デレマスとのクロスオーバー『 基本はコメディ』 (エビアボカドロックンロール)
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単短編1 あかり「愛ゆえに人は苦しまねばならぬ!! 愛ゆえに人は悲しまねばならぬ」あきら「最近北斗の拳読みましたか?」

 

 

 

 ふわりとムスクの香りを感じる。

 武内さんが珍しく香水でもつけているのかと顔をあげるが、視界にはドアの隙間に消えていく誰かのポニーテールが見えるだけだった。

 

 すんすんともう一度嗅覚に集中してみるが空調の風に流されたのか先ほどの香りはもう感じることが出来なかったが、代わりにコーヒーの良い香りが二つの笑顔とともに届けられた。

 

「山形りんごをたべるんご♪」

 

「そろそろコーヒーブレイクはどうデスか、八兄ぃ」

 

「お前らか…」

 

 よほど集中して疲れていたのか霞がかかったようなぼんやりとした疲労を感じる。

 何はともあれお礼を言ってコーヒーを受け取るとシャーっと椅子を転がして隣に滑り込んできた二人が心配そうに俺の顔を覗き込んできた。

 

「…?体調でもわるいんご?」

 

「目が腐っているのはいつものことデスが今日はどこか違いますね――」

 

「ああ、実は…」

 

「――いつもは出会いがしらにセクハラしてくるのに…」

 

「やらいでか」

 

「八幡さんそれだとやらずにはいられないって意味んご」

 

 おっと本音が…

 法にぎり抵触しない範囲でのセクハラ、通称セクハラ定食は俺の数少ないライフワークのひとつ…なんてことは断じてない。

 

 なんてことは断じてない…のだが……

 

「な、なあ」

 

「弱気な八幡さん…じゅるり」

 

「あかりチャン?」

 

「夢見は俺を嫌っているのか…?」

 

「八兄ぃ?」

 

 説教するときには毎回その無駄にでかい胸から寸毫たりとも目を離さなかったりするがそれがよくなかったのだろうか。もしくはあのバナナか?バナナが悪いのか?

 女性は自分への視線に敏感だというのは聞いたことがある。それは翻って他人への視線はそれほど頓着していないということではないのか?ならば俺が夢見の胸を見ているのは夢見にしか気づかれていないはずなのでここに完全犯罪は成った。

 

「んー、大丈夫!きっとりあむちゃんには伝わってると思うんご!」

 

「…八兄ぃはりあむサンには特に厳しいデスからね。まあ、りあむサンもあれはあれで楽しんでると思いますよ #ツンデレ乙」

 

 椅子の上で膝を抱えて座り込む俺に両側から慰めの声がかけられる。

 なでなでよしよし。

 

 あと視線云々も大丈夫そうだな。

 

「――やっぱりそうだよな…いや、いつもはそんなこと欠片も思ったりしねえんだがなぜか今日だけは夢見が可愛くて思えてな、一言謝らねえと気が済まないとゆーか…」 

 

「ふーん?それよりどうしていきなりそんな妄言を吐いてるかの方が気になるんデスけど…」

 

「いつもあれだけ楽しそうにいじってたのは無理してたんご?――胸をガン見したり、やたらとバナナを食べさせたり」

 

 気付かれてたらしいっすわ

 あとやはりバナナは外聞が悪いようだな……よし、次からはアイスにしよう。

 作戦会議を脳内で行いながら無意識に言葉がこぼれること幾ばくか。俺が何かをしゃべるごとに2人の表情は曇っていき、いま現在、心配と警戒の割合が五分五分にまで変わってきていた。

 

「いやあれはあれでまごうことなき本心だ。ただ、今は可愛がりたい欲求を抑えられないんだ。どうして日ごろあんなにおもちゃにして、もとい厳しくしてしまったのか……」

 

「この人本心でセクハラしてるってカミングアウトしてるけど大丈夫んご?」

 

「……よく見たら眼もバキバキじゃないデスか」

 

 もはや警戒を通り越して哀れんだ視線、きゅんです。

 2人のママから「誰がママんご」ありったけの優しさを感じながら薄い胸板でも「死にたいんデスか?」バブみってのはこれほどまで濃厚に感じられるのだなーと感動していると、廊下に響き渡る品のない足音が聞こえてきた。

 

 近づく足音、胸に溢れる全能感、三分の一の純情な感情。

 

「ばばーん!りあむちゃんはあえて集合時間の3分前に出社するよー!!ハチサマー!!ほめてーー!!!」

 

「お!やっと来たな夢見、待ってたぞ!!それにしてもお前はえらいなー!2分前までに到着できるなんて!!3分ありゃカップラーメンはもちろん子供だって作ることができるからな!!ナイスおっぱい!!」

 

「ち、近いよッハチサマ!どうしたのさ!…今おっぱいって言った?」

 

「おっぱい?何かの聞き間違いだ!こんなに可愛くて素直で優しいお前にどうしてそんな言葉をかけられる!!えーと…そう!告解!お前のおっぱいについ告解してしまいそうになったと言いたかったんだ!」

 

「は、ハチサマ…… やっと分かってくれたんだね!これからはチヤホヤしてもらえる!!!あの鬼畜眼鏡のハチサマに!!」

 

 どろどろに溶ける思考は俺の意思を無視して思うも思わざるもまとめて言葉として溢れさせる。

 傍で見守る辻野と砂塚の視線がビシビシと後頭部に刺さるがそれすら気持ちがいい。三分の二のマゾな感情だ。笑顔がこぼれる。

 

「りあむさん心の中ではあんな呼び方してたんご……」

 

「あかりチャン?今の一連のやり取りで気になるのそこデスか?―――八兄ぃ………3分は早すぎデス………」

 

 3分…?いったいなんのこっちゃ?

 むしろ俺は……

 

「あかりちゃん!あきらちゃん!何か知ってるの!?」

 

「実は、さっき志希さんが八幡さんに香水をかけたんデスけど、そしたら今までりあむさんに厳しくしすぎたと嘆きだしたんデス」

 

「志希さん特性の“ダメな子ほどかわいい(マジでかわいい!!)”って香水らしいです。都会の技術はすごいんご!」

 

 2人は夢見に何かを説明しているが俺にはよく理解できない。

 肩をがっちり固定してキマッた目で褒め続ける俺に、やがて夢見はガタガタと震え始めた。

 嬉しくて震えてるんだよね?

 

「志希さん的には普段の態度からしてダメな子と思われてるから、それを利用して甘やかしてもらおうとたくらんでたらしいデスよ。ただ心の中で八兄ぃは志希さんのことをこれっぽちもダメとは思っていなかったみたいデスが……」

 

「複雑そうな表情だったんご…、作戦が失敗したのとはまた別のところで刺されたみたいな…にへらって感じの笑顔が可愛かった…」

 

「へぇ〜よく分かんないけどすごいんだね〜。……あ!ちょっと待ってよ!それじゃまるでぼくがダメダメみたいじゃんか!!」

 

 よく分らんがこれは夢見が責められているのか?

 たとえ世界中の人間、動物、魚、虫の全てが夢見を責めるのだとしても俺だけは味方だ。

 

「そんなことないぞ夢見!!お前の良さは俺を含めまだ世間も分かっていないだけなんだ!!すぐに伝わるし俺が代表して伝えるまである!」

 

「ハチサマ!なんだよもう、実はチョロいのかよ!いいんだよ、もっと甘やかしてくれても…?」

 

「大体30分で効果は切れるよ~」

 

「何言ってんだ?まあいいや。それよりお前また炎上しただろ、自粛中で家にいる時間が増えるのは分かるが頼むからもう少し大人しくしてくれよ」

 

「あれ!?ボーナスタイムもう終了!?嘘だよね!ハチサマはりあむちゃんのことすこすこのすこだよね!?ちょっと、ハチサマ!なんで無視するのさ!!」

 

「ん~本音が出やすくなる香水は失敗だったみたいだねー。もっと志希ちゃんのことかまってくれると思ったんだけどにゃー」

 

 

「……本当は八幡さんはりあむさんのことをダメな子って思っていないんご??」

 

「可愛くて素直で優しい言ってましたね」

 

「だいたいお前は――それに何度も言わせれば分かるんだ――しかもそのたびに俺が後始末してんだぞ――」

 

「うわーん!ハチサマの鬼畜眼鏡ーーー!!!」

 

「あっ!おい待て夢見!」

 

 

 

 

「歪んだ愛んご」

 

「そんなセリフ誰から教えられたんデスか…?」

 



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女神様「人は思い出を忘れる事で生きていける。しかし、決して忘れてはならない事もある。」

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「比企谷八幡。突然ですがあなたは死にました。」

 

 

 

 

 

 どう見ても女神様です。ありがとうございます。え、なに?俺死んだの?

確かに悪魔、もといちひろさんから押し付けられる仕事の数々は致死量ギリギリではあったが。これだから昭和生まれの根性論世代h「比企谷君??」すみません冗談です。転生の間まで網羅しているちひろさんに戦慄しながら改めて目の前の女神様を盗み見る。

 知っているか?とんでもない美人を実際に見るとなんか色々罪悪感で死にたくなるんだぜ。腐った眼が浄化されそうになったもん。

 

 

 

 

「八幡はずいぶん落ち着いてますね」

 

 

「女神様もずいぶん距離を詰めてきますね」

 

 

「八幡がダラダラとモノログっている間にあなたの人生のすべてを観させていただきましたからね。ええそうですね、あなたのことで私が知らないことなどありません。これが本物の関係というやつですかね?素敵な考え方だと思いますよ?」

 

 

 

 …聞き捨てならないんですけど。あんなこともこんなことも全部見られちゃったんですか。「当然です」もう帰りたいんですけど。布団にくるまってうおぁーってしたいんですけど。

 あぁ森久保お前のポエムノート見てしまった罰がこんな形で当たるなんて。

 

 

「さて信頼関係を築けたところでお待ちかねの特典タイムといきましょうか」

 

 

 こちらの言うことなどまるで関係ないとばかりに告げる女神様に理不尽さを感じ、ふと湧いた怒りのおかげで自分の死因も気にならないし、最後まであいつらの力になってやれなかった後悔もまだ実感できない。

 これはきっと瞬間的な感情の流れなんかに任せていいものではないと本能的にわかっているのだろう。一生引きずるし一生悩み続ける。だからこれは八つ当たりだ。

 

 

 

「なぁ女神様」

 

 

 

 張り詰めた空気の中みっともなくも矛先を女神様に向けようとした途端に慈愛に満ちた表情から一転、やばどうしよとでも言いたげな表情を見せてくれる。

 

 

「あっ!!!!」

 

 

「あっ!って言いました?」

 

 

「言ってません。」

 

 

「言いましたよね!?何かしらミスが判明したんですよね!?」

 

 

「言ってますん。女神はミスもしますん。がお詫びにあなたに特別な能力を授けましょう」

 

 

「や、ならいったい何のお詫びなんですか?ミスですよね、女神様なら大人しくみ認めてくださいよ。てかすんって何ですか可愛くてキュンてしちゃったじゃないですか。」

 

 

「えへへ」

 

 

 

 

 急に弛緩した空気と特別な能力を授けると言質を取ったのもあり、今なら大概のことが許せる気がする。ユサユサと心地良い揺れに身を任せまるで眠りから覚めるような…

 

「あっ!!まだ何にもあげてないのに!…でも起きたら全部忘れてるだろうし、まあいっか」

 

 

 

 目が覚めるようなのに眠りに落ちていくような不思議な感覚に身を委ね、またしても聞き捨てならないセリフにもっとましな女神様に会いたかったとかすれる声を残して、俺は溶けるようにその場から消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「知ってる天井だ。」

 

 

「比企谷さんー起きてくださいー朝ですよー」

 

 

「起きてる、おはよう佐久間」

 

 

「はーい、おはようございます。あなたのまゆですよー」

 

 

 

 んー、しっかり覚えてるな。

夢落ちとは、やってくれるぜ女神様。あんなおっちょこちょいが女神様で異世界は大丈夫なのか。無駄に黒歴史を新たに作っただけで終わったし、詫び転生特典の正体も気になる。

 何よりなぜ佐久間に起こされているのかが目下最大の謎だ。

 

 リビングに移動して落ち着いたところで、可愛く微笑みながらじっとこちらを見る佐久間を見ていると正直このまま一日休んでたまには相手してやってもいいかもしれないなんて思えてくる。

 だが仕事まで時間もあまりないので手短に。

 

 

 

「なぁ佐久間、ひとつ質問してもいいか?」

 

 

「もちろんですよー、上から78-54-80」

 

 

「違う。それは知っている」

 

 

「まあ!お前のことは上から下まで隅々まで知り尽くしているぜなんて。改めて言われると照れちゃいますね」

 

 

「違う、返答を間違ったのは認めるが。俺が聞きたいのはなんでここにいるかだ。ここは家賃が安いのにフロント、エレベーター、フロアの3か所にオートロックのある、雪ノ下が『ここなら絶対にあの泥棒猫も入れないわ。泥棒猫!?何を盗むのかしら?きっと私のハートね。』と太鼓判をあるいは肉球スタンプを押してくれた場所だぞ。」

 

 

 

「瞬間移動ですよー」

 

 

「は??なに?斉木君なの?」

 

 

 

 あの程度の電子ロックは泉さんに聞くまでもなくちょちょいのちょいですよーくらいがギリギリ許容範囲の想定だったが、あまりにもまさに次元の違う話についさらに次元の違う話を被せてしまう。

 

 

 

 

 

「…もしかして女神様になんかもらったのか?」

 

 

「いえいえ違いますよー。芳乃ちゃんが」

 

 

『そなたにこの力は必要ありませぬー、わたくしが守るものー』

 

 

 エヴァ観た?じゃなくて。あ、頭に直接!!

 

 

「とのことです。ただ、今のままだと不公平なので敵に塩を送ることにしたそうです。まゆ覚醒状態です。」

 

 

「エヴァ流行ってんのか?」

 

 

「いえ、心さんとスロットを打ちに行きました」

 

 

prrrrr

 

 

『もしもし~☆なんだハチ☆はぁとの声が聞きたくなったのかよ♪』

 

 

「次あったら覚えとけよ」

 

 

『え゛!?こわ!!』

 

 

ガチャツーツー

 

 

 

 

「佐久間!当分の間佐藤と遊ぶのは禁止だ!!」

 

 

「比企谷さんが言うならそうしますー」

 

 

「それにしても瞬間移動か、女神様も随分便利な能力をくれたもんだ。見られて変に勘繰られるのも面倒だし人目に付くところではあまり多用しないように気をつけろよ」

 

 

「透明化もできるので大丈夫ですよー」

 

 

「まゆTUEEE」

 

 

 だめだ、一気に知能指数が低下してしまった。

 

 

「しんどそうですしヒール使いましょうか?」

 

 

「回復職!!」

 

 

「それともポーションの方がいいですか?」

 

 

「生産職チート!!」

 

 

「スティール!えい!比企谷さんの下着ゲットですー」

 

 

「佐久間さんが敵から贈られた塩で無敵な件」

 

 

 

 

 

 

 正直段々と楽しくなってきてはいるが、よくよく考えたら勝手に忍び込まれるのも気付いたら下着が減っているのも今更ではあるので何にも問題ないのでは?よし切り替えていこう。

 さすがにこれ以上困らされることも無いだろう。

 

 

 

「それより佐久間。そろそろ仕事の時間じゃないのか?俺もそろそろ準備しないといけないし」

 

 

「それなら大丈夫ですよーこの部屋の外は時間の流れがゆっくりになっているので。部屋での一日が外での10分くらいだと思いますよー」

 

 

「いやいやダメだろ。え?そんなこともできんの?」

 

 

「できちゃいますねー。それに比企谷さんが言ったんじゃないですかー」

 

 

「?なんのことだ?」

 

 

 

 

「…可愛く微笑みながらじっとこちらを見る佐久間を見ていると正直このまま一日休んでたまには相手してやってもいいかもしれないなんて思えてくる。って」

 

 

「女神様――!!能力のクーリングオフお願いしまーす!!俺たち本物の関係ですよね!?比企谷八幡に危険が迫ってますよー!!しかもなぜか声もそっくり!!!新しい仕事の可能性を感じる!!!悔しいけど感じちゃう!!!!」

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、今日は1日ゆっくりしましょうねー」

 

 

 

 

 

 

続かない

 




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まゆ「ちくしょう…強くなりてえな…!」八幡「…」

 

 

 プロデューサーになって初めてのSSR。

 

 

 己の好みとは一切の関係はなくただ運命の出会いに一目ぼれのような胸ときめきを覚え、例え他に担当が決まろうとも心のどこかでは想い続ける特別な存在。なん百人といるアイドルの中から自分を選んでくれた、芸能界の荒波を二人三脚で乗り越えていく大切なパートナーだ。

 

 

 

 「なんでこんなにも至近距離で私を見つめているのかしら、この豚は。うっとうしいったらありゃしないわ、気持ち悪い顔を近づけないでちょうだい。だいたいあなたは他にもたくさんの子を担当しているじゃない。」

 

 

 

 まあ、口がこれでもかと悪いのがたまにきずではあるのだが、今の俺にとって言葉はなんの意味も持たず心地よささえ感じる。

 

担当が多すぎる件については蛍光緑に直訴したいところではあるのだが、いざアイドルたちを目の前にするとどいつもこいつもまっすぐでつい力になりたくなるのだ。

 

 

 

「骨の髄まで豚になってしまったようね。もう手遅れかしら。」

 

 

 

 時子ちゃんはあきれたようにため息をつきながらも決して俺のそばを離れようとはしない。ふぅ、担当アイドルがツンデレ過ぎてつらいぜ。

 

 

 

「誰が時子ちゃんよ、時子様と呼びなさい。大体エレベーターに乗っているのに離れられるわけがないでしょう」

 

 

 ここまで一言たりとも声を発していないのになぜコミュニケーションが成立しているのか不思議だが。時子ちゃんサトリなのかな?それとも俺がサトラレなのかな?

 やべ、声に出てたか?なんてありがちなパターンからの顔真っ赤なヒロイン。いやありえないだろ、いきなり褒められて照れるなんてラノベの中のヒロインだけだ。ただ時子ちゃんの照れた顔を見られるのならラノベ主人公になるのもやぶさかではない。

 

 

 

 

「貴方、自分の状態を忘れたのかしら?」

 

 

 …むろん忘れたわけがない。比企谷、サトラレてるってよ。

 

 なぜか朝に時子と合流して以降、好むも好まざるも心のすべてが時子へと垂れ流しである。おかげで俺のメンタルは崩壊寸前。余計なことを考えないようにするのに必死である、脳内セクハラをかまして時子を赤面させてやろうなんてことはかけらも考えていない。

 

 

「ふんっ、かまわないわ。貴方ごときの言葉で私を揺さぶれるなんて考えないことね。」

 

 

 

 よし、OKいただきました。いやおそらくそんなつもりで言ったわけではないのだろうが、この機会に全方位にトゲトゲした時子に口は災いの元であることを教え込むのもいいかもしれない。

 

 さしあたって時子の褒め殺しから始めよう。「まず、抜群に顔が良い。」

 

 

 

「声に出てるわよ」

 

 

「やべ、声に出てたか?」

 

 

「…」

 

 

 

 

 時子様がお怒りである。怒った顔も可愛いねなんてよく言うが常に怒っているような時子にはなんていうのが正解なのだろう。今日の怒り具合、ナイスですね!!!

 

 

 

 

 

 

 

 鞭でぶたれました。ありがとうございます。

 

 エレベーターを降り事務所へようやく帰ってきたところでサトラレの元凶が迎えてくれた。きっと素敵なオチや複線回収がされるに違いない。

 

 

 

 

「まゆですよー」

 

 

 

「なあ佐久間、これも不思議パワーの一端なのか?」

 

 

 

「そうですよーほんとはまゆだけにするつもりだったんですけど、なぜか時子ちゃんにもかかっちゃったんですよー」

 

 

 

 相変わらず能力をフル活用しているようで何よりなんだが、ほんとはってことは佐久間にとってこの状況は必ずしも望ましいものではないのか?

 

 

 

「さすが比企谷さん、正解ですよー。どうやらまゆと同レベルで比企谷さんを信頼している人にもこの魔法は効果があるようなんですよー」

 

 

 

「ちょっと待ちなさいな!誰がこの豚を信頼しているですって!100歩譲って信頼してるとしてもこの子並みって、もはや人間じゃないじゃないの!」

 

 

 

「時子ちゃんがこれほど強敵だったとは思いませんでした」

 

 

 

「さっきからちょこちょこ時子ちゃんって呼ぶんじゃないわよ!!」

 

 

 

 ふむ、デビュー以来力を合わせてやってきた実感はあるがまさか佐久間並みに信頼してくれてるとは思わなかった。数値化できるもんでもないがこちらもそれにこたえなければいけないという気持ちにさせてくれる。

 

 

 

「できますよーステータスオープン!まゆの比企谷さんへの信頼度は5京ですので時子ちゃんもそれくらいってことになりますねー。まゆもまだまだ修行が足りなかったみたいです」

 

 

 

「勝手なこと言ってるんじゃないわよ!そんな『Q日本の都道府県でに数字が入っている所が4つあります、どこでしょう?A三重、千葉、東京、京都』みたいなひっかけ問題でしか使わないような数値になるわけがないでしょう!」

 

 

 

 佐久間の新たな便利機能には今更驚くこともないが時子、5京か。インフレも甚だしい。全クリした後に裏ボスで出てくるキャラでもここまで高過ぎることはないだろう。なんだろう、嬉しい。うん、いつものプンスカする時子も好きだけど、こんな風にアワアワしてる時子が可愛くないわけがない。

 このままもう少しイジりたい気もするが仕返しが怖いのでそろそろ助け船を出してやろう。

 

 

 

「別にいらないわよ。貴方にはいつも助けてもらってばかりだもの。」

 

 

 

 

 えっかわいすぎん!?助け舟を押し返された!?

 

 

 

「えっかわいすぎん!?」

 

 

 そりゃ声も出るってもんですよ。

 

 

 

「ふんっ貴方ばかり心をさらけ出すのは不公平かしら(あそこまでバラされてしまうと、こうでもしないと立て直せないじゃないの)」

 

 

「あっ!時子ちゃん!!ギャップで攻めるなんてあざとすぎますよ!!」

 

 

 

「ふんっ何とでも言うといいわ。それに感謝の気持ちは嘘じゃないもの。たまにはこうして素直になってみるのも面白いかもしれないわね。(豚の愉快な顔も見られたことだし。)」

 

 

 

 ん?なんて言ったんだ?感謝って言葉が聞こえた気がするが。まさかあの時子が感謝の言葉を伝えてくれるのか!?

 

 

「あら?声に出てたかしら?豚は今日も愉快な顔ねって言ったのよ。ふふふ」

 

 

 

 なんだろう、最後でまたかっこいい時子様を見られたので良しとしよう。

 

 

 

 

 

 

 



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紗枝「「ブッ殺す」と心の中で思ったならッ!その時スデに行動は終わっているんだッ!」八幡「そんな汚い言葉を使ってはいけません‼」

 

 

 

 

REC ON

 

 

 

 

 

 在宅勤務に切り替わって一週間。

 疲労原因の大半を占めていたアイドルたちとも、当然顔を合わせるわけにはいかない。なのでそれぞれに趣味や特技などを撮影してもらってそれを検閲し編集するのが最近の主な仕事だ。

 今日送ってもらった分の作業が終わり、完全に気が抜けてソファへと沈み込んでいた時にそれは起こった。

 

 

 

「デュワッ!!!!!」ビクッ

 

 

 

 怖い怖い怖い!巨大なムカデが胸元を横断してるんですけど!左から右へワシャワシャと大量の足を器用に蠢かせ、精密機械のような美しい動きが目に毒なんですけど!!

 虫だけはほんと無理だから、ほんとに無理だから!!助けてキャルちゃーん!!

 

 

 

「だれどすかそれ?八幡はんも童心に帰りたいときもあらはるんでしょうけど、なんでウルトラマンのまねしてはるん?もう少しでお夕飯できるさかい大人しく待っといておくれやす~♪」

 

 

 

 運が良いのか悪いのか、今日は部屋に紗枝が来ていた。

 以前にアップした日本舞踊の動画はかなり反響が良く、これからの進展についてビデオ電話で話し合っていたのだが、衣装の質感などは直接見なけらば分からないからなど、何のかんの理由をつけて押しかけてきたのだ。

 

 だが今だけはそのことに感謝しよう。一人だったら即座に部屋から脱出した上に二度とこの部屋へ戻ってくることはなっかただろう。

 

 

 

「すみません紗枝さん!何でもするんで助けてください!!」

 

 

「もうかなんわぁ、こんな時だけ頼ってきて。ムカデなんぞは熱湯をかけたらしまいどす。ほら、守護ったるさかいこっちおいでやす」

 

 

 

 そこからは圧倒的な蹂躙であった。30センチはあろうかという、巨大なそいつへむけて縮地であっという間に接近したかと思うと、指を狐のように立て可愛くポーズ。

指先より発射された漆黒の玉へムカデは断末魔の悲鳴を上げながら吸い込まれるようにして消えていった。やだ、かっこいい。てかお湯のくだりはなんだったんだよ。

 

 

 

「よしよし、こわかったどすなー。もう大丈夫やさかい安心しなはれ。」

 

 

「あぁ、すまん。気が緩みすぎて変なリアクションしちまった。」

 

 

「ふふ、そんなことあらへんよ、かわいかったどす♪それにキャルはんがどこの誰やら知りまへんけど、うちにはうちのええところがいっぱいあるんどす♪」

 

 

 

 なぜか慈愛顔で俺を撫で続ける紗枝。落ち着いて考えたらあれほどのリアクションする必要はなかった気がするがついウルトラっちゃうほどの衝撃で正気を失っていた。

紗枝の包み込むような優しい手つきに身を委ねていると心の底から安心感が沸いてくる。なるほどこれがバブみか。

 

 

 

「さて、これで借り1どすな。何でもしてくれる言うてはったし、自粛明けるんがえらい楽しみやわぁ♪さっお夕飯にしましょー(しっかり録画できてるとええんやけども)」

 

 

 

 

 

 

 

 

REC OFF

 

 

 

 

 『ムカデ 日本最大』検索っと。ふむふむ、15~20センチ??どう見てもあれは30センチ以上あったぞ。よく考えればこんな都会にムカデがいるのもおかしいよな。いったい何だったんだ?

 

 

 

 

 

 

 



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単短編2 あかり「退かぬ!媚びぬ!!省みぬ!!!」あきら「さすがにこれは省みたほうがいいデス」

 

 

 

 

 

 

りあむ「な、なんでぼくだけ炎上するんだよ!!めっちゃやむ!!」

 

 

あきら「ここぞとばかりに調子に乗るからデスよ #検察庁法改正案に抗議します #夢見りあむ寝言は寝て言え #さすがに辛辣すぎ。笑」

 

 

あかり「便乗でバズろうなんて、脇が甘い上に片腹痛いんご!!」ビシッ

 

 

 

りあむ「あかりちゃんが正論で殴ってくる!―こうみえて心はガラスの10代なんで、やさしくしてほしい!」ウワーン

 

 

あきら「#山形裏名物 #毒りんご」

 

 

 

―ドタタタタタッ

 

 

 

りあむ「なになに!?外から誰か走ってきてる!!」

 

 

 

―ドタタタタタタタタッ   バンッ!!!!!!!

 

 

 

八幡「ッあかり!!!お腹が痛いって言ったか!?大丈夫か!?薬やろうか!?なでなでしてやろうか!!?仮眠室で添い寝してやろうかっっ!!?」

 

 

りあむ「うわっ!変態がドア蹴破って入ってきた!!ってハチサマ、それよりぼくに言うことは無いのかよ!ザコメンタルだぞ!」

 

 

あきら「八兄ぃ…これはひどいデス。いやこれはこれでPの仕事なのか?#110番すべき? #国語得意の八兄ぃどこいった?」

 

 

 

 

あかり「ぐふっ。ひ、比企谷さん…まだまだや、やれるん、ご、、、」バタリ

 

 

八幡「あぁぁぁあぁぁあかりぃぃぃぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!」ウォーッ

 

 

 

 

 

 

あきら「#八兄ぃが迫真すぎる件 #ある意味貴重なシーン

 

 

りあむ「―――またぼくのこと無視してる…」シュン

 

 

 

――――――

 

 

 

 

りあむ「……ハチサマなりのコミュニケーションだよね?イジリたいだけだよね?」シュン

 

 

八幡「おい、夢見」ツカツカツカ

 

 

りあむ「な、なんでしょうかハチサマ…」ビクッ

 

 

 

――ガバッ!!!――ペロッ

 

 

 

八幡「脇が甘いな」イケボ

 

 

りあむ「ッッッぬぅわッ!?ハチサマ!!?―なっ何してるんだよ!!?こ、この鬼畜眼鏡ーーー!!」バタバタバタ

 

 

八幡「こら!夢見!まだ終わってないぞ!もっと触らせろ、舐めさせろ、甘噛みさせろ、味覚で楽しませろ~!!」バタバタバタ

 

 

 

 

 

 

あかり「歪んだ愛んご」フッ

 

 

 

あきら「あれ、それで済ましていんデスか?」ジトッ

 

 

終わり

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

単短編Ω 幸子「我はアルファなり、オメガなり、」八幡「ゼノギアスやった?」

 

 

 

幸子「おはよーございまーす‼今日もオメガかわいいボクの魅力を存分に喰らわせてやりますよー‼」ババーン

 

 

八幡「どんな挨拶だよ。おはようくらいまともに言えねえのか」

 

幸子「おや比企谷さん、カワイイカワイイボクに会えたのに随分と元気がないですね?お待ちかねのモーニングボクですよ!!」フフーン

 

八幡「...カワイイのは十分知ってるしモーニングボクとやらで元気も出たわ。ありがとよ」

 

幸子「ふふーん♪さすが比企谷さん、お目が高いですね!」

 

八幡「...今日は私服か。輿水は何を着ても似合うな、そのワンピース高かったんじゃないのか?」

 

 

 

 

 

幸子「オメガ高いですね」

 

 

 

 

 



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単短編3 あかり「フッフフフ・・・負けだ・・・完全におれの負けだ・・・・・・・・・・」あきら「…あかりサンまだ顔赤いデスよ」

 

 

 

 

りあむ「ライブのリハーサル中なのに、みんなどこに行ったんだよー…やむ…」

 

 

 

~~~~♪~~~~♪

 

~~~~♪~~~~♪

 

 

 

りあむ「…OTAHEN アンセム??―ってあかりちゃんにあきらちゃん!!ぼくまだここにいるのに!!」オーイ

 

 

 

 

―――センターにスポットライト、ドンッ!!!

 

 

 

八幡「今日はオタク君大好物を―――♪♪♪」キャピッ

 

 

 

~~~~♪~~~~♪

 

~~~~♪~~~~♪

 

 

 

りあむ「・・・・・・・・ハッ、意識がとんでた。何てものを見せてくれるんだよう……でも正直ぼくより、うまい…推せる」ブツブツ

 

 

 

――――――

 

 

 

あきら「あー、驚いてもらえたようでなによりデス、―八兄ぃが言い出した時は正気を疑ったんデスけど」

 

 

あかり「言い出したのは10分前だから…実質5分で完コピしたんご」

 

 

りあむ「…ハチサマの濁ったその目は写輪眼だったんだね」フムフム

 

 

八幡「ちげぇよ、なに勝手に納得してやがんだ。イザナミかけるぞ」ユウショウシテイクワネ

 

 

あきら「モノマネのレベルを超えてたのは確かデス」

 

 

八幡「なに言ってんだ、モノマネくらい誰でもできるわ。…なぁヘレン?」

 

 

 

 

あかり「ヘレン求めるところにヘレンあり…世界が求めるのなら、プライベートジェットでどこへでも行くわ!さぁ、案内しなさい。世界のステージが私を求めているわ!」

 

 

 

りあむ「ヘレンさん!?そっくり過ぎて本人かと思ったよう!!」

 

 

 

あかり「どんなにゴージャスなステージでも、もっともゴージャスなのは…ヘレンよ!今夜、最高峰を見せてあげる。誰もが私にひざまずく…。ノリにノッて、膝ガクガクになりなさい!」

 

 

 

りあむ「ヘレンさん!!これが世界レベル…」ゴクリッ

 

 

 

あかり「小さなことからコツコツと」

 

 

 

りあむ「ヘレンさん!!っじゃなくて、きよし師匠!!」

 

 

 

八幡「なっ?これくらいできるようになっとけよ、(モノマネ)紅白に出たいなら」シレッ

 

 

 

 

りあむ「もっともっと楽にチヤホヤチヤホヤされたい……」

 

 

あきら「#悪意の混入を確認 #今日も哀れなりあむサン」

 

 

りあむ「めんどくさい…頑張りたくない…やる気なんてないよう」ボソッ

 

 

 

 

八幡「…あのなぁ夢見、俺はお前のプロデューサーだ。それもついこぼれた言葉なんだろうし、本当はよく頑張っているのも知っている。いつも口を酸っぱくして言ってるだろ…ん?口を酸っぱく?」

 

 

 

あかり「あっ」

 

あきら「あっ」

 

りあむ「嫌な予感がする…」

 

 

 

八幡「おい、夢見」ツカツカツカ

 

 

 

りあむ「ねぇ!!ハチサマ!それはほんとシャレにならないからね!!ぼくのこと褒めようとしてたよね!?もっとちょうだ、ちょ!なんで真顔なんだよ!!?」

 

 

 

 

――――顎クイッ――チュッ

 

 

 

 

八幡「ファーストなんとやらはレモンの味ってやつか」イケボ

 

 

 

りあむ「き、鬼畜眼鏡鬼畜眼鏡鬼畜眼鏡!!!!!えーん、ママゆちゃんー!!!」バタバタバタ

 

 

 

八幡「こら!夢見!まだ始まったばかりだぞ!……さ、佐久間だけはやめてください!!?」バタバタバタ

 

 

 

 

 

 

あかり「歪んだ愛んご」カオマッカ

 

 

あきら「さすがに未遂デスよね!?仮にもアイドルデスよ!?―あとあかりサン顔真っ赤デスよ…」

 

 

 

 

 

 

ヘレン「せ、世界レベル…」カオマッカ

 



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単短編4 あかり「りあむさん泣きすぎんご」ズビッ あきら「自分らより喜ばれるとリアクションに困るんデスけど」グスッ

 

 

 

 

 

りあむ「ハチサマ!ハチサマ!ハチサマーーー!!!ビッグニュースだよ!!」

 

 

八幡「…夢見。そのニュースはお前の胸より大きいのか?」

 

 

りあむ「出会い頭にセクハラッ!?ハチサマそんなキャラじゃないだろう!?ぼくの胸なんかより比べるまでもなくビッグだよう!」

 

 

八幡「ぼくの胸なんか、、だと?お前はお前の胸がどれだけ大きいか気づいてないのか!?」

 

 

りあむ「ど、どうしたのハチサマ…?顔が怖いよ!?」

 

 

八幡「お前のようなスタイルになりたいと夢見るファンの女の子に………夢見と夢見るでダジャレみたいになってしまった///」

 

 

りあむ「そこなのっ!!?いつも応援してくれてありがとうございます!――って、そうじゃないよ!!?照れ笑いは可愛いけど!可愛いけれども!!」

 

 

八幡「朝からなんでそんなに元気なんだよ。なんか良いことでもあったのか?」

 

 

りあむ「だからあるって言ったじゃん!聞いてよ!ビッグニュースだってば!!!」

 

 

 

 

八幡「――ならまず自分の胸が大きいことを認めるんだ。ほら言ってみろ“ぼくの胸は大きいです”と」

 

 

りあむ「なんでそんなこと言わないといけないんだよう!?」

 

 

八幡「“ぼくの胸は大きいです”」ギロッ

 

 

りあむ「ぼ、ぼくの胸は大きいです!!」

 

 

八幡「“さらに言えばとても柔らかいです”」

 

 

りあむ「さらに言えばとても柔らかいです!!!」

 

 

八幡「“ぼくの胸なんかと言ってしまい申し訳ございません。お詫びにハチサマに胸を好き放題してもらいます”」

 

 

りあむ「ぼくの胸なんかと言ってしまい申し訳ございません!!お詫びにハチサマに胸を好き放題してもらいます!!」

 

 

 

――ガチャ

 

 

 

あかり、あきら「「おはようございまーす」」

 

 

八幡「おう、おはよう。きちんと挨拶できてえらいな。」

 

 

あかり「ふわぁ…朝まで賭け麻雀やってたから眠いんご…」

 

 

あきら「あかりサンが強すぎて笑えますよ。つかさサンなんか負けすぎて泣いて帰っちゃいましたし。次は配信でしたいデスね」

 

 

八幡「俺が帰った後もまだやってたのか?…ったく、あんまり社長をいじめてやんなよ?」

 

 

 

りあむ「―――ちょっと!!!ぼくのアイドルらしからぬ発言をスルーしないで!それに朝一から不穏な発言をしないっ!」

 

 

あかり「ケセラセラ」

 

 

あきら「ハクナマタタ」

 

 

八幡「アリーヴェデルチ」

 

 

りあむ「不穏では無くったけど脈絡も無くなってるよう!それにハチサマはなんか違くない!!?」

 

 

あかり「Que Sera, Sera~♪」

 

 

あきら「Hakuna Matata~♪」

 

 

八幡「ありーべべるちっ」

 

 

りあむ「美声バージョン尊い!噛んでるハチサマかわいい~!!――じゃなくてじゃなくて!どれだけ無軌道な発言を続けるんだよう!!」

 

 

あかり「なぜか今朝から声が出やすくなった気がするんご。アイドルとしてステップアップした気がするんご♪」

 

 

あきら「奇遇デスね。自分も絶好調な感じデス」

 

 

りあむ「それだよ!!それ!!ぼくが言いたかったの!!!―――まったく、今日くらい感動ムードにできないのかよう…。あれ、ハチサマ??何してるの??」

 

 

 

 

八幡「ミリシタ」

 

 

りあむ「ぶっころ!!!」

 

 

 

終わり

 

 

 

 

 

 

加蓮「ねえねえ、八幡さんのデスクにあったこれって何か分かる??」

 

 

文香「おそらく…ボイスレコーダーかと」

 

 

志希「ん~?何か秘密が入ってるかも?再生しちゃえ~♪」

 

 

――ピッ

 

『可愛い…ハチサマに…大きい…柔らかい…ぼくの胸を…朝一から…好き放題してもらいます。』

 

――ピッ

 

『可愛い…ハチサマに…大きい…柔らかい…ぼくの胸を…朝一から…好き放題してもらいます。』

 

 

 

「「「あ゛?」」」

 

 

 



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単短編×2

 

 

単短編5.9 時子「アンタ達はいつ己を捨てた?」八幡「あれは誰しもが通る道なんだよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

乃々「お、お誕生日おめでとうなんですけど」パァンッ

 

 

美玲「うおッ!急になんだッ‼」ビクッ

 

 

まゆ「おめでとうございます美玲ちゃん」パァンッ

 

 

美玲「…ウチの誕生日か、ありがとうなッ!!」

 

 

輝子「フフ…、美玲ちゃんうれしそうだね。これプレゼント…」パァンッパァンッ

 

 

美玲「あ、ありがとう?これ、キノコ…?か、かじってみるか、ショーコのため…」キリバコイリマツタケ

 

 

小梅「おめでとう美玲ちゃん、あの子も…喜んでるみたい…。ほら、ね?」パァンッ

 

 

美玲「ウ、ウチの左目もあの子は見えないからなッ!!」

 

 

時子「おめでとう小梅。ほらあなたも早く言いなさいな」ビシッ

 

 

 

 

八幡「…おめでとう」パァンッ

 

 

 

 

乃々「クラッカーだと思ったら鞭だったんですけど…ぶたれてるのに比企谷さんがノーリアクションなのも怖いんですけど…」ヒイッ

 

 

美玲「おい八幡プロデューサーッ!!ウチの誕生日に何してるんだよッ!!」ガオーッ

 

 

乃々「比企谷さんが昔使っていた眼帯をみんなで見つけ出してから、ずっとこんな感じなんですけど…」パァンッ

 

 

時子「ずいぶんと趣味の良い眼帯じゃない、着けている姿も見てみたかったわ」ビシッ

 

 

美玲「そうなのかッ!プロデューサーの魂はウチが引き継ぐからなッ!!」パアッ

 

 

 

 

 

 

八幡「もういじめないでもらえませんかね…」トオイメ

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

単短編5.10 比企谷父「俺の人生はつまらなくなんかない!家族がいる幸せをあんたたちにも分けてやりたいくらいだぜ!」小町「お父さん!!小町の服と一緒に洗濯しないでよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

八幡「 ほら、お袋」プレゼントポイッ

 

 

 

比企谷母「…???」ポカン

 

 

小町「お、お兄ちゃんが母の日のプレゼントをっ!!?」

 

 

比企谷母「…カーネーション型の入浴剤ね、いいセンスしてるじゃない。…あんたがこれを選べるとは思えないけど」

 

 

小町「あ!アイドルの誰かに選んでもらったんでしょ!!!お兄ちゃんも隅に置けないな〜」コノコノ〜

 

 

八幡「実の息子にひでぇ言い様」ハハッ

 

 

比企谷母「なに言ってんのよ。あんたは実の息子じゃ、、、アッ。」

 

 

 

 

八幡「ーーえ、なに?俺血繋がってないの?……ハッ!!小町と結婚出来る!?」

 

 

比企谷母「冗談に決まってるじゃない、最初に考えるのがそれなのね」ドンビキ

 

 

小町「うわー、お兄ちゃんさすがにそれはキモいよ」ドンビキ

 

 

 

 

 

 

 

終わり

 



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単短編3箇条 みりあ「強くなりたくば喰らえ!!!」武内P「いい笑顔です」

 

 

 

りあむ「ハチサマハチサマー!モテる男の3箇条って知ってる?ハチサマなにげにモテモテだからこういうのしっかり抑えてそうだよねー」

 

 

みりあ「みりあ知ってるよー!八幡さんみたいな人のことスケコマシって言うんだよね!」

 

 

八幡「みりあストップ」

 

 

みりあ「いつも眠くなったら寝ちゃうまでなでなでしてくれるし、八幡さんの友達の友達のお話もいっぱいしてくれるもんね!」

 

 

八幡「みりあブレーキ」

 

 

みりあ「他にもクレープを一緒に食べてた時にみりあのほっぺから指ですくって『みりあの味も混ざって2兆倍美味しくなったよ』っておいしそうに食べてくれたもんね!」

 

 

八幡「誰だよそれ。そんなやつモテねえよ、気持ち悪すぎるだろ。」

 

 

みりあ「あとねー!耳かきをしてあげこともあったよね!くすぐったそうに体をよじり耳まで真っ赤になる姿についみりあは興奮を抑えきれず、おもむろに頬へ優しく唇を落としてしまいました。八幡たらあんな可愛い顔をするんだものお姉さんついイタズラしちゃったわ」

 

 

八幡「誰だよ…ほんと誰??憑依?」

 

 

 

 

りあむ「ぼくもいるんだよ!なんで2人で楽しそうに話してるの?ハチサマやっぱりロリコンなの?ロリコンエビデンスを示してくれてるの?」

 

 

八幡「ちげーよ、モテねえし3箇条も抑えてねえよ。それからみりあが言ったことはかなり巧妙な、事実とは異なるが嘘は言っていない超絶技巧による叙述トリックだ」

 

 

りあむ「まあハチサマよくぼくの胸チラ見してるしロリコンじゃないのは信じるよ。ほらもっと見て良いんだよ?チラチラッって痛い!みりあちゃん!!もぎり取らないで!!すみません!みりあさん!ハチサマはロリコンの貧乳好きです!!」ギャアー

 

 

八幡「それ火に油を注いでるからな?」

 

 

 

 

りあむ「はぁ〜ほんとに取れるかと思ったよ、まあ肩こるし取れたら取れたでいんだけどさー。貧乳の人たちも1度でもこの重さを味わってみれば分かるんだよ!胸なんて重いだけで邪魔なもんだって!って痛い!!誰だ!ぼくの胸をパージしようとしてるのは!ぎゃあああ紗枝ちゃん!?痛い!ごめんどす!嘘です!ごめんなさい!」

 

 

 

 

りあむ「あ゛ぁぁぁ〜ハチサマどうして守ってくれないんだよー!」プンスカ

 

 

八幡「お前結構幸せな顔してたぞ?」

 

 

りあむ「バレてた!?」

 

 

八幡「ただまあ、センシティブな発言には気を付けてな。夢見がそんなやつじゃ無いってのは知ってるが世の中いつ揚げ足を取ってやろうかと狙っている人もいるからな。」

 

 

りあむ「うぇーん!ハチサマが優しすぎるよー!」

 

 

八幡「みりあと紗枝が財前を呼びに行ったからな。…最期くらい優しくするさ」

 

 

りあむ「最期のニュアンスが不吉すぎるよ!」

 

 

――――――

 

 

八幡「話は戻るが3箇条って結局なんなんだ?」

 

 

りあむ「いくら鈍感系全方位型スケコマシtype朴念仁のハチサマでもモテたいって気持ちはあるんだね!いいよ!優しいりあむちゃんが教えてあげましょアイタッ!ひどいハチサマ!なんか投げただろ!」ケシゴムナゲカエシ

 

 

八幡「フッそれは残像だ」ブォン

 

 

りあむ「かっこいい!胸くらいいくらでも見せてあげてもいいってくらいかっこいいです!」

 

 

 

八幡「―――結局言うのか?言わないのか?」

 

 

りあむ「言います!聞いてください!…まず1つ目は“男らしい”こと。これは当然だよね!2つ目は“性格が良い”こと。これも至極当然!3つ目は“器が大きい”こと。実はこれが1番大事だったりするんだよ!分かりやすくまとめると

 

みりあ紗枝時子「」ガチャッ

 

 

 

ハチサマは男性器が大きい!!!!」

 

 

 

八幡「…」ゼック

 

みりあ「ジーッ」ガンミ

 

紗枝「バシャバシャバシャ」シャシンレンシャ

 

時子「カァァァ」カオマッカ

 

 

 

 

終わり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薫「大きなイチモツをくださいー♪」

 

仁奈「イチモツってなんでごぜーますか?」

 

美優「あっ、えっと。ごめんね、私も分からないの。今度比企谷さんに聞いてみましょ(ごめんなさい!比企谷さん!)」アワアワ

 

 

 

由里子「むしろ、むしろむしろ!武内Pに比企谷さんのイチモツの大きさを聞くべきだじぇ!武×八なのか八×武なのか!!」ブフォ

 

 

 

ほんとに終わり

 

 

 

 

 

 

武内P「ッ!!!」ブルッ

 

 

ちひろ「どうしたんですか急に?風邪でもひきましたか?看病しますよ、さっ帰りましょう家までお送りします。」テキパキ

 

 

武内P「いえ、殺気を感じまして」ナゼカチヒロサンカラモ

 

 

ちひろ「刃牙の読み過ぎですよ」

 

 

武内P「あれは良いものです」フンス

 

 

 

 

武内P可愛い終わり

 

 

 



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単短編ヤンデレ1 千枝「今のは痛かった…痛かったぞーーー!!!」八幡「…こっちのセリフすぎる」

 

 

「―――やべ、寝てた」

 

 

 業務時間中にもかかわらず睡魔に負けてしまったことが信じられず、ふるふると首を振り眠気を振り払う。

 状況を確認しようと、あたりを見渡してみれば向かいのデスクのちひろさんも隣の武内さんも席を外していることが確認できた。というより自分の最後の記憶からのつながりがまったく確認できなかった。

 

 

「ここは…地下室??」

 

 

 なぜか事務所の地下にあるボイスレッスンルームで目を覚ましたのだが、ここにいるということは事務所で寝てしまった俺を武内さんあたりが運んでくれたのだろうか。

 仮眠室に運ばなかった理由は分からないが、武内さんが眠った俺を運ぶ姿を想像するだけで軽く悶絶してしまう。

 

 

「比企谷さん、お加減いかがですか?」

 

 

 うん、薄々気づいてたよ。だって手錠でガチガチに固定されてるもん。

 ベッドに寝転ぶように両手、両足が支柱から延びる手錠にしっかりと繋がれており多少の身じろぎはできるものの、とても脱出することは出来そうにない。

 

 

「千枝、悪い子ですか?」

 

 

 こちらがある程度動くことを諦めたのを見計らってベッドサイドでずっとこちらを見つめていた佐々木が声をかけてくる。

 

 なぜこの状況でそんなに申し訳なさそうな顔ができるのか、どうやって俺をここまで運んできたのか、そもそも佐々木の倫理観どうなっちゃったの?など、聞きたいことは山のようにあるが、まずは一応お願いしてみようと思う。

 

 

「…とりあえず解放してくんない?」

 

「千枝、小学生だから難しい言葉は分かりません…」

 

「…小脇に抱えた“身体も心もボクのもの~はじめてのSMガイド”が見えてるんですけど」

 

「お勉強のために、学校の図書室で借りてきました♪」

 

 

 わぁ、なんて素敵な笑顔。それにそんな本が置いてある学校は潰れてしまえ。

 

 時計を見てみると現在の時間は5時30分。最後に事務所で時計を見たのが4時45分だから45分間ほど寝ていたことになる。

 金曜の終業時間になると決まって飲み会の誘いに来ていたあいつらをスルーできたのは怪我の功名だな。

 

 これ以上長時間の拘束は身体的にも精神的にも辛いので早々に説得を開始する。話せば分かるはず。

 だいたい佐々木にSMキャラなんて一部の界隈でしか受けないだろうし、そいつらはそのまま留置所へとお送りされるに決まっている。

 

 

「時子ちゃんのマネか?やめとけ、あいつのはただのSMキャラだから普段は礼儀正しいやつなんだぜ」

 

「ちっ、違います!!千枝がイジめたいのは比企谷さんだけです!誰にでも鞭を振るうビッチみたいに、言わないでほしいです…」

 

「おぅふ、そ、そうか。そ、それより俺をどうやって眠らせたんだ?」

 

 

 予想外すぎる角度からの照れに思わず気持ちの悪い鳴き声を上げてしまい、質問もおぼつかないものとなってしまった。

 

 

「志希さんに無害な睡眠薬を借りました」 

 

「いや、あいつがそんな簡単に人に渡すとは思えんのだが…」

 

「象を狩りに行くって言ったら貸してくれましたよ?」

 

 

 そんな理由がまかり通ってたまるものか!原始の世界で生きてるのか!?

