて前みたいに下の名前で呼んで欲しいな〜」

「え、いやでも先輩だし……」

「そうねぇ。いつまでも朝香先輩じゃ、何だか壁があるみたいだわ」

「私もそれがいいな!そっちの方がもっと仲良くなれてる気がするし!」

 

 

 元々記憶を失う前は3人のことを下の名前でさん付けで呼んでいた翔琉。先輩相手という事で苗字で先輩付けして呼んでいたが、彼女達はまた以前の様に呼んで欲しいと思っていたのだ。

 

 

「それと、敬語も無しで良いわよ」

「それは流石に……あー、分かった…分かったよ。果林、彼方、エマ。これでいいだろ?」

「うん、おっけー」

 

 

 少し気恥ずかしそうに名前を呼んだ彼のことを見て3人と歩夢、愛、かすみは笑う。

 

 

「あーもう、ほら!さっさと行くぞ!」

「あ、先輩待って下さいよー!?」

 

 

 恥ずかしさを隠す様にどんどん先に歩いていく翔琉を追い掛けるかすみ。なかなか見れない顔が見れたなと、彼女達は少し得した気分になりながら彼の背を追って歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 店の前まで着いた7人。因みに歩いてる途中、すれ違う男達が翔琉のことを羨ましそうに、そして恨めしそうに睨み、女達は顔が良いだけで女を蔓延らせているチャラ男なのかとクズでも見る様な目線を向けていた。

 

 

「うーん、辛かった」

「あはは……目立っちゃってたね」

「そりゃこんだけ大所帯、しかも男一に女多だからなぁ」

 

 

 頭を掻く翔琉。

 

 

「まあまあ!とにかく入ろうよ!」

 

 

 開いた自動ドアを通って店内に入る。すると……。

 

 

「あ、皆さん!」

「先輩達!」

「愛さん、翔琉さん、みんな」

「お!せっつーにしずくにりなりーじゃん!」

 

 中にはせつ菜、しずく、璃奈の姿があった。

 

 

「よう。お前らも来てたんだな」

「はい!新しいスクールアイドルのショップ、是非チェックしなければと思い来ました!」

「私としずくちゃんも一緒」

「ここに来る途中でせつ菜先輩と会ったんです」

 

 

 「なるほどねぇ」と翔琉は呟く。気が付けば、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会が全員揃う事になった。偶然なのか運命なのか……。楽しそうに店内を見て回る彼女達のことを見て、これは悪くないと思い彼は思わず笑みを溢した。

 

 

「どうかしたの翔琉君?」

 

 

 そんな彼に歩夢が声を掛けて来る。

 

 

「ん、いや、楽しいなーって思っただけだ」

「そうなんだ。最近、貴方も忙しかったみたいだもんね。丁度いい息抜きになってるなら良かった」

 

 

 彼女がこうして翔琉を外に連れ出したのも、同好会の部長としての仕事やXioの事などで最近疲れている様に見えた彼にリフレッシュして欲しかったからなのだ。

 

 

「ありがとさん」

「うふふっ、どう致しまして」

 

 

 自分に献身的に尽くしてくれる歩夢。彼が記憶を失う前から彼女はいつも助けてくれていて、欠かせない人物になっている。これだけ尽くす彼女と、前の自分は付き合ってなかったというから少し不思議だ。

 

 

「なあ、歩夢」

「何?」

「俺らってさ……」

 

 

 その事を聞こうかとした時、かすみが翔琉の背中に飛びついて来た。

 

 

「うおっ」

「せーんぱいっ!2人だけで何話してるんですかー?」

「歩夢がいつも助けてくれるからありがとーって言ったんだよ」

「か、かすみんだって先輩のことを助けること出来ますよ!」

 

 

 ちょっと慌て気味にそう言う彼女に「はいはい」と言いながら彼は笑い掛ける。かすみはダークファウストの件以降、積極的にアピールを掛けており、この行動も歩夢に翔琉を取られそうに感じたことからのものだろう。

 楽しそうにしている2人のことを見て歩夢は笑みを溢した。

 

 

 

 

 

(…………あれ?)

 

 

 

 

 

 しかし、何か胸の奥に変な感触を覚えた。大切な仲間達が仲良くしてる様子を見て、自分も嬉しく楽しい筈なのに。何かが自分の中で少しだけドロッと流れた様な気がした。

 

 今まで感じたこの無い感情。これは何なのかと思考しようとしたその時、轟音と共に店内が大きく揺れる。

 

 

「うわっ!?」

「な、何!?」

「大丈夫、りなりー!?」

「う、うん……!?」

「地震……かしら?」

「でも、それにしては何か変では……?」

 

 

 揺れは二度、三度と襲って来る。これはまさかと思った翔琉が店を飛び出して見上げると、そこには巨大な怪獣の姿があった。怪獣はムササビの様な皮膜を広げて激しく咆哮を放つ。

 

 

「やっぱりかよ!」

「か、怪獣です!?」

 

 

 翔琉に続いて店から出て来た歩夢達。周りでは人々が怪獣から必死に逃げている。

 

 

「みんな先に逃げろ!」

「でも、先輩は!?」

「俺はあれだ、避難誘導してくっから!」

 

 

 避難誘導と言ったが実際は彼女達から離れてエックスに変身して戦うつもりなのだ。その為に走り出そうとしたが、その腕を誰かが掴んで止めた。

 

 

「ッ!?な、歩夢……?」

「ダメだよ!翔琉君も一緒に逃げなきゃ!」

 

 

 エンペラ星人が現れた際、いつの間にか居なくなっていた翔琉が怪我をして入院したことから、彼を行かせたくないと歩夢は思っているのだ。

 

 

「翔琉君、また怪我するかも知れないし……逃げるんだったら一緒に行こう!?」

「大丈夫だって。終わったら俺もすぐに避難するから」

「で、でも!?」

 

 

 そうこうしているとまた大地が大きく揺れた。怪獣が体当たりで高層ビルを破壊したのだ。揺れによってうっかり翔琉の手を離してしまった歩夢。彼は心苦しいがチャンスだと思い、怪獣へ向かって一気に走り出した。

 

 

「翔琉君!!……翔琉くーーーんっ!!!」

 

 

 去っていく彼の背中。それを彼女は見送る事しか出来なかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・エースキラー

種族:不明

本名:不明

身長:197cm

体重:139kg

出典:漫画ULTRAMAN 第43話「厨房」

 

 「超一流の殺し屋」を自称する異星人。プロの傭兵であり、多数の異星人から構成される傭兵団を率いるリーダー。部下からはマスターと呼ばれている。エースキラーはあくまでも通称で、本名や出自、全身を特殊スーツで包んでいる為素顔までもが一切不明。マチェットやダガレット製の弾丸を放つ銃を武器にし、人間には目視不可能な程の高速移動も可能。飄々としてどこか掴み所の無い性格だが、軽い口調で相手を容赦無く痛ぶり楽しむなどその本性は極めて残虐。

 デスレ星雲人ダイロの依頼を受けて翔琉を狙う。圧倒的な実力でエックスに変身した彼を弄んだ。しかしXioの面々が彼を助けに来たことにより形勢逆転されてしまった。ザムザと激闘の末、敗北を悟った彼は仲間達を予め彼らに仕込んでいた装置で殺害したあと自身も頭を撃ち抜いて自死。肉体は完全に溶解してしまい、スーツからも彼に関する情報は何も出て来なかった為、エースキラーの正体は謎のままとなった。

 漫画ULTRAMANからの登場。身長体重は独自設定。元ネタは勿論ウルトラマンAの異次元超人エースキラー。本編にて北斗星司がウルトラマンとなる原因を作る。アニメ版と漫画版では性格に少し差異があり、その結末は大きく違う。

 

 

・ネペンテス星人

身長:226cm

体重:284kg

出身地:ネペンテス星

出典:漫画ULTRAMAN 第45話「磔刑」

 

 エースキラーの傭兵団で軍師を務めている植物に似た生体組織を持つ異星人。背中にある蕾型の器官から無数の枝に似た触手を伸ばして相手を締め上げたり、これを束ねて打撃武器として用いたりする。知能が高く5000にも及ぶ他星の言語を巧みに使い熟せる。普段は冷静だがプライドが高く、他者を見下しており、自身を愚弄する相手には激しく激昂する。

 仲間達と共に翔琉を襲撃、彼に対して磔にした歩夢達(実際には偽物)を見せ付けて動きを封じた。彼に蔦を斬られた際は凄まじく激怒していた。その後リュウジと戦い、何度も蔦を斬られていくことに怒り、一気に決着をつける為一本に纏めてに肥大化させた蔦を振り下ろすがそれすらも斬られてしまい、最後は殴られて気絶。そしてエースキラーの手によって死亡した。

 漫画からの登場。身長体重は独自設定。ネペンテスとは英語でウツボカズラという意味。公募で採用されたキャラクターの1体。

 

 

・ウヴェルヴ星人

身長:348cm

体重:1.28t

出身地:ウヴェルヴ星

出典:漫画ULTRAMAN 第45話「磔刑」

 

 エースキラーの傭兵団の1体。本来は温厚で自ら攻撃を仕掛ける様な種族ではないが、この個体は好戦的な性格。ウヴェルヴ星人は平均身長が3mと大柄な種族であるがその巨体からは想像出来ない速さで動ける。持ち前の怪力で相手を捩じ伏せる戦法を得意とする。

 傭兵団の中でも地位は高いらしい。そのパワーでエックスを圧倒。そしてミキリとミハネと戦うことになったが彼女達の素早い動きを捉えることが出来ずにおり、麻酔銃を受けて地面に落ちた。その後エースキラーの手で死亡。

 漫画からの登場。身長体重は独自設定。本編では傭兵団で登場したメインキャラの中では生死が不明となっている。こちらも公募によって採用されたキャラクター。

 

 

・ブラックキング

身長:506cm

体重:2.8t

出身地:不明

出典:アニメ版ULTRAMAN 5話「異星人の街」

 

 エースキラーの傭兵団の1人。かつて地球に現れた用心棒怪獣ブラックキングと非常によく似た異星人であり、彼らもその名称で呼ばれている。かなりの巨大で凄まじい怪力を持つ。知能は低い。

 その怪力で翔琉を襲撃。それからエースキラーと共にザムザと戦うことになるが軽く遇らわれてしまう。最後はザムザの拳を受けて倒れ、エースキラーによって殺された。

 アニメ版にレッドの代わりとして登場。代わりと言っても立場は大分違う。漫画版でもブラックキングに酷似した異星人が登場しており、ジャックに制圧された。

 

 

・バラバ

別名:殺し屋超獣

身長:75m

体重:8万5千t

出典:ウルトラマンA 13話「死刑!ウルトラ5兄弟」

 

 エースキラーがXioを誘導する為に連れて来たアゲハ蝶の幼虫と宇宙怪獣が合成された超獣。右手の鉄球、左手の鎌、頭頂部には剣がありそこからショック光線を放ち、鼻先から火炎放射を放つなど、殺し屋超獣の名に恥じない高い戦闘力を持つ。また、放射能の雨によって守られている為、一切の攻撃が通用しないという防御面に於いても隙の無い強敵であった。

 都心に放射能の雨と共に現れて、Xioの攻撃が通用しないことやエックスが現れないのをいい事に大暴れ。街に大きな損害を与えた。しかし突如現れたシャマラの幻影に惑わされ、更にはレディエーションデストロイヤーGによって放射能の雨が無効化されたこと、そしてサイバーゴモラが現れた事によって一気に不利となり、徹底的に追い詰められた上で最期はサイバー超振動波を受けて爆散した。また、バラバの死によって放射線も消滅した為放射能の被害は抑えられた。

 実はAに登場する超獣の中では最重量級の超獣。また、ウルトラシリーズで初めて直接的な攻撃で子どもを死亡させる場面が描かれた怪獣(超獣)でもある。前後編であるエースキラーの方が目立っていたりタイラントの腕程度の認識しかなかったバラバであるが「ウルトラマンZ」にて48年ぶりに再登場し注目を浴びることになった。

 

 






次回は意外な怪獣が出ます。

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36.ワタシの知らないアナタ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼とは物心ついた時からずっと一緒だった。

 

 

 

 同じ日に産まれ、まるで家族の様に日々を過ごして来た。嬉しい時、楽しい時、悲しい時、辛い時、どんな時でも彼と一緒。

 

 

 

 幼い頃は偶に喧嘩しちゃうこともあったけどすぐに仲直り。また一緒に手を繋いで遊ぶ、そんな掛け替えの無い大切な人。

 

 

 

 気が付けば私よりも背は大きく伸びて、身体もしっかりとして来て、男の子から男の人に成長していった。顔立ちも整っていて、少し吊り目なこともあってか怖いと誤解されることもしばしば。けど中身は変わらず人懐っこく優しいままで、まるで大型犬みたいだなんて周りからは言われている。

 

 

 

 小学校でも、中学校でも、高校でも。私達はお互いのことを誰よりも知っている最高の幼馴染だった。誰よりも信頼していて、大好きな幼馴染だった。いつも「歩夢ちゃん」って優しく元気な声で私のことを呼ぶその声色が凄く好きで、私も貴方の名前を何度も呼んだ。

 

 これからも、そんな彼との生活がずっと続いていくと信じていたしその筈だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前ら、誰だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 けど、そんな生活はあの日呆気なく消え去ったんだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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《X UNITED》

 

 

 翔琉はエックスにへと変身。光と共に怪獣の前に着地して構える。眼前の怪獣は顔を歪ませて鋭い眼光を彼に飛ばして吼えた。

 

 ジリジリと間合いを詰めながら睨み合う2体。先に動いたのはエックスで一瞬遅れて怪獣も動く。怪獣は爪を振り下ろすがエックスはそれを左腕で受け止めてから怪獣の腹部に右拳を連続で叩き込んだ。そして続けて顔面に拳を打ち込み、怪獣のことを数歩後退させる。

 

 しかし退がった怪獣は然程ダメージを感じて無いのか、すぐ様牙を剥いてエックスに噛み付こうと跳んだ。横に跳んで転がりそれを躱したエックスであったが、怪獣は皮膜を広げて飛び彼を追撃。振り返ったエックスの胸に突撃して吹き飛ばしてしまう。彼は後方へ飛んで建物を潰しながら倒れてしまった。

 

 

「ぐっ……!?意外と強いなコイツ……!」

《その怪獣はバラン。日本で6体目に確認された確認された怪獣の同種です》

「かなり昔から出てた怪獣ってことっすかね?」

《今から60年くらい前に出たのが最初の種っすね。バランは陸上、水中、空中、何処でも自在に動けることから大怪獣の別名を与えられてるくらいっす。オマケに外皮は柔軟性が高く尚且つ頑丈。頭から尾にかけて生えてる棘には猛毒が含まれてます。岩手県の北上川上流の泉に生息していたのが最初の個体で、付近の岩屋部落では婆羅蛇魏山神として神格を────》

「陽花さんうんちくは後にして下さい……よッ!?」

 

 

 怪獣バランが両手の爪を向けてエックスに跳び掛かる。彼はバランの両手首を掴んで何とか防いだ。

 

 

《すぐに静原さん、霧山さん、新城野さんがマスケッティで駆け付けます。それまで持ち堪えて下さい》

《バランは極稀に熱線や光弾を放つ個体もいるので注意して下さいね!》

「了解……!けど、着く前に倒しちまっても……良いっすよ……ねッ!」

 

 

 掴んだバランを振り回して投げ飛ばす。地面に叩き付けられ砂煙に包まれたバランに対して、エックスは追撃を仕掛ける為に走り出した。

 するとバランは、煙の中から勢い良く飛び出してエックスへと急接近。その突進を彼はどうにか身体を仰け反らせて躱す……しかし、バランの尻尾がエックスの腕に巻き付き、奴は彼をそのまま持ち上げて飛んでしまった。

 

 

「うわっ!?ちょ、野郎……ぐあッ!?」

 

 

 慌てるエックスだが、バランはお構い無しにどんどんスピードを上げる。そこまで高くない高度で飛んでいる為、エックスの身体は容赦無く建物にぶつけられていく。

 そしてバランは更に進んだ後に急旋回し、エックスを高層ビルにへと叩き付けてしまった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 背後から響く轟音に歩夢は足を止めて振り返る。

 

 

「翔琉君……!」

 

 

 同好会の皆の説得を受けて渋々翔琉の後を追わずに逃げる事を了承した彼女であったが、聴こえて来た轟音は彼女にまた翔琉を探しに向かわせるには充分な要素であった。翔琉が向かった場所、つまりは怪獣とウルトラマンが戦ってる方向へ走り出そうとする歩夢。その腕を愛が掴んで止めた。

 

 

「ちょ、何やってんの歩夢!?」

「離して!翔琉君が……翔琉君が!」

 

 

 崩れたビルの下敷きになってるかも知れない。怪獣に踏み潰されてるかも知れない。舞い荒れる土煙が彼女の不安をより掻き立てていく。

 

 

「大丈夫ですよ!」

 

 

 かすみが歩夢の前に立った。

 

 

「翔琉先輩ならきっと大丈夫です!信じましょう!」

 

 

 

 

 信じる────真っ直ぐな瞳で放たれた彼女のその言葉に歩夢は何も言えなくなった。かすみだけじゃなく愛も、そして他のみんなも翔琉は大丈夫だと信じて怪獣から逃げている。それをやらない自分は、まるで彼のことを信じていない様だ。自分は幼馴染なのに……この中の誰よりも、彼の近くに長い時間一緒に居た筈なのに。

 

 

「とにかく行きましょう!」

 

 

 果林の言葉を受けて彼女達は再び走り出す。歩夢は愛とかすみに手を引かれながら走る。

 

 

 何で?どうして?私は彼の「大丈夫」を信じられなくなっているのだろうか?何で私よりも、かすみや愛の方が彼の信用しているのだろうか?何でこんな嫌な感情が湧いて来るのだろうか?

 

 

 

 歩夢には何も解らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 崩れ落ちていく高層ビルの瓦礫に呑まれたエックスを、別のビルの中から明里は楽しそうに見ていた。実はバランは明里がスパークドールズから実体化させた怪獣であり、これまで溜まったストレスの発散の為に暴れさせているのだ。

 

 

「ふふっ、不様だなぁ……おや?」

 

 

 3機のスカイマスケッティが現れてバランへ攻撃を始めた。しかし奴の外皮はその攻撃を弾いており、それを見て明里は気分が良くなって来る。

 

 

《おやおやおやおや、なかなか強いじゃないかあの怪獣》

「うん。適当に持って来たけど、どうやら当たりだったみたいだね」

 

 

 熱線の様なものは出せないみたいだがフィジカルは高い。これはこのままエックスを倒せるんじゃないだろうか……なんて思っていた時、瓦礫の山の中からエックスが飛び出した。

 彼は少しフラつきながらもバランへと向かっていく。取っ組み合いになる2体。その際、足下の自動車などが踏み潰されることで爆発が起こる。

 

 

「いけ、やっちゃえ!」

 

 

 明里は楽しそうにバランを応援。バランもそれに応える様に次第にエックスのことを押していく。一気に倒して、その喉元を喰い千切ってしまえ!そう彼女は思ったが……。

 

 

「………は?」

 

 

 何とエックスは倒れる際に足をバランの腹部に当て、その勢いと足のバネを利用して奴のことを後方に蹴り飛ばしてしまった。

 予想外の反撃に驚きながら背中を地面に叩き付けられるバラン。それを見て一気に不愉快となる明里。

 

 

《ふむぅー、やはり一筋縄ではいかないねぇ》

「………」

 

 

 強い殺意の目線をエックスへと飛ばす。彼女の右手にはあの黒いアイテムが握られていた。

 

 

《やるのかい?》

「………もういい」

 

 

 強固な外皮を持つバランに、身体を叩き付けられる衝撃はかなりのダメージになったらしく苦しそうな鳴き声を上げている。それを見てもう見切りをつけてしまったのだろうか、明里は踵を返して去っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 地面で苦しんでいたバランだったが、どうにか体勢を立て直しエックスに吼える。エックスも身体に付着した砂埃を叩きながら立って構えた。

 

 

「こいつ、なんか良い感じの弱点とか無いのかよ……」

 

 

 エックスがそうボヤく。いまいち決定打を与えられずにいるのがもどかしいのだろう。

 

 

《ありますよ、弱点》

「は?」

《バランは発光する物を飲み込む習性があるっす。初めて出て来た個体はそれを利用して特殊火薬を照明弾ごと飲み込ませて倒してます!》

「……陽花さん、それ最初に言って」

《あっ……面目無いっす……》

 

 

 何はともあれ弱点は分かった。ならやる事は一つ。それを利用してバランを倒すだけだ。

 

 皮膜を拡げてエックスへと飛んで来るバラン。彼はそれに向かって強く輝くエネルギー光球を放った。バランは案の定、それを飲み込んでしまう。そのまま突撃して来るバランであったが、体内に入ったエネルギー光球が爆発し身体を墜落させた。

 倒すなら正に今。エックスは腕を振って、更に身体を大きく振り被り……。

 

 

「ザナディウム光線!」

 

 

 両腕をクロスして必殺光線を放った。それは見事にバランに炸裂し、奴は爆発の中でスパークドールズにへと圧縮される。それを見届けたエックスは空へと飛び上がり去っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怪獣が倒されウルトラマンが去った後、街にはパトカーや救急車、消防車のサイレンが鳴り渡る。その中で歩夢は翔琉のことを必死に探し回っていた。同好会メンバーも彼女の後に続いて来る。

 

 

「歩夢、落ち着きなさい!」

「歩夢さん!」

 

 

 周りから止める声がするが彼女の耳には入らない。ただ翔琉の無事を祈り、早く見つけなければという想いで一杯一杯なのだ。

 足を縺れることもありながらも走る歩夢。すると……

 

 

「おーーーいっ!!」

 

 

 こちらの方に向かって手を振り、時折りジャンプしながら走ってくる翔琉の姿が見えて来た。

 

 

「かけるん!」

「翔琉先輩!」

「翔琉さん!」

「翔琉!」

 

 

「翔琉君……!」

 

 

 皆が翔琉の方へ向かう。けど、歩夢だけは何故かそこに行けなかった。見たところ大きな怪我は無い様で彼が無事なのはとても嬉しいが、胸に妙なシコりが出来たかの様で足が重く動けない。

 楽しそうな会話している翔琉と彼女達。これまで見た事の無い表情、仕草、言葉使い。それが歩夢の頭の中を少しずつ掻き混ぜていく。

 

 

「お、どーした歩夢?こっち来いよー!」

 

 

 

 歩夢……。「歩夢ちゃん」では無くて「歩夢」。たったそれだけでも突き刺さるソレを悟られない様に、必死に笑顔を作りながら彼女も翔琉の方に重い足をどうにか動かしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 仕方ないと割り切ってはいた。あの子は記憶を失ったのだから、それは当然の事だと受け入れていた。でも……それでも突き付けられるその事実が私をだんだんとおかしくしていくみたい。

 

 辛いのは私じゃなくてあの子だ。だからこんな事思っちゃいけないのに、考えちゃいけないのに。

 

 でも、どうしても考えてしまうんだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の知らない、貴方がいる事を────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







映画「大怪獣バラン」よりバラン登場!
バランは東映怪獣であり、ゴジラシリーズにも登場したことがあります。扱いは不遇というか雑というか……気になる方は調べて下さい。
因みに小説版ではなかなか優遇されてます。

記憶を失った翔琉が自分の知っている今までの翔琉とは違うことを改めて突き付けられてしまった歩夢。果たして彼女はどうなるのか…?

少し不安要素を残しながらも物語は続いていきます。


さて!次回からは皆さんお待たせしました、蒼人様の「メビライブ!サンシャイン!!~無限の輝き~」とのコラボ回となります!
本当は1月中にやりたかったのですが間に合わず申し訳ありませんでした()

その分、皆さんに楽しんで頂けるものを目指すので是非お楽しみに!


感想、質問、高評価、ここすき、その為、是非是非お待ちしています!


次回、「ウルトラマンの襲撃」
メビライブコラボ始動!






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37.ウルトラマンの襲来



今回から遂に、蒼人様の書かれていた「メビライブ!サンシャイン!!〜無限の輝き〜」とのコラボが始まります!
是非皆様お楽しみ下さい!

それでは早速どうぞ!






 

 

 

 

 

 

 

 青空、燦々と輝く太陽。それに照らされて眩い輝きを放つ刃があった。天を衝く様に高く伸びたその刃は、やがて空を裂きながら振り下ろされていき……────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「危なッ!?」

 

 

 当たる寸前で白羽取りされてしまった。

 

 刃を受け止めたのはウルトラマンエックス。そしてその刃の持ち主である怪獣の名はギロン。主に惑星テラに生息している怪獣だ。このギロンの特徴は何と言っても、まるで出刃包丁に手足で生えたのかの様な奇抜な見た目。頭部が巨大な刃となっており、一度見たら忘れない姿をしている。

 

 突如宇宙から飛来したギロンは頭の刃を振り回して暴れ、それを止めるべくエックスが出現したのだ。

 

 彼を真っ二つにする為に力を込めていくギロン。だがエックスも負けじと力を込め、そして押し返した。

 

 

「危ねぇなコイツ……!てか、どんなデザインコンセプトだよ!?」

 

 

 後方に退がったギロンであったがすぐに立て直し、穴の開いた頭部両脇から十字手裏剣を連続発射。エックスはそれを躱す為に空へと飛び上がった。……しかし。

 

 

「何!?」

 

 

 手裏剣は何とエックスのことを追尾して来た。実はこの手裏剣はギロンの脳波でコントロールされているのだ。

 

 

「くそっ!」

 

 

 どうにか逃れようと加速するエックスだが、ギロンは更に手裏剣を飛ばして彼を追撃していく。加速と旋回を繰り返し、距離が充分取れた所で振り返りアタッカーXを放って手裏剣を撃ち落とした。

 

 

「おっし!これで……──ッ!?」

 

 

 接近して来る気配を感じてその方向に目を向けるエックス。そこには刃の鋒を向けてロケットの如く突っ込んで来るギロンの姿が。

 

 

「ぐああああッ!?」

 

 

 寸前で身体を捻ったことで直撃は避けられたが胸元を掠って火花を散らし、エックスは真っ逆さまに地面にへと墜落してしまった。

 

 

「ぐうぅ……コイツ、見た目デタラメな癖に強いとか意味わかんねえよ……!」

 

 

 胸を抑えながら立ち上がる。ギロンはエックスの前に降り立ち、刃を向けて再び走り出した。

 

 

 その時である。彼らの間に、赤と青の光の柱が出現。そしてその中から、2体の巨人が姿を現した。1体は赤と銀の身体、所々に黒いラインが入っており胸には菱形のカラータイマー。もう1体は青い身体に銀色の鎧を装着している。この巨人達、少なくとも赤い方の姿は自分、そしてこれまで出逢ってきたウルトラマンと酷似しいた。

 

 

「おいおいマジかよ……!?」

 

 

 彼は驚き2体に目を向ける。ギロンもまた突如現れた彼らに警戒してか立ち止まり、刃を構えて様子を窺っている様だ。

 ゼロやマックス、ゼノン同様に味方……とは思いたいが、ダークファウストの例もあるのでエックスは慎重に構えた。

 

 

「アンタら……味方か?」

 

 

 エックスの問いに応え無い2体。何も反応しないそれらにゆっくり近付いていくと……。

 

 

「うおっ!?」

 

 

 2体の巨人は腕に付いてる装飾品から光の剣を形成し、振り返ってエックスへと斬り掛かって来た。身体を反らして斬撃を回避した彼であったが、巨人達は更に追撃を仕掛け光剣を振り回す。

 

 

「くそっ!何だテメェらは!?」

 

 

 後方回転して距離を取り、巨人達に構える。質問を飛ばした時、彼らの口角が上がった様に見えた。

 

 

「メビウス……」

「ヒカリ……」

 

 

 赤い巨人がメビウス、青い巨人がヒカリと名乗り、光剣を構えて駆け出して来る。どういう了見かは分からないが、牙を剥いて来るのであれば此方も容赦する訳にはいかない。エックスも奴らを打破するべく走り出した。

 最初に飛び込んで来たメビウスの剣を屈んで回避し、次に来たヒカリが剣を振り下ろす前に腹を蹴る。背後からメビウスが再び剣を突き出して来るが、即座に横へズレて躱してから顔面に拳を叩き込んだ。

 

 

「舐めんなよコラ」

 

 

 メビウス、ヒカリの剣が輝きながらエックスを襲い、彼はそれをどうにか躱しながら攻撃を放っていく。とはいえやはりリーチの差故に次第に防戦一方となってしまう。

 

 

「この……野郎!」

 

 

 メビウスの剣の鋒がエックスの胸を掠め、数歩下がったことで背後にあったビルにぶつかる。それによって一瞬だけ彼の動きが止まり、そこへヒカリが斬り掛かって来た。エックスは寸前で横に飛んで回避出来たが、ビルは見事袈裟掛けに斬り落とされてしまった。

 

 戦い続ける彼らのことをギロンは見ていた。ギロンからしてみたらエックスも、後から現れたメビウスとヒカリも敵でしかない。なら纏めて潰してしまおう。ギロンは複数の十字手裏剣を、3体の巨人に向けて放った。

 

 それに気付いた彼らは回避する為に行動。エックスはバリアを張って防ぎ、ヒカリは剣で叩き落としていく。一方メビウスは、近くのビルに隠れてそれらを防いだ。

 

 

「アイツ、ビルを盾にしやがった……!」

 

 

 そのままメビウスは剣を戻してビルの間を抜けながらギロンに接近し、奴の背中に馬乗りになって何度も殴った。勝手に暴れるかエックスを攻撃するなら良いが、自分達に攻撃してくるなら生かしては置けない。抵抗するギロンの頭を抑え、地面に何度も叩き付ける。流石のエックスも少し引くが、そこへヒカリが突っ込んで来た。振り回される光剣を、エックスはどうにか躱していく。

 

 

「チッ!てめえら本当に何なんだよ!?」

 

 

 思いっきり放った回し蹴りを、ヒカリは後ろに飛んで避ける。追撃に向かおうとするが、そこへメビウスがギロンをぶん投げてきた。

 

 

「マジかよ!?」

 

《ULTRAMAN XENON LOAD》

 

 

 咄嗟にウルトラマンゼノンのカードを読み込み、腕を逆L字に組んでゼノニウムカノンを発射。メビウスから受けたダメージもあり、ギロンは敢えなく爆散した。

 

 

「さて……」

 

 

 メビウスとヒカリに対して改めて構える。このウルトラマンの様な巨人達は何者なのかという疑問はあるが、とにかく倒さなければならない事だけは確かだ。奴らも構えて睨み合いが続く…………その時である。突如上空に大きな空間の穴が発生したのは。

 

 

「アレは?」

 

 

 謎の穴にエックスが目を向けた瞬間、メビウスとヒカリは飛び上がり、その中にへと入っていってしまった。

 

 

「なッ、待ちやがれ!!」

 

 

 エックスもそれを追って飛行し、穴の中へと飛び込む。彼が入ったと同時に、空間の穴は消えてしまうのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 とあるアナザースペースの静岡県沼津市。そこに宇宙から巨大な魔神が降臨した。

 

 

「出て来いウルトラマン!この俺様らが倒してやるジャジャ!」

「でないと僕チンら、この街ぶっ壊しちゃうシュラ!」

「ワシらの力を見せつけてやるでイン!」

 

 

 三つの顔の付いた像の様なこの宇宙人の名はジャシュライン。エリダヌス座宇宙付近を荒らし回っていた宇宙のストリートファイターとでも言うべき存在。ウルトラマン達に挑戦する為に、彼らはこの地球に来たのだ。

 

 

 ジャシュラインは盾を変形させたブーメランを投げたり、建物を踏み潰したり、念動力を使用して街を破壊。ウルトラマンを誘き出す為に暴れ回っていた。

 

 

 笑いながら暴れるジャシュラインから必死に逃げる街の人々。しかし、その流れに逆らって奴らにへと向かっていく少年少女の姿があった。2人は立ち止まり、ジャシュラインにへとその眼光を向ける。

 

 

「いくぞ、メビウス!」

《うん!》

「ヒカリ」

《分かっている》

 

 

 少年・日々ノ 未来は左腕に赤い手甲を装着し、その宝玉を右手で回転させてから突き上げ叫ぶ。

 

 少女・七星 ステラは左手に持った短剣を右腕の手甲に装填。

 

 

「メビウーーースッ!」

 

 

 赤と青の輝きが放たれ、そこから2人のウルトラマンが顕現。無限大の可能性を秘めた若き戦士・ウルトラマンメビウス。智勇を備えた蒼き剣士・ウルトラマンヒカリ。

 

 未来が変身したメビウスとステラが変身したヒカリはジャシュラインに対して構えを取る。

 

 

「来たなウルトラマン共!お前達を倒し、黄金像にしてくれるジャジャ!」

「コレクションがまた増えるシュラ!」

「さっさと倒してやるイン!」

 

 

 一段目の頭部のランプを光らせてブーメランを投げるジャシュライン。2人は転がってそれを回避。

 

 

『コイツ、あのジャシュラインか!』

「知ってるの、ヒカリ?」

『ああ。様々な星々で戦いを挑み、倒した相手の死体を黄金像に変えてコレクションしているとんでもない宇宙人だ』

「悪趣味ね……」

 

 

 戻って来たブーメランをキャッチしたジャシュラインはそれを盾に戻し、今度は走って突っ込んで来る。

 

 

「だったら、そうなる前に倒せばいい話だろ?いくぜメビウス!」

『よし!セアッ!」

「あ、ちょっと!?」

 

 

 駆け出したメビウスはジャシュラインへと拳を突き出す。しかしそれが当たる寸前、奴らは二段目の頭部のランプを光らせ軽快な動きで拳を躱した。

 

 

『速い!?』

「遅いシュラ!」

 

 

 素早い格闘技でメビウスを攻めていくジャシュライン。パンチが、キックが、メビウスの身体に叩き込まれて彼を追い詰める。

 

 

「ぐっ……強いぞコイツ……!?」

「お前が弱いシュラ!」

『何だと!?』

 

 

 メビウスが右ストレートを放つがジャシュラインはその腕を払い、逆にパンチを叩き込んだ。彼は堪らず吹っ飛んでしまった。

 

 

「未来!」

『メビウス!おのれ……フンッ!』

 

 

 倒れたメビウスに駆け寄ったヒカリ。そしてジャシュラインに向けて必殺光線・ナイトシュートを放つ。

 

 

「無駄だイン!」

 

 

 だがジャシュラインは三段目の頭部のランプを光らせて念力を発動。ナイトシュートの軌道を曲げてヒカリ達に返してしまった。

 

 

『ぐあああッ!?』

「があッ!?」

『ぐううッ!?』

「ああああッ!?」

 

 

 爆発に呑まれてしまう2人のウルトラマン。ジャシュラインの力の前に彼らは苦戦を強いられてしまう。

 

 

『ううっ……』

『くっ…!』

「ジャーンジャジャジャジャーン!」

「シュラシュラー!」

「イーン!」

 

 

 少しフラつきながら立ち上がる2人。彼らのその姿を見てジャシュライン達は愉快そうに笑い声を上げた。そして三つのランプ全てを輝かせ力を溜めていき……。

 

 

 

「「「喰らえぇぇ!!」」」

 

 

 放たれたのは必殺のゴールジャシュラー。これは相手を黄金像にへと変えてしまう恐ろしい光線なのだ。光線は真っ直ぐに、メビウス達へと向かっていく。彼らを纏めて黄金像にするつもりなのだろう。

 

 

『メビウスッ!』

『ッ!?』

 

 

 だがヒカリはメビウスを突き飛ばして射線から追い出した。結果、メビウスは助かったがヒカリは光線の直撃を受ける事になった。

 

 

「ヒカリ、ステラ!?」

『2人とも!?』

『ぬぅッ!?ぐっ……があッ……!?』

「ううっ!?これは……!?」

 

 

 足下から徐々に黄金像へと変わっていくヒカリと彼の中にいるステラ。苦悶の声が2人から漏れる。

 

 

『メビウス、これを……!』

『ッ、ナイトブレス…!?』

 

 

 黄金像に変わる前に、ヒカリは自身の変身アイテムであり神秘の力の源でもあるナイトブレスをメビウスに渡した。ジャシュラインの撃破を、メビウスに託したのだ。

 

 

「後は……頼むわよ……!」

「ステラァ!?」

 

 

 その言葉を最後に彼女達はカラータイマー以外が黄金に変化してしまった。それを見てジャシュラインは再び笑い声を上げる。

 

 

「フン!ウルトラマンヒカリをコレクションにしてやったジャジャ!」

「大した事無かったシュラねぇ!」

「次はお前だイン!ウルトラマンメビウス!」

 

 

 ジャシュラインはブーメランを構える。

 

 

『未来君、いくよ!』

「ああ……絶対に倒す!」

 

 

 左腕の神秘のアイテム・メビウスブレスとナイトブレスを合体させ、ナイトメビウスブレスとする。すると金色のラインが身体に発生し、彼はウルトラマンメビウス・メビウスブレイブへと強化された。

 

 

『ハァッ!』

「姿が変わったジャジャか。だからどうしたァ!」

 

 

 向かって来るジャシュラインに、メビウスはブレスから光の長剣・メビュームナイトブレードを発生させて迎える。奴らの振り下ろしたブーメランを剣で受け止め、それから剣とブーメランが何度もぶつかり火花を散らしていく。

 

 

「おのれぇ!鬱陶しいジャジャア!!」

 

 

 大きく振り被ったブーメランを下ろすジャシュライン。メビウスもそれに対抗して剣を振り上げる。二つの武器はぶつかり合い、そしてブーメランの方は破壊されてしまった。

 

 

「何ィ!?」

「調子に乗るなイン!」

 

 

三段目のランプが点灯。念力でメビウスを吹き飛ばすが、彼は持ち堪えて直ぐに駆け出していく。

 

 

「チィ!!」

 

 

 念力を使用してメビウスの周囲に爆発を発生させその足を止めようとする。しかし彼は止まること無く走り、すれ違いざまに三段目のランプを∞の形に切り裂いた。アクティブレードアタックと呼ばれる技だ。

 

 

「ぎやああああああッ!?」

「き、貴様ァ!許さんシュラァァァ!!」

 

 

 二段目のランプを光らせてメビウスに振り返り向かっていくジャシュライン。強烈なパンチを放つがメビウスは見事に捌き、奴らの身体を蹴ってからその反動で距離を開けた。

 

 

「ぬうう!?」

「許さねえってのは俺達の台詞だ!」

 

 

 メビュームナイトブレードより、光線・ブレードシュートを発射。それは二段目のランプに直撃してそれを破壊。ジャシュラインは苦しみの声を上げて後退していく。

 

 

「うぎいいいいいいッ!?」

「よ、よくもやってくれたなぁ!!」

 

 

 最後に残った頭頂のランプを輝かせ、ジャシュラインはヤケクソでもう片方の腕に備えられてた盾を新たにブーメランにして投げた。対するメビウスは空中に∞の形を描いて光輪とし、それを奴らに向けて超高速で放つ。光輪によりブーメランは切り落とされ、更にそれは貫通してジャシュラインの残ったランプをも切り裂いた。

 その衝撃でジャシュラインは倒れ、激痛と苦しみの余りに絶叫しながらのたうち回っている。

 

 

「んっ……はぁ……」

『くっ……も、戻った!』

 

 

 全てのランプを破壊した為か、黄金像になっていたヒカリとステラは元に戻った。

 

 

『ヒカリ、ステラちゃん!』

「良かった、戻ったんだな」

『ああ、すまなかった』

「助かったわ……。あんな体験、もう二度とごめんね」

 

 

 彼らが戻ったことを喜ぶメビウスと未来。一方、先程までのたうち回っていたジャシュラインは静かに立ち上がり、メビウスとヒカリを睨む。

 

 

「こうなったら奥の手ジャジャ!」

「この星の地殻を刺激して、爆発させてやるシュラ!」

「お前ら纏めて吹き飛ばしてやるイン!」

 

 

 ジャシュラインは高速回転して地中へと潜っていこうとし始めた。このままでは奴らの手によって地球が破壊されてしまう。しかし、それを許す彼らではなかった。

 

 

「させない!」

『ハァッ!」

 

 

 ヒカリは両手を突き出して光線・ホットロードシュートを放つ。光線はジャシュラインに直撃し、奴らの行動を見事妨害。火花を散らしながらジャシュラインは吹っ飛んだ。

 

 

『今だメビウス、未来!』

『はい!』

「よし!」

 

 

 瞬時に巨大な光剣を形成し、立ち上がろうとしていたジャシュラインに振り下ろして∞字に斬った。メビウスブレイブの中でも最大クラスの大技・ブレードオーバーロードである。

 斬り裂かれたジャシュラインは断末魔を轟かせながら爆散するのであった────

 

 

 

 

 

 

『ありがとうヒカリ。これは返します』

 

 

 ナイトブレスをヒカリに返し、本来のメビウスの姿に戻る。

 

 

「なかなかの強敵だったけど、何とかなったな……」

「あのくらいで苦戦してたら、皇帝には勝てないわよ」

「うっ、分かってるって……てか、ステラだってヤバかったじゃないか?」

「………あれはアンタ達を庇ったから仕方なかったのよ。むしろ感謝しなさい」

「あー……ありがとうございます……」

「駅前に美味しいパフェの店があるらしいわ」

「奢らせる気かよ!?」

 

 

 2人のやり取りを、メビウスとヒカリは微笑ましく見守る。

 

 その時であった。何かが落下した様な大きな音と地響きが鳴ったのは。何かと思い目を向けると、そこには1体の巨人が立っていた。

 

 

『あれは……?』

『何だ?』

「ウ、ウルトラマン、だよな?」

 

 

 赤と銀の身体。何処かサイバーファッションの様な印象の見た目で、胸のカラータイマーはXの形をしている。そのウルトラマンは、メビウス達のことをじっと見ていた。

 

 

「ヒカリ、彼もウルトラマンなの?」

『その様だが、私は見た事が無いな』

「メビウスも?」

『うん、宇宙警備隊にあんなウルトラマンは居なかったと思う』

 

 

 メビウスもヒカリも、眼前のウルトラマンのことは見た事が無かった。M78星雲以外にもウルトラマンと呼ばれる戦士はいるのでそれらの出身の者だろうか……?そう彼らが考えていた時、謎のウルトラマンは手から光弾を放って来た。

 

 

『何!?』

「危なッ!?」

 

 

 2人は横に転がってどうにか回避。いきなりの攻撃に困惑する暇も無く、ウルトラマンはメビウスに接近し蹴りを放った。

 

 

『ぐあっ!?』

「な、何だコイツ!?」

 

 

 更に攻撃を仕掛けてくる謎のウルトラマン。ジャシュライン戦の疲労もあってかメビウスは反撃出来ずにおり、カラータイマーが鳴り始める。

 

 

『メビウス!』

「よくも!」

 

 

 光剣・ナイトブレードをナイトブレスから出現させたヒカリが謎のウルトラマンへと斬り掛かる。謎のウルトラマンはメビウスから離れて機敏な動きで振られる剣を回避し、隙を突いてヒカリに光弾をぶつけた。

 

 

『くっ!?』

『ヒカリ!?』

 

 

 光弾の着弾した胸を押さえながら下がるヒカリにメビウスが駆け寄る。それを見た謎のウルトラマンは上空に飛び上がって滞空。そして腕を振りエネルギーを溜め始めた。どうやら必殺光線を放つつもりの様だ。

 

 

「不味いぞ……!メビウス、避けろ!」

『いや、ダメだ!あのエネルギー量……もし僕達が躱したら、街に大きな被害が!』

「何だって……!?」

「アイツ、この街ごと私達を吹き飛ばすつもりみたいね」

『何と非道な……貴様それでもウルトラマンか!?』

 

 

 ヒカリの怒りを込めた問いに奴は応えず、エネルギーを溜め続ける。2人のウルトラマンは、奴の光線を防ぐ為に残ったエネルギーを集中させていく。

 

 謎のウルトラマンは腕をクロスして凄まじい熱量の光線を放った。メビウスとヒカリは力を合わせて光の壁を生成し、その光線から地上を守る。放たれる光線は壁を撃ち破らんと勢いを増していくが、彼らも負けじと力を込めてより壁を強固な物にしていった。

 

 激しい衝突の末、メビウス達は何とか光線を防ぎ切る事が出来た。しかし大量のエネルギーを消費した為、彼らは地面に膝を付くことになり、胸のカラータイマーが激しい警告音を放っている。

 息を荒げている彼らを見下ろす謎のウルトラマン。未来はメビウスの中から、それを強く睨んでいた。

 

 

「お前は……何なんだ……!?」

《…………ウルトラマンX》

 

 

 それだけ言い残すと、謎のウルトラマンことXは反転し飛び去っていくのであった……。

 

 

「ウルトラマンX……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 とあるボロボロのアパート。ここは既に誰も住んで居ない廃屋。以前は出入りする奇妙な人を見たなんて言う噂もあったが、今はそんなものも無く完全に空き家状態。近々取り壊す予定らしい。

 

 そんなアパートの天辺に、何かが勢い良く落下。轟音と共にその何かはアパート内に入る事になる。

 

 暫くの沈黙。そして次には一階の一室の扉がこれまた勢い良く開けられた。出て来たのは「眼兎龍茶」と書かれた空き缶を口に咥えた薄着でボロボロの青年。彼は咥えた……というより咥えてしまっていた空き缶を吐き、周囲を見回す。

 

 

「寒……」

 

 

 季節は冬。半袖で寒いのは当然であろう。

 

 彼は腕を摩りながら歩いていく。そして暫く歩いた彼は海に出ることになった。その海を見て、青年・翔琉は目を見開く事になる。

 

 

「ここ……内浦か…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エックス、メビウス、ヒカリ、そして彼らと共に戦う者達を巻き込む事になる大きな陰謀。これはその始まりに過ぎなかった────

 

 

 

 

 




コラボ1話目、如何だったでしょうか?
未来とステラを上手くかけているか大分不安で仕方ないです←

エックスの前に現れたメビウスとヒカリ、そしてメビウスとヒカリの前に現れたエックス……一体何がどうなっているのか?

物語はここから動き出していきますので是非お楽しみに……。

そして今回敵として現れた怪獣はギロンとジャシュライン。
ジャシュラインはメビウスに登場した怪獣でメビライブには未登場でした。蒼人様とコラボについての話の中でジャシュラインは出したかったという言葉を聞き、それならばと今回登場させる形になりました。彼らの設定は一部オリジナルとなっています。

ギロンはガメラに登場した包丁です←
これは完全に私の趣味で出しました←

さて、次回は2話目。遂に翔琉が未来、ステラと出会うことに……?

それでは今回はここまで!
感想、質問、高評価、ここすき、その他、是非是非お待ちしています!



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38.奇妙なユガミ



メビライブコラボ2話目!
さっそくどうぞ!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大きく広がる部屋。どうやら何かの施設らしい。そこには数人に異星人が居た。異星人達は様々な機会を操作して何かを行なっているみたいだ。

 

 奥の方にリーダー格と思われる2本の角が生えてマントを羽織った異星人がおり、そいつは大きなモニターに映し出された映像を見詰めている。

 

 

「来たか……」

 

 

 彼が見る映像に映されていたのは内浦の空にぽっかり開いた穴から落ちて来る翔琉の姿。

 

 

「まずは第一段階だな。お次は……」

 

 

 後ろを振り向くと、そこには3人の少年少女がいた。彼らは愉しそうに口角を上げている。そして更にもう1人、歩いて来る者の姿が……。

 

 

「やあ、ギロ星人カゼブ。計画は順調かい?」

「フンッ、貴様か」

 

 

 その者はカタラ。カタラはにこにこと笑みを浮かべている。

 

 

「それにしても、君達の技術はなかなかだね。話を持ち掛けてみて良かったよ」

「我々からすれば、これくらい当然の事だ」

「なるほどねぇ〜。なら、心配は要らないかな?」

「当たり前だ」

 

 

 カゼブはカタラのことを射殺す様な目で睨んだ。

 

 

「データを、そしてあの細胞(・・・・)を提供してくれた事は感謝しよう。しかし、貴様は気味が悪い」

「酷いなぁー。みんなそう言ってボクのこと遠ざけるんだよぉ」

 

 

 落ち込んだ様な仕草をするカタラを無視してカゼブは少年少女に目を向ける。

 

 

「行け……お前達の手で、ウルトラマン共を自滅させてしまうのだ!」

 

 

 その号令を受けた3人は頭を下げた後、踵を返して歩く。翔琉、未来、ステラ。命令を果たす為に動き出した3人のことを、カタラは手をひらひらと振って見送るのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「何だったんだろうな、あのウルトラマンXって奴?」

 

 

 学校からの帰り道で未来はそう呟いた。一緒に下校してるのはステラ、そしてスクールアイドルAqoursのメンバーである高海 千歌と渡辺 曜、桜内 梨子の4人。更に未来とステラの中にはメビウスとヒカリがそれぞれいる。

 

 ジャシュラインとの戦い、そしてウルトラマンXの襲来から一週間の時が流れた。この星の生物、そして星そのものと同化しようとした植物生命体や円盤に変形する謎の怪獣などが現れて戦い、彼らは勝利した。しかしあのウルトラマンXはあれだけ派手な事をして置きながら未だに現れていない。

 

 

《分からん。光の国にウルトラサインを送りその返事も来たが、やはりXという名のウルトラマンに関する情報は無かった》

「皇帝の仲間である可能性は?」

《それも考えてはいるけど、可能性は低いかもね。彼からは闇の力は感じられなかったし》

「ウルトラマンが敵だなんて……やっぱり嫌な気分になっちゃうね」

 

 

 千歌の言葉にみんなの表情が少し曇る。6年程前、宇宙より飛来した宇宙斬鉄怪獣から人々を守り撃破した英雄、それこそがウルトラマンなのだ。そして現在、新たに現れたメビウスとヒカリも地球を守る為に戦ってくれており、人類にとってウルトラマンとは守り神的存在になっている。だが千歌達はウルトラマンは神などでは無く、遠い星から来た友人であると考えていて、そのウルトラマン同士が戦うというのは何処か心苦しく感じているのだ。

 

 

「まあ、向こうが襲って来る以上は仕方ないでしょ。こっちだってやられる訳にはいかないし」

《君達の我々を想う気持ちは嬉しいが、分かってくれ》

 

 

 そう言われたら何も言えない。しょんぼりとする千歌の肩に梨子と曜が手を置き笑い掛ける。

 

 

「千歌ちゃん、そんなに落ち込まないで」

「そうだよ、千歌ちゃん」

「うん……そうだね」

 

 

 彼女も笑うが、少しだけ無理をしている様にも見える。こんな状況を作り出す原因となったウルトラマンXに対して、未来は静かに怒りを燃やすのであった。

 

 

 

 

 

 

 暫く歩いていると人集りが見えた。そして数台のパトカーがあり、どうやら警察が現場検証を行っている様だ。何かあったのかと思い近付いていく未来達。すると人集りの中に見知った人達の姿が。

 

 

「果南さんに鞠莉さん、ダイヤさんまで」

「あ、未来」

 

 

 Aqoursの三年生メンバーである果南、鞠莉、ダイヤの3人だ。

 

 

「何かあったの?」

「うん、実は……」

「未来君、あそこって!?」

「ああ、メトロン星人が住んでたアパートだ」

 

 

 刑事達が調べているのは、以前未来が曜と共に訪れたメトロン星人が住んでいた廃屋となっているアパート。

 

 メトロン星人は10年前からこの内浦で静かに暮らしていた宇宙人で、人間に擬態し「眼兎」という偽名を使っていた。果南のダイビングショップの常連でもあり、地球をそして地球人を愛してくれた心優しい宇宙人であった。そんな彼が住んでいたアパートに今こうして警察が来ている……もしや彼が何かを残していってしまい、それが原因で調べられているのだろうか?

 

 

「あのアパートに何かが落下して来たみたいなんですの」

「何かって?」

「それに関してはI don't knowデース」

 

 

 どうやらメトロン星人は関係無いらしく未来と曜は胸を撫で下ろす。

 

 老朽化で屋根が落ちた、鳥が何かを落とした、隕石が落ちたてきた、宇宙人が来た、等々周囲の野次馬がいろいろな憶測を飛ばしている。未来達も何だろうなと考えていた時、メビウスとヒカリが彼らの中でじっとアパートの方を見つめていた。

 

 

《未来君、ちょっといい?》

《ステラも》

「ん、どうしたんだ?」

 

 

 彼らに声を掛けられた未来とステラは人集りを離れていき、千歌達もその後に続く。

 

 

《あのアパートから、何か強い力を感じるんだ》

「強い力?」

《ああ。直接確かめなくては詳しい事は分からないが、何かがある事は間違いない》

《何とかそれを確認出来ないかな?》

「いや、無理だろ……」

 

 

 アパートは複数人の刑事が調べており、隠れながら中に入るのはまず不可能。だが捜査が終わった後ではその何かを警察に持って行かれてしまうかも知れない。どうしたものかと悩んでいた時……。

 

 

「私に考えがあるわ」

 

 

 そう言ったのはステラだ。

 

 

「ヒカリ、手伝ってもらうわよ」

《あ、ああ、構わないが》

「何するつもりなの?」

 

 

 千歌の問い掛けに彼女は笑みを見せた後、何処かへと歩いていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「寒っ……え、何この寒さ?てか何で内浦?」

 

 

 メビウスとヒカリを追って空間の穴に飛び込んだ翔琉は、どういう訳か内浦に来ていた。季節は夏の筈なのに何故か寒く、半袖では結構辛い。携帯やエクスデバイザーで同好会やXioのメンバーと連絡を取ろうとしたが一切通じず、それどころか携帯は碌に機能もしていないという有様。

 

 とりあえず歩いて周囲を探索していく翔琉。そうやっていると、彼はある所に辿り着いた。

 

 

「お、浦女じゃん」

 

 

 丁度この前、任務で内浦に訪れた際、そこで出会ったAqoursの千歌に連れられて入った浦ノ星女学院だ。あそこに行けば、もしかしたらAqoursの皆に会えるかも知れない。そう考えた翔琉は足を学院へと運んでいく。

 

 どうやら下校時間らしく、向かっていく際、帰路につく生徒達とスレ違う。しかしその中で何か違和感を彼は感じていた。

 

 

「んー……んっ?」

 

 

 唸りながら一先ず校門前に着いた翔琉。そしてまた新たな違和感に気付く。

 

 

「浦ノ星学院?」

 

 

 校門の表札にはそう書かれていたのだ。彼の記憶が正しければ浦ノ星は女学院だった筈。先程から感じてた違和感の正体は、制服を着た男子が居たことだった。

 

 

「浦女って女子校だったよな……?どういう事だ?」

 

 

 記憶喪失ではあるがそんな少し前の記憶までは失っていない。何がどうなっているのか訳が分からず頭を掻いていると、彼の目にあるものが映った。

 

 

「あれ……津島達じゃねえか」

 

 

 それはAqoursに所属している一年生の善子、花丸、ルビィの3人である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 数分後、ステラは再び未来達の前に出て来た。のだが……。

 

 

「えっ」

「おーっ!」

「わあ!」

「え、えぇ!?」

「WAO!」

「それって……」

「これは……」

 

 

 水色のシャツに膝丈のタイトスカート。所謂、女性警察官の姿をステラがそこには立っていた。

 

 

「お、お前それ……」

「行って来るわ」

 

 

 スタスタと歩いてアパートの方に向かうステラ。そして彼女は立ち入り禁止のテープの前に立っている刑事の所に行く。

 

 

「いや、あんなコスプレじゃ無理でしょ……」

「そうですわね……」

「いいなぁー、あの制服!」

「曜ちゃん……」

 

 

 未来達は彼女の様子をコソコソと見守る。

 

 

「むっ、君は……」

「応援に来ました」

「…………そうか、入りたまえ」

 

 

 刑事はステラのことをあっさりと中に通した。

 

 

「え、どうして?」

「あー……そういうことか……」

「そういうことって、何が?」

 

 

 頭を抱える未来。

 七星 ステラ。彼女は地球人では無くノイド星人という地球人に良く似た宇宙人なのだ。とある事情からヒカリと一体化した彼女はこの星に滞在する為に、浦ノ星学院の教師に催眠を掛けて入学。学院の制服をヒカリに作って貰っている。今回もヒカリが制服を作り、催眠を掛けた事で堂々と入って行けたのだろう。

 

 

「今度から衣装、ヒカリに頼もうか?」

「やめとけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 アパート内に入ったステラ。ヒカリに頼み、他の刑事達には催眠を掛けて外に出てもらった。何かが落ちて来て穴の空いた床、そして天井にも大きな穴が空いており、そこそこの……少なくとも人間大くらいの物によって作られたのだろうと予測出来た。

 

 そんな事よりも、と彼女は辺りを見回す。すると床に空いた穴から少し離れた場所に、1枚のカードが落ちているのを見つけた。

 

 

「これは……?」

 

 

 落ちてたそのカードをステラは拾う。それには怪獣が描かれており、英語で「CYBER GOMORA」と表記されていた。

 

 

「サイバー、ゴモラ?ゴモラって、前にカノンで戦った怪獣よね?」

《あの時は傀儡の様なものだったがな。このカードからは怪獣の力を感じる。ゴモラの力が込められた物と考えて間違いないだろう》

「こんな物、一体誰が?」

《詳しく調べてみない事には何とも言えないが、少なくとも今のこの星の技術力ではこれを作り出す事は出来ない筈だ》

 

 

 「なるほど」と呟いてからステラは改めてカードを見る。以前戦ったゴモラに似てはいるが、これからはかなりメカニカルな印象をを受け、そして何よりも気になっている所があった。

 

 

「X……」

 

 

 ゴモラの胸に描かれた「X」の文字。偶然か、それとも……。一先ず考えるのは後にし、彼女はカードをポケットに入れてから部屋を出ていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ステラちゃん!」

 

 

 戻って来たステラの所に千歌達が駆け寄る。

 

 

「うわぁー!凄いねその制服!ねえ、見せて!?」

「え、ええ、構わないけど……」

「これヒカリが作ったんでしょ?凄いなぁー!」

《そ、そうか?》

 

 

 曜に褒められてヒカリは少し喜んでいる様子。

 一方、未来はじっとステラのことを見つめていた。

 

 

「な、何よ?どうかしたの……?」

 

 

 少しだけ頬を赤く染めるステラ。そんな彼女のことを見て、未来はにっこりと笑い……。

 

 

「いや、お前それ全然似合わないなって!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 容赦無い拳が、彼の腹に叩き込まれるのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 善子、花丸、ルビィの3人は学校を終えて一緒に下校していた。今日はAqoursの練習は休みだし、せっかくなので3人で何処かに行く事にしたのだ。そして彼女達が着いたのは松月という和菓子・洋菓子店。そのイートインスペースに座り、購入した菓子類を食べている。

 

 

「ん〜〜〜っ!美味ずらぁ〜〜!」

「それこの前も食べたでしょ?」

「美味しい物は何度でも食べたくなる物ずらっ」

「花丸ちゃん、こっちも美味しいよ!」

 

 

 和気藹々としている3人。美少女達が楽しくお喋りしている光景は眼福だろう。

 だがそこに、1人の男が乱入して来た。

 

 

「おーすっ!久しぶりだなぁ3人とも!」

 

 

 急に現れて馴れ馴れしく話し掛け、空いていた善子の隣りに座った男。何処かの学校の制服姿なのだが、真冬なのに半袖というおかしな格好をしている。彼のことを見て彼女達は驚き呆気に取られ、ルビィは少し青ざめている。

 

 

「ん?どした?え、何その反応?」

「ア、アンタ誰よ!?」

 

 

 善子が勇気を振り絞って男にそう聞いた。

 

 

「いや、誰って俺だよ。翔琉だよ」

「し、知らないわよアンタなんか!!」

「そ、そそそ、そうずら!」

「う、うゆっ!」

 

 

 男・翔琉に対してビビりながらも彼女達は声を上げる。馴れ馴れしく話して来るが、3人共こんな男の事は全く知らない。

 

 

「え、何それ、酷く無い?一緒にホオリンガとかサマーフェスティバルの為に頑張った仲じゃん。なあ、花丸?」

「ほ、ほお、りんが……!?何のことずら?」

「そ、そそ、そそそんなのし、しし知らないですっ!」

 

 

 どうも話が噛み合わない。3人は翔琉のことなど知らないのだが、彼は3人を知ってる様子。

 

 

「あ、わかったわ!アンタ、ナンパでしょ!ヨハネ達がAqoursだってのを知っててそれで近付いたのね!」

 

 

 ビシッと指差してそう決めるが、翔琉は何言ってるんだコイツとでも言いたげな表情をしていた。

 

 

「いや、あのな。流石に令和にもなってこんな古典的なナンパする訳無いだろ?」

「れい……わ?それって何ずら?」

 

 

 令和という聞いた事の無い単語が引っ掛かる

 

 

「いや、元号だよ元号。平成終わって令和になっただろ」

「は?平成はまだ終わってないわよ」

「いやいやいや、終わったじゃん。そんで今年日本でオリンピックあるやん」

「オ、オリンピックは来年だし、日本はその次ですよ……?」

「……は?」

 

 

 何かおかしいと翔琉も3人も口を止めて少し考え込む。そして翔琉は立ち上がり、店内に置いてあった雑誌を適当に取った。そしてそれが出版された年を見る。

 

 

「なあ……これって最新号か?」

「そ、そうよ?」

「嘘だろオイ……」

 

 

 翔琉は雑誌を戻し、ある事実を確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ、5年前じゃねえか……!?」

 

 

 雑誌に書かれていた西暦は5年前のもの。これが最新の物だとすると、翔琉が今いるのは5年前の過去の内浦ということになる。

 しかし、なら何故善子達Aqoursが居るのか?ここが過去だとするとAqoursは無く、善子達も小学生の筈だ。何かおかしい。奇妙なズレが感じられる。そこで彼はある考えに至った。

 

 

「まさか、別の宇宙……陸達の所なのか?」

 

 

 この内浦が並行宇宙であるという事。それならこの時間のズレも納得出来る。そしてここは以前翔琉の居る宇宙に来た陸とゼロのいる場所ではないかとも考えた。彼はAqoursと共に居ると言っていたのでその可能性は高いだろう。

 

 

「お前ら、陸ってやつ分かるか?それかゼロってウルトラマン」

「陸?ゼロ?」

「知らない、です……」

「大体、内浦にいるウルトラマンは───」

 

 

 善子の言葉を遮る様に、カランコロンと扉の開く音がする。扉の方に目を向けると、そこには2人の男女が居た。

 

 

「未来君、ステラちゃん!」

 

 

 そこに居たのは未来とステラ。彼らは鋭い目で、翔琉のことを睨んでいる。

 

 

「えっ、どちら様?」

「お前が、ウルトラマンエックスだな?」

「ずらっ!?」

「ピギィ!?」

「嘘でしょ!?」

 

 

 先程よりも驚き、翔琉から距離を取る3人。

 

 

「ちょ、ちょいちょい!え、いや、何で?」

 

 

 あっさり正体を看破した未来とステラ、そして何故か急に先程より以上の驚きと恐怖の感情を向けて来る善子、花丸、ルビィ。何なんだと思っていると、未来とステラが拳を突き出し迫っていた─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「腹痛い……」

「フンッ」

《あれは自業自得だね……》

「うんうん、未来君が悪い!」

「そうだねー」

「流石にあれはねぇ……」

 

 

 腹を押さえながら歩く未来。あのくらいでそんなに怒らなくてもとは思うが、そんなこと言えばどうなるか分からないので黙っておく。周りからの目も冷やかだし。

 

 

「でも何なんだろうね、そのカード?」

 

 

 果南にそう聞かれて、ステラはポケットからサイバーゴモラのカードを取り出した。

 怪獣の力が込められた謎のカード。一番考えられるのは、何らかの理由であのアパートに落下した侵略者が地球侵略の兵器として持っていたが衝撃でうっかり落としてしまったという可能性。この線がもっともしっくりくる。だとしたらその侵略者は何処に……?

 

 考えながら歩いている未来達の前に、1人の男が立ち塞がった。

 

 

「んっ?」

「誰?」

 

 

 180cmは有りそうな身長、中性的で整った顔のその男は、翡翠の瞳を未来とステラへ順に向ける。

 

 

「メビウスと、ヒカリだな」

「なっ!?ど、どうしてそれを!?」

《未来君!彼は人間じゃない!》

《気を付けろみんな!》

 

 

 メビウスとヒカリの忠告を受けて構えた未来、ステラと、後ろに下がる千歌達。

 

 

「アンタ、何者?」

「……ウルトラマンXだ」

 

 

 そう名乗った後、その男……翔琉は獣の如く未来達へと襲い掛かる。まずは未来へと接近し、鋭い回し蹴りを放った。

 

 

「くっ!?」

「未来君!?」

 

 

 身体を仰け反らせる未来。鼻先に少しだけ掠ったが直撃は間逃れた。間髪入れず殴って来ようとする翔琉に、彼は持っていた通学カバンを投げる。

 

 

「チッ」

 

 

 翔琉はカバンを手で払う。その隙に、ステラがナイトブレードで斬り掛かった。翔琉はそれを思いっきり背後に跳ぶ事で回避。人間離れした跳躍力であり、改めて異星人である事を分からせられる。

 

 

「コイツが、X……!」

「お前!一体どういうつもりだ!?何でウルトラマンが俺達を襲うんだよ!?」

 

 

 未来の問いに翔琉は答えず、再び彼らに向かっていく。それに対抗して未来達も駆け出した。

 自分よりも長いリーチから繰り出されるパンチやキックをどうにか躱していき、未来は腹へ拳を叩き込んだ。数歩後退する翔琉。そこへステラの飛び蹴りが炸裂し、彼は更に後退していくことに。

 

 

「畳み掛ける」

「ああ!」

 

 

 一気に接近してブレードを振るステラ。翔琉はそれを空へ跳躍して躱した。地面を削っただけのステラを見て奴はニヤリと笑う。しかし次に奴の目に入ったのは、拳を握りこちらへと跳んで来る未来の姿であった。

 

 

「おらあああッ!!」

 

 

 強烈な打撃が顔面に叩き込まれる。ステラの斬撃はブラフで本命は未来のパンチだったのだ。地面に叩き付けれた翔琉は、苦悶の声を漏らしながら立ち上がろうとする。

 

 

「さて……大人しくしてもらうぞ」

《君にはいろいろと、聞きたいことがあるからね》

 

 

 翔琉へと近付いていく未来とステラ。

 その時である。大きな地響きと咆哮が轟いたのは。

 

 

「何!?」

「怪獣!こんな時に……しかも3体!?」

 

 

 現れたのは3体の怪獣。1体は頭部に大きな一本角と鋭い爪を持つ怪獣。もう1体は岩石の様な身体を持った四足歩行の怪獣。最後の1体は赤い身体に黄色い角と爪を持った怪獣だ。奴らは暴れ出し、街を破壊し始めた。

 

 

「あ、おい!?」

 

 

 未来達が怪獣に気を取られた隙に、翔琉は立ち上がりこの場を走り去ってしまった。

 

 

「待ちなさい!」

《ステラ、今は怪獣を倒すのが先だ!》

《未来君!》

「仕方ないか……!千歌達は避難を!」

「う、うん!」

 

 

 未来とステラは怪獣達のいる方向に向かって駆け出した────

 

 

 

 

 

 

 

 

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 松月の扉から、翔琉が勢い良く外の道路へと放り出された。アスファルトを転がった後、砂埃をはたいてから立ち上がった彼に、未来とステラが歩いて来る。

 

 

「いってぇなぁ……何しやがってんだコラァ!?」

 

 

 2人は駆け、未来は拳を、ステラは蹴りを繰り出した。翔琉は攻撃を躱すが、2人は攻めの手を緩めず、更に攻撃を続けていく。

 善子達も彼らのことが心配で外に出た。

 

 

「うおっ!?コイツらぁ……!」

 

 

 未来のパンチを手で掴み、そのまま腕を取って彼を思いっきり投げ飛ばした。

 

 

「いい加減にぃ!しやがれぇぇぇ!」

 

 

 投げられた未来は空中で身体を捻り、受け身を取って着地。そして左腕にメビウスブレスを出現させてから光弾を放った。

 

 

「ッ!?そうかお前が」

 

 

 光弾を手で払った翔琉。ステラの方を見るとナイトブレードを手にしてその刃を向けている。彼らが所持している物はメビウスとヒカリが装着していたのと同じ。つまり2人こそが自分を襲って来たウルトラマンの正体なのだろう。なら容赦はいらない。翔琉は再度向かって来た2人に構えた。

 

 ステラがナイトブレードを振るうが翔琉はそれを躱していき、隙を突いて顔面へ蹴りを叩き込んだ。女の子の顔を容赦無く蹴り飛ばした彼を見て、善子達は引いている。

 

 顔を押さえて退がるステラに代わって未来が殴り掛かって来る。彼からの攻撃を捌き、そして相手のパンチのタイミングを合わせてクロスカウンターを叩き込む。彼は堪らず吹っ飛ばされてしまった。

 

 

「けっ、そんなもんかお前ら?」

 

 

 指を鳴らしながら2人に迫っていく翔琉。

 だが突如、大地が震え怒号が鳴り響いた。巨大な3体の怪獣が、その姿を現したのである。

 

 

「か、怪獣!?」

「ピギィ!?」

「マジかよ!?って、あッ!?」

 

 

 怪獣の方を向いた翔琉。その隙に未来とステラは走り去っていった。

 

 

「え、2人とも何で!?」

 

 

 まるで逃げる様に去っていった2人を見て善子達は驚く。いつも自分達を守ってくれた彼らがその様な行動を取ったいう事が信じられないのだ。

 そんな彼女達の所へ、1体の怪獣が放った火炎弾が迫って来た……。

 

 

「きゃああああ!?」

「うわあああ!?」

「ううッ……!?」

 

 

 迫る恐怖から目を閉じ身体を強張らせる3人。しかし3人と火炎弾の間に翔琉が立った。そして何と、彼はその火炎弾を両手で受け止めてしまった。

 

 

「ぐおおお……!?しゃらくせえ!!」

 

 

 火炎弾を海の方へと投げ飛ばしてしまった翔琉。それから彼は腰が抜けて座り込んでしまった善子、花丸、ルビィの方を向き声を掛ける。

 

 

「急いで逃げろ、いいな!?」

 

 

 彼女達からの返答も待たずに、翔琉は怪獣達がいる方向へと走り出してしまった─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 L字路の曲がり角で立ち止まり怪獣を見る未来とステラ。彼らの腕にはそれぞれブレスが着けられている。

 一方、翔琉も同じL字路の反対側の曲がり角にいた。手にはエクスデバイザーを握っている。

 

 お互いに死角になっている為姿は確認出来ない。

 

 

「メビウーーースッ!!」

 

 

 

《X UNITED》

 

「はあああああッ!!」

 

 

 強い光が解放され、メビウス、ヒカリ、エックスの3大ウルトラマンが同時に怪獣の前に降り立つのであった。

 

 

 

 

 

 

「「「あっ」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 






未来とステラを襲撃した翔琉、そして翔琉を襲撃した未来とステラ。
何か妙なことになってますが果たして……?

次回は更に波乱の展開になりそうですがお楽しみに。

それでは今回はここまで!
感想、質問、高評価、ここすき、その他、是非是非お待ちしています!



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39.ヒーロー衝突

皆さん、地震大丈夫だったでしょうか……?
私の住む地域は幸い影響はありませんでした。
余震には気をつけて下さいね……。

そんな中ですがメビライブコラボ3話目、早速どうぞ!




 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、X!?」

「メビウスにヒカリ……さっきはよくもやってくれたなオイ!」

「それはこっちの台詞よ」

 

 

 登場してすぐに睨み合いになるメビウス&ヒカリとエックス。自分を襲撃して来た相手が目の前にいるのだから仕方がない。一触即発状態の3人。しかし、彼らの耳に破壊音と雄叫びが聞こえて来た。ウルトラマン達が向かって来ないので、怪獣達が暴れて街を破壊していたのだ。

 

 

「チッ、あっちが先か!」

『そうだね!』

 

 

 メビウスとヒカリは暴れる怪獣にへと向かっていく。

 

 

「オイ!?くそ……仕方ねえ」

 

 

 エックスもひとまず怪獣に向かう。お互いに、アイツを倒すのは怪獣をどうにかした後だと考えているのだ。

 

 

 

 

 

 宇宙量子怪獣ディガルーグに飛び蹴りを叩き込むメビウス。この怪獣は3体で1体の実体を持ち、同時攻撃をされない限り決して攻撃が当たらないという能力を持っているのだが、この個体は始めから合体し完全な実体を持った状態で暴れていた。その分、力は強力である。

 

 

『セアッ!』

 

 

 メビウスはパンチやチョップを叩き込んでディガルーグを攻めるが奴も負けてはいない。爪を振り回してメビウスに対抗し、それが彼の胸を切り裂いた。

 

 

『がああッ!?』

「ううッ!?」

 

 

 追撃の怪光線を放ったディガルーグ。炸裂した光線によってメビウスは火花を散らす。

 

 

『ぐううッ!?』

「やってくれたなぁ……!」

 

 

 地面を踏みしめ、メビウスはメビュームブレードをブレスから形成。ディガルーグに突っ込んでいく。

 

 

『ハァッ!』

 

 

 光剣を振るうメビウス。ディガルーグは爪で受け止めようとするがその鋭い斬れ味には敵わず、左右の爪は斬り落とされてしまった。驚くディガルーグの顔面に、メビウスはキックを叩き込んで吹っ飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 宇宙礫岩怪獣グロマイトと戦うヒカリ。勢いを付けて脳天に手刀を叩き込んだが、奴の外皮の硬さで逆にヒカリが手を痛めることになってしまう。怯んだ彼に、グロマイトの頭突きが腹部へと炸裂。

 

 

『ぐっ!?コイツ、硬い……!』

「厄介ね……」

 

 

 後退したヒカリに向かってグロマイトが岩石弾を口から吐く。弾丸は彼の身体を傷付けて苦しめる。

 膝を付いたヒカリ。その間に、グロマイトは頭を下げて足下のアスファルトや瓦礫を食べる。これを体内で凝縮し、体表の鎧へと変質させており、更に先程の岩石弾の様に口から吐き出すことも出来るのだ。

 

 

「ッ……ヒカリ、アレを見て!」

 

 

 ステラに言われてグロマイトを見てみると、奴の首の付け根に隙間が出来ており、そこから赤い中枢機関の様な物が見えた。恐らくアレが弱点なのだろう。

 

 

『いくぞステラ、合わせるんだ!』

「ええ!」

 

 

 再びヒカリへと放たれる岩石弾。それを彼らは全力疾走で前進しながら回避。そして跳躍してグロマイトの脳天を足で踏み付けた。

 

 

『「今だ!!』」

 

 

 ダメージは微々たるものだろう。しかし、頭を下げたことによって中枢機関が剥き出しとなった。そこへ彼らはナイトビームブレードを突き立てる。そして裂く様に剣を抜き、弱点を刺されて苦しむグロマイトの首を持ってから振り回してぶん投げた。

 

 

 

 

 

 

 エックスに向かって宇宙凶険怪獣ケルビムの鋭く大きな角が突き出される。彼はそれを横にズレて躱す。ケルビムは更に爪を振り回して攻撃して来た。

 

 

「うおっと!危ねえ野郎だな」

 

 

 後ろに飛んで回避。近距離では角と爪、中距離では尻尾のモーニングスター、遠距離では火炎弾と隙の無いケルビムに手古摺るエックス。彼のことを威嚇する様に耳を立てて吼える。

 

 

「なんか……ムカつくなぁ!」

 

 

 向かって来るエックスにケルビムは火炎弾を連射していくが、彼はそれらを全て手で払って進んでいく。驚きながらも尻尾のモーニングスターを叩き付けようとするものの、それも容易く受け止められてしまった。

 

 

「オラよっとッ!」

 

 

 尻尾を掴んでケルビムのことを振り回して数度地面に叩き付け、その後大きく回してから投げてしまった。所謂ジャイアントスイングである。

 

 

 地面を転がる3体の怪獣。それらに対してウルトラマン達は、必殺光線を放つシークエンスに入った。腕を振り被り、両腕を横に広げ、手を天に突き上げ、エネルギーがそれぞれに充填されていき、彼らは腕を組んでそれを解放する。ザナディウム光線、メビュームシュート、ナイトシュートが怪獣達に炸裂。奴らの身体は粉々に砕け散るのであった。

 

 

 

 

「さてっと」

 

 

 構える3人のウルトラマン。邪魔な怪獣は倒した。ならば次の相手は自分を襲って来たこのウルトラマンだ。

 ほぼ同時に地を蹴り、彼らは肉薄していく。

 

 

『「ハァッ!』」

 

 

 メビウスが、というよりメビウスの身体で未来がパンチを繰り出す。ボクシングの様に素早くジャブを放っていくが、エックスはそれを回避したり受け止めたりして無効化していく。

 

 

「おっ、よっ、ほっ!」

「くらえ!」

 

 

 右ストレートをエックスは左掌で受け止めた。

 

 

「コイツ、この前より動きが……!?」

『うん、何だか機敏になってる!』

「ボクシング趣味か?俺はプロレス派だ」

 

 

 足を払ってメビウスを転ばせ、手足でその腕を絡め取ってから肘関節を逆に伸ばして極めた。アームロックの一種である腕挫十字固(うでひしぎじゅうじがため)である。

 

 

『ううッ、があッ!?』

「このぉ…!」

「お?ギブ?ギブか?まあ、聞いてやんねえけどなァ!」

「性格悪いなオイ……ぐうぅ!?」

『させるか!』

 

 

 ギリギリと腕を絞めていく。そんなエックスに向かって、ヒカリが光剣を突き出した。彼は即座にメビウスから離れ地面を転がって躱し、彼らと距離を取る。

 

 

「大丈夫?」

「あ、ああ、何とかな」

『やはりやり手だな』

『うん。油断は出来ないね』

 

 

 腕を押さえながらメビウスは立ち上がり、エックスも身体に付着した土を払い落としながら立った。

 

 

「この野郎共が。いや、1人女だから野郎共プラス女郎か?」

「どうでもいいでしょ」

 

 

 ヒカリが剣を構え駆け出す。エックスはそんな彼に対してアタッカーXを放ったが、剣で一刀両断されてしまった。

 

 

「くそっ!?」

『フンッ!』

 

 

 振われる剣は先程戦った時よりも速く鋭い。そういえば彼はその時と姿が若干違う様な……まあ、そんなこと気にしてる暇は無い。自身を斬り裂こうとする剣を、エックスは何とか躱していく。

 

 

「メビウス、俺達も!」

『うん!』

 

 

 メビュームブレードを形成して突っ込み振るう。徒手空拳でこの2人を相手するのはどうも部が悪い。エックスは後方に飛び、鋒をギリギリで回避しながらエクスデバイザーにサイバーカードを装填した。

 

 

《CYBER ELEKING ARMOR ACTIVE》

 

『何!?』

『なッ、鎧!?』

 

 

 装着されるエレキングアーマー。驚いてる2人に対して、エックスは電撃鞭を振るった。

 

 

『だあッ!?』

『ぬぅ!?これは、怪獣の力か!?』

「あの時見つけたカード……やっぱりコイツのだったのね」

 

 

 更に鞭を振るエックス。メビウスとヒカリはそれを光剣で弾いて対抗。エックスも、メビウスとヒカリも、決して譲らない戦いを繰り広げていく。

 

 

 その様子を、千歌と曜、梨子、果南、鞠莉、ダイヤは不安そうな目で見ていた。未来達が戦っている相手が強いこと、そしてそれがウルトラマンであることが彼女達の心を締め付けているのだ。

 

 

「未来君!?ステラちゃん!?」

 

 

 エックスが右腕の大砲から電撃波を放つ。メビウスとヒカリはどうにか防ぐが、数歩後ろに下がっていった。

 より激しさを増す巨人達の戦い。それを見守る彼女達の元に、善子、花丸、ルビィが駆け寄って来た。

 

 

「みんなぁーーっ!!」

「あ、善子ちゃん達だ!」

「ヨハネよ!ズラ丸、ルビィ!あれって、さっきの男の人よね!?」

 

 

 あの時の未来達の台詞が真実なら、あのウルトラマンは自分達の前に現れた翔琉ということになる。火炎弾を生身で受け止めてしまうという人間離れした技も見せたことから間違い無くそうなのだろうが。

 

 

「あのウルトラマンの人、さっき急に未来君とステラちゃんに襲い掛かって来たのよ」

「はぁ?何言ってるのリリー?さっき未来とステラがいきなりあのウルトラマンに戦いを挑んだのよ」

「そうずら」

「いやいや、2人とも何を仰ってますの?」

「急に出て来たのはXの方だよ?」

「というか、何でお姉ちゃん達も未来さんやあのXの人に会ってるの……?」

 

 

 妙に話の噛み合わない2年、3年組と1年組。千歌達は一緒にいた未来とステラが翔琉からの襲撃を受けたと言い、善子達は翔琉が未来とステラに戦いを挑まれたと言う。

 

 何かおかしいなと考えていた時、大きな音が鳴り響いた。どうやらウルトラマン同士の攻撃がぶつかり合った事で発生したらしい。彼らはまた距離を開いて睨み合っている。3人ともカラータイマーが警告音を出し始めた。

 

 

『はぁ……はぁ……』

「メビウス、大丈夫か?」

『何とかね。けど、これ以上長引くのはキツいかも』

「正直俺も……」

『我々もだ。早急に決着をつけなければ』

「でも、向こうも同じみたいよ」

「やってくれんじゃん……なら、コイツでどうよ!」

 

 

《CYBER Z-TON LOAD》

《CYBER Z-TON ARMOR ACTIVE》

 

 

 エックスは宇宙恐竜ゼットンの鎧を纏う。鎧から放たれる強力なパワーに、メビウスとヒカリは一瞬たじろいだ。

 

 

『あの力、ゼットンの!?』

「こっちもギリギリなんだ。纏めてブッ飛ばす!!」

『させん!』

 

 

 2人がエックスに向けて光の刃を飛ばした。しかし彼は自身の全身を包む様にバリアーを張って防御。そしてそのまま高速で回転して飛び上がった。

 

 

「ゼットントルネード!!」

 

 

 超高速回転して相手に突撃する大技、ゼットントルネードがメビウス達に向かう。エックスはこの技で一気に片をつけるつもりなのだろう。もし喰らえばメビウスもヒカリも、そして彼らと融合してる未来とステラも只では済まない。

 

 

「メビウス!!」

『ああ、こうなったら!』

「ちょっ、2人とも!?」

 

 

 メビウス達はステラの制止を無視して身体を燃やしながらエックスへと突っ込んでいく。これぞ相手に組み付いて大爆発する諸刃の剣とも言える技、メビュームダイナマイトだ。

 

 

 「おおおおおおおおおおッ!!」

『「はあああああああああッ!!」』

 

 

 気迫の叫びを放ちながら互いに向かい、衝突すると同時に凄まじい爆発が起きた。その衝撃はヒカリを吹き飛ばし、千歌達にも僅かに届く。

 

 爆発によって発生した煙が晴れた後、彼らの姿は無かった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 歩夢は自室のベッドに寝転がり、蛇のぬいぐるみを抱き締めていた。これはかつて、記憶を失う前の翔琉と一緒にゲームセンターに行った時に彼から取ってもらったものなのだ。翔琉が自分の為に取ってくれたということもあり愛着が強く、サスケという名前まで付けている。

 

 

「翔琉君……」

 

 

 彼のことを思いながら、より強くサスケを抱く。

 

 会いたいという想いが胸の奥から強く湧き上がる。しかし、自分が会いたいのは今の彼では無く前の彼ではないのか?それはつまり今の彼への否定になってしまう。そんなことはしたくない。したくないのだが……。

 

 

「はぁ……」

 

 

 最近ずっと溜め息を吐いてる気がする。自分がどうすればいいのか?彼女は何がなんだか分からなくなって来て、自分を隠す様に布団の中へと潜っていくのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 翔琉と未来は砂浜に叩き付けられた。

 

 

「痛ッ……ぺっ、砂入った……」

《ぐうっ……大丈夫、未来君?》

「ああ……何とか、な……」

 

 

 両人とも痛みに耐えながら身体を起こし立ち上がる。互いに目の前には、自分をこんな目に合わせた相手がいた。

 

 

「この野郎、自爆技とかイカれてんのか?」

「多分だけど、お前程じゃないと思うぞ」

「言うねぇ……」

 

 

 構える2人。そして駆け出して接近。翔琉が右ストレートを放ち、未来がそれをしゃがんで掻い潜り腹に拳を叩き込んだ。

 

 

「つッ……てぇなあ!?」

「ぐおッ!?」

 

 

 翔琉は腕を振って裏拳で未来の頭を叩いた。身体を逸らしたお陰でクリーンヒットこそ避けたが、それでもガンッという音ともに炸裂し、未来はバランスを崩してしまいそうになるがどうにか持ち堪えてもう一度構える。メビウスの力を借り、鍛えた人間も気絶させれるくらいの威力で殴ったつもりだが、翔琉は“痛い”だけで済ませてしまい、更には反撃までしてきた。普通の人間では無いということがひしひしと伝わって来る。

 

 

「やるじゃん」

「お前もな」

 

 

 再び接近しようとした時に足音が鳴った。2人が振り向くとそこには翔琉へ向かって走って跳び、鋭いキックを放つ ったステラの姿があった。腕をクロスして防御したが、彼は数メートル退がることになる。

 

 

「ステラ!」

「アンタ達、本当無茶してくれるわね」

「うぐっ……!?」

《ご、ごめんなさい……》

「まあ、お説教は後にしてあげる。とにかくコイツをどうにかするわよ」

「ああ!」

 

 

 説教はされるのかと思いながらも未来はステラと一緒に翔琉へと駆け出す。2人のタイミングを合わせたパンチが、彼のことを襲った。

 

 

「うおっと!」

 

 

 その攻撃をどうにか躱せた翔琉。しかしステラが前に出て連続で攻撃を仕掛けて来た。技のキレ、スピード、そして威力も未来以上にあり、流石に翔琉も苦虫を噛み潰した様な表情になってしまう。

 

 

「アンタにはいろいろ聞きたい事があるから、殺しはしないでやるわ」

「なるほどね……そりゃどう、も!」

「ッ!?」

 

 

 翔琉は右足を蹴り上げ、その際に砂をステラの顔面へとぶっかけた。突然のことに思わず顔を腕で覆ってしまった彼女。小さい隙ではあるが、付け入るには充分過ぎる。彼はすぐ様に、ステラの横腹に強烈なミドルキックを叩き込む。

 

 

「ぐうぅッ!?」

 

 

 蹴り払われ吹っ飛んでしまったステラ。それを見て、未来が怒りを燃やす。

 

 

「お前、卑怯だぞ!」

「喧嘩に卑怯もクソもあるか!そもそも、2対1やってる奴らに言われたくねぇよバーカ!」

 

 

 割とごもっともな台詞に言い返せない未来。しかしステラがあんな目に遭わされて黙っては居られない。彼は翔琉へと走りっていき、翔琉も対抗して走った。

 

 

「ブン殴る!!」

「やってみろゴラァアッ!!」

 

 

 振り被り突き出された拳同士がぶつかり合い、インパクトを発生させる。翔琉も未来も、その衝撃で数歩背後へと退がっていった。

 

 

「ッ!?この……!」

「チッ!?野郎……!」

 

 

 睨み合う2人。そして何度目かの接近をしようとした……その時である。

 

 

 

 

 

 

 

「ストォォォォォォォォップッ!!!!」

 

 

 2人の間に、千歌が両腕を拡げて立ち塞がったのだ。

 

 

「ち、千歌ぁ!?」

《千歌ちゃん!?》

「おまッ、何やってんだ!?」

 

 

 未来も翔琉も足を止める。

 

 

「一回止まって2人とも!」

「いや、でも!」

「あのなぁ!」

「千歌、貴女何を?」

「と!に!か!く!戦いはやめて!!良いね!?」

「「「………はい」」」

 

 

 千歌の迫力に、翔琉も未来も、再び参戦しようとしていたステラも従うしかなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 地上で激しい戦いが行われている頃、ギロ星人が内浦の地下に作っていた基地に1人の青年が忍び込んでいた。全身黒尽くめの彼は物陰に隠れながら基地内を進んでいく。

 

 

「何か妙な感じがすると思ったら……」

 

 

 彼の名はノワール。あの皇帝と同じ星の出身という過去を持ち、一度はメビウスの力を奪ったこともある。今は皇帝の勢力からも離れ、自由気ままに傍観者の様なスタンスを取っていた。

 

 少し前から感じていた謎の気配。それが何かを知る為に彼はこうしてこの基地に潜入したのだ。

 

 

「皇帝君の部下、では無いだろうね。あんな奴ら知らないし……それに、この気配……」

 

 

 途中通り掛かるギロ星人達を見ながら呟き、彼は更に奥へ進む。ノワールの潜入能力が高いのか、それともギロ星人達がザル警備なのか、彼は問題無く先へと進めていた。

 そして遂には最奥の部屋に辿り着く。そこはかなり広く、司令室でもあり奴らの兵器が置いてある場所でもあった。

 

 

「これはこれは……」

 

 

 入って見上げると同時に、目に映った8体の巨人に彼は思わず笑みを浮かべてしまう。

 

 その内の1体は以前内浦を襲撃した巨人。内6体は赤と銀の光の兄弟達を模した機械人形。

 そして最後の1体は……。

 

 

 

 

 

 

 

「凄いでしょ、アレ」

 

 

 声を掛けられて振り返るノワール。その先にいたのはニコニコと笑っているカタラだ。

 

 

「君は……そうか、君がアレを?」

「ボクはただ素材を提供しただけ。あそこにあるのを造ったのは友達のギロ星人達さ」

 

 

 そう言うカタラに「ふーんっ」と答えながら彼は再び最後の1体を見た。

 

 

 

 

 

 黒い身体には赤い模様が凶々しく描かれ、瞳は燃える夕焼けの様。爪と鶏冠は黄色く塗られて何処かアンバランスな印象を与え、胸にはカラータイマーが紫の輝きを放っている。

 

 

 

 

 

「ニセウルトラマンベリアル、か」

 

 

 

 この星を守った英雄。それを侮辱するかの様な模造品が、そこに仁王立ちしていたのだ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





遂に(?)未来&ステラと翔琉が正面衝突!
激しいバトルとなりましたが如何でしたでしょうか?

