刀を作りて業を斬る (凡人EX)
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山奥の村にて
Fate要素は本当に少しだけです。
日輪の子も問題児もまた投稿致します。
とある山の奥、金属を叩く音が聞こえる中、囲炉裏を挟んで2人の女性が向かい合って座っている。
片方は白い軍服のようなものを着ている、髪の長い麗人。
もう片方は赤いエプロンを着た、はねた毛先が特徴的な美人。
緑茶を2人して啜り、同時に湯呑みを置く。
「それにしても、久しぶりねぇ、紫ちゃん。元気そうでなによりだわぁ」
「そちらこそ、お元気そうで何よりです。日美先輩」
「あら、折神家の御当主様が私みたいなただの主婦に敬語を使う必要なんて無いわ? 相変わらず硬いのねぇ」
「そういう訳には……」
話し方も全くもって対称的なこの2人、元は同じ学園に通う先輩と後輩である。
白い服を着た女性、名を折神紫。名のある折神家の当主にして、特別刀剣類管理局という、警視庁直属の組織の局長である。
そんな要人が山奥までやってきたのは、ただ旧友と話をしに来たからでは無い。
「……ごめんね。あの2人、一度やり始めると止まらないから」
「……親子ですね」
「ええ、2人揃って職人気質というか、頑固者というか、融通が効かないというか……」
「……どれも同じようなものでは?」
「……あら、言われてみればそうねぇ」
うふふふふ、と笑う、日美というらしい女性。雰囲気がものすごくゆるふわしている。
そして、昔から変わらずゆったりとしている戦友に対しても、表情はまた硬いままの紫であった。
話に花を咲かせてしばらくすると、奥の工房から2人分の影が見えた。
「ふぃ〜、お、紫じゃねぇか。もう来てたんか」
「お久しぶりです、剣司先輩。突然の訪問、申し訳ございません」
「なんでぇ、紫様もう来てたんかい。オカンと話してんのに邪魔じゃありませんでしたかい?」
「いや、大丈夫だ。久しぶりだな、刀哉」
紫に声をかけたのは、順に大きい方と小さい方。剣司と呼ばれた、浅黒い肌の壮年と、刀哉と呼ばれた、母親似の白い肌の少年。
家族揃って紫とは個人的にも長い付き合いなので、やや砕けた挨拶になっている。
紫から見て左から日美、剣司、刀哉の順に座る。
「……紫様。本日のご用件はなんでしょう」
軽い雰囲気を取り除き、剣司が話を促す。
それに頷き、紫は本題を持ちかける。
「本日お尋ねしたのは他でもありません。空凪刀哉を、折神家親衛隊に迎え入れたいと思い、参った次第です」
……それは、誰もが目を剥く様な話であった。
ここで幾つか、説明を入れよう。
この日本という国には古来より、“荒魂”と呼ばれる災厄が存在する。
そして、それを退けることが出来る者達を、“刀使”と呼ぶのだ。
神性の宿る“御刀”という刀に選ばれた少女達。彼女たちは現代においても、“特別祭祀機動隊”という名で荒魂を祓い続けている。
この特別祭祀機動隊というものは、警察の一組織という扱いを受けており、それを指揮するのが折神家の率いる特別刀剣類管理局なのである。
つまり、今ここにいる特別刀剣類管理局の局長、折神紫という人物は、その折神家の当主。刀使の頂点に立つ存在といえる。
また、紫は基本年若い少女達がなる刀使の中で、20年前から現在にかけて最強と謳われている。そういう意味でも彼女は刀使の頂点なのだ。
さて、ではそんな彼女が言う親衛隊とは何なのか。
端的に言うならば、紫が選ぶ実力のある刀使達である。現状第四席まで埋まっている。
つまり、空凪刀哉は刀使としての実力を見込まれたことになるだろう。
……おかしな話だと思った貴方は正しい。
先程から、刀使は少女であるという点を強調している。刀使は巫女としての役割も持つため、むしろ少女しかなれないからである。
が、言うまでもなく刀哉は男。更に言うなら、彼はまだ小学生、12歳。その年齢もまたそぐわない。例外もあるとはいえ、刀使になるのは普通中学生からである。
故に、誰もが目を剥く話なのだ。
傍から見れば、刀使になれない少年を刀使として勧誘するというトンチキぶりである。
しかし、そんなことはここにいる4人全員わかりきっている。
では何故刀哉を勧誘するのか。それは刀哉の、と言うより、“空凪”の家系に秘密がある。
代々空凪家というのは、折神家専属の刀鍛冶として仕えてきた。御刀を造る一族なのだ。
その関係は今でも続いている。個人的に付き合いがあるのもその表れである。
では何か? お抱えとして手元に置いておきたいのか?
