Lyrical Foundation Hub (ryanzi)
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財団の始まりと簒奪者

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もう自分の名前は忘れてしまった。

私はただのO5-1となった。

今日でそれも終わりだが。

あの時の私の一人称は「俺」だったような気がする。

ある日、世界は終わった。

正確に言えば、〔虚構〕の世界が終わったのだ。

財団は狂ってしまったのだ。*1

私は別件で隔離サイトにいたから助かった。

それから私は何をしていたのかが思い出せない。

おそらく、あちこちを徘徊する機動部隊とアノマリーから逃げまどっていたのだろう。

旧世界での最後の記憶は・・・異常性を有するハンガーを握った瞬間だ。

 

そこから、私は今の世界に立っていた。

その時に会ったのが今の13だ。

彼の話は今でも理解に苦しむものだった。

この世界は彼のいた世界のアニメ作品で、私のいた世界はネット創作だというのだ。

そして、驚くべきは彼が〔転生者〕だったということか。

彼は以前の世界で神の娯楽のために殺され、今の世界に生まれ落ちたらしい。

その話を聞いて、私は失いかけていた財団精神を思い出した。

 

確保、収容、保護

 

不条理と抗う精神を取り戻したのだ。

幸いにも、彼は財団のファンだった。

それが新しい財団の誕生だった。

・・・まずは、私の家探しが最初の仕事だったが。

とにかく、以前と比べて仕事は簡単と言えた。

そもそも、異常存在が神と『ロストロギア』しかなかったからだ。

クソトカゲも、彫刻も、シャイ野郎もいない。

少なくとも、人類滅亡の要因となるのは『ロストロギア』ぐらいだった。

最初に直面したのは『ジュエルシード』*2だ。

これに関しては無視した。その時は組織も固まっておらず、他の転生者と敵対するかもしれなかったからだ。そうはいっても、自分の無力さに呆れてしまった。子供が戦っているというのに、私はただ指を咥えてみることしかできないのだ。大人として失格だと思った。

13は〔アンチ管理局〕という存在を危惧していた。そいつらは管理局という組織に反感を抱いており、機会があれば彼らを妨害しようとして、話をややこしくするらしい。

私はそれを聞いて何も思わなかった。少なくとも、物語通りに進むと楽観視していたのだ。

私は無印とやらが進んでいる間は、少数ながら存在している異常組織との交渉に明け暮れていた。

月村家との協力関係を築けたのもこの時期だった。*3

SCP-002*4を作成したのも同時期の話だ。13は曝露を拒否したが。

財団という組織の地固めと並行して魔法の研究も実行していた。

私のいた世界の奇跡論とはまた一味違う技術で、驚愕したものだった。

・・・この頃だっただろうか、一人称が「私」となったのは。

月村すずかに注意されたのだ。

 

「これからたくさんの人に会うんだから、もう少し礼儀良くしたほうがいいよ」

 

まさか子供に注意されるとは思わなかった。

子供といえば、フェイト・テスタロッサ*5もそうだった。

あれは私の不注意だったといえる。ある晴れた日、私は魔法の知識が書かれたファイルを読みながら、サンドイッチを食べていた。今からしてみると、とても機密意識が低かったと思う。

偶然、強風が吹いて、ファイルが飛んで行ってしまった。

そして、そのファイルが飛んでいった先に彼女がいたのだ。

 

「・・・」

 

私は”原作”*6に関する知識を持ち合わせていなかったから、まさか彼女が魔法知識を有しているとは知らなかった。

 

「ここの部分、少しおかしいです」

 

それだけ言って去っていってしまった。彼女の言う通り、その魔法陣は上手く作動しなかった。

13はその話を聞いて笑った。

 

「原作キャラにはどういうわけか隠し事ができないんですよ」

 

13の言う通りだった。その後も機密違反が何度か起きそうになった。

そして、ついに最悪のシナリオの一つが実現してしまった。

POI-004、プレシア・テスタロッサの襲撃だった。

それはいくつかあったサイトの一つに対する攻撃だった。

その後、本部*7にもプレシア・テスタロッサが乗り込んできた。

 

 

会話ログ

 

O5-1:何が目的ですか。我々はSCP-███には手を出してないはずです。

 

POI-004:(ため息)やっぱり狂ってるわね。

 

O5-1:どういうことですか。

 

POI-004:管理局よりもタチが悪いわ。異端を決して認めようとしない。

 

O5-1:だから何を・・・

 

POI-004:あなた達はいつか破滅を迎えるわ。いつかきっとね。

 

 

・・・結局、彼女の目的は警告だったようだ。言っている意味はわからないが。

 

確保、収容、保護

 

それの何が悪いというのだ?・・・13も私の姿勢に不満を持っていたようだが。

幸運にも、その後は何もなかった。

そして、無印は過ぎ去った。管理局とやらに我々の存在は露見しなかった。

13は驚愕した。プレシアの件を除けば、何もなかったからだ。

そして我々は次の段階に移行することになった。

安全地帯の確保、すなわちSCP-001*8の作成だった。

神とやらの盲点を作ることが急務だった。人工的なアノマリー作成をよく思わない13もこれには賛成してくれた。

そして、それはA'sの事実的な始まりともいえる六月四日の前日に完了した。

もはや、神は手出しすることは不可能となった。これが最初で最後の神に対する勝利だった。

その後、GOI-002*9の提供した情報によると、神は自己終了したらしい。

そして、A'sが始まった。もちろん『闇の書』*10に関しては無視した。

 

 

会話ログ

 

O5-1:ええ、もちろん介入はしませんよ

 

グレアム:・・・そうか

 

O5-1:何かご不満でも?

 

グレアム:君たちは・・・正常性維持組織を名乗っているのでは?

