2人デュノア (逢魔ヶ時)
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1.注目度100%の自己紹介

「シャルロットかわいい」その気持ちから書き始めました。

このお話が末永く続くことを祈りつつ、初投稿です。


 やあみんな、こんばんは、良い夜を、おやすみなさい。

 

「だ、ダメだってリアム今寝ちゃ、それにまだ朝だよ⁉」

 

 健やかな睡眠に移行しようとするも声を掛けられて遮られてしまった。めんどくさいので突っ伏したまま顔だけを発言者の方へ向けて返事をする。

 

「なんだよシャル、母国(フランス)だったらまだ真夜中だろうが」

「ここは日本だよっ」

 

 ハッハッハ、こやつなかなか鋭いことを言う。ジュニアハイスクール時代はさぞかし素晴らしい成績を収めていたに違いない。

 

「なんか変なこと考えてる顔してるけど、成績はリアムだって良かったでしょ」

「今度はエスパーか⁉」

「またバカなこと言って、ホントに起きてよ。そろそろ僕も怒るからね」

「……分かったよ」

 

 怒ったシャルには勝てない。大きくため息をついてから体を起こし、改めて声の主へと向き直る。シャルロット・デュノア、整った顔立ちにアメジスト色の瞳とオレンジがかった金髪が映える、俺のかわいい妹分だ。

 

「まったく、もう少しシャキッとしなよ。まだ入学初日なんだよ?」

「そりゃそうだけどさ……この状況で無茶言うなよ」

 

 言いながら俺は周囲を見渡す。

 

 視界に映る女子、女子、女子、女子。世界の男女比が1対1だというのが信じられなくなるほどに女子ばかり。ついでに言えばそのほとんどがこっちの様子を窺っているというオマケつき。

 

 今だって極力顔を動かさないようにしたにも拘らず、耳をすませば彼女たちの声が漏れ聞こえてくる。

 

「ねぇっ!今こっち見たんじゃない?」

「うんっ、二番目の子でしょ?絶対こっち見てたって」

「私目があったかも」

「いや私よっ」

「あ、ちょっと顔しかめた」

「あの目しながら「ゴミめ」とか言ってほしい」

「分かる、ついでにそのまま踏んでほしい」

 

 一部抜粋でこれだ。ちょっと動いただけでこの反応では気分はほとんど動物園のパンダである。あと最後の方に変態がいた気がするけど俺は気にしないぞ。

 

「………だってこれだぜ?」

「あ、あははは…まぁしょうがないよ。ここは去年まで女子校みたいなものだったからね」

「みたいというか完全に、な。ISは女性にしか動かせないから当然だが」

「動かせな()()()、だよ」

 

 IS、インフィニット・ストラトスは女性にしか動かせない。老若男女誰でも知ってる常識だ。

 いや、常識だった、か。

 つい数か月前にISを起動できる男性が発見されたことでその常識は覆された。

 

 既存の兵器すべてを凌駕しながら男には扱えない。

 そんな特徴のために女尊男卑が進んでしまった世界にもたらされた反証。

 世界中の男(及び現状をよしとしない一部の女性)が全力で二人目以降を探し始めたのは必然だった。

 

 

 そんなわけで『一人目(ファースト)に続け!』とかいうよく分からないスローガンの下に敢行された適性検査の結果、俺ことリアム・デュノアが二人目(セカンド)として見つかったというわけだ。

 

 その後はいろいろめんどくさかったが、幸い出自的な関係でそれほど苦労することは無かったので今は省略する。結論だけ言うと、数少ない男性操縦者の保護のためという名目で世界で唯一のIS操縦者を育成する教育機関であるIS学園へと(強制的に)入学することになった。

 

 それで今日が入学初日なのだが、つい数か月前まで男性操縦者など影も形もなかった世界のIS操縦者育成学校である。これまでに男子生徒などいるはずもなく、現在進行形で客寄せパンダ状態となっている。

なにしろ廊下が見物に来ている女子達で埋まっているのだ。一応の良心からか教室の中には入っていないが当然のようにドアは全開だし、その向こうはすし詰めというのがふさわしい状態になっている。

 

 

「別にここ(IS学園)に来ること自体は文句なかったけどこれに関しては話が別だ。1人でトイレにでも行こうと外に出たらそのまま拉致されるんじゃねぇか?」

「さ、流石にそれは無いと思うけど…」

 

 教室内や廊下から突き刺さる視線を意図的に無視し、シャルと雑談を続ける。何かすることがあれば結構気を紛らわせられるものだ。たとえ話相手が今感じている頭痛の原因だとしても。

 

「それはそれとして、()は大丈夫なのかな?」

「ん?――あぁ、あいつか」

 

一瞬何のことだか分からなかったがシャルが指さす方を見て得心する。俺たち2人の視線の先にいるのは、もう一人の男子用制服を着た人物だった。

 

一人目(ファースト)織斑一夏(おりむらいちか)だっけか?完全防御態勢だなありゃ」

「さっきからピクリとも動かないね」

 

 世界で初めてISを起動して一躍時の人となった人物だが、今は机に突っ伏して微動だにしていない。最初に見た時と全く体勢が変わっていないところを見るに、必死で気配を消そうとしているのだろうが成功はしていないようだ。

今も多くの女子達の視線が彼の背中へと向けられている。本人もそれを感じているから動くに動けないのだろう。

 

「あれで動き始めたらこっちに向いてる視線持ってってくれそうなのに」

「それは酷だよ、なんか僕たちの結構前から来てたみたいだし」

この状況(見世物状態)予想してなかったのかよ……」

 

(さてはあいつ割とアホだな)

 

「リアムと合いそうだよね」

「どういう意味なんですかねぇそれは」

 

 シャルと話しているうちに時間が過ぎ、気づけばホームルームの時間となっていた。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「あっ!もうホームルームですよ、皆さん自分の教室に戻ってくださ~いっ」

 

そんな声が廊下から聞こえてきてほどなく、教室に1人の女性が入ってきた。

 

「……これはまた、」

 

 小さく声が漏れてしまった俺は悪くないと思う。

 ちっこいとか眼鏡っ娘だとか、おっとりしてそうな人だなとか、色々思うことはあったが彼女の第一印象はそのどれでもなかった。

 

  デカいのだ。

 

 どこがとは言わないが、首よりも下でへそよりも上にある女性の象徴的なものが。いくら何でも反則だろというレベルで大きい。他の部分を見れば俺たちとほぼ同世代なのにそこだけは彼女が大人であるとはっきり主張している。

 

 そんなちっこくてデッカい女性は教壇に立つと、改めて俺たちの方に向き直って挨拶を始めた。

 

「皆さん初めまして、おはようございます。私は山田真耶(やまだまや)といいます。1年1組皆さんの副担任を務めさせてもらいますので、これから1年間よろしくお願いしますね」

 

 彼女が言い終わると、答えるようにちらほらと「よろしくおねがいしまーす」という声が上がった。生徒達の反応が良かったのがうれしいのか、山田先生も笑顔になる。

 

「せんせー、副担任ってことは別に担任の先生がいるってこと?」

「はい、実はそうなんです。ただ担任の先生はちょっと仕事があるとかで遅れてくるみたいです。なので先に皆さんの自己紹介を始めてしまいましょう。えーっとそうですね、それじゃあ出席番号順に1番の人からお願いします」

 

 どうやら本担任は遅れてくるらしい。1年生の最初のホームルームに遅れてくるのはどうかと思うが、恐らくは俺たち(男性操縦者)のことでごたごたしているのだろう。内心でエールを送っておく、ガンバレ。

 

「はいっ。出席番号1番、相川清香(あいかわきよか)です。中学の頃はハンドボール部に所属していて―――」

 

 山田先生の呼びかけに応じる形で、ショートカットの活発そうな女子が自己紹介を始める。ふぅ、ホームルームが始まってからもチラチラとこちらに向けられていた視線が彼女の方を向いてくれたのでようやく一心地付けた。

 

 

 その後数人の自己紹介がつつがなく終わり、いよいよ織斑の番となった。ボーっとしていたのか、山田先生の呼びかけを何度かスルーしていたが自分が呼ばれていることに気付くと慌てたように立ち上がった。

 

 さて、最近は忙しかったから実はあいつのことはあまり知らないんだよな。ここでそれなりに人柄が分かればいいんだけど。

 

「え、えっと織斑一夏です」

 

 ふむ、それで?

 

「…………い、以上ですっ!」

 

ズコォッ!(ガタガタンッ)

 

 机の上で一斉にずっこける俺たち、山田先生も教卓の上で体勢を崩している。

 なんかこのクラスに一体感が生まれた気がする。

 

 お?、誰かが教室に入って来て織斑の後ろに立って―――

 

バシィンッ

「いってぇ!」

「お前はろくに挨拶もできんのか」

 

―――流れるような動きで出席簿を織斑の頭へ振り下ろした、だと!?

 

「げぇっ、関羽っ!?」

 

バシィンッ

 

「誰が三国志の武将か、馬鹿者」

「いったぁ……」

 

 超貴重な男性操縦者に対して躊躇いなく凶器(出席簿)を振り下ろす。問題しか起こらなそうな行為だがそれが許される存在というものは確かに存在する。

 一例をあげるとすれば、人類最強(ブリュンヒルデ)

 

「ああ、遅れてすまない。私がこのクラスの担任を務めることになる織斑千冬(おりむらちふゆ)だ。これから1年で貴様らをとりあえず使い物になるレベルに鍛えるのが私の仕事だ。文句を言っても逆らっても構わないが、私の指示には確実に従うように。いいな?」

 

 

 やだ、真逆のこと言ってるのにすごい堂々としてるから違和感がない。

 

 この教師というよりも軍人といった方がよさそうな女性は織斑千冬、誰もが認める人類最強だ。

 ISが開発されて最初に開催された世界大会(モンド・グロッソ)をブレード1本で勝ち上がった生きる伝説であり、第2回大会の決勝戦を辞退してからは一線を退いたと聞いていたけど教師になってたのか。

 

 ついでに言えば、一夏の実姉でもある。だからこそさっきの出席簿アタックも躊躇なくできたのだろう。ただ今見た感じだと、誰に対しても同じようにやりそうな気もする。

 

 

 それにしてもかなり高圧的な挨拶だったし、中には不快に思うやつもいるんじゃないか?

