ポケモンチャンピオンの身の振り方 (あさまえいじ)
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第0話 はじまりのポケモンリーグ

息抜きに書いてみました。


 ここはセキエイ高原。ポケモンリーグジョウト大会の決勝戦。俺は今ここに立っている。

 

 俺の名前はタロウ、ワカバタウン出身のポケモントレーナーだ。年齢は10歳。今年ポケモンを貰って旅に出た。

 ワカバタウンを旅立ち、様々な出会いと戦いを経て、今ここにいる。俺の腰には6つのモンスターボールがある。みんな俺の大切な仲間たちだ。今俺がここにいるのはみんなのおかげだ。俺は落ち着き開始の合図を待つ。

 

『それでは試合開始です』

「いけ!ギャラドス!」

「ブギャァァァァア!!」

 

『さあ、ワタル選手が出したのはギャラドスだ。タロウ選手が出すポケモンはここまで全て同じポケモンですが、ここは変えてくるのか』

 

 変えるわけがない。今まで、全部同じポケモンを出してきた。これからもそれは変わらない。さあ、行こう相棒!俺は腰の一番取りやすい場所にあるボールを取り、投げた。

 

「いけ、バクフーン!」

「バクフーン!!」

 

『やはりここでもバクフーンが出てきた!!ここまですべての戦いで一番手を務めてきた、タロウ選手の切込み隊長だ!!しかし、相手はギャラドスだ!相性が不利だがこのまま行くのか!』

 

 当然このままだ。そうだろバクフーン。

 俺の考えが伝わったのか、バクフーンは俺を見て、頷いた。

 今までも不利な相手に挑んできたんだ。今更引くわけないよな。

 

「行くぞ!バクフーン!」

「迎え撃て!ギャラドス!」

 

□□□

 

 俺とワタルとの戦いは激闘を繰り広げ、最後に立っていたのは‥‥‥

 

「『ふんか』だ、バクフーン」

「カイリュー、『げきりん』だ」

 

俺のバクフーンの放った『ふんか』がカイリューの『げきりん』よりも早かったため、カイリューに直撃した。カイリューがゆっくり倒れ込む。スタジアムに立っているのはバクフーンだけだった。

 

『決まった!!!!勝利したのはバクフーンだ!!!まさか!まさか!!まさかの全抜きだーーーーーーー!!!なんということだ、バクフーン一体でワタル選手のドラゴン軍団を倒しきるとは驚きましたね、オーキド博士』

『うむ、まさか相性不利という状況を力でねじ伏せるとは‥‥‥タロウ選手がどれだけバクフーンを鍛えてきたのか、バクフーンもトレーナーを信じてきたのかよく分かる。これからもポケモンと共に成長して素晴らしいトレーナーになっていって欲しいと思うの』

 

 俺達はポケモンリーグで優勝した。そして俺達は他の地方にのリーグにも挑戦して、カントー、ホウエン、シンオウ、イッシュ、カロスの6リーグ制覇を成し遂げた。俺はそれを5年の歳月で成し遂げ、表舞台から姿を消した。

 




ありがとうございました。


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第1話 今の仕事

 最後のリーグを制覇して5年が経った。俺が最初にリーグ制覇したときから10年の月日が経っている。

 俺は今20歳になった。仕事は‥‥‥

 

「タロウさん。準備できました」

「おう、では行くぞ」

 

□□□

 

「来たぞ!ロケット団だ!」

 

その声に反応し、俺はモンスターボールからポケモンを出した。

 

「いけ、デンリュウ」

 

 デンリュウとは長い付き合いだ。俺が初めて捕まえたポケモンだ。もう10年か、長いようで短かったような気がするな。

 さて、感傷に浸っているのは止めよう。昔の事を思い出すのは止めだ、もうあんな思いはしたくない。俺に与えられた仕事を全うしよう。

 俺はデンリュウに指示を出した。

 

「デンリュウ、『かみなり』だ!」

 

ドゴオオオオオン!!!

周囲に轟音が鳴り響き、周囲を一掃した。

 

「うわああああああああああああああああ!!!」

 

デンリュウのかみなりで辺りには人が倒れている。俺はそれを見て、部下に指示を出した。

 

「片付いたぞ。さっさと終わらせろ」

「はい、タロウさん」

 

 俺の指示で部下たちが動いている。俺はそれを見て、周囲の警戒を行った。どうやらこいつら以外にはいないようだな。俺はデンリュウを一度ボールに戻し、腕を組んでその場に佇んだ。

 少し時間が経つと部下たちはトラックに運び終えたのか、俺に報告に来た。

 

「タロウさん、全て完了いたしました」

「よし、では帰還するぞ」

「はい!」

 

 俺達はトラックに乗り込もうとすると、声がした。

 

「待ちなさい、()()()()()

 

 そこには、ジュンサーが現れた。そしてモンスターボールからポケモンを出した。

 

「行きなさい、ガーディ」

 

 出てきたのはガーディだった。なるほど俺達を止めようと言うのか、その程度のポケモンで俺に挑むとは。

 俺は腰のモンスターボールを取り、ポケモンを出した。

 

「来い、バンギラス」

 

 バンギラスを呼び出したことで、周囲に砂嵐が発生した。

 これはバンギラスの特性『すなおこし』である。その特性により、いわ、じめん、はがねタイプのポケモン以外はダメージを受ける。

 

「ぎゃう!」

「ガーディ、頑張って。『ひのこ』よ」

 

 ジュンサーがガーディを応援している。だけど力の差は応援では覆らない。

 

「バンギラス、『じしん』」

 

 ドゴゴゴゴゴッッッッッッッ!!!!