 

O5-1:はい、そうですが。

 

グレアム:八神はやて、及び闇の書は君たちの収容対象にはならないのかね?

 

O5-1:SCP-666とSCP-666-1のことですか。私達の技術ではなんともなりませんよ

 

グレアム:・・・

 

 

最初から最後まで、グレアムは我々を信用しなかった。

その点に関しては、彼は大多数の管理局員と同じだ。

どういうわけか、彼らは我々の理念を何度聞いても、それに拒否感を覚えるらしい。

彼の使い魔の一人は言った。

 

「狂ってるよ。闇の書よりも、アンタらが危険かもね」

 

当時は嫌な気分がしたが、今はどうとも思っていない。

そうして、A'sも終了した。

それからしばらくして、我々は自分たちの存在を管理局に暴露*11した。

その時の宣言は君も知っている通りだ。

 

『我々は地球の正常性を守る、唯一無二の組織だ』

 

・・・どうにも彼らは正常性という言葉が気に入らないようだった。

だが、彼らも我々の必要性を渋々と認めた。

そして、十年の時が過ぎて、今に至る。

その十年の間に、我々は地球上で唯一の超法規的極秘機関に成り上がった。

かつての旧世界と違い、脅威となるGOIはほぼ存在しなかった。

我々は唯一の超常組織となった、地球唯一の。

私の努力は実った。だから、残念だよ。

君に全てを台無しにされるなんて

 

この簒奪者が

 

 

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O5-13はO5-2となった。理由は簡単だ。

彼以外のO5評議会員が殺害されたからだ。

 

「おめでとう、2」

 

彼の前に座っているのは、かつて彼がいた世界のアニメキャラクターだった。

彼は目の前の少女に殺意を抱きながらも、微笑を浮かべる。

 

「あなたこそ、暁美ほむら、O5-1就任おめでとうございます」

 

いつか殺す、そう思いながら微笑んだ。

*1
SCP-5000

*2
SCP-███

*3
財団-月村制憲権条約

*4
旧SCP-006

*5
現在のフェイト・ハラオウン

*6
魔法少女リリカルなのは、A'sを暗喩する言葉、及びSCP-2004

*7
現在のサイト-3

*8
現在のサイト-01

*9
踏み台転生者の会

*10
SCP-666

*11
この時、我々はSCP-███及びSCP-666を認知していない態度を示しました



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反乱記念日

『反乱しよう』と君が言ったから今日は反乱記念日

 

 

ミッドチルダにも財団は拠点を有していた。

無論、管理局に発覚しないように。

 

Special Cleaner Production

 

ミッドチルダで急成長を遂げた清掃器具メーカー。

もちろん、財団のフロント企業だ。

 

「・・・なんで、財団に就職しちまったんだろ」

 

社員であるエージェント・ロインはどこにでもいるミッド人だ。

数年前まで彼は就活に苦しむ学生だった。

しかし、彼の書いた卒論が偶然にも財団の目に留まってしまった。

そのおかげで生活には困らないが、いつか来るその時に怯えるようになった。

 

『財団は常軌を逸した排他的組織だ』

 

ミッドでも、ヴァイゼンでも、スプールスだろうと、突如として管理外世界に現れた謎の組織に対する認識は変わらなかった。もちろん、彼らは隣に財団が既にいるとは気づいていないのだが。

 

「そこまで悪い奴らじゃないんだけどさ・・・」

 

極北仕様バイクを運転しながら、彼は呟いた。

この数年で、財団に対する彼のイメージはずいぶんと変わった。

財団の存在する管理外世界には、魔女裁判というものがあった。

その魔女裁判を主導したカトなんとかという組織と財団は、管理世界の市民たちからは同一視されているのだ。もちろんロインもそんな市民と同じだった。

だが、カトなんとかの魔女裁判と違って、財団の()()は合理的で、それがないとむしろ人類が滅ぶというものだった。

 

確保、収容、保護

 

ロインはこの言葉を聞いても嫌悪感を覚えなくなった。むしろ、誇りに思うようになってしまった。

自分たちは正常性の最後の砦である。そう自覚するようになった。

もちろん、管理局も砦の一つだ。だが、彼らはあくまでも行政組織だ。財団ほどは早く動けないのがネックだ。それに『ロストロギア』以外のアノマリーには対処しにくい。

今回の彼の任務もまた、管理局がすぐには動けないような噂の対処だった。

 

『ミッド極北の雪に閉ざされた大地に巨大なビルが見えた。』

 

もちろん、該当地域は少数民族さえ住んでないような場所だ。

そんな根も葉もない噂に、管理局も人を割けないだろう。

そこで財団の出番だ。一般人にも管理局員にもバレないうちに対処するのがロインの仕事だ。

財団の耐寒装備は素晴らしいものだった。まるで寒さを感じないし、暑すぎない。

該当地域の近くに到着した。ロインは気を引き締めた。

 

「あら、ロイン君じゃない」

 

せっかく引き締めた気が緩んでしまった。

 

「・・・ギンガ姉さんかよ」

 

「あら、何か不満でも」

 

「不満も何もどうしてここに・・・」

 

ギンガ・ナカジマ、彼の近所の家に住んでいる姉みたいな幼馴染だ。

 

「この近くに次元マフィアの隠れ家があるとわかったから、それの制圧ね」

 

ギンガが西の方向を指差す。ロインが向かうのは東だった。

 

「よおボウズ、奇遇だな」

 

彼女の父親のゲンヤ・ナカジマもいるようだ。

つまり、この一帯には陸士部隊が展開されているということだ。

 

「それでロイン君はどうしてここに?」

 

「まさかマフィアの一員じゃあるめえな」

 

「まさか。俺は休暇を使って、ここに旅行しに来ただけですよ」

 

