鬼ヲ狩ル者達之交差【休載中】 (Luly)
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タグとタグを設定した理由に関して(※ネタバレ要注意)

ネタバレ防止線を張りましたので、ネタバレを嫌う方は防止線が現れた時にこの話を閉じてください。
なお、現在非常に不安定な作品執筆状況となっておりますので、2020/06/08 20:00現在の最新話を読んでいる方でもネタバレを起こす可能性があります。十分にご注意くださいませ。
今回、後書きは存在しません。
…これ、ハーメルンの運営さんに怒られないかなぁ…(独り言)


必須タグ↓

・R-15

・ガールズラブ

・残酷な描写

・クロスオーバー

・オリ主

 

タグ一覧↓

・R-15は保険

・残酷な描写は保険

・鬼滅の刃

・あやしや

・あやしやと似た歴史

・綺糸屋勢、錦糸屋勢が追っているのは鬼滅の刃のキャラではない

・オリジナル設定

・異世界転移

・他作品ネタ多数

・キャラ崩壊の可能性

・その他タグ多数

・オリジナルキャラ多数

・原作死亡キャラ生存

・ソードアート・オンライン(技・アイテムのみ)

・モンスターハンター(技のみ)

・オリジナル刀匠

・東方project

・オリジナル呼吸

・擬人化

・歌

 

 

 

注意!!

これより先、ネタバレになる情報が多数含まれております!

本編を読んだという方、あるいはネタバレしたとしても気にしないという方のみご覧ください!!

なお、注意を聞かずにネタバレを起こしてしまったとしても作者である私Lulyは一切責任を負いません!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────ネタバレ防止線

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────ネタバレ防止線

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────ネタバレ防止線

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タグの理由とタグの追加時期

 

必須タグ↓

・R-15 …… 通常タグにもあるように保険。それ以外の何物でもない。(初期タグ)

 

・ガールズラブ …… 鈴と香の恋人関係より。(初期タグ)

 

・残酷な描写 …… 通常タグにもあるように保険。一応血とかの描写はあやしやと鬼滅の刃どちらにも存在するため。(初期タグ)

 

・クロスオーバー …… 鬼滅の刃の世界にあやしやメンバーが入ったため。(初期タグ)

 

・オリ主 …… 錦糸屋メンバーが主体で行動しているため。…おそらく。運営からの対処にて。なお、運営からの対処に関しては正しいと思っているのであまり気にしないでもらいたい。(2020/06/10強制追加)

 

 

通常タグ↓

・R-15は保険 …… 保険その1。R-15に当てはまるのかよくわからなかったため。(初期タグ)

 

・残酷な描写は保険 …… 保険その2。残酷な描写に当てはまるのかよくわからなかったため。(初期タグ)

 

・鬼滅の刃 …… 今回の舞台兼原作作品。(初期タグ)

 

・あやしや …… 今回の被害者。(初期タグ)

 

・あやしやと似た歴史 …… 錦糸屋勢のこと。錦糸屋勢も名前は違うが綺糸屋勢とほぼ同じ歴史を辿った。(初期タグ)

 

・綺糸屋勢、錦糸屋勢が追っているのは鬼滅の刃のキャラではない …… 綺糸屋勢と錦糸屋勢が鬼滅の刃の世界に来る原因となった“歪みを使う鬼”のこと。鬼滅の刃原作に存在する空間支配系血気術の鬼ではない。(初期タグ)

 

・オリジナル設定 …… ほとんどは錦糸屋勢のこと。他には鬼滅の刃の世界に鬼門があることとか仁達が使う武器の名前とか。(初期タグ)

 

・異世界転移 …… 綺糸屋勢と錦糸屋勢のこと。それぞれ元の世界から鬼滅の刃の世界という異世界へと飛ばされた。(初期タグ)

 

・他作品ネタ多数 …… そのままの意味。鬼滅の刃、およびあやしやとは別作品のネタを多数配置するため。(2020/06/02追加)

 

・キャラ崩壊の可能性 …… そのままの意味。鬼滅の刃原作を知らないため、及び原作を知ったとしても本来のキャラで動かせるかわからないため。(2020/06/02追加)

 

・その他タグ多数 …… そのままの意味。タグは多いが、タグを書き込む欄の文字数制限である100文字以内に収められなかったために悩んだ末書いたタグ。これ以降に追加するタグはすべてここに書き足すこととする。(2020/06/08追加)

 

・オリジナルキャラ多数 …… 書き忘れていたタグ。オリジナルキャラが多数存在する。(2020/06/08追加)

 

・原作死亡キャラ生存 …… 例として佐吉と胡蝶カナエ。佐吉は厳密にいえば逆行蘇生だが、胡蝶カナエは二年前に上限の弐と戦って現役を引退してはいるが生存している。(2020/06/08追加)

 

・ソードアート・オンライン(技・アイテムのみ) …… アイテム。他作品ネタ多数の一部。(2020/06/10追加)

 

・モンスターハンター(技のみ) …… 技。他作品ネタ多数の一部。(2020/06/10追加)

 

・オリジナル刀匠 …… “玉藻 鬼神”のこと。厳密にはオリジナルではない。私の作成したキャラクターじゃないから。(2020/06/11追加)

 

・東方project …… “藤原妹紅”。ただし性格、口ぶりなどは完全に少女。(2020/06/23追加)(2020/06/26書換)

 

・オリジナル呼吸 …… 属性の呼吸。(2020/11/23追加)

 

・擬人化 …… だまり、りんねの人間化術式。(2020/11/23追加)

 

・歌 …… 一応追加したタグ。歌詞記載とかがたまにあるため。(2020/12/13追加)



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謎の空間(壱の始)

初投稿です。
文章が下手なところがありますがよろしくお願いします。

なお、この投稿時私は鬼滅の刃を知りません。探すつもりではありますが、間違っているところがあれば教えてください。


「…ん?」

 

本に囲まれた部屋の中。一人の男がいた。

 

「あんたは…」

 

男はこちらを見て何かを呟こうとした。

 

「…いや、別にいいか。こんなところになんの用だ?」

 

男はそう言うと本棚に近づいた。

 

「答えない、か。まぁいい。」

 

男は本棚から1冊の本を抜き出して近くの机に座った。

 

「この空間では時間はたっぷりある。ここにある本を読んでからでも遅くはねぇさ。」

 

男はそう言って抜き出した本を開いた。それを見て、私は近くの本棚から1冊の本を抜き出した。

 

「そうそう、ここにある本はすべて()()()()()()()()()。読む時は気をつけろよ?」

 

男の言葉に緊張感を覚えつつ、題の無い本を開いた。

 

 

 

───そこから先は覚えていない。

 

 

 

 

 

side 謎の男

 

 

「…気をつけろ、って言ったんだがな。」

 

俺は立ち上がり、先ほどまで人がいた場所に落ちていた本を拾い上げた。

 

「……幸い、ここは時間がたっぷりある。その間この本を楽しんでるといいさ。」

 

俺は本を机の端に置き、元居た席に座った。

 

「…ん?」

 

置いた本に違和感があってもう一度本を見る。

 

「…無題。なるほど、()()()()()()()、か。」

 

俺はそれを見てため息をついた。

 

「厄介な本に巻き込まれたもんだ。まだ執筆中の本とはな。」

 

とはいえ、その()()()()()()()()()()()のも俺の仕事の一つ。

 

「ったく。…我、汝に名を与える。我、本を管理するもの也。管理者の権限の名において、名の無き書物に名を与えん。」

 

俺はそこまで唱えてから一泊おいた。

 

「汝のあらすじを見せよ。」

 

そう呟くと本から光る文字が現れる。

 

 

 

この作品を開いた皆様はおそらく鬼滅の刃を知っているのであろう。

言うまでもなく、竈門炭治郎が鬼になった妹、竈門禰豆子を人に戻すための術を探す物語である。

その際に狩るものといえば、鬼。

鬼滅の刃の名の通り、刃を用いて鬼を狩る。

ちなみに作者は今の今まで鬼滅の刃を読んだことはない。(こら)

まぁ、そんなことはいいとして、だ。

 

その上で、皆様に問いたい。

皆様は“あやしや”という作品をご存じだろうか?

これは、そのあやしやの人物が鬼滅の刃の世界に飛ばされてしまった、そんなifの物語。

狩る者と狩る者。それらが出会ったとき、いったい何が起こるのであろうか?

 

さらに。

もしも、別の世界にあやしやと同じ歴史を辿った存在があったとしたら?

そして、その存在達も飛ばされたとしたら?

一体なにが起こるかは、皆様の目で確かめるといい

 

「狩る者と狩る者ねぇ…」

 

その文字を見て題を考える。

 

「…命名、“鬼ヲ狩ル者達之交差”」

 

呟いた言葉が受理されたようで、本に題名が現れた。

 

「…ま、これであとは入ったやつ次第、かねぇ。」

 

俺は席について本を読み始めた。




本編は次の話からです
どこかの作者さんと似たような始まりになった気がするのは気のせいかな…?


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第壱話 始まり

感想欄の設定を間違えてましたので第壱話を投稿します。
なお、しばらく鬼滅の刃のキャラクターたちは出てこないのでご注意を。


「号外号外ィ!昨晩北の大通りで鬼が出たってよォ。」

 

「…らしいぞ、仁。」

 

「だからどうした。」

 

俺は瓦版の声を聴いた楽にそう答えた。

 

「今日も鬼狩り行くのか?」

 

「当たり前だ。最近はだまりがいなくとも何とかなるようにはなってきたからな。」

 

「だよなぁ…」

 

楽はそう言うと着物をたたむのを再開した。

 

「若旦那。しばらく休んではどうですか?」

 

「ん…いや、もう少しやってから休むさ。ありがとう、花。」

 

「疲れたぁ!」

 

「咲、お前はもっと静かに店に入ることはできんのか…」

 

「だって疲れたんだもん!」

 

「柊さんに言いつけるぞ?」

 

「それは勘弁っ!!」

 

事件解決の夜から早7ヵ月が経った。

 

最近は楽も鬼導隊として夜の鬼退治をしに行ってたりする。実際稼業も継いでおり、影の鬼導師として鬼神族と話をしに行っているという。

 

俺も俺で、楽に戦い方を教えてもらいながら鬼狩りをしてたり。まぁ、食べる奴はいないんだが。

 

花は花で俺達のサポート。って言っても前のような術は使えないんだが。

 

「よぉ」

 

「あ、柊さん」

 

「っ!」

 

「なんだ、咲。ちょうどいたのか。」

 

「は、はい…」

 

柊さんは俺達に新しい鬼の情報を与えてくれる情報源。というのも俺達はこの綺糸屋を拠点としているから、隊の情報に疎いのだ。

 

「あら、お客様?」

 

「母さん、時間的に閉店です…」

 

「あら…ということはこれから外へ?」

 

「いや、まだだろ~…」

 

「まだだと思います…」

 

「だがそろそろ悪鬼が出る時間ではあるからな…準備はしとけよ、楽、仁、咲。」

 

「ええ、存じております。…ところで、本日は何かご用で?」

 

実際、営業時間中に柊さんが来ることはあまりない。あるとしたら至急の用事があるか、もしくは…

 

「おお、そうだ…桃。」

 

「こんにちは!」

 

「…本日は何をご所望で?」

 

「髪飾りが欲しいらしい。桃に合いそうな飾り───陰気除けができるのがあるとなおいいんだが───見繕っといてくれねぇか?」

 

「えぇ、良いですよ。」

 

「あらあら、可愛らしい子もいらっしゃい。どうぞ上がってくださいな。お茶をお出ししますから。」

 

「母さん…」

 

「すみませんが今日はもう帰らせないとなんで。」

 

「今まで何してたんだよおっさん。」

 

「桃と遊びまわってたんだ。というか桃が行きたいって言ったんだがな。」

 

「立派な父親ですね、柊さん。」

 

「ね~、桃ちゃんがいる前だと立派な父親に見えるよね、花ちゃん。」

 

「咲、お前明日訓練倍な」

 

「うぇっ!?」

 

何事もない平和な日常。

 

でも、俺はこの平和が続くとは思わない。

 

何故なら、綺糸屋事件は平和な時に起きたからだ。

 

平和は、いともたやすく崩れ去る。

 

それを俺は、すべてを失った時に思い知った。

 

「っと、若旦那。そろそろお店を…」

 

「ん…あぁ、そうだった。桃様、申し訳ありませんが…」

 

「はいです!明日また来るのです!」

 

「聞き分けいいなぁ!」

 

「すまん花。閉店作業してくれ。」

 

「は、はい!」

 

「咲、行くぞ。俺達も鬼退治の準備だ。」

 

「はい!柊隊長!」

 

柊さんはそういうと入口のほうまで向かったが、出る前で止まった。

 

「そうだ、仁、鬼退治終わったらちぃとばかし話がある。」

 

「?わかりました、お待ちしております。」

 

思えば、この時から始まっていたのだろう。

 

俺達の新たな───いや、不可解な事件は。

 

 

───丑三つ時。

 

ここは、人と鬼が同じ世に在る。

 

人と鬼は決して相容れぬ。

 

決して、相容れてはならぬもの也。

 

 

「出たぞ、鬼だ!」

 

「っ!」

 

俺は武器───斬糸(ざんし)と呼ぶことにしたそれを振るい、鬼の攻撃を受け止める。

 

「楽!」

 

嵐!

 

「ウガァァァ!?」

 

動きが止まったのを見計らい、武器の糸を巻き付ける。

 

「これで…終いだ!」

 

最後に引き絞って斬る。

 

「ァァァァァ…」

 

封!

 

飛び出た魂は楽が術で封じる。それが今の俺達の戦い方だった。

 

「うっし、これで俺達の仕事は終わりか?」

 

「咲から聞いた話だとそうだったな。」

 

「じゃ、戻ろ~ぜ~」

 

「そうだな。花と母さんが待ってる。」

 

俺達は綺糸屋への帰路を辿った。

 

 

されど───

 

出逢えば、絆も生まれるもの也。

 

 

「帰ったぞ~」

 

「あ、お帰りなさい若旦那!」

 

花が真っ先に出てきて対応してくれた。

 

「母さんは?」

 

「もうご就寝なされてます。咲さんたちはまだ?」

 

「ここにいるが。」

 

声に振り返ると柊さんと咲が後ろに立っていた。

 

「あ、いらっしゃいませ。」

 

「おう…今終わったもんでな。すまん、時間がかかった。」

 

「柊隊長、実際手負いなんですからあまり無茶しないでくださいよ…」

 

「ともかく、立ち話もあれですので中へどうぞ。」

 

「おう、邪魔するぜ。」

 

柊さんと咲を中に招き、お茶を出した。

 

「…どうだ、最近は」

 

「だまりがいた時よりは動きの自由度が下がってますが、まぁまぁ問題なく狩れてますよ。」

 

「そうか…やっぱりだまりがいないときついところはあるか?」

 

「普段の生活には問題ありません…というかだまりがいると逆に普段の生活に支障が出ます」

 

「あ、そっか。若旦那朝すごく眠そうだったもんね。」

 

「そうだ…だまり…鬼はもともと闇に生きるもの。日の光に弱いせいで眠くて仕方がなかったんだ。」

 

「鬼…か。今回の話はその話なんだが…」

 

「?」

 

「お前さん、“歪みを使う鬼”の噂、知ってるか?」

 

「歪みを?」

 

柊さん曰く、その鬼はどこからともなく現れ、空間の歪みを作り出し、その中に人を閉じ込めてしまうという。

 

「噂でしかねぇし、俺もよくは知らないんだが…昨晩、その鬼に襲われたっていうやつが出てきてな。護符を持ってたがあまり効かない、そんな鬼だったそうだ。」

 

「護符が効かない、ですか…」

 

「例の顔の無い鬼みたいに効かなかったわけじゃないみたいだが…それでも効きにくい相手だったそうだ。」

 

「…」

 

「とりあえず俺から言えるのは用心してほしいってこt…」

 

柊さんがそこまで言ったときに俺達の周囲が突然真っ暗になった。

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

「なんだ、これは…?」

 

「これは…!?まさか!」

 

「何か知ってるんですか!?」

 

「恐らく、歪みを…」

 

「ボクに何か用かい?」

 

そんな声が聞こえた瞬間、俺達は落下感覚を感じた。

 

「きゃははきゃはは、落っこちた、落っこちた。時空の狭間を彷徨い続ければいいよ…永遠にね。この女はもらっていくけどね。」

 

突如、俺達と一緒に落ちていた母さんの姿が消えた。

 

「母さん!」

 

「ふふふ…さようなら。この女は鬼舞辻無惨様に鬼にしてもらおう…」

 

(鬼舞辻無惨…?)

 

そんな声が聞こえたと同時に、俺の意識は途絶えた。

 

 

───同時期、別場所にて───

 

 

「お母様!」

 

「くすくす…さて、この女は鬼舞辻無惨様に捧げて強い鬼にしてもらいましょうか…」

 

(鬼舞辻…無惨…?)

 

黒髪の少女もまた、母を連れ去られ、謎の空間を落下し、意識を失った。

 

 

───綺糸屋。

 

───錦糸屋。

 

可能性の世界に存在した二つの呉服屋。

 

同じ運命をたどったこの二つの呉服は。

 

奇しくもまた、同じ運命を辿ることとなる。

 

されど、この度は混ざり合う。

 

綺糸屋と錦糸屋が混ざり。

 

そして更なるものも混ざり合う。

 

 

「で、伝令!麹町に突如謎の大きな屋敷が現れたとのこと!」

 

「謎の屋敷…ですか?」

 

「はっ!何もなかった場所に一夜にして大きな屋敷が現れたと!」

 

「十二鬼月の血鬼術の可能性もあります、鬼殺隊には十分に警戒して事に当たるよう指示をお願いします。」

 

「はっ!」

 

 

鬼狩りと鬼狩りが出会いし時。

 

新たな運命の歯車が回りだす。

 

 

「「お前は、“歪みを使う鬼”を知っているか?」」

 

「「シ、シラナ…イ…」」

 

「「げっげっげっ…はい、ごっそさま!」」

 

ぱきん。

 




今回はこれで終わりです。
ちなみに、柊隊長が営業時間中に綺糸屋を訪れた理由とか訪れるのが遅い時間になった理由は割と適当です。


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第弐話 新たな出遭い

なんか初投稿からほぼ半日でUA200とか行ってたんですけど、皆様お暇なんですか?
これ書いてる時点で私も人のこと言えませんけども。
そもそも外出しないから暇なんですけども。

…そういえば、投稿したあとで気が付いたんですけど私、禰豆子さんの名前思いっきり間違えてるんですよね…鬼滅の刃が好きな方、申し訳ありません。後で修正しておきます。


「っ…」

 

黒い着物を着た少年が目覚めた。

 

「あっ!若旦那起きた!」

 

「咲…?」

 

「楽!花ちゃん!若旦那起きたよ!」

 

若旦那と呼ばれた少年はあたりを見渡した

 

「ここは…店か?」

 

「うん…そうだと思う。」

 

「で、咲。今時間は?」

 

「もう夕方。」

 

「………は?」

 

「だから夕方だってば。」

 

若旦那は少し考え事をするそぶりをした。

 

すると、廊下を走るような音がする。

 

「若旦那!」

 

「花……っ!?」

 

若旦那は花と呼ばれた少女を見て驚愕の表情をした

 

「花、それ……!」

 

若旦那は花の頭の上を指さした

 

「……はい……私はまた、鬼になっているようです……」

 

「ま、そうなった理由は俺にもわからんがな…」

 

「その声……楽か。」

 

若旦那が振り向いた先には赤毛の少年がいた。

 

「瞼が封じられた状態で、今の花が何の能力を持っているのかもわかんねぇ。俺らもいまさっき目覚めたとこでな。」

 

「そういうことだ。楽なら調べられるかもしれんが、その時間がなかった。」

 

「柊さん…」

 

「…ところで仁。」

 

「どうした、楽。」

 

「そこにいるの、誰だ?」

 

若旦那───もとい仁が楽の指さしたほうを見ると、そこに仁と同じような黒い着物を着た少女がいた。

 

「………」

 

「………」

 

「……知らん。見覚えがない。」

 

「仁もないか……」

 

楽がそうつぶやいた時、少女が動いた

 

「うぅ……」

 

少女は体を起こし、あたりを見回す

 

「ここは……?」

 

「ここは綺糸屋だ。……多分。」

 

「っ!どなたです!?」

 

少女が仁のほうを向いた。

 

「これは失礼しました。私は呉服“綺糸屋(あやしや)”三代目当主…仁と申します。」

 

「あ、ご丁寧にありがとうございます…私は呉服“錦糸屋(きんしや)”三代目当主、(こう)と申します。」

 

「錦糸屋…ですか?」

 

「はい、錦糸屋です。」

 

「……咲、都に錦糸屋なんていう呉服屋あったか?」

 

「私はよくわかんないけど…でも北にはなかったと思う。」

 

「私の方は綺糸屋という呉服屋さんがあったのも初耳なんですが…」

 

香がそこまで言ったところで、廊下を走るような音が聞こえた。

 

「わ、若女将!目が覚めたんですか!?」

 

「ちょっ、早いって!」

 

(りん)!?それに(かなで)!」

 

「っ!?」

 

「おいおい、嘘だろ!?」

 

仁と楽は鈴と呼ばれた少女の頭上を見て驚愕の声を漏らした。

 

「「花と同じ“鬼神族”の娘っ!?」」

 

「「っ!?」」

 

香と鈴が驚愕の表情をした

 

「どうして…鬼神族を知っているのですか?」

 

「そっちこそ…なんで?」

 

軽い殺気が仁と香の間で飛ぶ中、高い声が聞こえた。

 

「そこまで。香、とりあえず状況確認しようよ」

 

(すず)…」

 

香が間に入ってきた青い髪の少女をそう呼んだ。

 

「仁も少し落ち着け。なんかわけわからんことが起こってるみたいなんだ。」

 

「そうなのか?」

 

「あぁ…」

 

「とりあえずは自己紹介しあわない?名前わかんないし」

 

涼と呼ばれた少女がそう言った

 

「そうだな…っていうかあんたは話が分かりそうだな。」

 

「鬼神族と交流する影の鬼導師だからね~…」

 

「影の鬼導師…俺と同じなのか。」

 

「あなたみたいなのは見たことないけど。」

 

「あ、あの…」

 

花が遠慮がちに話しかけてきた

 

「話す場所の用意できましたけど……」

 

「「はやっ!?」」

 

「あれ、(あかつき)さんは?」

 

「ここだが。」

 

声がした方向には柊と似た風貌の男性が座っていた。

 

「さっさと着席しなさいな。話が進まないよ?」

 

涼が急かし、全員が机を挟んで座った。

 

「えっと…ではまず私から。呉服“錦糸屋”三代目当主、(こう)と申します。」

 

「では次は私が。呉服“綺糸屋”三代目当主、(じん)と申します。」

 

「俺か。(らく)。影の鬼導師。」

 

「じゃあ私ね。(すず)。同じく影の鬼導師。」

 

(はな)と、申します。鬼神族の者です。元、ではありますが。」

 

(りん)、です。同じく元鬼神族の者です。」

 

(さき)です!鬼導隊見習い、です…」

 

(かなで)です。鬼導隊の見習いです。」

 

(ひいらぎ)。鬼導隊元六番隊隊長だ。」

 

(あかつき)だ。同じく、鬼導隊元六番隊隊長。」

 

全員が名前を言うと、軽くため息をついた。

 

「役職、立場、その他もろもろすべて同じ……なのに出逢ったことも聞いたこともない名前、か。」

 

「みたいですね。…つかぬことをお聞きしますが。」

 

香が仁をまっすぐ見つめた。

 

「“顔の無い鬼”」

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

綺糸屋の者達に衝撃が走る。

 

「…ご存じですね?」

 

「……あぁ。」

 

仁は諦めたようにため息をついた。次いで香をまっすぐと見つめる

 

「なぜそれを知ってる?」

 

「もしかすると、と思ったもので。…お話ししましょう、私たちの身に何があったのか。」

 

香はぽつりぽつりと話し始めた。錦糸屋事件の始まり、顔の無い鬼を追っていた理由、涼との出会い、鈴との出会い、父である(れん)の話、黒陰(こくいん)との決戦。そして何より……“()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…これが、私たちの身に起こったことです。」

 

「……同じか。」

 

仁はそう呟いて同じように話し始めた。綺糸屋事件の全貌を。

 

「…俺のほうは以上だ。」

 

「…やはり。私とほぼ同じ人生を生きていたのですね…仁さんは。」

 

「敬語はいらない。仁でいい。」

 

「ならば仁と。ですが、細かく見れば私と違う点がありますね。」

 

「…鬼導術への耐性か。」

 

「えぇ。」

 

「…ひとまず、敵ではないんだな?」

 

「えぇ。」

 

「ならば、手を組んでくれないか。今は情報がなさ過ぎる。」

 

「こちらからもお願いします。仁。」

 

「よろしく頼む。香。」

 

仁と香が握手を交わし、ここに綺糸屋と錦糸屋の同盟が成った。

 

「…そういえば。」

 

「…あっ。」

 

「「おまえは“歪みを使う鬼”を知っているか?」」

 

仁と香が同時に言い、真剣な表情になった。

 

「…お前も追っているのか。歪みを使う鬼を。」

 

「えぇ。お母様が連れ去らわれてしまったので。」

 

「こちらも母さんが連れ去らわれてしまったからな…ここも同じなのか。」

 

「そのようです。」

 

「てかよ…ここはいったい何なんだ?」

 

楽がそう呟いた時だった。

 

「その答えは、外に出てみればわかるんじゃねぇか?」

 

「だな。」

 

仁達の誰でもない場所から、声がした。

 

 




錦糸屋勢と綺糸屋勢が合流しました。

最後の声は誰なんでしょうね?あやしや原作を読み切ったことのある人ならわかるかも?

ちなみに必要のない必須タグが入ってると思われるかもなので一応簡単に説明いたします。
綺糸屋勢の仁と花は現在交際中です。花の告白を仁が受け入れた形です。
錦糸屋勢も同じく、香と鈴が交際中です。鈴の告白を香が受け入れた形です。
そして、仁と花は異性ですが、香と鈴は同性(女性)です。
必須タグ“ガールズラブ”が入っているのはそういう意味です。


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第参話 再来

ストック切れてきたぁ…



「この声は……」

 

「まさか……」

 

仁と香が同時に声の方向を向く

 

「よぉ。」

 

「俺が起きたと思ったらなんか話してるんだもんよぉ。」

 

「父さんっ!?」

 

「お父様っ!?」

 

仁と香が同時に声を上げた。

 

「“佐吉(さきち)”っ!?」

 

「“灯純(ひずみ)”っ!?生きていたのか!?」

 

今度は柊と暁が声を上げる。呼ばれた二人は首を振った。

 

「いや、俺は死んだはずだ。白陽(はくよう)に喰われてな。」

 

「俺も同じく。黒陰(こくいん)に喰われて死んだはずだ。」

 

「だが…どうして…」

 

「さぁな。」

 

佐吉がそう言ったところでことが起こった。

 

ごちゃごちゃ五月蠅いわ!寝ておったのに起こすな!

 

ごちゃごちゃうるっさい!!寝ていたのを起こすんじゃないわよ!

 

「「え?」」

 

仁と香の影から何かが現れた。

 

うん?…キサマ、仁か?

 

「「「「「「だまり!?」」」」」」

 

あら?あなた、香?

 

「「「「「「りんね!?」」」」」」

 

「「だぁぁぁぁぁぁぁ!五月蠅い!」」

 

「おい……どういうことだ?」

 

「なんでだまりがまた俺に憑いて…?父さんがまた何かしたのか?」

 

「なんでりんねがまた私に……?お父様がまた何かしたの?」

 

「今回は俺は何も関係してないが。」

 

「右に同じく。」

 

わっしゃも知らん。気が付いたらこの状態だった。

 

私も知らないわよ?目が覚めたらこの状況。ていうか…

 

「「腹が減った。」」

 

仁と香は顔を見合わせた。

 

「「なんだこれ?」」

 

佐吉と灯純はそれを聞いて笑った。

 

「言ったはずだぜ、外に出りゃわかるってな。」

 

「外?」

 

仁がそう呟き、障子を開ける。

 

「外っつってもこの屋敷の敷地の外だ。店の看板、みてこい。」

 

灯純の言葉に香が店の扉を開け、外に出た。

 

「え…?」

 

「どうした…っては?」

 

仁と香が見たのは洋風の服を着た人々と和風の服を着た人々が入り混じっている光景だった。

 

「なんだ…これ?」

 

「……洋服…?」

 

香はそう呟いて店の看板を見た

 

「じ、仁!」

 

「どうした?」

 

「お店の名前…!」

 

仁もつられて店の看板を見る

 

「呉服…“()()()()()”…?」

 

「これ…まるで私と仁のお店が合わさったような名前…」

 

「どういう…ことだ?」

 

「そのまんまの意味だろ…」

 

佐吉がそう呟いた

 

「恐らく、としか言えないがここは俺たちがいた世界と別世界だ。お前らの話にあった“歪みを使う鬼”とやらにここに飛ばされたんだろう。時間もろとも、な。」

 

「時間?」

 

「死んだはずの俺と佐吉が生きていること。仁と香から離れたはずのだまりとりんねが憑いていること。空間だけじゃなく、時間まで飛ばされた。記憶は保持したままで、な。これが俺と佐吉の見解だ。」

 

「だが…そんなことが可能なのか!?」

 

柊がそう言った

 

「わかんねぇな。だが今の状況を見るにそうとしか言えねぇだろ。…ところで仁。」

 

「何だ?」

 

佐吉は周囲を見渡して言った

 

「母さん……(つむぎ)はどこだ?」

 

「母さんは…」

 

「おい香、母さんは……?(むすび)はどこにいる?」

 

「お母様は…」

 

「「歪みを使う鬼に連れ去らわれた。」」

 

「「なん…だと…!?」」

 

佐吉と灯純は驚愕の表情をして仁と香の首をつかんで店の中に入れた

 

「…説明してくれ。何があった。」

 

「香。俺は仁から話を聞くから茶、淹れてくれねぇか。」

 

佐吉から促され、仁がここに来るまでのことを話し始めた。香は茶葉筒を手に取り、お茶を入れ始めた

 

「…なるほどな。」

 

「お茶、入りました…」

 

「お、ありがとさん」

 

「ん…珍しく加工はしてないのか」

 

灯純はそう呟き茶を飲んだ。

 

「加工?」

 

仁が香に聞いた。

 

「私、よく鬼導術を使ってお茶に加工するの。大体の効果は回復促進なんだけどね。」

 

「どういうことだ?お前にはりんねが憑いてるはずだろう。」

 

「私、生命力だけは高くてね。りんねが私から分離しても1時間は生きていられたから。」

 

鬼導術を使う間だけ、私が離れていれば香は本来の力を振るえる。逆に離れすぎると香が死ぬのよ。ま、別に良かったといえばよかったんだけど。

 

「…だまり。力を抜いてみろ。」

 

あぁん?

 

佐吉の言葉でだまりが溶けた。

 

「っ!?」

 

すると仁が血を吹き出し始めた。

 

「ちょっ、若旦那!?」

 

「仁っ!?」

 

「……だまり、もういい」

 

言われとらんでもわかっとるわ…しかし…

 

「はぁ……はぁ……」

 

「ど、どういうこと……?若旦那の傷は治ったんじゃなかったの?」

 

咲が仁を見てそう言った

 

「確かに治ってたんだろうな。だが、歪みを使う鬼の術に飲み込まれた時、事件当夜の体まで戻されたんだろう。」

 

「そしてそれは恐らく、香も同じだろう。」

 

佐吉の言葉に灯純が付け加えた。

 

「ど、どうすれば治るのですか…?」

 

「とりあえず食いもん食わせとけ。香っつったか、そっちもだ。鬼神族の郷で入手できる調味料は今なさそうだしな。」

 

「それ、私持ってるよ?」

 

涼がそう言った。

 

「佐吉さんが言ったとおり、調味料として結構使えるからね。」

 

「ていうかここが綺糸屋なら台所の方にソレがあると思うんだが…」

 

「なん…だと?」

 

「香と仁が起きる前、少し屋敷内を回ってみたけど…恐らく構造は錦糸屋と全く同じ。」

 

「もし、綺糸屋と錦糸屋が屋敷ごと飛ばされて繋がったのなら、可能性はアリ、か。」

 

「「か、確認してきます!」」

 

花と鈴が飛び出していった。

 

「…そういや、楽と涼…っつったか、お前らは影の鬼導師って言ってたな。」

 

「あんたと同じでな。」

 

「ってぇことは鬼神族と交流がある、のか。」

 

「まぁね。」

 

「…なぁ、あの門ってなんだ?」

 

灯純が指さした方向には謎の門があった

 

「…?あんなもん、綺糸屋にあったか?」

 

「…いや、ないな。」

 

「錦糸屋にもなかったと思う…」

 

仁と香がそう答えた。

 

「…調べてみるか」

 

灯純がそう言って近づく

 

「…───…」

 

呪具を介して何かを呟きすぐに離れた。

 

「…はっ、こいつぁ…たいしたもんだ。」

 

「どうした?」

 

「この門、綺糸屋に…いや、錦糸屋にもつながってやがる。」

 

「どういうこと?」

 

香の問いに灯純が振り向いた

 

「仁、香。二人同時にこの門を通ってみろ。行けばわかる。」

 

「「?」」

 




佐吉と仁、灯純と香の関係は良好になっています。
だまりと仁、りんねと香の関係も良好になっています。


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第肆話 空間接続門と香の力

一応この話の次の話と、キャラ設定まではストック作ってあります。
それまでは1日1話投稿できるかと。
さて、第四話…なのはいいんですが、まだ原作の話に入ってないっていう…早く入りたいんですけど原作を知らないから書けないのです…


 

「早くしろ。」

 

灯純に促され、香と仁は横に並んで同じ門を通った

 

「っ…」

 

真っ暗な中を通った香が次に目にしたのは、まぎれもなく錦糸屋の風景だった。

 

「錦糸屋…?ここ…」

 

香が隣を見ると、そこに仁の姿はなかった。

 

「あれ?…仁!?」

 

「仁なら綺糸屋にいるんじゃねぇか?」

 

「お父様…」

 

後ろから出てきた灯純がそう言った。

 

「この門は、世界と空間をつなぐ門。そして、おそらくだが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。」

 

「世界を…つなぐ。」

 

「おう。で、この隣にあるのは鬼神族の郷につながってるっぽいな。」

 

「…」

 

「戻るか。あっちも戻ってきてるだろ。」

 

灯純の言葉で香はまた門をくぐった。

 

「あっ!若女将どこにいたんですか!?」

 

「錦糸屋に…かな?」

 

「えっと…?」

 

香は鈴たちに事情を説明した。

 

「…お、仁と佐吉も戻ってきたみたいだぞ。」

 

灯純の言葉に振り替えると、ちょうど仁と佐吉が門から出てきたところだった。

 

「何が起こってるかさっぱりわからん…」

 

「香、茶を淹れてやってくれ。安息効果加工で。」

 

「あ、うん……りんね、ちょっと離れてて」

 

はいはいっと

 

香はお茶を淹れると、近くにあった大きな箱を開けた。

 

「それ…鬼導札?」

 

「えぇ。」

 

「…結構な数なんですけど。」

 

「まぁ自作もありますから。」

 

そういいつつ、茶を入れた湯呑に封をするように札を貼り、紐が付いた青い石を札の上に垂らした。

 

凱五樂導破……

 

「「鬼導術っ!?」」

 

咲と柊が驚いていた。

 

「何を驚いてんだ?香は元鬼導隊…それも零番隊隊長だぜ?」

 

「「「「「零番隊……?」」」」」

 

「昔の話です。今はただの錦糸屋三代目でしかありません。」

 

「…聞かせてくれ。その隊長職だった時、お前が使ってた術具は何だったんだ?」

 

「…この石と針、それから…数珠。」

 

「え……(あき)兄と同じ?」

 

「咲さんのお兄さん?」

 

「うん…明兄も術具が数珠だったの。」

 

「私のお姉ちゃんと同じ…」

 

「え?奏ちゃんの?」

 

「私のお姉ちゃん…(すみ)姉も数珠だったの。顔の無い鬼を滅した後、黒陰に殺されたらしくて…」

 

「そんなとこまで一緒なんだ…」

 

「錦糸屋と綺糸屋で違うのは性別だけ、って感じか。」

 

「呉服屋の若女将と若旦那。影の鬼導師。姉妹に対して兄妹。そして鬼喰いの鬼。鬼神族の娘と呉服屋の二代目が影の鬼導師ってことは同じだが、鬼神族の娘は恋愛対象の性別が違う、ってか?」

 

灯純の言葉に花と鈴が顔を真っ赤にした。

 

「あの…お茶入ったよ?」

 

「ん?あぁ、悪い。」

 

香が声をかけて、仁の前にお茶を置いた。

 

「悪いが、鬼導術のは…」

 

「いいから飲んでみろ。」

 

灯純に促され、仁がお茶を飲む。

 

「…!?飲める…!?しかも美味い!」

 

どういうことだ!?わっしゃが憑いているというのに!?

 

「俺言ったよな?鬼導術は鬼を滅するだけじゃねぇ、ってな。…っつってもこんな使い方は予想外だぞ、おいこら。」

 

「鬼導術とは、“鬼を導く術”と書く。それは死に導くという意味も持てば生に導くことだってできるのさ。…顔の無い鬼のようにな。」

 

「そうか…そういえば佐吉が連れていた鬼は俺の腕を癒していたな?」

 

「そういうことだ。破壊する力もあれば復元する力もある。破壊と復元は大体一対の力になってんだよ。」

 

「ん?そういえば柊は俺のように腕が治ったわけじゃないのか。」

 

暁の言葉で場が凍った。

 

「治った…だと?」

 

「俺の場合は左腕だけどな。」

 

「りんね」

 

わかってるわ…でも無理しちゃだめよ?

 

りんねはそう言うと香から離れた。

 

「柊さん、右腕を見せてください。」

 

「む?」

 

香は差し出された柊の右腕に触れた。

 

…spell act:system.id stand up heal…

 

香は小声かつ早口で何かを詠唱し始めた。

 

…十凱十嵐无抄鵬……

 

「それって……」

 

「回復術式の詠唱……か?」

 

「結曰く、香は鬼を滅する滅鬼術も得意だが一番得意なのは回復術だったらしいからな。一番隊隊長の黒陰と鬼導術で戦ったら香がギリ負ける、って感じだったらしい。」

 

「一番隊の隊長とギリ…だと!?」

 

柊が驚いていた。

 

「あの…右腕の復元終わりました。」

 

香の言葉に柊が視線を落とすと、頭から軽く血を流した香となかったはずの右腕があった。

 

「お、おい、大丈夫か!?」

 

「…りんね……」

 

はいはいっと

 

りんねが香に憑くと頭の血が消えた。

 

「どういうことだ?まだ一時間経っていないはずだろう。」

 

簡単よ。私が離れて力を使うことで、その力の大きさによって猶予時間を削っているのよ。

 

「それでも、生命力だけは高いから時間はあるといえばあるのだけど。」

 

わっしゃとは似ても似つかないのか。

 

ていうか腹減ったわね。

 

む…そうだな。

 

だまりとりんねは二人(?)してそう呟いた。

 

 




あ、昨日全話に修正加えました。よければ読み返してくださいな。
それと、鬼導術の術式式句については結構適当です。私にあれは解析できなかったのです…多分大本は漢字なんでしょうけどね…誰か鬼導術術式式句わかる人いたら教えてください。
ではでは。


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第伍話 鬼の出る世界

お気に入り登録が1件増えてました…ありがたいです。
あと、1話投稿するごとにUAが100ずつ増えるって結構怖い…(現在UA729)
それはそうと第五話。なんかだんだん短くなっている気がしますがご了承を。ちなみに初戦闘回です。


「さてと…俺はちょいと出かけてくるかねぇ…」

 

佐吉が立ち上がり、外へと出た。次いで灯純も外に出ていく。

 

……む?

 

うん?

 

だまりとりんねが何かに反応した。

 

「どうした、だまり?」

 

「りんね、どうしたの?」

 

「「……(メシ)のにおい。」」

 

「…いるのか、この世界に?」

 

上物の匂いがするぞ、仁!

 

いくわよ、香!

 

「わかった、行こう。」

 

「わかったよ…鈴、留守番、お願いしていい?」

 

「は、はい!行ってらっしゃいませ若女将!」

 

「じゃあ、行ってくる、花。」

 

「行ってらっしゃい…」

 

「楽、今日は手伝いはいいから花のこと調べておいてくれ。」

 

「涼、楽さんと一緒に鈴のこと調べておいて?なんか目が開いてないの気になるから。」

 

「おう、任せとけ。」

 

「分かった。香と仁が帰るまでには調べ終わるのを目的としておくね。」

 

「「行ってきます。」」

 

仁と香が一緒に外に出、近くの塀の上に飛び乗った。

 

「…そういえば香の武器もそれなのか?」

 

香が持っていたのは仁が持っている斬糸と似た形の武器だった。

 

「そうだね。私は“斬想鬼(ざんそうき)”なんて呼んでるけど。」

 

「俺は“斬糸(ざんし)”、だな。配色が俺の場合赤のところが香の場合青、くらいか?違いは。」

 

「それは長襦袢の色、下駄の鼻緒の色とかも同じこと言えるけどね。」

 

「違いないな。」

 

どんっ

 

「「っ!」」

 

どんっ

 

鬼門があるぞ!もう既に開いとる!

 

「スー…」

 

香が目をつむり、呼吸を整えた。

 

ぱきん

 

そんな音とともに一瞬で振り向き、中ほどから曲げた斬想鬼を近づいていた異形の大きな鉈の刃の部分にぶつけた。

 

「…シッ!」

 

きゅらっ

 

ッ、ガァ!?

 

香が振るった斬想鬼から伸びた銀色の糸が異形の左腕を切り落とした。

 

「仁!もう一体いる!」

 

「分かった!」

 

何だきさまら、(メシ)の分際で(われ)に楯突こうというのか?

 

ぱきん

 

そんな音とともに仁の斬糸と香の斬想鬼が真ん中から割れた。

 

「「ッ!?」」

 

きゅらっ

 

仁が一振りし、左腕が欠けていない鬼の両腕を。香が一振りし、左腕が欠けている鬼の右腕を切り落とした。

 

っ!何だその武器はッ!?

 

「鬼にこたえる意味などないだろう。」

 

「そうね」

 

仁と香がそう言うと、鬼の全身に銀色の糸が巻き付いた。

 

げっげっげっ!仁、キサマの動き、ようなっとらんか?

 

「だまりがいなくなってからも鬼狩り続けてたから…なっ!」

 

なんだ!?なぜ鬼と人が一緒になって(われ)の行動を阻む!?

 

それに何だこの武器は!こんな武器、聞いたこともないっ!

 

質問が多いわねぇ……

 

「ならばこちらからも一つ質問。」

 

「「お前は“歪みを使う鬼”を知っているか?」」

 

「「シ、知らぬわ!」」

 

さて、もう良いであろう!ちなみにキサマらの解答の答えは…

 

(おわり)よ!

 

「「アァァァ…」」

 

ぱきん

 

鬼の骸が消え、黒い塊───鬼の魂が飛び出してきた。

 

ふぅ~…やれやれ、久しぶりに飯にありつける…!

 

鈴の力を食べた後、何も食べてなかったもの……!

 

だまりとりんねはその塊に噛みつき、咀嚼した。

 

うむ!やはり美味い!

 

しばらく何も食べてなかったから空腹よ…

 

「…だまり。」

 

む?

 

「りんね。」

 

ん?

 

「これからまた、よろしく頼むな。」

 

「これからまた、よろしくね?」

 

む?おぉ。

 

え?えぇ。

 

また面白くなりそうだな、仁よ。

 

「そうだな。楽しくなるかもな。」

 

せいぜい楽しませなさいよ?香。

 

「楽しめるかわからないけど頑張るよ。」

 

香と仁はそう言うと元来た方へと体の向きを変えた。

 

「さて、帰るか。」

 

「ん、そうだね。」

 

鬼導隊のようなものがおらんとも限らんからな。見つからんうちに帰るとするか。

 

そうね

 

りんねとだまりは香と仁の影の中に溶け込んだ。

 

 

side ?

 

 

「…」

 

ボクはこの世界に落とした子供が変な門から出た何かをヘンな武器で倒したところで自分の空間に入り込んだ。

 

「やれやれ、ヘンなの連れてきちゃったかな?まぁ、それは姉ちゃんも一緒みたいだけどさ。」

 

「そうねぇ…観察を続けて、脅威になるようだったら鬼舞辻無惨様に報告しましょうか…」

 

同じ空間にいた、同じ力を持つ姉ちゃんがそう呟いた。

 

「そうだね。…あの女達は?」

 

「もう鬼舞辻無惨様のところに向かわせたわ。」

 

「そっか。…あの女達はどうなるだろうね。」

 

「さぁね。」

 

ボクはそういいつつ、空間の裂け目を閉じた。

 

 

side normal

 

 

歩いている最中、香が不意に止まった。それに合わせて、仁も停止した。

 

「ん?どうした、香。」

 

歩いていた道を振り返り、じっと見つめていた。

 

「……きのせいかな?」

 

何かあったの?

 

りんねの言葉に少し考えるそぶりをした。

 

「…ううん、何でもない。いこ、仁。鈴が待ってる。」

 

「ん?あ、あぁ。」

 

そう言って2人はまた歩き始めた。

 

(…()()()()()()()()()()()()…なんて言っても、伝わらないよね…)

 

香がそんなことを考えてるとも知らずに。

 




なんか日に日に投稿時間が遅くなってる気がします…
それはそれとして、鬼滅の刃原作をほぼほぼ知らない私なのですが、昨日少しだけ(単行本3巻途中まで)読みまして。原作のどの辺から仁達が合流するのがいいのかな、と悩んでいます。
あと、ネタバレみたいになりますが、次とその次に投稿するのはキャラ設定の紹介です。知っている人もいるかもですが一応。原作読んでない人達は知らない可能性高いですからね…


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キャラ設定紹介(綺糸屋勢)

キャラ設定の紹介……今回は綺糸屋勢編です。wikipediaとか見ないで適当に私自身が分かることを書き出したので、何か足りないところとかあったら教えてください。
あ、ちなみにキャラ設定に関しては今後何度か(ストーリーがある程度進んだら新しく)投稿しますので、ネタバレにはならないと思います。…多分。


 

(じん)

呉服“綺糸屋”三代目当主の少年。13歳。通称“若旦那”。

綺糸屋事件にて唯一の生き残り。その実態はだまりが憑いたことによって死を免れたというもの。

事件当時、並びに現在はだまりが憑いている影響で朝に弱い。事件当日、綺糸屋にいた皆の仇として顔の無い鬼を追っていた。

綺糸屋事件初期よりだまりとの関係、佐吉との関係はよくなっており、内心これからのだまりとの日常を楽しみにしている模様。

長襦袢の色、下駄の鼻緒の色、鬼神族の術で作られた武器の大体の色は赤。

現在は花と交際中。

よく言うことは“俺はもう、二度と目の前で知り合いが死ぬのを見たくない”。

 

だまり

鬼喰いの鬼。年齢不詳。

影でいることよりも食べることが好き。

その正体は顔の無い鬼の中で作られた鬼の魂の寄せ集めの一部であり、佐吉によって仁にとり憑くことになった。

綺糸屋事件初期より性格は緩くなっており、仁との日常は面白かったようで、内心面白くしてもらうことを期待している模様。

 

(らく)

影の鬼導師の赤髪の少年。年齢不詳。

夜行祭の日、まだら峠にて“朱い髪をふり乱し、天より襲来せし小鬼”こと“朱天童子(しゅてんどうじ)”として人を襲っていた時に仁と出会う。

“楽”という名前の名付け親は仁で、朱天童子として人を襲うまでは賊の盗み道具にされていた。

その道具にされていた時、仕事をしくじったがために賊に痛めつけられ、腕一本を失うかというときに鬼門が現れ、賊の頭に鬼門の中へ投げ込まれ、そこからユキという幽鬼によって生還し、陰気を払われたためか普通の人に比べてずっと陰気への耐性が強い。

実は影の鬼導師一族の末裔であり、生き残り。その辺も陰気への耐性には関係しているのかもしれない。

 

(はな)

元・鬼神族の娘。年齢14歳。

自信を殺害してもらうことを依頼するべく、鬼神族の掟を破り綺糸屋を訪れ、仁と出会う。

鬼神族の娘は目を閉じて産まれ、その身に何か能力を宿している。花の場合は“不老不死”で、その力を使いたくないがために上記の行動を起こす。瞼の封印を解く条件は、“誰かに恋をし、その対象に触れ、その想いが真であると認めること”。事実、仁に想いを伝えた時、その封印は解けてしまった。

白陽との決戦において、佐吉の鬼導術とだまりの合成術によって鬼の部分のみを除去。人間として生活できるようになった。

なお、現在また瞼封印状態となり、鬼と化してはいるが、一体何の能力を持ち、何が封印を解く鍵なのかは不明。

現在は仁と交際中。

 

(さき)

鬼導隊見習い。年齢16歳。

鬼除けの護符を配っている最中に寝起きの仁と出会う。

2年前に兄を亡くしており、その意志を継ごうと鬼導隊へと入隊。兄の仇である顔の無い鬼を禁じられている鬼導師の方法で滅した時、Lv.5の悪鬼符を一撃で滅せる程には力が安定した。柊曰く、正しく鍛えれば兄を超える術者になるらしい。

仁とだまりのよき理解者となっている。

花とは友達。

 

(ひいらぎ)

鬼導隊元六番隊隊長。年齢41歳。

賊が都に来た際、まだ名の無かった楽を見つけた時に仁と出会った。

一度引退した身であったが、咲の兄である明の後任がいなかったため隊長に再任。使用する術具は刀。かなりの甘党。

顔の無い鬼の一件から綺糸屋事件との関連性を疑い、独自に捜査開始。東地区で三番隊と四番隊から逃げてきた仁とだまりを見つけ、協力体制を組むこととなる。

奈落にて右腕を失ったが、歪みを使う鬼により世界を飛ばされて錦糸屋勢と出会ったとき、香の術によって右腕が復元された。

ちなみに元六番隊となっている理由は綺糸屋事件解決後、鬼導隊内部での番号分けがなくなったため。

 

佐吉(さきち)

鬼導隊元二番隊副長。年齢不詳。

殉職したといわれていた鬼導隊二番隊の副長。しかし実際は亡くなっておらず、綺糸屋事件の起こった日から傷を癒すために隠れていた。

仁の父であり、一応綺糸屋の二代目…だと思われる。その際に名乗っていた名前は玄。影の鬼導師であるために素性を隠さなければならず、都内では様々な名を名乗っており、玄と佐吉以外にも弥太郎(やたろう)勝之進(かつのしん)時忘(ときわすれ)など、佐吉本人が覚えてないのもあるという。本作では基本的に佐吉で統一することとする。

綺糸屋事件が起きた原因を作った本人で、だまりを仁にとり憑かせた本人でもある。

綺糸屋事件の原因は顔の無い鬼からだまりを抜き、逃げる最中に櫛を落としたというもの。この櫛は仁の母である紬の物であり、物を埋め込み、その物の持ち主の縁を手繰らせる術をかけられた顔の無い鬼は持ち主である紬のいる綺糸屋を襲った。

白陽に喰われて亡くなったはずだが、歪みを使う鬼によって綺糸屋勢が飛ばされた際、生存状態で飛ばされた模様。

 

(つむぎ)

仁の母。年齢不詳。

綺糸屋事件の際に亡くなったと思われていたが、櫛によって守られ、綺糸屋を襲った顔の無い鬼の内部で生存していた。

今回は歪みを使う鬼に連れ去らわれた。展開によっては鬼として仁達の前に現れ、敵として立ちはだかるかもしれない。

 

 




白陽さんと明さん…あとユキさん…書かなくてよかったよね?()()名前しか出てないし。
紬さんは一番最初に出てたから…一応。何かのカギになる…かなぁ…?
次回は錦糸屋勢になります。その次からちょっと考えてないのでどうしようかな…という感じです


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キャラ設定紹介(錦糸屋勢)

キャラ設定紹介、今回は錦糸屋勢です。
錦糸屋勢は綺糸屋勢を基礎にして創り出した子達ですので、綺糸屋勢とそこまで違う点はなかったりします。


(こう)

呉服“錦糸屋”三代目当主の少女。13歳。通称“若女将”。

錦糸屋事件にて唯一の生き残り。その実態はりんねが憑いたことによって死を免れたというもの。

事件当時、並びに現在はりんねが憑いている影響で朝に弱い。事件当日、錦糸屋にいた皆の仇として顔の無い鬼を追っていた。

錦糸屋事件初期よりりんねとの関係、灯純との関係はよくなっており、内心これからのりんねとの日常を楽しみにしている模様。

長襦袢の色、下駄の鼻緒の色、鬼神族の術で作られた武器の大体の色は青。

現在は鈴と交際中。

よく言うことは“私はもう、二度と目の前で知り合いが死ぬのを見たくない”。

実は元鬼導隊零番隊隊長で、滅鬼術よりは回復術に長けた術者であった。術具は石、針、数珠の三種類で、その実力は一番隊隊長の黒陰にギリギリで負ける程。

生命力が異常なほど高く、だまりがいないと生きることができない仁に対し、りんねが離れた状態でも最長1時間は傷が開かずに生存していることが可能。さらにその傷が開くのも時間がかかり、おそらく1時間30分は生存していられると思われる。

なお、仁達には何かを隠している模様?

 

りんね

鬼喰いの鬼。年齢不詳。

影でいることよりも食べることが好き。

その正体は顔の無い鬼の中で作られた鬼の魂の寄せ集めの一部であり、灯純によって香にとり憑くことになった。

錦糸屋事件初期より性格は緩くなっており、香との日常は面白かったようで、内心面白くしてもらうことを期待している模様。

だまりと違い、自分の意志で香から離れることはできるが、灯純にかけられた強い暗示により、長い時間離れていることはできない。

 

(すず)

影の鬼導師の青髪の少女。年齢不詳。

夜行祭の日、まだら峠にて“蒼い髪をふり乱し、天より襲来せし小鬼”こと“蒼天童(そうてんわらし)”として人を襲っていた時に香と出会う。

“涼”という名前の名付け親は香で、蒼天童として人を襲うまでは賊の盗み道具にされていた。

その道具にされていた時、仕事をしくじったがために賊に痛めつけられ、腕一本を失うかというときに鬼門が現れ、賊の頭に鬼門の中へ投げ込まれ、そこからツルという幽鬼によって生還し、陰気を払われたためか普通の人に比べてずっと陰気への耐性が強い。

実は影の鬼導師一族の末裔であり、生き残り。その辺も陰気への耐性には関係しているのかもしれない。

 

(りん)

元・鬼神族の娘。年齢14歳。

自信を殺害してもらうことを依頼するべく、鬼神族の掟を破り錦糸屋を訪れ、香と出会う。

鬼神族の娘は目を閉じて産まれ、その身に何か能力を宿している。鈴の場合は“不老不死”で、その力を使いたくないがために上記の行動を起こす。瞼の封印を解く条件は、“誰かに恋をし、その対象に触れ、その想いが真であると認めること”。事実、香に想いを伝えた時、その封印は解けてしまった。

黒陰との決戦において、灯純の鬼導術とりんねの合成術によって鬼の部分のみを除去。人間として生活できるようになった。

なお、現在また瞼封印状態となり、鬼と化してはいるが、一体何の能力を持ち、何が封印を解く鍵なのかは不明。

現在は香と交際中。

ちなみに、香に思いを伝えた際、“同じ女の人にこんな想いを持つなんて…おかしいですよね…私…”と言っており、それに対して“いいえ、恋する対象は人それぞれ!それを否定する権利は誰にもない!私は、鈴がどんな子であろうとも受け入れるよ!”と言ってたりする。

 

(かなで)

鬼導隊見習い。年齢16歳。

鬼除けの護符を配っている最中に寝起きの香と出会う。

2年前に姉を亡くしており、その意志を継ごうと鬼導隊へと入隊。姉の仇である顔の無い鬼を禁じられている鬼導師の方法で滅した時、Lv.5の悪鬼符を一撃で滅せる程には力が安定した。暁曰く、正しく鍛えれば姉を超える術者になるらしい。

香とりんねのよき理解者となっている。

鈴とは友達。

 

(あかつき)

鬼導隊元六番隊隊長。年齢41歳。

賊が都に来た際、まだ名の無かった涼を見つけた時に香と出会った。

一度引退した身であったが、奏の姉である(すみ)の後任がいなかったため隊長に再任。使用する術具は刀。かなりの甘党。

顔の無い鬼の一件から錦糸屋事件との関連性を疑い、独自に捜査開始。東地区で三番隊と四番隊から逃げてきた香とりんねを見つけ、協力体制を組むこととなる。

奈落にて左腕を失ったが、錦糸屋事件解決後、香の術によって右腕が復元された。

ちなみに元六番隊となっている理由は錦糸屋事件解決後、鬼導隊内部での番号分けがなくなったため。

 

灯純(ひずみ)

鬼導隊元二番隊副長。年齢不詳。

殉職したといわれていた鬼導隊二番隊の副長。しかし実際は亡くなっておらず、錦糸屋事件の起こった日から傷を癒すために隠れていた。

香の父であり、一応錦糸屋の二代目…だと思われる。その際に名乗っていた名前は煉。影の鬼導師であるために素性を隠さなければならず、都内では様々な名を名乗っており、煉と灯純以外にも与太郎(よたろう)勝之島(かちのしま)時眺(ときながめ)など、灯純本人が覚えてないのもあるという。本作では基本的に灯純で統一することとする。

錦糸屋事件が起きた原因を作った本人で、りんねを香にとり憑かせた本人でもある。

錦糸屋事件の原因は顔の無い鬼からりんねを抜き、逃げる最中に櫛を落としたというもの。この櫛は香の母である結の物であり、物を埋め込み、その物の持ち主の縁を手繰らせる術をかけられた顔の無い鬼は持ち主である結のいる錦糸屋を襲った。

黒陰に喰われて亡くなったはずだが、歪みを使う鬼によって錦糸屋勢が飛ばされた際、生存状態で飛ばされた模様。

 

(むすび)

香の母。年齢不詳。

錦糸屋事件の際に亡くなったと思われていたが、櫛によって守られ、錦糸屋を襲った顔の無い鬼の内部で生存していた。

今回は歪みを使う鬼に連れ去らわれた。展開によっては鬼として香達の前に現れ、敵として立ちはだかるかもしれない。

 

 




……UAが1,000を越えました…確かこの話で1週間なんですけど…
で、次回の話…第六話はちょっと考えている最中なので投稿が遅れるかもしれません…明日に間に合えば明日投稿します…
ではでは。


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第陸話 昼の仕事

間に合ったぁぁぁぁぁ!
ということで第六話です。
今回はちょっと長いですよ?原作キャラも登場します。


翌朝……と言うか翌昼───

 

「……朝か…というか昼。」

 

「あ、若旦那起きました?」

 

「花…?」

 

仁が目を覚まし、体を起こした。

 

「よぉ、起きたか。仁。」

 

佐吉が顔を出し、仁に声をかける。

 

「とりあえず、楽に言って今日は綺糸屋は臨時休業ってことにしてもらった。早く準備しないとこっちの営業開始に遅れんぞ。」

 

「…っ!すまん、花!すぐ用意してくれ!」

 

「は、はいっ!」

 

「やれやれ…」

 

佐吉が呆れたように首を振っていた。

 

わっしゃの影響とはいえ、これはひどいと思うが…

 

「ま、しゃあねぇよ。だまりが憑いているのもまぁまぁ久しぶりなんだろ?それに今の環境に体がまだ慣れてないんじゃねえのか?」

 

わっしゃも慣れておらんがな。だがまぁ、わっしゃ達が知らん世界があるとは思いもしなかったから、何とも言えんのだが…

 

仁はそんな言葉を聞きながら、昨晩の話を思い出していた

 

 

 

───昨晩

 

 

 

仁と香は錦糸綺糸屋に着き、門をくぐった。

 

「楽!花のこと、分かったか?」

 

「涼!鈴のことわかった?」

 

「お前ら帰ってきて真っ先に聞くのは花と鈴のことかよ……」

 

「鈴ちゃんも花ちゃんも愛されてるんだね。」

 

「「あわわ……///」」

 

楽が呆れ、奏が呟いたことに花と鈴が顔を赤くした。

 

「で、鈴と…花さんのことだっけ。一応わかったよ?」

 

「同じく。」

 

「本当か?」

 

「あぁ。」

 

楽がそう言ってうなずき、涼が楽に1枚の紙を渡した。

 

「まず、花と鈴が鬼神族の娘に戻っているのは間違いないようだった。ただ、持ってる能力が違う。」

 

「持ってる能力?不老不死じゃないのか?」

 

「あぁ。持ってる能力は“無限再生”と“堅牢防御”。一見不老不死と似てるんだが、全く違うもん…というのが涼の話だった。」

 

「不老不死と無限再生の違い、香なら説明できるよね?」

 

話を振られた香は軽くうなずいて口を開いた。

 

「不老不死はその名の通り“不老”と“不死”───老いないから寿命が無くて死なないのに対して、無限再生は“無限”に“再生”するだけ。死なないわけじゃない。不死とは違って寿命が存在するし、無限とはいえ再生できる条件には限界があるから必ず“終わり”が来る───そうでしょ?」

 

「そう。必ず終わりがある再生。それが無限再生。じゃあ堅牢防御は?」

 

「堅牢防御は凄まじく堅いだけ。完全な防御じゃないから壊すことができる。攻撃を通さないんじゃなくて攻撃を防げるだけ。」

 

「そ。さすが香。」

 

「いや…なんでそれがわかる!?」

 

仁が香の言葉を聞いててそう叫んだ。

 

「ちょっと…ね。今は話したくない…かな。」

 

香は困ったような顔をしてそう答えた。

 

「……いつか…いつか、話さないといけない時が来たら。その時は話してあげる。」

 

それまで秘密。と言葉を使わずにその場にいた全員に伝えた。

 

「…わかった。それまで待とう。楽も花もいいな?」

 

「ん?おぉ。」

 

「はい…」

 

「…ごめんね、涼。まだ話せなくて。」

 

「分かってるから。気にしないで?」

 

香は軽くうなずいた。

 

「それで、封印を解く方法っていうのは?」

 

仁が楽に問いかけた。

 

「その方法より先に言うが、花と鈴の能力は別だ。花が持つのが無限再生、鈴が持つのが堅牢防御。ただ、どうやら謎の力で花と鈴が繋がっているらしくてな。花が無限再生を使えない状況になったら鈴が無限再生を発現する、って感じになるそうでよ。」

 

「そして、それは逆もしかり。鈴が堅牢防御を使えない状況になったら花さんが堅牢防御を発現するらしいの。もちろん、使えない状況から脱したらその力の発言は解除されるらしいんだけど。」

 

「鈴と花さんは“一対存在”ってこと?」

 

香がそう呟いた。

 

「う~ん……香の表現が正しいのかもね。」

 

「それから仁が気にしてた封印の解除方法だが、残念ながら不明なんだ。」

 

「何?」

 

「俺と涼も結構細かく調べたんだがな…封印解除方法の部分だけ全く情報がなかったんだ。」

 

「多分、前までの鬼神族の少女達の封印解除方法とは違うものになってる…って私たちは考えるけど。」

 

「事実、仁が起きる前、花が仁に抱き着いてたが、瞼が開くような気配はなかったしな。」

 

「ら、楽っ!?///」

 

楽の唐突なカミングアウトで花と仁が顔を赤くした。

 

「は、花、そんなことしてたのか……///」

 

「ひゃ、ひゃい……///」

 

「…純情というかなんというか。」

 

「だね。」

 

「………///」

 

鈴がなぜか顔を赤くしていたのが印象的だった。

 

 

 

 

───そして今に至る

 

 

 

仁が思い出して顔を赤くすると、花も同じように顔を赤くしていた。

 

「はい、できました、若旦那…」

 

「あ、あぁ……」

 

…仁、花、おぬしらシャキッとせんかい!

 

「だまり、影役ちゃんと頼むな。」

 

ぬ…

 

「仁ー!準備できた~?」

 

仁と花がいる部屋の外から香の声がする。ちなみに佐吉はすでに部屋にはいなかった。

 

「すまん、今準備終わった!」

 

「あ、そっか。入っても大丈夫?」

 

「俺はいいが…」

 

「私も大丈夫です。」

 

「だそうだ。」

 

「ん、じゃあ入るね。」

 

その言葉の後、障子を開けて香が部屋に入ってきた。

 

「やっぱり赤なんだ。仁って。」

 

「あぁ…綺糸屋事件の後からは統一してるんだ。そっちこそ、青なんだな?」

 

「うん、まぁね…私も錦糸屋事件からはね…お母様が仕立ててくれたものだし。」

 

「そうか…ところで、何か用があったんじゃないのか?」

 

仁が香に問うと、香は軽くうなずいた。

 

「りんね」

 

はいはいっと…

 

香の言葉によって香からりんねが離れる。

 

「花さん、ちょっとこちらに。」

 

「は、はい…」

 

「目をつむっててください…って癖で言っちゃったけど目つむったままなんだっけ。」

 

そういいつつ、香が花の頭に手をかざした。

 

spell act:system.id stand up hiding…

 

香の手が一瞬光ったかと思うと、香が花から手を退けた。

 

「ん、これで大丈夫ですよ。」

 

「何をした…って花?角…」

 

「へ?…あれっ!?角がありません!?」

 

花が頭を触ってそう叫んだ。ちなみに香は血を流し始めている。

 

「昼の…ここの敷地内だけは角を隠すような術を使いました。この屋敷から出なければ角は見えません。」

 

「ていうか香、お前もう…」

 

「りんね…」

 

あ~…はいはい…

 

りんねが答えるとともに香に憑き、急速に血が引いていく。

 

「それにしても角を隠す術?そんなのあったのか?」

 

「一応、ですけどね。昨晩、この屋敷全体に結界を張ったので結界と術が共鳴する場所でのみ有効な術です。鈴にもかけてありますよ?」

 

「そうか…というか敬語…」

 

「あ…さ、開店準備始めましょう?」

 

「あ、そうだな。」

 

仁がそう答え、その場にいた全員が店表のほうへと向かった。

 

しかし仁よ。ひとつ言ってよいか?

 

「どうした?」

 

花だが、どうも見ても食欲が沸かん。美味そうな匂いがしない、というか…

 

「幽鬼か、幻術だと?」

 

そうは言っとらん。花は生きた鬼、これは間違いない。だが、以前のような芳しい香りがせんのだ…

 

「…なんでだ?」

 

知らぬわ。

 

仁とだまりの会話を聞いていた香がりんねを見つめた。

 

「…そういえば、りんねも同じようなこと言ってたよね。」

 

そういえば言ったわね。悪鬼は普通に美味しそうな匂いしたのだけど…なんでかしら?

 

そんなことを言っている間に、店表に着いた。

 

「お、やっと来たな仁。」

 

「楽、店を開けてくれ。開店だ。」

 

「おう。これでいいんだよな?」

 

楽が持っていたのは錦と綺が丸で囲まれて書かれた暖簾だった。

 

「まるで最初から分かってたみたいに用意されてたんだよね…なんでだろ。」

 

涼がそう呟き、暖簾を見つめた。

 

「蔵の鍵が6本…四の蔵~六の蔵はまだ開けてないんだよね。」

 

「はい…」

 

「…さ、開店しよっか。」

 

結構適当に話を止めて開店準備が終わった。ちなみに花と鈴は覆いをかぶっている。

 

「お客さん来ますかね…」

 

「そんな早くは来ないと思うが……」

 

「ごめんください。」

 

「「「「「「来たっ!?」」」」」」

 

一人の女性が店内に入ってきた。

 

「ここは…呉服屋さんで間違いないですか?」

 

「はい、間違いありませんが…」

 

「商品を見ていっても?」

 

「かまいませんよ。」

 

女性が商品を見るために近づいた時、香の近くからガンッと音がした。

 

「「!?」」

 

香は驚いたような顔をしており、仁は声を失っていた。

 

「……」

 

女性はしばらく香を見つめていたがやがて興味を失ったように商品に目を落とした。

 

「…仁」

 

「なんだ」

 

「私を残してお店の奥に」

 

「は?」

 

「早く」

 

仁は香の真剣な目に圧され、花達4人を店の奥へと連れて行った。

 

「…きれいな生地ですね。それにきれいな仕立て…」

 

「そうですね。染色師、仕立師の方の腕が良いので。」

 

女性がいる間、何度もガンッという音がしているが、気にしていないように話を続けていた。

 

(さっきから私の体にかけておいた防護壁に攻撃されてる…それも早い。りんねが憑いている状態の私じゃ視認ができない…それに、防ぐごとに攻撃力が上がってきてる…)

 

香は女性から視線を外さないようにしてそんな思考を回していた。

 

(この小娘……先程から私の攻撃を悉く防いでくる……いったい何者だ?それに先程一撃入れた時、危険を察したのか自分以外をこの私から隠した……刀も何も持っていないようだから鬼狩りの可能性は低そうだが……)

 

((どちらにせよ……強いっ!))

 

どちらも似たようなことを考えつつ、女性は一つの櫛を手に取った。

 

「これ、いただけますか?」

 

「はい。ええと…9円60銭になります。」

 

香が料金受けと顧客名簿を用意した。

 

「それと、こちらにお名前をお願いします。」

 

「分かりました。」

 

女性は付近にあった筆をとり、さらさらと名前を書いた。

 

「“月衣(つきごろも) 黒百合(くろゆり)”様…ですか。」

 

「はい。またよらせていただきますね?」

 

代金を料金受けに置き、入口の方へと向かった。

 

「またのお越しをお待ちしております。」

 

香は深くお辞儀をして黒百合と名乗った女性を見送った。

 

 

 

side 黒百合

 

 

 

私は呉服屋を出て、近くの路地に入った。

 

(…あの小娘。私の攻撃が全く効かなかった。何者だ?)

 

路地の奥の暗い中、壁に体を預けて考えていた。

 

「…いるか。」

 

「はい、なんでございましょう?」

 

私は隣に現れた2体の鬼に話しかけた。

 

「あの呉服屋にいる黒い着物に青い長襦袢を着た黒髪の娘を見張れ。可能なら首を取ってこい。」

 

「「承知しました、()()()()()様…」」

 

2体の鬼は高く跳躍してそこからいなくなった。

 

 

 

side normal

 

 

 

香は黒百合と名乗った女性を見送った後、少し考えこんでいた。

 

(あの人…攻撃力が高かった…()()()()()()()()()をかけてたけど一回の攻撃で何層かは破られてる。私の防御はかなり硬いはずなのに…今回は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったからなんとかなったけど、あれより早くなったと考えるとこの速度と硬度じゃ足りない。もっと速い修復、もっと硬い防御…それが今の課題かな。)

 

「香…?」

 

仁が顔だけを出して香に声をかけた。

 

「ん…?あ、ごめん、仁。もう出てきて大丈夫だと思う。」

 

「そうか…何があった?」

 

「秘密。」

 

会話が終わり、静寂が訪れる。

 

「ごめんください。」

 

「あ、いらっしゃいませ。」

 

今度は小柄な女性が入店した。それを見て香が微妙な表情をした。

 

(花…藤の花の匂い…だけどそれと同時に強い殺意…ううん、()()()()()()()()()()が混じってる。ここまで濃度の高い憎悪の心意は…もしかして、誰か大切な人を亡くした?)

 

「すみません、これください。」

 

「え、あ、はい!」

 

そう言って女性が示したのは蝶の羽を模した櫛と紫色の蝶が描かれた着物だった。

 

「えっと、着物と櫛、合わせて25円と50銭になります。それと、こちらにお名前をお願いします。」

 

「分かりました…それと、申し訳ないのですが蝶が止まっているような(かんざし)はありませんか?」

 

「簪…ですか?」

 

香は仁と顔を見合わせた。

 

「少々お待ちくださいませ。只今在庫を調べてきます。」

 

仁がそう言い、店の奥へと向かった。

 

「すみません、お手数かけまして…」

 

「いえ、大丈夫ですよ?お客様の要望にはできるだけ応えたいですから。」

 

香がそう答えると、その場にまた静寂が舞い降りる。

 

「…あの…」

 

「どうしました?」

 

「踏み入ったことをお聞きする様で申し訳ないのですが…」

 

「?」

 

女性が香の言葉に首をかしげる。

 

「お客様、もしかして…大事な方を亡くされていたりしませんか?」

 

「…!」

 

「その反応は当たりですね?」

 

「…何故?」

 

女性が怪訝そうな顔で香に問うた。

 

「お客様から藤の花の香りと微かな血の匂い、それと強い憎悪の気配を感じましたので…」

 

「…貴女、一体何者?」

 

女性から殺気が飛ぶが香は別に気にしないような顔をしていた。

 

「名も名乗らず失礼しました、私は呉服“錦糸綺糸屋”三代目当主の片割れ、香と申します。貴女様は?」

 

「…鬼殺隊蟲柱、“胡蝶 しのぶ”です。」

 

その言葉を聞いた途端、香に軽く寒気が走ったがそれを見せずに応対を続けた。

 

「…はて、“きさつたい”…とは?」

 

「…」

 

女性はそのまま口を噤んでしまった。その時、店の奥から足音が聞こえ、仁が顔を出した。

 

「お客様、お待たせいたしました。お客様が所望したような商品が在庫内にありましたのでお持ちしました。」

 

仁が持っていたのは紫色の蝶が飾られた簪だった。

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「香、いくらになる?」

 

香は近くにあったそろばんを弾いて値段を計算した。

 

「すべて合わせて267円になります。」

 

「ではこれでお願いします。」

 

料金受けに置かれたのは270円だった。

 

「270円お預かりで3円のお釣りになります。お買い上げありがとうございました。」

 

香がそう言うとしのぶと名乗った女性は足早に店を出て行った。

 

「…もう夕方。仁、閉店作業しちゃって。」

 

「あ、あぁ。」

 

仁が外に出て、閉店作業を始めた。その間、香は顧客名簿に目を落とした。

 

 

月衣 黒百合

胡蝶 しのぶ

 

 

(“月衣 黒百合”さんと“胡蝶 しのぶ”さん、ね…)

 

要注意人物、と小声でつぶやきながら顧客名簿を元の場所へと戻した。

 




はい、香の謎がいくつか出てきましたね。魔法、鋭い勘、感情察知能力。これらは後々話すことになると思います。
それと、この作品を投稿してるころには時間が無くてまだ書けないのですが、私の活動報告の方で少し報告的なものがあります。後書きで言うのもあれなので詳細は省きますが、簡単に言えば投稿スピードが確実に落ちます。
あ、ちなみに今回の無惨様の姿はパワハラ会議…って言いましたっけ、あの時の姿です。wikipediaとかで調べましたけど名前が見当たらなかったので適当に命名しました。正式名称あったら教えてください。
ではでは。誤字報告等もあればお待ちしております。


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第漆話 香を狙う2体の鬼

う~…頭痛がします…
それはそれとして第七話。今さっき(2020/06/02 19:14)書きあげた出来立てです。
それと、タグ追加しました。“他作品ネタ多数”と“キャラ崩壊の可能性”です。


───丑三つ時。

 

この世界でも、この時間になると鬼門が現れる。

 

花と鈴の術によって出現予測がされていた鬼門の位置付近に仁、香、楽の3人がいた。正確には3人と2鬼、だが。

 

「さて、昨日暴れられなかった分存分に暴れるか!」

 

無茶はするでないぞ?

 

「そっちこそな!」

 

げっげっげっ、いらぬ心配だったか。

 

「…」

 

香は下を向いたまま歩き続けていた。

 

「…どうした、香?何か考え事か?」

 

「ほぇ?」

 

香が顔を上げた。

 

「いや、さっきから上の空というかなんというか…何かを考えているようだったから。」

 

「あぁ…」

 

納得したような表情をして空を見上げた。

 

「今日の晩御飯について考えてるんですよ。」

 

「そうか…花の作るご飯は美味しいからな。」

 

「む…鈴の作るご飯だっておいしいですよ?」

 

「そうなのか?」

 

「そうですよ?」

 

仁と香の言葉に楽が呆れたような表情をした。

 

「お前らどんだけ花と鈴のこと好きなんだよ…」

 

「「すごく。」」

 

「お前ら末永く爆発しやがれ。」

 

「「断る。」」

 

げっげっげっげっげーらげらげらげらげら…

 

ふっふっふふふふ…

 

だまりとりんねは爆笑していた。

 

どんっ

 

「「「っ!」」」

 

「「鬼門が開いた」」

 

来るわよ、香!跳びなさい!

 

りんねの言葉に香が跳躍するとそこを猛スピードで通過する何かがいた。

 

人間の女ぁ…ハラワタぁぁ…ヨコセェぇぇ…

 

「うわぁ…」

 

香が心底嫌そうな顔をした。

 

ヨコゼェェェェェ!!!

 

「…これって確か生まれたてじゃないよね?なんでこんなに幼稚っていうか…なんていうか…」

 

「「ヨゴゼェェェ!!!」」

 

「なんか増えたぁぁぁあ!?」

 

跳躍しながら言葉を発するとは器用なのか何なのか。

 

ほらほら、早くしなさいな!

 

「分かってるよ!…っ!?」

 

言葉を発している最中、何かに気が付いたのか瞬時に振り向いた。

 

「…気のせい?」

 

目の前の鬼に集中しなさいっ!

 

「…~!分かったってば!」

 

ぱきんっ

 

「っ!」

 

斬想鬼を振るい、片方の鬼の手を切り落とす。

 

ググ…嫌な糸だ……

 

「仁っ!」

 

ッ!?

 

香が手を切り落とした鬼の体に糸が巻き付く。

 

「引いていいっ!話が通じなさそうだからっ!」

 

「っ!」

 

香の言葉に仁がその糸を引いた。

 

ウグ…

 

「なっ…」

 

「再生した…!?」

 

鬼は骸とならず、再生を始めた。それどころか…

 

「げっ、合体!?」

 

ワレヲオコラセタナ……メシ…おとなしく喰われろっ!

 

鬼が香の左腕を食いちぎった。

 

あ。うっかり。

 

千切って食うから、そのメシヨコセ…

 

「…」

 

「こ…う?」

 

香の雰囲気が少し変わった。

 

ハー…やれやれ。

 

!?

 

りんねの力で香の腕が復元されていく。

 

勘違いもここまで来ると馬鹿馬鹿しいわね、馬鹿め。

 

馬鹿って3回言ったな、こやつ…

 

あなたは今ここにいる中で一番怒らせてはいけない人間を怒らせた。あなたに待つのは死しかないわよ?

 

なんだと?

 

鬼がそう言った瞬間、香の姿が掻き消えた。

 

!?

 

「“二糸式・凍”」

 

ぱきんっ

 

なっ!?

 

香の声が聞こえたかと思うと青く煌めく糸が鬼に巻き付いており、鬼の背後に香がいた。

 

「…わるいけど、私はすでに鈴のもの。あなたのものになる気はない。」

 

「「さりげなく爆弾発言してんじゃねぇ!」」

 

あぁぁぁ…!!冷たい!凍えるっ!

 

鬼の言葉の通り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「一つ答えて。あなたは歪みを使う鬼を知っている?」

 

し、しらない…しらないっ!

 

「そう。」

 

香が呟きとともに糸を引いた。

 

あがぁぁぁ……

 

ぱちん。

 

「…ふぅ。」

 

やれやれ、とんだ馬鹿だったわね。

 

「馬鹿って言いすぎだよ?」

 

事実じゃないの。

 

りんねはそう言いつつ飛び出た鬼の魂に食らいついた。

 

「とりあえずりんね。」

 

あ~…はいはい。

 

りんねが香に憑き、元に戻った。

 

「さ、次行こうか。だまりさんが食べてないし。」

 

「お、おぅ…」

 

「あ、あぁ…」

 

楽と仁が香に怯えたようにこたえた。

 

「?どうしたの?」

 

「いや…」

 

「何でもない…」

 

((香は怒らしたらだめだ…絶対に!))

 

「?」

 

楽と仁の中で香に対する共通認識が生まれた。…ちなみに香はこてんと首をかしげていた。

 

 

 

side ?

 

 

 

俺は今の戦闘を見ていて少し恐怖した。

 

「何だあの速さは…?鬼に憑かれているようだがあの小娘自体は鬼ではないだろう…だというのに何だあの速さは。それに…」

 

あの戦闘の最中。確かに一度、こちらを見た。完全に気配を消し、背景と同化していたというのに。

 

「まさか、俺の視線に気が付いたと…?あの小娘、ただの町娘ではない…?」

 

とはいえ…

 

「兄さま、どうするのです?」

 

「…あの方の命だ、首を取るぞ。」

 

「そうですわね。」

 

俺は妹にそう言い、小娘を観察しながら期を伺った。

 

 

 

side normal

 

 

 

歩いている最中、香が何かを気にしていた。

 

(屋敷を出た後からずっと観察されているような視線があった。それがさっきの戦闘の後一気に観察から警戒に変わった。視線の性質からして敵対。一応りんねには隠れてもらったけど…仁も巻き込むつもりなら容赦しないよ?…もちろん、鈴を巻き込むなら絶対に容赦なんてしない。)

 

香がそんなことを考えている間、仁と楽は鬼を狩っていた。

 

縛!

 

ナン…ダ…?体が動かん…っ

 

「今だ!仁!」

 

仁が斬糸を振るい、鬼を斬った。

 

いただきます。

 

飛び出た鬼の魂をだまりが喰らう。

 

「…これで、満足か?今日はこれで7体目なんだが。」

 

うむ!わっしゃ満足だ!

 

「「やっとか…」」

 

「お疲れさま、仁、楽。」

 

「おう…」

 

「帰りましょ?」

 

香の言葉で一行は帰路についた。

 

 

 

side ?

 

 

 

小娘を観察していたが、あれ以来俺の視線に気が付く様子はなかった。

 

「偶然だったか。」

 

そう呟いて小娘の背後に近寄った。

 

「…終わりだ…!」

 

そう呟き、小娘の首に爪をかける直前に小娘が丁度止まり、勢いよく振り向いた。

 

「うおっと…!?」

 

小娘が持つ謎の武器に当たりそうになり、急いでよける。

 

「…そこにいるの、出てきなさい。」

 

「っ…」

 

気が付かれていた。

 

 

 

side normal

 

 

 

錦糸綺糸屋の屋敷が見える少し前。

 

仁と楽はいきなり立ち止まって振り向いた香に驚愕していた。

 

「おい、どういうことだよ?」

 

「…」

 

香は空間の一点を見つめたまま動かなかった。

 

「おい…」

 

楽がもう一度口を開きかけた瞬間、空間が揺らいだ。

 

「「!?」」

 

その空間の場所に、美青年と言えそうな青年がいた。

 

「人…?」

 

む?あやつ…

 

「どうした、だまり?」

 

花と似た匂いがするぞ…?

 

「は…?」

 

だまりのこの言葉が指し示すのは…

 

「今晩…屋敷からずっと私たちを観察してたのはあなた…いえ、あなたたちね?何者?」

 

「あらあら、わたくしも気が付かれておりましたか。」

 

青年の近くから女性が出てくる。

 

「もう一度聞く、何者?」

 

「答えると思いまして?まぁ、貴女の首を頂戴しに来た者、とでも言いましょうか。」

 

「…仁、楽。貴方達は屋敷に戻って。」

 

「な…!?」

 

仁が驚愕の声を漏らした。

 

「これは私が相手にする。この2人は関係ないし、帰してもいいよね?」

 

「…あぁ。誰にも邪魔はされたくないからな。っつうか帰れ。」

 

「おい、勝手に話進めんな!」

 

「お願い、戻って。」

 

「っ……」

 

楽が抗議したが、香が見つめたことで何も言えなくなっていた。

 

「…仁、鈴に伝えて。“私は大丈夫だから”、って。」

 

「…絶対に帰って来いよ?」

 

「うん。」

 

「…行くぞ、楽。」

 

楽が仁に引きずられていった。

 

「…~っ!絶対だぞ!絶対に帰って来いよ!」

 

香はそれを聞いて深くうなずいた。

 

「約束するよ。私は絶対に無事で帰るって。」

 

「強気だな。鬼に憑かれた人間風情が。」

 

「あら、ただの人間が鬼に勝てない等と誰が決めました?ねぇ、鬼さん?」

 

「…気づいていたのか。」

 

「えぇ、まぁ。」

 

「…殺す。」

 

「やってみなさいな。」

 

香が影に触れて何かを唱えた。

 

 

 

side 胡蝶しのぶ

 

 

 

「ふぅ…」

 

麹町。この街に一瞬で大きな屋敷が現れたと聞いていたけれど。

 

「…あの子、何者なのかしら。私の内に秘めた憎悪と血の匂いまで見破って…得体が知れませんね。」

 

明日、またあの呉服屋さんに行ってみようかしら…

 

伝令!伝令!麹町!謎ノ屋敷付近!鬼ガ現レタ!!空間操ル鬼!ダ!

 

「!」

 

空間を操る鬼。それは最近よく出てくるようになった鬼のことだ。

 

蟲柱!胡蝶しのぶ!現場!急ゲ!民間人!一名!現在!交戦中!

 

「何ですって!?」

 

鎹鴉の言葉に私に衝撃が走る。何故なら空間を操る鬼と対峙した者は鬼殺隊でも技量が無ければ死に至るほどの実力を持っているからだ。それこそ、(ひのと)の隊士が相手にして苦戦する程の。そんな相手と戦っているのが、民間人。空間を操る鬼は多数を相手にするのではなく、1人を相手にするのを好む。空間が閉じればそこはもう鬼の独壇場。ただの民間人なら空間が閉じてから1分ももたないであろう。

 

急ゲ!急ゲ!空間!閉ジル!民間人ノ!犠牲ヲ!出サセルナ!!

 

私は毒と日輪刀を持って鎹鴉の誘導する方へと向かった。

 

「っ!あれね!」

 

丁度例の呉服屋の前。閉じかけた空間の裂け目を見つけた。

 

「間に合って…!」

 

私は閉じきるギリギリで空間の裂け目に飛び込んだ。

 

 




…なんか変なところで切った感ありますね。
あと今回現れた空間を操る鬼は歪みを使う鬼とは別の鬼です。空間を操る鬼でも丁(調べたところ上から4番目?)で苦戦なのに一応民間人の香が戦う…あ、もしかしてこれ無謀?
あ、それと香は別に主人公ってわけじゃないです。強いっていうだけで別に主人公じゃないです。そして、今現在は香がかなり強いだけで、後々仁も強くします。
あとは…しのぶさんが助けに行きましたけどどうなるでしょうね?先に言うと、香も仁もまだ鬼殺隊には合流しません。…原作買いたい。ちなみに助けに行くのしのぶさんにしようか炭治郎さんにしようかちょっと迷いました。
ではでは。誤字報告等お待ちしております。

P.S 香の容姿イメージ、Vカツっていうので作ってみたんですけど見たい人とかっています?


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第捌話 鬼殺の毒、鬼殺の桜

えっと…はい、第七話投稿後に2時間くらいで書き上げたものです。
もともと展開は考えていたのですが、書いている最中にもともと考えていた展開が分からなくなりまして。それでも自分が望む形にはしてみた感じです。
と、いうわけで第八話。今回は日越え直後…というわけでもないですが、日越えして間もない時間帯での投稿です。


「っ…」

 

「ほらほらどうしたぁ!」

 

外界と切り離された空間の中。香と2体の鬼は戦っていた。

 

「さっきの威勢はどうしたんだよっ!ほらよぉ!」

 

鬼の爪によって()()()()()()()()()、香は鬼の動きを観察していた。

 

(男の方は近接型。女の方は遠隔型。そしてこの場所は空間が切り離されてる。恐らくはこの鬼たちだけになるか鬼たちを倒さなければこの空間は解除されない。)

 

香が後ろに飛んだ。その時、男の方から舌打ちが聞こえる。

 

「チッ…勘がいいのかわかんねぇが妹が設置したものをよけやがる…さっさと引っかかって死にやがれよくそが…」

 

(空間設置型の鋭利な刃。その程度じゃ私は殺せないんだけどね。そんなことを教えてあげる意味もないし。)

 

香はそんなことを考えながら再度跳躍した。すると、後方で爆音のようなものがする。

 

(空間砲、ね…そんなのでも私は仕留められないんだけどね…まぁ、“()()()()”を知らないし仕方ないか。)

 

香は斬想鬼を構え、ポツリと呟いた。

 

「…“剣式・両手刀・桜花───」

 

「あん?」

 

「───贋作”」

 

ぱきん

 

直後、斬想鬼の刃の部分が桜色の柄へと変化し、香がそれを引き抜くとこれまた桜色の刃が現れた。

 

「…さてと。少しだけ本気、出そうかな?」

 

可愛らしい声に反して、彼女が纏うその雰囲気は冷ややかなものだった。

 

 

 

side 胡蝶しのぶ

 

 

 

私は空間の中で例の民間人を探していた。

 

「…この空間にいるのは間違いない…」

 

そう呟いた時、近くで大きな爆音がした。

 

「っ!こっちですか!」

 

音のした方向に駆けると、その方向に3つの人影があった。

 

(3人…?民間人は一人だったはず…)

 

その姿が完全に目視できる場所まで着いた瞬間だった。

 

 

ゾクッ

 

 

突然、背筋を這う強い悪寒に襲われた。

 

(な、何…?)

 

咄嗟に身を隠し、人影3つを見ることができるようにした。その人影の一つ。黒髪の少女に、見覚えがあった。

 

(あれって…確か昼の…)

 

呉服屋の、三代目当主。その彼女が、桜色の刀を持って…鬼と、戦っていた。

 

(助けないと……でも……)

 

強い悪寒。それは、まぎれもない彼女自身から発せられていた。

 

(あの子…本当に何者…?)

 

そう考えているうちに、彼女が動いた。

 

「はぁッ!」

 

強い気合とともに刀を上段から斬り下ろした。

 

「はっ!そんなもんが効くと思ってたのかよ!」

 

「そんなわけないでしょ?これはただの様子見!」

 

「抜かせ!」

 

鬼が刀を弾き、彼女が吹き飛ばされる。しかし、彼女は空中で姿勢を整えて綺麗に地面に着地した。

 

「っ!」

 

「くらえ!俺の血鬼術!」

 

(血鬼術持ち!)

 

「空間裂塵砲!」

 

「なるほど、ただの近接じゃなかったわけね。」

 

彼女は砲撃を見つめ、刀を一振りした。

 

「屈折ノ式。“湾曲振(わんきょくしん)硝子(ガラス)”」

 

呟いたと同時に砲撃の角度がズレた。

 

「「は…?」」

 

男の鬼と背後にいた女の鬼はその現象を見て惚けていた。その間に彼女の姿は消えていた。

 

(どこへ…!?)

 

「抜刀神速斬。“桜散春夜(さくらちるはるのよに)”。」

 

声が聞こえたかと思うと、彼女は鬼たちの真後ろにおり、鬼たちは左腕が切断されていた。

 

「な…」

 

鬼は驚愕を隠しきれていなかった。

 

「まったく…さっきの言葉、そのまま返そうか?さっきまでの威勢はどこに行ったのか、って。」

 

「なっ…腕が…()()()()()()っ!?」

 

鬼のこの言葉には驚愕した。日輪刀で斬ったとしても再生はできるのだ。鬼にダメージを与え、なおかつ再生を阻害する…謎の武器。そんなものを、彼女は使っている。

 

「お前…!何をしたっ!」

 

「答えると思うの?仮にも命を狙っている相手に?」

 

こちらから見ても冷ややかな目で鬼を見つめていた。

 

「そんなことより、貴方一体どれだけの人を殺したの?嗅いでるのも辛くなるような強い血の匂い。こっちは戦闘中耐えながら戦ってるんだけど?」

 

「覚えているか、そんなもの!」

 

「…そう。貴女は?」

 

「私も覚えていませんわ。人間なんて私たちの食料でしかありませんから。」

 

「………そう。」

 

鬼の言葉に表情を消し、刀を中段に構えた。

 

「はぁ…」

 

彼女がため息をついた途端、刀の付近に花びらが現れ始めた。

 

(あれは…姉さんと同じ花の呼吸?…いいえ、違う。花の呼吸独特の呼吸音がしない。それに…)

 

いつのまにか、彼女の付近には無数の花びらが舞っていた。

 

(花の呼吸で、桜を使う技を私は知らない。)

 

「あまり時間もないし、これで終わりかな。」

 

空亜(くあ)っ!」

 

「血鬼術 影縫いッ!!」

 

女の鬼の血鬼術が発動し、彼女が動けなくなる。

 

「ははは!どうだ、動けまい!」

 

「…」

 

「…はぁ。奥の手なんだろうけど…でも…」

 

女の鬼は顔を青ざめた。

 

()()()()。私を縛するならもっと強くしないと。」

 

彼女は静かに跳躍し、女の鬼の目の前に来た。

 

「滅鬼。“千本桜・巫剣(みつるぎ)”」

 

「ぁ……」

 

何も言わせないまま女の鬼の首を切り落とした。次いで彼女は刀を横一閃、縦一閃し…

 

「“浄刻ノ桜(じょうこくのさくら)”」

 

そう呟いた。

 

「さてと、次は貴方ね。」

 

「あ…あ…ゆ、許してくれぇ…」

 

「…今更何言ってるの?」

 

彼女はそういい、刀を振るった。

 

「滅鬼。“桜花獄殺(おうかごくさつ)”」

 

今度は体の部分を滅多切りにしてから首を切り落とした。次いで、体の部分に刀を突きさし…

 

「“鬼殺(おにごろし)の桜”」

 

そう、呟いた。その途端、男の鬼の体に刺さった刀から、桜の木の幹が生えた。

 

「……」

 

彼女はそれを見ながら引き抜き、鞘のようなものに刀を納めた。

 

(あの子…いったい…?)

 

そう考えた時、鬼が作っていた空間の切断が解け、空間の色が元に戻った。これが示すのは……()()()()

 

(民間人が空間を操る鬼を殺した…!?あの子、本当に一体…!?)

 

視線を彼女のいたところに戻すと、既に彼女はその場にはいなかった。

 

(一体どこへ…!?)

 

気になることが増えたが、まずはこの場所の対処だろう。

 

「…伝達。麹町にて鬼の絶命を確認しました。事後対処をお願いします。」

 

鎹鴉に伝え、処理を任せた。

 

 

 

side normal

 

 

 

麹町内の細い路地。

 

その一つに、血だらけの香の姿があった。

 

「……やばい、時間が…」

 

リミットである1時間。戦闘中に能力を使ったためにそれは削れているが、その削れた時間ぎりぎりまで戦ってしまったのだ。

 

(りんねを封じた札は…)

 

香は着物の中を探り、複雑な文字や記号が書いてある札を取り出した。

 

「解…放っ…ごふっ」

 

札が光り、その中からりんねが飛び出してくる。

 

ちょっと!瀕死じゃない!

 

「ご…め…」

 

喋らないの!

 

香にりんねがとり憑き、香の出血が止まった。

 

もう…心配させるんじゃないわよ!

 

「結構…ぎりぎり…だったし…それに…あそこに…私以外…いたから…」

 

出血が引いていき、傷口も塞がっていった。

 

「はぁ…はぁ…」

 

もう…このことは鈴にきっちり説明させてもらうわよ!

 

その言葉を聞いて香が顔を青くした。

 

「う…それは…勘弁…」

 

問答無用!一度怒られなさいっ!

 

「…はい…」

 

傷口が全部塞がった後、香はよろよろと立ち上がり、錦糸綺糸屋への道を辿った。

 

…その後、錦糸綺糸屋に着いた直後、りんねから話を聞いた鈴から泣かれながら怒られたのは言うまでもない。

 




えーと…斬想鬼…および斬糸の刀化についてなんですけど、あれは使い手の強いイメージが刀を具現化させた、っていう仕組みです。仁はまだ使えないんですけどいずれ使えるようにします…
で、鬼の再生を阻害した理由なんですけども…あれは…なんというか…香が具現化した刀に付与した性質、っていうか……う~ん……なんて説明したらいいかわかりませんね…ひとまず、“再生できない”わけじゃなくて“再生能力が著しく鈍る”って覚えておいてください。(書いてたらいつの間にかそんな性質が出来上がってたなんて言えない…)あとあれは日輪刀じゃないです。
言ってしまうと香はまだ全然本気を出してません。あれでほんの少しです。まぁ怪我のせいで本気が出せないんですけども…
さてと、今回はこの辺にしましょうか。誤字報告等、お待ちしております。感想などもよければ。
ではでは。


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第玖話 夜明け後と香が戦っていたころの錦糸綺糸屋

第九話でございます。
前話は香の戦闘に焦点を当てましたが今回はその戦闘中の錦糸綺糸屋がメインです。
ちなみにいつもサブタイトルで使ってる数は“大字”と言うそうな。気になった人とかは調べてそうですけども。

P.S 昨日投稿した第八話ですが、読み返しているときにかなりの量の抜け字に気がつきました…既に修正されてます。それから仁の武器を斬鬼と書く失敗…正しくは斬糸です、申し訳ありませんでした。


朝。襖で仕切られた部屋の外に仁がいた。

 

「香?起きてるか?」

 

襖を軽く叩くが中から返事はなかった。

 

「…?入るぞ?」

 

襖を開け、中を見る。そこには確かに香の姿はあったが、床に倒れたまま動かない香だった。

 

「…おい?」

 

恐る恐る香に触れると呼吸しているような振動があった。

 

「生きてるのか…」

 

そりゃ生きてるわよ…

 

香の影から声がする。りんねだ。

 

「起きたのか?」

 

今の今まで寝てたわよ?でも仁の声が聞こえて目覚めたのよ。そろそろ香自身も起きるわ。

 

「そうか。」

 

そう呟き、部屋の中を軽く見渡した時、近くにあった何枚かの羊皮紙が目に留まった。

 

あんまり女の子の部屋の中を見るものじゃないわよ?