 周囲は大揺れだ。俺は慣れているので余裕で立っているが、あちらは大変なようだ。

 

「ギャウ、ギャア!」

「ガーディ!」

 

 ジュンサーがガーディを抱きかかえ心配している。瀕死状態だ、これで追っては来れないな。

 俺はそれを見て、バンギラスをボールに戻し、トラックに乗り込んだ。

 

「おい、行くぞ」

「へい、タロウさん」

 

 俺の今の仕事はロケット団。ロケット団の最高幹部の一人、タロウだ。

 

 

 

side サカキ

「サカキ様、タロウ様がお戻りになりました」

「すぐに通せ」

「は!」

 

 扉が開き、一人の男が入ってきた。我がロケット団最強の男、タロウだ。私が5年前にスカウトしてきた。

 風貌は普通、服装もロケット団の団員の制服を着ておらず、また最高幹部であるので自分で制服をデザインしてもいいが、タロウはスーツを好んで着ている。何故と聞くと、カッコイイからと答えていた。

 タロウのスーツは私が来ているのと同じブランドだ。最初に服装は好きにしてもいいと言うと、まず最初に私のスーツはどこで買えるのか聞いてきた。なので、私が新調するので付いてくるかと聞くと、是非と勢いよく答えたのを覚えている。ただ当時は成長期で頻繁にスーツを新調していて、出費に泣いていた。もう少し成長してからにした方がいいと言ったのだが、イヤだ、と意外と頑固だと知ったのも5年前だったな。今では成長しなくなったから、新調する回数が減ったと喜んでいたのが初めての飲み会の時だったな。

 ロケット団の団員になって5年、まだ年若い青年だ。歳は今年で20、酒が飲める歳になったんだったな。

 初めて会ったのはもう9年前か、当時は11歳の少年が今では20の青年とは、俺も若いつもりだったが、これほど大きく成長したところを見ると俺も歳を取ったな、と感じてしまうな。

 

「サカキさん、無事に終わりました。やはり情報通りでした」

「そうか、残念だが、あの工場は閉鎖だな」

「ええ、仕方ありません。では事前の取り決め通り、マスコミへリークします。それでは」

「まあ待て。タロウ」

 

 私はタロウを呼び止めた。どうもこいつはせっかちに過ぎるきらいがある。もう少しゆとりを持つべきだ。俺が大人と言う者を教えてやらねば。俺はそう思い、席を立った。

 

「どうしました。サカキさん?」

「まあ少し待て」

 

 俺は一本のワインを取り出し、グラスを持って席に戻った。

 

「タロウ、良いワインが手に入った。任務の終了を祝って、乾杯しよう。残念ながら仕事中だからな、これ一杯きりだ」

「ええ、頂きます」

 

 俺はタロウにワインを注ぎ、次に自分の分を注ぎ、グラスを掲げた。

 

「では、タロウの仕事完遂を祝って、乾杯」

「乾杯」

 

 カーン、と互いのグラスが奏でる甲高い音が響き、互いにワインに口を付けた。

 ほう、中々良いワインだ。少し値が張ったが、納得の味だ。

 私は満足しているが、タロウはどうだろうか。タロウの様子を伺うと、怪訝な顔をしていた。

 

「サカキさん、これ高いんですか?」

「そこそこだ。3万円くらいだ」

「たけっ!なんすか、これ一杯で大体3千円くらいするんですか。‥‥‥おにぎり30個分か‥‥‥」

「お前‥‥‥相変わらずのおにぎり換算だな。心配するな私のおごりだ。安心して飲め」

「さ、サカキさん‥‥‥今度はもう少し安くてたくさん飲めるものにしてください。俺にはこれの貴重さは分かりませんので‥‥‥」

「お前も今年20だろ。少しは大人のたしなみと言うものを覚えろ。昔の自分を忘れたいんだろ」

「--!はい、そうですね」

 

 タロウは昔の自分にコンプレックスを抱えている。今から5年前、タロウの全盛期だと言ってもいい時期だ。当時、世界中のポケモントレーナーで最も強いのは誰だ、と聞くと皆がこう答えた、『タロウ』と。それも当然だ。当時のタロウは各地のポケモンリーグで優勝し続けていた。各地方のトレーナーを倒し続けていた。俺も負けた口だ。アイツはタイプの不利など関係なく力で押し倒す。俺のサイドンがあいつのバクフーンに負けた。あの時初めて思った、ポケモンは奥が深い。

 だが、それを俺に教えてくれた男が、ある日打ちひしがれていた。俺はタロウに負けてから己を鍛えていた。タロウとは頻繁にポケモンバトルをしていて、友好を深めていた。そんなアイツは俺に言った、自分を変えたいと。何故か、理由を問うとタロウは口籠った。なにか言いにくいことなんだろう。ならば聞かん、話したくなった時にでも聞いてやることにした。

 だが、このままでは殻に閉じこもると考えた俺はタロウをロケット団に誘った。もちろん、今の事業内容を説明した上で、だ。ロケット団に騙して入れたとしても、タロウは強い。一人でロケット団全員を纏めて倒せるほどに強い。俺でもかなわない。なら、タロウ自身からロケット団に入る、と決めてもらう必要があった。だから可能な限り、優遇も取るつもりで説明をするとアッサリと入団を決めた。思わず聞き返してしまうほどにびっくりした。唯一の条件がとある一つの部門を任せて欲しい、という条件だった。私はその部門をタロウに任せることにした。

 それからのタロウは実に職務に忠実だった。とある部門を任せて以降、業績は右肩上がりを見せ、今では我がロケット団になくてはならない部門に成長させた。そして戦闘では誰よりも頼りになった。

 タロウ、お前と出会ったことは俺にとっての僥倖だ。これからも頼むぞ。

 

side out

 

 俺がサカキさんへの報告を終えた後、自分が管理する部門の様子を見に行く。

 元々はロケット団の不採算部門だったらしいが、俺が管理することで業績は改善した。元々サカキさんにロケット団に誘われたとき、この部門の事を知り、即入団を決めた。この部門が何故埋もれていたのか、理解が出来なかった。

 ‥‥‥だけどそれは何故か理由が分かったとき、俺はこの世界の真理が分かった。

 埋もれて誰も改善できず、俺だけが改善出来たのか、理由は単純だった。知識が足りない、これが答えだった。

 知識、と一言で言っても分かりにくい。だが、全てはそれで片付く、俺は特別であり、他の人間にはないものだった。

 仕事場にたどり着き、ドアを開けて中に入ると、職員たちが待っていた。

 

「タロウ部長、おはようございます」

『おはようございます。』

 