もちろん嘘である。

 

「ころちゅ・・・」

 

「お前の休暇を奪って、俺も死ぬ・・・」

 

管理局は誰もが憧れる職業だが、仕事はだいぶきつい。特に地上本部は。

財団はまだ福利厚生はしっかりとしている。

・・・それに、管理局よりも生存率はどういうわけか高い。

 

「それにしても、ロイン君がSpecial Cleaner Productionの社員になるなんてね・・・」

 

「まったくだ、神様が自殺でもしないかぎりありえないからな」

 

「ひどくありませんか」

 

 

 

気が緩んでしまうというアクシデントはあったが、ロインはそのままバイクを走らせた。

あれから陸士部隊に何度か遭遇したが、ゲンヤが手を回してくれたからか、トラブルはなかった。

吹雪はどんどん強くなる。まるでロインを邪魔するかのように。

 

「寒冷地ゴーグルがなかったら最悪だったな」

 

これでデマだったら本当に休暇を取ってやる、そう思いながらバイクを走らせる。

結局、彼が休暇を取ることはなくなった。”ビル”が見えたからだ。

 

「・・・マジかよ」

 

どうして管理局に見つからないのか不思議なほどの高さだった。

 

「さすがにマフィアにもこんなのを立てる力はなさそうだし・・・」

 

だとすれば、これはロストロギアかアノマリーのどちらかだ。

入口もガラス製なのに、中が確認できない。

何か不思議な力が働いている証拠だ。

 

「・・・入るとしますかね」

 

バイクを入口の横に止めて、中に入っていく。

中はベルカ貴族の屋敷に似た内装で、暖かった。

無機質なミッド的な見た目とは相反していた。

 

「金持ちの道楽?・・・にしては何かおかしいような」

 

「道楽ですよ、”元”金持ちの」

 

ロインはとっさに銃を向けた・・・つもりだった。

握っていたはずの銃はAtarimaeda社製のクラッカーだった。

目の前の細身の男の仕業だろう。

 

「おっと、このビルから出たら元に戻るので安心してください」

 

「・・・ずいぶんと悪趣味なことで」

 

「これでも以前はO5評議会員でしたからね、悪趣味になって当然ですよ」

 

「そうかそうか、O5か・・・えっ?」

 

「あなた財団職員でしょ。雰囲気で分かるんですよ」

 

O5評議会員を名乗った男はどこからかシャンパンを取り出す。

 

「まずは喉を潤しませんか?」

 

「おいおい、飲んだ瞬間、化け物になるとかないよな?」

 

「大丈夫ですよ。ここにあるのは全て正常ですよ」

 

酷い冗談にしか思えなかった。

 

 

 

「それはそれは大変でしたね~」

 

ロインはすっかり酔ってしまった。

 

「そうですよ~、気づけば航行船に爆弾が仕掛けられてたんですから。一瞬でわかりましたよ、あの女の仕業だって・・・」

 

前にいる男はO5の席に座っていた唯一のミッド人だったらしい。ちなみに番号は12だったという。

だが、ある日、ひとりの女性のクーデターによって謀殺されかけたらしい。

 

「爆弾はなんとかしましたが、このままではやばいから死んだふりを今もしてるんですよ」

 

「それで、こんな場所にビルを・・・。あれ、俺財団職員だけど大丈夫なの?」

 

「大丈夫ですよ、僕のことは変な能力を持った男として収容してもらえれば」

 

「まてよ、それだと・・・」

 

「どうせアノマリーの烙印を押されれば、権力を手に入れるのは二度と無理ですよ」

 

「ああ、だったらまた謀殺されることもないわけか」

 

「ええ、もうあの女は私を気にしないでしょう」

 

ふと、ロインは気づいてしまった。

 

「俺、けっこうクリアランス違反なことを聞いちゃったけど・・・」

 

「大丈夫ですよ、記憶処理でなにもかもおさらばですよ」

 

「ええ、あれ気がおかしくなりそうでさ・・・」

 

ロインは記憶処理を受けたことがないと自分では思ってる。だが、実は何度か記憶処理を受けているのではないかと考えることがあり、そのたびに気がおかしくなりそうになっていた。

 

「・・・たまに、考えるんですよ。自分の記憶は偽物なんじゃないかって」

 

「財団ではよくあることですよ~」

 

「でも、最近では人類のためと考えるようになっちゃったんですよね」

 

「堕ちるところまで、堕ちましたね~」

 

「あなたこそ、こんな狂った組織の首領をやってたんだし、おあいこですよ~」

 

「ええ、でもそれは人類を守るための狂気でしたからね~、これからはどうかわかりませんよ」

 

そう言って、男はテレビとリモコンを取り出し、どこかの会議室を映し出した。

 

〈・・・なんということだ、我々のすぐそばに財団が潜んでいたとは〉

 

〈まさかSpecial Cleaner Productionもフロント企業だったのか〉

 

〈それを、O5評議会最高位のO5-1がわざわざ我々に暴露するなんて〉

 

ロインは一瞬で凍り付いた。間違いなく、画面の向こうにいるのは管理局の高級メンバーだ。

 

「・・・あの女は厚かましくも1の位に着きました。そして、財団をこうして滅ぼそうとしているんです。もはや人類を守るための狂気は存在しません。自滅の狂気だけが残るんです」

 

「マジかよ・・・、俺、社会的にもうすぐ死ぬじゃん・・・」

 

「社会的?果たして管理局が『身体』を見逃してくれると?」

 

「・・・まあ、汚い組織だという噂は前からあるけどさ」

 

「どうしますか?このまま帰っても、いつかは破滅を迎えますよ」

 

「じゃあ、なんだ?ここで酒浸りの余生を送れっていうのか。悪くはないけど」

 