 

「あぁ…すまん。」

 

そういいつつ、仁は1枚の羊皮紙を手に取った。紙には文字らしきものや記号らしきものが羅列されている。

 

「これは…なんだ?」

 

それ?あ~…香の秘術、みたいなところかしらね?私もよくは知らないわ。ただ、錦糸屋事件当時から似たようなものを書いてたのは確かよ。

 

「そうなのか?」

 

えぇ。涼とか鈴ならよく知ってるんじゃないかしら。

 

りんねがそう言った瞬間、香の方で動きがあった。

 

「ぅん……ふぁぁ…」

 

あ、目覚めたわね?

 

「うん…おはよ、りんね。」

 

おはよう。お客よ?

 

「ほぇ?」

 

香は意識がはっきりしてないような状態で仁と向き合った。そこで香の表情が昨日までのはっきりした状態に戻る。

 

「…あ、おはよ。」

 

「お、おお…おはよう。」

 

(変わり身速いな…)

 

「こんな早くから何か用?」

 

「あぁ、そういえば昨日から咲と柊さんの姿が見えないと思ってな…」

 

そう、仁は昨日起きている時に咲と柊の姿を見なかった。昼はともかく、夜もである。さらに言えば、今日はまだこの屋敷にいる鬼導隊士全員をみていない。仁の言葉を聞いて香は何度か頷いた。

 

「あ~……なるほど。私なら何か知っているかもと聞きに来たわけね。」

 

「知らないか?」

 

「知ってるよ。」

 

即答だった。

 

「知っているのか!?」

 

「うん。…っていうか、もしかして…」

 

香は呟きながら立ち上がろうとした。その途中で仁の方を振り向いた。

 

「…仁、着替えたいからちょっと外出ててくれない?」

 

「あ…す、すまん!」

 

仁は急いで部屋の外に出て、襖を閉めた。

 

「…一応聞くけど、今朝私が帰る前に何があった?」

 

「ん…あぁ…」

 

仁は今朝…と言っても早朝のことを思い出していた。

 

 

 

───早朝

 

 

 

「たでま…」

 

楽が呟くと花と涼が屋敷から出てきた。

 

「おかえりなさい!熱めのお風呂、わいてますよ!」

 

「ありがとう、花。っとその前に…」

 

「あ、三ノ蔵ですね?ちょっと待っててください、今灯りと鍵を持ってきますから。」

 

花が屋敷の中に戻って行った。

 

「…あれ?香は?」

 

涼が仁達の中に香がいないことに気が付いた。

 

「…あっ、香ならまだ外だな…なんか変な奴と対峙してる…」

 

わっしゃ、思ったがありゃ鬼だろう…

 

「へんな鬼?」

 

わっしゃの食欲がそそられない。鬼にしては不自然だ。ちょうど、今の花のようにな。

 

「…」

 

涼が何かを考えこんでいた。

 

「どんな姿だった?」

 

「む…容姿は完全に人。ただ、だまり曰く花と似たような匂いがしたらしいから恐らく鬼なんだろうな…」

 

「なら人への擬態…じゃなくて鬼に人が変化したのかな?」

 

「分からん…そうだ、鈴に香から伝言があったんだ。」

 

「伝言?」

 

涼が軽く不安げな顔をした。

 

「あぁ、“私は大丈夫だから”、だそうだが…」

 

「…そっか。香が大丈夫って言うなら大丈夫だね。鈴ー!」

 

涼が屋敷に向かって鈴を呼ぶと鈴が屋敷から出てきた。

 

「どうしました?」

 

「仁?」

 

「あ、あぁ…香から伝言、“私は大丈夫だから”だそうだ…」

 

それを言うと、鈴は少し不安げな顔をした。

 

「若女将が言うなら大丈夫なんでしょうけど…やっぱり不安ですね…」

 

「大丈夫だよ。香ならどんな手を使ってでも鈴の元に戻ってこようとするだろうから。」

 

「…はい…」

 

()()()()()使()()()()()…?)

 

仁は涼のその言葉小さい違和感を覚えた。その気配に気が付いたのか、涼が仁に向きあった。

 

「言っておくけど、私は香の真実を知らない。どんな手を使ってでも、っていうのは私のただの勘と香の鈴に対する想いを知ってるからそう言ってるだけ。それに、鈴は真実を知ってるんだろうけど絶対に話そうとしないから聞いても無駄だよ?」

 

「…そうか。」

 

仁がそう言ったとき、花が屋敷から出てきた。

 

「持ってきました。行きましょう?」

 

「あぁ…」

 

仁が花に返事をした時、外で走るような音がした。

 

「間に合って…!」

 

女性の声。どことなく焦っているような声だった。

 

「なんだ…?」

 

仁が外を確認すると、そこには()()()()()()()

 

「…花。いま、確かに女性の声がしたよな?」

 

「へ?は、はい…」

 

「…誰もいない。」

 

「は…?どういうことだ、仁…?」

 

「そのままの意味だ。誰もいないのに、声がした。」

 

その言葉に涼が驚愕の表情をした。

 

「今、足音もしたのに誰もいないの?」

 

「そうだ。…どういうことだ?」

 

仁が香を置いてきた方向を見ると、そこに()()姿()()()()()()

 

「…香もいない。なぜだ…?」

 

「若女将もいないんですか…?」

 

「楽、確かにあそこにいたよな?」

 

「あ~ん?」

 

楽が仁の言葉に外へと顔を出した。

 

「……あぁ、確かにいたはずだ。いなくなってるな。」

 

それを聞いた途端、涼が鈴を強く抱きしめた。

 

「く、苦しいです、涼!」

 

「大丈夫…香はきっと帰ってくるから…」

 

「っ…」

 

鈴は力が抜けたように涼に寄り掛かった。

 

「…ほら、早く三ノ倉行って悪鬼のエモノ片付けて来れば?」

 

「…あ、あぁ。楽、花、行くぞ。」

 

「は、はい!」

 

「おう…」

 

涼の言葉で思い出したらしい三人は三ノ倉へと向かった。

 

 

…余談だが、仁が風呂に入っている最中、花が乱入しかけたらしいのだが…それはまた別の話かもしれない。

 

さらに余談だが。あの後無事(?)に帰った香と鈴は一緒にお風呂に入ったそうな。同性だから問題ないといえば問題ないのだが、お互いを意識しすぎて気が休まらなかったという。

 

 

 

───そして今に至る

 

 

 

「なるほどね…そんなことがあったんだ。」

 

シュッっという音がして仁が振り返ると着物に身を包んだ香がいた。着物は一緒だが、いつもと髪型が違う。

 

「…ちょっと、案内しよっか。」

 

「ん?」

 

「ついてきて。」

 

香は仁の返事も聞かずに歩き出した。慌てて仁は香についていった。

 

「あ、そうだ。鈴からお願いされたんだが、今日は業務休んでいいからな?」

 

「それもう昨日のうちに言われた。今日は休んでほしいって。まぁ、心配かけちゃった私が悪いんだけどね…」

 

「で、どうするつもりなんだ?」

 

「一日中部屋の中に籠るのもアレだし、ちょっと鈴と一緒に出かけようかなって。この辺の地理まだ理解できてないし、鈴と出かけるついでに理解しておきたい。」

 

「あくまで本命は鈴と出かけることなんだな?」

 

「当然。仁だって花さんと出かけるってなって地理の理解もしておきたい時、花さんと出かけること優先するでしょ?」

 

「む…それを言われると…」

 

「でしょ?」

 

なんだかんだこの綺糸屋の若旦那と錦糸屋の若女将、似た者同士なのであろう。

 




地理を知るより年上の恋人優先の若女将と若旦那。
ちなみに、花が仁が入浴中のお風呂に乱入しかけた理由ですが、錦糸綺糸屋は錦糸屋と綺糸屋が合成された影響で綺糸屋の敷地より広がってまして。お風呂の隣にもう一つお風呂が出来上がってるんですね。で、片方は女性風呂、もう片方は男性風呂となっているわけです。まぁ、あんまりないんですがその時花が少し寝ぼけてまして。間違えて男性風呂の方に入ってしまったというのが事の真相です。…入ってるのが仁だけでよかったね、花ちゃん…その時、奇声を上げながら自分の部屋に戻ったとかなんとか(楽談)。まぁ、好きな人とはいえお風呂間違えてたの見られたら恥ずかしいよね…あと錦糸綺糸屋を拠点としているメンバーに関しては下記参照で。
次回…錦糸綺糸屋の設備とか紹介した後は香と鈴の百合デート回かな?ちょっと微妙に思考回ってないですけども。

現在の錦糸綺糸屋を拠点とするメンバー
男性陣…仁、楽、柊、暁、佐吉、灯純  計六名
女性陣…香、涼、花、鈴、咲、奏    計六名


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第拾話 屋敷の結界と鬼喰いの鬼の優しさ(?)

すみません、デート回まで行けませんでした…(書く時間が微妙になかったのです)
それと、現実の友人からちょっとした小説の執筆依頼されたので投稿遅くなるかもです。
最近思うこと。
あやしやの二次創作って全く見かけない。(このサイトだとあやしやで調べたらこの作品しか出なくて悲しい)


「そういえば、案内するといったってどこに行くつもりなんだ?」

 

仁が香とともに錦糸屋の全員が寝泊まりする場所の廊下を歩きながら聞いた

 

「結界の要。昨日の朝、屋敷全体に結界を張るにあたって六か所に要を設置したの。それぞれ中央、北西、南西、北東、南東…そして店表の土間の片隅にね。中央と店表の要だけは見えないように設置してあるし、管理の必要がないんだけど…中央の要は他の要から力を吸収し、増幅して送り返す結界中央管理増幅分配装置で、店表の要は増幅された力を受けるためだけの受信専用装置だから。ほかの部分は管理必要なんだけど…って、こんな話しても分かんないか。」

 

「…すまん、全く分からんかった。」

 

「結界の知識がないと仕方ないね…零番隊は都の結界維持とかもたまにやってたから。あれはあれでまた違う術式なんだけどね。」

 

「そうなのか…」

 

「そそ。」

 

話しているうちに木製の小屋の前についた。

 

「ここが要。ここは北西の要だね。」

 

そう言いつつ、香は小屋の戸をたたいた。

 

「は~い…」

 

「入っていい?」

 

「若女将…?いいよ~…」

 

香が戸を開けると、そこには少しぐったりしているような奏の姿と鬼の像があった。

 

「…奏、聞くけどまさか昨日の朝からずっとここにいたわけじゃないよね?」

 

「うっ!?」

 

「その反応は当たりなのね…結界の維持は1日に12時間でいいって言ってるのに…」

 

「どういうことだ?」

 

「私が昨日張った結界は都の結界と違って1日12時間、つまり半日の間結界に力を流しておかないと効力がなくなるの。リセット…時間の区切りはいつも朝7時だから7時になったらたとえ残ってた力があったとしても発散されるだけ。いつも結界の力は零の状態から始まるからそこから力の供給は始まる。力の供給者は鬼導師だから、鬼導力…って私は読んでるけどそれを源として今この屋敷を覆う結界は動いてるの。ちなみに発散された鬼導力はこの屋敷内に充満してるけど、別に鬼に危害をもたらすものじゃなくなってるから安心して?」

 

…ようわからんが、わっしゃらには別に危害は加えないんだな?

 

「そうじゃないと私や仁、鈴たちまで被害もらうからね。」

 

そう締めて、香は奏の様子を見た。

 

「…で、昨日の朝を食べたのは涼から聞いて知ってるけど、その後ここから出た?」

 

「…出てない」

 

「だよね…で、この鬼の像は…鍛錬してたんでしょ?」

 

奏が元気のない顔で小さくうなずいた。

 

「レベルは?」

 

「…12」

 

「…12かぁ…で、どんな感じ?」

 

「五本使ってやっと倒せる感じ…」

 

「…ふ~ん?りんね、ちょっと離れてて?」

 

え?えぇ…

 

香はりんねと分離し、小屋の中に入った。

 

「Lv.12は…っとこれか。」

 

落ちていた一枚の札を手に取り、鬼の像に貼り付けた。

 

罰ノ十二糸会

 

香がそう唱えると鬼の像に光を纏った。

 

「滅してみて。」

 

「う、うん…」

 

「ただし、使うのは一本だけ。」

 

「え…あ、はい…」

 

そう言うと香は鬼の像から離れた。

 

「…すー…」

 

「…」

 

鬼導術の光が奏の足元から上がっていき、少し経ったときに奏の体全体を覆った。

 

嵐!

 

式句とともに放たれた針は鬼の像に刺さったが、撃破を示す断末魔と光の消滅がなかった。

 

「…なる程ね。」

 

納得したように呟き、鬼の像に近づいた。

 

 

ギギャァァァァ

 

香が刺した針で鬼の断末魔が聞こえた。

 

「…やっぱり、若女将はすごいなぁ…」

 

「…いや、その前にね?Lv.12を一撃って隊の副長クラスだからね?」

 

「「え?」」

 

「あ、知らなかったんだ…」

 

香は針を抜き、鬼の像を部屋の隅に置いた。それを見てりんねは香に憑いた。

 

「一撃撃破の程度ってあるんだけど。基本的に見習い、及び正式隊士はLv.10くらいまでが限度なの。で、これは隊長が選んだ人にもよるけど、副長に任命される人は大体Lv.11からLv.20なんだよね。隊長クラスになるとLv.21からLv.30が針で撃破できるかな?専用の術具を使えば35とかまでは行けるだろうけど…それでも、レベル指定できる最大の50を一撃撃破できる人なんてほとんどいない。ましてこの結界の要は持続的に力を吸い取られているから意外と術に負荷がかかる。そんな結界の要がある小屋の中でLv.12を五撃っていうのは多分、Lv.12を一撃できるだけの滅鬼力はあるよ?」

 

「そ、そうなの?」

 

「うん。ちなみに奏のお姉さんである澄さんはLv.39を針で一撃撃破してたかな?」

 

「す、澄姉すごい…え、じゃあ若女将は?」

 

「私は針でLv.50。…っていうかそれ以上。鬼符だけじゃ私の術の力測りきれなかったから改鬼符作ったくらいだし。澄さんからはよく教えてって言われたかなぁ…」

 

「若女将強い……あれ?若女将って澄姉と知り合いだったの?」

 

「あれ、言ってなかったっけ?私、澄さんと知り合いで、澄さんが使ってた数珠ってもともと私が使ってたやつなんだよ?」

 

「そうだったの!?」

 

「うん。…と、奏は外出てて。結界への力の供給やっちゃうから。」

 

「え?あ…うん…」

 

奏が小屋から出て、香が小屋の中に入った。りんねはそれを見て香から離れる。

 

「…劫護与厳抄戒鱗。」

 

香の全身から光があふれ、その光が地面に吸い込まれていった。

 

「これでよし、と。さ、次行こっか。」

 

香が立ち上がると、即座にりんねが香に憑いた。

 

「奏は台所行ってて?」

 

「あ、うん…」

 

奏はフラフラした足取りで台所の方へと向かっていった。

 

…香よ、あれ大丈夫なのか?

 

「大丈夫じゃないですかね?…ちょっと心配だけど。」

 

そう言いつつ、香は体の向きを変えて走り始めていた。

 

「ごめん、ちょっと時間取っちゃったから急ぐよ」

 

「ん?あ、あぁ…」

 

仁も少し遅れて走り始めた。

 

「そういえば、結界は1日12時間の供給と言っていたはずだが…」

 

「あぁ、それ?それは自動供給能力だけに頼った場合の話で、術者側から与えることもできるんだよ?…まぁ、結構消耗するから教えてないけども。」

 

「…香が消耗している様子ないんだが…」

 

「慣れてるからね。っと、着いた。北東の要には確か柊さんがいたと思うんだけど…」

 

香が戸を叩くと小さいうめき声のようなものが聞こえた。次いで声。

 

「んあ?柊のおっさんならなんか壁に寄り掛かって座り込んでんぞ~」

 

「ん?その声、楽か?」

 

「ん?仁か。」

 

「…とりあえず入っていいですかね?」

 

「ど~ぞ~…」

 

香が小屋の戸を開けると、中には胡坐をかいて座っている楽と壁に寄り掛かって座っている柊がいた。

 

「おう、香。」

 

「おはようございます。柊さん、起きてます?」

 

「起きているが。なんだ?」

 

「単刀直入に聞きますが、昨日ここから出ましたか?」

 

「…すまない、出てない。」

 

「はぁ…分かりました、今日はいいので台所の方に向かってください。楽さんも。」

 

「だが…」

 

「いいですから。台所の方に柊さん用に金平糖置いてあるのでご飯食べた後に食べてください。」

 

「む…分かった。」

 

柊と楽が小屋を出たと同時に、香が小屋の中に入った。その時にりんねは離れている。

 

劫護与厳抄戒鱗。」

 

唱えた後、香が小屋から出てきた。同時にりんねは憑く。

 

「さ、次々。急がないと開店時間に間に合わなくなっちゃう」

 

そう呟いて香は走り始めた。慌てて仁も香を追う。

 

「確か南東は暁さんだったはず…多分涼もそこにいると思うけど…」

 

「大変だな、結界維持は。」

 

「錦糸屋事件の時は結界張ってなかったんだけどね。万全の状態じゃないと本気の結界張ることもできないし。でも今はちょっと状況が違うから。」

 

「別世界、か…」

 

「何が起こるかわからない以上、使える策は打っておいた方がいいでしょ?」

 

「確かに。というかよく柊さんが甘い物好きだとわかったな。」

 

「勘。」

 

そんなことを話しているうちに小屋の前に着いた。香は小屋の前で声をかけた。

 

「暁さん、います?」

 

「あぁ、いるが…」

 

「入っても?」

 

「いいぞ。」

 

香が戸を開けると、そこにはぐったりした涼と正座している暁がいた。

 

「……どんな状況です?」

 

「…さっき暁さんの様子見に来たらかなり元気で…で、私の術試されたの…」

 

「大体奏と同じくらいだろう、っていうのが俺の感想だが。」

 

「…そうですか。とりあえず聞きますけど、昨日外出ました?」

 

「出てない。」

 

「…分かりました、今日はいいので台所の方に行っててください。」

 

「だが…」

 

「たい焼きありますよ。ぎっしりこしあん」

 

「行く」

 

「「変わり身早っ!」」

 

暁はさっさと小屋を出て行ってしまった。

 

「…ほら、涼も行って。」

 

「はぁい…」

 

涼もフラフラになりながら小屋を出て行った。

 

「さてと…」

 

「にゃー」

 

「…ん?」

 

香のもとに白い猫が近づいてきた。

 

「あれ、“みりか”?どうしたの?」

 

「にゃー」

 

“みりか”と呼ばれた白猫は一声鳴くと、香の体を駆け上がって肩に乗った。

 

「…はぁ。」

 

軽くため息をつきながら香は小屋の中へと入った。りんねは例のように香から離れていた。

 

「…劫護与厳抄戒鱗。」

 

ちなみに術が発動しているとき、猫は香の肩に乗ったままだった。

 

「さ、次が最後…じゃないか、ついでにもう一つやっておこう。」

 

そう呟き、香と仁はまた走り始めた。猫は香から降りて走っていた。

 

「南西って誰なんだ?」

 

「咲さん。」

 

「咲か…」

 

そんな話をしている間に小屋に着いた。

 

「ここが南西の要。咲さん、います?」

 

香が声をかけたが反応は特になかった。

 

「…?」

 

「咲、いるか?」

 

やはり反応がない。そう思っているとだまりが影という特性を生かして小屋の中に入った。

 

こ、小娘!?しっかりせんか!

 

「「!?」」

 

だまりの声に香が小屋の扉を開けると、咲がかなりぐったりした状態で床に倒れていた。

 

「咲さん!?」

 

香が駆け寄り、咲の脈を診る。

 

「脈はある。でも、なんで…」

 

香が付近を見回すと、そこに鬼の像があった。像には、大量の針が刺さっている。

 

「鬼の像……」

 

それを見た途端香がはっとしたような表情をした。

 

「りんねっ!」

 

分かってるわよ!

 

香の呼びかけでりんねが離れる。それを確認してから鬼の像に手をかざして口を開いた。

 

spell act:system.id stand up memorial read…!

 

早口ではあったが、急いでいたためか小声ではなかった。そのため、仁の耳にはっきりと聞こえていた。

 

(スペル…アクト?なんだそれ…?)

 

そんなことを思っていると、香が手を離した。

 

「…嘘…改鬼符のLv.12……滅、できたの?」

 

「改鬼符…さっき言ってたな。どんなやつなんだ?」

 

「一言で言えば鬼符の改良版…だけど、レベルはほぼほぼ騙しに近くて、改鬼符Lv.12っていうのは()()L()v().()6()2()()()()()の。」

 

「な…」

 

「見習い隊士ならまず撃破できないレベルだよ…」

 

その事実に仁と香が驚いていると、咲が動き始めた。

 

「う、うぅ…」

 

「さ、咲さん?大丈夫ですか?」

 

「あれ…私…?」

 

香が軽く事情を説明した。それを聞いた咲自身は納得していた。

 

「なんだ、倒れるのが遅いなって思ったら違う符だったんだ…」

 

「ていうか改鬼符の方には“悪鬼十二之符・改”って書いてあるんだけど…」

 

「あ~…ごめん…」

 

「…とりあえず、台所の方に行っててください。今日の結界への力の供給は私がやります。」

 

「え…でも…」

 

「自動供給に頼るだけだと12時間なだけで、別に手動供給できないとは言ってないはずですが。」

 

「あ、そっか…」

 

「仁、先に行っててくれる?ここ片付けてから行くから。」

 

「ん?あぁ…ほら、行くぞ、咲。」

 

「あ、待ってよ若旦那!」

 

咲と仁は香を置いて台所の方へと向かった。

 

「…さて、片付けしておかないとね…」

 

りんねを憑けた香は小屋の外にあった箒と塵取りを使って鬼の像付近に散らばる針を回収した。

 

「…さすがに予想外、かな?」

 

咲さんのこと?

 

「うん。奏もそうだけど、咲さんも同じ領域まで行けるとは思わなかった。」

 

…改の領域、ね…

 

「零式じゃないだけまだいいんだけどさ…ていうか零式までいかれたら結構凹む。」

 

ふふ、香でも凹むのね?

 

「私も人間だからね…」

 

…ところで香は今どこまで出るのよ?

 

「今?万全の状態なら零式鬼符Lv.39…鬼符Lv.139にあたる物まではいけるよ?」

 

香も十分化け物じゃないかしら?

 

「そう?これでも滅鬼術は一番苦手なんだけど。」

 

…訂正、化け物だったわ。

 

そんな話をしているうちに周辺に針はなくなっていた。

 

「さて、あとは結界。りんね、離れてて。」

 

香が言うとりんねが香から離れた。

 

劫護与厳抄戒鱗。」

 

式句を唱え、光が収まると、小屋に貼り付けられた札が一斉に光った。

 

「ん、全要供給完了。さ、あとは中央だね。」

 

あら?中央は管理必要ないんじゃなかったの?

 

「必要ないけど、手動で動かすことが可能なの。別に自動でも手動でもあまり変わりはないけど…でも、結界の力の流れを把握できるからどこかで異常があったらそこで観れるんだよ。」

 

へぇ…

 

香はりんねを憑けてから中央、台所の方へと向かった。

 

「流石に万全じゃない状態で結界に力与えるのは結構きついものがあるね…」

 

そうなのね…

 

話している最中に台所のそばを通りかかる。それに気がついたのか鈴が顔を出した。

 

「あ、若女将!ご飯できてますよ!」

 

「ごめん、もうちょっと待ってて!」

 

足早に台所入口を通り過ぎ、窓の近くに座った。

 

「りんね」

 

はいはいっと。

 

「ふー…」

 

香が座り込むと、台所からほかのメンバーが出てきた。

 

香の邪魔をしない方がいいわよ?

 

りんねから止められ、一同は見るだけにとどめた。

 

 

突如、香の全身から光があふれだした。

 

感 晋 丞 廻 聯 齦

 

「な、なんて力だ……」

 

「この力、白陽を超えかねんぞ!?」

 

祥 眩

 

「若女将って…こんなにすごかったの…!?」

 

 

香がそこまで言うと光がやんだ。

 

「これで終わり…りんね」

 

はいはい…ところでみんながびっくりしてるからどうにかしなさいよ?

 

「え…あれただの結界手動起動なんだけど…」

 

そう言いつつ、香は台所の方へと向かった。

 

「ご飯食べましょう?あれはまだ皆さんには使えるものじゃない。」

 

「あ、あぁ…」

 

香のその言葉に全員が台所の中に戻った。

 

「あ、おいしそう。いつもありがとね、鈴。」

 

「い、いえ…今日は花にも手伝ってもらいましたから…」

 

「そっか。」

 

鈴と香が話している間に全員が席に着いた。

 

「「「「「「「「「「「「いただきます。」」」」」」」」」」」」」」

 

全員で言い、食べ始めた。しかし、すぐに仁と香が微妙な表情をした。

 

「若旦那?」

 

「若女将…?」

 

「「えと…お口に合いませんでしたか?」」

 

花と鈴の質問に仁と香は首を横に振った。

 

「「味がない。」」

 

「「え…」」

 

「え?普通に味するぜ?」

 

「…だまり?」

 

「…りんね?」

 

楽の言葉を聞いて仁はだまりを、香はりんねを見た。

 

仁の思った通りだろう。わっしゃが仁の味覚を抑えた。まぁ、抑えはすぐに解くがな。

 

私もだまりと同じよ。香の味覚を抑えたの。まぁ、私もすぐに解くけど。

 

「「…なんで?」」

 

仁と香の質問にだまりとりんねは真顔で口を開いた。

 

以前のことを思い出してみろ。キサマの人間本来の治癒能力が戻れば、わっしゃは五感を抑えられなくなる。

 

私たちが考えたのはその基準点。私たちが五感を抑えられなくなればそれすなわち治癒能力が戻ったってこと。

 

治癒能力が戻ったっちゅうことは仁、香、キサマらの傷がほぼ治ったってことだ。

 

とはいえ、五感抑えてるのも面倒だからすぐに五感は戻すけど。

 

「…そうか。」

 

仁が料理を一口食べた。

 

「…うん、うまい。」

 

最初の一口だけ味覚がなくなるのは我慢してくれ。

 

「分かった。ありがとう、だまり。」

 

ふん!あがめたてまつれ。

 

「ははっ。」

 

「ふふっ」

 

その後、全員(だまりとりんね以外)美味しくいただきました。

 




次回はちゃんとデート回。…なはず。
ちなみに白猫の名前である“みりか”はとある人に決めてもらいました。
ではでは、また次回。感想その他お待ちしております。


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第拾壱話 鈴と香のお出かけとそれを追う者

間に合った…って、書こうとしなかった私が悪いんですけど。
無理矢理仕上げたのでひどいです。


朝ご飯の後、香は自分の部屋へと戻っていた。

 

「えーっと…どこ置いたっけ、出かける用の着物…」

 

また着替えるのかしら?

 

「うん、まぁね…」

 

そう…

 

「…ん、これがいいかな。」

 

あら?柄有りなのね?

 

りんねの言うとおり、香が手に持っていた着物はいつもの黒無地とは違い、青生地に淡い紫で花の柄が入っていた。

 

「実際いつもの着物は仕事着だからね…商品を引き立てるために黒で統一してるだけで、仕事以外とかは別に自由だから。」

 

そうなのね…そういえば、香の好きな色って何なのかしら?

 

「ん~…特に嫌いな色とかなかったりするからどれが好きっていうのはあまりないけど…」

 

そうだなぁ…と呟きつつ、香は部屋の中にあった箪笥を開け、白いリボンを取り出した。

 

「…強いて言うなら白、かな?思い入れがある色だし。」

 

そういえば鈴の髪色は白ね。

 

「いや、鈴の髪はどちらかと言えば銀色なんだけど…」

 

そうなの?

 

「そうなの。白に限りなく近い銀なの、あれ。」

 

(…と言っても、ほんと銀が薄すぎて言ってしまえばパールホワイトとかその辺な気がするんだけどさ…)

 

そんなことを思いながら、近くにあった羊皮紙を手に取った。

 

そういえばその羊皮紙に書かれているのって何なのよ?

 

「これ?いろんな術式。まぁ、いつかはなしてあげる。」

 

そう…

 

そんな会話をしていると、襖を叩く音がした。

 

「若女将…準備できてますか?」

 

「あ、うん。ちょっと待って?」

 

香は持っていた羊皮紙をこれまた近くにあった箱の中にしまい、部屋の外へと出た。

 

「ごめん、遅くなっちゃった。」

 

「いえ、私が早かっただけなので…」

 

「…」

 

「若女将?どうしました?」

 

「あ、いや…それ、使ってくれてるんだ、って思って…」

 

香が指さしたのは鈴が髪に着けている水色のリボンだった。

 

「あぁ…結構好きだったので。若女将こそ、その着物着てくれてるんですね。」

 

「うん…まぁ、鈴の前じゃないと着ないけどね…」

 

「……私も若女将の前以外ではつけてないです」

 

鈴と香が軽くではあるが顔を赤くした。

 

こいつら末永く爆発しなさいよ…

 

りんねはそんなことを思いながら声を発さなかった。

 

「…あ、鈴。出かける前にちょっと仁に言うことあったんだけど───」

 

「あれ?香、今から出かけるの?」

 

言葉を発してる最中に涼が香の部屋の前を通りかかった。

 

「…涼、いいところに。」

 

「うん?」

 

「仁に伝えておいてほしいの。“月衣 黒百合さんに気を付けて”、って。」

 

「月衣黒百合さん…?」

 

「昨日の営業時間中に最初に来た人のことね。」

 

「…ん、一応話しておくね。」

 

そう言うと涼は店表の方へと駆けて行った。

 

「…さ、行こっか。」

 

「は、はい…」

 

「あ、そうだ、鈴。念のため魔力を自分の身体に回しておいて?」

 

「あ、わかりました…」

 

そんな話をしつつ、香と鈴は手をつないで屋敷の外に出た。

 

「若女将…」

 

「ん~?」

 

「今日はどこに行くんですか?」

 

「今日は…海とかあるといいんだけど、あるかわからないしとりあえず近くの散策になるかな?」

 

「な、なるほど…」

 

「一応営業終了時間までには帰るつもりだけど…間に合わなかったらその時はその時で。」

 

「いいんですか?それ…」

 

「多分?奏さんたちにも手伝ってもらうよう頼んでおいたし多分大丈夫でしょ。」

 

「そういえばさっき頼んでましたね。」

 

鈴の言うさっき、というのは朝ご飯の時のことである。

 

「うん。…さ、行こ?それと手、離さないでね?屋敷から出た後は結界干渉がなくなるから…」

 

「は、はい!」

 

香と鈴は歩調を合わせながら歩き始めた。

 

「…あ、本屋さんだ。」

 

「へ!?あ、ほんとです…」

 

「…入ってみる?確か鈴って本好きだったよね?」

 

「あ、はい…」

 

そんな会話をしながら香と鈴は本屋の中に入っていった。

 

 

 

side 胡蝶しのぶ

 

 

 

(さて、どうしましょう…)

 

先程あの呉服屋に行ってみたところ、あそこは昼から夕方までの営業だという。現在はまだ朝に近い。店の前で待っているというのもアレだし、付近をうろついていようと思う。

 

(…あら?)

 

そう思ったとき、視界にちらと映った姿があった。白い髪の少女と、その少女と手を繋ぐ黒髪の少女。

 

(あれは…今朝の。)

 

白い髪の少女は知らないが、黒い髪の少女の方は身に纏う着物は違うが、ほぼ間違いないだろう。その二人は近くの本屋へと入っていった。

 

(…追って、情報を得ましょうか。)

 

声をかける前に相手の情報を知る。相手は2つ以上の血気術を持つ鬼を狩った謎の民間人。警戒しておくに越したことはないだろう。

 

 

 

side normal

 

 

 

鈴と香が本屋の中で本を見ている間、香が一瞬顔を曇らせた。

 

(…見られてる。数は3つ。敵性に近いのが1つ、中立が1つ、善性が1つ…それぞれ属性は警戒・観察、興味…あとこれは…守護?)

 

香は顔にも出さず、自分と鈴に強く刺さる視線を分析していた。

 

(…何か仕掛けてくるようなら対処を考えないとかな?)

 

「────み」

 

(まぁ負ける気はほとんどないけど。それでも何が起こるかわからないし。)

 

「─女将」

 

(気になるのは守護、かな?善性の視線から放たれてるやつだけど。)

 

「若女将!」

 

「ひゃい!?」

 

いつのまにか香の目の前に鈴の顔があった。

 

「どうしました…?何か考え込んでたみたいですけど。」

 

「あ、ごめん…ちょっとね。何か欲しいのあった?」

 

「あ、はい。これなんですけど…」

 

今更だが、鈴は目を開いていない。その割に平面が見えるのは香か使った術の影響である。

 

「なるほどね…」

 

香は会計所の方へと行き、本と会計所の近くにあった地図と新聞を会計に出した。

 

「いくらになりますか?」

 

「全部で125円40銭です。」

 

「うわ、結構高いね…」

 

そう言いつつ、香は125円40銭丁度を渡した。

 

「お買い上げありがとうございます。」

 

「わ、わ!若女将!?」

 

「ごめん、少し急ぐよ」

 

香は商品を受け取って店員の言葉を聞いてすぐに少し強引に店を出た。

 

「走れる?」

 

「は、はい…」

 

香と鈴は人通りが多い道を走り抜けた。

 

しばらく走り続け、香が諦めたかのように止まった。

 

(…っ…撒けてないのか。下駄だから走る速度遅いのはわかってたけど…)

 

「わ、若、女将…早い、です…」

 

「あ、ごめん…ちょっと休もうか」

 

「はい…」

 

香と鈴は近くにあった茶屋の椅子に腰かけた。

 

「すみません、お団子2つとお茶2つ。」

 

「はいよ!」

 

香が注文し、鈴は少しうつむいていた。

 

「何かあった?」

 

「あ、いえ…すこし、疲れちゃって…」

 

「あ…いきなり走らせちゃったもんね…」

 

「はい…ごめんなさい、心配かけてしまって…」

 

「鈴ってスタミナなかったもんね…ごめん、いきなり走らせちゃって。」

 

「い、いえ…」

 

「はい、お待ちどうさま。」

 

話しているうちに注文した品が届いた。団子4つと、お茶2つ。

 

「あれ、おばあさん?私、2つずつしか頼んでないんですけど…」

 

「いいのよ。今日の私は機嫌がいいの。昨日主人が無事に帰ってきたから。お団子とお茶は私からの特典とでも思っておきなさい♪」

 

「は、はぁ…ではお言葉に甘えて…?」

 

香と鈴は2本ずつお団子を食べた。

 

「そういえばおばあさま、ご主人が無事に帰ってきた、というのは?」

 

鈴が聞くと、団子屋のおばさんは少し微妙な顔をした。

 

「あ~…言っても信じてもらえるか分からないのだけど…」

 

「「?」」

 

「この町…麹町にはね?昔から鬼が出ると言われているの。」

 

「鬼…ですか?」

 

香と鈴は顔を見合わせた。

 

「えぇ。夜、日が暮れてあたりが暗くなると門が現れ、そこから人を喰らう鬼が現れるの。」

 

(それって鬼門…?)

 

「で、昔から鬼斬り様がその鬼を退治してくれているのよ。」

 

「「鬼斬り様?」」

 

初めて聞く単語に香と鈴が声をそろえた。

 

「私も詳しくは知らないけれど…一振りの太刀を持ち、ただ一人で戦う女性、だと聞いたことがあるわ。」

 

「そうなんですか…」

 

「鬼と出会ってしまったとき、鬼斬り様と出会えば守ってくれるのよ。」

 

「ということはご主人は鬼斬り様と出会ったってことなんですね?」

 

香がそう聞くと、おばさんは首をひねった。

 

「うーん…伝えられてる話と主人の話が違うのよね。主人の話だと黒い髪の男の子と赤い髪の男の子だった、って。ちょうど黒髪の貴女と同じくらいじゃないかしら。」

 

その言葉に香と鈴が顔を見合わせた。

 

「…ありがとうございました。またよらせていただきますね。っと、お代…」

 

「いいわよいいわよ、ちょっと長い話にも付き合ってもらっちゃったし。」

 

「ありがとうございます…よろしければ今度、呉服“錦糸綺糸屋”の方へ来てくださいませんか?」

 

「え?いいわよ?」

 

「ありがとうございます。」

 

そう言って香と鈴はその茶屋を離れた。

 

「…鈴、さっきの話に出てきた男の子って…」

 

「多分、若女将の予想道理ですね…」

 

「…だよね」

 

「あれって仁さんと楽さんですよね…」

 

意外なところで見られているものである。

 

「そういえば昨日…3体目かな?狩ってた時に誰かいたなぁ…」

 

「7体狩ったんでしたっけ」

 

「そうそう…っと、もうそろそろ夕方なの?」

 

香の言う通り、すでに日が傾き始めていた。

 

「…帰りましょうか」

 

「そうだね。帰ろっか」

 

香はそう言いつつ、細い路地に入った。

 

「…りんね」

 

声はなかったが、りんねが香から離れた。

 

「ごめん、少し手荒っぽくなるよ」

 

「へ?は、はい…」

 

香はそう言うと、鈴をお姫様抱っこして塀の上へと跳んだ。

 

 

 

side 胡蝶しのぶ

 

 

 

(跳んだ…!?)

 

かなりの速度で跳び続け、あっという間に彼女たちは見えなくなった。

 

「あの子…やっぱり私の存在に気がついていたのかしら。」

 

今日追うことはもう無理だと判断して明日また呉服屋に行くことにした。




ギリギリ+無理矢理締めました。視線は3つ、視点を合わせられたのは1人。さて、最後の二人は誰でしょう。


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第拾弐話 凶報と蟲柱

十二話…なんか最近微妙に話が出てきません。原作との合流予定は柱合会議前…那田蜘蛛山戦…でしたっけ、その時にしたいんですけどね…


香と鈴が出かけた日の翌日。

 

仁は自身の部屋の中で仕事用の準備をしながら考え事をしていた。

 

「…鬼導隊と鬼殺隊、さらには鬼斬り…か。」

 

それは早朝に帰ってきた佐吉と灯純、それとその話を聞いて思い出した香が朝ご飯の際にもたらした情報だ。

 

「鬼導隊一番隊隊長の白陽がこの世界にいるのか…」

 

佐吉、灯純の話では、白陽と黒陰が生きてこの世界にいるという。それは400年前の姿で、最終決戦の時の力よりも強い力を持っていたという。

 

「だまり。」

 

あぁん?

 

「白陽が俺たちの前に現れたらどうする?」

 

ぶっ潰すにきまっとろうが。

 

「だよな。」

 

そういい、仁は佐吉から渡された紙を見た。

 

「この紙にはだまりの母体となった顔の無い鬼が封じられている、か…」

 

そういえばさっきそう言ってたな。

 

「今は使えないらしいがな…それより問題は鬼殺隊と鬼斬りか。」

 

鬼殺隊。政府非公認の鬼を狩る組織。鬼導隊はもともといた世界もいたものだから何とかなるが、鬼殺隊は何をしてくるかわからない、というのが仁の考えだ。そして鬼斬り。こちらも鬼殺隊同様何をしてくるかわからない。

 

「…どちらも情報が少ないな。まずは情報を集めるところからか。」

 

情報を集めるといってもどうするのだ?

 

「買い物に来たお客にでも聞いてみよう。幸い、ここは昔から鬼門が出る場所だったらしいからな。鬼狩りの情報なんかは聞けるだろう。」

 

そうか…

 

仁は黒の着物を着て、部屋の外へと出た。

 

仁よ、今宵は何体狩るのだ?

 

「気が早い。まぁ、3体狩れればいいだろう。」

 

そうか。

 

そんな話をしていると、いつの間にか店表についていた。

 

「あ、来た。お店、開こう?」

 

「あぁ。分かった。」

 

香と仁が開店準備を始めた。

 

「昨日、誰か来た?」

 

「いや、そこまでは来なかったな。昨日気をつけろと言われた人も来なかった。」

 

「そう…」

 

お客を迎える準備が終わると楽、花、鈴、涼の四人が店表に出てきた。

 

「今日は客来んのかね…」

 

「最近来てたがどうだかな…」

 

「ごめんください。」

 

「あ、いらっしゃいませ…」

 

仁がそう言いつつ振り向くと、そこには前回着物等を買っていった小柄な女性がいた。

 

「少し、話を聞きたいのですが。」

 

「「…」」

 

「一度ここで買い物しましたよね。覚えてますか?」

 

「…はい。」

 

香が硬直から戻り、応対を始めた。

 

「鬼殺隊の剣士様…胡蝶しのぶ様でしたよね?」

 

その言葉が発せられた途端、屋敷内の空気が少し変わった。

 

「はい。胡蝶しのぶです。このお店は…子供6人だけで?」

 

「まぁ、基本的には、ですが。たまに手伝ってくれる人とかいますが。」

 

「そうですか…」

 

女性は少し考えたような顔をしてから、口を開いた。

 

「昨日の早朝、ですか。この街に鬼が現れました。」

 

「そう…ですか。」

 

「空間を操り、その空間を閉じ。その中で誘い込んだ人間を殺す、そんな鬼です。」

 

「…」

 

「私はその鬼を倒すことの指示を受けました。現場についてみれば、民間人の方がその鬼と戦っていました。」

 

「はぁ…」

 

「本来あれは鬼殺隊でもかなり上位の階級でなければ苦戦する代物。それを、民間人の方…いえ、呉服屋の当主である貴女が、倒しました。」

 

「…人違いでは?」

 

「そうでしょうか。刀を振るい、見たこともない技を使う、謎の黒髪の剣士。先日突如現れたあなた達が一番怪しいと思われますが?」

 

「この町には鬼斬り様、というのがいるのをご存じですか?夜な夜な鬼を狩る方のことです。その方も刀を使うとのことですが。」

 

「…ですが、私はあの場を近い場所で見ていましたが、容姿といい何といい、貴女に似すぎています。」

 

「人違いです。第一、私はその時屋敷にいました。」

 

香のこれは完全に嘘である。ご存じだろうが、その時丁度鬼と戦っていた。

 

「…すみませんが、こちらは営業時間には限りがありますので、お買い物でないならばお引き取り願えませんか。」

 

「…また後日、日を改めます。」

 

「はて、何度来たところで話すことは変わりませんが。」

 

「…貴女は、なぜ鬼を狩るのです?死ぬかもしれませんのに。」

 

「質問の意図が分かりかねます。第一私は鬼を狩ってはいません。」

 

「…そうですか。最後に質問、よろしいですか?」

 

「何でしょう?」

 

女性は香に目を合わせた。

 

「貴女が私から感じたという血の匂い。あれは何ですか?」

 

「…答える理由がありますか?」

 

「教えてくださいませんか?」

 

女性の言葉に香はため息をついた。

 

「お断りします。」

 

「…そうですか。ですがこれだけは教えてください。今、私から血の匂いはしますか?」

 

「?えぇ。」

 

「……そうですか。」

 

「「「「「「??」」」」」」

 

女性はそのまま店を後にしようとした。

 

「お待ちください。」

 

香が呼び止め、女性が振り向いた。

 

「何でしょう?」

 

「これをお持ちください。」

 

そう言って香が差し出したのは小さな剣だった。そこから紐が伸び、札が付いている。

 

「これは?」

 

「お守りのようなものです。」

 

「…何故?」

 

「お聞きしますが、何故貴女様は鬼と戦うのです?」

 

「…」

 

女性は答えずに店を出た。

 

「…無解答、ね。…まぁ、なんとなくわかってたけど。」

 

そう呟き、軽くため息をついた。

 

 

 

side 胡蝶しのぶ

 

 

 

「…さて、この剣はどうしましょうか。」

 

先程あの少女に渡された剣。謎すぎるが、鬼のような気配はなかったので、捨てずにいた。

 

「…にしても、あの子。本当に知らないように見えた。知ってると思うのだけど。」

 

路地の中、背中を壁に預けて言葉を漏らしていた。

 

「…鬼斬り様、ね。…調べてみる価値はあるかもしれませんね。その前に、あの子のいる屋敷、本当に彼女が夜に外に出ていないのか見張っておくとしましょう。」

 

そう呟き、私は下宿として借りている場所に向かった。

 

 

───夜。結論から言うと、本当に誰かが屋敷から外に出た様子はなかった。

 




しのぶさん達が気がついてないだけで本当は香達は外に出てます。ヒントは鬼神族。
真面目に最近ネタ尽きてきたのです(ギリギリの繋ぎで何とか組んでる)
あ、凶報っていうのは鬼導隊、鬼殺隊、鬼斬りが存在するっていう情報のことです。


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第拾参話 鬼斬り様

あ、焦ったぁぁぁぁぁ……
あ、前書きからうるさくてすみません…
えっとですね。さっきまでこの話書いてたんですけど……PCの電源がいきなり落ちたんですよ…で、全く保存してなかったもので…すごく焦りました…VS2019(正式名称:Visual Studio 2019)を使って作ってたおかげか、たまに自動バックアップしてくれてたらしくて、途中から書くことはできたんですけど…相っっっっっっ当焦りました。今度から保存ちゃんとしよう…
ということで前書き長くなりましたが第十三話です。タグ関連やってたのと動揺して時間がかかったのでこんな時間に…申し訳ないです。


夜。鈴は部屋で昨日香に買ってもらった本を見つめていた。

 

「“日ノ本昔話集”…」

 

鈴がそう呟くと同時に、部屋の戸を叩く音がした。

 

「は、はい!」

 

「あ、花です…すみません、ちょっといいでしょうか…?」

 

「花さん…?…ど、どうぞ…」

 

鈴が承諾すると、花が部屋の中に入ってきた。

 

「どう…しました?」

 

「…私…今朝の香殿の話が気になってしまって…」

 

「若女将の…ですか?」

 

「あの…鬼斬り様、とかいう…」

 

「あぁ…」

 

鈴はそれを聞いて頷いた。

 

「この町にいるという“鬼斬り様”…鬼門から出てきた鬼を狩る方のことですか…」

 

「はい…」

 

最後に話が出たのが結構前なため、忘れている可能性もあるので説明しておくが、鈴と花は現在“鬼”。だまりとりんねが食欲をそそられない理由はわからないが、鬼であることは涼と楽、さらには香も時間を作っては様々な術式を使って調べつくしたため、鬼であることは断定されているのである。悪鬼ではないとはいえ、鬼門を使える鬼である以上、狩られるかもしれないという不安はある。

 

「…そうだ、花さん。」

 

「はい…?」

 

「これ、一緒に読みますか?」

 

そう言って鈴が見せたのは日ノ本昔話集の本。

 

「日ノ本昔話集…ですか。」

 

「この昔話集、中に“鬼斬り様”っていう話が載ってるんです。」

 

「え…?」

 

「…読んで、みませんか?何か手掛かりがあるかも知れません。」

 

鈴の言葉に花は少し迷ったような表情をした。

 

「いいんですか?」

 

「はい。」

 

「…では、お言葉に甘えて。」

 

鈴と花はその場で一緒に“鬼斬り様”という話を読み始めた。

 

 

 

 

鬼斬り様

 

 

昔々。

 

まだこの地に東京という名がつくよりもっと昔。

 

この地には、鬼というものが存在したそうな。

 

鬼は、夜になると門から飛び出し、人を喰らう。時間が経つごとにその鬼はより強力に、より恐ろしいものになっていく。

 

なれば人は夜に出歩くことはなくなる。それは鬼に襲われて命を落としたくないがため。昼に出ないのならば夜に外に出なければいいという考え。

 

襲われることは少なくなったものの、それで解決するほど話は簡単ではない。

 

事実、当時の天皇はその鬼共に頭を悩ませていたそうな。

 

時間は巡り平安の世。陰陽師というものが現れた。

 

陰陽五行を扱う、呪術師達。

 

陰陽師らは力を合わせて鬼に対抗する術を編み出し、人々を守ったという。

 

しかし、鬼は各地に出没する。

 

いくら陰陽師たちが鬼を退治できるからと言って毎日、各地に出没されたのではどうすることもできぬ。

 

ならばどうするか。永観2年6月、当時の陰陽師たちと当時の天皇である円融天皇は考えた。

 

考えた。

 

考えた末───

 

結界を張り、その中に各地に散らばる鬼を閉じ込めることにした。

 

とはいえ結界のできる前に鬼がいたならばそれをその地へと閉じることができない。

 

ならばどうするか。

 

一人の陰陽師が言った。

 

鬼が現れる源を各地から吸収する結界を張ればいい、と。

 

強力な鬼が出来上がる可能性があるが出現範囲を狭めることはできる。

 

結界を張った後、各地に散らばる鬼は退治すればいい。

 

その方針で決まった。

 

結界の地は平安の都より東。

 

謎に龍脈の力が強かった場所。

 

龍脈の力を切らず、なおかつ龍脈の力を強くする結界を張った。

 

それにより、平安の都、および各地に鬼が出ることは少なくなった。

 

…結界の場所の話をしよう。

 

結界を張った場所に、とある少女がいたそうな。

 

少女は夜になると外へ出ていき、家にあった刀で鬼を斬ったそうな。

 

それが、鬼斬りである。

 

少女の髪は黒。桜色の着物に身を包み、背丈ほどもあるであろう太刀を軽々と振り回す。

 

言葉を発さず、ただただ鬼を斬る者。

 

偶然鬼に出くわし、喰われそうになるところを助けることも何度かあり。

 

救われた者達より、いつしか“鬼斬り様”という名前が広まった。

 

それを聞きつけた陰陽師たちは結界の地に赴き、少女と会おうとした。

 

だが、できなかった。

 

目撃情報はあるものの、少女の場所が明らかにされぬ。

 

どこからともなく現れ、鬼を斬ると跡形もなく消える少女。

 

その頃のどんな陰陽師でも。かの有名な安倍晴明、蘆屋道満でさえ、少女を見つけることはできなかったという。

 

平安の世が終わるまで少女の捜索は続けられたが、救われたもの以外、鬼斬りの少女の姿を見ることはなかったという。

 

未だ怪異を信じる者は未だ文明が届いていない地の者とこの結界の地、明治以後“麹町”と呼ばれているその地の者だという。

 

 

     著:名もなき怪異研究者

 

 

 

side 胡蝶しのぶ

 

 

 

私が本を読んでいるとカタン、という音が隣の部屋から聞こえた。

 

「…姉さん?」

 

隣の部屋への襖を開くと、体を起こして本を読む姉、胡蝶カナエの姿があった。

 

「何読んでるの?」

 

姉さんは近くにあった紙に文字を書いた。

 

“鬼斬り様”

 

「鬼斬り様、かぁ…そういえば姉さん好きだったよね。」

 

姉さんは小さく頷いた。

 

「…鬼斬り様、ね。ね、それってどんな話だっけ?」

 

姉さんは紙に文字を書き始めた。その姿を見て少し辛くなる。

 

(…姉さんから声を奪ったあの鬼…私は絶対に許さない。)

 

姉さんは声が発せない。それは肺と声帯に異常をきたしているからだ。それを起こしたのは氷を使う鬼だった。

 

(…そういえば)

 

姉さんが襲われていた時。鬼と姉さんの間に割って入った人物がいた。確か、水色の着物を着た桜色の太刀を持った女の子だったはず。姉さんを助けた後、すごく無機質な目を向けていたのを覚えている。

 

(あの子は…いったい?)

 

そんなことを考えていると、机をたたく音がした。姉さんが何かを書き終わったときにする合図。

 

“鬼殺隊とは違う、鬼を斬る女の子の話、かな?よくわからないけど。”

 

「ふ~ん…」

 

私はそれを聞きながら、麹町の謎の呉服屋のことを思い出していた。

 




ということでとりあえず鬼斬り様と呼ばれていた存在の伝説(?)的なものでした。
胡蝶カナエさんは上限の弐と戦って肺と声帯をやられてはいますが、生命活動は未だ続いています。ただし、全集中の呼吸、でしたっけ。それが使えないために鬼殺隊を辞め、蝶屋敷(でいいんだっけ)で療養中、ということです。
…あ~…もう本当に焦った…


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香が使った技について説明

書くネタが完全に尽きたのでここらへんで香が使った技について説明しようかと。
これもキャラ設定の方と同じように新たに追加する場合はその時に新しい話で書く予定なのでネタバレにはならないと思います…多分。
意外と使ってる術ってあったんですよねぇ…


鬼導術・安息効果加工

香がかなり得意とする回復加工の一種。術を物質に執行し、その物質に対して触れた、あるいはその物質を飲むなどした場合に安息効果を発揮する。

 

spell act:system.id stand up heal

魔法の起動式句。回復魔法を起動するという宣言。

 

鬼導術・回復術

香が得意とする回復術。できるのは簡単な傷の回復から陰気払いまで。魔法などと組み合わせれば失った器官、失った体の部位の復元なども可能。

 

spell act:system.id stand up hiding

魔法の起動式句。隠蔽魔法を起動するという宣言。

 

多層防御壁展開魔法

防御魔法。1枚ではなく何枚もの壁を重ねて張ることで防御力を高める魔法。

 

破損時高速自動修復魔法

回復魔法の一種にあたる。破損を感知するとその破損を早い速度で修復する魔法。

 

移動速度上昇

自身の移動速度を上げる。

 

二糸式・凍

斬想鬼、及び斬糸の形態変化。通常の糸二本に氷属性を持たせたもの。糸に触れた場所から凍結が始まる。

 

剣式・両手刀・桜花・贋作(けんしき・りょうてとう・おうか・がんさく)

斬想鬼、及び斬糸の形態変化。剣の形を持たせ、さらにそれを両手で持つことを前提とした刀の形を取らせる、桜の力を持つ形態。贋作であるためその力は弱い。

 

湾曲振・硝子(わんきょくしん・ガラス)

屈折ノ式。光線などを屈折させて逸らすことを目的とした技。逸らすことができるのは光線だけではない。

 

桜散春夜(さくらちるはるのよに)

神速の抜刀術。春の夜に桜が散るという速さを現した一撃。

 

千本桜・巫剣(せんぼんざくら・みつるぎ)

本来、一千もの斬撃の威力をたった一撃に圧縮した技。生半可な防御力ではこの一撃だけで破られる。

 

浄刻ノ桜(じょうこくのさくら)

横一線、縦一閃して魂を浄化する桜の技。死者の魂の浄化を願い、十字の攻撃を放つ儀式用の技ともいえる。

 

桜花獄殺(おうかごくさつ)

体の部分を滅多切りにしてから首を切り落とす、痛みを与えるための技。

 

鬼殺の桜(おにごろしのさくら)

鬼を殺す桜の技。武器から桜の木を生やし、相手を桜の木に磔にするという処刑用と言ってもいい技。

 

封印術

魂を何かに封印しておくことができる術。

 

屋敷の結界

現在詳細不明。六か所の要によって成立し、管理必須の要と管理不要の要の二種類に分けられる。

 

鬼導術・鬼像動作

鍛錬用の鬼の像に鬼の力を持たせる術。

 

鬼導術・滅鬼術

鬼を滅する鬼導術。滅するというが実は鬼の中に魂を封じる術。

 

鬼導術・結界動力手動譲渡

結界のエネルギーを術者側から与える術。

 

spell act:system.id stand up memorial read

魔法の起動式句。記録を読む魔法を起動するという宣言。

 

鬼導術・結界手動起動

結界を手動で起動する術。

 

跳躍力上昇

自身の跳躍力を上げる。




あまり詳しくは解説しないことにしました。
さて、現在ネタ切れな上、いろいろと材料がそろっていなかったりするため、この話の続きをかけない状況です。時間はかかると思いますが、いずれ再開はしますのでしばらくの間お待ちください。もうそろそろ、原作との合流を引き延ばしにしてはいられないので。…毎日投稿、続けたかったなぁ…はぁ…
あ、ルビに関してはちょっと時間も迫ってたので簡単に。


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第拾肆話 十二鬼月の上弦

…なんか、ネタがない時に限って次の話が浮かんでくるんですよね…なんででしょう?ちなみに今回の話は今朝お風呂に入ってるときに思いつきました。
それと、運営さんからの対処なのでしょう、必須タグに“オリ主”タグが強制追加されていました。いや、メッセージ来てたんですけどね?…まぁ、私自身自分の作品読み返してほぼほぼ香が主体となって動いてることに気がついたのでオリ主タグ入れた方がいいのかな?とは考えてたのですが。実行する前に処置されてました。R-15とかと同じように保険かけておけばよかったかな…
で、十四話ですが…まぁ、タイトルからわかる通り香に十二鬼月の上弦の鬼をぶつけてみました。結構強引な方法で締めました。
さらに、タグが追加されます。“ソードアート・オンライン”、“モンスターハンター”。技やアイテムのみでの追加になります。詳細はネタバレ注意のタグ一覧にて。


いつものように鬼を狩っていた時である。

 

香は以前のように謎の視線を感じていた。

 

(明らかに敵性。観察レベルじゃなくて警戒かな?…どのみち、この殺気濃度は気を抜いたら死ぬかな。)

 

「仁」

 

「うん?」

 

「ごめん、先帰ってて?私もう少し鬼狩っていくから。」

 

「…分かった。」

 

仁は香をその場に置いて錦糸綺糸屋への道を歩いていった。

 

「…場所、移動した方がいいよね」

 

香は仁の向かった方とは別の方へと向かい、錦糸綺糸屋から離れた。

 

「…そこにいる方、そろそろ出てきたらどうです?知り合いに危害を加えたくなかったのでもう一人は帰しましたが。」

 

「私に…気づいて…いたのか…」

 

建物の影から六つ目の人間に近い存在が現れた。

 

「ええ。…何か御用ですか?」

 

「お前は…何者だ?」

 

「はて。質問の意味が分かりかねますが。」

 

「ただの…呉服屋の…娘にしては…勘が…鋭い…」

 

「呉服屋の娘…ね。」

 

香はそれを聞いて少しだけ表情を暗くした。

 

「お前は…人としては…危険だ…」

 

「…」

 

「危険の芽は…早いうちに…」

 

六つ目の存在が持っていた刀を振りかぶった。

 

「りんね、融合状態第一段階、融合干渉率5%」

 

了解っ…!

 

早口かつ小声で応答し、香はその場から跳び上がった。

 

「摘んでおかねば…ならぬ」

 

直後、回転鋸のような斬撃が香へと襲い掛かった。

 

「っ…!“剣式(けんしき)片手刀(かたてとう)桜花(おうか)贋作(がんさく)…!」

 

ぱきん

 

その音とともに以前の桜色の刀よりも柄が短い刀が現れた。

 

「…二刀(にとう)”…!」

 

香がそう叫ぶと、もう一方の斬想鬼の断面にも刀の柄が現れた。香はすぐさまその刀を抜き放ち、似たような回転鋸のような斬撃を放って相殺した。

 

「…ほう」

 

(りんねが憑いている以上、私の力はだいぶ抑えられてる。それ以前に万全の状態じゃないからそれでも抑えられる…融合状態第零段階ギリギリまで融合干渉率を落としたとしても私が出せる力は元々の40%程度が限界…!さらに使ってる剣にも原因はあって“贋作”であるために私の力の通りが悪い!だから出せるとしても10%が限界か…!)

 

「威力を…かなり…抑えたとはいえ…拾ノ型を…防ぐか…」

 

(威力を抑えられた状態の攻撃を何とか二刀で相殺できるレベルか…咄嗟に模倣したからうまく力が入らないと思って二刀で対応したけど…二刀でギリギリだった…なら)

 

「月の呼吸…」

 

「“三刀(さんとう)”…いや、“六刀(ろくとう)”」

 

香が呟いた瞬間、香の周囲を浮遊する四振りの刀が現れる。

 

「“拾肆ノ型(じゅうよんのかた) 兇変(きょうへん)天満繊月(てんまんせんげつ)”」

 

「“千本桜(せんぼんざくら)翔羽片(かけばひら)”!」

 

以前の巫剣(みつるぎ)とは違う、広範囲に剣撃が広がる技が香の持つ二刀、及び周囲の四刀から放たれた。その剣撃は相手から放たれた斬撃にぶつかり、その斬撃を消していく。

 

「…今のも…防ぐか…」

 

(ギリギリか…拡散にしたから威力は弱まったものの六刀での攻撃だったのに…それにしても太刀筋がない攻撃…か。)

 

「見たことも…聞いたことも…ない呼吸…か…」

 

(…“呼吸”?)

 

香が分からない、というような表情をした。それに相手が気がついたのか、香をじっと見つめた。

 

「お前は…呼吸を…知らない…のか…?」

 

「…はて、呼吸とは生命活動の一つだと記憶はしてますが。」

 

「…お前は…鬼狩りの…剣士では…ない…?」

 

「…鬼狩りの剣士?」

 

「その表情は…知らない…ようだな…」

 

「…教えてくださると助かるのですが、敵に教えてもらうのもあれですし。」

 

「…教える…つもりは…ない…」

 

「でしょうね。」

 

香は持っていた二刀を斬想鬼の断面だった場所に差し込み、斬想鬼自体をくっつけた。

 

「…何を…している…」

 

「…“剣式(けんしき)両手刀(りょうてとう)変在(へんざい)贋作(がんさく)”」

 

ぱきん

 

斬想鬼の断面からは黒い柄が現れていた。香がそれを抜き放つと、銀色の刀身を持つ刀が現れた。

 

桜花刀(おうかとう)じゃ多分無理。なら、変幻自在の通常刀…!贋作だからその力は弱めだけど…答えてくれるはず!)

 

「その刀は…鬼狩りの…刀では…無いな…」

 

(いや知らないし…)

 

「抜刀術…」

 

香が一度斬想鬼の断面に刀を納め、抜刀術の構えを取った。

 

「月の呼吸…“壱ノ型 闇月・宵n…」

 

「“透過(とうか)影縫翔刃(かげぬいかけしやいば)”」

 

「oみ…や?」

 

相手が攻撃を放ったと思いきやその速度をはるかに上回る速度で香が相手の右腕を切り落とした。

 

「何を…した?」

 

「…神速を超える超神速の抜刀術。…ただそれだけです。」

 

「…面白い」

 

相手はそう呟くと失った左腕を再生させた。

 

「やはり…ただの…呉服屋の…娘では…ないな…」

 

「それはどうも。」

 

(だからって全力出されると勝てないんだけどね…それを言う必要もないし。)

 

「やはり…無惨様の…言っていた…通りか…」

 

「…無惨?」

 

香が相手の呟いた名に反応する。

 

「…あなたは…鬼舞辻無惨を知っているのですか…?」

 

「…知った…ところで…どうする…」

 

「…一つ、教えてくださいませんか?」

 

「…」

 

「鬼舞辻無惨という存在のもとに…二人の人間の女性が行きませんでしたか?」

 

「…」

 

相手は答えなかった。

 

「…無回答、ですか。…別にいいですが。」

 

「そう…か」

 

香は刀を中段に構えた。続いて相手も中段に構える。

 

「“桜神の型(さくらがみのかた)───」

 

「“拾陸ノ型(じゅうろくのかた)───」

 

相手は跳びあがり、香は下で迎え撃つ構え。

 

「───月虹(げっこう)片割れ月(かたわれづき)”!」

 

「───桜花一閃(おうかいっせん)”!!」

 

上からの複数の斬撃と香の一閃が交差する。

 

「…っ!反撃派生、“桜花気刃斬(おうかきじんざん)”っ!!」

 

叫んだ後、一瞬後ろに退き、そこから前方へと切り抜けた。

 

「っ…」

 

「ふん…っ!?」

 

香がふらついた後、無傷だったはずの相手の右腕が切断された。

 

「なんだ…!?」

 

「…怨念刃」

 

「くっ……!?」

 

相手は右腕を再生しようとしたが、再生が鈍ったことに気がついた。

 

「何を…した…っ!!」

 

「…再生阻害…まだ…弱いか」

 

香はりんねによる再生が完全に済んでいないまま刀を構えた。

 

「…多分この刀じゃ討つことはできないし…本気を出されたら一瞬でやられる…なら…退却を待つ…かな。私の勘ではもうそろそろこの人は退く。」

 

既に時間は日の出に近くなっていた。

 

「…染まれ 染まれと この暁に…」

 

「…?」

 

香が歌いだした。目を閉じ、何かに集中しながら。

 

「朱く 紅く 刀を染め上げよ」

 

「隙…だらけ…だ!」

 

相手が斬りかかるが、目を瞑ったままの香の刀に見事に防がれた。

 

「染まれ 染まれよ あの紅月(あかつき)に」

 

「なら…“陸ノ型(ろくのかた) 常世孤月(とこよこげつ)無間(むげん)”」

 

相手は技を使って切りかかるが、今度は全て避けきって見せた。

 

「鬼を 許さぬ (あか)()を」

 

(あれをよけきるだと…!?そしてあの歌は完成させては不味いっ!直感がそう囁く!!)

 

「心沸かして その力振るえ」

 

「“拾肆ノ型(じゅうよんのかた) 兇変(きょうへん)天満繊月(てんまんせんげつ)”!!」

 

ノーモーションからの広範囲の斬撃。しかしそれも全て避けきる。

 

「まさか…見えている…のか…!?」

 

燼滅(じんめつ)()を……」

 

そう言った直後、香の持つ刀が紅く染まった。同時に香が目を開けると、目の色が少し赤くなっている。

 

「赫刀…!?そんな、馬鹿な!!」

 

(時間がない…この技に賭ける!!)

 

「…“顕現(けんげん)燼滅刃(じんめつじん)”…“獄炎焼尽閃(ごくえんしょうじんせん)”っ!!」

 

まず、刀を()()()()()()、次いで右腕、左腕を()()()()()()()()()()()()

 

「…あああぁぁぁぁっっ!!!!」

 

叫びとともに相手を逆袈裟で切り裂いた。

 

「ぐふっ…!?」

 

「はぁ…はぁ…」

 

切り裂いた直後、刀の色が元に戻り、香自身も地面に倒れかけた。

 

「…貴様…」

 

相手は香を見つめて殺気を向けていたが、何かに気がついたのか、見つめたままになった。

 

「…娘。名は」

 

「…香」

 

「…そうか。私は…黒死牟…だ。娘…その名前…覚えておく。」

 

べんっ

 

その場に琵琶の音が鳴ったと思うと、黒死牟と名乗った相手が消えた。

 

「終わ…った……」

 

ふらふらした足取りで刀を斬想鬼に納め、斬想鬼をつなぎ合わせる。

 

「帰…らなきゃ…みんなが…待ってる…」

 

香は着物の中を探り、青い結晶を取り出した。

 

「転移…“一ノ蔵”」

 

そう唱えた瞬間、香を青い光が包み、その場から消え、香視点で青い光が消えたかと思うと大量の着物や襦袢などがある場所───商品が置いてある一ノ蔵内部だった。

 

「帰れ……」

 

言葉を発している最中で香が倒れた。

 

日の出である。お忘れかもしれないが鬼───だまりとりんねが憑いている仁と香は日の光───特に朝の光に弱い。

 

 

 

side 黒死牟

 

 

 

「惨めとでもいうべきか?黒死牟。」

 

「…無惨様…」

 

私が香という名の娘から受けた傷を癒しているとき、無惨様が話しかけてきた。

 

「あの娘は…危険です…」

 

「…分かっている。それは加減をしていたとはいえ上限の壱であるお前が敗れかけたことからも明らかだ。」

 

「…」

 

「私がお前に指示したのはあの娘の力を測ってくることだ。殺せとは言っていない。」

 

「罰は…」

 

「言い渡さん。私の名を出すという失態はしたもののお前という戦力を失いたくはない。」

 

「ありがたい…」

 

無惨様は私から離れていった。

 

「その傷は早く癒しておけ。必要な時に使えぬと困る。」

 

「はっ…」

 

私は無惨様に返事をしてから治療に戻った。

 

「…あの娘…実力を…隠して…いる…いや、()()()()()()()()ように…感じた…何故…だ?」

 

私はあの娘に感じた違和感を口に出していた。

 




はい、上弦の壱をぶつけてみました。本当は上弦の参をぶつけようかと思ったんですけど…香って女性なわけで。調べた上弦の参の過去とかから考えてダメかな、って思って、上限の壱をぶつけてみました。上限の弐はしのぶさん関連で必要になるから却下。
それから、香が最後の方で歌った歌ですが、作中の設定ではあの一瞬で香が思いついた詩ですね。ちなみに、一応私自作の歌詞になるので多分今現在の世界に存在しない歌詞だと思うのですが…こういう自作歌詞の扱いってどうなるのでしょう?よくわからないので後で運営さんに質問メッセージでも送っておきましょうか…もし運営さんから指摘されましたら歌詞の部分は削除することにします。…私が消されないといいけど。消されたらごめんなさい。


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第拾伍話 謎の刀匠

…にゃー
はい、十五話です。
もうしばらくオリジナル展開は続きます。理由としてはまだ原作を買い集めれていないからですね…
それと、今回は香達は出てきません。出たとしても名前だけです。そして、今回出る刀匠は私のオリジナルキャラというわけではなく、とある方(私の知り合い)のオリジナルキャラとなっています。キャラクター作成者御本人から使用許可は出ていますので、ご安心を(?)
それでは参りましょう。あ、ネタバレ注意のタグ一覧の方に“オリジナル刀匠”タグ追加しておきますね~…


ここは鬼殺隊本部。そこに一人の男と黒子で顔を隠した人間がいた。

 

「謎の刀匠?」

 

「は。なんでも、腕は確かなのですが記憶を喪い、どこから来たのか、どこで技術を学んだのかも謎だと。そして、その者に日輪刀を鍛えさせたところ、最初の刀は何故か誰も扱うことができないとのこと。」

 

「ふむ…その日輪刀は今?」

 

「こちらに。」

 

黒子が紫の風呂敷に包まれた刀を差しだした。男性は風呂敷を外して出てきた刀の鞘を持った。

 

「ふむ…見た限りでは普通の刀のように見えるけども…」

 

男性が柄に触れた途端にそれは起こった。

 

バリバリッ!

 

「っ!?」

 

柄から稲妻のようなものが走り、男性の手から飛び出た。

 

「…この日輪刀の刀匠は、今?」

 

「刀鍛冶の里にいるそうです。」

 

「そうかい…」

 

黒子が飛び出た刀を拾い、男性の前に置いた。

 

 

───時間は香達が歪みを使う鬼によって世界を越えてくる少し前まで遡る

 

 

刀鍛冶の里。

 

鬼殺隊の武器である日輪刀を鍛える刀匠たちが隠れ住む里である。

 

「…ぬ?」

 

その里長が入口の方を見ると、誰かが倒れているのに気がついた。

 

「…これ、お主!なんでそないところで寝とるんや?」

 

近づいてその小柄な人物を小突くが反応はない。

 

「死んでは…おらんようやな。気を失っているだけやろ。」

 

里長がその小柄な人物を軽く転がすと、女性に近い顔立ちが現れた。

 

「これ…女子か?…まぁいい、蛍!」

 

里長が里に内部へ名前を呼ぶと、一人の男が出てきた。

 

「なんだ?」

 

「こやつをワシの家に運んでおいてくれんか?」

 

「…娘?」

 

「分からん、とりあえず運んどき。」

 

蛍と言われた男はその少女(?)を担ぎ、里長の家へと運んだ。

 

 

───2時間後

 

 

里長───“鉄地河原 鉄珍”が外を見ていると小さい物音がした。

 

「…う…」

 

次いで、声。鉄珍が音のした方を見ると、先程の少女(?)が体を起こしていた。

 

「おう、起きたか。」

 

「…ここは…?」

 

「ここか?…まぁ、隠された場所、とでも言った方がええか。」

 

「隠された…場所?」

 

「せや。お主、名前は何というんや?」

 

鉄珍が名を問うと、少女(?)は少し悩むような表情をした。

 

「えと…“玉藻(たまも) 鬼神(きしん)”、です…」

 

「そか。玉藻…そう呼んでええか?」

 

「は、はぁ…」

 

「じゃ、玉藻。おまえさん、どこから来たんや?」

 

「どこ…から?」

 

「おまえさん、この場所の外に倒れておったんや。その前にどこにいたかとか、お前さんがどこの誰なのかとか、分からんか?」

 

玉藻は少し悩むような表情をしたが、すぐに困惑の表情に変わった。

 

「あ、あれ…?」

 

「どうした?」

 

「えっと…僕は玉藻鬼神で…それから……それから…………」

 

無言がしばらく続いて、やっと小さく言葉を漏らした。

 

「…分かりません…」

 

「分からん?」

 

「……思い、出せません……僕がどこからきて…何をしていたのか…」

 

「…そか。」

 

「自分の名前と……何か武器を作ってたような感覚はあるのですが……」

 

「武器…」

 

鉄珍がそれを聞いて何かを考えているようだった。

 

「…記憶が戻るまで、ここにおるか?」

 

「…え?」

 

「記憶の無いまま追い出すのもあれや。せやから記憶が戻るまでここおるか?」

 

「いい…んですか?」

 

「ええよええよ。」

 

鉄珍がそう言い、軽く笑った。

 

「それに、気になることもあるとね。」

 

「?」

 

「今日のところはしっかり休み。調子がいい時に教えてくれ。」

 

「は、はい…?」

 

鉄珍がいなくなった後、玉藻はその場で動かずに一言呟いた。

 

「…僕…これからどうなるんだろう…」

 

 

───2日後。丁度香達が世界を越えてきたころである。

 

 

玉藻がいる部屋に鉄珍が顔をだした。

 

「玉藻、調子はどうや?」

 

「あ…いいかんじです…」

 

「そか。じゃ、ちょっと来てくんな。」

 

「?はい…」

 

玉藻は鉄珍に、金床のある場所へと連れてこられた。

 

「玉藻は武器を作ってたんやったな?」

 

「え…はい…まぁ…」

 

「やったら、日本刀を鍛えたことはあるか?」

 

「え…あ…はい…」

 

「なら問題ないやろか…」

 

鉄珍は二つの箱を取り出し、金床の近くに置いた。

 

「ほれ、玉藻、こっちに来い。」

 

「えっと…?」

 

「ここに、猩々緋砂鉄(しょうじょうひさてつ)猩々緋鉱石(しょうじょうひこうせき)っちゅう素材がある。配合とかは教えるさかい、やってみぃ。」

 

「は、はぁ…」

 

玉藻は困惑した状態だったが、鉄珍の話を聞き、話を聞いた後に実際に刀の鍛造を始めた。

 

(…ほぉ、武器の作りをしていたような気がするとは言っておったが、確かに教えてもいない日本刀鍛造の基礎を抑えちょる。これは…ただもんやないな。っちゅうことはただの町娘かなんかやないわけ…や……)

 

鉄珍が玉藻が鍛えている刀を見続けていると、水に浸けるときに聞こえる沸騰音が聞こえた。

 

「あの……刀自体はできましたけど…」

 

「お、おぉ…」

 

(な、なんやこの刀…?刀身がまるで鏡の様や…それほどに反射率が高い…)

 

鉄珍が玉藻から刀を受け取ると、その刀身をじっくりと見た。

 

「なんや…これ…歪みがひとっつもない…」

 

「…」

 

しかし、見ているときに鉄珍が(なかご)を触ったとき、それは起こった。

 

バチバチッ!

 

唐突に刀が音とともに発光し、鉄珍の手を飛び出したのだ。

 

「な…なんやっ!?」

 

鉄珍が驚き、玉藻自身も驚きを隠せない顔をしていた。

 

「今のは…なんや…?」

 

玉藻が飛び出した刀の茎に触れるが、鉄珍のような発光は起きなかった。

 

「…鉄珍さん、ちょっと触れてみてください」

 

玉藻が茎から手を離し、入れ替わるように鉄珍が触れる。

 

バチッ!

 

「っ…!?」

 

刀の茎から紫色の稲妻のようなものが鉄珍に走り、鉄珍が手を離した。

 

「痛い…なんや、この刀…」

 

入れ替わるように玉藻が触れるが、同じような現象は起きなかった。

 

「なんなんや…?」

 

「…さぁ……」

 

「…ともかく、それもれっきとした日輪刀なはずや、刃元に“悪鬼滅殺”刻んどき。」

 

「は、はい…」

 

玉藻は言われたとおりに刃元へ悪鬼滅殺の文字を刻み、刀に紫色の柄とを嵌め、刃を黒色の鞘に納めた。

 

「…玉藻、さっきのやつじゃないように作れるか?」

 

「が、頑張ります…」

 

その後、玉藻はもう一度刀を鍛えたが、最初の刀とはどこか違う刀しか出来上がらなかった。

 




はい、今回出た謎の日輪刀を鍛えた刀匠は香達の専属刀匠になる予定の人です。思いっきりネタバレしたかもしれませんが、今のこの展開の中で出てくるのは完全に怪しい、というか絶対この人が刀匠でしょ、と思われる可能性が高いと思いましたのでこちらから明かしました。
あと、里長…鉄珍さんの話し方ってあんな感じで大丈夫でしょうか…関西の人間じゃないもので大阪弁よくわからないのです
さて、次回はまた香達のもとへ戻ります。確か上弦の壱と戦った後でしたね…明日が終わるまでに構築できるかな?
ではでは、感想その他お待ちしております。

P.S 運営さんに質問したところ、前話のオリジナル歌詞の掲載に関しては別に大丈夫だそうです。…そもそもわざわざ歌を作って物語の文章中に組み込む人がまずいないのかもですけど…(苦笑)


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第拾陸話 鈴の想い、仁の思い

第十六話。実際投稿数がいつのまにか20を越えてたことに内心驚いている私です。
最近登校時間が遅くなってしまい申し訳ないです…


 

錦糸綺糸屋、昼。香の部屋内。

 

そこには白猫と黒猫に見守られながら眠る香の姿があった。

 

 

 

───朝。

 

 

 

仁は今日の店の準備をするために一ノ蔵に向かっていた。

 

(…あれから香は帰ってないようだが…いったいどこに行ったんだ?)

 

仁が考えていたのは錦糸屋の当主である香のこと。昨日の暗い時間帯に一人にした後、彼女が錦糸綺糸屋に帰ってきた足跡は見当たらなかったからだ。

 

(…一体どこでなにをしてるんだ、全く…鈴が心配してるぞ…)

 

彼女の恋人である鈴が心配していることを考えつつ、一ノ蔵の鍵を開けた。

 

「楽、灯り。」

 

「おう」

 

後ろからついてきていた楽に灯りを求めると、一ノ蔵内部が照らされた。

 

「…ん?なんだ、これ…」

 

仁が蔵の中に落ちている赤い布にかかった何かに気がついた。

 

「…なんだ……っ!?」

 

「なぁっ!?」

 

仁が布をはがすと、仁と楽が驚きの表情を浮かべた。

 

「こ、香!?なんでこんなところにいるんだ!?」

 

そこにいたのは香。帰ってきた痕跡の無かったはずの、香だった。

 

「気…失ってんのか?」

 

「…死んではないみたいだ。なら気を失ってるんだろう。」

 

「そうか…ともかく、鈴と涼に伝えてきたほうがいいよな。」

 

「あぁ…頼む…あと香の父親も頼む。」

 

「分かった」

 

楽が一ノ蔵から出て、屋敷内に駆けていった。残された仁が、ふと香の着物を見ると、何か鋭利なもので複数回斬られたような跡があった。

 

「これは……一体…?」

 

その後しばらくすると、鈴と灯純が屋敷から出てきて、灯純が香を担いで屋敷内に連れて行った。斬想鬼については鈴が屋敷内へと持って行った。

 

 

 

───そして今に至る。

 

 

 

香が寝ている部屋の中に、一つの人影が入ってきた。鈴だ。

 

「若女将……まだ起きないんですね…」

 

既に仁達に見つかってから3時間は経過している。ほぼ一時間おきに来ているというのに未だ香が起きる気配はない。

 

「…早く…起きてください…───…」

 

香の額に手拭いを乗せ、呪文を唱えてから退室した。

 

その場にいるのは白猫と黒猫。そして、眠った香とりんねのみである。

 

そうして暫く経ったころ。

 

「…ぅ」

 

香から小さな声が聞こえた。それに白猫が反応し、香の体の上に乗る。

 

「うぅ…」

 

香が体を起こす。それと同時に香の額から手拭いが落ちる。

 

「…?これは…」

 

「お目覚めですか?」

 

白猫の方から声が聞こえる。

 

「その声は…ツルさん?」

 

「えぇ。意識ははっきりしておりますか?」

 

「は、はい…」

 

「では、鈴を呼んできますね。すごく心配されてましたから。」

 

白猫が口を開けると、そこから霊体の鬼が飛び出し、屋敷を飛んで行った。

 

「…幽鬼、か…」

 

「にゃ~」

 

「みりかと…あと…?」

 

「この子は佐吉からクロという名をもらっていますよ。」

 

黒猫が話し、口から霊体の鬼───幽鬼が現れた。

 

「あなたは?」

 

「“ユキ”、と言います。」

 

「ユキさんですか…」

 

そんな話をしていると、部屋の外から走る音が聞こえた。

 

「若女将っ…!」

 

「あ…鈴…」

 

「…っ…よかった…!」

 

鈴が若女将に抱き着いた。

 

「っ!?び、びっくりしたぁ…」

 

「よかった…!」

 

「…私はお暇させていただきますね。」

 

ユキと名乗った幽鬼は黒猫の中へと戻り、白猫とともに部屋を退室した。

 

「…ごめんね…心配かけて…」

 

「心配…しました…私を置いて…どこかに行ってしまうのかと…」

 

「…ごめん」

 

香が鈴の背をさすり、落ち着かせていた。

 

「…あっ」

 

鈴が気がついたような声を発し、香から離れた。

 

「はわわ…///」

 

恥ずかしいことをしていたのに気がついたのであろう、顔を赤くしていた。

 

「そ、そういえば若女将…」

 

「な、何?」

 

「昨夜はどこに行ってたんですか?」

 

「昨夜…あぁ…」

 

香は少し考えるような顔をした。

 

「ちょっと、強い敵と戦ったんだよね。相手に加減されてたからなんとかなったけど、されてなかったら、って考えるとね…」

 

香の言葉に鈴が顔を青くした。

 

「ここに若女将はいなかった…?」

 

「…不安に思わせること言いたくはないけど、そうなる。」

 

「そんな…」

 

その場に沈黙が下りた。

 

「…そうだ、りんね。」

 

…なによ

 

「今日、私の体動けると思う?」

 

…無理ね。あいつに与えられた傷が多すぎるわ。私の力も少し足りないから今日一日は安静にしてなさい。

 

「…分かった。」

 

りんねは言い切ると、香の影に溶け込んだ。

 

「…お腹…減ったかも…」

 

「…朝ご飯、食べます?」

 

「あ、うん…」

 

「待っててください、今持ってきます…」

 

鈴が退室し、台所の方へと駆けていった。

 

「…よ。どうだ、気分は?」

 

「お父様…」

 

入れ替わるように灯純が現れる。

 

「…お前、鬼と戦ったんだって?」

 

「あ…うん…」

 

「どんな奴だった?」

 

「…人間に近かったけど六つ目で…あと…刀を使ってた。」

 

「ほぉ…」

 

灯純は少し悩むような表情をした。

 

「そう言えばお父様。」

 

「ん?」

 

「“月の呼吸”、って知ってる?」

 

「月の呼吸?」

 

「敵が使ってた技っぽいやつの名前なんだけど…」

 

「…いや、知らねぇな。もっと情報集めた方がいいか。」

 

「お願いしてもいい?」

 

「分かってる。それはそれとして香、あの術の構築は終わってるのか?」

 

「あ~…」

 

灯純の言葉に香が言葉を濁した。

 

「構築は終わってない…なんとなく理論とかはできてるんだけど。」

 

「そうか…いつごろできる?」

 

「多分あと1ヵ月はかからないはず。」

 

「…そうか。俺たちはお前の術式構築を手伝うことはできないからな…」

 

「あはは…魔法なんて、お父様たちは知らないもんね…」

 

魔法。香が使う謎の術。灯純たちはこれに対する理解ができていない。

 

「魔法の理論は何となく理解できるんだがな…術式の施行、術式の改変なんざ俺達にゃできん。っつうかよくやろうと思うよな…」

 

「あはは…」

 

香の笑い声が乾いていた。

 

「まぁ私は慣れてるし。どこを変えていいのか、どこを変えちゃダメなのか理解できてるから。」

 

「俺にゃ全く分からん…」

 

「まぁこれに関しては慣れだから。」

 

「すげぇのかおかしいのか…」

 

灯純が頭を抱えた。その時、ちょうど鈴が顔を出した。

 

「持ってきました…」

 

「あ、ありがと…」

 

「…じゃ、俺は失礼しますよっと…」

 

そう言って灯純は姿を消した。

 

「若女将、一人で食べれます?」

 

「あ、うん…」

 

「じゃあ…どうぞ…」

 

鈴が差し出したお椀を持ち、一口食べる。

 

「…味がない、ってことはまだ治ってないのね…」

 

「そうね…」

 

「…ん、おいしい。いつもありがと、鈴。」

 

「い、いえ…」

 

香が食べていると、部屋の戸を叩く音が聞こえた。

 

「はーい」

 

「香…すまん、俺だ。ちょっといいか?」

 

「仁…?どうぞ~」

 

香が答え、仁が部屋の中に入ってきた。

 

「あ…食事中だったか…」

 

「大丈夫。で、何か用?」

 

「あ…っと…」

 

仁は鈴に目線を向けた。

 

「…私、席外しておきますね?…聞かれたくないみたいなので。」

 

「あ、うん…」

 

「すまん、助かる…」

 

「いえいえ…」

 

そう言って鈴が部屋の外へと出た。

 

「…それで、用事は?」

 

「…香。頼みがある。」

 

「…何?」

 

「俺を…鍛えてくれないか。」

 

その言葉を聞いて香の目線が鋭くなった。

 

「…理由を聞いても?」

 

「…強く、なりたいんだ。もう、誰も…失わないために。」

 

「…」

 

「お前が見せたあの武器の使い方。あんな使い方ができるなんて俺は知らなかった。」

 

「…」

 

「俺は、しばらく戦っているというのに知らないことが多すぎる。似た武器を使う者として香に鍛えてもらいたい。」

 

「…そうですか。」

 

香は仁から視線を外し、近くにあった斬想鬼に触れた。

 

「…辛くなるかもしれませんよ?」

 

「かまわない。もとよりそれは承知の上だ。」

 

「…分かりました。」

 

香はそう言ってから軽くため息をついた。

 

「では、明日の夕方、お店を閉めてから。その後2時間ほど、私から教えましょう。」

 

「…助かる。」

 

「…ですが、私が教えたとしても。その技を本当に身に着けられるかはあなた次第ですよ。」

 

「…分かった。」

 

それを聞いた後、香が何かに気がついたような顔をした。

 

「…あ。敬語戻ってた。」

 

「確かにな…それが素なのか?」

 

「分かんない。」

 

その後、香の部屋には何度か人が来て、違う人が来るたびに前にいた人が退室するという形になっていた。

 




はい、仁強化フラグ的なのが立ちました。多分今炭治郎さん達は藤の家にいるんじゃないですかね?骨折治癒とかで。
次回は教導回かな…
ではでは。


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第拾漆話 仁の鍛錬

あぁぁぁぁぁぁぁ!!昨日忘れてたぁぁぁぁ!!
はい、ということで第十七話です…言い訳になりますけど、昨日は結構早い時間に寝てしまったようで、目覚めたら本日の00:12とかでした…そこから書き始めたのでこんな時間に…
あ、それと暫く仁の鍛錬系続くかもです。


翌日。

 

日が落ち始めたころ、錦糸綺糸屋内の庭に仁と香の姿があった。

 

「…さて、約束どおり始めよっか。」

 

「あぁ…よろしく頼む…っていうか体は大丈夫なのか?」

 

「問題ないよ。あれくらいなら丸一日休めば治る…」

 

(…まぁ、無理矢理燼滅刃顕現させたのが祟ったみたいなところあるし…)

 

実際は香の自業自得だったりする。

 

「とりあえず、仁が何をできるのか教えて?」

 

「ん…あぁ…」

 

仁は斬糸を構え、そのまま開いた。

 

「まずは基本のこれか…」

 

「それは私が“二糸式(にししき)”って呼んでる形式だね。特徴は範囲が狭い、微妙に扱いにくい。」

 

「扱いにくいか?」

 

「網式に比べたらだいぶ扱いやすいとは思うけどね…二本の糸っていう性質がね?」

 

「あぁ…なんとなく分かる」

 

「まぁ、それに関してはあとで教える…っていうかもうわかってるだろうからいいとして…次」

 

仁はその言葉に頷き、一度斬糸を接続させる。

 

「“網式(あみしき)”」

 

ぱきん

 

先程とは違い、銀色の網が出てきた。

 

「“網式”。範囲は広いが二糸式よりも扱いにくい。」

 

「だよな…」

 

「それも対応策はあるからいいか…次、ある?」

 

「あ…っと…」

 

そこで仁が言葉を濁した。

 

「どうしたの?」

 

「…実は、基本的に使えるのは二糸式と網式だけなんだ…」

 

「え?」

 

「白陽と戦ってた時に出た二つがあるんだが、あれ以降一度も使えてないんだ…」

 

「…なるほどね。つまり仁は、今まで二糸式と網式だけで戦ってきたってこと?」

 

「…そうなる。」

 

それを聞いて香が頭を押さえた。

 

「ん…多分属性変化形式はだまりさんやりんねが外れないと無理だろうから…まずは武器を変化させる方向かな…ちなみに、その白陽さんと戦ってた時に出たのって?」

 

「え?あぁ…なんか…強引に斬るって念じたら糸が牙みたいになったんだ。」

 

「あ~…“二糸牙式(にしがしき)”かぁ…なるほどね…もう一つは?」

 

「うっと…花が傷つけられてもう仲間を失いたくないって思いながら斬糸を突き出したらなんか貫いたんだよな…」

 

「あ~……」

 

香が納得したような表情をした。

 

「それは…うん…私でも無理だわ…」

 

「え?」

 

「できなくはないんですけどね?微妙に難しいんですよ、あれ。私“穿式(せんしき)”って呼んでるんですけど…」

 

「穿式…」

 

「うん…万全の状態だったらわかんないし、それこそ融合状態第二段階以上でもわかんないし…」

 

「融合状態第二段階?」

 

仁が首をかしげた。

 

「私がそう呼んでいるだけですけどね…りんねとほぼ完全に一体となった状態です」

 

「あ~…なるほど、だまりを俺の体の中に入れる状態か。」

 

「ですです」

 

つまり最終決戦前に使えるようになったあの姿である。

 

「さらに上に第三段階、第四段階が存在してるはずですが…まぁ、それはあとでいいでしょう。少し前に試したところ第一段階と第零段階しか使えませんからね」

 

「第零段階?」

 

「分離のこと。多分まだ仁は使えないよ。体質的な問題で。」

 

「そうか…ていうかなんで香は使えるんだ?」

 

「最初の方に言ったでしょ?私は生命力が異常に高いの。それでりんねが憑いていなくても1時間は生きてられたって。」

 

「…そんなこと言ってたな。にしても第二段階も使えないのか」

 

「うん…使えるとすごく助かるんだけど」

 

「まぁ確かに。」

 

仁と香が二人そろってため息をついた。

 

「…あ、そろそろ教えられそうなこと教えよっか。」

 

「…あ、そうだった。」

 

「…っていうか、私教えるの苦手なんだけど大丈夫?」

 

「問題ない。どうにか食らいついて覚えてやる。」

 

「そっか。」

 

そう言って香は斬想鬼を構えた。

 

「まずはこれかな?」

 

ぱきん

 

斬想鬼を開き、軽く振ると、一本の糸が伸びた。

 

「“一糸式”。特徴は二糸式より扱いやすくなったが手数が少ない。」

 

「扱いやすいのか?」

 

「意識を張る糸の数が二本から一本に減っただけでもだいぶ違うよ?しかも意識を張っておくのはたった一本だけだから精密な操作がしやすい。」

 

「なるほどな…しかし手数が少ないのは…」

 

「別にこれまで二本の糸を使って鬼二体とか斬ってたわけじゃないし、手数が少なくて気になるなら糸を増やせばいい。…まぁ、網式と二糸式の違いからも分かる通り、糸が増えれば増えるほど高度な操作要求されるからね?」

 

「…嘘だろ…」

 

「ほんと。手数と扱いやすさは反比例する。覚えておいて。」

 

「あぁ…」

 

「さ、とりあえずやってみて?まずはそこから。」

 

「一糸式…か…」

 

「イメージは縫い糸の一本使い。分かるんじゃない?」

 

「一本使い…」

 

仁がそう呟きながら斬糸を開くと、一本の糸が伸びていた。

 

「あ、できた…」

 

「…できるもんだな、これ。」

 

「うん…あ、そういえば。」

 

「ん?」

 

「仁はさ、なんで形態を変えるとき、一回一回武器を閉じるのか知ってる?」

 

香の言葉に、仁は考え込むような表情をした。

 

「そういえば、そうだな。今まで普通にやってたが、確かに謎だ。」

 

「それね。納刀…って私普通に言ってるんだけど、武器を納めた状態の方が意志が通じやすいからなんだよ?」

 

「…?」

 

「えっと…斬糸と斬想鬼ってさ、同じ性質の武器なんだよね。生き物のような性質を持ち、使い手が斬りたいと思ったものだけを斬れる。確かに武器の刃を出している状態でも意志は通じるんだけど…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の。」

 

「…すまん、よくわからん」

 

「まぁふつうはそうだと思うよ?ん~…どう教えたらいいかなぁ…」

 

香が頭を押さえ、悩み始めた。

 

「抜刀状態の時ってさ。すごく強い意志を持たないと形を変えられないんだよね。でも、納刀状態の時だと結構小さな意志で変えられる。それこそ、形の名前を呼ぶだけでもね。それは網式とかからもわかるはず。」

 

「…あ~…」

 

「とはいえ、抜刀状態の時でも絶対に形を変えられないってわけじゃない。変えることはできるけど、そうするのにはすごく強い意志が必要になるの。だから、私たちはいつの間にか形を変えるときには納刀するっていう癖がついてるんだよ。」

 

「なるほどな…」

 

「もうひとつ言うと、形を変えるのって結構使い手と武器に負荷がかかるのね?その負荷を抑える役割をしてくれているのが、納刀状態なの。」

 

「そうなのか…」

 

「実際、昨日私が倒れてたのってそれが原因だし」

 

「おいおい…」

 

仁が頭を押さえた。

 

「…さてと、今度は違うやつを教えよっか。」

 

「違うやつ?」

 

仁が首をかしげると、香が頷いた。

 

「うん。一糸式とは違うやつ。私がよく使う形態かな。」

 

香はそう言うと、斬想鬼を閉じた。

 

「先に言っておくけど、この形態は結構扱うのが難しい。…というか、この形態に変えるのが結構難しいよ?」

 

「そうなのか…」

 

「うん。納刀状態でも結構負荷かかるから。」

 

「そんなにか!?」

 

「抜刀状態での形態変化はお勧めしないかな。私はもうこの形態に慣れちゃったけど、それでも抜刀状態での変化はきつい。」

 

「…」

 

「“剣式(けんしき)両手刀(りょうてとう)不変(ふへん)贋作(がんさく)”」

 

香がそう呟き、斬想鬼を開くと黒い刀の柄が現れた。

 

「それは?」

 

「“剣式”。私はいくつかの派生形式があるけど…仁はとりあえず形態変化と形状指定ができればいいかな」

 

「形状指定…?」

 

香が柄を引き抜くと、銀色の刃が現れた。

 

「“武器”っていうのはいくつか種類があってね。その中でも“剣”みたいな刃を使うようなのはすごく種類があるんだよ。“刀”、“細剣”、“長剣”、“短剣”…まあ今私が言ったのは剣系統武器の一例だけど、剣式はその剣系統武器を扱う形式なの。だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()。この形態が難しいのはそれだけじゃないんだけどさ…」

 

「え?」

 

「この形態、すごく強いイメージが必要なんだよね。この武器を使うっていう強いイメージ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の。」

 

「えっと…?」

 

「剣式の特徴は扱いやすいが負荷が大きい。まぁ、結構具現化までが難しいんだけど、身に着けると強い力になると思うよ?」

 

「そうなのか…」

 

「うん…とりあえず、私が今持ってるこの刀を想像して斬糸を開いてみて?」

 

「あ、あぁ…」

 

仁は香の持つ刀を見たのち、目を瞑った。

 

「スー…」

 

仁が目を開き、斬糸を開いたが、ただただ二本の糸が出てきただけだった。

 

「失敗だね。」

 

「…そうだな」

 

「もっと強固に、もっと強く想像しないとだめだね。それと、私はもう慣れちゃったけど、実戦においては目を瞑ってるとそれが命取りになる可能性の方が多いからね?」

 

「分かってる…」

 

「まぁ、今は仕方ないか。」

 

その後、しばらく仁が試していたが、柄が現れることはなかった。

 

「…なんで出ないんだ?」

 

「ん~…仁は何を想像してる?」

 

唐突に香が質問した。

 

「え…何って、香が持ってる刀…」

 

「もしかして、刃だけを想像してない?」

 

「してるが…」

 

「あぁ、問題はそれか…」

 

香が納得したようにうなずいた。

 

「どういうことだ?」

 

「刃だけじゃだめ。柄も想像しないとだめなの。どういう柄があって、どういう鍔があって…そしてどんな刃があるのか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()よ。」

 

「…そうなのか…」

 

「難しいって言ったでしょ?」

 

「あぁ…」

 

「それと、鬼みたいなこと言うかもだけど、戦闘中に時間をかけてイメージを練ってる暇なんてない。瞬時にそのイメージを引き出せるようにしないといけないからね。」

 

仁がそれを聞いて顔を青くした。

 

「そんなことをいつもやってるのか…?」

 

「ん…まぁね。いくつかのイメージを保持しておいてそこから瞬時に引き出す、これが私の基本だから。」

 

「そうなのか…」

 

「…まぁ、今回はこのへんかな?また明日、続きは教えよっか。」

 

いつの間にか日は落ち、完全に夜になっていた。

 

「すまんな、香。」

 

「ううん、私教えるの下手だし。」

 

「そうか?」

 

「うん。さ、鬼狩り行こ?」

 

「そうだな。」

 

その後、仁は剣式を使って戦った香を見て何かを思いついたそうな。

 




飲み込みは早い方なんじゃないかな?仁って。刀とかとは扱い方が違う武器を1ヵ月で使いこなしてるわけだし。戦闘経験0の状態から。
というかこの話書いてるとき、気まぐれみたいなので動画取ってたんですけど見たい人っています?(疑問)


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第拾捌話 楽との模擬戦と仁の鍛錬・二日目

第十八話です…
模擬戦は軽め、っていうか鍛錬も軽め。


 

時間は流れ、夕方になった。

 

「さて、今日も始めよっか。」

 

「あぁ…頼む。っと、その前にいいか?」

 

「?」

 

始める前に仁が何かをしたいようだった。

 

「楽、ちょっといいか?」

 

「ん?」

 

「香と戦ってみてくれないか?」

 

「え?」

 

「は?」

 

香と楽は似たような反応をした。

 

「昨夜、香の鬼狩りを見てて思ったんだ。武器の扱いに慣れてる、って。だったら、楽と戦ったらどうなるんだろうって思って。」

 

「ん?仁と同じじゃないのか?」

 

「辿った歴史は同じだろう。だが、俺よりもはるかに武器の扱いに慣れてる気がするんだ。」

 

「へぇ…」

 

楽が興味を示したような顔になった。

 

「…私は別にいいですけど、楽さんは戦闘経験は?」

 

「あるぞ?てか、仁にそれ以外の武器の扱い方教えたことあるしな。」

 

楽はそう言って香の持つ斬想鬼を指さした。

 

「なるほど…武器はどうするのです?」

 

「少し前に三ノ蔵見てたら前に使ってたやつと似たやつあったからそれ使ってるが…」

 

「見せてもらっても?」

 

「おお。」

 

楽は屋敷内へと走っていき、自分の使っている武器を持ってきた。

 

「これだこれだ。」

 

「双剣…ですか。」

 

「おう。…一刀の方がいいか?」

 

「いえ、二刀で構いません。」

 

「分かった。」

 

楽がそう言った後、香は斬想鬼を構えた。

 

「“剣式(けんしき)短剣(たんけん)不変(ふへん)木刀(ぼくとう)二刀(にとう)”」

 

ぱきん

 

香が斬想鬼を開くとその断面には茶色の柄が現れていた。香がそれを引き抜くと、どう見ても木製の刃が現れた。

 

「それは?」

 

「木刀…練習用の剣、かな。対人は基本的にこの剣使うんだけど。」

 

「ていうか、お前も双剣使えるのか?」

 

「えぇ、まぁ。」

 

「ふ~ん…じゃあその実力、見せてもらうとすっか!」

 

楽が瞬時に飛び出し、香に切りかかる。

 

「危ないですね…」

 

「って言いながら全部避けてんじゃねぇかよ!」

 

「微妙に攻めに転じきれてないだけなんですけどね…」

 

避けながら会話しているあたり、余裕はあるのだろうか。

 

「くっそ…!」

 

「焦ると命取りになるかもしれませんよ?」

 

そう言いつつ、香は二つの剣を使って交差する構えを取った。

 

(防御の構え?あの構えなら恐らく別の場所からの攻撃には対処できないはず…)

 

「おらぁっ!」

 

力を込めて交差されてる方に一刀を叩き込んだ。

 

(防がれるのはわかってた…本命はこっちだ!)

