この気持ちは恋じゃない (夜はねこ)
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設定

人を好きになり、告白して結ばれる。
それはとても素晴らしい事だと誰もが言う。
 
だがそれは間違いである!
 
恋人たちの間にも明確な力関係が存在する!
 
搾取する側とされる側。
尽くされる側と尽くす側。
勝者と敗者。
 
もし貴殿が気高く生きようと思うのなら決して敗者になってはならない!
 
恋愛は戦!!
 
好きになった方が負けなのである。


プロフィール

名前 (あずま)玉枝(たまえ)

性別 女

家族構成 父・母・兄

身体的特徴 アホ毛

所属 私立秀知院学園高等部1年A組

部活動 園芸部

 

概要

 東グループのご令嬢。

 秀知院学園高等部1年、生徒会広報。

 生徒会の活動を生徒に周知するのが仕事。生徒会と生徒との間には、距離があることが多いので、生徒たちは、生徒会が何をしているのかあまり知らない。そこで重要な役割を持ってくるのが広報の仕事。生徒会の活動内容を報告する生徒会誌を定期的に発行したり、ホームページを作って運用したり、活動の様子を発信したりしている。広報がいかにアピールするかで、生徒たちの生徒会に対する見方が変わってくると言っても過言ではない。

 広報の仕事以外にも雑用をこなす。

人物像

 表面の態度はきわめて礼儀正しく丁寧だが、かえって無礼な慇懃無礼な性格。悪気はない。形だけはあくまで礼儀正しく見せており、感情を剥き出しにする機会が少なく、誠意のカケラすら全く見せない事から、エゴ丸出しな悪人よりもタチが悪い存在である。ただし私が書くと何故かただの毒舌少女になる。ミステリー。

 

 石上優のファン。あと早坂愛と藤原書記も好き。石上くんへの気持ちは恋ではない。絶対に!違うもん!石上に対してのみ、非常にめんどくさい感情をもっている。石上のことになると頭のネジが緩くなる。昔石上に助けられたことがあるらしい。

 お兄様大好き。ブラコン。秀知院学園のパリの姉妹校から兄のいる秀知院学園に転入してきた。つまり帰国子女。兄と二人暮らし。両親との複雑な事情があるらしい。

 早坂とはいまのところ関わりがないのでなんとも言えないが、下手したら藤原書記との百合ルートになる。

 石上との勝負はだいたい、引き分けか負け。

 かぐやと白銀が高度な恋愛頭脳戦を繰り広げていることに気づいている。

 

 

人称・呼称・言葉遣い

 一人称「私」、二人称は「あなた」。

 呼称は槇原こずえを「マッキー」、子安つばめを裏で呼び捨てにする以外は、先輩には「苗字+先輩」、同級生・年下の男子には「苗字+くん」(石上くんなど)、同級生・年下の女子には「苗字+さん」(伊井野さんなど)で呼ぶ。ただし、女子の場合は仲良くなったら下の名前(ミコちゃんなど)で呼ぶ

 言葉遣いは、先輩に対しては敬語を常用し、先輩以外なら砕けた口調で話す。

 

名前の由来

 求婚者にかぐや姫が課した難題の宝物の東方海上にあるという「蓬莱の玉の枝」から取っている。ババくさい下の名前で呼ばれることを嫌っており、友人や藤原書記にはあず(ちゃん)と呼ばれている。全国の玉枝さんに謝って。

 

人間関係

白銀御行

 ポンコツ残念イケメンな先輩。四宮先輩に早く告白しろ。

 

四宮かぐや

 ちょっと怖いけど美人なかわいい先輩。会長と早くくっつけ。

 

藤原千花

 アホで可愛い先輩。生徒会のマスコット的存在。ただし、この言葉が何気に彼女を傷つけているとは思ってない。むねがとてもおおきい。

 

早坂愛

 四宮家の使用人でかぐや専属の近侍であることは知っているが、知っていることには気づかれてない。好き。仲良くなりたいが、学年も違うし接点もないので悲しい。

 

 

石上優

 隣のクラスの男の子で同じ生徒会役員。推し。ファン。私のヒーロー。彼に対しては罵倒のボキャブラリーが少なくなる。これは決して恋愛感情ではない。違うもん。でも真顔で可愛いとか言われると困る。

 

伊井野ミコ

 隣のクラスの女の子で同じ生徒会役員。 真面目だなと思ってる。次第に仲良くなる。早く書きたい。

 

槇原こずえ

 通称マッキー。一緒のクラスの友人。ただし、彼女のキャラが全く掴めないので書けない。

 

子安つばめ

……この人が嫌な人だったらよかったのに。まだ出ない。

 

二つ歳上の兄。流石です、お兄様!略して、さすおに。劣等生の彼ではない。人違い。唯一、下の名前で呼ばれても大丈夫な人。秀知院学園高等部の三年生。名前は決まってない。身体的特徴は、眼鏡。さらにいうなら眼鏡のレンズ越しでもわかる美形。早坂の調査を掻い潜ったり妹に色々教えてるのはこの人。腹黒シスコンイケメン眼鏡。

 

 

その他

一年の妖精 不知火ころも、二年の姫君 四宮かぐや、三年の白鳥 子安つばめには入らないものの普通に可愛い美貌の持ち主。園芸部員を中心としたファンクラブまである。

 

備考

最初めんどくせぇキャラ作っちまったと思いつつ書き進めてみると、これがなかなかに可愛い。東玉枝が可愛いすぎてつらい。お前は私が責任持って幸せにする(多分、おそらく、きっと)。

 



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1
かぐや様はいただきたい/東玉枝は広めたい


 ある日、私は静かな場所で昼食を食べるべく、生徒会室を訪れていた。

 

「全くはしたない!! 秀知院の生徒とあろう者が情けない事です」

「そこまで怒る程の事じゃないだろう。ん?東じゃないか。お前も来てたんだな」

「こんにちは、白銀先輩。…四宮先輩は何をそんなに怒っているんですか?」

 

 生徒会室に入るや不満を口にする四宮先輩を見て、私は白銀先輩に尋ねた。また白銀先輩が何かして四宮先輩を怒らせてしまったのでは?と私は不安を抱く。

 

 白銀先輩の話によると、学内でお弁当をあーんしている生徒を見て四宮先輩が、はしたないと怒ったらしい。

伝統ある秀知院において人前でモノをねだることが浅ましいと思っているようだ。さすが貴族。

 

 ひどい言いようだといいつつ、四宮先輩が更なる愚痴を言う前に会話を打ち切り、白銀先輩は鞄から一つの弁当箱を取り出した。

 

「あら?会長、今日は手弁当ですか?」

「ああ。田舎の爺様が野菜を大量に送ってくれてな。暫くは弁当にするつもりだ」

「会長が料理出来るとは意外な一面を知りましたよ」

「俺はこうみえて料理は得意だぞ」

 

 

 そう言って開かれたお弁当箱。その中身に四宮先輩は目を奪われていた。煮物やタコさんウインナー、ハンバーグ、だし巻き卵など、食べたいものをとにかく詰め込んだお弁当箱は四宮先輩の心を射止めた。庶民の味にあこがれる貴族。あるあるだ。

 四宮先輩のお弁当は、料理人によって作られ休み時間にできたてが届けられる。しかも、栄養バランスや旬の食材も考えられ作られているお弁当が四宮先輩の知るお弁当だ。だから、白銀先輩のお弁当は四宮先輩にとって初めて見る光景で、輝いて見えたのだろう。

 本音を言えば、分けて貰って食べたい。だが先程の発言した手前…それを口にする事は四宮先輩のプライドが許さない。それでも気持ちは正直なもので、四宮先輩の視線は白銀先輩の弁当を追っていた。無論、私は四宮先輩の行動に気付いている。

 意を決して、私が助け船を出そうとした時、そこに奴が来た。そう、生徒会室にやってきた藤原先輩だ。彼女は波乱を巻き起こす。

 

「あ、皆さん来てたんですね。わぁ会長、今日はお弁当ですか。美味しそう、少し分けて下さいよ」

「おお、いいぞ。じゃあ、藤原書記にはこのハンバーグをやろう」

 

 あろうことか、藤原先輩はいとも簡単に一口分けてほしいと頼み、ハンバーグをもらった。おいしいそうに食べる藤原先輩……可愛い‼︎ハッ、だめ、東玉枝。気を確かに!