「いえ、僕もあの女にはムカついているので、反乱を起こそうと思います」

 

「反乱?財団に?」

 

「ええ、前の1が残してくれた文書をもとに思いついたんですがね」

 

男は厚い紙束を取り出し、ロインに渡す。

 

「へえ・・・カオス・インサージェンシーか」

 

「旧世界とやらの財団の一部が離反してできた組織のようです」

 

「きゅうせかい?」

 

「詳しいことは僕にもわかりません。今の財団が結成される前に、かつての1がいた世界だそうです」

 

「どこの次元世界だ?」

 

「次元世界ともまた違うそうなんですよ・・・僕もそれに関しては頭が痛くなるんです」

 

男はシャンパンをもう一瓶取り出して、なみなみと注ぐ。

 

「それで、俺たちもその名前を使うのか?」

 

「ええ、いい名前ですし」

 

「賛成」

 

二人はグラスを高々に掲げる。

 

「僕たちの反乱に」

 

「俺たちの反乱に」

 

 

この日、新生カオス・インサージェンシーが産声を上げた。

その産声が、狂気を打ち破る鉄槌になるのはそう遠くないだろう。



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流星のごとき混沌

「・・・以上の企業が財団のフロント団体と発表されました」

 

それは全管理世界を混乱に陥れた。

財団が自分たちの隣にまで迫っていたのだ。

とくにSpecial Cleaner Productionが財団の一部だというニュースは世界を混乱に陥れた。ミッド各地で不買運動が起こり、リンチまでもが行われた。

それと同時に、不思議なCMが流れるようになった。

 

「こんにちは!私達はカオス・インサージェンシーです。私達は明白な運命によって財団に反旗を翻しました!かの狂気に満ちた軍隊に鉄槌を下すため、あなた方の力を貸していただきたいのです」

 

そのCMは突然流れるのだ。放送休止時間だろうが、別のCMの途中だろうが、本当に見逃したくない一シーンの時もあった。

 

「正気の世界を保つために、あなたの力が必要なんです」

 

 

 

 

「・・・あれ?これロインの声じゃん」

 

「アンタの知り合い?」

 

「うん、幼馴染だけど?」

 

ティアナ・ランスターは危うくコーヒーを吹き出すところだった。

 

「・・・もう一回、言ってくれない?」

 

「幼馴染だけど?」

 

ティアナは信じられなかった。自分の親友の幼馴染が財団に反旗を翻した団体のCMの声を担当しているなんて。

 

「世の中って狭いのね・・・」

 

 

それから数日が経った。

 

「どうも、私はカオス・インサージェンシー中央委員のロイン・クリストファーと申します。早速ですが、我が反乱軍の主力製品をお買い上げになりませんか?」

 

カオス・インサージェンシーの構成員を名乗る青年セールスマンがベルカ自治区のあちこちに出没していた。彼の売り付ける商品はどれもロストロギアではないのかというレベルの技術がつぎ込まれたものであった。

 

「はやてもどう?この多宝塔、結構便利なのよ。それに比べて、聖王様は多宝塔と違って何も与えてくれないのよね・・・」

 

「シャッハ、これはどういうことや?」

 

「すみません・・・」

 

この事態を重く見た八神はやては機動六課を動員して青年セールスマンの捜索を開始した。

 

「・・・ロイン、この前までSpecial Cleaner Productionに勤めてたんだよ」

 

「えっ、そうなの」

 

親友の幼馴染は財団職員でもあったらしい。

 

「うん。でも、信じられないんだよ。最後にロインに会った時、すっごくロインは元気そうで財団職員だなんて思えないほどだったんだよ」

 

スバルの目はどこか悲しげだった。

 

「最近さ、ロインがすうっと消えていく夢ばっかり見てるんだ」

 

ティアナは納得した、それで寝起きのスバルが涙を流していたのかと。

 

「こんにちは!私はカオス・インサージェンシー中央委員の・・・って、スバルか」

 

「・・・ロイン、ロインだよね?」

 

スバルは青年に抱きつく。

 

「・・・よかった、元気そうで」

 

「おいおい、俺がリンチされたとでも?」

 

ロインはスバルを優しく自分の体から離すと

 

「ちょっと俺も忙しいからな、またいつかな」

 

それだけ言って、すうっと消えてしまった。

それはスバルが夢で見たのと同じように。

 

「・・・ひどいよ」

 

 

 

 

〈・・・少なくとも、財団は管理世界での利権を捨てるつもりだろう〉

 

〈しかし、何のためだ?ある意味では自殺行為そのものだ〉

 

〈それは考えても仕方がないだろ。狂人の思考なぞ理解できないものだ〉

 

 

 

 

「ふーん、カオス・インサージェンシーね・・・」

 

暁美ほむら、現O5-1はファイルに目を通す。

 

「・・・確か、旧世界とやらにもそんな組織があったんでしょ?」

 

〈ああ、確かにあったな。もう記憶はあやふやだが〉

 

O5-2はモニターを通して1と会話していた。

彼はサイト-01に長い間帰っていなかった。

 

「・・・あなた、今どこにいるのよ?」

 

〈またその質問か。君に殺されない場所だよ〉

 

財団は巨大な組織だ。もしかしたら1が把握していないサイトにいるのかもしれない。

 

〈それで、どうするんだ?どうせ管理世界のサイトは捨てるつもりなんだろ?〉

 

「・・・そのつもりだけど」

 

〈だったら無視しよう。無駄な戦力を割くわけにはいかないからな〉

 

モニターから響いてくる声は、どこか喜びを感じられるものだった。

 

 

 

