イビルアイ尻尾√ (冠尾かざり)
しおりを挟む

01 5巻の準備

 

この小説はRTA物ではない。


 

 

 

 あらすじ。

 

 特に理由の無いTS異世界転生に襲われた俺氏。中世×孤児×女というハードモード感に絶望を覚えるが、魔法というファンタジー要素に奮起し特に苦労も無く成長する。

 大人(現地基準)に成った俺氏、冒険者になる。幼少から修行をしていた成果を遺憾なく発揮し、瞬く間に上位冒険者に上り詰める。

 最高位冒険者に成るためにソロ活動では限界を感じていたところ、アダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』に誘われる。

 

 冒険者チーム『蒼の薔薇』に誘われる。(ここ重要)

 

 

 『蒼の薔薇』のメンバーはとにかくキャラが濃い。

 こいつは物語の中心的な存在に違いない、と即チーム入りを決定した程だ。

 

 特にガガーランとか絶対死なないギャグキャラでしょ(笑い)」

 

 

「おい、声に出てるぞコラ」

 

「ぐぇぇえ」

 

 

 筋肉もりもりマッチョマンの変態が腕を伸ばし、俺の頭を捉えた。人間の腕とは思えないごつごつした筋肉が、俺の頭蓋を締め上げていく。なるほど、ヘッドロックじゃな?

 

 このマッチョな兄貴はガガーラン。性別は女。…女だよな?

 見た目と童貞喰いの趣味以外は面倒見のいい姉御って感じで、実際に年下の俺を気に掛けて面倒を見てくれてる。

 戦闘では前衛で敵の攻撃を引き付けてくれるし、本当に頼りになる。

 『蒼の薔薇』に誘ってくれたのもガガーランだし、頭が上がらんわ。あ、今は物理的に上がらなかったわ。

 

 しかしながら締め付けられた頭が痛い。

 ガガーランのヘッドロックは本気でシャレにならんわ。誰か助けて(切実)。

 

 ペシペシとタップしていると不意に拘束が緩んだ。

 この食堂に誰か入ってきたらしい。

 ここは上級冒険者ご用達の高級宿屋なので、大体の奴らは気配に敏感なのだ。だから誰かが入ってくる時は一瞬静かになる。

 視線を向けるとチームメンバーがこちらの席に向かって歩いていた。

 

 先頭に立つのは『蒼の薔薇』リーダーのラキュース。なんと、貴族生まれである。たしかに、快活とした雰囲気の中に何処か気品がある気がする。

 貴族なのに冒険者とか、何処かで見たような設定の持ち主である。

 

 

「戻ったわよ」

 

 

 ラキュースが着ているこの鎧、処女しか装備できないとか。なんだそのエロ設定!?

 復活魔法が使える希少な神官である。っていうのもエロゲのキャラ設定にしか見えなくなってくる。

 割と鬼畜な性格をしているので、メンバーみんな復讐の機会をうかがっている(偏見)。

 そんなお転婆貴族の鬼畜処女だが、ここぞと言うときはしっかり決めてくれる。

 

 今回も良いタイミングだ、さすが処女鬼リーダー」

 

 

「…ガガーラン、お仕置きが欲しいみたいよ」

 

「おうよ。反省が足りねぇみたいだな、おらぁ!」

 

「ぐ、あ、頭が割れる…」

 

 

 ヘッドロックはもう勘弁してくれ。

 あと、リーダーの小突き方が地味に痛い。捻りを加えて抉ってくるの止めて。

 

 

折檻(せっかん)なら参加せざるを得まい」

 

 

 ラキュースの背後から、ぬるりと新手が現る。

 メンポ、身のこなし、スケベくノ一衣装、明らかに忍者である。

 

 忍者が手をワキワキさせながら迫ってくる。こっち来るな!リアリティショック起こすやろが!

 

 

「ちょ、ティアは洒落にならんでしょうが!」

 

「安心して、分からせっクスは得意」

 

「全然安心できない!」

 

 

 このレズ忍者はティア。隙あらば身体を狙ってくる俺の天敵である。

 2Pカラーはショタコン忍者。こっちは趣味を理解できるし、普通に仲良し。

 ちなみに3Pカラーまで存在するらしい。

 

 初めの頃はこいつとレズカップルになるのも悪くないと思ったが、そこで俺は自らの性癖を知ることになった。

 

 俺は視姦スキーだったのだ。(絶望感のする音)

 

 前世で引きこもり童貞だった俺は、静かで落ち着ける場所でしか性的興奮を得ることができないのだ。だから独りじゃ無いと落ち着かないし、体を触られると嫌悪感が湧くし、裸を見られるのは恥ずかしい。さらにオカズ厳選主義でもあった俺は、エロに一切妥協ができない。

 まさかこんな所で前世のカルマと向き合う事になろうとは…。

 

 

「よいではないか!よいではないか!」

 

「どこ触ってんだ変態!」

 

 

 馬鹿野郎俺は勝つぞ!流行らせコラ!

 

 

「お前らいい加減に話を進めろ!」

 

 

 女が三人集まって(かしま)しい状態に終止符の声が掛かる。(正直助かった)

 拘束が緩んだ隙に脱出して、声の主の後ろに隠れる。

 

 この真面目系ちびっ子仮面はイビルアイ。さらに、ツンデレロリババア吸血鬼という追加属性を持つ。あと割とポンコツ。

 こいつは冗談が通じないし手加減が下手くそなので内心の声は漏らさないぜ。

 

 

「助かったぜ、心の友よ」

 

「ふん」

 

 

 こんな素っ気ない反応だけど内心は満更でもない気分だぜこいつ。ほっこりするわ。

 

 イビルアイは魔法詠唱者としてかなり優秀で、時々行っている魔法談義はとても楽しい。

 そして後衛職なのに筋肉達磨のガガーランより力が強い、吸血鬼ってスゲー。

 

 

 以上が、アダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』のメンバーである。

 

 …ん?誰か忘れているな?

 

 

「そういえば2Pカラーは?」

 

「ティナには情報収集を頼んだのよ。だから今回は彼女は抜きで会議を始めるわよ」

 

「チームの相談には、あの娘か私の片方が居れば問題ない」

 

 

 2Pカラーで通じるのか(困惑)。

 確かに、二人の違いって性嗜好ぐらいだ。常時、影分身している様なもんやな。

 

 

「そういう事。イビルアイ、お願い」

 

 

 それに応えるように、イビルアイはローブの下で何かを行った。するとマジックアイテムが起動し、内側の音を漏らさない不可視の膜がテーブルの周囲を覆った。

 

 盗聴対策をして秘密会議に入るあたり、厄介な話になりそうである。

 気が重いけど、原因と思わしき話を振ってみるか。気が重いけど。

 

 

「…それで、お茶会とやらは楽しかった?」

 

「ええ、興味深い話が聞けたわ。

 なんでも最近は麻薬の流通量が増えているみたいでね。帝国からは「王国の裏産業にでもしているのか」って苦情が来たらしいわ」

 

「ははぁ、それは大変だね。是非、お上には頑張っ―――」

 

「そ、れ、で、ね。

 犯罪組織『八本指』の麻薬拠点の破壊と情報収集。ラナーに直接の依頼をお願いされたのよ」

 

 

 犯罪組織『八本指』、この国の裏社会を牛耳(ぎゅうじ)る闇の組織である。相手にするには規模が大きすぎる。

 そして直接の依頼って事は、冒険者組合を通さないって事だ。色々マズい。色々の内容はよく知らないが、信用とか規約とか、とにかくマズい。

 これは厄依頼ですね。間違いない。

 

 俺と同じように思ったらしいティアが反対意見を言うみたいだ。いいぞ、ドンドン言ってやれ!

 

 

「『八本指』は用心深い、情報の入手は困難。

 それに、手を伸ばしている裏事業が広大過ぎて、襲撃するにしても候補が多すぎる」

 

「麻薬の栽培拠点の大まかな場所の予測はもう出来ているの。ラナーが候補を絞ってくれたわ。

 だから後は、情報の精査と襲撃計画を練るだけね」

 

 

 ティアの意見はあっさりと潰された。使えん奴め(辛辣)。

 しかしラキュースの友人である王女様は本当に有能だな。冒険者の救済法も作ってくれたし。

 

 

「あの胸糞悪い奴らをヤるんだろ?俺は構わねぇぜ」

 

「私はどちらでも構わん。まぁ、報酬次第だな」

 

 

 アカン。多数決で負けそうや。

 まぁ多数決で勝っても、ラキュースがやると決めたら意味が無いんだけどね。やるっつったら、やるんだよ!

 

 

「前金で金貨200枚、成功報酬が金貨400枚」

 

 

 ラキュースが手の中で白金貨を転がしている。それが前金なのだろう。

 どう考えても、既に依頼を受託してるんだよなぁ(困惑)。

 もう(依頼が)始まってる!

 

 

「最初から選択肢が無いやん!」

 

 

 ティアは不服そうな雰囲気だったが、もう意識を切り替えている。

 ガガーランは乗り気だろうな、麻薬とか許せないだろうから。

 ちびっ子仮面は興味が無さそう。

 

 麻薬組織との対決とか、こんな面白イベントを消化したら、連鎖的に発生する厄介ごとに巻き込まれるのは絶対的だ。もう、物語の黄金パターンやんけ。

 

 

「じゃあ、決まりね」

 

 

 ラキュースは強引なところが有るけど、私欲じゃなくて世のため人のために、っていうのがあるから強くは否定できないんだよなあ。

 

 だが、私はその流れに逆らうぞ!

 勢いよく席を立つ。

 

 

「この依頼が終わっても、後々に厄介ごとに巻き込まれるのは、確定的に明らか。

 こんなところに居られるかっ!私は抜けさせてもらう!」

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

「…だれか引き留めてくれても良いんじゃないですかねぇ?」

 

 

 ネタが滑るってぇのは悲しいなぁ。

 しょんぼりしながら席に戻る。

 

 

「でも手伝ってくれるんでしょ、ターリア」

 

 

 微笑みながらそう言い放つラキュース。

 世のため人のためだから、ま、多少はね?

 

 

「お前は投げ出すような性格じゃねぇよなぁ、ターリアよぉ」

 

 

 ガガーランがニヤニヤしながら挑発してくる。

 そうだよ。仲間がやるって言ってんだから俺もやるに決まってるよなぁ。

 

 

「ターリア。お前が真面目にやれば、そう苦労もしないだろう?駄々を捏ねるな」

 

 

 追い打ちをかけるイビルアイ。

 なんだなんだ、みんな俺を持ち上げて。心が温かくなるな。

 

 

「ターリアの身体を自由にさせてくれたら―――」

 

 

 お前で台無しだよ!」

 

 

 

 私、ターリア。日々を楽しく過ごしております。

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 麻薬拠点の情報収集と襲撃計画の詳細を詰める日々を過ごす、今日この頃。

 

 イビルアイと魔法談義で盛り上がっていると、ガガーランが少年を連れ立って帰ってきた。

 ガガーランの連れって事は…また哀れな犠牲者か。当人たちは望んで童貞を喰われてるらしいが。

 

 

「昼間っからお盛んだな」

 

「おうよ。って事で、どうだ?」

 

「いえ、遠慮しておきます」

 

 

 ガガーランの野獣のような眼光が少年に向けられる。が、少年はこれを華麗にかわす。

 どうやら童貞狩りの被害者ではなく、普通の客らしい。

 

 

「なんだ普通の客か。どうも『蒼の薔薇』のターリアです」

 

 

 挨拶は大事。古事記にもそう書かれている。

 こちらの挨拶に少年は深々と頭を下げ、挨拶を返した。若いのに礼儀正しい好青年じゃないか。

 

 

「お初にお目にかかります、クライムと申します」

 

「…」

 

「…こっちの無愛想な奴がイビルアイです」

 

 

 イビルアイはそっぽを向いている。

 

 おい、ガキんちょ!思春期か!

 さてはテメー古事記を読んで無ぇな!

 まぁ、この万年思春期に社交性なんて期待して無い。

 

 

「それで、今日はどういったご用件で?」

 

 

 気を取り直して話を続ける。

 ガガーランが連れてきたって事は、悪人では無いんだろうけど。

 ちらりとガガーランに視線を向ける。

 

 

「こいつはあの王女さま直属の兵士でよ、ちょっと面倒を見てやってんだよ。

 そんで魔法を習得したいって言うからよ、今回お前たちに会わせたって訳だ」

 

 

 成程、この少年が王女様のお気に入りって奴か。

 

 なんでも、幼いころに行き倒れていた少年を王女様が拾ったとか。そんで、恩を返すために貴族社会に揉まれながらも頑張っているとか。

 明らかに釣り合って無い身分差に苦労しながら、王国の至宝と言われる『黄金』のラナー王女に仕える。物語の主人公か何か? 

 

 

「ターリア様、イビルアイ様。私に魔法の修業を付けて頂けないでしょうか?」

 

「魔法の修業ねぇ…、どう思う?」

 

 

 隣に話を振ってみる。

 イビルアイはクライムを観察する。

 

 

「…フン」

 

 

 しかし、少し見ただけで鼻を鳴らし、それっきり興味を失くし顔をそらした。

 

 だよなぁ…、その反応をするのも分かる。全然、魔法使いって感じでは無い。

 目に気合を入れて見てみたけど、魔法の才能が殆ど感じられないもんなぁ。それどころか、魂の器的なモノが小さい。完全に一般人だ。兵士らしいが、戦士としての才能も無さそう。

 

 つーか、イビルアイは何か言えや!

 

 

「あ~、向いて無さそうなんでお勧めは出来ないっすね」

 

「それでも、お願いできないでしょうか?」

 

「…厳しい修行をしても魔法を習得できるかどうかって所で。仮に習得できても、石つぶてを投げた方がマシな威力しか出ないんじゃないかな。まぁ、はっきりと言うと魔法の才能は無い。

 それよりは、兵士としての訓練を頑張った方が良いと思うなぁ」

 

「まぁ、こいつに才能が無いのは分かっていたけどよ。

 でもよ、弱くても実用的な魔法とかあるだろ?」

 

「それなら、安い魔道具でも代用できるからなぁ…」

 

 

 はっきりと才能が無いと告げられても、クライム少年は諦めて無さそうな瞳をしている。

 

 才能が無いのを分かっていて努力するとか、主人公ポイント高いな。

 もしかして、覚醒とかして無茶苦茶に強くなったりするのか?

 王女様に近い立ち位置だし、今のうちに媚を売っておくべきやな。

 

 

「よし。じゃあ。魔法は教えないが、魔力の使い方は教えてあげよう」

 

「おい、甘やかすのはそいつの為にはならんぞ」

 

 

 イビルアイが反対の声を上げる。

 お、やっと喋ったな。

 

 

「ちょっと魔力を()てて自覚させるだけだから、へーきへーき」

 

「この馬鹿者が…っ!

 …小僧、お前に才は無い。分を弁えろ。でないと身を滅ぼすぞ」

 

「理解しております」

 

「しかし弁える気はないという事か。愚かという言葉を通り越した男だ。早死にするタイプだな。

 ……お前が死んだら泣く人間がいるのだろう?」

 

「なんでぇ、イビルアイ。クライムが心配だから苛めてたのかよ」

 

「脳筋。少し黙れ!」

 

「でもそういうことだろう?」

 

 

 ガガーランの指摘にイビルアイは言葉が詰まる。図星のようだ。

 やっぱり、ツンデレじゃないか(呆れ)

 この感じなら、イビルアイも反対はしないだろう。

 

 

「まぁまぁ。どうせ諦めないんだから、指導者が正しく導いた方が安全だろ?

 それに、努力や意志の力で才能の壁を超える事が出来るのか、知りたいじゃないか」

 

「おう、そうなったら面白れぇじゃねえか。クライム、がんばれよ」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

「はぁ…。私は協力しないからな。精々足掻くがいい」

 

 

 ぱぁっと顔を輝かせて勢いよく頭を下げるクライム。

 草臥(くたび)れたように椅子に身を沈めるイビルアイ。う~ん、この対比よ。

 

 イビルアイは協力しないなんて言っているけど、なんだかんだ影ながら助けてくれるんでしょ?このツンデレめ!

 

 

「まずは魔法の知識を学ぶべきだな。そうすれば魔法を行使する敵に対して、より的確な行動がとれるだろう」

 

 

 もう助言してる(驚愕)

 ツンデレの鑑や、お前。

 

 俺も負けてられんな!

 こちらもさっさと行動を起こそう。

 

 

「よし。では、これから修行に入る。裏庭に出るぞ。

 それと、私の事は師匠と呼べ」

 

「はい!師匠!」

 

 

 弟子としてこき使ってやるからな~、覚悟しておけよ~。

 そして、覚醒して強者に成ったら恩を返すのだ。

 

 

「百聞は一見に如かず。と言う事で実戦訓練だ」

 

「おお!」

 

 

 クライム君がわくわくしてる。年頃の少年は皆そういう時期があるもんな。わかりみ。

 

 しかし改めて見ると、本当に才能が無さげだな。

 これは、生半可な修行じゃ芽が出ないな。

 と言うことで、覚悟せよクライム少年。

 

 

「私が魔法を撃つから耐えろ」

 

「え」

 

「聞こえなかったか?もう一度言ってやる。

 私が魔法を撃つから耐えろ。

 避けられるなら避けても構わんよ。

 魔力を感じるのと、魔法耐性を付けるのと、魔法の対処を身体で覚えるのと、一石三鳥の修業だな!」

 

 

 俺も普段は自分にやってるんだからさ(同調圧力)

 と、いうことで。イクゾー!

 

 

 ショックウェイ!

 

 グワーッ!

 

 

 この日からクライムの地獄の特訓が始まった。

 

 

 そんなこんなの日々を過ごしている内に、麻薬栽培拠点襲撃計画の日程が決まった。

 

 

 闇の組織との決戦も近い。

 

 

 

 

 


 

 

-ターリア・エルシャ

TS転生者。両親は不明。孤児院育ち。

転生を経験したために割と命の扱いが軽い。

オバロ世界にもユグドラシル世界にも囚われない成長ができる。

ソロ活動でオリハルコン級冒険者に至るほどの実力を持つ魔法詠唱者。

武器は槍。(刃付ロングスタッフでも可)

外見はfateシリーズのクーフーリンを前髪ぱっつんにしたJC。

 

誤字報告に感謝

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

02 王女登場(韻)

 

-前回のあらすじ

『蒼の薔薇』、ラナーから依頼を受ける


 

 

 

 

 

 麻薬村襲撃計画当日。

 夜の闇に紛れて、人知れずこの世の悪党を裁く者たちが居た!

 今宵のターゲットは、村と言うには無理がある過剰な防衛設備に囲まれ、警備兵が多数に詰めている拠点だ。

 という事で、ひと暴れしてくるぜ!(隠密行動)

 

 警備兵は皆殺しだ!もう気が狂う程気持ちええんじゃ。(サイコパス化)

 偉そうな人は確保。お前を芸術品に仕立てや…仕立てあげてやんだよ。お前をげいじゅつし…品にしたんだよ!

 そして宝探し。金目の物でも貰おうかな!

 金!暴力!SEX!って感じで。

 

 拠点攻略は特に問題なくあっさり片付いた。だけど、それを一晩で3ヵ所とか強行軍スギィ。お前んチーム、ブラック過ぎないか?

 他所の異変を察知したらしい4ヵ所目からは麻薬畑を焼くだけになった。(こう)ばしい香りがスーッと効いて気分が良くなるんやなw。麻薬を燃やした煙には気をつけよう!(1敗)

 

 色々と酷い目にあった。成長期の美少女になんて事をさせてんでい!

 まあ、その苦労もあって情報源を手に入れた。

 

 

「この羊皮紙を見てくれ、こいつをどう思う?

 すごく…暗号文です…」

 

「おい、まだラリってるみたいだぞ」

 

 

 ただの徹夜明けのテンションや。

 そんなことより、この暗号文が全然解読できないんだが。

 

 

「裏から透かして見ることによって───」

 

「全然透けてねぇぞ」

 

 

「実は何の意味も無いとか?」

 

「だとしたら十分な効果を発揮したようだな」

 

 

「もう捕まえた奴に聞くか?こう、魔法でパパッと」

 

「貴重な情報源だから、それは最終手段よ。

 とりあえず、朝になったら依頼達成の報告も兼ねてラナーに見せるわ。

 もしかしたら、ラナーならこの暗号を解けるかもしれないし」

 

 

 はぇ~王女ってすごい。最近の王族って、暗号解読技能を持ってるんすね~。

 俺たちが解けなかったのに王女様ができる訳ないだろ!いい加減にしろ!!1

 こっちは一応本業が居るんだけどなあ(困惑)

 

 

「え~本当でござるか~?」

 

「信じられないのも分かるけどね、ラナーならもしかしたらって思えるのよ。

 そうだわ、丁度いい機会だから貴方達もお茶会に参加しない?

 その場で依頼の相談もできるし」

 

 

 そうだわ(唐突)

 冒険者が突然押しかけて大丈夫なんですかね?まぁ、ラキュースが居るから大丈夫か。いざとなったら責任を押し付けよう(屑思考)。

 

 

「あー、俺っちはパスだわ。堅苦しいのは勘弁な」

 

「私も遠慮しておこう。どうせ方針に口出しなどせんからな」

 

 

 筋肉とチビの2人は不参加。まぁ、そんな気がしていた。

 もちろん、俺は参加だ。王城観光や。ついでに、うまい茶菓子も食べたろ。

 

 

「うまい茶菓───ゲフンゲフン王女様が暗号を解けるのか、この目で見極めてやるぜ!」

 

「私も王女様の兵士くんを見極めなきゃ」

 

「私も王女様の美貌を見極めなきゃ。

 あわよくば私の手で無垢な『黄金』を(けが)したい」

 

 

 お前ら不純な動機だな!俺も他人の事は言えんけど。

 3人参加。ラキュースと合わせて4人パーティーや。

 4人パーティーで城に行くとか、古き良きRPGを思わせるな(懐古主義)。

 

 

「…ティアは情報収集ね。リーダー権限で決定よ」

 

「そんな!横暴だ!鬼!訴えてやる、慰謝料として鬼ボスの身体を差し出せ!」

 

 

 ドムッ!(拳が腹にめり込む音)

 

 

 訂正。3人パーティーだ。

 無言の腹パンに沈むティア。憐れ也(あわれなり)

 

 

「これの内容次第ではすぐ出る事になるから準備の方をよろしくね」

 

 

 以上。閉廷。みんな解散。

 

 

 

 

 

 

 仮眠を取って朝。

 

 ラキュースは正装しなくて良いって言ったけど、俺は常識人だから…。

 と言う事で、こういう時の為に密かに用意していた一張羅を引っ張り出してきたぜ。

 

 まともな礼服を着るのは前世以来だ。

 紳士服に袖を通す。

 

 そう、男装である。

 

 

「馬子にも衣装ね」

 

「馬子とは失礼な。普段からスタイリッシュ美少女だろうが」

 

「いい…。これで、男だったら、理性が、ヤバかった」

 

 

 ティナがはぁはぁ五月蝿い。

 俺はそんなに子供体型では無いけど、許容範囲らしい。まぁ、元男だからな、イケメンオーラが出てしまったのだろう。

 

 

 さて、やってまいりました、王宮。流石に(きら)びやかっすね!

 メイドさんの掃除が行き届いた廊下を歩く。

 しかしながら、王宮の中では注目を浴びるな。

 田舎人だと侮られるのは(しゃく)だから、背筋を伸ばし顔を上げ堂々と歩き、辺りをキョロキョロと見ない様に気を付ける。ついでに、後ろ手を組んでふんぞり返ってみたり。自らに投影するのは貴族の美少年だ。

 目が合ったメイドたちに微笑み掛けると、頬を赤く染めてくれる。そうそう、こういうので良いんだよ、こういうので。

 

 

「ターリア、慣れてる」

 

「実は、この身には貴族の血が混じってるのさ」

 

「そうだったの?」

 

「そう言う設定さ。ついでに一人称は僕だ」

 

 

 呆れたような感心したような視線を向けられる。

 お返しにドヤ顔をお見舞いしてやる。あっ、今のは貴族ポイントが高かったな。

 

 雑談もほどほどに、お茶会の会場に着いた。

 

 

 ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ。

 美しさと慈悲深さ、優れた政策を考え出す叡智(えいち)。それらを持つ王国の至宝、『黄金』。

 

 この国で最高の美貌と言われる王女様を一目見てみたいというのもあるが、俺が彼女に会いたかった理由はそれだけじゃない。

 彼女が打ち出す政策は、明らかに時代を先取りしていたりするのである。

 だから「同じ転生者なのでは?」と思っていたのだ。

 こうして確かめる機会が訪れた以上、確かめずには居られないっ!

 

 オラ!リーダーがノックするんだよ。あくしろよ。三回だよ、三回。

 

 

「どうぞ」

 

 

 よし許可が出たな!突撃~!

 

 扉の先に居たのは、まさしく『黄金』だった。

 日当りの良い部屋の窓から差し込む爽やかな朝日が、品の良い調度品によって拡散されて部屋全体を柔らかく照らす。その中心に居る彼女は、まるでライトアップされて展示された美術品。否、むしろ彼女自身が光を放って居るような錯覚にさえ陥る。

 ラナー王女が自ら接待してくれるようだ。その所作は気品があふれている。まるで一枚の絵画の様だ。吟遊詩人たちが見たら歌にでもするのだろう。

 

 あ、これは、ガチの貴族だわ。

 もう、オーラが違うね。ラキュースの貴族オーラが霞んじゃってるもん。

 見比べてたら鬼ボスに睨まれたや。貴族っぽくない自覚が有るんすね(笑い)。…顔面圧力が本格的に不味くなって来たので、そっと目を逸らす。

 

 おっと、いかんいかん、自己紹介が先だったな。

 その場に跪き挨拶の口上を垂れる。こういうの一度やってみたかったんだよね。

 

 

「ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ王女殿下。お初にお目にかかり、光栄です。私は『蒼の薔薇』チームメンバーのターリア・エルシャと申します」

 

「公式な場ではありませんから、砕けた態度で構いませんよ」

 

「お、マジで?ラナーちゃん話が分かるぅ。私、ターリア。よろしくね」

 

「ええ…」

 

 

 距離を詰めてシェイクハンド。

 ちょっと引かれてるわ。グイグイ行ったからな。俺もそういう反応する自信があるわ。

 ラキュースは頭を抱えてる。俺もそういう反応する自信があるわ。

 こういうのは中途半端な距離を保ってると仲良くなれないものだ。だから、押して押して押しまくるんだよぉぉお!!最悪の場合でも、ラキュースが居れば酷い事にはならんやろ(屑)。

 

 挨拶もそこそこに席に着き、差し出された茶菓子に舌鼓を打つ。

 

 

「うん、おいしい!」

 

「お口に合っているようで何よりです」

 

「生地がしっとりとしていて、それでいてベタつかないスッキリした甘さだ。ココアはバンホーテンの物を使用したのかな?」

 

「??バンホーテンとは何です?」

 

「この子は時々変な事を言うのよ。奇行は無視していいわ。だから気にしないで、本当に」

 

 

 いかんいかん、危うく()()()()()を垂れ流すところだった。

 しかし流石と言うべきか、街の高級店の物よりワンランクは上って感じだな。

 

 

「よくわからないけど、わかったわ。

 ちなみに、材料は実験的に進めている新しい農作法で作ったものです」

 

「新しい農作法?また何か始めたの?」

 

「作物を順繰りに育てて行く事で収穫量を増やす実験です。

 これが国中に広まれば、食糧問題が大きく改善される筈です」

 

「お、輪作ってヤツやな」

 

 

 輪作の概念あるとか、やっぱ転生者ですかね?

 ラキュースはよく分かって無さそうな顔をしている。

 

 

「知っているの、ターリア?」

 

「こんな事も知らんのか?これだから教養の無い野蛮な冒険者は…」

 

 

 やれやれ仕方ないな、と肩を(すく)めながら農業について語る。青筋を浮かべたラキュースの視線が心地良いぜ。

 前世のネット掲示板で拾った知識が火を噴くぜ!

 

 

「作物を同じ場所で育て続けると実りが悪くなる。これを連作障害という。

 この連作障害の原因は、土の中の栄養が枯渇することにある。

 そこで、必要とする栄養が違う作物に植え替える訳だ。これが輪作だ。

 天敵の虫や病原菌が大繁殖したりする事でも連作障害は起こるが、これも輪作によって大体は防ぐ事が出来る。

 まぁ、ドルイドが居れば全部解決するんだがな。

 ちなみに、小麦が主食になったのは連作障害が起きにくい植物だからだな」

 

「ターリアさんは深い知識をお持ちなのですね」

 

「魔法詠唱者って大体は学者肌だから、ま、多少はね?

 まあ、私はその中でも特別に教養が深いわけなんだが?(ドヤ顔)」

 

 

 フゥ~気持ちいい!

 知識を振りかざしてイキるのは最高やな。

 

 話が一段落したところで、少し前から扉の外に待機していたクライムにラキュースが声をかける。

 

 

「あ、そろそろ入っていいわよ。いいわよね、ラナー?」

 

「───失礼します」

 

 

 ノックくらいせえへん!?

 タイミングを計っていたクライム君、満を持して入場。

 そして、ティナがおふざけを始める。

 

 

「おはようございます。ラナー様、アインドラ様、師匠」

 

「おはよう、クライム」

 

「おはよ」

 

「おっはー!」

 

 

 挨拶もそこそこにティナのおふざけが炸裂する。

 影に隠れていたティナがぬるりと現れて、クライム氏ビビり散らす。

 いえーい、ドッキリ大成功!!

 ティナの挨拶も終えてお茶会の第二部スタートや。

 

 

「クライム、気が(たる)んでいるみたいだな。後でしごいてやろう」

 

「ティナの隠形を見抜けって言うのはちょっと酷じゃない?」

 

「いえ、お願いします。師匠」

 

「ターリアさんには修行を付けていただいているんでしたね。どうですか、クライムは?」

 

「うむ、第一位階魔法なら使えるかもしれない位には成長したかな。後は、最初の倍くらいは魔法攻撃に耐えられるように成った。

 今は魔力を動かして身体強化や、武具に纏わせて強化する訓練をしている。魔力系の武技を覚えるのが目標だな。

 だが、ここで位階魔法を覚えてしまうと魔力操作の感覚が掴めなくなってしまうから、ラナーちゃんは魔法が見たいとか言ってクライムを困らせないように」

 

「クライムが魔法を使う所を見てみたかったんですが…残念です」

 

 

 ラナーちゃんに釘を刺して正解やったな。クライムは王女様にお願いされたら絶対に断れないだろうからな。

 

 そんなクライムをティナがじろじろ見ている。恐らくショタ度を測っているんだろう。

 視線に耐えきれなくなったクライムが何事かと尋ねる。

 

 

「何かございましたか?」

 

「大きくなりすぎ」

 

「……は?」

 

 

 困惑するクライム。お前には理解できないか、この領域(レベル)の話は。

 前世で男の娘モノも(たしな)んでいた俺に隙は無い。ショタについても語れるぞ。

 

 

「わかる。って言うか、小さくても好みには成らないと思う」

 

「そうかな…。いや、3歳若かったらイけるはず、…多分」

 

 

 少年ソムリエのティナさんが迷う程、ショタ能力が低いのか…。

 ショタの才能も無いとか、お前はとことん才能が無いな(辛辣)

 

 

「なんのことなの、ラキュース?」

 

「あ、わたしね───」

 

「───黙りなさい。ティアを連れてこなかったのは、ラナーに変なことを吹き込もうとするからなの。だからその辺を理解してあなたも黙っていてくれない?」

 

「へいよー、鬼ボス」

 

「…ラキュース。なんのことなの?」

 

「つまり、クライム君は恋愛対象じゃ無いって事さ」

 

 

 オブラートに包んで一件落着。ただしクライムはダメージを受ける。

 さっさと本題に入ろう。話が逸れ過ぎだ。これだから女って奴は(ブーメラン)

 

 

「八本指の件ね。村の麻薬を焼き払った際、こういったものを発見したわ。おそらくは何らかの指令書か何かだと思って持って帰ってきたのだけど…何かわかる?」

 

 

 ラキュースが解読できなかった暗号文の羊皮紙を取り出す。

 それをちょっと見ただけで「簡単な気がする。」とラナーが言う。

 この王女様、簡単とか抜かしやがりましたわよ!?もしも解けなかった時は…分かってんだろうな?(ゲス)

 ラナーはブツブツと呟きながらメモ帳を用意して、サラサラと何事かを書き込み「解けたわ。」ウッソだろ、お前wwww

 お、待てい。よく見せてみろ。…おかしな所は無いようだな。ま、まぁ、結構簡単だったからな(震え声)

 

 マジで、あっと言う間に解いてしまった。おまけに書いてある事の意図まで解説してくれた。

 なんだ、ただの天才か。

 いつの時代もこういう天才が時代を進めてきたんやなって。

 

 所々に挟んだネタにも反応が無かったし、転生者じゃ無さそうだな。

 

 結論。

 ラナーちゃんは普通の天才美少女でした。

 

 

 暗号文が解けたことによって襲撃ポイントが一気に増えたが、当初の予定通りに八本指へ速攻を仕掛ける事になった。

 

 事態は大きく動こうとしている。

 

 

 

 

 

 


 

-クライム

原作より強化!!英雄の領域まで至るか!?

特に考えて無いから原作と同じ結末の予定

 

間違った知識を垂れ流していたらごめんなさい

 

誤字報告に感謝

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

03 ここまでプロローグ

 

-前回のあらすじ

麻薬村にあった暗号文をラナーが解読する

 


 

 

 

 

 翌日。

 装備を持って登城。

 今夜から仕掛ける事になる『八本指』拠点の情報と攻略手順の再確認や、捕縛した構成員の処遇や集めた資料の扱いなど、襲撃計画の最終確認のために『蒼の薔薇』がラナーの(もと)に集まった。

 

 顔を合わせて早々に計画の変更を告げられた。突然の仕様変更はやめルルォ!

 なんと、クライムが違法娼館を襲撃し、奴隷売買部門の長であるコッコドールと警備部門幹部『六腕』の一人″幻魔″サキュロントを捕縛したのだ。

 計画の変更を余儀なくされた想定外の出来事だが、良い方向への想定外だ。

 皆から褒められてクライムは照れている。勿論、俺も褒めてやる。

 

 

「師匠との特訓のおかげで、魔法の兆候を(わず)かに感じる事ができて致命傷を避ける事ができました」

 

「おー、修行を付けた甲斐が有ったな。

 それと今回の戦いで魂の位階(レベル)が上がったようだな。生命力が増えているように感じられる」

 

「魂の位階ですか…。確かに戦闘中に身体が軽くなる感覚がありました」

 

 

 強くなったと言われてクライムは嬉しそうだ。

 

 クライムはサキュロントに対して防戦一方だったが助けが来るまで時間を稼ぎ、同行者のブレイン・アングラウスが一撃で決めたらしい。

 ブレイン・アングラウスは王国最強の戦士であるガゼフ・ストロノーフと互角の勝負をしたという剣士である。そんな英雄の領域にいる者に出会って、さらに厄介事に協力してもらえるなんて、とんでもない幸運な事である。

 そしてブレインが自分より強いと断言する″謎の執事″セバスも現る、と。

 執事でセバスって安直過ぎんだろ。偽名かな?

 

 雑談もそこそこに計画の話を進める。

 

 

「それで王女よ。計画の一部変更というのは襲撃する場所を選定し直すと言うことか?」

 

「はい、イビルアイさん。今日中に同時に襲撃をかけて、一気に落とすべきだと考えています」

 

 

 一同沈黙!

 おい、どうするよ?お前が言えよ。やべぇよ…やべぇよ…。っと視線で語り合う。

 

 

「い、いや、王女さんよぉ。手が足りないという話じゃなかったのかよ?

 夜中の内に協力してくれるところが出てきたのか?

 冒険者を雇うというわけにもいかないんだろ?」

 

 

 ガガーランの言葉を皮切りに、メンバー怒涛のダメ出しがラナーに降り注ぐ。ダメダメ、こんなんじゃ仕事になんないよ~。

 そもそも、これって冒険者の仕事じゃないんだよなぁ。警察機関が腐敗するのは、いつの時代も一緒か。

 

 

「おっしゃる通りです。ですから、信頼できる貴族の力を借りようと思っております。

 それと王国戦士長様をお呼びします」

 

 

 だが、天才美少女ラナーちゃんに抜け目は無かった。私は初めから信じていたぞ(手のひら返し)

 信頼できる貴族1人と戦士長ガゼフ・ストロノーフの協力を得られるらしい。

 

 

「では、クライム。レエブン候を呼んで下さい」

 

「候をですか?確かに王子と一緒におられる時に出会いましたが……」

 

 

 エリアス・ブラント・デイル・レエブン。

 六大貴族と言われる大貴族の一人であり、貴族たちの中では資金力などで群を抜いている。

 

 みんなレエブン候の名前を聞いて表情を曇らせ、不安を口にする。

 

 

「おいおい、王女様よ。信頼できんのか、その侯爵様はよ」

 

「レエブン候は蝙蝠って聞く」

 

「王派閥と貴族派閥に間を彷徨(さまよ)う蝙蝠。利益を求めるような奴なら、八本指からの金でも動く」

 

「そこから情報が漏れるなど、考えたくもないぞ、王女」

 

 

 酷い言われようだ。まあ、顔が胡散臭(うさんくさ)いから仕方がないね。

 皆がレエブン候に対して否定的な意見を言っているが、俺は肯定的な意見を出す。

 

 

「レエブン候はまともな領地運営している人だから大丈夫じゃない?

 『八本指』が王国の発展に邪魔になるって理解してくれたら協力してくれるでしょ」

 

 

 俺はレエブン領出身の孤児だが、孤児院でそれなりに保護されていた。これが他の領だったらまともに生きられたか分からない。

 つまり、レエブン候は人材と治安の大切さを理解しているのだ。

 直接的では無いが、命の恩人とも言えるので、俺は信用することにした。

 

 皆の不安は晴れなかったが、ラナーの説得によりレエブン候を呼ぶことになった。

 

 

「畏まりました。ではこれからレエブン候をお呼びしてきます」

 

「お願いね、クライム。じゃあ、時間がかかるでしょうし、その間に紅茶でも飲む?」

 

 

 わーい、お茶会だ。

 

 クライムがレエブン候を呼んで来るまでをお茶会をしながら待っていると、大した時間を掛けずにクライムが帰ってきた。

 余りの早さに門前払いにでもされたのかと思ったが、クライムの後から二人の男が入室した。

 1人は当然のごとくレエブン候だ。めっちゃ高そうな服を着ていらっしゃる。胡散臭い顔によく似合っているな。

 次に続くもう1人が小太りの男。平凡な貴族って感じだが、対するレエブン候の腰が低い。

 その人物を目にし、ラナーが驚いたように声を上げる。

 

 

「お兄様」

 

「よう。腹違いの妹。元気そうじゃないか……ってアルベイン家の御令嬢ということはかの蒼薔薇か。これは凄いな。アダマンタイト級冒険者をこんなところで見られるとは」

 

 

 なんと第二王子らしい。普通すぎて気付かんかったわ。第一王子の方が目立つから仕方ないね。

 ラキュースが礼を見せたので、俺もそれに(なら)う。だが他のメンバーは続かない。…これだから野蛮な冒険者は。

 

 

「ってことで、俺たち以外は隣の部屋に行ってもらうということで問題ないか?」

 

 

 横暴だな。流石は王族。お茶請けも全然手を付けて無いんだが。…もしやこの王子、お菓子を独り占めするつもりでは?チッ、これだからデブは…(豹変)

 だが無情。早速、追い出されてしまった。

 聞かれちゃ不味いお話をするらしい。俺たち『蒼の薔薇』は王国のヤバい裏事情とか幾つか知っているし、今更って気がするけどな。

 

 向こうが密談している間、こっちはこっちで変更された計画について相談する。

 

 

「同時に仕掛けるって事はよ、メンバーを分けるって事だよな?ガゼフのおっさんと俺たちで7人、暗号文に書いてあったのも7か所、まあ数は丁度良いな」

 

「そこにレエブン候の私兵が加わるって訳ね」

 

 

 ガガーランの言葉にラキュースが補足する。

 実力的にも人柄的にもガゼフさんなら申し分ないな。ガゼフさんは神的に良い人だからな。

 後はレエブン候の私兵の質と数次第だな。まぁ大貴族の私兵なんだから大丈夫だろう。

 

 

「ふん、私は一人でも問題は無いがな」

 

「集めた証拠品を運び出すのに人手が居る」

 

「そもそも、イビルアイじゃ証拠品の選別は無理」

 

「うぐっ」

 

 

 突然イキりだしたチビっ子仮面を双子が沈める。ホントお子様脳から全然成長しないな(呆れ)

 イビルアイは勿論、みんな一人でも並の奴等には負けないだろうから、そこそこ使える奴が同行するなら拠点制圧は容易いだろう。

 

 

「問題は『六腕』か」

 

「クライムが1人捕らえたのはデカいな」

 

「警戒して固まるかもしれないわね」

 

「『六腕』が2人以上居た場合は時間稼ぎをして援軍待ち。『六腕』が居なかった拠点はすぐに片付けて、近くの拠点に援軍に行くのがベターだな」

 

 

 大まかな方針を決め、装備の点検をして待っていると、ラナーたちに呼ばれた。向こうも話が終わったらしい。…俺の茶菓子は無事だろうか?

 

 協力は問題なく取り付けられたようだ。さらにガゼフさんも何時の間にか合流していた。ガゼフさんは神的に良い人だからな。

 そしてなんと、第二王子の情報提供によって襲撃拠点が2ヵ所増えるみたいだ。手が足りなーい!

 1か所はブレイン・アングラウスが引き受けてくれるらしい。…ガゼフさんの家で同棲してるとかお前らホモか?

 最後の1か所は、もう妥協して早い者勝ち競争に成った。う~ん、適当。

 

 

 レエブン候の保有する屋敷に移動。

 作戦メンバーが集まって、兵の振り分けや、襲撃タイミングの調整、注意事項などを決める。

 結構集まったな、流石は大貴族。

 

 今回協力する事になった臨時メンバーと挨拶し、出来る事の確認や役割分担を終える。

 丁度良い機会なのでレエブン候にも挨拶に行く。

 レエブン候に自分の出身を明かし、孤児院の運営をしっかりしていた事に感謝を告げると、冒険者を引退したら私兵になってくれと頼まれた。おう、考えてやるよ。

 

 ホモ疑惑のブレイン氏も見つけた。ホモではなく一時的に泊めて貰っているだけらしい。ガゼフさんは神的に良い人だからな。

 そして、ブレイン氏の装備。なんと、刀である。ロマンの塊やないかー!!

