その憧れを身に纏い (一ノ原曲利)
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バイクに轢かれろ、轍にしてやる!



 男が女になることも
 女が男になることも
 どちらもTSそうだよな 配点:賛否両論?




 

 

 

【神浜市】ガチで噂のライダー【掲示板】

 

 

102:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:HbaPyw4

また

 

103:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:lao3vqq

>>102 どしたの?

 

104:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:okon6Ka

>>102 ちゃろー、出た?また出た?

 

105:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:HbaPyw4

>>104 でた。遠くから見ただけだけど

 ていうかうるさいから家を出たらほんとにいた

 

106:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:oMa7miih

 結界から出たとこを見たけど

 あの体のラインで女は無理っしょ。肩がっしり型。胸ペタン系

 B60以下の子いたっけ?いやガチムチの男の大胸筋はそれ以上あるだろうけどさ

 

107:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:okon6Ka

 マジなんだー!

 

108:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:HbaPyw4

 やめ

 

109:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:oMa7miih

 やめて

 

110:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:Komm4t

 胸の話はやめて

 

111:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:mtoE3bx

>>106 やめて差し上げろ!胸が男に負ける子だっているのよ!

 

112:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:okon6Ka

 あっ

 

113:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:lao3vqq

 はたして男の大胸筋をバストサイズに換算しても良いのか

 

114:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:oMa7miih

 …いつも勝手に出てきて勝手に魔女横取りするのホント

 なんなんアレ。昔からいるよな

 

115:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:HbaPyw4

 そのくせグリーフシードは置いてくからアレ?魔女自体への恨みある系?

 

116:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:okon6Ka

 グリーフシードなしで浄化する方法とかあったっけ

 

117:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:lao3vqq

>>116 それ別スレの話題だからあっちでどうぞ

 

118:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:HbaPyw4

 実際回収しないってことだから

 自浄方法あるってことかな

 楽になるからいいけど、なんか複雑

 

119:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:okon6Ka

 無償で魔女倒して貰って無償でグリーフシード貰うのもなんかね

 お礼とか言いたいんだけど。でも会えない限りはなー

 

120:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:lao3vqq

 いつもゴーグル付けてて顔わからんし

 声男っぽいけど魔法でいくらでも誤魔化せるしなぁ

 だれか個人特定できないの?

 

121:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:oMa7miih

 そういうのは解析班に任せろ

 

122:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:mtoE3bx

>>121 アホか。魔女と戦ってる最中にそんな余裕あるわけないだろ

 つか神出鬼没すぎていつ来るかわからん

 

123:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:okon6Ka

 目撃だけは多いんだけどなぁ

 

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 

(う、つよい…私一人じゃこの魔女は…!)

 

 神浜市に来て早々、環いろはは会敵した魔女に舌を巻いていた。砂場で足を取られながらも使い魔を退け、クロスボウで魔女を攻撃するがその矢は届かない。矢は空間を巡る遊具に防がれ、オマケに倍の量の刃が殺到する。

 少しでも使い魔がいない方向へ身を投げ出して命中を防ぐが、その先には砂地を巻き上げる竜巻の群れ。魔法少女の魔力とは異なる、禍々しく邪悪な魔力を伴った暴力。

 以前いた宝崎市の魔女とは、明らかに実力に格差がある。宝崎市の魔女も強かったがここまで苦戦することはなかった。ケープを盾に竜巻へ突入し、引き裂かれるような激痛と引き換えに魔女の追撃から逃れ一生を得る。

 

 無理だ、勝てない。

 そう、思った時だった。

 魔女の猛攻に息を荒げたいろはの視界に、魔女でも使い魔でもない影が映り込んだ。

 

(え)

 

 そこにいたのは、ゴーグルで目を覆い、黒いライダースーツに身を包んだ人だった。

 街中でもよく見かけるような単車(バイク)に跨り、響かせる排気音は魔女が支配する空間ではえらく歪だ。非現実で埋め尽くす世界に飛び込んで現れたる現実。その不協和音が、魔女に言葉にできない不安を与える。

 

 コイツは、やばい。

 アレは、ダメだと。

 

 だが狩人は魔女を逃がさない。エンジンを響かせ、ピアニストのように長い人差し指でびしりと魔女を指差す。

 お前はもう逃がさねぇぞ、と。

 

「おうおうおうおうおう! 魔女如きがデケェ(ツラ)してんじゃねぇかバカヤロウ! その腐った耳の穴かっぽじってよォ~く聞きやがれ!」

 

 高く、猛る。

 跨る魔獣(バイク)の轟音さえも塗り替えて。

 魔女が寝床とする結界を軋み、厚顔不遜にも吠え立てる。

 

「神浜市に爆音轟く排気音! 魔女狩り根性背中に背負いィ、不撓不屈のォ、あ! 鬼総長ォ!

 麻宮(アサミヤ)バド様たぁオレのことだァ!」

 

 その叫びで、使い魔が爆ぜた。

 その唸りで、空間が罅割れた。

 

「覚えておきやがれェ!」

 

 前置き無し、最初から全速力。

 力強く握ったグリップを回し、バイクが魔女の空間を蹂躙する。巻き上げた土煙、進路を阻む使い魔を轢き潰し、遍くすべてを轍にしていく光景は圧巻としか言い様がない。

 

「人はなんで前に目があるか知ってるか? なんでバイクは前にしか進めねぇか知ってるか? 後ろに目がありゃあ、遠ざかる過去しか見えねぇからだ。それじゃあ人は前には進めねぇ!