 

 

「…どうやってここまで運んだんだ?」

 

「晶葉さんにパワードスーツを借りました。象を運びたいって言ったら貸してくれました。」

 

「……用意周到ですね。佐々木さん。でも嘘つかれたって知ったらあいつら悲しむんじゃないのか?それでもいいのか?」

 

 

 文字通り手も足も出ないうえに、とても45分間拘束されただけとは思えない体のダルさのせいで、ありきたりな説得の言葉しか出てこない。

 

 

「―――比企谷さんの象さん、とても立派でした…キャッ」

 

 

 誰がうまいこと言えと。 

 いや、そこじゃないな。ふむ、比企谷八幡。現行犯の模様です。余罪の可能性も含め引き続き捜査を進めます。

 

 

「お仕事も終わりみたいだったので、身体を拭いてお着替えもしておきましたっ」

 

 

 ありがとうございます。完全にアウトです。次回より千葉の空に(ショーシャンクの空にっぽく)始まります。

 や、これ本当に冗談で済むのか?服の着替えって…うわっ!部屋着じゃん!!あまりに着慣れすぎて気付かんかったわ。

 

 それにしても佐々木さんイキイキしてますね。

 引き攣りそうになる顔をなるべく冷静に保ちながら再度解放するようにお願いしてみる。

 

 

「なぁ佐々木、そこまでしたならもう十分だろ?怒らねえから早く解放してくれ」

 

「ごめんなさい、比企谷さん。昨日はお仕事で来れなかったあの人がもうすぐ帰ってくるんです。―――だから、もう少しだけは千枝の、千枝だけの比企谷さんでいてください」

 

「いや、1時間くらい二人でいることなんてざらにあるだろ。なにをそんな大げさに…待て、昨日?」

 

「はい、まだ12時間くらいしか比企谷さんを観察できていないので…。一応添い寝したり、写真撮ったりはしたんですけど。」

 

 

 衝撃的すぎる事実。夕方の5時30分ではなく次の日の朝5時30分でした。え?丸一日寝てたの?どうりで身体中痛いはずだよ。てかそらそうだよな、象に使う睡眠薬って聞くだけで効果やばそうだもんな。ぱおん。ぴえん。

 

 

「だからせっかく目が覚めた比企谷さんを…、ハァハァ、あと少しの間…千枝が“調教”してあげますからね~♪」

 

 

 荒い吐息とともにじりじりと迫る佐々木に、それでも説得を試みるが言葉はまるで通じず、いったいこれから何をされてしまうんだろうかという諦めと緊張とほんの少し期待の入り混じった感情がドロドロと胸に溜まっていく。

 とてもアイドルのしていい顔ではないはずなのに、なぜか脳の奥は痺れるようなその笑顔に、完全に屈服してしまいたいと叫ぶ。

 

 

 そんな尋常ならざる内心とは別に、今年のお御籤が“超凶”だったことを思い出していた。大丈夫、まだボケる余裕はある。

 

 

 

「いつまでそんな事を考えてる、余裕がありますかね…せいぜい頑張ってくださいっ♪」

 

 

 

続くかも

 

 

 



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単短編ヤンデレ2 八幡「フリじゃなくて、ほんとにしたよね?」千枝「千枝、小学生だから分かりません…」

 

 

 

「なあ佐々木、さすがに喉が渇いた。せめて飲み物くらいはもらえないのか」

 

 

 凍て刺す佐々木千枝に監禁されて12時間。

 目の奥に怪しい光をたたえるながらゆらゆらとこちらへ近づいてくる佐々木に、精一杯の虚勢を張りながらせめて少しでも思考を回すための水分を要求する。 

 

 

 

「―――千枝って呼んでください。……それとも比企谷さんは千枝のことなんか嫌いだから佐々木って呼ぶんですか。事務所の連中の中に比企谷さんから下の名前で呼ばれてる奴もいますよね?だったら千枝のことも千枝って呼んでください。あぁ、千枝が比企谷さんって呼ぶからダメなんですね。分かりました。これからは八幡さんって呼びますね…八幡さん♪……あはっ」

 

 

 狂ったように事務所の仲間たちに呪詛の言葉を吐きながら、俺の名前をぶつぶつとつぶやき始める佐々木を「千枝です」・・・千枝を前にして、乾いた喉から出る擦れた悲鳴を自分のものとも認識できず怯えることしかできなかった。

 

 千枝はベッドサイドに置いてあるペットボトルを見せつけるようにごくりと飲む。

 

 

「あはっ、八幡さん。そんなにもの欲しそうな顔をしないでください。千枝、疼いてきちゃいましたっ」

 

 

 いよいよ身体の限界も来ているのか、自分でも自分がどんな表情をしているかも分からないほどに目の前の水が欲しくてたまらない。

 またしても見せつけるように水を口へ含んだ千枝はそれを飲み下さそうとはせずに、もごもごと口の中で何かを呟きながら俺にまたがり、その柔らかな臀部をゆっくりとお腹へと押し当てる。

 

 

「はひはんはんひはひへはほふへふほはへへはへはふへ?」

 

 

 にっこりとほほ笑む千枝。悲しいかな何を言いたいか、だいたい予測できてしまう。

 

 

「八幡さんには千枝が直接飲ませてあげますねってか?よせよ、アイドルだろお前――っ!ん゛ン゛んん゛んん……ぷはっ!?」

 

 

「おいしいですか?八幡さん?喉が渇いていたから全身に染み渡りますよね。あはっ。千枝の身体から出たものが八幡さんの身体の隅々まで届いてますよ?八幡さんの中に千枝の成分がたくさん流れてますっ。ハァハァ、これで八幡さんは千枝のものです。千枝は八幡さんのものです」

 

 

 これまで味わったことのないような極上の甘さが全身を駆け抜け、心臓は痛いほどに脈打つ。

 ブルリと身体を震わせた後、千枝は倒れこむように俺の頭をかき抱く。甘く荒い吐息が鼻腔をくすぐり、胸の奥から湧き出る後悔を歓喜の色へと変えていく。

 

 

「八幡さんの心…千枝には手に取るように分かります。――二人でドロドロに溶けていきましょうね♪」

 

 

――――――

 

 

 1分か、1時間か、はたまた12時間か。どれほどの時間そうしていたか分からないが、ふいに千枝が顔をあげ物憂げな表情で呟いた。

 

 

「千枝は、いつまでもガーリーなままではいられないんです」

 

 

「…今のお前はガーリックって感じだわ、刺激が強すぎんだよ」

 

 

「そんな少し面白い言葉で煙に巻かないでください」

 

 

 やった。ウケた。

 

 

「もうあの人が来るまであまり時間もないんですし、八幡さんを確実に千枝のものにするにはこのチャンスを逃すわけにはいかないんです。――八幡さんが悪いんですよ。千枝をいつまでも子ども扱いするから」

 

 

「ふんっ、なら佐々木の言う大人ってのを見せてもらおうじゃねぇか。…この期に及んでビビってんじゃねぇだろうな?」

 

 

「千枝って呼んでください!――もう本当に知りませんからね。――死ぬまで愛してあげます。あ・な・た?」

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

莉嘉「あっ!ハチくん今照れたでしょ!ハチくんの負けだよ!!」

 

 

桃華「さすが千枝さんでしたわ。わたくしとってもドキドキしてしまいましたもの」

 

 

千枝「えへへ、そうかな?じゃあ次は莉嘉ちゃんの番だね!」

 

 

莉嘉「よーしっ、リカの魅力でハチくんをのーさつっしちゃうぞー☆」

 

 

桃華「その次はわたくしですからねっ!ささっ八幡ちゃま早く準備なさって♪」

 

 

 

 

 

八幡「……こんな愛してるゲームはまちがってる」

 

 

千枝「は、八幡さん。……な、なんちゃって。へへ」

 

 

八幡「ちくしょう!可愛いな!おい!」

 

 

 

 



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単短編ヤンデレ0 八幡「この5分後にボコボコにされました」千枝「この半年後に監禁しました」

 

 

 

 

 こんにちは、佐々木千枝です。

 今日は土曜日で学校がお休みなので、桃華ちゃんと朝練をするために事務所に来ています。

 まだ2月なので外はとっても寒く事務所に来るまでに体が冷えてしまいました。ケガをしないためにもストレッチは念入りにしないといけません。

 

 えいっえいっと桃華ちゃんと二人組のストレッチをしていた時に、入り口から初めて見かける女性がレッスンルームへと入ってくるのが見えました。

 

 

 

「は、はじめまして~。夢見りあむです…えと、ちひろさんに挨拶してくるように言われて、順番に回ってます…」

 

 

「まあっ、そうなんですの!はじめましてりあむさん。櫻井桃華ですわ♪」

 

 

「さ、佐々木千枝です。りあむさん、よろしくお願いしますっ」

 

 

「ぐはっ!!名前呼び!!?――なんだこの尊い空間…かわいさが次から次へと押し寄せてくる…」

 

 

 

 お話を聞いてみるとりあむさんは、2月からこの事務所に入ることになった新人アイドルなんだそうです。

 カラフルな髪色に個性的なファッションに大きな胸。これだけで十分にキャラは立っている気がしますが、おまけにライブに来てくれているファンのお兄さん達みたいなお話の仕方をします。あと、異様に胸が大きいです。

 千枝は小学生だから難しいことは分かりませんが、キャラの過積載だと思います。それから胸が無駄に大きいです。

 

 

 

「それで…プロデューサーもレッスンルームにいるって聞いたんですけど…」

 

 

「八幡ちゃまのことですわねっ♪今日は見に来てくださる約束でしたのに、まだいらしてませんわね?」

 

 

「ちゃ、ちゃま??――その八幡さん?は、いつ来ますでしょうか…?担当してくれるみたいだし、挨拶したいんだけど…」

 

 

「比企谷さんから遅刻の連絡は来ていないので、もうすぐ来ると思います…」

 

 

 

 りあむさんはお話しするときに千枝たちの方を見てくれません。お鼻をくんくんしながらこっちをチラチラと見たりあたりを見回したりしています。

 お話がとぎれとぎれになり、りあむさんがそわそわし始めたときにようやくみんなの待ち人が来てくれました。

 

 

 

「…すまん。遅れた。」

 

 

 

 言葉少なく小走りで比企谷さんはレッスンルームに入ってきました。

 桃華ちゃんはやっと来てくれた待ち人に喜びの感情を隠し切れず、ぴょこぴょこと比企谷さんへと近づいていきます。

 

 

 

「八幡ちゃまったら。レディーファーストはこういうものではなくってよ?」

 

 

「ふへへ…桃華ちゃんが無警戒で近づいて来てくれる…」

 

 

「…??何か言いまして?」

 

 

「い、いや!何でもない!遅れて悪かった。すまんな桃華、次は気を付けるわ」

 

 

 

 いつものようにひっつきに行った桃華ちゃんでしたが、何かぼそぼそと呟く比企谷さんを見ると頬に指をあてきょとんと首をかしげます。

 比企谷さんは何かを隠すように言葉を取り繕い千枝に軽く挨拶をした後、まだ状況がつかめずにそわそわしていたりあむさんへと顔を向けました。

 いつもは目を合わせ千枝の全身を舐めるように見た後に、ボソッと挨拶する姿がとってもかわいいのに今日は胸をチラッと見ただけで終わってしまいました。でも、今日は仕方ないことを千枝だけは分かっているので我慢します。

 

 

 

「…で、そっちにいるのが夢見か?」

 

 

「あっ、はい。夢見です…えと、よろしくお願いします…」

 

 

「ああ、プロデューサーの比企谷だ。よろしく。…ところで夢見、お前の胸は何センチだ?確認のためにさわってもいいか?」

 

 

「あっ、胸のサイズはたぶん95センチくらいです。はい、どうぞ確認し………えっ!!?今さわってって言った!!?これが芸能界の闇なのか!!?やむ!!」

 

 

「そうだ、その巨大な胸をさわらてもらえないかと言ったんだ」

 

 

「ぼくたち初対面だよね!?なんでいきなりセクハラするんだよう!!」

 

 

 

 比企谷さんの突然のセクハラ発言にぼーっと答えた後、ようやく何を言われたのか理解したりあむさんは両腕で胸をおさえ後ろへ下がります。95センチを腕でおさえたら、むにゅってなって逆効果だと思います。なんてあざといんでしょう。

 それよりも比企谷さんは胸にさわりたいと思っているのでしょうか、次に二人きりになったら千枝がさわらせてあげると誘惑して確認してみようと思います。今回はこの胸が大きいだけの女に譲ってあげます。

 

 まだまだ男性に夢を見ているお年頃の桃華ちゃんは、比企谷さんの問題発言に顔を真っ赤にしています。

 

 

 

「95センチ!?でっかいですわ。………ではなくっ、八幡ちゃま!!!きゅ、急に何をおっしゃるんですのっ!!レディーに対して年齢や体重はもちろん、3サイズに初恋の相手や経験人数を聞くことは絶対に禁止なのですわよっ!!」

 

 

「経験人数!?あ、あの櫻井さんそれ誰に聞いたん、ですか…?」

 

 

「桃華でいいですわ、りあむさん。これは…あれ?そういえば八幡ちゃまに聞いたんでしたわ。ですわねよ、八幡ちゃま??」

 

 

「い、いやーどうだったかなー?言ったような言ってないような…」

 

 

 

 お子様な桃華ちゃんはまだ経験人数が何のことか分かっていないようですが、小学生にそんなことを話している時点でかなりギルティーな気がしないでもないです。ちなみに千枝は当然まだです。初めては比企谷さんって決めてますから。

 

 しどろもどろになり目が泳ぐ比企谷さん、本当に不思議そうな顔をする桃華さん、怯えるりあむさん、3人ともがなぜか可愛くあわあわしています。

 どうなるんだろうかと見守っていると、あわただしい足音と共に入ってきた人影を確認し、桃華ちゃんが即座に味方に引き込もうとします。

 

 

 

「良いところに来てくださいましたわ!愛海さん!なんだか八幡ちゃまの様子がおかしいんですの!」

 

 

「あー、桃華ちょっと待ってくれ。―――お前マジで何しちゃってくれてるの?」

 

 

「愛海さん??」

 

 

「すまんな、愛海じゃねぇんだ。…いや、こんなこと説明したくもねぇんだが……俺だ、比企谷八幡だ。―――おい棟方、年貢の納め時だ」

 

 

「ど、どういうことですの???」

 

 

 

 あまりに突拍子もないことを言い出す愛海さんに、桃華ちゃんは頭から煙を出してふらふらとしてしまっています。りあむさんは“新たな美少女が入ってきた”と再びそわそわし始めてしまいました。どうしましょう、おめめぐるぐるの桃華ちゃんが可愛すぎます。あわわわわって言ってます。

 

 もうやってられるかとばかりに“愛海さんの姿をした比企谷”さんは、どう見てもおもちゃにしか見えないポップな色合いの拳銃に似た何かの狙いを“比企谷さんの姿をした愛海さん”に定め一切の躊躇なく引き金を引きました。ギザギザしたビームが直撃です。

 すると二人が目を開けてられないほどにピカピカと光りはじめ、10秒ほどたちそれが収まるといつものけだるそうな雰囲気の比企谷さんとうなだれる愛海さんがそこにはいました。

 

 

 

「うぅ~、ひどいよ八幡プロデューサー…まだりあむちゃんの推定事務所2位タイのお山に登ってないのに…」

 

 

「いったいどういうことですの??八幡ちゃま??わたくしさっぱり分かりませんわ…」

 

 

「やっと戻ったか。……あー、桃華。さっきまで池袋が作った謎の発明で俺と棟方の中身が入れ替わってたんだ。…何言ってるか分からねぇだろ?大丈夫だ、俺も何言ってるか全然分からねぇ」

 

 

「………先ほどまでのスケベな八幡ちゃまは、愛海さんだったってことですの??」

 

 

「スケベって、なんだよその謎のボキャブラリーは。…まあそういうことだな」

 

 

 

 桃華ちゃんもようやく納得できたようで安心した表情で本物の比企谷さんへと引っ付いてしまいました。

 その一方でいまだに混乱の収まらないりあむさんは何かが吹っ切れたのか、なぜかキレ気味で比企谷さんへ話しかけます。

 

 

 

「入れ替わり!?ネタが古すぎるだろ!何の名をだよ!ほんとにこの人についていったらワンチャンつかめるんだろうな!!?―しかもなんだよそのオーバーテクノロジーは!!ナニえもんなんだよ!!ならもしもボックスでぼくを石油王の娘にしてくれよう!!!」

 

 

「…なんでこいつ初対面でこんなキレてんだ?」

 

 

「八幡ちゃまになりすました愛海さんに、さんざんセクハラされたからだと思いますわ」

 

 

「うっ…」

 

 

「新人に何やってくれてんだよ…―――こいつ以外にはしてねえだろうな?」

 

 

「……紗枝ちゃんとまゆちゃんと時子さん」

 

 

「えっ?うそ……え………マジで?」

 

 

「てへっ♪」

 

 

「……………助けてモモえもん」

 

 

「まぁ八幡ちゃまったら、うふふ、可愛いですわ♪」

 

 

「ハイライトの消えたプロデューサーが慈愛顔の桃華ちゃんに抱きしめられてる…なんだこの事務所…ぼくの人生いったいこの先どうなっちゃうんだ…」

 

 

 

 

 

 

 こんなオチのない話でいいんでしょうか?千枝、小学生だから分かりません。

 

 でもレッスンルームに入ってきた瞬間から千枝は比企谷さんが比企谷さんじゃないって気づいてました。千枝には比企谷さんがどんな姿になっても分かります。比企谷さんのことなら何でも知っています。

 

 

 だって八幡さんは千枝のモノなのですから。

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

八幡「おい夢見、プロフィールのバストはでっかいのまんまでいいのか?俺が測ってやろうか??」

 

 

りあむ「流れるようなセクハラ!!ハチサマまた中身入れ替わっちゃったの!!?」

 

 

八幡「…あの日入れ替わってから、夢見にだけは反射的にセクハラしちまうんだよ…」

 

 

りあむ「愛海ちゃんに体が調教されちゃってるじゃん!!やめてよ!!ぼくもみんなみたいに優しくされたいよう!!」

 

 

八幡「だから開き直ってセクハラすることにした。ふむ、95センチか。」シュルシュル

 

 

りあむ「き、鬼畜眼鏡ーーー!!」バタバタバタ

 

 

八幡「こら!夢見!まだウエストとヒップが残ってるぞ!!」バタバタバタ

 

 

 

 



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第1話 文香「毒も喰らう 栄養も喰らう 両方を共に美味いと感じ 血肉に変える度量こそが食には肝要だ」八幡「食べねぇよ」

 

 

文香「コオロギのおせんべいなるものを買ったのですが…私は食べませんので、差し上げます」

 

 

八幡「えー、なんで買ったの?輿水の枠狙ってんの?」

 

 

文香「いえいえ、他意はありませんよ。ええ、ありませんとも。では私は仕事がありますので…(後は紗枝さんが来るのを待つだけですね…)」フフフ

 

 

 

 

 

 

紗枝「あら、八幡はん。ええもん食べとーやん?おひとつも~らい♪」ヒョイ

 

 

 

 

八幡「あ…」

 

 

 

 

紗枝「もぐもぐ、…えびせんどすか?甘い物好きな八幡はんには珍しいなぁ」

 

 

 

 

八幡「………文香にもらったんだ」

 

 

 

 

紗枝「ふーん?しっかり餌付けされとんどすね~?」ジト

 

 

 

 

八幡「仕方ねぇだろ。何度言っても弁当作ってくるんだからよ。それよりそのせんべいなんだが…」

 

 

 

 

紗枝「なんどす?ヒョイパクッ、普通のえびせんどすなぁ?」

 

 

 

 

八幡「…いや、これなんだ」ポイッ

 

 

 

 

紗枝「ん~?コオロギせんべい?―――コオロギせんべい!!?む、むしぃぃぃ゛ぃ゛ぃ!!」バタリ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡「…俺は悪くない」トオイメ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

文香「…うふふ。紗枝さんなら必ず比企谷さんに近づくと信じていましたよ。ライバルはまだまだ多いですから…やばいですね」ウフフフフフ

 

 

 

 

 

 

 

 

第2話 紗枝「撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ!」八幡「男前すぎる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗枝「ほんにびっくりしたわ~文香はんも、いはったんなら止めてほしかったどす~」

 

 

 

 

文香「あっ…すみません、本を読むのに夢中で…」

 

 

 

 

 

 

 

紗枝「―――文香はんやったらコオロギなんか全然平気かもしらへんけど…」ボソッ

 

 

 

 

文香「…なにか、言いましたか?」

 

 

 

 

紗枝「いえいえなんでもないどす~」

 

 

 

 

文香「…あまり溜め込むとストレスで成長が止まると言いますよ?どこがとは言いませんが…」

 

 

 

 

 

 

ブチィッ!!!!!!

 

 

 

紗枝「―――文香はんは長野出身どす。長野言うたらザザムシやらイナゴやら食べはるんやろ?…そんな文香はんからしたらコオロギせんべいみたいなゲテモノ食べるんも平気か思ただけどす~」シレッ

 

 

 

 

八幡「…そ、そうなのか文香?」

 

 

 

 

文香「いえ、それは…確かに食べたこともありますが。あくまでそれは長野の文化であって…その…」アセアセ

 

 

 

 

八幡「別に引いてるわけじゃねえよ、文化は大切だからな…うん、引いてないです鷺沢さん…」ヒェッ

 

 

 

 

文香「ならどうして後ろに下がるんですか!?仕方ないじゃないですか!給食に出るんですから!!」

 

 

 

 

八幡「給食!!?―――俺が長野に行くことは無いだろうな…」

 

 

 

 

文香「そんな!!?将来二人で古民家カフェをする約束はどうなるんですか!?」

 

 

 

 

八幡「…いつそんな約束しましたかねぇ」

 

 

 

 

紗枝「そうどす。八幡はんは京でウチと古民家かふぇするんどす~」

 

 

 

 

八幡「古民家に対するその執着はなんなの?ビフォーアフターリスペクトなの?」

 

 

 

 

文香「比企谷さん!!蜂の子はピーナッツみたいな味なので、きっとおいしく食べていただけます!!!それに…精力増強にも良いと言われています!!!!」

 

 

 

 

八幡「いえ、結構です」

 

 

 

 

文香「食い気味に断られました!!?」ガーン

 

 

 

 

 

 

紗枝「―――蜂の子は取るんも難しいみたいで、えらいごちそうらしいどす。…たしか“ヘボ”言うんやったかなぁ?文香はんにピッタリどす♪さっ“ヘボ”はお引き取り願いまひょか♪八幡はんをこれ以上怖がらせたらかわいそうどす♪」

 

 

 

 

文香「なっ!!!お、覚えていてください~~!!!」バタバタバタ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紗枝「あららぁ。ぶぶ漬けも出してへんのに帰っても~た。おかしな文香はんやわぁ、なぁ八幡はん?」

 

 

 

 

八幡「いや、全部見てたからね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真奈美「昆虫食は高タンパク質なスーパーフードだよ。ダイエットにもピッタリさ、ほら君も食べるといいよ」ポリポリ

 

 

 

かな子「いえ…さすがに、遠慮しておきます…」

 

 

 

智絵里「い、意外とおいしいです…」ムシャムシャ

 

 

 

かな子「智絵里ちゃん…そんなポップコーンみたいにむしゃむしゃ食べるものじゃないと思うよ…」

 

 

 

 

 

終わり

 

 

 



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第3話 ありす「ごめんなさい。 こういうときどんな顔すればいいかわからないの。」桃華「ニマニマしてますわよ」

 

 

 

 

「比企谷さん、何か言わないといけないことがあるんじゃないですか?」

 

 

 

 

 自粛ムードもいよいよ終息し、溜まっていた仕事を片っ端から片付け、久々に文香の弁当を味わっていた昼休みのこと。険悪な声とは裏腹に、つい微笑んでしまいそうになる仕草と共に橘ありすはやって来た。

 

 腕を組みこちらを睨む様は大変に可愛らしく、いっそ写真でも撮ってやろうかとも思うのだが、これ以上怒らせるのは得策ではないだろう。

 

 

 

 

「…?おはよう橘」

 

 

 

「おはようございます、ありすです。ありすと呼んでください。―ではなく!言わないといけないことありますよね?」

 

 

 

「八幡ちゃま、紳士ならしっかり言葉にしないといけませんわ」

 

 

 

 

 

 いつもみたく煙に巻いてうやむやにしても良かったのだが、射抜くような視線を向けるありすはあくまで真剣なようで、子供扱いをするのは失礼だと思い直す。

 ただこちらにもやむにやまれぬ事情がある(主に黒歴史)。墓穴だけは掘らないように慎重に返答しなければならない。

 

 

 あと、扉からひょっこりと現れた櫻井に関しては俺のどこが紳士だと思うんだろうか。紳士より不審者の方がまだ近い気がするんですけど。

 

 

 

 

 

「…今日も橘は可愛いな」

 

 

 

 

「なっ!!ど、どこで覚えてきたんですかそんな言葉!!?」

 

 

 

 

 ふっ。一矢報いてやったぜ。

 

 口をパクパクとさせ、手はアワアワと宙をさまよわせるありすを網膜に焼き付け永久保存する。

 

 

 

 

 

「………八幡ちゃま、わたくしはいかがですの?」

 

 

 

「ハチくんハチくん!!アタシも褒めてー☆」

 

 

 

「ん?あぁ、櫻井も莉嘉も今日もいつも通り可愛いな」

 

 

 

「ふふっ。レディの扱い方…少しは心得てきたようですわね。その調子ですわ♪」

 

 

 

「えへへー♪ハチくんもカッコイイよ☆」

 

 

 

 

 

 恐る恐る言葉を紡ぐ櫻井は当然お嬢様可愛いし、どこからともなく現れた城ヶ崎もハツラツ可愛い。俺のぞんざいな褒め言葉でもこれほど喜んでくれるのなら、もっと安売りしてもいいんじゃないかと思える。

 

 次から次へと襲い来る可愛さが完全にキャパシティを超え、何らかの形でまろびでそうになった時、ふわふわした意識を引き戻す鋭くも可愛い声があがった。

 

 

 

 

 

「それでもなく!昨日文香さんを泣かしたと聞きました!!いくら事務所公認の鬼畜眼鏡とはいえ、女の子を泣かしてしまうのは許せません!!」

 

 

 

「そーだった!ハチくん!カブトムシをイジメちゃダメだよ!!」

 

 

 

「莉嘉さん、カブトムシは関係ないですわよ」

 

 

 

 

 

…夢見は後でディープな折檻をするとして。

 

 

 作為的に情報が伝わっている気がするし、何より主犯の名前があがらないのはおかしい。

 いや、あの場合最初に仕掛けたのは文香だからあいつが主犯になるのか?

 矛先を京の腹黒女から俺に変えたのか。姑息なやり方で嵌めようとするやからには、鬼畜眼鏡の本領を見せてやるとしよう。

 

 さしあたって莉嘉に蜂の子入りご飯の事を教えてトラウマ刻み込んでやろうか。カブトムシの幼虫食べる所も(世界のどこかには)あるらしいぜ。…あーやめとこ。シスコン怖いし。うん、懸命。

 

 

 こうなったらとっとと説明責任を果たしてもらって、俺の俺だけの何人たりとも介入させることの無いシエスタを貪らせてもらう。

 

 

 

 

 

 ギアスを持って命ずる。

 

「おい、文香。聞こえてるんだろ、早く出てこい」

 

 

 

 

 

「……呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン」

 

 

 

「…なんでほんとにヘボくなってんの?」

 

 

 

 

 

 

 顔を真っ赤にして謎の供述を繰り出す真犯人につい毒気を抜かれてしまう。可愛いじゃねぇか、くそう。

 狙ってやったとしたら相当な策士だし、天然ならそれはそれでとてもいい物なのである、と声を大にして宣言したい。魚も天然の方が美味しいしたぶんそんな感じ。

 

 だがそんな内心には気付かず、ありすは文香に歩み寄ろうとする俺の前に両手を広げ立ち裸る、じゃなくて立ちはだかる。

 

 

 

 

 

「文香さんは私が守護(まも)ります!!」

 

 

 

「でしたらわたくしは…は、八幡ちゃまを抑えておきますわ!!」

 

 

 

「わーい!莉嘉も襲っちゃおー♪」

 

 

 

「…わ、私も」

 

 

 

「文香さん!?それから桃華さんに莉嘉さんも何をしてるんですか!!?」

 

 

 

 

 

 何か決心をしたような強い瞳に見蕩れていた俺を、バラの香りを纏った桃華がふわりと抱きしめる。これで何か抑え込まれてるんですか?むしろ溢れそうなんですけど。

 そのまま元気よく莉嘉に飛びつかれ、文香までもが申し訳なさげにちょこんと袖をつまむ。

 組み付いたままにキャイキャイと楽しげにはしゃぐ3人の姿に、ついにありすも毒気を抜かれてしまったのか何か言いたげな表情でこちらを伺う。

 

 

 昨日のことはおいおい説明するとして。

 怒ったり照れたりと色々な表情を見せてくれるありすだが、せっかくなら寂しそうな顔よりも楽しそうな笑顔の方が見てみたい。

 でっかい人もきっとそう言うだろうし、何よりこんなシュンとした顔はありすには似合わない。

 

 

 

 

「………ありすも来るか?」

 

 

 

「橘ではなく、ありすと読んで…あれ??………うーっ。4人で押さえ込んだ方が効率的ですから!仕方なくですから!」

 

 

 

「…さいですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちひろ「あらあら、4人ともこんな所で寝ちゃって」ウフフ

 

武内P「比企谷さんのこのような油断した姿は珍しいですね」

 

ちひろ「せっかくなので写真を撮っておきましょう。買収、脅迫。いいネタ頂きですね♪」ウフフ

 

武内P「いい笑顔です」

 

 

 



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第4話 仁奈「泥棒猫の気持ちになるでごぜーますよー」桃華「あ、あの…この件は内密に…」

 

 

 

 

 

 

「ふふっ、四人とも気持ち良さそうに寝てますわ。」

 

 

 

 ふわぁ…4人に毛布を掛けたところで、わたくしも眠くなってしまいました。

 お父様でも執事でもない男性の前で眠くなってしまうなんて、はしたないことを…でも知れば知るほどにこの方の行動や言動には優しさが隠れてますの、そんな八幡ちゃまですものつい甘えてしまってウトウトするくらいは仕方ないと思いませんこと?

 

 それにしても、八幡ちゃまもずいぶんと油断したお顔をなさってますわ。―文香さんは絡みつきすぎですし、はがしておきましょう。―ありすさんは心底幸せそうですわね。そっとしておいてあげましょう。―莉嘉さんは股間をにぎにぎしてますが、本当に寝てるのかしら。あのピュアピュアな美嘉さんの妹とは思えませんわ。

 

 

 

 ……ところでこれは千載一遇のチャンスでは?誰も見ていないですわよね。将来を誓い合ったのですもの、これはあくまで前借りですわ…あぁ、どうしてこんなにもドキドキするのかしら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちひろ「武内さん今日こそ一緒に飲みに行ってくれますよね?」テクテク

 

 

 

武内P「申し訳ございません。おそらく本日も残業になるかと…」テクテク

 

 

 

ちひろ「またですか~?んー、それなら武内さんの家でご飯作って待ってましょうか??」

 

 

 

武内P「いえっ!それは困ります!本日は楓さんが…あっ、コホン。違いました。比企谷さんと飲みに行く約束をしていたのをしていますので」

 

 

 

ちひろ「楓さんって言いました?」

 

 

 

武内P「言ってません」

 

 

 

 

―――ガチャッ  パタパタパタパタッ

 

 

 

 

 

ちひろ「だいたいそんなこと比企谷君に聞けばすぐ、あら桃華ちゃん?そんな急いでどこへ…行ってしまいましたね?」

 

 

 

武内P「ずいぶんとお顔が赤かったようです、体調など崩していないといいのですが」

 

 

 

ちひろ「あれはそういったものではないと思いますよ。乙女の勘です。―――それより比企谷君に聞きますからね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

武内P「それは難しいかもしれません…」

 

 

 

ちひろ「あらあら、4人ともこんなところで寝ちゃって」ウフフ

 

 

 

武内P「比企谷さんのこのような油断した姿は珍しいですね」

 

 

 

ちひろ「せっかくなので写真を撮っておきましょう。買収、脅迫。いいネタ頂きですね♪…ところで武内さん、比企谷君は今日この後、飲みに行けると思いますか?」

 

 

 

武内P「…思い、ません…」

 

 

 

ちひろ「ではお家にお邪魔してご飯を作って待ってますね♪」

 

 

 

武内P「……いい笑顔です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仁奈「おー!桃華はどうしてそんなに真っ赤でごぜーますかー?」

 

 

 

桃華「―――A secret makes a woman woman.わたくしも今日からは大人のレディということですわ」フフーン

 

 

 

仁奈「顔真っ赤でごぜーますよ?」

 

 

 

桃華「ッ!!それは言わないでくださいまし!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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単短編×2

 

 

単短編高収入 乃々「ピアノ売ってちょ~だ~い♪」仁奈「そのと~り♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

乃々「ドンドンドン ドーンキ ドンキ ホーテー♪」カキカキ

 

 

 

仁奈「乃々おねーさん、お絵かきでごぜーますか?」ヒョコッ

 

 

 

乃々「ひぇっ、え、絵本を書いてるんですけど――その…歌のことはみなさんに、内緒にしてて欲しいんですけど…」

 

 

 

仁奈「仁奈も一緒にお絵かきしてーでごぜーます!お歌も一緒に歌うですよー♪」

 

 

 

乃々「ひえぇぇぇ、お絵かきは、いいんですけど…」

 

 

 

仁奈「ドンドンドン♪ドーンキ♪ドンキ♪ほーけー♪」

 

 

 

乃々「そんな言葉アイドルが言っちゃいけないんですけど!!!」

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 

八幡「森久保~絵本できたか~?」ガチャ

 

 

 

乃々「ドンドンドン♪ドンッキー♪ドンキーホーテー♪ボリューム満点激安ジャングル~♪」キャッキャッ

 

 

 

仁奈「ジャングルでごぜーます!!!」フゥッ!!

 

 

 

八幡「……楽しそうだな森久保」

 

 

 

乃々「ひぇっ!わ、忘れてください!!」

 

 

 

仁奈「乃々おねーさんたのしそーだったでごぜーます♪」

 

 

 

八幡「…買い物行くか?」

 

 

 

乃々「もう行ったから歌ってるんですけど!!!」ガオーッ

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

乃々「バーニラ バニラ バーニラ 求人♪」カキカキ

 

 

 

仁奈「乃々おねーさん、お絵かきでごぜーますか?」ヒョコッ

 

 

 

乃々「ひぇっ、またしてもぬかったんですけど…」

 

 

 

仁奈「今日はアイスのお歌でごぜーますね!仁奈、アイス好きですよー!」

 

 

 

乃々「もりくぼも好きです。…ではなくこの歌は、本当にダメなんですけど…」

 

 

 

仁奈「バーニラ バニラ バーニラ 囚人♪」

 

 

 

乃々「センシティブな話題なんですけど!!!」

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

八幡「森久保~絵本できたか~?」ガチャ

 

 

 

乃々「バーニラ♪バニラ♪バーニラ♪求人♪バーニラ♪バニラ♪」キャッキャッ

 

 

 

仁奈「高収入でごぜーます!!!」フウッ!!

 

 

 

八幡「高収入!!!」フゥッ!!

 

 

 

乃々「ひぇっ!!!ノッてきたんですけど!!」

 

 

 

仁奈「おぉ!さすがはちまんでごぜーます!!キレキレでごぜーます!」

 

 

 

八幡「―妙に耳に残るんだよ、この歌…」

 

 

 

乃々「わかりみなんですけど…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちひろ「高収入!?」ハッ

 

 

武内P「どうされましたか?」

 

 

ちひろ「誰かがお金儲けの話をしてる気配を感じました」

 

 

武内P「…アイドルはお金儲けの道具ではないですよ?」

 

 

ちひろ「…やだな~そんなこと考えてるわけ……ないじゃないですか~」メソラシ

 

 

 

 

 

終わり

 

 

 

 

 

 

 

 

単短編練乳 桃華「コピルアク?高級品だそうですし淹れてみますわ」八幡「それはいけない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桃華「八幡ちゃま、お疲れ様ですわ。――コーヒー淹れましたの、そろそろ休憩しませんこと?」

 

 

八幡「助かる。ちょうど一段落ついたところだ」

 

 

桃華「ふふ、八幡ちゃまのことなら何でもお見通しですわ♪――こちらにおかけくださいな」ポンポン

 

 

八幡「…なんでこんな広いのに隣なんだよ」

 

 

桃華「お膝の上でもよろしくてよ?」

 

 

八幡「隣に座らせていただきます。」

 

 

 

 

――ごくっ

 

 

八幡「ッ!!……うまいな。これ本当に櫻井が淹れたのか?完全にマッカンの上位互換だぞ」

 

 

桃華「当然わたくしが淹れましたわ。毎日淹れてあげてもいんですのよ?」

 

 

八幡「まぁ毎日でも飲みたいくらいだが。――これ本当にどうやって作ったんだ?飲めば飲むほど本物のマッカン過ぎる」

 

 

桃華「ふふ、レシピを手に入れましたの♪」

 

 

八幡「ふーん、レシピね~。―――は?いや、企業秘密だろ」

 

 

 

 

桃華「買収しましたの♪」

 

 

 

 

 

 

八幡「・・・あー、コーヒーおいしいなー」トオイメ

 

 

桃華「あっ!現実逃避しないでくださいまし!!ほらっ!八幡ちゃま!ここにいるのはマックスコーヒーの社長ですわよ!!」

 

 

八幡「・・・疲れた体に甘さが染み渡るな~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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単短編ヤンデレ誕生 八幡「じーーーー」菜々「な、なんですかその目は!!?」

 

 

 

 

 

「あー、コーヒーでも飲むか…?」

 

 

 

 今日から担当することになったアイドルとの距離感がまだ掴めずつい典型的おじさんムーブをかましてしまう。

 そもそも初対面の人との距離感など俺に分かるはずがない。事務所を見渡しても誰もおらず、俺の呟きはガラガラの部屋を音速で駆け抜け壁にぶつかり幾度も反響したのちにポトリと床に落ちる。誰かフォローはよ。

 近づけば近づくほど離れていくものなーんだ?正解はその人との心の距離。…なんて寂しいクイズなんだ。―――いいんだよ、これが俺のソーシャルディスタンス。

 

 

 

「い、いえ、コーヒーはまだ飲めないので大丈夫です…」

 

 

 しかも断られちゃったよ。

 

 

「これはコーヒーじゃない。マックスコーヒーだ」

 

 

 

 続けて俺の意味の分からない一言。――この人なに言ってるんだろう、みたいな目線が痛い。

 仕方ないので手に持っていた2本のマッカンをカバンにしまう。

 

 改めて目の前の、“背中まで伸びた長い黒髪がどこか雪ノ下を思わせる、あいつとは正反対の雰囲気を持つ気弱な美少女”と向き合い挨拶をする。

 共通点は絹のような黒髪ロングの髪型と黒曜石のような濡れた瞳くらいなもんだが、それでもついあいつと重ねてあれやこれやと世話を焼きたくなる容姿をしている。

 

 

 

「今日から担当することになった比企谷だ。よろしく頼む。」

 

 

「は、はい、さ、佐々木千枝です……よろしくお願いしますっ」

 

 

「・・・おう」

 

 

「・・・」

 

 

「・・・・・・あー、ウサギのヘアピン可愛いな」

 

 

「へっ!?じ、自分で作ったんです。他にもたくさんあるんですけど、今日はなんとなくウサギの気分だったので…」

 

 

 

 間が持たずに適当に褒めたところそれがクリーンヒットだったらしく、少し驚いた後に照れたような笑顔を見せてくれる。先ほどまでの堅い空気も少し柔らかくなった。ウサギって1年中発情期らしいぜなんて、小町に言えば1週間は口を聞いてくれなくなるようなクソ豆知識が頭をよぎるが当然黙殺。

 

 

 今日の予定は来週にユニットで出ることが決まったステージの下見に行きイベント担当の方へ挨拶をしないといけないのだが、佐々木の緊張がこちらまで伝わってくる。昨日急遽リーダーに決まったことをプレッシャーに感じているのかもしれない。

 

 第一印象ではとてもリーダーに向いてそうな性格には見えないが、ほかならぬ武内さんが決めたことなのであの人にしか見えない輝く何かがあったのだと思う。おそらくポエミーなセリフと共に任命されたであろうこの少女がそれをどう感じたかは分からないが、先ほどまで一人で朝練をしていたのを見るとまだ焦りばかりが先行してしまっているのだろう。

 

 

 

「そんじゃ行くか」

 

 

「あっ、はい。よろしくお願いします。――――えと、髪になんか付いてます?」

 

 

「いや、黒髪ロングが好きなだけ…じゃなくて昔の知り合いになんとなくその髪型が似てただけだ…」

 

 

「そうですか…元カノさんですか…?」

 

 

「さっ、早く行くぞー!」

 

 

「・・・」

 

 

 

 うっかり純粋無垢な小学生に性癖を暴露しかけたが、天才的…天災的な機転により無事回避することができたし、なぜ別れていることを前提で質問してきたのかは気にしないことにする。

 

 ショッピングモールのイベントスペースに着きステージを見あげる佐々木の横顔は、緊張と興奮のごちゃ混ぜになった表情をしていた。ここに来るまでの車中の気まずさなど一気に吹き飛んだようだ。 

  

 

 

「すごく・・・大きいです・・・」

 

 

「・・・そうだな、ステージがすごく大きいな」

 

 

 

 この子緊張しているように見えて案外余裕あるんじゃないのかなんて思うが、こんな天使が小悪魔風なセリフ回しをするはずがないので、本当に会場が大きいことにそのままの感想を言ったのだろう。そうだよね?

 

 

 

「こんなに大きなステージでライブができるんですね…」

 

 

 

 

「――――まあオープニングアクト…前座みたいだもんだ。言っちゃなんだがほとんどがニュージェネを見に来てる客だ」

 

 

「・・・」

 

 

 

 まさか自分のプロデューサーにそんなことを言われるとは思わなかったのか、驚いた顔で俺を見た後うつむいてしまった。

 

 期待ってのは、すればするほど裏切られた時の反動が大きいからな。本田の“私アイドルやめる!“を間近で見てしまった俺としては例え今佐々木を傷つけるようなことになろうとも、リーダーとしてユニットを引っ張っていき支えていく覚悟をしてほしかった。

 そのニュージェネが今やメインイベントを張ることに感慨深い気持ちにもなるが、来週ステージに立つのはその当時の彼女たちよりも更に幼いメンバーだ。

 

 

 

「やめたくなったか?本番はもっと露骨に客から言われるかもしれねぇぞ」

 

 

 

 

「・・・・・・比企谷さんは、優しいんですね」

 

 

 長い沈黙を挟んで、俺の考えなどお見通しとばかりに佐々木がぽしょりと言葉を漏らす。

 まさかそんな言葉が返ってくるなんて思ってなかったので面喰ってしまう。リーダーになってまだ焦りばかりが先行してしまっているのだろう。なんて言ってたやつ誰だよ、俺だよちくしょう。

 

 男子三日合わざれば刮目して見よなんて言うが、女子は刮目するわけにもいかねぇんだよ。逮捕されちゃうから。

 

 

「千枝たちは大丈夫です。比企谷さんが本当に千枝たちのことを心配してくれていることも分かりましたし。」

 

 

「・・・プロデューサーの仕事だからな」

 

 

 

 俺なんかが余計なお世話をしないでも武内さんが見出した佐々木千枝というアイドルはとうにリーダーとしての覚悟を決めていたらしい。

 雪ノ下の時もそうだったが、何でもかんでも世話を焼くだけがパートナーの役割ではないことを未だに俺は分かっていなかったらしい。目の前にいる、あいつに似てはいるが正反対の少女もまた、俺が世話を焼かずともアイドルとして光り輝いていけるのだろう。

 

 

「・・・千枝じゃない女の人のこと考えてます?」

 

 

「まさか。徹頭徹尾佐々木のことしか考えてなかった。佐々木以外の存在を忘れていたまである。(超早口)」

 

 

「・・・」

 

 

「さっ、早くイベント担当の方に挨拶いくぞー!」

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 千枝は可愛いらしいです。

 そう気が付いたのはいつだったのかは思い出せません。物心ついたころには周りから特別扱いばかりされてきましたから。

 同級生の男の子も女の子も、先生や近所のおじさんやおばさんも。可愛い千枝の可愛いところしか見ようとしません。お姫様みたいに扱ってくれます。

 欲しいものは簡単に手に入るし、嫌なことは誰かが知らない間に遠ざけてくれています。千枝はただ可愛いだけなのに。こんなの何もおもしろくないし楽しくない。

 

 だから千枝は考えました。どうしたら特別扱いされないんだろう。可愛くなくなればいいのだろうか。嫌われればいいのだろうか。

 そんなこと出来るはずがないんです。どうしたって千枝は可愛くなってしまうし、きっとみんなは嫌ってはくれないから。

 

 そんな時、テレビに映ったアイドルを見つけたんです。千枝は思いました。千枝ほどじゃないにしても可愛い女の子が集まるあの中でなら、千枝は特別じゃなくなることができるのではないかと。普通の女の子として扱ってくれるのではないかと。

 今なら特別になりたい女の子が集まるところで特別じゃなくなりたいだなんて、到底無理なことだったと分かります。

 

 アイドルになると決めてからはとんとん拍子でした。両親も喜んで東京の寮に入る許可をくれました。

 ここでなら千枝は特別じゃない、その他大勢の一人の女の子になれる、そんな喜びでいっぱいでした。

 

 

 でも結局アイドルとしても千枝は特別になってしまいました。

 その他大勢になれると思っていたのに、無駄に大きな体をした大人の男性から理解不能なポエムを浴びせられ目を回しているうちにユニットに放り込まれてしまいました。才能があったんだと思います。当然努力もしました。一ヶ月後にはまたポエムを浴びせられ回復した時にはリーダーにさせられてしまいました。コナン君の気持ちが少しわかった気がします。

 

 

 

 彼に出会ったのは、出会ってしまったのはそれがあった次の日のことでした。 

 

 

 

「あー、コーヒーでも飲むか…?」

 

 

 朝練はとても大切です。何もしていない千枝が特別扱いされればすぐに嫉妬の的にされてしまうので、人より努力する姿を見せてセルフプロデュースしないといけません。

 

 朝練から戻った千枝を待ち構えたのは眼鏡をかけた妙に色気のある分類するなら男前に属されるであろう男性でした。

 どうやら彼が千枝たちを担当してくれるプロデューサーだそうです。プロジェクト発足当初から裏方として支えており多くのアイドルから慕われているそうです。

 

 でも期待外れです。第一声から千枝を気遣うような言動、結局この人も千枝を特別扱いなんです。

 

 

 

 「これはコーヒーじゃない。マックスコーヒーだ」

 

 

 

 絶句。

 

 あなたがコーヒーって言ったんじゃないですか。こっちは運動した後なんですよ、普通スポーツドリンクです。だいたいそんな毒々しい色した缶を飲みたいなんて思う人いるわけないです。それになんでちょっと怒ってるんですか。

 あせって自己紹介は噛んでしまうし、千枝、この人とは合わない気がします…

 

 

 

「・・・・・・あー、ウサギのヘアピン可愛いな」

 

 

 

 不意の一撃でした。千枝が可愛いのなんて当たり前ですし、その手の誉め言葉なんて2兆回以上言われてきました。

 

 だから、人から何もしなくても与えられるもではない、自分が欲しいと思って自分で作ったこのヘアピンを先に褒めるだなんて。――さっき怒られたことは許してあげようと思います…

 

 

 

「いや、黒髪ロングが好きなだけ…じゃなくて昔の知り合いになんとなくその髪型が似てただけだ…」

 

 

 

 はああぁぁぁ??この男、千枝の前で昔の女の話してるんですけど、黒髪ロングが好きならそういえばいいじゃないですか。昔の女の話なんか聞きたくもないんですけど…聞きたくはないけど一応聞いてあげたのに無視するなんて。許そうと思ったけどやっぱり許してあげません。

 

 仕返しにちょっとからかってやります。純粋無垢な千枝の口から“下ネタに聞こえてちょっとドキッとするけど、言ってるのは普通の感想”を仕掛けます。

 

 

「――――まあオープニングアクト…前座みたいだもんだ。言っちゃなんだがほとんどがニュージェネを見に来てる客だ」

 

 

 ちょっとすっきりしたので思ってもいない普通の女の子っぽいセリフを、空気を読んで言ってあげると突然暴言を吐かれました。この人は千枝のことが嫌いなんでしょうか。そんな人いるはずがないのに。

 

 ・・・そんな人はいるはずがありません。きっとこれは遠回しに千枝を応援しているんだと思います。それがどういう意味かはまったく分かりませんがそうに違いありません。

 

 

 ―――ほら!やっぱり遠回しな応援でした!!プロデューサーの仕事だからな、なんて言って照れ隠しまでしちゃってます。

 ん?いや!これは照れ隠しじゃない!こいつ全然違うこと考えてます!

 …なんでさっきから千枝の前で千枝以外のこと考えてるんですか…昔の女のことなんか忘れて…千枝のことだけ考えていればいいのに…

 

 

 今考えれば千枝はこの時にはもうおかしくなっていたのかもしれません。

 特別扱いが嫌だからここに来たのに千枝を全く特別扱いしないこの男を、いかに千枝のモノにするか考え始めてしまっていたのですから。

 

 比企谷さん、ウサギは1年中発情期なんですよ…

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

桃華「おはようございます。本日も良い天気。絶好のライブ日和ですわね八幡ちゃま♪」

 

 

八幡「あぁ、おはよう。屋外ステージだからな、マジでホッとしたわ…」

 

 

仁奈「昨日の夜八幡と、てるてる坊主になった甲斐があったでごぜーますね!」

 

 

薫「えぇぇ!せんせぇがてるてる坊主になったのー!?薫も一緒にやりたかったよー!」

 

 

八幡「女の子がやりたかったとか言うんじゃありません」

 

 

みりあ「あとは千枝ちゃんだけだね!―――あっ来たよ!千枝ちゃ、ん???」

 

 

千枝「おはようございます♪」

 

 

八幡「い、いや…佐々木、そんなばっさり髪切って、どうしたんだ…??えっ、失恋?」

 

 

千枝「もー、違いますよー。比企谷さんが千枝を見るたびに元カノさんを思い出してセンチメンタルな顔をしてたので、可哀そうになって切っちゃったんです♪」

 

 

 

 

八幡「――――元カノとかいないですから…」

 

 

桃華「なっ!聞いてないですわよ!八幡ちゃま!!…わたくしだけを愛してくれていると信じていましたが身辺調査をするべきかもしれませんわ(ボソッ)」

 

 

八幡「何もねぇから。…何もねぇ…けど、探偵はやめてね?」

 

 

仁奈「おー!八幡にはタレがいたでごぜーますね!」

 

 

八幡「言葉のチョイスがひどすぎる…」

 

 

薫「せんせぇ、振られちゃったの?薫が頭なでなでしてあげるっ!」

 

 

八幡「――なんで振られた前提なんですかね…」

 

 

みりあ「私は過去の女なんて気にしないわ。大事なのは八幡が今誰を一番に愛しているかだけよ」

 

 

八幡「…ハーレクイン小説読んだ?」

 

 

 

 

 

千枝「…ウサギ、比企谷さんが初めて褒めてくれたからずっとつけることにしたんです♪」

 

 

八幡「まぁ、今日のは前と違うやつだが可愛いな。髪型も…似合ってる」

 

 

千枝「ふふ、それに黒髪ロングが好きって言ってましたけど、それは元カノさんがそうだったからですよね。…これからは黒髪ショートを好きって言わせて見せますっ♪」

 

 

八幡「…佐々木にはこの先とんでもない目にあわされる気がするわ」

 

 

――――――

 

 

ちひろ「お疲れ様です。ライブ大成功だったみたいですね。なぜかライブ中のみんなハイライトが消えていたのが気になりましたが」

 

 

八幡「ハハッ!何のことかわかりかねますね!!」

 

 

ちひろ「まっ、しっかりフラグ管理してくれるなら別にいんですけどねー。…それよりどうしてあの選曲だったんですか?」

 

 

八幡「汚ねぇ大人だぁ~。――単純にYes! Party Time!!が一番好きなんですよ。ロリっ子どもが背伸びしてる感じがグッとこないですか?」

 

 

ちひろ「・・・『あ、もしもし早苗さん?』」

 

 

八幡「すみません!ウソウソ!オープニングアクトだし元気なノリやすいのがいいと思ったからです!!!」

 

 

 

 

終わり

 



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単短編5.15 菜々「アレクサ、お前を消す方法」八幡「なんですか、それ?」

 

 

 

prrrrrr prrrrrr prrrrrr prrrrrr

 

 

 

 今日はナナの17回目の誕生日です。

 事務所のみんなもたくさんお祝いしてくれたので、お家へ帰る頃にはすっかりくたくたになってしまいました。

 

 頂いたプレゼントをきれいに飾り付け、包装紙や紙袋を整理しているとナナの電話が着信を知らせてくれます。相手を確認し応答すると、その奥から窺うように遠慮がちな声が聞こえてきました。

 

 

 

『あー、俺です。こんな時間にすみません。…いま大丈夫ですか?』

 

 

「大丈夫ですよ。比奈ちゃんと奈緒ちゃんからいただいたプレゼントの設定がやっと終わって、お家の掃除をしていたところです」

 

 

『…かけなおします』

 

 

 

 普段からよく気が付くしとても気の回る彼なのですが、ずいぶんと自分を下に見ているところがあります。

 今回も電話をかけたはいいものの、人の時間を自分なんかが使ってもいいのかなどと考えてしまっているのでしょう。というより本人がそう言っていました。

 

 ナナとしてはもっと気軽にかけてきてほしいのですけれど、便りがないのは元気な証拠とも言いますし…そこは寛容になってあげようと思います。

 でもきっとお義母様は心配なさっているはずですよね、今度かけるように言っておきましょう。これでポイントアップ間違いなしです。嫁姑問題は大変だと聞きますからね。

 

 そんな彼がせっかくそんなかわいらしい葛藤を超えてかけてくれたのだから、ここで切ってしまうのはもったいないです。

 

 

 

「あっ、待ってください…はい、スピーカーにしたのでお話の続きをどうぞ」

 

 

『わかりました。…プレゼントは何をもらったんですか?』

 

 

「プレゼントですか?―――アレクサ??をいただきました」

 

 

『それは確かに設定に時間がかかりそうですね。…あー、その……今日は忙しくてお祝いを言う時間がなかったので。改めて、お誕生日おめでとうございます。』

 

 

 

 何気ない問答を前置きに、とても照れくさそうにお祝いを言う彼のせいで、電話の向こうでいつものようにガシガシと自らの頭を乱暴に撫でる彼を想像してしまい、つい笑みがこぼれてしまいました。

 

 

 

「ふふっ。わざわざお電話ありがとうございます。―――それから、こちらこそいつも助けてくださってありがとうございます。比企谷君のこと、みんな頼りにしているんですよ?」

 

 

『…仕事ですからね、給料分くらいは働きますよ』

 

 

 

 お祝いの言葉で温かくなった心のおすそ分けをしようと日ごろの感謝を伝えてみると、案の定ぶっきらぼうな調子で皮肉気なセリフが返ってきました。

 彼がアルバイトの域を超えて事務所に尽力してくれているのは誰もが知るところなのに、なぜか彼は頑なにこのスタンスを崩そうとはしません。

 

 

 

「またまた照れちゃってー。比企谷君がいつも優しい目でみんなを見守っていることをナナは知っています。お姉さんの目はごまかせませんよ~?」

 

 

『お姉さんって。…菜々さん17歳じゃなかったんですか?』

 

 

 

  

 せめてナナにだけはその心の深くまで教えてほしいと思いお姉さんぶってみたわけなのですが…

 なんて失礼なことを言う子なのでしょう。比企谷君より年上だけどナナは永遠の17歳なのです。

 

 

 

 とはいえ。今日はナナの誕生日です。

 一年に一度のおめでたい日です。メールにはなってしまいましたがお父さんとお母さんにはきっちり感謝を伝えました。

 なら後は、ナナが多少のわがままを言っても許されるはずだと思うんです。

 

 なので…さしあたって、彼が“どういたしまして”を言えるまで日ごろの感謝を伝え続けることから始めようと思います。

 

 

「話をそらしてもダメです!せっかくの機会なのでナナからの感謝の言葉も受け取ってもらいます」

 

 

『…仕方ないですね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…仕方ないですね――――アレクサ、部屋の電気を消して』

 

 

「あれっ!?勝手に部屋の電気が消えちゃったんですけど!!?あぁっ!スピーカーにしたから反応しちゃったんですね!?」

 

 

『アレクサ、アマゾンでマックスコーヒーを購入して』

 

 

「ナナの家にマッカン届けようとしないでください!!」

 

 

 

ガチャッ

 

 

 

「お待たせしました。マッカン風味のバースデーケーキです」

 

 

「なっ!!!なんて手の込んだサプライズ!!!!」

 

 

 

終わり

 



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単短編×2

 

 

単短編78 八幡「ん?これ?生配信」千夜「遺言はそれでいいですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七海「プ、プロデューサーさんの竿、ビクンビクンなってるれすっ。こんな大きいの、七海初めてれす…」

 

 

八幡「っふざけてる場合か!あぁぁああぁ、持ってかれる!すげー引いてる!釣りってこんな力仕事なのかよっ!!?」

 

 

七海「すごいれす!すごいれす!どんどん近付いて来てるれすよ~♪」

 

 

八幡「見れば分かるわ!!くっ!!すげぇ力!大丈夫なのか!?糸切れねーのか!!?」

 

 

七海「大丈夫れす。そのテグスなら100㎏以上に耐えられるれす」

 

 

八幡「さすがおさかなアイドル。これからも自信をもってプロデュースできるわ」

 

 

七海「でへへぇ~♪」

 

 

 

 

 

八幡「…じゃなくて!マジでヤバい!!ほらもう見えてきてるぞ!タモ!タモくれタモ!!」

 

 

七海「ぎょふふっ!急におじゃる丸のモノマネしてるれすっ!タモくれたも~♪もうっ!笑かさないで欲しいんれすけど!!なら七海はタモさんのモノマネするれすよー!『あれ?髪切った?』------ふと思ったんれすけど、プロデューサーさんと七海のお名前、語感がいいれすよね」

 

 

八幡「おま、マジでふざけんなよ!?情緒どうなってんだよ!!?くそっ!自分でやるよ……うるぅぁあああ!!」

 

 

七海「じーーーーー」

 

 

八幡「……釣れちゃったよ。一人でマグロ釣っちゃったよ…」

 

 

七海「じーーーーーーーーー」

 

 

八幡「お前ほんと何してんの?なんで写真撮ってんの?ちょっとくらい手伝ってくんない??」

 

 

七海「じーーーーーーーーーーーーー」

 

 

八幡「…動画か。…なんでこんな訳の分からんタイミングでベタないたずらしてんだよ…自由が過ぎんだろ…」

 

 

七海「―――生配信してるれす。あっ、視聴者が10万人を超えたれす」

 

 

八幡「自由が過ぎる!!!」

 

 

 

終わり

 

 

 

 

 

 

 

 

単短編呂布 クラリス「バルス!!」八幡「・・・なんかずるくないですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハグハグハグッンッ!ハグハグハグハグッ!!

 

 

 

 

八幡「…よく食べますね。クラリスさん」

 

 

クラリス「ハグハグッ…ゴクン!―――ザオリクッ!!!」

 

 

八幡「…なんで蘇生魔法かけられたんですかね」イラッ

 

 

クラリス「…??…ハッ!―――シャナクッ!!!」

 

 

八幡「……なんで解呪魔法かけられたんですかね」イライラッ

 

 

クラリス「―――おや、比企谷様でしたか…何と言いますか。つい?」

 

 

八幡「ぜつゆる」

 

 

クラリス「ふふ、神はすべてを許してくださいますわ」

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

ハフハフッホフホフホフッ

 

 

 

――クルクルッ

 

八幡「…ほんとよく食べますね。クラリスさん。暴食は大罪じゃなかったんですか?」

 

 

クラリス「“汝、我慢することなかれ。飲みたい気分の時に飲み、食べたい気分の時に食べるがよい。明日もそれが食べられるとは限らないのだがら……”でございます」

 

 

八幡「日本にアクシズ教なんてねぇよ」

 

 

クラリス「そんなことより比企谷様。おかわりはまだでございますか?次はポン酢であっさりめにお願いしたいです…」

 

 

八幡「もうタコも粉もねぇよ。どんだけタコ焼き作らすんだよ、腱鞘炎なるかと思ったわ」

 

 

クラリス「…バシルーラ」ボソッ

 

 

 

――イラッシャイマセー

 

八幡「―――なッ!!…あの腹ペコシスター、スーパーに飛ばしやがった…」

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

ブンッ!!ブンッ!!

 

 

七海「クラリスさん何してるんれすか~?」

 

 

クラリス「あら、七海さん。もうすぐ比企谷様がタコ焼きの食材を買って来てくださるので、それまで暇つぶしに素振りをしてるんです♪」

 

 

ブンッ!ブンッ!

 

 

七海「もんぎゃ~!タコ焼きれすか!?七海も大好きれす!!」

 

 

クラリス「ええ、ぜひご一緒しましょう♪もちろん素振りもご一緒に♪――ちなみに私はカブレラのフォームをマネしてます」

 

 

ブンッ!ブンッ!

 

 

七海「なら七海はローズのフォームをマネするれすよ~!」

 

 

ブンッ!ブンッ!

 

 

 

―ガチャ

 

 

 

八幡「えっ?なんで腹ペコシスターとおさかなアイドルが事務所で素振りしてんの?…幻覚?メダパニくらってんの?」

 

 

 

終わり

 

 

 

 

 

 

ザンッ!ブォンッ!

 

 

智絵里「ほ、方天画戟は…使い方がむずかしいです…」

 

 

かな子「智絵里ちゃん…なんで三国無双の呂布のモーションしてるの…ツインテール?そのツインテールが悪いの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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単短編ニンッ! 森久保「チャクラを開くために朝に、6時間かけてヨガしてるんですけど」八幡「片岡鶴太郎か」

 

 

 

八幡「ってことで、来週の100時間耐久森久保生配信の打ち合わせはこんなところで…聞いてるのか?」

 

 

乃々「―――獣王の波動を感じるんですけど」ボフッ

 

 

八幡「ゴホッ、ゴホッ………」

 

 

 

 

――――ドタドタドタドタッ、バンッ!!