 

(…なるほど、交差している場所以外に意識は向いてないと踏んでの偽の一刀か…確かに戦い慣れてそうだけど…)

 

香の近くに楽のもう一刀が迫ってきていた。

 

「相手が悪かった、かな。」

 

香はその場で跳躍し、刀の刃を踏みつけ、楽の頭上まで跳躍した。

 

「は?」

 

「…“天翔空破断(てんしょうくうはだん)”」

 

小さい呟きとともに楽の少し横に強い衝撃とともに香が落ちてきた。

 

もう一度言う、

 

香が落ちてきた

 

「は?」

 

「…まだやりますか?」

 

「いや、いい…」

 

楽がそう呟き、屋敷内に戻っていった。

 

「ちょっと疲れた…」

 

「大丈夫か?」

 

「大丈夫…さ、鍛錬行きましょうか。」

 

「あ、あぁ…」

 

仁は軽く困惑しながら香と向き合った。

 

「えっと…」

 

「ふー…」

 

ぱきん

 

仁が集中し、斬糸を開いた。

 

すると、そこから出てきたのは二本の糸ではなく柄だった。

 

「あれ、できてるね」

 

「あ、あぁ…正直自分でも驚いてる。」

 

「…そういえば何をイメージしたの?」

 

「前に楽とつかったやつだな…って、まさか…」

 

仁が柄を引き抜くと、そこには仁が以前斬糸を壊した時に使っていた刀があった。

 

「これか…」

 

「あぁ、なるほどね…」

 

香も納得したような表情をして、軽く頷いた。

 

「確かにそれだったらイメージしやすいかもだけど…ちょっとそれ借りていい?」

 

「ん?あぁ…」

 

香が仁から刀を受け取ると、その刀の刃の部分を横から軽く叩いた。

 

「…あ~…やっぱりか」

 

叩いた場所から、刃毀れした。

 

()()。これじゃ戦闘だと役に立たないね。」

 

「そう…か…」

 

「まぁでも、掴みはいいと思うよ?ただ、これを作った時よりもイメージをもっと強固に。もっと強靭にしないと。」

 

「難しいな…」

 

「剣式…ううん、剣式以外にも武器を具現化する形式はあるけど、すべてにおいて具現化が難しいのは共通するから。」

 

「そうか…」

 

その後、その日は具現化後に耐久を確かめてから具現化解除、また具現化を繰り返していた。

 

ちなみに、香曰く武器の具現化にはかなりの精神力と集中力を使うらしく、ほぼほぼ初めて具現化した仁ではかなり体力を消耗するとのこと。




はぁ…(ため息)
あ、すみません、ため息ついて…なんか展開うまく出てこなくて…
次は…どうしよ、早めに物語動かしたいんですけども。
ちなみに私はモンスターハンターじゃ弓使ってます。というか弓以外基本使いません。


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第拾玖話 香の夢、仁の鍛錬・四日目

第十九話。時間が飛びます。書けそうなことがほとんどないです。


───夢を見た。

 

見覚えのないその場所で、私は一人の存在と向かい合っていた。

 

確か、数日前に慣れない燼滅刃を使って撃退したあの存在。

 

その存在と、贋作よりも強い輝きを持つ桜花刀を持った私が向き合っていた。

 

「錦糸屋三代目“── 香”………いえ、───────“── ──”。」

 

私が声を発する。しかし、かなりの雑音で何を言っているのかはわからなかった。

 

「────“黒死牟”……いや……────────……“── ──”……」

 

相手…黒死牟が言葉を発したが、こちらも正確には聞き取れない。

 

「「勝負」」

 

その一言の後、私と黒死牟は激突した。

 

始めは技も何もない連撃の繰り返し。黒死牟が攻撃し、それを私が弾き返して対応する。

 

私の記憶にあったかどうかが疑問になる程の、本気の戦闘。

 

「桜の技が一つ───」

 

最初に技を出したのは私。その形、力の込め方、その他諸々から何を放つのかが分かる。

 

「“桜花一閃(おうかいっせん)満開(まんかい)”」

 

“桜花一閃・満開”。いくつか存在する桜花一閃の中でも一番の力を持つ技。

 

「月の呼吸 “闇月・宵の宮”」

 

それを、黒死牟は月の呼吸を使って受け止めた。

 

そこからは高速、強力な攻撃の連続。しかしそれは、私が持つ刀が変わったときに一瞬止まった。

 

(あの刀…まさか…)

 

私はその刀に見覚えがあった。あれは、私が本気を出すときに使っていた刀。だが、あの刀は……

 

(私は…数年前にあの刀を失ったはず…)

 

そんなことを考えていると、戦いが動いていた。

 

状況は連撃の連続、しかし確かに私の方が押している。

 

そんな中、私の刀が黒死牟の首を落とした。

 

「“────”」

 

その言葉とともに私の刀が黒死牟の体を両断した。

 

黒死牟が言葉を全て言い終わると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(あ、あれって……!)

 

そこで、私は夢から覚めた。

 

 

 

side normal

 

 

 

夕方。

 

今日も今日とて香は仁の鍛錬に付き合っていた。

 

「…“剣式”」

 

仁がそう呟き、斬糸を開くと、前と同じ柄が現れる。

 

「香、どうだ?」

 

「…」

 

「?香?」

 

仁が香の顔を覗き込んだが、全く反応がなかった。

 

「…」

 

バチン!

 

仁が香の前で強く手を叩いた。

 

「ふぇあっ!?」

 

「あ、気がついたか。」

 

「あ、すみません…」

 

「いや、いい。それよりもできたぞ。」

 

「あ、ちょっと見させてもらいますね…」

 

香は仁から刀を受け取り、軽く振った。

 

「…うん、耐久力あがってますね。これならたぶん…」

 

香が刀を逆手に持ち、強めに振った。

 

「うん、強い振りにも耐える…なら、あとは…」

 

そう呟きながら香は何かを狙うような構えをした。

 

「“ヴォーパル・ストライク”」

 

香がそう呟いた瞬間に、刀が赤く光り、少しの溜めがあった後、轟音とともに強い突きが放たれた。

 

「…うん、ソードスキルにも耐えれる。これなら何とかなるかな?」

 

そう言って香は刀を仁に返した。

 

「さて、一応聞くけど、楽さんからそれの使い方どう習った?」

 

「えっと…定石一、敵を観察するべし、定石二、刀は振りかぶらない、重力に任せて振り落とした方が深く傷がつく…だったか。」

 

「あ~…なるほど。」

 

香は納得したように頷き、斬想鬼を開いて通常刀を出した。

 

「確かに、振りかぶるっていうのは隙をさらすことにもなるけど…振りかぶっちゃダメってわけじゃないし…」

 

そう言いつつ、香は刃先を左下におろすように構えた。

 

「こんな方法もあるし。」

 

その構えから、右上へと切り上げた。

 

「連携させると…」

 

そこから右下への切り落とし、左上への切り上げと、何度か連携を繋げた。

 

「まぁ、こんな感じに。他に教えておいた方がいいこととかあるけど、とりあえずあれかな?」

 

香はそう呟きながら刀を構えた。

 

「“落音一閃(らくおんいっせん)”」

 

香が刀を振るい、強めの風が発生した。

 

「…いまの、見えた?」

 

「いや…見えない…」

 

「だよね…」

 

そう呟いて香は少し頭を押さえた。

 

「どう説明したらいいかな…う~ん……そうだね…」

 

香は刀を少し見せた。

 

「速さ、かな?問題は。」

 

「速さ?」

 

「うん。斬り始めの時にかなりの速さで加速させて、音を置いていく技。それがさっきの落音一閃。でも多分今の仁だと無理だと思うから…こっちかな」

 

再度構え、初動が遅い二撃が放たれた。

 

「“反射閃々(はんしゃせんせん)純正一速(じゅんせいいっそく)”。これがいいと思う。」

 

「二撃か…どうすればいい?」

 

「ん~…一撃の後にそれを反発させるような二撃目を放つ技だからそこまで難しくはないと思うよ?」

 

とりあえずは反復練習、と香は言った。

 

 

その後。

 

 

香の手によって仁に木が投げられた。

 

「っ!」

 

仁は持っていた刀でを二回振るい、木を3つに切った。

 

「…安定してきてるね。まだ遅いけど。」

 

「そうか…」

 

「いや、初日でこれって早いからね?」

 

「そうなのか?」

 

「初日で四速まで行くって何よ…」

 

香が斬られた木の真ん中のものを手に取って言った。

 

「…ただ、まだ実践で使える練度じゃないからそれは覚えておいてね。」

 

「あぁ…」

 

「さ、鬼狩りの時間だよ。」

 

香の言うとおり、すでに日は落ちていた。




夢の中に出てきたのは何でしょうね。
それと、上限の壱、および鬼舞辻無惨は原作よりも性格軟化させる予定です。
仁も少しずつ強くなってます。


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第弐拾話 香の日記(手紙?)

第二十話でございます。
一応ここまでの総まとめを簡単に。それと本文中に私の時間考察書いてあるのですがあまり気にしないでください。
次回は7日目からです。


 

拝啓。

 

この記録。貴女達に届くことを願います。

 

 

七ノ月 十五日

 

 

錦糸屋事件が終息して、早いことに七ヵ月が過ぎました。私は今日も錦糸屋の三代目として、お昼にはお店を開き、夜には鬼を狩る日々です。

 

鈴との関係も良好です。特に何かが起こっているわけではありませんが、幸せな日常を過ごしています。

 

…ふと、思ってしまう事があります。もしも、私がいなかったら、この世界はどうなっていたのでしょう。

 

もう、一年前になりますか。私がお母様とお父様に迎え入れられたのは。そこから私は絶望から救われました。

 

あの場でお母様とお父様に迎え入れられなかったら。私は、絶望の中にいたままだったでしょう。

 

お父様はもういませんが、お母様に時間の許す限り恩を返したい。そう、思います。

 

 

一日目

 

 

大変なことが起こりました。

 

暁さんが情報を持ってきた“歪みを使う鬼”。それによって私たちは世界を越えてしまいました。

 

さらに、また私はお母様を失ってしまった。歪みを使う鬼に、連れ去られてしまったのです。

 

しかし、それと同時に新たな出会いと、嬉しい再会もありました。

 

その越えた先で新しく出会ったのはこれまた別の世界の住人。綺糸屋三代目の仁(本人から呼び捨てでと頼まれました)、影の鬼導師の子孫であった楽さん、鬼神族であった花さん、鬼導隊士の見習いである咲さん、鬼導隊元六番隊隊長の柊さん。聞いたところ、私たちがいた世界と同じ歴史を辿っていたらしいです。

 

並行可能性の世界。もしも、私が男性だったら。もしも、鈴の恋愛対象が男性だったら。もしも、涼が男性であったなら。そんな可能性。…綺糸屋、という名に記憶の中で何かが引っかかるのは何故でしょう。

 

…それは、いいとして。

 

嬉しかった再会。それは、またりんねとお父様と一緒にいられることです。

 

かつて、私と行動を共にした鬼喰いの鬼。そして、私のこととお母様のことを守ってくれたお父様。今度は、どんな話が待っているのでしょう。

 

 

二日目

 

 

錦糸綺糸屋。それが私たちが降り立った屋敷の名前でした。

 

今日から錦糸綺糸屋も正常営業でした。でも、気になるお客様が二人。

 

月衣 黒百合さんと胡蝶 しのぶさん。どちらも女性です。

 

片方の方は早い攻撃を放ち、私の首元を正確に狙ってきました。

 

もう片方の方は濃度の高い憎悪の心意と微かな血の匂いを感じました。

 

もしかしたら、私たちのこれからの運命に干渉するかもしれません。

 

 

一九一五年九月二八日 9/8(選抜試験)+16=9/24(日輪刀受取)+1=9/25(少女消失町到着)+2=9/27(浅草到着)+1=9/28(麹町寄り道)+2=9/30(鼓屋敷戦)+21=1915/10/18(骨折治癒)

 

 

早朝。謎の鬼と戦いました。

 

鬼門を介さずに出現する、人型の鬼。鬼神族とも、悪鬼とも、顔の無い鬼とも…また別の感じがします。

 

りんねとの融合状態を第零段階まで下げて、少しだけ本気を出して戦いましたが、予想以上に時間がかかり、その場から立ち去った後に出血しました。

 

りんねに怒られ、鈴にも怒られました…ということで今日は私はお店に出るなとのこと。

 

仁に軽く結界の説明をした後、鈴と一緒に外出しました。

 

鬼斬り様、というのが気になったけど…どうにでもなってほしい。

 

 

一九一五年九月二九日

 

 

お昼、胡蝶しのぶさんが来店しました。

 

内容は昨日の早朝のこと。勘で話してはいけない気がして、表情を変えないまま応対しました。

 

ただ、しのぶさんが帰るとき、なんとなく嫌な予感がしたので護符のついた短剣を渡しておきました。

 

…何もないといいのですが。

 

 

一九一五年九月三〇日

 

 

死にかけました。

 

唐突すぎると思いますが、結構死にかけでした。

 

黒死牟と名乗ったその存在。

 

無理矢理“全てを滅ぼし焼き尽くす刃”、“燼滅刃”を顕現させて撃退しました。

 

その代償として、今日一日は動けない状況に。

 

結構暇でした。

 

そういえば。

 

仁に鍛錬をお願いされたので明日からはそれを書くかもしれません。

 

 

一九一五年一〇月一日

 

 

仁の鍛錬一日目です。

 

とりあえずは仁のできることの確認。

 

二糸式と網式は使えるそう。

 

ただし剣式を含む武器式がない。

 

とりあえず一糸式は教えましたが、まずは武器式を扱えるようにさせないと危ない気がします。

 

 

一九一五年一〇月二日

 

 

鍛錬二日目。

 

楽さんと模擬戦しました。

 

相手は双剣、こちらも双剣で対応しました。

 

狩技使ったのはダメだったかな…

 

仁の方は剣式は形になりました。

 

ただし、脆すぎる。これでは実戦で使い物になりません。

 

暫くは心意強度を上げることが最優先ですかね。

 

 

一九一五年一〇月三日

 

 

鍛錬三日目。

 

仁の心意強度は上がっていっています。

 

ただし、まだ脆い。強めの振りには何とか対応できるようになってきましたがソードスキルには対応できません。

 

それでも、あともう少しのところまで来ている。仁には頑張ってほしいです。

 

 

一九一五年一〇月四日

 

 

鍛錬四日目。

 

夢を見ました。

 

黒死牟さんと私がどこかで戦っている夢です。

 

あの夢で使っていた刀。そして、最後に使った技。

 

あれらに、私は見覚えがありました。

 

…あの夢は、一体何だったのでしょう。

 

仁の方は、ソードスキルに刀が耐えられるまで強度が上がったので、技の鍛錬に切り替えました。

 

…初日で四速。早いよ。

 

 

一九一五年一〇月五日

 

 

鍛錬五日目。

 

仁の速度は上がり続けています。

 

心意強度も上がったので、今度は具現化させる武器を普通の両手刀へと変更。そろそろ並列思考を教えるべきでしょうか。

 

…柊さんが刀を持っていて助かりました。顕現媒体になったので。

 

 

一九一五年一〇月六日

 

 

鍛錬六日目。

 

仁の速さが七速に到達しました。まだ基本の反射閃々なので簡単な方ですけども。

 

そろそろ重音一閃教えられるかな?

 

仁の両手刀の具現化も安定してきています。模擬戦教導もそろそろ始めた方がいいのかな。

 

 

 

 

…最近、考えることがあるのです。

 

もし、この世界にいたのが私ではなく、お姉ちゃん達だったら。

 

もし、私やお姉ちゃん達でもなく、親戚の方たちだったら。

 

そしたら、何か歴史は変わっていたのかな。

 

…私……

 

…お姉ちゃんたちに、会いたいです。

 

お姉ちゃんたちと……

 

お話ししたいです。

 

…ごめんなさい。心配かけてしまって。

 

望むなら……

 

もう一度……

 

みんなで……

 

(文字が滲んでいて読めない)

 

敬具




時間考察に関してはまた今度。用事ができたもので。


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第弐拾壱話 仁の鍛錬・七日目、予兆

第二十一話。最近書くのが辛いです。
作品内時間は1915/10/07ですね。



 

「“反射閃々・純正十速”」

 

香が虚空に向かってかなり早い二撃を放った。

 

「今のが反射閃々の最高速。十速が使えるようになったらまた別の技教えるけど…」

 

香が下ろしていた木刀を斬想鬼の断面へと納めた。

 

「とりあえず、かかってきて?仁の今の状態が知りたいから。」

 

「だ、だが…俺は鉄で香は木だろ?」

 

「大丈夫。簡単にやられるつもりはないし。」

 

香がそう言うと、仁が持っていた刀を構えた。対して香は木刀の柄を握るのみ。

 

「…構えないのか?」

 

「抜刀の構え。一応これでも構えはできてるよ?…それはいいとして、全力でかかってきてね。」

 

仁は少し困惑した状態で香に切りかかった。香はそれを軽く避ける。

 

「…なるほど、本気でかかっていいんだったな?」

 

「いいってば。」

 

「分かった。」

 

そういった瞬間、仁の速度が上がる。

 

「…シッ!」

 

「三速か。“反射抜閃・純正三速”」

 

香は抜刀し、縦方向への二閃で仁の反射閃々・純正三速を受け切った。

 

(防がれた!?でも相手は木だ、刃物には弱いはず…!)

 

仁はそう思考しながら反射閃々・純正七速を連続で放った。

 

(…へぇ。反射閃々の連携か…単純ではあるけどその攻撃だけって侮れない方法かな。)

 

「ッ!!」

 

「!?」

 

(昨日見たよりも初動が速い!それに…!)

 

速度が乗っている仁の刀をよく見ると、やや刃毀れしてきていた。

 

(刀が技の連続行使についてこれてない!仁の心意強度が足りないんだ!!あのままだと技が終わった直後に技の力が暴発して砕け散る!なら…!)

 

香が軽く斜めに構えた。

 

「“バーチカル・アーク ver.sonic”ッ!!」

 

(技の途中で威力を中和させながら刀を叩き折るっ!!)

 

仁の刀が香の目の前にきた瞬間、香の木刀から放たれた縦二撃が仁の刀の腹を直撃した。

 

ぱきっ

 

小さい音とともに仁の刀が中ほどから折れた。

 

「は?」

 

「ふぅ…」

 

戸惑う仁と安堵した表情の香がそこにはいた。

 

「何があった?」

 

「技の途中で刀を叩き折ったの。危ない状態だったから。」

 

「危ない状態?」

 

仁の言葉に香は頷いた。

 

「私が教える技…ほとんどがイメージの力が必要なんだけど。技が終わったときにその時に入れられた技のイメージの力を発散させるの。でも、何らかの要因でその発散ができなかった場合、使ってた武器もろとも壊れるとともに爆発するの。」

 

「え…」

 

「まさか連続行使使うとは思わなかったから教えなかったんだけど…」

 

予想外すぎるよ、と香は呟いた。

 

「……なぁ、香。」

 

「うん?」

 

「その刀…木だよな?なんで切れてないんだ?」

 

仁の言うとおり、香が持つ刀は一切傷がついていなかった。

 

「あぁ…それね…」

 

香は軽く自分の持つ木刀を見せた。

 

「今は木刀の形をとっているけど、もともとは斬想鬼なのはわかるよね?」

 

「あぁ…」

 

「まぁ、材質が木っていうのもあって鉄よりは弱いんだけど…でも、それは無強化状態の話。強化すればそれだけ強くなる。」

 

「えっと?」

 

「斬想鬼はイメージを伝えられる。以前に納刀状態の時じゃないと伝えにくいって言ったけど…伝えにくいだけで伝えられないわけじゃない。」

 

「…」

 

「私がやってたことは結構単純。“刀身にイメージの膜を張って耐久度を強化していた”。ただそれだけだよ。」

 

「戦闘中に…か?」

 

「うん。もっと高度なことになると“傷がついていない状態の武器のイメージを常に送り続けて破損の上に上書きして状態を維持する”、なんてのもあるけど、こっちは本当に強いイメージが必要になるからおすすめしないね。」

 

仁はそれを聞いて頭を押さえていた。

 

「…それ、俺もできるのか?」

 

「多分?それは仁の努力次第。とりあえず、複数の思考を同時に行えるようにしないときついかな?」

 

その言葉を聞いて仁の動きが止まった。

 

「…それ、できるのか?」

 

「鍛えればいくらでも増やせるらしいから。最低でも10の分割思考を使ってその全てでソードスキルに耐えられる武器の耐久性を実現できるような心意強度で練れるようにしないと結構きついよ?」

 

「…嘘だろ。」

 

「ほんと。それから今は両手刀しかほぼほぼ使えないから、刀系統の四種類、“短刀”、“片手刀”、“両手刀”、“太刀”。この四種類をいつでも呼び出せるように練習しないとね。」

 

「……香は」

 

「うん?」

 

「香はいつも…どれくらいの武器のイメージを持ってるんだ?」

 

「ん~…」

 

香はそこで考え込むような動作をした。

 

「最低でも20かな?私、分割思考は80以上あるし。」

 

香のその言葉に、仁は絶句していた。

 

「まぁ、私の場合は特殊だし。あまり気にしちゃいけないよ?」

 

「あ、あぁ…」

 

「実際、分割思考しておかないと戦闘中は状況に対応できないことが多いよ。」

 

「…」

 

「かといって無理するのもだめだし。自分のいいと思った方法でやるのが一番いいだろうね。」

 

「自分がいいと思った方法か……」

 

「そ。…さ、今日はここまで。具現化もだけど技も結構な体力使うからね。しっかり休んでおいて。」

 

「…なぁ、一つ聞いていいか?」

 

「ん~?」

 

「もし、その分割思考が10使えないとしたら、どうすればいいんだ?」

 

仁の問いに香が少し首を傾けた。

 

「多分難しくなるとは思うけど、会話用の思考一つと体操作用の思考一つ、それから武器への出力用で一つの計三つの思考を用意して、その思考を高速集中処理特化にすれば…多分同じようなことはできるんじゃないかな。」

 

「そうか…」

 

「どっちも共通点として、高い演算処理能力が必要だから気を付けてね。」

 

「あぁ…」

 

「お~い、終わったか?」

 

屋敷の方から男の声。灯純だ。

 

「一応終わったよ、お父様。」

 

「じゃ、一応話しておきたいことがあっからちとおめえらこっち来い。」

 

仁と香はそれに従って屋敷の中に入っていった。

 

 

そこで仁達は聞かされることになる。

 

香達が起きた次の日にだまりとりんねの融合状態第二段階を封じていたこと。

 

最近鬼導術で滅したような悪鬼の骸が存在しているということ。

 

そしてなにより、その骸に残されていた記録の中にかつての鬼導隊一番隊隊長の白陽と黒陰、さらに鬼導隊二番隊隊長の紫隠(しおん)藤架(とうか)の姿があったということ。

 




はい、時系列考察のお時間です。
昨日の本文にあった時間計算の文を覚えているでしょうか。

9/8(選抜試験)+16=
9/24(日輪刀受取)+1=
9/25(少女消失町到着)+2=
9/27(浅草到着)+1=
9/28(麹町寄り道)+2=
9/30(鼓屋敷戦)+21=
1915/10/18(骨折治癒)

今ここに書きましたが、括弧で囲ったのはその時に炭治郎さんが何をしていたかです。考察wikiの力も借りて何とかここまで設定しました。
選抜試験会場から鱗滝さんのいる山まで1日と仮定。日輪刀の受領で15日かかります。
そこから炭治郎さんは最初の任務で北西へと向かいますが、次の任務の地が浅草になる関係上、それは関東のどこかとなるわけです。ならば鱗滝さんのいる山も必然的に関東になるはず。で、現在の地理に当てはめ、作中で炭治郎さんが言っていた“空気が薄い”と言うところから恐らく標高が炭治郎さんたちの住んでいた場所より高いと仮定。そうしたところ、群馬の方にそれらしき山を見つけました。草津白根山、標高2171m。炭治郎さん達の住んでいた場所が東京の方の雲取山という場所なので、標高2017m。結構ぎりぎりなのですが、それでもまぁ空気は薄くなるだろうと。で、そこから町まで行って1日(これは明記されてないので私の単なる予測)。その町から2日ほどで浅草についていることから大体40時間かかるらしい鱗滝さんのところから近い場所を選択。
浅草に到着した後は無惨様を追いかけ、その他もろもろしていて1日が経過。
で、ここがオリジナル展開なのですが、微量に鬼の気配を感じた炭治郎さんは麹町に寄り道。
その後、二日かけて鼓屋敷に行き、我妻善逸さんと嘴平伊之助さんと出会う。
その後に藤の家(以前間違えましたね)に行き骨折の治癒。調べたところによると肋骨の治癒には3週間かかるそうな。
ということで、1915/09/26に香達が来て、09/24に玉藻さんが来ているというわけですね。…って、玉藻さんが来ている日が結構ぎりぎりですね。
とまあ私の考察は以上になります。
…ちなみに、私が無惨様のことを無惨“様”って呼ぶのってとある動画投稿者さんが原因だったりします。
それでは長文失礼しました。


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第弐拾弐話 実戦稽古・その壱

第二十二話。最近“鬼斬り様”と呼ばれる存在の名前どうしようかと悩んでいます。
名前募集しようにも感想欄は使えないし活動報告で募集するにしても人が少なすぎる…最近名前が思いつかないんですよね…どうしたものか…
ちなみに作品内時間は1915/10/10ですね


 

夕方。

 

仁がいつも鍛錬している場所に行くとそこに香の姿はなかった。

 

「めずらしいな、俺より先に来てないなんて。」

 

そう呟き、斬糸を開いて剣式を起動させた。

 

「…“反射閃々・純正九速”」

 

仁がそう呟くと、三日前に香に叩き折られた時の速度の反射閃々が放たれた。

 

「…九速には耐えられるようになったか…やるじゃねえか、仁。」

 

後ろから声がして仁が振り向くと、そこには香の父である灯純がいた。

 

「香に比べれば俺なんてまだまだですよ。」

 

「そりゃそうだ、あいつはあの武器が自分の意志を伝えることで形が変わることを知ってからずっと、あの剣式を使い続けてるんだからな。二糸式や網式も使うが、それでも剣式を使う頻度の方が多い、って鈴ちゃんが言ってたぜ。」

 

「…そうなんですか。」

 

「反射閃々。俺も香に教えてもらったが、いまだに三速が限界だ。それに比べれば仁は筋がいいと思うぜ?」

 

仁はそれを聞いても少し納得のいかないような表情をしていた。

 

「…昨日、香が言ってたんだがな。仁、お前はかなり筋がいい。反射閃々の連続発動を昨日の時点で3連続。その連続発動っていうのは発動者にも武器にも大きい負荷をかけるが、それにすでに耐えられている。だまりの補助もあるのかもしれんが、上達速度が速いんだと。心意強度もかなり高くなっていて香が凹んでたぐらいだしな。」

 

「心意強度…ですか。」

 

「ま、強くなりたいっていう話だけどな。…あんま急いで強くならなくてもいいと俺は思う。逆に自分に合わない力を求めすぎるとその力に振り回されっちまう。香の鍛錬内容は日に日に難しくなっているはずだが、それでもお前の成長速度に合わせてるんだぜ?」

 

灯純がそう言ったとき、香が屋敷の中から出てきた。

 

「あ、いたいた!ごめん、仁!今日夕方の鍛錬無し!」

 

「え?」

 

突然言われた鍛錬中止の知らせ。その知らせに仁が困惑した。

 

「その代わり、これ着けて」

 

香が差し出したのは何かが彫られた腕輪だった。

 

「これがどう…っ!?」

 

仁が腕輪を着けた瞬間、軽く崩れ落ちた。

 

「あ、効いてるね。」

 

う、うまく力が入らん…!?なんだこれは…!?

 

「だまり…!?香、何をした…!?」

 

「だまりさんの力を強制的に抑えたの。なんかだまりさんから借りてる気がしたから。暫くはそれ着けててね。夜になったら外すから。」

 

「夜に…?鍛錬はどうするんだ…?」

 

仁がそう問うと、香は軽く笑った。

 

「“()()()()”。きょうからそれも行くよ?」

 

「え…」

 

「多少厳しいけど、多分今の仁なら何とかなるよ。」

 

そう言うと香はまた屋敷の中へと戻っていった。

 

「…まぁ、頑張れ。」

 

灯純が軽く放心状態の仁にそう言った。

 

 

 

───夜

 

 

 

「じゃ、行ってくるね。」

 

「い、行ってらっしゃいませ……それと…」

 

「ん?」

 

「仁さん、大丈夫でしょうか…」

 

鈴の言葉に仁の方を向くと、少しボーっとしている仁がいた。

 

「…まぁ、大丈夫でしょ。いざというときは私が守るし。」

 

「今回探知できた鬼門は弱めですからね…」

 

シャキッとせんか、仁!(メシ)狩りの時間だぞ!

 

仁はというとだまりに怒られていた。

 

「仁、しっかりしてね?一応あなたの鍛錬なわけだし。」

 

「あぁ…」

 

(…大丈夫かなぁ)

 

香は仁の反応に不安を覚えながら()()()()()()()()()()()()()

 

「…仁、戦闘準備はしておいてね」

 

「あぁ…」

 

鬼門の中の空間を抜けると、いつもの感覚がした。

 

どんっ

 

「来る」

 

どんっ

 

それに気がついて、仁も斬糸を構えた。

 

「分かってると思うけど…」

 

「あぁ。“剣式・両手刀”」

 

「“剣式・両手刀・不変・木刀”」

 

ぱきん

 

二人が武器を開くと、香の方には茶色の柄、仁の方には黒色の柄が現れた。

 

「「人ノ子…肝ォ……ヨコセッ!」」

 

二体の鬼が飛び出し、香と仁それぞれに一体ずつ向かっていった。

 

「二体か…香は大丈夫なのか?」

 

「大丈夫」

 

「そうか。」

 

仁は自分の方へと向かってきた鬼を見据えた。

 

「…シッ!」

 

斬糸から刀を引き抜き、鬼の突進を受け止めた。

 

(重い…まだ足りないか。なら、心意硬度強化!)

 

仁の刀の表面が薄く光の膜が覆った。

 

(さらに加速強化───)

 

「“反射閃々・純正七速───」

 

(連撃派生───)

 

「───四連”ッ!!」

 

仁の刀から七速の反射閃々を四度、計八撃が放たれた。それによって鬼の下半身と上半身が切り離された。

 

ウガッ!?

 

悪鬼はもう一体の悪鬼の方へと向かおうとしたが、そちらを向いた瞬間に動きが止まった。その隙を、仁が見逃すはずもない。

 

「“反射閃々・九速”!!」

 

首を狩り取り、崩れた鬼の骸の中から鬼の魂が出てきた。

 

「俺の方は終わった……」

 

香の方を向くと、そこには()()()()()()()()()()()()()()香の姿があった。

 

(…いや、木でどうやって…)

 

 

───少し時間を戻して香の方を見てみよう

 

 

「“斬撃属性付与”、“斬撃属性強化”」

 

香はそう呟いて鬼を足場にして跳んだ。

 

「“重音抜穿(かさねばっせん)・六連”」

 

空中で地上にいる鬼に向かって速く、力強い六の刺突をたたき込んだ。

 

ガ…

 

それのみで鬼は絶命し、骸が崩れて鬼の魂が出てきた。

 

「…あっちはまだ終わらないかぁ」

 

いや、貴女が速すぎるのよ?

 

りんねから突っ込みを受けつつ、香は星を眺めた。

 

 

───ということで時間は先ほどまで戻る

 

 

「さ、次行こうか。」

 

「あぁ…あと何体だ?」

 

「あと三体狩れればいいけど…目標は五体かな」

 

香はそう言って斬想鬼に木刀をしまい、仁も斬糸に刀をしまって歩き始めた。




ちなみに香の方は完全に瞬殺です。音が重なる程の速さの六回の刺突なので。我妻善逸さんの“霹靂一閃・六連”と理論はほぼほぼ一緒。
ではではまた次回。一応展開は考えてあるんですけど、それを書けるかどうかは微妙です。
感想とかいただけると更新速度上がるかもです。


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第弐拾参話 実戦稽古・その弐 前

第二十三話。戦闘中も書こうと思いましたがやめました。
作品内時間は前回と同じ。明日の戦闘本編はどうしましょう。
追記:総UAが3,000超えてて結構驚きを隠せない私です。


 

「これで五体…か。」

 

仁が刀を納めてそう呟いた。

 

うむ、味に深みはないがきっちり五体だぞ。

 

「じゃ、そろそろ帰る?」

 

「もう少しやりたいが…」

 

「ん~…近くに鬼門あったかなぁ…」

 

香がそう呟いて持ってきていた地図を広げた。

 

「…ん?」

 

香が何かに気がついたようで地図から顔を上げた。

 

「…何か変わった」

 

「は?」

 

仁が香の言葉に疑問の表情を浮かべた。

 

「…仁、いつでも動けるようにしておいて。何か、様子がおかしい。」

 

「おかしい気はしないのだが…分かった。」

 

(仁はまだこれが分からないのか…教えてないし仕方ないか)

 

香はそう思いつつ、周囲を警戒しながら歩き始めた。

 

「…りんね、離れられる?」

 

えぇ。ちょっと待ちなさい。

 

香からりんねが離れた。香はそれを確認すると、斬想鬼を立てた。

 

…spell act:system.id stand up search…

 

斬想鬼と香を中心にして光が四方八方へと飛んだ。

 

「…いた」

 

そう呟いたと思うと、香は仁の手を引いた。

 

「お、おい!?」

 

…spell act:system.id stand up …fly & downward gravity interference rate 0.5!

 

香は仁の手を引いたまま高く飛んだ。

 

「おわぁ!?」

 

「落ちないでね?」

 

「いや!落ちないでってか…怖いんだが!?」

 

「これでも低いんだけど…」

 

そう答え、上空から町を見下ろした。

 

「…あそこっ!spell act:system.id stand up additional gravity reduction 50%!

 

町の中に何かを見つけた香は仁の手を引いたまま、そこへと飛んだ。

 

「おわっ…」

 

仁が自身にかかる重力で戸惑っている間に、香は地面へと到着していた。

 

「ふぅ…」

 

「う…」

 

仁は顔色が悪かった。軽く酔ったらしい。

 

spell act:system.id stand up downward gravity interference rete 1.0 & additional gravity reduction 100%…

 

仁と手を繋いだまま香がそう唱えると、仁の顔色が戻った。

 

「どう?」

 

「問題ない…すまん、香。」

 

「大丈夫…さてと。」

 

香はりんねを憑けた後に何もない空間に向き合った。

 

「出てきなさいな。そこに隠れてる人?」

 

香がそう言うと、二人の男女が現れた。

 

「ふん、ばれるとはな。ただの町娘じゃないっていうのは本当だったか。」

 

「いいじゃん、そんなの。そんなことより早く殺ろうよ、お兄ちゃん!」

 

「そうだな。無駄な奴が一人いるがまぁ不運だったと思えばいいだろう。」

 

(恐らく空間支配系。そして、多分妹の方が強い。仁の相手は兄の方かな…)

 

香はそう分析し、斬想鬼を構えた。

 

「仁、多分だけど兄の方が弱い。仁はそっちを。私が妹の方をやる。」

 

「あ、あぁ…」

 

「要領は模擬戦の時とほとんど同じ。…大丈夫、今の仁なら勝てるよ。」

 

香はそう言って妹の方と向き合った。

 

「アタシのお相手は貴女?男の子の方がよかったな~美味しそうだし。」

 

「…無駄話はいいから早く構えなよ」

 

冷ややかな声を発すると、相手は鼻で笑った。

 

「へぇ?そんなこと言っちゃっていいんだ?仮にも十二鬼月に内定してるこのアタシに?ただの呉服屋の小娘風情が?」

 

「…十二鬼月が何か知らないけど、私を簡単に超えられると思わないでね。」

 

「…調子に乗らないでよね、たかが呉服屋の小娘が。鬼のアタシに勝てるわけないでしょ?」

 

「そっちこそ、私をただの小娘だと思って侮ってると痛い目見るよ?」

 

「…殺す」

 

「やってみたら?」

 

その香の態度に相手は癪に障ったのか強めに構えた。

 

香、干渉を低くするわよ?

 

「分かった」

 

りんねの干渉が緩くなった瞬間、香の体から重さが消える。

 

「嬲り殺してやるっ!!」

 

「“剣式・太刀・変在・贋作”、“純正抜閃(じゅんせいばっせん)”」

 

ばきん

 

がきんっ!

 

高速の具現化からの抜刀と鬼の爪が交差した。

 

 

─── 一方、仁はというと

 

 

「ふん…君が相手か。まぁいいだろう。」

 

(香はこいつが弱いって言ってたが…俺が…勝てるのか?)

 

仁は斬糸を構えながら不安を覚えていた。

 

「まぁ、君の犠牲は普通に考えれば無駄だが…僕らの力のため、死んでもらおう。」

 

「…無駄、か。」

 

(…決めた。こいつ、どんなに強かろうが絶対にぶっ飛ばす。)

 

「他人に人生を決められたくはないな。…吹っ飛ばすか。」

 

「ふん、ただの小僧風情が。やってみろ。」

 

「“剣式・両手刀”」

 

ぱきん

 

斬糸の断面から黒い柄が現れていた。

 

「“純正抜翔(じゅんせいばっしょう)”」

 

仁はそう呟き、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ふん…っ!?」

 

相手は余裕の表情を見せていたが、少し時間をおいて切り落とされた自分の左腕に気がついて顔色を変えた。

 

「次は、首だ。」

 

「小僧…!」

 

「フー……ッ!」

 

狙うような構えから仁が勢いよく飛び出し、それに遅れて相手の鬼が対応した。

 




仁はすでに抜刀術を会得しています。早い。
はてさて、相手の血鬼術をどうしたものか。


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第弐拾肆話 実戦稽古・その弐 中

すみません、遅れて書いてたら日越えギリギリの時間になっちゃいました…
で、筆が乗って書いてたら日越え前に投稿できる気がしなくなってきたので急遽中編として投稿。申し訳ないです。

追記:配布元の利用規約とかの影響でMinecraftのmod作成に必要なJDK(正式名称:Java Development Kit)がインストールできないの辛い…(作者は18歳、つまり未成年です)


「…」

 

香は刀を軽く構えながら相手の攻撃をよけ続けていた。

 

「このっ…さっさと当たりなさいよっ!」

 

(焦りすぎると判断能力悪くなるんだけどなぁ…)

 

服を所々破きながら避けているが、戦ってる最中に相手の悪い点を指摘できるほどまで余裕を持っていた。…というか。

 

(狂気を持ってるから強めなんだけど…でも、弱い…なんで()()()()()()()()7()0()%()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の…普通に前に戦った黒死牟さんの方が強かったんだけど…)

 

比較対象がおかしいが仕方がない。香は黒死牟という存在が一番最強に近い鬼であることは知らないのだから。それ以前に()()()()()()()()()()()()()()()()()退()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のである。

 

「この…ただの呉服屋の小娘の分際で!」

 

「…その、“呉服屋の小娘の分際”。貴女好きだよね…」

 

「うっさい!さっさと死ね!弱いんだから!」

 

「…弱い、か。」

 

「そうよ!あんたアタシの動きも力も見切れてないんでしょ!?それなのにゴキブリみたいにちょこまかと動き回りやがって!」

 

ゴキブリ、という言葉を聞いて香が相当嫌そうな顔をした。

 

(虫は大っ嫌いなんだけど……まぁいっか。…仁の方はちょっと苦戦してるかな?…まぁ、しばらくこれの相手に付き合いますか…)

 

「血鬼術 歪空絞殺(わいくうこうさつ)

 

香は()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

─── 仁の方に視点切替

 

 

 

「フシッ!」

 

「…フッ!」

 

鬼の爪と仁の刀が交差する。

 

「ふん、威勢はよかったが弱いな。やはり君との戦闘は無駄か。」

 

「その割に…全然とどめを刺そうとしないよな…そっちにそれだけの力がない証拠な気がするが?」

 

「ふん。」

 

「反射閃々・純正一速」

 

仁が使う反射閃々の中で一番遅い技が放たれる。

 

「遅い。目で追える。」

 

「ならこれならどうだ?」

 

仁は反射閃々を終えて、少しだけ後退した。

 

「“反射閃々・純正変速・七連”…参る」

 

仁は即座に鬼に近づき、刀を振るった。

 

「“一速”」

 

「ふん…またか」

 

「“三速”」

 

仁がそう呟いた直度、反射閃々の速度が変わった。

 

「“九速”」

 

「ぬっ!?」

 

「“五速”」

 

「小癪な…!」

 

四回続けたところで仁の武器に刃毀れが起きた。

 

(変速は等速の技よりも大きく負荷をかける。まだ未熟な俺だと刃毀れが起きるのは当然か…)

 

「“四速”、“八速”…」

 

六回目、仁の刀からひび割れのような音がした。

 

(折れる……修復?いや…)

 

「“十速”!派生───」

 

最速の反射閃々を放った後、刀を後ろの方に引いた。

 

「───“爆穿”っ!!」

 

仁は刀で鬼の下半身を貫き、そのまま刀身を爆発させた。

 

「ぐぅっ…」

 

(爆風の負荷がきつい…だが…)

 

「小僧…!」

 

仁は折れた刀を斬糸に納めた。

 

「“再具現化”」

 

そう呟いてから柄を引き抜くと、元通りになった刀が現れた。

 

「小癪な…!」

 

「“重音一閃(かさねいっせん)”」

 

仁がそう呟くと、鬼が手を出してきた瞬間にその手が切断された。

 

「っ!?手ェェェ!!!」

 

鬼の叫び声があたりに響く。だが人が出てくる気配はない。

 

(人が出てこない…なるほど、香が言ってた感覚はこれか…)

 

仁はそう考え、刀を構えた。

 

「死ねェェェ!!!」

 

「!?」

 

突如肥大化して突進してきた鬼に反応しきれず、そのまま吹き飛ばされ、壁に激突した。

 

 

 

───錦糸綺糸屋にて

 

 

 

綺糸屋勢のいる母屋の方の居間にて。

 

錦糸屋勢、綺糸屋勢全員が集まり、百人一首をしていた。ちなみに散らし取りである

 

「っし、俺の勝ち!」

 

「楽、強いね…」

 

勝ったのは楽のようで、それを見た涼が呟いていた。

 

「いや、涼と花、あと暁のおっさんも早えよ。俺いっつもギリギリだしな。」

 

「まぁ、私は香から反射神経鍛えられてるし。」

 

「俺は…娘の遊びに付き合っていたからな。」

 

「な、なんかできました…」

 

「いやすげぇなおい。特に花。」

 

なんか、で出来た花は普通にすごいと思う。

 

「っていうか、楽って確かこれやったことがないんじゃなかったっけ?」

 

詠み手だった咲がそう聞いた。

 

「ん?まぁ、そうだな。それは花も一緒だが。」

 

「それでもうこんなに早いって…それに花ちゃんは目が閉じているのに…」

 

「香さんの術で見えるようにはなってるので…一応、音とその場所の把握さえできていれば…一応…」

 

「すごいなぁ…」

 

咲がそう言ったとき、花が突然外を見た。

 

「…?」

 

「?どうか…しました?」

 

鈴が花を見てそう聞いた。

 

「…気のせい…でしょうか。」

 

「何々?どうしたの?」

 

「…なにか…若旦那に起きているような…」

 

「花ちゃん、分かるの?」

 

「…予感、だけなんですけど…」

 

そう言う花の表情はやはり心配そうな表情をしていた。

 

「…若旦那…どうか…ご無事で…」

 

花は星空を見上げながら手を合わせた。

 

「若旦那の状況が分かるなんて…」

 

「愛、なのかなぁ…前に鈴ちゃんも同じようなこと言ってたことあったし。」

 

咲と奏がそんなことを話しており、それが聞こえた花と鈴は顔を真っ赤にしていた。

 




早めに後編仕上げないと忘れる…それにしても私が書いたとはいえ花さんと鈴さんの愛の強さよ。空間ズラされてるというのにその中で起きている恋人の危険を察知するって…ちなみに鈴さんがそう言うことを言ってたのは黒死牟戦の時ですね…あれは空間ズレとかないですけど距離は離れてたので。


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第弐拾伍話 実戦稽古・その弐 後

第二十五話。仕上げましたよ~…
実戦稽古・その弐はこれで終わり。次回はその参…になるのかならないのか。
そろそろキャラ設定書き直し入れるべきですかね…っと。


 

(…体が重い)

 

仁は復活した思考の中でそんなことを思っていた。

 

(まずい、思考が止まっていた…俺は、どれだけの時間こうしていた?俺は…どうなった?)

 

目を開けようとしたが、目が開かない。力を入れようとしたが、それも無理だった。

 

(…体が重い……ここは…どこだ……俺は……確か……)

 

そう考えて思い出すのは自分が飛ばされた風景。

 

(俺は…あいつの攻撃に飛ばされて……それで…)

 

次に思い出したのは自分が壁に激突した時の衝撃。

 

(…ここは…まさか、瓦礫の下か?)

 

そう考えれば体が妙に重いのも考えはつく。

 

(…考えろ。俺はどうすればいい?どうすれば、ここから抜けられる?)

 

仁は思考を回す。そんな時に思い出したのは香に言われた言葉。

 

『心意っていうのは、全て思いの力。強い思い込みの力、と言ってもいいかもだけど。あれは時によって世界の理を書き換える。だからと言ってすぐに強くなったりはしないけども…そうだね、私たちの動きにはすべて心意制御回路が干渉している。だから、自分が越えたいと思う壁…それでも限度はあるけれど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ね。』

 

(壁を…越える…俺にとっての壁は…)

 

仁は軽く気分を落ち着かせた。

 

(この世界を突破すること…そうなるか。)

 

『もし、その壁を突破できたなら。それは貴方にとって、障害にならなくなる未来が近いってことだよ。』

 

(…集中しろ……体の隅々まで心意の網を張れ…)

 

イメージの網を体全体に回すようなイメージをすると、仁の思考の中に自分の体のイメージが浮かんできた。

 

(…顔面は何かにつぶされている。だまりによって修復はされているがこれによって目が開けない…次、腕…こちらも何かにつぶされていて身動きが取れず、うまく力が入らない…体全体が何かで潰されている状態か…)

 

イメージから読み取れた情報はわかったが、そこからどうするかである。

 

(…くそっ、俺の心意操作精度じゃ腕への心意強化残留伝達がうまくいかない…何か…何か…!)

 

焦りから心意の精度が荒くなっていた。

 

『───な』

 

(…?)

 

突如思考内に響いた声に心意を練るのが止まった。

 

『若───那』

 

(…この声は…)

 

『若旦那ぁっ!聞こえていますか!?』

 

『若旦那ッ!』

 

(正…!?それに、花!?)

 

かつて、綺糸屋の番頭を任されていた男、正。そして、仁の恋人である花の声が仁の意識に響いた。

 

『あぁ!よかった…聞こえているんですね、若旦那!』

 

(なん…で…)

 

『落ち着いて聞いてください、私は…あなたの中に刻み込まれた正という人物の残留思念です。』

 

(残留…思念…?)

 

『えぇ…っと、手短に言います。若旦那、あなたはまだ心意の力を正常に発揮できてません。』

 

(っ…)

 

痛いところを突かれ、仁が言葉に詰まった。

 

『あなたはここから出れないことで焦っていて、()()()()()()()()()()()()()んです。その状態では、この場所から出ることはかないません。』

 

(操作…精度…)

 

『若旦那。一度、落ち着きましょう。心を落ち着かせて、本来のあなたの精度を取り戻すんです。』

 

(…)

 

『…私は、もうそろそろ限界なので消えますが…大丈夫です。あなたになら、できますよ…!』

 

(…!)

 

『若旦那。手を、前に出していただけますか…?』

 

仁が意識内で手を出すイメージをすると、その手のイメージの中に何かが落ちてきた。

 

『この世界に来てからずっと…預かっていたのです。あなたの素質、あなたの力を…お願いします…花ちゃんを…必ず…幸せ…に…』

 

(正!?)

 

『…すみません…限界…です…またいつか…お会い…しま……しょ…』

 

その言葉の後、正と名乗った人物の気配が消えた。

 

『若旦那…』

 

(花…)

 

『…頑張ってください…お願いです……早く…帰ってきて…』

 

(…)

 

仁はその言葉で何か思うことがあったのか、無言になった。

 

(…そうだ。なんで…)

 

『お願い…』

 

(なんで、俺は強くなりたいと願ったんだ?)

 

仁のいる場所にひびが入っていった。

 

『早く…帰ってきてください…』

 

(…そうだ…俺は…俺が強くなりたいと望んだのは……!)

 

『仁…!』

 

(大切なものを守るためだっっ!!)

 

仁の意識から強い心意の光が溢れ、腕へと流れ込む。

 

「…ぉぉっ!!」

 

力強い気合とともに自分に乗っかっていた瓦礫をすべて吹き飛ばし、そばにあった柄をつかんでゆらりと立ち上がった。

 

「ふん。生きていたか。しぶとい雑魚め。」

 

「雑魚かどうか…確かめてみたらどうだ…?」

 

仁がそう呟いた直後、()()()()()()()()()()()()

 

「ふん。ならばもう一度…押しつぶしてくれるっ!!」

 

鬼はそう言い、跳びあがった後肥大化して仁めがけて落下してきた。

 

(研ぎ澄ませろ。対処は簡単だ。)

 

『純正系統はただの派生の一種に過ぎない。まぁこの辺はまた今度教えるけど。実はこんな技もあるよ。』

 

(再現するは一度見たあの技。一撃で決めたい。)

 

「死ねェェェっ!!」

 

鬼が仁の間合いに入った瞬間、仁は刀を振るった。

 

「『“反射閃々・火炎十速(かえんじゅっそく)”』」

 

「…!?」

 

上半身と下半身を真っ二つに斬られた鬼は何が起こったのかわからずに変な顔をしていた。

 

(再現するはたった一度だけ見たあの高速の二撃!耐えてくれよ、俺の体…!)

 

「………ぁぁぁぁぁぁあああ!!」

 

とある位置に持っていき、叫びながら左斜め上から内角30度ほどで右斜め下へ、反射角30度程で右斜め上へと切り上げに変更した。途中まで斬られたことで気がついたのか、鬼が肥大化を始めた。

 

「無駄な努力を!」

 

「無駄かどうかきっちり見極めろ!“バーチカル・アーク ver.sonic”ッッッッ!!!!」

 

叫んだ直後、刀が加速し、鬼の体を切り裂いた。

 

「…っぁぁぁぁあああ!熱い!熱いぃぃぃぃ!」

 

(まだ…死なないのか!?)

 

しぶといやつだ、と思いつつ、また鍛錬中に香が言っていたことを思い出した。

 

『よくわからない、この世界にいる人みたいな鬼は悪鬼たちと違って首を正確に落とさないと死なないみたい。だから、正確に首を切り落とさないとね。』

 

(首…か!)

 

仁は鬼の首元に刀を当てた。

 

「ひぃっ!」

 

「…最後に、一つ答えろ。」

 

仁はそこで一呼吸置いた。

 

「お前は“歪みを使う鬼”を知っているか?」

 

「し、しら、しらない…」

 

「そうか。」

 

仁はそれを聞くと刀を後ろに引いた。

 

「た、たすか…」

 

「“浄火一閃(じょうかいっせん)火炎(かえん)”」

 

仁の呟きとともに振るわれたその一閃は、鬼の首を確かに斬り落とした。

 

「…終わった、か?」

 

仁が呟いたが、鬼が動く様子はなかった。

 

「…疲れたな…」

 

 

 

───香の方はというと。

 

 

 

「!?あぁぁぁぁぁ!!!」

 

突如、鬼が叫び始めた。

 

「よくも!よくもお兄ちゃんを!」

 

(ブラコンか…)

 

香は呆れたように鬼を見つめていた。

 

(それにしても、仁は鬼を仕留めたんだ。なら、もう待つ必要はないか。)

 

「お兄ちゃんの……勅次(ときじ)の仇はこのアタシ、明里(あかり)がゼッタイにウツ!!」

 

「狂化してきてるなぁ…」

 

香はそう呟いて、鬼を見据えた。

 

「殺す…まずはオマエから殺すころすコロスコロス!!!」

 

鬼はそう言いながら香に向かって突進してきた。

 

「血鬼術 激劣水(げきれっすい)ッ!!」

 

鬼は叫びながら水を吐き出してきた。

 

(水…受けかな)

 

「“スピニング・シールド”」

 

刀を回し、水を弾き飛ばした。それを見て、鬼がニヤリと笑った。

 

「かかったね、馬鹿め!」

 

「?…!」

 

水を浴びた香の刀が錆びついていた。

 

(これは…酸の水…?)

 

「アンタを溶かせなかったのは残念だけどぉ…それでアンタの武器は使い物にならないねっ!キャハハッ!」

 

鬼がおかしそうに笑った。

 

「アンタはここで負けるの!アタシという下弦候補に無様に負けてね!アハハハッ!!」

 

鬼が何も言わない香を指さしてさらに笑った。

 

「ねぇ今どんな気持ち?下に見てたやつに殺されそうになってどんな気持ち??」

 

「…別に、」

 

「ん~?聞こえな~い!」

 

「…()()()()()()()?だって…」

 

香が顔を上げると、その表情は無に近いものだった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「は?」

 

鬼がその言葉を発したかと思うと、鬼の懐に香がいた。

 

「!?」

 

「受けてみなよ、私のO(オリジナル)S(ソード)S(スキル)!!」

 

香が振り上げた太刀が紅く光った。

 

「“レイバースト───」

 

最初に腹の部分へ十回の高速刺突、次に頭、右脚、左脚、左腕、右腕、右腕、左腕、左脚、右脚、頭、頭、右脚の順で刺突を打った。

 

「かふ!?」

 

「───エクスキューション”ッ!!」

 

叫びとともに首元への二閃、さらに鳩尾の部分へと二十回もの高速刺突を叩き込んだ。

 

“レイバースト・エクスキューション”。香が使う四十四連撃ものソードスキル。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

その攻撃を受けた鬼は凄まじい勢いで吹き飛び、壁に激突した。

 

「っ…」

 

鬼が起き上がろうとするが、その前に香が鬼の前に行き、()()()()()()()()()()()を壁に穿ち、動きを止めた。

 

「ひっ…!」

 

「一つ答えて。」

 

鬼はすでに、怯え切っていた。

 

「あなたは歪みの無い鬼を知ってる?」

 

「し、しらない…」

 

「…そう。」

 

香は壁から刀を引き抜き、少しだけ刀を後ろに引いた。

 

「“浄花一閃(じょうかいっせん)”」

 

香がそう呟き、納刀音が響いた直後、鬼の頭が落ちた。

 

「“泣桜(なきざくら)”。」

 

どこからか、すすり泣くような声がした…ような気がした。

 

 

「…」

 

香はしばらくそのまま動かなかったが、やがて刀を斬想鬼に納め、仁の方へと向かった。

 

少し歩くと、道に座り込んでいる仁の姿が見えた。仁も足音に気がついたのか、香の方を向いた。

 

「…お、香…終わったのか。」

 

「あ、仁。そっちこそ、終わったんだ?」

 

「なんとか…な…体がうまく動かん。」

 

「…ちょっと診せてね?」

 

香が仁に軽く触れると、軽くため息をついた。

 

「体の方には異常なし。だけど、かなり心意とかを消耗してる。重度の心意欠乏状態、及び体力欠乏状態だね。いったいどんな無茶したらこうなるの…」

 

「ははは…“反射閃々・火炎十速”を使った。」

 

「…あ~…私が一度見せたのをまねたのかぁ…だからだね、この消耗度は。」

 

「そうなのか?」

 

()()()()()使()()()()()()()()()()使()()()()()()()()。それがこの状態だよ。仁の鍛錬を始める前日の私と一緒。」

 

「そうか…」

 

仁が軽くうつむいた。

 

「さ、帰るよ?私も久しぶりに使った技のせいで疲れちゃったし、仁は早く休まないと。」

 

「あぁ…」

 

「ほら、私につかまって?」

 

仁が香に手を引かれて立ち上がったときである。

 

 

どんっ

 

 

「「!?」」

 

()()!?そんな、こんな時に!!)

 

戦いは、まだ終わらないのかもしれない。




えーっと…なんで仁がソードスキルを、っていうか“バーチカル・アーク”は刀カテゴリソードスキルじゃなくて片手剣カテゴリソードスキルだよね?っていう意見はあると思いますけど……えっと……はい、まぁ…そうですね、その技を強くイメージしてさらに軌跡さえなぞれれば同じ技が出せる、っていう設定です。刀を叩き折られた時に香に使われた“バーチカル・アーク ver.sonic”が強く印象に残ってたんですね。
それと、香が使ったOSSの“レイバースト・エクスキューション”ですが、あれは本文中にもある通り、本来二刀流で放つ技です。それを何故一刀で使えているのか、っていうのはただただ動きの速度を早くして二刀の時の動きを完全に模倣している、っていうのが真相です。やってることは単純ですが、実行するのは普通に難しいやつですね。まぁ、また今度技集とか出した時に詳しく説明しましょうか。


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第弐拾陸話 邂逅・鬼斬り様

あ…昨日敵の血鬼術とかの詳細書き忘れた…
…まぁいいや、そんなことより二十六話です。
あとタグ追加します。“東方プロジェクト”…完全に明らかになるのはもう少し後なんですけど明日の投稿とかまでに追加しておきます。
それともう一つ。この作品本編とは違う、小ネタ、没ネタ、単なる思い付きの設定系とかいろいろ押し込んだ裏側とかを別の作品としておこうと思っています。設定とかを一気に読みたい人向け。裏の方は完全に不定期で行こうと思います。連載設定にしておきますけども。チラシの裏で行うか通常投稿で行うかは未定。


 

それは、一瞬だった。

 

香が突如現れた鬼門に反応し、少し震えながらも斬想鬼を構えた直後のことである。

 

香と仁の側を、一陣の風が吹き抜けた。

 

「え…」

 

香が遅れてそれに反応した時、鬼門から現れた鬼が真っ二つに斬れ、その骸から鬼の魂が出てきた。

 

「何が…起こった…!?」

 

「多分…あの人…」

 

香の視線の先には、白く長い髪を持ち、赤い太刀を振りぬいた状態にしている、白いシャツに赤いスカートを履いた少女がそこにいた。

 

(…あの人…いったい…?)

 

その少女は太刀を背に吊ってあった鞘に納めると、香達の方へと体を向けた。

 

「…」

 

(目が…無機質…?)

 

少女はそのまま歩いてきて、仁が戦っていた鬼の亡骸に触れた。

 

「…」

 

触れてしばらくすると、少女にその亡骸が吸い込まれていった。

 

(吸収した…?…っていうか……)

 

その亡骸を吸い込みおわると、少女は香が戦っていた鬼の方へと歩いていった。

 

(……間違い…じゃないよね?)

 

「香…」

 

仁が香を呼んだ。

 

「何?」

 

「…花から聞いた話とは違うが…あれって…鬼斬り様、って言われるやつなんじゃ…」

 

「鬼斬り様…」

 

そう呟いて香は少女を見た。少女は、鬼を吸収している途中だった。

 

「…太刀を使う少女、ってところだけ見ればあってるけど…」

 

香が鈴から聞いた鬼斬り様の特徴は“桜色の着物に身を包む、黒髪の少女”だ。対して先程鬼を斬った少女は白髪で、白いシャツに赤いスカートを履いている。だが───

 

「…可能性はなくはない、か…鈴から聞いたのは平安時代の時の話…その鬼斬り様に子孫がいてもおかしくない…か…」

 

そう呟くと同時に少女が鬼の吸収を終え、香達の方へと歩いてきた。

 

「…あの!」

 

少女が香の近くを通り過ぎた少し後、香が少女に声をかけると、少女が歩くのをやめた。

 

「助けてくれて、ありがとうございます……えっと……貴女…は?」

 

少女は顔だけを香に向けた。

 

(…やっぱり…目に感情がない?)

 

香がそう思うと同時に、少女は興味を失ったように香から目線を外した。

 

「……」

 

その後、少女はまた歩き始めた。

 

「貴方の…なまえは?」

 

香が問いかけると、少女が立ち止まった。再度香の方を向き、口を開いた。

 

「─、─、─、─」

 

「え……?」

 

少女は声になっていない言葉を発したかと思うと、その場から()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「消えた…!?」

 

(…あの子が消えると同時に()()()()()()()()。魔力反応もなかったのに……)

 

香は先程まで少女がいた場所を見つめて首を振った。

 

(ううん、違う。転送魔法とか、そういうものじゃない。あの子、()()()()()()()。魂…ただそれだけの存在。()()()()()()()()()()()()()()。霊魂だった。)

 

香のこれが正しければ、彼女は死者だということになる。

 

(でも、おかしい。悪霊でもないのに霊体がはっきりしすぎている。それに、あの口の動き。)

 

香は少女の口の動きを思い出す。母音で示せば、“(a)(u)(e)(e)”。

 

(子音を当てはめるとするなら…多分、t、s、k、t…即ち“(ta)(su)(ke)(te)”…悪霊でもないし、成仏を願っている雰囲気でもなかったのに、“たすけて”はおかしい。どういうこと…?)

 

「香?」

 

「うん?」

 

「あそこ、何か落ちてないか?」

 

仁が指さしたのは少女が消えた場所。そこに何かが落ちていた。香はそこに向かい、それを拾った。

 

「…木札?結構黒っぽくなってるけど…これは…炭化してるの…?」

 

黒、というよりは焦げたような色。腐っているわけではないようなので炭と判断した香は何気なしにその木札をひっくり返した。

 

「何か書いてある…?」

 

彫られているようで、それを暗い色で塗っているようなため、よく見えないが…確かに、彫られていた。彫られている文字は───“藤原(ふじわら)”。

 

「藤…原?」

 

読み上げてから首をかしげた。

 

「…とりあえず、一度帰ろう。仁を休ませなくちゃだし。…鬼斬り様のことを教えてくれたあの人、明日の営業時間に来店したら聞いてみようかな…」

 

そう呟いた後、木札を着物の中にしまい、仁に手を貸して錦糸綺糸屋へと向かった。

 

 

 

───翌昼、営業時間。

 

 

 

「あぁ、それは鬼斬り様ね。」

 

以前、鬼斬り様という存在のことを教えてくれた団子屋のおばさん。錦糸綺糸屋に来店した彼女は香の話を聞いてそう断言した。

 

「昔話には書いてないけれど、鬼斬り様の姿はたまに変わっていたらしいのよ。特にわかりやすかったのは黒い髪と白い髪の違い。ある時は黒い髪、ある時は白い髪の女の子だったり、女性だったそうなのよ。」

 

「そうなんですか…」

 

「だから、いつの時代にも鬼斬り様の家系の女の子や女性がいて、その人達が交代制でこの町を守ってくれてる、っていうのが私たちの見解。」

 

真相はわからないけどね、と団子屋のおばさんは付け加えた。

 

「この町には鬼斬り様を信じている人は多いけれど、本当に鬼斬り様に救われた人たちは少ないからね。“鬼斬り様”っていう存在が本当にいるのかを疑う人も中にはいる。だから、鬼斬り様の情報はそこまで多くないんだよ…」

 

「そうなんですね…」

 

「…っと、香ちゃん。これ買っていっていいかい?」

 

そう言っておばさんが差し出したのは音の鳴らない鈴のついた簪だった。

 

「その鈴、鳴らないんですけどいいんですか?」

 

「いいよ。これ、旦那からもらった贈り物の簪に似てるんだ。…どっかで、なくしちゃったんだけどさ。その簪も鈴が鳴らなかったから。それで、旦那の思いがこの簪に籠ってるとかはないと思うけどさ。…そうだね…大切だったものって、失ってから気がつくんだねぇ…」

 

おばさんが外を見てそんなことを呟いた。

 

「…もし、その簪が見つかったとしたら、どうしますか?」

 

「ん?そうだねぇ…もう失わないように、大切に持っておきたいね。」

 

「…そうですか。」

 

「それで、お代はいくらだい?」

 

「3円50銭になります。」

 

「はい。」

 

香はおばさんから3円50銭を受け取った。

 

「お買い上げ、ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております。」

 

「今後ともご贔屓にさせてもらうよ。」

 

おばさんはそう言いながらお店を後にした。




次回は…どうしましょう。原作本編介入前に日記入れますけども。


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第弐拾漆話 模擬戦鍛錬

ネタが尽きてきました。


 

夕方。

 

いつもの通り香と仁が色の違う木刀を持って向かい合っていた。

 

「…じゃ、はじめるぞ?」

 

「あぁ、始めてくれ。」

 

「じゃあ…始めっ!」

 

楽の掛け声で同時に香と仁が飛び出した。

 

「“火炎抜閃”」

 

「“桜花抜閃”」

 

仁は炎を纏う抜刀を、香は花を纏う抜刀を放った。互いに交差し、鍔迫り合いのような状態になる。

 

「…花という性質上、こっちの方が不利かな。」

 

「って言いながら競り合ってんだろうが…!」

 

「まぁ、“花属性”は私の最適属性だし…っていうか、仁に火属性適正あったことが私的には驚きなんだけど。」

 

「俺も知らんかったっつうの!」

 

その声とともに弾かれたように距離を取り、香が接近を試みた。

 

「“反射閃々・火炎十速・七連”!!」

 

「そう来るのね…“反射閃々・桜花十速・前進六連”!」

 

停止中の七連に対して前進し続ける六連。手数は香の方が少ないが、前進するという力のかけ方が加わっていた。

 

「これならどうだ、“バーチカル”っ!」

 

「ソードスキルにはソードスキル、“ホリゾンタル”!」

 

仁の赤い光を帯びた刀と香の水色を帯びた刀が交差する。横方向への力が何度かかかっているというのに、刀は全く折れる気配がない。

 

「流石師匠っていうかなんて言うか…」

 

「師匠って呼ばないでほしいんだけどな…」

 

「“火炎一閃”」

 

「っと効かないよ」

 

不意打ち気味の火炎一閃を、二、三回刀を振っただけで防ぎ切った。

 

「…やっぱ効かないか。」

 

「一応教えたのは私だし。」

 

「そうか。」

 

「技をどこまで進化させられるかは仁次第。それは覚えておいてね。」

 

「進化…か。」

 

「そ。」

 

この話している最中、ずっと斬撃が飛んでいたのだが、全て防ぐか躱すかをしていた仁と香である。

 

「にしても、強くなったよね…仁…」

 

「…自分では実感がわかないな…」

 

「多分、最初のころの仁だとここまで持ってないよ…っていうか、成長速すぎ。」

 

「…成長か…なぁ、香。」

 

「ん?」

 

「属性ってどれくらいあるんだ?」

 

「属性?」

 

「あぁ。」

 

香は刀を振るいながら考えた。

 

「14、かな?火、水、風、土、雷、氷、闇、光、花、幻、音、虫…それと不変と変化。」

 

「不変と変化…?」

 

「不変っていうのはどれだけ心意を注いでも変化させることができない“変化不能属性”。変化っていうのはどんな属性にも変わる“変幻自在属性”。」

 

「へぇ…」

 

「仁が使ってる火炎刀は火属性の属性刀の一つ。私の使う桜花刀も花属性の属性刀の一つ…なんだけど、変化不能属性と変幻自在属性には属性刀は一つずつしかない。」

 

「そうなのか…」

 

「うん。」

 

そんなことを話していると、仁の刀が割れ始めた。

 

「…あ、そろそろ限界か。」

 

「そうだね…」

 

「ちなみに火属性の属性刀っていうのは他に何かあるのか?」

 

「火炎刀は一番弱い火属性刀なんだよね。だからこれを上げてやればいいんだけど…一例で言えば紅炎、とかかな?」

 

「紅炎?」

 

「うん。っと、もう折れそうだけどどうする?」

 

香の言うとおり、仁の刀はもう折れそうなほどになっていた。

 

「…次の一撃で終わるか。」

 

「そだね。」

 

その言葉とともに仁と香は距離を取った。

 

「“火炎一閃・焼尽”」

 

「“桜花一閃・三分咲”」

 

仁の刀からは炎が吹き出し、香の刀からは花が生まれて衝突した。

 

「“爆刀・散開”っ!」

 

「“散刀・護法”」

 

衝突した時、仁の刀は砕け散りながら爆発し、香の刀は砕け散りながらその破片が爆発の衝撃を抑えた。

 

「うわ…」

 

「…はい、今回も私の勝ち。」

 

香は刀の破片を仁の首元に近づけていた。

 

「あぁ。元から勝てるとは思っていないからな。」

 

「…いや、結構ひやひやするんだけど?今日で何日だっけ?」

 

「15だな。」

 

「ほぼ2週間でこれかぁ…」

 

香が頭を押さえた。

 

「今教えられそうなことほぼほぼないんだけど…」

 

「そうなのか?」

 

「属性関係はちょっとあれだからね…暫くは模擬戦訓練が主になるかな…?」

 

香がそう呟き、木刀を斬想鬼に納めた。

 

「とりあえず分割思考が少し不安定だし、そこの強化かな?」

 

「分かった。」

 

「で、とりあえず明日は鍛錬休みね。」

 

「え…?」

 

「最近心意使い過ぎ。万全の状態にしておかないとね。」

 

「…分かった。」

 

仁は少し不満そうだったが、やがて立ち上がって自分の部屋へと向かった。

 

 




誤字修正やろうかな…


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第弐拾捌話 四ノ蔵、五ノ蔵、六ノ蔵

1915/10/16。それがこの小説内の時間です。
ということで第二十八話。そろそろ30話…そしてこの小説を投稿し始めてから1ヵ月です。
最近ネタ切れ感強めなので時間がかかります。


 

香と仁、そして鈴と花は蔵の前へと来ていた。

 

「四ノ蔵から六ノ蔵…そういえば、開けてなかったな。」

 

「すっかり忘れてたけど…でも、仁のところにも無かったんでしょ?」

 

「あぁ…三ノ蔵までが元の世界と同じだってことはわかったんだが…四ノ蔵から六ノ蔵はまだ見てなかったんだ。」

 

「とりあえず、見てみよっか。」

 

香がそう言うと、仁が四ノ蔵の錠に近づき、鍵を開けた。

 

「…花、灯り頼めるか?」

 

「は、はい!───」

 

花が何かを唱えると、花の体自体が発光した。

 

「…いや、花。それ、なんだ?」

 

「あ、香さんに教えてもらった妖術です…」

 

「…香、お前、妖術まで教えられたのか?」

 

「ん~…まぁ、一応ね。」

 

「…俺は香のことがよくわかんなくなってきたんだが。」

 

「まぁ、まだ仁達には話してないことあるからね。いずれ話すけど。」

 

香がそう呟いてから仁達は四ノ蔵の中に入った。

 

「…これは…服、か?見たことないが…」

 

「これは…洋服だね。」

 

香がそこにあった服を手に持って言った。

 

「洋服?」

 

「うん。私たちの着物とかは和服っていう部類なんだけど…そうじゃなくて、西洋から伝来した服のこと。違いは和服は一枚布に対して洋服は立体的に組まれてる…かな?」

 

よくわからないけど、と香は続けた。

 

「洋服…」

 

「多分売ることはできると思うよ?伝来したのは明治時代で、今は大正時代だから。」

 

「えっと…?なんでそんなこと知ってるんだ?」

 

「少し前に新聞見かけてその年号覚えて、今まで何が起こったのかとか聞いたから」

 

「いろいろやってるな…ん?」

 

仁が一つの服を手に取った。

 

「なぁ、香。」

 

「うん?」

 

「これ、前の…」

 

仁が手に取っていたのは赤いスカートだった。

 

「…あぁ、なるほど。…似てるね。」

 

「だよな…」

 

前の、というのは香と仁が出会った鬼斬り様のことを言っている。

 

「…あ、あったあった。」

 

香が手に取ったのは白いシャツだった。

 

「これ、髪が白だったら普通に鬼斬り様になるよね?」

 

「そうだな…」

 

「…で、これ、売り出すの?」

 

「…俺が決めるのか?」

 

香は静かに頷いた。

 

「…まぁ、売らなくていいんじゃないか?」

 

「そっか。じゃ、ここはもういいかな?」

 

香がそう言うと、全員が蔵の外へと出た。

 

「…で、次は五ノ蔵か。」

 

「うん…」

 

カタッ

 

「…ん?」

 

香が六ノ蔵の方に視線を向けた。

 

「どうした?」

 

「…今、物音がした気がするんだけど…」

 

「…分からん」

 

仁はそう言いながら五ノ蔵の鍵を開けた。

 

む…

 

う…

 

りんねとだまりが嫌そうな声を上げた。

 

「どうした、だまり」

 

…わっしゃの気分が悪くなった

 

…ここ、私たち鬼にとっては嫌な場所ね。

 

「…鈴、灯りある?」

 

「はい、若女将…」

 

香が鈴から灯りを受け取り、五ノ蔵の中を照らした。

 

「…なんだ、これ?」

 

中に張り巡らされた札と大量の文字を見て仁がそう呟いた。

 

「これは…鬼導術?それも、ほとんど滅鬼術だ…」

 

「滅鬼術…か…」

 

「鬼導術じゃないのも中に含まれてるけど…でも、鬼導術での滅鬼術の方が多いね。ほかは…」

 

香が蔵の中に入り、近くにあった巻物を手に取った。

 

「…これは…呪術?古いけど…」

 

「分かるのか?」

 

いつの間にか背後にいた仁が聞いた。

 

「何かを封じるような術なんだと思うけど…使い方が書いてあるだけでこれに封じられてるわけじゃないから安心して大丈夫だよ。」

 

「分かるのか…」

 

「うん…封印されているもの特有の気配がないからね。」

 

香はその巻物を元の場所に戻し、仁とともに蔵を後にした。

 

「さて、あとは六ノ蔵だが…」

 

「…」

 

香はじっと蔵を見つめていた。

 

「…行ってみるか。」

 

「…そうだね。」

 

仁達は少し歩き、六ノ蔵前に立った。

 

「……若女将…」

 

「うん?」

 

「…ここ…なんか…開けてはいけないような…」

 

「…開けてはいけない、か…」

 

鈴の言葉を聞いて香が考えこんだ。

 

「そういえば、楽も三ノ蔵を初めて見た時にそんなこと思ったらしい…」

 

「三ノ蔵の時と同じ反応…か……仁、開けてみて。」

 

「…いいのか?」

 

「…さっきから、気になる反応があるの。この蔵の中から。」

 

「気になる反応?」

 

仁が香に問いかけた。

 

「…生者の魂反応…つまり()()()()。それが、この蔵の中にある。」

 

「生命反応…生きてる人が閉じ込められてるってことか?」

 

「…多分」

 

香が答えると、仁が錠を開けた。

 

「…開けるぞ」

 

仁が全員に聞くと、全員が頷いた。

 

「…誰もいませんね」

 

蔵の中を見て花が呟いた。

 

「…なぁ、香。本当に人がいるんだよな。」

 

香はその言葉に目を瞑り、少ししてから頷いた。

 

「…確かに生命反応はある。人かどうかは分からないけど、確かにこの蔵の敷地内にある。」

 

「…にしては見つからないが。あるのは武器ばかりだ。」

 

仁の言う通り、六ノ蔵にあったのは全て武器。それも様々な色の武器である。

 

「……」

 

香は蔵の奥へと進み、奥の壁に触れた。

 

「…ここだ」

 

「ここ…ですか?何にもないように見えますが…」

 

「…この奥から、生命反応を感じる。それと、この下からも。」

 

「下…地下ってことか?」

 

「…うん。地下に…5()()()()()()()。この奥に1つの生命反応…りんね」

 

香がりんねの名を呼ぶと、りんねが香から離れた。

 

「みんな、ちょっと離れてて。」

 

香がそう言うと、全員が香から離れた。

 

「…ふー…“ブレイクインパクト”」

 

香が呟きながら自分の拳を壁に叩き付けると、その()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…おま…どうやって…」

 

「秘密、かな?ヒントは心意」

 

仁の質問に答えている間に、崩壊した時の土煙が収まっていった。

 

「…な」

 

「え…」

 

「…うそ」

 

「そんな…」

 

上から仁、花、香、鈴である。

 

「「女の子…?」」

 

「「鬼斬り様の……少女…!?」」

 

崩壊した壁のさらに奥。

 

その壁にて。

 

白いシャツに赤いスカートを履いた、白い髪の少女が、そこにいた。

 

「これ…どういうことだ?」

 

「分かんない…けど…」

 

香の目線の先には少女の腕があった。

 

正確には、腕についている鉄の輪。

 

壁と腕を縫い付けている枷。

 

「前に言ってた助けては、この状態から助けてほしいってことなのかな…」

 

「…言ってたか?」

 

「声はなかったけど…多分…」

 

香は近くにあった青色の短刀を手に取った。

 

「…これ、属性刀…それも水属性か」

 

「…ここにあるのって全部?」

 

「属性武器だね…鬼斬り様は全員ここから武器を持っていっていたのかな…」

 

香はそう呟きながら抜刀し、少女の体を壁に縫い付けている枷に狙いを定めた。

 

「“重鳴閃々(かさなりせんせん)・五連”」

 

一度の振り抜き音で少女の右腕、左腕、右脚、左脚、そして胸の部分と腰の部分に取り付けられている6つの枷を破壊した。

 

支えがなくなった少女は、重力に沿ってそのまま地面へと落ちた。

 

「…ふぅ。なんとかなったけど…」

 

香と仁は少女のもとへ行き、少女の顔を覗き込んだ。

 

「…生命活動は正常…だけど、なんだろ…この違和感は…」

 

「違和感…」

 

「…う」

 

仁と香が話していると、少女が目を開けた。

 

「あ、起きました?」

 

「…あなたは……」

 

「意識は…はっきりしてますか?」

 

「……」

 

少女は答えなかった。

 

「…おね…がい…」

 

「?」

 

「みんなを…たすけて…ほしい…」

 

「みんな?」

 

「この蔵の…地下に…みんなが…いるの……」

 

「…仁」

 

「見てこよう。」

 

「地下…の…入り…口は…そこ…」

 

少女が震える手で指さしたのは、先程壁があった場所だった。

 

「…」

 

香が頷くと、仁はその場所にあった地下への隠し扉を開き、地下へと降りて行った。

 

「…あの、貴女の名前は?」

 

「…」

 

香が地下への扉を見つめながら問いかけたが、返事はなかった。

 

「?」

 

不審に思った香が少女の方を見ると、少女は気を失っていた。

 

「…ごめん、鈴。お父様と暁さんを呼んできてもらえる?」

 

「は、はい…」

 

鈴は灯りをその場に置いて、六ノ蔵の外へと出て行った。

 

その後、仁から地下で5人の人間が見つかったという報告があった。




鬼斬り様の設定が思い浮かばない…


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第弐拾玖話 鬼斬り様の真実

何とかなったかな?
明日は誤字修正関係頑張ります。…多分。


 

ぱきん

 

そんな音とともに仁が二糸式の斬糸を振るい、鬼の体を縛った。

 

「…一つ聞かせろ。お前は歪みを使う鬼を知っているか?」

 

し、しら…ない…

 

解答を聞くと、一気に引き絞って鬼を切断した。

 

「…いや~…」

 

「…どうした、楽。」

 

「なんか、仁の戦闘見るの久々じゃね?」

 

「…確かにそうだな」

 

仁がそう呟いた。

 

「なんか、見ないうちに仁の攻撃鋭くなったっつうか…なんつうか……なんつっていいかわからん。」

 

まぁ、確かに仁の動きがよくなっていることは認める。わっしゃあまり力使っとらんしな。

 

「まだ香ほどはいけてないんだがな…」

 

「香か…」

 

楽が香の方を見た。

 

「“五糸式・(さき)”」

 

ぱきん

 

香は桜色の五本の糸になった斬想鬼を自由自在に操り、五体の鬼を縛った。

 

「一つ答えて。あなたは歪みを使う鬼を知っている?」

 

しらん…

 

知るか!

 

知ら…ぬ

 

知らんな

 

「そう。」

 

香は呟いたと同時に斬想鬼を引き絞って鬼を斬った。

 

「…いや、あんなんと比べちゃダメだろ。」

 

「俺もまだ両手刀しか教えてもらってないからな…」

 

「どうかした?」

 

仁達が話しているところに香が話しかけてきた。

 

「いや、何でもない…それよりこれで終わるのか?」

 

「ん~……そうだね、終わろっか。鬼斬り様の子達が気になるし。」

 

「そうか…じゃ、帰るか。」

 

そう言って仁達は錦糸綺糸屋の方へと進路を向けた。

 

「…仁。」/「香?」

 

「ん?」/「うん?」

 

「浮気はダメだぞ?」/「浮気はダメよ?」

 

「するか馬鹿」/「しないよ?」

 

「「どうだか…」」

 

「俺、花一筋だっつの。」/「私、鈴一筋だもん。」

 

「「あんたら末永く爆発しろ。」」

 

「「断る!」」

 

やはりどこか似ている若旦那と若女将なのである。

 

 

 

───しばらく時間は経って。

 

 

 

仁達は錦糸綺糸屋の門の前に来ていた。

 

「…そういや、なんで鬼斬り様って言われてたやつらはこの錦糸綺糸屋にいたんだろうな。」

 

「…そういえば…なんでなんだろう。」

 

楽と涼が呟いた。

 

「…私たちが数日前に出会ったあの子が縛り付けられていたあの壁に描かれていたのは、確かに封印の呪式陣だった。ということはあの子は六ノ蔵に封印されてたってことなんだけど…」

 

「…けど?」

 

「…悪鬼みたいな悪い気配は感じなかったからなぁ…」

 

「…なら、起きた後に聞いてみたらどうだ」

 

「そうする…」

 

そう言って仁達は錦糸綺糸屋の敷地に入った。

 

「あ、おかえり、若旦那。…と、楽。」

 

「あ、おかえりなさい、若女将と涼。」

 

「「…」」

 

出迎えた咲と奏の姿を見て仁と香が固まった。

 

「…咲」/「奏」

 

「「うん?」」

 

「「なんでどてら?」」

 

咲と奏はその問いを向けられて目を逸らした。

 

「…はぁ。また今度選んでおけ。」

 

「奏も選んでおいてね。」

 

「「…はい。」」

 

見習い鬼導隊士達はもの凄く凹んだ様子で屋敷内へと戻っていった。

 

「…仁、私の部屋に行っておいて。先に赤い子から話を聞こう。」

 

「あぁ、分かった…」

 

仁は香の部屋の方に向かい、香は三ノ蔵に向かった。

 

「……この蔵は本当に陰気が強いね…」

 

そうねぇ…私たちは落ち着くのだけど。

 

香は三ノ蔵の錠を開け、中に入った。

 

「えっと…この辺でいっか。」

 

香が手に持っていた刀を近くに置いた。

 

「じゃ、いこっか」

 

香はそう言って三ノ蔵を後にし、自分の部屋へと向かった。

 

…そういえば、なんで自分の部屋にあの子を?