 前に目がありゃ遠くが見える、未来が見える、だからオレのバイクは前にしか進まねぇのさ!」

 

 麻宮バドに後退の二文字はない。

 魔女だろうが使い魔だろうが、ましてや魔法少女であっても。如何なる敵であろうとも後退など有り得ない。

 それは無謀の突撃でもなければ、

 きちんと、自分の力量と相手の実力と、その時のノリを考慮した上での突貫である。つまり殆どが気分でしかない。

 

 何事もノリと勢い! バドにはそれ以外の行動理由は存在しない、脊髄反射でしか生きられない不器用な魔法少女である。

 それでも今まで生きていられたのは、支えてくれた仲間と、持ち前の豪運なしには実現しなかった。

 だから生きてる。だから戦える。故に不撓不屈。

 

「一度鉄火場に躍り出たからにゃあ、負けねぇ引かねぇ悔やまねぇ、前しか向かねぇ振り向かねぇ! ねぇねぇづくしの男意地!

 逃げてちゃなんも掴めねぇんだよ! 勝利も、栄光も、命もなァ!」

 

 エンジンを渦巻くは強大な魔力の奔流。使い魔どころか魔女さえも、今まで対峙していたいろはに目もくれず闖入者たるバドに意識が集中する。

 当然だ。力量の弱い魔法少女(いろは)よりも、化け物染みた魔力を放出して結界を破壊しようとするバドの方が脅威だ。

 

 ――この時点で、バドの思惑は7割程達成された。

 魔女のタゲ取り。及び、自分の魔力量に対する魔女の脅威判定。

 だが、問題は魔女の戦闘スタイル。

 バイクが巻き上げるは砂。つまり目の前の魔女の領域(テリトリー)は砂場とみていい。

 茶髪のロングヘアの中から生み出される無数の刃、竜巻は脅威ではあるが、バドが砂場を巻き上げてるせいで丸わかりだ。こればかりはバドの味方をした。だがそれでも、泥団子の投擲は接近を許さず、懐に踏み込んだところで魔女を取り囲む遊具の妨害がある。

 

(典型的な遠距離タイプ。しかもこっちの生半可な攻撃は弾く盾持ちか。そりゃコイツも手こずる訳だ)

 

 使い魔を轢き潰し、魔女の攻撃を避けつつバドは()()()、といろはの首根っこを掴み上げた。

 

「え、へ、えぇ?」

「掴まれ、喋るな、舌噛むぞ! ゴールデンにブッ飛ばァす!」

「えぇえええええええ―――ぶっ、へぐっ!」

 

 ひょーいとバイクの後ろのシートにいろはを乗せる。

 悲鳴が潰れたのは、仕方のないことだ。なんとこの間、止まってすらいない。完全な走行中乗車、危険極まりない、電車の如く発車前の開閉扉が無かっただけまだマシだ。

 緩んだ速度は極僅か。それでも止まらなかったのはバイクという性質と、現状を取り巻く環境に起因してる。

 そして、

 

(……えっ!?)

 

 振り落とされないように、慣性に抗うようにバイクの乗り手にしがみ付いたいろはは、気付いた。

 声こそ低いものの風で靡く髪は長く、魔女の結界に侵入する乱入者は魔法少女だと思っていた。しかし現実は違っていて。

 腕を回した腹部の質感は、黒いジャケット越しにでも硬い。髪で隠れていた肩はなで肩ではなく角ばったもの。背部から浮き出た肩甲骨はしっかりしたもの。

 

(この人、男の人!?)

 

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

126:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:aRo0i

 あの

 

127:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:okon6Ka

 ?

 

128:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:HbaPyw4

>>126 何?

 

129:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:lao3vqq

 ?

 

130:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:aRo0i

 はじめまして

 

131:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:oMa7miih

 ?

 

132:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:okon6Ka

>>126 初見さんいらっしゃーい

 

133:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:HbaPyw4

 最近神浜市に来たパターンか

 それとも最近御同輩になったか

 どっちかな

 

134:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:okon6Ka

 ちょっとちょっとー、そういうのいいでしょ今は

 

135:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:aRo0i

 みまし

 

136:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:aRo0i

 みました

 

137:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:aRo0i

 助けてもらいました。男の魔法少女。ありがとうございました

 

138:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:okon6Ka

 !

 

139:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:HbaPyw4

 !

 

140:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:mtoE3bx

 !?

 

141:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:lao3vqq

 !?!?

 

142:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:okon6Ka

>>137 マジで!?

 

143:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:HbaPyw4

 え!?

 男確定!?勝ち確!?

 

144:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:oMa7miih

 俺の勝ち!一年間何してたんですか?

 

145:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:lao3vqq

 複雑に考えてないですか?答えはシンプル

 私 た ち に は 運 が な か っ た

 

146:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:mtoE3bx

>>145 草

 

147:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:okon6Ka

 ち〇こついてた!?もっさり!?〇んこ!

 

148:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:HbaPyw4

 通報しました

 

149:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:lao3vqq

 通報しました

 

150:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:mtoE3bx

 通報しました

 

151:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:Komm4t

 伏字でもアウトなんかこのスレ

 

152:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:oMa7miih

 ていうか男の魔法少女って単語がもうパワーワード

 なんだよ男の魔法少女って

 

153:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:HbaPyw4

 魔法処女

 

154:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:lao3vqq

 魔法処女w

 

155:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:HbaPyw4

>>153 打ち間違えたw魔法少女!

 

156:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:gHim5t

 スレながれるのはやい

 

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 

(っぶねぇ! 危うく使い魔に取り付かれるところだった、いくら自慢のバイクでも魔法少女一人拾うのは骨が折れるな!)