ディガルーグ、グロマイト、ケルビムも登場!
この3体もメビライブには未登場のメビウス怪獣になります。ディガルーグは最初から合体状態で出しました。面倒になってしまうので←

翔琉のことを想う歩夢。シーンは短いですが、彼女の心境が伝われば幸いです。

そしてノワール登場!
うちのカタラと少し絡み、そして目の前にはあの巨人の模造品が……。これがどう関わっていくのか、是非お楽しみ!

それでは今回はここまで!
感想、質問、高評価、ここすき、その他、是非是非お待ちしています!


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40.ニセモノ狂想曲


メビライブコラボ4話目です!
遂に奴らと激突!
それではどうぞ!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 内浦のとあるファミレス。そこで睨み合う3人がいた。未来とステラ、そして翔琉。つい先程まで戦っていた彼らは、千歌によってここまで連れて来られてしまったのだ。

 一触即発の雰囲気を醸し出してる彼らだが千歌達がそれをしっかりと抑えており、彼女達はあることを3人に話した……。

 

 

「つまり、俺を襲ったのは偽者のコイツら。で、コイツらを襲ったのは偽者の俺。と言うことか?」

「うん。私達は間違い無く未来君とステラちゃんと戦う翔琉さんのことを見た。でも、ルビィちゃん達が嘘吐いてるとも思えないし、そう言うことなんじゃないかなって思うんだ」

 

 

 翔琉と未来、そしてステラの偽者が暗躍しているとAqoursの皆は考えていたのだ。

 

 

「光の戦士の模造品を生み出し、彼らを惑わせる……これはまさか、天上界からの刺客の仕業か!?」

「善子、ちょっと黙ってろ」

「ヨハネよ!?」

「お前こっちでもそんな感じなんだな」

「そんな感じって何よ!?」

 

 

 善子を適当に遇らってから未来と翔琉は思案する。正直、偽者がいて自分達を混乱させているという考えは都合が良過ぎな気がしてならないのだ。何か証拠の様な物が有れば良いのだが、それも無いので信憑性はイマイチ低い。そもそも、都合良く誰かに化けれる者など……。

 

 

「「居たな……」」

 

 

 呟きがハモる。

 かつて未来の前に、ノワールの指示で彼の両親に化けて現れた2体の異星人が居た。凶悪宇宙人ザラブ星人と暗黒星人ババルウ星人だ。亡くなった両親を利用して心に付け込んで来た卑怯者達。思い出すだけで腹が立ってくる。

 

 一方翔琉も、デスレ星雲人ダイロ達が擬態装着を使って歩夢達の姿となったことを思い出した。その姿で自分を殺そうとして来たのだから本当にタチが悪い。

 

 他者に化ける宇宙人も居るし、擬態する装置もある。そうなると千歌の言葉も否定は出来ない。しかし、やはり先程まで戦っていた相手を急に信じろなどと言われても納得は難しかった。

 

 

「翔琉さん、ルビィ達のことを助けてくれたし、悪い人じゃないと思うんだ」

「きっと、誰か悪い人が3人のことを騙して戦わせてるんだよ!だからもう戦うのはやめて欲しいの……。ウルトラマン同士が戦うところなんて、やっぱり見たくないよ……」

 

 

 ケルビムの火炎弾から庇ってくれたことをルビィが未来達に伝え、それからAqoursの皆の想いを千歌が代表して伝える。みんなのヒーローであるウルトラマンが、同じウルトラマンと敵対し戦っている姿をこれ以上見たくないのだ。

 

 

「………分かったよ千歌」

「本当に黒幕がいるとしたら、そいつの思う壺になるものね。アンタもいいわね?」

「お前らのことはまだ信用出来ねえが、千歌達は別だ。良いぜ、乗った」

 

 

 一先ずウルトラマン同士の戦いを止められた事に、千歌達はホッとして胸を撫で下ろす。

 

 

「で、その黒幕っての何処の何奴だ?てか、何で別宇宙の俺を態々ここに呼んだんだよ?」

 

 

 翔琉の言う通り、彼がこの並行宇宙に呼ばれた理由が解らない。同士討ちさせたいなら未来とステラの2人でやらせればいいのに、何故翔琉も巻き込んだのだろうか。

 

 

「うーん……俺達に恨みのある共通の人物、とか?」

「心当たりがあるのですか?」

「無いわね。皇帝や残りの四天王にしてはイマイチ爪が甘い気がするし」

「ノワールも多分違うだろうな……」

「なあ。皇帝ってもしかして、エンペラとかいう宇宙人か?」

《皇帝を知ってるのかい!?》

「前に戦ったからな」

「「はああ!?」」

 

 

 彼の言葉に未来とステラ、彼らの中にいるメビウスとステラは驚きの声を上げ、他の者達も目を見開いている。

 

 暗黒宇宙大皇帝エンペラ星人。ウルトラ戦士達にとって最大の敵と言っても過言では無い存在であり、今この星を狙っている者。かつてメビウスは奴と戦い、簡単に倒されてしまった。いつか必ず倒さなければならない強敵……それと翔琉が戦ったと言うのだから無理もないだろう。

 

 

《並行宇宙の別個体かなのか……?とはいえあの皇帝が他にも居たとは……》

「そ、それで、どうなったの……?」

 

 

 

 恐る恐るステラが聞く。

 

 

「一回胸に風穴空けられて死ぬかと思ったけど、次の日にボコボコにして潰した」

「「は?」」

 

 

 あははと笑いながら言う翔琉に未来とステラは目を点にし、メビウスとヒカリは絶句している。あのエンペラ星人と戦ったと言うだけでも驚いたのに、それを倒したなど最早意味が分からなかった。

 

 

「ど、どういうことだよそれ!?エンペラ星人を倒したって!?」

「まさかアナタ、究極の光を!?」

「は?何それ?」

 

 

 エンペラ星人を倒すのに必要な究極の光を彼が発生させたのかと未来達は思ったが、翔琉は固めて殴って倒したなどという訳の分からないことをほざいている。

 

 彼が戦ったエンペラ星人は怪獣カプセルで召喚された謂わばダミーの様な物で、その力は本物には到底及ばない。なのでXioとの協力で倒すことが出来たのだ。翔琉はそれを知っているが勘違いしている未来達の反応が面白いので教えず、驚愕してる2人を見て笑っていた。

 

 

「いやー、やり返した時は爽快だったぜ」

「お前って、もしかしてとんでもなくヤバい奴?」

「え、それ失礼じゃない?」

「頭のネジが外れてるのは確かね」

「それ悪口じゃない?酷くない?」

「多分酷くないと思うぞ」

「よーし、お外で喧嘩しようか?」

 

 

 わちゃわちゃとし始める彼ら。さっきまでの険悪で殺伐とした戦いではなく何処か和気藹々としていて楽しそうな雰囲気だ。

 

 それからAqoursと未来達は翔琉から彼のいる宇宙の話を聞いた。彼もまたスクールアイドルと関わっていること、Aqoursが彼のいる宇宙にもいること、でかい割には同じ高校生であること、実は彼が記憶を失っていることなどいろいろな話をして盛り上がる。こちらの宇宙でもAqoursの皆は相変わらず親しみ易い。楽しそうに千歌達と話している翔琉のことを見て、悪い人では無いなと未来とステラも思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ファミレスで楽しそうにしている彼らの姿が、ギロ星人基地の巨大モニターに映されていた。リーダーであるカゼブは眉間に皺を寄せてその映像を見ている。

 

 

「相討ち作戦、失敗したね」

 

 

 笑いながらそう言ってきたカタラに、奴は鋭い目線を飛ばした。

 

 

「黙ってろ」

「どうするんだい?彼らに組まれたら面倒なことになるんじゃないかな」

「そんなことは分かっとる!!お前達!!」

 

 

 カゼブに呼ばれ、兵士であるギロ星人達と未来、ステラ、翔琉の偽者が集まる。因みにこの様子を、ノワールが隠れて見ていた。

 

 

「貴様は兵士を引き連れてコイツらを全員殺して来い!!貴様達は街を破壊しろ!!」

 

 

 翔琉と兵士達にAqoursと未来達の抹殺を、未来とステラに街の破壊を命じ、それに従って彼らは動き始める。メビウス、ヒカリ、エックスの偽者を用意して混乱させ同士討ちさせて倒し、そのままこの地球を征服するという作戦であったが無駄になった。もうこうなれば纏めて叩き潰してやると、カゼブは怒りを露わにしながら奴は部屋を出て行った。

 

 

「あーあ、行っちゃった」

「あの宇宙人、頭が良いんだか悪いんだか分からないね」

「ははっ、同感だ」

 

 

 物陰から出て来たノワールがカタラに話し掛ける。

 

 

「けどいいの?未来君やステラちゃんは君の友達でしょ?」

「残念だけどそうじゃないんだ。というかむしろ嫌われてる。君もだろ?」

「そうなんだよねぇー。ボクは翔琉君や明里ちゃんと友達になりたいのに」

 

 

 

 残念そうな表情をするカタラ。ノワールはそれを見て軽く笑った。

 

 

「そうだ!ノワール君、だっけ?君がボクと友達になってよ!」

 

 

 両腕を拡げて笑顔でカタラはノワールにそう言う。

 カタラのその言葉に、彼も少し困った様に笑っていた。

 

 

「うーん、やめておこうかな?君からは、僕が最も嫌いな力を感じるからね」

「えー、悲しいなぁ。──けど、多分それは君も持ってる力じゃないのかな?」

「……君がみんなから嫌われる理由、少し分かった気がするよ」

 

 

 暫く見つめ合う2人。その目は鋭いものでは無いが、互いに腹の底を探り合ってる様に見える。先に視線を落としたのはカタラ。そしてそのまま基地の出口に向かって歩いて行く。

 

 

「何処に行くんだい?」

「んー、そろそろ楽しいパーティーが始まるみたいだから、そのサプライズの準備かな」

 

 

 最後にノワールへと笑顔を見せた後、カタラは去ってしまった。

 

 

 誰も居なくなった室内でポツンと立つノワール。すると直立していた1体の巨人が動き出し、開いた天上から飛び立った。飛んで行ったのはXである。それを見送った後、他の巨人のことも見ながら彼はカゼブの居た机の所に来る。机の上には、あの6兄弟の姿が描かれているカプセルが置いてあった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もぐっ……究極の……もぐっ……光ねぇ。もぐもぐっ……何か知らんけど、凄そうだな。もぐっ……すいませーん!ステーキ500g下さーい!」

「ええ……もぐっ……それが有れば……もぐもぐ……皇帝を倒せるのよ……もぐっ……すいません、いちごパフェ下さい」

「そうそう。だから俺達はそれを………じゃなくてお前ら食うか喋るかどっちかにしろよ!てか食い過ぎだろ!何杯目だよ!?」

「は?まだ食えるわ。あと1tは食えるわ」

「ほぼ牛一頭ずら」

「地球じゃ甘い物は別腹って言うんでしょ?」

「Yes!ステラの言う通りよー!という訳でこのチョコレートケーキPlease!」

「限度がありますわ!鞠莉さんも食べ過ぎです!」

 

 

 そんなこんなで楽しく過ごしていた12人。

 

 

「あ、そうだ。これアナタのでしょ?」

 

 

 ステラが翔琉に渡して来たのはサイバーゴモラのカードだ。

 

 

「ゴモラ!?え、何でお前が?」

《君が墜落したと思われるアパートにあった。恐らく墜落時の衝撃で落としていたのだろう》

「まじかぁ……サンキュー!いやー、助かったぜ。アイテム失くしたり取られたりするとかウルトラマンとして無いもんな」

《………そう……だな……》

《どうしたのヒカリ?》

「何か歯切れ悪いぞ?」

《いや、別に……》

 

 

 首を傾げる未来とメビウス。

 そんな時、突如ファミレスの窓ガラスが大きな音と共に割れ、いくつものレーザーが店内を襲った。

 

 

「何だ!?」

「きゃああああ!?」

「伏せて!」

「いやあああ!?」

「ピギィィィィ!?」

「おっと」

 

 

 皆や店内にいる人達は突然の事態に驚いてしゃがみ、テーブルや椅子の下などに隠れる。何が起こったのかと思い顔を覗かせる翔琉と未来。彼らが見たのは、複数の光線銃を持ったギロ星人兵士達を引き連れている翔琉、未来、ステラの姿であった。

 

 

「なッ!?俺達!?」

「おいおいおいおい……マジで偽者かよ……!」

 

「フンッ、やれ」

 

 

 ニセ翔琉はニヤリと笑い、ギロ星人達に指示を飛ばす。奴らは再び光線銃を撃ちまくる。

 

 

「うわっ!?」

「危なッ!?」

 

 

 レーザーは店内を破壊していき人々に恐怖を与えていった。どうにかして止めなければ、このままでは重傷を負う人や死者まで出てしまうかも知れない。

 

 

「クソがぁぁ……!」

 

 

 右手で固定されているテーブルの足を掴んだ翔琉はそれを引っこ抜き……。

 

 

「いい加減にしろやああああああああ!!」

 

 

 ギロ星人達に向かってぶん投げた。テーブルは数人のギロ星人に激突し、周りも驚き奴らの攻撃が止まる。

 

 

「いくぞ!」

「無茶苦茶だな……!よし!」

「ええ!」

 

 

 3人は割れた窓から飛び出し、翔琉とステラは一気にギロ星人達へと接近。ステラがブレードで次々と兵士達を斬り、翔琉は殴り蹴り投げ飛ばし、兵士達を叩きのめしていった。

 

 

「チッ……ッ!?」

「このおおおッ!!」

 

 

 未来は偽者の3人へと殴り掛かった。奴らはそれを後ろに飛んで躱す。

 

 

「お前達、一体何が目的だ!?」

「目的?そんなの決まってる、貴様らの抹殺だ!」

「同士討ちしてくれれば楽だったんだが仕方ない。我々が直接殺してやろう!」

 

 

 そう言ってニセ未来とニセステラは手を腕に挙げる。すると2人は眩いフラッシュと共に巨人にへと姿を変えた。ニセウルトラマンメビウスと、ニセハンターナイトツルギが内浦の地に立つ。店から出て来たAqoursのメンバー達はそれを見て驚愕する。

 

 

「メビウス!?」

「違うよ、目つきが悪い……真っ赤な偽者だよ!」

「あれもヒカリに似てるけど、ヒカリじゃない!」

 

 

 2体の偽者は踵を返し、街の破壊を開始。腕を下ろし、足を振り上げてビルを壊していく。

 

 

「くっ!うお!?」

 

 

 未来へ向かってニセ翔琉が蹴りを放ってきた。何とか躱せたが奴は更に攻撃を続けていき、その一撃が彼の腹にヒット。表情を歪ませながら未来は吹っ飛ばされてしまった。

 

 

「ぐううっ!?」

「未来ッ!?」

 

 

 剣を振り下ろしてギロ星人を真っ二つにしてから、ステラは倒れた未来へ駆け寄る。

 

 

「大丈夫?」

「あ、ああ……!」

「今まで街を守ってきたウルトラマンが街を破壊する……傑作だと思わないか?人間共は恐怖と絶望をしながら死んでいくだろうなァ!」

「お前、ふざけるな!」

 

 

 ニセ翔琉は下賤な嗤い声を出しながらまた彼らに向かって行こうとする。しかし、そんな奴に何かが飛んで来てぶつかり足を止めた。地面に落ちて転がったソレはギロ星人の頭。本物の翔琉が捥ぎ取ったその頭を投げたのだ。

 

 

「俺のイケメンフェイスでつまらんこと言うなよ。殺すぞ?まあ、殺すけど」

 

 

 既にギロ星人の兵士達は全滅しており、翔琉は指をボキボキと鳴らしながらニセ翔琉へと歩いていく。転がってる頭や割りと凄惨なギロ星人達の死体を見て、未来とステラは若干引いていた。

 

 

「お前らはお前らの偽者叩き潰して来い。コイツは俺が相手してやる」

「分かった。気を付けろよ」

「助かるわ」

 

 

 未来とステラはニセメビウスとニセツルギが暴れている方に向かって走る。ニセ翔琉はそれを追おうとするが、翔琉がその前に立ち塞がった。

 

 

「相手は俺だ偽者」

「チッ、死ねえええッ!」

「お前がな」

 

 

 襲って来るニセ翔琉。その攻撃を翔琉は回避していき、向かって来た拳を払ってから腹を殴り、怯んで屈んだ奴の頭へと踵落としを放った。

 

 

「グハぁッ!?」

 

 

 クリーンヒットした一撃に千鳥足となる。そこへ更に回し蹴りを叩き込んで吹っ飛ばした。

 

 

「何だ?俺の癖に弱いぞ」

「お、おのれぇ!」

「ほらほら、もっとやる気出しな」

 

 

 フラフラしながら立ち上がるニセ翔琉のことをケラケラと笑う。それから彼らは再度接近して殴り合うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メビウーーース!!」

 

 

 偽者達の前に本物が立つ。

 

 

『お前達、一体何者だ!?』

「クックックッ……俺はメビウス、そしてコイツはヒカリだ」

「ヒカリじゃなくてツルギでしょ?そんなことも知らないのアンタ達?」

「ケッ、生意気な小娘だ」

「生意気なのはお前達だろ!俺達の姿で好き勝手しやがって……!」

『早く倒そう、ヒカリ!』

 

 

 本物が走り出し、偽者もそれに対抗。

 メビウスのパンチをニセメビウスは受け止め、逆にパンチを放った。拳はメビウスの顎を捉えて数歩後退させる。

 

 

『ううッ!?』

「フンッ!」

 

 

 フラつく彼へとニセメビウスは再度接近して殴り掛かるが、メビウスはその手を取って一本背負いを決めニセメビウスを地面へと叩きつけてしまった。

 

 

「偽者なんかに負けるかよ!」

 

 

 

 

 ヒカリとニセツルギは光剣で何度も打ち合った。振われる剣はぶつかる度に火花を散らしていく。足下に剣を振るったニセツルギ。ヒカリはそれを跳躍して回避し、その際に奴の胸に蹴りを叩き込んだ。

 

 

「ぐううぅ!?」

「その程度?舐めてるのかしら」

『この程度実力で私の名を語るとは。笑止千万だ』

 

 

 地を蹴り、退がったニセツルギに更に剣を振るう。激しい剣撃は奴のことをどんどん追い詰めていき、遂には光剣を弾き飛ばした。

 

 

「しまっ……!?」

『終わりだ!───があッ!?』

 

 

 トドメを刺す為に剣を振り上げたヒカリ。しかしその時、彼の背中に何かが炸裂した。振り返るとそこには、Xの姿があった。

 

 

「X……!翔琉達は!?」

 

 

 本物か偽者のどちらが変身したのかと思い、ステラは彼らが戦っていた場所に目を向ける。すると彼らは未だに戦っているのが見えた。

 

 

「は?どゆこと?」

『どういうことだ?』

「あのXは偽者が変身したものじゃないの?」

 

 

 ニセ翔琉が偽者のXに変身してるのだと思っていたステラ達、そして翔琉も予想外のことに困惑。その隙に、ヒカリヘXとニセツルギが襲い掛かって来た。

 

 

『ぬうッ!?』

 

 

 攻め立てて来る2体の偽者。不意を突かれた事もあり、ヒカリは段々と圧されていった。ニセツルギの蹴り、Xの拳が彼に叩き付けられて後退する。

 

 

『ヒカリ!?ぐあ!?』

「余所見をするな!」

 

 

 気を取られたメビウスにニセメビウスのメビュームスラッシュが当たり火花を散らした。

 

 

「メビウス、まずはコイツから倒そう!それからステラ達を助けに行くんだ!」

『わ、分かった!』

 

 

 メビウスはブレスから爆炎を発生させ、それを自身の身体に刻む。未来とメビウス。決して途絶えぬ2人の絆が産んだ最強の炎・メビウスバーニングブレイブだ。

 

 

『「いくぞ!』」

 

 

 構えるメビウスに、少し驚きながらもニセメビウスは接近してパンチを放った。メビウスはそれを払い、拳を素早く2発続けて叩き込んだ。痛烈な打撃に退がるニセメビウス。彼は更に踏み込んで火炎を纏ったパンチで偽者を殴っていった。

 

 

 

「があッ!?ぐほぉ!?ぐうう!?ぎえぇッ!?」

『フッ!ハッ!セアアアアアッ!!』

 

 

 フィニッシュブローが炸裂。ニセメビウスは思いっきり吹っ飛んで地面に伏し、その姿が変化する。ニセウルトラマンメビウスの正体はやはりザラブ星人だった。

 

 

「やっぱりお前かよ」

『僕達の姿を利用した事、絶対に許さない!』

「ぬ、ぬうぅぅッ!許さないは私の台詞だぁ!」

 

 

 立ち上がり吠えるザラブ星人。メビウスは燃え盛る光剣をブレスから伸ばし構えた。ザラブ星人は目から光弾を放って攻撃するが、メビウスは剣を振るってそれを斬り落としていきながら進み、スレ違い様に斬り付けた。

 

 

「がああああああああ!?」

 

 

 斬られた箇所より血を噴き出しながら、ザラブ星人は絶叫。そしてメビウスのことを睨み付ける。

 

 

「貴様ぁぁぁ!?」

 

 

 振り返り手から稲妻状の破壊光線を放った。だがメビウスはその攻撃も剣で斬って打ち消してしまう。

 未来とメビウスの瞳は、目の前の凶悪宇宙人のことを確実に捉えていた。彼らは高く空へと飛び上がり、右足をザラブ星人に向けてから急降下。奴はメビウスへと光線や光弾を放つが彼は高速回転してそれらを弾き、火炎を纏った強烈なバーニングメビウスピンキックを炸裂させる。ザラブ星人は悲鳴を上げながら後方へと吹っ飛んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 ニセツルギとXの攻撃がヒカリとステラを攻める。流石2体掛かりではヒカリ達も厳しい。ニセツルギのローキックが彼の足に当たって動きを鈍らせ、そこにXの前蹴りが炸裂。ヒカリは倒れてしまった。

 

 

『ぐあぁ!?』

「くっ……この……!」

 

 

 倒れたヒカリに2体の偽者が迫っていく。このままでは彼が危ない……。しかし彼らの間に閃光が煌めき、その中から咆哮と共に1体の怪獣が現れた。青い身体に2本の角、大きな爪、強靭な尻尾。あの時拾った翔琉のカードに描かれていたサイバーゴモラがヒカリ達を守る様に偽者2人の前に立ち塞がった。

 

 

「これは……!?」

「頼むぜゴモラぁ!」

 

 

 ニセ翔琉と戦いながら、ステラ達を助ける為に翔琉はサイバーゴモラを召喚したのだ。サイバーゴモラの方を向いてる彼のことを偽者が背後から殴ろうとするが、翔琉はしゃがんで回避。それから振り返って顔面を殴り飛ばした。自分の顔を殴れるというなかなかのイカれっぷりにニセ翔琉も驚いている。

 

 

「お、お前、狂ってるのかぁ!?」

「失礼だなぁー。潰す」

 

 

 更に接近して組み付き、膝蹴りを連続で叩き込む。それから再び思いっきり殴った。倒れて転がっていったニセ翔琉はその姿を本来の物に変化させていく。

 

 

「い、いでぇぇぇええ!?」

「うわ、何お前?」

 

 

 巨大な虫の様な二足歩行の宇宙人。変身怪人アンチラ星人こそが奴の正体なのだ。

 

 

「なるほど。自分がブサイクだからイケメンの俺に化けてたって訳か。その気持ちは分かる。お前凄くブサイクだもんな。救い様ねえレベルでな。そして俺はイケメンだ。凄まじくイケメンだ。どうやらめちゃめちゃモテるらしい。てかモテてる。お前とは雲泥の差、月とスッポン、次元が違う。でもまあ、だからってあんまり良く無いと思うぜ。やっぱちゃんと自分の顔で勝負しなきゃダメだよ。人の皮被るなんてダメダメ。それに顔が死ぬ程気持ち悪くて吐き気を催すレベルのものでもちゃんと自信を持たなきゃ。ほら、ファイトファイト最悪レベルのクソカスゴミブサイクさんよ」

「ふ、ふざけるなあああああああああ!!!!」

 

 

 翔琉の煽りと悪口にブチギレて立ち上がり向かっていくアンチラ星人。爪を振るうが簡単に躱されてしまいまた殴られ、そして蹴り飛ばされた。

 

 

「ぐうううっ!?」

「んじゃ、消えろ」

 

 

 胸の前で手をクロスして拳を握り締め念力を発動。アンチラ星人は頭を押さえて苦しみの声を上げる。

 

 

「ギギギィィィ!?グギィィィ、ギャァアアアッ!?」

 

 

 体内で爆弾を爆発させたかの様にアンチラ星人は粉々となり肉片を辺りにばら撒いてしまうのであった。

 

 

「意外と呆気なかったな。さて……偽者には退場してもらうか」

 

 

 翔琉はエクスデバイザーを取り出しサイバーゴモラと戦ってるXに目を向ける。それから彼はデバイザー上部のスイッチを押してウルトラマンエックスへと変身を遂げた。

 

 

《X UNITED》

 

 

 

 

 

 

 

 

 立ち上がりサイバーゴモラに並ぶヒカリ。

 

 

「いくわよ、ゴモラ!」

『フンッ!』

 

 

 偽者達に向かってヒカリとサイバーゴモラが駆け出した。

 ヒカリのナイトビームブレードがニセツルギに振われる。ニセツルギはどうにか躱しているがその鋭い技のキレに追い詰められ、その一振りが胸を斬り付けた。

 

 

「がッ!?」

『ハァッ!』

 

 

 素早い剣撃が更にニセツルギを襲い、大きく振るった光剣が奴のことを吹き飛ばした。地面を転がったニセツルギは、本来の姿であるババルウ星人に戻っていく。

 

 

『やはりババルウ星人か』

「ぎぃぃ……!?お、おのれぇ!」

 

 

 胸を押さえながら立つババルウ星人はヒカリを睨む。その眼光をヒカリは気にせず涼しい顔で見返している。刺又を手にしてそんなヒカリへと駆け出すババルウ星人。奴は何度も刺又を突き出すが、彼はそれを剣で全て受け流していった。

 

 

「くっ!このぉぉぉ!」

『甘い!』

 

 

 突き出された刺又を、光剣で受け止めてから捻り弾き飛ばした。驚いているババルウ星人にヒカリのストレートキックが炸裂して吹き飛ばしてしまった。

 

 

「ぎゃっ!?」

『貴様の様な偽者に、アーブの鎧を纏う資格は無い!』

「な、何が資格だ!?力なんてのは、強い奴が使う物なんだよぉ!」

「違うわ。ただ強いだけじゃない。力っていうのはね、誰かの為に戦える優しい心を持つ者にこそ相応しいのよ。それを教えてあげる!」

 

 

 眩く暖かい光がヒカリにへと集まっていき、それが鎧となる。復讐の為でなく、大切なものを守る為に戦う勇者の鎧・アーブギアを纏ったハンターナイトツルギに姿を変えてババルウ星人の前に立った。

 

 

「なぁ……!?そ、それがどうしたぁぁ!」

 

 

 鎖分銅をツルギへと飛ばす。その先がツルギに当たりはしたが、鎧に弾かれて地に落ちた。焦りながら光弾を放って攻撃するのだが、ツルギはそれをものともせずババルウ星人に向かって歩いていく。

 

 

「ぐうぅ……!うああああああ!」

 

 

 近付いて来るツルギに恐怖を感じ、ヤケクソで腕のカッターで切り掛かった。だが勿論、それも彼の鎧に通じる事は無い。

 

 

『フンッ!ハァッ!』

 

 

 ババルウ星人の腕を払い除け、光を纏った拳を叩き込んで吹っ飛ばしてしまった。

 

 

 

 

 

 Xが腕から光弾を放ってサイバーゴモラを攻撃するが、爪を盾にして防ぎながら突き進んでいく。そして接近して体当たりを打ちかました。

 

 火花を散らしながら後退するXへ、サイバーゴモラは尻尾を叩き込む。横殴りに強烈な一撃を受けたXは吹っ飛んで転がっていく。立ち上がろうとする奴にサイバーゴモラは再度突っ込んでいき、それに対してXは腕を前で合わせて光線を放った。光線は地面を抉りながらサイバーゴモラへと向かって直進。

 

 しかし何と、サイバーゴモラは尻尾で地面を叩いて大きくジャンプしてその光線を躱してしまった。そしてサイバーゴモラは空中から落下していく勢いでXに接近して爪を突き出した。その一撃はXの左目付近に炸裂して奴を吹き飛ばしてしまった。咆哮してからサイバーゴモラは倒れたXに眼光を飛ばしており、そこに翔琉が変身した本物のエックスが並ぶ。

 

 フラフラしながら立ち上がったX……その顔を見て彼らは驚く。サイバーゴモラの攻撃を受けた左眼から頬に掛けての部分が欠けており中身が露出していたのだ。赤く光る目、火花を散らす機械。この偽者・ウルトラマンXの正体はギロ星人達によって造られたロボットだったのだ。

 

 

「げっ、マジか」

「アイツ、ロボットだったのか!?」

「だから翔琉の偽者とは別に存在してたのね」

 

 

 それぞれの偽者に化けていた宇宙人と戦っている未来とステラもXのことを見て驚いている。Xは体色が赤から青に変色し、不気味な声を上げてからエックスに突っ込んで来た。

 

 

「気持ち悪いなこの偽者がァ!」

 

 

 エックスも走って接近し、その腹部に喧嘩キック叩き込む。数歩退いたXにすぐ近寄って頭を掴み、そこへ頭突き。更に顔面へのフックやボディーブロー、一回転して勢いを付けてからの裏拳と、絶え間無く、そして容赦無くXのことを攻めていった。

 

 

「失せな木偶人形!」

 

 

 エネルギーを纏ったチョップを叩き込んで吹っ飛ばす。

 敢えなく宙を舞って地に落ちたX。そこにザラブ星人とババルウ星人も飛ばされて来た。

 

 

「おーし」

「そろそろ終わりにしましょうか」

『ヒカリ、翔琉君!』

『2人とも、いくぞ!』

「ああ!本物の力、見せてやる!」

 

 

 並び立った3人のウルトラマン。自分達の名を勝手に語った不埒者達を倒す為に必殺技の体勢に入る。

 

 

《ULTRAMAN MAX LOAD》

 

 

 ウルトラマンマックスのサイバーカードをロード。それにより召喚されたマックスギャラクシーを右手に装着し、エックスはそれを撫でる。そして光の刃にエネルギーを収束し、そのまま前に突き出して光線としてXに放った。

 

 気迫の声と共に目の前に巨大な燃え盛る火球を形成。その火球をザラブ星人に向けて両腕で思いっきり押し出す。

 

 右腕をナイトブレスを高く突き上げてエネルギーを溜め、それを胸の前まで持って来た後両腕を十字に組んで構えて虹色の光線をババルウ星人目掛けて放出した。

 

 

 エックスのギャラクシーカノン、メビウスのメビュームバースト、ツルギの強化されたナイトシュートが奴らに命中。凄まじい爆発と共に、3体は消滅するのであった。

 

 

「やったー!」

「勝ったね、千歌ちゃん!」

「凄い!」

「やったね!」

「ウルトラマンの勝利ですわ!」

「Oh!Victory!」

「やったずらぁ!」

「流石はヨハネのリトルデーモン!」

「良かったぁ!」

 

 

 戦いを見ていたAqoursの皆も歓喜してウルトラマン達に手を振っており、それに対して彼らは頷いたり手を振り返したりしている。これで後は奴らのバックにいる黒幕を叩くだけ。そう思い一度飛び立とうとした時であった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───フハハハハハッ!!

 

 

 

 

 笑い声と共に凄まじい爆音と土煙が上がる。そしてその土煙の中から黄色い雷撃が出てウルトラマン達を襲う。

 

 

『うあああああ!?』

「がああああああ!?」

『ぐうううッ!?』

「ううっ!?」

「ぐおおお!?」

 

 

 想定外の攻撃に、彼らは吹き飛ばされて倒れる。何が起こったのか理解出来ず困惑する5人。そんな彼らへと紫色の光線が一直線に迫って来ていた。

 

 

「不味い……!?」

「やばッ」

 

 

 喰らえば確実にひとたまりも無いであろう光線。しかしそれを受けたのはウルトラマン達では無く、彼らを庇う様にして立ち塞がったサイバーゴモラであった。サイバーゴモラはそれに耐え切れず、爆発して消滅してしまう。

 

 

「ゴモラ!?」

『一体、何が……!?』

 

 

 雷撃と光線が飛来した方向に目を向ける彼ら。煙りが晴れていき、そこに立つ1体の巨人の……ウルトラマンの姿が見えて来る。

 

 

『な……!?あれは!?』

「嘘でしょ……!?」

『バカな!?何故……!?』

「そんな……あれは……あのウルトラマン(・・・・・・)は……!?」

 

 

 メビウス、ステラ、ヒカリ、そして誰よりも未来が現れたそのウルトラマンの顔を見て驚愕する。何故ならそれは皇帝の配下として戦わせられおり、いつか倒さなければならない相手。そして何より、自分にとって英雄と言える憧れのヒーローだったからだ。その英雄が、歪んだ様な黒い肉体を太陽に晒して彼らの前に立ち嗤っている。きっとアレも偽者なのだろうが、肌で感じる気配が紛れも無く奴であると伝えていた。

 

 

「知ってんのか、あの黒いの?」

 

 

 エックスの問い掛けに、未来は苦虫を噛み潰した様な表情になりながら答えた。

 

 

「ベリアル……ウルトラマンベリアルだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニセウルトラマンベリアル。ベリアルの細胞より産まれたその怪物は、ウルトラマン達へと突き進んでいくのであった───

 

 

 

 

 

 

 

 

 






翔琉と未来達の誤解も解け、力を合わせてニセウルトラマン達を撃破!

ニセウルトラマンメビウスの正体は勿論ザラブ星人。ヒカリと名乗っていたニセハンターナイトツルギの正体はやはりババルウ星人でした。
ニセ翔琉の正体はアンチラ星人。「ウルトラマンA」に登場した宇宙人です。そしてウルトラマンXと呼ばれていたロボット。実はは「ザ☆ウルトラマン」に登場したにせウルトラマンジョーニアスが、別名でウルトラマンXと呼ばれていたことが元ネタになっています。なのでこれだけ元ネタのある半オリジナルみたいな感じになってます。

メビウスバーニングブレイブやアーブギア、マックスギャラクシーの力で偽者達を倒した彼ら。しかしそこへニセウルトラマンベリアルが強襲!
カタラがギロ星人カゼブに渡した細胞。それこそがベリアルの細胞だったのです。

メビライブ世界において最初に地球に降臨し人々を守ったベリアルを愚弄するかの様な存在……果たして彼らはそれにどう立ち向かうのか?次回をお楽しみに……。

それでは今回はここまで!
感想、質問、高評価、ここすき、その他、是非是非お待ちしています!



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41.途切れないキズナ



お待たせしたんご!!
メビライブコラボも遂に大詰め!!


 

 

 

 

 

 

 

 ギロ星人カゼブの怒りは頂点にまで達していた。モニターに映されているのはメビウスに叩きのめされてるザラブ星人、ツルギに斬り伏せられてるババルウ星人、翔琉に惨殺された兵士達とアンチラ星人、サイバーゴモラに攻められ更にエックスに弄ばれてるX。自分の配下達が悉くウルトラマン達に敗れていく。この星を、そして宇宙を支配する為に準備して来たというのに、これでは全て無駄になってしまう。

 

 

「こうなればァ……!」

 

 

 カゼブは懐から取り出した機械のスイッチを押した。すると直立していた黒い巨人にエネルギーが送られ、奴が遂に動き出す。

 

 ニセウルトラマンベリアル。カゼブがカタラより受け取った高純度のベリアル因子より産み出された人造ウルトラマンだ。覚醒したニセベリアルは、状況を確かめる様に自身の手や身体、周りを見回している。

 

 

「成功だー!最強最悪のウルトラマン、ベリアルの力が今!私の物にィィィー!!」

 

 

 ニセベリアルの完成に歓喜するカゼブ。一方、それを見て残っていた配下達は何か嫌な予感を感じているのか不安そうだ。

 

 

「だ、大丈夫なのでしょうか……?」

「問題無い。ベリアル因子の量は計算済。暴走せず、そして私の命令を忠実に聞き、あのウルトラマンを殺せるだけの力をコイツは持っているのだ!」

 

 

 高笑いをするカゼブであるが、配下達は不安を拭い切れないのか困惑している。一方ニセベリアルは黄色い爪で隣りに立っていたロボットのニセウルトラ6兄弟の1体であるニセウルトラマンを小突いていた。彼はまだ産まれたばかりであり、赤子の様なものなのだ。

 

 

「コイツさえあれば、この宇宙は我々ギロ星人の物となる!皇帝とやらも、私の足下に跪かせてやる!!」

 

 

再び大笑いするカゼブ。このニセベリアルさえ居ればどんな相手にも負けることは無い。更にウルトラ六兄弟のロボットもある。最早あのエンペラ星人も敵では無いと彼は考えていたのだ。

 

 

 

 だがそんな時、突如黒い光球が飛んで来てニセベリアルのカラータイマーに当たる。光球はカラータイマーにへと吸収されていき、奴の身体に紫電が走った。

 

 

「な、何が!?」

 

 

 その光景を見て驚くカゼブと配下達。振り向くとそこには、手を突き出したカタラの姿が。

 

 

「き、貴様何をしたァ!?」

「何って、ベリアル因子をあげたんだよ。もっとらしく(・・・)なるように、ね」

 

 

 数度痙攣した後に、ニセベリアルの爪が先程より巨大化。そしてその爪でニセウルトラマンを叩いて倒した。

 

 

「なぁッ!?や、やめろベリアル!?何をしているのだ!?」

 

 

 焦るカゼブは命令するが、ニセベリアルはそんな彼のことを無視して暴れ回る。ニセセブンの腕を捥ぎ取って投げ捨て、ニセジャックを蹴り飛ばし、倒したニセエースのカラータイマーを踏み抜き、爪を振ってエネルギー刃を飛ばしニセタロウを切り裂く。更にニセゾフィーのカラータイマーを腕で貫いてから、それを振り投げ飛ばした。

 

 奴が暴れることで降り注ぐ基地の瓦礫やニセウルトラ6兄弟の残骸に、逃げ惑っていた配下達が次々と押し潰されていく。その後もニセベリアルは執拗にニセウルトラ6兄弟を破壊する。

 

 

「やめろ……やめるんだ!わ、私の計画がぁ!?」

「あははっ、流石はベリアル。ウルトラマンのことはやっぱり嫌いみたいだね」

「カタラァ!!貴様一体何のつもりだ!?何故こんなことをォ!?」

 

 

 カタラへと叫ぶカゼブ。怒り心頭に発している彼のことを見て、カタラは柔かに笑った。

 

 

「これはボクの遊びなんだ。だから、あのニセベリアルはちゃんと完成してもらわないと困る。中途半端だなんてダメだよ」

「ど、何処が中途半端だ!?あのニセベリアルは私の最高傑作だぞ!!」

「力をセーブした様なモノが最高傑作だなんて……君つまらないこと言うんだね」

「つまらない!?この私が!?」

「まあ、形を造ってくれただけでも感謝感謝だ」

 

 

 ニセベリアルは天井に向けて光線を放った。光線は天井を貫いて地上に土煙を巻き上げ、更に巨大な穴を空ける。その穴からニセベリアルは地上へ向かって飛び出した。

 

 

「私の……私のベリアルが……!?」

「残念。彼はもう君の物じゃない」

「ふざけんな!!アレは私が造り出した、私のベリアルだぞォォ!!」

「違うよ。ボクの玩具だ」

 

 

 いくつもの瓦礫がカゼブの頭上に落下して来る。奴は悲鳴を上げながらそれに呑まれていった───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 地上に現れたニセベリアルはビルを薙ぎ倒し、笑いながらウルトラマン達へと向かう。

 

 

「何だよアレは……!?」

 

 

 驚く彼ら。ニセベリアルはメビウスに掴み掛かり、そのまま押し倒して引き摺って背中を卸していく。

 

 

『ぐあああ!?がああ!?』

「うぐぅぅぅぅ!?」

 

 

 道路を削り、車を弾き飛ばし、ビルを倒しながらニセベリアルはメビウスを引き摺り、そしてそれから彼のことを投げ飛ばした。メビウスは更に地面を滑って往き、数百メートル進んだところで漸く止まる。

 

 

「未来!?」

『メビウス!?この……!」

 

 

 ツルギがナイトビームブレードを伸ばしてニセベリアルに斬り掛かる。しかしニセベリアルは闇のエネルギーを纏った爪を振るってその光剣とぶつける。その後剣と爪はぶつかり合うがニセベリアルのパワーの前にツルギは押されていき、遂には爪の一撃をまともに喰らってしまった。

 

 

『がああああッ!?」

「ううっ!?」

 

 

 吹き飛ばされてマンションを押し潰しながら倒れるツルギ。アーブギアが解除され、ヒカリの姿に戻ってしまう。

 

 

『くっ……!?』

 

 

 倒れたヒカリに向けて、ニセベリアルは腕から雷撃を放った。迫る雷撃。だが彼の前に、ベムスターアーマーを纏ったエックスが立ち塞がり盾で雷撃を防いだ。シールドに奴の放った雷撃が吸収されていく。

 

 

「お返しだァ……!ベムスタースパウト!」

 

 

 盾から吸収増幅した雷撃をニセベリアルへと放った。光の力がプラスされた雷撃が炸裂し奴は爆風の中に呑まれていった。

 

 

「や、やったの……?」

「おい馬鹿それフラグだぞ!」

 

 

 翔琉の心配した通り、無傷のニセベリアルが爆風を突き破って現れ、エックスに蹴りを叩き込む。盾で防ごうとしたが、奴の強烈な蹴りはそれごと彼を吹っ飛ばしてしまった。

 

 

「だああッ!?この野郎……舐めんなよ!」

『くっ!』

 

 

 起き上がったエックスとヒカリはニセベリアルへと攻めていくが、奴は彼らの攻撃を全て受け止め躱し、逆に強烈な打撃を喰らわせて来た。2人のウルトラマンはどうにか喰らい付いていこうとするもニセベリアルのパワーの前にどんどん追い詰められていく。

 

 一方、メビウスと未来は苦痛に表情を歪ませながらもなんとか立ち上がっていた。見つめる先にいるのは2人を蹂躙するニセベリアルの姿。

 

 

「メビウス……アイツは……」

『恐らく、ベリアルのクローンだと思う。ザラブ星人達を従えて、Xを造った黒幕が産み出したんだ』

 

 

 未来は爪が食い込む程に拳を握り締めた。今は敵の手に堕ちていても、彼はかつてこの町を救った英雄なのだ。そのクローンを産み出し、そしてそれにこの町を破壊させるなど到底許せる行為では無い。彼らは立ち上がり、燃える瞳で奴のことを睨む。

 

 

「絶対に……許さない!!」

 

 

 腕を十字に構え、炎を纏ったメビュームシュートを放つ。光線はニセベリアルの右肩口に当たり猛烈な火花を散らした。その隙に、エックスとヒカリはメビウスの元へと駆けていき並んだ。

 

 

「何だあの黒いの……お前ら知り合いか?」

『知り合いの偽物……ってところかな……』

「あー……いろいろ複雑な感じ?」

『察してくれて助かる』

 

 

 光線を受けた場所を叩くニセベリアル。肩を軽く回し、笑い声を漏らしながらウルトラマン達に目を向ける。

 

 

「未来」

「分かってる。取り乱しはしないから」

 

 

 ニセベリアルへの怒りは強く膨らんでいくがそれに心を乱されることは無い。未来は湧き上がりそうになる憎しみを抑えて冷静に奴のことを見ていた。

 

 3人のカラータイマーは既に警告音を発しており、彼らの限界が近いことを知らしている。早急に片を付けなければ危険だろう。

 

 

『時間も無い。急いで決着をつけるぞ』

『うん。翔琉君も、いける?』

「上等だ。誰に物言ってやがる?サクッと終わらせてやんよ」

 

《ULTRAMAN ZERO LOAD》

 

 

 メビウスとヒカリはブレードを伸ばし、エックスはウルトラマンゼロのカードを読み込んでゼロツインソードを構える。すると、ニセベリアルは叫びながらエックス目掛けて一目散に突っ込んで来た。

 

 

「はぁ!?ちょ、わっ!?」

 

 

 突き出された爪を半月状の剣で受け止めるが、後ろにへと後退させられてしまう。更に何度も振り下ろされていく爪には先程よりも苛烈で、まるで怨みでもあるかの様だ。エックスはどうにか防御しているが全てを防ぐことは出来ず、どんどん追い詰められていく。

 

 

「翔琉!?」

「どうしたのよ急に……!?」

 

 

 唐突にエックスのことを激しく攻め始めたニセベリアルに驚きながらも、メビウスとヒカリは奴を止める為にその背を剣で切り付けた。ニセベリアルは一瞬だけ動きを止めたが、振り向き様に手に精製した円型の鋸・デス光輪を投げた。光輪は2人のウルトラマンを切り裂き転倒させた。それによりメビウスは元の姿へと戻ってしまう。

 

 

『があッ!?』

『ぐうッ!?』

「この……喰らえ!」

 

 

 背を向けたニセベリアルにエックスはゼロツインソードを振り下ろす。しかし奴はそれを見向きもせずに手で止めてしまった。

 

 

「何!?───がはッ!?」

 

 

 そして剣を払い退け、エックスの腹部に鋭い爪を深々と突き立てた。激痛が彼を襲い、剣がその手から溢れ落ちる。ニセベリアルは彼のことを押して爪を食い込ませていく。

 

 

『嗚呼!?』

「アイツ……!」

 

 

 爪を引き抜こうとするニセベリアル。しかしその手首を、エックスががっちりと掴んだ。

 

 

「捕……まえ……たッ!」

「アンタ、何やってるの!?」

「俺ごと撃て!!早く!!」

 

 

 彼の言葉に衝撃を受ける未来達。確かに今、大技を撃ち込めば奴を倒せるかも知れない。しかしそんなことをすればエックスが、翔琉がどれだけのダメージを受けることになるか……。

 

 

『そんなこと出来ない!危険だ!』

『よせ、翔琉!』

「離れなさい!」

「うるせぇ!!ぐぅっ!?……どうせコイツ倒さなきゃ……全員死ぬんだ……!なら形振り構ってられるかよ……!」

 

 

 ニセベリアルはもう片方の手で何度もエックスを殴るが彼は決して離れない。何としてでもここで奴を倒すつもりなのだ。歯を食いしばり、必死にニセベリアルに組み付いている。

 

 

「……やろう、みんな。翔琉の想い、無駄には出来ない」

「ッ……わかったわ……」

 

 

 メビウスとヒカリはエネルギーをチャージして腕を十字に組んで光線を同時に発射。重なり威力を増した光線はニセベリアルに直撃し、エックスを巻き込んで大きな爆発を起こした。

 

 

「翔琉!!」

 

 

 爆煙を見つめる未来達。その中から、エックスが飛び出してメビウス達の所へ転がって来た。

 

 

『翔琉君、大丈夫!?』

「ああ……生きてる……」

「貴方、結構丈夫なのね」

「それも取柄の一つなんでね……イテテッ、手ぇ借してくれ」

 

 

 2人の手を借り立ち上がるエックス。それから3人は揺らめく爆煙の方に目を向ける。それが晴れるとそこには……。

 

 

「嘘だろオイ……」

 

 

 無傷とはいかないが、問題無く立っているニセベリアルの姿があった。炎の中で笑う奴に、未来は衝撃を受け、ステラは奥歯を噛み締め、翔琉は溜め息を漏らす。彼らのカラータイマーはより激しく点滅しており、特にエックスのものは他2人よりも速い。

 

 

「化け物かよチクショウ……!」

「碌でもねぇなアレ……」

 

 

 構えるウルトラマン達のことを嘲笑うニセベリアル。それから彼らは、大地を蹴って何度目かの接戦を繰り広げることになっていった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 暗い暗い闇の空間。そこにいる鎧を纏った漆黒の巨人が、足下に映された地上の映像を見ていた。顔は今メビウス達と戦っているニセベリアルと同じだが頭部は黒く、身体には深い闇を宿した鎧を纏っており、手には三叉の槍が握られている。

 

 彼こそは真のウルトラマンベリアル。いや、今はカイザーダークネスと呼ぶのが正しいのかも知れない。彼はオレンジ色の瞳で、己の偽物と戦い大苦戦するメビウス達のことを見つめていた。

 

 

「気に食わねぇな……」

 

 

 自身の模造品がいること、それがまるで畜生の様に本能のままに暴れていること、そしてメビウス達がそれに蹂躙されていること。とにかくこの状況全てが気に食わなかった。

 この手で消してしまおう……そう考え踵を返した時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

───捨て置け……。

 

 

 

 

 

 

 空間に重厚な声が響いて彼は足を止める。振り向くとそこには玉座に鎮座している深い闇を持った皇帝の姿があった。

 

 

「…………フンッ」

 

 

 石突で床を叩いてから彼は去っていく。もう奴らの所に行く気は失せていた。その背に一度視線を向けた後、皇帝は手を振って映像を消す。

 

 奴らのことなど気にする必要は無い。どちらが勝とうが、誰が生き残ろうが興味は無い。

 

 最後に勝ち、全てを手中に収めるのは自分なのだから──

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ニセベリアルに蹂躙されるウルトラマン達を、今にも崩壊しそうなビルの屋上からカタラは楽しそうに眺めていた。メビウスが地面に叩きつける度に、ヒカリが蹴り飛ばされる度に、エックスが殴られる度に、カタラは笑みを浮かべている。

 

 

「アレ、結構悪趣味だと思うよ」

 

 

 そんなカタラの隣にノワールが現れた。

 

 

「そうかな?まあ、確かにアレだけじゃそうかもねぇー」

だけ(・・)って、まさか何か追加するつもり。例えば……その手に握ってる物とか」

 

 

 ノワールの見つめるカタラの手には、2つの怪獣カプセルが握られていた。それを掌の上で遊ばせている。

 

 

「あ、分かっちゃった?これはね、アレをもっともっと楽しくすることが出来る玩具なんだ!どうかな、一緒に使ってみる?」

 

 

 笑顔で怪獣カプセルの1つを差し出すカタラ。しかしノワールはそれを軽く払い除けた。

 

 

「悪いけど、もう趣味じゃないかな」

「残念。なら、これはどう?」

 

 

 スイッチを押し上げ、カタラは2つの怪獣カプセルを順に起動させていく。

 

 

《ファイブキング……!》

《ゾグ第二形態……!》

 

 

 5体の怪獣が合体し誕生した強力無比な最強の王。

 星に破滅を齎す為に君臨した天使の振りをした悪魔。

 

 異世界にて光の戦士達を一度は破った最悪の怪獣達の力が解放される。そしてそのカプセルを、ニセベリアルへと投げた。怪獣カプセルは身体に吸収され、奴は痙攣しながら不気味に肉体を盛り上がらせていく。

 

 小さな命を踏み躙る大きな脚。大地を叩き割る強靭な尾。血の様に赤く濁った爪。膨張した肉体。黄色かった鶏冠は暗闇の様に黒くなり、背には天を切り裂く悪魔の如き翼が生える。

 

 誕生したのは希望を殺す魔獣。それが放った咆哮を聞いた者達は世界の終わりを悟り、只々泣き喚くのであった───

 

 

 

 

「フフフッ」

「お前……」

 

 

 笑うカタラのことをノワールが睨む。彼の最も嫌う物である闇の力。それを利用して遊戯を楽しむカタラの姿は、何処か過去の自分にも重なる様で見ていて不愉快極まりなかった。

 

 

「じゃあボクは行くよ。せっかくだから、後は楽しんでね」

「帰るのかい?あんな化け物産み出したってのに」

「うん。これからどう転ぶかは、あんまり興味無いから」

 

 

 歩いて行くが「あ、そうだ」と言って一度立ち止まりノワールの方を向く。そして彼のポケットを指差した。

 

 

それ(・・)、君の好きな様に使っていいよ。ボクからのプレゼントだ」

 

 

 妖しい笑みを浮かべた後、カタラは振り向き煙の様に消えてしまう。指差されたポケットに手を突っ込み、その中に入っていた物を取り出すノワール。それから彼は現れた魔獣の方を向く。

 

 

「さて……君ならどうするかな、未来君……」

 

 

 彼の手には、あの光の六兄弟の力が宿されたカプセルが握られていた───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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それは唐突に起きた。ニセベリアルに紫電が迸り、痙攣したかと思うと奴の姿は大きく変化していく。翼を拡げるその魔獣は大地を砕き、空を引き裂く様な叫びを響き渡らせる。

 その名はキメラべロス。絶望を齎す最悪の存在だ。

 

 

「何だよアレは!?」

『ニセベリアルが、変わった……!?』

 

 

 顔や爪はベリアルそのものに変化しており感じられる力も、もう奴と相違ない。困惑するウルトラマン達。キメラべロスは大地を踏み、揺るがしながら彼らへと迫る。

 鋭い爪が、エックス、メビウス、ヒカリを順に切り裂き吹っ飛ばす。

 

 

『ぐあああ!?』

『ぬうううッ!?』

「ぐおおッ!?」

 

 

 地面を転がっていく3人。ニセベリアルの時も脅威的な力であったが、キメラべロスとなった奴はそれを遥かに超える圧倒的な闇の力を宿していた。倒れた彼らに対し、奴は腕を組んで闇の光線・デスシウムフレアを追撃として放つ。凄まじい爆発が起こされ、ウルトラマン達の巨大な身体が宙を舞って落ちた。

 

 

「だあッ!?」

『ううっ……!?』

「がッ……ぐう!?」

『ぐっ!?』

「あ……うッ……!?」

 

 

 激しく点滅するカラータイマー。もう残り数十秒保つかどうかといったところであろう。容赦無く迫ってくる死。それでも彼らはどうにかして奴を倒す為に立ち上がる。

 

 

「一か八か……ブチかますぞ……!」

「あ、ああ……!」

「そうね……!」

 

 

 エックス、メビウス、ヒカリは腕を組み、気迫の叫びと共に必殺光線を放った。ヤケクソ気味であり通用するかも分からないが、もうこれしか手は残されていない。ザナディウム光線、メビュームシュート、ナイトシュートが混ざり合い、強力な合体光線となってからキメラべロスへと直進。それに対して、闇の火炎・ベロスインフェルノを口から放射してぶつけた。その火炎はウルトラマン達の合体光線を容易く圧して進んでいく。

 

 そして─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───っ……う……」

 

 

目を覚ました未来。身体はアスファルトの上に転がされており、起き上がろうとすると痛みに襲われる。その激痛に耐えながらどうにか身体を起こした未来は周囲を見回す。空を穢す黒煙、空気を焼く炎、無残な形に変えられた建物、鳴り止まないサイレン、そして人々の嘆き。メビウスがいることで強化された五感にそれらが沁み渡り苦しめる。

 

 

「メビウス、無事か?」

《うん……どうにかね……》

 

 

 メビウスが無事だったことに安堵する未来。それからすぐにステラと翔琉を探して辺りを見る。

 

 

「お、生きてたな」

 

 

 そんな彼の所に、ステラを抱きかかえた翔琉が歩いて来た。どうやら彼女はまだ気を失っている様だ。

 

 

「翔琉、ステラ!」

 

 

 彼らのもとに足を引き摺りながら向かう未来。翔琉はステラを地面に寝かせてからその頬を軽く叩いて起こそうとしている。

 

 

「ステラ、大丈夫か!起きろ!」

「目覚めのキスでもしてやったらどうだ?」

「え、嫌だよ」

「なかなか酷いなお前」

「じゃあ、お前やれよ」

「は?パス」

「お前も大概だぞ」

 

 

 そんなやりとりをしていると、ステラが目を覚まして身体を起き上がらせた。

 

 

「ううっ……」

「大丈夫か、ステラ?」

「ええ、何とかね……。ヒカリ、いる?」

《問題無い……という訳にはいかないが、生きてるよ》

「ハハッ、2人とも結構丈夫じゃねえか」

 

 

 立ち上がった彼らは空を見上げる。目線の先にいるのは翼を拡げて天空を我が物顔で飛び回るキメラべロスの姿。

 

 

「何だよあの化け物は……?」

《闇のベリアルの力に、怪獣の力が加わった事で誕生したのだろう。恐ろしい闇のパワーを感じる》

「誰かがあの偽者に細工したってとこかしら」

「だろうな。チッ、何処のどいつだ?ただでさえ面倒なアレに要らん事した馬鹿は……」

 

 

 苛立ちを込めた目線を奴へ飛ばす。そんな彼らへ声を掛け近付いて来る者がいた。

 

 

 

 

「カタラっていう子だよ」

「おまっ、ノワール!?」

 

 

 翔琉以外の者達にとって、そして何より未来にとって因縁浅からぬ相手であるノワールがそこにはいた。

 

 

「ノワール?誰だお前?つーか、今カタラって……!」

「はじめまして、僕はノワール。君が天地 翔琉君だね?」

 

 

 何処か怪しげな笑顔を翔琉に向けるノワール。

 

 

「アンタ、何か知ってるの?」

「まあね。……アレはカタラが怪獣の力を宿したカプセルを2つ、ギロ星人の造ったベリアルの紛い物に融合させることで誕生した怪獣……キメラべロスとでも名付けようか。意思は無く、只々破壊の限りを尽くすだけの存在だ」

 

 

 キメラべロスは爪から三日月型の斬撃・ベリアルリッパーを放ってビルを斬り崩す。やりたい放題の奴に未来達は唇を噛み締めた。

 

 

「弱点とか無いのかよ!?」

「あると思う?紛い物とはいえ、アレは力だけならベリアルと同等だった。異常に強化され、制御する筈だったギロ星人達もカタラの所為で全滅。アレはもう解き放たれた獣、誰にも止められない。八方塞がりってやつだね」

 

 

 お手上げ、とポーズするノワール。ふざけるなと掴み掛かろうかと思った未来であったが、実際有効な手が無いので拳を握り締めるしか出来ない。

 

 

「カタラめ……碌でも無いなアイツ……」

「今の状態で変身して、どのくらい戦えるの?」

《恐らく、本来の時間の半分にも満たないだろう》

《1分くらいが限界だと思う……》

 

 

 ダメージが残り、万全では無い状態で、ほんの僅かな時間でキメラべロスを倒さなければならないという最悪の状況。勝てる確率は、限りなくゼロに近いだろう。

 誰もがこの状況に焦りと苛立ちを感じている中、ノワールが「あっ」と言葉を漏らした。

 

 

「そういえば翔琉君、あれを見て」

 

 

 ノワールが指差した空には、空間の歪みの様なものが出来ていた。

 

 

「あれは並行宇宙同士を結ぶ、空間に出来たトンネルみたいなものなんだ。多分カタラが使ったんだろうね」

「………それがどうした?」

「つーまーり。あれを通れば、君は元の世界に戻れるってことだよ。でも急がないと消えてしまう。今すぐ飛び込んだ方がいいんじゃないかい?」

 

 

 彼の言う通り、あれに飛び込んでしまえば翔琉は自分が元いた宇宙に帰ることが出来る。しかしそれは同時に未来達のいるこの宇宙を見捨てることになる。

 

 

「……翔琉、お前は自分の宇宙に帰るんだ」

「そうね。アイツは私達が何とかするから、後は任せて」

 

 

 元々翔琉はこの宇宙とは関係無い人物。これ以上彼を巻き込む訳にはいかないと未来とステラは考えたのだ。勝てる見込みは殆ど無いが、それでもやるしかない。

 

 覚悟を決めた未来とステラ。そんな2人に、翔琉はゆっくり近付き……。

 

 

「馬鹿かお前ら」

「あだッ!?」

「うッ!?」

 

 

 彼は2人の頭に手刀を素早く落とした。

 

 

「な、何すんだよ!?」

「どういうつもり……?」

「あのなぁ、お前らが俺の立場だったとして帰るか?帰らねぇだろ?間違いなくそうだろ」

「そ、それは……」

 

 

 翔琉の言う通り、もし逆の立場だったらとして未来もステラも戻ることを拒否していた筈だ。

 

 

「だから俺はアイツ叩き潰すまで帰らねぇ。絶対にだ」

「翔琉……」

 

 

 右拳を2人に向ける。

 

 

「勝ちに行こうぜ。あのふざけた化け物のによ」

「やれやれね。でも、悪くないわ」

「そうだな……勝って世界を守ろう、俺達で!」

 

 

 拳を合わせる3人。必ずキメラべロスを倒す。横に並んだ彼らは、それぞれの変身アイテムを構えた。それを見て、ノワールは笑いこの場から離れていく。

 

 

「しゃあ!いくぜええええ!!」

「メビウーーース!!」

「ッ!!」

 

 

 エクスデバイザーのスイッチを押し、メビウスブレスの宝玉を回転させ、ナイトブレスに剣を差し込む。強烈な光が解放され、彼らはウルトラ戦士となった。

 

 

 大地に降り立つ3人のウルトラマン。上空で嗤うキメラべロスに彼らは構える。今、最後の戦いが始まろうとしていた───

 

 

 

 

 

 





キメラべロス降臨!
ベリアル融合獣ですが設定的には「ウルトラマンタイガ」に登場した培養合成獣スカルゴモラに近いです。
ウルトラマン達を徹底的に苦しめていくこの怪獣は、今回のコラボ回のラスボスとなります。

果たして彼らは、この強敵を倒すことが出来るのか?
次回、遂に決戦です!


それではまた次回!
感想、高評価、ここすき、質問、その他、是非是非お待ちしています!



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42.無限のミライ、光るホシ


メビライブコラボ最終回!!
強敵キメラベロスを、5人は打ち破れるのか!?
今回はオリジナル要素も増し増しです!!

それではどうぞ!!



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大地に降りたキメラべロスに、3人のウルトラマンは走っていく。変身してすぐカラータイマーが鳴り、危険であることを告げている。それでも彼らは構わず魔獣へと立ち向かうのであった。

 

 放たれたベロスインフェルノを、彼らは飛び上がって躱し、そのままジャンプキックを同時に叩き込んだ。しかしキメラべロスは全く退がること無く、胸で弾いてしまう。跳ね飛ばされ地面を転がった3人であったがすぐに立ち上がり、再度奴へ突進していく。

 

 

『セアッ!』

『ハァッ!』

「おらぁ!」

 

 

 ウルトラマン達は決して止まらず攻めていく。その攻撃が止まる時は、奴を倒した時か死ぬ時だけ。いや、彼らなら死んでも止まらないだろう。

 

 

「いくぞゴラあああああああ!!」

 

 

 懐に飛び込んだエックスがキメラべロスの腹部を連続で殴っていき、フィニッシュとして顎にアッパーを叩き込んだ。少しだけ退がるキメラべロス。次にエックスと入れ替わりとなってメビウスが接近し、その顔面にフックを打つ。更にミドルキック、跳んで勢いをつけたチョップと間髪入れず攻めていった。

 

 

『フッ!ハッ!セア!』

「うらああああ!!」

 

 

 雷撃を纏った左ストレートを胸に叩き込む。それを受けて奴はまた退がってしまう。

 

 

「ステラ!」

「ええ!」

 

 

 次に飛び出したのはヒカリ。ナイトビームブレードを展開し、キメラべロスを斬り付けた。続けて光剣を振るい、ヒカリは奴の身体を斬っていく。素早い剣技で反撃の隙を決して与えない。胸部を蹴り付け、その反動で一旦距離を取るヒカリ。それと入れ替わりに今度はエックスとメビウスが同時に飛び掛かる。

 

 

 

「オラあああ!」

「はあああ!」

 

 

 キメラべロスの右腕をエックスが、左腕をメビウスが抑え、打撃を数発も叩き込んでいく。

 

 

『今だ、ヒカリ!』

『ああッ!』

 

 

 そして再び突っ込んで来たヒカリが、光剣を奴の胸に突き刺した。痛みに悲鳴を上げるキメラべロス。

 

 先程まで圧倒出来ていた筈のウルトラマン達に梃子摺らせられている事に、キメラべロスは憤りを感じていた。あれだけ痛め付けたのに、何故彼らはこれだけ動くことが出来るのか?奴は全く理解出来ないでいた。

 

 剣の鋒を更に押し込んで行くヒカリ。エックスとメビウスも腕を押さえたままキメラべロスを何度も殴る。小さなダメージでも積み重なれば大きくなっていく。そのことに怒った奴は両腕を振るってエックスとメビウスを払い飛ばし、ヒカリのことを蹴り上げた。光剣は折れ、ヒカリは宙に浮いた後うつ伏せに倒れる。

 

 

『ぐああ!?ぐうぅ……!?』

「くっ……この……!?」

 

 

 身体を起こし膝立ちとなったヒカリへと爪に闇の力を纏ったキメラべロスが迫る。彼は痛みで立ち上がることは出来ずにいた。

 

 

「ヒカリ、ステラ!?」

「野郎……!?」

 

 

 このままでは彼らがやられてしまうが、メビウス達もダメージで動けない。どうすれば……そう考えた時、翔琉にある案が浮かぶ。

 

 

《CYBER GOMORA LOAD》

 

「物は試しだ……ヒカリ、ステラ、受け取れえええええ!!」

 

《CYBER GOMORA ARMOR ACTIVE》

 

 

 サイバーゴモラカードをエクスデバイザーに装填しそこから光を、カラータイマーを通して彼らへ向け放った。真っ直ぐに飛んだそれはヒカリに命中しその身体を輝かせ……───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あれは!?』

「マジかよ!?」

 

 

 振り下ろされるキメラべロスの爪を、ヒカリは装着された大きな爪で受け止めた。更にもう片方の爪を振り上げて奴の身体に火花を散らせ後退させる。

 

 立ち上がったヒカリ。その身体には、ゴモラアーマーが纏われてる。ヒカリ・ゴモラアーマーの誕生だ。

 

 

「これって、翔琉の……!」

『まさか、こんなことが出来たとはな』

「やれば出来るもんだな。ほれっ」

『あ、ありがとう!』

 

 

 エックスは立ち上がり、メビウスに手を差し出してから立たせた。一方新たな力を手にしたヒカリはその爪を構えてキメラべロスへと走り出す。

 

 

『フンッ!ハアッ!』

「フッ!やあッ!はあああああッ!!」

 

 

 素早くも力任せに、爪を振り下ろし、振り払い、振り上げ、突き出す。蹴りやタックルも加え、普段よりも激しく荒々しいスタイルでキメラべロスに反撃の間を与えないで攻撃していった。

 

 

「偶にはこういうのも、悪くはないわね!」

『確かにな!フンッ!』

 

 

 大きく振り被り、そのまま振り抜いた爪がキメラべロスの身体を裂いて後退させた。自分の方が間違い無く強い筈。それなのに何故こんなにも苦戦させられるのか?訳が分からず混乱しているキメラべロスへと、ヒカリは踏み込んで更なる一撃を叩き込んだ。より大きく退がっていく奴に、跳躍したメビウスとエックスが同時に必殺光線を発射。追加のダメージを与えつつ、彼らはヒカリの隣りに並び立つ。

 

 

「いいなー、それ。俺達にも無いのか?」

「じゃあ、これ貸してやるよ」

 

《ULTIMATE ZERO ARMOR ACTIVE》

 

 

 メビウスにウルティメイトイージスが装着され、彼はメビウス・ゼロアーマーとなった。

 

 

『わあっ!これ、凄い!』

「だろ?そんじゃあ、さっさと……お?」

 

 

 鎧を喜ぶメビウス。そして翔琉のデバイザーには、2枚のカードが新たに生成されていた。メビウス、そしてヒカリが描かれたカードである。

 

 

「いいねいいねー!最高に乗ってきたァァ!!」

「ああ!!」

「そうね!!」

 

 

 駆け出すウルトラマン達。それに向けてキメラべロスはデスシウムフレアを放つものの、メビウスのウルティメイトソードとヒカリの爪が振われたことによって掻き消されてしまう。驚く奴に、エックスが飛び掛かっていった。

 

 

《ULTRAMAN HIKARI LOAD》

 

 

 ヒカリの力を発動。右腕にナイトブレスが具現化し、そこからナイトビームブレードが伸びた。ヒカリよりも荒いが力強い斬撃が連続してキメラべロスの肉体を襲う。更にメビュームブレードを伸ばして二刀流となったメビウスが肉薄し、素早い乱れ斬りをエックスと共に浴びせていく。対応の出来ないでいるキメラべロス。そこへ青く輝くエネルギーを纏ったヒカリが突っ込んで来た。

 

 

「ナイトゴモラ振動派!!」

 

 

 ヒカリからの突撃を受けて、キメラべロスの身体が大きく弧を描きながら吹っ飛んでいく。

 

 

《ULTRAMAN MEBIUS LOAD》

 

「メビュームシュート!!」

「メビュームソードブラスター!!」

 

 

 エックスはメビウスの力を発動し、現れたメビウスブレスの宝玉を回転させてから十字に腕を組み光線を発射。一方メビウスも、ソードを突き出して光線を放った。2人の光線は吹っ飛んでいる最中のキメラべロスに直撃し、奴をより上空へと押し上げていった。

 

 自分に浴びせられている光線を腕を振るって掻き消し、翼を拡げて滞空するキメラべロス。そして地上にいるウルトラマン達に対して睨み付けた。己のことをここまでコケにした奴らのことは絶対に許さない。その怒りと憎しみを最大限まで込めて、奴は全力のベロスインフェルノを放つのだった。

 

 

『不味いぞ!?』

「メビウス!」

『ああ!』

 

 

 前に出たメビウスがイージスを鎧から盾に変化させ、こちらに向けて放たれた火炎を受け止めた。しかし凄まじい威力故に少しずつ押されていき、更に余波が地上を破壊する。

 

 

『3人とも……下がって……!!』

「このままじゃ……持たない……!?」

「はあ!?」

「アンタ達、何を言ってるのよ!?」

「い、いいから下がれって!全員やられる訳にはいかないだろ!?」

 

 

 このままではみんな纏めて倒されてしまう。それを避ける為にメビウス達は他の者達を後退させようとしているのだ。エックスとヒカリは彼の背を支えに行こうとするが、キメラべロスの火炎による余波が彼らを襲い近付けない。

 

 

「メビウス……!持ち堪えてくれ……!!」

『あ、ああ……!ぐあッ……!?くうぅ……!?』

 

 

 火炎の威力は更に増していき、メビウスを消し飛ばさんとする。そんな時であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「未来君!!」

「ッ!ノワール!?」

 

 

 突然聴こえた自分を呼ぶ声。目を向けるとそこにはノワールの姿があった。彼はメビウスに向かって何かを投げ、それはカラータイマーに吸い込まれてから未来の手に収まる。

 

 

「これって、カプセル?てか、描かれてるのってウルトラマン達!?」

『この力、兄さん達の……!?未来君!』

「ああ……!やってみるか!」

 

 

 未来はその手のカプセルを突き出し、横のスイッチを押し上げた───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ウルトラ6兄弟!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 凄まじい轟音と共に爆発が起こり、地上は爆煙に包まれた。勝った……キメラべロスはそう確信して大空へと吼える。メビウスを消し、残りのウルトラマン達も纏めて消えただろう。邪魔者はこれでいない。もう誰にも止められない。只ひたすらに、全てを破壊し尽くしてやる。奴は悦びの感情を込めて再び咆哮した。

 

 

 

 しかしその時、地上から強烈な閃光が放たれた。眩い光は黒煙を払い、その中心にいる者の姿が顕となっていく。真紅の身体を駆けるモノトーンライン。頭部にはビームランプが発生し、内包する光の量が増えたからかカラータイマーは大型化し青い輝きを取り戻す。彼のその姿は何処か神々しくも感じられた。

 

 ウルトラマンメビウス・メビウスインフィニティー。

 

 ウルトラ6兄弟の力を得て、メビウスが進化した永遠の勇者だ。この姿になった際のエネルギーの余波でキメラべロスの火炎を消し飛ばしてしまったのだ。

 

 

「いくぞメビウス!」

『ああ!』

 

 

 飛び上がり、光の刃・インフィニットエッジを放ちながらキメラべロスへと突進していくメビウス。それを躱しながら、奴もメビウスに向けて突っ込んでいった。空中でぶつかり合う2つの巨影。キメラべロスの飛ばす斬撃を、メビウスは光刃を放って的確に撃ち落とす。

 

 

「よっしゃ俺も!」

 

 

 エックスも飛び上がって参戦。彼らの力を再度発動させ右腕にナイトブレス、左腕にメビウスブレスを装備し、光剣を伸ばして突撃を仕掛ける。

 

 

「オラああッ!!」

 

 

 スレ違い様に剣を振るって斬り付けた。キメラべロスは火炎を放とうとするが、メビウスが接近してその頬を蹴り飛ばし妨害。そこへ更にUターンして来たエックスが背に二刀の剣を突き立てた。悲鳴を上げたキメラベロスの背を蹴って距離を取り、その横にメビウスも並ぶ。

 キメラベロスは更なる憤怒に滾りながら、渾身のデスシウムフレアを彼らに向けて放った。それに対して、メビウスとエックスは光線を放つポーズを取っていく。

 

 

『「コスモスミラクル光線!!』」

「メビュームナイトシュート!!」

 

 

 メビウスは右腕を伸ばし、左腕を曲げて身体全体から光線を放ち、エックスは2つのブレスを輝かせ、腕を大きく回してから十字に組んで放った。彼らの光線がキメラベロスの光線とぶつかり合い拮抗する。

 

 

「負けるかあああああああ!!」

「ぶっ飛べええええええええ!!」

 

 

 エックスは添えていた左腕を下にずらしてL字に組み直し、光線の幅を拡げて威力を上げる。メビウスも更に力を込めて光線の威力を増した。それによりキメラベロスの光線は押されていき、そして完全に押し返されて彼らの光線が直撃した。キメラベロスは切り揉み回転しながら地上に落下。2人も地上へと降りていきヒカリの横に並んだ。

 

 ボロボロのキメラベロスであるが、奴の中では痛みよりも怒りの方が強く滾っていた。立ち上がり大地を揺るがす様な咆哮をしたキメラベロスは、我武者羅にウルトラマン達へと突っ込んでいった。

 

 

「フィナーレだ。決めるぞ」

「オッケー、やってやろうぜ!」

「これで終わりする!」

 

 

 ヒカリは両腕の爪にエネルギーを集め、メビウスとエックスは浮き上がりそれに足を置く。

 

 

『ゆけ、2人とも!!』

 

 

 ヒカリはそのエネルギーを放って彼らのことを打ち出した。猛烈な勢いでキメラベロスへと突っ込んでいきながらメビウスは左拳を、エックス右拳を突き出す。膨大な光のエネルギーの弾丸となった彼らが、キメラベロスに突撃した!

 

 

 

──コスモナイトエクスインパクト!!

 

 

 2人のウルトラマンをキメラベロスの胸に大穴を空けて貫通。彼らが地を滑り止まると同時に、奴は大爆発を起こして消滅するのであった───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………名前長くない?」

「まあ……いいんじゃないか?」

「私は結構好きよ」

『『えっ?』』

「「マジ?」」

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 翌日。キメラベロスとの戦闘で負ったダメージの癒えた翔琉は元の世界に帰るべく内浦の海岸に来ていた。彼を見送る為にAqoursの皆と未来、ステラがいる。

 因みにノワールも、遠くから彼らのことを見ていた。

 

 

「もう帰っちゃうんだね。もっと貴方の世界のこと聞きたかったなぁー」

「俺も向こうでやることいろいろあるからな。ぼちぼち帰んないと」

 

 

 残念そうな千歌の頭をワシワシと撫でる翔琉。それを見て未来が少しだけ複雑そうな表情をし、その手を払いながら彼の前に出る。

 

 

「と、とにかく、ありがとな!翔琉のお陰で助かったよ」

《うん、本当にありがとう》

「そうね。翔琉が居なかったらどうなってたことか……」

《考えるだけで恐ろしくなる。君には感謝している》

「気にすんな。俺もお前ら居なかったら勝てなかっただろうし」

 

 

 この中の誰か1人でも欠けていたらキメラベロスには勝てず、この地球は滅んでいたかも知らない。皆が力を合わせたからこその勝利なのだ。

 

 

「またいつか、会えるかな?」

「さあな。でも、その内どっかで会えるんじゃね?もしかしたらもう会ってるかも」

「それって、どういうこと?」

「そういうこと」

 

 

 ケラケラと笑う翔琉。どういうことかと首を傾げたが、何となく2人も分かるような気がして笑みを溢した

 

 

「じゃあ、行くわ。未来、ステラ、メビウスとヒカリ、そんでAqoursも元気にやれよ」

「じゃあな、翔琉」

「またね、翔琉」

 

 

 拳を合わせる3人。それから翔琉はエックスとなり、ゼロアーマーを纏ってから時空の穴を通って自身の宇宙へと帰っていった……。

 

 

「行ったな」

「ええ。ほんと嵐みたいな人だったわね」

「あー、確かに。けど、悪くはなかった」

「ふふっ、そうね」

 

 

 穴の消えた空を見つめる2人。彼と共に守った地球。それを必ず守り切ろうと、未来とステラは胸に誓うのであった───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「よっと」

 

 

 自身の宇宙に帰還した翔琉は変身を解いて背伸びをする。無断で一日外(宇宙)泊をしてしまった彼は母や同好会の皆、Xioのメンバーにどやされるのではないかと思い少しづつ不安になっていく。

 

 

「あー……やべぇ……どしよう」

 

 

 そんなことを考えていた時、エクスデバイザーに通信が入る。相手は紗季だ。恐る恐る、彼は通話ボタンを押す。

 

 

《あ、翔琉君?今どこに───》

「すんません!!!いや、その連絡はしようとしたんすよ!?けど圏外と言うか宇宙外というか、なんやかんやでとにかく繋がらなくて、仕方なく、仕方なああああく諦めたんっすよ!!決して面倒とか忘れてたとかそんなんじゃないんっすからね!!?まあでも、一日外泊くらい健全な男子高校生なら珍しくないと思うんっすよ!!だから今回は水に流してくれませんかね!!?あと出来れば同好会のみんなに謝るの手伝ってくれませんかね!!?マジで歩夢辺りに殺されそうなんで助けて下さいお願いしますよおおおお!!?」

《え、いや、ちょ!?翔琉君落ち着いて!?》

「これが落ち着いていられますかああああ!!?てか母さんにも怒られそう!!無断で一日外泊は流石に不味いよね!!?絶対あの人怒ったら怖いタイプだよ!!あああああああああああ!!!俺いろいろ頑張ったのにいいいいいいいいいい!!!」

《翔琉君!貴方が連絡取れなかったのは一時間だけよ!!》

「……………は?」

 

 

 ふとデバイスの日付と時刻を見る。確かに表記された時間は、彼がニセメビウスとニセツルギを追いかけた時から一時間しか経過していなかった。

 

 

「時間の流れが違うのか……?」

 

 

 やはりこの宇宙と未来達のいる宇宙では時間の流れが違っているらしい。そもそも向こうは5年前であったし。本来交わる筈の無い異なる時間軸の並行宇宙が、何らかの原因で繋がったのだろう。

 もしかしたら、未来とステラとはもう出会えないかも知れない……。

 

 

「いや、そんなことないか」

 

 

 きっと、またいつか信じていれば出会えるだろう。

 

 星の様に輝く未来で────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





「メビライブ!サンシャイン!!〜無限の輝き〜」コラボエピソード、遂に完結しました!!改めてコラボしてくれた蒼人様に感謝を。本当にありがとうございました!!

ヒカリのゴモラアーマー!そしてメビウスのゼロアーマー!更にはエックスがメビウスとヒカリの力を手に入れるなど、オリジナル要素をバンバン入れていきました!

更にメビウスインフィニティー登場!
どうにかしてこれは出したいと思っており今回はウルトラ6兄弟カプセルの力で変身するという形で登場させました。もちろん蒼人様にはお話しています。本家よりは幾分か弱くはなりますが、それでも強力なものになっているという設定です。

今回で2回目のコラボ企画。何とか無事終われてホッとしています←
実はもう次も……。
期待して待っていて下さい笑

次回は果林回となる予定です。こちらも是非お楽しみに!
それでは今回はここまで!

感想、質問、高評価、ここすき、その他、是非是非お待ちしてます!!



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43.迷えるスターライト



メビライブコラボを書き切って少し燃え尽きてました←

遅くなりましたが今回からは果林回。それではどうぞ!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤黒く不気味な空間。澱んだ空気が漂うそこで、2人の巨人が戦っていた。

 ウルトラマンエックスとダークファウスト。彼らはこのダークフィールドの中で、死力を尽くし激突している。

 

 

「うらあッ!」

 

 

 エックスの回し蹴り。ファウストは両腕で防ぐが、その重い威力によりそのブロックごと叩き潰されてしまう。よろけたファウストの頬に、稲妻の纏われたエックスの拳が叩き込まれて奴を吹っ飛ばした。

 

 この空間内では闇の力は増し、光の力は弱まる。しかし何故かエックスはファウストを圧倒していた。どうしてこんな事になるのか、ファウストには見当もつかない。地面に転がった奴に向かって拳を握り締めたエックスが追撃をしようとする。しかしその時、上空から巨大な昆虫が彼を襲撃した。

 

 

「おっと!」

 

 

 後方に側転してそれを回避。襲って来たのはカマキラスという蟷螂(かまきり)が突然変異して誕生した怪獣だ。カマキラスは成体で大きなもので60m程なのだが、今エックスの前に現れているコイツはその倍以上の巨大な身体をしている。ファウストが闇の力を奴に注入し無理矢理巨大化させたことが原因だ。カマキラスは複眼でエックスを捕捉し、槍の形になっている右腕を突き出した。

 

 

「危なっ!ちょ、この虫ケラがぁ!」

 

 

 バックステップで槍の一撃を躱したエックスはジャンプしてカマキラスの頭を蹴飛ばす。カマキラスは堪らず吹っ飛んで地に堕ちる。異常に巨大化したとはいえ、元々軽量だったカマキラスでは強烈な蹴りを受け吹き飛ばされてしまうのも無理はない。

 

 

「引っ込んでろっての!」

 

 

 カマキラスを蹴り飛ばしたエックスはすぐにファウストへと目を向ける。そして立ち上がっていた奴へと走り出し問答無用で殴り掛かった。

 

 

───ခွန်အားကြီးသော(小癪な)……!?

 

「お前に言われたくねえ」

 

 

 キックが腹部に、パンチが胸に、裏拳が頭に、膝が顔面に叩き付けられる。容赦無い打撃がファウストへと振われ追い詰めた。倒れたファウストの足首をエックスは掴む。そしてそれを思いっきり振り回して投げた。

 

 

───နာကျင်မှု(ぐおおっ)!?

 

「消し飛べや」

 

 

 腕を振り、クロスしてザナディウム光線を放つ。倒れているファウストは回避することが出来ない。しかし彼らの間にカマキラスが割って入り、それを受けた。光線の直撃を受けたカマキラスは堪らず爆散して辺りに肉片を撒き散らす。

 

 

「あっ、また邪魔が。悪運強いなお前。ほんとムカつくよクソが」

 

───သတ္တုရိုင်း(おのれ)……ခွင့်လွှတ်လို့မရဘူး(許さんぞ)……!