 

「だって、私あまり見られても困るようなものないし。」

 

日記はどうなのよ

 

「あれ記録付けてるだけなんだよね…」

 

香がそう答えた時、ちょうど部屋の前に着いた。

 

「仁、今大丈夫?」

 

「あぁ。」

 

返事を聞いてから香は部屋に入った。

 

「…起きてないの?」

 

「だな…」

 

仁と香がそんなことを言った直後、寝ていた少女が体を動かした。

 

「う…」

 

「あ、起きる?」

 

少女が声に反応したのか、目を開けた。

 

「ここ…は?」

 

「ここは錦糸綺糸屋…呉服屋です。」

 

「呉服…?」

 

少女が体を起こした。

 

「…藤原さん、でよろしいのでしょうか?」

 

「…何故、わたしの名前を?」

 

少女の問いに対し、香は机の上にあった木札を見せた。

 

「これ、先日あなたが私たちの前に現れた時に。」

 

「…」

 

少女は木札を手に取り、その木札を大切そうに持った。

 

「…ありがとうございます…わたしの、大切なものなんです…」

 

「いえ…改めて聞きますが、貴女のお名前は?」

 

「…わたしは…」

 

少女は木札を持ったまま正座に体勢を変えた。

 

「わたしは、“藤原妹紅(ふじわらのもこう)”…生まれたのは天武9年です。」

 

「…天武?」

 

「…はい。」

 

「嘘…」

 

「…どうした?」

 

「天武9年は西暦680年…()()()1(),()0()0()0()()()()()だよ」

 

「な…」

 

香の言葉に仁が驚いていた。

 

「…もう、それほどの月日が流れていたのですか…」

 

「…あなたは、一体?」

 

「…()()()()()です。…怪しげな力を使う忌み子とされ、この地に封じられた者…それが、わたしと地下にいた5人です。」

 

香と仁はその妹紅と名乗った少女の言葉に自身の言葉を失っていた。

 

「…不老不死となったきっかけは?」

 

「…橘」

 

「「橘?」」

 

妹紅は聞き返されたことに頷いた。

 

「正確には、“非時香菓(ときじくのかぐのこのみ)”、でしょうか。永遠の命をもたらすという、伝説の霊薬です。」

 

「…」

 

「…わたしたちが橘の実を食べた時、偶然にもそれが永遠の命をもたらすものだったそうで…以来、わたしたちの存在は本来の歴史から消え去っています。」

 

「偶然…ですか。」

 

「…はい。わたしがお父様に老いないことに気がつかれたのが持統9年です。そこからのお父様の行動は早くて…同じく不老不死者になってしまった5人の友人たちとともにこの地へと封印されました。…それが、文武4年のことです。」

 

「…香。年代分かるか?」

 

「持統9年は695年。文武4年は700年…1,000年前なことは変わりないよ。」

 

「…そうか…」

 

その後、香達が様々なことを聞いたところ、六ノ蔵にあった属性武器はいつの間にかあったものであり、妹紅の属性は火。それ以外の鬼斬りの少年少女たちの属性は少女たちの方が花と闇。少年たちの方は風、土、光とのことだった。




時間がない


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第参拾話 香の日記(手紙?)・その二

振り返り日記第二弾です。
次の本編は1915/10/18から始まります


 

 

一九一五年一〇月七日

 

 

 

仁が反射閃々の連撃派生を使えるようになりました。

 

あまり予測はしてなかったので油断していましたが、連撃派生は武器と使用者に大きく負荷をかける。未だ心意が脆い仁では連撃派生に耐えられなかったようです。

 

技が止まった後、すぐに武器が壊れてしまうと、その武器を中心として爆発を起こします。それは技に注いだ心意が行き場を失って暴発するため。

 

それを防ぐために、ソードスキルを発動しましたが…力が弱くなってる私でも相殺できてよかったです。

 

 

 

一九一五年一〇月八日

 

 

 

…仁の成長速度が速くて少々困っています。

 

反射閃々においては既に八速を自在に使えるように、さらに分割思考、及び高速処理も習得。ただし心意強度がまだ低い、心意操作精度が低いのが問題点。

 

…教えるのは難しいですね。もともと私は人にものを教えるのは苦手ですが。

 

 

 

一九一五年一〇月九日

 

 

 

……仁の反射閃々が九速にまで到達しました。仁には戦闘の素質があったのでしょうか。

 

気になることといえば、仁は今、だまりさんの力を借りて戦っているのでしょうか。

 

もしそうなら…

 

…アレを用意できるかわかりませんが、試してみる価値はあるかもしれません。

 

抜刀術を教えましたが、すぐに習得しました。…なんでよ

 

 

 

一九一五年一〇月一〇日

 

 

 

魔道具、“鬼力干渉抑制装置”。それが私が用意した道具の名前です。

 

仁に渡して使ってもらったところ、効果は普通に出たそうです。

 

…今日は実戦稽古。何事もなければよいのですが。

 

 

 

一九一五年一〇月一一日

 

 

 

昨夜の実戦稽古。

 

鬼斬り様と思われる少女と出会いました。

 

彼女が言った“たすけて”。浄化や成仏を望むわけでもないのにおかしい…そう思いました。

 

今夜は私のみでの鬼狩り。…何もないといいんだけどな…

 

 

 

一九一五年一〇月一二日

 

 

 

昨夜の鬼狩りは特に何もありませんでした。

 

あったとすれば、女の子の姿をした鬼と戦ったくらいでしょうか。

 

その時、少し疲れた状態だったので早々に終わらせようと思い、“桜花一閃・七分咲”を放ちました…が…

 

正確に首を狙うことができず、逃げられてしまいました。

 

…そういえば。

 

あの鬼の女の子、右眼に“下肆”って書いてあった気が…

 

 

 

一九一五年一〇月一三日

 

 

 

…そういえば書き忘れていたのですが、仁は火属性への適性が高いそうです。

 

私が高い属性適性を示のは花と音、そして闇…少し相性が悪いですね。

 

とはいえ、適性が低くても使えないわけではありません。属性を付与する派生と属性武器の存在を教えることにしました。

 

属性武器とはその名の通り属性を宿す武器。火・水・風・土・雷・氷・影・聖・闇・光・石・鉄・銅・銀・金・木・花・葉・虫・魚・幻・晶・想・虚・音の25種類と不変と変在、総合を加えた28種類の属性にそれぞれあるとされている武器のことです。現在は数が確認できず、14種類が存在が確認できているとのこと。

 

仁の適性は火。ですから火属性の“火炎刀”を具現化させてそれを見て具現化できるように頑張ってもらうことにしました。

 

 

 

一九一五年一〇月一四日

 

 

 

最近、鬼たちが弱くなってきた気がします。

 

鈴の話では、これまで溜まり続ける一方だった陰気が私たちが鬼を狩ることでなくなり、貯め込んだ陰気の量が少なくなっているとのこと。

 

おかげで仁の実戦稽古には最適なのですが…

 

…りんね達が文句言うので、遠くてもいいから陰気が強めの場所を探してもらいましょうかね…

 

一八日…かな。いけるとしたら。

 

 

 

一九一五年一〇月一五日

 

 

 

…仁の成長スピードで凹んでいるのです。

 

既に火炎刀の扱いはよくなっており、ソードスキル、技その他もろもろ高めの実力になってきています。

 

とはいえ心意の方が少し脆い。

 

そこの強化を重点的に鍛えてあげたいのですが…こればっかりはどうしようもありませんからね…

 

 

 

一九一五年一〇月一六日

 

 

 

今日は錦糸綺糸屋の蔵を見に行きました。

 

四ノ蔵は洋服の倉庫。…なぜこんなものがあるのでしょう。

 

五ノ蔵は術式の宝庫。これに関しては鬼に害するようなものが多く、少し悲しい気持ちになりました。

 

そして六ノ蔵。…こちらには、衝撃的なものがありました。

 

鬼斬り様と呼ばれている少女。

 

彼女が、蔵の中にいたのです。

 

壁に、固定された状態で。

 

周囲を見渡すとそこには様々な属性武器が。とりあえず、近くにあった短刀の“水流刀”を手にして固定していた楔を断ち切りました。

 

断ち切った直後、少しだけ話したのですがすぐに気を失ってしまいました。

 

 

 

一九一五年一〇月一七日

 

 

 

“鬼斬り様”の正体は不老不死の少年少女達でした。

 

1,000年以上前に忌み子としてこの麹町の地に封印された不思議な力を持つ少年少女たち。

 

彼女たちは不老不死になってからというもの、自分たちが安らかに眠れる方法を探しているとのことでした。

 

…もし、私が本当の力を使えば…

 

……彼女たちを救うことはできるでしょうか…

 




最近調子が悪いのかうまく書けません


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キャラ設定紹介(綺糸屋勢)・第二回

第二回キャラ設定、行きます。
あ、私まだ誤字修正してない…


 

 

 

呉服“綺糸屋”三代目当主の少年。13歳。通称“若旦那”。

綺糸屋事件にて唯一の生き残り。その実態はだまりが憑いたことによって死を免れたというもの。

事件当時、並びに現在はだまりが憑いている影響で朝に弱い。事件当日、綺糸屋にいた皆の仇として顔の無い鬼を追っていた。

綺糸屋事件初期よりだまりとの関係、佐吉との関係はよくなっており、内心これからのだまりとの日常を楽しみにしている模様。

長襦袢の色、下駄の鼻緒の色、鬼神族の術で作られた武器の大体の色は赤。

現在は花と交際中。

よく言うことは“俺はもう、二度と目の前で知り合いが死ぬのを見たくない”。

香に鍛錬をお願いしてからというもの、その戦闘能力をどんどん上げていき、わずか10日ほどで教えられた技“反射閃々”の派生の中で最速の“十速”を扱えるようになった。

実は仁の中にかつての綺糸屋の番頭であった正という人物の残留思念が刻み込まれており、仁の素質、仁の力を封じていた。

実戦稽古で瓦礫に体を押しつぶされた際、上記の残留思念と花の願いの二つの精神体と精神の世界の中で出会い、仁の素質である“火属性適性”、及び仁の力である“火炎放出”が解放され、火属性を扱う力を得た。ただし火炎放出に関しては練度が足りないのか自由には扱えない模様。

 

 

 

だまり

鬼喰いの鬼。年齢不詳。

影でいることよりも食べることが好き。

その正体は顔の無い鬼の中で作られた鬼の魂の寄せ集めの一部であり、佐吉によって仁にとり憑くことになった。

綺糸屋事件初期より性格は緩くなっており、仁との日常は面白かったようで、内心面白くしてもらうことを期待している模様。

 

 

 

影の鬼導師の赤髪の少年。年齢不詳。

夜行祭の日、まだら峠にて“朱い髪をふり乱し、天より襲来せし小鬼”こと“朱天童子”として人を襲っていた時に仁と出会う。

“楽”という名前の名付け親は仁で、朱天童子として人を襲うまでは賊の盗み道具にされていた。

その道具にされていた時、仕事をしくじったがために賊に痛めつけられ、腕一本を失うかというときに鬼門が現れ、賊の頭に鬼門の中へ投げ込まれ、そこからユキという幽鬼によって生還し、陰気を払われたためか普通の人に比べてずっと陰気への耐性が強い。

実は影の鬼導師一族の末裔であり、生き残り。その辺も陰気への耐性には関係しているのかもしれない。

 

 

 

元・鬼神族の娘。年齢14歳。

自信を殺害してもらうことを依頼するべく、鬼神族の掟を破り綺糸屋を訪れ、仁と出会う。

鬼神族の娘は目を閉じて産まれ、その身に何か能力を宿している。花の場合は“不老不死”で、その力を使いたくないがために上記の行動を起こす。瞼の封印を解く条件は、“誰かに恋をし、その対象に触れ、その想いが真であると認めること”。事実、仁に想いを伝えた時、その封印は解けてしまった。

白陽との決戦において、佐吉の鬼導術とだまりの合成術によって鬼の部分のみを除去。人間として生活できるようになった。

なお、現在また瞼封印状態となり、鬼と化してはいる。能力は“無限再生”。現在は何が瞼の封印を解く鍵なのかは不明。

現在は仁と交際中。

基本的に仁のことは若旦那呼びだが、ごく稀に仁のことを名前で呼ぶ。

現在はいかなる理由かは知らないが香に妖術を習っている模様。

本編にて描写はされてないが、“風”に適性がある。

 

 

 

鬼導隊見習い。年齢16歳。

鬼除けの護符を配っている最中に寝起きの仁と出会う。

2年前に兄を亡くしており、その意志を継ごうと鬼導隊へと入隊。兄の仇である顔の無い鬼を禁じられている鬼導師の方法で滅した時、Lv.5の悪鬼符を一撃で滅せる程には力が安定した。柊曰く、正しく鍛えれば兄を超える術者になるらしい。

仁とだまりのよき理解者となっている。

花とは友達。

なお、錦糸綺糸屋に来てからというもの、結界の南西要小屋にいることが多く、休憩を忘れて要小屋にいることがかなり多い。その度に香から注意されており、柊から軽い説教をもらっている。

以前に改鬼符Lv.12を間違えて使ってしまい、なかなか倒れないことに不信感を抱きながらも全力で術を使って倒れたことがある。そしてその際は彼女のことを“面倒な奴”と思っているだまりでさえも心配するという非常に珍しい光景が見られた。

 

 

 

鬼導隊元六番隊隊長。年齢41歳。

賊が都に来た際、まだ名の無かった楽を見つけた時に仁と出会った。

一度引退した身であったが、咲の兄である明の後任がいなかったため隊長に再任。使用する術具は刀。かなりの甘党。

顔の無い鬼の一件から綺糸屋事件との関連性を疑い、独自に捜査開始。東地区で三番隊と四番隊から逃げてきた仁とだまりを見つけ、協力体制を組むこととなる。

奈落にて右腕を失ったが、歪みを使う鬼により世界を飛ばされて錦糸屋勢と出会ったとき、香の術によって右腕が復元された。

ちなみに元六番隊となっている理由は綺糸屋事件解決後、鬼導隊内部での番号分けがなくなったため。

年齢のせいもあるのか、そこまで体力は多くない…というわけではなく、鍛錬中に強めの術を使うために結界の負荷が結構辛い。

 

 

 

佐吉

鬼導隊元二番隊副長。年齢不詳。

殉職したといわれていた鬼導隊二番隊の副長。しかし実際は亡くなっておらず、綺糸屋事件の起こった日から傷を癒すために隠れていた。

仁の父であり、一応綺糸屋の二代目…だと思われる。その際に名乗っていた名前は玄。影の鬼導師であるために素性を隠さなければならず、都内では様々な名を名乗っており、玄と佐吉以外にも弥太郎、勝之進、時忘など、佐吉本人が覚えてないのもあるという。本作では基本的に佐吉で統一することとする。

綺糸屋事件が起きた原因を作った本人で、だまりを仁にとり憑かせた本人でもある。

綺糸屋事件の原因は顔の無い鬼からだまりを抜き、逃げる最中に櫛を落としたというもの。この櫛は仁の母である紬の物であり、物を埋め込み、その物の持ち主の縁を手繰らせる術をかけられた顔の無い鬼は持ち主である紬のいる綺糸屋を襲った。

白陽に喰われて亡くなったはずだが、歪みを使う鬼によって綺糸屋勢が飛ばされた際、生存状態で飛ばされた模様。

 

 

 

仁の母。年齢不詳。

綺糸屋事件の際に亡くなったと思われていたが、櫛によって守られ、綺糸屋を襲った顔の無い鬼の内部で生存していた。

今回は歪みを使う鬼に連れ去らわれた。展開によっては鬼として仁達の前に現れ、敵として立ちはだかるかもしれない。

 

 

 

ユキ

都ができる前に生きていた鬼神族の娘の幽鬼。

楽の命の恩人でもあり、奈落から帰ってきた柊の怪我を治した者でもある。

白陽への怒りから現世に留まっていたが、白陽が封じられた今でも現世に留まっている。

術具を介さずに他人の回復をしていることからして恐らく能力は回復系の能力だと思われる。

 

 

 

クロ

三本の尾を持つ黒猫。名付け親は佐吉。

たまに猫の中にユキがいることがある。

 

 

 

白陽

鬼導隊一番隊隊長。しかしその実態は術師を喰らって生き延びる人とは言えないような何かであり、呪具である。

 

 




仁の力である火炎放出に関してですが、火属性の技も何も使わない状態で武器や自分の体から炎を出すことができるものです。二十五話の時に仁の刀が燃え上がった現象、あれが火炎放出です。
実際のところ、キャラ設定系に関してはもともとあった設定に追加するだけなので作成が楽です。
それでは、失礼いたします。
追記:twitter始めました。昨日報告しようと思ってたのですが書き忘れました。(報告理由は特にありません)


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キャラ設定紹介(錦糸屋勢)・第二回

錦糸屋勢の説明です。
鬼斬り様の名前が決まってないのは結構きついかな…


 

呉服“錦糸屋”三代目当主の少女。13歳。通称“若女将”。

錦糸屋事件にて唯一の生き残り。その実態はりんねが憑いたことによって死を免れたというもの。

事件当時、並びに現在はりんねが憑いている影響で朝に弱い。事件当日、錦糸屋にいた皆の仇として顔の無い鬼を追っていた。

錦糸屋事件初期よりりんねとの関係、灯純との関係はよくなっており、内心これからのりんねとの日常を楽しみにしている模様。

長襦袢の色、下駄の鼻緒の色、鬼神族の術で作られた武器の大体の色は青。

現在は鈴と交際中。

よく言うことは“私はもう、二度と目の前で知り合いが死ぬのを見たくない”。

実は元鬼導隊零番隊隊長で、滅鬼術よりは回復術に長けた術者であった。術具は石、針、数珠の三種類で、その実力は一番隊隊長の黒陰にギリギリで負ける程。

生命力が異常なほど高く、だまりがいないと生きることができない仁に対し、りんねが離れた状態でも最長1時間は傷が開かずに生存していることが可能。さらにその傷が開くのも時間がかかり、おそらく1時間30分は生存していられると思われる。

なお、仁達には何かを隠している模様?

よく日記のようなものをつけているが、手紙のようでもある。手紙の場合、“姉”という人物宛のようなのだが、詳細は不明。

様々な技を使用し、また様々な術を行使する。どこでその技を知ったのか、またどこでそんな術を知ったのかは謎に包まれている。

属性適性は花属性が一番高く、次に音属性、三番目に闇属性という構成になっている。属性は彼女の言葉では14種類の属性が存在するとのことだったが、日記によればその二倍の28種類が存在するとのこと。

 

 

 

りんね

鬼喰いの鬼。年齢不詳。

影でいることよりも食べることが好き。

その正体は顔の無い鬼の中で作られた鬼の魂の寄せ集めの一部であり、灯純によって香にとり憑くことになった。

錦糸屋事件初期より性格は緩くなっており、香との日常は面白かったようで、内心面白くしてもらうことを期待している模様。

だまりと違い、自分の意志で香から離れることはできるが、灯純にかけられた強い暗示により、長い時間離れていることはできない。

 

 

 

影の鬼導師の青髪の少女。年齢不詳。

夜行祭の日、まだら峠にて“蒼い髪をふり乱し、天より襲来せし小鬼”こと“蒼天童”として人を襲っていた時に香と出会う。

“涼”という名前の名付け親は香で、蒼天童として人を襲うまでは賊の盗み道具にされていた。

その道具にされていた時、仕事をしくじったがために賊に痛めつけられ、腕一本を失うかというときに鬼門が現れ、賊の頭に鬼門の中へ投げ込まれ、そこからツルという幽鬼によって生還し、陰気を払われたためか普通の人に比べてずっと陰気への耐性が強い。

実は影の鬼導師一族の末裔であり、生き残り。その辺も陰気への耐性には関係しているのかもしれない。

 

 

 

元・鬼神族の娘。年齢14歳。

自信を殺害してもらうことを依頼するべく、鬼神族の掟を破り錦糸屋を訪れ、香と出会う。

鬼神族の娘は目を閉じて産まれ、その身に何か能力を宿している。鈴の場合は“不老不死”で、その力を使いたくないがために上記の行動を起こす。瞼の封印を解く条件は、“誰かに恋をし、その対象に触れ、その想いが真であると認めること”。事実、香に想いを伝えた時、その封印は解けてしまった。

黒陰との決戦において、灯純の鬼導術とりんねの合成術によって鬼の部分のみを除去。人間として生活できるようになった。

なお、現在また瞼封印状態となり、鬼と化してはいる。能力は“堅牢防御”。現在は何が瞼の封印を解く鍵なのかは不明。

現在は香と交際中。

ちなみに、香に思いを伝えた際、“同じ女の人にこんな想いを持つなんて…おかしいですよね…私…”と言っており、それに対して“いいえ、恋する対象は人それぞれ!それを否定する権利は誰にもない!私は、鈴がどんな子であろうとも受け入れるよ!”と言ってたりする。

本編には描写されていないが、“水”に適性がある。

 

 

 

鬼導隊見習い。年齢16歳。

鬼除けの護符を配っている最中に寝起きの香と出会う。

2年前に姉を亡くしており、その意志を継ごうと鬼導隊へと入隊。姉の仇である顔の無い鬼を禁じられている鬼導師の方法で滅した時、Lv.5の悪鬼符を一撃で滅せる程には力が安定した。暁曰く、正しく鍛えれば姉を超える術者になるらしい。

香とりんねのよき理解者となっている。

鈴とは友達。

結界の要小屋の中では術に負荷がかかるために鬼符Lv.12を一撃できないが、要小屋の外ならば鬼符Lv.12を一撃できるだけの力はあるだろうとのこと。

なお、香の言葉によれば、“改の領域”に到達できるらしく、全力で術を使えば改鬼符を滅することができるようだ。

 

 

 

鬼導隊元六番隊隊長。年齢41歳。

賊が都に来た際、まだ名の無かった涼を見つけた時に香と出会った。

一度引退した身であったが、奏の姉である澄の後任がいなかったため隊長に再任。使用する術具は刀。かなりの甘党。

顔の無い鬼の一件から錦糸屋事件との関連性を疑い、独自に捜査開始。東地区で三番隊と四番隊から逃げてきた香とりんねを見つけ、協力体制を組むこととなる。

奈落にて左腕を失ったが、錦糸屋事件解決後、香の術によって右腕が復元された。

ちなみに元六番隊となっている理由は錦糸屋事件解決後、鬼導隊内部での番号分けがなくなったため。

柊と同じく体力は多めだが、鍛錬中に使う術が弱めのものばかりであるために柊よりも結界の負荷が辛くない。

 

 

 

灯純

鬼導隊元二番隊副長。年齢不詳。

殉職したといわれていた鬼導隊二番隊の副長。しかし実際は亡くなっておらず、錦糸屋事件の起こった日から傷を癒すために隠れていた。

香の父であり、一応錦糸屋の二代目…だと思われる。その際に名乗っていた名前は煉。影の鬼導師であるために素性を隠さなければならず、都内では様々な名を名乗っており、煉と灯純以外にも与太郎、勝之島、時眺など、灯純本人が覚えてないのもあるという。本作では基本的に灯純で統一することとする。

錦糸屋事件が起きた原因を作った本人で、りんねを香にとり憑かせた本人でもある。

錦糸屋事件の原因は顔の無い鬼からりんねを抜き、逃げる最中に櫛を落としたというもの。この櫛は香の母である結の物であり、物を埋め込み、その物の持ち主の縁を手繰らせる術をかけられた顔の無い鬼は持ち主である結のいる錦糸屋を襲った。

黒陰に喰われて亡くなったはずだが、歪みを使う鬼によって錦糸屋勢が飛ばされた際、生存状態で飛ばされた模様。

 

 

 

香の母。年齢不詳。

錦糸屋事件の際に亡くなったと思われていたが、櫛によって守られ、錦糸屋を襲った顔の無い鬼の内部で生存していた。

今回は歪みを使う鬼に連れ去らわれた。展開によっては鬼として香達の前に現れ、敵として立ちはだかるかもしれない。

 

 

 

ツル

都ができる前に生きていた鬼神族の娘の幽鬼。

涼の命の恩人でもあり、奈落から帰ってきた暁のけがを治した者でもある。

黒陰への怒りから現世に留まっていたが、黒陰が封じられた今でも現世に留まっている。

術具を介さずに他人の回復をしていることからして恐らく能力は回復系の能力だと思われる。

 

 

 

みりか

三本の尾を持つ白猫。名付け親は鈴。

たまに猫の中にツルがいることがある。

 

 

 

黒陰

鬼導隊一番隊隊長。しかしその実態は術師を喰らって生き延びる人とは言えない何かであり、呪具である。

 




昨夜、香達が使ってた技とか色々まとめようとしてたんですけど、これが多いのなんのって…
今日までに書き上げて置く予定ではありますが、もしかしたら明日までに書きあがらないかもです…


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香達が使った技について説明(22話まで)

う…微妙に時間が足りない…とりあえず22話までの技説明。次の時は統合して説明紹介入れたいです。
そんなことより、昨日は投稿できなくて申し訳ありませんでした。


 

鬼導術・安息効果加工

 

香がかなり得意とする回復加工の一種。術を物質に執行し、その物質に対して触れた、あるいはその物質を飲むなどした場合に安息効果を発揮する。

 

 

 

spell act:system.id stand up heal

 

魔法の起動式句。回復魔法を起動するという宣言。

 

 

 

鬼導術・回復術

 

香が得意とする回復術。できるのは簡単な傷の回復から陰気払いまで。魔法などと組み合わせれば失った器官、失った体の部位の復元なども可能。

 

 

 

spell act:system.id stand up hiding

 

魔法の起動式句。隠蔽魔法を起動するという宣言。

 

 

 

多層防御壁展開魔法

 

防御魔法。1枚ではなく何枚もの壁を重ねて張ることで防御力を高める魔法。

 

 

 

破損時高速自動修復魔法

 

回復魔法の一種にあたる。破損を感知するとその破損を早い速度で修復する魔法。

 

 

 

移動速度上昇

 

自身の移動速度を上げる。

 

 

 

二糸式・凍

 

斬想鬼、及び斬糸の形態変化。通常の糸二本に氷属性を持たせたもの。糸に触れた場所から凍結が始まる。

 

 

 

剣式・両手刀・桜花・贋作

 

斬想鬼、及び斬糸の形態変化。剣の形を持たせ、さらにそれを両手で持つことを前提とした刀の形を取らせる、花属性を宿す桜花刀を具現化する形態。贋作であるためその力は弱い。

 

 

 

湾曲振・硝子

 

屈折ノ式。光線などを屈折させて逸らすことを目的とした技。逸らすことができるのは光線だけではない。

 

 

 

桜散春夜

 

神速の抜刀術。春の夜に桜が散るという速さを現した一撃。

 

 

 

千本桜・巫剣

 

本来、一千もの斬撃の威力をたった一撃に圧縮した技。生半可な防御力ではこの一撃だけで破られる。

 

 

 

浄刻ノ桜

 

横一線、縦一閃して魂を浄化する桜の技。死者の魂の浄化を願い、十字の攻撃を放つ儀式用の技ともいえる。

 

 

 

桜花獄殺

 

体の部分を滅多切りにしてから首を切り落とす、痛みを与えるための技。

 

 

 

鬼殺の桜

 

鬼を殺す桜の技。武器から桜の木を生やし、相手を桜の木に磔にするという処刑用と言ってもいい技。

 

 

 

封印術

 

魂を何かに封印しておくことができる術。

 

 

 

屋敷の結界

 

現在詳細不明。六か所の要によって成立し、管理必須の要と管理不要の要の二種類に分けられる。

 

 

 

鬼導術・鬼像動作

 

鍛錬用の鬼の像に鬼の力を持たせる術。

 

 

 

鬼導術・滅鬼術

 

鬼を滅する鬼導術。滅するというが実は鬼の中に魂を封じる術。

 

 

 

鬼導術・結界動力手動譲渡

 

結界のエネルギーを術者側から与える術。

 

 

 

spell act:system.id stand up memorial read

 

魔法の起動式句。記録を読む魔法を起動するという宣言。

 

 

 

鬼導術・結界手動起動

 

結界を手動で起動する術。

 

 

 

跳躍力上昇

 

自身の跳躍力を上げる。

 

 

 

剣式・片手刀・桜花・贋作

 

斬想鬼、及び斬糸の形態変化。剣の形を持たせ、さらにそれを片手で持つことを前提とした刀の形を取らせる、花属性を宿す桜花刀を具現化する形態。贋作であるためその力は弱い。

 

 

 

剣式・片手刀・桜花・贋作・二刀

 

斬想鬼、及び斬糸の形態変化。剣の形を持たせ、さらにそれを片手で持つことを前提とした刀の形を取らせる、花属性を宿す桜花刀を同時に二本具現化する形態。贋作であるためその力は弱い。

 

 

 

剣式・片手刀・桜花・贋作・六刀

 

斬想鬼、及び斬糸の形態変化。剣の形を持たせ、さらにそれを片手で持つことを前提とした刀の形を取らせる、花属性を宿す桜花刀を同時に六本具現化する形態。贋作であるためその力は弱い。なお、三本目以上の刀は使い手の周囲を浮遊する。

 

 

 

千本桜・翔羽片

 

本来、一千もの刺突を更に多くし、技の影響範囲を広げた技。巫剣とは真逆で刺突の量を多くした影響で力がうまく入らず、一撃の威力が弱まる。

 

 

 

剣式・両手刀・変在・贋作

 

斬想鬼、及び斬糸の形態変化。剣の形を持たせ、さらにそれを両手で持つことを前提とした刀の形を取らせる、変幻自在属性を宿す変在刀を具現化する形態。贋作であるためその力は弱い。なお、本来の刀身が通常の刀と同じ銀色であるため、変幻自在属性の対極である変化不能属性の不変刀と共に“通常刀”と呼ばれることが多い。

 

 

 

透過・影縫翔刃

 

神速を超える超神速の抜刀術。さらに透過も組み合わせて強く集中していなければ見えない一撃を生み出す。正式名称は“かげぬいかけしやいば”だが、“えいほうしょうじん”と呼ばれることもしばしば。

 

 

 

桜神の型・桜花一閃

 

数ある桜花一閃の中で最初に生まれ、香が使う全ての桜花一閃の基礎となった技。

 

 

 

桜花気刃斬

 

モンスターハンターシリーズ(細かく言えばモンスターハンタークロス、及びモンスターハンターダブルクロス)より。一度後ろに退いてから前方へと斬り抜け、少し経った後に斬りつけた部位に追撃が入る太刀の狩技。

 

 

 

怨念刃

 

現在詳細不明。

 

 

 

顕現・燼滅刃

 

属性を極め抜いたその先に存在する“魔刃”と呼ばれるものの一つ、火属性の魔刃“燼滅刃”を顕現させることを言う。元ネタはモンスターハンターシリーズに登場する“燼滅刃ディノバルド”。なお、魔刃は例え矢や槌などであっても魔刃と呼ぶ。

 

 

 

獄炎焼尽閃

 

火属性の技の一つであるが、その火力が普通ではない。焼尽の名の通り焼き尽くす程の火力を持ち、かなり高位の火属性の使い手が使った燼滅刃と組み合わせると文字通り触れた物を塵も残さずに焼き尽くす程の熱を発生させられる。

 

 

 

転移

 

ソードアート・オンラインより。転移結晶による転移。当然だが鬼滅の刃の世界に転移門などは存在しないが、如何なる理由によってか転移結晶が動作する模様。

 

 

 

二糸式

 

斬糸、及び斬想鬼の基本形態。香の評価では“範囲が狭い、微妙に扱いにくい”。

 

 

 

網式

 

斬糸、及び斬想鬼の形態変化。二本の糸ではなく、複数の糸が紡がれた網の形を持った形態。香の評価は“範囲は広いが二氏式よりも扱いにくい”。

 

 

 

二糸牙式

 

斬糸、及び斬想鬼の形態変化。二糸式からの派生で、糸が牙のようになる。現在使用不可。

 

 

 

穿式

 

斬糸、及び斬想鬼の形態変化。詳細は不明。現在使用不可。

 

 

 

一糸式

 

斬糸、及び斬想鬼の形態変化。二本の糸から糸の数を一本減らし、精密な操作がしやすくなった形態。香の評価は“扱いやすいが手数が少ない”。

 

 

 

剣式・両手刀・不変・贋作

 

斬想鬼、及び斬糸の形態変化。剣の形を持たせ、さらにそれを両手で持つことを前提とした刀の形を取らせる、変化不能属性を宿す不変刀を具現化する形態。贋作であるためその力は弱い。なお、本来の刀身が通常の刀と同じ銀色であるため、変化不能属性の対極である変幻自在属性の変在刀と共に“通常刀”と呼ばれることが多い。恐らく武器式の基本の形態はこの変化不能属性だと思われる。

 

 

 

剣式・短剣・不変・木刀・二刀

 

斬想鬼、及び斬糸の形態変化。剣の形を持たせ、さらに短剣の形を取らせる、変化不能属性を宿す不変短剣を同時に二本具現化する形態。練習用の木製武器であるため、基本的に切断属性は持たない。

 

 

 

天翔空破断

 

モンスターハンターシリーズより。突進後、段差によって跳躍したまま縦回転切りを行い、回転切りが当たった時にもう一度跳躍して落下からの叩き付けを行う双剣の狩技。香が行ったのは跳躍中にこの技を発動させ、回転切りの部分を刃を踏む動作に割り当て、跳躍した後に最後の叩き付けを行う方法。

 

 

 

桜花一閃・満開

 

数多くある桜花一閃のなかでも最大の威力を持つ技。

 

 

 

ヴォーパル・ストライク

 

ソードアート・オンラインより。重い突進を放つ片手剣カテゴリ三連撃ソードスキル。

 

 

 

落音一閃

 

音速を超える速さによって、音が鳴るよりも早く武器を振るう技。

 

 

 

反射閃々・純正○速

 

一撃の後にそれの軌跡を遡るようにもう一撃を放つ技。○の部分にはそれぞれ速度が入り、一速から十速が存在する。

 

 

 

反射抜閃・純正○速

 

抜刀からの一撃に加え、その軌跡を遡るようにもう一撃を放つ技。○の部分にはそれぞれ速度が入り、一速から十速が存在する。

 

 

 

バーチカル・アーク ver.sonic

 

ソードアート・オンラインに存在する片手剣カテゴリ二連撃ソードスキル“バーチカル・アーク”の速度を音速レベルにまで速くしたもの。

 

 

 

心意被覆耐久力強化

 

心意の膜によって耐久力を上げる。

 

 

 

剣式・両手刀・不変・木刀

 

斬想鬼、及び斬糸の形態変化。剣の形を持たせ、さらにそれを両手で持つことを前提とした刀の形を取らせる、変化不能属性を宿す不変刀を具現化する形態。練習用の木製武器であるため、基本的に切断属性は持たない。

 

 

 

心意硬度強化

 

心意によって硬度を上げる。

 

 

 

心意加速強化

 

心意によって行動を加速させる。

 

 

 

反射閃々・純正○速・△連

 

反射閃々を複数回続けて放つ技。○にはその時の速度、△には続ける回数が入る。

 

 

 

斬撃属性付与

 

本来斬撃属性を持たないものに斬撃属性を付与するもの。

 

 

 

斬撃属性強化

 

斬撃属性を強化するもの。それがもともと存在した斬撃属性であるか後から付与された斬撃属性であるかは関係ない。

 

 

 

重音抜穿・○連

 

音を重ねられる速さの抜刀突き。○の中にはその回数が入る。

 

 

 

 




う~…実際自分でも忘れてるもの多い…


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色々な設定をまとめて紹介します

なんか…うまくいかなくて…書いてなかった設定を一纏めにして公開します。
次の話は原作に入りますけど……


設定未公開技

 

spell act:system.id stand up search

 

魔法の起動式句。索敵魔法を使用するという宣言。

 

 

 

spell act:system.id stand up fly

 

魔法の起動式句。飛翔魔法を起動するという宣言。

 

 

 

spell act:system.id downward gravity interference rate ○

 

魔法の起動式句。下方向への重力干渉率を○の割合にする魔法を使うという宣言。○にはその数値が入る。

 

 

 

spell act:system.id stand up additional gravity reduction ○%

 

魔法の起動式句。付加重力を○%に軽減する魔法を使用するという宣言。

 

 

 

剣式・太刀・変在・贋作

 

斬想鬼、及び斬糸の形態変化。剣の形を持たせ、さらにそれを両手で持つことを前提とした大きな刀の形を取らせる、変幻自在属性を宿す変在刀を具現化する形態。贋作であるためその力は弱い。

 

 

 

純正抜閃

 

抜刀術。前方向に切り裂く。

 

 

 

純正抜翔

 

抜刀術の一種で、振り抜くと同時に翔け抜ける。

 

 

 

反射閃々・純正変速・○連

 

使用者の意志によって反射閃々の速度を変えながら連続で打ち込む技。

 

 

 

爆穿

 

穿つと同時に武器を爆発させる技。

 

 

 

再具現化

 

同じ武器を元の状態で再度具現化する。

 

 

 

重音一閃

 

音が重なる速さの一閃。実際は連続させなければ意味はない。

 

 

 

反射閃々・火炎○速

 

反射閃々に火属性を付与した技。○のところには速度が入る。

 

 

 

浄火一閃・火炎

 

火属性の浄化技の一つ。

 

 

 

スピニング・シールド

 

ソードアート・オンラインより。防御系ソードスキル。

 

 

 

レイバースト・エクスキューション

 

香が編み出したOSS。一応二刀流用で、四十四連撃。

 

 

 

浄花一閃・泣桜

 

花属性の浄化技の一つ。

 

 

 

火炎抜閃

 

火属性の抜刀術。

 

 

 

桜花抜閃

 

花属性の抜刀術。

 

 

 

反射閃々・桜花○速・前進△連

 

反射閃々に花属性を付与したものを、前進しながら放つ技。○には速度が入り、△には回数が入る。

 

 

 

バーチカル

 

ソードアート・オンラインより。片手剣カテゴリ単発ソードスキル。縦方向の斬撃。

 

 

 

ホリゾンタル

 

ソードアート・オンラインより。片手剣カテゴリ単発ソードスキル。横方向の斬撃。

 

 

 

火炎一閃

 

全ての火炎一閃の基礎となる技。

 

 

 

火炎一閃・焼尽

 

火炎一閃の火力を焼き尽くすことができるほどまでに上げた技。

 

 

 

桜花一閃・三分咲

 

桜花一閃の中でも弱めの威力の技。花の量は少なめ

 

 

爆刀・散開

 

刀を爆発させてその力で破片を周囲に飛ばす技。

 

 

 

散刀・護法

 

刀の砕け散らせ、その破片を操作し守りの盾とする技。

 

 

 

ブレイクインパクト

 

叩き付けとともに“崩壊せよ”という心意を対象に叩き込む技。

 

 

 

重鳴閃々・○連

 

重音一閃の派生。鳴音が一度しかしないほどの速さの攻撃。

 

 

 

五糸式・咲

 

斬想鬼、及び斬糸の形態変化。五本にした糸に花属性を持たせたもの。糸に触れた場所から花の香りが広がる。

 

 

 

鬼勢

 

名:怒空

性別:男性

概要:最初に香を襲った空間を操る鬼の兄の方。気が荒い。“鬼殺の桜”によって絶命した。

容姿:20歳男性、和服

血鬼術

 

空間閉鎖

 

外界と空間の接続を遮断する血鬼術。術師本人が解除するか撃破されるかしない限り遮断が解除されることはない。

 

 

空間裂塵砲

 

空間を切り裂きながら相手を塵に還さんとする威力を持つ砲撃を放つ血鬼術。

 

 

空亜

性別:女性

概要:最初に香を襲った空間を操る鬼の妹の方。落ち着いている。“浄刻の桜”によって絶命した。

容姿:14歳女性、和服

血鬼術

 

空間設置

 

空間に透明な何かを設置する血鬼術。その設置物は様々。

 

 

空間跳躍砲撃

 

空間を越えることすらできる砲撃を放つ血鬼術。練度が低かったため直線砲撃しか撃てなかった。

 

 

影縫い

 

相手の動きを止める血鬼術。練度は高かったが簡単に破られた。

 

名:明里

性別:女性

概要:気がつかれないうちに仁と香を空間内に閉じ込めた鬼達の妹の方。性格悪い、あまり先を考えない。ブラコン。“浄花一閃・泣桜”によって絶命した。

容姿:16歳の女性、洋服

血鬼術

 

空間閉鎖

 

外界と空間の接続を遮断する血鬼術。術師本人が解除するか撃破されるかしない限り遮断が解除されることはない。

 

 

歪空絞殺

 

空間を歪ませ、その歪みによって絞め殺すことを目的とした血鬼術。発動時期、発動場所は使用者が指定可能。

 

 

激劣水

 

触れた物を劣化、融解、その他諸々起こせる水を吐き出す血鬼術。人体が触れれば溶け、金属が触れれば錆びる。

 

 

名:勅次

性別:男性

概要:気がつかれないうちに仁と香を空間内に閉じ込めた鬼達の兄の方。性格悪い、調子に乗りすぎて妹の明里に助けられることが多い。シスコン、ロリコン。“浄火一閃・火炎”によって絶命した。

容姿:19歳の男性、洋服

血鬼術

 

遠視

 

遠いところに視界を飛ばして相手の場所を察知できる血鬼術。

 

 

鬼斬り様勢

 

名:藤原妹紅

性別:女性

概要:元ネタは東方プロジェクトより。採用されたのは少女妹紅。性格は控えめ。夢と無意識を操る力を持つ。

容姿:肉体年齢13歳女性、白いシャツに赤いスカート。

最適属性:火

 

 

名:美月

性別:女性

概要:昔話に出てくる鬼斬り様ご本人。性格は控えめ。少し先の未来を知る力を持つ。

容姿:肉体年齢13歳女性、桜色の着物。

最適属性:闇

 

 

名:流華

性別:女性

概要:上弦の弐から胡蝶カナエを救った張本人。性格は緩め。花と心を通わす力を持つ。

容姿:肉体年齢11歳女性、水色の着物。

最適属性:花

 

 

名:風兎

性別:男性

概要:高い音域を持つ女装少年。性格は慎重。霊体と心を通わす力を持つ。

容姿:肉体年齢12歳男性、黄色のワンピース。

最適属性:風

 

 

名:大地

性別:男性

概要:低い音域をもつ少年。何気に風兎に惚れている。性格は雑。霊体を作り出す力をもつ。

容姿:肉体年齢12歳男性、緑色のシャツに紺色のズボン。

最適属性:土

 

 

名:日向

性別:男性

概要:広い音域をもつ女装少年。最年少だが男性陣のまとめ役。性格は冷静。時間を知る力を持つ。

容姿:肉体年齢10歳男性、紫のシャツに橙色のスカート。

最適属性:光




なんか所々間違えた気がする…
それと、もしかしたら次の話の投稿が遅れるかもです。今回は割と真面目に私の体力とかが問題なんですけど…かなり長い期間空いてしまったらごめんなさい…別の作品を投稿してるかもしれないので良ければどうぞ。


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第参拾壱話 鬼斬り様の能力

大変遅くなりましたぁぁぁぁぁ!!本当に申し訳ありませんっ!!
…と、いうことで三十一話です。実際、約2週間ぶりの投稿でしょうか。
今後も遅くなると思いますがしばらくお待ちください…申し訳ありません。


「ママー!」

 

白く長い髪を持つ女の子が同じく白い髪を持つ女性に抱き着いた。

 

「うん?───。どうしたの?」

 

「えへへ、なんでもなーい!」

 

「…そっか。」

 

女性はそう呟いてから壁にかかっている時計を見た。時刻は06:25を指していた。

 

「…───、今日って学校だっけ?」

 

「え?うん。」

 

「部活は?」

 

「あるけど…」

 

「…もうそろそろ家を出ないと時間危ないんじゃない?」

 

女性にそう言われた女の子は時計を見た。

 

「…あっ!?ほ、ほんとだ!」

 

女の子はそう言って女性から離れて家の奥の方へといった。

 

「急ぎすぎて足をs……」

 

「きゃぁぁぁぁぁ!」

 

「……遅かったみたいだね」

 

女性はため息をつくと悲鳴のした方向へと足を向けた。

 

「…あ、これ地下室まで落ちたの?」

 

一階の階段の一番下の段より下にも段はある。それは地下室へと通じる階段。しかしその階段は途中で途切れている。

 

「地下室…ま、いっか。───!聞こえるー!?」

 

「何ー!」

 

小さくではあるが女の子の声が聞こえた。

 

「そっち行くからクッションから降りてじっとしててー!」

 

「うん!」

 

返答が聞こえたかと思うと女性は近くにあった縄を地下室の門に投げ入れ、慣れた様子で一階の床と縄を固定した。

 

「よっ」

 

そんな声とともに女性は地下室の門の中に自身の身を投げた。

 

「さてと、どこまで落ちたかな」

 

声が届いたということはそこまで深くはないはずである。

 

「…っと、クッション見えた。」

 

そう呟いて女性は空中で姿勢を変えた。

 

「Angel Fly」

 

女性がそう呟くと、()()()()()()()()()()()()()()

 

「あ、ママー!」

 

見上げていた女の子が女性の姿を見てそう叫んだ。

 

「もう、危ないでしょ?いつも言ってるのに、階段は走ったら危ないって。」

 

「はぁい…」

 

「んと…ここは四階層か。」

 

女性は周囲を見渡してそう呟いた。

 

「ママ…?」

 

「magic clear」

 

女性がそう呟くと白い翼が消えた。

 

「spell act:system.id stand up teleport floor 2」

 

女性は香が使ってたような式句と同じものを唱え、少女とともに家の二階へと転移した。

 

「ほら、準備してきなさいな。」

 

「はぁい」

 

少女が部屋に入ったのを見届けると、女性は一階へと降りた。

 

「…結構派手に壊したね~…」

 

女性はそう呟き、割れている床に手をかざした。

 

「既存情報照合…既存情報との相違点を修復。…開始」

 

女性がそう唱えると、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…これで良しっと。」

 

そう呟いた時には床は完全に直っており、階段の方から降りる音がした。

 

「準備できた?───。」

 

「うん!」

 

少女と女性が話していると、階段からもう一人おりてくる音が聞こえた。

 

「───?います?」

 

「?あ、パパー!」

 

降りてきたのは銀色の髪を持つ女性だった。

 

「あ、いましたね。これ、必要じゃないんです?部活じゃありませんでしたっけ?」

 

そう言って銀髪の女性が見せたのは和弓と矢、そして竹刀だった。

 

「…あっ!忘れてた!」

 

「もう、危ないですよ?」

 

「はぁい…」

 

銀髪の女性は持っていた竹刀と弓矢を渡した。

 

「じゃあ、いってきまーす!」

 

「気を付けてねー?」

 

「はーい!」

 

少女は家を出ると、一瞬で見えなくなった。

 

「……あの子、大きくなったよね。」

 

「…えぇ、そうですね。もう、17歳ですから。」

 

「…もう、そんなに経つんだっけ。」

 

「えぇ…時の流れは早いですね…」

 

銀髪の女性が白髪の女性を見つめた。

 

「…貴女と出会って、もう、20年以上経つんですよ、()。」

 

「……その呼び名、久しぶりに聞いたかな。でも…」

 

香と呼ばれた女性は自分より背の高い銀髪の女性を軽く見上げた。

 

「そっか。()()()()()()()()()()()()2()0()()()()()()()()()()。」

 

爆弾発言である。

 

「そうですよ。忘れちゃったんですか?若女将。」

 

「…その呼び名も久しぶりだね。…仁達はどうしてるかな…」

 

「気になりますか?」

 

「一応同じ店舗経営したからね。」

 

「…そうですね。」

 

この2人、なんと香と鈴らしい。しかし、鈴はもともと銀髪だったが香が白髪とは一体…?

 

「…元気にやっていますかね、仁さん達ご夫妻は…」

 

「ん~…どうだろうね。私も最近あっちに行ってないからわかんないね…」

 

「そうですか…」

 

その言葉の後、少しの間沈黙が降りた。

 

「…若女将。久しぶりに仁さん達の方に行ってみませんか?」

 

「え?…まぁ、いいけど…」

 

香は家の中の階段の方を見た。

 

「…まぁ、多分動くかな?そんなにあの装置脆くないし。」

 

「じゃあ行きましょう?今日は私お休みなんです。」

 

「…ん、じゃあ行こうか。」

 

「はい!」

 

「転移門起動!転移、地下10階・転送ポータル区域(エリア)!」

 

香が鈴と手を繋いだまま叫ぶと、鈴と香を青い光が包み込んだ。

 

少しすると香と鈴のいる場所が様々な機械が置いてある場所になっていた。

 

「…んと…」

 

香が機械に近づき、何か操作をすると、ブゥゥゥン…という音がした。

 

「…ん、動いた。さ、行こ?───。」

 

「…はい、───!」

 

2人が機械の中に入ると、青い光に包まれてどこかへ運ばれていった。

 

その青い光の中で、2人の顔が近づいていき───

 

 

───と、そこで世界が割れた。

 

 

割れた後、そこには布団の上で起き上がった状態の黒い髪の香がいた。

 

「……」

 

…どうしたのよ…

 

「りんね、ちょっと離れてて」

 

え?え、えぇ…

 

りんねが離れたのを確認すると、地面に手をかざした。

 

spell act:system.id stand up silent area.

 

かなりの小声で呟くと、香を中心に何か球体のものが張られた。

 

「…」

 

香は大きく息を吸った。

 

なんていう夢なのよっ!!!!

 

そう、かなりの大声で叫んだ。

 

「…はぁ。spell act:system.id stand up silent area delete.

 

香が唱えると、先程の球体のようなものが消えた。

 

「はぁ…」

 

なんか、お疲れのようね?

 

「…あ、ごめんね。また心配させちゃった?」

 

いえ、別に?まだ心配するほどのレベルではないわよ?

 

「そっか。」

 

香がそう呟くと、香の部屋の襖を叩く音がした。

 

「は~い?」

 

「すみません、香さん…わたしです、妹紅です…美月もいます。」

 

「妹紅さんと美月さん…?どうぞ~」

 

香がそう言うと襖をあけて妹紅と美月が入ってきた。

 

「どうかしました?」

 

「…香さん」

 

「?」

 

「本日はよい夢を見られましたか?」

 

「…え?」

 

香は妹紅の言葉に正確な返答を返さなかった。

 

「…どうして、妹紅さんが私が夢を見たということを知っているんですか?」

 

香が妹紅に問う。確かに考えてみればおかしい。夢というのはその当事者しか知らないようなものだ。夢の共有、なんて力があれば別だが。

 

「…昨晩。いえ、本日の明朝でしょうか。わたしと美月は自分達の力を組み合わせて香さんにその能力を使いました。」

 

「…」

 

「わたしの能力は夢と無意識を操る能力です。そして美月の能力は…」

 

「…少し先の未来を知る能力…つまりは現在から短期間までの未来予知です。」

 

「この二つの能力を組み合わせると…どうなると思いますか?」

 

「未来予知と夢……まさか、“予知夢”…ですか?」

 

香がそう呟くと、妹紅と美月が頷いた。

 

「その通りです、香さん…」

 

「…未来予知はその人の素質によってさらに精度が上がる可能性があります…私は精度は高めとはいえ短期間しかできませんが…もしも、香さんに未来予知の素質があるのなら……」

 

美月はそこで一度言葉を切った。

 

「………恐らく、私が予知できるよりもさらに長い期間の未来予知ができるでしょう。」

 

「…お聞きしますが、美月さんの予知期間は?」

 

香が美月に予知期間を聞いた。

 

「…時間が現在よりも離れる程精度が落ちますが…最大で1ヵ月、かなりの高精度で見ることができるのは1週間です。」

 

「高精度1週間…最長1ヵ月…」

 

香はその時先程の夢を思い出していた。

 

(…確か、2()0()()って言っていたはず。有効予知射程と合わない。…予知……時間、か。)

 

「あの…?」

 

遠慮がちに美月が話しかけてきた。

 

「…あ、ごめんなさい。そういえば、妹紅さんと美月さん以外はどんな能力を持っているのですか?」

 

「流華は花と心を通わせる能力を持っています。探査系には結構役立ったりしますね。風兎は霊体と心を通わせる能力です。」

 

「……大地は、霊体を作り出す能力を持っています。妹紅含め私達が封印されていても外で鬼を狩るという行動ができたのは彼のおかげです。最後に日向は時間を知る能力を持っています。私の能力と組み合わせてそれがいつ起こり得ることなのかを知ることができます。」

 

「…なるほど。すごいですね。」

 

「ありがとうございます…」

 

「…さて、お昼ご飯、食べに行きましょうか。そろそろみんな起きている頃でしょう。」

 

香はそう言って部屋の外へと出た。

 

 

 

───夕方

 

 

 

香と仁は自分の刀を振るい、戦っていた。

 

「…技の精度、心意強度、心意精度。どれを見ても申し分ない。…シュッ!」

 

香が刀の速度を上げ、仁の刀の腹に当てた。その衝撃で仁の刀は折れた。

 

「っ…再具現化!」

 

一瞬のうちに納刀し、叫んだ後に抜刀して香の次の攻撃を防いだ。

 

「まだ本気は出せていないとはいえ多少早い私の動きを防げるほどの心意構築速度。一瞬の判断力も速い……融合状態第二段階行ったらどこまで化けるんだろう。」

 

「全部聞こえてるぞ…!っていうかまだ本気じゃないのか…っ!」

 

()()仁に本気は出せないよ…本気を出したらそれこそ一瞬で終わる。」

 

「いつか絶対に出させてやる……!!」

 

「頑張って。仁ならいつかできるよ。」

 

「お~い、仁、香!」

 

戦闘の中、そんな会話を交わす2人に声がかかった。その声に仁と香の動きが止まった。

 

「どうした、楽」

 

「花と鈴が鬼の反応を見つけたってよ!」

 

「そうか…よかった」

 

「さ、行こうか。」

 

香の言葉で香達は花達のいる台所の方へと向かった。

 

「鈴、見つかったの?」

 

台所に着いた香は地図を覗き込んでいた鈴に声をかけた。

 

「はい若女将。いくつか悪鬼と…よくわからないものが集まっているような反応が…」

 

「よく分からないもの?それは何だ?花。」

 

「恐らくは例の人が鬼と化したものかと……」

 

「人が鬼になる、か…」

 

本当にそんなものがいるのか?花よ。

 

「だまり殿…私もよくはわかりませんが…」

 

「…“那田蜘蛛山”、か。聞いたことない名前だね。」

 

香が地図を覗き込み、呪具が円を描いている場所の地名を読んだ。

 

「…蜘蛛、か…」

 

「…どうした、香。顔色が悪いぞ。」

 

仁の言う通り、香の顔色が少し悪かった。

 

「あぁ…そういえば、若女将は虫が大の苦手でしたね。」

 

鈴の言葉に香が頷いた。

 

「…どうする、行くのやめるか?」

 

「…ううん、行くよ。一応仁の師匠なわけだし。一応虫を見ても強く意識を保っておけば何とかなるから。」

 

「そうか…」

 

その会話を聞いていた花と鈴は地図の近くに鬼門を生成した。

 

「若旦那。香さん。この鬼門はその那田蜘蛛山の近くに繋がっています。」

 

「行くならば気を付けてください…」

 

「…あぁ。」

 

「うん、わかってるよ。…あ、そうだ」

 

香が何かを思い出したように着物の袖部分を探った。

 

「…あったあった、これこれ。」

 

取り出したのは紐のついた4つの石だった。石の色はそれぞれ異なっている。

 

「はい、これは仁に。で、これが花さんでこれが鈴。」

 

そう言って仁に赤色の石、花に緑色の石、鈴に青色の石を渡した。香の手元には桜色の石が残っている。

 

「これは?」

 

「お守り。3人とも首からかけておいて?そうじゃないと効果は発揮しないから。」

 

香に言われた通り3人が紐を首にかけた。

 

「…ん、じゃ、行こうか、仁。」

 

「あぁ。」

 

「…あっ!」

 

突然、食堂の中にいた美月が声を上げた。

 

「どうかしました?美月さん。」

 

「…香さん、仁さん。…気を付けてください。何か、良くないことが起こるような…そんな未来を予知しました。」

 

「良くないこと?」

 

「…いきなり来て、びっくりしたのであまり見えてないんです…ごめんなさい。でも、気を付けてください。」

 

「…分かった。」

 

そう言って香と仁は鬼門をくぐった。

 

 

 




はい、ということで次回からは那田蜘蛛山戦になる予定です。当然ですが鬼殺隊と仁・だまりペア、香・りんねペアは別行動です。
あ、ところで。那田蜘蛛山戦が終わって、柱合会議(裁判)、能力回復訓練があるじゃないですか。その柱合会議終了を投稿するまでで少しアンケートを取りたいと思います。議題は“香の秘密を話す時期”、です。無惨様討伐までには秘密を話させるつもりなのですが、それをいつにするか定まっていないんですね。ですのでそれを読者さんたちに決めてもらおうかと…人任せですがよろしくお願いします。


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第参拾弐話 玉藻の夢、妹紅の夢

…原作行きたかったんですけど、急遽書いてないこと思い出しまして。それで予定を変更してこの話にしました。



 

夜、どこかの屋敷の門の前。

 

そこで、玉藻、仁、香の三人が立っていた。

 

仁と香の側にはだまりとりんねが浮いている。

 

「…これ、研いできたものです。」

 

玉藻が仁と香に鞘に入っている刀を渡した。

 

香が刀を抜くと、()()()()()が現れた。

 

「…やはり、()()()()()()()()()()いい輝きを放ちますね。」

 

「いえ、自分もまだまだですよ…」

 

「そうか?俺の刀もいい感じなんだが…」

 

そう言って仁が刀を抜き、軽く振った。

 

「お二人の刀はそもそも研磨をほとんど必要としないものなんですけどね…」

 

「それでも、私はこの子を大切してあげたいですから。たまに研磨に預けておきたいんです。」

 

「…そうですか。」

 

仁と香が同時に刀を鞘に納めた。

 

これでまた戦えるわね、─。

 

「うん、───。」

 

─よ、試し斬りはせんのか?

 

「そうだな…─、戻ってきた直後だが頼めるか?」

 

「ん、いいよ?」

 

香と仁は同時に虹色の刀身の刀を抜いて構えた。そしてなぜか、香達の名前が聞こえない。

 

「…あ、玉藻さん。これ持っててくれます?」

 

そう言って香が渡したのは背中に背負っていた斬想鬼だった。

 

「あ、なら俺も頼む」

 

仁も斬糸を渡した。

 

「あ、はい…お気をつけて。」

 

玉藻が受け取ると、香が小さく詠唱した。

 

げっげっげ、─も好きだな。模擬戦が。

 

ふふっ、好きなのは─の方だと思うわよ?

 

「あの…───さん、───さん…─さんと─さんっていつもあんな感じなんですか?」

 

玉藻がだまりとりんねに聞いた。

 

えぇ、いつもあんな感じよ?

 

───となる前は─────の屋敷でほぼ毎日模擬戦しておったぞ。…─が強くなりたいと望んだ時からだが。

 

「それは…いつから…?」

 

忘れたわ。大体2ヵ月くらい前かもしれないけれど。

 

そんな話をしている間、香と仁は間合いを測っていた。

 

「…“桜花一閃”」

 

「“火炎一閃”」

 

一瞬で、2人の剣士がぶつかった。

 

 

…と、同時に世界が割れた。

 

 

ここは刀鍛冶の里。

 

玉藻が布団から起き上がっていた。

 

「……今の夢は…」

 

「…ん?どうしたん、玉藻?」

 

側で寝ていた鉄珍が起き上がった。

 

「……鉄珍さん」

 

「ん?」

 

「黒い服に背中に“滅”の文字がある人って…ご存じですか?」

 

「背中に滅の文字…?そら鬼殺隊の隊服やないか。」

 

「鬼殺隊…」

 

玉藻が視線を落とした。

 

「んで鬼殺隊がどうしたんや?」

 

「…あの、虹色の刀って…ご存じですか?」

 

「虹色…やと?」

 

怪訝そうな顔をして呟いた。

 

「……まさか…」

 

「まさか?」

 

「……いや、何でもない。それでその虹色の刀がどうした?」

 

「…夢で見たんです。僕と、虹色の刀を持つ2人の剣士が戦う光景を。」

 

「…どんな奴らやった?」

 

「…1人は黒い髪で黒い服の下に赤い…襦袢?が見えてました。で、声からして男の子です。」

 

「…もう一人は?」

 

「もう一人も黒い髪なんですけど…長い髪で、黒い服の下に青い襦袢で…声からして女の子です。」

 

「女子やて!?」

 

「ひぅっ!?」

 

突如詰め寄った鉄珍にびっくりして玉藻が後ずさった。

 

「す、すまん…それであと何かわかることはあるか?」

 

「…確か、女の子は虹色の刀を見て“玉藻さんの鍛えた刀”、って言っていた気がします」

 

「玉藻のか…」

 

鉄珍は少し残念そうな声を出した。

 

「それで他に気がついたことは?」

 

「…彼と彼女の近くに、牙の生えた…ゴムまりのようなものが…」

 

「牙の生えた…ゴムまり?」

 

「え、えぇ…意思もあって、僕と会話できました。」

 

「…」

 

鉄珍は少し考えてから机の方へと向かい、紙と筆をとった。

 

「………他には何かあるか?」

 

鉄珍は聞いたことを書き記してから玉藻に聞いた。

 

「…あとは、背中に…男の子の方は赤色、女の子の方は青色の…よくわからない武器?のようなものを背負ってました。」

 

「ふむ…」

 

「それと、女の子が最初に使った技と男の子が最初に使った技…」

 

「技?それは呼吸か?」

 

「…分かりませんが、女の子の方は“桜花一閃”、男の子の方は“火炎一閃”と言っていました。」

 

「…聞いたことない技やな。まぁええ。それで全部か?」

 

「はい…」

 

玉藻がそう言うと、鉄珍は筆をおいた。

 

「この里に滞在しとる鬼殺隊士に渡しておくとしよか。鬼殺隊のまとめ役に渡してもらおう。」

 

「は、はい…」

 

「んじゃわしはもうちょい寝る。」

 

そう言って鉄珍は横になって寝てしまった。

 

 

 

───別場所にて。

 

 

 

とある屋敷のとある部屋に、1人の少女と2人の男性がいた。

 

「…本当にいいんですかい?不平等(ふひと)さん。大事な娘さんと…そのお友達でしょう?」

 

不平等と呼ばれた男性は少し暗い顔をしたまま頷いた。

 

「いいんです…娘と…彼女たちの持つ力は今のこの世界の歴史に残すには危険すぎるんで。不老不死という存在はあまりにも重すぎる。殺すこともできませんから…変な奴らに何かされるよりは…僕らの手で、一時だけでもその危険から遠ざけてやりたいんです。」

 

「お父様…」

 

少女が不平等のことをそう呼んだ。少女は、和服であること以外は妹紅と似ている。

 

「…この子のことも、今の歴史からは抹消する予定です。…いずれ、歴史に出てくるかもしれませんが。」

 

「…それで、いいんか?」

 

不平等は小さく頷いた。

 

「…お嬢ちゃんは、それでいいんか?」

 

「…わたしは…みんなと一緒なら…怖くありません。」

 

「…そうかい。」

 

男性は少しため息をついた。

 

「…この家にある蔵。そこだな、封印場所は。我が心音(こころね)家の全霊をもってお主の娘とそのご友人たちを封じよう。」

 

「…ありがたい」

 

 

 

───場面が変わった。

 

 

 

「不平等殿、準備はできたかな?」

 

「…えぇ。」

 

暗い蔵の中。少女と不平等、心音と名乗った男性がいた。

 

「確認するが、ここの仕掛けは時間式だ。一年に一度動き、ここにいる人間が変化する。」

 

「…」

 

「まぁしばらくは動かんだろうが…それとこの部屋は隠し扉だ。それは覚えておくのだぞ。」

 

「…えぇ。」

 

「…では始めよう。」

 

その言葉と同時に少女が模様の描かれている壁側に立った。

 

「「」」

 

その言葉が放たれた時、少女の背後の壁の模様が光った。

 

「「」」

 

同時に少女の体が浮く。まるで、磔のような体勢で。

 

「「縛輪」」

 

腕、脚、首の位置に合うように金属の輪が浮遊した。

 

「「封獄っ!!」」

 

浮遊していた輪っかが少女に向かって射出された。

 

「……!」

 

少女は辛そうな表情をしていた。

 

「…あとは貴方が。」

 

「…すまない。“終眠”」

 

不平等がそう唱えた時、少女から力が抜けた。

 

「…これで、終わりですよね」

 

「…うむ」

 

不平等は少女を少し見つめた。

 

「…もう、動かないんですよね…」

 

「封印を解くものが現れなければだがな。…娘に、何か最後に言わないでいいのか?」

 

「…」

 

不平等は少女に近づき、手を取った。

 

「………本当に……すまない。…“妹紅(もこう)”」

 

不平等は少女を妹紅、と呼んだ。

 

藤原不平等(ふじわらのふひと)。それが、少女“藤原妹紅(ふじわらのもこう)”の父親の名である。

 

 

 

───場面が変わる。

 

 

 

封印された少女、妹紅は暗い場所でボーっとしていた。

 

(…封印されてから、何年がたったんだろう)

 

暗い中ではさすがにわからなかった。

 

(一年周期で仕掛けは動く。そこから割り出せなくもないけど…面倒。最初の何年(4年)かは動いてなかったし…)

 

そんなことを考えていると、外が何やら騒がしいのが分かった。

 

(…?大地、いる?)

 

(…なんだ、妹紅)

 

(今年の上階封印者って誰だっけ?)

 

(美月だが。)

 

(…美月、聞こえる?)

 

妹紅は今度は美月に向かって思念を飛ばした。

 

(…何?妹紅。)

 

(大地、美月の霊体を作り出して。美月、ちょっと外見てきてくれる?)

 

((…了解))

 

妹紅の思考に了承を返し、大地が何かをする気配がした。

 

(…とりあえず待とうか)

 

(だな)

 

妹紅たちはしばらくそのままいた。

 

(…妹紅)

 

妹紅の思考の中に美月の声が響いた。

 

(何かあった?)

 

(…異形大発生。…どうするの?この蔵の中にある武器使えば倒せそうな気はするけど…)

 

(…異形、か…人に危害は?)

 

(加えてる)

 

(じゃあ殲滅。)

 

(…分かった)

 

妹紅は美月の気配が遠くなっていくのを感じた。

 

(美月が行っている間、対策立てるよ。)

 

(…あぁ。)

 

封印された者たちはそのまま話し合いを始めた。

 

 

 

───場面が変わる。

 

 

 

妹紅が思考を動かさないでいるとき、物音がした。

 

(…?)

 

物音に反応して妹紅の思考が動き始める。

 

(日向、時間は?)

 

(もう夜。僕らも出れる時間だよ。)

 

(そう。)

 

(まぁ、最近は鬼もあまり見えないみたいだけどね)

 

(鬼、か…)

 

妹紅がそんなことを考えていると、隠し扉が開いた。

 

(!?隠し扉が開いた!?)

 

(((は!?)))

 

((え!?))

 

「あれ…なんか隠し扉があると思ったら…なんだろ、これ…」

 

隠し扉を通ってきたのは虹色の髪を持つ少女だった。

 

「ん~…これは私じゃ壊せないかな…」

 

少女は妹紅の足についている金属の輪を見て言った。

 

「…霊体、出せるのかな?」

 

(…大地)

 

(あぁ。)

 

そんな大地の思念とともに妹紅の体から霊体が抜け出て、地面に降り立った。

 

「わ、ほんとに出てきた…」

 

少女は驚きながらも妹紅に触れようとした。

 

「…貴女は?」

 

妹紅は口を開いたが声になってはいなかった。

 

「…声がないのか。…う~ん」

 

少女は悩む素振りをした。

 

「…私の声は聞こえてる?」

 

妹紅は頷いた。

 

「そっか。」

 

そういうと少女は霊体の妹紅の手を引いた。

 

「行こ?」

 

妹紅は戸惑った表情をした。

 

(妹紅、行ってこい。どうせ朝になったら自動的にここに戻される。)

 

大地の言葉で思い切りがついたのか少女とともに蔵の外へと出た。

 

「…あ、ごめん、まだ私の名前教えてなかったよね?」

 

妹紅は頷いた。

 

「私、“心音(こころね) 虹架(にじか)”。生まれたのは弘安2年(1279年)如月23日(新暦:1279年2月4日)。今は正応4年(1291年)の弥生22日(新暦:1291年2月14日)だから…今年で数えで13。よろしくね?」

 

少女───心音虹架はそう言って手を差し出した。妹紅はその手を握り返す。

 

「…ね。剣、扱える?」

 

妹紅は不思議に思いながらも頷いた。

 

「じゃあ、うちの道場の稽古見ていかない?」

 

妹紅はその誘いに戸惑いながらも頷いた。

 

「ん。」

 

虹架は妹紅の手を引いて道場の中へと上がった。

 

「遅いぞ、虹架!」

 

「ごめんなさい、お父さん。」

 

「全く…む!?」

 

虹架にお父さんと呼ばれた人物が妹紅を見て反応を示した。

 

「お主は……まぁ良いか。」

 

男性は何かを言いかけてやめた。

 

「お父さん、私は準備できたよ?」

 

「ん?おぉ、すまん…」

 

両者が構え、同時に攻撃を始めた。

 

(は、早い…)

 

「…お父さん、早くなった?」

 

「負けてられんからな…!」

 

「…ふぅん」

 

それを聞くと虹架は大きく後ろへと下がった。

 

「“神風(かみかぜ)───」

 

虹架は大きめに振りかぶった。それを慌ててよけようとする父親。

 

「───絶閃(ぜっせん)”!」

 

虹架が振り抜くと、大きな風の刃が直線状に飛んで行った。

 

「くっ…」

 

「まだまだっ!」

 

虹架が風の刃を受け止めている父親に接近する。

 

「“鉄鋼身撃(てっこうしんげき)”!」

 

そのまま体当たりすると、父親は辛そうな声を上げた。

 

「まだ…いける…!」

 

「そう…」

 

虹架はそう呟くと、姿を消した。

 

「ど、どこだ!」

 

父親が気配を見失っていると、父親の背後に突然現れた。

 

「“薄影(はくえい)───」

 

「む!」

 

小さい声に気がついた父親は振り向いてその虹架を斬った。

 

「…手ごたえがない」

 

「まぁ、幻影に近いものだからね。…“三稜鏡幻惑之漆(さんりょうきょうげんわくのなな)分身(ぶんしん)”」

 

声のもとを見ると、父親の頭に木刀を乗せている虹架の姿があった。

 

「…降参だ。」

 

(す、すごい…)

 

「どうかしら?うちの妹は。」

 

突然声をかけられ、妹紅が振り向くと、一人の女性と一人の男性がいた。

 

「あ、雨音お姉ちゃん、蒼空お兄ちゃん!」

 

「やぁ、本当に虹架は強いね。ボクなんてすぐに抜かされちゃうよ。」

 

「えへへ…」

 

虹架は女性と男性に褒められて嬉しそうにしていた。

 

「…さて、自己紹介してなかったね。ボクは“心音(こころね) 蒼空(あおぞら)”。心音の兄だよ。」

 

「私は“心音(こころね) 雨音(あまね)”。あなたの名前は何て言うのかしら?」

 

妹紅はその問いをされて困った表情をした。

 

「お姉ちゃん、この子喋れないみたいで…」

 

「あら…」

 

「意思疎通ができないのは困るね…」

 

そんなことを話しているとき、妹紅の姿が消え、視点が蔵の中へと戻った。

 

(…日の出だ。)

 

(…そっか)

 

 

 

───場面が変わる。

 

 

 

妹紅が虹架と出会って6年が経ったのか、妹紅が上階封印者となっていた。

 

(……()()()()()()()()()()()?)

 

妹紅は蔵の近くから何かが焼けるような匂いを感じ取っていた。

 

(…見てくるか?妹紅。)

 

(うん。)

 

妹紅が答えると、妹紅の体から霊体が現れた。

 

(ちょっと行ってくる)

 

そう答えて一応火炎刀を持って蔵の外に出た。

 

(……え?)

 

妹紅がそこで見たもの。

 

それは、()()()()()()()()()だった。

 

(な、なんで!?)

 

(どうした、妹紅)

 

(心音家の屋敷が燃えてる!!)

 

(((((なっ!?)))))

 

(ど、どうしよう!?)

 

(妹紅ちゃん、とりあえず生きてる人を確認して!)

 

(わ、わかった!)

 

風兎の指示に従って屋敷の中へと入った。

 

(誰か…誰か…!)

 

妹紅は無意識を操る能力を発動しながら屋敷内を駆けた。使っている理由は、妹紅の能力は生者にしか反応せず、生きているものがいるのなら能力に引っ掛かり探知が可能だからだ。

 

(…!いた!)

 

妹紅は能力に反応があった場所へと一直線に向かった。

 

(ここ!)

 

しまっていた扉を開けると、何かを持っている白い髪の何者かがいた。

 

(…だれ?)

 

そう思ったとき、白い髪の人物が妹紅に気がついたのか、振り向いた。

 

「…」

 

(…人…?)

 

その人物が持っているのは人だった。そして、人物の口元には血がついている。

 

(……まさか、人が人を…?)

 

妹紅が戸惑っている間にその人物は持っていた人を投げ捨て、外に出ようとした。

 

(待って!)

 

そんな思念を発すると、その人物は動きを止めた。

 

「…」

 

その人物は振り向き、妹紅のことを見つめた。

 

(…あれ?わたし…この人のこと…知ってる…?)

 

そう思っていると、その人物が妹紅に向かって握った手を突き出した。

 

(…?)

 

「…手を出して」

 

(…聞き覚えのある声…?)

 

恐る恐る妹紅が手を出すと、手を開いて何かを落とした。

 

(…鈴?)

 

「…あげる」

 

そう言うと、人物は妹紅に背を向けた。

 

「その鈴は、“なりたい自分の姿”になれるもの。…私にはもう必要ないから、貴女にあげる。」

 

(…あれ?この鈴も…どこかで。それに、なりたい自分の姿って…)

 

七色の糸を編んだ紐がついた鈴。妹紅は、それに見覚えがあった。

 

「…ごめんね」

 

(…!もしかして、()()!?)

 

その思念を放った時には、既にその人物の姿はなかった。

 

 

…と、そこでやっと世界が割れた。

 

 

妹紅が布団から体を起こしていた。

 

「…懐かしい夢を見た…」

 

閉まっている襖の方を見つめながらそう呟いた。

 

「…よいしょ」

 

妹紅は立ち上がり、襖を開けて外に出た。

 

そのまま強く跳躍し、屋敷の屋根の上へと上る。

 

「…きれい」

 

妹紅は屋根の上で星空を見上げてそう呟いた。

 

「…懐かしい、夢だったな。」

 

妹紅はスカートのポケットから七色の糸を編んである紐がついた鈴を取り出した。

 

「…虹架…」

 

妹紅はそれをくれた少女の名を呼んだ。だが、当然だが答える者はいない。

 

「…わたしが夢を…それも、能力を発動しないで見るなんて。…珍しい。」

 

そう呟く妹紅の表情は少し暗かった。

 

「…何かある、かもしれない。わたしが夢を見るってことは…何かの予兆だから。」

 

そう呟いた後、妹紅は鈴をポケットにしまって屋根の上から降りた。

 




今回出てきた新しい刀と技は後々の伏線みたいなものです。
さて、次回は書けるかな…あと友人から出演依頼(?)されたので新キャラクターですかもです。
ちなみに今回の話の意味は“香達の存在を鬼殺隊に知らせ、保護までするための鍵”と“妹紅さんの過去”です。藤原不比等さんが妹紅さんの父親っていうのは完全にオリジナル設定(でもかぐや姫の物語の蓬莱の玉の枝を持ってきた人のモデルは藤原不比等さんだったはず)ですので悪しからず。
あ、活動報告に書いたことあるので良ければ。
ではでは。…アンケート回答が来ない。


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第参拾参話 那田蜘蛛山にて

那田蜘蛛山戦開始です。
多分これも長く続いちゃう気がします。…っていうか、早々に合流してるんだよねぇ…まぁ何とかなると思いますけど。


 

「…ここが…那田蜘蛛山か。」

 

「…多分。」

 

香と仁は大きめの山の前にいた。

 

「…妙だね、鬼の気配と同時に人間の気配…しかもその人間の気配は人間同士で争ってる?」

 

「…そんなことまでわかるのか?」

 

「う~ん…ちょっと調べてみようか」

 

香はそう言って懐から地図を取り出した。

 

仁が地図を覗き込むと複数の赤、青、紫の炎とその中で二つの大きな炎が存在していた。

 

「…場所はあってる。でも、なんだろこの人間の争い方は…」

 

「…これは?」

 

「ちょっとした術。大きい炎は私たちがいる場所で…他の炎は生命反応がある生物の反応。赤が人間、青が悪鬼。紫は多分…前から話に上がってる鬼。」

 

「なるほどな…」

 

その言葉を聞くと、香は地図をしまった。

 

「…さ、いこっか。」

 

「あぁ。」

 

そう言って香達は山の中へと入っていった。

 

 

 

───山のどこか。

 

 

そこに、一人の少年(?)がいた。

 

「…僕たちの家にまた誰か入ってきた。」

 

そう呟いて、どこかへと姿を消した。

 

 

 

───山中

 

 

「…こっちか?」

 

うむ!そちらから微かに美味そうな匂いがする!

 

仁は香と別れて別行動へと移っていた。

 

しっかし…この刺激臭は何だ?くさくてまともに鼻も効かんわ。

 

「一瞬だからいいんだがな…」

 

…仁よ、ここの木ども切り払えんのか?

 

「いやダメだろう…出来なくはないと思うが環境を破壊しかねん。」

 

そうか…

 

「…む?」

 

仁が木陰で止まった。

 

どうした?

 

「静かにしろ」

 

仁が木陰から外の様子を伺うと、人と人が斬りあっている姿が見えた。

 

「あれか…香が言っていたのは。」

 

…仁よ、あの者達から微かに鬼の匂いがするのだが

 

「あの人たちが鬼だと?」

 

…違う、あの者らは純粋な人間だ。…だが…

 

だまりがその人間たちを凝視した。

 

…あの者らの背中。あそこが鬼の匂いが強い。…仁、あの者達を傷つけないように背中の方へ刃を放てるか?

 

「…分かった」

 

 

ぱきん

 

 

仁は斬糸を開き、持ち手を持ったまま刃をその人間たちの方へと放った。

 

すると刃の当たった者達から順に崩れ落ちて行った。

 

…操られておったか。

 

「みたいだな。」

 

…仁、悪鬼の匂いが強くなった。行くぞ!

 

「あぁ」

 

木陰からたまに様子を窺うようにして仁は軽く駆けた。

 

 

 

─── 一方、香の方はというと

 

 

 

…特に現れないわねぇ

 

「ん~…なんかいそうなんだけどね…」

 

…珍しく、香の勘が外れたのかしら。

 

「いやそこまで当たらないよ?」

 

香は少し開けた場所に来ていた。

 

…悪鬼の気配がするわ

 

「ん、じゃあそっち狩りにいこっか」

 

香はりんねが導くままに行動した。

 

…ここね。

 

「…あ、いるね。」

 

メシィ……メシはどこだぁ……

 

「…生まれたて?」

 

かもしれないわね…

 

「…まぁいっか」

 

知らないだろうし、と小さく呟き、斬想鬼を軽く持った。

 

「…“剣式・短剣・不変・贋作”」

 

いつものように剣の柄が現れ、引き抜くとかなり短めの剣が現れた。

 

…そんなのでどうやって戦うのよ

 

「ん?」

 

りんねの言葉に香は行動で示した。

 

「…こうやって。“暗殺剣(あんさつけん)命穿(めいせん)”」

 

グィッ!?

 

香がやったことは簡単。心臓の部分へと短剣を一突きである。鬼とはいえたまに心臓や首の概念がある個体が存在する。ならば暗殺の技も効くのだ。

 

…よく心臓概念がある個体だと分かったわね

 

「なんとなくね。…ん?」

 

香が来た方向を見た。

 

「…なんか来た?」

 

…行ってみましょうか。

 

りんねは鬼の魂を飲み込み、香とともにさっきの開けた場所へと向かった。

 

 

 

───

 

 

 

メシィィィィ!ヨコセェェェ!

 

「う、うわぁ!?何だあれ!?今まで見たことないぞ!!」

 

「なんだコイツ!変な門から出てきやがってなんなんだコイツ!」

 

猪の頭を被った少年、黒い刀を持った少年が巨大な顔に追われていた。

 

「伊之助!あれから鬼の匂いがする!多分日輪刀で斬ればなんとかなるとは思う!」

 

「あれ鬼なのかよ!紋次郎!」

 

「炭治郎だ!!ともかく、頸を斬ればなんとかなる気はする!」

 

「アレに頸あんのかよ!」

 

「やってみるしかない!」

 

黒い刀を持った少年が向きを変えて構えた時である。

 

 

がんっ!!

 

 

「…へっ?」

 

少年と巨大な顔の間に、何者かが割って入った。

 

「う…わっ!」

 

「のわっ!」

 

突然感じた衝撃に二人が吹き飛ばされ、驚愕している間に、二人と巨大な鬼の間に黒い何者かが立った。

 

あ~あ~、まぁたやってもーたな~…!

 

何者かの隣に寄り添うかのように在る黒い何か。その何かが言葉を発していた。

 

(この匂いは…鬼か!?)

 

このバカタレ!鬼狩りなんぞわっしゃらの敵だろうが!見殺しにした方が都合がよかっただろう!

 

「見殺しなんてできるか。この馬鹿が。俺はもう…」

 

(…この子から悲しみの匂い?)

 

「二度と目の前で知り合いが死ぬのを見たくない…!」

 

降り立った黒い少年はそう言った。

 

あぁあぁ、お主ならそう言うと思っとったわい!で、どうするんだこれから!」

 

「とりあえず鬼を狩るが。」

 

鬼狩りは!

 

「以前のごとくそのままお帰り頂くが?」

 

何でッ!!!

 

(…えと?)

 

やはり人間は何考えとるかわかりにくいな!っつうか面倒くさい!

 

「俺がお前のことを知ろうとしてるんだ、お前もちょっとは人間のことを知れ!」

 

「えっと…鬼と…人が?…いや俺も人のこと言えないが…って、あっ、あぶない!!」

 

黒い刀の少年が声を上げた時、巨大な顔が巨大な腕を生やし、どこから持ち出したかわからない巨大な斧を振り下ろそうとしていた。

 

黒い少年はそれに綺麗に反応し、無傷のまま斧をよけた。

 

…んだ貴様ら…見てくれもそうだがワシのメシの邪魔をするとは心底うっとおしい…!

 

「…似てるなあの夜の鬼に。」

 

…確かにな

 

邪魔する鬼はぶっ潰し、邪魔する人間は引き裂いて美味しくいただいてくれるッ!!!

 

そう言う鬼(?)が斧を振り回して黒い少年に向かっていったとき、その少年が呟いた。

 

「…あんたたち、もっと下がってくれ」

 

「えっ!?」/「あぁ!?」

 

「…触れればたやすく首が飛ぶぞ」

 

いいからはよしろい!

 

 

ぱきんっ!

 

 

がきっ!

 

 

「!?」

 

「…シッ!」

 

(あれは…銀色の…糸?)

 

黒い刀を持った少年がそんなことを考えている間に鬼が真っ二つに切断されていた。

 

この…こしゃくなっ!

 

鬼の命は絶えておらず、そこから一気に分裂した。…その数、500。

 

(あんなの、仕留めきれるはずが…!)

 

これだけの数を仕留めきれるか!?

 

「…そう来るか。」

 

黒い少年が謎の武器の持ち手を繋ぎ合わせた。

 

仁よ、

 

「急かすな、だまり。…必ず仕留めてやる」

 

死ねぇっ!

 

「…“細網式(こまかあみしき)(しょう)”」

 

 

ぱきん

 

 

黒い少年が再度その謎の武器を開いて振ると、赤色の糸で出来た網がその分裂した鬼達を取り囲むように襲い掛かった。

 

…っ!?

 

その持ち手は意思があるかのように散り散りになった鬼達を取り囲み…

 

あ…がぁ

 

黒い少年の手元に持ち手が戻ってきたころには、分裂した悪鬼たちを全て一か所に纏めてしまった。

 

(す、すごい…)

 

な、何故だぁ…何故鬼と人とがともになってワシを阻む…いったい何だこの武器はぁ…何故…何故ワシがこうもあっさりと敗れる…

 

質問が多いな~…

 

「…ならば、こちらからも一つ質問だ。」

 

黒い少年が鬼を見据えた。

 

「お前は“歪みを使う鬼”を…もしくは“鬼舞辻無惨”を知っているか?」

 

(え…)

 

鬼舞辻無惨。それは、黒い刀を持った少年が追っている鬼。歪みを使う鬼は知らないがこの少年から出てきたことに驚いたようだ。

 

し、しらん…!答えたのだからこの縄を解けっ!熱くて敵わん!

 

「…そうか。」

 

げっげっげ、ちなみにそのお主の答えに対する答えは…

 

黒い少年が持ち手を強めに引いた。

 

身をもって知るといい!

 

あ…がぁぁ…

 

苦しそうな声を上げた後、鬼は体を崩壊させて消えた。その代わり、黒い何かが崩れた後から現れた

 

(…あれは…一体?)

 

「…さて、どうする?」

 

黒い少年が声を発した。

 

「その刀で俺と戦うか?」

 

その言葉で、猪の頭を被る少年と黒い刀を持つ少年は自分たちに問いかけられていることに気がついた。

 

「…君は…人間なのか?それとも鬼なのか?…少なくとも、少し前にお店に行ったときには人間にしか感じなかったけど。」

 

「…そういえば、少しお久しぶりでしょうか?“竈門 炭治郎”様。」

 

黒い少年が振り向き、黒い刀を持った少年───竈門 炭治郎と向き合った。

 

「そうだね。…質問に、答えてくれないかな。」

 

少し語気を強めて言うと、黒い少年は少し目を逸らした。

 

「…さて、私はどうなのでしょう。人なのか、鬼なのか。それは私にもわかりません。…なにせ───」

 

黒い少年は側にいる黒い何かを見つめた。

 

「なにせ、私は“人鬼一体(じんきいったい)”なものですから。」

 

「…人鬼一体…なら、これは聞かせてくれ。…君は、君に憑いているその鬼は…人を…喰らっているのかい?」

 

その問いに黒い少年は首を横に振った。

 

「いいえ。私についてるこの鬼は、名を“だまり”といいます。」

 

あぁ…やっとこさ飯にありつける…!

 

「あ、待てだまり。“縫合網(ほうごうもう)”」

 

 

ぱきん

 

 

黒い少年は謎の武器を振るい、そこから出た網で鬼の体から出た黒い何かを覆った。

 

「この方が喰いやすいだろう。」

 

おぉ、すまん

 

黒い少年に憑く鬼はその黒い何かへと噛みついた。

 

「…こいつは…だまりは、“鬼喰いの鬼”です。人を喰う鬼じゃありません。」

 

「鬼喰いの…鬼。ということはその鬼が言っている飯っていうのは人じゃないんだね?」

 

「えぇ。」

 

「そっか。…ところで、君の名前は?俺のことはもう知ってるだろうけど“竈門(かまど) 炭治郎(たんじろう)”。で、こっちが…」

 

「“嘴平(はしびら) 伊之助(いのすけ)”だ!」

 

その唐突な自己紹介に黒い少年はきょとんとしていた。

 

「…いいのですか?私は鬼と生を共にしている者で…貴方達は鬼を狩る方々でしょう?」

 

「まぁ、気になるけどさ…それでも、鬼を狩ることを目的にしているのは一緒じゃないか?…それに、俺も鬼を連れてるからな。」

 

「?」

 

…仁、あの小僧の背後の箱から微かな鬼の気配がする…

 

「…なるほど」

 

「妹はやらせない」

 

言われんでも喰う気が起きんわ、その匂いは…

 

「「?」」

 

だまりという名の言葉に炭治郎と伊之助が困惑していた。黒い少年はそれを見て軽く笑った。

 

「…失礼、私の名前は“仁”と言います。…呉服綺糸屋3代目当主、仁です。」

 

「あぁ、若旦那くんだったのか。…これからよろしく。」

 

その言葉を聞いて仁が小さく反応した。

 

「…えぇ、これからよろしくお願いします。」

 

「とりあえずここにいる鬼を狩るぜぇぇぇ!!」

 

「…伊之助様、ここには鬼が?」

 

「あっちだ、行くぞ、権八郎、面、うがり!」

 

「炭治郎だ!」

 

「仁です…」

 

わっしゃの名前はだまりだ!

 

二人と一鬼が似たような反応をして伊之助と同じ方向へと走っていった。

 




ちなみに今回の仁さんの炭治郎さん達を守っての戦いはあやしや第一話の再現です…まぁ台詞とか色々変えてますけどほとんど変えてません。
んと…次の展開考えないと…


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第参拾肆話 鬼殺隊と人鬼一体

大変お待たせいたしました……!ってほぼ一か月ぶりの投稿…!(前回投稿2020/07/25)
ということで、三十四話……言い訳にしかなりませんが最近うまく構成を組めなかったのです……Youtubeの動画投稿も本格始動しそうなので、書けなくなっていくかもです…ただ、生きてる限りは完全失踪するつもりはないのでよろしくお願いします。


仁!後ろだ!

 

「…シッ!」

 

だまりの言葉に素早く反応し、手に持つ赤い刀で背後にいた鬼を切り、

 

「ヒュゥゥゥゥ」

 

炭治郎が独特な呼吸音を放ちながら全身で回転して鬼を切りつけ、

 

「カァァァァァ」

 

伊之助が交差させた刀で鬼の首を挟んで切り落とした。

 

「…仁。君は…一体何者なんだい?」

 

「私、ですか。ただの呉服屋で…そして、ただの…ある鬼を求める者ですよ。」

 

「…そうか。…そういえば、君は不思議な技を使うね。刀から炎が吹き出す技なんて。」

 

その問いを聞いて仁が軽くため息をついた。

 

「それを炭治郎様たちが言いますか。私からしてみればお二人の使う“呼吸”の方が得体のしれないようなものです。」

 

「…そっか。」

 

仁、あそこだ!少し遠いがお主ならいけるだろう!?

 

「気配を捉えた。“火炎一閃(かえんいっせん)弱火(よわび)飛斬(ひざん)”!」

 

仁はだまりの声に反応して鬼がいる方向に向かって炎の斬撃を飛ばした。

 

「アガッ!」

 

ほれほれ、鬼が近づいてきてるぞ!

 

「少し黙れ。…“火炎抜閃”」

 

かなりの速さで近づいてきていた鬼を抜刀術で両断した。

 

うむ、やはり磨きがかかっておりゅな!

 

「喰ってるときは喋るな。」

 

「…そういえば仁。君って歳は?」

 

「もうすぐ十四。」

 

((十三か…))

 

炭治郎と伊之助は同時にそう思った。

 

「…ところで、私なんかと行動を共にしていてよいのですか?」

 

「え?」

 

「炭治郎様達は鬼殺隊で、私は鬼と生を共にする得体の知れない存在です。本来なら、討伐対象になるのでは?」

 

「…なるほど」

 

仁の言うことはもっともである。同じ“鬼を狩る者”とはいえ、“鬼殺隊の人間”と“鬼が憑いた人間”だ。かなりの不確定要素であるために、警戒はしないといけないだろう。

 

「…まぁ、俺も鬼を…禰豆子を連れてるのは事情はあるから。仁もそうなんだよね?」

 

「…えぇ、まぁ。」

 

「なら大丈夫…じゃないかな…」

 

「……」

 

仁が少し冷たい目で炭治郎を見つめていた。

 

 

ドドドドドドン

 

 

「な、なんだ!?」

 

不意にした轟音にだまりが反応した。

 

「今の音…雷が落ちたのか?」

 

「知るか!!」

 

「…雷雲の匂いはしないと思うんだけどな…刺激臭が強くなってて分からない…」

 

「…」

 

仁は目を閉じて周囲の気配を探った。

 

「…雷の気配はありませんが…」

 

「…雷の気配……ってそんなのわかるの?」

 

「師匠に鍛えられましたから。」

 

「師匠…か…」

 

もちろん、仁の言う師匠とは香のことである。

 

「…伊之助」

 

「はああーん!?」

 

「俺はちょっと向こうの方に行ってみようと思う。」

 

「好きにしたらいいんじゃねぇのォオオ!!」

 

「伊之助は下山するんだ。」

 

「は?」

 

伊之助が炭治郎の言葉で硬直した。

 

「山おりて。」

 

「あぁ、伊之助様はそれがいいかもですね。」

 

炭治郎の言葉に仁が同調した。

 

「何でだよ!!死ねよ!!」

 

「いや怪我がひどいから。」

 

「その怪我は放っておくと危ないですよ?」

 

「俺は怪我してねぇ!!」

 

炭治郎と仁が伊之助の言葉に一瞬止まった。

 

((えぇっ!?))

 

…仁、この小僧は馬鹿なのか?

 

「聞こえてんぞ!!」

 

その時、バシャッという音が聞こえた。

 

「「「!!」」」

 

一斉にそちらを向くと女性の鬼がいた。

 

「おおお!!ぶった切ってやるぜ!」

 

「伊之助!」

 

「伊之助様!!」

 

その鬼は来た方向を変え、逃げるついでに

 

「お父さん!」

 

と叫んだ。

 

仁!

 

(…上!?)

 

仁が上を見上げたと同時に、巨大な鬼が降ってきた。

 

「オ゛レの家族に゛…」

 

その鬼は軽く振りかぶった。

 

「…近づくな゛!!」

 

「“スピニング・シールド”ッ!!」

 

鬼は地面に手をたたきつけ、仁は炭治郎達を自分の後ろに投げてからソードスキルを放ち、飛散した水しぶきや岩の破片を弾き飛ばした。

 

「…す、すまない…ヒュゥゥゥゥ」

 

「いえ。“反射閃々───」

 

「おらぁぁぁ!!」

 

一瞬にして復帰した炭治郎が呼吸を使う。それに合わせて仁は反射閃々の構え。

 

「“水の呼吸 弐ノ型 水車(みずくるま)”…」

 

一番出が速かった炭治郎が技を放つが、それを鬼は片手を上げただけで防いだ。

 

(!!刃が!!通らない!!)

 

そう思った炭治郎の下にもう片方の腕が迫る。

 

「───火炎十速”っ!」

 

その腕を、仁が炎を纏った反射閃々で切り落とした。すると伊之助が足に切りかかる。

 

「硬えええ!」

 

「硬い…!」

 

鬼は炭治郎と伊之助を軽く体を振っただけで吹き飛ばすと、少し姿勢を整えた。それを見て仁は炭治郎と伊之助の近くまで跳んだ。

 

(型を使っても切れない!!どうする…どうする…!?…そういえば、さっき仁は切ってたような…)

 

(くそ…相手がかなり硬い…十速だから切れたものの七速、いや、九速になった段階で危うい…ただでさえ十速は連発できないんだぞ…!)

 

「オ゛レの家族に゛ィィィ」

 

即座に再生した鬼は、炭治郎に向かって突撃した。

 

「…近づくな゛ァア゛アア゛!」

 

下からの打ち上げのような攻撃。それによって水しぶきが立つ。

 

「炭治郎様!鬼の動きを止められませんか!」

 

「そんなこと言ったって…」

 

「おらぁ!」

 

伊之助が切りかかるが、軽く振るわれた腕に吹き飛ばされた。

 

(…いや、方法はある)

 

「ヒュゥゥゥゥ」

 

呼吸をしながら炭治郎は近くの幹に近づいた。

 

「“水の呼吸 弐ノ型・改 横水車(よこみずぐるま)”」

 

木の幹に技を放ち、木を鬼に向けて倒した。

 

「ガァアッ」

 

(これなら斬れる)

 

「ヒュゥゥゥゥ」

 

(全集中・水の呼吸 拾ノ型!!)

 

炭治郎が呼吸を使い始めたところで仁も遅れて動く。

 

(行けるか!?)

 

「“浄火一閃───」

 

仁が使うのは火属性の浄化技。以前も使った、“浄火一閃・火炎”。

 

しかしそれらが届くよりも早く、鬼が動いた。

 

「危ね…」

 

伊之助の声がきこえたが、それより前に仁と炭治郎はそれぞれ別の方向へと吹き飛ばされた。

 

「健太郎ーーーーっ、権ーーーーーっ」

 

(だから誰だよ!俺は仁だ!)

 

仁はそう思いつつ吹き飛ばされていった。

 

 




twitterでも結構呟いてるのが私。…ただ、あまり面白くないと思います。とりあえず、ここの下にtwitterへのURLは置いておきます。…これって規約違反でしたっけ?
あとアンケート…は、一応那田蜘蛛山戦終了後で締めきろうと思います。…ってこれ前も言った気がしますね…全くって言っていいレベルでアンケート回答も感想も来なかったので書く気力が起きないのも原因の一つなのでしょうか……はぁ…
それでは、また次回お会いしましょう。…あ、仁さんと炭治郎さんの飛ばされた場所は違います。…って今気がつきましたけど仁さんと炭治郎さんのどちらもが鬼と人のペアじゃないですか…


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第参拾伍話 飛ばされた先にて

う~ん……最近あまり良さそうな構成が組めないです…


(“心意被膜・衝撃吸収”…!)

 

吹き飛ばされている最中に心意の膜を展開し、あとに来るであろう衝撃に備えた。

 

「…だっ!」

 

少しすると、仁は地面へとたたきつけられた。

 

「…だまり、いるか。」

 

おるわ。…結構、飛ばされたようだな。

 

「山の中ではあるみたいだがな……それよりも」

 

おぉ。

 

仁は起き上がって背後を見た。

 

「…そこにいる奴。…何か用か。」

 

仁が声をかけると背後で声がした。

 

「…おんし、よううちに気がついたなぁ。」

 

その声に振り向くと、一人の女がいた。

 

「…変な話し方だな。どこか特有の話し方か?」

 

「なん?おんしもうちのことば馬鹿にしよるん?」

 

「馬鹿にしてるというか……聞いたことのない話し方だから戸惑っているんだが。不快にさせたなら謝る。」

 

「…そか。…まあええ。」

 

そう言うと、女はいきなり仁に襲い掛かった。

 

「……いきなりかっ!」

 

仁もそれに対応し、女の持つ橙色の刀を受けた。

 

「ほー?おんし、ただの子供やないな?鬼憑き、ってとこからも普通やない思てたけんど…それだけやない、よー鍛えられておるわ。」

 

「悪いが俺はまだほとんどの力を鬼に狩りてる状況だ。それに、鍛え始めたのもつい最近。そこまで鍛えられてない。」

 

「……それにしては、剣筋がはっきりしとる。今の一撃でようわかった。おんし、いい師を持ったんやない?」

 

「いい師、か……」

 

(…確かに、香はいい師なのかもな………これを言ったら否定されそうだが。)

 

「……おんしに少しだけ興味が沸いたわ。おんし、名は?」

 

「……名乗らせるならまずはそちらからではないのか。」

 

「……それもそーか。」

 

女は少しだけ退いた。

 

「うち、“西野 せつな”。うちが使ってるんは“土佐弁”ゆーもんや。とけーの人にはよー分からんかったかねー…で、おんしは?」

 

「…仁」

 

「仁…ね。覚えた覚えた。…さて、死合うかね」

 

「字が違ったような…」

 

「何も間違うとらん。ほないくで」

 

女はそう一言言うと、先程を上回る速さで仁に突撃した。

 

「…早…!」

 

「うちこれ以上上がるで?」

 

「全開じゃないのか…!」

 

「それに話しながらついてきちょるおんしもおんしやな!」

 

せつなと名乗った女の言う通り、仁はせつなの動きについてきていた。

 

「……ならこれを受けられるんか!?」

 

「!?」

 

「………シュッ!」

 

せつなが一瞬の呼吸音とともに刀を天へと向けた。それが合図となったのか、せつなの周りに黄金の波紋が浮き上がった。

 

「な…!」

 

「“太陽の呼吸 壱の型 天刃雨(てんしう)”!!」

 

宣言と同時にその黄金の波紋からせつな自身が持つ橙色の刀が射出された。

 

「なんだあれ…!とりあえず避けないといけないことは分かるっ!」

 

仁は刀が向かってくる方向を見極めながら避け始めた。

 

「ほれほれ、おんしも攻撃せんとうちはたおせんよ?」

 

「そうはいってもな…!」

 

そう言ったとき、仁の足元に刀が刺さり、その直後、刀は炎と電気を放って消滅した。

 

(炎と…電気?あれは……火属性と雷属性なのか…)

 

そう分析したのち、仁は回避し続けたまませつなに近づくように動き始めた。

 

(属性が分かったところで何も出来ないといえばできないが……)

 

「…ん?」

 

「……“火炎放出”……“火炎纏(かえんまとい)”」

 

仁は自身の体と刀に炎を纏った。

 

(雷属性はともかく……炎属性はこれでまだ…!)

 

「考えとおね~…でもそれ人体発火やろ?大丈夫なん?」

 

実際のところ、仁は火炎の層を自身の体の表面に展開させているだけ。制御を誤れば自身の体が焼けるが…その辺は対策済みである。と、いうか……

 

「自分への引火恐れて火炎技使えるか!!」

 

“自然六素属性”と呼ばれる属性群の技を使う人に言えること。それは、自分にその属性のダメージが来る可能性があるということだ。火属性なら引火。水属性なら浸水。風属性なら鎌鼬。土属性なら密閉。氷属性なら凍結。雷属性なら感電といったように、自然六素属性には何かしら自分へ被害が入る可能性がある。それの対策、利用、応用ができて初めて使いこなしたと言えるのだ。仁はまだ対策の段階であるが、その対策を利用するのもそう遠くない、というのが香の見解であった。そしてその利用こそが、仁が使った“火炎纏”である。

 

「…なるほど、正論やねぇ。まぁ、近づかせる気ぃなんてないけんどね。」

 

そう呟くと弾幕の密度が上がった。

 

「弾幕の密度が上がって…属性を維持できるのか!?」

 

仁の言葉にせつなが少し顔色を変えて答えた。

 

「…うちが使うこん技、天刃雨は密度が低いほんど属性を強う込められる。けんど密度を上げりゃ上げるほんど制圧力が高まるんや。特に問題は存在せん……そう思てた。」

 

(…思ってた?)

 

「…けんど、おんしと相対してようわかった。同じ属性を持ってるんに制圧力は効かん。さっきから気付いてたけんど、おんし、火を纏ってからうちの攻撃、いくつか弾いとんね?」

 

(気づいて…!)

 

「…おんしも鬼殺隊とかいう奴なんらわかるやんろ。うちの日輪刀は橙。っちゅうことは炎と雷に適性があるんよ。うちはそれに属性を組み合わせて“太陽の呼吸”言う呼吸として成立させとる。うちに呼吸を教えてくれとった人は確か“虹の呼吸”の派生やとか言うとった気もするとおね。」

 

「日輪…刀?」

 

初めて聞く言葉に思わず聞き返した。

 

「…おんし、日輪刀を知らんの?鬼狩りなんにか?」

 

「知らん。」

 

「…おんし、一体…?」

 

動揺からか、弾幕が薄れた。その隙を、仁が見逃すはずもなく。

 

「…!おおっ!」

 

「!しもた!」

 

「“火炎一閃”!」

 

仁はせつなに向かって通常の火炎一閃を放った。

 

「うぐっ……こ、今回はこの辺で退かせてもらうわ…!」

 

「ま、まて…!」

 

「ほな、さいなら~!」

 

仁が先程までの雷属性の攻撃ダメージによって動けなくなっている間に、せつなの姿は見えなくなっていた。

 

「…くっ……」

 

仁、少し休んどれ。

 

「…っ、あぁ……少しの間頼む、だまり…」

 

わっしゃを誰だと思っとる。いいから休んどれ。

 

「あぁ……」

 

仁はそこまで言ったところで意識を失った。

 

……“西野 せつな”、か。危険かもしれんな。…少なくとも、今の仁では、危うい。あやつはほとんど本気を出しとらん。

 

だまりが空を見上げた。

 

……仁。佐吉は、お主を気がつかれないように守っていた。もしかすると今も気がつかれないように守っているのかもしれんが……それがまたいつまで続くかもわからん。…お主が花を守ると誓ったのならば…もっと、強くなるしかあるまいな。……わっしゃも、お主も。

 

そのだまりの独り言は誰にも聞かれず闇の中へと消えていった。、

 




土佐弁…わかりにくくて途中から適当なんです…ごめんなさい……
あ、それと前回URL貼るって言って貼ってなかったので今度こそ貼ります。
ちなみに、次の話は香の方に戻ります。
ではでは。

twitter↓
https://twitter.com/Stella_cre_soul


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第参拾陸話 下弦の肆

……書いてる間に気がついたんですけど、下弦の肆さんの“下肆”の文字って左目だったんですね


 

 

───時は少し戻って香の方へ。

 

 

香は気配がした開けた場所へと戻ってきていた。

 

「……いるよね。でてきたら?」

 

香が声をかけると、木陰から一人の角の生えた少女が出てきた。

 

「貴女は…」

 

「…先日はどうも、よね?」

 

少女の左眼に“下肆”の文字があった。これは、十二鬼月である証拠。だが、鬼殺隊でもない香がそんなことを知るわけもない。

 

「ふふふ……前は仕留めそこなったけど…今度こそ仕留めてあげる…」

 

「……疲労状態の私に負けかけていたというのに随分と余裕そうですね」

 

「ふふ…ただの小娘が十二鬼月のこの私に勝てるわけがないでしょう?」

 

「…十二鬼月…」

 

「…さ、おしゃべりはここまで。黙って私の栄養となりなさい?」

 

「…生憎と、私も黙ってやられたくはないので。軽く抵抗はさせていただきますよ。」

 

「……言うじゃない?なら、どこまでできるか見ものかしら。」

 

「以前のように疲労状態ではありませんから。…逆に貴女を倒してしまうかもですよ?」

 

香がそう言うと鬼が顔色を変えた。

 

「…へぇ?余裕そうにしてられるのもいまのうちかもよ?…“血鬼術 超巨大化”」

 

鬼がそう呟くと、どんどん鬼の体が大きくなっていった。

 

「…巨大化の異能…」

 

「私は零余子(むかご)。“むかご”っていうのは植物のある肥大化した部分。それと同じ性質の術を、私は持ってるのよ!」

 

その大きさは、138cmしかない香の身長をはるかに超える大きさ。というより…

 

「…大きくなりすぎじゃない?木より高いって…」

 

周辺の広葉樹の高さを越えている。

 

「問題ないのよー!これでアンタをきっちり踏みつぶせるからね!」

 

「…まぁ、確かに踏みつぶせそうだけど…狙えないような…」

 

そうねぇ…その辺分かってんのかしらあの鬼。

 

「…“下手な鉄砲も数打ちゃ当たる”系なんだろうなぁ…ま」

 

香は巨大化した鬼を見上げて小さく笑った。

 

「…りんね、私にそんな戦法効くと思う?」

 

……絶対効かないわね。断言するわ。

 

「…なんか断言されてもなぁ…」

 

…だって香、貴女、一か所に留まるよりは素早く動いて相手に攻撃を入れる方でしょう?