 白銀先輩はそんな藤原先輩にタコさんウインナーもあげた。

 四宮先輩にとってハードルが高すぎることを、いとも簡単にやってのける藤原先輩。そんな藤原先輩に対し、四宮先輩は軽蔑しきった目を向けている。…過激だ。

 そしてどうやら白銀先輩はそれを自分に向けられていると勘違いし、自分の弁当はみじめにみられていることに対抗心を燃やしているようだ。もう、この人たちめんどくさい‼︎好きにして!

 

「そういえば、あずちゃんもお弁当だー!」

「え?ああ、はい。おにい……兄の手作りなんです。」

「ふむ、折角の機会だ。俺のおかずと東のから揚げ。良かったら交換しないか?」

「……ええ。別に良いですよ」

「そうか。じゃあ、遠慮なく頂くとしよう。ほら、これがお返しのタコさんウィンナーだ」

「ど、どうもありがとうございます」

「うわぁ。あずちゃん、羨ましいなぁ。会長の手料理…とても美味しかったですよ」

「む。おに……兄の手料理も美味しいですよ!よければ藤原先輩もどうぞ!」

 

 

 もはや、私の思考は四宮先輩へ助け舟を出すことではなく、お兄様の料理がいかに美味かを知らしめることにシフトしていた。

 なので、怨念が籠められた四宮先輩の視線に気付くことはなかった。

 

 

 そして翌日の昼休み。今日も私は生徒会室で昼食を食べる事にした。昨日の失態を挽回しなければと心に刻み込む。どうやら私はお兄様のことになると、頭のネジが緩んでしまうようだった。

 どう切り出そうかと思案する中、先手を打ったのは四宮先輩であった。

 

 どうやら、悔しさが頂点に達した四宮先輩は、とんでもなく豪華なお弁当を持ってきたようだ。

 見る限りでは伊勢海老や牡蠣が入っていて、弁当の域を軽く超えている…。

 四宮先輩は豪華な食材とお弁当を交換してくれるよう白銀先輩が頼み込むことを期待してこの豪華なお弁当を持ってきたのであろう。

 勝利を確信し余裕の笑みを浮かべる四宮先輩だったが、現実は妄想ほど甘くはない。 

 

 白銀先輩は四宮先輩に哀れまれていると思い、屈辱を感じ、高級食材に見合うものを持っていない!と交換を断固拒否した。

 

 常識的に考えれば必然といえるのだが、思惑が外れた四宮先輩は脱力し項垂れた。

 その拍子に机に頭をぶつけるのを見た藤原先輩の「かぐやさん頭大丈夫!?」と悪口にしか聞こえない心配。その言葉が四宮先輩に追い打ちをかける。

 

 さらにここで藤原先輩が白銀にお弁当を作ってきてもらったことをカミングアウトした。

 おそらく、四宮先輩の中の藤原先輩の印象が恐ろしいレベルまで落ちてしまったのだろう。暗殺者のような眼をしている。

 

 それに気づいた白銀先輩は、急いでお弁当を食べて生徒会室を出てしまった。

結局、四宮先輩は白銀先輩のお弁当を食べることができなかった。

 しかし、そんな彼女に救いの手を差し伸べる者がいた。

 

 そこに藤原先輩が「一緒に食べましょ」とタコさんウインナーを四宮先輩に食べさせたのだ。

 

「どうですか~?美味しいでしょ。かぐやさんも一緒に食べよ」

「はい、皆で食べると楽しいですよね。折角ですし、私のから揚げもどうぞ。」

「あ、ありがとうございます。…東さんのお兄さんの料理も美味しいですよ」

「……す」

 

 女子三人組の弁当を食べながらの楽しい昼休みが始まりそう…だった。やはりお兄様がらみになると頭のネジが緩む。

 

「「え?」」

「そうなんです!お兄様のお料理は世界一…いえ、宇宙一なんです!!」

((えー!?))

 

〔本日の勝敗 四宮かぐやと藤原千花の敗北(東玉枝のブラコンを引き出してしまった為)〕

 

おまけ

「お兄様、今日のお弁当も美味しかったです。先輩たちにも好評でした!」

「そうか、良かった。明日は何が食べたい?」

「…お兄様が作ったものなら、なんでも美味しいです。」

「ありがとう、玉枝。」

 

ブラコン+シスコン

 



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東兄は可愛がりたい//かぐや様は愛でたい/藤原千花のねこみみが見たい

タイトルがただの私の欲望。


 午後、家から帰りソファに座って休憩していると、玉枝が隣に座ってきた。玉枝の顔が少し暗い。学校から帰るまではそうでもなかったのだが、何かあったのだろうか?

 

「玉枝?」

「………あの人たちから連絡がありました。一時期フランスから帰ってくるみたいです。会食がしたい、と。」

 

 

 怒りを押し込めた声で玉枝は言葉を紡いだ。あの人ということは僕の戸籍上の両親からだろう。

 実は僕と玉枝は腹違いの兄妹だ。お互いが父親と母親の連れ子。

 あまり玉枝は父親と義母ーー玉枝にとっては実の母だがーーを好いていない。むしろ毛嫌いしている。

 妻の死後、わずか半年で再婚するような父親だ。しかも、結婚してからもずっと愛人宅に居座っていたような男でもあり、好かれる理由の方がない。

 

 

「お兄様の方にはご連絡がありましたか」

「いや、なかったよ」

「そうですか…」

 

 

 さらに加えていうと、義母は僕のことを嫌っている。とりあえず今はこのことを置いといて、玉枝の機嫌を直すのが先である。

 

 申し訳なさそうな玉枝の肩を僕は抱いた。玉枝が謝ることではないのだ。無理を言ってこの学校に通わせてもらっている。

 落ち着いたように取り繕ってもなお、その手はしっかりと握りしめられていた。優しく、握りしめられていた玉枝の手を取った。

 

「ごめんね、一緒に行けなくて。」

「い、いいえ。お兄様が謝ることじゃ…」

「玉枝が謝ることでもないんだよ。」

 

 玉枝が完全に落ち着いたのを見計らい

 

「今日は久しぶりに一緒に寝ようか。」

 

 高校にもなって、とでも言われるだろうか。それとも恥ずかしがって嫌がられるだろうか。

 

 玉枝はまるで花が綻ぶような笑みを浮かべた。

 

 

〔本日の勝敗 なし〕

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「東、少し良いか?話す事があるんだが…」

「白銀先輩?珍しいですね、一年の教室まで来るなんて。別に大丈夫ですよ。何かありましたか?」

 

 

 休み時間、一年の教室まで来て、白銀は東に声をかけた。今朝、校長から頼まれた用件を伝える為である。

 

 

「実はだな。校長からフランスの姉妹校との交流会の企画を依頼されてな。その準備期間中の予定を知っておきたいんだ。交流会は三日後の月曜日なんだが、これの準備は土日返上でやる必要がある。だから予定の有無を確認したい。」