 

 

拓海「ここにいるんだろ!森久保ォ!!!――――あ?八幡だけか??…おっかしーなー、確かにここから森久保の匂いがしたんだけどな~。ってか、この部屋なんか煙たくねぇか?」

 

 

八幡「……そーゆーことか。――森久保ならさっきまでいたが、波動がなんとかって言ったと思ったら、煙玉叩きつけて消えちまったよ」

 

 

拓海「ちっ、八幡だけか。八幡って、それはないでしょう」

 

 

八幡「俺の名前をどこぞのなろう系みたいに言うな。それより森久保になんか用でもあったのか?」

 

 

拓海「いや、特にねーぜ。しいて言うならモフりに来た。………え?煙玉?」

 

 

八幡「おせーよ。なんで驚きより先にボケがでんだよ」

 

 

乃々「煙玉は火遁の一種。忍法の基本なんですけど」ドロン

 

 

八幡「あ、出てきた」

 

 

拓海「ッ!いったいどうなってんだ!?――いや、今はそんなことはどうでもいい…森久保ォ!モフらせろぉぉ!!!」ガバッ

 

 

乃々「残像なんですけど!」フォン

 

 

拓海「なっ!!…まだまだぁ!!!」

 

 

雫「わぁー、拓海ちゃんいきなりどうしたんですかぁ?」ギュム

 

 

乃々「身代わりの術なんですけど!!」

 

 

拓海「す、すまねぇ雫!!」

 

 

雫「急に景色がお家から事務所に変わったからびっくりしましたよ~」

 

 

八幡「おぉ!事務所の巨乳トップ2の絡み!これは8Kで撮影するしかねぇな!(森久保)」

 

 

拓海「八幡!?いきなり何言ってんだよ!!?」

 

 

乃々「声真似の術なんですけどぉ!!!」

 

 

八幡「名誉棄損にも程がある…」

 

 

雫「比企谷さんが興味あるなら…触ってみますか~?」

 

 

八幡「…………………………」

 

 

雫「今日は特別サービスですよ~♪」

 

 

八幡「………………ハンバーグでも捏ねてたほうがましだ」

 

 

拓海「血の涙を流すほどなら素直に触っとけよ…」

 

 

雫「どこを触るとは、言ってないんですけどね~♪」

 

 

八幡「――――――はちまんおうち帰る……」

 

 

 

――――

 

 

 

雫「ほんとに帰っちゃいましたねー。――それより乃々ちゃんが忍者だったなんて初めて知りましたよー」

 

 

拓海「あやめとキャラが被るから黙ってたのか?」

 

 

乃々「あれが忍者なんてちゃんちゃらおかしいんですけど。へそで茶が沸くどころか、へそでマグマが滾るんですけど」

 

 

拓海「仮に黙っていなくてもキャラが被ることはなさそうだな…」

 

 

乃々「改めまして。16代目風魔の小太郎とは森久保のことなんですけど」

 

 

雫「へぇ~。相模国、今で言う神奈川の北条氏に仕えた乱破集団。相州乱破の頭目だけが代々名乗ることを許されるという風魔の小太郎、それが乃々ちゃんなんですねぇ~」

 

 

拓海「詳しすぎねぇ?」

 

 

乃々「たぶんそんな感じです…」

 

 

拓海「知ったかぶりしてねぇ?」

 

 

乃々「と、とにかく!!森久保は帰っちゃった比企谷さんを慰めに行くんですけど!今ならくのいちの秘儀で堕とせる気がするんですけど!!」バタバタバタ

 

 

雫「行っちゃいましたね~」

 

 

拓海「今堕とすとか言ってなかったか!?え、えっちなこととかしちゃうんじゃねぇのか!!止めねーと!!」ガタッ

 

 

 

――――バタバタバタバタッ、バンッ!!

 

 

乃々「い、今ここに森久保が来ませんでしたか!?」

 

 

拓海「おぉ、やっぱ八幡の所へ行くのはやめたのか」ホッ

 

 

乃々「ばっかもーん!そいつは森久保の分身なんですけど!!」バタバタバタ

 

 

雫「なるほど~人格が独立したタイプの分身の術なんですね~」

 

 

拓海「理解力が高過ぎる!こんなことで慌ててるアタシがおかしいのか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みく「ハッチャン、一心不乱に何を捏ねてるにゃ?」

 

 

八幡「…ハンバーグ」

 

 

みく「にゃ!みくの大好物にゃ!いつまでも捏ねてないで早く焼いてほしいにゃ!」

 

 

八幡「……ハンバーグ」

 

 

みく「…………なんだか目つきが、いつもの10倍くらい怪しいからやっぱり遠慮しとくにゃ…」

 

 

八幡「………ハンバーグ」

 

 

 

 

 



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単短編炎陣 ちひろ「昨夜はお楽しみでしたね」八幡「・・・あっ、チーバくんっぽい雲見っけ」

 

 

 

 

「「「誕生日おめでとーう!!!」」」

 

 

里奈「えへへ、アリガト☆」

 

 

涼「ありがとな。――ようやく炎陣でお酒が飲める時が来たんだな」

 

 

亜季「ここまで本当に長かったであります…」

 

 

夏樹「目標達成したみたいな言い方してるけど、ただ成人しただけだからな?」

 

 

拓海「まあいいじゃねぇか。亜季がそれだけ楽しみにしてくれてたってことだろ?」

 

 

亜季「そうでありますよ!一人だけ年上というのは何気に寂しいものがあったのです!」

 

 

涼「…それはこれからも変わらないんじゃないのか?」

 

 

里奈「あはは!まだ飲んでないのに、あっきーもう酔ってるみたいぽよ♪」

 

 

夏樹「2年以上も楽しみにしてたもんな…。せっかく拓海がこんなにたくさん料理を作ってくれたんだ、あったかい内に頂こうぜ」

 

 

海「ったく…、じゃあ行くぜ?―――このアタシが腕によりをかけたんだ、飲んで食べて飲みまくれ!!乾杯!!!」

 

 

 

「「「「かんぱーい!!!」」」」

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

拓海「―――分かってねぇ!八幡は女心ってやつが何一つ分かってねぇ!!!」

 

 

夏樹「あれは逆に、これ以上ないってくらいに分かってるからこその態度だと、態度だと、たい…あ~八幡さんに今すぐ会いたい」

 

 

里奈「アハハハハ、二人とも酔いすぎぽよ~♪でも、そだね~八幡プロデューサーに会いたくなってきたな~♪」

 

 

涼「…この謎の肉と紅い飲み物がマリアージュしてる。八幡サンに教えてあげなきゃ…」

 

 

亜季「ふむ、宅のみにして正解でありましたヒック。たかだか4時間でこのありさまではヒックとても八幡殿には見せられません」

 

 

―――

 

 

拓海「こんなに料理もうまくなったのによぉ!言えよ!毎日でも食べたいって言えよ!―――むしろアタシが毎日作りてぇよ!!」

 

 

涼「…毎日作ればいい。それで毎日アタシが八幡サンに届けてあげる…」

 

 

里奈「アハハハハハハハ!姑息すぎぽよ!アハハ!!・・・・・・閃いた!高速に姑息な涼の得?むしろ一挙両得で天使な炎陣、史上最高の名シーン!だよぉ!!」

 

 

夏樹「たしかに拓海はずっと頑張ってるもんな。アタシも見習わな…みなわら?みならわ?わらわら?」

 

 

亜季「…八幡殿は愛されているでヒックありますなぁ。…私が一番でヒックあることは確定的ヒックに明らかではヒックありますがヒック」

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「「「「Zzz~~」」」」

 

 

 

 

「――――やっと寝たか。ったく、緊急事態なんて言って呼び出しやがってよ」

 

 

「…みんなで思い出話してたら会いたくなって…ごめんなさい…」

 

 

「別に怒ってねーよ…」

 

 

「…でも急いでバイクで来てくれたのに、みんなで無理やり飲ませたから帰れなくなったし…」

 

 

 

 

「………はぁ。――――もう少し飲みてえんだが…付き合ってくれるか?」

 

 

「ッ!――うんっ!!付き合う!!」

 

 

「ありがとよ。ほれ、乾杯」

 

 

「えへへ、乾杯♪――――今から起こること、みんなには内緒にしないと!」

 

 

「内緒にしなきゃいけねえことをするつもりはねえよ…」

 

 

「うんうんっ♪何かあってもそれはお酒の事故だよね♪それに今日は大丈夫な日だから安心して♪」

 

 

「―――アイドルがそんなセリフ言うんじゃありません…」

 

 

「こんなこと八幡の前でしか言わないよ!」

 

 

「なんでそこで俺が出てくんだよ…」

 

 

「分かってるくせに〜うりうり~♪」

 

 

「……来なきゃよかった」

 

 

「今日は寝かせないぜっ♪♪」

 

 

 

 

続かない

 

 



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単短編KBYD 紗枝「どすえ!!!!」八幡「自己紹介の勢いがすごいな(ズタボロ)」

 

 

 

紗枝「みなさん、集合どす」

 

幸子「集合も何も、同じ楽屋に居るじゃないですか。」

 

友紀「どしたの紗枝ちゃん、そんなに怖い顔して?」

 

紗枝「――――バラドルユニットや言われるんはかまへん。幸子はんと友紀はんがおるさかい仕方ありまへん。せやけど、問題はユニット名どす。幸子はん、ユニット名なんどすか?」

 

幸子「…かわいいボクと野球どすえ、ですよね??」

 

紗枝「そう!どすえ!ただの語尾やないの!――――ほなうちが名古屋出身やったら野球だぎゃあになんのけ!?東北出身やったら野球だっちゃになんのけ!?うちはラムちゃんか!!」

 

友紀「さ、紗枝ちゃん落ち着いて!誰もラムちゃんをして欲しいなんて言ってないよ!」

 

幸子「そ、そうです!京都弁も紗枝さんが喋るからかわいいんですよ!!」

 

紗枝「ほう?…と言いますと?」

 

幸子「あ、いや。えーと…」

 

 

----ガチャ

 

 

八幡「そろそろリハーサルだぞ〜」

 

幸子「はっ!そうです!仮に比企谷さんが京都弁で話しても全くかわいくありません!」

 

八幡「…なんで出会って4秒で罵倒されてんの?」

 

友紀「うん、確かにそうだね!むしろ意地の悪い京都人っぽいまである!」

 

八幡「…それ俺にも京都人にも失礼だからね?」

 

紗枝「ふん!そんな言葉で騙されへんどす。――――なんや、八幡はん、そんな褒めたそうな顔して」

 

八幡「してません」

 

紗枝「仕方あらへんなぁ。…はい、褒めなはれ?」

 

 

八幡「……こいつ何かあったのか?」

 

友紀「なんかねー?ユニット名の“かわいいボクと野球どすえ”の紗枝ちゃん部分がただの語尾だって拗ねちゃったみたいでさー」

 

八幡「そんなことか…。――――なあ、小早川」

 

紗枝「な、なんどす。えらいキリッとしたお顔…。そんなに見つめたからって、…ゆ、許しまへん!」

 

 

 

八幡「…俺の母ちゃんが好きなアイドルがいるらしいんだが」

 

幸子「そうなんですか?どなたのファンなんでしょう?」

 

八幡「そいつの名前をちょっと忘れたらしいんだ」

 

幸子「名前忘れるって、本当に好きなんですか??」

 

八幡「で、まあ色々聞いてみたんだが分からなくてな」

 

幸子「仕方ないですねー。かわいいボクが一緒に考えてあげますから、どんな特徴を言ってたか教えてください」

 

 

紗枝「これなんどすの?うちの話はどこ行ったんどす?」

 

友紀「まあまあ紗枝ちゃん、一応最後まで聞いてみようよ!」

 

 

八幡「母ちゃんが言うには、京都弁が可愛いアイドルらしいんだよ」

 

幸子「かわいいと言えばボクですが、京都弁なら紗枝さんで間違いないですね」

 

八幡「小早川紗枝か?デレプロのアイドルだな」

 

幸子「そうです!ふふーん、すぐに分かっちゃいましたね!」

 

 

八幡「俺も小早川だと思ったんだがな」

 

幸子「違うんですか??」

 

八幡「母ちゃんが言うには、和服の下は巨乳で脱ぐとギャップで凄いらしいんだ」

 

幸子「んー、じゃあ違いますね(断言)。紗枝さんはボクよりメリハリが無いですからね(真顔)初めて出会った時はラーメン屋かと思いましたから、“あれ?スープでも仕込んでるんですか?こんな所に寸胴がありますよー?”って(絶壁)」

 

 

紗枝「ゆ、友紀はん!離して!こいつらコロコロするんどす!」

 

友紀「まあまあ紗枝ちゃん、なんか面白そうだしもうちょい聞いてみよーよ。……コロコロ?」

 

 

八幡「なら小早川じゃないのかもな」

 

幸子「そーですよ。紗枝さんも“和服の下は巨乳かも?”なんて期待されたら荷が重いですよ。胸は軽いですけどね」

 

八幡「そーかもしれん」

 

紗枝「そーかもしれん!!?」

 

幸子「紗枝さんは紛うことなきぺちゃぱいなんです。なんの疑問も抱く必要は無いです」

 

八幡「なるほどな〜」

 

 

紗枝「―――もう、あきまへん。ロコします。」

 

友紀「エクセレントでマーベラスになっちゃってるよ?」

 

 

幸子「他には何か言ってませんでしたか?」

 

八幡「同じく京都の塩見周子と組んだ楽曲では、振り袖衣装がよく映えるアップテンポなダンスを見事に踊りきっていたらしい」

 

幸子「それはもう完全に紗枝さんじゃないですか!衣装も凄かったですが、何よりPV後半に使われてる布地の量が尋常じゃないと話題になったんです。象の服でも作るんですか?とお聞きしたいです」

 

八幡「なら、小早川で決まりかもな~」

 

幸子「なんですか?煮え切らないですね」

 

 

八幡「母ちゃんが言うには奥ゆかしい大和撫子って感じだったらしいんだ」

 

幸子「あー、それは違いますね。紗枝さんは大和撫子じゃないです。どちらかと言うと戦艦大和って感じです。あれで大和撫子なんて言っていたらお隣の事務所のエミ〇ーちゃんに激怒されてしまいます」

 

八幡「そーかもしれん」

 

紗枝「またそーかもしれん言うた!!」

 

幸子「京都の女は腹黒いって言いますけど、紗枝さんはもはや漆黒ですからね。この前すれ違う時に引き寄せられましたもん、たぶん小さいブラックホールになってるんですよ」

 

八幡「ただ、母ちゃんが言うには小早川紗枝ではないらしいんだ」

 

幸子「ちょっと!先に言ってくださいよ!!言わなくていいことたくさん言っちゃったじゃないですか!!?」

 

八幡「俺は何も言ってないから大丈夫…」

 

幸子「ひどい!――結局誰なんですか??」

 

 

紗枝「京都の女は恩も恨みも忘れまへん。特にうちは腹黒いらしいどすから」

 

友紀「……100点の笑顔なのに怖いのはなんで?」

 

 

八幡「―――親父が言うにはな」

 

幸子「お父様ですか?」

 

八幡「及川雫が好きだって言ってたんだ」

 

幸子「それただお父様が巨乳好きなだけじゃないですか!!もういいです!」

 

 

 

「「ありがとうございましたー」」

 

 

 

――――――

 

 

 

八幡「どうだ?緊張は取れたか?ほら、本番行ってこい」

 

紗枝「よし、喧嘩どす」

 

八幡「……時を戻そう」

 

紗枝「だめ~~~」

 

 

 

――――――

 

 

 

千枝「比企谷さん、誕生日忘れてしまったんでしょうか……」

 

千枝「―――二度と忘れられないように刻み込まないと」

 

千枝「千枝、悪い子になっちゃいます」

 

――ピロン

 

八幡『おたおめ~』

 

千枝「・・・・・・・・・」

 

 

 



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単短編すれ違い 八幡「おーい、小槻」 唯「大槻だよっ!!!」

温かい目で見てやってください


 

 

 

八幡『――もしもし、ちひろさんですか?やっぱり考え直してもらえませんか?俺がエキストラなんて…』

 

ちひろ『――とにかく一度着てみてください。それで似合ってれば問題ないですよね?』

 

八幡『――似合ってるかどうかなんかわかりませんよ…』

 

ちひろ『――……ちなみに私はどんな衣装が似合うと思いますか?』

 

八幡『――ちひろさんも出る気なんですかっ!?』

 

ちひろ『――当然です♪比企谷君にはチャラ男の衣装を用意しておきました♪』

 

八幡『――まだ出るとは言ってないですよね…』

 

ちひろ『――御託はいいですから、早く着替えて出てきてください。みんな下で待ってますよ?』

 

 

 

 

唯「おーい、ハッちゃーん!唯もセクギルのロケ出たーい!!」

 

 

八幡『…せめて衣装だけでもなんとかなりませんか?』

 

 

唯「い、遺書!?…ハッちゃん!!遺書ってどういうこと!?お部屋入るよっ!?」

 

 

八幡『それだけは待ってください!!!』

 

 

唯「ッ!どうして!?」

 

 

八幡『とりあえずそれだけはやめてください…』

 

 

唯「だからどうして入っちゃダメなの!?急に遺書なんて、…何がそこまでハッちゃんを追い詰めてるの!?」

 

 

八幡『ちひろさん………』

 

 

唯「ちひろさん!?ちひろさんに何されたの!?唯が言ってきてあげる!!」

 

 

八幡『だからって俺がチャラ男ですか…はぁ、死にたい』

 

 

唯「ま、待ってハッちゃん!!早まらないで!!……チャラ男?チャラ男が嫌すぎて遺書書いてんの!?」

 

 

八幡『ならそっちはギャルですよ』

 

 

唯「唯はもともとギャルだよ!!じゃなくてっ!―――唯に何か出来ることないかな…?ハッちゃんのためならなんでもするよ…?」

 

 

八幡『はぁ、分かりましたよ。―――今度おすすめのパティスリーお願いしますね?』

 

 

唯「ぱっ、パイズリ!?!?普段から思わせぶりなこと言ってる唯も悪いけど…ま、まだ唯には早いと思うの!!」

 

 

八幡『それが意外とマッカンにも合うんですよ?』

 

 

唯「させながらコーヒー飲むの!?それが常識なの!?でもハッちゃんが言うなら…唯がんばるねっ!!」

 

 

八幡『…別にそんなのは求めてないですよ。ったく、後ろから刺されても知りませんよ…』

 

 

唯「後ろから!?」

 

 

八幡『万が一そうなったら責任は俺が取るんで安心してください』

 

 

唯「責任って!それもう完全にセッ、、、しちゃってるじゃん!!あ、アイドルとプロデューサーが恋愛なんて…」

 

 

八幡『やめてくださいよ。愛なんかあるわけないじゃないですか』

 

 

唯「え、ハッちゃんは唯の身体だけが目的だったんだ…」

 

 

八幡『違いますよ。仕事です、仕事。でなきゃ俺がこんなことするわけないでしょ』

 

 

唯「そ、そんな。じゃあ唯たちが今までたくさんお仕事できたのは、裏でハッちゃんがそんなことしてたからなの?」

 

 

八幡『いや、ちひろさんがやれって言ったんでしょ…』

 

 

唯「…やっぱりちひろさんが諸悪の根源だったんだね。…大丈夫だよハッちゃん。もうそんなことしなくて良いから。…唯が、唯が守ってあげるからね!!」

 

 

 

 

八幡『――まぁ、分かってますよ。…んっ?』

 

ちひろ『――どうかしたんですか?』

 

八幡『――いや、更衣室の外を誰かが猛ダッシュしてったみたいで…』

 

ちひろ『――事務所で走っちゃダメっていつも注意してるのに。…とにかく、早く出てきてあげてください?』

 

八幡『――はいはい、セクギルの初仕事を俺がつぶすわけにはいきませからね』

 

ちひろ『――そうですよ?3人ともすごく張り切ってるんですから』

 

八幡『――あいつらなら大丈夫だと思いますけどね』

 

ちひろ『――それでもです。…おや、どうやら猛ダッシュしてた子がこっちに近づいて来てるみたいですね。ビシッと言ってやりましょう』

 

八幡『――そいつもエキストラに協力してくれるんでしょうし、あんまり厳しく言ってやらないでくださいね。じゃ、いったん切ります』

 

ちひろ『――比企谷君が優しすぎるから私が厳しくしてるんです!まったく…。早く来ないと泣いちゃうかもしれませんよ!』

 

 

――――pi

 

 

ちひろ「比企谷君の減らず口にも困ったものですね~」

 

唯「ちひろさんっ!!!」

 

ちひろ「ちひぃっ!」

 

早苗「ど、どうしたの唯ちゃん?」

 

 

唯「全部ハッちゃんから聞いたんだからね!!ちひろさんがハッちゃんにしたこと!!」

 

早苗「八幡君??」

 

ちひろ「こ、心当たりがあり過ぎて…」

 

早苗「…おい」

 

 

唯「ハッちゃんに枕営業させてるって!!!」

 

 

早苗「ブフォッ!!」

 

ちひろ「ッ!!だ、だだだ、誰がそんなことさせますか!」

 

唯「ハッちゃんが言ってたもん!ちひろさんにチャラ男スタイルで枕営業行くのを強制されて死にたいって!」

 

ちひろ「待って待って!そんなこと言うはずないじゃないですか!」

 

早苗「……じと~」

 

ちひろ「声に出して睨まないでくださいよ…。私、そんなに信用無いですか…?」

 

早苗「さすがにアイドルに枕はさせないだろうけど。――八幡君になら……」

 

唯「むーーーっ!ハッちゃんは唯が守るからね!!!」

 

ちひろ「…誰も信じてくれない。…ぐすん。」

 

 

 

八幡「すいませーん、遅れましたーって、なんでちひろさんが泣いてるんですか?泣くってちひろさんのことだったんですか?」

 

ちひろ「唯ちゃんが、私が比企谷君に枕営業させてるって言うんですぅ~」

 

早苗「あら、こんな感じの八幡君もかっこいいじゃない…」ボソッ

 

八幡「は?枕営業?……え?俺が?」

 

唯「ハッちゃん近寄っちゃダメ!唯の後ろに隠れててっ!!」

 

八幡「ちょっと待て大槻。いつ俺がそんなこと言ったんだ?」

 

唯「さっき……。ハッちゃんが唯にパイズリして欲しいって言った時に…」

 

八幡「あっ、痛いっ痛いです!片桐さん!!」

 

早苗「現行犯逮捕よっ!!」

 

八幡「なんで俺の枕営業と大槻に…その、それをさせることが関係あるんですか痛いッ!!」

 

 

唯「――まぁ正直……唯的にはやぶさかではないってゆーか……」

 

 

ちひろ「――だいたい比企谷君が枕営業って……。いや、意外とおじさま受けが良かった気が……」

 

 

八幡「ギブですって!ちょ、これ完全に肩外れてますよね!?い、今ちひろさんが極悪な発言した!!」

 

早苗「それに頼むなら私にわたしにしなさいよ……」ボソッ

 

八幡「関節極めながらなにブツブツ言ってんですか!あっ、分かった、俺が泣いちゃうやつだわこれ!」

 

 

 

裕子「むむ?パイズリとは何ですか??」

 

雫「ネクタイとかハンカチによく使われる柄のことだと思いますよぉ~」

 

裕子「なるほど!では今回お世話になった比企谷さんにパイズリをみんなで差し上げましょう!」

 

雫「そーですねぇ。……いい考えだと思いますよぉ~♪」

 

 

 

八幡「これ以上罪状を増やすのはやめてくれ!!!!!」

 

 

 




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単短編78 七海「誇張しすぎた川島さん」八幡「分かるわ。分かりすぎてカールおじさんになっちゃったわ」

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八幡「(ウーバーイーツなんて初めて頼んだが、便利な時代になったもんだな…)」

 

 

―――ピンポーン

 

 

八幡「はーい、今でまーす」

 

 

―――ガチャ

 

 

七海「お待たせしまたれす。ナナミーイーツれすよ~♪」

 

八幡「………。………どうも」

 

七海「ご注文のバキシリーズ全巻セットれす。カバンがパンパンで激重れしたよ~。まゆさんの愛くらい激重れしたよ~」

 

八幡「………。もうそれでいいです。ありがとうございました」

 

七海「いえいえそれほどれもないれすよ~♪」

 

 

八幡「………」

 

七海「………」

 

 

八幡「なんだよ。早く帰れよ」

 

七海「チップはくれないんれすか??」

 

八幡「…食いもん頼んだのにバキ持ってきたやつになんでチップあげなきゃいけねえんだよ。てか俺が本当に注文してたのどうなってんだ?」

 

七海「それなら七海がキャンセルしておいたれす♪」

 

八幡「お前ほんとやべーやつな」

 

七海「ちょっと何言ってるか分かんないれす」

 

八幡「なんで分かんねえんだよ」

 

 

 

七海「なのれ代わりにスタバ買って来たれすよ~♪」

 

八幡「なんで腹減ってるときにそんな甘いもん飲まねえといけねえんだよ」

 

七海「チャンクスコーンれす♪」

 

八幡「…まぁ、それは人生初だからなにげに楽しみだったりするわ」

 

七海「次はマフィンれす♪」

 

八幡「言うまでもなく人生初だわ。スタバ自体が初めてだから当然なんだが。――飲み物は何にしたんだ?」

 

七海「あんなしゃらくさいもん七海が買うわけないじゃないれすか!」

 

八幡「え……。何?俺の口から水分奪いに来たの?」

 

七海「そんなまさかれす。ちゃんと飲み物も用意してるれすよ?」

 

八幡「強めの否定してるけど疑われて当然のヤバさだからな?…それで、わざわざマッカンでも買って来てくれたのか?」

 

 

 

七海「――砂糖水14キロれす」

 

八幡「砂糖水14キロ!!糖尿病なるわ!」

 

 

七海「――炭酸抜きコーラれす」

 

八幡「炭酸抜きコーラ!!うすうす感じてたがバキ読み終わって邪魔だから持ってきただけだろ!」

 

 

七海「――冷凍ティラノサウルス肉れす」

 

八幡「冷凍ティラノサウルス肉!!ほらやっぱりそうだわ!」

 

 

七海「――イカ2貫れす」

 

八幡「イカ2貫!!!!……千鳥にハマってんの?」

 

 

七海「――エア味噌汁れす」

 

八幡「もう、やめてくれ!いつまで玄関でボケてるんだよ!――――はぁ、もういいわ、中入れよ。冷蔵庫にあるもんでなんか作るわ」

 

七海「もんぎゃあ!プロデューサーさんのお部屋に誘われちゃいました♪多目的トイレ以外に誘われたのは初めてれす♪」

 

八幡「お前が玄関先でいつまでも騒ぐからだろ。多目的トイレってなんだ?そんなとこに人を誘う奴なんかいるわけないだろ?」

 

七海「プロデューサーさんは意外とピュアなんれすね~」

 

 

 

 

八幡「???――まあいいわ。なんか食いたいもんあるか?」

 

七海「んーー。あっ、それならルンダンが食べたいれす!」

 

八幡「る、ルンダン?お菓子かなんかか?」

 

七海「世界一美味しい食べ物と言われてるインドネシアの郷土料理れす♪」

 

八幡「……レシピさえあれば作れんことはねえだろうが、もう少し簡単なのじゃだめか??」

 

七海「えぇーーー。それじゃ卵かけご飯れいいれすよ」

 

八幡「こっ、このガキ……」

 

七海「はぁ~、いつも本を読んれ賢いキャラ作ってますけど案外大したことないれすね~(クソデカため息)」

 

八幡「――ッ!やってやるよ!ルンダンでもリンダリンダでもなんでも作ってやるよ!!」

 

七海「ぎょっふー!さすがプロデューサーさんれす♪じーー」

 

 

 

 

八幡「……できちゃったよ。インドネシアの郷土料理ルンダン」

 

七海「じーーー」

 

八幡「また勝手に配信してんのか…」

 

七海「じーーーーー」

 

八幡「いや、もう気付いてるから」

 

七海「『Rundan terlihat sangat lezat.Saya juga ingin mencobanya.』」

 

八幡「は?」

 

七海「インドネシアの“ジョコ・ウィドド大統領”とオンライン飲み会してるんれすよ~♪“美味しそうなルンダンだ。私も食べてみたいよ”って言ってるれすね~♪」

 

 

八幡「謎過ぎる交友関係!インドネシア語しゃべれんのかよ!」

 

七海「海好きアイドルなら海洋国家の言語習得は当然のことれすよ~♪」

 

 

八幡「……お前ほんとやべーやつな」

 

 

終わり

 




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単短編ギルティ ちひろ「ふふーん!」武内P「いい笑顔です」

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 どうしてこうなった…

 

 普段と比べて何倍も高く見える青空を見上げ思わず一人ごちる。今さら文句を言ったところで引き返せる状況ではなく、代替案も思い浮かばない。

 

 なんでも、来るはずだったエキストラグループがダブルブッキングとなってしまい、どうしたもんかと悩んでいた監督の目についてしまったらしい。指示が出されるや否や待ってましたとばかりに腕をまくるメイクさんや衣装さんに囲まれ、人生最初で最後のチャラ男スタイルに改造され、カメラの前に立たされてしまっていた。

 

 そんな今すぐにでもステイホームしたい俺の内心などには何の斟酌もなく、監督からゴーのジェスチャーが飛ぶ。……やるしかない。あいつらの仕事を俺のせいで台無しにするわけにはいかない。……逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、八幡行きまーす

 

 

 

「キキー!おまたせー!並んでくれててありがとギルティ―!」

 

 

――――あぁ、死にたい。新たな黒歴史です、ありがとうございます。

 

 

「全然オッケーギルティ―!みんな、こっちこっちー!」

 

 

 楽しそうですね、ちひろさん。

 大きく手を振りながらエキストラグループの先頭を歩く俺に呼びかける。

 事務所の近くで撮影だったこともあり、エキストラの中に見覚えのある顔がチラホラとある。当然そのまま映るわけにはいかないのでみんな思い思いに変装をしているのだが、……よりによってちひろさんはギャル、―――正直ありなんだよな~。

 

 

「あっ、あの姿は!」

 

 

 ばるるんと異次元の圧を伴い現れた及川が、いかにも憎たらしい表情を浮かべた俺とちひろさんをゆびさす。

 

 

「キキー!」

 

「現れたわね!ギルティ星人!」

 

「みんなちゃんと並んでるのに、横入はいけませんよーっ!」

 

 

 もはや原型が誰かも判別できないほどの変装を施しノリノリで横入するアイドル連中の前に、これまたノリノリでトランジスタグラマーな片桐さんが立ちはだかる。

 堀がまとまなこと言ってるのを見ると演技だと分かってても腹立つな。いや、普段から良い子であることに変わりはないんだが、注意されるとなんかこう…てか、なんでジト目なんだよ。かわいいな、くそう。

 

 

「そんないけない子は、私たちがお仕置きしちゃいますー!」

 

 

 及川のお仕置き?ふーん、えっちじゃん。

 

 

「いっくわよー!くらえ!正義のヒップアターック!」

 

「キキー!」

 

 

 台本ではフリだけのはずだったので油断していた俺は、片桐さんのヒップアタックを顔面でもろにくらい、巨大なマシュマロに包まれたような感触を仕方ないので脳に刻み付ける。正義のヒップアタック、ありがとうございます。

 

 最後のセリフをなんとか終え、幸せに浸り過ぎたからか、的確にアゴを打ち抜かれたからなのか、意識が朦朧とした俺の肩をちひろさんが支えながらなんとかフレームアウトしてようやく出番が終了した。痛ッ!誰だつねりやがったの!?

 

 

「不埒なギルティは許さない!」

 

「セクシーを以て悪を征する・・・わたしたち!」

 

「「「セクシーギルティ!」」」

 

 

 フレームアウトした後にふたたび出所不明の攻撃を受けようやく意識がはっきりとしたので、そろってセリフとポーズを決める3人に目をやる。

 このユニットでの初仕事にもかかわらず緊張や気負いはないようで不敵な笑みで“ばきゅんポーズ”を決めていた。

 

 正直あからさまに狙いの分かるユニットを組むことが、一部からはよくない印象を持たれるのではないかなどと警戒していた。だが仮に何かあってもこいつらならそんなことを気にせず自分たちの道を進んでくれると思う。

 これなら今世紀最大の赤っ恥をかいてまでチャラ男になった甲斐もあっただろう。終わりよければおけまる水産だ。

 

 

「“セクシーギルティの世直しギルティ!”いよいよスタート!」

 

「最後まで見てくれないとー!

 

「「「お仕置きしちゃうぞっ!」」」

 

 

------

 

 

 

「セクシーギルティの番組が放送されたが、すごい反響だったぞ。…良くも悪くも」

 

 

 予想していたことではあったが放送後は事務所ではPTAからの電話が鳴りやまず、モンペの対応をしてくれてたちひろさんは笑顔のはずなのに瘴気を纏い年少組から恐れられていた。今は武内さんがギャルメイクがギャップでとても良かったと褒めカウンセリングもとい、飲みの約束を週末にしたおかげで幾分回復をしたらしい。

 

 セクギルのメンバーも初めて聞くわけでもないのか、さもありなんといった感じである。…堀はさもありなんなんて言葉を知らいないと思うが。

 

 

「まったく失礼しちゃうわね!いったいあたしたちのどこが有害番組だって言うのよ!」

 

「ムムッ、それもさもありなん、と私は思いますが?」

 

「良くも悪くもって事は、良い方もあったんですよねぇ?」

 

「あ、あぁ、気にすることないぞ。良い意見の方が圧倒的に多かった。賛否両論なんて当たり前のことだ。むしろどちらかに偏るような事の方が異常と言えるまである。証拠に、見れば分かると思うがプロダクション始まって以来のプレゼントの量だ」

 

 

 堀のせいでかなり動揺してしまったが、それ以外の二人もそれほどへこんでいないようで一安心だ。こいつらなら大丈夫だとは思っていたが万が一ということもあるからな。

 

 だが本当のピンチはここからだ。主に俺の。いっそプレゼントなど無かったことにして捨ててしまおうと思ったくらいだ。

 

 

「ふーん?あたしたちの魅力で贈り物をしたくなる気持ちは分かるけど?」

 

「開けてみてもいいですかぁ~?」

 

「かまわないぞ、一応中身はすべてチェックして確認してある」

 

「ムムッ!フエラムネです!懐かしいですね!」

 

「私のは、沖縄のちんすこうですね~。修学旅行で行って以来なので嬉しいです♪」

 

 

 片桐さんのジト目を後頭部にガンガン感じるが俺には何のことか分からない。フエラムネもちんすこうもただのお菓子だし、美味しいじゃん。

 

 

「私はビールね…段ボールで送ってくるなんて見どころあるじゃない…」

 

「よかったですね!ははっ!うらやましいです!はははっ」

 

「ムムッ!ブランドのキーケースまで入ってました!これはなんて読むんですかね…?フェラ、ガモ??」

 

「わ~綺麗ですね~。万華鏡です♪」

 

「…日本酒、ね」

 

 

 顔面を5センチ前まで寄せて片桐さんは日本酒の瓶を天に掲げる。いい匂いしますね。あと、顔が怖いし近いですよ?

 

 

「最後はミニカーでした!お手紙が入ってますね?…これはフェラーリです。ユッコちゃんのフェラーリをサイキックで大きくしてください。…ムムッ!挑戦状ですね!」

 

「赤と白と緑の大きな布ですね~どこかの国旗でしょうか?えーと、オマーン国旗でこっちのCDはオマーン国歌だそうです」

 

 

 あっ、死んだわ。

 仕方ないじゃん、グレーゾーンっぽいし直接的ではないし…なんとなくムクムクといたずら心が湧いたんだよ。最終チェックの武内さんはこーゆーのに疎いからオッケーしちゃうんだよ。だから悪いのは武内さんだよね?

 

 

「どうしてあたしにはセクハラしないのよッ!?」

 

 

 片桐さんは謎の供述を叫ぶと、一升瓶を置き拳を握り締めた。そっちかよ。そしてそっちかよ。

 つい力が抜けそうになるが目の前に迫る腰の入った拳は止まってくれそうにない。

 

「ムムッ?まだ早苗さんの箱にはお酒が入ってるみたいですよ?」

 

「白くてドロドロですねぇ〜」

 

 間一髪で拳はこめかみを掠っていった。こういうのってピタリと止まるもんじゃないの?側頭部からプスプス聞こえるんですけど。

 

 

「これはマッコリね…。----八幡君はこのドロドロした白濁液をあたしに飲んで欲しいってことね?」

 

「や、どうぞ好きにしてください。片桐さんの物なので」

 

「なるほど、谷間に注いで直接すすりたいと」

 

 

 言うわけねえだろ。なんで逆セクハラされてんだよ。

 

 

「体温くらいの温度で飲むのが美味しいんですかぁ〜?」

 

「ぬる燗ですね!サイキックでは高温になりすぎてしまうので体温を使うのはナイスアイデアです!」

 

「それだけじゃないみたいよ?鎖骨にキムチを置いておつまみにしたいと顔に書いてるわね」

 

 

 書いてるわけねえだろ。どんだけ倒錯した趣味を持ってると思われてんだよ。

 

 

「ムムッ!ホントです!小さくですがこめかみの辺りに書いてあります!!」

 

「達筆ですね〜せっかくなのでこのまま彫りますかぁ〜?」

 

 

 片桐さんの神技は置いといて、及川の発想が花山薫と同レベルなことに恐怖を感じる。

 

 

「仕方ないわね〜!八幡君もまだまだ若くて元気だものね♪」

 

「まあ、片桐さんよりは若いですけ、ッ!」

 

「次は当てる上に魂を砕くわ!」

 

 

 抜き手!!?明らかに貫く為の形に整えられた手が音を超えて掠っていく。

 反対側のこめかみにも落書きされてしまったのだろうか。今のは確実に俺が悪いので文句は無いが、及川の琴線を刺激し両こめかみにタトゥーを入れられるのはまだ勘弁してもらいたい。

 

 これ以上片桐さんのソウルブレイクスティンガーを食らうわけにはいかないので口には気を付けよう。

 

 

「すみません、冗談です。---堀と及川は武内さんの所へ行っといてくれ。片桐さんと少し話がしたい…」

 

「むっ!……そーいう事ですね!さいきっくぱわーを充填してあげますよーっ!」

 

「大人のお話をするんですねぇ〜頑張ってください!」

 

 

 なにやら慌て始めた片桐さんをよそに堀と及川はパタパタと出ていってしまった。

 

 

「なっ、なによっ!!?わたしだけ呼び止めて!!」

 

「別に何も無いですよ。…ま、お祝いに飲みにでも行きませんか?」

 

「…ふん!八幡君がどうしてもって言うのなら行ってあげるわ!」

 

 

 またしても近づいてくる片桐さんを手で制す。距離感大事、いわくソーシャルディスタンス。

 

 

「………あっ!美優さんも誘っていいですか!?」

 

「ぶっころ!!」

 

 

 

 

 




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単短編茄子 茄子「お父様、お母様。カコは今日、大人になります……」八幡「…鼻血でてんぞ」

 

 

 

 大きく息を吸い込むと胸いっぱいに彼の香りを感じます。

 

 事務所から自転車で10分ほどの距離にあるマンションの一室。一人で住むには広すぎる2LDKのお部屋で私、鷹富士茄子はもう一度深く息を吸い込みます。

 

 紅茶の香りの漂うイギリスアンティーク家具で揃えられたお部屋。玄関、洗面所、リビング、寝室、至る所に他の女の痕跡を見つけてしまいイライラしますが全て上書きしてやったのでひとまずはよしとしましょう。

 趣味の良いソファーに腰を下ろし部屋の主である比企谷さんへと視線を送りますが、呼びつけた私には目もくれず黙々とパソコンへ向かい在宅勤務に励んでいます。

 

 

「呼んでねぇよ。カコさんイーツとか言って不法侵入してきたんだろ。……こんなの流行らせやがった浅利は絶対にしばく」

 

 

 だいたいサムターン回しって隠し芸に含まれるの?普通に犯罪だよね?などブツブツ呟く比企谷さん。お部屋モードはいつもより独り言多めのようですね。すこぶる可愛いです。食べちゃいたいくらいです。

 

 いつも目にするスーツ姿の彼も素晴らしいものですが、今の部屋着姿も筆舌に尽くしがたいものがありますね。さらには私が以前にプレゼントしたものを着てくれているのだから独占欲も満たされるというものです。

 ……実は部屋着と今私の着けている下着の柄がお揃いだと知ったらどんな顔をしてくれるでしょうか。念のために選んできて正解でしたね。

 

 

「……着替えてくる」

 

 急に着替えるだなんてどうしたんでしょうか?変な電波でも受信してしまったのかもしれませんね。

 立ち上がる際パシリと閉じた扇子も私からの贈り物です。もちろん文字入れは私です。“茄子の揚げびたし”―――なんかエロいですよね?

 唯一不満があるとすればお外で使っているところを見たことがないことですかね。良いアピールになると思うんですけどね~?茄子の揚げびたし。

 

 この扇子にはしっかりとした理由があるんです。

 実は一富士二鷹三茄子には続きがあると言われており、所説ありますが四扇五煙草六座頭が多くで伝えられています。扇子と煙草と坊主頭です。

 つまり煙草を愛飲し、私を愛する彼に、さらに扇子まで持たせてしまえばこれはもう実質妻と言えるのでは?―――思い付いた自分を褒めてあげたいです。

 

 本当は煙草も定期的にプレゼントしたいのですが、彼は恩師からもらったブランド物のシガレットケースを使用しているので銘柄が分からないし、私たちが真似して吸うのを防ぐためか教えてもくれないんですよね~。

 

 残りの座頭、つまり坊主頭ですが、これだけはダメです。マルコメ頭もきっと可愛いでしょうがピョコンと踊るアホ毛を今はまだ味わっていたいのです。ワンチャンあっちの方は坊主の可能性もありますが、未だ確認できていないんですよね~

 

 さておき、この部屋にいる間は多くのライバルを差し置いてこの私こそが彼の一番近くにいることを改めて実感することができます。

 

 

 

 ―――彼のことばかり考えていると、なんだかお腹の奥が熱くなってきてしまいました。率直に申し上げて、ムラムラします。

 

 幸い着替えから戻った比企谷さんはパソコンに夢中で、私のことなんかまったく見向きもしません。いつもならもどかしい素振りにも今回だけは幸運を感じずにはいられません。

 ……それに、想い人の部屋で一人耽るのも、ええ、悪くないです。昂ぶります。鷹富士だけに、昂ぶります。

 念のために確認しておきましょうか。

 

 

「ひきがやさーんっ♪」

 

「あぁ」

 

「お紅茶淹れましょうか?」

 

「あぁ」

 

「もうすぐしたら夕ご飯もお作りしますね?」

 

「あぁ」

 

「……今夜は一緒に寝ましょうね~♪」

 

「あぁ」

 

 

 仕事に夢中でこちらに注意を払っていないことを確かめるだけのつもりでしたが、思わぬ言質を取れてしまいました。やだ、カコさん大勝利じゃないですか。今夜……授かってしまうかもしれませんね。

 こうなってしまうと、なおのことブレーキは壊れてしまいます。小声で比企谷さんと呟いてみても反応は見えません。

 

 

 ぽしょりとこぼれた愛しい人の名前をきっかけに堰を切ったように私の右手は

 

 ――優しく髪を撫で

 

 ――甘く耳に触れ

 

 ――掻くように首筋を伝い

 

 ――なぞるように自慢の双丘を越え…

 

 下へと降りていきます。 

 

 ついに指先が私の“スイッチ”に触れた瞬間、寂しさも羞恥も嫉妬も独占欲も背徳感も……反転し、快感へと変わってしまいました。

 

 

 思わず彼の残り香のするクッションを抱きしめます。

 右手の指先はいつ彼が来ても大丈夫なように綺麗に整えられた薄い森を、丘を、更に開拓しようと動き回ります。

 

 背後では彼が熱心に業務に打ち込んでいるというのに、私はなんてイケないことをしているのだろう。

 しかしそれすらも今を彩るスパイスとなり、自分を慰める手はことさら勢いを増していきます。

 漏れる声を彼に聞かせるわけにはいかずハンカチを噛み締めても、喘ぐような吐息を止めることは出来ず思わず顔を覆います。

 

 1分なのか10分なのか1時間なのか、どれだけの時間そうしていたかは分かりません。

 やがて達してしまった私は荒い息を漏らしビクンと背を弓なりに反らす。

 

 さすがに大きな音に気付いた比企谷さんはゆっくりとこちらを振り向き……

 だめ。こんな私を見ないでください……

 

 

 

 

「―――switchの電源入れてどうぶつの森するだけで、なんでそんな描写があるんだよ……」

 

 

 

「―――てへっ♪どうです?興奮しちゃいました?本当に頂いちゃってもいんですよ?」

 

「……俺もどうぶつの森するわ」

 

「もうっ草食なんですからっ♪」

 

 薄着の私にチラッと目をやり、ソファーの隣に深くゆっくりと腰掛けゲームに没頭する比企谷さん。

 

 何気ない休日の柔らかい雰囲気が私たちを包みます。リラックスした彼の横顔はことさらセクシーなものへと変わり、私もゲームをしているはずなのについ目線が引き寄せられてしまいます。

 

 アイドルとプロデューサの関係性を頑なに守ろうとする彼に“二人で休日にゲームなんてまるで恋人みたいですね♪”なんて言ってみてもきっと“恋人なんかいたことねえから分かんねえわ”なんて返されちゃうんでしょうね。―――恋人いたことないですよね?

 ともあれ、これだけアプローチをかけてもうんともすんとも言わないんですから、過激なアプローチも致し方なしですよ。

 

 でもまだ裸の言葉をぶつけるのは怖くて、心の奥のその少しでもが伝われば良いな、なんて冗談にしてごまかしてしまうのも難しい乙女心だと分かって欲しいものです。

 

 

 

 

「―――二人で休日にゲームなんてまるで夫婦みたいですね♪」

 

「……そうだな」

 

「カコッ!?ひ、ひひ、比企谷さんがデレた!!!」

 

「夕飯も作ってくれるらしいしな」

 

「き、聞いてたんですか!?」

 

「寝るのが楽しみだわ」

 

「………(ボフッ)」

 

 

「フッ。またつまらんものを斬ってしまった」

 

 




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単短編メロウ・イエロー みく「関西人のイメージに悪意があるにゃ!」八幡「そうでんな~」

軽い気持ちで読んでいただければと思います。


 

 

「ち、違うんです!仁奈ちゃんが『八幡はどんなお酒が好きでごぜーますか?』って聞いてきたんです!!」

 

「―――で、なんて答えたんだ。最期の言葉くらいは聞いてやるよ…」

 

「(…激怒した顔もエロい…ではなく)――『比企谷さんはね~トリスハイボールが好きみたいですよ~』と言いました!!!」

 

「ちゃう、その後や」

 

「(…ブチギレ過ぎてエセ関西弁になってるじゃないですか。くぅ~。かわいい♡♡…でもなくて)――『せっかくなのでそのお酒と比企谷さんの名前を足してニックネームみたいに呼んであげれば喜ぶかもしれませんよ?』と言いました!!!」

 

「そんでその結果。…よりにもよって親子連れの多い土曜の公園で仁奈が俺をなんて呼んだか言ってみろよ。お前もいただろ?」

 

「『ハチトリス行くのが早過ぎでごぜーますよ!仁奈も一緒に行きたかったでごぜーます!!』………多少行くのが早くても私は気にしませんよ?」

 

「―――しばく」

 

「はーはっはーーー!捕まえられるもんなら捕まえてみてくださーい!!!むしろ一生離さないで~~~♡♡」

 

「待たんかいボケがあ゛ぁぁぁぁ゛!!!」

 

 

――――――

 

 

 事務所は今日もワイワイとにぎやかです。

 

 そのもっぱらの原因は口から蒸気を吐く勢いで赫怒する比企谷さんと、みんなの前で怒られる恥ずかしさからか顔を真っ赤にしてそれを受ける茄子さんです。

 もし私があれほどの勢いで怒られてしまったらきっと恐ろしくて腰を抜かしてしまうと思います。

 

 あれが大人の女性の強さというものでしょうか、茄子さんは毅然とした…とは言えませんが比企谷さんの目を真正面から穴が開くほど見つめています「もうっゆかりちゃんたら!穴があるのは私の方「お前まじでいい加減にしろ!品はどこへ置いてきたんだ!」…何か楽し気な一言を残したかと思うと、また比企谷さんと追いかけっこに行ってしまいました。わざわざこれを言うためにここまで戻ってきたんでしょうか?――怒られている時でもユーモアを忘れない茄子さんはやはり大人の鑑です!

 

 

「ねぇねぇゆかりちゃん!今の茄子さんの表情見た!!?」

 

「…?あれだけ大きな声で騒いでいたので見ていましたが…それがどうかしましたか?」

 

「えーー!ゆかりちゃんはキュンと来なかったの!?有香ちゃんは分かるよね!?」

 

 

 法子ちゃんは先ほどの比企谷さんたちのやり取りからどうやら私と違ったものを感じ取ったようです。しかしこう言っては何ですが、法子ちゃんは…何と言いますか…癖の強い性格をしているので独特な感性を持っているんですよね。

 有香ちゃんもどちらかと言えばこちら側の人なので法子ちゃんの気持ちはきっと分からないと思います。

 メロウ・イエローで飛びぬけた個性を持つ法子ちゃんに私たちが救われた経験は数えきれません。しかしメンバーが奇数である都合上、どうしても彼女が少数派になることを、少なからず申し訳なく思ってしまうのも事実です。

 有香ちゃんと私の個性を伸ばし三すくみで相乗効果的になることが理想ではあるのですが…

 

 

「押忍!わかりみ!」

 

「有香ちゃん!?」

 

 

 有香ちゃん分かるんだ!分からない私がおかしいの!?

 

 

「だよねだよね!!――――だからずっとあたしは考えてたの!!」

 

「何をでしょうかっ!?」

 

「待ってください!私にも説明を!」

 

 このままじゃ置いていかれてしまいます!

 

「比企谷プロデューサーに強めに叱られてみたい!!!!!」

 

「「わかりみ!!!」」

 

「でしょー♪」

 

 

 なるほど、一撃で納得させられてしまいました。

 ――もう一度落ち着いて、先ほどの比企谷さんの表情がこちらに向けられているとしたらと考えてみましょう………ふむ、悪くないじゃないですか。

 茄子さんは発情していたから真っ赤なお顔だったんですね。いえ、決して私が発情しそうだからそう思ったわけではないです。

 しかしそれには問題が…

 

 

「でも比企谷プロデューサーと私たちの関係ってさ…」

 

「「「おじいちゃんと孫…」」」

 

 

 

「…うんうん。比企谷さんと話していると、空手を教えてくれている方ではない田舎のおじいちゃんを思い出します」

 

「…ですね。私もフルートの練習をしているとたまに泣きながらこっちを見てるので驚いちゃいます」

 

「…あたしなんか誕生日に『世界一のドーナツだ』なんて言って一個20万円のドーナツをプレゼントされちゃったよ…」

 

 むっ………

 

「――沖縄の国際空手大会に応援に来てくれて、優勝のお祝いに美ら海水族館に連れて行ってもらいましたっ」

 

「―――フルートのコンクールの応援にフランスまで来てくれました……フランス料理のフルコース、とてもセボンでした」

 

 

「待って待って!もはやおじいちゃん超えてるよ!?中国の富裕層のパパ活だよ!―――あたしが言いたいのはそうじゃなくて!他の子たちは妹扱いが嫌だなんて言ってるけど、あたしたちはもはや孫だもんねってこと!」

 

 

 法子ちゃんにたしなめられてしまいました…

 

 

「だからあたしが用意してきたのは~!――デケデケデケデ~デンッ!“メロウ・イエローでボケまくって比企谷さんから強めに叱ってもらえる1日にする~Hachiman make MY day~大作戦”です!!!」

 

「「おぉ~(パチパチパチ)」」

 

「いいでしょ~!時子さんに相談したら色々作戦をたててくれたの、あたし達は3人組だから小ボケ大ボケツッコミが良いんだって!作戦名の命名も時子さんだよ♪」

 

「「トキカワ!!」」

 

 

 相変わらず怖いもの知らずな法子ちゃんです。とても私なんかじゃ真似できないですね。

 でも時子さんへ相談したというのは不思議ですね、今まさにどこかで叱られているであろう茄子さんに聞いてみれば早そうなものですが。 

 

 

「と、時子さんにこんな相談したんですか?」

 

「ノリノリだったよ~?『私が考えてあげたのだから死力を尽くしなさい?せいぜいあの鴉におじいちゃん孝行すればいいわ』って♪」

 

「お、押忍。――いつも一緒にいるのにモノマネが激ヘタですね……法子ちゃんが時子さんのセリフをそのまま言っただけでしたよ……」

 

「えへへ~じゃあまず有香ちゃんはこれを2粒食べて!」

 

「は、はいっ!いただきます!」

 

 

 どうやらこれは時子さんも私たちを使って遊ぼうという狙いもありそうですね。案外比企谷さんに弱いあの人のことですから、いつもとは趣向を変えた意趣返しという線もあるかもしれませんね。トキカワ!!

 

 そして有香ちゃんは何も聞かず言われるがままに、法子ちゃんから渡されたラムネのようなものを2粒飲み込みました。躊躇とかないのでしょうか…

 

 

「飲み込んだ?―――よし、じゃあゆかりちゃん何かボケてみて?」

 

「……………そ、そんな名前の人しらないっ!!」

 

 

 突然の無茶ぶりでしたが我ながら良い返しをできたと思いますが、これは、地獄……

 

 

「自分から中の人ネタとか安直すぎやろ!てかゆかりちゃんとキャラ違い過ぎてさっき調べるまで気付かんかったわ!これからはエロマンガ先生て呼ばしてもらおかいな!」

 

「へへー♪志希さん特性“ノンダラカンサイジンニナール”だよ!」

 

「命名センス小林製薬か!大家族の15人目くらいの子供でももうちょい考えて名前つけられてるで!!」

 

「1粒で一週間の効き目だよ♪」

 

「ほな絶対1粒で良かったやろ!なんで2粒飲ましたねん!2週間も関西人ならなあかんの!?そんなん絶対嫌やで!押忍でんがなとか言うてもたらどうしよ!?」

 

「大丈夫大丈夫!全然違和感ないよ!!」

 

「どんなゴリ押しの仕方やねん!押し過ぎやろ!鳥人間コンテストやったら新記録でる勢いやわ!?」

 

 

 はっ!!あまりの衝撃に意識が飛んでしまいました。……これ私がボケる必要ありましたか?有香ちゃんひとりでやっていけそうなんですけど……

 

 

「こんなん下段にもならんわ!あっ、ちごた。上段にもならん!あかん、またまちごーてもた…冗談にもならんわ!言いたかってん。――ほんまウチはつくづく空手家やわ~下段とか上段がパッと出てまうんやもんな~」

 

「イイよ有香ちゃん!なんだかオールドファッションな芸人みたいで!」

 

「それを言うならオールドスタイルやろ!どんだけドーナツ好きやねん!ええ加減にしとかなあんたのドーナツ全部ソースかけてまうで!」

 

 

――――――

 

 

 

「…お前らはいつ見ても楽しそうだな。――この事務所で数少ない癒しなんだ、頼むからそのままでいてくれよ?」

 

「ひ、比企谷さん!いつからいたんですか!?」

 

「いつからもなにもずっといたぞ?なすびを捕まえてからここで躾けてたからな」

 

「うわぁぁぁぁ!なんで四つん這いの茄子さんに座ってるんですか!!しかも真顔で!!」

 

 

「ぐへへ。背中に比企谷さんの体温を感じますぅ~」

 

 

「まんざらでもない感じ!」

 

「どうした水本、この椅子が気になるのか?座り心地は最悪だからおすすめできないが、俺の膝でよければ座ってみるか?」

 

「お、お膝の上も魅力的ですけど……(い、いいい、椅子のように扱われる……アリです!ゾクゾクします!)」

 

「おう、なんなら肩も揉んでやるよ」

 

 

「い、椅子のように扱われてゾクゾクしてるなすびは悪いなすびですか!!!」

 

 

「(ゴクリ)…比企谷さん!!」

 

「どうしたんだ?」

 

「わ、私も仁奈ちゃんに良からぬことを吹き込んできます!!!」

 

「え、なんで!?」

 

「では!」

 

 

「行っちゃったよ……」

 

「なすびの事はガ・ン・無・視♡♡」

 

 

 




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単短編久川 颯「なー15歳の誕生日おめでとう!」凪「はーちゃんこそ14歳の誕生日おめでとうございます」

軽い気持ちで読んでいただければと思います。


 

 

 吊革につかまり何を見るでもなく流れる景色を眺めていると、聞きなれた到着のアナウンスが耳に入ってくる。外回りが一段落ついた安心感もあり無心で電車に揺られていたが、ようやく事務所の最寄りまで帰ってくることができたようだ。

 

 満員電車から吐き出されるように下車し改札をくぐり抜けると、アスファルトを打ち付けるほどの大雨が降っていた。

 そういえば朝のニュースで梅雨入り宣言だとか言っていた気がする。最悪ビニール傘でも買えばいいかと思い折りたたみも持ってきていない。

 

 まぁ目的地の事務所はすぐそこだし今回は走れば大丈夫だろう。

 よし、と気合いを入れ進行方向を睨むと、ピンクと淡いブルーの水玉が散りばめられた傘を持った少女が、真っすぐこちらへと近づいてくるのが見える。

 

「あー!はっちゃんやっぱり傘忘れてたっ!急に降ってきたから大変だと思ってはーが迎えにきてあげたよ♪」

 

 

 ファッションモデルのようにその場でくるりと回りポーズを決める久川。そんな短いスカートで回っちゃいけません!

 事務所のホワイトボードには帰社時間も書いてあるからそれを見て迎えに来てくれたのだと思う。話し方からするとおそらく妹の颯が来てくれたのだろう。

 

 

「…久川か、すまん助かった。―――で、俺の傘は??」

 

「…あ。……忘れちゃった♪」

 

 

 破壊力抜群のてへぺろが俺を襲う。ちくしょう、かわいいな。

 

 

「何しに来たんだよ…」

 

「んー、そうだ!はい、これ持ってはっちゃん!」

 

 

 少し考えると何か思いついたのか、久川は手に持った傘を俺に差しだす。トトロかな?

 

 

「そしてぇ~、ぎゅっ!――うん、これなら二人とも濡れずに帰れるね♪」

 

「……天使かな?」

 

「んー?はっちゃんなんか言った?」

 

「い、いやなんでもない。もうすぐレッスンだろ?さっさと帰るぞ」

 

 

 小さな傘だからね!とさらに強く左腕にしがみつきこちらを見上げる。さらには俺の不審な鳴き声に小首をかしげる。

 ゆーこさん!徳島から産地直送であざとさが届いてますよ!