 俺が入ると全職員が私に挨拶をしてくれた。最初の頃とは大違いだな。

 

「ああ、おはよう。早速で悪いが、私が不在の間の状況を説明してくれ」

「はい。部長」

 

そう言って私が不在の間、私に代わって指揮を執っていた、ジロウが報告資料を届けてくれた。

 

「現在、重要存在IはM1との間に例の物を確認しました。それ以外も順調に確認できました。また、例の家族とアポが取れました。明日からサブロウとシロウを送り込みます」

「ああ、くれぐれも失礼のないように」

「は!‥‥‥不在の間の報告は以上です」

「分かった。留守の間ご苦労だった、ジロウ」

 

 俺は部下をねぎらい、重要存在Iを見に行くことにした。

 

 

 重要存在Iは非常に希少なポケモンだ。その存在を確認する必要が部門の長である俺にはある。

 俺は扉を開くと中から出てきた存在に体当たりをされた。

 

「ブイッ、ブイッブイーーー」

「元気だな、イーブイ」

 

 重要存在I、イーブイが俺に体当たりしてきた。攻撃の体当たりではなく、あくまで愛情表現的な体当たりだ。私はイーブイを抱き上げて、奥に進むとそこには多くのポケモンが暮らしている。

 ここは私の管理している部門。ポケモン生産部。通称ポケモン育て屋ロケット団支部だ。

 



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第2話 俺の正体

 俺はポケモントレーナーのタロウ。ワカバタウン出身だ。10歳でポケモンリーグジョウト地方を制覇した。その後1年ごとに地方を制覇して、6地方を制覇した。そして5年前からロケット団として、活動していて、今は20歳だ。若い頃から、今も若いが、他の人よりずば抜けた才能を持っていて、天才だと言われてきた。だが、そんなことはない。俺は天才ではない。俺は‥‥‥転生者だ。

 

 俺が初めてそのことに気付いたのは、物心ついた3歳くらいだったと思う。俺は初めて魚を見た、それが‥‥‥トサキントだった。あれは驚いた。家の近くの池に0.6m程の大きな魚がいたんだ。それがトサキントだった。その時の衝撃は思わず池の中にダイブしてしまうほどだった。だがその後溺れている俺を助けてくれたのが、トサキントだった。そのとき、ここは俺にとっての現実でこれはゲームの世界でないことを理解した。

 

 俺は元々ポケモンをやっていた。作品は古い順に緑、赤、青、ピカチュウ、銀、金、クリスタル、ルビー、エメラルド、リーフグリーン、ダイヤモンド、プラチナ、ソウルシルバー、ブラック、ブラック2、オメガルビー、Y、までやっていた。だからこの世界に転生したことは俺にとってポケモンに驚きはしたが嬉しいことだった。なのでここで生きていくことに不満はない。

しかし‥‥‥この世界はどの世界なんだ?

 

 ポケモンが出る作品はゲーム以外にアニメやマンガがあった。俺もアニメは子供の時には見ていたが、最近は見ていなかった。ただ、最近ネットニュースに主人公が22年にして、初のリーグ制覇という内容だった。マンガはよく知らないので判断方法は分からない。だからマンガは除外する。

 もしこの世界がアニメ時空ならば‥‥‥俺は電撃に耐えられるのだろうか。いや、無理だ。十万ボルトとか絶対に無理だ。‥‥‥とりあえずそれは置いておこう。もしここがアニメ時空だとすると見分ける方法は‥‥‥アレか『よけろ』か。

 アニメを見た時、『よけろ』で技を回避していた。もしこの世界がアニメ時空なら、『よけろ』を指示するはず。俺はとりあえずテレビを見まくって、ポケモンバトルを探した。

 結論として、『よけろ』という言葉を言っていた。‥‥‥だけど、指示、という形ではなく、祈りみたいなものだった。俺も相手の攻撃に『外れろ!』って、祈っていた時のような感じだった。だから、アニメ時空かどうか判断は出来なかった。

 後の判断方法は登場人物だけど‥‥‥誰で判断すればいい?大概の登場人物はアニメもゲームも同じだ。オーキド博士とか誰々博士では判断できない。‥‥‥そうだ、主人公だ。もしここがアニメ時空なら、サトシがいるはずだ。マサラタウンにいるはずだ。‥‥‥だけど、今の俺は3歳だ。その内探してみよう。

 

 そう思っていると7年の時が流れた。今だ確認できず、旅に出た。旅の最中、この世界の事などどうでも良くなっていった。アニメでもゲームでもマンガでもなんでも、ポケモンがいて、俺がいて、そしてここに生きている。だからそんなことはどうでも良くなっていった。

 そんな考えに至った俺はジョウト地方のワカバタウンを旅立ちの日に博士にポケモンを貰った。ヒノアラシ、チコリータ、ワニノコの3匹から1匹選べと言われた。俺は迷わずヒノアラシを選んだ。前世でもヒノアラシを選んでいたので、ここでもヒノアラシを選んだ。

 そして旅の最中にあることに気付いた。‥‥‥タイプが減っていた。いや、正確に言うと昔、初代の時代に戻っていた。あく、はがね、フェアリーがなかった。いや、認知されていなかった。ジョウト地方で増えたあくとはがねタイプが、カロスで増えたフェアリータイプが知られていなかった。

 俺は一つの予想を立てた。ここはアニメでもゲームでもマンガでもあるかも知れないが、時間が昔なんではないだろうか。後何年か後に発見されるかもしれない。だけど今は知られていない。もしかしたら、後々に発見されたタマゴなんかも知られていないのかも知れない。

 だからと言って、俺が積極的に広めるわけにはいかない、いや広めることが出来ない、というのが正しい。俺にそんな信憑性がないからだ。だってまだ10歳の子供だ。だから俺が知っているからと言って広めることなどできなかった。まあ、無理に広めるつもりもなかったし、なんだか後ろめたかったけど、まあいいかと思っていた。

 