「……そうですね、土日は両親が帰ってくるので色々と立て込むかもしれません。」

「む、そういえば、東は姉妹校出身だったか。両親もフランスから?これまた急に。」

「…あの人たちはいつもそうですよ。……すみません。」

 

 

 冷たい言い方になったことに気付き、東は口を閉じる。

 

「いや…、こちらこそすまなかった。」

「いえ、代わりに当日は責務を果たします。」

「ああ、頼む。」

 

 忙しいので人手が欲しい。しかし東のプライベートのことーーー特に両親との何かしらの因縁がある状況で、それを深く掘り下げることはしなかった。東は白銀のことを変なところでポンコツな残念な人間という評価をしていたが、こんな状況でも、相手への気遣いを忘れない白銀に対しては好感を抱いていた。     

 

 東の交流会への意気込みに、白銀も表情を柔らげた。

 

ーーーーーー

 

「こんにちは。遅れてすみません。って…何してるんですか?」

 

 いきなりだが、四宮先輩がねこみみをつけて「にゃあ…」と言っていた。

 

 

「交流会の来賓の歓迎に使うんです!フランスは日本に次ぐコスプレ大国ですし、言葉よりも通じる部分があると思うんですよ〜」

「……(バカなの?)まぁ、確かに可愛いですけど。」

「あっ、あずちゃんもつけて‼︎」

「嫌です。」

 

 ちなみに、四宮先輩の必殺技に白銀先輩はいたって平然としている。そして平然と一言。

 

「ねこみみが藤原書記のころに四宮は俺だな。」

「支離滅裂ですよ、白銀先輩。」

 

 表情は平然としていても白銀先輩の脳内は四宮先輩のかわいさでぶっ壊れていた。言っていることがめちゃくちゃである。

 

 美少女とねこみみは”クローバーとミツバチ”、”ワニとハチドリ”、”アボカドと醤油”のように合わせるべくして生まれてきた関係。「相利共生」なのだ。

 

 つまり、四宮かぐやという容姿端麗な少女にねこみみを重ね合わせることは、白銀先輩にとって奇跡的相性(マリアージュ)

 

 私達が交流会の話をしている最中でも、四宮先輩はねこみみを装着しているため、どうやら白銀先輩は正常な思考が働いていないようだった。あ、コレ、頭の中でかわいいと絶叫してるわ。

 

 それにしても、顔に力が入りすぎ。いつもより怖い顔になってるから。これじゃ、四宮先輩が“自分はねこみみが似合わない”と思うわよ。

 

 恥ずかしくなった四宮先輩は、白銀先輩にもねこみみをつけた。

 

「あんましですね。」

「そうですね。」

 

 しかし、四宮先輩にとって白銀先輩とねこみみは最高の組み合わせ、奇跡的相性(マリアージュ)なのである。

 あ、もうめんどくさいから四宮先輩と白銀先輩の考察するのやめよう。

 

 何やら、私が思考を放棄している間に一悶着あったようで、生徒会室でのねこみみ着用は禁止になったそうだ。

しまった、そうなる前に藤原先輩につけてもらえば良かった!

 

おまけ

「ふ、藤原先輩、一回だけ!一回だけつけてください‼︎お願いします!」

「しょうがないなぁ…。」

 

〔本日の勝敗 東玉枝の勝利(藤原千花のねこみみが見れたため)〕

 

おまけ2

『ただし交流会の話はない』

 

「白銀先輩、交流会ではすみませんでした。」

 

「いや、東広報が謝ることではないぞ。」

「そうですよ。東さんが気にしなくてもいいのに」

「あずちゃんってば真面目ー」

 

「いえ、身内の失態ですので。(というか四宮先輩が怖かったのよ‼︎)」

 

「律儀ですねぇ。」




藤原書記のねこみみが見たいだけの人生だった…。


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藤原千花はテストしたい/東玉枝は誤魔化したい

 少し遅れて生徒会室に入ると、どうやら藤原先輩が白銀先輩に心理テストをしているようだった。

 藤原先輩は心理テストの本を図書館で借りてきたみたいである。

 

「あなたの前に動物用の檻があります。その中に猫は何匹入っていますか?」

「9匹くらいかな…」

「これはあなたの欲しい子供の数を表しています!」

 

 ちょっと待って、白銀先輩、9人でドンピシャって言った⁉︎多すぎでしょう、それは。四宮先輩、顔を赤くしてないでツッコむべきですよ!

 

 私が心の中でツッコミを入れている最中、藤原先輩は机の中に隠れていた?石上くんを引っ張り出し、みんなで心理テストをやることになった。

 

「あなたは今、薄暗い道を歩いています。後ろから肩をたたかれました、その人は誰ですか?」

「薄暗い道…一体何を暗示しているのでしょう…」

 

 その心理テストに四宮先輩は「藤原さんです」、石上くんは「四宮先輩…でした…」と回答した。

 

「あずちゃんは?」

「…そうですね、い…」

 

 藤原先輩にそう聞かれ、私はふと考えて、”石上くん”と答えそうになった。しかし、先輩がニヤニヤしていることに気づいた。…問題の答えがもし”好きな人”だったら…?いや、これはただの心理テスト…。というか”好きな人”っていうのは何も恋愛云々だけとは限らないし、石上くんのことは大切な仲間として好きだし…。

 

「い?」

 

 ”い”が聞かれてた!ちょっと待って、ほかに”い”から始まる人いたっけ⁉︎

 

「いえ、えっと…」

 

 そうこうしているうちに白銀先輩が「うちの妹かな」という無難な回答を言った。

 

 藤原先輩はがっかりした様子である。

 

「藤原先輩、これの答えって”好きな人”ですよね?」

「なーんだ、あずちゃん気づいてたんですかー?」

「はい、なんとなくですが。」

「えー、じゃあさっき言いかけたのって…」

「答えに気付いてから、何を言おうか迷ってしまって…。私この生徒会の皆さんのことが大好きですから。」

 

 これはなかなか、うまい切り返し。藤原先輩も嬉しそうに私を抱きしめてくれた。……むねがとてもおおきい。

 石上くんは恐怖のピークに達してしまい早退した。石上くんが何かに気づいた気配なし!よし!

 

〔本日の勝敗 東玉枝の勝利〕

 

おまけ

『東玉枝は気づかれたい』

 

 

 ちょうど藤原先輩が石上くんの横を通りかかったときだ。

「藤原先輩、リンス変えましたね。」

 石上くんの一言が衝撃的だった。

 

 石上くんはさらに「いつもと臭い違うんで」「ムレる」「臭い方がかわいい」と細かい匂いの話をする。

 

 藤原先輩は少し笑いながら「石上くんキモー」と言った。

 先輩は、よくこれを「キモー」で済ませてくれたと思う。怒ったり泣いたりされる、セクハラの領域。女性の香りについて言及するのがどこからアウトかはわからないけれども、言葉のチョイスが悪い。たぶん石上くん自体は、悪気ないし褒めてるはずなんだけども。

 

 石上くんは、この発言を受け涙を流しながら「死にたいので帰ります」と言って早退した。

……それはそれとして、どうして私には何も言ってくれないの‼︎⁉︎(←シャンプーを変えた東玉枝であった。)

 

 私なら石上くんのさっきの言葉にありがとうと大人に対応で返します‼︎どうして…なの…?