 

 

「えー、せっかく二人になれたしゆっくり帰ろーよー。それともはっちゃんは、はーだけじゃ不満なの?なーも合わせてリバーシブルで楽しみたいの?」

 

「何言ってるかわかんねえよ。なんだよリバーシブルって。裏返んのか?」

 

「わーお。凪の裏返り、あるいは裏切り。―――この入れ替わりトリック、はたしてPに見破れましたかな」

 

 

 口調、纏う空気、何気ない仕草、先ほどまでの暴力的な可愛さ、全てがガラリと変わる。抱きしめていた腕も離しトンッとステップを踏んで俺から離れる。

 

 

「………凄まじいモノマネのクオリティーだな。一瞬ほんとに入れ替わったかと思ったわ、さすが双子だな」

 

 

 弱くなったとはいえまだ雨は降っているので、もう一度傘へと招き入れて歩き出せば思いのほか素直についてきた。 

 

 

「おおPよ、気付かないとは情けない。凪は初めから凪ですよ。あるいはジャギですよ」

 

「…は?だから久川妹が姉のマネをしてるんだろ?」

 

「残念、ジャギを無視されてしまいました。姉より優れた妹は存在しないのですよ」

 

「最初からお前が妹のマネをして迎えに来てくれていたってことか…?」

 

「おふこーす」

 

「………まじで分からんかったわ。…すまん」

 

 

 お隣の事務所にいる双子とは違い、こいつらは服装や口調がかなり特徴的なので見分けること自体は簡単だ。だがそれはそのアイコン的な特徴がなければ見分けがつかないということでもある…

 

 

「……愛があれば見分けがつくそうですよ。――なるほど、Pに愛はないということか。切ないぜ…」

 

 

 大げさなリアクションでヨヨヨと涙を拭うしぐさをし、こちらをチラチラと伺っている。

 

 

「14歳が愛とか言うなよ…」

 

「愛に年齢は関係ありませんよ。そして凪は今日で15歳です。結婚できるお年頃まであと1年、れっつカウントダウン」

 

 

 事務所へと到着し玄関をくぐり傘を返す。濡れずに帰れたお礼を言い、もうひとつカバンから出した小包も渡す。

 

 

「――子どもには関係なくても大人にはあるんだよ。ほら、大したもんじゃねえがプレゼントだ」

 

「わーお。このサイズ感、婚約指輪だな。そこまで言うなら仕方ない、同じ墓に入ってあげましょう」

 

「どこにこんな流れで、しかも中学生にプロポーズするやつがいるか。――お前には髪飾り、妹の方はピアスにした」

 

「……ありがとうございます」

 

 

 おずおずと受け取りながら妙に古い結婚観でプロポーズに答えてくれた。てかプロポーズじゃねえよ。

 

 

「おう。――せっかくだから妹の方にも今のうちに渡しとくか」

 

「も、もし!!!来年までに凪とはーちゃんを見分けられるようになっていたら、ほ、ほほ本当に結婚してあげましょう!!!」

 

「…は?」

 

 

 ついでなので妹の方にもプレゼントを渡しに行こうと歩き出すと前をふさがれた。しかも逆プロポーズされちゃったよ。

 

 

「な、ななな、なんてね!はい、はっちゃんまた騙された~!はーのフリをしたなーのフリをしたはーが正解でした!だ、だから、来年はっちゃんと結婚するのははーなんだからね!!!」

 

 

 でも両方と結婚したい場合は要相談なんだからね!と捨て台詞をはきどこかへ走り去ってしまった。

 ……結局どっちだったんだ? 

 

 

 

――――――

 

 

 

「わわ!なー顔真っ赤じゃんどうしたの!?」

 

「はーちゃんはーちゃんビッグニュースです。凪は来年の今頃には久川ではなくなっているかもしれません」

 

「え!どうゆうこと!ゆーこちゃん離婚しちゃうの!?」

 

「さらには義理のお兄さんが、さらにはさらには甥か姪ができてしまうかもしれません」

 

「ええ!ほんとにどうゆうことなの!」

 

「………あと1年。これほど待ち遠しいとは……」

 

 

 

 

 




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単短編ヤンデレ3 八幡「おめっとさん」結衣「あ、ありがとう」

軽い気持ちで読んでいただければと思います。


 

 

「今日は来てくれてありがとね。……ヒッキー」

 

 

 お店に入り飲み物と軽くつまみを注文して落ち着いたところで由比ヶ浜がそう切り出した。

 

 

「別に飲みに行くぐらいはいいんだが。…せっかくの誕生日に俺なんかといていいのか?」

 

「誕生日だから、ヒッキーが良かったんだよ」

 

 

 由比ヶ浜から食事の誘いがあったのが昨日のことだった。

 

 お店選びは俺に任せると言われ困っていると、目の前にいたちひろさんからアイドル達が飲み会をするときに利用している居酒屋をおすすめされた。確かにあそこなら個室もあるし舌の肥えたアイドルが通うほど味にも信頼がおけるということですぐに予約を取り付けた。

 

 

「…そうか」

 

「それにしてもヒッキーがこんなオシャレな居酒屋を知ってるなんて意外だったなー。お仕事の接待とかで使ったの??」

 

「…まあ、そんな感じだ」

 

「あ、ビール来たね。――はいヒッキー、かんぱーい」

 

「おう。おめっとさん」

 

「えへへ~。これで誕生日を二人でお祝いしてもらうの何年連続になるかな??」

 

「…他にも誘えって言ってんのにお前が頑なに誘わねえからだろ」

 

 

 そうだったけ?なんておどけながら由比ヶ浜は勢いよくビールを飲み下す。

 こいつには卒業以来、“パセラのハニトーおごってもらってない”を合言葉に事あるごとに連行されている。

 買い物の荷物のついでに何度かパセラに行ったりもしたが、“今はお腹いっぱいだから”と決してハニトーを食べることなく今日までが過ぎていた。

 

 

「それは…みんなとは別で誕生日会をしてもらってるから…」

 

「――なるほど…。……大丈夫、傷ついてないよ」

 

 

 衝撃の事実……

 

 

「だって何度誘ってもヒッキー来てくれないんだもん。仕事もいまだに何してるか秘密だし」

 

「――そういうことなら、まあ仕方ないな……」

 

「この日だけはヒッキーを独り占めできるのも嬉しいし……」

 

 

 こいつ自分がなに言ってるのか分かってんのか?

 

 まだ一杯も飲んでないのに頬を染め、ふぅっと吐息をこぼす由比ヶ浜に視線が引き寄せられる。それをごまかすように俺は残りのビールをぐいっと飲み干し通りがかった店員におかわりを注文した。

 

 

 

――――――

 

 

 

 掘りごたつって最高だよな~。ああ、お酒おいしい。以前高垣さんのお願いで仕入れたらしい播州一献とアテに鯛の昆布締め。さわやかな味わいの日本酒と旨みの強い鯛が相性抜群だ。お酒最高。お酒おいしい。

 どれくらい飲んだだろう。久しぶりに飲むお酒は疲れを癒しストレスを洗い流してくれる。お酒は心の洗濯だな。

 

 

 

「ヒッキー大丈夫?…目の濁りが、なくなってきてるよ?」

 

「らいひょうぶ。お酒おいしい」

 

 

 心配してくれる由比ヶ浜やさしい。

 机にぐでっとなった俺の頭をなでりなでりとしてくれる。

 

 

「そろそろいけるかな……。―――ねえヒッキー、次行こっか?あっ、そういえばゆきのんからもらったケーキがまだあるんだった、…うち来る?」

 

「お~う。行くかぁ~」

 

「(よっし!!!)――じゃ、お会計してくるね。ヒッキー立てる?ほら掴まって」

 

 

 由比ヶ浜の手に掴まって立ち上がる。

 冷たくて気持ちいい上に柔らかいから女の子ってすごいよな~。

 

 お誕生日様の由比ヶ浜に合わせたペースで飲んでたのになんで俺だけこんな酔ってんだ? そんなに疲れてたつもりはなかったが思っていたより疲労がたまっていたのかもしれない。

 

 ふらふらになりながらもなんとか由比ヶ浜に支えてもらい店から出る。あ、領収書は緑の事務員でお願いしました。

 

 

「ん、ヒッキーやっぱり男の子だね。思ってたより重たいや」

 

「そうかもしらん~」

 

「タクシー呼ぶね?」

 

「そうかもしらん~」

 

「せっかくだから帰ったらシャンパン開けよっか」

 

「そうかもしらんんん~ん?」

 

 

 

「何がそうかもしらんなんですか?比企谷さん?」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

「さ、佐々木か?どどど、どうしたんだこんな時間に?」

 

「事務所に忘れ物をしちゃったので取ってきたんです」

 

 

 なぜだろう。佐々木から妙な迫力を感じる。酔い覚めちゃったよ。

 

 

「そ、そうか。でもこんな時間に一人で出歩くのは良くないな」

 

「それより比企谷さんは今からどこへ行こうとしてたんですか?」

 

「べ、別に帰ろうとしてただけだぞ?」

 

「…ヒッキー?」

 

「でしたら比企谷さんが送ってくれませんか?千枝、実は一人で怖かったんです」

 

「……ヒッキー?」

 

 怖い。由比ヶ浜も怖いし佐々木も怖い。

 由比ヶ浜は何この子、こんな良い所で邪魔するなんてどうしてやろうか。って目してるもん。佐々木の目は、…何を考えてるか全く分からんが、闇より暗いことだけはわかる。

 

 当然のことだが子供の佐々木が一人で歩いているのを目にしてほっとくわけにも行かないので、由比ヶ浜には悪いが別でタクシーを拾って送ることにした。

 

 

「すまんな由比ヶ浜。さすがに子供をほっておくわけにもいかん」

 

「いや、まず誰だしその子。似てる子がドラマに出てるの見たような気がするんですけど…」

 

「あー。えと。…世の中には3人似てる人間がいるらしいぞ?――おい、佐々木!押すなって、タクシーに押し込もうとするなって!」

 

 

 由比ヶ浜と問答をしているとその間に佐々木がタクシーを止めてくれていた。

 

 外を歩くときは帽子と眼鏡をするように言っていたのに、今日に限って何もしていない佐々木に由比ヶ浜が反応を見せる。

 だがプロデューサーをしてることを言うとさらにめんどくさくなりそうなので適当にごまかしてると、佐々木にタクシーの奥へドンッと押し込まれた。

 

「ちょ、ヒッキー何にも答えになってないし!」

 

「では、胸が大きいだけのお姉さん。千枝は比企谷さんに送ってもらうので、お話の続きは……また来年にでもしてください」

 

「なっ!!どういうことだし!!!……ちょっとヒッキー!!」

 

 

 シートに倒れこんでしまいふらふらと頭をあげると佐々木も遅れて乗り込んできた。押し込まれてシートとキスしているときに佐々木と由比ヶ浜が何か話していたようだが幸か不幸か俺の耳には聞こえてこなかった。

 

 

「すみません、運転手さん。〇〇町の〇〇マンションまでお願いします」

 

「え?なんで俺の家?」

 

「―――千枝が来なかったら比企谷さんどこへ行くつもりだったんですか?」

 

「……家に帰るつもりだったぞ?」

 

「なら問題ないですね♪――運転手さん、外の女の人がうるさいので早く行ってください」

 

 

 

「……問題ないです」

 

 

 タクシーが走り出すと後方から『また今年も逃がした―!!』という咆哮が聞こえたがきっと気のせいだと信じたい。去年も聞いた気がするけど信じたい。

 

 

 

――――――

 

 

 

 千枝の誕生日は6月7日です。

 比企谷さんが何をしてくれるんだろうかとその日は一日中そわそわしちゃいました。だって彼が担当するアイドルはみんな何か素敵なプレゼントをもらってるんです。千枝には何をくれるのかと楽しみになってしまうのも仕方ないと思います。

 

 なのに、なのになのになのに!

 『おたおめ~』の一言だけ!!!!

 ぜったいに許しません。身体に心に魂に千枝の存在を刻み付けてやります♪

 

 

 

 とは言えそう簡単に有効そうな作戦も思いつきません。

 何かいいアイデアが出ないかなーと事務所の屋上でぼーっとしている時、チャンスは唐突にやってきました。

 比企谷さんのプライベート用のスマートホンがメッセージを受信したのです。

 千枝のスマートホンは比企谷さんのスマートホンをハッキングしているので常に同期していて、何かあった時にはすぐに対応できるようになっています。

 

 画面を見てみると高校時代の友人から食事のお誘いが来ているようです。★★★ゆい★★★なんですかね、この登録名。未央さんかスパムメールのどちらかしかありえないです。本人の品が知れるというものです。

 

 しかし逃すわけにはいかないこのチャンス。すぐにちひろさんに連絡を取り、年増組がいつも使っている居酒屋をおすすめするようお願いしました。

 あそこはかなり融通を聞かせてくれるので事務所御用達といった感じだそうです。“アイドル飲み姿カワイイ選手権”もあの店で行われました。カメラを忘れて泥酔する姿に企画は大好評だったそうです。

 

 

――――――

 

 

 次の日の夕方、先に居酒屋へと入り個室にカメラとマイクを設置し別部屋で待機しているとターゲットの二人が入ってきました。お店の人にはこういうドッキリと言って協力してもらいました。

 

 先に入ってきたのは比企谷さんです。いつものスーツですね。これで気合いが入っていたりしたら逃げ出してしまっていたかもしれないので良かったです。

 その後ろを続いて入ってきた女性はかなり巨乳ですね。肩だしニットがボディラインを美しく強調し、ミニスカートがチラチラと比企谷さんの視線をマタドールのように引き寄せています。比企谷さんやっぱり巨乳が好きなんでしょうか?千枝もきっと大きくなるのでもう少し待っていて欲しいです。なんなら自身の手で育ててもらってもかまいませんし。

 

 

 

 最初の注文を済ませて落ち着いた二人はなんだかとてもいい雰囲気です。事務所にいるアイドルの誰とも違う、二人だけの空気感のようなものがあっという間に個室を包みました。

 コンっとジョッキをぶつけ乾杯をする二人。比企谷さんの照れたような表情がたまりませんね。あれだけでお酒のアテになりそうです。

 

 その後も二人は楽しそうな雰囲気で時間が流れています。それにしてもあの巨乳、飲ませすぎじゃないですかね。酔わせて比企谷さんを持ち帰ろうとする狙いが丸わかりです。浅はかです。

 

 もうこれ以上黙って見ているのも飽きてきたので、志希さん特性の“ヨイマワリヤスクナール”を巨乳が注文したお酒に混ぜて提供するようにお願いしました。お店の人には適当に言って協力してもらいました。

 これで酔ってもらって早々にご退場願いましょう。酔った女性に手を出すような比企谷さんではありませんから、そうなればこのお誕生日会もお開きになるでしょう。

 

 

 ……そう思っていた時期が千枝にもありました。まさか比企谷さんがカルーアミルクを飲むだなんて思わないじゃないですか。まったく、そんなとこもかわいいんですから。

 次に注文した日本酒を飲み始めたとき、比企谷さんに異変が訪れました。

 

 

『らいひょうぶ。お酒おいしい』

 

 

 は?かわいすぎかよ?

 ろ、録画してたのを後で見なおしましょう。永久保存版です。

 

 千枝が比企谷さんのあまりのかわいさに悶絶していると巨乳の目がギラリと光るのが見えました。警戒しなければ、と思っているとすぐに比企谷さんの手を取ってお店を出ていってしまいました。

 

 千枝が守護らないと!

 

 急いでお片づけをし、お店の人にお礼を言って追いかけます。

 お店を出て比企谷さんの所へ到着したのは本当にギリギリのタイミングでした。

 

 

「何がそうかもしらんなんですか?比企谷さん?」

 

「………」

 

 

 気まずそうな表情の比企谷さんもたまらないです。

 心のシャッターと隠しカメラのシャッターを押し、トトトッと比企谷さんへと近づきます。

 ふわりと漂うアルコールとタバコの香りが、焦る千枝の心を落ち着かせてくれます。

 

 

「それより比企谷さんは今からどこへ行こうとしてたんですか?」

 

「べ、別に帰ろうとしてただけだぞ?」

 

 

 どこに帰ると明言しないあたりが比企谷さんのずるがしこいところですね。でも逃がしません。

 

 

「でしたら比企谷さんが送ってくれませんか?千枝、実は一人で怖かったんです」

 

 

 

 こういえば甘くて優しい比企谷さんはきっと断れません。

 隣で巨乳がじっとりと睨んでいますがさんざん個室で比企谷さんを堪能したんですから、これ以上は強欲が過ぎると思います。……千枝も楽しそうな二人を見ているのはつらかったけれど我慢したんです。

 

 ちょうどアプリで呼び出したタクシーが来てくれました。

 うんしょうんしょと比企谷さんを奥へと押し込みます。

 

 

「では、胸が大きいだけのお姉さん。千枝は比企谷さんに送ってもらうので、お話の続きは……また来年にでもしてください」

 

 

 せっかく目の前に極上の料理が並んでいるのに黙って見送ることしかできない巨乳さんには申し訳ないですが、恋愛と戦争では手段を選ばないとダージリン様も言っていました。

 ぐったりとタクシーに座る比企谷さんの隣にピトっと千枝も腰を下ろします。本当はお膝に座りたいですけれど、道路交通法的によろしくないのでお家に帰るまでの我慢です。

 

 

「え?なんで俺の家?」

 

 

 この期に及んで逃げようとする比企谷さんを2秒で論破して、運転手さんに進むようにお願いします。

 

 ……や、やってやりますよ。身体に心に魂に千枝の存在を刻み付けてやります。

 おめでとうが貰えなかったから……お、おめでたをもらうのも、や、やぶさかではないです!!

 

 

 




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単短編激辛 雪美「台本形式の方が楽なの??」八幡「………そーゆーことだ」

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雪美「八幡…これ…なに?」

 

八幡「夢をのぞいたらのヒット祈願企画だ」

 

雪美「どうして…私は…モニターで見てる…だけ?」

 

八幡「今回はナターリアの提案で激辛料理チャレンジになってな、店内にいるだけで激辛料理のダメージを喰らうんだ。なんでバリアを張れるこずえはともかく雪美はモニタリングでコメントだな」

 

雪美「そう、なんだ。…まさか…こずえも…食べるの…?」

 

八幡「いや、さすがにあいつは応援だけだな。チャレンジはナターリアと夢見だ」

 

雪美「ロケが3人…だけ…なのは、大人数を…書くのが…難しいから?」

 

八幡「………そーゆーことだ」

 

 

 

りあむ『聞いてないよぉ。――お店に入ってすぐ分かるこの辛さ。…ただの食レポって絶対に嘘だろう』

 

ナターリア『感じるヨ!故郷の風を!』

 

こずえ『ふわぁ…ばりあをはれば…だいじょうぶだよー』

 

りあむ『顔がいい子にはバリアがあるの?アイドルのオーラみたいなもんなのか?』

 

こずえ『はちまんが…りあむはこーゆきかくでこそ、かがやくあいどるだってー』

 

ナターリア『おぉ!ハチマン♪――ハチマンの言うことはだいたい正しいもんネ!それに今回はワタシがお願いした企画なんだヨ!』

 

りあむ『うぅ~ハチサマめ~。ぼくは辛さに弱いんだよぉ~。やむ~』

 

ナターリア『もうすぐ本番だヨ!ナターリアも頑張るからリアムもファイトだゾ!』

 

こずえ『がんばれ~』

 

りあむ『……このままここで甘やかされてたいよぉ』

 

 

 

雪美「りあむ…泣いてる…かわいそう…」

 

八幡「…ナターリアは喜んでるだろ?それを見てたら雪美も嬉しくならないか?」

 

雪美「…うん…なる…」

 

八幡「雪美は優しいな」

 

雪美「…照れる…ありがとう。………あれ?りあむの…ことは?」

 

八幡「さっ、引き続きモニタリングしていくぞー」

 

 

 

 

 

ホンバンイキマース!ヨーイ、スタートッ!!

 

 

りあむ『こんな企画だなんて聞いてないよ!入店4秒で分かるこの辛さ!空気を読めないぼくでも感じるくらい店内の空気が辛いもん!!よくも騙したなー!!』

 

ナターリア『今日は夢をのぞいたらのヒット祈願で、ワタシが通ってるブラジル料理のお店に来たヨー♪』

 

こずえ『ふわぁ…げきからりょうり…かんしょくして…いきおいつけろー』

 

 

 

雪美「急に…りあむ…怒っちゃったよ?」

 

八幡「ああ。本番が始まったとたん別人みたいになったな…。すさまじいプロ意識だ」

 

 

 

りあむ『これ本当に食べ物なの!?真っ赤だよ!地獄の入り口みたいになってるよ!!!』

 

こずえ『なたーりあ…ふるさとのあじかー?』

 

ナターリア『そうだヨ!―――えっと、これは……これはブラジルの伝統料理だゾ!』

 

りあむ『あぅ。目がシパシパするよう~』

 

こずえ『なたーりあ、なんのりょうりか…おしえてー』

 

ナターリア『………伝統料理だゾ!!』

 

りあむ『それでいいのかブラジル人!今のとこ具体的な情報0だよ!!』

 

ナターリア『タバスコがいっぱいかかった何かだナ!!』

 

こずえ『さすが…なたーりあ』

 

りあむ『そんなの見ればぼくでも分かるよ!!……でもタバスコってメキシコじゃなかったっけ??』

 

ナターリア『何てこと言うノ!タバスコを日本に広めたのはアントニオ猪木なんだヨ!猪木はブラジルで少年時代を過ごしていたから、その猪木が広めたタバスコはブラジルの伝統品と言っても過言ではないんだヨ!!』

 

こずえ『ばきで、いがりは…かんぜんにかませきゃらだぞー』

 

りあむ『過言だよ!それに猪木情報は食レポに全く必要ないものだよ!!こずえちゃんはかわいいねぇ~―――あとシン劇のナターリアちゃんが寿司をキャリーバッグに入れるエピソード、あれぼく普通にドン引きしたからな!!!』

 

 

 

八幡「隣の席からずっと異臭がしてたからな…」

 

雪美「八幡が…付き添い…だったんだ」

 

八幡「キャリーの中身に匂いが移って大変だった。…わざわざ新しいの現地で買うハメになったしな」

 

雪美「…ナターリア…キャリー大切にしてるの…そういうこと…だったんだね」

 

 

 

りあむ『よしっ、覚悟は決まったよ!―――いただきまーゴフッ!!辛いよ!辛すぎる!!!』

 

ナターリア『わおっ!リアム!カライヨはポルトガル語で男性器って意味だヨ!』

 

こずえ『だんせいき?だんせいきってなんだー…。りあむーおしえろー』

 

りあむ『あばばばば。辛い辛い辛い゛い゛い゛いいいい』

 

ナターリア『はははっ!男性器連呼だナ!!』

 

こずえ『あせが、すごいー…。ふきふきしてあげるぅー…』

 

 

 

雪美「ねえ…八幡は…男性器が…どういう意味か…知ってる?」

 

八幡「………膝に座るか?」

 

雪美「あっ…うん…座る…」

 

八幡「さっ、続きを見よーなー」

 

 

 

ナターリア『くぅ~シビシビするナ!汗がイグアスの滝だヨ!!』

 

こずえ『ぶらじると、あるぜんちんに、またがる…たきだよー』

 

りあむ『こずえちゃんが博識で尊い…ぼくなんかの汗ふかせて申し訳ないけど素直にオギャっちゃう…』

 

ナターリア『特にこの自家製タバスコがいい味出してるネ!』

 

りあむ『―――えっ、ブラジルの人は自分で作るの??』

 

ナターリア『そうだヨ!アマゾンにはいろんな種類の唐辛子があるからネ!!それを使って各家庭にオリジナルの味があるんだヨ!』

 

りあむ『ブラジルも意外と近代的なんだねー』

 

ナターリア『アマゾン川まで行くのは大変だけどネ!!』

 

りあむ『アマゾン違いだった!!』

 

こずえ『りあむのあせで…べとべとのはんかち…めるかりでうれたー…』

 

りあむ『いつの間に出品してたの!?しかも売れたんだ!?』

 

 

 

雪美「八幡…なにしてるの…?」

 

八幡「ちょっと買い物をな……」

 

雪美「なに…買ったの?」

 

八幡「………ロケ終わったらこずえ連れて、甘いもんでも食べに行くか」

 

雪美「わっ…行きたい…楽しみ…」

 

八幡「ほら、続き見よーなー」

 

 

 

りあむ『い、いふぁい。したがいふぁい』

 

ナターリア『おっ、ここで助っ人の登場らしいヨ♪』

 

こずえ『かれんーおいでおいでー』

 

りあむ『えっ!ママが来てくれてるの!?』

 

加蓮『事務所イチ激辛に不向きなアイドルが来たよ!!』

 

ナターリア『たしかにそうだナー。でも来たからには、容赦なく食べてもらうゾ!』

 

こずえ『こずえが、たべさせるー…。はい、あーん』

 

加蓮『ありがとね。あーん。――ふむふむ、口内を蹂躙する辛さの奥にほんのりと素材本来の旨みが……アントニオッッッッ』

 

りあむ『か、加蓮ままー!!』

 

こずえ『どんどん、いくよー』

 

りあむ『こずえちゃん!ストップストップ!!』

 

ナターリア『代わりにリアムが食べてあげればいいんだヨ!』

 

りあむ『い、いや、いくらこずえちゃんのあーんでも、、、あれ?こずえちゃんがあーんしてくれたから辛さが消えてアギャア゛ア゛ア゛アァァ』

 

 

 

雪美「加蓮…大丈夫かな…?」

 

八幡「ほんとなんで来たんだろな…」

 

雪美「りあむの…心配は…?」

 

八幡「次はあいつのびちょびちょTシャツを落札するか…」

 

雪美「Tシャツ…?」

 

八幡「おっ、次の助っ人が来たぞー」

 

 

 

未央『ばばーん!助けに来たよ、りあむん!!』

 

りあむ『未央ちゃん!!…って加蓮ちゃんは?』

 

未央『―――搬送されて清良さんに引くほど怒られてたよ……』

 

ナターリア『…申し訳ないことしたナ』

 

 

未央『ま、まあ未央ちゃんが来たからには、もう大丈夫だよ!!』

 

こずえ『みおもげきから…たべるのー?』

 

未央『ふっふっふ。それが違うんだなー』

 

りあむ『…嫌な予感しかしないよぅ』

 

ナターリア『フラグだナ!』

 

未央『そんなこと言っていいのかなー?激辛料理を食べた後の身体がどうなってしまうか、知らないわけではないでしょーに』

 

りあむ『――まさか…誰も言及しなかった禁断の…』

 

未央『そう!激辛料理を食べた次の日はアナルがヒリヒリする!!!』

 

こずえ『ここのところ…ほうそうでは、ぴーをいれろー。ぜったいにいれろよー』

 

りあむ『い、言っちゃった!アイドルがそんな言葉使っちゃいけないんだぞ!!』

 

ナターリア『んー。Oラインならセーフか?』

 

りあむ『き、きわどい。でもそれはCMとかで言うかもしれないし…』

 

 

 

雪美「…あなる?」

 

八幡「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らないってアニメのキャラだな。安城鳴子を略してそうなったらしい」

 

雪美「…萬田久子を…略したら…ま」

 

八幡「さっ!!ラスト見るぞ!!」

 

 

 

ナターリア『でも、そんなの対策できるのカ?ブラジル人はサンバで鍛えられてるから大丈夫だけどナ!』

 

未央『ふふふのふ。甘いんじゃないかいナタりー?真っ黒なバナナくらい甘いんじゃないかいナタりー』

 

ナターリア『ナターリアはバナナ好き!ハチマンが良くワタシにバナナくれるんダ♪』

 

りあむ『えっ、……ハチサマぼく以外にもセクハラするのかよ…まじでやむ…』

 

こずえ『はちまんのあいは…ゆがんでるからな~…きにすんな~…』

 

未央『――ハッチ相変わらず業が深いなぁ…じゃなくって!!』

 

りあむ『ハチサマがさんざんぼくをイジメた後に“俺がこんなことするのはお前だけだからな”って言って抱きしめてくれるのは嘘だったんだ……』

 

ナターリア『ごめんネ。リアムを傷つけるつもりはなかったんだヨ…』

 

こずえ『だいじょうぶ~…りあむが、めいんひろいんだよ~』

 

未央『……もういい。この外に塗っても中にちゅ~っと注入してもいい某ラギノール、ハッチに渡しちゃうからね。りあむんが自分でやれば良いと思ってたけど、ハッチなら絶対に俺がやってやるって言うからね……』

 

りあむ『そ、そんなこといくらハチサマでもしない…とも言い切れない…』

 

こずえ『なんか…あしおとがきこえる…?』

 

ナターリア『リ、リアム逃げた方がいいんじゃない??』

 

 

りあむ「ドキドキ…」

 

未央「まんざらでもないかんじだぁ」

 

 

 

八幡「夢見!!!!!」

 

りあむ「は、はひぃ!」

 

八幡「……行くぞ」

 

りあむ「ぎ、御意!!」

 

 

 

雪美「あんな八幡…初めて見た…なんだか…ドキドキしたね…」

 

こずえ「ゆきみには…まだ、はやいかも…」

 

ナターリア「はははっ、二人ともまだまだ早いに決まってるヨ!」

 

 

未央「―――私の良さが全然出せなかった……それにヒット祈願これでほんとに良かったのかな……」

 

加蓮「チーン……」

 

 

 

 

 




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単短編×3

 

単短編比企谷 小町「……叙々苑」八幡「かしこまりました!」

 

 

小町「ただいま~」

 

八幡「おう、おかえり」

 

小町「およ?なぜ出て行ったお兄ちゃんが実家に?」

 

八幡「近所でロケがあったからついでに帰ってきたんだよ。あと、出て行ったんじゃなくて追い出されたんだ」

 

小町「ふーん。まあ、そんなことはどうでもいんだけどさ」

 

八幡「……久しぶりに会ったのに冷たすぎない?」

 

小町「小町もそろそろ兄離れしないとね~」

 

八幡「…お兄ちゃん今ならいっぱいお金あるからお小遣いあげるよ?」

 

小町「うわぁ、パパ活おじさんみたいでキモい」

 

八幡「………すまん」

 

 

――――――

 

 

小町「ねえねえお兄ちゃん、お腹すいたー。ごはん連れてってー」

 

八幡「…もうすぐ仕事も一段落するから、そしたら行くか」

 

小町「やったー!どこ連れてってもらおかなー」

 

八幡「小梅の好きなところでいいぞ」

 

小町「………は?」

 

八幡「…?だから小梅の好きなところでいいぞって」

 

小町「小梅って誰。小町は小町なんだけど」

 

八幡「………さ、さっきまで小梅のロケに付いててな?だから勢いで言っちまってというか、なんというか……」

 

小町「『もしもし大志君?今からごはん行かない?お兄ちゃんがお小遣いくれるらしいんだー』」

 

八幡「小町ちゃん!ほんとにごめんね!」

 

 

 

 

 

 

単短編メタ 幸子「全体的にボケの荒い小説になってますよ」八幡「……気を付けます」

 

 

 

 

 

 

八幡「輿水いるかー」

 

 

幸子「はいはーい、かわいいボクはかわいくここに座ってますよー。――何か御用ですか比企谷さん?」

 

八幡「バンジーの仕事がふたつ来てるんだが、日本と中国どっちにする?」

 

幸子「ず、ずいぶんざっくりとした情報ですね…」

 

八幡「よりによって同じ日のオファーでな。先方は輿水の意思に任せると言ってくれている」

 

幸子「(おそらく中国はマカオタワー、日本は竜神大吊橋。マカオタワーに関しては3桁回数以上経験がありますし、今回はあえて日本にしましょうか……)」

 

八幡「ちなみに選ばなかった方は白菊にチャレンジしてもらう」

 

幸子「確実に命綱切れますよ!!?殺す気ですか!?」

 

八幡「ちょっと何を言ってるか分からないな」

 

幸子「何で分かんないんですか」

 

 

八幡「――もうめんどくせえから白菊が中国でいいか……」

 

幸子「だ、だからそんな危険なロケはボクが……」

 

八幡「おーい白菊ー」

 

幸子「比企谷さん!!?」

 

ほたる「は、はいっ!」

 

八幡「来月、中国にロケが決まったが大丈夫か?」

 

ほたる「私……がんばります!」

 

幸子「ほたるさん本当にいいんですか!?」

 

 

八幡「本場中国に絶品のバンバンジーがあるらしい。初めての食レポだが大丈夫か?」

 

ほたる「私……がんばります!」

 

幸子「あれーーー?」

 

八幡「輿水は竜神大吊橋でバンバンジー食べながらバンジーって企画だ」

 

幸子「……いまいちパンチが弱いですね」

 

八幡「―――お前を驚かすのはもう無理なのか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

単短編絵画 響子「あ、比企谷さん絵の具どこにあるか知りませんか?」八幡「ま、間に合った………」

 

 

 

 

 

八幡「お疲れ様でーす、あれ?――ちひろさん、ここに置いてあった大きめの段ボール知りません?」

 

ちひろ「見てないですよー?大切なものだったんですか?」

 

八幡「……修復依頼のあった絵画が入ってたんです。その持ち主がSNSでこずえの落書きを見たらしくて『ぜひ修復を任せたい!』って」

 

ちひろ「ほぇ~、さすがこずえちゃんですね~」

 

八幡「ほぇ~じゃないですよ、その絵画500万ですよ………」

 

ちひろ「500万円もする絵を小学生に直させるなんて、ずいぶん思い切ったことをしますね~」

 

八幡「………円じゃなくてドルです」

 

ちひろ「………ぼ、防犯カメラの映像を確認して見ましょう」

 

 

 

八幡「15時の時点ではまだありますね…」

 

ちひろ「さすがに置いてすぐには無くなりませんよ。何か動きがあるところまで早送りしてみましょう」

 

 

八幡「―――学校終わりのピンチェが入ってきましたね。もうすでに嫌な予感がするんですけど……」

 

ちひろ「い、いくら何でも勝手にもっていかないでしょう……」

 

八幡「―――こずえに話は通してるんで、修復依頼の絵画ってメモ貼ってました………」

 

ちひろ「……あ、響子ちゃんが段ボール持ってどこかへ行っちゃいましたね、って早!」

 

八幡「五十嵐いい゛ぃ゛ぃぃぃぃぃいいい!!!!!!!」

 

 

ちひろ「ドップラー効果を伴うほどのダッシュで行ってしまいました。……まぁ、最悪比企谷君には事務所からお金を貸してあげましょう。ええ、無利子なのでこれは非常に良心的と言えますね。返しきるまで働くしかなくなりますが、それも仕方ないですね」

 

 

 

 

 

 

 



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単短編自慢 八幡「……なんでそんな話を事務所ですんだよ」ちひろ「モテモテですね~♪」

 

 

文香「――なんと言っても読書中の伏し目がちに微笑む姿です」

 

加蓮「んー、それもいいけど。…アタシはからかった後のニヒルな表情が好きかな~♪」

 

志希「加蓮ちゃんってほんのりMだよねー。八幡のチャームポイントと言えばやっぱりあのスメルでしょ~♪」

 

加蓮「かまってちゃんの志希に言われたくないけどねー」

 

志希「文香ちゃんがこれ見よがしに八幡の前で本を読むのよりはマシだと思うなー」

 

 

文香「こっちに飛んでくるんですか!?―――あ、あれは別に、そういったアピールではなくて…純粋に本好きとして…あぅ。………そんなに露骨でしたか?」

 

加蓮「毎回毎回わざわざ八幡さんの前で読んでたらそりゃね~」

 

志希「最近の八幡、文香ちゃんを見つけると顔が引き攣ってるもんねー」

 

文香「……へこむわぁ~」

 

加蓮「いや、へこむわぁって」

 

志希「にゃはは~」

 

 

 

加蓮「――あっ!匂いで言うならアタシも、喫煙室から出てきてすれ違う時の匂い好きかも!」

 

文香「わかりみ」

 

加蓮「わかりみって」

 

志希「ねぇー、極上のフェロモンだよねー。シキちゃんたまにトびそうになるもん」

 

加蓮「トびそうって」

 

文香「ベタではありますが、タバコの煙を吹くときの唇の形……飛びつきそうになりますね」

 

加蓮「飛びつきそうって………いや、それはアタシもわかるなぁ」

 

志希「わかる~。えろえろだよね~」

 

加蓮「ぴょこぴょこアホ毛は??」

 

文香「…撫でつけてもすぐに復活して可愛いですよね」

 

志希「なにげにシキちゃんとお揃いなんだよね~♪」

 

加蓮「アタシも真似しよっかな……」

 

 

 

 

加蓮「―――ふぅ~。だいぶ語りつくしたんじゃない?」

 

文香「まだまだ語り足りません…」

 

志希「気付いたら2時間も経ってるなんてびっくりだねー」

 

 

未央「おっはよ~!――盛り上がってたみたいだけど、何の話してたの??」

 

加蓮「おはよー。八幡さんの自分的チャームポイント発表してたんだー」

 

未央「ほぉ~。例えばどんなのがあったの?」

 

文香「一番盛り上がったのは、“眼鏡を外した時だけ見える泣きボクロがセクシーすぎる”でした」

 

志希「レンズを触れば、外して拭くから見れるよ~。むちゃくちゃ怒られるけどね~♪」

 

未央「ふむふむ、ホクロねぇ~。私もどっか見つけたような………あっ、そうだ!おしりにホクロが3つ並んでて“ミツボシだ!”ってなったのは私しか知らないんじゃない??………あれ?」

 

 

 

加蓮「なんで未央が八幡さんのおしりにあるホクロを知ってるの?」

 

未央「…あ」

 

文香「上半身なら水着で見ることもあるかもしれませんが、おしりは絶対にないですよね」

 

未央「……ですね」

 

志希「洗いざらい話してもらうからねぇ~♪」

 

 

未央「……は、ハッチのおしりかわいかったな~……な、なんちゃって」

 

 

「「「あ゛?」」」

 

 



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単短編秘密 菜々「全身にグルコサミンを感じます!!!」 八幡「ツヤツヤしてますね……」

 

 

 

サクラーフブーキノー サライーノソラハー♪

 

 

 

八幡「ずいぶんご機嫌ですね、安部さん」

 

菜々「おや、比企谷さん!こんなとこで奇遇ですね♪菜々はとってもご機嫌ですよ~♪」

 

八幡「……事務所なんですから必然ですよ」

 

菜々「比企谷さんは随分と難しいことを言いますね~。若いんですからもっと気楽にいきましょうよ~♪」

 

八幡「……なんか浮かれてません??」

 

菜々「うふふ、分かっちゃいます?―――さっきまで事務所のソファーで仮眠してたんですけど、起きたら身体が10歳若返ったくらい軽いんですよ♪」

 

八幡「…………7歳?」

 

菜々「あ……いや、えーと。―――ちょっとお外走ってきます!!」

 

八幡「……今のは俺が意地悪だったな」

 

 

ちひろ「そうですよ~、比企谷君は本当に意地悪です」

 

八幡「ちひろさんだけには言われたくないです、ちひろさんだけには言われたくないです」

 

ちひろ「有給消されたいんですか?」

 

八幡「…ちひろさん絶対地獄行きですよ」

 

ちひろ「私は地獄でいんです。……天国って禁酒禁煙でしょ?セックスもできなそうですし」

 

八幡「か、かっけぇ」

 

ちひろ「ふっ、坊やにはまだ早かったかもしれませんね」

 

八幡「……絶対アイドルたちの前では言わないでくださいね」

 

ちひろ「大丈夫ですぅ~ 猫をかぶらずに話せるのなんて比企谷君だけですから♪」

 

八幡「武内さんが気の毒だ……」

 

 

 

八幡「ところでここに置いてあったブランケット知りません?」

 

ちひろ「見てないですよー?大切なものだったんですか?――も、もしかしてまた絵画とか?」

 

八幡「いえ、池袋が被せるだけで時間を戻せるブランケットを発明したんですけど、事務所に置き忘れたから取ってきてくれってお願いされてるんですよ」

 

ちひろ「それなんてタイム風呂敷ですか?」

 

八幡「違いますよ、“時を戻そうブランケット”です」

 

ちひろ「名前なんかどうでもええわ」

 

八幡「……ちょっとちひろさん、口が悪いですよ」

 

ちひろ「あら、いやですわ。ごめんあそばせ♪」

 

八幡「お気になさらず」

 

 

 

ちひろ「あっ!!そういえば菜々ちゃんが仮眠室に持っていくのを見ました!!」

 

八幡「……なるほど、人体にも効果があるんですね」

 

ちひろ「……ちょっと仮眠してきますね~」

 

晶葉「残念だがあれの効果は一度きりだ!」

 

ちひろ「くっ!」

 

八幡「……急に出てくんなよ。てか置き忘れたんじゃないのかよ」

 

晶葉「臨床試験に立ち会わないわけがないだろう?」

 

八幡「―――まさか俺を若返らせるきだったのか!?」

 

ちひろ「そういえば晶葉ちゃんはおねショタ派閥の人でしたね」

 

 

晶葉「―――さーて、ちょっくら地球でも救いに行くかな!!(ダッッッ)」

 

八幡「スケールの大きい嘘でごまかしてんじゃねえよ!!!!待たんかい池袋おおぉぉ゛ぉぉぉ!!」

 

 

 

ちひろ「ソニックブームを伴うほどのダッシュで行ってしまいました。……まぁ、最悪比企谷君にはコナン君方式で新しい戸籍を用意してあげましょう。キャリアもリセットなのでお給料は減っちゃいますけど、それも仕方ないですね。――ショタ谷君の居候先オークションでも一儲けできそうですね。チーヒッヒッヒッ」

 

 

 

 

 

 




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単短編78 ちひろ「だ、大丈夫ですか比企谷君?汗が尋常じゃないですよ?」八幡「………悪夢見たんで一週間くらい休んでいいですか?」

 

 

 

八幡「聞こえてるか浅利?」

 

七海『はいはーいこちら七海れすよー』

 

八幡「リモートでテレビ出演の依頼があったんで今の内に慣れておいてくれ。使い方は問題なさそうか?」

 

七海『大丈夫れすよー。プロデューサーさんのぎょとこまえな顔がしっかり映ってますよー』

 

八幡「ぎょとこまえ?……あー男前か……それ褒めてんの?」

 

七海『当然れす!!よっ!魚界のナポレオン!!』

 

八幡「魚界のナポレオンはナポレオンフィッシュだし、あの魚はブサイクだ」

 

七海『ちょっと何言ってるか分かんないれす』

 

八幡「なんで分かんねえんだよ」

 

 

 

七海『ところでプロデューサーさんはどこから配信してるんれすか?』

 

八幡「配信なんて二度とするか、お前のせいで街歩いてたらたまに声かけられるんだぞ。―――今日は普通に自宅からだよ」

 

七海『事務所へたまに届くファンレターに返事してあげてるの知ってるんれすよー?相変わらずお優しいことれす』

 

八幡「………子供から届いたら返さねえ訳にはいかないだろ」

 

七海『“青春とは嘘であり、悪である”とかほざいてた人とは思えない発言れすねー』

 

八幡「俺の黒歴史に触れるのはやめろ。やめてください。………待て、なんで知ってんだ?」

 

七海『さてどうしてでしょうね~。おや?プロデューサーさんは熊になりたかったんれすね、仁奈ちゃんとユニットれも組みますか??』

 

八幡「………」

 

七海『あっ!カマクラちゃん足を舐めちゃくすぐったいれすよー!』

 

八幡「おい、まさか……」

 

七海『じゃーん、正解はプロデューサーさんの実家れしたー。正確にはプロデューサーさんのお部屋れす』

 

八幡「……お前ほんとやべーやつな」

 

 

 

七海『せっかくなので壁にサインしておきますね~。あとやたらメッセージ性の強いネズミの絵も描いてあげるれす』

 

八幡「人の部屋でバンクシーごっこすんじゃねえよ」

 

七海『ところでプロデューサーVer,8.05さん』

 

八幡「人をiPhoneみたいなお気軽さでアップデートすんな。もしかして前の俺に不具合あったのとか考えちゃうでしょうが」

 

七海『ツッコミがくどいれす』

 

八幡「……すまん」

 

 

 

七海『あのー、お義母さまがそろそろ夕飯だから降りてきなさいって』

 

八幡「何やってんだよお袋………」

 

七海『さすがに断ろうとしたんれすけど、“未来のお嫁さんならこのまま八幡の部屋に住んでもいいのよ?ダメなの?じゃあせめて夕飯くらい食べていきなさい”って言ってくれたのれ』

 

八幡「宇宙イチ雑なドアインザフェイス」

 

七海『お義父さまがプロデュサーさんのホームビデオも見せてくれるそうなのれ、そろそろ行ってきます!』

 

八幡「親父がうちのアイドルにデレデレしてる話なんか聞きたくねえわ……」

 

七海『れレれレ?』

 

八幡「分かりにくいボケすんな―――はぁ、……今から迎えに行くから飯だけ食ったらさっさと出てこいよ」

 

七海『はーい、今度こそほんとに行ってくるれす♪』

 

 

 

八幡「ってことで行ってくるわ」

 

静「仕事だから仕方ないよね………帰ってきたら続きしようね?」

 

八幡「可愛すぎかよ―――出来るだけ早く帰ってくるわ」

 

静「うん、待ってる。私もそろそろ八幡の実家に挨拶行きたいな~なんて」

 

八幡「よしよし、先生と付き合ってるなんてなかなか言い出しにくくてな。それはまた今度な」

 

静「えへへ、楽しみ♡」

 

 

 

 

 

 

 

八幡「うぶぅううわあ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁあ………ゆ、夢か………」

 

平塚「大丈夫か?もうすぐ家に着くぞ。文化祭実行委員が大変なのは分かるが休息はしっかり取るんだぞ?」

 

八幡「……はい、ありがとうございます。先生も婚活絶対に成功させてくださいね…」

 

平塚「ふんっ!明日は年収1000万以上の男しかいない婚活パーティーだ!まあ見てるがいい!―――ではまた月曜に会おう!!」

 

八幡「なんてこった。しっかりフラグを立てていきやがった……―――たでーまー」

 

 

 

七海「おかえりなさいれす~」

 

八幡「………」

 

 

 

 



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単短編練乳 八幡「……あの、そろそろ許してもらえませんか?」ちひろ「やられたらやり返す」

 

 

 

桃華「八幡ちゃま、お疲れ様ですわ。―――コーヒー淹れようと思いますの、そろそろ休憩しませんこと?」

 

八幡「………銘柄は?」

 

桃華「ふふん♪世界一高級なコーヒー“ブラックアイボリー”ですわ」

 

八幡「今すぐちひろさんに淹れてあげなさい。かなり疲れてるみたいだったからさりげなくデスクに置いてきなさい」

 

桃華「……?八幡ちゃまが言うならそうしますわ。―――少々お時間いただきますので、八幡ちゃまにはマキシマムコーヒーをご用意しますわね♪」

 

八幡「マキシマム………なんかいいなそれ。そしてちひろさんざまあ」

 

―――

 

八幡「マキシマムザマックスコーヒーうまうま」

 

桃華「うふふ♪社長が手ずから淹れた甲斐がありましたわ。ちひろさんもとてもおいしいとおかわりまでしてくださいましたの♪」

 

八幡「ぞうか。じゃなくて、そうか。―――そしてもはや櫻井の貢ぎ癖に慣れつつある自分が怖い………」

 

桃華「どうなさいましたの??」

 

八幡「いやっ何でもない。あー、ブラックアイボリーは…その…象の糞から採取されたコーヒー豆らしいぞ?」

 

桃華「まあ、そうなんですの!?八幡ちゃまの豆知識にはいつも驚かされますわ」

 

八幡「豆知識っていうか豆の知識だな」

 

桃華「もうっ!お上手なんですから。―――んー、でしたらうんちくと言い換えましょうか?」

 

八幡「それ分かってて言ってるよね?」

 

 

桃華「ところで八幡ちゃま。奈良の平城京跡を横切る鉄道が、景観を損ねるとかで移設されるそうですわね」

 

八幡「え。今のでオチじゃないの?」

 

桃華「わたくしそれで知ったんですの、線路はお金次第で動かすことができることを」

 

八幡「おいまさか」

 

桃華「ですので八幡ちゃまのお部屋とわたくしのお部屋を繋げようとおもいますの」

 

八幡「いやいやいつ引っ越すかも分からないし駅から徒歩10秒とかそれなんてキオスク」

 

桃華「ワームホールを!!!」

 

 

八幡「………え?なんつった?」

 

桃華「八幡ちゃまったら、そんな鈍感難聴優柔不断すけこまし敏腕やり手主人公みたいなセリフ言わないでくださいまし」

 

八幡「ダメージと回復の割合が8対2」

 

桃華「とは言えまだ中性子星の制御が安定しませんので、人体実験の段階まではもう少し時間がかかりそうですの」

 

八幡「まるで物の移動は成功したみたいな言い方だな………」

 

桃華「失敗しましたわ!」

 

八幡「失敗したのかよ」

 

桃華「爺やを送ったはずが30代前半の執事が出てきましたの。お父様から見せていただいた写真に写っていた昔の爺やにうり二つでしたの………不思議ですわ」

 

八幡「あの過保護爺さん若返っちまったのかよ………。てか人体実験はまだって言ってなかった?」

 

桃華「ええ。ですので爺やを送りましたの」

 

八幡「上流階級の闇だぁ~」

 

 

 

 

 




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単短編嘘 ちひろ「………責任」八幡「ほんとなんもなかったですから……」

 

 

 

エアコンの効いた事務所から出るとじっとりとした重く湿った空気が身体にまとわりつき一気に不快指数があがる。そのうえ、暗く淀んだ空から降る大粒の雨は恨みでも晴らすかのように強くアスファルトを叩きつけ、自宅までのたった10分をこれでもかと憂鬱なものに変えてくれる。

 すっと大きく息を吸い込み感じる雨の匂いは、つい先ほど夕立が降り始めたであろうことを伝えてくれる。これなら早めに退勤しておけば降られる前にバイクで帰れたかもしれないと少し後悔する。

 

 

 

―――

 

 

 

「………何してんの?」

 

 

 バイクは諦め、たまにはゆっくりと景色を見ながら帰るのも悪くないかと傘をひろげ、途中で晩酌用に買ったつまみのお惣菜を片手に上機嫌で帰ってみれば、マンションの玄関を入ったオートロックの横にセーラー服の少女が濡れ鼠でうずくまっているのが目に入ってしまった。陰気なオーラがマンションの外まで漏れてたので正直このまま無視して部屋まで帰りたい……

 

 

「ずっとここで待ってた……」

 

「―――雨が降ってきたのせいぜい20分前くらいだぞ」

 

「ずっと(15分)ここで待ってた……」

 

 

 一度も顔をあげずに呟くその姿は未だに大粒の雨が降り続ける空のように暗く、あと一押しで何かが切れてしまうのではないかというような危うさがある。

 

 

「物は言いようだな。――――――はぁ…。あったかいお茶くらいなら出してやる…」

 

「………こんな時だけ優しい」

 

「自分の住んでるマンションのロビーにセーラー服姿のお前がずっと座ってるよりはマシだからな…」

 

 

―――

 

 

 お茶だけとは言ったものの冷えて震え始めた体を温めるため、すぐに風呂を沸かせて叩き込む。着替えは前に茄子が勝手に置いていったのを置いておけばいいだろう。

 

 

 リビングのソファーに座りよく冷えたビールをカシュッと開け、体が求めるがままに大きく一口。このいっぱいのために生きているといっても過言じゃねえな…

 そのままポリポリと落花生をつまみながらニュースを流し見していると、ぱたぱたと着替える音が聞こえてきた。

 

 風呂から上がっても相変わらずどんよりとした空気を隠そうともしない。隣に腰掛けドライヤーを俺に押し付けるとそのままそっぽを向き、頭をぐいぐいとこちらへ押しやってくる。

 

 

「なに、しろってこと?」

 

「………」

 

 

 小さく首肯しソファーから立ち上がると膝の間にぽすりと腰を下ろす。ドライヤーをかけやすいように移動してくれたらしいがそんな気を使えるならもう少し離れてくれませんかね……

 

 

 背中まで伸びる長い髪のブローをようやく終え、仕上げにぴょこりと踊るアホ毛をハート型に整える。ドライヤーの大きな音だけが響いていた部屋がしんと静まり返りこちらから何か話しかけた方がいいんだろうかと悩んでいると、暗い雰囲気にしていた原因が重い口を開いた。

 

 

「もうむり………」

 

「……お前が自分で決めたんだろ」

 

「これ以上我慢できない!」

 

 

 少しずつ声色が悲愴的なものに変わり、今日まで抑えていた分を取り戻すかのように荒れていく。

 

 

「もういい!!」

 

 

 はじけるように立ち上がると止める暇もなく机に置いてあったビールに手を伸ばす。

 

 今日まで積み上げてきた物の大切さを知りながら、それを壊すように、自分には必要ないものだと叫ぶように、荒い手つきで缶に入った残りを飲み干しがくりと膝をつくと頭を抱え込みうずくまってしまった。そして次第にぶるぶると震え……

 

 

 

「ぷはぁ~~~~!!!久々のビールが身体の隅々まで染み渡る~~♪」

 

「女子高生の役作りはもういいのかよ、佐藤」

 

「はぁとって呼べって言ってるだろ☆それよりハチ公ビールおかわりよこせ☆」

 

「………まあ今日くらいはいいか」

 

 

 震える身体で久々に飲んだビールのおいしさを表現する佐藤。

 来月に撮影予定がある映画の役作りのために日ごろから佐藤っぽさを出来るだけ抜いていたのでこの特徴的な口調を聞くのも随分と久しぶりな気がする。だから何だって感じではあるが……

 

 

「かぁ~!うまい!正直このいっぱいのために生きてるとこあるよな♪―――ほらほらつまみもあるんだろ☆」

 

「…はいよ」

 

「良いこと考えた!お返しに乾燥がすんだらセーラー服また着てやろうか?JKはぁとでいけないお酌しちゃうぞ☆」

 

「うわキツ」

 

 

 エンジェルローキック☆なる的確にダメージを与えるだけの地味な技を俺に浴びせながらうっとうしくキッチンまでついてくる佐藤にチーズやオリーブなどワインに合いそうなつまみを運ばせる。

 

 

「なになにハチ公☆素敵ディナー演出しちゃう感じか?仕方ないな~朝まで付き合っちゃうぞ♪」

 

「あほか。ケーキ食ったら帰らせるわ」

 

「ふふふのふ♪晩酌用のつまみとか言ってちゃっかりケーキ買ってんじゃん☆やっぱりハチ公のモノローグは信用ならねえな☆」

 

 

 適当に選んだワインと適当に作った料理で乾杯をして淡々と食事を楽しんだ後、9時になる前に佐藤はタクシーで帰っていった。

 ほんとだよ?