 旅の最中にヒノアラシが進化しマグマラシになりバクフーンに進化した。そのときはやっぱり興奮した。それからもたくさんのポケモンを捕まえたりしていたけど、分かったことがあった。ゲームにあったパラメータを見ることは出来なかったけど、レベルが上がった、ということは何となくわかった。少し強くなったような気がする、という程度の何となくで分かった。それで俺は記録を取ることを始めた。ゲームの時には次のレベルまであといくつ、という情報が分かったがこの世界では分からなかった。なので、記録を取ってみることにしたけど、分かったのは数ではなく、相手の強さだと言うことが分かった。つまり相手のレベルによって、カウントしているという風に思えた。‥‥‥ゲームの中でレベル99がレベル2と戦ってもレベルの足しにならないことと同じだった。だから強い相手を探して戦っていくのにちょうどよかったのがジム巡りだった。

 ジムリーダーは確かに手ごわかった。だけど、負けなかった。レベルを上げて殴るスタイルで挑んでいたけど、勝ち続けた。やはりレベル差は偉大だった。でもすぐにレベルが上がらなくなった。相手とのレベル差が広がっていったからだ。それで俺が思いついたのは仲間内で戦わせることだった。その方法は功を奏し、レベルが上がっていった。一番強いバクフーンに弱いポケモンを戦わせ、レベルを上げた。この世界では倒せなくても、強い相手と戦うという経験で強くなっていく。

 結果として俺のやり方は強さを追求することにはなった。そのためジムリーダーにもレベル差で圧倒する結果になった。でもそれだけではこれからの戦いに対応できなくなると考え、相性も考えたパーティ構成を目指した。‥‥‥だけど、あまり意味がなかった。俺のポケモンがレベル70くらいになったとき、ジムリーダーは最高のポケモンでレベルは40くらいだった。初めてのポケモンリーグの決勝戦の相手が最後に出したカイリューがレベル50くらいだった。

 それから、旅を続けた結果、最大でもレベル65くらいのポケモンしかいなかった。伝説ポケモンに出会ったけど、それはレベル70くらいがいた。だけど‥‥‥俺のバクフーンは当時レベル100になっていた。他の手持ちポケモンもレベル80以上だった。そしてバクフーンがレベル100に達したとき‥‥‥戦う意味が分からなくなった。もうこれ以上、バクフーンは強くならない。そう思った時、俺の旅は終わった気がした。

 そのあと、俺はこれ以上のジム戦もチャンピオン戦を行う意義が見いだせず、表舞台から引退した。

 

 ちょうどそんな時、俺に声を掛けてきたのが、サカキさんだった。俺が次の目的が見いだせなかったときにロケット団に誘われた。当時は目的がなく、何をしようか考えていた。ロケット団はゲームでの悪役だったけど、サカキさんは好きなキャラだった。カッコいいと言う表現が合っていた。だから話だけは聞いてみるつもりだった。話を聞いた結果、給料はいいし、最高幹部という役職も貰える、特に悪いところはなかった‥‥‥だけどそのために危ない橋を渡るつもりはなかった。だけどある部門を見た時、考えが変わった。ポケモン生産部、当初は人工ポケモンを作ろうとしていたようだ。その結果がミュウツーになるようだ。だけど俺にはある一つを聞いてみた。ポケモンはどうやって生まれるのか?、と。するとサカキさんは知らない、そういった。

 

 その時、俺は思い出した。ゲームにはあって、現在ないものがある。そう‥‥タマゴだ。ポケモンはタマゴで生まれると言う事を誰も知らなかったのだ。

 そうだ、俺にはこの世界にはない知識がある。ゲームの知識がある。それならもしかしたら、ポケモンのタマゴを見つける事が出来るんではないのだろうか。

 これまで色んな地方を旅してきたが、ポケモンのタマゴが発見されたことはない。育て屋というものは存在している。だが俺は利用したことはない。人に育てさせて技を消されるのを嫌ったからだ。

 転生する前の初ポケモンゲーム『緑』において技を消されたからだ。初めて育て屋がでてきたとき、試しにヒトカゲを預けてみたら、レベルが上がったらしく、帰ってきたら『ひのこ』が消えていた。レベルが上がったときに古い技を消されることを知らなかった。その結果、『にらみつける』『いかり』『がまん』『メガトンパンチ』というタイプ一致攻撃方法のないヒトカゲが完成してしまった。

 あのときのイヤな思い出があるので、ゲームの旅パには育て屋を使うことは決してなかった。

 

 まあ、そんなイヤな記憶は遠い彼方に放り投げ、今一度状況を整理して考えてみると、条件は非常にいい。俺個人では無理でも、サカキさんのロケット団がバックに付けば、それだけで成功の見込みはぐっと上がる。それに俺の試みは決して出来ない、というわけではなく、必ず出来る、と確信できる分野だ。

 前世でそこまで廃人ゲーマーだった訳ではない。だが、この世界においては俺の知識以上のものを持っている人はいない‥‥と思う。もしかしたら、廃人ゲーマーやポケモンバトルレーティング上位ランカーが転生しているかも知れないが、まあ、それはそれでいいだろう。

 俺が目指すのは相棒であるバクフーンを限界(レベル100)のその先へ至ることだ。そこまで強くなれることが確認できれば、さして未練はない。

 それにポケモン生産部が軌道に乗って、もし万一主人公に廃人ゲーマーが憑依したとしても、6Vの性格一致ポケモンを安定供給できることが分かれば、俺は助けてもらえるかもしれない。

 そんな後ろ向きな考えもありつつ、サカキさんの誘いを受けた。

 

 まあ、サカキさんの誘いを受けてロケット団に入ったのは、バクフーンの事だけでなく、俺の肩書にも影響がある。

 俺は‥‥‥‥『たんぱんこぞう』だ。チャンピオンになっても、『たんぱんこぞう』だ。これがまだ年齢が12歳までの小学生くらいまでなら許そう。だがな、中学生(13歳以上)になっても、『たんぱんこぞう』はないだろう。それでも我慢したさ、折角のポケモンの世界だ。だがな‥‥‥‥高校生(16歳以上)になっても『たんぱんこぞう』は無理だった。ビキニのおねえさんとか、エリートトレーナーのおねえさんとか、エロいおねえさんがいるんだ。折角だからお近づきになりたいんだが、『たんぱんこぞう』ではな‥‥‥‥