 

「…白銀先輩。」

「なん…だ?」

 

 おそらく今の私の目はすわっている。

 

「傷心したので帰ります。」

「お…う。よく分からんが、お疲れ様…?」

「はい…」

 

〔本日の勝敗 東玉枝の敗北〕



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かぐや様は入れたい/東玉枝は問いただしたい

 ある日、生徒会室に行くと「会長はわかってないんです…僕の気持ちが…」という石上くんがたまたま聞いたカップルの会話の話が聞こえてきた。思わず、私は中に入らず扉の前で立ち止まった。

 

 彼女が彼氏をデートに誘うが、その日は練習があると言って断る彼氏。そして「俺、今サッカーに命かけてっから…」とイケメン風なセリフを言う彼氏。それを見てキュンとする彼女…。ここで回想が終わり、なぜか石上くんは号泣している。

 

 石上くん曰く、彼女がいることは許すが、彼女がいるならデートに行けよ!とのことだ。

 

「大事な彼女がいて!彼女より大事なものがあるってなんだよ!僕には何もないのに…」    

 

 どうしよう、石上くんがだいぶこじらせている。というか石上くんは彼女が欲しいの⁉︎そ…そうといってくれれば私……いや、石上くんは推し。そう、この気持ちは…。

 

 私が思考にふけっている間に、白銀先輩は慰めようと石上くんを入部に誘導していた。

 藤原先輩はテーブルゲーム部、私は園芸部、四宮先輩は弓道部ということを白銀先輩は石上くんに話している。

 

 すると石上くんはへらへらして「めちゃめちゃ向いてるじゃないですか」と言った。

 

 理由は、胸があると弓の弦が当たってしまうこと。しかし、四宮先輩のサイズなら心配ない!と石上くんは四宮先輩の胸がないことを手でジェスチャーしてしまう。

 

 いつの間にか中に入った、殺気がダダ漏れの四宮先輩が石上くんの後ろいるというのに…。さらに石上くんは止まらない。今度は藤原先輩が弓道をやったら胸に弦が当たって大変なことになる!と笑いながら話している。

 これまた、私が思考にふけっている間に入ったのだろう、藤原先輩が石上くんの後ろにこれ以上ない冷たい目をして立っていた。

 

 藤原先輩が「石上くん」と呼んだ。石上くんは血相を変えて振り向き、藤原先輩は無言でハリセンを作り…石上くんの頭をこれでもかというくらい殴った。

 

 そして四宮先輩が「よかったですね石上くん、藤原さんは優しいから許してくれるんですよ。藤原さん以外は絶対に許さないでしょうねぇ」と石上くんにとどめを刺した。

 …そんなことより、石上くん。……ねえ、私は‼︎⁉︎

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 石上は「会長、遺書を残したいので帰ります…」と言って生徒会室の扉を開けた。すると扉の前には、顔を俯かせ震える東の姿が。

 これには傷心した石上も、驚き目を見開いた。

 

「東…?」

「私の……は?」

「え?」

「……ッ‼︎」

 

 バッと顔を上げた東の目にはうっすら涙が浮かんでいた。

「石上くんの………、バカ‼︎‼︎‼︎」

 

 そう言うと、走り去る東を見て放心していた石上は、しばらくして「やっぱり死にます」と白銀に告げた。

 

「いや、死ぬなよ⁉︎」

 

〔本日の勝敗 東玉枝と石上優の引き分け(両者ともに傷心した為)〕

 

おまけ

「…マッキー、私の胸っておおきいのかな、ちいさいのかな…?」

「へ?」

 

 




東玉枝の胸のサイズはかぐや様と藤原書記の中間。バランスの良いスタイル。あえて石上くんの言葉で言うなら『微妙』。でも石上くんは、「大きいのも小さいのも好きな人生でした…」と言ってるので、大丈夫だぜ、玉枝ちゃん。


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そして石上優は目を閉じた/東玉枝は教えたい

 期末テストが終わる一週間前。石上は留年の危機に迫っていた。

 

「ということで、私が石上くんの家庭教師になります。」

「は…?」

 

 石上の目の前で、少女 東玉枝は普段はかけていない眼鏡を光らせながら宣言した。

 

「つまり、東が僕の留年を阻止するために、僕に勉強を教えるってこと?…つかなんで眼鏡…?」

「うん、そう。眼鏡はアレよ、まずは気持ちから…。ちなみに逃げると私じゃなくて、四宮先輩が石上くんを指導することになるから、そのつもりで。四宮先輩の手を煩わせないために、私はここにいるの。」

「ヒエッ…」

 

 

 半分、嘘である。石上が、職員室で次のテストで赤点を取ったらもう後がないとを先生に告げられたことを聞いたかぐや………を偶然見てしまった東は、かぐやに「四宮先輩の手を煩わせるわけにはいきません!」と抗議し、かぐやのかわりに石上に勉強を教える権利を手にしたのだ。付け加えていうならば、それも嘘!石上と二人きりの勉強会。それは東にとって魅惑的な言葉だったのだ。

 

「そうね…四宮先輩なら、石上くんを暗い部屋に閉じ込めて、本格的に椅子に縛り、口もテープでふさぐ……ぐらいするかもね。」

「こ…殺される‼︎」

 

 

 脅し。それは、私と勉強しないなら、あなたを殺す人間と二人で勉強することになるわよ?それでもいいの?という圧を含んでいた。

 

「四宮先輩は、石上くんの嫌なことをして精神的に苦しめてから殺す気よ。」

「ヒィィッ‼︎」

「石上くん、一人だと絶対勉強しないでしょ?白銀先輩はとても忙しいし、藤原先輩は論外だし、四宮先輩とは…一緒にできないでしょ?」

 

 

 ここで東は追い討ちをかけた!

 

「ムリ…死ぬ…」

「じゃあ、私と一緒に勉強する?」

「する…」

「うん、じゃあ、このスマホとゲームは没収ね。このドリル解いて。」

 

 

 学年五番目ぐらいには入る頭脳の持ち主である東は、やるからには容赦なかった。彼と二人きりで勉強なんて…集中できない…キャッ☆みたいな少女漫画的展開にはならないのである。

 

 そして、ことあるごとに東は「四宮先輩なら、これから精神をじっくり蝕んで、石上くんの大嫌いな小魚を食べさせたり、無理やり勉強させたりするんだろうなぁ。」とか、「四宮先輩なら『まずはこの煮干しをいっぱい食べて、このドリルを全部やってください』とか言いそう」と、四宮かぐやと自分を対比して語る。私はそんなことしないけどね!という意味を含んだ言葉はまさに鬼畜!

 

 数時間後…。

 石上はなんとか、かぐやの恐怖から逃れるために必死に勉強に取り組んでいた。しかし流石に、嫌いなことを詰め込まれて、机にダウンしてしまう。

 終わったドリルを見てみるとなかなか酷いが、ところどころで地頭が光るポイントを感じ希望が見えた。

 

「明日も同じ時間に勉強よ、絶対に石上くんに赤点は取らせないからね!……逃げたら四宮先輩が石上くんを捕まえるから。」

「それは死…」

 

 そして、赤点回避のための特訓が始まった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 図書館で勉強していると、石上くんが私になぜ勉強を教えるのか聞いてきた。

 

「……?石上くんを進級させるべく勉強を教えているに決まってるじゃない。生徒会的にも石上くんが留年すると困るの。(私も一緒に卒業できないの、嫌だし)」

 

 石上くんは、目を見開いていた。…え、なんだと思ってたの?

