仮面ライダーロスト (うしとうなぎ)
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第一話 ヒーローは何を失う

 投稿期間があいて実質初投稿。書きたくて書き始めたオリジナル仮面ライダー作品です。
 伏線というか、心理描写多めで行くので整合性を合わせる練習としてやっていきます。


 虫の複眼を思わせる2つの目(ツインアイ)とフルフェイスのヘルメットで自身の正体をひた隠し、鋼鉄の拳で未来を切り開く。

 仮面ライダー。その背中はもはや太陽だ。

 焦がれるように求めようとたどり着くことは決してなく、その高潔さに平伏する。

 世界の危機に二度現れた彼らは、末代まで語り継がれる神格化された正義だった。

 ヒーロー。この世界にはその言葉を体現する者達が実在した。

 孤独に負けなかった、拒絶に負けなかった、失意に負けなかった、なにより悪に負けなかった。

 たった一つの太陽に、もしなれるとするならば何を失うだろうか。

 

 だから失うことが怖い彼は、ついぞヒーローにはなれなかった。

 

 

◯ ◯ ◯

 

 

 西暦20XX年。世界的天才科学者十鷲之人(とわしこれと)を有する十鷲研究所にてとある実験が行われようとしていた。

 ただひとつのドアしかない、独房のような部屋で少年がただ一人、椅子に座っている。

 

「正義のヒーローになる……僕が?」

「そうです。君は生来の病弱な身体から解き放たれ、自分の思い描くヒーローになれます」

 

 そう幾重にも音声加工の施された間の抜けた声は言った。

 椅子に座る少年を囲む壁は真っ白で清潔感よりも洗浄殺菌された箱庭のようで。

 その中心で身をよじった少年は嬉しそうにはにかんだ。

 

「それは、そうだったらすごいワクワクする。僕、ヒーローになるの夢だったんです!」

「興奮するお気持ちお察しします。我々人間、誰しもヒーローに憧れるもの。そのお手伝いができて光栄ですとも」

「む、むず痒いですよ」

 

 照れた少年の綺麗で真っ白な足の指がきゅっと縮まる。爪の先まで整えられて汚れの一片も見当たらない。

 スピーカーから背けた視界にそれが映って、少年の顔から笑みが消える。

 

「これから立てるんですよね? 僕は歩くことができるんですよね?」

 

 少年――生野終一(うのしゅういち)は生まれてこの方、自分の足で立ったことがない。病院で寝たきりだったという理由もあるが、機械音声がいう生来の病気によるところが多い。

 この実験の被験体となる決断が期待を込めたものであることは想像に難くないだろう。

 終一にとっての病とは腐敗だ。この身体は毒に侵されていて骨も肉もボロボロ。ふと足を大地に差し伸べれば自重で粉々に崩れてしまう。

 立ち上がれないのは立ち上がるための足が砕けて使えないから、そう本人に錯覚させていた。

 

「はい、可能です」

 

 だからこそ機械音声の語る夢が心地良く聞こえる。

 ヒーローになれるなら、なれたなら、この足はきっと誰かのために立ち上がれる。

 憧れの彼のように。

 しかし、それを都合のいい話だ、と何かが答える。その声は心の中から聞こえた。

 正体は知っている。

 いつの間にか抱いていた諦め、絶望を塗り固め、無理だ不可能だとまるで時計のアラームみたいに警告を鳴らす真っ黒い自分だった。

 今回も夢を諦めろとやってきたらしいが終一の信念は折れなかった。

 ヒーロー。その響きだけで心に刺した影が消えていく。

 彼と同じになれる、彼が夢に見た場所へ行ける。その希望が天井に備えられた白色灯よりも明るく暖かい色で終一の心を隅無く照らした。

 顔を上げ目をキッと釣り上げる。翳る要素はひとつもない、今はただあの太陽へと手を伸ばす。

 

「手術をお願いします。もう置いて行かれるのは嫌なんです」

 

 スピーカーの向こうで誰かが息を飲んだ。

 誰だっていい、興味もない。

 僕は、ヒーローになるんだ!