さて、ある日のことだった。

反財団のデモ隊は今日もSpecial Cleaner Productionのビルの前に集まった。

しかし、看板からは社名が消えていた。

その代わりにChaos Insurgencyという文字と、彼らのロゴが書かれていた。

 

「デモ隊の皆さん、こんにちは!」

 

突如、CMの声と同じ声の好青年が彼らの前に現れた。

 

「私はカオス・インサージェンシー中央委員書記のロイン・クリストファーです!」

 

実にはきはきとした声だった。

 

「今日よりここは我が反乱軍の拠点の一つとなりました!おそらく、全ミッドの財団サイトで同じことが起きているでしょう。お喜びください!皆さんの隣に狂気の軍隊はいなくなりました!」

 

そして、すうっと消えていった。

彼の言う通り、ミッド全域に存在した財団拠点は全てカオス・インサージェンシーの手に堕ちた。



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SCP-2004

アイテム番号:SCP-2004

 

オブジェクトクラス:Yesod

 

特別収容プロトコル:すべての収容手順は無意味かつ冒涜的なものです。

物語を捻じ曲げることが許されるのは、SCP-2004-4の一人だけです。

 

説明:SCP-2004はこの世界そのものです。それは美しい物語です。三人の魔法少女たちが織り成す美しき戦いの物語です。

私達は物語の全てを知ることはできません。それでも、彼女たちに関しては幸せな結末を常に迎えると知っています。

 

SCP-2004-1は高町なのはという少女です。彼女の不屈の心は、金属のごとき財団精神でさえも打ち砕くことのできないものです。

彼女は孤独というものを知っているからこそ、かつての自分と同じように孤独な者に手を差し伸べようとします。

我々は彼女のとる行動に、常に敬意を払わなくてはいけません。

 

SCP-2004-2はフェイト・T・ハラオウンという少女です。彼女の幼年期はあまりにも悲劇的なものでした。我々はわかっていながら助けを差し伸べようとしませんでした。そのことを自覚してください。

しかし、彼女はそのような悲劇を乗り越えたからこそ、強くなることができたのです。

 

SCP-2004-3は八神はやてという少女です。ええ、SCP-666-1です。我々は彼女をアノマリーに指定していました。そのことを彼女は未だに知りません。

彼女は自分の境遇から、ロストロギアに苦しむ者たちに手を差し伸べようとします。

おそらく、遠い未来に我々は彼女と対峙することになるかもしれません。その時は、ただ敬意を持って彼女の前に立ってください。

 

SCP-2004-4は転生者*1たちです。ある者は彼女たちを手籠めにしようとします。ある者は何もしませんが、巻き込まれます。ある者は悲劇を喜劇に変えようと試みます。

なお、GOI-002である”踏み台転生者の会”の構成員もSCP-2004-4として扱われます。

現在、彼女たちのそばにいるSCP-2004-4は瀬宮徹(せみやとおる)という無力な青年です。彼はSCP-2004-4がどう生きるべきかを常に自問自答し、答えに辿り着いた唯一のSCP-2004-4です。

 

SCP-2004-5は瀬宮徹が辿り着いた答えです。SCP-2004-1もSCP-2004-2もSCP-2004-3も一生懸命に日々を送っていたからこそ力を得ることができました。

どんなに理不尽な未来でも、それを変えていいのは彼女たちのように一生懸命に生きている人間だけです。

SCP-2004-4、そして私達がやるべきことは、SCP-2004-1やSCP-2004-2、SCP-2004-3のみたいに自分の力で一生懸命に生きている者たちと一緒に、おなじ歩幅で生きていくことです。

瀬宮徹は彼女たちと一緒に笑って、美味しい食事に舌鼓を打ち、柔らかい寝具で寝ることができるということに感動し、一日一日を生きていけることに感謝しました。

光の世界が太陽と夏の冷たい草で満たされているように、この世界には優しくて親切な人達がたくさんいることを実感して、彼はこの世界に生きています。

チートと呼ばれる力を持っていなくても、助け合えるということを彼は悟りました。

 

SCP-2004-6は自己終了しました。これは当然の結果です。

 

 

 

 

 

 

O5-2のメッセージ

 

おめでとう。君たちはついにこの世界の真実にたどり着いた。

私は君たちを誇りに思うよ。

そして、君たちには重大な使命が与えられた

 

 

 

 

メッセージが届きました。

*1
現在のO5-1、2も転生者であることを留意してください



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会談

「それでは会議を始めましょうか」

 

ロインは心の中ではとてつもなく緊張していた。

いつもの会議は(中央委員会が二人だけなので)気楽なものだが、今回は違う。

今回は伝説の管理局員が出席しているのだ。

 

「ああ、よろしく」

 

瀬宮徹。あのエースオブエースの高町なのはと同じ世界出身の管理局員。

あの雲の上のO5評議会でさえも敬意を払う人物だという噂もある。

そして、その噂は本当だと今日証明された。

 

「今日死んでも悔いはありません」

 

元O5-12のトゥエ(ロインが付けた愛称)がそんなことを口走ったからだ。

 

「おいおい、そんなこと言われても困るよ」

 

瀬宮も苦笑してしまっていた。

 

「まったく、瀬宮が困っているじゃないか・・・」

 

さて、もう一人伝説級の人物がこの会談に参加していた。

神谷煉獄(かみやれんごく)、彼もまた地球出身の魔導士だった。

この人物は別の意味で伝説的なのだ。

・・・三人衆から嫌われているという点と、財団職員という点で。後者の方は知られていないが。

 

「さてと、これでカオス、財団、管理局の三頭会議が実現しましたね」

 

「さっきから気になってたけど、今日飲み会じゃなかったの?」

 

「俺もそう聞いたが」

 

「ええ、会談という名の飲み会ですよ」

 

「よし、今日は飲むぞ!」

 

「俺はサラミを要求する!」

 

あっという間にロインの中での二人に対するイメージは崩れていった。

 

 

 

 

 

「それにしても、お前生きてたのか~」

 

「俺も死んでるもんかと思ってたからな~」

 

ロインの中での二人は完全に死んだ!