 

 

「ほう、刀ですか…たいしたものですね」

 

「お、嬢ちゃんコレを知ってるのか?」

 

「刀。その最大の特徴は、鉄さえも切り裂く鋭い切れ味。

 反して、耐久力が低いから打ち合いには向かない。

 その細くて薄い刀身による、風を切るような神速の抜刀術は防ぐことは困難だろう」

 

「詳しいんだな。意外、でも無いか。

 アダマンタイト級冒険者というのは伊達では無いらしい」

 

 

 おっと、思わず少年心が溢れてしまった。

 でも刀なんてロマンの塊を見たら、前世に置いて来たジャパニーズソウルが蘇っても仕方あるまいて。

 ブレイン氏がこちらの力量を測ろうとしているが、それを無視して詰め寄る。

 

 

「今度、触らせてください。オナシャス!」

 

「お、おう、構わない「アリガトナス!!」…おう」

 

 

 珍しい装備である刀を触らせてもらう約束をして別れる。

 

 

 

 さて、日も落ちた。

 

 そろそろ襲撃の時間だ。

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

 さて、やってまいりました『八本指』拠点。

 魔法で探査した逃げ道を全部包囲して、突入班は透明化して最奥から制圧を開始する。

 偉そうな奴を捕まえて、犯罪の証拠を確保したら、あとは無双ゲーや。

 

 襲撃に気付いたならず者達がわらわら湧いてくる。

 

 飛んできた投げナイフを槍で打ち払う。その隙に剣士が距離を詰めて来る。放たれた切り上げを、首を傾け仰け反り回避。それに合わせて蹴りを放つ。剣士の腕にヒット、骨の折れる感触。んー、気持ちいい。

 片足が浮いて居るのを隙だと見た戦士がさらに詰めてくる。だが、その為の槍。石突で地を打ち第三の足とするのだ。隙など無い。高速で体勢を立て直し、向かって来た戦士を無力化。一合も持たないとか弱すぎる。

 やっぱモンスターと違って人間は脆いな。

 

 

「おじさん達、弱ーいw

 そんなんで警備のおしごと勤まるのー?ww」

 

「く、このクソガキ…っ!」

 

 

 幼稚な挑発で口撃。

 怒りが僅かに連携を乱れさせて隙ができる。そこを遠慮なく突く。また1人沈む。

 落ちた武器を蹴り飛ばして遠距離攻撃をしようとしていた奴にぶつける。ダブルヒット!二枚抜き、良い感じや。

 

 

「ざぁこ♡ ざぁーこ♡

 子供相手に手も足も出ない雑魚警備♡ 悔しくないのー?w」

 

「ぐ、この…」

 

「きゃははは♡ よわよわー♡

 動きがぎこちないよー?w もしかして緊張♡、してるー?ww」

 

 

 連携が欠けた所からボロボロと崩れていく。ジェンガの如き見事な崩壊。

 味方の活躍もあって、もう数えるほどしか警備兵は居ない。

 相手の呼吸に恐怖が混じる。

 動きが鈍くなった兵なんて、ただの案山子ですな。

 

 

「くらえ魅了魔法、えーい。あ、通った。じゃあ、みんな捕まえてねー」

 

 

 酷く雑な演技で言ったが、何人か信じたらしい。

 真に受けた敵が動揺し、周囲に注意を向けた隙に一気に制圧。

 

 

「魔力が勿体無いから魔法なんて使うわけ無いじゃんw」

 

 

 メスガキ戦法がうまく決まったな。

 同行しているレエブン候の私兵はドン引いてる。君たちにメスガキの良さは、まだ理解できないようだな。

 

 後は金庫の開錠と隠し部屋の探索だな。

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

 

 嫌な予感がする。

 

 探索には少しだけ手間取ったが、警備兵には雑魚しかいなかった。それはつまり、『六腕』が他の場所に居るという事。

 1対1なら仲間達は後れを取る事は無いだろう。だが、2人以上固まっていたら…?

 

 集めた押収品を同行していたレエブン候の私兵に任せて、次の合流地点へ急ぐ。

 

 嫌な予感がする。

 

 

 『八本指』の拠点を出て全速力で走る。次の拠点はそんなに遠くない。

 ティアが担当していた場所に到着。…すでに制圧が完了している様だ。

 最後の拠点に向かったのだろう。俺もそこへ向かって駆け出す。

 建物の間をすり抜け、壁を蹴り、屋根を駆け抜ける。

 

 合流地点にたどり着くと、そこにはイビルアイと見覚えのない2人の人物がいた。

 何かしら会話をしているので敵では無さそうだ。

 1人は軽装の黒髪の女、斥候か魔法詠唱者だろうか。遠くからでもかなりの美人だとわかる。

 もう1人は漆黒の全身鎧を着た戦士、体格的に男だろう。大剣を片手に1本ずつ持っている。マジか、大剣二刀流とかどんな膂力(りょりょく)だよ。

 認識阻害の装備をしているのか、2人からは魔力も何も感じないが、本能が警鐘を鳴らしている。

 特に漆黒の戦士。敵対する事を想像するだけで鳥肌が立つ。

 

 ───あれはヤバい

 

 戦士がこちらに視線を向ける。この距離からでも俺の気配に気付くのかよ。イビルアイはこちらに気付いていない。

 

 

「何者だ?」

 

 

 漆黒の戦士に敵意を向けられた時、大きな危機感と既視感がターリアを襲った。

 周りの景色の色が失われ、時が止まった様に思考が加速する。

 イビルアイの己を呼ぶ声、漆黒の戦士の警戒の視線、安眠の屍衣(シュラウド・オブ・スリープ)に包まれた仲間の亡骸、黒髪の美女の蔑む様な視線、夜の王都の喧騒、今世の思い出、前世の記憶。

 

 様々な情報がグルグルと頭の中を廻ってはじけた。

 

 そして一つの事柄が脳裏で閃いた。

 

 

 

 オーバーロードだこれぇ!

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 ここは、襲撃予定最後の拠点。

 

 ガガーランとティアが強力な蟲のメイドと戦い、苦戦している所に私が到着し参戦した。

 蟲のメイドをあと一歩という所まで追いつめたところで、強大な力を持つ悪魔が現れ、一瞬でガガーランとティアが殺されてしまう。

 私も悪魔に向かって行くが全く歯が立たず、いよいよ死を覚悟したところで漆黒の戦士モモンが現れる。

 激戦の末に、ヤルダバオトと名乗る悪魔を漆黒の戦士モモンが退ける。

 状況の確認をする話し合いで、お互いの意見が食い違い口論になってしまう。

 そこで、先に折れたモモンに謝らせてしまった。

 

 

「あ、頭を上げてください!

 あなたのような素敵な方がそんなこ───! うえ!?」

 

 

 私は何を口走っているんだぁあぁああ!

 でも仕方がないじゃないか!本当に素敵なんだから!!(逆ギレ)

 

 素敵な方だなんて言っちゃったら、好意を持っているのがバレバレじゃないか。あーー!恋慕を告白したようなものじゃないかぁあああ!!

 これは実質、愛の告白では?(冷静)

 

 恐る恐る隣の反応をうかがうと、モモンとナーベは二人揃って夜空を見上げていた。

 何をしているか最初はさっぱり分からなかったが、先ほど自分があげた奇声を二人は警告だと受け止めたようだった。

 

 違うんですぅう!

 

 うえ!?って上で。うえがうえって何なんだよ!(錯乱)

 このままでは何もない所で叫んでしまう恥ずかしい奴になってしまうぅぅ!

 

 

「何者だ?」

 

 

 うんうんと頭を抱えていると、モモンが剣を構え警戒したまま屋敷の上を睨み付けている。

 視線を追って屋上を見上げると、そこに居たのはターリアだった。

 

 

「あ、ターリア! ターリアじゃないか!」

 

 

 神がかり的なタイミングだ。

 恥をかかずに済んだ。でかした!

 

 

 

 

 

 


 

-イビルアイ

ポンコツ化。

尻尾を生やすからな。覚悟せよ。

 

お話の都合で八本指の拠点が増えてます

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

04 ゲヘナの火

-前回のあらすじ

犯罪組織『八本指』の拠点を襲撃したオリ主。疲れからか、不幸にも漆黒の戦士に追突してしまう。後輩をかばいすべての責任を負った三浦に対し、車の主、暴力団員谷岡が言い渡した示談の条件とは…。


 

 

 

 夜の王都、高級住宅街の一角。戦闘による破壊痕があちこちに見られる広い敷地に、仲間のイビルアイと2人の見覚えのない人物がいる。

 

 その内の一人、漆黒の戦士を見て閃く。

 

 

 ここって、オバロ世界じゃね?

 

 

 あーそういえばチームメンバーとか既視感あったわー(後出しジャンケン)

 で、今ってどういう場面だっけ?…ヤルダバオトが現れてゲヘナの炎だったか。

 イビルアイがモモンに惚れるんだけど、モモンには警戒されるんだったか。恋愛クソザコ吸血鬼やな(笑い)

 

 三人は、どういう集まりなんだっけ?アダマンタイト級冒険者?すごいがっちりしてるもんねぇ。どうりでねぇ!

 

 

「それで今はどういう状況ですかね?」

 

「ああ、ラキュースの到着を待っている所だ。いや、そうじゃないか。

 ティアとガガーランが強大な力を持つ悪魔にやられてな。ええっと、そいつはヤルダバオトという名で、私とティアとガガーランで蟲のメイドをあと一歩という所まで追いつめた時に現れてだな」

 

 イビルアイが混乱していらっしゃる。

 あと、二人のこと忘れとったわ。死んじまったのか…蘇生するための触媒を揃えるのに黄金が大量に必要になるな(屑思考)

 そんで蟲のメイドを追い詰めたけどヤルダバオトが現れた、と。

 

 

 ん?

 

 蟲のメイドってエントマじゃねーか!そう言えばそんな話だった!

 アインズ様を怒らせたら死亡確定だぞ!

 オーバーロードと言えば登場人物が死にまくる小説じゃないか!

 何を呑気に考えてんだ俺は!

 マズい、このままだと『蒼の薔薇』は全員殺されるぞ。

 否、イビルアイの声帯を与える約束を現時点ではしていないはず。まだ可能性はある!!

 何とか怒りを鎮めて好感度を稼がなくては。

 

「とりあえず蟲のメイドの所を詳しく話してくれ。……私も戦闘になる可能性が有るからな」

 

「ああ、わかった。私がここに着いた時には既に戦闘中で───」

 

 

 話を聞きながら打開策を必死に考える。

 脳細胞は過去最高の稼働率を叩き出しているだろう。

 イビルアイの話が終わる頃、幾つかの策を思いついた。

 まずは、アインズ様の興味を引かなければ。

 

 

「なるほど…それは、蟲のメイドを成長させてしまったかもね」

 

「ほう、成長とは?」

 

 よし、アインズ様が食いついた!

 漆黒の兜がこちらを向き、そのスリットから覗く瞳には興味の色が浮かんでいる。まぁ、その瞳って幻影なんですけどね、初見さん。

 

 作戦1。エントマにとってプラスだった論、だ。

 とにかく悪いイメージを払拭してアインズ様の怒りを鎮めなければ。

 

「挑発に激昂していたという事は、戦い慣れていないのだろう。少なくとも人間との、それも同格の戦いには慣れていないんじゃないか?

 今回得た経験で、次からは挑発が効き辛くなるだろうし、相手の連携への妨害も巧くなるだろう。

 更に、数の優位や統率を学べば、自らもチームを組むようになり、脅威度は跳ね上がるだろうね」

 

 コキュートスが蜥蜴人(リザードマン)との戦争の失敗から学んだように、エントマも今回の敗北から何かを学んだと思わせるのだ。

 NPCの精神的な成長を望んでいるアインズ様なら無視できない事だろう。

 アインズ様もコキュートスの成長を思い出してるのか、うんうんと相づちを打ってくれている。悪くない感触だ。

 さて、次だ。畳みかけるぞ!

 

 

「それにしても、一見すると人に見えるのに何故戦闘になったのかな?」

 

「ガガーランは人食いの化け物だと言っていたぞ。大方、その場面で遭遇したのだろう」

 

 イビルアイがさり気なくアインズ様との距離を詰めながら答える。俺とアインズ様が親しそうに会話しているから嫉妬したのか?おい、恋愛クソザコ吸血鬼。お前の命が()かってるんやぞ。

 そしてナーベがイビルアイをけん制している。何やってんだ、こいつら…

 まま、ええわ(放置)

 

「上手いこと人間に溶け込んで王都に侵入して来たというなら捕食目的では無いだろう。

 何かしらの任務の途中で、()()()()()をしたというところかな?

 確かにガガーランは無視できないだろうな」

 

 作戦2、発見されたエントマが悪い論。

 実際、エントマが食べかけの腕を持ったまま外に出て、ガガーランに見つかったのが悪い。

 

「…つまみ食い、か」

 

 アインズ様が苦い声を漏らす。

 そう、あんたはエントマが食いしん坊キャラだって知ってるもんな。

 エントマは人間の肉が好物だって設定があるのに、今まであんまり人間を食べる事が出来なかったからな。そりゃあ、つまみ食いもしたくなる。

 

 

「私はガガーラン達の判断を間違いだとは思わないぞ。

 たしか、子供の肉が好きだとも言っていた。邪悪なモンスターだ」

 

「間違いだとは言わないさ、この国では人殺しは犯罪だ。

 ただ、メイドなんて役職があるんだ。人類種以外の国の工作員の可能性もある。

 こちらと遭遇する事無く大人しく帰ってくれたらよかったのに」

 

「ヤルダバオトは王都の一部を地獄の炎で包むと言っていた。大人しく帰るつもりなんて最初から無かっただろうな。

 奴らは人類と敵対する組織に違いない」

 

 ナーベとの競り合いに敗北し、若干、不機嫌そうに言うイビルアイ。

 そういえば、倉庫にある物資と周囲に住んで居た人間が根こそぎ持っていかれるんだっけか?また王国が疲弊するな。王様かわいそう(小並感)

 そんな事より、次だ。次の作戦だ!

 

 

「それにしても、ヤルダバオトの介入のタイミングが良すぎる」

 

 ヤルダバオト――デミウルゴス――の名前が出て、ピクリと反応するアインズ様。

 

「…奴が、ヤルダバオトが、(わざ)と黙って見ていたと?」

 

「そのまま勝てば良し、負けるなら介入する、という方針だったんじゃないかな?

 結果だけ見れば蟲のメイドは成長し、おまけに八本指の拠点の中は空っぽにされた。全部、ヤルダバオトの手のひらの上さ。

 蟲のメイドが発見される失態を犯すのも、戦闘になった末に敗北することも、全てヤルダバオトの計画の内なのかもしれない」

 

 作戦3、全部デミえもんって奴の仕業なんだ!

 困ったことがあったらデミウルゴス。これ、オーバーロードの常識。

 

「あるいは、この遭遇戦さえ計算の内かもね」

 

「…確かにその可能性はありますね」

 

 怖がらせるように告げる俺の言葉に、(うめ)くような声を上げるアインズ様。

 デミウルゴスをちょっと持ち上げ過ぎたけど、まあ問題ないだろう。デミウルゴスならそれくらい出来ても不思議ではない。

 

 アインズ様の弱点、それは『デミウルゴスの計画』。

 今ごろ、デミウルゴスの計画を邪魔してしまったんじゃないか?と胃を痛めてるに違いない。くっくっく…これから加速する勘違いは、こんなモノでは無いぞぉ。

 

 さて、今できる事はこんなものかな?

 エントマの失態論を強く推したから、褒美にイビルアイの声帯をって事は無いだろう。無いんじゃないかな。無いといいな。

 あとは原作知識を駆使して有用さを示すしかない。

 だけど、あまり深い情報は出さないようにしないとな。情報の出所を調べるために拷問とか洗脳とかされるかもしれんからな。主にアルベド。

 これだけやって駄目なら「モモンガによろしく」とか言うしかないな。

 

 

「ふむ」

 

 アインズ様、顎に手を当て考える姿勢。

 よしよし悩め。そして蒼の薔薇処分を保留にしてくれ。

 

 そしてナーベはハニワ顔。

 お前、話を聞いて無かっただろ!!

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

「さて、今分かるのはこんなところかな?」

 

 

 紺色の髪の槍使い少女ターリアの考察を聞き終え、自分もこれまでに得た情報を整理してみる。

 仮面の少女イビルアイが、エントマを殺す一歩手前まで追い込んだと聞いた時、感情の抑制が間に合わない程の憤怒が燃え上がり、怒鳴り散らさないようにすることで精一杯だった。

 だが冷静に考えてみれば、その話もイビルアイの主観でしかなく、エントマはそこまで追いつめられて無かった可能性もある。そして何より、デミウルゴスの助けが入った事でエントマは撤退が出来ている。人的被害は口唇蟲くらいだろうか?

 

 エントマの敗戦が決して悪いだけのモノではなく、これからの成長に必要なものだったと思えば、(くすぶ)っていた怒りを冷ますには十分だった。

 ここで怒りに身を任せてこの者達を殺してしまえば、折角の有益なコネクションを台無しにしてしまう事になる。それは避けなければならない。

 とりあえず、腹を立てて思わず強く言い詰めてしまった所為で、こちらを怪しんでいるイビルアイの警戒をどうにか解かなくてはならない。

 

 今回の一番のデメリットはエントマの顔を知られてしまった事だ。それも、人食いのモンスターとして認知されてしまった。

 いずれ、エントマやナザリックのシモベ達が街を自由に歩き、休日などに外出を楽しんで欲しいと思っていたのだが。…それも難しくなった。

 アインズ・ウール・ゴウンが魔王ヤルダバオトを倒し、その際にメイドを支配して奪ったという事にすれば、民衆の反感を抑えられるだろうか?

 

 しかし『つまみ食い』か。エントマには窮屈な生活をさせていたようだ。

 他のNPC達も今の生活に不満を抱いてないだろうか?ナザリックの福祉も要改善だな。

 

 それよりも喫緊の問題は、デミウルゴスの計画を狂わせてしまったんじゃないか?っという事だ。

 この身体には無いはずの胃がシクシクと痛む。

 ため息が漏れそうになるのを堪えながら、デミウルゴスの計画の詳細をうまく聞き出す方法を必死に考える。

 

 

 その時、視界の隅が明るくなる。

 

「モモンさん――。あちらをご覧ください」

 

 ナーベの声に目を向けると、真紅の炎が天を焦がすように吹き上がっていた。

 高さ30メートルを優に超えている炎の壁が、数百メートルでは収まらない距離を伸び、王都の一角を包み込んでいるように思われる。

 

 揺らめくベールのように立ち昇り、帯のように伸びた炎の姿に見覚えがあった。

 あれは確か───

「───ゲヘナの炎?」

 

「そ、それは一体、な、何のことですか? ご存じなのでしょうか?モモン様はあの巨大なる炎の壁を」

 

 しまった。声に出てしまっていたようだ。

 こちらを探るようなイビルアイと、どこか呆れたような冷たい目のターリアがこちらを向く。

 

 全貌の見えないデミウルゴスの計画に突っ込んでしまったり、腹を立ててイビルアイに怪しまれてしまったり、失態続きである。

 

 

「あ、いや、その、確証を得られたらで構いませんか?」

 

「そ、それはもちろん構わないのですが…」

 

「な、ナーベと少しばかり相談事がありまして。少し失礼します。」

 

 自分の誤魔化しの下手さに自嘲的な考えが生まれる。

 また怪しまれてしまった事だろう。もういっそ殺してしまった方が楽なのでは、と短絡的な考えが頭をよぎる。

 

 特に、ターリアという少女の考察力の高さは目を見張るものがある。話を聞いただけで、まるで実際に見てきたかの様に語ってみせたその能力は異常だと言ってもいい。

 不自然な動きをすれば、こちらの正体を見破られる危険がある。

 警戒しなければ。

 

 

 背に視線を受けながらナーベを連れてその場を離れる。

 新たに生まれた悩みの種と、これからデミウルゴスの計画に向き合わなければならない不安で、アインズは(ふたた)び幻の胃痛に襲われるのだった。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 ラキュースたちが合流し、モモンとナーベは依頼人のもとへ向かった。

 結局、ゲヘナの炎が出現してからアインズ様とは碌に話をできなかった。

 俺たちはガガーランとティアの遺体を抱えてチームの拠点に帰る。そして、必要な触媒を貯めている拠点で蘇生の儀式を行う。

 

 黄金の山が崩れて溶け出し宙を舞い、そこに宝石から溶け出した魔力が加わる。やがて、大きな力の渦を巻き込んだ黄金の光が遺体を覆う。

 黄金がより一層強く輝き、光が収まると、土気色だった死者の肌に幾分か血色が戻っており、心臓が再び鼓動を鳴らし始めていた。

 

「う、あ、ここは…」

 

「ガガーランが目を覚ました」

 

「ああ…そうか、おれはあのあくまにやられたのか…」

 

 起きたばかりで怠そうだが、記憶ははっきりとしているらしい。

 ガガーランをベッドへ運び出し寝かせる。

 

「疑問が沢山あるだろうから先に状況を説明しておこう」

 

「ああ、たのむ」

 

 ベッドで横になっているガガーランに現在の状況を教える。

 ヤルダバオトと名乗る悪魔の事、エ・ランテルから駆け付けた冒険者『漆黒』の事、ヤルダバオトは一旦退いたが王都の一角を巨大な炎で包んだ事。そして、これからその問題を解決しに行くこと。

 続いて復活したティアにも同じ説明をしてやる。

 説明を聞き終えた二人は、疲れたのか眠ってしまった。

 

 二人は無事に蘇生完了した。

 俺たちはラナーが待機している王城へ急いで向かおう。

 

 

 

 しかしながら、人が(よみがえ)るというのはいつ見ても、気持ち悪いな

 

 

 

 

 

 


-エントマ

はぁ…エントマちゃんかわゆ…

エントマちゃんをいぢめるとかわいい。かわわる。

かわいそうは、かわゆ。

 

誤字報告に感謝

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

05 ゲヘナの焱

 

-前回のあらすじ

『漆黒』モモンと現状確認をしていると王都の一角に巨大な炎が立ち昇る


 

 

 

 王城の一角。煌々と明かりが灯された部屋に、王都中の冒険者が集められた。

 本来であれば立ち入ることが許されない王城を使うのは非常事態故である。

 王都冒険者組合の組合長が冒険者たちに召集の理由を語る。王都を襲った非常事態に対して、国と協力して問題解決を図るという内容である。本来であれば冒険者組合は、国家の問題への介入は認められないが今回は特例である。

 

 そして、組合長と代わったラナーが前に出て作戦の説明を始める。

 

 

 アインズ様ばかりに気を取られていたけど、王国サイドにも死亡フラグとなる化け物が居たのだった。

 王国第三王女の『黄金』ことラナーである。

 武力こそ持たないが、作中最高レベルの頭脳と、クライム以外を盤上遊戯の駒の様にしか思ってないぶっ壊れた倫理観を持つ。

 彼女にとって邪魔だと思われれば、謀略に巻き込まれて死ぬ可能性がある。もう既に何人かメイドを殺しているんじゃなかったか?人間の屑がこの野郎…。

 替えの利かない駒でなければ、いつ捨て駒にされてもおかしくない。

 というか、クライムって境遇が主人公っぽいからちょっかい掛けまくってたんだが。邪魔だと思われてそう。怖い。

 ラナーに本性を知っているのがバレるのは怖いし、アインズ様のご機嫌取りして何か勘ぐられるのも不味いから、背景モブと化してよう。

 

 

「───この事件を起こした首魁(しゅかい)の名前はヤルダバオト。非常に凶悪かつ強大な悪魔であるとの情報が入っております。

 実際、この幻の炎の障壁の向こうに低位の悪魔がいることを蒼の薔薇の彼女が確認しておりますが、上位者からの命令を受けて行動しているような規律を彼らから感じたそうです」

 

「……敵の頭を潰すのは基本だが……ヤルダバオトを倒せばいいのか?」

 

「極論を言ってしまえばそれで事件が解決する事を願っております。ですが、それ以上にお願いしたいのは───」

 

 

 ラナーと冒険者たちがなんやかんや言っているが、要するに、ヤルダバオトとまともに戦えるのは漆黒の英雄モモン様だけだから、冒険者たちは戦線を押し広げて行って、モモン様が突入しやすいようにする、という作戦である。

 

 この『ゲヘナの炎』事件を簡単に説明すると、犯罪組織『八本指』が悪魔召喚アイテムを王都に持ち込み、そのアイテムを狙ったヤルダバオトが王都を襲撃する、というものである。

 それを漆黒の英雄モモン様が解決すると。う~ん、このマッチポンプ。

 そんな表向きの話の裏で、ナザリックによる『八本指』の支配、王国の物資の強奪や人間の拉致、魔王作成の準備が進められるわけである。

 

 

 原作知識を思い返していると、作戦の詳細を詰める作業に入ったようだ。

 なになに?『蒼の薔薇』は戦力が半減しているから、四組のオリハルコン級チームが主軸になって戦線を構築するだって?

 色々と理由を付けて俺たちを前線から遠ざけようとしているが、希少な復活魔法が使えるラキュースを危険な場所に置きたくないだけである。それに気付いているのか、いないのかは知らないが、ラキュースは了承する。

 

 えっ、俺?

 前線で好き放題やらせてもらう予定ですが、何か?

 そこそこ強いモンスターを大量に狩る事が出来る、こんなにうま味がある狩場を逃すことはできないでしょう?じゃけん夜レベル上げいきましょうね~(既に夜)

 

 

 冒険者の組み分けの話が大体終わり、イビルアイがモモンとナーベを呼びに行った。

 俺も行きたかったが、ラナーが見てるから下手に動くのはやめよう。お前さっき俺らが会議している時、チラチラ見てただろ(神経質)

 

 よくよく考えたらナザリック勢は最終手段(原作知識)を使えばどうにかなるのに比べて、ラナーとかの現地勢の方が武力で解決するしか無い分だけ危険度が高くね?

 クライムを人質に取るのはラナーに通じるだろうか?

 法国とか竜王とかは100Lvクラスじゃなきゃ話にならないぞ。

 これはやはりレベル上げが急務ですね。

 

 

 お、モモン様が顔を晒したな。うん、この世界じゃ完全にモブおっさんの顔ですわ。

 しかし、俺みたいに()()()()冒険者が居れば、その顔に魔法が掛かっている事に気が付けただろう。まあ原作で特にそういう話は無かったはずだけど、後でそれと無く注意しておいてやるか。ついでに目が良いアピールもしておこう。

 

 

 

 他の冒険者たちと挨拶をしていたモモンとナーベがこっちに合流したところで別室に移動し、作戦の最終確認を行う。

 話が一段落すると、クライムが強者の情報を口にする。

 それに対して、モモン様を持ち上げたいイビルアイが噛みつく。子供か!

 

「モモン様以上に強い戦士などいるはずがない。お前が推薦する人物がモモン様の足手まといになる可能性の方が高いと断言できるな」

 

「いや、そうとも言い切れないと思うね。俺も目の前で見たが無茶苦茶強かった。六腕最強のゼロをたったの一撃で(ほふ)ったのだから」

 

 イビルアイの言葉に反論するブレイン。

 その無茶苦茶強い人ってセバスの事だから、ブレインの言っていることが正解だ。

 っていうか、ブレインって守護者と遭遇しすぎじゃね?この後もシャルティアと交戦して爪切りをやるんだろ?こいつは歩く死亡フラグ吸引機か何か?

 

「お前がブレイン・アングラウスか。お前がクライムよりもはるかに強いことは知っている。しかし、だからと言ってそいつの強さの保証にはつながるまい?

 大体、お前はあのばばあに負けたのだろ?」

 

「……あら、それを言ったら、イビルアイ。あなただってそうでしょ?

 ごめんなさいね、アングラウスさん」

 

「うぐっ」

 

「クライム、ブレイン氏、うちのガキがどうもすみませんねぇ。

 憧れの英雄が最強でないと気が済まない子供の癇癪ですから、許してやってくだせぇ」

 

 イビルアイの大敗北によって悪くなりつつあった雰囲気が消えた。

 そのタイミングでモモンが話に入ってくる。流石はアインズ様、強者の情報収集に余念がない。

 

「興味深いですね。その人物とはいったいどのような方なのですか?」

 

「セバス様という方です」

 

「……ん? せばす?」

 

 困惑するモモン。

 そうだよ、あんたの所のセバスだよ。

 わいのわいの話をしている所で不意にイビルアイがラキュースに問う。

 

 

「ところで、敵の悪魔たちに暗黒のエネルギーを向けることは出来ないのか?」

 

「……暗黒のエネルギー?」

 

「ああ、ガガーランから聞いたが、お前の持つ魔剣キリネイラムの力を全力で開放すると王国一つを飲み込むほどの力を放出するのだろ?」

 

 あーーっと!、黒歴史の話はやめろ!…ここから先は火傷では済まないぞ?

 ラキュースは大きく目を見開き、露骨に話題を変えようとする。

 しょうがねえなあ(悟空)。助けてやるか!

 

「だが、ちょっと待ってほしい!

 皆さんはラキュースの必殺技『暗黒刃超弩級衝撃波(ダークブレードメガインパクト)ォオ!!』をご存じだろうか?…お察しの通り、魔剣キリネイラムによる強力な範囲攻撃です。

 暗黒刃(ダークブレード)との言葉から負属性の技だと思われるかもしれませんが、無属性の技です。…もう一度言います。負属性ではなく無属性です。

 つまり魔剣キリネイラムに暗黒のエネルギーなんて、これっぽっちもありゃしません。全部、嘘です。

 ただ、技名を叫ぶと爽快感がある、これだけははっきりと真実を伝えたかった」

 

 他人の黒歴史を暴露すると、気持ちがいい(屑)よい子は…やめようね!

 ラキュースの顔は真っ赤である。そうやってみんな大人に成っていくんやでw

 

 しかし、ネタにしたら俺の古傷にもダメージが来そうな厨二病設定は黙っておく。

 でも、指に着けたアーマーリングとか身体に巻いたシルバーとかはカッコいいと思う。もっと腕にシルバー巻くとかさ!(ATM並感)

 闇の人格とか、精神を乗っ取る呪われた剣だとか、神に仕える乙女でなければ闇の力を抑えられないとか、思うにラキュースは被虐願望、凌辱願望が有るんじゃなかろうか?…対魔神官ラキュース(ボソッ

 

 全員の視線がラキュースに集まる中、扉がノックされ、返事を待たずに二人組の男が入室する。

 

 

「お兄様、それにレエブン候」

 

 第二王子ザナックとレエブン候が、ラナーに話があるという事で作戦の最終確認はもう終わりだ。

 

「では皆さん。私はここで、皆さんが誰一人欠けることなく戻ってくることを、神にお祈りしております。……皆さん、より正確に言えばモモンさんに全てはかかっています。御武運をお祈りしております」

 

 

 よし、作戦開始だ。イクゾー!デッデッデデデデ!

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

 ということで、やってまいりました炎の幻の前。

 某配管工よろしく「ヤッフー」と奇声を上げながら走り幅跳びで突っ込む。もちろん、絵画の中の世界に入ったりはしなかった。

 慌てて追ってきた上級冒険者たちが、俺に尊敬の視線を向ける。流石、アダマンタイト級冒険者!肝っ玉がすわってるぜ!っとでも思っているんだろう。これが、勘違い系主人公ですか?

 

 しかし、下級冒険者たちは緊張して遅々として進まないので、炎の壁を(また)いでセンターマン状態になって、緊張をほぐしてやる。

 

「ホラ、見ろよ見ろよ。半分人間~」

 

 俺を見て緊張がほぐれた冒険者たちが、覚悟を決めて炎の中に進む。

 

 

 炎の壁を抜けると、そこには静寂の世界があった。夜だからみんな寝静まったとかではなく、完全に人の気配が無いのだ。元々が歴史を感じさせる古めかしい街だったことや、所々の家屋が崩れていたりすることもあり、退廃的な美しさがある。

 ホラー映画の舞台にでも使われそうな退廃美に見入って、ほうっと感嘆の溜息を吐いていると、ここの班のオリハルコン級冒険者の一人が俺に指示を仰ぎに来た。

 確かに俺が指示を出した方がスムーズにいくだろう(自画自賛)

 だが、断る!

 

「私は威力偵察に行ってくるから。てきとーに悪魔を間引いてくるけど、問題が起こったら呼んでくれや。

 じゃ、あとは予定通りヨロシクぅ!」

 

「え、ちょ───」

 

 制止の声を振り切って倉庫街の奥へと駆け出す。さっきまであった尊敬の念が急激に萎んでいくのを背中越しに感じる。すまんなw

 

 

 

 一つ通りを抜けると、獣の唸り声が聞こえてきた。

 現れたのは地獄の猟犬(ヘル・ハウンド)。邪悪な見た目の火を噴く大型犬である。まあ雑魚である。とは言っても、相手は群れでそこそこ数が多い。数は力だ。だから俺も手数を増やす。

 

「〈第4位階精霊召喚(サモン・エレメンタル・4th)雷雲の精霊(・サンダークラウド)〉」

 

 雷雲の精霊を3体召喚して死角を守らせ、犬の群れに突撃する。畜生の群れを相手にするときに受けに回るのは愚策、突撃か逃走の2択しかないんだよおお!

 

「首ぃぃいい!置いてけぇええ!!(心臓を一突き)」

 

 正面に居た奴の頭を殴り飛ばし、慌てて飛び掛かって来た隣の犬の胸を突く。反対側に居た個体と、回り込もうとした奴らが電撃に撃ち抜かれる。

 生命力を失った個体から消滅していく。死体は残らないようだ。こりゃ都合がいいぜ。

 槍を振るうこと数回。十数体いた犬の群れはもう消えていた。この程度の相手なら無傷で全滅させることは容易い。伊達にソロで活動していたわけじゃない。

 

 そして、辺りに漂っている魂の残滓(経験値)を手繰り寄せて吸収する。

 

 

 俺がアダマンタイト級冒険者になるほど強く成れたのは、()()のおかげである。

 漫画とかによくある話のように、目に魔力を集める修行をしていたら、不可視の物を見る事が出来るようになったのだ。そして、その能力を高めたら魂的なモノまで見えるように進化した。

 この魂の残滓(経験値)的なモノは普段から周囲に存在するが、モンスターを倒した時には特にたくさん出てくる。

 それが身体に取り込まれることによって人間が強く成っていくことを知った俺は、次にこの魂の残滓(経験値)を操る術を模索した。

 そうして、なんやかんや修行して、この効率的経験値吸収能力を得たのだ。

 俺は経験値吸収能力がクライムレベルの低資質らしく、この能力が無ければ一般貧弱冒険者で終わっていただろう。

 

 色々語ったが簡単に言うと、経験値増加のパッシブスキルを手に入れたような感じだな。

 

 

 ここら辺の敵はまだまだ弱い、もっと奥の方で稼ぐか。

 召喚した雷雲の精霊たちを引き連れて、警戒態勢を維持しながら先へと急いだ。

 

 

 ランクが2つ位は上のモンスターが襲ってくる場所から、防衛ラインと平行に移動して敵を倒していく。レベルが上がる度に戦闘が楽になり、戦う度に効率的に敵を狩れるようになっていく。

 だが、今まで一定間隔で徘徊していたモンスターたちが、途中から露骨に俺を狙って集まってくるようになった。

 

「こりゃ、退き時だな」

 

 上位地獄の猟犬(グレーター・ヘル・ハウンド)の脳髄をぶちまけつつ撤退を考えていると、頭上に大きな気配を感じた。ちらりと目を向けると、新手の大型悪魔が蝙蝠(こうもり)の翼を羽ばたかせながら、家屋の向こうからこちらへ飛んでくるのが見えた。

 明らかに強そう。ボスキャラだな?仲間がいたなら倒せそうだが。

 

 さて、奴に挑むか?挑まないか?

 

 まずは現状戦力の把握をするとして。

 今回のレベル上げで、俺はどれくらい強くなっただろう?

 10レベルくらい上がったんじゃないか?(誇大表現)

 今の俺の強さ的に考えて、合計レベル40くらいはあるだろう。

 力を増した今の俺なら一人でもいけるんじゃないか?余力もまだ有る。

 

 やっちまうか?やっちゃいますか?やっちゃいましょうよ!

 さあ、やるのかい?やらないのかい?どっちなんだい!?

 

「やらーない!!(きんに君)

 〈透明化(インヴィジビリティ)〉!」

 

 

 ターリア、全力逃走します!!

 

 召喚していた精霊たちを悪魔に突っ込ませて、俺自身は〈飛行(フライ)〉で飛び上がり、こちらを包囲していた悪魔の頭上を抜ける。

 鱗の悪魔(スケイルデーモン)は俺の気配を捉えていたようだが、追ってくるようなことは無く、怒りの声を上げるだけだった。

 

 背後で空気を震わす鱗の悪魔(スケイルデーモン)の雄叫びを聞きながら、冒険者たちが築いている防衛ラインへと向かう。

 これ以上暴れていると本気で排除されちゃいそうだから、大人しく防衛ラインを維持する作業に従事するかな。

 

 

 

 防衛ラインまで撤退して、指揮官らしきオリハルコン冒険者に声をかける。

 

「おーっす、お疲れさん。今の戦況はどんな感じかな?」

 

「ちょっと、あんた、どこ行ってたんだ!?

 死者は出ていないが、戦える者はかなり減った!上級冒険者たちにも怪我人が出てる!

 あんたもさっさと戦線に加わってくれ!」

 

「おーけー、おーけー、後は任せてくれ」

 

 この先に強力な悪魔が居た事を告げ、防衛ラインの前進を鈍くさせておく。そして、俺も戦列に加わって仕事を始める。

 冒険者に混ざって戦線のあちこちで悪魔相手に無双をしていると、再び尊敬の視線を送られるようになった。んー、良い気分だぜ。

 

 それからしばらく真面目に働いていると、下級冒険者たちが全員戦えなくなったので、後方へ戻り部隊を再編することとなった。

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

 後方でラキュースとティナに合流し、ミスリル以上の冒険者で構成された再突入部隊を編成。

 若干疲れた様子を見せる二人に声をかける。

 

「おー、二人とも結構ボロボロじゃないの」

 

「あなたも似たようなものでしょう、ターリア」

 

「馬鹿言え、リジェネで受けた傷はじわじわ治ってるし、魔力もまだ半分以上残ってるぜ。

 それと今の私は、悪魔との戦いを経て成長した、ネオ・ターリアだ!」

 

「それは頼もしいわね」

 

 険しい顔をしていたラキュースの顔に笑みが戻り、ティナも軽口を零すようになった。俺は気遣いもできる人間だからな(自画自賛)

 

 

 冒険者各自、装備を整備したり、予備の物へと交換したりを済ませ、再びゲヘナの炎の壁の前に集まる。

 ラキュースに前線へ行って欲しくない人たちが渋ったが、「ラキュースは俺が守護(まも)る!」とイケ顔で言って黙らせた。

 再突入ポイントに集まった冒険者たちの前に一歩出てラキュースが号令をかける。

 

「みんな、ここが最後の踏ん張りどころよ。

 ここで敵を引き付けるほど、″(やじり)″であるモモンさん達が優位に戦えるわ。

 私たちは彼らに楽をさせてあげる、最高の″弓″の働きをしましょう!」

 

「「応!!!」」

 

 ラキュースの鼓舞に勝鬨を上げ冒険者たちが炎の中へ進む。

 

 

 順調であったのは最初だけで、蹴散らされたバリケードと衛士たちの死の名残が漂う赤い染みを越えたあたりから、敵の攻勢が激しくなった。

 この世の地獄を思わせるような悪魔の大群を捌きつつ「こりゃ、もう撤退かな?」と考えたところで、例のボス悪魔が現れた。またピネだ!こいつ、いっつも撤退を考えた時に出てくるな。

 もはや、これまでか!?っというところで、ガゼフさん登場!

 ガガーランとティアも合流してリベンジマッチや!

 

 

「一番槍は私がいただく!」

 

 召喚した精霊たちに牽制させつつ、鱗の悪魔(スケイルデーモン)に突撃をかけて足を槍で突く。しかし、肉体を包んでいる爬虫類の鱗に阻まれ、傷は浅い。

 反撃に振り下ろされた巨大な大金槌(モール)をティナが横から妨害した隙に飛び退いて回避。大地に打ち付けられた金槌が地面を抉り土埃を上げる。

 

「硬スギィ!

 攻撃はガゼフさんに任せます!」

 

「任された!」

 

 俺は援護に回り、攻めはガゼフさんにやってもらうことにする。

 カゼフさんが装備している剃刀の刃(レイザーエッジ)なら、奴の肉を楽に切り飛ばせるだろう。

 切り込むガゼフさんに合わせて、ラキュースの浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)や俺の召喚した精霊たちが鱗の悪魔(スケイルデーモン)の行動を阻害する。そして、攻撃後の隙を埋めるようにガガーランとティア、ティナが援護に入る。

 俺たちが連携を続けるうちに、やがて鱗の悪魔(スケイルデーモン)が大きな隙を晒し、その隙を逃さなかったガゼフさんの斬撃が悪魔の肉体を深く切り裂いた。

 

「おおおおおお!──六光連斬──っ!!」

 

「グオオオオォォォォオオオオンン!!」

 

 幾つもの斬撃をその身に受けた鱗の悪魔(スケイルデーモン)がそのダメージに堪らず吹き飛び、そのまま空へと羽ばたき逃げ出した。

 空に逃げるなんてズルいぞ!まあ、俺が追いかけてもいいが、クライムたちが止めを刺すだろうし放っておこう。疲れたし。

 

 

 戦士長の勝利に歓声が上がる。この場に居た悪魔も殲滅完了した。

 冒険者たちが互いの健闘を讃え合っていたその時、地面が大きく揺れた。

 

 地震が起きたという事はそろそろお終いか。

 

 

 

 再び気を引き締めた一行は前進する。だが、悪魔はいつの間にか消えていた。

 最奥にたどり着いたとき、そこには苛烈な戦場跡と、モモンとナーベとイビルアイの三人の姿だけがあった。

 ヤルダバオトの姿が見当たらない事に勝利の気配を感じて、皆が息を飲んでモモンの姿を凝視する。それから、僅かな間を空けてモモンが剣を握りしめ、勢いよく突き上げる。

 

「「うぉおおおおおおおおお!!!」」

 

 次の瞬間、広場にいたすべての者たちが、同じように拳を突き上げ、勝利を祝う雄たけびをあげた。

 

 そして口々に讃える。モモンという救国の英雄の名前を──。

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

 めでたしめでたし。

 だけど、俺の生存をかけた戦いは始まったばかりだ!

 

 

 

 朝。蒼天の朝。

 あれから慌ただしく数日経ち、アインズ様達がエ・ランテルに帰る日となった。

 

 

「帰ってしまわれるのか?」

 

 イビルアイがモモンとの別れを惜しんでいる。

 いつもの不遜な態度と違って、今は凄くしおらしい。

 

「同行したいのはやまやまなんだがな」

 

「そうだよ(便乗)

 私もモモン氏に着いて行くゾ」

 

「「え?」」

 

 同時に困惑する、モモンとイビルアイ。

 『蒼の薔薇』の本拠地が王都だろうが、転移魔法を使えばカンケーねぇんだよ!

 転移提案おじさんと化して、イビルアイに提案する。

 

「転移魔法を使えば移動が楽ちんゾ。

 転移して♡」

 

「その手があったかぁぁああ!!」

 

 

 モモンと離れ離れにならずに済むと知って、イビルアイが歓喜の声を上げている。おう、俺に感謝せや?

 やっと、ラナーの目が無い所でアインズ様と交流を深める事ができるんやな。

 これからはじっくり攻略できるぞ。

 

 

 覚悟しろアインズ様。これから付き纏ってやるからなぁぁ。

 

 

 

 

 

 


 

-ラナー

オリ主が危険視

 

今回少し長くなってしまいました

 

誤字報告に感謝

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

06 エ・ランテルへ

-前回のあらすじ

ヤルダバオトの野望を打ち砕いたモモン

オリ主とイビルアイ、モモン達と一緒に城塞都市エ・ランテルへ行く


 

 

 

 

 

 

 青々とした空がどこまでも広がる、晴れ晴れとした開放的な蒼天。

 本格的な夏も終わり、太陽もその身を燃やすのに疲れたというように輝きの色を弱らせ、空が少しだけ遠くに感じられるようになった。そんな少しだけ秋を想わせる、それでもまだまだ暑い日。

 

 俺たちは現在、王都リ・エスティーゼから城塞都市エ・ランテルへと向かうために、大空の旅をしている途中である。

 遥か上空から見渡す景色は大きく広がり果てしない。人が生きて歩む道と弱者を無慈悲に拒む大自然がすべて連なっているそれは、可笑しさと感慨深さが混じり合った″星の絵画″とでもいうような、巨大なスケールから描かれた美しさを感じられた。

 

 

 

「ター──ブオォオオオビュロロロロ(風が吹き抜ける音)──か?」

 

「あ゛ー?あんだって~?風が煩くて聞こえねーよーぅ!」

 

 イビルアイがこちらに向かって何か言ったようだが、全然聞こえんかった。

 耳に手を当て「聞こえない」というジェスチャーで返事をする。

 

「!!──ドバルバルルバルバル(服がはためく音)──い!」

 

「あ゛ん゛だっで~!?お前は仮面をしてるから余計に分からんゾイ!!」

 

 こちらの声も向こうに届いていないようだ。

 上空数百メートルで結構な速度を出して移動しているからね、仕方ないね。というか、レエブン候のお抱えの魔法詠唱者の人、飛行速度がかなり速いな。強化を掛けた状態で、追いつくのがやっとなんだが。

 互いに言葉が通じないことを理解した俺たちは、大人しく空の旅を楽しむことにした。

 

 

 さて、優雅な上空の旅の間でアインズ様と親交を深めようという計画は頓挫(とんざ)したが、長く考え事をする時間が出来たのは、原作の知識を思いだし整理するには丁度いい機会である。ここ数日はバタバタしていたからな。

 というわけで、現在の物語の位置と、これから起こる出来事について整理してみよう。

 

 

 モモンとナーベがアダマンタイト級冒険者になっているという事は、シャルティア洗脳事件は終わっているな。…法国の情報が高く売れそうだ。

 アインズ様とシャルティアのPVNは3巻だったな。アニメ1期の最終話。

 そしてその次が、何故か強く印象に残る蜥蜴人(リザードマン)編。蜥蜴人のザリュースが主人公の熱い話だ。ロロロに会いたい。そして急に見せられる畜生の交尾風景。あたまおかしなるで。

 おっと、思考が逸れてしまったな。

 これから先、王国と『蒼の薔薇』に悪い影響がありそうなのは、大虐殺と王国滅亡だ。

 

 大虐殺……また王国が疲弊するな。王様かわいそう(小並感)

 王国と帝国の戦争に参入したアインズ様が1発の魔法で王国の兵士たちを蹂躙する。これによって大勝利して領土を得て、魔導国が誕生するわけだ。

 俺の描く将来設計のために魔導国が建国された方が良いから、大虐殺は防がない方向で。……私は顔も知らない人間がいくら死んでも心が痛まないから…。って言うか止める方法が分からん。少なくとも国を動かせる立場じゃなきゃ無理だろ。

 でもガゼフさんは死なせたくないな。何か方法を考えておかないとな。とりあえず一騎打ちは避けさせるように動かなきゃ。

 

 そして王国滅亡。

 フィリップをぶっ殺そうぜ!!そんで、王国をさっさと属国化させよう!