 

 

◯ ◯ ◯

 

 

 拡声器を挟んだモニターには、椅子に座る少年とその箱庭が見える。

 十鷲之人は被験体の言葉に感動の涙すら流していた。

 

「素晴らしい……なんて健気な英雄願望でしょうか」

 

 拡声器のスイッチは既に切っている。

 だからこそ溢れ出る涙と、同時に引きつる唇を止めることができずにいた。

 十鷲家長男にして稀代の科学者兼技術者、十鷲之人には野望があった。それはヒーローをこの手で作ること。

 この世界には二度仮面ライダーと呼ばれる存在が悪から市民を守っていたと、もう起きることも出来なくなった祖父から聞いた。

 しかしその時はまだ、ロボットや怪獣に夢中になっていた歳頃でも食指は動かなかった。

 たかが昔話だ、今となってはそれを証明する確固たる遺物すらない。

 だから、きっと祖父の単なる憧れだろうとその時は聞き流していたのだ。

 しかし――

 

「君はとんでもないものを産んでくれた。廃棄寸前の卵を黄金に輝かせてくれた」

 

 そう彼のせいだ。

 箱庭で大切に育てられた卵とは別。之人は薄暗い監視室の彼方を見据え、彼を思う。

 お伽話だと思っていた、ヒーロー。彼に出会ってからその考えは、空に浮かぶ太陽のような不確かな現実味に変わった。

 そこに確かにある、だけどその場所に辿り着くことは人類が一生を賭けても無理と言えるそんな存在に。

 普通の人間ならば自分とそれの間にある気の遠い道のりに、早々諦め目を背ける。

 しかし天才は違った。人間ではたどり着けない距離を踏破してみたくなったのだ。

 それは無理と言われれば無理を通してでもやりたくなる、負けず嫌いという単純で男の子らしい感情で。

 そして考えだしたのが仮面ライダー製造計画。

 遠かった理想が現実としてやってこようとしている。

 

「やっと掴んだチャンスです。逃すわけには行きませんね」

 

 再びモニターに顔を向け、大切に慈しむような微笑みを咲かせた。

 

「友達が君を利用したと聞いたら怒りますか? 生野くん。それとも友達のために協力してくれますか?」

 

 箱庭に映る友達はこちらの野望など全く気づかず未来へ顔を緩ませている。

 ――守りたい。

 終一と初めてあった時と同じ感情を抱く。出会った時からお伽話に出てくるお姫様のような男だった。

 身体が不自由でいつも学校に入れるわけではなかったが、それでも彼を疎んだり悪く言うものは居なかった。

 彼を守る騎士は幾人もいて。

 彼を囲むお手伝いさんは後を立たなかった。

 愛されて、守られて、そして生まれるのは

、羨むヒーロー。

 きっと誰にでも好かれる男になる。

 みんなが彼の元に集い、世界をひとつにし、悪を根絶する。

 そんな輝かしい未来が待っている。

 

「信じていい、君はヒーローになれます」

 

 白衣をきっちりと正し、之人は監視室を後にした。

 

 

◯ ◯ ◯

 

 

 

 4月中旬、季節外れの温かい風が吹き、隊支給の制服に防弾服を重ねて着ているとさすがに暑いと感じる。

 五百里刃(いおりじん)は襟を指で引っ張り、風を服の中へ送り込んだ。

 三度目の仮面ライダーが現れてからもう5年が経っていた。

 5年前となると住宅街混じりなこのT字路の分岐点に、中華の店が出ていたはずだが、今はシャッターが閉じ閑散としている。

 看板があった壁は多少の赤みを残して文字も塗料も剥がされていて。

 刃は昔の記憶を頼りに料理の味を想い出そうとしたが、店の看板と同じくそこだけ剥がされたように思い出せなかった。

 5年という歴史の積み重ねは、気づかないうちに記憶を劣化させるらしい。

 ――ああ、こんな時は、「アイスだな」

 

 

 兎にも角にも冷たいものでクールダウンだ。

 なにせ制服は未だ冬仕様の密封された構造で、今日の温かい気候には相性が悪い。

 しかし問題は気温や服だけではない。刃は視界の端にチラついていたものに顔を向けた。

 こちらを見てほしそうに手足をバタつかせて踊っていたものは、人の姿をしていた。

 目を覆う箇所がモニターになった仮面を被る不審者だ。手首を隠す黒いスーツに返り血を腰までぶちまけたようなフード付きのボロ布。

 こちらに負けず劣らずの厚着に、我慢比べをしているようで暑苦しくなってくる。

 

「暑くないか? その格好」

 