 

 大抵バドは他の魔法少女が戦闘中の際には、カチコミ直後一直線で魔女に突っ込む。それは、殆どの戦場で魔女の手繰る使い魔が魔法少女の手で減らされてるからであり、矢張り最も討伐が難しいのが魔女だからである。

 要は、効率の問題だ。

 魔女だって馬鹿ではない、増やした使い魔で魔法少女の戦力を削ぎ、倒せるようであればその場でトドメを。己が喉元に届きうる力を持っているのであれば、撤退までの時間を稼ぐ。

 そうなると困るのは魔法少女だ、結局逃がしてしまえば疲労はするし、ソウルシードの汚染を取り除くグリーフシードは手に入らない。

 

 この魔法少女と魔女の戦争は、圧倒的に魔法少女側が不利なのだ。

 

 だから、最後の一押しを担うのが、(麻宮バド)である。

 

「ハハハハハァ―――!! 猿が人間に追いつけるかッこのクソ魔女ォ! てめぇはこの俺にとってのモンキーなんだよぉ―――!! そんな眠っちまいそうな動きでっこのオレを殺せるかァ―――!」

「あああああのあのあの! あの魔女! 倒さなきゃですよ! 逃げてないですか!?」

「逃げじゃねぇ! 戦術的転進ンンっ全速前進だっ!」

 

 本当である(嘘である)

 後ろに乗っているいろはでもわかる、明らかに結界の中央たる魔女から距離が開いていた。いろはがいた前線を中心起点に、大きな弧を描いているのはそのせいだ。

 だが撤退ではない。ましてや後退ですらない。

 不撓不屈の鬼総長が、LA(ラストアタック)潰しの魔法少女が、退くなんて現実は存在しない。

 

「見ない顔だな、アンタ名前は!?」

「いっ、いろはですっ! 環いろは!」

「いろはか、いい名前だな! 急で悪いがコレに魔力込めてくれ!」

 

 ぎゅっとバドの腹辺りで手を組んでしがみ付いてるいろはの手に、何かが押し付けられた。

 黒革の穴空きグローブに包まれたバドの手から手渡されたのは、銀色の鍵だった。

 

「ま、魔力ですか!?」

「勝つための時間稼ぎだ! アンタいい武器(エモノ)持ってるじゃねぇか、その力オレに貸してくれ!」

「え…」

「アンタの力が必要なんだよ! 頼むぜ…オレはお前を信じる! オレの信じるお前を信じる! だからお前もオレを信じてくれ!」

「信じる……わかり、ました!」

 

 鼓膜を震わせる風圧に怯えながらも、振り落とされないようにバドの肩をしっかり握り、手渡された鍵に魔力を込める。銀の鍵は込められた魔力量に比例して輝きを放ち始める。いろはの魔力に似た、桃色の光。

 

「で、この鍵なんなんですか!?」

「ガチャだ!」

「えぇえええ!?」

「いやな、オレ魔力はアホあるんだが攻撃手段が単車だけでな。あまり取り回し効くモンでもねぇんだよ。特に今相手にしてる魔女は遠距離型、近付いて轢かねぇ限りはどうしようもねぇ。いつもはよわっちい攻撃程度なら突貫して轢き殺せるんだが、今日のは火力がダンチ(段違い)だ。そこで、えろはちゃんの魔力だ!」

「いろはです!」

 

 猛スピードの中でも名前の訂正は忘れない。なんて不名誉な名前なんだえろはちゃん。

 

「魔力は、込めたな?」

「はっはい」

「ヨシ!」

 

 前輪をブレーキで止めてぐぅわんと後輪が跳ね上がる。前輪を起点にして一回転したバイクは周囲から飛び付いてきた使い魔共をなぎ倒し、タイヤに巻き込んで摺り潰れた。

 

 そう、()()()

 

 バドは、初めてバイクを止めた。

 

「仲良くなったダチ公からよく魔力譲ってもらうんだがな、たまーに面倒な魔女に遭遇した時はダチの力を借りるのさ。こんな風にな」

 

 跨るバイクのエンジンも完全に切って鍵を外す。代わりに、いろはの魔力が込められた鍵を捻じ込み、ぐるりと回した。

 

 魔力圧縮(どるんっ)爆発、放出!(どるるるんっ)

 

 バドの魔力といろはの魔力がバイクを巡り、混ざり、溢れ出す。

 マフラーから吹き出される白煙の魔力はやがて実体を持ち、象り変成する。バドの魔力が、いろはの魔力というフィルターを通して生まれ変わり、それは現界した。

 

「オイオイオイオイオイィ! やべぇ感じにキマってんじゃねぇかァ? だがこういうの、キライじゃないぜ!」

「あああああのあのあのあのコレなんなんですかコレすごい嫌な予感がするんですけど!?」

「見ての通りだ! できたのはドでけぇクロスボウ! んで、弾は()()()! 言いたいことは分かる、だが皆までいうな!

 …因みに超ド級のドってドレットノートのドって意味らしいな?」

「いまその豆知識必要ですか!?」

 

 ふるふると震えるいろはを宥めるようにバシバシ肩を叩き、笑う。

 いろはの魔力を通して変質したバドの魔力。それは巨大弓(バリスタ)の如く巨大なクロスボウの実体化。

 番えられたるは二人が跨るバイク。つまり、

 

「オレが、オレたちが、クロスボウだ! 天も次元も突破して、無限の彼方へさぁ行くぞ! ぶっ飛べクソ魔女ォ!」

 

 バイクのエンジンが火を吹き出し、クロスボウのトリガーが引かれる。巨大なクロスボウから撃ち出されたバイクは、まず発射の余波で周囲の使い魔を弾き飛ばした。

 次々と己が主たる魔女を守るべくその身を肉壁として捧げるも、いろはのクロスボウの発射速度が生み出した力の前には障子紙程度の耐久性にしかならない。二人の魔力を巻き上げて回転するバイクの前輪が使い魔を、そして魔女の苦し紛れの弾幕さえも轢き潰した。

 

「いやぁああああああああ!!」

「あはははははははははは!!」

 

 大絶叫で泣くいろはと呵々大笑するバド。

 エンジン音と魔法少女の大絶叫は、砂場の魔女が聞いた最後の音だった。

 使い魔を轢き、弾幕さえも乗り越えたバイクは、砂場の魔女の胸元を貫通した。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

157:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:aRo0i

 後ろにのせてもらいました

 男のひと、でした

 

158:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:HbaPyw4

 キタ――(゚∀゚)――!!

159:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:lao3vqq

 キタ――(゚∀゚)――!!

 

160:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:mtoE3bx

 彼女キタ――(゚∀゚)――!!

 

161:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:oMa7miih

 ガチ騎乗キタ――(゚∀゚)――!!

 

162:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:okon6Ka

>>157 ていうかバイクに乗せてもらった人いなかったよね?

 じゃあ初見さんガチ初物食いじゃn

 

163:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:HbaPyw4

 通報しました

 

164:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:lao3vqq

 通報しました

 

165:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:oMa7miih

 通報しました

 

166:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:mtoE3bx

 通報しました

 

167:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:gHim5t

 隠語もアウト

 

168:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:Komm4t

 センシティブ

 

169:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:qP9dlBu

 処女はいいのにこっちはダメなのか…

 

170:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:lao3vqq

 さっきBANされた人と同じ…?

 どうやって入ったん

 

171:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:oMa7miih

>>157 それで、どんな人だったん?

 イケメン系?ブサ男系?冴えない系?

 

172:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:mtoE3bx

 もうエロゲ主人公的顔面ナシは勘弁したい

 

173:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:lao3vqq

 エロゲw

 

174:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:gHim5t

 最近は顔面オープンなエロゲ主人公多いよ!

 

175:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:HbaPyw4

 まって、そもそもエロゲは18歳以下はダメよね?

 

176:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:oMa7miih

 暗黙の了解

 

177:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:lao3vqq

 18過ぎて自称魔法少女ってどうなん

 

178:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:mtoE3bx

 何歳までが魔法少女でいられんのかな

 

179:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:Komm4t

 奥様は魔法少女ってアニメあったような

 

180:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:oMa7miih

>>179 あれは魔女。魔女絶対に許さねぇ!

 

181:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:HbaPyw4

 それは大いに同意する。滅べ。でも勝手に滅ぶと私たちが食いっぱぐれるから困る。グリーフシードだけ置いてけ

 

182:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:lao3vqq

 で、何歳の定義もないとなると男でも魔法少女になれるのかな?

 その場合魔法少年だけど

 

183:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:oMa7miih

>>182 魔力あれば有り得るんじゃ?

 

184:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:mtoE3bx

 その辺キュゥべぇに聞いてもはぐらかされたしなー

 理論上、少女しか魔力は生まれないとかうんたらかんたら

 つまりキュゥべぇはユニコーンだった…?

 

185:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:lao3vqq

 結局わからんね、今後接触機会あればいいけど

 最近あんまキュゥべぇ見かけないからなー。あんま見たい顔じゃないけど

 

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 

 魔女が滅びれば結界も消滅する。

 それはこの世界における大原則であり、したがって砂場の魔女を討伐した二人は現実世界に帰還した。

 

「うはははははは! いやーめっちゃヤバかったな! こりゃあ過去ベスト3に入る魔女攻略だ! なるほど、やっぱその場で出会ったばっかの魔法少女相手だとこういう形で反映される仕様なんだな。いい勉強になったぜ」

 

「ハァ、ハァ…あ、あなたは…噂の…男の、魔法少女…?」

 

「おう! 巷で噂の()の魔法少女、麻宮バド様たぁオレのことよ!」

 

「わ、ほ、本当に男の人だ…あ、あの、助けていただいてありがとうございます!」

 

「いーってことよ! ホレ、土産もんだ」

 

 乱れて垂れた長い前髪を、外したゴーグルでカチューシャ代わりにして整える。男の魔法少女、麻宮バドは投げ渡されたグリーフシードを空で掴もうとわたわたするいろはを見てニカッと笑った。

 

「じゃあな! 手ェ出す魔女は選べよ、他所と違って神浜市の魔女はダンチだからな! それでも巻き込まれたら…そうだな、助けて―って叫べ! 24時間365日、オレは誰からの助けにだって駆け付けるぜ!」

 

 目をぱちくりさせるいろはの肩をバシバシと叩き、バドはバイクに跨って去っていった。

 まるで嵐のような人だと、いろはは渡されグリーフシードを握った。

 

 神浜市に劈く排気音。

 獣の唸り声にも、笛の音にも似たそれは、魔女狩りの福音。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

186:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:HbaPyw4

 ……ねぇ、元々このスレもっと人来てたよね。結構減ってない?

 

187:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:gHim5t

 それスレに来る魔法少女がやられたって線では

 

188:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:lao3vqq

 ひょっとして

 

189:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:HbaPyw4

 ?

 

190:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:lao3vqq

 正体知ってる人、もうこのスレ来てない説?

 

191:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:oMa7miih

 あ

 

192:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:mtoE3bx

 あ

 

193:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:Komm4t

>>190 あー…残酷な真実を

 

194:名無し☆魔法少女 20**/*/** **:**:** ID:HbaPyw4

 ぢぐじょう゛!!!

 くやしいデス!