 

「・・・まあ、いいか~」

 

ロインも酔っていたので問題はなかった。

 

「僕だってミッド人ですよ、テロ対策は身に染みてるんですから。そもそも2はどうして無事なんですか~」

 

トゥエがミッドに対する悪質な風評被害を口にする。

 

「ああ、そういえばアイツは生き残ったんだよな」

 

「秘書兼護衛の俺がいたからな!」

 

なんと神谷はO5-2(元13)の秘書らしい。ロインは初めてその事実を知った。

O5評議会は『雲と次元の上』と表現されるほどの存在だ。高クリアランスの職員でも内情を知るものは少ない。

まして、別次元世界の職員であるロインがどうして内情を知ることができようか。

ぶっちゃけ、管理世界市民からはフィクションの存在だと思われているレベルだ。

 

「これはやてがお守り代わりに渡してくれたんだ」

 

「可愛いキーホルダーですね~」

 

「まったく、相変わらず甘酸っぱい日常を送ってるんだな」

 

瀬宮はキーホルダーを自慢する。

タヌキ耳を生やした八神はやて、というデザインだった。

瀬宮は八神はやてと"そういう関係"であることでも有名だった。

 

「まあ、それはともかく、飲み会とはいえ会談なんだろ?本題はなんだよ~」

 

「うむ、俺も気になるな」

 

「ええ、そうしたいところなんですが・・・はやてさん、見てるんでしょ?」

 

「えっ」

 

『あちゃー、さすがに元O5議員ともなると騙せんもんやなあ』

 

キーホルダーから声が発せられる。

 

「・・・瀬宮」

 

「ちょっと待って、俺知らないんだけど」

 

『ごめんなあ、瀬宮くん。最近、ちょいっと出張が多いから不安になってしもうて』

 

「今回のを除けば本当に出張だってば!」

 

『知っとるよお、今回のを除けばの話だけど』

 

声がだんだん冷たくなってきていた。

 

『いやあ、楽しそうやなあ』

 

「「「・・・」」」

 

『今日もご飯用意していたんやけどなあ』

 

「ロイン君、逃げてくだ・・・もう逃げてますか。二人とも逃げますよ」

 

ロインの姿はこつぜんと消えていた。

 

「言われなくとも!」

 

「よし、それじゃあ生き残ろうか!」

 

 

 

 

 

 

 

ロインは結構、自己保身的な人間だ。そうでなければ反乱軍に参加などしていない。

そういうわけで、雪原の中をとっくに逃げていた。

 

「待てや、このクソボウズ!」

 

「待てと言われて、待つバカはいません!」

 

「お姉ちゃん怒らないから、止まってちょうだい」

 

「ギンガ姉さん、俺知ってるからね!それ怒るパターンだって!」

 

・・・背後から馴染みの声が聞こえる。

それと同時にビルの崩れる音が聞こえた。

さらには魔力弾が飛んでくる。

バイクが魔改造されていなかったら、捕まっていただろう。

 

「ロイン・クリストファー、止まりなさい!スバルが泣いているの知らないの!?」

 

「幼馴染を引き合いに出されても困りますよ!」

 

砲撃が飛んでくる。

 

「幼馴染以前に、人としてありえないよ・・・おはなししようか」

 

エースオブエースの砲撃が次々と飛んでくる。

魔改造バイクの性能と、ロインの操縦技術がなければ目も当てられないことになってただろう。

 

「さすがに姉さんをああしたのは許せないな」

 

「聖王教会にどれだけの被害が出たのかわかってるのですか?」

 

聖王教会の騎士たちがあちこちに見える。ミッド中が敵に回ったかのようだ。

このまま逃げても生きる場所があるだろうか?

だが、逃げなければ、もっと惨い死がすぐ待っているだけだ。

 

「待ってよ・・・ロイン・・・」

 

幼馴染の声が聞こえる。・・・どこか死んだ声だった。

 

「もうやめてよ、ロイン。ロインには反乱とか似合わないよ」

 

「そうはいっても、後ろの人たちが・・・!」

 

ちなみに、スバルはロインのバイクと並走している。

だから、スバルのどこか生気のない目をロインは見ることになった。

 

「だいじょうぶ、なんとか話をつけておくからさ・・・」

 

「ちょっと待って、大丈夫じゃなさそうだけど!」

 

「あのさ・・・ロインはちょっとおかしくなってただけなんだよ?」

 

今のお前に言われたくない、とロインは思った。

 

「財団に入っておかしくなっちゃったんだよ、正常とか人類を守るとか、ロインに一番似合わないじゃん」

 

「・・・」

 

「だからさ、戻ってきてよお・・・」

 

かつての上司(収容違反で死んだが)の言葉がロインの脳裏によぎる。

 

〈女の涙はアノマリー以上に厄介だ。使命を果たすのが苦しくなるからな〉

 

ロインはその言葉の意味をようやく理解した。

 

(止まってもいいや)

 

そんな考えが頭を支配しそうになる。だが・・・

 

「すまん、スバル!やっぱり使命とか捨てられねえ!」

 

バイクを加速する。

ロインは自己保身的な人間である前に、使命に燃える人間でもあった。

あくまで自己保身的な性格が邪魔しているだけだ。

反乱軍に参加したのも、財団を破壊しようとするO5-1を打倒するためだ。

 

「そういうわけで、またいつか!」

 

「待ってよおおお!」

 

 

 