 刃が仮面男に指を向けると、仮面男は腕をピンと伸ばし同じように指を突きつけてきた。まるでお前もそうじゃないかと言うように。

 その仕草に刃は笑いを堪え切れず、厚い革手袋で覆われた手で口を隠した。

 

「クッ……そりゃあ、お互い様だよな」

 

 まだ笑みの残った顔で、二本の短剣を構えだした仮面男を見据える。手に持ったライフルを両手でしっかりと持ちつつも、まだ構えない。

 

「来いよ。はぐれ()()()()

 

 カチリと意識が切り替わるのを感じる。今まで連想ゲームのように次々と頭を支配していた事柄がすべて脳から削除されて、身体の中を徐々に冷たい何かが満たしていく。

 心の炎が消えて、更新待ちになった不敵な表情だけが残る。それと同時に脳内で多大な情報分析を始めた。

 確率の高いパターンを思考し、最適な行動へ逆算的に一つ一つ組み上げていく。

 真顔を作り、瞬き。その間に奴は二足踏み込めば届く間合い、喉元を狙える距離まで近づいていた。

 再び軽く瞬き、息は吸わない。

 そして刃はほくそ笑むように口の端を静かに釣り上げた。

 それに奴は気づかない。逆手に持った片手の剣を顔の横に置いて前傾姿勢。縮めた身体のバネを解放するように上体が跳ね上がって、凶器が迫る。

 音のない踏み込みが二回重なって、鋭く顔目掛けて左拳を打ち込んできた。

 このまま殴るような軌道を見切って剣先の動きに逆らわず、刃は左に下がりながら半身になった。

 剣の軌道からは逃れたが追うように拳は距離を詰めてくる。奴もそれを理解し、殴り抜けるつもりのようだ。それをライフルを振り上げて弾き、振り下ろしながら構える。その先には後ろにのけぞって跳ぶミニオンの姿があった。

 

「軸が合ってたからやっぱり見えてなかったよな。俺の陰にいる奴が」

 

 ミニオンの仮面には一発の弾痕が眉間あたりに刻まれてある。この場は1対1じゃない。

 

「残念ながら、2対1だ」

 

 対人類脅威専用、直径12.7ミリのフルメタル弾が一発の漏れなく逃げ場のなくなった対象へと吸い込まれていった。

 

 僅か数秒の幕切れ。硝煙の上がるミニオンの死体が光になって消えていった。

 勝利した余韻のない、見飽きた花火のようなつまらなさは人類脅威(ドネイム)という言葉で括られた怪人と戦っていればいつも感じることだ。

 未知の脅威に交渉の余地は存在しない、至極人間らしい対応に刃の心は湿ったままで。

 しばらく稜線近くの雲を見つめていると、先の戦闘の功労者がやってきた。女顔のような輪郭が制服の襟に隠れて着膨れしたようで可愛いが、ぶつかってくる言葉のエネルギーは大きい。

 

「上手く行きましたねーセンパイ! 俺の狙撃見てました? 見ましたよね!?」

「真後ろなんだから見えるわけないだろ」

 

 誰もが認める可愛い後輩こと、水星京(みなほしきょう)。偏差値高めの理系大卒で優秀な経歴を持つが学歴以外はちゃらんぽらん、全人類が友達と言いたげに他人の領域に強行してくる男だ。その自信を無慈悲に撃墜して現実を教えてやりたくなるが、パートナーとして側に置いている今、現実を教えられたのはこっちだった。

 冷たく話題を切ったにも関わらず、水星は肩をほんの少しばかり上げて詰め寄ってくる。

 

「でも、そこのカーブミラーとかでチラッと見えてましたよね?」

「カーブミラーどこだよ。ここは車両通行禁止だ」

「スコープの反射とかで」

「オレはドットサイト。覗きもしない無用ものなのはお前も知ってるよな?」

「じゃあミニオンの仮面の反射だ!」

「クイズやってるんじゃないんだ、しつこい」

 

 しつこい。重ねがさねにしつこい。

 活躍するごとに自信満々と聞きに来る執念、胆力。人間関係とか考えたことないのか、この花畑め。

 だが真正面に言ってやったのだから、これ以上は遠慮するはずだ。

 はずなのだが。

 