 そう思いながら見回してみると肩を小刻みに震わせている生徒達の姿があった。やがて、彼女らの口がゆっくりと開かれる。

 

 

「「「き」」」

「き?」

 

 あっ、これやばいやつだ。

 

 そう判断した俺は即座に前の席に座るシャルを小突く。振り返った彼女にジェスチャーで耳を塞ぐように伝えて自分も両耳を抑えて机へと勢いよく伏せた。

 その直後だった。

 

「「「きゃぁぁぁぁぁ~~~~~っ」」」

 

 クラス中の女子が音響兵器もかくやというレベルで黄色い悲鳴を上げる。ってか両耳塞いでんのにうっせぇっ⁉

 とはいえ多少はマシなのだろう。俺とシャルは防御が間に合ったが何だか分からなかったらしい織斑は歓声をもろに食らって鼓膜をやられたようだ。

 

「千冬様よっ!本物の千冬様よ~~~~~っ!」

「私、千冬様に憧れてきた九州から来ました!!」

「あの千冬様が指導してくださるなんてっ、嬉しくてもう死んでもいいです!!」

 

「………はぁ、毎年毎年よくもまあこれだけ馬鹿者共が集まるものだ。ある意味感心だがこれはあれか? わざわざ私のクラスに馬鹿が集まるように誰かが仕組んでいるのか?」

 

「生の叱責よぉ!お姉様、もっと私たちを叱って!」

「でも時には甘く優しく囁いて!」

「そして付け上がらない程度に躾けて~っ!」

 

「本当に、なんで毎年こうなんだ………」

 

 あっ、これ毎年なんだ………うん、お疲れ。

 

 ポーズとかじゃなく本心からそう思ってそうな表情をみせる彼女には同情を禁じ得ない。

 あ、織斑先生の頬が引きつり始めた。

 

「…いい加減にしろ、黙れ」

「「「「「はいっ!」」」」」

「…………ほう、返事ができる点は評価してもいいかもしれんな」

 

 即座に返事をして静かになった一同に織斑先生は肩眉を上げる。機嫌も心持回復したようだ。

 彼女の決して大きくは無かった声に全員が反応するとは、よく分からんがこれが日本が誇るHE・N・TA・Iというやつなのか?

 

 それはそれとして、返事ができたら評価って一体例年はどんななんですかねぇ。

 

 

「ふむ、もうこんな時間か、あまり時間が無いから貴様らが気になっているであろう奴だけ先に自己紹介をやってもらう。―――デュノア兄、まずはお前からだ」

「分かりました」

 

 おっとご指名か。

 さてどうすっかな。もともとはちょっとふざけようかと思ってたんだが、あんまやりすぎると織斑先生から制裁(出席簿)が飛んできそうだし。ま、最初だしまじめにやりますか。

 

「リアム・デュノアだ。

世界で二人目の男性操縦者で最近だと二人目(セカンド)って呼ばれてるみたいだな。趣味は体を動かすこととアウトドア。あとは料理もそれなりにやってるから機会があれば食べて感想を言ってくれると嬉しい。それと最近だとジャパニーズ・ティー、緑茶っていうんだっけか?にはまってる。皆と仲良くやっていきたいと思ってるし、男だからって遠慮しないで気軽に声をかけてくれ。これから1年間よろしく頼む」

 

 っとこんなもんか?割と無難にまとめられたと思うんだが………

 

「………ありよりのあり」

「ワイルド系か~うん、いいねぇ」

「立ったらおっきい、やっぱり男の人なんだなぁ」

「運動が趣味ってことは当然筋肉も………じゅるり」

「料理できるんだぁ~……今度お願いしてみようかな」

「ちょっとっ、抜け駆けは許さないわよ」

 

 よしっ、それなりに好意的な感想もちらほら聞こえるし、とりあえずは成功ってことで。

………………あとやっぱり変態がいた気がするけどきっと俺の気のせいだな、うん。

 

「よし、座っていいぞ。―――聞いたか織斑、自己紹介とは今のようにやるんだ。さっきのお前のは何だ、小学生じゃないんだぞ」

「へ~い」

 

バシィィィーンッ

 

「返事は、はいだ」

「…………はい」

 

 満足げな織斑先生の許可が出たのでおとなしく着席する。

 あと一夏(でいいよなもう)、一瞬頭が机にめり込んだように見えたんだが気のせいだよな。

 

 何はともあれこれで俺の番は終わりだ。織斑先生がシャルの方へと顔を向ける。

 

「次、デュノア()、やれ」

「はいっ、()()()()・デュノアです。

世界で三人目の()()操縦者で、三人目(サード)って言われています。趣味は料理とお菓子作りかな、リアムほどではないけど運動も得意だよ。これからよろしく、みんな仲良くしてくれると嬉しいな。……あっそうだ―――」

 

 シャルはそこで言葉を切ると満面の笑みを浮かべ、ぐるりと教室を見回しながら続きを口にする。

 

 

「―――リアムを狙うならまず僕に話を通してね」

「お前何言っちゃってんの!?」

 

 

 可愛い妹分のはずのシャル、

 彼女は何をどう間違えたのか男子生徒としてIS学園に入学しているのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆さん初めまして、筆者の逢魔ヶ時です。

前書きにも書きましたが、本作は「シャルロットが可愛い」という思い()()からスタートした、書き溜なし、プロット微小の見切り発車上等の作品となります。
別作品も投稿中のため不定期更新となる予定です。

まだ煮詰まっていない点などもありますが、「こんな感じにしたいな~」という漠然としたイメージはあるのでのんびりやっていきたいと思います。


それでは、本作「2人デュノア」をよろしくお願いします!

*↓↓↓筆者の別作品です、良ければ見てやってください
『学園生活部にOBが参加しました!』(原作:がっこうぐらし!)

https://syosetu.org/novel/206834/


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2.デュノア家の人々

お待たせしました!!!
お気に入り登録、高評価してくれた人ありがとうございます!

第2話です、どうぞ~


20.07.08
アルベール氏の妻2人の名前を変更しました。
原作での正妻:マリレーヌ・デュノア → ロゼンダ・デュノア
シャルの実母:サラ・デュノア → エレナ・デュノア


「はぁっ⁉ シャルを男としてIS学園に入学させる?親父お前何言ってんだ⁉」

「うるさいぞリアム、とりあえず座れ」

 

 時は数週間前に遡る。

 

 俺がISを起動して色々忙しかったせいで久しぶりだった実家での団らんの場にて、俺は親父の発言に思わず大声を上げた。

 

 いや、そりゃ上げるだろう。確かにシャルもIS適性があるからIS学園に行くのは特に不思議はないし、俺も入学することになるだろうから心強いとは思っていたさ。

 ただまさか男子としてだなんて考えてもみなかった。

 

 なぜなら、俺の妹分であるシャルロット・デュノアは女である。もう一度言うが女である。女子率99%越えのIS学園にわざわざ男として入学するなんて誰が想像できるんだよ?

 

 そんな俺の至極真っ当なはず疑問はどうやら俺以外の家族には伝わらなかったらしい。

 

「もうリアム、そこまで驚かなくてもいいでしょ?僕びっくりしちゃったよ」

「そうよ、デュノアの男子たるものもっとどっしり構えていないと」

 

 シャルは俺の声の方に驚いたようで片頬を膨らませながら文句を言ってくるし、ローザ母さんの方はティーカップを手に落ち着き払っている。

つーかこの反応を見るに2人とも知ってたな。知らなかったの俺だけかよ。

 

………とりあえず立っているのもなんだから座ることにする。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 ちょっと突然だがここでここにいる家族について紹介しておこうと思う。

 

 まず、デュノア家はフランスを代表するISメーカーであるデュノア社を経営する一族である。会社の詳細については今度話すとして、まずは家族構成からだ。

 

 

 最初に、俺の父親でありデュノア社の社長でもあるのがアルベール・デュノア。オールバックにした金髪と変に見えない程度に鍛え上げられた体、老いによるしわはあれどそれがかえって渋みを感じさせる顔立ちは、息子の俺がいうのもなんだがナイスミドルという言葉がふさわしい。気さくな人柄で社の内外を問わず慕われており、多くの友人がいる。まさに、大企業の長としてふさわしい風格を備えた人物である。

 ……のだが、プライベートではローザ母さんの尻に敷かれているし、娘のシャルには甘いを通り越して親バカである。無論俺との仲も良好だし、休日には釣りやキャンプに一緒に行くことも多い。俺がアウトドア好きになったのはこの人の影響だったりする。

 

 

 続いて、母親のロゼンダ・デュノア、会社では親父の補佐をしている。金髪碧眼、整った顔立ちで若い頃はミスコンなどにも出場していたらしい。元々良家の生まれで教養もあり、社長であるアルベールの良き妻として最近でもたびたびメディアへの露出があり、穏やかな女性として親しまれている。

 まぁさっき言ったようにこれは表向きというか社交用のもので、家内では親父よりも立場が上。最近の風潮である女尊男卑とかそういうのではなく、もともとの性格が勝ち気ではきはきしたタイプなので純粋に親父がローザ母さんに頭が上がらないといった感じなだけで夫婦仲はすこぶる良好である。ちょっと厳しいと感じる時はあるが俺とシャルにとっても良き母親だ。

 

 

 3人目はシャルロット・デュノア、俺の妹分で背中の中頃まである明るい金髪を首の後ろ辺りで束ねている。スリムな体型が自慢だけど最近胸が大きくなってきている……らしい、つーか何故それを俺に言った?