 あ、後ついでにポケモンの世界だと平気で寒いところに行くんだ、シロガネ山とか、そういうところでも『たんぱんこぞう』だと、『たんぱん』だ。山男さんに山をなめるな、と怒られた。仕方がないじゃないですか、だって俺は『たんぱんこぞう』ですよ。『たんぱん』がユニフォームですよ‥‥‥‥俺だって、いい加減長ズボンが履きたいよ。

 だがこれで漸く、たんぱんこぞうを卒業できる。ロケット団したっぱでも、上下は長袖長ズボンだ。これで雪山でも寒くない。

 それもロケット団に入る理由の一つだ。

 



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第三話 ポケモン生産部

 ポケモン生産部をサカキさんから貰って早5年、今やロケット団でも随一の収益を上げる、柱の様な存在にまで成長した。

 この功績を持って、俺はロケット団最高幹部の地位を不動のものにした。だが、入団当時は風当たりも強かった。

 

 俺が入団した5年前、ポケモンチャンピオンという肩書を持つことで最高幹部に置いてくれたサカキさん。だが、当時の古株はそのことが面白くなかったそうだ。まだ15のガキに上役に成られるというのは、それは面白くないだろう。俺でも逆の立場ならそう思う。だが、サカキさんはその反対意見も押し込め、俺を最高幹部に据えた。ならば、それに応えるためにも、持ちうる全てを使った。ポケモンチャンピオンへの旅路で得た人脈や前世のポケモン知識を駆使し、あるポケモンを探した。

 

 この世界はゲームの世界とは色々違う。ゲームでお馴染みの預かりシステムは現在ない。あれはマサキが開発するんだが、現在はまだない。

 それにポケモン図鑑もない。俺が旅を始めた時には渡されなかった。それ以後もポケモン図鑑の様な、記録ツールの存在はでてこなかった。なので、俺は旅の最中はメモを取って纏めていた。だが、所詮は紙媒体、調べるには手間がかかるし、ソートなども出来ない。

 なんだかんだで、カントー、ジョウト、ホウエン、シンオウ、イッシュ、カロスと6地方を6年かけて渡り歩いた。その道中の記憶も印象深いことはともかく生息分布なんかは曖昧だ。前世のゲーム知識、と言っても所詮は一般ゲーマーの域を出ない。廃人ゲーマーの様な個体値、努力値、性格補正という数多のパラメータを把握する逸般人とは違うんだ。

 

 だからこそ、私のメモを各地方のポケモン博士たちに送り付けた。そのメモを纏めてもらって、生息地を探す手伝いをお願いした。

 ただで手伝ってもらうんじゃない、フィールドワークの結果、集めたメモはポケモン研究者から喉から手が出る程の価値がある・・・・はずだ。たぶん。まあ、その結果、頻繫に各地方の博士たちからメモについての問い合わせが多発したが、人脈の有効活用という点では悪いことでは無かったはずだ。

 その結果、目的のポケモンを見つけることが出来たし、捕まえて送ってくれた。それが届いたことには感謝もしているが、現在も頻繁にポケモンについて進化や生態についての意見を求められるようになり、面倒なことにはなった。とりあえず、後日に回したが、それがまた面倒なことに発展したが、とりあえず置いておこう。

 

 送ってもらったポケモン、その名は‥‥‥‥メタモン。

 

 メタモン、この名はポケモンをやったことがある人なら、誰もが聞いたことがあるとは思う。

 覚える、いや使える技が『へんしん』という、相手と姿・タイプ・わざが同じになる技だけだ。幻のポケモン、ミュウ以外はメタモンにしか使えない、極めて特異な技だ。

 だが、このメタモンの真の価値はバトルで使う『へんしん』という技ではない。真の価値は一部のポケモンを除いて様々なポケモンと生殖が可能と言う事だ。同種を掛けあわせてもタマゴが得られない性別不明ポケモンとも生殖が可能という、廃人御用達なポケモンだ。

 このメタモンは雄雌のポケモンをそれぞれそろえるのが困難な御三家ポケモンを増やす際に、相手にメタモンを選び、育て屋に預けると御三家ポケモンが生まれる。これは第二世代のポケモンシリーズ金銀が発売した当時、大いに驚いた。それ以降メタモンの価値は飛躍的に向上した、少なくとも俺の中では。

 メタモン失くしてポケモンは語れない、とか、廃人の第一歩はメタモン厳選から、とか、メタモンはみんなの嫁でみんなの旦那、等々様々な意見がある。そんなメタモンはこの世界ではやはり珍しいが、大した価値を見出されていない。これはある意味ありがたい。

 なぜなら、この世界はゲームではない。私にとってこの世界は現実だ、だからこそポケモンが絶滅することもあるかも知れない。もしこの世界にゲームの廃人が列を成してやってきたら、メタモンは狩り尽くされることになるかもしれない。そうなる前に捕獲出来たのは非常に幸運だと思っている。

 

 それから5年、メタモンの数も順調に増えていき、能力に応じて役割も振り分けた。現在の役割は3つある。

 1つ目は販売目的のポケモン生産だ。人気のあるポケモンを捕獲し、それをメタモンで増やし、売ることだ。これはタマムシゲームセンターの交換や、プレゼント用に取引される場合や初心者に最初に渡すポケモン、いわゆる御三家ポケモンをポケモン協会に安定供給することで収益を増やしている。今後の見込みも非常に明るく安定しているため非常に期待されている。

 

 2つ目は戦力強化目的のポケモン生産だ。廃人御用達の高個体値ポケモンを生み出すことだ。この世界には個体値を判断することが出来る人、通称ジャッジがいない。だが、同一個体同士を戦わせて、その戦績や身体測定、体力測定の結果、極めて優秀だと判断された個体を選びだし、そのポケモンを私の前世のうろ覚え努力値割り振りで戦闘特化に育てている。その育成結果個体を団員に支給し、ロケット団全体の底上げを行っている。ただ、その中で最優秀個体は俺がもらっているから、不公平に思われているかもしれないが、最高幹部と言う事で、我慢してもらおう。