 

「俺の台詞だ、お前が言うな」

 

 

 軽く腕を回した後地を踏み締め、エックスは再度ファウストに突進。その拳を振り抜く。

 

 

───ကူ(くっ)……。

 

 

 だがファウストは拳が当たる寸前で消失し、逃げ去ってしまった……。

 

 

「あッ!?逃げやがったな野郎!!」

 

 

 苛立ちから地面を踏み付け砂埃を舞わせる。そしてゆっくりと戻っていく空を見つめるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「整理しましょう」

 

 

 Xio司令室内にメンバーは集まっていた。モニターには複数の怪獣、そしてダークファウストが映されており、皆それに注目している。

 

 

「ダークファウスト。虹ヶ咲学園付近にゴルメデが現れ翔琉君がエックスとなって戦闘していた際に、ダークフィールドと呼ばれる特殊位相空間を構成し翔琉君とゴルメデをこの世界から隔離。そしてゴルメデを強化、洗脳して共に翔琉君を襲った……これが確認されてるファウストの最初の行動ね」

 

 

 モニターを見ながら、以前翔琉から聞いた情報を元にファウストが初めて現れた時の状況をまとめていく。

 

 

「まあ、洗脳っていうより、殺してから操り人形にしてるって云うのが正しいのかしら?」

「そうっすね……どんだけ傷付いても御構い無しに突っ込んで来て、なんつーかとにかくヤバかった……」

 

 

 翔琉はゴルメデが変異したカオスゴルメデのことを思い返す。理性を失い、殺意だけで襲って来た恐ろしい化け物。先の巨大なカマキラスもそうなのだろう。闇の力で怪獣を強制的に強化、死亡させて操り人形とする……非常に悪趣味で反吐が出そうになる。

 

 

「以前アドノア島から日本へと飛来してきたファイヤーラドンも、恐らくそのダークファウストによって操られていた可能性があるっす……」

「狙いはやっぱ翔琉なのか?」

「翔琉を、という、より、エックスを、狙っている、か」

 

 

 日本海での戦い以降も、ファウストはエックスを狙って単体や怪獣を引き連れて襲撃して来た。奴の目的はエックスを倒すことで間違いないだろう。しかし、何の為にそれを成そうとしているのかは分からない。

 

 

「それともう1人……カタラと言いましたよね?天地さんに接触して来て、以前駿河湾海上に現れた怪獣を操っていると思われる発言をした人物」

「はい。この前行った、メビウスとヒカリって言うウルトラマンがいる宇宙でも色々面倒事起こしてくれたっす」

 

 

 カタラ。一度翔琉に接触し、それ以降も暗躍していると思われる謎の人物。翔琉の発言によると見た目こそ地球人そっくりだが中性的な見た目と声の所為で性別は不明。実際の種族も不明で、とにかくその全てが解らないという厄介者。

 

 

「そいつがファウストじゃないのか?」

「いや、どうもそれは違うみたいっす。自分でファウストの協力者、みたいなこと言ってたし」

「ブラフの可能性は?」

「それも考えたんっすけど、だとしたらメビウス達の宇宙でファウストに成って襲って来た筈でしょうし」

「ファウストとカタラは別人。ファウストの目的はエックスの殺害の可能性が大。カタラも同じと思われるが正確には不明。2人は手を組んでいる……これまでの情報を纏めるとこんな感じになるわね」

 

 

 隊長である沙優がこれまでのファウストとカタラの情報を纏める。と言っても大したことは分かっていない状況であり、それが隊員達の頭を悩ませていた。

 

 

「博士、レーダーでダークフィールドの発生を捕捉出来ない?」

「既に出来る様にしておる。ただ、ダークフィールドが発生してから此奴や怪獣を包み込み消失するま10秒も掛からん。その間に出来る事など限られる」

「その時に翔琉に近寄って一緒にフィールド内に入れば良いんじゃないか?」

「ああ、それ良いな!」

「バカもん!フィールド構成時には空間が超高速で振動している。恐らく取り込む対象以外のみをこの空間から無理矢理切り離して取り込んでいるのだろう。そんな状況下で下手にエックスに近付けば、機体がバラバラに分解されてしまうわ!」

 

 

 唾を飛ばしながらイヅルとハヤテに怒るシャマラ博士。

 

 

「そうなると、ダークフィールドに天地さんが取り込まれた後で我々も突入する……というのが一番良い手段になるでしょうか」

「そうね……けど、出来るの?」

「ゼロアーマーのデータが利用出来るかも知れません。やってみようと思います。天地さん、サイバーカードをお借りしても良いですか?」

「ういっす」

 

 

 ウルティメイトゼロのカードを涼風へと渡す。現状問題無くファウストを圧倒出来ている翔琉であるがいつ何が起こるか分からない以上、Xioのメンバーが助けに来てくれるかも知れないのは有難かった。

 

 

「じゃあ、ラボチームは早速作業に取り掛かって。ミキリとミハネは怪獣の出現、及びダークフィールドの発生を警戒。リュウジと紗季はパトロール。イヅルとハヤテはもしもの時に備えて待機ね。ほら博士、何時迄も説教しないの」

「了解です」

「はーい!」

「了解ー!」

「分かりました」

「了解!」

「全くコイツらはぁ…!」

「ご、ごめんて博士……」

「そんなに怒んないで……な?」

 

 

 沙優の指示を受けて皆が動き出す。そんな中、翔琉が手を挙げた。

 

 

「あ、俺ちょっと今から予定あるんでいいっすか?」

「ええ、構わないわよ。もしかして、デートとか?」

「いやいや、ただのお使いっすよ。じゃあ、そういうことで、お疲れ様っす」

 

 

 頭を下げてから司令室を後にする翔琉。彼が出ていった後の扉を沙優は見つめた。

 ほんの少し前まで普通の高校生だった彼がウルトラマンとなり、巨大な力を得て、傷付きながら怪獣と戦い、そして命を狙われてしいる。どう考えても普通では無い状況。翔琉は今、それを気にすることなく日々を過ごしているが、そんな状況下に置いてしまっていることを沙優は心苦しく感じていた。

 

 

「隊長……」

 

 

 彼女のその心境を察してか、ザムザが声を掛ける。

 

 

「大丈夫よ。……あの子が戦いなんて気にしなくていい世界。ただ泣いて笑って、当たり前に生きられる世界を、私達が作らないとね」

「……はい」

 

 

 翔琉がウルトラマンエックスでなく、ただの翔琉でいて世界を作らなければ──

 沙優はそう胸に誓うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「フフフッ……」

 

 

 渋谷のとあるショッピングモール内にあるポップアップストア。そこに向かって歩く女性の姿があった。真夏だというのにマスクをし、帽子を深く被り、サングラスを着けていて何処か暑苦しい。そして時折笑い声を漏らしている。首から上は怪しいがスタイルは抜群で歩き方もまるでモデルの様。それが更に奇妙な雰囲気を醸し出していた。

 

 彼女が目指しているショップでは、現在多種多様なパンダグッズを取り扱っていた。ぬいぐるみはもちろんのこと、バックやTシャツ、帽子、靴下、図鑑、ノート、ペン、その他様々な物が売られている。

 

 その店内に入るなり、女性はサングラスとマスクの下で表情を輝かせた。彼女はパンダが好きな様だ。置かれているグッズを手に取り吟味し、買い物カゴに次々と入れていく。

 

 

「あ、あれは……!?」

 

 

 彼女が釘付けとなったのは大きなパンダのぬいぐるみ。テディベアの様に可愛くデフォルメされており、大きさは1メートル程だろうか。値段は結構するが、今カゴに入れている物を全て諦めれば買えなくは無い。どうやら残り1つらしく、手元のグッズかぬいぐるみか、彼女は決断の時を迫られている。

 

 

「…………よしっ!」

 

 

 彼女はカゴに入れていたグッズを手早く元の場所へと戻していき、その後ぬいぐるみを手に取ってレジに向かった。こちらの方がときめいたらしい。会計を終え、袋に入れられたぬいぐるみを抱きしめながら店を出た彼女。ぬいぐるみは入り切らなかった頭が外を覗いている。笑みを溢しながら、早く帰ってこのぬいぐるみを愛でようと彼女は足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?果林じゃん。何やってんのー?」

 

 

 横から聞き覚えのある声が聞こえて来る。足が止まり、壊れかけのロボットの様にぎこちなく首を横に向けると、そこには翔琉の姿があった。

 

 

「か、翔琉……!?」

「いやー、母さんに頼まれてここに売ってるぬいぐるみ買いに来たんだよ。丁度果林が持ってるのと同じやつ。あ、まだ余ってる?」

「か、かかかか、果林って……!?」

 

 

 どうにかしなければ……そう思った時、彼女の頭に浮かぶ名案。

 

 

「カ、カリン〜?ダ、ダレノコォトカシラ〜?ワタシハ、ソンナナマエジャアリマセーン!」

 

 

 その名も外国人になりきろう作戦である。

 汗をダラダラと流しながら彼女は必死に誤魔化そうとしているが、そんな怪しい挙動では誤魔化し切れる筈も無い。

 

 

「は?何言ってんの?果林じゃん」

「チ、チチ、チガイマース!ワタシハァ……アァー……ソウ!チェルシーデース!」

「無理があるぞ」

「トニカクサヨナラ〜!!」

「あ、ちょっ」

 

 

 必死で外国人のフリをした後、全速力で走っていく彼女。その背を見送りながら、翔琉は首を傾げるのであった。

 

 

「…………どったの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 脇目も振らず、一心不乱に彼女は走る。顔を隠し、パンダの顔が覗いている袋を持った女性が全力疾走している姿は何とも奇妙だ。ある程度走ってから、彼女は足を止めて息を整える。

 

 

「はぁ……はぁ……!こ、ここまで来れば……」

 

 

 そう言った後顔を上げて周りを見回した。

 

 

「………あれ?」

 

 

 何処かの公園……の様だが見覚えが無い。見える範囲に建っているビルやマンションも知らない。もしやと思い少し焦りながら周囲を見回す彼女。右を見ても、左を見ても、知っている景色は無く、そこで気付く。

 

 

「ここ……何処かしら……?」

 

 

 彼女=朝香 果林は迷子になったのだと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・ゼットン

別名:不良怪獣

身長:2m

重量:782kg

出典:ウルトラゾーン第4話「不良怪獣ゼットン」

 

 ウルトラマンマックスに追われたスラン星人ソルア達が地球に不時着した際に紛失してしまったゼットンのスパークドールズが、何故か人間サイズの大きさで実体化してしまったのがこの怪獣。性格は本来のゼットンと違って極めて温厚で自分から他者へ攻撃することは無い。それがこのゼットンの元々の性格なのか人間大で実体化したことが影響しているのかは不明。とはいえゼットンであることには変わり無いので、その戦闘力は非常に強力である。

 実体化したゼットンは数日間スクラップ場の小屋の中で過ごし、その後愛に発見される。それから愛と交流を深めていき、彼女とはかけがえのない友となった。愛を追ってゼットンの存在を知った翔琉、歩夢、かすみ、しずくには友情の印を配り友となる。因みにゼットンが皆に配ったこの友情の印であるバッジは目を覚ました際、付近に落ちてたのを気に入って拾って持っていたらしい。彼女達との日常が続くかと思われていたソルア達に見つかってしまい、奴の力によって宇宙恐竜ゼットンとしてエックスに牙を剥く。

 ウルトラシリーズのバラエティ番組である「ウルトラゾーン」からの登場。「実は子供嫌いと噂のおばあちゃんが1人でやっている、夕方5時を過ぎると不良たちのたまり場になる駄菓子屋」の前で不良とたむろするゼットン。駄菓子屋は「宇宙区星雲七丁目8番地」にある。地球防衛高校(通称チボ高)に通う無名の学生でパシリ扱いされていた。赤王高校に通う赤王四天王からはウルトラマンを唯一倒した怪獣として恐れられていた。しかし彼のその武勇伝を知る者は赤王四天王以外にこの街にはあまり居ないらしい。

 

 

・ゼットン

別名:宇宙恐竜

身長:60m

重量:3万t

出典:ウルトラマン 39話「さらばウルトラマン」

 

 最強の怪獣と呼ばれる程に高い戦闘力を持つ怪獣。全方位を守るバリア、瞬間移動能力、光線吸収、腕からの波状光線、顔から放つ1兆度の火球と一切の隙が無い。過去に出現した際には凄まじい被害をもたらしており、多くの人々から恐れられている。

 ソルアによって強制的に巨大化させられ、更に凶暴化してエックスに襲い掛かった。圧倒的力で彼を追い詰めていくが、愛の呼び掛けとエックスのピュリファイウェーブにより正気を取り戻した。それからエックス、マックス、ゼノン、サイバーゴモラと共に宇宙人達と戦いその力を遺憾無く発揮する。しかしゼッパンドンの火炎弾からエックス達を庇って倒れる。最期に愛へ感謝の気持ちを伝えてから消滅した。彼が翔琉に渡したバッジは、サイバーゼットンカードへと変化し彼に力を与える事になる。

 ご存知、初代ウルトラマンを倒した怪獣。名前の由来はラテン文字の最後である「Z」と五十音の最後である「ん」の組み合わせなのも有名。当初、ゼットンを倒すのは科学特捜隊ではなくゾフィー(呼称は「ウルトラマンの仲間」)で、上空からスペシウム光線を放って倒す予定であった。また、ウルトラマンとの空中戦も予定されていたが、尺の都合やメフィラス星人戦と被ることから、ゼットン星人と科特隊の対決シーンの特撮に変更された。

 

 

・ゼットン(二代目)

別名:宇宙恐竜

身長:60m

重量:3万t

出典:帰ってきたウルトラマン 51話「ウルトラ5つの誓い」

 

 ゼットンの同族が、バット星人タクニアの手によって育てられたもので、容姿がゼットンと異なる部分が多々あることから二代目と名付けられた個体。初代とされる個体以上のパワーと攻撃力を持つのだが瞬間移動能力やバリア能力は持たない。右手先からのゼットンナパームを放つ。

 バット星人タクニアに呼び出されてエックスを襲撃……したのはいいが容易く反撃され、初代ゼットンの援護がなければ危うい状況であった。その後他の者達との連携攻撃でエックスを追い詰めるがゼットンが正気に戻り、マックスやゼノンの出現したことで形勢逆転。最期はゼットンアーマーを纏ったエックスのゼットン火炎弾を受けて爆散した。

 帰ってきたウルトラマンことウルトラマンジャックのラスボス。「初代の美しさに比べ、薄汚い。身体もぶよぶよだ」、「バット星人とあまりにいいコンビ」、「肥満体型で体色もくすんでおり、初代とは似ても似つかない」……などと散々なことを言われている。劣化した初代ゼットンのスーツやアトラク用の流用と勘違いされることが多いが新造で中の芯を入れてない為あの様な状態になった。次回作へ予算と人員が割かれていたことが原因らしい。本作でも散々な言われようであったが、作者は二代目ゼットンが大好きである。因みに鳴き声はダダの流用。

 






果林回序章でした。
ファウストとの戦い、カマキラスの登場、そして迷子になってしまった果林。これからどんな物語になっていくのか、是非お楽しみ。

それでは今回はここまで!

感想、質問、高評価、ここすき、その他、是非是非お待ちしてるんご!





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44.パンダ消失


遅くなりました!!すいません!!




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《そう、売り切れちゃってたのね。残念だわぁ》

 

 

 翔琉は母である優里香と通話をしながら歩いていた。

 

 

「俺としてはあんなクソでかいもん持ちながら街歩く羽目にならなくてラッキーだよ」

 

 

 果林が抱き締めてたパンダのぬいぐるみを思い出す。あんなに大きなぬいぐるみを抱きながら歩けばかなり目立ってしまいそうだ。

 

 

《酷いわぁ。可愛いじゃないパンダ!》

「そんなに好きなら、今度動物園でも言ったらどうだ?」

《良いわねそれ!再来週末なら予定も空いてるし、一緒に行きましょう!》

「いや、俺とじゃなくて1人でだな──」

《あ、そうだわ!歩夢ちゃんや愛ちゃん、かすみちゃんも誘いましょうよ!何なら同好会のみんなも!せっかくだし、翔琉の友達にも会いたいですもの!》

「話が勝手に進んでくー」

 

 

 楽しそうに動物園へ行く計画を彼女は翔琉に話していく。何処の動物園にするかとか、お弁当は何を作っていくかとか、オヤツはいくらまでにするかとか。行かないと言っても聞いて貰えないので、翔琉はそれを適当に聞き流していった。

 

 

《多人数で行くのだから車より電車かバスがいいわよね。そうなると何処が一番良いかしら?》

「てか、パンダが見れる所って限られるんじゃね?」

《それもそうねー。なら、その辺りも考慮して調べないとね!》

「いや、てか行くの確定なのかよ……切りやがった……」

 

 

 一方的に通話を切られてしまった。何ともパワフルな母に溜め息を吐きながら携帯をポケットに入れる。そういえば記憶を失う前は自分も凄い行動力だったとか。その辺りは母親譲りなのかも知れないなと彼は思った。

 

 

「さて……」

 

 

 時刻はまだ14時。家に帰るか、それとも適当にフラフラと街を歩くか。用事ももう済み、これからどうしようかと考えていると、前の方を歩く1人の少女の姿が目に入る。

 

 

「あれ?新城野か」

 

 

 新城野 明里。彼のクラスメイトで友人だ。夏休みになってからは初めて見る。せっかくだし声を掛けよう。そう思って翔琉は彼女の方に向かって歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 白いワンピースを着た少女、明里は苛立っていた。

 

 何度ウルトラマンに挑んでも勝てず負け続けており、更に回数を重ねる毎に奴は強くなりこちらはボコボコにされている。何故勝てないのか、何故奴はあんなにも強いのか?彼女にはそれが分からずより苛立ちを増していく。

 

 表情には出さない様にして歩いているので、可憐な彼女に目を奪われた男達が声を掛けようかとタイミングを見計らっている。それに明里は気付いており、馬鹿な男達によって更に怒りが増す。

 

 最初に声を掛けてきた奴を殺してしまおう。そう思ってポケットに手を入れてそこの先にある怪獣カプセルを掴む。そんなことをすれば自分が怪獣を操っていることがバレてしまうが、この苛立ちを収められるのであれば別に構わない。来るなら来い、殺すから。スイッチに指を添え、最初に来る愚か者を待ち構える。胸の奥より、ドス黒い闇が溢れ出そうになっていた───

 

 

 

 

 

「おーい、新城野ー」

 

 

 耳に入って来たのは不快なものでは無く、聞き覚えのある声。振り返るとそこには友達である翔琉の姿があった。

 

 

「天地君?」

「よう、久しぶりだな」

「そうだね。今日は歩夢ちゃんと一緒じゃないんだ」

「そんな四六時中一緒って訳じゃねぇよ。カップルじゃあるまいし」

「どちらかと言ったら夫婦みたいってみんな言ってるよ」

「あー、らしいな。歩夢に迷惑だっての」

 

 

 頭を掻く翔琉を見て明里は笑う。

 

 彼と話していると不思議と先程まで沸き上がって来ていた苛立ちが引いていくのを感じる。怒りが、殺意が、段々と無くなっていき穏やかで暖かな気持ちが代わりに満ちていった。

 

 

「新城野は何やってたんだ?」

「んー、特に予定も無かったからフラフラしてただけだよー。天地君は?」

「俺は母さんに頼まれた買い物が終わって、これからどうすっかなって考えてたとこだよ。つまり暇」

「あははっ、私と同じだね」

 

 

 また彼女は笑っていた。翔琉との会話は心地が良い。多分、今まで出会って来た人の中で最も話すのが、一緒にいるのが楽しくて嬉しい人だと思う。

 

 

「なら、ちょっと付き合ってくれねえか?そういえば新城野と遊ぶのって初めてだし」

「おっ、ナンパかな?まあ、天地君なら良いよ」

「そりゃ光栄だ。とりまジュースでも奢るよ」

 

 

 並んで歩き出す2人。それを他の男達が羨ましそうな目で翔琉のことを見ている。何でこんなにも彼といるのは楽しく感じるのだろうか?答えは分からないが、この心地良さは何者にも変えられないなと明里は笑うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「はぁ……何処なのよ、ここは……?」

 

 

 パンダのぬいぐるみの入った袋を抱き締めてベンチに座り、サングラスとマスクを外してから果林は溜め息を吐いた。少し辺りを歩き回ってみたがここが何処なのかは結局分からず、オマケにスマホは充電切れ。彼女はただただ落胆するしかなかった。

 

 

「どうしましょう……?」

 

 

 ぎゅっと袋を抱き締める。そんな彼女のことを、キラキラとした瞳が見つめていた。

 

 

「わあ……!」

 

 

 5、6歳程度の少女が果林を、正確には果林の持っているパンダを見ていた。少女の手にもパンダのぬいぐるみが握られている。

 

 

「パンダさんだぁ!お姉ちゃんもパンダさん好きなの?」

「え、いや、私は……」

「嫌い、なの?」

 

 

 純粋な目が果林に向けられる。

 実はパンダのような可愛い物が大好きな果林。それを周りには隠しているのだが、流石に幼気(いたいけ)な少女に嘘は吐けない。

 

 

「そ、そうなの!私もパンダが大好きなのよぉ」

「そっかー!じゃあ、みやと一緒だね!」

 

 

 この少女は名をみやというらしい。みやは自分の持っていたパンダのぬいぐるみを果林に見せる。

 

 

「みやのパンダさん!」

「あら、可愛いわね」

「うん!あのね、この子ね、かけるって名前なの!」

 

 

 思わず吹き出してしまった果林。まさか彼と同じ名前だとは思っていなかったからだ。「可愛いでしょ?」と言って上機嫌でパンダ(かける)を見せてくるみやであるが、果林の脳裏にはあっちの翔琉がチラついてしまう。

 

 

「そ、そうね、可愛いわねかける」

 

 

 果林の言葉にみやは笑顔で頷く。

 

 

「あのね、お願いがあるの?」

「何かしら?」

「えっとね、そのね、みやのかけるを抱っこさせてあげるから、お姉ちゃんのパンダさんを抱っこさせてほしいの?ダメかなぁ?」

 

 

 彼女は果林の持つパンダを抱き締めたいから自分のパンダを抱かせてあげるという可愛らしい提案をして来た。それを聞いて少し笑った後、果林はパンダを袋から出す。

 

 

「ええ、良いわよ。けど、汚したりしちゃダメよ?」

「うん!わかった!じゃあ、はい!みやのかける!」

 

 

 みやは果林の隣に座った。そして彼女が差し出したかけるを受け取り、果林は自分のパンダを渡す。自身よりも少し大きなパンダを、みやは嬉しそうな表情で抱き締めた。

 

 

「ふかふかぁ〜!かわいい〜!」

「ふふっ、気に入ったかしら?」

 

 

 その言葉にみやは「うん!」と笑顔で頷き、自分のかけるはどうかと聞いて来た。

 

 

「ええ、可愛いわ」

 

 

 デフォルメされたそのぬいぐるみは愛らしく、見つめていると思わず笑みが溢れる。

 

 

「うちの翔琉も、このくらい可愛かったらいいのに……」

 

 

 可愛げの無い彼もこんな風に可愛らしかったら良かったのに、なんてことを思ってしまった。まあ、あれもあれで悪くは無いがとまた果林は笑う。

 

 

 

 

 

 

 

「俺がどうしたって?」

「わあ!?」

 

 

 何て考えていると、また聞き覚えのある声で背後から声を掛けられた。果林は驚いて立ち上がり、そしてバランスを崩し尻もちを付いてしまった。

 彼女に声を掛けたのは今丁度噂していた翔琉だ。隣りには初めて会う少女もいる。

 

 

「おいおい大丈夫か?」

「か、翔琉!?どうしてここに!?」

「新城野と散歩してたら果林見かけたからさ、声掛けたんだ」

「散歩って、こんな所まで?」

「いやこんな所って、俺らがさっき会った場所からあんま離れてないだろ?」

 

 

 そう言って翔琉はある建物を指差す。

 

 

「あのビルの向こう側に、パンダの店があったモールがあんだぞ」

「………へっ?」

 

 

 彼の言う通りビルの陰になって見えないが、向こう側には彼女がさっきまで居たパンダのポップアップストアがあるショッピングモールがあった。つまりこの公園はあの場所から数百メートル程しか離れていないのだ。

 

 

「ん?どうかしたか?」

「え、いや、その……」

 

 

 何だか歯切れの悪い果林。そんな彼女のことを見て、翔琉の隣りに居た明里はあることに気付いた。

 

 

「もしかして、迷子になってたとか?」

 

 

 見事に図星を突かれた彼女は、目を逸らして頬を赤く染める。

 

 

「ぷっ……!あはははっ!マジか!果林方向音痴だったのか!?」

「わ、笑わないでよ!?」

 

 

 スタイル抜群、セクシーでクール、隙など無い完璧な美少女と思っていた彼女のまさかの弱点に翔琉は思わず笑ってしまった。腹を抱えて笑う性格の悪い翔琉のことを、みやはムッとした表情で睨む様に見詰めた。

 

 

「お姉ちゃんを虐めないで!」

「はははっ、いやーごめんごめん、ついつい」

 

 

 翔琉は2人に平謝りしながら果林に近付いて手を差し出す。

 

 

「ほら」

「んっ……」

 

 

 少し頬を膨らませながらも、その手を取って彼女は立ち上がるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 町外れにある倉庫。今は誰も使っていないそこに、1人の老人が居た。全身黒尽くめでマントを羽織った奇妙な男は目の前に並べてあるある物(・・・)を見て不気味に笑っていた。

 

 

 それはぬいぐるみや本、着ぐるみ、ポーチ、置物などなどの様々なパンダグッズだ。男は満足そうな顔でそれを見渡した後、マントを脱いで真の姿を現す。

 

 

 黄色い身体、黒い棘、大きな頭には円鋸型の物が付いている機械と融合したかの様な宇宙人だ。彼の名はスチール星人シーフ。とある目的でこの地球に訪れた宇宙人だ。その目的とは……。

 

 

 

 

「さあ、次だ。地球人が夢中になるパンダを、全て我がスチール星に持ち帰るのだ!」

 

 

 

 

 そうパンダ泥棒である。

 全てのパンダを地球から奪う為に、シーフは再び行動を開始するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「おっしゃ行くぞおおおおお!!」

「わああああああ!」

 

 

 翔琉はみやのことを肩車して公園を走り回っていた。果林を揶揄ったことから最初は警戒されたが、すぐに打ち解けて一緒に遊んでいる。そんな2人の様子を、果林と明里はベンチに腰掛けて見てる。因みに果林の隣りには彼女のパンダのぬいぐるみが置いてあり、みやのパンダであるかけるは彼女自身が手に持って翔琉の頭の上に乗せている。

 

 

「2年生にとても可愛い女の子がいるって話は聞いてたけど、まさかその子が翔琉とデートしてるだなんて思わなかったわ」

「デ、デートだなんて、違いますよ〜」

 

 

 少し照れながらそう返す明里。相手が有象無象の輩であればそいつも果林も即座に殺していただろう。尤も、そんな者の隣りを歩くつもりなど微塵も無いが。翔琉とそんな風に言われるのは嫌な気がしない。寧ろ嬉しく思えてしまう。

 

 

「あら?けど満更じゃないみたいね」

「いや〜、あははっ……」

 

 

 自然と溢れる笑み。ただの散歩で本当にデートでは無いが、それもありだなと彼女は思った。

 

 

「朝香先輩も意外でしたよ?パンダ好きとか方向音痴とか」

「そ、それは言わないでよ!?」

 

 

 顔を赤くする果林のことを見て明里は笑う。明里が有名な様に、果林もその容姿端麗で読者モデルをしていることから虹学で知っている生徒は多く、スクールアイドルになる前からファンは多い。明里も果林のことを知っており、彼女の意外な一面は明里を驚かせるには充分だった。

 

 

「らしく無いわよね。私が可愛い物好きだなんて……」

 

 

 パンダのぬいぐるみの頭を軽く撫でる。こんな物が好きだなんて、絶対に自分のイメージに合わない。方向音痴なこともだ。他にも朝が弱かったり、片付けが苦手だったり、勉強が出来なかったり……ファンや周りのみんなが知れば幻滅してしまうかも知れない本当の姿が自分にはある。それらを見せない様に過ごして来たが、翔琉と明里に知られてしまった。朝香 果林らしく無い自分を見られたことに、彼女は溜め息を吐いてしまう。そんな果林を見て明里はどう声を掛けようかと思った時……。

 

 

「きゃっ!?」

「うおおっ!?」

 

 

 一陣の風が吹いた。果林も明里も、みやと翔琉も思わず目を瞑る。

 

 

「びっくりしたぁ……」

「な、何だったのかしら?」

 

 

 果林と明里は立ち上がり公園を見渡した。公園にいた他の人達も何があったのかと驚いている。怪我人などはいない様子。だが……。

 

 

「居ない!?」

「お、どうした?」

 

 

 翔琉の肩の上のみやが慌てていた。

 

 

「かけるがいないの!?」

「俺ならここだが?」

「違う!パンダのかける!」

 

 

 彼女の言う通り、先程まで翔琉の頭に乗せていたパンダのぬいぐるみであるかけるが無くなっていた。まさかと思い果林が振り返ると、ベンチに置いていた筈のパンダのぬいぐるみも消えてしまっていた。

 

 

「う、嘘でしょ……!?」

 

 

 

 

 それだけじゃない。この地域一帯にある、パンダグッズが全て消失してしまっていたのだ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・スラン星人

個体名:ソルア

別名:高速宇宙人

身長:2〜51m

重量:69kg〜2万8千t

出身地:スラン星

出典:ウルトラマンマックス 4話「無限の侵略者」

 

 昆虫の様な頭部に、両手の鋏が特徴の宇宙人。高速宇宙人の別名通り、超スピードで動くことが可能でそれを利用した戦法を得意とする。高速移動で残像を作りながら相手を囲い、破壊光線や反重力光線で攻撃。同族意識が強い種族の様で、過去に倒された個体の仇討ちを別の個体が目論む事もある。

 ウルトラマンエックスを倒し、Xioを壊滅させて地球を侵略する為にタクニア、クアトと共にやって来た。しかし向かう途中、ウルトラマンマックスの妨害によってゼットンのスパークドールズを落としてしまう。その後桑井博士を殺害してから擬態しXioに潜入し、ゼットンを取り戻す為に隊員達を利用した。マックスの変身した瑞斗にそれを暴かれることになるが、発見したゼットンを巨大化させて暴れさせ、自身も他の者達と巨大化しウルトラマン達と戦う。高速戦法でエックスを翻弄しようとしたが彼は勘でそれを看破り殴られてしまった。最後は桑井博士を慕っていた陽花の操るサイバーゴモラのサイバー超振動波によって撃破された。

 マックス編という事で勿論登場。個体名の由来はアラビア語で速いという意味の「سريع(ソリーア)」から。公式サイトによれば高速移動のスピードは時速170kmなのだがどう考えても高速宇宙人と名乗る割には遅い。恐らく誤植と思われる。マックスの怪獣の殆どがスーツの劣化などの理由で再登場を果たせてない中、本編以降の映像作品に多く登場出来ており知名度も上がっているという稀有で幸運な存在である。

 

 

 

・バット星人

個体名:タクニア

別名:触角宇宙人

身長:2.3m〜43m

重量:80kg〜2万8千t

出身地:バット星

出典:帰ってきたウルトラマン 51話「ウルトラ5つの誓い」

 

 蝙蝠の様な皮膜と蟹の様な鋏、猛毒を蓄えた牙を持つ宇宙人。鋏からはミサイルを放つ事が出来、頭部の角は配下の怪獣を操るコントロールアンテナとなっている。ゼットンの養殖にかけては宇宙一と言われているが、それも個体によりけりである。

 ソルア達と共に行動し、ウルトラマンマックスがかつて地球でとっていた戸河 瑞斗の姿に化けていた。自分達の目的を邪魔した彼に対する当て付けらしい。しかし正体がバレてしまいウルトラマン達と戦うことに。その際にゼットン二代目を呼び出したがXio隊員達やソルアにもボロクソ言われる始末。最期はマックスのギャラクシーカノンを喰らって爆散した。

 ゼットン繋がりで登場。名前の由来はアラビア語で技を意味する「تقنية(タクニア)」。初期設定では宇宙人では無く、バット星人を名乗るマッドサイエンティストだった。その時の姿はバットマンの様なものとなっていた。

 

 

 

・ゴドレイ星人

個体名:クアト

別名:巨大異星人

身長:2.2〜50m

重量:106kg〜5万t

出身地:ゴドレイ星

出典:ウルトラマンマックス 25話「遥かなる友人」

 

 

 巨大な爪を持つ宇宙人。頑丈で再生力のある爪、胸から乱射される破壊光線、目眩しになる赤い閃光、チャージしてから放たれる強力なビームと、多彩な技を保有している。戦闘力は高く、虫の翅音や機械音などのような不気味かつ不快な音を発し、まるで感情が無い様な無機質な動きをするという特徴がある。

 ソルア達の用心棒的なポジションであり言語を発しない。ゴードンという護衛の男に化けていた。正体発覚後は他の2人と違い怪獣を従えずにウルトラマン達と戦った。最期は新たに現れたウルトラマンゼノンと戦い、その素早い動きに翻弄された後にゼノニウムカノンを受けて敗れた。

 マックス怪獣から何か登場させたいと思い設定的に出し易かった為登場。名前の由来はアラビア語で力を意味する「قوة(クッワ)」から。マックス本編では地球人とも一切意思疎通をするそぶりも全く無く、その来歴や素性、更にはその目的が一切不明という不気味な侵略者だった。今回は少しだけ愛嬌をプラスしている。

 

 






パンダ泥棒スチール星人登場!
果林回にはぴったりな宇宙人かと思います。

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45.本当のワタシの願いを



また遅くなってしまって申し訳ない……。

果林回3話目。パンダ泥棒スチール星人に、翔琉達はどう対抗するのか?
それではどうぞ。





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ、他の所でもパンダが消えたんっすか?」

《うん。気が付いたらお店にあったパンダグッズが全部無くなってた、なんてことがあちこちで起こってるの》

 

 

 突如パンダのぬいぐるみが消えるという怪事件に遭遇した翔琉は、念の為にXioに連絡を入れていた。そして応答した紗季から、東京のあちらこちらで同じ様な事件が起こっているという事を聞かされる。

 

 

《最初は新手の愉快犯か何かかと思っていたんだけど、手口や事件の起こる頻度的に宇宙人の可能性が高いと思われるわ》

「パンダ泥棒の宇宙人って……十分愉快犯では?」

《まあ、確かに……。怪我人は出てないけど、これ以上窃盗事件を放っては置けないからXioも動いてる。現場で何か見たとか感じたとか無い?》

「そう言われても……」

 

 

 風が吹いたと思ったら一瞬でパンダは消えていた。特に怪し者などは見ておらず、何がどうなっているのか彼にも見当がつかない。

 

 

《私達はこれから街に出てパトロールをするから、翔琉君も何かあったら連絡をして欲しいの》

「了解っす」

 

 

 通信を終えた翔琉は果林達がいる方に目を向けた。そこでは泣いているみやのことを果林と明里が慰めていた。翔琉はそちらへと向かい歩いていく。

 

 

「翔琉、どうだった?」

「とりあえず通報しといたよ。んで、ここ以外でも似た様な事件が起きてるらしい」

「パンダ泥棒が?」

 

 

 明里の疑問に翔琉は「そうだ」と頷いた。パンダグッズを次々と盗んでいく宇宙人。はっきり言って大分意味が分からないが、こうして悲しむ人がいる以上見過ごせない。翔琉はしゃがんでみやと視線を合わせ、彼女の頭に手を置く。

 

 

「安心しろ。みやのかけるは、この翔琉が必ず取り返すからよ」

「ほんとぉ……?」

「応よ、約束する」

 

 

 自身の小指をみやの小指と絡めて指切り。みやは涙を拭い、笑顔を見せてくれた。

 

 

「もちろん、果林のもな」

「え、えっ?」

 

 

 立ち上がって果林の肩を軽く叩く。彼女だって大切なぬいぐるみを盗られて何も思わない筈は無いだろう。果林の物もみやの物も必ず取り戻すと、翔琉は胸を張って宣言。そんな彼を見て、果林は胸の奥が少し熱くなるのを感じた。

 

 

「まあその前に、みやのこと家まで送っていかないとな」

「あ、だったら私がいこうか?」

「いいのか、新城野?」

 

 

 明里は「うん」と頷く。彼女になら任せても問題無いだろう。

 

 それから彼らは別れ、明里はみやの手を引いて行き、翔琉はそれを見送った後歩き出し、果林もその背を追うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、どうやってそのパンダ泥棒を捜すの?」

 

 

 暫く歩いた後、果林がそう聞いて来た。パンダ泥棒は手掛かりとなる物は一切残していないので簡単には見つけられないだろうと彼女は思っている。

 

 

「そこなんだよなぁー。パンダのグッズやらある所に張り込みしようにも、都内のそういう店はもう根刮ぎ持ってかれてるらしいし」

 

 

 彼は「ほら」と言ってエクスバイザーに映されている都内のマップを見せた。マップ内には赤い点が描かれており、そこが既に被害を受けた場所である。おもちゃ屋や本屋、雑貨店、至る所のパンダグッズが奪われており、公園等といった公共の場や、家の中の物が盗まれたという報告まであった。

 

 

「場所はバラバラで、取り敢えず適当に動いて見つけたもんを盗ってるって感じだな。どうしたもんかぁ……」

 

 

 当てのない中、どうやってパンダ泥棒を捕らえるかと頭を掻き悩む翔琉。

 

 

「まあ、安心しろ。みやのも果林のも、しっかり取り返して犯人ブタ箱にぶち込んでやるからよ」

 

 

 指をボキボキと鳴らしながら悪い顔で笑う彼のことを見て果林は若干表情が引き攣る。頼もしくはあるのだが、こういう凶悪なところは少しどうにかならないのだろうか……。

 

 

「ねぇ、翔琉」

「ん、どした?」

 

 

 ちょっとだけ沈んだ様な表情になった彼女が声を掛ける。

 

 

「翔琉は変って思わなかったの?私がパンダが好きだってこと……」

「どうしてだよ?」

「だって、私のイメージに合わないじゃない。こんな物が好きだなんて……」

 

 

 セクシーで完璧、頼れるお姉さんであると周りのみんなから思われている果林。そんな自分が実は可愛い物が好きだなんてどう考えてもキャラじゃないと彼女は感じていた。子どもの頃は可愛い着せ替え人形に囲まれて育っており、その影響もあってかプリンセスの衣装への憧れもあったが、そんなのらしくないと思って胸の奥に閉まっている。方向音痴で、朝が苦手で、勉強が嫌いで、何より負けず嫌いで……みんなが思っている朝香 果林のイメージにはそぐわない。だから彼女は、本当の自分をみんなに見せられないでいたのだ。

 

 

「私に……朝香 果林に似合うのはクールでセクシーで、そういう大人っぽい物なの。可愛い物好きだなんてとても似合わないわ」

 

 

 自虐する様に彼女は笑う。

 

 

「うーん……」

 

 

 翔琉は顎に手を当て考える。似合ってない──その一言を言って貰えたら楽になれるだろう。でも同時に、胸を締め付けられる様な苦しい想いにもなる。早く言って欲しい……朝香 果林という人間はそう在るべきで無いと否定して欲しい。彼女は頭の中(・・・)ではそう考えていた……。

 

 

「良いんじゃない、別に」

 

 

 しかし彼から返って来たのは、予想していなかったものだった。

 

 

「え、えっ……?」

「確かに意外だったよ。でも別に似合うからーとか、似合わないからーとかどーでもいいかなって。似合わないから好きでいちゃいけない、なんて事は無いっしょ」

「でも……」

「それにほら、それを言うなら俺だってこんな見た目でスクールアイドル好きで部長やってんだぜ?そっちの方が似合ってないだろ?」

 

 

 ケラケラと翔琉は笑う。

 

 

「セクシーな果林も、可愛い果林も……あと方向音痴の果林も」

「ほ、方向音痴は言わないでよ!?」

「あはは。どの果林も間違いなく果林なんだからよ。別に良いんだよ、らしくなくても」

 

 

 強い自分も、弱い自分も、どんな自分も等しく朝香 果林であり、翔琉は全て受け入れてくれた。その優しさが果林の胸の奥に沁み渡っていく。

 

 

「あれ?俺結構良い事言ったんじゃない?」

「それを自分で言わなければ完璧だったんだけどね」

「えー」

 

 

 口を尖らす翔琉。彼にだったらもっと自分を見せても良いかも知れない。いや、寧ろもっと見てもらいたい。彼女の中でそんな想いが湧き上がってくるのであった。

 

 

 

 

「んっ?」

 

 

 それから少し歩いた後、翔琉はある店の前で足を止める。そこは所謂布屋でいろんな生地や手芸の材料や道具が置いてあった。翔琉はその店をじっと見つめている。

 

 

「どうかしたの、翔琉?」

 

 

 次に果林に目を向ける。そして店と果林を交互に見た後、彼は悪い笑みをまた浮かべた……。

 

 

「良い事考えたぁー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ありがとう、お姉ちゃん!」

 

 

 明里はみやを家にまで送り届けた。みやは彼女に笑顔を向けて礼を言う。

 

 

「どういたしましてー」

 

 

 手を振り家の中へと入っていくみやを見送った後、彼女は踵を返して歩き出した。道中、みやとは楽しく話すことが出来た為か明里の表情は笑顔だ。本来喧しい子どもは好きでは無いが、彼女は自分に懐いてきたので気に入ったらしい。

 

 

「ご機嫌だねー、明里ちゃん」

 

 

 そんな彼女に、ふらりと現れて声を掛けた者がいる。カタラだ。その姿を見て、明里は舌打ちをし表情が一気に不機嫌になる。

 

 

「何か用?」

「いやいや。ただ君を見つけたから声を掛けただけさ」

「うっざ、死ね」

 

 

 どストレートな罵倒をくらいながらも笑うカタラ。それが明里のことを更に苛立たせる。

 

 

「用が無いなら消えてよ。てか、用が有ってもうざいから死んで」

「ははは、すごい嫌われようだね。……あ、そうだ。明里ちゃんは知ってる?巷で噂のパンダ泥棒のこと」

 

 

 知ってるも何もついさっき一緒に居たみやと果林がその泥棒の被害にあっているのだが、一々言うのも面倒だった。

 

 

「泥棒の正体はスチール星人みたいなんだ。でも変わってるよねー。ただパンダを盗むだけの宇宙人だなんて」

「別に──」

 

 

 興味無い。そう言おうとしたが言葉が止まる。その泥棒・スチール星人は果林とみやのぬいぐるみを盗み、今翔琉が追っている。もしスチール星人を殺してぬいぐるみを取り戻したら、彼らから感謝されるのではないだろうか。3人から向けられる感謝と笑顔……想像してみたが悪くない。

 

 

「……ねえ、その宇宙人どこにいるか知ってる?」

「うん、勿論だよ」

「教えろ」

 

 

 拒否権など無い。早くスチール星人のいる場所を教えろと彼女の目がカタラを脅す。そんな恐ろしい目で見られながらも、カタラは涼しそうに笑っていた。

 

 

「いいよ。ボク達は友達だもんね」

「それは無い」

 

 

 口を尖らせ「残念」と呟いた後、カタラはその場所を伝える。明里はそれを聞き、口角を上げてから歩き出した。どれだけ喜んでもらえるだろうか?どれだけ感謝されるだろうか?彼はどれだけ、私に好意を感じてくれるだろうか?

 

 そんな妄想に心を躍らせながら、彼女は懐から黒い物を取り出すのであった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ねえ……翔琉……」

「お、何だよ?」

「いや、その……本気でやるの……?」

「応よ。最高の作戦だろ、これ」

「えぇ……」

「なんか文句あんのか?」

「文句しかないわよ……!」

 

 

 翔琉と果林はとある建物の屋上に居る。居るのだが、その格好が少し……いや、かなりおかしい。2人とも黒と白の布で作った服を着ており、その姿はさながらパンダだ。何ならパンダの頭のフードまで付いている。

 

 

「これでパンダ泥棒は俺達を狙う筈だからそこを取っ捕まえる!!正に完璧……パーフェクトな作戦だ」

「失敗する未来しか見えないんだけど……」

 

 

 怪訝な目で翔琉のことを見る果林。

 

 

「そう言いながらも、こうやって服作ってくれてノリノリで着てんじゃん」

「貴方1人にやらせるのが心配なのよ」

「お、やっさしー」

 

 

 へらへらと笑う彼を見て果林は溜め息を吐く。自分より大きく、確実に力の強い翔琉ではあるが、彼は一つ下の後輩。先輩である自分が放って置くことなんて出来ない。怪獣や宇宙人絡みで何度も無茶をしている様だし、ちゃんと付いて置かなければと彼女は思っているのだ。

 

 

「てかこの格好に文句言うんだったら、ショップでの果林だって大概だったぞ」

「なッ!?それは忘れなさいよ!?」

「まさか外人の振りするなんて思いもしなかったわ」

「あ、あの時は仕方なくよ!?」

 

 

 そうやって話していた時、風が吹く。まるでパンダが盗まれた時と同じ様な状況。何かを感じて振り向き足を伸ばした翔琉。その足先は、突如現れた黒いフード付きのマントを羽織った男に突き刺さっていた。

 

 

「ぐぼぉっ!?」

「え、な、何!?」

「ビンゴー、ってとこか」

 

 

 男は吹き飛んで床をゴロゴロと転がる。翔琉は果林を自身の背後に下がらせてから男の前に出た。

 

 

「お前がパンダ泥棒……だよな?違ったらごめん」

「クククッ、バレたなら仕方ない……!」

 

 

 男はマントを勢い良く取り、スチール星人シーフとしての正体を現した。

 

 

「う、宇宙人!?」

「マジで宇宙人だったんだ……え、何でパンダ盗んでんの?」

「私は過去にこの星の文化を調査する為にやって来た。そこで!全ての地球人達が夢中になっているある動物を見つけた!それがパンダだ!」

「お前いつ来たの?」

「地球時間で50年程前だ」

「あー……」

 

 

 1970年代、日中国交正常化後に中国から日本に2頭のパンダが動物園に送られて来た。そのパンダ達を一眼見ようと、動物園には長蛇の列、来園者の海が出来てしまう程の人が集まったとのこと。係員が「少々お待ちください」、「押さないで、急がないで」などといったプラカードを掲げてたり、あまりに行列が長くなりすぎて入場制限をせざるを得なくなり行列の間に割って入り「今日はここまで。また明日来てください」と知らせたとも云われている。当時の日本では空前のパンダブームが巻き起こっていたのだ。

 

 

「……いや、地球人ってか日本人限定じゃん。あ、お前あれだろ!横浜を横浜県って思ってるタイプだろ!」

「そうじゃないのか?」

「殺されるぞ?」

 

 

 話してて分かったがこの宇宙人、頭が弱い。とんでもない馬鹿だ。

 

 

「全てのパンダをスチール星に持ち帰り、我々も癒してもらうのだぁ!!」

「ええぇ……」

「どうしよう。馬鹿の極みで頭痛くなってきた」

 

 

 高々と笑うシーフに困惑する果林と頭を抱える翔琉。まあ、馬鹿とはいえ被害が出ているのは事実なので、どうにかして奴からパンダを全て回収しなければならない。

 

 

「とりあえず!てめえが盗んだパンダの服やら本やらぬいぐるみやら、まとめて返してもらうぜ」

「断る!!スチール星の為にも、この地球のパンダは全て戴く!お前達もなぁ!」

 

 

 こちらに向かって走って来たシーフ。翔琉も対抗して走り互いに取っ組み合った。そして彼の横腹をシーフが蹴り付ける。

 

 

「ゔっ!?」

「翔琉!?」

「大人しく捕まれ!」

「調子に……乗るなッ!」

 

 

 更にシーフは腕を振って殴ろうとするが翔琉はそれを受け止め、頭突きを顔面へ叩き込んだ。顔を抑えてシーフは後退。額から血が出るが、彼は気にせずにまたシーフに組み付いて柵まで押し込んでいった。

 

 

「こ、この!?」

「降参しな。悪い様にはしない……かも知れない、ぞ?」

「そこは言い切れよ!?こうなったらぁ……!」

「え、ちょっ!?」

 

 

 シーフはなんと翔琉に掴み掛かって高く跳び、そのままビルの下へと共に落下していった。

 

 

「嘘でしょ、翔琉!?」

 

 

 驚き、慌てて柵の方へと走る果林。この高さから落ちてしまえばまず助かる筈が無い。彼が死んでしまう……その不安と焦りから急いで駆け出したが、突如二、三発の閃光が迸り彼女の足を止めた。

 そして高笑いと共に、巨大化したシーフが眼前に姿を現すのであった。

 

 

「フハハハハッ!奴は捕まえ損ねたが、お前は必ずスチール星に連れて行くぞ!」

 

 

 人差し指が異様に長い大きな手が果林に迫る。このままでは捕まってしまうと思い彼女は身体を強張らせた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、シーフの手が果林に届こうとした時、それを横から伸びて来た赤い腕が掴んで止めた。横を向いたシーフと、上を向いた果林の目に映ったのはウルトラマンエックスの姿。実は地面に叩きつけられる寸前、翔琉はエクスデバイザーを取り出して変身したのだ。

 

 

「何ィィ!?ウルトラマンだとぉ!?どわぁ!?」

 

 

 エックスの拳が顔面に叩きつけられてシーフは後退。彼は更に蹴り付けて奴のことを吹っ飛ばした。

 

 

「泥棒野郎、神妙にしやがれ」

「く、くそぉ!!」

 

 

 戦う2人の巨人。戦況はエックスが有利であり、シーフの攻撃を全て躱したり受け止めたりしてからカウンターを叩き込んでいる。

 

 一方果林は、再び走って柵の所まで行き下を覗いた。

 

 

「翔琉は!?いない……!?」

 

 

 彼女はエックスの正体が翔琉と知らない為、彼が落下してしまったと思っており必死に探している。上からは見当たらず、一先ず降りて探そうと考えた果林は屋上を後にし階段を駆け降りていった。

 

 

 シーフが顔面から火炎放射を放つ。しかしエックスは左手を突き出してそれを容易く受け止めた。そしてそのまま奴へ歩いて接近していき、発射口に拳を叩き込む。

 

 

「ごわあああッ!?」

 

 

 堪らず吹っ飛んで倒れたシーフ。どうやらコイツは戦闘能力は高く無い様だ。

 

 

「降参しろ。そうすりゃあ殺しはしねぇ」

 

 

 指を鳴らしながらエックスは迫っていく。だがシーフは降参するつもりは無いらしく、立ち上がって彼に対して構えた。

 

 

 その時────

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ、何だ?」

 

 

 背後で建物が崩壊する音が聴こえて来た。音がした方向に振り返ると同時に、彼の頬の横を紫色の光弾が横切り、シーフに炸裂する。

 

 

「お前……!?」

 

 

 振り返ったエックスは驚く。

 光弾を放った者は、ダークファウストであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・ルガノーガー

別名:凶獣

体長:57m

重量:6万6千t

出典:ウルトラマンマックス 28話「邪悪襲来」

 

 豊かな惑星をいくつも破壊して来た高い知力を持つ凶悪な怪獣。怪力、頭部と両腕の口から放つ強力な光線、肩の角からの雷撃を武器とし、胸の装甲板は頑丈でビームを反射、更に尾の先を突き刺すことでエネルギーを吸収出来る等、多彩な武器を持つ。

 ソルア達に唆されて地球に向かっていく途中、マックスと遭遇して月面で激突。その強力な武器を駆使してマックスに挑んだが、悉く破られてしまい、最期はマクシウムカノンを受けて爆散した。因みにソルア達はルガノーガーのことは最初から捨て駒程度にしか考えてなかったらしい。

 一般人の小学生がデザインした怪獣デザインコンテスト優秀作品「ルガノール」を元にした怪獣。凶悪な設定をしているが出自は不明であり、ヤプールが作ったが制御出来なかった為放逐された説、スコーピス等と同じ怪獣兵器説、宇宙の邪悪の実体化説等、様々な説がある。

 

 

・ラゴラスエヴォ

別名:進化怪獣

体長:54m

重量:6万t

出典:ウルトラマンマックス 30話「勇気を胸に」

 

 カタラがラゴラスのスパークドールズにグランゴンのスパークドールズのマグマコアを無理矢理移植させた事により誕生した怪獣。冷凍属性と炎属性を併せ持つ。火炎弾と冷凍光線を同時発射することで相手に急激な温度差を発生させる超温度差光線が必殺武器。

 戦局を悪化させる為にカタラが造り出し暴れていた所、現れたエックスと交戦。激闘を繰り広げたがゼロの力を使って投擲されたウルトラゼロランスに貫かれた後、ウルトラハリケーンで投げ飛ばされ、最期はウルティメイトゼロアーマーを纏ったエックスのファイナルウルティメイトゼロ喰らったことで敢え無く爆散した。

 元ネタはアボラス。アボラスが高い耐久力を持っていたのに対し、こちらは高い攻撃力を持っていた。ラゴラスエヴォが登場する回はウルトラマンの「小さな英雄」が元ネタとなっており、その為か本編ではジェロニモンの様な高い知能を持っている様な描写があった。当初登場予定は無かったが、マックスからの怪獣をまだ何か出したいと考え、急遽登場。

 

 

 

 







果林、明里の想いが明らかになってきた今回。
そしてスチール星人を攻撃したファウストの意図とは?
彼女達がどうなっていくのか、次回も是非お楽しみに。

それでは、今回はここまで!
感想、質問、高評価、ここすき、その他、是非是非お待ちしています!



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46.彩られるセカイ

ウルトラマントリガー!!!
遂に新ウルトラマンが発表されましたね!ティガ激推しな私としてはどんなものになるのか今からドキドキしています!!


果林編クライマックス!
翔琉はパンダを取り戻すことが出来るのか!?

それではどうぞ!




 

 

 

 

 

 

 

 かすみ、しずく、璃奈の3人は東京ジョイポリスという施設に来ていた。今日は部活も休みの為、彼女達は一緒に遊んでいたのだ。

 

 

「いやー、VRゲーム楽しかったね!しず子、りな子!」

「うん!私、ああいうの初めてだったから凄く新鮮だったよ!教えてくれてありがとう、璃奈さん」

「喜んでもらえたなら良かった。璃奈ちゃんボード〈にっこりん!〉」

 

 

 施設内のベンチに座り、購入したコッペパンを仲睦まじく食べる3人。そんな時、前方にあったモニターに緊急速報のニュースが流れる。怪獣災害が発生した際に報道されるものだ。

 

 

「怪獣出たんだ」

「ここからは離れてるし、ウルトラマンもいるから大丈夫だろうけど、一応避難しておこうか。ね、かすみさん?」

 

 

 しずくはかすみにそう言ったが、彼女は何も答えず画面に釘付けとなっていた。

 

 

「か、かすみさん……?」

「どうしたの、かすみちゃん?」

 

 

 彼女の驚きと恐怖に満ちた表情が只事では無いと物語っており、しずくと璃奈は困惑している。

 

 

「あれは……あの時の……!?」

 

 

 かすみの目に映っていたのは、かつて彼女に恐怖と絶望を味合わせたダークファウスト。奴を見た彼女のその手と身体は震えており、持っていたコッペパンが零れ落ちそうになる。ダークフィールドに迷い込んだ際、奴によって見せられた悪夢が脳裏に蘇って来る。自分の全てを否定され、翔琉に見捨てられ、何より翔琉が死んだという最悪の夢………奴が再び現れたことでそれがまた齎されるのではと思い身体が震え───

 

 

 

 

 

 

 

 

──俺がかすみを見捨てる訳ねえだろうがぁ!!!

 

 

 

 

 

 

 あの時彼から投げかけられた言葉が胸に浮かぶ。

 そうだ……何があっても彼は絶対に自分を見捨てたりはしない。どんな恐ろしい事態に陥っても、必ず彼は助けに来るだろう。震えは止まり、落ちそうになっていたコッペパンをぎゅっと握る。

 

 

「大丈夫……私は大丈夫」

 

 

 彼女が恐怖に負け、闇に呑まれる事は無い。その心を支えてくれる大好きな先輩(翔琉)がいるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「てめえ、何しに来たァ!?」

 

 

 ファウストへと吼えるエックス。奴はそれに対して不気味な笑い声を漏らすだけ。舌打ちをした後、エックスは地面を蹴ってファウストに向かって走る。それに対してファウストも駆け出し突っ込んで来る………かと思いきや、奴は跳躍してエックスの頭上を超え、そのまま起き上がろうとしているスチール星人シーフに向かっていった。

 

 

「何!?」

 

 

 ファウストはシーフを蹴り付けて後退させる。更に接近してその肩を掴み、何度も殴打を繰り返した。

 

 

「ぐおっ!?があ!?ぐうっ!?」

 

 

 執拗にシーフを攻撃するファウストに、エックスは困惑していた。これまで自分に対して何度も襲撃をして来た奴が、何故自分を無視してシーフを攻撃しているのか?ファウストはこちらを見向きもせず、容赦無い攻撃を素早く叩き込んでおり行動が不可解過ぎる。

 回し蹴りが腹部に当たり、シーフは身体をくの字に曲げて後退。ファウストはすぐに間合いを詰めて顔を殴る。

 

 

「がはぁッ!?な、何なんだお前は!?」

 

 

 シーフはファウストとの面識は無く、自分が何故攻撃を受けているのか分からないでいた。打撃が腹部に入りまた後退するシーフ。ファウストは再び殴り掛かろうと腕を振り被った……。

 

 

「おらぁッ!」

 

 

 しかしそこに、エックスが飛び蹴りを放ってくる。それを受けて吹っ飛ばされてしまったファウスト。着地したエックスはシーフの首根っこを掴み無理矢理立ち上がらせた。

 

 

「イダダッ!?な、何なんだ一体!?」

「うるせぇ。お前、あのピエロの敵だよな?」

「え?ま、まあ、味方では無いが……」

「ならアイツ潰すの手伝え」

「はあ!?お前は何を……!?」

 

 

 驚くシーフであるがすぐに考える。この状況で最も避けたいのはエックスとファウストが共に襲って来ること、次に避けたいのは三つ巴となってしまうこと。戦闘能力の決して高く無いシーフでは前述した二つの状況になれば即座にやられてしまうだろう。最も好ましい状況はエックスとファウストとが潰し合ってくれることで、次に好ましいのはどちらかと手を組んで残った方を倒すことだ。そうすれば生き残れる確率が格段に上がるだろう。

 

 

「わ、分かった!だが、寝首を掻く様なマネはするなよ!」

「そりゃ俺の台詞だ。まあ、そんなことしたら即潰すけど」

 

 

 ファウストは強いがエックスと組めば倒せなくはないかも知れない。それに万が一の場合、隙を見つけて逃げ出せばいいとも画策する。シーフは彼との共闘を受け入れた。

 

 立ち上がったファウストは自分に向けて構えているエックスとシーフを見る。その後奴は自分が現れた倉庫がある場所に目線を向けた。

 

 

「あ、あそこは!?」

 

 

 また驚いているシーフだが無理もない。その倉庫というのは彼が盗んで来たパンダグッズを隠している場所だったからだ。

 

 

「お前、あんな所に隠してたのかよ」

「ア、アレは全部我々の物だ!!絶対渡さんぞ!!」

「お前のじゃねえだろ!!これ終わったら返してもらうからなァ!!」

「断る!!」

「てめぇからしばくぞ!?」

 

 

 言い争う2人を尻目に、ファウストは腕から闇を倉庫に置いてあったパンダのぬいぐるみに向けて放つ。するとパンダはどんどん巨大化。顔は一応パンダみたいなのだが背中はアルマジロの様になって頭よりも上にあがっていて腰にはボコボコと(こぶ)の様な丸い物がいくつも着いており、これは何と爆弾なのだ。

 こうして誕生した怪獣・デスコングキングは咆哮を上げた。

 

 

「おいおいおいおい、マジかよ」

「パンダがぁ!?」

 

 

 デスコングキングはファウストの横に並び、対してエックスとシーフも構える。シーフはパンダのぬいぐるみを怪獣にしたファウストに対して怒り心頭の様だ。

 

 

「可愛いパンダを怪獣にするとはぁ……!許せん!」

「はいはい。なら、そのパンダを抑えとけ」

 

 

 彼らが同時に駆け出すのに合わファウスト達も走り、激しい激突が展開されるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、ビルから降りた果林はビルから落下した翔琉を探していた。戦いによって起こる揺れに足を取られながらも、彼女は翔琉を見つける為に必死に動く。

 

 

「何処……何処なの翔琉!?」

 

 

 周囲を見回すが彼の姿は何処にも無い。それもその筈、翔琉は今ウルトラマンエックスに変身して戦っているのだから。しかしそんなこと知る由もない果林は額に汗を流しながら彼を探していた。あのビルの高さから落下すれば、普通の人間は間違い無く命は無い。そうなると翔琉は……。生きていると信じたいが、最悪の想像が頭に浮かび彼女の顔を蒼白させる。

 

 

「翔琉ーーーッ!!翔琉ーーーーーッ!!」

 

 

 喉がはち切れんばかりに叫ぶ果林。どんな自分も受け入れてくれる彼がいなくなる事は、絶対に嫌だと彼女の心が叫んでいた。

 

 

「ッ!?」

 

 

 また地面が大きく揺れる。見上げるとそこにはデスキングコングに押されて後退してくるシーフの姿があった。このままシーフが退がっていけば、果林は踏み潰されてしまう。不味い……と思った時には既に奴の足によって出来た影が彼女を覆う。

 迫り来る足裏とそれによる死。彼女は恐怖から動けないでいた……。

 

 

 

 

 

 しかしその足が踏み下ろされる前に、エックスが頭から滑り込んで彼女のことを掴み救出することに成功した。

 

 

「セーーーーーーフッ!!!生きてる!?生きてるよな!?な!?な!?」

「う、ううっ……助かった……?」

「よーし、生きてる!!良かったぁ!!お前気をつけろこのパンダ狂いがァ!!」

 

 

 シーフに怒号を飛ばした後エックスは起き上がってから跳躍し、少し離れた所に果林を降ろした。そして再びファウストに殴り込みに行こうとする。

 

 

「ま、待ってウルトラマン!?」

 

 

 だが果林に声を掛けられて足を止め、彼女の方に目を向ける。

 

 

「私の友達がいなくなったの!!ビルから落ちたんだけど探しても全然見つからないし、もしかしたら……死んでる……かも……」

 

 

 目尻に涙が溜まっていく。彼が死んだかも知れないと胸の奥が痛くなった。そんな彼女に、エックスは優しく言葉を放つ。

 

 

「あのでっかい高校生なら生きてるよ。落っこちる前に俺が助けたから」

「本当!?じゃあ、今何処に?」

「あー……あっちの方に降ろした。なんか、避難指示とかしてるみたいだぞ?そんでヤバくなったらお前のことよろしくって頼まれた」

 

 

 言ってる事は全部適当な出まかせなのだが、翔琉が生きているということを知れた果林はホッとして胸を撫で下ろした。

 

 

「つー訳で、お前もこの辺で隠れてろ。あいつらサクッと片付けて来っからよ」

「わ、分かったわ」

 

 

 エックスは振り返りシーフ、デスキングコング、そしてダークファウストに視線を向ける。

 

 

「さて……気合い入れていくぜッ!」

 

《ULTRAMAN HIKARI LOAD》

 

 

 ウルトラマンヒカリの力を解放することによって右腕に現れるナイトブレス。そこから光の剣・ナイトビームブレードが伸びた。彼は駆け出し、ファウストに向かってそれを振るう。奴はそれをギリギリで回避して後ろに退がった。

 

 

「悪いがステラとヒカリ程綺麗には斬れねえ。寧ろ雑にぶった斬ってやるから覚悟しろやぁ!」

 

 

 荒々しく振われる光刃がファウストを攻める。その全てを躱し切ることは難しく、奴の身体に少しずつ傷を刻む。

 

 

───ဂူ(ぐぅ)……!?

 

「どらぁッ!」

 

 

 更に前蹴りが腹に叩き込まれ、ファウストは苦痛の声を漏らして後退。エックスは更に踏み込んで剣を振り下ろした。

 

 

 一方シーフはデスキングコングに飛び付いてその動きを抑えていた。しかし奴の力は強くシーフは容易く弾かれて転ばされてしまった。

 

 

「ぎゃっ!?お、落ち着くんだパンダぁ!私は敵では無──ぐぇあっ!?」

 

 

 口から火炎・デスコングファイヤーが放たれ、立ち上がった彼を焼いていく。十数歩退がったシーフに向かって前転し、巨大なボールとなって突っ込んでいった。この大技・デスコングボールを受けたシーフは大きく吹っ飛び、その身体がビルを押し潰しながら沈んでいく。

 

 

「強……い……!?ぐうう……」

 

 

 大きなダメージの所為で立ち上がれないシーフにデスコングキングが迫る。腕を振り上げ、倒れているシーフに向かって突進していく。

 

 

「ま、待って、待ってくれぇ!?」

 

 

  手を前に出し止まる様に懇願するがそんなものが聞き入れられる筈も無く、奴はどんどん迫って来ていた。

 そして巨体によるのしかかりが決められようとした時……。

 

 

「うおっ!?な、何んだぁ!?」

 

 

 蒼い光線が飛んで来て、デスコングキングに炸裂し、大きな爆発と共に奴を吹き飛ばした。ファウストを蹴り飛ばしたエックスが、やられそうなシーフを見て咄嗟にナイトシュートを放ったのだ。光線は剥き出しになっていた爆弾に当たっており、それで凄まじい爆発が起きることとなった。

 

 

「代われ泥棒ぉ!」

 

 

 爆発の余波でごろごろ転がるシーフを飛び越え、背中から倒れて立ち上がれず手足をジタバタさせているデスコングキングに馬乗りになり、その顔に容赦無く拳を叩き込んでいく。

 

 

「あ、あまりパンダを虐めるんじゃないぞ!?」

「うるせぇ!あの赤いのどうにかしてろ!」

 

 

 ある程度痛め付けたファウストをシーフに押し付け、エックスは止まる事なく拳を打ち付けていった。そしてシーフは立ち上がり、膝を付いていたファウストに向かってタックルをかまし、そのまま組み合ってまたゴロゴロと転がっていく。

 

 

「よっと!」

 

 

 跳躍してデスコングキングから離れ、エックスは左足裏から余剰エネルギーを放出しながら上空で両腕を振り、それからクロスに組んだ。

 

 

「ザナディウム光線!」

 

 

 放たれたザナディウム光線は倒れているデスコングキングに直撃。奴は爆散し、本来のぬいぐるみの姿に戻った。

 

 

「やった!」

「パンダあああああ!!」

 

 

 戦いを隠れて見ていた果林が喜ぶ。そしてぬいぐるみを、ファウストから即座に離れたシーフがダイビングキャッチ。

 

 

「ふぅ〜……」

「よっと……さて、次はてめえだ。覚悟決めろよ」

 

 

 着地し、立ち上がったファウストへと走るエックス。奴も駆け出し、互いに放った拳がぶつかり合った。

 

 

「おおお──らあッ!!」

 

───နာကျင်မှု(ぐぬううぅ)……!?

 

 

 エックスは拳をそのまま振り抜き、ファウストの腕に痛烈なダメージを与える。彼は踏み込んでファウストの肩を掴み、思いっきり頭突きを額へ叩き込んだ。フラフラと後退するファウストに、エックスは更なる追撃を与えるべく拳を振るう。強烈な打撃が叩き込まれ、奴を徹底的に追い詰めていった。

 

 

───နာကင်မှ(があああ)!?

 

 

 頬を殴られて吹っ飛んだファウスト。今こそトドメを刺す絶好のチャンスだ。面倒な因縁に蹴りを付ける為、エックスは必殺光線を放つ体勢に移る。

 

 

「ザナディウム───ッ!?」

 

 

 しかしその時、突如地面から触手が飛び出して彼の首に巻き付いた。突然のことに驚きながらも触手を解こうとするエックス。それにより出来た隙は、ファウストが逃げ出すには十分であった……。

 

 

「くっ、邪魔だ!──ファウストは!?」

 

 

 触手を振り解いたエックスであったが、既にファウストの姿は無かった。また逃げられたという事態に、彼は怒りを込め奥歯を強く噛み締めるのであった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ほら、約束通り取り戻したぞ」

 

 

 パンダ泥棒騒動の翌日、翔琉と果林はあの公園に来ていた。そこでみやに、取り戻すことが出来たパンダのぬいぐるみであるかけるを渡す。

 

 あの後、パンダグッズが隠されていた倉庫にXioが来て、そこにあった物は全て持ち主の元へと送られることになった。犯人であるスチール星人シーフはXioに逮捕され、現在拘留中。一緒に戦ってくれたとはいえ盗みを働いた以上見過ごしては置けない。とはいえ協力してくれたことからある程度罪は軽くなるそうだ。彼が盗みだけで人間を殺傷していなかったことも理由の一つだ。シーフ自身深く反省しており、もうこんな事はしないと語っていた。

 

 地中から急に伸びて来た触手。怪獣の物であると考えられるが情報が少なく、その正体は不明。恐らくファウスト自身、又はファウストを助ける為に協力者のカタラの指示によって行動したのだろう。

 

 今回の件でファウストの存在は世間に知れ渡った。ウルトラマンに似た姿でありながら、怪獣を産み出しエックスに牙を剥いた邪悪な魔人。奴の姿を見た多くの人が強い恐怖を感じたとの事。そして同時に、世間ではエックスもいつかファウストの様になり、人類の脅威となるのでは……という声が少しずつ広がっていた……。

 

 良くも悪くも、一連の騒動は世に少なくない影響を齎した。しかしこれからを考えるよりも、今はこの少女の笑顔をまた見ることが出来たという事を、彼らは只々嬉しく思うのであった。

 

 

「ありがとうお兄ちゃん!」

 

 

 笑顔でかけるを抱き締めるみや。そんな彼女のことを見て、翔琉と果林も自然と笑みが溢れる。少し一緒に遊んだ後かけるを大事そうに抱き、みやは時折り振り返ってこちらに手を振りながら家にへと帰って行く。

 

 

「とりあえず、一件落着だな」

「そうね」

 

 

 果林は横目で翔琉の顔を見る。これまでは後輩や弟程度にしか考えてなかったが、今はその横顔がとても凛々しく頼り甲斐のあるものに見え、胸が少し熱くなるのを感じた。

 

 

「ねえ、翔琉」

「ん、どした?」

「ありがと」

 

 

 私の全てを受け入れてくれたことへのお礼。その想いを込めて、彼女は翔琉の頬に唇を付けようとする………が、寸前のところで彼の手で止められてしまった。

 

 

「………何でよ?」

「いや何でよじゃねぇよ。寧ろこっちが何でよだわ」

「嫌いなの、私のこと?」

「嫌いじゃないですぅー。けどそれとこれとは話が別ですぅー」

「ふーん」

 

 

 暫く頬を膨らまして彼を見つめたが、諦めてニ歩後ろに下がった。

 

 

「せっかくのご褒美なのに」

「身持ちが固いので」

「そう。なら……」

 

 

 ケラケラ笑う翔琉。彼のことを落とすのは一筋縄ではいかないらしい。果林は一度溜め息を吐いた後笑い、彼の前に立った。

 

 

「いつか貴方を、私の魅力で夢中にさせてあげるわ」

 

 

 ウインクし、優しく美しい笑顔を彼に向ける。彼となら、素直な自分を曝け出して歩いていけるかも知れない。その道で迷っても、一緒だったらそれも悪くない。

 

 彼女の世界には今、鮮やかな虹が掛けられた───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ガシャン!パリン!……物の壊れる音が絶え間無く鳴り渡る。明里が自宅のリビングで、食器などを適当に手に取り投げて破壊しているのだ。彼女は髪を振り乱し、眉間に皺を寄せ、怒り任せに近くにある物を投げたり叩き付けたりしている。

 またエックスに負けた……。昨日、盗まれたパンダのぬいぐるみを取り戻し、犯人のスチール星人を殺せば翔琉や果林が喜んでくれると思い動いた彼女であったが、エックスによって妨害されてしまった。

 何度挑んでも奴には敵わず、無惨な敗北を喫している。そしてその度に奴は更に強くなっていき、最早ファウストでは相手にならないだろう。

 

 

 

「ッ……」

 

 

 噛み締めた奥歯からギリッという音が鳴る。どうしようもなく怒りが湧き上がり止められない。アイツさえ居なければ、私は幸せに日々を過ごせた筈なのに。早く潰したい、早く消したい、早く殺したい。そんな衝動が、取り止めなく彼女の内側から溢れ出していた。

 そんな時、叩き付けたことで画面のひび割れたスマホから呼び出し音が鳴った。一体誰だと舌打ちをしスマホを拾い上げて画面を見ると、そこには翔琉の名前が記されていた。

 

 

「天地君……?」

 

 

 少し驚きながら、彼女は通話ボタンをタッチしてスマホを耳に当てる。

 

 

《おーす、新城野。今大丈夫か?》

「うん。大丈夫だけど、どうかしたの?」

《昨日のことでさ。ほら、お前が送っていったみやって女の子いたじゃん?あの子から新城野にもありがとうって伝えてくれって言われてさ》

 

 

 昨日、というワードを聞くとエックスに敗北したことをまた思い返してしまうが、その不快感を声に出さない様抑える。

 

 

「そうだったんだ。ぬいぐるみは無事だったの?」

《おう、バッチリ取り戻したぜ》

「そっかー、良かった」

《俺からも礼を言うよ。ありがとな》

 

 

 彼からのありがとうを聞いた時今まで湧き上がっていた怒りがスッと引いていき、代わりに胸から熱いものが生まれてくる。表情も穏やかなものになり、その頬が少し赤く染まっていた。

 

 

「ねえ、天地君」

《ん、どうした?》

「天地君って、朝香先輩やかすみちゃんのこと名前で呼んでるよね?」

《ああ。そう呼んでくれって頼まれたからな。あ、俺ちゃんと先輩には敬意払う男だからな》

 

 

 彼に「わかってるよ〜」と笑いながら返した後、彼女は言葉を繋ぐ。

 

 

「私もさ、天地君に名前で呼んで欲しいなって思うんだけど……どう、かな?」

 

 

 恐る恐るそう聞いた明里。心臓がバクバクとなり、それが身体中に拡がっていく。何でこんなに緊張しているのだろうか?もし断られたら……そう思うと胸にこれまで感じたことの無い痛みが走る。

 

 

《おう、良いぜ》

「ほんと!?じゃ、じゃあ……私も名前で呼んで良い?」

《勿論だよ》

 

 

 スマホから聴こえてくる彼の声は優しく、彼女は幸福感に包まれていった。

 

 

《じゃあ、改めてよろしくな明里》

「うん、よろしくね翔琉君」

 

 

 通話を終えた明里はスマホを胸に抱き寄せる。翔琉から名前を呼んでもらえる事、翔琉の名前を呼ぶ事。それらがとても心地良く感じ、笑みが溢れて来た。

 そして彼女は自覚する。私は彼のことが好きなのだと。

 

 

「ふふっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 酷く散らかったリビング。そこには何も映ってないテレビを見つめる父・広也と床に寝転がっている母・利子。そして最高の笑みを浮かべた明里の姿があった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・チビスケ

別名:幼海獣

体長:75cm

重量:7kg

出典:ウルトラマンタイガ 2話「トレギア」

 

 海獣ゲスラの幼体。好物は板チョコ。幼い愛が偶然見つけ、周りには内緒で橋の下で飼っていた。左目付近に怪我をしている。彼女にはとても懐いていた。

 愛にとって初めての怪獣の友達であり、とても仲の良かった。だがチビスケは猛毒を持っており、成長するに連れて強くなるそれを愛に喰らわせない様にする為少しずつ距離を取っていた。大きくなっていくチビスケをどうしたらいいか分からなくなって来た当時の愛はXioにチビスケのことを伝える。しかし当時のXio隊員はチビスケを危険な怪獣と勘違いし攻撃してしまった。それによりチビスケは逃走。その生死は分からないままである……。

 ウルトラマンタイガからの登場。幼体ではあるが、キングゲスラでは無くゲスラが映像作品に出たのは実に53年ぶり。初見ではゲスラに見えないデザインにしてほしいと要望された為、ウーパールーパーや山椒魚などの両性類をイメージしてデザインされた。

 

 

 

・ゼッパンドン

別名:合体魔王獣

身長:60m

重量:4万5千t

出典:ウルトラマンオーブ 16話「忘れられない場所」

 

 明里がゼットンとパンドン、そしてマガオロチの怪獣カプセルを融合させ産み出したカプセルで召喚した怪獣。ゼットンとパンドンの特徴的な能力を引き継いでおり、頭部の両脇にあるパンドンの口のような器官から発射する紫色の破壊光線や口から吐き出す超高温の火球・ゼッパンドン撃炎弾で全てのものを粉砕する。 他にも瞬間移動能力で相手を翻弄し、顔の両側から前面に展開する六角形のバリア・ゼッパンドンシールドで相手の光線技を防ぐなど機動力と防御力も高い。

 その圧倒的な力でゼットンを殺し、エックスから強い憎悪を向けられた。エックスの攻撃を全て無力化し、破壊光線で吹き飛ばす。しかしゼノンが現れ、他の宇宙人達や怪獣が撃破された事によって形勢逆転。最後はエックス、マックス、ゼノン、サイバーゴモラの合体技コンビネーションマキシマムによって撃破された。

 ウルトラマンオーブに登場した怪獣。本作では召喚された怪獣として登場した。全ての登場作品でジャグラス・ジャグラーがダークリングやダークゼットライザーを使って変身している為、事実上ジャグラーの戦闘形態の一つの様に扱われている。また、劇場版オーブでのジャグラーのゼッパンドンへの変身バンクは本来予定に無かったが、製作発表当日にジャグラーを演じる青柳 尊哉氏が監督である田口清隆氏にわがままを言ったことから実現したらしい。

 

 

 





今回登場したパンダのぬいぐるみが変化した怪獣デスコングキングですが、オリジナルではなく「ジャンボーグA」に登場した怪獣なのです。世にも珍しい(?)パンダの怪獣となっています。

翔琉への想いを自覚した明里。互いの正体を知らず、2人の距離は徐々に縮まっていくことに。果たして彼らはどのような未来に辿り着くのであろうか……?

それではまた次回をお楽しみに。

感想、高評価、質問、ここすき、その他、是非是非お待ちしています!




次回、魔獣襲来



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47.ホシを越えて

コロナで色んなイベントが中止になって辛い……。
そんな嫌な世の中ではありますが、ちょっとした楽しみになれればと思っています。

新展開の47話目、早速どうぞ!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙。無限に広がるそこを泳ぐ一隻の船が有った。所々から煙を立ち上がらせながらも、宇宙船は止まる事無く進み続ける。そのコックピットには、数人の男女がいた。彼らはある理由から、母星を脱出しここまで逃げて来たのだ。

 

 船内には警告音の様なものが鳴っており、皆慌ただしく船内のパネルやキーボードを操作している。すると大きな衝撃と共に船内が揺れ、1人の少女が倒れた。見たところ、この中で一番若いのは彼女の様だ。金色の髪をしていて地球人でいう中学生か高校生くらいの容姿をしてる。倒れたその少女に、1人の男性が駆け寄った。

 

 

「大丈夫か、マウナ!?」

「う、うん……」

 

 

 男性はマウナと呼んだ少女を立ち上がらせる。しかし次の瞬間、宇宙船はまた大きく揺れた。

 

 

「きゃあ!?」

「くっ!?こうなったら……!」

 

 

 何とか持ち堪え倒れなかった2人。そして男性は、マウナの手を引いてある場所へと歩き出した。そこは小型の脱出用ポッドがある所だ。

 

 

「に、兄さん……!?」

 

 

 彼はマウナをポッドの中にへと入れて蓋を閉じる。

 

 

「兄さん、何するの!?」

「このままじゃ危険だ!俺達が囮になるから、お前だけでも逃げるんだ!」

「嫌だ!!私も兄さん達と一緒に居る!!一緒に居させてよ!?」

「ダメだ!!」

 

 

 どうしても皆と一緒に居たいと懇願するマウナであるが、兄は決してそれを認めようとはしなかった。

 

 

「良いか?俺達は惑星ゴールドで最後の生き残りだ。ここで全滅したら、惑星ゴールドの未来は完全に無くなってしまう。だから、誰か1人でも必ず生き残らなきゃいけないんだ!!」

「だったら、私よりも兄さんやみんなの方が!?」

 

 

 自分よりも兄や他の人達の方が生き残るのに相応しいと言うマウナ。しかし兄は首を振ると、パネルを操作して脱出ポッドを外へと排出する準備を始めた。

 

 

「必ず生きてくれ、マウナ」

「ま、待って!?待って兄さん!?」

 

 

 最後にスイッチを押し、彼女の乗ったポッドが宇宙船の外へと勢い良く出された。

 

 

「うっ、ううっ!?」

 

 

 排出されたことによる衝撃に驚くマウナ。それから彼女は、小さな窓から兄達の乗っている宇宙船を見る。ポッドに付いている通信機で宇宙船と交信しようとしたが、あちら側の通信機が壊れているらしく繋がらない。

 

 

「兄さん……!?」

 

 

 父も母も、祖父も祖母も、他の兄弟姉妹達も死に、唯一遺された家族であった兄。とても大切な存在であった彼との距離が、段々と離れていくのが心苦しく、彼女はずっと船を見つめて兄のことを呼んでいる。

 

 

 

 

 すると次の瞬間、閃光が迸って宇宙船は石にへと変化。そして続け様に駆け巡った稲妻によって爆発し、木っ端微塵に粉砕された。

 

 

「嗚呼!?兄さ──きゃあああッ!?」

 

 

 爆発によって起きた衝撃波でポッドは吹き飛ばされ、マウナは中で何度も叩きつけられ気を失う。ポッドはそのまま、とある惑星にへと落ちていくことになるのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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《昨夜から未明にかけて、東京八王子市の高尾山に隕石と思われる物体が墜落した事による影響で山火事が発生しました。火は消防により既に消し止められており、この隕石を調べる為の調査隊をUNVERは派遣するそうです》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よしっ」

 

 

 自宅にてリュックの中の荷物を確認し、口を閉じて背負う翔琉。彼は昨夜落下した隕石の調査に参加する為の準備をしていたのだ。今日は同好会の練習がある日だが、皆に頼んで自分は休みを貰えた。

 

 

「忘れ物はない?」

 

 

 母である優里香がそう聞く。

 

 

「大丈夫だよ、子どもじゃあるまいし」

「何時迄も経っても何があっても、貴方は私の子どもよ」

 

 

 優里香はそう言うと優しく翔琉の頭を撫でた。恥ずかしさから「やめてくれ」と彼はその手をこれまた優しく払い除ける。

 

 

「フフッ。帰りは遅くなるの?」

「あー、どうだろ?もしもの時は連絡する」

「あんまり遅くならない様にね」

「了解」

 

 

 玄関に行き靴を履く翔琉。そして彼はドアノブに手を置いた。

 

 

「そんじゃ、いってきます」

「うん、いってらっしゃい」

 

 

 扉を開けて出て行く彼を、優里香は手を振って送るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「お、歩夢」

「あ、翔琉君……」

 

 

 家を出ると、そこには歩夢が居た。どうやら彼女も同時に家を出たらしい。

 

 

「歩夢も今から練習行くんだな」

「うん。翔琉君は、今日休みなんだよね?」

「ああ、夜隕石が落ちただろ?それがちょっと気になってな」

「それって、危険じゃないの……?」

 

 

 Xioにインターンシップに行っている彼であるが、あくまでも研究チームに入っているので戦闘の危険は無いと歩夢は以前聞かされていた。しかし翔琉は怪獣が出る度に危険を顧みず避難誘導に行っており、正直安心が出来なかった。隕石の調査というが、もしもその隕石が危険なものだったら……。そう思うと不安で胸が押し潰されそうになってしまう。

 

 

「大丈夫大丈夫。そんなやべぇもんじゃ無いよ」

 

 

 彼はヘラヘラと笑っているが歩夢は気が気でない。「じゃあな」と言って去ろうとする翔琉。彼女はその背に声を掛けて足を止めさせた。

 

 

「ま、待って!?」

「ん、どうした?」

「わ、私も……着いて行って良い、かな……?」

 

 

 翔琉のことが心配故に出た言葉。出した後に迷惑だったかもと思うが、それでも彼に着いて行きたいと歩夢は思った。

 

 

「ああ、良いぜ」

 

 

 彼女のそれが意外だったのか少し驚いた表情になる翔琉。ただ特に断る理由も無いので、笑顔を向けて了承した。それに対して歩夢も笑う。

 

 

「ありがとう翔琉君」

「とりあえず沙優隊長に連絡しとくか。あと現場の陽花さん達にも」

 

 

 振り返りデバイザーを操作する彼の背を、歩夢は複雑な想いを抱えた表情で見つめる。本当に彼は危険なことをしていないのか、これ以上Xioにいるのは彼にとって本当に良いことなのかを、着いて行ってちゃんと確かめなければと彼女は胸の奥で思うのであった───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 高尾山にはUNVERの研究員が集まっていた。その中にはXioラボチームのシャマラ博士、涼風、陽花の姿もあり、もしもの時の護衛として紗季、ハヤテ、イヅルも居る。麓にはKEEP OUTと書かれた黄色テープが引かれて一般人が進入出来ない様になっており、その前には多くのマスコミや隕石に興味を持った野次馬が群れていた。

 

 

「ちょ、ちょ、通ーりまーす!」

 

 

 そのマスコミと野次馬を掻き分けながら、歩夢の手を引いて翔琉が進んでいく。隊員証を見せて中に入り、彼は仲間達がいる場所へと向かった。

 

 

「お、来たな翔琉」

「ははっ、マジで彼女連れだ」

 

 

 歩夢と手を繋いで向かって来る翔琉のことをハヤテとイヅルが揶揄う。

 

 

「彼女じゃなくて見学者っすよ。紗季さん、歩夢のことよろしくっす」

「うん、任せて!」

 

 

 彼女のことを紗季に任せた後、翔琉は「じゃあな」と言ってから隕石がある場所に歩いて行く。去っていく彼のその背を、歩夢は心配した表情で見つめていた。

 

 

「彼のこと、大切なんだね」

「へっ?は、はい……」

 

 

 そんな彼女に紗季が声を掛けた。

 

 

「大丈夫よ、翔琉君は強いから」

 

 

 紗季は優しく笑い掛けてくれるが、歩夢にしてみれば彼女も翔琉を危険な場所に立たせているXioの一員。嫌な考えだが、それが頭に過ぎってしまい何とも言えない気持ちになる。

 

 

「そう、ですよね……」

 

 

 それを悟られない様に無理に笑顔を作る。Xioに対して少しだけ生まれていた複雑な想いを、彼女は胸に押し込めた。

 

 

「………あれ?」

 

 

 ふと彼女は何かを感じて横を向くと、木陰に隠れてる金髪の少女を見つけた。少女も歩夢に気付いたのかどうかは分からないが、そそくさとその場を去っていく。

 

 

「ちょっとすいません」

「あ、歩夢ちゃん!?」

 

 

 何故かその少女のことが気になった歩夢は、彼女を追う為に小走りを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 隕石の落ちた場所に辿り着いた翔琉。直径20メートル程のクレーターの真ん中にその隕石があり、それをシャマラ博士、涼風、陽花がタブレットなどを使用して調べていた。

 

 

「天地さん、来ましたね」

「お疲れ様っす」

 

 

 翔琉もクレーターの中に入って隕石に近付く。

 

 

「これが噂の隕石っすか」

「はい。ただ、この隕石なんか妙なんっすよねぇ……」

「妙?」

 

 

 陽花が首を傾げる。

 

 

「コイツを形成してる物質が地球の、というかこの付近の物と同じなのだ」

「つまり、どう言うこと?」

「この隕石は恐らくここに落下した後、周囲の土や石を引き寄せてコーティングしたのだと思われます」

「え、じゃあこの隕石生きてるんっすか?」

「いえ、生命反応は無いので生きては無いと思われます。そういう性質の隕石なのか、それとも誰かが何かの目的を持ってそうさせたのか……」

 

 

 不自然なその隕石を見ながら3人は唸る。この正体は一体何なのだろうか?