 

 そうして勉強を続けている内に、何やら後ろにいた女子生徒二人から、周囲からこそこそと話す声が聞こえてくる様になる。

 それが聞こえたのか、石上は「もういいよ」と私に諦めたように言った。

 

 確かに石上くんは中等部時代に色々やらかしたみたいで、周りからは腫れもの扱いされている。

 そんな自分と勉強していたら変な噂が立つし東の株が下がるだろ、と石上くんは私に忠告した。でも。

 

「私、ちゃんと知ってるもの。」

「え…?」

 

ーーーーーーーーーーーー

 女子生徒が僕と東のことをコソコソ話しているのを聞いて、東に忠告した。僕は勿論、東もこの学園ではそこそこの有名人である。そんな有名人二人が、それも異性同士が二人きりで、放課後の図書館で、一緒に過ごしていれば注目の的にもなるだろう。

 そういえば東は、一身上の都合とかで、他の学校から途中で転入していた人間だ。僕の中学時代のことを知らなくても当然である。

 

「私、……………の」

「え?」

 

 東がその言葉で俯いたからか、うまく聞き取れなかった。

 

「石上くんは、どうも雑音がうるさくて勉強がはかどらないみたいね。」

と言って、東は後ろの女子生徒に注意しに行った。

 女子生徒の「石上とは関わらない方が…」と困ったようにつぶやく声が聞こえてくる。もう慣れた。…だけどやっぱり…それはなんだか。

 

「ご忠告どうもありがとう、だけど私は周囲の評判で人を判断しません」

ときっぱりした声が僕の耳に響いた。

 

 東は戻ってくると、さっきまで僕の前に座っていたのに、なんと僕の隣に座る。

 

「石上くん。」

 

 東は、僕の顔を覗き込む。

 

「私は、石上くんが、正義感の塊のような行動が取れる人間だって知ってるし、自分が全く得をしない、むしろ自分の身を切ってでも他人を助ける精神を持ってるってわかってるから。…(石上くんは覚えてないかもだけど、私石上に助けてもらったこと、あるんだよ?)」

「え…」

「私がどうするのかは自分で決める。だから、石上くんが私の株なんか気にしなくていいの。勝手に決めつけて納得しないで!…それから二度とそういうこと言わないで。」

「…わかった」

 

 図書館だからか、静かな声だったが、その言葉は強く自分に響いた。

 

「さてと、勉強を再開しましょう。まったく、石上くんは地頭はいいんだから、学習意欲を持ってしっかりすれば……石上くん、聞いてる?」

 

 自分のことをまったく曲げず勉強を教え続ける東のことをなんだかかっこいいと思った。

ーーーーーー

 

 後日…テストが終わり石上はなんとか赤点を回避し、石上が進級できることに東はホッとした。

 

おまけ

「……どうしよう、あんなのほぼ告白じゃない!?私、次からどんな顔して石上くんと会えばいいの⁉︎」

 

〔本日の勝敗 東玉枝の敗北〕

 



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白銀御行は出かけたい/東玉枝も出かけたい

 生徒総会も終わり、夏休みが待っているということで、生徒会メンバーは少し浮かれていた。

 そして、夏休みに何かしたいと思うかぐやと白銀は、息を合わせて藤原に予定を立てろと言わんばかりに名前を呼んだ。

 一度、海か山かという論争で夏休みの予定が決まりかけたことがあったが、ここで夏休みの予定を決めることができなければ、夏休みのイベントで起こり得るフラグが全て無くなってしまうのだ。つまり、何とかして夏休みのスタートダッシュを決めなければならないのである。

 しかし、ここで白銀から旅行の話を切り出そうものなら、久々にかぐやに「お可愛いこと」と言われてしまう。そこで白銀は藤原に旅行の話題を作らせるために誘導していた。

 上手く旅行の話になり、話を続けていくと藤原は「私も1週間ほどハワイに行ってきますよ!」と言い、誘導が違う方向へ行ってしまった。

 このイレギュラーな藤原を止められるものは存在せず、長い付き合いのかぐやも無の境地に至る。

 しかし、藤原抜きで遊びに行く計画を立てようとすると、白銀的には“藤原千花抜き=四宮かぐやと遊びたい”ということになってしまい、また「お可愛いこと」と言われてしまうと考えた。つまり、藤原が旅行から帰ってくるのを狙って予定を立てなければいけないのだ。

 白銀は旅行から帰ってくる時を狙って話を誘導するが、藤原は「受験は2年の夏が天王山です!遊びと勉学のメリハリをつけなくちゃだめです!」とここだけ正論を言ってくる。高校2年の夏が勝負!受験の天王山は夏!と謳われる言葉で、高校二年の夏でどれだけ頑張れるかが高校三年での伸びにつながるという意味だ。

 

 一方、かぐやは藤原をコントロールすることをあきらめて美味しい食べ物のことを考えていた。

 「どこか行きたいですよね…会長は来年になったら受験で忙しいだろうし…」

 

 そこで石上がぎりぎり聞き取れる声で言った。

 

「そうだね。それを考えると遊べる時間は今だけだし…」

 

 東は、石上の声に援護した。白銀も夏祭りはどうだと提案し、藤原が「行きましょう!行きましょう!」といってノリノリで話に参加してくる。天王山はどうした。

 藤原が「花火!」というと、かぐやの自我が戻ってきて予定が決まりそうになった。しかし、そこで欲望を出すとあいつの攻撃を受けてしまうのだ。そう、藤原である。彼女はその日トマト祭りでスペインにいるそうだ。

 

ーーーーーー

 「まさか皆、私を置いてお祭り行っちゃうんですか!? 酷いですよ!?」

 

 と主張した藤原先輩は、石上くんの「先輩がトマト祭りを楽しんでるのに僕らは楽しめないんですか?」といういつもの石上節が炸裂し、正論によって論破された。

 流石にこれは私も擁護できない。

 藤原先輩は泣きながら石上くんを罵倒して走って行った。豆腐より柔らかい石上くんのメンタルは藤原先輩の罵倒で砕け散り、いつも通り早退しようとしていたが、私も白銀先輩も四宮先輩も「今日は正しい」と言って石上くんを慰める。

 こうして石上くんのファインプレーによって夏祭りの約束が結ばれた。

 

 夏休み、8月20日、花火大会。私は笑みを浮かべながら予定をしっかりと書き記した。

 

〔本日の勝敗 藤原千花の敗北〕

 

おまけ

『東兄は愛でたい』

 

「お待たせいたしました、お兄様‼︎」

 

 少女が息を切らして走ってくる。

 

「そんなに急がなくても大丈夫だったのに。大丈夫かい、玉枝。」

 

 軽く髪を梳いてやると、少しだけ気恥ずかしいようで顔を赤らめた。うん、可愛いらしい。

「いいえ、私がお兄様と早く会いたかっただけですので。」

 

 ぽん、と少女ーーー玉枝の背中を押して、歩みを進めた。

 

「生徒総会お疲れ様、…機嫌良いね、何かいいことでもあった?」

「はい。…へ?いえ、あの…。夏休みに生徒会のみんなで出かけることになりまして。」

「良かったね。」

 

 本当に良かった。ここに転校する前の玉枝は僕以外のことでこんなに柔らかい顔をする子ではなかった。生徒会のメンバーのことがちゃんと好きなのだ。

 

「はい。…あの、お兄様。」

「ん?」

「私たちも…その。」

 

 玉枝が歩みを止めた。なんとなく言おうとしてることがわかる。

 

「うん、僕たちもどこか行こうか。…玉枝が良ければだけど。」

「はい、勿論です!」

 

〔本日の勝敗 東兄妹の大勝利〕

 



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花火の音は聞こえない

「会長、タクシー捕まえておきました!」

 

 かぐやたちが走って行った先には、石上と藤原と東がタクシーを捕まえて待っていた。

 自転車を放り投げる様に駐車された二人のの元に、声が飛ぶ。事情を聴いていたらしい眼鏡の運転手が、扉を開けて待っていた。

 