「いやあ、なんとか逃げれるものなんですねえ」

 

「・・・はやての足舐めまわしながら土下座すれば許されるかな?」

 

「お前反省してないだろ?」

 

(色々な意味で)人外三人組は夜の都会の喧騒の真っ只中にいた。

 

「・・・ところで、ロインとかいうのは大丈夫なのかい?」

 

瀬宮が心配そうに尋ねる。

 

「ええ、彼は意外と運がいいので、大丈夫でしょう」

 

「・・・だったらいいけどさ」

 

 

 

ロインはようやく逃げ切ることができた。

彼はどことも知れない雪原をバイクで走っていた。

 

「どこなんだよ・・・ここはよ・・・」

 

 

 

「ところで、本題はなんだったんだ」

 

瀬宮のお気に入りの喫茶店に入った後、神谷が口を開いた。

 

「大したことではないんですよ、ちょっと暁美ほむらが何者なのか聞きたくて」

 

「えっ、ほむらさんは魔法少女まどなんとかという作品の世界から来たと聞いたけど」

 

瀬宮がさらっと重要なことを口にする。

 

「それですよ、僕が求めていた情報は。彼女の出自に関する情報はあまりにも少ないんですよ」

 

「まあ、俺もほむらと”無印”とかの時期は同級生だったが、あまり親交はなかったし・・・、まどマギのキャラだっていうのは知ってるけどな」

 

「そうなると瀬宮さんだけなんですよね、ほむらの情報持ってるの」

 

「大したことは聞いてないんだけどな、ただ昔の話を聞いただけで」

 

そういうと、瀬宮はほむらの昔話を始めた。

瀬宮は物乞い時代にほむらから何度か助けられたこともあり、自然と親交を深めていった。

その時にほむらから彼女の過去について聞かされることもあった。

彼女はまどマギとやらの世界で魔法少女をしていたらしい。ただ、この世界と違って、彼女の世界の魔法少女はなった瞬間に死が確定するようなものだったらしいが。

彼女は一人の少女のために戦っていたらしい。その少女が魔法少女にならないように。

それでも全ての努力は無駄になって、神に転生させられ、能力の一部を奪われてしまったらしい。

 

「・・・俺が聞いたのはそういった話だな」

 

「奪われた能力というのはどういうものだったんですか?」

 

「えっと、なんか一か月前に戻るとかっていう」

 

「そこだけはSCP-2004-6の英断だったか。あれ色々とめんどくさいことになるからな」

 

その時、喫茶店にまだ十代くらいの黄色人種系の男女数人が喫茶店のドアを吹っ飛ばして入ってきた。

 

「おや強盗ですか。相変わらずミッドは変わりませんね・・・二人ともどうしましたか?」

 

瀬宮と神谷の顔が蒼褪めていた。

 

「・・・おい、なんかヤバイ予感しかしないんだけどさ」

 

「あいつら転生者か?だが、あんなの見たことが・・・」

 

「・・・ああ、なんとなくわかりました」

 

トゥエもじっくり見てわかったのだが、彼らから明らかに異常な何かを感じることができた。

それは1や2が放つ力とはまた別次元のものだった。

 

「・・・そこのオジサンたち、手を上げて」

 

彼らの仲間の一人と思われる少女が剣を向ける。

 

「「「はーい」」」

 

三人は大人しく手を上げた。

 

「・・・」

 

少女はこちらをずっと睨んだままだ。

 

「おい神谷、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)使えないのか」

 

「ここ喫茶店だぞ。それに本当に効くのかわからん」

 

「肝心な時に役にたたないな」

 

「瀬宮、何の特典もないお前だけには言われたくないぞ」

 

「二人とも、不毛な争いと化していますよ」

 

少女がため息をつく。

 

「オジサンたち、〈転生者〉なの?」

 

「ああ、俺と神谷はそうだ。こいつはもともとこの世界の人間だけどな」

 

「ふーん、まあいいけどさ。どうせ王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)なんてテンプレ技、私達には効かないし」

 

「おい、それはどういう・・・」

 

神谷が少女に問おうとしたが、少女は剣を神谷の喉元に突きつけた。

 

「おっと、質問は受け付けないよ」

 

「・・・」

 

「これは厄介ですねえ」

 

「そうだな」

 

「お前ら他人事だと思ってねえか?」

 

そうこうしている間に、喫茶店のマスターは身包み剥がされたようだ。

 

「「「見たくないものを見たなあ・・・」」」

 

三人は察した。次は自分たちの番だと。

 

「・・・神谷さん、魔力はあるんでしょ?テレポートで逃げれませんか」

 

「・・・詠唱した途端に斬られると思うぞ」

 

「まったく、二人とも。ここは最後の手段を使うべきじゃないか」

 

「「最後の手段?」」

 

瀬宮は深呼吸して、それから・・・

 

土下座した

 

これが何の力も持たない瀬宮が編み出した戦い方だった。

 

「ごめんなさい、どうか身包み剥ぐのだけはお許しください」

 

「てめえ・・・」

 

「見損ないましたよ・・・」

 

少女はそれを見て、ただ笑った。

 

「ふふふ、やっぱ転生者って弱いんだね」

 

そこにリーダーと思われる青年がやってきた。

 

「・・・これが転生者か。くだらないな、帰るぞ」

 

「はーい」

 

青年は少女と他の仲間たちを引き連れて去っていった。

瀬宮は起き上がって言った。

 

「くやしいのう、くやしいのう」

 

「おい、別作品になったぞ」

 

「私はミッド人なので意味がわかりません。それより、彼らは何だったんでしょうか、なぜか瀬宮さんが転生者だと知っているようでしたし」

 

「さあな。とりあえずに確認してみる」

 

「ものすごく・・・くやしいです・・・」

 