 だが問題はラナーの動きだ。属国化がラナーの計画にとって邪魔なモノなら、原作回避は難しい。

 原作でのクライムとラナーは大きな悲劇に呑まれ、主従関係をそのままに延々と互いの傷を舐め合う関係になる。クライムを罪悪感で自分に縛り付けた、あの結末はラナーにとって最良に近いものだっただろう。

 ラナーは進んで王国を破壊しようとしていたようにも感じる。まさに亡国の魔女か…

 属国化が無理なら、エ・ランテルの冒険者組合に移籍するしかないな。

 だが、そうなると次はラキュースが問題になる。彼女は貴族でもあるから、王国の危機には必ず立ち向かう。原作のように、無理やり連れだしてもいいが、メンバーの関係が悪化しそうだ。

 それに、王国が破壊されてしまうと『蒼の薔薇』が魔導国に対して悪感情を持ってしまうから、やっぱり王国の属国化が望ましい。

 

 ナザリックの護衛が付いて居るラナーの排除が難しい以上、アインズ様を直接説得するしかない。

 アインズ様の好感度を稼ぐついでに、王国の評価も上げよう。

 結局のところ、全部アインズ様次第である。

 

 

 いろいろ思い出しながら考えた今後の方針は───

 大虐殺は止めない!

 王国が魔導国の属国になるよう誘導する

 フィリップを殺す

 ───の3本です。次回もまた見てくださいね?じゃん、けん、ポン!うふふふふふふ(SZESN)

 

 

 今後の大まかな方針も決まって、次のイベントに思いをはせる。帝国のワーカーがナザリックに侵入する話だな。何でワーカーをナザリックに侵入させたんだっけ?帝国皇帝を呼び出すためだったかな?

 …エ・ランテル関係なくね?

 いや、モモンが護衛依頼を受けるんだったな。

 それに同行して、アルシェが元貴族であるって事と魔法力を視る″看破の魔眼″のタレントを持ってることをアインズ様に教えれば、貴重な尻尾アルシェを失わずに済むかもしれない。

 

 

 

 しばらく飛行したあと休憩時間になり、皆で軽く食事をとる。

 俺とイビルアイ、モモンとナーベ、レエブン候の魔法詠唱者達、計6人で車座になり雑談する。

 

「流石はアダマンタイト級冒険者という所ですね。我々は飛行に特化した魔法詠唱者だったんですが、それに追いついてくるとは…」

 

「飛行に特化!?どうりでねぇ!

 正直、追いかけるだけで精一杯だったぜ。

 飛行する速さを競う競技とかレースとかあったら、二人はその選手になってそう」

 

「そんな催し物が有ったら楽しそうですね!!

 実は、我々のように空を飛ぶことが好きな魔法詠唱者って多いんですよ!」

 

 飛行レースとか絶対に盛り上がるやろ!

 それに異様に食い付いてくる運び屋のあんちゃん。こいつ飛行が好き過ぎるだろ(笑い)。まぁ、だから飛行に特化しているんだろうな。

 アインズ様も興味を抱いている様子だ。「ナザリック大運動会…」とか呟いている。

 そして、ふと思い付いたので帝国に興味があるアピールをしておく。モモンが帝国に向かう時に、付いて行くための動機作りだ。

 

「魔法関係の発展が著しい帝国なら、そういうお祭りもあるかもね。

 帝国にもいずれ行ってみたいな(チラッチラッ」

 

「帝国にはフールーダ・パラダインが居るからな。

 周辺国家で魔法技術が一番発展しているのは帝国だろうな」

 

 イビルアイが帝国の魔法技術について語る。こいつ魔法の事になると急に饒舌になるな。

 ついでに俺たちがオリジナル魔法を作れることをアピールしておく。

 しばらく談笑した後、例の謎宗教観で席を離れるモモンとナーベ。俺たちと離れて食事を取る振りでもするのだろう。

 

 お、そうだ(唐突)。アインズ様に言おうと思ったことがあったな。

 

 

「モモン氏、ちょっといいですか?」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「モモン氏、顔に魔法をかけているでしょう?

 私のように目の良い人ならそれに気付けるだろうから、大勢の前で鎧を脱ぐときは気を付けた方が良いですよ?

 幻術を見破るタレントを持った人もいますからね。たしか帝国に1人いるという話を聞きました」

 

「っ!?

 …私の本当の姿を見たのですか?」

 

「いいえ、私に分かるのは魔法が掛かっていることだけです。

 モモン氏の本当の顔は見ていませんよ?」

 

「なるほど…ご忠告ありがとうございます…」

 

 お、アインズ様が驚いてるw

 目が良いアピールはうまく決まったな!!

 この調子で、これからもどんどん有能アピールをしていこう。

 

 確かな手ごたえを胸にその場を去る。

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

 日がすっかり沈むころ、俺たちはエ・ランテル上空に到着した。

 おいマジで一日中、空を飛んでいたぞ。風にあおられて体が冷えるし、砂ぼこりで身体中が不快感だらけで、もう、気が狂う!(糞土方)。チカレタ…

 

 城塞都市であり、交易都市でもあるエ・ランテルの、上空から眺める夜景はとっても綺麗だった(小並感)

 

 門の前に降り立ち、検問所を顔パスで通り抜ける。…これがレエブン候の貴族の権力と、アダマンタイト級冒険者の威光の力だ!!

 

 

「それでは皆さんお疲れ様でした」

 

 無事エ・ランテルに到着し、それぞれ現地解散となった。

 モモンとナーベもこの場を去っていく。

 

「あっ、おい待てい。

 モモン氏、宿屋紹介して♡」

 

 二人を引き留め、宿屋紹介を提案する。

 同じ宿屋にすれば接触する機会が増えるからな。好感度を稼ぎ放題や。

 イビルアイも「よく言った!」と親指を立ててサムズアップしている。そして、ナーベは額に青筋を浮かべている。すまんなw

 

「ええ…構いませんよ」

 

「ありがとナス!」

 

 

 アインズ様が欲しいであろう情報を小出しにしつつ、みんなで並んで歩きながら、宿へと向かった。

 こちらの話にかなり食い付いてくる。おうおう、そんなに情報が欲しいか?この、欲しがりさんの卑しんぼめ!!

 

 イビルアイの嫉妬や、ナーベの牽制を捌きつつ進み、宿に着く頃には随分親しくなれた。

 これで殺される心配はなくなっただろう。

 

 後はもう、オーバーロード世界の観光を楽しめるんじゃね?

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

「一先ずは宿の支払いが滞ることは防げるか…」

 

 腰をイスに深く沈ませ、大きく天井を仰ぎながらアインズは呟く。

 骨の隙間から安堵の息が漏れる。

 

 先日の事件のおかげで、アインズの懐は少しだけ潤った。

 まぁ、そのレエブン候からの報酬は早速使われ、潤った筈の懐に乾いた風が吹き抜けたわけだが…。

 セバスたちが王都で散財する必要が無くなったので、これから少しは金銭に余裕が出るだろう。そうでないと困る。

 たしかに、デミウルゴスのおかげでナザリックに多くの財が運び込まれ、組織全体としては余裕がある。だが、王都の倉庫街や『八本指』の貯蓄から奪取した物資の多くはナザリックでの実験に使われることとなる。もちろん、そこからお金を引き出す事も出来るが、社長権限で経費を削減して他の部署へ回すような真似はしたくない。

 

 

「それにしても…」

 

 自分たちを追いかけて、エ・ランテルまでやってきた同行者を想う。

 プレアデスと同等の力を持ちうるイビルアイ。

 優れた考察力を持ち、妙に知識が深いターリア。

 

 王都で知り合った時にイビルアイには怪しまれてしまったが、現在はその警戒も少し緩んだように思う。

 もちろん、彼女らがエ・ランテルまで同行するのは、こちらを監視するための可能性もあるが…。

 特にターリアはこちらの動揺を誘ったり、動向を探る様な言動が多かったと思う。元々そういう性格なのか、こちらを警戒しているのか…。どちらにせよ彼女は要注意だ。

 

 

「ナーベは奴らについて、どう思う?」

 

「まことに鬱陶しい下等生物たちかと」

 

 ナーベの口の悪さに頭を抱えたくなるが、鬱陶しいの部分は同意である。あの二人はやたらと絡んでくる。

 だが、彼女らが持つ知識は有用である。アダマンタイト級冒険者とコネができるのは、やはりナザリックにとって有益だった。俺の社交性が役に立ったと自分を褒めたくなる。

 

 過去の転移者と思われる十三英雄の話や、アンデッドを洗脳するような強力なマジックアイテムの話などをする約束も取り付けた。

 

「ナーベよ、奴らは有益な情報を持った人間だ。なるべく、友好的に接せよ」

 

「畏まりました。モモンさ──ん」

 

 

 命令口調で話しかけたときに時々出てくる少し間抜けな呼び方に、一抹の不安を覚えながらも鷹揚に頷く。

 

 

 これからナザリックへと戻って数日分の書類を処理し、今回の計画の成果の報告を聞かなければならない。

 アインズは〈転移門(ゲート)〉の魔法を発動する。

 

 

 この世界の深い情報が集まり、いずれシャルティアを洗脳した者たちへとたどり着く。

 

 新たな戦いの予感と、沸々と再燃しだす怨敵への怒りで、眼窩の炎を揺ら揺らと燃やしながら、アインズは漆黒に揺らめく転移門へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 


-アインズ

オリ主を警戒

オリ主、冷えてるかーww

 

いよいよ独自展開が始まるのか!?

(この先の話何にも考えて無い)

 

誤字報告に感謝

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

07 エ・ランテルよ、私が来た!

-前回のあらすじ

一行、エ・ランテルに到着


 

 

 

 薄暗い部屋に一歩足を踏み入れる。

 防音処理がしっかりとされた部屋だ、外の音が遠くなる。

 「光れ」と唱え、備え付けられた魔道具に明かりを灯すと、部屋全体が明るく、されど眩しさは一切ない、落ち着いた環境へと変わった。

 周りを見渡す。派手過ぎない調度品、清潔で柔らかいベッド、王都で利用している高級宿屋と比べても遜色ないものだ。

 ここはエ・ランテル最高級の宿『黄金の輝き亭』の二人部屋。

 予約なく訪れたが、そこは漆黒の英雄モモン様の紹介とアダマンタイト級冒険者の信用ですんなりと部屋を取れた。急な来客にもすぐに対応し良い部屋を用意できる、最高級の名に恥じない宿屋だ。

 

 俺とイビルアイは暫くここで寝泊まりする事になる。

 

 

「それで、ラキュースは何て言ってた?」

 

「ガガーランとティアが生命力を大きく失ったからな…

 2人が力を取り戻すまで冒険者稼業はお休み、だそうだ」

 

「じゃあ、しばらくはエ・ランテルを観光できるな」

 

「ああ、しばらくモモン様と一緒に居られるな」

 

 お、そうだな。

 イビルアイが〈伝言(メッセージ)〉の魔法でリーダーとやり取りをして、チームの今後の活動予定を聞いていたが、しばらく休業するみたいだ。アインズ様に付き(まと)いたい俺たちにとっては都合がいいな。

 何か問題が起こったときは向こうから〈伝言(メッセージ)〉が届くだろう。

 

 

「お前のおかげでモモン様と離れ離れにならずに済んだな。でかしたぞ!

 それにしても、よく転移なんて思いついたな、ターリア?」

 

「いや、あんたは使用者本人でしょーが!

 魔法詠唱者が魔法の使用用途を忘れてちゃあ、世話ないぜ」

 

(せわ)しない日々だったから、少し疲れていたんだ。ちょっと忘れても、仕方ないだろうが!」

 

「アンデッドは疲労を感じないんじゃなかったのか?」

 

「うぐぅ」

 

 本日のぐうの音、頂きました!

 長く生き過ぎてボケが始まったのか? 否、恋にはボケてるか…(キザ)

 ボケたロリババアとか需要有るのだろうか?

 

 

「さて、明日はこっちの冒険者組合にも顔を出さなきゃな」

 

「ああそっちは任せた、ターリア。

 ……私には別の用事があるからな…。」

 

「そうかい?

 それじゃあ、私はモモン氏と一緒に冒険者組合に行こうかなぁ?

 モモン氏も依頼の報告とかが有るだろーしぃ?」

 

「…やっぱり私も一緒に行こう」

 

 イビルアイが急に用事があるなんて言い出す。こいつ、俺に仕事を押し付けようとしてやがる!大方、モモンと一緒に居る為のでまかせだろう。

 だが無駄ァ!!

 俺を出し抜こうなんざぁ、100万光年早いんじゃ!(光年は距離)

 

 イビルアイを弄るのは楽しいなぁ。心が潤う。

 そんなイビルアイが、思いつめたような雰囲気で声を出す。

 

 

「ターリア…お前は本当にモモン様の事をなんとも思ってないんだよな?」

 

「何だよ急に?私がモモン氏に()かれているとでも?

 私は女の子を見るのが好きだって言ってんでしょうが」

 

 正確には美少女が凌辱されてるのを見るのが好き。

 凌辱は凌辱でも、不幸な方の凌辱だと抜けない。(唐突な性癖語り)

 

「でも、モモン様は素敵な方だから…。

 だから、ターリアが惚れてしまってもおかしくないだろ!?」

 

 めんどくせーな!

 こいつ、モモンを神格化し過ぎだろ。

 俺の心は男だ。

 ノンケをホモに変えるなんて、スーパーマンでも不可能だぞ!

 

 

「なんでやねん!

 わーった、わーったよ!

 イビルアイの恋路を手伝ってやるから!面倒くさい絡み方は止めてくれぇ!?」

 

「ほ、本当か!?」

 

「おう、任しとけや。

 恋愛百戦錬磨、恋のキューピッドことターリアさんに任せな。恋愛クソザコの貧相なメスガキでも、男の一人や二人なんて簡単に惚れさせてイチコロだぜ?」

 

「お前も恋愛経験など無いだろうが!

 …なんか不安だな」

 

 失礼な。

 プロデュースには、自信があるんだぜ。

 

 

「貴様っ!私の恋愛力を疑っているなッ!?

 ……よし。いい案を思いついた。

 明日モモン氏に「この街の地理に疎いから案内して欲しい」と頼んでみよう。親切で紳士なモモン氏なら、快く引き受けてくれるだろう。

 男女が街の観光名所を巡る…これはもうデートと言っても過言ではないッ!!

 どうだ、お前には思いつけない恋愛テクニックだろう?(ドヤ顔)」

 

「確かにそれなら自然と逢引できる…。

 な、なんて高等な恋愛テクニックなんだ…っ!

 疑って悪かった!ターリア、私の恋に協力してくれ!」

 

「分かればよろしい。

 これから私の事は、ラブ師匠と呼ぶがいい」

 

 

 俺氏プロデュース、サトル×キーノが始まる。

 

 

 そして、夜は()ける…

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

 おっはー!朝です!

 エントランス前の待合室。

 現在、モモン達『漆黒』を待ち続けている所です。「モモン様が私たちより先に宿を出てしまうかもしれない」と言うイビルアイに起こされて、早朝からな!

 

 しばらくの間、魔法談義で時間を潰していると、通路の奥から漆黒の鎧の偉丈夫と黒髪の美女が現れた。モモンとナーベである。

 おはようー、と挨拶をしながら彼らに近づくと、俺たちを見留(みと)めたナーベがモモンの盾となる様に前へ出て、こちらの行く末を(はば)む壁となって立ち塞がる。

 

 

「っ!?またお前たちですか…!

 いつまでも、モモンさんの周りを鬱陶しい…っ!」

 

「よせ、ナーベ。

 …相方が失礼しました」

 

「まぁ言ってることは事実だから。仕方ないね」

 

 綺麗な顔を歪ませ、ナーベが威嚇(いかく)してくる。かわいい。

 普段は澄まし顔でモモンの隣に控えているけど、ナーベラルは感情的になっている時の方が可愛い。アインズ様に叱られてシュンってなって欲しい。

 

 いずれナーベラルとも仲良くなりたいな。でも、彼女は人間に対して排他的だから難しいかな?

 だけど、族長エンリと会話した時は幾分か柔らかかった。やはり、エンリは覇王…。

 俺も姉妹を褒めればいいのかな?

 

 

「それで、御二人は我々を待っていたようだが…何か用件でも?」

 

「私たちは冒険者組合に顔出しに行くんだけど、モモン氏たちも組合に行くと思ってさ。

 どうせなら雑談でもしながら一緒に行かない?」

 

「ああ、我々もこれから依頼の報告に行くところだ。

 もちろん構わないとも」

 

 こちらの提案に、モモンは予想通りの答えを返してくれた。

 つーか、冒険者組合の場所が分からんからな。嫌だって言っても案内するんだよ。

 

 では早速行こうとなり「組合の場所を知らないからエスコートよろしくぅ」とお願いした。

 すると、モモンは了解したとばかりに真紅のマントをばさりと大袈裟に(ひるがえ)して、俺たちを先導するように歩き出した。

 

 

 んん??

 

 この妙に芝居掛かった動き…。

 こいつパンドラズ・アクターじゃね?

 

 

 そんな今までとは一味違うモモンの姿に、イビルアイが夢中になっている。

 だから、前をよく見ずに歩いていたイビルアイが、扉の先からやって来た他の客にぶつかりそうになるのは必然だった。

 だがモモンが透かさずにイビルアイの手を引いて抱き寄せ、二人の衝突を回避する。

 そして突き当りそうになった客に紳士的に詫びる。

 

 そんな一連の動作が演劇のワンシーンの様に滑らかに、そして少しばかりオーバーな動きで行われた。

 周囲からは密かに漏れ出た感嘆の声と押し殺された黄色い悲鳴が上がる。

 

 間違いない。こいつぁ、パンドラズ・アクターだ!

 

 

 モモンはこの街では知らぬ者が居ない大英雄だ。男なら誰しもが憧れるようなフルプレートの鎧とその装備に相応しい強さ、女性や子供にも優しく接する紳士的な態度と謙虚な姿勢。

 そんな彼の自信に満ちた仰々しい仕草は皆を魅了する。

 

 たしかに、舞台演者のような振る舞いは、がっしりとした外見と堂々とした態度に合っていて普通にカッコいい。動きもキマっている。

 

 だけど中身がピンク卵だと思うと、すげぇうざいな。

 

 

「怪我は無いか?イビルアイ嬢」

 

「あぅ、その、助けっ、かりますた…!」

 

 噛み噛みやなw

 モモンに抱き寄せられた事で、頭ン中が一杯になっているんだろうな。

 イビルアイの仮面が茹で蛸(ゆでだこ)の様に赤く染まっている──ように錯視する。

 でも、イビルアイー!そいつ別人やぞー!!

 

 

 イビルアイは宿の外に出ても、ふらふらと地に足付かない様子で、あうあう言いながら歩いている。暫く使い物になら無さそうだ。

 恋愛プロデュースで事前にアドバイスした事柄も、今は頭からブッ飛んでいるだろう。

 

 イビルアイには、お前の貧相な子供ボディに性的な価値は無い、あったとしてもモモン程の男なら引く手数多で選び放題だから、他の女には無い価値で攻めるべきだ、と(さと)し。

 お前の強みはこの世界の深い知識だ、と教え。いきなり全部の情報を開示してしまうと用済みになってしまうから、思わせぶりな所で止めて、親密になる度に少しずつ話すように、とアドバイスした。

 

 教授した時には「すごいな…ラブ師匠」と、出会ってから初めて尊敬の態度を取られた。

 

 しかし折角の恋愛アドバイス、もとい、生存アドバイスも今は役に立たなさそうだ。

 まあ、今は中身アインズ様じゃ無いから、別に良いか。

 

 

 ナーベラルと仲良くなろうと思っていたが、ここで計画を変更(オリチャー発動)

 モモンの隣へと移動する。

 

 パンドラズ・アクターならこの話題が丁度いいか。

 俺は懐からマジックアイテムを取り出し、パンドラさんに見せる。

 

「モモン氏、こいつを見てくれ…どう思う?」

 

「ふむ、この袋はマジックアイテムですかな?」

 

「ご名答。

 こいつは私が半年間かけて作り上げたアイテムでしてね」

 

「ほう!ターリアさんはマジックアイテム制作もなさっているのですか?」

 

 

 俺はマジックアイテム制作だけでなく、装備の魔化も行っている。仲間の装備も幾つかは俺が魔化を施した物だ。

 そんな俺が半年近く掛けてできた袋。

 空間魔法のようなモノを片っ端から調べ、希少なモンスター素材を集め、試行錯誤の末に完成した一品。

 

 そう!魔法世界の定番、アイテムボックス!!

 俺はそんな伝説のアイテムに近い物を作ったのだ!

 

 

「なんと、これは実質無限に物を入れられるマジックアイテム。

 名付けて『インフェルニティ・ポーチ』!」

 

「それはすごい!」

 

「ただ欠点がありましてね…。

 一度入れた物は、二度と取り出す事が出来ないのですよ。

 だけど、モモン氏なら上手いこと活用できるんじゃないかと思いましてね。

 もし良かったら差し上げましょうか?」

 

 

 失敗作である。

 ただのゴミ箱である

 失敗作の押し付けである。

 

 半端な気持ちで入ってくるなよ…マジックアイテム創作の世界によぉ!

 俺は全力で真面目に取り組んだんだが、ハンドレスオールロストコンボ袋になってしまってな…。

 

 それでも、ゴミ箱を受け取ったモモン──パンドラズ・アクター──は喜んでくれた。良い事をすると気分が良い!

 

 

 俺たちはそんな雑談をしながら組合までの道を歩いた。

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

 しばらく歩き、エ・ランテルの冒険者組合に到着。

 流石、三国境の大都市。人がごった返している。王都より活気が有るかもしれない。

 

 扉を開けると、こういった施設特有の暴力の気配がする匂いがむわっと吹き抜けた。

 誰かが呟いた「漆黒の英雄モモンだ…」という言葉が聞こえると、組合内の人間の視線が一斉にこちらを向いた。

 モモンがいつもの二人では無く、新たに二人の少女を連れて冒険者組合へ訪れたことに、周囲にいた人たちが興味を抱く。そして、その波紋が広がっていき、やがて様々な憶測が口々に飛び交うようになった。

 今まで雑多な会話で溢れかえっていた組合内は、瞬く間に一つの話題で統一されていた。

 

 

 モモンは矢のように視線が刺さる中を颯爽(さっそう)と歩き、受付に依頼達成の報告をしに行く。

 ───の前に。

 モモンの中身は違うが、当初の予定通り街の案内をお願いする。

 

「モモン氏、厚かましい様で申し訳ないんだが…。

 私たちはエ・ランテルに来たばかりでこの街の地理に疎い。

 もし、この後に予定が無いなら、街を案内してくれると助かるんだが…」

 

「…ええ。構いませんよ。

 緊急の依頼が無ければ、ですがね…」

 

 

 ここは人が多く居る。

 英雄モモンの名声や風評を気にするなら、この人目がある場所では断れまい!

 

 案の定、モモン(パンドラ)は俺のお願いを快く引き受けてくれた。やったぜ。

 

 受付に依頼達成の報告を済ませたモモンは、そのまま新たな依頼を受けることなくこちらへと戻ってきた。緊急の依頼は無かったようだ。

 

「では、行きましょうか」

 

「オッス、お願いしまーす」

 

 

 イビルアイも落ち着きを取り戻したし、俺のアドバイス通りに行動すれば、上手いこと有用さをアピールしてくれるだろう。

 さて、当初の予定通りに都市観光だ。観光という名のデートだ!

 それもただのデートや無い…。

 

 モモン×イビルアイ、俺×ナーベのダブルデートや!!

 

 

 はたしてイビルアイはモモン(中身別)のハートを射止める事はできるのか!?

 

 そして俺はナーベちゃんと仲良くなれるのか!?

 

 

 『ラブ師匠』の真価が問われるのはこれからだ…っ!!

 

 

 

 

 


-ナーベラル

澄まし顔(ハニワ顔)口を閉じないとマヌケに見えますよ?

ナーベのヘコみ顔かわいい…かわいくない?

 

ランキング入りしてました。皆様ありがとうございます。

誤字報告に感謝

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

08 デート戦

-前回のあらすじ

エ・ランテル滞在1日目前半の部~オリ主、冒険者組合へ赴く~


 

 

 

 

 エ・ランテル冒険者組合の扉を開け、漆黒の兜を軽く傾けて空を見やる。

 太陽の位置を見るに、昼の少し前と言ったところか。

 これからの予定を少し考えつつ、背後に居る二人の同行者に意識を向ける。

 

 『蒼の薔薇』のイビルアイとターリア。

 王都での大規模作戦の後、モモンに同行してエ・ランテルまでついて来たアダマンタイト級冒険者。

 

 その二人が、わざわざ人が多く、それも同業者が多い冒険者組合で頼みごとをしてきた。

 狙いは幾つか考えられる。

 1つは、周囲の人間にモモンと親密であるかのように振る舞う事で、エ・ランテルでの地位を高めるためだ。

 この街では知らぬ者などいない程の名声を持つモモンと親しいと知れ渡れば、エ・ランテルでの活動が行い易くなるだろう。

 冒険者組合同士の仲が悪いとは聞いた事は無い。それでも、他の街の冒険者より自分の街の冒険者を贔屓したくなるものだ。それはアダマンタイト級冒険者だとしても例外ではない。

 彼女は自分たちの扱いが悪くならないように組合へ牽制したのだ。

 

 次に、こちらの情報を入手する手段を増やすという事だ。

 仲が良いという事で、我々の情報を聞き出しやすくなるはずだ。

 更に、案内をさせることで行きつけの店や行動範囲を知り、それによって()()出会う事も増えるだろう。

 

 そして、皆の前でエ・ランテルの案内を請け負った以上は無下(むげ)には扱えない。英雄モモンとして相応しいエスコートを成し遂げねばならない。

 彼女たちに向き直り、最初の予定を告げる。

 

 

「まずは冒険者が良く利用する食堂に案内しよう。

 少し早いが、まずはそこで昼食でも済ませようか」

 

 そして昼食を提案する。

 人間である彼女達には食事が必要だ。モモンも人間という設定なので、食事について言及しないのは少しばかり不自然になってしまう。

 長い時間が掛かるであろう街の案内の中で、空腹など感じないこの身体ではそれを言い出すタイミングを掴み難い。だから最初に済ませてしまおうというわけだ。

 もちろんこの身体で食事を摂ることはできない。

 だが、それをカバーする言い訳は幾つか用意してある。

 

 

「どうすっかな~俺もな~。

 腹減ったなあ。行きてぇなぁ」

 

 ターリアが空腹の状態らしく、昼食を摂ることに賛同する。

 若干言動はおかしいが、タイミングはばっちりだったようだ。

 

 

 組合の近くで営業している、上級冒険者がよく利用する食事処に入る。

 日当りの良い席に座り、メニューの書かれた紙を広げると、ウェイトレスが注文を取りに来た。

 ナーベラルに適当な物を注文させる。パンケーキの様な物を頼むようだ。

 続いてターリアも軽食を選んだ。…空腹じゃなかったのか?まあ小食なのだろう。

 

「イビルアイさんはどうしますか?」

 

「私は遠慮しておく。

 この仮面を外すわけにもいかないからな」

 

「そうですか?

 ああ私も不要だ。以上の注文で頼む」

 

 あの仮面は飲食不要の効果でも付いているマジックアイテムなのだろうか?

 それはともかく、イビルアイも食事を摂らないなら都合がいい。

 自分も、ごく当たり前といった風に食事は不要と言い放つ。

 ウェイトレスは一礼すると、特にこちらを(いぶか)しむ事無く店の奥へと去った。

 

 

 注文が届くまでの間、二人を観察しながら思考する。

 自分の創造主たるモモンガ様───アインズ様が「ナザリックとの関係を気取られ無いよう注意しろ」と警戒をするように指示した二人。

 イビルアイに関しては、やたらと距離を詰めてくるので最初は警戒したが、これは、モモンに対して好意を持っているだけだろうと判断。

 

 警戒すべきはターリアという少女。

 相手の興味を惹くのが上手く、話の持って行き方が(さか)しい。

 その言動から、こちらと親交を深めようとしているというのがハッキリと分かる。

 だがしかし、その視線の中に我々を探るという気配が僅かに感じられる。アインズ様から最高の頭脳と知略を与えられ創造された自分の目は誤魔化せない。

 

 

「モモン氏たちは普段こういう店を利用するの?」

 

「現在のような状況を含めるのなら、まあ、そうとも言えるのかもしれないな」

 

「あっ…ふ~ん」

 

 早速踏み込んできた。

 当たり障りのない事を言って、こちらの素性を探るような話題を回避する。

 はぐらかした事を理解したのだろう。何かを察したような顔をして静かになる。

 程なくして注文が届いた。

 

 

「ナーベちゃんのヤツと半分こしたい…したくない?」

 

「したくありません。そのふざけた事を言う舌を引っこ抜いてやりましょうか?」

 

「えー、どうしても駄目?」

 

「駄目です」

 

「ああああああああああああああああ!」

 

 ターリアとナーベラルが騒がしく食事を始める。

 やがて根負けしたらしいナーベラルが、自分のパンケーキをターリアに分けていた。

 …ナーベラルが成長したのか、ターリアがしつこ過ぎたのかはわからない。

 

 

「全くアイツは騒がしい…。

 うちの馬鹿がすまない、モモン様」

 

「ここは冒険者が良く利用する食堂だからな、多少騒がしくても構わないさ」

 

「アレでも魔法詠唱者としては優秀、いや天才と言ってもいいんだけどな…。

 新しく魔法を開発できるのは私達くらいのものだろう」

 

「ほう、新しい魔法の開発ですか。

 …しかしそれが既存の魔法かどうかなんて調べようが無いんじゃないか?」

 

 報告にもあった新たな魔法の開発技術。

 この世界にはユグドラシルには無かった魔法が多数存在している。生活魔法などその筆頭だ。

 魔法に関して未だに謎な事は多い。彼女の知識がそれらを解き明かす一助となり得るなら、この話には大きな価値がある。

 

「ああ、開発した時に何となく分かるモノなんだ、新しく世界に魔法が刻まれた、とな。

 ……八欲王の(のこ)した、かの強力なマジックアイテムにも、その魔法の名が新しく刻まれていることだろう」

 

「八欲王の遺した強力なマジックアイテムですか!

 …それは一体どのような物なのですか?」

 

「……ここで話せるような内容では無いからな。

 こ、今度二人で落ち着いた場所にでも行ったときに続きを──」

 

 

 また新たに出てきた重要そうな情報に、兜の下でひっそりとほくそ笑む。

 イビルアイは勿体ぶってここでは語らなかったが、詳しい話を聞く約束を取り付ける事も出来た。

 今はこれで十分だろう。

 

 ふと目をやると、何時の間にか食事を終えていたナーベラル達がお茶を飲んでいた。

 そろそろ街の案内をするべく店を出る。

 

 

 

 さて、昼食も終えた所で、いよいよエ・ランテルの案内を始めよう。

 上級冒険者が良く利用する店や通りに加えて観光名所とされる場所も紹介する方針でいいだろう。頭の中で案内ルートを構築し、歩き出す。

 

 イビルアイが傍にやって来て、先ほどの話の続きを始める。

 時折、過去の転移者だと思われる存在について言及し、その情報が少しずつ明らかになっていく。

 

 モモンがイビルアイと話し込んでいるのを見て、ターリアはナーベラルの方へと向かう。こちらの話が邪魔されないのは都合がいい。

 ナーベラルも彼女と少し仲良く(?)なったみたいだからな、しばらくの間こちらの話に邪魔が入るのを防いでくれるだろう。

 ターリアは動揺を誘うような言動をして、ナーベラルから我々の情報を探ろうとしている様だった。だが、ナーベラルもそれを理解して警戒しているので、今のところは上手く躱している様だ。

 

 

「モモンさんの思考を邪魔するような無駄な事はしません」

 

「えー、勿体無い!

 じゃあ、私がモモン氏役をやるから、何か話しかけてきてよ」

 

「一体なぜそんな話になるのですか?

 そんなくだらない事はやりません」

 

「ナーベよ、これは冒険者として必要な事だ(低い声)」

 

「全く似ていません。不快です。死んでください」

 

 

 向こうの二人がおかしな会話を始めたが、イビルアイが気になる情報を口にしたのでこちらの話に集中する。

 

 しばらく街の案内をしながら、八欲王について信憑性の高いとされる説の話を聞いていると、突然、ナーベラルが大きな声を上げた。

 

 

「モモン様はそんなこと言いません!!」

 

 

 何があったか分からないが、マズい!

 ナーベラルが激昂して敬称をつけ間違えている。

 モモンが何処かの国の高貴な出自で、ナーベはその従者という噂が広まっているから、致命的な失言では無いが…。

 

 ナーベラルも滅多な事では口を滑らせないが、感情が高ぶったときは別である。

 今もターリアは、ナーベラルをからかって怒らせている。

 取り返しがつかなくなる前に、二人を止めに行かなくては。

 

 

 興奮するナーベラルのもとへと向かおうとしたところで、イビルアイが無視できない言葉を口にする。

 その言葉に一瞬動きを止め、迷う。

 そしてこの状況に、ハッとする。

 

 

 ──分断作戦。

 

 

 イビルアイがモモンを引き付けている間に、ターリアがナーベラルを攻略する。

 これはそういう状況だ。

 

 イビルアイがモモンを慕っているのは演技とは思えなかったので、気付くのが遅れてしまった。否、実際イビルアイのモモンに対する好意は本物だろう。だからこそ、今まで気付けなかった!

 という事は、これはターリアがイビルアイを利用した策なのだろう。

 仲間の恋愛感情さえ利用するその精神性に空恐ろしさを感じる。

 

 

 最初からナーベラルを狙っていたのか?

 否、午前中はモモンに張り付くように話しかけてきていた。

 恐らくは、自分が演じるモモンに情報を漏らす隙が無いと見て、計画を変更したのだろう。

 

 

 アインズ様は何と(おっしゃ)っていた?

 ───ナザリックとの関係を気取られ無いよう注意しろ───。否、その前だ。───動揺を誘うような行動に、思わず反応してしまう失態を犯した───。

 その時は言葉通りの意味で捉えてしまったが、これは敢えてモモンに隙を作っていたのではないか?

 

 失態を犯した振りをすることで情報を与え、ターリアの興味を満たす。やがて満足すれば、大人しくなるだろう。

 ナーベラルにターリアの相手をするのは荷が重いと判断したアインズ様は、その興味の矛先がナーベラルへと向かないように行動していたのだ。

 そういう風に考えた方がしっくりとくる。

 至高の御方が無意味な失態を演じるなど有り得なかったのだ。

 よく考えてみれば気付けた筈のことだった。

 

 背筋が凍る。

 

 主人の期待に応える事が出来なかった?

 

 自分の失態が原因でアインズ様がお隠れになってしまわれることを考え、心臓が締め付けられるような痛みを発する。

 

 

 

 …最悪の結果だけは避けねばならない。

 価値がある情報を口にするイビルアイを断腸の思いで振り払い、ナーベラルの冷静さを取り戻しに向かう。

 

 

 楽しそうにナーベラルを(もてあそ)んでいたターリア。

 二人の間に入って白熱していた会話を止めると、ターリアはすぐに身を引いた。そして、モモンがナーベラルを(なだ)める姿を何処か納得したような表情で見ている。

 

 …やはり、こちらが何か重要な情報を隠していることを確信している。

 幸いな事にそれからは大人しくなり、こちらの情報を探る様な動きは無かった。

 だがそれは厄介な事でもある。好奇心だけで動いている訳では無い、引き際を弁えた優秀な知略を持った存在。警戒せよとの言葉が身に()みた。

 

 

 ナザリックの不利益にならない限り、彼女たちを殺すことは有り得ないだろう。

 アインズ様が仰ったとおり、この二人はこの世界の重要な情報を知り、貴重な技術を持っている。

 

 あるいは、アインズ様が失態を演じてモモンの隙を見せたというのは、ナザリックに取り込むに相応しいかの試験の意味合いも有るのかもしれない。

 今回、自分の裏をかいてみせた知略。その頭脳がナザリックのために使われれば、それは素晴らしい事だろう。

 

 わずかな情報でナザリックの存在に気付き接触を謀ったという、王都に居る協力者。デミウルゴスをして見所があると言わしめた人間。

 その協力者の様に、もしも彼女らが真実の核心へと迫るのなら、ナザリックへの取り込みを考えても良いかもしれない。

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

 街の案内という名の逢引。

 いや逢引と言うには少々血生臭い、冒険者のための施設を多く回ったのだが。まあ、冒険者に対する街の案内なのだから仕方ないだろう。

 それでもモモン様は観光名所の案内を合間合間に挟んでくれて、街を歩き回るのを飽きさせなかった。こういう所が素敵!さすがももんさまだな!!

 

 

 ターリアの助言通りに私の知識を少し披露すると、モモン様はとても興味を持ってくれた。少し前のめりになって食い付くように私の話を聞いてくれる。モモン様が少し近い、止まっている筈の心臓がドキドキする。

 モモン様は聞き上手で、私は気持ち良く話す事が出来て、とても楽しい時間を過ごせた。

 だが、幸せな時間も最初だけだった。

 

 心に余裕が出来て緊張せずに会話ができるようになると、モモン様の仕草が気になるようになって、私もその視線の先を追ってしまう。

 そうして気付いたことは、モモン様がターリアの方を見ていることだった。

 最初は相方であるナーベの事を見ているのかと思ったが、そうではない。明らかにターリアの動きを意識し、その視界の中心にとらえている。

 偶然でも気のせいでも無い、何度もターリアに視線を向けているのだ。

 

 

 モモン様はターリアに気がある───。

 

 

 ふと頭を過った想像に、燃え上がるような嫉妬と、身を凍らせるような恐怖が心を支配する。

 二つの感情にぐちゃぐちゃに頭の中をかき乱され、理性が働かずにグルグルと渦巻く感情のままに行動してしまう。

 自分が暴走している自覚はあるが、私はモモン様の気を惹くために人通りのある場所で言うべきではない、この世界の秘密を口にしてしまった。

 

 

「モモン様の強さの理由は六大神や八欲王などの、ぷれいやーと呼ばれる存在の血を引くから───」

 

「───ちょっと失礼する」

 

 だが、モモン様は私の前から去ってしまった。

 興味のない話題だったのだろうか?否、こちらの言葉に今まで以上に反応していた。

 それでも私を振り払って、ターリアのもとへと行った。

 

 

 やはりモモン様はターリアが気になるみたいだ。

 

 それが恋愛感情でない事を祈りつつ、仮面の内側からターリアを睨み付ける。

 

「ターリア……私は負けないぞ…っ!」

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

 太陽がすっかり傾き、寂れ喧騒。

 夕焼けの哀愁漂うオレンジが、人の歩みを優しく染める。

 建物の間から射す光と、影になった部分が丁度良く三角の形になっている。それはまるで2種類の巨大なケーキを、規則正しく延々と並べている様に見えて、それが少しおかしく見えてフフッと小さな笑いがこぼれた。

 

 

 モモンに案内してもらったエ・ランテルは、王都で想像していた以上に発展していた。と言うより、王都が古臭い街のまま時が止まっているんだなぁ。

 そしてエスコートの手際が良かったのはパンドラズ・アクターの成せる技だろう。おかげで普通に街の観光を楽しめた。

 流石に中身がアインズ様じゃ、こうは行かなかっただろう。さすアイ。

 

 

「皆さんお疲れ様でした。以上で街案内はお終いです。

 私の案内が御二人の役に立てたなら幸いです」

 

「あっ、おい待てい。

 まだ肝心なとこ(たず)ね忘れてるゾ」

 

 宿に戻ってきたところで案内終了の雰囲気を出しているモモンが口を開く。

 だけど、あと一つ寄ってない所があるから呼び止める。

 

「なんだ、ターリア。他に行きたい場所があったのか?

 だったら街中を歩いている時に言えばいいものを」

 

「いや、街の案内が不十分だった私の落ち度です。

 ちなみに、何処へ行きたかったか聞いても?」

 

「″森の賢王″ハムスケを見に行きたいゾ」

 

「「あ~」」

 

 

 みんなが納得したところで『黄金の輝き亭』の裏庭へ行き、ハムスケの御尊顔を拝みに行く。

 モモンが呼ぶと魔獣用の小屋からハムスケがこちらへ向かって走ってきた。

 

「殿~しばらく会えなくて寂しかったでござるよ~」

 

 

 かわいい。

 でっかいハムスターだ。かわいい。

 

「うおぉぉおおお、モフモフじゃあぁぁぁあ!!!」

 

「むおぉ!何でござるか、この子供は!?」

 

 

 モモンのそばに来たハムスケにダイブする。

 柔らかい毛皮が迎え入れてくれると思ったら滅茶苦茶に硬かった。ふっ……そんな気はしていたさ(諦念)

 

「なかなか良い毛皮を持っているじゃないの…。

 だけど、本気で殺り合ったら僕の方が強いんだからねぇ!」

 

 体中に擦り傷を付けながら負け惜しみを言う。

 そして近くで見ると、でかい鼠だ。怖い。

 

 

「いったい何だったんでござるか…」

 

「あー、ハムスケ。

 この二人は同業者のイビルアイとターリアだ」

 

「森の賢王。確かにそこそこ強い魔獣の様だな」

 

 

 それから背にのせて貰ったりしてからハムスケと別れた。

 

 そしてようやく今日のイベントは終了です。

 モモンが再び解散の音頭を取る。

 

「改めて、皆さん今日はお疲れ様でした。今度こそ、お終いです。

 それでは我々はここで失礼させてもらいます」

 

「お~う。

 それじゃあ、また明日~」

 

 

 そう。また明日である。

 明日は明日で付き纏う理由を考えてあるからな~。覚悟せよ(無慈悲な宣告)

 

 手を大きく振って、去っていく二人を見送る。

 ナーベはうんざりした様な顔をして、モモンは疲れたような雰囲気を出していた。

 

 

 

「それじゃあ私たちも、参るか」

 

「…ターリア。お前には負けないからなっ!」

 

 続いて俺たちも帰ろうかというところで、イビルアイが変な事を言い出す。

 ま~た俺がモモンに惚れているとでも勘違いしてるんですかね~?

