亦野さんが麻雀弱いわけないだろ! (てーやー)
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出会い編
1翻役 宮永咲は困惑する


こんな題名を付けたのにいきなり亦野さん不在回です。

今回は咲さん視点、
早速原作改変が始まっているので注意です。


あと、今回から三話くらいまではプロローグのようなものなので勘違い要素はありません。


「嘘、宮永さんって麻雀できたの!?」

 

 

昼休みの最中、隣のクラスの新子さんが嬉しそうに聞いてくる。

 

 

彼女が、同年代の麻雀ができる人を探していることは私のクラスでも有名だった。

 

 

なんでも今の麻雀部は、面子が彼女自身を含めても4人しかおらず、加えてそのうち一人がしばしば釣りに出かけるために四人打ちすらできない状態らしい。

 

 

そのためにもう一人を部に入れて、その問題を解決する…だけでなく、あわよくば団体戦にも出ようとしているとか。

 

 

その話は私の耳にも入っていたが、名乗り出る気は全くなかったし、伝わった今も面倒くさいと感じている。

 

 

ならなぜ、彼女が私の事を知っているかというと…

 

 

「おう、牌効率が~、とか役が~、とか言ってたからかなり詳しいと思うぜ。」

 

 

京ちゃんが暴露したからだ。

 

 

レディースランチが食べたいからと食堂に付いて行った際、やっていたゲームの捨て牌を指摘したことでばれてしまった。

 

 

そこからすぐに新子さんのいる教室へ連れられて、その後に、京ちゃんがどこか別の場所へ行ってしまい、今に至る。

 

 

そのまま彼女が話を切り出してきたが、連れてこられた理由は分かっているため、話の内容は簡単に予想がつく。しかし、予想と異なる可能性もあるので一応聞いておく。

 

 

「じゃあさ、お願いがあるんだけど、麻雀部で一緒に打ってくれない?」

 

 

やっぱりそうだ。思わず、ため息を吐いてしまった。これなら、京ちゃんの手を払ってでも図書室に向かうべきだったか。

 

 

「たまにでいいから、ほんとお願い!」

 

 

彼女が必死に頼み込んでいるのが分かる。本当に麻雀のことが好きなんだろう。

 

 

それが少しだけ、羨ましく感じた。

 

 

でも、私は、

 

 

「…私は麻雀それほど好きじゃなくて。いつも家族麻雀でお年玉を巻き上げられていたので…」

 

 

麻雀が好きじゃない。

 

 

その返答が予想外だったのか、新子さんは驚いた表情をした後、「…ごめん」と素直に謝ってきた。

 

 

おそらく、私に気を遣って強く言えないのだろう。見た目からは考えられなかった優しさに、少しだけ罪悪感を覚える。

 

 

でも、まだ油断はできない。

 

 

彼女はまだ諦めていないだろうから。四人打ちにおいて、全員が経験者である場合と一人でも初心者がいる場合とでは大きな違いがあるから。

 

 

だからこそ、今から彼女の、”私が経験者として機能する”という前提条件を崩してやる。

 

 

「そのせいか…どんな条件で打っても最終的にプラスマイナスゼロになってしまうんです。ごめんなさい。」

 

 

「なっ…」

 

 

これでいい。こう言えばこれ以上誘ってはこられないはずだ。初対面の彼女が、この問題を解決する方法を残り僅かな時間中に提示できるとは思えない。

 

 

唯一の問題点は、これからの関係に深い溝ができてしまうこと。だが、そもそもこの事を話した時点で麻雀ができる人と仲良くできるとは思っていない。

 

 

「…」

 

 

その考えが正解だと証明するように、新子さんも驚きの声をあげて以降、考え込むようにして黙り込んでいる。

 

 

 

 

 

 

そうして二人の間に静寂が流れると、それを埋めるかのように昼休み終了のチャイムが鳴りだした。

 

 

 

 

…ようやく、この長かった時間が終わった。

 

 

やけに長く感じたこの束縛からの解放感と、ほんの少しの寂しさとを胸に納めながら教室に戻って___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「麻雀部の亦野先輩なら、そのプラマイゼロを崩せる、って言ったらどうする?」

 




初投稿でした。

コメディにしようと頑張っているので次からはこんなシリアスにはならないはずです。

最初の数行を書くのに4時間ぐらいかかった時から、麻雀描写をこまごまと書くのは諦めてます。


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2翻役 井上純は助けを求める

今回は麻雀部の先輩、井上純の視点です。

今回で清澄のメンバーが全員明らかになりましたが、この人選にした理由は自分が鳴き麻雀好きだからです。



「来ねえな。」

「来んのお。」

 

 

同期の染谷まこと二人でそう呟く。

 

 

思い浮かべるのは、最近この部屋に通うようになった後輩、憧の事だ。

 

 

来たばかりの頃の憧は、単純に麻雀を楽しむためだけに来ていた。だが、誠子と卓を囲んで以降は、「次こそ倒しますから!」と本気で打ち込むようになっている。

 

 

そして、本来なら今日もやって来て、この時間には半荘程打ち終えているはずだった。

 

 

そして、ずっと待っている状況にしびれを切らしたのか、まこが不安げに問うてきた。

 

 

「諦めたんじゃろか?」

 

 

「まあ、仕方ねえか。同じ相手にあそこまでやられ続けたらなあ。」

 

 

言葉上は同意をする。しかし、完全には諦めきれない。

 

 

あいつはそんな簡単に逃げるやつじゃねえ。数回しか会っていないが、そう思える程にはあの後輩を信頼していた。

 

 

なら何かあったか?などと思考を巡らせていると、勢いよく部室のドアが開かれ、話題にしていた彼女が現れた。

 

 

「すみません、遅れました!」

 

 

そして、謝ってくる彼女の後ろには大人しそうな女子の姿が。

 

 

「お、お邪魔します。」

 

 

おどおどした話し方から、彼女が見た目通りの性格だと分かる。入部希望者だろうか。

 

 

気にはなったため、謝罪への返答をしてから聞いてみる。

 

 

「おう、遅かったじゃねえか、遅れたのはその後ろの奴と関係あんのか?」

 

 

それと同時に、憧が「私が来て部員が4人になったので、後一人でも増えれば大会に出られますよね!」と言っていたのを思い出した。

 

 

ならさっきまでの時間を使って部員の勧誘をしていたのだろう。一人で勧誘をしていたのは、俺らが部員の勧誘に消極的だったからか。

 

 

確かに、憧の意見に対して興味がないとは答えたが、後輩の頑張りを無視するほど薄情じゃねえつもりだ。

 

 

言ってくれれば手伝いくらいするし、大会にも全力で挑む。なんなら、ここにいない誠子の説得だって引き受けるというのに。

 

 

そんな風に考えていると、後ろの少女がおずおずと質問してきた。

 

 

「あ、あの。亦野先輩はこちらにいらっしゃいますか?」

 

 

…どうやら入部希望ではなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

その後、二人から詳しい話を聞いて内容を理解したが、それならば、と実際にこの面子で打って、見てみることにした。

 

 

散々待たされていたため早く打ちたかった、というのもある。だがそれよりも、プラマイゼロを狙ってできる人間が誠子以外にいるわけがない、という思いの方が強かった。

 

 

この新入生は、誠子とは違って、能力で無理やり点数をプラマイゼロにしているだけ。しかも解除できない。なら、あいつよりは弱い事は確実なため、この三人だけでも問題ない。

 

 

どちらにせよ、誠子はいつ帰ってくるか分からないため、それまで待つしかないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まじかよ…」

「しんどいのお…」

「うっそ…」

 

 

全っ然崩せねえ!?

 

 

正直甘く見てた。三人いて誰も止められないとは思ってなかった。

 

 

上家と下家の二人も三回目のプラマイゼロを止めようとしているが、その目からは諦めの表情が浮かんでいる。

 

 

これは…どうしようもねえな。悔しいがあいつに頼るしかねえか…

 

 

そしてついに俺も匙を投げようとした時、

 

 

「お疲れ…えっ、また新入部員!?」

 

 

救世主が来た。

 




ようやく次の話から主人公の登場です。

あと、先輩キャラの視点が難しかったので、基本的には一年の視点か亦野の視点で書こうと今思いました。


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3翻役 宮永咲は見誤る

ようやく主人公登場です。


そしてついに勘違いのタグが役に立つときが来ました。

なおうまく勘違いさせられるかは不明。


先輩たちと新子さんが、辛そうな表情をしながらも卓を囲んでくれている。

 

 

…これ以上の続行は不可能だろう。無理に続ければ、彼女達が麻雀を嫌いになってしまうかもしれない。

 

 

 

 

私がもっと強く断っていれば。

 

 

私がここに来なければ。

 

 

…私が期待なんてしなければ。

 

 

考えれば考えるほど憂鬱になるが、後悔してももう遅い。この状況で私にできることは、このオーラスをできるだけ早く終わらせてすぐに帰ることだけ。

 

 

そう分かっているのに少しだけ躊躇してしまう。

 

 

他の人と麻雀をしたのは本当に久しぶりで。

 

 

もう少しだけ続けたくて。

 

 

 

 

…これ以上考えてはいけない。余計なことを考えるのは止めよう。

 

 

複雑な気持ちを押し殺し、ツモった牌を裏返す。そして、そのままカンを宣言しようとした瞬間、後ろにあるドアが開かれる気配がした。

 

 

「お疲れ…えっ、また新入部員!?」

 

 

その声を聞くと同時に、目の前の三人の顔が目に見えて明るくなる。その反応から、後ろにいるこの人が亦野先輩だと理解できた。

 

 

けれども、全く強さを感じない。心なしか三人よりも弱い気さえしてくる。

 

 

三人を疑う気はないが、本当に彼女がプラマイゼロをどうにかできるのだろうか。戸惑いが生まれ、つい訝しく思ってしまう。

 

 

しかし、当の本人はそんな反応も気にすることなく、染谷先輩が終局するたびに打ち込んでいた何らかの機械の画面を少しだけ見た後、卓を眺め始めた。

 

 

私の後ろから中央の点数を見、続けて私の手牌を覗き込む。そして何かに気付いたのか、私にだけ分かるように小声で囁いてきた。

 

 

「それ…早く直した方が良いよ?」

 

 

…?なんの話だろう。

 

 

「私もよくそうなってしまうけど、やりすぎるとみんな不機嫌になるから。」

 

 

その言葉で、一つの考えが頭をよぎった。根拠も何もない、ただの直感。

 

 

けれども、その想像が本当なら、とつい期待をしてしまっている自分がいる。

 

 

そしてその感情に抗える訳もなく、できるだけ落ち着きながらも、確認のために質問をする。

 

 

「…もしかして、先輩もプラマイゼロになってしまうんですか?」

 

 

 

 

 

 

「え、うん。…最近は、だけど。」

 

 

 

 

…やった、

 

 

やった、やった!

 

 

思った通りだ!まさか私と同じ境遇の人がいるとは!

 

 

それだけでなく、私にプラマイゼロ癖があることを一目見ただけで見抜いてきたのか!

 

 

なるほど、実力こそ強くはないが、観察眼に優れていて、私と同じ癖を持っているらしい。それなら、彼女自身が強くなくても納得できる。

 

 

新子さんはこの先輩に何かしらのアドバイスをもらおうと考えたのだろう。確かに、「亦野先輩ならそのプラマイゼロを崩せる」とは言ったが、彼女が強いとは一言も言っていなかった。

 

 

そう、自身の早合点を反省しながら心の中で舞い上がっていると、先輩たちの中では勝手に話が進んでいたようで、染谷先輩の席には亦野先輩が座っていた。

 

 

あれ?亦野先輩が直接打つのか。 釈然としない。

 

 

同じ境遇の人がいてくれるのはありがたいが、アドバイスをくれるのと、実際に打つのとでは話が変わってくる。先程の三人でも辛そうだったのだ。この先輩では耐え切れずに、途中で投げ出してしまうのではないだろうか。

 

 

自分のために打ってくれることにありがたさを感じつつも、この半荘はあまり期待しないでおこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし迎えた南四局、

 

 

「ロン、槍槓。」

 

 

この考えが見当違いであったことに気付かされた。




次こそ亦野視点。

しかし肝心の亦野の口調が全く分からんのだよ。


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4翻役 亦野誠子は和了りたい

やっと主人公視点です。この回から亦野さんの強さを伝えることができます。


私は麻雀部があまり好きじゃない。

 

 

とは言っても、別に麻雀が嫌いな訳ではないし、部員の二人ともいい友人だと思っている。

 

 

しかし、二人と一緒に麻雀をする時に限り二人の性格が豹変し、毎回と言っていいほど私で遊んでくるのだ。

 

 

ただ点数を取られて飛ばされるだけなら悔しいが仕方がないと思えるし、実際最初の内は何度も飛ばされたが楽しいと思えた。

 

 

しかしそれが飽きてきたのか、東場で百点棒以外を根こそぎ奪ってそのまま北場のオーラスまで行ったり、最初から最後まで点棒に全く触れられなかったりと勝敗以外の方法で遊ばれるようになった。

 

 

新学期に入ってからは、新入部員の前で最終結果がプラマイゼロになるように調整されて遊ばれ続けている。

 

 

ただ、救いだったのはその後輩は優しい子だったこと。

 

 

二人が私をプラマイゼロにする度に「次こそ(二人を)倒しますから!」と私を元気づけてくれるのは本当にありがたい。

 

 

そのため最近では、四人打ちのほうが得意だと言っていた彼女のために、釣りをできるだけ速く切り上げて部室に向かうようにしている。

 

 

そうして部室の前に少し早めに着きドアを開けたが、今日はその中に一人だけ見慣れない子がいた。

 

 

「お疲れ…えっ、また新入部員!?」

 

 

疑問形になってしまったが恐らく正解だろう。

 

 

そして卓を囲んでいる四人を見る。いつもの三人の嬉しそうな顔と新しい子の悲しそうな顔を見る限り、今回は彼女が標的にされているのか。

 

 

念のため、各ゲームの最終点数をPCで確認する。すると思った通り、彼女の欄には二回とも±0と書かれていた。

 

 

次にテーブルを見る。点数は少しマイナス。強いて手牌を見ると一つだけ見えない牌があるが、これなら後1~2手で和了れそうだ。

 

 

そしてこれを上がれば±0になる様に調整されているのだろうが、それよりも大事な問題がある。

 

 

「それ…早く直した方が良いよ?」

 

 

 

 

 

 

彼女の牌の内1つが裏返ってしまっているのだ。

 

 

おどおどしていたことからも初心者だと分かる。ただでさえ遊ばれていたところにドアが開いたことで動揺し、裏返してしまったのだろう。

 

 

そう一人で納得し、他の三人に聞かれない様に指摘した。すると、目の前の子がおずおずと聞いてくる。

 

 

「もしかして、先輩もプラマイゼロになってしまうんですか?」

 

 

なるほど。今まで私の事をプラマイゼロにする側の人間だと思っていたのか。それなのに、周りに聞こえない様に指摘してきたから苛められる側かと考えた、と。

 

 

「え、うん。…最近は、だけど。」

 

 

そう返事をすると、彼女の顔は目に見えて明るくなった。新しく来た先輩が怖くないと分かってもらえたらしい。

 

 

ここで席を代わるべきだろう。この子にこれ以上こんな麻雀をさせてはいけない。

 

 

そう考えていると、まこが彼女の紹介をし始め、ついでとばかりに席を譲ってきた。この子の名前は宮永咲といい、初めから私と打つことが目的だったらしい。

 

 

なぜ私なのかは分からないが、たぶん同じくらいの実力を持った人間と打ちたかったのだろう。

 

 

言われてみれば、このまま帰らせるよりも初心者レベルの自分が入り、麻雀の楽しさを知ってもらうほうが良いかもしれない。

 

 

…そこまで理解していて、なぜあの二人はいじめるような真似をしたのだろうか。 

 

 

 

 

 

 

結局そのまま対局を開始してからオーラスになった。しかし、今まで何もできていない。

 

 

目的こそ宮永さんに楽しんでもらうことではあるが、せめて初心者相手なら一回は和了りたい。

 

 

そしてついに、その局の11巡目に一向聴が出来た。単騎待ちではあるが、ようやく上がれるかもしれない。

 

 

しかし、そのタイミングで彼女も動いた。

 

 

「ポン」

 

 

 

 

 

 

ってちょっと待って、それ私の待ち牌なんだけど!?

 

 

待ちを変えようにも、捨て牌が三段目に入りそうな状況で変えられる状況ではない。

 

 

その次の手番に聴牌できたが一巡遅かった。

 

 

もう和了りが絶望的になってしまっているが、できるだけ顔には出さないように努め、最後の一枚が残ってくれているように天に祈る。

 

 

しかし二巡後、彼女はその一枚を自身の右奥に移動させてしまう。

 

 

「カン」

 

 

 

 

あっ

 

 

…もしかして和了れる可能性が消えた?

 

 

必死に焦りを鎮める。さすがに、初対面の後輩の前で恥ずかしい真似はできない。

 

 

そして心を落ち着かせた時、あることを思い出した。確かカンをした相手から直撃をとる役があったはずだ。一昨日に純にやられたおかげで覚えていた。

 

 

その役の名前は確か…

 

 

 

 

 

 

「ロン、槍槓。」

 

 

…合ってる、よね?




満足しました。釣り雑誌の表紙を飾るほどの腕を持ちながら、麻雀ランキング一位の高校のレギュラーに選ばれる人が弱いはずないですからね。

満足はしましたが、今のところは全国大会決勝戦ぐらいまでは書こうかなと考えています。


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5翻役 宮永咲は目標を持つ

今更ですが、各話のサブタイトルは、話数と誰視点かが分かるようにしています。


私のプラスマイナスゼロが崩された。それもたった一手で。

 

 

悩んでいたのが馬鹿らしく思えるほどの呆気ない終わり方だった。そのせいか未だに実感が湧かない。

 

 

本当にこの呪いから解かれたのかと何度も自分の点数を確認するが、何回見てもそこに書いてある数字は25000を下回っている。

 

 

とりあえずお礼を言いたいところだが、頭が回らず言いたいことが纏まらない。

 

 

「えっと、あの、私、この先、ずっと、プラマイゼロの成績しか出せないと思い込んでしまっていて…その、あ、ありがとうございます!」

 

 

その結果、途切れ途切れでしかお礼を言えず顔から火が出る思いだった。

 

 

「えっ、ちょっ、その、こ、こっちこそごめん!」

 

 

そして、そんな私に先輩は突然謝ってきた。なぜ謝ったのかは分からないが、先輩の普段からの腰の低さが伝わる反応に思わず笑みをこぼす。

 

 

そしてふと思う。

 

 

麻雀をした相手とこんな風に笑い合ったのはいつぶりだろう。

 

 

昔はよくこうやって家族で麻雀をして、笑い合って、

 

 

ああ、

 

 

またみんなで打ちたいな。

 

 

 

 

 

 

あの後、私に目標ができた。お姉ちゃんと全国の舞台で麻雀を打つこと。

 

 

お姉ちゃんが今も麻雀をやっていることをお父さんから聞いたから。

 

 

前に一人で会いに行った時には口を利いてくれなかったけど、麻雀を通してなら話せる気がするから。

 

 

二人が打っている姿を見たらお母さんが戻ってきてくれるかもしれないから。

 

 

…家族のみんなに、私はこんなに強くなったよ、って言いたいから。

 

 

お父さんにこの話をすると、今のお姉ちゃんは去年のインターハイと春季大会で優勝するほど強いと教えてくれた。

 

 

つまり、今の本気を出したお姉ちゃんと戦うためにはそれなりに強くならなければいけない。このままでは、何年ものブランクがある私はほんの数局で飛ばされてしまうだろう。

 

 

それに加えて、これまでは全部感覚に身を任せて打ってきたため、亦野先輩のような相手と対局した際にあっけなく敗れかねない。

 

 

そもそも私は幼少期以降、±0の成績にはできたが勝ったことはない。つまりは勝つための戦い方を知らない。

 

 

だから、強くなるためには±0のための打ち方を捨て、感覚に頼るだけでなく、勝つための戦い方も学んでおく必要がある。

 

 

染谷先輩の”記憶を呼び起こすやり方”みたいな、

井上先輩の”流れを変える技”みたいな、

新子さんの”攻めと守りの判断力”みたいな、

そして、亦野先輩の”自身の強さを隠す戦い方”みたいな。

 

 

だからこそ___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私を麻雀部で鍛えてもらえませんか。」




原作にあるシーンや、飛ばしたいシーンはどんどん飛ばしていきます。

そうしないとモチベーションが保てそうにないので。


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6翻役 亦野誠子は楽がしたい

試合までが長い…

書き物をすると、改めて原作者の偉大さが理解できますね。

そういう意味でも小説を書いてみて良かったと思います。


宮永さんが入部してから数週間、最近は後輩のやる気に気圧され始めている。

 

 

新子さんは、昔からの友人が団体戦に出ると知ったらしく、自分たちも全国へ、とこれまで以上に意気込んで練習している。

 

 

宮永さんも新しい目標ができたらしく、数週間前に初心者だったとは思えないほど強くなっている。

 

 

麻雀では「プラマイゼロの成績しか出せないと思い込んで」いたころが懐かしい。あの時は本気で泣いていたから、彼女はおそらく天然なのだろう。

 

 

また、卓を囲んでいない時であっても、他の部員にいろいろと質問をして必死にみんなに追いつこうとしている。

 

 

一応私にも質問してくるが、その内容は、「どうすれば自分の気配を隠せると思いますか?」などと言った麻雀には関係がなさそうなものばかりだ。

 

 

多分、私だけ質問されなかった場合は私が落ち込んでしまうと考えたのだろう。宮永さんは本当に優しい子だ。

 

 

そして、そのやる気は今日も例外ではないらしく、

 

 

「団体戦のオーダーを決めたいと思います!」

 

 

新子さんがそう宣言して部員をホワイトボードの前に集めると、宮永さんと一緒に各ポジションの説明を始めた。いつもの練習以上に大会を実感できる作業だからか、彼女達の説明にも熱が籠っている。

 

 