 

 

 

 ◆ ◇ ◆

 

 

 

「ああ、クッソ、もう男タイムは終わりかよチクショウ」

 

 バイク、黒ジャケットのライダースーツ、ゴーグルが魔力に還元されて消える。同時に、魔力とは関係なく全身を激痛が走る。

 出っ張っていた咽頭は引っ込み。肩の輪郭は丸みを帯びて。

 痛覚操作の魔法は使えない訳ではないが、それでも肉体変成の際の激痛を消すつもりはなかった。

 その痛みが限られた夢の時間を得る対価、シンデレラの靴を履くための痛みと理解して。

 

「あーっててて、いってぇ…マジで痛ぇ…そして辛ぇわ」

「理解できないね。キミはどうしてその痛みを打ち消さないんだい?」

「お前のせいだぞキュゥすけ、なーんで魔法少女になれる時しか男になれねぇんだよ。契約違反もいいところだ」

「キュゥべぇだよ」

 

 歯を食い縛って痛みを堪え、魔力消費の虚脱感にふらつき腰を下ろしたベンチの反対側に現れるキュゥべぇ。ホント神出鬼没だなコイツ、と自分のことは棚に上げてバドは溜息をつく。

 そう、バドが魔法少女になることと引き換えに、キュゥべぇに願ったのは、

 

「キミの願いは『男になること』だったね。うん、その願いに相違はない。ボクはその通りに願いを叶えた、契約は成立した」

「嘘こけ、()()()男にはなってねぇじゃねーか。そういう一ヵ月お試し体験的なアレはいーんだよ! もう魔法少女になったんだから普通に男にさせろよ、母ちゃんの胎ン中にいたときの性染色体をXXからXYにするだけでいいだろ! 時間遡行なりなんなりすりゃあいいじゃねぇか!」

「口で簡単には言うけどね、その為の対価としては成立しないんだよ。性染色体を変えた場合、いまのキミはキミではない全く別人になってしまう。性転換とはそう簡単な願いではないんだ。それに、キミが永遠に男になってしまったら魔法少女でいられなくなってしまう」

「だったら変身したら女でいいから変身後は男にしとけよ、なんで逆なんだよ男でいられる時間の方がみじけーじゃねぇか!」

「そういうわけにもいかない」

 

 きゅっぷい、と。

 全身の調子を確かめるバドの肩に飛び乗ったキュゥべぇは小さく鳴いて、感情のないつぶらな瞳にバドの顔を映し出す。

 

「キミが男になる時間が長い方が、現実へ干渉する影響は大きくなる。つまり、現実との整合性が取れなくなるんだよ。難病を治すとか、金持ちになるとか、そういうものとはまた規格が違うんだ」

「なんだそりゃ。なんでも願いが叶うって謳い文句が聞いて呆れるぜ。これでも結構長年魔法少女やってんだから、ちったぁ融通利かせてくれてもいいじゃねぇか」

 

 ほぐれた全身から痛みを逃がしたバドは穴空きグローブを嵌めた手でキュゥべぇの尻尾をふにふにと揉みながら、ベンチから立ち上がり夜の神浜市を歩む。

 月は平等に一人と一匹を照らし続ける。

 

「そういやお前最近見かけねぇけど、ちゃんとメシ喰ってんのか? 野良ネコにメシ奢ってくれる奴も最近少ねぇから個体数減ってんのかと思ったよ。なんか奢ってやろうか、ラーメン食えんのか?」

「不要だよ、ボクはキミたちのような食事を必要としていない……キミとは、長い付き合いだ。もしボクが居なくなったとしても、そう気落ちしないでほしい」

「はぁ? オイオイオイ、何今生の別れみたいなこと言ってんだよ。お前とは恨みも憎しみも併せ呑んで、それで切っても切れねぇ縁ができちまってんだぜ」

 

 首元にマフラーの如く絡まるキュゥべぇの脇腹をカリカリと掻けば、気持ちよさそうに身を捩る姿は仲睦まじい飼い主と飼い猫だ。

 かつては願い。恨みと憎しみを抱き、離別して。しかし、その腐れ縁は今なおも続いている。基本的に、動物には強く出れないのがバドだった。少なくとも腹を空かせた猫を見かけたら猫缶を買ってくるくらいには、動物には優しかったりする。

 男らしい言動と粗暴な性格とは裏腹に、割と繊細。

 

「また愚痴言うときあるんなら来いよ、相手になるぜ。だからその代わりオレを男にする時間増やしてくれよ。契約をちゃんと履行してくれるまでは、オレだってお前といい付き合いでいるつもりだぜ」

「どこまでも自分勝手で自分本位なんだね。ある意味そのずぶとさが、キミをキミたらしめる原因なんだろうけど」

 

 トン、とキュゥべぇはバドの肩から降りて軽やかに着地する。

 

「黙って消えるつもりはないよ。それでも()()()キミには会いたかったんだ、麻宮バド。少女ならざる身への変成を願った奇矯なるモノよ。ボクがこういうのもなんだけど、キミが最後までキミらしく有り続けることを願っているよ」

 

 きゅっぷい、と小さく鳴いて、キュゥべぇはバドが歩む道とは反対の道をてちてちと歩んだ。

 

「……オレにはさっぱりわからねぇ。なに頓珍漢なこと言ってんだキュータロウ」

 

 バドは暗闇に消え去るキュゥべぇの後ろ姿に首を傾げ、行きつけのラーメン店へ足を運ぶ。戦えば腹は減る。美味い物喰って腹が膨れれば、生を実感できる。それが明日への活力に、ひいては魔力の貯蓄に繋がると、信じてるから。

 

 食え。食うんだ!

 

 ―――その日以降、バドがキュゥべぇの姿を見ることはなかった。

 

 

 

 

 



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ポエムを詠ませろ、自語りしてやる!