 

 

―――

 

 

 

ちひろ「おはようございます。ずいぶん疲れた顔してますけど…寝不足ですか?」

 

八幡「ども…。至って元気ですよ」

 

ちひろ「………同じような表情をしたはぁとちゃんも一緒に来てましたけど、、まさか朝帰りじゃないですよね?」

 

八幡「まさかり担いだ金太郎がどうかしましたか?」

 

ちひろ「……晶葉ちゃーん!ウソ発見器ってどこにありましたっけ!!」

 

八幡「べ、弁護士を呼んでくれ!」

 

 

 

瑞樹「ほんとのところはどうなの?」

 

心「起承転結で言うと……転?」

 

瑞樹「わからないわ」

 

 

 



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単短編30分チャレンジ ちひろ「比企谷君、ボーナスの200万円振り込んでおきましたよ」八幡「は、はわわ~」

 

 

 

美優「おはようございます比企谷君。って、そんなにたくさんの紙袋どうしたんですか!?」

 

 

八幡「…事務所の前で若い子に渡されたんです。昨日の見てファンになりましたって言われたんすけど……なんのことすかね?」

 

美優「あー、昨日のはかなりバズってましたね…」

 

八幡「バズ?入浴剤?ライトイヤー?親方、空から女の子が?」

 

美優「昨日比企谷君が仁奈ちゃんと一緒に“あんきら!?狂騒曲”踊ってたやつなんですけど…あれが5000万再生突破したんです」

 

八幡「あれはあいつが踊ってくれるまで昼寝しないって言うから仕方なく………は?え?5000万再生?盗撮してたんですか!?」

 

 

美優「………小さい声で撮りますよって……言いました……」

 

八幡「暴論だ…」

 

美優「それにあの動画のおかげで比企谷君のTikTokのフォロワーが2000万人で日本一になりました。……おそらくちひろさんからボーナスが貰えると思いますよ?おめでとうございます」

 

 

八幡「―――そもそも許可した覚えがないんですけど……」

 

美優「“雇用契約書に書いてますのできっちり確認しなかった比企谷君が悪いです”もし比企谷君がごねるようなことがあればこう言えばいいと…ちひろさんが…」

 

八幡「……あの悪魔め。―――つーか、俺なんかの動画見て何が楽しいんですかね。そんなに愉快な顔してますか?」

 

美優「…そんなことないと思いますよ?私は比企谷君のお顔…好きですし…」

 

八幡「いや、そんな社交辞令はいいですから」

 

美優「ほんとですって!」

 

八幡「いやいや、ほんとに大丈夫ですから」

 

美優「…ッ!ほら!スマホの待ち受けも比企谷君ですし!!!」

 

八幡「え?」

 

美優「あっ…」

 

 

 

 

 

単短編30分セクハラ ちひろ「あー、あそこですか。スタジオ料金が安いんです」八幡「恥じらいって知ってる?」

 

 

 

 

八幡「ラノベの取材に行きたい?どこにだよ、てかなんで俺に言うんだよ……」

 

美優「……?どうかしましたか、比企谷君?」

 

八幡「……例のプールか。確かにグラビア撮影とかにも使われてるのは知ってるがうちの事務所では避けてんだよ」

 

美優「あ、お電話でしたか。それにしても随分砕けた話し方ですね…お友達からでしょうか?」

 

八幡「―――理由?お前が一番分かってるだろ。……お前みたいになんでもかんでも結び付けてイメージする奴がいるからだよ!行くなら一人で勝手に行け!!」

 

美優「け、喧嘩はダメ…ですよ…!」

 

八幡「前にマジックミラー号見かけたからそっちも見ときたかった?知るか。勝手に一人で興奮してろ。くだらねえ用事で電話かけてくんじゃねえ!」ピッ

 

 

美優「―――もしかしてお友達ですか?」

 

八幡「……その言い方だと俺に友達がいることが信じられないみたいに聞こえますよ」

 

 

美優「……ごめんなさい。それで、なんのお話だったんですか?」

 

八幡「謝られると余計に傷つく……。まあ電話の内容はくだらない話でしたんで気にしないでください」

 

美優「……正直私もあのプールが撮影場所だったら嫌だなと思っちゃうかもしれないです。――本職の人たちには失礼かもしれないですけど……」

 

八幡「しっかり聞こえてるじゃないですか……」

 

美優「えへへ、ごめんなさい。それにその車もお散歩中に見かけたことがあるんです、ドキッとしちゃいました…」

 

 

八幡「………例のプールが何のこと言ってるか知ってるんですか?」

 

美優「あっ………」

 

八幡「本職の人たちって何のこと言ってるんですか?」

 

美優「…………」

 

八幡「何をする車か知ってるんですか?」

 

 

 

美優「わ、忘れてください!!!!よ、用事思い出したんでちょっと出かけてきます!!!!」

 

 

八幡「………かわいいな、おい」

 

 

 

 

 

 



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単短編30分逆セクハラ ちひろ「比企谷君も意外と抜けたところがありますよね~」八幡「…こいつ知ってて黙ってやがったな」

 

 

 

晶葉「おい!八幡助手はいるか!!!」

 

美優「わわっ、びっくりした……」

 

八幡「なんだよ、うるせえなあ。ノックぐらいしろよ」

 

 

晶葉「ふふん、そんな口を聞いてもいいのかい?―――ほれ、これをやろう」

 

八幡「……スイッチ?」

 

美優「ま、まさか爆弾の!?」

 

晶葉「……美優は私をなんだと思ってるんだ?―――聞いて驚け!これは時間を止めるスイッチだ!」

 

美優「え!?そんなこと可能なんですか!!?」

 

晶葉「この天才にかかれば当然だ!―――今のところスイッチを押した人間を加速させ10秒ほどの間だけ止めることが可能だ。……果たして止まった時間の中で10秒という言い方が正しいのかは分からな――」

 

八幡「…痛ッ゛!!!!!」

 

美優「ど、どうしたんですか比企谷君!!」

 

 

 

晶葉「えぇーーーーー」

 

美優「大丈夫ですか比企谷君!!ど、どうしましょう晶葉ちゃん!比企谷君がへたり込んで動きません!!!」

 

晶葉「……種明かしをすればあれはただのビリビリスイッチだ。……いや、ほんとはもっと期待を煽ってから押さそうと考えていたんだが。まさかノータイムで押すとはこの天才にも読み切れなかったようだ……」

 

八幡「……………0.1%くらいは期待してた。こんな仕打ちはひど過ぎる……」

 

美優「よ、よかったぁ~~。………そういえば比企谷君はあのシリーズ好きでしたもんね。借りるのもかなり偏ってましたし」

 

晶葉「ん?あのシリーズ?ジョジョのことか?まあザ・ワールドはジョジョ好きなら一度は叫んだことがあるからな!」

 

美優「あっ、そっちでしたか(ボソッ)」

 

晶葉「そっち?美優はどっちのことを考えてたんだ??」

 

美優「あ、いえ、あの………」

 

 

八幡「また自爆してやがる」

 

美優「あのあの……決してそんなことばかり考えてる訳ではなく…昨日比企谷君が見てたなーとつい……」

 

八幡「相変わらず脇があまいです…ね………ん?待て待て待て。ちょっと待ってください。……今なんて言いましたか?」

 

 

美優「―――えへへ」

 

八幡「くっ、かわいい……。じゃなくて!ほんとになんで知ってるんですか!?」

 

 

 

美優「………もらったぬいぐるみを無警戒に部屋に飾っちゃダメですよ♡♡」

 

八幡「えーーーーーーーーーーー」

 

晶葉「ずっと何の話をしてるんだ……??」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

おまけ

 

 

八幡「カメラは外しておきました。ーー今回は許しますけど、もう他に言っておかないといけないことはないですね?」

 

美優「………ごちそうさまでした?」

 

八幡「違うんだよな〜〜」

 

美優「せっかく…あのカメラの角度が1番お気に入りだったのに……」

 

 

八幡「1番……ま、まさか2番や3番があるなんて言わないですよね!?」

 

美優「もちろんありますけれど…でもそれもこれも比企谷君のためですよ???」

 

八幡「な、なんて力強い言葉……。あのねぇ美優さん、ありがた迷惑って言葉知りません?」

 

美優「アリがたかる和久井?」

 

八幡「………」

 



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単短編5 あかり「うぅ、恥ずかしかった…。穴があったら入りたい、それで大岩でフタをしてしばらく引きこもりたいんご」あきら「いつから天照大御神になったんデスか……」

 

 

 

りあむ「ああ゛ぁ~、こんなクソ暑い日に仕事とかムリムリのムリだよ~。同棲相手の早寝早起きに合わせてて夜まである仕事は辛いのでやめさせてくださいって生放送で言ったらハチサマ怒るかな~。―――まあ同棲相手もいないし早寝早起きなんてここ数年したこともないんだけどさ……。はぁ、やむ」

 

 

あきら『だめデス!あっ、そこはビンカンなんデス…!!』

 

八幡『はっ!関係ねえよ!どうせ入っちまえば一緒なんだろ!!おら、もっと入れてやるよ!』

 

あかり『ご、ごめんねあきらちゃん!怖くて見てることしかできない私を許してほしいんご……』

 

 

りあむ「え、え?ハチサマ?事務所で事案??……って言ってる場合じゃない!止めなきゃ!!!」

 

 

あきら『ほ、ほんとにだめデス!ビンカンなんです!壊れちゃうぅぅぅ!!!!』

 

あかり『ごめんねあきらちゃん!!ほんとにごめんね!!!!』

 

八幡『はっ!遅かったな、また入れちまったよ!!』

 

 

―――バンッ!!!!

 

りあむ「ちょっとハチサマ!!!!事務所で何してるんだよう!!!!」

 

 

八幡「つーかこのタイプのごみ箱は中で繋がってるからどっちから入れても関係ないんだよ」

 

あかり「んーー?ほんとだ!これじゃビンと缶のどちらから入れても同じんご!」

 

八幡「な?さも分別してますみたいな空気だしてこっちに要求するくせして自分は袋一枚にまとめて楽しようとするその気持ちが気に食わねえんだよ」

 

あかり「でも、それならどうして始めからビンとカンって一緒にしないんご?」

 

八幡「さーな。ビンカンって書いてたら敏感と勘違いして興奮する馬鹿がいるからじゃねえか?」

 

あかり「敏感でどうして興奮するんご??」

 

あきら「違うんデス!!!!!!」

 

あかり「わわっ!びっくりしたんご!」

 

八幡「急にどうしたんだ……?」

 

 

あきら「全然違うんデス!!ほんとはきっちり分けたいんデス!なのに間違って捨てる人が多くて中で袋を分けてもそれが混ざってしまって入ってるから両方を分別しなおさなきゃいけないんデス!せっかく二つ入れ口があるのにもう一度分別してと二度手間になるんデス!だから現状では中を一緒にせざるを得ないんデス!それでもいつかみんながリサイクルの心を持ってごみを捨てられるようになった時のために!そんな日が来ると信じて入り口がビン・カンで分けられているんデス!!!!!」

 

八幡「………すまん」

 

あかり「私も気を付けるんご。周りで見かけても注意するんご……」

 

あきら「まったく……、環境保護は一人一人の意識が大切なんデスよ?」

 

八幡「……勉強になったわ。―――お礼に甘いもんでもどうだ?もちろん辻野も」

 

あかり「やったー♪りんごパフェ食べるんご~♪」

 

あきら「むー、モノで釣られるのは気になりますが……せっかくなのでごちそうになります…」

 

 

 

りあむ「―――1回も目すら合わない……だと…?」

 

ちひろ「廊下で同棲相手とか生放送とか言っているのが聞こえたのでお灸を据えたんだと思いますよ?」

 

りあむ「うひぃっ!!ちひろさんずっといたの!!?」

 

ちひろ「ちなみに私は比企谷君があきらちゃんの敏感なクリを触りながら雑に入れようとしてるのをあかりちゃんに見せつけているんだと思って聞いてました」

 

りあむ「ちひろさんにも軽く無視されるうえにとんでもなく下品な想像を聞かされた!!てゆーかそう思って聞いてたならなんで止めないのさ!!?」

 

ちひろ「ふふ♪冗談に決まってるじゃないですか。―――ほら、りあむちゃんも早く行ってきたらどうですか?どうせ比企谷君も下で待ってくれてると思いますし」

 

りあむ「えっ、やっぱりそうかな!?なんだよハチサマ~ツンデレスキルLv1かよ~ よし!それじゃあ行ってきまーす!」

 

 

ちひろ「―――ふぅ。本当は“ついに比企谷君が快楽を教え込んで本格的にアイドルを堕としにかかってるなー”とか考えてたのは内緒ですね……」

 

 

りあむ『え!!ハチサマどこにもいないよッ!?ぼくのこと待ってくれてるんじゃなかったのかよう!!!』

 



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単短編6 あきら「うぅ、恥ずかしかったデス…。穴があったら入りたい、それを掘り進めて温泉が湧いたら街を作りたいデス」あかり「テルマエ・ロマエは上戸彩が可愛いだけの映画んご」

 

 

 

あきら「ごちそうさまでした。とってもおいしかったデス」

 

八幡「おう。…つーかあそこのパフェってあんなうまかったか?」

 

あきら「言われてみれば……」

 

 

あかり「さすが比企谷さん!よくわかってますっ!」

 

八幡「なんのことだ?」

 

あかり「実は地道な営業のかいあって先日から実家の農園と直接契約を結んでもらえることになったんです♪」

 

八幡「おぉ、すげえ行動力だな……」

 

あきら「りんごが変わったことに気付く八兄ぃもなにげにすごいと思うんデスけど…」

 

あかり「ふふん♪比企谷さんにはトン単位のりんごを家に送り付けてるんご♪ウチのりんご以外食べれない身体に調教するんご♪」

 

八幡「…おかげでありとあらゆるりんごのアレンジレシピを試したわ、りんご料理専門のYouTuberになれるレベルで」

 

あきら「あかりサンの思想も怖いデスけど、それに対してなぜか前向きな八兄ぃはもっと怖いんデスけど……」

 

八幡「まあ今まで食ったりんごの中でダントツにうまいのは間違いないからな」

 

 

あきら「…でもそんなに家にりんごがあると、りんごをパイで包むことと八兄ぃをパイで包むことに異常な執着を見せる無駄乳露出狂が来るんじゃないデスか??」

 

八幡「お、おう。あいつが来る時は何かを察した三村も一緒だから大食い大会になってそれどころじゃないな。……それよか口悪くない?お前もわりとある方だから気にしなくてもいいんじゃないのか?」

 

あきら「え?え?なんですか?八兄ぃいま妹の胸について言及したんデスか?死にたいんデスか?人生の墓場行きたいんデスか?自分が連れて行ってあげましょうか??」

 

 

あかり「人生の墓場……ん?…あきらちゃん今プロポーズしたんご??」

 

八幡「い、いやお前が十時のスタイルに嫉妬してるのかと思ってつい…、気に障ったなら謝る…」

 

あきら「ほらやっぱり自分とあの下品なデカ乳を比べてるんじゃないデスか!いいデスよ、なら自分にもパイ包みができるってことを八兄ぃの身体に直接教えてヤリます!!帰ったらすぐに仮眠室に行きますからね!!!ちょっとあそこの店でローション買ってきます!!!」

 

あかり「あきらちゃんもアップルパイ作るんご??―――あっ!私ローション持ってるから買わなくてもいいと思うんご!!……行っちゃった」

 

八幡「……なんでそんなの持ってんの?」

 

あかり「水仕事すると手が荒れるので保湿ローションは必須んご!」

 

八幡「だ、だよなっ!!!…いや分かってたよ?アイドルだから保湿には気を使わないといけないもんな!ほんと最初から分かってたからね!!」

 

 

――――――

 

 

 

りあむ「あっ!やっと帰ってきた!!ほんとに無視してパフェ食べに行くなんてずるい!!」

 

八幡「…………夢見か」

 

りあむ「え、なんでそんなにテンション低いの…?」

 

八幡「砂塚が大人の店でこれを買おうとしたら年齢確認ではじかれてな…」

 

りあむ「ヌルヌル潤滑ゼリー?―――買えなかったんのになんで持ってるの??ハッ!ハチサマの私物!?」

 

八幡「んなわけあるか、駅前にいる謎の出店で買ったみたいだ。なんでそんな店があったかは聞かないでくれ、俺にも分からん……。んで買ったはいいが恥ずかしくなって俺が押し付けられたってわけだ」

 

りあむ「なるほど……。いや、ボクもいらないからね?」

 

八幡「店主に話を聞いたら毎週あそこでやってるらしいから、来週もその次の週も買ったらお前にやるわ」

 

りあむ「何その奇行!?動機が不明過ぎて動悸がするよ!!」

 

 

八幡「よしよし、その調子でもう一度思い出して最初からツッコんでみろ」

 

りあむ「え、ほんとにどうゆうこと…?―――ハッ!!!」

 

 

りあむ「ローテンションで露天商のローションをローテーションに入れようとしないで!!………あ、あの、あってる?」

 

八幡「…お、おう」

 

りあむ「なんでひいてるのさ!!?もしかしてなんも考えずにムチャぶりしただけなの!?」

 

八幡「ギクッ…」

 

りあむ「ほら!いまギクッって言ったし!!」

 

八幡「は?言ってねえし。……イクッ!って言ったんだし…」

 

りあむ「もっとひどかった!!!」

 

 

―――

 

 

ちひろ「そんなこんながありまして、ここにあるのが例のローションです」

 

武内P「……」

 

ちひろ「せっかく買ったのを捨てるのはもったいないですし……使いませんか?」

 

武内P「き、今日は疲れがたまっているのでそれに明日も早いですし…」

 

ちひろ「疲れマラって知りませんか?――あと明日早くても武内君が早くすませば大丈夫ですよ?それに私、ストレスって性欲で発散させるタイプなんです♪」

 

武内P「あ、あうあうあう…」

 

ちひろ「さっ♡大人しくついて来てくださいね~♡」

 

 

―バンッ!

 

八幡「あの、武内さん!!相談があるんでちょっと飲みに行けませんか?」

 

武内P「も、もちろんですっ!部下の相談に乗るのも上司の仕事ですからっ!――千川さん、そういうことですので…」

 

ちひろ「…………」ビキッ

 

八幡「ありがとうございます。近くにおいしいクラフトビールを置いてるとこがあるんです、すぐに予約するんで行きましょう」

 

武内P「それはいいですね!ちょうど楓さんからそういったお店を探して欲しいと言われてたんです」

 

八幡「武内さん、高垣さんのこと楓さんって言っちゃってますよ?―――あ、ちひろさんお疲れ様です」

 

ちひろ「…………」ビキビキビキッ

 

武内P「ッ!つい比企谷君と話してるといつもの感じで話してしまいますね…。では千川さん、お先に失礼します」

 

ちひろ「…………」ブチィッ!!!

 

 