支配力や能力などの、麻雀には必要なさそうな言葉が出てきたため全部は理解できなかったが、最初と最後、次いで真ん中に強い人が行くべきことは理解した。

 

 

なら、この中で一番強い純とまこが先鋒と大将、ついで経験のある新子さんが中堅、最後に私と宮永さんが次鋒と副将に行くべきだろう。そうと分かれば早速立候補を___

 

 

「は、はいっ。大将に行きたいですっ。」

 

 

「ほんじゃあ、わしが次鋒かのう。」

 

 

それより早く、宮永さんとまこがそれぞれの希望場所に立候補をしてきた。宮永さんは天然だから何も分からずに答えたのだろうが、まこは確信犯。自分だけでも安全なところに行こうとしている。

 

 

「じゃあ、あたしは中堅か副将ね。」

 

 

「おっ、ならじゃんけんで負けたほうが副将な。」

 

 

それに続いて新子さんと純が三番目と四番目を希望に述べる。恐らくこの二人に悪意はない。二人ともが三番目の実力者だと思っているのだろう。

 

 

…。

 

 

 

 

 

 

「いや、ちょっと待って!?」

 

 

「」ビクッ

「なんじゃあ?」

「お?」

「…どうしました?」

 

 

つい漏れてしまった心の叫びに四者四様の反応を見せてくれたが、誰も私が先鋒になることに異議を唱えないのはなぜだろうか。

 

 

「このままだと私が一番目になるよ?!」

 

 

当然の疑問を口にするが、誰も交代する気はないらしい。

 

 

と、ここで新子さんが口を開いた。

 

 

「…誠子先輩、落ち着いてよく考えて下さい。先鋒は先輩にとっても一番良い場所なんですよ。」

 

 

いや、さすがに騙され___

 

 

「先鋒は唯一、点数を採らなくても良いポジションなんですよ」

 

 

 

 

…!知らなかった。いや、信じるのはまだ早い。新子さんがやりたくないポジションを押し付けているだけかもしれない。

 

 

「詳しく説明しますね。確かに先程、強い相手は先鋒か大将かに集まると言いました。

 

 

でもですね、自分の最終点数がそのまま勝ち負けに繋がる大将とは違って、先鋒は___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

守れさえすれば、後のメンバーが点を稼いでくれるんですよ。」

 

 

 

 

 

 

清澄学園

先鋒 亦野誠子

次鋒 染谷まこ

中堅 新子憧

副将 井上純

大将 宮永咲




この時点で次鋒戦を飛ばすことが決定しました。


次に一話だけ入れてから地方予選に入りますが、いきなり決勝まで飛ばすかもしれません。

誰もエトペンを持ってないですし、咲さんはオーラを隠すことを覚えたのでゴッもありませんからね。


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7翻役 新子憧は裏を知る

今回は前話の裏側を説明する回です。一回こういうのやってみたかったんですよ。

ただ、登場人物が多くなればなるほど会話文が多くなるのが辛いですね。


本っっ当にばれなくて良かった。

 

 

上機嫌で部室から出ていく亦野先輩を見ながら安堵する。

 

 

「お疲れ、二人とも助かったぜ。」

 

 

ドアが閉まるのを確認した後、純先輩があたしと咲に礼を言ってくる。

 

 

「は、はい。でも、一番頑張ってくれたのは新子さんですし…。」

 

 

「何言ってんのよ?上手くいったのは純先輩と咲がアイディアをくれたからでしょ?純先輩も本当にありがとうございました。

 

 

…お陰で亦野さんが自分から先鋒に行ってくれましたから。」

 

 

そう、先程までのポジション決めをする前に、あたしと純先輩と咲の三人で亦野先輩を先鋒に置くための作戦をあらかじめ練っていた。

 

 

 

 

 

 

それは団体戦のメンバーポジションを決定する数日前のこと。

 

 

「純先輩、相談があるんですけど。」

 

 

その時のあたしはあることで悩んでいた。

 

 

「ん?」

 

 

「どうすれば亦野先輩が自発的に先鋒にいってくれると思いますか?」

 

 

亦野先輩が麻雀で本気を出したがらないことが判明したのだ。

 

 

普段から、それこそ咲のプラマイゼロを崩したとき以外はずっと強さを隠している先輩だが、それはどこでも変わらない。たまに点数を調整して遊んだりするが、相手が強ければ強いほど対局を早く流して終わらせようとする。

 

 

恐らくこのまま団体戦のポジションについて会議をしても、絶対に楽ができる次鋒か副将に行こうとするだろう。

 

 

そのどちらかに行かれるだけならまだしも、そこでも早く流して終わらせようとする可能性がある。

 

 

そんなことでは、あたし達の目標である全国には届かないかもしれない。

 

 

そして、それは純先輩も同意見らしく、

 

 

「あー、そうだな。オレとまこの二人だけなら、何も言わずに勝手に申請したりするんだが。」

 

 

少し過激ではあるが意見を出してくれた。

 

 

「…いや、さすがにそれはダメですって。」

 

 

「まあ、お前ならそう言うよなあ。」

 

 

気を取り直して案を出そうとする。すると、先輩は唐突に「しょーがねえ。」と呟いて、後ろのドアを親指で差し示した。

 

 

「なら、あいつに聞くか?」

 

 

「あいつ?」

 

 

言われるままにその方向を見る。すると、

 

 

「あっ、その、ご、ごめんなさい!」

 

 

ドアの向こうからおずおずと咲が出て来た。

 

 

…全く気が付かなかった。それだけ話に集中していたのか。

 

 

しかしここでもう一人増えたのはありがたい。咲も咲で全国を目指しているらしいので、この事を話せば確実に味方になってくれるはずだ。

 

 

早速この事を話し、咲にも意見を求める。

 

 

すると、咲は控えめに手を挙げながらもすぐに意見を述べてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「亦野先輩は後輩に優しいので、それを利用するのが良いと思います。」

 

 

「それが駄目なら、先輩がいつも本気出したがらないことを逆手に取り、先鋒を一番楽なポジションであるかの様に説明するのはどうでしょうか。」

 

 

…咲は、中々の知恵者らしい。




せっかくなので、今回の後書きには清澄の各メンバーポジションを選んだ順番と理由を書いておきます。


~メンバーポジション清澄編~

①大将 宮永咲
 咲さん以外が大将に行って勝てるビジョンが思い浮かばなかった。キャラ的には、一番強い人が集まるポジションならお姉ちゃんもいるだろうと考えたから。

②次鋒 染谷まこ
 原作通り。彼女の戦い方を考えると、やはりここが一番活躍できる。さらに、筆者目線ではキンクリができる。

③中堅 新子憧
 詳しい理由は阿知賀か白糸台編で言う。キャラ的には、①と②が決まった後、ジャンケンで勝利した。

④先鋒 亦野誠子
 先鋒か副将かに絞られたが、どうせなら先鋒の方が面白そうに感じた。キャラ的には他四人の希望に押し切られた形。

⑤副将 井上純
 残りが一枠しかなかったためここに収まったが、筆者的には美味しい場所。原作の阿知賀で言う、お姉ちゃんと同じ役割が持てる。


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県予選決勝編
8翻役 藤田靖子は期待する


評価ありがとうございます。自己満足で書いていただけでしたので、まさかもらえるとは思ってなかったです。この場を借りてお礼を言わせていただきます。

今話から県予選になりますが、結局決勝戦だけやることにしました。他の学校の面子もちょくちょく変化させるので注意です。


今日、私は県大会の解説プロとして会場に呼ばれていた。

 

 

今はようやく準決勝が終わり、決勝が始まるのを待っている状況。進行役を務めるアナウンサーと簡単な打ち合わせを行い、指定された場所であくびをしながら待機していた。

 

 

「さあ、ついに始まりました。県予選決勝戦!」

 

 

ようやく県予選決勝戦のカメラが回り始めたようだ。意識を切り替え、解説としての役目を果たす。

 

 

「藤田プロはどの高校に注目していますか?」

 

 

「清澄と鶴賀だな。初登場らしいが、それにしてはどちらの高校にも埋もれていたのが勿体無いほどの選手がいる。」

 

 

「プロから見て、この決勝戦において最も興味を引かれる選手は?」

 

 

「龍門渕高校の天江衣だろ。」

 

 

「では、どの高校が一位になると思いますか?」

 

 

「まだ分からんな、どの高校にも可能性はある。」

 

 

各高校の出場選手がそろうまでの間、アナウンサーの質問に淡々と答えていく。質問の内容はあらかじめ決まっていたため、淀みなく答えられる。

 

 

ただ、カメラの前では回答をぼかしたが、優勝は龍門渕一択だろう。別に、清澄と鶴賀に注目できる選手がいることは嘘ではない。

 

 

あの天江衣が例外なだけだ。これからもあいつ以上の化け物が出てくることはないだろう。

 

 

 

 

 

 

そしていつの間にか、質問と回答とを繰り返している内に試合の準備ができたようだ。

 

 

カメラの先に写っているのは各校の先鋒四人。

 

 

東場 風越女子高校 竹井久、

南場 龍門渕高校 南浦数絵、

西場 鶴賀学園 津山睦月、

そして、北場 清澄高校 亦野誠子。

 

 

準決勝までの四人の試合を見る限り、東場は風越女子高校の独擅場、南場からようやく龍門渕高校が同じ土俵に上がってくる、といった展開が最も予想できる。

 

 

先程は鶴賀と清澄に注目していると発言したが、特に目立った成績もないこの二人では、風越の二大エースの一人とあの南浦プロの孫とを同時に相手して点を稼ぐのは難しいだろう。

 

 

 

 

 

 

勝負を解説しながら観ていたが、前半戦はほとんど予想通りの内容で終了した。

 

 

先鋒前半戦終了

鶴賀学園 89900(-10100)

龍門渕高校 107300(+7300)

風越女子高校 115700(+15700)

清澄高校 87100(-12900)

 

 

南場に入るまでの時点で、風越が三回と、龍門渕が一回。南場になってからは龍門渕が二回、そして鶴賀と風越がそれぞれ一回ずつ和了っている。

 

 

こうなる事は私でなくても想像できただろう。予想通り過ぎてもつまらないな、と一笑し、そのままカツ丼を食べるため容器を口に近づけ___

 

 

 

 

 

 

疑問を感じた。

 

 

なぜ誰も連荘していない?確か同じことが他の試合でもなかったか?

 

 

考えれば考えるほど深みに嵌まり、どんぶり茶碗を持つ手を止めてしまう。そして、その思考のまま、自分の解説したこれまでの試合データを見直した。

 

 

「…なるほど。」

 

 

と、ちょうど謎を解明できたタイミングで、試合開始を告げるブザーが鳴った。

 

 

…この考えが正しければ、彼女は後半戦から動き出すはず。

 

 

後半戦の展開は面白くなりそうだ。




点数に関しては深く考えてません。大体このぐらいかな、と。

雰囲気で作っているのでそこは許してください。全局の点棒移動を計算する能力は私にはありません。

亦野の反撃は後半から始まるはずです。主人公が始めにやられるのは鉄板ですから。


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9翻役 新子憧は理解する

役満手の中では大三元が一番好きです。出しやすいので。

ただ、今までの中で一番衝撃を受けた役満は、鳴き清一色ドラ10の数え役満です。二回カンしたら二回ともモロ乗りしていた時の興奮は何年経っても忘れられません。


もしかして、唆し文句を間違えた?

 

 

前半戦終了時点での清澄学園の点数を見て少し後悔してしまう。

 

 

この控室にいるメンバー以外がこの結果を見ても、ただ焼き鳥になっただけにしか見えないだろう。しかし、ここにいるメンバーには分かる。

 

 

「あれ絶対早く終わらせることしか考えてないですよね?!」

 

 

部屋にいる先輩二人に同意を求めると、案の定、肯定の返事が返ってきた。

 

 

「ほおじゃのう。自分が親の時は絶対和了らんくせに、それ以外んときはすぐ親以外に流させとる。ありゃあ確実に終わらせることしか考えとらん。」

 

 

「しかも、相手が安い手を作ればすぐ振り込みやがるから、結果的に他家の高い手を防げてるときた。実際、風越の親っ跳を鶴賀の2000で流してたからな。」

 

 

そのまま先輩二人と、前半戦における誠子先輩の打牌について不満を垂れていると、咲がぽつりと反論した。

 

 

「でも…後半戦はちゃんと本気を出してくれると思います。」

 

 

あれ?先程まで言葉には出さなかったが、咲もうんうんと一緒になって頷いていたはず。そんな友人の唐突な心変わりに驚きながらも、とりあえず理由を聞いてみる。

 

 

「なんでそんなことが分かるの?」

 

 

 

 

「だって先輩は優しいから。わたしや新子さんが全国に行きたいことを知っているなら結果で示してくれるよ。」

 

 

…こんな言葉で信じたくなる自分が悔しい。急に恥ずかしさを感じ、こぼれ出た笑みを隠そうとしたが、どうやってもにやつくのを抑えきれなかった。

 

 

そして、そんなあたしを見てか、ついさっきまで味方だったはずの先輩二人の顔からも、笑顔がこぼれていた。

 

 

「そうだな、今までずっとマイナス収支だったんだ。決勝の後半戦ぐらい、かわいい後輩のために重い腰を上げるだろ。」

 

 

 

 

 

 

そうして待っていると後半戦の東一局が始まった。

 

 

席順は先程から変わり、

東場 鶴賀学園 津山睦月、

南場 清澄高校 亦野誠子、

西場 風越女子高校 竹井久、

北場 龍門渕高校 南浦数絵となっている。

 

 

「ポン」

 

 

そしてその三巡目、早速誠子先輩が動く。しかし、泣いたのは…オタ風の北?

 

 

混一色を狙うならまだ理解できるが、配牌から色も数字もバラバラ。それならまだ、平和の頭や待ち牌として使った方が良かったのに。

 

 

意味不明な打牌に困惑し他の三人を見るが、純先輩と咲は首を横に振る。

 

 

「まだ分かんねえな。流れは変わってねえし、他の奴が警戒して早和了りするように仕向けてんのか?」

 

 

「カンしても有効牌は来ないから…一枚だけ持っている白か中を三枚持ってこられる自信がある、とか?」

 

 

すると、まこ先輩が眼鏡に触れながら呟いた。

 

 

「この河の感じ、どこかで見たことある気がするのお。」

 

 

そのまま、「どの試合じゃったかのう…。」と上を向いて記憶を探り始めた。この捨て牌に心当たりでもあるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

そうして疑問が解けないまま試合が進んでいく。

 

 

しかし、捨て牌が二列目に差し掛かったところでありえないことが起こった。

 

 

「…は?」

 

 

このツモで聴牌にできたはずの風越が、突然降り始めたのだ。

 

 

理解できない。対局相手の龍門渕はまだ一向牌で、鶴賀に至ってはほとんど手が進んでいない。先輩も、鳴いて以降は混一色に染めようとしているが、手が遅すぎて流局までに和了れるか分からない。

 

 

それだけでなく、その次巡には龍門渕もほんのわずかに顔をしかめて安牌を捨て始めた。

 

 

共通しているのは、どちらも風牌を掴んだ事。そこでようやく気付く。

 

 

「先輩が鳴いて以降、誰も北以外の風牌を捨ててない…?」

 

 

つまり、あの二人は先輩の四喜和を警戒している?

 

 

肝心の東は鶴賀が三枚掴んでいるが、降りた二人には分からない。

 

 

そして、

 

 

「ツモ」

 

 

先輩が海底ぎりぎりのタイミングで満貫をツモることに成功した。

 

 

上がられた三人の内、二人が特に驚いた表情をしていたが、その理由は先輩が和了ったことではないだろう。

 

 

「…まさか、初めからこれを狙ってたの?」

 

 

驚きで心の声が漏れてしまう。

 

 

「なるほどな。ただ和了を狙っても相手に追いつけねえ。流れも変わらねえ。だから相手を止めるしかなかった訳か。」

 

 

純先輩も素直に感心している。と、まこ先輩が納得した顔を上げた。

 

 

「ほうじゃ、思い出した。永水女子高校じゃ。薄墨とかいう選手が四喜和を連発する戦い方をしておったけえ、そんときの河と似ておったわ。」

 

 

はあ!?四喜和連発とか訳分かんないんですけど!?

 

 

でもそれなら、攻めていた二人が降りた事は理解できる。さっきの戦法は、全国の牌譜をちゃんと見ている相手にほど効果があるため、いち早く察してしまった風越が先にオリたのだろう。

 

 

しかし逆に言えば、今回の作戦は他の有名選手の威を借りただけだ。こんな作戦が何度も通じるとは思えないし、実際にその虎と戦わなければいけない時が来る。その時に全く勝てる気がしない。

 

 

そう、つい思考が諦めの方向に向きかけた時、純先輩が説教をしてきた。

 

 

「…憧。お前、もしかしてもう諦めてんじゃねえだろうな。

 

 

確かに、俺らには神は見えねえし、役満も連続で出せねえ。だからこそ、今回の誠子みたいに技を使うんだろうが。全国に行くんだろ?」

 

 

…そうだ。今になってやっと理解できた。あたしの目指しているのはそういう相手がいる場所で、今のあたしにはもっと経験も技術も必要なんだ。だったら、

 

 

 

 

もっと強くなってやりますよ、先輩方。




「もしかすると、この一撃を入れるために、前半は全く点数を取らなかったのかもな。」

「うそお!?」


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10翻役 亦野誠子は戻りたい

一話一人視点の制約で、試合の様子を表すのが難し過ぎます。

何でこんなことしちゃったんですかね。


やっちゃったなあ…。

 

 

前半戦が終了して部屋に戻るが、その足取りはいつもより重い。

 

 

よりによって焼き鳥かあ…。

 

 

みんなに合わせる顔がない。特に、入部してからずっと全国大会に出るために練習していた後輩二人には。

 

 

怒ってるだろうなあ…。

 

 

正直、今まで怒られなかったのが不思議なくらいだ。点数を稼がなくても良いとはいえ、マイナスの成績を出し続けたのだ。私に実力がないことは自分が一番分かっているが、それを抜きにしてもひどすぎる。

 

 

そんな暗い気持ちのまま部屋の前に着く。すると、まだドアを開けていないにも関わらず、新子さんの怒鳴っている声が部屋の外まで響いてきた。

 

 

うわ、怖すぎるんだけど。

 

 

思わず足がすくんだ。が、アドバイスを貰えないと後半も焼き鳥になるのは見えているため、できるだけ恐怖を押さえつけてドアを開ける。ただ、怖い気持ちも残っているため気持ちゆっくりと。

 

 

「でも、…後半戦はちゃんと本気を出してくれると思います。」

 

 

と、宮永さんの声が聞こえた。声のトーンから彼女は怒ってないと分かる。それどころか三人から庇ってくれている様だ。

 

 

自分も全国に行きたいと言っていたのに、本当に優しい子だ。これなら思ったより怒られずに済みそうで___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だって先輩は優しいから。わたしや新子さんが全国に行きたいことを知っているなら結果で示してくれるよ。」

 

 

…別の意味で帰れなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

結局、後半戦が開始するまでにあの部屋に入ることはできなかったが、無理やり気分を入れ替えて打牌する。この半荘で結果を残せなければ、罪悪感で後輩二人と目を見て話せなくなってしまう。

 

 

「ポン」

 

 

他の面子とは違う意味での緊張感を持ちながらも、下家から出た北を迷わず鳴く。これでとりあえず役はできたので、早く上がって焼き鳥だけでも回避を…

 

 

 

 

ん?

 

 

もしかして、今の私の自風は北ではない…?

 

 

 

 

ちょっと待って!?いやちょっと待って!?

 

 

なんでこんな間違いしてるの?!

 

 

確かに前半戦は北場にいたけれども!?

 

 

…これ以上落ち込んでも仕方ない。この形からの和了りを目指す。

 

 

ただ、客風牌を鳴いた状況で和了れる役が分からない。…とりあえず混一色にしよう。

 

 

 

 

 

 

そこから最終形を決めて数巡したものの、全然色を統一できていない。全てが裏目に出ている。このままでは危ない予感がする。

 

 

一旦この流れを変えるために、数牌は置いて揃わない字牌を捨てることにした。

 

 

まず、白を捨てる。と、同巡に風越の選手も白を捨ててきた。私と同じように、揃うかもと期待して捨てられなかったのだろう。

 

 

次に、中を捨てる。すると、今度は龍門渕の選手が合わせ打ちをしてきた。これはどうやら字牌を捨てて正解だったみたいだ。どちらかの牌を持ったままにしていたらずっと和了れなかっただろう。

 

 

そこからは流れが良い方向に向いたのか、その後はほとんど無駄なく混一色をツモることができた。

 

 

ようやく和了できたことに安心していると、下家の竹井さんが獲物を見つけた鷹のような目でこっちを見ている事に気が付いた。

 

 

 

 

…とりあえず苦笑いをしておこう。




私はだいたい一話あたり千文字ちょっとで書いているので。今回で一万文字以上は書いたことになります。


…卒論を終わらせたときよりペースが速くて戸惑ってます。


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11翻役 竹井久は全力で楽しむ

この小説を書くときの一番の楽しみは、その話の大筋を考えた後にタイトルを考える事だったりします。

逆に一番しんどいのは前書きです。後書きとは違って、書いているときに思ったことを書きにくいんですよね。


やられた。

 

 

和了りの宣言とともに倒された牌を見た瞬間、素直にそう感じた。

 

 

準決勝までのデータを見た時は美味しいカモだと思っていた。前半戦が終わった後も、親を流す上手さがあるもののカモには変わりがないと思っていた。

 

 

…けれどその考えが甘かったことを思い知らされた。

 

 

今までの愚直な戦い方からは考えられない序盤のブラフ。私と龍門渕が聴牌間近と分かるとすぐに字牌を捨てて止める察知能力と判断力。バラバラの配牌から流局までに和了る運命力。まるでプロを相手にしている様だった。

 

 

この一撃のためだけに弱者として振る舞っていたのか。そして私はその罠にまんまと引っかかったのか。悔しさよりも感心が出てしまう。

 

 

しかし、まだ疑念も残っている。残りの風牌の場所だ。まさか全ての風牌を操作できていたとは考えられない。

 

 

なら、山の残り枚数を見る限り東は鶴賀が持っていたのだろう。しかし、それが私か龍門渕の手に渡っていればどうするつもりだったのか。

 

 

と、ここで再び気付く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つまり、恐らく、賭けだった?