 まぁ…こういう理不尽な気持ちが湧いてくるのが初恋ってもんやからな……。もう許せるぞおい。

 

「つまりお前の頭ん中ではどういうことになってんの?

 言葉にすることで上手く気持ちを整理できることもある。言うてみい」

 

 人生の先輩(前世を加算しても年下)として後輩の悩みをうまく晴らしてやらぁな。

 イビルアイは頭を抱え何事かをむぐむぐと呟いて、やがて俺に向き直ると一呼吸して心配事を語り出した。

 

 

「モモン様はお前に気があるのかもしれん」

 

「────いや、そうはならんやろ」

 

「実際なっているだろうが!

 ……いや、分かっているんだ。くだらない嫉妬だって」

 

 

 いきなり何を言い出すかと思いきや…。

 いや確かに、ナーベを弄り過ぎた感はあるよ。「モモンはそんなこと言わない」とか言わせちゃったし。これは反省。

 パンドラズ・アクターもかなり焦ったんじゃないか?それで俺が余計な行動を起こさないかをチラチラ見ていたら、気がある風に見えるというわけだ。

 でも一番悪いのは興奮して大声出したナーベちゃんです(責任転嫁)

 

 

「そういう理不尽な気持ちが湧いてくるのが初恋ってもんや…。

 今はいっぱい悩んで、それで答えを出せばいいさ」

 

 

 イビルアイの頭を抱き寄せて抱擁。頭をなでなでする。

 仮面越しに鼻をすする音が聞こえる。……泣いているのか、イビルアイ?

 

 うーうー言いながら俺への恨み言、上手くいかない苛立ち、初恋の苦しさ等を全部俺の胸の中で吐き出す。

 ひとしきり泣いた後、落ち着いたイビルアイが恥ずかしげに距離を取る。

 

 

 

「あー醜い所を見せたな。すまなかった、ターリア」

 

「気にするな。

 それより、仮面の中大丈夫?鼻水とかでグチャグチャになってない?」

 

「…っ!

 お前と言うやつは……っ!

 はぁぁぁ……。一人で悩んでいた私が馬鹿みたいじゃないか…」

 

「お、そうだな」

 

「ぐ、お前…っ!もういいっ!!

 

 ………………ありがとうな」

 

 

 

 

 …ツンデレめ

 

 

 

 

 


-パンドラズ・アクター

マジックアイテムで釣られクター

オリ主が有能だと勘違い…勘違いでは無いかもしれない

 

 

誤字報告に感謝

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

09 情報を売る

-前回のあらすじ

街案内と言う名のデート、エ・ランテルを観光する一行。

その楽しげな裏で高度な駆け引きが行われていたり、いなかったりした。


 

 

 

 

 

 イビルアイと絆レベルが深まった翌日。

 

 昨日は本物のツンデレの威力を味わって、危うくイビルアイに籠絡されそうになったぜ。前世の俺だったら確実に惚れてたね。

 

 

 さて、俺たちは昨日と同じように『黄金の輝き亭』エントランス前の待合室にて、今日も今日とて朝早くからモモンを待ち伏せている訳でございます。

 

 待っている間、小腹が空いたので軽食を注文する。

 国境の街の特色と言うべきか、メニューの中に帝国風とか法国風とか有るんだなぁ。折角だから帝国風サンドイッチを選ぶ。

 少しして運ばれてきたのは、表面をカリカリに焼いたトーストパンに、袋状の切れ込みを入れて具をはさむ、ケバブの様なサンドイッチだった。うまい!

 

 異国文化に舌鼓を打っていると、モモンとナーベが姿を見せた。

 おいーっす、と挨拶しながら近づくと、ナーベが美しい顔を少し歪ませるが、俺たちに対して何かを言う事は無く、大きな舌打ちをするだけだった。

 今回はナーベが噛み付いて来なかったな。残念。

 

 そしてモモンの方は若干、オーバーアクションで挨拶を返してきた。

 中身はパンドラズ・アクターっぽいな。

 できればアインズ様が良かったんだけど、まあ仕方ない。

 

 さて、今日もモモン達に粘着する理由を持ってきたからな。

 ナーベが不満そうな顔してるけど、今日はナザリックに有益な付き纏いだから、大丈夫だって、安心しろよ~。ヘーキヘーキ、ヘーキだから!

 

 

「昨日のお礼に、今日は私たちがモモン氏たちの仕事を手伝うよ。

 それからモモン氏が知りたがっていた裏情報の話も教えるよ。まぁこれは人目のある場所で語る内容では無いから、街の外とかで話すのが望ましいかな。

 だから一緒に依頼とか受けたいな~、なんて思ってるんだけど、どうですかね?」

 

 

 昨日のお礼作戦である。

 シークレット情報も餌に付ければ確実に釣れるだろう。

 ほら、一緒に依頼を受けるんだよ。ホラホラ~。

 隣から「ラブ師匠…っ!」と密かな呟きが聞こえた。イビルアイの尊敬の視線が心地良いぜ。

 

 そして裏情報だが、秘密を話したい症候群で辛抱たまらん。原作知識が出口を求めて腹の中でグルグルしている。

 盗聴防止のマジックアイテムを使って街中で秘密の話をする方法もあるけど、諜報員が入り込みまくっていると思われるエ・ランテルでは安心できない。

 だから、依頼を受けて街の外に出る必要があったんですね。

 

 

 そして、いよいよ法国の情報を売る時が来たのだ。法国死すべし、慈悲は無い。

 それに加えて竜王の脅威を伝える必要があるだろう。

 

 法国は思想が過激でヤバめの宗教国だから滅びた方が世界平和の為になる。

 竜王たちはナザリックの存在を許容しないだろうから、俺の理想の未来のために邪魔になる。

 

 

 それに、ナザリック勢のキャラとか好きだからーーーッ!!!

 

 ファンとして応援せざるを得ない!!

 

 魔導国にはさっさと周辺国家を制圧して平和統治してもらいたい。

 そんでもって、未知を探求するサポート体制万全の新・冒険者組合とか、浪漫あふれる人工ダンジョンとかを用意するんだよ。おう、あくしろよ。

 

 

 そんなこんなでナザリックの世界征服が加速するわけだが、今回の本当の目的は()()ではないんだな。

 法国とかの情報を売っての好感度稼ぎはもちろん重要だ。

 だけど、今までに俺たちの有用さを十分に示したので、もう生存が危ぶまれる状況では無いだろう。たぶん。

 

 今回の本命の目的は、王国滅亡の未来を回避する方へと誘導する事である。

 っと言っても、今日はモモンの中身がパンドラズ・アクターだから難しそう。

 パンドラさんに対しては、王国の王位継承の際に使われるアイテムが、王家の血筋を引く者のみが使える特別なマジックアイテムらしい、って言う位しか思い付かん。

 だから、モモンの中身がアインズ様である必要があったんですね。

 アインズ様を出せぇ!アインズ様に会わせろぉ!!

 

 

 

 さて、俺の共同依頼の提案だが、裏情報が欲しいなら断れまい!

 モモンは少し考える素振りをしてから返事をした。

 

「少し前に我々が受けるべき高難易度の依頼は全部片付けてしまったから、アダマンタイト級冒険者2組が合同で受けるような依頼は無いだろう。

 ですが、依頼でなくても構わないのならば…。

 今日は以前に依頼を受けた時に訪れたカルネ村に行こうと考えていたのですよ。トブの大森林の近くにある村でしてね、ハムスケを連れだした影響を確認しに行こうと思っているのですよ。

 こんなつまらない予定で良ければ、我々と一緒に来ますか?」

 

 

 お、原作の裏でそんなイベントがあったのか?

 モモンがカルネ村へ行くらしい。覇王エンリとンフィーレアに会えるな!

 まあ街の外で秘密の話ができるなら何でも構わんぜ。

 

 イビルアイの方へ視線を向ける。

 一応、恋の応援のための提案みたいなところがあったからな。

 

「どうする?行っちゃう?行っちゃいましょうよ!」

 

「ああ!

 モモン様、私たちもカルネ村へ同行するぞ」

 

「決まりだな。

 では2時間後に北門前に集合だ」

 

 

 よ~し携帯食を買い込みに行くぞぉ。食事が必要なのは俺一人だけだがな!

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

 イビルアイの口から″プレイヤー″という単語が出てきたことを報告すると、アインズ様はとても驚き、そして、その情報を得たことを褒めてくださった。

 だが昨日の失態を思い出し、素直には喜べなかった。

 アインズ様は致命的なミスは無いのだから気にする必要はないと慰めの言葉をくださったが、最高の頭脳と知略を与えられて創造された存在がこんな体たらくで許されるはずがない。

 だから汚名返上を果たすために、自分がモモンの役を続けることを願い出た。

 それを許可してくださったアインズ様には感謝しかない。

 今度こそアインズ様の期待に応えてみせる!

 

 

 ナザリックからエ・ランテルの宿に戻り外へと向かうと、今日もイビルアイとターリアが我々を待っていた。

 カルネ村へと同行することを提案すると、予想通りに親交を深めるために我々と同行することを選んだ。

 今回、二人をカルネ村へと連れ出す理由は二つだ。

 

 1つは、強力なマジックアイテムやプレイヤーなどの情報を道中で聞き出すためだ

 人目が多い街の中でするべき話では無いと、昨日は詳しい情報を聞く事が出来なかった。

 だから外へと連れ出したこの機会に聞いてしまおうという事だ。

 

 もう1つの理由は、彼女たちの人間種以外に対する考え方を知るためだ。

 現在、カルネ村には人間のほかにゴブリンやオーガが住んで居る。

 イビルアイとターリアに人間と亜人が共存する光景を見せ、そこで二人の反応を確認する。一般的に人間と敵対していると認識されている種族との共存を許容できるのかを確かめるのだ。

 

 

 ナザリックへと取り込む場合、異形種への拒否感が強ければそれは難しい。できるだけ協力的な状態が望ましい。そのための情報を少しでも得ようという事だ。

 特に国の縛りが無い冒険者は、何処へでも逃げ出す事が出来る。何か、彼女たちを繋ぎ止めておける楔を探さなければならない。

 

 

 パンドラズ・アクターは気合を入れて歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルの城門を出てしばらく進む。

 ハムスケに馬車を引いてもらって、歩きならされた道をぐんぐん進む。この分なら今日中にカルネ村へと着くだろう。…携帯食が余りそうだな。

 馬車の中は揺れを軽減する魔法が掛かっているらしく、長時間座っていても腰を痛めなくて済みそうだ。いや~、快適でござるな~。

 遠目からでも目立つハムスケのおかげで、野盗やモンスターが現れる気配は無く、カルネ村までの旅路は平和そのものだ。

 ここには俺達しかいない。そろそろアングラな話をしても構わないだろう。

 

 

「そういえば、強力なマジックアイテムの話をする約束をしてましたね」

 

「!! ええ。教えて貰えますか?

 精神支配が効かないはずのアンデッドを洗脳できるような、世界の理を捻じ曲げる程の強力なマジックアイテムの情報を集めてましてね…」

 

「そんな物が本当に存在するのか、ターリア?

 そんなアイテムなんぞ、この私でも知らないのだが」

 

「うーん、私は知っていると言うか、予測に近いかな?

 結論から言うと、そのマジックアイテムは法国が持っている可能性が高いよ」

 

「法国ですか…。

 それで、その根拠は?」

 

 これで法国滅亡は確定だな。お前もう生きて帰れねぇな?

 でも、断言するのは不信感を抱かせかねないので予測と言っておく。

 そして知っていてもおかしくない情報で適当に話を作る。

 

 

「王国戦士長のガゼフさんを狙った法国の特殊部隊を、アインズ・ウール・ゴウンって凄腕の魔法詠唱者が撃退した話があったでしょ?

 それを調べるために、法国最強の秘密部隊″漆黒聖典″が動いたみたいなんだよ」

 

「″漆黒聖典″だと!!奴らがこの近くまで来ていたのか!?」

 

 漆黒聖典と聞いて驚くイビルアイ。

 こいつは法国に命を狙われる立場だからな。

 

 

「その時に″漆黒聖典″がエ・ランテル近郊に連れ込んだのが、モモン氏が討ち滅ぼした例の吸血鬼だったんだよ!!

 強大な吸血鬼を王国に連れ込んだ目的は、王国を弱体化させて帝国に併合させる為だったのか、アインズ・ウール・ゴウンに報復をする為だったのかは分からないけどね。

 そして、その吸血鬼を従わせるために使われたのが、アンデッドを洗脳できる強力なマジックアイテムってわけさ」

 

 

 よし!綺麗に話が収まったな!

 

 だが、モモンは首をかしげている。

 実際に吸血鬼をエ・ランテルに連れ込んだのはナザリックだからね。

 

「法国の″漆黒聖典″が動いたというのは確かなんですか?」

 

 そこを突かれると痛いですね、これは痛い…。

 流石に原作知識とは言えない。

 でも、悪いのは法国の奴らなんだ!信じてくれ!!

 

 

「″漆黒聖典″が何かを調べに来たのはほぼ間違い無いと思っていいよ。

 まあ、その強力なマジックアイテムが法国に存在するという一番の根拠は、法国が六大神の遺したアイテムを持っているからなんだけどね」

 

「確かに六大神が建国した法国なら、強力なマジックアイテムがあっても不思議ではないな。

 同格の強さと言われる八欲王の遺した都市にも、強力なマジックアイテムが厳重に保管されているという話だからな」

 

「ほう!その八欲王の遺したマジックアイテムとは一体どういうものなのですか?」

 

 イビルアイの新たなマジックアイテムの話に食い付くパンドラさん。

 傾城傾国について、もう話せる事が無かったから助かったぜ。

 自慢の知識を披露する場を得たイビルアイが得意気に語りだす。

 

 

「″無銘なる呪文書(ネームレス・スペルブック)″。全ての魔法が記載されているらしい。

 新たに生み出された魔法も自動的に書き込まれるという魔法書だ」

 

「魔法の開発について聞いていた時に話していたマジックアイテムですね」

 

「ああ。私の開発した魔法も書き込まれているだろうな。

 遥か南方の砂漠にある、八欲王が支配していた唯一の現存する都市″エリュエンティウ″。強力な魔法の武具を装着した三十人の守護者によって、そこに厳重に保管されているらしい。

 さらに、正当な所持者以外は触れることすらできず、強固な魔法の守りがあるとのことだ。

 それを直接見た奴の話では、世界一つに匹敵する価値があるらしい」

 

「おお!世界一つに匹敵するアイテム!!」

 

 モモンが急に立ち上がり、オーバーなリアクションで興奮を表現する。

 パンドラさんが無茶苦茶に喜んどる。ちょっと素が出てるぞ。

 イビルアイもちょっと引いてる。

 

「い、いや、モモン様。″無銘なる呪文書″を求めるのは止めておいた方が良い。

 モモン様が最強の戦士だとしても欲に身をやつせば、かの八欲王の話の様に身を滅ぼす事になりかねないからな」

 

 興奮して今すぐにでも探しに行きそうなモモンをイビルアイが諌める。

 

 イビルアイの言う″直接見た奴″ってたぶんツアー竜の事だろ?

 世界最強と言われるツアーが回収を諦めるほどのセキュリティなら、イビルアイの言う通り諦めた方が良いんだろう。

 まあ、ナザリックは課金アイテムとか使って回収するんだろうけどな。

 

 

「強固な魔法で守られている。だから八欲王を滅ぼした竜王たちも、そのアイテムを持って行く事が出来なかったわけだね?

 でも竜王なら他の強力なアイテムを持っている可能性は高いよ。元々ドラゴンは財宝に対して鼻が利くし。

 竜王が居る評議国にも、それに匹敵するアイテムがあるだろうね」

 

 

 丁度良いので竜王についても言及しておく。

 評議国も警戒してもらわないとナザリックが危ないからな。

 

 興奮から落ち着いたモモンが、ふむふむと頷きながら情報整理をする。

 そして次の質問をしてきた。

 

 

「…そういえば、私が六大神や八欲王などのプレイヤーと呼ばれる存在の血を引いてるという話でしたが、それについても詳しく聞かせてくれませんか?」

 

 あれ、プレイヤーの事をモモンに話したっけ?

 まあいいや。一応、現地人でも知ってる奴はいるし話しておくか。

 

「モモン氏の様な異常な強者は、プレイヤーの血を覚醒させたとされる″神人″と呼ばれるんだ。六大神の血筋以外は別の呼び方をされるらしいけど、それは知らん。

 そして、プレイヤーというのは100年周期で現れる強者の事だよ」

 

「なぜお前がそれを知っている!?」

 

「ん?ターリアさんはイビルアイさんから聞いたわけでは無いのですか?」

 

 

 イビルアイが驚愕している。

 というか、こいつがプレイヤーの事を話したのか。

 ジト目を向ける。

 

「街中でモモン氏にそんなことを話したのか」

 

「うぐっ…。

 …あれは軽率な行動だった、反省してる」

 

 イビルアイがしょんぼりと項垂れる。もう許せるぞオイ!

 

「でも一体どこで知ったんだ、ターリア?

 ぷれいやーの話なんか、ごく一握りの者しか知らないはずなんだが…」

 

 そんなこと聞かなくていいから…。もう許さねぇからなぁ?

 さり気なくパンドラさんの疑問をスルーしたのに無駄になったぞい。

 適当に誤魔化すか。

 

 

「私の情報収集能力を舐めて貰っては困るな!

 おそらく、私も神人なのさ。天才魔法少女だし、これから最強になる予定だし。

 それにほら、私の髪って黒っぽいだろ?だから、自分のルーツを少し調べただけさ。

 モモン氏も黒髪だったし、これが神人の特徴の一つなんだよ、たぶん」

 

「まあ、確かにお前はモモン様ほどでは無いにしろ、英雄の領域を超える存在であることは確かだな。

 しかし髪の色か。それは盲点だったな」

 

 ふむふむとイビルアイが頷く。

 よし、誤魔化せたな!

 また変に突っ込まれる前に話を変えよう。

 

 

「法国の漆黒聖典にも、モモン氏と同格だと思われる神人が何人かいるみたいだよ」

 

「確かに法国なら神人を隠し持っていても不思議ではないな」

 

「竜王たちも神人に対して警戒をしていて、場合によっては排除しようとするみたい。

 だから、法国と評議国は宗教的にはもちろん、戦力的にも国仲が微妙。

 白金の竜王もプレイヤーの力を快く思っていないようだから、モモン氏も注意した方が良いよ。

 そこらへん白金の鎧と旅をしたイビルアイは心当たりがあるんじゃないか?」

 

「そんなことまで知っているのか!?

 ……まあ確かに、奴ならそう考えるかもな…」

 

 イビルアイは複雑な感情を滲ませながら首肯した。

 白金の鎧と聞いて驚いたモモンが、イビルアイに問いかける。

 そうだ、話の標的をイビルアイに移すのだ~!

 

 

「イビルアイさんは十三英雄の一人なのですか!?」

 

「そう!こいつは200歳超えのババアなんです!」

 

「ババアっ!?おま、何言ってる!!

 ち、違うぞ!モモン様!! 私の身体はぴちぴちの少女だからな!! だから夜伽も問題ないぞ、安心してくれ!!」

 

 いや、夜伽発言は問題あると思うぞ?

 微妙な空気になっちゃったし。

 

 ナーベは大きな舌打ちをしてるし、モモンも気まずそうに聞かなかったふりを始めた。

 急に静かになった周りの雰囲気に、イビルアイは不思議そうにポカンとしている。

 

 

 

「───っ!!!」

 

 

 やがて自分の爆弾発言に気付いたイビルアイが、声にならない悲鳴を上げた。

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

 馬車ならぬ、ハムスケ車で休みなく高速で走り続けた俺たちは、日が暮れる前にカルネ村へと到着した。…やっぱ携帯食が結構余るな。

 

 遠くに見えてきたカルネ村は、周りを囲う大きな壁や立派な物見やぐらなど、いつぞやの八本指の麻薬村を思わせる防衛設備が整っていた。

 イビルアイも同じことを思い出したのか、訝しげに見ている。

 

「この防衛設備はちょっと異常じゃないか、モモン様?

 まさか、麻薬栽培に手を出したりしてないと思いたいが…」

 

「この村は一度、帝国兵に偽装した法国の人間に襲われているんだ。

 それがあったから、村の防衛能力を高め始めたんだが…ずいぶん進んでいるな」

 

 パンドラさんもこの発展ぶりは意外だったらしい。

 たしかに、もう軍事拠点として使えそうなくらいの設備だ。

 原作で戦争になった時に、バルブロの別動隊を相手に時間稼げるくらいだったからな。これからもっと強化されていくんだろう。

 

 

 村が近づいて来たので進むスピードを緩め、俺たちも外へ出て歩く。

 小さな軍事拠点にあるような頑丈そうな門の前に、門番とは別であろうと思わしき人影が2つ出てくるのを確認できた。物見やぐらからハムスケの姿を確認して、偉い人でも呼んできたのだろう。

 

 やがてお互いの顔が確認できる距離まで近づく。

 1人は若い村娘。恐らく村長に就任したエンリだろう。

 

 

 そして、もう1人は───

 

 

「カルネ村へようこそ、冒険者の諸君。

 私はアインズ・ウール・ゴウン。どうぞよろしく」

 

 

 豪華な漆黒のローブをまとった、怪しい仮面の魔法詠唱者。

 

 アインズ・ウール・ゴウンがそこに居た。

 

 

 

 

 

 ────これマジ?

 

 

 

 

 


-ハムスケ

遠くから見る分にはかわいい。

毛皮は柔らかくは無い。

この先出番はあるのだろうか…?

 

誤字報告に感謝

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10 カル

-前回のあらすじ

トブの大森林からハムスケを連れだした影響を確認するため、モモン一行はカルネ村へと向かった。

道中で特秘情報を話しながら進んでいた一行の前に現れた驚きの人物とは…?


 

 

 

 

 

 

 過去にそれらしき存在が居る事は確認できていたが、ようやく確信を持てる情報が得られた。

 

 

 ───プレイヤー

 

 

 自分と同郷であり、そして同格の存在。

 

 もしそれらが人間種であった場合、悪名高い異形種ギルドであったアインズ・ウール・ゴウンとは高い確率で敵対するだろう。そうなった場合、こちらと同格の強さを持ち、ユグドラシルの強力なアイテムを持っているであろうプレイヤーとの戦闘によって、ナザリックに少なくない損害が出る事になる。

 実際にこちらに対して攻撃を仕掛けてきた存在、シャルティアを洗脳した者どもは、プレイヤーかそれに連なる者だろう。そいつらは確実に探し出して必ず始末をつけねばならない。

 それはナザリックへの脅威を取り除くためであり。そして、アインズ自身がけじめを付けるため、心の安寧のためでもある。

 

 この世界に他のプレイヤーが居るというのは恐ろしい事だ。

 今も監視をされているかもしれないし、これからの行動によっては攻撃も受けるだろう。

 

 

 だが、それは希望でもある。

 

 

 ───かつての仲間たちがこちらの世界に来ているのではないか?

 

 ───これから先、ギルドメンバーがこの世界に訪れるのではないか?

 

 

 パンドラズ・アクターからこの情報がもたらされた時、アインズはそれを考えずにはいられなかった。

 今すぐ飛び出して確認しに行きたい衝動を、種族特性で鎮静化されながらも必死に最善を考える。

 

 拷問して情報を得る。否、デメリットが多すぎる上に、陽光聖典の時の様にまともに情報を得られない可能性もある。

 ナザリックの財で懐柔する。否、ナザリックの存在を明かすのも、謎が多すぎる者を取り込むのは危険だ。

 

 情報だ、情報が足りない。

 

 最終的にパンドラズ・アクターに情報収集を任せる事が出来たのは、理性的に動けるように成長できた証だろう。奴ならば自分より上手く情報を聞き出す事ができるだろう。

 

 だが、焦る気持ちがじわじわと精神力を削っていく

 逸る思いで報告書を読む目が滑り、一向に仕事が捗らない。

 ため息とともに書類を机に放って天井を仰ぐ。

 

 

 そこで、ふと天啓がひらめく。

 

 冒険者のモモンとは別の立場でアプローチを掛ければ、より情報を得られるのではないか?──例えば、長年引き籠って研究をしていた魔法詠唱者とか──。

 パンドラズ・アクターは彼女たちをカルネ村に連れて行って、人間種以外の者に対する反応を調べると言っていたな。ナザリックに取り込む可能性を考えているなら、自分も反応を観察しておいた方が良いだろう。

 カルネ村なら支援者であるアインズ・ウール・ゴウンが居ても不自然ではないな?

 

 そして、アインズ・ウール・ゴウンとモモンが別の人間だと思わせる事ができるな。

 もし自分がプレイヤーだとバレても、カルネ村を支援している様子を見せれば、人間種に友好的な存在だと理解してもらえるだろう。少なくとも、即座に敵対するような事態は避けられるだろう。最悪の場合は村を盾にする事も出来る。

 カルネ村を訪れる理由は、ンフィーレアに装備制限のあるアイテムを装備させてみる実験、というのはどうだろう。あるいは、取得経験値増加アイテムを装備させながらポーション作りをさせて、薬師としての成長が加速するかを実験するのもいい。

 

 

 普段は働かない頭脳が、アインズが直接に動くメリットを次々に啓示してきた。

 現金なものだと苦笑しながら、メイドに口唇蟲を運び込むように命ずる。

 エントマも装備している口唇蟲は、声を変える事の出来る装備用のモンスターだが、これをアインズも装備できると知ったのは最近の事である。

 

 ニューロニストに厳選させた声の口唇蟲をメイドから受け取り、その艶々とした肌色の生き物を頚椎(けいつい)に張り付ける。最初に着ける時は抵抗感があったが、今はもう慣れたものだ。

 声が変わったことを確認するために、そして自分に喝を入れるために、少し気合を入れて声を発する。

 

 

「よし……行くぞ!」

 

 意気込んだ自分に応えるように、喉に居るヌルヌルくんが脈動する。

 初めは少し気持ち悪いと思っていたが、今はヌルヌルくんが頼もしい戦友のように感じられた。

 ヌルヌルくんに勇気を貰い、アインズは力強く転移門へと一歩を踏み出した。

 

 

 

「ご、ゴウン様!!?」

 

 転移門の漆黒の闇を抜けると、いつかの初めてこの場所に訪れた時のように、エモット姉妹が驚いた顔で迎えてくれた。

 

 

 さあ、大芝居だ!

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

「カルネ村へようこそ、冒険者の諸君。

 私はアインズ・ウール・ゴウン。どうぞよろしく」

 

 

 砦門の前で俺たちを待ち構えていたのは、泣いているような怒っているような異様な外見の仮面を着けた魔法詠唱者だった。

 そして彼はアインズ・ウール・ゴウンと名乗った。

 モモンとナーベからは息をのむ様な気配を感じる。

 

 えっ、これマジ?

 何か反応した方が良いのか?

 

「え、えーと?

 貴方が王国戦士長を救ってくれたという魔法詠唱者ですか?(すっとぼけ)」

 

「いかにも。

 戦士長殿にはこの村でお会いした時に少しばかり助力させていただきました」

 

「おお、やはりそうでしたか!(名演技)

 王国の民として感謝します。ガゼフさんは神的に良い人だから無事で良かったです。

 …っと、挨拶が遅れて申し訳ありません、私はターリアです。そしてこっちがイビルアイ」

 

 お互いに知り合いなのに自己紹介をするって、なんか変な感じね?

 イビルアイは失礼な態度を取りそうなので先んじて紹介しておく。そろそろ社交性を身につけてくれよな~、頼むよ~。

 そして隣のモモン達を見やる。もう動揺は落ち着いているようだ。

 

「私は『漆黒』のモモン、こちらがナーベ。

 彼女たち『蒼の薔薇』とは別のアダマンタイト級冒険者チームです」

 

 若干、説明くさい自己紹介をするモモン。そんなことを説明されんでもアインズ様は知っているんだけどね。

 そういえばモモンと声が違うな。アインズ様は口唇蟲を付けてるみたいだ。

 

 しかしパンドラさんが動揺していたって事は、アインズ様がここに現れる予定は無かったって事か?おい、報連相をしっかりしろ!

 やっぱりプレイヤーの話を出したから俺たちの重要度が上がったのだろう。俺、何かやっちゃいました?(やらかしたのはイビルアイ)

 アインズ・ウール・ゴウンとして俺たちの前に現れたのは、是が非でもその情報が欲しいからだろう。アインズ様は我慢強い性格ではないからね。仕方ないね。

 しょうがねえなあ(悟空)。ナザリックを情報的優位に立たせてやるか!

 

 

 モモンの挨拶が終わった後に、場違い感のある村娘が前に出てきて自己紹介をする。エンリ(推定)はもう村長になっていたのか。

 

「わ、私は村長のエンリ・エモットと申します。

 モモンさん、この間はエ・ランテルの検問所で助けていただき、ありがとうございました。

 あ、ナーベさん、この方が前に言っていたルプスレギナさんです」

 

 何時の間にかアインズ様の傍に控えていた赤髪褐色肌のメイドが、エンリに紹介されて綺麗なお辞儀をみせる。君、なんか写真と違わない?

 TPOを弁えてる、残忍で狡猾なメイドだからな。失望したぞルプー!

 

 そんなルプスレギナのメイド姿を見て、イビルアイが何かに気が付く。

 

「あのメイド、どこかで見たことあるような──「あーーっ!!たしか王宮で似た人を見た気がするな!でもこんな所に居るはずないから他人の空似だろう!」

 

 気付いてはいけない事に気付きそうになっているようだ。お前、死にてぇみたいだな!

 こいつらは『ゲヘナの炎事件』の時に同じ場面に居たのだ。その時のルプスレギナは仮面を着けていたが、まだそんなに日が経っていないから、イビルアイがルプスレギナの事を憶えていても不思議ではない。そんなこと憶えてなくていいから(良心)。

 俺が慌ててフォローするが、場の空気が少し緊張したものに変わった気がする。やべぇよ…やべぇよ…。

 

 不穏な空気に気付かないイビルアイが、続けてアインズ様に向かって言い放つ。

 

「それにしても怪しい仮面だな?」

 

「お前もやーーッ!!」

 

 俺の渾身のツッコミがイビルアイに突き刺さる。思わずド突いてしまった。

 しかしイビルアイの天然ボケのおかげで場の空気が和んだ。いや、もしかしたらイビルアイのジョークだったのだろうか?お前、なかなかやるじゃねぇか。

 それはともかく、どうにか危機は逃れたな…。

 

 

「立ち話もなんだな。とりあえず村の中に入るといい」

 

 アインズ様が場を仕切り、先導してカルネ村へと向かう。

 そして門の前に来たところで、ルプスレギナが素早く前に出て大きな扉を押し開けた。入って、どうぞ(幻聴)

 

 

 俺たちが村の中に足を踏み入れた所で、家屋の影から武装したゴブリンが姿を現した。そいつは野生のゴブリンではありえない、しっかりと鍛えられた身体から武術の気配を漂わせている。

 これが覇王エンリの配下か。見たところ銀級冒険者くらいの実力がありそうだな。

 

「なっ!村の中にゴブリンだと!?」

 

「ああ、そうだったな。

 言い忘れていたが、この村にはゴブリンやオーガが人間と共に暮らしている。

 彼らを見かけても驚いて攻撃しないように気を付けてほしい」

 

 ゴブリンが居たことに驚いたイビルアイが、モンスターを排除しようと動き出す。

 だがそれは、イビルアイの視界を遮るように腕を伸ばしたアインズ様によって阻止された。

 それを見てエンリが慌てて俺とイビルアイに説明する。

 

「彼らはゴウン様がくださったマジックアイテムで召喚したゴブリンなんです!

 私の言う事をよく聞いてくれるし、危険は無いんです!」

 

「そういう事なんで警戒を解いてくれると助かるんですがね、仮面の姉さん。

 俺達は暴れたりしないから、安心してくだせぇ」

 

 

 ゴブリンがこちらに近づいてきて挨拶をする。

 安心させようと笑顔を向けてくれているのだろうが、むき出された牙がその顔面を凶悪なものにしている。

 それに見かねたモモンがフォローの言葉を口にする。

 

「以前に我々が訪れた時から彼らはこの村に住んでいる。

 この村の様子を見るに、上手く共存できているのだろう」

 

「モモン様がそう言うなら、私も信用しよう」

 

 モモンの言葉でイビルアイが矛を収める。

 どんな言葉でもモモンが言ったなら、恋愛脳のイビルアイは何でも受け入れそう。

 そして俺は最初から無警戒だ。

 

「それじゃあ、もう他の奴らを出しても構わないですかい?」

 

「という事だ、問題ないな?」

 

 アインズ様がこちらを向いて確認を取ってくる。

 ああ、俺に聞いてるのか。

 

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

 

 

 

 整備されつつある道を歩きながら、アインズ様が村に来た用件を問う。

 そんな事を俺たちに聞かれても困る。俺とイビルアイは単なる旅行だからな。

 返答は任せる、と意を込めた視線をモモンに送る。

 

「それで、この村にどんな用かな?」

 

「トブの大森林から″森の賢王″ハムスケを連れだした影響を見にきたのです。

 我々の所為でこの村がモンスターに襲われて壊滅したとなったら寝覚めが悪い」

 

「それなら問題無いとも。この辺りの土地は私が管理している。

 不安なら確かめに行ってくれても良いぞ」

 

「…ナーベ。確認のためにハムスケと共に二人で、当初の目的である森の調査に行っておいてくれないか?」

 

 アインズ様とモモンがとんとん拍子で話を進めていく。白々しく会話しているが、お前ら同じ陣営やろがい!

 そしてモモンがナーベに指示を出し、トブの大森林へと向かわせる。

 

 おおっと、ここでナーベラル退場!

 アインズ様を相手に普通に畏まりそうだもんな。絶対にボロが出る(確信)

 

 

「詳しい話は村の会議場でしよう。ああ、エンリは自分の作業に戻るといい。

 彼らの話は私が聞いておこう。

 ルプスレギナに給仕をさせるから、こちらは気にしなくてもよい」

 

 

 更に覇王エンリも退場!

 ここから先は強者しか踏み込めない世界だ…ッ!

 

 

 さて、アインズ様は一体どんなことを聞いてくるのか?

 そして、俺はどんな情報を話そうか?

 

 残った俺達は、さらに村の奥の方へと足を進めた。

 

 

 

 

 


-ヌルヌルくん

アインズ様の戦友

ヌルヌルさん、ヌルヌル君さん、正式名が分からん

 

誤字報告に感謝

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11 ネ村

-前回のあらすじ

カルネ村にてアインズ様が登場。お話フェイズへ。


 

 

 

 

 俺、イビルアイ、モモン(パンドラ)、ルプスレギナ、そしてアインズ様の5人で村の奥へと歩みを進める。

 そうして案内されたのはカルネ村に新しく建築されたという、少し大きな屋敷の会議場だった。

 建てられたばかりだから、新築特有の木の香りがする。いいにほひ。

 内装はあまり完成していないみたいで、広々とした部屋の中には会議に使われそうな()()()()()机と椅子だけが並べられていた。

 

 全員が席に着いたところで、アインズ様の傍に控えていたルプスレギナが何処からともなくグラスと水差しを取り出し、俺たちに給仕しようとする。

 

 

「私は遠慮しておこう」

 

 だがイビルアイが受け取りを断る。うん、こいつには必要ないもんね。

 さらに続いてモモンも断る。

 

「私も結構です」

 

「私もけ──私はいただきます!(半ギレ)」

 

 俺も流れで断ってしまうところだったぜ。元日本人の(さが)よな。

 アインズ様は当然の如く不必要。グラスが置かれたのは俺の前だけである。俺一人だけが浮いている疎外感。とてもつらい。

 そしてこの部屋の仮面率、高スギィ!…俺も今度から被り物を用意しておこう。

 

 

「さて、村の中でゴブリンやオーガが共に暮らしている姿を見ただろう。

 君たちはあれを見てどう思う?

 人間種と亜人種、あるいは異形種が共存できると思うかね?」

 

「平等な立場での共存は無理だな。人間は弱い。

 人間以外の数が少ない内は上手くいくかもしれないが、数の優位が無くなればその関係は大きく変わるだろう。

 この辺りに人間の国家が幾つも存在しているのは、法国が台頭しようとする亜人たちを()っているからにすぎん。

 実際、ここから離れれば離れるほど、人間主体の国家は少なくなっていく」

 

 アインズ様が異種族との共存についての意見を聞いてきた。ナザリックが建国するに従って、国の在り方を決めるために参考にしたいのかな?

 イビルアイが厳しい意見を言ったので、俺はナザリックにできそうな理想論を挙げる。

 

「もし平等な共存を実現させるなら、強者による独裁が必要じゃないかな。

 絶対強者のもとでは皆等しく弱者。後はそれっぽい法で民を縛る。

 評議国なんかはそれに近いと思うよ」

 

「君たちは異形種と共に暮らすことに嫌悪感を覚えないのか?

 例えば、悪魔やアンデッドと仲良くできるかね?」

 

 俺たちの答えに「成程」と頷いたアインズ様はさらに質問を続ける。

 アインズ様は一般人の反応を知っているはずだから、これは冒険者とかの強者の意識調査かな?

 

「ある程度の知性と理性があって、趣味と実益が合えば仲良くできるでしょう。

 実際に犯罪組織『八本指』の警備部門のトップ『六腕』にはアンデッドが居たんだし。

 そうだよなあ、イビルアイ?」

 

「…ああ、そうだな」

 

 ニヤリといやらしい視線を送り、アンデッドのイビルアイに同意を求める。

 イビルアイは俺の言葉にピクリと反応し、歯切れ悪く答える。やっぱりイビルアイを弄るのは楽しいなぁ。

 

 

「でも、法国の教育を受けた人たちには無理だろうね」

 

 そして、さり気なく法国をdisっておく。

 アインズ様はふむふむと顎に手を置いて頷いている。参考になったかな?

 

 

 

「しかしながら、君たちは広い見識を持っているようだ。流石は、アダマンタイト級冒険者と言ったところだな。

 実は、私は最近になって外に出て来たばかりで、現在は周辺の情報を収集中でね。

 特に強者の情報を集めているのだが、君達ならそう言った情報に詳しいだろう。

 もし良かったら、君たちが知っていることを教えてはくれないか?」

 

 

 アインズ様が話題を変えて今度は強者について聞いてきた。

 お、これって『蒼の薔薇』を売り込んだり、王国滅亡を回避するチャンスじゃね?

 知っている情報をドバーっ!と出して、顔中原作知識まみれになろうや!

 

 

「貴重な情報をタダでやるわけには───」

 

「まぁいいじゃないか。ガゼフさんの恩人なんだから、ま、多少はね?

 という事で、先ずはガゼフさんの話から───」

 

 でしゃばり出したイビルアイを押さえつけて、ペラペラと強者の情報を喋る。

 

 

 ガゼフさんは凄い。剃刀の刃(レイザーエッジ)は凄い。竜の秘宝は凄い。何か凄い究極の凄い武技が凄い。

 死んでも忠義を貫こうとする人だから、一騎打ちとかすんなよ!

 

 そして俺たち『蒼の薔薇』

 俺とイビルアイは英雄の領域を超えた天才魔法詠唱者、さらに知識的に強者だ。

 ガガーランは強さこそ英雄レベル止まりだが、外見が最強だ。

 淫乱姉妹はレア職業の忍者だ。

 リーダーのラキュースは希少な復活魔法の使い手だし、何か凄いタレントを持っている。さらに貴族令嬢だドン☆

 

 『朱の雫』はラキュースの叔父さんの特殊な装備が強い。…貴族家なのにアダマンタイト級冒険者を二人も輩出するとか、この一族の血は一体どうなってんだ?

 

 さらに隠居した人たちも現役を引退して尚も強者だし、その輝かしい経歴と知識の深さは本物だ。

 

 王国の貴族は人間の屑ばっかりだけど、ちょっとは歴史のある国なんだから亡国は許してお兄さん!

 

 

 それから、帝国のフールーダ、聖王国の仲良し三人組、法国の秘密部隊、法国と戦争中のエルフ国の王、評議国の竜王たち、ここら辺を適当に話す。

 あと竜王国の女王は結構好きなキャラだから助けてあげて。

 

 

 

「なるほど、君たちはいろんな冒険をしてきたようだ。

 ……その旅の途中で赤いポーションを見た事は無いかね?

 あるいは、こんな金貨に見覚えは?」

 

 そう言ってアインズ様は懐から一枚の金貨を取り出した。

 美術品の様な彫刻が成された金貨である。おそらくはユグドラシルの金貨だろう。

 

 ほぉ~、これがユグドラシル金貨かぁ。女性の横顔が彫り込まれている。この辺がセクシー、エロいっ!

 こんなものを見せて来たという事は、いよいよプレイヤーについて聞いてくるつもりなのだろう。俺がアインズ様に話せる情報ってどんなモノだろう?

 

 俺がユグドラシル金貨をじっくりと観察しながら、頭の中でオーバーロードの情報を思い出していると、その金貨を見て硬直していたイビルアイが、独り言を漏らすようにブツブツと語り出した。

 そして、声を強張らせながらアインズ様に問う。

 

 

「王国戦士長を排除しに来た法国の特殊部隊を追い払う程の強大な力。

 あの小娘の村長に貴重なマジックアイテムを気軽に渡していること。

 最近この地に現れたこと。

 そして、その金貨。

 お前は…ゴウン殿はもしかして()()()()()なのか?」

 

 

「ちが……いや、そうだ。

 私はユグドラシルのプレイヤーだ」

 

 

 今日のイビルアイは冴えわたっている。まさかアインズ様がプレイヤーであることを看破するとは…。

 そして自分がプレイヤーであることを認めるアインズ様。一体全体この状況からどんな対応をとって来るのか、全く予想がつかないぞ。

 俺はいつでも「モモンガによろしく」と言えるように準備しておく。

 

 部屋にいる全員が息をのむ。

 高まった緊張感の中、纏う雰囲気が変わったアインズ様が言葉を紡ぐ。

 

 

「取り繕うのはやめて単刀直入に聞こう。

 私は他のプレイヤーを探している。

 君たちの知っている情報が欲しい」

 

「…それを知ってどうするつもりだ?

 八欲王のように争いを始めるというのなら、私は何も話すつもりは無い」

 

 他のプレイヤーを探していると聞いて、イビルアイが警戒を強める。

 部屋の緊張がまた一段と高まる。

 アインズ様はゆっくりと語り出す。

 

「私は幸せを求めているだけだ。何者にも脅かされる事の無い幸福な日々を。

 脅威となる存在を警戒し、情報を得ようとするのは当たり前の事だろう?

 そしてなにより───」

 

「なにより?」

 

「その情報の中に私の知っている者が居るかもしれない」

 

 アインズ様は一呼吸置いて続ける。

 

「私は…俺はかつての仲間たちに会いたいんだ……」

 

 零れる様に漏れ出た言葉を吐き出すアインズ様の姿は、迷子の子供の様に小さく頼りないものに見えた。

 その様子を見てイビルアイの警戒していた雰囲気が霧散する。

 

 

「そう、か……。疑って悪かった、ゴウン殿。

 私が知っているプレイヤーはただ1人、十三英雄のリーダーだけだ。

 だけど、リーダーはもういない…」

 

 今度はイビルアイが俯きながら酷く寂しそうに言った。

 もういない、という意味を理解したのだろうアインズ様は、気を使わしげに軽く頭を下げてイビルアイに謝った。

 

「そうか…悪いことを聞いてしまったな。すまない」

 

 

 重くなった部屋の雰囲気に全員が沈黙する。ケン()、どうにかしろ(他力本願)

 そんな暗い空気を振り払うようにアインズ様が俺に話を振った。さすアイ!

 

「ターリア殿…とモモン殿はプレイヤーについて何か知っていますか?」

 

「私が知っているのは、プレイヤーが100年周期で現れる事、強大な力と強力なマジックアイテムを持つことくらいかな。

 プレイヤーに会ったのは貴方が初めてですよ」

 

 嘘は言っていない。ちょっと詳しい情報を知っているだけだ。特にアインズ・ウール・ゴウンについては現地勢で一番詳しいぞ。

 何の役にも立たない俺の言葉の後に続いてモモンが答える。

 

「私も彼女と同じです。

 …ただ、私が追っている強大な吸血鬼がプレイヤーなのかもしれません」

 

 

 パンドラズ・アクターが何か思い付いたらしく、吸血鬼の話を持ち出す。

 ここでまさかの、モモンが吸血鬼を追っている設定が登場。

 まさか、こんなところで話が繋がるとは…流石アインズ様。

 

 いやいや、その話はモモンが1人で洗脳シャルティアに会いに行く為のでまかせ設定だろ!