~~

~~~

ちひろ「………ふぅっ、すっきりしたぁ~。―――今日は私の負けです…次からは…比企谷君を地方に出張させてからことに及ぶとしましょうか……」

 

 

 



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単短編ヤンデレ4 りあむ「は、ハチサマ…そのマスクなんだけどさ……」八幡「あ?これか?いいだろ、佐々木の手作りなんだがほんのりいい匂いがして気に入ってんだよ」

 

 

「……さい……ください」

 

 

 夢うつつの中で一番にその存在を感じ取ったのは聴覚だった。甘く優しい声がそそと耳朶を撫で少しづつ意識が周囲の状況に向けられるようになってきた。

 

 

「…起きてください比企谷さん」

 

 

 ゆらゆらと身体が揺られていることに気が付き目を開けてみれば、わずか10センチの距離から逆さまに俺を見つめる佐々木と目が合った。近くない?なんかいい匂いするし。

 

 後頭部に感じる柔らかい感触と上から覗き込む佐々木を見てだいたい想像はついていたが、どうやら俺は佐々木に膝枕された状態で寝てしまっていたらしい。俺知ってるよ!膝枕は横向きに寝るより縦に寝る方がいいって!ジャストフィットって感じ!!前田慶次が言ってたから!

 

 

「ってんなこと言ってる場合か!すまん!すぐ起きウブッ!!」

 

 

 慌てて飛び起きようとした頭を佐々木は両手で押さえつけ、ぐっと顔を近づけてきた。肌のきめ細かさまで伺えるような距離で見る佐々木の顔は恐ろしく整っており、10歳以上も年が離れているというのに照れて顔が赤くなっていくのが自分でも分かった。

 

 赤くなった俺を不思議そうに見つめる佐々木は斜め上に目をやり少し考えたあと答え合わせをするように口を開いた。

 

 

「このままキスしたらスパイダーマンみたいですね♪」

 

「お前の年齢でサム・ライミ版のスパイダーマンなんか知らねえだろ!あれは映画史に残る名キスシーンなんだ、寝起きに不意を衝くのとは訳が違うんだよ!」

 

 

 いや、別に映画マニアってわけではないのだが…、あまりにも佐々木が軽く言うもんだからつい早口で言ってしまった。(めっちゃ早口)

 

 

「あっ、いや…すまん。佐々木も俺を楽しませようとして言ってくれたんだよな…」

 

「いえいえ違いますよ?」

 

「……ん?」

 

 

 好意を無碍にしてしまうのは申し訳ないと思い謝ると、まるで的外れとばかりにこてんと首をかしげた。

 

 そして……

 

 

「比企谷さんがまだ寝てるあいだに何度かキスしたんですけど、その時にスパイダーマンみたいだなーって思ったから教えてあげようとして言ったんです♪」

 

 

 作り物のような美しい顔をゆがめにっこりと笑顔を作り、ことさら気にすることでもないでしょうとばかりにさらりとそう言った。

 

 

「え?……いや、それはダメ…だろ?…アイドルとして…人として……」

 

「でも比企谷さん…身体は正直ですよ?」

 

 

 そう言われて初めて自分の状況を首を起こして確認してみた。

 

 朝勃ちは男なら誰しもが経験していると思う、しかしいま膨らむ下半身はいつものそれとは違い興奮していることがはっきりと分かるほどに怒張していた。自分の絶望した顔が映るまでパンパンに膨らむ亀頭が皮肉なことにその証左となった。

 

 

「大丈夫ですよ比企谷さん♪これは夢ですから♪」

 

「ゆ、ゆめ?」

 

「はいっ!だって千枝はアイドルなんですから、こんなことするわけないじゃないですか♪だからこれは全部比企谷さんが深層心理でして欲しいと思ってることなんです♪」

 

「俺のパンツが脱がされてるのも夢だからなのか…?」

 

 

 そうですよ、もう仕方ないんですから♡なんて言いながら笑顔で俺を撫でていた佐々木が頭をゆっくりと膝から下ろし立ち上がった。

 

 解放された俺も立ち上がろうと手足に力を入れるが金縛りのようにピクリとも動かない。こんな状態で全力全開の自分の息子を見続けたくないんですけど…

 

 

「――おい、スカートで俺の上に立つな」

 

「大丈夫ですよ♪下着は見えないと思うので♪」

 

「いやいや、この角度なら確実に見えるだ…ろ…?あれ?」

 

「だって穿いてないですもん♡」

 

「…ふえ?」

 

 

 佐々木が何を言っているか分からず気持ちの悪い鳴き声をあげ固まっていると、その不毛の絶景はゆっくりとじらすように眼前に迫ってきた。そしてついに、比企谷の鼻、無事不毛地帯に緊急着陸成功です。ミルクの香りだ~……やったね、懲役確定だよ♪

 

 

「…あっ♡息がくすぐったいです♡―――千枝もこの立派な千葉ポートタワーをぱっくんちょしてあげますからね♡」

 

「ぷはっ!――や、やめろ!早くどけ!!」

 

「とか言ってさっきからピクピクさせちゃってるじゃないですか…♡これは夢ですから♡大丈夫ですから♡……いただきま~す♡」

 

 

 

――――――

 

 

 

八幡「ってところで目が覚めました」

 

ちひろ「お昼休憩開け1発目に気持ちの悪い話を聞かせないで下さい。耳が腐ります」

 

八幡「すでに性根が腐ってるんで大丈夫じゃないですか?」

 

ちひろ「はて?私は腐女子ではないですよ??」

 

 

八幡「……そーゆーところですよ、俺が言ってんのは」

 

ちひろ「はぁ…。――いつまでも無駄話してないで早く営業行って来てください」

 

八幡「…ですね。それじゃあ行ってきます。報告は帰ってからまとめてしますんで」

 

 

 

ちひろ「はーい。――――――もう出てきて大丈夫ですよ」

 

千枝「……ありがとうございます。今会ったら絶対表情に出ちゃうと思うので……」

 

ちひろ「いえいえ。それにしても千枝ちゃん、ずいぶんとうまくやりましたね。手作りマスクを渡せば着けている間はずっと匂いがするから夢にも介入しやすい、本当にいいアイデアだと思います」

 

千枝「はい。色々実験したんですけど、今日つけていたのが一番効果が高かったと思います」

 

ちひろ「へぇ~。ちなみに何で作ったんですか?」

 

千枝「パンツです(真顔)」

 

ちひろ「なるほど…。そんなやり方もありましたか、私はTシャツとかワンピースで止まってしまってました。……あれ?でも千枝ちゃん限りなく布面積の少ないTじゃなかったでしたっけ?」

 

千枝「そうなんです、なので八幡さんのために新しくお子様パンツを買ったんです…」

 

ちひろ「……私も帰りに面積の大きい下着を買いに行ってきます」

 

千枝「せっかくなら今から一緒に行きませんか?千枝も新しいのを作っておきたいので…」

 

ちひろ「んー、それもそうですね。じゃあ行きましょうか♪――ところでキスはほんとにしたんですか?」

 

千枝「………別に、さっきのが初めてってわけでもないですよ…」

 

ちひろ「そのうち起きてる時にしたのは何回あるんですか?」

 

千枝「………それは、…いつか八幡さんの方からしてくれる予定なんです…」

 

ちひろ「ふ~ん?そうなるといいですね~♪」

 

―――ガチャ

 

 

 

 

 

 

 

 

りあむ「…………え?ど、ドッキリだよね!?事務員と同僚アイドルがヤンデレだったらっていうドッキリだよね!?なんでテッテレーの人出てこないの!?ドッキリじゃないならハチサマいつか殺されちゃうよ!!?」

 

 

 



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単短編前編 ちひろ「東尋坊のロケが終わったらちゃんと芳乃ちゃんのとこ行ってくださいね~」八幡「………仕上げに塩を少々」

 

 

 

 潮の香りのする荒々しい日本海の風が全身を撫で、眩しさに手をかざしてみればキラキラと乱反射する水面がすさんだ心を落ち着けてくれる。海は凪が一番だな。そのまま断崖へと向かい歩みを進めてみれば、なるほど自殺の名所と言われるだけはある。

 

 今日は俺の一番お気に入りで目をかけているアイドル達が参加する路線バスれなんだかんだしながら海から川へと遡上していく、鮭れすか?と聞きたくなるような企画に幸運なことに俺、比企谷八幡は付き添いれ来させてもらっている。うるとらはっぴー☆ばーてぃかるりみっと☆

 

 

「……モノローグ返してもらえません?」

 

「海の日の主人公!!!モノローグ担当の浅利七海れす!」

 

「本日の日本海は大しけですが凪は凪です。どうも凪です」

 

「―――だからこのロケだけは来たくなかったんだ……。てか浅利は台本形式しか出れないんじゃねえのかよ……」

 

「七海は常に予想を超えてきます!!!プロデューサーさんの胃は風前の灯火れすねー♪焼き肉で言うとミノれす♪」

 

「ストレスで胃に穴が開き過ぎてハチノスになるでしょう。ギアラと言ってもセンマイできませんよ」

 

「嫌だと言っても撤回できませんよ?」

 

「「叙々苑!!」」

 

「え、どういう意味??」

 

 

 では、改めて。―――潮の香りのする荒々しい日本海の風が全身を撫で、眩しさに手をかざしてみればキラキラと乱反射する水面がすさんだ上に傷だらけでボロボロになった心を落ち着けてくれる。あぁ、今すぐかえって寝たい。海が凪だろうが大しけだろうが千葉の海に比べれば大したことがないな。そして断崖に立ってる俺を見て止めるべきかどうか迷っている警備員さん、そんな今にも飛び降りそうな目でもしてますか?

 

 日本海から美しい渓流まで、路線バスで遡上しながらバス停の周りにある飲食店で食事をし目的地を目指すロケの特別編に内の事務所が挑戦させてもらえることになったのだが、指名されたのが海の日にちなんで海の女こと浅利と実は海の用語が名前の久川だったのが運の尽き。

 

 

「またまた~♪本当は喜んでいるのを七海はぎょぎょっとお見通しれすよー♪」

 

「凪はお腹がすいたので朝ご飯を食べたいなぎ」

 

「ええいうっとうしい絡みつくな!―――んで久川はこれ以上変なキャラをつけないでくれ……」

 

 

 ただでさえ潮風でべたべたするというのに健康的に露出した服装の二人が絡みついてくるのだから暑苦しいことこの上ない。

 

 

「朝はパンに限ります。BLTサンド希望です」

 

「ロケでたくさん食事シーンあるが大丈夫か??」

 

「一口食べて適当にリアクション取ったら残りはスタッフに食べさせるので大丈夫です」

 

「嫌なプロ意識……」

 

「七海も朝はパン派れす。プロデューサーさんのBL希望れす。―――朝はパン♪パンパパン♪」

 

 

 逆光を背負いピンと手をあげながら最低な宣言をする久川、わるなぎポーズがカワイイネー

 たしかに大御所の中には仕事の後に食事の予定があるからと平気で食べない人もいるらしいが、育ち盛り食べ盛りのうちのアイドルたちは本当においしそうに食べることが大好評でこの手の仕事がかなり多い。

 あと事務所内で大西の布教禁止令はよ!パン祭りの歌が意味深に聞こえちゃう!

 

 

「「昼はタン♪タンタタン♪ 夜はナン♪ナンナナン♪」」

 

「仙台在住インド人の一日かな?」

 

「さすが東京在住大阪人のP」

 

「大阪人の血なんて一滴も流れてねえよ…。生まれも育ちも千葉だ」

 

「なるほど、プロデューサーさんはチバニアンだったんれすね!」

 

「チバニアンは地質時代の新しい区分だ。………3分だけでいいから普通に話してくんない??」

 

「「―――3分後―――」」

 

 

「………それはずるくないか?」

 

 

「クジラは200年以上生きると言われているらしいれす」

 

「なるほど明日は我が身だな?」

 

「七海も200歳まで生きるれすよ!!その証拠にほら、見るれす!!」

 

「わーお。肩まで延びる線、さては激長生命線だな?」

 

 

 ここらで止まってくれねえかな……

 願いもむなしく、きゃいきゃいと騒ぎながらちょっかいをかけ続ける二人が俺の周りをまわりながら腕に手を伸ばしてきた。

 

 

「せっかくなのでプロデューサーさんにも描いてあげるれす♪」

 

「せっかくのせっかくなのでおびただしい数のネズミも描いてあげましょう」

 

「描いてるって言っちゃってるしバンクシー好きすぎない?―――っておい、手帳にまで描くんじゃねぇよ!」

 

「猫ちゃん!どこれすか!?」

 

「ね、猫?……あぁ、“描いてる”と“猫いてる”が似てるのな……いや漢字が似ててもそんな間違い方しないだろ。しかも“猫、いてる”ってそんなこてこての大阪弁使ったことねえわ」

 

「素晴らしいツッコミ。座布団5000枚差し上げましょう」

 

「業者かな?―――ったく、ほんとに落書きしやがって。お前ら消しゴム持ってないか?」

 

「もんぎゃあ!プロデューサーさんにゴムを求められてしまったれす!!」

 

「なるほど、凪の使用済みゴムが欲しいと」

 

「………帰りたい」

 

「「土に??」」

 



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単短編中編 ちひろ「比企谷君のおじいさんとおばあさんには連絡済みです」八幡「はわわ?」

 

 

 

 前回のラブライブ!

 アイドルになることを夢見て徳島の田舎から上京してきた凪とはーちゃん!

「凪の使用済みゴムが欲しいと」

 期待に胸を膨らませて訪れたお城で凪を待ち受けていたのは、闇のオーラを纏った眼光鋭い社畜戦士!でも気が付けば第一印象とは裏腹に、都会の荒波に揉まれる凪たちをさりげなくサポートしてくれる姿を見てしまいうっかり一目惚れ♪

「プロデューサーさんにゴムを求められてしまったれす!!」

 あまたのライバルを蹴落として彼を手に入れるため、猪突猛進ガール凪は次の作戦も根回し済み!今回のロケで彼に急接近して、早くゆーこちゃんにウエディングドレス姿を見せてあげるんだから!!!

「仙台在住インド人の一日かな?」

 

 

―――

 

 

「買い物しようと街まで出かけたが財布を忘れて愉快な凪です」

 

「QR決済があるのれ財布は捨てました。七海れす」

 

「サザエさんを現代に巻き込んで台無しにするな」

 

 

 なんとか無事に海でのロケは滞りなく終わった。特にハプニングもなくホッとしたのもつかの間、オンオフのスイッチのぶっ壊れた二人が帰ってきてしまった。

 ここから路線バスでの移動パートを撮ったあとそのまま次の目的地までの移動時間が休憩に充てられるが……とにかく心配だ。主に俺の胃が。

 

 

「ひとまずおつかれさん。東尋坊行った後に使えって芳乃に塩もらってるから、使っておいてくれ」

 

「塩ファサーP爆誕の予感」

 

「……両肩にちょんちょんってかけるだけだ」

 

「七海は数珠着けてるんれ大丈夫れす。左右合わせて60連れす」

 

「着けすぎじゃない?カンフーハッスル出てた?」

 

 

 塩ファサーポーズの久川と胸の前で腕をクロスしたウルヴァリンポーズの浅利がこちらに向かってポージングを続ける。……無視して放置していたが一向に動こうとしないので、試しに写真を撮ってやるとポーズを変えながらバスの予定時間が来るまで撮影し続けるはめになった。それよか数珠の単位って連で数えるのな。

 

 

「せっかくなのでPも撮ってあげましょう」

 

「おー、いいれすね♪―――ほらほらー!笑ってくださいれす!」

 

「…こうか?」

 

「Pならまだまだいけるはず」

 

「……こうか?」

 

「もっともっとれす!」

 

「………こうか?」

 

「「もっと!」」

 

「表情筋ちぎれるわ」

 

 

 

 ようやくバスが来たので夏の暑さから逃げるように乗車する。撮影がスタートすれば俺に出来ることは見守ることだけだ。とは言っても路線バスの中で撮影になるので、他の乗客の迷惑にならないように二人の近くで待機しないといけない。

 

 …先ほどから二人がこちらを見ながらにやけているのが気になるが何かあるのか?

 

 20分ほどで移動パートの撮影は終わったが目的地まではまだ約1時間。バスの乗客たちも始めこそ興味深そうに見ていたが次第にチラチラとみる程度に収まってきた。

 

 

「それにしても、こんな間近で撮影を見たのは初めてだが……やっぱプロだな。見てて頼もしかったわ」

 

「な、なんれすかいきなり!……プロデューサーさんも頼りになるれすよ」

 

「確かにPの男らしさは素晴らしいものがある。まるでジャイアンです」

 

「………劇場版しか見ない派の人?そいつガキ大将だからね?」

 

 

 とりとめもなくそんな話をしているとちょうどバスが停留所に停まりアイドリングストップで車内のエンジン音が消えた。

 静まり返ったせいで前に座っていた推定JK、もしかしたらJCあるいはジャッキーチェンかもしれない、とにかく5人組がこちらを見ながらこそこそと話しているのが耳に入ってしまった。「ねぇ、あの目さ…」「ヤバいよね」「てかありえなくない?」「ムリムリ」……別にこんな田舎のJKに悪口言われたからって、、、傷つかないんだからね!!

 寝不足がたたりさらに目つきが悪くなったのか、街中で若い女の子たちからこそこそと噂されることが最近になって増えた実感はある。

 

 しかし女子高生たちの声が聞こえてきた瞬間、後ろの席から空気が爆発的に膨らむような錯覚を感じた。粘つくような負のオーラを伴い浅利と久川が席から立ち上がり例の女子高生へと近づいていく。わかるーとか言われたら泣いちゃうよ?いや、違うってことくらいは分かっているが喧嘩はやめて欲しい。

 

 

「すいませんお姉さんたち、あの目つきの悪い無駄にスタイルの良い男になんか用れすか」

 

「あんなのでも凪たちのプロデューサーです。文句があるなら事務所を通してください」

 

 

 髪がぶわりと膨らむほどに怒りをあらわにする二人。対する女子高生はどこかウキウキとし浮かれた雰囲気を感じる。

 

 

「…もしかしてなんですけどあそこにいるのって八幡さんですか?」「私フォローしてます!」「わ、私もです!」「あ、握手とかダメですか!?」

 

「………人違いです」

 

「………あれはただの朴念仁れす」

 

「え、でもさっきアップされた東尋坊のと同じ服装ですよね?」

 

 

 アイドルが女子高生5人組に交じってひそひそと話をする異様な空間。相変わらずチラチラと見られていると感じるのは自意識過剰だろうか。

 一言二言と言葉を交わすと剣呑な空気はどこへやら、二人はそのまま座席に戻り素知らぬ顔して座ってしまった。

 

 

「なんだったんだ??」

 

「え、えーとれすね……別に用事は無かったんれすけd」

 

「彼女たちは昨日USJに行ってきたそうです。カバンから見える魔法の杖が気になってつい声をかけてしまいました」

 

「お前ら人に話しかけるときあんなオーラ出しながら話しかけんの?子供だったら泣くぜ?なんなら俺も泣いちゃったぜ?」

 

「七海さんは無類のハーマイオニー好きですのでつい気持ちがはやってしまったんでしょう」

 

「え゛!?あ、いや、そうれす!ち、ちょうど5人組れしたのれ赤、青、黄、桃、緑のハーマイオニーとニックネームをつけてあげたれす!」

 

「………ハーマイオニー・ゴレンジャー」

 

「素晴らしいツッコミ。座布団の中の綿を差し上げましょう」

 

「ディアゴスティーニかな?―――はぁ、もうなんでもいいわ。ってかこのバス行先間違ってないか?」

 

「間違いなくあってるれすよ~」

 

「目的地をPの祖父母の家に設定しました。音声案内を開始します」

 

「ん???」

 

 

 

 



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単短編後編 ちひろ「これで事務所内の恋愛が解禁になれば……チーヒッヒッヒ」武内P「……いい笑顔です」

 

 

 

「なんでなんで?え、ほんとになんで?」

 

「やっと顔を見せに来たと思ったら、久しぶりに会うばあちゃんへの一言目がそれかい八幡」

 

 

 

 アイドルたちの仕事の付き添いで路線バスに乗り、休憩中に仮眠から目が覚めたらばあちゃん家だった。なんで?

 2mほどある木の門の前に仁王立ちし渋い表情で睨むのは御年75歳になる俺の祖母。肩ほどでまとめられた白髪としゃんと伸びた背筋は年齢を感じさせず、じろりと睨む鋭い眼光にこちらまで背筋が伸びてしまう。ほんとになんで?

 

 

 行先が変わっていることにはまったく気が付かなかった。車窓の外に流れる景色をぼんやりと眺めながらひと時の癒しに身を委ね、見渡す限り広がる田園の緑に俺はすっかりリラックスしてしまっていた。バスの中に視線を巡らせ“みんなさっきのバス停で降りたのか。もう俺たちの貸切じゃん、うるとらはっぴー☆”なんて抜けたことを考えていたあの時の呑気な自分を殴りたい。

 

 

「いや、何と言うか、心の準備が出来てなかったんだよ……」

 

「ばあちゃんに会うのにいったいなんの心の準備がいるんだい…。八幡は相変わらず八幡だねえ。―――ん?…久しぶりに帰ってきた孫…後ろには随分と綺麗なお嬢さん…二人ともゆったりとした服…見たところ10代前半……ハッ!重婚 デキ婚 孫ロリコン!そうゆうことかい!?」

 

 

 実の祖母にとんでもない業を背負った犯罪者扱いされてる件……

 ハッ!じゃねえよ、何も察せれてねえしネタが微妙に古いですよ?

 

 

「初めましておばあ様。妻の凪です」

 

「第七夫人の七海れす」

 

「これこれはご丁寧に、八幡の祖母で…す……え?…第七夫人!?少なくともあと5人のロリっ子がいるのかい!?」

 

 

 ワナワナと震えるばあちゃんが腰でも抜かしそうな勢いで詰め寄ってくる。

 5人のロリっ子ってなんだよ、なんで全員ロリの前提なんだよ。俺はむしろ年上の養ってくれそうな人がタイプだ。

 

 だいたいあんたは昔からそうだったなんて説教が始まり、それを聞き流しながら久しぶりに会う祖母を見る。相変わらず元気なことにホッとしていると浅利がすすすっとばあちゃんのもとへ寄って行った。

 

 

「うっ、吐き気がするれす…」

 

「どうしたんだい七海ちゃん?……ハッ!つわり!ほら八幡いつまで奥さんを外に立たせておくんだい!早く中に案内しな!!」

 

「……ただのバス酔いだ。だから先に酔い止め飲んどけって言っただろ…」

 

 

 もともと船酔いしやすいタイプの浅利には、事前に酔い止めを渡していたのだが飲むのを忘れていたようだ。

 ばあちゃんは俺の背中をバシバシ叩くと久川と浅利の肩を抱いて家の中に入っていった。

 

 肩を抱かれた二人がちらりと俺に視線をやり“計画通り”の憎たらしい表情をした。無性にイラっとするが、それよりも気になるのはこの計画を立てたのが誰なのかだ。いやまあ間違いなくちひろさんなのだが。わざわざアイドルたちを使って親族関係を巻き込むとかさすが愛読書“闇金ウシジマくん”なだけあるわ。怖いし恐いあとコワい。

 

 

 

 

 家に入ると二人のアイドルが意外なことを言ってきた。あ、撮影スタッフ?家のそこかしこにカメラを設置してどっか行ったわ。

 

 

「あの、おばあ様。お仏壇にご挨拶させていただいてもかまいませんか?」

 

「七海もご先祖様にご挨拶させていただきたいれす!」

 

「………ッ!!二人ともなんていい子なんだい…。旦那も天国で喜んでると思うよ」

 

「じいちゃんバリバリ現役だろ…勝手に殺してやんなよ……」

 

 

 目を潤ませてありがたやありがたやと二人を拝むばあちゃん。

 それにしても仏壇に挨拶するなんて好感度爆上げ作法いったいどこで覚えてきたんだ?まさかここもちひろさんの差し金じゃないだろうな。………チーンじゃねぇよ。

 

 

「八幡さんのご先祖様、初めましてこの度八幡さんと結婚することになりました久川凪と申します。徳島で生まれ育ちましてアイドルになるために上京して以来、八幡さんには公私共にお世話になってます」

 

「結婚することになってねえし公私共にじゃねえよ」

 

「比企谷家の英霊たちよ、お初にお目にかかるれす。え?初対面じゃないんれすか?溺れている七海を助けた……あっ!思い出したれす!あれは八幡さんのご先祖さまだったんれすねぇ~あの時は本当にありがとうございましたれす~♪」

 

「………一言目のクセがすごいし俺のご先祖様と普通に会話するな。そーゆーのは小梅の担当だ」

 

 

 仲良く肩を並べて仏壇に向かう二人の後ろで「天国のご先祖様、八幡がこんな立派になって奥さんを二人も連れて帰ってきましたよ」なんて言ってるが、ぶっちゃけこのばあさんは相当にノリがいい人なので子供の遊びに付き合ってやってくれていると思っていたが、いよいよ泣き始めてそんなことを言うもんだから、本気にしている可能性もあるんじゃないかと心配になってきた。

 

 

 

 

「さっ、遊びはこんくらいにしといて。――八幡、せっかく来たんだ、泊って行くだろう?」

 

「ボケなのかついにボケが始まったのか分からんようなことはやめてくれよ………。いや、普通に明日も仕事だか―ピロン♪“明日と明後日の仕事はダミーです♡少し早めの夏休みを優しい事務員さんからプレゼントです♡帰ってきたらビシバシ働いてもらいますからね♡by闇金チヒロちゃん♡”……泊ってくわ。そこの二人も…」

 

 

 ばあちゃんの質の悪い遊びとかちひろさんのメールのタイミングとか気味の悪い文面とか、もうなんか色々目をつぶって夏休みの部分だけ都合よく受け取っておこう。深く考えたら負けな気がする…

 

 

「やったれす~♪比企谷家の家系図に七海の名前を書き込むれすよ~!」

 

「今すぐしまってこい。そんなもん俺でも初めて見るぞ…」

 

「そこの二人なんて他人行儀な。いつものようにナギお嬢様と呼んでください」

 

「誰がハヤテだ。―――ばあちゃん俺の竿まだある?ちょっと釣り行ってくるわ。………お前らも来るか?」

 

 

 悪魔からのプレゼントなのか罠なのかは分からないがせっかく得た夏休み、釣りでもしながらゆっくりと流れる田舎の時間を味わおうと思ったのだが、こいつらから目を離すとマジで何をしでかすか分からないので連れて行った方がいいかもしれないとすぐに思い直す。

 

 

「蔵にあるよ。ちょうどじいさんもいつものポイントにいると思うから数が釣れたら一緒に帰っておいで」

 

「若い男女と田舎の渓流、何も起きないはずがなく……」

 

「渓流釣りれすか!一度はやってみたかったんれす!!」

 

「なら浅利だけ行くか。久川はその辺で穴でも掘ってろ」

 

「あ、…嘘です!凪も行きます!」

 

 

 久川の相変わらずの発言を無視してノリノリの浅利を引き連れって蔵に歩き始めると、焦ったように後ろを付いてきた。

 

 

「ひとまず外堀から埋める作戦は成功れすね…(ボソッ)」

 

「既成事実は年増組だけの技ではないですからね…(ボソッ)」

 

「なんか言ったか?」

 

「「いえなにも」」

 

「そ、そうか」

 



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単短編完結(上) ちひろ「えー、比企谷君ってそんな趣味があったんですかぁ~?(ニヤニヤ)」八幡「あれは濾過してたからセーフです………」

 

 

 

「残暑お見舞い申し上げるざんしょ。 渓流釣り装備に身を包む川ガール、久川凪です」

 

「立秋とか夏至とかそろそろ現代の四季に合わせるべきだと思うれす。 浅利川七海れす」

 

 

 カナカナと鳴くヒグラシの合唱が山のあちらこちらに響き渡り、都会の暮らしでささくれた心をフラットに整えてくれる。

 そして目の前をさらさらと流れる美しい渓流は抜群の透明度をもって太陽の光をきらりと反射し、川沿いの大きな岩に立ちポーズを決める久川と浅利を一枚の絵画のように美しく飾り立てる。――が俺にとってはヒグラシに癒された心を再びささくれさせてくれる以外の何ものでもない……

 

 ――確かに暦の上で秋が始まる八月八日の立秋以降の暑さは残暑と呼ばれるがこんなのむしろ本暑だろと言いたくなるし、夏に至ると書いて夏至は6月なんだから夏至どころか梅雨だし。味噌汁の一番のポイントはダシだし…

 

 

 くだらないことをつらつらと考えながらどうかこれ以上めんどくさい事は起こらないでくれと祈る俺を、釣りが始まるのを今か今かと待ちかねる二人が頼もしい表情で釣り竿を担ぎぶんぶんと素振りをしながらにらむ。

 

 

「どうれす、この釣りバカ日誌スタイルは?」

 

「どうでしょう、この釣りキチ三平スタイルは?」

 

「はいはい世界一可愛いよ」

 

「……ありがとうれす」

 

「……わーお」

 

 

 二人に言ってる時点で世界一も何もないと思うのだが言われた当人からしてみればそれも関係ないようでもじもじくねくねと可愛らしいリアクションを取ってくれている。ずっとそんな感じでいてくれたら俺も楽なんだがな。

 あと釣りバカ日誌はしょっちゅう合体するし、釣りキチ三平のキチはキ〇ガイのキチなので両方とも子供が読むには問題があり過ぎると思う。

 

 

―――

 

 

「……七海はちょっとその辺をぐるりと見てくるれす」

 

「あー、俺からしたらいつもの景色でもお前たちには珍しいかもな。釣りの前に少し散歩するか?」

 

「やめてください。ひとりで自然を浴びたいんれす」

 

「お、おう。あんま遠くまで行くなよ…」

 

 

 語気を強く言い含めた浅利は俺の注意を背中で聞きながら川の上流へ向かい歩き出してしまった。 

 俺は気を取り直して担いできた荷物から道具を取り出すと、川の水を汲むために岩を二つ三つと飛び越え川岸に降りた。

 

 

「カップとバーナー?お湯でも沸かすんですか?」

 

「ああ。ここの水流はほとんどが湧き水だからコーヒー淹れて飲むとうまいんだよ。んでこのポンプは濾過装置、そのままでも飲めるんだが念のためな」

 

「さすが孤独を極めし男。一人遊びのレベルが高い」

 

「…ほっとけ」

 

 

 3人分の濾過した水が入ったヤカンを小型コンロに載せ火をつける。コポコポと音をたてて沸くお湯をぼーっと見ていると久川が遠慮がちにたずねてきた。

 

 

「凪は、…凪は世界一可愛いですか?」

 

「ばか言え。世界一は小町に決まってんだろ」

 

「むっ!!!」

 

 なんですかさっきは世界一って言ったくせに。どうせ誰にでも可愛いって言ってるんです。Pなら野菜やその辺の石にでも可愛いって言いそうですね。

 ―――ノータイムで否定したのが気に食わなかったのか文句の言葉が出るわ出るわ。つーか、なんでもかんでも可愛いって言うのはむしろお前らアイドルの方じゃね?

 

 

「――ですが妹が世界一可愛いのは凪も同感です」

 

「だろ?世界一可愛いあいつが育っていく姿を一番近くで見続けられるなんてその時点で人生の運使い切っちまったわ…」

 

「長男長女の共通点があったのか、……なるほど、これが近親姦」

 

「違う、それを言うなら親近感だ。それだと俺が小町を女として見てるみたいになるだろ。神話においては近親相姦はバンバンあったみたいだがあくまでそれは作り話であって法治国家の現代日本でそんなことができるわけないだろ。いくら小町が女神的な美しさ……小町は女神?なら…大丈夫……なのか?」

 

「気持ち悪い妄想垂れ流している所悪いですが頭沸いてますよ。あ、失礼。お湯が沸いてますよ」

 

「……すまん」

 

 

 気持ちの悪い妄想をぼろぼろとこぼした俺も悪いが久川の鋭い舌鋒は昂っていた俺の心を的確に破壊した。同じシスコンどうし親近感が湧いたと思ったのだが甘かったようだ。つーかこの事務所シスコン多すぎない?誰とは言わねえけど…

 

 荒く挽いた豆をフィルターに入れたものをカップの上にセットしゆっくりと回しながらお湯を注ぐとふわりとこうばしい香りが広がる。

 仕上げに練乳をドバドバと投入し混ぜれば、大自然の恵みマキシマムコーヒーの完成だ。

 

 

「ここまでこだわっても練乳を入れるんですね。Pがそれでいいなら別にいいんですけど……」

 

「ほら、お前らのもあるぞ。――まだ帰ってきてないが先に飲もうぜ」

 

「凪は猫舌なので冷めてからいただきます」

 

「……まあ、それでもいいんじゃねえか」

 

 

 クーラーボックスに腰掛けコーヒーの香りを存分に楽しんだ後でまずは一口。うん、うまい。(孤独のグルメ感)

 都会の川では考えられないほどに透き通った水がコーヒーのポテンシャルを最大限にまで引き上げている。さらには360度を緑に囲まれ、目に入るもの耳に入るもの全てから人口のモノが排除され心にへばりついていた最後のストレス(Made in千川ちひろ)が溶けて消えていくのが分かった。

 

 ――俺が飲み終わってもいまだに口をつけてない久川のコーヒーをもらい2杯分もの幸せを感じていると浅利が上流から戻ってきた。

 

 

「ふぅ~。ただいまれす~」

 

「おう、いい景色ばかりだったろ」

 

「はい♪とってもすっきりしたれす~♪ところでプロデューサーさんは何を飲んでるんれすか?」

 

「ん、お前も飲むか?川の水で淹れたコーヒー」

 

「………川の水れすか?」

 

 

 川の水で淹れたと聞いた途端にご機嫌に釣りの用意をしていた浅利が身体をビクッと震わせて俺を見た。

 

 

「ああ、海で釣りする奴からしたらそこの水を飲むなんか信じられねえかもしれないが、この川の水はそのままでも飲めるうえに濾過までしてるから大丈夫だぞ。我ながらうまいコーヒーができたと思う」

 

「………凪ちゃんも飲んじゃったれすか?」

 

「いえ、凪は嫌な予感がしていたので飲んでません」

 

「は?」

 

「んー。プロデューサーさんなら別にいいれすかね……」

 

「むしろ喜ぶんじゃないですか?」

 

「え、なになに?怖いんだけど…、この川なんかあんの?」

 

「七海さん、Pに真実は言わないておいであげましょう」

 

「そうれすね。上流でお花を摘んでいたことは言わないであげましょう」

 

 

 

 

 

 

「………しょんべんするなら普通は下流に行くだろおぉ゛ぉぉぉぉ!!!!!」

 

 



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単短編完結(中) ちひろ「凪ちゃんと枕したって聞きましたよ。産婦人科と警察どちらに行きますか?」八幡「あんたは耳鼻科に行ってください」

 

「久川姉妹のツルツル担当。凪です」

 

「プロデューサーの水分補給担当。七海れす」

 

 

 お前がツルツル担当ってことは颯は………とか考えちゃうだろ。…いや、考えちゃわないよ。考えちゃわないけど女の子がそんなこと言っちゃダメでしょ…

 

 浅利は後でしばく。

 

 場所は変わらず川のほとり。

 日ごろの疲れを癒やすために渓流釣りに来たというのにパーティー編成を失敗したせいでへたくそなテトリスくらいストレスがたまるし居るはずの爺ちゃんはどこにも見当たらねえし…。疲れが取れるどころか子守のせいでまるでいつもと変わらない疲労感に襲われる。

 

 

「ところでピリ辛さん」

 

「俺の名前は比企谷だ。確かにお前たちに対しては注意してばかりだから辛口コメントになりがちだが、どちらかと言えば俺は甘党だし、俺の名前は比企谷だ」

 

「失礼。噛んだれす」

 

「違う、わざとだ…」

 

「噛んられす」

 

「わざとじゃない!?」

 

「アンタレス」

 

「さそり座!?…いや違う!お前はてんびん座だろ!」

 

「………プロデューサーさん全員の誕生日把握してるんれすか?正直キモイれす……」

 

「普通に傷つくことを言うな!」

 

 

 上流ですっきりさせてしれっと戻ってきた浅利が恥ずかしさを紛らわすためか釣りの準備していた俺の死角から腰をツンツンと突っつきながら絡んできた。うっとおしいくすぐったい恥ずかしい可愛い。聖水コーヒーに関してはきちんと確認しなかった俺も悪いし濾過もきっちりできていて味は問題なかったので忘れることにした。別にいつもよりおいしかったとかそんなこと…ないんだからねッ!!

 

 準備の終わった竿を浅利に渡して追い払うとそのまま餌のミミズをちょいちょいと触りながらおすすめのポイントへと小走りで向かっていく。

 

 

「ほれ、見えないところには行くなよ」

 

「もうっ!ずっと七海を見ていたいだなんて大胆なこと急に言わないれくださいっ♪」

 

「あーはいはい、もうそれでいいから気を付けて遊べよ」

 

 

 適当に注意されぶぅぶぅ文句を垂れる浅利を見送ると自分の竿の準備を待ってましたとばかりに久川が近寄ってきた。

 

 

「次は凪の出番ですね。79999さん」

 

「俺の名前は八幡だ。勝手に1引くな。それともなに?囚人番号で呼んでるの?やめてね?」

 

「失礼。噛みました」

 

「違う、わざとだ…」

 

「あみまみだ」

 

「大先輩双子アイドル!?違う!お前は久川姉妹だ!」

 

「それよりP。凪の釣り竿の準備はまなかな?」

 

「まだかな?みたいに言うな。ここぞとばかりに双子を活かすんじゃねえよ」

 

 

 俺もたいがい自然を堪能してリラックスしているが久川に至ってはもはや自然と一体化してるんじゃないかというほどに解放されて奔放な発言が次々へと飛び出してきている。いやまあそこが可愛いんだけど。東京でも割と、いや、かなり自由な方だったと思うがそれでもそれはこいつの内なる凶器の一片だったのかもしれない。

 まだまだ年の若いの彼女が徳島の田舎から出てきて自然が恋しいのは正直痛いほど分かるので、これほど喜んでくれるのなら定期的に自然を補給してやってもいいかもしれない。

 

 

 ――誰しもが都会に憧れて上京してきているなんてのは傲慢な勘違いだ。そこでしか掴めない夢があるから生まれ育った故郷にしかない大切なものを捨ててそこで頑張ることを彼女は選んだ。その中で自分でも気づかなかったようなストレスがたまることもあったのだろう。プロデューサーとして支えると約束したのだから彼女たちのケアは俺の仕事だ。

 

 

「ハッ!自然?この山のどこに自然があるというのですか?木材産業として使われることを前提としたスギやヒノキばかり、人によって作られたお金儲けのための山。――こんなもの断じて自然とは認められません……しいて言うならここにあるのは不自然です」

 

「いや、あの…」

 

「自然を守るだとか環境保護だとか、便利な文明の利器を享受するくせに他人の意見を引用するだけでまるで自分が世の中に一石投じたかのように勘違いする思考停止人間なら喜ぶかもしれませんが凪は騙されませんよ」

 

「――ここは代々ウチの私有地だからほとんど人の手は入ってないんだわ……。前回浅利がインパクト残したからってお前も対抗しようとしなくていいんだぞ?」

 

「………初めてですよ…ここまで私をコケコッコーにしたおバカさんは…」

 

「フリーザ様に焼き鳥でも食べさせたのか?」

 

 

 心配して損したわ…。まじで。俺にしては珍しく殊勝なことを考えて決意を新たにしてたりしたんだけどな。

 眉をひそめて低い声でつらつらとくだらないことを語る久川も別にこれと言って崇高な理念などあるわけではなく、それこそ聞きかじったことをそれっぽく言っているだけなんだろう。

 

 

「前のロケで行った都会でできる自然体験の時にPが言っていたんですよ…」

 

 

 そーでした、俺でした。

 や、自分で言ってるときはなんとも思わなかったが人から聞くとひどいな…。―――ってことはさっきのは俺のマネか?全然似てねえけどむちゃくちゃ可愛いなおい。

 

 あきれ顔の久川は準備の整った竿をぽちょりと川に投げるときょろきょろと辺りを見渡し大きな岩を見つけると指をさして俺を見た。

 

 

「凪は椅子がないとゆっくりできないタイプです。Pには椅子になる栄誉を与えましょう」

 

「…休日の親子みたいだな。―――別にいいけどよ」

 

「ではそこに四つん這いになってください」

 

「女王様かな?」

 

 

――――――

 

 

 あぐらで座るPの上に深く腰かけ一本の竿を二人で握りながら(Pの)竿先に意識を集中させます。一見すると細身に見えるPですが、触れてみると意外と筋肉質な暖かい大きな体に包まれ田舎に置いてきたヨギボーを思い出します。

 もぞもぞと動きどうにも集中できていない様子のPを無視して浮きを見ているとぷかぷかと川に流れる浮き(先っちょ)がツプっと沈むのを捉えました。敏感になっていた凪の身体が(魚がヒットしたのを)感じます。

 

 魚(凪)の体力を奪うようにじわじわと責め立てながらリールを巻きあげ、近くまで来たところで竿を立たせて釣り上げた魚を手元に引き寄せます。生命力全開でビクビクと元気に跳ねる魚から針を外しクーラーボックスに入れると狭いその中を再び元気に泳ぎ回る姿に塩(潮)を禁じえません。

 

 

「お前を川にほり投げた方がいい気がしてきた…」

 

「おっと、それよりこれは何という魚ですか?」

 

「……イワナだ。塩焼きにするとうまいぞ。まあ川の魚はなんでも塩焼きにしたらうまいんだけどな。特にウチのジジイは釣ってそのまま――」

 

 

 Pが本気でキレそうになったので適当に話を逸らすと思いのほか喰いつきがよく魚もこれくらい簡単に喰いついたらいいとおもいましたまる。……おじい様との思い出話を語るP可愛すぎかよ。後でグループラインにあげておきましょう。家系図の写真をアップした時はみんなが私の分も書き込んでおいてと大変なことになりました。もちろん無視しましたがなにか?

 

 

――――――

 

 

「――釣ってそのままその場で捌くんだ。んで、骨を絡めるように串打ちしてたき火をぐるりと囲むようにぶっさす。ここで注意しないといけないのはヒレにしっかり塩を塗り込むことと背中側から強火で一気に焼くこと。背中側が焼けたらひっくり返して日から少し遠ざけてゆっくりと―――」

 

「―――んでジジイが言うには―」

 

「―――しかもその時のジジイのどや顔が―」

 

 

 

 

「あの、おじいさまとの思い出を語るPの可愛さは十分過ぎるほどに伝わりましたよ……。それよりそろそろ釣果も夕飯に事足りるのではないですか?」

 

 

 ………ジジイの悪口で盛り上がってるうちに随分と時間がたってしまっていたらしい。

 俺にまるで玉座のように深く腰かける久川は1匹目以降も順調に釣果を伸ばしていたようでクーラーボックスを見てみると10匹以上の魚が所狭しと互いを押しのけながら泳いでいる。

 

 

「イワナにウグイにアユ。よくもこんなまんべんなく釣れたもんだな…」

 

「合わせてイグアナですね。凪もイグアナを食べるのは初めての経験です」

 

「…間違っても古賀の前でイグアナ食ったなんて言うなよ?」

 

 

 うまいこと言ったみたいな顔でこっち見てんじゃねえよ…

 せっかく活きのいい魚が目の前にあるのでさっそく捌いてここで塩焼きにしようと思う。ウロコ、エラ、内臓を綺麗に取り除きたっぷりと塩を塗り込み串打ちを3人分+念のためにジジイの分も準備し、あらかじめくべていたたき火の周りを囲むように差し込んでいく。

 ぱちぱちと音を立てるたき火に熱せられた空気によってふわりと広がる魚のいい香りが川をそよぐ風に乗せて山の緑へと吸い込まれていく。

 

 

「つーか浅利はどこでやってんだ?あれほど目の届くところにいろって言ったのに…」

 

 

 

 

「ぴ、P!!川の水が!」

 

「は?何言ってん…だ……!?」

 

 

 大きな声を出す久川が珍しくよほど珍しいものでも見つけたのだろうと川に目をやる。火を見続けていたから目がおかしくなったのかと思った。映画でしか見たことがない水面に赤色のペンキをぶちまけたような本能的に絶望を感じる色彩がそこにはあった。

 上流から絶えず流れてくるそれは血以外の何物でもなく一瞬動きが遅れたもののすぐに足は動いてくれた。

 

 

「お前はここにいろ!様子を見てくる!!」

 

「嫌です!凪も行きます!!」

 

 

 たき火に手を突っ込み火のついた木を握る。熊や野犬の類いがでるとは聞いたことはなかったが万が一のことを考えて武器が必要だと判断した。出血量から見てもう手遅れかもしれないことは分かっていた。

 

 片時も目を離すべきではなかった…!

 

 砂利の道を全力で走り切り立った崖をよけるために森に突っ込んでいく。木の枝が頬を切り血の垂れる感覚がするが速度を緩めるわけにはいかない、一秒でも早く浅利のもとに駆け付けたかった。

 

 ――森を抜け崖の反対側へと出ると一番に目に入ったのは水面にぷかぷかとうつぶせに浮かぶ浅利と水際にいる大きな熊だった。

 

 

「あ……浅利ぃぃぃいいい!!!!」

 

 

――――――

 

 

 ―今回のオチ。

 

 浅利の安否確認の前にそれっぽいネタを使ったから地の文もそれっぽくすべきだったことに今さら気が付いた、気が付いてしまったら訂正して然るべきだとは思うのだがこれしきのことで叱られることもあるまいと放置してしまっていた。別にめんどくさかったわけでも自分のミスを認めるのが嫌だったわけでもない。あえて言葉にするなら早くこの出来事をみんなに知ってほしかった、そんなところだろう。

 

 ともあれ目の前の光景について事細かに説明するつもりはことさらなく、ただ俺が感じたままに語っていこうと思う。読者の皆様にはぜひ、勘違いに肝を冷やした哀れな俺の姿を笑っていただきたい。実のところあくまで俺は道化に徹していたということにでもしないと勘違いした時に胸に押し寄せたあの喪失感を別の何かと勘違いしてしまいそうになるからと言う理由が一番大きかったりする。――相手はアイドル、誤解を恐れずに言うならわが社の商品なのだから大切に思うのも当然のことだろう…。少なくとも今はそんな言葉を自分に言い聞かせることでしか落ち着くことはできなかった。

 

 

 

 浅利はすっと立ち上がり汗だくで森から現れた俺を見て変質者を見つけたような声を上げる。

 

 

「わわっ!なんれすか!?」

 

「へ…?」

 

「ま、まさか七海がまたお花を摘んでると思って見に来たんれすか!?ド変態れす!!」

 

「お前!?どこも怪我はないのか!?」

 

 

 ふいに浅川から変態扱いされた気がしたが人生で初めて出したんではないかというような大声に耳がおかしくなったのかもしれない。

 川の中から元気いっぱいに身振り手振りで何かを伝える浅利に走り寄り怪我はないかと上から下まで何往復もしながら入念に確認する。何かをこらえるように身悶え吐息をこぼす浅利の無事を確認しようやく冷静さを取り戻すことができた。

 

 

「おう、どうした八幡。みっともない大声出して」

 

「…何してんだよジジイ。釣りしてるんじゃなかったのかよ…」

 

「そのつもりで山に入ったんだがよ、どうにも熊の足跡を見つけちまったもんだからこれは仕留めるしかねえって思ってな」

 

「思ってな。じゃねえよ…」

 

 

 熊の陰に隠れて見えなかったがジジイもそこにいたようで久しぶりに顔を見る孫だというのにひょうひょうと話しかけてきた。どう見ても手ぶらなんだがいったいどうやって熊を仕留めたのかは考えないようにしよう。

 

 

「血抜きをしようと思って熊を担いで川まで来たらそこの可愛いお嬢さんがいてな。興味深そうに見てるもんだから声を掛けたらその拍子に服に血が付いちまったんで川で洗ってもらってたのよ」

 

「プロデューサーのおじいさまだって一目でわかったれす♪」

 

 

 まずジジイより先に熊に気を付けた方がよくないか…?まあ機嫌よさそうに水浴びをしてるので気にしないことにするか。つーか下流で俺たちが釣りをしているって知ってんだからジジイに一言くらい注意してくれてよ。

 

 

「P!!大丈夫ですか!!!」

 

「…ああ、久川か。……久川は可愛いなあ」

 

 

 息も絶え絶えようやく追いついた久川が肩で息をしながら現れる。髪や服についた木の枝を取ってやりながらその柔らかい髪を整えるように2度3度と撫でつける。

 

 

「な、なんですよかその手は。あまり無遠慮に撫でないでください…」

 

「…わりい。もう二人で帰るか…」

 

「――Pがどうしてもって言うなら……帰ってあげなくもないです…」

 

「縁側でスイカ食おうぜ」

 

「あ、ひ、膝枕してあげましょう…!」

 

「世界一贅沢な枕だな」

 

 

 

 

「おじい様!あっちの方から焼き魚のいい香りがするれす!!…この香りは…イワナれす!!」

 

「よく分かるねえお嬢ちゃん。よしっ、熊も捌いてステーキも焼いちまおうか!」

 

 




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単短編完結(下) 八幡「なんか全国各地で同じ日に俺の目撃情報があるんですけど…」ちひろ「あっ………。盲点でした」

「―――って感じでした。久しぶりに祖父母に会えたのはそりゃ嬉しかったですけどもうあんなドッキリはやめてくださいね」

 

「いえいえそんなお礼を言う必要はないですよ。私の優しさだけ知っててくれたらいいんです」

 

「…日本語通じてます?」

 

 

 それはもう色々あった弾丸帰省から無事東京へと戻ってきた次の日。たまっていた仕事が思いのほか少なく出社して早々に一段落がついたので報告とクレームを兼ねてちひろさんに一連の出来事について話してみたが、なぜかリアクションはいまいちでしまいにはかなり見当違いな言葉が返ってきた。

 あまりにもリアクションが薄いもんだから焦って言わんでいいことまで言ってしまった気がする…。ほら、聖水コーヒーのこととか…

 

 

「凪ちゃんと七海ちゃんのガス抜きにもなったようでよかったです。いくら奔放な性格でも見えないストレスは溜まっていきますからね」

 

「…そういやちひろさんはストレスは性欲で発散させるタイプって言ってましたよね。見たところ相手はいなそうですし相当ストレス溜まってるんじゃないですか?」

 

「…セクハラで死にたいんですか?――なんなら比企谷君が相手してくれてもいいんですよ…?」

 

「………ハハッ面白い冗談ですね。……つーか前にちひろさんが自分で言ってたんじゃないですか…」

 

「あーあー。聞こえませーん」

 

「少なくともアイドル事務所で口にしていい言葉じゃないですよ」

 

「やめてくださいー。正論は紅茶だけで十分ですぅー」

 

 

 まるでいい仕事をしたみたいな表情で俺を見るのでちょっとした意趣返しにと以前ちひろさんが武内さんを誘惑していた時に(未遂に終わった)言っていたセリフを引用してからかってみたが、自爆覚悟の超絶カウンターを喰らってしまった。なんかもう、少なからず想像してしまって最悪な気分だわ。良い子のみんなはマネしないでね!

 

 あとスリランカ原産の紅茶、セイロンティーは関係ねえだろ。…おもしれえから今度雪ノ下に使ってみよ。正論は紅茶だけで十分だ。――死ぬほど冷たい目で見られそうだな…

 

 

 そんな風にちひろさんとイチャイチャしていると事務所の奥からアイドルたちが白熱した会話を繰り広げているのが耳に入ってきた。喧噪の中でも自分の話題は聞き取れるカクテルパーティー効果とか、たぶんそんな感じのやつ。まあカクテルなんてしゃらくせえもん飲まねえしパーティーなんて魔境もできるだけ行かないから知らんけど。

 

 

「そんなわけでプロデューサーさんのおじい様おばあ様にかなり気に入られたんれす♪」

 

「最後には二人まとめて嫁に来ればいいとまで言ってくれました。はーちゃんもいるので3人になってまだ残りひと枠ありますよ。勝ったなガハハ」

 

 

 先ほどまで俺がちひろさんに話していたことを200倍くらい大げさにして語る浅利と久川は勝利宣言をするかのように残りのメンバーを見渡しふんすと鼻息をならした。

 

 変わって聞き役に回っていたのはどこか余裕の表情で話を聞いている鷹富士、渋谷、佐々木、櫻井、美優さん。俗に言う、地雷原でタップダンスどころかハカで踏み鳴らしてんじゃねえかと思うようなメンツなので、いつもならここいらで試合開始のゴングが聞こえてきそうなもんだがどういうわけか今日は誰しもが余裕たっぷりの笑みで勝利宣言を聞いていた。

 

 

「あれあれー?私の耳がおかしくなったんでしょうか?ダーリンはこの1週間ずっと私と二人きりで、全国の神社を巡って結婚式の下見をしてたんですけどー?『十二単って12回も脱がせられるのか。…興奮するな』って言ってくれたんですけどー?」

 

 

 誰がダーリンだ。

 

 

「運がいいだけの無駄乳おばさんこそ何を言ってるの?ダーリンダーリンは私と二人きりでオリジナル花言葉1万個考えるまで帰れまマンしてたんだよ?『頑張って考えたけど9割は凛への愛の言葉になっちまった』って言ってくれたんだよ?」

 

 

 誰がダーリンダーリンだ。いきものがかりか。

 

 

「あの…ダーリンダーーリンは千枝の実家に挨拶に来てくれました…。千枝が色んなコスプレをしたらとっても喜んでくれましたっ。『コスプレは正しくはコスチュームプレイって言うんだが、プレイって何をするんだろな』って…興奮しながら言ってくれましたっ」

 

 

 誰がダーリンダーーリンだ。ミスチルか。

 

 

「みなさま何をおしゃってるんですの?ダリダリーンちゃまはわたくしが所有する島や湖を二人で旅行しながら名前をつけて回ってたんですのよ?『島が八幡島だから、湖は……はちまんこ…だなっ』と鼻息荒く語ってくださっていましたのよ?」

 

 

 誰がダリダリーンだ。矢井田瞳か。

 

 

「あれ?でもおかしいです。Darlingは私がずっとお家で看病していたはずなんですけど……『ぼ、母乳には免疫物質が入ってるらしいです…ゴホッ…こんな体調の悪い時に…誰か飲ませてくれたらなー…ゴホッ…』ってその後はご想像にお任せしますけど……」

 

 

 誰がDarlingだ。西野カナか。

 

 

「ツッコミの波動を感じますけど誰もリンダリンダを比企谷君のことなんて一言も言ってないですからね…?」

 

「あっ……。――あとそれは山本リンダかブルーハーツです。ダーリンですよ。いや、ダーリンでもねえよ」

 

 

 ウルトラミス!!!

 いつも引っ付いてくるメンバーだから自動的に自分だと思ってツッコんでたけど誰も俺の名前出してなかったわ。ただの自意識過剰君でした。

 だとしたら誰のセリフかは知らんがこいつらこの1週間どんな変態と過ごしてたんだ?普通に心配になるんだが…

 

 

 ……いやちょっと待て、八幡島って言ってるよね?八幡なんてキテレツな名前他で聞いたことねえよ

 

 

「やっぱり俺じゃないですか…」

 

「てへっ」

 

「うわキツ」

 

「………まあ、今のは自覚あります」

 

 

 つーかまじで俺のことだとしたら全員嘘をついてるのか?浅利と久川以外のエピソードにはまったく身に覚えがないが、セクハラ台詞に関しては絶対に言わねえとも言い切れない絶妙な加減でよくできている。まあ俺が実際にセクハラするのは夢見だけなんだがな。

 

 

「それよかちひろさんはなんか知ってるんですか?あいつらの目もどうにも嘘をついているようには見えないですし、まさかモラルぶっちぎってクローン造ったとか言わないですよね…?」

 

「ギクッ」

 

「ギクッって言いました?」

 

「…まさか。イクッって言ったんですよ」

 

「まじで欲求不満すぎません?」

 

 

 雑にごまかすちひろさんはこれ以上言い訳するのがめんどくさくなったのか、これまでの経緯についてぽつりぽつりと自供を始めた。

 

 

「まあ、さすがにクローンは作りませんよ。可能かどうかは置いておいて」

 

「そんな可能性は捨ててください」

 

「と言ってもトリックは本当に簡単なんです。そもそも今私が全部話そうとしてる時点で比企谷君なら気付きそうなもんですけどね…」

 

「ど、どういうことですか…」

 

「あなたにはもう用はないと言うことですよ。――おやすみなさい、ゆっくり眠ってくださいね、ダーリン…♡」

 

 

「な、き、急に眠気、が………―――シャットダウンシマシタ」

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

晶葉「ふむ。アンドロイド八幡のハード面における性能は生理現象以外は問題ないようだな。エネルギーもうまく食事から変換できている」

 

志希「んー、ソフト面はどうしても複数体用意した場合の個々における記憶の整合性が取れなくてバグが起こってるみたいだにゃー」

 

ちひろ「ローカルネットワークを構築して記憶の同一化を図りますか?」

 

志希「それも考えたけど、同一時間帯に複数存在することへの矛盾をAIがどう判断するかによっては目も当てられない結果になりそうだからにゃー」

 

晶葉「なるほど!つまり自爆はロマンと言うことだな!」

 

ちひろ「ウチの会社をテロ組織にしたいんですか…。ひとまず生理現象を、主に性的な生理現象を再現できるようにもう一度あらゆる状態で3Dスキャンしてみましょうか。――それから八幡Ver8.05の起動は一体だけで事務所内限定、それでいいですね?」

 

志晶「「異議なし!!」」

 

 

ちひろ「ふぅ。貸し出しは難しそうですね。――いいお金になるかと思ったんですけど……」

 




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単短編8月8日 ちひろ「おはようございます比企谷君。誕生日おめでとうございます♪」八幡「ありがとうございます。……ずいぶんご機嫌ですけどなんかあったんですか?」

 

 

 

 お正月、バレンタイン、ひな祭り、ゴールデンウィーク、お盆、ハロウィーン、クリスマス、………そして誕生日。興味がないと言えば嘘になる。

 ―――と言ってもそれはアイドルのプロデューサーとしての話であり、各種イベントに引っ張りだこだったことを思えばリア充とまでは言えなくともそれなりに充実した一日を送ることができていたように思う。そしてアイドルにも、それを応援してくれるファンにも、そんなひと時を提供できていたと自負している。

 

 だがふと自分の過去を思い返してみた時、俺個人がリア充のように過ごした思い出というのがこれっぽっちもないことに気付く。しかし俺はそれが空虚なものだとは思わない。…そもそもリア充になりたいとも思わんが。

 誰かが勝手に部屋にセットしていったデジタルフォトフレームにこれまた誰かから勝手に送られてくる被写体も撮影スポットもばらばらの写真。時間や季節によってランダムに再生されるその何万枚もの写真はお前の思い出はこれだけの笑顔と幸せ、時には涙を紡いできたものなのだと教えてくれるから。

 

 

 だから俺は自分の誕生日に期待しない。今手元にあるものだけで十分に幸せだから。期待すれば裏切られた時に辛くなるから……

 

 

「…いや、あいつらに祝われると騒がしすぎてほんっっっっっとに疲れるってのが一番の理由なんだがな…」

 

 

 もう誕生日会とか最初の名目だけであいつらはただリミッターをカットして全力ではしゃげる場が欲しいだけに違いない。半ば主役としてお祝いされる側にいる分、途中で抜けることができず毎年なんかしらのトラウマが産まれることになる。

 去年の時点で来年はいらんと耳にタコができるほど言ったはずだが、今年に至っては1か月以上も前から事務所の連中がそわそわしているのを見てしまった。

 それもあって今日の仕事は事務所に帰って報告すれば終わりのはずなのにもうなんか事務所に近づくにつれて足が重いんだけど。渋川剛気先生の教えがここにきて理解できてしまったわ。

 

 

 そんな俺の葛藤もむなしくパーティーの始まりの時を今か今かと待ちわびる割れる直前の風船のような事務所はもう目の前まで迫ってきていた。……はずなんだが事務所のドアをくぐり建物へと入ってみても静まり返るどころか人の気配さえ感じることができない。

 

 

「………おつかれさまでーす。ちひろさーん?書類ここ置いておきますねー。もう帰りますよー?」

 

 

 緑の鬼のデスクに引き継ぎ書類をいくつか置き、重要なものはロッカーへと片づけていると自分のデスクにある栄養ドリンクとメモが目に入った。

 

 

『いつもありがとうございます。このドリンクは薬局にあった一番高いやつなのでよかったら飲んでください。それからプレゼントは新設備試験場に置いてます、地下に新しくできた部屋です。…本当はみんなでお祝いしたかったのですが、昨年騒がしいのが嫌だと言っていたので今年はみんなで話し合ってお祝いを考えました。by有志一同』

 

 

 あ、だめだ。すでにちょっと泣きそう。ちゃんと空気読めるようになったんだな…。これ次の部屋に行ったらまたヒントの手紙が置いてあって次々に辿って行くと最後にプレゼントが置いてあるパターンだよな。

 しかもこの一番高い栄養ドリンクとやらも見たことないメーカーのものだからわざわざ良いのを探してきてくれたんだと思う。せっかくだから飲ませてもらおう。

 

 カチリとフタを回し一気に喉に流し込む。焼けるような感覚が喉を走り抜け、飲み干した途端に身体がカッカと熱くなり心臓はバクバクと早鐘を打ち始める。

 

 

「おぉ…、さすが一番高いだけあるな……」

 

 

 妙に軽くなった身体はふわふわと自分の制御を離れて地下の試験場へと足を運んで行く。

 部屋に到着しドアの前に立つとエアーの抜けるような近未来的な音をたて何層にもなったドアが開く。中に誰もいないことを確認しながら部屋に入ると次は重苦しい音をたて扉は閉まった。続くように何重にもロックのかかる音が聞こえどれだけ堅牢な部屋を作ってんだよと素直に感心してしまう。

 

 「……スイートルームみたいな部屋だな」

 

 

 レッスンルームほどの広さの部屋の中心にはキングサイズのベッドが一つとガラス張りのシャワールームがある。ビスケット・オリバの独房かな?

 落ち着かない様子で部屋を見渡しているとユーロビートが流れ照明がピンクになる。突然のことに驚きひとまず部屋を出ようとするが入ってきたドアは外側からカギがかけられているようでびくともしない。

 

 とりあえず電気を戻して音楽を止めようとベッドサイドのチェストについてあるリモコンへと近づくと、その上に一枚のメモが置いてあるのに気付いた。なるほど、ここにも感謝の言葉が書いてあるんだな。それを読んで感動してたらドアが開くと、そーゆーパターンのやつね!

 

 

『ゴニョゴニョしないと出られない部屋。順番はみんなで【話し合い】をして決めました。1人当たり90分。総勢何人になるかは完走してからのお楽しみ♡チェンジは無しですよ~♡』

 

 

「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコンコンッ♪

 

『お待たせしましたー♡』

 

「ヒィッ!!」

 

 



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単短編渋谷 八幡「事務所内に乱気流が発生してる気がするんですけど……」ちひろ「はて?武内さんのデスクから私の方に風が向いてるのはコンセントの位置の問題ですけど何か?」

 

 

「ずいぶんおしゃれな扇風機ですね。事務所用にわざわざ買ったんですか?」

 

「違いますよちひろさん。これは扇風機じゃなくてサーキュレーターって言うんです。―――まあちひろさん世代の人からしたらどっちも一緒でしょうけどね…(ボソッ)」

 

「…そんな回りくどいことしなくても死にたいならいつでも殺してあげますよ?」

 

「ただの軽口でいちいち始末しようとしないでくださいよ……。涼むためというより空気の循環用らしいです」

 

 

 オリンピックが仮に開催されていたとしてもテレビの前で観戦する以外の選択肢はなかっただろうなと確信が持てるほど日本の夏が本格的に猛威を振るい始めた盆前の東京。

 穏やかな口調とは打って変わって修羅とか鬼神とか般若とかなんかそんなバキに出てきそうな感じでお茶目にキレるちひろさんが俺のデスクにおいてある扇風機を見てうらやましそうに言った。つーかサーキュレーターってなんだ?扇風機じゃダメなのか……、千石撫子ちゃんくらいしか使わねえんじゃねえの?せーのっ

 

 

「ふーん?」

 

「誕生日にもらったんです」

 

「あぁ、あの所属アイドル200人斬りの時にもらったやつですか」

 

「―――1人ずつ時間を取って話をしただけで別になんもなかったですから……」

 

 

 あれは不幸な事件だった。

 いや本当のことを言うと、二人っきりの時じゃないと言いにくいような本音や感謝の気持ちを言う、…終わってみれば実にハートフルな企画だったわけだが。

 独身の熟れた肢体を持て余し、いかがわしい妄想しかできないちひろさんはあれ以降、責任や既成事実などありもしないものを俺に背負わせようと画策していた。年少組のほほえましいイタズラもちひろさんの灰色の脳にかかればまるで年端も行かない少女たちがガチで俺を狙っているように見えてしまうのだから手の施しようがない。

 

 

「まあそんな戯言は置いといて、誰にもらったんですか?」

 

「戯言って…。ほらそこにいるじゃないですか」

 

「ふーん、アンタが私のプロデューサー?……まあ、悪くないかな…。私は渋谷凛。―――ねえ、いまさら初登場って遅いんじゃない?」

 

 

「………ほらちひろさん、こういうのが戯言って言うんですよ」

 

「………凛ちゃんからのプレゼントだったんですねー。こう言っては何ですがもっとエグいものをあげたんだと思ってました……処女とか…(ボソッ)」

 

 

 ちひろさんが最後に何を言ったのかは聞こえなかったし聞きたくもないけど確かにキャラがたっているはずの渋谷が出てくるにしてはずいぶん遅かった気がする。島村?あいつはカオス過ぎて出禁だ。

 

 

「甘いねちひろさん。――プロデューサーの横にサーキュレーターを置いて私は風下に座る、こうすればわざわざ自分から嗅ぎに行かなくても匂いの方から私のほうに来てくれるんだよ…。もはやプロデューサーに包み込まれているといっても過言ではないよね?」

 

「なるほど、プレゼントとして渡しつつも自分のメリットはしっかりと確保していると…、策士ですね凛ちゃん。」

 

「――なんでちょっとちひろさんも理解を示してるんですか…」

 

 

 事務所内には女性が多くてエアコンの温度が少し高いから男の俺には暑いだろうからって言って渡してくれたあの感動は何だったんだ。狂犬が成長したなあ、これからは大人しくなるかもなあ、とかなり喜んだっていうのに。

 ここのところ俺が事務所にいる間はずっと周りに渋谷がいるなあ~、くらいには思っていたがまさか四六時中匂いをかがれていたとは……

 

 

「――つまりさ、この2週間の間毎日プロデューサーから出た粒子を肺いっぱいに吸って肺胞から毛細血管内に吸収され手足の隅々まで行き渡って代謝を経て私の一部、いや、全部になったと言っても過言ではないと思うんだ。だからプロデューサーと私の関係は生物学上は血の繋がってない親子とするのが一番正しいと思う、それで親子は一緒に住むべきだと思うんだけど今日から行ってもいいよね?あっ、親子って言っても血は繋がってないから結婚はできると思うよ。むしろこの2週間プロデューサーの粒子を吸い過ぎて授かった気がするから授かり婚ってことになるのかな?――」

 

「………いやもう言いたいことは山のようにあるけど、うん、年齢的に結婚できないから無理。――つーか俺は養ってくれる人と結婚するんだよ」

 

「いえ比企谷君、ウルグアイでは女性は12歳から結婚可能らしいですよ?それに収入的にも比企谷君を養うことは十分に可能かと。」

 

「えっ!ちひろさんそれほんと!?う、ウルグアイの国籍取らないと!!」

 

「ハッ!残念ですね!その法律は2012年に同性婚法案の可決とともに引き上げられたんですよ!」

 

「あらら、そうだったんですか。……でもおバカさんは見つかったようですね?」

 

「は…?」

 

 

 渋谷は怖いからいったん置いておくとして…むしろずっとはるか彼方へ追いやるとして……

 

 ちひろさんの悪魔のような援護射撃を自信満々に一蹴してもさほど残念でもなさそうに意見を撤回すると、出荷される直前の豚を見るような目を俺にやった。

 

 

「比企谷君はそもそもどうして世界で一番低い年齢で結婚できるウルグアイの法律なんか知ってるんですか?わざわざ調べたことがあるってことですよね?」

 

「…ッ!!」

 

「ぷ、プロデューサー?12歳とかダメだよ?小学生と結婚するのは…犯罪なんだよ……?」

 

 

 鬼の首を取ったように鬼みたいな顔の悪魔が肩にかかる髪をさっとはらって決定的証拠を示す検察官のように言い放った。

 しかしそれは俺にとって致命的と言えるほどにダメージのある言葉ではないことを俺だけは知っていた。…知ってはいたがこれを言うと別の意味で致命的になりそうなので言うかどうかの判断が瞬間的にできず口ごもる結果となりそれが絶体絶命かのような間になってしまった。

 

 あと渋谷は自分のこと棚に上げ過ぎて棚の上が大混雑してるぞ。

 

 

「………昔ちょっと血迷って同性婚について調べたことがあったんですよ。――いや、ぶっちゃけ戸塚が可愛すぎてかなり本気だったんですけどね……」

 

「……」

 

「……」

 

「は、八幡……。ぼ、ぼく男の子だけど…いいの?」

 

 

「え…?トツカ?――トツカナンデ!?」

 

 

 事務所のあちらこちらから鼻血が噴き出すのが見えたがそれより目の前に天使が首をかしげて俺のプロポーズに応えようとしてくれてるのだからこちらも姿勢を正して誠心誠意待つのが男ってもんだろ。もうゴールしてもいいよね?

 

 ……まあそんなうまいこと(うまいこと?)行くわけないのがこの事務所、鼻血を拭くこともせず俺と戸塚を一心不乱に写真や動画に収める連中、俺に群がってきて挨拶より安い勢いでプロポーズを連発する連中、とてもアイドル事務所とは思えない罵詈雑言が飛び交った。その後に多数のカウンセリングが(俺含め)必要になったのは言うまでもないし言いたくもない……

 

 ちなみに戸塚はマストレさんとどっかの講習で出会って意気投合して、アプローチを変えたトレーニングを一緒に考えるために事務所までたまたま来ていたらしい。…これからもちょくちょく会えるってことか?やだ、うれしい。

 

 

 

――――――

 

 

 

ちひろ「アラブ首長国連邦では法律上は親の許可さえあれば何歳からでも結婚可能らしいですよ」

 

「「「アラブ…」」」

 

ちひろ「それと一夫多妻制らしいですよ」

 

「「「合法ハーレム…」」」

 

ちひろ「一般市民は4人ほど王族でも10人までらしいですよ」

 

「4人もいれば七海は間違いなく入れるれすね~」

 

「ふーん、私が第一夫人?まあ、悪くないかな…?」

 

「べ、別にスケコマシガヤ君がパートナーである私を妻にしたいのなら考えなくもないけれど…」

 

「千枝は…千枝だけを死ぬまで愛し続けてほしいです……」

 

「アラブにツテはあったかしら…。いえ!やるのですわ!八幡ちゃまはわたくしが王にして差し上げますわ!」

 

 

―――

 

 

八幡「うおッ!!」

 

凪「どうかしましたか?」

 

八幡「いやなんでもない。悪寒が、…人生の墓場が群れを成して目の前に迫ってるような悪寒がしただけだ」

 

凪「…そうですか、凪を心配させるのは感心しませんよ。――お詫びに今後Pがパートナーを4人選ばないといけない時が来たら真っ先にはーちゃんと凪を選ぶことをここに宣言してください」

 