 

 

「うーん、そこまでやばそうな感じはしないんっすけどねぇ」

 

 

 翔琉は隕石に近付き、不用意にもそれに触れた。すると彼が触れた所が押し込まれ、隕石は振動を開始してしまった。

 

 

「は、嘘?」

「馬鹿!?何やっとるんじゃ!?」

「皆さん、後退して下さい!」

 

 

 3人と翔琉、そして周りにいた他の研究員達は後退し、もしもの事態に備えて武装したUNVERの隊員が銃口を隕石に向ける。

 隕石は振動を続け表面の土や石が段々と剥がれていき、その中から謎の機械的な物体が姿を見せた。

 

 

「…………天地さん」

「すんません……」

「はぁ……以後、興味本位での勝手な行動は謹んで下さいね?」

 

 

涼風に嗜められ頭を下げる翔琉。その後再度謎の物体の調査が始められた。土石が剥がれた時に扉も開いたので警戒しながら中を覗いてみたが、一見して見つかる物は無かった。

 

 

「宇宙船、というより脱出用のポッドみたいっすね。しかも地球外の」

「脱出って、じゃあ宇宙人がこれに乗って地球に来たってことっすか?」

「だろうな。土石を纏ってカモフラージュし、更に特殊な電磁波を放ってその事を隠していたのか。何処の星の物か、調べれば分かるかも知れん。涼風、陽花、詳しい解析をする。手伝ってくれ」

「はい」

「了解っす!」

 

 

 博士の指示に従い、涼風と陽花は脱出ポッドの解析を進めていく。翔琉はまた変に触ってトラブルを起こさない様にする為に、その様子を少し離れて見ていた。

 

 脱出ポッドで地球に来たという事は、何かに追われたりして逃げて来た可能性が高い。なら悪い宇宙人では無いとは思われるが、侵略目的の宇宙人が何らかのトラブルが起きてこのポッドで不時着したというのも考えられるし、そもそもこれ自体が実は侵略兵器を入れていた物という可能性もゼロでは無い。何にせよ歩夢を連れて来てる以上、面倒事が起こらない様にと彼は祈るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな彼らの様子を隠れて見る少女の姿があった。先程歩夢が目撃した金髪の少女だ。

 

 

「どうしよう……」

 

 

 あの脱出ポッドは彼女が乗って来た物。そしてあの中には、まだ気付かれていない様だが大切な物がある。何とかして取り戻したいが、多くの地球人がポッドを囲んでいる為それが出来ない。

 どうするべきか……?ポッドも、中の物も、自身の惑星の物だから絶対に渡したくない。必死に彼女が方法を思案していた時である。

 

 

「あ、あの!?」

 

 

 背後から声を掛けられ、彼女は驚いて振り返った。

 そこに居たのは1人の地球人の女性。彼女を追って来た歩夢だ。お互いに警戒しているだろう、じっと目を見つめ合っている。

 

 

 

 

 これが歩夢とゴールド星人の少女マウナのファーストコンタクトであった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・バラン

別名:大怪獣、むささび怪獣

身長:50m

重量:1万5千t

出典:映画「大怪獣バラン」

 

 初代は約60年前に登場し、当時の防衛軍を酷く苦しめ大きな被害を齎した。強靭な脚で陸上を踏み躙り、ムササビの様な皮膜を利用して空を飛び、水中でも自由自在に動ける。初めて陸海空全てで猛威を振るった怪獣であり、それが由縁で当時は大怪獣とも呼ばれていた。頭頂から尾先まで並んでいる棘には猛毒があり、これを敵に刺す。長い尻尾を巧みに操り、外皮はゴムの様に弾力が有って頑丈。岩手県の北上川上流の泉に生息していたのが最初の個体で、付近の岩屋部落では婆羅蛇魏山神(ばらだぎさんじん)として崇拝されていた。光る物を飲み込んでしまうという習性があり、これを利用して退治されることが殆ど。また、極稀にであるが熱線や光弾を放つ個体も存在する。

 明里によってスパークドールズから実体化、エックスと戦う。その頑丈な表皮や尻尾、飛行能力などを駆使してエックスに対して優位に立っていたが、巴投げを受けてダメージを負い、更に自身の習性を利用されて光弾を飲み込み内部からまた大きなダメージを受ける。そして最期はザナディウム光線を喰らってスパークドールズに戻されてしまった。

 1958年に公開された映画である「大怪獣バラン」の主役怪獣。元々は連続テレビシドラマとして予定されていたらしく、カラー作品である「空の大怪獣ラドン」より後の作品なのモノクロなのはその名残り。別名は他にも「東洋の怪物」、「東洋の大怪獣」、「有翼膜龍」など複数存在する。ゴジラ作品「怪獣総進撃」にも登場しているがスーツの劣化が激しかった為飛び人形での登場に。その後も何度か登場案はあったものの、どれも実現には至らなかった。しかしアニメ映画「GODZILLA」の前日譚である小説「GODZILLA 怪獣黙示録」では複数の個体が登場しており、限定的な飛行能力を持っている為、かなりの脅威として書かれていた。

 

 




ゴールド星人が登場したというのことはつまり……。
次回をお楽しみに!

感想、質問、高評価、ここすき、その他、是非是非お待ちしてるんご!



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48.禁じるべきコトバ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 金髪の少女マウナと歩夢は互いにじっと見つめ合う。

 

 

「貴女、何処から来たの?」

 

 

 立ち入りが禁止されている筈のこの場所に何故マウナがいるのか?それが気になった歩夢は尋ねるが彼女は答えない。じっとこちらを見てくるマウナに、歩夢は一歩だけ近付く。すると彼女はびくりと身体を震わせて身を少し引いた。

 

 

「あ、ごめんね?怖がらせるつもりは無いの」

 

 

 マウナを怖がらせてしまったと感じた歩夢は出した足を引く。そんな歩夢のことを、マウナはただ見つめるだけで何も喋らない。

 

 彼女は内心、この星の生命体に見つかってしまったことによる恐怖と焦りでいっぱいであった。脱出ポッドがここに不時着しそのカモフラージュを行っていた際に、偶然高尾山に来ていた若者達に見つかりそうになったので急いで隠れたマウナ。その時うっかり大切な物をポッドの中に置きっぱなしにしてしまったのだ。どうにかしてそれを取り戻したく様子を伺っていたところを歩夢に見つかってしまったのだ。どうするべきか必死に思考し、目を伏せる。

 

 

「大丈夫……?」

 

 

 そんなマウナを心配そうに見る歩夢。誤ってここに入ってしまい、どうしたら良いのか分からなくてなっているのだろうかと彼女は思っていた。とりあえず誰かに知らせるべきかと考えた時、背後から足跡が聴こえて来る。

 

 

「歩夢ちゃん!」

「紗季さん……」

 

 

 やって来たのはXio隊員の紗季。歩夢のことを追ってここまで来たのだ。

 

 

「もう、急に走り出すからびっくりしたわよ」

「す、すいません」

「まあ良いわ。それはそうと……」

 

 

 紗季はマウナに目を向ける。マウナはまた、その身体を震わせた。

 

 

「ここら辺は立ち入り禁止になってるの。危険だから外まで───」

 

 

 案内するわ。そう言おうとした時マウナは右掌を紗季に向け、そこから金色の光弾を放った。

 

 

「嘘、ぐあっ!?」

「きゃっ!?」

 

 

 咄嗟に腕をクロスして防いだ紗季だが、身体は大きく後方に飛ばされて地面に叩き付けられた。

 

 

「紗季さん!?」

 

 

 驚き、倒れた紗季に近寄ろうとした歩夢。しかしそれよりも先にマウナが彼女に接近し、背後から羽交い締めにして来た。

 

 

「こっちに来て!!」

「い、嫌!?離して!?」

 

 

 歩夢のことをしっかりと拘束したまま、マウナはポッドがある方にへと向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ?」

「どうかしました天地さん?」

「いや、今なんか聴こえた様な……」

「どーせ気の所為じゃろ。突っ立てないで、そこにあるやつを持って来い」

「へいへい」

 

 

 シャマラに指示に従って置いてある箱を手に取り彼のところに持って行こうとする。ポッドの中には食料や、その他にもいくつかの物が置いてあった。特に気になったのは金色の幾何学模様の様な物が描かれた小さな白い箱。博士は今からそれを詳しく調べようとしているのだ。

 

 しかしその時、木々から歩夢を人質にしたマウナが勢い良く飛び出して来た。

 

 

「動くな!?」

「ッ、歩夢!?」

「な、何っすか!?」

「うおお!?」

「動いたら、この子が怪我するよ!!」

 

 

 突然のことに全員が構え、護衛のUNVER隊員達はマウナに銃口を向けているが、それを涼風が下げさせた。彼女を刺激して歩夢が傷付く様なことにしない為だ。

 そんな中、翔琉はマウナに向かって怒りを込めた眼光を放っていた。

 

 

「てめぇ……歩夢を離せゴラ…!」

「あ、貴方達が変なことしなければこの子には何もしない。大人しく私の言うことを聞いて」

 

 

 目の前の女を今すぐ殴り飛ばしてしまいたいが、歩夢に怪我をさせる訳にはいかずその衝動を堪える。

 

 

「みんな!」

「紗季さん!」

「ごめんね、私が油断したばかりに……!」

 

 

 吹っ飛ばされていた紗季が翔琉達の元に来た。どうやら先程の一撃で怪我をしたらしく、右肩を押さえている。

 

 

「そこの貴女」

「え、あたしっすか……!?」

「そう。ポッドの中に小さな箱があったでしょ?それを持って来て」

 

 

 歩夢を人質にされている以上逆らう訳にもいかず、陽花はマウナの言うことに従って、あの箱を手に取り彼女の元へと持って行く。

 

 

「こ、これっすよね?渡すから、その子を解放するっす!」

「渡すのが先!そしたらこの子はちゃんと返すわ」

 

 

 睨み合うマウナと陽花。一方翔琉は、いつでもマウナに飛び掛かれる様に構えている。先に折れたのは陽花の方で、箱を彼女にへと差し出した。マウナはそれを素早く取った後、ジリジリと後退してUNVERの面々との距離を開く。そして箱に力を込めると幾何学模様が輝き、複雑な工程で箱は開いて中から1体のスパークドールズが現れた。

 

 

「何!?」

「スパークドールズじゃと!?」

 

 

 スパークドールズが現れたことにより皆驚き、UNVER隊員達は思わず銃を構えてしまう。そんな彼らをマウナは警戒しながらまた退がっていき……。

 

 

「…………ごめんなさい」

「えっ…?きゃっ!?」

 

 

 歩夢を軽く前に押すと同時に金色の光を紗季へと放ち、マウナは背を向けて走り出した。

 

 

「歩夢!!」

「新城野さん!!」

 

 

 翔琉は素早く動いて歩夢を受け止める。一方涼風は咄嗟に紗季の前に出て彼女を守る様に腕を開いたが、その光は涼風をすり抜けて紗季に当たる。

 

 

「くっ!?…………って、あれ?」

「紗季さん!大丈夫っすか!?」

「う、うん、何ともない。それどころか……」

 

 

 肩の痛みが消え、怪我が治っているのが分かった。紗季と彼女に駆け寄った陽花、涼風が困惑している中、UNVERの隊員達は逃げるマウナに向けて銃を発砲していた。人質を取り、攻撃と思われる行動をし、スパークドールズまで持っている異星人に、彼らは容赦無く弾丸を放っていく。そしてその内の一発が、彼女の左脇腹辺りを背後から貫いた。

 

 

「あ゛ッ……!?」

 

 

 短く悲鳴を上げるマウナ。でもここで立ち止まる訳にはいかず、彼女は歯を食い縛りながら全力で走っていく。

 

 

「歩夢、ここに居ろ」

 

 

 彼女を捕まえる為に、翔琉は走り出そうとした。だがその腕を歩夢は思わず掴んでしまい彼を止めた。

 

 

「ッ……歩夢?」

「えっ……あ……ご、ごめん……」

 

 

 嫌だ、行って欲しくない。そんな想いが溢れ出てしまったのだろう。掴んだしまった手をゆっくりと離そうとする歩夢。しかしその手は、途中で開くのをやめる。

 

 

「行ったら、危ないよ?翔琉君もここに居よう?」

「俺は大丈夫だって。アイツとっ捕まえて歩夢に手ぇ出したこと後悔させてやっからよ」

 

 

 そう言ってにっかりと笑った後、翔琉は歩夢の手を外してマウナを追って走って行ってしまった。何度目になるか分からない彼の背の見送り。手を伸ばしても届くことは無い。それが彼女の心を、酷く締め付けるのであった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある程度走り、追手が来ないことを確認してからマウナは立ち止まって膝を付いた。そして手から金色の光を放ち、撃たれた脇腹の傷を治す。この光には治療効果があるのだ。

 

 

「はあ……はあ……」

 

 

 このスパークドールズを取り戻す為とはいえ、この星の生命体を傷付けてしまい、更に怖がらせてしまった。本当は彼らと敵対するのを彼女は望んでおらず、軽率な自信の行動を深く後悔している。

 

 

「どうしよう……うッ……!」

 

 

 痛みの抜け切れてない脇腹を押さえて気落ちしているマウナ。するとそこへ……。

 

 

「かけっこは終わりか?」

 

 

 指を鳴らしながら、翔琉がマウナに向けて歩いて来ていた。驚き振り向いた彼女は、フラフラしながらも立ち上がり彼を警戒する。

 

 

「貴方は……」

「よくもまあ、俺の幼馴染怖がらせてくれたなァ……タダじゃ済まさんぞ?」

 

 

 一歩前に出る翔琉。そんな彼にマウナは「待って!」と叫んでその足を止めさせた。

 

 

「んだよ?」

「貴方、この星の生命体なの……?」

「はぁ?何言ってんだお前は。どー見ても純度1000%の地球人だろうが」

「でも……貴方からこの星には無い筈の力を感じるわ」

 

 

 この星に無い力……間違いなくウルトラマンの力のことだろう。

 

 

「あー、色々訳ありなんだよ……てか、ンなこったどーでもいい。てめぇの正体やら目的やら、洗いざらいゲロってもらうから覚悟決めろよゴラ」

 

 

 マウナに迫っていく翔琉。彼女はその敵意に満ちた瞳に恐怖を感じ、後ろに少し退がる。その時また撃たれた脇腹に痛みが走り、彼女は思わず膝を付いた。

 

 

「ううっ……!?ぐぅ……」

「……無理すんな。大人しく捕まれば、治療して事情聞いて、その後一発引っ叩くだけで許してやる」

 

 

 苦痛の表情を浮かべてる彼女を見て、翔琉も流石に今は手荒な真似をしたくは無いと思ったのだろう。まあ、歩夢を人質にしたことはムカつくのでケジメはしっかり着けさせるつもりではあるが。マウナに近付いて手を伸ばす翔琉。これを拒否するべきではないと彼女も判断し、自身の手を伸ばし掴んだ。

 

 

「お前、名前は?」

「マウナ……惑星ゴールドのマウナ……───」

「そうかい。俺は地球の天地 翔琉だ……って、おい!?」

 

 

 限界が来たのか、マウナは気を失い前のめりに倒れる。それを受け止めた後、翔琉は涼風達に連絡をするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 オペレーションベースX。そこにあるXioメディカルにマウナは連れられた。彼女は今、医療スタッフの治療を受けてベッドで寝ている。彼女が自身の力で治癒していたこともあってか、命に別状は無い。

 

 彼女が乗って来た脱出ポッドは基地の外に置かれている。あの後改めて調べたが兵器などの類いは搭載されていなかった。シャマラ博士曰くゴールド星人は進んだ文明と科学力を持っており、侵略などという野蛮な行為をするとは考えられないらしい。どうやらただこの星に逃げて来て、あのスパークドールズを取り戻したいが為に強硬手段に出たのだろう。

 

 そしてそのスパークドールズが今はラボで陽花が保管をしている。勝手に調べて彼女と敵対する様なことになるのを避ける為だ。ファーストコンタクトは良いものでは無かったが、セカンドコンタクトでは友好な関係を築きたいのだ。

 

 紗季と歩夢も念の為に検査を受けた。紗季の怪我はマウナの放った光によって完治しており、歩夢の方も何も怪我は無かった。

 

 治療が終わり眠っているマウナ。その部屋の外にある長椅子に翔琉は歩夢と並んで座っており、彼は携帯で通話をしていた。相手は愛である。

 

 

「基地の医療施設で一応診て貰ったけど、俺も歩夢も怪我は無いよ」

《そっかー、なら良かったぁ。高尾山で銃声が鳴ったってニュース速報が流れて来たから心配したよー》

「わりぃわりぃ、ハプニングはちょっとあってな。俺らは撃たれてないから安心しろ」

《俺らはってことは誰か撃たれちゃったの!?》

「あー……まあ、怪我人はいるけど死人は出てないぞ」

 

 

 どうやら向こうにいる同好会メンバーが愛の言葉に驚いたのか、ざわざわと騒がしくなる。

 

 

《ねえ、愛さん達もそっちに行って良いかな?やっぱり歩夢も翔琉のことも心配だし》

「まあ、俺は大丈夫だがぁ……」

 

 

 チラリと横目で歩夢を見る。自分は心配いらないが、人質に取られるという目にあった彼女は精神的に大きく疲弊してるかも知れない。なら、同好会の皆が側に居てくれた方がきっと心強く安心出来るだろう。

 

 

「分かった。隊長には俺の方から話通しとくよ」

《うん、お願い!まあ、もう向かってるんだけどね!》

 

 

 そんな会話をしてまた少し話した後通話を終了して歩夢の方を向く。

 

 

「同好会のみんな、こっち来るってさ」

「みんなが?」

「ああ。歩夢のこと心配してるんだよ」

「そっか……迷惑掛けちゃったね………」

 

 

 申し訳無さそうに目を伏せる歩夢。

 

 

「迷惑だなんてみんな思ってねえよ」

 

 

 同好会のみんなは心優しく、歩夢のことを迷惑だなんて微塵も思ってないだろう。翔琉はその肩を軽く叩いて気にするなと言うが、彼女の心はとてもモヤモヤしてい。

 

 

「ねえ、翔琉君。どうしてさっきはあの子を追いかけて行っちゃったの……?」

「どうしてってほら、俺Xioだし」

 

 

 ウルトラマンだから、とは言えないのでXioだからと言う翔琉。

 

 

「でも、翔琉君前に言ってたよ?自分は危険なことはしないって。なのに翔琉君、毎回怪獣が出たりしたら走って行くよね?どうしてなの?なんでそんな危ないことしに行くの?」

「いや、それは……」

 

 

 危ないことはしないと言ってくれた筈なのに、彼はいつも危険な場所へと自ら突っ込んでいく。それが歩夢にはどうしても許容出来なかった。翔琉の手を握り彼女は詰め寄る。

 

 そして翔琉はそれにどう答えるべきか考えるが、最適と思えるものが浮かばない。ウルトラマンであることを話せば彼女はより不安になるだろうし、かと言って他に良い言い訳も思い付かない。歩夢の握る力が少し強くなる。半端な理由では彼女は決して許してくれないだろう。彼女をどう納得させれば良いか……。思考を働かせていたその時、医務室の扉が勢い良く開いた。そしてそこからマウナが廊下に飛び出して来る。

 

 

「おま、どうしたんだよ?」

「………来る……アイツが……!?」

 

 

 窓から空を見る彼女。その目は恐怖と怒り、様々な感情がぐちゃぐちゃに混ざり合っている様だ。

 

 

「来るって……何が……?」

「どうしたの!?」

 

 

 そこに紗季と陽花、そして沙優が来る。

 翔琉達の方を向き、マウナは震える唇を開いて答えた。

 

 

「ガーゴルゴン……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京上空、そいつはそこに大きな影を作っていた。二又の尻尾を震わせ、両肩より伸びる二つの蛇が牙を剥き、強靭な二本の角を持つ。蛇の魔獣と云うべきその怪獣は、轟音を立てて大地に降り立った。

 

 

 咆哮が街に響く。そして両肩の蛇から稲妻を放って建物を破壊し始めた。突然現れた怪獣に街を歩いていた多くの市民はパニックとなり逃げ惑う。崩れ落ちる瓦礫が人々を襲い傷付ける。それを見て、怪獣は面白がるかの様に喉を鳴らした。

 

 

 悪虐非道、残忍酷薄、冷酷無惨、封豕長蛇。

 この怪物こそ、惑星ゴールドを滅ぼし、マウナの宇宙船を破壊して乗っていた彼女の兄と仲間達を殺した魔獣ガーゴルゴンなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 基地内に警報が鳴り響く。ガーゴルゴンの出現を知らせているのだ。

 

 

「これって……!?」

「ミキリ、ミハネ!」

《怪獣が出たよー!》

《基地に向かってるよー!》

 

 

 外を見ると、こちらに向かって進撃して来るガーゴルゴンの姿が視認出来た。

 

 

「何だよあの怪獣!?」

「ガーゴルゴン……私の星を滅ぼした怪物……」

「貴女の星……惑星ゴールドを!?」

 

 

 奴を見ながらマウナは頷いた。高度な文明を持つ惑星ゴールドを滅ぼしたという事は、ガーゴルゴンは相当強力な怪獣であるだろう。青い稲妻を放って進行方向にある物を破壊しながら進むガーゴルゴン。それを見たマウナは沙優達の方を向き、一歩前に出る。

 

 

「お願い、ルディアンを返して!?あれが有れば、私はアイツと戦える!」

「ルディアンって、このスパークドールズのことっすか?」

 

 

 念の為に持って来ていたスパークドールズを彼女に見せる。

 

 

「うん。それに、ガーゴルゴンはそのルディアンにあるゴールド星のエネルギーを狙っているの。だから、私がルディアンに乗って離れれば、ここは安全になるわ」

 

 

 こう言えばきっと簡単に返してくれる筈。彼女はそう思いルディアンにへと手を伸ばす。しかし、その手を翔琉が掴んで止めた。

 

 

「待てよ。あの怪獣、お前の星滅ぼしたんだろ?そんな奴に勝てんのかよ?」

「ッ……それは……」

 

 

 ハッキリ言って勝てる気はしない。母星でガーゴルゴンの強さ恐ろしさは嫌という程味わっている。それにルディアンは本来兄が扱う物であり、自分では完璧に使い熟せない。勝機はほぼ無いと言って等しいだろう。

 

 

「でも、やらなきゃ……それに、アイツらは兄さんの仇だから!!」

「あ、ちょっ!?」

 

 

 翔琉の手を振り払い、陽花からルディアンを奪い取った後、彼女は外へ向けて全力で走り出した。

 

 

「ま、待つっす!?」

「リュウジ、イヅル、ハヤテ!3人はマスケッティで出動!あの怪獣、ガーゴルゴンの進行を食い止めて!紗季!貴女は警察や消防と協力して近隣の避難を!」

「了解!」

《了解!!!》

 

 

 沙優の指示を受けて動き出すXio隊員達。そして翔琉もマウナのことを追い掛けようとしたが……

 

 

「ダメ!!」

「うお!?あ、歩夢……!?」

「行っちゃダメ翔琉君!!」

 

 

 背中から歩夢が抱き着いて来てそれを止めた。ここで止めないと彼はまた危険な戦場へ飛び出すだろう。何としてでも、彼をそこへ行かせたくないのだ。その力とても強くて少し痛く、あの優しい歩夢が出しているとは思えないくらいだ。

 

 

「絶対に離さない!!行って欲しくない!!」

「お、おいおい……!」

「もう危ないところに行かないで!?一緒に逃げよう!?お願いだから!?」

「いや大丈夫だって!何も危ないことしないから!」

「だったら私も一緒に行く!!良いよね!?」

「あ、それは……」

 

 

 そんなことは出来ない。言葉に詰まる彼を見て、歩夢はやはり危険な場所に行こうとしていること。そして彼が嘘を吐いていることを感じた。

 

 

「やっぱり……ずっと嘘吐いてたんだね……」

「歩夢……」

「何で……?どうして?何でそんなことするの!?私嫌だよ!!もう我慢出来ないよ!!」

 

 

 様々な想いが胸から溢れ出し止められない。自分の大切な人が嘘吐き、知らない所で傷付いているのが耐えらなかった。そして……。

 

 

 

 

 

「こんなの……翔琉君じゃ無いよ!!」

 

 

 

 

 

 一瞬、時が止まった様に感じた。絶対に言ってはいけないことを、今の翔琉を否定する様なことを言ってしまった。そのことに気付きハッとする歩夢。余りにも酷い台詞……止められない不安と恐怖が、それを言わせてしまったのだ。そのショックからか抱き着いていた腕の力が少しずつ抜けていく。

 

 

「………ごめんな」

 

 

 表情は見えないが、そう呟いた後に翔琉は歩夢の手を解き走っていく。彼を傷付けてしまった……そう感じた彼女は膝から崩れ落ちる。鳴り渡る警報も、隊員達に指示を飛ばす沙優の声も、自分を心配して寄り添って来た陽花の声も、今の彼女には響かなかった……────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 基地の外に出て、ガーゴルゴンまであと数百メートル程の地点に立ったマウナは右手に持ったルディアンのスパークドールズを見る。ガーゴルゴンは非常に強い。そんな相手に自分は勝てるのだろうかと不安が押し寄せた。

 

 

「違う、勝つんだ……絶対に……!」

 

 

 何が何でも勝ち、仇を討つ。そう胸に誓い、ルディアンを天にへと翳そうとする。

 

 

「だから待てって」

 

 

 が、その時背後から声を掛けられた。彼女を追って走って来た翔琉だ。

 

 

「翔琉……」

「俺にもやらせろよ。ちょっとイライラすることあったからストレス発散にな」

 

 

 首を鳴らしながらマウナに並ぶ。そして「苛立つこと?」とマウナは彼に聞いて来た。

 

 

「ああ、実はよ────」

 

 

 彼は今自分が何故苛立っているのかを話してくれた。それを聞いたマウナは意外そうな顔をした後、軽く笑った。

 

 

「何だよ?」

「ううん、何でも無い。……手伝ってくれる?」

「応よ。……やってやる」

 

 

 翔琉はエクスデバイザーを手に取りスイッチを押し、マウナもルディアンを構える。そして2人はそれらを空にへと突き上げた。青と金の猛烈な光が解放され、神秘の存在が大地に降臨する。

 

 

 

《X UNITED》

 

 

 

 ウルトラマンエックスと、メカ守護獣ルディアン。2体が暴れるガーゴルゴンの前に立ち塞がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・ギロン

別名:大悪獣

身長:85m

重量:1万1千t

出典:映画「ガメラ対大悪獣ギロン」

 

 惑星テラに生息する怪獣。包丁に手足が生えた様な、地球の生物ではあり得ない姿をしている。意外にも戦闘能力は高く、頭部の刃はどんな物も切り裂く凶器であり、包丁である鎬の部分には手裏剣が付いていてそれを飛ばして攻撃。跳躍力も凄く、更には足の裏からはジェット噴射を行うことが出来て空も飛べる。見た目こそ奇妙だが、その力は強力で危険な怪獣である。

 地球に飛来してエックスと戦う。インパクトある見た目で翔琉を驚かせた。戦っている最中、ニセメビウスとニセツルギが乱入し混戦となる。最期はニセメビウスによってエックスへと投げ飛ばされるが、彼の放つゼノニウムカノンで爆散しスパークドールズとなった。

 包丁に手足の生えたデザインと一度見たら忘れられない怪獣ナンバー1と言っても過言では無いくらい強烈な見た目をしており、しかも本編では宇宙ギャオスを殺しガメラも苦戦させた強豪怪獣。平成ガメラに登場するレギオンのモチーフではと言われていたが、これはミーティングの際に対戦怪獣をどうするかの話題で「ギロンという訳にはいかない」と名前が出ただけ。ノベライズ版「小さな勇者たち〜ガメラ〜」では巻貝の一種がギャオス細胞を取り込んで誕生したGギロンが登場しており、映画版の方にもギロンを知ってる人が見れば思わずニヤリとしてしまう演出がある。因みに本作での重量は他怪獣と合わせる為に増加させている。

 

 

 

・ジャシュライン

別名:宇宙三面魔像

身長:60m

重量:6万t

出典:ウルトラマンメビウス 37話「父の背中」

 

 メビウスとヒカリに挑戦するべく宇宙からやって来たストリートファイター。誰にも負けたことの無い強豪で、その名はヒカリも知っていた。一つの身体に3人の人格があり、上から長男、次男、三男となっている。長男は腕の盾を変形させたブーメランで戦い、次男は素早い格闘戦を、三男は念力とバリアーを得意とする。それぞれの頭部のランプを光らせて放つ必殺技のゴールジャシュラーで相手を黄金像に変換し、勝利の証としてそのままコレクションにしてしまう。

 高い戦闘力でメビウスと未来、ヒカリとステラを追い詰め、一度はヒカリ達を黄金像にしてしまった。しかし彼らからナイトブレスを受け取ったメビウス達はメビウスブレイブとなってジャシュラインを圧倒。全てのランプが破壊されてヒカリ達も元に戻った。最期は地球の核を破壊する為に地底に潜ろうとしたがヒカリのホットロードシュートを受けて妨害され、メビウスのブレードオーバーロードで真っ二つとなり敗れた。

 メビライブ世界に存在していた宇宙人。メビライブ本編にジャシュラインが登場してなかったので今回登場を果たした。作者の蒼人氏曰く、本当はジャシュラインは出したかったらしい。宇宙人ではあるのだが、「ウルトラマンギンガ」に登場した際は怪獣と呼ばれていた。宇宙三面魔像という肩書きだがそういうタイプの宇宙人なのか、石像が意思を持った存在なのかについても詳細は明かされていないので、後者のタイプであれば怪獣と呼ばれていたのも納得がいく。

 

 





ガーゴルゴン襲来。
原作同様、強敵となるであろう怪獣に、エックスとルディアンはどう挑むのか?

そして不安の爆発してしまった歩夢。それを受けた翔琉は何を思ったのか……?

次回をお楽しみに……。

感想、質問、高評価、ここすき、その他、是非是非お待ちしています!



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49.脅威ノ石化魔獣




虹ヶ咲アニメ二期決定おめでとう!!!!
本当に嬉しい限りです!!!!


 

 

 

 

 

 

 

 かすみ、しずく、璃奈、愛、せつ菜、果林、彼方、エマの8人はオペレーションベースX方面に向かうバスに乗る為にバス停で待っていた。

 

 

「Xioの基地なんて学校の社会科見学くらいでしか行かないから少し楽しみだなー!」

「いろんな機材とか見れるかも。璃奈ちゃんボード『楽しみ!』」

「私も楽しみです!戦闘機とか武器とか、そういうのも見せて貰えるでしょうか……!?あと、ウルトラマンのことも知りたいです!!」

 

 

 愛、璃奈、せつ菜の3人はXio基地に行くのが楽しみらしい。特にせつ菜はかなり結構興奮している。

 

 

「こーら。遊びに行く訳じゃないのよ?」

「あはは、分かってるって」

「うう、すいません……」

「まあまあ」

 

 

 彼女達を果林が嗜め、その様子を見てエマが微笑ましそうにみながら少し萎縮したせつ菜の頭を撫でた。

 

 

「ふっふふーん!」

「かすみさん、何だかご機嫌だね?」

「だって翔琉先輩に会えるだもん!」

 

 

 かすみはこれから翔琉と会うことが出来るのが嬉しい様だ。笑顔で身体を左右に軽く揺らしている。

 

 

「歩夢ちゃんのことも忘れちゃダメだよ〜?」

「わ、分かってますよ!歩夢先輩のことだって大切ですし!………ライバルですけど」

 

 

 彼方に指摘それ慌てながらそう言うかすみ。そして最後に小声でボソッと呟く。まあしずくと彼方にはそれが聞こえた様で2人とも苦笑いしていた。

 

 

 そんなこんな話しながらバスを待っていた8人。だが突如、爆音と地響きが発生し、彼女達を転ばせてしまった。

 

 

「きゃっ!?」

「痛っ!?」

「な、何!?」

「あ、あああ、あれ見て下さい!?」

 

 

 かすみが指差した方向、そこには咆哮する蛇の怪物・ガーゴルゴンの姿があった。奴は稲妻を放ち、街を破壊ながら前進していく。

 

 

「か、怪獣!?」

「不味いわね……早く逃げましょう!」

 

 

 果林にそう言われ彼女達は立ち上がり、怪獣とは反対方向へと走り出そうとする。しかしエマが「待って!」と声を出したことによって皆足を止めた。

 

 

「どうしたの、エマっち」

「あっちの方……もしかしてあの怪獣、Xioの基地に向かってるんじゃ……!?」

「ええっ!?それじゃあ、翔琉先輩達が!?」

 

 

 怪獣の進行方向にはオペレーションベースXがある。もしこのまま怪獣が進んで行けば、基地にいる翔琉や歩夢が危ない。Xioが何とかしてくれるかも知れないが、仲間の危機は彼女達の不安を駆り立てるには十分だろう。

 

 

「ど、どうしよう……!?」

「どうするも何も、彼方ちゃん達じゃ何も出来ないよ……」

「そうですね……一先ず避難を───ってかすみさん!?」

 

 

 大好きな先輩達に危険が迫っている。居ても立っても居られなくなったかすみは思わず基地がある方へと走り出してしまい、他の皆もそれを追っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「先手必勝!」

 

《CYBER ELEKING ARMOR ACTIVE》

 

 

 エレキングアーマーを纏ったエックスは、右腕の砲門から電撃を放ちながらガーゴルゴンに突っ込んでいく。マウナが操縦するルディアンも両腕のガトリング砲を放ちながら進む。ガーゴルゴンはそれ受けて少しだけ怯みながらも、お返しとばかりに稲妻を放って2人を攻撃。エックスとルディアンはその直撃を喰らって大きく吹っ飛び倒れた。

 

 

《ううぅッ!?》

「があッ!?……くそ、星一つ滅ぼしてるのは伊達じゃねぇってか……!」

 

 

 倒れた彼らに向かって奴の両肩にある蛇の首が伸び、口を大きく開けて喰らい付いた。咬まれて苦しむエックスと火花を散らすルディアンを、ガーゴルゴンは持ち上げて上空でぶつけ合う。彼らは地面に落下し、苦悶の声を上げる。

 

 

「こい……つ……!調子に乗るなよ!」

 

 

 アーマーの解除されたエックスは起き上がってガーゴルゴンの放つ稲妻を掻い潜りながら突進していき、エネルギーを纏った拳を叩き付けた。

 

 

「おらッ!よッ!はああああ!!」

 

 

 更に続けてラッシュを打ち込んでいき奴を攻めた。怒涛の攻撃に、ガーゴルゴンは少しずつ後退をしている。彼はフィニッシュとばかりに回転して勢いを付けたバックブローを奴の顔面目掛けて放った。しかし……。

 

 

「ッ!?この……!?」

 

 

 その腕を、肩から伸びた蛇が噛み付いて止める。そしてそのまま彼をぶん回して投げ飛ばしてしまった。吹っ飛んだエックスはビルを押し潰しながら地に沈む。

 

 

《翔琉!?よくも!》

 

 

 ガトリング光弾をガーゴルゴンに放つルディアン。だが奴は飛び上がってそれを回避し、ルディアンへと襲い掛かった。強靭な足が、ルディアンを踏み付けて倒す。奴は更に何度も踏み付け、マウナの居るコックピット内では火花が散っていた。

 

 

《きゃあああ!?ううッ!?》

「チッ……マウナ…!」

 

 

 ガーゴルゴンは嗤う様に声を上げる。そんな奴に向かって複数の光弾が飛んで来て着弾し爆発。その足を数歩下がらせた。リュウジ、ハヤテ、イヅルがそれぞれ乗る3機のスカイマスケッティが駆け付けたのだ。

 

 

《翔琉、無事か!?》

「まあ、なんとかっすね……」

《まだ避難が完了していない。民間人に注意しながら怪獣を抑えて欲しい。そっちのタイプMにも協力して貰いたい》

「結構無茶言ってくれますね……まあ、やるけど!マウナ、手を貸せ!」

《う、うん…!》

 

 

 エックスとルディアンは再度ガーゴルゴンへと向かい走っていく。愚かにも向かって来る彼らに対し、ガーゴルゴンは嘲笑うかの様に叫び稲妻を放つのであった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 Xioの司令室では沙優隊長の指示が飛び交っていた。現場での戦闘、警察や消防による避難誘導、避難場所の確保、固定兵器の使用、怪獣の解析、これら全てを彼女は適切に行える者達へ指示し状況を判断している。

 ガーゴルゴンの解析は陽花が行い、避難場所やルートは涼風とミキリ、ミハネが算出して誘導を行っている現場の者達に伝えている。そして戦っているリュウジ達には副隊長のザムザが指示を出していた。

 

 

「涼風、避難状況は?」

「夏休み中ということもあってか人が多く難航しています。それに中には怪獣とウルトラマンの戦闘を写真や動画に収めようとしてる学生も少なくないみたいです」

「はぁ……怪獣の危険性をもっと学んで貰わないといけないわね……」

「ああいう連中は大人になっても変わらん。やるだけ無駄だ」

 

 

 ケッと吐き捨てるシャマラ博士。怪獣が現れて暴れるだけなら、今の世の中然程珍しいものでは無い。しかしウルトラマンと怪獣の戦いとなると話は変わる。突如現れ怪獣や宇宙人と戦うヒーロー……彼の戦いは感覚の麻痺した一部の人間、特に怪獣災害で大きな被害を受けた事の無い人間にとっては一種のエンターテイメントとなっている様だ。

 また、マスコミにもウルトラマンのことをカメラに収めて視聴率や新聞雑誌の売上を伸ばす為に危険な撮影をする者が多い。

 

 

 モニターに映るエックス達の戦い、破壊されてる街、逃げ惑う人々、戦いを撮影する人々……。それらを歩夢は焦点の合ってない眼で見ていた。

 

 

 

───こんなの……翔琉君じゃ無いよ!

 

 

 

 先程翔琉へ言ってしまった言葉が頭の中で反芻する。何であんなことを言ってしまったのだろうか……。どうして彼を傷付けてしまったのだろうか……。どれだけ後悔してももう吐き出した言葉は飲み込めない。

 

 

「っ……」

 

 

 締め付けられる心。もうどんな顔をして彼に会えばいいのか分からなくなっていた。

 

 そんな時、彼女の目にあるものが入る。モニターに映された同好会の8人の姿だ。それを見て翔琉が彼女達がこちらに向かっていると言っていたことを思い出す。つまり8人は今、エックス達とガーゴルゴンが戦っている付近にいるのだ。

 

「み、みんな…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「がああああああッ!?」

《きゃああああ!?》

 

 

 地面に叩き付けられたエックスとルディアン。それを見てガーゴルゴンは勝ち誇る様に吼える。奴の圧倒的な力に2人は大苦戦を強いられていた。UNVERの地上兵器も次々と破壊され、3機のマスケッティの攻撃もものともせず稲妻を放って反撃する。

 

 

《くそっ!?強過ぎるだろコイツ!?》

《弱音吐くなハヤテ!!》

《2人とも、三方向から一斉に仕掛けるぞ!》

 

 

 リュウジの指示に従い、ガーゴルゴンの正面と右側面、左側面から光子砲を放つ。だが奴は、尻尾を大きく振り回してそれらを叩き落としてしまった。

 

 

《マジかよ───ぐあッ!?》

《がああ!?》

《ハヤテ、イヅル!?》

 

 

 続けてガーゴルゴンは稲妻を放ち、それがハヤテの乗るマスケッティαとイヅルの乗るマスケッティβに直撃。2機は推進力を失って黒煙を吐きながら落下していき、アスファルトを削りながら滑ることになった。

 これまでの怪獣とはレベルの違うガーゴルゴンに皆苦しめられていく。

 

 

「畜生めがァ……!?」

 

 

 警告音を鳴らすカラータイマー。エックスは痛みに耐えながらもどうにか立ち上がり、マウナもコックピット内で苦痛に表情を歪ませながらルディアンを立たせる。そんな彼らを見たガーゴルゴンは高く飛び上がってから滞空。そして……。

 

 

「何だよ、あれ?」

《あ、あれは……!?》

 

 

 口を大きく開くと、その中から大きな単眼が現れて彼らを見下した。更にその目にエネルギーが蓄積されていく。

 

 

《不味い!?》

「不味いって何!?」

《何かやばそうっす!?》

「やばそうって何!?」

《これは、来るぞ!!》

「来るって何!?ちょ、みんな説明を──!!」

 

 

 次の瞬間、ガーゴルゴンの眼から光線が放たれてエックス達の背後の地面を薙ぎ払った。振り返ったエックスであるが光線により発生した閃光や爆発で一度目を塞ぐ。何故自分達を狙わなかったのか?疑問に思った彼であるが、光線の当たった場所を見た時、その理由は明白となった……。

 

 

「おい、これって……!?」

 

 

 その場所、そこにあった物、そしてそこに居た人々、その全てが石にへと変えられてしまっていた。奴が放ったのは石化光線だ。

 

 

《あの力で、惑星ゴールドの人達もみんな石にされたわ……》

「蛇の見た目にガーゴルゴンって名前。まるで神話のゴルゴーンだな」

《ガーゴルゴンは過去に文明を滅ぼしてるって聞いことがある。もしかしたら、この星にもやって来て文明を滅ぼし、その時のことが神話になってるのかも……》

「チッ……ほんと最悪の怪獣だ」

 

 

 降り立ったガーゴルゴンに拳を握り締め、幾度目かの突進を仕掛ける。ルディアンもそれを援護する為にガトリング光弾を発射。だが奴が放った稲妻によって光弾は全て撃ち落とされ、エックスは火花を散らしてまた倒れた。

 

 

《翔琉!?───ッ!?》

 

 

 エックスに駆け寄ろうとするルディアン。そんな彼女に向かい、ガーゴルゴンの眼が向けられていた。もしあれを受ければルディアンとマウナは石化し、ルディアンに秘められた惑星ゴールドのエネルギーが奪われてしまうだろう。

 

 

《しまっ──!?》

 

 

 逃げようとするが、これまでの攻撃で大きなダメージを負っていたルディアンの膝が折れた。それと同時に、ガーゴルゴンの目より石化光線が放たれる。このままではまともに受けて石になってしまう。マウナはもうダメかと思い目を瞑るが……。

 

 

「このぉ……させるかあああああ!!」

 

 

 どうにか立ち上がったエックスが走り、ルディアンを突き飛ばして光線の射線上から弾いた。これによりルディアンとマウナは石化光線から逃れることが出来る。しかし代わりに、エックスがそれを受けることになってしまった……。

 

 

「ぐっ、がああああ!?」

《か、翔琉君!?》

 

 

 

 みるみる内に肉体が石へと変質させられていくエックス。そして遂に物言わぬ石像に変えられてしまうのであった。

 

 

《くっ!》

《そんな……!?》

 

 

 踠く様にガーゴルゴンへ手を伸ばした状態で石像になったエックスのことを見てガーゴルゴンは楽しそうに嗤い再度エネルギーを眼に充填していき、それを薙ぎ払いながら逃げ惑っていた人々にへと放っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「エックスが石になっちゃった!?」

「怪獣に石にされちゃったよ!?」

「そんな!?」

 

 

 石となったエックスを見て司令室に居る皆が驚く。

 

 

「ガーゴルゴン、再度あの光線を放ちます!」

「このままじゃ、街中が石に変えられてしまうっす!」

 

 

 エネルギーを溜めていくガーゴルゴンの姿が映される。奴があの光線を放ち続けたら街が、東京が、果てにはこの星の全てが石に変えられてしまうだろう。

 

 

「エックスさん……!?」

 

 

 以前自分を助けてくれたエックスが石像にされてしまったのを見て驚く歩夢。そして彼女はあることに気付く。もしガーゴルゴンが光線を放ち続ければ、今あの街にいる同好会のみんなが石にされてしまうだろうと。

 

 

「みんなが危ない!?」

 

 

 携帯を取り出し、一番初めに出た果林名前をタップして電話を掛ける。危険だと早く知らせて彼女達を逃さなくてはならないのだが、何度コール音が鳴っても果林は出ない。ならばと次はエマ、しずく、彼方とみんなの携帯に掛けるがやはり誰も出なかった。

 

 

「どうして───ッ!?」

 

 

 何の反応も無いことに不安が増していく。そして璃奈に電話を掛けながらモニターを見た時、彼女の目にあるものが映ってしまう。

 

 

 それは、驚きと恐怖の表情のまま石されてしまった同好会の8人の姿であった……。

 

 

「そん……な……!?」

 

 

 携帯が手から滑り落ち、彼女は膝を折る。大切な人を傷付け、仲間を失う……信じられない様な不幸の連続に、これは夢なのではないかと思い始める。しかし紛れも無い現実であり、最早取り返しのつかない事なのだ。

 

 全てを否定する様な叫びが、基地内に響いた───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕焼けが空を茜色に染める。

 

 あの後、リュウジがサイバーレッドキングのカードを使用して放ったレッドキング徹甲弾によって顔側面に傷を負ったガーゴルゴンは宇宙へと逃亡した。現在は衛星軌道上に浮遊しており回復中の様だ。

 

 奴による被害は甚大であり、2004人の人間が石に変えられてしまった。石になった人々は市の運営する大きな体育館に丁重に運ばれて保管されている。どうやら皆死んではないらしいが、現状ほぼ死んでると同じだろう。どうにかして戻せないか、シャマラ博士達ラボチームが解析を進めている。

 

 ハヤテとイヅルは怪我こそしているものの大事には至らなかった。2機のマスケッティは修復中であり、戦力的には大幅にダウンしたと言って良い。何より、エックスが石にされてしまったことが大きな痛手だった。エックスは今一切の身動きも取れず、ただただ夕陽に照らされているしかない。彼がこんなことになってしまったのに責任を感じているマウナは奥歯を噛み締めていた。現状頼れるのはマスケッティγ、サイバーゴモラ、そしてルディアンなのだが、あのガーゴルゴン相手では心許無かった。

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 慌ただしく人が動くXio基地内。その廊下にあるベンチに歩夢は虚な目で座っていた。大切な人達が次々と自分の手から溢れていき、彼女の心を締め付ける。

 

 

「私の所為で……」

 

 

 自分が我儘を言って付いて来なければ、こんなことにはならなかった筈……そう考えて自己嫌悪に陥っていく歩夢。

 翔琉とも連絡が取れず、もしかしたら彼もみんなの様に石にされてしまったのかも知れない。そんな最悪な考えが頭に浮かび離れない。

 景色が滲んでいく。度重なる不幸、それが彼女の思考をネガティブなものにしているのだ。一層の事、自分なんか居なくなってしまえば……。

 

 

「あの……」

「っ……貴女は……」

 

 

 そんな意気阻喪の歩夢に、少し困った様な顔をしながらマウナが現れて声を掛けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・ディガルーグ

別名:宇宙量子怪獣

身長:54m

重量:3万t

出典:ウルトラマンメビウス 19話「孤高のスタンドプレイヤー」

 

 甲殻類を思わせる頑丈な体を持ち、両腕の爪や口から吐く火球と角から放たれる怪光線が武器。本来は目視では3体いるがレーダーには1体しか映らずどれもが虚像であり実像、3体で1体という不可思議な怪獣なのだが、今回は初めから1体の状態で現れた。

 ギロ星人の配下としてグロマイト、ケルビムと共に登場しウルトラマンメビウスと激突。爪や怪光線で攻めるが彼の攻撃を受けて吹っ飛ばされ、最期はメビュームシュートを受けて倒れた。

 名前と特徴の由来は量子力学における思考実験の一つである「シュレディンガーの猫」。元々は水の様な姿をしたデザインであった。量子飛躍理論に基づいて存在する怪獣では、「ウルトラマンガイア」に登場したメザードと同じ様な性質を持っている。

 

 

 

 

・グロマイト

別名: 宇宙礫岩怪獣

身長:55m

重量:5万t

出典:ウルトラマンメビウス 15話「不死鳥の砦」

 

 岩石や鉱物を食料とする怪獣で体内に取り込んだ鉱石を凝縮し、全身を覆う装甲として再構成することが出来る。その為に恐ろしいまでの防御力を持ち、多少の攻撃には全く動じない。取り込んだ鉱石は口から弾丸のように吐き出して敵を攻撃することも出来る鉱石を食べる際に首の付け根に生じる僅かな装甲の隙間から見える中枢器官が弱点。

 ギロ星人の配下でウルトラマンヒカリと戦う。硬い装甲でヒカリの攻撃を防ぎ有利に進めようとするが首にある中枢器官を見抜かれ、頭部に踵落としを受けて頭を下げられそこに剣を突き立てられた。そして更に投げ飛ばされ、ナイトシュートを受けて爆散した。

 全身のスーツはゴルゴレム、口のギミックはグランゴンの改造。鳴き声はゴルザ(強化)の、攻撃を受けた際の悲鳴はブリッツブロッツの流用と多くの過去怪獣の要素を持っている。因みに劇中で破壊される建物の映像はウルトラマンティガ3話からの流用である。

 

 

・ケルビム

別名:宇宙凶険怪獣

身長:44m

重量:4万4千t

出典:ウルトラマンメビウス 4話「傷だらけの絆」

 

 全身が青い体表に覆われ、大きな耳と頭頂部に生えた巨大な一本角「裂岩マチェットホーン」が特徴的。 鋭い爪や先端にトゲの付いた尻尾「超音速クラッシャーテイル」を備えた攻撃的な見た目で別名通りの凶悪な面構えをしている。中距離では口から吐く3000℃の火炎弾「弾道エクスクルーシブスピット」、近距離では尻尾による打撃、至近距離では角と爪よる斬撃と全ての距離において隙の無い攻撃が可能。 宇宙や水中でも問題なく活動できる高い適応力とオールマイティな能力を持つ。

 ギロ星人の配下。ウルトラマンエックスと戦う。多彩な武器を用いて彼を攻める。最初は有利に進めていたが火炎弾を弾かれ、クラッシャーテイルを受け止められてそのままジャイアントスイングで投げ飛ばされてしまい、ザナディウム光線を受けてスパークドールズに変換された。

 モチーフは東宝怪獣のバラゴン。元は劇場映画への登場を想定してデザインと着ぐるみが製作された経緯を持ち、イボや鱗といったデザイン画に無かった細かいディティールもスクリーン映えを意識して追加されたもの。「ウルトラマンZ」では強いエネルギーに惹かれて星を襲い、そこに寄生し繁殖するという生態が明かされた。スーツはメビウスからZまで15年以上同じ物が使われており、着ぐるみの中ではかなり長寿の部類に入る。

 

 

 

 






次回、ワタシがアナタに出来ること

感想、質問、高評価、ここすき、その他、是非是非お待ちしています!



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50.ワタシがアナタに出来ること



記念すべき50話目!何かが起こる……?
早速どうぞ!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはは、石になっちゃってるじゃん。だっさー」

 

 

 明里は自宅にあるパソコンに映されている、石像にされてしまったエックスのことを見ていた。今まで自分にとって障害であったエックスがこんな姿になっているのを見た彼女は面白そうに笑っている。

 

 

「ねー、ルギエル」

《何だい?》

「これ壊しちゃったら、ウルトラマン死ぬかな?」

《恐らくそうだろうねぇ。………殺すのかい?》

 

 

 ルギエルの問いに明里は「うーん」と考え込む。

 

 

「まあ、私がやらなくてもあの蛇の怪獣がやってくれるでしょ」

《それは確かに》

 

 

 「でも……」と彼女は机の上に置いていた黒い棒状の物を手に取る。

 

 

「あの怪獣もウザそうだし、一応準備だけしとこうかな」

 

 

 エックスもガーゴルゴンも、いざという時は纏めて殺してしまおうと彼女は考えている。どっちも明里からしたら邪魔でしかないのだから。

 

 

「あ、そうだ。ウルトラマン殺せたら、翔琉君のことデートに誘おっかな」

 

 

 そう言って明里は、翔琉と遊ぶことを想像しながら頬を染めて微笑むのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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───地球人ニ告グ。直チニ降伏シ、惑星ゴールドノ王女ヲ差シ出セ。猶予ハ地球ノ時間デ108分。応ジレバ石ニシタ生命ヲ解放シ、コノ星ヲ立チ去ル。応ジナカッタ場合、地球ノ全生命ヲ石ニ変エ、ソレラヲ破壊スル。

 

 

 

 

 

 これはガーゴルゴンがXioのコンピューターをジャックして人類に伝えて来たメッセージだ。惑星ゴールドの王女というのは間違いなくマウナのことだろう。ガーゴルゴンはマウナと地球を天秤にかけて来た。これに対してUNVER上層部の多くが彼女を差し出すべきだと考えたが、Xio日本支部の隊長である沙優は反対。亡命者である彼女を移民として受け入れるべきだと主張する。奴にマウナを差し出せば、殺されてしまうのは間違い無い……地球から追い出し、みすみす死なせる様な事態だけは避けるべきであると。

 

 

「何を言っている!?我々の星に関係の無い宇宙人のことなど、庇う必要は無い!!」

 

 

 オペレーションベースXの会議室でそう吠えたのは堂馬(どうま) 亥耶麻(いやま)参謀。UNVERの中でも武装強化による地球防衛を強く主張し、人類を守る為なら手段を問わないタカ派の人物として知られている。

 

 

「彼女を渡すというのはガーゴルゴンの要求を呑み、奴に屈服するということになります。そしてこの星に逃げて来た命を見捨てるということにも……我々Xioは命を守る為に戦っています。ならば他の惑星の命も守るべきです」

「既に約2000人の命が奴に握られているのだぞ!?あんな宇宙人一人で解決するのなら安いものだ!」

「この宇宙に安い命なんて、一つもありません」

 

 

 互いに睨み合う沙優と堂馬。どんな命でも救う為に最善を尽くしたい彼女と、力で全てを解決し、地球防衛の為なら多少の犠牲も気にしない彼とでは正に水と油。そんな2人に会議に参加してた他の者達は圧され萎縮していた。

 

 

「………何か策はあるのかね、神山君?」

 

 

 UNVER日本支部のトップである北森支部長が彼女にそう尋ねる。

 

 

「あります。解析の結果、ガーゴルゴンの弱点はあの眼であることが解りました。そしてそこを破壊出来れば、高確率で石に変えられた人達を元に戻せることも判明しています。地球に再度降りたガーゴルゴンをサイバーゴモラで抑え込み、その隙にシャマラ博士が開発した新兵器を利用して奴の眼を破壊。全ての人々とウルトラマンエックスを解放後は、エックスと協力してガーゴルゴンを撃破します」

「新兵器?」

「はい。それがこちら、ウルトラブースターです」

 

 

 沙優が取り出したのはデフォルメしたウルトラマンの様な形をしたアタッチメント。

 

 

「これをジオブラスターに装着することでウルトライザーとなり、ウルトラマンの光線に匹敵する威力のビームを放つことが出来る様になります。これを三方向から同時に着弾させれば、ガーゴルゴンの眼も破壊出来るでしょう」

 

 

 ウルトラマンの光線に匹敵と聞いて周りが騒つく。確かにそれがあればガーゴルゴンを倒すことが出来るかも知れない。

 

 

「マスケッティ2機の墜落で、隊員が2名重傷を負ったと聞いたが大丈夫なのか?」

「イヅルとハヤテなら今Xioメディカルで治療を受けています。両隊員共命に別条はありません。本作戦は陽花隊員がサイバーゴモラの操作、紗季隊員、リュウジ隊員、そしてザムザ副隊長が現場にてウルトライザーを使用しガーゴルゴンの眼を破壊します」

「勝算は?」

「あります。もし失敗したなら、私がマスケッティで特攻してでも奴の眼を破壊するつもりです。そうすれば、エックスが間違いなく奴を倒すでしょう」

「ウルトラマンに肩入れするのか……?」

「もちろんですよ堂馬参謀。我々だけでガーゴルゴンは倒せない。エックスとの協力は必須です」

 

 

 彼女の気迫に、堂馬も他の者達も圧されて言葉が出ない。彼女は何としてでもガーゴルゴンの眼を破壊して人々とウルトラマンエックスを解放するつもりなのだ。

 

 

「………解った。君に任せよう」

「ありがとうございます」

「なっ!?北森支部長!?」

 

 

 頭を下げる沙優と納得はしてないが反論の余地が無く怒りを飲み込むことしか出来ない堂馬。

 

 

「ガーゴルゴンの指定した時間まで残り62分。各自行動を開始してくれ。解散!」

 

 

 北森の言葉を受けて皆が室内から出て行く。だが1人、堂馬だけがまだ立ち上がらずに拳を握り締めていた。

 

 

「ウルトラマン……所詮我々はあの力に頼らねばならんのか……!?」

 

 

 ウルトラマン。その未知の力を持つその得体の知れない存在が居なければ難しくなって来た地球防衛に、彼は慙愧の念と怒りを感じるのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 歩夢とマウナは並んで座っていた。

 

 

「あの時はごめんなさい。貴女のこと人質にして……」

「ううん、気にしないで。少し怖かったけど、大丈夫だから」

 

 

 あの時歩夢を羽交い締めにしてしまったことを謝罪するマウナ。彼女の様子から何か事情があったと察している歩夢は気にしなくて良いと言い、それを受け入れる。以前も身勝手な宇宙人達に拘束されたことのある彼女であるが、それに比べたら幾分マシと思っているのだろう。

 

 

「……ねえ、翔琉君がどうしてるか知らない、かな……?」

 

 

 彼はマウナのことを追って走っており、だったらその行方を知っているのではないかと思い尋ねた。

 

 

「彼は……その……」

 

 

 口籠ってしまうマウナ。エックスの正体が翔琉であることは秘密だとXioメンバーから聞かされているので本当のことを言う訳にもいかず、かと言って変に嘘を吐くのも心苦しい。どうするべきかと考えていると、歩夢の表情が段々と暗くなっていく。

 

 

「やっぱり、石になっちゃったのかな……?」

「えっ……う、うん……」

「そっか……翔琉君もなんだ……」

 

 

 マウナが言い渋っているのを見て、歩夢は翔琉が石に変えられてしまいそれを彼女が伝えられないでいると勘違いした。石に変えられたという点は間違ってはないので否定はせず頷く。同好会のみんなだけでなく翔琉も石に……考えていた最悪の事態が的中してしまい、その苦しさから涙がまた滲み出てきた。

 

 

「翔琉のこと、大事なんだね」

「……うん。あの子とは子どもの頃からずっと一緒で、家族みたいな関係だったの」

「家族、か」

「誰よりも大切な人……なのに、私は翔琉君を……」

 

 

 膝の上でぐっと握った拳に涙が落ちる。自分の出してしまった言葉で彼を傷付けてしまい、更にそれを謝ることももう出来ない……。取り返しのつかないことをしてしまったと、歩夢の心は強く締め付けられていく。

 

 

「一緒なんだね、翔琉と」

「えっ……?」

「彼、言ってたんだ───」

 

 

 マウナはあの時、翔琉から聞いた言葉を思い返し語っていった───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、実はよ……歩夢に嫌なことを言わせちまったんだ」

「嫌なこと、言われたじゃなくて?」

「言わせたんだよ。俺がもっと上手くやってりゃ歩夢にあんな顔させることもなかったのに、ほんと最悪だよ……」

 

 

 頭を抑えて溜め息を吐く翔琉。自分の行動がいつの間にか彼女を追い詰め、あんなことを言わせてしまい、あんな顔をさせてしまったことを、彼は酷く後悔していた。

 

 

「あー、でもウルトラマンってことは話せないしぃ……いやいっそのこと話しちまうか?でもなぁー……」

 

 

 うーんと唸る翔琉。どうすれば彼女に悲しい想いをさせずに出来るかを必死になって考えている。

 

 

「怒ってないの、彼女のこと?」

「あ、何でだよ?」

「だって……」

 

 

 嫌なことを言われたのに何で彼は「言わせた」と考えられるのか。マウナはそれが解らなかった。

 

 

「歩夢はあんなこと言わねぇよ。あいつのこと追い詰めて、本当は言いたくねえことを俺が言わせちまったんだよ……なんて謝るかなぁー」

 

 

 項垂れる彼にマウナは驚く。

 歩夢を決して責めず、逆にそんなことをさせてしまうまで追い詰めてしまったと後悔している翔琉を見て、マウナは思わず笑ってしまう。彼は彼女のことを心から想っているのだということも理解出来た。

 

 

「何だよ?」

 

 

 まるで兄の様だ……そう思い少しだけ寂しさも込み上げてくるのであった───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「翔琉君が、そんなことを……?」

「うん。翔琉は貴女のことを、心から大切に思っていた。今の貴女と同じ様に」

 

 

 彼が言っていたことを聞いて驚く歩夢。自分が彼を傷付けてしまったと思っていたが、翔琉も歩夢のことを傷付けてしまったと思って悩んでいたのだ。

 

 

「2人ともそっくりで、凄く仲が良いんだね」

「そう、かな……?」

「そうだよ。なんか、羨ましいな……」

 

 

 思い返す兄のこと。とても強く優しく、本当に仲の良かった兄。その兄もガーゴルゴンによって殺され今はもういない。それの事実を想起し彼女の胸は締め付けられる。

 

 

「あの……?」

「あ、ご、ごめんね……」

「貴女も何かあったんだよね?」

「………うん」

 

 

 マウナは惑星ゴールドから逃げ、追って来たガーゴルゴンによって兄と仲間達を殺されてしまい、そして殺される前の兄によって自分だけがこの星に辿り着いたことを歩夢に語った。

 

 

「私じゃなくて兄さんがこの星に来て、ガーゴルゴンと戦っていればきっと勝てた筈……。私じゃなくて兄さんが生きていれば……」

「お兄さんはきっと、そんなこと思ってないと思うよ。貴女が生きてくれて、嬉しいって思ってる筈!」

「貴女……。私達って少し似てるね」

「うん、そうだね」

 

 

 相手のことを想う余りネガティブなことを考えてしまう2人。似ているなと感じて彼女達は思わず笑い合った。

 

 

「私はマウナ。貴女は?」

「私は歩夢だよ」

 

 

 お互いに自己紹介をした時、基地内にサイレンが鳴り響く。ガーゴルゴンの指定した時間まで残り30分。奴を撃退する為の最終準備が開始されたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 満月に照らされる夜の街。その多くが石に変えられて光を放つことは無い。ザムザ、リュウジ、紗季はそれぞれのポイントで待機し、ウルトラブースターをジオブラスターに装填しウルトライザーモードにする。

 

 

《ULTRAISER MODO ACTIVE》

 

 

 そして陽花もジオデバイザーにサイバーゴモラのカードを装填し、形成されたスパークドールズを読み込ませてサイバーゴモラを召喚する。

 

 

《REALISE》

 

 

 周囲半径10kmの避難も完了。陸戦メカ、兵器の配置も終了し準備は整った。ガーゴルゴン降臨まで後5分。誰もが緊張してその時を待つ。そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来た……!」

 

 

 稲妻を放ち、街を破壊しながらガーゴルゴンがビルを踏み潰しながら降臨した。けたたましい咆哮を放つガーゴルゴンに、サイバーゴモラも吼えながら突っ込んでいく。

 

 

「頼むっす、ゴモラ!」

 

 

 サイバーゴモラの爪が振り下ろされる。しかしガーゴルゴンはそれを受け止め、強烈な蹴りを叩き込んで来た。ゴモラは堪らず数歩後退してしまう。そこへ、地上兵器が奴目掛けて複数のミサイルを発射。だがそれすらもガーゴルゴンは稲妻を放って全て撃墜してしまい、更に尻尾を振るってサイバーゴモラに叩き込んで転倒させた。そして追撃の稲妻が放たれてサイバーゴモラを苦しめる。

 

 

「ゴモラッ!?」

「無茶苦茶ねアイツ……!?」

「強過ぎる……!」

「今までとは、レベルが、違う」

 

 

 チャンスを待つウルトライザーを持った3人だが奴が想定以上に強くサイバーゴモラが返り討ちにされており、その時が来ない。

 

 倒れたサイバーゴモラに両肩の蛇が伸びて噛み付き、持ち上げてから地面に叩き付ける。それに巻き込まれた陸戦メカ数台が潰されて爆散。サイバーゴモラの攻撃も、兵器での攻撃も全く効果は無くこのままでは不味い……。そう思った時、光と共にルディアンが現れてガーゴルゴンの前に立った。

 

 

「あれって、マウナちゃん!?」

《私も、戦います!………良い歩夢?》

《うん……!》

 

 

 この星の人達が戦っているのに、ガーゴルゴンを連れて来てしまった自分が何もしない訳にはいかない。彼女はそう思い戦場に姿を見せたのだ。そして更に、コックピットには歩夢の姿もあった。マウナを1人で戦わせない為、自分も翔琉やみんなを救う為に行きたいと彼女はマウナに頼み、その強い覚悟を見てマウナは歩夢と共にルディアンに乗った。大切な人達を取り戻すべく、自分に出来る事をやり遂げようとしているのだ。

 

 ルディアンはガトリング砲を放ちながら突進し、それから互いに組み合う。

 

 

《はあああああああ!!》

《やあああああああ!!》

 

 

 最大出力でガーゴルゴンを押すルディアン。それにより少しずつ、奴の身体は後退していく。2人の想いの力か、そのパワーは以前よりも強くなっていた。

 

 

「凄い、これなら……!」

「あの怪獣、サイバーゴモラがいる所までガーゴルゴンを押して欲しいっす!」

《分かりました!いくよ、歩夢!》

《うん!》

 

 

 2人はレバーに手を置き同時にそれを前へ倒す。するとルディアンは更なる力を発揮してガーゴルゴンを押し、再起していたサイバーゴモラがいる場所まで押し込んだ。そして背中からサイバーゴモラが抑え込み、ガーゴルゴンを完璧にホールドすることに成功した。

 

 

「捕らえたっす!」

《このまま……!》

 

 

 そんなことされて黙っているガーゴルゴンではない。奴は眼を開き、石化光線を放とうとエネルギーを溜めていく。

 

 

《今よ!!》

 

 

 沙優からの指示がザムザ、リュウジ、紗季に飛ぶ。3人は眼にウルトライザーの照準を合わせた。チャンスは一度きり……しかしそれを外す様な彼らでは無い。

 

 

《ULTRANAN POWER CHARGE》

 

『トリプルユナイトシュート!!!』

 

 

 三つの光線が放たれ、ガーゴルゴンの眼に直撃。それを見事に破壊した。苦悶の叫びが、ガーゴルゴンから放たれる。

 

 

「やった!」

「よし……!」

「作戦、成功」

《やった!やったよマウナちゃん!》

《ええ!よーし!》

 

 

 後ろに跳んでガーゴルゴンとの距離を開き、ガトリング砲を連射。弾丸の嵐を受けて奴は地面に倒れ込んだ。

 因みにサイバーゴモラは限界が来たのか粒子となり消滅していた。

 

 

「お疲れ様っすゴモラ。後は……」

 

 

 振り返った陽花の視線の先にあったのは、石化から解放され復活したウルトラマンエックスの堂々たる姿。月光にボディを照らされながら、彼は歩いてルディアンの横に並ぶ。

 

 

《か……エックス、無事!?》

《良かった……!助かったんですね!》

「ああ。どうやら助けられたみてぇだな。………え、何で歩夢がそこにいんの?」

《まあ、色々あって……》

「ちょ、危ねえから降りとけって」

《そうだね。此処からは私達に任せて、歩夢は降りて》

 

 

 マウナとエックスにそう言われ、うんと頷く歩夢。彼女を1人残すのは心苦しいが、これ以上自分が居て足手纏いになる訳にはいかない。

 

 

《マウナちゃん、必ず帰って来てね?》

《うん。もっと歩夢の話聞きたいしね》

《フフッ、私もマウナちゃんのこといっぱい知りたいな》

 

 

 笑い合った後、歩夢はルディアンから降りて離れた。それからエックスとルディアンは苦しみフラフラしながら立ち上がるガーゴルゴンに構えた。

 

 

「さあ、リターンマッチといこうかァ!」

 

 

 駆け出す1人と1機。彼らに向かって出鱈目に稲妻を放つガーゴルゴンであるが、見事に外してしまい接近を許した。エックスの拳、ルディアンの砲門が同時に叩き付けられて大きく吹き飛ばされた。

 

 

「おっし!」

《このまま一気に!》

「ああ!……って、あァ!?」

 

 

 立ち上がったガーゴルゴン。何と奴の破壊された眼が不快な音と共に再生をしてしまった。驚異的な細胞の再生力にエックスもマウナも、Xioメンバーも歩夢も驚きを隠せない。そしてガーゴルゴンはまたあの石化光線を放つ為にエネルギーを溜め始めた。

 

 

《不味い!?》

「いや、手ならある!」

 

《CYBER BEMSTAR LOAD》

《CYBER BEMSTAR ARMOR ACTIVE》

 

 

 エックスはルディアンの前に出てサイバーベムスターアーマーを纏う。

 

 

「ベムスターのアーマー?あ、そういうことっすね!!」

 

 

 咆哮と共にエックスに向かってガーゴルゴンは石化光線を放つ。それを彼は左腕のシールドアーマーで受け止めた。光線はシールドにどんどん吸収されていき、全て受け切ってしまった。驚くガーゴルゴン。その一瞬の隙が命取りとなる。

 

 

「ベムスタースパウトォォォォォ!!」

 

 

 シールドアーマーを地面に突き立てると吸収した石化光線が反射し、ガーゴルゴンに直撃。奴の身体は先程までのエックスや人間達、街同様石にへと変わっていった。

 

 

「決めろマウナァァ!!」

《うおおおおおおおおおお!!!!》

 

 

 ルディアンのガトリング砲が火を吹き、石化した奴の肉体を削る。胸を、腹を、肩を、腕を、足を、尾を、頭を、弾丸が貫き、遂にガーゴルゴンの身体は爆散。マウナは引導を渡し、見事に仇を討つことが出来たのだ。

 

 

 

 

 

 

《ありがとう翔琉。貴方のお陰でガーゴルゴンを倒せた……》

「礼なら俺も言わせてくれよ。マウナが居なきゃ石のまんま人生終わってただろうし。それに……」

 

 

 エックスが目線を向けた方には2人に手を振る歩夢の姿があった。その目と表情は輝いており、翔琉があの時感じた悲しみや苦しみを乗り越えた様だ。

 

 

「歩夢のことも、助けてくれたみたいだしな」

《ううん、彼女に助けられたのは私の方だよ》

 

 

 そう言って互いに少し笑った後、エックスは翔琉の姿に戻ってマウナはルディアンから降りて、歩夢の所へと行こうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐああっ!?」

《何!?きゃっ!?》

 

 

 2つの巨体から火花が散り、ルディアンは倒れた。何が起きたのかと思い振り返るエックス。その目線の先に居たのは……。

 

 

「てめぇ……ファウストォォ!!」

 

 

 不気味な笑い声を放ちながら拳を此方に向けている宿敵、ダークファウストだった。奴は容赦無く光弾・ダークフェザーを連発してエックスを狙う。突然の強襲を受け、彼は反撃することが出来ず光弾を次々と喰らっていった。

 

 

《か、翔琉!?》

「がああ!?ぐうっ!?うあああ!?」

 

 

 連続攻撃を受けてカラータイマーが鳴る。元々ガーゴルゴンとの戦いで体力を消耗してたこともあり、その身体は限界が近かったのだ。

 

 

───ငါသေသင့်တယ်(死ぬがいい)

 

 

 腕を組んで闇のエネルギーを増幅。奴は光弾を受けて膝を付いたエックスに必殺のダークレイ・ジャビロームを放つつもりなのだ。ダメージが大きく動けないエックス。この状態で光線を受ければ死は免れないだろう。

 遂に光線が放たれた。エックスを助けるべくXioメンバーが動こうとするがもう間に合わない。勝利を確信し、ファウストの、彼女(・・)の口角が上がる……。

 

 

 

 

 

《危ない!?》

 

 

 だが当たる寸前、ルディアンがエックスの身体を突き飛ばして射線から弾いた。そしてダークレイ・ジャビロームはルディアンのボディに炸裂し……。

 

 

「マウナ!?」

「マウナちゃん!!!」

 

 

 火花が散り、様々な箇所での幾度か小さな爆発が起きた後、ルディアンは轟音を立てて崩れ落ち爆破されるのであった─────

 

 

 

 

「マウナちゃあああああああああん!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






次回、ファウストとの決着。

感想、質問、高評価、ここすき、その他、是非是非お待ちしてるんご!


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51.キミとワタシは友達だから


遂に決着です。




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如として現れたダークファウストの放った光線からエックスを庇ってルディアンが爆散。その衝撃の光景に、エックスは倒れたまま手を伸ばす。

 

 

「マウナ……ぐあッ!?」

 

 

 彼の横っ腹をファウストが蹴り飛ばした。蹴飛ばされて地面に落ちたエックスに、ファウストは近付いて容赦無く踏み付ける。

 

 

「がっ!?くっ……!?」

 

 

───ညှဉ်းဆဲခြင်း(苦しめ)……ညှဉ်းဆဲခြင်း(苦しめ)

 

 

 嗤いながら何度もストンプするファウスト。エックスは反撃しようにも刻まれたダメージが大きく、身体を上手く動かせないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マウナちゃん……!マウナちゃん!!」

 

 

 一方、歩夢はルディアンが爆散した場所へと走っていた。マウナは生きているかも知れないという一縷の望みに賭けて……。辺りに散らばった残骸、金属の焼ける様な臭いが立ち込め鼻をつく。

 暫く走った後彼女は見つけることになる。アスファルトの上に倒れ込んでいる金髪の少女、マウナの姿を……。

 

 

「マウナちゃん!?」

 

 

 彼女の元へ全力で駆け寄った歩夢。そしてその身体を見て絶句した。頭と脇腹から青い血を流し、口からもそれを滴らせており、瞳を閉じてぐったりとしているその姿は正に死の一歩手前の様だと感じさせられたからだ。

 

 

「マウナちゃん、目を開けて!?マウナちゃん!!」

 

 

 肩に手を置きマウナの身体を揺さ振る。大怪我をしている物の身体を揺らすというのは危険な行為であるが、そんなことを考える程の余裕は今の歩夢には無かった。

 

 

「───っ」

「ッ!マウナちゃん!!」

 

 

 歩夢の声に反応しマウナは目を開く。その瞳に力は無く、今にも光が失われそうだ。

 

 

「あゆ……む……」

「ま、待って!急いで救急車呼ぶから!」

 

 

 携帯を取り出す歩夢。しかし焦りからか上手くボタンをタップ出来ないでいた。するとその手をマウナが掴み、歩夢の目を見て首を横に振る。

 

 

「もう……いい、から……」

「えっ……?」

「ごめんね……約束したのに……すぐ破っちゃって………」

 

 

 力無く笑うマウナのことを見て、彼女は死を悟っているのだと歩夢は感じた。

 

 

「嫌、ダメ!!死んじゃダメだよ!!」

「ごめん……ごめんね……」

「謝らなくていいから!!お願い、死なないで!!」

 

 

 ハンカチを出して脇腹の傷口を押さえ止血しようとするが、溢れ出る血は止まることなくハンカチと歩夢の手を青く染めていく。嫌だ、死なないでと涙を流しながら悲痛に叫ぶ歩夢。そんな彼女の頬に、マウナは優しく手を添えた。

 

 

「マウナ、ちゃん……?」

「ねぇ……歩夢……。私達、友だ……ちに……なれた……かな……?」

「もちろんだよ!!マウナちゃんは、私の大切な友達だよ!!遊んだり、買い物したり、同好会のみんなに紹介したり、スクールアイドルのこと教えたり、いっぱい一緒にやりたいことがあるの!!だから……!!」

 

 

 生きて!!必死の声でマウナにそう叫ぶ。その言葉に嬉しそうに微笑んだ後、頬に当ていた手が離れて星空に伸ばされる。

 

 

「兄……さん……今、いく……ね……」

 

 

 必ず生きてくれという願いを叶えられなかったことを兄は怒るだろうか?惑星ゴールドの血を途絶えさせてしまうことを許さないだろうか?最期の最期に大切な人達との約束を二つも破ってしまったことに申し訳なさを感じ、まだ死にたくないという思いが込み上げる。自分の為に泣いてくれる友達の為にも生きたいと思ってしまう。

 

 でも、それが叶わないことは彼女自身がよく理解していた。

 

 

「歩夢……」

「マウナちゃん……?」

「ありが……とう……大切な……友だ……────」

 

 

 パタリと落ちた腕。閉じられた瞳。身体を揺さ振り、名を呼んでももう反応は返って来ない。金色の光を放ちながら、粒子となって少しずつ消えていく……。彼女は、マウナは死んだのだということを歩夢は理解してしまった。

 

 

「マウナちゃん……!マウナちゃん!!?………嫌……嫌ああああああああああああ!!!!!」

 

 

 月夜の下、悲鳴が響き渡るのであった───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歩夢の叫びは、エックスの耳にも届いた。

 

 

「歩…があぁ!?」

 

 

 何が起こったのかと横目で見ようとした時、ファウストに顔面を踏み付けられた。カラータイマーがより激しく点滅し彼に危険を告げる。ボロボロになっていくエックスを見て、ファウストは愉悦を感じ嗤うのであった。

 

 

「この…ぐお!?があ!?」

 

 

───ဟားဟား(フハハハッ) ငါမိုက်မဲတယ်(愚かだなぁ)……

 

 

「あ、ああ……!?」

 

 

───မင်းရောပဲ(貴様も)အဲဒီအမျိုးသမီ(あの女と同じ) ငါငရဲထဲမှပစ်ချမ(地獄に落としてやろう)

 

 

「あの……女……?──ッ!?」

 

 

 顔が横に逸れて歩夢がいる所が目に入る。そこにあって光景は、消えていくマウナの亡骸を抱き締めて嘆く歩夢の姿……。

 

 

「歩夢、マウナ……!?」

 

 

 衝撃的なものを見て絶句するエックス。そんな彼を見てファウストは更に嗤った。今まで自分を苦しめて来たエックスが絶望し地獄を見ている姿が面白くて仕方ない。もっと苦しめ、もっと絶望しろ。そして地獄を味わいながら死んでくれ。これまでの恨みつらみを払拭するかの様に踏み付けがより苛烈になっていく。

 

 愉しい、愉しい、愉しい!死ね、死ね、死ね!嗤い声は響き、辺りを狂気で染めていく。もうエックスからは呻き声すら聞こえない。そろそろ終いかとファウストは踏み付けを一度止めて腰を落とし拳を振り上げた。最期はこれで殴り殺すつもりなのだ。赤黒い闇のエネルギーが纏われた右拳。それをエックスの顔面へと目掛けて振り下ろしていく。これで終わる、これで殺せる……!もう自分達を邪魔する者はいなくなる!エックスをここで殺す!そしたら───

 

 

 

 

 

 

 

 

───ဘာ()……လဲ()……!?

 

 

 しかし拳が当たるよりも早く、上半身を跳ね上げたエックスの拳がファウストの顔面に叩き付けられていた。

 

 馬鹿な……!?奴は相当痛め付け疲弊していた筈……!?そう思っていたのでこんな反撃が来るなど予想もしていなかったファウストは動きが止まる。その隙にエックスは足を滑り込ませてファウストの腹を蹴って剥がした。

 

 腹を抑えながら後ろに下がっていくファウスト。その目の先には、まるで幽鬼の様にゆらりと立ち上がるエックスが映る。そして彼はファウストに視線を向けて、ただ一言呟いた。

 

 

「潰す」

 

 

 駆け出したエックス。ファウストは驚きながらも光弾を放って迎撃しようとするが彼は異常に速く、手を水平に挙げた時にはもう眼前に迫っていた。腕を叩かれ、そのまま顔面に拳が叩き込まれる。先程までボコボコにされていたとは思えない程の痛烈な一撃。更にエックスは容赦無く打撃の嵐を無言で叩き込んでいく。

 

 

───ကူ(くっ)……!?သေနတ(ぐおおッ)……!?

 

 

 これまでに無い怒気がエックスからは滲み出ていた。パンチもキックも一撃一撃が凄まじい威力を発揮し、ファウストを苦しめる。

 

 両手で2本の角を掴み、無理矢理下げさせた顔面に膝を打ち込む。顔を抑えて下がろうとしたファウストの腕を今度は掴んで引き寄せ、鳩尾にまた膝蹴りを放った。身体をくの字に曲げた所で頭頂部に肘を落とし、続け様に裏拳で頬を弾く。

 

 淡々と殺す為の技を繰り出してくるエックス。形勢は完全に逆転していた。

 

 

───သတ္တုရိုင်း(おのれ)……!

 

 

 どうにか背後に飛び距離を開くことが出来たファウストは両腕にエネルギーを溜めてダークレイ・ジャビロームの発射準備に取り掛かる。それを見たエックスは首を一周回すと奴に向かって歩き出す。

 

 

───မသေနဲ့(死ねぇ)

 

 

 放たれるダークレイ・ジャビローム。その一撃はエックスを確実に殺せる……筈だった。

 

 

───မိုက်မဲ(馬鹿な)……!?

 

 

 エックスは光線を胸に受けながらも止まること無く、ファウスト目掛けて歩いていた。どれだけ力を込めて光線の威力を高めてもその歩みは止まらない。身体からは火花が散り、間違い無く大きなダメージになっている筈なのだが彼は痛みを感じていないのか、光線を浴びながら悠然と歩きファウストに近付いていく。

 

 何故彼は止まらないのか?何故彼は死なないのか?ファウストには理解が出来なかった。目の前にいる決して倒れない敵に、彼女は恐怖を感じて足が退がっていく。そして遂に、エックスはファウストの眼前に立った。

 

 

───ဒါ()ဒီ(この)……နာပါတယ်(ぐはあああ)!?

 

 

 震える手足をどうにか動かしエックスに攻撃しようとするが、それよりも先に彼がアッパーをする様に下から振り上げた拳が腹部に炸裂。そのままファウストの身体を空へと突き上げてしまった。夜空に放り出され無防備となったファウストを見上げながら、彼はデバイザーにカードを装填する。

 

 

《ULTRAMAN MEBIUS LOAD》

 

 

 エックスの全身から凄まじい炎が溢れ出て彼を包む。そして大地を蹴って飛び上がり、ファウストにへと突進していった。向かって来る爆炎に包まれたエックスに気づき驚くファウスト。やめろ、来るなと懇願するが、それを聞き入れてくれる彼では無い。

 

 

「終わりだ」

 

───ရပ်လိုက်ပါ(やめろおおお)!?

 

 

 メビュームダイナマイト。燃え上がりながら対象に突撃し爆発するという、ウルトラマンメビウスのとんでもない大技。エックスはそれを迷うこと無く使い、ファウストに激突して大爆発を起こした。その凄まじい爆発によって発生した光は、周囲を真昼かと思わせる程に一時照らす。煙が消え、轟音が収まった時、小さな光りが地面に落ちていき人の形を作った。翔琉である。彼はアスファルトの上に大の字で寝転がっている。

 

 

「はぁ……はぁ……。こ、の技……二度と使わ……ねぇ……。こん、な……の使う……とか……未来も、メビウスも……イカれてる、な……」

 

 

 息絶え絶えになりながら別世界の友に悪態を吐いた後、彼は起き上がろうとするが限界を迎えた肉体はこれ以上動くことは無く、その意識はゆっくりと沈んでいくのであった───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 後日。歩夢はとある山の山腹に来ていた。街も海も一望出来る絶景の場所。そこには墓石の様な物が置かれており、彼女はそれに向かって目を瞑り手を合わせる。これはマウナの為に建てられた物。遺体が埋まっている訳ではなくただの気休めでしかないかも知れないが、それでも何か彼女の為に出来ないかと考えた末にXioの協力もあってここに墓を置くことが出来た。

 

 墓石には惑星ゴールドの文字でマウナの名前が刻まれている。シャマラに教えてもらい歩夢が書いたのだ。

 

 

「マウナちゃん……」

 

 

 共に居た時間はとても短かった。だけど彼女とは間違い無く友達になることが出来た。紡いだ絆は、歩夢の胸の中に確かにある。

 ゆっくりと目を開いた歩夢。そこに翔琉が歩いて来た。

 

 

「翔琉君っ」

 

 

 彼も墓石の前にしゃがみ手を合わせた。歩夢同様、翔琉にとってもマウナは一緒に戦った戦友で大切な者なのだ。

 暫く目を閉じて彼女の冥福を祈った後、翔琉は立ち上がる。

 

 

「ありがとう翔琉君」

「ん、何が?」

「私のことを大切に想ってくれたこと」

 

 

 優しく微笑む歩夢。それに対して彼は「俺もありがとう」と言って笑った。彼らは謝罪ではなく感謝の想いを互いに伝え合う。きっとその方が、相手が喜んでくれると思うからだ。

 

 

「翔琉君は、みんなに言えない秘密があるんだよね?」

「……ああ」

「やっぱりそっか」

「嫌か?」

「最初はそう思っていた。貴方が私に何か内緒でやっているって思うと凄くモヤモヤして嫌だなって」

 

 

 「でもね」と歩夢は続ける。

 

 

「それを聞かないことにしたの」

「え、何で?」

「翔琉君がどうしてもそれを伝えられないっていうのは分かった。だから、今は聞かないで翔琉君がいつか伝えてくれるまで待ち続ける。そう決めたんだ」

 

 

 いつの日か翔琉が自分から全てを話してくれるまでは待ち続けると歩夢は心に決めた。例えその途中で辛くなっても……いや、そもそも辛いと思うことはもう無いだろう。彼が自分のことを大切だと感じていることが、改めて解ったのだから。

 

 迷いの全てを吹っ切った歩夢の笑顔は翔琉の胸を打つ。

 

 

「そうか。ありがとな、歩夢」

「うんっ!」

 

 

 また笑い合う2人。そこに彼らを呼ぶ声が聞こえる。振り向いてみると、同好会のみんながこちらに手を振っている姿があった。

 

 

「行こっか」

「おう」

 

 

 歩き出す翔琉と歩夢。そして歩夢は翔琉の手を取った。

 

 

「おいおい」

「えへへっ、いいでしょ?」

「好きにしな」

「あーっ!?歩夢先輩ずるいですぅー!!」

「あらあら。なら私は反対の腕をもらうわね」

「じゃあ愛さんは後ろー!」

「お、ちょ」

「おー、モテモテだねぇ翔琉く〜ん」

「楽しそー!私も前からハグするね!」

「いや、エマは待ってマジで待って」

「み、皆さんこんな所でダメですよー!?」

「何かすごいことになってる。璃奈ちゃんボード『ドキドキ』」

「こ、これがラノベでよく見るハーレム系主人公……!?」

「いやいや、しずくも璃奈もせつ菜も止めてくれよ」

 

 

 

 彼らの未来を祝福する様に、黄金の風が草木を揺らした────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 彼女は新城野家の扉に手を置いた。その扉には血の手形がべっとりと付けられる。身体は血塗れ、服はボロボロ、桃色の髪も乱れて血が付着しており、覚束無い足取りながらもどうにか扉を開けて中に入った。しかしそれと同時に、彼女は足を絡れさせてしまい倒れた。倒れた時の衝撃で周囲に血が飛び散ってしまい、更に右足は捻れてしまったか異様な方向を向いていた。

 

 荒々しく息をし、血を吐きながらも彼女は何と進もうとして右腕だけで匍匐(ほふく)する。身体を引き摺ることによって血の跡が廊下に残り異臭を放つ。更に途中で、左腕の肘から先が千切れてしまい置き去りとなった。

 

 余りにも痛々しい姿の彼女。しかしそれでも前へと進むことを辞めない。上げられた顔が醜く歪み中途半端に変化する。左半分はあのダークファウストの鉄仮面……そして反対側は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、やられちゃったねぇ」

 

 

 

 裸足で彼女(ファウスト)の前から歩いて来た少女。少女は彼女(ファウスト)の前にしゃがみその顔を覗いた……。

 

 

 

「お母さん」

 

 

 少女は、明里はファウストにそう声を掛ける。反対側の顔は彼女の母・新城野 利子のものなのだ。

 

 

「ငါワနေたတု……န်းadပဲ……」

「もういいよ、使えないし。そろそろ新しいのに交換しないとね」

「ပန်းပွ……ပန်းပွ………ပန်းပွ…………」

「………」

「…………アなあァ……ダ……アア………レぇえ…………」

 

 

 立ち上がった明里は胸元から黒い筒状のアイテム・ダークエボルバーを取り出す。そして振り返りそれを後ろにいた者に渡した。

 

 

「じゃあ後片付けよろしくね、お父さん」

 

 

 ダークエボルバーを受け取った父・新城野 広也は利子の前に立ち、それを突き出して両端を両手で同時に引く。

 闇がダークエボルバーから解放される。闇が辺りを包み空間がヒビ割れると、そこから不気味な死神が姿を現した。

 胸部には肋骨、背には背骨の様な意匠があり、ファウスト同様赤と黒の身体を持つ黒い瞳を持つモノに変貌した広也はその手を利子に伸ばす……。

 

 

「あ………ァァ……ゴハ……ん………っくら……な……ぃと…………ぁのぉ……こ………にぃ…………────」

 

 

 

 

 

 音が静かな家の中に響く。耳を塞ぎたくなる様な嫌な音が。明里は気にすることなく朝食を食べ、そんな彼女をカタラがニコニコしながら見ていた───

 

 

「まあ、殺せなかったけど別にいいや。翔琉君デートに誘っちゃおっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ルディアン、ガーゴルゴン編、これにて終結です。
今回は歩夢編としての側面もありました。

みんなの力を合わせてガーゴルゴンを撃破!……したのも束の間、ダークファウストの襲来によりマウナの命が奪われることに……。それを見た翔琉の怒りが爆発し、遂に再起不能な程のダメージを負うことになりました。
歩夢とのわだかまりも解け、彼らの絆はより深まることになりました。


その裏で、遂に判明したファウストの正体………。明里の母である利子こそがダークファウストだったのです。ファウスト=明里と思っていた方もいた様ですが、実は母親の方でした。利子(としこ)の名前の由来はもちろんリコから来ています。ボロボロになってしまった彼女にトドメを刺したのは夫である広也。彼はダークエボルバーを使いあの闇の戦士に……。
そうなると明里は……?その謎はいつの日か明かされるでしょう。
 

色々な所で色々な動きが起こっていく虹X。これからも是非よろしくお願いします!