 パンドラさんはこの設定をどう扱うつもりなのだろうか?

 

 

「そ、れはっ…そうですか。

 ……何か深い事情がありそうだ。詳しく聞くのはまたの機会にしておこう」

 

 アインズ様が動揺していらっしゃる。自分が適当につけた設定が持ち出されて焦っているのだろう。やっぱり何も考えて無かったじゃないか(呆れ)

 だがイビルアイの瞳には、その動揺がプレイヤーの痕跡が出てきたことによるものだと映ったようだった。さすがアインズ様!

 

 

 話題が途切れて妙な間ができる。

 お、そうだ(唐突)

 

「今度ウチのチームメンバーをここに連れて来ても良いですか?

 リーダーなんかは六大神と同じ存在に会えるって聞いたら喜ぶと思うんです」

 

「ああ、それは構わない。

 しかし私はこの村に住んでいる訳ではないから、会える保証はできないな」

 

「まあ、その時はルプーに取次ぎをお願いしますよ」

 

 許可は貰ったがあんまりいい反応じゃないな…。

 もう少し押しが必要か。

 

「それと、忍者姉妹なら何か詳しい情報を持っているかもしれないです。

 あの二人は元々は暗殺者組織に所属していたんですが、その組織にプレイヤーらしき存在が関わっていたとか何とか」

 

「なるほど…それは興味深い話だな。

 ルプスレギナから連絡が来たならば、必ず向かうと約束しよう」

 

 よし、興味を持ってくれたな。

 これで皆が気に入られれば万々歳だ。

 そして、アインズ様が『蒼の薔薇』に関心を持てば、ナザリックの何かしらの作戦が始まる時に、少しは気に掛けてくれるように成るだろう。

 

 

 

 日が暮れてナーベが帰ってきたところで、今回の秘密会議は解散となった。

 

 以上。閉廷。みんな解散。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 今日はゴウン様がカルネ村にいらっしゃった。突然だったから皆が慌てていた。いつも飄々としているルプスレギナさんが驚いている姿がとても新鮮だった。

 

 何やら特殊なマジックアイテムを持ってきたから、それを装備してポーションの研究をしてみてほしいとの事だ。

 それは装備者の能力を抑える代わりに成長を早めるマジックアイテムらしい。ゴウン様はそんなすごい効果のマジックアイテムを持っているのか!?

 

 実際に装備してみると、身体の力を何割か失ったかのような脱力感に襲われた。

 そしてその装備の強い拘束感に、死刑を待つ重罪人はこんな感じなんだろうな、と他人事の様な感想を抱いた。

 身体がとても怠いがこれでまた一歩、赤い色のポーション″神の血″に近づける…!

 

 そういえばゴウン様の声が少し変わったような気がする。気のせいかな?

 

 

 研究所に入って早速作業を始める。

 重い身体に喝を入れて手を動かすが、想像していた以上にキツイ。

 なんだかフラスコを持ち上げることさえ重労働に感じる。

 

 脱力感に集中が欠けて、何度も初歩的なミスをしそうになる。

 おばあちゃんに叱られながら、ポーション作りを始めたばかりの頃を思い出した。

 

 幾つも失敗作(一般的な青いポーション)ができてしまったが、最後に現在の成功作である紫色のポーションが完成した。

 いつもと違う緊張感のある環境でポーションを完成させたので、今日は大きな達成感を得た。なんだか成長した気がする。ゴウン様にそういうマジックアイテムだと言われたから、そんな気がするだけなのかもしれないが…。

 

 

 心身ともに大きく疲労した体を引きずりながら研究所を出ると、会議場の前で見慣れない人たちが何やら相談事をしているのが見えた。

 

 1人は僕たちの大恩人であり、男としては憧れずにはいられない強大な力と膨大な財を持つ大魔法詠唱者。アインズ・ウール・ゴウン様。

 続く2人は、アダマンタイトの冒険者認識プレートを付けた少女二人。

 そして最後に漆黒の鎧。冒険者のモモンさん。超級の戦士であるが、その中身は魔法詠唱者のアインズ・ウール・ゴウン様である。

 

 彼らはカルネ村にやってきた冒険者で、今はこの村に居る間の滞在場所を相談しているらしい。何やら忙しそうなので、挨拶に行くのは後にしておこう。…僕は薬草臭いらしいし、体を洗わないとな。

 

 そう考えながら踵を返して歩き出そうとしたところで、ふと違和感を覚える。

 

 

 …ん? ゴウン様が二人??

 

 

 どうやら僕はとても疲れている様だ…。

 目頭をよく揉んでから振り返り、もう一度だけ会議場の方を見やる。

 

 

 ──魔法詠唱者のゴウン様。

 

 ──アダマンタイト級冒険者の少女2人。

 

 ──戦士モモンを演じるゴウン様。

 

 

 ……ゴウン様が二人いるぅ!!?

 

 

「ええぇぇぇぇええええ!!」

 

 

 日が沈み始めたカルネ村に、ンフィーレアの絶叫が響き渡った。

 

 

 

 

 


-ンフィーレア

くさい(薬品)

経験値増加の首輪やら何やらで成長加速!

 

誤字報告に感謝

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12 愉悦

-前回のあらすじ

カルネ村にて。アインズ様、自身がプレイヤーであることを明かす。


 

 

 

 

 

 深夜。

 俺はカルネ村で借りている仮宿から抜け出して、村の中を散歩している。

 

 前世と違い科学文明が発展しておらず、電気の灯りが無い村の中は真っ暗だ。これが大きな街だったならば魔法の街灯が建てられたりするのだろうが、辺境のカルネ村にはそんなものは無い。

 だが、真っ暗と言っても、完全な暗闇になっている訳ではない。

 

 星明りである。

 

 残念ながら月は出ていないようだが、それでも薄っすらと村を見渡せるぐらいには星明りに照らされている。

 アダマンタイト級冒険者として慌ただしく活動していると、こういう静寂に包まれた時間ってなかなか無いからな。現在、田舎の静けさを満喫している訳である。

 

 顔を上げて天を仰ぎみる。

 満天の星空だ。

 

 目を凝らせばはっきりと鮮明に星の輝きを捉えることが出来る。今世の高スペックな身体に感謝だ。

 うろ覚えの記憶を頼りに、星座っぽい形の星の並びをなぞる。昔の人たちは何を思ってこんな変な形にストーリー性を見出したのか。コレガワカラナイ。

 

 黒いキャンバスに光点を置いたと言うべきか、白いキャンバスに闇を描いて余分な光を取り去ったと言うべきか。いずれにせよ、人間が一生掛かっても描き切れそうに無い、巨大で壮大な芸術であることは間違いない。

 大きさや形、色の違い、輝きの強弱、よく目を凝らしてみるとみんな少しずつ違う。この世には無限にも思える数の星が存在するが、その中のただ1つとして同じモノは無いのだ。

 そんな歌の一節のような言葉が頭に浮かぶほどにエモーショナルな情景だ。

 

 

 感動で胸一杯になった所で、おもむろに村長宅へと近づく。

 

 そして、窓の隙間からエンリとンフィーの情事を覗く。

 

 何やら物音が聞こえたもんでな(すっとぼけ)

 

 

 覇王エンリは性豪、ンフィー君は早漏。

 その噂が本当なのか調べに来た次第である。

 決してやましい気持ちは無い。私にあるのは学術的な興味だけである。

 暗視の魔法を掛けて息を殺し気配を潜め、二人のあられもない姿を覗き見る。

 

 結論。火のない所に煙は立たぬ。そんな言葉を思い出した。

 

 

 帰って寝るか!っと思ったところで、ふと、ある予感がしたので独り言をつぶやく。

 

「こんな田舎じゃあ、まともな娯楽も何もない。

 …アンタもそうは思わないかね?」

 

「へー、私に気付くなんて中々やるっすね」

 

 背後から快活で軽薄そうな声の返事があった。

 振り返ると赤髪褐色肌のメイド、ルプスレギナがニヤニヤしながら俺を見ていた。

 

 もしかしたらと思って独り言で問いかけてみたら、本当にルプスレギナが居た。

 いや正面に居たならまだしも、背後から気配を殺して来られたら透明化してなくても普通は気付けんわ。今回は来ると予想していたから、違和感に気付けたけどな!(ドヤ顔)

 

 

「アンタも覗きに来たのか。

 それとも村長の警護かな?」

 

「にひひ~、両方っす」

 

 覗き行為を覗くなんて良い趣味してるぜ。俺はお前が俺を視姦したの視姦したぞ!

 覇王エンリの苦労が(うかが)い知れるな。

 

 

「なんだアンタも視姦好きか?」

 

「視姦()好きっす」

 

 視姦!好きっす!(視線で)犯していいですか?

 ルプスレギナはむっつりスケベだった…!?

 

「お、ルプーとは気が合いそうだな」

 

「いきなり愛称呼びっすか?

 じゃあ私はターちゃんって呼ぶっす!」

 

 ギャグ漫画のキャラみたいな名前は、やめろォ!(建前)ナイスぅ!(本音)

 ターちゃんキック!的な必殺技でも用意した方が良いのだろうか?

 

 なんにせよルプーと仲良くなれそうなのは良い事だ。

 せっかくの機会なんで話題を広げる。

 

 

「しかし、あの二人のまぐわいにはちょっと刺激が足りない…足りなくない?」

 

「そうっすね。

 従えたと思っていたオーガに裏切られて下克上とか起きないかなぁ」

 

「あ~いいっすね~NTR」

 

 

 でも普通に覇王エンリが勝ちそう。

 不思議と姐さんがチン負けするところは想像できないな。

 オーガが性処理道具に成り下がるのが見える見える。

 

 原作ではこの二人の間に子供が出来たって描写は無かったと思うけど、…ンフィーレア君はどんだけ命中率が低いんだ?

 

 

「そんで目の前で村が滅ぼされる様子を見せられた時の顔が見てみたい」

 

 無邪気な表情から一変、ルプスレギナの顔には嗜虐的な色が滲み出る残虐な笑みが浮かんだ。その唇は三日月の様に弧を描き、その瞳は星明りを霞ませる程に爛々と輝いている。やだ怖い…。

 

 そういえばルプーは第一王子をじっくりと殺す位のハードリョナラーだったな。

 俺はソフトなリョナまでしか無理なので、ルプーの性癖には共感しかねる。

 そしてリョナが許されるのは最強系の女だけだ。覇王だけどエンリは対象外だ。

 強者を嬲ると胸がスカッとするけど、弱者は虐げても胸糞悪いだけ!

 

 

「う~ん、そこまで行くと不幸過ぎて抜けないかな…」

 

「いや、不幸なのは抜けるっすよ」

 

「え?不幸なのは抜けないでしょ?」

 

「は?」

 

「は?」

 

 

 こ…こいつ、わかってねェ~ッ!

 

 この分からず屋をぶん殴ってやらねばと思ったときには、既に正拳突きを放った後だった。

 そしてそれは向こうも同じだったようで、気付いた時には互いの右ストレートが顔面に突き刺さっていた。

 

 ドグシャァ、という音が遅れて耳に入った。

 

 頭部への大きなダメージによろめいて数歩退く。

 鉄臭い血の味と生温い感触がしたので口元に手をやると鼻血が出ているようだった。痛ってぇ!本気で殴りやがったな!マジ信じらんねぇ!

 ルプスレギナの方は殴ったところが多少赤くなっているだけだった。おい!お前だけギャグ空間とかズルいぞ!

 

 なんかルプーからギャグの香りが漂っていたから思わず殴っちゃったけど、もし俺が一般人だったら即死だったな。これが、誘い受けってやつか。

 ルプスレギナを殴ったと知ったらアインズ様は怒るだろうか?…ルプーは駄犬感が有るし、わりと大丈夫な気がする(楽観)。

 

 

「どうやら私たちは同じ趣味を持つ友には成り得るが、真に理解者になるには余りにも大きな隔たりが在るようだ。

 認めよう!貴様はこの私の好敵手であると!

 そして、必ず認めさせてみせよう!私の理想を!!」

 

 止血を施しながらルプーに告げる。

 格好良く宣戦布告をして、俺は颯爽と去るぜ。

 

 俺とルプーは限りなく近い道を歩むことができるが、それを突き詰めた先には互いに相容れることの無いという答えしかない。そこからは意地(性癖)意地(性癖)のぶつかり合いになるだろう。だが俺は退かぬ!

 いつかルプーに幸せっクスを分からせっクス!!

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

 朝。

 早い早朝の朝。

 

 村落の朝は早い。

 日の出と供に起き出した農夫たちは自分の畑が荒らされてないかを確認しに行く。そして、雑草や害虫を取り払った後は、耕し終えていない畑にクワを入れる作業に入るのだ。

 

 

 そんな村人に少し遅れて、俺は携帯食で朝食を済ませる。干し肉!干し肉!ドライフルーツ!干し肉!の順で喰えッ!!

 借りていた空家を出たところで、広場の方にナーベとルプーが居るのが見えた。

 姉妹で語り合いをしているみたいだ。俺も姉妹の間に挟まりたい。

 

 挨拶をしながら二人の雑談に混ざる。

 すると、ルプーが得意げな顔をして昨夜の話を蒸し返す。

 

「ナーちゃんはこっちの味方っすよ。ルプスレギナ派っす」

 

「なにッ!?貴様、ターリア派を裏切ったのか!?」

 

「裏切るも何も、最初から貴方の仲間ではありません」

 

「これで『不幸だと抜ける』が多数派である事が証明されたっすね!」

 

 ぐぬぬ…。派閥の人数に倍の差があるではないか!

 こんな状況では何を言い繕っても、負け犬の遠吠えに聞こえるだけだ。

 圧倒的マイノリティの俺にできる事は陰湿な工作活動だけ…っ!

 まずは、裏切り者のナーベに報復じゃ!

 

「ナーベよ、お前には失望したぞ(低い声)」

 

「死ね」

 

 直球の言葉と本気の殺気。その飾らない姿にブルっちまったぜ…。

 だが俺は退かぬ!

 

 

「他者の不幸を喜ぶなんてアダマンタイト級冒険者に相応しくない。

 チーム『漆黒』は今日限りで解散だな(低い声)」

 

「そ、それは困ります」

 

 一転守勢!

 ナーベがオロオロしている。かわいい。

 

 

「ナーちゃん騙されちゃダメっすよ!相手は偽物っす!」

 

「そ、そうよ!そのセリフは所詮あなたの妄想でしょう!」

 

 ルプーが半笑いでナーベの援護をする。

 その言葉に飛びつき、虚勢を張るナーベ。

 だが、ぬるいわ!

 

「え~、じゃあモモン氏に直接聞いて確かめてくるね」

 

「──待ちなさい」

 

 モモンの居る仮宿へ向かおうとする素振りを見せたら、ナーベが素早い動作で俺の肩をガシリと掴んでその場に縫い付けた。ナーベの肩を掴む力が強く、指が食い込んで少し痛い。…こんな所でレベル差を感じる事になろうとは。

 

 

「ター、タール「…ターちゃんでいいです」

 

 ここでナーベラルの『人間の名前を覚えられない』個性を発揮!

 そこまで名前が出て来たなら、最後まで言えてもよかろうもん…。

 マジかよ(困惑)。あんなに一緒に居たのに、俺の名前を覚えて無かったのか…。夕暮れの色が違う~、って歌いたくなりますわよ!

 

 

「私は別にターちゃん派でも構わないわ。

 邪魔な人間が鬱陶しいだけで、他者の不幸だとか興味が無いの」

 

「それじゃあ、ナーベちゃんは『可愛い子はいじめたいけど、不幸だと抜けない』派に加入するかね?」

 

「ええ、もう、それでいいわ…」

 

 こうして、ターリア派がルプスレギナ派に逆転勝利して、世界に平和が戻った。

 ナーベは朝から疲れた顔をしているが、それは平和のための小さな犠牲だ。

 

 そんなことより、ナーベに「ターちゃん」と呼ばれて、不覚にもドキッとした。普段は名前を呼ばない人が急に名前を呼んできたら、ギャップ萌えしちゃ~う。

 

 

「だからモモンさ──んにおかしな事を言うのは止めなさい」

 

「よかろう。

 代わりにモモン氏には″ナーベちゃんを幸せにしてください″と進言しておこう」

 

 アインズ様にそう言えば、きっと胃を痛めるに違いない。かわいい子は虐めたくなるから、仕方がないね。やはり、アインズ様はヒロイン…。

 うまいこと勢いにまかせて「年頃の女の子を連れ回した責任をとれ!」とか「モモン氏の御手付きだと思われているから嫁の貰い手が居ないぞ!」とか言って脅迫すれば、ワンチャンス有るかもしれない。

 プレアデスが正妻だって良いじゃない!

 プレアデスが正妻だって良いじゃない!(大二言)

 

 ナーベはアインズ様から(ねや)に呼ばれるのを想像しているのか「いやぁそんな私では…でも求めて頂けるのなら──」とブツブツと呟きながら照れている

 

 

 怒ったり慌てたり照れたりと、ナーベの表情がころころ変わる様子を見て俺とルプーはニヤニヤしている。

 そう!ナーベに見せた俺とルプーの敵対は最初から本気では無く、プロレスでしかなかったのだッ!これが、恐るべき現代社会の闇…っ!

 そして、ナーベのかわいい成分が上級国民に搾取されていくのだ。

 

 突如として始まったルプーとの共謀だが、アイコンタクトで互いの狙いを理解し、長年連れ添った戦友の様に息の合ったコンビネーションでナーベを翻弄(ほんろう)した。

 ルプスレギナ…味方ならば頼もしい()()()()仲間である。

 

 俺たちは互いの手を取り合ってガシリと握手した。友☆情!!

 

 

 そんな乙女の高尚な遊戯を嗜んでいると背後から声が掛かった。

 

「おや、3人は仲を深めたのか?それは何よりだ」

 

 ここでアインズ様がエンリを連れ立って登場。

 ルプスレギナが背後に控えてメイド業務に移ろうとするが、アインズ様が「良い」と片手を挙げ止める。

 

「ルプスレギナよ、私の事は気にせずともよい。

 折角仲良くなったのだから、そのまま親交を深めると良い」

 

 お、いいっすか~?

 アインズ様からお楽しみ続行の許可が下りた。

 これから、もっと(かしま)しくして行くぜ!

 

「じゃあせっかくなんで、親交の証に仲良くお手てでも繋ごうか!」

 

 みんなで輪になって踊ろうぜ!

 ナーベも嫌な顔しながらも手を繋いでくれた。握手券が必要ない握手会とか最高やな!

 キャッキャッと乙女たちが戯れる。心がぴょんぴょんする。(萌豚並感)

 

 しかしながら、ルプー、ナーベと一緒に並ぶと身長差を感じるな。

 俺は成長期だからな。後、2,3年も成長すれば並べるだろう。

 

 

「三人はどういう経緯で仲良くなったんだ?」

 

 三人はどういう集まりなんだっけ?(難聴)

 経緯をそのままアインズ様に話すのはアレなので、少しぼかして答える。

 

「ルプーは同じ趣味を持つ友であり、己の誇りを掛けて競う好敵手。

 そして、ナーベちゃんは我が派閥の新人です」

 

「ターちゃんは中々に趣味が良いっす」

 

「わ、私の嗜好はアダマンタイト級冒険者に相応しいモノです!」

 

「?

 よくわからんが、ルプスレギナに友が出来たのは良いことだ」

 

 ナーベの言葉で頭の上に疑問符が浮かんでいるが、ルプーに同じ趣味を持つ友達が出来たと聞いてアインズ様が嬉しそうにしている。

 おっと、思わぬところで俺の価値が上がってしまったな。流石は俺!

 

 俺たちが仲良く(自己申告)並んでいる様子を見て、エンリが感想を言う。

 

「ルプスレギナさんとナーベさんが並ぶと凄く絵に成りますね!

 お2人は似ているわけじゃないけど、雰囲気が何だか姉妹みたい」

 

 正解(エサクタ)

 流石は、覇王エンリ。勘が鋭い!

 姉妹と言われて、ルプーとナーベは誇らしげな顔をしている。

 アインズ様は真実を言い当てられて焦っているのか、若干挙動不審だ。

 

 そして、ナチュラルに省かれて、俺氏涙目w

 これでも俺は見た目には気を使っているのだ。美少女ターリアとしてチヤホヤされるために美容魔法を駆使したりと結構な努力をしていた分、真正面から敗北を突き付けられると悔しいな。最初っから絶世の美女として創造されているなんてズルい!

 …やはり、コーディネイターは青き清浄なる世界のために不要だ!

 

 俺が密かに落ち込みつつ遺伝子操作に憤りを感じているのを尻目に、ルプーがニヤニヤしながらエンリに話しかける。

 

「そういえばエンちゃん。

 昨日の夜中に、外から物音とか聞こえたりしなかったっすか?」

 

「え?昨日の夜中ですか。………ッ!?

 も、もしかして、誰かがウチの近くに来ていたんですか!?」

 

 エンリ赤面!

 昨日の夜中と言ったら、俺とルプーが覗き行為をしていた時の事だろう。

 夫婦の営みが誰かに覗かれたら、そら恥ずかしいですわ。

 頬を染めるエンリを見てルプーがいやらしい顔をしている。

 

 

「ん?昨日の夜に何かあったのか?」

 

 the 野暮。

 

 アインズ様は何も察していないようだ。この、ニブチンさんが!

 そして、ますます赤くなるエンリ。女の子の恥じらう姿は良い。眼福じゃ。

 

 

「はい。昨日の夜中にエンリとンフィーレアが交尾していたのですが。

 その行為をターリアが窓の隙間から覗いていたのです」

 

「こうッ──!…コホン。

 それは感心しないな、ターリア殿」

 

 いや交尾て…。

 ルプスレギナが淡々と説明するが、初心(うぶ)な童貞アインズ様には刺激が強すぎたようだ。

 エンリは耳まで真っ赤にして、もう湯気なんかが出そうな程だ。

 

 そして、俺の覗き行為が告発された。

 アインズ様と覇王エンリから非難の視線が飛んでくる。

 あかん、これじゃ俺の評判が死ぬぅ!

 

 ルプーが舌舐めずりをしながら俺に嗜虐的な目を向けてくる。

 今度は俺を標的にしたらしい。

 

 あ ほ く さ

 

 なんだ、この程度の策謀で俺の名声を傷つけようとしてんのか?そんなんじゃ虫も殺せねぇぞ。

 俺の華麗なるカウンターを食らうがよい!

 

「いやいや、覗きをしていたのはルプーの方だよ。

 昨日、夜風にあたっていたところで物音が聞こえてね。

 そこへ行ってみたら透明化した彼女が居たのさ」

 

 嘘は言っていない。

 一切悪びれずに、平然と言い放つ。

 俺に向けられていた非難の目が分散する。

 

「…ルプスレギナよ、それは本当か?」

 

「ち、違います!ターちゃんがエンちゃんの家に近づいて行ったから───」

 

 アインズ様から疑いの目を向けられて慌てて釈明するルプー。

 だが、最後まで言わせん!

 

「え~?覗きかどうか聞いたら肯定したじゃないか。

 ルプーと付き合いの長い村長殿はどう思う?」

 

「ああ…ルプスレギナさんなら有り得そうですね」

 

 エンリが俺の言葉を肯定する。ルプスレギナさん人望が無いっすねw

 日頃の行いが悪い奴はこういう時に損するよな~。

 エンリの言葉を聞いて、アインズ様が頭を抱える。

 

 

「ルプスレギナ…お前という奴は……。

 謹慎と反省文だな」

 

 ルプーがこの世の終わりのような顔で青ざめる。

 そう!俺は君の絶望する顔が見たかったんだよ!

 

 ルプーにだけ聞こえるよう、ぼそりと小さく呟く。

 

「不幸なのは抜けるよなぁ」

 

 俺の声にハッとしたルプーは、絶望感が滲み出る顔でこちらに視線を向ける。

 

 ニヤリ

 

 こちらを向いた敗北者に、いやらしい暗黒微笑をお見舞いしてやる。ルプーは所詮…特殊性癖の敗北者じゃけェ…!!

 もはや逃れられぬと悟ったルプーが、目に涙を溜めて睨み付けてくる。KAWAII

 

 

 不幸の味を楽しんだところで、()()()()はこの辺にしてルプーに助け船を出してやる。

 ヤリ過ぎて恨みを買うのは未熟者のすることだ。

 

「まぁまぁ。

 ちょっとした悪戯に大袈裟な罰を与えるのは少しかわいそうじゃないですか?

 ここは私に免じて許してやってくれませんか?」

 

「…まあ、そうかもしれんな。いいだろう。

 謹慎と反省文は撤回する。が、ルプスレギナはちゃんと反省するように」

 

 貸し1だ。

 罰が撤回されてルプーの顔色が幾分か回復した。

 俺はフォローも出来る人間だからな。(自画自賛)

 そしてやっぱり、女の子が不幸なのは抜けない。

 顔を曇らせたままにしておくのは3流のする事。プロならば相手のフォローをして、不幸値を下げなくてはならない。…次のいじわるの為にな!!

 

 

「村長殿もそれで良いですかな?

 昨日の覗きに関しては不問にするという事で」

 

「まあ、いいですけど…」

 

 エンリは諦めたような顔で頷いた。

 よし!俺の罪も許されたな!

 

 これにて、一件落着!

 

 

 話が落ち着いたところでモモン(パンドラ)が姿を現した。

 そして、その後ろにはイビルアイが、ちょこちょことモモンに付いて歩いていた。

 どこにも居ないなと思っていたら、イビルアイはモモンの所へ夜這いに行っていたのか。まあ、残念ながらその鎧の中身は違うんだがな。骨相手には全く効果の無い色仕掛けとか、イビルアイもご苦労な事だ。

 

 

「さて、我々の当初の目的である森の調査だが…。

 ゴウン殿が管理しているとの事だから、もう問題は無いだろう」

 

「モモン様の用事が終わったなら、この村ですべき事はもう無いな」

 

 お、そうだな。

 アインズ様に伝えたかった情報はだいたい伝えた気がするな。

 後はナザリック勢の方で上手くやってくれるだろう。

 

 ナザリックに忠誠を誓って色々と保護してもらう事も考えたが、社畜のように働かされるのは勘弁なので、それは最終手段だ。俺は仲間とともに自由な冒険者をしていたい。

 

 

「…ゴウン殿。

 世界に混乱を振り撒くつもりが無いなら、大人しくしていることだ。

 竜王たちは貴方のような存在を決して許しはしないだろうから…」

 

「竜王か…。

 イビルアイ殿、忠告感謝する。留意しておこう」

 

 留意しておこう(留意するとは言っていない)

 イビルアイの忠告は無駄になる。だが、魔導国に支配してもらった方が平和で豊かな世界に成るからね。仕方ないね。

 

 

「さて、君たちが帰ると言うのならば、そろそろ私もお暇させて貰おう。

 プレイヤーについて有力な情報を得たならば、是非とも連絡をくれ。

 その時は、私の所有する膨大な財をもって、君たちを持て成そう」

 

 アインズ様も帰るみたいだ。ルプスレギナに何やら言付けすると「では、失礼する」と言って、転移魔法でカルネ村から去った。

 

 再会の約束も取り付けたし、今回は最高の成果だったんじゃなかろうか?

 もうモモン達に付き纏って好感度稼ぎしたりする必要性も薄れて来たし、そろそろ王都に帰って仲間たちの様子を確認するのも良いかもしれんな。

 あるいは、『漆黒』を王都に呼んでもいいかもしれない。

 

 

「エ・ランテルではアダマンタイト級冒険者が受けるような依頼はもう無いって話だけど、モモン氏たちはこれからどうする予定なの?」

 

「そうですね…。

 魔法技術が発達しているとのことなので、我々は帝国へ行って魔道具でも見てみようかと思います」

 

 おっ、いよいよワーカー侵入イベントか。王都に帰ろうと思っていたところに、原作イベントをチラつかせるのは、やめちくり~。

 これは是非とも同行したい。アルシェ尻尾は俺が守護りたい。

 

「魔道具といえば、ヤルダバオトが王都に現れた時に使ったアイテムの補充がまだ済んで無いはず。

 これは私達も帝国へ行って魔道具を見る必要がありそうですな!」

 

 イビルアイにアイコンタクトを送ると、意図を察したイビルアイが頭上に『!』を浮かべ、俺に続いて追撃を仕掛ける。

 恋愛道を共に歩んだ俺たちラブ師弟はツーカーの仲よ!

 

「!

 そうだな!そうに違いない!もうそれで行かざるを得まい!!

 モモン様、私たちも一緒に帝国へ行くぞ!」

 

「あ、ああ。別に構わないが…」

 

 イビルアイの勢いにモモンがたじろぐ。

 あの恋愛クソザコ吸血鬼だったイビルアイが、モモンを押し込めている…っ!

 弟子の成長を感じられて、師匠としてこんなに嬉しい事は無いゾイ!

 

 そして、初めの頃は青筋を浮かべて舌打ちをしていたナーベも、今では俺達の三文芝居を見ても何にも反応を示さなくなった。

 良い傾向だ。そのうちに、俺達が居ないと物足りないと感じる身体にしてやるからなぁ。

 

 

「そうと決まれば、善は急げだ。

 オラッ!ラキュースに伝言(メッセージ)送るんだよ!おう、あくしろよ!」

 

「ん?なぜラキュースに?」

 

「チームの財布を握っているのはラキュースでしょーが!

 それと、買うアイテムも皆で相談して決めなくちゃいけないだろ?」

 

 このポンコツは…。

 恋路に目が行き過ぎて、建前の事を忘れてやがる。

 

「成程……って、お前が連絡すれば良いじゃないかっ!?」

 

「私が帝国行きを提案したら、何か企んでいるんじゃないかと怪しまれるだろ?

 そうしたら、承認に時間が掛かってモモン氏たちに同行できなくなるぞ」

 

「お前、怪しまれる自覚があったのか…」

 

「策謀を巡らす時は、自分の評価も計算に入れるものだよ(ドヤ顔)」

 

 イビルアイが呆れたような雰囲気を出しながらラキュースに連絡をする。指でokサインを送って来たので、特に問題は無かったようだ。

 

 

 ということで、次のイベントは『蒼の薔薇』が総出でアインズ様に付いて行きますぞ!

 

 原作のアインズ様も、話してみたら愛着がわくって言っていたし。一緒に過ごせば『蒼の薔薇』の事も少しは好きになってくれるだろう。

 

 

 

 

 


-ルプスレギナ

視姦仲間。気が合う。

しかし、性嗜好の相違から仲違い。犬猿の仲となる。否、狼人の仲となる。

またアインズ様から「失望したぞ!」されて涙目になって欲しい。

 

誤字報告に感謝

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13 帝国へ向かう

-前回のあらすじ

カルネ村で一泊。ルプスレギナと殴り合う。


 

 

 

 

 モモン達『漆黒』が帝国に行くとのことなので、俺たち『蒼の薔薇』もそれに便乗して、消耗した魔道具の補充をしに行くことにした。

 まあ、消耗した魔道具の補充なんて建前だ。

 俺はアルシェをweb仕様にするため。イビルアイはモモンと添い遂げるため。そして、モモン達ナザリック勢は帝国を罠に嵌めるため。それぞれ、裏の思惑を秘めている訳である。

 と言っても、王都での騒動でチーム財政は大赤字だったので、魔法技術の発展に力を入れている帝国で魔道具を少しでも安く購入したいと言うのも本当だ。

 

 王都に居るラキュース達を転移魔法で運び、エ・ランテルで合流する。

 ガガーランとティアは未だ生命力が戻っていないようだが、今の体の感覚には慣れたらしく、そろそろ本格的な武者修行に入れるとのことだ。今回の遠征が終わったら地獄の特訓が待っている。覚悟せよ。

 

 ちなみに、ハムスケは王国でお留守番である。

 帝国の人が見たら騒ぎになるからね。仕方がないね。

 俺ですら近くで見たらビビるからな。もしかして、そういうスキルか種族特性を持っているのだろうか?

 

 

 そして、エ・ランテルから帝国へ向かう。

 徒歩で向かうのは怠いので、商隊の護衛依頼を受けて馬車に相乗りする。

 帝国までの護衛依頼を出していた商隊のおっちゃんは、アダマンタイト級冒険者を格安で雇う事ができて嬉しそうだった。

 

 

 エ・ランテルから帝国まで向かう道中は平和なものだ。

 王国と帝国は敵国同士だが、民間の行き来はわりと多いので道中はそんなに危険は無い。せいぜいがカッツェ平野からやって来たハグレ者のアンデッドくらいだ。アダマンタイト級冒険者を雇っているから商隊の人たちは緊張感の欠片も無いようだ。

 大あくびをかましているおっちゃんを横目に、モモン(アインズ様)が居る所に向かう。

 

 アインズ様はラキュースから復活魔法についての詳しい話を聞いているみたいだ。

 

 ラキュースの使える〈死者復活(レイズ・デッド)〉は、復活の際に生命力を大きく失う。鉄クラス以下の冒険者は、ほぼ間違いなく灰になってしまう。

 そして魔法を使う際は、損傷が少ない復活対象の死体が近場に必要で、さらに黄金と触媒を用意する必要がある。

 魔力が尽きぬ限り誰でも何度でも、という訳には行かず、意外と使い勝手が悪い。

 

 俺も復活魔法を真似したことがあるけど死霊術に成っちゃうんだよね。もしくはゴーレム化。完全に別の存在になってしまう。

 

 丁度良い機会だから二人の話に混ざって信仰系の魔法について詳しく聞いてみる。

 俺もバフ系は使えるんだが回復系がさっぱりでな。欠損回復とか蘇生魔法とか使えるようになりたい。

 

 

「ということで、私にも信仰系の魔法について教えてくれやぁ」

 

「あら、ターリアさんは独学で信仰系魔法を習得しているのでしょう?

 天才を自称する貴方なら私の教えなんて必要ないでしょ。

 私は今、モモンさんとお話しているの。邪魔しないで下さるかしら?」

 

 ラキュースが丁寧な対応で俺を拒絶する。

 

 お前は社交界の貴族かっ! …ああ、そういえば本物の貴族だったわ!

 

 綺麗な笑顔を浮かべているが、その裏側から隠せない怒気が漏れ出ている。

 最初っから怒りゲージが溜まっている。なんでや?

 

「あのー、ラキュースさん?何か怒っていらっしゃる?」

 

「別に怒っていないわ。

 ただ、私を笑い者にしようとした人は信用できないだけよ」

 

 笑い者って…厨二病を暴露したことか?

 あの場に居たのは身内か口の堅い人しかいなかったし、ちゃんと致命傷は避けるように配慮していたから、そんなに怒っているとは思わなかったな。

 

 

「もしかして、王国を飲み込むほどの暗黒のエネルギーの話?

 それとも技名を叫ぶと気持ちが良いって話かな?」

 

 あの時の事を思い出したのか、ラキュースの顔に少し赤みが増す。

 

「両方よ!

 あの後ラナーには暫く茶化されたんだからっ!」

 

 やっぱり怒っているじゃないか。

 暗黒のエネルギー云々(うんぬん)はラキュースの自業自得の様な気がするけど、これ以上に怒ると面倒くさいからそれは言わないでおこう。

 もう今はひたすら謝り倒そう。

 

「わ、悪かったって、謝るよ。

 何だったら靴も舐めるから。

 許してい…許して…レロレロレロレロ」

 

「ちょ、本当に靴を舐めようとするのは止めてっ!

 分かった、分かったから。もう、許すから、離 れ な さ い !!」

 

 騒いでいる俺たちに向けられた周りの人たちの視線が痛い。

 ラキュースが足を舐めさせる変態だと思われてるのか、俺が足を舐める変態だと思われているのか。

 だが、普段から奇行を繰り返している俺にダメージは無い!(天下無敵)

 

 

「…私も信仰系魔法の仕組みなどには興味があるな。

 是非、私にも教えていただきたい」

 

 脱線し始めた話をアインズ様が元に戻す。さすアイ!

 ラキュースは大きなため息を吐き、信仰系魔法について話し始める。

 

 魔法を行使する時に大きな力を感じる事ができるが、それが信仰する神の力だとか、最初はそれっぽいことを説明していたが、途中から段々と内容が怪しいものになっていった。

 

 

「───つまり、邪神は私達を常日頃から狙って観察している。だから闇の意志に呑まれないように心を強く持つことが大事なのよ…。

 だけど心の闇というものは誰しもが持つ物…。私はその業を受け入れることによって、この身に闇の力を取り込んで神官としての力に変えているの。光と闇は表裏一体。信仰系魔法の中に負属性のものが有るのはきっとそういう理由ね……」

 

 

 おい、それってYO!お前が執筆している物語のネタじゃんか。アッアッアッ。

 ちょっと厨二病……いや、かなり厨二病。

 二十歳過ぎてコレだから、一生付き合っていく病に成りそうだな…。

 

 他人が厨二病設定を得意げに話しているところを見ると、なんというか…全身がむず痒くなる様な感覚に陥る…。新手の精神攻撃かな?

 隣をチラリと見ると、アインズ様も頭を抱えて小さく唸り声を上げている。アインズ様にダメージを与えるとは…。ラキュース、恐ろしい娘…っ!

 話すうちに段々とラキュースのボルテージが上がってきている。

 苦痛が堪え切れないレベルに成りそうなんで話を止める。

 

「──ッ!? 見られている……ッ!

 ……そこッ! 今も影から奴らがこちらを覗いているッ!!」

 

「スタァァップ!!

 なるほど、全くわからんっ!

 …だいたい神官の癖に刃物武器を使うっておかしいだろ!?」

 

「それは、私が神に選ばれし戦乙女として───」

 

「あー、はいはい、成程、タレントの効果ね!!」

 

 いい加減に妄想設定を垂れ流すのは、やめろォ!(建前)やめろォ!(本音)

 勢いづくラキュースを何とか止める。

 古傷が切り開かれていく様な話が止まって、アインズ様もホッとしている。この様子を見るに、結構な回数の精神鎮静化を味わったに違いない。

 それと対照に、話を遮られてラキュースは不満そうだ。

 

「むしろ、どの神様も信仰してないのに信仰系魔法が使えるターリアの方が異常よ」

 

 そうかな…そうかも…。

 まあ転生者特典というか、ラノベ的な視点を持っているからな。そのおかげで、当初は化学反応とか起こそうとして効率の悪い魔法に成っていたけどな!

 魔法なんだから世の法則を無視して、結果だけを持ってくるのが正解なのだ。

 

 

「ほう、ターリアさんは信仰心を持たずに信仰系魔法を習得していると。

 …魔法を使用する時に、魔力系魔法と信仰系魔法で違いはあるのか?」

 

 アインズ様が興味を持ったみたいだ。

 そういえば原作で神官の頭の中をアレコレと弄くる実験をしていたな。

 

 

「私は基本的に魔法は全部同じだと思っているよ。

 もし、信仰心だけで魔法が使えるなら、人類の大半は魔法詠唱者に成っているさ。

 魔法というのは魔力を呼び水に世界から望む現象を引き出す技術、というのが私の持論だ。

 だから魔力系魔法と信仰系魔法の違いは、干渉する場所が違うに過ぎないよ。

 私も信仰系魔法の領域に接続できている以上、うまく手繰り寄せれば蘇生魔法も使えるはずなんだよね。少なくとも魔力や力量は十分足りているはずなんだよ」

 

 感覚的にはスキルツリーを伸ばしていく様な物だ。

 オバロ世界はワールドアイテムか何かで位階魔法が定着して効果が固められている。

 だから、それっぽい所に手を突っ込めば欲しい結果を得られるのだ。

 復活魔法はガチャかクレーンゲームの様になってしまってるんだが…。

 

 

「なるほど、興味深いですね。

 つまり素養と力量さえあれば、すべての魔法が使えると?」

 

「お、モモン氏も私の魔法理論に興味があるかね?

 良かろう!教示して進ぜよう!」

 

 

 イビルアイとの魔法談義でするような魔法の実験や憶測についての話をする。

 それにしても、アインズ様は聞き上手だな。程よく相づちとか褒め言葉が挟まれて、話していて気持ちがいい。これなら女の子にモテそうなもんだけど、何で童貞なんだ?

 

 ひと通り俺の魔法理論を話し終えたところで商隊一行は補給休憩に入った。

 

 

 

──────

 

 

 

 馬を休めている間、ガガーランがモモンに模擬戦を挑んで稽古をつけて貰うようだ。

 アダマンタイト級冒険者同士の戦いを見る事ができると聞いて、商隊の人たちは興奮し大盛り上がりをしている。

 

 

 少し距離を開けて二人が向かい合う。

 武器を構えるガガーランに対して、モモンは腕をだらりと垂らしたまま脱力したような状態だ。

 モモンのいつでもどうぞと言う態度にガガーランは遠慮なく突っ込んで行き、小手調べとばかりに戦鎚を叩き付ける。これを軽やかに躱すモモン。それは織り込み済みだと追撃を繰り出していくガガーラン。

 

 二人の戦いは(ガガーランの一方的な攻撃であるが)段々と白熱していき、模擬戦の域を越えるような苛烈なものになっていった。

 ガガーランは縦横無尽に周囲を駆け回り戦鎚の一撃を繰り出していくが、モモンは軽く体を揺する様に攻撃を回避する。

 途中から本気の全力で挑んでいるガガーランに対して、モモンは余裕がある様子で猛攻を避け切っている。そして驚くべきことに、モモンはその場からほとんど動いていない。

 

「砕けや!」

 

 何度も回避された振り下ろし攻撃だが、ガガーランが吼えると刺突戦鎚(ウォーピック)が突き立った場所を中心に、大地が一気に砕ける。

 足場が砕け、さらにその衝撃が足に伝わったモモンは体勢が僅かに崩れた。

 

 その僅かにできた隙を逃さず、ガガーランは己の持つ最強の必殺技を放った。

 超級連続攻撃。

 一撃一撃が全力の15連攻撃。

 防御系武技〈要塞〉では防げず、上位の武技〈不落要塞〉でなければ耐え切れない。

 武技を複数同時に発動させて放つガガーランの切り札だ。

 

 だが、その必殺技がほとんど躱されている。

 辛うじてモモンに当てることができた攻撃も、全てグレートソードで防がれている。

 筋肉隆々の一級の戦士が両手で構えた金槌の攻撃を、片手で持った大剣で防ぐ。

 信じられない様な光景だが、それだけ二人の実力差が大きく離れているという事だ。

 

 

「──ぷはぁっ!」

 

 やがて連撃が終わり、ガガーランに大きな隙ができる。

 

 

「今のは少し驚いたな…」

 

 猛攻をすべて防ぎ切ったモモンがポツリと漏らす。

 そして、大剣の腹で軽く撫でるようにして無防備になったガガーランに一撃を加えた。

 それだけでガガーランの巨体が吹き飛び無様に地に転がる。そして、そのまま起き上がる事は無く、大地に寝ころんだまま大きく肩で息をしている。戦いは決着したようだ。

 

 

「ハァ、ハァ、あー、いってぇ。

 こりゃ、最強の戦士ってのはマジだわ」

 

「すまない。

 手加減したつもりだったが、少し強すぎたようだ」

 

 モモンが倒れているガガーランに歩み寄り、手を貸して立ち上がらせる。

 ガガーランは満身創痍の状態で、刺突戦鎚を杖代わりに体を支えている。

 

「いや、丁度良いぐらいだったぜ。あれ位の反撃が無いと訓練にならねえからな。

 付き合ってくれてありがとよ。また今度、挑ませてくれや」

 

「ああ、構わないとも。暇なときなら何時でも受けて立とう」

 

 

 モモンとガガーランが固く握手を交わし、周りから歓声が上がる。

 商隊の面々は改めて漆黒の英雄モモンの規格外の強さを目の当たりにして、畏怖の視線をモモンに向けている。

 

 

 

 二人の健闘をたたえる声があちこちで上がる中で、視界の端でティアがふらりと移動するのが見えた。

 俺の経験上、こういう時のティアは必ず良からぬ事を企んでいる。

 

 なんだかモーレツに悪い予感がする…。

 

 

 

 


-ラキュース

神に仕える光の使徒でありながら、その身に闇の力を宿す混沌の戦乙女。

アダマンタイト級冒険者というのは表向きの顔でしかなく、その真の姿は人知れずに世界の闇と戦う孤独な戦士。

世界の守護者として闇陣営の敵と対面する度に、己の内に眠る闇の力が疼いてその身体を蝕んでいく。

このまま戦い続けていては魂までも侵蝕され、人格もろとも闇の力に呑まれてしまうだろう。

…そう。闇の力(厨二病)になッ!