八幡「…心配してくれてありがとな。何のパートナーかは知らんが4人選ぶならお前ら姉妹から選ぶとするわ」

 

凪「誓いますか?」

 

八幡「おう、誓う誓う」

 

凪「おーけーです。ばっちり録音できました」

 

八幡「ん…?」

 

 



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単短編サイキック ちひろ「あくまで感覚がリンクしているだけでダメージはゼロなので安心してください♪」八幡「……ぜつゆる」

 

 

 

裕子「むっ!?そこにいるのはプロデューサーではないですか?」

 

八幡「………人違いです」

 

裕子「もうっ、とぼけても無駄ですよ!今日も新しいサイキックが発現したのでぜひ見てみてください!」

 

八幡「それが嫌だからとぼけてんだよなー……」

 

 

 

裕子「――ではここにあります大量の食べ物とプロデューサーの感覚をリンクさせるサイキックをお見せしたいと思います!!」

 

八幡「なんでこんなに準備いいの?その回転の速さもっと他で活かしてくれない?」

 

裕子「ではまずこの大根とプロデューサーの足をリンクさせますよー!サイキック―…リンクスタート!!」

 

八幡「なぁ…帰っちゃダメか?お前のサイキック10回に1回はひどい目に遭ってんだよ。俺が」

 

裕子「むむむっ!サイキック成功です!――では早速大根おろし器にかけていきたいと思います!」

 

八幡「えっ!?ちょ!」

 

裕子「ふんっふんっふんっ――」

 

八幡「ぎぃえぁあ゛ああああ!!待てっ!ストップ!!ステイだ堀!!!」

 

裕子「ふっふっふっ、どうやら成功のようですね……」

 

八幡「ハァッハァッ……ねえ、なんで?撫でるとか叩くじゃダメだったの?なんですりおろしちゃったの?…くっ、まだズキズキしやがる…」

 

 

裕子「続いてはこのイチゴと比企谷さんの唇をリンクさせますよー!リンクスタート!」

 

八幡「成功したとして俺の唇をどうする気なの?無難って言葉知らないの?手とか耳じゃダメだったの?」

 

裕子「んーーっ。イチゴはどうしましょうか……」

 

八幡「もう爪楊枝でつんつんするとかでよくない…?」

 

 

 

裕子「………ちゅっ。―――なんちゃって、……えへへ」

 

八幡「………まあ、うん。――成功だな…」

 

――

 

裕子「では次はこのバナナを――」

 

八幡「言わせねえよ?」

 

――

 

裕子「さ、最後はこれです!!ちひろさんからのリクエストッ!」

 

八幡「死亡フラグより極悪な死亡フラグ…。すまんがそれだけはやめておく」

 

裕子「この殻付きくるみをプロデューサーの肩と腰の筋肉とリンクさせます。それをこのくるみ割り器でゴリっと行きます!するとなんと!くるみが壊れるのと一緒にプロデューサーの疲労もゴリっと無くなるそうです!」

 

八幡「………く、くるみが英語のスラングで何を表してるか…知らないのか…?」

 

裕子「では行きますよーっ!」

 

八幡「待って!潰れちゃうから!比企谷の血が俺の代で終わっちゃうから!」

 

裕子「えいっ!(…ゴリュッ)」

 

八幡「………ク…ハッ…」

 

裕子「どうですプロデューサー、疲労は取れましたか?……あれ?プロデューサー?なんで泡を吹いて白目を剥いてビクンビクンしてるんですか!?」

 

 

 

 

武内「あの…ちひろさん。さすがに同じ男として見てられないのですが…」

 

ちひろ「まさか武内さん超能力なんて信じてるんですかー?あれは裕子ちゃんに優しい優しい比企谷君が付き合ってあげてるだけですよー?―――次は武内さんが遊んであげますか…?」

 

武内「………何もないです」

 

 

 



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単短編怒りの逆セクハラ ちひろ「武内くーん。疲れたからおんぶしてー」八幡「予行演習してやがる」

 

 

美優「あ、あの…。プロフィールを新しくするのでみんなにアンケートを書いてもらったんですけど……」

 

八幡「あー、回収全部任せちゃってすみません…」

 

美優「いえ、それはいいんです。比企谷君も756プロの助っ人で忙しいでしょうから。それでそのプロフィールなんですけど――」

 

八幡「――美優さんといる時くらい仕事のことは忘れさせてくださいよ……」

 

 

美優「うぇ!?そ、そんな急にいきなり。―――わ、わわ、私が忘れさせて、ああああああげますっ……!!」

 

八幡「なんて、冗談ですよ。給料分くらいは俺も働きます。全部美優さんに押し付けるわけないじゃないですか」

 

美優「………ちょっと疲れたんで私の仕事も全部やっておいてください」

 

八幡「あれっ?」

 

 

―――

 

 

八幡「そろそろ機嫌直してもらえませんか…?ほら、仕事もあらかた終わらせましたし…」

 

美優「比企谷君は本当に1回刺されたほうがいいかもしれませんね」

 

八幡「何でですか、嫌ですよ。あれ?刺されたことがあるようなないような……」

 

美優「そんなことよりプロフィールの話の続きです」

 

八幡「………美優さんから始めた話なんですけど」

 

 

美優「みんなの好きな食べ物の欄が軒並みマックスコーヒーになってるんです。これじゃあステマって言われても仕方ないですよ…」

 

八幡「はんっ!俺は悪くないですよ。うますぎるマッカンが悪いんです。むしろダイマするまである」

 

美優「つまり修正するつもりはないと…?」

 

八幡「スポンサーについてもらってマッカン用冷蔵庫置きましょうか。勝ったなガハハ」

 

美優「―――そういえば。以前にLiPPSが取材された時の雑誌を読んだんですけど、ファーストキスの味は?という質問にマックスコーヒーと答えていましたよ。……全員」

 

八幡「………すいません。今すぐアンケート書き直させてきます」

 

美優「まだ行かせません」

 

八幡「やっぱりまだ怒ってますよね?つーかLiPPSに関しても何もしてませんから。――たぶんアイドル同士で遊びでしたキスかなんかでしょ、好きなもんにマッカンて答えてるなら辻褄もあいますよ。百合営業百合営業」

 

美優「………中国の昔話なんですけど」

 

八幡「え、なんですか急に。怖いんですけど…」

 

美優「死後、三途の川を渡るときに女性は、処女を捧げた男性に背負われて川を渡るそうですよ。………比企谷君は何百往復するんでしょうね。今のうちに遠泳でもして鍛えたらどうですか?―――あと…私も背負ってくれてもいんですよ…?」

 

 

八幡「………黙秘します」

 

 

ーーー

 

 

ちひろ「ところで比企谷君って童貞は誰で捨てたんですか?ーーまさかまだ童貞なんてことないですよね…?」

 

八幡「………黙秘します」

 

ちひろ「意外と高校生くらいで歳上のお姉さんに雑に奪われとか」

 

八幡「………黙秘します」

 

ちひろ「むしろ歳下の女の子に強引に奪われたとか」

 

八幡「………黙秘します」

 

ちひろ「ベタに同級生と放課後ラブラブえっちとか」

 

八幡「放課後ティータイムみたいに言うな」

 

ちひろ「ふむ。発汗や心音では判断できなそうです。…いい修行を積んでますね」

 

八幡「無意識を読み取ろうとしないでください」

 

 

ちひろ「はぁー。つまり比企谷君はシュレディンガーの童貞と言うことですね」

 

八幡「おい、シュレディンガー博士に謝れ」

 

 



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単短編哀しみの自爆セクハラ ちひろ「録音データあるけど聞きます?」八幡「マジでいらん…」

 

 

美優「仁奈ちゃん、比企谷君見かけなかった?」

 

仁奈「八幡でごぜーますか??さっきちひろさんにいじめられてたのは見たでごぜーますよ?」

 

美優「それはまあ…、私も間近で見てたんだけど…」

 

仁奈「あれはさすがにかわいそうだったでごぜーます…。八幡泣いてたからなでなでしてやらねーとです」

 

美優「うっ…、やっぱり謝った方がいいよね」

 

仁奈「探しに行くでごぜーますか?」

 

美優「うん。できれば電話とかじゃなくて直接謝りたいから…。でもどこにいるんだろう……」

 

 

仁奈「んー、んー、――あっ!八幡は“俺に用があるときはホワイトボードを見ればどこにいるか分かるからな“って言ってたでごぜーますっ!!」

 

美優「あ……、そうだった。ちょっと見てくるね」

 

仁奈「仁奈も行くでごぜーます!」

 

 

美優「えーっと、比企谷君比企谷君比企谷君……あった」

 

仁奈「なんて書いてるでごぜーますか?」

 

美優「んー30分そとだし?…………外出し!!?」

 

仁奈「そとだし~?美優おねーさん、そとだしってなんでごぜーますか??」

 

美優「ひぃっ!あ、あのあの、あのね、な、中で出しちゃうと赤ちゃんができちゃうから、そ、外に出すことを外出しって、い、言うんだけど…」

 

仁奈「おー!赤ちゃんができるでごぜーますか!仁奈も中で出されたから産まれてくることができたんでごぜーますね♪――ところで何を中に出すでごぜーますか??」

 

美優「そ、それは、ザー……」

 

仁奈「ざー?」

 

美優「ザーメ…ダメ!これ以上は言えない!!!」

 

 

八幡「おい、ホワイトボードの前でなんちゅう単語叫んでんだ…」

 

仁奈「八幡!おかえりでごぜーます!」

 

美優「ひぃっ!」

 

八幡「おう、ただいま。ちゃんと仁奈のプリンクレープも買ってきたぞ。あっちで食うか」

 

仁奈「クレープぅ~♪ありがとーでごぜーます♪」

 

美優「く、クレープ…?」

 

八幡「誰か買い物お願いしてくるかなってここにチラシ貼ってたんですけどね、電話してきたのは仁奈だけでした。あと、新しいチラシ貰って来たんでこれは捨てときますね。――ほら仁奈、えっちな美優さんはほっといて向こうでゆっくり食べような~」

 

仁奈「おー!美優おねーさんはえっちだったでごぜーます!」

 

―――

 

美優「………“30分外出します。クレープ食べたい人は比企谷まで。”………えっと、クレープを頼んでたと言うことは仁奈ちゃんはこれを読んでる。……他に誰も頼んでいないってことはチラシを動かしたのも仁奈ちゃん。……全部知ってるはずなのに思い出したみたいに私をホワイトボードまで誘導したのは仁奈ちゃん。…………ハッ!二人でクレープを食べるために私を排除した…!?」

 

ちひろ「真っ赤になって強引なこじつけしてるとこ悪いですが、外出をそとだしと読んだのは美優ちゃんですからね?勝手に仁奈ちゃんを悪女に仕立て上げないでください…」

 

美優「…すいません。…私はえっちな女です」

 



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単短編喜びの自発的セクハラ ちひろ「もしかして、勃ってますか?」八幡「ふっ、これが平常時ですけど何か?」

 

 

 

美優「あの、ちょっとおかしなこと言ってもいいですか?」

 

八幡「アナ雪見ました?」

 

美優「先ほどから見てるとずいぶんお疲れのようですが…」

 

八幡「……あー、朝抜いてきたんですよ…色々あって…」

 

美優「あ、朝から抜いてきたんですか!?いえ、男性が朝に持て余すのは知識としてはしっているのですが…」

 

八幡「あのプロジェクトだけは俺も全精力を注がないと厳しくて」

 

美優「精を注ぐ!!?」

 

八幡「こんなこと美優さんには言いたくないでけど、そのせいで少しストレスを溜めすぎました…」

 

美優「た、ためためため…溜め過ぎはよくないと思いますっ!」

 

八幡「ははっ、なんなら発散に美優さんが付き合ってくれますか?」

 

美優「つ、突きあう!?」

 

八幡「なんて、冗談ですよ。美優さんは優しいからつい当てこすりしちゃいますね…」

 

美優「当て擦る!?素股!?どうせなら入れればいいのに!」

 

八幡「……あの……それ俺もノッた方がいいですか?」

 

美優「乗る!?やっぱり入れる気ですね!?」

 

八幡「もしかしてなんですけど、ツッコミ待ちですか?」

 

美優「突っ込む!?ほら!やっぱり入れちゃいました!」

 

八幡「だめだ。会話にならねえ」

 

 

―――

 

 

美優「なーんて、わざとですよ♪おかしなこと言ってもいいって言ったじゃないですかっ♪」

 

八幡「いや、俺はいいんです。どう考えても恥ずかしいのは美優さんだけですし」

 

美優「………たしかに」

 

八幡「――あのね、美優さんのことをえっちだなんだ言ってるやつがいるらしいですけど、ちょっとテレビを見た程度の認識で言ってるだけですからね?ファンが勝手に言ってることに美優さんが合わせる必要なんかないんです」

 

美優「……そうなんでしょうか。私の需要がそこにあるなら多少無理をしてでも…」

 

八幡「ファンの求めてることばかりやってたら輿水はアイドルじゃなくてリアクション芸人になりますよ」

 

美優「た、たしかに…」

 

八幡「そこで認めちゃうと輿水がかわいそうですよ」

 

美優「あっ、いえ、幸子ちゃんがとってもかわいいのは前提で…」

 

八幡「冗談ですよ。誰に何を言われたかは知りませんが美優さんは美優さんのままでいいんですよ」

 

美優「む。……別に悩んでたわけでもないんですけどねっ!」

 

八幡「なんでちょっと怒ってるんですか…」

 

美優「別に別に!比企谷君は口が上手だなと思っただけです!………あ、いや、口でするのが上手とか言いたかったわけではなくて…」

 

 

 

八幡「無理しなくても、美優さんは美優さんのままで十分えっちです」

 



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単短編楽しい実践的セクハラ

 

 

 経験したことのないほどひどい頭痛によって起床した私は、むずがりながらゆっくりと布団をかぶりなおし子猫のように身体を丸めます。

 

 

「うぅ。頭が割れるように痛い…」

 

 

 それでもなんとか布団から頭だけ出して外の様子をうかがってみれば、カーテンの隙間から差し込む光はすでに太陽が仕事をし始めていることをこれでもかと示し、さらには小鳥がちゅんちゅんと鳴いたりしてるものですからいっそのことがばっと起きてしまえば素敵な朝を過ごせるのではないかと思います。

 いつもならここですっと起きることはそれほど難しいことではないのですが、なぜか今日はやけに身体が重く枕も私を離してくれません。抗いがたいのはこの高級ホテルのようなベッドの魔力でしょうか

 

 確か今日は朝も昼も自由行動だったはずなので、なら二度寝をするのも私の自由なはずです。

 なかば自暴自棄になっているとふわりとやけに落ち着く匂いを感じ、出どころを探るようにごろりと寝返りを打ちました。そして私はようやくその存在に気が付きました。

 

 

「あれ?どうして私、比企谷さんの腕枕で寝てるんだろ…」

 

 

 やけにちゅんちゅんと鳴り響く鳥のさえずりを聞きながら、私、三船美優はもう一度その枕へと身を委ねました。せっかくなので目の前にある素敵な抱き枕も使っちゃいましょう。私の中の天使と悪魔も肩を組んでGOサインを出してくれてます。

 

 ………いえ、現実逃避している場合ではないですね。

 

 えーっと、昨晩はたしか――

 

 

ーーーーーー

 

 

 ホテルの大広間に集まったのは成人済みのアイドルと+事務の方たち。

 ビールに始まりハイボールに各種サワー。果ては日本酒に焼酎。あるいはワインにウイスキー。

 良い子は寝る時間をまたぐと同時に始まった大人たちだけの飲酒に次ぐ飲酒もすでに2時間が経過したというところでしょうか。

 昼間から飲んでいたことには飲んでいたのですが子供たちの手前、だめな大人のお手本を見せるわけにもいかなかったのか、皆さんずいぶんとお上品にのんでいたのでその反動が来ているみたいですね。

 

 かくいう私もすでに意識がもうろうとしてきていますが、そんな中でも比企谷さんのお隣をしっかりと確保しているのは本能の成せる業でしょう。

 さらには畳の大広間である都合、比企谷さんはあぐらをかいてるものですから太ももをさすったりできてこれは極めてベストポジションです。要所にあーんなどをはさみながら私もついお酒が進むってなもんです。日本酒、美味でございます。

 

 比企谷さんを挟んで反対側には心さんが座っており今も「はーとのお酒が飲めないっていうのかよ☆」なんて甲斐甲斐しくお酌をしています。

 デレデレと、……いえデレデレとはしていませんが、いずれにせよ他の女からお酌をさせるその姿を見ているとおちょこを奪い取って飲み干してやろうかなんて考えてしまう私は悪い女です。

 

 

「あの、さっきから俺の酒奪わないでもらえません…?」

 

「はひ、なんれすか?」

 

「なんだこの可愛い生き物は…、浅利みたいになってるし…」

 

 

 すいません。実はわざとです。

 

 そんな風に独占欲を満たしながらお酒を楽しんでいると一升瓶をかかげた瑞樹さんがやってきました。

 

 

「飲んでるかしらーハチくぅーん♡」

 

「残念ながら美優さんのせいで全然飲めてないんです」

 

「えっ、あっ、ご、ごめんなさい…」

 

「冗談ですよ美優さん。ちゃんと楽しく飲んでますから」

 

 

 瑞樹さんからの質問に沈んだ雰囲気で答える比企谷さんに、やり過ぎてしまったかもしれないと思い急いで謝ると、一転していじわるな顔でニヤリと笑うものですから、酔いも手伝い良くないスイッチが入ってしまいました。

 

 

「ふふ♪仲がよさそうでうらやましいわ♪」

 

「い、いえ、私たちはあくまでおなじ事務として親交を深めていただけで」

 

「そうですよ瑞樹さん。だいたい職場で恋愛なんてありえないで―グハッ!!!」

 

 

 おっと。つい手が出てしまいました。

 

 見渡してみれば決して少なくない人数が何かしらをこちらへ投げつけていたようで比企谷さんはコンボ技を喰らったようにリズミカルに悶えています。

 

 ところで今さらなのですが、皆さん狩人のような目で私と心さんを睨んでいます。席順に関しましては比企谷さんが決めたものなのでこんな怖い顔で睨まれても困ってしまいます。とりわけ茄子ちゃんと時子ちゃんはとてもアイドルのしていい顔ではないですね。ほら、時子ちゃんそんなんじゃ仁奈ちゃんに泣かれちゃいますよ?

 

 

「またハチ君はそんなこと言ってー。ほらお姉さんが楽しいお酒の飲み方を、教えてあ・げ・る♡」

 

「ははっ、酔ってるとそれも可愛く見えるから不思議ですね」

 

「ふふっ、しばくわよー♡」

 

「…すみません」

 

「まったく、失礼しちゃうわ!」

 

 

 パシッと比企谷さんの頭を叩き向かいに座った瑞樹さんは、手酌でおちょこに日本酒を注ぐと、それを勢いよくグイっと飲み干しました。

 そして空になったおちょこを比企谷さんに渡し、とても美しい所作でそこに徳利を傾けていきます。

 

 

「高知の返杯ですか…」

 

 

 ポツリと呟き、んくっとこちらも一息に飲み干した比企谷さんはかかってこいと言わんばかりの表情で瑞樹さんへとおちょこを戻し、溢れるほどに日本酒を注いでいきます。やだ、かっこいい。

 

 繰り返されること数度。

 ………流れるように行われる間接キスは止める間もなく繰り返され、気が付けば瑞樹さんの後ろにはアイドルがおちょこと徳利を手に列を作っていました。

 

 それぞれが数度の返杯の後に満足気に比企谷さんを囲むようにその場に座り込んでいきます。ご自分の席でお料理を楽しんでいればいいのに……

 

 先ほどまでの雰囲気とは打って変わって比企谷さんの周囲はとても姦しく会話が飛び交うようになりました。

 比企谷さんを中心に円になっているので、私のポジションはまるで正妻。これはこれで悪くないですね。反対隣りに心さんもいますがどう見ても賑やかしなのでやはり正妻は私で間違いないでしょう。

 

 皆さん存分に間接キスを楽しんでいましたし、ここで妻として見せつけないといけませんね。

 

 

「あー、飲み過ぎた。20人以上は返杯したんじゃねえか?」

 

「むーっ!比企谷さんそんなたくさんのアイドルと間接キスしたんですかっ!」

 

「なんでなすびがそんな怒んだよ…。間接キスとか気にする歳でも………、今のなし」

 

「いい度胸ね八幡君…レディーの前で年齢の話をする悪い口はこれかしらー?!」

 

「痛っ!ぎ、ギブです!すみませんっ早苗さん!!」

 

 

 禁句を口にした比企谷さんはお姉さま方に囲まれもみくちゃにされてしまいました。

 妻として見せつけるとは意気込んでみたものの酔いが進んでぼーっとした頭では早い流れに割り込んでいくこともできず、見ていることしかできない自分が情けないです。

 

 …おもむろにキスとかしたら。ダメでしょうか?

 

 思い立ったが吉日。

 景気づけに徳利に残っていたお酒をそのまま口に流し込みます。

 

 

「あら、美優ちゃんどうしたの?」

 

「おいおい怖い顔になってるぞ☆」

 

「み、美優さんでもここは通しませブベラッ!」

 

 

 瑞樹さんと心さんの横を通り抜け茄子ちゃんをはじき飛ばし、不思議そうな顔で私を見上げる比企谷さんの前に到着です。

 

 

「ど、どうしたんですか?………なんで無言!?」

 

 

 あぐらをかく比企谷さんの膝へと向かい合って座り込みます。ちょうど対面座位のような恰好です。

 お互いに浴衣で対面座位などしてるものですから傍目にはどう見られてるのでしょう。恥ずかしくて興奮してしまいますね。

 このまま比企谷さん首とか絞めてくれませんかね?今ならそれだけで……

 

 

「え…?あの、美優さん…?」

 

 

 とゆーかこの人はこれだけの女性に囲まれていてどうしてこうも警戒心が薄いのでしょうか…

 しかしそれも今の私にとっては都合がいいです。

 

 両手で頬を固定し少し傾け、あとは勢いです。

 

 えいっ 

 

 カチッと頭に響いた音は歯がぶつかった音でしょうか。

 舌を使って強引に歯をこじ開けそこへ口内に溜め込んでいたお酒を一気に流し込んでいきます。少なからず私の唾液が混ざってるであろうその液体をです。

 

 

「ん!?んんん゛!?ん…!―――ゴクリ」

 

 

 姦しさはどこへ行ってしまったのか。痛いほどの静寂の中、私から注ぎ込まれたお酒を嚥下する音が妙になまめかしく大広間に響き渡ります。

 

 

「え、えへへ。いっぱい出ちゃった…」

 

 

 あれ?なんか身体がふわふわして。あ、倒れちゃ…う………

 

 

ーーーーーー

 

 

八幡「っとと。爆弾落とすだけ落としてぶっ倒れやがった…」

 

瑞樹「さすがハチ君。ナイスキャッチね」

 

八幡「どうも。このままってわけにもいかないんで寝かせてきますね」

 

瑞樹「送り狼になっちゃだめよー?」

 

八幡「さっきの見てました?襲われたのは俺ですからね?」

 

 

茄子「って!ちょっとちょっと!何を普通にしゃべってるんですか!!?今キスしましたよ!?」

 

八幡「はぁ。お前も後でしてやるから今は黙ってろ…」

 

茄子「ふぇっ!?」

 

瑞樹「こーら、年下の女の子をおもちゃにしないの」

 

八幡「…すみません。それじゃあいったん失礼します。……よいしょっと」

 

 

 

茄子「み、瑞樹さんよく落ち着いて話せましたね…」

 

瑞樹「瑞樹もうなんにもわからないわ」

 

茄子「あ、全然大丈夫じゃなかった」

 

 



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白衣の堕天使

 

 

 太陽が仕事をし始める少し前。

 目が覚めた俺は、今寝ているベッドが妙に心地の良いことに気が付いた。

 宿泊を伴う仕事が多くなりビジネスホテルや旅館で寝ることに慣れた一方で、自宅でゆっくりと寝られることのありがたみを殊更に感じ始めた昨今。果たして自宅以外でこれほど気持ちよく目が覚めたことがあっただろうか。いや、ない。

 

 さらに言えば昨晩はあれほどのお酒を飲んだにもかかわらず身体はすこぶる快調なことも疑問である。

 思い返せば美優さんを部屋に送って以降記憶がないので、そこから今しがた目覚めるまでの間に何か元気の秘密があるのかもしれない。

 

「んー、ムニャムニャ………やむ…」

 

「………まじか」

 

 自分の下半身のあたりから聞こえるむずがるような声が聞こえ、恐る恐る布団をめくったそこにいたのは気持ちよさそうに眠るそいつだった。

 きれいな顔してるだろ…ウソみたいだろ…。夢見なんだぜ。

 

 言ってる場合じゃねえな…

 え、まじ?夢見と朝チュンしちゃったの?朝チュンの作法などまるで知らんがベッドに腰掛けてタバコとか吸っちゃたりした方がいいのか?ルージュの伝言とか残した方がいいのか?

 そんな風に静かにパニックになること数分、次の瞬間には覚悟を完了し浴衣をパージするとともに夢見を優しく揺り起こした。

 

「んなぁ~~………。うぅ、もう朝…?………あ、ハチサマおはよう…」

 

「ああ、おはようりあむ。昨晩はよかったぞ、ありがとう」

 

 ろくに記憶はないけどダンディなセリフとか言っちゃう。

 

「え、てゆーかなんでハチサマパンツ一枚なの!?」

 

 なんでもなにも…自分が脱がせたんだろうに。(違う)

 白々しくもチラチラと俺の身体に支線を走らせる夢見。おいおい、あんまり見られると興奮するじゃねえか。

 

「ところで身体は大丈夫か?シーツを見るに初めてではないみたいだが」

 

「いやいや!こんな経験初めてだよ!!むしろハチサマこそいい大人なのになんでこんなことになるんだよっ!!」

 

「どうやら飲み過ぎたようだな…。大丈夫。責任はちゃんと取るつもりだ」

 

「責任!?……あぁ、大丈夫だよ。ハチサマ我慢して出さなかったから」

 

 聞きましたか奥さん?八幡のハチマン不発で終わったそうですよ?

 …ただそれと秘密の洞窟に侵入してしまって責任を取ることはまた別の話だ。スティックをインサートするのはそれだけ罪深いことなのだ。さらにはこれが夢見の初体験だと言うのだからなおのことである。

 

「―――酔い過ぎてイケなかったのか……。すまん」

 

「そーだよ!酔い過ぎはいけないことだよっ!」

 

「酔い過ぎはイケない…」

 

「まったく、ぼくだからよかったものの。いい大人なんだから気を付けてよね!」

 

 厳しさの中にどこか優しさをたたえた瞳で俺を見つめる夢見にうっかりときめきそうになる。

 ただでさえ粗相をしてしまったというのに、その上行為まで満足にできなかったというのだから救いようのない話ではないだろうか。

 いい大人なんだからなんて言ってくれる夢見だが、昨夜まさに大人になった俺なのだから昨日まで大人ではなかったのではないかと思う。ちひろさん曰く、シュレディンガーの童貞。巨大なお世話過ぎるわ。

 

 成人式が読んで字のごとく人に成る式なのだとしたら昨日までの俺は人ではなかったと言えるだろう。

 比企谷八幡。ただの人間には興味ありません。

 

「重ね重ねすまん。次からは気を付けるわ…」

 

「あ、そうだ!美優さんの様子も見に行かないとっ!」

 

「なに?俺美優さんにまで手出してたの?そこまでいくとさすがに節操なさすぎでしょ…」

 

「…ハチサマが部屋まで運んだんじゃん?――もしかして何も覚えてないの…?」

 

「……頭が真っ白に」

 

「船場吉兆のささやき女将か」

 

 どうやら美優さんにもぶっかけて、もとい、迷惑をかけてしまったらしい。 

 クビ待ったなし。

 今までさんざん鋼鉄の精神力で誘惑を跳ね返してきたというのに、俺と言う人間はたかだかお酒に酔っただけでこれほどまで最低な人間へとなり下がってしまうのか。

 

 お酒を飲んだ時に人が変わったように暴れる輩がいるがそれは人が変わったのではなく、むしろ普段から抑圧されていた部分があらわになるらしい。であるなら、あの日雪ノ下さんが言った理性の化物とはまったくその通りではないか。理性が化物だったのではなく、一枚薄皮をめくったそこにある本性こそが化物のようだと彼女は言いたかったのではなかろうか。

 

 自己嫌悪していると扉の隙間から声が聞こえてきた。

  

「あきらちゃーん、八幡さんまだ起きないのー?」

 

「しぃっ!静かにあかりチャン!」

 

「んー?そろそろ朝ごはんだから呼んできてって言われたんご」

 

「げっ!あきらちゃんにあかりちゃん!!」

 

「あー!八幡さん起きてるじゃないですかー!…ってなんでりあむさんもここにいるんご?」

 

「ぼ、ぼくは無実だ!ハチサマが無理やり抱き着いて離さないから仕方なくここで寝ただけだっ!!」

 

「証拠は録画できているので朝食の時に上映会でもしましょうか。ご愁傷様デス #罰ゲーム確定 #パラセーリング」

 

「やだやだやだー!セーリングってあれだろ!?パラシュートみたいなのつけられて船で引っ張られるやつだろ!!?」

 

「ほら行きますよ!とっとと歩いてください!!こんなことなら船で連れ込まれてる時に完全に潰せばよかったデス!!」

 

 そのまま夢見は砂塚にずりずりと引きずられどこかへ連行されてしまった。

 一方残された俺はと言えばにこにこ笑顔で近づいてくる辻野が醸し出す、妙な迫力に言葉を発せないでいた。

 

「八幡さん?」

 

「は、はい」

 

「八幡さんはまだ清い身体んご♪」

 

「……へ?」

 

「だから安心するんご♪」

 

 そう俺に告げると、砂塚と夢見の後を追いどこかへとかけて行ってしまった。

 

 ………そうか。――俺はまだ……

 

 

 

 いや、なんで知ってんだよ

 

 とりあえず美優さんの様子でも見に行くか。

 ふわぁ、安心したらまた眠くなってきた……

 

 

ーーーーーー

 

 

りあむ「あれハチサマ?なんで美優さんお姫様抱っこしてんの?―――お、お持ち帰り…?」

 

八幡「ちげーよ。飲み過ぎてぶっ倒れちまったから部屋まで送ってんだよ」

 

りあむ「えっ!倒れちゃったの!?」

 

八幡「まあ、ただの飲みすぎだから大丈夫だ」

 

りあむ「何言ってんのさハチサマ!泥酔した状態で寝ると吐瀉物が喉に詰まって窒息することもあるんだよ!介抱するのなら責任をもってしなきゃだめだよ!!」

 

八幡「………」

 

りあむ「え、どうしたの…?」

 

八幡「夢見に正論を言われたからムカついた…」

 

りあむ「子供かよっ!―――ほらぼくも手伝うから早く寝かして、ってハチサマも酒くさっ!!」

 

八幡「んあー?」

 

りあむ「ハチサマもかなり飲んでるじゃん……はぁ。美優さんの次はハチサマの介抱だなこりゃ……」

 



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単短編ヤンデレ5 ちひろ「うふふ♡」八幡「ツヤツヤしてやがる……」

 

 

 

 アイドルという職業に対して世間はどのようなイメージを持っているだろうか。おそらく大半がキラキラやドキドキといったポジティブな言葉が返ってくると思う。(某スクールアイドル感)

 だが世間の人たちが見ているのはステージに立ってスポットライトを浴びている彼女たちだけである。その裏にはステージ上で輝くためのレッスンに費やされた膨大な時間があり、キラキラしてるのはこれでもかとトレーナーにしごかれ吹き出た汗だしドキドキしてるのは限界まで追い込んだ心肺機能に身体が悲鳴をあげているからだ。 

 

 だがその積み重ねがステージ上で一瞬のきらめきとなり、一生残るような景色を心に焼き付けていくのだから大したものだと素直に脱帽するしかない。

 

 そして当然ながらそういった各種イベントは基本的に土日祝に行われ、それをサポートする裏方にカレンダー通りの休日などあるはずがない。その上さらにテレビやドラマの収録、新曲のレコーディングなどがあるのだから、働けど働けどなお、わが仕事楽にならざり状態である。昨日と今日の境界線はどこですか…?つーか29時ってなに!?

 

 ついには曜日感覚が定期購読している雑誌の更新通知によって調整されるようになり早数年。大海原を渡る海軍が曜日感覚を忘れないために毎週金曜にカレーを食べたと言われているが、俺にとってはそれが雑誌だったというわけだ。

 月曜、水曜、木曜、たまに土曜。なんなら月刊誌も数冊。もはやiPadは手放せないし欲望の全てが詰まったそれの中身を見られた日には………想像するのもはばかられるような目にあうだろう。俺が。―――パンドラのiPadである。あるいは禁断の果実。appleだけに……

 

 

 結論。カレー=雑誌。あと、今期のラブライブはゆるゆりしててとてもいいと思いましたまる

 

 

ーーーーーー

 

 

 長々と愚痴を垂れてみたが何のことは無い。

 事務方はローテーションで休みを取っており今日はちひろさんの順番なのだが、せっかくなので武内さんもたまりにたまった有給を消化してはどうかと言い始めたのが事の発端だった。さすがにどちらかは事務所にいるべきだと説得する武内さんの抵抗むなしく最後には弱々しく首を縦に振らされていた。

 曰く電話の一本もかかってこないほど暇な一日になると思うので有給消化を優先してください。

 

 一人残される俺はそんなわけねえだろとワンオペに向けて気合を入れて出社。

 いつでも応答できるようにと事務所内で出来る作業を続けていたがついぞ呼び出し音が響くことはなかった。………え?干された?

 途中で回線が切れてるのかと自分の携帯からかけてみたが、聞きなれた呼び出し音がむなしく流れるだけで本当にどこからも着信がないという事実が確認されただけだった。

 

 完全に闇の力だわ……

 

 あとちひろさんが武内さんを説得(脅迫)しているときの必死さにデジャヴを感じていたがようやく思い出せた。俺とサシで飲んだ時の平塚先生だわ。ふぅ、すっきり。

 

 

「ちなみに海軍が金曜にカレーを食べたってのは後付けの理由らしいぞ」

 

「い、いきなりどうしたんですかっ!?」

 

「まあ豆知識をひけらかすときは一度ソースを確認しとけってことだな」

 

「――千枝、カレーにはハチミツ派です……」

 

「そのソースじゃねえよ」

 

 

 というわけでここからが本題。 

 

 

ーーーーーー

 

 

 今日は平日なので学生組がおらずその上大人組も泊りのロケで出払っており、寂し気とまでは言わないが静かな事務所で1日過ごすことになるだろうと感傷に浸りながらプラチナ優雅に朝のコーヒーを楽しんでいた。

 そろそろ仕事を始めるかとジャケットを脱ぎ袖をまくったところでノックの音が遠慮気味に事務所に広がった。返事をしても入ってくる様子はなく、無意識にカギをかけてしまったのかもしれないと思い扉へと近づき手前に引いたが思っていたような抵抗はなくすっとドアが開き、同時に腹部を衝撃が襲った。

 

「わわっ。び、びっくりしました……」

 

 どうやら同時にドアを開けてしまったようでつんのめるように小さな人影が飛び込んできた。

 すんでのところでこけてしまわないように両手で支える。リザードンだったらこけてたな。

 いきなりドアが開き怖かったのかお腹の辺りに顔を押し付け鼻息荒くぶるぶると震えるそいつをそっと引き離す。

 

「……佐々木か?学校はどうしたんだ?」

 

「創立記念日です」

 

 食い気味だった。

 

 秋らしい装いに身を包んだ佐々木は籐編みかごのバスケットを片手にぶら下げ、首だけをグンッと俺に向け寸毫も視線を逸らすことなく有無を言わせぬ眼力をもって食い気味に宣言した。

 

 寮生活をしている都合、ほとんどの小学生アイドルが同じ学校に通っているはずだがその質問をすることを許さない何かが佐々木にはあった。触らぬ神になんとやらだ。

 

「そ、そうか。―――んで、せっかくの休みにわざわざ事務所になんか用事か?今日はレッスンも休みだろ?」

 

「実は……いつもお世話になってる比企谷さんの、お手伝いをしようと思ったんです…」

 

 は?可愛すぎかよ?

 

「気持ちは嬉しいが、手伝いつってもやることなんてほとんどねえぞ?」

 

「腕の血管がえっちすぎます!(比企谷さんは何をする予定だったんですか?)」

 

「………。プレゼントの選別するつもりだったんだ。こればっかりは一度目を通しておかないといけないからな」

 

 とは言っても最近ではネットショッピングなど信頼できる第三者を通してプレゼントなどを送れるようになり、昔よりもファンからのプレゼントがアイドルたちの手元に届く可能性はかなり増えたと思う。

 それでも決して少なくない量の手作りプレゼントはあり、考えたくはないがそこに悪意が欠片でも交じっていればアイドルたちにとてつもないトラウマを作ることになってしまう。

 

 俗に言う気持ちだけいただいておきます。と言うやつだ。

 

「でも今日はAmazonの段ボールばかりだし、大丈夫なんじゃないですか…?」

 

「なら佐々木宛の分を手伝ってもらってもいいか?俺は他の見てるから何かあったら声かけてくれ」

 

「千枝、少し怖いので…一緒に見てほしいです…」

 

「……」

 

 ギリギリまで二度手間じゃね?って言葉が出かかったがさすがにお手伝いをしたいと言ってくれている小学生にかける言葉じゃないと思いなおし寸前で踏みとどまることができた。

 

 あと、こいつらがお願いをするときってもう完全に自分の武器を理解してやってると思うんだよな。あざとさ半端ないって、上目遣いで首のかしげ方とか完璧やもん……

 

 さしもの一色も小学生だったときはまだあざとさは完成していなかっただろう。

 つーかしてなかった。色々あって一色ママから卒アルを見せつけられる修羅イベントが発生したが、そこに映っていたのは少年のように頬に泥をつけた姿で、思わず隣に座っていた一色を二度見してしまったことがあった。

 

 しかし佐々木はこの年齢にしてすでに大天使トツカエルにせまる所作を習得していた。

 

 ちょこんと俺の袖をつまみ、瞳をチワワのごとく潤ませながらぽしょりとつぶやく。

 

「だめ…ですか?」

 

「もちろんいいぞ」

 

 小学生は最高だぜ!!!

 

 

――――――

 

 

「あ、このパッチワークセット可愛い♪」

 

「なぜナースのコスプレ衣装………」

 

 手早く段ボールからプレゼントを取り出していく佐々木の手には“趣味が裁縫と書いてたのでぜひ私のおすすめの商品を使ってみて欲しいです♪”とメッセージカード付きのパッチワークセット、俺が取りだしたのは高クオリティ高品質で有名な某コスプレメーカーのナースのコスプレ衣装。

 お互い一番初めに目についたものを取り出したんだろう。

 

 ……ナース服が嫌いな人なんてこの世に存在しないから仕方ないよね

 

「リボンも可愛い♪………えへへ、似合いますか?」

 

「あ、ああ。似合ってなかったら佐藤にでも渡して魔改造してもらおうと思っていたがその必要はなさそうだな」

 

「そんな世界一可愛いよだなんて、言い過ぎですよ~♡せいぜい20番目くらいです♡」

 

「言ってねえし世界で20番目って全然謙遜になってなくね?」

 

 もはやネタ的になりつつあるひねくれた誉め言葉もチャーミング小学生のフィルターを通せば想像を絶するような誉め言葉として捉えられてしまうらしい。

 少し前に流行っていた芸人の言葉を借りるなら35億。35億人中20位。上位0.0000006%。ちひろさんでもしないような排出率である。

 

「このフリフリのついた紐は何でしょう…?」

 

「ん?それはTバックじゃな、んん゛ッ!!……さあ、なんだろな?まあ、念のために俺が預かっておくわ。念のために」

 

「…ちょっと待っててください。―――そ、そんなに千枝のゴニョゴニョが欲しいんでしたら……これをあげます!!!」

 

 待ってるも何も、ずっとここにいるだろと声をかけようとすると佐々木はパーテーションの向こうへと隠れ、ややあって衣擦れの音が聞こえてきた。

 数十秒後、真っ赤になって戻ってきた佐々木は片手に握りしめた真っ白なシュシュを俺に差し出した。

 

「………ありがとな。男の俺がシュシュを使うことは無いだろ―――」

 

「シュシュじゃないですよ?脱ぎたてのパン―――」

 

「これはシュシュだ!ちょっと温かいしさっきまで腕にでも巻いてたのかなッ!?」

 

「きゃっ♡千枝の体温を感じてくれているんですね♡」

 

 人肌の温度に温められた肌に優しいコットンのそれはおもむろにまぶたへと乗せれば、1000年の眼精疲労もたちまちに消えてなくなるだろう可能性を秘めていた。蒸気でホットアイマスクなど目ではない。目だけに。

 

 ゴクリ……

 

「いやねえわ。つーか仮にこれが下着なんだとしたら、仮にな?今のお前の防御力どうなっちゃってるんだよ……」

 

「フリフリの紐なんですけど。千枝、悪い子ですか…?」

 

「攻撃力上がっちゃったよ……」

 

 もうなんか頭がおかしくなりそうなので佐々木の方へはなるべく視線を向けないようにし左手にあるナース服をほり捨て、右手のシュシュはポケットへとしまい込む。

 

「そーだ、佐々木。返礼用の手紙は書けてるか?」

 

「はい。変態さんへ、二度と送ってこないでください。って書いておきました」

 

「……プレゼントの量が爆発的に増えそうだな」

 

「あれ?この段ボール、比企谷さん宛みたいですよ?」

 

「は?」

 

 適当に会話をしながら自分の手元だけに注目して作業していたところ、不意に佐々木から声を掛けられ思わず振り向いてしまった。

 

 段ボールを抱えたロリナース。

 

 ちゃっかり着てんじゃねえよ。似合い過ぎだろ。

 

「開けてみますね?」

 

「お、おい」

 

「わぁ!千枝の写真集が入ってますよ!」

 

「え?……なんで?」

 

「それと聴診器と注射のおもちゃです」

 

「ナース服で持つとあつらえたようにぴったりだな」

 

 佐々木の写真集とこれが入ってるってことは、渡してほしいってことなのか?

 つーかこれと佐々木にナース服送ったやつ絶対同一人物だろ。どうせならまとめて送ればいいだろうに、なぜ一度俺を経由したのか理解に苦しむが何か意図があるのだろうか。

 

 ただその目論見は奇跡的にうまくいったようで、ナース服の首元に聴診器をかけ手には注射器を持つその姿はアンビバレントな魅力に溢れ思わず胸キュン。

 これ送ってきた人間は天才だな。

 

「わわっ、見てください比企谷さん!このお菓子のパッケージ、千枝の写真ですよっ!」

 

「ん?そんな商品許可した覚えは、ブッ!!!」

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

 段ボールの底から引き抜かれたコアラのマーチくらいの大きさの箱には、確かに佐々木の写真が印刷されていた。

 

 ただし、目元の部分に黒い線で修正がされ、佐○木千枝とぼかして印刷されたものが。

 

 ありがとうございます。完全にオナホです。

 

「あ、ああ。大丈夫だ……。それより佐々木、そろそろご飯でも行かないか?」

 

「大人気○学生アイドル佐○木千枝のロリ○○コを完全再現……?―――どういう意味なんですかね??」

 

「さ、さすがにまだ意味は分からんか。……助かった」

 

「………」

 

「ほら、飯行こうぜ。どこでも好きな店選んでいいぞ」

 

「………」

 

「佐々木…?」

 

 

 

「た、食べ比べてみます…?」

 

 

 

 このプレゼントの送り主、君じゃないよね……?

 




お気に入りも評価も感想も誤字の報告も全てが嬉しいです。
ありがとうございます。


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単短編武八 比奈「牡蠣…、海のミルク…、男のミルク…、ハッ!!!」由里子「ユニバァァァス!!!!!」

 

 

八幡「怖いくらい綺麗に仕事が片付きましたね」

 

武内p「定時に仕事が終わるのも、随分と久しぶりな気がします」

 

 

八幡「……一杯ひっかけに行きます?」

 

武内p「そうですね……。よかったら私のおすすめのお店に行きませんか?」

 

八幡「別に俺が適当に予約しておきますよ?」

 

 

武内p「……おいしい岩牡蠣を食べさせる店があるのですが」

 

八幡「いきなりですね…、まあ好きですけど」

 

武内p「岩手、広島、長崎、佐賀。全国の名だたる産地から取り寄せられた新鮮な生牡蠣。そして添えられたレモン、ライム、スダチ、ポン酢にオリーブオイル、全てが店主の目利きによって揃えられたものです」

 

八幡「……」

 

武内p「当然それに合わせて日本酒も豊富な品揃えとなり、日本酒マイスターの資格をもつ店主が牡蠣にあったぴったりな銘柄を選んでくれます。ぽたりと垂らした柑橘系のフルーティーな香りが爽やかに牡蠣とのハーモニーを奏で、キュッとよく冷えた日本酒はふわりと口の中に香りを残し、ささくれ立った心を凪のように癒してくれます。そしてあまりのマリアージュでおぼろげになった視界の中でこう呟くのです。……うまい……」

 

八幡「……ゴクリ」

 

武内p「さらにはフライ、アヒージョ、グラタン、ホイル焼き、クリームパスタ、炊き込みご飯。どの料理も絶品です。白ワイン、飲みたくなってきませんか…?」

 

八幡「降参です…、武内さんのおすすめのお店に行きましょう」

 

武内p「すみません。お気に入りのお店でゆっくり飲める機会というのは貴重なもので……」

 

八幡「そう言ってもらえるのは光栄ですけど…、高垣さんと飲みに行ってるんじゃないんですか?」

 

武内p「ハッ!!」

 

八幡「いや、そんな警戒しなくてもちひろさんはいないから大丈夫ですよ……」

 

武内p「ふぅ…、―――比企谷君にもいずれこの気持ちが分かりますよ……」

 

八幡「あいにく俺にそんな予定はないですよ」

 

武内p「三船さん佐藤さん川島さんなどからお誘いされてる場面を目撃したことがあった気がするのですが…」

 

八幡「だいたいアイドルが男と飲みに行ってるところなんて、週刊誌の格好の餌ですよ」

 

武内p「確かに。どれだけ気を付けていても見つかるときは見つかってしまいますからね……」

 

八幡「そんなことで痛くもない腹を探られるのもあほらしいですし」

 

武内p「せめて比企谷君が女の子ならアイドルたちと飲めたんですがね」

 

八幡「それなら武内さんにも女装してもらいますよ?」

 

武内p「……すみません。今のは無かったことに――」

 

 

 

「「「「それだッ!!!!!!」」」」

 



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単短編武八 楓「女装で飲み行くのはよそう♪」武内p「…すみません、比企谷君」

 

 

 鴉の濡れ羽色の髪は闇夜のように光を吸い込み肩のあたりまでさらりと流れ、綺麗に分けられた前髪の奥に覗く切れ長の目は退廃的な雰囲気を漂わせている。

 口元に浮かぶ歪んだ笑みはその魅力をなんらおとしめることはなく、むしろ見るものに未知の感情を呼び起こすほどです。

 

 ふんわりとしたシルエットのファッションはその奥に隠されたボディラインを勿体つけるように覆い隠し、表情とのギャップのせいで意図したものかは分からないが老若男女問わず情欲を呼び覚ますほどにコケティッシュを感じさせる。

 攻撃的な音を立てるのは足元のピンヒールか、それとも内心に隠された本性が故でしょうか。

 

 上から下までじっくりと観察したところでふと彼女と目が合う。

 

 

 

 ……というか、比企谷さんでした。

 

 

「え、マジでこれで飲みに行くの?なんか鏡見るたびに母ちゃんがいるみたいで嫌なんですけど……」

 

「―――お似合いですよ比企谷さん、いえ、比企谷ちゃん♪」

 

「美優さん……」

 

「あっ、その切なそうな表情最高です。バックからガンガン責めたくなります」

 

「えっ……」

 

「しゃ、写真撮ってもいいですか…?」

 

「……い、いや」

 

「もっと嫌がって!でも笑顔でピースして!!」

 

「……や、やめてぇ!」

 

 自分より10センチ以上大きいはずの比企谷さんが今日はとっても小さく見える。

 血管が切れそうなほどの興奮はふるふると振るえる獲物を目の前に到底抑えきれるものではなく、一歩また一歩と比企谷さんを壁際へと追い込んでいく。

 その間も比企谷さんはふるふる、ふるふる。LINEとか交換できちゃいそうですね。

 

 いつもは頭上から見下ろすように感じるその視線が今日だけはなぜか上目づかいに私を捉える。

 いえ、それは私がすでに比企谷さんを床へと追い込んでいるからですね。

 

 もはや自分の口から出る言葉がR18を超え、とても人には見せられない表情になってきたあたりで後頭部にパシッと鋭い痛みを感じた。

 

「いい加減にしなさい」

 

「あいたっ」

 

「ほら、八幡ちゃんもこんなに怯えちゃって。よしよし怖かったねぇー」

 

「…うん」

 

「ちょっ!」

 

 私の後頭部をはたいた川島さんは、壁際でへたり込んでしまった比企谷さんに視線を合わせるとゆっくりとその大きな胸に比企谷さんの頭を抱え込んでしまった。

 比企谷さんの髪の毛へと鼻先を押し付ける川島さんがちらりと私に送った視線に浮かぶ感情は何だったのでしょうか。

 

 小鹿のように怯える比企谷さんはその視線に気づくことはなくされるがままに頭を撫でられ続けています。

 まあ怯える小鹿なんて見たことないんですけどね。

 

「瑞樹お姉さんが来たからもう安心だからね?」

 

「…うん。瑞樹お姉さん、好き」

 

「瑞樹お姉さんも八幡ちゃんのこと大好きだからねー」

 

 鳶に油揚げをさらわれるとはこのことでしょうか。あるいは泥棒猫。

 鳥なのか猫なのかはっきりしてほしいですね。

 

 私でも好きなんて言われたことないのに、いとも簡単にその言葉を引き出す手練手管には嫉妬より先によくもうまくやったもんだなと感心してしまいます。

 

 

「―――って、やめてください。なんですかこの茶番」

 

「あら、演技だったの?八幡君も楽しんでたように見えたけど?」

 

「美優さんが変なノリを始めたから付き合ってただけですから……」

 

「え」

 

「え?」

 

「あ、いや。―――すみません。興が乗りまして……」

 

 ……どうやら私は比企谷ちゃん、もとい比企谷さんに手のひらの上で転がされていたようです。

 

 ふと我に返り先ほどまでの痴態を小芝居だったことにして話を逸らすようにしましたが、川島さんにはバレバレのようでジトッとした目で見られてしまいました。

 思えば割り込んできたのではなく見てられなくなって助けに入ってくれたのかもしれませんね。抱きしめたのも行きがけの駄賃のようなものでしょうか。

 

「だいたい飲みに行きたいからって女装までさせますか?武内さんがするなんて言ったら俺が断れるわけないじゃないですか……」

 

「あー……」

 

「……わかるわー」

 

 そもそも女装するきっかけを作り出してしまった武内さんの話になり、私と川島さんは口ごもることしかできなかった。

 

「何かあったんですか…?」

 

「……武内さんは楓ちゃんと二人で飲みに行くことになったじゃない?」

 

「まあ、馬に蹴られる趣味はないですからね……」

 

 武内さんが楽しそうに比企谷君を口説いている一部始終を目撃してしまった高垣さんは、今までそんなに熱心に自分のことを誘ったことないのに、とへそを曲げてしまいました。

 事務所一番のスターのご機嫌を損ねたままにしておくわけにもいかず、武内さんは発言の責任を取る形で女装して二人で飲みに行くことを蚊の鳴くような声で受け入れたのでした。

 

 そこに鳶が油揚げをさらう形で比企谷さんを手中に収めたのが私たちになります。

 上司だけに恥をかかすわけにはいかないと自分も女装で飲みに行くことを宣言する比企谷さんの横顔は、これから待ち受ける苦難を微塵も感じさせない雄々しいものでした。

 

「あのね?怒らないで聞いてね?」

 

「なんですか?この格好で怒っても情けなくなるだけなんで大丈夫ですよ」

 

「楓ちゃんと武内さんなんだけどね。………ダメッ!私には言えない、美優ちゃんお願い!」

 

「わ、私ですか!?―――比企谷君、落ち着いて聞いてくださいね?」

 

「これでもかと落ち着いてますよ。女装姿で興奮してたらもうアウトですからね…」

 

「………最初は武内さんに女装してもらったんですけど。こんなでけえ女がいるかってことになりまして」

 

 耳をふさいで背中を向けてしまった川島さんより託された悲しい事実を比企谷さんへと告げるのに、幾分かの心の準備が必要でした。

 北斗の拳?と控えめにツッコミながら比企谷さんはきょとんと首をかしげ私の言葉を待っています。

 

 

 

「……楓さんが男装すればよくない?という結果になりました」

 

 

「怒らいでか!!!!!」

 

 

 



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単短編自慢2 八幡「……名誉毀損が過ぎる」ちひろ「ほんとのところどうなんですか?勃起してるんですか?」

 

 

文香「すみません。少し遅れてしまったでしょうか……」

 

加蓮「ううん。アタシたちもさっき着いたところだよー」

 

志希「文香ちゃんいつも先に来て読書してるのに珍しいね~」

 

文香「…ふふ。実は比企谷さんが…いえ、なんでもありません…」

 

 

志希「―――なーに思わせぶりなこと言ってるのかな~」

 

加蓮「―――そーだよ。言いたいことがあるならはっきり言えば?」

 

文香「……?どうしたんですか、そんなに怖い顔して?」

 

加蓮「はぁ?八幡さんはいつも可愛いって言ってくれるから。……あ、文香はずっと下向いてるから言われたことないんだね。ごめんね?」

 

文香「ぐっ、………いえ、先ほどまで比企谷さんの肩もみをしてたんですけど“お前のテクニックに俺はもうメロメロだぜ”と言ってなかなか解放してくれなくて……お互い読書家なのでそういった悩みも分かち合えるんですよね…」

 

志希「志希ちゃんも“黙ってたら可愛い、だからお願いだから黙ってろ”ってしょっちゅう言われてるよ~」

 

 

加蓮「ふっ、ただデンマの代わりにされてるだけなんじゃないの?」

 

文香「………比企谷さんの性格からして恋愛対象になるような年齢の人に可愛いとは言わなさそうですよね。ありすちゃんや仁奈ちゃんに言ってるのはよく見かけますが……小学生扱いされてるんじゃないですか…?」

 

 

「「……あ゛?」」

 

 

志希「あれ?志希ちゃんへの反応は??」

 

加蓮「志希はそろそろ加減してあげないと八幡さん泣いちゃうよ?」

 

志希「んー、ああでもしないと八幡、志希ちゃんに近寄ってこないからにゃー」

 

文香「―――泣いてる比企谷さん……ゴクリ…」

 

加蓮「文香よだれ垂れてるよ…」

 

文香「おっと……」

 

加蓮「それと志希は自業自得でしょ。八幡さんは巨乳好きなんだからほっとけばチラチラ見てくれるのにわざわざちょっかいかけて…」

 

志希「志希ちゃん達だけだから大丈夫だけど、それ紗枝ちゃんの前で言ったら殺されるよ?あと千夜ちゃんとか…」

 

文香「確かに先ほど肩もみをしてる時にあててみましたが、三分勃ちくらいはあったと思います」

 

加蓮「三分勃ちって、桜の開花じゃないんだから……」

 

志希「八幡がパソコン仕事してる時に後ろからハグしてゴーストごっこした時は五分勃ちはあったかにゃ~」

 

加蓮「あれは男が後ろから抱きしめるポーズでしょ…。それに志希も文香もまだまだだね。アタシが体調崩してお見舞いに来てくれた時にノーブラだよって言ったら八分勃ちはいってたから」

 

文香「…それを言うなら私も――」

 

志希「志希ちゃんもこれは秘密にしよーと思ってたけど―――」

 

 

 

加蓮「―――ふぅ~。今回の勝敗はお預けだねー」

 

文香「次回は証拠を取っておきます」

 

志希「にゃははー、これは志希ちゃんも負けてられないねー!」

 

 

未央「おっはよ~!―――およ?お三人さん今日はなんの話してたの?」

 

加蓮「おはよー、巨乳好きの八幡さんの八幡さんが私たちの胸に反応してどれくらい大きくなったかって話」

 

未央「んんん??ハッチが巨乳好き??」

 

文香「…はい。当てたり挟んだり擦ったり皆さんも色々仕掛けてたことが分かりました」

 

志希「でも情報共有しても最大値まで観測できた情報がないんだよね~」

 

 

未央「そりゃそうじゃん?ハッチ巨乳も好きだけどそれはあくまで乳トンの法則だって言ってたよ?ほんとはおしりフェチだもん」

 

加蓮「……え?そ、そうなの?」

 

未央「そうそう。階段上ってる時にちょうど目線の高さに未央ちゃんのおしりが来て、そこでパラダイムシフトが起きたって言ってたよ?あの時は間違いなく最大記録更新してたなー」

 

加蓮「う、うそ………」

 

 

文香「で、でも胸も好きなのは間違いないんですよね…?」

 

未央「まあ、胸もおしりもこの中で一番大きいのは私なんだけどねー」

 

文香「ぐはっ!」

 

 

志希「し、志希ちゃんは九分勃ちにした実績もあるからね!」

 

未央「九分勃ちも何も、通常時を知らないんだからそれただの予想でしょ?」

 

志希「チーン……」

 

 

 

 

未央「私の勝ちッ!!」

 

 



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単短編 はろうぃん

 

 

 

 へとへとでござる……

 

 ハロウィン激動編in346がようやく終わり、“帰ったらビール飲むんだ”などとフラグをばっちり立てながらの帰り道。

 コスプレだのトリックオアトリートだのは今日1日で一生分味わい尽くしたのでもう勘弁してくれとの思いもむなしく、ハロウィンは否が応でも視界を犯してくる。いつからこの国はサキュバスや魔女や鬼殺隊が街中を闊歩するようになったのだろうか。異世界にでも転生した気分だ。

 

 しかし何より驚いたのはすれ違う人々の笑顔にこちらまで幸せな気持ちをおすそ分けしてもらっているような一体感だろうか。過去、ハロウィンを理由に騒ぎたいだけの馬鹿が後先考えず暴れまわっているというような報道に目をしかめたこともあったが、実際に街を歩いてみるとコスプレをすることによって普段とは違う自分を素直に楽しんでいるということが、溢れる笑顔からひしひしと伝わってくる。ひしひしと。

 

 人ごみを警戒していた陰鬱な気持ちも晴れ、市販のコスプレ衣装もずいぶんとクオリティーが上がったもんだと感心する余裕も出てきたところで、向かいから歩いてくる20代前半だろうサキュバスに声をかけられた。

 

 仮面舞踏会のようなベネチアンマスクで隠されてはいるが見える範囲の鼻と口元だけでも美人ということが分かる。

 

「ちょッ!お兄さんゾンビみがヤバヤバ写真撮っていいッ!?」

 

「―――アタシお兄さんになら食べられてもいいかも……」

 

 さらにどう見ても市販では表現できないであろう細部にまでこだわったボンテージのような衣装は、抜群のフィッティングにより彼女たち自身の持つボディラインをこれでもかと美しく引き立てていた。

 手作りなのか、オーダーメイドなのか。これほどの腕を持つ人間ならぜひウチの仕事もお願いしてみたいとスイッチが入り衣装に見入ってしまった俺を無視して話は進む。

 

「ユイ肉食過ぎて草生えるんだけど!つーか、あーしも混ぜろし」

 

「初めてが3p……」

 

「―――え、ユイ処女だったの…?つーか初めてはもっと大事にしな??」

 

「でも、ちょうど今日は大丈夫な日だし…子供欲しいと思ってたし……。てゆーかユミコも処女なの知ってるよ?」

 

「あ、あーしはいいんだしッ!!」

 

 どの角度から見ても完璧にそれぞれの個性に寄り添った衣装を、ぐるぐると回り様々な角度から観察していると、二人組のうち身長が小さく胸が大きい方の女の子がとんでもないことを言い出した。

 

 ナンパ系AV並みの気軽さで3pなどしてたまるものかと、洗練されたデザインを惜しいと思いながらも慌てて踵を返すもどこか見覚えのある昏い光を瞳に宿し始めたサキュバスに即座に腕を取られインカメのフレームへと収められてしまった。

 パシャリと無機質な音が響けばそこに浮かび上がるのは、両手にサキュバスを絡みつかせたゾンビだった。……自分で認めちゃったよ。

 それにしても、小さい方の女性の胸もさることながらもう一人の金髪をドリルのように巻いた女性もスレンダーに見えて実に良いものをお持ちである……ゴクリ…

 

「彼ぴっぴできたってストーリーにあげるし~♪」

 

「来週挨拶に行くってお父さんに言ったら鬼電なんだけど…うざ…着拒しよ」

 

「おい、ちょっと待て、SNSはやめろ。全然知らねえ人の投稿にたまたま米粒サイズで写っただけでも――」

 

 

ーーーーーー

 

 

 少し前のことだ。

 その日、革ジャンにぴったりの季節になってきたことにテンションが上がり気ままにソロツーリングに出かけていた俺だったが、その時はあんな恐ろしい目にあうだなんて夢にも思っていなかった。

 

 始まりはモーニングでも食べようと寄った喫茶店で声をかけられた時だ。こんなところで奇遇ですね♡なんて見知った顔が言いながらするりと相席することになり、特に断る理由もないので投げつけられる質問を適当にはぐらかしながらコーヒーを楽しむことにした。

 

 40分ほど話し込みてっきり着いてくるとごねると思ったがその場で解散することができたのでツーリングへと再出発したが、その次の目的地でもそいつはふらりと現れた。

―――その次も、そのまた次もどこかへ立ち寄るとなぜか隣には紅いリボンが鎮座ましましていた。

 

 一切の気配を感じさせず気が付けば相席している事実に軽く恐怖を覚えながら、適当に理由をつけて次の目的地へと出発すること幾十回。

 さすがに怪しく思い途中で温泉へと立ち寄り全身くまなくチェックすると、いつの間に仕掛けたのやら案の定ゴロゴロと出てくるGPSの全てをダストシュート、バイクに着けられていたものも隅々まで確認し全てを取り外すことができたので安心してツーリングを再開した。しかしその後もなぜか悉くを滅ぼす紅いリボンは俺の前に現れ続けた。恐怖。

 

 

 そして最後。走行中にミラーを確認した際、リアシートに座る紅いリボンが目に入ったことで俺の心は完全に折れた。

 

 曰く、いつでも探しているんです…♡どこかにあなたの姿を♡

 

 山崎まさよしも井上陽水もこんなすぐに探し物が見つかるとは思わなかっただろう。

 いつの間にか腹部に回された小さな手の何と恐ろしいこと。

 

 

 後日談というか今回のオチ、種明かしは結婚おめでとう蒼の人からだった。

 

「ほら、ここに小さく写ってるでしょ?この人の投稿にも小さく写ってる。――プロデューサにしては不用心だったね」

 

 誰かが投稿したSNSの背景に米粒より小さなサイズで写り込んでいる俺を見て行先を予測したうえで先回りしていたらしい。

 

 

 ジョジョの第三部か!!!

 

 

ーーーーーー

 

 

 そうしてなぜか裏方のはずの俺が事務所の誰よりも変装に力を入れるようになったきっかけを思い出していると、懐かしい響きが意識を引き付けた。

 

「つーかヒキオ、いい加減に気付けし」

 

「――あいつ特定してくんだ………は?」

 

「えへへ、ごめんねヒッキー?」

 

 もったいつけるようにゆっくりと目元のマスクを外すとそこにいたのは………

 

「……どちらさまですか?」

 

「あ゛?」

 

 相変わらず女王様っぷりがよく似合う三浦様であらせられました。ご壮健のようで何よりでございます。

 俺を睨みつける眼力は相変わらずだが、メイクはずいぶん抑えられたようで大人の魅力むんむんって感じである。

 

 隣の由比ヶ浜も誕生日以来だろうか。

 あと、お父さんのこと着拒しないであげてね?

 

「もー、ヒッキーダメだよ?優美子今日のこと楽しみにしてたんだから。この服もわざわざ沙希にお願いして作ってもらったんだよ?」

 

「ちょッ!ゆい!!あんたもエステ行ってたの知ってんだからね!」

 

 なんで約束してたみたいな言い方してんだ?

 今日は仕事が終わって取引先から直退勤だったので乗り換えの都合、仕方なくこの駅を利用している。……忘れているだけでなんか約束してたのか?

 

「――そもそも優美子が“久しぶりにヒキオに会いたい”って言いだしたからあたしがヒッキーの予定調べてあげたんだからね!」

 

「――別にあーしが自分で連絡できたのに二人で会うのを警戒してあんたが勝手に着いてきたんでしょ」

 

 俺しか知らないうえに気分で乗り換えたはずなのにどうして予定を調べあげてるんですかね……

 

 何やら言い争う二人を由比ヶ浜も成長したなあ(乳ではない)とエモく見守っていると背後から肩をトントンと叩かれ振り返る。

 

「サキサキ言うな」

 

「それ完全に誘ってるよね?……久しぶりだな、サキサキ」

 

 フリにしっかりと応えてやったのになぜかしかめっ面で下を向いてしまったサキサキこと川崎。

 そして未だ言い争う二人をまじまじと見る川崎を見てようやく気付いた。自分で作った衣装の様子を見に来たんだな。

 

「二人ともよく似合ってるよな」

 

「別に…。つーかあんたああいうのが好きなの?」

 

「ん?まあ、嫌いではないが……、いいデザインだと思ってな」

 

 それとなく衣装を褒めながらチラリと横目で川崎を盗み見る。

 

「………そ、そうかもね」

 

 サキサキさんマジ可愛いっす

 

「作った人に会ってみたいわ……」

 

「べ、別に会ったら意外と、た、大したことないかも…しれないよ…」

 

 もじもじしちゃって最高にキュート。川崎はクールっぽく見えて実はキュート。

 

「なわけねーよ、ぜひ(仕事の)パートナーになって欲しいくらいだ」

 

「そ、そこまで言うなら……紹介してあげないでもないけど……」

 

 このまま進めたらこいつは最終的に自分のことをなんと紹介しながら俺と会う気なんだろうか。

 あの時スカウトしてもらった鶴です。このふすまは開けないでください。みたいになるのか?

 

 まあ、かわいそうだからこれ以上はイジメないけど。

 

「さすがサキサキだ。どの角度から見ても完璧な仕上がりだわ」

 

「サキサキ言うな。………あ、やっぱあんた気付いて…!」

 

「ま、こんなとこで話してても仕方ねえし。ゆっくり話せるところでも行くか?」

 

「ッ!?…………行く」

 

 顔を真っ赤にさせて俺に詰め寄ってくる川崎に飲みにでも行こうかと誘ってみると、ひどく驚いた顔をした後に、少しの逡巡もなくOKをもらえた。

 俺が誘うことにそんな驚かなくてもいいと思うんだが……、仕事を頼む前に旧交を温めるくらいにはコミュニケーション能力も向上したつもりだ。

 

「個室の方がいいか?」

 

「個室じゃないタイプとかもあんの!?でも、そんな、み、みんなに見られながら……え…えっちとか………あれ?意外と嫌じゃない?」

 

「なにぶつぶつ言ってんだ?俺みたいだぞ?……自分で言ってて悲しくなってきた。まあいいわ、俺がいつも使ってるとこがあるからそこ行くか」

 

「いつも使ってるとこ!?」

 

「ああ、ここ3年くらいお世話になってるな」

 

「ぐふっ…」

 

「大きい部屋だと20人くらいは入れるからアイドルたちと行くのには都合がいいんだよ」

 

「20…人のアイドルを……相手に…ひとりで……?」

 

「仕方ねーだろ、無理やり連れてかれんだから…」

 

「逆レ…」

 

「でもまあ、今日は川崎と二人でゆっくりできそうだから楽しみだわ」

 

「―――し、しょうがないヤツなんだから……」

 

 川崎さん…ちょろかわ……

 

 

ーーーーーー

 

 

「でもヒッキー優美子のこと裏ではおかんって呼んでるし、脈ないんじゃない?」

 

「えー、それって言うたらバブみ感じてるってことだし。結衣の大きくて下品な胸よりあーしの美乳がいいってことでしょ?」

 

「……カーディガン脱ぐときヒッキーガン見してくるもん」

 

「周りのおっさんどもの視線の方がすごいけどねー」

 

「……さっき腕を挟んだ時も嬉しそうにしてたもん」

 

「あれはあーしの胸に感動してただけでしょ、描写はあーしの方が多かったし」

 

「う、ううぅ……」

 

「泣くぐらいなら初めから喧嘩売んなし。…ああほら、メイク崩れるからこのハンカチ使って」

 

「うぅ、……おかん。―――あれ?そういえばヒッキーは?」

 

「ヒキオならそこにいるで……ヒキオ?」

 

「あ!姫菜から連絡来てる!“もたもたしてるから今日はサキサキがお持ち帰りだよー”だって」

 

「………」

 

「んー、やられちゃったね、あたしたちも追いかける?……優美子?」

 

「………」

 

「ッ!……血の涙を流している!!!」

 



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単短編セクハラ ちひろ「変態ですね」八幡「あんたに言われたかねえよ」

 

 

「比企谷さんってなにフェチですか?」

 

 日をまたぐほどでもないが終業時間よりこちら、かれこれ5時間は経過しただろう頃合い。

 不幸な偶然が重なり、たまりにたまった仕事を片付けるべく脳死で残業に勤しんでいた俺に、同じく向かいで死んだ目でキーボードをたたき続ける美優さんがつぶやいた。

 

「お尻ですかね」

 

 よほど無視してやろうかと思ったが、完全に思考停止に陥っていた俺はごくごく自然にカミングアウトした。

 

「あぁ、そういうのではなくて…」

 

「……?」

 

 言った瞬間に、やっぱり言うんじゃなかったと後悔する……というようなこともなくドヤ顔で美優さんに目をやる。しかし俺の答えを聞いた美優さんは“なにかまととぶってるんですか?”みたいな顔で首を横に振る。

 

「デリバリー的な女の子を呼んだ時にどんなオプションを付けるか、という意味でのフェチです。なにかまととぶってるんですか?」

 

 言いやがった。

 

「動画撮影です」

 

 そしてまたしても即答する俺。

 

「……なるほど。ど変態ですね」

 

「ありがとうございます」

 

 ほら、花火とか観てる時に一生懸命スマホで写真撮ったり動画撮ったりするけど、気が付いたら全然自分の目では観てなくて後悔することってあるじゃん。しかもスマホで撮影したのも後々見返すと大したことなくて、こんなことなら肉眼でしっかり見ておけばよかったってなるやつ。

 

 ただこれがデリヘルになると事情は変わってくる。

 人間の脳みそは不思議なもんでどんな辛かったことも悲しかったことも次第に忘れられていき最後には楽しかった思い出だけが美化された形で残る。

 

 ………な、分かるだろ?

 チェンジとか言えねえじゃん。

 ならせめて後で素敵な思い出に変えて楽しもうっていう前向きな生き方じゃん。

 

「なるほど、そういった考え方ですか。この事務所に綺麗な人や可愛い子はいても、その…顔面に不自由な人はいませんもんね」

 