 

 

 

 

…面白いわ。やっぱり麻雀はこうでなくっちゃ!こういう相手がいるから麻雀は止められないのよ!

 

 

名前は…誠子ね。覚えたわ。誠子が次にどんな手でくるのかと期待に胸を膨らませる。点数を度外視して楽しんでしまうのは私の悪い癖らしいが、これは仕方ない。

 

 

 

 

 

 

しかしそんな私の思いとは裏腹に、試合は淡々と進んでいく。誠子も先程のツモが無かったかの様に、喰いタンと特急券を一度ずつ上がって親を流す以外の動きを見せていない。本来なら攻め時なのだろう。

 

 

だがさっきの技を見たせいで、誠子の一挙手一投足に警戒しすぎて、安くて早い手が多く来たにも関わらず二回しか和了れなかった。しかも龍門渕の子にも一度振り込んでしまった。

 

 

そしてそのままオーラスになったところで、三度気付く。

 

 

 

 

 

 

もしかして、また嵌められた?

 

 

ようやく、東一局の攻めが私から冷静さを失わせるための罠だったことに気付くがもう遅い。すでに最後の親は蹴られてしまった。

 

 

私が和了れるのは多くとも後一回。場合によってはこれで私の夏が終わってしまう。そう自覚すると、この局がとたんに勿体無く思えてきた。

 

 

…なら、せめて最後は私らしく終わってやる。

 

 

ただ点数を取るためだけの打ち方ではつまらない。もしかしたら、これも誠子の作戦の内かもしれないが、監督には後でこっぴどく叱られるだろうが、関係ない。

 

 

配牌を見る。ドラが二枚の三向牌。おおよその最終型は決まった。

 

 

1巡目からドラを切る。

 

 

2、3巡目で有効牌をツモる。言い調子だ。

 

 

5巡目で、四萬を捨てれば両面待ちの聴牌。が、捨てるのはその横の赤五萬。

 

 

「リーチ!」

 

 

高め三色とドラを捨てての単騎待ち、それも二枚切れ。けど、これで良い。

 

 

宣言後、龍門渕と鶴賀が引いた現物をそのまま捨てる。

 

 

次いで、誠子は悔しそうな顔で牌を取ると、ノータイムで降りを選択する。

 

 

…最後は誠子から取りたかったがしょうがない。その顔が見れただけでも良しとしよう。

 

 

掴んだ牌を指で上に弾き飛ばして手牌を開く。そして、そのまま飛ばした牌をその横に叩き下ろした。

 

 

「ツモ!」

 

 

…これで私にできることは全部やった。

 

 

後は、頼んだわ。

 

 

 

 

 

先鋒戦終了

鶴賀学園 82000(-7900)

清澄高校 92200(+5100)

風越女子高校 121300(+5600)

龍門渕高校 104500(-2800)




※亦野が悔しそうな顔をしているのは、罪悪感で部屋に帰れないと考えているからです。

後は中堅と大将ですかね?県大会決勝では次鋒と副将の面子があまり変わらないので。


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12翻役 新子憧は成長している

この小説は、亦野の勘違いを中心に書こうとしているので、それ以外の真面目なシーンは一話でさらっと終わると思います。

あと、今回は初めて文の中に()を入れてみました。その話の中で、中心となる人物以外の心の声を示すときに使用します。


次鋒戦が終了して、いよいよあたしの番が来た。

 

 

状況は悪いが、誠子先輩は後半戦の一撃のために点数を取れなかったらしいし、まこ先輩も親番四回中三回をツモられた。仕方ない。

 

 

とはいえ、これ以上落ち込んでいる先輩二人を見たくない。よし、と気合を入れなおし、二人にも聞こえるようにあえて元気な声で言う。

 

 

「先輩二人の仇を取りに行きますか!」

 

 

 

 

 

 

中堅戦開始

東場 風越女子高校 池田華菜 120100

南場 鶴賀学園 蒲原智美 112600

西場 清澄高校 新子憧 72700

北場 龍門渕高校 国広一 94600

 

 

この中であたしが最も苦手とするのは風越の池田。攻めっ気が強く、豪運で、調子に乗らせるとまずいタイプ。

 

 

先鋒戦での誠子先輩みたいに相手を降りさせるか、こちらも高打点で押すしかないが、あたしにそんな真似はできない。

 

 

だからこそ、天狗になる前に鼻を折っておく必要があるのだが…

 

 

「リーチだし!」

 

 

東一局の5巡目のリーチ、これは止められない。

 

 

「ツモだし!」

 

 

そしてそのまま一発で親満ツモ。痛いが、仕方ないと割り切り次に備える。

 

 

「リーチだし!」

 

 

…これはなかなかまずそうだ。これ以上放置すれば風越の一人勝ちになってしまう。だったら、

 

 

「チー!」

 

 

「ポンッ!」

 

 

(…分かりやすい安手。つまり)

(差し込めってかー。)

 

 

こうする。

 

 

「ロン!」

 

 

これで風越が親の時の和了りを防ぐとして、問題はどう稼ぐか。とにかく、今のあたしには情報が足りない。次の局は情報を集めるのに集中する。

 

 

…決して、誠子先輩が戦い方を毎回変化させるせいで、対局の初めに観察をしないと怖くて攻められなくなってしまったという訳ではない。

 

 

 

 

 

 

東二局が終わったところで、ようやく三人の強さを分析できた。東一局での差し込みの精度からも強さを測れたのが大きかった。

 

 

風越の評価は変わらず。一番危険だが、降りずに回すことが多いため狙い目。

 

 

鶴賀は一番狙いやすそうに見えるが、危険牌を躱すのだけは異常に上手い。ただ、複数人が聴牌した時は普通に振り込むため、そういう類の能力を持っていると考える。

 

 

龍門渕は平均より少し強いくらい。観察眼に優れているから、流すときはこの人の動きに注意する。

 

 

…これでようやく攻めに出られる。

 

 

「チー!」

 

 

まずは、この鳴きで風越の清一色か混一色かを止めつつ、龍門渕に援護要請。ただ、親のあたしに和了らせてくれるとは思っていない。

 

 

って、差し込んできた?!

 

 

 

 

…なんてね。龍門渕から見てあたしは上家にいるから、途中まで協力する振りをして先に和了ろうとするのは予想済み。だからわざわざ嵌張待ちを多く、つまり待ちが少ない様に見せている。

 

 

これもばれているかもしれないけど、こっちだって相手の手が重いことは分かってる。だから、

 

 

「ツモ!」

 

 

満貫くらいなら先に和了れる。先輩たちや咲なら鳴いて止めてくるけど、この三人には止められない。

 

 

そしてこの程度が止められないなら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この勝負、もらったわ。

 

 

 

 

 

 

中堅戦終了

清澄高校 89400(+16700)

鶴賀学園 96500(-16300)

龍門渕高校 96400(+1800)

風越女子高校 117700(-2400)




文堂さんは現在校内ランキング6位です。なので、来年にはきっと活躍してくれるでしょう。


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13翻役 宮永咲は皮をかぶる

副将戦も載せようか悩みましたが、県大会では地味になりそうだったのでやめました。

副将戦終了
風越女子高校 深堀純代 105900(-11800)
龍門渕高校 龍門渕透華 89300(-7100)
鶴賀学園 東横桃子 105600(+9100)
清澄高校 井上純 99200(+9800)


緊張しすぎると体の力が抜けなくなる、とはよく言うが私は例外らしい。

 

 

新子さんに連れてもらい到着した部屋で心静かに本を読んでいると、そんな思いが脳裏を掠めた。

 

 

そしてすぐに、どうでもいいなと再び文字に眼の照準を合わせるが、ドアの開く気配がしたため本を閉じて顔を上げる。

 

 

制服を見ると風越と鶴賀だろうか。軽く会釈をすると二人が揃って席に着く。鶴賀の方は落ち着いているが、風越はドアの向こうをやたらと気にしているようだ。

 

 

そして少し遅れて龍門渕が来た。見た目こそ小さく愛らしいが、彼女が昔のお姉ちゃんよりも強いオーラ隠しているのが分かる。

 

 

 

 

…なるほど。これが体の力が抜けなくなる感覚か。

 

 

 

 

 

 

大将戦開始

東場 龍門渕高校 天江衣 89300

南場 風越女子高校 福路美穂子 105900

西場 清澄高校 宮永咲 99200

北場 鶴賀学園 加治木ゆみ 105600

 

 

さて、と試合が開始したところで改めて考察する。

 

 

今の順位は三位だが、点数はほぼ横並び。なら一度高い手を和了っておきたいが、対面から局を長引かすと危うい気配がする。

 

 

これまでの試合では、能力を使わずに最低限だけ流して勝つことで弱く見せてきた。でも、さすがに県予選の決勝ともなれば、このままでは勝てないかもしれない。問題はどこで本気を出すか。

 

 

最初から本気を見せると、終わるまでに研究されて対策を取られる可能性がある。しかし待ちすぎれば、点数が引き離されすぎて追いつけなくなるかもしれない。

 

 

なら尚の事、この前半は有効に使いたい。東三局に一回だけ和了ってから、上位の二人を気付かれない程度に削っていく。そして休憩時間で亦野先輩に相談することにしよう。

 

 

 

 

 

 

そして東四局になった瞬間、龍門渕の子がオーラを隠すのを止めたため卓の空気が変わった。

 

 

「乏しいな、闕望したよ。そろそろ御戸開きといこうか。」

 

 

…セリフから考えるにしびれを切らしたのだろう。オーラを隠さなくなったことからも、彼女が感情的になりやすいタイプだと分かる。

 

 

嬉しい誤算だ。これなら、思ったより早く彼女の強さが分かるかもしれない。

 

 

本気を出したことを確認してから手牌を見たが、異常はない。なぜ?あのオーラはただの見掛け倒しだったのか?

 

 

しかし中盤以降、下家の風越が上りを放棄して中張牌を捨て始めたことから、何かがあるのだと理解できた。そこまでして早く流したいのか。

 

 

止めるかどうかは迷ったが、龍門渕の本気が知りたいのであえて放置する。

 

 

そしてそのまま十八巡目、

 

 

「自摸、海底撈月。」

 

 

…なるほど。最初の気配に加えて、途中から有効牌が取れなくなった感覚。そして海底での上がり。風越はこれを全力で止めようとしていたのか。

 

 

その和了りで東場が終わり、再び龍門渕の親が来る。

 

 

すると風越が先程よりも的確に鳴ける牌を捨て、鶴賀もそれに同調してきた。

 

 

…二人とも対応が早い。今は弱く見せているため、疑われない程度に協力するが、最後はこの二人の方が障害になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

大将後半戦開始

東場 鶴賀学園 加治木ゆみ 94300(-11300)

南場 風越女子高校 福路美穂子 99500(-6400)

西場 清澄高校 宮永咲 92000(-7200)

北場 龍門渕高校 天江衣 114200(+24900)

 

 

後半戦に入った。風越と鶴賀がこちらを怪しみ始め、龍門渕も何かに気付きだしたため、実力をごまかすのはこの辺りが限界だろう。

 

 

そのためそろそろ暴れたいが、まだ動けない。龍門渕が聴牌を察知してくるのに加えて、二人の対応力が高い。そのため、一度失敗すれば全てが無駄になってしまう。

 

 

トップとの差は22200点。点数だけ見れば、跳満を直接当てられれば逆転できる。しかしラス親が龍門渕であることを考えれば、やはり倍満以上を直撃させたい。

 

 

とりあえず、この局は流そうか。

 

 

 

 

 

 

そして南三局の親番、ようやく勝つための手ができた。このまま攻めても良いが、念のために仕掛けを施しておく。

 

 

「カン」

 

 

これで鶴賀にドラが三枚増えた。下家の警戒がそちらに向くのが分かる。それと同時に対面がこちらを警戒してきたがもう関係ない。ここで和了って逃げきる。

 

 

そして、下家が聴牌をしたタイミングで牌を掴ませる。感覚で打つことしか知らない彼女は、まだ聴牌していない私の危険牌には気付かないはずだ。後は、牌を捨てるのを待つだけ。

 

 

 

…?まだ捨てていない。龍門渕は、私の待ち牌を掴んだまま動かない。

 

 

もしかして迷っている?先程の鳴きに疑問を感じ、自分で考えているのか。

 

 

つまり、彼女は今、初めて感覚に頼らない麻雀を打とうとしているのか。

 

 

 

 

…これが常時なら一緒に喜んだかもしれない。私も亦野先輩のおかげでその気持ちが分かるから。

 

 

でも今は決勝戦。これで私と新子さん、そして先輩たちが全国に行けるかどうかという場面だ。

 

 

なら、ここで私の取るべき行動は決まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「麻雀って…楽しいよね」

 

 

 

 

 

 

大将後半戦戦終了

東場 鶴賀学園 85400(-8900)

南場 風越女子高校 90100(-9400)

西場 清澄高校 112700(+20700)

北場 龍門渕高校 111800(-2400)




今回で県大会は終了ですが、全国に行く前に阿知賀と白糸台の様子を載せることにしました。

裏話的なノリで書くので、ほのぼのしていると思います。


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裏日和~episode of side-A~
裏1 大星淡は肩を落とす


今回は県予選後の白糸台です。白糸台は咲日和で一気に好きになりました。

後、この話を書いただけで、「て」と打つと「テルー」が予測変換されるようになってしまいました。


「ねーテルー、菫先輩まだー?」

 

 

部活の練習時間中、つい待ち切れずにボヤいてしまう。いつもなら、この時間はテルーと卓を囲んでいるのだが今日は違った。

 

 

「今日発表だったよねー?」

 

 

「…うん。」

 

 

全国大会に出る各県の代表が発表されるからだ。心なしか、テルーのお菓子を食べる手もいつもより速くなっている気がする。

 

 

私は別に、どの県からどの高校が出るか、なんていう細かいことはどうでもいい。そういう難しそうなものは全部スミレに投げておけばなんとかなる。でも、

 

 

「テルーの妹が出てるかもしれないんだよねー?」

 

 

「…うん。長野県の清澄高校。」

 

 

テルーの妹がいるかを知りたい。なんでも、その妹はテルーが一度も勝てなかった相手らしい。つまり、

 

 

「私が倒せば、私がテルーより強いっていう証明になるよね!」

 

 

そう言いながら、テルーそっくりの妹とテルーを倒してその上に乗る自分を想像する。

 

 

…想像するだけでも楽しくなってきた。

 

 

 

 

 

 

そしていつの間にか、頭の中で二人のテルーと一緒にスミレをいじめて楽しんでいると、ドアの向こうから大量の紙束を抱えたスミレとノドカがやってきた。

 

 

「ミーティング始めるぞ…って何してる?」

 

 

「ぎくっ。べ、別に菫先輩を頭の中でいじめてなんかいませんよー?」

 

 

「…淡さん。先輩には敬意を持って接しろと何回言えば分かるんですか?」

 

 

「もー、いーじゃん別にー。ノドカってば固いなー」

 

 

頭の固い二人のことは放って置く。そしてそのまま、二人が持ってきた紙束の中から長野県大会の結果を探すが、見つからない。

 

 

 

 

…もしかしてさっきまでのテルーの話は全部嘘で、長野なんていう県はない?

 

 

そう確信し、嘘つきの犯人に文句を言おうとすると、

 

 

「…咲。」

 

 

一枚の紙を見て固まっていた。…なるほどね。

 

 

高校100年生の淡ちゃんが推理するに、きっと、あの紙に長野の結果が書いてあるに違いない!

 

 

早速、後ろから用紙を覗き込む。高校名は…清澄高校!さっきテルーが言っていた学校だ!

 

 

期待が高まる。テルーの評価が本当なら、さっきまで話していた妹はそのメンバーの中でも一番強いだろう。そして、団体戦で一番強い打ち手が就くポジションは決まってる。

 

 

これは、いよいよ想像が本物に___

 

 

 

 

 

 

「…全員が落ち着いたところで、改めて各ポジションの説明をする。」

 

 

「…。」

 

 

「…まずは先鋒、」

 

 

「…。」

 

 

「…おい、何をそんなに不貞腐れてる?」

 

 

「…だって、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんで大将に行っちゃうかなあ!?

 

 

 

 

 

 

白糸台高校

先鋒 大星淡

次鋒 弘世菫

中堅 原村和

副将 渋谷尭深

大将 宮永照




今回と次回の後書きには、白糸台と阿知賀の各メンバーポジションを選んだ順番と理由を書いておきます。


~メンバーポジション白糸台編~

①大将 宮永照
 決勝の舞台で姉妹同士の対戦を見たかったから。

②先鋒 大星淡
 先鋒か大将かは決定だったが、大将が埋まったから。後、得点調整力がないから。

③中堅 原村和
 一番の理由は次回で述べる。それ以外の理由は、オカルトメタの役割が持てるから。照のおかげで、オカルトを計算に組み込んでの和了ができるようになった。

④次鋒 弘世菫
 原作と同じ理由。先鋒で削れた相手をここで撃ち落とす。

⑤副将 渋谷尭深
 中堅だと、自分の稼ぎ以上に稼がれる可能性が高いため。また、この場所にいることで、副将にエースがいるチームへのメタ、かつ役満で確実に大将につなげる。


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裏2 高鴨穏乃の先輩は不敵に笑う

今回は阿知賀女子学園の一幕。サブタイトルは二秒で思いつきました。


私の通う阿知賀女子麻雀部には、レジェンドが二人いる。

 

 

一人目は赤土さん。私たちの監督。団体戦が10年間インターハイから遠ざかっていたこの高校の麻雀部を、就任してから三か月で全国にまで出場させたすごい人だ。鷺森先輩曰く、学生時代もすごかったらしい。さすが阿知賀のレジェンド。

 

 

二人目はレジェンド先輩。赤土さんに憧れてこの学校に来た三年生の先輩で、今は部長を務めてくれている。麻雀も強く、去年は個人戦で奈良県一位を取ったらしい。ちなみにこの呼び方は、その時の決勝戦で、実況の人に「阿知賀の二代目レジェンド」と呼ばれてから自分で名乗りだしたとか。

 

 

 

 

 

 

そして今、私と玄さんは、その赤土さんに呼ばれている。

 

 

「玄さん。私たち、なんで呼ばれたんですかね?」

 

 

「うーん、私たちが何かしちゃったのかな?」

 

 

道中で玄さんと話し合うが原因は分からない。

 

 

そのまま呼ばれた部屋に着く。扉を開けると、目の前には、喜びを隠せないといった様子の赤土さんがいた。

 

 

どうやら怒られる訳ではない様だ。彼女はそのまま嬉しそうな顔で話し始めた。

 

 

「よく来たね。今ちょうど他県の出場校を調べてたんだけど、この二校に面白い子がいてさ。」

 

 

そう言うと、二枚の紙を見せてきた。この二人を呼び出したということは、私や玄さんに似た打ち方をする選手なのだろうか。

 

 

でもいきなり紙だけ見せられてもそんなの分かる訳___

 

 

「あ、憧ちゃん!?」

 

 

突然、隣の玄さんが驚きの声を上げた。って憧!?憧も県大会で優勝したんだ!だとすると…

 

 

「こっちはのどかだ!」

 

 

ここで、ようやく呼ばれた理由が理解できた。二人とも中堅だから私が戦うことはできないが、またみんなで集まれる事に変わりはない。その事が嬉しくて、つい部屋を駆け回ってしまう。

 

 

赤土さんはその反応に満足したのかしばらく笑った後、付け加えるようにこう言ってきた。

 

 

「どうせ、この後にみんなで牌譜を調べるから分かる事なんだけど、阿知賀こども麻雀倶楽部にいた二人には最初に言っておきたくてね。

 

 

二人の打ち方も前とは違うから、その時に確認しようか。」

 

 

さすがは赤土さんだ、私たちの事をよく理解している。おかげで、いつもは苦手な牌譜確認にもやる気が出てきた。早速頑張ろう!

 

 

 

 

 

 

その後みんなでデータの確認をしていると、私から清澄の用紙を受け取ったレジェンド先輩が呟く。

 

 

「すごいな…こりゃ相当打ってる。」

 

 

先輩は先鋒なので、亦野という人を警戒しているのか。点数を見てもそこまで強そうには見えないが、奈良一位の先輩が警戒するぐらいなら相当強いのだろう。

 

 

思わず不安になる私。しかし、先輩はそれを鼻で笑って堂々と言い切った。

 

 

「フッ…。ま、心配しなさんな、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニワカは相手にならんよ。」

 

 

 

 

 

 

阿知賀女子学院

先鋒 小走やえ

次鋒 鷺森灼

中堅 松実玄

副将 松実宥

大将 高鴨穏乃




どこのメンバーポジションを考えるときもそうですが、どうすれば全員の魅力を引き出せるかが難しいですね。


~メンバーポジション阿知賀編~

①大将 高鴨穏乃
 原作通り。特に言うことはない。

②中堅 松実玄
 旧阿知賀の面子を中堅で集めたかったから。6翻役と裏1で、アコチャーとのどっちを中堅に置いたのもこの理由。玄ちゃんは能力的に中堅向きだと思う。かわいい。

③先鋒 小走やえ
 玄ちゃんが中堅に行き、先鋒を任せられる選手が必要になったから。ついでに最後のセリフを言わせたかったから。

④副将 松実宥
 玄ちゃん→お姉ちゃんのコンボは外せない。

⑤次鋒 鷺森灼
 筆者は咲小説の中で某スタジオのアラタシリーズが一番好きだった。あれで阿知賀とあらたそが好きになった。


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全国大会二回戦編
14翻役 上重漫は遅れて気がつく


今回から全国大会です。今回の相手校のポジションは原作と変わりません。というより、これ以上のメンバー改変はないと思います。


「次の二回戦では、漫ちゃんに親番が来てもできるだけ速くオリた方がええと思います。」

 

 

試合前日のミーティング中、末原先輩が慣れた手つきでパソコンを弄りながらそう告げてきた。先輩を信じていない訳ではないが、いきなり親番にオリろとはどういう事か。

 

 

理由を知るために質問しようとしたが、それよりも先に主将が口を開く。

 

 

「永水がおるからか?」

 

 

「いえ、それもそうなんですけど、一番の原因は清澄の亦野です。」

 

 

そして、その質問に末原先輩は否定で返した。パソコンからはすでに手を離しており、スクリーンには亦野が映っている。

 

 

しかし亦野?今回の対戦相手の中でもとりわけ普通の選手やったはず。牌譜を見てもおかしいところはなかったが…

 

 

「この生き物がおる卓では、普段ごっつ点数を稼いでるやつが全然稼げてないんです。それが気になって調べてみたところ、けったいな現象が起こってる事が分かりまして。」

 

 

「なんや。もったいぶらんとはよ言えや。」

 

 

「今から言います。…こいつのいる卓では、誰も親番に和了れてない。つまり、半荘が絶対に八回で終わってるんです。」

 

 

 

 

 

 

先鋒戦開始

東場 宮守女子高校 小瀬川白望 

南場 姫松高校 上重漫

西場 清澄高校 亦野誠子 

北場 永水女子高校 神代小蒔

 

 

試合はちょうど東三局が始まった場面。今まで一度も和了できていないが、気を入れ直して不要牌を捨てていく。

 

 

七巡目になり、ようやく跳満が狙える完成形が見えてきた、とほくそ笑んだところで、

 

 

「リーチ」

 

 

親の清澄が牌を横に曲げた。

 

 

 

 

…なんで親やのにリーチしとんねん?!親やのに和了する気満々やんけ!?