 

 3つ目は個体数の少ないものを増やすポケモン生産だ。絶滅危惧に追い込まれたポケモンを増やす事、これは学術的にも非常に意義があり、またポケモン研究の発展に多大に寄与したものである、という建前で動いている。

 本音はオーキド博士を含めたポケモン研究者に好印象を持たれることを目的にして、今後も裏で暗躍しても疑いを持たれない様にする事だ。プテラやカブトなどの化石ポケモンを優先的に回してもらえるので、個体数を増やせれば、後々販売目的や戦力強化に回せるので、win-winの関係だと言える。

 

 これらの功績を持って、他の幹部たちを黙らせたが、ちょっと気が引けたし、他の幹部たちには申し訳なく思っている。

 前世のポケモンプレイヤーなら誰もが知っている、タマゴという要素を使い、そのための準備もある意味、転生者という利点を使っている。これらはバレれば、カンニングだと非難されるものだろう、少なくとも俺はそう思う。だが、申し訳ないとは思うが、打ち明けることは決してしない。

 ‥‥‥‥普通に考えて、そんな事言われて信じる人がいるだろうか? この世界がゲームを基にした世界など誰が信じるのか、普通は否定されるし、下手すれば俺の頭がおかしくなったと思われるだけだ。態々懇切丁寧に説明して理解させて、それに何のメリットがあるのか考えたとき、打ち明ける必要を感じなくなった。だから代わりに利益を与えることにした。強いポケモンでも与えれば、機嫌を良くするだろう。

 やれやれ人付き合いも楽じゃないな。

 

「ジロウ、少しいいか」

「はい、タロウ部長」

 

 ポケモン生産部の部長は俺だが、この部の二番手はジロウだ。

 俺が不在の折はまとめ役をやってくれる、非常に有能な男だ。

 

「他の幹部連中におすそ分けをしに行く。少し見繕っておいてくれ」

「はっ! すぐに手配致します」

 

 指示を受けると、ドドドド、という足音と共にポケモン生産部の部屋を走って出て行く。

 俺の指示に対して忠実なのは有難いんだが、もう少し落ち着きを持って欲しいんだが‥‥‥‥

 

 ロケット団の人間は、世間からのはみ出し者、粗暴で暴力的な奴らが多い。ジロウも例にもれず、出会った当時は粗暴な男だった。肩書きは『暴走族』だった。

 今を遡ること9年前、タマムシシティのサイクリングロードにいたのがタマムシ暴走族総長、それが当時のジロウだった。まさか自転車でパラリラパラリラ、という音を鳴らしながら囲まれるとは思っていなかった。その中からゆっくりと前に出てくるジロウ、次の言葉が『おい、バトルしろよ』だった。

 腕っぷしなら勝てないが、ポケモンバトルでは負けない、そう思って戦ったら、案の定、圧勝した。

 当然だ、当時の俺はジョウトチャンピオン、俺の相棒バクフーンのレベルは60を超えていた。対してジロウは精々レベル30がいい所だった。それで圧勝してその場を去ろうとすると、呼び止められ、『舎弟にしてください』と言われた。俺は断ったが、ジロウはグイグイと迫ってきて、仕方ないから了承した。だってポケモンバトルなら勝てるがポケモン(トレーナー)バトルなら勝てない。俺はもやしだ。

 それから先々で俺の追っかけみたいに各地に現れて、兄貴、兄貴と慕ってくる大男。歳はお前の方が上だろうが、と思いつつ、気のすむようにさせていた。

 その後、サカキさんから誘われてロケット団に入ったら、何故か先にいた。エ、ナニソレ怖い、俺は思わず恐怖を感じた。サカキさんに聞くところ、俺が入る一日前に入団していたらしい。へえー、そんな偶然あるんだ(遠い目)

 それからもジロウは俺にまとわりついた。最高幹部に取り立てられた俺とは違い、ジロウは一般入団してきたので、階級は最下位からだった。なのに3か月後にはポケモン生産部の次長、つまりナンバー2の地位にいた。いや、異例のスピード出世ですね(遠い目)

 俺はもう深く考えるのを止め、とにかくジロウに仕事を任せることにした。

 いくら最高幹部、ポケモンチャンピオンといえど、俺は前世がポケモンプレイヤーというだけの一般人。いきなり部門の統括とか出来ないし、ポケモンの育て屋がどういうものか仕方など分からない。あるのは知識だけ。なので指示を出すことと、いざというときの戦力としてだけ仕事をすることにした。

 

 それからジロウに育て屋さんの人に技術指導してもらう事、その教えを俺達ロケット団でも出来るようにマニュアル化するように指示をした。後人手が足りなければ、引き抜いてきてもいいと許可も出した。

 俺の人脈には育て屋さんは無いが、俺の名前は使えた。そのため、育て屋さんにジロウがアルバイトに行き、技術を学ぶことにはすんなり了承された。それから紆余曲折を経て、初めてタマゴが確認されたのは発足から1年経った頃だった。

 いや、初めてタマゴが確認されるまでは気が気じゃなかった。もしかしたら、この世界ではタマゴが出来ないのでは、という考えが浮かんだ。この世界がポケモンの世界でも、もしかしたらこの世界はゲームとは違う法則なのでは、と思った。だから初めてタマゴが確認されて、嬉しいより安心の方が強かった。

 だがこれで、俺の知識も使えることが確認された。その後もタマゴの孵化作業も、ゲームなら育て屋の前を自転車で爆走して孵していたが、それが可能か分からないし、ゲームとは違い割れたらまずいので、慎重を期した。だがその心配はなかった。大体はゲームと同じで歩数制の様で、自転車の衝撃でも割れたりはしなかった。更にブーバーに持たせていると、タマゴが孵るまでの時間が短縮できることも確認した。

 タマゴが確認されてからはトントン拍子で事が進み、発足から二年も経つと部門としても十分な収益が出せるようになり、不採算部門などと呼ぶものはいなくなった。

 そして現在のポケモン生産部は所属団員100名以上、ポケモン多数のロケット団の中でも随一の巨大派閥が出来上がっていた。

 