 

誤字報告に感謝

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14 姦しい仲間たち

-前回のあらすじ

仲間たちと合流し帝国へ向かう


 

 

 

 

 モモンとガガーランの模擬戦で盛り上がっている裏で、ティアが何やらコソコソと良からぬ事を企んでいる様子を見てしまった。

 ちょっと関わりたくないけど、他の奴らは気が付いていないようだ。俺が行くしかないのか…。

 放っておいたら面倒な事になる予感がするのだから仕方がない。

 

 厄介事の芽を早めに摘むために、俺はティアの後を追う。

 

 

 そして、なんと!

 

 ティアの企みとは!

 

 ナーベをナンパする事だった!

 

 

 あほくさ。

 

 

「ナーベは美人だね」

 

「そんなくだらない世辞を言われても嬉しくありません」

 

「疲れてない?肩揉んであげる」

 

「必要ありません。土でも揉んでいなさい」

 

「綺麗な髪だね。触っていい?」

 

「駄目です。鬱陶(うっとう)しいので私の前から消えてください」

 

「すんすん。

 ナーベは良い匂いがする」

 

「気持ち悪い。その下劣な鼻は削ぎ落としてはいかが?」

 

 

 ティアはナーベにちょっかいを掛けるが、にべも無くゴミを見るような目で罵られている。だが、ティアはちょっと嬉しそうだ。…まぁ、当人が満足なら良いんじゃないかな?

 やがて、全く相手にされない事を悟ったティアがアプローチの方法を変えた。

 モモンの方をチラリと一瞥して一言漏らす。

 

「モモンは強いね」

 

「当然です」

 

 ふんすっと鼻を鳴らすナーベ。

 その様子を見てティアの瞳がキラリと怪しく光る。

 

 

「モモンとは肉体関係を持っていたりするの?」

 

 ド直球でセクハラをかましやがったァ!

 

「な、モモンさ──「ちょっと待ってもらおうか!」

 

 ナーベが余計な事を言う前に割り込む。

 即死級の失言は無いと思うが、万が一が有るからな。

 それに、レズにストーカーされる苦痛をナーベちゃんに味わわせるわけにはいかぬ。

 

「部外者はナーベちゃんへの接触は禁止です。

 質問が有るなら私を通してもらおうか!」

 

 二人の間に割って入った俺Pを、ティアがギロリと睨んでくる。

 

 

「邪魔するのならば、ターリアから()()

 

「ヒェ」

 

 

 ティアのこうげき。野獣の眼光!

 その圧力に思わず口から空気が漏れ出てしまった。

 

 コイツ…復活のペナルティでミスリル級冒険者くらいの力しかないのに…。俺をヤル気だ。本気の意志を感じる…。

 コイツにはやると言ったらやる……スゴ味があるッ!

 

 

「おおおおちつけ!

 ナーベちゃんは同性愛者じゃないから、攻め寄っても無駄だぞ!」

 

「…」

 

 俺の言葉を無視してティアが無言で一歩詰め寄ってきた。

 おい!無言で迫って来るのは怖いからやめろ!

 

「そ、それ以上近付くんじゃねぇ!」

 

 俺がどうなってもいいのか!?

 

 まさか、この俺が雑魚チンピラの様なセリフを言わされてしまうとは。

 流れが良くない。俺の背に敗北が忍び寄って来るのを感じる。

 

 

「退かないのなら都合がいい。今日はターリアを頂きたい気分」

 

 やべぇよ…やべぇよ…。

 

 くっ、このままではヤられる。

 覚悟を決めろ、俺ェ! でなければ呑まれるぞ!

 俺が守護らねば、誰がナーベちゃんを守護る!

 

 ひるんで退いてしまった一歩を戻し、覚悟を示すために更に一歩踏み込むッ!

 

 

「私が守護らねばならぬ…っ!!」

 

 

 俺の覚悟が伝わったのか、ティアの足が止まる。

 そして、ティアがゆっくりと構える。俺も迎撃の体勢をとる。

 

 

 互いの闘気がぶつかり合い、俺とティアの周囲以外の景色が歪んでいく。もはや常人には立ち入る事の許されない、天然のバトルフィールドだ。

 相手の挙動を一瞬たりとも見逃すまいと集中を高めていく。

 永遠にも思える一瞬一瞬の中で、ティアの指先がピクリと動いた。

 

 

 ………っ!来るっ!!

 

 

 ──影分身っ!

 分身の能力は本体よりも劣るが、単純に手数が増えるというだけで脅威だ!

 

 ──闇渡りっ!

 一瞬で俺の背後をとってきた。死角からの攻撃はやはり脅威だ!

 

 ──毒針っ!

 キラリと光る特殊な形の投擲武器。掠るだけでも致命傷になり得る毒は脅威だ!

 

 

 ティアが忍術を用いて最初から全力で決めに来た。

 どれも食らうのは危険な攻撃だが、この派手な動きの全部が囮。

 極限の集中(ゾーン)状態に入った俺は欺けないぜッ!

 本命は無色、無味、無臭の毒ガス!

 

 毒針を分身もろとも巻き込む様に全てを捌いて、背後に回ったティアを回し蹴りで弾き飛ばす。

 この間、無呼吸である。

 そして無詠唱で空気清浄化の魔法を発動する。

 

 

「やめてよね。本気でケンカしたら、ティアが私に(かな)うはず無いだろ」

 

「くっ、駄目だったか」

 

 ふ、雑魚が。

 レベルダウンしている奴を相手に負ける訳ないんだよなぁ。

 そして守るべきものがある奴は強い。正義は必ず勝つ!

 

 

「さあ、もう安心だよ、ナーベちゃん。

 ……ナーベちゃん?」

 

「ナーベがいない」

 

 

 返事が無いので振り返ってみると、いつの間にかナーベはいなくなってた。

 俺達が睨み合いをしている内に何処かへ行ったみたいだ。かしこい!

 

 

「ターリアの所為でナーベに逃げられた」

 

「ざまぁw」

 

「今回はカチンと来た、ターリアは必ず仕留める。覚悟しておけ」

 

「ヒェ」

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

 夕方。

 今日の行軍はここまでとし 野営の準備を始める。

 魔道具でパパッと寝床を作れるので、後は魔法などで警戒網を敷くだけだ。

 と言っても、商隊の人たちはそうも行かないので設営の手伝いをする。

 そのついでに積み荷の食品を幾つか購入する。

 商隊の護衛依頼はこういう時に便利だ。

 

 早速購入した食材を使って晩御飯の準備をする。

 意外かもしれないが、こういう時は大抵はガガーランが仕切る。

 単純に、ティアとかイビルアイに任せたら危険だから消去法でもあるんだが…。

 

 

 晩飯を調理している間は暇なので、仲間たちに腕相撲を挑む。

 『ゲヘナの炎』の時の経験値が身体に馴染んで、最近になって完全なレベルアップを果たしたのだ。

 ネオ・ニュー・ターリアの身体能力の成長具合をここで測ろうというわけだ。

 

 レベルダウンしたティアは瞬殺の楽勝。

 2Pカラーのティナも余裕の勝利。

 ガガーランには惜敗。レベルダウンしても筋肉は裏切らないという事か。

 イビルアイは…んにゃぴ。

 

 そして、対ラキュース戦。

 

 

「何故勝てんのだーッ!」

 

 勝負開始の位置からじりじりと、こちらの陣地へと俺の腕が押しやられていく。

 あの細腕の何処にそんな力が眠って居ると言うのか?

 

「筋肉達磨に負けたのは納得できる。10割戦士だからな!」

 

 完全に攻めと受けの体勢になった。

 相手はまだ余裕がありそうな顔をしている。

 

「だが、お前は私と同じ魔法戦士型だろうがッ!!」

 

 もう8割は持っていかれた。

 たのむ俺の筋肉!……呼び掛けに応えてくれ!!

 

「英雄の領域を越え、逸脱者の領域に足を踏み入れたこの私が負ける!?

 気持ち的には、もう第7位階魔法も使えるというのにぃ!!」

 

 ラキュースが習得している〈死者復活(レイズ・デッド)〉は第5位階魔法。

 それに対して、俺は第6位階魔法が使えるようになったから、確実にラキュースよりレベルが高いはずなのに。一体どうなっているのか。コレガワカラナイ。

 

「ぐぬおぉぉぉぉおおおお!!」

 

「ターリア、生き汚い」

 

「うるさいぞ2Pカラー!気が散るから黙ってろ!」

 

 今現在、手首を捻ることによって決定的な敗北を回避している。

 確かにティナの言う通り汚い手段だ。いやもう、実質敗北と言ってもいい。95割くらい敗北状態だ。だが、今は雌伏の時なのだ!俺は反撃の機会をうかがっているのだ!

 まあ、ここからの逆転は無理なんですけどね、初見さん。

 

 

「ヌゥン!ヘッ!ヘゥッ!ァ゛ア゛ア゛アアァァァァ゛!(目力先輩)」

 

「そろそろ、とどめを刺してもいいわよね?」

 

「ウ゛ア゛アアアァァァァ゛!!フウ゛ゥ゛ゥン!!(慟哭)」

 

「まったく、負けてからも煩い」

 

 

 強い!理不尽!

 これが鬼リーダーの鬼たる所以(ゆえん)よな…。

 

 あァァァんまりだァァアァ!と号泣し感情をリセット。ふう…スッキリしたぜ。

 

 

 

「ちゃんとバランス良く飯を食ってるか、ターリア?

 栄養が偏った食事ばっかりじゃ、大きくなれねえぞ」

 

 筋肉が言うと説得力が違うな。

 でも現在すくすくと成長しているから心配いらない。

 

「こいつは肉と甘い物ばかり食べていたぞ」

 

「イビルアイ!余計な事を言うんじゃあないぜッ!」

 

「なに?そいつはお仕置きが必要だなぁおい!

 おめえは目を離すとすぐ偏食に走るからなあ」

 

「うるさいんじゃい!若い内は何を食べても平気なんじゃい!」

 

 たとえ平気じゃなくても魔法でどうにかなるんだから、好きなもん食べて生きたらええねん!

 

 

 ギャーギャーと騒いでいる内に夕飯の準備が整った。

 鍋の中を覗き見る。う~ん、普通。しいて言うならば、食材の切り方が不揃いだったり少し煮崩れしていたりと、料理人の性格がよく表れている。

 

 

「ガガーランの料理は雑だからなぁ」

 

「文句を言うならやらねえぞ?」

 

「ウソウソ!いつも料理を作ってくれて感謝してるぜ、ママーラン!!」

 

「だれがママーランだコラ」

 

 

 ぶつくさ言いながらも食器に野菜スープをよそってくれた。

 雑だが栄養バランスの良い料理だ。そして、(いろどり)も悪くは無い。

 

 それでは、みんなで手を合わせて、いただきま~す!

 

 先ずスープを一口飲む。これが食通ってやつよ!

 

 

「この美味しくないけど安心する味。

 まさに実家の味って感じだな、ママーラン!」

 

「まったくよ、世話の焼ける生意気なガキだぜ」

 

 

 ガガーランは良いお母さんになりそうだな。

 というか、他のメンバーが酷いからマシに見えるだけかもしれない。

 『蒼の薔薇』で一番に生活能力が高いのはガガーランだからな。

 

 

 ラキュースとか嫁の貰い手が居なさそうだな!ガハハハ!

 お、大丈夫か?額に青筋浮かべてるけどw

 ちょ、ちょっとお待ちになって!お食事中にお暴力を振るうなんてお行儀が悪いことですのよ!(お嬢様)

 

 

 そしてティア!

 俺のスープに変な液体を混ぜようとするな!

 

 え?最初から入っていた?

 どうりでねぇ!

 妙に身体が火照ってると思ったわ!〈解毒〉!〈解毒〉!!

 

 

 

 久しぶりにメンバー全員が揃ったからか、今日は皆ではしゃぎたおした。

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

 道中は特に面白いことも無く帝都に到着した。

 エ・ランテルの物と比べても遜色ない城塞の内側に足を踏み入れる。

 

 帝都アーウィンタール。

 古めかしい王都と違って本物の都会だ。道路がきれいに整備されているという点だけで生きている時代が違う。

 帝都の奥の方には機能美を感じられる高層建築の並ぶ街並みが見えて、時代の先取りを感じられる。鮮血帝ってしゅごい。

 そして街の中央には皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスが居る皇城が見える。

 

 はぇ~、すっごい大きい。

 

 

「我々が良い宿を探しておく、『蒼の薔薇』は魔道具の方を見に行くといい」

 

「お、マジか。そいつは助かるぜ。

 でも良いのかよ?そっちもマジックアイテムを見に来たんだろ?」

 

「ああ、構わないとも。

 こちらは急ぎで必要な物など無い、帝国へ来たのは観光みたいなものだからな」

 

 帝都に入って少し進んだ所で、モモンが宿の確保を買って出てくれた。

 モモンからは俺たちと別行動を取りたいという雰囲気が出ている。これからフールーダに会いに行くんだろう。

 

 だが、イビルアイが空気を読まずにモモンに付いて行こうとする。もちろん阻止だ。

 

「私もそっちに──「イビルアイは私と一緒にマジックアイテムの目利きでしょーが!」──くっ…余計なことを…っ!」

 

 な~にが「くっ…余計なことを…っ!」じゃい!

 ちょっとは気を利かせんかい!

 

「それじゃ、モモンさんの厚意に甘えさせて貰いましょうか」

 

「魔道具の店の方は私たちが下調べしておくよ。

 それで明日、モモン氏たちを案内しようか」

 

 戦闘目的のアイテムは必要無いだろうし見飽きているだろうから、アインズ様が興味を抱きそうな日用品のマジックアイテムを扱っている店をピックアップしておこう。

 日用品のマジックアイテムと言えば、口だけ賢者なんていたな。プレイヤーなんだろうけど詳しい事は知らないから、これはイビルアイの分野だな。

 

 

「なあ、ターリアがいれば魔道具選びは問題無いだろう。

 やっぱり私は向こうに行っても良いんじゃないか?」

 

 もう話が纏まりかけているのに、尚も諦めないイビルアイ。

 最近は恋愛力が上がった(?)から調子に乗り出してるな。

 

「向こうもチームの予定がある」

 

「イビルアイは配慮が足りない」

 

「うぐぅ」

 

 だが忍者姉妹に撃墜される。

 たとえイビルアイがちょっと成長したところで、恋愛クソザコ社交性皆無ロリババア吸血鬼であることには変わりはない。

 

 

 イビルアイが大人しくなった所で魔道具が売っているであろう帝都の商業区へと向かう。

 見せてもらおうか、帝国のマジックアイテムの性能とやらを!

 

 魔法技術が王国よりも発展している帝国。

 今回の買物はちょっと楽しみだ。

 

 

 まずは観光を満喫しよう。

 

 

 

 

 


-ガガーラン

ママーラン

貴方をバブみです(洗脳)

 

誤字報告に感謝

 




書き溜めはお仕舞い


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15 しぅち

-前回のあらすじ

『漆黒』『蒼の薔薇』帝都に到着


 

 

 

 

 

 帝国魔法省の応接室。

 その中でも最上級の対応をするための部屋。まるで城の応接室のように豪華な調度品で飾られた部屋だ。

 

 滅多に使われることの無いこの部屋だが、現在は二人の客人『漆黒』のモモンとナーベのために使われていた。

 彼ら『漆黒』は王国に新たに誕生した三組目のアダマンタイト級冒険者チームで、冒険者の活動を始めてから瞬く間に幾つもの偉業を成し遂げた大英雄だ。

 会う約束などした覚えは無いが、かなり高位の魔法詠唱者だと思われる″美姫″ナーベと魔法談義ができるならと、後に控えている予定を放り出して面会に応じることにしたのだ。

 

 実際に会ってみたら″美姫″ナーベはその二つ名に名前負けしない美人だった。自分ですら一瞬、目を奪われる程だ。

 だが残念なことに″美姫″ナーベは探知防御をしているらしく、魔法の力量を測る事ができなかった。

 まあ仕方がない。力量を隠すというのはアダマンタイト級冒険者にとっては必要な事なのかもしれない。ナーベの魔法の力量については後で尋ねる事にしよう。

 

 

 挨拶もそこそこに面会の用件を聞く。それを聞き終わったら魔法談義だ。

 

「それで、今日はどういったご用件ですかな?

 それを聞き終わったらナーベ殿と魔法談義をしたいものですな」

 

「ああ、もちろん後で我々の魔法の力をお見せしよう」

 

 おおっと、いけない。思わず声に出てしまっていたようだ。

 

 …ん? 我々の?

 ちょっと引っかかる物言いだったが、モモンが言葉を続けたので些細な事は置いておこう。

 

 

「それで用件ですが、長い時を生きている貴方に聞きたいことがありましてね」

 

「なるほど。

 私に答えられる事なら何でも質問していただきたい。

 特に魔法の事ならば、私の知識はお役に立てるかと」

 

 魔法の事と聞いてナーベがこちらに(あざけ)りの視線を送ってきた。

 その態度に少し腹が立ったが、この程度で怒り出すほど自分は若くは無い。

 それよりも、こちらを(さげす)む事が出来るほどのナーベの自信に満ちた態度を見るに、想像以上の魔法の実力を、己に迫るほどの実力を期待してもいいかもしれない。この後の魔法談義が楽しみだ。

 

 

「では質問しよう。

 プレイヤーという言葉に聞き覚えは?」

 

「ぷれいやー?

 いや、聞き覚えはありませんな」

 

 アダマンタイト級冒険者が追う情報だから、遺跡か何かを示す言葉だろうか?

 

 聞き覚えが無いという答えを聞いて「ハズレか…いやその方が都合がいいのか」とモモンが言葉を漏らした。

 いったい何のことだ?

 そう問いかけようとしたが、先にモモンが動いた。

 

「…ナーベ。そろそろ指輪を外したらどうだ?」

 

「畏まりました」

 

 

 ナーベが指輪を外す。その瞬間───

 

 

 

 それからは、フールーダの常識、世界が破壊されることとなった。

 

 

 そして、今まで二百年間以上、待ち望んでいた願いが叶う可能性を得た。

 

 

 

 ───床に額をこすりつけたまま、歓喜の涙をこぼす。

 

 

 今日はなんて幸運な日なんだ!

 モモン()を師として仰ぐことを許された。

 

 失礼な態度を取らないように興奮の余韻を冷ましていると、師が自分に命じる。

 

「では、お前の忠義を試すことにしよう。

 法国の情報を知りたい。

 特殊部隊『漆黒聖典』の動きや、アンデッドを洗脳できる程の強力なマジックアイテムの有無だ。

 帝国が持っている情報を全て貰おう」

 

 早速、師の役に立つ場面が訪れて喜びが湧き上がるが、法国の事と聞いてすぐに萎んでしまう。

 法国の情報はほとんど上澄みのものしか得られていないのだ。

 特殊部隊に言及したりと、既にかなり深い情報を持っているらしい師にとって、そんな情報は全く価値が無いものだろう。

 

 不甲斐無さに苦いものがこみ上げるが、嘘偽りなく話す。

 

 

「かの国は秘密主義でして…。私も法国の持つ魔法技術について何度か調べたことがありますが、ほとんど成果を得られませんでした。

 私は(まつりごと)に疎いのですが、恐らく政治面でも似たようなものでしょう。

 後で詳しく調べてみますが、師の期待にお応えするのは難しいかと…」

 

「…そうか。

 帝国の上層部ならと思ったが…期待外れだったな」

 

 

 期待外れと言われて、背筋が凍る。

 

 ───師に失望された?

 

 何という事だ…。

 きっと今日がこの世の終わりに違いない!

 

 跪いて四肢を地につけているというのに、身体全体が揺れてバランスを崩しそうな感覚に陥る。見る景色も色褪せてグニャリと歪み、もはや自分が何処を向いているのかさえ分からない。

 

 

「そんな顔をするな。

 帝国が情報を持っていない事など想定内だ」

 

「流石はアインズ様。

 全ての事態は掌の上なのですね」

 

 

 自分は死刑宣告を受けたような顔をしていたのだろう。

 親が子供を(なだ)める様に、師が優しく声を掛けてくださった。

 こんな無能に心を砕いてくださるとは。その慈愛あふれる姿に感激する。

 

 

「さて、フールーダよ。

 先ほどはプレイヤーについては知らないと言っていたが…。

 六大神や八欲王、十三英雄の話に出てくる魔人のような強大な力を持つ存在、あるいは強力なマジックアイテムの情報なら知っているのではないか?

 やはり長く生きているのだから、そのような話の1つや2つはあるだろう?」

 

 

 さらに汚名返上の機会までもを用意して下さった。

 何て慈悲深いのだろう!

 これは気合を入れて自分の有用さを示さねば!

 

 

「では十三英雄の真実を。

 吟遊詩人が語る英雄譚では13人となっていますが、実際はもっと多くの数の───」

 

「その話は知っている。

 人間種以外の英雄が英雄譚から省かれているのだったな。

 それと、出来れば現在も生きている者の情報が欲しいな」

 

 

「で、では遥か南方の砂漠にある、八欲王が支配していた都市───」

 

「エリュエンティウか。

 強力なマジックアイテムが都市の守護者に守られているのだろう?

 それも知っているな」

 

 

「ならば、トブの大森林には魔樹の竜王───」

 

「ザイトルクワエだな。

 既に私が滅ぼした」

 

 

「す、凄腕の暗殺者集団───」

 

「イジャニーヤだったか?」

 

 

 価値があると思っていた機密情報がことごとく、既知のものだと返される。

 師にとって無用のものなら、それらは無価値に等しい。

 やがて、自分が持っている情報が尽きた。

 

 

「あ、あ……」

 

「……もう他に知っている事は無さそうだな。

 ふ~む、新しい情報は出てこなかったか」

 

 

 師が気落ちしたように少し肩を落として言葉を零した。

 

 また期待に応える事ができなかった。

 なにか、なにか師を喜ばせる、なにか無いのか?

 自分の持ちうるモノに必死に考えを巡らせる。が、絶望的な答えへと行き着く。

 

 

 ない、何もない。

 

 自分の人生はこんなにも無価値だったのか?

 

 喉から、かひゅー、かひゅーという音が漏れ出て鳴っていて煩い。

 無理やり空気を吸い込むが、うまく息ができない。吸っても、吸っても息苦しい。

 

 

「やはり、この下等生物には至高の御君の弟子たる資格が無いのでは?」

 

 ナーベ様が無様な自分の姿を見て吐き捨てるように言い放つ。

 その通りだ。もはや生きている価値すら無いのかもしれない。もう、この世から消えてしまいたいという思いが湧いてくる。

 もし師から破門を言い渡されたら、もう死のう。

 いや、どうせなら師の大魔法で葬って頂けないだろうか?

 

 

「よせ。我々に忠誠を誓った者を無下に扱うものではない。

 私が偶々知っていただけで、価値のある情報だったのは間違いない。

 知っていた情報と被ったのは、まあ、何だ……仕方あるまい」

 

「なるほど…流石はアインズ様。

 このような者にまで慈悲の心を見せていただけるとは、まさに大王の器かと」

 

 

 だが破門の心配は杞憂だった。

 

 おお、無能の自分でも師は見捨てないでくださるようだ。

 

 その寛大な心、まさに神!

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

 フールーダが口にした情報を全て叩き返す。

 

 知識で殴るのが楽しくて、ついやってしまった。

 

 しかし新しい情報を出せなかったフールーダも悪い。

 いや、それだけ冒険者モモンとして得た知識が多いという事か。

 やはり情報収集のためにナザリックの外に出たのは正解だったな。これだけの成果があれば、もうアルベドもうるさくは言うまい。

 

 

 それはともかく、問題はフールーダだ。

 自信満々に語り出した話が全部無用だと言われてしまい、一気に老け込んだような姿を見るとさすがにかわいそうになって来る。

 どれか一つくらい知らないふりをしてやった方が良かったかもしれない。

 

 

「やはり、この下等生物には至高の御君の弟子たる資格が無いのでは?」

 

 

 ナーベラルに追撃を食らいフールーダの瞳の輝きが弱くなっていく。

 もう、今にも永眠してしまいそうな雰囲気さえある。

 

 …少しフォローしておくか。

 

 

「よせ。我々に忠誠を誓った者を無下に扱うものではない。

 私が偶々知っていただけで、価値のある情報だったのは間違いない。

 知っていた情報と被ったのは、まあ、何だ……仕方あるまい」

 

「なるほど…流石はアインズ様。

 このような者にまで慈悲の心を見せていただけるとは、まさに大王の器かと」

 

 

 気の利いた上手い言葉を掛ける事は出来なかったが、干からびた老人の死体の様になっていたフールーダの瞳に光が戻る。どうにか息を吹き返したようだ。

 そして自信を取り戻してやるために簡単な役割を与えてやる。

 

「フールーダよ。丁度、私たちが必要としている情報が一つあるのだ。

 これは間違いなくお前が知っている情報だろう」

 

「そ、それは一体…っ!」

 

 フールーダがギラギラとした目で言葉の続きを待つ。

 よしよし。食い付いて来たな。

 もしフールーダが呆けた状態のままでいたら、この後に任せる仕事に差し支えが出てしまいかねないからな。少し気力を取り戻して貰わなければ困る。

 

 

「宿だ」

 

「へ? や、宿ですか?」

 

「そうだ。我々アダマンタイト級冒険者が泊まるに相応しい帝都の宿屋を探している」

 

「なるほど!それならば────」

 

 

 生気を取り戻したフールーダが凄い勢いで帝都の高級宿屋について語り始める。

 適当に相づちを打ちながら聞いてやると、活力を漲らせて聞いていない余計な事まで話し始めたが、気持ち良く話している様だから今はそっとしておいてやろう。

 

 

 帝都の宿泊施設について無駄に詳しくなった所で、今回ここに訪れた本題を切り出す。

 

 本題。

 それは、デミウルゴスの計画である。

 

 大まかな情報を手に入れた現在では、裏でコソコソと動いて情報を集めるというのは非常に効率が悪いものになりつつある。

 そして少数による情報収集では、問題が起きた時にとれる対処の幅が狭まってしまう。

 

 だからこそ提案されたのが建国だ。

 

 作戦内容は気に入らないが、ナザリックが建国するメリットは多い。

 自分では代案を用意できないのだから、デミウルゴスの計画を認めるほかない。

 

 心の奥底に燻ぶる不快感を押し殺してフールーダに告げる。

 

 

「では、次の指令だ。

 我が居城に生け贄を送るのだ───」

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

 アインズ様たちが別行動を始めたので、俺たち『蒼の薔薇』も当初の目的を達成すべく魔道具の店を見に行く。

 

 ひとまず、何でも揃うという中央市場に来てみたが…。

 人が多すぎる!

 流石は帝都。大都会だぜ。

 そしてここに置いてあるのは日用雑貨がメインなので、マジックアイテムを見つけても目的にそった物では無い。

 

 このまま闇雲に探しても埒が明かなさそうなので、強者の雰囲気が出ている露店のおばちゃんからマジックアイテム店のおすすめを教えてもらう。

 おばちゃんと少し世間話をしてからお礼を言い、ケバブサンドを買って仲間たちのもとへ戻る。

 

 昼食用に買ったケバブサンドだが、一応イビルアイの分も用意しておいた。食べることは滅多に無いが、食べられないわけではないからな。もし余ってもガガーランが処理してくれるから問題無い。

 いつも要らないと言う癖に、自分の分が用意されてないと寂しそうにするんだよな。

 

 

「お、旨そうじゃねぇか。

 お前はアタリの露店を見つけるのが上手いよな」

 

「いい店を見つけるコツは、強そうだけど戦い慣れて無さそうな人を選ぶことさ。

 それで聞いた話では、マジックアイテムなら北市場に行けってさ」

 

 

 というか、こういう調査って忍者シスターズの仕事じゃない? 何故に俺がやっているのだろうか…。

 あの2人は市場に着いて早々に何処かへ消えてしまってな。お~い、協調性~。

 まあ、忍者アイテムの補充に行ったのだろう。

 

 

 昼食を食べて早速、北市場へ向かう。

 こっちは人通りが落ち着いている。これならばゆっくりと魔道具漁りができるな。

 

 お待ちかねのショッピングタイムだが、マジックアイテムを目利きする合間に紙とペンを用意して、品揃え、品質、値段の情報をまとめて、それぞれの店の評価を大まかにつけている。

 後で『漆黒』を案内する時のために、店ごとに点数を付けて格付けをしているのだ。こういう細やかな気遣いが出来るから、俺は慕われているのだ(自意識過剰)

 しばらくすると、アダマンタイト級冒険者が採点を行っているという話が広がったのか、途中からお店の人に凄く丁寧に接待されるようになった。ちょっとお得な気分!

 

 

「10点。45点。20点。2点。50点。30点。

 ……帝国の魔法技術と言っても所詮こんなもんか♦(強者感)」

 

「ちょっと、ターリア!

 恥ずかしいから、そういうのは止めてくれる?」

 

 

 おいコラ!

 ネタの途中で割り込むんじゃあないぜッ!!

 だいたいお前の中二病も似たようなモノでしょーが!

 

 ラキュースを無視して強者感ピエロのなりきりを続ける♠

 

「ッ! 95点…!!」

 

「なんで自分の装備を採点して驚いているのよッ!?」

 

 ツッコミの力量を上げたようだね♥

 

 

 それはともかく、調査した結果だが、王国と比べると使う頻度の高い消耗品や日用品が安い。

 ポーション、魔法のスクロール、魔法のワンドなんかは王国で買うよりも確実にお得だ。

 だが高級品はほとんど変わらない。これは仕方がないね。

 

 市場の奥へと進んでいくと大きな店は無くなって、冒険者やワーカーが中古品などを売る露店だけになった。

 中古品という事でやはり安いのだが、明らかに品質が悪いものも転がっている。完全に玄人向けの市場だ。だから、周りに居る客もそこそこ腕の立つような奴らばかりだ。

 ここら辺は入れ替わりが激しそうだから採点の必要はもう無いな。

 

 

 そして、いつの間にか忍者シスターズが合流していた。

 

 

「おー、どこ行ってたんだ、お前らよー?」

 

 こいつらが居ればマジックアイテム選びが楽になったものを。

 まあ、忍者アイテムは裏のお店でしか手に入らないのだろう。もう許せるぞオイ!

 

 何処に行っていたんだと言う俺の問いに2人は顔を見合わせてから答える。

 

 

「「娼館」」

 

 

「おまえーっ!!」

 

 

 おまえーっ!!

 

 

 

──────

 

 

 

 北市場を一通り見て回ってやるべき事はだいたい終わらせた。

 

 

 中央へと引き返しているところでモモン達と合流。

 時間も良い感じだし今日の散策はお終いにして宿へと向かう事になった。

 

 そうしてアインズ様に案内された帝都最高級の宿屋は、多くのサービスを受けられるような機能的な高級店と言った感じで、娯楽設備もかなり整っているようだった。

 

 おお~、ええやん! 今日は遊び倒したろ。

 

 興味が無いという振りをするが、イビルアイもこういう遊戯設備とかが大好きだ。特に子供向けの玩具とかは滅茶苦茶に喜ぶ。伊達にロリはやってねぇぜ!

 

 

 店の前に来たところで警備員の人が応対をするために出てきた。

 警備員の兄ちゃんはズラリと並ぶアダマンタイト級プレートを見てビビってる。

 

 

「お帰りなさいませ、モモン様。

 お連れの方々が『蒼の薔薇』の皆様という事で間違いございませんでしょうか?」

 

「ああ、そうだ。

 まだ一泊もしていない客からの紹介なんて可笑しな話だが、問題無いな?」

 

「はい、問題ありません。

 ようこそ、いらっしゃいませ。『蒼の薔薇』の皆様。

 私が受付までご案内させていただきます」

 

 

 お店には既に話を通してあるようだ。流石はアインズ様!

 

 革鎧を装備したガタイの良い兄ちゃんの先導に付いて行き、受付まで向かう。

 

 式場の様な大理石の床が敷かれたエントランスホールに入ったところで〈清潔(クリーン)〉の魔法を発動させて身だしなみを整える。高級店に入るのに小汚いままだと恥ずかしいからな。

 それを見たガガーランが俺に詰め寄って来た。

 

「お、ずりぃぞ。俺っちにも魔法を掛けてくれや」

 

「しょうがねえなあ(悟空)」

 

「私にもお願い」

 

 ガガーランを皮切りに皆が私も私もと言ってくるので結局全員に掛けた。

 いや、自分で魔法を使える奴は俺に頼むなよ…。

 

 

「…我々にもお願いできますか?」

 

「あ、いいっすよ(素)」

 

 なんと、アインズ様も便乗してきた。

 ″我々″と言うことなのでナーベちゃんにも〈清潔(クリーン)〉を掛ける。

 ナーベさんはそういう魔法を習得していらっしゃらないのですか?あっ、ふ~ん(察し)

 

 

「…無効化はされないようだな。

 ふむ、なかなか悪くはないな」

 

 

 先輩、気持ちいいっすか~?

 

 嫉妬の視線をナーベから感じる。このツンツンした感じ…久しぶりだな!

 アインズ様は「感謝する」と軽く頭を下げてから、俺が使った生活魔法についてブツブツと考察している。

 ナーベちゃんも俺を睨みながらぺこりと頭を下げる。こういう姿好き!

 

 ついでに先導の兄ちゃんにも魔法を掛けておく。仲間外れは寂しいもんな…。

 兄ちゃんは「恐縮です」とお礼を言ってきた。おう、良いってことよ!

 

 

 全員がスッキリと清潔で爽やかな状態で受付に到着。

 アインズ様たちは既に部屋を決めているみたいなので、受付に用が有るのは俺たちだけだ。

 

 そして受付に構えている品の良い紳士だが、〈清潔(クリーン)〉でサッパリした俺たちに負けず劣らずのセレブ力を漂わせている。こいつ…出来るな…ッ!

 そんな紳士相手に物怖じせずにラキュースが颯爽と切り込む。

 やはりこういう場には馴れているな。流石はラキュース。さすラキュ!

 

 

「6人部屋を頼めるかしら?」

 

「はい、問題ありません。

 6人部屋という事でよろしければ、すぐに準備させていただきます」

 

「じゃあ、それでお願いするわ」

 

「畏まりました。

 部屋の準備が整うまで、ラウンジバーをご利用ください」

 

 

 泊まる部屋をさっさと決めて待合室へ向かう。

 

 ラウンジバーにアダマンタイト級冒険者がずらずらと入って来たので他の客から注目を浴びる。

 美女7人(ガガーランは内面が美女なので数に含める)を侍らせているから、モモンに向けられた好奇や嫉妬の視線が多い。

 

 …よく考えたらアインズ様って、美女に囲まれたラノベの主人公みたいな事になってんな。そういえば、オーバーロードってラノベだったわ。

 

 ハーレム系主人公は去勢されろっ!

 

 …アインズ様は無くなってたな。ならばセーフ!!

 

 だけど皆様と俺様の嫉妬心が消える訳ではないので、ちょっと茶化してやる。

 皆が席に着いて適当な注文をしたところで、アインズ様にニヤニヤといやらしい顔を向けながら言う。

 

「モモン氏の帝国で一番初めの偉業は、たくさんの美女を侍らせた事になりそうだね。

 これは、英雄色を好むと噂されそうですなぁ!」

 

「それは…っ。

 …少し困るな」

 

 おおう、割とガチめの反応だな。

 てっきり「冗談はよしてくれ」って返ってくると思ってたぞ。

 

 

「あら、そんな噂が広まったら、私は嫁の貰い手が居なくなってしまうわね。

 そうなったら責任を取って貰わなければいけないわね」

 

 ラキュースがあくどい貴族フェイスで悪乗りしてきた。

 童貞相手に鬼畜ですなぁ!

 そんなんだから鬼ボスとか言われるんだぜ!

 

 そしてナーベちゃんは複雑そうな顔をしている。あわよくば自分も、とか思っているに違いない。少しばかり期待の視線をアインズ様に送っている。

 よしよし、ナーベちゃんも大分俺たちに毒されてきたな。

 

 さあ、この状況。

 アインズ様はどう対応するのかっ!?

 

 

「なっ!ずるいぞ!ラキュース!!」

 

 だが釣れたのはイビルアイだった。

 何を言ってんだこいつは…。

 

 

「……悪い冗談でからかうのは止めていただきたい」

 

 そして、アインズ様の返しも面白くない。

 生温い空間に沈黙がプッカリと浮かぶ。

 これはいかんな、空気を換えなければ。

 

 

「あ、そうだ(唐突)

 モモン氏たちが魔道具を見て回る時の参考にと思って、それぞれの店ごとに情報をまとめたんだ。

 よかったら、これ、使ってよ」

 

「何やらコソコソとしていると思ったら、そんな物を作っていたのか…」

 

「へぇー。なかなか様に成ってんじゃねぇか!」

 

 

 マジックアイテム店巡りをした時に作成した、北市場の格付けガイドブックをアインズ様に渡す。

 アインズ様の為に気合を入れて作ったから、割と自信作である。

 

「おお、これは助かる。

 ありがとうございます、ターリアさん」

 

 ガイドブックを受け取ったアインズ様はパラパラと頁をめくり軽く目を通す。

 せっかく頑張って作ったんだから感想を聞きたいところだ。

 

「どれか気になる情報とかあるかな?」

 

「え?あ、いや……。

 …後でじっくりと読んで検討をしようと思います」

 

 えぇ…。(困惑)

 何かアインズ様の反応が良くないな。どこか書き方が悪い部分でもあったか?

 

 

「…これは、ナーベに渡しておこう。よく読むといい。

 マジックアイテムに関しては魔法詠唱者の方が詳しいだろうからな…」

 

「畏まりました」

 

 

 ああ、なるほど。

 アインズ様は文盲だったわ。こりゃ盲点。

 

 最終的にガイドブックはナーベの手に渡った。無念。

 

 

 話が途切れたところでタイミングよく店員さんが現れた。

 

 

「お客様、お部屋の準備が整いました」

 

 

 以上。閉廷。みんな解散。

 

 ということで、今日は遊戯施設を遊び尽くしたら、もう寝よう。

 

 

 

 


-フールーダ

オリ主たちが知識をバラマキしたので、相対的に価値ダウン。

魔法開発キャラとしても被っているんだよなぁ。

故に、ジジ虐。

強く生きて…。

 

 

誤字報告に感謝

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16 口だけ賢者

-前回のあらすじ

『蒼の薔薇』魔道具店を見て回る。

フールーダおすすめの帝都最高級宿屋に泊まる。


 

 

 

 

 

 『蒼の薔薇』の朝は早い。

 まあ、暇を持て余したイビルアイが、日の出とともに俺たちを起こすからなんだが…。老人と子供の朝は早いと言うが、吸血鬼もその例に漏れないと言うことだな。

 

 帝国風のブレックファーストを済ませた後は、お洒落な待合室で優雅に足を組んでコーヒーを飲み、新聞を読み耽る。

 まあ、読んでいるのは新聞ではなく、広告チラシなんだけどね。

 

 しかしながら、こんな使い捨ての様に紙を利用できるなんて、帝国は紙の生産が盛んなようだ。

 その一方、王国でチラシを大量に配るなんて事はほぼ無い。精々が張り紙だ。それと高級紙も貴族がほとんど独占しているため入手しにくい。

 だが、この宿では高位の生活魔法で作られる高級紙がチラシに使われている。

 

 この紙の事だけを見ても王国と帝国の差が見える。

 

 

「ここまで政治の差を見せ付けられると、王国民としては嫌になっちゃうね」

 

「鮮血帝は有能。大粛清を行なったのにほとんど国力を下げて無い」

 

「鮮血帝は有能でイケメン。10歳若かったらホイホイとついて行ったね」

 

 ジルクニフ君は色々と恵まれ過ぎてるよな。

 まあ、ナザリックの前ではまるで無意味なんだよね。

 

 

「下々の民としては帝国に支配してもらった方が幸せだよね」

 

「王国は(ろく)でもない貴族ばかりだからな。

 魔法の力を軽視している愚か者共の集まりだ」

 

「…一応は私も王国の貴族なんだけど。それを私の前で言う?」

 

 貴族の実家を出奔した鬼リーダーさんは碌でもない貴族の筆頭でしょーが!

 そう言おうとしたら、ラキュースから恐ろしい微笑みが飛んで来たので口を閉じる。

 

 

「私達には王女様がいる。最後の希望」

 

 糞レズの視点で最後の希望ですね。わかります。

 

「確かに王女さんは王国の良心だけどよ」

 

「王女様は根回しが下手だからほとんどの政策が空回り」

 

「ラナーちゃんも権力を持って無いから、結局は王国を変える事は出来ないのさ」

 

 ラナーは最初から王国を立て直す気なんて無いしな。

 むしろ帝国に優れた政策を教示している節さえある。

 おそらく最初のプランではジルクニフを協力者にするつもりだったんだろうな。

 

 

「私の親友の悪口はやめて。

 ラナーだって上手く行かなくて歯痒い思いをしているんだから」

 

 それ演技やでw

 皆さん見事に騙されていらっしゃる。

 ラキュースはラナーの本性に気付きそうになる描写があったと思うけど、そこで友人補正が働いてしまって結局は真実を見抜けないんだよね。

 

 

「そういえば、クライムが寂しがっていたわよ、ターリア。

 弟子の修業を放ってエ・ランテルへ遊びに行くなんて、イケない師匠様ね?」

 

 ああ、クライムとかすっかり忘れていたわ。

 原作で才能が無いと明言されちゃってるから、やる気が萎えちゃうんすよね。

 まあ、当初の予定通り、才能の壁を超えられるかの実験材料だな。とりあえず、英雄の領域に至ったら実験成功と考えていいだろう。

 

 

「いやぁ、モテる師匠はつらいね」

 

「師弟関係を結んだんだ。

 最後までちゃんと面倒を見てやれよ?」

 

 そんなペット拾ったみたいに言うなよ。

 まあ実際、ラナーのペットみたいなモノだけどさ。

 

「いや、元々はもう帰ろうと思ってたんだけどね。丁度良くモモン氏が帝国に行くって話を聞いちゃったからさ。思わず便乗しちゃったぜ。

 今回の帝国観光が終わったら王都に帰るよ」

 

 そしたら地獄の修業でクライムを可愛がってやるか。

 

 

「何?王都へ帰るのか?

 そうしたらエ・ランテルには私一人か。寂しくなるな」

 

「な~に言ってんだ。イビルアイも帰るんだよ!

 モモン氏とはもう十分に仲良くなっただろう?」

 

 正直、イビルアイを独りにしておくのはアインズ様関連を抜きにしても心配だ。

 こいつの社交性の足りない尊大な態度は『蒼の薔薇』の悪評を広めかねない。

 と言うか、既に『蒼の薔薇』には変な噂が立ってるんだよなぁ…。多分、俺の奇行も原因の一つだと思うんですけど(名自省)

 

 

「いいや。私は帰らんぞ!

 最近はモモン様と良い感じなんだ。だからこのまま結婚までいくぞ!」

 

 駄々を捏ねるイビルアイ。

 

 はぁ~~~(クソデカため息)

 ガガーラン、言ってやれ。

 

 俺の視線を受けたガガーランが、面倒くさそうに肩を竦めながらイビルアイに告げる。

 

 

「イビルアイよお。

 しつこく付きまとうのは、そりゃストーカーだ」

 

「なっ!?」

 

 ショックを受けるイビルアイ。

 

「わ、私の愛はストーカーとは違う!