 

 

言うてたこととちゃいますやんか、と心の中で末原先輩に文句を垂れるが、知らんがな、と一蹴された気がした。

 

 

こうなったらしゃーない。手牌はまだ一向聴やし、素直に降りる。

 

 

 

 

 

 

結局、東三局は神代に安手で流されて終了した。そしてそのまま、次の東四局に移ろうとすると、

 

 

「ご…ごめんなさい、少し寝てました。」

 

 

神代が突然、そんな事を抜かしてきた。

 

 

いや、さっきまで普通に打ってたやんか!?と声に出かけてなんとか抑え込んだ、瞬間、

 

 

「でも…本当に申し訳ないので、ここからは___

 

 

 

 

 

 

全力以上であたらせてもらいます」

 

 

 

 

呼吸が、止まった。

 

 

…なんや、これ。

 

 

あまりの凄みに、目が離せない。体が動かない。

 

 

今までのどんなプロよりも凄まじい、何かを体感した。

 

 

しばらくしてから隣を見れば、宮守の小瀬川も何かを察知したらしく、さっきよりも面倒くさそうな顔で神代を見ている。

 

 

…こんなんどうしろって言うんですか、末原先輩。

 

 

 

 

 

 

それからずっと神代を警戒しているが、特に何もしてこない。強いて言うなら、亦野のあからさまな手に振り込んでいたことくらいか。

 

 

そして南二局。前半戦最後の親番に、五巡目で聴牌。誰も立直をかけておらず、リーチをかければ満貫確定の両面待ち。

 

 

先輩はああ言ってたけど、こんなチャンスは滅多に来いひん。神代も動かへんし、できた以上は勝負する。

 

 

「リーチ!」

 

 

その宣言の後、下家の亦野が打牌をしたのだが、

 

 

 

 

えっ…?いきなりそんなキッツいとこ…?

 

 

河に出た牌は、普通に考えればリーチされた直後に捨てるものではない。

 

 

つまり、うちより速く聴牌してたんか?それも親相手に突っ込むほどの手を?河に捨ててある牌を見ても全然分からへんかった。

 

 

そして、亦野の捨牌を見て分かりやすく喜んだ神代がその筋となる牌を捨てて、

 

 

「…ロン。」

 

 

小瀬川に振り込んでいた。

 

 

うちが勝負した時にはすでに二人が聴牌してたんか。これは、先輩のアドバイス以前の問題やな。

 

 

そう反省しながら麻雀卓の中央に牌を入れていると、ふと気付く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もしかして、今焼き鳥なんうちだけか?

 

 

 

 

 

 

先鋒前半戦終了

宮守女子高校 115300(+15300)

姫松高校 90900(-9100)

清澄高校 104200(+4200)

永水女子高校 89600(-10400)




関西のチームは反応が面白いので好きです。ただ、全員が関西弁だと、誰が誰と会話しているのかが分からなくなるので使いにくいです。

おかげで、主人公のチームが書き手に優しいチームだと理解できました。


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15翻役 亦野誠子は翻訳したい

評価バーに色が付いててびっくりしました。再度、この場を借りてお礼を言わせていただきます。

今回は亦野視点を先に置いてみます。こっちからの方が書きやすそうでしたので。


県予選の決勝戦に、私が休憩中に控室へ戻らなかったという理由で、休憩中には宮永さんと新子さん、いや咲ちゃんと憧ちゃんが会場へみんなの助言を伝えに来てくれるようになった。

 

 

それ自体は嬉しかったし、そこから後輩二人を下の名前で呼ぶようになったため有り難かったが、一つだけ困ったことが発覚した。

 

 

咲ちゃんが典型的な中二病だった。

 

 

だから助言をもらっても、彼女が勝手に内容を翻訳して話すから意味が理解できない。しかも、本人はいたって真剣な表情で話してくるため余計にたちが悪い。

 

 

確かに、入部当初からプラマイゼロしか出せないと言っていたり、気配の隠し方についての話をしていたりとそれらしい場面はあったが、それらは全て彼女の天然と優しさによるものだと思い、特に気に掛けなかった。

 

 

しかし、休憩時間中に話してみると、その深刻さが理解できた。

 

 

 

 

 

 

それは一回戦でのこと。

 

 

当時の私は前半戦をマイナスで終え、休憩時間を迎えてそのまま椅子に座っていた。事前にチームから、アドバイス係が来ることを伝えられていたからだ。

 

 

少しして、出入り扉の向こうから憧ちゃんと咲ちゃんがやって来た。

 

 

どうせ純かまこが来て、休憩時間中ずっとダメ出しを食らう羽目になると考えていたから、その瞬間は安心していた。

 

 

そのまま咲ちゃんに、控え室にいるメンバーからの助言を伝えてもらう。これで、後半から少しでも楽になればいいなと期待しながら耳を傾けた。

 

 

 

 

 

 

「流れ自体は非常に良いので、そのまま能力を隠していても問題はありません。むしろ、南三局ではオーラが少しだけ漏れていたので、そこを注意すべきかと思います。…あれがわざとだったならごめんなさい。」

 

 

「え、ああ、うん。」

 

 

 

 

へっ?

 

 

 

 

 

 

能力って何?!オーラって何?!

 

 

一緒に来た憧ちゃんに助言を求めようにも、「咲の方が詳しいですし、咲が二人で話したいって言ってますから。」と、全然取り合ってもらえない。この会話が耳に入る距離にいるのなら、少しは解説を挟んでほしい。

 

 

能力とやらを隠す方法は不明だが、数週間前にも気配の隠し方を聞いてきたことを考えると、私を同類だと思っているのだろうか。それとも、彼女の設定では私が暗殺者にでもなっているのだろうか。

 

 

結局、その助言をもらった時は、意味が分からな過ぎて適当に話を合わせることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

そしてその咲ちゃんは、今回の休憩中にもすごいことを言ってきた。

 

 

「亦野先輩なら全て分かっているとは思いますが、後半戦の南場で、再び神様が降りてきます。

 

 

ですので、それまではマヨヒガの人を削りつつ、導火線を着火させないために適度に調子に乗らせておく。そして、神上げ以降は逃げに徹するのが一番だと思います。」

 

 

…咲ちゃんの中ではすでに一度神様が降りていたのか、とか時間まで詳しく分かる理由はなぜなのか、それぞれの暗号は誰もしくは何のことを表しているのか、とか聞きたいことは色々ある。

 

 

しかし、一番疑問なのは、

 

 

 

 

 

 

なぜ私に、そんなことが予想できると思っているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

先鋒後半戦開始

東場 永水女子高校 神代小蒔 85600

南場 宮守女子高校 小瀬川白望 120300

西場 姫松高校 上重漫 89900

北場 清澄高校 亦野誠子 104200




いきなり今回の咲さんの助言内容を聞かされて、麻雀に関する話だと理解できる人は何割くらいいるんでしょうか。私はできません。


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16翻役 宮永咲は憧れる

亦野は、白糸台で照に言われたからあんな打ち方になっただけで、そうでなければ普通に打てていたと信じています。能力云々は知らないままだと思いますが。


県予選の決勝戦に、亦野先輩が休憩中に控室へ戻らなかったという理由で、私が先輩への助言係に選ばれた。

 

 

それ自体は嬉しかったし、そこから先輩に下の名前で呼ばれるようになったため有り難かったが、困っていることがある。

 

 

先輩に有意義なアドバイスができていない。

 

 

せっかく選ばれたのだから、ちゃんと役割をこなしたい。でも今のところ、先輩がすでに知っているであろうことしか助言できていない。

 

 

一回戦の時でも今回でも、私の発言内容に驚いてこそいたが、それはあくまで新しい情報にではなく、私がその発言をしたことへの反応だった。

 

 

そこから推測するに、先輩はアドバイスの内容を知りたい訳ではなく、私が成長できているかどうかを知るために聞いてくれているのだろう。新子さんにも同じことを確認していたから間違いない。

 

 

 

 

今の自分では役に立てないことを改めて自覚し、奥歯を噛みしめた。

 

 

 

 

 

 

試合は後半戦になったが、先鋒戦とは思えないほど静かに進んでいく。

 

 

そしてそのまま南場に入ってしまった。先輩が誰も連荘させないのは分かっていたが、それを考慮しても宮守の点数は多い。

 

 

もしかして宮守を一位にして二位上がりを目指しているのか?と考え始めたが、南一局の終了後、永水の人が神様を再び降ろしたのを見て考えを改めた。

 

 

永水を落とそうとするのは得策ではない。

 

 

次鋒以降が弱いならまだ希望はあった。でもさすがに、団体戦でベスト4に入るほどの高校が欠陥を抱えているはずがない。全員があれくらいの強さを持っていると考えるべきだ。

 

 

するとやはり、ここから準決勝に出るためには、永水を諦めて宮守と姫松を落とすことが絶対条件になるだろう。そのためには、亦野先輩がいる時に少しでも点数を下げてくれるとありがたかったのだが…

 

 

 

 

 

そこから南二局と南三局は永水が和了した。二回とも倍満以上をツモっているのにも関わらず、誰も止められない。

 

 

今回は永水の親の後に神降ろしをしたため連荘はないが、もしタイミングが違えば先輩でもただでは済まなかっただろう。

 

 

そして南四局。このまま終わるのかと諦めた所で、

 

 

 

 

 

 

突然、回し打ちをしていたはずの亦野先輩が危険牌を連続で切り出した。

 

 

「へっ?危なっ!?」

 

 

その唐突な行動に、隣の新子さんが驚きの声をあげてしまったがこれはしょうがない。

 

 

前半戦でのあからさまな捨て牌は、姫松をオリさせたり永水を削るためのものだったが、今回の目的はそうじゃない。

 

 

むしろこれは他の二人、特に姫松を助ける一手。なら、何でそんな事をしたのかと言えば、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロン!」

 

 

火がついた姫松をフォローして、逃げ場を失った宮守を狙い撃たせるため。

 

 

…先輩は凄いな。

 

 

あの場にいたのが私なら、自分が先に上位に上がっておいて後は逃げる作戦しか思い浮かばなかった。もしその作戦を採用していたら、永水に三連続和了をされて大きく凹まされていただろう。

 

 

しかし、先輩はその先行を防いでしまった。それも偶然のように見せかけ、本気を隠したままで。

 

 

 

 

 

 

やっぱり私はまだ力になれそうにない。




書いているうちに、咲さんの亦野へ向ける憧れがどんどん大きくなってしまいました。


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17翻役 亦野誠子は勝負したい

この先鋒戦でのテーマは、「姫様はやればできる子」です。この先鋒戦で、姫様の魅力が伝わりましたかね?


結局あの後、咲ちゃんから大した助言がもらえないまま後半戦が開始した。

 

 

東場は特に問題がなく進んだ。いや、宮守との距離を縮められていないので問題ないとは言えないが、平常運転ではあった。間違いなく 平和( へいわ)ではあった。

 

 

異常が発生したのは南二局の開始頃。

 

 

今まで何かある度にわたわたしていて、常にほほえましい反応をしていた永水の反応がどんどん鈍くなっていき、最終的には必要最低限の言葉しか話さなくなってしまった。

 

 

それだけなら別に何ともなかった。確かに、嫌われたと思った時には少し傷ついたがそれだけだ。

 

 

他の二人も彼女の反応が変わった当初は不審がり、卓上に気まずい空気が流れていたがそれも徐々に元に戻っていくはずだった。

 

 

しかし、その局の六巡目、

 

 

「ツモ」

 

 

永水の人から出たとは思えない、機械的な声のトーンで三倍満に必要な役が揃った手牌を倒した。

 

 

そしてその勢いのままに、南三局も倍満を和了し、今までの点数を根こそぎ奪っていく。

 

 

…。

 

 

 

 

 

 

何で?何で?何で?!

 

 

何で終わりかけにこんなことになるの?!

 

 

さっきまで普通に打ってたよね?!

 

 

…これはあまりにもひどすぎる。さすがに運が悪いだけとは考えにくい。

 

 

なら、結論は一つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女が実力を隠していた。これしかない。私も昔、純とまこに同じことをやられていたから分かる。

 

 

つまり、先程までの優しい彼女はすべて演技。あざとい演技をしている裏では対戦相手の三人を嘲笑していたに違いない。

 

 

この説なら、急に態度が冷たくなったことにも合点がいく。対局が終わりかけになったために、性格を偽る必要がなくなったとでも考えたのだろう。

 

 

そして、次は私の親番。今までは私の親ではなかったため他の二人に比べれば痛くはなかったが、このままでは倍満のツモでも8000点が一気に毟り取られてしまう。

 

 

どうにかしたいが、こんなことができる相手に何かできるとは思えない。せいぜい良い手が来るように祈るくらいか、巫女さん相手に。

 

 

 

 

 

 

そして、運命の南四局。早そうな手が来てくれた。これなら勝てると思う。

 

 

今は親番、それも五巡目。まだ一向聴だが、ここで勝負せずにいつ勝負するか。覚悟を決め、危険牌を捨てる。

 

 

一枚目、当たらない。そしていらない牌が来る。

 

 

二枚目、一巡前にツモった牌を捨てる。当たらない。そして聴牌。

 

 

さっきの倍満と三倍満は、二回とも次の巡目で和了ってきたはず。気分の問題だが、ここでリーチ棒は出したくない。

 

 

考えた末、ダマで三人から待ち牌が出て来るのを待っていたが、

 

 

 

 

 

 

「ロン!」

 

 

先に宮守が姫松に振り込んだ。

 

 

 

 

…まあ、倍満以上を自模られるよりは良かった。

 

 

 

 

 

 

先鋒戦終了

永水女子高校 122300(+36700)

宮守女子高校 98000(-22300)

姫松高校 86300(-3600)

清澄高校 93400(-10800)




次回は副将戦ですかね。初めは中堅戦も書くつもりでしたが、ネキに独走されて終わる未来しか見えなかったので止めました。


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18翻役 井上純は取り返す

前回書いたように中堅戦の描写は省きますが、終了時点での点数をここに載せておきます。


永水女子高校 滝見春 108200(-6500)
清澄高校 新子憧 97900(-8400)
姫松高校 愛宕洋榎 114300(+21800)
宮守女子高校 鹿倉胡桃 79600(-6900)


ネキ「Vやねん!姫松」

+33400にするかどうか悩みましたがやめておきました。


憧が帰ってきた。今は何も無かったかの様にけろっとしているが、目を赤く腫らしていたのを隠しきれてねえ。

 

 

無理もない。

 

 

何せ、相手はあの姫松と永水。一昨年と去年のベスト4で、片方からは主軸選手が出てくる。だから、否が応でも全国に来たと実感させられる。

 

 

しかも自分の前には、誠子が全国を代表する選手と対局してマイナスを抑え、まこも地区大会和了率全国一位を相手に区間一位で帰ってきた。

 

 

それだけに、ここで良い流れを断ち切ってはいけないと焦っていたのだろう。その結果が愛宕の姉の一人浮き。前半戦から三人で必死に流していたが、それでもこの結果だ。

 

 

 

 

…しゃーねーな。今回は俺が敵を取ってきてやるか。

 

 

 

 

 

 

副将戦開始

東場 姫松高校 愛宕絹恵 114300

南場 永水女子高校 薄墨初美 108200

西場 清澄高校 井上純 97900

北場 宮守女子高校 臼沢塞 79600

 

 

これまでの試合を見る限り、明らかにやべえのは薄墨。北家の時に東と北を鳴いただけで四喜和を作ってくる。本来なら俺が止めなきゃならねえが、今回は臼沢がいる。

 

 

咲の話によれば、この片眼鏡女は相手の能力を封じることができるらしい。欠点として対局が長引けばガス欠を起こすらしいが、俺も手伝えば何とかなるだろう。いや、何とかするしかねえ。

 

 

つまり今回の勝負どころは、薄墨が北家、すなわち俺が親になるまでに臼沢と手を組めるか。ここで俺が標的にされでもすれば、確実にあの巫女集団に追いつけなくなる。

 

 

親の時に攻められないのは悔しいが、下家が臼沢という最悪ではない状況。こうなったら、前半戦は親番を捨ててでも、臼沢からの信用度を上げれるだけ上げておく。

 

 

 

 

 

 

そしてついに来た東三局。ここまでは上位二校の親番だったため、違和感なくお互いをアシストし、自然に手を組む流れにできた。

 

 

だから、この局はモノクル女へのアシストに専念しつつ、あの痴女を本当に止められるのかを見極める。無理そうなら、後半戦に薄墨が上家にならねえように祈っとくしかねえ。

 

 

「ポンですよー。」

 

 

と、一位の愛宕妹が巫女に差し込んだ。早和了りの自信があるのか、三位の俺を落としたいのか、それとも両方か。だが、まだ一枚。こっちも鳴いて、臼沢の手を早めておく。

 

 

「またまたポンですよー。」

 

 

再度聞こえた能天気な声とともに、風牌が運ばれる。これで、俺の左側に北と東の牌が晒されたことになる。

 

 

 

 

その瞬間、肌で察した。どこからか来た不穏なオーラが、この卓を、空間を包みこんでいる。

 

 

そして本能的に理解する。俺じゃこの流れは変えられねえ。俺だけじゃこれはどうしようもねえ。

 

 

絶望感に苛まれながらも、藁にも縋る思いで臼沢を見る。すると、

 

 

 

 

 

 

彼女の周りに防塞が見えた。

 

 

それだけでなく、眼からも異質さを感じる。気付けば、先程までの恐ろし気な空気はいつの間にか霧散していた。

 

 

防塞が薄墨の流れを完全に停止させている。その今まで見たことのない光景に、今は味方のはずの俺ですら、畏怖の念を抱いてしまった。

 

 

しかし、当の本人はその視線に気づいていないのか、対面を凝視したまま、

 

 

「ロン。6700」

 

 

この局を終わらせた。

 

 

 

 

…信じられねえ。本当にあんなオーラを塞ぎ切ったのかよ。俺の技術も向上させていけば、いずれはあんなことができるようになるのだろうか。

 

 

ともあれまだ三局目だ。緩まった気を引き締め、次局の配牌を取り始めた。

 

 

 

 

 

そして、勝負は後半戦に入る。前半とは違い、臼沢が親となる一局目に薄墨が動く。

 

 

だから、俺が何もしなくても問題はなくなったのだが、東一局は点数を下げ、薄墨が二度目のポンで余らせた牌を狙い撃つことにした。

 

 

まあ、これまで二回助けてもらったからな。これくらいは控室の奴らも許してくれるだろ。

 

 

ロンを宣言した際に臼沢が目で礼を言ってきたが、俺がなんとなくこうしたかっただけだ。

 

 

 

 

 

 

そのまま南場に入り、薄墨に警戒するのもこれで最後になる。臼沢にも疲れが見え始めたから、ここは早めに和了っておきてえ。

 

 

五巡目に北を鳴かせたが、それまで。愛宕妹も自分の稼ぎが少なく焦ったのか、それ以降は三人とも字牌を鳴かせていない。

 

 

これなら四人の単純な早さ勝負か、と薄墨から意識を外した次巡、

 

 

 

 

 

 

「カンですよー。」

 

 

…自分で鳴きやがった!?というより、暗槓でも問題なかったのか。これは不味いな。

 

 

油断していたつもりはなかったが、こうなったらしょーがねえ。せめて四種の風牌が揃う前に___

 

 

「ロンですよー。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…危なかった。南と西が来るのを諦めて、ドラを集めて多面待ちにしてやがった。愛宕妹が先にその牌を捨ててなかったら、次巡に俺が当たっていた。

 

 

今回はラッキーで済んだが、たまたま運が良かっただけ。これじゃ終われねえ。

 

 

残りは三局。憧のためにも、絶対一位で戻ってやる。

 

 

 

 

 

 

副将戦終了

宮守女子高校 84200(+4600)

清澄高校 108200(+10300)

姫松高校 106100(-8200)

永水女子高校 101500(-6700)




後書きに書くことがなかったのでこれを載せておきます。点数移動は原作と一緒です。


清澄高校 染谷まこ 106300(+12900)
宮守女子高校 エイスリン・ウィッシュアート 86500(-11500)
永水女子高校 狩宿巴 114700(-7600)
姫松高校 真瀬由子 92500(+6200)


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19翻役 宮永咲は足を慣らす

亦野の勘違い物が見たかったのに、それ以外の描写が多くない?と不満に思っている方がいればすみません。

私が一番そう思ってます。


大将戦開始

東場 清澄高校 宮永咲 108200

南場 姫松高校 末原恭子 106100

西場 永水女子高校 岩戸霞 101500

北場 宮守女子高校 姉帯豊音 84200

 

 