 

「…まぁ、その通りなんだけど。」

 

そう呟いたところで香の周囲に影が見えた。

 

「どーん!」

 

香が影を避けた直後、鬼の巨大な拳が地面に突き刺さった。

 

「あら?つぶれた感覚がしない…」

 

(まぁ、避けてるし…それより、これはこのまま放置しておくと周囲に被害が大きく出る。早期決着…かな。とりあえず。)

 

「あれ~?」

 

(さっきから思ってたけど少し思考とか口調とか幼くなってる?)

 

「みーつけた」

 

その声とともに香が陰に隠れていた木が引き抜かれた。

 

「怪力かぁ…」

 

「ばいばい」

 

「…」

 

 

ぱちん。

 

 

そんな音と共に香は斬想鬼を閉じ、背に背負った。…()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…“剣式・細剣(さいけん)・桜花・贋作”」

 

 

ぱきん

 

 

斬想鬼の開く音がすると同時に香のいる場所へと鬼の平手が落ちた。

 

「あ…潰れちゃったかな?」

 

鬼がそう呟いた時、その平手の中央部分が穴が開くように斬れた。

 

「へあ…?」

 

「…“ストリーク”」

 

その穴から飛び出してきた香がそう呟くと、剣が青い光を纏い、その直後、横一文字に斬撃が放たれた。

 

「…?っ!」

 

鬼が気がついた時には落とされた平手の方の手首から切り落とされていた。

 

「…すみませんけど、環境破壊をしたくないので早めに決めさせてもらいます」

 

「…!ちっさいあんたに何ができるっていうの…!」

 

鬼は再生した手で殴りかかってきた。

 

「…大振りで、重いけれど遅い。貴方の弱点はそこ。」

 

そう呟き、香は高く跳躍した。

 

「高…!?」

 

香はそのまま鬼の手の上に着地し、腕を駆け上がった。

 

「“リニアー・二連”!!」

 

顔の付近に着いた時にかなりの速さの突きを二回放った。そして即座に構えを変え、今度は剣に紫色の光を纏った。

 

(あの人に依頼されてた剣技…!本当はあの人のものだから撃ちたくなかったけど………ごめんなさい、先にお借りします!!)

 

「“マザーズ・ロザリオ ver.凝縮突き”っっ!!」

 

大きな音と共に速く力強い一撃が香の細剣から放たれ、鬼が少し体勢を崩した。それによって香の体が空中に投げ出される。

 

 

ぱちん

 

 

その中、香は細剣を納刀して斬想鬼を閉じた。

 

「“剣式・片手直剣(かたてちょっけん)・桜花・贋作”……!」

 

 

ぱきん

 

 

即座に斬想鬼を開き、剣を引き抜いてとある地点に持っていくと香の剣が光り始めた。

 

「少し体勢崩したけど…それくらいで……!」

 

「残念だけど終わり。“バーチカル・アーク”ッ!!」

 

そう叫んだ直後、香の剣が加速した。仁の時に使った“バーチカル・アーク ver.sonic”が遅いと感じるほど速く、鬼の体を断ち切った。

 

「ぐっ…!」

 

「届…けぇぇぇぇぇえええ!!」

 

片手剣ソードスキル“バーチカル・アーク”は二連撃技。一度断ち切ったとはいえ、次の“返し”が待っている。下から上への返し。生半可な跳躍力では届かない。

 

…と、その瞬間香の姿がブレた。

 

「!?」

 

あれ…は!?

 

香と同じ技を放とうとしているのは、()()()()()()。相手の鬼にも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「い……けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

しかし声は紛れもなく香の声で。鬼の動きが停止しているうちにその謎の変化は終了し、鬼の体をもう一度断ち切っていた。

 

「う…ぐっ」

 

鬼は術が維持できなくなったのか、急速に体が元の少女の姿へと戻っていった。

 

「…っ!」

 

少女の姿に戻り、自分が不利だと悟ったらしい鬼は、香にはもう目も向けずに一目散に逃げ去った。

 

「ま…ちな…さ……い」

 

香は追いかけようとしたが、体がふらつき、地面に倒れた。

 

「…はぁ…はぁ……」

 

…大丈夫、かしら?

 

りんねが香に声をかけるが、香は小さく首を振った。

 

「……だめ……動けない」

 

…しばらく休んでなさい。その間私が周囲を見ておくわ。

 

「…ありがと……りん……n」

 

言葉を発しきる前に香は気絶した。

 

……さて、私は警戒を張った方がいいわね。

 

りんねはそう呟いて周囲の警戒を始めた。

 




香…結構低身長なのです。ちなみに香、仁、花、鈴の身長は以下の通り。
香=138cm
仁=146cm
花=152cm
鈴=146cm

…ところで。最後の方のバーチカル・アーク。相手が自分より大きい、片手剣、バーチカル・アークの三つのキーワードで気がつく人がいるかは分かりませんが…ソードアート・オンラインの一部のシーンの再現なのです。この話を組み上げる前からこの決着は考えてましたし…下弦の肆の血鬼術はそのために組んだのです。
…で。“マザーズ・ロザリオ ver.凝縮突き”ですが…名前の通りです。ユウキさんの十一連撃OSSの威力を一撃の刺突に凝縮したもの。香は使えるは使えるのですが、あまり使いたくはないというのが本心です。…なぜかというと、あれはユウキさんとアスナさんの使うものであって、それ以外の人間が使うべきではない。と考えているからです。香はある方から依頼を受けて凝縮突きという派生を組み上げましたが、自分が使うことは考えていません。自分の本心を上回るためにかなり強い心意を使ったために大きく消耗。その後も心意を消耗したために倒れたのですが…って、話が脱線してますね。…まぁ。今後鬼滅の刃の世界内で香が“マザーズ・ロザリオ”系統を使う機会はないとは言っておきましょう。
それでは、この辺で。ちなみに“マザーズ・ロザリオ”系統を使った理由はその時の状態で出せる単発技の中で一番の威力を持っていたからです。


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第参拾漆話 鬼殺の蟲柱と鬼憑の花使

はい、とりあえず書き上げてきました。もうそろそろ柱合会議です。


香が意識を失ってから少しした後。

 

りんねは山の中の状況の変化を察知していた。

 

…鬼の気配が少なくなってるわね。鬼狩り様って言われている存在ではないはずだから……鬼殺隊かしら。

 

りんねは少し目を閉じて感覚を研ぎ澄ませ、察知用の感覚を広げた。

 

…仁とだまりはこことは反対側ね。この山の中で一番強い鬼の気配はまだ消えてない……それから人と共にいる悪鬼ともこの世界にいる鬼とも違う鬼の気配。……どっちみち、香が目覚める前に状況は終わるかしら。

 

広げた感覚から得られた情報を整理しながら呟く。その後、少し表情が歪んだ。

 

……少し前から感じたことのある気配があるわね。……確実に、こっちに向かってる。香の意識がない状況下でどこまでできるかしら…っ!

 

そう呟いた直後、りんねの顔のあった場所をクナイに近いものが通過していた。

 

……危ないわねぇ。挨拶もなしに攻撃なんて。……ねぇ?“胡蝶 しのぶ”?

 

りんねがそう言って背後を見ると、以前から香が何度か会っていた鬼殺隊員───蟲柱“胡蝶 しのぶ”の姿があった。

 

「……あなたにその名を呼ばれる理由はないはずですよ。」

 

冷たいわねぇ……さて、言い訳を聞こうかしら?

 

「なにがです?」

 

決まってるじゃない?……何故、私を狙ったの?

 

“何故私を狙ったのか。”りんねはそう質問したが、当然りんねも自分と香、だまりと仁の状態が鬼殺隊に受け入れられないものであろうということは理解している。だが、しかし───その上で、りんねは聞きたかったのだ。“自分達の推測”ではなく、“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”を。

 

「…あなたが」

 

私が?

 

「あなたが、その子に害を成していると判断したからです。」

 

 

「鬼そのものが人の体にとり憑いているなど、聞いたこともありません。ですからその子には何かしら悪影響があるのでしょう。……単刀直入に言います。即刻その子から離れなさい。」

 

りんねはその言葉を聞いて軽く笑った。

 

「…何がおかしいのです。」

 

何がおかしいか、ね……貴女。私と彼女の事情を知らないで、よくそんなことが言えるわね?

 

「…では、あなた方には何か事情があると?」

 

えぇ。まぁ、信用してくれるかどうかは分からないけれどね。……あぁ、そうそう。さっきの回答だけど───断固拒否させてもらうわ。

 

「…なら、力づくでも!」

 

しのぶがそこから抜刀し、りんねに襲い掛かる…その一瞬。

 

…ごめんなさい。

 

りんねがそう小さく呟くと同時に、りんねの姿がしのぶの視界から掻き消えた。

 

「!?」

 

しのぶは驚いてその場を見渡し、気づいた。

 

「あの子は…!?」

 

りんねと同時に、香の姿までもが消滅していることに。

 

「どこに…!」

 

…私ならここにいるわよ。

 

上の方からりんねの声が聞こえ、そちらの方を見ると木の枝の上に香の───

 

(違う……あれは……一体っ!?)

 

しのぶの見たことのある香の姿ではなく、()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()が、そこにはあった。()()姿()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……やはり……あなたは…!」

 

…勘違いしないでほしいわ。香は今、意識を失っている。そして、そこに香を置いたまま攻防を続けていたら香にまで被害が行くわ。…貴女、そこまで考えてたのかしら?

 

「……ですが、ではなぜ、移動させた今も彼女から離れないのです?」

 

言っておくけれど、私は今、単体では戦えないわ。必ず誰かの力を借りないと戦えないのよ。…少し心は痛むけれど、香の力を借りさせてもらうわ。

 

「…」

 

それと、意識を失っている今はともかく、体の主導権はほとんど香にあるわ。意識が戻ったら香の意思で動けるから何とも言えないわね。

 

「……それは、意識のないうちに入り込んで自由にすることができるということでは?」

 

…さぁね。細かいことは香が起きてから聞きなさいよ。

 

りんねはそう呟いて木の枝から降り、斬想鬼から引き抜いた桜色の片手直剣を構えた。

 

「…斬り技、ですか。」

 

…さぁ、ね。私が使うのは初めてよ。

 

「…っ」

 

初手はしのぶ。距離を詰めてまず一撃。りんねはそれを軽く避ける。

 

速い…けれど、香の比じゃないわね。

 

「!?」

 

それを聞いた直後、しのぶの姿がブレた。

 

「“蟲の呼吸 蝶ノ舞 戯れ”」

 

高速の複数回の突き。基本的にあまり見えないのだが───

 

 

りんねはそれを全て見切り、片手剣の腹で刺突の方向をずらした。

 

「…速いですね。たいていの鬼は反応しきれないのですが。」

 

貴女が遅い、ってわけでもないでしょうから…多分、香の動体視力の異常さよ?これは。

 

「…では、これはどうでしょう。」

 

…?

 

「“蟲の呼吸 蜂牙ノ舞 真靡き”」

 

不意打ち気味に撃たれた刺突。先程の複数突きを越える速度、ではあるのだが───

 

 

りんねは無言で避けた。

 

確かに早い、けれど一応反応できる感じかしら……前から思ってたけど香の体のスペックって軽く化け物クラスよね……まぁ、剣を折るわけにもいかないし避けるか受け流ししかできないわね。

 

避けた後、りんねはそう呟いていた。

 

「これですら、避けてしまうのですか…」

 

香自身が化け物レベルなのよ。

 

「……」

 

りんねのその言葉にしのぶは軽くため息をついた。

 

「…ところで、あなた方の事情とは何なのです?」

 

…聞いてくれるのかしら?

 

「信用するかどうかは後回しです、ですがその間も攻撃は止めませんので。」

 

…いや、話聞くなら攻撃止めなさいよ……

 

「拒否します。」

 

そう言うとしのぶは戯れよりも少し遅い刺突を連続で撃ち始めた。

 

はぁ…あまり香の体に負荷をかけたくないのよね……

 

「いいから話してください。」

 

…はいはい。

 

りんねは軽くため息をつくと、自身が鬼喰いの鬼であること、香の怪我が治っていない状態で自身が離れると暫くすると香が死に至ること、そして自分達と同じ境遇の存在はもう一組いるということを話した。

 

「もう一組…ですか。」

 

そう。私だけじゃなくて、もう一組…人鬼一体の存在がいるわ。

 

「……」

 

しのぶは刺突を続けながら考え事を始めた。

 

「……ぅ」

 

小さい声が聞こえたかと思うと、香の方の目が少し動き始めた。

 

「……うぅ」

 

あ、やっと気がついた?

 

「………状況は?」

 

香は覚醒直後に起きていることで少し困惑しながらりんねに説明を求めた。

 

蟲柱と遭遇、私の姿を見て戦闘開始、私は融合状態第二段階を使って応戦中。以上。

 

「…把握。りんね、動作代わるよ?」

 

お願い。私じゃ十分に生かせないわ。

 

そんな会話が聞こえた直後、香が一瞬で跳び退いた。

 

「…!?」

 

「…はぁ……少し面倒なことになってますね…」

 

「…香さん…ですか?」

 

「…えぇ、そうですよ。…なにか、言いたそうですね。」

 

刺突が止んでいるところで香がしのぶに声をかけた。

 

「…貴女は、その状態を受け入れているのですか?」

 

「ええ。」

 

「…即答、ですか。何故です?」

 

「…」

 

理由を聞かれた香はしのぶをじっと見つめた。

 

「…なぜ、ですか。最初は仕方なしに受け入れるしかなかっただけですが……今となっては、りんねは大事な仲間ですから。それと…」

 

香はそこで一度言葉を切って、りんねが融合している部分の方へと目を向けた。

 

香の体は私が維持し、私の魂は香が維持する。忌々しい……とはもう思ってないけれど、私と香は死にかけ同志で一蓮托生。香が私のメシを狩らないと私は力尽いて、私が消滅すれば香は死のみ。今も、そんな状態なのよ。

 

「…私はまだ、死ねません。目的の鬼を倒すまで。それまでは、たとえ鬼の力であろうと受け入れ、使うことに決めたんです。……一年ほど前に。」

 

「…一年…ですか」

 

しのぶは香の姿をじっと見つめた。

 

「…一つ、お聞きします。」

 

「なんでしょう。」

 

「…貴女は……いえ、貴女方は何人、人間を殺しましたか?」

 

その問いに、香は表情を曇らせた。

 

「……二十人以上」

 

え……ちょっと、聞いてないわよ!?

 

香の回答にりんねが声を荒げた。

 

「知らなくても無理はないよ。…一人目はりんねと会う前、二十人近くは錦糸屋のみんな、最後の一人は……お父様だし。」

 

お父様…って……あいつは貴女が殺したんじゃないでしょ!?

 

「…私が殺したも同然だよ。…確かに、私が直接手は下してはないけれど。二人とも、私が原因で死んだんだから。」

 

っ……

 

香の少し泣きそうな表情に、りんねが黙った。

 

「…先程から聞いていると、全てあなたが直接手を下したわけではないのですね?」

 

「…ええ。」

 

「……その真実を確かめる方法はありますか?」

 

「……」

 

香は目を逸らした。そして、少し小さく呟いた。

 

「…同じ剣士なのです、剣で知ればよいのでは?」

 

「…なるほど」

 

その言葉を聞いて、しのぶは自身の刀を構えた。

 

「…鬼は、平気で嘘をつきます。自分の身を守るためなら。ですから、それが真実だと断定できなくては私も信用することができません。」

 

「…そうですか」

 

「……いきます」

 

しのぶはその位置から強く踏み込んだ。

 

「“蟲の呼吸 蜈蚣ノ舞 百足蛇腹”」

 

その言葉を聞いた瞬間、香が嫌そうな顔をした。

 

「…私は虫が嫌いなのです」

 

そう呟いた直後、振り向いて剣を剣の腹を見るように立てた。

 

 

バキッ

 

 

そんな嫌な音と共に香の剣が折れた。

 

「あ…」

 

香はそれを見て軽く驚いていたが、すぐに持ち直して剣を持っていない方の手を握った。

 

「“閃打”」

 

香の手が光ったと思うと、地面が少し揺れ、香の姿がしのぶとは離れた場所にあった。

 

「…!一体何が…!」

 

「地面を叩いてその時に発生した反発力でここまで跳んだだけですが…」

 

香はそう言いつつ、折れた剣を納めてから斬想鬼を閉じた。

 

「…“剣式・両手刀・桜花・贋作”」

 

そう呟いてから香は斬想鬼を開き、桜色の刀を抜刀した。

 

「…その刀は、以前の。ということは…やはり。」

 

「……えぇ。あの時、貴女が見たという謎の黒髪の剣士。それは、私のことです。…流石に、そんなことをしていると気がつかれたら、鬼殺隊のあなたは黙っていないでしょう?」

 

「…そう、ですね」

 

「…さて、次はこちらですか。」

 

香はその場から一気に踏み込み、しのぶの眼前まで接近した。

 

「は、速い!?」

 

「“桜花一閃”」

 

「くっ…!?」

 

しのぶはその技の範囲外に間一髪で到達し、攻撃を喰らうことを免れた。

 

「…!?ど、どこに───」

 

「ここです」

 

香の姿を見失ったしのぶの背後から声がした。

 

「“桜花一閃・一分咲”」

 

その不意打ち気味の一撃に、しのぶは対応することができずに直撃し、吹き飛ばされた。

 

「…っ!」

 

しのぶは木に激突し、痛みで空気を吐き出した。

 

「……」

 

香には追撃する気配はない。じっと見つめて、ただただ立っている。さらに、しのぶはそこで自身の体に違和感を覚えた。

 

「……?斬られた傷が…ない?」

 

香は確かに、しのぶのことを斬った。それなのに、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……どういう、ことです?」

 

「……私のこの武器は“斬りたいと思ったもののみを斬ることができる”のです。…私は、貴女を斬りたいとは思っていません。」

 

「斬りたいと…思ったもののみ。」

 

「私は。人を……斬りたくはありません。」

 

その香の眼差しに、しのぶは香が本心を言っていると感じた。

 

「……貴女は、なぜ鬼を狩るのですか?」

 

気がつくと、しのぶは以前に香にしていた質問と同じ質問をしていた。

 

「……りんねが生きていられるため。私が強くなるため。………大切な人たちを、もう二度と…失わないために。」

 

香はそう、答えた。

 

「……もう一つ、お聞きしましょう。貴方達以外にもう一組、同じ状況の存在がいると言いましたね。その方たちの容姿は?」

 

「…なぜ、それを?」

 

香はその言葉を聞いて警戒を強めた。

 

「…貴女からは悪い気配はしません。貴女が言うもう一人の存在の容姿を知り、実際に見ることで最終判断をしようかと思いまして。」

 

「……仁に危害を加えたら許しませんから。」

 

「状況によります。」

 

その言葉を聞いて、ため息をついてから仁の容姿とだまりの容姿を軽く説明した。

 

「……鴉さん」

 

聞いたのち、しのぶは立ち上がって自身の鴉を呼んだ。

 

ナン、ダ!

 

「全鎹鴉に伝えてくださいますか。“黒い鬼が憑いた黒髪の黒い着物の下に赤い長襦袢を着た少年を保護せよ”と。持ち物は“赤い武器”…」

 

カー?…ソレハ、ソコニイル女ガ持ツ武器ト同ジ武器カ?

 

「…?えぇ。」

 

……ソレナラバ、オ館様ヨリ捕獲命令ガ出テイルゾ

 

「……」

 

「……」

 

「「え?」」/「え?

 

二人と一体の声が見事に重なった。

 

既ニ、全鎹鴉ニ通達サレテイル!ごむマリノ、ヨウナ存在ト、共ニイル男ト、女ヲ、捕獲シ、連行セヨ!

 

誰がゴムまりよ!!

 

ソウイワレテモ、困ル!

 

「…何故、私達には通達がなかったのでしょう。」

 

通達サレタノハツイサッキダ!

 

「…」

 

しのぶは頭を押さえた。

 

「…ともかく、任せていいんですね?」

 

アア!

 

「では、よろしくお願いします。」

 

しのぶがそう言ったとき、背後でドサッという音がした。

 

「…!?ちょっと!?」

 

香が倒れていたのを見て、すぐに駆け寄った。

 

…心配しないでいいわよ。気力が切れて気絶しただけだから。

 

りんねがそう呟いた。

 

「なぜ…」

 

…もともと、ここに来てからあなたと会うまでに結構消耗してたのよ。そんなところであなたが来て、恐らく騒音で気がついたのでしょうね…結構ぎりぎりの気力で戦ってたはずよ?

 

「…」

 

それが、今になって切れた。体力も気力もなくなってるから、しばらくはこのままだと思うわ。

 

「…悪いことをしましたね。」

 

…ほら、行きなさい?鬼はまだいる。

 

「…危害は、加えませんね?」

 

えぇ。…というか、私も結構疲れたから眠らせてもらうわ。

 

そういってりんねは香の影となった。

 

「……鬼喰いの鬼、ですか…」

 

しのぶはそう呟いて鬼の気配がする方へと走り去っていった。

 




誰かfont:71のフォント名教えてくれませんか……鎹鴉の言葉に使っていたフォントなんですけどフォント名が分からずに設定できないのです…(解決済み+フォント間違えてました)
…ところで、全く関係ないのですが、香さんの身長、とあるゲームの主人公とほぼ同じ身長なんですよね…ちなみにそのゲームの主人公の身長は137cmだそうで。


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第参拾捌話 鬼殺の水柱、鬼憑の火使

第三十八話。
あ、ちなみに前回のタイトルの読み方は“きさつのむしばしらとおにつきのはなつかい”。
今回のタイトルの読み方は“きさつのみずばしら、おにつきのひつかい”ですね。


……

 

だまりは仁の影のふりをやめて周囲を見渡した。

 

……気のせいか?…んや。そこにいるのは誰だ。

 

だまりが一本の木の方へと話しかける。するとその木の影から左右の模様が違う羽織を着た人物が現れた。

 

……誰だ。

 

「鬼に名乗るような名は持ち合わせていない。」

 

その人物はそう答え、青色の刀を構えて即座にだまりへと襲い掛かった。

 

…チィッ!

 

だまりは即座に仁と同化し、仁の手元にあった刀で謎の人物の刀を受けた。

 

「ヒュゥゥゥゥ」

 

…!?その音…炭治郎とかいう小僧が使っていた水の呼吸とやらか!

 

「!?」

 

だまりの言葉に謎の人物は驚愕の表情を一瞬だけ浮かべたが、即座に斬撃を放った。

 

「“水の呼吸 肆ノ型 打ち潮”」

 

「…!」

 

だまりは自身の一部を硬質化させ、仁とだまりを護るように囲った。

 

「…硬いな」

 

精度は炭治郎とかいう小僧よりもはるかに高い……わっしゃだけの力で何とかなるか…?

 

「……これはお前の血鬼術か」

 

謎の人物がだまりに問うたが、だまりは首をかしげた。

 

………血鬼術とはなんだ?それはただの“呪力硬質化”だが……

 

「……呪力ってなんだ」

 

知らん。

 

「……」/「……

 

その場を沈黙が支配した。

 

「……質問を変える。なぜお前は炭治郎と水の呼吸を知っている?」

 

…そんなことをわっしゃが答えてどうする。

 

「……解答によっては斬る」

 

…どんな回答をしても切るつもりではないのか?

 

だまりが謎の人物を見つめた。

 

「……ならどうしろと。」

 

まずは刀を下ろせ。話はそれからだ。

 

そうだまりが言うと、だまりは刀を地面に突き刺した。

 

…こちらから危害を加えるつもりはない。

 

「……」

 

…といっても、信用はされんか。

 

だまりは軽くため息をついた。

 

「……一つ聞かせろ。」

 

 

「お前は今まで、何人、人を喰った」

 

謎の人物はだまりをまっすぐと見つめてそう聞いた。

 

人間?…零。悪鬼を喰った数なんぞはもういちいち覚えとらんわ。

 

「…人間を、喰っていない?」

 

…わっしゃは鬼喰いの鬼だ。人喰いとは違う。

 

「……なら、その異様な姿は何だ。」

 

謎の人物はだまりの姿のことを指摘した。

 

「人間の身にとり憑いていることはどう説明する?」

 

…それについてはわっしゃも説明しにくい。

 

「……ふざけているのか。」

 

ふざけてなどおらん。…ただ一つ言えるのは。

 

だまりはそこで言葉をきった。

 

「…なんだ。」

 

…ただ一つ言えるのは、わっしゃもこやつもこの状況を自分の意思で受け入れている。…それくらいか。

 

「……」

 

その回答を聞いて謎の人物が刀を納めた。

 

「……これでいいか。」

 

……

 

それを見てだまりも地面に差していた刀を抜き、斬糸へと納めた。

 

「…それで、さっきの質問に答えろ。」

 

…簡単な話だ。この場所に来る前、炭治郎とかいう小僧と伊之助とかいう小僧と会ったのだ。その時に使っていたのが水の呼吸。音が特徴的だった。

 

「…他には。」

 

特に何か話せるようなことはないが……そうだ、炭治郎とかいう小僧はわっしゃたちとは別の方向へと飛ばされた。

 

「飛ばされた?」

 

鬼だ。強い力を持つ鬼。わっしゃたちと炭治郎とかいう小僧は鬼の攻撃に吹き飛ばされた。

 

そこでだまりは一度目を瞑った。

 

…む。小僧、お前さん鬼殺隊だな?

 

「それがどうした。」

 

伊之助とかいう小僧が危ない。案内するからついてこい。

 

だまりはそう言って走り始めた。慌てて謎の人物もその後を追う。

 

……なんだ、ついてこないと思ったがついてくるのか。

 

「…義勇」

 

ぬ?

 

「“富岡 義勇”。水柱だ。」

 

「…そうか。」

 

義勇と名乗った人物とだまりは走り続け、川に近い場所に出た。

 

…あれだ!

 

「…ぅ」

 

…む?

 

仁の方の目が動いた。

 

「…あれ…ここは……」

 

すまぬ、仁、あやつを助けられるか

 

「は…?」

 

仁は周囲を見渡して何が起こっているのかを確認した。

 

「…分かった」

 

仁が刀の柄に手をかけた。

 

「“心意脚力強化”…“火炎抜翔・加速乱斬”」

 

仁は強く地面を踏み込み、一瞬で鬼に接近して鬼の左手を滅多切りにした。

 

それとほぼ同時に、義勇も鬼の左腕を切り落とした。

 

「ギャウ」

 

「げほ、げほっ…」

 

「…大丈夫ですか、伊之助様。」

 

「あ?楼か」

 

「仁です」

 

仁は即答で間違いを訂正した。

 

「…あいつが、斬ったのか?」

 

「えぇ、私は伊之助様についていた鬼の指を切り落としただけですが。腕はあの方が。」

 

「…」

 

そんな話をしていた時、鬼が腕を再生させて義勇に飛びかかった。

 

「速ェッ…」

 

「ヒュゥゥゥゥ」

 

「…彼は、水の呼吸なのですか。」

 

そう言っておったぞ。

 

だまりがそう答えた時、義勇の技が動いた。

 

「“水の呼吸 肆ノ型 打ち潮”」

 

「っ……」

 

伊之助がそれを見て声を失っていた。

 

「…あの人、すごいですね。」

 

「……」

 

義勇が鬼を斬り、刀を納めたところで伊之助が動いた。

 

「俺と戦え半半羽織!!」

 

「……えぇ!?」

 

…なぁ、仁よ。こやつ、やはり馬鹿なのか?

 

「聞こえてんぞ!!二度も言うんじゃねぇ、にがり!!」

 

わっしゃはだまりだ!!

 

「……」

 

義勇は仁を見つめていた。

 

「…?」

 

「あの十二鬼月にお前は勝った、そのお前に俺は勝つ」

 

そこまで伊之助が言ったところで義勇は伊之助の方を向いた。

 

「そう言う計算だ、そうすれば」

 

伊之助は自分を指で差した。

 

「一番強いのは俺っていう寸法だ!!」

 

「……」

 

「……」

 

間。

 

「修行し直せ戯け物!!」

 

「伊之助様は馬鹿なんですか?」

 

やはり小僧、お主馬鹿だろう。

 

二人と一匹から一斉に暴言を吐かれた。

 

「なにィィィ!!」

 

「今のは十二鬼月でも何でもない。そんなことも分からないのか」

 

「わかってるわ!!十二鬼月とか言ってたのは炭治郎なんだからな!!」

 

(あ、正確に名前言った……あっ。)

 

「俺はそのまま行っただけだから……な」

 

義勇が手を叩いたかと思うと、伊之助が縄に縛られていた。

 

「…!?」

 

義勇はその後、仁をまっすぐと見た。

 

「…お前、なぜあの時、鬼ではなく人間の方へと攻撃をした。」

 

質問したのは伊之助を助けた時のこと。確かに仁は、鬼の方ではなく人間、伊之助の方へと攻撃を放っていた。

 

「……あぁ。私のこの武器は、私が斬りたいと思ったもののみを斬ることができるので。伊之助様ではなく、鬼だけを斬るという意思を持って斬っていたのです。」

 

「……そうか。」

 

その時、バサッという音が聞こえた。

 

伝令!伝令!鬼ノ憑ク黒イ着物ヲ着タ男ヲ保護セヨ!特徴ハ赤イ筒ノヨウナ武器!!自分ノ意思デ斬リタイモノを見分ケラレル物!!

 

鴉の言葉に義勇が反応した。

 

「…これは…」

 

「……私達のことでしょうか。」

 

尚、情報ハ鬼ノ憑ク黒イ着物ヲ着タ女カラモタラサレタモノ!!

 

…そのようだな。…何を考えておるのだ、香は…

 

「知ら…ん……」

 

仁はそう呟いて倒れた。

 

「!?おい!」

 

そっとしておけ。少し疲れて眠っているだけだ。

 

「…そうか。鬼。」

 

なんだ。

 

「炭治郎の位置は分かるか。」

 

 

だまりは義勇の言葉に自身の体の一部を硬化させてある方向を指した。

 

あっちだ。何かと戦っている。行くなら早くいけ。

 

「すまない。」

 

義勇は鬼に教えられた方向へと向かった。

 

(鬼喰いの鬼……か。あいつらも、何かが違うかもしれないな…)

 

義勇は走っている最中、そう思った。

 




実際別世界の人間と鬼ですから違うのは当たり前といえば当たり前だったりしますね…
それではまた次回…あ、前回話し忘れたバーチカル・アークの速度なんですけど…ソードアート・オンライン好きの方はご存じだと思いますが、あれは“片手剣垂直二連撃ソードスキル”なんです。前回まで香達は“刀垂直二連撃ソードスキルとして無理矢理心意で改造したものを使用していた”のですね。ですから実は刀で使っている方は本当のバーチカル・アークからは劣化してるんです。刀で使った“バーチカル・アーク ver.sonic”よりも片手剣で放った“バーチカル・アーク”の方が速いと描写したのはそれが理由です。
それではまた次回。次々回あたりには柱合会議に入れるかもしれません。


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第参拾玖話 要求、そして精神の間

第三十九話です。そういえばいつの間にかUAが5,000を超えているのですよ。PVは12,000を超えているようですが。
そして私がやってしまいそうになったこと。私が書いているもう一つの作品、“亡霊のお話”にこのお話を投稿しそうになったことです。危なかったです…
それでは、どうぞ。あ、“亡霊のお話”に関しては宣伝でも何でもないので見たい人がいればどうぞ。…もう先にあっちの方完結させるかな…


 

 

香が気を失ってからしばらくした後。

 

香に近づいてくる人影が複数あった。

 

「この人か?伝令にあった鬼が憑いた子供って。」

 

「影に目があるから多分そうじゃないか?…ってこれ寝てるのか?」

 

鬼殺隊の事後処理部隊、“(カクシ)”。香のもとに現れたのはその隠達である。

 

「女の子か…ということは男の子の方は違うところなのか。」

 

「う~ん…縛るのかわいそうかな…」

 

そう呟きつつ香に近づき、隠の一人が香に触れた時、香の指がピクリと動いた。

 

「……今一瞬動かなかったか?」

 

「…そうか?」

 

「……死んではないと思うけど、確かしのぶ様と戦った後って聞いたからな…早々動けないとは思うけど……」

 

「しのぶ様と戦ったんだったら毒が回ってるんじゃないか?」

 

「どうだか…」

 

そう会話した後、隠が香の腕を持ち上げようとすると、逆に香にその腕を掴まれた。

 

「うおっ!?」

 

「この人、動いて…!?」

 

「ちょ、離れろ!!」

 

腕を掴まれた隠が腕を振るが、香は一向に離す気配はない。

 

「ちょ…ゆ、ゆら……ゆらさ……ない…で…」

 

その小さな声に隠が動きを止める。

 

「……一つ……お願いがあります」

 

「は……?」

 

香は辛そうな表情をしながらも隠をしっかりと見つめた。

 

「…私達はこれから…鬼殺隊の……本拠地に……行くのでしょう…?」

 

「…それがどうした?」

 

「…なら……麹町の……」

 

香はそこで少しせき込んだ。

 

「…大丈夫か」

 

「……麹町の、“錦糸綺糸屋”というお店に寄って……そこにいる人たちを全員…連れて……きて…ください」

 

「錦糸綺糸屋……?」

 

香はぎこちなく頷いた。

 

「…理由は?」

 

「……話しておかないと……駄目、なのでしょう?…突如現れた、大きな屋敷を。」

 

「…」

 

隠はそれを聞いて少し納得した。

 

「…俺の一存では決められないが掛け合ってみよう。」

 

「…よろしく…お願い…しま……s」

 

香は言葉を発し終わる前に気を失った。

 

「…とりあえず拘束するぞ」

 

「あ、あぁ…」

 

隠達は香を軽くとはいえ拘束してから持ち上げた。

 

「うわ軽っ!?」

 

「てかこの子小さくね?」

 

「普通にしのぶ様より小さいな…こんな子が戦ってたのか。」

 

ちなみに、そのころりんねはというと。

 

うっさいわねぇ……着物の中って狭いから好きじゃないのよね

 

香の着物の中に隠れていた。

 

 

その香はというと───

 

 

どこかで水滴が落ちる音が聞こえる。

 

「ん……」

 

意識が目覚めると、どこか真っ暗な空間の中にいた。

 

「…ここは……」

 

実体のある実際の肉体感覚はともかく、意識体の感覚ははっきりと存在し、自分がどこか真っ黒な空間にいるということは知覚した。

 

「……あれ?私のこの服って…」

 

香が自分の姿を見下ろして言葉を発した。半袖の、紫色の部分が多いワンピース。靴下も紫であり、靴は青い花がついているサンダル。今の香とは全く違う服である。

 

「……この髪…」

 

香は自身の髪を手に取って小さく呟き、右手を軽く下に振った。

 

すると青い板が開き、香が操作すると香の手元に姿を反射するもの───鏡が現れた。

 

「…うん、間違いない。」

 

そこに映っていたのは白く毛先が紫色の髪を持つ、紫色の目を持つ少女の姿。どことなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「間違いない。…これは、()()()()()姿()()()()()()()()()()、姿だ。」

 

そう呟いてもう一度青い板を操作して手元にあった鏡を消した。

 

「…りんね」

 

香がりんねの名を呼ぶが、返事はなかった。

 

「…そっか、いないのか。」

 

香はそう呟いて、先程から宙に浮いていたものに話しかける。

 

「…貴女が案内してくれるの?」

 

「……」

 

浮いていたもの───それはハート型のペンダント。そのペンダントは縦に小刻みに動いてから香から遠ざかっていった。香はそれについていく。

 

「…ねぇ、ここがどこかわかる?」

 

「……」

 

ペンダントは横に小刻み動いた。否定の意。

 

「…そっか。今は誰かのところに向かってるの?」

 

「……」

 

ペンダントは小刻みに縦に動く。つまり肯定。

 

「そっか…」

 

そのまま少し歩き続けると、ペンダントが急に停止した。

 

「ここ?」

 

「……」

 

ペンダントが小刻みに縦に動いた。

 

「……はぁ…」

 

香が小さくため息をついた。

 

「手紙、届いたかな…」

 

そう呟いてからしばらく無音の時間が続いた。

 

「…ここ、どこなんだろ。」

 

香は答えが返ってくるとは考えずにそう呟いた。

 

「ここは精神の間。香の精神の奥底……少し無意識に近い領域だよ。」

 

背後から声がした。

 

「…その声。まさか…」

 

香は少しずつ振り向いた。その振り向いた先には青い眼を持つ白く青い毛先の髪を持つ女性がいた。

 

「…久しぶり。香。…元気…だった?」

 

()()……()()()

 

お姉ちゃんと言われた人物はそれを聞いて柔らかく笑った。

 

「覚えててくれたんだ。」

 

「…当然、だよ……家族なんだから…!」

 

「…そっか。改めて、久しぶり。香。」

 

「うん…Luly(ルリィ)お姉ちゃん!!」

 

Lulyと呼ばれた彼女。香の、実の姉である。

 

「ふふ…ごめんね、今まで全く接触してこなくて。」

 

「ううん…お姉ちゃんにも事情はあったんだと思うし…」

 

そういうとLulyが苦笑した。

 

「今回接触するのも実は結構ギリギリでね…それでも、香が気を失ったのがこっちで観測できたから何とか意識と意識の隙間に割り込んで今ここで話せてるんだ。」

 

「意識と意識の隙間…」

 

「うん。ここは意識と意識の隙間。その中でも無意識にかなり近い部分。香がその姿なのは香が“この姿が自分である”って自覚してるからなんだよ?」

 

「そっか…ていうことはお姉ちゃんは…」

 

「…私は、香がイメージしてる私の姿。だから今の姿ではないんだよね。まぁ、助かってるといえば助かってるんだけど…」

 

「?」

 

香は少し疑問そうな顔をしたが、すぐにはっとしたような顔になった。

 

「お姉ちゃん、聞いていい?」

 

「うん?」

 

「…私がそっちの世界からいなくなって、どれくらいの時間が経った?」

 

香のその言葉に、Lulyは少し暗い表情になった。

 

「…2年、かな。」

 

「2年…」

 

「香は…どれくらい経ったの?」

 

「えっと……11年くらい…かな?私が今13歳で…あの世界に落ちてきてお母様とお父様に拾われたのは1歳とかだから…」

 

「…そっか。手紙見てて思ってたけどやっぱり時間の流れが全く違うんだね。」

 

「うん…」

 

少し流してしまったが、実は香、錦糸屋の結と灯純の娘にはかわりないのだが、義理の娘、つまり拾い子なのである。香にとって結は義母、灯純は義父となる。香が結と灯純を呼ぶとき、呼び方が変だったのはそれが理由だ。ちなみに、結と灯純に実の子供はいない…わけではないのだが、今説明するべきことではないので省いておく。

 

「…どう?そっちの暮らしは。」

 

「慣れたけど…寂しいのは変わらないよ。…好きな人もできたけど。」

 

「…そっか。おめでとう。」

 

「ありがと…」

 

Lulyの言葉に香は顔を赤くしていた。

 

「…そういえば、お姉ちゃん結局何の用だったの?」

 

「…あぁ、そうだった。本題忘れるところだった。」

 

「お姉ちゃん…」

 

香に呆れられていた。

 

「…えと…はい、これ。」

 

Lulyが差し出してきたのは透明な石に近い何かだった。

 

「これは?」

 

「心意観測石…かな。適当につけた名前だけど。しばらくの間持っててほしいの。」

 

「えっと…?」

 

「ちょっと、問題が発生してね。それの調査のために動かせる人材がいなくて。香にお願いしたいんだけど…いいかな。」

 

「…ちょっと、詳しく聞かせて。」

 

Lulyは小さくうなずくと、香が今いる世界のことを話した。曰く、何らかの原因によって世界の境界と構成情報が歪みに歪みまくり、世界へ跳ぶことはおろか正常な観測すらできないということ。Lulyの力をもってしてもその歪みを正常に戻すことは難しく、せめて観測はできるように追跡ができる心意観測石を香に持たせるということ。そして、その世界に、何を間違ったのか“跳んでしまった存在がいるということ”。そしてその存在は、恐らく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということ。

 

「…8年前…5歳までの私と同じ感じってことなんだ…」

 

「うん。こっちの調査で分かってることは変な跳び方をするとその人に何か…特に記憶への異常が起こるってこと。その跳んでしまった人は多重転移していたみたいだから…その多重転移に使われた転送エネルギーが香のいる世界の方に引っ掛かって跳んじゃったんだと思う。」

 

「…そっか。」

 

「…それと、もう一つ。それを持たせる目的は転送座標の固定にあるの。」

 

「固定?」

 

「うん。香という存在を転送座標として設定することで正常な転送ができるようにするのが今回の目的。」

 

香はそれを聞いて小さく首をかしげた。

 

「…楔、ってこと?」

 

「そう。もしかしたら、増援を送れるかもしれない。」

 

「…分かった。…ところで、その跳んでしまった人って?」

 

香のその言葉に、Lulyは一枚の紙を差し出した。

 

「…香は、こっちの世界のことを忘れてるかもしれないけど…」

 

香がその紙を見ると、そこには紫色の髪に紫色の目を持った女性に近い人の顔写真と“玉藻 鬼神”という名があった。

 

「“玉藻(たまも) 鬼神(きしん)”さん。その人が、今回迷い込んだ人。」

 

「…玉藻さん…」

 

「…香。」

 

「ん?」

 

香が資料から顔を上げると、Lulyが真剣な顔つきで見つめていた。

 

「…貴女の姉だけど、今回ただ一人の依頼者として貴女に依頼します。…玉藻さんを保護し、世界の歪みの原因を突き止め、修正後に安全にこちらの世界へと連れ帰ってきてください。」

 

「…」

 

「私のもつ“世界の管理”の力。そして、私の親戚が持つ“空間を操る力”をもってしても歪みを修正できないのは明らかにおかしいです。歪みを永続的に発生させている何者かが、その世界にいるはず。その何者かを倒し、この状況に終止符を。…恐らく、貴女も終止符を打たねばこの世界には帰れないでしょう。」

 

「…うん。わかった。その依頼、受けるよ。私も早く帰ってお姉ちゃんたちと遊びたいし。」

 

「…ありがとうございます。」

 

Lulyが頭を下げると、近くからピシッ…という音がした。

 

「…そろそろ目覚めそうだね。」

 

「…そうだね。」

 

「…あ、最後にもう一つお願いしていいかな。」

 

「?」

 

Lulyは真剣な顔ではないもののお願い、と言ってきた。

 

「さっきの玉藻さん以外に、仁さん達にも気にかけておいてほしいの。」

 

「それくらいなら。」

 

「…ん、じゃあ、私はそろそろ帰るね?」

 

Lulyはその場で体の向きを変えた。

 

「あ、まって!」

 

「うん?」

 

「あ、えっと…」

 

「どうしたの?」

 

香は少し恥ずかしそうに言った。

 

「えっと…あれ、やってほしいなって…」

 

「……うん、いいよ。」

 

Lulyは少し驚いたような顔をしてから香の背中に手を置いた。

 

「…“希望の虹はいつも心の中に。我らが魂の輝きは虹の中に。汝が魂は心の中に。汝の心は何色ぞ?”」

 

「“我が心は桜色。花に愛されし花の使い手。”」

 

「“汝の道に鮮やかなる希望の虹がかかることを。”」

 

そう言ってLulyは香の背中から手を離した。

 

「…じゃあね。」

 

「うん。」

 

そう香が言うと同時にLulyの体が粒子となって消え始めた。

 

「…またね。星海(ほしみ)お姉ちゃん。」

 

香がそう言うと、Lulyは少し驚いたような表情をしてから柔らかく微笑んだ。

 

「うん。またね。Luluna(ルルナ)…ううん。私達の大切な妹、k…」

 

Lulyは言葉を紡ぎ終える前に消え去ってしまった。

 

「……仁は、絶対に守るよ。私が、この手で。必ず…みんなを、元の世界に戻してみせる。」

 

香がそう呟いた直後、世界が割れて光が差し込んだ。

 

 

「柱の前だぞ!!」

 

(…うるさい)

 

覚醒直後から特大の声が聞こえて少し香が一気に不機嫌になった。




意識を失っていた人がいきなり動いて自分の手を取ったら怖いですよね。本当は襟のところを掴ませて少し高圧的に要求させようかと思ったんですけど、もしかしたら厳しいかなって。
そして、新キャラ出てきましたね。星海、Luly…それから香の真の姿。私のtwitter見てる人は少し心当たりあるのではないでしょうか。
さて、いよいよ柱合会議。アンケートの回答期間も終わりが近づいてきました。…というのに、まだ一件しか回答がないという。ちょっと泣けますね。
では少し次回予告のようなものを。

鬼殺隊に連行された香達。そこには“柱”と呼ばれる8人の剣士たちがいた。香、仁、炭治郎、善逸、伊之助がその場にいる中、違う場所から来たもう1人の柱がとある行動を起こす。それを見た香と炭治郎は───

次回、鬼ヲ狩ル者達之交差 第肆拾話。“逆鱗に触れた者”


それでは、また。感想その他お待ちしております。展開予想もかまいませんよ~


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第肆拾話 逆鱗に触れた者

タイトル通りです。


「起きろっ!!」

 

その怒声に香が目をうっすらと開けると、香の視界に複数の人が映った。

 

「…誰…?」

 

「あらあら、私の顔を忘れました?」

 

そういいながら近づいてきたのは、香にとって見覚えのある顔だった。

 

「…胡蝶…しのぶさん」

 

「ええ。…あなた、ここに連れてこられる前に隠に要求をしていたそうですね。」

 

しのぶは香に顔を近づけてそう言った。

 

「…そういえばしましたね。“麹町の錦糸綺糸屋というお店に寄ってそこにいる人たちを全員連れてきてください”…と。」

 

「ここは本来秘匿されている場所なのですが……不確定である要素、それに関する情報。それを得られるならば、連れてきてもよいでしょう、というお館様の判断です。お館様に感謝してください。」

 

「……それは、その人によりますよ。私が信頼するにあたるかどうか。それによって私が話すか話さないかは決めます。」

 

香がそう言うと、しのぶが軽く香をにらんだ

 

「…ただし」

 

「…」

 

「今の状態ではあなたたちも私達のことが未確定すぎて警戒を緩めないでしょう。ですから、ある程度までは無条件で公開しましょう。…こちらも、いろいろと整理はできましたから。」

 

「……そうですか」

 

そういってしのぶは香から立ち上がろうとした。

 

「…あなたは」

 

「?」

 

「あなたはその屋敷の者達を私たちが連れてきたという情報を聞いていないのに…何故、そうも信用できるのでしょう?」

 

しのぶは静かにそう問いかけた。

 

「…まだ、完全に信用はしていません。…ですが、皆を連れてきたという事実がこの場所に存在している以上、話が分かる方々だとは思っていますから。」

 

「…どういう、ことです?」

 

「この場所から少し離れたところに、皆の気配を感じます。それもここからそう遠く離れていなく、錦糸綺糸屋の屋敷からも遠い場所。…少し彼女の反応が遠いのと、ここの屋敷内の方に懐かしいような気配があるのを除けば、皆を連れてきたことが分かっていますから。」

 

「……あなた、いったい…」

 

しのぶはまた問いかけようとしたが顔を振って立ち上がった。

 

「…これ以上話しているとお館様が来てしまいますね」

 

そう言ってしのぶは複数人の集団の中に戻っていった。

 

(…なんだったんだろ…)

 

香がそう思いつつ、あたりを見渡すと、仁と金髪の少年、猪の頭を被った少年、額に傷のある少年がいた。

 

(…仁の心拍は安定してる。他の三人も心拍は安定中……っていうか誰だろ…この三人…)

 

「おきろ!やい!」

 

(…そういえばさっきからずっと音を気にしないようにしてたけど…あの人ずっと傷のある男の子を起こそうとしてるよね…)

 

香は黒子を着た人が傷のある少年を起こそうとしているのを見てそう思った。

 

「いつまで寝てんださっさと起きねぇか!!」

 

(あ、みんな気がついたみたい)

 

香の思考通り、その大声で全員が目を覚ましていた。

 

「柱の前だぞ!!」

 

その少年が少し困惑している間、柱らしい人間たちはその少年をじっと見つめていた。

 

「ここは鬼殺隊の本部です。あなたは今から裁判を受けるのですよ。竈門 炭治郎君。」

 

(裁判、か……そういえば私が連れてこられた主な理由って何だったんだろう。昨日は直感で出てきたまま言っただけだし……)

 

「裁判の必要などないだろう!鬼を庇うなど明らかな対立違反!我らのみで対処可能!鬼と鬼憑きもろとも斬首する!」

 

「ならば俺が派手に頸を切ってやろう。誰よりも派手な血飛沫を見せてやるぜ。もう派手派手だ。」

 

(言い分が激しいというかなんというか……というかしれっと私達巻き込まれたような…そしてあの女性は何に顔を赤くしているのかな…)

 

「あぁ…なんというみすぼらしい子供だ可哀想に。生まれてきたこと自体が可哀想だ。」

 

(あの大きな人は何か失礼なこと言ってるし…なんかボーっとしている人もいるし…)

 

「殺してやろう」

 

「うむ」

 

「そうだな派手にな」

 

(…)

 

香は心意の導線を仁の方へと伸ばした。

 

『仁、聞こえる?』

 

『!?』

 

『答えないでいいから聞いて。答え方教えてないし…とりあえず、強めの心意を薄く身体に纏っておいて。精密操作は難しいけど多分今の仁なら…』

 

『…』

 

『理由は何かここにいる人達の複数人が私達に向かって殺意を放っているから。強めの心意を薄く身体に纏っておけばひとまずある程度の攻撃は耐えられる防護壁になる。もっと詳しい心意運用方法はまた今度教えるから今はとりあえずイメージだけで何とかして。』

 

香の視点から仁が軽く頷くのが見えた。

 

『…接続を切るよ。私も少し荒く張るからそれを見てイメージは掴んで。』

 

そう思念を送った後、香は少し集中した。

 

(…これくらい荒ければ見えるかな)

 

その香の張り方を見て仁はなるほど、と思った。

 

(確かにいつもの香よりも心意の張り方が荒い。俺のためでもあるのだろうが…いや、普通に俺より荒くないからな??)

 

香の“荒い心意の張り方”が仁の心意の張り方よりも精密すぎて仁が少し凹んでいた。

 

「そんなことより冨岡はどうするのかね」

 

その声に全員が視線を上げた。

 

「拘束もしてない様に俺は頭痛がしてくるんだが。胡蝶めの話によると対立違反は冨岡も同じだろう。どう処分する、どう責任を取らせる、どんな目にあわせてやろうか。」

 

(…蛇?…ていうかあの人何であんなところに…)

 

「まぁいいじゃないですか、大人しくついて来てくれましたし。処罰はあとで考えましょう。それよりも私は坊やの方から話を聞きたいですよ。」

 

しのぶがそう言うと、少年…炭治郎が言葉を発そうとしてせき込んだ。

 

(気がついてなかったけどここに捉えられている中で私と仁以外重傷…っていうかよく仁、軽傷で済んだね…)

 

軽く感心しながらいると、しのぶが炭治郎に近づいて小さな瓢箪の中に入ってる水を飲ませていた。

 

「怪我が治ったわけではないので無理はいけませんよ。」

 

しのぶがそう言うと、炭治郎は自身の妹が鬼になったこと、人を喰らったことはないこと、今までもこれからも人を傷つけることは絶対にしないといった。

 

(絶対…か…)

 

それに対して木の上に乗っている人物がその言葉を信用しないということ、大きな人物が鬼にとり憑かれているから殺して解き放つと言った。

 

(あの~……それ私達にすっごい刺さるんだけど…)

 

さらに炭治郎は妹、禰豆子を治すために剣士になったこと、禰豆子が鬼になったのは二年以上前だとも明かした。

 

(……気になる。鬼らしき気配一つと鈴の気配。そして…人間の気配。こっちに近づいてる。)

 

少し警戒をしながらいると、先程の派手な人間がそれを証明して見せろと言った。

 

「あのぉ…でも疑問があるんですけど…お館様がこのことを把握してないとは思えないです。勝手に処分しちゃっていいんでしょうか?いらっしゃるまでとりあえず待った方が…」

 

(…あの人初めて喋った?よね?)

 

「妹は俺と一緒に戦えます!鬼殺隊として人を守るために戦えるんです!だから…」

 

その時、足音と共に声が聞こえた。

 

「オイオイ、何だか面白いことになってるなァ」

 

その声を聴いた途端、香は凄まじい嫌悪感を感じた。

 

「困ります、不死川(しなずがわ)様!どうか箱とその女鬼を手放してくださいませ!」

 

(…女鬼!?)

 

その声がした方向を香が見ると、傷だらけの男が四角い箱と白い髪の鬼の腕を掴んでこちらに来ていた。

 

「鬼を連れてた馬鹿隊員と鬼に憑かれることを許容し一緒にいた馬鹿っていうのはそいつらかぃィ」

 

香が鬼の方を見ていると、鬼がその視線に気がついたのか視線を上げた。

 

「…若女将っ!」

 

「鈴っ!!」

 

「一体全体どういうつもりだァ?」

 

その言葉を発した直後、香がその不死川と呼ばれた人物をにらみ上げた。

 

…ところで。

 

伊之助であるが。

 

ここにきて目覚めてからというもの、ずっと危険な気配を感じ取っていた。

 

それは紛れもない強者の気配。自分が勝つことができないと感覚のみでわかってしまうほどの気配。

 

それは紛れもなく、香の方から発せられていた。

 

そして、鬼を連れた柱が現れたと同時に、その気配は肥大した。

 

喉が潰れているために声がうまく出せないが、もし出せていたとしてもいつもの威勢を張ることができたか怪しいレベルの気配であった。

 

そして善逸。

 

りんねがしのぶを導いたためにその毒の進行が軽かった彼であるが、動きはやはり悪い。

 

だが彼の異常聴覚は健在で、不死川がいなかったときはまだ穏やかだった香の音が()()()()()()()()()()のをとらえた。

 

さらにそこにいた不死川と鈴を含まない全員。

 

全員が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を本能的に察知した。

 

まぁ、要するに。

 

 

───香が、軽くではあるが、怒り状態に移行した。

 

 

「胡蝶様申し訳ありません…」

 

「不死川さん、勝手なことをしないでください」

 

「はっ」

 

不死川と言われた剣士は箱を放り投げてから鈴を引き寄せた。

 

「あっ!」

 

「鈴っ!…鈴を離せっ!!」

 

「あァ?」

 

「もう一度言う……鈴を離せ!」

 

不死川は鼻で笑った。

 

「離すわけねェだろうがよォ…日光が大丈夫な鬼だ。これから先何があるかわからねェ。脅威になるような奴はよォ…」

 

不死川は剣を抜いた。それを見て、かなり濃くなった殺気の中で仁は思った。

 

(…あ、こいつ終わったな。…香の逆鱗に触れる。この殺気の強さはそれだ。)

 

同時に、りんねは思った。

 

…こいつ、終わったわね。香の最大レベルの逆鱗……“大切なものに危害を加える”を実行するなんて。

 

「殺しておくべきだよなぁッ!!」

 

不死川が剣を鈴に刺そうとしたとき、香が鈴とりんねに思念を送った。

 

『りんね、分離して私の着物の中に!鈴、防護魔法出力全開!!』

 

『は、はい!』/『了解

 

鈴に不死川の剣先が触れる直前、ガンッという音と共に剣が阻まれ、バンッという音と共に香と不死川の姿がその場から消えた。

 

「え…し、不死川様!?」

 

黒子を着た人物が不死川を呼んだ直後、柱達の背後でドゴンッ!という音がした。

 

「か…はっ」

 

「し、不死川様!?」

 

そこには壁に叩き付けられた不死川とどこからか取り出した剣を壁に突き刺している香の姿があった。

 

「「「「「「「っ…!」」」」」」」

 

柱達が仲裁に入ろうとしたが香から放たれる重く濃い殺気に圧倒され、声を発することができなかった。

 

ところで何が起こったのか。少し時間を戻して検証してみよう。

 

まず、香は思念を送った後、即座に加速を開始した。

 

加速後0.001秒レベルで()()()()()、その速度のまま不死川とともに跳びあがる。

 

跳びあがっている中で()()()()()()()()()()()()()()()し、不死川を滅多打ちにする。

 

その後柱達の背後へと降り、壁に向かって不死川を思いっきり叩き付けたのである。

 

不死川と香には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

…その辺にしなさい、香。

 

りんねの声がその場に響くと、香は不死川に顔を近づけた。

 

「…次やったら、容赦しない。死なない程度に傷つける。」

 

そう低く呟いた後、さらに顔を近づけた。

 

「…これは警告だ。」

 

ドスの効いた低い声で呟いて剣を引き抜き、不死川を元の場所へと戻し、その時に鈴も回収して仁の近くへと戻った。ついでにりんねも香に憑き、影に戻った。

 

「はっ…ははっ…」

 

香の殺気が収まったと思うと、不死川が軽く笑った。

 

「鬼が…鬼殺隊として人を守るために戦えるゥ…?そんなことはなァ…」

 

不死川は近くにあった箱を掴んだ。

 

「ありえねぇんだよ馬鹿がァ!!」

 

不死川は自身の刀を箱に突き入れた。

 

その箱から漏れ出た血を見た瞬間、炭治郎の気配が少し変わった。

 

(…屑か)

 

香から少し殺気が漏れ出ており、同時に炭治郎が飛び出した。

 

「俺の妹を傷つける奴は柱だろうが何だろうが許さない!!」

 

「ハハハハ!!そうかいよかったなァ!」

 

不死川がそう言った直後、羽織の模様が左右で違う人物が口を開いた。

 

「やめろ!!もうすぐお館様がいらっしゃるぞ!」

 

「!!」

 

その言葉で不死川にできたほんの少しの隙を、炭治郎は見逃さなかった。

 

地面をけって自身の身体を浮きあげたと思うと頭突きを入れたのである。

 

「ブフッ」

 

誰かが吹き出した音が聞こえ、香がその方向を見ると、しのぶではない女性が顔を押さえていた。

 

「すみません」

 

(頭突きって…まぁ笑えるかもだけども。)

 

そして頭突きで場所が入れ替わったときに、その炭治郎の近くには箱があった。

 

「善良な鬼と悪い鬼の区別もつかないのなら柱なんてやめてしまえ!!」

 

(言うなぁ…)

 

一瞬で音速を越えて傷がつかないように加工したうえでしばらく不死川を滅多打ちにした香が思うことではない気がする。

 

「てめェェ…ぶっ殺してやる!!」

 

不死川が起き上がろうとした時だった。

 

「お館様のお成りです!」

 

屋敷の方にいた子供がそう叫ぶと、奥の方から一人の人物が現れた。

 

「よく来たね、私の可愛い剣士たち。そして、私の剣士たちではないお客さんたち。」

 

その人物は、来た直後にそう言った。

 




昨日組み上げましたけど…次の話がいつになるかは分かりません。なんとなく構成はあるのですが形にしにくいのです。
ではでは。


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第肆拾壱話 名乗りと柱合裁判

第四十一話です。ほとんど原作と展開は同じなのですが、組み上げるのに時間がかかりました。原作6巻の第46話を読みながら執筆していたためなのですが。
そして柱合裁判これで終わりません…


「お早う皆、今日はとてもいい天気だね。空は青いのかな?」

 

香は二人の子供に連れられてきた人物を見つめた。

 

「顔ぶれが変わらずに半年に一度の“柱合会議”が迎えられたこと、嬉しく思うよ」

 

(この人……目が見えてない?)

 

そう思った直後、ドゴッっという音がしてそちらを向くと、炭治郎が不死川に押さえつけられていた。周囲を見渡すと柱と呼ばれた剣士たちが全員膝をついていたため、香もその場に座った。

 

「お館様におかれましても御壮健で何よりです。益々の御多幸を切にお祈り申し上げます。」

 

「ありがとう、実弥」

 

(……態度違う…)

 

「畏れながら、柱合会議の前にこの竈門炭治郎なる鬼を連れた隊士、および謎の鬼が憑いた人間達について、ご説明いただきたく存じますがよろしいでしょうか。」

 

鬼の憑いた人間たちとは恐らく仁と香のことだろう。香はそれを聞いたままお館様と呼ばれた人物を見つめていた。

 

 

「そうだね。驚かせて済まなかったと思っているよ。…だけどそのまえに。」

 

お館様と呼ばれた人物は不死川から目線を外した。

 

「他のお客さんたちを呼んできてくれるかい?」

 

「はっ、ただいま。」

 

隠の一人がどこかへと行った。

 

「すまないね。お客さんが私達に要求した人たちは少しの間この場所から隔離させてもらっていたよ。」

 

「いえ、危害を加えていなければ特に問題はありません。」

 

「そうか…」

 

その言葉から少しすると、隠を先頭として10人以上の人物が入ってきた。

 

「連れてまいりました」

 

「ありがとう。…さて、お客さんたちの話はあとで聞くとするけれど…ひとまず、お客さんたちの名前を教えてくれないかい?」

 

その言葉に香と仁は少し目を合わせてから姿勢を整えた。

 

「申し遅れました、私、呉服“錦糸綺糸屋”三代目当主の片割れ、“香”と申します」

 

「同じく、呉服“錦糸綺糸屋”三代目当主の片割れ、“仁”と申します。」

 

「…ふむ。姓は何だい?」

 

それを聞いた瞬間、香は錦糸綺糸屋から来た全員に思念を飛ばした。

 

『姓があることが確認できた。以前の打ち合わせ通りに。』

 

その言葉が思考内に響いた直後、全員が頷いた。

 

「…私は、“錦糸(きんし) (こう)”と申します。私の隣にいる彼女は“織鐘(おりかね) (りん)”です。」

 

「私は“綺糸(あやし) (じん)”です。」

 

「俺は…“朱道(あかみち) (らく)”だ。」

 

「私は“蒼霜(あおしも) (すず)”ね。」

 

「わ、私は“織雪(おりゆき) (はな)”です…一応、鬼です。」

 

「…“藤原(ふじわらの) 妹紅(もこう)”、です。こっちの桜色の着物の子は“闇星(やみほし) 美月(みつき)”ですね。」

 

美月の名前が言われた時、しのぶが美月の方を見た。

 

(…?)

 

「“廻花(めぐりはな) 流華(るか)”。花の操り手です。」

 

「“切空(きりそら) 風兎(ふうと)”…これでも男です。」

 

「“震岳(しんがく) 大地(だいち)”。最後の一人は“光弓(ひかりゆみ) 日向(ひなた)”だ。」

 

「…そして、“錦糸(きんし) 灯純(ひずみ)”、“継灯(つぎひ) (かなで)”、“雪原(ゆきはら) (あかつき)”。」

 

「さらに“綺糸(あやし) 佐吉(さきち)”、“継水(つぎみず) (さき)”、“鳴空(なりそら) (ひいらぎ)”。」

 

「…以上18名。これが、呉服“綺糸錦糸屋”に住むものでございます。」

 

「正確にはだまりとりんね入れて20ですが。」

 

仁と香はそう締めくくった。

 

「…そうかい。随分と人がいるんだね。」

 

「実際のところを言ってしまえば、鬼4名人間16名なのですが。」

 

「…では私も名乗らなくてはね。私は“産屋敷(うぶやしき) 耀哉(かがや)”。ここの鬼殺隊の隊員たちを束ねる者だ。私のことはどう呼んでくれてもかまわない。」

 

「…それでは…ひとまず耀哉さん、と呼ばせていただいても?」

 

「かまわないよ。」

 

「……失礼を承知でお聞きしますが、輝弥さんは…目を…?」

 

「既にほぼ失明しているよ。それがどうかしたかな?」

 

香はそう問われ、少し言葉に詰まった。

 

「…もしも、一時的にとはいえもう一度はっきりと見えるようになる、と言ったら…どうしますか?」

 

「…ふむ。」

 

その言葉を聞いて耀哉は少し顔を下に向けた。

 

「…私のこれは病によるものだ。叶うならばもう一度見てみたいとも思うが…」

 

そこで耀哉は顔を上げ、香の方をしっかりと向いた。

 

「…医者ですら私の病の進行は遅らせることができない。医者でもない君に何ができるというんだい?」

 

「……身をもって知った方がよいでしょう。りんね。」

 

はいはい。

 

「「「?」」」

 

二人の子供と耀哉が困惑している間に香は耀哉の方に手のひらを向けた。

 

spell act:system.id stand up Visibility restoration. type:time limit.limit time 2 hour.

 

詠唱。効果は“視界復元 時間制限方式 2時間”。つまり、2時間の間視界を取り戻す術を放ったのである。

 

手のひらから生まれた白い光はそのまま耀哉の方へと向かい、輝弥の体の中に入っていった。

 

「…!?目が…見える…!?」

 

「2時間だけですが、輝弥さんの視界を取り戻しました。もっと長い時間の効果にすることもできましたが、私の事情によってそれができなくなっていたりします。」

 

「…君は、一体…」

 

「…その辺は、あとでお話ししましょう。りんね」

 

はいはい

 

香はりんねを自分に憑かせてからもう何も言うことはないというように空を見上げた。

 

「…そうだね、詳しいことはあとにするとして…炭治郎の話に移ろうか。」

 

耀哉はそう言って炭治郎の方へと向き合った。

 

「簡潔に言えば炭治郎と禰豆子のことは私が容認していたし、香達のことは実害がない限りはよいだろうと黙認していた。事実、害になるようなことは発生していないし、最近興味深い話を聞いたのでね。そして、皆にも認めてほしいと思っている。」

 

(…まぁ、鬼狩ってただけだし……って、興味深い話?って?)

 

「嗚呼…たとえお館様の願いであっても私は承知しかねる…」

 

「俺も派手に反対する。鬼を連れた鬼殺隊員など認められない。」

 

「私は全てお館様の望むまま従います」

 

「僕はどちらでも…すぐに忘れるので…」

 

「「……」」

 

「信用しない信用しない、そもそも鬼は大嫌いだ。」

 

「心より尊敬するお館様であるが理解できないお考えだ!!全力で反対する!!」

 

「鬼を滅殺してこその鬼殺隊。竈門・冨岡・綺糸・織雪・錦糸・織鐘の処罰を願います」

 

(さらっと私達巻き込まないでよ…ていうか、さっきのことでわからなかったのかな…?)

 

香がそう思ったところで灯純が口をはさんだ。

 

「おいおい不死川さんよ、そいつはちいとばかしおかしいんじゃねぇか?」

 

「あァ?」

 

「香も仁も、それに鈴ちゃん、花ちゃんも鬼に密接に関係しているとはいえ鬼殺隊じゃねぇ。それを鬼殺隊の規律で裁くのはおかしいんじゃねえか?」

 

「…」

 

「それにお前さん、さっき香のこと怒らせたろう。別場所でもわかる程の香の殺気だ、大方鈴ちゃんを傷つけようとしたんじゃねぇか?その香の気配の恐怖は味わってるはずだがな。」

 

「…お父様、私、鈴と不死川さんに殺気を浴びせないように制御してたからそこまで意味ない。」

 

香がそう呟くと、灯純が小さくため息をついた。

 

「……お前、制御上手すぎだろ。」

 

「制御系統はかなり鍛えてるからね。一人を避けて殺気を撒くくらいできる。」

 

「……」

 

灯純は頭を押さえていた。

 

「…うん。確かに、香達を鬼殺隊の規律で裁くのはおかしいかもしれないね。先に聞くけれど…仁、香。君たちはまだ人間なのだろう?」

 

「「えぇ。」」

 

「鬼が憑いているとはいえその鬼が害をなしているかは分からない、ということだね。それと鈴と花に関しては…」

 

「鬼ですよ。れっきとした。ですが、人を喰らう鬼ではありません。」

 

「花も一緒です。」

 

「…ひとまず君たちのことはあとに置いておくしかないね。炭治郎と禰豆子のことだが、手紙が届いている。その手紙を。」

 

「はい。」

 

耀哉の近くにいた子供の一人が取り出し、手紙を開いた。

 

「こちらの手紙は元柱である鱗滝左近次様から頂いたものです。一部抜粋して読み上げます。」

 

(…手紙、か)

 

「“───炭治郎が鬼の妹と共にあることをどうかお許しください。禰豆子は強靭な精神力で人としての理性を保っています。飢餓状態であっても人を喰わず、そのまま二年以上の歳月が経過致しました。俄には信じ難い状況ですが紛れもない事実です。もしも禰豆子が人に襲いかかった場合は、竈門炭治郎及び───”」

 

(…なるほど。)

 

「“鱗滝左近次及び冨岡義勇が腹を切ってお詫びいたします。”」

 

それが読み上げられると、場が一気に静まり返った。

 

「…切腹するから何だと言うのか」

 

その静まりを破ったのはやはり不死川である。

 

「死にたいなら勝手に死に腐れよ。何の保証にもなりません。」

 

(…まぁ、分からなくもないけれど。)

 

「不死川の言う通りです!人を喰い殺せば取り返しがつかない!!殺された人は戻らない!」

 

(っ!!)

 

その言葉は香の心の傷を抉った。やはり自分が皆を殺したと思っているのが大きいのだろう、香の顔が辛そうな顔になった。同時に佐吉と灯純、仁も同じような表情をしている。

 

「確かにそうだね。人を襲わないという保証ができない、照明ができない。ただ。」

 

耀哉はそこで言葉を一度切った。

 

「人を襲うということもまた、照明ができない。禰豆子だけじゃない、仁も、香も、花も、鈴も。」

 

「!!」

 

不死川が軽く驚愕の表情を浮かべた。

 

「禰豆子が二年以上もの間人を喰わずにいるという事実があり、禰豆子のために三人の者の命が懸けられている。これを否定するためには、否定する側もそれ以上のものを差し出さなくてはならない。」

 

「…っ!」

 

「……むぅ!」

 

(…不殺2年という実績と3つの命。それに釣り合う…ううん、それ以上の対価…)

 

香がそんな思考を回した時、耀哉が爆弾を落とした。

 

「それに炭治郎は鬼舞辻と遭遇している。」

 

(鬼舞辻…え?)

 

「そんなまさか…!」

 

「柱ですら誰も接触したことがないというのに…!!」

 

「こいつが!?」

 

(え、ちょ、ちょっと……)

 

「どんな姿だった!?能力は!?場所はどこだ!?」

 

「戦ったの?」

 

「鬼舞辻は何をしていた!?」

 

「根城は突き止めたのか!?」

 

「おい答えろ!!」

 

(…いや、あの…そんな質問攻め状態で答えられるとでも?)

 

香は少し呆れていた。

 

「黙れ俺が先に聞いているんだ!」

 

「まずは鬼舞辻の能力を…」

 

そこまで言ったところで、耀哉が指を口の側に持っていくと全員が静まり返った。

 

「…何か聞きたそうだね、香。」

 

「…あの、“鬼舞辻”とは?」

 

「鬼舞辻を知らないのかい?」

 

香は少し戸惑いながらも軽めに頷いた。

 

「“鬼舞辻無惨”。私達鬼殺隊が追っている鬼の首領だよ。無惨がいる限りこの世から鬼が消えることはないのだろう。」

 

「鬼舞辻…無惨。」

 

香には聞き覚えがあった。否、聞き覚えがあるどころではないのだ。自ら情報を聞こうとしていたのだから。

 

「…仁」

 

「あぁ……」

 

「…どうしたんだい?」

 

「…こちらでお店を開いてから、妙なお客様が来店したことがあったのです。」

 

「…妙?」

 

「はい。先日の山にいた鬼よりも強い血の匂いがする方でした。外見は人間に見えましたが、気配が人間ではなく、また私たちが基本的に狩る鬼である悪鬼とも違う気配で…そうですね、ちょうど禰豆子さんに近いと言えば近いでしょうか。普通にお客様として来店したかと思ったのですが、その方がいる間、ずっと私の首元に向けて攻撃をしてきたのです。」

 

「…ふむ?」

 

「その方は、“月衣 黒百合”と名乗りました。いらっしゃったのは九月二七日…こちらにいます胡蝶しのぶ様が、錦糸綺糸屋に御来店された日と同じ日で、胡蝶しのぶ様が来店するよりも前にお帰りになりました。」

 

「……私が来る前に、ですか。」

 

「はい。…その後、私は夜中に外へ出て、鬼狩りをしたのですが…帰る直前になって、二体の鬼と遭遇、外界と遮断された空間の中で二体の鬼と戦いました。」

 

「「「「なっ!?」」」」

 

柱数名と仁が驚いていた。

 

「……その鬼の件についてはしのぶから報告を受けているよ。しかし、そのお客さんに関しては少し気になるね。」

 

「…それと、鬼舞辻無惨について。私達も少し情報を得たいのです。」

 

「…何故だい?」

 

香が少し仁を見ると仁が軽く頷いた。

 

「私達の母が、鬼舞辻無惨に捕まっているようなのです。…この件に関しては後で詳しくお話しします。」

 

「…ふむ、興味深い。あとで詳しく話を聞こうじゃないか。もしかしたら、鬼舞辻が君たちに注目している可能性もある。」

 

「…そうですか。」

 

「ともかく、鬼舞辻は炭治郎に向けて、場合によっては香達にも向けて追っ手を放っているんだよ。その理由は単なる口封じかもしれないが、私は初めて鬼舞辻が見せた尻尾を掴んで放したくない。」

 

(…)

 

「恐らくは禰豆子にも、鬼舞辻にとって予想外の何かが起きていると思うんだ。」

 

その言葉を聞いて香はなるほど、と思った。これはこの場では香以外知りえていないことなのだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。同じ鬼であることには変わりないのだが、本当に微妙な違い、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。気配の察知に長ける香だからこそ気が憑けたのかもしれないが、この世界にいる鬼の気配波長、人間の気配波長、悪鬼の気配波長にはそれぞれ“共通気配波長”と呼ばれるパターンがあるのだ。悪鬼は波長が常に荒れており、人間は逆に静か。そしてこの世界の鬼は人間と悪鬼の気配波長を交互に発生させたような状態になっている。ちなみに鈴と花などの鬼神族は人間とほぼ同じ気配波長で、かなり静かな波長をもっている。だまりとりんねも人間に近い波長だが、鬼神族のそれよりは荒れている。ならば禰豆子はどうなのかというと、基礎はこの世界にいる鬼であるのだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり悪鬼の波長ではないのだ。この“共通気配波長の荒れ”が何を示しているかというと、“人間性”のようなものを示しているのである。この世界にいる鬼の大半と同じ人間と悪鬼の交互波長ではない、ということはこの世界にいる鬼より禰豆子は“人間っぽい”のである。この人間っぽさが、鬼舞辻無惨にとっての予想外なのかもしれない。…ちなみに、香は禰豆子にかかっている暗示にも気がついているが、共通波長にそれは関係ない。

 

「わかってくれるかな?」

 

耀哉がそう聞くと一瞬静まったが、それをやはり不死川が破った。

 

「わかりませんお館様。人間ならば生かしておいてもいいが鬼は駄目です、承知できない。」

 

そういうや否や、不死川は腰に差していた刀で自身の腕を擦り切った。

 

「「「!?」」」

 

炭治郎、香、仁、その他諸々が驚いていると、不死川が口を開いた。

 

「お館様…!!証明しますよ俺が、鬼という物の醜さを!!」

 




…はい、ということでまた次回です。さすがに書くのが疲れまして。
ちなみに、気配に関する話ですが、あれは私の独自設定ですのであまり気にしてはいけないかと思われます。ただ少し補足。気配関係の話をする前に“月衣黒百合から禰豆子に近いと言えば近い気配がした”というようなことを言っていますが、あれはただただ“近い”と言うだけで“同じ”とは言っていません。ですから厳密に言ってしまえば“竈門禰豆子と月衣黒百合(鬼舞辻無惨)の気配は違う”のです。
ちなみに、香の戦った鬼五体とは簡単に言えば、空間を操る鬼の兄妹(“第漆話 香を狙う2体の鬼”及び“第捌話 鬼殺の毒、鬼殺の桜”参照)、上限の壱(“第拾肆話 十二鬼月の上弦”参照)、ブラコン妹(“第弐拾参話 実戦稽古・その弐 前”、“第弐拾肆話 実戦稽古・その弐 中”、“第弐拾伍話 実戦稽古・その弐 後”参照)、下弦の肆(“第参拾陸話 下弦の肆”参照)のことです。その鬼が出る話に直接行けるように下にURL置いておきます。
それと、各キャラクターの姓についてなのですが、綺糸屋勢に関しても完全にオリジナルです。“あやしや”を読んでくれた方ならわかると思うのですが、あの話って各キャラクターの姓が出てこないのです。ですので原作者様には申し訳ないと思いつつ私オリジナルで姓を設定させていただきました。“あやしや”の世界に姓はなくても“鬼滅の刃”の世界には姓の概念がありますから。そこの合わせですね。
ということで、今回はこの辺ですね。少し次回予告をして終わります。

不死川が腕を斬る。その行動に驚きを隠せなかった香達。何故そんなことをしたのか。その理由は血にあった。血の匂いで、鬼の本能を呼び出す。それが、不死川の選択だった。それに対して、鬼達と鬼憑達がとった行動とは───

次回、鬼ヲ狩ル者達之交差 肆拾弐話。“証明”


それではまた。感想その他お待ちしております。


参照話URL

第漆話 香を狙う2体の鬼↓
https://syosetu.org/novel/225682/11.html

第捌話 鬼殺の毒、鬼殺の桜↓
https://syosetu.org/novel/225682/12.html

第拾肆話 十二鬼月の上弦↓
https://syosetu.org/novel/225682/19.html

第弐拾参話 実戦稽古・その弐 前↓
https://syosetu.org/novel/225682/28.html

第弐拾肆話 実戦稽古・その弐 中↓
https://syosetu.org/novel/225682/29.html

第弐拾伍話 実戦稽古・その弐 後↓
https://syosetu.org/novel/225682/30.html

第参拾陸話 下弦の肆↓
https://syosetu.org/novel/225682/45.html


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第肆拾弐話 証明

四十二話です。遅くなって申し訳ありません。



 

不死川の方から血の匂いがした瞬間、香は凄まじい嫌悪感…否、嘔吐感に襲われた。即座に心意の流れを操作して感覚を保護したものの、顔色は優れていない。

 

「実弥…」

 

「…大丈夫ですか?若女将…」

 

「…うん。大丈夫…」

 

(何この感覚…心意の流れの制御で感覚から遠ざけたけど多分あのまま対策しなかったら吐いてた…)

 

香は今でも軽く襲ってくる嘔吐感に耐えながら、不死川の方を見た。

 

「オイ鬼!!飯の時間だぞ喰らいつけ!!」

 

メシだと!?

 

「お前じゃないぞだまり。」

 

何故かだまりが反応し、仁に軽く止められていた。その間に不死川は血を禰豆子の入った箱にかけていた。

 

「………すみません、その方からもっと離れてもいいですか」

 

「……顔色が悪いね。少し香を実弥から遠いところに移動させてあげなさい。」

 

「はっ」

 

近くの隠が香を少し遠ざけると、花、仁、鈴も香の側まで来た。

 

「大丈夫か?」

 

「…多分。」

 

……香、お主…血の匂いに弱いのか?

 

「そういうわけじゃないんですけどね…」

 

香が不死川の方を見ると口の方に包帯のようなものを巻いている人が声を発そうとしていた。

 

「不死川、日なたでは駄目だ。日陰に行かねば鬼は出て来ない。」

 

「お館様、失礼仕る。」

 

不死川はそう言うと、その場から勢いよく跳び出し、耀哉の背後の方へと回った。

 

(…おっそい)

 

香の感想が酷いが、そもそも一瞬で音速越えられるような奴にそんなことを言っても無駄である。

 

「禰豆子ォ!!」

 

不死川の方は刀を構えていた。

 

「やめろーーーーっ!!!」

 

炭治郎が動くよりも前に、包帯のようなものを巻いた人が炭治郎の背に向けて肘を振り下ろした。

 

「…っ!」

 

(あれ痛いんじゃないかな…?)

 

そんなことを思っていると不死川の方に動きがあった。刀を箱に三度、突き刺したのである。

 

(……)

 

「……香、切れかけてないか?」

 

「うん?いや、そうでもない…と思うけど」

 

それを聞いて仁は思った。

 

(……今一瞬、香の背後に赤い二本角の巨体の姿が見えたのは幻か…)

 

「出て来い鬼ィィ、お前の大好きな人間の血だァ!!」

 

不死川はそう言って箱の蓋を破壊した。

 

(……あとで修繕しようか、あれ。)

 

そう思った香であった。中にいた禰豆子はというと、箱を開けられてのっそり起き上がった。軽く、呼吸が荒い。

 

「…香、何か感じるか?」

 

「いや…嘔吐感以外は特に…」

 

…仁…わしゃ腹減ったぞ…

 

「お前今この状況下でそれ言うか?」

 

「鈴と花さんは…?」

 

「私は別に…」

 

「わ、私も大丈夫です…」

 

錦糸綺糸屋勢の方に血は効いていないようだ。強いて言うなら異常としては香が嘔吐感を感じていることくらいか。

 

「伊黒さん強く押さえすぎです。少し弛めてください。」

 

しのぶが炭治郎を押さえつけている人にそう言った。

 

「動こうとするから押さえているだけだが?」

 

「…竈門君、肺を圧迫されている状態で呼吸を使うと血管が破裂しますよ。」

 

それを聞いた派手な人が反応した。

 

「血管が破裂!!いいな響き派手で!!よし行け破裂しろ!」

 

「可哀想に…何と弱く哀れな子供。南無阿弥陀仏…」

 

それに構わず炭治郎は力を込めた。

 

(……)

 

「竈門君!」

 

あぶないと思ったのかしのぶが声を張り上げた時ブチブチッという音と共に炭治郎の拘束が外れた。

 

(いや……力強すぎでしょ。魔力強化とかしてないのに…)

 

香はそう思い、灯純はこう思った。

 

(あの力の強さ……普通の人間が出せるもんじゃねぇ。なるほど、あれが“全集中の呼吸”か。……まぁ、香は普通にあれくらい出せそうなのが怖いんだが。いや、あの化け物と比較しちゃならんか。まぁちゃんと一人の娘として触れ合うけどな。根本は人間なんだし。)

 

義父から何気に化け物扱いされている香であった。炭治郎はというと、拘束が解けた後せき込みながら屋敷の方へと近づいた。

 

「禰豆子!!」

 

屋敷のふちに捕まったところで禰豆子を呼ぶと、それに気づいた禰豆子の気配が少し落ち着いたのに香が気付いた。

 

(気配の荒れ方が元に戻った…鬼と化するぎりぎりだったかな)

 

その後、禰豆子は不死川の腕から目を逸らした。

 

「…ふむ。実弥に三回刺され、目の前に血塗れの腕を突き出されても我慢して噛まなかったのか。」

 

耀哉がその状態を見て軽く頷いた。

 

「これで、禰豆子が人を襲わないことの証明ができたね。」

 

「「!!」」

 

その後、伊黒が自分の腕を振って拘束をほどいた。

 

「何のつもりだ?冨岡…」

 

「……」

 

冨岡は答えなかった。

 

「炭治郎。それでもまだ禰豆子のことを快く思わない者もいるだろう。」

 

その声を聴いた炭治郎が屋敷のふちから離れ頭を下げた。

 

「証明しなければならない。これから、炭治郎と禰豆子が鬼殺隊として戦えること、役に立てること。」

 

(…あの人の声、少し特殊だね。)

 

そんなことを思いつつ香はまた少し強めの心意で嘔吐感を紛らわせた。

 

「十二鬼月を倒しておいで。そうしたらみんなに認められる。炭治郎の言葉の重みが変わってくる。」

 

(力あるものが認められる、か。嫌いじゃないけど…力のみが全て、っていうのは私は嫌いだね。)

 

「俺は…俺と禰豆子は鬼舞辻無惨を倒します!!俺と禰豆子が必ず!!悲しみの連鎖を断ち切る刃を振るう!!」

 

炭治郎はそう強く宣言した。

 

「今の炭治郎にはできないからまず十二鬼月を一人倒そうね。」

 

「はい」

 

炭治郎の顔が赤くなっていた。同時に何名か笑いをこらえていた。

 

「あの…すみません、質問いいでしょうか。」

 

「なんだい?」

 

「十二鬼月ってそんなに強いのですか?」

 

香がそう聞くと、全員の視線が集まった。

 

「…ふむ。鬼の中の精鋭達、といえば伝わりやすいかな?それぞれ上弦と下弦で六体ずつ、計十二体の鬼舞辻直属の鬼達だ。特徴は目に文字があることだね。」

 

「…目に、文字。」

 

「君達がいた山で戦っていた鬼は下弦の伍だけれど……何か、知っているのかい?」

 

「………あの、それは左眼に“下肆”と書いてある方でしょうか。」

 

「「「「「「「「「「…………………は?」」」」」」」」」」

 

全員が疑問の声を上げた。

 

「それは…下弦の肆だね。それがどうかしたのかい?」

 

「あの…私先日その方と戦ったのですが…」

 

「…え」

 

「そういえばあなたは私が見つけた時何やら巨大な鬼と戦っていましたが……あれがその、下弦の肆なのですか?」

 

しのぶが軽く声を震わせながら聞いた。香は控え目気味に頷いた。

 

「倒しきる前に逃げられてしまったのですが…その方の左眼に、確かに“下肆”と…」

 

「…貴女…化け物ですか。」

 

「そうだぞ、香は化け物だぞ。戦闘能力がな。」

 

「お父様酷いです…まぁそれは私も理解してますから別にいいのですが…」

 

「いいのかい…それで…」

 

「事実ですし。」

 

そんな会話があり、少し微妙な空間になってしまった。

 

「…まぁ、彼女はともかく、鬼殺隊の柱たちは当然抜きん出た才能がある。血を吐くような鍛錬で自らを叩き上げて死線をくぐり、十二鬼月をも倒している。だからこそ柱は尊敬され優遇されるんだよ。炭治郎も口の利き方には気をつけるように。」

 

「は…はい。」

 

「それから実弥、小芭内。あまり下の子に意地悪をしないこと。」

 

「……御意」

 

「御意…」

 

耀哉はそう言った後、香に視線を向けた。

 

「これで炭治郎の話は終わりだ。下がっていい…と言いたいところだけど香達の話も聞いておいてほしい。それから香」

 

「はい。」

 

「女性にこんなことを聞くのは失礼かもだけど…君、一体いくつだい?」

 

「もうすぐ14ですが。」

 

「13歳か……無一郎よりも年下なのか。」

 

「…というか私ここにいる人達誰なのか知らないのですが。」

 

「…ふむ。なら、香達の話に入る前にそれぞれの紹介から行こうか。」

 

耀哉はそう言った。

 




ということで証明が終わりました…次からは香達の話に入っていきます。
ちなみに年齢の答え方はあやしやの方の答え方にしています。


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第肆拾参話 鬼殺隊隊士の名乗り

遅くなりましたぁ………実は少し前からこの話は出来ていたのですけど……投稿する気力が全く湧かなくて……最近結構ひどい誤記を見つけて凹んでたものの何とか……
……はい、ということで気を取り直して第43話。最近長く書けなくなってきているのです。
…というか香達の話に入れてないのです。


 

「ここにいる人が分からない、と言っていたがしのぶのことは知っているのだろう?」

 

耀哉が香にそう問いかけた。

 

「確かに私は知っていますが…主に対応したのが私ですので知らない方もいます。」

 

「ふむ…ならば私から見て一番左の隊士から紹介を始めようか。」

 

ちなみに不死川は元居た場所に戻っている。

 

「彼は“伊黒 小芭内”。“蛇柱”だ。」

 

「…ふん。なんと言われようと鬼憑きと鬼なんて信用しないからな。」

 

そう挑発的に伊黒は言った。

 

「別に信用されようとなんて思ってませんけども……」

 

「鬼狩りができていればそれでいいといえばいいしな…」

 

仁と香にとっては別に気にすることでもなかったようだ。

 

「…次、そこにいる隊士が“竈門 炭治郎”。さっきのでわかっただろうけどこっちにいる鬼の“竈門 禰豆子”を連れている。」

 

「えっと…よろしくお願いします?」

 

「んー。」

 

炭治郎と禰豆子が返事をした。

 

「一番私たちの境遇に近い人たち…と覚えればいいのでしょうか。」

 

「多分そうじゃないかな…錦糸屋事件が未解決だった時の私みたい。」

 

鈴と奏がそう呟いた。

 

「次に“不死川 実弥”。“風柱”だよ。」

 

「ハッ」

 

「すみません、いい加減止血してくれませんか。」

 

「あァ?」

 

「さっきからずっと気分が悪いのです。」

 

香がそう言った。

 

「……そういえば香が気分悪いのはなんでだい?」

 

「わかりません。ただこうなったのは不死川さんが血を出した直後からですね。」

 

「…実弥の血が効いているのかな?君に憑いている鬼はどうなんだい?」

 

「…りんね、どう?」

 

声をかけられ、りんねは香の影の中からだるそうに起き上がった。

 

別に何もないわ。香の不調は恐らく不快感の限界突破よ。不死川とかいう馬鹿に不快感を感じなくなったらその症状もなくなるでしょう。

 

「…毒舌というかなんというか。」

 

堂々と柱を“馬鹿”というあたり、りんねの肝が据わっているというかなんというか…

 

「…ハッ!」

 

「君たちは仲が悪そうだね…」

 

耀哉が少し呆れていた。

 

「次が“悲鳴嶼 行冥”…“岩柱”だね。」

 

「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏…」

 

(この人まだお経唱えてるよ…)

 

「嗚呼…本当に可哀想だ……人でありながら人のように見えぬ姿形とは……嗚呼異質也……」

 

「……あなたから視ても異質に見えますか。」

 

「いや、香達のそれは誰が見ても異質に見える気がするけれど…」

 

耀哉から小さく突っ込みが入った。

 

「次、“胡蝶 しのぶ”。“蟲柱”。」

 

「以前からたまにお会いしていましたね。」

 

「そうですね。」

 

「…つかぬことをお聞きしますが、そちらにいる鬼の女の子。以前お屋敷を訪ねた際は角がなかった気がするのですが…」

 

その言葉を聞いて香は鈴を見た。確かに、今は角がある。

 

「あれ、鈴……前に渡した石はどうしたの?」

 

「えっと…首からかけていたのですが……ここに来る前に取られてしまいました。」

 

「……そっか。…後で返してくださいますね?」

 

香は隠に向けてそう言った。

 

「あ、あぁ……」

 

「…石?どういうことですか?」

 

「後でお話ししますね。」

 

「…分かりました。」

 

そう言ってしのぶは引き下がった。

 

「次に“霞柱”の“時透 無一郎”だ。」

 

「…」

 

「若いですね…おいくつですか?」

 

「14だね。」

 

「それほどまでに…」

 

「香の方が若いだろう…」

 

正論である。

 

「…次が“炎柱”、“煉獄 杏寿郎”。」

 

「うむ!鬼は信用できる気はしないがこれから先をよく見せてもらおう!」

 

「…元気ですね」

 

「つーかうるせぇ。」

 

「楽、それはさすがにどうかと思うぞ…」

 

「五月蠅いのは事実だから仕方ないんじゃない?」

 

「涼まで……」

 

煉獄に対する評価がひどい朱天と蒼天である。

 

「こほん、次に“恋柱”…“甘露寺 蜜璃”だね。」

 

「……///」

 

「露出多くないか?どう思う、咲。」

 

「私なら絶対に嫌な服装です。」

 

「あいつならやりそうな気がするが…」

 

「“あいつ”…って愛ちゃん隊長ですか…」

 

「あのオカマならやりそうだ。」

 

(言っちゃったよこの人…この場にいないからって…)

 

咲と柊がそんな会話をしていた。

 

「そういえばなんで顔を赤くしているのでしょうか?」

 

「それは私にもわからない…聞きたいのなら蜜璃本人に聞くといい。」

 

その言葉を聞いて甘露寺はまた顔を赤くしていた。

 

「そして“音柱”、“宇随 天元”。」

 

「ふん。人を喰わねぇ鬼ってことも信用ならねぇが人に憑く鬼が無害で、それが鬼を喰らう鬼ってことも信用ならねえな。証明するならもっとド派手に証明しやがれ。」

 

「……証明、か…」

 

「夜じゃないと難しいからな…」

 

仁と香が少し困惑していた。

 

「…次に“水柱”の“冨岡 義勇”。柱はこれで最後だね。」

 

「…」

 

「無口な方ですね。」

 

「だな…あんたとはたしかあの山であったな。」

 

「…鬼の件に関しては少しその鬼に世話になった。」

 

「……だまり?」

 

げっげっげっ、あがめたてまつれ。

 

「いや何があったのか教えてくれないか…」

 

「…義勇、山で何があったのか教えてくれないか」

 

「…」

 

義勇は少し仁の方に目線を向けた後、山で起こったことを話した。

 

「……以上です」

 

「なるほど…だまりにほぼほぼ敵意はないのか。」

 

人間の生き死になんぞ本来わっしゃの気にすることではない。ただ仁は周りの人間が死ぬのを嫌がる。それに影響されたのかもしれんな。

 

「そうか…ありがとう、だまり。」

 

ふん。

 

だまりは面白くなさそうに仁の影へと沈んだ。

 

「そして最後にそこにいるのが“我妻 善逸”と“嘴平 伊之助”。香達が救った隊士だね。もっとも、香達にはそのつもりもなかったのかもだけれど。」

 

「どうでしょうね…ところでこの黒子の方々は…」

 

「その方々は“隠”。この鬼殺隊の事後処理部隊です。」

 

耀哉の代わりにしのぶが答えた。

 

「うん。しのぶが答えたほうがいいだろうね。…さて。これでやっと本題に入れるね。」

 

耀哉はそこで一呼吸置いた。

 

「…仁、香。錦糸綺糸屋という屋敷にいた君達は一体…何者なんだい?」

 

「……」

 

その場がしーんと静まり返る中、香は仁や花、鈴、柊、暁、佐吉、灯純と順に目線を合わせていた。

 

「…はぁ。私が説明するのですか…」

 

「お前が一番適任だろう…」

 

香は軽く頭を押さえながら、姿勢を整えた。

 

「…改めまして。私は呉服“錦糸屋”三代目当主、“香”。そちらは呉服“綺糸屋”三代目当主の“仁”。」

 

自身の名乗りと仁の紹介を済ませると、そこで一拍おいた。

 

「…鬼殺隊の皆様、初めまして。私達、呉服“錦糸綺糸屋”の屋敷に住む者の過半数は、()()()()()()()()()()───言うなれば、“異世界”より参りました。」

 

そう、名乗った。

 




う~……あ、香の謎の吐き気については“不快感の限界突破”で引き起こされた現象です。以前からたまに描写してたと思いますが、香は血の匂い……特に人間の血の匂いが苦手です。意識しないようにしているとか心意で中和するとかすればまだましですが、最初の第一印象の時に思いっきり不快感を抱いたのでしょう、その不快感に上乗せされる形で血の匂いが来たわけですから通常のままで耐えられる限界を超えてしまった。…そんな感じの設定になっています。
それでは、また。いくつか話は作ってあるのでしばらく投稿できるかもです。


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第肆拾肆話 異世界の住人

自分が読んでいた作品がロックや削除で読めなくなって凹むっていう経験、皆さんありますか?私はかなりの回数あったりします。というかつい最近もありました。
……はい、雑談はここまでにして第四十四話。今回は異世界の人物達がほぼほぼ集まります。


「こことは別の世界…か。まるでこことは別の世界を知っているような言い方だね。」

 

「えぇ。私たちがここにいること自体がその証明になるでしょう。」

 

「ふむ…信じようか。」

 

「え……」

 

あっさりと信じると言われ、香があっけにとられたような表情になった。

 

「お、お館様!!このような得体のしれぬ者達のことをそう簡単に信用するのはいかがなものかと!」

 

不死川がそう叫んだ。

 

「…私も聞きたいです。何故、あの一言で信用すると?」

 

香も疑問を持ったようで、そう耀哉に問いかけた。

 

(あの言葉は信用させるために言った言葉じゃない。あの言葉の後から証拠になるような事柄を挙げて納得させるつもりだった。…それなのに、何故?)