 一応俺と同い年なんだが割と身長差があるためなんだかんだ年下扱いをしてしまう。まあ本人は気にしてなさそうだし、シャル自身家族とかの親しい人にはとことん甘えたがる性格だし問題ないだろう。外で見せる頭脳明晰で優等生な一面とのギャップがすごくかわいいから許す。文句があるやつは俺と親父が許さない。

 

 

 んでもって最後は俺、リアム・デュノアだ。デュノア家長男で、身長は一応高い部類。それなりに鍛えているから体力には割と自信がある。

 髪は赤茶色で以前は短くしてたんだが、最近はシャルに言われて伸ばした髪を後ろで束ねている。シャルほど長くないから精々肩甲骨の上あたりまでしか届かないし正直くすぐったい。

しかし、「えへへ、これでリアムも僕と同じ髪型だね」と言うシャルの笑顔に比べたらそんなことは些細な問題だ。

ただシャルよ、笑顔で後ろをついてくるのは良いんだがときどきそこを掴むのはやめてくれ、首コキッってなるから。――え、持ちやすいからやだ?……やっぱバッサリ切ろうかな。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

―――と家族について紹介してきたが、実はまだうちの家族について半分くらいしか話していない。

ここからは我がデュノア家のちょっと特殊な事情についてご紹介だ。なに、たいした話ではないから気を楽にして聞いてくれ。

 

 

 そんじゃまず1つ目、

俺らの母親であるロゼンダ・デュノアは子供を産むことができない。詳しくは聞いていないが遺伝的なもののようで、自然に子供を授かることができる確率は一般の人と比べて著しく低いらしい。

 

 ああ、言いたいことは分かる。『なら俺とシャルはなんだんだ』って話だろ?それがまあ2つ目と3つ目ってわけだ。めんどくさいから言ってしまうと、俺は元捨て子の養子で、シャルは親父の子だけどローザ母さんの子ではない

 

 

 とりあえずシャルの方から話すか。ただこの話をするにはデュノア家のもう一人の家族について話しておく必要があるな。

 

 レナ母さん、エレナ・デュノア。シャルの実母であり、彼女をそのまま年上にしたような感じの外見の女性だ。シャルと同じように美人であり(こちらがオリジナルなのだから当たり前だが)、プロポーションという視点ではローザ母さんを圧倒している。おっとりした雰囲気で物腰柔らかい印象を受ける。

 

 もともとこの3人は高校のクラスメイトで、ローザ母さんとレナ母さんは親父を取り合った仲だったらしい。ただローザ母さんは良家の生まれで、親父は今ほど大企業でなかったとはいえデュノア社社長の息子、周囲は皆ローザ母さんの取り巻きでレナ母さんの味方は少なかった。

 しかしレナ母さん、当時は今と比べ物にならない程積極的だったようで、親父に対して押して押して押しまくったらしい。手作りお弁当を持っていって胃袋を掴む、密着して胸を押し付ける、さらにはシャワーを浴びている親父のところへ突撃するなど。その責めっぷりにはローザ母さんも呆れるを通り越して感心してしまったそうな。

 そこで女2人で話し合ってみたところ喧嘩することもなく意気投合。翌日から親父は2正面作戦を強いられることになり、それから時を置かずに陥落した。

 

 その後はそろって同じ大学に進学しキャンパスライフを楽しんだあといよいよ将来について考えるということになったのだが、なんとまあ親父の奴どちらか一人を選ぶのではなく三人婚を選択した。これは2人の同性と1人の異性による婚姻関係のことでうちの国(フランス)の他いくつかの国で認められている。……まあ認められているだけで一般的というわけではない。

 正直「2人とも愛するから2人とも結婚して欲しい」という親父も親父だが、それを了承する母さん達も母さん達だと思う。

 

 今のように女尊男卑の世の中でなかったとはいえ周囲、特に親からの反対は激しかったらしいが、親父の「2人とも愛する」という言葉に嘘はなかったようで結婚生活は円満そのものだったらしいし、それは今の仲睦まじさを見ても分かる。

 そして結婚からしばらくしてレナ母さんが身籠ったのがシャルという訳である。

 

 

 んで、次は俺の方なんだがこっちは大した話はない。

 シャルが生まれてすぐのある日、俺が道端に捨てられていたのをローザ母さんが見つけてくれたってわけだ。当時ローザ母さんは三人婚に不満はないとはいえ自分に子供がいないのを寂しく思い、寂しさを紛らわすように1人散歩をしていたという。路肩にポツンと置かれていたベビーバスケットの中で寝ていた俺を見つけたとき、ローザ母さんはこれを天からの授かりものと感じてそのまま抱き上げて家に帰ったらしい。もしその時見つけてもらっていなかったら今頃俺はいなかっただろうし本当に感謝してるよ。

 

 

 そんなわけでこれが俺とシャルの出自に関する話。

 どっちも一般的とは言えないが、皆に2人ずついる親がたまたま俺達には3人いるというくらいの感覚でしかない。全員から等しく愛情をもって育ててもらってるし、家庭内の不和もないから困ってることもないしな。

 しいて言うならレナ母さんは元々体が弱く入退院を繰り返していて今も入院中ということだが、命に別条があるわけではないな。いつも家にいれば、とは思うけど会いたければ会えるし、入院していない方が長いからそこまで気にしていないな。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 以上、家族についての説明終わり。

 それより今はシャルの男装問題についてだ。

 

「冷静に考えてみろよ。いくらシャルが中性的といってもこんなかわいいんだぞ、男装っていっても無理があるだろ。秒でバレるって」

「大丈夫だ、ちゃんと政府と学園側の許可はとってある」

「そういう話じゃない! ってか許可出てんの?なんで?」

 

 かわいいと言われたシャルが頬に手を当てながら照れてるけど今は重要じゃないし事実だから放置。

 

「一応理由はあなたのためよリアム。男性適合者が多ければその分だけ秘密を探りたい奴等の注意が分散する、そうしたらこちらも対処がやりやすくなるわ」

 

 

 親父に代わってローザ母さんが説明してくれた。そういうことなら理解はできるが納得はできない、それじゃシャルに負担をかけることになるじゃないか。

 その思いが表情に出ていたようで、機先を制すように親父が声をかけてきた。

 

「お前の言いたいことも分からんではないがな、どのみち家族だというだけで影響は出る。それならどちらも男性操縦者にしてしまった方がこちらとしても動きやすい」

「……それはそうかもしれないけどさ」

「なに、ずっとというわけではない。あくまで各国の出方を見極めて今後の参考にするための措置だからな、特に問題がなければネタをばらしておしまいだ」

「………まあ、そういうことなら。すまんシャル、俺のせいで迷惑かける」

 

 悔しいけど親父の言うことは理解できる。確かに誰か本腰を入れてを守ろうとするならなりふり構わず全力の護衛を常に張り付けるか、相手のことを調べ上げてしっかりした予防策を張るか位しかない。前者は場所が海外な上無関係な生徒もいるということで難しく、現実問題としては後者によらざるをえない。

 シャルに迷惑をかけるのは申し訳ないが、今の俺には頭を下げことしかできない。

 

「ううん気にしないで。一番大変なのはリアムだし、それがリアムのためになるんだったら僕は全然大丈夫だから」

 

 そう言ってほほ笑むシャル。今のように時折見せる普段の明るい笑顔とは別の穏やかな笑み、それはどこまでも魅力的で俺は返そうと思っていた言葉を飲み込んでつい見入ってしまった。

 いきなり黙り込んだ俺を不審に思ったのか、シャルが首をかしげながらのぞき込んできたので手を振って何でもないと伝えるといつものようなほにゃっとした笑顔になった。なんとなく頭をなでてやるとさらに嬉しそうに頭をスリスリとこすりつけてきたのでさらに撫でる。

 

 ナデナデ、スリスリ―――ナデナデ、スリスリ―――ナデナ「ゴホンッ、いいか2人とも?」

 

 なんだよ?

 

「んんっ それに関連してなんだが、どうやらIS学園の寮は2人ずつの相部屋制のようでな、2人には同じ部屋で暮らしてもらうことになる」

「……Qu'est-ce que vous avez dit(なんだって?)

 

 いきなり何言いやがるんですかね、この親父は。

 横を見ればローザ母さんは表情を変えていなかったが、シャルはさっきまでのくつろぎモードが嘘のように「そ、それは僕も聞いてないよ⁉」と目を白黒させていた。

 

「何を驚いてる?男同士で兄弟ということになるんだから同じ部屋でないと逆に不自然だろう?」

「いや確かにそうだけどもっ、実際は女子なんだからそこはなんとかできなかったのかよっ!」

「どこの馬の骨とも分からん女に可愛いシャルを預けられるかぁっ!ならばよく分かっているお前の方が万倍マシだ!」

「アンタ自分が言ってる言葉の意味わかってんのか⁉」

 

 ダメだ、親バカが発動してて今の親父には論理的な話は通用しない。こういう時はしっかりしてるローザ母さんを頼ろう。

 

「別の女子と相部屋になって男装がばれるのも問題でしょ?それに別にいいじゃない、血がつながっているわけでもないし間違いが起こっても問題ないでしょ」

「「その発言が間違いだって自覚あるか(かなあ)⁉」」

 

 シャルとの声が揃う。

 くそ、こっち(ローザ母さん)もダメだ。そういえばうちの親はその辺割とフリーダムな人種だった、伊達に三人婚してないな。

 

「そうそうシャルロット、レナからあなたに伝言があるわ」

「え、な、なにかな?」

「『頑張ってね、私の娘なんだからガツガツいきなさい』だって」

「お母さん⁉」

 

 実母からのフォローならぬ追い打ちにシャルの声が裏返った。こういうの聞くとレナ母さんも昔は積極的だったってのがよく分かるな。

 どうせ、この調子じゃ今からどうこう言っても変えられないだろうから諦めるしかなさそうだ。絶対やばそうだけどその辺は未来の俺に任せることにする、もう知らん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というかシャルロットは今だって大して変わらないでしょうに、たびたびリアムが寝てるとこにこっそり潜り込―――」

「わーっ!わーっ!ローザお母さんそれ秘密だからっ言っちゃだめだからぁー!!!」

 

 …………朝起こしに来てたんじゃなかったのねあれ。

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ああそうそう、もう一つ言い忘れてた」

「まだなんかあんの?」

 

 正直シャルが男装して入学&俺と相部屋ってだけでも俺はお腹いっぱいなんだが。

 

「そうたいした話じゃない。うちの保安部と陸軍特殊部隊の合同チームがお前の見張り役として派遣することになった」

「なんでそうなっちゃたかなぁ~、っていうか見張り?護衛じゃなくて?」

 

 男性適合者が珍しいから監視したいってのは分かるけどさ、そもそもIS学園は建前上どの国からも干渉を受け付けないんじゃなかったか?つーかそれができるならシャルを男装させる必要ないじゃん。

 それに普通は護衛とかいってぼかすもんじゃないのかよ。そのあたりのことを聞いてみてもおやじの態度は崩れなかった。

 

「チームが待機するのはIS学園の近くというだけで内部ではない。それに建前上はフランスに籍を置く民間軍事会社の日本支社というだけだ、どこに出店するかは各企業の自由だからな」

 

 出たよ、政治工作でおなじみの屁理屈。

 

「あと監視で合っている、自覚が無いようだから言ってやるが今のお前は我が国1番の問題児、いやトラブルメーカーだ」

「ひでぇ!」

「当たり前だろう、なんせ―――」

 

 そこまで言うと親父はこちらをジロリと睨んでから先を続ける。

 

 

「ISを起動したその日のうちに無断展開したうえにシャルを引き連れてそのまま成層圏を突破、挙句の果てには世界中が行方を追っている篠ノ之束博士と接触して協力体制を構築。いったいどれだけの大騒動だったと思ってる?」

 

いやほら、不可抗力って………あるじゃん?