東四局までを怪しく思われない程度に流しながら、この中のどの高校が相手なら勝てるかを考察する。

 

 

姫松を持っていくと、中堅が確実に落ちる。別に新子さんが悪い訳ではなく、愛宕さんが強すぎるだけだ。私も、確実に勝てと言われたら無理だと即答する。

 

 

しかも、この大将は確実に速攻型。オカルトならいくらでもやりようはあるが、この人は単純に早い。周りに阿知賀の中堅みたいな、相手の火力を抑えるタイプの人間がいたら、まくるのは一気に難しくなる。

 

 

亦野先輩は稼ぐタイプではなく、中堅が落とされるのが分かっていて、終盤は早い。これ以上なく私たちのチームと相性が悪い。なので却下。

 

 

では、永水はどうか。これもまずい。

 

 

まず先鋒がおかしい。今回こそ先輩が機転を利かせてどうにかしたが、もし本気があれ以上なら、清澄より先に他が落ちる。それでは決勝は狙えない。

 

 

次に副将。こちらも井上先輩の話によれば、今回は運が良かっただけらしい。次は確実に四喜和が飛んでくるとのこと。やっぱりおかしい。

 

 

そして大将。姫松よりも相性は良いが、役満を連発された後に追いつける相手ではない。以上の結果より、永水も却下。

 

 

一方、宮守はどうか。先鋒こそ先輩に痛い目を見せられて警戒しているが、それくらいなら先輩がどうにかしてくれる。次鋒は相性抜群で、中堅、副将共に手を組んだ相手なので他の二校を落としやすい。完璧だ。

 

 

唯一の欠点は、今最下位であるために、二位に上げれば私の実力がばれる可能性がある事と、大将がまだ何かを隠している事。けれども、それだけなら充分に、いや十二分にお釣りがくる。

 

 

むしろ、最終的には本気のお姉ちゃんと戦う訳だから、私の実力を一度は確かめておきたい。そう考えれば、この三人の強豪は試運転にもってこいだ。

 

 

連れていく相手も決まり、わくわくしながら本気を出す準備をし始める。南場から暴れるのが一番かな、と考えたところで、

 

 

姫松が宮守に削られていた。まだ何もしてないのに。

 

 

大将前半戦終了

清澄高校 宮永咲 109700(+1500)

姫松高校 末原恭子 89500(-16600)

永水女子高校 岩戸霞 105500(+4000)

宮守女子高校 姉帯豊音 95300(+11100)

 

 

 

 

 

 

そして迎えた後半戦。

 

 

しかし、さっきまでとは違い本気を出す気はなくなっている。その理由は、休憩時の会話。

 

 

どうせ本気を出す前に前半が終了したのなら、と急いで控室に戻り、亦野先輩の意見を聞いてみることにしたのだ。

 

 

「今回の相手になら、能力を解禁してもいいと思いますか?」

 

 

という訳で質問をしたのだが、

 

 

「えっ、あー、…今はまだやめておいた方がいいんじゃない?」

 

 

「ほら、えーと、相手が咲ちゃんと同じレベルの人間だと分かるまでは隠しておいた方がいいと思うから。」

 

 

やんわりと否定されてしまった。

 

 

なので、第二シードの臨界女子がいる準決勝に行くまでは、本気を出さないことにする。

 

 

 

 

 

 

 

そして東一局二本場、ついに、永水が奥の手を出してきた。発動させたのは、他家を絶一門にする能力。相手がノーガードになったのは大きいが、こちらが一発で受ける被害も大きくなった。

 

 

一度失敗すれば宮守はおろか、清澄でさえ危ない。これを処理しながら宮守を上げるのはさすがに骨が折れるが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本気を出す前のウォーミングアップには、ちょうどいい。

 

 

 

 

 

 

大将戦終了

東場 永水女子高校 103300(-2200)

南場 清澄高校 108100(-1600)

西場 姫松高校 85000(-4500)

北場 宮守女子高校 103600(+8300)




今回は難産でした。ええ、難産でしたとも。どの高校も残したくて、筆が全く進みませんでした。


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20翻役 亦野誠子は見守りたい

今回で二回戦は終了です。全部がこういうシーンなら書きやすいんですけどね。

後、今回は二千字を少し超えちゃいました。すいません。


大将戦の休憩時間、嬉しそうな表情の咲ちゃんが、アドバイス係の憧ちゃんに案内してもらいながら控室へ相談をしに来た。

 

 

「今回の相手になら、能力を解禁してもいいと思いますか?」

 

 

いつものアドバイスとは違い、この言葉の意味は理解できる。

 

 

要するに、「友達になりたい人がいるので、こちらも性格を隠さずに話しても良いと思いますか?」と聞いているのだ。

 

 

県予選の決勝戦でも、同じ様な質問をした後に龍門渕の難しい言葉を使う子と仲良くなっていたから、気の合う相手になら積極的に行けるらしい。

 

 

今回の相手は宮守の大将だろうか。ロンを宣言したときにわざわざ帽子を深く被り直していたし、咲ちゃんも何度かチラチラと見ていた。何か通じるところがあったのかもしれない。

 

 

そしてもちろん、今回も咲ちゃんに友達が増えるのは大歓迎だ。しかし、

 

 

「えっ、あー、…今はまだやめておいた方がいいんじゃない?」

 

 

対局中に恥ずかしい言動を晒すのは許容できない。そんな事をすれば、確実にテレビに映って記録に残ってしまう。

 

 

ご家族も見ているだろうし、その映像を治った後で見て後悔するのは咲ちゃんだ。暴露するのなら試合後にした方が良い。

 

 

「ほら、えーと、相手が咲ちゃんと同じレベル(妄想力)の人間だと分かるまでは隠しておいた方がいいと思うから。」

 

 

それに、相手がまだ同じ症状の人だとは限らない。あの時は単純に帽子を被り直したいだけだったのかもしれない。引かれてしまわないためにも慎重に行くべきだ。

 

 

何とか言いたい内容をオブラートに包んで助言すると、咲ちゃんも納得してくれた様だ。そのまま嬉しそうに会場へ戻っていった。

 

 

 

 

 

 

そうして大将戦が終わった。危ないところもあったが、清澄はなんとか一位を死守できていた。

 

 

大将の咲ちゃんには毎回ひやひやさせられるが、なんだかんだ一位抜けしている。しかも、友達候補のいる宮守も二位に付けている。運がいい。

 

 

みんなで喜びを共有しながら待っていると、咲ちゃんが色紙を持って部屋に帰ってきた。

 

 

何でも、先程友達になりたいと言っていた姉帯さんから記念のサインを頼まれたとか。敗退した二校にも頼んだらしい。書き終えた後に、宮守女子高校の控室への道案内をしてほしいとお願いされたので、もちろん了承する。

 

 

待っている間、せっかくなので姉帯さんと友達になれたのかをさりげなく聞いてみた。

 

 

「咲ちゃん、姉帯さんとはどうだった?」

 

 

彼女はその質問に、手を止めてこそいないが、顔いっぱいに喜びを表しながら答えてくれた。

 

 

「はい! とっても相性が良かったので、次はもっと上手くやれると思います。」

 

 

どうやら仲良くなれたらしい。さすがにいきなり友達にはなれなかったらしいが、幸運なことに次も一緒の卓に着く。あせらずに少しずつ距離を縮めていけばいい。

 

 

嬉しそうな咲ちゃんをほほえましく見守っていると、どうやら書き終えた様だ。なので、早速一緒に渡しに行く。

 

 

 

 

 

 

そして宮守女子高校の部屋に入ると、

 

 

「わー!ありがとー、宮永さん!ちょーうれしいよー!」

 

 

満面の笑みで姉帯さんが迎え入れてくれた。そしてそのまま、咲ちゃんと姉帯さんの二人で話し始めてしまった。二人は予想以上に仲良くなれているのが見て取れる。

 

 

咲ちゃんが部屋の奥に行ってしまったことで一人ぼっちになってしまったが、そんな空気を察してくれたのか、副将の臼沢さんが話しかけてくれた。

 

 

彼女の事は、試合中にしていた片眼鏡のインパクトが強かったので覚えていた。今は外しているが、それで見えているのだろうか。簡単な挨拶をしてから早速聞いてみる。

 

 

「そういえば、あの片眼鏡はどうしたのですか?さすがに見えないと不便では?」

 

 

すると彼女は、敬語を外して話してもいいかと聞いてきた後、気まずそうな顔をしながら答えてくれた。

 

 

「あー、あれね。実は、私のじゃなくてさ。視力には関係ないから安心してよ。」

 

 

そう言って後ろを指差す。その先では、同じ眼鏡を掛けているおばあちゃんがこちらを見ていた。その状況から、この人は試合中におばあちゃんの片眼鏡を借りていたと予想できた。

 

 

そして、そこまで考えたところで閃く。

 

 

 

 

 

 

もしかして、この人も咲ちゃんや姉帯さんと同類なのでは?

 

 

彼女はおばあちゃんから片眼鏡を借りて試合に出ただけでなく、試合中にも執拗に眼鏡を拭いていた。絶対そんなに曇らないのに。しかもポーズも決めていた。そのポーズがカッコよく感じているのだろう。この予想には自信がある。

 

 

そこまで考えて部屋を見渡す。すると、また新たな考えに辿り着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宮守女子高校って、そういう人たちの集まりなのでは?

 

 

思い返してみれば、そう思い当たるだけの理由があった。

 

 

小瀬川さんだ。試合中に何度も「…ダル。」と言いながら頭を抱えていた。あの時は頭が痛いのかと心配していたが、今見ても誰も心配していない。つまり、あれは彼女の決めポーズ。口癖もクールなのが格好いいと思っているに違いない。

 

 

鹿倉さんとエイスリンさんだけは不明だが、前者は自身を充電する必要があるとか言っていた。アンドロイド的な設定が気に入っているのだろう。

 

 

後者は絵を描いているからアニメーターでも目指しているのだろうか。ペンを両耳に掛けているのは、アニメの影響を受けて、ペンがミサイルになると考えているのかもしれない。

 

 

するとちょうど咲ちゃんが戻ってきたので、そのまま挨拶をしてから部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

…咲ちゃんに友達候補を考え直させるべきかもしれない。




亦野(一人で仲良くしたい子のところに行くのは緊張するからね。)

咲(敵情視察なら、やっぱり亦野先輩もいた方が確実かな。)


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Aブロック準決勝編
ドラ1 園城寺怜は感謝する


今回から準決勝です。ここから収支の絶対値がインフレしてきます。


しんどいなあ…。

 

 

誰や、「次はまだ準決勝やし、そない体力使わんでも勝てるやろ!」なんて言うたん。

 

 

この面子相手に、素の実力三軍どまりのうちが、能力なしでどうせえっちゅうねん。

 

 

 

 

 

 

先鋒戦東四局

東場 阿知賀女子学院 小走やえ 97000(-3000)

南場 千里山女子高校 園城寺怜 107700(+7700)

西場 新道寺女子高校 花田煌 92500(-7500)

北場 白糸台高校 大星淡 102700(+2700)

 

 

あかんな。大星のせいで、毎局能力を使わな止められへん。しかも、小走はうちが消耗するのを二回戦で知ってるからか、山が角に行く直前まで止めへんつもりや。

 

 

唯一の希望は新道寺の花田やけど、この人、二回戦は大星相手に喰いタンでごり押しして局を進めてたからなあ…。

 

 

!言うてる間にまた大星がツモるやんか。

 

 

「チー!」

 

 

これでなんとかズラせ___

 

 

「ロン」

 

 

…小走か。ほんま、これやから関西人は。うちが見たらんかったら自分も損してたんやで?その捨て牌ぐらい見逃してえな。

 

 

 

 

 

 

そのまま南入してなんとかうちがトップやけど…あかんな。この局の大星は止まらへん。うちの手牌はボロボロやし、小走も鳴きすらせえへん。

 

 

ここで大星に和了されたら、今までのこまごましたやりとりが一気にパアや。なんとかしたいところやけど、これは

 

 

「ポンッ!」

 

 

…花田か。たぶんやけど、今のうちらの状況を察して鳴いたんか。せやけど、これはどうにも

 

 

「チー!」

 

 

せやから無理やて。なんで諦めへんねん。次も鳴くつもりやろ?それじゃあ、

 

 

「チー「ポン」…!」

 

 

小走が鳴いた?さっきまでの未来ではそこ差し込んでも鳴かへんかったはず。っていうか何でわざわざ暗刻から崩して…?

 

 

 

 

!いや、なるほどな。これで大星の和了り牌がこっちに来た。しかも、今のチー不発で花田の鳴きの片方が分かったから差し込める。つまり、うちの役目は、

 

 

「ポンッ!」

 

 

もう一組を鳴かせることや。これで小走が差し込めば…

 

 

「ロンッ!」

 

 

止められるわけや。ありがとうな、花田さん。ほんまに助かったわ。神様、仏様、花田様や。

 

 

 

 

 

 

ほんでそのまま二回目のオーラス。

 

 

大星を止められへん事はちょくちょくあるけど、残りの面子のおかげでうちへの被害はほとんどない。

 

 

うちを研究してる小走も、毎回毎回止められる訳やない。一番被害を被ってる花田さんには悪いけど、なんとかなりそうや。

 

 

後半も花田さんに止めてもらった場面があるから、試合が終わっても頭が上がらへん。

 

 

「リーチ」

 

 

せやけど、それはそれ。勝負の世界は非情やからな。

 

 

「ツモ」

 

 

堪忍な。

 

 

 

 

 

 

先鋒戦終了

東場 白糸台高校 109100(+9100)

南場 阿知賀女子学院 105800(+5800)

西場 千里山女子高校 116900(+16900)

北場 新道寺女子高校 68200(-31800)




言い忘れていましたが、Aブロックでした。

本編以上にあっさりと終わると思いますが、こっちも書きたくなりまして。

この一話で、この四人のすばらなところが伝われば良いのですが。


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ドラ2 原村和は再会する

ここでもやっぱり次鋒は飛ばされます。なんでこんなに飛ばしやすいんですかね?キャラは魅力的なんですけど。

後、点数を確認して安河内さんの強さに驚いています。お姉ちゃんに隠れていただけで、さすが新道寺。後になるほど強いらしいので、中堅はもっと強いんでしょうね。


次鋒戦終了
白糸台高校 弘世菫 123900(+14800)
阿知賀女子学院 鷺森灼 103500(-2300)
千里山女子高校 二条泉 87500(-29400)
新道寺女子高校 安河内美子 85100(+16900)


「久しぶり…だね。元気だった?」

 

 

対局の開始を待っていると向かいに座ってきた玄さんから声がかかる。

 

 

「そうですね。玄さんもお元気そうで良かったです。ドラを集める能力もお変わりないようで。」

 

 

そう言うと、彼女は大げさに驚いてきた。以前の私しか知らないので、無理もありませんが。

 

 

「これくらいで驚いてもらっては困ります。」

 

 

「で、でもっ。」

 

 

彼女の狼狽ぶりを見るに、性格も全く変わっていないらしい。

 

 

 

 

 

 

そうして話しているうちに、他の選手も卓に集まってきた。そろそろ会話も切り時か、と惜しみながらも締めようとすると、

 

 

「和ちゃんっ!

 

 

お互い、全力で打とうねっ!」

 

 

笑顔でそう言ってきた。…先程の評価を訂正しよう。彼女は、少しだけ積極的になっていた。

 

 

「…そんな約束はできませんが、私自身はできるだけ頑張るつもりです。」

 

 

「…!こっちこそっ!」

 

 

中堅戦開始

東場 新道寺女子高校 江崎仁美 85100

南場 阿知賀女子学院 松実玄 103500

西場 千里山女子高校 江口セーラ 87500

北場 白糸台高校 原村和 123900

 

 

 

 

 

 

試合は一度目の南四局に入るが、千里山に稼ぎ負けている。

 

 

そもそも、私の役割はオカルトを使って得点を稼ぐ人への対策。千里山は単純な運だけでここまで来ているので、対策の打ちようがありません。玄さんが得点を下げているのが救いですか。

 

 

今のところ、早和了りでなんとか連荘できていますが、決して油断はできません。もし、千里山か玄さんに翻の高い役を一回でも自模られれば、今までの貯金が一気に消えてしまいます。

 

 

「リーチや!」

 

 

…ここで千里山のリーチですか。彼女は一発とツモの確率が非常に高い。本来ならここは鳴くべきですが、今の私にはその材料がない。なら、このツモが一発でない可能性を考えて、より早く流せる可能性に賭けるしかありませんね。

 

 

「おいおい、ええんか?ツモってまうで?一発付いてまうで?」

 

 

「…試合中の三味線はルール違反ですが。」

 

 

「なんや。ただの質問やんけ。さっきまで必死に一発を止めてたやろ。」

 

 

…新道寺が鳴かなかったのでここは止められませんでしたね。そのまま、気持ちが諦めに向かうのを自覚した時、

 

 

「カンっ!」

 

 

玄さんが鳴いてきた。

 

 

 

 

…玄さんが槓?珍しいですね。鳴いてくれるのはありがたいのですが、それでは自分の手を縮めるだけでは?

 

 

「なあっ!?」

 

 

しかしその予想に反し、山を見た千里山からは絶望が伝わってきた。

 

 

…?槓だけで?確かに一発が消えてしまった気持ちは分かりますが、なにもそこまで…

 

 

いえ、もしかして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新しいカンドラが唯一の和了り牌でしたか?

 

 

…こんな方法で和了を止めてくるのはさすがに予想外です。後で効率を計算し直す必要がありそうですね。

 

 

ですがそれ以上に、ドラが増えて玄さんの手が恐ろしいことになっている可能性があります。ここは自摸られる前に___

 

 

「ツモっ!」

 

 

…ドラ6赤2。今までのプラスが全て消えてしまいました。

 

 

 

 

 

そして後半戦南入。

 

 

先程の分もようやく取り返せそうで

 

 

「ポンっ!」

 

 

…今度はポンですか。さすがに赤があるとはいえ、ドラでない五筒を鳴くのはリスクが高いのでは?

 

 

「カンっ!」

 

 

再度のカン。先程の一撃に味を占めている?それなら、付け入る隙はありそうですね。

 

 

そう考えたが、その余裕はすぐに消えた。

 

 

 

 

 

 

カンドラもろ乗り。

 

 

…中々の、偶然ですね。

 

 

 

 

 

 

中堅戦終了

阿知賀女子学院 132500(+29000)

新道寺女子高校 54000(-31100)

白糸台高校 106700(-17200)

千里山女子高校 106800(+19300)




玄ちゃんがかわいすぎて上手く表現できない

→つまり玄ちゃん視点にできない

→でも玄ちゃんのセリフはいっぱい入れたい

→せや! ←今話のコンセプト


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ドラ3 高鴨穏乃は兆候を見せる

副将戦終了時点
阿知賀女子学院 松実宥 143100(+10600)
新道寺女子高校 白水哩 83800(+29800)
白糸台高校 渋谷尭深 81800(-24900)
千里山女子高校 船久保浩子 91300(-15500)


こうして一つ一つの結果を書いていくと、新道寺の点数の荒れっぷりがよく分かります。


ついに大将戦が始まる。

 

 

和には会えたけど、憧にはまだ会えていない。彼女に合うためには、この準決勝を二位以上で終える必要がある。

 

 

幸いにも、みんなのお陰で貯金は潤沢。並大抵の相手になら、確実に一位抜けできる自信がある。しかし、相手は全員が全国トップレベル。

 

 

新道寺の鶴田姫子。千里山の清水谷竜華。そして、白糸台の宮永照。

 

 

今から私は、この三人から逃げ切る。逃げ切って、赤土さんのトラウマを晴らして、決勝に行く。

 

 

 

燃えてきた。

 

 

 

 

 

 

大将戦開始

東場 白糸台高校 宮永照 81800

南場 新道寺女子高校 鶴田姫子 83800

西場 阿知賀女子学院 高鴨穏乃 143100

北場 千里山女子高校 清水谷竜華 91300

 

 

席順が決まった時点で安堵の息を吐く。その理由は二つ。

 

 

一つはチャンピオン。彼女は、前半の東一局には和了をしないらしい。今回は起家なので、親を一回飛ばせた事になる。

 

 

二つ目が新道寺の鶴田さん。副将戦では、前半の南三局と後半の東四局にリザベーションをクリアされていたから。結果、大将戦での倍満と三倍満が確定してしまっていたらしいが、前半南三局の倍満が親の時でなくなったのはとても嬉しい。

 

 

そんな事を考えているうちに全員の手元に牌が13枚揃ったため、配牌を見る。五向聴。なんとか和了りたいが、他の二人の早さを見る限り、追いつけそうにない。

 

 

その局はそのまま清水谷さんにツモられた。気を引き締めて東二局に入ろうとした瞬間、

 

 

 

 

気味の悪さを感じた。

 

 

自分のすべてを見られている気がする。これがチャンピオンのなんとか鏡か。

 

 

赤土さんに聞いていたから動揺せずに済んだが、もしこれがいきなりだったなら、思わず振り返っていたかもしれない。

 

 

そしてこれを使ったということは、

 

 

チャンピオンによる怒涛の連続和了が始まる。

 

 

 

 

 

 

あれから連荘が終わらない。分かってはいたが、誰も止められない。

 

 

少しずつ上がっていく点数が、綿で首を締められているような気持ちにさせてくる。

 

 

どうすればこの地獄が終わる?いつ抜け出せる?

 

 

心の中で自問自答を繰り返していると、混一色を揃えているであろう下家が、牌を余らせているのが見えた。その時、ある考えが浮かぶ。

 

 

下家の高そうな手を助けるか?

 

 

突拍子もない案にかぶりを振るが、思考は続く。

 

 

このままでは、ずっと終わらないのではないか?

 

 

下家への支出は、この独り舞台が終わるまでの損失よりも小さいのではないか?

 

 

迷いつつも、つい、相手が求めていると思われる一つに手を掛けてしまう。

 

 

この親さえ、この親さえ凌げば、前半を終わらせることができ___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこで、

 

 

みんなの顔が浮かんだ。

 

 

 

 

凌ぐ?終わらせる?