 

ふと周囲を見渡すと、悲鳴嶼、時透、しのぶが静かに耀哉を見つめていた。

 

「そうだね…一つはこの目……いや、視力だよ。」

 

「視力…ですか?」

 

「そう。香はもう気がついているだろうけど、私は病に侵されている。その病によって私は視力を失っていた。香にさっきの術をかけられるまではね。」

 

「視力を取り戻したとはいえ、一時的にですから術の効力が切れればまた視力はなくなりますよ。」

 

「そうか…それは、別にいい。問題なのは、私の視力が一時的にでも戻った、ということだ。私の一族の病は医者にも進行を止めることができないという。…それを、一時的にとはいえ遅らせるどころか進行度を戻した。この奇跡ともいうようなものは異能、とでもいうべきだろう。」

 

「お館様!それではこの者が使ったのは“血鬼術”ではないのですか!?」

 

煉獄がそう大声で言った。

 

「そうだね。異能、といえば鬼達の血鬼術が思い浮かぶが…」

 

耀哉は香の方をちらりと見た。

 

「…やはり、血鬼術というものを知らないのだね?」

 

「ええ…たまに鬼達からその言葉を耳にしますがどういうものかはわかりません。」

 

「同じく。」

 

仁と香がそう言った。

 

「それに、私は君達のような姿の人間や鬼は見たことも聞いたこともない。鬼に狙われているのなら人間の可能性が高いだろう?」

 

「お館様。お言葉ですが、鬼になった後、鬼舞辻のもとから逃げ出した、と考えてはどうなりましょうか。」

 

「それも可能性は低いだろう。鬼喰いの鬼という鬼殺隊とは違う脅威を、何故自ら生み出す必要がある?」

 

「それは…」

 

「それに人の身にとり憑く鬼の魂、というのも不自然だ。この世界の鬼は、人が鬼舞辻によって鬼に変えられるもの、だろう?最近は例外も出ているらしいが。恐らくそれは香達が来る前兆だったのかもしれない。」

 

そう言って耀哉は香の方を見つめた。

 

「門から出てくる異形。これに、心当たりはあるかな?」

 

「…鬼門より人の世へと来る悪鬼のことでしょうか。鬼門や陰気の量によってその門から飛び出す鬼は様々。人などの負の気である陰気は一つのところに集まると、そこに鬼と鬼門を生み出してしまいます。私達は通り道として利用しますが、通常の悪鬼に関しては陰気が集まりそこに形を成すものです。」

 

そう、鈴が説明した。

 

「…ふむ。しのぶ、例のあれを。」

 

「は。」

 

耀哉に声をかけられたしのぶは屋敷の方へと向かい、一本の針に様なものを置いた。

 

「これは先日、しのぶが錦糸綺糸屋の方に行ったときに香から渡されたものだ。その日、その鬼…香達の言葉を借りれば“悪鬼”と戦っていた時、この針についている札が反応を示したらしい。香は当然知っているだろうから…錦糸綺糸屋の諸君、これを知っている者はいるかな?」

 

耀哉が全員に見えるように針を持ち上げた。

 

「…鬼導札、ですよね。隊長。」

 

「そうだな…」

 

「ふむ。暁と奏は知っているようだ。他も…知っているようだね。」

 

「…それに、何の関係が?」

 

「なに、今ようやく見たがこんな文字を私は今まで見たことがない。鬼に何らかの反応を示すのならば鬼殺隊の方にも何らかの記録があっていいはずだ。妻や子供たちにも調べてもらったがそのような記録は一切なかったそうだ。それなのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

知らないのは当然といえば当然…だとは思うのだが、客人が知っているとはどういうことか。

 

「そして先程香が使った…すぺるあくと、だったかな。そのような式句にも心当たりはない。特にしのぶからの報告にあった花の呼吸ではないのに花の名を持つ技、“千本桜・巫剣”とその後に鬼を消し去った“浄刻ノ桜”。そしてもう一つ、“桜花獄殺”と“鬼殺の桜”。日輪刀ではない武器で鬼を倒してしまうなど、聞いたことがない事例だ。先日の報告にあった、その武器もね。」

 

耀哉が指さす方を見ると、そこには仁と香の武器を手に持った隠がいた。

 

「さて、これだけ言われても異世界の住人だと信じられないかい?」

 

誰も反論しようとしない中、香が小さく手を挙げた。

 

「どうしたのかな?」

 

「…今、耀哉さんは“とある二人の客人はこれを知っていた”、とおっしゃいました。……その客人とは、一体何者でしょう。」

 

「…すまないが、あの二人の客人を呼んできてくれないかな。刀匠ではない方だ。」

 

「分かりました」

 

耀哉の側にいた子供の1人が屋敷の奥へと入っていった。

 

「説明が遅れて申し訳ない。実は香達に会わせてみたい人がいる。」

 

「会わせてみたい人…ですか。」

 

「そう。香達なら知っているかもしれない人だ。」

 

錦糸綺糸屋勢は全員首をかしげた。

 

「…お客様をお連れしました」

 

「通してくれ。」

 

「「「失礼します。」」」

 

男性の声が1つ、女性の声が2つ。その声につられて香達は屋敷の奥を見た。

 

「…え」

 

「……うそ」

 

「……馬鹿な」

 

「……これ…本当なの?」

 

「信じられん…」

 

「………まじか」

 

「なるほど…」

 

事件当初から鬼導隊に関わっていたメンバーが現れた姿を見てそれぞれの反応を示した。ちなみに上から香、咲、柊、奏、暁、佐吉、灯純の順である。

 

「…その反応だと、彼らを知っているようだね。」

 

「……」

 

女性の方が香の側までやってきた。

 

「…お久しぶりです。…香師匠。」

 

「「「「「師匠!!!?」」」」」

 

女性の言葉にその場にいたほぼ全員が驚きの声を上げた。

 

(すみ)…ちゃん…?澄ちゃん……なの!?」

 

「はい。奏も、暁師匠も、灯純殿も。みんな元気のようですね。」

 

「な、なんで……澄ちゃんがここに…」

 

澄。覚えている人はいるだろうか。奏の、死んだはずの姉である。

 

「それは私もわかりません。そして、それは彼も同じ境遇なようで。」

 

そういわれて綺糸屋勢の方を見ると、柊が少し硬直していた。

 

(あき)……お前、なんで…」

 

明。こちらも澄同様。咲の、死んだはずの兄である。

 

「いや、俺も分からないんです。気がついたらそこにいる澄さんと一緒にこの世界にいました。」

 

「ふむ…やはり香達は知り合いだったか。」

 

「…彼らのところへと導いてくださり、ありがとうございました。耀哉さん。」

 

明がそう言うと、澄が大きく頭を下げた。

 

「別にいいよ。いろいろと話したいことはあるだろうが、すまないが後にしてもらえると助かる。」

 

「あ、はい…」

 

そう言って耀哉は香に視線を向けた。

 

「異世界の住人だと信じた理由はこれで十分かな?」

 

「…えぇ、十分です。」

 

「それでは一つ聞きたい。この話題に入る前、香は屋敷に住む者の過半数が、と言った。ではそれ以外はこの世界にいた、と考えていいのかな?しかし、あの場所に建物はなかったはずだが…」

 

それを聞いて香が妹紅を見た。

 

「それに関しては私が。実は…」

 

妹紅が自分達の事情を話した。

 

「……以上です。」

 

「ふむ…不老不死か。それで君は平安の世から生きたままでいると。」

 

「…はい。霊体のまま出られるようになってからは周囲に現れる異形を蔵にあった刀で狩っていました。」

 

「そうか…これで聞きたいことは聞けたし、私が聞くのはもういいかな。全員、今聞いたこと───特に不老不死のことは絶対に漏らしてはいけないよ。」

 

耀哉の言葉に全員が頷いた。

 

「…さてと。ここからが本題、かもしれない。」

 

耀哉が再度香に向き直った。

 

「香、仁、妹紅、美月、流華、風兎、大地、日向。」

 

「「「「「??」」」」」

 

そこで輝哉が爆弾を落とした。

 

「鬼殺隊に、入らないかい?」

 

「「「「「………はい?」」」」」

 

香達は疑問でこたえるしかできなかった。

 




ということで…鬼殺隊勧誘までして今回は終わります。


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第肆拾伍話 異世界の鬼と鬼殺隊

この話が終わっていないのに続編を書きたくなってしまった私です。早めに終わらせられるように頑張ります。
それでは第四十五話。どうぞ。

…あ、そうそう。Happy Halloween!!

追記:一瞬ですが本日02:43頃に第四十九話を投稿してしまいました。申し訳ありません。


 

「危険です!!」

 

最初に反論の声を上げたのはやはり不死川だった。

 

「例え今無害であるとはいえ、いつ牙をむいてくるかわかりませぬ!竈門禰豆子も同様……いえ、竈門禰豆子よりも危険です!!」

 

不死川の言うことはもっともである。そもそもの話、異世界の住人を簡単に信じる方がおかしい、というのもあるのだが…

 

「…私も反対です。私達はこの世界の人間ではないのです。いつどこで自分たちの元居た世界に戻るかが分からない、そんな不安定な者を招き、自分の組織に組み込むなどと。それでは私達がそれを承諾し、すぐにこの世界から去ってしまったらどうなさるおつもりですか。」

 

そう。言うなれば妹紅たちを除く錦糸綺糸屋勢は不確定要素の強いものだ。それ故に、もしも組織の力の多くをその者達に委ねていたら。その者達が消えると、その組織は一気に瓦解するだろう。

 

「…例えば。」

 

香がそう呟き、仁をちらりと見ると、仁は小さく頷いて、姿を消した。

 

「……このような状況になったとき、どうするおつもりですか。」

 

香がそう言ったときには、仁が真っ黒な刀を耀哉に突き付けていた。仁の姿から強めの威圧感を感じる。

 

「……」

 

「仁、だまりさん、少し威圧弱めて。」

 

「ん、あぁ。」

 

ふん。

 

仁の持つ刀からだまりの声が聞こえると同時に、威圧感が薄まった。

 

「…心配しなくても、最初から私の子供たちはそこらの鬼にやられるほど弱くはないはずだよ。」

 

「……それにしては、俺の速度にすらついていけてなかったみたいだが。」

 

「仁の今の最高速度は先程の私より遥かに遅いです。その程度捉えられなければ、私と同等の技術を持つなど夢のまた夢ですよ。」

 

「まぁ香の速度…というか香は相当化け物だがな。…本当に人間だよな?」

 

「お父様、余計なことは言わないでいい。あと人間なのは合ってる。」

 

そんな会話をしているとき、耀哉が口を開いた。

 

「…ならば、香が鬼殺隊の隊員に教えたらどうかな?」

 

「…何故?」

 

「なに、先程香は澄に師匠と呼ばれていたからね。教えることもできるのではないだろうか…」

 

「不可能です。」

 

即答だった。

 

「…私の使う技は“属性”があって初めて完全に成立するものが多いです。今のこの世界の人たちには属性の気配を感じられません。技は属性なしで使うことも可能といえば可能ですが、そんなものは中身が存在しない、ただの抜け殻に過ぎません。」

 

「属性…ね。」

 

耀哉が少し考えこむような表情をした。

 

「……なるほど。属性、か。」

 

「…属性がどうかしましたか?」

 

「…いや。あの子たちが本当に受け継げなかったのはそれが理由なのかもしれない、とおもってね。」

 

「???」

 

香がわけがわからない、というような表情をしていた。

 

「その話はあとにでもしよう。とりあえず香達をどうするか……」

 

「……はぁ……ならば。」

 

「うん?」

 

「ならば、情報の交換と保障を。私達はこの世界のことを知らなさすぎます。対してあなた達は私達のこと、及び悪鬼のことを知りません。情報の交換が成るのなら……そして、私達全員の安全の保障、ある程度の自由行動。これらが承諾されるのでしたら、私はあなた達を手伝いましょう。」

 

「……ふむ。」

 

「仁達はこの契約には関係ない。これはあくまで私とあなた達の契約だ。情報の交換、安全の保障、自由行動許可。この三つが守られるのなら、私はあなた達鬼殺隊に協力する。仁達の参加は仁達の自由意志だ。」

 

香は強い視線でそう言い放った。

 

「……いいよ。」

 

「お館様!?」

 

「多少の行動には目を瞑ろう。それだけの条件で香の力が借りられるのなら、こちらに利益があるだろう。」

 

「ですが!!」

 

「それに、言ってなかったけれど、鬼の入隊については過去に前例があるんだ。」

 

耀哉の言葉に周囲がざわめいた。

 

「この件については、しのぶは知っているはずだ。」

 

「…はい。今から150年ほど前まで、鬼殺隊には鬼の隊員がいたと。記録にある限りではその隊員が鬼となったのは永仁元年葉月6日(新暦1293年9月14日)…。入隊はその10年後。兄と姉がおり、その兄と姉を倒すために戦っていたようですが自身が鬼であるために自害したとのことですが……」

 

「私もこの記述がある文献を見た時、正直目を疑った。だけどこの記述があったのは私達が代々記し続けてきた記録の中なんだ。…今。鬼舞辻と戦おうとする鬼がいるという状況の中、この記述の真偽を知る絶好の機会なのではないかな?」

 

「……」

 

「その鬼の血鬼術は記述によれば“属性”。もしもそれが香が言った“属性”と同じものならば。香は、その鬼を深く知ることができるのかもしれない。」

 

「…その根拠は、なんですか?」

 

「その鬼の記述の下に、こう書かれていたんだ。“私を真に知ることができるのは私と同じ力を持つ者のみ。その力とはすなわち属性。世界と自らより更なる力を得る神秘。今は喪われたこの神秘を操る者。”───その先も何か書いてあったけれど、読めなかった。」

 

「……相手を倒すのならまず相手を知ること。その鍵になる、とでも?」

 

「そうは思わないけれど、彼女が遺した技を知れば、何かが起こるかもしれない。」

 

「…そうですか。」

 

香は少しため息をついた。

 

「それでは、契約は成立ということでよろしいのですか?」

 

「私はいいよ。皆はどうだい?」

 

耀哉が隊員達に聞くと少し不安げな顔をした。

 

「…これに関しては、皆の承認が欲しい。何か不満があるのなら、遠慮なく言ってくれないか。」

 

「……それでは。胡蝶は錦糸香の力をその目で見たそうですが、私達は見ていません。もしもその力が虚偽で、錦糸香そのものは何の力もない、ただの女子だった場合は?どうするのですか。」

 

「…ふむ」

 

「……要は、力を示せ、ということですか」

 

香が言うと不死川がじろりと見た。

 

「力が分からないからその力を示せ。力が不十分だと感じればそんなものは要らない。…そういうことですね?」

 

「……」

 

「……お言葉ですが、私は弱いです。ですが。ここにいる誰よりも、強いという自信はありますよ。」

 

「……ハッ、それが虚勢じゃないといいけどなァ。」

 

「……別にここにいる人全員相手にしてもいいですけど。」

 

「「「「「!!?」」」」」

 

香が言葉を放った途端、その周囲が仁の時よりも強い威圧感に飲まれた。香の威圧感に耐性を持つ錦糸綺糸屋勢も、その威圧感に圧倒された。

 

「…この程度の威圧、耐えて言葉も発せないようじゃ、まだまだです。」

 

香がそう言うと、威圧感が消えた。

 

「…だが、実力は分からねェだろうが。」

 

「……では、模擬戦でもしますか?」

 

「…上等だァ!!その首かっ切ってやる!!」

 

「……はぁ。」

 

香は呆れたようにため息をついた。

 




次話と次々話は模擬戦回です。


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第肆拾陸話 風柱と香の模擬戦

模擬戦です。今回あまり想像が膨らまなかったので短めです。


屋敷の方に全員集まり、元居た場所には香と不死川だけが取り残されていた。

 

「…すみません、私の武器を返していただいても?」

 

「ほらよ」

 

隠の1人が香の斬想鬼を投げた。

 

「わっとっと。…ありがとうございます。」

 

香は斬想鬼を片手に持ったまま不死川と向き合った。

 

「……しのぶ。この模擬戦、どちらが勝つと思う?」

 

屋敷の方では耀哉が模擬戦の勝敗について聞いていた。

 

「……不死川さんが勝つ、と言いたいところですが。正直なところ、香さんが勝つでしょう。」

 

「「「「「なっ!?」」」」」

 

「ふむ…理由は?」

 

「まず、彼女の特異性。彼女は今、私達のような全集中の呼吸は使えないのでしょうが、代わりに属性を用いた攻撃を使います。私が見たのは花のみですが…恐らく、まだ隠しているでしょう。…次に、彼女の速さ。仁君を追うことのできなかった私達に彼女の本気を追うことは不可能でしょう。」

 

「多分、香は本気出さないぞ。自分と相手の力量は把握しているはずだ。」

 

灯純がそう呟いた。

 

「他には?」

 

「鬼の存在です。あの鬼が、何をするのか、私も分かっていません。」

 

「ふむ…」

 

心配しないでも何もしないわ。

 

不意に声が聞こえたと思うと、そこには香に憑いていたりんねの姿があった。

 

「あなた…」

 

りんね。

 

「?」

 

私は“りんね”っていう名があるのよ。…それより、始まるわよ。

 

りんねはそう言って香達の方を見つめた。

 

「……行けるかな。“剣式・両手刀・変在───」

 

香は斬想鬼の継ぎ目に手をかけた。

 

「───真作(しんさく)”」

 

ぱきん

 

そんな音と共に香の開いた斬想鬼から剣の柄が現れた。それを引き抜くと、その刃が()()()()()()()()()()()()と感じた。

 

「…さて、やりましょうか。」

 

「…それでは、始め!」

 

合図とともに香が高く跳んだ。

 

「シイアアアア」

 

「……独特な呼吸音。全集中の呼吸、ね…」

 

「“風の呼吸 肆ノ型 昇上砂塵嵐”」

 

地上から上空に向けて大量の斬撃が繰り出された。

 

「…なるほど」

 

香は納刀し、その斬撃を全て避けきった。

 

spell act:system.id stand up fire shooter

 

香は詠唱し、自身の前に赤色の光の玉を出現させた。その光の玉を技の中心に投げ込んだ。

 

break spell:break.id effect finisher burst hollow!!

 

すかさず詠唱を繋げ、そのまま光の玉を爆発させた。

 

「これは…火属性?」

 

仁がそう呟いた。

 

そうね。そもそも香は火属性が苦手なだけで使えないわけじゃないわ。しかもあれはそこまで細かい制御をせずに爆発させる魔法。あの程度なら十分に扱えるわよ?

 

「魔法、か…」

 

開始宣言の“spell act:system.id”。自動化処理の“include:auto control.id”。終了処理の“break spell:break.id”。これらを組み合わせて、香の魔法は成るのよ。

 

りんねが軽く解説している間に、香の周囲に様々な色の光の玉が出現し、香の指示で射出されていた。

 

「その術の弱点は分かってんだよ!言葉を発さねぇと何も起きないんだろォ!?」

 

「……」

 

香は無表情で次々に放たれる斬撃を回避していた。

 

「安全な場所から攻撃するしかできない、そんな奴はいらねぇんだよ!!」

 

「……」

 

香は不死川の言葉を聞いて少し呆れたような表情をした。

 

「はぁ。地上で戦えと?鬼が自分と同じ土俵で戦ってくれるとでも?」

 

「あァ?」

 

「一つ言いますけど、自分の得意な領域で戦うのはどんな存在でもできるであろう普通の手段です。例えば空中、例えば地中、例えば地上、例えば海底、例えば…そうですね、空気の薄い場所。戦いにおいて必要なのは、如何にして自分の得意な領域で戦うか…違いますか?」

 

「…ッ!」

 

「私を地上に下ろしたいなら叩き落しなさい。それくらい出来なくてどうするのです?」

 

「……どクソが!!」

 

不死川は呼吸を使いながら高く跳躍した。

 

「“風の呼吸 弐ノ型 爪々・科戸風”」

 

「…へぇ」

 

香に4つの斬撃が打ち下ろされた。3つ避けたが、最後の1つに当たり、香は地上に叩き付けられた。

 

…あれ、わざと当たったわね。力を測るためかしら…

 

りんねが呟いた時、香が起き上がり、不死川も降りてきた。

 

「……はぁ。時間もあまりありませんし、そろそろ終わらせましょうか…」

 

「あァ!?」

 

「大体技量は測れたし…っと」

 

「…殺すッ!」

 

(さてと…久しぶりにあれでも使ってみるかな……使えるといいけど。)

 

不死川が香に突進しようとしている中、香はそんなことを考えながら抜刀した。

 

「シイアアアア」

 

「……風の呼吸、ね。」

 

香は刀の腹を不死川に向けた。

 

「“風の呼吸 壱ノ型 塵旋風・削ぎ”」

 

言葉と共に香に向かって地面を抉りながら突進してきた。

 

「死ねェ!」

 

物騒な言葉とともに、香の首元に当たるギリギリの時間。

 

「ふー……()()()()”」

 

香は不死川の攻撃が届く直前、確かにそう言った。

 




香の武器が“贋作”から“真作”になってましたね。当然ですが贋作よりも真作の方が強いです。


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第肆拾漆話 絶技“鏡写”と属性を極めし者

模擬戦後編。絶技“鏡写”とは一体何でしょうね。


キンッ!

 

 

絶技(ぜつぎ)鏡写(かがみうつし)”。香がそう言うと、()()()()()()()()()()()()()()

 

「なァッ…!?」

 

「桜の技が一つ」

 

香がそう言うと同時に刀の色が桜色に変わる。

 

「“千本桜・巫剣”」

 

その技名宣言と同時に重い斬撃が不死川に放たれた。

 

「…ッ!」

 

吹き飛ばされ体制を崩したその隙。それを香は見逃さない。

 

()()()()()()

 

「「「「「…ッ!?」」」」」

 

不死川のみならず、そこにいた鬼殺隊員全員が驚きの表情をした。

 

「“風の呼吸───」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「───壱ノ型 塵旋風・削ぎ”!!」

 

先程の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…ふざけんな!!」

 

不死川も同じ技を使って香と衝突した。結果は…

 

「…っ」

 

香の方が、押し負け、後退させられた。

 

「…写した直後のはやっぱり使いにくいね…」

 

香はそう呟いた。

 

「後でこれは練習しておくしかないか……」

 

香はそう言いながら仁をちらりと見た。

 

「仁!」

 

「!?な、なんだ!」

 

「…もしも。貴方が私の技を継ぐというのなら。この後使う技達を目に焼き付けておいて。」

 

「は…?」

 

「…行くよ」

 

「ハッ!させるかよ!!」

 

また同じ技を使って香に突進してきたが、香は刀を赤く光らせた。

 

「“ヴォーパル・ストライク”!!」

 

大きい音と共に香は不死川に突撃し、吹き飛ばしてから跳びあがった。

 

「…」

 

香が少し目を瞑ると、刀の色が黄色に変わった。次いで刀に黄色い光が走る。

 

「なんだ…?」

 

「…属性特化一閃流」

 

香がそう呟いた時、黄色い光がより一層強くなった。バチバチという音が聞こえ灯純が口を開いた。

 

「……おい…おいおいおいおいおい!?あれまさか……雷か!!?」

 

「雷…?」

 

…感じるわ。高出力の雷属性。香に限ってないだろうけれど……ここら一体、焼け野原になるかも…

 

りんねの言葉に周囲がざわついた。

 

「……雷の型“神鳴(かみなり)───」

 

その声が聞こえた時、善逸が顔を上げた。

 

「─── 一閃(いっせん)”!!」

 

その声が届くと同時に、香が地上に降り、同時に不死川を切り裂いた。その姿はまるで、天より空を裂く稲妻。

 

「なァッ…」

 

()()()()()()()()()()()、振り下ろした姿の香に向かって刀を振り下ろそうとした。その直前。

 

「スイッチ!」

 

香が一声叫ぶと、刀にまとっていた黄色い光が赤い炎に変わり、刀の色も赤に変わった。

 

「火の型“燼滅一閃(じんめついっせん)”!!」

 

今度は下から上への切り上げ。同時に刀を弾き、守りがない状態にした。

 

「スイッチ!!」

 

香がもう一度叫ぶと、今度は透明な水が刀にまとわれ、刀が青色に変わった。

 

「水の型“激流一閃(げきりゅういっせん)”!!」

 

「っ!?」

 

水が不死川を抉るが、やはり傷はない。

 

「スイッチ!!」

 

「また…!?」

 

「…香!!その次で限界よ!!それ以上は貴女の体がもたないわ!!」

 

りんねの言葉に香は小さく頷き、今度は刀に白い靄のようなものをまとい、刀の色が水色に変わる。

 

「氷の型“零下一閃(れいかいっせん)”!!」

 

香が刀を振り抜くと、周囲に氷の柱が突き立った。

 

「これは…!?」

 

「…さ、寒い…!?」

 

「…リリース!!」

 

香の言葉が変化した。同時に、刀が強く輝く。

 

「四の型“四流撃(しりゅうげき)”!!」

 

黄、水色、赤、青の四連撃が不死川に向かって撃ち込まれ、不死川が大きく飛ばされた。

 

「……」

 

「……」

 

土煙が晴れると、そこには気を失った不死川がいた。

 

「………勝者、錦糸香…」

 

審判役をしていた隠が遠慮がちにそう言った。

 

「…ふぅ。」

 

香が刀を納め、斬想鬼を閉じると同時に、周囲にあった氷の柱が消滅した。

 

「…起こしましょうか」

 

香は不死川に近づいて手を不死川の頭に近づけた。

 

「“起床”」

 

香の手が光ると同時に不死川が目を開けた。

 

「…どうなりました。」

 

「実弥の負けだね。」

 

「…そうですか。」

 

香が不死川から少し離れたところで香の体に異変が起こった。

 

「…っ……っ!」

 

「なっ!?」

 

吐血、傷の発生、出血。今まで傷も何もなかった香に、いきなりそれが起こった。

 

香!!ちょっと待ちなさい、融合!!

 

りんねが香に近づき、香と同化した。

 

「はぁ……はぁ……」

 

…無理しすぎよ。鈴が心配そうな表情で見てたわよ?

 

「…ごめん。」

 

「……聞いていいかな?先程のかがみうつし、という技。あれはいったい何だい?」

 

耀哉が香にそう聞いた。

 

「…鏡写、ですか。あれは、武器の金属面を鏡に見立て、その鏡に写した技とそれと同じ系列の技達をそのまま使えるようにする私の“絶技”と呼ばれる技です。これだけはどれだけ教えても使うことはできません。」

 

「そうか…もし、もしもだけれど。」

 

「?」

 

「それが既にほぼ失われた技であっても。それを使うことはできるかな?」

 

耀哉はそう、聞いた。

 

「…それが技であるならば。例え継承が失われ技の動きすら分かる者はいなかろうと、“技の情報”がありさえすれば、そしてその“技の構造”が解析できるならば。私はどんな技でも使うことはできます。」

 

香はそこで一呼吸置いた。

 

「それが、私の“絶技”……正式名称“技の総てを写し取る鏡”ですから。」

 

「鏡…ね…」

 

「構造が解析できないものは流石に使用できませんが。大体の技は解析できますから。」

 

(逆に解析できないのってお姉ちゃん達の絶技とかだけなんだよね…)

 

香はそう思いながら言って苦笑した。

 

「…なぁ、香。」

 

耀哉が黙ったのを見計らい、仁が香に問いかけた。

 

「さっきの技…最後に使った技達ってなんだ?」

 

「あぁ、あれね…あれは“属性特化一閃流 魔の派”って言って、簡単に言えば“()()()()()()()()()()()()()”。」

 

「属性を極めた?」

 

「そ。あの流派の…最上位技のどれか一つを使うにはその属性を極めないといけないの。仁だったら火属性が一番近いかな。」

 

「…その最上位の火属性の技ってなんだ?」

 

「私がさっき使った“燼滅一閃”。あれが使えるようになると“火属性を極めし者”っていう称号、というかなんというか…まぁそんな感じになるんだけど…」

 

香の言葉にその場にいた全員が耳を傾けていた。

 

「属性特化一閃流の大きな特徴は“派生の派”─── 一番最後に使った“四流撃”のことね───以外の全ての技において定められた動きが存在しないこと。ただただ属性を纏った一撃にのみ特化した流派だから会得自体は簡単。でも、完全会得には属性を極めないといけない。それは、さっきの私の技を見ていて分かったと思うけど属性の出力が凄まじいから。その凄まじい属性出力を自由に扱えて初めて、“属性を極めし者”って呼ばれるの。」

 

「……ちなみに、香はなんて呼ばれてるんだ?色々属性を使っていたようだが。」

 

「確か…雷、炎、氷、水を使っていましたよね…」

 

花が香の使っていた技を思い出しながら言った。

 

「私?“()()()()()()()()()()()()()”。」

 

「あらゆる?」

 

「んと…総ての、って言った方が分かりやすかった?」

 

「総て……総て?…って…まさか…」

 

仁の声が少し震えていた。香はその様子に少し苦笑した。

 

「ん~…その様子は多分気がついたのかな。仁に話した14属性……ううん、仁には話してないけど()()()()()()()()()2()8()()()()()()()()()()()()()()()()()()の。」

 

その香の言葉に仁が頭を抱えた。

 

「…今、香がとんでもない化け物だって再確認した…」

 

「あはは、今更?」

 

「今更?って……」

 

「でも、属性は“属性”というものに対しての適性さえあればどんな属性でも使えるようになる。確かに各属性への適性とかで習得難易度は変わるけど…それでも、絶対にその属性だけが使えない、っていうことはほぼほぼ起こらない。まずは自分の得意な属性から極めていくこと。それが属性特化一閃流への近道だよ。」

 

「…そうか。分かった。」

 

仁はそう言ったのち、耀哉の方を見た。

 

「耀哉さん、でしたね。私も鬼殺隊に入れてもらっても?」

 

「えっ…仁!?」

 

香が驚愕の声を上げた。

 

「…理由を聞いてもいいかな?」

 

「私はまだ香に比べれば弱いです。ですが、私は自分の大切な人くらい自分の力で守りたい。自分は何もせず、他の人に守ってもらうだけというのは、嫌なんです。」

 

「…仁。」

 

「お願い、できませんか。」

 

仁のその言葉に耀哉は考え込んでいた。

 

「……香。」

 

「はい。」

 

「仁の力は、どれくらいなのかな?」

 

「……現在の瞬間最高出力でも恐らく柱の皆さんには及ばないでしょう。ですが彼は今もどんどん伸び続けています。もしも、現在の伸び方が今後しばらく続くと考えれば……」

 

香はそこで少し言葉を切った。

 

「……恐らく、3ヵ月後には。持続最高出力が柱の皆さんと同等になっているでしょう。」

 

その言葉に鬼殺隊員たちがざわついた。

 

「…ですが、これはただの予測に過ぎません。最終的に成長速度を決めるのは才能、努力、意志。……そして、恐らくですが。」

 

香はそこで仁をちらりと見た。

 

「今、仁は強く自分の意志で大切な人を守るために、強くなると定めた。人は大切な人を守ろうとするときほど強くなる。この先、成長が加速するでしょう。」

 

「…分かった。条件は、香と同じでいいね?」

 

「え…」

 

「同じ屋敷に住む者同士だ。その方が気楽だろう。」

 

耀哉はそう言った。

 

「皆、反論はあるかな?」

 

耀哉がそう聞くが、反論の声は上がらなかった。

 

「…ふむ。なら香達は鬼殺隊に入隊決定だね。」

 

「…」

 

「隊服はあとで作るから採寸はあとでしてもらうとして……あぁ、そうだ。」

 

耀哉は思い出したように呟いた。

 

「そういえば、香達にもう一人会わせたい人がいるんだったよ。」

 

「会わせたい人…ですか。」

 

「そう。香達の存在を私に教えてくれた人だ。」

 

耀哉はかなりの爆弾(?)を落とした。

 

…ちなみに屋敷の方に退避していた全員は元居た位置へと戻っている。

 




香が使う“鏡写”の正体は写したものを正確に写し取り自分のものとする、いわばカービィさんのコピー能力のようなものです。何故そんな技を香が使えるのかは後々分かる予定です。…というか気がついている人はいるかもしれませんね。


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第肆拾捌話 刀匠と謎の日輪刀

タイトル通りやっと日輪刀とご対面です。ですがやはり一筋縄ではいかなさそう……


 

 

「……そういえば、そうでしたね。私がしのぶさんに仁の保護を依頼し、それをしのぶさんが言葉を話す鴉に通達してもらうように頼んだ時、既に耀哉さんから捕獲命令が出ていると。…いったい、どうやって私達のことを知ったのですか?」

 

香が強い目線で耀哉を見つめた。

 

「香達のことだとは断定できていなかったよ。すまないが、彼女を連れてきてほしい。」

 

「分かりました。」

 

先程澄たちを連れてきた方とは別の子供が屋敷の奥へと消えた。

 

「…私達のことだとは断定できていなかった?どういうことですか?」

 

「今連れてきてもらう人が、夢を見たんだ。ちょうど今の香と仁の同じ、鬼のようなものが憑いた少年と少女の姿。顔は見えなかったが、刀を渡したのち、その二人は模擬戦を始めたそうだ。…その時に使った技の名前が、少女の方が“桜花一閃”。少年の方が“火炎一閃”だという。…聞き覚えは、あるかな?」

 

その技の名前に香と仁が小さく反応した。聞き覚えがないはずがないのだ。何故なら、二人が実際に使う技の一つなのだから。

 

「…その表情は、聞き覚えがあるそうだね。どういう技なのか教えてくれるかな?」

 

「…桜花一閃は花属性の基本技。火炎一閃も同じく火属性の基本の技です。より具体的には基礎中の基礎の技を少しだけ発展させた技、それが桜花一閃と火炎一閃です。」

 

桜花一閃の基礎中の基礎というのは以前香が使ったことのある“桜神の型・桜花一閃”である。これと同じようなものが、火炎一閃にも存在する。

 

「ふむ…ということはそこまで威力はないのかな?」

 

「そう…ですね。そのおかげで模擬戦向きの技だとも言えますが。」

 

「ふむ…」

 

耀哉が少し考えてから香を見た。

 

「その属性を外した基礎というのはないのかな?」

 

「…属性なし、ですか。あるにはありますが相当弱いです。その基礎は形だけを作ったもので、その先の派生には存在していませんから最弱の技ですよ。」

 

「そうか…一度見せてもらえないかな?」

 

「…すみませんが誰か刀を借りても?」

 

「私のでよければ。」

 

そう言って差し出されたのは湾曲した刀───甘露寺のものだった。

 

「ありがとうございます……ってこれ結構…」

 

「蜜璃……いくらなんでも蜜璃の刀は無理があるんじゃないだろう……か」

 

耀哉の声がしぼんでいった。何故なら、その甘露寺の刀を()()()()()()()()()()()()()()である。

 

「…いい刀ですね。扱いは難しいですが、貴女の刀への愛情が感じられる。…うん。少し慣れましたし、放てそうです」

 

「ちょっと待って!?慣れるの早くない!?」

 

甘露寺が思わず声を上げると、香がきょとんとした様子になった。

 

「…あぁ。私、これまでもいろいろな武器使ってましたから。こういうのも一応…」

 

そういいながら速度を上げている香であった。

 

「…ん、これくらいで十分かな。…“純正一閃”」

 

香は呟くと同時に左下から右上へと切り上げた。

 

「…と、こんな感じです。あ、お返ししますね。」

 

「ふ、ふええ……」

 

香は甘露寺に刀を返した。と、同時に屋敷の奥から足音が聞こえた。

 

「お連れしました。」

 

「入っていいよ。」

 

「…失礼します」

 

子供とは違う、高めの声。香が見ると紫色の髪に紫色の目を持つ女性の姿があった。女性は二つの細長い布をかけられた何かを抱えている。

 

「…君が見たのは彼らで合っているかな?」

 

耀哉がその女性に聞いた。

 

「……1人は黒い髪で黒い服の下に赤い襦袢を着た少年。もう1人は黒く長い髪で黒い服の下に青い襦袢を着た少女。その2人には牙の生えたゴムまりのようなものがいた。」

 

誰がゴムまりだ!!」/「誰がゴムまりよ!!

 

例のようにだまりとりんねはキレた。

 

「……それで、君の見た姿と一致するかな?…“玉藻”。」

 

(玉藻…)

 

玉藻と呼ばれたその女性は香と仁を見つめた後に目を閉じた。

 

「……姿形は同じです。そちらに浮かんでいる方の声も同一。…恐らくは、僕が夢で見た方々と同じだと思われます。」

 

「…ならば…」

 

耀哉がそう言うと、玉藻は頷いて香に近づき、体勢を低くした。

 

「……貴女には……これが抜けますか?」

 

そう言って香の前に布をかけられた何かの片方を置いた。玉藻が布をはがすと、そこには一振りの鞘に入った刀があった。

 

「……」

 

香は恐る恐る刀の柄に触れた。

 

 

ぱちっ

 

 

「っ?」

 

香の手と刀の柄の間に青色の閃光が走る。

 

(この感覚は……)

 

香は先程の閃光の時の感覚を頭に残したまま刀を見つめた。

 

「……ふー…」

 

目を閉じて深呼吸。その後目を開け、刀の柄にもう一度触れた。

 

 

バチチッ!!

 

 

青い閃光が強く走り、香は手を離した。

 

「……なるほど。お聞きしますが、この刀は一体?」

 

香は耀哉の方を向いて聞いた。

 

「その刀は、ここにいる柱達も、私も、隠達も……そして刀匠達も。玉藻以外の誰もが刀を抜くことができなかったものだよ。」

 

「玉藻さん以外の、ですか。」

 

「そう。玉藻は記憶は失っているけれど、その技術は本物だった。最初に作ったその刀だけが誰にも抜けなかった刀。…ところで、玉藻が持っているもう一振りは?」

 

確かに玉藻はもう一つ、似た形の…というかほぼ同じ大きさのものを持っている。

 

「…これは夢を見てから作ったものです。こちらもやはり、僕以外には…」

 

「…そうか。…それで、抜けそうかな?」

 

耀哉に聞かれた香は少し目を瞑った。

 

(……うん。行ける。このくらいなら…でも。)

 

「…りんね。」

 

何かしら?

 

「…離れてて。…ちょっと、心意出力全開にするかもだから。」

 

…分かったわ

 

りんねはそう言うと、香から離れた。

 

「…………すー………」

 

先程よりも静か。そして深い深呼吸。

 

「……行きます」

 

香は刀の柄を、しっかりと握った。

 

 

バリリリリリリッ!!

 

 

今までよりもさらに強い閃光。それを見たりんねが叫んだ。

 

全員、今すぐ香から離れなさいっっ!!運が悪ければ巻き込まれるわよ!!

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

りんねの警告に全員が香から距離を取った直後、香を中心にして大きな凹みができた。

 

「こ、これは…!?」

 

「過重力……いえ、これは……!!」

 

()()()()()()()()()()か!?」

 

しのぶが驚き、鈴と仁が起こった事象を分析した。

 

「心意と心意の衝突磁場…とは?」

 

「……一言でいえば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のことです。…ですが、それは基本的に生物同士で発生するものと聞いたのですが……」

 

仁が香の方を見た。

 

「…人間と刀。そんな謎の組み合わせで衝突している…これは…一体?」

 

仁達は香の状態を見守った。

 




やっと玉藻さん出せてうれしいです。


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第肆拾玖話 刀の意思の慟哭と香の決意

こちらは香側の視点です。実は三人称視点が全く慣れず、思考が表示されるのが少ないのです。


 

仁達が香から離れている間。香の方はというと。

 

『……いやだ……もう……いやだよ……』

 

香の声ではない、誰かの心の声を聴いていた。

 

『……あなたは…?』

 

『いやだ……いやだ……』

 

香は問いかけたが回答は得られなかった。それどころか青色の閃光が強くなった。

 

(……やっぱり…この雷はこの子の拒絶反応。…この刀には、意思が宿ってる。それも、かなり強力な。)

 

『やだ……もういやだ……』

 

(道理で、他の人に触ることができないわけだよ。心意は確かに圧倒的な力で捻じ伏せることはできるけど……それはまだ軽い部類の心意の話。この心意はすごく強い。力も何もなければ弾かれる……この子が認めなければ、反発を起こさずに触ることはできない“拒絶の心意”。厄介なタイプ…だけど。)

 

香は思考を回しながら心意の出力を上げた。

 

『お願い!!話を聞いて!!』

 

『やだ………やだ……』

 

刀からの心意の出力が上がる。

 

『ねぇ!お願い!!私の話を聞いてほしいの!!』

 

『いや……私に………関わらないで……』

 

刀からの声と共に心意の出力が上がっていく。香の胴体に青色の閃光が触れ始め、香の表情が疑問気なものに変化した。

 

(……これって()()()()()()()()()()()()()()?なら、この刀は“属性”が使える刀。…もしも、この属性が雷単体でないなら……ちょっと、試してみよう)

 

そんな思考を回した直後、香の身体から周囲に花びらが出現し始めた。雷を放つ刀と花が触れ合った途端、変化が起きる。

 

『……!?やめて……やめてよ…!!』

 

香の頭にその声が流れたかと思うと、瞬時に香の身体が火に包まれた。

 

()()()()()()()()()()()!!間違いない、この子は“変幻自在属性”の刀!!)

 

『…お願い!!私の話を聞いてほしいの!!』

 

『……誰?』

 

そこで、初めて声の主が反応を見せた。

 

『…わたしは…』

 

『お願い……私にかかわらないで……』

 

『…』

 

『私と関わると……不幸になっちゃうから…』

 

『え…?』

 

香の思考が戸惑いを見せた。

 

『……お願い。貴女の話を聞かせて。』

 

『え……私の?』

 

『どうして、貴女はこの刀に宿ったの?どうして、私を……ううん、作り手以外の全員を拒絶するの?』

 

『……』

 

香の問いかけに刀が黙り込んだ。

 

『…私は』

 

刀の声が微かにした。

 

『…私は……もう、私のせいで人が死ぬのを見たくない……』

 

『…え?』

 

『……私が日輪刀として作られて。それが剣士に渡されて。剣士と鬼が戦って……』

 

『……』

 

『私が弾かれて折られそうになった時…私を使った剣士達は…ううん、私が見たことのある剣士達は…みんな私を庇って死んでいく……私はただの道具なのに……』

 

『……』

 

『最後には私も折られるけど……またすぐに私は日輪刀として作られる……作られて、殺されて、折られて、作られて、殺されて、おられて………もう何年も何年も、同じことを繰り返してきた……』

 

『………』

 

『私は鬼を許さない……だけど……もう…いやなの……』

 

香は刀の言葉を静かに聞いていた。

 

『私は……もう……目の前で人間が死ぬのを……見たくないの…っ!!』

 

(……そっか。)

 

『お願い……もう放っておいてよ!!』

 

(強い悲しみの心意。長い時間積み重なった悲しみがこの刀に宿る魂を埋め尽くしている…でもこんな刀の魂、普通に作って込められる代物じゃない。)

 

香は思考を回したまま問いかけた。

 

『ねぇ……貴女の想いが、今までここまで明らかに可視化できるような形で出ることってあった?』

 

『……ない』

 

『……そっか。』

 

(ということは……玉藻さんが作ったからこの刀は意思が宿った。異世界の住人であった玉藻さんが作ったという世界を歪める変化が、この事象を引き起こしたと考えた方がいい。……この子が、安らかにいられるために……私ができることは……)

 

『……お願いだから…放っておいて…!』

 

(私は……)

 

『お願い……』

 

その声の後、一瞬火が消えたかと思うと、今度は水の球体の中に閉じ込められた。

 

「若女将!!」

 

『……ごめん、鈴。でも…私は大丈夫。』

 

香が叫んだ鈴の方をちらりと見てそう思考を飛ばした。

 

『……貴女にも大切な人がいるんでしょ!?なんで……なんで離さないのっ!!』

 

『…確かに鈴は大切だよ。でも……私はこれくらいじゃ死なない。私はあらゆる属性を極めし者。属性への対応くらい、簡単にできる!!』

 

『っ……』

 

『それに……私にはまだ力が必要なの。……私は……まだ弱いから。私は大丈夫でも、大切な人を守れないと意味がない。』

 

『………私は…』

 

『あなたは……守りたい人とかいなかった?』

 

『皆大切……鬼殺隊のみんなが……でも……もう…私の目の前で死ぬのを見たくない………』

 

『……なら!!』

 

香が流す声を大きくした。

 

『私は……私が救うことのできる人は救う!!例え死にかけていても!!例え鬼の呪いに侵されていても!!それが私の手の届く範囲なら誰だって救う!!』

 

『……無茶だよ』

 

『無茶じゃない!!』

 

香は刀の言葉を瞬時に否定した。

 

『無茶じゃない!!ここに“私”という存在がいること!!これはいくつもの偶然が重なった奇跡なの!!私の手が……私の力が及ぶのなら!!私は誰だって救ってみせる!!』

 

『……』

 

『だから……お願い……私を……信じて…!』

 

刀はしばらく無言だった。

 

『……本当に?』

 

『…?』

 

『本当に……誰でも…救ってくれるの?』

 

『……そこに、私の力が介入することができるのなら。』

 

刀はまた黙った。

 

『……なら……私からも…お願い。私の記憶を取り戻して……』

 

『…え?』

 

『私……刀の魂になる前は別の何かだった気がするの……お願い……今の私の力はまだまだなの。私の記憶が戻れば……多分。私はもっと力を発揮できるようになる。』

 

『……分かった。…あなた、名前はある?』

 

『……名前は……刀になってからは“未来(みく)”って名乗ってた。その前は忘れた。』

 

『…未来、か。うん。いい名前、かな。私は……香。』

 

『香……よろしく。』

 

『うん。よろしくね。』

 

そんな思考が交わされると香を包んでいた水が消え去った。

 

 

とすっ

 

 

そんな音と共に香の身体が倒れた。

 

ちょっ、香!?

 

「わ、若女将!?」

 

りんねと鈴が慌てた様子で近づき、鈴が脈を診た。

 

「脈は正常ですね……」

 

傷も開いてないわ。…ともかく、融合しておくわね。

 

(…この二体の鬼は……この世界の鬼じゃない。……この鬼たちは大丈夫かな。)

 

刀……未来という名を名乗った刀の魂はそう思ったという。

 

 




香は日輪刀を入手しました。ただしまだ色変えは済んでおりません。


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第伍拾話 虹色の刀と虹の呼吸

第五十話です……ルビ多いですから気を付けて。
それと、たまに何人かの会話が重なるときに、言葉が違う場合って括弧と括弧の間に/を入れてるのですけど、同じ人でも言葉が違う場合とかは=を入れることにしました。


「…う」

 

香が倒れて暫く経った頃、香の声がした。

 

「あ、香?起きた?」

 

「…涼…?」

 

「香、さっき倒れたんだよ?」

 

「え…あぁ……ごめん。今何が起こってるの?」

 

「今は仁が刀を持とうとしてるところ。あっち。」

 

涼に示された方向を見ると、仁の周囲が雪で覆われていた。

 

「……だいじょうぶかな」

 

「師匠の見解はどうなのですか?」

 

澄が香に話しかけてきた。

 

「……どうだろう。最近心意強度上がってきてるけどあの刀に宿る魂に認めてもらえるかどうか……」

 

そんなことを話していると仁の周囲の雪が消えた。

 

「あ、終わったかな?」

 

『そうみたい…』

 

香の頭の中に未来の声が聞こえた。

 

『未来、わかるの?』

 

『一応姉妹刀みたいなものだから……』

 

『そう……』

 

仁はだまりに支えてもらいながら香の方へと戻ってきた。

 

「っと…香、もう大丈夫なのか?」

 

「私はね……仁、大丈夫なの?」

 

「俺は…だまりなしだと立ってられん。これは何が起こってるんだ?」

 

「多分体力の問題だと思うよ?…花さん。」

 

香が花を呼ぶと花がビクッとした。

 

「は、はい!なんでしょうか…」

 

「貴女の能力はこういう体力の回復などにも適しているはずです。仁にお願いできますか?」

 

「え……あ、はい……えっと……香さんは…?」

 

香の方を見て花が聞いた。

 

「私はもう回復しました。私よりも仁の方がこの戦いには慣れてませんから、疲労が大きいはず。早めに回復させてあげてください。」

 

「あ、はい……」

 

そう言うと花は仁に近寄り手をかざした。

 

「……さて。耀哉さん。この後はどうしたらいいのでしょうか?」

 

香は花の手元が淡く光ったのを見届けてから耀哉に向き直り、どうしたらいいかを聞いた。

 

「ふむ……とりあえず聞きたいのだけれど、もうその刀は君に対して先程のような反応はしないのかな?」

 

まず気になったのは反応のことだったようだ。香はその言葉に軽く頷いた。

 

「えぇ。恐らく、彼女が機嫌を悪くしない限り、先程の拒否反応は起こさないでしょう。」

 

「彼女…か……」

 

『……香って、もしかして私以外の意思を持った物品を知ってるの?』

 

未来が香に話しかけてきた。

 

『どうして?』

 

『なんか……さっきのぶつかり合いといい、今の説明といい……慣れてる感じだったから。』

 

『あ~……』

 

『それに思念会話も慣れてるみたい。あっちの男の子は小声で実際に声を出して答えてたのに、香は今もそうだけど全く実際の声を発してない。』

 

『…未来、痛いところ突くね……』

 

香がどう答えようか悩んでいると、耀哉が口を開いた。

 

「仁が回復したらその刀を抜いてみてくれるかな?どうなるかが見たい。」

 

「あ、わかりました…」=『一応、慣れてるのは本当。まぁ私にはまだ秘密があるから。』

 

「よろしくね。」/『へぇ……って、思念会話と通常会話を同時に……』

 

『私の秘密に関してはまだ答えられないけど…』

 

『へぇ…』

 

(…まぁ、同時なのは分割思考の一部を振り分けてるからなんだけど…いっか。思念会話、これからは仁にも教えないと…)

 

そんなことを考えながら仁の回復を待っていた。

 

「……香さん。」

 

「どうしました?」

 

「どれくらい回復ってしておけばいいんですか……?」

 

花が少し困った表情で香を見ていた。

 

「……ちょっと待ってくださいね」

 

香は仁に近づき、手をかざした。

 

「……あと……そうですね、30秒くらいで。」

 

「あ、わかりました……」

 

「…香、お前その辺分かるのか?」

 

「大体は。簡易的な測定だったから何とも言えないけど…あ、その子、名前何か言ってた?」

 

香は仁の刀を指さして言った。

 

「…あぁ、確か……」

 

『黄泉、だった気がするけれど…』

 

「黄泉、っていう名を名乗ったな。」

 

「黄泉、ね……」=『知ってたの?』

 

「香さん、終わりました」/『まぁね……一応姉の立場だし…』

 

「あ、うん。仁、何か不調とかはない?」=『教えてくれてもよかったよね?』

 

「問題ない。」/『教えるの忘れてた……』

 

あぁぁぁ……肩こったわぁ……

 

「肩なんてねぇだろ」

 

楽の突っ込みが入った。

 

そういう心持ちなの!

 

「…まぁ、硬質化中って肩こりそうだよね。」

 

「確かにな。…ところで俺の体力はどうなってるんだ?」

 

「簡易解析すらしないでも分かる、全快状態だよ。…さてと」

 

仁とそう話したのち、香は耀哉を見た。

 

「この刀、抜けばよいのでしたか?」

 

「あぁ…そうしてくれると助かる。」

 

その言葉に香は軽く頷き、仁を見た。

 

「別に抜刀技を使う必要はないからね」

 

「え…あ、あぁ」

 

香はその返答を聞くと、きれいに刀を抜刀し、蹲踞までつなげた。続いて仁が少しぎこちなく抜刀した。

 

「…普通に抜刀するの慣れない?」

 

「元々刀なんて使ってなかったからな…」

 

香と仁が話している間に、刀の色が変わり始めていた。

 

「…へぇ……こんな刀があったんだ。」

 

「いや、お前の使う変在刀もそんな感じじゃないか?」

 

「いやあれは使う属性に合わせて色が変化してるだけだし……こういう風には変わらないよ。…見た感じ、その人の適性に合わせて色を変えているみたいだけど」

 

「……その色は……」

 

香達が話している間に、刀の色が変化しきったようで、耀哉の側にいた子供が声を上げた。

 

「……香……さん。それから、仁…さん。その日輪刀の色を……よく見せてもらえませんか……?」

 

『…?……未来』

 

子供の声は震えていた。香は首をかしげながら未来を呼んだ。

 

『何?』

 

『貴女のこと、一時的にだけどあの子に渡してもいい?』

 

『……いいよ』

 

未来の承諾を得た香は子供の前に刀を置いた。仁の方も同じように置いた。どうやら仁の方も承諾してもらえたようだ。

 

(意思を持つ武器達は基本的に自分が認めた主以外には自身を使わせない。そのレベルはその武器の意思によってさまざまだけど、今回の場合、未来はそれがかなり強い。もしかしたら、未来の姉妹だっていう黄泉さんもそうだと思う。…でも、まだ抵抗力は弱いらしいから何とも言えない…か。)

 

香がそんな思考を巡らせている間に、子供は耀哉に寄り添って小刻みに震えていた。

 

「お館様……あれは……()()()は……!!()()()()()()()()()()()の……!!」

 

「…ふむ。“虹色”、か。…なるほど。やはり、香と仁は()()()()()()()()……適性者、なのかな。」

 

(あの呼吸?)

 

香が疑問に思っていると、不死川が声を発した。

 

「……お館様。そのような色の日輪刀など、見たことがありません。何かの間違いか何かでは?」

 

不死川が言ったその日輪刀の色。香と仁のそれは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…つまり、七色───()()()だった。

 

「ま、間違いではありません。」

 

子供がそう震えた声で呟いた。

 

「私も聞いたことはありませんが…鬼殺隊の歴史に何かあったのですか?」

 

しのぶの言葉に他の柱たちが頷いていた。柱たちも、見覚えはないようだ。

 

「ふむ……そうだね。まずは何から話そうか。とりあえず、刀は香と仁に返そう。」

 

耀哉がそう言った直後、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…お帰り」

 

『ただいま……』

 

「…驚いた。それも香の術なのかい?」

 

耀哉は本当に驚いた表情で香に尋ねた。それに対して香は首を横に振った。

 

「いいえ、私の術ではありません。確かに引き寄せ関係の術もありますが、今回はそれを使っていません。この子たちが、自分の意思で私達の手元に戻ってきた。ただそれだけです。」

 

「ふむ……」

 

耀哉がそう言った直後、後ろの襖が叩かれた。

 

「お館様。…例の書をお持ちしました。」

 

「…あぁ。ありがとう。入っていいよ。」

 

どうやら、話している間に子供の一人が何かを取りに行っていたようで、黒い表紙につづられた本を持って子供が入ってきた。

 

「…さて。今ここに持ってきてもらった本は属性のことが書かれていた本だ。これを、香に託したい。」

 

その言葉を聞いた柱たちがざわついた。

 

「…なぜ、です?」

 

「いま、この場で属性を自由に扱えるのは香だけだろう?私達が持っているよりも、香が持っていた方がよいだろう。」

 

「…そうですか。」

 

香がそう答えると子供が香に黒い本を手渡した。

 

「…中を見ても?」

 

「あぁ。」

 

了承を得てから香は本を開いた。本の内容に一瞬目を走らせた後、目を見開いた。

 

「……なんで?」

 

香から出たのはそんな言葉。

 

「なんで……なんで……」

 

「…若女将?」

 

鈴が心配そうに見上げる。それと同時に香が本を手放し、崩れ落ちた。

 

ちょっ、しっかりしなさい!!

 

「なんで……なんで……?」

 

どうしたっていうのよ!?

 

「なん…で…ここに、あの、文字、が……?」

 

「文字?」

 

仁がそう呟き、本を拾った。

 

「…うわ、なんだこれ。読めないな…だまり、花、咲、読めるか?」

 

読めんな。

 

「私も読めません……」

 

「私も読めない……」

 

綺糸屋勢が読めないと言っている中、香の状態が元に戻った。

 

「…すみません。取り乱してしまって。」

 

「いや、かまわないよ。…それで、何か書いてあったのかな?」

 

「…仁、その本貸してもらってもいい?」

 

「あぁ…」

 

香は本を受け取ると本を開き、内容に目を通し始めた。

 

「…“この書に記したはかつて鬼殺の剣士として隊に名を連ねた鬼の用いた呼吸。呼吸の名は虹。この呼吸を真に使うならばまず無想の領域へ達せ。これすなわち吸を使わず呼のみを使う秘伝。私を真に知ることができるのは私と同じ力を持つ者のみ。その力とはすなわち属性。世界と自らより更なる力を得る神秘。今は喪われた神秘を操る者。”」

 

「…そこまでは普通に読めるところだね。その下は、読めるかな?」

 

香は耀哉の問いに頷いて口を開いた。

 

「…“ごめんなさい(ごめんなさい)

このようなかたちで(このような形で)わたしのことをのこすこと(私のことを残すこと)

わたしはこのこきゅうをつくったもの(私はこの呼吸を作った者)

いうなればきさつたいにくみしていたおに(言うなれば鬼殺隊に与していた鬼)

あなたがこれをよんでいるとき(あなたがこれを読んでいる時)わたしはもうこのよにはいないでしょう(私はもうこの世にはいないでしょう)

それでも(それでも)だれかがきがつくかもしれないとおもって(誰かが気がつくかもしれないと思って)ここにこのもじでしるしました(ここにこの文字で記しました)

きがつくわけないのに(気がつくわけないのに)

わたしがおもいついたもじなんだから(私が思いついた文字なんだから)

…ほんだいにはいります(…本題に入ります)

このこきゅうをあつかえるかたへ(この呼吸を扱える方へ)

どうかわたしのおねがいをきいてください(どうか私のお願いを聞いてください)

わたしのおねがいとはひとがおにによって(私のお願いとは人が鬼によって)しなないせかいをつくること(死なない世界を作ること)

そのためには(そのためには)おにのしゅりょうであるきぶつじむざんを(鬼の首領である鬼舞辻無惨を)たおさなくてはいけません(倒さなくてはいけません)

ですが(ですが)わたしには(私には)もうむりです(もう無理です)

しんのけいしょうしゃもおらず(真の継承者もおらず)さいきんではそもそもぞくせいを(最近ではそもそも属性を)あつかえるひとがいなくなってきました(扱える人がいなくなってきました)

…それは(…それは)わたしのともだちも(私の友達も)おなじだったみたいだけれど(同じだったみたいだけれど)

それでもわたしのともだちは(それでも私の友達は)ひとのなかにわざをのこすことで(人の中に技を残すことで)わざをついだそうです(技を継いだそうです)

わたしにはよくわからなかったけど…(私にはよくわからなかったけど…)…でも(…でも)わたしのわざはすべてしんぴがひつよう(私の技は全て神秘が必要)

だから(だから)だれかにのこすことができない(誰かに残すことができない)

わたしはしょもつをまとめて(私は書物をまとめて)いつのひかだれかがこのわざを(いつの日か誰かがこの技を)つかってくれることをのぞみます(使ってくれることを望みます)

ちゅういてんだけど(注意点だけど)わたしのわざはわざじたいにも(私の技は技自体にも)いしがあるのかそのひとの(意思があるのかその人の)りきりょうがたりていないと(力量が足りていないと)ただしくはつどうしないものがある(正しく発動しないものがある)

それは(それは)ぜろのかた(零の型)

でも(でも)じかんがたてばそのわざが(時間が経てばその技が)どういったものかはわかるはず(どういったものかは分かるはず)

…ここまで(…ここまで)ながいことばにつきあってくれてありがとう(長い言葉に付き合ってくれてありがとう)

わたしのわざと(私の技と)きさつたいのみんなのことをおねがいします(鬼殺隊のみんなのことをお願いします)

 

にじばしら(虹柱) きほう(鬼縫) にじか(虹架)”」

 

そこまで読んで香は顔を上げた。

 

「文章はここで止まっています。」

 

「ふむ……その呼吸を作った人は、優しい人……いや、優しい鬼だったのかな。」

 

「…そうかもしれません。」

 

「…ふむ。その本は香が持っていていいよ。…それから玉藻、何か言いたそうだね?」

 

その言葉で玉藻に視線が向く。

 

「えぇ…っと…仁さんと香さん、お二人の模擬戦を見てみたいのですが……」

 

「ふむ、いいかもね。どうだい?」

 

そう聞かれ、香と仁は顔を見合わせた。

 

「…どうするんだ?」

 

「私は別にいいけど…」

 

「決まりだな。模擬戦するか…」

 

「いいけど、大丈夫なの?」

 

「問題ない。」

 

「…分かった。」

 

香は鈴に本を渡してから仁と距離を取った。

 

「全員、離れていてくださいね?」

 

その香の言葉に、全員が素直に従った。

 

「さてと。お願いね?未来。」

 

『任せて!』

 

香と仁は互いに日輪刀を構えた。

 




まぁ、模擬戦をする理由は実際ほぼほぼありません。
それと、全てひらがなになっている場所は香が読んだものをそのまま書き出しただけです。香が読んだ文字が漢字には対応してないもので、その文字を全て日本語に訳すと全ひらがなになるという性質があるのです。なので言ってしまえばあれは原文そのままに近いです。原文を出せとか言われたらこちらの作業がかなり面倒なのでやりません。


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第伍拾壱話 模擬戦鍛錬・その二

第五十一話です……どういう展開にしようか考えながら組み上げた結果がこれです……


「方法はいつもと同じ。私はりんねが憑いている状態、仁は力の制限がされていない状態。…ひとまず、一本目。やろうか。」

 

「あぁ…軽く頼む。……と言いたいところだが、いいのか?今回はいつもの武器じゃないぞ?」

 

「問題ないよ。」

 

「…そうか」

 

気張れよ、仁

 

「分かっている。」

 

香はだまりが声を発したのを見て何かを思いついた表情になった。

 

「…あ、そうだ。融合第二段階で戦ってみて?」

 

「え?あ、あぁ……」

 

言われるがままに仁はだまりと同化する。それを初めて見た者達はざわついた。

 

「…これでいいのか?」

 

「うん。さ、やるよ」

 

二人は間合いを詰め、一歩踏み込めば剣が当たる位置についた。

 

「「…」」

 

「始め」

 

「「っ!」」

 

楽の小さなつぶやき。それが香と仁を動かした。

 

「火炎一閃・強火(つよび)───跳斬(ちょうざん)!!」

 

先に技を放ったのは仁。赤い炎を纏った一閃が香に向かう。香はそれを見つめていた。

 

「火属性系統、火炎一閃の強化第三段階。…う~ん、そうだな“桜花放出”」

 

香がそう呟くと、香の身体から桜の花びらが現れ始めた。

 

「“咲け”」

 

仁の炎の量を上回る花びらの量。それがきれいに整列して香と仁の間に構築された。

 

「元々、花属性は火属性と相性は悪い。だけど、数の暴力で何とかなるよ。」

 

「いつも打ち消されるのはそれが理由か……!」

 

「そう。まぁ、今回は薄めだから多少弱まる程度だと思うけど…」

 

香がそう言った直後、花の壁が焼き切れた。

 

「まぁこれくらいだとは思ってた。…だから、次の一手は用意してあるよ。“氷結放出”」

 

「なっ……別属性の放出!?」

 

仁が驚いた通り、香の身体から放出されているのは氷。花から氷への瞬時変換。

 

「“構築せよ”」

 

「氷の壁か…なら……“火炎放出”、“ヴォーパル・ストライク”!!」

 

「…あ、それは賢い」

 

仁は火炎放出で剣に炎を纏ってからヴォーパル・ストライクを放った。つまり仁が狙ったのは、炎を乗せた重い突進での一点突破、だ。

 

「なら私の一手は……“ヴォーパル・ストライク ver.Reverse thrust”!!」

 

刀を逆手に持ち、体の後ろから前へではなく前から後ろへと剣を突くことで本来の方向とは逆側へと“ヴォーパル・ストライク”を放つ。まさにReverse Thrust(逆噴射)

 

「なっ……そんな技あったのか!?」

 

「あったけど教えてない…これ結構難しいから。剣技連携“ヴォーパル・ストライク”」

 

香は突進してきた直後の仁にヴォーパル・ストライクを打ち込んだ。

 

「っとぁ!?」

 

「油断禁物…ってね。“ホリゾンタル・スクエア”」

 

香は周囲を切り払い、黒い何かを断ち切った。

 

むぅ…気がつかれたか。

 

「あれくらいなら、ですけど。あともっと硬質化鍛えた方がいいと思いますよ?だまりさん。」

 

む…

 

「気配遮断と硬化強化。まぁまだ同時発動は難しいと思いますからじきに教えますよ」

 

むぅ……

 

「それから仁は攻撃強化。心意使ってないから攻撃が軽すぎる。」

 

「……忘れてた」

 

「……」

 

香は頭を押さえた。

 

「心意での強化はまだ忘れちゃダメ。まだ仁の心意強度は高くないから一気に放出して強い一撃を放っても心意残量が残るようにしないと。」

 

「…わかった……」

 

「じゃ、とりあえず心意を一気にぶつけてみて。今の状態を見るから。」

 

「あぁ……だまり、黄泉、すまないが補助を頼めるか。」

 

任せておけ、仁。

 

仁の持つ刀が少し光った気がした。

 

『……未来。黄泉さんって心意の出力補助とかできるの?』

 

『心意……ってまず何?』

 

『意志の力。』

 

『…それ、私もできる。』

 

『そうなんだ…』

 

そんな思念会話を交わしたのち、香は鏡写と同じ構えを取った。

 

「…おぉぉぉっ!!」

 

(!?)

 

その心意の濃さに、香が驚きの表情を浮かべた。

 

「……ぁぁっ!!」

 

香に対して紫色の光線が放たれた。

 

「…へぇ…!」

 

香は笑みを浮かべて、左足を体の後ろに、つっかえ棒のようにした。

 

「…“リフレクション・ミラー”ッッッ!!」

 

技名宣言。その後、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「は?」/「は?

 

仁とだまりが同時に声を出した。恐らく、受けられるとは思っていても跳ね返されるとは思っていなかったのだろう。

 

「…まったく。心意を組み合わせているとはいえ一度の出力が大きいね…」

 

剣を鏡写の時の構えにしたまま香が口を開いた。

 

「仁の火属性を纏わせた心意。だまりさんの闇属性を纏わせた心意。そして黄泉さんの氷属性を纏わせた心意。それらを組み合わせ、一つの砲撃として撃ち出す、か…なかなかいい方法じゃない?でもって、こんな方法私はまだ教えてないけど。」

 

「…何か…悪かったか?」

 

「別に…他人と協力して何かを作り上げるのはかなり楽。今の仁は瞬間的な心意の出力がまだ低めだからこれからもこういうのに頼るかもしれないね。」

 

「そうか…」

 

「言っておくけど、一人で心意を練り上げて撃ち出すより、複数人で練り上げた心意をまとめて撃ち出す方が難易度は高い。そのあたりは黄泉さんの補助もあったんだと思うけど…でも、これ初めてやったんじゃない?それで不完全だったとはいえ私の反射を貫くのはすごいと思う。」

 

「…え?」

 

香が構えを解くと、確かに香の服の一部が破れていた。

 

「“リフレクション・ミラー”……私が持つ反射技の一つ。本来は鏡を使うことで成る技。確かにこの技は私も使えるけど、それでも今は本来の技の力の1/10くらいしか出せない。さらに不完全で1/20程度しか出せなくてもそれでも仁単体の心意を反射するには十分なはずだし、それをしないでも私がずっと展開している防護で十分なはず…だった。」

 

そう言って香は服の破れたあたり───肩の方を見た。

 

「でも、そうじゃなかった。3つの心意の合わせ技。流石に私もびっくりしたよ?そして、その心意の出力の大きさ。あそこまで大きかったら、今の私の防護だけじゃ受け切れない。だから私は“反射”という盾を取った。でも、反射も完全じゃなくて、反射の効果が切れたほんの数瞬だけ、私は被弾した。大半を跳ね返して、受け切れたのはよかったけど、問題は私の防護を一瞬でも貫いたってこと。…私もいまのままじゃだめだね。いつか仁に完全に抜かれる。」

 

香は空を見た。

 

「……本当に、人の意思の力っていうのは強いよ。それが紡ぎ紡がれ、やがて強大な力となる。…ここにいる鬼殺隊の人たちだってそう。人を喰らう鬼のいるこの世界で、人がまだ生きていて、そして鬼を倒そうとしている。…強大な力である鬼に。今、この世界では強大な人の力が紡がれ続けているんだと思うな…」

 

香の表情は、どこか過去の記憶を振り返っているような表情だった。

 

「…さてと。未来、りんね、ちょっと手伝って?使う属性は指定するから。」

 

『あ、うん…』

 

分かったわ。

 

香は仁に向き直ってから心意を練り始めた。

 

「見てて。これはあなたの到達点になるかもしれない場所。心意の練り上げと属性利用の合わせ技。」

 

香が手を上げるとそこに大きな球体が現れた。何かが、渦巻いているようだ。

 

「私が扱える総ての属性。そしてりんねの影、未来の雷。私が注いだ属性はほんの少しづつだけど、それでもかなりの威力になる。」

 

「なんだ…あれ!?」

 

「防いでね?これを防ぐ方法は、もう教えてあるんだから。」

 

香がそう言うと、大きな球体が香の手元を離れた。

 

「……宣言。“イマジネート・レイン”」

 

香がそう宣言すると、手元を離れた球体から大量の光線が仁へと向かって降り注いだ。

 

「……だまり!!」

 

おぉ!!

 

「“スピニング・シールド”!!」/「“呪力相殺針”!!

 

仁はソードスキルで弾き、だまりは呪力を針型に硬質化して香の技を相殺し始めた。それを見た香が小さく頷いた。

 

「…停止。」

 

その呟きと共に光線がその場で止まった。まるで、時間が止まったように。

 

「…?」

 

「収束」

 

その呟きの後に起こったのは、時間の巻き戻しに見えた。宣言前よりは小さくなった球体に、光線が集まっているのだ。

 

『鈴、お父様、涼、奏!防御結界準備!』

 

「「「「え…」」」」

 

『早く!』

 

香の思考音声での指示で香と仁を中心に透明な壁が張られた。

 

「おい……香?それまさか……」

 

「…受けてみて?」

 

「いや無理だろ!?」

 

その球体は確かに最初の時よりは小さいのだが、それでもかなりの大きさを誇っていた。

 

「非殺傷にはしてあるから気絶だけで済むと思うけど。受け切れるなら受けてみて。」

 

「……分かった。すまない、黄泉、だまり。力を貸してくれ。」

 

…おぉ。

 

仁の刀が小さく光った。

 

(……さてと、どんな方法で対抗してくるのかな…っと)

 

「宣言。“フラグメント・バスター”」

 

その宣言に反応し、大きな球体から太い光線が一直線に放たれた。

 

「………ここに再現するはあの鏡!!」

 

仁は光線を前にそう叫んだ。

 

「“リフレクション・ミラー”ッッッッッッ!!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。先程の、香の技と同じだ。刀を中心に輝く板のようなものが展開される。

 

(見よう見まねで“リフレクション・ミラー”を…っ!?)

 

反射された砲撃は香に一直線に向かった。

 

(まずっ…!展開が間に合わない!!)

 

香は何とか心意の防護を発動させるが、発動が遅かったために脆く、そのまま破壊されて砲撃に直撃した。

 




……はい、ということで今回は香さんに負けてもらいました。まだ模擬戦の中で、そこまで全力を出していない状況下ですけどね。それでもやはり初めて見せた自分の技を再現されるというのは予想外だったのでしょう。
次の話はちょっとしたシリアス回?みたいな感じになっているかと。かなりの間出てこなかったあの人が出てきます。と言ってもメインキャラではないのですけどね。ヒントは“外”。
それでは、感想その他お待ちしております。感想とかありますと私も少しはやる気出ますので。そして終わらない柱合会議。確認したら柱合会議に10話以上使ってます…


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第伍拾弐話 お前は、誰だ?

第五十二話。今回は結構久しぶりに出るあの方が出ます。


 

ズゥゥゥン…

 

そんな音が周囲に響きわたり、香のいた場所の周囲には土煙が上がっていた。

 

「はぁ…はぁ…」

 

大丈夫か、仁。

 

「だまり……すまん、支えてくれ……」

 

うむ…わかった。

 

仁はだまりに支えられながら、何とか立っていた。

 

「……どうなった」

 

『分からないです……未来姉様とその主さんがあの砲撃?に飲み込まれる前、驚いていたのは分かりましたが……』

 

仁の思考の中に落ち着いたような声が響く。これこそが仁が持つ刀、黄泉の声だ。

 

「風は……俺は起こせないしな。」

 

『私も実際氷属性を多用するばかりですから……姉様のように完璧にすべての属性を扱えるわけではありませんね…』

 

そんなことを話していると、徐々に土煙が晴れてきた。

 

「…勝った、のか?」

 

「若旦那!」

 

「花…?」

 

土煙が完全に晴れたと同時に花が仁に駆け寄った。

 

「大丈夫ですか?お怪我などなありませんか?」

 

「身体が動かない以外は大丈夫だが……花の方は大丈夫なのか?」

 

仁がそう問うと、花は頷いて鈴たちの方を向いた。

 

「鈴さんたちが、私達を守ってくれたんです。」

 

「鈴たちが……?っ!そうだ、香は!?」

 

仁が香のいた方を見ると、そこには地面に倒れた香の姿があった。

 

「……すまない、花。俺よりも香の回復を優先してもらってもいいか?」

 

「は…はい。」

 

仁の指示で花が香に近づこうとした瞬間、香の手が微かに動いた。

 

(意識はあるのか……)

 

仁がそう思った直後、香が起き上がり、頭を押さえた。

 

「痛っててて……いい一撃をもらったみたいだな……」

 

(…ん?)

 

仁はその香の言葉に違和感を覚えた。

 

「香さん…回復します。」

 

「ん?…いや、いい。()は自分でも回復かけられっから仁の方にやってやんな。」

 

「は、はぁ……」

 

(……)

 

仁は香を見つめて…否、睨んでいた。香はその視線に気がついたのか仁の方を見た。

 

「……んだよ。」

 

「……おまえ……香じゃないな?何者だ。」

 

その言葉にその場がざわついた。

 

「………ま、当然何人かは気づくよな。…ご明察。俺は香じゃない。」

 

「…誰だ。何故香の姿をしている?」

 

「おっと、誤解がないように言っておくが俺が香の姿をしている、っていうのは違う。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「なら、なんだと?」

 

「この身体は正真正銘“錦糸 香”のもので間違いねぇ。だが()()()()()()()()()()()()()()()()、ってだけだ。」

 

「…答えろ。お前は、何者だ?」

 

「俺か。」

 

香?は仁から目線を外し、空を見た。

 

「……俺は、この世界を外から視ていたもんだ。」

 

「…この世界を…外から視ていた?」

 

「あぁ。この世界の外側から、お前たちのことを、ずっとな。」

 

「ずっと…か。なら、いままで何かで追い込まれた時、助けになっても良かったんじゃないか?」

 

その言葉に香?は首を横に振った。

 

「いや、それは出来ねぇ。何故ならこことの緊急回線が開いたのが丁度今だったからだ。いま、世界と世界の繋がりがぐちゃぐちゃになっててな…視る、ことはできても話すこともできなかった。そして、緊急回線は長く持たんし、最低レベルの回線すら今まで接続できてなかったんだ。俺は世界を視る能力を持っているから見えてはいたんだがな…」

 

香?はそう言ったあと、仁を見た。

 

「…って、そんなことを言いに来たんじゃないな。…仁、鈴、灯純、妹紅、耀哉…それから炭治郎。」

 

「「…なんだ。」」/「なにかな?」/「なんでしょうか…?」/「「…?」」

 

全員違った反応をしたのを見てから、香?は自分の胸元の方に手を当てた。

 

「どうか、こいつのことを頼む。」

 

「「…は?」」/「…うん?」/「はい…?」/「「??」」

 

「こいつ、よく一人で背負い込んで無理するからよ。何か無理しているような感じがあったら気にかけてやってくれ。」

 

「……はぁ?」

 

灯純が意味が分からない、というような声を上げた。

 

「今は意味が分からなくてもいい。…だが、じきにわかるだろう。…こいつが、どれだけ無理をしているのか。どれだけ、壊れる寸前で踏み留まっているのか。…もし、壊れてしまったら……そんな時は、お前たちが支えてやってほしい。」

 

そう言った香?の表情は何かを心配しているような表情だった。

 

(……身体は香で間違いない。あの表情は確かに香が俺が無理した時に向ける心配の表情と同じだ。…だが、あの香が壊れる寸前…?こいつの言葉……信じていいのか?)

 

「別に俺の言葉が信じられないならそれで、いい。今はまだその時期じゃないからな。だが少しでも心にとめておいてくれ。いつの日か、香という存在が壊れる日は必ず来る。…それだけは、絶対に覚えておいてくれ。」

 

そういった後、香?は目線を下に向けた。

 

「…今は姉さんにしか頼れないし…」

 

かなり小さく呟いたが、仁にはその言葉がなぜか聞こえていた。

 

「…姉さん?」

 

…どうした、仁?何か聞こえたのか?

 

「…聞き間違いか。」

 

仁は聞き間違いということにして次の言葉を待った。

 

「……ん、そろそろ時間か。じゃ、さっき言ったこと、頼むぞ。」

 

そう言って香?は仁に背を向けた。

 

「待て!!」

 

仁がそう叫ぶと香?が首だけを仁に向けた。

 

「…なんだ。」

 

「ここからいなくなる前にいくつか答えろ。」

 

「…」

 

「一つ。お前は歪みを使う鬼を知っているか?」

 

「…歪みを使う鬼、か。知ってはいるが今どこにいるかは知らん。俺が視れるのはこの世界の過去と本来この世界にいるはずがなかった香の周囲で起こることだけだからな。」

 

「…そうか。二つ。俺と香の母がどうなっているかを知っているか?」

 

「……安心しな。まだ鬼にはなってねぇよ。…それでも、かなり危ない状態だがな。」

 

「…どういうことだ。」

 

「そのままの意味だ。いつお前たちの母親が抵抗できなくなるかが読めねぇ。助けるなら早くした方がいいだろうな。…心配するな、俺の見立てではまだ2週間は猶予がある。」

 

その言葉に仁、佐吉、灯純が息を吐いた。

 

「…三つ。お前は香とどんな関係だ?」

 

「……ただの知り合い。……それ以上でも以下でもねぇよ。」

 

香?は無表情でそう言った。

 

「…四つ。お前は、誰だ?…お前の、名は何だ。」

 

「……」

 

香?は仁から目線を外した。

 

「………………“語り部”。」

 

「語り部?」

 

仁が聞き返すと香?は完全に振り向いた。

 

「語り部───“記録の語り部”。俺のことをよく知らない奴はそう呼ぶ奴が多い。」

 

「……そうか。」

 

「……おぉ、そうだ。三つ、忘れるところだった。」

 

香?はそう言って灯純の方を向いた。

 

「灯純。お前の娘から伝言。“香ちゃんを、どうかよろしくね。わたしはもうお母さんとお父さんに会えないけど、だからって香ちゃんにひどいことはしないでね?”…だとさ。」

 

「……それは?」

 

「言っただろ。()()()()()()()……“錦糸(きんし) (かおる)”からの伝言だ。」

 

「……なんで、その名を知っている。」

 

錦糸 薫。その名を聞いた時、灯純の顔が困惑に変わった。

 

「お前の娘の魂が俺のいる場所に来てたのさ。俺は香の中に入る前に、その伝言を依頼されただけ。ただそれだけだ。」

 

「……証拠はあるのか?それを薫から言われたという証拠が!!」

 

灯純はそう叫んだ。

 

…鬼がいる夜 鬼退治

きらきら光り 導くぞ

されど鬼とは 悪だけならず

鬼は鬼でも 善のもの

そんな鬼は どうするか

捕まえ 従え 助け合え

鬼導術は 導くぞ

鬼の在り方 導く光…

 

香?は謎の歌を歌った。それを聞いた灯純の表情が凍った。

 

「……なんで、その歌を?」

 

「……灯純さん、何か知っているのです?」

 

「……俺が、薫に聞かせてた子守唄みたいなものだ。香には聞かせてないし、知ってるのは薫か結だけなはずだ……!!」

 

「…言っただろ。これはお前の娘から聞いたものだ。“もし、お父さんが信用しなかったら、この歌を聞かせてみて。”って言ってたんだ。信じるかどうかはお前次第だがな。」

 

「……」

 

灯純が黙ったのを確認すると香?は仁に向き直った。

 

「仁、花、だまり。お前たちに予言だ。」

 

「……なんだ」/「あぁ?」/「…?」

 

「お前たちは、いずれ()()()()()()()()()()()()()。…必ず、な。」

 

「…どういうことだ。」

 

「今は意味が分からなくてもいいさ。…その時こそ、今は話せないことを話してやるよ。」

 

香?はそう言って空を見上げた。

 

「…今は、私も話せないことはあるから。その時が来たら……総て、話すことになるかもしれない。」

 

そう、香?は呟いた。その後、仁をもう一度見つめた。

 

「…さて、最後。仁、これはお前に頼む。」

 

「……なんだ。」

 

「…香に伝えてくれ。“もしも、お前だけの力ではどうしようもなくなった時。その時は、星虚(せいきょ)の歌達を歌え。”」

 

「“星虚の歌達”?」

 

「そうだ。歌えば何かが起こる。もしも、どうしようもなくなった時には……それを使え、と。」

 

「……分かった」

 

「……私達には、それくらいしかできない。この世界は、歪んでるから。」

 

その小さなつぶやきも、仁は聞き逃さなかった。

 

(歪んでる?いや…それよりも少し気になることができた。)

 

「…じゃ、俺は失礼するぞ。」

 

「…待て、最後に聞かせろ。」

 

「…なんだ。」

 

「……お前…男か?女か?」

 

「はぁ?」

 

香?がわけがわからないというような顔をした。次いで、微笑んで人差し指を口の近くで立てた。

 

「……もし、女だって言ったら……どうする?」

 

香?はそう言って目を閉じ、それと同時に香の身体から力が抜けて崩れ落ちた。

 

「お、おい!?」

 

仁は香に駆け寄ろうとしたが、力が入らず、崩れ落ちた。その代わり、鈴が香に駆け寄っていた。

 

 

 

───この世界に存在するかも定かではない赤い揺らめく光が点在している場所。

 

 

 

たった一つだけあった青い光の一つから一人の人間が出てきた。

 

「帰った帰った、っと。」

 

「お疲れさま。」

 

男性に見える人間の前に、黒い髪のツインテールの髪型の少女が立っていた。

 

「…あぁ、悪い、“月の娘”か。」

 

月の娘、と呼ばれた少女は小さく頷いた。

 

「あなたのお姉さんたちはここに来れないから。私がお迎え。」

 

「そうか……姉さんたちの方も大変なんだろ……っというかあんたたちの方が大変なんじゃないのか?」

 

「……そうだね……でも、一番大変なのはあなたのお姉さん……Lulunaさんだから。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「……そうか。ったく、姉さんも本当に色々と巻き込まれるだろうな…」

 

その言葉を聞いて月の娘がくすっと笑った。

 

「…なんだ?」

 

「妹ちゃんとしては、お姉ちゃんが心配?」

 

「……まぁ、な。」

 

男性に見えた人間…もとい少女は照れたようにそう言った。それを見て月の娘は少し考えこむような顔になった。

 

「……大丈夫、って言葉にするのは簡単だけど……ほんとに簡単なわけじゃない。でも……今の状態じゃ、こっちからはほとんど何もできないから、貴女のお姉ちゃんに任せることしかできない…」

 

「歪み、っていうのはそんなに面倒なものなのか。」

 

その問いに月の娘は困ったように笑った。

 

「そうなんだよね……普通の歪みだったら一度矯正してしまえば何とかなることの方が多いんだけど……()()()()()()()()()()()()()()()()んだよね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。貴方のお姉ちゃん───Lulunaさんじゃない方ね───達にも手伝ってもらっているけど、それでも回線を保つのがすごく難しい。流石にこんな難しい回線接続作業は初めてかな…しかも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からもっと性質が悪い。おかげで転送が全く効かないのなんのって。私もこの世界から出れないし貴方のお姉ちゃん達もあっちの世界に取り残されたまま。まだあっちの世界とこの世界、あと私ともう一人の子供達の住んでいる世界とはかなり近い位置に存在するから音声通話と文書通信くらいならできるんだけどね…」

 

「他の世界はそうもいかないと。」

 

「うん……私の娘からの報告によると自分たちの世界群にある各世界に移動するのも困難、特に二次創作世界と一次創作世界は完全に遮断されてるって……」

 

「遮断、か……観測は出来てるのか?」

 

その問いに月の娘は首を横に振る。

 

「観測もギリギリ。世界群間の移動はほぼ完全に遮断、世界間の移動も困難。観測自体もかなりギリギリ。ノイズがすごすぎてまともに観測できないみたい。」

 

「そうか…じゃ、何かあったら呼んでくれ。俺はGW03の記録書庫にいる。」

 

「うん、お願いね。“記録を紡ぎ語り継ぐ者”───記録の管理者“魂込(たまごめ) 彼方(かなた)”さん。」

 

“魂込 彼方”。それが今、月の娘と会話していた少女の名である。

 

「“レコーダリス”、世界群間移動術式展開、“GW00”から“GW03”へ移動、移動先の世界コードは“record index”だ。」

 

彼方の背負っていた杖が光り、彼方の身体を青い光が包んだ。

 

「…月の娘さんよ。」

 

「うん?」

 

「…俺だけとはいえ、こっちの世界への移動手段を貰ってもよかったのか?」

 

「…まぁ、それ使えるの一回だけだから。歪みがひどすぎて一回の移動で回線が崩壊しちゃうんだよね。だからそこまで問題はないよ。一方通行だし。」

 

「そうか……すまない。」

 

「謝らなくていいよ~…無理して術式積んだからその子の人格止めちゃったし…」

 

そう言っているうちに青い光が一瞬だけ強まり、その場から彼方の姿が消えた。

 

「……さてと、回線修復作業行かなきゃ。ポータルは歪みのせいで全部停止してるし、そもそもこの世界には私達が許可しないとは入れない仕様になってるからあまり気にする必要はないかな…」

 

そう呟きながら月の娘もポータルというものがある部屋の外に出た。

 

「…うん?音声通話?…はい、もしもし。あ~……ほんと?あ~……わかった、塞ぎに行ってくる。場所はどのへん?…うん。…うん。え~……ポータルルームから思いっきり遠い場所……いや、嫌だなんて言ってないけど…うん。じゃあ、回線の接続作業に戻るの少し遅くなるからね?うん……ごめんねって伝えておいて?うん…はぁい……あ、お昼ご飯とかどうする?……ん、私のお任せでいいの?…はぁい。じゃあ今の材料と相談して決めるね?うん。じゃあ先に空間の穴塞ぎに行ってきちゃうから、電話切るよ?…うん、またあとで。」

 

月の娘は手元で何かを操作して左手を振った。

 

「さ、行くよ、ルナリア!早く空間の穴をふさいでお昼ご飯作りに行こっ!」

 

「はい、マスター!」

 

いつの間にか月の娘の近くにいた少女がそう言うと月の娘と少女が宙に浮き、そのまま飛んで行った。扉は自動ドアだったようで、月の娘と少女がある程度離れたと同時に閉まった。

 




新キャラ…みたいなの出てますけど、実は彼方の方は新キャラじゃありません。みなさんは“謎の空間(壱の始)”という話を覚えているでしょうか?この作品で一番最初に投稿された話です。あの時にいた“男”と地の文で呼ばれていた人、あの人こそが彼方さんです。私が投稿している“亡霊のお話”の方にも出てきているのですが、そちらでは名前が出ていますし、そちらを読んでいる方は気がついたのではないでしょうか?彼方さんの役割は“世界の記憶・記録を管理し、閲覧申請者がいた場合は該当する記録へと導き、記録に名がない場合は名を授ける”こと。つまり彼女は様々な物語への案内人で、記録書庫とは様々な世界の歴史や記録、起こったことなどが保管されている大規模な記録保管庫……メモリーストレージなのです。まぁ、言ってしまえばそこに保管されているのは私の記憶……私が読んだことのある原作の内容や他の方の二次創作、そして私が考えた二次創作の情報なんですけどね…
それで、月の娘に関してはあれが本名ではありません。ちゃんとあの子にも本名はあります。“亡霊のお話”の方で出てくる予定ですけど、彼女はこの作品では完全にゲスト出演ということで。…あ、ちなみに“亡霊のお話”は彼女が少し関係して、そしてこの“鬼ヲ狩ル者達之交差”よりも前のお話なんですね。それから鬼ヲ狩ル者達之交差は今現在起こっていること、と考えましょう。
…はい、長く喋りすぎました。申し訳ありません……ちなみに星虚の歌達というのは誤字じゃないです。
それでは感想その他お待ちしております。

追記:知っている方も多いと思いますが裏話集として“鬼ヲ狩ル者達之交差之カクシ部屋”というのを作成しました。後書きで紹介したものへの参照URLはこの後置いておきます。


参照先URL

謎の空間(壱の始)↓
https://syosetu.org/novel/225682/2.html

“亡霊のお話”↓
https://syosetu.org/novel/229649/

“鬼ヲ狩ル者達之交差之カクシ部屋”↓
https://syosetu.org/novel/239827/


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第伍拾参話 鎹鴉と説明の終わり

第五十三話……原作第六巻終わってるのですけど。こっちはまだ原作第六巻の内容終わってません。


 

「…う…」

 

香が倒れ、鈴に支えられてすぐ。香が小さく声を発した。

 

「若女将?大丈夫ですか?」

 

「鈴…?…ったた…」

 

香は少し痛むようで頭を押さえていた。

 

「……あぁ、そっか。私は自分の心意技跳ね返されて…」

 

香は起こったことを思い出したようで、体を起こして仁の方を見た。

 

「……どれくらい、経った?」

 

「5分経ったかどうか…いや、それよりも。…お前、本当に香か?」

 

「え??」

 

仁の言葉に香が首をかしげた。

 

「どういうこと?」

 

「……」

 

「え?え?」

 

香が困惑しているとりんねが影から出てきた。

 

貴女の身体を勝手に使ってた何者かがいたのよ。…そこ、“あなたが言えることじゃないでしょう”みたいな視線やめなさい

 

りんねがそう言うとしのぶがぴくっと反応した。

 

「私の身体を?りんねじゃないんだよね?」

 

ええ。逆に私は動きを封じられてたわ。……それより、気になることがあるのだけど…

 

「?」

 

香がりんねの言葉に首をかしげると、りんねは顔を横に振った。

 

…いえ、今は別にいいかしら。それより、あなたは私達の知る“錦糸 香”で間違いないわね?

 

その言葉に少し緊張気味に香が頷いた。

 

仁達に色々教えてて、屋敷によくわからない結界を張ってて、昼はお店を開いてて、夜になると鬼を狩って、日記みたいなのを書いてて、さらに鈴と恋人同士のあの香で間違いないわね?

 

「うん……ってそこまで言う必要ないよね!?ねぇ!?」

 

「そ、そうですよ!!」

 

大人数の前で恋人同士だということをバラされた香と鈴が顔を真っ赤にしてりんねに抗議していた。

 

ふふふ……ごめんなさい。

 

「全っ然、反省してないよね!?」

 

あら、ばれた?

 

「も~~~!!!“ストライク”!!」

 

かはぁっ!?

 

影であるりんねを何かの属性を纏った拳で殴り、りんね自身にダメージを与え、周囲の人々を驚愕させていた。

 

や……やっぱり香のストライクは効くわね……それとこれを使ってくるってことは本物の香ね……がくっ

 

りんねが気絶したところで香は息を吐いた。

 

「…で?仁?」

 

「……」

 

「私が“本当に香なのか”、ってどういうこと?」

 

「…それは……」

 

香は静かに仁を見つめていた。…威圧感付きで。

 

「…さっき…香が気を失った後だ。香じゃない誰かが、香の身体を使っていた。」

 

「それはさっき聞いた。で?」

 

「…それだけだ。」

 

「…そう」

 

香はため息をついた。

 

「まぁ、疑うのは正解。姿は一緒でも本当にその人かは分からないからね。私のことをよく知ってる人なら私に成りすますことだってできるはずだし。…で、その私に入ってた人は何か言ってた?」

 

「……なぁ、香。」

 

「うん?」

 

「“記録の語り部”…って知ってるか?」

 

「記録の……語り部?」

 

香の聞き返しに仁が頷いた。

 

「記録の語り部……香の中に入ってたやつがそう名乗ったんだ。“俺のことをよく知らない奴はそう呼ぶ”って言って…な。香とはただの知り合い、それ以上でも以下でもない、って言ってたが……」

 

「記録の語り部………あぁ。」

 

香は何か思い当たったような表情をしてからため息をついた。

 

「あの子か……うん、私の知り合いなのは間違いないよ。…でも、それ以上でも以下でもないっていうのはあの子の嘘だね。…まぁ、私の秘密に関わるから伏せてくれたんだろうけど……ちょっと傷ついたかなー…」

 

そう言いながら香は少し辛そうに笑った。

 

「他に何か言ってた?」

 

「え…あぁ、いつの日か必ず香が壊れるってことと……予言で俺と花とだまりがいずれその語り部のいる世界に必ず来るってことと……それから……お前に伝言だ。“もしも、お前だけの力ではどうしようもなくなった時。その時は、星虚の歌達を歌え。”とな。」

 

「ん~……」

 

香はそれを聞いて悩むような素振りをした。

 

「……あの子なりに心配はしてくれてるのかな。それと予言に関してはちょっと分からないかな。…で、星虚の歌達、かぁ……ん~……」

 

香は頭を押さえて悩んでいた。しばらく悩んだ後、香は顔を上げた。

 

「…まぁ、伝言は受け取ったからいっか。使うかどうかは別として。…仁。それと…鈴。」

 

「うん?」/「はい」

 

「…もしも、私が壊れた時は……その時はよろしくね?」

 

香は少し泣きそうな顔になってそう言った。

 

「……香自身がそう言うってことは、いつか壊れるのは確定なのか。」

 

「うん、多分。もっとも、簡単に壊れるつもりなんて全くないけどね。でも、私も一人の人間だから……いつの日かきっと限界は来る。多分あの子はそれを警告しに来てくれたんだと思う。これから限界が来るのか…それとも、もうすでに限界の寸前で踏みとどまっているだけなのか。それは、私にもわからないけど。」

 

「…そうか。…最後に一つ聞いていいか?」

 

「うん?」

 

「語り部が、“香が壊れる”って話をした後だ。…あいつ、最後に“姉さん”って言った気がするんだ。何か、知ってることはないか?」

 

その言葉に香は一瞬だけ動揺の表情を浮かべたが、すぐに表情を普通に戻し、人差し指を口の前に立てた。

 

「それはまだ内緒。私の秘密に関わるから。…秘密を話すときになったら、教えてあげる。」

 

「…分かった。」

 

「…それで、先程から言葉を発したそうにしている耀哉さんは何か?」

 

香は耀哉に視線を向け、そう聞いた。

 

「いや、そこまでのことじゃない。確かに機会はうかがっていたがそれは香達に鎹鴉をつけるということを言うためだ。」

 

「「鎹鴉?」」

 

香と仁の声が被った。

 

『鎹鴉……鬼殺隊の隊士達に1人1羽付いている人の言葉を話す鴉。本部との伝令役だよ。』

 

『伝令役……あぁ、あの鴉。』

 

「あの鴉か……」

 

未来から香が教えてもらった直後、仁も小さくそう呟いた。どうやら仁も黄泉から教えてもらっていたようだ。

 

「香達も階級は癸からだ。…とはいえ、すぐに甲まで行きそうで怖いが。」

 

耀哉の言葉に隣にいる子供二人が目を逸らした。次いで耀哉が手を叩くと一羽の鴉と一羽の()(!?)が降りてきた。

 

「…梟?」

 

「それが香達の鎹鴉だ。」

 

(…いや、私の前にいるの完全に梟なんですけど。)

 

香は善逸から温かい目で見られていた。

 

「えっと……よろしくね?」

 

「ホ~」

 

「っと…よろしく?」

 

「マカセロ」

 

仁の方は喋ったが香の梟は喋らなかった。…当然と言えば当然なのだが。

 

「お二人は隊服の採寸をしますので少しだけこちらに来てもらえませんか?」

 

そう耀哉の隣にいる子供に言われ、仁と香は屋敷の方へと上がった。

 

「…あ。」

 

香は何かに気がついたように声を上げ、屋敷内にあった壊れた扉付きの箱───つまり炭治郎の私物である箱に駆け寄った。

 

「…りんね、起きて」

 

……

 

「…りんね」

 

……

 

りんねが目覚める気配は全くなかった。

 

「……さっさと起きなさい、“ストライク”!!」

 

香は先程とは違う属性を纏ったストライクをりんねに叩き込んだ。

 

あだっ!?な、何よ……

 

「ごめん少し離れて?」

 

え?…あぁ、状況は分かったわ。ちょっと待ちなさい。

 

りんねはそう答えると香と分離した。

 

ん、これで大丈夫よ。

 

「ありがと」

 

香は礼を言ってから箱に手を触れた。

 

「その箱に何をする気だ!!」

 

それまで黙っていた炭治郎が叫んだ。ちなみに禰豆子はずっと屋敷内にいた。

 

「別に、壊したりはしませんよ?…“修復”」

 

香がそう呟くと、まるで時間の巻き戻しのように壊れた部分が直りはじめた。

 

「…それは、なんだい?」

 

「ただの修復術です。物品にしか効果はありません。」

 

そう答えると同時に箱が不死川に壊される前の状態に戻った。

 

「……?」

 

香は首をかしげながら箱に異常がないかを調べる。

 

「……禰豆子さん、でしたっけ。この箱の中に入ってもらってもいいですか?」

 

「……」

 

禰豆子は小さく頷くと箱の中に入った。

 

「…“筋力強化”」

 

香はそう呟くと軽々と箱を持ち上げた。

 

「……?」

 

香は首をかしげながら箱を叩いたり揺らしたりした。

 

「……修復ができてる?でもいつもより負担が軽すぎる。…どうして?」

 

……

 

首をかしげている香をりんねは見つめていた。

 

「…まぁいっか。…隠の方、これお願いできますか?」

 

「あ、あぁ…」

 

香が地面に箱を降ろすと出てきた隠がそれを回収した。

 

「りんね、融合」

 

…わかったわ

 

りんねが憑いたのを確認した香は子供の方へと向かった。

 

「…それじゃあ、香達の話もこれで終わり。下がってもいいよ。そろそろ柱合会議を始めようか。」

 

その耀哉の言葉を最後に香と仁は屋敷の奥へと消えた。

 

 

 

───本に囲まれた部屋にて。

 

 

 

男性に見える少女───彼方が一人座って本を読んでいた。

 

「……ん?」

 

何かに気がついたのか彼方が本から顔を上げる。左手を振り、現れた青いウインドウから何かを操作した。

 

「……」

 

操作した後、青いウインドウを消すとまた本に目を落とした。その直後、キィ…キィ…という車輪が回るような音が聞こえた。

 

「……何か用か?」

 

「用がないと言えば嘘になる、かな。」

 

彼方の声にこたえた少女の声。その声がしても彼方は本から目を離さなかった。

 

「何の用だ?…星海姉さん。」

 

彼方はそう言った。それを聞いてくすっという声。

 

「あの子…元気だった?」

 

「知らん。そもそも、Luly姉さんは精神の間で会ってんだろうが。」

 

「それもそうなんだけどね……」

 

「そもそも俺はLuluna姉さんに憑依干渉しただけだ。精神干渉なんてしてない。」

 

「そっか…」

 

星海は小さくため息をついた。

 

「Lulunaの状態、どうだった?」

 

「……かなり危険。あと一度、Luluna姉さんの精神を……心を悪い意味で揺らす何かが起こってしまえばすぐに崩壊するほどの状態だ。打てる手は打ってきたがあいつらがLuluna姉さんを救えるかどうか…それが運命の分かれ道かもしれねぇ。」

 

「…そっか。」

 

「…ところで、Luly姉さんの方はどうなんだ?準備、できてるのか?」

 

その問いに星海は悩むような声を上げた。

 

「まだ、かな……そもそもこんな姿じゃ会えないよ?」

 

「ははっ、それは確かに。」

 

「笑い事じゃないんだけどね……はぁ。」

 

「ま、頑張れ。」

 

「ん…頑張るよ。」

 

そんな言葉と共にキィ…キィ…という音が遠ざかっていった。

 

「……さてと。観測結果見てくるか。」

 

彼方はそう言って椅子から立ち上がり、どこかへと行った。

 




なんか…結構ネタバレ展開になってきてる気がします。それと善逸さんが香を温かい目で見ていたのは自分と同じように鴉じゃないものをあてられたからです。
ともかく、やっと柱合会議終了……次話投稿前までで投票は締め切ります。まぁ、香の秘密話したところで“知ってた”ってなりそうな予感がするのですけど……
あ、ちなみに次回は蝶屋敷に行きます。仁さんも香も特に怪我してませんけどね。あるとしてさっきの模擬戦での怪我じゃないですかね?…あ、それもなくなってますか。だまりさんとりんねさんの自動治癒能力で。
それでは感想その他お待ちしております。前から言っていますが別に展開予想なども私は構いませんよ?答えられるかは別としますが。個人的には読者の皆さんがどういう予想をしているのか知りたいです。


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第伍拾肆話 蝶屋敷での診察

第五十四話です。今回は短めに仕上がって……ないですね、はい。


 

仁と香、そして玉藻は隊服の採寸が終わった後、鴉と梟に先導されて道を歩いていた。

 

「…蝶屋敷、か。全く、あの人は何を考えているんだ?」

 

「う~ん……悪い人ではないんだろうけど。でも何を考えているかが見えない。私達みたいな不確定要素を信用して、一体何を考えているんだろう…」

 

話題に上がっているのは耀哉のことだった。

 

…ねぇ、香?あの耀哉とかいう男の怪我…香の術で治せないのかしら?