今回はちょっと説明回っぽかったです、ごめんなさい
これからはテンポよく行きたいと思ってます
シャル実母はかなり悩みましたが、せっかく暖かいデュノア家にするならやっちまえということで生存させました。まぁあんまり本編とは関係ないんで許してください何でもしますから(何でもするとは言ってない

オリ主ははっちゃけるタイプの予定
とりあえず次回は今回の最後に書かれたやらかしの詳細おば


のんびり更新していきますのでお楽しみに~
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3.未知との遭遇

 |ω・) チラッ

 |・ω・)ノ⌒○ ポイッ

 |)彡  サッ


2020.05.27
シャルロットの肩書を国家代表候補から国家指定パイロット(本作オリジナル)に変更しました。


「やっぱ我慢できねぇ!ちょっと宇宙観光行ってくる!」

「リアム何言ってるの!部屋でじっとしてろって言われたじゃんっ!しかもよりにも寄って宇宙⁉」

 

 そう俺がベットから起き上がって宣言すると、同じくベッドの上で(俺の)枕を抱えながら寝ころんでいたシャルが慌てたように叫んだ。

 

「ばっきゃろう!シャルお前あれだぞ、ISを動かせたんだぞ男の俺が。それでおとなしくしていろなんて無理に決まってんじゃねえか!」

 

 この発言こそ今の俺の気持ちのすべてを端的に表したものだ。

 

 今日の朝、あるニュースが世界中を駆け巡った。それは女性にしか動かせないはずの飛行パワードスーツであるISを日本人の男が動かしたというものだ。

 最初は半信半疑の者も多かったが、時間が経つにつれてどうやら真実であると分かると、我こそはISを動かしてやると意気込む男性社員で会社の中はお祭り騒ぎとなった。何しろ自分達(男性)では動かすことができないと知りながらそれでもISが好きで就職した男たちである。そこに自分達でもISを動かせる可能性が示されたのだからこうなるのも無理はない。かくいう俺もそのうちの一人だった。

 

 そしてその結果、数百いる社員たちの中で俺だけがISを起動することができた。

 

 まさか本当に男性適合者がいるとは思わず、しかもそれが社長の息子だったため、その対応策を決めるため現在俺の三親(父・母・母)を含むデュノア社上層部は緊急会議に追われていた。(ちなみに、俺がISを起動したという話を聞いたとき親父たちはそろって飲んでいた紅茶を吹き出したらしい。)

 

 俺がISを起動できたという事実を公開するか秘匿するか、公開するにしてもすぐにするのかしばらく後にするのか。今のところ会議は公開の方向に進んでいてどのタイミングで政府に報告、世間に公開するかを話し合っているらしい。これは日本の男性適合者が俺と同い年で既にISの専門学校であるIS学園への入学が決まっているということも影響しているようだ。

 

 そんなわけで、今俺には『方針が決まるまで待機するように』という指示が出されており、監視役のシャルと共に自室で過ごしていたのだ。まあシャルが俺の部屋にいるのはいつも通りなんだけど。

 

 しかしっ、今の俺のテンションはマックスを通り越してメーターをぶっ壊す勢い。親父よ、息子が部屋でおとなしくしてるなどと思うなよ。

 

「行かせないよっ、お父さん達からも『リアムを見張っておけ』って言われてるんだから!」

「大丈夫だから止めないでくれシャル、ちょっとその辺でガガーリンしてくるだけだから」

「それ『地球は青かった』ってやつでしょ!宇宙はちょっとその辺ってレベルじゃないよ⁉」

「ええい、俺は行くんだHA☆NA☆SE!」

 

 ガバッ、と腰に抱き着いて俺を行かせまいとするシャルを引きはがそうともがく。ええい、引っ付くな。動くたびにお前のたわわに実った果実×2がムニュムニュと形を変える感触が伝わってくるんだぞ⁉それは俺に特効だからすぐにやめるんだ(やめるんじゃねえぞ)

 

 しばらくその状態が続いたが、ぼちぼち理性がやばくなってきたところでいったんもがくのをやめる。俺が沈静化したのを見てシャルも離れてくれた。マジであのまま続いてたらやばかった………。

 

「分かった。お互いに、落ち着いて、話し合おう」

「話し合う余地は無いよ。リアムがここで静かにしていればそれでおしまいだよ」

 

 俺の提案を一言の下に切り捨てるシャル。生まれた時からの付き合いといっても過言ではないので俺が全く諦めていないのが分かっているようで、腰を微妙に浮かせたままこちらの様子を窺っている。ここでうかつな動きを見せようものなら再び抱き着かれて今度は朝まで放してもらえないだろう。

 それはそれでアリかもしれないが、今日ばかりはそういう訳にはいかない。俺の宇宙に行きたい欲はもう限界まできている。

 

 とはいえ向こうが俺のことを良く知ってるように、俺もシャルのことを良く知っている。この場合ならシャルが俺に引っ付いてくる前に俺の方からくっつけばいいんだ。こっちからぐいぐい行けばテンパるから大丈夫だろ。

 

「じゃあシャルも一緒に行こうぜっ(ガシッ)」

「へ?え、ちょっちょっとー⁉」

 

 つーわけで、彼女の手を掴んで勢いよく部屋を飛び出す。シャルは案の定目を白黒させて俺に引っ張られるがままになっていた。

 

「フハハハァッー!いざ行かん大空の彼方へ!」

「お父ーさーん!リアムが逃げたよーっ!」

 

 我に返って親父に助けを求めるシャルを引き連れて、俺は宇宙(ソラ)への思いを高めながら高笑いをしつつ廊下を爆走していった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「よし、着いたな」

「もう暴れないから降ろしてよ~」

 

 数分後、IS保管庫の前で満足後に頷いていると肩の上のシャルから声が掛かった。途中から俺を止めようと暴れ始めたため、肩に担ぎあげてそのまま走ってきたのである。担いでいる間、背中をポカポカと叩かれた気もするが全く痛くなかったので気にしない。

 

「はいよーっと、大丈夫か?」

「う~なんか気持ち悪い。リアム飛び跳ねすぎだよ、今度はちゃんとしっかり持ってよね例えばお姫様抱っことか

「え、最後なんて言った?」

「な、なんでもないっ!それより今からでも遅くないから戻ろうよ、もう課業時間外だから格納庫は施錠されているし―――」

 

ピピッ、ガ~~~~(←格納庫の扉が開く音)

 

「残念だったなシャル、この程度の障害など俺の前では無力だ」

「………リアムが保安部所属だったの忘れてたよ」

 

 専用のカードキーとパスコードで扉を開けた俺が振り返りながらそう言うと、シャルは疲れたような表情をしていた。

 

 

「待たせたな俺の相棒よ!」

「別に相棒じゃないし待ってもいないと思うよ」

 

 つい数時間前に俺が起動したIS、ラファール・リヴァイブは幸いなことにかなり手前に置かれていた。近くにあった端末で状態を確認したらメンテナンスモードのままでロックが掛かっていなかった。手間が省けていいけどやや不用心じゃないかコレ、今度警備強化の意見書でも出しとくか。

 

 などと考えながら端末を操作してISを搭乗可能な状態に移行させると、ラファールはラックから降ろされて片膝立ちになったので躊躇なく乗り込む。

 

「おっし、きたきた」

 

 一瞬だけ起動できないんじゃないかと心配したけど、先ほどと同じように問題なく起動した。ハイパーセンサーや簡単な機体制御法などは1回目の時に頭に入ってきたから今回は特に何もななかったな。

 

「………。」

 

―――フォンッ

 

「シャル?」

 

 気配を感じて振り返るとシャルが彼女の専用機であるラファール・リヴァイブ・カスタムⅡを展開してこちらに相対していた。

 

「さすがにこれ以上は見過ごせないよ。ISを利用した宇宙開発はアラスカ条約で禁止されてるってリアムも知ってるでしょ?それにISを使っていいのは各種装備のテストか練度向上訓練、模擬戦か緊急時に限定されるんだよ、今のリアムみたいに自由に使うなんて許されていないんだ」

 

 真剣な表情でラファールから降りるように言ってくるシャル。けどこれあれだな考え方が固まってんな。

 

「ハァ~~。シャルお前、指定パイロットになって頭固くなったんじゃないか?」

「え?」

 

 俺がため息をつきながら言えば、予想外の反応にシャルの口から疑問の声が漏れた。

 

「確かにでアラスカ条約ではISの宇宙開発への利用は禁止されてるけどな、そもそもISは人類が空へ、宇宙へ自由に羽ばたけるようになるための翼だろうが

「っ!」

「篠ノ之博士だがISを発表した時に言ってたじゃねぇか、これを使って皆が自由に空を飛べるように、宇宙へ行けるようになることを願っているって。あの時の会見を見て目を輝かせてたお前はどこへ行ったよ?」

「そっそれは………」

 

 そうだ、もともとISは宇宙開発や人命救助などを目的として篠ノ之博士が開発・発表したんだ。発表の仕方が仕方(白騎士事件)だったから兵器としての側面が注目されんのは仕方ないだろうけど、本来の目的である宇宙開発への利用を禁止するとか意味が分からんね。そんなことしてるから博士が失踪したんじゃねぇの?