さて、次回ですがなんと!!
コラボ第三弾です!!!

今回コラボさせて頂くのはカズオ様が書かれていた「ラブライブ!サンシャイン!!〜大地と海の巨人〜」です!!
エックスとガイア、アグルがどの様に関わっていくのか、是非是非お楽しみに!!

それでは今回はここまで!
感謝、質問、高評価、ここすき、その他、是非是非お待ちしています!




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52.町へ誘ワレテ



遅くなりましたああああ!!

今回からカズオ様の書かれていた「ラブライブ!サンシャイン!!~大地と海の巨人~」とのコラボが始まります!!
それでは早速どうぞ!!




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 優しい風が町を吹き抜ける。

 

 カラカラと風車が回る。

 

 太鼓や笛の音が鳴り、人々の笑い声が聴こえる。

 

 優しい時が、その町には流れていた。

 

 

 原っぱで遊んでいる子ども達。かけっこをしてた彼らはあるものに気付いて足を止め、それを見上げる。子ども達の目の先、高い山の天辺には1体の怪獣が立っていた。彼らは怪獣を恐れること無く笑顔で手を振る。そしてそんな様子を見ていた1人の老人が座っていたベンチから立ち怪獣を呼んだ。

 

 

「ルクー!」

 

 

 その呼び掛けに応える様に不思議な音が発せられる。その音を聴いた町の人達は皆、怪獣ルクーを見て柔かな表情になっていた。

 

 

 

 

 

 この町はウクバール。遠い遠い空の町である───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………は?」

 

 

 気が付いた時、見知らぬ場所に翔琉は立っていた。

 

 辺りを見回すが全く身に覚えが無い。そもそも何で自分はこんな所にいるのか?混乱して来た頭をどうにか整理して直前までの記憶を辿る。

 

 今日は朝からXioのラボチームの元に行き、ウルトラマン達のサイバーカードを調べたいと陽花に言われたからゼロ、マックス、ゼノン、メビウス、ヒカリのカード5枚を彼女に渡し、昼からある同好会の練習の為に虹学へ向かおうとラボを出た。そこまでは覚えている。しかしそこから先の記憶が無く、何故か彼はこんな場所に居た。

 

 

「え、何ここ?」

 

 

 改めて周りを見る。中世ヨーロッパにタイムスリップしたかと思う様な石造の町であり、ビルや電柱、電灯など近代的な類いの物は一切無い。緑が美しく風景とマッチしている不可思議な場所だ。

 

 特徴的なのは幾つも建てられている風車と塔。羽根車は常に回っており、風が吹き続けていることを示していた。そして何よりも、その風車は空に浮いているかの如く建造されているのだ。細い柱……というか棒の様な物で地上とは繋がっているが、明らかに人間が造り出せる代物とは思えない。

 

 

「これってアレか?せつ菜が言ってた異世界転移だの転生だのってやつか?」

 

 

 主人公が自分達の住んでいる世界とは別の世界に飛ばされてそこで活躍する……前にせつ菜が持って来てたラノベでそんな作品を見せられたなと思い出す。死んだ覚えは無いので転生では無く転移だろうが、何でそんなことになったのかは彼には分からなかった。スマホやエクスデバイザーで他の皆に連絡を取ろうと試みるが、やはり繋がらなかった。

 

 一先ず歩き辺りを散策してみることにした翔琉。吹き抜ける風が優しく彼の髪と肌を撫でていた。少し歩いていると、目の前から数人の子ども達が走って来る。

 

 

『こんにちはー!』

「お、おう」

 

 

 翔琉に元気いっぱいの挨拶をしてからそのまま走り去っていった。どうやら日本語は普通に通じるらしい。

 

 

「ほんと何処なんだよここ……」

 

 

 彼らが走っていった先に見える山に目を向ける翔琉。すると、その山の天辺の景色が急に蜃気楼の様にぼやけ始めた。何かと思いながら目を凝らして見詰めると……。

 

 

「ッ、怪獣!?」

 

 

 1体の怪獣が姿を現した。生物の様でありロボットの様でもある不可思議な怪獣その怪獣は、顔の部分にある赤い球体を回転させながら安らかな音を発している。何となくではあるが、あの怪獣には敵意が無く、何かを伝えようとしていると翔琉は感じた。

 

 

「何だ、お前は……?」

 

 

 そう問うと、彼の頭に不思議な声が響いた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────タスケテ……ウルトラマン……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「翔琉君が消えた!?」

 

 

 Xio司令室内に紗季の驚きの声が響き渡る。

 

 

「ええ。先程上原さんからまだ天地さんが学校に来ていないと連絡がありました。それで気になって調べてみたんですが、記録上では彼まだこの基地から出ていないことになっていました」

 

 

 涼風はモニターにこの基地の入所と退所の記録を映した。確かに翔琉は退所した記録が無く、彼はまだこの基地内にいることになっている。ならば何処かに居るのかと思い探してみたのだが彼は見つからなかった。

 

 

「監視カメラに、居なくなった時の映像とか映っていないんですか?」

「それなんだけどね……」

 

 

 沙優がキーボードを操作し、モニターに監視カメラの記録を流す。そこには出口に向かって廊下を歩いている翔琉の背中が映されていた。そして彼は角を曲がり……。

 

 

「これが翔琉の映された最後の映像……っていうとちょっと縁起悪いわね……」

「曲がった先のカメラには?」

 

 

 リュウジの疑問に答える為、今度はそのカメラの映像を映した。同じ時間帯の物であるので曲がって来た翔琉が映されている筈。しかし、いつまで経っても翔琉の姿は見えなかった。

 

 

「これって、神隠し?」

「まるで映画だねー、ミハネ」

「まるでドラマだねー、ミキリ」

 

 

 忽然と消えた翔琉。今も職員達による捜索が続けられているが見つかる様子は無い。どうしたものかと沙優、紗季、涼風、リュウジ、ミキリ、ミハネは唸った。因みにシャマラ博士と陽花はラボで作業中であり、イヅルとハヤテは前回の怪我が完治しておらずXioメディカルで療養中である。

 そこへザムザが入室して来て沙優の前に立った。

 

 

「ザムザ、どうかしたの?」

「UNVERより、堂馬参謀が、視察に、来られました」

「堂馬参謀が?」

 

 

 その言葉に、事前のアポイントも無かったこともあって皆が驚く。翔琉が居なくなり大変だという所に急な堂馬参謀の登場。正直嫌なタイミングで来てくれたなと皆心の中で毒吐いた。

 

 

「分かったわ。じゃあ、応対室の方に案内を──」

「その必要は無い」

 

 

 堂々と胸を張り、現れたのは鋭い目付きをした中年の男性。堂馬 亥耶麻参謀だ。

 

 

「堂馬参謀……。アポも無く訪問とは何かあったのですか?」

「君達が地球防衛の為にどれだけ頑張っているのか改めて見ておきたくてね。何やら騒がしいではないか」

 

 

 嫌味を込めた様な言い方をして来る堂馬に、皆は少しイラッとする。

 

 

「翔琉隊員が基地内で行方不明になったので捜索を行っている所です」

「翔琉……ああ、インターンシップに来ているという高校生か。子どもの面倒を見ているとは、Xioも暇なのだな」

「彼は大切な仲間ですから」

 

 

 穏やかな表情をしてそう言う沙優。しかし彼女と堂馬の間に、火花がバチバチと散っているのを他の隊員達は幻視した。

 

 

「フンッ、まあ良い。ラボの方を見させてもらうぞ」

「ラボを、ですか?」

「そうだ。誰か案内をしてくれ」

 

 

 彼のその頼みに、涼風が「では私が」と言って応える。それから彼女の先導されながら、堂馬はラボにへと向かって行った。

 

 

「ミキリ、あのおじさんきらーい」

「ミハネもあのおじさんきらーい」

「まあまあ」

 

 

 剝れるミキリとミハネの頭をリュウジが撫でる。

 

 

「少々、厄介な事に、なりそう、ですね」

「そうねぇ……。面倒起こしてくれなきゃいいけど。まあ、ともかく翔琉君の捜索を優先しましょう。ザムザ、紗季、リュウジは手分けして基地内を、ミキリとミハネはもう一度監視カメラの映像記録を調べてみて」

『了解!』

 

 

 動き出す隊員達。翔琉の喪失と同じタイミングでの堂馬参謀の訪問……何か起こりそうな予感がして仕方がなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「助けて、だと?」

 

 

 確かにそう聴こえた。恐らくなのだがこの声の主はあの怪獣。

 

 

「お前が言ってんのか。どういう意味だよ?」

 

 

 何故怪獣が自分に助けを求めているのか。問い掛けるが怪獣は答えず、その姿が次第に薄く透けていく。

 

 

 

「あ、ちょ!?」

 

 

 そしてそのまま煙の様にフッと消えてしまった。一体何だったのか……訳が分からず首を傾げていると、背後から稲妻が迸った様な音が轟いた。驚いて振り返り、空を見上げるとそこには……。

 

 

「あ、穴?」

 

 

 上空に、大きな穴が発生していた。ゼロアーマーで次元を超える際のものや、以前ニセメビウスとニセツルギを追って通ったものに似ている。そしてその穴・ワームホールから巨大な怪獣が降りて来て地響きを鳴らした。

 

 

「マジかよ……!?」

 

 

 ティラノサウルスを巨大化させ、角と鰭を生やしたその怪獣は咆哮した後、角からエネルギーボールを放ち一つの家屋を破壊した。鳴り渡る破壊音。地を踏み締めて怪獣・ゲシェンクは進む。

 

 

「くっそ!」

 

 

 エクスデバイザーを取り出し、ゲシェンクの元へと走っていく翔琉。ここ何なのかは分からないが、怪獣に破壊されているのを見過ごしては置けない。ブレーキをかけて止まりデバイザーを突き出し、上部のスイッチを押そうとする。

 

 しかしその時、空に鮮烈な赤い光が輝いた。

 

 

「うお!?な、何だ!?」

 

 

 光は空から地に落ちていき、そして後数十メートルという所で更に強く輝いて巨人の形を創り出した。赤と銀の身体、黒いプロテクター、そして胸には青い輝き。その巨人は大地に降臨し、着地の衝撃で凄まじい土煙を発生させた。

 

 

「あれって、ウルトラマン……!?」

 

 

 ゼロやマックス、メビウスとは違うが、その姿は間違い無くウルトラマンの物。出現したウルトラマンはゲシェンクに目を向けて構えている。

 

 

『いくぞ!』

 

 

 地球の大地が生み出した光の巨人・ウルトラマンガイアは、ゲシェンクへと駆け出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






感想、質問、高評価、ここすき、その他、是非是非お待ちしてるんご!



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53.怪獣大シンゲキ


ガイアコラボ2話目です!





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 桜内 遥は困惑していた。

 

 閉校祭を終え、数日後のラブライブ決勝戦に向けて頑張るAqoursの皆の為にやれる事を準備をしていた……のだが、彼は何故か見知らぬ場所に立っていた。

 

 

「え……ここは一体?」

 

 

 周囲を見渡すが間違い無く内浦や沼津では無い。それどころか家屋や空の風車を見る限り日本、というか地球かも大分怪しい。彼は自分の現在地を調べる為にスマホを取り出した。しかしスマホは圏外となっており電波通信は不可能、現在地も分からず。

 

 

「地球じゃないのか?でも……」

 

 

 カメラで周囲を適当に写し、その画像を調べる。大気中に含まれる酸素や二酸化炭素などといった成分は地球の物と全く同じ。つまりここが地球であるとデータ上は証明されている。ならばここは地球の何処なのだろうかという疑問が次に浮かんだ。何か分からないかと調べてみたのだが、結局ここが何処かは“分からない”という結論が出るだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

────タスケテ……ウルトラマン……。

 

 

 

 

 

「ッ!?な、何だ!?」

 

 

 頭に声が響き、遥は振り返る。その先にあった高い山の天辺に、1体の怪獣が立っていた。怪獣は不可思議な鳴き声を発した後、煙の様に消えていく。

 

 

「もしかして、あの怪獣が助けを求めているのか?」

 

 

 直感的にそうではないかと感じた遥。そして次の瞬間、背後から大きな音が鳴り、また振り返るとそこには空に開いた大きな穴と、そこから落ちて来る怪獣の姿があった。

 

 

「ワームホール!?もしかして、根源的破滅招来体が!?」

 

 

 根源的破滅招来体。それは遥とその仲間達が戦っている謎の存在。ワームホールを使って他の星や尖兵を地球に送り込み、人類及び地球の滅亡を望んでいる様だがその正体は一切が不明。遥達も何度か奴らの正体を掴もうとしたが徒労に終わってしまう。その破滅招来体が、この見知らぬ地に牙を剥いているのかと彼は思った。

 

 怪獣・ゲシェンクは光弾を放って建造物を破壊し進む。奴の破壊行為を許す訳にはいかない。遥は懐より自身が授かった光を解放するアイテム・エスプレンダーを取り出し、それを叫びと共に突き出した。

 

 

「ガイアァァァァァッ!!」

 

 

 赤と青の閃光が解き放たれ、彼の身体を包む。遥は地球の大地と海の力を宿した巨人・ウルトラマンガイアV2にへと変身し、土煙を巻き上げながら地に降り立った。

 

 

『いくぞ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 駆け出したガイアはゲシェンクに接近してチョップを叩き込む。更に続けてキックやパンチを放ち、ゲシェンクを攻めていった。

 

 

『デアッ!』

 

 

 強烈な回し蹴りが奴の顎を捉えた。その一撃を受けて後方へと下がっていくゲシェンク。ガイアは再度ゲシェンクに肉薄しようとするが、そんな彼に向かってエネルギーボールを放った。身体を逸らしてガイアはそれを回避。

 

 

『よし!───ぐあッ!?』

 

 

 だが背中に強い一撃を受けてガイアは怯む。新手かと思い振り返るが何も居ない。少し困惑してるガイアにゲシェンクはエネルギーボールを連発する。ガイアはそれを横へと大きく跳んで転がり回避し、また接近を試みる。

 

 

「馬鹿、後ろだ!!」

『ッ!?』

 

 

 聞こえて来た声に従い振り向くと、躱した筈のエネルギーボールが向かって来ていた。この攻撃にはホーミング機能が付いているのだ。

 

 ガイアは咄嗟にバリアーを出してそれらを防ぐ。そしてまたゲシェンクに向かい構えた。咆哮と共に放たれるエネルギーボール。拳を握り、ガイアはそれを振るってエネルギーボールを叩き落とす。そして胸のライフゲージに光を収束させ、それを光球として両腕から放つホーリングフープを撃った。命中したその攻撃により、ゲシェンクは火花を散らし苦しみの声を出しながら後退していった。

 

 

『今だ!』

 

 

 額に両腕を当ててエネルギーを溜めながら屈み、それから立ち上がる。すると頭上から光の刃が鞭の様にしなりながら伸びた。腕を開きながら頭を突き出すと、その刃がゲシェンクに向かっていった。これがガイアの必殺技・フォトンエッジだ。その直撃を受けたゲシェンクは堪らず爆散することになった。

 

 

『何とかなった……』

 

 

 戦いを終えたガイアはふぅと息を吐く。ゲシェンクが通って来たのは間違い無く破滅招来体が怪獣や生物兵器を送り込んで来る時に開かれる物と恐らく同一の物。理由は分からないが、破滅招来体はこの地を狙っている可能性が有りそうだ。

 

 

『一体何が目的なんだ……ッ!?』

 

 

 思考していた時、また大きな音が鳴り響く。

 

 

『まさか、また!?』

 

 

 彼の想像通り、空に二つのワームホールが発生しそこから怪獣が2体、姿を現した。

 両腕が鋏となった巨大な昆虫型の怪獣・シルドロン。

 大型の肉食恐竜に酷似した怪獣・ジョーモノイド。

 2体は叫び声を上げながら、ガイアにへと突っ込んでいく。

 

 

『くっ!』

 

 

 ガイアも怪獣達に向かって走る。しかしシルドロンの鋏が彼の胸を切り裂き、ジョーモノイドの尻尾が腹部に叩き付けられて背中から地面に倒れた。起き上がろうとした彼に、ジョーモノイドが追撃の火炎放射を放つ。

 

 

『ぐあああッ!?』

 

 

 火花を散らしてまた倒れてしまうガイア。ライフゲージが赤く点滅し彼の危機を報せていた。迫り来る怪獣達。このままでは不味いと思った……その時である。

 

 

 

 

 

《X UNITED》

 

 

「おらあああッ!!」

 

 

 閃光と共に巨人が現れ、その余波でシルドロンとジョーモノイドを吹っ飛ばしてしまった。翔琉が変身したウルトラマンエックスだ。ガイアの戦いを見ていた彼は、そのピンチに思わず変身して助けに入ったのだ。因みに先程ガイアに声を掛けたのも彼である。

 

 

『ウ、ウルトラマン……!?』

「よう。何処の何奴か知らねえが、味方ってことで良いんだよな?」

『え?た、多分、そうかと……』

「そうかい。なら立って手を貸しな。俺はウルトラマンエックスだ」

 

 

 差し出されたエックスの手。少し戸惑いながらも、ガイアはそれを取って立ち上がる。

 

 

『ありがとう。僕はウルトラマンガイアです』

「おーけー、おーけー。マッシュでもオルテガでも無くてガイアね」

『へ?な、何ですかそれ?』

「気にすんな。とにかく行くぞオラ」

 

 

 ガイアの背を叩くエックス。2人は怪獣達に向かって構えた。シルドロンとジョーモノイドも咆哮し戦意充分な状態だ。そして2人のウルトラマンは駆け出す。エックスはジョーモノイド、ガイアはシルドロンへと向かう。

 

 

 

 

 ジョーモノイドが放った火炎をジャンプして躱し、エックスはそのまま奴の上まで行き馬乗りとなった。そして何度も頭や首にチョップを打ち込む。

 

 

「オラ!ホラ!喰らえや!」

 

 

 暴れるジョーモノイドであるが、まるでロデオの騎手の様にエックスはその抵抗に耐え、攻撃を続けていく。彼の連続攻撃は、ジョーモノイドの体力を確実に削っていった。

 

 

 

 

 

 

 

『ハッ!』

 

 

 ガイアの放つ光弾・ガイアスラッシュがシルドロンへと向かう。しかし奴は両腕を盾の様にして防いだ。驚いたガイアは続いて強力な技である赤いエネルギー光球・リキデイターを今度は撃った。だが……。

 

 

『これも効かないなんて!?』

 

 

 リキデイターも奴の盾に容易く防がれてしまう。非常に高い防御力を持つシルドロンへの対策を、ガイアは構えながら練るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 Xioのラボ。涼風に案内された堂馬参謀はそこに来ていた。彼はラボの中を唸りながら見回す。

 

 

「勝手にあちこち触るなよ」

 

 

 そう言って堂馬に嫌味な視線を飛ばすのはシャマラ博士。堂馬もそれに対して冷徹な視線を返した。

 

 

「黙ってろ異星人め。フンッ、貴様の様な奴らの力を借りなくては地球防衛もままならない……非常に嘆かわしいことだ」

「な……!?そんな言い方酷いじゃないっすか!」

 

 

 地球も人類も地球人の手で守らなければならないと考えている堂馬だが、現在この地球を守る為にはシャマラ博士の様な異星人達やウルトラマンの力を借りなければいけない状況に憤りを感じているのだ。シャマラ博士に対して侮辱的な言葉を吐く彼に陽花が声を上げるが、それすらも堂馬は鼻を鳴らして一蹴。批難する様に堂馬を睨む陽花に、シャマラ博士は「落ち着け」と声を掛ける。

 

 

「まあ、どうでも良い。それよりも先日のウルトライザーとやらのデータを提供したまえ」

「何故?」

「ウルトラマンに守られなければならないのは癪だが、ウルトラマンの力を利用し兵器運用するというのは面白い。有効に活用していきたいのだ」

 

 

 堂馬はそう言って笑みを浮かべる。それに対してシャマラ博士と陽花は怪訝な表情を向けていた。自分達はあくまでも大切なものを守る為にウルトラマンの力を借りているだけであり、決して兵器としてその力を振るう事はしない。しかしこの男は、ウルトラマンの力を迷う事無く兵器と言っている。そんな奴に情報を渡せばどんな悲惨な結果が訪れるやら……。

 

 

「一応言っておくがこれは上官命令だ。逆らうことは許さんぞ」

 

 

 職権濫用、横暴な態度に2人の表情は更に険しくなる。絶対にデータは渡せない。とはいえ上官命令をどう断るべきか……。そう考えていた時、基地内にサイレンが鳴り響いた。

 

 

「な、何が!?」

《渋谷に4機の未確認飛行物体が飛来。Xioメンバーは至急司令室へ集合して下さい》

 

 

 放送を聞いたシャマラ博士と陽花は急いで司令室へと向かっていく。

 

 

「フンッ。───ん?」

 

 

 走る2人の背を見送った後、堂馬はふと机の上に目を向ける。そこにはウルトラマン達のサイバーカードが置かれていた───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ジョーモノイドがエックスに向かって火炎を放つ。彼はそれをバリアーで防ぎ、その後跳躍。落下しながら右足を突き出し、強烈なキックを叩き込んだ。

 

 

「へへっ、どうよ?」

 

 

 倒れて苦悶の声を漏らすジョーモノイド。それに向かって、全身から炎を発し身体をX字にしてそれを放った。

 

 

「アタッカーX!」

 

 

 その一撃を受けたジョーモノイドは見事に爆発四散するのであった。

 

 

「うーん、あんま強くなかったな」

 

 

 

 

 

 

 シルドロンに向けて何度も攻撃を放っていくがシルドロンの外骨格に全て防がれてしまう。ガイアスラッシュ、リキデイター、接近してからのキックにパンチとどんどん叩き込んでいくのだが通用しない。ガイアは一度奴との距離を取る。

 

 

『甲虫型の怪獣……硬い外骨格……。奴が地球上の甲虫と近い生態なら、弱点はきっと……!』

 

 

 ガイアが目を向けたのはシルドロンの腹部。そこなら柔らかい筈と睨んだ彼は発光する光球・クァンタムフラッシュを放った。閃光により、シルドロンは怯み目を塞ぐ。その隙に右手から光剣・アグルブレードを伸ばしながら一気に接近し、それをシルドロンの腹に突き立てた。

 

 

『ハッ!デヤァァァァァァァ!!』

 

 

 そしてブレードを振り上げる。シルドロンは腹から頭上までを斬り裂かれ、緑色の体液を噴射しながら倒れ爆散した。

 

 

『ふぅ……』

「お疲れさーん」

 

 

 戦い終えたガイアにエックスが声を掛ける。

 

 

「とりあえず、ここ何処か知ってる?」

『いや、気が付いたらここに居て……もしかして貴方も?』

「あー、一緒のパティーンかぁー。俺も知らん間にここに居ましたって感じだ。思い当たる節ゼロ」

 

 

 何か情報を得られればと思ったがお互い一緒の状況の為分かりそうな事は無さそうだ。どうしたものかと唸る2人のウルトラマン。するとまた大きな音が鳴り、今度は四つのワームホールが発生。怪獣4体が地上に降りて来ようとしていた。

 

 

『ま、また!?』

「おいおいペース考えろよ……!?」

 

 

 構える2人。ガイアもエックスも胸のタイマーが危険信号を鳴らしており、かなり不味い状況だ。

 

 穴の一つより、白と黒の模様が描かれたロボット怪獣・バドリュードが顔を見せる…………が、轟音と共にスクリュー回転しながら飛んで来た波動がバドリュードに炸裂して跡形も無く粉砕した。何かと思いエックス達が振り返ると、そこには青い巨人の姿が。

 

 

『アグル……博樹さん!』

 

 

 彼は大いなる海の力を宿した巨人・ウルトラマンアグル。湊 博樹が変身するガイアの掛け替えの無い仲間だ。アグルは一度胸に当てた手をガイアに向け、そこから光を放った。光はガイアのエネルギーを復活させ、彼のライフゲージが青い輝きを取り戻す。

 

 

「お、いいね。それ俺にもやってよ」

『無事か、遥?』

『はい!博樹さんも、来てたんですね』

『ああ、気が付いたらここに居た。恐らくお前と同じだ』

「おい、ナチュラルにシカトしてんじゃねぇよ」

『ここが何処かを調べるのは後だ。一先ずは怪獣を倒すぞ』

「おいテメェ、喧嘩売ってんのかコラ?」

『分かりました!……そ、それはそうとあの……』

『………何だコイツは?』

 

 

 やっとエックスに目線を向ける博樹。明らかに面倒臭い物を見てる目である。

 

 

「うるせぇテメェこそ何だ全身真っ青野郎。風邪でも引いてんのか?」

『か、彼はウルトラマンエックス。僕と一緒に戦ってくれてるウルトラマンです』

『俺達以外のウルトラマン。前に遥が話したコスモスとかいう奴の様に別世界の存在ということか』

『恐らくそうかと。エックスさん、この人はウルトラマンアグル。僕の仲間のウルトラマンです』

「この態度悪いのが?お前も苦労してんなぁ」

『何だと……?』

 

 

 睨み合うエックスとアグル。どうやら相性はあまり良くなさそうだ。

 

 

『と、とにかく!今はあの怪獣達をどうにかしましょう!博樹さん、出来ればエネルギーを彼にも』

 

 

 ガイアにそう言われて渋々エックスにもエネルギーを分け与えるアグル。その後「初めからそうしろバーカ」とエックスが言った所為で一触即発な雰囲気になってしまった。

 

 そんな中怪獣達が地に降り立つ。

 クワガタの様な大きな角を持ったロボット・自然コントロールマシンのエンザン。

 全身が(いぼ)で覆われたガマガエルが巨大化した怪獣・ガバラ。

 土竜と蟻を足した様な姿をした怪獣・アリゲーダー。

 奴らは3人のウルトラマンに狙いを定め、地を揺らしながら向かって来た。

 

 

「次から次に……今日は厄日か?」

『お前に会ったのが1番の災厄だな』

「張っ倒すぞ」

『やってみろ』

『2人とも喧嘩しないで!いきますよ!』

 

 

 怪獣達へとエックス、ガイア、アグルも地を蹴り駆け出すのであった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ガイアコラボ2話目どうでしたでしょうか?

遥君達の時系列は52と53話の間となっています。

遥、そして博樹が変身したアグルも登場し、ワームホールから現れてくる怪獣達との戦いは激しくなっていきます。
何故彼らはウクバールに来たのか?何故怪獣が次々と送られてくるのか?謎の多い状況の中、彼らは戦いを続けることに……。

更にXioでも何やら不穏なことが……。現れた4機の未確認飛行物体とは?

この状況を3人のウルトラマンはどう乗り越えていくのか?是非お楽しみに!

それでは今回はここまで。
感想、質問、高評価、ここすき、その他、是非是非お待ちしています!




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54.ギリギリまで頑張って


遅くなりました!!すいません!!
大地と海の巨人コラボ3話目、どうぞ!!!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 渋谷区の上空に、4機の未確認飛行物体が浮遊していた。金色のそれらは光線を放ち街を破壊しながら進む。そして暫く進んだ後、4機はなんと合体し二足歩行のロボットとなり大地に立つ。金色のロボットは、その堂々たる姿を人々の前に現した。

 

 その様子を司令室のモニターから見ていた沙優は唇を噛み締める。

 

 

「キングジョー……厄介ね」

 

 

 宇宙ロボット・キングジョー。ペダン星人が開発した量産型のスーパーロボットだ。鋼鉄も溶かす強力な破壊光線、高い格闘能力、10万t級の戦艦を軽々と持ち上げる剛力と様々な武器を持っており、極め付けは非常に強固な装甲による防御力。並大抵の武器で傷一つ付ける事は出来ず、過去に地球に現れた際はどんな攻撃も効かず大きな被害を出した。その後開発が成功したばかりの新兵器を用いた事によってどうにか撃退出来たものの、キングジョーの恐ろしさは世界中に広まった。

 

 

「キングジョーは西向けて進行。このままのスピードでは後20分程で住宅密集地に到達します。ここはまだ避難が完了してません」

「リュウジ、紗季、キングジョーの進行を停止、或いは変更させて」

《了解!》

《了解です!》

 

 

 出動していた2機のマスケッティがキングジョーに攻撃を仕掛けてその歩みを止めようと試みる。

 

 

「涼風、陽花。貴女達は現場に向かい、サイバーゴモラ使用の準備を」

「了解しました」

「了解っす!」

 

 

 駆け出す涼風と陽花。

 キングジョーから生命反応は無く、何度かコンタクトを試みたが返事も無い。目的の解らないキングジョーだが被害が出ているのは確か。奴を止める為に、Xioは動いていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、これ見て!」

 

 

 同好会の部室内で愛が皆にスマホの画面を見せていた。

 

 

「ロボットが渋谷に出たんだって!」

「これって、キングジョーだよね?前に授業で習った」

 

 

 怪獣学の授業でキングジョーの脅威については皆学んでいたので、進行するその姿を見て息を呑んでいる。

 

 

「もしかして、翔琉はこのキングジョーを止めに行っているのかしら?」

 

 

 果林の言う通り、確かに彼ならキングジョーから人々を守る為に突っ込んでいきそうだ。これまでだって怪獣の所へと何度も走って向かっているのだからやりかねない。

 

 

「Xioの方々も一緒だとは思いますが、大丈夫でしょうか?」

「確かに心配。璃奈ちゃんボード『ハラハラ』」

「また怪我をしてないといいですが……」

 

 

 せつ菜と璃奈、しずくがそう言うと他の者達も段々と心配になって来る。

 

 

「大丈夫だよ」

 

 

 そんな中でそう発言したのは歩夢。彼女の表情はみんなと違って落ち着いたものであった。

 

 

「翔琉君なら大丈夫。ちゃんと元気な姿で私達の所に戻って来てくれるよ」

 

 

 少し前までなら彼女が一番不安に駆られていただろうが今は違う。彼が何をしているのか分からなくても、彼を信じ抜こうと決めたのだから。歩夢の瞳を見て、みんなも翔琉を信じようという気持ちが湧いて来た。

 

 

「そうだね、かけるんなら大丈夫だよね!」

「なんてったってかすみんの先輩ですからね!」

「かすみさんだけの先輩じゃないでしょ?」

「独り占めはダメだよ〜」

 

 

 不安は消え、彼を信じて待つことにした彼女達。

 

 

「翔琉君、待ってるからね」

 

 

 ただ唯一勘違いしていることと言えば、翔琉はキングジョーでは無くもっと恐ろしい存在と戦っている最中であることだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ボロボロの少年、遥が家屋の壁に寄り掛かっていた。着ている服は所々破れており、額や口元からは血が滴っている。

 

 

「ううっ……くっ……!?」

 

 

 彼は痛む左腕を押さえる。そこへ、銃を構えた1体の宇宙人が歩み寄って来た。

 

 

「フフフッ、正に虫の息だなウルトラマン」

「お、お前は……?」

「私は宇宙の帝王、バド星人!貴様の命、ここでもらうぞ!」

 

 

 バド星人の銃口が遥に向けられる。不気味な笑い声を溢しながら、奴はそのトリガーを引いた………。

 

 

 しかし、弾丸は遥には当たらず上空にへと飛んでいく。トリガーが引かれる寸前、飛び込んで来た翔琉がバド星人の腕を蹴り上げて銃を弾き飛ばしてしまったからだ。

 

 

「何!?ゴハッ!?」

 

 

 驚くバド星人へ裏拳が叩き込まれ、更に蹴りを受けて後方へと大きく吹っ飛ぶ。

 

 

「お、おのれ……!ぎゃあッ!?」

 

 

 反撃する為に立ち上がったバド星人。だがそんな奴のことを巨大な足が踏み潰してしまった。遥と翔琉が見上げるとそこに居たのは、ブヨブヨとした身体の不気味な怪獣・マザーディーンツであった。触角の先にある光る目を2人に向ける。そこから放つ光線で人間を生きたシミに変化させることが出来るのだ。マザーディーンツは狙いを定め、彼らに光線を放とうとする……。

 

 

『だああッ!!』

「アグル!」

 

 

 しかしそこへ、アグルが突っ込んで来て奴を蹴り飛ばした。吹っ飛んで倒れたマザーディーンツに、アグルは間髪入れず頭部より放たれる光の刃・フォトンクラシャーを放って爆散させる。それから彼は地面に膝を付き、ゆっくりと消滅していくのだった。

 

 

「博樹さん!?」

「おいおい……!」

 

 

 彼の元へと走っていく2人。辿り着いた場所には息を荒くして膝を付いた博樹の姿があった。

 

 

「大丈夫ですか!?」

「あ、ああ……。これで、全部倒す事が───」

「まだ出来てないみたいだぜ」

 

 

 上空に幾つもの穴がまた開き、そこから怪獣、ロボット、宇宙人が降りて来る───

 

 

 彼らはひたすらに戦っていた。エンザン、カバラ、アリゲーダーを倒した後、更に怪獣や宇宙人が現れ、それを倒してもまた怪獣達が降って来る。正に終わりなき戦いをさせられている様であった。アイロス星人、ビルガモ、ゴロザウルス、グロブスク、ドレンゲラン、リガトロン、カオスバグ、ヘルズキング、バラゴン、ジャイガー、ジグラ……これら以外にも様々な怪獣達が間髪入れずにエックス、ガイア、アグルを襲い苦しめていき、どうにか倒していくことが出来たがエックスとガイアは変身を解除されることとなる。

 

 

 そしてまた、多くの怪獣がこの街と彼らを襲撃するべく出現。戦おうにも、流石に3人ともエネルギーの限界であった。

 

 

「どうすれば……!?」

「一先ず逃げるぞ」

「でも!!」

「こんな状態で向かったって死ぬだけだぞ?悪いが死体の処理なんてごめんだぜ」

「悔しいがコイツの言う通りだ。退くぞ遥」

 

 

 2人にそう言われ、唇を噛み締めながら遥は頷く。

 

 

「撤退って言っても何処に逃げれば……」

「多分、あそこが正解だろうな」

 

 

 翔琉が指差した方向にあったのはこの街の中心部であり、彼らに語り掛けて来た怪獣が立っていた小高い山。そこに向かって怪獣の放った火炎弾が飛んでいくが、見えない何かに遮られて打ち消された。

 

 

「バリアが張られているのか!?」

「みたいだな。それに先程から気になっていたが居た筈の住民が皆消えている。恐らくあの山に避難しているのだろう」

「てな訳で、走るぞ!」

 

 

 駆け出す3人。ダメージはあるがここに留まっていたら確実に踏み潰されてるか焼き尽くされるだろう。彼らは痛む身体に鞭を入れて全力で走った。

 

 だがそんな彼らのことを背後より、人狼の様な怪物が複数体で襲って来た。それらは本来大人しい性格の筈の怪獣であるが、牙と爪を剥き唸りながら3人の背を追い駆けて来た。

 

 

「あれは、前に内浦に出た怪獣に似てる……もしかして同族か?」

 

 

 その姿は以前梨子と千歌と居たところを襲って来たウルフファイヤーに酷似している。それもその筈、この怪獣・ウルフガスを改造したことで産み出されたのがあのウルフファイヤーだからだ。

 1体のウルフガスが大きく跳び咬み付く為に口を開いて遥に迫る。彼は無理押して走るスピードを上げ、それをどうにか躱した。

 

 

「くっ!?」

「速く走れ!出なきゃ死ぬぞ!」

「分かってる……!」

 

 

 全力で走る彼らをウルフガス達も全力で追う。そして更に、上空に爬虫類と蜻蛉を掛け合わせた様な凶悪な面構えの怪獣が現れて翔琉達を見下ろしていた。怪獣・メガギラスは咆哮した後、降下して来て鋏となっている前脚を3人目掛けて突き出す。

 

 

「飛べ!!」

「うわっ!?」

「ッ!」

 

 

 当たる前にジャンプしたことでどうにか回避する事が出来たが、その余波で思いっきり吹っ飛ばされてしまう。また、鋏の一撃はウルフガス達を巻き込んでおり、多くの個体が潰されることになった。

 

 

「ぐっ!?」

「があッ!?」

「くっ……立て、お前ら!」

 

 

 博樹の言葉を受けて2人は立ち再度走り出す。そんな彼らを刈り取ろうと、メガギラスは鋏を横に振るった。鋭い鋏は地を抉る。3人は再びジャンプしてそれを躱し着地と共にまた走る。

 

 

「見えたぞ!」

 

 

 走り続け、彼らは遂にバリアーまであと少しの所に来た。

 

 

「もうすぐで……ッ!?」

 

 

 そこでメガギラスが吼えた。上昇し、尻尾の針を彼らへと向けて突き出していく。アレを喰らえば一溜まりも無い。避ける為に3人は全力で走る。

 

 

「ていうかバリアの中って入れるの!?」

「知るかよそんなの!」

「一か八かだ……!」

「無茶苦茶ですよ2人とも……!?」

 

 

 やけくそ気味に飛び込んだ3人はメガギラスの尾が地面に突き刺さった衝撃の余波で飛ばされて着地に失敗し転がる。そして倒れた彼らに向かい、メガギラスと追って来たウルフガス達が牙を向けて突っ込んで来た…………がしかし、奴らの強襲は見えない壁に遮られて弾かれる。バリア内に入ることは成功した様だ。

 

 

「ふぅ……取り敢えず何とかって感じか」

「はい……」

 

 

 メガギラスとウルフガス達、そして他にも数体の怪獣が攻撃をしているがバリアはビクともせず全て防いでいた。

 

 

 

 

 

────ウルトラマン……。

 

 

 

 

 声が頭に響き、3人は振り返る。その先には最初に見たあの怪獣が佇んでいた。

 

 

「怪獣……」

「君が僕達をここに呼んだのかい?」

 

 

 遥の問い掛けに、怪獣はこくりと頷く。

 

 

────我々ハ、ルクー。ココハ、ウクバール……。

 

 

「ウクバール?それってイラク、もしくはアルジェリアの?」

「ホルヘ・ルイス・ボルヘスの書いた小説、『トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス』内にも同名の国家がある。小アジアに存在した文明の一つという設定だ」

「アンタら賢いね。けど、多分どっちも違うんだろ?」

 

 

 今度は翔琉の言葉に頷いた。

 

 

────人ノ羨望ガ、コノ街。人ノ希望ガ、コノ街。風ガ吹ク、空ヲ飛ブ街、終ワリ無キ街。

 

 

「何が言いたいのか知らないが、怪獣どもから守ってもらう為に俺と遥、そしてコイツを呼び出したって訳か」

「傍迷惑な……つーか、あんなバリア張るくらいの力あんなら戦えるんじゃないのか?」

 

 

────我々ハ、何カヲ傷付ケル事ハ出来無イ。命ヲ奪ウ事ハ出来無イ。我々ハ、在リ続ケルモノ。我々ハ、飛ビ、流レ続ケル。

 

 

「つまり君は、そしてここにいる人達は戦うことが出来無い。だから僕達に助けを求めたんだね」

 

 

 するとルクーの身体が輝き、その光が遥、博樹、翔琉に降り注ぐ。そして彼らの変身アイテムに光を与えた。

 

 

「これって……!」

 

 

────ウクバールヲ、救ッテクレ……。

 

 

 その言葉を最後に、ルクーは揺らぎながら消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、どうするよ?」

 

 

 遥と博樹に、翔琉が聞いた。

 

 

「……奴が何なのか、ここが何なのか。怪獣から守ってくれと言っていたが、本当の目的は何なのか……結局のところ何も分からなかった。そんな得体の知れない奴の味方をするのは得策とは思えないな」

 

 

 博樹の言う通り、何も碌に分からないのにこのまま戦い続けるのは危険だろう。もしかしたら、ルクーは自分達を騙している可能性だってある。何か別の目的があり、その為に怪獣達と戦わせているのかも知れない。

 

 

「だよなー。見捨ててとっととずらかるのが一番楽だろうな」

 

 

 そうぼやく翔琉。彼も博樹同様、ウクバールを救うことに乗り気では無い様だ。

 勝手に連れて来られて、勝手に戦わされて、オマケに自分達の街を守れと言う得体の知れない怪獣の味方をする義理など彼らには一切無い。それにあんな無限に湧く怪獣達と戦い続ければ命の保証だって無い。早急に逃げてしまうのが最適解なのだろう。

 

 だが遥は、2人の言葉を否定する様に首を振った。

 

 

「僕はこの街を、あの怪獣を救いたいです」

「おいおい本気か?こんな訳の分からん街と怪獣を守るのか?」

「遥、俺達のやるべきことは根源的破滅招来体を倒すことだ。ここで訳の分からない戦いをしている場合じゃない筈だ」

「怪獣達はワームホールを通ってこの街に現れている。それって、破滅招来体がここを狙っているってことですよね?」

 

 

 その問いに博樹は「いや、違う」と言ってから、タブレット端末を取り出して画面を遥に見せた。

 

 

「あのワームホールは破滅招来体の物とは違う別の物だ。あれだけ連続しての空間領域の開通など、いくら破滅招来体でも不可能だろう」

「じゃあ、この街を狙っているのは破滅招来体ではない別の存在……」

「ああ。だから、俺達が戦う必要性は無い」

 

 

 守るものも戦う相手も不透明な存在であり、これ以上続けるべきではないと主張する博樹。彼の言う事は間違いでは無いだろう。しかし……。

 

 

「それでも僕は戦います」

「へー、どうして?」

「僕がウルトラマンだからです。どんな時でも最後の力が枯れるまで、大切なものを守る為に限界まで戦う……それがウルトラマンの力を得た僕のやるべきことだから!」

 

 

 不可解な存在でも、罠かも知れなくても、助けを求めているのであれば助けたい。それが遥の出した答えだった。彼の意志の込められた強い瞳と言葉を受け、翔琉と博樹は思わず笑う。

 

 

「結局そうなるか……まあ、お前らしいな。良いだろう、付き合ってやる」

「いいねー、中学生の割に根性あんじゃん。俺も乗った」

「2人とも………ん?待って下さい、中学生!?僕高校生ですよ!?」

「え?中学生の男の娘じゃないのか?」

「違います!!ていうか、『男の子』のニュアンスなんかおかしくないですか!?僕はどう見てもれっきとした高校生の男でしょ!!ねえ、博樹さん!?」

「……」

「何で黙ってるんですか!?」

 

 

 少しだけ流れていた険悪な空気が穏やかになる。

 

 翔琉と博樹も、ウクバールを守る為に遥と共に戦うつもりだ。そもそも口ではああ言ってた2人だが、この街を本気で見捨てるつもりは無かったらしい。軽く談笑した後3人は、変身アイテムを取り出して暴れる怪獣達の方を向いた。

 

 

「そういや名前聞いてなかったっけ?俺は天地 翔琉、よろしくぅ」

「僕は桜内 遥です」

「湊 博樹だ」

 

 

 桜内と言う苗字を聞いて翔琉は自分の知り合いにもいる桜内性の少女を思い出すが、偶然だろうと考え特に何も言わずエクスデバイザーを構える。別世界ではあるが翔琉が思い浮かべた人物と姉弟である遥はエスプレンダーを、そして同じく別世界で翔琉の知っている人物達と友人である博樹は右手首に付けられたアグレイターを構えた。エクスデバイザーのスイッチを押し、エスプレンダーを突き出し、アグレイターが回転した後翼を広げ、彼らは腹の底から思いっきり叫んだ。

 

 

「はあああああああああッ!!」

「ガイアァァァァァァァッ!!」

「アグルゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

 

 閃光が迸り、3人のウルトラマンが出現した。エックス、ガイア、アグル。彼らは荒れ狂う怪獣達を撃滅する為、ウクバールの地に降り立つ。その際ガイアとアグルが舞い上げた土が、彼らの真ん中に降りたエックスに降り掛かった。

 

 

「………」

『いくぞ!』

「ちょ待てよ」

『ああ!』

「ああじゃねぇよ」

『え、何が…って、あ……』

「テメェら……よくもやってくれたなァァ!?」

『ご、ごめんなさい!?』

『うるさいぞ翔琉』

「ブッ飛ばすぞゴラァァ!?……もうお前らの隣りで絶対一緒に変身しねぇ」

『あはは……』

 

 

 土を払い構えるエックス。ガイアとアグルもそれに倣って構えた。彼らに対して幾多もの怪獣、ロボット、宇宙人が、大地を揺らしながら突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

『デヤッ!ダァッ!』

 

 

 ガイアはパワフルな攻撃で怪獣達を倒していく。変身するのは小柄で可愛らしい天才少年だが、ガイアとなれば豪快なパワーファイターとなるのだ。

 突進して来た無酸素怪獣カンデアを受け止め、そのまま持ち上げて投げ飛ばした。転がったカンデアにすかさず腕を組んで超高熱光線のクァンタムストリームを発射。カンデアは青い光となって消滅した。

 

 

『ッ!』

 

 

 背後から、レイキュバスが腕の巨大な鋏を振るって襲い掛かって来た。彼をそれを間一髪躱し、直ぐに接近して顔面にパンチを打ち込む。エネルギーがスパークし、レイキュバスは堪らず吹っ飛んだ。

 

 追撃をしようとしたガイア。しかしそこへ、先程のメガギラスが猛スピードで突っ込んで来て彼のことを撥ね飛ばす。

 

 

『グアアアアアッ!?』

 

 

 ゴロゴロと地面を転がるガイアを嘲笑うかの様にメガギラスは小刻みに動きながら飛ぶ。立ち上がった彼は挑発しながら飛び回るメガギラスを落とす為にガイアスラッシュを連射するが、奴はそれを全て回避していった。唇を噛み締める彼に、起き上がったレイキュバスが冷凍ガスを放射。ガイアの身体を徐々に凍り付かせていく。

 

 

『グッ!?不味い……!?』

 

 

 このままではガイアは氷像に変えられてしまう。そうなる訳にはいかない彼は力を込め、身体中からエネルギーを放出し纏わり付いていた氷と冷凍ガスを吹き飛ばした。驚くレイキュバスに、ガイアはフォトンクラッシャーを放つ。しかし奴は咄嗟に鋏でそれを受け止めた。光の刃は頑丈な鋏に防がれてしまう。

 

 

『まだだ!』

 

 

 だが彼はその両手を頭部で握り締め腕を開き、フォトンエッジを放って技に重ね掛けた。破壊力の増したその光線により、レイキュバスは鋏を砕かれ、そして身体を貫かれて爆散した。

 

 そこへメガギラスは再び奇襲を仕掛けるが、今度は攻撃を予知していた。ガイアはバク転をし、その勢いで向かって来たメガギラスに両足蹴りを叩き込むリボルサクセッションキックを見舞った。耐久性の低いメガギラスは堪らず吹っ飛んでしまい地面に落ちる。奴はもう一度飛ぼうとしたが、それよりも早くガイアがガイアブリザードを放って凍り付かせてしまった。そしてトドメとしてリキデイターを撃ち込み、メガギラスを跡形も無く粉砕する。

 

 

『よし……!』

「くっ!?調子に乗るなよウルトラマン!」

 

 

 怪獣を撃破していくガイアに、ファイヤー星人、ザタンシルバー、ロベルガーが向かっていく。そんな怪獣達へ、彼もまた大地を蹴り立ち向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 アグルのストレートキックがシンリョクを後退させる。よろけながらシンリョクは破壊光弾を放つが、アグルのボディバリヤーには通じない。彼は飛び上がり、気迫の声と共にキックを中心部にある光球に叩き込んだ。シンリョクはそこから火花を散らしながら倒れ爆発した。

 

 着地したアグルに、今度はミステラー星人が向かって来た。

 

 

「死ねえええ!!」

 

 

 口部のMTファイヤーがアグルへ火を噴く。しかし彼はそれを冷静に躱しながらミステラー星人に接近して掴み、そのまま空へと投げ飛ばした。

 

 

「何!?」

『フンッ!』

 

 

 右手より、破壊光弾プロミネンスキャノンが連射されミステラー星人を蜂の巣にする。断末魔と共に奴は粉々に吹き飛んだ。

 

 

『さて、次はお前達か』

 

 

 アグルに向け、複数のクラブガンが迫って来ていた。両手の鋭い鋏型の爪で陽光を反射させながら奴らは進む。それに対してアグルは右手からアグルセイバーを、左手からアグルブレードを伸ばしかけ出した。

 

 

『フッ!どあああッ!』

 

 

 アグルブレードで斬り裂き、アグルセイバーで貫き、クラブガン達をばったばったと斬り伏せていく。素早く、激しく、華麗な剣技の前にはどんな怪獣も敗れるしかない。そんな彼に、クラブガンと共生関係にある怪獣アネモスが合体した怪獣・クラブガン&アネモスが突進して来た。どうやらこのクラブガンの群れのリーダーの様だ。アグルは横へ飛んで突進を回避し、両者は一度睨み合うことになる。

 

 

『……来い』

 

 

 顎を上げて挑発するアグルに、クラブガン&アネモスは爪を突き出した。しかしアグルはそれをアグルセイバーで受け止め、アグルブレードを振り上げてその腕を斬り落とした。更に体液を撒き散らしながら苦しみの声を上げる奴のアネモスの部分をアグルセイバーで斬り払った。アネモスを失ったクラブガンの悲痛な叫びが響き渡る。

 

 

『他愛の無い』

 

 

 剣を解除したアグルは上空へと飛び上がる。そして地にいる残ったクラブガン達へ強烈な波動弾フォトンスクリューを放った。その一撃は全てのクラブガン、そして付近にいた他の怪獣達も纏めて消し飛ばしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「だっしゃあッ!!」

 

 

 ゴモラアーマーを纏ったエックスがガルラと取っ組み合い力比べとなる。強固な身体と強力なパワーを持つガルラであるがエックスも負けない。彼は踏み込み、ガルラを思いっきり押し飛ばした。よろけたガルラに向けてエネルギーを纏いながら突き出された爪は、偶然にも奴の弱点である喉に直撃し刺さる。ガルラは体内にそのエネルギーを流し込まれて内側から破裂した。

 

 

「いった、破片当たっちまった……おっと!?」

 

 

 ガルラを倒したエックスに、複数の針がミサイルの様に飛来した。跳躍して躱し針の飛んで来た方を見ると、そこにはウニの様な棘だらけの怪獣が不気味な唸り声を上げていた。どうやら身体中の棘を飛ばしたらしい。

 

 

《ハハハハハァー!見よ!これこそ我らインスマス星人の切り札!最強の怪獣、棘皮怪獣ウニラの力だああああ!!》

 

 

 ウニラと呼ばれた怪獣の中から声が響く。あの中にはインスマス星人という頭は魚、身体は人間という何処か冒涜的な姿をした宇宙人達がいるのだ。

 

 

《………おや?ウルトラマンゼロは何処に行った?》

《さ、さあ?先程まで目の前に居た筈ですが……?というか此処は何処でしょうか?》

《ま、まあ良い!何だか知らんが別のウルトラマンがいる。ならば、とにかくそいつを倒すまでよ!》

 

 

 ウニラは棘を連続でエックスへ飛ばしていく。しかし彼はそれら全てをゴモラアーマーの爪で弾き落としながら歩いてウニラへと近付き、それを振り下ろした。

 

 

「硬っ、マジかよ!?」

《フンッ!そんな攻撃、ウニラには通用せん!》

 

 

 ガルラ以上に頑丈な身体には爪が通用しない。更に続けて攻撃していくが、全て弾かれ乾いた音が響くだけだ。

 

 

《ハハハッ!馬鹿なウルトラマンめ!貴様らを倒し、地球の海を我々の物にしてくれるわ!》

 

 

 インスマス星人の声にイラッと来たエックス。彼はアーマーを解除し、ウニラに両手を添えた。

 

 

《な、何のつもりだ?》

「打撃が効かないんだろ?だったら、こういうのはどうだ?」

 

 

 エックスは両手より電撃を発生させ、それをウニラへと流し込んでいった。強固な外皮のウニラもコレは堪らない。しかもどういう訳か海水で濡れていたこともあってか電撃はよく通り、中にいるインスマス星人達を容赦無く感電させる。

 

 

《ギィヤアアアアアアアアアアア!?》

《あばばばばばばばばば!?》

《うげええええええええええ!?》

 

 

 ウニラ自身にも相当効いたらしく、奴はパカっと外皮を三方向に開いた。中にはギョロリとした眼玉が一つ。これがウニラの本体なのだ。ぐっと拳を握り締め、眼玉をブチ抜いてやろうとするエックス。だがそれに気付いたウニラは再び外皮を閉じた。もう一度電撃で開かせるか?それとも倒れるまで電撃を浴びせ続けるか?どちらにしても時間はそこそこ掛かりそう……そう思った時、彼はルクーの言葉を思い出してあることを思い付いた。

 

 

《だ、だ、大丈夫か、お前達……?》

《何とか……》

《し、死ぬかと思ったぁ……》

 

 

 どうにか無事だったインスマス星人達。早く逆襲してやらねば……と考えたその時、ウニラが大きく揺れる。一体何がと確認しようとするが、次の瞬間彼らの身体は壁に思いっきり叩き付けられることになった。

 

 

「よっしゃあああああ!!」

 

 

 エックスが、ウニラの棘を持ってハンマー投げの如く振り回していたからだ。猛烈な勢いで回されるウニラ。中のインスマス星人達は壁や床や天井に何度も叩き付けられていく。そしてエックスは、ウニラのことを彼方へと投げ飛ばしてしまった。

 

 

《うわあああああああああああ!?》

 

 

ゴロゴロと回りながら絶叫するインスマス星人達。暫くし、それが漸く収まった。

 

 

《お、おのれぇ!?許さんぞウルトラマン!》

《ああ!倍返しにしてくれる!?》

《あ、あのぉ……》

《何だ!》

 

 

 1人のインスマス星人がモニターを指差す。どうやらウニラは今、空中にいる様だ。

 

 

《今すぐ飛んでアイツに突撃だ!穴だらけにしてくれる!》

《それが、先程の電撃でエンジンが破壊されてまして……》

《は?では飛べないのか?》

《はい》

《それってつまり?》

《落ちます》

 

 

 バッとモニターを見る隊長格のインスマス星人。彼が見たのは、親指を下に向けてサムズダウンしたエックスの姿であった。

 

 

「堕・ち・ろ」

 

 

 真っ逆さまに堕ちていくウニラ。このままでは地面に激突してしまう……と思ったがその時は来なかった。何故ならウニラが飛ばされたのは所謂場外。ここが空に浮かんでいる街であることをルクーの言葉から推測した彼はウニラを場外退場させてしまったのだ。インスマス星人とウニラの悲鳴が混じり合い、ウクバールの地から遠ざかっていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 黄金の鎧に包まれた怪獣・カイザーギラレス13世がガイアに鉄球を叩き付けた。その強烈な威力の一撃を受けてガイアは吹っ飛ばされる。

 

 

『がっ!?ぐぅ!?』

 

 

 右腕の盾の備えられた剣を彼に向けて突進していくカイザーギラレス。だがそれをアグルが横から飛んで来て蹴り飛ばし妨害した。

 

 

『ガイア!』

『あ、ありがとうございます!』

 

 

 標的をアグルに変えて剣を振るう。アグルはバク転して回避しガイアの隣りへと行き、2人はカイザーギラレスに構えた。彼らに向かってビーム光線が放たれる。それに対して2人は左右の掌を合わせた後、空いてる手より光線・タッチアンドショットを放ちカイザーギラレスの光線を打ち消した。

 

 それから2人は前転して少し距離を詰め、ガイアはフォトンエッジを、アグルはフォトンクラッシャーを同時に放った。合体技・ダブルフォトンバーストである。カイザーギラレスは盾で防ごうとするが凄まじい威力の攻撃を止められる筈も無く、奴の盾と備えられていた剣は破壊されてしまった。

 

 

『いくぞ!』

『はい!』

 

 

 悲鳴を上げるカイザーギラレスへ、ガイアのクァンタムストリームとアグルのアグルストリームが放たれて直撃。これも彼らのコンビネーション技であるストリーム・クラッシャーだ。光線はカイザーギラレス13世の胸に風穴を空き、爆発四散させることに成功した。

 

 

『ふぅ……』

 

 

 力を合わせて強敵の撃破に成功した2人。そこへエックスが小走りで近付いて来た。

 

 

「粗方片付いたみたいだな」

『はい。でも、まだ油断は───』

 

 

 出来無い……そう言おうとした時、また空に大きな穴が一つ空いた。そこからは、これまでは違う力が感じられる。

 

 

「遥、博樹」

『はい……分かってます』

『切り札の御出ましの様だな』

 

 

 警戒し構えるウルトラマン達。そしてそんな彼らの前にそれは降臨した。

 

 触手が変形し拡げられた翼の皮膜が夕焼けの光を乱反射させ美しく輝き、鋭い槍が鈍く光る。単眼が地に立っているウルトラマン達に向けられ、そこには明確な敵意が込められていた。

 

 もう他の怪獣は現れない。ウルトラマンを倒すのも、ウクバールを滅すのも、この存在だけで問題無いのだから。

 

 

 

 この地の全ての命を絶つべく、邪神(イリス)が覚醒する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・ニセウルトラマンメビウス

身長:49m

重量:3万5000t

出典:映画「ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟」

 

 ザラブ星人が化けた偽物のウルトラマンメビウス。目付きが悪く頭部や身体に黒いラインがあり、足先が尖っているのが違い。本物同様の技を使うことが出来るが、その力は化けているザラブ星人本人と同じ為か本物には及ばない。

 翔琉を騙す為にニセツルギと共に登場。初戦ではビルを盾にしたり、ギロンを殴りまくったりとやりたい放題だった。未来にも化けてババルウ星人が化けたステラと共に翔琉を襲い、後に本物のメビウスとヒカリを見た彼はまんまと騙されウルトラマン同士の戦いに発展してしまう。しかしそれは千歌によってそれを止められることに。街を攻撃して人々を恐怖に陥れようとしたが本物が登場。バーニングブレイブとなった彼のラッシュを受けて本来のザラブ星人の姿に戻ってしまった。

 メビウス劇場版に登場。劇中ではサコミズ隊長に一瞬で偽物と見破られていた。過去にザラブ星人が化けたニセウルトラマンと違ってこちらはメビュームスラッシュを放つことが出来、ゲームではメビュームシュートも撃っていた。後にヒカリサーガでババルウ星人が化けたニセメビウスが登場するが、こちらは完璧に瓜二つである。

 

 

 

 

・ニセハンターナイトツルギ

身長:50m

重量:3万8000t

出典:ウルトラマンメビウス 35話「群青の光と影」

 

 ババルウ星人が化けたハンターナイトツルギ。姿はツルギと瓜二つで技も使用出来るが、ザラブ星人同様能力は本人と同じ。

 翔琉を騙す為、ザラブ星人の化けたニセメビウスと共にエックスを襲撃。その際わざとヒカリと名乗った。ステラの姿で翔琉を襲撃し、目論見通り一度は戦った彼らだがすぐに和解。その後ニセメビウスと街で暴れ、ウルトラマンXと共にヒカリを攻めたがサイバーゴモラの乱入により形勢逆転され、正体を現すことになった。

 本編でも青いウルトラマンに対する恐怖心を植え付け、ヒカリを地球で活動させない為にババルウ星人が化けたが、ナイトブレスを付けていたことから未来やGUYSにすぐ看破られてしまう。しかし地球の人々はそんなこと知る由も無かったので騙されてしまっていた。その後本物のヒカリの活躍により誤解は解かれることになる。

 

 

 

 

・ウルトラマンX

身長:45m

重量:4万5千t

出典:オリジナル

 

 ギロ星人によりウルトラマンエックスを模して造られたロボット。能力は本物と同等でザナディウム光線も放てる。見た目は瓜二つだが、大きなダメージを受けると身体の赤い部分が青く変色した。

 ジャシュラインとの戦いを終えたメビウスとヒカリを強襲し追い詰め、彼らがエックスと戦うことになる原因を作る。その後偽者であることがバレたニセツルギとヒカリの戦いに乱入してニセツルギと共にヒカリを攻撃。だがそこへサイバーゴモラが現れ押されていき、ニセ翔琉に化けていたアンチラ星人を倒した翔琉が変身したエックスの一撃を受けて頭部が破損しロボットであることがバレた。最後はエックスがウルトラマンマックスの力を借りて放ったギャラクシーカノンで破壊されてしまった。

 一応本作オリジナル。元ネタは「ザ☆ウルトラマン」に登場したギロ星人が作ったロボット・にせウルトラマンジョーニアスの別名がウルトラマンXである事から。

 

 

 

 

 





遅くなりましたがコラボ回3話目でした!

今回はかなり多くの怪獣宇宙人が登場してます。実は以前Twitterやキャスで登場して欲しい怪獣を募集し、今回登場した怪獣の多くはそこから来ています。

そして以前コラボさせて頂いた「ゼロライブ!サンシャイン!!」より、棘皮怪獣ウニラとインスマス星人がまさかの登場です!!
作者であるがじゃまる様から「出して♡」と冗談半分くらいの感覚で言われたので全力で出しに行きました←
正直コイツをラスボスにしようかかなり迷いました。

そんなウニラを押し退けて最後の相手となるのはあの邪神……。どんな戦いとなるのか、是非お楽しみに。

それでは今回はここまで!
感想、質問、高評価、ここすき、その他、是非是非お待ちしてます!!




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55.ハルカなる大地、ハクアイの海


ウルトラマン55周年おめでとうございます!!
今日は記念すべきウルトラマンの日であり、最新作ウルトラマントリガーの放送日です!!

そんな素晴らしい日に合わせて虹Xも55話目、大地と海の巨人コラボのクライマックスを投稿しましたので是非楽しんで下さい!!

それでは早速どうぞ!!





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 内浦の穏やかで煌びやかな海を、緑溢れる美しい大地の上に立って少女は見つめていた。二つ結びにした金色の髪が風に揺れ、黒いゴシックファッションの様な服を纏ったその姿は何処か幻想的にさえも思えた。

 

 

「お兄さん達の、力が消えた……?」

 

 

 少女・シルビアは地球から光を受け取った2人の戦士が、この世界から消失したのを感じていた。まるで煙りの様に唐突に消えたことに、彼女眉顰めている。自分が、自分達がこれから倒す筈だった者達が手を下す前に居なくなってしまったのは、彼女からしてみれば少し不満なのだろう。

 

 

「まあ……いい」

 

 

 この手で引導を渡せないのは気に食わないが、消えた以上は致し方ない。それに彼らが居ない方がこの地球の生命を破滅させるには好都合。

 

 

「この世界を、人間を、全てを滅す……。それが私の運命(Fate)だから」

 

 

 

 風が吹き、波を立てて草花が舞う。それと同時に、彼女の姿は忽然と消えてしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 3人のウルトラマンが見上げる先にいるイリス。奴から伝わってくる重圧が彼らに緊張感を与えていた。だが圧される訳にはいかない。エックススラッシュ、ガイアスラッシュ、アグルスラッシュがイリスを撃ち落とす為に放たれた。奴はそれを舞う様に躱してしまい、お返しとばかりに触手の先にある鏃から超音波メスを放った。ウルトラマン達は飛び上がってそれを回避。高速でイリスへと突進していく。

 

 

『叩き落とすぞ!』

『はい!』

 

 

 ガイアとアグルが先行する。両者ともマッハ20以上の飛行速度を誇っており、追い付ける者も逃げ切るれる者もそうそう居ない。イリスを捉える為に2人猛スピードで近付いていく。

 

 

『ッ!?』

『何!?』

 

 

 しかしイリスは黄金のオーラの様なものを身体から発したかと思うとガイア達以上のスピードで動き彼らを躱した。そして触手・テンタクランサーを2人の背に叩き付け、地面へと墜落させた。

 

 

『デアアアア!?』

『ドワアアアア!?』

「野郎……!!」

 

 

 エックスは身体に炎を纏い、それをアタッカーXとして放つ。向かって来るX字の炎を、イリスは触手で容易く弾いてしまった。

 

 

「マジかよ──ぐああ!?」

 

 

 更にその触手が伸びてエックスの胸部を突き、彼を落とす。地に倒れ苦悶の唸り声を出す彼らの元に、イリスは優雅に舞い降りる。

 

 

「コイツ……半端じゃねぇ……!」

『ええ……凄まじい強さです……!』

 

 

 立ち上がり構えるウルトラマン達。イリスは数メール浮遊してからゆっくり彼らへ近付いていく。

 

 

《CYBER ELEKING ARMOR ACTIVE》

 

「おらぁ!」

『ハァ!』

 

 

 エレンキングアーマーを纏ったエックスの電撃と、アグルのフォトンクラッシャーがイリスに向かって突き進む。だが奴はそれらも触手で払い除けてしまった。それを見たガイアが右腕にアグルブレードを形成して走っていき、刃を振るう。イリスは彼の斬撃を、左腕の手甲で受け止めた。

 

 

『くっ!?───ぐあッ!?』

『ガイア!?』

 

 

 そして右腕の手甲を槍の様に伸ばし、ガイアの左脇腹付近を貫いた。彼の身体からは赤い光が血の様に吹き出しており非常に痛々しい。苦しみの声を漏らすガイア。イリスはそのスピア・アブソーバと呼ばれる槍からガイアのDNAを取り込んでいく。

 

 

「遥!?野郎!!」

 

 

 ガイアを助ける為に駆け出すエックスとアグル。跳躍して稲妻を纏った砲身を叩き付けとうとするエックスであったが、2本の触手が彼を弾き飛ばしてしまった。エックスは大地に倒れて鎧が解除される。

 それを見て一瞬だけ動きが止まったアグル。その隙を突いたイリスの触手が彼の身体に巻き付き、持ち上げ、地面にへと叩き付け、それを何度も繰り返す。2人のウルトラマンを手玉に取っているその間も、奴はガイアの情報を奪い体内で解析していた。

 

 

『ぐああっ!?くっ……!?がああ!?』

 

 

 どうにか槍を引き抜こうとするがそれをイリスが許さない。ライフゲージが、赤く点滅し危険を報せている。

 

 

「この……離しやがれ!!」

 

 

 地面を殴った後、立ち上がったエックスはやけくそで突っ込んでいき、イリスに組み付いた。その衝撃で、ガイアとアグルは解放される。ガイアは痛烈なダメージに耐え切れず膝を突き、アグルもライフゲージが点滅している。

 

 

「調子に乗るな──があ!?」

 

 

 チョップを叩き込もうとしたがそれよりも速く槍が振るわれてエックスの身体を吹き飛ばした。倒れたエックス、それに駆け寄ったアグル、そして力無く膝を突いてるガイアに向けて、テンタクランサーの鏃が開かれる。そしてそこから、熱光線が放たれた。ガイアのクァンタムストリームをコピーした物である。光線は彼らのいる場所に炸裂し、その巨体が宙を舞うことになった……───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 一方翔琉のいた世界では、サイバーゴモラとキングジョーが激突していた。キングジョーの腕が伸びてサイバーゴモラの角を掴む。そして奴はそのままサイバーゴモラのことを地面に押し付けようとする。

 

 

「ゴモラ!」

 

 

 陽花の声に応えてサイバーゴモラは頭を思いっきり上げ、その勢いでキングジョーを吹っ飛ばし転倒させた。首を震わせた後、サイバーゴモラは倒れた奴へと向かっていく。一度分離して再合体し起き上がったキングジョーは、目の部分から破壊光線デスト・レイを放った。サイバーゴモラは両腕の爪で防ごうとするがその威力は強力であり、吹っ飛ばされて倒れてしまう。

 そして倒れたサイバーゴモラに馬乗りになり、キングジョーはその顔面を握り潰そうと手で掴んで来た。

 

 

「嗚呼!?ゴモラ!?」

 

 

 キングジョーの強烈なパワーがサイバーゴモラを苦しめる。だがそこへ、2機のスカイマスケッティが飛来し光子砲を放った。一瞬だけ力が緩み、その隙を突いてサイバーゴモラは腕を振るい奴を払い除けた。2体は同時に起き上がり睨み合う。

 

 

「ッ……流石キングジョー、強いっす……!」

「サイバーゴモラと互角に渡り合うとは、厄介ですね」

 

 

 唇を噛み締める陽花と涼風。キングジョーはやはり強力であり、一筋縄ではいかない。

 

 

《互角なら勝てるさ》

《はい!だってゴモラには、私達が居るから!》

 

 

 マスケッティに乗るリュウジと紗季の言葉がデバイザーから響いた。奴と違い、サイバーゴモラには仲間達がついている。

 

 

「そうっすね……!ゴモラ、いくっす!」

 

 

 みんなの想いに呼応して吼えるサイバーゴモラ。瞳を光らせ大地を蹴り、キングジョーにへと突っ込んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 地面に伏している3人のウルトラマン。彼らの胸からは危険を報せる警告音が鳴っている。特にガイアはダメージが大きく腹部を押さえて苦しみの声を漏らしていた。

 

 そんな彼らのうち、エックスに槍の穂先を向けてイリスは近付いて来た。彼の情報も奪うつもりなのだろう。ガイアの力を奪い強化されたイリスが更にエックスの力まで手に入れてしまったらもうどうしようもない。エックスの側に立ち、槍を向ける。

 

 

「こ……の……!?」

 

 

 逃げようにもダメージが大きくまともに動けない。ガイアを貫いた槍がエックスも串刺しにしようとする………しかしその瞬間、アグルが飛び出して来てイリスに突撃しそれを防いだ。アグルはどうにかイリスのことを押していきエックスから奴を遠避ける。

 

 

「博樹……!?」

『ぐうう……!ああッ!?』

 

 

 だが彼の背に向かって触手から超音波メスが放たれ背を切った。膝を突くアグルに、イリスは彼の力を奪おうとして槍が向かって来る。

 

 

「させるかああああああ!!」

 

 

 身体を無理矢理動かしたエックスがイリスに飛び付き今度は彼がアグルを救った。

 

 

『翔琉……!』

「図に乗んなよイカだか鳥だか分かり辛え野郎が!」

 

 

 連続でパンチを打ち込んでいく。アグルも立ち上がりイリスに組み付いて同じく攻撃をしていく。しかしイリスには余り通用してない様だ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うっ………』

 

 

 ライフゲージの点滅も早くなり、力が抜けていく。ガイアの、遥の意識は次第に遠のいていた。まさに彼の命は風前の灯火でありこのままでは消えてしまうだろう。こんな状態ではイリスに勝てる筈が無い。エックスとアグルも、イリスの攻撃に翻弄され圧倒されていた。最早どうしようもなく、諦めるしかないという考えが頭に浮かんでしまう。

 

 

『ごめん……みん……な…………』

 

 

 

 脳裏に映るのは大切な仲間達と家族。もう会う事は出来ないのだろうか……?このまま負けて、ここで死ねばそうなってしまうだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───遥!

 

───しっかりしなさいよ、遥!

 

 

 

 

 

 

 

 姉と自分を好きだと言ってくれた人の声が聞こえる。そして……。

 

 

 

 

 

────遥君!

 

 

 

 

 

 

 

 かつて、卑劣な怪獣によって自らの手で父の命を奪ってしまったことがある。でもそんな自分を受け止め、抱き締めてくれた人がいた。彼女の優しさお陰で遥は立ち上がるきっかけを手に入れる事が出来た。そして後に、彼女とこれからの道を共に歩いて行こうと誓い合ったのだ。

 

 そんな彼女を、1人残して死ぬなんて出来る訳がない。

 

 

 

『僕は死なない───』

 

 

 

 残された力を振り絞り立ち上がる。

 

 

 

『僕は負けない───』

 

 

 

 最後の力が枯れるまで下がらない。

 

 

 

『この世界は、滅んだりしない!』

 

 

 

 全ての光を最大解放。両手で包み込んだ青い光を胸に当て、身体の中に取り込んでいく。赤、黒、そして青がメインカラーに加わった派手なカラーリングになり、全身の筋肉がビルドアップ。地球から貰った力を解き放ち、何処までも純粋な強さに特化した最高のガイア、スプリーム・ヴァージョンにへと彼はヴァージョンアップしたのだ。

 

 

『デュア!!』

 

 

 ガイアはイリスへと突貫。それに気付いたイリスもガイアに向かっていき、4本の触手より超音波メスを放つ。しかしガイアはそれを潜り抜けて接近。スピア・アブソーバが彼をまた貫こうとして突き出されたがガイアはそれを掴み取り、そのままイリスを一本背負いしてしまった。地面に叩き付けられるイリス。彼は止まる事なく無理矢理立ち上がらせてまた投げる。次は頭部を掴み、力付くで上に掲げた後背中から地面に叩き落とした。別名投げの鬼スプリームとも呼ばれるこの姿。情け容赦無い投げ技が、イリスを何度も何度も地面に叩き落としていく。

 

 

「すげぇ……アレ本当にあの遥か?」

『まあ、そう思いたくもなるな』

 

 

 正直、この中身があの可愛らしい見た目の遥とは思えない。凄まじいギャップに驚きながら、エックスとアグルは立ち上がりスプリームリフティング、そしてスプリームホイップでイリスを投げ飛ばしてしまったガイアの元に寄る。

 

 

『翔琉さん、博樹さん!』

「決めてやろうぜ、遥!」

『はい!』

 

 

 起き上がったイリスが、触手を3人に向けて伸ばして来た。先端の鏃で串刺しにするつもりなのだ。それに対してガイアは光のブーメラン・シャイニングブレードを、エックスはアタッカーXを、アグルはフォトンスクリューを放った。彼らの攻撃はイリスの触手を全て切断、粉砕し、更に奴の身体を貫き大ダメージを与える。動きの止まってしまったイリス。トドメを刺すなら今しかない。

 

 

『いくぞ!』

「おう!」

『ああ!』

 

 

 それぞれが最大の一撃を放つ為のモーションに入った。膨大な光のエネルギーが彼らにチャージされていく。エックスは両腕をクロスし、アグルは右腕を肘を曲げた状態で立て、ガイアは合わせた両手のうち右手を下へずらした。

 

 

───テラ・エクストリーム!!!

 

 

 3人の光線が混じり合い、凄まじい奔流となってイリスに向かう。そしてそれは奴を呑み込んでしまい、その身体を徐々に崩壊させ、遂には完全に消滅させた。

 

 ウルトラマン達の勝利。それを讃えるかの様に、ウクバールの鐘がなり、風が風車を速く回すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 サイバーゴモラの尻尾が叩き込まれ、キングジョーが数歩後退。更にマスケッティ2機のミサイルが追撃として撃ち込まれてより退がっていく。Xioの連携の前に、キングジョーは確実に追い詰められていた。

 

 

《陽花、聞こえるか!?》

「シャマラ博士!」

《奴の中に生体反応は無い。恐らく遠隔か自動操縦で暴れさせとるんじゃろう。ペダン星人め、臆病風に吹かれて操縦席に座るのを躊躇ったんじゃろう。遠慮は要らん!思いっきりやってやれ!》

「了解っす!」

 

 

 サイバーゴモラの爪がキングジョーの顔面に炸裂。火花が弾け、欠けた部品が散らばる。追撃にタックルを咬まし、キングジョーは大きく後退することになる。

 

 

「トドメっす!ゴモラ、サイバー超振動波!」

 

 

 青い光を纏いながら、サイバーゴモラはキングジョーに突撃。両腕の爪を叩き込んでエネルギーを流し込んだ。キングジョーはボディのあちこちから火花を散らした後に直立不動となり、そのまま後ろに倒れて完全に機能を停止するのだった。

 

 

「やった!」

《よし!》

《やりましたね!》

「隊長、キングジョー沈黙しました」

《ええ、見てるわ。みんな良くやったわね》

 

 

 通信で隊員達に労いの言葉を掛ける沙優。倒れたキングジョーを見て、サイバーゴモラが勝利の雄叫びを上げる。

 

 負傷者こそ出たが殆どが軽傷で死者は0。Xioは最小限の被害で見事にキングジョーを倒す事に成功したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キングジョーはUNVERによって鹵獲されることになった。これが近いうちにある騒動を巻き起こすことになるなど、この時は誰も予測出来なかった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あー……終わった終わった」

「ああ。どうにか勝てたな」

 

 

 戦いが終わり、翔琉、遥、博樹の3人は野原に来ていた。優しい風が草花を揺らし、彼らの頬を撫でている。

 

 

 

 

───アリガトウ、ウルトラマン達。

 

 

 

 

 ルクーの声が彼らに届く。そしてウクバールの民の人達も3人に手を振ったり口々にお礼を述べていた。それに応えて翔琉と遥は手を振った。そんな中、翔琉があることを思う。

 

 

「そういえば、結局ここ狙ってたのって何だったんだ?」

 

 

 ウクバールの地に怪獣軍団を送りつけて来た者。結局その正体は分からず終いだ。

 

 

「謎のままだな。正体もだが目的も分からん」

「また狙ってくる可能性もあるかもな……」

 

 

 今回は退けれたが、再度ウクバールを狙ってくるかも知れない。そうなれば次は勝てるかどうか……。翔琉と博樹がそう思っていると、遥が「大丈夫」と2人に声を掛けた。

 

 

「僕達ウルトラマンがいる限り、どんな世界も滅ぶことは無い。絶対に守り抜いてみせます」

 

 

 強い意志の込められた彼の目を見て翔琉と博樹もその通りだと思い笑う。すると彼らの身体が淡い光に包まれていく。どうやら別れの時が来たらしい。

 

 

「ありがとうございます翔琉さん。一緒に戦えて良かった」

「まあ、感謝する」

「へへっ、俺もお前らに会えて良かったよ」

 

 

 

 エクスデバイザーが輝き、新たに2枚のカードを産み出した。ガイア、そしてアグルの物である。

 

 

「また会おうぜ遥、博樹」

「はい。いつかまた」

「ああ」

 

 

 拳を合わせる3人。優しい光が広がったかと思った後、彼らは自分達が守るべき物のある元の世界にへと帰っていくのであった───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






「ラブライブ!サンシャイン!!〜大地と海の巨人〜」コラボ、遂に完結しました!!
カズオ様、コラボして頂きありがとうございました!!

今回はこれまでのコラボ以上にバトル多めで進めていきましたが如何だったでしょうか?感想を頂けると嬉しいです。

大地と海の巨人でキーキャラクターだったシルビアも登場!
彼女らしさが出せたか不安ですが書けて良かったです。


さて、次回からはまた翔琉君単独で頑張っていきたいと思います!次に彼が出会うのはあの女神達……?
次回もよろしくお願いします!


今回はここまで!………ではなく、あと少しだけ続きがあるので最後まで読んでいって下さい。


感想、質問、高評価、ここすき、その他、是非是非お待ちしています!























 ソレは空に立ち、ウクバールを見下ろしていた。強固な鎧に身を包んだその戦士はウルトラマンである彼らが去った後、何かを思う様に唸る。
 
 それから振り向き、両手の甲に付けられた宝玉を輝かせ空間に穴を開けた。穴の先には金色の光で形成された様な空間が広がっている。戦士は一度だけ背後を見た後その中へと入っていき、穴を閉じて消えてしまうのだった────




「ウルトラマン……か」







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56.女神に出逢ウ


スーパースター!!始まりましたね!
トリガーと併せてこちらも楽しみです!

今回からは新展開!遂にあの女神達が……!
それでは早速どうぞ!




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 虹ヶ咲学園の音楽室。そこにあるピアノの前に翔琉は座り唸っていた。彼は今、同好会のみんなの曲を作ろうとしているのだ。音符も読める様になりピアノも弾け、作詞をすること自体は出来る様になった。しかし、いざやってみるとなると一筋縄ではいかない。何度もピアノを弾き、五線譜に書き込んではそれを消してを繰り返している。

 

 

「あー、駄目だ。何かしっくり来ねぇ」

 

 

 更に言うと彼は9人分の作曲をしなければならない。みんなから既に歌詞を貰っており、それにあった曲を作らなければならない。手始めに歩夢のものをと頑張っているがどうも上手くいかなかった。

 

 

「行けるかと思ったけど難しいなこれ。桜内にコツ聞いてみるか……?」

 

 

 内浦に行った時に千歌達Aqoursの全員と連絡先を交換している。Aqoursの作曲担当である桜内 梨子にそのやり方を聞こうかと思い携帯を取り出した。その時、コンコンと扉を叩く音がした。

 

 

「ん?」

「作曲は順調ですか?」

 

 

 彼が見た先に居たのは眼鏡を掛けた三つ編みの少女。その後ろには同じく眼鏡をした少女が立っている。

 

 

「えっと……」

「あ、記憶を失ってからこの形で会うのは初めてでしたね。生徒会長の中川 菜々です」

 

 

 お辞儀する菜々。翔琉もそれに合わせて頭を下げた。それから後ろにいた生徒会副会長も自己紹介を行った。

 

 

「所で翔琉さん、音楽室の使用許可は申請しているのでしょうか?」

「げッ」

 

 

 不味いと言わんばかりに顔を歪ませる。実は彼はここの使用許可を取らず勝手に入って勝手に使っていたのだ。元々長時間使うつもりは無かったので別に申請しなくても良いだろうと思っていたのだ。

 

 

「全く……今回は見逃しますけど、次回からはちゃんと生徒会に使用許可を得て下さいね?」

「す、すんません……」

 

 

 バツの悪そうに頭を下げる翔琉を見て、菜々はクスクスと笑う。

 

 

「会長、そろそろ……」

「あ、もうそんな時間ですか。それでは翔琉さん、また後で。戸締りはちゃんとしていって下さいね?」

「うっす」

 

 

 去っていく菜々と副生徒会長。

 

 

「また後で……?俺生徒会長と会う約束なんてして無い筈なんだが……?」

 

 

 首を傾げる翔琉。確かに昼から歩夢、せつ菜、しずく、エマと秋葉原へ出掛ける予定ではある。しかし菜々とは(記憶を失ってる彼からしたら)今日初めて会ったばかりで、この後会う約束なんてした覚えは無い。でも彼女は間違い無く「また後で」と口にした。もしかしたらこれから何かあるのだろうか?