間違いではない。半分正解とも言える。
しかしそれだけなら、普通にそう言えばいいだけの話だ。
実際、空凪剣司は20年前にそうやって紫に仕えていた。
では何故そう言わないのか。
これにもまた、空凪家の特異性が関わってくるのだが、今は内緒ということにしておこう。
「……確かにもう、コイツは空凪の力を十全に扱えるし、なんなら現当主です。……しかし、まだ早いのでは?」
「……時間が無いのです」
「……………………そう、ですか」
この場の全員だけがわかる会話。日美と剣司の顔は暗く、刀哉は静かに瞑目している。紫はただその様子を見ているだけだ。
「わかりました。よろしくお願いします。刀哉もそれでいいな?」
「……」
刀哉は何も言わず、ただ頷いた。
「……2週間待っていてくれ。その間にこちらも準備を進めておく」
「了解しました。……親父達が気負うことじゃねぇだろうに」
『……』
「失礼します」
そう言って刀哉はまた鍛冶場に行ってしまった。
「……アイツに全部背負わすのか。あの戦いで何ができたんだろうな儂は」
「紫ちゃんと、美奈都ちゃんと、篝ちゃんと……私を助けてくれたじゃない」
「……もう、抑えておくのも限界か?」
「剣司先輩のおかげで、思っていたよりは余裕がありましたが、おそらく、今回が最後でしょう」
「……儂の力不足が招いた結果か。……本当にすまねぇ」
「先輩は何も悪くない。選んだのは私です」
「選ばせてしまったのは私なのよ? むしろ、貴方がいなきゃどうなっていたことか……」
『……』
一通り話した後、沈黙が訪れる。
「紫ちゃん」
日美は紫を抱きしめる。
「日美先輩……」
「大丈夫、大丈夫。きっと、いいように転ぶわ。私はもう戦えないけど、あの子がきっと、何とかしてくれる」
「……儂らの息子だ、信じてやってくれ」
「……勿論です。ありがとう、ございます」
紫は安心しきったように微笑む。その目には、少しばかりの涙があった。
紫が帰った後。
夫婦は隣合って茶を飲む。向こうから金属音も聞こえる。
「……何か、癪だな」
「あら、どうして?」
「いや、儂らがやり遂げられなかったことをアイツが、ってかアイツらがやってくれんだろ?」
「なるほどねぇ、それがちょっとってこと?」
「そう、何か、モヤッとするんだよなぁ」
「……なるようになってくれるわよ。きっとね」
「……まあ、そうなんだろうがよ」
かくして、空凪刀哉は親衛隊に入ることとなった。
同時に、彼を取り巻く因縁も動き始めた。
その中、彼はどう向き合うのか。
それは、また後の話。
書いてるうちにシリアスが多くなってしまった……
日輪の子と同じく、あまり身構えずに読み進めていただけたらなぁと思います。
以上、書きたいことが多すぎてどうしようもなくなり始めた凡人からでした。
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折神家動乱/刀哉の独白
伏線的な物を散りばめ過ぎてワケワカメになっている凡人の作品です。
どうぞ。
──夜、折神家にて
「今戻った」
『お帰りなさいませ』
遅い時間に戻った紫。3人の少女達の内、毛先が黒い白髪という変わった髪色の少女に荷物を手渡す。
そして報告書と思しき物を受け取り、執務室へ向かう。
それに3人の少女達が追随し、紙に目を通す紫の後ろから留守中に起きたことを報告する。
まずは凛々しい表情の子。
「紫様がお出かけになられた後、荒魂の出現が2件ありました。どちらも対応が早かったため、街、刀使共に軽微な被害で済みました」
「そうか」
そう一言。紫の声に続き、気品ある佇まいの子が。
「留守中に研究班から刀使専用装備についての報告がありました。予算をもう少しこちらに回して欲しいとのことです」
「様子を見てからだな」
また一言。
その行進は、見るものを圧倒する気迫がある。
報告が一段落した時、紫が問う。
「結芽はどうした」
変わった髪色の少女が答える。
「燕さんは既に就寝しました」
「そうか……もうそんな時間か」
言われて初めて時計を見る紫。針は11時10分を指している。
少し渋い顔になる。確かに遠い所まで行っていたとはいえ、ここまでかかるとは正直思っていなかったからだ。
「……そうだな、お前達、今日はもう休め。明日から少々手伝って貰いたいことがあるしな」
「……手伝うこと、ですか?」
凛々しさの塊のような少女の口から、そんな疑問がポロッと出てくる。
自分でも口に出るとは思わなかったようで、気づいた紫の目線を受けて謝る。
しかし、その疑問ももっともだと紫は説明する。
「今日から2週間後、新しく親衛隊に入る者がいる。様々な準備を貰いたくてな」
「新しい親衛隊……今日の用事とはもしかして」
「ああ、彼の親に許可を貰いに行った。2週間の準備期間の後に来る」
この言葉に驚いたのは、少女達だけではない。
周りで忙しなく動いていた職員達でさえも、その足を止めた。
それを見てため息をつく紫。
「詳しい事はそのうち話す」
とだけ残して先へ進んでいき、遅れて少女達も執務室へ向かって行った。
──────────────────────