 一人称の物語
 虚空に呟くその言葉
 虚しき独り言の聞き手とは 配点:未来の黒歴史




 

 

「みーんみんみんみん、蝉のやかましい声でオレは目覚めた。

 まだ倦怠感が残る体だが、それでも起きにゃあ一日は始まらんだろう。いや、別にベッドで寝転がってても一日は終わるがな」

「ねぇ、いま夕方よ」

「オレの名前は麻宮バド。いたって変わらず健全で品行方正な普通の高校生だ。

 両親と劇的な別れを経験している訳でもなく、かといって生き別れの兄弟がいることを知らないというドラマチックなバックグラウンドがあるわけでもない。とりあえずそんなく、く、く…くそげー? な、かったるい人生のおはようと侮蔑を込めて挨拶して、オレは学校の制服に身を包み、家を出た」

「…ねぇ、もう大学帰りなのだけど」

「おっと、このオレ様に声を掛けてくる読モ年齢詐称系美少女は…やよいだな。相変わらず綺麗な声してやがる。惚れ惚れしちまうぜ嘘だけどな。

 やよい「おはよう、今日もいい天気ねムッシュマドムアゼルトレビア~~~ノ」

 バド「お、そうだな。てめーの頭にところてんが降ってきそうなくらい最悪の天気だ」

「………やちよよ、そして私は年齢詐称系でもないしそんなこと言わない。あなたさっきからなにやってるの…?」

「ん。最近よく見かける自語り大好きプロローグを声に出して言ってみた、台本形式でな! 流行ってんのかね?」

「あなたね…そんな恥ずかしいプロローグの物語が存在するわけないでしょうに。そもそも台本はドラマや演劇の脚本に名前を付けているだけであって、本や小説に用いるものではないわ。もしかして昨日どこかで事故ったの? いよいよ頭打っておかしくなったかしら」

「な訳あるか。いいか? バイクは2ケツまで事故らねぇんだよ、ヘルメット被ってりゃ。3ケツは事故るけどよ。昨日は不良に絡まれそうになってた子掻っ攫って家に送り届けてやっただけだ。最近物騒だからな」

「……はぁ」

 

 神浜市立大学の玄関を抜けて帰路に就く中、七海 やちよは溜息を溢す。

 遠巻きに見てくる学生たちがひそひそと2人には聞こえないレベルの声音で話しているのは、十中八九自分たちのことで間違いない。

 新一年生の中でもとびきり女性らしい、端正な容姿の代表格がやちよだとすれば、やちよの隣で乙女の欠片もない大あくびをしているバドは最も()()()()()容姿の代表格である。

 やちよと同じくらいに伸びた髪はポニーテールで一本に結わえられている。髪の艶はやちよでも見事なものだが、本人はそういった女らしいケアには一切心得がない。自前の体質に妬ましさを感じずにはいられない時もしばしば。

 

 やちよがバドと知り合ったのは、中等部からだ。魔法少女になる前でも、バドの奇行と噂はやちよの耳に度々届いていて、

 

「……まぁ、人生の中にはそういう人と出くわすこともあるわよね」

 

 程度の認識はあった。

 遠回しに「関わり合いたくない」という認識でもある。

 

 曰く、コンビニ前で屯ってる男子高校生を病院送りにした。

 曰く、料金以下のメニューを出したレストランで食い逃げした。

 曰く、同じ学校の生徒を誘拐しようとした犯人に自販機を投げつけた。

 曰く、車に轢かれそうになった女の子を助けるために車を殴って跳ね飛ばした。

 曰く、曰く、曰く、etc。

 

 しかもこれらは、バドが魔法少女になる()の話。

 

 むしろ、魔法少女になってからというもの、バドの暴れっぷりは鳴りを潜めたようにも思える。単にストレス発散の対象が魔女に移っただけなのか、それとも神浜市でバドの目につく不届き者が減ったからなのか。

 その理由は分からない。

 

(ま、考えるだけムダね。あのバドだもの)

 

 なんだかんだ、やちよ自身付き合いが長いのはバド一人。

 『好き』なんて感情は小指の爪先ほど存在するものではないが、『嫌い』という感情も同等にあるわけではない。

 ただ、魔法少女として出会い、その繋がりを手放すつもりがないだけ。

 

(いえ、むしろバドが積極的に固結びに固定してるんじゃないかしら)

 

 どちらかといえば、バドが離れようとしない。

 ただ、それだけ。

 

「春は別れの季節、出会いの季節。

 てんてんてん、かといってそれが万人に等しく降り注ぐわけでもなく、当然このオレ様に適応されるほど世の中甘くない。

 世の中ってどこまでも救いようがねぇな。勉強して、大学入って、一流企業に就職するなんてて、てて、てんぷれぇと、オレはもう飽き飽きだ。人生くそげーだよくそげー。ご丁寧に攻略するほど無駄なものはねぇ。

 オレはこの神浜市に住んでいる麻宮バド。賢い選択をした男の名だ。

 そしてオレ様は自殺と言う名の人生のこ、ここ、こんていにゆーを成功し、今に至る。目の前に広がる白亜の輝き。目の錯覚か? いいや違う、これが転生を迎える上で訪れる伝説の空間…!

 え、ちょっとまて、神様ってなぁそんな簡単に会えるもんなんか? あいどる、みたいなもんでてっきり存在しねぇ偶像みたいなもんだと思ってたんだが。つーか、死んで新しい理想の世界に行けるとかそんな寝言寝たって言わねぇよ人生の価値自分で下げてんじゃねぇよダボが」

「まって、まって。あなた本当に何言ってるの」

「べっつにー? さっきすれ違った奴がスマホに打ち込んでた文章がそんな感じだったから、いざ声に出して自己紹介風に画面の前のキミに紹介しただけだっつの」

「「え」」

 

 端末に顔を近づけてにらめっこしていたであろう生徒の一人の声と、やちよの声が被る。

 当然ながら、動揺で目が揺れてる生徒の顔はやちよにはまったく見覚えがない。同じ大学の生徒だろうが、明らかに学部はおろか、学年さえも違う。

 街中でも、電車の中でも、バスの中でさえも。不特定多数の誰かと話そうという気のない人は、皆こぞって自身の端末とにらめっこする。電車の向かい側の席の人と目が合うなんて近頃では滅多にないことだ。それがこの日本では当たり前の日常。