 

 

「まあ良いや」

 

 

 考えたが答えは見つからないので、翔琉はまたピアノの鍵を弾くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「会長、あの方って記憶喪失になったって言う音楽科の2年生ですよね?気軽に話し掛けてましたがお知り合いなんですか?」

 

 

 会議の為に生徒会に向かっている途中、副会長がそう聞いて来た。

 

 

「え!?あ、ま、まあ、いろいろとありまして……」

 

 

 ポリポリと頬を掻く。実は彼女、中川 菜々こそがスクールアイドル・優木 せつ菜の正体なのだ。翔琉にはそのことを改めて教えてなかったので気付かれていなかった様だ。

 

 

「彼、記憶を失ってから性格が変わったというか……少し不良の様になったと聞きましたが大丈夫でしょうか……?」

 

 

 不安そうに副会長が言って来る。前は人懐っこく優しい性格だった彼だが、今ではその面影は全く見えない。問題こそ起こしていないが、俗に言う不良の様な荒々しさの見える生徒になったと聞いていたのでいろいろと心配なのだろう。

 

 

「大丈夫ですよ。確かに前とは変わったところもありますが、変わらないところもありますから」

「変わらないところ?」

「ええ。彼を見てたら、きっと貴女もそれに気付けますよ」

 

 

 そう言って菜々は彼女に笑い掛けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 オペレーションベースX内のとある一室。そこには数人の人がおり、ピリピリと空気が張り詰めていた。

 

 

「何の用かね、神山隊長?」

「それは貴方自身が一番よく分かっているのでは無いですか、堂馬参謀」

 

 

 沙優と陽花、そしてシャマラ博士がいるのは堂馬参謀の部屋だ。椅子に座っている彼の後ろには2名のボディーガードが控えている。

 

 

「さあ……?何のことだかさっぱりだな……」

「しらばっくれるな!!貴様ラボにあったウルトラマンのサイバーカードを全部持っていきおったじゃろうが!!」

「それだけじゃないっす!バラバやバキシム、ベムスターなんかのスパークドールズまで持ち出してるっす!これは重大な規律違反っすよ!?」

 

 

 先日のキングジョーが出現した時、堂馬はその混乱に乗じてラボに置かれていたゼロ、マックス、ゼノン、メビウス、ヒカリのサイバーカードを持ち出してしまっていた。そしてオマケに数体のスパークドールズも持ち出しており、それらを取り戻す為に沙優達はここへと赴いたのだ。

 

 

「監視カメラに証拠は残されています。言い逃れは出来ませんよ?」

 

 

 威圧感を与える様な目で沙優は堂馬を睨み、その背後のシャマラ博士と陽花も敵意を込めた視線を向けていた。しかし堂馬はそんなことも気にせず1枚の紙を取り出し見せて来る。

 

 

「カードとスパークドールズの持ち出しについては許可を得ている。これがその証拠だ。そこの異星人のサインもあるぞ。あの時はゴタゴタしててすぐに出来なかったが、後で許可を得たではないか」

 

 

 彼が出した書類にはスパークドールズ、及びサイバーカードの貸与許可について書かれており、そこには何故かシャマラ博士のサインもあった。つまり博士は堂馬がそれらを持っていくことを承認していたということになる。

 

 

「な、なんじゃこれは!?私はこんな物書いた覚えは無いぞ!?」

「どうした?まさか忘れていたのか?見た目だけでなく、脳味噌まで蛙と変わらんとはなぁ……」

 

 

 堂馬とその後ろの2人が博士を馬鹿にするかの様に笑った。

 

 

「こ、こんなのおかしいっす!きっと、誰かが博士のサインを偽造したに違いな───」

「我々が嘘を吐いているというのかね?では証拠は?そこまで言うのなら何か証拠があるのだろう?」

「そ、それは……」

「何の証拠も無く疑い、上官に逆らい不利益を齎す。それこそ規律違反ではないだろうか?」

 

 

 そう言われて押し黙るしかない陽花。書かれているサインはどういう訳か分からないが間違い無くシャマラ博士の物である為、例え博士が書いていないと言っても証拠が無ければその証明は出来無い。サイバーカードもスパークドールズも、彼らから正式な形で堂馬に貸し出されたという事になってしまっているのだ。

 

 

「分かりました。サイバーカードもスパークドールズも、正式な手続きを経て我々が貸し与えた、ということですね」

「お、おい!?」

「隊長!?」

「ではそのカードとスパークドールズ、返却して頂けないでしょうか?我々にとっても大切な物なので」

 

 

 これ以上は暖簾に腕押し。ならもう盗った盗られたについては話し合わず、カードとスパークドールズの返却を求めるのが最善だろうと沙優は考えた。

 

 

「フム……まあ、良いだろう。アレを」

「はい」

 

 

 控えていたボディーガードがトランクケースを持って来て、彼女達に向けて開いた。中には堂馬が持ち出したサイバーカードとスパークドールズが入っている。

 

 

「……確かに受け取りました。今後、ラボから何かを持ち出す時は博士だけで無く私に直接(・・)、声を掛けて下さい」

「ああ、そうしよう」

 

 

 少し睨み合った後、沙優は頭を下げてから2人と共に部屋を出て行こうとする。しかしそれを堂馬が声を掛けて止めた。

 

 

「最後に一ついいか?」

「何でしょうか?」

「そのサイバーカード、どうやって手に入れた……?」

「これらは博士が今まで現れたウルトラマンのデータを解析して作りました」

「なら妙だなぁ……」

 

 

 沙優に向けられる視線が、少し険しいものになる。

 

 

「何故ウルトラマンエックスの物が無いんだ?毎回出現しているんだ、奴の力ならとっくに解析出来ているだろ?本の僅かな時間しか現れていないウルトラマンの物があって、奴の物が無いのは妙ではないか……?」

 

 

 この地球を守っているエックスのカードが無く、他のウルトラマン達の物があるというのが堂馬には不自然に思えていた。このウルトラマン達のサイバーカードは翔琉がそのウルトラマンと絆を紡ぐ事で生成される奇跡の産物であり、シャマラ博士の手による物では無い。

 

 

「エックスのデータはサイバーゴモラやウルトライザーに利用させてもらっています。ただカード化していないだけです」

「………そうか。もう下がって良いぞ」

「失礼します。……私からも一つ。先日鹵獲したキングジョー、堂馬参謀の管轄下の施設に輸送されたと聞きました。どうするおつもりでしょうか?」

「もちろん平和利用の為だ。それ以外に何があるというのだ?」

「そう、ですか。では失礼しました」

 

 

 3人は部屋を後にした。

 その背を見送った後、堂馬は彼女達のことを鼻で笑う。

 

 

「フンッ、目敏い女だ」

「良いのでしょうか?もしかしたらあの女、我々の計画に気付いて……」

「構わん」

 

 

 

 不安気なボディーガードに堂馬はそう言い、パソコンのキーボードを叩いた。

 

 

「コイツが完成すればあの女も北森支部長も、誰も文句を言えなくなる……」

 

 

 液晶に映されていたのは、ウルトラマンを模した機械兵器の設計図であった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 秋葉原。東京都千代田区外神田・神田佐久間町及び台東区秋葉原周辺の地域を指す名称である。アキバの別称で親しまれていて世界有数の電気街として発展していった街であり、オタクの街としても有名であった。現在では更なる発展により観光地、オフィス街としても利用されている。

 

 そして何より、スクールアイドルの街としてこの世界では人々から愛されていた。

 

 

「人多いなぁ」

 

 

 そんな街に翔琉と歩夢、せつ菜、しずく、エマは来ていた。翔琉が秋葉原に来るのはゼットンと出会ったあの日以来になる。夏休み期間ということもあってか平日でありながらも人は多い。海外から来たであろう人も多く、大きな買い物袋を両手に提げている。メイドカフェの呼び込みをしているメイド服を着た女性も目立ち、中には猫耳を着けてたり、和装や軍服、忍者の格好をした者までいてサブカルチャーが盛んであることが見て取れた。

 

 

「爆買いってやつか」

「相変わらずアキバは賑やかですね!活気が伝わってきます!」

 

 

 ぐっと拳を握るせつ菜。今回は彼女の買い物に付き合う形で翔琉達は同行している。

 

 

「スクールアイドルのお店もいっぱいあるし、いつ来てもアキバは凄いね!」

 

 

 目をキラキラとさせてエマは街を見る。

 

 

「フフッ、スクールアイドルになる前、翔琉君とこの街に買い物に来たのを思い出しちゃったな」

「確かそこでライブを見て、先輩はスクールアイドルを応援したいって思う様になったんですよね?」

 

 

 しずくに対して「そうだよ」と言った後、歩夢は駅前にある大きな建物を指差した。

 

 

「あそこにあるモニターに映ったμ'sとAqoursの合同ライブを見たのが始まりだったんだ」

「じゃあそれがなかったら、私達はこうしてまたスクールアイドルをしていなかったかも知れないですね……」

 

 

 感慨深そうにそういうしずく。確かに彼の働きがなければ、虹ヶ咲学園のスクールアイドル同好会がこうして動き出すことは無かったであろう。

 

 

「そうですね……翔琉さんには、改めて感謝しなければならないですね」

「うん!本当にありがとうね、翔琉君」

「よせって……なんか照れる。それに、今があるのは俺だけじゃなくて、みんなの力でもあるだろ」

 

 

 翔琉の言う通り、同好会が今こうしてあるのは彼の力だけではない。みんなの力があってこそなのだ。

 

 

「翔琉君の言う通りだね」

 

 

 笑い合う彼女達。すると大きな声が聞こえて来た。何かと思い声の聞こえて来る方へ4人は歩いていく。そこはUTX学園の前で多くの人が集まっており、モニターに注目していた。

 

 

「何かあんのか?」

「知らないんですか?」

 

 

 疑問に思い呟くと、翔琉の隣りにいた女の子が声を掛けて来た。

 

 

「今からA-RISEのライブが始まるんです!」

「あ、らいず?」

「A-RISEを知らないの!?人気絶頂の凄いスクールアイドルですよ!」

「お、おう。そういや聞いたことある様な無い様な……」

 

 

 女の子の勢いに翔琉は少し退がる。そんな2人のやり取りに気付いた歩夢達が近付いて来た。そしてその子の知り合いと思われる子達もやって来る。

 

 

「どうかしたの翔琉君?」

「どうしました穂乃果?」

「いや、実は……」

 

 

 翔琉が状況を説明しようとした時、せつ菜がそれを遮る様に大きな声を上げた。

 

 

「うお!?ど、どうしたよせつ菜?」

「も、もしかして貴女達は……!?」

 

 

 わなわなと震えながら翔琉と話していた少女とその仲間であろう子達をせつ菜は見ている。そんな彼女に気付いた彼女は、にっこりと笑ってから彼らに手を差し出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして!私、μ'sの高坂 穂乃果です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 女神の名を冠するスクールアイドル・μ'sと翔琉のファーストコンタクトであった────

 

 

 

 

 

 

 

 






μ's登場!
ようやく出すことが出来てホッとしています←
これから本格的にμ's編となっていくのですが、内容はスクスタのものと大きく変わります。オリジナル展開になりますが楽しんで頂けると幸いです。

そしてUNVERでは何やら不穏な動きが……。
こちらにも注目していて下さい。

それでは今回はここまで!
感想、質問、高評価、ここすき、その他、是非是非お待ちしています!


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57.迷えるコンポーザー



大変遅くなりました!!!!




 

 

 

 

 

 

「んっ……美味いなこの饅頭」

「でしょー!穂むらの名物、ほむまんだよ!」

 

 

 あの後、翔琉達は穂乃果とμ'sのメンバーに連れて来られて彼女の家に来ていた。というのも、あそこで大声を出した所為で周りの人達に気付かれてしまいちょっとしたパニック状態になった為、何とか抜け出してここまで来たのだ。穂乃果の家は穂むらという和菓子屋を営んでおり、出された和菓子は絶品で翔琉達は舌鼓を打っていた。

 

 

「それにしても、まさかあそこで虹ヶ咲のスクールアイドルに出会えるなんて思ってなかったよ〜」

「私達も、μ'sに会えるなんて思ってませんでした」

「そうだ!改めて自己紹介するね!私は高坂 穂乃果!2年生だよ!」

 

 

 元気いっぱいな笑顔を見せて来たのはμ'sの発起人でありリーダーでもある高坂 穂乃果。

 

 

「南 ことりです。よろしくね」

「園田 海未です。私もことりも、穂乃果と同じ2年生です」

「俺や歩夢、せつ菜と同じか。よろしくな」

 

 

 甘い声の持ち主であることりと、大和撫子という言葉の似合う礼儀正しい海未。2人が自己紹介をした後、1人の少女が元気良く立ち上がった。

 

 

「凛は星空 凛だよ!よろしくにゃー!こっちはかよちん!」

「こ、小泉 花陽です……!」

 

 

 猫の様な語尾が特徴的な凛。花陽という少女から緊張しているが伝わってくる。

 

 

「西木野 真姫よ。……よろしく」

「あー!真姫ちゃん恥ずかしがってるにゃー!」

「なっ!?そんなんじゃないわよ!?」

 

 

 真姫に戯れつく凛とそれを見て微笑む花陽。そのやり取りから彼女達の仲がとても良好だというのが分かった。

 

 

「にっこにっこにー!あなたのハートににっこにっこにー!笑顔届ける矢澤にこにこー!にこにーって覚えてラブニコっ!」

「………」

「………」

「こ、これがあのにこにーポーズ……!!」

「凄い……!」

「可愛いねぇー!」

 

 

 にこの自己紹介に翔琉、歩夢が固まる。アイドルらしい可愛い自己紹介だが、いきなり目の前でやられれば無理もないだろう。一方、せつ菜、しずく、エマの3人は元々にこを知っていたこともあり感嘆の声を上げていた。

 

 

「どうかしたにこ?」

「え、えっとぉ……」

「いや、インパクトやべぇなって」

「そりゃあ、アイドルは第一印象大事だもの!しっかりとファンの記憶に残る様にしないとね!」

「へー、1年なのによく考えてんだなぁ」

「いや、にこは3年生よ!!」

 

 

 小柄な体型だったので1年生かと思っていたが3年生だった。頬を膨らませるにこに翔琉は手を合わせて謝る。

 

 

「私は絢瀬 絵里。3年生で音ノ木坂の生徒会長もしてるわ。そしてこっちが……」

「んー……」

 

 

 金髪碧眼のクウォーター、絵里。彼女が最後の1人の紹介をしようとしたが、その少女はじっと翔琉のことを見つめていた。

 

 

「な、何すっか……?」

「うーん……ちょっと君のこと、占っていいかな?」

「占い?」

 

 

 うんと言ってから少女はタロットカードを取り出した。

 

 

「うちの占いは、当たるって評判なんよ?それに何だか君からは不思議な感じがするんよねぇ」

「そう、なのか?」

「そう。あ、うちは東條 希。よろしくね」

 

 

 カードをシャッフルする。

 

 

「さあ、貴方のことをまた教えて」

 

 

 柔かに笑う希に、翔琉は改めて自分のことを話す。名前、年齢、生年月日。記憶の無い自分に語れることは大したものではないが……。彼の話を聞いた希は山札を分け、カードをめくっていった。

 

 

「貴方は今、何か悩みを抱えている。そしてそれを誰にも言えていない……そうやろ?」

「悩みって、本当?」

「あー……当たってんなぁ……」

 

 

 彼の今の悩み。それは作曲が上手くいかないことだ。何度も何度も同好会の為に良い曲を作ろうとしているのだが、どうもピンと来るものが出来ないでいる。何かが足りてない、そんな気がしてならいのだ。

 そのことを、彼はここで皆に話した。

 

 

「今日もずっと音楽室にいましたが、とても迷ってたんですね……力になれずすいません……」

「ごめんね、翔琉君にだけ負担を掛けちゃって……」

「いやいや気にすんなって。これは俺のやるべきことなんだからさ」

「でも、相談くらいはして欲しかったですよ先輩」

「そーだよ!君だけが悩んで辛いのは、私達も悲しくなっちゃうよ……?」

「うっ……ごめん」

 

 

 虹学メンバーのやり取りを見て微笑ましく思うμ'sのメンバー達。彼女達が心から彼を想い、彼も彼女達のことを本気で大切に想っているが伝わってくるからだ。μ'sや、以前共に歌ったAqoursにも負けない絆が、みんなの間にはあるのだろう。

 

 

「なあ、μ'sは誰が作曲してるんだ?」

 

 

 翔琉がテーブルに少し身を乗り出してそう聞いて来た。それに対して真姫が「私だけど」と応えながら手を挙げる。すると彼は素早く真姫の前まで移動してその手を掴んだ。

 

 

「えっ、ちょ、ちょっと!?」

「頼む!作曲のコツを教えてくれ!」

「え、ええ!?」

 

 

 μ'sはトップクラスのスクールアイドル。その作曲を担当している彼女なら、きっと何かヒントをくれると彼は思ったのだ。突然手を握られたことに驚き赤面する真姫だが、翔琉は気にせず迫っていく。

 

 

「翔琉君落ち着いて!?」

「は、破廉恥ですよ!?」

「え、あっ、すまねぇ、つい……」

 

 

 歩夢と海未に止められて手を離す。彼自身作曲が上手くいかず焦っていての行動なのだろう。

 

 

「まあ、良いけど……。貴方、何の為に作曲してるの?」

「何のって、そりゃあ同好会の仲間の為だよ」

「それだけ?」

「へ?」

「本当に、それだけなの?」

 

 

 じっと見つめてくる真姫。彼は同好会のみんなの為に良い曲を作りたいと思っているのでそれ以上も以下も無い。そしてそれを間違っているとも思ってないのだが……。

 

 

「それだけじゃ、きっと貴方が望む曲は作れないと思うわ」

「どういうことだよ、それ?」

「そこから先は自分で探すことね。そうでなきゃ意味が無いもの」

 

 

 真姫は悪戯っぽく翔琉に笑う。それを見て、穂乃果と凛がポカンとしていた。

 

 

「真姫ちゃんが初対面の人にアドバイスしてる……!?」

「あの真姫ちゃんが……!?意外にゃ……!?」

「ちょっとそれどういう意味よ!?」

 

 

 顔を赤くして2人に真姫は吠えた。一方で翔琉は顎に手を当てて考え込む。自分が望んでいるのは同好会のみんなにとって良い曲を作ること。それが間違っているのだろうか?どれだけ考えも、納得いく答えが今出てくることは無かった。

 それから翔琉達はμ'sと連絡先を交換してから穂むらを後にした。その際せつ菜がμ'sの皆のサインをねだり、にこと花陽が彼女のサインを求めるという一幕があった。そんなことをしている時も翔琉はずっと考え込んでおり、彼のことを歩夢が心配を込めた瞳で見つめているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 明里は原宿にあるレディースブランドを扱っている服屋に来店していた。実は週末に翔琉と遊びに行く約束をしており、その時の為の服を選んでいるのだ。

 深く悩みながら彼女は服を見る。何度も試着し、その度に店員は可愛い、綺麗、似合っていると褒めてくれるのだが明里は満足していない。せっかくの彼とのデートなのだから、いつもより、そして誰よりも可愛くしなければならないと考えていた。

 

 

「んー、なんか違うなぁ……。別のお店行こ」

 

 

 試着室の鏡で見た自分。薄いピンクのワンピースを来た自分は可愛いのは間違いないのだろうが、まだ納得は出来ない。この店の目ぼしい服は粗方試したので、次は別の店で探してみようと思い、試着した服を脱いで自分の服を着る。そしてカーテンを開けて試着室を出ると……。

 

 

「やあ」

「死んで」

 

 

 彼女の前に姿を見せたのはカタラ。にっこりと笑いながら現れたが、明里は一言罵倒した後その横を通り過ぎて去っていく。

 

 

「こらこら、服はちゃんと片付けないと」

 

 

 明里が試着室に置きっぱなしにした洋服を拾い、それを店員に渡してその際ウインク。中性的で美しい顔立ちのカタラからそんなことをされた女性店員は思わず赤面してしまい、それを置いてカタラは明里を追った。

 

 

「そんなに邪険にしないでよぉ。泣いちゃうよ?」

「泣け。死ね」

「明里ちゃん、ボクに対してそれしか言わないよね?悲しいなぁー」

 

 

 台詞とは異なり表情はヘラヘラとしており、それが明里を苛立たせる。コイツさえいなければ楽しい日になっていたというのに、本当に腹立たしい。

 

 

「そういえば、最近はスパークドールズもカプセルも使ってないみたいじゃないか。ファウストも死んだ……いや、捨てちゃったけど、これからは何もしないの?ウルトラマンは倒さないのかい?」

 

 

 ここ最近は何もしていない明里に質問をぶつける。

 

 

「それはアンタもでしょ。何もしてないのに、いかにも自分だけ頑張ってますみたいな言い方するとか気持ち悪い」

「ボクだって頑張ってるんだよ?いろいろと忙しいし」

「忙しいならこっちに来ないでよ。本当気分悪くなるんだから」

「明里ちゃんで癒されに来てるんだよ」

「キモ。死ね」

 

 

 早歩きでカタラから離れていき裏路地に入る。一応協力関係ではあるが、この男だか女だか分からない奴は心から気に食わない。一層のこと殺してしまうのも悪くないと彼女は考えていた。逃れようとする明里のことをカタラはやれやれとムカつく顔をしながら追いかけて来る。

 

 

「もうすぐさ、ボクの仲間達がこの地球に来るんだ。だから明里ちゃんにそれを教えようと思って」

「なら協力関係は終わり?殺して良いよね」

「いやいや、それは今後も続けていきたいなぁ。明里ちゃんにとっても悪くはない話でしょ?」

「アンタがいるだけで最悪なんですけど」

 

 

 人気の無い路地の奥まで来たのでここで殺してしまおうかと思い、カバンに入れていたスパークドールズに手を掛ける。その時、甲高い奇声と共に、4人の異星人が彼女達の前に現れた……。

 

 

「キヒヒッ、こんな所に来ちゃ危ないよ、お嬢ちゃん達?」

「そうそう。怖ーい人がいるからなァァ」

「まあ、尤も俺様達は人間じゃ無いがなッ!」

「クククッ、その通り!」

 

 

 ゲラゲラと笑うのはクカラッチ星、フック星人、レボール星人、マーキンド星人。彼らは明里達を捕らえて売り飛ばそうと考えているらしくジリジリと迫って来る。

 

 

「どっちも上玉だ……これは高く売れそうだぜ!」

「うっざ」

「やれやれ、困ったものだね。こういう人達は」

 

 

 一歩前に出たカタラ。その身体から少しずつ闇が溢れ出していく……。

 

 

「待って」

「ん、何だい?」

「せっかくだし、コイツにやらせようか」

「コイツ?」

 

 

 彼女の言葉の後に、闇の塊が2人と異星人達の間に現れる。そしてその闇より形を作られたのは、人型の不気味な異形の存在。漆黒の鎧を纏った身体、胸部と肩部には不穏に輝く赤い球体、そして同じく血の様に赤い目。天を貫く鋭い角。

 ソレを前にした異星人達は、まるで光の届くことの無い深淵を覗いている様な恐怖を全身に感じた。先程までの軽薄な笑いはもう出て来ない。目前の圧倒的な存在に、彼らは指一本動かせず、視線も逸らせないでいた。今すぐ逃げなければ、死の確率が跳ね上がっていくだけだというのに。

 

 

「フフッ……フフフッ……アハハハハッ!」

 

 

 カタラの笑い声が響く。それを聞いて正気に戻った彼らは震える脚を動かして踵を返し逃げ出す。急がなければ死ぬ、誰よりも速く逃げなければ。

 だが、それを判断するには余りにも遅過ぎた───

 

 

 

 

 

 

「ひっ……!?や、やめ──ぎぃやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!??」

「助け──がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!???」

「ま、待っ──ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!???」

「そんな!?──あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!??」

 

 

 

 

 

 鳴り渡る絶叫。引き千切る音、裂ける音、潰れる音、砕ける音。様々な音が裏路地で反響し、やがて止む。後にはもう、何も残っていない。

 

 

「フフフッ、そうか……これが(・・・)ルギエル、か」

 

 

 漆黒の異形を、カタラは楽しそうに見る。

 

 

「じゃ、私買い物の続きあるから」

 

 

 明里が手を叩くと異形は消えた。そして彼女はカタラを置いて何事も無かったかの様にその場を去る。歩いていく彼女背中をカタラを見つめている。

 

 

「いやー、本当に……あの子は面白いなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 深い深い闇の色。混じり合い、奪った全て。

 きっと誰にも気付かれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






次回、キミの音を聴かせて

感想、質問、高評価、ここすき、その他、是非是非お待ちしてるんご!!


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58.キミの音を聴かせて





 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。翔琉は自室のベッドに寝転がり、真姫から言われたことを考えていた。みんなの為……その想いだけじゃ自分の望む曲は作ることが出来ない。その意味をずっと考えているのだが答えを出せないでいる。

 

 

「一体どういう意味なんだよ……?」

 

 

 頭を強く掻く。

 ウルトラマンとして戦っている時、誰かを守りたい、みんなを助けたいという想いがあれば強くなれるということは感じていた。気持ち的なものではあるが、その想いが力になるのは他のウルトラマン達を見ていても間違いない筈。みんなの為という想いで為せないことは無いと思っていた。しかしどうやら作曲は違うらしい。帰った後も挑戦したのだが結局行き詰まり、何も浮かんで来なかった。

 

 

「…………わかんねえ」

 

 

 上半身を起き上がらせる。何が足りない?欠けている物は何か?思考を働かせて探すが解らない。立ち上がってカーテンを開く。夜空には星と月が光を放っている。溜め息を吐いた後、彼は部屋を出るのであった。

 

 

 

 

 

 昼間よりは暑くないが、それでもジメジメとした気温の夜。翔琉は気晴らしにと秋葉原方面に向けて走っていた。彼の住む江東区の家から秋葉原までは約8km程の距離があるが彼は息切れすることもペースを落とすことも無く走り、気付けば大通りまで来ていた。

 昼間と変わらず街は賑わっており、昼間以上の灯りで照らされている。人の間を抜けながら走る翔琉。そして彼は気付いたら、ある場所の前に辿り着いていた。

 

 

「ここって……」

 

 

 彼が今いるのは音ノ木坂学院という女子校の前。ここはあのμ'sが通っている学校でもある。思わず立ち止まり、その外観を彼は眺める。歴史を感じさせる校舎が、月明かりに照らされていて幻想的に思えた。

 

 

「あ、翔琉君!」

 

 

 声を掛けられ振り返ると、そこには穂乃果の姿があった。運動し易そうな服装をしており、翔琉同様彼女も走っていたのだろう。

 

 

「高坂か。さっきぶり」

「うん。翔琉君もランニング?」

「まあ、ちょっと気晴らしにな」

 

 

 彼の言葉に「そうなんだ」と返す穂乃果。そして翔琉の隣りに立って音ノ木坂の校舎に目を向ける。

 

 

「どう、うちの学校は?」

「なんて言うか、でかいな」

「でしょー!まあ、虹ヶ咲には負けるけどね」

「うちは規格外だからな。お前らもいるし、きっと良い学校なんだろうな音ノ木は」

 

 

 一陣の風が吹き木の葉が揺れる。まるで校舎が、彼に対して礼を言っている様。

 

 

「この学校はね、少し前まで廃校になりそうだったんだ」

「廃校に?」

「うん」

 

 

 少子高齢化の波、UTX学園や虹ヶ咲学園の様な設備の充実した学校の台頭により入学希望者が減少したことなどが原因で、音ノ木坂学院は廃校の危機に直面していた。学校を維持する予算は無くなって来ていたが大人の事情から国立扱いにして運営し、廃校にならずにいた音ノ木坂。しかし、それにもとうとう限界が来たのだ。

 廃校になると知った時、穂乃果はショックで倒れてしまったらしい。

 

 

「だから私は、廃校を阻止する為にスクールアイドルになったんだ。私達の学校を、未来に遺したいって思ったから」

 

 

 幼馴染である海未、ことりの3人で始めたスクールアイドル。μ'sという名を授かり、花陽、凛、真姫、にこ、そして絵里と希が、紆余曲折有りながらも仲間となった。

 ギリシャ神話において、主神ゼウスと記憶の女神ムネーモシュネーの娘である9柱の芸術を司る女神達のことを指し、音楽を意味するミュージックの語源となったと言われるムーサ。その別名であるミューズを由来したグループであるμ'sは忽ちトップクラスのスクールアイドルとなる。そして遂には、入学希望者を集めることに成功して廃校を阻止したのだ。

 

 

「この学校の生徒や先生、卒業生、これから入学する後輩達。みんなの想いが集まって力になって、私達は学校を守ることが出来たんだと思うんだ!」

「そりゃすげぇや」

 

 

 改めて校舎に目を向ける翔琉。

 穂乃果はこの学校のみんなの為を思ってステージに立ち、廃校を阻止した。みんなの為を想って前に進めた彼女と、みんな為を想いながらも進めないでいる翔琉。一体何が違うのか分からず眉を顰めてしまう。

 

 

「翔琉は、今もみんなの為にって思ってる?」

「ん?ああ、まあな……」

「私はね、私がこの学校が大好きで、無くなるのが嫌だからどうにかしたいって思ったの。それで、偶然スクールアイドルを見て、これをやりたいって思って始めたんだ。その時は周りのこととか全然考えて無かったし、海未ちゃんにも無茶苦茶とか自分勝手とか我が儘だーとか、散々言われちゃったなぁ」

 

 

 「あはは」と照れる様に笑う穂乃果。海未とことりを無理矢理巻き込み、偶然であったピアノの弾ける真姫に作曲を頼み、とにかく行き当たりばったりで始めたスクールアイドル活動。生徒会長の絵里や過去にスクールアイドルとして活動した経験のあるにこから当時目の敵にされていたとか。

 

 

「難しいことや大変なことはたくさんあった。けど、何としてもやり切りたいって思ったの」

 

 

 無謀な夢から始まった挑戦は多くの人を巻き込み、いつしかみんなの夢となっていた。それを叶える為に、彼女はひたすらに前に向かって走り続けたのだ。

 

 

「まだやり切れてはないし、叶えたい夢と目標も増えた。だからこれからも、私は私の我が儘でみんなと一緒にスクールアイドルを続けていくんだ」

「我が儘……。みんなじゃ無くて、自分の為か」

「うん、そうだよ。自分のやりたいことを、思いっきりやってやるんだ!」

 

 

 穂乃果の太陽の様な笑顔により、曇っていた翔琉の心に一筋の光を差し込んだ。

 

 

「自分……そうか自分か!」

 

 

 記憶を失う前、彼はスクールアイドルを応援したいという思いから行動を始めた。それはきっと彼女達の為であり、自分の為でもあるのだろう。彼女達が頑張っている姿を見たい、そしてそれを応援したいというエゴで彼は動いていたのかも知れない。

 過去の自分が本当はどんな想いで彼女達の為に行動していたのかは分からない。けど、彼女達だけでなく自分のことも含めたみんなの曲を作るということが今の彼に足りていなかったことなのだろう。そしてきっと、過去の自分が感じたであろう想いが、胸の奥に芽生えて来ていた。

 

 

「ありがとな高坂!答えが見えた」

「本当!?」

「ああ!最高の曲、今なら作れる!間違いねえ!」

 

 

 痞えが取れ、心が弾む様な気分だった。今すぐこの感情を曲にしたくてうずうずしている。

 

 

「こうしちゃいられねぇ、作曲するから俺帰るわ!」

「え、あ、翔琉君!?」

「またな高坂!!」

 

 

 胸に湧くメロディーを楽譜に書き記すべく、翔琉は一気に駆け出す。悩みを振り切り進み出した彼の背中を、穂乃果は微笑みながら見送るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 天地家には母の優里香と、悩んでいて元気の無かった彼を心配していた歩夢がいた。

 

 

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

 

 

 歩夢は出された麦茶を飲む。

 

 

「本当に翔琉は幸せよねぇ〜。高校生にもなってこんなに可愛い幼馴染が心配して家まで来てくれるなんて、今時なかなか無いシチュエーションよ〜。それで、2人はいつ付き合うの?」

「んッ!?ケホッ、ケホッ!え、ええっ!?わ、私はその……!?」

「真っ赤になって可愛いわぁ〜。私はいつでも歓迎だからね?」

 

 

 驚き吹き出しそうになりながら赤面する歩夢にそんなことを言う優里香。揶揄ってくる彼女に歩夢はたじたじである。

 

 

「それに早くしないと、かすみちゃんや愛ちゃんに取られちゃうかも知れないわよ?」

「そ、それは確かに……。最近果林さんも怪しい気がするし……」

「幼馴染の位置に安心してちゃダメ。ガンガン攻めていかなきゃ」

「わ、分かりました……?」

「私はみんなこと応援してるけど、歩夢ちゃんとは昔からの付き合いだし、少しだけ贔屓してあげるからね」

 

 

 そんなこんな話していると玄関が勢い良く開き、彼が帰って来た。

 

 

「ただいま!!」

「お帰り翔琉。夜だから静かにね」

「お帰りなさい翔琉君」

「あっ、すまん。そして歩夢、来てたのか」

 

 

 「お邪魔してます」と返す歩夢。彼は台所の方に行き、冷蔵庫や棚を物色してお菓子や飲み物を掻き集める。

 

 

「どうしたの翔琉君?」

「何か色々と吹っ切れてよ。今なら最ッッッ高に良い曲が作れる気がするんだよ!だから部屋に缶詰するわ!」

 

 

 そう言って彼は歩夢達の返答を待たずに集めたお菓子やらを持って部屋へ向かった。部屋に着いた翔琉は記憶を失う前に買っていた電子ピアノの前に座り、ヘッドホンの端子を挿して耳に付けた。そして鍵盤に指を落としてメロディーを奏で、それを楽譜に記していく。時折食べたり飲んだりしながらも集中し作曲を進めるその姿はとても活き活きとしていた。扉を少し開けてそれを見た歩夢と優里香は微笑み、邪魔にならない様にそっと扉を閉じた。

 

 

「この想い……きっとこれが……!」

 

 

 穂乃果との邂逅で見つけた自分の想い。それはきっと、初めてスクールアイドルを見た過去の自分と同じ。その想いの名は────

 

 

 

 

 

 

 

 

「ときめき……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

----------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

「出来たぞおおおおおおおお!!!」

「ひゃう!?」

「ひゃあ!?」

「うわぁ!?」

 

 

 翌日。大声と共に部室に飛び込んで来た翔琉。先に部室に着いていた9人のメンバー達はこれ迄に無い程テンションの高い彼に驚いてしまう。

 

 

「ど、どうしたですか先輩!?」

「びっくりした〜……!?彼方ちゃんお目めがパッチリになっちゃったよぉ〜」

「何かあったのかけるん?」

「翔琉さん、もしかして……?」

「ああ!曲が完成したぜ!!」

 

 

 そう言って数枚の紙と音楽プレイヤーを机に叩きつけた。それを見て皆は「おおー!?」と感嘆の声を上げる。紙は楽譜だけで無く、何と歌詞の書かれた物とダンスについて書かれている物まであった。彼は一晩で勢いのまま、一曲丸々作ってしまったのだ。

 「とりあえず聴いてくれ」と言ってプレイヤーから曲を流す。流れて来るのは彼が弾くピアノのと歌声。それを聴いた彼女達は感動してまた声を上げた。

 

 

「すっごーい!」

「翔琉、これ本当に貴方が!?」

「ああ、どうよ?」

「素晴らしい曲です先輩!」

「うん、私も凄く好き。璃奈ちゃんボード《わぁー!》」

「凄い、凄いよ翔琉君!」

 

 

 大盛況となっている翔琉の曲。しかし、ここである疑問が起こる。

 

 

「この曲って、誰が歌うんですか?」

 

 

 同好会はソロのスクールアイドルだ。つまりこの曲を歌えるのはメンバーの中で1人だけということになるとみんなは思っていた。とても良い曲なので皆自分が歌いたいという気持ちになっている。だが翔琉は首を横に振った。

 

 

「この曲はさ、みんなで歌って欲しいんだ」

「みんなで、ですか?」

「でもそれって、私達のやり方に反するじゃないかしら?」

「そうだな。でも、俺はみんなでこの曲を歌っているところを見たいって思ったんだ。自分勝手な我が儘なのは百も承知してる。でも頼む、みんながステージで最高に輝いてるところを見せてくれ!」

 

 

 頭を下げて懇願する翔琉。同好会やみんなのやり方に反している酷い我が儘だというのは分かっているが、それでも彼はみんなでこの曲を歌っているところ見たかったのだ。

 怒られるかと思ったが、彼女達は誰一人として嫌そうな顔などしていなかった。

 

 

「もちろんだよ!貴方の頼みだもんね!」

「かけるんからのお願いじゃ断れないもんね!」

「先輩のお願いわぁ、かすみんが叶えますよぉ!」

「みんなで叶えるでしょ、かすみさん。もちろん私も賛成です!」

「彼方ちゃんも翔琉君の為にバッチリ起きて頑張るよ〜!」

「ふふっ、そんなに頼まれたら断れないわね」

「みんなで繋がって歌えるの楽しみ!璃奈ちゃんボード《ドキドキ!》」

「翔琉君が頑張って作ってくれた曲。これに込められた想いをみんなで歌うね!」

「みんな……」

 

 

 彼の我が儘をみんな受け入れてくれた。そのことに胸が熱くなって来る。

 

 

「ねえ、この曲のタイトルを教えて?」

 

 

 歩夢からそう聞かれ、彼は笑顔を見せながら応えた。

 

 

 

 

 

「曲名は、《TOKIMEKI Runners》だ──」

 

 

 

 

 

 

 





他人だけでなく自分の為にも。それに気付き彼はまた一歩前に進むことが出来ました。そして生まれた曲が……。

次回、「トキメキを駆けろ」
μ's編ラスト!

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59.トキメキを翔けろ



遅くなりすいませんでしたあああああ!!





 

 

 

 

 

 あれから数日後。同好会のメンバー達はとある会場に来ていた。今日ここではスクールアイドルのイベントが行われるのだ。規模は然程大きくはないのだが、このイベントにはあのμ'sが参加するということもあり多くの観客が集まっている。

 参加スクールアイドルがパフォーマンスを披露していくのを翔琉は観客席から観ていた。どのスクールアイドル達も宝石の様に輝いており、素晴らしい歌と踊りで魅せてくれる。

 

 

「次がμ'sか」

 

 

 次は遂にμ'sの番。生で見るのは彼は初めてであり、かなりワクワクしている様子だ。そして彼女達はステージ並び、穂乃果が一歩前に出た。μ'sの登場に、観客のボルテージは一気に上がっていく。

 

 

「こんにちは! 私達はスクールアイドルのμ'sです!」

 

 

 笑顔で挨拶をする穂乃果。それから彼女達は個人の挨拶、所謂コール&レスポンスを行い、観客との心の距離を詰めていった。翔琉も事前に調べていた為完璧にコーレスをこなしており、何なら他の誰よりも声がデカい。その為周りも少し驚いていた。

 

 

「今日は精一杯歌います! だから、みんなも楽しんでいって下さい!!」

 

 

 穂乃果の声に観客達は応える様、歓声を放つ。

 そして遂にμ'sのパフォーマンスが始まった。全てを魅了する可愛らしく美しい歌声と踊りが、会場にいる人達の心を震わせる。誰もが彼女達から目を離すことが出来ずにいた。曲に合わせてコールが飛び交い、μ'sと観客が一つとなって会場を大いに盛り上げる。その様を見て、翔琉も心の底から大きく感動していた。流石はトップクラスのスクールアイドルと云ったところだろう。

 

 

「すげぇ……!! これが、μ's……!!」

 

 

 Aqoursの時に感じたものと想いと同じものが胸に湧き上がり、熱くなってくる。あの日の自分も、きっとこれを感じたに違いない。

 μ'sの曲が終わり、遂に虹ヶ咲の出番が回って来た。9人がステージに姿を見せて一列に並ぶ。真ん中に立っているのは歩夢だ。誰をセンターとするかという話の際、翔琉の強い要望もあって彼女がその座を掴むことになった。並んだまま、歩夢はマイクを口元に近付ける。

 

「皆さん初めまして! 私達は虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会です!」

 

 

 他のスクールアイドル達がグループ名を名乗っていた中、彼女達は学校の名前と同好会であると言った為、観客の中にはどういうことだろうと首を傾げている者もいた。全く統一されていないライブ衣装も他のスクールアイドルとは異質であることを感じさせる。

 

 

「私達はグループではなく、ソロでスクールアイドルの活動をして来ました。もちろん、これからもそれを続けていくつもりです」

 

 

 「けど……」と歩夢は言葉を続ける。

 

 

「今日は初めて、みんなで歌います! 私達の大切な人が、私達の為に作ってくれたこの曲を、ここにいるみんなへの大好きの想いを込めて!聴いて下さい───」

 

 

───TOKIMEKI Runners!!

 

 

 曲が始まる。軽快なイントロ、そしてそれに合わせて舞う9人の少女。色もデザインもバラバラの衣装だが、それぞれが輝いてまるで虹の様であった。

 

 μ'sとAqoursから感じたトキメキと輝き。大きく変わった世界の中で、自分の出来ることを探して彼は走り始めた。夢を見つけたことで湧き上がってきた勇気が、仲間達と巡り合わせてくれたのだ。

 

 ワクワクする様な物語(未来)を叶える為に、自分達の手で駆け抜ける。みんなと始めるこの物語が、輝ける明日と最高のトキメキを与えてくれると信じて──

 

 曲が終わりポーズを決める虹ヶ咲のスクールアイドル達。それを讃える様に、会場では大歓声が沸き起こるのであった。

 

 

 

 

 

 

「みんな、お疲れさん」

 

 

 イベントは無事終わり、翔琉は仲間達の元に来ていた。

 彼の前に、かすみがぴょんっと飛び出す。

 

 

「先輩! 今日のかすみんはどうでしたかぁ?」

「最高に可愛かったぞ」

「えへへぇ〜! やっぱりそうですよねぇ〜! かすみんが一番可愛かったですよねぇ〜!」

「あらぁ? なら一番情熱的だったのは誰かしら〜?」

 

 

 挑発する様に指を唇に当てながら果林が近付く。

 

 

「もちろん果林だな」

「フフッ、ありがとう」

「ねえねえ! 愛さんは!?」

「彼方ちゃんも頑張ったんだけどなぁ〜?」

「わ、私も知りたいです先輩!」

 

 

 更に続いて自分はどうだったかとメンバー達が聞いてくる。曲を作ってくれた、そして誰よりも近くで自分達を見てくれていた彼から感想が聞きたくて仕方ないのだ。

 

 

「愛の元気、彼方の優しさ、しずくの真剣さ、エマの癒し、かすみの可愛さ、果林の情熱、璃奈の心、せつ菜の大好き、歩夢の頑張り。全部伝わって来た。俺の胸にしっかりとな」

 

 

 トンと自分の胸を叩く。彼女達が歌に乗せた想いの全てはしっかりと翔琉に届き、そして会場にいた全ての人々にも届いただろう。

 初めてのみんなで歌ったライブ。その結果は大成功であったと言っても過言ではない。彼からの言葉に、みんなは笑顔になった。

 

 

「今日のライブが成功したのは、翔琉君のおかげだよ〜」

「俺の?」

「そうです! 翔琉さんのスクールアイドルが大好きだという気持ち……それがあったからこそ、この最高のライブが出来たのです!」

「私もそう思う。璃奈ちゃんボード《サイコー!》」

 

 

 みんなからそう言われて少し気恥ずかしくなる翔琉。

 実際にステージで歌っていたのは9人だが、彼女達は翔琉と共に10人で歌っているつもりだったのだ。きっと誰か1人でも欠けていたら、こんな最高のライブは出来なかっただろう。

 

 

「翔琉君がいるから私達は頑張れる。貴方はみんなにとって大切な人なんだよ」

「ありがとう。俺にとっても、みんなは大切な存在だ」

 

 

 笑い合う彼女達。そこへμ'sの皆が近付いて来た。

 

 

「みんな、お疲れ様!」

「おう。高坂達もお疲れさん」

「ねえ、今日の曲って貴方が作ったの?」

 

 

 真姫が翔琉にそう尋ねる。

 

 

「ああ。μ'sから貰ったヒントのお陰で、我ながら最高だって思える曲が出来たよ」

「そう。それは良かった」

「おー、真姫ちゃんがちゃんとお礼言えてるにゃー」

「何か仲良いけど、もしかして真姫、コイツに惚れた?」

「ア、アイドルは恋愛禁止ですよ!?」

「なっ!? そんな訳無いでしょ!? 変なこと言わないで!!」

 

 

 顔を真っ赤にしている真姫を見てみんなが笑う。

 

 

「とても良い曲だったよ! 作詞も天地君が?」

「今回のはな」

「なるほど……初めてであれだけの出来栄え、素晴らしいです」

「ありがと園田。μ'sにも負けてねぇだろ?」

 

 

 「ええ」と海未は頷き、ことりも「そうだね」と応える。彼が思い込められた曲は、トップクラスのスクールアイドルであるμ'sの皆の心にも響いていた。

 

 

「天地君の悩み、解決して良かったわね」

「これもカードの導きやね」

「カードがどうかは分かんねえっすけど、まああん時占って貰ったのは正解やったっすね」

 

 

 希の占いを受けてなかったら、みんなに悩みを話すことも無く、この曲も誕生してなかったかも知れない。そう考えると希にも感謝せねば。

 

 

「またいつか、みんなと一緒にライブがしたいな!」

「良いね。だったらAqoursも、そんで他のスクールアイドルも集めようぜ! みんなで思いっきりライブするんだ、絶対盛り上がる……!」

「それは、スクールアイドルフェスティバルですね!」

 

 

 せつ菜が興奮して前に出る。

 

 

「何だそれ?」

「スクールアイドルによるスクールアイドルの為の文化祭

の様なものです! 去年も大盛り上がりだったんですよ!」

 

 

 そう言って彼女はスマホの画面を見せて来た。そこには昨年のスクールアイドルフェスティバルの映像が映し出されている。ステージに立つ者達の笑顔は輝いており、それを観る観客もとても楽しそう。

 とても強いトキメキを、この映像から翔琉は感じた。

 

 

「いつもは夏に行われるんですけど、今年はオリンピックの関係で秋に行われるそうです! どうします翔琉さん?」

「最高じゃねぇか……! 出ようぜみんな!」

「フフッ、翔琉君ならそう言うと思った」

「良いじゃない。楽しそうだわ」

「かすみんの可愛さがまた世の中に広まっちゃいますねぇ〜!」

「うおおおっ! 愛さんも何だか燃えてきたよー!」

 

 

 どうやら皆、翔琉の案に賛成の様だ。虹ヶ咲の仲間達、そしてAqoursとμ'sとの出会いを経て新たに出来た目標に、翔琉は胸の奥が燃える様な感じがしていた。

 みんなで最高のライブを。その想いが彼を、スクールアイドルの皆を魂を震えさせる。

 

 

「スクールアイドルフェスティバル……俺達で最高に盛り上げようぜ」

 

───おぉーーーっ!!

 

 

 

 

 

 最高の夢(スクールアイドルフェスティバル)を見つけた翔琉。

 しかしその道に、とてつもない壁が幾つも立ち塞がることを、彼が知るのはそう遠くない未来であった───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京郊外にある統合先進装備研究所。そこは厳重な警備がされており、蟻の一匹通る隙も無い程だ。

 その施設の中央作戦司令室にはUNVERの堂馬参謀とその部下達がいる。

 

 

「進行状況はどうだ?」

「完成度は92パーセント。この調子ならあと数日で完全に完成します」

「それは素晴らしい……」

 

 

 堂馬参謀は満足気に笑う。

 

 

「コレが完成すればウルトラマンなど居なくても、我々人類の手で地球を守ることが出来る。どんな脅威が来ようと、全て殲滅可能だろう」

 

 

 司令室にある大きなモニターに、とあるモノが映される。

 以前、この地球に降り立ったウルトラ戦士・ゼロに酷似したロボット。ゼロのサイバーカード、バラバなどのスパークドールズ、そして鹵獲したキングジョーなどのデータによって生み出された人類最強の機動兵器。人類に敵対する者全てを抹殺するであろう究極の力。

 

 

 

 

 

「愚かな上層部もXioも、これを見れば考えを変えるだろう。このウルトロイドゼロを見ればな」

 

 

 

 

 

 

 ウルトロイドゼロ。この人類の希望が、災厄を呼び起こすことになるなど、誰も知る由は無かった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カタラは夜道を歩いていた。にこにこと笑いながら、人気の無い道を上機嫌で。明里や翔琉から徹底的に邪険にされているカタラだが、全く気にしていない。そんなカタラの背後に、時空の穴が空いた。振り向くカタラ。その穴から、3人の宇宙人が飛び出して来る。

 

 

「久しぶりだな、カタラ」

「これこれは……マグマ星人3人衆じゃないか。どうかしたのかい?」

 

 

 サーベル暴君の別名で知られるマグマ星人。その中でもエリートであり、とある者に仕えているのが彼ら3人だ。リーダー格であるマグマ星人が、カタラに声を掛ける。

 

 

「我らの帝王より通達だ。軍団はいずれ、この宇宙に侵攻する」

「ああ、遂にか」

「貴様が報告した闇の力、嘘偽りではないだろうな?」

「嘘吐く訳無いよ。ボクだって君達の仲間なんだから」

 

 

 笑うカタラ。実はカタラは、彼らと同じ軍団に属しているのだ。その為マグマ星人3人衆とは仲間なのである。

 一応、にはなるが……。

 

 にこにこと笑うカタラを見て、両端のマグマ星人が「ケッ」と苛立った様な仕草をする。軍団の中で……いや、全宇宙の中で最も信頼出来ないのがこいつだと彼らは思っていた。

 

 

「それから気に喰わないが、ギナ様より貴様に従う様命令されている」

「へぇー、ギナちゃんからか」

「ッ、貴様ァ……! 様を付けろこの痴れ者がァ!」

 

 

 1人のマグマ星人が激昂して、サーベルを装備し襲い掛かる。鋭いサーベルの先端が、カタラを串刺しにせんと向かっていた。

 

 しかしそれを、カタラは左手で容易く受け止める。

 

 

「何ッ!?」

「もぉ、ダメじゃないか? ボク達は仲間なんだからさ」

「仲間だァ? 貴様の様な奴、誰も仲間だとは思ってないわ!!」

「んー、残念。………じゃあ少し、お仕置きしようか?」

 

 

 瞬間、闇がカタラを包み込みその姿を変質させた。長く伸びた頭部は2本の角の様な物があり、両腕には鋭い鰭、両肩には天を突く角が生えている。赤と黒の不気味な体色、紫の瞳は、あの最悪のウルトラマンと同じ様に禍々しく釣り上がっていた。

 その姿を見た者は、あの究極の存在を思い出すであろう。

 

 

「なッ……!? 貴様その姿は……!?」

「フフフッ……さあ、どうする?」

「くっ……!?」

 

 

 こいつには勝てない。そう感じたマグマ星人はサーベルを引っ込めた。

 

 

「うん、物分かりの良い子は大好きだよ」

「……成る程。噂には聞いていたが、まさか貴様だったとはな。軍団の上位にいるのも頷ける」

「それはどうも」

「しかし、かつて数万年の間宇宙を支配した者と同じ存在がただの傘下とは、面白いものだなぁ……──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───レイブラッド星人よ」

 

 

 

 リーダーのその言葉に対してカタラは笑う。

 何万年にも渡って宇宙を支配し、究極生命体と呼ばれる存在。それと同じ遺伝子を色濃く持つ者。それこそがカタラなのだ。

 

 

「ボクはただ、友達を探してるだけなんだ」

「友達……だと?」

「そう。そしてこの地球にはボクの友達になれる似た者同士が2人もいるんだ!」

 

 

 楽しそうに手を広げて夜空を見つめる。空では不気味に、星が光っていた。

 

 

 

「ね、明里ちゃん、そして翔琉君───」

 

 

 

 

 

 






μ's編、これにて終了です!
ただμ's編とした割にはあまりμ'sと関われておらず……。いろいろと急足になっていて反省してます……。

スクールアイドルフェスティバルという新たな目標を見つけた翔琉達。本来アプリのストーリーでのスクールアイドルフェスティバルは描写的に夏と思われますが、こちらでは秋開催となっています。



そして堂馬により、あの兵器が作成されてしまいます。それが物語にどんな影響をもたらすのか、是非お楽しみに……。


とある軍団による侵攻の開始。更に、カタラの正体が少しだけ判明しました。
あのレイブラッド星人と同種の存在という設定です。
レイオニクスとは違い、同族と言っていい存在です。レイブラッド星人は種族なのか、単体の存在なのかなどが公式で設定されていませんが、本作ではオリジナル設定を用いていきます。


これからどの様な困難が翔琉に待ち受けているのか?
是非お楽しみに。


それではまた次回お会いしましょう。
感想、高評価、質問、その他、ここすき、是非是非お待ちしています!



次回、◯◯◯編。
「胡蝶ノ妄執」




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60.胡蝶ノ妄執


先日、私も参加させて頂いてたコラボ作品「ウルトラのキセキ〜One More Sunshine Story〜」が完結を迎えました。
非常に素晴らしい作品に参加出来たこと改めて嬉しく思い、企画者であるがじゃまる様には心より感謝しています。

参加作品の中で唯一完結してないこの作品ですが、これから頑張っていくので是非応援よろしくお願いします。

世間では新ライダーリバイスが始まったり、ウルトラマンティガが配信解禁になったりと特撮が大盛り上がり。その勢いに便乗していきたいと思ってます。


さて今回の話ですが、一風変わったものとなってます。
60話、〇〇〇編……どうぞお楽しみ下さい。









 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもと変わらない朝。

 いつもと変わらない空。

 いつもと変わらない街。

 

 その風景を眺めながら、私は歩く。今日も夏真っ盛りであり、強い日差しが降り注いでいた。けど時折髪を揺らしてくれる風は涼しく、決して不快な日では無い。

 今日もまた、何かときめきに出逢えそうな気がして心が躍り、思わず笑ってしまう。

 

 

「どうかしたの?」

 

 

 すると隣りを歩いている幼馴染が声を掛けて来た。

 

 

「んー、今日も良い日だなぁって思って」

「ふふっ、相変わらずだね」

 

 

 私の言葉に幼馴染は笑顔を見せてくれる。幼い頃からずっと一緒だった彼女。私がどんなことを思っているのか全部理解してくれてるみたいだ。

 

 

「そうだ! 今日同好会の練習が終わったらみんなでクレープ食べに行こうよ!」

「もしかして、駅前に新しく出来たお店の?」

「うん!」

「良いよ。じゃあ、みんなにも伝えないとね」

 

 

 スマホを出してみんなにメッセージを送る。するとすぐに返事が返って来た。「いいね!」、「賛成!」、「行きます!」、「楽しみ!」、「了解!」などなど、全員賛成してくれた。

 

 

「みんな来てくれるね」

「今から楽しみだなぁー」

「じゃあ、いっぱい練習してお腹空かせないとね」

「そうだね。だったら───」

 

 

 笑い掛けてくれる彼女の手を私は握る。

 

 

「へっ?」

「学校までダッシュだぁー!」

「ちょ、ちょっとぉ!?」

 

 

 その手を引きながら、私は彼女と共に走った。楽しみを待ち切れない。そんな気持ちが私の背中を押している様に感じて足が自然と動き出すんだ。

 

 

「ほら!急ごう歩夢!」

「もう、わかったよ侑ちゃん」

 

 

 今日もときめきを求めて私の、高咲 侑の一日が始まった!

 

 

 

 

 

 

 

 虹ヶ咲学園。東京のお台場にあるここが私達の通っている高校だ。そして学園のスクールアイドル同好会に、私も歩夢も所属している。と言ってもアイドルをしてるのは歩夢で、私は彼女や他のみんなのサポートをする裏方なんだけどね。

 キラキラして最高にときめくスクールアイドルを応援するのが、私のやり甲斐になっている。

 

 今は部室で、今後のライブについて話し合おうとしている。この前スクールアイドルフェスティバルという大きなイベントを大成功させた私達。次はもっとたくさんの人にスクールアイドルの魅力を届けることが出来るライブをしたい。みんなにも、たくさんのときめきを感じてもらいたいんだ。

 

 

「それにしてもこの前のライブ、最高だったね!」

「うん。みんなと繋がれて嬉しかった」

 

 

 愛ちゃんと璃奈ちゃんがそう話していた。それからみんなも口々にこの前のライブの感想を話し始めた。みんなが輝いてたあの日の光景は、私の中にも強く残っている。

 

 

「そうだ! 写真部の子達からみんなのライブ写真送って貰ってるから見ようよ!」

 

 

 私はスマホを出す為にカバンの中に手を入れた。あれ……?

 

 

「んっ? これ、何だろう……?」

 

 

 カバンの中にあったのは見た事の無い変な機械。画面は付いているけどスマホにしては大きい。何かのおもちゃだろうか?そういえば小さい頃見たことのあるヒーロー物にこんなアイテムがあった様な……。というか、そもそも何でこんなの私が持ってるんだろう?

 

 

「ねえ、これ何だか分かる?」

 

 

 歩夢に聞いてみた。でもまあ、知ってる訳がないか……。

 

 

「何言ってるの?ずっと持ってたじゃない」

「えっ?」

 

 

 彼女からそう言われたけど、覚えは全然無い。こんなの見たの初めてだ。

 

 

「そうだよ、ゆうゆがXioに入った時から持ってたじゃん」

「じ、じお?」

 

 

 初めて聞く単語に戸惑う。ジオって何?

 私同好会意外に部活やってないし、バイトとかもしてない筈なんだけど……。何が何だか分かってない私のことを、みんなは不思議そうな瞳で見ている。

 

 

「侑先輩、何かおかしいですよ? どうかしたんですか?」

「コラかすみさん、そんなこと言わないの」

「けど、確かに何だか変ねぇ……。疲れてるのかしら?」

「あ、もしかして!」

 

 

 せつ菜ちゃんが何か閃いた様に手を叩く。

 

 

「スクールアイドルフェスティバルについて考えてて、余り眠れてないとかですかね?」

「へっ? あー……確かにそうかも。すっごく楽しかったし、まだ余韻が抜けないっていうか……」

「余韻、ですか?」

「うん」

 

 

 そう言うとみんなの顔がキョトンとする。え、私何か変なこと言ったかな……?

 すると歩夢が心配そうに私を見て来て───

 

 

「何言ってるの侑ちゃん? スクールアイドルフェスティバルは秋だからまだ開催してないよ」

「………えっ?」

 

 

 彼女の言っていることが一瞬理解出来なかった。

 そんな筈は無い。だって私は……私達は間違い無くスクールアイドルフェスティバルを開催した筈……!

 

 

「この前のライブの時に出ようって決めたんじゃない」

「ゆうゆ、もしかして忘れちゃった?」

 

 

 ライブの時にというのもおかしい。私がスクールアイドルフェスティバルを開催したいって思ったのはみんなで夏合宿をした時だから。

 何かおかしい、何か変。

 でも、私以外はそんなこと感じていないみたいだ。

 

 

「もしかして、待ち切れなくて夢見ちゃったとかぁ〜?」

「夢の中でライブって、まるで彼方ちゃんみたいだね!」

 

 

 彼方さんとエマさんがそう言う。いつもならそれに対して笑ったり出来るんだけど、今はそんな余裕は無い。襲って来るとてつもない違和感が、私を支配しようとしている様で何だか気味が悪かった。

 

 

「違う……だって、私達は───」

 

 

 スクールアイドルフェスティバルをやり遂げた筈。そう言おうとした時、身体の力がどんどん抜けていく感じがした。

 

 

「侑ちゃん?」

「あ……れ………?」

 

 

 私はそのままテーブルに伏してしまう。力が入らない。瞼が重い。段々意識が遠退いていく……。

 これ……何なんだろう……?

 自分に何が起こっているのか、私には少しも解らなかった……─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────………んっ?

 

 

「おはよう、翔琉君」

「あ……おはよ、歩夢」

 

 

 目を覚ますとそこは部室だった。俺はテーブルから身体を起こす。

 

 

「おはようって言っても、もうお昼だけどね」

「マジかよ」

 

 

 時計を見ると確かに正午はとっくに過ぎていた。でも妙だな……俺、いつの間に部室に?

 昨日は確かこの前のライブの動画と写真を整理して璃奈に送った後、少し作曲をしてから寝た筈……。そこまでは覚えているだが……。

 

 

「どうかしたのかけるん?」

「ん? いや、何か朝の記憶が無くてよ」

「え、先輩もしかしてまた記憶喪失になったんですかぁ!?」

 

 

 驚くかすみ。ていうかまたとか言うなよ。

 でもまあ、記憶が無いのは確かだ。今朝から今迄の記憶が抜け落ちてる……。一体何故だ?

 

 考えるが、答えは出ない。

 

 

「大丈夫なの翔琉?」

「まあ、気分は悪くないし大丈夫っしょ」

「なら良いけど……」

 

 

 周りが少し心配そうな顔してるけど大したことは無いだろう。身体も普通に動くしな。

 

 

「では話し合いを続けましょう」

 

 

 せつ菜がそう促した。

 俺が眠ってる間何の話してたんだろ?

 

 

「先日のスクールアイドルフェスティバル、大好評でした! それで多くの生徒から是非二回目をとの声が上がっています!」

 

 

 …………は?

 

 

「大盛り上がりだったもんねぇ〜。遥ちゃんもまたやりたいって言ってたよ」

「愛さんもやりたい! 今度はもっと美味しいもんじゃを用意するよ!」

「次回はよりハイレベルな演劇を取り入れれたらと思います。せつ菜さん、かすみさん、手伝ってくれますか?」

「もちろんですとも! 今度も燃える様なステージにしましょう!」

「良いけど、今度はかすみん可愛いヒロインにしてよね?」

「私も、もっとたくさんの人と繋がりたい」

「そうだね! 私も次はもっともっとポカポカした気持ちになりたいな!」

「次も最高にセクシーで情熱的なステージを魅せなくちゃね」

「フフッ、今から次のスクールアイドルフェスティバルが楽しみだね翔琉君!」

 

 

 俺はみんなの言っていることの意味が分からなかった。

 

 

「お、おい、待てよ」

「どうかした?」

「いや、先日のスクールアイドルフェスティバルって、どういうことだよ?」

「どうもこうも、虹学と東雲学院、藤黄学園のスクールアイドルと一緒に開催したじゃない。もしかして寝惚けてるのかしら?」

 

 

 東雲……? 藤黄……?

 果林からそう言われたが全く心当たりが無い。確かにスクールアイドルを調べていた時この2つの学校の名は見たが、関わったことなど無い筈だ。

 

 それにスクールアイドルフェスティバルを開催した?そんな筈が無い。だって、開催されるのは秋だ。今はまだ夏なのだから有り得ないし、そもそもそんな記憶俺には無い。

 みんなが俺抜きで開催した? それは無い。彼女達は決してそんなことはしない。

 俺が忘れている? それも変だ。というか時期的にも今スクールアイドルフェスティバルが開催されるなんておかしい。

 

 

「歩夢」

「へっ? ちょ、翔琉君!?」

 

 

 彼女の顔に自分の顔を近付けてじっと見る。もしかしたら、ここにいるみんなが異星人の化けた偽物って可能性もあるから。だが彼女から怪しい気配は感じない。それから愛、かすみ、果林、せつ菜、璃奈、しずく、彼方、エマと順に見てみたが、全員紛れもなく本物だ。

 少しだけ違和感は感じたが間違い無いだろう。

 

 

「何がどうなってやがる……?」

 

 

 明らかにおかしいのだが、それを認識してるのは俺だけ。自分だけが取り残されている様な奇妙な感覚に吐き気がしそうだ。

 とりあえずこれを沙優さん達に伝えなきゃ……あれ?

 

 

「デバイザーが、無い……!?」

 

 

 ポケットやカバンの中を見たのだが、エクスデバイザーが何処にも無かった。まさか、奪われたのか……!?

 

 

「なあ、俺のデバイザー見てないか!?」

「デバイザー?何それ?」

「ほら、Xioに連絡する時とかに使ってたやつだよ!」

 

 

 ウルトラマンに変身する為の物、とは言えないからそう言う。実際彼女達の前で何度か使ったことあるし伝わるだろう。そう思っていたが……。

 

 

「じお?」

「何ですかそれ?」

「は、はぁ?」

 

 

 全員初耳所か、Xioというものを今知ったと言わんばかりの反応をしている。俺がXioに所属していることは周知の事の筈だったのに。

 一体どうして……?

 

 

「ほら、この写真見て」

 

 

 俺が混乱していると、歩夢が1枚の写真を差し出した。そこには笑顔で写っている同好会のみんなと、他十数名のスクールアイドルと思わしき少女達。そして同じく、満面の笑みを浮かべた()の姿が───

 

 

「っ……!?」

 

 

 いや、何だ今の?

 ここに写ってるのは俺……? でも、そうでないとおかしい……。違う、そうだとするとおかしいんだ。

 けど……いや……そんな筈は……。

 

 頭の中でノイズが走る。そして身体がゆっくり沈んでいく。

 

 

「翔琉君?」

「何だ……これ………?」

 

 

 異変が起きているのは解る。けど、それが何なのかが解らない。

 感じた事の無い感覚を味わいながら、()の意識は融けていく……────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ?(あれ?)

 

 

 ()はそこに立っていた。大人三人分くらいの幅の道が奥まで続いているその場所に。床も、壁も、天井も、全てが真っ黒だけど、不思議なことに明るく周囲を認識出来る。

 と言っても、長い道の先は見えないが……。

 

 

 ()は歩き出した。無言で、まるで誰かから背を押されている様にただただ歩く。すると、左右の壁に映像が映し出されていった。

 その中には全て、同好会のみんなが映っている。そして彼女達を支えているであろう者の姿も。

 

 

 けど、それは()では無かった。

 おかしな映像がいくつも浮かんでは消えてまた浮かぶ。数で言えば女の子の方が多い。しかし男の子の姿もある。誰もが彼女達から明るい笑顔を向けられていた。

 ()じゃないのに。

 

 

 ふと気付く。()も何かおかしい。何か変だ。

 でもそれを認識出来た筈なのに、何も出来無いまま()は歩みを進める。

 

 

 目の前に扉が現れた。()はそのドアノブを捻って開け、中へと入る。

 先程までの道と同じく真っ黒な部屋の中心には、白い机がぽつんと一つ。そして、そこで1人の女性(男性)が粘土を捏ねていた。辺りには、紫の蝶が飛んでいる。

 

 

あなたは?(アンタは?)

 

 

 男性(女性)はこっちを見ること無く声を出す。

 

 

【一つの歴史が生まれる時、同時に無限のifが生まれると言ったら、アナタは信じますか?】

 

 

 どういうことだろうと()が考えていると、男性(女性)は更に言葉を続ける。

 

 

【例えばA、B、Cの三つの選択肢があり、その中でAを選んだ時、それとは別にBを選んだ世界、Cを選んだ世界、更に何も選ばなかった世界や、全て選んだ世界も同時に生まれるということです。そうやって世界は無限の可能性を広げていくのです。でも誰も、それを認知することは出来無い】

 

つまり並行世界ってことか。(それって別の世界ってこと?)知ってるっての(よく分からないけど……)

 

 

 ()は思わず口を押さえた。出した筈の言葉が何かおかしい。何故()は、並行世界を知ってる(知らない)と言ったのか?

 そんな()のことなど気にもせず、女性(男性)は粘土を捏ねている。

 

 

【この世界は複雑なのです。一つの正史が生まれた時、全く同じ物語(道筋)ながらそれを辿るのは同じ者では無い。そして更に新たな正史が生まれた】

 

新たな正史って?(新たな正史だと?)

 

【世界は無限に分かれた。そして、有り得ない筈のモノまで混じり、混沌たる異聞がいくつも生まれた。有り得ない恐怖、有り得ない闘争、有り得ない破壊、有り得ない希望、有り得ない絶望、有り得ない結末。それは受け入れられ、拒絶されながらも有り続け、終わりを齎す。そこに生きる者達にとって恐ろしいデウス・エクス・マキナです。そうは思いませんか?】

 

 

 女性(男性)は粘土を捏ねる。目の前のこの男性(女性)が何を言っているのか、()には理解が出来無い。心意が見えて来ない。

 

 

貴女(貴方)、お名前は?】

 

俺は……(私は……)

 

 

 自分の名前を口から出す。

 

 

たかさき(あまち) ゆう(かける)

 

 

 自分の名前に何か(誰か)が重なった。

 おかしい……おかしい……! 自分の中に、誰かがいる……? いや、自分に何かが重なっている。侵食とは違う。けど、絶対に良くないことが自分に起こっているのだけは理解出来た。

 

 ()は……()は……。

 

 手を伸ばす。どんどん、どんどん、何かが遠ざかっていく。それは決して逃しちゃいけないモノ。だから()は必死に手を伸ばした。けど、手は届かない。()はどんどん離れていく。

 

 

【まずは正史を一つ、異聞を一つ】

 

お前は……誰だ……!?(貴方は……誰なの……?)

 

【誰、と聞かれても答えを持ち合わせてないのですよ。そうですね……ただ、これの名前だけは決まりました】

 

 

 掌には先程まで捏ねていた粘土が、球体になった状態で乗っていた。

 

 

【魔デウス。それがこれの名前です】

 

 

 魔デウス……それが()がこの場で呟いた、最後の言葉になった……─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【胡蝶の夢という逸話があります。それはまるで今の貴方(貴女)達の様ですね。ただ、夢というには些か醜くも思えます。手放せず、何処までも求めて縋り付くその様……。どうでしょう?貴女(貴方)達のそれは───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───胡蝶の妄執とでも呼びましょうか】

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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61.デ憂ス・穢クス・マキ無

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)って知ってますか?」

 

 

 しずくちゃん(しずく)()にそう問い掛ける。

 粘土が一度捏ねられる。

 

 

──知らない(知ってる)

 ()の口から出たのは異なる二つの答え。

 

 

「古代ギリシャの演劇で使われていた手法です。劇の内容が錯綜して縺れた糸の様に解決困難な局面に陥った時、絶対的な力を持つ存在……神が現れ、混乱した状況に一石を投じて解決に導き物語を収束させる。それって、見方を変えれば物語の主人公もそうなんじゃないかって私は思うんです」

 

 

 コツコツと足音を鳴らしながら、せつ菜(せつ菜ちゃん)()に近付いて来た。

 粘土が平たく伸ばされる。

 

 

「どんな不幸も、どんな絶望も、物語の主人公は跳ね除けて最後には希望を掴み取る。望む未来を掴み取ることが出来る、絶対的な存在なんですから」

 

 

 果林さん(果林)が目の前に立った。

 粘土が二つに千切られる。

 

 

「特にアナタの様な、存在しない筈の主人公はそうなんじゃないかしら?」

 

 

──どういうことだ?(どういうことですか?)

 彼女はいつもと変わらない笑顔で目の前にいる。

 

 

「貴方を必ず私達は好きになる。貴方は必ず困難を乗り越える。貴方に必ず奇跡が起きる。用意されたシナリオは、貴方にとって素晴らしいものなのだから」

 

 

 彼方(彼方さん)()の横に立つ。

 粘土がくっ付けられる。

 

 

「本当に不思議だよねぇ。訪れるのは貴方にとって……貴方をミる(・・)人達にとって楽しいって思える結末なんだから。それに私達は着いていくだけ」

 

 

 気付けば目の前には璃奈ちゃん(璃奈)がいた。

 粘土がまた捏ねられる。

 

 

「ねえ、アナタは本当に、貴方が存在してると思う?」

 

 

──私の、存在?(当たり前だ)

 ()と誰かの思想と声は、次第に別れていく様だ。

 

 

「この世界は誰かによって作られた世界。誰かの都合で書かれた世界。誰かの願望(欲望)がただ詰められただけの世界。そこで私達は動く駒でしかないって考えたことはない?」

 

 

──何が言いたい……?(どういう、ことなの……?)

 エマさん(エマ)が背後から声を掛けて来た。

 粘土が丸められる。

 

 

「つまりこの世界は創作物。誰かが書いたアナタにとって都合良い世界ってこと。私もアナタも、外の世界の誰かが書いたシナリオに従って動いているだけ。今この瞬間も……そうは思わない?」

 

 

──そんな筈は無い……(そんな訳無い……)

 否定する()。でもその言葉に、力は無かった。

 

 

「ねえ、先輩。物語には大きな柱があるんです。そしてそこから枝分かれして世界は広がっていく。でも、それと関係の無い場所で勝手に物語が産み出されてしまうこともあります。分かり易く言うと、二次創作ってものですね」

 

 

 かすみちゃん(かすみ)()の隣りでそう言った。

 粘土が潰される。

 

 

「本来の物語を誰かが真似て作った作品。居ない筈のアナタ(主人公)や人が居る。そして時に他の世界と交わって渾沌の中で進んでいく。私達はそれに従うだけ。誰かの思う通りに動いて、アナタ(主人公)の側にいるだけ」

 

 

 眼前にいる(愛ちゃん)の瞳に、()の姿が映されている。

 彼女達の言葉で、()の頭と心はゆっくりと掻き混ぜられている様な感覚に陥っていた。段々と誰かと混ぜられている様で、それが段々と離れている様。自分という存在が、揺らいでいるみたいだ。

 粘土がまた丸められる。

 

 

「ねえ、侑ちゃん(翔琉君)

 

 

 歩夢が自分の名前(知らない名前)を呼び、頬に手を添える。

 粘土が撫でられる。

 

 

「アナタは誰?

 アナタは生きてる?

 アナタは存在してる?

 アナタに意思はある?

 アナタの物語は必要?

 アナタは……誰かに望まれてる?」

 

「俺は!/私は!」

 

 

 隣りで誰かの声がした。先程まで重なり、混ざっていた筈の声だ。そして感じられる人の気配。

 

 私の隣りに、その誰かがいる……。

 俺の隣りに、その誰かが立ってる……

 

 ゆっくりと横に目線を向ける。

 ゆっくりと横に首を向ける。

 

 次の瞬間、身体は弾かれて、闇の中に沈んでいった

 

 丸くなった粘土が、ポツンと机に置かれている。

 その真ん中が、地獄の門の様に開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は校舎の前で倒れていた様だ。立ち上がって周囲を見回す。辺りは真っ暗で夜なのかなって思ったけど、空には星も月も無い。ただ黒く塗り潰されただけみたいで気味が悪い。

 後ろから轟音が鳴った。振り向いてみると、そこに居たのは丸くて大きなナニか。

 

 

「魔デウス……」

 

 

 それが何なのか、私には何故か理解出来てしまった。形を変えて、魔デウスは動き出す。

 

 終わりのシナリオ。それを書き始める為のキーボードが、叩かれる音が響いた様な気がした………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は存在しない筈の存在。

 誰かのエゴで生み出された存在。

 架空の中の更なる架空。

 物語の形を歪ませる異物。

 消さなきゃ。居なくならなきゃ。オリ主(俺達)は邪魔でしかない。在るべき世界を渾沌に貶す災厄なんだ。

 消えなきゃ。無くならなきゃ。

 

 一つ、一つ、話を消していく。これで良いんだ。邪魔な物語(世界)が一つ消えて、少しずつ在る形に戻っていくから。

 俺は不要な存在。俺は害でしかない。俺は……────

 

 

 

 

 

「……………違うッ!!」

 

 

 疎まれる存在だろう。気に喰わない存在だろう。消えて欲しい存在だろう。でも、それでも俺はここに居る。誰かに作られた存在だとしても、誰かの意思で全て決められているとしても、この心は俺の物なんだ。

 俺を生み出した誰かにも、俺を見てる誰かにも奪わせはしない。

 

 

 景色が変わる。白い部屋。そして真ん中にある机の上にはノートパソコンが置かれていた。すぐにそれに近付いて画面を見る。キーボードが一人でに打たれ、文字が刻まれていく。

 タイトルは「デ憂ス・穢クス・マキ無」。

 ひたすらに世界を破壊していく怪獣・魔デウスの姿と、それをただ見ることしか出来無い主人公の話だ。主人公の名前は高咲 侑。彼女は何も出来ずに呆然として魔デウスの破壊活動を見るだけだ。そして話には、スカイマスケッティも登場していた。魔デウスにより、最も簡単に堕とされてしまっているが……。

 

 

「まさか……」

 

 

 ポケットや懐に手を当てる。やはりデバイザーは無い。

 恐らく話の中の世界は俺が存在した世界。そこに侑という少女が代わる様に飛ばされたのだろう。

 恐らく彼女は、今俺と同じ立場にある。ならば……。

 

 俺はキーボードを打つ。彼女にメッセージを伝える為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひたすら破壊を続ける魔デウスに、私は何も出来なかった。そもそもただの女子高生があんな怪獣に出来る事なんて初めから無いんだ。

 私も世界も、全てが終わる。もう大切な友達や幼馴染、家族と会うことも出来無い。ときめきを感じることも出来無い。ごめんね、みんな……。

 

 

 

 

 

 

《高咲!高咲 侑!!聴こえるか!?》

 

 

 不意に、頭の中で声が聞こえて来た。これはあの時、私と重なっていた声だ。それが誰なのか、何と無くだが私には分かってしまった。

 

 

「天地 翔琉君……?」

《正解だ。いいか、良く聞け。お前は入れ替わって俺になっている。だから、ウルトラマンエックスに変身出来るんだ》

「ウルトラマン、エックス……」

 

 

 ポケットの中にあった機械を取り出す。これがウルトラマンエックスに変身する為の物であると何故だか分かった。

 

 

「でも、私そんなこと出来無いよ……!?」

《出来る!俺が必ずエックスが勝つ物語を完成させる!》

 

 

 ………やるしかない。大切なものの為にも。

 

 

「信じてるよ翔琉君」

《ああ、任せろ侑》

 

 

 私は機械の上にあるスイッチを押した───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 閃光が迸り、ウルトラマンエックスが出現。先手必勝。ブーメランの様な形で上空に浮かんでいる魔デウスに向かってザナディウム光線を放つ。魔デウスはそれを受けて堪らず爆発。

 することは無く、光線を吸収、増幅してエックスに返した。

 

 

───チッ、簡単には終わらせないってか。

 

 

 エックスは横に飛んで光線を躱す。

 魔デウスは球体になってエックスに突撃。その身体でエックスにのしかかる。エックスは苦しみの声を漏らしている。

 隙を突いてエックスは魔デウスから離れる。そして光弾を放った。

 しかし魔デウスにそんな攻撃は通用しない。

 

 

───くそ!負けるシナリオなんか、完成させはしない!

 

 

 エックスは駆け出して魔デウスに突っ込む。強烈なパンチをその身体に叩き込んだ。

 寸前で魔デウスは大きな口を開き、エックスを呑み込んでしまった。

 

 

───何!?

 

 

 魔デウスの中、終わる事なき激痛がエックスを襲う。身体はボロボロ、心も折れ、もう反抗することは叶わない。ウルトラマンエックスはここで倒れ、世界は魔デウスによって終わりを迎え────させるかよ!!