それから1週間。紫の口から語られた新人の話はおおよそこうだ。
歳は数えて12歳の少年であること。
前線に立つと同時に、御刀の調整を行う人員であること。
戦国時代辺りから折神家と親交のある、刀鍛冶でありながら、荒魂を祓う力を持つ一族であるということ。
かつて紫と共に戦った人物の息子であるという事。
才も申し分なく、親衛隊へのスカウトに踏み切ったということ。
噂は瞬く間に広まった。
特に、かつて紫と共に戦った人物の息子であるという点、そして刀鍛冶である点で大騒ぎである。
この世に刀鍛冶は多かれど、紫と共に戦ったという者は一人だけである。
空凪剣司。かつて折神家に仕え、約20年前の大荒魂の討伐に参加した。
仲間をその力で護り、大荒魂に大打撃を与え、大きく力を削いだ紛れもない英雄。
その代償として戦う力を失い、恋仲にあった仲間を連れて故郷に帰ったらしい。
また、その連れて帰った仲間というのも英雄と言われるに相応しい人物だった。
雪宮日美。大荒魂討伐の際、紫と共に奮闘した刀使。
その技で仲間の活路を切り開き、大荒魂の討伐に貢献したという。
戦いが終わった後、力を失った剣司に付き添い、双方の親公認で彼の実家に転がりこんだとか。
順当に考えて、そんな2人の子供が親衛隊となるのだろう。いくらなんでも若すぎないか、等の声もあったが、前例もあるし、何よりも次世代の英雄への期待が大きかった。
「……そんなに凄い子が来るんだ。楽しみだなぁ」
「問題を起こさないでくださいね、結芽」
「わかってるって、心配性だなぁ寿々花おねーさんは」
そんな話を耳にした親衛隊の2人。気品ある佇まいの少女こと此花寿々花と、幾らか幼く見えるサイドテールの少女、燕結芽。
この2人もまた、その少年が来るのを楽しみにしている者である。
特に結芽の方は強者が来ると聞いて血が騒いでいるらしい。
それを見抜いて抑えるように言う寿々花だが、コロコロ笑いながら言っているのでかなり心配である。
如何せん、この燕結芽という少女は先の前例であり、親衛隊最年少にして屈指の実力を持つ天才なのだ。
ちなみに、今度来る少年こと刀哉と同い歳である。
それと同時に、自らの強さ、本人に言わせる所の“凄い所”を見せたいという自己顕示欲が強いところもあり、普段から遊びと称して手当り次第に刀使に喧嘩を売っている。
今回もそうなるかもと、思わずため息が出てしまう寿々花嬢である。
「そもそも、その子の本業はあくまで御刀の整備。強いかどうかは分からないということを覚えておくように」
「でも、紫様が強いって言ってたじゃん」
「……ええ、まあ」
「ほらぁ、やっぱり強いじゃん。その子って名前分かる?」
「確か……空凪刀哉君、でしたわね」
「……刀哉?」
刀哉の名前が寿々花の口から出た途端、結芽は固まってしまった。
「……結芽? どうかしました?」
「……ううん、なんでもなーい」
が、すぐに何時もの調子を取り戻した結芽。寿々花は首を傾げたが、気にすることではないと思い直した。
(……刀哉、刀哉……まさかね)
───────────────────────
『お前さん、随分と血色悪いじゃねェか』
『……誰?』
『おっと、声まで掠れてるときたか。こりゃ重症らしい』
『……』
『そう睨むなや、可愛らしい顔が台無しだ』
『……余計なお世話だよ』
『……喋るのも辛いか。……なぁお前さん、ちくと儂の話に付きおおてくれんか? や、何、聞いてるだけでええ』
『……何で』
『悪いのう、儂は人一倍お喋りでな。半身がボロボロの今、何も出来んて暇なんじゃ』
『……いいよ、私も、何も出来ないし』
『そこそこ余裕はありそうじゃのう。相槌返すんは出来ればでええから。……さて、せっかく聞いて貰うもんじゃし、つまらん話をするのはなァ……最近した花火の話でもどうじゃ』
我ながら空気を読めていなかったと思う。
しかしまあ、その後話をしに行く度によく笑ってくれるようになってくれたのだ、それでいいだろうと儂は思う。
さて、また工房で力尽きたらしい儂は、何時ぞやの夢を見た。
いやはや、懐かしい夢だ。
病室を抜け出して、フラフラしていたら見つけた少女。
正直、今にも死にそうな子だった。
その時、無い知恵を絞って元気になってもらおうと話しかけたのだ。
……悪いことでは無かったと信じている。
親御さんも見舞いに来ることがついぞ無かったと後で聞いたし。
……そうか、こんな夢を見たのは。
その子に……結芽に、もう一度会えるというお告げや知れん。
確かに将来再び会えると占いで知ってはいたが、結芽も親衛隊に入っているのだろうか。
「……楽しみじゃのう」
両頬を叩いて気合いを入れる。今日は学校だ。残り2週間、この山を離れるのは寂しいが致し方なし。
親父達の無念を晴らす為の戦いだ。身を投じる覚悟は出来ている。
……お袋の飯を早く食いに行こう。今日動くのはそれからだ。
わかりにくくて本当に申し訳ありません……
とにかく、刀哉君の口調はかなりジジくさいと覚えていてくれれば……
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