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第四話 おすそ分け

side ロケット団幹部

 

「クソ、あのガキが‥‥ちょっと強いからってボスに取り入りやがって!」

 

 俺はロケット団の発足当時からサカキ様の側近としてやってきた。これまではボスのナンバー2として、辣腕を振るってきた。当然甘い汁の啜ってきたが、それに見合う仕事をしてきた。

 これからもそうだと、俺に逆らえる奴はボス以外にいない、ロケット団で俺に楯突く奴等いない、そう思っていた。

 

「今日より、最高幹部はタロウが勤めてもらう。俺がいないときはタロウの指示に従ってもらう。いいな」

 

 頭が真っ白になった。そして、次に思ったのが、怒りだった。

 今までの俺を否定したボスに、そして俺の椅子を奪ったクソガキに強烈な怒りを覚えた。

 

「ボスの決定であれば従います。ですが、其方の新参者がどれほどのモノか、試させてもらってもいいでしょうか?」

「ほう‥‥‥‥では、どうしたい?」

「俺とポケモン勝負を‥‥‥‥どうですか?」

 

 俺はロケット団でもボスの次に強い。だからナンバー2の座を守ってきた。ボスに取り入っただけのガキに負ける訳がねぇ。

 

「ハハハハハ‥‥‥‥」

 

 ボスが笑った。心底可笑しい者を見たような、嘲笑うような笑い声だった。

 

「まあいいだろう。タロウ、お前の力を見せてやれ」

「いいですよ。それほど強いの手持ちにいませんけど、まあ問題ないでしょう」

「チッ!」

 

 こっちをナメ腐ったような、あからさまな格下を見るような目で俺を見て、言いやがった。

 クッソ、吠え面かかせてやる。

 

 

 

「ボーマンダ、ドラゴンクロー」

 

 奴は強かった。

 

「メタグロス、バレットパンチ」

 

 桁外れに強かった。

 見たこともないポケモンを操り、圧倒的な力で俺のポケモンたちを蹂躙した。

 

「まだ手持ちあります?」

「っ‥‥‥‥もうねえよ」

 

 俺が絞り出すように己の敗北を宣言したが、あのクソガキはどうでも良さそうな感じだった。

 後に分かったことだが、あのガキ、ポケモンチャンピオンだった。おまけにボスよりもつええ奴だった。

 何だよ、俺に勝ち目なんて、はなからねえじゃねえか。

 

 それから5年、あのガキはロケット団の不採算部門を立て直しやがった。その功績で名実ともにナンバー2の座を不動にしやがった。俺以外のやつらはアイツに頭を下げるようになり出した。以前は俺にペコペコしてやがったのによ、風向きが悪くなれば、俺に挨拶の一つもしねえ。クソ、イラつくぜ。

 

 コンコン、と部屋の扉がノックされる。くそ、誰だ。

 今は俺の下に部下はいない。皆、俺を見限って他部署に異動しやがった。だから、俺が直接対応しなければならねえ。

 

「どうも」

「‥‥‥‥これはこれはタロウ最高幹部、何か御用ですか」

 

 くそ、相変わらずのいけ好かねえガキだ。こっちは顔を見たくなんかねえのに、一体何のようだ。

 一応は上役に当たるし、ボスが最も信頼してやがる。悔しいがコイツに睨まれたら俺もロケット団から追放されかねえ、表面上は従順にしてねえと‥‥‥‥さっさと出てけや、クソガキ!

 

「おすそ分けです。ポケモン生産部が育てた、優秀なポケモン達です」

「! こ、これはどうも」

 

 クソガキがおすそ分けとして持ってきたのはポケモンだった。

 俺達ロケット団にとって、ポケモンは武器だ。それも強い奴はそれだけ強力な武器になる。

 クソガキは気に食わねえが、クソガキの持ってくるポケモンはとんでもなく強い。それこそ、ジムリーダーどころか、四天王にさえ匹敵するかも知れねえ。

 甘いガキだ。俺がお前の事、嫌ってるなんて思ってねえんだろうな、だから俺に強力な武器を与えちまうんだ。この力がお前に牙を剥くと、思ってねえんだろうな。

 

「今日のポケモンは2体です。ボーマンダとメタグロス、ホウエン地方で強力なポケモンとして名が知られています」

「! へ、へぇー」

 

 知ってるさ、テメエが俺のポケモン、ボコった時に使った奴じゃねえか。

 負けた俺はよく覚えてるが、勝ったテメエはそんな事覚えてねえんだろうな。

 だが、貰わねえって選択肢はねえ。残念ながら、俺の元々のポケモンじゃ、コイツに歯が立たねえ。それに、これでコイツから送られたポケモンは合計6体、機は熟したぜ。

 

「折角頂いたので、出来ればタロウ最高幹部に一勝負、御指南頂きたいんですが、如何でしょうか?」

「今からですか?」

「ええ、是非とも。善は急げといいますし」

「うーん生憎、今手持ちが2体しかいないんですが‥‥」

「いえいえ、それでも全然かまいません。是非とも胸を借りるつもりでお願いしたいんですが」

「分かりました。あまり、ご満足いただけないかもしれませんが」

「ありがとうございます。ではバトルフィールドをご用意します」

 

 くくく、うまくいったぜ。コイツは普段は手持ちをそれほど持ち歩かねえ。カチコミの時以外は、大抵2,3体しか連れてねえ。対して俺は機会を伺って、常に6体持ち歩いてる。コイツが俺に送った2体もある。外れるのは、おれと長い付き合いの2体、つまり俺はコイツから送られた6体で戦うことになるわけだが‥‥‥‥仕方がねえ。弱いこいつらが悪いんだ。つええ奴が偉いんだ、コイツもつええから偉いんだ。なら手段なんか選べるか、コイツに勝てるなら俺は何でもやるぜ。

 

 

「随分とギャラリーが多いですね」

「いえ、俺とタロウ最高幹部が戦うからバトルフィールドを開けろ、と連絡したらこんなに集まってしまいましてね」

 

 俺とクソガキがいるバトルフィールドの周囲にはロケット団の団員の大多数が集まっている。

 幹部同士の戦い。いやクソガキが戦うから見てえ奴は見に来い、といって俺がわざと色々なところに情報を流した。ボスまで見に来ている。

 後はこの状況で俺がクソガキを叩きのめせば、俺が最高幹部に返り咲ける。見てろや、クソガキ!