「かーぐーやーさーん!」

「二人とも、早く乗ってください!」

 

 走り寄ったかぐやを、藤原が出向かえ、捕まえた。久しぶりに会えて嬉しいと顔だけで分かる笑顔だった。そのまま彼女を、ドーン! とタクシーに放り込む。

 

「あの、このタクシー五人乗りじゃ」

「この期に及んで誰かを置いてくなんて無しだよ、石上くん!詰めて。」

「えっ、ちょっ…」「運転手さん、見逃して下さい! お願いします!」

「……良いよ。早く乗りなよ。急いでるんだろう?」

 

 前に藤原千花。白銀、かぐや、東、石上と後部座席に高校生が四人。ぎゅうぎゅう詰めだが、誰も文句を言わなかった。むしろ東は石上の隣に座れたことに喜びを感じていた。

 走り出したタクシーに、白銀が指示を出し、アクアラインで海ほたるへ向かう。

 白銀は東京からまだ間に合う花火大会を徹底的にリサーチし、間に合う可能性のある花火大会を特定していた。

 しかし、東京から千葉まで残り20分で行かなければならない。

 

「だが挑戦する価値はある! 四宮が言ったんだ! 皆で花火を見たいって!」

 

 タクシー中に響くような声で、彼は叫んだ。

 

「だから四宮に花火を見せるんだよ!!」

 

 するとあの男が本気を出した。

 そう、ドライバー、高円寺のJ鈴木である。

 

「ちょいと飛ばしますんでねぇ、会社には内緒にしてね」

と言って超スピードでタクシーを走らせる。

 

 

 ギアを変え、アクセルを踏み込んだタクシーは、スピード違反になるギリギリ手前で駆けていく。そのまま猛烈な勢いで首都高を走り、アクアラインに突入していく。

 トンネルの中、オレンジ色の光が流れている。しかし、海ほたるの海底トンネルのせいで外の様子が見えない。そして海底トンネルから地上に出るとき、時間はギリギリなはずだ。誰も速度のことを意識してなど、いなかった。誰もが、ただ時計と距離と前だけを見ていた。

 

 「お願いします神様!」

 

 藤原が祈る。かぐやは知っている。

 神様なんか居ない。

 かぐやにとって花火大会は、何時も遠かった。小さな窓の中、遠くに上がる花火を見るだけで、その音が聞こえたことはない。遠く微かな名残だけが届いた時には、もう花火は散っている。だから花火を見ても、それは景色だけ。だけど、叶うならば。

 

 「間に合って……!」

 その声は、東の声だ。出口を見据えて言われた言葉。それを皮切りとして、藤原が、石上が、東が、皆が叫ぶ。祈るように重なっていく。間に合え。間に合え。間に合って。

 

 

「間に合って……!私は――――!」

 

 

 間に合えええええっ!

 

 トンネルを抜けると…そこには夜空一杯の花火が上がっていた。ロマンも愛も確率論に何の影響も及ぼさない。奇跡などない。だが、努力と思考を積み重ね行動した者たちには必ずや与えられる光景がある!!

 そう、かぐやのみんなで花火を見るという願いはかなったのだ。

 

おまけ

 

 かぐやが白銀の横顔に釘付けになっている中、東も同様に石上の横顔を眺めていた。

 心臓が激しく脈を打ち、花火の音は聞こえない。

 

(まさか、石上くんが甚平を着てくるなんて。似合ってる。良かった、石上くん花火に夢中みたい。)

 

 真っ赤になった顔が早く収まるように、そう祈った。

 

〔本日の勝敗 東玉枝の敗北〕

 



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2
かぐや様は祝いたい/生徒会は祝いたい


 

 藤原先輩が突然、携帯アプリで占いをしようと提案した。誕生日と性別を入れて診断するものらしい。そういえば私、石上くんの誕生日知らない…。人生にはイベント事があって、特に固定イベントなのは誕生日なのだ。高校生ともなると、それは意中の相手の気を引く大チャンスなのである。

 

 四宮先輩の誕生日は1月1日。

「アレキサンドライトのような人間です。高貴でプライドの高い人間。赤くも青くもなることから、天使にもなり、悪魔にもなる。プライドを捨てましょう」と診断が下ると、石上くんが引きつった顔を浮かべた。石上くんからすれば、四宮先輩は悪魔だもんね。

 

 続いて藤原先輩は3月3日。

『ろうそくのような人間です。周囲を照らす熱は少しずつ氷を溶かし、謙親。慈愛の象徴です。惜しまず愛を注げば願いは叶います」と診断した。強欲と自己愛の間違いじゃないの?

 

 しかし、どうやら石上くんの誕生日も3月3日らしく、藤原先輩は激怒した。

 

「なんてことするんですかボケナス!祝ってもらう時、同時開催になるじゃないですかバカ!」

と罵詈雑言を浴びせた。横暴だ。…そっか、石上くんのお誕生日は3月3日なんだ。メモしとこう。

 

 四宮先輩は、白銀先輩の番だと言うが、白銀先輩は拒否した。相性診断もあると言ってさらに興味を惹かせようとするが、それでも白銀先輩は拒否した。相性診断‼︎帰ってやろう!

 そしてついに四宮先輩もプイッと拗ねてしまった。…なんで、そこまで…。四宮先輩なら白銀先輩の誕生日知ってそうだし…。白銀先輩もあそこまで拒否しなくても…、もしかして相性診断をもう試したとか?

 

「伝わらないもんだな」

 白銀先輩がそんな言葉をつぶやくと、四宮先輩は思案したあと、エンジェルスマイルを浮かべ、またも石上くんを怯えさせた。

 

「あずちゃんは、お誕生日いつですか?」

「え?…ええと…。」

「?」

「く、9月3日です。」

 

 その瞬間、場の空気が静まりかえった。

「過ぎてるじゃん‼︎どうして、どうして言ってくれなかったの⁉︎」

 

 藤原先輩に肩を揺さぶられ、頭がクラクラした。

「いえ、自分で申告するものではありませんし。」

 

「まぁ、自分から『もうすぐ誕生日なんだ』

と言う人間なんていないだろうしな」

「っていうか、そんなこと言い出すヤツはロクでもないですよ。」

 

 白銀先輩と石上くんの言う通りである。

 

「でも私だって祝いたいのに‼︎」

「まあまあ、藤原さん?東さんのお誕生日は今年で終わりという訳ではないですし」

「そうですね、来年!来年は絶対祝う‼︎」

 

おまけ

「9月3日生まれの人は誕生花であるマーガレットの意味のごとく「真実の愛」を持った人間です。努力家で…って、へー。3月3日の人と9月3日の人ってソウルメイトなんだ…。…何それ?……………あ、あった。…ソウルメイトとは、soul(魂)とmate(伴侶、仲間)を組み合わせた英語の造語で……意味は…。魂の伴侶⁉︎」

 

 私は勢いよくパソコンを閉じ、ベッドに転がった。

「つ、つまり私と石上くんは、う…運命で結ばれ…っ!?」

 

 自室でよかった。言葉をつなげるのは恥ずかしくなって、ベッドで悶える。だんだん落ち着いてきた。…冷静になって考える。だからなんだというのか。私と石上くんの相性がどうだろうと、どうにかない。自分の占いに書いてあった一文。『9月3日生まれのあなたは、自分の幸せが何かをわかっていないところがあります。』どうせわからないわよ、自分にとって何が幸せかなんて。

 

 

 

〔本日の勝敗 東玉枝の敗北〕と見せかけて

 

〔本日の勝敗 藤原千花の敗北(東玉枝の相性占いに含んで考えてもらえなかった為)