 私はストーカーでは無い!!」

 

「ストーカーは皆そう言うんやで?」

 

「そんな馬鹿な…っ!」

 

 

 アインズ様もここ数日は居心地が悪かっただろう。でも、貴重な情報を持っているから強気には出られない。

 ストーカーの沼っていうのは、そうやって嵌っていくんですね。

 

 実際、ストーカーされるのはツラいぞ。(ティアを見ながら)

 だからアインズ様をいじめるのはそろそろ止めてあげようね!

 

 

「今回の買い物の出費もあるし、そろそろお仕事しないとね」

 

「ガガーランとティアの特訓の手伝いもしてもらうわよ」

 

 ガックリと項垂れるイビルアイ。

 

 

 

 全員の王都への帰還が決まったところで、顔を上げると漆黒の鎧の姿が見えた。

 モモンとナーベが待合室に入ってきた。

 

 

「すまない、待たせてしまったようだな」

 

「気にしないでください。

 うちはイビルアイが早起きなだけですから」

 

 モモン登場。中身が入れ替わっていなければアインズ様だ。

 俺たちが寛いでいるテーブルまで来て軽く挨拶を交わすとリーダー同士の世間話を始めた。今日のマジックアイテム散策など、これからの予定について話している。

 

 丁度良い機会なので、改めて俺が作ったガイドブックの感想をアインズ様に聞いてみる。

 渡した時には感想を聞く事ができなかったが、その後で翻訳メガネを使って読んだだろうからな。

 

 

「私の作った格付け本は参考になったかな?

 見て回る店が決まったなら案内するよ」

 

「ああ。分かりやすくまとめられていて、この本はとても役に立った。

 それで、今日は日用品のマジックアイテムを見て回ろうと思う。

 戦闘用の魔道具は間に合っているからな」

 

 アインズ様から高評価を頂いた。やったぜ。

 そして予想通り日用雑貨のマジックアイテムに興味を示した。

 

 

「なら、そこを見て回った後は掘り出し物を探して露店ね」

 

「ああ、それで問題無い」

 

 俺も掘り出し物を探してみようかな?

 魔道具自作用の素材で良いものが有ったら買おう。

 それでユグドラシルで再現不可能なアイテムを作ってアインズ様を喜ばせたる!

 

 

「私たちは今日の買い物でマジックアイテムの補充は終わりにするわ。

 後は帝都を適当に散策する予定だけど、モモンさん達は他に何か予定はあるかしら?」

 

「予定は特に決まっていないが、我々も数日は帝都を色々と見て回ろうと考えている。

 そのあとは冒険者組合に顔を出して、何か依頼を受けようと思う」

 

「なら、その時に私たちも一緒に冒険者組合に行った方が面倒が少なそうね」

 

 

 よしよし良い感じに今後の予定も決まったな。

 ならば後顧(こうこ)の憂いなし。

 

 さあ、北市場へ出発だ!

 

 イクゾー!デッデッデデデデ!カーン!デデデデ!

 

 

 

 

 という事でやって参りました。北市場。

 

 今回、品定めするのはこの商店っ。

 この魔道具店はアインズ様の品定めに耐える事ができるでしょうか?

 

 この店は″口だけの賢者″の考案したアイテムを数多く揃えている。

 ガイドブックにもそう書いておいたからアインズ様もここを選んだのだろう。

 

 店に入って早々に気になる物を見つけたアインズ様が、前世で見たような姿形のマジックアイテムに食い付く。

 水道の蛇口の様な魔道具を弄り回しながらアインズ様が問う。

 

 

「これは″口だけの賢者″の考えたアイテムという事だが…。

 なぜ、このような形になったのか理由はあるのか?」

 

「そのアイテムを考えた本人も上手く説明できなかったらしいね。

 だから″口だけの賢者″なんて呼ばれてるのさ」

 

「ああ…。

 口だけってそういう意味か……」

 

 他にどんな意味が在るんですか?

 

 …もしかして、唇だけの異形モンスターを想像していたのか?

 勘違いするアインズ様、ちょっと可愛いな。

 やはりアインズ様がヒロイン…。

 

 

「″口だけの賢者″はミノタウロスの戦士で、物凄く強かったらしいよ。

 人間の待遇を良くしたり、手術を考案したりと、価値観が普通とは大きく違っている事も考えて見ると、″口だけの賢者″は六大神と同じ()()()()かもしれないね」

 

「なるほど、やはりそうか…」

 

 ふむふむと頷くアインズ様。

 また1つプレイヤーらしき存在の痕跡を見つけましたね!

 

 推定プレイヤーの″口だけの賢者″。

 詳しく説明したい気持ちは山々なんだが、今言ったこと以外はよくは知らない。

 だが、こういう時のためにロリババアが居るのだっ!

 

 

「イビルアイは詳しいんじゃないか?」

 

 ″口だけの賢者″が現れた200年前は丁度イビルアイがブイブイ言わせていた頃だ。きっと色んな裏話を知っているに違いない。

 得意分野になると饒舌になるイビルアイが、知識マンは頼られ過ぎてつれーわー!という態度をしつつ、当時の話を語り出す。

 

 

「まあ、私も直接見たわけではないがな。

 当時に伝え聞いた話では、斧の一振りで竜巻を発生させ、その一撃は地割れを起こしたという。

 かの者が現れてからミノタウロスの国は戦では負けなし。

 さらに文明レベルが引き上げられて大繁栄。一気に強国の仲間入りだ。

 それと、食料でしかなかった人間の扱いが奴隷階級まで引き上げられたというのも本当だ。そのおかげで人間国家との交流が始まったんだ。

 私がミノタウロス国の情報を得る事ができたこと自体が″口だけの賢者″の功績だな」

 

 

 はぇ~。やっぱプレイヤーってすごいっすね! 功績がデカすぎる!

 ラノベの主人公ムーブかますとか、こいつすげぇ変態だぜ?

 完全に人外転生もの小説のお話じゃん!

 

 

「そのミノタウロスの国は何処に在るんだ?」

 

 アインズ様が国の位置を聞く。

 これは、ナザリック軍で遠征しますね、間違いない。

 

「大陸中央部だ。

 まあ、手軽に行ける距離では無いな」

 

「そうか…それは残念だ。

 いつか見に行ってみたいものだな」

 

 あ、意外と遠かった…。

 俺も見に行ってみたかったんだけどな~。

 アインズ様が転移門(ゲート)とかで連れて行ってくれれば楽なんだけどな~。

 

 

「じゃあ、私たちと一緒に冒険に行こうよ」

 

「その時は私が案内しよう!」

 

「冒険か……。

 まあ、今は身の回りの問題を片付けなければな」

 

 

 身の回りの問題(法国)

 アインズ様にはパパパッと、この辺りの地域を平定して欲しいところだ。

 そうしたら念願の、魔導国の支援を受けながら世界観光ができるぞい!

 

 

 アインズ様は幾つかマジックアイテムを買うと満足したようだ。

 

 次は露店で宝探しだ!

 

 

 俺は前世の子供の頃、″赤縞シャツ男を探せ!″の絵本が大好きだったのだ。だから、俺は宝探しが大の得意なのである(絵本と現実を一緒にしてはいけない)

 ということで、露店エリアに入って早々に見つけました、掘り出し物。

 

 この野性味が滲み出るおじさんが売り出しているのはモンスター素材。

 それも、夜行性で滅多に捕まえる事の出来ない、珍しい狐型モンスターの毛皮だ。

 

 彼は狩人だろう。毛皮に目立った傷もない事から、恐らくは罠師だ。

 狩人は下手な冒険者より強い事が多い。この野性味が滲み出るおじさんもミスリル級冒険者くらいの実力がありそうだ。綺麗に剥がされたこの毛皮から玄人の(わざ)が垣間見える。

 

 ふむ、皮なめしに使われた錬金液の質も悪くない。これは買いじゃな。

 しかし、毛皮とかは鍛冶系の市場で売った方が良いんじゃないかと疑問に思っていると。

 アンタみたいなのが高く買ってくれるからな。っと、ニヤリと笑みを見せておじさんが去って行った。…なかなかクールな奴だったぜ。

 

 

 いつになく真面目に宝探しに取り組んでいるが

 実は掘り出し物を見つける事だけが目的では無い。

 

 もう一つの目的。

 それは、原作キャラのワーカー探しである。

 ここで『フォーサイト』と出会ってアインズ様と知り合いになれば、アルシェ尻尾ルートに大きく近づけるだろう。

 

 そして、真剣に探すこと幾時間…。

 

 いました! 原作キャラ!

 

 

 『天武』 エルヤー・ウズルス

 

 

 なんでや!!

 

 でも、仕方が無いんだ。

 金髪の剣士とか魔法使いとか彼方此方(あちこち)に居るから、知り合いでもない他人の『フォーサイト』とか見つけられるわけ無いんだよなぁ…。

 

 それに対して、天才剣士エルヤー。

 なんと、奴隷のエルフを連れています! もう、目立つのなんの…。

 今回もエルフを一人連れていて、そのエルフの娘に暴力を振るったところを目撃したガガーランがエルヤーに突っかかって行ったのだ。

 

 

「なんですか、貴方たちは?

 私は奴隷の躾に忙しいのですよ。邪魔しないでいただきたいですね」

 

「だったら、もう充分だろうがよ!

 それに、そいつらは何も悪くねえだろ!」

 

「私のチームの方針に口を挟まないでほしいですね」

 

「この野郎…!」

 

「よしなさい、ガガーラン」

 

 

 エルヤーに掴み掛ろうとしたガガーランを押しとどめる。

 そんな風に騒いでいるもんだから、衛兵がやってきてこの場はうやむやになった。

 

「ちっ、胸糞悪い野郎だぜ」

 

 憤慨するガガーラン。分かるわ、その気持ち。

 

「闇討ちを仕掛ける」

 

 ティアが言うと洒落にならん。

 …マジっぽい雰囲気出しているけど、冗談だよね?

 

「止めなさい。私達ではどうしようも無いわ。

 もう、会うことも無いでしょうから、忘れましょう」

 

 

 残念ながら、そうはいかない(諸行無常)

 アインズ様について行ったら、また会う事になるんだよなぁ。

 次に会う時は絶対に雰囲気が悪くなる。

 

 憂鬱だなぁ。

 

 

 

 


-ティア

ストーカー。オリ主の天敵。隙あらば()()()()に来る。

オリ主が『蒼の薔薇』のメンバーになったばかりの頃にレズカップルが成立しかかる。

ベッドで服を脱いで、あわやR18!!って所で、オリ主が「やっぱり無理」って逃げ出す。

お楽しみ直前でお預けを食らったからか、それ以来オリ主の身体を執拗に狙ってくるようになった。

 

誤字報告に感謝

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17 帝都に別れを

-前回のあらすじ

アインズ様″口だけの賢者″が考案したアイテムを買う


 

 

 

 

 

 

 魔法省の一室。

 長時間のデスクワークをするための部屋だ。用意された椅子はクッションが柔らか過ぎず硬過ぎず良い塩梅のもの。そして疲れた体を伸ばすのに邪魔にならないよう無駄な装飾でゴテゴテしていない。

 フールーダは運び出した書類が机の上へと乱雑に置かれた部屋の中で法国の調査資料を読み返していた。

 

 

 確認し終わった書類を横に退けて、疲労が溜まった目を休めるために顔を上げる。

 

 目を閉じて思い返すのは先日のこと。

 あの時、自分の持つ情報では師の期待に応える事が出来なかった。

 師は「気にする事は無い」と仰ってくださったが、それに甘んじているようでは弟子失格だ。そんな様ではいつか見捨てられるだろう。

 

 失望されることを想像して身震いする。

 

 作業を妨げる余計な思考を捨て、意識を手元の資料に戻す。

 

 

 やがて、それなりの厚さがあった書類の束を全て読み終えて長い息を吐く。

 やはり碌な情報が無い。

 数少ない重要な情報を書き写したが、果たしてこれが何処まで師の役に立つだろうか。せめて無駄にならない事を祈るばかりだ。

 

 

「師よ」

 

 調べものに一段落着き、席を立ったところで弟子の一人から声が掛かる。

 何事かの報告があるようだ。

 

 

「どうした?」

 

「アダマンタイト級冒険者の方々が師に面会を求めておられます」

 

 アダマンタイト級冒険者と聞いて思い浮かんだのは『漆黒』だ。

 もしかして師がいらっしゃったのか?

 

「先日にいらした方々か?」

 

「いえ、王国の『蒼の薔薇』です。

 魔法詠唱者であるイビルアイ様とターリア様がお見えになっています」

 

 

 会いに来たのは師のチームでは無い?

 では、会う必要は無いか…?

 …いや、同じ時期に訪ねてきた王国のアダマンタイト級冒険者だ。無関係である可能性は低い。…会ってみるべきだな。

 

「分かった、あの応接室にお通しせよ」

 

 

 

 急いで身だしなみを整えて、魔法省で最上級の応接室に向かう。

 部屋の前で己の身なりの最終チェックを済ませ、扉をノックして入室する。

 

 

 部屋に居たのは二人の少女。

 流石はアダマンタイト級冒険者と言うべきか、身に着けている装備はどれも一級品の様だ。華やかさこそ無いが、この煌びやかに飾られている応接間に埋もれない輝きがある。

 それらは『蒼の薔薇』が積み上げてきた数々の偉業、功績の大きさを示し、彼女たちの冒険者としての能力が確かなモノであると確信させられる。

 そして、彼女らの魔法詠唱者としての力量もこの眼(タレント)が教えてくれる。

 

 紺色の髪の少女、ターリア。

 王国の孤児院出身で親は不明。10歳に満たない頃から冒険者活動を始める。

 魔法詠唱者としての才能を開花させ、ソロの上級冒険者として名を上げた。

 のちに『蒼の薔薇』に加入。

 

 そんな彼女は第6位階ほどの魔法の力を持つようだ。

 

 

「ほぉ、この私に迫るか」

 

「…並んだと思っていたけど、まだ向こうの方が上か。

 流石は帝国の切り札。やりますねぇ!」

 

 

 未だ成熟しきっていないような少女が自分と同じ領域に居る。

 帝国が持つ情報に間違いが無く、彼女が見た目通りの年齢であるならば恐ろしい才能だ。

 

 

 そして、もう一人。

 来歴不明のイビルアイ(邪眼)という偽名を名乗る少女。

 いや、少女と言うよりは子供か、あるいは背の縮んだ老人と言った感じだが…。

 その仮面の少女イビルアイからは、第7位階の力量に相当する魔法のオーラを感じられた。それも、もう次の領域に足を踏み入れようかという力強さだ。

 

 

「なんと!

 魔神級の力を持つと言うのかっ!?」

 

「ふん、あのババアと同じ位はできるようだな」

 

 

 第7位階魔法とは大儀式を用いて行使されるものである。

 それを習得しているなんて、もはや人外の領域だ。

 あるいは、彼女は本当に人間では無いのかもしれない。

 

 『蒼の薔薇』、これ程の力を持つとは…。

 復活魔法が使えるというリーダーを含めて、他のアダマンタイト級冒険者とは格が違う。彼女らを超える冒険者は、師のチーム『漆黒』の他には無いだろう。

 その気になれば、王国など如何とでも成るだろうに…。

 つくづく冒険者が国家の問題に不干渉という規定があってよかったと思う。

 

 

 出会い頭だというのに、気が付けば互いに力量を測り合っていた。

 一通り比べ合って、ふと冷静に戻ったところでお互いに顔を見合わせて苦笑し(一人は仮面で分からないが)改めて自己紹介を交わす。

 

 

「それで、今日はどういったご用件でしょうか?」

 

 挨拶もそこそこにして、二人に用件を聞く。

 もし、師に関係する話なら最優先で事に当たらなければならない。

 

 ターリアがニコリと愛嬌のある笑みを浮かべて口を開く。

 

「せっかく帝国に来たのですから、帝国最高の魔法詠唱者であるパラダイン様と魔法談義でも出来ればと思いましてね。

 アポイントメントも無しに押しかけて申し訳ないです」

 

 そう言って軽く頭を下げるターリア。

 アダマンタイト級冒険者は非常識な奴らばかりだと聞くが、()()()ほんの少し良識があるようだ。

 

 そして用件は、魔法談義をしに来ただけみたいだ。

 なんだ、師は関係無いのか…。

 もちろん、己と同等以上の魔法詠唱者の話を聞く事ができるのは嬉しい。

 

 

「おお、魔法談義ですか。

 それならばこちらも歓迎するところ」

 

 師とは無関係という事ならば、それはそれで結構。

 それならば心置きなく魔法談義に挑めるというものだ!

 

 給仕を呼び長時間の論議に耐えうる量の飲み物とお茶請けを運ばせる。

 さあ、これで準備万端だ!

 

 

 

 

 そうして始まった魔法談義は、とても有意義なものになった。

 

 彼女たちが言うには、研究や特訓で鍛えるよりも強敵との実戦を経験したほうが成長が早いらしい。それならば、魔法省の管理を高弟の誰かに任せて、自分は冒険者の様にモンスター退治に出てみるのも良いかもしれない。

 そして、視点の異なる魔法理論を聞いて、新しい考えが次々に生まれてくる。

 

 やはり別の環境で才能を伸ばした魔法詠唱者の話はとても良い刺激になる。

 弟子たちとの魔法談義ではこうは行くまい。

 あるいは、彼女たちの斬新な考え方は、若者が持つ発想力が故かもしれない。

 

 

 彼女たちの若々しい姿を見て思い出すのは、1人の優秀だった少女。

 かつて弟子だったあの娘も順調に成長していけば、彼女たちの様に自分と同等以上の魔法詠唱者に成ったのだろうか?

 やはり惜しい事をした。

 

 

 ───アルシェ・イーブ・リイル・フルトか…」

 

 

「ん?誰だ、それは?」

 

 おっと、声に出てしまっていたか。

 魔法談義も区切りの良いところだし、小休憩もかねて世間話を挟むのも悪くないか。

 

「かつて私の弟子にターリア殿と同い年くらいの優秀な娘が居たのだよ。今はもう弟子を辞めてしまったがね。

 その娘も正しく導けば今ごろはアダマンタイト級の実力を得ていたかもしれない。

 だから思ったのだよ。惜しい事をした、と」

 

「へぇ~、どんな子だったの?」

 

 世間話にするには話が広がりにくい話題だったなと苦笑し、魔法談義の続きを始めようと口を開こうとしたところで、ターリアが元弟子の話に食い付いた。

 少し前のめりで聞いてくる様子を見るに、同年代の娘と聞いて興味が湧いたのだろう。

 

 アルシェ・イーブ・リイル・フルト。

 自分と同じ生まれながらの異能(タレント)を彼女は持っていた。それだけで十分に価値のある人材であったはずだ。

 第3位階魔法の領域に到達しようかという所で弟子を辞めてしまった。何故、これから魔法詠唱者として花開こうかという時に去って行ったのか。事情は知らないが帝国でこれ以上の環境は無いだろうに、なんと勿体無い事か。

 

 知っている事はあまり多くは無いが、元師弟として覚えている事を話す。

 

 

「───名前から分かる通り貴族の娘だった。

 …そういえば身分を剥奪された貴族の中に同じ名前があったかもしれん。

 ならばそれが弟子を辞めた原因だったか…」

 

 今度、暇が出来たら少し調べてみるか。

 もし第3位階魔法まで使えるのであれば、それなりの地位を約束しても良いだろう。

 

 

「あっ、そうだ。

 パラダイン様に聞きたいことがあったんだ」

 

 唐突に思い出したようにターリアが話題を変える。

 何か質問があるようだ。

 

「ほう、聞きたいことかね?

 魔法の事ならば──少しは役に立てるだろう」

 

 師にお会いした時の事を思い出して思わず苦笑してしまいそうになる。

 ここで笑ってしまうのは不自然で失礼な態度に映ってしまいかねないので慌てて顔に力を入れる。幸い、表情筋は動きを止める命令に従ったようだった。

 

 

「なんだったか…。

 たしか、魂は大きさに違いはあっても同じもの。

 大いなる世界の流れから打ち上げられた飛沫のような存在、だったかな?」

 

 ターリアが額に指を置きながら過去の記憶を拾い集める様に言葉を紡ぐ。

 それは非常に気になる言葉だった。

 

「…それはいったい?」

 

 詳しい話を聞き返す。

 もしかしたら声が震えてしまっていたかもしれない。

 

 

「いや、私も詳しくは知らないんだけどね。

 ある貴重な書物に載っていた内容らしいんだ。

 大魔法詠唱者のパラダイン様なら深い考察を聞けると思ってね」

 

「なんだ、そんな言葉は初めて聞いたぞ。

 私には一言の相談も無いのか?」

 

「たった今、思い出した事だからね。仕方がないね」

 

 イビルアイとターリアの気の抜けたやり取りを聞き流しながら、先ほどターリアが口にした言葉についての考えをまとめる。

 

 

「その言葉が世界の真実であると言うならば───」

 

 少し興奮を鎮めるために一呼吸置く。

 

「魂というモノを理解した時には、おおよその事が不可能では無くなるだろう。

 まずは寿命の克服だな。あるいは若返ることも可能かもしれん。

 そして才能の限界の超克。もはや才の無さを嘆く必要もなくなる。

 これ等が叶うならば第10位階魔法の習得(魔法の深淵を覗くこと)も夢では無いッ!!」

 

 

「…ナルホドォ!」

 

 いかん、いかん。勢いよく言いすぎた。ターリアが少し引いてしまっている。

 第10位階魔法の領域に足を踏み入れる事を想像して、思わず興奮を抑えきれなかった。

 

 コホン、と少し誤魔化して話を変える。

 

 

「…その書物、できれば実際に見て詳しく調べてみたいものだ」

 

「入手手段は知らないけど、六大神とか八欲王の遺産レベルのレアアイテムだと思うよ」

 

 八欲王か…。入手は難しいか?

 そして六大神。また法国か! 師を煩わせるばかりか魔法の深奥を秘匿するとは、なんともけしからん者どもだ!

 

 

「あるいは、その書物を読んだ者に会ってみたいですな」

 

 実際に見る事が難しいなら、内容を知っている者に話を聞くだけでもいい。

 望みは薄いだろうが、ターリアに少し期待を込めた視線を送る。

 

「私も会ってみたいと思っていたんだよね…」

 

 思って()()、か…。

 おそらく書物を読んだ人物は既に亡き者なのだろう。

 そう言ったターリアは、表情を笑みで固めるように顔を(りき)ませている。

 彼女も無念に思っているみたいだ。

 

 

 そのあとも魔法談義を続ける。

 そして、日が落ちる頃にまた会う約束をして二人は帰っていった。

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

 帝都は未来のにおいがする~♪

 わたくし、観光の達人、ターリアです。

 ということで数日の間、適当に街を歩き回って帝都観光を楽しんだ。都会の雰囲気に酔って無駄な買い物もしてしまった気がするけど、楽しかったからヨシ!

 

 では、そろそろお仕事の時間だ。

 アインズ様と一緒に帝都の冒険者組合に顔を出す。

 

 往来の多い大通りに面した冒険者組合の小奇麗な扉を抜けて組合の中に入ると、早々に俺たちのアダマンタイトの冒険者プレートに注目が集まる。

 周囲から『漣 八連』か『銀糸鳥』かとひそひそ声が聞こえてくる。

 

 ざんねんでしたっ! 我々は王国のアダマンタイト級冒険者でございます!

 

 冒険者たちの勘違いにニヤニヤしていると、受付カウンターから受付嬢が出て来て俺達にぺこりと頭を下げて挨拶をしてきた。

 

 

「『漆黒』と『蒼の薔薇』の皆様ですね?」

 

「あら耳が早い」

 

 見事に俺たちの正体を看破してみせた受付嬢にラキュースが少しおどけた様に返す。

 流石は多くの冒険者が集まる組合だ。既に俺たちの情報を手に入れているようだな。別に素性を隠していたわけではないが。

 

 2人の会話は響くような大きい声では無かったが、耳をそばだてていた周囲の冒険者が聞き取るには十分な音量だった。

 周囲のひそひそ声がざわざわ声にランクアップした。とりわけ『漆黒』の噂の真否についてが多く聞こえるように感じる。

 

 

「皆様にご指名の依頼が入っております」

 

 そして早速、名指しの依頼が舞い込んできた。

 受付嬢の「皆様」と言ったことから『漆黒』と『蒼の薔薇』の2チームに依頼が入っている様だ。

 恐らくは例の原作イベントに関するモノだろうが、アインズ様達だけでなく俺たちにも依頼が来たのか。こりゃあ、都合がいいぜ!

 

 

「おいおい、アダマンタイト級冒険者を2チーム同時に雇うなんてよ、随分な物好きが居たもんだなオイ」

 

 ガガーランが肩を竦めて軽口をたたくが、その瞳には警戒の色を宿しており、さり気ない動作で俺たちにも注意を促している。

 やっぱ冒険者歴が長いだけあってガガーランは勘が冴えわたっているな。お察しの通り、この依頼は謀略にまみれているぞ。

 だが依頼を受ける事は確定しているので、さっさと話を進める。

 

「とりあえず詳しい話を聞いてみますかね?

 モモン氏もそれで良いよね?」

 

「ああ、そうだな。

 その依頼の詳細を聞かせてくれ、受付嬢」

 

「畏まりました。会議室までご案内します」

 

 

 ということで先導する受付嬢さんについて行く。俺たちが去った後では様々な憶測や噂話などが飛び交って、やかましい声が廊下まで聞こえてきた。

 案内された会議室はそこそこ盗聴対策をされているらしく部屋に入った途端に外の喧騒がピタリと聞こえなくなる。

 全員が適当な席に着いたところで、お偉いさんっぽい人がやって来て依頼の説明を始めた。

 

 依頼内容は新たに発見された遺跡への護衛だ。

 今回の依頼はどこかの伯爵様が出したもので、丁度良くアダマンタイト級冒険者が帝都に居るという事で指名依頼になったわけだ。

 まったく、どこから俺たちの事を聞きつけたのか(すっとぼけ)

 伯爵様の肝いりの案件らしく、最低でもどちらか1チームは依頼を引き受けて欲しいとのことだ。いっそ滑稽にも見えそうな挙動でペコペコ頭を下げて、説明していた組合員が懇願してくる。必死過ぎて少し引くわ。

 

 そんな話を果実水をごくごく飲みながら聞き流す。あ~、うんめぇなこれ!

 

 少しして依頼人の執事さんが登場。依頼内容の詳細を話し始める。

 目的地が王国領と聞いてラキュースが眉をひそめたり、執事が冒険者の不文律を持ち出して対抗したりと、論戦をバチバチと繰り広げている。

 

 お茶請け食い尽くしたんですけど~。ま~だ時間掛かりそうですかね~?

 

 

「モモン氏はどうするの?」

 

 そろそろ論戦を眺めるのも飽きたんで、アインズ様に話を振る。

 『漆黒』が依頼を受けるなら、なし崩し的に『蒼の薔薇』の参加も決まるだろう。

 

「…我々はこの依頼を受けようと思う」

 

「モモン氏が依頼を受けるなら私達も受けて良いんじゃない?」

 

 報酬も悪くない額だしな!

 

「ちょっと、ターリア。

 そんないい加減には決められないでしょう?」

 

 まだレスバトルは終わっていないと言いたげなラキュースが俺を睨む。

 でも、イビルアイのために出された分のお菓子だって全部食べちゃったんスよ。もうこんな所に居座る理由は無くなったのです。

 

「まったく、貴族ってのは無駄に話を長引かせるからイケない。

 どっちにしろ、無視できない情報がある以上は受けないわけにはいかないでしょ?」

 

 ガガーランもイビルアイもうんうんと頷いている。

 ほら見ろ! お前の話は長いんじゃい!(せっかち)

 だいたい、未知の遺跡と聞いてラキュースが興味をそそられないわけ無いんだよなぁ。大方、自分たちも遺跡探索に参加するために、依頼人の咎を責め立てて譲歩を引き出そうとしていたのだろう。いやいやいや、ナザリックに侵入したら死ぬぅ!!

 

 

「はぁ~~~。…わかったわよ。

 私達も受けるわ、この依頼」

 

「では決まりですな」

 

 

 ラキュースのクソデカため息をゴング代わりに論戦は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

 依頼当日の早朝。

 さすがにこの時間となると少し肌寒い。もう秋だからな。

 フェメール伯爵の保有する屋敷にて、今回の依頼の旅に必要となる荷物を大きめの幌馬車2台に運び入れる。約30人分の水や食料を往復8日分+滞在3日となるので積み込む荷物はかなりの量だ。

 まあ、力持ちのアインズ様、ナーベちゃん、イビルアイが居るのに加えて、魔法の力を使って楽々と運んだから作業は1往復で終わったがな。

 

 馬車の中に物資を詰め込み終わって暇になったので、八足馬(スレイプニール)を撫でたり髪の毛をモシャモシャ齧られたりと戯れて時間を潰していると、先導する執事さんとワーカーたちの姿が見えた。

 ワーカーたちは4頭の八足馬(スレイプニール)を見て驚き、俺たちのアダマンタイト級の冒険者プレートを見て驚き。もう、ダブル驚きですよね。

 

 今回の依頼に同行するワーカーは4チームだ。

 アルシェちゃんが所属する『フォーサイト』

 恐怖公の犠牲者たち『ヘビーマッシャー』

 ″緑葉(グリンリーフ)″おじいちゃんが率いる『竜狩り』

 そして『天武』エルヤー・ウズルス。

 

 

「あの野郎…!」

 

 早速とエルヤーの姿を見つけたガガーランが嫌悪感をむき出しにする。

 

「分かっていると思うけど今回はお仕事だからね、ガガーラン」

 

 ガガーランは「わーってるよ」と言いつつ、エルヤーに近づいて行って「よう!」と声を掛ける。…自分から突っ込んでいくのか(困惑)。

 

 

「おや、先日にお会いした『蒼の薔薇』の皆さんじゃないですか。

 ならば、馬車を警護する冒険者とはあなた方の事でしたか。

 足手まといが同行するんじゃないかと心配していましたが杞憂だったようですね」

 

 エルヤーは俺たちの情報を得ているようだな。腐ってもベテランのワーカーという事か。

 北市場で会ったときは名乗って無かったが、後から俺たちのことを調べたのだろう。

 そして初っ端からでました。自信過剰で傲岸不遜なエルヤー節。

 

 

「へえ、俺たちの事をよく調べてるじゃねえか。

 ならよお、無抵抗な女に手を上げるような糞野郎が嫌いだって事も知ってるかよ?」

 

 奴隷のエルフの一人に真新しい殴られた跡が付いているのを見てガガーランが怒気を放つ。俺の忠告は無駄になってしまったようだ。

 

「私も弱者を甚振るのは、あまり好きではありませんね。

 ですが、アレ等はエルフですよ?」

 

 出たよ、法国特有の人間至上主義。人間以外を下等な生き物として扱い徹底的に排除しようとする思想。やはり宗教は悪…。

 そんな思想に染まっている癖に、エルヤーはエルフの奴隷を抱いているのだ。法国の連中から見たらすっげぇ変態だ。だから、放逐されて帝国へ流れて来たに違いない。

 

 法国味を感じさせるセリフを聞いてガガーランも困惑をしている。

 

「あん? なに言ってんだ?」

 

「ああ、なるほど。

 王国は奴隷が禁止されていましたね。であるならば、その怒りも納得です。

 ですが、帝国では違法でない事を理解していただけると嬉しいですね」

 

 そして、エルヤーも見当違いの解釈を始める。

 収拾がつかなくなりそうなんで割り込ませてもらおうか。

 

 

「はい、ストーップ。

 そちらのチームの都合について私達はもう文句を言わない。

 『天武』さんもエルフに出来るだけ酷い扱いはしない。

 お互いに少しずつ譲歩する。みんな、ハッピー。これで良いね?

 以上。閉廷。みんな解散」

 

 有無を言わせず話を終わらせる。仲裁の鬼、ターリアです。

 お互いに納得のいかないという憮然とした表情をしているが文句は言ってこなかった。せめて今回の依頼の間だけでも仲良くして?

 

 

「ひゃひゃひゃ、華やかて良いのぅ」

 

 静まった不穏な空気を破るおじいちゃん。ナイスぅ!

 パルパトラ″緑葉(グリンリーフ)″オグリオン、年の功とはよく言ったものだ。

 

 おじいちゃんが作った流れに乗って場の雰囲気を一掃するぜ。

 

「それじゃあ、全員集合したことだし軽く自己紹介でもしますか!」

 

 美少女ターリアの快活な一声によって陰鬱な空気が一掃され、ワーカーたちの表情が晴れた。

 俺は気遣いもできる人間だからな(自画自賛)

 

 

「その前に……君たちに聞きたいことがある」

 

 アインズ様がむんずと一歩前に踏み出して自己紹介の流れを止める。なんだお前!

 

「何故、遺跡に向かう?」

 

 あ~~、アインズ様的にこの質問は必須か。じゃあ仕方ないね。

 ナザリックに侵入した者の扱いについての大きな判断基準の一つだからな。

 

「そりゃ金ですよ」

 

 『竜狩り』のおっさんが簡潔に答える。正直者かっ!

 アインズ様はワーカーたちの顔を見渡し、全員に(奴隷エルフ以外に)異論がない事を確かめる。

 薄汚い盗掘者ルート一直線だな。絶対、助からねぇぜ?

 

 

「そこで未知を探求しに行くんだ!って言えば格好がつくのにさ」

 

「私は強い敵も求めていますけどね」

 

 エルヤーがドヤ顔をしながら強気な発言で注目を集める。

 

 やったー!エルヤー君、カッコイイー!

 エルフ奴隷を甚振ってイキってる雑魚が調子乗ってんじゃねぇぞ(豹変)

 

 

「ひゃひゃひゃ。

 そちらの質問は終わりのようしゃか、こっちも質問して良いかのぉ?」

 

「どうぞ、御老人」

 

「主か桁外れに強いという噂は真実なのかを確かめたいんしゃよ───」

 

 

 という事で始まりました。モモンvsパルパトラの模擬戦。

 場所を屋敷の庭へと移して両者が向かい合うと、無防備な姿勢のアインズ様にパルパトラが躍り掛かる。

 

 流石は100レベル相当の戦士の能力。

 ガガーランと模擬戦した時も凄かったが、戦槌よりも初速が上である槍の攻撃を全て回避するというのは驚きだ。

 そして、おじいちゃんも(よわい)80とは思えない技のキレだ。旅の途中で模擬戦を申し込んで、槍の扱いの指南を受けよう。

 

 

「見事しゃの。やめしゃ、やめ。

 儂しゃ勝てんところかかすり傷さえも微妙しゃ」

 

 パルパトラの降伏宣言で模擬戦は終了。

 ワーカーたちがアインズ様の実力に納得したところで出発だ。

 

 この旅の途中で何とかアルシェちゃんの生存フラグをたたせよう!

 

 

 

 


-エルヤー君

噛ませキャラ系天才剣士。イケメンだけど自己中。

本当はエルフが大好きだけど、法国に価値観を歪められてしまった。宗教の犠牲者。

今回の依頼の途中、エルフたちを抱いていない。妙な所で気が利く男。

ナザリックさえ現れなければ結構エンジョイした人生を送ったと思う。

 

誤字報告に感謝

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18 揺ら揺ら遊覧揺蕩う

-前回のあらすじ

ワーカー達をナザリックに出荷する依頼を受ける


 

 

 

 

 

 近隣諸国の中でも目覚ましい発展を見せているバハルス帝国の首都、ナウでヤングな帝都アーウィンタールから、八足馬(スレイプニール)が牽引する幌馬車が西へ西へと歩みを進めていた。

 

 そのワーカーチームを乗せた馬車を護衛するのが俺たちの仕事である。

 と言っても、帝国は専業兵士を巡回させて領内の警備をしっかりしているから暫くは出番が無さそうだ。危険なモンスターが現れる可能性は皆無と思っていいし、野盗だって八足馬(スレイプニール)の姿を見たら関わるのを避けるだろう。つまりは暇ということである。

 暇過ぎて″馬車が作った轍から落ちたら死ぬゲーム″とかを始めてしまう程だが、今回は冒険者としての仕事の他にやる事が1つあるのだ。

 

 俺がやるべき超重要な任務。

 それは、原作で死亡するキャラを生存させることだ。特にアルシェ。主にアルシェ。

 

 今回のイベントで死なないのは奴隷エルフの3人と『フォーサイト』のアルシェ以外の3人だ。死なないと言っても、奴隷エルフと『フォーサイト』では天と地ほどの差があるが…。

 それはさておき、俺はアルシェ尻尾が見たいのだ!

 そのために『フォーサイト』にナザリック観光の助言をしたり、アインズ様にアルシェちゃんの境遇に同情してもらったり有用性を吹き込んだりと、色々と企んでいるのであります。

 

 

 早速『フォーサイト』に突撃ーッ!っと行きたいところではあるが、残念な事に俺は現在『フォーサイト』からは離れた場所にいる。2台ある馬車の前後左右に護衛を1人ずつって陣形なんだが、彼らから一番遠いところに配置されてしまった。帝国領内にいるうちは治安がいいから、そんなにガチガチに決められた陣形でも無いんだけども。

 

 そのかわりに『ヘビーマッシャー』と『天武』のホロ馬車が近くにあるので、先にこっちから交流を深めることにしよう。

 エルヤー君とのギクシャクした雰囲気も早めに解消しておかなければ仕事に支障をきたすからな。ラキュースが俺をここに配置したのは多分そういう事を期待してだろう。

 

 ということで馬車の荷台へぴょんっと飛び込んで、お邪魔しま~す!

 

 馬車の中は10人近くの人が居座るには少し狭いと感じるが、天井がそこそこ高くなってるし風通しが良くて外の光を淡く通す帆の壁のおかげで、狭所特有の圧迫感はそれほど無い。

 出入りの邪魔にならないように旅の荷物は奥の方に置かれ、手前側にはそこそこ柔らかそうなソファーマットが敷かれてある。ワーカーたちが腰を痛める心配は無さそうだ。

 

 

 突然に馬車の中へと入ってきた俺の姿に、出入り口から左右に分かれるように陣取っている2チームのワーカーたちは瞬時にそれぞれの武器を手に取る。うむうむ、なかなか悪くない反応速度じゃな!

 内装を軽く見回していた俺と目が合ったエルヤー君が何事かと問いかけてくる。

 

 

「何か問題がありましたか?」

 

「いんや、何も問題は無いよ。

 何も無さ過ぎて暇だったからさ、遊びに来たわけだよ」

 

 少し緊張した雰囲気を和らげるために気の抜けた感じで返事をしたが、遊びに来たと聞いて『ヘビーマッシャー』の神官の人が不満気に眉を寄せる。表情には出さないが他の人たちも内心は不服に思っているかもしれない。ちょっと軽い調子で行き過ぎたな、反省。

 悪い印象を持たれたままでいるのはよろしくないので、俺が馬車の中に入ってきた理由を話す。

 

 

「ウチのガガーランと良くない雰囲気だったでしょ?

 だから、このままじゃいけないと思ってね。仲良くなりに来たんだ」

 

 横から感じる視線が同情的なものに変わった。

 悪人が居ると同情を買うのが楽で助かるぜ。同行者の中にエルヤー君に好意的な人は1人も居ないからなっ!

 傲慢なエルヤー君と仲良くしなければならない事に対してか、そんな厄介な役目を押し付けられた俺を不憫に思ってか。とりあえず、マイナスイメージは払拭(ふっしょく)できたな。

 

「仲良くは大変結構な事ですが、仕事を放棄してくるなんて感心しませんね。

 アダマンタイト級に相応しい姿を見せて欲しいものです」

 

 好意的な人が1人も居ないエルヤー君が早速チクチクと口撃してきた。

 ため息交じりで嫌味を隠さない、いちいち腹立つ言動だ。中々に煽りレベルが高く、ちょっとイラッとしたぜ。

 

「私以外がちゃんと働いてるからダイジョーブ!」

 

 エルヤー君の軽い皮肉の言葉を華麗にスルーして、ニコリと笑顔を作り「だから心配はいらない」とサムズアップしてみせる。俺をキレさせたら大したもんですよ。

 俺のパーフェクト無邪気スマイルをカウンターで食らったエルヤー君は毒気を抜かれて呆れた表情を浮かべる。エルヤー君どころか『ヘビーマッシャー』の人たちも呆れの視線を向けてきた。

 

 怠け者だと思われるのは心外なので「ほら、あそこ」と 馬車の外の俺が担当していた場所を指し示す。

 指をさした先にあるのは俺が魔法で召喚した″妖精さん″の姿だ。思念で指示を送ってこちらに向かって一礼をさせる。それを見てワーカーたちの表情は感心したものに変わる。

 

 

 納得いただけた様なので、エルヤー君の友好度を上げるために雑談に興じる。

 

 じゃあ、まず年齢を教えてくれるかな? 24歳?(幻聴)

 もう働いてるの? ワーカー? あっ…ふ~ん…(察し)

 

 

 

「───エルヤー君の得物は刀か。随分と珍しいものを使うね。

 普通の剣と違って扱いが難しいでしょう?」

 

 

 最初は()()()に面食らっていたエルヤー君だが、割とすぐに慣れてしまった。流石は天才剣士。適応能力も高いぜ!

 そして厨二病心くすぐられる武器KATANA。ブレイン氏の装備とはまた少し違う形状の物だから気になるでしょう? これは詳しく聞かずにはいられまい!

 

「おや、コレの事を知っているのですか、流石ですね。

 確かに刀はとても繊細な武器で、凡人が振るうには向きませんね。

 しかし、それを容易く扱うから私は天才なのです。故に『天武』」

 

 故に『天武』(ドヤ顔)

 やったー!エルヤー君、カッコイイー!

 

「ひゅー、流石は闘技場の常勝者。やりますねぇ!」

 

 褒めるとすっげぇ得意気な顔をするエルヤー君。

 あっと言う間にかなり親しくなってしまった。ちょっとチョロくない? 流石は原作で子供脳おじさんと言われていただけはあるな。

 

 

「あと数年も修行したら、ブレイン氏並の刀使いになりそうだね」

 

 そんなご満悦顔に冷や水を浴びせてやる。

 暗に自分より強い刀使いが居ると言われて、端整な顔を歪めるエルヤー君。うひひ、悔しかろう?w

 

「それは一体誰です?

 私以上の使い手が居るとは思えないのですが…」

 

「ブレイン・アングラウス。

 王国の御前試合の決勝戦でガゼフ・ストロノーフと激戦を繰り広げた人だよ。

 ガゼフさんに敗れた後は武者修行の旅に出たらしくてね。今はアダマンタイト級の実力はあるよ」

 

「アダマンタイト級…」

 

 ブレイン氏の力量がアダマンタイト級だと聞いて苦々しい顔を浮かべるエルヤー君。そうだ…もっと苦しめ…もっと苦しめ…。

 エルヤー君はミスリルからオリハルコン級くらいの実力だからね。ちょっと、見た感じが弱すぎでござるよw(ハムスケ並感)

 もし二人が闘う事になったら、秘剣『虎落笛』でイチコロよ! まぁ、ブレイン氏は基本的に待ちの剣士だから、遠距離攻撃に徹すればワンチャンあるかもしれないが。

 

 

「汝はブレイン・アングラウスと知己であるのか?」

 

 苦虫を噛み潰したような顔のエルヤー君を見てニヤニヤしていると、寸胴カブトムシ鎧のグリンガムさんが会話に混ざってきた。なんだ、このおっさん!?

 

 

「かつて我もアングラウスと矛を交えた事があるのだが───」

 

 そして唐突に語り始めるグリンガムさん。

 なんと、当時の御前試合の選手だったらしい。しかも準々決勝でブレイン氏と当ったとか。世界ってのは意外と狭いもんだなぁ。

 

「───あれから修行をしてさらに強くなったという事なら、アダマンタイト級の実力があるとのターリア殿の言は正しいだろう」

 

 

 ブレイン氏の方が強いという情報の確度が補強されて、より一層に怒りと屈辱に歪むエルヤー君の表情。なるほど、グリンガムさんもエル虐に参加しにきたのか。

 ぷんぷん怒って拗ねてしまうエルヤー君。可愛いね、うんちして♡(提案)

 グリンガムさんと目と目が合って、何かが通じ合ったような気がする。イッツ an 以心伝心! 世界に広げよう! エル虐の輪!