 

 現在のシャルの肩書は国家指定パイロットだ。これはうちの会社(デュノア社)が半国有企業で保有するISは国からの貸与という形を取っていること、そしてそのうちの1機を専用機にしているためだ。

 

 類似する肩書の国家代表候補との違いは書類上は軍属になるという事と、存在が一般に公開されるかという点にある。

 シャルのビジュアルから国としては国家代表候補にしたかったようだが、親父の『大事な娘をアイドルもどきの晒し者になどさせられるか!』という意向からこちらになったらしい。親父GJ。

 ちなみにこの指定パイロットという肩書、非公式という事を逆手に取り軍事作戦に投入されることもある。しかしこれまた親父の『娘を危険にさらすなどふざけてるのかぁ!!そんなことをしたら我が社の機密情報を世界に公開する』という意向(ていうかもはや脅迫)によりそれも回避されている。マジよくやった親父。

 

 ただし一応は軍属であることに違いはなく、義務やら規則やらがたくさんあるらしい。

 シャルは真面目な性格だからそれらを気にしすぎているんだろう。

 ISの発表会見の時に『これなら僕も宇宙に行けるかなっ?』とはしゃいでいたのを見た身としてはもうちょい肩の力を抜いてもいいと気がするんだよな。

 

「いくら分類上は軍属だからといって正規の軍人じゃないんだろ?ずっとそんなんじゃどんどん窮屈になってくぞ?」

 

 法を意識するのも役目のうちとだと思ってたから、これまであまり踏み込んだことは言っていなかったが、流石にここまでシャルの頭が固くなっているのを見たら黙っていられないからな。

 それに、どうやら無駄じゃなかったようだ。

 

「………うん、ISに乗り始めたばかりの頃はただ飛んでいるだけで楽しくて、もっと遠くまで飛びたいって思ってたっけ。僕、いつの間に忘れてたのかな」

「たまにはいいじゃねぇか、俺を追いかけてたって言えば最低限の言い訳はできんだろ?逆にこんな時でもないと宇宙になんて行けないと思うぞ」

「あはは、確かにそうだね。じゃあ帰ってきて怒られたら全部リアムのせいにしちゃおうかな」

「おうしろしろ。どうやら俺は超貴重な人材になったみたいだし、倫理的にアウトなことしなきゃある程度はどうにかなんだろ」

「リアムのそういう楽観的なとこ僕結構好きだよ」

 

 おっしゃ、笑顔がより柔らかよりくなったなしこれで安心だろ。

 

「そんじゃシャルの説得(丸め込み)も無事に済んだところで、早速行きますか」

「なんか聞こえたよリアム」

「そうか?俺は聞こえなかったな。さーてオープンセサミっと」

 

 ハッチ解放、システムオールグリーン。リアム・デュノア、ラファール・リヴァイブ発進する、なんてな。

 一気にスラスターを全開にして天井に開いたハッチから飛び出せば、たった数秒で今までいた格納庫がはるか足元に小さくなっていった。

 俺が一気に加速したことにシャルは一瞬目を丸くしていたみたいだが(既に数百メートル距離が離れているのにISの機能のおかげで目の前にいるかのようによく見える)、すぐに自分も加速するとあっという間に追いつく俺の速度にピタリと合わせてきた。さすが現役の国家代表候補生だな。

 

「やっぱりリアムはすごいね、初めてでこんなにスピードを出せる人ってほとんどいないんだよ。それよりどう?ISで空を飛ぶ感覚は」

「ああシャルっ。これホントすげえな!HALO降下を高速で逆向きにしてるみたいだ!」

「うーん、その例えはよく分からないというかスカイダイビングじゃないのがリアムらしいけど、喜んでいるみたいで何よりだよ」

 

 笑いかけてくるシャルに笑顔を返す。

 既に視界はグー〇ルマップで県全体を俯瞰した時のようになっているが、まだ足りない。もっと、もっと上に行ってそこから地球を見てみたいと思う。俺が駆るラファールがその気持ちに答えてくれたのか、機体が小さく震えたように感じると次の瞬間にはさらに速度を上げられるようになった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「………、やっぱ映像と実際に見るのとじゃ全く違うんだな」

 

 数分後、上昇を止めた俺たちの足元には母なる地球がその雄大さを余すところなく見せつけていた。

 俺たちが今見ているのは地表の多くを占める海の青に俺たち人間の生活の場である陸地の緑、そしてそれら2つの上っている雲の白。言ってしまえばこのたった3色から成る映像でしかないのだ。

 なのにそれらが真っ暗な宇宙の中にぽっかりと浮かんでいるのを見るととても神聖なもののように感じられる。いつ聞いた言葉か覚えていないが、『奇跡の星』という言葉の意味を身をもって分からせられた気分だ。

 

「うわぁ…すごい」

 

 そして俺が感動している横ではシャルも同じように初めて見る景色に目を輝かせていた。

 

「どうだシャル、ルールに縛られて窮屈な空を飛ぶよりこの方がずっといいだろ?」

「うん、――うんっ!自由に飛ぶのがこんなに楽しいなんて僕思って……なかった………よ………………」

 

 あれ?なんかシャルの動きが止まった。

 途中まで満面の笑みを浮かべていたのにこちらに振り向いた途端にその勢いが一気にしぼんだんだけど。俺なんか変な顔でもしてたか?

 

「どしたシャル、いきなり固まって?」

「えっとね、その、なんていうか、向こうから大きなニンジンがこっちに飛んできてるんだけど」

Quoi(はい)

 

 彼女は何を言ってるんだろう。

 

「大丈夫か?もしかして疲れてたりするのか?」

 

 そういえば昔どこかで宇宙飛行士が船外活動などをしている際に宇宙酔いという状態になる、みたいなこと聞いたな。心身の疲労具合によってはありもしない幻覚を見ることもあるって話だったけどまさかそれか!?

 

「え、特に疲れてるとかはないけど、急にどうしたの?」

「無理しなくていいぞ、代表候補生としての職務とか訓練で疲れが溜まってたんだろう?さっきはそのことを考えもしないでキツイこと言って悪かった。戻ろう、今ならまだ俺がちょっと怒られるだけでシャルはお咎めなしだろ」

「なんか全然違う方向に誤解されてる!?そうじゃなくてほんとにニンジンがこっちに飛んできてるんだってばぁ!」

 

 慌てたように首を振ってそういうことじゃないと言ってくるシャルだがこいつは基本的に優しい性格だからな、きっと初めて空を飛んだ俺のことを気遣ってくれてるんだろう。自分のことをもっと大事にしろって普段から言ってんだけどまだ治ってないみたいだな。

 

「いや大丈夫、分かってるからもう無理するな。さあ戻って今日は早く休むぞ、最近してなかった腕枕してやるから」

「それは嬉しいけど全然分かってないよ!というかISを使ってるんだからハイパーセンサーも起動してるよね!?それで後ろも見えてるはずなんだけどなあ!お願いだから後ろに意識を向けてよ!」

 

 「も~っ!」と怒りながら声を荒げるシャル、まずいなだいぶ重症みたいだ。こりゃいよいよ強制的に連れ帰った方がいいかもしれない。

 それにしてもハイパーセンサーか、理論上は全方位が同じように知覚できるようになるけど慣れてないうちは意識してイメージしないといけないんだっけか?

 とりあえず言われた通りに視野が後方まであるとイメージした俺の目(というよりは視覚野なのか?)に飛び込んできたのはーーー

 

―――バカでかいニンジンが炎を噴き出しながらこちらへ向かってきていた。

 

 

 いや、ナニアレ?




細々と続けていきます


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4.天災

なんかぼやぼやしている間に2ヶ月近くあいてしまいました…。ごめんなさい、許してください何でもしますから!(何でもするとは言っていない)

2020.05.27
シャルロットの肩書を国家代表候補から国家指定パイロット(本作オリジナル)に変更しました。


「………なあシャル、たしか指定パイロットの訓練の一環で有事における対応策について習ってたよな?こういう時はどうすればいいんだ?何でも言ってくれ、従うから」

「ぼ、僕に投げないでよ!こんな状況への対応なんて習ってるわけないじゃん!」

「なんだよ、何が起こっても対応できるよう日々働いてんじゃないのかよ」

 

 は~つっかえ、仕事しろよ軍務省。

 

「巨大ニンジンが飛んでくることを大真面目に検討してたらそこはヤバい組織だと思うよ!?」

「だまらっしゃいっ、現に飛んできてるだろうが!」

 

 まあもしこれで対応策がスラスラと出てきたらそれはそれで引いてたけどな。

 

「理不尽すぎるよ!」

 

 俺の考えていることに対してツッコミを入れてくるシャル、相変わらず察しがいいな。

 

 

 などと、俺とシャルが言い合いをしている間にもニンジン(?)はどんどんとこちらに近づいてきて、とうとう細部まで視認可能な距離になってしまった。

 う~ん、デフォルメされてるとはいえ完全にニンジンですねこれは。火噴いてるんだから十中八九ロケットかミサイルなんだろうけど、マジでそうだったら詰んでんなこれ。

 

 悩んでいるうちにニンジンはさらに近づき、先端から逆噴射を行い俺たちの真横でピタリと止まった。何その無駄な高機能。

 

 

「………。」

「「………。」」

 

 

 動きを見せないニンジンに俺たちが固まっていると―――

 

   パカンッ

 

―――と音を立ててニンジンが真っ二つに割れ―――

 

「シュバッ」

 

―――という声とともに(普通口で言うことじゃないと思うんだが)中から美人さんが飛び出してきた。

 

 俺めがけて。

 

 ガバッ

 

 そしてそのまま抱き着いてきた。

 

「は?」

 

 あれか、この前桃から男の子が生まれるって日本の童話を読んだけどその親戚か?ニンジンには好感度マックスの美女が入っているみたいな感じの。

 

「ええっと、すいません?」

「むぎゅ~~~」

「えぇ…」

 

 とりあえず話しかけてみるが効果ナシ。

 俺の腰に抱き着いたまま頭をぐりぐりとこすりつけてくる。

 

 というかこの人ほんとに誰?

 頭にメカニカルな感じのウサミミを付けてるし、服装は不思議の国のアリスって感じだ。何で1人で逃げる側と追う側の格好してるんだよ。

 

 それにちょっとした問題が発生してるんだよな。

 未だ引っ付いたままの女性だが、その体勢は腹に顔を押し付けているという状態である。

 

 つまり何が言いたのかというと、

 なんか柔らかいものが2つ俺の腰から足の付け根にかけて当たっている。まあ嫌だというわけでは全然ないんだけど――ジャコンッ――………ん?なんか音が聞こえたような。

 

「リアム?」

「やあシャル、どうしたんだ?そんなもの構えたりして」

「まだその女の人が誰だか分かってないからね、テロリストとかの可能性もあるからこれはそれへの備えだよ」

「なるほどさすが国家指定パイロット、しっかり考えてるんだな。 ところで、銃口が俺の方を向いてる気がするのは気のせいだよな?」

 

 アサルトライフルよりも口径が大きく当然威力も高いアサルトカノン、ガルムの銃口がおれとバッチリ目が合ってるんだけど。

 

「もちろん気のせいだよ。リアムが見ず知らずの美人さんに抱き着かれて鼻の下を伸ばしたり腰をモゾモゾさせていることにイライラしてるなんてことは無いよ?」

 

 総満面の笑みで話すシャル。………どうやらちょっとした問題が大問題にレベルアップしたみたいだ。

 

 実は一瞬だけ見えた抱き着いてきた女性の顔に見覚えがあるような気がするんだが、それは言わない方がいいみたいだな。

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

「「篠ノ之束ぇっ!!!???」」

 

 俺とシャルの素っ頓狂な叫び声が響く。シャルはかろうじて「博士っ!?」と付けていたようだが俺の方にはそんな余裕はない。

 

「も~そんなに驚くことないじゃん!束さん傷ついちゃうよ?」

 

 「プンプンだよ!」といかにも怒ってます的なジェスチャーを笑顔でしているこのニンジンから生まれた女性、なんと自らをISの生みの親である篠ノ之束だったらしい。

 いやそりゃ見覚えがあるはずだ、むしろこの地球上で知らない人を探す方が難しいくらいの有名人だったわ。

 というかこの人国際手配かかってるだろ、ホイホイ出てきていいのかよ!?