 

 

ダメだ。そんな気持ちでは駄目だ。

 

 

東一局に清水谷さんがツモリ、そこからチャンピオン、そして、鶴田さんの倍満と三倍満が確定している。このペースでは絶対に追いつかれる。

 

 

強い相手だとは知っている。けど、それを理由にして逃げに走るのは違う気がする。

 

 

なら、私はどうしたい?

 

 

決まってる。

 

 

勝ちたい。決勝に行って憧に会って、みんなで戦って、赤土さんの悲願を叶えたい。

 

 

 

 

 

 

そう、自分に素直になった瞬間、卓の景色がさっきまでとは変わって見えた。

 

 

上家の鶴田さんも、下家の清水谷さんも、目の前のチャンピオンも。そして、自分の掴んでいた牌も。

 

 

あまりの変化に、思わず自分の頬を思いっきり叩く。そして感じる。

 

 

これなら、戦える。

 

 

 

 

 

 

大将戦終了

阿知賀女子学院 132600(-10500)

千里山女子高校 71400(-19900)

白糸台高校 133900(+52100)

新道寺女子高校 62100(-21700)




今回で阿知賀編準決勝は終了です。

そして、阿知賀と白糸台のオーダーを真面目にしすぎたと少しだけ後悔しています。そう考えれば、原作での亦野を副将に据えた采配は、天の才がなせる業でしたね。


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Bブロック準決勝編
21翻役 辻垣内智葉は狙いを定める


UAが一万を突破していてびっくりしました。再度、この場を借りてお礼を言わせていただきます。拙い文章ですが、少しでも楽しんでいただけると幸いです。


また、準決勝を書くにあたって、宮守のメンバー記事を見ていたのですが、

・クール系イケメン
・付き添ってくれる系幼馴染
・金髪留学生
・マスコットキャラ
・ミステリアスな年上女性
・隠れ(伝説的な意味で)キャラ


…控えめに言って、ギャルゲーでは?


先鋒戦開始

東場 有珠山高校 本内成香

南場 清澄高校 亦野誠子

西場 宮守女子高校 小瀬川白望

北場 臨海女子高校 辻垣内智葉

 

 

「チー」

 

 

対局が開始してすぐの二巡目、清澄が鳴いてきた。中張牌を晒した事、河に一九牌を捨てている事から、喰いタンを目指していると予想できる。

 

 

そしてそれを見て、宮守が捨て牌に悩みだした。

 

 

「…ちょいタンマ。」

 

 

…まだ二巡目だぞ?こいつの能力が本物なら、清澄がもうすぐ張るのか、それともまだ巡目に余裕があるのか。

 

 

「…変だけど、これで。」

 

 

そして河に出したのは、タンヤオ牌。早和了りに当たる前に捨てたかったのか?

 

 

「ポン」

 

 

しかし、清澄が二度目の鳴きをしたことで考えを改める。なるほど、この局は勝てないと踏んで、安目の清澄を助けることにしたのか。

 

 

 

 

舐めるなよ。

 

 

この程度に勝てなければ、個人戦三位になどなれていない。

 

 

「チー「ポン」」

 

 

清澄の再度の鳴きを潰し、より早く手を仕上げる。本来の形よりは安く、和了りにくくなったが、それでも充分、

 

 

「ツモ」

 

 

めくり勝てる。

 

 

…しかしながら、違和感が残る。勝てたにも関わらず、釈然としない。

 

 

清澄は二回副露していた割には遅かった。よほど待ち牌が悪かったのか?

 

 

ふと対面の顔を見るが、その表情は他の二人に比べて悔しさが浮かんでいない。それどころか、小さく笑っている。

 

 

これは…嵌められたか。

 

 

 

 

 

 

あれから何度も自摸と栄和を繰り返すが、予想していたよりも点数を稼げていないまま、前半戦のオーラスを迎える。

 

 

やはり、清澄か。

 

 

有珠山はあり得ない。宮守の流しの技術だけでは説明がつかない。そして何よりも、最初の局からの違和感がある。

 

 

私の今までの経験から予想するに、こいつは自分で動くことはないが、相手を動かすのが非常に上手い人間だ。誰にも気づかせずに、自分の思い通りの結果を手に入れるタイプ。

 

 

二回戦のオーラスでは、永水にツモられる前に姫松を使う事で、清澄への被害をなくした。そして今回も、宮守を使って何度も点数を下げ、流してきた。

 

 

そして同時に、清澄の全試合で連荘がなかったのも納得がいった。何て事はない。こいつが常に、親以外に和了させる事を第一優先に動いていただけだ。

 

 

この連荘封じからは、僅かにではあるがオーラを感じられる。これほどの実力者の全力がこの程度とは考えられないため、いまだに実力を隠しているのだろう。

 

 

つまりは、まだ本気を出していない、舐められている。その事実にどうしようもなく腹が立つ。

 

 

しかし、永水の神代でも抗えなかったため、無理に親番を狙うのは愚策。とはいえ、決勝にも着いて来られるのも問題だ。

 

 

なら、稼ぐよりも清澄を落とすことに注力するか。

 

 

後半にやることは決まった。奴には、一度も本気を出させないまま退場させてやろう。

 

 

 

 

 

 

先鋒前半戦終了

有珠山高校 86300(-13700)

清澄高校 92900(-7100)

宮守女子高校 95600(-4400)

臨海女子高校 125200(+25200)




辻垣内(…嵌められたか)

亦野(諦めすぎて変な笑いが出てきた)


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22翻役 本内成香は懐疑する

準決勝でのテーマは、「憧ちゃん、咲さんの本気」です。なので、とりあえず亦野を沈ませます。…前回の前書きに書いておくべきでした。

上の文で結果は分かったと思うので、今回は後半戦終了までを先に載せますね。


後半戦が始まる前に、改めて点数を確認する。映っている数字は何度見ても86300。二回戦よりも点数は減っていません。

 

 

でも、二回戦の時以上に怖さを感じます。辻垣内さんが優しくしてくれた訳ではなさそうです。

 

 

なら、なぜ?

 

 

 

 

 

 

先鋒後半戦開始

東場 宮守女子高校 小瀬川白望 95600

南場 臨海女子高校 辻垣内智葉 125200

西場 有珠山高校 本内成香 86300

北場 清澄高校 亦野誠子 92900

 

 

「ロン」

 

 

東一局、早速辻垣内が亦野さんから和了ってきました。でも、その牌は二巡前に私が捨てたはず…。さっきからの殺気といい、彼女に因縁でもあるのでしょうか…?

 

 

 

すぐに二局目に入りましたが、ここでは、

 

 

「…ツモ。」

 

 

亦野さんが何度も鳴いてから、小瀬川さんの自摸。

 

 

また親が移動しましたが、この試合中ずっと、亦野さんと小瀬川さんのコンビ打ちか辻垣内さんの和了りしか見ていないような気がします…。

 

 

 

 

 

 

そのまま南一局。上家の辻垣内が沢山鳴いてくれたおかげで、ようやく素敵な手が入りました…。

 

 

これを決められれば満貫ですが、そう簡単に決まるとは思えません…。

 

 

「…!ロン!」

 

 

亦野さんから出ました!捨て牌からあからさまだったので期待はしていなかったのですが…。

 

 

…?辻垣内さんがなぜか、亦野さんに挑発するような目をしています。和了したのは私なのに。

 

 

…いえ、なるほど。私の栄和は仕組まれたものでしたか。彼女がこの局で多く鳴いたのは、少しでも清澄高校を削るため。そのために、私の手が利用されたと。

 

 

そのこと自体に思うところはありませんが、それほどまでに清澄、いえ亦野さんを狙っている理由が気になります。

 

 

 

 

 

 

やっと南二局までが終了しました。結局、辻垣内さんは親の時以外のほとんどを和了していた気がします…。しかも、点数を下げてでも亦野さんを狙っていた局もありました…。

 

 

もし、あれが私に来ていたらと思うと…。南場を見る事がなく終局していた自信があります。そう考えれば、亦野さんもすごく強い人なのかもしれません。

 

 

そんな事を考えながら手牌を揃えましたが、手牌が九種九牌の条件を満たしていました。私に被害が及んでも困るので迷わず宣言します。

 

 

「きゅ、九種九牌です!」

 

 

その宣言に、辻垣内さんが驚いた表情で亦野さんを見ます。しかし、これはただの偶然でしょう。彼女も運がいいですね。

 

 

そのままオーラス。辻垣内さんの親番ですが、亦野さんの方は険しい顔をしています。配牌が良くなかったのでしょうか。

 

 

このままでは、また辻垣内さんに狙われ___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…九種九牌です。」

 

 

えっ?

 

 

 

 

…この最後の二局。本当に偶然、でしょうか。

 

 

 

 

 

 

先鋒戦終了

宮守女子高校 99500(+3900)

有珠山高校 81600(-2700)

清澄高校 74900(-18000)

臨海女子高校 142000(+16800)




四風連打は親連荘と書いてありましたが、九種九牌については見つからなかったので、ここでは親流しにしておきました。…描写はなかったですよね?


以下にいつもの次鋒戦の結果を載せておきます。

次鋒戦終了
臨海女子高校 郝慧宇 153700(+11700)
有珠山高校 桧森誓子 77400(-4200)
宮守女子高校 エイスリン・ウィッシュアート 101000(+1500)
清澄高校 染谷まこ 65900(-9000)


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23翻役 宮永咲は奥の手を知る

今回は勘違いが少なかったので、亦野視点はお休みです。彼女は多分、控室に帰れずにその辺をブラブラしてます。


不味い。

 

 

先鋒戦終了時の点数を見てから、勝手に焦燥に駆られている。

 

 

別に最下位だったのは構わない。先輩はただ、ここで一位になっても臨海が付いてくる事を考慮し、決勝戦まで強さを隠し通す方を選んだだけだろう。それに、収支こそいつもマイナスだが、ちゃんと私たちが捲れる範囲を考えてくれている。

 

 

問題なのは、去年のベスト4が 清澄( こっち)に標準を合わせている事。

 

 

前の永水でも安定して勝てる自信がなかったから落としたのに、今回はそれよりも上。

 

 

そしてそのせいで、亦野先輩も最後の二局は本気を出させられていた。恐らく、あれ以上削られると私たちが巻き返せなくなると考えたのか。

 

 

…悔しいがその通りだろう。

 

 

画面の向こうで闘っている染谷先輩も難しそうだ。相性だと言われればそれまでだが、この調子だと区間最下位になると思われる。

 

 

「…咲?」

 

 

憧ちゃんも稼げるとは思えない。つまり、井上先輩と私がどうにかしなければいけない。

 

 

それは理解しているが、私も宮守の大将の能力解析が終わっていない。せっかく、二回戦の後に先輩に頼んで一緒に偵察をしてもらったのに、まだ確信には至れていない。

 

 

…これなら、姫松を連れていくべきだったか?

 

 

「咲!」

 

 

と、呼ばれていたらしい。急いで表情を繕い、憧ちゃんの方へ顔を向ける。ただでさえまずいこの状況で、彼女に更なる不安を与えるのは宜しくない。

 

 

「あっ、ごめんね。ちょっとぼーっとしてて。」

 

 

「…大丈夫?顔真っ青だけど。」

 

 

…流石に顔色までは誤魔化せなかったか。私はまだ、亦野先輩とは違ってそこまではできないみたいだ。

 

 

「…咲がそこまで不安になるってつまり、このままじゃ勝てないってことよね。」

 

 

言葉に詰まる。

 

 

答えられない。言える訳がない。この状況での最善策は、憧ちゃんに早く流してもらって私が稼ぐ事。私が、私が五万点くらいプラスにできなければ敗退はほぼ確実で___

 

 

 

 

 

 

「…しょうがない。アレを使うわ。」

 

 

 

 

…"アレ"?

 

 

「前回までは先輩たちに止められてたし、私も決勝までとっておきたかったから使わなかったけど、仕方ないか。」

 

 

先輩たちも知っていると。つまり、知らなかったのは私だけ?

 

 

「ほら、咲も誠子先輩も普段は強さを隠してるでしょ?それに思うところはあるけど、戦略としては有りかなーって。」

 

 

でもおかしい。亦野先輩や私は強さを隠してると言っても、それは能力があって初めて出来る技だ。つまり、

 

 

「憧ちゃんも能力持ちだったの?」

 

 

思わず疑問が口から出たが、彼女は笑って返してきた。

 

 

「違う違う。私のは…いや、やっぱり楽しみにしておいて。」

 

 

自分で質問しておいてなんだが、今その中身はどうでもいい。この状況で私が知りたいのはただ一つ。

 

 

「それを使ったとして…勝てるの?」

 

 

その瞬間、ここでそんな質問をすべきではなかったと後悔したが、彼女はニヤリと口角を上げて返答する。

 

 

 

 

 

 

「勝つわ」




という訳で、ここの憧ちゃんは原作とは異なる方向に成長しています。こういうのも原作改変の醍醐味だと思うんですよ。


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24翻役 岩館揺杏は安手で和了る

今さらですが、ここまで書いた時点で、最終話の方向性は全く考えていませんでした。

そろそろ焦りが出てきていた頃ですね…。


今んとこ、私たち有珠山高校は絶好調。打倒はやりんへの道を順調に進んでいる。

 

 

なにせ、次鋒戦が終わっているのに最下位ではない。臨海の先鋒の矛先が、ずっと清澄を向いていたのが大きい。

 

 

二回戦の東白楽といい、今回の清澄といい、このチームは運がいいのかもしれない。

 

 

中堅の面子を見ても、先鋒と次鋒よりかはヤバくなさそうだ。とはいえ、ここで沈んでしまえば意味がない。

 

 

一応祈っておこう。"求めよ、さらば与えられん" …だっけ。

 

 

どうか、私たちに、勝利を。

 

 

中堅戦開始

東場 宮守女子高校 鹿倉胡桃 101000

南場 清澄高校 新子憧 65900

西場 有珠山高校 岩館揺杏 77400

北場 臨海女子高校 雀明華 153700

 

 

 

 

 

 

って、和了れねー!超ウケる…いや、全然笑えない。

 

 

何て言うか、もう全員がやべー。臨海は二回戦でもう分かってたけど、対局前には空から降りてきたし、対局の間にも突然歌い出した。チカが言うには、元の国なら対局中でも平気で歌うらしい。外国ってやべー。

 

 

他の二人に比べればまだましだけど、宮守のちっさいのも怖えー。どんな形でテンパイしても絶対ダマにしてくるせいで、いつ攻めても当たられる気がする。

 

 

で、この中で一番おかしいのが清澄。二回戦までは普通の鳴き麻雀をしてたくせに、今は全く違う。目をすっげえギラギラさせながら、イカれてるとしか思えない鳴きをして、めちゃめちゃツモってくる。

 

 

しかも、コイ…この人が鳴けば、ほとんどの確率でこっちに風牌が入ってくんの。多分、臨海がツモる風牌を全部こっちに流してるわ。何でそんな事できるんだよ。キメェ。

 

 

好きなときに自風牌を持ってこれるのも意味不明だけど、その瞬間を見極めて流せるのはもっと分からない。

 

 

「チーッ!」

 

 

ほら、また来た。これを捨てれば臨海に当たられる事はさっき学習した。なので仕舞っておくが、そのせいでちっとも和了れてない。

 

 

…これ積んでね?頼むから、普通の麻雀やらせろよ。

 

 

 

 

 

 

結局、そのままオーラス。で、一人だけ焼き鳥。…予選の時みたいに気楽に打ちてえ。

 

 

一応、前日の想定よりはなんとかなっているが、点数は圧倒的最下位。

 

 

対面の臨海が、なーんかヤバそうな手を作ってるのが気になるけど、せめて最後に、この三色断ヤオくらいは和了らせてくれても___

 

 

 

 

 

 

「リーチ!」

 

 

 

 

は?

 

 

リーチ?!

 

 

清澄が?!

 

 

見え見えの混一色で出してくるぐらいだから、よっぽど良い待ちなんかあ?

 

 

しっかし、最後の最後にどっちも食らいたくないっすねえ。

 

 

…だったら、

 

 

「それもらっちゃいまーす、チー!」

 

 

三色を捨ててでも速度を上げる。二回戦の牌譜を見てるから、宮守の上手さは分かってんだよなー。差し込み、よろしくお願いしまーす。

 

 

するとその直後、予想通りに宮守がドンピシャで振り込んできた。

 

 

「やっり!ロン!」

 

 

差し込みとは分かってるけど、とりま焼き鳥回避!ごちそうさんです!

 

 

 

 

 

中堅戦終了

有珠山高校 53400(-24000)

宮守女子高校 103900(+2900)

臨海女子高校 160000(+6300)

清澄高校 80700(+14800)




???「普通の麻雀させてーな。」


ユアンちゃんは、準決勝後の涙を拭うシーンで好きになりました。

わっかんねープロが、ちゃんと評価してくれているのもポイント高いです。


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25翻役 メガン・ダヴァンは解禁する

今回はダヴァンの相性が悪すぎましたね…。能力同士の戦いになると、主人公チームそっちのけで臼沢さんが大活躍します。

これはダヴァンがダヴァンゴになる日も近いのでは?


副将戦開始

東場 宮守女子高校 臼沢塞 103900

南場 臨海女子高校 メガン・ダヴァン 160000

西場 清澄高校 井上純 80700

北場 有珠山高校 真屋由暉子 53400

 

 

私の戦い方は、聴牌をしてから三巡後以降に当たり牌を掴まセル。また、その能力があるだけで、相手にリーチを掛けさせナイ、というものでシタ。しかし…

 

 

「ロン」

 

 

彼女、宮守にはなぜか効いていないようデス。確か二回戦でも、見ただけで永水の四喜和を何度も止めたのでしタカ。私のデュエルも例外ではないようでスネ…。

 

 

しカモ、

 

 

「ポン」

 

 

清澄がしょっちゅう鳴くので聴牌すらできまセン。彼女は龍門渕透華を倒していたので、過去の自分に打ち勝つためにも、真っ向から勝負したいのでスガ…。

 

 

それに、有珠山もデュエルについて感づいているようで、三巡目以降に躱されてしまいマス。これでは、彼女からは出和了りできそうにありまセン…。

 

 

…非常に困りましタネ。素の運では誰にも勝てそうにないから、デュエルに頼っているというノニ…。これでは、ただツイていないだけの雀士デス。このままでは、なにもできずにヤキトリで終わってしまいマス…。

 

 

これではさすがにまずいですノデ、休憩に入ったらすぐに監督にあの打ち方の許可を貰いに行かなければいけませンネ…。

 

 

 

 

 

 

後半になりましたが、結局監督からは許可が下りませんでシタ…。

 

 

一応、何度かはツモっていますが、状況は一人沈ミ。加えて、

 

 

「左手を使ってもいいでしょうか。」

 

 

親番に有珠山が能力を使用してきまシタ。これはマズ…イエ、これはチャンスなのデハ?

 

 

点数の関係からも、この局の宮守は確実に有珠山を見るはずデス。ならばその間、私は自由に能力を使えマス!この期間を生かしてガッポガッポデス!

 

 

「ポン」

 

 

早速鳴いて、決闘デス。有珠山がツモれないのが分かっている以上、何も恐れることなく相手を___

 

 

 

 

 

 

「ツモ!」

 

 

…ハ?止めていナイ?ナゼ?

 

 

その疑問を解決するために下家を見まスガ…どうやら疲弊しているようデス。もしかすると、能力を止めるためには彼女自身の何かを削る必要があったのかもしれませンネ…。

 

 

しかし、ここから能力が解禁されたといっても、収支を宮守に追いつかせるのは難しそうでスシ…。

 

 

真っ暗なのを、この南場から解禁するしかありませンカ…。

 

 

 

 

 

 

すみませンネ。私は、堪え性がないようデス…。

 

 

 

 

 

 

副将戦終了

清澄高校 81500(+800)

有珠山高校 70500(+17100)

臨海女子高校 147300(-12700)

宮守女子高校 98700(-5200)




ダヴァンがダヴァンゴになる

ネタにされながらも決闘が流行る

身体は闘争を求める

アーマードコアが売れる

フロムがアーマードコアの新作を作る


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26翻役 獅子原爽は最後まで抗う

いよいよ準決勝決着です。二次創作を作るにおいて、姉帯さんと獅子原さんの能力が分からな過ぎて辛いです。


以下は、今回の注意事項です。グロとかではないので安心してください。
・獅子原さんがカムイを呼ぶのを<>で表しています。
・注釈機能を使用してみました。
・二千字を超えてしまいました。


ユキを目立たせるだけだったはずが、こんな大きな舞台にまで来てしまった。

 

 

元々の目的であるユキの国麻出場がほぼ確定した今、無理に上を目指す必要はない。

 

 

しかも今までとは違い、相手は全員が全国トップレベル。また、宮永さんと姉帯さんに至ってはまだ何かを隠してる気がする。

 

 

けど、ここまで来れると欲が出てくる。どうせなら、やれるところまでやってみたい。

 

 

正直、一筋縄では行けそうにない、どころではない。全く勝てる気がしない。なら、遊びに行くぐらいの軽い気持ちで挑むことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

大将戦開始

東場 有珠山高校 獅子原爽 70500

南場 宮守女子高校 姉帯豊音 98700

西場 清澄高校 宮永咲 81500

北場 臨海女子高校 ネリー・ヴィルサラーゼ 147300

 

 

東一局。まだ試合が始まったばかりだが、四回しかない親番。残り少ないカムイを使う価値はある。

 

 

どれから使うのが正解だろうか?

 

 

自分の手と河を見る。私の配牌に集まってきている萬子が、周りにとっては不要牌の様だ。また、姉帯さんが一回鳴いているため追っかけリーチはない。だったら、

 

 

<アッコロ!>

 

 

萬子をどんどん手前の山に集める。これで、自分の役を上げつつ相手の進みを遅らせる。また、自分の河にも一段目から萬子が出るから気づかれにくい。さらにここで、ドラを増やすために槓子を鳴く。

 

 

「カン!」

 

 

捲れた王牌も…当然萬子。これで倍満確定。でも、これじゃもったいない。もっと上げる。

 

 

「リーチ!」

 

 

…ここまでしたんだ。この局は確実に決めにいく。だから、一番削るべき二位の姉帯さんに、

 

 

<パロコカムイ!>

 

 

不要牌の中に当たり牌を紛れ込ませる。これなら…

 

 

「ロン!」

 

 

裏込みで役満確定!48000!続けて一本場!