 

 

 せっかくだからこの機会に『ヘビーマッシャー』とも親交を深めようか。むしろ個人的にはエルヤー君よりも彼らの方に興味がある。なんたって、あの恐怖公の犠牲者だからな! 気分的には好きなAV(セクシー)俳優とお話しする機会を得たって感じやな。

 

 話を聞くと、原作では語られない色んな姿が見えてきて、やっぱりこの世界に生きる一つの生命なんだなァ~、って思う。

 この世界の人の命を軽く見るのは悪い癖だな、と苦笑を噛み殺しつつ交流する。

 

 

「へー、じゃあグリンガムさんって王国の人だったんだね」

 

「左様だ。当時は宮仕えする算段であったのだが…。

 しかし王国の腐敗に嫌気がさしたのでな」

 

 その後に言葉は続かなかったが「それでこのザマだ」と聞こえてきそうな苦笑をしている。

 おそらく、貴族か『八本指』を敵に回して王国に居場所が無くなってしまったのだろう。だから王国から逃げ出して帝国のワーカーになったんだろうな。

 だが、暗い雰囲気では無い所を見るに後悔はしていないみたいだ。

 

 

 そんなグリンガムさんが率いる『ヘビーマッシャー』は10人以上のワーカーが所属するチームだ。小規模のギルドと言っても良いかもしれない。

 その中から必要な人材を選ぶことによって、適切な能力を持ったメンバーで依頼に挑めるのだ。

 

 今回の場合は遺跡探索に最も適したチームというわけだ。戦闘以外に関しては他のワーカーチームより優れているかもしれない。

 実際に原作では幾つものナザリックのトラップに耐えて、かなりの時間を生き粘っていたからな。

 

 『ヘビーマッシャー』の人達を観察する。成程、確かに遺跡探索チームって感じだ。

 盗賊の人は暗殺や急所攻撃とかよりも探知系や鍵開けの技能が高そう。

 魔術師(ウィザード)は知識担当らしく地理や歴史に詳しい。

 神官の人はアンデッド、病毒対策だな。

 戦士は屋内でも小回りの利く装備を持ってきている。

 

 そして、リーダーのグリンガムさん。

 樽のような体と立派なヒゲ、ドワーフの血でも混じっていらっしゃる?

 コイツ、これで純人間とか言ってるらしいっすよ? 嘘つけ、絶対嘘だゾ。

 そして変な言葉遣いしてんな。吟遊詩人がこんな感じでセリフを言ってるのを見たことがあるぞ。たぶんこの変な言葉遣いはドワーフの英雄譚とかを参考にしているんだろうな。そうに違いない!

 

 

 

 そんなこんなで軽い情報交換を交えつつ談笑した。

 ワーカーたちと少し仲が深まったところで、ちょっと疑惑についてを聞いてみる。

 

「そういえば、エルヤー君は法国の出身って噂は本当なの?」

 

 

 不敵な微笑を(たた)えていたエルヤー君が顔を引き攣らせる。

 『ヘビーマッシャー』の人たちも「野郎…タブー中のタブーに触れやがった……」と戦慄している。

 聞き辛いことを平然と問いかける俺、ちょっと尊敬しちゃいますね。

 

 しかし、エルヤー君は固まったまま答える様子は無い。謝っておくか。

 

「聞いちゃいけない事だったかな? めんごめんご。

 法国の人だったらエルフ国との戦争の状況に詳しいかと思ってさ」

 

 両手を合わせてぺこぺこと謝る。いや、めんごめんごって酷いチョイスだな…(自戒)

 エルヤー君は少し息を吐いてから複雑そうな顔をして口を開いた。

 

「別に隠している訳では無いんですがね、まさか出身について問われるとは思いませんでしたよ…。

 まあ、それなりの情報屋が調べれば簡単に分かる事でしょうから、別に構いませんけどね」

 

「って言うことは、法国の出身って噂は事実なんだ?」

 

「ええ、事実ですよ。洗礼名は捨てましたがね?

 しかし、噂されるのは名を上げたという事の証明ですが…。なんとも微妙な気持ちです。

 その噂とやらは、どこぞの卑しい情報屋が流したモノでしょうね」

 

 たぶん、人間以外に対する態度からの推測だと思うんですけど(名推理)

 

 

「それから、私は戦争には参加していません。

 なので戦況については分かりかねますね」

 

 エルヤー君は何かを思い出して忌々しそうに吐き捨てる。

 多分、そこにワーカーに成ったエピソードが在るのだろうな。

 

 そして結局、エルヤー君は大した情報を持っていなかった。

 もしかしたら法国とエルフ国の情報が得られるかと少し期待していたんだけどな、残念だ。

 

 

 そこで、ふと視界の隅に奴隷エルフの姿が入り込む。

 …この娘たち当事者じゃね?

 思い立ったら吉日!善は急げよ!っということで彼女らに突撃する。

 

 

「君たちって戦争奴隷でしょ?

 エルフ国の王様ってどれくらい強いの?」

 

 再び戦慄する一同「野郎…アンタッチャブルにタッチャしやがったッッ!!」という声が聞こえてきそうだ。

 地雷原に平然と突っ込むターリアさん、まじリスペクト(自画自賛)

 

 そういえば、奴隷エルフを見るのは初めてだ。

 珍しいモノが見れたし、コレだけはエルヤー君に感謝だな。

 しかしながら、エルフってファンタジー作品でいっつも奴隷にされてんな。

 

 

「…」

 

 奴隷エルフは俺の質問に困惑して、エルヤー君の方を見て顔を窺っている。

 主人の許可が無ければ他人と口をきけないのかな?

 

「…答えてさしあげろ」

 

 エルヤー君から許可が下りた。

 強者の話という事でエルヤー君も少し興味があるらしい。座りをなおして少し前のめりになって居る。

 そして興味があるのは『ヘビーマッシャー』も同じようで、奴隷エルフの言葉をそわそわしながら待っている。チラチラ見てただろ(因縁)。

 

 

「わ、私は直接会ったことはありませんが…。

 エルフの国の全軍よりも王ただ一人の方が強いと言われ、その力は魔神をも凌ぐほどと聞いています」

 

 奴隷エルフはビクビクとこちらの様子を窺いながら王様について語り出した。

 しかしながら、何でそんなに俺に対してビビってるんだ? やわらかスマイルを叩き付けているというのに…。

 

 グリンガムさん達は魔神という物語の存在が引き合いに出される程の強大さを思い興奮している。

 だが、エルヤー君はふんわりとした抽象的な情報に満足しなかったらしく、王様の強さについて語った奴隷エルフを睨み付ける。

 

「知っている情報はたったそれだけか?

 使えない奴ですね」

 

 鋭い怒りの視線を浴びせられた奴隷エルフはびくりと体を強張らせて謝罪の言葉を繰り返し必死に許しを請う。

 それからエルヤー君は口汚く罵ったが、暴力が振るわれる事は無かった。

 どうやら、俺が一方的に押し決めた「エルフに酷い扱いをしない」って言うのを律儀に守っているらしい。

 こういうところで意外と真面目だから今回の依頼にも呼ばれたのだろう。名の知れた上級のワーカーというのは伊達では無い。

 

 奴隷エルフの卑屈に過ぎる態度にはむかむかしたモノがこみ上げて来るけど、それだって法国がエルフを奴隷として売るために徹底的に心をへし折った結果だ。やっぱ、宗教って糞だわ。

 エルヤー君への好感度が、少しだけ回復した。

 

 

「まぁまぁ、落ち着いて、エルヤー君。

 …魔神級の強さという事は第7位階以上の魔法を使えるのかな?」

 

「い、位階は分かりませんが、時を操る魔法が使えるらしいです…」

 

 おいおい、マジかよ。それって第9位階以上はあるんじゃないか? 完全覚醒した神人とか竜王クラスの化物じゃん。

 長寿であるエルフだからこそ可能な成長ということか…。

 

 

 皆それぞれエルフの王様の規格外の強さを思って黙り込み、それから休憩の時間になって馬車が停まるまで暫く沈黙が続いた。

 

 

 

 

 太陽が大空の頂点まで昇りきり、後は降るにまかせるだけと傾き出した頃。

 遺跡探索へ向かう一行の2台の馬車が休憩のために停まった。

 八足馬(スレイプニール)達はまだまだ元気だが、人間はそうはいかない。特に御者なんかは俺達よりも圧倒的に体力が少ないからな。

 ワーカー達も座りっぱなしで身体が凝って堪らないと、みんな馬車から降りて思い思いに身体を伸ばしている。

 

 俺も仲間たちのもとへ行きエルヤー君と仲良くなった成果を報告する。

 エルフへの態度は法国出身の人間だから仕方がないこと。少し傲慢で子供っぽいけど意外と律義なところがあること。

 それを聞くとガガーランたちは複雑な表情を浮かべながらも、ひとまずは今回の仕事の仲間として受け入れることを納得したようだ。

 

 

 軽く報告を終えた後は『竜狩り(ドラゴンハント)』と『フォーサイト』の幌馬車のもとへと向かう。

 

 さて、ようやく本命だ。

 

 

 

 

 


-グリンガム

なんだその話し方ぁ! まぁじ、むかつく!(セリフを考えるのが面倒くさい)

ジュージューになるまで調教してやるからな!

黒棺(ブラック・カプセル)行きだオラ!(九十番台詠唱破棄)

 

 

誤字報告に感謝

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19 グッド・コミュニケーション

な、長い…
2話分くらいあります


-前回のあらすじ

ナザリックへと向かう途中『ヘビーマッシャー』『天武』と交流


 

 

 

 

 

「じゃあ、彼女(恋人)とかいる?」

 

「唐突になに聞いてんの、この娘!?」

 

「こ、去年?」

 

「会話が成立しない…っ!」

 

「いや、今年だな」

 

「会話が成立してるぅ!?

 って言うか、なに真面目に答えてんのよ、ヘッケラン!」

 

「おっと、つい喋っちまったぜ」

 

「語るに落ちましたな!」

 

「しまった!!」

 

「もう抵抗しても無駄だぞ…!」

 

「くそ! これまでか!」

 

「なんなの、その三文芝居!?

 ノリがいいわね、アンタ達!」

 

「それで、イミーナさんのどこ等辺に惹かれたの?」

 

「…」(それは私も気になる。)

 

「イミーナが恋人とは言ってないんだが。…ぶっちゃけ、顔だな」

 

「ちょっと普通…3点!」

 

「…もうちょっと、こう…何かあるでしょ?」

 

「そんなこと急に言われても…恥ずかしいだろ」

(突然ラブコメ空間を形成するのは、やめちくり~。)

「なるほど、酒癖が治って胸がもう少し大きければ言う事無しと…」

 

「ちょ、魔法詠唱者ってのは心の中を覗けるのかっ!?」

 

「へぇ~~。そんなことを考えていたのね、ヘッケラン?」

 

「ご、誤解だ!

 そんなこと……少ししか思っていないぞ?」

 

「少しは思っているんじゃない!」

 

「語るに落ちましたな!」

 

「この! 馬鹿! アホ!」

 

「おいおい、ちょっとした冗談だ──染めてる部分を(むし)ろうとするのはヤメロォ!」

 

「話して良かったんですか、ヘッケラン?」

 

「ん? 別に隠すような事でも無いし、構わないだろ?

 お前達も勘付いていたんなら、ハッキリとさせておく良い機会じゃないか?」

 

「あっ、いや──」

 

「ヘッケランとイミーナは恋人関係だったの?」

 

「…ロバー。アルシェも知っていたんじゃないのか?」

 

「あー、これは私の落ち度ですね。

 少々言葉足らずでした」

 

「なァ~に~? やっちまったなぁ!」

 

「あんたは黙ってなさい!」

 

「…まあ、いいか。

 えーっと。あー、アルシェ。つまりそういう事だ」

 

「ロバーは知っていたの?」

 

「ええ。確信を得たのは最近の事ですけどね」

 

「知らなかったのは私だけ…」

 

「アルシェさんは宿屋暮らしではありませんからね。

 気が付かなくても仕方がありませんよ」

 

「男女混合のチームには良くある話ね」

 

「仲間として信頼できる異性、戦闘の後の昂ぶり。

 恋に落ちるのは必然というものです」

 

「同じ宿屋に泊るなら、そういう機会も増えるって訳だな」

 

「ってことは、結構頻繁にやることヤッてんのか。

 ヘッケランは野獣先輩だった…?」

 

「確かに夜はケダモノね。…って、ちがーう!!」

 

「語るに落ちましたな!」

 

「それ、腹立つわね!!」

 

「…ヘッケラン、不潔」

 

「ちょ、そんな毎回しないわよ!?

 あんたがスケベな顔をしているから誤解されたじゃない、ヘッケラン!」

 

「なあ、ロバー。これって俺が悪いの?」

 

「女性の理不尽を受け止めるのも男の甲斐性ってモノですよ」

 

「他人事だと笑いやがって…」

 

「二人で飲み直すって、そういう事だったんだね。今まで、ロバーと私がお酒を飲まないからだと思っていた。

 それと、頻繁に酒盛りするのは少しおかしいと思っていた。けど、納得」

 

「いや、イミーナの酒癖が悪いのはマジだから」

 

「ヘ ッ ケ ラ ン ?」

 

「ロバー氏はお酒を飲まないの?

 禁酒とか凄く『神官!!』って感じがするね」

 

「いや、私は単に下戸なだけですよ」

 

「なんだ、節制しているから高位の神官に成れたわけじゃないのか…」

 

「まあ、関係ないとは言い切れませんが…。

 信仰とは最終的に心の持ちようだと思いますよ」

 

「はえ~、すっごい立派。何でワーカーやってるのか? コレガワカラナイ。

 そのレベルの神官だと、冒険者以外にも引く手数多だと思うんだけど?」

 

「ワーカーの神官は組織に縛られたくないという人が多いように思いますね。

 かくいう私も神殿の規律に縛られるのが嫌でワーカーに成りましたから。

 救うべき人を救えない。そんな状況に嫌気がさしたのです」

 

「よう言うた! それでこそ男や! 人間の鑑や、お前!」

 

「一体どこから目線よ!」

 

「あっ、そうだ。

 アルシェちゃんってフールーダ・パラダインの元弟子かな?」

 

「どうしてそれを知っている?」

 

「ま、ま、そう警戒しないでよ。

 パラダイン様と魔法談義をしている時に、ちょこっと君の話を聞いたのさ」

 

「帝国最強と面識があるのか!」

 

「アダマンタイト級冒険者のコネっていうのは凄いですね」

 

「師は…パラダイン様は私の事をなんて言っていたの?」

 

「手放したのは勿体無かったってさ。

 もし第3位階魔法まで習得していたなら、それなりの地位を用意するとか」

 

「条件は満たしているな…。

 まあ、それだけ優秀な魔法詠唱者なら惜しくなって当然か」

 

「それにしても、あの人の弟子だったならワーカーに成らなくても将来は安泰だったんじゃない?」

 

「借金が有る」

 

「借金?あっ、ふ~ん…」

 

「話して良かったのか、アルシェ?」

 

「もう出て行く家の話だから」

 

「確か、親御さんの借金でしたね」

 

「そう。未だに貴族のような生活をしている」

 

「もう出て行くっていうことは、妹さん達を連れだす事に決めたのね」

 

「ほう! 妹が居るのかい?」

 

「あ、やば。アルシェ、ごめん!」

 

「別に知られても問題無い。気にしないでほしい。

 アダマンタイト級冒険者なら情報を悪用しないと思う」

 

「おう、任しときや!」

 

「…やっぱりちょっと不安になってきた」

 

「なんでや!」

 

「しかし、イミーナさんが失敗するなんて珍しいですね?」

 

「なんだか、この娘と話していると、つい、口が軽くなっちゃうわね…」

 

「俺たちと気さくに話しているけど、こんな無害?そうに見えてもアダマンタイト級冒険者なんだよな…」

 

「いやぁ、それほどでも~」

 

「…うん、まぁ、本人が褒め言葉と思ったならそれでいいか」

 

「しかし、弟子を辞めた理由が親の都合だったとは…。

 大人はいつも身勝手なんだな」

 

「これは耳が痛いですね。

 チームとしては、その状況の恩恵に(あずか)っているわけですから」

 

「そのおかげで今の『フォーサイト』があるってことか…。

 俺たちも悪い大人達と同じ穴の狢ってわけだな。

 まあ、ワーカーなんだから綺麗な大人じゃ無いっていうのは当然なんだが」

 

「そんなこと言わないでほしい。私は不幸に思った事は無い。

 私が『フォーサイト』に加入して皆と出会えたのは幸福な事なのだから」

 

「…なんて良い子なの、アルシェ! もうウチの子になりなさい!」

 

「おー、ええやん。感動的やん」

 

「それと、最近は魔法詠唱者としての成長も限界を感じるから、あのままパラダイン様の弟子を続けていても待遇の良い地位に就くのは厳しかったと思う」

 

「それは今までの熟達が早すぎたから、そう感じるのではありませんか?

 恐らく成長の限界に感じるのは、普通の成長速度になったからでしょう。

 私があなた位の歳の時は、今の半分も力量が有りませんでしたよ」

 

「いや、もう才能の限界。自分の事だからよくわかる」

 

「俺は魔法の事はよく知らないんだが…。

 そういうもんなのか、アダマンタイト級の魔法詠唱者殿?」

 

「んー。確かに、魔法に限らずに才能の限界はあるよね。

 見たところ、アルシェちゃんは枯渇寸前って感じかなあ」

 

「やっぱり…」

 

「でも、もっと才能の無い奴が、そこから少しずつ成長している例を私は知っているよ」

 

「それは、ほんと?」

 

「ああ、本当だとも。

 血の滲むような努力と死ぬような経験を経て、だけどね」

 

「諦めるのはまだ早いみたいだな、アルシェ」

 

「修行を続けていれば、英雄の領域に至ることも可能かもしれないね」

 

「そうそう、若いんだから挑戦するべきよ。

 時間はまだまだ沢山あるじゃない」

 

「うん。もう少し頑張ることにする」

 

「しかしながら、老いが来るまでは成長を続けられる、ですか。

 寿命の無い異形種が強大な力を持つのは、そういう理由かもしれませんね」

 

「ドラゴンなんかは、その最たる例だな」

 

「そういえば、イミーナさんはハーフエルフってことだけど…。

 エルフの血が混じってるって事は、只人よりも寿命が長かったりするのかな?」

 

「まあそうなるわね。エルフには及ばないけど」

 

「イミーナも少しずつ成長していけばアダマンタイト級の実力を得られる?」

 

「あら、私ももうちょっと修行を頑張ってみようかしら?」

 

「ところで、イミーナさんってさ…」

 

「なによ、急に改まって」

 

「──何歳?」

 

「…」

 

「…」

 

「私の禁忌に触れたわね…!」

 

「やべぇぞ!イミーナを抑えろ、ロバー!」

 

「もしかして。また、やっちゃいました、私ぃ?」

 

「うがーー!!」

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

 ビュウっと一層に強い風が吹き抜け、後ろで束ねられた髪が大きくなびく。

 目を細めて風上の空へと顔を向ける。

 こちらにやって来そうな大きな雨雲は見当たらず、天気が崩れる心配は無さそうだ。

 まあ、仮に雨雲が押し寄せても俺が蹴散らすんだがな。

 

 この頃は残暑もすっかり鳴りを潜め、随分と過ごしやすい気候になった。

 時折、山脈から流れてくる涼風には微かに次の季節を感じられる。

 

 そんな穏やかな心地良い秋晴れの昼過ぎ。

 ワーカー達を乗せた馬車は、小休憩のために小道の脇の方に停車した。

 

 

 道中では特にやるべきことが無く、馬車に詰め込まれて運ばれるだけだったワーカー達が、暇を持て余して硬くなった身体を伸ばしながら次々と馬車から姿を現す。

 

 俺たち冒険者組のメンツも、一か所に集まって問題が無かったかの確認を行う。もちろん何も問題は無い。

 ワーカー達が休憩している間も俺たちの護衛の仕事は続くが、ここら辺はまだ治安がいいので警備体制は軽く整えるだけだ。

 仮に強力なモンスターが現れたとしても、この顔触れで後れを取る事はまず無いだろう。

 

 現状では危険が無いのが分かっているワーカー達は、休日のおっさんの様な情けない姿で「あ゛ー」とか「う゛ー」とか唸っている。これが、かの有名な都市伝説『休日のおっさんゾンビ』か…ッ!

 やることが無いからって、みんな気を抜き過ぎである。御者さえ大あくびをしている。

 もう、道中はピクニック気分でおじゃるな!

 

 

 少し離れたところでは『ヘビーマッシャー』とモモンが模擬戦を始めるみたいだ。見届け人と観戦者を兼ねて『フォーサイト』がそれに着いて行った。

 俺も休憩時間を利用して『竜狩り』のパルパトラに模擬戦を挑む事にする。こんな事をしていられるのは治安の良い帝国領にいるうちだけだからな。ベテラン槍使いのパルパトラに槍の指南を受けようと思った次第であります。

 ちなみに、『天武』(エルヤー君)は独りで黙々と武器の点検をしている。エルヤー君…気持ちは分かるぞ。俺もボッチの時はそんな感じで時間を潰していたよ…(前世の寂しい青春の記憶)。

 

 そんなこんなで『竜狩り』のもとへと向かう。

 何やら騒がしくしているので何事かと覗いてみると『竜狩り』が酒とつまみを取り出していた。

 

 おい、おっさん達! 酒盛りを始めるんじゃあないッ!!

 俺たちが仕事している前でこれ見よがしにウマそうに酒を飲む姿を見せつけやがる…ッ!

 …な~にが「お嬢ちゃんにはまだ早い」だよ! ニヤニヤしながら言いやがってぇッ!

 昼間っから飲む酒はウメェかよっ!? ……ウマそうだな(羨望の眼差し)

 

 新たな力に覚醒しそうな嫉妬と憤怒を噛み殺して話し掛ける。

 

 

「ねえ、″緑葉(グリンリーフ)″のおじいちゃん。

 槍使い同士、私達も模擬戦を、や ら な い か」

 

 2度目の乾杯をしようとしている彼ら『竜狩り』を阻止して、パルパトラに模擬戦を提案。(酒盛りは)させん! させん! させんぞ!(カジット並ディフェンス)

 

「模擬戦なんて出来るのは平和な帝国側に居る間だけだろうからさ。

 折角だし、暇をしているなら如何かな?」

 

 今だけ!ってのを強調して言ってみたが、パルパトラの反応はイマイチだ。

 ワインが注がれたグラスに目を落とし迷う姿を見て、他のメンバー達が声を掛ける。

 

「受けたら良いじゃないですか、老公」

「我々が老公の分まで飲んでおきますから、安心してください」

「女性から誘われるなんて、きっとこれが最後ですよ(笑い)」

 

 何だ、こいつ等(素)

 もうデキ上がっているみたいだな?

 仲間の心無い言葉にパルパトラがますます渋り出した。つっかえ!

 仕方ない。対価を提示するか。

 

「なんなら埋め合わせに、帝都に帰った時に良いお酒を奢るよ」

 

 もしも、生きて帰って来れたらな…。

 

 

「おお! アダマンタイト級の奢り!

 コレはもう受けるっきゃないですよ、老公!」

 

 さっきから(やかま)しいぞ! この酔っ払いども!!

 

「竜狩りをなした歴戦の槍術を私に見せてくれないか?」

 

 これ以上、酔いどれ達が余計な事を言う前にダメ押しのお願いをする。

 

「そこまて言われたら受けないわけにはいかんのう」

 

 パルパトラはグラスをぐいっとあおり、ワインを一気に飲み干して立ち上がる。

 良かった。俺との模擬戦を受けてくれるようだ。

 

「…それと、御馳走になるのは儂たけしゃ。

 お主らには一滴たりとも分けてやらんからな」

 

 その言葉にチームメンバー達は不満の声を上げるが、パルパトラは彼らを軽く睨み付けあしらう。残当感。

 

 それからパルパトラは今までの消極的な態度から一変、テキパキと戦闘準備を始める。

 もしかしたら今までの渋っていた態度は俺から対価を引き出すための演技だったのかもしれんな。食えない爺だぜ。

 

 まあ良い。

 やると決まったならば、早速模擬戦だ。

 背に聞こえる飲んだくれ達のブーイングを無視して場所を移す。

 

 

 周りに障害物の無い、手合わせに丁度良い場所で少し距離を置いて向き合い、互いに槍を構える。奇しくも同じ構えッ!

 

「その、堂に入った構え…。槍は飾りては無いようしゃな。

 『蒼の薔薇』のターリアと言えは第5位階魔法まて使いこなす魔法詠唱者の筈しゃか。

 …情報はフェイクしゃったかの?」

 

「いや、その情報は間違ってはいないよ。

 訂正するとしたら、今は第6位階魔法の使い手という事かな」

 

 パルパトラが目を見開いて驚く。その驚愕の視線…。フゥ~、気持ち良い!

 事前情報よりも一段強いとか、オサレポイント高いでしょう?

 

 ついでに強者感を出して挑発をする。

 

「位階は低いけど回復魔法も使えるから遠慮はいらないよ。

 さあ、いつでも掛かって来るといい」

 

 

 しかし、美少女魔法戦士ターリアとして名を上げてきたつもりだが、帝国内に伝わっているのは″魔法″の部分だけか。

 どちらかと言うと、俺は槍で戦う事の方が多いんだけどな。召喚魔法もよく使うが、基本的には補助系を使うことが多い。

 バフを積んで殴る! これが正義! そっちの方が消耗が少ないからな!

 

 今でこそ近接戦闘バリバリの一流の戦士だが、俺も最初はクソザコナメクジだった。前世は平和ボケした日本の貧弱一般人だったからな。当然の如く、武術の心得なんて無い。

 魔法メインで行くつもりではあったが、近付かれたら成す術の無い″動けない魔法使い″には成るつもりは無かった。魔力(MP)にも限りがあるしな。

 ということで、誰かに武術の教えを乞う必要があったのだが、そんな人にあては無く、金も無かった。当時は若く、お金が必要でした…。

 そんな問題を解決したのが召喚魔法だ。

 召喚したモンスター達に教わればタダみたいなもんやからな!

 それに、召喚したモンスターとは精神的な繋がりがあるから意思疎通がしやすく、武術稽古がとても捗るのだ。しかも、下手な冒険者よりも強い。

 まともに戦えるようになるまでは、魔力を節約しながらの棍棒フルスイングだったからな。ゴブリンの頭かち割りマンだった、あの頃の思い出~。

 

 それはともかく、召喚したモンスターに戦い方を教わったのはいいのだが、彼らはユグドラシルの位階魔法で召喚された存在だからな。当然、武技なんて使えない。

 つまるところ、俺はこの世界特有の武技については勉強不足なのだ。

 だから今回、新しい武技を開発するほどの達人であるパルパトラに教えを乞う機会を得たのは運が良かった。

 身近に良い感じの槍使いが居ないからな。

 

 

 軽く過去を振り返っていたら状況が動いた。

 考え事をする俺の姿を隙と見たのか、おじいちゃんが攻撃を仕掛けてくる。

 一見するとボーっとしている様に見えたかもしれないが、俺に隙は無いっ!

 リラックス状態でいる事が 最高のパフォーマンス発揮には重要なのだ。

 だから、この余計な思考は油断では無い。

 

 対峙する敵の事を考え過ぎずに、視点を広く持つのが俺の戦闘スタイルよッ!

 目の前の戦闘をテレビゲームのように捉え、映し、自分を俯瞰して操作するのだ!

 デメリットが無いことも無いが、余計な思考をすることによって戦闘の現実味を薄くし、苦痛や恐怖、他者を傷つける罪悪感などを減らす効果もある。

 つまり、根が善良な俺には必要な手法だな!

 

 

 さて、気付けばもう武器の間合いに入った。

 パルパトラ″緑葉(グリンリーフ)″オグリオン。さあ、どう来るッ!

 

 

「〈竜牙突き〉!」

 

 意外ッッ!! それは、初手から武技ッ!

 この爺、様子見も無く最初からフルスロットルで攻めに来やがった。随分と思い切りの良い事だ!

 

 ドラゴンの牙を加工して作られたというパルパトラの槍が(しな)りを上げ、風を切り裂きながら俺に迫って来る。幾多のモンスターを屠って来たであろう武技が、文字通り俺に牙を剥くッ!

 この〈竜牙突き〉という武技は40年以上も前にパルパトラが新たに開発したとされていて、高速の二連突きに属性ダメージを付加する、物理的な防御が厚い敵なんかにはとても有効的な技である。

 パルパトラの持つ槍の刀身には蒼白い雷光がバチバチと迸っている。これは〈青竜牙突き〉だ!

 これを安易に防御してしまえば属性ダメージを食らってしまう。

 装備で耐性が上がっているから大してダメージは受けないだろうが、初っ端から有効打を取られるのは(しゃく)なので回避一択だ。

 

 間合いに入った瞬間に放たれた手を狙った初撃は腕を引き上げることで回避。

 だが、〈竜牙突き〉は2連突きの武技。間髪を入れずに2撃目が迫る!

 突撃の勢いのまま、さらに一歩踏み込んでの追撃は肩口狙い。体の軸の方を狙った躱し辛い攻撃だ。

 全身の筋肉を総動員させて身体を捻り、これも回避。流石は俺!!

 

 そして、強力な武技を放った後には隙が出来る。

 ここからは俺のターン。反撃の時間だ!

 

 身体を捻った動きを利用した蹴りを放ちたいところだが少し遠いな。

 少し体勢は悪いが槍を振るうか?

 判断は一瞬。槍を握りしめる。

 だが、俺が槍を持つ腕に力を込めて反撃の狙いをつけるよりも速く、パルパトラが連続で武技を発動する。

 

「──〈疾風加速〉」

 

 2連突きを放って伸び切ったパルパトラの腕が素早く引き戻される。これで攻撃後の隙が無くなった。

 やはり、武技使いの戦い方は一味違うぜ! 良い経験になりそうだ!

 万全の体勢に戻ったパルパトラがさらに攻め立てて来る。

 

「〈竜牙突き〉!」

 

 意外ッッ!! それは、再び武技ッ!

 このおじいちゃん、全く遠慮が無いなっ!

 

 そしてこの流れは出発前にアインズ様と模擬戦をした時の焼き直しだ。これは意図的に同じ動きをしているな…。

 ならば、アインズ様とは違う対処を見せてやろうではないか。

 というか、今回の2連撃は躱し切れないだろう。

 

 武技で強化された鋭い突きが再び俺に迫る。

 今回、穂先に宿っているのは白い冷気。〈白竜牙突き〉だ!

 そして槍の向かう先は下半身! 戦闘で最も重要と言われる機動力を担う足ッ! その中でも太い血管が通っている(もも)ッッ!! まともにダメージを負えば失血死もあり得る場所だッ! 先の2連撃を回避した影響で体勢が少し崩れており、今回の攻撃を躱すのは非常に困難と言わざるを得ないッッ!! パルパトラ″緑葉(グリンリーフ)″オグリオン。コイツは本気で()りに来ているッッッ!!!

 跳べば回避できるだろうが、後に続く2撃目を無防備に空中で受ける事になるな。

 まったく、狙ってくる場所がいちいちイヤラシイぜ。流石は歴戦の爺!!

 このままだと回避は難しい。仕方がない、俺も武技を使わせてもらうぜッ!

 

 引いた槍を強く握りしめ、腹に力を込める。

 身体に流れているオーラを武器の方へと伸ばし、武技を発動させる。

 

「〈火属性付与(エンチャント・ファイヤ)〉」

 

 槍の刀身が赤いオーラに包まれ、熱気を放つ。

 武技〈戦気梱封〉の派生系〈火属性付与(エンチャント・ファイヤ)〉。その名前の通り、武器に炎の力を宿す技だ。

 パルパトラの放った〈白竜牙突き〉に込められた冷気属性は、この武技で付与された炎熱属性で相殺する。

 これで属性ダメージを気にせずに武器で打ち合う事ができるようになった。

 

 しかし、ただ防御するだけじゃ芸が無いな。

 ちょっと調子こかせて貰うか?

 

 集中力を高め、気合を込めた鋭い突きを放つ。

 

「せいっ!」

 

 

 自慢の動体視力に加えてレベルの暴力を併せれば───

 

 

 互いの槍の穂先。

 その切っ先の点と点が一直線にぶつかり合い火花を散らす。

 …これが、秘技『穂先合わせ』だッ!(今命名)

 

 

 ───と、こんな事も可能である。

 

 

 あっ、今の俺ちょっと格好良いな…。

 

 傍から見たら、槍がぶつかり合う瞬間に攻撃が急停止した様に見えた事だろう。

 パルパトラの冷気と俺の熱気が弾けて小爆発したような衝撃が辺りに散る。

 それでも攻撃は止まらない。

 

「やあっ!」

 

 続いて放たれる胴体を狙った二撃目。

 これも寸分違わず穂先を合わせ、弾く。ワザマエ!

 

 槍を弾いた反動に合わせておじいちゃんが飛び退く。

 追撃の薙ぎ払いは空を切った。

 

 格好をつけて穂先をぶつけ合ったは良いモノの、鋭い突き攻撃の運動エネルギーを受け流すこと無く点と点で一直線に合わせたから、その衝撃が余すことなく腕に反ってきて槍を握る手がジンジンと痛い。

 それは向こうも同じらしく、手をヒラヒラさせて腕の痺れを取り除こうとしている。

 俺も手をほぐしたいが、それは格好悪い。やせ我慢だ。武士は爪楊枝を喰うって奴だ。

 そして、この技は〈要塞〉等の衝撃吸収系の武技を併用しなければ使い物にならんな…。

 

 仕切り直しの形になった所でパルパトラが構えを解く。

 どうやら模擬戦はこれでお終いらしい。

 

 意外ッ! それは、勝敗を付けないまま決着ッ!!

 

 しかしながら、″意外ッ!″って言葉が頭に浮かび過ぎてゲシュタルト崩壊が起きそうだ。

 なんかもう、このおじいちゃんの行動が全て″意外ッ!″に見えて来て困る。

 それもこれも、飄々(ひょうひょう)とした態度とか『歴戦の爺』って強者感ワードが悪い。

 

 

「儂の突きに合わせる槍捌き、見事な物しゃ。

 超一流の魔法詠唱者でありなから、戦士としても儂より遥か上。

 まさに、天才しゃな」

 

「槍に関しては技術より身体能力に頼っている部分も大きいけどね」

 

 調子に乗って少し失敗してしまったので謙遜する。

 とは言え褒められて悪い気はしない。

 

 

「しかし、短い間に2度もアタマンタイト級冒険者に挑む事に成ろうとはのう。

 こりゃあ、流石に老いほれの身体には堪えるわい」

 

 パルパトラが腰をポンポンしながら「疲れた、疲れた」とぼやく。

 だけど、俺には凄くわざとらしい演技に見える。

 

「まだ余力を残している癖に。おじいちゃんも性格が悪い。

 流石その年まで現役でワーカーやってるだけはあるよね」

 

 皺くちゃの顔でニヤリとするおじいちゃん。否定しなかったということは、そういう事なのだろう。

 あのまま続けたら一撃くらいは痛いのを貰っていたかもな。

 

「モモン程ては無いか、嬢ちゃんも本物のアタマンタイト級の器しゃな」

 

 

 それからは槍の先達であるお爺ちゃんに軽く槍術の指導をしてもらう。

 

 しかしながら、俺が使う武技って、な~んか武技っぽくならないんだよな~。

 やっぱ魔法詠唱者が本業だから駄目なのかな?

 まあ、格好つけて横文字を使ってるのが一番の原因だと思うけど。

 

 一段落して戻ると、酔っ払い共が俺たちの模擬戦を肴にして酒盛りをしてやがったッ! 糞ァ!!

 

 

 

──────

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓までの道のりは未だ半ばだ。

 ここまでの旅路も平和そのもので、一行の表情にも緊張は見られない。

 つまり、まだまだ遊んでいられるドン!

 

 仲間たちとアインズ様たちにお願いして、護衛の配置を『フォーサイト』を乗せている幌馬車の荷台近くにしてもらった。

 例によって、馬車に乗り込む。おっ、開いてんじゃ~ん!

 突然に現れた俺に「何事か!」と構える一同。不法侵入ですよ! 不法侵入!

 こちらのワーカーチームも中々に良い反応。うん、君たちも合格♥

 向こうの馬車の時と同じようなやり取りをして、軽く雑談する。

 

 

「やっぱり王道を往く…双剣、ですかね?」

 

「…王道では無いと思うけどな」

 

 俺の奇怪な表現に困惑するヘッケラン。さもありなん。

 やはり同業者を相手にする時は武器の話題が鉄板ネタなんやな。会話が広がってないか?(コミュ力発揮)

 

「でも高いでしょ、双剣? 武器を二つも買うから」

 

「どうだろうな、盾とか買うのとそう変わらないんじゃないか?」

 

 つまりは「ピンキリですよね」って事か…。

 ちなみに、俺も双剣を試した事ありますよぉ! 初期のモモン・ザ・ダークウォリアーより酷い事になったから諦めたけど。あと、盾はゴブリン相手には役に立った。

 

「なんで二刀流にしようと思ったのさ?」

 

「単純に、武器が多い方が強いだろって考えて始めたんだよな」

 

「な~んだ、カッコいいと思ったからじゃないのか」

 

「ああ…そう、だな」

 

 なんだ、その歯切れ悪い答え? さてはお前、図星だな!(名探偵)

 

 しかしながら、ヘッケランのお調子者感のある喋り方は面白い。

 このノリの軽さには俺と同族の気配を感じるぜ。

 

 

 そして、隣に座っているヘッケランの恋人のイミーナさん。

 何だか雰囲気が刺々しい。プンプンしていらっしゃる。

 きっと、彼氏が美少女と楽しげに会話しているから嫉妬しているに違いない。ちょっと揶揄(からか)ったろw

 

「イミーナさん、視線が随分と鋭いね。まるで、睨まれているみたいだ。

 もしかして、恋人が美少女と話しているからヤキモチを妬いているのかな?」

 

「別に妬いてないわよ?

 それと、睨んでいる様に見えるかもしれないけど、これが素よ!

 悪かったわね、目つきが悪くて…!」

 

 えぇ…(困惑)目つきが悪いのは元からでしたか。

 美少女ターリアに嫉妬しているとか、とんだ見当違いの推察だったわ。これじゃまるで、俺が自意識過剰みたいじゃあないか…。ちょっと恥ずかしいですよ!

 

 しかし、イミーナさん以外の人達もそうだけど、なんで弓使いは目つき悪くなるんでしょうかねー、不思議ですねぇ…。

 聖王国の凶眼の教祖(予定)とかは、その極致よな。生で見たらチビっちまうかもな!

 

 

「じゃあ、プンプンしてるわけじゃなかったんだね」

 

「プンプンしてるわよ! って、プンプンって何よ!?」

 

「あっ、してるんだ」

 

 え? ティアがセクハラを仕掛けてきたから気が立っていた? おのれ、レズ忍者、許すまじッ!! お仕置きとして、汚いおっさんの幻影でも見せてやろう。

 

 

 次のお相手はロバーさん。神的に良い人。

 孤児院に寄付したり、貧しい人にこっそり回復魔法を使ったり、善行を積んでいる徳の高い30代のイケおじ。神官としての力量はミスリル級冒険者くらい。

 彼もワーカーということは神殿から締め出されている訳だが…。

 つまりそれは、神殿の教示を得なくても信仰系魔法詠唱者の実力は伸ばせると言う事だ。

 これは、俺が信仰系魔法の力量を伸ばすのに参考になるんじゃないか?

 ということで、ロバーさんに信仰の心得について聞いてみる。

 

 

「やはり大切なのは、善意や善行。正しき心をもって日々を生きる事です」

 

「オイオイ、それじゃあ…ミーは100点満点じゃないか!」

 

「あとは、神の御心を感じ取って、その奇跡に身を委ねる事ですかね」

 

「オイオイ、それじゃあ…ミーは0点確定じゃないか!」

 

「…どうやら、改善すべき点は見つかったようですね?」

 

 間を取って50点!…普通だな!

 俺は神様とか信じてないからな。転生する時にも会った覚えは無いし。

 

 

 ラストは『フォーサイト』の皆さんが少し過保護に守っているアルシェちゃん。おかげさまで、ティアの毒牙にも掛からずに済んでいるみたいだ。ちょっとガード硬過ぎんよー。

 俺もアルシェちゃんを守護りながら愛でたいぜよ。

 

「魔法学院ではどういう事を教わるの?」

 

「座学の授業では、属性の相性についてや魔法の効果や系統を教わる。

 実技の授業では、魔法発動の前兆を見て感じたり、簡単な模擬戦をしていた」

 

「へー、かなりマニュアル化が進んでるんだね。流石は帝国だね。さすてい!

 アルシェちゃんは好きだった授業とか、嫌いだった授業とかはある?」

 

「特に無かった」

 

「あっ、無いんだ…」

 

 年が近いと言うことで会話が弾むかと思ったら、アルシェちゃんは寡黙系の少女だったから、話が盛り上がらないのなんの。心が折れそうだぜ…。

 そして、絡み方が酒場のおじさんっぽいって言われて傷ついた。なんでそんな酷い事を言うの!?

 俺は尻尾を生やしてあげたいだけなのに…。

 

 

 

 さて、仲良くなった所でそろそろ本命本題に移ろう。

 彼らに遺跡探査(ナザリック観光)のアドバイスをする。

 

 まず、盗掘まがいの行為を止める事、財宝には目をくれずに遺跡の探査をすることをおススメする。持ち物に反応したり設置物を動かすと発動するトラップは結構あるからな。実際、アブナイ!

 お宝回収は帰りの時にしたらええんちゃう?

 

 そして、遺跡を貶さずに敬意を持つこと。これは、遺跡の歴史的な価値を損なわないように、とか適当な事を言って納得してもらった。

 ナザリックの悪口を言ったりしたら、即慈悲無しルート行きだからな!

 

 あとは…土下座するとか?

 

 それから、アインズ様にアルシェの親の借金のことを伝えて同情を誘ってみたけど、反応はあまり良く無さ気だった。

 まあ仕方がない。結局、この依頼を選んだのは彼らの意志だからな。

 

 

 

 

 

 さて、これで全チームと接触してみたわけだが…。

 ワーカーたちと交流する時は死人を相手にする様なつもりでいたけど、実際に話してみると少し愛着が沸いてしまうんだよなぁ(アインズ様並感)

 これ以上関わると助言してあげたくなっちゃう、ヤバイヤバイ。

 こいつらワーカーなんかやっているけど、マジで気のイイ奴らなんスよ! ワーカーなんかやっているけど! エルヤー君? 知らんなぁ!

 

 

 ワーカー達が助かるにはナザリックに侵入しない事が一番なんだが、依頼を受けてしまった以上は調査をしないというのは有り得ない。

 まあ、調査というか実際は遺跡荒らしなんだが。

 一応の建前としては、犯罪組織や知恵を持ったモンスターなどの人類の敵が隠れ潜んで無いかの確認もある。「疑わしきは殺せ」がこの世界の共通認識だ。

 

 ナザリック側からしてみれば、侵入者対処の訓練と低コスト運用での問題が無いかの確認だ。

 だから、ワーカー達を逃がす事は絶対にない。

 一度中に入ってしまったら、まず助からないだろう。

 

 そうはさせないために色々と吹き込んだわけだ。

 知り合ったワーカー達がみんな助かった方が嬉しいから『フォーサイト』以外にも軽い助言はしたけど、流石にこれ以上はリスクを冒せないな。

 

 

 原作キャラの生死の結末が覆るかどうか。図らずも、実験のようになってしまったが、今回の結果次第では今後の方針にも大きく関わってくることになる。

 はたして俺の行動は何処まで彼らの運命を変える事ができるのか?

 

 

 

 

 

 


-パルパトラ

前歯すかすか♥

濁音発音できない、ざこ発声♥

セリフを書くのが面倒♥

 

歴戦の戦士感が漂う好々爺。だけど、ズルい爺。(シャ乱Q並感)

 

誤字報告に感謝

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 10~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。