「センパイの作戦も俺の狙撃ありきだったでしょ? そう言ってくださいよ!」

「メンタルがチタンなのか?」

「それってセンチメンタルってやつですよね!」

「はぁ?」

「え?」

 

 刃は大きくかぶりを振りため息を吐いた。 そうだ、理系は文系でどうにかできない。

 観念して素直に褒める。これで終わりだ。

 

「言いたくはないが、確かに良い腕だった。よくやった」

 

 交友の深め方として大前提の、遠慮すらないのが水星という男。そして上手い具合に人から嫌われないのがズルい。

 首を傾げていた水星の顔がみるみる笑顔になっていく。

 しつこくてチョロくて可愛い、こんな後輩が一人いてもいいのかと思ってしまうのだ。

 水星は軽くガッツポーズをし、にまにました顔で耳のヘッドセットに手をかける。おそらく自分達の担当をしている彼女に通信しているのだろう。

 一目惚れをしたらしく、自分の活躍を報告してアピールしているらしいが、こんな仕事の戦果を報告したところでなんのアドバンテージになるのだろうか、嬉しそうだった顔がすぐにしかめられる。

 ヘッドセットから手を離し、刃の方向を見た。

 

「センパイもしかしたら、緊急事態かもしれない」

 

 別人のように低くなったトーンに、刃も素早く顔の横へ手を伸ばす。

 ヘッドセットは耳の付け根にかけるようなタイプで、耳たぶ辺りから顎骨を沿う形でフレームが伸びている。それに触れ、本部にいる彼女――オペレーターへの交信を願う。

 本部からの返答が耳朶を打った、それに思わず舌を鳴らす。

 刃が水星へと鋭い視線を送ると、彼も示し合わせて首を振った。交信は終了だ。

 

「厄介なことになったな。センサー類を全部走らせて、動きがあったら逐次報告。目視確認は俺がやる」

「了解です!」

 

 偵察に回らせた水星を尻目に、刃もこの事態に備えて装備の再確認を行う。

 自身が所属する組織『I.Z(アイズ)』から支給されたライフル。弾薬は自動生成の為、弾切れ動作不良の心配はない。だが一度生成された弾薬を強制排出し、フルメタル弾からキャップメタル弾の生成オーダーに入れ替え、同じく支給されたナイフを刃こぼれだけ確認して胸のホルダーにしまった。

 静かに自分達を襲った本部との通信途絶。人類脅威の捜索も出来なければ他チームとの合流もできない。

 人類脅威出現の警報がなって数十分経っている、避難する一般人に出会うことはないだろうが気配に対して過敏になる必要はある。

 なるべく威力の低い弾、多くの手数で敵と交戦するのは避けたいところだ。

 

「どうだ、生体反応は?」

「やばいですね、センサーの感知範囲が極端に狭い。この場合だと狭くさせられてるんですかね?」

「じゃあ、シグナルは?」

「この通信障害、超近距離通信すら阻害する磁場嵐みたいな感じですよ。俺とセンパイの距離でも反応がまちまちで、ポンコツです」

 

 人類脅威の起こす想定外もやはり日常の範囲ではあるが、その都度想定外への対応を迫られるのは精神を削られる。

 

「センサーの感知範囲はどのくらいだと思う?」

「せいぜい100mかな。200mあれば幸運なんですけど……おっ! 反応あり! しかも理想的な感知範囲です!」

「報告頼む」

「さっきミニオンのいた場所に向かって10時方向から2時方向に向かって4、5……いや7つ集団で移動してます。距離150で一定の速さを保ってます」

「向こうの道か」 

 

 そう呟いて刃は先ほどのミニオンの立ち位置を思い出しながら直進路へ目をやる。

 

「仲間って断定するには一人足りないし、一人多い……水星、索敵しつつカバーだ。行けるか?」

「任せてくださいよ!」

「よし……この手際で相手にされないんだから泣けるな」

「へ? 泣けるってなんですか、センパイ?」

「相棒が優秀過ぎて泣く」

「普通嬉しいでしょ、変なセンパイですね」

 

 嬉しかったらこんなに苦労はしない、という言葉は口の中に溜めてライフルを前に構えた。周囲に警戒の糸を張り巡らせ最短距離を猫のように静かに駆け、終端近くで壁に寄り添って息を潜める。