 

 しかし麻宮バドに、その当たり前は無い。

 

 度の過ぎたお節介とでも言えばいいのか、誰も気が付かない気にも留めない人でさえも気軽に声を掛け、親しい友のように、息をするように接する。

 100人中99人が右と選択するような道を、左に行くわけでも来た道を戻るわけでもなく。

 ただひたすら一直線に、思うがままに突き進む。それが、麻宮バドという女。

 

 否、魔法少女。

 

 また余計なことを、と頭を抱えるやちよなど目にも留めず、バドはたった今知り合ったばかりの学生に肩を組む。たわわに実った乳房が学生の腕にむっちりと密着して、学生の眼が白黒に瞬いた。

 

「いやいや、アンタも人生相当苦労してんのかもしんねぇけどさ、もっと現実に目を凝らして見てみろよ。案外アンタに合う生き甲斐ってのも見つかるかもしんねぇぜ。まだ人生を諦めるのは早い。アンタ男だろ? カッコいいぜ、何事も気合だ! それがダメでも、このオレ様が信じる。オレが信じるアンタを信じろ!」

「…え、は、へぇ!?」

「ちょっと! ああもうすいません何でもないですご迷惑をおかけしましたそれじゃさよなら―――!!」

「あ、おい。安心しろ青年、今までの人生は辛ぇもんかもしんねぇけどさ、これからの人生はきっと明るい。アンタがそう思う限り、その大志を胸に抱いて頑張る限り、絶対な。

 よく言うだろ? すべては心一つなり! ってな!」

「ちょっとっ、もう!」

「おぉー、青年元気でなー」

 

 やちよに手を引かれながら。まるでまた明日、と言うように。

 再会することが約束されたような態度で、バドは初見の学生に別れを告げる。あの様子ではバドの言葉など耳にも入ってもいない。あのうら若き青年には、バドのコミュニケーション力と瑞々しい体肢でいっぱいいっぱい。

 

 女性として、同性でさえも羨むべき恵まれた体。

 しかし肉体の主たるバドには、その肉体を忌避することはあれど、自慢することも見せつけることもない。

 寧ろ、歳を重ね女らしくなることを、バドは嫌悪すら抱いていた。

 

「あぁァ~~~…男になりてェ~」

「あなた…さっきまでとことんダメ出しした異性に対してよくそんなこと言えるわね」

 

 寝そべるように組んだ手を後頭部に添えてぼやくバド。

 てくてくとキャンパスを歩む姿はガサツで、男っぽくて、女っ気は微塵も感じられない。

 それでも。

 生物学上、女という性を違えることはない。

 

「オレさ、ああいう自堕落でダメダメな面を併せ持つ点を考慮しても、男に憧れてんだよ。そうだな…『玩具物語第三章』に出てきた『ケン』みたいな。

 …さっきオレが言った台詞、覚えてるか? あれ、本来オレみたいな女々しい女なんかじゃなくて、もっと頼れる背中の男が言うモンなんだよ。背中どころか肩までナヨっとしちまってさ、胸肉あるだけの女が何言ったところで説得力なんかねーのさ」

「……そんな、ものかしら」

「お? お? 惚れちゃった? オレに惚れちゃったか? いいぜいいぜ夜ならいつでもばっちこい。オレの男らしさ、魅せてやるぜ?」

「バカ言ってないで、帰るわよ。そもそもあなた」

 

 キャンパス内の駐輪場に辿り着く。

 周りには誰もいない、持ち主が誰かもわからぬ自転車、バイクが延々と置かれているだけ。

 目の前を歩くバドが、振り向く。

 

「もう男に、なれるじゃない」

 

 長い髪は、そのままに。

 女っ気のない私服は魔力に包まれ、ふくよかな胸は平坦に。丸みを帯びた肩は幅を増し。

 背丈こそそのままに、骨格は男性的なものへと変化して。

 魔力で編まれた黒革のライダースーツと、駐輪場にはなかった漆黒のバイクが生き物のように唸っていた。

 ゴーグルを嵌めたバドは、ぽいと、やちよの手に魔力で新たに生み出したヘルメットを乗せる。

 

「乗ってけよ。みかづき荘まで送ってやるぜ」

「…お言葉に甘えさせてもらうわ。あと、前にも言ったけどあまり街中で魔法少女に変身するのやめなさい。見つかったらどうするの」

「見た目は一般人とあんま変わんねぇんだからいーじゃねーか。それに、オレの場合は魔法少女なんてカワイイもんじゃねーって」

 

 スカート巻き込まないでね、わぁってるよ、と慣れた小言の応酬を繰り返し。

 腹の前でやちよの手が組まれ、振り落とされぬよう、しっかり身体を抱きしめられたことを確認すると、バドはグリップを回す。

 

「魔法少年、だろ」

 

 

 

 △ ▼ △

 

 

 

「ありがとう。それで、今日はどうするの?」

 

 バドは、みかづき荘には住んでいない。依然変わりなく、みかづき荘はやちよたった一人の住まいだ。

 昔とは、違って。

 勿論、以前はバドも住んでいた。でも、バドはやちよから距離を取った。

 それは、心理的なものではなく、あくまでも物理的な距離。

 自分は、やちよの心を癒すために寄り添える人柄ではないと。共にいても、やちよをどうにかできるわけではないと。自分の力不足を悟って、離れた。

 ただ、

 

「オレは、待ってるよ」

 

 その一言を最後に、バドからみかづき荘の話を持ち掛けることはなかった。

 つまり、やちよの中で整理がつくまで、待つ。

 放置でなければ放棄でもなく。

 ただ、待つ。

 いつか、答えを見つけ出す、その時まで。

 

「んー、ウチ戻る前に会う約束してるヤツがいてな。なんか、友達が仲違いしちまったみてーなんだが、全然仲直りすることもなくってやきもきしててな、相談持ち掛けられた。この後待ち合わせ。なぁに、ちょっとしたカウンセリングさ」

「ふぅん……その仲違いって、『絶交』だったりする?」

「うん? あ、あー……いや、そこまでは聞いてねぇ。やべ、そっか、調整屋もその『噂』の話してたな」

 

 

アラもう聞いた? 誰から聞いた?