 

 

 エックスは目覚め、身体からエネルギーを放ち逆流させる。苦しむ魔デウス。エックスは高速回転しながら飛び、魔デウスの身体を突き破って体内から脱出した。魔デウスを背にして大地に降り立つエックス。そして振り返り、ザナディウム光線を再び放った。もう吸収することも耐えることも、躱すことも出来無い。光線は魔デウスに炸裂し、爆散させる。腕を下ろすエックス。ウルトラマンの活躍で、世界は守られたのだ。

 

 

〈完〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……。何とか、なった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「おはよう侑ちゃん!」

 

 

 朝。学校に向かっている私に歩夢が声を掛けた。

 

 

「おはよう歩夢」

 

 

 いつもと変わらない日。

 当たり前だけど、大切な日。

 青く澄み渡る空が輝いてるみたいだ。

 

 

「どうかしたの?」

「今日も明日も、ときめきを見つけられたら良いなって」

「ふふっ、そうだね」

 

 

 私が笑うと歩夢も笑った。

 大切な幼馴染。彼女とこれからもずっと一緒に入れたらなって思う。

 

 

「…………ありがとう」

「ん?」

「何でも無いよ」

 

 

 私は走り出す。もう逢う事の無く、次第にその記憶が薄れて来てる友人を想いながら。

 これから先の未来、どんな物語が待っているかは分からない。でも私はみんなと走り続ける。

 虹の向こうまで────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベッドから起き、カーテンを開ける。朝日が部屋の中に差し込んで眩しい。

 窓を開いてベランダに出る。

 見上げると、青い空が何処までも広がっていた。

 

 

「翔琉君」

 

 

 横を向くと隣りの部屋の歩夢がベランダに出てこちらを見ていた。

 

 

「おはよ」

「うん、おはよう」

 

 

 俺は彼女に近付き、その頬に触れた。

 

 

「か、翔琉君……?」

 

 

 俺も歩夢もここにいる。この世界に存在している。彼女だけじゃなく、この世界の全てが存在してるんだ。

 それはきっと間違い無いこと。大切な人達が存在している、この世界を守りたい……なんてヒーローみたいなことを思ってしまってた。

 

 

「どうかしたの?」

「どうもしてないさ」

 

 

 軽く頬を突いた後、空をまた見上げる。

 

 

「ありがとな」

「えっ?」

 

 

 段々と記憶から消えていく何処かの友人に想いを馳せる。

 俺の物語はまだ終わらない。誰かに否定されても駆け続ける。きっとそれが、生まれた理由なのだから───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 憂いの物語。

 穢れた物語。

 無き物語。

 

 喜ばれもすれば疎まれもする。

 肯定もされれば否定もされる。

 誰かの言葉で希望を得ることも、絶望に陥いることもある。

 

 エゴの塊なのであろう。身勝手の極みであろう。望まれてないかも知れない。

 それでも我々は、世界(物語)を綴る。

 

 多分それが我々の─────

 

 

 

 

 

 

 



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62.禁断ノ機動兵器

お久しぶりです。
いろいろあって執筆が遅れ、更にとある事による意欲の低下もあり一ヶ月以上待たせることになってしまい申し訳ありません……。
とある事については後書きにて話させて頂きます。


今回から新たな展開。
遂にあの兵器が完成することに……。

早速本編をどうぞ。



 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 

 狭いコックピット。そこに翔琉は座っていた。左右の操縦桿を軽く握り、足はペダルの上に添えてある。幾つものスイッチや計測器の備えられたその中で、彼は目の前のモニターを見ながら溜め息を吐く。

 

 

《聞こえるか、天地隊員?》

 

 

 被っているヘルメットを通じて届く気に喰わない声。堂馬参謀のものだ。翔琉は舌打ちしたいのを我慢してそれに応答した。

 

 

「しっかり届いてるっすよ」

《なら良い。忘れるなよ? 今から貴様にやってもらう事は、我々にとってとても重要なパフォーマンスであるというのを》

「だったら自分達でやってくれませんかねぇ? こんな高校生に任せないでさ。職務放棄か?」

 

 

 皮肉たっぷりでそう言うが、堂馬は鼻を鳴らすだけ。

 

 

《こちらで確認出来る限りシステムは全て正常だ。いけるな?》

「問題ゼロ。オールグリーンってやつ。てか、いけなくてもいけって言うでしょアンタは」

 

 

 今さら自分が何を言おうが無駄だと理解してる翔琉は溜め息を再度吐いた。「わかってるじゃないか」と言ってくる堂馬への苛立ちも募っていく。状況はとにかく最悪で全部投げ出したい気分だ。

 でも、それをする訳にもいかない。彼はぐっと右手でレバーを握り締める。

 

 

「やるしかねぇかぁ……」

 

 

 軽く首を回した後、翔琉は眼前のモニターに目線を向けた。

 

 

「Cleared for take off。対怪獣特殊空挺機甲零号機ウルトロイドゼロ、出撃。………名前長いんだよこれ」

 

 

 レバーを押してウルトロイドゼロを起動。人類の叡智によって誕生した戦闘ロボットは、翔琉の手で動き出した。

 

 何故彼がこんな物に搭乗しているのか。その理由は話を遡ることになる────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 オペレーションベースX内の会議室で堂馬参謀によって集められたUNVERの重役達。その中のはXio隊長の沙優や副隊長のザムザ、そしてリュウジの姿もある。

 堂馬が手元のスイッチを押すとモニターにあるものが映される。それを見て、UNVER日本支部長である北森達と沙優達は驚愕した。

 

 

「これは……!?」

「これこそ我々が開発した人類を守る究極兵器、対怪獣特殊空挺機甲零号機。通称ウルトロイドゼロだ」

 

 

 かつてこの地球に僅かな時間ではあったが出現したウルトラマンゼロに酷似したロボット。それが格納庫に停泊しているのがモニターに大きく映されていた。ウルトラマンの姿をしたロボットに誰もが驚きを隠せないでいる。

 

 

「こんな物いつの間に?」

「先日現れたキングジョーを鹵獲、流用し、更にXioが保有していた過去に現れたウルトラマンのデータを基にして完成させました」

「まさか……」

「やってくれたわね……」

 

 

 力説する堂馬に眉を顰める沙優。

 以前、堂馬はXioのラボにあったウルトラマン達のサイバーカードと複数のスパークドールズを無断で持ち出したことがある。その件は堂馬が借用書を偽造したことにより有耶無耶になってしまったのだが、それらのデータを解析してこのロボットを造り出したのだろう。

 

 

「このウルトロイドゼロにはキングジョーに搭載されていたペダニウムエンジンを動力とし、装甲には超金属のペダニウム宇宙合金が使われています。武装は頭部より放つ中距離多目的高エネルギーカッター・マグネリュームスラッシャー、額からの対怪獣高出力メーザー砲のマグネリュームメーザー、腕部には高周波近接攻撃ブレード・マグネリュームブレード、4連装35mm多砲身回転機関砲・マグネリュームガトリング。それら以外にも多くの攻撃兵器を保有し、対怪獣高エネルギー防御システムのマグネリュームシールドというバリアにより防御面も抜かり無く、高い馬力と機動力を持ちます! 人造ウルトラマンと呼べるこの兵器、その力はウルトラマンに匹敵、いやそれ以上! これが人類を守護する最強の力なのです!」

 

 

 高揚しているのが見て取れる堂馬。彼は更に言葉を続けていく。

 

 

「そしてこのウルトロイドゼロには、最強の攻撃兵器が備えられています。それがこちら!」

 

 

 画面が移り変わり、映されたのは海に浮かぶ孤島と大きな円筒状の機械。中央には「D4」と記されている。

 円筒の上部が点滅し起動したかと思うと、それから凄まじい量のエネルギーが放出し爆破。轟音と煙が収まった時、孤島は周囲の空間を巻き込んで跡形も無く消滅してしまった。

 余りの威力に、目撃した者達は唖然としていた。

 

 

「これこそが異次元潰滅兵器・Different Dimension Deadly Destroyer ……D4です! そしてこれをウルトロイドゼロに搭載し、最強の破壊光線・D4レイとして放ちます! これさえ有れば、最早人類が怪獣や宇宙からの侵略者に恐怖し怯えることは無い! ウルトラマンの力に媚び諂う必要も無い!」

「待って下さい」

 

 

 沙優が手を挙げる。

 

 

「これだけの威力、余りにも危険過ぎます。まさかこれを市街地で使用するつもりですか?」

「問題無い。D4レイはアンダーコントロールだ」

「ならそのエビデンスを見せて下さい」

「残念ながら最重要機密でね。見たければ手続きを行った上でまた来てくれ」

 

 

 不敵に笑いながらそう言う堂馬。声を荒げたりすることこそ無かったが沙優もザムザもリュウジも、彼のその返答に不信感と怒りを覚えていた。

 

 

「この様な物を開発するという報告は聞いてなかったが……?」

 

 

 北森支部長が口を開く。

 

 

「ええ。何せ慎重な計画でしたから。もしこの事が外に漏れて、ウルトロイドゼロが異星人に奪われるなんてことになってしまえばとてつもない損害が出ていたでしょう。それを防ぐ為にも私の直属の者達以外には機密とさせて頂きました」

「なるほど……」

「地球平和の為に仕方なかったことなのです。ご理解頂きたい」

 

 

 地球平和の為という彼の言葉に嘘は無いのだろう。

 北森支部長は堂馬参謀がまだ何の肩書きも持たない職員だった時代から彼のことを知っている。野心のあり強引な所もあるが、それも全て人類の為。タカ派な言動故に一部からは煙たがられたり非情な人物と思われたりもするが、人々の平和を守るべく粉骨砕身してきた男なのだ。

 

 

「明日、報道関係にこのウルトロイドゼロ完成を発表し、5日後に各人を交えて起動実験を行います。その許可を北森支部長から頂きたい」

「……良いだろう、許可する。それと一つ疑問がある」

「何でしょうか?」

「このロボット、誰が操縦するんだ?」

 

 

 ウルトロイドゼロのテストパイロットを誰が行うのかを北森支部長が尋ねる。これだけの力なのだから生半可な者では務まらないだろう。彼の質問を受けて堂馬参謀は口角を上げた。

 

 

「問題ありません、適任者がいますので。入れ」

 

 

 堂馬参謀がそう言うと扉が開き、ある者が入室して来た。

 その人物を見て、沙優達Xioのメンバーは目を見開く。

 

 

「か、翔琉君!?」

 

 

 入室したのは翔琉だ。頭を掻きながら、彼は堂馬参謀の隣りまで歩いていった。

 

 

「紹介しましょう。ウルトロイドゼロのテストパイロットを務める、Xioの天地隊員です」

「どーも」

「待って下さい!!」

 

 

 沙優とザムザ、そしてリュウジが勢い良く立ち上がる。

 

 

「彼をテストパイロットにするなんて、そんなことは聞いていません! 一体どういうことですか!?」

「聞いてない? それはそうだろう。今言ったのだからな」

「事前の連絡も、隊長の許可も無くXio隊員を勝手にそんな危険な役をさせるなんて非常識ではないでしょうか?」

「彼は、まだ、高校生です。どう、考えても、おかしい」

「彼をテストパイロットにすることを、即刻取り消して下さい!」

 

 

 大反対する3人。しかし、そんな反論など堂馬参謀は聞く気が無い様だ。

 

 

「Xioは所詮UNVER傘下の組織であり、私は貴様らの上官なのだ。一々許可など求める必要は無い」

「しかし!」

「それに許可なら、彼から貰っている。なあ?」

 

 

 そう言って翔琉に目線を向ける。彼は溜め息を吐きながらも頷いた。堂馬参謀の言う通りということだ。

 

 

「そんな、何で……!?」

「そういうことだ。なに、ただのテストパイロットなのだから心配することは無い」

 

 

 まともな物のテストパイロットだったらこんなにも反対はしないだろう。彼がやりたいと言うのならそれを尊重するのが一番なのだから。しかし、こんな危険の塊であろう兵器に搭乗させるなんてテストだろうが認められない。堂馬参謀の安全だと言う言葉を、沙優達は信じられないでいた。

 

 

「……天地隊員。本当に良いのかね?」

 

 

 北森支部長が翔琉に聞く。

 

 

「ええ、良いですよ」

「な!? 翔琉君、貴方本気!?」

「すいません、沙優さん。でも俺なら大丈夫っすから」

 

 

 そう言って沙優に対して翔琉は笑い掛けた。彼の表情に何かを感じた彼女は、もうそれ以上何も言うことが出来無いのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 基地での会議が終わり、翔琉はXioの司令室に来ていた。

 彼がウルトロイドゼロのテストパイロットになると聞いたメンバー達が驚き集まっている。

 

 

「翔琉!? あの馬鹿みたいな兵器のパイロットやるとかお前正気か!?」

「危険ですので今すぐ辞退すべきです」

「あたしもそう思うっす! あんなの絶対やばいっすよ!」

「僕も考え直すべきだと思うよ」

「お兄ちゃん危ないよー!」

「お兄ちゃん怪我するよー!」

 

 

 みんなが翔琉にテストパイロットをやるべきでは無いと説得するが、彼は手を振って笑いながら大丈夫だと言う。

 

 

「ほら、堂馬とかいうおっさんもただのテストだって言ってるし、そんな危ないことにはならないっすよ」

「あんな男の言うことなど信用できんわ!! お前、実験台にされとるだけだぞ!?」

「そうだよ! 堂馬参謀、絶対ろくでも無いこと考えてるって!」

 

 

 翔琉の意思は硬い様で、テストパイロットを降りる気は無いらしい。そんな彼に沙優は何かあると感じていた。まだ短い付き合いではあるが、その胸の内を少しだけなら理解する事が出来る。

 

 

「翔琉君、ちょっといい?」

「え、はい」

 

 

 彼女は翔琉を司令室から連れ出す。その際ザムザにアイコンタクトを送った。そして翔琉のことを自室へと招き入れる。

 

 

「座って」

「うっす」

 

 

 室内のソファーに腰を下ろす翔琉。少ししてから2人分のコーヒーを持って沙優は彼の前に座った。

 

 

「どうぞ」

「ありがとうございます」

「………ここなら誰かに話を聞かれる心配も無い。外にはザムザが立っているわ。さ、何があったのか話してくれる?」

「さっすが沙優さん。全部お見通しって感じっすか?」

「貴方が分かりやすいのよ」

 

 

 笑う彼女を見て頭を掻く翔琉。それから彼は何故こんな事になったのかを話し始めた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部活を終え、いつもの帰り道を歩夢と共に歩いていた時、あの男は数人の部下を伴い現れた。

 

 

「天地 翔琉で間違いないな?」

「そうだけど……アンタら誰?」

「私は堂馬 亥耶麻。UNVER警務局所属の参謀だ。以後、よろしく」

「参謀ねぇ……」

 

 

 笑顔を向けて来る堂馬参謀。

 何となく、本当に何となくなのだが、この堂馬という男からは嫌な予感がしていた。歩夢もそうなのか、翔琉の制服の裾を軽く握っている。

 

 

「君に少し話がある。悪いが時間を貰おう」

「今デート中なんだ、今度アポ取ってからにしてくれないっすか?」

「そう言うな、すぐに終わる。何ならデート代をくれてやろうか?」

「いらないっす。金にそこまで困ってないんで。アンタらが回れ右してどっか行ってくれればそれで満足っすよ」

 

 

 軽口の飛ばし合い。堂馬参謀は不敵に笑っているが、後ろ部下達からはピリピリとした空気が飛ばされている。下手なことを言ったら彼らから鉄拳が飛んで来そうな気配であり、それを歩夢も感じているのか裾を握る手が強くなった。

 そんな彼女を安心させる為に、翔琉は自分の手を彼女の手に重ねた。

 

 

「大の大人が、大勢で高校生囲って恥ずかしくないんっすか?」

「仕事だからな。致し方ない」

「UNVERってそんな仕事までしてんのかよ。かなりイカれてるな」

「貴様……! 黙って聞いていれば舐めた口を!!」

 

 

 1人の部下が怒号を発して前に出て来る。それを堂馬参謀は手で制した。

 

 

「落ち着け」

「し、しかし!?」

「どれだけふざけた態度を取ろうが構わん。所詮子どもだからな。まあ、それも過ぎるとどんなしっぺ返しを貰うか分からんがな」

「おー、怖ッ。子ども脅すなんて碌でもねえなぁ。夜道には気を付けよ」

「良い心掛けだ。だが、気を付けるのが君だけではなぁ……」

 

 

 堂馬参謀の視線が歩夢に向けられる。翔琉が従わない場合は、彼女に危害を加えるつもりなのだろう。いや、彼女だけでなく彼の周りにいる人達全てに狙いを定めている。そう感じた翔琉は堂馬参謀に対して鋭い眼光を飛ばした。

 

 

「俺以外に手ぇ出すんじゃねえぞ……?」

「君の態度次第だ」

 

 

 2人の視線がぶつかり火花を散らす。

 先に折れたのは翔琉だった。

 

 

「分かった分かった、分かりましたよ。話でも何でも聞いてやる。ただし、歩夢を家まで送った後な」

「良いだろう。逃げるなよ?」

「逃げるかよ」

 

 

 翔琉は歩夢の手を引いて自宅方面に歩き出す。彼女が帰る途中で奴らに何かされない様にする為だ。

 

 

「翔琉君……」

「心配すんな。終わったら連絡すっから」

「うん……」

 

 

 不安な彼女の心を落ち着かせる為に手を優しくぎゅっと握る。その心の内は、堂馬参謀達に対する憤りで燃え上がっているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とまあ、こんな感じで……話に戻ったらあのヘンテコなロボットのパイロットやれって言われて、嫌々了承したってやつっす」

 

 

 ウルトロイドゼロのテストパイロットにさせられた経緯を翔琉から聞かされ、沙優は頭を抱えた。

 

 

「そんなことがあったなんて……ごめんなさい」

「いやいや、沙優さんが謝る必要無いっすよ! 悪いのあの堂馬とか言うクソ野郎ですし」

「一般人を人質に取る様な真似をして命令を強要するなんてUNVERに務める者のすることじゃ無いわ。それに、こうなったのは私の思慮が足りなかった所為であるから」

 

 

 謝罪する沙優であるが、翔琉自身は気にしていない。彼女やXioのメンバーに落ち度は無く、どう考えても悪いのは堂馬参謀だ。

 

 

「多分だけど、堂馬参謀は貴方の正体に気付いてる」

「まあ、そうっすよね……」

 

 

 どうやって辿り着いたかは分からないが、堂馬参謀は翔琉がウルトラマンエックスであることに気付いている可能性がある。だから彼をこんな危険な任に着かせたのだろう。あの男は彼を本当の意味でテスト・実験台として扱うつもりなのである。

 

 

「一応聞かれても否定はしますよ。証拠みたいなの出されたらヤバいかもですけど」

「そうね……。そうなったら致し方無いわ。多分、彼も世間に公表することは無いとは思う。ウルトラマンを相当目の敵にしてたし、利用するだけ利用して……って考えでしょうね。そんなことは勿論させないけど」

「あははっ、頼りにしてるっすよ」

 

 

 彼と彼の身の回りに居る人々、そして彼の生活を守らなければ。地球の為に戦ってくれている翔琉を道具扱いなど絶対にさせないと沙優は軽く拳を握った。

 

 

「あ、そうだ」

「何かしら?」

「一つ頼みがあるんすっけど……いいっすか?」

 

 

 翔琉の頼み。それは彼女も予想していなかった事であった───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 そんなこんな、様々なことがあり翔琉は今ウルトロイドゼロを動かしている。基本的な操縦は足下のペダルや握ってる操縦桿で行うが、更にこのウルトロイドゼロには特殊な操作法がある。操縦者の脳波をヘルメットに備えられた特殊な装置が読み取り、パイロットの思考により人間に近い細かな動きやダイナミックな動きなども可能なのだ。これにより様々な状況に対して柔軟に対応することが出来る。翔琉が短期間で問題無く操縦出来る様になったのもこのシステムがあるお陰でもある。

 

 

「こんなシステムあんのなら、俺じゃなくても良かったじゃん」

《戦闘慣れしている者が良かったからな》

「はて……何のことやら……?」

 

 

 戦闘慣れ……やはり彼がエックスとして戦って来たことを知っているのだろう。彼のデータを、直接取ろうという考えなのかもしれない。

 

 

《翔琉君……》

「おう、何だ?」

 

 

 堂馬参謀のいる司令室には彼とその部下の他に沙優、ザムザ、紗季、涼風、そして虹学のスクールアイドル同好会の9人がいた。翔琉が沙優に頼んだことというのは、起動実験の場に彼女達を同席させられないかということ。

 今回彼がやらされることは危険度が高く、歩夢にはもう知られているので隠したまま何かあったら不安にさせてしまうだろうと考え、敢えてみんなに全部伝えてこの場に連れて来ることにしたのだ。堂馬参謀の手の者が狙ってくる可能性もあった為、こうすることでXioの仲間達に守って貰えるというメリットもある。

 因みにだが翔琉の自宅付近にはリュウジが居り、彼の母である優里香の護衛の為張り込んでいる。

 

 

《大丈夫なんですよね、先輩!?》

《私、凄く不安です……》

《私も……》

「心配すんな。すぐ終わらせて帰って来っから」

 

 

 特に不安そうな1年生組に笑いながら声を掛ける。

 

 

《翔琉君、無茶しないでね?》

《危なくなったらすぐに戻って来なさいよ?》

《何なら、彼方ちゃんが変わろうか?》

「大丈夫だよ先輩方」

 

 

 少々過保護な3年生達。

 

 

《最初はロボットのパイロットなんて羨ましいと思いましたが、現実だとそんなこと言ってられませんね……》

《かけるん、気を付けてね?》

《絶対、無事に帰って来てね?》

「わかってるって、約束だ。せつ菜もあんま気にすんなよ」

 

 

 2年生達もいつもの活気が身を潜めている。

 せつ菜はこの話を聞いた時、代わって欲しいと思っていた。しかしこれは危険を伴うことであり、そんなことを考えた自身の軽薄さを悔いていた。

 

 

《無駄話は終わったかね?》

 

 

 彼女達と話していたところに堂馬参謀の声が割って入る。

 

 

「アンタと話すより100極倍有意義だったよ」

《これよりテストを開始する。ウルトロイドゼロの素晴らしさを、世界中に見せ付けるのだ》

「シカトすんなよ、クソが」

 

 

 悪態を吐きながらレバーを握り直す。今回の試験ではターゲットとなるドローンを撃ち落としたり、飛行してその性能を見せたりといったもの。早急に終わらせて彼女達の所に帰ろう。

 翔琉がそう思った時、警告音が鳴り響いた。

 

 

「何だ?」

 

 

 驚きながらも即座に横のモニターを見る。そこには地図が表示され、6つ赤いポイントが点滅していた。

 

 

《翔琉君、怪獣が現れたわ!》

「やっぱりっすか……!」

《全部で6体、しかも全てがこちらに……というより恐らくウルトロイドゼロに向かって急速進行してます……!》

 

 

 最悪の事態に顔を歪ませる翔琉。

 

 

《そこに居たら危険よ! 今すぐ戻って来て!》

《いや、それはならん》

 

 

 沙優の戻って来いと言う指示に水を刺したのは堂馬参謀だ。

 

 

《天地隊員、ウルトロイドゼロで怪獣を殲滅したまえ》

《なっ……!?堂馬参謀、何を言ってるんですか!?》

 

 

 戦いに行けという堂馬参謀の言葉に司令室にいる全員が驚き、翔琉も眉を顰める。

 

 

《ウルトロイドゼロの力を世界に知らしめる良い機会じゃないか》

《貴方は何を言ってるんですか!?》

《そんな危険なこと、させられる訳無いでしょ!!》

《そうだよ!!》

《翔琉さんのこと殺す気ですか!?》

《先輩に危ないことさせないで下さい!!》

 

 

 沙優達も虹学の仲間達も堂馬参謀に対して猛抗議しており、司令室の凄まじい喧騒がコックピットの翔琉に届いていた。彼にそんな危険なことをさせない為に彼女達は全力で噛み付くが、堂馬参謀はその言葉など聞くつもりは無いらしい。

 

 

《黙れ!! これは命令だ!!》

 

 

 彼女達を恫喝する堂馬参謀。

 

 

《やりたまえ、天地隊員》

「………」

《───彼女達に秘密をバラされたくはないだろ?》

 

 

 翔琉だけに聴こえる様に声を抑えてそう言う。彼の言う秘密とは、翔琉がウルトラマンエックスであるということだろう。やはり堂馬参謀は知っていた様だ。

 

 

《さあ、行きたまえ》

「チッ……わっかりましたよ」

《か、翔琉君!?》

《何言ってるのかけるん!?》

「どうせ何言ったって聞かねえんだろそこ頭でっかちは。後であーだこーだと文句言われんのも面倒くせぇし、サクッと終わらせて堂々と帰って来てやんよ」

 

 

 幾つかのスイッチを切り換えてテストモードから戦闘モードに移行し、レバーを握り締めペダルを踏む翔琉。まだ歩夢達に正体を知られる訳にいかないし、怪獣達の狙いがウルトロイドゼロとならば急いで此処からコレを離れさせて歩夢達や集まってる人達の安全を確保しなければならない。

 戻るにしても確実にその間にいざこざして時間を食うだろうから、どの道戻るという選択肢は選べない。だったら、戦って怪獣達を倒すしか無いのだ。

 

 余熱を放出後、ウルトロイドゼロは空へと飛び上がった。戦っても被害の少ない場所に移動する為である。

 

 

「みんな、心配すんな」

 

 

 司令室にいる仲間達に向かって翔琉は言葉を掛けた。

 

 

「俺は必ず、帰って来る……!」

 

 

 絶対に破れない約束を結び、翔琉は悪魔の兵器で怪獣達に立ち向かうのであった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフッ、楽しそうなことになって来た」

 

 

 空飛ぶウルトロイドゼロを、楽しそうな目で見る者が居た。カタラである。奴の右手には幾つかの怪獣カプセルが握られており、左手には2つのスパークドールズが握られている。

 

 

「あの玩具、使えるかもね」

 

 

 細く笑んだ後、カタラは煙の様に姿を消す。

 

 

 

 

 この戦いがあの王を呼び醒すことになるなど、この時誰も予測していなかった……────

 

 

 

 

 





怪獣に立ち向かう翔琉の乗るウルトロイドゼロ!
その圧倒的な力で怪獣を次々と撃破していく!

だがそこに現れるカタラ。何かを企んでいる様だが……?

激化し混沌としていく戦いの中、最強の力は目醒めさせてはならない王を覚醒させる……!

次回、王ノ咆哮

今、世界が震撼する───






先日、このサイトで執筆している剛奈という方からこの作品の話が盗作されるという被害を受けました。内容をコピペし、一部分を僅かに変えて投稿されてました。それだけでなく展開等も似通ったものが多数あり、更にこの方は私以外の作者様の作品も盗作して、それをまるで自分で考えたかの様な発言と共に投稿していました。

何度か注意や該当話を削除する様に感想等で声を掛けましたが全て無視してメッセージは削除されました。他の方や運営による対応を受けるまで謝罪も何も一切ありませんでした。作品が削除されようやく謝罪しに来られましたが、その内容も本当に反省しているのか疑わしいものでした。

盗作行為はやってはならない行為です。
こういった作品は自分で考えて作っていくからこそ意味のあり愛される作品となります。この様なことが二度と無い様心から願います。



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63.王ノ咆哮






 

 

 

 

 

 

 

 

 翔琉の操縦するウルトロイドゼロは房総半島・清澄山に到着。怪獣迎撃の為に備えた。するとすぐに、空より2体の怪獣が凄まじい勢いで迫って来た。

 

 昆虫怪獣マジャバ。

 火山怪鳥バードン。

 

 2体の怪獣は鎌と嘴をウルトロイドゼロに向けて突進していく。

 

 

「よっと!」

 

 

 翔琉はそれを難無く回避し、そのまま地面に降り立った2体に対してウルトロイドゼロを構えさせる。マジャバもバードンも興奮して暴走状態にある様で、咆哮しながら突っ込んで来た。

 

 マジャバの鎌が振り下ろされるが左腕でそれを防御。ペダニウムで造られたボディはそう易々と攻撃を通すことは無い。動きが止まった一瞬の隙に、マグネリュームメーザーを放ちダメージを与える。

 数歩退がったマジャバに変わってバードンが接近。鋭い嘴で串刺しにしようとするがこれを躱し、ウルトロイドゼロは強烈なパンチとキックを喰らわせた。ロボットとは思えないスピーディーな動きで、2体の怪獣に対して完全に優位を保っている。

 

 

「にしてもこれ、ゼロが見たらキレそうだし陸が見たらドン引きしそうな見た目してんな本当に……!」

 

 

 マグネリュームスラッシャーが放たれて2体を切り裂く。どちらの怪獣も強豪であり、しかもそれが暴走してる状態なのだがウルトロイドゼロは問題無く対処しており、マスコミのカメラを通してこの様子を観ている一般市民は歓声を上げていた。これこそ人類を守る力なのだと?

 

 そこへ新たに、3体の怪獣が乱入する。

 

 月の輪怪獣クレッセント。

 凶暴怪獣アーストロン。

 巨大蝦怪獣エビラ。

 

 奴らも真っ直ぐに、ウルトロイドゼロへの強い敵意を持ちながら襲って来た。

 

 

「くっそ! 人気過ぎんだろこのロボット……!」

 

 

 アーストロンの火炎放射とクレッセントの放射熱線をマグネリュームシールドで防ぎ、解除してから立ち向かう。突き付けられたエビラの鋏を拳で叩き落とし、その顔面に蹴りを打ち込んだ。そして倒れたエビラを踏み、両腕にマグネリュームブレードを発生させてアーストロンとクレッセントに飛び掛かる。ブレードを振り、2体の怪獣を斬り付けていく。

 

 

「これって多分メビウスとヒカリのパクりだよなァ? 未来とステラに殺されそうだ……なァ!」

 

 

 強力な斬撃は2体を大地に平伏せさせた。そこにバードンの火炎放射が放たれる。だがウルトロイドゼロには全く通じておらず、そのまま炎をモノともせずにバードンへと接近していきブレードで頬袋を片方斬り落とした。それにより基部の血管が破壊されて袋内の猛毒がバードンに逆流。ウルトロイドゼロは更に蹴りを打ち込んだ。

 バードンは苦しみながら倒れ、身体を痙攣させて泡を吹き次第に弱っていってるのが分かる。後数分もすればその命は尽きるだろうが、それでもバードンはウルトロイドゼロに対して怒りの込められた瞳を向けていた。この兵器に対する途轍も無い憤怒が伝わってきて、翔琉は息を呑む。

 

 

「そこまで恨む理由って……ッ!?」

 

 

 ウルトロイドゼロの背後の地面から、1体の怪獣が飛び出して胴体に噛み付いて来た。

 

 原始恐竜ゴロザウルス。

 

 その鋭い牙と強靭な顎を利用してウルトロイドゼロを噛み砕くつもりなのだ。しかし強固なボディは、その噛み付きすら無効にする。ゴロザウルスの頭を手で掴んで握りしめていき、噛む力が弱まった所でぶん投げた。地面を転がったゴロザウルスだったが、すぐに起き上がってウルトロイドゼロに対して牙を剥く。クレッセント、マジャバ、アーストロン、エビラ、そして虫の息であるバードンも尋常では無い怒りを込めて威嚇していた。

 

 

「ったく……何がコイツらをそこまでさせんだよ……?」

 

 

 理由は解らないが、ウルトロイドゼロへの憎しみが翔琉にも嫌というほど伝わって来る。怪獣達は咆哮と共に、再度ウルトロイドゼロへ襲い掛かるのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 モニターでウルトロイドゼロの戦いを見守る堂馬参謀と沙優達と歩夢達。高い性能で複数の怪獣に対しても有利に立ち回っているその姿を見て堂馬参謀は笑みを浮かべている。

 

 

「素晴らしい……! 流石は人類を守る切札!! これさえ在ればウルトラマンなど最早不要の存在だ!!」

 

 

 そんな彼や興奮している彼の部下達に対して歩夢達は不満たっぷりの目線を向けていた。普段他者に対してあまり怒りや嫌悪を向けることの少ない彼女達だが、今回ばかりは込み上げる思いを抑えられないでいる。

 

 

「でも、何故怪獣達はウルトロイドゼロをあそこ迄執拗に狙ってるのかしら……?」

「恐らく、怪獣達の狙いはD4かと」

「D4を?」

 

 

 涼風は沙優にタブレットを見せる。

 

 

「気になって調べていたんですが最初のD4の起動実験の後、多くの怪獣の動きが活発になってきていました。ウルトラマンや異次元の技術を利用して造られたD4は規格外の破壊力を秘めたオーバーテクノロジーであり、怪獣達はそれを恐れて排除しようとしてるんだと思います」

「D4を排除……だからウルトロイドゼロを……」

 

 

 地球の怪獣達にとってウルトロイドゼロは決して許容出来無い存在。全力で排除すべく彼らは躍起になっているのだ。

 

 

「隊長、私も急いで戻ってマスケッティで出撃します!」

「それはならん」

 

 

 紗季に待ったをかけたのは堂馬参謀。

 

 

「今回はウルトロイドゼロだけで全ての怪獣を殲滅させる」

「そんな……!」

「怪獣達は凶暴化しています! それが複数いるのに彼1人に任せるなんて余りにも危険です!」

「問題無い。あの程度の怪獣など何体現れようがウルトロイドゼロの敵では無い」

 

 

 ウルトロイドゼロの強さに絶対的な自信を持っている堂馬参謀は、決して援軍を送らないつもりでいる。それを聞いて虹学の皆も彼に対して激しく抗議した。

 

 

「貴方、いい加減にしなさいよ!?」

「それでも地球を守る組織の人ですか!?」

「さっきから無茶苦茶だよ!!」

「こんなの、許されないです!!」

 

 

 果林、せつ菜、愛、しずくが吼え、他の者達も激怒。大切な友達である彼を、これ以上危険な目には遭わせたくない彼女達は堂馬参謀へ声を荒げる。

 しかし彼は、そんな想いすら鼻で笑うだけだ。

 するとセンサーが、新たなる敵の来訪を察知した。

 

 

「宇宙より、熱源反応が接近中!」

「何ですって!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ウルトロイドゼロのキックがクレッセントを吹っ飛ばした。転がったところを更に追撃のマグネリュームガトリングを放つ。苦しみ悲鳴を上げるクレッセント。それを救う様に、ゴロザウルスとアーストロンが突進して来た。

 

 

「チッ!」

 

 

 ブースターを吹かして跳躍し回避。マグネリュームスラッシャーを放とうとする………だがその時、上空より光線と火炎弾、稲妻が飛来した。

 

 

「なッ!?」

 

 

 直撃はしなかったが動きを一瞬止められてしまったウルトロイドゼロ。そこにエビラが飛び付くいて来た。更にマジャバの鎌が背中を切り付け火花を散らす。

 

 

「痛っ!? この……!」

 

 

 エビラを掴み、勢い良く振り返って背後のマジャバに叩き付ける。それから翔琉は上空に目を向けた。空より降りて来る3つの影。

 

 宇宙大怪獣ベムスター。

 宇宙斬鉄怪獣ディノゾール。

 最凶獣ヘルベロス。

 

 ベムスターは過去にも戦ったことのある怪獣だ。奴らはウルトロイドゼロの……正確にはD4のエネルギーに惹かれてこの地球にやって来たのだ。ベムスターはそれを喰らう為に、ディノゾールとヘルベロスは脅威になるであろうそれを破壊する為に。咆哮を轟かせてウルトロイドゼロに狙いを付ける。

 地球怪獣達もそれに呼応する様に吼えた。バードンは事切れたが、それでも5体の地球怪獣が牙を向けている。

 

 

「宇宙からも押し掛けとか……モテるロボットも楽じゃ無いなぁ!」

 

 

 マグネリュームブレードを発生させて構える。

 アーストロンが放ったマグマ光線をブレードを跳ね返す。クレッセント、ヘルベロスも光線などで攻撃していくがウルトロイドゼロはシールドを展開で対処。そこへマジャバが鎌を突き出して向かって来た。

 

 

「くっそ、があああああ!!」

 

 

 強烈なパンチを顔面へ叩き込み、マジャバを地面へと伏せる。そして続けてマグネリュームメーザーを放った。メーザーはマジャバの額を貫き、その命を奪う。

 残り7体……。そこへ今度はディノゾールが断層スクープテイザーで攻撃。これはディノゾールの舌であり、長さ1万m.細さ1Å(1000万分の1mm)という視認することはほぼ不可能で高い切断力を持っている武器だ。当たればウルトロイドゼロでもどうなるか分からない。

 

 

「ッ!?」

 

 

 しかし翔琉はディノゾールの動きを見て直感で背後に飛んで回避。着地し、それまで居た場所の木々がズタズタに切り倒されたのを見て息を呑む。

 

 

「あぶねー……! 当たってたら今頃サイコロステーキにされてたかも、な!」

 

 

 冗談を言いつつディノゾールへとマグネリュームスラッシャーを飛ばした。光刃は奴の身体を傷付けて後退させる。

 エビラ、ベムスターが突っ込んで来た。エビラの鋏を左手で、ベムスターの嘴を右手で掴んでその2体を止め、両者にキックを流れる様に打ち込み怯ませる。退がった2体と変わる様にゴロザウルスが突進。ウルトロイドゼロはそれを両手で受け止めた。

 

 

「サシだったら楽だってのに……ちくしょうがぁ!」

 

 

 ゴロザウルスの頭を掴んだまま持ち上げ、地面に叩き付ける。その後再び持ち上げ、思いっきりぶん投げた。ゴロザウルスはエビラの上に落とされる。

 

 

「数多過ぎだろ、嫌になる」

 

 

 額の汗を拭う。以前ウクバールでも大量の怪獣達と戦ったが、その時はガイアとアグルが居たのでどうにか乗り越えることが出来た。しかし今回は多勢に対して完全に孤軍奮闘状態でありかなり厳しい。

 急いで決着を付けないと、待っている歩夢達をより不安にさせてしまう……。そう思った時、頭に声が響いて来た。

 

 

───やあ、久しぶりだね翔琉君。

 

「ッ!? この声……」

 

───忘れちゃった? 酷いなぁ。ボクだよボク。

 

「まさか……カタラか?」

 

───フフッ、正解。

 

 

 テレパシーで語り掛けて来たのはカタラだ。

 

 

「何の用だ? まさか、この怪獣達はお前が!?」

 

───残念、それはハズレ。彼はウルトロイドゼロが気に入らないから壊しに来てるだけだよ。

 

「気に入らないだと? うおッ!?」

 

 

 カタラと話していた所にヘルベロスが噛み付いて来る。寸前で回避し、回し蹴りを叩き込んだ。更にクレッセントとアーストロンが背後より掴み掛かって来た。

 

 

「ぐっ!? 気に入らないって、やっぱあのD4とか言うとんでも兵器の所為か!?」

 

───それは正解だ。地球怪獣からしたらアレは恐怖でしかないからね。そして宇宙怪獣にも。

 

「とんだ怪獣ホイホイだな……!」

 

───怪獣を倒す為に造られた兵器が怪獣を呼び寄せる。凄い皮肉だね。確かこの国の言葉だと本末転倒って言うのかな? 地球人って本当に面白いね。

 

「ムカつくが、お前の言通りだな……!」

 

 

 2体からどうにか離れ、振り向いてブレードを振り斬り付けた。後退しながらも火炎を吐くクレッセントとアーストロン。ウルトロイドゼロは後ろに飛んでそれを回避する。

 

 

「で、本当に何の用だ? まさか、この状況見に来ただけじゃねえだろうな?」

 

───見に来たのは確かだけど、それだけじゃ勿体無いよね?

 

「………お前まさか」

 

───そう、そのまさか。

 

 

 ウルトロイドゼロのカメラがカタラの姿を発見した。その手にはスパークドールズと複数の怪獣カプセルが握られている。そのことから、翔琉はカタラが何をするつもりなのかを察した……。

 

 

「畜生が……!!」

 

───楽しい楽しい、パーティーを始めようか。

 

 

 投げたスパークドールズがカタラの力により巨大化。蛇腹の様な身体をした怪獣が大地を揺らす。

 

 髑髏怪獣レッドキング。

 

 猛烈な勢いで駆け出し、ウルトロイドゼロにタックルを喰らわせた。

 

 

「がああああ!?」

 

 

 火花を散らして吹っ飛んだウルトロイドゼロ。カタラは笑いながら更に怪獣カプセルを起動させる。

 

 

《ダンカン……!》

《サタンビートル……!》

《ベドラン……!》

《ジーダス……!》

 

 

 4体の怪獣が現れて吼える。

 

 発泡怪獣ダンカン。

 宇宙昆虫サタンビートル。

 は中怪獣ベドラン。

 海魔獣ジーダス。

 

 轟く咆哮。怪獣達の猛攻が、ウルトロイドゼロに容赦無く襲い掛かっていく。ダンカンが身体を丸めて突撃。腕をクロスして防ぐが数歩後退させられてしまい、そこへ更にジーダスのハープーン舌が伸ばされる。鋭い先端がウルトロイドゼロの胸を狙うが、それを当たる寸前両手で受け止めた。

 

 

───あははっ! 流石だね!

 

「このッ……! ざけんなよ貴様ッ!」

 

 

 サタンビートルの放つミサイル・幻塵弾、ディノゾールの流体焼夷弾・融合ハイドロプロパルサーが襲って来る。それらはウルトロイドゼロやその足元に着弾し爆発を起こした。衝撃でコックピット内が大きく揺れる。

 

 

「ぐっ!? 野郎……!」

 

 

 いくらウルトロイドゼロが高性能でもこれだけの数相手では無理がある。怪獣達の放つ熱線や火炎、光線が、ウルトロイドゼロを大きく吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ウルトロイドゼロと怪獣達の激闘を、明里は部屋のテレビを通じて見ていた。ソファーに凭れ掛かり、足はテーブルの上に置いている。

 怪獣達の攻撃はウルトロイドゼロを苦しめてる。忌々しいウルトラマンに似たロボットが滅多打ちにされている様は見てて気持ちが良く、彼女はクスッと笑う。そのロボットを、自分の想い人である翔琉が搭乗していることを彼女は知らない。

 

 

《おやおやおや……。何とも無様だねぇ》

「ねー。最強とか言ってたけど、結局ボコボコにされてて本当に面白いよ」

《それにどうやら、あのロボットが怪獣を引き寄せているみたいじゃないか。人間というのは、何とも愚かなことを……》

 

 

 人類を守る為に造られた兵器が、人類の危機を招いているのだ。滑稽としか言い様が無いだろう。

 ベドランとサタンビートルの角による突撃で火花が散り、更にベムスターが突進。最強の力を持つ兵器も、大量の怪獣相手では歯が立たない。可哀(あわれ)なウルトロイドゼロを明里は嘲笑った。

 

 

「本当……何処までも馬鹿だよねー、人間って」

 

 

 

 

 

───おかあさん……おかあさん……?

 

───わたしは■■■だよ……?

 

───■■じゃ……ないよ……?

 

 

 

 

 

「…………本当に、馬鹿でしょうもない生き物……」

 

 

 ポツリと呟いた明里。その背後に、赤と黒の悪魔の姿となった父が立った。

 

 

「何? 動きたいの?」

 

 

 問い掛けに父が応える事は無い。

 

 

「引っ込んでて……今ムカつくから」

 

 

 彼女がそう言うと、父は赤黒い煙に包まれて姿を消す。

 妙にイライラして奥歯を強く噛む。忘れた筈……否、無い筈の記憶に何故こんな思いをしなければならないのか。気に入らない……とにかく気に入らない。

 テーブルの上に置いてあったリモコンを投げる。リモコンはテレビに映されていたウルトロイドゼロに当たり亀裂を入れた。数度映像が乱れた後テレビはブラックダウン。どうせ結末なんて分かっている。もう見る必要も無い。

 

 

《やれやれやれ……。困った娘だ》

「ウザい。消すよ」

 

 

 立ち上がり、彼女は自分の部屋へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「があああ!? ちぃ……!」

 

 

 戦いの場は、勝浦付近に移っていた。怪獣達の猛攻によってウルトロイドゼロは吹っ飛ばされてしまう。

 レッドキング、ダンカン、アーストロン、ベムスター、サタンビートル、クレッセント、ベドラン、ディノゾール、ヘルベロス、ゴロザウルス、エビラ、ジーダス。計12体の怪獣から向けられる殺気と長時間の戦闘により、翔琉の精神は着実に擦り減らされていた。

 

 だがそれでも退く訳にはいかない。

 ハンドルを再度握り締めて気を張る。

 

 

《天地隊員、D4レイを使え》

 

 

 D4レイ。ウルトロイドゼロに搭載されたその兵器の威力を思い返す。確かにその力を使えばこの怪獣達を一掃出来るかも知れないが、それによる周囲の被害は尋常では無いだろう。ここは市街地であり避難は済んでいる様だが、撃てば人々の住む場所を奪う事になる……そう思うと、簡単にその決断をすることは出来無い。

 それにカタラが呼び出したもの以外の怪獣達はこのD4を狙って襲撃して来たのだ。これを撃てば更なる怪獣を引き寄せてしまう可能性もあり、その考えがより撃つことを躊躇わせる。

 

 

《撃て、天地隊員。そうすれば怪獣達を殲滅出来る》

「けど……!」

《迷う必要など無いだろう? 人類を脅かす怪獣を殺す事が、お前の使命なのだから!》

 

 

 スピーカー越しに堂馬参謀の怒声とそれを非難する沙優達の声が聴こえて来る。

 撃てば大きな傷跡を残し、撃たなければ怪獣達の力に圧し潰される。どうすればいいのか……迷っている翔琉に怪獣達の遠距離攻撃が飛来していく。ハッとした彼は瞬時にシールドを展開して防御。爆風がそのボディを包む。怪獣達は、更に追撃する為に進み出した。

 

 

《翔琉君!?》

 

 

 響く歩夢の叫び。翔琉はマグネリュームメーザーを横薙ぎに放って怪獣達の足を止める。一瞬の停止だが隙としては充分だ。

 

 

《撃て、撃つんだあああああああ!!》

 

 

 もうやるしか無い。パネルをタッチしてD4レイのロックを解除。そして上から出て来た発射レバーを握りスイッチに親指を添え───

 

 

「D4レイ……発射……!」

 

 

 コンマ数秒のチャージ後、ウルトロイドゼロの胸部より凄まじい極大の破壊光線が放たれた。発射により機体が揺れ、パイロットの翔琉に大きなGが掛かり苦しい表情になる。

 光線は12体の怪獣全てを呑み込み、奴らの命を奪う。憎しみと苦しみの断末魔が撒き散らされ、空間に亀裂が走って破れた。大爆発が起き、全ての怪獣は塵芥となり壊滅するのであった……。

 

 

 

 

 

「これが……D4レイの力……」

 

 

 肉片の一つも残すことなく怪獣達は消滅。そして街にも被害が出ていた。これを自分が……犠牲者こそ出ていないが、何だか心苦しくなる。

 

 

《やった……! やったぞ!! 我々のウルトロイドゼロが、怪獣を抹殺したぞ!! 我々は、ウルトラマンを超える最強の力を手にしたのだ!!》

 

 

 堂馬参謀とその部下達の歓喜の声を上げているが、翔琉の耳には入らない。

 

 

《翔琉君》

 

 

 呆然としていた翔琉に沙優が優しく声を掛けた。

 

 

「沙優さん……」

《とりあえずお疲れ様。怪我は無い?》

「はい、大丈夫っす」

《そう、良かった。貴方のお陰で怪獣を倒して人々の安全を守る事が出来たわ。ありがとう》

 

 

 彼の想いを察し、気負いしない様にと沙優は労いの言葉を掛ける。怪獣を殺したのではなく、翔琉はあくまでも人々を守ったのだと。彼女のそんな気遣いに彼の心は少し楽になった。

 

 

「ありがとうございます、沙優さん。じゃあ、今から帰還します」

《分かった、気を付けて帰って来なさい。みんな待ってるから》

 

 

 Xioや同好会の仲間が待ってる場所に帰ろう。みんな心配している筈だから早く戻って安心させないと。

 そう思った時、センサーが新たに一つの反応をキャッチした。

 

 

「ッ、新しい反応? これは……」

 

 

 モニターに表示される赤い点。そこには先程までの怪獣達のものと違い、一つの文字が表記されている。

 

 

「G……? ────がッ!?」

 

 

 突如、猛烈な衝撃がウルトロイドゼロを襲った。海面から青白い閃光が飛び出して衝突したのだ。体勢を崩しながらも何とか機体を持ち堪えさせる。

 

 

「な、何が!?」

 

 

 閃光が飛んで来た方向、太平洋側に目線を向ける。剣山の様な物が海面から突き出ており、こちらに向かって来ていた。

 

 

「あれは……?」

《翔琉君、今すぐ撤退しなさい!! 急いで!!》

「さ、沙優さん?」

《早く!!》

 

 

 海面が迫り上がる。大量の水を掻き分けてソレはその全容を見せ、上陸する……。

 黒く山の様に大きな身体、長く太い尾、頭部から尾まで並ぶ鋭い大小の背鰭、大地を踏み鳴らす脚、空を切る爪、裂けた口とそこに並ぶ牙、途方も無い怒りを秘めた瞳……。

 

 

 約65年前、日本に初めて現れた怪獣。

 歯向かう全てを破壊し、途方も無い地獄を人々に見せた怪獣。

 世界中でその猛威を見せつけ絶望の象徴となった怪獣。

 

 

 究極の破壊神。そして怪獣王。

 

 

 世界中の誰もが畏怖するその存在……その名は───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴジラ……!」

 

 

 

 

 

───■■■■■■■■■■■ッ!!!

 

 

 

 轟く咆哮が、天地を揺らした───

 

 

 

 

 







大激闘となった63話。如何だったでしょうか?
ここで登場怪獣を振り返ってみようと思います。

まずはウルトラマンより髑髏怪獣レッドキング。カタラによりスパークドールズから解放されました。

次にウルトラセブンより発泡怪獣ダンカン。怪獣カプセルより召喚。

帰ってきたウルトラマンから凶暴怪獣アーストロンと宇宙大怪獣ベムスター。ベムスターは以前ゼロライブコラボ回にも登場してます。

ウルトラマンTから火山怪鳥バードン。頬袋を斬られたことで倒されてしまいした。

ウルトラマンレオより宇宙昆虫サタンビートル。
ウルトラマン80より月の輪怪獣クレッセント。
ウルトラマンGより昆虫怪獣マジャバ。
これらが登場したこととタイトルからデストルドスの登場を予想した方も少なく無かったのではないでしょうか?

ザ☆ウルトラマンよりは虫怪獣ベドラン。ジョーニアスと戦ったアニメの怪獣では珍しくスーツの作られた怪獣です。

ウルトラマンメビウスより宇宙斬鉄怪獣ディノゾール。
ウルトラマンタイガより最凶獣ヘルベロス。
ベムスターと共に宇宙から飛来しました。

映画キングコングの逆襲より原始恐竜ゴロザウルス。
映画ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決戦より巨大蝦怪獣エビラ。
東宝怪獣からの参戦です。

小さき勇者〜ガメラ〜より海魔獣ジーダス。ギャオスの影響で生まれた凶悪な怪獣が怪獣カプセルにより召喚されました。

合計14体の怪獣と戦い、最後はD4レイで怪獣達を葬り去ったウルトロイドゼロ。しかしそれはあの怪獣王を呼び寄せることになりました……。


満を辞して、怪獣王ゴジラ登場です。


過去に何度か存在を仄めかしてはいましたが、遂に出すことが出来ました。
最強の怪獣であるゴジラを前に、ウルトロイドゼロに乗った翔琉はどう動くのか……?

次回をお楽しみに……。


感想、高評価、質問、ここすき、その他、是非是非お待ちしています!




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64.王は止められナイ




遅くなった割に短いですがどうぞご覧下さい!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最強の怪獣といえば?

 この質問をされた時、日本人ならまずある怪獣の名を上げ、海外の人も多くがそいつの名を言う。日本海より上陸し、東京を破壊し尽くした怪獣の王。初めて日本に現れた最強の怪獣。そして以降、世界中に恐怖を齎している人類最大の天敵となる怪獣。

 

 

 

 奴の名はゴジラ。

 

 

 

 その正体は水爆実験による放射能を生き残っていた恐竜が浴びて進化した姿、海中に捨てられた放射性廃棄物を食べたり原子力潜水艦の核エネルギーを受けて巨大化した生物、太古にこの地上を支配して来た巨大生物達の王である存在で人間のエネルギー開発により環境破壊に怒り目覚めた等、様々な説があるがハッキリとは分かっていない。

 しかし、この怪獣が他の怪獣達とは一線を画す存在であるのは明らかであり、その犠牲者数は約65年間で数億人にまで上る程。その気になれば、人類など数日の内に滅亡させられるであろうと言われる最強の怪獣こそがゴジラなのだ。

 

 そのゴジラが今、翔琉の乗るウルトロイドゼロの前に姿を見せている。

 

 

「おいおいマジかよ……!?」

 

 

 鋭い目線を向けてるゴジラ。その瞳の奥には怒りの炎が燃え上がっていた。

 翔琉もゴジラのことは知っている。というよりこの地球上でゴジラを知らない者など居ない。怪獣学の授業に置いてまず最初に教わり、その後何度も名を聞くことになる怪獣なのだから。海外でも、ゴジラに関しては必ず学ぶ様になっている。それ程までに奴の存在は知らなくては危険なのだ。

 

 

《翔琉君、急いで逃げて!!》

《いや、これはチャンスだ!! 天地隊員! ウルトロイドゼロでゴジラを殺せ!!》

《無理に決まってるでしょそんなの!? 相手はあのゴジラなのよ!!》

 

 

 無茶苦茶な命令を飛ばしてくる堂馬参謀に紗季が激昂。

 どれだけウルトロイドゼロが高性能であろうと、堂馬参謀以外には勝てるビジョンが見えて来ない。しかし彼は、自分が生み出したウルトロイドゼロが負ける筈など無いと信じて疑っていない。司令室内で、堂馬参謀と沙優達、そして歩夢達の激しい口論がコックピット内にも響いて来る。

 

 睨み合うゴジラとウルトロイドゼロ。翔琉はどうにかして離脱したいとは思っているのだが、下手に動けば強烈な一撃を喰らってしまう可能性も捨てられないので動けずにいた。

 

 

───■■■■■■■■ッ!!!

 

「ッ!?」

 

 

 ゴジラが吼える。その圧はウルトロイドゼロのボディを震わせ、翔琉にも振動を与える。そしてゴジラは大地を踏み締めながら突進を仕掛けて来た。

 

 

《翔琉君!?》

「クソが、取り敢えずやります!!」

《ダメ!! 逃げて!!》

 

 

 沙優が逃げろと叫ぶが、もうこうなってしまったら逃げるのは容易では無くとにかく戦うしかない。猛進するゴジラに向かって半ばヤケクソ気味にウルトロイドゼロはマグネリュームメーザーを放った。メーザーはゴジラの左肩辺りに直撃。

 ………しかし、構うこと無くゴジラは猛進し、その勢いを止めることは出来無い。タックルが炸裂しウルトロイドゼロは後退させられた。

 

 

「くっ!? ぐあああ!?」

 

 

 更に振り回された尻尾が叩き付けられ、ウルトロイドゼロは横に吹き飛ばされる。倒れたウルトロイドゼロに、ゴジラはまた突っ込んでいった。その巨体からは想像出来ないスピードで迫る。

 

 

「このッ!?」

 

 

 ブースターを全開にして地面を滑走し寸前で回避。倒れていた場所にはゴジラによる踏み付けで大きく陥没させられていた。

 起き上がり、ウルトロイドゼロを再度構えさせる。これまで戦ってきたどの怪獣や宇宙人よりも、間違い無く奴は強い。

 

 

「この野郎ぉぉ……!」

 

 

 両腕からマグネリュームブレードを発生させて突っ込み、ゴジラの身体を斬り付ける。素早い連続攻撃は僅かながらゴジラを後退させた。

 

 

「いける……!」

 

 

 一撃一撃のダメージは少ないかも知れないが、何度も喰らわせれば倒す事だって不可能では無い筈だ。そう思い、翔琉は攻めの手を更に激しくしていく…………だが。

 

 

「なッ……!?」

 

 

 首元向けてブレードを振おうとした時、その腕をゴジラは掴み受け止めてしまった。強力な握力で握り締めていくゴジラ。怪獣達の攻撃に耐えていたウルトロイドゼロの装甲が、メキメキと音を立てる。

 翔琉はもう片方のブレードで攻撃し逃れようとするが、腕を動かす前にゴジラの手でそちらも握られ抑えられてしまった。口が開き鋭い牙がメインカメラに映され、翔琉にプレッシャーを与える。どうにか奴の手から抜け出そうと必死に動くが、そのパワーを振り解く事が出来ないでいた。

 

 このままでは殺られる……!

 

 

 

 

 

《キングジョーデストロイ砲、発射!!》

《ファイヤーラドンインパルス!!》

 

 その時、ゴジラの背に二つの光線が直撃し爆ぜた。突然の衝撃を受けて掴んでいた手の力が緩み、その隙にウルトロイドゼロはブースターを全力で吹かして逃げる。

 ハヤテとイヅルがそれぞれスカイマスケッティに乗って駆け付けて来たのだ。

 

 

《無事か、翔琉!?》

「ハヤテさん、イヅルさん!?」

《ここは俺達に任せてお前は逃げろ!!》

「でも!?」

《いいから早く引かんか!!》

 

 

 シャマラの声がコックピット内に響いた。

 

 

《お前が正規のXio隊員なら死なん程度に戦わせる! だがお前は子どもだ! ただでさえどいつもこいつもお前を最前線で戦わせてることに罪悪感覚え取るのに、命懸けさせる様な真似をこれ以上させてたまるか!! 分かったらとっとと引け!!》

「ッ………」

 

 

 彼の言葉を受けて反論出来無くなる翔琉。

 Xioのみんなからしたら翔琉は共に戦う仲間であると同時に守るべき子どもなのだ。これ以上無茶な事をさせて命を危険に晒させたくはないと皆思っている。

 

 

「分かったよ……分かりましたよ……!」

 

 

 そんな事を言われてはもう従うしかない。翔琉はウルトロイドゼロのブースターを全開にして空に飛び上がり、旋回して撤退を始める。

 彼を逃がす為に、ハヤテとイヅルは光子砲やミサイルを駆使してゴジラに攻撃を仕掛け、その動きを牽制していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「怪獣王ゴジラ……」

 

 

 圧倒的な力を持つそれを見ながらカタラは呟く。

 

 ゴジラの存在は異星人達の間でも有名だ。地球怪獣は疎か宇宙怪獣ですら何体も葬って来ている最強の怪獣。この怪獣を操ろうとして幾多の異星人が返り討ちとなり命を落としている。しかしそれでもゴジラの力を求める異星人はあとを絶たない。奴を従えることが出来れば地球侵略の難易度は格段に下がるからだ。

 

 勿論ゴジラ以外にも、脅威は存在しているが……。

 

 

「アレをどうにかしなきゃ、この宇宙の完全侵略は不可能……か。あはは、無理ゲーってやつかな?」

 

 

 困った様に笑うカタラ。所属している軍団が、これからこの宇宙に本格的への本格的な侵攻を開始しようとしているのだが、流石にゴジラ相手では勝てるかどうか……。尤も勝たなければ目的は達成されないのでやるしかない。

 それに、この宇宙にはあの闇の力があるのだ。勝てる見込みが無い訳ではない筈。

 

 

「本当……この宇宙の地球はイカれてるなぁ。………おっと」

 

 

 撤退する為にウルトロイドゼロが飛ぶ。このまま戦っても勝てる可能性は限り無くゼロに近いので逃げるのは正解だろう。

 

 

 だが、それを許すゴジラでは無い様だ……。

 

 背鰭が青白く輝き、奴の身体から円形状にエネルギーの余波が放出され始めた。そしてその目線はウルトロイドゼロが飛び去っていく方向に向けられている。

 これから奴が何をするのか、想像に難くは無い。それを阻止するべく2機のマスケッティが光子砲とミサイルで攻撃するが、全て身体から放出されるエネルギーの余波で打ち消されてしまっていた。

 

 大地が、空が、海が、この星が震える。

 全ての怒りを込めた閃光が咆哮と共に解き放たれ、世界を引き裂いた────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全速力で逃げる翔琉。もう数十キロは離れ、離脱は完了したと言っても良いのだが何故か安心することが出来無い。

 

 もっと……もっと速く、もっと遠くへ逃げなければならない。少しでもスピードを落とせば……。

 今改めて、ゴジラに対する恐怖を再認識し胸の鼓動が早くなる。

 

 

《翔琉君避けて!!!》

 

 

 紗季の声がコックピット内に響いた。それと同時に感じた凄まじい悪寒。彼は思わず泊まって振り返り………。

 

 

 

 

 

 

 

 青白い光が視界いっぱいに広がる。

 翔琉が最後に感じたのは、五体が砕け散る様な衝撃だった────

 

 

 

 

 

 

 

 








次回、何を護る為のチカラ





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65.何を護る為のチカラ



遅くなりすいませんでした!!!






 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を開いた時、そこは真っ暗な世界だった。何も見えない、何も聞こえない、何も感じない。完全なる闇の世界。右に左にと顔を向けるが、自分が今目を閉じているんじゃないかと思える程であり、前に進んでいるということだけが何となく分かる以外、自分自身の姿も見えず感じれない程の闇だった。

 

 

 そこを只々歩いている。立ち止まろうにも足は勝手に動き、身体は前に進んでいく。

 

 

 どれだけ進んだだろうか?

 目の前にぼんやりとした弱い光が現れて形を作っていった。それは人型となり、こちらを見つめている様だ。そして更にその背後でこれまた(かそ)けき光が現れて、先の物よりも大きな人の形となる。

 それは、自分がいつも変身している姿のシルエットに瓜二つであった。

 

 

 ─────

 

 

 その名を呟く。だが自分が出した声もこの闇の世界では聞こえて来無い。

 

 

 次の瞬間大きな光が霧散して、跡形も無く闇の中に消えた。驚いていると、その前の光の形も崩壊を始める。

 

 

 止めなければ……。そう思い光に手を伸ばし走ろうとするのだが身体は動かない。いや、そもそも今の自分に本当に身体が在るのか?

 奇妙な感覚が急に湧き出す。在るのか無いのか分からない胸の中で不確かなモノが渦巻く。

 

 

 

 

 そして光は、ドロドロと崩壊し消えた。

 残されたのは、在る筈の無いモノ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると、久々に見る天井が翔琉を迎えた。オペレーションX内の医務室の物だ。

 数秒天井を見つめた後記憶を整理する。ウルトロイドゼロであのゴジラから逃げている最中、突然嫌な予感を感じ振り返ると、鮮烈な閃光と猛烈な衝撃を受け……。

 

 

「生きてる……か」

 

 

 恐らくあれはゴジラの放った熱線なのだろう。死んでも可笑しく無い一撃。よくまあ生きていたものだと自分で自分に関心する。そんなことを考えていると扉が開いた。

 

 

「あ、翔琉君!?」

「目が覚めたのね、良かった……」

 

 

 入って来たのは沙優と紗季。

 

 

「一先ず命に別状は無し。外傷は回復済。骨は折れてたりヒビが入ってたりしたけど、多分これもすぐ治るでしょうね」

「相変わらずとんでもな回復力っすね、俺」

「それが無かったら今頃死んでたわよ。その回復力と、貴方の咄嗟の判断力に感謝ね」

「咄嗟の?」

「覚えてないの?」

 

 

 沙優から咄嗟の判断力と聞いて首を傾げる。

 

 実はあの時、翔琉は反転してD4レイを放ちゴジラの放射熱線にぶつけ、その威力を減少させていたのだ。それにより直撃を避けられ、こうして無事生きてるという訳である。彼はそのことを覚えておらず、反射的にそれを行ったらしい。正に生死を分けた行動。気付くのが、D 4レイを撃つのがあと一瞬遅かったら……考えるだけでも恐ろしい。

 山中に墜落していたウルトロイドゼロをマスケッティγで飛んで来たリュウジが発見し、UNVERの隊員達を呼んで彼の救助とウルトロイドゼロの回収を行ったのだ。

 

 そしてゴジラはというと熱線を放った後、尾を返して海に戻っていったとのこと。

 

 

「あの最悪の兵器も、翔琉君の命を守ってくれたという点では感謝しないと……。尤も、アレさえなければこんな事態そもそも起こらなかったんだけどね」

「確かに」

「それと、みんなにも感謝しないとね」

 

 

 右を見ると歩夢と愛、璃奈、彼方がベッドに寄り掛かって眠っており、次に左を見るとかすみ、果林、エマ、せつ菜、しずくが寄り掛かっていた。翔琉が眠っていた間、彼女達はずっと側に居てくれたのだ。

 自分のことを想ってくれた彼女達の気持ちに胸が少し熱くなり、表情が柔かになる。

 

 

「それで翔琉君、貴方に話があるの」

 

 

 沙優は真剣な表情で翔琉のことを見つめてきた。

 

 

「今回の件で貴方が危険な目に遭ったのはUNVERの、そして私達の責任。そのことをまず深くお詫びするわ。本当にごめんなさい」

「いや大丈夫っすよ。こうして生きてるんですし」

「そういう訳にはいないわ。守るべき子どもを、こんな目に遭わせたなんて大人として失格よ……。それで、翔琉君はこれからもXioに、UNVERに所属し続けようと思う?」

 

 

 堂馬参謀の暴走により翔琉の身を危険に晒してしまったのは自分達の責任であり、そんな組織にいることを彼は嫌に感じてないかと沙優は聞いて来たのだ。今後この様な事は起こさせないと誓っているとはいえ、絶対に無いとは限らない。またいつか、UNVERが彼を命の危機に立たせてしまう様な事件の発生するかも知れない。彼が望むのであればXioを脱隊させ、普通の生活を送れる様にするつもりだ。エックスとして戦う事になったとしても勿論サポートはするし、そもそも出来る限り変身はさせずXioだけで全て対処していくつもりでいる。

 これ以上、彼に傷付いてほしく無いと彼女達は心から思っていた。

 

 

「うーん……」

 

 

 少し考える翔琉。

 それから悪戯っぽく笑って彼女達の方を見た。

 

 

「続けます。ここで辞めるとか、何か中途半端で嫌だし」

「でも、良いの……?」

「あのおっさんは兎も角、俺Xioのみんなことは信頼してるし大好きっすから」

 

 

 彼自身、これまで共に戦ってくれたXioの仲間達のことは心から信頼しており、同好会の皆と同様大切な人達であると考えている。そんな彼女達が心から謝罪しているのなら、それを受け入れてこれからも共に戦っていくつもりなのだ。

 

 

「俺はみんなと一緒に、大切なもん守っていくっすよ。その為にウルトラマンやってるんっすから」

「翔琉君……」

「ありがとう、翔琉君」

「いえいえ。ほら、みんな起きろ」

 

 

 翔琉は眠っている皆の身体を揺すり起こそうとする。一番初めに歩夢が覚醒し、目を覚ましていた彼に驚き声を上げた。それに釣られ、他の者達も目覚めていく。

 

 

「翔琉君!」

「翔琉!」

「翔琉先輩!」

「よう、おはようさん」

「かけるん、怪我は大丈夫なの!?」

「ああ、もう平気だ。心配させたみたいでごめんな?」

 

 

 彼が無事であると分かり彼女達はホッとして胸を撫で下ろす。

 

 

「あ、そういえばあのロボットってどうなったんすか?」

「あー、それなんだけどね……」

 

 

 沙優はウルトロイドゼロが、そして堂馬参謀がどうなったのかを語り始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故……何故なんだ……?」

 

 

 自室にて、堂馬参謀は譫言の様に呟いていた。

 

 ゴジラが去り、ウルトロイドゼロが回収された後、彼と沙優は北森支部長のもとに呼ばれた。そして彼から、ウルトロイドゼロの解体と、D4レイの破棄、これらの製造の永久凍結を告げられることになる。

 当然堂馬参謀は激しく抗議した。これは必要な力だ。これを失っては地球を守ることが出来なくなる。だからウルトロイドゼロは残さなければならないと。

 

 しかし、北森支部長がそれを受け入れることは無かった。

 

 堂馬参謀はそのことに驚きより激しく抗議する。だが北森支部長が首を縦に振ることは無く、彼に対してこの件の責任の追及を始めた。

 この世界では、ゴジラなど特定の怪獣を刺激し呼び覚ます様な兵器、エネルギーの開発、使用は禁止させれている。今回、堂馬参謀はその様な危険性は無いと報告をしていたが、実際は多くの地球怪獣、宇宙怪獣を呼び寄せゴジラの怒りを買うことになった。更に無茶な指示により翔琉に怪我をさせたことに対しても責任を取って貰わなければならない。多くの失態をしてしまい追い詰められる堂馬参謀であったが、それでも彼の想いは変わらなかった。

 

 地球は我々の手で守らなければならない。これはその為の力だ。ウルトラマンなんかに頼っている現状では、いつ最悪の事態になるか分からない。ウルトロイドゼロは必要だと、

必死になって北森支部長に訴え掛ける。

 

 傲慢で身勝手な彼の考えに、沙優はブチギレそうになるのを拳を握りながら必死で抑えていた。

 

 どれだけ言っても理解してくれない北森支部長。堂馬参謀は遂にあのことを彼へと暴露する。

 天地 翔琉は、ウルトラマンであると。

 

 しかし北森支部長から返って来たのは予想してない言葉だった。

 

 

 

 

『それが、どうかしたかね?』

 

 

 

 

 彼もまた、翔琉の秘密を知っていたのだ。そしてその上で翔琉をXioに所属させていた。

 

 信じられなかった。何せこれは、UNVERがウルトラマンという不確定な要素を持つ存在を認め、地球防衛を任せている事に他ならないからだ。

 その事実に衝撃を受け放心する堂馬参謀。北森支部長が処分が決定するまで自室で待機せよと告げ、続けて言葉を掛けて来たが彼には届いてなかった……。

 

 

 

 

 

「何故なんだ……!?」

 

 

 遣る瀬無い気持ちを拳に込めてテーブルに叩き付ける。

 地球は人類の手で守るべきなのだ。あの様な存在に任せるなど絶対に間違えている。何故それを北森支部長は理解してくれないのか?

 

 こんな事では、人類は衰退していき強い力により滅ぼされてしまうだろう。そうならない為にも、ウルトロイドゼロの様な圧倒的な力が抑止力として必要なのだ。なのに何故それが理解されないのか、彼には分からなかった。

 

 

「地球を守るのは我々人類だ……。なのに、何故北森支部長はそれを理解しない!?」

 

 

 本来、ウルトロイドゼロならゴジラだって倒せた筈なのだ。Xioの連中が撤退など余計なことを言わなければゴジラという最大級の脅威を排除出来たというのに……。

 このままウルトロイドゼロが解体され、D4レイも無くなってしまったら、人類は脅威に対する対抗手段を失ってしまうことになるのだと彼は嘆いている。

 

 奥歯を噛み締める堂馬参謀。地球と人類の為を思い尽力しているというのに、何故こうも自分の思想を理解出来無い者が多いのか?

 

 今の彼にはXioも、強く信頼して来たUNVERも、全て愚かに思えて仕方がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「大変だねー、君」

 

 

 突如声を掛けられて振り返る。そこに居たのは美しい顔をした、男性か女性か分からない人物。部屋は施錠されており、キーを使う中から開けない限り侵入は不可能で、更に外には彼が勝手に外に出ない様にする為の見張りがいる。なのに侵入することが出来るというのは、この者が明らかに普通の人間では無いことを物語っていた。

 

 

「貴様、何者だ? どうやってここに……?」

「そんなことはどうでもいいでしょ。あのロボット、作ったの君だよね?」

「……ウルトロイドゼロのことか? だったら何だというのだ? まさか貴様は異星人で、ウルトロイドゼロを奪うつもりか!!」

 

 

 堂馬参謀は構えるがその人物は首を振る。

 

 

「違う違う。……アレは君が、地球を守る為に作った力。そうだよね?」

「ッ………そうだ。この星を、人類を守る為……怪獣や侵略者を殲滅する為の力だ。なのに、何故誰もそれを理解しない……!?」

 

 

 悔しそうに拳を握り締める堂馬参謀。それを見ていたその人物は笑った。

 

 

「何がおかしい……?」

「理解してもらえないなら、理解させたらいいんじゃないかな」

「何だと?」

「君が証明するんだよ。あのロボットが必要だということをね。方法は簡単さ」

 

 

 いつの間にか堂馬参謀の背後に立ち、耳元に口を近付ける。

 

 

「ゴジラを倒せばいい」

「ッ!? ゴ、ゴジラを、私がか!?」

 

 

 予想外の提案に驚く。しかし、ウルトロイドゼロならばゴジラを倒すことは不可能では無い。そう信じている堂馬参謀の口角は少しずつ上がっていく。

 

 

「そうだ……そうだな……! 私がウルトロイドゼロを使い、ゴジラを殺せばいいのだ! そうすれば誰も認めざるを得ない! ウルトロイドゼロが、私が、この星を守る為に必要な力であるということを!!」

 

 

 叫ぶ堂馬参謀。それを楽しそうに見ていた人物は指を鳴らす。すると周囲の景色が揺らぎ変わる。

 堂馬参謀が居た場所。そこはウルトロイドゼロの目の前だった。

 

 

 

 

 

 

 引き寄せられる様に、狂気の笑みを浮かべながら堂馬参謀はウルトロイドゼロに向かっていく。彼を移動させた人物=カタラはその背を楽しそうに見つめている。

 

 カタラが暇潰しに呼び出したキングジョーのボディを流用し、Xioや翔琉達から横領したスパークドールズの怪獣、超獣、そして目の敵にしてるウルトラマンのサイバーカードの力を利用して製造されたウルトロイドゼロ。何処までも地球外の力の寄せ集めでしか無い物を地球の希望と呼ぶ、どうしようもない愚か者を……────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほー、翔琉」

「お、母さんじゃん」

 

 

 沙優と紗季が指令室に戻っていって暫くした後、翔琉の病室に母である優里香がやって来た。同好会の皆は彼女に挨拶をする。

 

 

「こんにちは、みんな。着替え、持って来たわよ」

「サンキュー」

「それにしても、こんな美少女達に囲まれてるなんて、貴方も罪作りな男ねぇ」

 

 

 そう言って笑う優里香。そんなんじゃないのにと翔琉は思うが、歩夢達は満更でも無さそうだ。

 

 

「翔琉、貴方Xio続ける?」

 

 

 この様なことがあったのだから、Xioを辞めたいと思ってないか優里香は尋ねて来た。しかし、翔琉の答えは既に決まっている。

 

 

「もちろん。まあ、みんな辞めろって言うかも知んないけど、俺は続けるさ。同好会もXioも全力で……は疲れるから上手い具合にやってくよ」

 

 

 良い笑顔でそう言う翔琉。それを聞いて歩夢、愛、かすみ、果林も笑みを浮かべた。

 

 

「翔琉君らしいね」

「うん! かけるんはそうでないと!」

「そうね」

「でも、かすみんのことは全力で応援して下さいよ?」

 

 

 他の者達は少し心配そうな表情であったが、彼の屈託の無い笑顔と4人の言葉を受けてきっと翔琉なら大丈夫だろうという思いになって来た。そして優里香も、優しい微笑みを彼らに向けている。

 

 

「そう。なら、頑張ってね」

「おう」

 

 

 ぐっと拳を向ける。その時、大きな音が外から響いて来た。

 

 

「な、何!?」

「一体何が!?」

 

 

 窓から外を見る彼女達。病院から遠く離れた場所から煙が上がっているのが見えた。

 一体何があったのか……?

 そう考えていた時、スマホに入って来た情報を見たせつ菜が驚きの声を上げる。

 

 

「た、大変です!?」

「どうしたんですか、せつ菜先輩!?」

「こ、これを見て下さい!?」

 

 

 スマホの画面を見せて来るせつ菜。

 そこに書かれていた情報とは、ウルトロイドゼロが出動したというものだった。

 

 

「このロボット、壊すんじゃなかったんですかぁ!?」

「沙優さんもそう言ってた筈だけど、一体何で……!?」

 

 

 何が何だか分からなくて混乱してる同好会のメンバー達。翔琉は急いでエクスデバイザーを取り、沙優に連絡を入れる。

 

 

「沙優さん、何でウルトロイドゼロが!?」

《堂馬参謀よ……》

「えっ?」

《堂馬参謀が、ウルトロイドゼロを奪って無断出撃したの》

「はあぁ!?」

 

 

 まさかの事態に驚く翔琉。軟禁状態であると聞いていた筈の彼がどうやってそんなことを成したのか。方法は分からないが、とにかくヤバい状況なのは間違い無い。

 

 

「俺もそっちに!」

《ダメよ、まだ怪我だって全快じゃないでしょ》

「でも!?」

《ここは私達に任せて。大丈夫、もう紗季達がマスケッティで向かっているわ。だからすぐにでも止めて───》

《大変だよー!!》

《大変だよー!!》

 

 

 デバイザーの向こうからミキリとミハネの声が響く。その内容は恐るべきものであった………。

 

 

《ゴジラが出たよ!!!!》

《なッ……!? 嘘でしょ!?》

 

 

 居ても立っても居られなくなった翔琉は通信を切ってベッドから降り、部屋を出ようとする。それに同好会のみんなは驚き彼を止めた。

 

 

「ちょ、先輩何してるんですか!?」

「悪いなみんな、俺行かなきゃなんねぇんだ」

「行くって、まさかあそこに!?」

「危ないよ、翔琉君!?」

 

 

 彼がこれからもXioを続けていくことを納得したとはいえ、流石にこんな状態で出す訳にはいかない。何とかしてみんなは止めようとするが翔琉は彼女達を掻き分けてドアに向かっていく。

 そんな彼の前に、優里香が立った。

 

 

「母さん……」

「………」

 

 

 見つめ合う2人。その様子を見て同好会のみんなは一歩後ろに下がった。何か2人の間で、言葉に出来無い様な想いのやり取りが成されている様に感じたからだ。

 

 暫く見つめ合った後、優里香は彼に笑顔を向けた。

 

 

「行ってらっしゃい」

「ああ、行ってきます。あ、晩飯はオムライスでよろしく」

 

 

 そう言って翔琉は優里香の横を通り抜け、病室から出て行くのであった。

 

 

「い、良いんですか、送り出して……?」

 

 

 しずくが不安そうに聞くが優里香は優しい笑みで「ええ」と言いって頷く。

 

 

「あの子なら大丈夫よ。だって……」

「だって?」

「………私の子なんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 堂馬参謀はウルトロイドゼロを使い、人類の為にゴジラを誘き寄せ抹殺するべく進んでいく。

 そのウルトロイドゼロに反応し、ゴジラは怒りの咆哮と共にまた上陸した。

 そしてその混沌とした状況から人々を守る為に、翔琉は包帯を取って捨てエクスデバイザーでウルトラマンエックスに変身し飛び立つ。

 

 

《X UNITED》

 

 

 それぞれの想いが、多くのものを巻き込みながら衝突するのであった─────

 

 

 

 

 

 

 

 






人類を守りたいという思いがどんどん歪んでいく堂馬参謀。
彼はウルトラマンダイナの権藤参謀、ウルトラマンギンガSの神山長官、ウルトラマンZのユウキ・マイ、これらのキャラクターを基にし、より過激なキャラにしています。果たして彼の乗るウルトロイドゼロは怒りと共に再び現れたゴジラを倒せるのか……?


次回、三体により大決戦。是非お楽しみに。


感想、高評価、質問、ここすき、その他、是非是非お待ちしています!


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66.無敵ノ怪獣王


あけましておめでとうございます!

年末は以前この作品を盗作した人が八つ当たりをして来たり、怪我で入院したりと大変だったのですが、これからまた頑張って書いていこうと思います。
今年中に完結したい…!

それではゴジラ編ラスト、結末を見守って下さい。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《堂馬参謀! 止まって下さい! 止まって!》

 

 

 突き進むウルトロイドゼロ。それを操る堂馬参謀に対してスカイマスケッティαに乗る紗季が呼び掛けるが彼は止まることなく前進する。

 

 

《くそっ! いっそのこと撃って止めようぜ!?》

《馬鹿! 流石にダメだって!》

《気持ちは分かるけど我慢して!》

 

 

 ハヤテが業を煮やし撃とうかと言うが、流石にそういう訳にはいかない。それに街にはまだ多くの人がいる為、下手に攻撃すれば巻き込んでしまう可能性もある。

 

 ウルトロイドゼロは前へ前へと進行。その中では、堂馬参謀が笑みを浮かべながら操縦桿を握っていた。

 

 

《止まって下さい堂馬参謀!! これ以上の暴走は辞めて───》

「来たか……」

《えっ? 来たって………嘘でしょ……!?》

 

 

 停止したウルトロイドゼロ。そしてその前方には、海より這い出て上陸したゴジラの姿があった。ウルトロイドゼロに反応し、怪獣王は再び現れたのだ。

 

 

「待っていたぞゴジラ。貴様を倒せば私は、ウルトロイドゼロは世界に認められる!! 我々の存在を、誰しもが崇めるのだ!!」

 

 

 ゴジラに向かってマグネリュームメーザーが放たれる。それを横に跳んで躱し、ゴジラはウルトロイドゼロに向けて突っ込んでいった。向かって来るヤツに対し、マグネリュームガトリングが火を吹く。

 

 

《うう……どうすれば……!?》

 

 

 激突するゴジラとウルトロイドゼロ。轟音が鳴り響き土煙が舞う。彼らは周りの被害などお構い無しに戦っており、まだ避難の完了していないこの状況では被害者が出てしまうかも知れない。

 

 

《3人共聞いて!》

《隊長!?》

《全員地上に降りて避難誘導を! 下手に攻撃しても通用はしないだろうし、被害を拡げるだけになるわ。リュウジとザムザも今そっちに向かわせているから避難が完了次第、上空と地上でゴジラを攻撃、撃退後にウルトロイドゼロを停止させて堂馬参謀を拘束するわよ》

 

 

 沙優からの通信に了解と応えた後、3機のマスケッティは地上に着陸。そしてそれから降りた3人は街の人々を避難させる為に駆け出した。

 

 一方ゴジラとウルトロイドゼロの激闘は激しくなる。と言っても、ほぼゴジラが圧倒している状態であった。

 爪がボディを裂き、尾が衝撃を与え、突進が機体を吹っ飛ばす。堂馬参謀は様々な武器を利用して攻撃を仕掛けるが効かないか躱されるかで全て通用していなかった。

 

 

「ぐおおお!? ば、馬鹿な!? 何故!?」

 

 

 翔琉が乗っていた時だってもう少し戦えてた筈。なのに開発者である自分が何故こんなにも追い詰められているのか? 

 短期間とはいえエックスとして最前線で命を張り戦い続けた翔琉と、過去には前線に出てたとはいえもうただ上から命令を出し続けるだけになってしまった堂馬参謀とでは実力が違うということなのだろう。

 

 一旦離れ、マグネリュームメーザーとマグネリュームガトリングを同時発射。ゴジラの胸に命中し爆発が起きる。

 

 

「やったか!? ────何ッ!?」

 

 

 煙りを押し除けながら現れたのは無傷のゴジラ。奴は猛進し、ウルトロイドゼロに強烈なタックルを叩き込んだ。火花を散らしながら、機体は大きく吹っ飛んでしまった。

 

 

「ぐおおッ!?」

 

 

 地面に叩き付けられたウルトロイドゼロ。その衝撃がコックピット内の堂馬参謀を襲う。

 最強にして人類の希望、この地球を守る力である筈のウルトロイドゼロが何故こうも簡単に圧倒されてしまっているのか、彼には理解が出来無いでいた。何故攻撃が効かないのか、どうして勝てないのか? 

 考えても答えが出ない。この力は、この星で最強の物の筈なのに……。

 

 

「ならば……D4レイで!!」

 

 

 起き上がらせ、胸部のD4レイを起動。エネルギーがチャージされていき、周囲の空間が歪む。

 

 

《ダメです堂馬参謀!? 避難が完了してない今撃てば、多くの人が巻き込まれます!!》

「黙れ!! あのゴジラを殺せるなら、多少の犠牲など構うものかァ!!」

 

 

 確かにD4レイならゴジラを倒せるかも知れないが、まだ逃げ遅れた市民がいる中で放てば多くの人が巻き込まれ犠牲となってしまう。だがそんな事お構い無しに、堂馬参謀はエネルギーをどんどん蓄積させていく。対するゴジラは、鋭い眼光をウルトロイドゼロにへと向けていた。

 

 

「さあ、怪獣王よ!! 今日この時が貴様の最期であり、人類がこの星の生態系の頂点に立つ瞬間なのだァァ!!」

 

 

 スイッチに指を掛ける。

 

 

「D4レイ、発───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「させるかああああああ!!」

 

 

 だがその一撃が放たれることは無かった。寸前で到着したエックスがウルトロイドゼロを蹴り飛ばし、発射を中断させたからだ。

 

 

「ぐおお!? き、貴様ァァァ!!」

「馬鹿かアンタは!? あんなもん今撃ったらとんでもねぇ事になることくらい分かれよ馬鹿!!」

「黙れぇぇぇ!! 貴様さえ、貴様さえ居なければあああああ!!!」

 

 

 マグネリュームブレードを形成し大きく振るう。エックスはそれを背後に跳んで回避。

 

 

「うおお!? あっぶねぇなぁ!?」

「何故貴様がこの星の希望などと持て囃されている!? 貴様の様な不確定要素は、排除されるべきだろうが!!」

「知るかそんなの───ッ!?」

 

 

 エックスとウルトロイドゼロに向かって、ゴジラが吼えて突っ込んで来る。強烈なタックルが2体を突き飛ばしてしまう。

 

 

「ぐっ!? おのれぇ!!」

「があッ!?」

 

 

 立ち上がったウルトロイドゼロはゴジラに向かって進み拳を放つ。何度も何度も叩き込むが奴には通用していないみたいだ。逆にゴジラの爪や拳によりウルトロイドゼロのボディが更に傷付けられる。

 

 蹴りが炸裂して機体がビルへ叩き付けられた。やはり堂馬参謀ではゴジラを倒すのは不可能な様だ。それでも彼は、何かに取り憑かれたかの様にゴジラに対して向かっていく。

 

 

「くっそ、最悪だろ……!」

 

 

 周りなどお構い無しに戦う2体。戦いと言っても、ほぼゴジラが圧倒していて戦いになっていないが。周囲の建物が破壊され、瓦礫が地に落ちる。

 どちらも止めなければならないのだが、割り込めば両方から攻撃を喰らう事になる。だが放って置けば被害は拡大してしまう。どうするのが最善か、思考をフル回転させていると……。

 

 

「大変そうだねぇ、翔琉君」

「ッ、お前……カタラ!」

 

 

 エックスの近くにあるビルの屋上にカタラが立ち声を掛けて来た。カタラはいつも通り笑顔を彼に向けている。

 

 

「お前、何で此処にいる……? まさか、あのおっさんがウルトロイドゼロに乗ったのって!?」

「あはは、勘がいいね。そう、ボクが彼に進言したのさ。君がゴジラを倒せばいいってね」

「チッ、余計なことしやがって……!」

 

 

 拳を握り怒りを露わにするエックスを、カタラは相変わらず笑顔で見つめていた。

 

 

「本当に面白いよ。勝てる筈も無い相手に、どう考えても被害しか齎さない物で、周りの事を考えずに戦う。それでも平和の為とか地球の為とか叫べるなんて、最高じゃないか」

「………馬鹿にしてんじゃねぇぞ」

「馬鹿になんてしてないよ。それにボクは地球人のことも嫌いじゃないし」

「よく言う……」

 

 

 駆け出してウルトロイドゼロを抑え付けているゴジラに全速力でタックルをブチ込む。急な事で驚いたのか、ゴジラはウルトロイドゼロから離れ数歩退がった。

 

 睨むゴジラに構えるエックス。奴から放たれるプレッシャーにエックスは圧し潰されそうになって来るが負ける訳にいかない。自身に対して一喝した後、彼はゴジラに向かっていく。

 

 

《ULTRAMAN AGUL LOAD》

 

 

 アグルの力を発動。右手から光の剣・アグルセイバーを伸ばし、ゴジラに斬り掛かった。何度も素早く剣を振るって奴の身体を斬り付けていく。ゴジラはそれを受け止める事も躱す事も出来ずにいた。

 

 ───いける……! 

 

 そう思い、エックスは頭部に向けて剣を勢い良く突き出した。

 

 

 

 

 

 

 

「────は……?」

 

 

 しかし、ゴジラはそれを口で受け止めてしまった。

 剣の先をしっかりと咥えたゴジラ。予想外の事にエックスは驚きを隠せない。咥えたまま、ゴジラは首を思いっきり振るってから口を開け、エックスをブン投げてしまう。投げられた彼は、ビルを押し潰しながら地に落ちた。

 

 

「ぐううっ!? 嘘だろ……!?」

 

 

 吼えるゴジラ。先程までの剣撃もまるで効いてない様子。規格外にも程がある。

 

 ゴジラはエックスから目線を外し立ち上がったウルトロイドゼロの方を向いた。もうボロボロで内部の配線などが露出している個所があり、あちこちで火花が散っている。余裕綽々のゴジラとは対照的にスクラップ寸前と言った様子だ。

 そしてコックピットの堂馬参謀もボロボロだ。額からは血が流れており、骨にヒビが入っている場所もある程。このまま続ければ負けは確実だろうが、彼はそんなこと微塵も思っていない。

 

 何故なら、最強の切り札があるのだから。

 

 

「D4レイで……殺すッッ!!!」

 

 

 再びD4レイを起動。何をどれだけ巻き込もうが構わない。ゴジラを殺す、ただそれだけの為にこの一撃を放つ。このウルトロイドゼロこそがこの地球を守る力。それを今、全世界へ証明する為に、目の前の獣を殺すのだ。

 

 エネルギーがチャージされていく。もう邪魔をされることも無いだろう。一方ゴジラも、背鰭を蒼く発光させて力を貯めていた。奴は放射熱線で対抗するつもりだろう。しかしそんなもので、D4レイが破られる筈が無い。

 間違い無く勝てる。そう思い堂馬参謀の口角が上に上がっていく。

 

 

「フハハハハハッ!! ゴジラァァァ!!! 今度こそ、今度こそ貴様の終わりの時だァァァァァ!!! 死ねええええええ!!!!」

 

 

 スイッチが押され、D4レイが放たれる。空間に亀裂を刻みながら向かっていく凄まじい破壊光線。そしてゴジラも、口を開き強烈な放射熱線を放った。

 ぶつかり合う紫電と蒼炎、二つの閃光。その余波は周囲のビルを破壊し、アスファルトを砕き、自動車や瓦礫を吹き飛ばして空間を切り裂く。

 

 

「あれ、絶対不味ッ!! 

 

 

 近付くことが出来無いエックス。どちらが勝ったとしても周りに大きな被害が出るのは間違い無い。彼は余波に耐えながらギリギリまで接近してエックスバリアウォールをドーム状に展開し、自身とゴジラ、ウルトロイドゼロをその中に閉じ込めた。街の人達は巻き込んで居ないので、これでどんなことが起こったとしても一般市民の死者が出ることは無い。

 

 少しずつ押していくD4レイ。このまま押せば、ゴジラを殺せる。

 勝った……間違い無く勝った……! 

 堂馬参謀は喜び、コックピットの中で高らかに笑い声を上げるのであった。

 

 

 

「ハハハ……!! ハハッ、ハァーハハハハハハッ!! 私の、私のウルトロイドゼロの勝ちだ!! ゴジラを倒し、地球を守ったのだ!! もう誰も文句は言えまい!! このウルトロイドゼロと私がいる限り、人類は永遠にこの星の頂点に立ち続けることが出来るのだ!! フハハハハハハハハハハッ!!! 

 

 

 

 

 

 

 ────ッ!? な、何……!?」

 

 

 しかし、D4レイは逆に押し返されていた。ゴジラの放射熱線が、より太くなっていき、より強く輝いていく。どんどん出力が上がり、D4レイを押していく。堂馬参謀は何度もスイッチを押したりレバーを動かしたするが、そんな事で出力が上がる筈も無い。

 

 

「馬鹿な!? D4レイが負けるなんて有り得ない!? 有り得ない筈だ!?」

 

 

 パニックになる堂馬参謀。だが事実、放射熱線は威力をより増していく。そして遂にはD4レイを撃ち破り、ウルトロイドゼロに強烈な放射熱線が炸裂するのであった。

 

 

「おっさん!? ぐああ!?」

「ぬうッ!? うわあああああああああああああああああああッ!!??」

 

 

 ウルトロイドゼロを起点に起きる大爆発。それによりエックスも吹き飛ばされてバリアに叩き付けられる。爆風は辺りにある物を全て呑み込んでいき、バリアにぶつかった。

 

 

 

 

 バリアが消え、爆煙が晴れた後、拡がった光景は廃墟となった街の一角だった。もしエックスがバリアを展開していなければ、より多くの場所が被害に遭い犠牲者も出ていたかも知れない。

 

 そこに居るのはカラータイマーの鳴り倒れているエックス、両脚の膝から先、左腕の肘から先、そして右腕が肩から捥げて無くなっており、頭部も半分失われている悲惨な姿となったウルトロイドゼロ、そして仁王立ちしているゴジラ。

 

 悠々と立っているそれは、誰がどう見ても今回の勝者の姿であった。

 

 

「ぐぅ…………ば、馬鹿な………有り……得……ない……」

 

 

 こんな状態になってもウルトロイドゼロが負けたという事が信じられない堂馬参謀。彼も血だらけであり、まともに動くことが出来無い。

 そんな彼に、ゴジラが一歩一歩近付いて来る。

 

 

「わ、私……は……人類……を……」

 

 

 ───守る。その筈だったのに。今の姿はただの鉄屑の様だ。それがどうしても信じられない。

 

 ウルトロイドゼロの側で立ち止まるゴジラ。振り上げた足の影が、コックピットのある部分に落とされる。奴はここを踏み潰すつもりなのだろう。それに気付き、堂馬参謀の表情が蒼白となっていく。

 

 

「はあ……!? 嗚呼……嗚呼……!?」

「や、やめろ……!?」

 

 

 エックスもゴジラの行動に気付き腕を伸ばす。だがそれ以上はもう何も出来無いでいた。

 

 

「やめ、ろ……!? 嗚呼……やめてくれぇ……!?」

 

 

 命乞いをするが、そんなものがゴジラに通じる筈も無い。最期の力を振り絞って絶叫する堂馬参謀。

 

 そしてそれを消す様に、ゴジラは足を振り下ろすのであった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 数度火花がスパークした後、ウルトロイドゼロは完全に機能を停止。D4をゴジラによって破壊されることになった。

 ゴジラは忌々しい破壊兵器を潰したことを喜ぶ様に咆哮する。そしてその後、奴は立ち上がろうとしているエックスに目線を向けた。

 

 

「くっ……ううっ……」

 

 

 どうにか立ち上がったエックスだが、ダメージが大きく足はフラフラ。これ以上戦いを続けるのは不可能だろうが、それでも彼はゴジラに対して構えた。もしゴジラが暴れたら、更なる被害が発生する。それだけは何としても防がなければならない。

 睨み合うエックスとゴジラ。そして……。

 

 

 

 ───■■■■■■■■■ッ!!! 