 ここもT字路だった。ブロック塀で端を囲まれているせいで逃げ道はないが、電柱が簡素な遮蔽物代わりにはなる。

 ヘッドセットで音を拾いながら、ついでにハンドサインで水星を促しておく。

 移動にかかった時間も踏まえて、彼らとの位置関係を頭に描き、4秒ほどで到達する見立てをたて通過点に照準を置く。

 ――さん、に、いち。

 

 ゼロを数え下ろした瞬間、ミニオンの集団が風を巻き込みながら駆けていった。脇目も振らずに。

 刃はライフルを素早く下ろし、水星の前に撃たなくていいと手を上げた。あっという間に小さくなっていくのを確認して集音モードにしていたヘッドセットを元に戻す。

 

「敵、でしたね。仲間の元に向かってたり?」

「その可能性が高いだろうな。こっちの通信網を遮断して数で押し潰すなら、作戦としては合理的だ」

「じゃあアレを追えば俺達の仲間にも会えるってことですよね!」

 

 刃はゆっくりと頷いた。

 

「作戦変更、追跡の上で奇襲だ。リーダーの有無に変わらずこいつを使え」

 

 右手首に装着されたデバイスを強調するように腕を振った。

 レンズの小さい虫眼鏡のような外形で、人体強化システムと呼ばれる人智の結晶だ。

 本来ミニオンとの戦闘には常時使用を推奨されているが、刃の所属する隊である御津八(みつはち)隊の戦闘練度はずば抜けていて、精鋭も多い。隊員全員がミニオンと生身で渡り合える希少な隊だ。

 だから今の今まで使用を控えていたが、ミニオンのリーダーとなれば使わざるを得なくなり、複数人での運用も必要になる。

 相手が人数を揃えるなら、こちらも同じ人数を揃えなければ勝てないのがドネイムという人類脅威だ。

 

「通信障害で分断か。最悪、敵リーダーに各個撃破されてる途中かもな」

 

 幸の薄い笑みを浮かべて刃はライフルの生成オーダーを戻し、操作した手で顔を挟むように頬に撫でた。心がまだ湿ったままでどこかネガティブな思考に陥ってしまう。

 すると水星がすかさず先の言葉を否定する。

 

「センパイ、らしくないこと言わないでくださいよ。俺達って案外エリートの範囲に入ってるんですよ?」

「エリートだって守れないものは守れないし、死ぬときは死ぬんだ。うちの隊だって2ヶ月も一緒にいた奴を何人覚えてる?」

「それは……確かにそうですけど! それでもやらなきゃいけないってのは、センパイよく言うでしょ?」

「そういえばそうだな。でもあれは俺の言葉じゃないんだ」

 

 水星に顔に影が差した。任務中であろうとテンションを下げない彼には珍しいことだった。

 

「俺にとってはセンパイの言葉です」

 

 水星が悔しそうに唇を噛む。それで今までの刃を信用してくれていることを知った。

 刃の中でまた頼りなく火が灯る。一度は逃げた自分を尊敬してくれるこの後輩という存在が、再び自分を呼び戻してくれた。

 心はまだ砕けないと頼りないガラスの膜が張られて。

 

「今日一良いこと言ったな」

「毎回言ってますよ! 会心の出来!」

「当たってないから実質ノーダメージなんだ。会心は銃撃に対して意識欲しいくらいだな」

「フルオートで全弾当てる人がおかしいんですよ。しかも当たる距離まで平然と近寄るから尚更おかしい!」

「そりゃあ当たらないからな」

「ホントヒーローみたいですよねセンパイって、なんでたまに自信なくなるんですか?」

「痛いなぁ、今のは当たった」

 

 水星を茶化しながら敵を追う。そうしていなければ自己矛盾を起こしそうで、今もライフルを取り落としかけて震える。

 

 かつて友人が言っていた。ヒーローは太陽だと。

 刃はその時、理由を説明されても納得し得なかった。この世に存在はしていて、誰にでも向かう資格はあるが辿りつけない存在。

 しかし今ではわかる。

 太陽に辿りつくということは確かに偉業ではあるが、太陽に立った時点でそいつは人間ではない。そんなものになるならばまだ人間でいたいと思える。

 

 だから俺はヒーローになんてなりたくない。

 

 




 第二話「聖剣は殺さない」に続きます。

 展開や話の長さ的に仮面ライダー出せなかったです。いつも一話にちゃんと仮面ライダー出てない気がします。


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