 

「さあ、始めましょうか、タロウ最高幹部」

「ええ、いいですよ」

「いけや! カイリュー」

 

 俺が放ったボールから現れたのは、ドラゴンタイプのカイリューだ。クソガキから貰ったから気に食わねえが、コイツは強えんだ。だから使ってやってる。

 さあ、こいや、クソガキ。テメエが俺に与えちまった力でやられちまいな。

 

「さて、実戦は初めてだな。さあ、いけ‥‥‥‥ミュウツー」

 

 クソガキがボールを投げ、その中から現れたのは、初めて見るポケモンだった。

 ケッ、何だろうと叩き潰してやるぜ。

 

「カイリュー、ドラゴンクロー」

「ミュウツー、れいとうビーム」

 

 カイリューがドラゴンクローで斬りかかるよりも早く、クソガキのポケモンの放った青白い光線がカイリューに命中した。

 

「なん、だと!?」

 

 カイリューが一撃で倒された。あんなヒョロっとしたポケモンにカントー四天王も使う、カイリューが一撃でやられただと。

 

「さあ、次はどうしますか?」

「クッ、全部まとめていけや!」

 

 俺は残りの手持ち全てのボールを投げた。

 バンギラス、ガブリアス、サザンドラにさっき貰ったばかりのボーマンダ、メタグロスの計5体を同時にフィールドに出した。

 もうルール違反とか知ったことか。ロケット団は強え奴が偉いんだ。だから、勝てばいいんだよ。

 

「やれ、ミュウツー」

 

 だが、クソガキはそんなのお構いなしに指示を出していく。

 

「バンギラスにはどうだん、ガブリアス、サザンドラ、ボーマンダにれいとうビーム、メタグロスにシャドーボール」

「‥‥‥‥‥‥‥‥」

 

 クソガキが瞬時に指示を出すと、それにポケモンが応え、圧倒的な速さで動き、一体一体的確に攻撃していき、立っているのはクソガキのポケモン一体になっちまった。

 なんだよ、なんでだよ、なんなんだよ、そのポケモンは!!!

 俺はその場に膝を付いた。全身の力が抜けた。あんなの反則だろ、たった一体に何でここまでやられるんだよ。

 俺が放心状態でいると、ボスがクソガキに声を掛けた。

 

「ふむ、随分と仕上がったようだな、ミュウツーは」

「ええ、コイツも漸く俺の言う事を聞く様になりましたよ。でもまあ、俺の言う事しか聞かないので、常に連れてないと危ないんですがね」

「ポケモン生産部の最初の目的である、人工ポケモンの生産、それの唯一の成功体ミュウツー、圧倒的な力を持って生み出したが誰にも従わず、破壊をまき散らす厄介者だと思っていたが、やはりタロウなら御すことが出来たか」

「俺の相棒の方が、今はまだ強いんで。まあ、その内ミュウツーの方が強くなるかも知れませんがね」

 

 なんだよ、コイツは!? こんなに圧倒的なまでに強いポケモンよりも更に強いポケモンを持っているだと‥‥‥‥どんだけ底が知れねえんだ。

 

「ふむ、バトルの勝敗を論ずるまではないな。タロウ、ミュウツーはお前のだ。精々強くしてやれ。それと‥‥‥‥」

 

 ボスが俺の目が俺を捕らえた。俺はボスの前で無様を晒した。もう俺に‥‥‥‥居場所はない。

 

「お前が持っているのはロケット団でも俺とタロウの次に強いポケモン達だ。それを生かすも殺すもお前次第だ。俺のためにお前の力を使え‥‥‥‥期待しているぞ」

「! は、はい! ボスのため、ロケット団のため、力を尽くします!」

 

 俺はボスが去っていく後ろ姿に頭を下げ続けた。

 

side out

 

 いや、流石にミュウツーは卑怯だよな。でも、今すぐ勝負と言われて、手持ちがバクフーン(レベル100)とミュウツー(レベル70)しかなかった。

 

 相性不利のバクフーンでも、初手『ふんか』を使えば、あちらに渡しているポケモンでも耐えれないだろう。何しろ渡したのがレベル55~60くらいで個体値が低くて、全員性格まじめだった。バンギラスくらいは生き残るだろうが、きあいだまには耐えれないから、そっちでも良かった。でも結局はレベル差のゴリ押しで勝つんだ。

 

 だからミュウツーを使ったが、こっちの方が酷かったな。覚えている技が『サイコキネシス』『れいとうビーム』『シャドーボール』『はどうだん』の4つにしていたから、厨ポケ6体でも勝てはせんだろうな。それにミュウツーは努力値もキッチリ特殊攻撃と素早さ極振りにしているから、とくしゅ技の破壊力が恐ろしいことになっている。もしこれがアニメ版ピカチュウの様に『スキンシップ十万ボルト』の様な事をされていたら、俺は瀕死になること疑いなしだな。俺はマサラ人ではなくワカバ人だ、そんな特殊な訓練は受けていない。

 

 さて戦闘の後には、アレをしておかないとな。

 俺は先輩の方にゆっくりと近づいて行く。

 

「手合わせ、ありがとうございました。先輩」

「‥‥‥‥何の真似だ?」

「何って、戦い終わったらノーサイド、互いの健闘を讃え、握手をするもんでしょう」

「‥‥‥‥いや、それもそうだが‥‥‥‥先輩って、何の真似だ?」

「え、だって俺よりも先にロケット団に入団してたわけですし、一応は俺の方が上役ですが、先輩は先輩ですから」

「‥‥‥‥くっ」

 

 ソッポを向かれたが、ちゃんと握手はしてくれた。

 ロケット団にはこういう文化は無いんだろうか、それとも先輩がてれやの性格なんだろうか、まあ特に気にしないでおこう。

 



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