 

 

 吼えたゴジラ。それから奴は海に向けて駆けていき飛び込んだ。海を渡り去っていく。膝を付き、エックスはそれを見送ることしか出来無い。

 

 完敗。その言葉が脳裏に刻まれる。

 

 力は通用せず、目の前で命を失った。その事実と途方も無い悔しさが、彼の胸に大きな(しこり)を生むのであった───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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《怪獣王ゴジラ、凄まじい力だねぇ》

 

 

 パソコンの液晶に映されたルギエルが下着姿の明里にそう声を掛ける。

 

 

「ねぇー。あの力が有ればウルトラマンも速攻で殺せるかな?」

《ああ。奴ならウルトラマンなど目では無いだろう。捕まえるかい?》

「出来るの?」

《かなり難しいねぇ。以前カタラから貰ったあのカプセルの力を使っても上手くいくかどうか……》

 

 

 そう言うルギエルに「使えないなぁー」と明里は返した。それから彼女は一つの箱を手に取りそれをひっくり返す。中に入っていたのは動物や昆虫などの人形であり、床に散らばったそれらを見て彼女は舌打ちをする。

 

 

《おやおやおや、何だいそれは?》

「あのカタラ(クソ)が置いてったの。本当何のつもりだか」

《成る程ねぇ》

 

 

 しゃがみ、適当に人形を手に取る。

 

 

「ゴジラ、いつか絶対邪魔になるよねー。てか今も割と邪魔。消えてくれないかな」

《簡単にはいかないだろうねぇ。それに───》

 

 

 ルギエルは散らばった人形の中で三つの物に目を向け、明里もルギエルが見ている物に目線を落とした。

 

 

《この地球で脅威(邪魔)になるのは、ゴジラだけじゃないさ》

 

 

 彼女達の目の先にあったのはゴリラと蛾、そして亀の人形だ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 堂馬参謀はゴジラの出現に気付き、自らウルトロイドゼロに乗って出撃。奴を倒す為に戦ったが力及ばす敗れ殉職。ウルトロイドゼロとD4を破壊され完全に破棄し計画は永久凍結されることになった。

 これが世間に発表された今回の件の顛末だ。

 

 事実を隠蔽して発表したことに対して翔琉やXioの面々は怪訝な顔をしたがUNVER上層部の意向に逆らう訳にもいかず、下手に真実を明かしても混乱を招く危険性だってあると言われ、彼らは渋々その決定に従うことになった。

 

 しかしウルトロイドゼロが周囲の被害を構わずに戦っていたり、エックスにまで攻撃を仕掛けていた事から、UNVERの発表が嘘ではないかと疑う人も少なくなかった。上層部が圧を掛けたことによりマスコミが報道することは無かったが、SNSではUNVERやXioに対して疑心暗鬼な声が上がっている。更に人類の希望とまで言われたウルトロイドゼロやエックスも、ゴジラに敵わなかったということが人々に不安を与えてしまう事態にもなっていた

 

 

 今回の一件は、人々に大きな被害と不安を残すこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 ベランダから夜空を見上げる翔琉。ゴジラに勝てなかったこと、堂馬参謀を助けれなかったこと。この一件で自身の力がまだまだであることを酷く痛感することになった。溜め息が漏れ、気分が落ち込んでいく。

 

 

「翔琉君」

 

 

 そんな彼に隣りから歩夢が顔を出して声を掛けた。

 

 

「この前のことで悩んでいるの?」

「悩んでるっつーか、気分沈んでるっつーか……」

「そっか……。ごめんね、全然力になれなくて……」

 

 

 こうやって話を聞くことくらいしか出来無いことを気にする歩夢。しかし、翔琉にしてみればそれだけでもとても心強いことだった。

 目線を落としている彼女に手を伸ばして頭を撫でる。

 

 

「ありがとな、歩夢。お前やみんなが居てくれるから、俺は頑張っていけるんだ。十分力になってくれてるさ」

「翔琉君……」

 

 

 ふと空を見上げると、時折見ていた夜空の星座の位置が変わっている事に気付いた。季節が夏から移ろっているのだ。

 

 

「夏ももう終わりか」

「そうだね」

「なあ、歩夢」

「何?」

「俺達さ、未来でもこんな風に一緒に居れるかな?」、

「え、ええっ!?」

 

 

 思っても無かった彼からの問いに、歩夢の顔は茹でたこの様に熱く赤くなる。

 

 

「き、きき、きっと居れるよ!! 私も、が、頑張るから……!!」

「ハハッ、そりゃ良いや」

 

 

 彼女の頭をポンと軽く叩く。

 彼女達の為にも、もっと強くならなければ───そう考えながら、彼は胸に闘志を燃やすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い暗いナニかの奥。

 わらいこえが溢れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





人類側の完敗となった66話、如何だったでしょうか?
ウルトロイドゼロは破壊され堂馬参謀は死亡。翔琉も容易く遇らわれる結果に。

現状の翔琉ではゴジラに敵うことはありません。もっともっと強くならなければ、その足下にも及ばないでしょう。

そして脅威は、ゴジラ以外にも存在してる様で……。
これからも彼らの苦難は続いていくことになります。


長かった夏も終わり、次回から新学期編。
スクスタで新学期と言えばあのキャラやあのキャラ達が出て来ることになり、翔琉にも大きな壁が立ち塞がります。
彼らがどの様に乗り越えていくのか、是非是非見守っていて下さい。

それでまた次回。
感想、高評価、質問、意見、ここすき、その他、是非是非お待ちしています!



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67.ニジガク保育園



とても遅くなってしまい申し訳ありません!

ウルトラマントリガーが最終回を迎えた昨今ですが本作は新章へ突入します!
どの様な物語が紡がれていくのかどうぞお楽しみに!


そしてお知らせですがSu-d様の書かれているラブライブ!サンシャイン!!とウルトラマンネクサスのクロスSS、「模造巨人と少女」にてこの作品の一部シーンが引用されています。
「模造巨人と少女」の主人公が変身するのはまさかのダークファウスト!
本作での怨敵だったファウストが主役の作品に、一体どんな風に引用されているのか是非ご覧になって下さい!

またこれは以前、剛奈がした様な盗作行為では無くお互いに了承し合った上での引用なのでご安心下さい。


それでは最新話、早速どうぞ!





 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い部屋の中、1体の奇怪な存在が居た。

 白い身体に黒い縦縞模様。分厚い唇のおかっぱ頭という何とも奇妙な姿をしているその異星人は、大きな光線銃を手にして笑い声を漏らしている。

 

 

「ダッダッ……。これさえ有れば、私の望む世界が……!」

 

 

 それから高らかに笑う異星人。彼の恐ろしい野望が、今動き出したのだ─────

 

 

 

 

 

 

 

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《うーん、守ってくれてるのは嬉しいけど、なんか怪しいっていうかぁ……》

《実際何か隠してそうだもんねぇ》

 

《あのロボットだって絶対暴走してたでしょ。もししてなくてあんな周り巻き込む様な戦いしてたんだったらそれはそれで大問題》

 

《ウルトラマンだって、いつまで地球守ってくれるか分かんないし怖いですよ》

《前にウルトラマンの偽者みたいなのだっていろいろ出て来たし、完全に信用は出来無いかなぁ》

 

《結局Xioもウルトラマンもゴジラには勝てないんだ。人類を守るなんて不可能なんだよ》

《そもそもウルトラマンの正体って何なんですかねぇ? 今まで地球を襲って来た宇宙人と同じなら、信用なんて出来無いよ》

 

 

 前回のウルトロイドゼロの件以降、世間のXio、そしてウルトラマンエックスに対する当たりは強くなっていた。

 

 自分達を本当に守ってくれるのか?

 何か秘密を隠し持っていないか?

 ウルトラマンも侵略者と変わらないのではないか?

 

 不安から身勝手とも取れる憶測まで、様々な意見がSNSやメディアで討論されている。今日もまた、テレビにはXioとウルトラマンを信用出来るのかと話すニュースが流されていた。出演者の殆どが彼らに対して批判的な意見を述べており、その中で流された街頭インタビューでも多くの人がXioとウルトラマンに疑念を抱いていた。

 

 そんなニュースを、虹学内の食堂にあるテレビで翔琉は頭を掻きながら眺めていた。

 今日から新学期が始まり現在同好会のみんなはスクールアイドルフェスティバルについての計画を立てているところ。話し合いもある程度進み、休憩も兼ねてみんなに飲み物を買ってくる為に購買へ向かっていた途中、通り掛かった食堂でニュースを目撃してしまったのだ。

 

 

「まぁ……仕方ねえ、か」

 

 

 食事をしながらニュースを見ている生徒達の反応も様々。ウルトラマンを恐れている様な者もいれば、これは嘘だと思っている者もいる。彼が正義のヒーローなのか、それとも災厄を齎す悪魔なのか……多かれ少なかれ、皆が不安の様なものを胸に抱えていた。

 

 溜め息を吐く翔琉。好き勝手言われているが、あんな事があった以上仕方が無い。

 

 

「おっ、翔琉君じゃーん」

 

 

 そんな彼に声を掛けたのは明里だ。

 

 

「よう、明里」

「何してんのー?」

「みんなの差し入れ買って来たんだよ」

 

 

 手に下げていた袋を見せる。

 

 

「そうなんだー、お疲れ様」

「お気遣いありがと。明里は何してたんだ?」

「特に何も〜。適当にフラフラして、そろそろ帰ろっかなぁって思ってたところ」

「また面倒なナンパに遭うぞ」

「そうなったら翔琉君が助けてくれるでしょ?」

 

 

 首を傾げてそう言ってくる明里に、彼は「そうだな」と応える。困っているなら彼はやれるだけのことは、というか全力で彼女を助けにいくだろう。何やかんや、明里は同好会のメンバーと同じくらいに仲の良い友人と呼べる程になっていた。

 

 

「あ、せっかくだから、スクールアイドルの練習見てみて良い? 何か面白そうだし」

「良いぞ。どうせなら入部するか?」

「うーん、それは遠慮しとこっかな。私も色々忙しいから」

 

 

 そんな話をして笑い合いながら、2人は同好会の部室へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

「そういえば楽しかったねー、夏休みのお出かけ」

「ん? ああ、そうだな」

 

 

 スチール星人シーフが起こしたパンダ消失事件の後、彼らは2人で遊びに出掛けた。澁谷のブティックなどを一緒に見て回り公園でソフトクリームを食べたりして、明里はかなり満足だった様で、翔琉も存分に楽しんだ。

 

 

「あれってさー。周りから見たら、デートとかに見えたかなぁ?」

「あー、かもな。今更ながら、変な噂とかになってなきゃいいけど」

「翔琉君は私と噂されるの嫌?」

「嫌じゃねぇけど、そういうのって面倒臭くないか? 一々周りから「付き合ってんのー?」、「いつからー?」とか聞かれまくるんだぞ?」

「それは確かに鬱陶しいかも」

 

 

 「そうだろ?」と言って来る翔琉。明里自身、彼と噂になるのなら構わない。確かに周囲の人間が変な茶々を入れて来そうだが、ウザかったら殺せばいいだけの話。それにそんな噂が流れてくれた方が少なからず居るであろう彼を狙っている女子に対して牽制出来る。彼に恋しているだろうかすみには少し悪いが。

 

 そんなこんな話していると部室が近付いて来た。もう少しで到着するという時……。

 

 

「へっ?」

「ッ?」

 

 

 扉の隙間、つまりは部室の中から強烈な光が漏れ出した。

 

 

「な、何かな、今の?」

 

 

 困惑してる明里を置いて翔琉は買って来た差し入れを床に落としてから部室へと走る。

 

 

「みんな! 無事……か……!?」

 

 

 勢いよく扉を開けた翔琉。そんな彼の目に飛び込んで来たのは、驚きの光景だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねーねー、おままごとしよー?」

「やりたい! かすみんはアイドル!」

「じゃあ、わたしはアイドルのマネージャーさん!」

 

「あい、お外で遊びたーい!」

「わたしも行きます!」

「わたしは、ご本よみたいなぁ…」

 

「すぴぃ……すぴぃ……」

「ねー、おきてよー」

「むにゃむにゃ……すぴぃ……」

「うーん、おきない」

 

 

「な……な、何だ、こりゃ……!?」

 

 

 彼の目に映ったのはぶかぶかの上着を纏っている9人の幼い女の子達。辺りには服や女性物の下着が散乱している。女の子達の姿や髪の色、そして喋りなどから翔琉はまさかと思いつつも1人の子に近付いて尋ねる。

 

 

「な、なぁ? 君、名前は?」

 

 

 それに対して聞かれた子は、満面の笑みで答えてくれた。

 

 

「うえはら あゆむです!」

 

 

 彼女の言葉で確信。この子達は、同好会のメンバーが子どもになってしまった姿なのだと────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうっすか、涼風さん?」

「ふむ……これは……」

 

 

 翔琉は綾小路 涼風を呼び子どもになってしまった歩夢達のことを調べてもらっていた。Xioのラボチーム所属の彼女だがこの虹ヶ咲学園にも怪獣学の教師として通っており、今日は新学期からの授業時間の確認と調整の為に学園に来ていたのだ。

 デバイザーを操作して歩夢達に何が起こったのかを調べていると、とある事が判明する。

 

 

「これを見て下さい。彼女達の身体を特殊な粒子が包み込んでいます。彼女達の肉体と精神の時間を逆行させて子どもにしたんだと思われます」

「特殊な粒子?」

「タキオン粒子や、場の量子論、CPT定理などの話で長くなりますが聞きますか?」

「あ、遠慮しときます」

 

 

 成績は悪くない翔琉だがそこまでのことを理解するのは簡単では無い。

 

 

「やっぱ異星人の仕業ってやつっすかね?」

「恐らく。子どもにされていたのは天地さんを除くスクールアイドル同好会の生徒達だけで、今のところ他の生徒の被害は無い。そうなるとピンポイントで彼女達を狙ったという可能性もあります。理由は謎ですが」

「ロクでもない理由な気がするっすけどねぇ」

「まあまあ良いじゃない」

 

 

 溜め息を吐いた彼にそう言ったのは母である優里香だ。

 小さくなってしまい、着る物も無い彼女達をまずはどうにかしなくてはと思い、少しテンパりながら翔琉は母を頼った。翔琉に事情を説明された彼女は軽く驚きながらも全員分の服を用意してすぐに学校に駆け付けてくれ、皆をそれに着替えさせてから今は彼女達の面倒を見ている。

 

 

「小さい子の相手なんて久しぶりだけど、貴方と歩夢ちゃんが小さかった頃を思い出して何だか懐かしいわぁ」

「そんな悠長なこと言ってる場合でもないんだけどなぁ……」

「あはは、翔琉君のお母さん面白いね」

 

 

 明里も優里香と一緒にみんなの面倒を見てくれていた。4〜6歳くらいになった彼女が元気に走り回ったりタブレットでアニメを見たりしており、同好会の部室がいつの間にか保育所になってしまっていることに翔琉は頭を抱える。

 すると彼の足下に、小さくなったエマが近寄って来た。

 

 

「お、エマか。どうかしたか?」

Dove siamo?(ここはどこ)

 

 

 彼女の口から発せられたのは異国の言葉に翔琉は固まった。

 普段彼女が流暢な日本語を話していたので忘れかけていたが、エマはスイス出身のイタリア系スイス人なのだ。今彼女が喋ったのは母国の言葉であるイタリア語。日本語を話せる様になったのがいつからかは分からないが、少なくともこの歳ででは無いだろう。

 

 

「………誰かこれスイス語?解る人いる?」

「スイス語という言語は在りませんよ。スイスではドイツ語、イタリア語、フランス語、ロマンシュ語の4つの言語が使われています。ヴェルデさんのはイタリア語ですね」

「4つも言葉あるとか不便そうですねぇ……」

「あらあらどうしましょう? 流石にイタリア語なんて私も解らないしぃ……」

 

 

 スイスの事情に大変そうだと感じる明里と、どうしたら良いかと困る優里香。

 

 

「問題無いです。イタリア語なら私が理解出来ますから」

「えっ、涼風さんマジっすか?」

「ええ。UNVER本部のあるスイスの言語は全てマスターしてますし、他の国の言葉もいくつか話せます。こう見えてマルチリンガルなので」

 

 

 実は彼女、12歳でアメリカの大学に飛び級で合格し、その後最年少でXioのラボチームに正式入隊した天才なのだ。彼女は様々なXioの装備の開発研究をしており、戦力強化に大いに貢献した。

 

 

「涼風さんって、だいぶ凄いっすよねぇ……」

「じゃあ、エマちゃんは綾小路さんにお願い出来ます?」

「ええ、大丈夫です。このデータはラボに送って、博士や水瀬さんに解析してもらいます」

 

 

 デバイザーを操作する涼風。何か元に戻す方法が見つかれば良いのだが……。

 

 

「俺、学校の中見回ってみるっす。もしかしたらこんなことした異星人がまだ中に居るかも知れないですし」

「え、危ないよ翔琉君?」

「大丈夫だって。俺結構強いんだぜ。じゃあ涼風さん、母さん、明里、みんなのこと頼んだ」

 

 

 そう言って彼は部室から出て学内の探索を開始した。彼が出てった後の扉を明里は心配そうな瞳で見つめており、それに優里香が気付く。

 

 

「心配してくれるの?」

「え、あ、はい……」

「ふふっ、ありがとう」

「お母さんは、心配じゃないんですか……?」

 

 

 息子が異星人を探すという危険な行為をしに向かったというのに優里香は落ち着いている。普通ならもっと不安になって落ち着かないものじゃないのかと明里は思っていた。

 

 

「心配はしてるわ。でも、あの“大丈夫”は本当に大丈夫な時のだから、信じて送り出せるの」

「そう、何ですか……」

「ええ。親っていうのはね、子どものことは何となく解るのよ」

 

 

 そう言って笑ってくれる優里香。

 

 親は子どもを理解してくれている。

 その言葉は明里には理解出来無いものであるが、「そうなんですね」と言って彼女に笑い返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「さーて、何処に隠れてるやら」

 

 

 校舎裏を歩く翔琉。部活生以外の生徒はほぼ下校しており、その部活をしてる生徒の数も少なくはなって来た時間。ここは隠れるのに適した場所の一つだろうと思い彼は来たのだ。

 

 辺りをキョロキョロと見回すが人影は居ない……と思っていると茂みが揺れた。

 

 

「ッ!?」

 

 

 構える翔琉。すると顔を出したのは白い仔猫。

 

 

「んだよ、びっくりさせやがって」

 

 

 ふーっと息を吐いてから構えを解く。仔猫は人馴れしているのか小さく鳴いた後翔琉の足に擦り寄って来た。しゃがんでから彼はその頭を撫でる。

 

 

「学園に住んでんのか? この辺は危ないから、早いとこ逃げたが良いぞー。─────ッ!」

 

 

 突如、背中をドロリとした感覚が撫でる。即座に立ち上がり振り向いた翔琉。仔猫も同じナニカを感じたのか踵を返して一目散に逃げ出した。

 草花を踏み締めながらこちらに近付いて来る足音が聞こえる。翔琉はソレが向かってくる方向に対して鋭い眼光を飛ばし、エクスデバイザーを手にした。

 

 

 今の感覚、それはあの時に感じたモノと非常によく似ている。そう、あのダークファウストと初めて対峙した時の感覚と。

 

 

 彼の前に姿を見せたのは赤と黒のボディに銀の鉄仮面にドス黒い瞳をした人ならざるモノ。ファウストと似ているが身体の模様が違い、何より角が無い。そして奴よりも、強い闇の力がそのモノからは感じられた。

 

 

「お前、何だ?」

 

 

 翔琉の問い掛けに、ソイツは鼻を鳴らしてから答える。

 

 

ダークメフィスト……

 

 

 悪魔は、翔琉に向かって血色の魔弾を放った───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







次回、「68.嗤う悪魔メフィスト」


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68.嗤う悪魔メフィスト



遅くなりすいません!
短めですがどうぞ!


 

 

 

 

 

 

 

「まさかこんな事になろうとは……!?」

 

 

 虹学校舎の壁に張り付き、窓からスクールアイドル同好会の部室を覗き込みながらソレは呟いた。その背には大きな光線銃が背負われている。この銃から出るビームは、命中させた者の肉体と精神の時を逆行させて幼児にする事が出来るのだ。

 

 この異星人の目的は幼児化したスクールアイドルを母星へと持ち帰る事。こいつはスクールアイドルが大好きで幼児が大好き、なのでスクールアイドルを幼児化して拐おうと考えたのだ。

 変態である。

 

 その最初のターゲットとしてこの学校を選び、そして目論見通り虹学のスクールアイドル達に光線を当てて幼児化することが出来た。そのまま拐えば良かったのだがこいつは幼児となった彼女達に暫く見惚れてしまっていた。

 変態である。

 

 そんなことをしていると部室に翔琉と明里が現れ、更にXioの隊員まで来てしまって手が出せなくなり、今はこうやって隠れて気を伺っているという状態だ。

 どうやって彼女達を連れ去るか思考するが他者が居ては非常にやり辛い。相手がXioの隊員となれば尚更だ。奴は困り果てて頭を抱える。

 

 一先ずはチャンスを待とう。そう思い奴は一旦窓から離れるのであった─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねーねー、かける君のママー」

「なーに、歩夢ちゃん?」

 

 

 正座している優里香の膝に座っている歩夢が彼女に声を掛けた。

 

 

「かける君はどこにいるのー?」

「あの子なら今おつかいに行ってくれてるの。もう少ししたらこっちに来ると思うわ」

「ほんと!? じゃあ、帰ってきたらかける君と遊ぶー!」

 

 

 にこにこと笑い両手を挙げる歩夢。身体も記憶も幼くなった彼女だが、幼馴染である翔琉のことはちゃんと憶えている様だ。楽しそうに優里香と話している彼女に愛としずく、せつ菜、かすみが近付いて来る。

 

 

「かける君ってだれー?」

「お友だちー?」

「かける君はね、あゆむの大好きなお友だちなの! 大きくなったら結婚するの!」

 

 

 そう言って少し照れながらにっこりと笑う歩夢に、彼女達は「いいなー!」と口々に言う。幼くてもそこは女子、こういう恋愛の話題は好きなのだろう。キャッキャッと楽しく会話する彼女達を見て優里香は微笑んだ。

 

 

「あらあら、やっぱり女の子はおませさんねぇ」

「翔琉君と歩夢ちゃんって、そんな約束してたんですねー」

 

 

 彼方を膝枕して寝かしている明里が呟いた。

 

 

「ええ。と言っても、当の本人は憶えてないみたいなのよねぇ」

「記憶喪失ですもんねー。こんな可愛い子との約束を忘れるなんて罪な男だなー」

「本当ねぇ」

 

 

 彼方の頭を撫でる彼女のその顔が、ほんの少しだけ寂しそうに優里香には見えた。

 

 

「もしかして貴女………」

 

 

 じっと明里を見つめる。彼女がちょっと戸惑っていると、優里香はにっこりと笑う。

 

 

「なるほど、貴女もなのね」

「へっ?」

「私は昔から知ってる歩夢ちゃんをほんのちょっとだけ贔屓してるけど、貴女のことも応援してるわ!」

「え、あ、いや……」

 

 

 翔琉のことが好きだということをあっさりと看破されてしまい赤面。可愛らしい反応を見せる明里を見て優里香は改めて、何やかんや自分の息子はモテるんだなと実感し嬉しく思えた。

 

 

「せっかくだから聞かせてくれない? 貴女と翔琉の出会いとか何処が好きなのかとか!」

 

 

 興奮しながら聞いて来る優里香。照れて頬を掻く明里は悪い気などしておらず、こんな母親もいるんだなと思い心が少し暖かくなるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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《X UNITED》

 

「オラァァ!!」

 

 

 即座にエックスとなって、ダークメフィストの放った魔弾を腕を振り打ち消し構える。

 ダークファウストに似ておりこちらを攻撃して来た存在。感じられる闇の力からしても間違い無く敵だろう。もしかしたら同好会のメンバーが幼児化している件も、コイツが犯人なのかも知れない。

 

 

「テメェ、何が目的だ?」

目的……それハお前を殺スこトだ

「チッ、そういうタイプかよ。あとお前も何か面倒臭ぇ喋り方だなァ」

 

 

 ヤツの発している言葉は日本語なのだがノイズが混じっている様に聞こえるので非常に分かり難い。しかしファウストの時の様にその意味は脳内に伝わって来るという気持ちの悪いものなのだ。

 苛立っているエックスを嘲笑う様に鼻を鳴らすメフィスト。それに対してまた舌打ちをした後彼は駆け出した。突き出される拳。メフィストはそれを左腕で防ぎ、仕返しとばかりに拳を放った。

 

 それから2人の攻防が始まる。殴り、防ぎ、蹴り、躱し、また殴り、どちらも攻めの手を緩めることは無い。蒼雷を纏ったエックスの拳と、黒闇を纏ったメフィストの拳がぶつかり合って空気を振るわせる。エネルギーの余波が、地面を抉り木々を傷付けた。

 

 

「この……!」

 

 

 一度距離を開き、稲妻の迸る手刀を振るう。しかしメフィストは右手に鉤爪・メフィストクローを出現させ、それを受け止めてしまう。

 

 

「何──ぐあっ!?」

 

 

 一瞬動きを止めたエックスの腹部を蹴りが叩き込まれた。

 数歩退がったエックスに、メフィストは更に爪を突き出し火花を散らせた。その威力を受けて彼は後方に吹っ飛び木に叩き付けられる。

 

 

「クソが……!」

死ぬガ良イ

「断る……っての!」

 

 

 跳ねる様に突っ込み、メフィストに連続でパンチを仕掛けていく。しかしメフィストはそれすらも防御、回避し、逆に一瞬の隙を突いて爪が彼の腹部を裂いた。

 奴の力は、ファウスト以上である。

 

 

「がッ!?」

 

 

 怯んだエックスを続けてメフィストクローによる連続突きが襲う。後退しながらどうにか防ごうとするが、苛烈な攻撃は彼を追い詰め苦しめていった。

 肩に、腹部に、胸に、爪による攻撃が入り彼の身体を傷付けていく。そして大きく振り上げた一撃が、エックスのことをまた吹き飛ばしてしまった。

 

 

「ぐああああ!?」

 

 

 地面を転がるエックス。そして倒れている彼にトドメとなる一撃を放つ為に、メフィストは爪に暗黒のエネルギーを蓄積させていく。

 

 

「こいつ……!」

終ワりだ……地獄に落ちロ

 

 

 突き出されたメフィストクローより放たれたハイパーメフィストショット。闇の光線は一直線に向かい、爆発を起こす。

 

 煙が舞い、それが晴れた後には何も残されていない。どうやらエックスは逃げてしまった様だ。

 

 

「あーあ。逃げられたみたいだね」

 

 

 メフィストの背後に現れたのはカタラだ。微笑みながら近付いて来て、メフィストの肩に手を置いた。

 

 

何故俺二、奴を襲ワせた……?

「そろそろ彼が何なのか、はっきりさせなきゃねって思って」

 

 

 手を払い除けて聞いて来たメフィストにカタラはそう答えた。翔琉のことを襲ったのはカタラからの指示によるもの。

 空を見ながら、カタラは言葉を続けていく。

 

 

「最初はウルトラマンに憑依されその力だけを手にし、本人の意識を眠らせている存在かと思っていた。でも何かおかしいんだよね、あの子。記憶が無いから問い正そうにも意味無いし、刺激でも与えたら何か分かるかなって思ったんだ。まあ、残念ながら何も分からなかったんだけどね」

 

 

 「あはは」と笑うカタラ。メフィストはカタラの企みなどどうでもいいのか背を向けて去っていった。

 

 

「自分で聞いといて酷いなぁ。まあ、良いか。どうせ君はただの人形だしね」

 

 

 

「ねえ、何か大きな音したよね……?」

「うん、何だろう?」

 

 

 どうやら先程の爆音が耳に入った生徒達がこちらに向かって来ている様だ。これ以上ここに居たら見つかってしまうだろう。

 カタラはゆっくりと、笑いながら消えていく。翔琉にはどんな秘密が隠されているのか。その答えを楽しみにしながらカタラもこの場から去るのであった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「くっそ……!?」

 

 

 何とかメフィストから逃げる事に成功した翔琉は痛む胸を押さえながら校舎内を歩いていた。メフィストに敗北したという事に苛立ちを感じ、彼は奥歯を噛み締める。もし逃げるのが後一歩遅かったら……奴に命を取られていたかも知れないと思うと悔しさと怒りが込み上げて来た。

 

 

「一体何なんだよアレは……?」

 

 

 突如襲って来たダークメフィスト。恐らくダークファウストと同類なのだろうが詳しい事は分からない。そもそもファウストだって結局何だったのか分かってないので仕方のない事だ。

 とりあえず一旦部室に戻ろうと考え、翔琉は歩いていく……。

 

 

 

 

 

 

 

「どうする……? どうすれば……!?」

 

 

 同好会のメンバーを幼児化させた異星人は肩を落としながら校内を歩いてるいた。子どもにしたスクールアイドル達を拐うつもりがこんな事になってしまい、どうするか思い付かず途方に暮れているのだ。

 部室に突っ込んでも自分ではXioの隊員にやられてしまう可能性がある。それくらいに彼の戦闘能力は低い。

 

 どうすればいいのか思い付かず、フラフラしながら彼は歩く……。

 

 

 

 

 

 

 

「だっ!?」

「うぎゃっ!?」

「痛ッ……すまん、うっかりしてた……───」

「いえいえ、こちらこそ……───」

 

 

「「は?」」

 

 

 

 前をちゃんと見てなかった2人は衝突。そして顔を上げて互いに見合う事になる。

 翔琉と異星人=ダダは予想外の鉢合わせをすることになるのだった────

 

 

 

 

 

 

 

 






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69.未知なるモノ



大変遅くなりました!


先日3月1日は歩夢ちゃんの誕生日!
そしてこの作品の主人公である翔琉君の誕生日でもあります!

2人ともおめでとう!

さて、そんなこんなで久しぶりの虹X、早速どうぞ!





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待てゴラァァァァァァァァ!!!!」

「ひぃぃぃぃぃぃぃッ!?!?」

 

 

 

 

 

 虹学の校内で追いかけっこが繰り広げられていた。

 追われているのはダダ。同好会の皆を幼児化させた犯人。

 追うのは翔琉。ダダを捉え、彼女達を救う為に走る。

 

 

「止まれやあああああああ!!」

 

 

 叫ぶ翔琉だがダダが止まる筈も無い。爆走する2人を見た生徒達は驚き道を開ける。

 

 

「くっそぉ……!? こうなれば!?」

 

 

 ダダは吹き抜けから飛び降り、3階から1階へと着地。少し失敗して転びはしたが問題は無い。高い身体能力を持っている様だが所詮はひ弱な地球人。奴ではもう追って来れまいと思い、馬鹿にしてやる為に飛んだ場所に目線を向けるが……。

 

 

 

「逃すかあああああああああ!!」

「何ィィィィィィィィ!?」

 

 

 

 翔琉は迷うこと無く、吹き抜けから1階へと飛び降りてしまった。普通なら無事では済まない高さなのだが彼は問題無く着地し、顔を上げてダダの方を見て不敵に笑った。

 

 

 

「ば、馬鹿な!? 貴様本当に地球人か!?」

「どっからどー見ても地球人だろが馬鹿が」

 

 

 

 また駆け出す翔琉。それから逃げる為にダダも再び走り出した。

 

 叫びながら全力で逃げるダダと、吼えながら全力で追い掛ける翔琉。その様子に呆気に取られている生徒が居た。左側頭部に結ばれた髪飾りに触れながら、彼女は彼らのことを見送るのであった。

 

 

「あれは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあああああ!?」

 

 

 

 学園内を逃げに逃げまくったダダが扉を開けて頭から滑り込んだのは体育館だ。もうヘロヘロであり、匍匐前進でどうにか逃げて行こうとするが、そこへ翔琉が飛び込んで来た。

 

 

 

「もう逃げられねえぞおかっぱ野郎! 観念して縄に付きな!」

 

 

 

 指を鳴らしながら翔琉は迫っていく。何とか立ち上がったダダは彼に怯えながら後退っている。

 

 

 

「チェックメイトだ」

「こうなったらぁ……!」

 

 

 

 突っ込んでいく翔琉。それに対してダダは光線銃を構えた。これは同好会の皆を幼児にした物。ダダは彼のことも幼児化させてしまうつもりなのだ。そうすれば彼から逃げれるし、何なら倒すことだって出来るだろう。エネルギーを消費してしまうのは勿体無いが、背に腹は代えられない。

 

 

「なッ!?」

「くらえぇぇッ!!」

 

 

 

 銃口から光が放たれた。勢い良く駆け出していた翔琉はそれを躱すことが出来ず、光に包まれてしまい────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「かすみんお家に帰りたい!」

 

 

 初めにそう切り出したのはかすみだった。

 たくさん遊び、おやつを食べたりしていた彼女達だが、それにも段々と飽きが来てしまった様だ。幼い子である以上無理もないだろう。そしてそれに釣られて、他の子達も帰りたい気持ちが湧いて来てしまっていた。

 

 

「わたしも帰りたい……」

「あいもおばあちゃんのところ行きたい!」

Voglio anche andare a casa…(私も家に帰りたい)

 

 

 せつ菜も愛もエマも、みんなが帰りたいと言い出し瞳に涙を溜める。特にエマは異国の人ばかりが居る状況なのが更に不安を掻き立てていた。

 

 

「ちょ、みんな……!?」

「だ、大丈夫ですよ!? もう少ししたらお家の方々が迎えに来ますから!」

 

 

 戸惑う明里に何とか宥めようとする涼風。しかし彼女達の不安はどんどん伝染し大きくなっていってしまう。

 

 

「ううぅ……うわあああああんっ!!」

「ああああああああああっ!!」

「お母さああああああああんっ!?」

 

 

 1人が泣き、連鎖する様にまた一人一人と泣いていき、とうとう皆泣き出してしまった。9人による大合唱は部室内に響き渡る。どうすれば良いのかと涼風は少しあたふたとしていた。

 

 明里も、どうにかしなくてはと思ったのだがその時……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───泣いちゃダメよ。

 

 

 

 

 

───■■、貴女はとても良い子なのよ。

 

 

 

 

 

───だから、泣かないで。

 

 

 

 

 

 

 

 想い起こされる記憶。かの日に誰かから言われた言葉。そして───

 

 

 

 

 

 

 

 

───お前は、■■■だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふらりと立ち上がる明里。過去が彼女の中で走り、感情を掻き混ぜていく。止まらない想いが膨らみ、破裂してしまいそうだ。そんな事をすればどうなるか?

 解り切っているが熱く、痛くなる胸を抑えられない。その手が、隠されていた黒き王の力に伸ばされていき───

 

 

 

 

 音が聴こえて来た。明里はそれに気付き手を止める。ふと見ると、部室にあった電子ピアノを使って優里香が演奏をしていた。彼女の奏でる音は優しく、暖かく、心に浸透していき安心感が与えられている様だった。

 先程まで泣いていた皆も泣き止み、彼女の演奏に聴き入っている。

 

 そしてそれが終わると、彼女達は笑顔になって優里香の周りに集まっていった。

 

 

 

「かける君のママすごい!」

「じょうず!」

「ピアノ、きれい」

Splendido!(素敵)

「ふふっ、ありがとう」

 

 

 彼女達の頭を撫でる優里香。あっという間に全員を泣き止ませてしまった彼女を見て涼風も明里も驚いている。

 

 

「さあ、もう少しだけ私達と遊びましょ?」

『はーいっ!』

 

 

 みんな手を上げて元気に返事をする。まるで本物の保育士の様な手腕に涼風は感服した。

 

 

「凄いですね天地さん……保育士や幼稚園教諭の経験が?」

「いえいえ全然。さっきの曲、昔翔琉が泣いた時によく聴かせていたの」

「翔琉君に?」

 

 

 明里の言葉に彼女は「ええ」と首を縦に振る。

 

 

「これを弾くとあの子、それまでの大泣きが嘘みたいに必ず泣き止んで笑顔になっていたわ。よっぽど好きだったのねぇ。みんなにも効果あるかなって思って弾いてみたけど笑ってくれて良かったわぁ」

 

 

 そう言って彼女は笑った。同好会の皆もさっきまでの喧騒が嘘だったかの様な笑顔を見せている。

 

 

「曲名、何て言うんですか?」

 

 

 耳に入ったことの無い曲だったので明里は気になってそう尋ねる。その問いに優里香は少し考え込んだ。この曲は既存の物ではなく彼女のオリジナルらしく、曲名は特に付けていなかったとのこと。

 

 そして考えた後、優里香は歩夢の頭を撫でてから口を開いた。

 

 

「『虹の行く先』、って言うのはどうかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 光線を受けた翔琉のことを、カタラはギャラリーから見下ろしていた。彼が何かを探していたこと、そして校内に自分やダークメフィスト以外の気配を感じていたことから少し気になって彼のことを見張っていたのだ。

 そしたら何とも面白そうなことになっているではないか。

 

 

「肉体と精神を逆行させる光線、か。昔ボクもアレで遊んだことあるから懐かしいなぁ。さて、翔琉君は一体どうなるのかな?」

 

 

 ウルトラマンに変身する力を持った彼がただ子どもになるのか、それとも……。その結果にカタラは大変な興味を持っていた。

 

 光が翔琉を包み込む。それを見て逆転勝利を確信したダダは高らかに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ? あ? 何んもなってねぇぞ?」

 

 

 光が消えてそこに居たのは、いつもと変わらない姿の翔琉。ダダはそれに目を見開く。

 

 

「ば、馬鹿な!? 故障か!?」

 

 

 光線銃を見てみるが壊れた様な形跡は一切無い。ならばともう一度幼児化光線を放つ。だがやはり、翔琉には全く効果が無かった。

 

 

「何故!? どうして!? 何がどうなっている!?」

 

 

 理解の出来ないダダ。この光線を浴びた者は肉体と精神が子どもになる。それは間違い無いことなのだ。しかし翔琉には全然効いておらず、元の姿のままになっている。ダダは意味が解らず困惑していた。すると……。

 

 

 

「オイ」

「へっ?」

 

 

 

 

 眼前に拳を握り締めた翔琉が立っていた。そしてそれは、流れる様にダダの顔面に叩き込まれ、奴の意識を刈り取ってしまうのであった……。

 

 

 

「よし、解決ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何だアレは?

 カタラはそう思わずには居られなかった。今目の前で起きたのは普通の生命体ならば決して有り得ない事象。一体どういうことなのか、カタラも理解が出来無いでいた。

 

 

「………どうやら、軍団が来る前に調べて置いた方が良さそうだね」

 

 いつもの笑顔では無い真剣な眼差しでXioに通報する翔琉のことを見ながら、カタラは闇に包まれて消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 翌日。翔琉は教室の自席に座ってから窓の外を眺めていた。

 

 光線銃には幼児になった者を元に戻す機能が付けられており、それによって同好会の皆は元の姿に戻ることが出来た。

 その際幼児の時に着ていた服が破けて裸になり、現場に居た翔琉が所謂ラッキースケベをしてしまう何てことも。もし好感度が低かったらボコボコにされてたかもと彼は後に語る。

 因みに子どもになっていた時の記憶は皆無いらしい。

 

 

 大変な事件であり、手を貸してくれた明里、そして優里香には強く感謝している。彼女達も色々と楽しかったと言っていたし、被害者こそいるが怪我人や犠牲者が出なかったことから決して悪いばかりの事件では無かっただろう。

 

 

 そういえば自分は何故子どもにならなかったのだろう?

 やはりウルトラマンだからだろうか?

 彼は考えたが明確な答えは出ない。まあ、ならなかったお陰で解決出来たのだし、終わり良ければ全て良しと思うことにした。

 

 

 

「翔琉君っ、部室行こ!」

 

 

 歩夢がやって来て誘う。

 

 ふと、子どもだった時の歩夢の姿が重なる。記憶を思い出せば、幼い頃に彼女と遊んだ日々も取り戻せる筈。なら、そちらも頑張ってみるのも悪くはない。

 

 

 

「よし、行こう」

 

 

 

 立ち上がり共に歩く。掛け替えの無い過去を取り戻し、想い出を語れる様になることを夢見ながら彼は彼女よりも少しだけ前に進むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 オペレーションベースX内にある取調室で、逮捕されたダダは取調べを受けていた。彼の目の前にはXio隊長である沙優が坐り、その横には副隊長のザムザがいる。

 

 

「貴方がスクールアイドルを子どもにした動機は理解出来ないけど分かったわ」

「それどっちだよ?」

「行動理由は分かったけど共感は出来ないってことよ」

「恥を、知れ」

 

 

 2人から冷たい目線を向けられて萎縮するダダ。

 

 

「本当に最悪だぁ……。計画は全部失敗するし、高い金叩いてあの銃を買ったというのに、何故かあのガキには効かないし……! ちくしょおおおおお!!」

 

 

 ダンダンと机を叩く。もう何を叫ぼうが無駄なのだが、一つだけ気になる台詞があったのを沙優は聞き逃さなかった。

 

 

「効かなかった? 光線が?」

「ああ、そうだよ……あのガキ、お前らXioの仲間なのか? あの銃は相手が生命体ならどんな種族だろうが確実に肉体と精神を子どもに逆行させる代物なのに、何で効かないんだよぉ……?」

 

 

 ダダの言葉に2人は少し眉を顰める。

 

 

「………ねえ、貴方は彼に間違い無く子どもにする光線を撃ったの?」

「そうだよ。確かに慌ててはいたが間違い無い」

「でも、効果は無かった……」

「記憶を、失っているから、ではない、ですか?」

 

 

 ザムザがそう言うが、ダダは「それ無い」と否定する。

 

 

「覚えて無いって言うのは単にそれを引き出せないってだけで、記憶ってのはちゃんと保持されている。だから今記憶喪失だから効かないってことは無い。脳が大きく損傷していたら話は別だが、アレはそういう高性能な武器なのだ。記憶を基に精神を幼児化させ、それに伴い肉体も子どもにするというな」

「だとしたら、尚更どうして翔琉君は……?」

 

 

 暫くの沈黙。何故彼は無事だったのか?

 その理由を探っていた時、沙優はふとある事を思う。

 

 

 

「貴方の銃、『記憶を基に精神を幼児化させ、肉体も子どもにする』、のよね?」

「ああ、そうだ」

「もし、別のものだったら?」

「へ?」

 

 

 沙優は真剣な表情で、ダダに問い掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

「記憶、肉体、そして精神、その中に、本人ではない別のものが有ったとしたら……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分を探し続ける。

 みんなの笑顔を思い出したいから、みんなを安心させたいから、みんなと過ごした日々に想いを馳せたいから。

 

 

 

 いつかきっと、取り戻せると信じてカケル。

 

 

 

 その先にあるモノが何かも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だれかがわらう。けらけらとわらう。

 

 そしてそらから、くろいくろいひかりがおちてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 







次回、「翡翠ノ少女」


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70.ヒスイの少女



「トリガー エピソードZ」、私の好きな言葉です。
「ウルトラマンデッカー」、私の好きな言葉です。
「ダイナ25周年」、私の好きな言葉です。
「ギャラファイ3」、私の好きな言葉です。
「虹ヶ咲アニメseason2」、私の好きな言葉です。
「シン・ウルトラマン」、私の好きな言葉です。
「定期的な更新」、私の苦手な言葉です。
「迅速な執筆と更新」、私の苦手な言葉です。

ということで大変お待たせして申し訳ありませんでした……!
諸事情があったりして遅くなってしまいました…。

私の更新が滞っている間にも様々なニュースがあったりしましたが皆様お元気だったでしょうか?

今回から新章に突入します。
遂に本格登場するあの少女。そして大きな試練が、翔琉や仲間達の前に立ち塞がります。

どの様になっていくのか、是非ご覧下さい。








 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オペレーションベースX内の医療施設。そこにあるベッドに翔琉は横になって検査を受けていた。MRIの様な機械に通されていろいろ調べられており、外では沙優、シャマラ、涼風、陽奈が難しい顔をしてパソコンの画面を見ている。

 

 

「異常は無し、ですね」

「そうだな。健康体の、全く普通の人間だ」

 

 

 どれだけ調べても、データは彼が普通の人間であることを示している。以前検査した時と全く同じ結果だ。

 試せる検査はほぼ試しており、こうなると後は解剖して調べるくらいしか残っていない。

 

 ここ連日、ずっと調べられていたからか流石の翔琉も少し不満そうな顔付きだ。

 

 

「まだっすかー?」

 

 

 不貞腐れながらそう聞く。

 

 

「ごめんね、もう少しだけ待っててくれる?」

「………ういっす」

 

 

 また機器が動き出して検査が始まる。少々不服だが彼女達も翔琉の為を思ってやっているのだから断る訳にもいかない。されるがままに目を瞑り、彼はここ数日間の目まぐるしい事態を思い返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は? 中止?」

 

 

 スクールアイドルフェスティバルへの曲の準備をしていた時、穂乃果、そして千歌から複数人で通話出来るアプリを通して電話が掛かって来た。

 

 

《うん。今年のスクールアイドルフェスティバルは中止になったんだって……》

「嘘だろ、何でだよ?」

 

 

 唐突に告げられたスクールアイドルフェスティバルの中止。余りにも寝耳に水な内容に彼は驚く。

 

 

《この前ゴジラが東京に出たでしょ? その時に会場が壊されちゃって、まだ修復の目処が立ってないみたいで……》

《それで、今年は中止にするってなっちゃったらしいの》

「っ……マジか……」

 

 

 彼女達から聞いた理由に翔琉は頭を抱えた。まさかあのゴジラとの戦いがこんな事態を引き起こすことになるとは……。

 

 

「すまねぇ、2人とも」

《翔琉君は悪く無いよ!》

《そうだよ! Xioの人達はゴジラからみんなを守る為に戦ってくれたんだし!》

 

 

 そう言われるが、あの日の真相は堂馬参謀が勝手にウルトロイドゼロを出撃させ、それが原因でゴジラが現れることになった為、完全にこちら側の落ち度なのだ。しかし箝口令がある以上真実を話す訳にもいかず、変に謝り続けるのも不自然なのでこれ以上彼は何も言えなかった。胸の中に、強い罪悪感が湧き上がることになる。

 

 スクールアイドルフェスティバルの為に準備を進めて来たが彼らだがこれでは全て水の泡だ。気にする必要は無いと言う穂乃果と千歌の声も落ち込んでいる様子。

 

 どうにかしたい。そう思い思考を巡らせる翔琉。

 そして彼は、とあることを閃いた。

 

 

「なあ? 俺達でスクールアイドルフェスティバルをすることって出来ないか?」

 

 

 彼の言葉に2人は「えっ?」と漏らす。

 

 

「俺達で会場や人員を準備して開催するんだよ。規模は小さくなるだろうが、やってみる価値はあると思う」

 

 

 こんなことで自分達がやりたかったことを無しにしたくない。尽くせる手を尽くし、スクールアイドルフェスティバルを成功に導きたいと、翔琉は胸の炎を燃やしていた。

 すると電話越しに、穂乃果と千歌の笑い声が聴こてえ来る。

 

 

「な、何だよ?」

《ふふっ、実はね、翔琉君ならそう言うんじゃないかなーって思ってたの》

「え、マジ?」

《うん! だから、簡単にだけどμ'sとAqoursのみんなで会場に使えそうな場所とかリストアップしてみたの。後で送るね》

 

 

 彼女達からの言葉で笑みが溢れる。諦めたくないと思っているのは自分だけじゃなかったという事が嬉しくて仕方ないのだ。

 

 

「ありがとうな。虹学のみんなには俺から伝える」

《うん。スクールアイドルフェスティバル、絶対成功させようね!》

「ああ、勿論だ!」

 

 

 夢への道はまだ終わっていない。みんなの力があれば、きっと叶えることが出来る。そう確信した翔琉はぐっと拳を握り締めるのであった。

 

 

 

 

 

 翌日、このことを翔琉は同好会の皆に伝えた。自分達だけでイベント運営をするというのは難しいことではあるが、諦めたくないというのは皆も同じだ。全員が彼の意見に同意し、それから本来の実行委員会に連絡を入れた。即座に電話する翔琉の行動力に仲間達は少し驚く。

 

 スクールアイドルフェスティバルの発起人である三船 薫子は、現在別件により手伝うことは出来無いが彼らのことを心から応援すると言ってくれた。助力を得られないのは残念だが支持してくれるのであれば答えなければ。そう思い皆は胸の内でやる気の炎を燃え上がらせる。これまでのイベントや参考になりそうなデータを片っ端から集め、μ'sとAqoursとも連携を取りながら、開催の為に全力を尽くしていた。

 

 ここからスクールアイドルフェスティバル開催への道が始まったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

--------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、こことかどうかな? 広さも十分あるし。カリン、会場候補のリスト見せてもらえる?」

「これよ。その会場も追加しといて」

 

「会場スタッフって、何人くらい必要になるかなぁ?」

「会場とか時間とか、どのくらいの規模になるかで変わってくるよねぇ。ええっと前回はぁ……」

「むむむぅ〜……。こうなったらかすみんの可愛さで、100億万人のスタッフを集めますよぉ!」

「そうなったら、観るお客さんが居なくなっちゃう」

 

「歩夢先輩、ホームページのレイアウトを璃奈さんと先日作ったのですがこんな感じでどうでしょうか?」

「凄く良いよ! さすがしずくちゃんと璃奈ちゃんだね!」

 

 

 今日も同好会の皆はイベントに向けて準備をしていた。解散予定日の調整、会場と人員の確保、その他諸々やることは多く大変だが少しずつ、確実に開催への道は進めている。

 μ'sや地元でイベントの運営手伝いの経験があるAqoursの助言もあり、計画は順調であった。

 

 

「ところで翔琉先輩とせつ菜先輩は?」

「せつ菜ちゃんは生徒会の仕事。翔琉君はXioに用事があるみたい。2人とも終わったらすぐに来るって言ってたよ」

 

「お、遅くなりましたー!?」

 

 

 しずくと歩夢が話していたら、丁度せつ菜……否、虹ヶ咲学園生徒会長の中川 菜々が部室に飛び込んで来た。彼女こそ、謎に包まれたスクールアイドル・優木 せつ菜の正体なのだ。

 彼女の両親は厳格な人物であり、漫画やアニメ、そしてスクールアイドルなどが禁止されていた。それでも諦め切れなかった彼女は「優木 せつ菜」を名乗り、周囲に正体を隠しながら活動していたのだ。

 

 

「おっつー、せっつー!」

「お疲れ〜、せつ菜ちゃん」

「慌てなくても大丈夫よ」

「すぐに準備しますね! 少し待っていて下さい!」

 

 

 そう言うと彼女は優木 せつ菜になる為の衣装や道具を持って着替えに向かい、慣れた手付きで変身を遂げてまた出て来た。翔琉を除いたいつもの9人が室内に揃う。

 

 

「失礼します。こちら、スクールアイドル同好会の部室で間違いないでしょうか?」

 

 

 すると直後、1人の女子生徒がノックをしてから部室内に入ってきた。

 

 

「そうですけど、もしかして入部希望!?」

「いえ、違います。こちらに生徒会長の中川 菜々さんが入っていくのを見ましたので」

 

 

 女子生徒の言葉にせつ菜が思わず「えっ!?」と漏らす。

 

 

「何を驚かれているのです? 私は貴女ではなく中川さんに……」

 

 

 せつ菜の顔をじっと見つめた女子生徒は、納得した様に息を吐いた。

 

 

「なるほど。優木 せつ菜さんの正体は中川さんだったのですね」

「い、いや、違うよ!? この人はその……そう、ドッペルゲンガーだよ!?」

「そうそう! ドッペルゲンガーだからそっくりなんだよぉ!」

「どっきり、ドッペルゲンガー! 的な!?」

「歩夢さん、彼方さん、それ何か違います! 愛さんはフォローのダジャレにキレが無いです!」

「彼女は似てるだけで、中川さんとせつ菜は別人よ!」

「ぐ、偶然似てただけだよ〜!」

「うんうん。璃奈ちゃんボード〈あせあせ〉」

「と、ととととととにかく、違いますからね!? ね!? ね!?」

 

 

 一瞬にしてバレてしまったせつ菜の正体。みんなは必死に誤魔化そうとしているが、これでは正解ですと言ってるも同義だろう。

 

 

「皆さん、もう大丈夫です。ありがとうございます。私、優木 せつ菜の正体は生徒会長の中川 菜々です」

 

 

 そう言って一歩前に出るせつ菜。皆の優しさは嬉しいが、バレてしまった以上もうどう取り繕っても手遅れだろう。女子生徒に対して改めて正体を明かす。これにより自分の正体が学内に広まったとしても後悔はしないつもりだ。

 女子生徒は溜め息を吐いてから言葉を紡ぐ。

 

 

「皆さん焦っている様ですが、貴女が何故そんな隠し事をしているのかには興味がありませんから、正体を言い触らす様なことをするつもりは無いのでご心配なく」

「え、そうなの? というか貴女は……?」

「今日は生徒会長にお話があって来ました。私、普通科一年の……」

「あーっ!! 三船 栞子!!」

 

 

 思い出した様に叫ぶかすみ。

 

 

「かすみちゃん、知ってるの?」

「知らないんですか? 結構有名ですよ」

「確か、日本有数の名家、財閥である三船家の出身ですよね」

 

 

 どうやら彼女なかなかの有名人らしく、かすみやしずくは知っているらしい。軽く説明された普通科一年生の三船 栞子は肯定する様に軽く頷いた。

 

 

「三船さん、私に何か御用でしょうか?」

 

 

 せつ菜からの問いに口を開き、彼女を訪ねにここまで来た目的を語り始めた────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日のXioでのメディカルチェックを終え、翔琉は小走りで部室に向かっていた。最近Xioに顔を出す回数が増えていてまともに部活に参加出来ていなかった為、急いで行って皆の手伝いをしなければ。彼はそう考え部室への足を速める。

 

 

「着いた着いた」

 

 

 扉の前に到着。スクールアイドルフェスティバルに向けて、今日はどんな話が出来るのかワクワクしながら、翔琉は扉に手を掛けて開いた。

 

 

「悪りぃ、遅くなった!? ……って誰?」

 

 

 勢い良く開けた先に居たのは同好会の9人と見知らぬ1人の少女。振り向いて来た少女は、何やら困惑している様な同好会メンバーとは対照的に冷めた様な表情で目線を翔琉に向けて来た。

 

 

「貴方は、スクールアイドル同好会部長の天地 翔琉さんですね」

「え? ああそうだけど」

「丁度良かった。中川生徒会長……いえ、ここでは優木さんと呼んだ方が良いでしょうか? 彼女だけでなく貴方にも伝えなければならない事ですから」

「は? 生徒会長? 誰が?」

 

 

 ポカンとする翔琉。それを見て少女=栞子は眉を顰めた。

 

 

「………まさか、知らなかったんですか?」

「何が? は? へ?」

「まあ良いです。では改めて……」

 

 

 翔琉の横を通り、扉の前に立って皆の方を栞子は向く。

 

 

「私、三船 栞子は新生徒会長として立候補します。そして私が優木さんに勝って生徒会長になった暁には、スクールアイドル同好会の廃部を検討してます。皆さんにはそれぞれの適正にあった部活を紹介させて頂きますのでご安心下さい」

 

『え、ええぇーーーーーーーーーっ!!!??』

 

 

 皆の驚きの声が部室中に轟く。

 

 

「おい、どういう事だよそれ!? てか、せつ菜が生徒会長ぉ!?」

 

 

 突然の廃部宣言に驚いてる中、別のことでも混乱している翔琉のことを見た歩夢はあることに気付く。そういえば、記憶を失った翔琉にせつ菜の正体が生徒会長である菜々なのだと教えていなかったと。

 

 

「とにかくそう言う事ですので。私はこれで失礼します」

「ちょ、待てよ!?」

 

 

 部室から去っていく栞子。そして残されたのは困惑する10人。

 

 生徒会長選挙と二度目となる廃部騒動。

 これらは彼らの前に立ち塞がる大きな試練の始まりに過ぎないことを、この時は誰も知る由は無かった────

 

 

 

 

 

 

 








70話にしてせつ菜=菜々=生徒会長の図式に気付いた翔琉。
記憶を失って以降、そこの説明が実はされなかったという←

スクールアイドルフェスティバルに向けて頑張ろうとした矢先に現れた栞子により、同好会はまさかの事態に。
果たして彼女達は、この試練を乗り越えることが出来るのか?
そして更に降り掛かる試練とは……?

実はここから同好会的に、そして何より翔琉的に重要な話となっていきますので、皆様是非お楽しみにしていて下さい。

それでは今回はここまで。

「感想、高評価、質問、ここすき」、私の好きな言葉です。
是非是非お待ちしています。


次回、「暗黒のイカヅチ」





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71.暗黒のイカヅチ




またまた遅れてすいませんでしたああああああ!!


 

 

 

 

 

 

 

「まさか、そんなことになってるだなんて……」

 

 

 その日、ファミレスに同好会の皆とμ's、Aqoursが集まっていた。本来ならスクールアイドルフェスティバルに向けての経過報告会になる筈の集まりだったのだが、話題は先日の三船 栞子による生徒会長選挙実施と同好会廃部宣言についてになる。

 

 

「いきなり廃部にするだなんておーぼー過ぎるにゃ!」

「そうだよね。いくら何でも強引だよね」

 

 

 凛と曜が怒りを露わにする。栞子の理不尽な言い分にはμ'sもAqoursも戸惑いと不満を感じていた。

 

 

「それに、頑張っているせつ菜ちゃんから生徒会長の座を奪おうだなんて……」

「大丈夫なの、せつ菜?」

「ご心配ありがとうございます。ですが実際数字を見る限り、実績が落ちてるのは間違いないですから……。」

 

 

 梨子と果南に心配されるが栞子から言われた通り、最近は生徒会の業務が疎かになっていた。スクールアイドルフェスティバル開催の為に力を入れていたことが原因だろう。

 そんなことも有り、理事も生徒会長再選挙を認めたのだ。選挙の結果自分が生徒会長を辞することになったとしても受け入れるつもりではあるが、そうなると同好会が無くなってしまう。それだけは絶対に避けたい。

 

 

「それでも、これまでせっつーがやって来たことも否定される筋合いはないって愛さんは思うよ」

「スクールアイドルは高校生活に必要無いだなんて、酷過ぎる。璃奈ちゃんボード〈ぐすんっ〉」

「あの子はスクールアイドルのこともせつ菜のことも、何も理解してないのよ」

「うんうん、せつ菜ちゃんはスクールアイドルしながら生徒会長の仕事も頑張ってきたじゃん。なのにあんな言い方、流石の彼方ちゃんもプンプンだよ!」

 

 

 スクールアイドルフェスティバルに向けてみんなで力を合わせて行こうという時にこんな事になってしまい、皆から気にするなと言われてもせつ菜は心の底から申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 

 

「皆さん、本当にありがとうございます。何にせよ、同好会を廃部にさせる訳にはいきませんので、今回の生徒会長再選挙、全力で挑むつもりです」

「私達も全力でサポートするよ!」

「わたくし達も何か協力することがあれば手伝いますわ」

「うん。ことり達のことも頼ってね?」

「それはそうと、あれは何なのよ……?」

 

 

 にこが目線を向けた方に皆も注目する。そこに居たのは、狂った様にやけ食いしている翔琉の姿があった……。

 

 

「くっそ……あの女ァァ……! 好き放題言いやがってぇ……!」

 

 

 ナイフを突き刺したステーキを喰い千切り、水を勢い良く流し込む。彼の前には大量の空いた皿や鉄板が重ねられ、料理の乗った皿もあるがまだまだ食べる気らしく店員を呼ぶ為のベルを押す。

 

 

「か、翔琉さん、怖いよぉ……!」

「恐ろしい食欲ずら……!」

「先輩、落ち着いて下さい!?」

「た、食べ過ぎは身体に良くないですよ……!?」

 

 

 ルビィと花丸が怯え、しずくと花陽が心配するが、翔琉の暴食は止まらない。更に追加注文をした後に再びがっついていく。

 

 

「選挙だの同好会廃部だの、舐めたこと抜かしてんじゃねぇってんだよ畜生めがッ……!!」

 

 

 目の前のパンに手を伸ばすが、それを歩夢が皿ごと取り上げた。

 

 

「あ、おい」

「もう、少しは落ち着いて!」

「歩夢の言う通りだぞ、かけるん」

 

 

 ふと周りを見ると皆が心配や不安を込めた様な目で自分のことを見ていた。この軽率な行動の所為だと理解し、翔琉は皆に頭を下げる。

 

 

「すまねぇ、みんな……」

「良いわよ別に。アンタが怒りたく気持ちも分からなくは無いし」

 

 

 にこの言う通り、こんな事になった以上彼が怒り心頭に発するのも無理はないだろう。兎にも角にも、この状況を何とかしなければならない。

 

 

「俺達は暫くせつ菜の選挙の方に力を入れたいって思ってる。だからその間、スクールアイドルフェスティバルのことはμ'sとAqoursのみんなに任せてもいいか?」

「うん、大丈夫! 穂乃果達に任せて!」

「困った時はお互い様、だからね!」

 

 

 穂乃果と千歌がそう言って笑顔を見せてくれた。それぞれのリーダーの意見に、周りの者達も賛成らしく笑みを浮かべている。

 

 虹学の皆はせつ菜……菜々が選挙で勝てる様にサポートし、μ'sとAqoursはスクールアイドルフェスティバルの準備を進めていくということで暫くの方針は決まった。

 

 

「でも翔琉君、最近Xioの方も忙しいんじゃないの?」

「大丈夫大丈夫。学業優先だしさ」

「にしても、翔琉君がXioのメンバーって知った時は驚いたなぁ」

「そうねぇ。アンタちゃんとやってんの?」

「失敬だなぁザーヤワ先輩。これでもバリバリ役に立ってんっすよ」

 

 何故なら最前線で戦っているのだから。

 なんてことは言えないので適当に笑って茶化す。「誰がザーヤワよ!?」というにこのツッコミは鮮やかにスルー。

 

 選挙とフェスの準備でこれからまた大変になっていくのは間違いないだろう。でもみんなで夢の舞台を作り上げる為にも立ち止まってはいられない。

 

 

「なら、一丁気張っていこうか!」

『『『おーーーっ!!!』』』

 

 

 翔琉の号令に併せて、みんなで拳を突き上げるのであった。

 

 

 

 因みに翔琉のお代はとんでもない額になっていてみんな驚き、それを彼がさらっと払ってしまったので更に驚くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 渋谷のスクランブル交差点。多くの人が行き交うその中心にカタラは立っていた。片手には一つのスパークドールズが握られており、もう片方の手には新聞紙がある。

 新聞の日付は18年前。スパークインパクトについて書かれている記事であった。カタラはその記事に目を向ける。

 

 

「この日ここに落ちたモノ。それを追って光の巨人は顕れた……らしいね」

 

 

 記事の最後に書かれていた「なお、この事件の際東京にて光る巨人を目撃したと証言する人が複数人居るが、記録には一切残されていない」という短い文をカタラは目を細めながら読んだ。そしてにっこりと笑う。

 

 

「スパークインパクトの原因はまだ分からないけど、巨人の正体は翔琉君と融合する前のエックス。まあ、彼の経歴が間違ってなければだけど」

 

 

 右手のスパークドールズに、カタラから闇の力が送られていく。そしてその瞳が赤く輝いた。異様な光景だが、周りを行き交う人々はそれが目に入って無いのか見向きもせず歩いている。

 

 

「ちょっと調べてみようか。18年前へ」

 

 

 スパークドールズ・タイム超獣ダイダラホーシから咆哮が轟いた後、光と共にカタラの姿は消えた。ダイダラホーシの時間移動能力を強制的に発動させ、カタラはスパークインパクトが起きた過去へと飛んでいったのだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 オペレーションベースX司令室内で隊長の沙優はタブレットをじっと見つめていた。

 

 

「隊長、何見てるんです? って、また翔琉君のデータですか」

 

 

 それを紗季が覗き込む。

 沙優が見ていたのはこれまで調べた翔琉の身体データ。内容は何の変哲も無い物であり、多少背が高い以外は至って普通の男子高校生でしかない。何故常人離れした身体能力を持っているのか?何故異常な回復力を持っているのか?そして何故ウルトラマンエックスに変身出来るのか?

 どれだけ調べてもその答えはこのデータからは何一つ解明されなかったが、それでも何か手掛かりはないかと彼女は見ていたのだ。

 

 

「何というか、もう奇跡の力としか言うしかないんですかね。そうでもなきゃ説明付きませんし」

「確かに。でもそれだけで済ませるのも良くない気がするのよねぇ……」

 

 

 椅子の背もたれに身体を預ける。

 奇跡、不思議な力。そんな言葉で片付けられる物なら良いであろうが、どうもそれをしてはいけない気がする。彼に隠された何かが、彼自身を苦しめてしまう事にならないかと心底気掛かりであった。

 

 そんな時、室内のアラートが鳴り響く。

 

 

「どうしたの!?」

「正体不明のエネルギーを感知したよ!」

「もの凄い出力のエネルギーだよ!」

 

 

 ミキリとミハネによりモニターに映されたのは渦巻く黒雲。漆黒の雷が迸っており、見る者に禍々しい印象を与える。

 そして黒雲から、螺旋を描きながら闇の稲妻が大地へと落ちた。

 

 

「何だアレは!?」

「まさか、またファウストか!?」

「いえ、ファウストが怪獣を凶暴化させる為に放っていた闇やダークフィールド構成時に発せられるエネルギーとは別種の物の様です。スキャンしましたが性質や出力が異なります」

「翔琉が話してた、ファウストと同族と思われるメフィストと云う奴の可能性もあるがぁ……ここまで違うとなるとそれも無いだろう」

 

 

 涼風とシャマラ博士が闇の稲妻を冷静に分析していく。これまでのファウストや新たに翔琉から聞いたメフィストとは違う何かによってこれは起こされている様だ。

 

 

「地底に熱源を感知!」

「何かが出て来るよ!」

 

 

 大地が震えて稲妻が落ちた道路が盛り上がり亀裂が発生。パニックになる人々。そしてアスファルトを引き裂いて、黒い巨体が青空の下に姿を現した。

 

 両腕と両肩から伸びた鋭い刃が天を突く。エックスが初めて戦った怪獣デマーガに酷似しているが、表情は酷く歪み凶悪なものになっており、瞳は正気を喪失したかの様に赤く輝いている。

 怪獣は禍々しい咆哮と共に放たれた火焔光線はビルを吹き飛ばしてしまった。

 

 

「あれは、デマーガ!?」

「似てるっす……! まさか、地底で眠っていた個体がさっきの稲妻で起こされて、強化されたってことっすか!?」

「だろうな。先程の、ダークサンダーエナジーとでも呼ぶべきか、それを受けて強化されたデマーガ……ツルギデマーガとでも呼ぶべきか」

 

 

 博士により名付けられたツルギデマーガは、腕の刃を振るってビルを斬り裂き倒す。

 

 

「ハヤテ、イヅル、紗季! スカイマスケッティで出動! 博士はダークサンダーエナジーの解析を、陽花と涼風は怪獣の解析を急いで!」

『『『了解!!』』』

 

 

 デマーガを超える凶暴さを見せつけながらただひたすらに暴れ、それを止める為にXioも行動を開始するのであった─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「歩夢? おい、歩夢?」

「へっ!? ど、どうかした翔琉君?」

「いや、なんかボーッとしてたからよ。大丈夫か?」

「う、うん。大丈夫だよ!」

 

 

 ファミレスを出て解散したスクールアイドル達。同好会の皆は帰路に着いていた。他愛の無い話をしながら歩いていた時、あの闇の稲妻が彼らのいる街に落ちてきてしまった。

 

 

「な、何!?」

「うわああ!?」

「ひゃああ!? か、雷……!?」

「愛さん、大丈夫?」

「何ですかさっきの!?」

「雷!?」

「か、翔琉君!?」

「まさか……!?」

 

 

 大地を割って現れたツルギデマーガが暴れ、街中がパニック状態になっている。同好会の皆も驚愕し恐怖していた。特に雷が大の苦手である愛はしゃがみ込んでしまっている程だ。

 

 

「みんな急いで避難しろ」

「翔琉先輩はどうするんですか……?」

「逃げ遅れてる人達避難させてくる」

「き、危険だよそれは!?」

 

 

 彼方にそう言われるが、翔琉は構わず駆け出した。急いで奴を止めないと、被害は更に拡大していくことになる。それだけは何としても防がなければならない。

 

 

「翔琉君!!」

 

 

 そんな彼の背に、歩夢が声を掛けて足を止めた。

 

 

「歩夢……」

「いってらっしゃい。気を付けてね」

「───応、いってくる!」

 

 

 彼は再び走り出した。

 それと同時に現場に到着したスカイマスケッティ3機による攻撃が開始される。光子砲とミサイルが放たれるがツルギデマーガには全く通用しておらず、強烈な熔鉄光線を放ってマスケッティへ反撃していく。

 

 

 ある程度走ってから足を止めた翔琉はエクスデバイザーを取り出した。するとそこに通信が入る。

 

 

《翔琉君、聞こえる?》

「沙優さん。丁度今から行くところっすよ」

《それなんだけど、翔琉君は変身するのを待ってて欲しいの》

 

 

 予想してなかった言葉に彼は驚き少し戸惑った。

 

 

「な、何でっすか? 急いでアイツ倒さねえと街が……!?」

《ツルギデマーガ……あの怪獣の呼称なんだけど、その誕生原因からして何か嫌な予感がしてならないの》

「原因って、さっきの黒い雷?」

《見たの?》

「ええ、結構近くだったっすから」

 

 

 その返しに「そう……」と呟いてから沙優は少し黙ってしまう。

 

 

「沙優さん?」

《あの雷、ダークサンダーエナジーは危険よ。あれが何かはまだ分からないし、ただの勘でしかないけど貴方が戦いに向かうのはべきでは無いと思うわ》

「勘って……そんなこと言ってる場合じゃないでしょ……!」

《とにかく、博士達の解析が終わるまで変身はしないで避難誘導をして。決して戦ってはダメよ。これは命令です》

「そんな……」

 

 

 嫌な予感だの勘だの、そんな曖昧な理由で戦うのを止められることに納得いかない翔琉。Xioの仲間達の実力は十分に理解しているが、それでも自分が戦線に立った方が確実に良い筈だ。

 そう思っていた時、上空で大きな音が響いた。見上げると、紗季の乗るマスケッティγ機がツルギデマーガの熔鉄光線を受けてしまい、火と煙を後部から発しながら墜落しそうになっていた。

 

 

 

────きゃああああああ!?

 

 

 

 耳に響く紗季の絶叫。そんなものを聴いて何もしないなんて彼に出来る筈が無い。

 

 

「沙優さん……悪いけどやるっす!」

《ちょ、翔───》

 

 

 通信を切り、翔琉は迷わず上部スイッチを押す。そしてデバイザーを天高く突き出した。

 

 

《X UNITED》

 

「おらああああああッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





気が付けば今日で虹アニメが終わり、来週にはギャラファイが終わり、そして再来週にはデッカーが始まりますね。
いろいろとドキドキです。

初の同好会、μ's、Aqours勢揃い。
暗躍を始めるカタラ。
ダークサンダーエナジーの飛来。
ツルギデマーガの登場。

そんなこんなあった71話目、如何だったでしょうか?
ダークサンダーエナジーとツルギデマーガと来れば……皆様アレをご期待かも知れませんが果たしてどうなることやら。

次回はvsツルギデマーガ、そして生徒会長選挙と激戦になりそうです。次回もまたよろしくお願いします。


感想、質問、高評価、ここすき、私の好きな言葉です。是非、お待ちしております。




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72.膨ラム煩悶


大変遅くなってしまいました……!!
待たせてしまった方、本当に申し訳ございません……!!

約1年半ぶりとなる最新話、楽しんで頂ければ幸いです。


 

 

 

 

 

 

 

 

 暴れるツルギデマーガ。奴が振るった右腕の刃によりビルが一棟、スパっと斬られた。斬られた部分が地に落ち、轟音と土煙を立てる。

 

 咆哮を放つツルギデマーガへ、駆け付けた3機のスカイマスケッティが攻撃を放つ。一糸乱れぬ隊列からの光子砲、散開し多方面からのミサイル。次々と攻め立てていくがツルギデマーガには通用しておらず、奴は血走った目をギラつかせながら火炎を放った。スカイマスケッティ3機は急上昇してそれを回避する。

 

 

「くっ!? これ本当にあのデマーガかよ!?」

「とんでもなく強化されてやがる……!」

「とにかく攻撃を続けるわよ! その内きっと、勝機が見えて来る筈!」

 

《CYBER BAKISIMU LOAD》

 

 

 紗季はサイバーバキシムのカードを読み込ませる。そして燃え盛る三角錐型のエネルギーミサイルをツルギデマーガへと放った。

 

 

「喰らいなさい! バキシムホーンミサイル!」

 

 

 ミサイルは回転しながら更に加速してツルギデマーガに真っ直ぐ進む。直撃すれば、大きなダメージを与えられるであろうと誰もが信じていた。

 ………しかし。

 

 

 

 

「はぁ!?」

「嘘でしょ!?」

「まじか……!?」

 

 

 ツルギデマーガは右腕の刃を振るいミサイルを斬り裂いて爆散、消滅させてしまった。こうも容易く無効化されてしまったことに、Xioの面々は驚きを隠せない。そこへツルギデマーガは、火炎弾を連射。そしてその内の一発が、紗季の乗るマスケッティγの右翼部に直撃した。

 

 

「きゃあっ!?」

「紗季ッ!?」

 

 

 コックピット内で火花が散る。機体は制御不能となり、大きく揺れ黒煙を吐きながら堕ちていく。

 このままでは地面に激突して機体は大破し、搭乗している紗季の命も無いだろう。最早どんな抵抗も意味を成さない。彼女は覚悟を決めて瞳を閉じた。

 

 

 

 しかし覚悟していた衝撃は来ず、揺れも収まり、代わって感じられたのは暖かな光。目線を上げるとその先にあったのは彼女達の頼もしき味方である巨人の姿。

 

 

「翔琉君!!」

 

 

 間一髪、エックスに変身した翔琉がスカイマスケッティγをキャッチして紗季を救ったのだ。

 彼はマスケッティを地面に優しく置き、手から波導を出して機体に着いていた火を消火する。これで機体が爆発する様な事は起きない。

 

 

「ありがとう、翔琉君!」

 

 

 礼を言う紗季に頷いた後、エックスはツルギデマーガに目線を移した。ツルギデマーガも彼に眼光を飛ばし吼える。

 

 

「デマーガか……これでやり合うの何度目だよオイ」

 

 

 拳を握り構えるエックス。互いに睨み合いながら、ジリジリと間合いを詰めていく。そしてエックスは大地を蹴ってツルギデマーガへと突っ込んでいった。ツルギデマーガは迎え撃つ為に火炎弾を放つが、エックスは跳躍してそれを躱してそのまま懐に入りパンチを放つ。突き出された拳が、奴の胸部に直撃。

 

 

「オラぁ!」

 

 

 更にラッシュを叩き込む。拳を何度も打ち付け、ツルギデマーガにダメージを与えるつもりなのだ。そしてフィニッシュとなるストレートが叩き込まれ、エネルギーがスパーク。彼はこれで吹っ飛ばしてやろうと考えた。

 

 しかし、ツルギデマーガには一切通用して無いのか、奴は微動だにしない。

 

 

「なっ……!? があッ!?」

 

 

 振るわれた右腕により跳ね飛ばされてしまったエックス。地面を転がるが起き上がり、再度構える。そこへツルギデマーガは熔鉄光線を放った。光線はエックスの胸部に炸裂し、彼は苦痛の叫びと共に吹き飛ばされてまた地を転がされる。

 痛みに耐えながら、どうにか彼は立ち上がるが……。

 

 

「ぐぅ……ッ!? な、何だ……?」

 

 

 不可解な感覚が身体中を這う。フラつき、まともに立つのが難しくなった。ツルギデマーガはそんな彼に向かって突進し、右の刃を振るった。

 

 

「がああああああッ!?」

 

 

 剣が身体を斬り裂く。と同時に、壮絶な衝撃がエックスを襲った。

 身体が切り刻まれぐちゃぐちゃになり、精神を掻き混ぜられ磨り潰され、肉体と魂を無理矢理引き剥がされ焼き尽くされる様な度し難い猛烈な痛み。自身に何が起こっているのか理解出来ず、ただ斬られただけでは有り得ない筈の激痛が彼のことを苦しめていた。

 

 

「ぐ、あああ……!? 何……だ、これ……!?」

 

 

 膝を付いてしまうエックス。混乱している彼に、ツルギデマーガの剣が再度襲い掛かる。

 

 

「がはッ!?」

 

 

 斬られた箇所から光が血の様に噴き出した。そして更なる激痛が全身を迸る。ただ斬られただけでは有り得ない痛み。

 毒か、何かの超能力なのか?

 そんなことを考える隙すら、今のエックスには無かった。

 

 

「翔琉ううううう!!」

「この野郎おお!!」

 

 

 ハヤテのα機とイヅルのβ機がエックスを助ける為に、ツルギデマーガの足下を撃った。火花と土煙が奴の足下で舞い上がり僅かながら後退させる。

 

 

《翔琉君、今のうちに逃げなさい!!》

《翔琉さん!!》

 

 

 紗季と陽花の叫ぶ声が頭の中で反響するが激痛は彼の思考能力を著しく低下させており、言葉の意味を理解出来ない。フラフラするエックスに、再びツルギデマーガが突進。

 

 

「ぐあっ!?」

 

 

 タックルを受けた彼は大きく吹き飛んでビルを押し潰しながら倒れた。胸のカラータイマーが激しくなり、彼の危機を警告するが、今のエックスにはそれすらも耳に入れる余裕が無い状態だ。

 

 ツルギデマーガが、エックスに鋭い眼光を向けて顎を開く。口内から火炎と黒い稲妻が漏れ、それが倒れている彼に目掛けて解放された。放たれた熔鉄光線は直撃し、エックスの肉体は弾け飛んで消滅するのであった……。

 

 

 

 

 

「ううっ……!?」

 

 

 瓦礫が散らばっているアスファルトの上に転がる翔琉。身体はボロボロであり、口から血が滴っている。

 苦しみ呻きながら胸を胸を抑える。強烈な痛みは今だに彼の肉体を支配しており立ち上がることが出来ない。

 

 一歩、一歩、ツルギデマーガがこちらへと近付いて来ており、その瞳は確実に翔琉を補足していた。

 腕の剣が振り上げられ、彼を刻もうとする────

 

 

 

 

 ─────が、その刃が下される事は無かった。飛び込んで来た何かが、ツルギデマーガを吹き飛ばしたのだ。翔琉を寸前で助けた正体は……。

 

 

「ゴモラ……!?」

 

 

 Xioのメンバーによって召喚されたサイバーゴモラだ。サイバーゴモラは吼えた後、再びツルギデマーガへと突進していく。対するツルギデマーガも、突撃された事への仕返しとばかりに刃を振り翳して突っ込んだ。

 

 ぶつかり合う2体の怪獣。翔琉は痛みに耐えながらそれを見つめていた。するとそこに、リュウジが駆け寄って来た。

 

 

「翔琉!」

「リュウジ、さん……!」

「全く無茶して!」

 

 

 リュウジに肩を貸されて逃げていく翔琉。その背後でサイバーゴモラとツルギデマーガは戦っていた。

 

 鎬を削る刃と爪。エネルギーを纏った爪をサイバーゴモラが突き出し、それをツルギデマーガが刃をクロスして受け止める。ツルギデマーガはそれを広げて斬撃を飛ばした。斬り裂かれたサイバーゴモラは火花を散らして後退。

 

 身体を震わせ、咆哮してからサイバーゴモラは踏み出し尾を叩き付ける。その一撃はツルギデマーガの頭部に炸裂し少しだけ怯ませた。奴は再度刃を振るう。サイバーゴモラは爪で防ごうとしたが、威力に耐えられず吹っ飛んでしまった。そして更に倒れた所へ、口より熔鉄光線を放つ。

 

 

「ッ……クソ……!」

 

 

 サイバーゴモラの悲鳴を背に受け、己の不甲斐無さを噛み締めながら翔琉はリュウジに連れられてその場を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 虹ヶ咲学園の普通科二年生の教室。そこに明里はいた。スマホを使い、リアルタイムで起きているサイバーゴモラvsツルギデマーガの戦いをジュースを飲みながら見ている。

 

 

《これはこれはこれは。デマーガとは、久しいじゃないか》

「使ったのほんの少し前じゃん。おじさんみたいな事言わないで」

 

 

 背後に立つルギエルに対して気怠そうに言い放つ。

 

 

「………さっきの黒い雷、あれって何?」

《さあ? 少なくともメフィストでは無いねぇ》

「じゃあアイツ?」

 

 

 彼女の言うアイツとはカタラのことだ。確かに奴ならば怪獣を強化するなど難しい事ではないだろう。

 

 

《可能性はあるが、アレから感じられたのはもっと別のモノの様だったけどねぇ》

「別のって何よ?」

《ふむ……強いて云うなら……》

 

 

 手を顎に当てて考え込むルギエル。そして彼は呟く。

 スマホ画面内では、熔鉄光線を受けたサイバーゴモラが吹き飛ばされてビルを押し潰しながら倒れていた。

 

 

《虚無、かな》

「は? 何それ?」

《何だろうねぇ。残念ながら私には分かりかねるよ》

「あーあ、本当使えない」

 

 

 明里はルギエルに向かってジュースの空き缶を投げた。缶は奴の胸に当たり弾かれ床に転がる。

 

 

「もういいや。Xioも負けたみたいだし」

 

 

 スマホを見るとサイバーゴモラは消失し、ツルギデマーガは地面を掘って去ってしまっていた。もうやる事も何も無い。退屈した様に溜め息を吐くと、教室外からコツコツと足音が聴こえて来て────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三船 栞子は校舎内を見回っていた。数分前にここから離れた場所で怪獣が出現したという情報を知り、まだ学内に残っている生徒は居ないかを確認していたのだ。怪獣の出現箇所は離れてはいるが、念の為にと思っての行動である。

 

 

「おや?」

 

 

 栞子は足を止め、教室の扉を開いて中に入る。

 

 

「声が聞こえたと思ったのですが……」

 

 

 誰かの声が聞こえたと思い中に入ってみたのだが、室内には誰も居なかった。コロコロと転がる空き缶があるだけだ。栞子はそれを拾った。

 

 

「全く、ポイ捨てとは感心しませんね」

 

 

 どうもこの学園にはルールを守れない者が少なくからず居る様だ。はぁ……と彼女は溜め息を吐く。

 

 教室を出て、外にあった缶用のゴミ箱に空き缶を入れ、その後手に持っていたとある資料に彼女は目を通す。それはスクールアイドル同好会に関する資料であった。

 

 

「スクールアイドル……」

 

 

 資料を握る手に力が籠り、紙が軽くくしゃくしゃになる。

 

 

「そんなもの、認める訳にはいきません」

 

 

 彼女達の情報を見つめるその瞳には、執念とも呼べる様な強い想いが込められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 オペレーションXの作戦司令室。隊長である沙優のデスクの前に翔琉は立たされていた。彼の表情はかなり気不味そうだ。

 

 

「さて……何か弁明はある、()()()()?」

 

 

 沙優の命令に従わず翔琉はエックスに変身してツルギデマーガに戦いを挑み、結果負けた。その事を彼女から咎められたていた。

 

 

「私はツルギデマーガの解析が終わるまで変身して戦わない様にと命令した筈よ?」

「いや、けど俺が行かなかったら紗季さんが……!?」

「紗季を助けた事は感謝するわ。でも、その後の戦った事で下手したら貴方自身が死んでたのかも知れないのよ」

「それは! そうっ……かもだけど……」

 

 

 言い返せず言葉を詰まらせる翔琉。彼女の言う通り、一歩間違えればあの時命を落としていたかも知れないのは確かだ。

 とはいえ紗季や人々を守る為に必死に戦ったのにそう言われてしまうのは何処か腑に落ちない。

 

 

「貴方の力は私達にとって必要だしとても頼りにしてる。けれど、貴方が命の危機に瀕してまで戦うのは誰も望んでない。それに、上官の命令を無視して危険を犯すだなんて以ての外よ」

「っ……」

「命令違反の罰として10日間の謹慎を言い渡します。それとその間、これも預からせて貰うわね」

 

 

 そう言ってエクスデバイザーを翔琉に見せた。反論しようにも返す言葉が見つからない。只々従い、基地を後にするしかなかった。

 

 

 

 

 

 翔琉が基地から出た後、沙優は大きくい息を吐いて肩を落とす。

 

 

「少し言い過ぎなのでは?」

「そうですよ。翔琉君は、私のことを助ける為に戦ってくれたんですし……」

 

 

 イヅルと紗季がそう言う。彼が必死に戦ってくれていることは沙優も十分理解している。しかし今回の件を見逃す訳にはいかなかった。

 

 

「みんなの言う通りね」

「だったら……!」

「これを見て」

 

 

 彼女がデスクに置いた複数枚の紙。紗季達はそれを手に取って見る。

 

 

「これは?」

「あの戦いの後に検査した、翔琉の検査結果じゃ。ハッキリ言って普通じゃない」

 

 

 シャマラ博士の言う通り、診断書には体温、血圧、骨密度、心拍数、その他様々な数値や肉体のデータが記載されているが、そのどれもが無茶苦茶なものであった。

 

 

「普通の人間なら、というか普通の生物なら有り得ない結果。更に10分後に再度測定したら大きく違う結果が出た。余りの差に機器の故障すら疑ったわい」

 

 

 「そして……」と博士は続ける。

 

 

「これが今から30分前、最初の検査から約1時間後に出た結果だ」

「ん? これは……普通?」

「そうだ。一般的な男子高校生と何ら変わりない数値だ」

 

 

 だったら問題無いのではとイヅルやハヤテ、紗季は思うが、沙優やリュウジは眉を顰めていた。

 

 

「これだけの異常な結果を出しながら僅かな時間で普通と言える状態に戻り、今も問題無く動けている……」

「以前、エンペラ星人に敗れた時やゴジラにより倒れた時もこんな結果は出なかった。恐らくだがダークサンダーエナジーによる影響と考えていいだろう」

 

 

 突如地球に降り注いだダークサンダーエナジー。発生する条件や詳しい事はまだ解明出来ていないが翔琉の、ウルトラマンエックスにとっての天敵である事は間違いないだろう。

 

 

「ダークサンダーエナジーで強化された怪獣と翔琉君を戦わせる訳にはいかない。もしまた戦えば、彼の身体に今度はどんな影響が出るか分からないから」

 

 

 心苦しいが厳しい言葉を言い、デバイザーを取り上げてでも止めなければ彼は再び戦い危機に陥るのは間違いない。翔琉の事を思うからこその行動だったのだ。

 

 

「涼風、学校での翔琉君のことはお願い」

「分かりました」

「リュウジ、翔琉君の警護をお願い。貴方なら彼に勘付かれずに見守れるでしょ?」

「はい、任せて下さい」

 

 

 2人に翔琉の事を任せる沙優。

 そしてシャマラ博士、陽花にダークサンダーエナジーの解析、ミキリとミハネにツルギデマーガの探索、紗季、イヅル、ハヤテにツルギデマーガに備えての待機を命じた。

 

 何か状況が大きく変わろうとしている。そんな奇妙な気配が、誰の胸の中にも少なからず浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 夕暮れの道を、翔琉は肩を落としながら歩いていた。

 ツルギデマーガに呆気なく敗北し、命令無視して行動した事で沙優に窘められ、エクスデバイザーを没収されて更には謹慎まで言い渡されてしまった。

 

 

「はぁ……」

 

 

 生徒会再選挙で同好会の危機だと云うのにこんな事にまでなって泣きっ面に蜂とは正にこれだろう。大きな溜め息が出てしまう。

 

 これからどうしたものか……。頭を掻きながら増えた悩みをどうするかと考えていると、背後から声を掛けられた。

 

 

「翔琉さん!」

「ッ、せつ菜?」

 

 

 振り向くとそこにいたのは、眼鏡を掛け髪を結んだ中川 菜々としての姿をしているせつ菜であった。

 

 

 

 

 

 

 






ダークサンダーエナジー、翔琉に起こる異変、生徒会長再選挙、色々ありましたがもう少し続きそうです。次回もお楽しみに。

これからどうにか再開していき、エタらない様に頑張っていきますので応援して頂ければ幸いです。

それではまた次回。
感想、高評価、質問、その他、是非是非お待ちしています。



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