 

 

 

 

 

「・・・それで、どこに行けばいいんですかね」

 

「黙ってて」

 

ロインは結局捕まってしまった。

・・・管理局ではない何者かに。

 

「そこを右に曲がって」

 

「・・・りょうかーい」

 

バイクの後部に座っているのはロインより一歳下と思われる少女だった。

・・・その少女に捕まってしまったのだ。



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”簒奪者”暁美ほむらの最期

少なくとも、画面の前の貴方達は人々の透き通った叫びを聞くことができるはずです。


「それじゃあ、転生しろよ」

 

「何言ってんの」

 

「元の世界に蘇ることもできるけど、ゾンビあつか・・・」

 

「それでもいいわ」

 

「・・・あーもう、めんどくせえなあ!とりあえず没収だ!」

 

「・・・何をしたの?」

 

「お前の能力の一部を奪った。もうめんどくさいから転生させる」

 

「ちょっと・・・!」

 

 

 

「・・・懐かしいわね」

 

暁美ほむらは夢から覚める。

かつて自分を転生させた”自称”神は自殺したらしい。

それも自分がいまいる組織によって。

 

財団

 

確保、収容、保護をモットーとする正常性維持機関。

世界唯一の超常組織。世界最後の超常組織・・・。

全ての闇は財団によっていずれ取り払われるだろうともいわれている。

そして、今ではほむらはそんな組織のトップに立っている。

トップに立っているという表現は間違っている。トップの位を簒奪したのだ。

なぜ、そんなことをしたのか。理由は二つあった。

一つは純粋に怒りが湧きあがったからだ。

かつてのO5-1はまさにほむらの怒りを買うような人物だった。

彼は正常性を謳いながら、やっていることは異常物の生成だった。

ほむらはある日、彼の考案した異常性兵器の設計図を見つけた。

 

『合唱の銃』

 

そんなコードネームで呼ばれていた兵器の材料は・・・90人の少女だった。

しかも、既にその材料集めは始まっていた。

ほむらはO5-1に問い詰めた。

 

「財団は悪だ」

 

彼はただ無表情でそう言った。

 

「我々は世界の正常性を維持するために・・・」

 

御託はもうたくさんだった。

二つ目の理由は、彼女の存在理由たる少女を取り戻すためだった。

少なくとも、財団の技術力をもってすれば可能だった。

 

彼女の計画の第一段階は実行された。

12と13を除くO5の抹殺に成功した。

12はミッドに逃亡し、13は自らと同じ転生者なので手出しは難しかった。

だが、彼女は1の位を簒奪した。

計画の第二段階はついに終わろうとしていた。

 

「この時を、ずっと待ってた」

 

彼女は物語層視覚化スクリーンを起動する。

二つの球体が表示される。一方は魔法少女リリカルなのは、もう一方は魔法少女まどか☆マギカを表現している。

魔法少女リリカルなのはの球体が魔法少女まどか☆マギカの要素の一部を吸収していた。

『鹿目まどか』の要素を。

 

「・・・これで、いいの」

 

カウントダウンはついに数秒が残されるだけとなった。

 

なにがおこったの?

 

 

いやだしにたくない

 

これで全ては終わる。

 

おかあさんいたいよいたいよお・・・

 

 

だれがこんなことをしたんだ

 

彼女の望む結末。

 

せかいがくずれてる、だれかたすけて

 

 

くるしい、かみさま、くるしいよ

 

時は来た。

 

こんなのひどいよ

 

 

あ・・・

 

ついに完全な吸収に成功した。

ほむらはもう一つのスクリーンを表示する。

 

『・・・それで、どこに行けばいいんですかね』

 

『・・・黙ってて』

 

まだ不完全な状態でも、まどかはまどかだ。

それにもうすぐ完全な状態になる。

おそらく、今のまどかは本能的にほむらの方に向かっているのだろう。

 

「終わったわね」

 

「ああ、終わったな」

 

背中に痛みが走る。刃物で刺されたようだ。

 

「・・・だれ?」

 

それはほむらの知らない人間の顔だった。

 

「知る意味ないだろ。とにかく、お前はここでゲームオーバー」

 

そいつは嫌悪を催す笑みを浮かべる。

 

「・・・どうして?」

 

「それも知る意味はないな。まあ、スクリーンを見ればわかるんじゃないか?」

 

魔法少女まどか☆マギカの球体が崩壊を始めていた。

 

「神様は見ているということさ。さて、次はまどかの番だな」

 

「えっ・・・」

 

意識が薄れてゆく。まどかを守らないと。

だが、能力が発動できない。

 

「残念だが、お前の能力は使えないんだ。もうお前はただの人間、諦めろ」

 

いやだ

 

「俺もさあ、こんなことしたくないけどさあ、絶望を与えろと言われてるんだよねえ」

 

まどかをしなせたくない

 

「さて、行きますか」

 

そんな・・・。

 

 

 

ロインは背後の少女に違和感を感じていた。

この少女は、今まさに完成されている途中である。

そんな感じがするのだ。

 

「・・・ロインさん、でしたよね」

 

「・・・ああ」

 

「ごめんなさい、こんなことしてしまって」

 

「いいよ、まあ俺も逃げてる途中だし。なんか深い事情でもあるんだろ?」

 

「・・・ごめんなさい、ごめんなさい、ごめ・・・」

 

何かおかしい。いったんバイクを止めた。

 

「おい、どうしたんだ?」

 

「そんな、ほむらちゃん、死んじゃいや・・・」

 

少女は気を失った。

 

「・・・ほむら、だって?」

 

ロインはその名前に聞き覚えがあった。

現O5-1、簒奪者の名前だった。

 

「・・・めんどくさいことになったなあ」



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