 

 

…しかし今度の配牌はクズ手。一応、役満で二位には付けた。けど、この三人相手にカムイがいなくなった時のことを考えれば、少しでも多く点数が欲しい。

 

 

なら、連荘狙い?赤いのを使って喰いタンにするか?いや、オタ風が三枚で、ドラが南。ここは攻める!

 

 

<フリカムイ!>

 

 

これで、手牌にある自風以外の風を呼び込んでくれる。元から五枚あった筒子を鳴ければ、早和了りも狙える。早速鳴こうとするが、

 

 

「チー「カン」」

 

 

宮永さんが止めてきた。なら、この嵌張はもう使えない。ちょうど新しい牌が来たので、そっちに張り替えを___

 

 

「ロン」

 

 

…さすがに止められたか。しかし、アガリ形を見る限り、先程のカンは必要なかった気がする。なら、これが彼女の能力か。今までの戦い方から考えると、相手の連荘を潰す、とか?

 

 

そのことを頭の片隅に置きながら、気持ちを入れ替える。親番は流れたが、チャンスはまだある、まだ他のカムイもいる。使いどころを見極めろ…!

 

 

 

 

 

 

初めの局に狙い撃ちした姉帯さんだが、沈んでいくどころか余計に火を着けてしまった様だ。一荘目は臨海にフォローを貰っての鳴き速攻。二荘目は全体効果系での遅延。そして、今は彼女の三連荘目。

 

 

「リーチ」

 

 

と、ここで宮永さんがリーチ。さすがの姉帯さんも、三回目は先制でき…いや、追っかけリーチか!

 

 

「追っかけるけどー。通らばー、リーチ!」

 

 

やっぱりか。宮永さんが連荘止めの能力を発動させたけど、これを忘れていたのか?彼女に限って、それはないと思うが…

 

 

「カン」

 

 

…また、カン。これも能力か?

 

 

「ツモっ、嶺上開花!」

 

 

嶺上開花!?確か、二回戦でも一度これで自摸っていた。なら彼女の能力は、相手が連荘すると槓が出来る…ぐらいか。

 

 

 

 

 

 

後半に入って最後の親番。前の親番では、臨海が要所で鳴いたせいでカムイたちを呼べなかった。いや、温存できたと考えよう。

 

 

そして、この親で使うのはすでに決めていた。

 

 

<白いの!>

 

 

これで自牌に竹が来やすくなった。

 

 

これなら、他の面子には関係がないから宮永さんにも邪魔をされにくい。しかも来やすいだけだから、見た目じゃ分からない。つまり、

 

 

「ツモ!」

 

 

確実に和了できる。そして次は、

 

 

<赤いの!>

 

 

自分にだけ字牌を集める。これも、宮永さんは手を出せないはず。

 

 

…!彼女が山を見た。これはまた嶺上開花か?だったら、

 

 

「カン!」

 

 

こっちが先にカンをして奪えばいい。これで、彼女がカンをしても意味がなくなった。

 

 

しかも、王牌から持ってきたのは自分の向聴数を減らせる牌。これなら、今回も連荘できそうだ。そのままいらなくなった牌を捨て___

 

 

「ロン」

 

 

…なるほど。ここまで読まれてたか。でも、このままなら勝てそうだ。残り三局で、点数もまだ勝ってるし、

 

 

( エルティ) 、ロン!24000!」

 

 

臨海?!全く気配がしなかったが最後の最後に動いてきたか!しかも、今の当たりで清澄との順位は逆転。このままでは、

 

 

( オリ) 、ツモ!6000・12000!」

 

 

また逆転!そしてオーラス!

 

 

でもまた和了されれば、臨海のさじ加減で決勝に行けるかが決まってしまう。だったら、

 

 

<ホヤウ!>

 

 

これで確実に決めに行く!

 

 

このタイミングなら、ホヤウが帰る前に決着を付けられる。しかも、いきなり能力が消えたから、他の面子は付いて来られないはず。

 

 

三人の中では宮永さんが一番早く反応してきたが、それでも、普段から能力に頼っているなら、

 

 

 

 

 

 

「カンっ!」

 

 

止まらない。

 

 

彼女は生き生きとした宣言とともに、王牌へと手を伸ばす。後ろには、百合の花畑が見えた気がした。

 

 

そしてその光景は、新約聖書マタイによる福音書中の一説を想起させる。

 

 

 

 

 

 

野の百合を見よ。労せず、紡がざるなり。栄華を極めたる、ソロモンだに、この花のひとつにしかざりき…!*1

 

 

 

 

 

 

「ツモっ!嶺上開花!」

 

 

 

 

ああ、

 

 

勝てなかったか。

 

 

 

 

 

 

大将戦終了

有珠山高校 90700(+20200)

宮守女子高校 76900(-21800)

清澄高校 92400(+10900)

臨海女子高校 138000(-9300)

*1
野の中で自らを着飾る意図など毛頭ないユリが、ソロモンの宮殿も及ばない美しさで飾られるのは、全て神の意図である。だからすべて神に任せよ、思い悩むな。(新改訳、マタイによる福音書6. 28-30)




※誤用です。

真面目な話よりも、こういうオカルト的な方が書きやすいですね。


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27翻役 亦野誠子は気楽でいたい

準決勝終了で、原作をもうすぐ追い抜きますね。この章では一年組の真面目な話を書こうとしたせいで、ほぼ勘違いが書けなかったです。勘違いものなのに。

あ、先に言っておきますが、爽は作者の好きなキャラベスト5に入ります。

1.クロチャー
2.レジェンド
3.ネキ
4.アラフォー
5.爽

どのキャラも好きなんで、順位とかは、わっかんねーですけど。


大将戦を何とか二位で勝ち抜けたが、姉帯さん以外の対戦相手がめちゃくちゃだった。

 

 

有珠山は最初の局から役満を出してたし、臨海も後半の南場に二局連続で倍満クラスを和了していた。

 

 

明らかにおかしいが、これが全国のトップレベルか。私なら瞬殺されていただろう。何だかんだ先鋒で良かったのかもしれない。

 

 

そしてふと対局後の卓を見れば、有珠山と臨海が話をした後、臨海の子が膝から崩れ落ちていた。…体を震わせながら目を潤ませているから、何かされたのは間違いない。

 

 

そういえば、咲ちゃんも有珠山の大将を見て何度か震えていた。

 

 

いつもなら新しい友達候補かと思えるのだが、さっき有珠山が臨海の人を泣かせていた事を考えると、咲ちゃんと臨海の人は対局前に脅されていたのかもしれない。

 

 

で、自分が負けたものだからさらに脅したと。先鋒戦の途中で睨んできた辻垣内さんといい、準決勝の相手が怖すぎる。…咲ちゃんは試合後に何もされていないだろうか。

 

 

その時ちょうど、咲ちゃんが対局室を出てきた。大将戦での闘牌を労った後、念のために確認しておく。

 

 

「お疲れ。…最後、有珠山の人に何かされなかった?」

 

 

すると、彼女はその質問を予想できていたのか、悩むことなく回答してきた。

 

 

「あっ、はい。詳しくは分かりませんが、一瞬だけ鳥が見えた後、能力が使えなくなりました。」

 

 

この答えで、先程の推測が確信に変わった。いつもの変換のせいで内容は分からないが、やはり咲ちゃんは何かされたのか。

 

 

 

 

 

 

その後、咲ちゃんに異常がないかを確認し、全員で決勝の相手を調べる作業に入った。いつもは内容が理解できず、途中で飽きて嫌になってしまうが、今回はそうでもなかった。

 

 

「あっ、お姉ちゃん、ここの癖は変わってないんだ…。」

 

 

「うっそ、二人とも戦い方が結構変わってる!?…これキッツいなー。」

 

 

後輩二人の知り合いが何人もいたからだ。特に、憧ちゃんは元々阿知賀に住んでいたらしく、決勝に出場する選手のうち四人と監督一人を知っているらしい。

 

 

しかも、そのうち二人が中堅に来たらしく、映像を見て過去最大のやる気を見せている。憧ちゃんが大会に出る理由をある程度は知っていたから、微笑ましい気持ちになる。

 

 

そして咲ちゃんも、大将戦で無双するお姉ちゃんを見て張り切っている。…少なくとも私は、準決勝で+52100を出している人と戦う事を知ってもやる気を出せないが。

 

 

そう考えれば私の相手はまだましだ。なぜなら、Aブロックでの準決勝で+16900を出してトップになっていた人はもういない。それなら、準決勝みたいな不幸が起こらない限り、圧倒的一人沈みにはならないだろう。

 

 

そう結論付けて、対戦相手の牌譜を元の位置に戻し始める。すると、そのタイミングで咲ちゃんが声をかけてきた。

 

 

「亦野先輩。明日、頑張りましょうね。」

 

 

 

 

…自信はないが、まあ、なんとかなるだろう。




爽を初めて見たときは、対局中に目の図形が変形するだろうなって思ってました。


没案

爽の変な図形がある目

カムイ

神威(NARUT○)…万華鏡写輪眼の瞳術。視界の中の指定した範囲内に存在する物体を空間ごと別空間に強制転移させることができる。

没理由…知らない人が多数出ると考えたため、クロスオーバータグを付けたくなかったため


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決勝編
28翻役 大星淡は直感する


本当は、この前に閑話として五位決定戦を入れようとしたのですが、
・すでに出たキャラしかいない
・勘違いがない
・内容が原作のほぼ丸写し
という理由から没になりました。

という訳で今回から決勝戦です。


「昨日のミーティングで言われた事は全部覚えているか?」

 

 

試合直前、スミレ先輩が確認の質問をしてきた。たぶん、これまで言いつけを守らなかったのをまだ怒ってる。でも、

 

 

「だいじょーぶですって、スミレ先輩!もう、バッチリ!」

 

 

しっかり覚えてる。今日のスーパー淡ちゃんはちゃんと考えて行動するから、準決勝みたいな考えなしの特攻はもうしない。それに、千里山もいないから負ける気もしない。

 

 

しかしそれでもまだ不安なのか、そのまま内容を聞いてきた。

 

 

「能力は?」

 

 

「何も考えずにダブルリーチしてはいけない!」

 

 

「親番は?」

 

 

「清澄がいるから前半は様子見!」

 

 

ほらね!

 

 

正直、二つ目に関してはまだ納得できてない。今までの試合を見ても偶然にしか見えなかったし、能力も感じられなかった。何回見ても雑魚にしか見えない。

 

 

でも、準決勝では個人戦三位が親番を捨てていたし、テルーはテレビ越しでもオーラを認識できたらしい。咲が能力を隠していたから、この人もそうなんだろうって言ってた。

 

 

だから、得点収支はショボいから強さは期待できないけど、新道寺みたいなものだと思っておく。

 

 

 

 

 

 

先鋒戦開始

東場 清澄高校 亦野誠子

南場 臨海女子高校 辻垣内智葉

西場 白糸台高校 大星淡

北場 阿知賀女子学院 小走やえ

 

 

とは言ったけど、

 

 

「ロン!」

 

 

やっぱり弱すぎる。ダブリーをしてなかったから点数は低いけど、聴牌から手を変える前に二回連続で振り込んできた。二局終わったのに、まだ六巡しか回っていない。

 

 

何でこんな奴を警戒してたんだろう。

 

 

予想以上の弱さにため息を吐く。そして、この程度なら親でも攻められるだろうと、三局目の六巡目、リーチ棒へと手を___

 

 

瞬間、気付く。

 

 

 

 

臨海が張ってる。

 

 

危なかった。今までの調子に乗っていた私なら、なんの躊躇もなくリーチして当たっていた。清澄はこれを狙っていたのか。いや、偶々だよね…?

 

 

 

 

 

結局、あの親番はどう動いても和了れなかった。

 

 

やはり能力の影響なのだろうか。だとしたら能力だけは認めてやっても良いなと考えつつ、配りなおされた牌から不要なものを選別していく。すると、

 

 

「リーチ!」

 

 

親の阿知賀が牌を曲げてきた。

 

 

…一応、臨海の聴牌を確認する。今度はさすがに張ってない。

 

 

なら、もしかして親に和了できないと理解してない?つまり、今の阿知賀は単なるカモだ。

 

 

ならここで、準決勝に何度か止められた分もまとめて仕返ししてやろう。そう企み、そのまま追っかけを宣言し、

 

 

「ロン」

 

 

狙い撃たれた?!相手は…清澄。

 

 

気配が全くなかった、訳じゃない。阿知賀と臨海にしか意識が向いていなかっただけだ。

 

 

これも偶然…いや、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさか、この状況になるよう仕組まれてた?

 

 

最初の清澄の二局も、今回の阿知賀のリーチも、全部、私を油断させるためのものだった?

 

 

 

 

理解できてしまった。準決勝まではそういった事を意識していなかったため気楽に打てていたが、頭を使い始めた今、これらの結果が相手の意図によるものだと察知できてしまった。

 

 

今まで培ってきた、麻雀の常識が崩れていくのが分かる。

 

 

ヤバい。これは、私の知ってる戦いじゃない。

 

 

この四局の少ないやり取りで、この三人が私を上回っている実力者だと認めてしまった自分がいる。試合前とは違い、この三人を抑えてトップになる自信がなくなっていく。

 

 

今は絶対安全圏で遅らせて、ダブリーせずに良い待ちに張り替えてからリーチを掛けているが、もしダブリーを解禁したとしても結果はほとんど変化しないだろう。一時しのぎにはなるが、その後間違いなく狩られる。

 

 

こんなことなら、前から先輩たちやノドカの意見もちゃんと聞いておくべきだったか。

 

 

ここにきて、ようやく、悔やんだ。

 

 

 

 

 

 

先鋒前半戦終了

清澄高校 92200(-7800)

臨海女子高校 113000(+13000)

白糸台高校 88900(-11100)

阿知賀女子学院 105900(+5900)




ここのあわあわは、反省はしていますが、原作ほどではありません。準決勝の成績は悪くなかったですし、点数で負けた千里山もいなくなった訳ですから。


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29翻役 亦野誠子は流したい

亦野の心境を例えるなら、

テスト前日(26翻役)

テスト中(27翻役)

テスト間の休憩時間(今)

です。


やっぱり無理だったか…。

 

 

休憩時間中の会場で、とりとめもなく考える。思い返しているのは、もちろん前半戦の内容。

 

 

前日までは諦めすぎて逆に余裕が出てしまっていたが、対局中には焦りしか出てこなかった。そして今は、もう悟る段階にまで来ている。

 

 

はっきり言うと、もうここまで来れたからいいかな、とさえ感じている。

 

 

憧ちゃんや咲ちゃんには悪いがしょうがない。私はほぼ初心者なのだから。逆に、よく私というお荷物を持ってここまで来れたな、という感想しか湧いてこない。

 

 

だって、あの三人が強すぎる。今回は幸運にも一人が沈んでくれたが、それでも全く付いて行けなかった。むしろ途中からは、プロ麻雀を観戦している気分にさえなっていた。

 

 

いっそのこと、後半はモブみたく気配を消しておくか?と考え始めたところで、会場の出入り口から二人の後輩がやってくるのが見えた。来てくれたのは喜ばしいが、これはさすがにどうにもならないだろう。それよりも、怒られないかが心配だ。

 

 

私のそんな思いもつゆ知らず、こちらに到着した咲ちゃんが口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「さすがですね、亦野先輩!」

 

 

…えっ?

 

 

 

 

 

 

詳しく話を聞けば、白糸台の子が不調になった原因が私と阿知賀の人だと考えているらしい。当然ながら事実とは異なる。が、それを否定しようとしたタイミングで、

 

 

「おや、清澄。作戦会議か?」

 

 

ちょうど部屋に戻ってきた小走さんが、会話に混ざってきたため口を挟めなかった。

 

 

そして会話に入ってきた彼女は、当然とばかりに会話を進める。

 

 

「いや、なるほど。あの金髪の子の話か。あれはただの経験不足だ。私達がああしなくても勝手に沈んでただろうさ。」

 

 

突然割り込まれたのが気に入らなかったのか、咲ちゃんは顔をしかめている。しかし、小走さんはそんな反応にも目を留めず、そのままこちらに宣戦布告をしてきた。

 

 

「前半は臨海と白糸台とを減速させるために手を組んだが、この後の分では区間一位を取る。

 

 

つまり、貴様にも負けんよ。」

 

 

ドヤ顔でそう言われても大して気にならなかったが、咲ちゃんはご立腹だ。可愛らしく頬を膨らませながら、全く可愛くない言葉を返してみせた。

 

 

「…先輩が、あなたみたいなやられ役に負けるとは思えませんが?」

 

 

そして反論すると同時に、「ですよね!」と嬉しそうにこちらに振り返ってくる。同意したくないのはもちろんだが、それよりも、勝手に人の名前を使うのはやめてほしい。彼女と実際に戦う羽目になるのは私だ。

 

 

なんとか穏便に済ませようと小走さんの方を見るが、彼女は開いた手を突き出す事で、私の意見を封じてきた。そして、口角を上げて高らかに宣言する。

 

 

「そこまで言うなら仕方がない___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後半戦でお見せしよう、レジェンドの打ち筋を!」

 

 

…帰りたくなってきた。




この話の参考文献に「ヤムチャ視点」のページを見たのですが、”ヤムチャが、戦況どころか両者の姿すら目視することが出来ない状態になったことは一度もない”っていう一文を見てびっくりしました。


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30翻役 小走やえは誤算する

いよいよ亦野の最終戦です。果たして、この作品の主人公は無事に控室へ帰ることができるのでしょうか?

阿知賀編の一話で、玄ちゃんのドラ爆を初めて見た時のニワカ先輩の顔を思い出しながら書きました。


先鋒後半戦開始

東場 阿知賀女子学院 小走やえ 105900

南場 清澄高校 亦野誠子 92200

西場 白糸台高校 大星淡 88900

北場 臨海女子高校 辻垣内智葉 113000

 

 

「リーチ!」

 

 

開始して三巡目、大星がリーチをしてきた。前半戦では、自分の戦い方ができておらずカモにしかならなかったが、後半はまた速攻に切り替えたらしい。

 

 

前半までとは違い、彼女の目に諦めは映っていない。どうやら攻め方を模索している様だ。これはまた凹ましておくべきか。

 

 

しかし、東一局は私が親のため和了ができない。大星も、山が角にくるまではツモれない。それを辻垣内も理解してか、そこそこ大きい手を作ってきている。

 

 

なので、

 

 

「チー」

 

 

「ポン」

 

 

「ツモ」

 

 

亦野で流す。こいつに点を与えるのは癪にさわるが、それでも被害は最小限にできた。これが最善だ。

 

 

 

 

 

 

そこから辻垣内に和了されつつも、この半荘ではトップを走れている。自分の親番を亦野で綺麗に流し、辻垣内の親番で高めをツモれたのが大きい。大星も何かを掴みかけているようだが、もう追い付けない。

 

 

このまま行けば、安定して次に回せるだろう。しかし、この後の対戦相手を考えれば、後輩たちの負担をもう少し減らしておきたい。

 

 

そして来た後半、臨海が親番の東四局。配牌はいつも通りだが、七巡目で聴牌。しかも赤二枚。攻めるならここしかない。

 

 

唯一気掛かりなのは、亦野の河に一枚目からずっと萬子と索子の中張牌が並んでいる事。普通の相手であれば混一色や国士無双を警戒すべきだが、この場においては当てはまらない。

 

 

混一色を警戒しない理由は、私視点で五筒四枚と六筒三枚が見えているから。そのうち五筒三枚は私が抱えているし、他の数牌も現時点でかなり捨てられている。この状況ならさすがに早さで勝てる。

 

 

国士無双を警戒しない理由は彼女の打ち筋。準決勝でもやっていたが、彼女は九種九牌が揃っても勝負するタイプではない。ましてやそれ以下から狙うタイプでもない。しかもドラ表示牌含め白が三枚出ている。これで自摸れる訳がない。

 

 

残りの選択肢としてはチャンタ系統か七対子ぐらいだが、チャンタなら鳴くべき箇所に全く反応しなかったためありえない。七対子は赤が三枚見えているため、当たっても軽い事故で済む。

 

 

やれる。

 

 

そう確信し、手に持った千点棒を勢いよく前に出しながら宣言する。

 

 

「リー「ロン」…!」

 

 

…亦野に当たったか、仕方ない。辻垣内に大きく差を広げられるよりは良かったと考え___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…国士無双です。」

 

 

…は?