 

 みかづき荘の前でバイクから降り、やちよは被っていたヘルメットを脱いでバドに渡す。それはバドの手に収まるよりも前に、魔力に還元されて空に消えた。

 近頃、異常なほどに神浜市に蔓延する『噂』。それに追従するように現れる『ウワサ』の化け物。

 バドもその話は聞き及んでおり、何よりもやちよとほぼ同期。七年間も神浜市で魔法少女をやっていれば、以前との違いは分かりやすい。故に、バドはフットワークの軽さを活かして神浜市中を駆け巡り、魔法少女とコンタクトを取っては『噂』の蒐集活動に勤しんでは、やちよと情報を共有している。

 

「『絶交』ってぇと…えーっとえーっと、なんだったか」

「『絶交ルール』よ。『絶交階段のルール』」

「あ~…『絶交ルール』ね」

 

 

絶交階段のそのウワサ

 

「確か…喧嘩して絶交って言ったのに謝ると嘘つき扱いされて神隠しに遭っちまう無茶ぶり理不尽系の『噂』だったか」

「違うわよ。絶交の後の謝罪、という一連の行動によって現出する特定行動条件型の『噂』よ」

 

 

フンだ! キライだ! ゼッコウだ!

 

って言ったら見えないけどそこにある!

 

「……なんか、こうして聞くと…アレだな。小っ恥ずかしいな」

「え?」

 

 

もしも仲直りしようとすると、連れて行かれてサータイヘン!

 

友達を落とした黒い少女に捕まると、無限の階段掃除をさせられちゃうって

 

神浜市の少女の間ではもっぱらのウワサ

 

ヒーコワイ!

 

「だってさ、その『噂』よぉ…若気の至りじゃねぇか。思春期なら、気の合ういいダチと喧嘩することだってあるだろ。一時の感情に身を任せて、行き場のねぇ激情を、親しいダチ公にぶつけちまうことだってあるだろ。仲のいいダチだからこそ、吐き出せる気持ちだってあるしな」

「……それ、は」

()()()で吐き出した唾を飲み込むのは、大人だって難しいんじゃねぇか? でもよ、そんな仲のいいダチなら…詰まらねぇことで切れる縁でもねぇ。八つ当たりしたことを思い返して、自分を省みて、後悔して、頭下げて、謝りたくなくても謝るだろ。

 それをよ、詫びて謝ったってのに攫って行っちまうって、なんかさ」

 

 バドは、ゴーグル越しにみかづき荘を眺める。

 たった一人、やちよしかいないその建物。かつての仲間たちが、玄関の戸を叩いて入っていく姿が、瞼に浮かぶ。

 ふと、やちよも振り返ってみかづき荘を眺める。

 そこには矢張り、誰もいない。

 

「ずるいじゃねぇか」

「……ずるい?」

「ああ。人間、生きてりゃ過ちの一つや二つや三つ、犯すこともあるだろ。『絶交』――なんて、いい例だ。それなのに、せっかく仲直りしたってのにその過ちを許さず攫っちまうなんてよ。

 ……赦せねぇよ」

 

 バイクのエンジン音が、唸りを上げる。

 しかしそれはバドの感情を反映しているというより、むしろバイクがバドの怒りを宥めているようにも思えた。

 それだけ、バドの感情が荒々しく、ふつふつと沸き立ち、荒ぶる魔力が可視化してしまっている。

 

「腹が立つ、腹が立つ。ああ…腸が煮えくり返るってのは、こういう気持ちなのか」

 

 それは、憤怒。

 それは、嚇怒。

 決して、温室育ちの手弱女が抱ける感情ではない。

 理不尽を憎み、不条理を恨み、人を弄び不幸に陥れる大いなる力を忌み嫌う、益荒男が抱く感情だ。

 『噂』が生む『ウワサ』の化け物に対する魔法少女のスタンスは、魔女と異なるとはいえ罪なき人間にとって驚異であり、魔女と同じレベルの危険な存在を排除する、といったものだ。その事実と考え方に違いはない。

 だが、バドは違う。同じようで、ベクトルが少し違う。

 バドは、人々の尊き心を揺さぶり、へし折り、絆を台無しにする『噂』そのものが許せない。被害に遭う人間が増えれば増えるほど強大化していく『ウワサ』の化け物を見るたびに、関わらなければ不幸を重ねなくても済んだ筈の人間の末路を思い出す。彼らの悲嘆を薪にして、怒りという焔の中へ焚べて、燃やす。

 その焔が、愛馬(バイク)を、バドを突き動かす。

 

「『絶交ルール』の『噂』…クソだな」

 

 地を蹴り、バイクに跨ったバドはみかづき荘を去った。

 バドが吐き捨てた怒りの残滓は空を漂った。陽炎のように空間を歪曲させるその魔力。みかづき荘を去るバイクから立ち上る煙、それは裡に眠る(いかり)に内側から焼き尽くされているように見えた。

 

「…男でなくても、あなたは頼りになるヒトよ」

 

 だから、と続けて。

 

「早まらないで」

 

 その言葉は、バドには届かなかった。

 

 

 

 

 



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