 

「へくちゅんっ!」

 



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藤原千花は確かめたい/東玉枝は言い出しにくい

 白銀先輩がえらく上機嫌だ。私達の前で友人からのプレゼントだという扇子を見せつけている。あ、これ絶対四宮先輩からもらったやつ。普通に四宮先輩からもらったっていえばいいのに。天才は人の裏を読みすぎる。空回りの代表だ。むしろアホといっても過言ではない。

 

「会長ってかぐやさんのことが好きなんですか?」

 

 どうやら四宮先輩は生徒会室に入る前に藤原先輩に、昨日は白銀先輩の誕生日だったことを話していたらしい。四宮先輩を甘く見てはいけない、そういうことだ。

 …でも、なんだか言い出しにくいけど、私も…

 

「あの藤原先輩…」

 

 畳みかけようとした白銀先輩を阻止しようと口を開いたが、石上くんが生徒会室に入ってきた。

 藤原先輩が白銀先輩の誕生日の話を出すと、どうやら石上くんも知っていた様子。石上くんは白銀先輩に万年筆を送っていた。

 

「…さっき何か言いかけてたけど、もしかしてあずちゃんも⁉︎」

「はい、ハンカチを…」

 

 ということは、白銀先輩の誕生日を知らなかった藤原先輩にすべての矛先が向くのだ。

 石上くんは、ここぞとばかりに

「藤原先輩、会長の誕生日知らなかったんですか!?」

と責めた。藤原先輩は泣いて撤退した。

 四宮先輩は石上くんに救われたのだ。

 

「……誕生日プレゼントはありがたいことなんだが、石上はともかくどこで東は俺の誕生日を?」

 

 やめてそんな質問しないで!四宮先輩からの『もしかしてこの子会長のことが』的な圧を感じる。だが、確かに的を得た質問である。実際、誕生日プレゼントを渡したときも、白銀先輩は呆気に取られた顔をしていた。交友関係のある石上くんはまだしも、白銀先輩にとって私は生徒会室でしか顔を合わせない後輩、しかも外部入学の生徒である。

 

「その、おに…兄は情報通でして。」

「東の?…確か前生徒会メンバーの…」

「はい、兄も広報を。」

 

 この話を白銀先輩と石上くんは「ふーん」程度に聞いているみたいだが、四宮先輩は違うだろう。早坂先輩に兄ついて探らせる気だろう。…面倒なことになった。

 

〔本日の勝敗 藤原と(兄の有益な情報をもらしてしまった)東の敗北)

 

後日

「東」

「石上くん?」

「……今週末空いてるか?」

「へ?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーTwitterのアンケート結果

 

男子高校生って女の子の友達に、誕生日プレゼントは何をあげるものなの?

 

ただしその男子高校生を、石上とする。また女の子は生徒会でしか関わりがないものとする。プレゼントの口実は「勉強を教えてくれたお礼」である。

 

お菓子

70%

アクセサリー

13.3%

小物

16.7%

0%

 

お菓子が圧倒的でした。やっぱり定番だよね。ハーメルンではその他のところに1票入ってたんですが、特に何かを言ってくれるわけでもなく、票を入れるだけという…いいけどね、別に!

 

石上くんだったら花もアリかなと思ったんですけど、誕生日にたとえ好きでも高校生男子から花もらったら困るというかきもちわry……玉枝ちゃんは石上くんのことになると頭のネジがゆるむので喜ぶと思いますが。

 

男子高校生が女子に誕生日プレゼント(口実は勉強を教えてもらったお礼)としてお菓子を渡すなら、何?

9.1%

洋菓子

59.1%

和菓子

18.2%

スナック菓子

13.6%

 

圧倒的洋菓子。『もう、普通にお礼にスタバ奢るよ!ってスタバ行けば解決なのでは』と回答してくれた方がいて、それだ!ってなりました。流石に石上くんはスタバは無理そうだけど、落ち着いた感じの隠されたカフェみたいなのは知ってそうじゃない?(想像)

ということで次回デート回です。やったね、たえちゃ(殴

 

あの話の時点で9月3日よりも後なのかわからなかったのですが、まぁそこはね!御都合主義でいかせてもらいます!多分、過ぎてるはず!

 



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アオハルかよ!

人生、諦めも大事だよね。


三期、おめ!!遅くなったけど、すも誕生日おめでとう!!


 休日の昼下がり。東は石上と会う為、街に訪れていた。待ち合わせ場所には石上の姿はない。どうやら、まだ来てない様だ。

 東は一息ついて、待ち合わせ場所近くの店のガラスで自分の姿を確認する。前髪をいじってみたり、服が変じゃないかと確認する。正直言って緊張していた。

 

(ど…どうしよう。今更になってなんか…すごく緊張してきた。これってデートだよね?変じゃない?私、変じゃない!?)

 

 それ以上考えても仕方ないので、適当な場所に腰掛け、携帯の石上とのメールを見返す。嬉しすぎて顔がニヤけてしまいそうだ。

 途中「なあ、あの子可愛いくね?声かけてみよーぜ」等の声が聞こえてきて、まだナンパなんてする人間いるんだと他人事のように思う。

 

 そう、この女、自分が女子からも男子からも人望があることには気付いていた。たが、自分の容姿には無頓着で、それが自分のことだとはまったく気がついていない。

 四宮かぐやのように一度見たら振り返ってもう一度見る…とまではいかないが、東玉枝は普通に可愛い。しかし、彼女の周りには美形の人間が多く、自分の容姿の周りの評価については疎いのである。声をかけられても気付くことなく、卒なく返す。幸いなのは無理矢理腕を引っ張ったり等をする人間がいなかったことである。

 

 そして、東玉枝がいる場所に行くには、「あの子可愛いな」と思う男子、はたまた女子でさえもをモーセの如く退ける必要があった。しかもかなり目立つ。

 

 したがって、石上は遠巻きにその様子を見て、

(…っ、こういうことを何故予想出来なかった…?もう10分早く来れば…東には悪いし、自分が誘っといて言うのもアレだけど…。正直帰りたい‼︎‼︎)

 

 だが、現実はさらに非情であった。なんと彼女は此方に気付くと、慌てた様子で駆け寄ってきたのだ。

 

「石上くん!」

「(ああああああァァァ…)」

「もしかして集合場所間違えてた?それなら、ごめんね…待たせちゃったかな…?」

「イヤ、ボクガオクレタダケダカラ…。キニシナイデ…。ムシロ、オクレテゴメン…。」

「ううん、それは私もついさっき来たところだから大丈夫。」

 

 嘘である。ちなみに東玉枝が待ち合わせ場所に来たのは1時間前であるから、石上がもう10分早く来ようが、この状況になんら変わりはない。

 

 緊張が緩和された東だったが、石上はカタコトになるくらいそれどころではなかった。

 学校での陰口が些細なことに感じるぐらいの「え、それが待ち合わせ相手?」感のある視線が周りから突き刺さる。他にも色々あるがあまり気分がいいものではないので割愛する。とにかく今、石上には嫉妬やら憎悪やら色々な感情が突き刺さっており、さらに帰りたいと思っていた。

 しかし、そんな石上の目の前に一人の男が通りすぎる。東は背を向けており気づかなかったようだが、その男が現れた瞬間、周りの意識は石上たちから外れていた。美人。その一言に尽きる。石上と目があった彼はニコリと微笑む。だが周り的には「今自分に微笑んだ⁉︎」と感じさせるものだった。石上は誰だ?と思いつつ、意識を戻す。すると、

 

「ええと、石上くん。今日って…その…。」

 

 東の言葉に、石上は約束だけ取り付けて肝心な説明をしていないことに気づく。

 

「お礼。」

「?」

「東のおかげで赤点免れたし。」

「エッ!?」

 

 まさかそんな理由だとは思わず、驚きの声をあげる。お礼だとしても、菓子折などで済むものである。

 

「……東の好きな物とかわからないし。会長に相談したら、外に連れ出してその店の中で好きな物選んでもらえばって。」

「そ…そっか。(白銀先輩、グッジョブ!いつもちょっとポンコツな先輩だなとか思ってたけど、やる時はやるんですね、ありがとうございます!)」

 

 内心の白銀への評価がかなりひどい。東にとって白銀は『ポンコツ残念イケメンな先輩』である。

 

閑話休題

 

 東を連れて石上は行きつけの喫茶店の前にいた。

 この喫茶店は商店街の人通りの少ない路地にポツンとあるため、穴場スポットであった。石上がドアを開けて先頭をきって入っていく。東も後に続き、物珍しそうにキョロキョロ見ながら入っていく。

 店の中は木造作りであり、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。まさに隠れた穴場という感じであった。

 

 

中略!!!!