 

 

 

 

 

 

先鋒戦終了

阿知賀女子学院 87300(-18600)

清澄高校 119500(+27300)

白糸台高校 74300(-14600)

臨海女子高校 118900(+5900)




この話を書くに当たって阿知賀編の一話を見直したのですが、王者の打ち筋ってそこまで変わった手でもなかったんですね。普通でした。


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31翻役 亦野誠子は落ち着きたい

「まこ」って漢字で書けないので、後ろに「と」や「に」などの接続詞がくると一気に読みにくくなります。


こんなことってあるんだなあ。

 

 

小走さんに役満を当てた時、そんな陳腐な言葉が頭をよぎった。

 

 

配牌を見て九種九牌だと分かった瞬間は絶望していた。準決勝の最後みたいに宣言して、向かいの辻垣内さんに「何勝手に流してくれてんだテメエ…。」みたいな目で睨まれるのが怖かったのだ。

 

 

そのため、自分の番になっても言い出せずに局を進めてしまい、しぶしぶ国士無双を狙ったがまさか当たるとは。

 

 

インターハイどころか人生で初めての経験だ。もしかして明日死ぬんじゃなかろうか。

 

 

対局が終わってからも、足が浮いているような気がしてうまく歩けなかった。

 

 

 

 

 

 

それでも何とか会場と控室の間の廊下を通っていると、やる気で満ち溢れた様子のまことすれ違う。

 

 

「最後に後輩にええとこ見せられたのお。咲も憧もえらい喜んじょった。なら、わしもやることやらんとの。」

 

 

役満に浮かれていたが、そう言えばそうだ。プラス収支で終えるなんて初めてじゃないか?これで堂々と部屋に帰ることができる。

 

 

ただ、褒められて悪い気はしないが、ただの偶然なので断りを入れておく。

 

 

「あれは運が良かっただけだって。正直、あの三人には勝てる気がしなかったし。」

 

 

私がそう言うと、まこは嬉しそうな表情のままため息を吐く。まるで、この反応に慣れきっているとでも言いたげだ。

 

 

「…その言い逃れさえなけれりゃ完璧じゃったがのう。まあ、もしそうじゃったとしても役満は役満、一位は一位じゃ。誇りんさい。」

 

 

まこはそのまま、「お陰で緊張がほぐれたわ。」なんて言いながら、後ろ手を振って会場に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

そのまま控え室に戻ってきたが、そこでは想像以上の歓声が待っていた。

 

 

「決勝で役満とか、ついにやったなおい!」

 

 

「さっすが誠子先輩!まさか、決勝の舞台でビシッと決めてくるなんて!」

 

 

「さすがです先輩!…もしかして、休憩中に私が言い負かされたからやり返してくれたんですか?」

 

 

みんなすごく喜んでくれている。…休憩時間に、負けた後どう謝罪するかを悩んでいた自分が懐かしい。

 

 

でも咲ちゃんは、「なら毎回、先輩の対局前に相手を煽れば…?」なんて呟くのはやめてほしい。それで役満が取れれば苦労しない。お願いだから本当にやめてほしい。

 

 

咲ちゃんの関心が危うい方向に行く前にどうにかしなければ。テレビではちょうど次鋒戦が始まる瞬間だったため、そちらに注意を向けさせよう。

 

 

「ねえ、咲ちゃ___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩は、あの役満のために今まで弱い振りをしていたんですね!」…ん?」

 

 

 

 

…いつの間に話飛んだっけ?




「決勝で役満とか、ついにやったなおい!」における解釈の違いについて


亦野視点
→「決勝で役満とか、ついに(ようやく)やった(活躍できた)なおい!」


純視点
→「(なんかやるとは思ってたが)決勝で役満とか、ついにや(りやが)ったなおい!」


…他に載せる場所がなさそうなのでここに載せておきます。


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32翻役 新子憧は賭けに出る

最後のいつもの置いときますね。…結局最後まで描写できませんでした。


次鋒戦終了
清澄高校 染谷まこ 113500(-6000)
白糸台高校 弘世菫 82200(+7900)
阿知賀女子学院 鷺森灼 88700(+1400)
臨海女子高校 郝慧宇 115400(-3300)


「…玄。」

 

 

「憧ちゃん…。」

 

 

会場の入り口でお互いに見つめあう。目の前にいるのは幼馴染の一人。私のここに来た目的。緊張はあるが、自然に口が開いた。

 

 

「…勝ち上がって来たのはテレビで見てたけど、実際に見るのとはやっぱり違うわ。あの時からみんな成長してた。」

 

 

「憧ちゃんこそだよ。今まであんな打ち方してなかったよね?清澄高校の先輩達のトレースが完璧にできてる、って赤土さんが言ってたよ。」

 

 

どうやら向こうも会話を望んでいたようで、嬉しそうに話を続けてきた。って、もう準決勝の戦い方が分析されてたのか。いや、確かに晴絵ならやりかねない。

 

 

「そう?その言葉が一番嬉しいわ。でも、玄も苦手だった槓を使いこなしてたし、和に至っては考え方から変わってた。ほんと、これ以上強くなってどーすんのよ。」

 

 

「え?…そ、そうだよね!私も準決勝で和ちゃんに会った時はびっくりしたもん。あれだけオカルトはあり得ないって断言してたの「もうそろそろ対局が始まりますよ?」…ひゃあ?!」

 

 

と、ここで中堅を務めるもう一人の幼馴染が、対局の開始を知らせに来てくれた。本当は彼女とも色々話し込みたいが、まだその機会ではないらしい。なら今は、

 

 

「じゃ、仕方ないか。もっと二人とも話したいし、シズ達にも会いたけど、

 

 

 

 

 

 

それはここを一位抜けしてからにするわ。」

 

 

最高の勝負をしよう。

 

 

中堅戦開始

東場 臨海女子高校 雀明華 115400

南場 清澄高校 新子憧 113500

西場 白糸台高校 原村和 82200

北場 阿知賀女子学院 松実玄 88700

 

 

最高の勝負、なんて格好つけたけどやることは決まってる。待ちの広さを優先した早和了り一択。千里山の江口でも稼ぎ負けるのが分かってるから高い手を作る気は一切ないし、単騎待ちだと玄に止められる。

 

 

ただ、風牌もドラも来ないからタンピンか特急券以外は難しい。和もそれを学習してか、早くて待ちの広い手を優先して仕上げてる。

 

 

さらに、この半荘は席順が最悪。鳴いても和のフォローになるし、準決勝みたいに牌をずらしても被害を被るのは私。せめてドラが風牌になって食い合ってほしいが、それを考えるのはあまりにも非現実的だ。

 

 

 

 

 

 

昔から玄の打ち方を知っている私と和が流しているから何とかなっているが、それでも削られていく一方。平均打点15000オーバーはさすがに抑えきれない。

 

 

この局面、先輩達ならどうしただろうか。

 

 

打開策を練ってはいるが、良案は出てこない。前までの玄ならカンで手を縮ませてたけど、準決勝のカンドラとツモ封じを見た後では意味があるとは思えな___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当にそうか?

 

 

本当に意味がないのか?

 

 

 

 

引っかかりを覚えた。というのも、準決勝ではカンのインパクトが強すぎて考えられてなかったけど、結局あの二回以外は鳴きもしなかった。加えて他の試合でも、誰かがカンをするシーンを一度も見ていない。

 

 

それに、途中で途切れたから深く意識してなかったけど、さっきの会話で自分の話になった時もあからさまに会話をずらしてた。何のために?

 

 

 

 

 

 

…もしかして。

 

 

自分でカンした時じゃないとドラを操れない?

 

 

思い返してみれば、あの和了り止めもカンドラもろ乗りもどっちも自分から宣言してた。それを利用して、カンをしても意味のないかの様に見せていたのか。

 

 

けど残念。こういう思い込ませるやり方は、誠子先輩に何度もやられた手だ。先輩と違うのは、玄が嘘を付けない人間だってこと。

 

 

これが外れてたらどうしようもないけど、賭ける価値はある。

 

 

そうと決まればやることは一つ。カンを狙う。それだけ。幸いにして暗刻は二つある。

 

 

咲は単純な実力で槓材を集めてるって言ってたっけ。私にそんな真似はできない。一応、流れを読むことはできるが、槓材が揃えられるかどうかは別問題で…。

 

 

「…!カン!」

 

 

と、ここで和が出してくれた。最後の槓材差し込みなんて普通はできっこないけど、どうやら察してくれたらしい。

 

 

でも、ここが本当の勝負。めくられたカンドラがあたしの待ち牌ならもう諦める。でも、これがそうでないなら…

 

 

 

 

 

 

「ツモ!」

 

 

まだやれる。…この嶺上開花は偶然だが。

 

 

下家を見ると、玄が涙目になってこっちを見ていた。牌を自動卓に落とす手も震えている。そして和も、驚いた顔でこっちを見ている。多分二人とも、あたしが咲のトレースをしたと考えているのだろう。

 

 

もうあんな形でのカンも和了りもできないだろうが、これを利用しない手はない。

 

 

 

 

「…うん。玄の強さも分かったし、ここから反撃と行きますか!」

 

 

さっきまでやられっぱなしだったんだ。この後半戦くらいは騙されていてもらおうか。

 

 

 

 

 

 

中堅戦終了

白糸台高校 84300(+2100)

臨海女子高校 109300(-6100)

清澄高校 115900(+2400)

阿知賀女子学院 90300(+1600)




「…さすがですね。いつから玄さんがカンに弱いままだと気付いていたのですか?」

「んー。おかしいって思ったのは試合直前の会話からだけどね。あのままだと稼ぎ負けるのは目に見えてたし、賭けに出たって訳!」

「うっ…。やっぱり、そこだよね…。」

「玄は昔から嘘をつけないからねー。」




「疎外感…。これが、国境…。」


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33翻役 井上純は軽視する

ようやく分かりました。私、まじめな麻雀描写だと文字数を稼げないんです。だから、次鋒戦を飛ばす必要があったんですね。

なので、ここまで見て下っていて、キンクリしている内容を知りたい方がいれば、各々の脳内でお願いします。


憧が帰ってきた。「やっぱり玄がいると全然稼げないわー。」とか言ってるくせに、その顔は満足気だ。しかも、しっかり一位で逃げ切ってる。何の問題もねえ。

 

 

なら、俺の役目は同じく逃げ切り。そのまま咲にバトンを渡して、咲の慣れているプラマイゼロの打ち方で勝てる点数に持ち込めれば万々歳だが、さすがに難しいか。

 

 

だが、一番警戒していた白糸台が落ち込んでるのはラッキーだ。あいつなら、チャンピオンと50000点離せればまだ何とかなるだろ。

 

 

 

 

 

 

副将戦開始

東場 臨海女子高校 メガン・ダヴァン 109300

南場 白糸台高校 渋谷尭深 84300

西場 阿知賀女子学院 松実宥 90300

北場 清澄高校 井上純 115900

 

 

「ポン」

 

 

対局が開始してすぐに、ダヴァンから聴牌気配。俺としたことが、二回戦、準決勝とともに臼沢に頼りきってたせいか、反応するのが遅れちまった。

 

 

渋谷に役満を出させないためにも、ここは絶対流してえ…。

 

 

上家の、震えながら打牌をしてる松実の姉を見る。こいつは毎回得点収支をプラスで終えてやがるが、これまでの試合では特に目立った動きはしてねえ。なら、こいつを使って流すか。

 

 

とか考えてたが、逆に向こうから鳴ける牌をよこしてきた。もちろん副露する。

 

 

「ポン」

 

 

「ロン」

 

 

おいおい。手助けどころか当たり牌まで差し込んできやがった。臨海と白糸台の二人が相手とはいえ、一位にそこまでする理由がねえだろ。

 

 

…可能性としては同盟か?三位のくせにずいぶん余裕あるじゃねえか。大将がよっぽど強えのか?そうは見えなかったが。

 

 

 

 

 

 

前半戦は何事もなく終了した。しいて言うなら、例の厚着女が予想以上に流してきたせいで全員の収支がショボかったくらいか。

 

 

そして、そのまま後半戦に入ったが内容は変わらねえ。また上家になったあいつが、安手で自摸を宣言した。

 

 

「ツモ…。」

 

 

…?高目三色の三面張を、立直もかけずに安目で和了ってきただと?前半の流しといい、一体何を考えてやがる。点数が欲しくねえのか?

 

 

「ツモ…。」

 

 

これで、次からこいつが親か。これまでの動き方からして、さすがに役満女のことは頭に入ってるだろうし、ここは簡単に流させてくれそ___

 

 

 

 

 

 

「ツモ…。」

 

 

…は?連荘?

 

 

しかもそれだけじゃねえ。今まではクズ手しか見せてなかったが、いきなり親っ跳をぶちかましてきやがった。良い手が入ったから一回ぐらい稼がせろってか?ふざけんじゃ

 

 

「ツモ…。」

 

 

また高い手での連荘。おいおいおい、こいつ本当に分かってんのか?役満だぞ?親被りしねえからって、止めんのを諦めたのか?

 

 

いや、もしかして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

役満を食らう前提で稼ぐつもりか。

 

 

戦闘民族かよ。妹の陰に隠れてただけで、こいつもやべー奴じゃねえか。

 

 

しかも、この後も役満一向聴以上から開始する渋谷が待ってる。

 

 

 

 

…やられたな。

 

 

 

 

 

 

副将戦終了

白糸台高校 80500(-3800)

臨海女子高校 106500(-2800)

阿知賀女子学院 107600(+17300)

清澄高校 105200(-10700)




前書きのノリで副将戦も飛ばそうかと思いましたが、さすがに決勝なので自重しました。

ちなみに、ここのお姉ちゃんは中堅戦の後、玄ちゃんを慰めて覚醒しております。


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34翻役 宮永咲は願いを叶える

今回の話は、何回見返してもコメディになってくれませんでした。

後、次回で完結です。


ここまで、本当に長かった。

 

 

会場へと続く廊下を歩きながらつくづく思う。

 

 

きっかけは、新子さんの挑発に乗った事だった。当時の印象は最悪。でも、そのお陰で先輩達に出会えた。

 

 

特に、亦野先輩に会えたのは私の人生における大きなターニングポイントだ。先輩に助けてもらえたからこそ、お姉ちゃんと卓を囲みたい、なんて夢を持てた。

 

 

そして、そのお姉ちゃんが扉の向こうにいる。はやる気持ちを抑え、中に入る。

 

 

「…。」

 

 

いた。準決勝までと同じように、本を読んでいる。

 

 

一瞬だけ目が合ったが、すぐに目線を本に戻してしまった。やはり嫌われているのだろうか。

 

 

すぐにでも確認したいが、他の二人も集まってきているし、もうすぐ試合が始まってしまう。だから、対局を通してお姉ちゃんの気持ちを知ることにする。

 

 

正真正銘、これが最後の対局だ。気を引き締めろ、私。

 

 

 

 

 

 

東場 阿知賀女子学院 高鴨穏乃 107600

南場 清澄高校 宮永咲 105200

西場 臨海女子高校 ネリー・ヴィルサラーゼ 106500

北場 白糸台高校 宮永照 80500

 

 

最初の一局、お姉ちゃんは様子を見る。なので、他の二人に追い付かれない範囲で、できるだけ高めを和了っておく。

 

 

「カンっ…嶺上開花」

 

 

…?一瞬だけ準決勝の最後みたいな気配がした。お姉ちゃんでも臨海の人でもないから、阿知賀だろうか。

 

 

単なる気のせいかもしれないが、この感覚は昨日、亦野先輩が試合後にわざわざ確認してくるくらい警戒していた。用心しておこう。

 

 

 

 

 

 

数局掛けて、やっと違和感の正体が理解できた。

 

 

これは、局や巡目が進むほどオカルトの効果を弱体化させてくるのか。お姉ちゃんが鏡で見ても怪訝そうにしてたし、臨海も露骨に嫌そうな顔をしている。

 

 

しかも、配牌前の王牌への干渉も封じるため、準決勝オーラスみたく、あらかじめ嶺上牌を確認しておくのも不可能になった。

 

 

この能力を知りつつ決着まで隠してたのならよほどの知将だが、彼女にそんな素振りは見られない。なら彼女の監督か。

 

 

その影響で、お姉ちゃんは早和了りこそまだできているが、そこから点数が伸びていない。昔のお姉ちゃんをそのまま強くしたみたいな打牌から見ても、今は素の実力だけで勝負していると予測できる。

 

 

そして私も、学校のみんなから能力を使わずに打つ方法を教えてもらってはいたが、所詮は付け焼き刃。一位を守るので精一杯だ。

 

 

 

 

 

 

…楽しいな。

 

 

決勝戦でこんな思考になるべきではないが、どうしてもみんなが離ればなれになる前の家族麻雀を思い出してしまう。

 

 

そういえば本当の勝負って、こんなにハラハラするものだったんだ。

 

 

麻雀を始めた頃の私は、一巡進むごとに一喜一憂できてたんだ。

 

 

能力ありきの麻雀も否定はしないが、プラマイゼロしか打てなくなる前は、こんな風に、純粋に楽しめていた気がする。

 

 

ああ、勝ちたいな。

 

 

 

 

 

 

そしてオーラス。

 

 

順位は三位。お姉ちゃんにも憧ちゃんの幼なじみにも負けている状況。それでも、気分は最高潮だ。

 

 

配牌から役を考えるのが楽しい。相手の捨て牌から手を予想するのが楽しい。手を進めるのが楽しい。

 

 

しかしこのままだと、お姉ちゃんの待ちに勝てない事が理解できてしまっている。

 

 

鳴けば広くはなるが点数が足りなくなる。かといってそのままでは和了される。

 

 

と、

 

 

揃った。

 

 

 

 

五筒が四枚。つまりは槓材。

 

 

いつもなら迷わず宣言するが、今回はさすがに手が止まる。確かに、これで嶺上開花ができれば私の勝ちだが、できなければ役なしになってしまう。

 

 

どうする。

 

 

 

 

 

 

そして、決断した。

 

 

「カンっ…!」

 

 

槓材となった牌を晒す。

 

 

今までの人生で、間違いなく一番の緊張をしながら嶺上牌を掴み___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…懐かしかったよ。」

 

 

試合後、声をかける。返事をしてくれなくても構わない。対局で、お姉ちゃんが私を嫌ってない事が理解できたから。ただ、それでも謝りたかった。

 

 

「お父さんとお母さんが離れるまでは、何かある度にああやって一緒に麻雀してたよね。あの時が一番楽しかった。さっきの対局でまた思い出せたよ。」

 

 

「…。」

 

 

「でも、私がプラマイゼロしかできなくなったせいで、みんなバラバラになったか「それは違う」…えっ?」

 

 

話の途中でお姉ちゃんが口を開いてくれた。それも、聞いたことのない、力強い声で。

 

 

「…原因は、私たちだ。家族が困っているのを知りながら、助けることを諦めてた。

 

 

…ずっと謝りたかった。でも、どう声を掛ければいいのかが分からなかった。てっきり、嫌われていると思ってたから。

 

 

今日も、咲に罵倒されると思ってた。だから、さっき見てきた時も、怖くて目を合わせられなかった。

 

 

ただ、これだけは言わせてほしい。咲は悪くない。今まで、本当にごめん。」

 

 

昔のまま不器用な、それでいて堰を切ったように話し出したお姉ちゃんを見て、つい目頭が熱くなる。それでも何とか返事できた。

 

 

「ううん、こっちこそ、今までごめん。」

 

 

 

 

やっと、お姉ちゃんと仲直りができた。

 

 

これで、ちょっとは前に進めたかな。

 

 

 

 

 

 

大将戦終了

清澄高校 106800(+1600)

白糸台高校 106600(+26100)

臨海女子高校 82500(-24000)

阿知賀女子学院 103900(-3700)




「咲は、あの時に比べて戦い方がずいぶん変わってる。それに、性格も明るくなった。」

「そ、そうかな?ならやっぱり、先輩たち、特に亦野先輩のお陰かな。先輩はすごくてね、私のプラマイゼロをたった一手で崩したんだよ!」

「…!」


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終局
35翻役 亦野誠子は逃げ出したい


今回で完結となります。拙い文章ではございましたが、今まで読んでくださりありがとうございました。


咲ちゃんがオーラスに牌を倒した瞬間、清澄メンバーがいる控室内の時間が停止した。そしてその直後に一気に騒がしくなる…と思いきや、全員がある程度は落ち着いていた。

 

 

「ヤバっ、ほんとにあたしたち優勝したの!?…なら、後でシズ達に自慢しに行こーっと。」

 

 

「まさか、優勝するたぁ思わんかったわ。咲もよおやったの。」

 

 

「おいおいおい、優勝しちまったのかよ、俺たち。結局、俺とまこは何もできてねえじゃねえか。」

 

 

たぶんみんな、私と一緒でまだ実感が湧いていないだけだ。実際に打ってる咲ちゃんだってまだ唖然としてるのに、画面越しに見てるメンバーが先に実感できる訳がない。後、純とまこが活躍できていないなら、私は一体何をしたのか。

 

 

 

 

 

 

そうして静かに喜びを共有してから咲ちゃんを迎えに行ったが、彼女はお姉さんと二人で会話していた。内容は聞こえないが、その理由は前々から聞いている。なので、みんなでしばらく見守ることにした。

 

 

二人をしばらく眺めていると、言葉のトーンが気まずそうなものから明るいものへと変わってきた。どうやら仲直りに成功した様だ。久しぶりに姉妹で会えたのだ。話すことも多いだろう。

 

 

もう少し待つか、と三人に提案したところで、咲ちゃんがこちらを指差しているのが見えた。

 

 

ずっと待っている私たちを気の毒に思ったのだろうか。そのまま姉を連れてこっちに来て、メンバーとお姉さんとを順番に説明していく。気持ちは嬉しいが、いきなり来られても困る。照さんも笑ってはいるが、あれは営業スマイルだ。絶対気を遣ってる。

 

 

その絶妙な空気の中、ようやく最後に私の紹介がされた。これ以上邪魔をするわけにはいかないので、咲ちゃんにその旨を伝えようとするが、

 

 

「すみません、亦野さん。まずは、お礼を言わせていただいてもよろしいですか?」

 

 

姉の方が話し掛けてきた。それも全員でなく、私一人に。

 

 

チャンピオンである彼女が私だけに感謝する事があるか?と疑問に思いつつも、とりあえず続きを促す。すると、

 

 

 

 

 

 

「咲の、妹の呪縛を解いていただいて本当にありがとうございます。昔の私ではどうしようもなかったので、本当に感謝しています。」

 

 

…姉妹揃って中二病だったか。

 

 

しかし、咲ちゃんですでに慣れているからか意味は理解できた。恐らく、「妹は昔から人見知りで友達ができにくかったが、仲良くなってくれてありがとう。」ぐらいじゃないか?

 

 

それなら、一番咲ちゃんの話に付き合っている私に礼を言ってくるのにも納得がいく。

 

 

ただ、自信がないためここは適当に話を合わせてからなんとか流す。この手の内容は、長引かせすぎるとボロが出る。過去の経験だ。

 

 

そしてそのまま話を切って立ち去ろうとしたが、まだ話したい事があるらしい。頼むからこの空気を読んでほしい。天然なところは妹そっくりで___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「国麻に出る気はありませんか?」

 

 

…えっ?




「立ち話も何ですから、私たちの控え室で卓を囲みながら話しませんか?ちょうど、うちの大星が亦野さんや咲と打ちたがっていましたので、面子には困りませんよ。」

「」

「…本当はお姉ちゃんが打ちたいだけだよね?」

「…うん。」

「でも、お姉ちゃんでも先輩に勝てるかは分からないよ?」

「…!」

「」


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