 

「あー…失礼しました。それで篠ノ之博士はいったいどんな理由でこちらへ?」

 

 そんな内心がにじんだ俺の言葉に博士はキョトンとした表情で答えた。………うん、まあそうだろうな。

 

「さっきたまたまコアネットワークを見ていたらね―――」

 

 待て待て待て、コアネットワークだと?ISコア同士が互いの存在を把握して、相互につながってるんじゃないかって仮説の下で存在が提唱されているあれか?俺も恐らくあるだろうとは思ってたけど作った本人がこう言うってことは本当にあったんだな。

 ってかそれを見てた?まあISの生みの親って考えれば見れても不思議じゃないかもしれないが、それって各国がトップシークレットにしてる保有ISの位置情報や起動状態が筒抜けってことだろ!その情報がどこか国が手に入れでもしてそれが周りの国に知れたらその時点で戦争待ったなしだぞ!?

 

 そんな博士の言葉のヤバさに俺と同じように気付いたらしいシャルの顔色が目に見えて青ざめている。俺と違ってこいつは知っちゃいけないことを知るってことに慣れてないからな、ショックがでかそうだ

 とはいえ助けてやりたいけどこのレベルの機密は俺も正直自分のことでいっぱいっぱいだ。なんだよこれ、どっかの国が核ミサイルを10発増やしたとかとは次元が違うぞ。

 

 しかしそんな俺達2人の動揺を全く気にすることなく、目の前の天災は話を続けていく。

 

「そしたらいきなり、男がISを動かしたって情報が流れてきたじゃん?もうほんとにびっくりしたよ!」

 

 ああ、やっぱりそこで俺が動かしたってバレてるのね。

 

「でもいっくん以外に男の操縦者なんていらないから()()()()()()()()()と思って飛んできたんだけど――」

「ちょっと待ってください」

「ん?」

 

 いや、ん?ではない。

 

 小首をかしげる姿は年上にも関わらず非常にかわいらしかったが今の俺にそれを堪能する余裕はない。気のせいでなければ今殺人予告をされた気がする。

 

「今なんて言いました?」

「え?男性操縦者をプチっとしちゃおうと―――ってああ!気にしなくていいよ、今はそんなことするつもりなんて全然ないから!」

 

 パタパタと手を振りながらそんなことを言ってくるが正直言って信用できない。武器を構えまではしないものの、意識を臨戦態勢に移行させる俺達を前に博士はあっけらかんと言葉を続けた。

 

「―――だって君たちは私の夢を理解してくれる人だもん!」

「夢?」

 

 何のことだ?

 

「ねえねえ、君にとってISとは何?」

 

 投げ掛けられた問いは簡単なものだが、それを口にした彼女の顔は真剣そのものだ。

 問いかけの意味を悟った俺は胸を張って答える。

 

「ISは人間を空へ、宇宙へ、まだ見ぬ世界へと羽ばたかせてくれる可能性の翼だ」

 

 ちょっとカッコつけたのは許してくれ。

 

「その通り!!」

 

 実際博士は花咲くような笑顔で肯定の意を示してくれた。

 

「いや~やっぱり分かってくれる人ってのはいるんだね!ちーちゃん達やくーちゃん以外にはもういないって完全に諦めてたけどいるところにいるんだ、それも同時に2人っ。束さんホントに感動しちゃったよ!………それに引き換えこの前接触してきた馬鹿共、嫌だつってんのにやれISコア作れだとか我が国のために働けだとか何様のつもりなんだよ一体、あ~思い出したら腹立ってきた―――」

 

 そこから先はこれまで会ってきた博士曰く凡人共、(恐らく国家元首やら大企業のトップやらそうそうたるメンツなのだろうが深く考えないことにする)に対する愚痴と罵詈雑言のオンパレードだった。相当鬱憤が溜まっていたようで、数分経っても終わる気配がなく呪詛のごとく吐き出し続けるので半ば強引にまとめにかかる。

 

「えーっと、つまり俺が男性なのにISを操縦できて、それだけだったら始末するつもりだったけど、ISに対して博士と同じ考え方だっていうのが分かったから。直接接触してきたってことですか?」

 

 俺の確認に「そういうこと!」と頷く博士の笑顔とは対照的にその話を聞いたシャルの顔が沈んだものとなる。

 

「でも僕は違うと思います。さっきリアムに言われるまで僕はISの本質を忘れていました、力の側面しか見ていなかった」

 

 そう言ってうなだれるシャルだったが博士はそんなことは気にしていないようだった。

 

「うんうん、確かにさっきまでの君だったら他の有象無象共と同じだったね。もちろんそのままだったら私は君に価値なんて認めないけど、あの時の様子を見たら分かるよ。君は最初はISの本当の側面を見てくれていたし、今はその時の気持ちに戻ってくれてるってね」

 

 さらに、博士は意外な言葉を続けた。

 

「それにね、君はある意味でそっちの男の子以上に希望なんだよ」

「「希望?」」

「そう、希望。今は力の側面しか見えていなくても、誰かがもっと別の側面を伝えることができたらISの本当の魅力に気づいてくれるんじゃないかっていう希望。

今まで私はどうせ凡人共はISを兵器としてしか見ないって決めつけて、その素晴らしさを伝えようとはしてこなかった。でも、もしかしたら凡人の中にも分かってくれる人もいるんじゃないかって思えたんだ」

 

 「もちろんたくさんいるとは思ってないよ?でもここに実例が1つあるんだ、0だなんてことはあり得ない!」そう話す博士の目は子供のようにキラキラと輝いていて、その表情は期待に満ちているように見えた。

 

 そのままぶつぶつと独り言を居ながらこれからの計画を考えていた博士だったが突然思い出したようにこちらに向き直った。

 

「ねぇねぇ、君達の名前は?」

 

 調べれば数秒と掛からずに分かることをわざわざ聞いてくるのは、それがきっと彼女にとって重要なことなんだろう。だから俺とシャルは視線を逸らすことなく彼女にはっきりと聞こえるように大きく口を開く。

 

「リアム、リアム・デュノアだ」

「そっちの君は?」

「シャルロット、シャルロット・デュノアです]

 

 俺達がそう答えれば、彼女は満面の笑みを浮かべて頷いてくれた。

 

「うんうん、じゃあリっくんとシャルちゃんだね!それにデュノアってことはもしかしてデュノア社の社長の一族かな?」

「あ、ああそうだけど…」

「え、ええそうですけど…」

 

 シャルちゃんは分かるがリっくんってもしかして俺のことか?

 

 まあそれは置いておいて、いきなりうちの会社の名前が出てきたので俺もシャルも少し面食らう。篠ノ之博士は周りのことに興味が一切なく、どんな著名人や大企業でも彼女に名前を覚えてもらうことはできないって聞いたんだけどな。

 そう質問してみると博士はあっさり肯定の返事を返してきた。

 

「そうだよ~、凡人共がいくら偉ぶったところでみんな私よりバカなんだから覚える価値なんかないでしょ?でも君たちのとこの会社は人命救助用のISを作ってるからね、ISを本来の目的で使ってくれてるってことで覚えてたんだ~。まあ宇宙開発をしてないのは残念だけど、一企業が国際条約を正面から破れるとは思えないからしょうがないね」

 

 「私は理解がある人間なのだ」と言って笑う博士。どうやらうちの会社が作ってた瓦礫撤去用の副腕型マニピュレータがお気に召したらしい。たしかに博士はIS発表当時に宇宙開発や人命救助の現場で広く使われることを望むみたいなことを言ってたから、ISをその目的に使ってもらえてることが嬉しいんだろうな。

 

「「………。」」

 

 だけど、あれ実は「多腕ロボってロマンじゃね?」とか言い出した技術部の奴等がノリで作ったのが元なんだけど言わない方がいいか?それとも逆に言った方が技術屋的にいいのか?

 

 俺がしょうもないことで真剣に悩んでいると、何やら腕組みをしていた博士が突然「決めたっ」と声を上げた。

 

「私もフランスに行く!」

「「はい?」」

 

 思わずシャルと声が揃ってしまったが博士はそんなことお構いなしでうんうんと1人で納得している。

 

「拠点の維持自体は私とくーちゃんでもできるけど、やっぱり腰を据えられる場所があるとできることがいろいろ広がるんだよね。国は無理でも私の夢を理解しくれたりっくん達がいるデュノア社なら無下にはされないだろうし」

 

「ちょ、ちょっと待ってください」

 

 そう断ってシャルと2人で顔を突き合わせてヒソヒソ話。普段であればシャルの髪の香りを堪能するところなんだが今はそんな余裕はない。

 

「おいシャル、どうする?」

「僕に聞かないでよ!博士はリアムに会いに来たみたいなんだしリアムが決めてってば!というか、リアムがISで飛び出したからこうなったんだし、ついでに責任も全部引き受ければいいよ」

「シャルの方が希望だって言われてただろ1人だけ逃げんじゃねぇ!ってか俺が飛び出してなかったらあのニンジンが敵意全開でうちに着弾してたんだぞ、むしろファインプレイだろうが!」

 

 そのままコソコソと密談を続ける俺たち。IS展開中のため内容は筒抜けなのだろうが博士は律儀に待っていてくれた。どうやら世間で言われているほど強引で常識知らずというわけではないらしい。

 

「決まった~?」

「ええ、ただ流石に俺たちの一存では答えられません。親父、社長に連絡してもいいですか?できれば直接顔を見せていただけると助かるんですけど」

 

 考えた結果、俺たちは交渉事を親父に丸投げすることにした。

 

「うん、それで構わないよ」

 

 許可が出たので通信機能を利用して本社にいる親父へと通信を繋げる。何気に初めてISの通信機能を使ったけど特に意識しないでも大丈夫そうだな。

 

 数秒と経たず、展開したホログラムにこめかみをひくつかせている親父の姿が映る。

 

「………どうした?」

 

 その迫力に気圧されそうになるが俺は努めていつも通りの調子で切り出す。

 

「あ、親父?実はちょっと大至急で伝えなきゃいけないことができたんだけど」

「ほう、それは今から俺が貴様を怒鳴りつけることよりも重要な話なんだろうな?」

 

 うっわ、親父めっちゃキレてるし後ろにいる母さん達も額に青筋浮かんじゃってるよ。このままだと俺が何か言う前に怒鳴られそうなので博士にアイコンタクトをして画面に入ってもらう。