※ずっと書けなくて、一年間悩み抜いて、でも書けなくて、諦めた。そのため、2人がどんな話をしてどんなことをしたのかは、ご想像にお任せします。

 

 

 

 そんな会話をしてお互いに笑い合う。今日は大変な事もあったが、二人には充実した一日であった。

 

 

 

 

 

【本日の勝敗 両者ともに最終的には幸せな気分になったので、引き分け】

 

おまけ

「やれやれ…っと。」

 

 石上たちへの視線をなくすために通りすぎた男。

 

「アレが玉枝の言ってた『石上くん』か。直接目にするのは初めてだったけど…悪い子じゃないみたいだね。…となると、次の問題は…」

 

 それは東玉枝の兄 満月だった。

 説明しよう!1時間前から待ち合わせ場所にいた東が、何事もなくその場所にいられたのは、悪どいナンパ男を兄が追い払っていたからである。

 石上と東の姿が見えなくなり次第撤収した東兄は、自宅に帰っていた。そのまま後をつけたりはしない。彼は『シスコン』ではあるが、そこら辺は弁えていた。

 

 それはさておき、

 

「そろそろ四宮家が探りにくる頃合いかな。…早坂愛か。少し釘を刺しとかないといけないな。」

 

To be continued・・・・?

 

 

 

YES

NO ←

 




なんて中身のない話なんだ。
そんなことより、すの『アオハル』聞いた?正直、すごく良かったね、感動したわ。
私、すが結婚したら、めちゃくちゃにお祝いするね。


メリクリ!


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番外編
白銀御行は誘いたい 前編


デート編の続きだと思いました??違います!残念!


 それは白銀の一言から始まった。

 

「広報をスカウトしようと思う。」

「広報…ですか?」

 

 かぐやが不思議に思うのも無理はない。この秀知院学園の生徒会長以外の役員は能力に応じ、会長によって任命される。

 そして、役職は「会長」の他に「副会長」「書記」「会計」「会計監査」「庶務」が基本である。

 去年一度だけ「広報」の席にいた人間がいたらしいが、それだけだ。現時点で「庶務」の役職に就く人間は存在しないので、誰かを引き抜くならば、「庶務」が妥当なのだ。

 

「四宮の言いたいこともわかる。だが、庶務は言ってしまえば雑用だ。好んで雑用をしたいと思うやつはいない。雑用係をやってくれと頼むわけにもいかんだろう。」

 

「はぁ、なるほど。ですが具体的には何をするんです?」

 

「広報は、生徒会の活動を生徒に周知するのが仕事だ。生徒会と生徒との間には、距離があるだろう?生徒たちは、生徒会が何をしているのかあまり知らない。そこで!重要な役割を持ってくるのが広報の仕事だ。生徒会の活動内容を報告する生徒会誌を定期的に発行したり、ホームページを作って運用したり、活動の様子を発信したりしてほしいと考えている。」

 

「なるほど、広報がいかにアピールするかで、生徒たちの生徒会に対する見方が変わってくると言っても過言ではありませんね。流石、会長です。」

 

「実はもうアテがある。」

 

「そうなんですか?」

 

 白銀が書類をかぐやに手渡す。

 

「東玉枝……。」

 

「ああ、彼女、最近一年に編入してきただろう。」

 

「……なるほど。『混院』ですか。」

 

「ああ。」

 

 秀知院学園においては、初等部からの生徒は『純院』、中途入学の生徒は『混院』と呼ばれ、前者を優位とするヒエラルキーが生じているのだ。特に東玉枝は最近編入してきたばかりである。浮いていてもおかしくはない。

 

「ですが、彼女は姉妹校からの編入です。それに東グループの令嬢で、四大財閥とまではいきませんが、なかなかのものですよ。そんなに心配しなくてもーー」

 

「ああ、俺のときとは似ても似つかない。わかってはいる。しかし、一応様子を見に行ったんだが…………(あまりにも、昔の四宮みたいだったからーーーーーー)」

 

「…………お優しいこと。」

 

 小さな声だった。言うつもりもなかったのに思わず声に出してしまったみたいだった。案の定白銀は、

 

「…?何か言ったか?」

 

「いいえ、何も。わかりました。そういうことならーーーー」

 

 そのとき大きな音を立てて生徒会室にヤツは入ってきた。彼女はいつも波乱を巻き起こす。

 

「ならば!この私に任せなさーい‼︎」

「藤原書記⁉︎/藤原さん⁉︎」

 

「一体、いつから…」

 

「会長の「広報をスカウトしようと思う。」という宣言アタリからですね。」

 

 藤原がわざわざ白銀の物真似をする。ちなみにあまり似ていない。

 

「最初からじゃねえか!入ってこいよ!」

 

「てへ☆」

 

 藤原(それ)にかぐやは怨念を籠めた視線を送っていた。

 

「(…何が「てへ☆」よ。あざといのよ。会長にかわいさアピールで関心を惹こうって魂胆ね。あー、そうですか。藤原さん、貴女のことを見損ないました。何と浅ましくて薄汚い女なんでしょう。)」

 

 この瞬間、部屋の温度が急激に下がっており、この異常に白銀も当然気付いた。言葉に表せないほどの恐怖が白銀の精神を蝕んでいく。しかし、藤原は全く気付いておらず、言葉を続ける。

 

「あずちゃんのことなら、この藤原千花にお・ま・か・せ!!」

「あずちゃん…⁉︎」

 

「藤原書記、まさかとは思うが既に…」

 

「はい!声をかけました!TG(テーブルゲーム)部に!」

 

「部活勧誘か…抜け目がないな」

 

「それで仲良くなったのですか?」

 

「いえ!ハッキリ断られました!」

「「ええっ⁉︎」」

 

「「玉枝ちゃん」って呼びたかったんですけどー。「下の名前で呼ばないでください」って言われたので、あずちゃんって呼んでます!」

 

 にぱっと笑顔でとんでもないことを言い出す藤原。どう考えても冷たく突き放したであろう東玉枝のセリフ。それが一体なぜ、藤原が自分に任せてと言うほどの自信に繋がるのか、不思議でならない。

 

「(藤原書記のせいで、生徒会への勧誘が絶望的なんだが……‼︎)」

「(藤原さん、貴女って人は…)」

 

続く‼︎多分‼︎

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

おまけ

 

「(あのピンクの髪の先輩なんだったんだろう…。脳内が花畑でできてそう。とりあえず名前呼んだし、ブラックリスト入りかな)」

 

藤原 東玉枝のブラックリスト入り決定。



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