「言い方おい」

 

「たまにはブスを抱きたくなる気持ちも分かります」

 

「はっきり言いやがった。―――つーかたまにはって、そもそも誰も抱いてないですから……」

 

 美人の罵倒には一定の魅力があることは認めるが、それは対象が自分に向けられているときだけで、ただ汚い言葉を使うだけの美優さんなど見たくない。

 ただまあこれも、俺に対する当てこすりなんだと思えば対象は自分になるから……うん、ご褒美ですね…!

 

「今日一日ずっと考えてたんですけど…」

 

「おい仕事しろ」

 

「これだけ多種多様なアイドルが所属している事務所なのでどんなフェチにも対応できると思うんです。ロリに巨乳に制服。それこそ手錠だって…」

 

「全部早苗さんじゃね…?」

 

 だが美優さんの言うことに一定の理解を示すのもやぶさかではない。

 右を見ればロリ、左を見ればロリ。上にも下にもロリはいる。ロリ、下から見るか横から見るか。おすすめは膝の上にのせて湯たんぽ代わりにロリを使うロリタンポ。

 

 と言うのは冗談で、どんな人でも一人くらいは推しを見つけてファンになってしまう多様性がウチにはある。さらにはどいつもこいつも個性的で魅力的なので好きになるなと言う方が無理な相談である。

 

「それで何が言いたいんすか?」

 

「そういった全てを鑑みて唯一ウチの事務所が網羅できていないフェチがあるんです……」

 

「は?――あ、未亡人ですか?そこは美優さんがいるじゃないですか??」

 

「未亡人じゃねーわ」

 

 極めて低いテンションでツッコミを入れる美優さん。

 ……そこはかとなく溢れる未亡人オーラ。そういうとこですよ。

 

「他になんかありましたっけ?」

 

「ほら、比企谷さんもよく頼んでるオプションですよ」

 

「いや、アイドルにステージ上でパンストを破らせるわけにはいかないでしょ」

 

「お前マジでど変態なのな」

 

「恐悦至極」

 

 もうなんか色々危険なレベルまで来ているが、二人とも感情が死滅した状態でしゃべってるので内容の割にはひどい雰囲気にはなっていないのがせめてもの救いだ。

 

 美優さんのキャラ崩壊?残業の時は毎回こんなもんだぞ?

 

「ほらほら、正直に言ったら私がそれをしてあげますから」

 

「……?マジで分かんないんですけど……」

 

「もちろん比企谷さんにも手伝ってもらいますけどね~♪」

 

 真顔で言う♪の部分がマジで怖い。

 

「手伝う……」

 

「比企谷さんの検索履歴にもあったやつです」

 

 勝手に見んな。

 つーか毎回検索履歴は消してるはずなんだが……

 

 

「妊婦、母乳ものですよ♡」

 

 

「チェンジ!!!」

 



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単短編久川 凪「今日は凪が勝ちです。これで3勝3敗ですね」颯「え…?なんのこと…?」

 

 

「ちょ!こんなところでそんな格好で何してるんですか!?」

 

 いわゆるおやつの時間。手元にはCM撮影の際にもらった、とあるフォートの箱が中身をちょうど半分ほどに減らしてコーヒーの隣に並んでいた。

 うつらうつらと迫りくる睡魔に対抗すべくコーヒーを飲んでいたのだが、カフェインは未だ効いてくる様子もなく、なんとか定時退勤を目指してシコシコと仕事に励んでいるとベルばらっぽく白目を剥いた久川がやってきた。

 

「……事務所でスーツ着て仕事だが?」

 

「な、なんて破廉恥な言葉をッ…!」

 

「………」

 

 初めは何を言っているんだとデコピンでもしようと思った。

 だが頭ごなしに否定するのも違うと思い、俺にできる範囲でかみ砕いてみた。

 

 出会って4秒で。

 マジックミラー号。

 顔は○○身体は車内。

 義理の妹が。

 時間を止めて。

 事務所でスーツ着て仕事中。

 

 ―――やだ、俺ってばなんて破廉恥なセリフを堂々と言っちゃってるの。

 

「凪のおかげで首の皮とおちんちんの皮一枚で繋がりましたね」

 

 完膚なきまでに論破され猛省しているとさっそくぶっこんで来やがった。

 

「お前いきなりなに言っちゃて、……うお!顔真っ赤じゃねえか!!!」

 

 お仕置きにもちもちほっぺでもつまんでやろうかと思い振り返ると、耳まで真っ赤になった久川が無表情でふるふると震えていた。

 

 えー。恥ずかしいなら言わなければいいのに…

 

 震えながら立ち尽くすその姿は謎の魅力に溢れているが、これじゃあまるで俺が久川に卑猥なセリフを言わせて恥ずかしがっている所を見て興奮してるみたいじゃねえか。

 

 

 ……あれ…………天才か?

 

 このままエロくないのにエロく聞こえる言葉を延々と久川に言わせるのも高尚かつ雅な遊びで素晴らしいものだとも思ったが、極限の疲労状態でもなければ泥酔しているわけでもないので涙を呑んで今のところはひとまず自制しておく。

 

「き、今日はもっと恥ずかしいことをお願いするつもりなので、そちら方面にチューニングを合わせてみました」

 

「なにそれむちゃくちゃ興味ある」

 

 あるのかよ

 いや、健全な男子ならこの反応は仕方ないだろ。美少女がもじもじ、てれてれとえっちな単語を言うんだぞ?

 

「ぽ、ポッキーゲームとやらがいま徳島では大人気なんです」

 

「………あっそ。んじゃ俺まだ仕事があるから」

 

 だがそれで俺に実害があるのなら話は変わってくる。

 

 棒読みで、しかしなぜか恥じらいの伝わってくる絶妙なニュアンスでくだらないことを言うもんだからこれ以上巻き込まれてたまるかと、椅子をクルッと回してデスクへと向き直った。

 こういうのはたいてい最後は俺が泣くことになるんだ。

 

 だいたいなんでポッキーゲームが今人気になるんだよ。

 5Gにまで早まった高度情報化社会の中で香川に並んで徳島も時代を逆行してるとでも言うのだろうか。

 

 香川県民はeスポーツが部活の全国大会とかの規模になってもだけは参加しなさそうだ、なんてズレたことを考えていると手が届くか届かないかの距離で久川が小芝居を始めた。

 

「なんと。偶然こんなところにポッキーが―――あるはずなんですけどPは知りませんか……?」

 

「ちひろさんが満面の笑みを浮かべてどっかにもって行った」

 

「くっ、ことあるごと各種イベントにかこつけて武内Pを誘惑するちひろさんを計算に入れるべきでした……」

 

「何の計算かは知らんけど、まあそういうことで俺は仕事に戻るわ」

 

 先ほどまで不自然なまでに山のように積まれていたポッキーをギンギンに目を血走らせたちひろさんがどこかに持って行ってくれたことに心の中で感謝し、久川の作戦も始まる前に終わったなと安心して仕事に戻る。

 

 今頃、武内さんが口の周りをポッキーのチョコと唾液でべとべとにしていると思うと、心の底のさらにちょっと奥へ行ったところの隅っこくらいでは申し訳なく思わないでもないが尊い犠牲に合掌して目の前のシュンとなってしまった久川は見なかったことにする。

 

「――はーちゃんに大見得を切ったのに、どうしましょう……」

 

「…ん、なんか言ったか?」

 

「いえ、ワクチンも大事ですがポコチンも同じくらい大事です。と言っただけです」

 

「そ…、そうか。そんな顔を真っ赤にするくらいなら言わなくてもいいんだぞ…?」

 

「そ、そこにはふれないでくださいッ…!!」

 

 今日に限って妙に乙女っぽいリアクションを取り続ける久川。

 ちらりちらりと遠慮気味に視線をこちらに送る姿が、いつものあえて空気を読まない姿勢と違い過ぎて、新鮮さを通り越して恐怖すら覚えるが、わざわざそれを指摘してやぶへびになるのもあほらしいので手元のアルフォートをさりげなく隠すように腕を動かし画面へと視線を戻す。

 

「ほら、颯のところにでも行って来いよ」

 

「―――は や て……?」

 

「あ、いや、久川妹のところにでも――」

 

「そうですよね?はーちゃんのことは久川妹って呼んでましたよね?それがどうして颯になっているんですか?それなら凪のことは凪と呼ぶべきですよね?いえ、それよりもいつから颯と呼ぶようになったのですか?」

 

 ウルトラミステイク!

 いや、別に颯と何かがあって距離が縮まったとかではないのだが先日デート、もとい資料集めにショッピングをしている時に太ももをつねられながら「次から颯って言わないと返事しないんだからねッ!」と言われてしまい身も心もキュン限界を突破した俺はナギお嬢様のごとくハヤテを連呼していた。その時の勢いのままシスコンの目の前で妹の名前を呼ぶという愚行を犯してしまった。

 

「ま、まあ落ち着け久川――」

 

「――凪だッ!!」

 

 ネタかガチか分からないレベルでブチギレてらっしゃる……

 

「…凪、頼むから落ち着いてくれ…レナってるぞ…」

 

「おっと、失礼。今後ともよろしくお願いしますね。……八幡さんぱい」

 

「おいやめろ。参拝なら奉られちゃってるし産廃ならおいおい泣いちゃうわ」

 

 落ち着いたと思ったが実はまだ怒ってるよね?

 

「失礼、噛みました」

 

「――違う、わざとだ……」

 

「噛みまみた」

 

「わざとじゃない!?」

 

「神がいる」

 

「よし!産廃じゃなくて参拝の方だった!!」

 

 こうして無事、久川の「凪です」凪の怒りを抑えることに成功したのだった。

 

 

―――

 

 

「閑話休題」

 

「お前が「凪」――凪が言うのかよ…」

 

 そしてまたしてもウルトラミステイク。

 隠していた腕をうっかりあげてしまいアルフォートが丸見えになってしまった。

 

「………なんと。……こ、こんなところに、あ、ああ、アルフォートが…!」

 

 うんうん、分かるよ。想像しちゃったんだよね?アルフォートでポッキーゲームしちゃうところを。

 ほぼゼロ距離だもんね。鼻とかたぶんくっついちゃってるもんね。

 エスキモーキスって言うんだよ。

 

 あと一応言っておくが、……凪のこのリアクションが見たくてこれ見よがしにアルフォートを出したわけではない。

 

 自動スリープで暗くなったパソコンの画面に映る、これ以上ないほどにやにやした俺と不意に目があったが、その事実が開示されてなお俺は無実だと言い張る所存だ。

 

「ま、せっかくだから付き合ってやってもいいぜ。ポッキーゲームとやらに」

 

「ナギッ…!?」

 

「ナギ…??」

 

「…ナーギナギナギ」

 

「ワンピースの笑い方…」

 

 おもしれーなおい。

 

 攻守が目まぐるしく変わる中でお互いが攻め手を欠き、ここぞという必殺ポイントを見つけることができず戦いは次第に泥仕合の様相を呈してきた。

 

 まあ、これが何の戦いかと聞かれると答えに困るのだが。

 

 そして今は俺のターン。

 ここで…決めるッ…!

 

 おもむろにアルフォートを咥え、椅子のキャスターを転がし久川の前まで行き、すらりと流れる頤に両手を添わせつぶやく。

 

「ほれっ、やれるもんならやって――」

 

「――もぐもぐ。……ごちそうさまでした」

 

 チュッと甘い音が鼓膜を揺らしたかと思うと、すでに口元にチョコはなくただ柔らかな感触だけが熱を帯びて残っていた。

 

 意味深なごちそうさまの声に目を白黒させながら逃げようとするも、意趣返しのつもりか凪の両手は俺の頭を左右からがっちりと固定し微動だにしない。

 

「これは癖になりますね……もう一口……」

 

「いやいやだめだむぐぐぐ――」

 

 先ほどの不意打ちとは違い今回は恋人に対してするようにゆっくりと近づいてくるので、避けようと思えば避けられたはずなのだがなぜか相変わらず俺の頭が微動だにしないのは凪の力が強すぎるからか俺の心が弱すぎるからか。

 

 柔らかな肉の感触とともに伝えられたのはチョコの甘さか乙女の甘さか。

 歯ぐきから舌に至るまでを丹念に蹂躙した凪は最後にブルリと震えるとくたっと倒れ込んでしまった。

 

「………おい。恥ずかしがっていたのは演技か」

 

 倒れ込んだ凪を見下ろしながら息を整えた俺から最初に出たのは強がりの言葉だった。

 

「…ふぅ。そんなわけないじゃないですか…」

 

 息の荒いままゆっくりと立ち上がった凪は指の腹でなまめかしく唇を拭いながら事務所の扉を開く。

 そして聞こえてきた言葉を鑑みるに、どうやらこの展開は凪も予想外だったようだ。

 

「……もしかして俺が煽ったからか?」

 

 俯いたままぷるぷると震え扉をくぐる背中に、煽りすぎたかもしれないと声をかける。

 そしてパタリと扉の閉まる直前、聞こえるか聞こえないかくらいの大きさで凪はポツリと呟いた。

 

「ブラフですよ」

 

 

 

「―――ふっ、おもしれ―女……」

 



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単短編ちひろ 八幡「ぶっちゃけ変装しても匂いで分かります」ちひろ「うーわ。比企谷君うーわ……」

 

 

「あ゛ぁーー。合法的に理性を一撃で破壊する薬が欲しい」

 

 目の前のデスクに座るちひろさんがネットフリックスのヤバめのドキュメント映画の中でも特にヤバい登場人物が言いそうなセリフを震える声でこぼすので、うっかり顔をあげてしまった。

 

 マッサージ器を首筋にあてがい虚空を見つめるちひろさん。

 

 あ、マッサージ器ってのは電マのことな。声が震えてるのもそのせい。

 事務所で勇者の剣のごとく電マをかかげるちひろさんに脂汗を流しながら使用を控えるようお願いしていた武内さんは、それはもう哀れな姿だった。

 代わりに武内さんがマッサージするという条件でその場では電マを鞘に納めたちひろさんだったが、現状を見るに武内さんはまだ本当の意味で代わりをこなせているわけではないのだろう(意味深)

 

 視界に嫌でも映り込む電マは使い込み過ぎて先端とか擦り切れててもはや骨董品のレベルだし、どういった用途でそこまで使い込んだとかは聞けないし知りたくもない。

 

「オ○ニー」

 

「ああああ!!!聞こえませーーーん!!!」

 

 誕生日を前にして荒ぶっているのか?

 たしかにアラ○ーのちひろさんは毎年の恒例行事のように今年こそいい人を見つけたいと言っているが今年も目標を達成できる見込みがなく、それが原因でさながら冬眠直前の熊のごとく荒ぶっているのかもしれない。

 

 ビキビキッ!!

 

 あるいは武内さんのPCにクリスマスプレゼントを検索した履歴が残っていたのを発見してしまい、さらにはそれがどう考えても誰かを連想させるであろう珍しいアルコール類だったりするもんだから今年もおひとり様クリスマスを過ごすことに絶望しているのかもしれない。

 

 ブチィッ!!!

 

 …いや、これだけは考えるまいと思っていたがもしかすると―――

 

「もうええわ小僧がッ!!!!!」

 

「ヒィッ!」

 

「さっきから黙って聞いとったら好き勝手言ってくれるのお。人間電マにして一生愛用したるぞゴルァ!!!」

 

「す、すみませ……あれ?声に出てました?」

 

 鬼の形相と妙にこなれた関西弁でブチギレるちひろさんに反射的に謝るが、独り言をうっかり声に出してしまうというどこのラノベ主人公だよと言いたくなる悪癖は長らく出ていなかったはずだと思いながらも、テンプレのように聞き返してしまった。

 

「……顔に書いてます。マイクタイソンみたいに」

 

「―――世代を感じる例えですね……」

 

 

 ふと思い浮かんだ感想を言うか言わないか迷ったが、刹那の逡巡のうちギリギリ許されるだろうとなぜか攻めてしまった俺は今思えば愚かだったなと思います。

 

 空気が凍り付いたような静けさの中で唯一、ちひろさんは暖かみを感じるような眩い笑顔で俺に告げた。

 

 

「――死刑♡――」

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 とは言ったものの、戦々恐々とする俺を無視してそのままデスクに戻り仕事にとりかかるちひろさん。それを見てさらに委縮する俺。

 

 ちひろさんの一挙手一投足に注意を払い、どの角度から攻撃が飛んできても対処できるように心の準備を整える。

 自分で煽って、ボコボコにされるとかどんだけマゾいんだよって感じだがマゾなんだから仕方ないよね。――じゃなくて、これくらいの意趣返しが許される程度にはこき使われてるから正当な権利だと主張したい。

 

prrrrprrrr

 

「はい、千川です」

 

 かかってきた内線と少しばかりのやり取りで通話を終えたちひろさんがすくっと立ち上がり俺に向き直る。

 

 すわ、いよいよ来るのかっ!との心構えも受け流しにっこりとほほ笑んだ。……すいません正直怖いです。

 

「常務がお呼びですので行きましょうか」

 

「…えっ?二人ともをですか?」

 

「ええ、留守電にしておくので電話番は大丈夫ですよ」

 

 言うが早いかぽちっとボタンを押しそそくさと歩き出してしまった。

 

 急いで後を追いかけるとエレベーターホールで待っていてくれた。

 驚くなかれ346プロの自社ビル。なんと全長346メートル。狂おしいほどのこだわりを感じる、日照権?なにそれおいしいの?と言わんばかりの建築物である。

 

 そして社長室は最上階に位置しておりエレベーターは直通のものが一基用意されているが、それでも2分近く乗っていなければならずよほど用事がない限りはわざわざ行きたいと思う場所ではなかった。

 

「ほら、早く乗ってください」

 

「……はい」

 

 エレベーターガールみたいですね。と喉まで出かかったがすんでのところで飲み下す。

 たぶん次はもうないぞと本能が訴えかけている。あるいはもうすでに限界を超えている可能性は否定できないが。

 

 ともあれ往年のエレベーターガールのように俺を招き入れたちひろさんだったが、なぜか扉を閉めようとはしなかった。

 

「あの…、上まで時間かかりますし早く行きません?」

 

「んー、そろそろ来ると思うんですけど……あ、来ましたね」

 

「は…?」

 

 左腕の内側に巻いた時計にちらりと目をやったちょうどその時、外からパタパタと数人の足音が近づいてくるのが分かった。

 

 そしてその集団は勢いのままにエレベーターへと乗り込んできた。

 声をかけようと思ったが全員が同じ服装のうえ、帽子、マスク、サングラスと怪しげな変装をしているのでパッと見た感じでは名前を呼ぶことができずもたついていると、なぜか俺を囲むようにあっという間にエレベーターの中は10数人のアイドルで埋め尽くされてしまった。

 

「ちょ、えっ?お前ら急に、うおっ!」

 

 通勤時間帯の満員電車顔負けの圧倒的乗車率に驚いているとチーンと無駄に上品な音を立てドアは閉まっていく。すでに身体を自由に動かせるスペースは寸分もなく少しでも動かせば誰かのどこかへ触れてしまう危険性があった。

 

 せめて重量オーバーのブザーが鳴らないかと期待したが、平均体重が世間一般のそれを大きく下回るこいつらにはあいにく縁のない話だったらしい。

 

「ち、ちひろさん一回降ろしてくださウヒィッ!」

 

「えー。どうしたんですかヒキガエル君、じゃなくて比企谷君。カエルみたいな鳴き声あげておっかしー♪」

 

「おいっ!誰だ俺のわき腹つついたやつ!今ならデコピンだけで許しひぎぃっ!!」

 

「うーわ。比企谷君うーわ」

 

 くっ、誰かに股間を鷲掴みにされてついエロマンガみたいな鳴き声を上げてしまった…

 

 ……いやいやいや、アイドルが痴漢とかしちゃダメだろ!!!?いや、アイドルじゃなくても痴漢は絶対しちゃだめだけど!そういうことではなく!!

 

 そんな内心とは関係なく文字通り手も足も出すことのできない俺はそれから約2分間、ただただ耐え忍ぶ時間が続き、到着の上品なベルの音とともに降りてきたのは妙にホコホコしたアイドルたちとさめざめと涙を流す哀れな被害者だった。

 

 

「ふんっ。これに懲りたら口に気を付けることですねっ!」

 

 

「………癖になりそう」

 

 

 

「………紗枝ちゃーん!千夜ちゃーん!比企谷君があいつらはぺちゃぱいだからすぐ分かりました(笑)って言ってましたよーーー!!!」

 

「ああ!嘘です、ごめんなさい!!!」

 

 

 



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単短編練乳 ちひろ「私も罵ってみていいですか?」八幡「あ、普通にムカつきそうなんでやめてください」

 

 

 みんな違ってみんないい。

 

 なんと耳触りの良い言葉だろうか。

 まるで自分の個性や感性が世間に認められているような気持ちになってくる。

 

 でも本当にそれだけでいいのだろうか。

 全てが数字によって優劣をつけられることを義務教育によって叩き込まれたはずの子供たちは、初めてこの言葉を国語の授業で聞いた時に一体何を考えたのだろう。

 みんないいという響きにどこか救われたような気持になったかもしれないし、みんな違っていいのならどうして自分はやりたくもないことをやらされているのだろうと無邪気に思ったかもしれない。

 

 俺はこう思っていた。

 

 自分のことを表す言葉にどうして“みんな”が関係あるんだろうか。

 “そのままでいい”と言うだけではダメなのか。

 耳触りの良い言葉の中でさえも“みんな”と比べられることからは逃げることが出来ないのかと。

 

 

 所詮この言葉で認められている個性や感性はあくまで他人と比べたときの分かりやすいキャラ付けやレッテルでしかなく、やがては十人十色と言うこれまた耳触りの良い言葉へと収束されていく前段階でしかない。

 

 十人十色。つまりは一人一色。

 

 あいつはいつも元気だから赤色を、あの子は可愛いからピンク色を、あの人は大人っぽいから青色を――

 

 こうしていつの間にか俺には、誰にも選ばれず残った色が割り当てられる。

 嬉しいことがあった時も悲しいことがあった時も、俺が担当している色は一つだけなのでそれに応じたキャラを演じるしかない。

 だがいつでも同じ人間なんているはずがない。

 

 

 ゆえに今こそ言いたい。光の当たり方によって見え方の変わる色もあるのだから、せめて一人二色くらいは必要なのではないだろうか。

 

 

 結論。俺はSっぽいところもあるが別にドМな気分の日があっても愛さえあれば関係ないよねっ。

 

 

ーーーーーー

 

 

「……八幡ちゃまが壊れてしまいましたわ」

 

 一心不乱にキーボードを叩き続ける俺に可愛い顔とくぐもった声でひどいことを言うのは、柔らかい金に輝く髪をツインテールに結わえた櫻井桃華だ。

 いつものお嬢さま然としたカチューシャも非常に可愛いが、このツインテールから漂う小生意気なオーラもこれはこれで櫻井の持つ魅力を存分に発揮しているように思う。

 あと櫻井が言うように確かにあまりにも長く画面と向き合い過ぎて少しおかしな思考になっていたかもしれない。

 

 だから言っちゃう。

 

「桃華のツインテールは最高にわからせたくなるな」

 

「八幡ちゃま如きがわたくしに何をわからせると言うんですの…?」

 

「―――ごめんなさい」

 

 むしろノータイムでわからせられました。ありがとうございます。

 

 一見フラグとしか思えない櫻井のセリフだがこういうのは何を言ったかではなく誰が言ったかが重要だと俺は知っていた。

 有言実行を地で行く櫻井の言葉を軽んじてはいけない。

 

 あと今日の俺はわからせるより、わからせられたい気分だったということもほんの少しだけ関係があるかもしれないということをここに宣言しておきたい。

 疲れた体に優しさ(わからせられ)が染み渡るぜ

 

「まったく…、夢を見る時は部屋を明るくして離れて見るものですわよ」

 

「ふ、深い…」

 

 何を言っているのか分らず少し考えて、それでも分からなかったので適当に「ふ、深い…」とか呟いちゃう。

 

 あと先ほどからなぜか子供特有の少し高い体温と布越しに感じる熱い吐息が俺の胸を温めている。

 始めは仕事に夢中になりすぎるあまり幻でも見ているのかと思ったが、太ももに感じる儚いほどの軽さでありながらも確かに感じる質量は、今もなお俺の胸に形の良い鼻を押し付け何かを吸引し続ける櫻井を決して幻ではないと教えてくれる。

 

「ほら八幡ちゃま手が止まってますわ。わたくしの髪に鼻先を押し入れて肺が破裂するほど深く息を吸い込んでも構わないですからもう少しお仕事頑張ってくださいまし」

 

 正直もう疲れたから残りは明日に回したいけど、それでも頑張れと言われたら頑張ってしまうのが男の子の悲しい性。

 

「おう……」

 

 あと自分がされて嬉しかったことを人にもしてあげようとする櫻井の優しさには素直に感心するが、対面座位の体勢でお互いに吸引し合うとか完全に前戯です。ありがとうございます。

 

 

 それからはゾーンに入ったのか、ずいぶんと長い時間を集中して作業に当たることが出来た。

 一段落ついたのでそろそろ帰ろうと思い窓の外を見ると街はすっかり暗くなっていたが、俺の胸に引っ付いたままの櫻井はむしろ今からが本番だとでも言いたげな表情で俺の目を覗き込む。

 

「ふぅ…ふぅ…、わたくし暑くなってしまいましたわ…。八幡ちゃま、申し訳ないのですけれど上着を脱がしてくださいませんか…?」

 

 

 頬を赤く染めて上目遣いで呟く櫻井に俺は……

 

 

A.脱がす

 

B.脱がさない

 

C.むしろ自分が脱ぐ

 

D.その他

 



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単短編練乳 a脱がす b脱がさない cむしろ自分が脱ぐ

 

 

 紅葉のように頬を赤く染めて上目づかいで呟く櫻井に俺は……

 

 夢遊病のように手がシャツのボタンへと伸びていき、下から上へとひとつひとつ丁寧に外していった。

 あえて上からではなく下から外していくところが恥じらいを高める最大のポイントです。

 

 ひとつボタンが外れるごとにとてつもない背徳感が電流となって全身を駆け巡り、すべてのボタンを外し終えるころには太ももに感じていた櫻井と俺の肉体の境界線はどろどろに溶けて消えてしまったかのようだった。

 

「そ、そんなに見つめられると照れてしまいますわ…」

 

「いやだって―――中にもう一枚シャツがあるから……」

 

「シャツonシャツですわ♪」

 

「そ、そうか…」

 

 気を取り直して再び下から舐めるようにボタンを外していく。

 

 ひとつボタンが外れるごとにとてつもない背徳感が以下同文――

 最後に首元のボタンを外しそっとめくるようにシャツを脱がせると、少し汗ばみ熱くなった肩が顕わに……ならなかった。

 

「――シャツonシャツonシャツ!!?それなら暑くなっちゃうのも納得だよね!!!」

 

「ふぅ。やっと涼しくなりましたわ♪――心さんにコーディネートいただいたのですけど…わたくしにはまだ早かったようですわ……」

 

「くっ、なるほど、始めからおちょくられていたわけだ……。――おい、そこで見てるんだろ……」

 

 

 ………あれ?誰もいねえのか…?

 

 ………え、うそ。やだ恥ずかしッ!!!

 

「真っ赤になる八幡ちゃま、お可愛いですわ♡♡」

 

 

。。。

 

 

 紅葉のように頬を赤く染めて上目づかいで呟く櫻井に俺は……

 

「―――っていうかアイドルの服を脱がすとか普通に無理だからッッ!!」

 

 200年前の倫理観ならいざ知らず、忌々しきは児ポ法。

 

「……」

 

「ないって!!やっぱこれはないって!!」

 

 いきなり日和った俺を先ほどまでの火照りはどこへやら、極寒の表情で見つめる櫻井。

 

「――クリスマスにはまだ早いですのに、どうしてこんなところにチキンがあるのでしょうか……」

 

「チキンです。ヘタレです。すいません。何と言われようとも返す言葉もありません。マジで勘弁してください。俺が悪かったです。調子に乗りました。正直このまま雰囲気で行っちゃえとか思いましたが、常識的に考えたらあと一歩踏み出したらそこは刑務所だったんじゃないかと愚考しますッッ!!!」

 

 即座に櫻井を膝から降ろし、先ほどまで温かい感触を楽しんでいた膝は今度は冷たい床へとキスしていた。無論、どうかしていた俺の額も冷たい床と同化していた。ネイルと同化したピッコロの気持ちが始めて分かった気がします。

 

「八幡ちゃま…、わたくしがどれくらいの覚悟を決めてこうしているんだと思いますか?」

 

「す、すまん。皆目見当つかん…。―――ま、まあ、あえてそれを言う必要は無いぞ―」

 

「―散々焦らされた八幡ちゃまに強引に、けれどもどこか優しく初めてを奪われて…いえ、捧げたわたくしはその後無事、元気な女の子を出産。事務所の皆さんが血の涙を流して祝福してくださる中で結婚式をキリスト式、神前式、仏前式、計3回行いますの。そして婿ぐことで櫻井を継いで頭首になりました八幡ちゃまの貞淑な妻として公私ともに支えとなり、ゆくゆくはラグビーチームが作れるほどに増えた子供たちを連れて家族みんなで海外旅行に行くのですわ♪」

 

 俺の言葉は聞こえなかったのか、予定表を読むように諳んじる櫻井はおそらくもう一度尋ねても一言一句違えることなく言い切って見せるであろう確かさがあった。婿ぐって初めて聞いたわ。

 

 つーかこれって……

 

「覚悟じゃなくてただの妄想じゃね…?」

 

「何か言いまして?」

 

 後頭部に感じる推定20センチ。正直嫌いじゃない。

 櫻井はブレーキのつもりで踏んだのかもしれないが、残念ながらそこは俺のアクセルだ。的なフレーズが浮かんだ。

 

「うっ、なんでもないです……。最後に一つだけ聞かせてくれ、ラグビーは7人制か?それとも15人制か?」

 

「……ご想像にお任せしますわ♡」

 

 

「―――ワンチーム……」

 

 

。。。

 

 

 紅葉のように頬を赤く染めて上目づかいで呟く櫻井に俺は……

 

 なぜか自らのネクタイを引きちぎり、ボタンがはじけ飛ぶのも意に介さずシャツを強引に脱ぎ捨てた。

 

「アギャッ!!」

 

「あ……」

 

 そして不幸なことにはじけ飛んだボタンの一つが櫻井の眉間に直撃し、あまりの衝撃に白目を剥きそのまま後ろへと倒れ込んでしまった。

 

「とりあえずソファーに運ぶか…」

 

 気絶してしまった櫻井をお姫様抱っこで抱えあげるが、鍛え上げられた俺の筋肉には一切の負荷も感じない。普段武内さんと地下のトレーニングルームで鍛えている時に使用するバーベルに比べれば綿のようにすら感じた。

 

 物足りなく思った俺はおもむろにスクワットをすることにした。

 しかしお姫様抱っこでは軽すぎてトレーニングが成立しないので両手で頭上に持ち上げるようにして、あえてその不安定さを筋肉によって支えることにした。イメージとしてはアシタカとサンがシシ神に首を返すシーン。

 

 安全に最大限配慮したうえで俺のスクワットはどんどんと勢いを増していく。

 全身を駆け巡る乳酸がそろそろ休憩しろと訴えかけてくるが、限界のその先を見るためにはこんなところで休むわけにはいかない。

 

「ハァ、ハァ……」

 

 幼女を頭上にかかげ息を荒げて上下運動を繰り返す俺はもしかしたら変態として見られてしまうのかもしれないが、取り入れる酸素の全てを肉体へと送っていた俺の脳みそはそのようなことは些事として処理したようだった。

 

「クッ、ハァッハァッ…げ、限界突破あ゛ぁ゛ぁぁぁ!!!!」

 

 そしてついに俺の筋肉は肉体の枷を超越し、その筋肉圧は日本から遠く離れた筋肉の本場、アメリカでも観測されたと後で聞いた時はゴールと言うよりもようやくスタートラインに立てたような誇らしい気持ちだった。

 

 しかしここで問題が発生した。

 櫻井を優しくソファーに寝かせる筋肉残量がないことに気が付いてしまった。

 まさかアイドルを乱暴に落とすわけにもいかず残された選択肢は魂の代価と引き換えに筋肉の扉を開くことだけだった。

 

 通行料として筋肉を持っていかれる危険性もあるが致し方ない……

 

「お見事です。比企谷君」

 

 俺が扉を開こうとしていたその刹那、圧倒的横隔膜の筋肉圧から生まれる重低音は事務所に存在するガラスの全てを破壊しながら颯爽と現れた。

 

「た、武内さん…!」

 

「後は私に任せてください……阿ッ!!!」

 

 刹那、いや刹那すら超えて虚空のまにまに光速をはるかに上回る速度で広がった筋肉圧が地球、果ては銀河をも包み込んだ。

 一説によるとこの時の筋肉圧によって世界各地で救われた命は1億人にも上っていると言われている。NASAには宇宙から感謝のメッセージが届いたとか…

 

 こうして櫻井をソファーへと寝かせることが出来た。

 

「…すいません。俺にはああするしか方法が思い浮かばなかったんです…」

 

「―――比企谷君の筋肉道は私が守ります。あなたはあなたの信じる道を進めばいいんです」

 

「た、武内さんッ……。あっ。こ、これは涙ではなく、疲労物質の乳酸が分解されるときに出る水です…!」

 

「ははっ、なら新しくエネルギーが作られたってことですね。それじゃあ太陽に向かって走りましょう!」

 

「はいっ!!!」

 



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単短編ヤンデレ6 ちひろ「………お金の匂いがする」八幡「煩悩を払わなかった悪影響がこんなところにも……」

 

 

「お味はいかがですか…?」

 

 

 除夜の鐘が騒音だなんだと苦情を受け大みそかをそれっぽく演出することがなくなり久しい年越し。

 何もかもが新しくなっていく世の中でも、変わらずに俺を甘やかし続けてくれているこたつにもぐりこみズルズルと年越しそばをすすりながらテレビを見ていると、向かいに座った佐々木が恐る恐る話しかけてきた。

 

 

「――今まで食った年越しそばの中で一番うまいわ」

 

「…ッ!……ハァハァ……一番ですか…?」

 

「ん、一番」

 

「ハァハァ…比企谷さんが、千枝の作ったそばを夢中で食べてます…フヒッ」

 

 

 なんでもダシから手作りしたという佐々木家直伝の年越しそばをどうしても俺に食べてほしいと押しかけて来た佐々木だったが、今は自分の料理が褒められてうれしいのか頬を赤らめながら鼻息荒くもじもじと喜んでいる。

 

 

「つーか自分の分は作らねえのか?」

 

「千枝はダシを作るときにお腹いっぱいになっちゃいました……」

 

「ほーん………え、どうゆうこと?」

 

 

 お腹をさすりながらそう答える佐々木はどうやら本当にお腹いっぱいのようだが、一方的に見られながらこちらだけが食事をするのはどうにも申し訳ない気持ちになる。以前櫻井の家でご馳走になった時にも思ったが俺は傅かれるより傅きたい派かもしれない。

 

 佐々木のお腹をさする手が胃のあたりから徐々に下がっていくのを眺めているとまるで妊婦のようだなんてありえない想像をしてしまう。そういえば最年少で妊娠した記録が5歳だったなんてクソ豆知識が頭をよぎるが冷静な俺は『早くても12歳だろッ!』と紳士の鑑のようなツッコミを内心でこぼした。(この物語はフィクションです)

 

 

「クリスマスの日から毎日だったので大変でした……」

 

「何のことだ…?」

 

「い、いえっ、こっちの話ですッ!」

 

「ふーん?佐々木が持ってきてくれたワインもかなりうまいわ」

 

 

 ワインと言う単語を出した途端にビクンッと身体をのけぞらせる佐々木は気になったが、度数こそ低いように感じたものの芳醇な香りと圧倒的な味わいが背徳的なまでのおいしさでこれまた今まで飲んだ中でナンバーワンのワインだった。

 それこそ、今テレビの中で間抜けなアイマスクをつけておいしそうに二種類のワインを飲み比べる志乃さんが飲んでいるものにも負けていないだろう。

 

 

「お口がとっても疲れましたけど葡萄ラチオだと思って頑張りました……」

 

「何のことだ…?」

 

「い、いえっ、こっちの話ですッ!!!」

 

「そっちの話多すぎない?」

 

 

 どちらが高級ワインかどころか銘柄、年代まで言い当てる志乃さんをぬぼーっと眺めながら思考停止でおざなりに言葉を返す。

 

 

「―――来年のクリスマスも比企谷さんと過ごしたいです……できればその先もずっと…」

 

「……そんなにケンタがおいしかったのか?」

 

「ち、違いますっ!」

 

 

 クリスマスの日の一心不乱にチキンにかぶりつく可愛らしい姿を思い出す。

 

 

「その割には丹念に骨までしゃぶってた気がするけどな」

 

「にゃッ!!それにはり、理由があるんです!!」

 

 

 脂で唇をツヤツヤにした姿はリップとはまた違った魅力を引き出しており、サンタコスとの組み合わせはもはや犯罪レベルの可愛さだった。

 

 

「チキンが好きなこと以外にしゃぶる理由なんてあるか…?」

 

「そ、それは……鶏ガラスープを作るために……」

 

「それによく食べる子の方が好きって男は意外と多いんだ………え、今なんて言った?」

 

 

 いやいや、さすがに2ピースくらいじゃ鶏ガラスープには足りないから今のは何か聞き間違ったんだろう。

 

 

「毎日は大変でしたけど……千枝のスープをおいしそうに食べる比企谷さんを見ていたら苦労が報われた気がします♪」

 

「聞き間違いじゃなかった!!!!」

 

「でも一番おいしかったんですよね…?」

 

「―――たしかにうまかったが……んー、………まあ火を通してるし……あり、なのか?」

 

 

 鳥ガラを作るならかなりの時間火を通したことと、それが美少女の食べたチキンだと考えると…

 ―――ちひろさんが知ったら事務所のお弁当がすべてケンタになるな…

 つまりはありていに言ってありかもしれない。モハメドに言えばアリかもしれない。

 

 

「おいしいおそばでいつものお礼がしたかったんです…、怒っちゃいましたか……?」

 

「……それを言われて怒れるわけがねえだろ」

 

 

 自家製の意味合いが違い過ぎるそばだったものの、おいしいものを食べてほしいと言う佐々木の言葉を否定するわけにもいかないし、ましてその苦労も俺のためだというのならこれを否定することもできるはずがなかった。

 

 怒っていないことが分かりホッとしたのか佐々木は俺の持つグラスへとくいっとボトルを傾けてきた。

 

「よかったです♡せっかくなんでこのワインもたくさん飲んでください♡」

 

「ああ、ありがとう。―――未成年にお酌させる俺って……」

 

「お父さんにしたことあるんで大丈夫ですっ!」

 

 

 もうお父さんって言われる年齢なのか………

 

 ……ワイン飲も。あと年齢のことでちひろさんをいじるのはほどほどにしよう…

 

 

「ふぅ、このワインうまいのはうまいんだが度数が低いのがな……ぜんぜん酔えん」

 

「すみません……醸造許可がまだないので1%以上のお酒は造れないんです……早く大人になりたいです…」

 

「え、なに…このワインも手作りなの…?」

 

「はいっ♪――君の名はを見てお酒の造り方を勉強しました♪」

 

「………」

 

「お口がとっても疲れましたけど、比企谷さんのためにお口が疲れるのは正直悪くない気分でした♪」

 

 

 

「―――加熱は…?」

 

 

「してないです♡」

 

 



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単短編セクハラ2 八幡「あれについては……謝罪しておきます……」ちひろ「ザクシャインラブ?」

 

 

「子供スマホに興奮する人お疲れ様です」

 

「不名誉すぎる挨拶はやめてください……」

 

 

 そう言ってデスクにことりと置かれたマグカップからはコーヒーの薫りが湯気とともにふわりと広がり、その奥に感じる優しいミルク、あなただったんですね。お練乳様。

 

 先ほどの言葉は意訳するならばおそらく“そろそろ休憩してはどうですか?”と言えばいいところを無駄なオブラートで包んでしまったのだろう。

 言葉通りに取るなら“お仕事大変そうですねロリコンさん”。……失礼千万である。

 

 

「簡単スマホの方が興奮するんでしたっけ?」

 

「熟女好きでもねえよ」

 

「ロリコンでも熟女好きでもないのなら……ハッ!狙いは私ですかッ!!?」

 

 

 何かに気付いたかと思うと自らの肩を抱きしめ赤くなった顔でチラチラとこちらの様子を見ている。

 ええい、うっとうしい可愛い

 

 つーか俺のストライクゾーン極端すぎるだろ……

 

 

「―――あなたは未亡人枠でしょ。美優さん」

 

 

 少しムキになって言い返せば、すべての感情が消え落ちてしまったようにピタリと動きを止めてしまった。

 

 窓際で太陽を浴びて狂ったようにカクカクと踊り続けるりんごろうも空気を呼んで微動だにしない。

 

 

「……実家に帰った時に親戚のおばさんが“あら?子供は旦那さんに預けてきたの?”って」

 

「…ッ!」

 

「―――私、未婚なんですけど…なんなら純潔ですらあるんですけど……そんなに経産婦っぽいですかね……?」

 

「経産婦……」

 

 

 “大いなる力には大いなる責任が伴う”とはベンおじさんの言葉だが、男というのはどうして責任という言葉を嫌がるのだろうか。

 

 元を正せば散々未亡人イジリをしてきたのは俺だ。何度も繰り返し未亡人と言っている間にそれは言霊となりやがて美優さんのオーラを未亡人へと変質させていったのかもしれない。

 だとしたら美優さんが今感じている焦りは俺に責任の一端がある。一端でも責任を背負うのなら一旦と言わず、もう少し長い時間を背負ってみるのも悪くないかもしれない。

 

 ここまで結論が出たのなら必然、俺が彼女にかける言葉はこれしかないだろう……

 

 

「マジウケる」

 

「よし、戦争じゃ」

 

 

 般若の如き形相で立ち上がる美優さん。 

 

 

「いや今回に関しては先に喧嘩を売ってきたのは美優さんでしょ…」

 

「うっ……確かに……」

 

 

 イージーすぎるぜ。

 つーか経産婦って言葉のチョイスからしてどエロ過ぎるだろ……

 

 勢いよく立ち上がったものの振り上げた拳の行先を失った美優さんは縋るような視線を俺へと向ける。

 

 いつだったか、30歳になってもお互いに相手が見つかりそうにも無かったら……みたいな話題を武内さんへと血走った目で語りかけているちひろを見たが、その血走った目に浮かぶ“武内さんが30歳になるまでの間、ありとあらゆるフラグをへし折り続ける”という覚悟はそれはもう鬼気迫るものがあったがそれはまた別のお話。

 

 ともあれそんな縋るような目を向けられたら…

 

 

「なんですかその目、もっと泣かせたくなるじゃないですか……あれ?」

 

「ふふ、うふふ、やっと効いてきたようですね。実は志希ちゃん特性“心の壁薄くナール(中毒性は無いよ?ホントだよ?)”をコーヒーの中に入れさせていただきました」

 

 

 は?いやいや……

 良くも悪くも心の中と言うのは一生の中で他人に見せることが無い、本当の意味で墓場まで持っていくものだろう。それをたかだか薬を飲まされたくらいでつまびらかに話してしまうなんて……

 

 

「それ何てエロゲ?―――じゃねえ!!」

 

「そしてここにあるのはボイスレコーダーです。裁判で証拠能力として使えるように録音することに承諾してもらえますか?」

 

「ふんっ!別にかまわないわよ!どうせその録音した音声で私を脅して乱暴する気でしょう?エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!!―――だ、ダメに決まってるじゃないですか……」

 

 

 あ、ダメだわ。心が悦んじゃってる。なんかもうノリノリだし。

 心を犯されるってこういうことなのね。んほぉ、八幡だんだん気持ちよくなってりゅ~とかそんな感じ。

 

 

「……比企谷さん、あなた疲れてるんですよ」

 

「やかましいわ。そりゃ疲れるでしょ、四六時中こんないたずらに警戒しながら働かないといけないんですから。実際ちょっと気を許したらこうして薬を盛られているわけですし……」

 

「それは、……ごめんなさい。―――嫌いになってしまいましたか?」

 

「嫌いだったらここまで力になりたいとは思わないでしょう……」

 

「「えへへ~~」」

 

 

 ―――心の壁がなくなったのは百歩譲っていいとして、これ本当に俺の心の声なのか!?

 

 

「うふふ、嬉しいです♪比企谷さんがそんなに私の事を想っていてくれたなんて♪」

 

「確かに美優さんの事は憎からず思っていますが、美優さんだけを特別に―――」

 

「私の事は好きですか?」

 

 

 ん?そりゃ好きか嫌いかで言えば当然好きということになるが……

 

 

「――好きです。……ハッ!」

 

「言質取ったった……」

 

『確かに美優さんの事は憎からず思っていますが、美優さんだけを特別に――好きです』

 

「ちょっ、そういう使い方するんですか?」

 

「これを社内放送で流せばそれはもう婚約発表みたいなものですよね…?」

 

 

 まさか俺のセリフから愛の告白と聞こえないこともない音声でかろうじて既成事実と言えなくもない何かを作り強引に責任的なニュアンスを取らせていっそのこと本当に経産婦になってやろうという計算なのか。

 

 これが噂の逆レイプ。

 

 

「くっ、殺せ!」

 

 

 とか言っちゃう。

 

 

「口ではそう言っても身体は正直みたいですよ?」

 

「口も身体も正直なんだよな~」

 

 

 油断したら次から次へとよろしくない心の内がトロットロに吐露されてしまう。

 

 

「………養ってあげましょうか?」

 

「何卒よろしくお願い申し上げます」

 

「子供は何人欲しいですか?」

 

「女の子2人と末っ子に男の子が欲しいです」

 

「私の好きなとこ10個言えますか?」

 

「顔 胸 うなじ 鎖骨 おへそ 指先 くびれ 背中 内もも お尻」

 

「全部身体やんけ…自分どんだけすけべやねん……」

 

 

 自分でも驚きだがびっくりするほど滑らかに口が動いたんだから仕方がない。

 

 ふむ。………よく考えればこれくらいの軽口はいつものことかもしれない。

 であるなら、そこに自分でも気づかなかった本音が乗ったところでこれはこれで一種のカウンセリングのようなものとして考えればそれほど悪いことではないのかもしれない。

 

 

「せっかくなので良く見せてもらってもいいですか?」

 

「えっ、」

 

「あっ、後でオカズにしたいので着エロも撮らせてください」

 

「えっ、えっ?」

 

「あー、だめだ。――すいませんっ!ちょっと個室ビデオ行ってきます!」

 

「あれぇ………?」

 

 

 



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単短編久川 颯「なーおかえりー、……ん?なーからはっちゃんの匂いがする…?」凪「は、はーちゃん?」

 

 

 上座、下座とはくだらないビジネスマナーによって広げられた概念ではあるが実のところ歴史を紐解くと500年以上さかのぼることができる。

 グローバル化が叫ばれる今の世の中で日本の歴史に固執し続けることにいったい何の意味があるのか疑問に思わないでもないが、長い時間の中で現在まで少しずつ形を変えながら残ってきたということはそれが合理的であったということを歴史が証明してくれているのだろう。

 

 現代においては席順を変えることによって与える印象を操作することすらできるらしいが、そこにも心理学的根拠あるのだからただのビジネスマナーだと切って捨てるのではなく人間関係を円滑に進める上で少しくらいは気にしてみてもいいかもしれない。

 相手からどう思われたいかを気にして席を決めるなんて愚かしいことこの上ないが、使える手は余すことなく使うのが汚い大人ってやつだ。

 

 逆もしかり、何気なく座ったその位置関係にこそ無意識の気持ちが隠れているのだとしたら……などと考えるのはせん無いことだろうがそれでも周りを見る目が変わってしまうのも仕方ないだろう。

 

 

「つーわけで、さっさと俺の上からどいてくれ」

 

「だが断る」

 

「即答すんな。普通に重いんだよ…」

 

「おっと失礼な。凪は軽いですよ、軽い女として有名です」

 

 

 激重ヤンデレ属性の方々と同じにしないでいただきたい、なんて言いながら俺の胸へと後頭部をぐいぐいと押し付ける久川は、コタツに積まれているみかんを素早く剥くと俺の口へ逆二人羽織のような形で指ごとぐいっと突っ込んだ。

 

 

「そうゆう重いって意味じゃねえし軽い女ってのも全然フォローになってねえよ。むしろアイドルとして減点だ」

 

「凪がアイドルの原点……ふむ、悪くない気分です」

 

「鼓膜がポジティブ過ぎんだよな~」

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 それはまったりとした休日、最高のスタートダッシュを切るべくそろそろ昼飯でも食いに行くかと考えていた時のことだった。

 インターホンが鳴ったかと思えばモニターには某お値段以上家具屋の店員さんとその後ろからちょこんと顔を出す久川が映りこんでいた。

 

 

「…は?」

 

 

 なんとなく鍵を開けたら負けな気がしたので放置していると自分の家のようになれた手つきでシリンダーを回して久川が入ってくる。それに続いて大きな箱を抱えて入ってくる店員さんもまさか目の前の少女が不法侵入しているなど思うはずもなくしっかりとした足取りでわが家へおじゃましますしてしまった。

 

 

「お、おい……」

 

 

 あっけにとられる俺を無視して挨拶もそこそこにテキパキと箱の中からコタツを取り出しセッティングする店員さん。優しい色合いの木目はさながらパズルの最後のピースのように俺の部屋へとぴったりとはまり、最後にどこからともなく取り出した布団をかけるとあっという間にそこには魅惑のくつろぎ空間が出現した。

 

 

「おぉ…」

 

 

 久川は満足げにうなずき何のためらいもなく部屋に常備してあるマックスコーヒーを差し入れとして店員さんに渡すと、ちょちょいっと受け取りの書類にサインをし「これ、好きなんすよ」などと嬉しそうにする店員さんをそのまま丁寧に玄関までお見送り。足音が聞こえなくなるまでゆっくりと待ってから入念に施錠した。

 なぜか受取人の名前が“比企谷凪”になっていたがそこは気にしない。

 

 ちなみにここまで俺と久川の会話はゼロ。

 

 

「よしっ」

 

「いや、なんもよくねえわ」

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 そこからはコタツ魔力に抗えなかった俺が吸い込まれるように座り込んでしまい、空いている残りの3席には目もくれることも無く膝の上に久川がぽすっと腰を掛け今に至るというわけだ。

 

 みかんおいしい。

 

 

「ところであなた」

 

「人妻感を出すな」

 

 

 一向に降りる様子が無いので仕方なく久川のつむじを見ながら頭皮の匂いでも嗅いでやろうかなんて考えていると謎の人妻ムーブに思いがけず興奮してしまう。

 

 

「壁に飾ってあるあの絵はなんですか?」

 

「………さあな」

 

 

 久川が指さす先には金髪の少女とアホ毛の怪しい男が仲睦まじく手をつないでいる絵が芸術は爆発だと言わんばかりにシールでゴテゴテとアレンジされ飾ってあった。

 

 

「凪には金髪の少女とアホ毛の男性が仲良く手をつないでいる絵に見えます」

 

「まあそう見えないこともないかもしれない…」

 

 

 すーっと横に視線を逸らすとそこにはまた別の絵が飾られており、無邪気に肩車を喜ぶ黒髪の少女が意外なほど繊細なタッチで描かれている。

 

 

「あっちのは黒髪の少女を肩車するアホ毛の男性ですね」

 

「芸術の解釈は人それぞれだからな……」

 

 

 鏡越しに久川のじっとりとした視線と目が合う。

 なぜ浮気をしている夫をとがめるときのような目を……

 部屋をぐるりと見まわせば作品の出来は別として、ちょっとした画廊くらいの展示数だ。絵や模型の違いはあれど数多くの作品が部屋を彩っている。

 

 

「シュウマイシュウマイと思っていましたが」

 

「言うまい言うまいと思っていろ。そして言うな」

 

 

「アイドルのこと好きすぎじゃないですか…?」

 

「―――逆にどうしろって言うんだよ。図工の授業かなんか知らんが定期的に渡されんだよ……」

 

「少し不機嫌にそう言う俺だったが、視界の隅の鏡には父親のような表情の俺が映っていた。であるなら腕の中にいるこいつは母親だろうか…、よし、結婚しよう」

 

「勝手に俺のモノローグをねつ造するな」

 

「おっと、Pにとっては晴天の霹靂だったかな」

 

「…微妙に違くないか?」

 

「略して性癖ですね」

 

「それは絶対違う。つーかマジでいつまで乗ってんだよ」

 

「――そんなに嫌ですか…?」

 

 

 久川は震える声でつぶやき俺の腕をきゅっと掴んだ。

 

 そしてそのまま自分の前まで俺の腕を持ってくるとシートベルトのように自分の身体を固定しだんまりを決め込んでしまった。

 腕に感じる力強さからはどいてたまるかといった意思がひしひしと伝わってくる。

 

 

「別に嫌ってわけじゃねえよ……」

 

「つまりは嬉しいと」

 

「…は?」

 

「そこまでお願いするのならこのまま乗っておいてあげましょう」

 

「…」

 

「おっと?凪のお尻に当たるこの硬い感触はなんですか?」

 

 

「………黙秘します」

 



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単短編セクハラ3 八幡「これ、お土産のあぶらとり紙です。皮脂とか多そうだったんで」ちひろ「………ありがとうございます」

 

 

 

「比企谷君、京都は好きですか?」

 

 

 チョコの食べ過ぎが原因なのかこの年になって肌荒れがバレンタインが近づくにつれひどくなってきている哀れなちひろさんを観察していると唐突な質問が飛んできた。

 

 

「は?――まぁ、別に…嫌いではないですけど……」

 

 

 京都という単語に無意識に体がこわばるのを感じる。

 

 

「ふーん?何やら思うところがありそうですけど」

 

 

 亀の甲より年の劫とはよく言ったものだ。隠しきったつもりではあった苦手意識をそれでもちひろさんは見抜いたようだった。

 慈愛に溢れる優しいまなざしが心の内を見透かすかのように射抜いてくるもんだから、俺の口も自然と軽くなりついうっかり人生相談のようなことをしそうになる。

 

 

「………実は高校生の時に――」

 

「――あっ、そういうのは大丈夫です」

 

「………」

 

「と、いうわけでホテルはもう予約してるのでよろしくお願いしますね」

 

「……はい」

 

 

 逝ってきます。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 右手にはガラガラと音を立てるキャリーバッグ、左手には酔ってふらふらと歩く美優さんを引きずりながらちひろさんが予約を取ってくれたというホテルへと向かう。

 一日がかりの撮影はなんとか滞りなく終わることが出来たのだが…

 

 

「うぅ…飲み過ぎてしまいました…すみません…にぎやかさん」

 

「誰がにぎやかさんだ。俺の名前は比企谷だ」

 

「失礼、噛みました」

 

「違う、わざとだ…」

 

「噛みまみた」

 

「わざとじゃない!?」

 

「噛みちぎります」

 

「何を!?もしかしてナニなのか!?」 

 

 

 俺の腕に掴まってなんとか這う這うの体で歩いている美優さんが聞こえるか聞こえないかくらいの声量でつぶやく。対する俺は全力。にぎやかじゃんよ…

 

 いい大人なんだからいくら仕事の打ち上げとはいえ、どれくらいまでなら飲んでも大丈夫かくらいは見極めてほしいが、酔ってしまったものは仕方がない。

 さっさと美優さんをホテルにぶち込んで夜の祇園に繰り出すとしよう。噛みちぎられる前にな。

 

 

「むー、比企谷さんなんでニヤニヤしてるんですか」

 

「こんな美女をホテルまで送ることが光栄過ぎてですよ」

 

「そ、そうですか。ふふっ、悪い気はしませんね」

 

 

 おっと、危ない。

 

 俺の嫌いな言葉のひとつにこんなものがある。

 

 “人脈”

 

 自らの努力によって成果を得ることをせず周囲の力をあてにし、あまつさえ人脈が広いことをさも自慢げに語ることすらままある呪われし概念。

 人脈が広いことは本人の魅力に何ら比例することはねえし、それらがそいつを助けるのはそこに利害関係があるからだ。くだらねえ。

 

 人脈にできることなんてせいぜい俺を祇園の一見さんお断りのお茶屋で舞妓遊びへと誘うことくらいなものだろう。

 

 はぁーあ。人脈が多くてつらいっすわー

 舞妓とか興味ないけど行けって言われたからしゃーなしっすわー

 

 

「つーかこのホテルどこだ?」

 

「ふふ♡」

 

「ちひろさんから聞いた住所はこのへんのはずなんだが…」

 

「ふふふ♡」

 

 

 ふふふと不気味に笑う美優さんを極力視界に入れないようにしながら周囲を見渡す。

 

 

「あー、ミスったか?ホテルくらい自分で予約すればよかった…」

 

「ホテルでミスとしたって言いましたか?」

 

「言ってねえ」

 

 

 住所で検索しようとスマホを取り出そうとするが、意味の分からんことを言いながら腕に絡みつく美優さんを振りほどくことが出来ない。

 

 

「ミセスよりミスの方が好きなんですか…?」

 

「どこからその話に飛んだかは知りませんけど俺がミセスを好きな前提で話すのやめてもらえません?」

 

「あ、ホテル見えてきましたね」

 

「おい無視すんな…、つーかホテル知ってるなら始めから案内してくださいよ」

 

 

 それほど長い距離を歩いたわけではないがおろおろと道に迷っていたのが馬鹿らしくなる。

 

 

「過程って大事じゃないですか…比企谷さんにホテルに連れ込まれるという過程が」

 

「人聞きの悪いことを言うな。プロデューサーがアイドルをホテルに案内するのは仕事の範疇だ」

 

「―――ここが今日泊まるホテルです…」

 

「やっと着きましたか……あ、え?休憩2900円って、なんで?つーかこれラブホじゃ…」

 

「と、いうわけでここが今日泊まるホテル“と、いうわけで。”です」

 

「……な、なるほどな~」

 

 

 ちひろさんがホテルを予約すると言ったあの瞬間にこうなることは決まっていたのだろう。

 

 

「まっ、違うホテル行けばいいか……ってちょ!美優さんちから強いッ!いやここはダメでしょ!」

 

「………?酔ってるので何言ってるか分かりません……」

 

「嘘つけッ!どこにこんな力強い酔っ払いがいんだよ!」

 

「ようこそおこしやす♡」

 

「………み、ミセス舞妓」

 

 

 さよなら未だ見ぬ舞妓はーん

 

 



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単短編練乳3 ちひろ「儲け話があるんですけど聞きます?」八幡「(最終的に私だけが)儲け話があるんですけど聞きます?の間違いでしょ」

 

 

 

「は、八幡ちゃま!ちょうどいいとこにいらっしゃいましたわ!」

 

 

 ちょうどいいも何も、自宅のベッドに俺がいるのは当然のことだ。

 

 突然開け放たれた扉の音で目を覚ました俺が最初に考えたのはそんな呑気なことだった。

 あるいは寝坊してしまい誰かが迎えに来たのかもしれないと思いカーテンの隙間から外を見るが、朝日のあの字もなく綺麗な月が未だ夜が明けていないことを如実に物語っていた。

 

 扉の方へと目をやれば金糸のような髪をふわりと広げ、月明りを煌めかせる櫻井はそれはもう幻想的なまでの美しさであったが寝ている所を叩き起こされた俺にそれを愛でる余裕はなかった。

 

 

「―――今何時だと思ってやがる」

 

 

 必然、口調も乱暴なものとなる。

 

 

「朝の2時47分16秒ですわ。そんな時そばみたいな質問は後にして!八幡ちゃまも一緒にカウントダウンなさってくださいませ!」

 

「え、こわ。なに?時報なの?」

 

 

 時に大将、今何時でい。でおなじみの落語、時そばは関係ない。

 俺が白目を剥いているその間にも無情にカウントダウンは続く。

 

 

「5・4・3・2・・・いつもありがとうございますわ♪八幡ちゃま♪」

 

 櫻井の手にひかれたクラッカーがぽへっと情けない音を立てて破裂する。

 近隣住民に配慮したのかサイレンサー付きのクラッカーは音がない分、私が盛り上げますと言わんばかりに紙吹雪が部屋を埋め尽くしなぜか極上の触り心地。良い紙使ってますね。

 

「………そのサイズのクラッカーでは物理的に説明できないレベルの紙吹雪をありがとう」

 

「さて、ただいまを持ちましてわたくしたちが出会ってからちょうど1000万秒なわけなのですけれども」

 

 だそうですよ奥さん、意味わかります?私は微塵も分かりませんし分かる日が来ることもないでしょう。

 1000万秒という意味の分からんアニバーサリーに現実逃避をしながら紙吹雪を手に取りふぁさーと広げてみる。

 ………鼻セレブじゃんよ。

 

 

「………」

 

「どうかなさいまして?」

 

「………こわぁ~、笑顔こわぁ~」

 

 

 紙吹雪のカーテンの向こうからこちらを覗く櫻井は、見ている分には完全無欠にアイドルスマイルのはずだが身体が震えるのはなぜだろう。笑顔の起源は威嚇とかそんな感じだろうか。

 

 

「続いては八幡ちゃまお待ちかね、度を越したプレゼントの時間ですわっ!」

 

「待ってねえし続くな。せめて朝までは寝かせてくれ」

 

「ね、寝たいだなんて……そ、そういうのは13歳からと法律で決まってますのよ!」

 

 

 決まってないので俺は寝る。

 

 

「Zzz…」

 

「でも、八幡ちゃまがどうしても今すぐにとおっしゃるのであれば法律を変えることもやぶさかではないですわ♡」

 

 

 やぶさかであれ。

 

 

「Zzz…」

 

「沈黙は肯定と的な具合でちょいと失礼しまして―――か、硬いですわ…これが男性の身体…それに…平常時でこの硬さ……」

 

 

 ちょいと失礼するな。

 

 

「Zzz…」

 

「ふふ♡撫でるとピクピクしてお可愛いことですこと♡」

 

 

 腹筋がね!!

 

 

「腹筋がね!!」

 

「―――あら?起きてましたの八幡ちゃま…」

 

「こんな部屋で寝てられるか」

 

「ふふ、ミステリー小説みたいなセリフですわね♪」

 

 

 図らずも言ってみたいセリフ16位を使うことができ内心上機嫌。よってノリノリ。

 

 

「ほんとミステリーだわ。俺の部屋にどうやって入ったかとか、1000万秒ってなんなのとか」

 

「A secret makes a woman woman.――ですわ!」

 

「やかましい」

 

「ところでプレゼントなんですけれども」

 

 

 早くプレゼントを自慢したい子どものように…というかまんまその通りなんだがもじもじと話を戻そうとする櫻井に、しかし俺は何か返せるようなものがないことに気が付いた。

 そもそも115日がなんの節目なんだって感じではあるが…

 

 

「―――つか、俺は何も用意してねえぞ…」

 

「気になさらないでください。八幡ちゃまは八幡ちゃまとしてそのまま健やかに生きてさえくれればいいんですの。例えその心も体もわたくしのものにならないのだとしても八幡ちゃまが今日を幸せに生きているという事実だけでわたくしは幸せですの♡何があろうと八幡ちゃまには未来永劫幸せに生き、そして幸せに死んでいただきますわ♡無償の愛とは対価を求めるものではないのです♡」

 

「お、重い…」

 

「そう!これがわたくしの想いですわッ!」

 

 

 なんで櫻井の笑顔を見ると体が震えるのか今分かった。狂気だわこれ。

 顔に飛んできた櫻井の唾を寝間着の袖で拭いながら言葉を返そうとすると、我が意を得たりとばかりにウキウキと説明を始めた。

 

 

「はぁ。んでプレゼントってのは?あんま高価なもんは受け取れねえ――」

 

「そうおっしゃると思いまして今回は帽子やスニーカーなどにしましたの」

 

「えっ、マジ?……普通に嬉しい。あ、でもブランドもんとかも――」

 

「そうおっしゃると思いまして今回はブランド物ではないですわ」

 

「東京特許許可局ッ!!!」

 

「……そ、そうおっしゃると思いまして」

 

「無理やりにそうおっしゃると思わなくていいんだぞ?」

 

 

 床が見えないほどに埋め尽くされた紙吹雪のせいでプレゼントは見当たらないが、今回は後で値段を聞いて胃を痛くするようなことにはならなさそうだ…

 

 

「…コホン。そうおっしゃると思いまして新たにブランドを作ってきたのですわ!」

 

「斜め上過ぎる」

 

 

 胃が痛いよぉ…

 

 

「ロゴは八幡ちゃまのイニシャルから取りましたの」

 

「え、えっちすぎる……」

 

「帽子もH、スニーカーもH、パーカー、パンツ、バッグ、シャツ、靴下に至るまですべてがHですわ!」

 

「エルメスってご存じない?」

 

「あら?そういえばビルの屋上にも八幡ちゃまのブランドロゴがあったような…」

 

「ヘリポートってご存じない?」

 

「むむ~、使用料をいただかなくてはいけませんわッ!―――安心なさってくださいまし、すべて八幡ちゃまのお小遣いですわ♪」

 

 

「良心ってご存じない?」

 



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単短編バレンタイン

 

 

 あなたを愛しています、感謝、上品、しとやか、深い尊敬、純潔。

 

 贈り物の定番であるバラには驚くほどたくさんの花言葉が存在する。

 海外においてバレンタインとは一般的に男性から女性へと贈り物をする日として認識されており、中でも人気なのが薔薇の花だそうだ。

 だが日本へ持ち込まれたバレンタインの文化はお菓子会社によって別の形へと変えられ、それはこんにちまで呪いのイベントとして数多くの日本男児にトラウマを作り続けている。

 

 そして今、ネットにより世界中の情報が簡単に手に入るようになった弊害として、日本人は本来ならバレンタインとは男性から愛を伝える日だということを知ってしまった。

 

 つまりはそんな感じの手紙がひと月ほど前から定期的に俺のデスクへと届けられていた。

 なに?花くれってこと?

 

「この薔薇でも摘んで帰りますか…?」

 

 隣に並び立つ武内さんへと声をかける。

 山奥で見つけた白い薔薇は恵みの雨を浴びて気持ちよさそうにゆらゆらと踊り、そんな珍しい野生の薔薇を見ていてふと思い浮かんだアイデアだった。

 

「いえ、さすがに小便をひっかけた花を摘む気にはならないですね…」

 

「ですよねー」

 

 二人仲良く大自然の中で立ちション中のワンシーン。

 山々を駆け抜ける一陣の風がただの排尿を最高の青春へと演出する。

 

「ところで比企谷君は何かプレゼントをするのですか?」

 

「俺の愛は俺にしか向いていないですから…」

 

 苦い顔で呟く俺を妙に達観した表情で見つめる武内さん。

 2人が描く放物線は木漏れ日を受けて美しい虹を作り出し、バックショットだけで見たならば映画のポスターのような世界観ではないだろうか。スタンドバイミー的な。

 踊り続ける白い薔薇を愛でているとポツリと武内さんが囁いた。

 

「――これは友人から聞いた話なのですが」

 

「不穏な導入だ……」

 

「その彼は昨年のバレンタインにチョコをいただいたのですが、ホワイトデーのお返しをすっかり忘れてしまったそうです」

 

「ことさら不安になる展開だ…」

 

 告げる武内さんは真っ青な顔だがそれでもこれだけは伝えなければといったある種の覚悟を感じる。

 

「そしてこう言ってしまったんです………、なんでもするので許してください…と」

 

「ち、ちなみに相手は…?」

 

「………千川さんです。そしてその約束は先日無事、履行されました」

 

 名前を聞いた途端、俺の下半身は過去にないサイズにまで縮み上がり、武内さんのモノも普段の様相が嘘かのように縮こまっている。

 名前を言ってはいけないあの人かよ…

 

「な、何をされたんですか?」

 

「―――続きはWEBで」

 

「おい…」

 

「冗談はさておき、聞くも涙語るも涙の物語です」

 

 ちょいちょいっとチ○コをズボンの中へとしまい、近くにあった切り株へと腰を掛ける。

 鬱蒼とした森の中で佇む巨体は後光がさし、肩や頭へと小鳥が羽を休めに集まってきた。

 武内さんは指先にとまった小鳥をいとおしそうに眺めているがさっきまでその手でチ〇コを触っていたと思うと複雑な気分だろうか。

 

「ま、まさかプレゼントは……」

 

「実は、ええ…、チ○コです……」

 

「―――ん?チンコですか?チョコですか?」

 

「チョコです」

 

 だよね。

 びびったー

 

「なんでも言うことを聞くと言った割りには普通のお願いだったんですね」

 

 てっきり“チンコの形のチョコを作りたいからさっさとそのでけえチンコを私の眼前へとさらけ出すんだよ”みたいなお願いをされたとばかりに思っていたが。

 ……なんだよ、ちひろさんにも意外とロマンチックな一面があったのかよ。

 

「チンコの形状のチョコを作ったので私の目の前でイヤらしく食べてください…そう言われました」

 

 ニアピンだよおい

 

「そしてそのチョコは………私のモノと寸分たがわず同じ形をしていたんです……」

 

 しかも怒張時の…と小声で付け足す武内さん。

 

 そりゃ泣くわなー

 だって自分のチンコしゃぶるなんて絶対嫌だもん。あと友人設定どこいった?

 

「んで、食べたんですか…?」

 

「覚悟が決まるまで一週間の猶予をいただいてます。そしてこれがその現物なんですけれど」

 

 

「……ちょっと武内さん?さっき立ちションの時に見たのとそんなに大きさが変わってない気がするんですけど?」

 

「一口…いかがですか…?」

 

「アーーッ!!!!」

 

 

 

 

「はい、カット!!!」

 

「ふぅ……、あのちひろさん、武内さんは100歩譲っていいとしてどうして俺まで?」

 

「比企谷君がいた方がインポテンツとしての質が上がりますから」

 

「コンテンツな…」

 

「予想通り、かなりチンポよく撮影ができました」

 

「テンポな…」

 

「はいはい、正しく言えばいいんでしょ?シコリましたシコリました」

 

「かしこまりましたを略してもシコリましたにはなんねえよ」

 

「即ちんぽ」

 

「即ち(すなわち)…んぽ。――うん、意味が分からん」

 



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