 

りんねの問いに香は少し考えてから口を開いた。

 

「あの病は少なくとも今の私じゃ無理かな。全力で術を振るえば、もしかしたら治せるかもしれないけど。」

 

…珍しいわね、香ができるって断言しないのは。

 

「香さんは…基本的にできないことはないんですか?」

 

玉藻が恐る恐るといったように聞いた。

 

えぇ、私が知る限り、香が“できない”なんて言ったことはほぼほぼないわ。私が憑いていることでかなり縛られはするものの私が離れれば香は本来の力を振るえる。その状態なら、香にできないことなんてないに等しいのよ。

 

「…言っておくけど、私にもできないことはあるからね?」

 

じゃあ何ができないのよ?

 

「媒体なしでの死者蘇生。媒体があっても完全な死者蘇生は難しいけど。」

 

「死者蘇生、ですか…というか媒体があれば死者蘇生はできるのですか?」

 

その問いに香は少し悩むような声を出した。

 

「んと…媒体と言ってもかなり限られますよ?必要なものはまず“限りなく完全に近い魂”。次に“該当する魂のいたほぼ完全な肉体”、もしくは“該当する魂が強く想い入れのある物品”。最後に“膨大な術力”。」

 

「術力…ですか?」

 

「霊力、魔力、妖力、神力。これが術力で表されるものですね。呪力と気力なんかはまた違ったものだったりもしますが。」

 

何故だ?何故呪力は違う?

 

だまりがそう尋ねた。

 

「うまく言えないのですけど、力の性質が違うんです。神力、霊力、妖力、魔力、呪力、氣力、魂力、心力、精力…思いつくだけでこれくらいありますけど、何が違うのかは私も分かってません。」

 

ふむ…

 

だまりは悩むような表情になって仁の影の中へと沈んだ。

 

「…そうだ、香。さっきのストライクって技、あれは何だ?」

 

仁が香にそう聞いた。

 

「ストライク?……あぁ。あの技ね。りんねを殴った時の。」

 

「そうだ。あれは一体?りんねは影なんだから触れないはずだろう?」

 

その言葉に香は少し考えてから口を開いた。

 

「影だから触れない。それは確かにそうなんだけど。でも、りんねもだまりさんも私達の影である前に鬼の魂なんだよね。それは仁も知ってるよね?」

 

「え?…あぁ。」

 

「で、そんな魂に攻撃を当てるにはどうするか。簡単、こっちが魂に干渉できるようにすればいいんだよ。」

 

「魂に……干渉?」

 

仁が首をかしげたのを見て香は頭を押さえた。

 

「う~ん……多分花さんが見せてくれたこととかあるんじゃないかな?」

 

「花が……あっ」

 

仁は何かに思い当たったような顔をしていた。

 

「要はその状態を攻撃として作り出せばいいの。言ってしまえば、私がやったのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけ。まぁ強めに干渉したから痛かったんじゃないかな?」

 

痛かったわよ…

 

「加減間違えたのはごめんってば……でもあれはりんねがほとんど悪いよ?」

 

(あれ加減間違えてたのか!?)

 

仁は香の言葉を聞いて軽く身震いした。

 

「で、今回私が使った“ストライク”っていうのは“超近接型単発打撃魔法”。あれでも魔法なんだよ。ソードスキルとはまた違う、“ストライク”っていう物理殴打魔法。」

 

完全に魔法(物理)である。

 

「ツイタゾ!!」

 

そんな声がして全員がハッとして前を見る。そこには大きなお屋敷があった。

 

「大きいな…」

 

「ですね…これが蝶屋敷?」

 

「ホ~♪」

 

「どなたですか!!」

 

梟が鳴くと同時に鋭い声。香がそちらを向くと手に箱を持った二つ結びの少女がいた。

 

「癸の“錦糸 香”です。」

 

「同じく癸の“綺糸 仁”…」

 

「えっと…彼らの専属刀匠の“玉藻 鬼神”です…」

 

「…錦糸…なるほど、あなた達が…」

 

少女は納得したような言葉を発してから少し考えるような表情になってから香をまっすぐ見た。

 

「?」

 

「…あなたは、かなりお強いとお聞きしましたが……本当なのですか?」

 

香は首をこてんとかしげた。というか、香の方が彼女より背が低い(そもそも現在香が出会っている人物達の中で香は最低レベルの身長)なのでそのうち首が痛くならないのだろうか。

 

「…まぁいいです。しのぶ様がお呼びです。こちらへ。」

 

「... I'm weak.(…私は弱いよ。)」

 

「え?」

 

少女が香の発した言葉で、足を止めた。

 

「I'm weak ... that's an unmistakable fact.(私は弱い…それは紛れもない事実。)If ... if you think I'm strong ...(もしも…あなたたちが私を強いと思うのなら…)」

 

香は少女をまっすぐに見つめていた。

 

「I think it's not looking at "I", it's just looking at "outside me".(それは“私”を見ているんじゃなくて、“私の外側”を見ているだけなんじゃないかな。)」

 

「…なんですか?何か言いたいのならはっきり言ってください。」

 

「…いえ、ただの独り言です。気にしないでください。」

 

「…そうですか。」

 

その言葉を最後に少女は屋敷の奥へと歩いていった。香達もその後を追う。

 

「五回!?五回も飲むのこの薬!?」

 

「落ち着け、善逸!!」

 

「嫌ぁぁぁ!!すげぇ苦いんだよこの薬!!」

 

…何やら騒音がしていたがそれをきれいに無視して少女と香達は診察室という札がある扉の前にやってきた。

 

「しのぶ様、香さん達をお連れしました。」

 

「どうぞ。まずは香さんから。仁君は外に出ていてくださいね。」

 

少女が扉を開け、促されて香が部屋の中に入った。

 

「……」

 

「なにか、珍しいものでもありましたか?」

 

「…胡蝶、しのぶさん。」

 

香が部屋の中を見渡していると椅子に座っていた人物───胡蝶しのぶに声をかけられた。

 

「…おかけになってください。」

 

「…失礼、します。」

 

香は日輪刀と斬想鬼を壁に立てかけて置いてからしのぶの前にあった椅子に座った。

 

「……こうして落ち着いて話すのは、初めてですね。」

 

「…そう、ですね。もっとも、私は敵同士になると思っていましたから話す機会などないだろうと思っていました。」

 

「そうですか…」

 

そう言うとしのぶは服の中を探って何かを取り出した。…それは、先程話をしていた中でも出てきた鬼導札付きの針だった。

 

「…これは、あの日貴女が私にお守りと言って渡したものです。針の方は元々は剣の形をしていたのですが、いつの間にかこのような形に。…鬼導札のことに関しては咲さん達から聞きました。貴女や仁君のいた世界で、鬼と戦うために、もしくは鬼から身を護るために使うものだそうですね。」

 

その言葉に香は頷いた。

 

「それならばなぜ、あなた達は元の世界でも鬼を狩っていたのですか?確かに鬼喰いの鬼の食糧確保は必要でしょう。ですが、そこまで危険を冒す程のことだったのですか?」

 

その言葉に香は目を伏せた。

 

「…私がしていたことはただの罪滅ぼしのようなものだったのかもしれません。でも、何もしないままではいられなかったんです……そうしないと、私が私ではなくなりそうだった……だから私はりんねと協力したのです。例え相容れない鬼の力であろうと、目的を果たすためなら受け入れて使う。それで私自身に何かが起こったとしても。それは私の自己責任です。当時、りんねは自分の失った記憶を取り戻すために。私は錦糸屋のみんなの仇を討つために。……私は錦糸屋を襲ったあの顔の無い鬼を……ううん、あの鬼を作った呪具を。錦糸屋にいた皆を殺されている前で、何もしなかった私を。……澄ちゃんを、殺したあの呪具を。お父様を殺した、あの呪具を。……絶対に許さない。」

 

そう言い切ったとき、しのぶは香がかなり強い力で拳を握っていることに気がついた。

 

(……似てる?)

 

「今。あいつは、あの呪具はこの世界にいる。今度こそ、私達の手で………この世からその忌まわしい存在を……消す。」

 

「っ!?」

 

香が言葉を終えたと同時に部屋の中が濃密な殺気に包まれた。柱であるしのぶが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ほどの。

 

(この子……本気を出したら危険……殺気だけで人が死にかねない…!?)

 

そんなことを考えて暫くそうしていると、香の殺気が消えた。

 

「…それで、私を呼んだのはそれを聞くためですか?」

 

「い、いえ……本当に鬼があなたに異常を及ぼしていないのか、検査させてもらいます。…すみませんが、傷などがあるかを見たいので服を脱いでもらえませんか。」

 

「……」

 

香はしのぶを見つめた後、小さくため息をついてから上半身裸になった。

 

「…これでいいですか。あまり素肌は他人に見せたくないのですが。」

 

「……鈴さんにはすべて見せているのでは?」

 

「………」

 

「図星なんですね」

 

香は顔を赤くして頷いた。

 

「…まぁ良いでしょう。好きな人以外には素肌を見られたくない、というのは私も分かりますし。……というか、全く傷がないように見えるのですがこれは?」

 

「……りんね」

 

はいはい……傷がない理由だったわね?

 

香の呼びかけでりんねが影から出てきた。

 

それは私が影響しているわ。鬼の基礎能力はあなたも知っているでしょう?

 

「……人間離れした力と、驚異的な回復速度ですか」

 

そう。どちらも制御することはできるけれど、回復速度に関してはほとんどまやかしみたいなものよ。不死川とかいう馬鹿との模擬戦の後のこと、覚えているでしょう?

 

そのことばにしのぶがむっとした。

 

「不死川さんを悪く言わないであげてください。」

 

今後の状況によるわ。で、覚えているわね?

 

「……確か、血を吐いたり傷が開いたりしてましたね……というと」

 

そこでりんねが指を弾いた時のような音を出した。

 

そう。多分思い当たったのだろうけど、私とだまりの自動治癒は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのよ。流石に急所…頭、首、心臓なんかをやられれば即死だけれど。…でも、香って急所に攻撃貰っても死ななそうよね。

 

その言葉に香が目を逸らした。

 

だから、表面だけ見れば治っているようでも本当は治っていないわ。言ってしまえば今現在治しているのよ。とりあえず今は自然治癒力を高める薬を使いながら時間が経つのを待っているの。もうそろそろ治っててもいいころだけれど。

 

そうりんねは呟いた。

 

「…それでは、あなたは完治したのなら香さんから離れるのですか?」

 

…いいえ?香の身体から離れることの方が多くなるかもだけれど、香の側からは離れるつもりはないわよ?……私も、香と目的は一緒だもの。

 

「…そうですか。」

 

その後りんねが影に沈んだ後、しのぶが鬼に関係する事の検査をしたが結局何の異常もなかった。

 

「ふむ……少し興味深いですね。とはいえ異常はないです。もう大丈夫です、服を着て部屋の外に出ていていいですよ。」

 

香はそう言われ、服を直し、日輪刀と斬想鬼を持って部屋の外へと出た。

 

「仁君、どうぞ。」

 

入れ替わるように仁が入っていく。部屋の外の廊下では香、玉藻、少女の三人になった。

 

「…そういえば、あなたの名前は何というのですか?」

 

思いついたように香が少女に名前を聞いた。

 

「…アオイ……“神崎 アオイ”です」

 

「アオイさん、ですね。分かりました。」

 

そこから先に会話はなく、仁が出てきた後は錦糸綺糸屋勢全員を連れて帰宅することが許された。

 

「なんだよ!!俺へのあてつけかよ!?」

 

花と鈴に抱き着かれている仁と香を見かけて善逸がそう叫んでいたというのは気にしない方がいいのである。

 

「あ、香さん、仁君?少し経ったら鎹鴉の方から連絡あると思いますからお願いしますね?」

 

「「??」」

 

しのぶが最後に何かを言っていたが、仁と香は理解ができなかった。

 




ちなみに途中にあった英文は全てgoogle翻訳先生に頼りました。


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第伍拾伍話 属性の呼吸、術式の完成

第五十五話、完成しました……結構書いてたら9,000字とか行ったのでびっくりです。
それと今回の時間は1915/10/22です。柱合会議が19日なので3日後ですね…


 

「ん~……」

 

香達が蝶屋敷に行ってから数日後の昼。香は自室に籠って和紙に向かいあっていた。

 

「……違う。もっと、別の組み方があるはず。」

 

指で複雑な記号や文字を書いては消し、書いては消しを繰り返し、何かを完成させようとしていた。

 

「……違う。…そういえば」

 

香が和紙から手を離し、立ち上がって一冊の本を手に取った。そんな時に香の部屋の扉を叩く音がした。

 

「はぁい」

 

「若女将…私です」

 

「鈴?どうぞ?」

 

そう言うと鈴が鍋をもって香の部屋に入ってきた。

 

「若女将、少し休憩入れませんか?」

 

「え…あ、もうお昼なの?」

 

「はい…お昼ご飯は持ってきたので。」

 

「あ~…ありがと。」

 

香は手に持っていた本を和紙の近くに置き、鈴と向き合った。

 

「…難しいですか?やっぱり…」

 

「うん…いただきます」

 

「いただきます」

 

二人は手を合わせて食べ始めた。

 

「…若女将、若女将が悩んでいるもの見せてくれませんか?」

 

「ん?別にいいけど…」

 

香は和紙を取って鈴に渡した。

 

「その和紙自体にはあまり意味がないから汚しても大丈夫だからね?」

 

「あ、はい…」

 

鈴は香から和紙を受け取ると、そこに書いてある模様を一つ一つ確認し始めた。

 

「……香さん、これは…鬼神族のを?」

 

「うん。鬼神族の妖術を基礎に組んでるんだけど…実は私、鬼神族の妖術ってまだそこまで慣れてないんだよね。」

 

「…なるほど…確かにこれでは……」

 

鈴はそう呟いて立ち上がり、香の部屋にある棚を見た。棚には10冊ほどの本が置いてある。

 

「香さん、魔法関係の本ってどれですか?」

 

「ん~?…待って、これ食べてからにしよ?」

 

「あ、はい…」

 

鈴は座って食べるのを再開した。

 

「…そういえば、私しばらく錦糸屋の店頭出てないけど大丈夫かな?」

 

「あ…そういえば涼さんの話では以前来たあのお客さんが来たのだとか…」

 

「以前来た?」

 

「あの……出張した…」

 

「…あぁ」

 

それを聞いて香が少し遠い目になった。

 

「……うん、また今度行かないとね。私としてはあまり行きたくないけど。」

 

あら、私はまた行ってみたいわね?

 

「りんね…私の想いとか考えてよ……」

 

…ごめんなさい。香は鈴一筋だったわね。

 

「…」

 

…でも、どうするのよ?今、あそこには結界のせいで行けないでしょう?

 

そう。確かに、あの門は錦糸屋に繋がっていた。だが、錦糸屋の敷地外に出ることがほぼできなくなっていたのである。これは綺糸屋勢も同じようで、綺糸屋の敷地外に出ることはできなくなっていたそうだ。香が錦糸屋を調べたところ、強力な認識阻害・行動制限結界が張ってありさらに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだという。しかもその結界は世界間の歪みを発生させているため、強制解除すると香にもどうなるか分からないという。香の話では、強制解除すると()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()する。のだそうな。

 

「それは知ってる。だから、ちょっとした理由があって暫くの間出張販売は出来ませんって言ってもらってある。もしも、出来る方法があったなら、その時は出張販売することにはなってるけど。」

 

そう……その時行く人はどうするの?

 

「とりあえず私は確実にいかないとだから…とりあえず私と涼、時間が合えば奏も頼めるかな…」

 

「私は行ってはいけないのですか?」

 

「…う~ん」

 

鈴の質問に香が悩んだ。

 

「…私としては、あまり行ってほしくはないかな。」

 

「…そう、ですか…」

 

そんな話をしたままご飯を食べ終わると、香の部屋の窓を2回叩く音がした。

 

「うん?あ、夜張」

 

「ホ~」

 

器用に窓を開け、部屋の中に入ってきたのは香の鎹梟───夜張(よばり)だった。夜張は口に手紙を咥え、首から大きめの籠をかけていた。

 

「夜張、お仕事ご苦労様。これ、食べる?」

 

「ホウ♪」

 

香が差し出したクッキーを嬉しそうに食べ始めた。香は夜張が落とした手紙を開封し、中を読み始めた。

 

「…やっぱり…ね。」

 

「若女将、何か分かったのです?」

 

「ん。これ見た方が速いよ。」

 

香は鈴に手紙を渡した。その内容はこうである。

 

 

 

ふむ。よく“第二の始まりの呼吸”という言葉を聞いていたね。そう、香と仁が適性を示した“虹の呼吸”は第二の始まりと言われる呼吸だ。それは、この呼吸から派生した呼吸が存在する、もしくは存在していたということを示す。鬼殺隊の方で調べた限りだが、現時点で分かっている派生呼吸は十八つ。

 

 

まず始まりの呼吸たる“虹の呼吸”。別名で七色の呼吸とも呼ばれているけれど。

 

次に派生呼吸だが、先に紹介する九呼吸はあわせて“七曜双極(しちようそうきょく)の呼吸”と呼ばれている。

日、閃光を操る“太陽(たいよう)の呼吸”。

月、闇黒を操る“太陰(たいいん)の呼吸”。

火、燃焼を操る“晴天(せいてん)の呼吸”。

水、水流を操る“雨天(うてん)の呼吸”。

木、風刃を操る“疾風(はやて)の呼吸”。

金、岩石を操る“曇天(どんてん)の呼吸”。

土、雷撃を操る“轟雷(ごうらい)の呼吸”。

星、運命を操る“恒星(こうせい)の呼吸”。

虚、虚無を操る“空虚(くうきょ)の呼吸”。

 

残りの九呼吸は虹の呼吸と同じように別名が存在する。

氷、凍結を操る“降雪(こうせつ)の呼吸”。別名は“(ゆき)の呼吸”。

生、希望を操る“生誕(せいたん)の呼吸”。別名は“(せい)の呼吸”。

死、絶望を操る“死神(しにがみ)の呼吸”。別名は“()の呼吸”。

魂、輪廻を操る“摂理(せつり)の呼吸”。別名は“(ことわり)の呼吸”。

夜、空間を操る“夜天(やてん)の呼吸”。別名は“(よる)の呼吸”。

昼、時間を操る“昼天(ちゅうてん)の呼吸”。別名は“(ひる)の呼吸”。

夢、幻想を操る“夢幻(むげん)の呼吸”。別名は“(ゆめ)の呼吸”。

花、演舞を操る“華舞(かぶ)の呼吸”。別名は“(はな)の呼吸”。

 

これら十八の派生呼吸を合わせて“属性の呼吸”と呼び、十九呼吸を“呼の呼吸”、または“神秘の呼吸”と呼ぶ。

 

属性の呼吸、とは書いたけれど、魂や夜、昼、夢、生、死なんていう属性が存在するのかな?良ければ教えてくれると助かる。

 

あぁ、それと。香の梟に持たせた本はこちらで発見できた属性の呼吸のことが書かれている指南書だ。七曜双極の呼吸と雪の呼吸、華の呼吸しか見つからなかったが、香達なら役立てることができるんじゃないかな?

 

 

追記:仁が遭遇したという太陽の呼吸の使い手。その太陽の呼吸は本物だろう。しかし虹の呼吸の作り手の記述によればこの世界の住人には属性は既に失われたとのことだが……ひとまず、その使い手に関してはこちらでも調べておくことにしよう。

 

 

 

その手紙の通り、夜張の持ってきた籠の中には12冊の本が入っていた。“太陽の呼吸指南書”、“太陰の呼吸指南書”、“晴天の呼吸指南書”、“雨天の呼吸指南書”、“疾風の呼吸指南書”、“曇天の呼吸指南書”、“轟雷の呼吸指南書”、“恒星の呼吸指南書”、“空虚の呼吸指南書”、“降雪の呼吸指南書”、“華舞の呼吸指南書”…そして、“七色の呼吸製作記録”。

 

「…?製作記録?なんでこんなものが…」

 

香が製作記録を持ち上げると鈴が本を見て呟いた。

 

「その本……他のと比べてかなり古びていませんか?」

 

「…言われてみれば確かに。…ん?何か書いてある?」

 

香は本の表紙に顔を近づけた。

 

「─たし─な──は───に─か。お──さ───れ────駄目、汚れすぎてて読めない。でも、これ女の子の字だ。」

 

「女性ではなくて女の子、ですか?」

 

香は鈴の問いに頷いた。

 

「たぶんこれ、全部ひらがな。で、一番最初に書いてあったのって多分“わたし”で、結構ぐにゃぐにゃだから…多分、これを書いた時の年齢は低いと思う。」

 

「そうですか……」

 

「…とりあえず、手紙書いちゃうから鈴は……」

 

香はそう言いながら立ち上がり、棚から1冊の本を抜き出した。

 

「これ、読んでて?魔法関係の本だから。」

 

「あ、お借りします…」

 

香は鈴に本を渡して和紙と筆、墨を用意して書き始めた。

 

 

 

調査ありがとうございます。

 

属性の呼吸…ですか。確かに属性を基礎とした名称ですね。

 

それと、耀哉さんの気にしていた6つの属性ですが…お答えしますね、生、死、夢、魂、昼、夜という属性は一応名前としては存在します。ですが、これらは性質が難しいのです。大体は別の既存属性に組み込まれる属性ですね。

 

まず、生という属性ですが、“生誕”、“希望”、“治癒”といった正の側面を扱う属性です。これは心意に近い属性なのですが基本的に属性としては“聖”という属性で分類されます。

 

次に死という属性はその反対。“死亡”、“絶望”、“負傷”などといった負の側面を扱う属性です。こちらも心意に近い属性なのですが、“影”という属性に分類されることが多いですね。

 

夢という属性はそのままです。“夢”、“幻”、“望み”。言ってしまえば私達の望みを体現したような属性です。これは“想”、並びに“幻”という属性に分類できます。

 

魂という属性は“管理”、“輪廻”、“干渉”。つまり何かを操る属性なのです。世界の理に強く関係がある属性で、これに関しては絶技と同じようなタイプの属性に分類されてしまいます。属性に表すならば“変化不能属性”、これが一番近いでしょうか。

 

昼という属性は“昼”、“男性”…そして“時間”。世界の理に関係がある、“光”と“聖”に分類されやすい属性です。

 

最後に、夜という属性はその反対。“夜”、“女性”…そして“空間”。こちらも世界の理に関係がある属性で、“闇”と“影”に分類されることが多いです。

 

……付け加えますと、“星廻(せいかい)”という属性は“創造”、“希望”、“充実”を操ります。そしてその反属性である“虚廻(きょかい)”という属性は“破壊”、“絶望”、“虚無”を操ります。恐らく恒星の呼吸と空虚の呼吸というのはこの星廻属性と虚廻属性でしょう。

 

それからこちらから一つ報告です。虹の呼吸ですが、技の記憶を読んでみたところ一番最初に使われたのは解析できていない零の型。時期は新暦、西暦で一二八八年頃、つまりは六百年以上前となります。さらにこの記憶からこの虹の呼吸の基礎となった物を感知しました。ですが、詳細までは掴めてないのです。まるで、意図的にその情報を封じたかのように、こちらからの干渉ができません。もしかしたら、虹の呼吸を使って呼吸への理解を深めることで分かるかもしれませんが。実はそういう技がいくつか存在してまして、それを列記しますと…

 

 

零の型

拾壱の型

弐拾壱の型

極の型

 

 

この四つです。指南書に書いてあったのは零の型、極の型、それから壱から伍拾玖までの計六十一型ですが、技そのものを調べたところ、まだいくつかの型が隠されているように感じました。属性の呼吸の指南書たちと共に送ってくださいました製作記録の方にあるかもしれませんが、こちらでも色々調べてみようと思います。

 

 

追伸:夜張に私と鈴が作ったものですがクッキーを持たせました。ご家族や隊員の方達とどうぞ。一応動物でも食べられるような特殊な加工はしてあるので誰でも食べられます。ちなみに夜張には夜張用のを持たせています。中身は同じものです。…あと、あまり夜張に無理させないでくださいね?夜張は女の子なんですから。

 

 

 

そう書いて香は筆を置き、机の隅に置いてあった少し大きめの箱を夜張の持つ籠の中に入れた。

 

「ホウ?」

 

「夜張、この籠に入ったものは耀哉さん達に。貴女にはこっちね。」

 

そう言って香は夜張の首から紐の付いた小さめの袋をかけた。次いで手紙を差し出す。

 

「耀哉さんのところまでお願いできる?」

 

「ホウ!」

 

「ありがと」

 

夜張は手紙を受け取ると、開いていた窓から元気に飛び立っていった。

 

「……それにしても」

 

「どうしました?」

 

香が空を見ながらつぶやくと鈴が疑問気に聞いてきた。

 

「うん?…いや、魂、夢、星廻、虚廻、昼、夜、生、死…この辺の属性、久しぶりに聞いたなぁ、って……」

 

「はぁ……そうなのですか?」

 

「…鈴には全部教えてあるから分かると思うけど…ね。」

 

「魂、夢、星廻、虚廻、昼、夜、生、死……なるほど、そういう……()()()()()()()()()()()()()()()()()()ですね?」

 

香はその言葉に頷いた。

 

()()()()()()()()()()()()。確か名前は……理論属性、でしたか。」

 

「そ。さ、術の作成しようか。」

 

「それでしたら、これではどうですか?」

 

鈴が和紙を差し出してきた。

 

「ええっと……目的の効果は起こるけど時間制限付き……いつもと同じだ。」

 

「…いつも思っていましたけど、香さんのその能力便利ですよね…」

 

「へ?」

 

「その…術を動かさないでどんな術かを知る能力です。」

 

「あぁ……」

 

香はそう呟きつつ和紙を鈴に返してから立ち上がり、棚から3冊の本、机の上から1冊の本を持ってきた。

 

「それね…私の絶技の副産物みたいなものだからね。」

 

「そうなのですか?」

 

「うん。そもそも私の絶技は他人の技の情報を鏡に写して解析して私が使えるようにするものだから。私が使わないようにする、即時破棄の状態にすれば解析効果だけが残るんだよ。…まぁ、解析特化の術を使った方が楽なんだけど。」

 

魔力とか少ない時はそこまで使えないからね~…と呟きながら近くにあった石と羊皮紙を手に取った。石は二つの輪が重なっているような形をしていた。

 

「…それは?」

 

「これ?これは…仁用の魔道具。だまりさんと仁を分離・融合させるための術式が刻み込んであるの。調べたら佐吉さんが使ってたのと違うものになってるみたいだから。これはもう完成してる。」

 

「なるほど…そちらの紙は?」

 

「これは鈴と花さん用、かな?鬼としての力のみをだまりさんやりんねに喰わせるためのもの。ほら、あの時の再現。」

 

「…あぁ…なるほど。色々作っていたのですね。」

 

鈴は錦糸屋事件終息直前、りんねに不老不死の力を喰われたことを思い出しながらつぶやいた。

 

「…まぁ、まだ使えるようなものじゃないけど。もう少し最適化は進めないと。もしかしたら、鈴達にも血鬼術はあるかもだし。」

 

「そうですか…」

 

「…さて…と。」

 

香はそう呟いて石と羊皮紙を机に置いた。

 

『……仁、鈴、聞こえる?』

 

その思念を送った直後、香の目の前で鈴がピクッと反応を示した。

 

『…あぁ、仁。思念会話の方法は自分が今思っていることを相手の方に流すイメージだよ?』

 

『………こうか?あ、お客様いらっしゃいませ…』

 

香の脳内に仁の声が響く。それに香が苦笑した。

 

『うん、少しずつでいいから慣れてね?あと、ちゃんと制御しないと自分が思ってること全部こっちに伝わっちゃうから。』

 

『…あぁ…あ、お買い上げありがとうございました、またのお越しをお待ちしております。』

 

その仁の声が聞こえたのか鈴が苦笑した。

 

『これ、難しいですよね……』

 

『鈴、まだその感覚慣れない?』

 

『もう半年近くやってますけどまだちょっと慣れないですね…というか若女将はよくこれに慣れられますね。』

 

『分割思考とか使うと少しは楽だよ?私の部屋にいる鈴ならわかるけど、分割思考使えば“精神通話”と実際の作業を並行してできるから。まぁ実際、ここからさらに精神空間内模擬戦闘とか肉声発声とか…まぁいろいろできるけど。』

 

『…は……はは…』

 

仁の声が乾いていた。

 

『今、仁は精神通話用の魔道具で補助してるけど、それはあくまで補助。慣れたら外してもらうからね?慣れた後は逆に補助が邪魔になっちゃうから。』

 

『……どういうことだ?』

 

『…いま、仁の思考ってどうなってる?魔道具に魔力を回して、それから思考を流すイメージでしょ?』

 

『…あぁ…』

 

『最適化はいまさっき終わったみたいだけど、気づいてる?私達会話関係に関係しないものは自動的に除外されてるの。』

 

『あ、言われてみれば確かにそうですね。接客中の声が聞こえなくなってます。』

 

『…そうなのか?俺にはよくわからん。』

 

香は和紙を見つめた後、和紙に書いてある記号の一部を消した。

 

『まぁ、自分が何を発したかは後々分かるようになるはずだからいいとして…確かにその魔道具は双方向通信で使えてるんだけど……接続できる双方向回路が2本しかないの。1本は今使ってるメイン回路。もう1本はサブ回路。どっちもクラスタ回路───ええっと、1対多の一斉送信、一斉受信に対応できるタイプだから今私が用意した精神通話サーバーに魔道具を介して仁が接続してこうやって話せてるんだけど。実際処理能力が低いんだよ、その魔道具。いくら1対多用のクラスタ回路を使っているとはいえ、その魔道具だと同時接続は全部で5人が限界。6人が同時接続したら魔道具のシステムがダウンする。それは今の除外システムに大きいリソースを割いてるからなんだけど…理解、出来る?』

 

『無理です』/『…無理だな』

 

『だよね』

 

香は分かっていた、みたいな思念を飛ばした。

 

『まぁ理解できるかどうかは置いておいて、その除外システムはとてつもなく重く、しかも魔道具が処理できるのは1つの思考だけ。複数人に同時に別の思考を送りたいときとかにはその魔道具が足枷になるの。それと私達の魔道具を使わない精神通話とは送信時間、受信時間に時間差もあるからね。』

 

『時間差…ですか?』

 

『うん。一度システムが流したい言葉を検査してから再度流すから…そうだね、時間にして0.5秒から10秒。それくらいは時間差があるよ。』

 

『…そうなのか』

 

『多分、仁の方だと私達の言葉が少し遅れて聞こえてるんじゃないかな』

 

『…あぁ、少し遅れて聞こえる』

 

『私と鈴、これでも時間差無いように話してるんだよ?でも、ほぼ無遅延で送受信できるのは私達みたいに何も介さずに精神通話を使うか…まぁ、とある道具を使うかの二択。その道具に関しては今は渡せないから我慢してね。』

 

『…そうか…』

 

(流石にアレは渡せないんだよね……私の力が弱まっている現状じゃ作れる代物じゃないし。)

 

香はそんなことを思いながら先程と模様を変えた陣を見た。

 

「…違う。鈴、そっちの神術関係の本取ってくれる?」

 

「へ?は、はい…」

 

香は鈴から本を受け取ると本を開いて読み始めた。

 

『…あ、そうだ。仁、風属性の鍛錬はどんな感じ?』

 

『…風か。そこまでうまく行ってないな…』

 

『まぁ、慣れですよ。私も水属性以外に風、火、土、雷、氷の自然六素は使えるので…』

 

『…自然六素って全部使えた方がいいのか?』

 

『そうだね…自然六素は使えた方がいいよ。でも、難しければ火水風土の四大属性でもいいかな。それでも、一番使えた方がいいのは風だね。』

 

『…風?』

 

『そ。風属性が使えると空を自由に飛べるようになるから。』

 

結構ぶっ飛んだことを言い始めた。

 

『…どういうことだ?』/「…若女将、これはどうです?」

 

『そのままの意味。風属性が使えると自分を風で持ち上げることで空を飛ぶことができるようになるの。まぁ完全な飛行は結構難しいから最初は浮くことから始めないと。』=「ん~?……近い、んだけどもうちょっと。恒常変化にしないとだから……待った、これちょっと借りるね」

 

香は鈴から渡された和紙に書かれた陣の記号を見つめていた。

 

『…そんなことが可能だったのか』/「鈴、ここの呪は…?」

 

『魔法に飛行用の魔法はあるんだけど…仁の魔力量だと足りないんだよね。』/「それは……これですね」

 

『…だから属性に?』/「ありがと」

 

『本来は属性の方が難しいんだよ?本来属性は魔法の応用みたいなものだし。でも何故か属性への適性がかなり高いらしいから…一応火と風を教えてみてるだけ。でもって今魔力増強鍛錬もしてるでしょ?』

 

『…あぁ。おかげで体が重い。』

 

『仕方ないよ、もともと少ない魔力に負荷かけてるし。魔力量5,000になったころかな、本格的な魔法鍛錬は。詠唱関係は特に魔力喰らってくから。』

 

『…そうなのか』

 

『そ。私がよく使ってる詠唱…鈴から聞いた限りだとあの日にりんねから少し説明されたみたいだけど、spell actから始まる詠唱はそこまで魔力を消費しなくなってる。まぁそういう風にカスタマイズしたからなんだけど。まぁそのへんの話はまた今度。結構複雑だから。』

 

『…あぁ…覚えることが多くて結構大変だな』

 

『多分仁、結構戦闘関係の才能あるよ?よくわかんないけど。…そういえば、お父様から聞いてるけど刀系統の具現化は安定したの?』

 

刀系統───太刀、両手刀、片手刀、短刀の四種類のことだ。

 

『…あぁ。太刀と短刀が少しだけ不安だが、大体は安定した。だがこれで終わるわけじゃないんだろう?』

 

『当然。剣以外に槍、槌、斧、鎌、飛び道具…覚えることはまだまだあるよ。』

 

『…多すぎないか』

 

その言葉に香が苦笑した。

 

『それね…それは斬想鬼と斬糸……それと仁の可能性が大きすぎるせいなんだよね。どれが一番いいかは置いておいてとりあえず全部教えておかないといけないかなって。教える方も大変なんだよ?』

 

『…すまない。教えてくれるのには感謝する。…なるほど、香が常時複数の武器のイメージを構築したままという意味が何となく分かった。』

 

『まぁ知ってると思うけど、武器に属性付与もできるから()()()()()×()()()()()だから、かなりの量になるんだよね。…まぁとりあえず、仁は“風切(かざきり)武器”を使えるようにならないと。』

 

風切武器。風属性を宿す武器たちの名称である。

 

『…早めに慣れることにする』

 

『ん…じゃあ、精神通話切るね。』

 

『…あぁ』

 

そう言って香は仁と鈴との接続を切った。

 

「…あ、呼吸に関すること言い忘れてた」

 

「…若女将ってたまに抜けてるところありますよね」

 

「う……あ、そうだ、鈴。」

 

香が鈴を呼ぶと鈴が本から顔を上げた。

 

「どうしました?」

 

「…もし、私に何かあったら…その時は、仁の鍛錬…お願いね?」

 

鈴はその言葉を聞いて香をじっと見つめた。

 

「……わかりました。でも、私なんかでいいのですか?」

 

「…いまは、鈴しかいないの。それに、鈴には私のほぼ全てを教え込んでるし。」

 

「…そうですか。分かりました。」

 

「ごめんね。…私も、そう簡単に倒れるつもりはないけど……でも、ね…」

 

香が少し震え始めたのに気がついた鈴は香に近づき、背後から抱き着いた。

 

「…大丈夫です。必ず、私が引き継ぎます。…香が、戻ってくるその日まで。」

 

「……うん。ありがとう。…大好き。」

 

「私もです。」

 

…あの、そういうのは私のいないところでやってくれないかしら。見ていてイラっとするのよ。

 

「「っ!?///」」

 

りんねの言葉で鈴と香は一瞬で離れた。

 

香。

 

「なに?」

 

…私が見ているところで、死ぬなんて許さないわよ。もちろん、鈴もよ。

 

りんねの言葉に鈴と香は頷いた。

 

「私は死なないよ。…でも、私は…」

 

「先日の、あの人の言葉ですね?」

 

「うん。…できるなら、それが起こる前に何か手は打っておかないといけないから。」

 

「…分かっています。香さんは、そういう人です。」

 

「うん…ありがと。」

 

その言葉を最後に香と鈴は和紙に向かって色々と書き込んだり消したりを繰り返していた。

 

 

───時間は流れて日没直前。

 

 

「出来た!!」

 

香の部屋から、その香の声が屋敷中に響いた。

 




ちなみに香はすでに虹の呼吸の動きを覚えています。帰ってきた当日に指南書を読んで解析できたものはすでに使えるようになっています。
それから仁は帰ってきた後に精神通話と風属性の扱い、他の刀系統の鍛錬を開始。柱合会議から3日ほど経過していますが蝶屋敷の方ではまだ機能回復訓練が始まっていません。


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第伍拾陸話 報告と術式の発動、呼び出し

第五十六話です。タグ追加ですね。あとで処理はしておきます。


夜。香達が鬼狩りに出かける前、全員が台所に集合した。

 

あ、だまり。ちょっといいかしら?

 

…む。

 

一番最後に来たのは仁で、りんねがだまりの姿を見つけると二体だけで台所を出ていった。

 

「……何があったんだろ?」

 

「さぁ……とりあえずだまりたちが戻ってくるまで待つとしよう。」

 

全員がそのまま待っていると、少ししてだまりとりんねが戻ってきた。

 

ごめんなさい、今戻ったわ。

 

「いや、気にしないで?…でも、何かあったの?」

 

ええ…先にその話からしましょうか。

 

りんねは香の近くにたどり着いたと共にだまりの方を見た。

 

だまり。

 

おぉ。

 

その声と共にだまりが溶けた。

 

「おい、だま…り!?」

 

「「「「!?」」」」

 

そこで全員が変化に気がついた。溶けているというのに、仁の傷が開く様子がない。

 

……仁、キサマの人間本来の治癒能力が戻り、わっしゃの補助なしでも自由に動けるようになった。大きな怪我をしない限りはもう大丈夫だろう。

 

「そうか……」

 

仁が自身の手を見つめていた。そこでだまりが表情を曇らせる。

 

…問題は、わっしゃと仁が離れる方法だが…

 

「…俺の術とは違う方法で外さないといけない。融合された方法が違うらしいからな…」

 

「…それが問題か……」

 

仁達が悩んでいるとりんねがを不思議そうな顔をした。

 

…香、あの事まだ言ってないのかしら?

 

「……なんかそれ前にも聞いた気がする。…気のせいかな」

 

気のせいじゃないかしら?で、言いなさいよ。

 

いつの間にか香に全員の視線が注がれていた。それに香はため息をついて袖のところから一つの石がついた紐を出した。

 

「これ、仁に。」

 

「石?変な形だが…」

 

「首からかけて」

 

その言葉に仁が首からその石をかけると、香が呟いた。

 

「製作者権限指示。“人鬼分離”術式を起動せよ。」

 

「は…?」

 

仁がそう呟いた直後、石が強く光を放った。

 

「っ…なん…だ!?」

 

光が収まると、そこには仁と仁の影から外れただまりがいた。仁とだまりは、それぞれ首から石の付いた紐をかけている。

 

…ぬお!?

 

「なっ!?」

 

「製作者権限指示。“人鬼融合”術式を起動せよ。」

 

今度は両方の石が光り、その光が収まったと思うと仁と仁の影と繋がっただまりがいた。

 

「これは……」

 

香はそれを見て軽く頷いた。

 

「成功だね。…ならあとは…管理者権限。所有者権限による変更を有効化。並びに製作者権限、管理者権限を完全破棄。」

 

その言葉が響いたと同時に微かに石から音が鳴った。

 

「……なぁ、香。これは何だ?」

 

「それは仁とだまりさんの融合・分離を補助する魔道具。さっきの二種類の魔法が刻まれてるの。流石に私とは色々違うみたいだからこうやって魔法化するしかなかった…」

 

「そうか……すまない。」

 

「ううん…あ、それとこれは全員に報告です。」

 

香がそう言うと全員が香の方を向いた。

 

「まだ実際には試していないのですけど、この世界に来てから…いえ、それ以前から開発していた魔法がようやく形になりました。」

 

その言葉に灯純が反応した。

 

「おい、それは……本当に、出来たのか?」

 

香はその言葉に力強く頷いた。

 

「りんね。」

 

私?

 

「うん。分離、お願いできる?」

 

その言葉でりんねが香から分離した。

 

…で、どうすればいいのよ?

 

「…魔法陣展開。」

 

香がそう呟くと香が持っていた和紙から複雑な記号が書かれた円が浮かび上がった。

 

「拡大。刻印」

 

香がそう呟くと香の目の前に二畳ほどの大きさの円形の陣が刻まれた。

 

「…りんね、この中心に立ってくれる?」

 

…なんだか怖いわね。でもやるわよ。

 

そう言ってりんねがその陣の中心に立った。それを見て全員が陣から離れた。

 

「…うん。効果展開。術式解放……魔力回線接続確認、妖力回線接続確認…呪力回線接続確認、アバターモードチェンジシステム……回路接続を確認。エラーなし、起動環境良好……起動。凝縮回転」

 

香がそこまで呟いた時、陣が浮かび上がり、強い光を放ってりんねを包み込んだ。

 

何が起こってるの!?

 

「…」

 

暫くして光が収まると、そこには陣とりんねの姿はなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()

 

「…一体なんだったっていうのよ……」

 

「「「「「!?」」」」」

 

その少女が発した声は()()()()()()()()()()()。その声を聞いた仁は香を見つめた。

 

「…うん、成功だね。()()()()()は。」

 

「人間化…?どういうことよ?」

 

香はりんねの問いに答えずに手鏡を向けた。

 

「…誰よ、こ…れ?」

 

りんねの声が小さくなっていくと同時に少女が自分の顔を触った。次いで少女が香を見つめた。

 

「……まさか……香。これ……私、なの?」

 

「…うん。そうだよ、りんね。」

 

「……嘘、でしょう?」

 

「ほんと。人間化の術…その名の通り、人ならざるものを人の姿にする術。調整次第では完全に人間と同じ性質になれるよ。」

 

「…………これが、香の作っていたものなのね?」

 

「うん。…って、流石にその姿のままじゃ寒いだろうから着替えてきて?」

 

香の言う通り、そのりんねの服装はかなり薄かった。

 

「え、えぇ……」

 

りんねが立ち上がると香がむっとした表情になった。

 

「りんねの人間体…私より背が高い…」

 

「…え。」

 

「もしも人間としてこの世に生まれたなら、っていう予測を使って発生しているから私より背が高いのは確実だったみたい……年齢は…見たところ14歳くらいかな?」

 

「…そう。とりあえず、着替えてきちゃうわね。」

 

「行ってらっしゃい~」

 

りんねはそう言って台所から消えた。

 

「さて、次はだまりさんですよ。」

 

お、おぉ……手柔らかに頼むぞ

 

香が頷いてりんねの時と同じ手順を行うと、今度は黒髪の少年が現れた。黒髪の少年があたりを見回しているところに香が手鏡を渡した。

 

「……これが、わっしゃか?」

 

「…だまり、なのか?」

 

仁が恐る恐るといったように聞いた。

 

「……わっしゃの名前はだまり。鬼喰いの鬼……仁と共に在ったもの…」

 

「…合ってるな。」

 

仁がそう言ったとき、りんねが戻ってきた。

 

「香の部屋にあった使った様子の無い服使わせてもらったけど良かったかしら?」

 

「うん?いいけど…」

 

そのりんねは黒地に花模様が入った着物を着ていた。

 

「……これ、私にぴったりね。予測でもしていたのかしら?」

 

「あ~…それお母様が作って私の部屋に置いていたやつだ…」

 

「あ……ごめんなさい、すぐに脱ぐわ」

 

「いや、それ使ってていいよ」

 

「え」

 

「だってそれ私には大きいし。というかここで脱がないでね?明らか女の子なんだし。」

 

りんねはその言葉に詰まったような声を出してから少し悩んで口を開いた。

 

「…でも、今度何か選んでちょうだい。流石に香がお母さんから貰ったものをずっと使ってられる気はしないわ。」

 

「そっか…じゃあ、この後選んであげるね。」

 

「お願い。」

 

「…さてと。」

 

香は仁とだまりの方を見た。

 

「じゃあ、名前を決めましょうか。」

 

「「「「「名前?」」」」」

 

仁達が同時に聞いた。

 

「人間としての名前。流石にその姿で生活することが多くなるでしょうからあった方がいいでしょう?」

 

「む……」

 

「…そういえば、もしも香と融合するときなんかはどうするのよ?」

 

「それに関しては大丈夫。心の中で元の姿に戻りたいって念じれば戻れるようになってるから。」

 

「そ、そうなのね…」

 

「逆に人間の姿になりたいときは人間の姿になりたいって念じればなれるからね。そういう術式を組んだし。」

 

「……む、聞きたいことの先手を打たれたか。」

 

「俺は香から聞いてはいたが、本当に完成させるとは…」

 

灯純がそう呟いた。

 

「…仁。わっしゃの名、お主に決めてもらってもよいか?」

 

「香。私の名前、あなたが決めてくれる?」

 

「俺?」/「私?」

 

だまりとりんねは同時に頷いた。

 

「なんだかんだお主とは長い付き合いだからな。」

 

「戦友、っていうか。貴女のくれた名前だったらいいなって。」

 

「「……」」

 

香と仁はそこで悩んだ。

 

「……雫鞠(だまり)…“綺糸 雫鞠”、なんてどうだ?」

 

凛音(りんね)……“錦糸 凛音”、なんてどう?」

 

仁と香は香の持っていた紙に筆で文字を書いて見せた。

 

「…うむ。気に入った。ではわっしゃのこの姿での名はこれから“綺糸 雫鞠”だ!!」

 

「私も気に入ったわ。“錦糸 凛音”…凛とする音、ね…ふふっ」

 

二体、いや、二人は気に入ったようで笑っていた。

 

「…さ、これでやりたかったことは終わり。仁、鬼狩り行こっか。」

 

「あ、あぁ…」

 

「…と、その前に凛音は私についてきて。行く前に服選んじゃうから。」

 

そう言って香が立ち上がった時、台所の窓を強く叩く音が聞こえた。

 

「…?」

 

香が窓の方を見ると一羽の鴉が。

 

「ん?…あ、日継。」

 

日継(ひつぎ)。それは仁の鎹鴉の名前である。

 

「カァァ、カァァ、伝令、伝令!!明後日、蝶屋敷ヘト迎エ!!機能回復訓練開始二ツキ那田蜘蛛山デ戦ッタ一般隊士全員招集!!」

 

「…だそうだ。」

 

「…分かった。」

 

香はため息をついてから凛音と共に一ノ蔵へと向かった。

 

 

 




はい、ということで仁と香がだまりとりんねなしでも行動できるようになりました。さらにだまりとりんねが人間体を取得。今後、人間体の時は雫鞠と凛音。鬼の姿の時はだまりとりんねで名前を使い分けるようになります。

…と、これ鈴(開眼時)、凛音、香のイメージです。香はもう少し小さいのですけど、撮影タイミングのせいで目が閉じていたので身長変える前のを。凛音に関してはイメージを作った当初の名前なので今と名前が違います…

香イメージ

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鈴イメージ

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凛音イメージ

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第伍拾漆話 機能回復訓練と治療

第五十七話、時間は1915/10/24です。原作と違い、善逸さんも炭治郎さん達と同時スタートとなります。理由はりんねのおかげで発見が早く、蜘蛛化がそこまで進んでない状態で簡易治療されたからですね。
本当はもっと書こうとは思っていたんですけど、量が多くなりそうだったのでここで区切りました。


 

その日。仁、香、雫鞠、凛音、花、鈴、咲、奏、妹紅、美月、流華の十一人は蝶屋敷の前にいた。

 

「はぁ……」

 

香が深めのため息をついた。

 

「元気出してください、若女将。」

 

「うん…」

 

香が落ち込んでいる理由。それは香の持つとあるアイテムに関係がある。

 

「…まさか、前回来た時に転移陣を敷き忘れて転移結晶が動かないとか……何してんの私……」

 

「珍しいわね、香がそんな失敗をするなんて。」

 

「そうなんだ…」

 

そう呟いたのは妹紅。

 

「それでも、私はちょっと面白い体験ができたから良かったと思うな。」

 

「確かに、そうだね。」

 

そう美月と流華が慰めた。

 

「そう…?でもあれ、私の魔力と心意喰らってくし、一緒にいる人に恐怖を抱かせやすいからあまり使いたくないんだよね…」

 

「ちょっと怖かったけど楽しかった~」

 

ちなみに香がやったことというのは風を集めて足場とし、その足場に乗った状態で上空を飛ぶ、というものである。足場の原材料が不可視である風なため、透明な足場。つまり高所恐怖症には地獄となるのだ。

 

「…香さんと仁さん、ですか?それから……確か鈴さん、花さん、妹紅さん、流華さん、美月さん、咲さん、奏さん。」

 

「…?あ、アオイさん」

 

香達が話しているとアオイが出迎えに来ていた。

 

「お待ちしておりました。…それと、そこのお二人は…」

 

「あ、だまりさんとりんねです。」

 

「…は?」

 

アオイが硬直した。

 

「…香。いきなり伝えても困惑するだけじゃない?」

 

「う~ん…とりあえず、後で説明しますから案内してくれませんか?」

 

「は、はい…それではこちらへ…」

 

アオイを先頭として美月、流華、妹紅、凛音、雫鞠、咲、奏が入っていったとき、香が突然後ろを振り返った。

 

「……?」

 

「どうした?」

 

香の前を歩いており、周囲の気配察知も扱えるようになった仁が立ち止まった香を怪訝に思い振り返った。

 

「………気のせい?」

 

「…なんか、前にもそんなこと言ってたよな。何かあったのか?」

 

香はその言葉に少し悩んでから口を開いた。

 

「…信じてもらえるか分からないし、仁が理解できるどうかも分からないけど……今一瞬、何かが歪んだ気がしたの。」

 

「何か?…って、なんだ?」

 

「…恐らくは、空間。」

 

「空間……空間を操る鬼、か?だが、今は日が出ているんだ。鬼が出る確率は…かなり低いだろ?」

 

香はその仁の言葉に頷いた。

 

「空間を操る鬼か、もしくは、夜属性の属性付与攻撃。」

 

「…夜……あり得るのは夜天の呼吸、か。だが夜属性っていうのは…」

 

「扱える人は少ないはず。」

 

「…そうか。…分からんな。……ん?」

 

仁が何かを思い出したような表情になった。香が首を傾げると仁は口を開いた。

 

「…太陽の呼吸、壱の型…香、太陽の呼吸の壱の型がどんな技かわかるか?」

 

「壱の型…天刃雨のこと?…あぁ、なるほど。」

 

香は先日読んで覚えた技を思い出して納得した。

 

「なるほど、あれは()()()()()()()()()()ね。そういった点では似てる、か…」

 

「…とりあえず入らないか?」

 

「ん、そうだね。」

 

そう言って蝶屋敷の中に入る香と仁だったが、香は思考を回し続けていた。

 

(……仁には言わなかったけど……一つ、懐かしいような気配を感じた。でも、あいつらがいるわけない。この世界に、あいつらが、存在するわけ…ない。)

 

香はその気配を感じた場所、つまり背後を最後に一瞬だけ見てからそのまま歩き続けた。

 

「…なぁ、香。花達ってどこ行ったんだ?」

 

「…聞いてみよっか。」

 

花達とはぐれた香達はその場で立ち止まり、香が鈴に精神通話を繋げた。

 

『鈴、聞こえる?』

 

『若女将?どこにいるんですか?』

 

『私は仁と入口の近くにいるけど…鈴は今どこに?』

 

『私達は道場の方にいます。ただ、さきほど流華さんがしのぶさんにどこかへ連れていかれました。』

 

『道場、ね。分かった。すぐ合流するね。』

 

『待ってます。』

 

香はその言葉を聞いてから精神通話を切った。

 

「鈴達は道場の方に行ったみたい。以前来た時に大体の構造は覚えておいたから行こうか。」

 

そう言って仁と香は歩き始めた。

 

 

───場面は変わって流華の方へ

 

 

流華はというと、しのぶに連れられてとある部屋の前に来ていた。

 

「…私が、どうかしましたか」

 

「あなた自身には何も問題はないのですけど、少し気になったことが。」

 

「…」

 

しのぶが部屋の扉を叩くと、中から微かに音が聞こえた。

 

「入るよ、姉さん。」

 

そう言ってしのぶは部屋の扉を開けて中に入った。しのぶが手招きするため、流華も少し警戒しながら中に入る。

 

「具合は、どう?」

 

しのぶが声をかけた方には壁に寄り掛かる女性の姿があった。女性は何も言わずに手元にあった紙と筆を手にとって何か書き始めた。

 

「……あの?」

 

流華が声を発そうとしていた時に女性が書いていた紙を流華たちの方へ向けた。

 

“今日は少しいい方かな。暖かい日だったら外に出たいけど。”

 

「姉さん、今はもうその時期じゃないって知ってるでしょ?」

 

その言葉に女性は頷いた。そして、視線を流華に向け、少し悩んでから紙に文字を書き、こちらに向けた。

 

“その子は?…どこかで会ったことのある気もするけど。”

 

「紹介するね。最近鬼殺隊に入った子の知り合いで……」

 

「…廻花 流華、です。」

 

女性は少し笑ってから文字を書いてこちらに向けた。

 

“元鬼殺隊花柱の胡蝶 カナエです。ごめんね、こんな時間がかかる方法で。”

 

「い、いえ…」

 

「……四年前、ですか。姉さんはとある鬼に襲われまして。その時に声を失ったのです。」

 

「声を…ですか?」

 

「はい。より具体的には肺の一部と声帯に異常を起こされ、声を発するどころか呼吸することも困難になってしまったのです。以来、姉さんはこの部屋でほぼ動かない生活を送っています。」

 

「…そう、なのですか…」

 

「……変なことをお聞きしますが、姉さんと私、どちらかにどこかでお会いしたことはありませんか?」

 

「え…」

 

唐突な質問に流華が硬直した。

 

「流華さん、貴女は鬼狩り様と呼ばれる存在です。…実は四年前のあの日、私もその場に駆けつけたのですが、鬼から姉さんを守るのが精いっぱいで何もできなかったのです。その中を、とある女性の方が…いえ、厳密には女の子が助けてくれたのです。」

 

「……容姿は…」

 

「水色の着物を着た方でした。丁度、今の流華さんと同じような。」

 

「……桜色の、太刀でしたか?」

 

「え…」

 

「桜色の太刀で、相手となった鬼は氷を操り。日が昇り鬼が去った後に一人の女の子を守ろうとしている女の子の足を氷漬けにしていた氷を破壊した記憶はありますが。」

 

「「…っ!」」

 

流華の言葉にしのぶ、カナエ両方から息をのむ音が聞こえた。

 

「…ということは、やはり。貴女は、あの時助けてくれた女の子なのですね。」

 

「確信はありませんが…恐らくは。」

 

流華がそう言ったとき、何かをコンコンと叩く音が聞こえた。流華がそちらに目を向けるとカナエが紙を向けていた。

 

“ありがとう。私達を助けてくれて。貴女が来ていなければ、多分、私はもうここにはいなかった。もしかしたら、しのぶも。”

 

「…私からもお礼を言わせてください。あの日、姉さんを助けてくれて、ありがとうございます。そのおかげで今がありますから。」

 

「いえ……私は特に何もしてませんよ……今、私がここにいても何ができるというわけではありませんし…………そういえば、氷でしたっけ。」

 

流華が思い出したように呟いた。

 

「…氷。もし、四年たった今でも凍てついていて声が出せない、正常な呼吸ができないだけなのなら……」

 

「流華さん?」

 

「……あの。もしかしたら……もしかしたら、ですけど。」

 

カナエが首を傾げた。

 

「……カナエさんの声が、戻る方法があるかもしれません。」

 

流華のその言葉にしのぶとカナエが驚きの表情を見せた。

 

 

 

───場面は戻って道場に

 

 

 

「それでは、ご説明させていただきます。まずあちら、寝たきりで硬くなった体をあの子たちがほぐします。」

 

アオイが三人の少女がいる布団の方を示してそう言った。

 

「それから反射訓練。湯飲みの中には薬湯が入っています。お互いに薬湯をかけ合うのですが、湯呑を持ち上げる前に相手から湯飲みを抑えられた場合は湯呑を動かせません。」

 

一人の少女がいる机の方を示してそう言った。

 

「最後は全身訓練です。端的に言えば鬼ごっこですね。私アオイとあちらのカナヲがお相手です。」

 

最後は自分を示して言った。

 

「……すみません、ひとついいですか?」

 

「?何かわからないことでも?」

 

「…いえ…」

 

香は少し悩みながら口を開いた。

 

「……炭治郎さん、伊之助さん、善逸さんはともかく……これ、私達参加する必要あります?」

 

そう。この反射訓練の対象者には香、仁、咲、奏、そして鈴と花まで含まれているのである。ちなみに、咲と奏に関しては柊と暁の方から“蝶屋敷で行われる訓練に参加させてほしい”とのことを伝える文面を日継で送ったからなのだが。

 

「さぁ…私も分かりませんが…あ、錦糸綺糸屋の方々は対象となった全員が終えない限り蝶屋敷から帰さないとのことです。」

 

「「「「「「……え!?」」」」」」

 

「我慢してくださいね。」

 

「…どうしてこうなった」

 

香がそう呟き、仁がため息をついた。

 

「それでは柔軟から…」

 

面倒なのでもう結果から言ってしまおう。

 

 

 

まず柔軟。

 

香=楽々完全突破

 

仁=少し痛がりつつも完全突破

 

咲=痛がり続け完全には突破できず

 

奏=痛がり続け完全には突破できず

 

花=痛がりつつ完全突破

 

鈴=楽に完全突破

 

……ちなみに香に関してはこの柔軟に関しても化け物扱いされたという。(理由:柔らかくしようと思ったら既に相当柔らかく、痛みすらまったく感じずに背面反り最大、前面倒し最大、180度開脚などなど出来てしまっていたため。香曰く“これに関しては完全に能力とかじゃなくて生まれた時からの柔らかさなんだよね……”とのこと。)

 

 

次に反射訓練(アオイ版)。

 

香=楽々突破

 

仁=ぎりぎり突破

 

咲=突破できず(後に柊から追加訓練を言い渡された模様)

 

奏=突破できず(後に暁から追加訓練を言い渡された模様)

 

花=突破

 

鈴=突破

 

 

さらに反射訓練(カナヲ版)。

 

香=楽々突破

 

仁=突破できず

 

咲=突破できず

 

奏=突破できず

 

花=ぎりぎり突破

 

鈴=突破できず

 

 

最後に全身運動(アオイ版)。

 

香=楽々突破

 

仁=ぎりぎり突破

 

咲=突破できず

 

奏=突破できず

 

花=突破できず

 

鈴=突破できず

 

 

さらに全身運動(カナヲ版)

 

香=惜しいところまで行ったが体力切れで突破できず

 

仁=突破できず

 

咲=突破できず

 

奏=突破できず

 

花=突破できず

 

鈴=突破できず

 

 

 

以上となっている。

 

「……あの、香さんって化け物ですか?」

 

「失礼ですね、と言いたいところですけど化け物クラスなのは認めますよ…でもこれでも人間なんですよ?」

 

「………」

 

「これでも本調子じゃないのですけどね…」

 

「本調子じゃ……なかったのかよ……」

 

仁が息を切らせながら言った。その言葉に香は首を傾げた。

 

「一応今も神霊妖魔術、属性その他諸々使えば本調子レベルにすることはできるけど……属性とか使うのは結構ズルいし。」

 

「……ということは、あれは香の素の身体能力ってことか?」

 

「心意で速度強化はそこまで負荷がかからない程度にしてたから完全に素の身体能力ってわけじゃないね。」

 

「…ちなみに、本調子とはいったいどのような?」

 

「んと……流石に今は本調子ではないのでなんともいえませんが……カナヲさんを軽く捕まえられますね」

 

その言葉にアオイ、炭治郎、善逸、伊之助が硬直していた。ちなみに、炭治郎たちは原作同様の結果だった模様。

 

「…すみません、錦糸 香さんいますか?」

 

沈黙を破ったのは女性の声。香がそちらを向くと柱の影から覗いているしのぶの姿があった。

 

「…どうしました?」

 

「すみません、香さんと……それと、藤原妹紅さん。私についてきてくれませんか?」

 

「「??」」

 

香はアオイに視線を向けると、早く行ってください、というような行動をされた。

 

「…何か、用ですか?」

 

「用件はあとで話します。」

 

「…」=『凛音、私がいない間鈴たちのことをよろしくね?』

 

『了解したわ。』

 

香は少し警戒しながら凛音に精神通話で指示をして、しのぶについていった。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

無言で歩き続け、暫くすると扉のあいた部屋が見えてきた。その中には流華の姿が見える。

 

「…中へ。」

 

「…失礼します」

 

「し、失礼します…」

 

香は警戒を強めたまま、妹紅は少し緊張した様子で部屋の中に入った。

 

「……この方は?」

 

「“胡蝶 カナエ”さん…というらしいです。」

 

部屋の中には女性がおり、香の問いに対して流華が答えた。

 

「…私達を呼んだ理由は、なんですか。」

 

香がカナエにそう聞くと紙に文字を書いて香に向けた。

 

“もしかしたら、貴女達なら私を治せるかもしれないって流華ちゃんが言うから。しのぶにお願いして、連れてきてもらいました。”

 

香が流華の方を見ると、怯えたように身体を小さくした。

 

「…怒ってないですよ?…それにしても…治す、ですか。」

 

香はカナエに近づき、カナエの胸のあたりで耳を澄ませた。

 

「……呼吸がおかしい。恐らく呼吸困難状態。それから…声も出てないことからその辺にも異常あり……すみません、女性にこんなこと頼むのもあれですけど…」

 

その言葉にカナエは首を傾げた。香はカナエをまっすぐに見つめた。

 

「…一度、カナエさんの身体を全部調べさせてください。頭から足の先、指の先、内臓の奥深くまで総て。」

 

その言葉にカナエは瞬きしただけだった。

 

「そんなことが、可能なのですか?」

 

しのぶは信じられない、とでもいうかのような表情で香に聞いた。

 

「出来ます。それに、今のカナエさんを何が蝕んでいるのか知らなければ、こちらも対処はできませんから。」

 

香がそう言うと、しのぶはため息をついて香の背後を見た。その時、香は後ろから軽くつつかれ、振り向いた。

 

“お願いします”

 

少し震えた字で書かれたその紙を、香の方に向けていた。

 

「…分かりました。では、力を抜いてください。」

 

その言葉でカナエの身体から力が抜けた。

 

「…始めます。…解析開始」

 

そう言った途端、香がカナエに触れている二つの場所……胸の中心ぐらいの場所(ツボとして“膻中(だんちゅう)”と呼ばれる場所、具体的には“左右の乳頭を結んだ中心点上で、第4肋骨と第5肋骨の間”)と下腹部当たりの場所(丹田(たんでん)と呼ばれる場所)から白色の光が走った。

 

「……香さん?」

 

「話しかけないでくれませんか、集中が途切れる」

 

「…」

 

その言葉の強さにしのぶは何も言えなくなった。

 

「………解析終了」

 

暫くして香がそう呟くと、香が二つの場所から手を離した。

 

「…なるほど。肺と声帯が特殊な氷で封じられてるのね。それから筋肉の方にかなりの負荷がかかってた。主にかかってた部位は腕、手、脚……これは…」

 

「恐らく全集中の呼吸の…常中のせいかと。」

 

「…常中、か。」

 

「…それで、治せそうですか?」

 

しのぶの言葉に香は悩んだ。

 

「……氷の方は一応方法があります。筋肉の方は…方法がなくはないのですけど、少し気になる点が…」

 

「なんです?」

 

香はその質問に一瞬目を泳がせてから告げた。

 

「……しのぶさん、しのぶさんのことも調べさせてくれませんか。」

 

「……一体、どうしてです?」

 

「…少し、気になることが。」

 

「……いいでしょう。」

 

香は許可を受けてしのぶを解析した。解析が終わった後、香は信じられない、というような目でしのぶを見つめていた。

 

「…しのぶさん」

 

「なんでしょう」

 

「……いえ。何でもありません」

 

「…そうですか。それで、何かわかりましたか?」

 

その言葉に香は頷いた。

 

「私も理由は分かっていませんが……カナエさんの方に、僅かながら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「属性…ですか。では、姉さんは、貴女のような技を使えるようになると?」

 

「恐らくは、ですが。ただ、それがあまりにも細い。回線の太さは即ち操ることのできる属性量になります。鍛えれば属性量を増やすこともできますが……」

 

そこで香はカナエを見た。

 

「…カナエさん。もしも、もう一度立ち上がり戦うことができるならば。その選択権が貴女に委ねられていたら。貴女は、戦うことを望みますか?」

 

その言葉にカナエは頷いた。

 

「…たとえそれが、貴女が今まで使っていた力でなくとも?」

 

その言葉に少し迷った後に頷いた。

 

「……しのぶさん。鬼殺隊でのカナエさんという方は、どういう人だったのです?」

 

「私が柱になる前の柱でした。花柱……花の呼吸を使う柱。それが姉さんです。」

 

「…そうですか。…カナエさん、貴女のその状態が治り、また以前のように暮らせると言ったら、どうしますか?」

 

カナエは暫くの間文字を書き、書き終えたところで香に見せた。

 

“お願いします。この話し方は、しのぶたちにも迷惑をかけちゃうから。もし、私の声が戻るのなら喜んで。例え私が戦えなくたっていい。だって私はもう既に引退した身。今更戻ったからっていって私が万全の状態で戦えるかは分からない。私が戦えなくてもいい……ただ、私は鬼殺隊のみんなの心の癒しになりたい。この状態じゃ、歩くことも難しいから。”

 

「…そうですか。しのぶさんも、いいですか?」

 

「…えぇ。それが姉さんの望みなら。」

 

しのぶがそう言うと、机をたたく音がした。

 

“ありがとう、しのぶ。それじゃあ、お願いします。香さん。”

 

「…香でいいですよ。私よりカナエさんの方が年上でしょう。」

 

それを聞いてカナエが首を傾げた。それから紙に文字を書いて香に見せた。

 

“失礼かもしれないけど、香さんって今いくつなの?”

 

「もうすぐ十四。」

 

そう答えるとカナエが驚いた表情をした。そして紙に文字を書き香に見せた。

 

“そっか。それでも、お願いします。香さん。”

 

「香でいいですって。それと敬語もいりません。私は本当は……」

 

そこまで呟いて、ハッとしたようになってから首を振った。

 

「…何でもありません。それでは治療しますね。力を抜いてください。」

 

その言葉にカナエは頷き、香はカナエの体の上に乗り、両手をカナエの鎖骨のあたりに置いた。

 

「……属性:炎……展開、“異能を溶解する炎”……出力、出力先にて巡回開始……巡回維持、異常地点捜索開始……」

 

香が呟いていると、香の両手が炎に包まれた。

 

「!?姉さん!?香さん、何…を……」

 

しのぶの声がしぼんでいった。それは、炎で燃えているはずなのに、カナエの服や髪、肌が()()()()()()()()からだ。

 

「─────」

 

カナエが音がでない声を発した。ただの口の形。ただそれだけで、香は何を言いたいのか理解した。

 

「…特定。溶解開始」

 

カナエは気持ちよさそうに目を閉じていた。

 

「…綺麗、ですね」

 

「妹紅、あんなことできる?」

 

「無理…どんな術組めばいいのあれ……」

 

流華と妹紅が話していることが気になったしのぶは聞いてみることにした。

 

「あれは何かの術なのですか?」

 

「…恐らくは、鬼の力……血鬼術、でしたっけ。それを炎で溶かしているんだと思います。その、()()()()()()()()()()()で。」

 

「そんなことが……」

 

「もちろん、制御は難しいはずです。それを、簡単に操る香さんは、本当に…規格外なのでしょう。」

 

流華がそう言ったとき、香の手の炎が消えた。

 

「…これで大丈夫ですよ。もう声は発せるはずです。」

 

「…ほ…とう?」

 

その、香のいる方向から発せられた声。それは紛れもなく、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あ…」

 

「姉さん…?」

 

「し…ぶ?」

 

「……姉さんっ!!」

 

しのぶは人が見ているのも気にせずにカナエに抱き着いた。ちなみにカナエの上に乗っていた香はそれに気がついて瞬時に避けていた。

 

「姉さん……よかった…!!」

 

「ご…ん…ぇ。し…ぶ…」

 

「姉さん……声……」

 

「…恐らく、四年という長い時間、凍結されたままであった弊害でしょうね。声帯と肺が正常に動き出していないのです。時間が経てば戻るでしょうけど…」

 

香は少し悩んでから言った。

 

「……そうですね。最低でも5日。その期間は安静にしてください。下手に大声を出したり運動したりすると予測しない事態になることがあります。」

 

香のこの言葉を聞いて、しのぶは改めて香がかなりの規格外だと認識した。

 

「…それでは、私はこれで失礼しますね。道場の方に戻っています。」

 

香がそう言って妹紅と流華を連れて部屋の外に出ようとしたときである。

 

「ま…て…こ…ちゃ…」

 

微かなカナエの声。その声に香が立ち止まった。

 

「あ…がと……こ……おん……かな……」

 

「無理しない方がいいですよ。何か言いたいのでしたらまた今度聞きますから。カナエさん、貴女は今は体を休めることを第一に考えてください。…幸い、私達はしばらくここにいることになるでしょうから。」

 

そう言って香は部屋の外に出た。

 

(…それにしても)

 

香はしのぶの身体を解析していた時に気がついたものに考えを回していた。

 

(成分は藤…毒。それがしのぶさんの身体を回ってる。…一応、手はあるけど。でも多分、これをカナエさんには知られたくないんだろうな…)

 

そう思いながらもう一つ、思考を回す。

 

(…あの毒。血の匂い……それも“憎悪の気配”がした。恐らく、あれを用意している理由は……)

 

香は一つの可能性を導きながら歩いていた。

 




はい、ということでカナエさん復活です。ただまぁ、4年も声出せてなかったなら声がうまく出せないのも仕方ないと思います。ちなみに肺の氷も溶かしたので全集中の呼吸も使えます。
で、機能回復訓練……香に関してはほとんどやる意味がないです。ちなみに常中は使ってないです。心意だけであそこまで行ってます。そして香、あれで自分の能力にリミッターかけてる状態なんですよね……仁も魔強化始まってますけどまだ香には追いつけません。
あ、それと。もしかしたら香がどんな立場の存在なのか気になっている人もいるかと思いますから言っておきますと……はっきり言いますと、香は“転生者”ではありません。これだけははっきり言っておきます。ソードアート・オンラインとか、属性とか、魔法とか色々変なものを知っていますが断じて“転生者”ではありません。ここのタグに転生関係がないのはそれが理由です。


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第伍拾捌話 謎の夢・壱

ちょっとの間過去話パートになります。


暗い、暗い森の中。

 

一人の少女がフラフラと俯いたまま歩いていた。

 

白く、長い髪。その髪の毛の先端だけが虹色という謎の姿をした少女。

 

その少女の行く先に、一つの人影が現れた。

 

「……君は……そこで、なにをしている?」

 

「……」

 

少女はその声に顔を上げた。少女が見たのは額に炎のような痣、花札のような耳飾り、そして黒い刀を持った若い人間だった。

 

「……別に…何も」

 

「…そうですか。ここには鬼が出るという噂です。早急に立ち去るように。」

 

人間はそう言い、周囲を見渡した。

 

「…鬼?」

 

「えぇ。人を喰らう鬼です。ここに出る鬼は、白い髪の鬼だとか。謎の剣技を使う、とてつもなく強い鬼。何故か遭遇した者達は痛手を負うだけで喰われてはいないようですが。」

 

「……そう」

 

少女は人間を見つめた。

 

「あなたは……鬼狩り?」

 

「…?えぇ、まぁ…」

 

「…そう……」

 

少女は言葉をあまり発さずにそこに佇んでいた。

 

「……早く」

 

「もしも」

 

人間が何か言おうとしていた時にかぶせて少女が言葉を紡いだ。

 

「もしも…その鬼が私だと言ったら?」

 

「は…?」

 

人間が惚けたような声をあげた時、少女の手元に紫色の靄のようなものが集まった。

 

「…」

 

それを見て人間は警戒心をあらわにした。

 

「…あなたが探しに来た鬼は私。」

 

「なるほど……人間のふりをするとは知能が回るようで。」

 

「それはどうも…」

 

少女が言ったとたん、人間は赤くなった刀を抜刀し、少女に襲いかかった。

 

「ゴォォォォォ」

 

「……」

 

独特の呼吸音。その後、少女の首が斬られていた。

 

「“日の呼吸 肆ノ型 灼骨炎陽”……彼女の魂がこれで救われればいいが……」

 

「…私が救われる?」

 

「!?」

 

首を斬ったはずの少女の声が少女のいた位置とは別の方向からした。人間がそちらを向くと、首を落とされてもいない少女の姿があった。

 

「…いったい…」

 

人間が少女がいたはずの方を見るとそこに少女の首も少女の身体も存在しなかった。

 

「……“三稜鏡幻惑之玖(さんりょうきょうげんわくのきゅう)幻影(げんえい)”」

 

「……まるで、日の呼吸の幻日虹のようだ」

 

人間はそう呟いた。

 

「…私に戦う意思はない」

 

「……それを証明することはできるか?」

 

少女は沈黙を保った後、刀を消して人間の方へと歩いてきた。

 

「…っ」

 

「…ついてくる?」

 

少女は近づいてそれだけ言うと森の奥へと歩を進めた。人間は不審に思いながらも抜刀したまま少女についていった。

 

「……」

 

「……」

 

無言で歩き続けてしばらくすると、一番大きな木の場所、その木の穴の前にたどり着いた。

 

「……ここは私の住処。私が今いる活動拠点。」

 

「…何故、教えた?」

 

「私はもう人を喰らうつもりはない。人を喰らっていたのはもうかなり昔の話。時間は忘れた。今はいつ?」

 

「……今は、宝徳2年(1450年・縁壱20歳)だ。」

 

「…正応から、何年経った。」

 

「正応?…詳しくはないが…200、くらいだろうか。」

 

「…もう、そんなに経つのか…」

 

少女は天を見上げてそう呟いた。

 

「…あなたは、鬼狩り?」

 

人間はその言葉に頷いた。

 

「…名前は?」

 

「……」

 

「私は…鬼縫(きほう) 虹架(にじか)。鬼を縫い、虹を架ける。」

 

「…継国(つぐくに) 縁壱(よりいち)。継ぐ国の、縁の壱。」

 

「そう…縁壱さんというのね。」

 

少女───虹架は虚空から水を発生させ、炎を発生させ、お湯を沸かしたのちに少しいびつな形のお椀に茶葉と共に入れ、縁壱の方へ差し出した。

 

「粗茶だけど。」

 

「……」

 

縁壱は椀を受け取ったが、そのままでいた。

 

「毒なんて入ってないよ。…私は奴とは違う。」

 

そう言いながら虹架は同じ工程をもう一度繰り返して茶を入れ、その中身を啜った。

 

「…鬼狩り達を痛めつけたのはお前か?」

 

唐突に問う縁壱。虹架は表情を変えずに虚空を見た。

 

「鬼狩りを…あぁ。この森に入ってきたあの人たち?…そうだよ。あの人たちを痛めつけたのは私。」

 

「…なぜそのようなことを?」

 

「…この森は私の力で導き手がいなければどんな生物でも迷うようになっている。迷いに迷って、私と出会えなければそのまま餓死してしまうような迷いの森。」

 

そういうと虹架は近くにあった木の幹に腰を下ろした。

 

「あなたも───縁壱さんもそう。あの時私に出会わなければ、一生この森を彷徨っていたかもしれない。」

 

「…それが、君の血鬼術だと?」

 

その問いに虹架は少し悩んでから首を横に振った。

 

「違う。私の血鬼術は“属性”。この世に存在する属性を操れる。」

 

「…」

 

「…ついてきて」

 

虹架はそう言って立ち上がり、どこかへと向かい始めた。縁壱は慎重にそれを追った。

 

「……言い忘れてたけど、私は奴の支配からは外れてる。奴は私の動向を知らないし、私はそもそも奴が嫌い。…そんなこと言っても、信用されないのは分かってるけど。」

 

「支配…?」

 

「奴の名前を呼べばその鬼は殺される。“呪い”、なんて言ってる人もいた気がするけど。私が奴の名前を呼ばないのはただ単に奴のことが大っ嫌いだから。」

 

「……」

 

そのまま歩いていると、黒い石のある場所へとたどり着いた。

 

「ここは?」

 

「私が殺してしまった人たちの墓場代わり。これでも、今の状態になるまで3年はかかった。それまでは私も他の鬼と同じだったから。」

 

虹架はそう言って黒い石の前に腰を下ろし、目を閉じ手を合わせた。

 

「……私は、さ。」

 

「?」

 

「私は喰らった人間の名前や人生が分かるの。私が喰らうとき、その人間の記憶や情報が流れ込んでくる。だから、ここにあるのは全部その人達の名前で間違いない。流石にこの森に全員分の墓石を用意するのはつらいから一つにまとめた。…死体は、無いけど。」

 

虹架は顔を上げ、黒い石の最後の方に書かれている名前の一つをなぞった。その名前を縁壱が読む。

 

「…“心音(こころね) 抄造(しょうぞう)”?」

 

「…これは……私の後悔。私が食べてしまった人で、私が完全に正気を取り戻す鍵になった人。」

 

「……泣いて…いるのか?」

 

縁壱の言う通り、虹架は涙を流していた。

 

「…どんなに泣いても、どんなに後悔しても……私がこの人達を殺してしまったという事実は覆らない。…いくら私でも、この人達を生き返らせることは叶わない……」

 

そう言って虹架は黒い石から手を離し、手を強く握った。

 

「…だから私は奴が憎い。私を鬼にした……ううん、私達を鬼にした、鬼舞辻無惨が。」

 

そう言って虹架は立ち上がり、縁壱の方を見た。

 

「…それで、どうするの?」

 

「?」

 

「私を倒すの?それとも私を見逃すの?」

 

「……見逃そう。」

 

その言葉に虹架が驚きの表情をした。

 

「…いいの?貴方に言ったことが全て本当かは分からないのに。」

 

「その時は私が君を殺す。」

 

「…そう。」

 

「…またここに来てもいいだろうか?」

 

「どうぞ。…なら、最後に一つお願いしてもいい?」

 

「なんだ?」

 

「…その前に場所を変えようか。こっち。迷いの森になってるこの森は私が一緒にいないと確実に迷うから。」

 

虹架はそう言ってすたすたと歩いていった。縁壱は慌ててそれを追った。

 

「……そういえば、この森は何なのかとか聞かないの?」

 

「あぁ…」

 

「そう…」

 

しばらく歩き続けると、少し開けた場所に出た。

 

「ここは私がいつも技の鍛錬に使っている場所。…縁壱さん。あなたの剣技……日の呼吸、でしたっけ。それを見せてはいただけませんか?」

 

「日の呼吸を…?」

 

虹架は頷いた。それを見て縁壱が考えてから呟いた。

 

「ならば、君の技も見せてはくれないか?」

 

「…私の剣技は属性が使えなければ見せても使えるものではない…それは鬼になる前から知ってる。それでもいいの?」

 

縁壱はそれに頷いた。

 

「…そう。なら、私から。」

 

虹架はその場の地面に刺さっていた刀を抜いて構えた。

 

「スーーーーー…」

 

初動、息を吐きながら刀に炎を纏いながら空間を抉る。

 

「スーーーーー…」

 

次に、息を吐きながら光を纏った刀で揺らしを加えた振り方。

 

「スーーーーー…」

 

刀を一度納め、青い光を発してからの高速居合。

 

「スーーーーー…」

 

跳びあがり、風を纏って空中から撃ち落とすような斬撃。

 

「スーーーーー…」

 

「……呼吸として息を吸っていない?」

 

縁壱は五つ目の技を行っているときに気がついた。虹架は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ちなみに五つ目の技は水を纏って防御の構え。

 

「スーーーーー…」

 

跳びあがり、高所から刀を地面に打ち付け、地面を破壊。その破片が周囲に飛び散った。

 

「シューーーーー…」

 

呼気音が変わり、闇を纏って一突き。

 

「スーーーーー…」

 

呼気音がした瞬間、虹架の姿のある場所が少しずれた。

 

「シューーーーー…」

 

再度呼気音がすると、多量の乱撃。乱撃と共に蒼い彼岸花が撒き散らされる。

 

「スーーーーー…」

 

次の攻撃に入ると同時に彼岸花は消え、虹架が変則的に動いた。

 

「シューーーーー…」

 

十、一番最初の炎よりも強い炎を纏い乱れ舞い…

 

といったように長い間息を吐き続け、()()()()()()()()()になったところで虹架は止まった。

 

「…今できているのはこれだけ。」

 

「これは…一体?呼吸、なのか?」

 

「…私はこれに名前という名前は付けてない。」

 

「…一つ、聞かせてほしい。」

 

「?」

 

「四十一番目のあの上方向への技…あれの名は?」

 

「…“日虹(にっこう)(せい)”…日の虹の正しい型。」

 

「虹…」

 

縁壱はそこで考え込んだ。

 

「……虹の呼吸」

 

「え?」

 

「どうだ?この名は。」

 

「…私の技は呼しか用いない。呼気に合わせて技に属性を乗せる。それを呼吸と呼べるの?」

 

「ならば、君が作ればいいのではないか?呼しか用いない呼吸…即ち“呼の呼吸”を。」

 

「…そう。」

 

虹架は考え込みながらその場所を離れた。

 

「…縁壱さんの番。」

 

「…そうか」

 

縁壱は開けた場所の中心に立って刀を構えた。

 

「…縁壱さんの刀…」

 

「?」

 

「構えると赤くなるのね。」

 

「…それを言うなら、あなたの刀も炎などを纏うではないですか…」

 

その言葉に虹架は首を横に振った。

 

「あれは私の血鬼術……ううん、数少ない人間が持つ“属性”。属性を手を通して刀に流すことであれは起こる。」

 

「…そうですか。」

 

そういうと縁壱は前を向いて呼吸し始めた。

 

「ゴォォォォォ」

 

独特な呼吸音と共に技が放たれる。

 

「……うん。やっぱり…さっき、たった一つを見た時から思ってた。」

 

縁壱が技を出しているのを見ながら虹架が小さく呟いた。

 

「…きれい。まるで、踊りみたい。…太陽の神にささげる神楽舞、かな」

 

そうして時間が経ち、縁壱が十二個の技を出し終えて刀を納めると、虹架が小さく拍手した。

 

「ありがとう。すごく綺麗だった。」

 

「…そうですか。」

 

「…ついてきて。」

 

そう言って虹架は元来た道を戻り始めた。縁壱はそれを追う。

 

「…これ、外に着く前に渡しておく。」

 

虹架が渡したのは丸い石。

 

「これは?」

 

「この森に落ちてるただの石。だけど、この森とこの森に元々あったものは私の支配下にある。この森の迷いの効果と一度外に出されたものは()()()()()()()()()()()()()()()()。あなたがここに入ればすぐにわかる仕組み。」

 

「…そうか。」

 

「その石があるからって迷いの効果…迷いの結界を無効化できるわけじゃない。だから来たときはその場から動かないでくれると嬉しい。」

 

「分かった。」

 

そう話しているうちに、森の外が見えてきた。森の境界から、日の光が差し込む。

 

「…あぁ、昼なのね。」

 

「…ここまででいい。」

 

その言葉に虹架は首を横に振った。

 

「だめ。迷いの結界はこの森全体に影響してる。」

 

「だが、君は…」

 

「私なら大丈夫。()()()()()()()()()()。」

 

その言葉に縁壱は立ち止まった。

 

「…日の光が効かない?」

 

「そう。属性の応用でね。私の周囲に闇の結界を張っておくと日の光を遮ってくれるの。」

 

「…便利ですね。君の血鬼術は…」

 

「それ。」

 

虹架は不意に振り向き、縁壱に指を突き付けた。

 

「?」

 

「君、っていうのをやめてほしい。私のことは虹架でいい。」

 

「…ならば、私も縁壱でいい。」

 

「そう。」

 

そう言った後、虹架と縁壱は入口まで歩き、森の外まで出た。

 

「…本当に、日の光は効かないのだな。」

 

「……じゃあ。またいつか。」

 

そう言って虹架は再度森の中に入り、ため息をついて森の奥へと消えた。

 

「人を喰わない鬼……虹架……一度お館様に話してみるか…?」

 

縁壱はそう呟いてから森を離れた。

 

「……はぁ……」

 

虹架はというと、気絶した人間を背負って森の外へと向かっていた。

 

「鬼だとわかったと同時に襲いかかってくるとか……ほんっとやめてよ……気絶した人間って運ぶの大変なんだから……」

 

その呟きは誰にも聞かれることはなかった。

 




今回は縁壱さんと虹架の出会いを描きました。
ちなみに“属性”と鬼縫 虹架の血鬼術“属性”の違いですが、実際そこまで違う点はありません。虹架はもともと人間だったころにも属性を扱えていました。ですが、全ての属性を完全に扱えていたわけではないのです。虹架の血鬼術は“元々使えなかった属性を扱えるようにする”こと。つまりただの能力拡張なのです。
それでは、また次回お会いしましょう


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第伍拾玖話 謎の夢・弐

そういえば“夢”系統の話で未来の話ってしたことって一回しかありませんよね…予知夢見せることとかできるのに。
とはいえ五十九話です。今回も長めといえば長めですかね…5000字程度ですが。“謎の夢”はまだ続きます。多分あと2回は続くんじゃないでしょうか?
あ、後書きの方は原作のネタバレ注意です


いつの日かの夜。虹架は森の外に出て街中を歩いていた。

 

「……」

 

辺りを見渡して警戒しながら進む。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「悲鳴」

 

虹架はその場で強く跳躍し、悲鳴の聞こえた方へと滑空した。

 

「…鬼が三体。人間は一人、争い中…」

 

悲鳴の発生源についた虹架は状況を分析した。

 

「スーーーーー…」

 

縁壱に見せた技の時の呼気音を発する。そのまま建物の陰から出て襲われている人間に近づいた。

 

「だ、誰か!!お助ぇ!!」

 

「げっへっへ…誰も助けになんざこねぇに決まってんだろうがよ!」

 

「お前はここで俺に喰われるんだからな!!」

 

「ひぃぃぃ!!」

 

完全に怯えた様子の男性、というか少年。虹架は白い靄から刀を作り出した。

 

「大丈夫だよ」

 

ごく小さいその呟きはだれにも聞かれず。

 

「スーーーーー…」

 

刀から緑色の葉が現れ始める。

 

「“木葉針貫(こばしんかん)”」

 

呟きと共に虹架が刀を振るうと、葉が鬼達の首を貫いた。

 

「な…ん?」

 

「“薄影縫閃(はくえいぬいせん)・三連”」

 

虹架がそう呟くと、三体の鬼の首がずり落ちた。

 

「な…」

 

「“紅蓮(ぐれん)”」

 

虹架が炎を纏って空間を抉った。それにより、鬼の体、頭もろとも消滅した。

 

「…」

 

虹架は刀を消し、纏っていた属性を消して人間の方を向いた。

 

「大丈夫?」

 

「!?あ、貴女様は…!?」

 

「名乗れるような名前はないけど…通りすがりの鬼を狩る者、かな。」

 

「そ、そうですか……助けていただき、ありがとうございます。」

 

頭を下げるその少年に虹架は首を横に振った。

 

「私は私のできることをしただけ。夜はあまり出歩かない方がいいよ?」

 

「は、はい………あの。」

 

「?」

 

「どうやったら、強くなれますか…」

 

虹架はその言葉に悩む声を上げた。

 

「そうだね…力という点では武を極めるとか色々あると思うよ?でも、どうして?」

 

「…私は…護りたい人がいるんです。ですが私は弱く……とても誰かを護れるような人間ではありません。どうしたら…愛する人を、鬼から護れるようになりますか」

 

その言葉を聞いて虹架は少年の目を見つめた。

 

「……もしも…」

 

「?」

 

「もしも、覚悟があるのなら。鬼殺隊の門をたたいてみたらどうかな?」

 

「鬼殺隊…ですか?」

 

「そう。鬼を狩る者達の集まり。」

 

「…分かりました。ありがとうございます。俺は、“水面(みなも)”といいます」

 

「そう。水面くん…頑張ってね。」

 

「はい!」

 

虹架の言葉を聞いた水面という少年は走って去っていった。

 

「…さてと。」

 

虹架はその後もう一度属性を纏い、夜の町を徘徊した。結果、特に何もなく森に帰ってきた。

 

「……そこまで異常なし、と。奴はそこまで愚かでもないはずだからこんなことじゃ尻尾は出さないか…」

 

活動拠点まで着いた虹架はその場に腰を下ろし、梟と鴉に餌をやっていた。

 

「…今日は町まで出てお茶の葉でも買いに行こうかな…そろそろ尽きてくる頃合いだし。」

 

そう呟いた虹架は近くにあった筆と大きめの本を手に取った。

 

「…虹の呼吸、か。…そうだな……悩んでたけど“七色の呼吸”。それがいいかもしれない。でも、呼びにくいからこれは別名かな。」

 

虹架は本の表紙に“七色の呼吸”と書き記した。

 

「……お父さん…」

 

本を見つめながら虹架はそう呟いた。

 

「カァ~!」

 

「ホ~!」

 

「ん…あ、ごめん…」

 

虹架の意識が戻ると既に時間がかなり経っていたようで、太陽が昇っていた。

 

 

キィィィィン……

 

 

虹架の脳裏には高い音が響いていた。

 

「共鳴音…」

 

虹架は高い音の鳴る方へと歩いていく。しばらく歩くと、二つの人影が見えた。

 

「…こんにちは、縁壱くん。」

 

「あぁ…虹架殿。ご無沙汰しております。」

 

「そんな、最後に会ってから1週間くらいしか経ってないよ?」

 

二つの人影のうち、一つは縁壱だった。縁壱と虹架が初めて会ったあの日から、既に1ヵ月が経過していた。

 

「…そちらの人は?」

 

虹架がもう一人の方を見て聞くと、その人間───その男性は薄く笑った。

 

「君が“鬼縫 虹架”君かな?」

 

「はぁ…そうだけど」

 

「私は“産屋敷(うぶやしき) 雄哉(ゆうや)”。鬼殺隊の長をしているよ。」

 

その言葉に虹架が反応した。

 

「…鬼殺隊。ということは、私を倒しに?」

 

「まだそうは言ってないだろう?それに私は刀を振ることができない。ここにいる隊士は君の友人の縁壱だけだ。」

 

「…そう。」

 

虹架は身体の向きを変えた。

 

「ついてきて」

 

「行きましょう、お館様」

 

「あぁ…」

 

とそう言ったところで虹架は立ち止った。

 

「あ…そうだ。ごめん、ちょっと買ってきたいものとかあるから…この子についていって?」

 

そう言って虹架の周囲から緑色に光る何かが現れた。

 

「…これは?」

 

「“導虫(しるべむし)”。私の住処までお願い」

 

虹架がそう伝えると、緑色に光る“導虫”というものが森の道を示した。

 

「この子には“導き手”の力が備わってる。この子についていけば迷うことはないよ。」

 

「そうですか…虹架殿は?」

 

「お茶の葉買ってくる」

 

そう言って虹架は森を抜け、町に入った。

 

「いらっしゃい…あ、菜々花(ななか)さん!」

 

「こんにちは。お茶の葉ありますか?」

 

「あ、はい!菜々花さんがお好きな西の方のお茶の葉、入荷してますよ!」

 

「やった!いつもありがとうございます!」

 

「いえいえ…」

 

虹架はそのお茶の葉の包みを10つほど手に取り、会計をしに行った。

 

「…いつもですけど、菜々花さんって西のお茶の葉、好きですよね。」

 

「ふぇ?あぁ、このお茶の葉、何だか懐かしい気がするんです。」

 

「そうなんですか……あ。そうだ。良かったら今度、一緒にお団子屋さんに行きませんか?」

 

「お団子屋さん?近くにありましたっけ?」

 

「最近この辺にできたんですよ!そこのお団子が美味しいって評判で。まだ食べてないんですけど良かったら。」

 

「えっと……それではまたいつか時間が合えば一緒に行きましょうか。」

 

「はい、ぜひ!」

 

「…では、また今度。いつもありがとうございます、“陽菜(ひな)”さん。“月魅(つきみ)”さんにもよろしくお伝えください。」

 

「またのお越しをお待ちしております!」

 

虹架はその声を背に店を後にした。

 

「…“三稜鏡幻惑之肆(さんりょうきょうげんわくのよん)歪空(わいくう)”」

 

虹架は町を出てそう呟くと、()()()()()()()()()()()()

 

「…こっちだね」

 

虹架が森の奥へと歩いていくと、虹架の活動拠点にたどり着いた。既に、縁壱と雄哉はそこに到着しており、あたりを見渡していた。

 

「こんにちは。あんまり見渡しても何もないよ?」

 

「っ!?」

 

縁壱がいきなりした声に驚き、腰の刀に手を置いた。それをみた虹架はクスリと笑い、縁壱達の前に姿を現した。

 

「縁壱くん、私だよ。」

 

「…虹架殿…いつの間に?」

 

「ついさっき。町からここまで跳んできた。」

 

「…?」

 

縁壱は訳が分からないというような表情をした。

 

「私の技の一つ。空間と空間を繋げられるの。」

 

「は、はぁ…」

 

「まぁ、そんなことはいいとして。」

 

虹架は雄哉に目を向けた。次いで拠点内にあった切り株を手で示した。

 

「…よければどうぞ?」

 

「…いいのかい?」

 

「縁壱くんが信用している人なら信じたい、というのが私の願いですが。それに、縁壱くんも明確な私の敵をここに連れては来ないでしょ?」

 

「え、えぇ…」

 

「ならば、遠慮なく。」

 

雄哉はその示された切り株に腰かけた。虹架はそれに呆気にとられたような表情をしていた。

 

「…随分と簡単に信用なさるようで。」

 

「私も君と同じだ。縁壱が信用している君を信じたい。」

 

「…そうですか。縁壱くんはそこ座っていいよ」

 

虹架がもう一つあった切り株を示すと、縁壱がそこに腰かけた。

 

「…それで、今回は一体どのようなご用件ですか?わざわざ鬼殺隊の長殿がここに出向くなど。」

 

「…君のことは、縁壱からの報告を受けてからしばらく監視させてもらったよ。」

 

「…そうですか。」

 

「これは私の独断でやったことだし、縁壱は何も知らなかった。だから彼を責めないでおくれ。」

 

「…」

 

虹架は無言で先程買った茶葉を使って三人分の茶を淹れた。

 

「…粗茶ですが。毒などありません。」

 

「いただこう。」

 

「…よくもまぁ、何も疑わずに。」

 

虹架が呆れたように頭を押さえた。その様子を、拠点の中にいた鴉と梟が見ていた。

 

「それで、用件は?」

 

「単刀直入に言うよ。…鬼縫 虹架。鬼殺隊に、入らないかい?」

 

「………………はぁ?」

 

虹架は間を置いてから訳が分からないというような声を出した。

 

「何故、“鬼”を“鬼を狩る組織”に誘うのです?」

 

「君の姿が、鬼狩りそのものだからだよ。」

 

「…?」

 

「3日前までの君の行動は把握しているよ。昼はこの森で時間を潰し、夜は鬼殺隊の子達が来たらそれの迎撃、来なければ森の外に出て鬼を狩る。決して人を喰ってはいなかった。」

 

「…」

 

「例え昼でも、鬼殺隊の子達が来たときは殺さずに外に返していたね。恐らく、君の噂で剣技が強いがだれも死んだことはない、というのは全て刃を潰した刃物で倒しているのかと思ったのだけど、君が出す謎の刀で相手を倒すと傷がつかないようだ。」

 

「……」

 

「ならば君は傷を無効化する力がある。それは気になるが、決して人を殺そうとはしなかった。君の傷をつける対象は全て鬼だったんだ。同族であるはずの、ね。」

 

その言葉に虹架がピクリと反応した。

 

「…私をあいつらと一緒にしないで」

 

「ふむ…同族嫌悪か何かは知らないが、君は鬼達を毛嫌いしているようだ。」

 

「少し、違う。」

 

「ふむ?」

 

虹架は雄哉を見つめた。

 

「私は別に鬼達を嫌っているわけじゃない。私が本当に嫌っているのは鬼の首領…あなたの祖先、鬼舞辻無惨。」

 

「…ふむ。」

 

「鬼達に対しては可哀想としか思ってない。だから私は静かに首を落とす。」

 

「…その前に。君は何故、鬼舞辻無惨が私の祖だとわかったのかな?」

 

その問いに虹架は手を見つめた。

 

「…血」

 

「血?」

 

「私の中に残っている鬼舞辻無惨の血の断片。それがあなたの血と合致した。」

 

「…どういうことだい?」

 

「ここに来る前、森の中で怪我したでしょ」

 

「…」

 

「左腕の真ん中程。そこに怪我があるはず。」

 

そう言われた雄哉は左腕を見せた。確かに、真ん中程に傷がある。

 

「何故、分かったんだい?」

 

「縁壱くんには話したけれど、この森は迷いの結界で覆われている。その結界は森全体を私の支配領域とするようなもの。森の中で起こったことは分かる。とはいえ、森の中にいないとわからないけど。」

 

「…ふむ。」

 

「あなたの血の情報と、奴の血の情報が合致した。ただそれだけ。」

 

そう言って虹架は茶を啜った。

 

「……その腕、出して」

 

「?あぁ…」

 

虹架は差し出された雄哉の左腕の傷の上に手をかざした。

 

「…スーーーーー………スーーーーー…」

 

呼気音を二回繰り返し、いつの間にか手に持っていた()()()()()()()()()()()

 

「「!?」」

 

「スーーーーー………スーーーーー…」

 

呼気音をさらに二回繰り返し、雄哉の腕から小刀を引き抜くと、そこには()()()()()()()()

 

「な……」

 

「今のは…!?」

 

「“聖刃(せいじん)”…攻撃でありながら他人を癒す技。」

 

虹架はそう短く言い、小刀を消した。

 

「なるほど…今のが君の…縁壱から聞いていた、“虹の呼吸”だね?」

 

その言葉に虹架は頷いた。

 

「虹架。君のその力、どうか鬼殺隊に貸してはくれないだろうか?いつの日か、鬼舞辻無惨を倒すために。…どうか。」

 

頭を下げながら言われた言葉に、その言葉に虹架は少し戸惑いながら口を開いた。

 

「…私の力が誰かの…人のためになるなら。でも、私は鬼。本来人間の敵となるもの。いいの?」

 

「…かまわない。命を懸け、鬼と戦い人を守る者は、誰が何と言おうと鬼殺隊の一員になりうる。」

 

そう言って雄哉は右手を虹架に差し出してきた。

 

「…そこまで命を懸けてるわけでもないけれど。…まぁ、私の力が必要とされるのなら。…よろしくお願いします。」

 

そう言って虹架は雄哉の手を取った。…ここに、最初の“鬼”と“人間”の協力関係が成ったのだ。

 

「ならば、今から君には伝令役をつけよう。」

 

「伝令役?」

 

「おいで。」

 

雄哉がそう言うと、拠点内にいた鴉と梟が雄哉の元に来た。

 

「この子たちは鎹鴉、鎹梟だ。実は私以外には誰にも懐かなくてね。どうしたものかと思っていたのだが、君のことは気に入ったみたいでね。君さえよければこの子たちを伝令役の鴉と梟にしてはくれないだろうか。」

 

虹架はその鴉と梟を見つめた。まっすぐと見つめ返す二羽に虹架は手を触れてから雄哉を見つめた。

 

「…いいですよ。」

 

「助かる。よかったらその子たちの名前は君が付けてくれないか?その子たちにはまだ名前がないんだ。」

 

「…名前…」

 

「カァァァ」

 

「ホォォォ」

 

「ふふ」

 

鳴く二羽に笑ってから一匹ずつ持ち上げた。

 

「…そうだな…鴉さんの方は“九十九(つくも) 日継(ひつぎ)”。梟さんの方は“十六夜(いざよい) 夜張(よばり)”。…で、どうかな?」

 

それを聞いた鴉と梟は嬉しそうに飛び回った。

 

「…いいみたいだね。それではその二羽は今日から君の伝令役で、君も鬼殺隊の一員だ。一度本部に向かい、君の身体の寸法を測ろうか。隊服に必要だからね。」

 

「…分かった。」

 

「縁壱、彼女と会わせてくれてありがとう。」

 

「いえ、私は別に何も…」

 

「そうやって自己評価が低いところ。縁壱くんの悪いところだと思うよ?」

 

「そう…ですか?」

 

「そうそう。」

 

そういう虹架は笑っていた。しかし次の瞬間、虹架の表情が不機嫌なものになった。

 

「…で。また誰かこの森に迷い込んだのがいるんだけど。」

 

その言葉に縁壱と雄哉は噴き出した。

 

「笑うことないでしょ…とりあえず捕まえてきます」

 

そういうとその場から虹架の姿が消えた。

 

「…お館様、良かったのです?」

 

「うん。彼女の力はいずれ必要になる。そう思ったからね。柱たちにはよく伝えておこう。」

 

「そうですね…」

 

虹架のいないところでそんな会話がされていたという。

 




と、いうことで今回は“虹架の鬼殺隊への入隊”に関して書きました。次回は2年くらい時間が飛ぶかもしれません。かも、というのは黒死牟さんが鬼と化したころが分からないからなんですね…そもそも縁壱さんがこの頃20歳というのも“これくらいならまだ鬼殺隊にいる頃だろう”という予測から設定したものです。



原作ネタバレ防止線───


原作ネタバレ防止線───



縁壱さんは7歳の頃に家を出て、その後奥さんと出会い、鬼狩りとなった…そして鬼狩りになった後に巌勝さんと出会っているわけですから…原作177話の双子、という記述から考えれば同い年ですし、原作174話の“最後に会ってから六十数年の時が経っていた”、“人間のままの縁壱は齢八十を超えているはず”という記述から恐らく鬼となる前は20代だったのではと。原作の時間から最後にあったのは400年前のことで、そこから鬼となる前の60年を引くと、460年ほどの間が縁壱さんが鬼狩りを追放されてからの時間があるわけで。

1915-460=1455

そこから5年引いて1450年。六十数年、という部分から完全に60年というわけではないでしょうから1452年とかに鬼になったとしましょう。そうすると所々合うのですよ。とはいえ、多分これ時間最終戦の時からズレてますから鬼になったのが1456年だとしても、その辺は80歳を超えているという点で補助できます。まぁその当時の寿命とか知りませんけど。さすがに調べるのは辛いです。

とまぁ、考察関係もこの辺で。さすがに疲れました。


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第陸拾話 謎の夢・参

第六十話…結構凹みますけど謎の夢は書き終えました。ちなみにあと三話ほど夢は続きます。
そうそう、この作品のUAが10,000を突破しておりました。しばらくUA関係の話をしておりませんでしたが、ありがとうございます。お気に入り登録してくださっている方も20名ほどいるようで。評価みると☆1がついてましたが、別に私はそれを気にするつもりはありません。私なんかの作品を読んでいただいているだけでもありがたいのです。…まぁ、感想あるとそれが原動力になったりもしますが。ただ、今は夢の話を書き終えたところで気力が尽きたので何とも言えませんが…これからもよろしくお願いします。


その日。虹架はどこかの屋敷にいた。歩いていく虹架を止める者がいる。

 

「に、虹架様!!今は会議中です!!」

 

「分かってるよ。…通して」

 

虹架から感じた明確な怒気。それが止める者達を一歩下がらせた。

 

「聞こえなかった?…通せ、道を開けろ!!