 

「ハロハロ―、リっくんとシャルちゃんのお父さん達かな?世界の天災束さんだよ!」

 

「「「は?」」」

 

 おお、親父達と役員たちの声が揃った。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 結局親父達は博士とのファーストコンタクトの衝撃から立ち直れず、通信の間常に博士の独壇場だった。

 

「―――そういうことでこれからそっちに行くからよろしくね!」

「「「あっはい」」」

 

 通信が切れる間際、画面に映った親父達はそろって呆然とした表情をしていた。そりゃそうなるよな、合掌。

 まあ、あれで皆仕事は鬼みたいにできるから戻るころには少なくとも受け入れ準備くらいはできているだろ。

 

「じゃっ早速行こうか!」

 

 そう言って振り返った博士の顔は本当に――それこそ遠足前夜の子供のように――嬉しそうなものだ。年相応というより精神年齢は俺たちに近い、下手すれば下かもしれない。

 

「ええ、分かりました」

「は、はい、了解です!」

 

 とはいえ相手は天災、緊張するなという方が無理な話だ。

 

「うーんリっくんもシャルちゃんも固いな~、もっと砕けてくれちゃって大丈夫だよ?まあ今はいいね、すぐに慣れてもらうつもりだし。それじゃあ2人はしっかりつかまっててねっ、この子の速度は普通のISじゃ振り切られちゃうから手を離したらあっという間に置いて行かれちゃうよ」

 

 一瞬不満そうな顔を浮かべたもののそれはすぐに(不穏な言葉と共に)引っ込み、博士はそう言ってニンジン型ロケットの中へと戻る博士。真っ二つになっていたパーツが元に戻ると側面から取っ手のようなパーツが飛び出してきた。同時にエンジンに点火したのかロケット全体が震え始めたので俺とシャルが慌てて飛びつく。

 すぐさまロケットはとんでもない速度で地表へと向かい始める。事前に言われたように取っ手をしっかり掴んでいないと振り落とされそうな勢いだ。

 

 隣の取っ手を掴むシャルは状況についていけないからか叫び声をあげているが、俺はそこまで取り乱してはいない。デュノア社の保安部()としての経験上、現実ではよく分からんことが往々にしてあるってことは嫌って程経験してるからな、そんな時の対処法も理解してるつもりだ。

 

 Ce qui est fait est fait(起きたことは起きたこと)、なるようになれだ。どうやら今回は悪いことにはならなそうだし、俺はもう知らん。

 

 

 ………はいそこ、現実逃避とか言わない。

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

そこから1週間はいろんなことがありすぎて正直よく覚えてない。所属していたデュノア社保安部からの異動手続きやISの訓練、とにかくやることが多すぎてゆっくり考え事をする暇もなかった。

 その間束博士の姿を見かけなかったのだが、どうやら博士は博士で色々やっていたようで、あえて一言でまとめるとしたら、

 

 ()()()()()()()

 

になるんだと思う。

 

ここ(フランス)はいい国みたいだけどやっぱりちょっと良くないことをしてる凡人共がいるみたいだね」

 

 束博士は俺と合った翌日の朝にはこんなことを言いだし、国内の犯罪者達を片っ端から葬り始めたのだ。マフィア、チンピラ、詐欺集団、汚職警官や政治家、挙句の果てには諸外国からのスパイまで、すぐさま罪に問える者は警察に突き出し、そうでない者は秘密裏に軍か公安に引き渡したらしい。

 らしい、というのは俺がそれを知ったのは全部終わった後だったからである。

 

「君のおかげで我が国は建国当時の高潔な身体を取り戻した!」

 

 至上2人目の男性IS操縦者として(このタイミングではまだ機密情報だったため)非公式に首相と面会した時の首相の第一声がこれである。それまで博士が何やってるのか知らなかった俺としては思わず「はい?」と間抜けな声を出してしまったが、首相は全く気を悪くすることなく説明してくれ、そこで俺は初めて現実を知ったわけである。

 

 そして頭を抱えながら家に帰ると博士が当たり前な顔をして廊下を歩いており、これ幸いと事の正否を聞いてみると、想像の斜め上を良く返事が返ってきた。

 

「いろんな手続きに時間が掛かったけど捜査自体は3日で終わったんだ~。国の中枢にはスパイがいなかったから結構らくちんだったよ」

 

 笑顔でそんなことを言う博士に天災の力の片鱗を見せつけられ、俺はただ万感の思いを込めてため息をつくことしかできなかった。

 

 

 




天災、参戦!

からのフランス超強化!
現代社会に超絶クリーンな国家が誕生しましたよ~


そして次回の予定はまだ未定…


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5.1人目

|ω・) チラッ

|・ω・)ノ⌒○ ポイッ

|)彡  サッ

|< ……。)




| :( ;˙꒳˙;):<遅れてごめんね... )


 そんなわけで回想から覚めて現在、IS学園1年1組の教室にて。

 

「―――リアムを狙うならまず僕に話を通してね」

「お前何言っちゃってんの!?」

 

 シャルがぶちかましやがった爆弾発言に思わず声を上げる。いきなり何言ってくれちゃってのこいつ。

 今の言い方だと確実に良からぬ方向に推測されるぞ!?

 

「来たっ強気の弟から周囲に向けての宣戦布告よ!」

「順当にリアム×シャルルかと思ったらシャルル×リアムだったわけか、たまげたなぁ」

「まさかと思ってたけどあんな言い方するってことはやっぱり…」

 

 ほらみろ、クラス内の不穏分子に続いて感化される奴が出始めてきてるぞ。

 というかなんでシャルはそんな周りを見ながら笑顔で頷いてるんだよ、余計に誤解が広がるだろうが。この時間が終わったら〆よう。

 とはいえ変な思考に侵されていない生徒もいる。

 

「しゃるるんとりーくんは仲いいんだね~」

 

 どこかのんびりとした調子のその声に振り返ってみれば、声の主と思しき人物と目が合う。

 小柄な体格とそれに全く合っていないダボダボの制服、特に袖はかなり余っていて先が垂れ下がっている。なんか子供が幽霊の真似してるみたいな感じだ。

 パタパタと手(というか袖)をこちらに振ってくる彼女の表情はほにゃっとした感じで、話さなくてもマイペースな人だと見当がつく。

 

 貴重な常識人枠っぽいし、ぜひ仲良くなっておきたい。

 

 しかし俺がそんなことを考えている間にも教室内での感染は進行していき、だんだんと声も大きくなってきている。

 俺が保安部鎮圧部隊の出動要請を本格的に検討し始めたところで、救世主が現われた。

 

「静かにせんかっ」

 

 1年1組担任、織斑先生である。

 

「貴様ら、私の前でそれだけ騒ぐとはいい度胸だな」

 

 あ~あ~、こめかみぴくぴくしてるよ。

 そしてその迫力の押されて女子達の声がピタリと止まる。

 やれやれ助かっ―――

 

「今は授業中だ。デュノア兄弟の趣味嗜好については休み時間にでも聞け、いいな?」

「「「はいっ!」」」

 

―――てないなこれ、むしろ悪化したわ。

 

 ってかあの鬼教師、言葉の後ろに「こうすれば私の一夏に寄り付くものも減るだろう」って小さくくっつけてるし。

 なんなの?ブラコンなの?

 

 ギンッ

 

「なんだデュノア兄、何か言いたいことでもあるのか?」

「なにもありません。授業を始めてください、サー」

「先生と呼べ」

 

 なんでバレたんですかねぇ。

 表情にも態度にも出してなかったと思うんだけど、こわ。

 

 あとその覇気で先生はない。確実に鬼教官の類だろ。

 

 ヒュンッ――ドスッ(←チョークが飛んできて机に刺さった音)

 

「次はないぞ」

D'accord(了解しました)

 

 マジで怖え………

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

「それではこの時間の授業はこれで終わりだ。次の時間もこの教室だから遅れないように」

「「「ありがとうございました」」」

 

 これで1時間目が終わり、授業というよりは注意事項の通達って感じだったな。

 

 さて、

 

「おいシャル、ちょっとOHANASHIがある。来い」

「え?」

 

 即行で立ち上がりシャルの肩に手をかけ、そのまま手を取って立ち上がらせる。この作戦は時間との勝負だ、反応を待っている時間はない。

 なぜなら―――

 

「あっデュノア君達が逃げるよっ。者ども、であえ、であえー!」

「回り込んで、前後の出入り口を塞ぐのよっ」

「弟君の発言について質問しちゃうよ!」

 

―――興味津々、噂話大好きな女子達がこちらを抑えようと動き始めているからだ。

 

 各々が席を立って扉が近い場合はそれを封鎖するように動き、そうでない場合は扉と俺たちの間に立ちふさがる。

 直接こちらに突撃してくることはなく、周囲の者同士で連携を組みながら包囲網を作っていく。

 君ら初対面だよな、なんでそんな息ピッタリなんだよ。さすが倍率1万倍のエリート校ってことか?

 

 とはいえ、いくら連携を組んでいるといっても素人相手にそうそう後れを取るつもりはない。むしろ直接向かってこないでくれて助かったくらいだ。

 

「さあ逃げるぞ」

「え、ちょっとリアムっそっち窓だよ!?」

「気にするな!」

「気になるよっ」

 

 シャルの手を取って扉とは逆方向、すなわち窓側へとダッシュ。

 動揺したような声を上げているが気にしない、そのまま引張りその勢いのまま横抱きに抱え上げる。

 背後から歓声が上がるがそれもスルーして一気に窓を目指す。

 

 そして俺が駆ける先、窓の横には袖がダボダボな制服を着た1人の女子生徒の姿があった。

 

「そりゃ~行ってこ~い」

 

 という声に合わせてその女子生徒が窓を全開に開け放つ。

 授業中にやってほしいことを書いたメモを投げておいたんだが、どうやら指示通りに動いてくれたみたいだ。

 

「サンキューこのお礼はまた後でっ」

「ならお菓子がいいかな~」

「オッケー任せとけ!」

 

 すれ違いざまに短く言葉を交わし、そのまま開いた窓から身を躍らせる。もちろん抱えたままのシャルも一緒だ。

 

「う、うわぁぁああああ~~~~」

 

 シャルの悲鳴を耳元で聞きながら数秒の浮遊感を味わった後危なげなく着地する。これくらいなら保安部時代のおかげで慣れたもんだ。

 

 抱いていたシャルを下ろし、立ち上がって教室に目を向ければ、窓際にクラスメイト達が鈴なりになっている。皆口を開けてポカンとした表情だ。

 

「悪い、質問とかについては後で聞く時間を取るから今は勘弁してくれ!」

 

 彼女達を見上げながらそう声を掛ければ皆我に返ったようで、「分かったよ~」やら「約束だからね~」と言いながら手を振ってくれた。 

 それに手を振り返し、どうやら突然の落下に腰が抜けたらしいシャルを再び抱え上げると俺はその場を後にした。

 

 なお、今の一連の騒動の陰で―――

 

「……ちょっといいか」

「え?お、おう………ってあれもしかして箒?」

 

―――というやり取りが聞こえたが詳しいことは知らん。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「んじゃマジで頼むぞシャル、今お前は男なんだからな」

 

 シャルを抱き上げたまま人気が無いところまで連れていき(こういうと非常に誤解を招きそうだが事実だから仕方ない)OHANASHIした。

 

 なんせさっきのシャルの発言を客観的に見ると、弟が周囲の女性に対して「兄とお近づきになりたい(婉曲表現)なら自分の許可を取ってからにしろ」と宣言した形になる。

 そしてその宣言をした弟は100人中108人が認める美少年(実際には美少女)である。さらに宣言の対象たる俺も、まあ顔立ちは悪くはない方だと思う。さっきからのクラスメイト達の話を聞く感じでは剽悍なタイプでいい、とのことらしい。保安部で鍛えられているため体格がしっかりしているのもプラス要素なのだろう。

 

 と、以上の要素を想像力たくましい女子高生たちの頭にインプットしたらどうなるか。

 

 

 考えるまでもなく腐海が発生することは目に見えている。

 

 

 祖国(フランス)にいた頃でも女子達の想像力は俺の予想の上をいっていた。サブカルチャーの聖地たるこの日本ではどうかなど想像するだに恐ろしい。

 

 そのあたりを懇切丁寧に説明したところ、シャルも事の重大さに気付いてくれたようだ。若干顔を青くしながらコクコクと頷いてくれた。

 

「う、うんっ分かったよ。……ああもう僕は何であんなこと言っちゃったんだろ。皆はどうにかごまかせるとしても、こんなんじゃいつかリアムにはバレちゃうよ。もっと気を付けないと

 

 ゴニョゴニョとなんか言っている気がするが俺には何も聞こえない。ブツブツと呟いているシャルを放置して近くにあった自販機に歩み寄りてきとうに2本購入する。

 1本をシャルに放り投げ、残った方のキャップを開けてまず一口飲む。

 

「流石日本だな。ボトルのお茶がこんなにうまい」

「あっほんとにおいしい。それに色も緑だね、茶色じゃないや」

 

 小さく口に含んだシャルもほにゃっと笑顔になったがすぐに心配するような表情に変わった。

 

「でもここでのんびりしてて大丈夫かな。クラスの皆は納得してくれたけど、他の人達は僕たちに興味津々だよ。急いで戻らないと授業に間に合わないんじゃない?」

 

 なんだ、そんなことか。

 

「それなら問題ない。むしろ中途半端なタイミングで姿を見せたらめんどくさくなりそうだし、ギリギリまでここに居たほうがいい」

「そ、そうなの?」

 

 よく分からないようで首を傾げるシャル。

 まったく、俺らがどうやって教室を出てきたかを考えれば分かりそうなもんだけどな。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「………おい、デュノア兄弟。どうして貴様らは窓から教室に戻ってきた?この教室にはドアが2つあることを忘れたか」

 

 はい、現在俺達の前にはこめかみをひくつかせている織斑先生(ブリュンヒルデ)がいます。理由は単純、俺がシャルを背負った状態で窓から教室にエントリーしたからだ。

 いやー予冷が鳴ってすぐだったからまだ来てないと思ったらもう教卓のところにいてびっくりだ。

 

「ひっ」

「他の生徒に囲まれて遅刻するよりはいいと思ったので、学園の校則にも窓から教室に入ってはいけないというのはありませんでしたし」

 

 シャルが怯えたように小さく悲鳴を上げるが、その程度では俺は動じない。怒っているよう見えるが、覇気も殺気もそれほど混じっていない。さっきチョークを投げられた時の方が怖かったくらいだ。

 

「たしかに校則には無いが、常識で考えろ。それに外に出たら遅刻するかもしれないと言うならそもそも出なければいい話だろうが」

「常識ってのは往々にして破られるものですよ、この教室にも実例が3つありますし」

 

 実例というのはもちろん「ISは女性にしか操縦できない」という常識を打ち破った俺とシャル、それに一夏のことである。まあシャルは実際のところ女性だが対外的には男性ということになってるから問題ない。

 つーか、戻れないなら外に出るなって言っても出ざるを得ない状況になった理由の何割かはアンタのせいだろうに。弟を守るために俺等を売りやがって。

 

 そんなことを考えていたのが伝わったのか、表情が若干ばつが悪そうなものに代わった。

 

「―――まあいい、席に着け。次からは普通の行動を心掛けるように」

「「分かりました」」

 

 シャルと2人で頷いて自分の席に戻る。

 お、なんか一夏が信じられないものを見る目でこっちを見てる。怒った姉から無傷で逃れたのが信じられないって顔だな。

 表情豊かで面白そうだし後で話してみるか。

 

「それでは授業を始めますよー………うぅ、最初の授業だから張り切ってたのになんか空気みたいになっちゃいました…」

 

 そして山田先生が落ち込んでる。

 こっちにはあとで謝っておこう。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「頼むっ、俺に勉強教えてくれ!」

「えぇ…」

「いくらなんでも追い詰められすぎじゃねえの?」

 

 はい、さっきは目の前で織斑(姉)が怒っていましたが、今度は目の前で織斑(弟)が手を合わせてこちらを拝んでいます。さっきは怯えていたシャルが今度は困惑してる。織斑姉弟はシャルのレアな表情を引き出すのがうまいな(思考放棄)。

 

 世界に3人しかいないIS適性保持男子が1箇所に固まっていれば周囲の女子達が突撃してきそうなものだが、一定の距離を開けて取り巻くのみで近づいてこない。

 互いに牽制し合っているというのもありそうだが、なにより一夏の全身から立ち上る必死さが彼女達を遠ざけているんだろう。

 

「なあとりあえず顔を上げてくれ。挨拶も何もなしでいきなりそんなこと言われても困る」

「あ、ああ。たしかにそうだな」

 

 そう声を掛ければ彼は顔を上げ、日本人に特有の年齢の割にあどけない顔立ちが露になった。

 

「俺は織斑一夏、気軽に一夏って呼んでくれ。数少ない男子同士仲良くしようぜ」

「リアム・デュノアだ。俺もリアムでいい、よろしくな」

「よろしくね、僕はシャルル・デュノア。シャルルって呼んでくれると嬉しいな」

 

 ニカっと人懐っこく笑う一夏と握手し、改めて俺達も自己紹介を行う。

 やっぱり同い年というよりも1,2つ下の感じがするな。部隊の仲間の日本オタクが日本人は外見と同じように中身も幼いって言ってたけど案外間違ってないのかもしれん。

 

「それで、勉強っていうのはISに関する知識のことかな?」

「そうなんだよ!千冬姉のやつ、1週間で参考書全部覚えろなんて、無理に決まってるだろあんな分厚いの!」

 

 さっきの授業で一夏にはIS関連の知識があまりどころか全くないことが判明した。どこが分からないのか聞いてくれた山田先生に対し、「ほとんど何も分かりません」とヤケクソ気味に宣言している様はいっそ感動すら覚えたね。

 直後に織斑先生から出席簿アタックと追加課題としての参考書暗記を言い渡されてたけど。

 

 んでもってこの参考書、ISの仕組みや仕様に関連規則などのISに関する基礎知識が記載されているのだが、バカみたいに分厚い。必要最低限の記載とされているが、おおかたIS自体が世に出て日が浅いために何が必要最低限なのかが誰もよく分かっていないのためにこうなっているのだろう。

 

 そんなものをわずか1週間で覚えろというのは無茶である。よって普通ならば一夏に同情するところだが、あいにくときちんとした理由がある。

 

「いや、それは確認もせずに電話帳と間違えて捨てたお前が悪い。それがなけりゃ2ヶ月くらいは時間あっただろ」

「うぐっ、そりゃ確かにそうだけど…」

 

 俺の言葉に口ごもる一夏。

 この一夏(バカ)、あろうことか家に届いた参考書を電話帳と間違えてそのまま捨てたらしい。そして参考書の存在自体を知らないまま入学したときたもんだ。

 誰か気付けよと思わないでもないが、資料で見たところ一夏の家族は姉の織斑千冬だけで両親はいない。その織斑千冬についても弟がISを動かしたゴタゴタで忙殺されていたであろし、しょうがないと言えばしょうが無いのかもしれない。

 

「もうリアム。過ぎたことを言っても仕方ないよ、捨てちゃったものは捨てちゃったんだから。一夏、僕達でよかったら勉強手伝うよ」

 

 うなだれる一夏を見かねたシャルが助け舟を出す。

 さすがの優しさだ、伊達に天使と評されている(デュノア家及びデュノア社の共通認識)わけではない。

 

「ほんとか!?」

 

 暗闇の中で一筋の光を見つけたかのような顔になる一夏。表情がコロコロ変わって面白いな。

 

「うん、困った時はお互い様ってね。リアムもいいでしょ?」

「へいへい、俺もそのつもりだったからな。ま、織斑先生にしても本気で全部覚えられるとは思ってないだろうし、重要そうなところに絞ればなんとかなんだろ」

 

 シャルも問いかけに俺も頷いて答える。

 俺以外の唯一の男性適性保持者だから可能な限り情報を集めるようにと政府から内々に指示が出ているうえ、束博士からも「いっくんと仲良くしてあげてね」というお願いをされているので一夏に近づくのは決定事項だ。

 

 とはいえ、それらを抜きにしても仲良くしようと思うくらいにはこいつとは合いそうだ。

 

「2人ともありがとな!いやー言われた時はほんとにどうなることかと思ったぜ。つーかなんで2人は普通に授業についていけてたんだ?参考書を読んでたとしても難しかったと思うんだけど」

 

 分からないといった感じで首をかしげる一夏に思わずシャルと顔を見合わせる。もしかしてこいつ、うちの会社(デュノア社)がISメーカーだってこと知らないのか?

 ………知らないんだろうな、というかそもそもうちが企業を経営してることも知らないかもしれん。

 

 どこから話したものかと考えながら口を開いたところで―――

 

「ちょっとよろしくて?」

 

―――よこあいから声が掛けられた。




続きます。


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