 

「「……っ!」」

 

以前までの虹架とは思えない言葉の扱いと鋭い視線、そして強い怒気に止める者達が腰を抜かし、崩れ落ちた。

 

「……」

 

静かだが、見たものが逃げ出す程怒気が強い。屋敷内の誰も、虹架に近づこうとする者はおらず、虹架は一つの襖の前にたどり着いた。

 

「失礼します」

 

虹架が襖を開けると、そこには一人の子供と八人の人物がいた。

 

「何用だ!!」

 

「…お館様。」

 

「はい、いいですよ」

 

「感謝します」

 

お館様と呼ばれた子供が許可すると、虹架は八人の人物に向き直った。

 

「…縁壱くんが、鬼殺隊を追放されたと聞きました。」

 

「当然だ。鬼舞辻を逃し、身内から鬼を出したのだから。」

 

「それにだ。考えられるか!?その身内は隊を抜ける際に先代のお館様の首を持って行ったのだぞ!?」

 

「そう。雄哉くんの訃報に関しては知ってる。巌勝くんが鬼になったのも知ってる。だけど───」

 

そこで、虹架の怒気が膨れ上がった。

 

「…誰?縁壱くんに自刃を求めたのは。一体どこの誰だ!!!

 

虹架の大声、そして虹架の周囲の空間を歪ませるほどの凄まじい怒気にその場にいた全員が怯んだ。その一瞬、その時に虹架が周囲を見渡すと口を開いた。

 

「あんたらか…風柱(かぜばしら)石柱(いしばしら)響柱(きょうばしら)。」

 

「なっ…」

 

「そんな証拠がどこにある!?」

 

「そうだ!!」

 

名指しされた人物たちが声を上げる中、虹架はため息をついた。

 

黙れ。私の“虹の呼吸 伍拾肆の型”を忘れたとは言わせない。」

 

「伍拾肆…」

 

「“虹の呼吸 伍拾肆の型 地読歴(ちどくれき)”…ですね?」

 

虹架はお館様の言葉に頷いた。それを聞いて全員がはっとなった。

 

「縁壱くんの功績を忘れたの?貴方達に“剣技の呼吸”の基礎を教えたのは誰?誰が今まで鬼を散々狩ってきたと思ってるの?誰が負傷者を私達のもとへ連れてきた?誰が技を強くしたの?全て縁壱くんだよ。それなのに自刃せよと迫るですって!?ふざけるな!!恥を知りなさいこの大馬鹿者共が!!

 

その声が空間を震わせる。まるで、虹架がその空間の支配者かのように。

 

「貴様!!言わせておけば!!」

 

「ただじゃおかぬ!!」

 

「やめろ!!相手は虹架殿だぞ!!」

 

「師範を敵に回したら危ないということはよく知っているだろう!!」

 

二人の男が風柱と響柱を押さえつけた。

 

「知ったことか!!私を馬鹿といったのだぞ!!人間か鬼かも定かではないこの小娘がっ!!」

 

「…そう。それがあなたたちの本音?」

 

「当たり前だ!!怪しげな力を使い、怪しげな技を使い戦うなど!!それは鬼そのものだろうが!!貴様のような鬼擬きは今すぐにでもここで八つ裂きにしてやりたいくらいだ!!」

 

「……貴様等ぁっ!!」

 

「師範の悪口を言うな!!」

 

虹架のことを師範、と呼ぶ男は拳から水を出して響柱に殴りかかり、虹架殿と呼ぶ男は風柱を殴り飛ばした。その響柱と風柱は気絶していた。

 

「…そう。炎柱(えんばしら)雨柱(あめばしら)、ありがとね。私のために。」

 

「い、いえ…」

 

「…お館様。」

 

「なんでしょう?」

 

虹架は息を吐いてから口を開いた。

 

「私を、柱にしてください。…縁壱の跡を、継ぎます。」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

「う~ん…」

 

お館様は少し悩むような声を出した。

 

「…いいでしょう。ですが、あなたは日柱ではありません。」

 

「…では、なんと?」

 

お館様は目を閉じてから言った。

 

「…“虹柱(にじばしら)”。虹の呼吸という名前の技が使え、虹架という名の貴女にはそれがぴったりです。」

 

「…承知、致しました。虹柱の名、お受けいたします。」

 

「……あと、僕のこと名前で呼んでくれませんか?虹架お姉ちゃんにお館様って呼ばれるの慣れません。」

 

その言葉で周囲の空気が一瞬で緩んだ。

 

「……はぁ…分かりました、拓哉(たくや)様。」

 

「敬語と様付け禁止!!今まで通りにして!!」

 

「…わかったよ、拓哉くん。」

 

「よろしい!お姉ちゃん、撫でて撫でて~」

 

「全くもう…」

 

先程までの緊迫したような空気と凄まじい怒気はどこに行ったのか。拓哉の頭を撫でる虹架からは穏やかな気配が流れていた。

 

「…お館様も、まだまだ子供なのですね…」

 

炎柱が微笑みながらそう呟いてたという。

 

 

 

暫く撫でた後、虹架はとある屋敷に来ていた。

 

「…あ、師範!」

 

「ん~?」

 

虹架の元に白い髪の少女がきた。

 

「おかえりなさいです!」

 

「ただいま、“雪女”ちゃん。どう?“雪の呼吸”の方は。」

 

「少しずつですが安定してきています!…それで、その…お兄ちゃんは…?」

 

「元気そうだったよ、水面くんは。会議中守ってもらっちゃった…」

 

「あはは…雨柱でしたっけ、お兄ちゃんは。」

 

「そそ。まったく、水面くんもたまには帰ってくればいいのに…」

 

そういうと雪女が苦笑した。

 

「ほんと…そうですよ…」

 

「…好きな人が心配?」

 

「なっ…///!は、はい……///」

 

顔を真っ赤にした雪女に虹架はクスリと笑った。

 

「今度会ったら強めに言っておこうか。」

 

「…あの、虹架さん…」

 

「うん?」

 

「兄妹なのに好きになるっておかしいんですかね…?その…異性として。」

 

その問いに虹架は悩む声を上げた。

 

「いいんじゃない?」

 

「え?」

 

「昔から“好き”の形は人それぞれだよ?兄妹で好きになったとしても、女の子同士や男の子同士で好きになったとしても。それはその人の好きの形。雪女ちゃんはお兄ちゃんが好きなんでしょ?だったらそれは雪女ちゃんの好きの形だよ。好きの形は他人に強制されるものではないと私は思うよ。」

 

「虹架さん…」

 

そう言っていると、屋敷内から1つの人影が出てきた。

 

「あ、虹架さん!」

 

「こんにちは、“春華”ちゃん。皆はいるの?」

 

「はい!全員お料理とか作ってお待ちですよ!!虹架さんの虹柱就任祝いですから!」

 

「日継と夜張から聞いたんだね?」

 

「はい!」

 

「だと思った…」

 

そう呟いて虹架が屋敷の中に入ると16人の少年少女がいた。

 

「ただいま、陽菜(ひな)ちゃん、月魅(つきみ)ちゃん、日向(ひなた)ちゃん、風弥(ふうや)くん、鋼次(こうじ)くん、鳴海(なるみ)ちゃん、星乃(ほしの)ちゃん、(うつほ)ちゃん、雪女(ゆきめ)ちゃん、(みこと)ちゃん、(めい)くん、幽理(ゆうり)くん、夜見(よみ)ちゃん、昼秋(ひるあき)くん、夢夏(ゆめか)ちゃん、春華(はるか)ちゃん。…そして、七夜(ななや)くん。」

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「お帰りなさい、師範!」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

一斉に言われ、虹架が笑った。

 

 

 

それから中に入ってご飯を食べていると、不意に屋敷の門が叩かれた。

 

「…?誰だろ。見てくるね。」

 

そう言って虹架が屋敷の外に出ると、二つの人影があった。

 

「おかえり、水面くん。それと…」

 

「ただいま戻りました、師範」

 

「…こんばんは。」

 

「…いらっしゃい、煉獄くん。」

 

屋敷に来たのは、炎柱と雨柱だった。

 

「…上がって?」

 

「…それでは、お言葉に甘えて。」

 

炎柱:煉獄(れんごく)と雨柱:水面(みなも)は屋敷内に入り、陽菜たちがいる部屋へ通された。

 

「あ、おかえり…お兄ちゃん!」

 

「雪女!」

 

水面の姿を見つけた途端に抱き着きに行く雪女。その様子を、煉獄以外の全員が暖かい眼で見ていた。

 

「虹架殿…お食事中だったのですか?」

 

「ちょっと、ね。」

 

「それは…失礼しました…」

 

「煉獄さんならいいよ?煉獄さんと、たっくんと、縁壱さんなら。」

 

そう言ったのは月魅。今日の料理をほとんど作った女の子である。

 

「そう…ですか?」

 

「うん!」

 

「…とりあえず、座ったらどうですか?私はお茶用意してきます。」

 

虹架はそう言って屋敷内の台所に向かい、自分の属性を使ってお茶を淹れた。

 

「…お待たせしました。粗茶ですが。」

 

「申し訳ない…」

 

「師範のお茶…懐かしい気分です。」

 

そう言って煉獄と水面は茶を啜った。

 

「…それで。わざわざここまで来るなんて、何か御用ですか?」

 

虹架がそう言うと、煉獄が頭を下げた。

 

「…申し訳、ありません。」

 

「え?」

 

「嫌がっていた貴女を、柱にさせてしまい。」

 

「あぁ…」

 

虹架は納得がいったように頷いた。

 

「今からでも遅くありません。柱になるのをやめてはいかがでしょう。」

 

「だめ。」

 

「風柱達には二度とあのようなことを言わせません。…どうか。」

 

「…煉獄くん。貴方は一つ勘違いしているよ。」

 

「え…?」

 

煉獄はその言葉に顔を上げた。

 

「私がこれまで柱になるのを拒否していたのは、縁壱くんがいたからだよ。縁壱くんがいたからこそ、私は彼に任せておけたの。…でも、今はもう縁壱くんは鬼殺隊にいない。だから私は柱になると言ったの。第二の始まりの呼吸の使い手として、ね。」

 

「第二の始まり…」

 

「そう。縁壱くんの“日の呼吸”は“剣技の呼吸”の始まり。私の“虹の呼吸”は“属性の呼吸”の始まり。今まで鬼殺隊には二人の呼吸の始祖がいた。でも、もしも縁壱くんが欠けた時、私はその穴埋めをする。もしも私が欠けた時、縁壱くんは“七色の記憶”をまとめる。それが私と縁壱くんの間で交わされた約束。」

 

「…そんなことが」

 

「まぁ、結果私が穴埋めになったんだけど。それでも前から決めていたことだから、煉獄くんは気にしないでいいよ。」

 

「…そうですか。」

 

そう言って煉獄は茶を啜った。

 

「…あの、一つお聞きしてもいいですか?」

 

「うん?」

 

「その…」

 

煉獄は言いづらそうにしてから虹架の側によった。

 

「…虹架さんが技を教えている子達は、虹架さんが鬼であるということを知っているのですか?」

 

「私が鬼だってこと?うん、知ってるよ?ね、皆。」

 

その虹架の声に全員が頷いた。

 

「…では…皆さんは虹架さんが怖くないのですか?」

 

「ないよ?」

 

鳴海がそう言った。

 

「だって、師範、優しいもん。確かに鬼は倒すべき存在なのかもだけど、師範はどう考えても倒すことなんてできない。だって、私達を助けてくれたんだから。」

 

その言葉に全員が頷いた。戸惑いの表情を浮かべる煉獄に水面が口を開いた。

 

「煉獄さん。ここにいる人たちは、皆何かしらで師範に助けられているんです。恩人を斬れると思いますか?」

 

「別に私が何かしたわけじゃないんだけどね。なんか慕ってくるから属性の呼吸を教えてるの。ただそれだけ、かな。そしたら慕ってくる子たち全員属性使い。それぞれの属性の偏りはあるけど、それは私が方法を変えて教えればいいだけだし。確かに人を狂わせる技とかあるけど、そんなの使ってないし第一使ってたらこんな普通にしゃべってないよ?」

 

「そうなのですか…」

 

煉獄はそう呟いた。

 

「…ね、煉獄くん。縁壱くんと連絡、とってるよね?」

 

「え?え、えぇ、まぁ…」

 

「じゃあ、伝えてくれないかな?“とある型が完成した、それとあなたに見せたいものがある。”って。」

 

「は、はぁ…」

 

「…ま、縁壱くんのことだからこれだけ言えば暫くしたら来るでしょ。」

 

「…そういえば、縁壱殿は貴女の呼吸が完成するのを楽しみにしておりましたね。」

 

「そうだったんだ…私も楽しみなんだけどね、縁壱くんの呼吸が完成するの。」

 

「そうですか……それでは、今日はこの辺で失礼します。」

 

「あ、うん。ごめんね、わざわざ。」

 

「いえ…」

 

そこで煉獄が思い出したような表情をした。

 

「それにしても、先代のお館様から聞かされるまで、虹架さんが鬼だなんて思ってもみませんでした。」

 

「あ~…“属性使い”と呼ばれる人間たちのことは知ってたんでしょ?」

 

「はい。噂、というか昔話としては知っておりました。それが、虹架さんだけならともかく、虹架さん以外にも“属性使い”が確かに存在したという昔からの文献を見た時、本当に虹架さんは人間なのだ、と思いましたから。」

 

「まぁ、実際、今は鬼なんだけどね。あの子たちは人間、それは私が断言するよ。」

 

「えぇ……それでは失礼します。」

 

「うん、じゃあね。」

 

そう言って煉獄は屋敷を後にした。

 




ちなみに…

陽菜(ひな)=女性 太陽の呼吸の使い手
月魅(つきみ)=女性 太陰の呼吸の使い手
日向(ひなた)=女性 晴天の呼吸の使い手
風弥(ふうや)=男性 疾風の呼吸の使い手
鋼次(こうじ)=男性 曇天の呼吸の使い手
鳴海(なるみ)=女性 轟雷の呼吸の使い手
星乃(ほしの)=女性 恒星の呼吸の使い手
(うつほ)=女性 空虚の呼吸の使い手
雪女(ゆきめ)=女性 降雪の呼吸の使い手
(みこと)=女性 生誕の呼吸の使い手
(めい)=男性 死神の呼吸の使い手
幽理(ゆうり)=男性 摂理の呼吸の使い手
夜見(よみ)=女性 夜天の呼吸の使い手
昼秋(ひるあき)=男性 昼天の呼吸の使い手
夢夏(ゆめか)=女性 夢幻の呼吸の使い手
春華(はるか)=女性 華舞の呼吸の使い手
七夜(ななや)=男性 虹の呼吸の使い手
水面(みなも)=男性 雨天の呼吸の使い手

になります。時間かけてこの子たちの名前考えた割にはもうほぼほぼ出ないのです…
ちなみに“属性の呼吸”と“剣技の呼吸”。虹架の虹の呼吸を基礎とした呼吸達は“属性”を使った技なのに対し、縁壱さんの日の呼吸を基礎とした呼吸達は純粋な“剣技”のみで構成されています。少し前に劇場版見てきたのですけど、属性が存在しないはずなのに炎や水のエフェクトがほんっとすごい……あれただ描写として書かれてるだけで実際は剣技なんですよ…言ってしまえばソードスキルのライトエフェクト。それがあの炎とかの描写なんですよね…月の呼吸と風の呼吸のエフェクトは実際に攻撃判定あるらしいですけど。
あと鬼のはずの虹架を教わっている子達が殺せない理由に関してはかなり適当です。
そしてなんかこの話に既視感が……なんだろ。誰かの作品に影響でもされましたかね…


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第陸拾壱話 謎の夢・肆

第六十一話……この辺一日で書き上げてるのですよ。気力尽きますよ、ほんと……
ちなみに前話と同日に投稿手続きしてます。


「これはこうで…ん、やってみて」

 

「……リィィィィ」

 

虹架は春華に技を教え、春華は独特な呼気音を出していた。

 

「“華舞の呼吸 壱の型 桜開(さくらひらき)”」

 

春華の言葉と同時に春華の刀が振られ、周囲を桜の花が彩った。

 

「うん。綺麗だね。」

 

そう呟いた時である。

 

 

 

キィィィィン…

 

 

 

「!?」

 

突如、虹架の脳裏に響く高い音。

 

「……共鳴音。ごめん、春華ちゃん。屋敷内に戻ってて。」

 

「へ?あ、はい…」

 

「“三稜鏡幻惑之肆・歪空”!!」

 

虹架がそう叫ぶと、一瞬で虹架は森の中にいた。

 

「この共鳴音……まさか……!!」

 

虹架は音の高い方へと走った。しばらく走ると、そこには虹架が活動拠点にしていた場所があった。…その付近に、一つの人影。

 

「……縁壱くん」

 

「……虹架殿。この森に来れば、確実に会えると思っていました。」

 

「どうして、この場所に。迷いの結界は…」

 

虹架がそう縁壱に問うと、縁壱は自分の肩に視線を向けた。虹架もそこに視線を向けると、緑色に光るものがそこにいた。それを見て、虹架はその場に崩れ落ちた。

 

「…“導虫”。そういうことね。」

 

「えぇ…どういうわけか、私をここまで案内してくれました。」

 

「…そう。」

 

そう答えると、虹架は立ち上がり、拠点内にあった切り株を示した。

 

「どうぞ。たまにきて掃除とかはしてるから腐ってたりはしてないよ。」

 

「…失礼、します。」

 

縁壱が座ったのを見ると、虹架は属性を操って茶を淹れた。

 

「粗茶だけど。」

 

「…いただきます。」

 

縁壱は少し茶を啜ってから机代わりになっている切り株の上に置いた。

 

「…数日ぶり、かな?」

 

「そうですね。」

 

「会いに来るか分からなかったけど、会いに来てくれてよかった。…でも、どうしてここに来たの?」

 

「…貴女のお弟子さんの前で、堂々とあわせる顔がありませんでした。」

 

「どうして?」

 

「…貴女を鬼殺隊に引き入れておきながら、私は取り返しのつかないことをしてしまいました。無惨や、兄上のこと。貴女のお弟子さんの前で何を言えばいいのか、どんな顔をすればいいのか…分かりませんでした。」

 

その言葉に虹架はため息をついた。

 

「じゃあ、ここに来たのは謝るためなの?」

 

「…えぇ。」

 

「…そう。許すよ?」

 

「……え?」

 

「許すって。何を許せばいいか分からないけど。」

 

「……」

 

縁壱が目を瞬いている様子に、虹架は笑った。

 

「…奴のことも、巌勝くんのことも、縁壱くんに何の非があるの?」

 

「無惨に逃げられたせいで、これからも多くの人が死ぬでしょう。」

 

「いや、奴に逃げられる、っていうか…そもそもの話、奴と対等に戦える人間がそんなにいると思ってるの?石柱とか絶対無理だよ?」

 

「…身内から、鬼を出しました。」

 

「そんなの私だってそうだよ。私以外にも、鬼になった身内はいる。…私はそれが心残りなんだけどさ。」

 

「……鬼を一人、逃がしました。」

 

「はぁ?」

 

虹架が何をおかしなことを、というような声を上げた。その声に縁壱がびくついた。

 

「何をいまさら。私という鬼を見逃し、鬼殺隊に所属させている時点でたかが一人逃したくらいなんなの?鬼だからって悪いものばかりじゃない、それは縁壱くんがよく知ってるはずだよ?」

 

「…」

 

「縁壱くんは、私という例外があるからこそ、逃がす判断をしたんじゃなくて?」

 

「……はい。」

 

「でしょうね。どうせ私みたいに奴の支配を逃れてるんでしょ?」

 

「はい…」

 

「だったら問題なし。基本的に鬼の基本行動である食人欲求は奴の支配によるものだから奴の支配さえ外してしまえば年を取らず、普通の人間よりも回復速度が速いくらいで特に変わらないよ。」

 

「……」

 

それに対して縁壱は黙り込んだ。

 

「…ねえ、縁壱くん。縁壱くんも、私も、元を辿ればただの人間なんだよ?鬼達だってそう。元を辿ってしまえばただの人間。ただの人間の中でも、縁壱くんみたいに周囲の人間よりも強い人間だったり、私や私の教え子達みたいに人の身で属性という名の異能を使える人だっている。もっと昔には、陰陽術なんていう呪術が使えた人だっていたんだから。確かに陰陽術を使う人や縁壱くんみたいに強い人、私みたいに属性を扱える人は何も力のない人から考えれば脅威だったり神様に思えたりするかもしれない。でも、忘れちゃいけない。私達は元を辿ればただの人なの。鬼達はただの人にさらに異能とほぼ永久的な再生を付け加えられただけ。鬼も、私達も、出来ることには限界があるの。神様なんかじゃ決してないんだから、全てを背負えるわけがないんだよ?」

 

「…ですが」

 

「ですがも何もない。縁壱くんはこれまで出来ることを十分にやってきた。もう打つ手がないなら、あとは後継に託すべき時だよ。もちろん、この私もね。そろそろ打つ手がなくなりそうだから、私の命にも終止符を打つ時が迫ってきてる気がする。」

 

「…え?」

 

虹架の言葉に縁壱が驚きの表情をしていた。

 

「虹の呼吸はまだ完成しない。でも、何かが揃えば完成する。それが何年先で見つかるかは分からないけど。でも、最近属性持ちが少なくなってきているのも事実だから。私は私が決めた時に、私の命に終止符を打つ。そう決めてるんだよ。」

 

「…そうですか…」

 

「…ね?私はともかく、縁壱くんに私に許されるべき罪なんてない。あなたはあなたのできることをした。それで十分なんだよ。」

 

「虹架殿……」

 

「…ほら、おいで?」

 

虹架が手を広げると、縁壱がそこに入った。

 

「…今はお姉ちゃんに任せて、お眠りなさい。」

 

「…すぅ」

 

虹架が言った直後、安らかな寝息が聞こえた。

 

「ホントに寝たし…いいけど。…縁壱くんが、少しでも癒されますように。」

 

「…んぅ」

 

「ふふっ」

 

虹架は微笑んで縁壱を抱きしめた。

 

「…母上…」

 

「……年齢的には貴方のひいお祖母ちゃんかな?200歳超えてるし…」

 

そんな呟きは誰にも聞かれなかった。

 

 

 

しばらくして縁壱が目を覚ますと、縁壱は顔を真っ赤にして飛び退いた。

 

「も、申し訳ありません…」

 

「いいよ。眠りなさいって言ったのは私だし。」

 

そう言ったのち、虹架は何かを思いついたように口を開いた。

 

「縁壱くん。日の呼吸の型を見せてくれないかな。」

 

「…えぇ。ですが、ここでは…?」

 

「ふふ、ついてきて。」

 

虹架は縁壱を連れて森の奥深くへと入っていった。たどり着いたところには、見覚えのある黒い石があった。

 

「ここは…貴女が喰らってしまった人達の墓場…でしたか?」

 

「ま、代わりだけどね。ここで、お願いできる?」

 

「…いいのですか?」

 

「うん。それに、私も“出来上がったら見せる”って言っていた技があるでしょ?」

 

「…それは、そうですが。」

 

「その技と私が見せたいものにここはちょうどいいから。ね?」

 

その言葉に縁壱は観念したようにため息をついた。

 

「分かりました。精一杯やらせてもらいます。」

 

そう言って縁壱は刀を構えた。

 

「ゴォォォォォ」

 

呼吸音と共に縁壱の刀が振るわれる。

 

「“日の呼吸 壱ノ型 円舞”」

 

「…うん」

 

「“日の呼吸 弐ノ型 碧羅の天”」

 

「…」

 

「“日の呼吸 参ノ型 烈日紅鏡”」

 

「やっぱり…」

 

「“日の呼吸 肆ノ型 灼骨炎陽”」

 

「思った通り…」

 

「“日の呼吸 伍ノ型 陽華突”」

 

「だったかな」

 

「“日の呼吸 陸ノ型 日暈の龍・頭舞い”」

 

「綺麗」

 

「“日の呼吸 漆ノ型 斜陽転身”」

 

「まるで…」

 

「“日の呼吸 㭭ノ型 飛輪陽炎”」

 

「神楽。」

 

「“日の呼吸 玖ノ型 輝輝恩光”」

 

「なら、名前は…」

 

「“日の呼吸 拾ノ型 火車”」

 

「そうだな…」

 

「“日の呼吸 拾壱ノ型 幻日虹”」

 

「これがいい。」

 

「“日の呼吸 拾弐の型 炎舞”」

 

「“ヒノカミ……神楽”」

 

虹架がそう呟いた時、縁壱が技を終えた。

 

「…今のが、“日の呼吸 拾参ノ型”です。壱ノ型から拾弐の型までを連続して振るう。それが日の呼吸の、私が最後に生み出した技です。…名前、付けてくれませんか。」

 

「……“神楽舞”」

 

「神楽舞、ですか?」

 

「うん。神にささげる神楽舞。“日輪神楽舞(にちりんかぐらまい)”…それがいいかな」

 

「…では、拾参ノ型は“日輪神楽舞”と。そう呼ばせていただきます。」

 

「……さ、次は私だね。」

 

そう言うと、虹架と縁壱が立ち位置を変わった。

 

「さてと…新しい型の前に、見せたいものから見せようか。」

 

「そういえば、見せたいものがあるとか…」

 

「うん。」

 

そう言って虹架は何かを懐かしむような表情になった。

 

「私の家に代々受け継がれていたとある神楽…私の新しい型達の基礎にもなった舞だよ。」

 

「それを…私に見せてもよいのですか?」

 

「うん……思い出した時、何故か見せたいって思ったんだ。」

 

「そうですか…」

 

「…じゃあ、始めるね。」

 

そういうと、虹架はいつの間にか手に持っていた扇を振り、踊り始めた。

 

「……」

 

その踊りは鮮やかで。縁壱の興味を惹きつけていた。

 

「……」

 

暫く踊ると、舞の質が変わった。鮮やかだったものから、力強いものに。魅了する力は、より強く。属性を纏いながら、振るわれる。

 

「…綺麗だ」

 

縁壱がそう呟いた時、虹架の舞が終わった。

 

「…今のが、私の家に代々伝えられてきた二つの神楽…魂を鎮める“鎮魂神楽(ちんこんかぐら)”と念を浄化する“浄念神楽(じょうねんかぐら)”。属性を纏って虹の呼吸に転ずることで“虹の呼吸 舞の型 七色神楽(なないろかぐら)”と“虹の呼吸 舞の型・乱 七色神楽(なないろかぐら)乱舞(みだれまい)”。これが私が思い出した型だよ。」

 

「なるほど……すごく、綺麗でした。」

 

「まだ終わりじゃないけどね。」

 

そう言うと、虹架はどこからか大幣を取り出した。

 

「本命はこっち。…シューーーーー……」

 

虹の呼吸の呼気音。それを発しながら踊る虹架。

 

「…これ…は…!」

 

縁壱はその踊りを見て声を上げた。

 

「綺麗で、優しいですが……これが攻撃に転じると…!?」

 

その声が聞こえたのか、虹架が舞を終えた。

 

「…縁壱くんは、気づいたんだ?」

 

「えぇ…この舞は……攻撃に転じると……性質がまるっきり変わるのでしょう?」

 

「そう。この舞は……“虹の呼吸 舞の型・極 虹巫娘神楽(にじみこかぐら)”は、武器使ってないからこそ、優しく、綺麗に見える。」

 

「武器を持てばそれは一変……優しさの塊が一気に狂暴になる……これは……“二面性を持つ神楽”だ……」

 

その言葉に虹架は微笑んだ。

 

「…そう。やっぱり、縁壱くんに見せてよかった。」

 

「え?」

 

「私とは別の考え方をしてくれるから。私はこれを、“想いを紡ぐ虹神楽の到達点の一端”だと思ってるから。」

 

「虹…神楽。」

 

「そう。…さて。そろそろ帰る?結構時間経ってるし。」

 

虹架がそう言うと、縁壱は悩むような声を上げた。

 

「…虹架さん」

 

「うん?」

 

「私は…行きたいところがあります。そこに、連れていってはくれませんか?」

 

「……場所は、どこ?」

 

「……貴女の生まれた家と、とある山に。」

 

その言葉に虹架が詰まった。

 

「……私の家?」

 

「はい。」

 

「……」

 

虹架は少し悩むような表情をしてから縁壱を見た。

 

「…縁壱くん。…私の家を見ても…」

 

そこで虹架は口を閉じた。

 

「…ううん、何でもない。行こうか。私と手を繋いでくれる?」

 

虹架が手を差し出すと、縁壱はその手を握った。

 

「“三稜鏡幻惑之肆・歪空”」

 

虹架がそう言うと、虹架と縁壱は蔵だけがある広い敷地にいた。

 

「…ここは?」

 

「私の家があった場所。……200年前、()()()()()()()()()()。」

 

「え……」

 

「その時はまだ奴の支配下だったから。食人衝動に任せて、ここにいた家族たちを喰らった。」

 

そういう虹架の表情は辛そうだった。

 

「その時、私の友達と会って…私はそれで覚醒した。その時に私の支配は完全に外れたの。…できることなら、この場所には来たくなかった。」

 

「…申し訳ありません。嫌なことを思い出させてしまい。」

 

「いいよ。気にはなっていたんでしょ?」

 

「えぇ…」

 

「ならいいよ。…さて、今は夜だから、すぐにここを去るよ。」

 

「えぇ…」

 

「“三稜鏡幻惑之肆・歪空”」

 

そう言うと虹架と縁壱の姿がその場から消えた。

 




何を話せばいいかよくわかっていません。とりあえず、この作品での日の呼吸拾参ノ型は“日輪神楽舞”という名前であるということで。
で、もう気がついている方もいるでしょう。“鬼縫 虹架”は妹紅さんの夢に出てきた“心音 虹架”と同一人物です。虹架の方は妹紅さんが不死者だとは知りませんが、あまり心音家の屋敷跡地にいたくはなかったのですね。


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第陸拾弐話 謎の夢・伍

謎の夢が五話目……名前変えようかなとか何度か思いました。


「ごめんください」

 

虹架のもとに、唐突に誰かが訪ねてきた。

 

「はい?…ごめんね、雪乃(ゆきの)ちゃん、お客様対応してくるから。」

 

「あ、はい…」

 

雪乃と呼ばれた少女は構えていた刀を納め、その場に座った。それを確認した虹架は玄関の方に向かった。

 

「どちらさま……って。」

 

玄関にいたのは一人の女性だった。その女性が一礼すると、虹架は頭を押さえた。

 

「…夜分遅くに申し訳ありません。」

 

「…どうぞ。お上がりください。」

 

「…失礼します。」

 

女性は虹架に連れられ屋敷内の部屋に通された。その部屋には雪乃がいたが、虹架と一緒にいる女性を見た時、少し怯えの表情になった。

 

「大丈夫、この人は安全だから。」

 

「そう…なのですか?」

 

「うん。私が保証する。怖いならみんなのもとにいていいよ?」

 

「は、はい……失礼します……」

 

そう言って雪乃は退出し、その部屋には女性と虹架の二人だけになった。

 

「…どうぞ、お座りください」

 

「失礼します…」

 

女性が部屋にある座布団に座ると、虹架はいつものようにお茶を3つ用意した。

 

「…粗茶ですが。」

 

「あの、これは…」

 

「…姿を現してください?そこに隠れている方。」

 

虹架がそう言うと、少し不機嫌な少年が現れた。

 

「…何故分かった。」

 

「空間の歪み方。」

 

「…やはり、貴女は凄いですね。愈史郎(ゆしろう)の血鬼術を見破るとは。」

 

「…そちらこそ、何の御用ですか?…珠世(たまよ)さん?」

 

珠世。そう呼ばれた女性は軽く微笑んだ。

 

「覚えていてくださったのですね。」

 

「えぇ、まぁ。最後に会ったのは467年前ですか。今は宝暦13年(1763年)、お互い永い時を生きてますね…」

 

「私は呪いを外すのに時間がかかりましたが…虹架さんはそうでもないのでしょう?」

 

「まぁ…私の意識が戻った時、呪いは外れたみたいなので。最後に会ってから、私は呪いを外したようなものです。」

 

「…そうですか…」

 

その言葉の後、その場に沈黙が降りた。

 

「…それで、何の御用ですか?」

 

「…虹架さん。貴女の血を、調べさせてはくれませんか?」

 

「血を?」

 

「貴女は人を喰らわずに今まで生きています。日も克服しているようですから、調べてみる価値はあると思いまして。」

 

珠世はそう言って虹架を見つめた。

 

「…珠世さん、貴女は一つ勘違いしています。」

 

「え…?」

 

「私は()()()()()()()()()()()()()()。ただし、私には“()()()()()()()()()()()()()()”、ただそれだけです。」

 

「……そう、なのですか…」

 

「…でも、太陽の光を克服する鬼が出るというのはいい予測だと思いますよ。いずれ、太陽の光を克服する鬼は出るでしょう。」

 

「…それでも、調べさせてはくれませんか。貴女の血鬼術に興味があります。」

 

「…いいですよ」

 

「感謝します…」

 

虹架が手を出すと、愈史郎はそこから小刀を使って血を抜き取った。

 

「…そういえば、珠世さんって私の血鬼術知ってるんですか?」

 

「属性を操るものではないのですか?」

 

「いや、それはそうなんですけど…私の血鬼術の本質はそこじゃないんですよ。」

 

そう言って虹架は手の先に小さい炎を生み出した。

 

「まず、知っての通り血鬼術“属性”。これは世界に存在する属性を操ることができるようになるものです。」

 

「それは、以前から持っていましたし、見たこともあるのですが…他にもあるのですか?」

 

虹架が頷くと、その炎が大きくなった。

 

「これが私のもう一つの血鬼術にして私の術の本質…血鬼術“増強”。」

 

「増…強」

 

「力でも、術でも、属性でも。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、奴に渡ったらかなり危険な血鬼術です。」

 

「…確かに、危険ですね。」

 

「この血鬼術の有用性が奴に知られなくてよかった。そう思うことが多かったです。」

 

「…」

 

その後、少しの間沈黙が続いたかと思うと、唐突に襖の開く音がした。

 

「?」

 

「…すみません、虹架さん…聞こえてしまいました。」

 

「別にいいよ?えっと…」

 

虹架が襖を開けた少年の名を思い出そうとしていると、少年が口を開いた。

 

「炭次です。“竈門(かまど) 炭次(すみつぐ)”」

 

「あぁ、炭次くん…どうかした?」

 

「…虹架さんに見せるか迷っていたものがあります。見てもらっても、いいですか?…その、そこの…珠世さんという方も一緒に。」

 

「「??」」

 

炭次といった少年は外に出て、刀を構えた。

 

「ゴォォォォ」

 

「っ、その、呼吸法は」

 

「縁壱さんの……!!」

 

「“ヒノカミ神楽 日輪神楽舞”」

 

虹架が以前、“日輪神楽舞”と名付けた日の呼吸 拾参ノ型。それが、そこには在った。その拾参ノ型を終えると、刀を納めて虹架達に向き直った。

 

「……これは、僕の家系に代々伝わる神楽なんです。僕は次男なんで、本来継承はないんですが…父さんにお願いしたら、兄と一緒に見せてくれまして。それが、この“ヒノカミ神楽”です。」

 

「…」

 

「この神楽なんですが、見せてくれた時に父さんがこんなことを言ってたんです。“この神楽は、祖先から繋いできたものだ。とある剣士と、そしてその剣士の友人のとある鬼の少女が紡いだ歴史の証。剣士の名は縁壱。少女の名は、虹架といった。詳しいことは、家にある伝承を読むといいだろう。”って。その伝承に、僕の祖先を救ってくれた剣士である継国 縁壱という名前、縁壱という方の友人である鬼縫 虹架という名前、縁壱という方が助けたという珠世という方の名前がありました。」

 

「…そうですか」

 

「その記述の中に、虹架という方と珠世という方は鬼ということが書かれていたので、もしかしたら今でも生きているかと思い、探していたのです。…数年前、鬼に襲われていた時に虹架さんに救われ、鬼殺隊の門をたたいた時。同じ名前を聞いて驚愕したものです。…すみません、今まで話せずに。決心がつきませんでした。」

 

「……あなたは」

 

虹架は沈黙ののちに口を開いた。

 

「あなたは……ううん、あなた達は縁壱くんの技を、ちゃんと継いでいってくれてたんだね。」

 

「…えぇ。」

 

「…ありがとう。私はそれが心残りだった。縁壱くんから継いだということは聞いてたけど。本当に継げているのか、私にはわからなかったから。…ありがとう。いずれそれは何かの鍵になる。」

 

「…私からもお礼を言わせてください。恩人の方の技を、もう一度この目で見ることができるなんて。」

 

珠世と虹架の感謝の言葉に炭次は首を横に振った。

 

「いえ……さっきも言いましたが僕は()()()()()()()()()()んです。この神楽を継承するのは嫡男…兄なんです。ですから、僕は虹の呼吸のみしか使わないんです。」

 

「…そっか。…珠世さん。」

 

「…なんでしょう。」

 

「私の血鬼術である“属性”と“増強”。私の血だけで使うことができるようにするので…誰かのために、使ってあげてくれませんか。」

 

そう言って虹架は爪で肌をひっかき、近くにあった瓶に血を入れた。ビンの中には、血の赤色と共にきらきら煌めく虹の色が見えた。

 

「…はい。必ず。」

 

「ありがとうございます。…炭次くん。」

 

「はい」

 

「ここ最近、虹の継承者は現れてない。多分、虹の継承者は炭次くんが最後。」

 

そう言って虹架は刀を手に持ち、呼気音を発した。

 

「完成した。…弐拾壱の型。」

 

「…これで、おわりですか?」

 

「拾壱の型が完成すれば、恐らく。…でも、完成するかな?」

 

「…わたしはそろそろ、お暇しますね。」

 

「はい。ありがとうございました。」

 

「…こちらこそ。」

 

「ふん。」

 

そう言って珠世と愈史郎は帰っていった。

 

「……炭次くん。」

 

「はい。」

 

「あと、お願いね。」

 

「…いかれるのですか?あの場所に。」

 

「うん…」

 

虹架の脳裏には、あの音が響いていた。

 

「呼んでる。縁壱くんのはずがないけど…でも。呼んでいるなら、こちらから向かわなくては失礼に値する。でしょ?」

 

「…そうですね。お気をつけて。」

 

「うん。」

 

炭次とそんな会話をした後、虹架はあの森にいた。

 

「……共鳴音は、こっちかな。」

 

虹架は高い音のする方へと歩いていく。すると一つの人影が見えた。

 

「…こんにちは。良い夜ですね?」

 

「!?」

 

人影は声のした方を見た。六つ目の、刀を帯刀する者で、真ん中の左眼に“上弦”、右眼に“壱”と書かれた者だった。

 

「…こんにちは、巌勝(みちかつ)くん。何年ぶりかな?多分、300年くらい経っていると思うけど。」

 

「貴女は……虹架殿っ!?」

 

巌勝と呼ばれた者は驚愕の表情をして虹架を見つめていた。

 

「なぜ…生きて…!?貴女は人間のはずだ、この時まで姿も変わらず生きていられるわけがない!!」

 

「なんで、か…」

 

虹架はそこでため息をついた。

 

「理由はただ一つ。私は()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ。」

 

「───っ!」

 

「変に思わなかったの?貴方が鬼になる二年前と貴方が鬼になった時。()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()。普通なら、私の姿が人間の年齢と同じなら、二年もたてば少しは変わってるでしょ?」

 

「それは……」

 

「まったく…今の今まで気がつかなかったのね。」

 

「……」

 

「…で?ここに来たのは何か理由が?」

 

「…あのお方に…鬼がいるという…この森を…調べてこいと…言われた…」

 

「…そう。それで?」

 

「あのお方は…日の克服を望んでいる……ゆえに……貴女を…連れ帰る…」

 

「…ふ~ん。いやだ、っていったら?」

 

「…力づくでも。」

 

「…そう。」

 

その言葉に虹架は刀を構えた。それに対して巌勝も刀を構える。

 

「…」

 

「ホォォォォォ」

 

「……」

 

「“月の呼吸 捌ノ型 月龍輪尾”」

 

「“虹の呼吸 漆の型 闇空突(あんくうづき)”」

 

横薙ぎの一閃と無数の紫色の刺突が交差する。その刺突の一部が、巌勝を掠った。

 

「っ…やはり……一筋縄では……いかぬ…」

 

「それはどうも!!“虹の呼吸 玖の型 蒼天彼岸花(そうてんひがんばな)”!!」

 

「なっ!?」

 

虹架が叫びと共に乱撃を始めると、周囲に蒼い彼岸花が乱れ舞った。巌勝がその彼岸花に触れると、その彼岸花が爆発を起こした。

 

「ぐっ!?」

 

「今の…無惨はまだ青い彼岸花を探してるの?こっちはもうとっくに見つけてるっての!!」

 

「なに…!?」

 

「教えないけどね!!“虹の呼吸 参拾陸の型 鮫噛砕撃(こうごうさいげき)”!!」

 

一瞬で放たれた力強い二撃。それを受けた時、巌勝は気がついた。

 

「…虹架殿………()()()()()()()()!?」

 

「呼の呼吸の奥義は“無呼吸”にある…属性使いでも難しいこの無呼吸は私以外習得できるものはいなかった!!」

 

「なんと、無茶苦茶な!」

 

「巌勝くんが言うか!!」

 

どことなく怒りながら戦っている虹架と焦りながら戦っている巌勝であった。

 

「“月の呼吸 拾肆ノ型 兇変・天満繊月”」

 

「…“虹の呼吸 伍拾玖の型───」

 

虹架がそう言った途端、森がブレた。

 

「な…!?」

 

「───三稜鏡幻惑之極(さんりょうきょうげんわくのきわみ)夢幻(むげん)”」

 

二人はいつの間にか花畑の中に立っていた。しかし、花畑の周りは炎で囲まれ、空は血のように紅く、太陽も姿を隠していた。

 

「なん…だ、これは…!?」

 

「……できた」

 

「なん…!?」

 

巌勝の驚愕の原因は、花畑を囲っていた炎。それが、巌勝に向かって襲いかかったのだ。

 

「ホォォォォ…」

 

それを、巌勝は剣技で迎え撃った。

 

「う…」

 

迎え撃った時、虹架に異変が起こる。具体的には、胸を押さえてふらついた。

 

「………行け!!」

 

しかし虹架は刀を使って体勢を直し、その虹架が一言叫ぶと周囲の花達が急成長し、巌勝に襲いかかった。

 

「ぬぅぅ…!!」

 

「ぐ…」

 

花が斬られると虹架の表情が辛そうになる。しかし花達は成長することをやめず、どんどん襲いかかる。その間に、虹架は刀に手を添えていた。

 

「…いける…いける…」

 

暗示のように呟きながら、居合の構え。

 

「シィィィィ……スーーーーー…シィィィィ……スーーーーー…」

 

独特な呼吸音。呼気は虹の呼吸のものだが、吸気は虹の呼吸のものではない。

 

「……“()の呼吸……一ノ型…!!」

 

巌勝は、虹架のしようとしていることに気付いている様子はなかった。

 

「……霹靂……一閃”!!」

 

そう叫ぶと、青い光と共に巌勝との間合いを一瞬で詰め、高速の居合が放たれた。

 

「ぬ!?」

 

「ヒュゥゥゥゥ……スーーーーー…ヒュゥゥゥゥ……スーーーーー…」

 

「それは…水の呼吸の!?」

 

「“(あお)の呼吸……一ノ…型!!」

 

「蒼の、呼吸?」

 

「水面斬り”!!」

 

そう言い放った虹架の刀からは水が吹き出していた。

 

「ぐ…なんだ、それは…!!」

 

「ゴォォォォ……シューーーーー…ゴォォォォ……シューーーーー……」

 

「まさか」

 

「“(とう)の呼吸……四ノ型……灼骨炎陽”………!!」

 

日の呼吸の肆ノ型。それを、虹架は明るい火を纏って放った。巌勝は、それを飛ぶことで回避していた。

 

「射程範囲内…“虹の呼吸 弐拾漆の型 三稜鏡幻惑之肆・歪空”!!」

 

虹架がそう叫ぶと、巌勝の周囲に空間の歪みが発生し、巌勝の姿をその場からかき消した。

 

「この森から…出てけ…」

 

そう呟き、虹架が膝をつくと、周囲の景色が森に戻り、目の前にいたはずの巌勝の姿もなかった。

 

「おわった……でも……まだ……やることがある……」

 

そう呟き、その場から立ち上がってフラフラしながらある場所まで歩いた。

 

「…ついた……活動拠点…」

 

たどり着いた場所は虹架の活動拠点。かつて、縁壱や雄哉と言葉を交わした場所。

 

「…製作記録は…これだ」

 

その机代わりの切り株の上に、三冊の本があった。一つは“七色の呼吸製作記録”、もう一つは“虹の呼吸指南書”。そして、“色彩の呼吸について”という名前の本。虹架は製作記録を手に取り、本を開いて書き込んだ。

 

「…これで、終わり。あとは…」

 

指南書を手に取り、そこに書き込んだ。

 

「……これで、よし。あの場所に、行かなきゃ」

 

瓶のような材質で作った膜に“色彩の呼吸について”という本をつつみ、三冊の本をもってフラフラしながら森の中を歩いた。その虹架を梟と鴉が追っていた。

 




愈史郎さんがいた理由は、原作15話で“二百年以上かかって鬼にできたのは愈史郎ただ一人ですから”という記述があるので、虹架がいなくなる150年くらい前なら普通にいるだろうと。まぁ空気でしたけどね。
で…流石に気になるでしょうから“三稜鏡幻惑之肆・歪空”について。

弐拾漆の型 三稜鏡幻惑之肆(さんりょうきょうげんわくのよん)歪空(わいくう)
概要 虹の呼吸にいくつか存在する“三稜鏡幻惑”と言われる技のひとつ。4つ目であるこの技“歪空”は光の屈折と属性、そして空間を操る力を利用して空間に不可視の歪みを発生させる技。殺傷力はないが見えているその空間がどの空間に繋がっているのがが分からない恐怖感がある。

まぁ、つまりは空間と空間を繋げる技なのです。それこそが、迷いの森の本質。空間を繋げ続けて永遠に迷わせる。


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第陸拾参話 謎の夢・陸

あぁぁぁぁぁ!!もう!!操作間違えで即投稿してしまったのです……
ということで書き貯めたものこれでなくなりました…丸一日の成果が……


フラフラとした足取りで虹架は縁壱が最初に来たあの日、自分の技を縁壱に見せ、縁壱の技を見せてもらったあの場所に来ていた。

 

「土よ、開いて…」

 

虹架がそう呟くと、開けた場所の土が口を開けるように寄った。

 

「…ありがとう」

 

虹架はそう言って、色彩の呼吸についてという本を土の中に置いた。

 

「閉じて…」

 

そう呟くと、土が元に戻った。

 

「……日継…夜張……」

 

「カァ?」

 

「ホゥ?」

 

ついてきていた鴉と梟が反応した。

 

「お願い……この二冊と、この手紙を、鬼殺隊に届けて…」

 

「……カァ」

 

「……ホ~」

 

「今まで、ありがとう。」

 

虹架が鴉と梟を撫でると、気持ちよさそうにした後、心配そうな目を向けた。その時、緑色に光るもの…導虫が虹架に近寄ってきた。

 

「……導虫。…最後の、お願い。もしも、私の…炭次くんより後の虹の継承者が、この森に来たら。…そしたら、この場所に、導いて。」

 

導虫はその場でふるふると揺れた。

 

「…ごめんね。もう、私は消えないといけない。奴に、ここを知られた以上。もう隠れていることはできない。」

 

「ニジカ!!」

 

「ホ~~~!!」

 

「…ごめんね。…最後に…伝えてくれるかな。……私は、幸せでした。って。」

 

その言葉に鴉と梟が頷いた。

 

「…ありがとう。」

 

そう言うと、虹架は小刀を手に取った。

 

「…鬼舞辻、無惨。後悔しろ…日を敵に回したことを……虹を敵に回したことを!!永遠に!!」

 

虹架の持つ小刀に濃い紫色の光がともった。

 

「私はもう出来ないけど……それでも、お前は絶対に許さない!!いずれ……いずれ私達の後継がお前を潰すだろう!!」

 

その叫びと共に虹架は自身の胸に小刀を突き立てた。その瞬間、どす黒いひび割れが虹架の身体を走った。

 

「………あぁ。拾壱の型が完成した…わたしは、これを技に刻む……」

 

そういったとき、指南書がひとりでに開いて光った。虹架がそれに触れると、本の光が収まり、元の状態に戻った。

 

「……ごめんなさい」

 

ひび割れが虹架の体を覆いつくしたかと思うと、刀のある場所から虹架の身体が消え始めていった。

 

「わたし……たすけられ、なかった。ごめんなさい……おねえちゃん……おにい……ちゃん…」

 

消える寸前、虹架は涙を流していた。

 

「……カァァァァァァァァァ!!!!!」

 

「ホォォォォォォォォ!!」

 

虹架が消え去ったその森に、鴉と梟の鳴き声が響いていた。…ここに、始まりの虹の命が終わりを告げたのだ。

 

 

 

その後。虹架は真っ暗な空間にいた。

 

「…ここは…死後の世界、なのかな」

 

虹架はそう呟いた。

 

「多分私は地獄に行くことが確定しているんだろうけど。…でも、なんでここに連れてこられたんだろう。」

 

「…よく、自分が死んだと確信できますね。日の下にいたわけでも、日輪刀で首を斬られたわけでもありませんのに。」

 

虹架の背後からした声。その声に、虹架は恐る恐る振り返った。

 

「…縁壱くん」

 

「どうも。お久しぶりです。」

 

「…うん、久しぶり。元気…は違うよね。」

 

「ですね。」

 

その言葉のあと、二人はしばらく黙っていた。

 

「…虹架殿。」

 

「うん?」

 

「兄が、申し訳ありません。やはり、私は貴女に迷惑をかけてしまいました。」

 

その言葉に虹架がため息をついて縁壱を見つめた。

 

「…あのね、縁壱くん。」

 

「はい」

 

「縁壱くんはもう亡くなっているんでしょ?っていうか縁壱くんが亡くなってから200年くらい経ってるからね?それなのに今まで私の心配でもしてたの?」

 

「…えぇ、まぁ。」

 

「呆れた…」

 

虹架は頭を押さえた。

 

「縁壱くんが生きてるときも言ったよね?私達は神様なんかじゃないんだよ?ただの人間に全部背負えるわけないでしょ。」

 

「…それは、そうかもですが。ですが、貴女に迷惑をかけたのは変わりません。」

 

「でも、その迷惑をかけたのは巌勝くんであって縁壱くんじゃないでしょ?」

 

「…それは、そうかもですが。」

 

「確かに、森に来たのが巌勝くんで、そのせいで私は消えないといけなくなったけど。それは私に訪れるべき“終止符を打つ時”だったんだよ。最近、虹の継承者も少なくなってきたからね。」

 

「……そう、ですか…」

 

「だから気にしないでいいんだよ。私は私の人生に満足だったし。…まぁ、人生っていうか鬼生…かもしれないけど。」

 

そう言って虹架は微笑んだ。

 

「……あの、虹架さん。」

 

「うん?」

 

「最後に虹架さんが使った技は…なんですか?貴女が死ぬときに使った、あの技は。」

 

「…あぁ、あれ?あれか~…」

 

虹架は言いにくそうに悩む声を上げた。

 

「…秘密、かな。多分、縁壱くんから見れば私らしくない技だから。でも、私はあの技で死なないといけなかった。」

 

「…というと?」

 

「私の血鬼術と記憶を奴に渡すわけにはいかないから。森の中は日の光が通りにくいし、日の光で死ぬにしてもあの時間じゃ無理。だから私はあの技を使ったの。…鬼を呪い殺せる、あの技を。」

 

「呪い、ですか…確かに、虹架さんらしくないですね。」

 

「でしょ?だから、あの技は指南書に記してない。もしも、あの技がまた使われるとすれば……技の記憶を読める子くらいじゃないかな?」

 

「…そうですか。」

 

そう縁壱が言ったとき、炎に囲まれた空間の裂け目が現れた。

 

「…あ、地獄への門が開いたみたい。」

 

「…あの、虹架さん。」

 

「うん?」

 

「……もしも、生まれ変われたら…どうしたいですか?」

 

「生まれ変われたら、か…」

 

その言葉に虹架が悩みの声を上げた。

 

「…そうだな。また、縁壱くんと会いたいかな?」

 

「え…」

 

少し困惑している様子の縁壱に、虹架は笑いかけた。

 

「その時は、うたちゃんにも会ってみたいな。縁壱くんの奥さんの、ね。」

 

「うたに……」

 

「……だめ、かな?」

 

その心配そうな声に縁壱は首を横に振った。

 

「いえ……うたと、虹架さんが嫌でなければ。私とうたの子になるはずだった子にも、会って貰いたいです。」

 

「うん、いいよ。…願わくば、鬼のいない世界に生まれ変われますように。」

 

「…そうですね。」

 

「…じゃ、またね。縁壱くん。」

 

「はい、また。虹架さん。」

 

その言葉を聞いた虹架は炎に囲まれた空間の裂け目を通った。

 

「…本当に、ありがとうございました。」

 

縁壱のその呟きは、誰にも聞かれることはなかったという。

 

 

 

 

 

「っ!!」

 

その日。香は蝶屋敷で跳び起きた。

 

「……なんだろう。凄く、長い夢を見た気がする。」

 

そう呟き、香は手を振る。すると、()()()()()()()()

 

「…1915年、10月25日、4時30分。私が寝てたのは2時間くらいなのに、すごく長い夢だった気がする。」

 

香は板を消し、目を閉じて精神通話を繋げた。

 

『妹紅さん、起きてます?』

 

『はい。起きてますよ。どうかしました…?』

 

心配そうな妹紅の声がする。それに対して、香は言葉を返した。

 

『…妹紅さん、私が寝る前、私に夢を見せる能力を使いましたか?』

 

『え…?いえ、使っていませんが…』

 

『……そう、ですか。すみません。』

 

『いえ…』

 

その言葉が聞こえると同時に精神通話を切った。

 

「…妹紅さんじゃ、ない。なら、今の夢は一体…」

 

香はそう呟いていた。

 

 

───そのころ

 

 

 

仁もまた、布団の上で目覚めていた。

 

「…今の夢は、一体…」

 

そう呟き、自分の手を見つめていた。

 

「…虹の呼吸……鬼縫 虹架……一体、あれは何だったんだ…?」

 

仁はそう呟いたが、解答はどこからも帰ってこなかった。

 




…はい、これにて謎の夢は終了です。六話も使ってしまい申し訳ありませんでした。
次回からは現実の方に戻ります。え~っと…カナエさん治療したからあと何すればいいんだっけ…


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虹の呼吸指南書

謎の夢も終わりましたので虹の呼吸指南書の中身を公開します。
とはいえ、虹の呼吸の指南書にしか書かれていないことだけですのでまだ隠されているものはあります。


虹の呼吸

概要 別名“七色の呼吸”。技を放つときに特定の光と属性を放つのが最も大きい特徴。呼吸音は“スーーーーー”という呼気音と“シューーーー”という呼気音の二種類。これは技に速さを乗せるか重さを乗せるかで切り替えるのだという。この呼吸に属性が存在しているのは本編開始の150年程前に鬼殺隊にいた鬼、虹柱“鬼縫 虹架(きほう にじか)”が作り出した呼吸だからである。虹の呼吸の適性者は総ての呼吸に適性を持ち、日輪刀は虹色になる。なお、壱の型から漆の型は“表の虹”と呼ばれ、拾弐の型から拾捌の型は“裏の虹”と呼ばれている。指南書の一番最初には“無想の領域へ達せ。これ即ち吸を使わず呼を使う秘伝なり”と記述されている。そして、その一番最後に“虹柱 鬼縫 虹架”と“日の呼吸 継国 縁壱”と記されていた。ちなみに、あまり知られてはいないが鬼殺隊の中でたまに“第二の始まり”と呼ばれている呼吸は虹の呼吸の事である。

 

零の型 起源(きげん)

概要 詳細不明。技名とたった一言のみが記され、どのような効果があるかが文献では不明な技で、他のどの呼吸にも存在していない型の片割れである(ぜろ)の型と呼ばれる技。文献には“全ての虹を修めた時、真の意味が分かるであろう”とある。

 

壱の型 紅蓮(ぐれん)

概要 纏った炎によって焼きながら空間を抉る技。光の色は赤。属性は炎。

 

弐の型 陽炎一閃(かげろういっせん)

概要 淡い光(属性)を纏った刀で揺らしを加えた振り方で相手に錯覚を起こさせた状態でその錯覚の刃で切りつける技。光の色は橙。属性は光。

 

参の型 雷鳴轟(らいめいとどろき)

概要 纏った雷と共に神速の居合斬りを放つ技。光の色は黄。属性は雷。

 

肆の型 轟風(とどろくかぜ)

概要 纏った風と共に空中から打ち落とすような斬撃を連続で繰り出す。光の色は緑。属性は風。

 

伍の型 静川流(しずかかわながれ)

概要 纏った水と共に敵に攻撃に合わせ、それをいなすことで攻撃の衝撃をやわらげる技。光の色は青。属性は水。

 

陸の型 大岩砕(おおいわくだき)

概要 超高所から刀を地面等に打ち付けて地面を破壊、その時に砕け散った破片を攻撃とする技。光の色は藍。属性は石。

 

漆の型 闇空突(あんくうづき)

概要 纏った闇と共に一突きで無数の刺突を広範囲に放つ技。光の色は紫。属性は闇。

 

捌の型 三稜鏡幻惑之壱(さんりょうきょうげんわくのいち)惑地(まどいち)

概要 虹の呼吸にいくつか存在する“三稜鏡幻惑”と言われる技のひとつ。1つ目であるこの技“惑地”は光の屈折を利用して相手に自身がいる位置を誤認させる技。三稜鏡とは“プリズム”のことである。属性は幻。

 

玖の型 蒼天彼岸花(そうてんひがんばな)

概要 乱撃とともに蒼い彼岸花を撒き散らす技。撒き散らされた彼岸花一つ一つが攻撃属性を持っており、触れると花が爆発してダメージを受ける。属性は花。

 

拾の型 胡蝶千切翅(こちょうちぎればね)

概要 変則的に移動し、相手を翻弄する技。攻撃ではなく回避系統の技に当たる。属性は虫。

 

拾壱の型 鬼刃(きじん)心音虹架(こころねにじか)

概要 詳細不明。技名のみが記され、どのような効果があるかが文献では不明な技。属性は想。

 

拾弐の型 獄炎乱舞(ごくえんらんぶ)

概要 紅蓮よりも強い炎を纏って乱れ舞う技。不規則な動きをするために動きの予測は難しい。属性は炎。

 

拾参の型 閃光翔(せんこうかける)

概要 強い光を放ちながら光かと思える程の早さで翔け抜ける技。直線的な動きではあるが速さと光によって対応できない可能性が高い。属性は光。

 

拾肆の型 雷神槌(らいじんのつち)

概要 雷神が持っていたと言われる槌のごとき重みと雷を持つ技。刀身を常に強い電気が這っているため、刀身に触れれば基本的に気絶する。属性は雷。

 

拾伍の型 神風絶閃(かみかぜぜっせん)

概要 神のごとき風の威力を持つ斬撃を一瞬で遠くまで放つ技。刀身には強い風が巻き付いており、気を抜けば使用者本人ですらその風に吹き飛ばされない危険な技。属性は風。

 

拾陸の型 激流破砕(げきりゅうはさい)

概要 荒々しい激流のごとき威力で激しく刀をぶつける技。刀身には激しい水流が巻き付いているが、技の威力の関係上、刀を破損させる危険性が最も高い技。属性は水。

 

拾漆の型 岩斬両断(がんざんりょうだん)

概要 岩を両断する程に鋭く精密な一撃を放つ技。裏の虹の中で最も地味だがその威力は激流破砕を越える。属性は石。

 

拾捌の型 宵闇剣(よいやみのつるぎ)

概要 無数の斬撃を深い闇の中に隠して飛ばす技。飛ばされた攻撃は闇を纏った1つに見えるのだが、闇の中に無数の斬撃が隠れており1つを防いだとしても隠れていた斬撃が相手を襲う初見殺しの技。属性は闇。

 

拾玖の型 三稜鏡幻惑之弐(さんりょうきょうげんわくのに)隠刃(かくしば)

概要 虹の呼吸にいくつか存在する“三稜鏡幻惑”と言われる技のひとつ。2つ目であるこの技“隠刃”は光の屈折を利用して相手から自分の武器を隠す技。三稜鏡とは“プリズム”のことである。属性は幻。

 

弐拾の型 太陽七虹(たいようのななにじ)

概要 自身を中心に半円の弧を描く斬撃を7つ放つ技。外側に放射状に広がって行くため防御用の技に当たる。属性は光。

 

弐拾壱の型 巡刃(じゅんじん)虹架橋(にじかけばし)

概要 詳細不明。技名のみが記され、どのような効果があるかが文献では不明な技。属性は想。

 

弐拾弐の型 太陰七虹(たいいんのななにじ)

概要 相手を中心に半円の弧を描く斬撃を7つ放つ技。太陽と違ってこちらは内側に集束するように狭まっていくため攻撃用の技に当たる。属性は闇。

 

弐拾参の型 三稜鏡幻惑之参(さんりょうきょうげんわくのさん)空蝉(うつせみ)

概要 虹の呼吸にいくつか存在する“三稜鏡幻惑”と言われる技のひとつ。3つ目であるこの技“空蝉”は光の屈折と属性を利用して幻を生成し、相手を惑わせる技。幻には生成した当時の状態を刻むことができ、幻に自分の身体の異常を書き込んで自分の異常を取り去る呪い人形のような使い方もできる。三稜鏡とは“プリズム”のことである。属性は幻。

 

弐拾肆の型 狂音振(きょうおんしん)

概要 刀を振るった時に高い周波数の音を発することで相手の感覚を狂わせる技。属性は音。

 

弐拾伍の型 冰界(ひょうかい)永久凍結(えいきゅうとうけつ)

概要 強い冷気を放って周囲一帯を氷の世界にする技。範囲は調整可能で、温度は低温で死ぬことはない程にまで調整されているが身体の動きは鈍る。属性は氷。

 

弐拾陸の型 薄影縫閃(はくえいぬいせん)

概要 影を薄くして相手から見えなくしてから密かに一撃を放つ技。牽制用の技でもあるため威力は弱い。属性は影。

 

弐拾漆の型 三稜鏡幻惑之肆(さんりょうきょうげんわくのよん)歪空(わいくう)

概要 虹の呼吸にいくつか存在する“三稜鏡幻惑”と言われる技のひとつ。4つ目であるこの技“歪空”は光の屈折と属性、そして空間を操る力を利用して空間に不可視の歪みを発生させる技。殺傷力はないが見えているその空間がどの空間に繋がっているのがが分からない恐怖感がある。三稜鏡とは“プリズム”のことである。属性は幻。

 

弐拾捌の型 聖刃(せいじん)

概要 聖なる光を纏って一撃を入れる技。この攻撃を受けた相手は傷がつくのではなくなんと傷が癒える。それはこの聖なる光が生者にとって癒しの力を持っているからである。属性は聖。

 

弐拾玖の型 鉄鋼身撃(てっこうしんげき)

概要 その身を鉄のように硬化し、そのまま体当たりする技。その硬化した身は下手すれば鉄よりも硬いと言われる。属性は鉄。

 

参拾の型 銅操殺(どうそうさつ)

概要 純粋な銅の粉末を纏った刀で一撃を入れる技。“殺”とついているが殺すための技ではなく、治療を目的とした技。一撃を入れたときに付着した銅の粉末が対象の身体の中に入り込み、“殺菌”を行ってくれる。入りこんだ銅は銅操殺の使い手の指示で動かすことができ、名前の通り殺すことも可能。属性は銅。

 

参拾壱の型 未知斬(みちぎり)

概要 刀を振るった後に一定時間その場に見えない斬撃を残す技。その実態は時間に干渉して未来を斬るというもの。属性は想。

 

参拾弐の型 退銀剣(たいぎんのつるぎ)

概要 銀を纏った刀での乱撃を放つ技。纏った銀が魔に対して強い退魔作用を持ち、魔がこの攻撃を食らうと焼け付くような痛みに襲われる。属性は銀。

 

参拾参の型 研磨合金(けんまごうきん)

概要 合金を纏った刀を別の金属に打ち付けることによって研磨する技。かなりの力で打ち付けるため、普通に攻撃として使用可能。属性は金。

 

参拾肆の型 古樹留根(ふるきとめね)

概要 木の力を纏った刀を突き刺し、そこから動けなくする技。刺されている間は強く根を張る木のように動かない。属性は木。

 

参拾伍の型 木葉針貫(こばしんかん)

概要 針のように硬く鋭い葉を飛ばし、相手を貫く技。属性として生み出した葉の他、自然に存在する葉も使用可能。属性は葉。

 

参拾陸の型 鮫噛砕撃(こうごうさいげき)

概要 鮫のように噛み砕くような二撃を一瞬で放つ技。その威力は大岩砕と同等のものを2回放つ。属性は魚。

 

参拾漆の型 三稜鏡幻惑之伍(さんりょうきょうげんわくのご)撃逸(うちそらし)

概要 虹の呼吸にいくつか存在する“三稜鏡幻惑”と言われる技のひとつ。5つ目であるこの技“撃逸”は光の屈折の概念を利用してどんな攻撃でも逸らしてしまう技。なお、三稜鏡幻惑の中でもこの技のみ属性が幻ではない異質な技。三稜鏡とは“プリズム”のことである。属性は晶。

 

参拾漆の型 既知斬(きちぎり)

概要 刀を振るい、相手を遠方から攻撃する技。その実態は時間に干渉して過去の情報を斬り、その情報を現在に反映させるというもの。属性は想。

 

参拾捌の型 三稜鏡幻惑之陸(さんりょうきょうげんわくのろく)空身(からみ)

概要 虹の呼吸にいくつか存在する“三稜鏡幻惑”と言われる技のひとつ。6つ目であるこの技“空身”は光の屈折と属性を利用して自身を幻影とする技。この技を発動している最中は一切の攻撃が効かなくなるが、かなりの精神力を使うため長時間の使用はできない。三稜鏡とは“プリズム”のことである。属性は幻。

 

参拾玖の型 虚構剣(きょこうのけん)

概要 別名“偽りの剣”。文献曰く“自身が扱った攻撃の何もかもが偽り也。”そんな記述がなされていた正体不明の技。属性は虚と記述されていた。

 

肆拾の型 事実剣(じじつのけん)

概要 別名“真実の剣”。文献曰く“偽りの剣と相反するもの。自身が扱った攻撃の何もかもが真実也。”そんな記述がなされていた正体不明の技。他の型と違いこの技のみ属性が記述されていなかった。

 

肆拾壱の型 虹ノ架橋(にじのかけはし)(せい)

概要 表の虹を繋げて放つ技。加えて強い光属性を持つ。属性は“光の七色”と記述されていた。

 

肆拾弐の型 虹ノ架橋(にじのかけはし)(ぎゃく)

概要 裏の虹を繋げて放つ技。加えて強い闇属性を持つ。属性は“闇の七色”と記述されていた。

 

肆拾参の型 日虹(にっこう)(せい)

概要 虹色に輝いた刀を上方向へ広がる半円の弧を描く斬撃を行う技。属性は光の七色。

 

肆拾肆の型 日虹(にっこう)(ぎゃく)

概要 虹色に輝いた刀を下方向へ広がる半円の弧を描く斬撃を行う技。属性は光の七色。

 

肆拾伍の型 月虹(げっこう)(せい)

概要 虹色に輝いた刀を上方向へ広がる半円の弧を描く斬撃を行う技。日虹・正よりも光は弱いが威力が高い。属性は闇の七色。

 

肆拾陸の型 月虹(げっこう)(ぎゃく)

概要 虹色に輝いた刀を下方向へ広がる半円の弧を描く斬撃を行う技。日虹・逆よりも光は弱いが威力が高い。属性は闇の七色。

 

肆拾漆の型 星虹(せいこう)(せい)

概要 虹色に瞬く刀を上方向へ広がる半円の弧を描く斬撃を行う技。日虹・正よりも光は曖昧だが威力が高い。属性は闇の七色。

 

肆拾捌の型 星虹(せいこう)(ぎゃく)

概要 虹色に瞬く刀を下方向へ広がる半円の弧を描く斬撃を行う技。日虹・逆よりも光は曖昧だが威力が高い。属性は闇の七色。

 

肆拾玖の型 三稜鏡幻惑之漆(さんりょうきょうげんわくのなな)分身(ぶんしん)

概要 虹の呼吸にいくつか存在する“三稜鏡幻惑”と言われる技のひとつ。7つ目であるこの技“分身”は光と属性を利用して自身の分身を生み出す技。この技は制御が大変難しいためあまり使用はおすすめしない。三稜鏡とは“プリズム”のことである。属性は幻。

 

伍拾の型 三稜鏡幻惑之捌(さんりょうきょうげんわくのはち)絶影(ぜつえい)

概要 虹の呼吸にいくつか存在する“三稜鏡幻惑”と言われる技のひとつ。8つ目であるこの技“絶影”は光と属性と併用して視認が難しい程の速度で動き、実体のある残像を残すもの。この技は分身の発展系とも言える。三稜鏡とは“プリズム”のことである。属性は幻。

 

伍拾壱の型 三稜鏡幻惑之玖(さんりょうきょうげんわくのきゅう)幻影(げんえい)

概要 虹の呼吸にいくつか存在する“三稜鏡幻惑”と言われる技のひとつ。9つ目であるこの技“幻影”は光と属性を利用して実体のある幻影を作り出し、かつ使い手の指示で幻影の操作ができる。この技は分身の更なる発展系とも言える。三稜鏡とは“プリズム”のことである。属性は幻。

 

伍拾弐の型 三稜鏡幻惑之拾(さんりょうきょうげんわくのじゅう)万華鏡(まんげきょう)

概要 虹の呼吸にいくつか存在する“三稜鏡幻惑”と言われる技のひとつ。10つ目であるこの技“万華鏡”は鏡、光、属性の特徴を利用して無数に煌めく世界の中に閉じ込めてしまうもの。使い手によって世界の中の風景は違う。三稜鏡とは“プリズム”のことである。属性は幻。

 

伍拾参の型 三稜鏡幻惑之零式(さんりょうきょうげんわくのぜろしき)心音(こころね)

概要 虹の呼吸にいくつか存在する“三稜鏡幻惑”と言われる技のひとつ。零式と呼ばれるこの技“心音”は初代虹の呼吸の使い手である“鬼縫 虹架”の心の中に存在していた世界へと誘う技。三稜鏡とは“プリズム”のことである。属性は幻。

 

伍拾肆の型 地読歴(ちどくれき)

概要 技を使った場所に刻まれた歴史を読み取る技。読み取った歴史をもとに目的の地点までの動向を探ることができる。属性は土。

 

伍拾伍の型 浮地(ふち)

概要 地面の一部を浮き上がらせることができる。精神力を使うためあまり長時間使用は推奨されない。属性は土。

 

伍拾陸の型 接地変換(せっちへんかん)

概要 重力の大きさを一定時間変更する技。接地となっている理由は重力の向きまで変更できるため。属性は土。

 

伍拾漆の型 夜天(やてん)

概要 一時的にであるが空の状態を“夜”に変える技。偽りの月であるために夜に生きるものなどはほとんど本来の力を出すことができない。属性は闇。

 

伍拾捌の型 昼天(ちゅうてん)

概要 一時的にではあるが空の状態を“昼”に変える技。偽りの太陽であるために鬼を滅する効果はないが、鬼の弱体化は可能。属性は光。

 

伍拾玖の型 三稜鏡幻惑之極(さんりょうきょうげんわくのきわみ)夢幻(むげん)

概要 虹の呼吸にいくつか存在する“三稜鏡幻惑”と言われる技のひとつ。極と呼ばれるこの技“夢幻”は使い手の心の中に存在している世界に誘うもの。使い手によってその世界の内部に何があるかは変化する。さらにこれは“鬼縫 虹架”が死の淵でないとき、最後に完成させた虹の呼吸である。三稜鏡とは“プリズム”のことである。属性は幻。

 

極の型 想刃(そうじん)心音虹架(こころねにじか)

概要 詳細不明。技名のみが記され、どのような効果があるかが文献では不明な技で、他のどの呼吸にも存在していない型の片割れである極(きわみ)の型と呼ばれる技。属性は想。

 




舞の型とか書いてないんですよね…指南書には。
あと気がつく人は気がつくと思いますが、別作品の技を元にした技も入ってます。タグには追加してませんが。
…ちなみに、虹架が巌勝さん相手に使った伍拾玖の型はわざと不完全な状態にし、世界が攻撃されると自分の“心”にダメージが行くようにしてあったものです。ですから炎を斬られた時や花を斬られた時にダメージが虹架に返ってきて辛そうな表情をしてたのです。本来の使い方をすれば心にダメージに行くことはないです。


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第陸拾肆話 静かな夜に響く歌声と音に合わさる剣舞

なんか今回の話書くの辛かったです……
六十四話、時間は1915/11/24から。音に合わさる剣舞……さて、この言葉だけで分かる人はいるのでしょうか?


 

夜。蝶屋敷の縁側で、香が夜空を見上げていた。

 

「……お店を空け始めてから1ヵ月……こっちに悪鬼たちは出ないし、どうしたらいいかな……」

 

香達が蝶屋敷に来てから、既に1ヵ月が経過していた。香と仁は既に課せられた訓練を終了しており、鈴と花も既に終了間近になっている。問題は咲と奏の方で、炭治郎達と同じようなペースで進んでいるのだ。

 

「凛音や雫鞠さんにも色々教えてるけど…やっぱり仁の成長速度早いんだよね……はぁ……」

 

ため息をついた香は、手を振って青い板を出した。

 

「……久しぶりに、あれをやろうかな」

 

そう呟き、香が青い板の上で指を滑らせると、香の足元に二振りの片手直剣が現れた。片方は緑、もう片方は白だ。

 

「…久しぶりに、よろしくね。」

 

香はその剣を手に持ち、軽く構えた。

 

…──────── ────♪…

 

そして、香は歌い始める。周囲一帯に響く高音で、しかし声量は小さく。とある魔法を起動させたまま、歌の律動を───リズムを読み取り、自身の動きに反映させる。

 

 

 

───少しして、蝶屋敷内

 

 

 

「…ん」

 

カナエが、ふと目を覚ました。

 

「…夜、か……以前だったらこの時間は鬼と戦ってたと思うんだけど……戻さないと……」

 

カナエがそう呟いた時、カナエの耳が何かをとらえた。

 

「…?何か、聞こえる?」

 

「……

 

「これは……まさか、鬼?」

 

カナエはベッドから降り、置いてあった刀を持って音のする方へと向かった。

 

「…───

 

「……歌声?」

 

途切れ途切れだが確かに聞こえるその声。それは、かなり高音で、しかし声が小さい歌だった。

 

「…場所は縁側、かな?そういえば、善逸君が寝てる間にたまに綺麗な声がする、って言ってたけど…もしかしてこれのこと?」

 

カナエは警戒しながら縁側へと歩を進めていく。もしも鬼で、話も通じないようだった場合は即座に頸を斬れるように。

 

─── ────♪ ──── ───────♪…

 

「…聞いたことない言葉…そして、あそこにいるの…香さん?」

 

縁側が見える場所に来たカナエが見たのは、二振りの剣を自由自在に操る香の姿だった。

 

──────── ───…

 

その時に香がカナエの方を見た、気がした。

 

─────…

 

「?」

 

────

 

「っ!?」

 

その言葉が香が緩やかに笑って紡がれた瞬間、カナエの背筋に冷たいものが走り、その場に崩れ落ちた。

 

「なに、いま、の……」

 

冬であるために肌寒いのは事実だが、問題はそれではない。

 

「……こわ、い」

 

恐怖。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「香さんって…いったい、なにもの…なの…?」

 

1ヵ月前、カナエは香に治療してもらい、暫くの休養を経て今の状態まで戻った。確かに1年以上の鬼狩りとしての休養期間があったとはいえ、先日任務でしのぶと共に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。それが、鬼よりも危険には見えない今の彼女に、恐怖した。治療の時は本当に優しい印象であったのに、だ。

 

「……震えが、収まらない。なんで……香さんは、危険じゃないはずでしょ……!?」

 

この時、カナエは知らなかった。

 

その震えが、香が無意識に発動させた“音に関係する魔法”から来るものであると。そして香はその魔法が得意魔法であると。……さらに、今蝶屋敷にいる中で、()()()()()()()()()()()()()、ということを。

 

そして、香自身も気づいていなかった。

 

その魔法の範囲内に、カナエを巻き込んでいたことを。魔法の出力調整を間違えて“歌詞の感情”が範囲内の存在に流れるようになっていたことを。そしてなにより、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()を。

 

感情を伝える音の魔法と感情を伝える歌声。その二つが重なり、カナエに対し強い恐怖の感情を与えていた。もしも片方だけならば、カナエはここまで恐怖しなかったかもしれない。

 

「……ぁ。収まってきた…」

 

暫くするとカナエの震えが収まり、その場で立ち上がった。

 

「……まだ少し怖いけど……」

 

カナエは歌を止めて剣を振っている香に近づいた。香は気がついた様子もなく剣を振り続け、振っている最中に香がカナエの方を向いた時、その眼をカナエは見た。

 

「…えっ?」

 

()()()()()()()()。両目とも黒だったはずの香の眼の色が、変化していた。

 

「見間違い、じゃないよね…」

 

そう言っている間に香はカナエから視線を外し、元の方向を向いて剣を振り抜いた状態で停止した。その後、気力が切れたように腕を下に向けたのを見て、カナエは手を叩いた。

 

「っ…」

 

香は肩を震わせてからカナエの方を向いた。

 

「…カナエ、さん。」

 

「こんばんは。…つい、貴女の剣舞が綺麗だったから。」

 

「…いつから、そこに?」

 

「少し前から、かな?」

 

「…そう、ですか」

 

そう言って地面に二振りの剣を突き刺し、縁側に座った。

 

「…何か、ご用ですか?」

 

「ううん、別に……ただ、起きたら声が聞こえてきたから。その場所に向かったら香さんがいただけ…かな?」

 

「そうですか…」

 

香はため息をついて夜空に浮かぶ月を見上げた。カナエはその香の隣に座る。それに気がついた香がカナエの方を見るが、すぐに月を見上げた。そしてカナエは、その香の眼が両方とも黒色であることを確認していた。

 

(…目の色の変化…気になるけど、教えてくれるものなのかな…?)

 

そう思いながら香を見つめていると、その視線に気がついたのか香がカナエの方を向いた。

 

「…何か、聞きたいことでも?」

 

「あ…っと…」

 

カナエは言葉に詰まり、やっと出たのは次の言葉だった。

 

「さっき歌ってたの……あれなんていう歌なの?」

 

「え…あぁ、あの歌ですか…あれは…」

 

そこまで言って香は言葉を止めた。カナエが首を傾げると、香は頭を振って申し訳なさそうな顔で言葉を発した。

 

「すみません、教えられません…」

 

「え…」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んです。」

 

「未来……?」

 

香はその聞き返しに頷いて立ち上がった。

 

「あ、どこかいくの?」

 

「剣を持ってくるだけです。」

 

香はそう言って地面に刺さっていた二振りの剣を抜いて縁側に戻ってきた。

 

「…ね。さっき、何してたの?」

 

「え…あぁ、音を斬ってたんです。」

 

「音…」

 

「歌や音に合わせて流れる譜面。それを正確に切断していたんです。」

 

香がそう言うと、カナエがきょとんとしてからクスリと笑った。

 

「香さん、宇随くんと同じようなことを言うのね。」

 

「宇随…?」

 

「宇随くん……音柱の。」

 

「音柱…あぁ、あの派手な人ですか?」

 

「派手な人って……いや、その通りだけど。」

 

宇随に対しての印象が何だかなぁ、と思うカナエであるが香からしてみれば本当にその程度の印象しかないのである。

 

「…それで、その宇随さん?がどうしたのですか?」

 

「宇随くんね…“譜面”っていう独自の戦闘計算式を持ってるのよ。少し教えてもらったけど…敵の攻撃動作の律動を読んで音に変換、それで癖や死角も分かる…んだとか。」

 

「…なるほど」

 

「ね。もしかして、香さん…」

 

「話を遮るようで悪いのですが、その香さんっていうのやめてもらえませんか」

 

「……じゃあ、香ちゃんで。香ちゃんって、宇随くんと合うんじゃないかな?」

 

カナエがそう言うと、香は少し考えこむような表情になった。

 

「…宇随さんという方の戦い方を見たことがないので何とも言えませんが……確かに気になる気はしますね。ちなみにさっきのはただただ遊んでただけですよ」

 

「……え、あれ遊びなの?凄い激しかったけど」

 

「あれで遊びです。」

 

そう言って香は剣の片方の柄をカナエに向けた。

 

「やってみます?」

 

「でも…私は宇随くんみたいに譜面の戦闘計算式は持ってないよ?」

 

「別に持ってなくても出来る奴ですけど…」

 

「…じゃあ、やってみようかな?おすすめのある?」

 

「あるといえばありますけど……難しいですよ?」

 

「なんでもいいよ。」

 

カナエは香から剣を受け取った。

 

「隣で私も同じのやってますからね」

 

そう言って香は柵の方を向き、剣を構えた。慌ててカナエも立ち上がり、柵の方を向いて剣を構える

 

「…じゃあ、始めますよ」

 

 

 

4分後

 

 

 

そこには汗をかいて地面に倒れかけているカナエとそれを苦笑いしながら見ている香がいた。

 

「……難しい」

 

「あ、あはは……流石に初見Grievousはあれだったかな……?

 

香が小声でつぶやいていたが、それはカナエの耳には入らなかった。

 

「なんであんな譜面をあんな楽しそうにできるのっ!?同じ難しさだよね!?」

 

「慣れてますから…」

 

「うそでしょ……」

 

カナエが脱力してそのまま地面に倒れる…寸前に香がカナエを受け止め、縁側に寝かせた。

 

「とりあえず休んでおいてくださいな。流石に初心者にやらせる難易度じゃなかった…」

 

そう言って香はカナエの使っていた剣を回収し、再び二刀流で剣を振り始めた。

 

「…ん、起動」

 

香がそう呟くと剣が光を帯び、それを構えたまま足で地面を三回たたいた。

 

強くなれる理由を知った 僕を連れて進め

 

「凄い…」

 

香の乱舞を見て、カナエはそう呟いた。

 

「…なれるかな?誰かを守れる人に、もう一度…」

 

泥だらけの走馬灯に酔う こわばる心

 

「…香ちゃんは、なんであんなに強いんだろう。他の人とは違う力があるっていうだけでそれ以外はただの十三歳の女の子のはずなのに。」

 

カナエの疑問はもっともである。異世界人であり、他の人とは違う力があるということを除けば香でもただの少女に過ぎない。自分に違う力があることを知り、それを完全に制御できているのなら。ならば、香は強く在る必要はなかったはずだ。

 

震える手は掴みたいものがある それだけさ

 

「…聞いて、みようかな。この歌が終わったら。」

 

夜の匂いに(I’ll spend all thirty nights) 空睨んでも(Staring into the sky)

 

「…それにしても、歌い方すごくない?…っていうか、声がどんどん変わってる」

 

カナエの呟いたとおりだ。女性に近い声から男性に近い声。カナエは知らないが日本語文と英語文で声を瞬時に切り替えている。

 

「…すごいなぁ」

 

 

 

大体4分後

 

 

 

香が剣を切り払って地面に突き刺した。

 

「…これで終わり、かな。」

 

「すごかった…」

 

「ありがとうございます」

 

香はそう言って剣を消した。

 

「…ねぇ、香ちゃん」

 

「はい?」

 

「なんで香ちゃんは、そんなに強いの?」

 

「…」

 

その質問に香はため息をついた。

 

「私は強くありませんよ。」

 

「嘘だよ。香ちゃんは強いよ。」

 

その言葉に香は首を横に振った。

 

「私より強い人はいくらでもいます。恐らく仁は私が本調子の状態でも勝つことができるほどまで成長するでしょうし。」

 

「…でも、かなり強いのは変わらないでしょ?」

 

「…………はぁ。」

 

香が間を置いてからため息をついた。

 

「……何が聞きたいんですか?」

 

「う~ん…香ちゃんが強く在る意味?かな?」

 

「私が…強く在る意味?」

 

「理由、って言った方がいいかもしれないけど。」

 

「…強く在る理由、ですか。」

 

そう呟いた時、香は空に輝く月を見上げた。

 

「…そうですね。必要に迫られて、でしょうか?」

 

「必要に迫られて?」

 

「…はい。私は……を護るために、……を教えるために、力を持たなければならなかった。」

 

「え?」

 

「……何でもありません」

 

カナエが見た香の表情は、酷く辛そうな表情だった。

 

「香ちゃん……貴女って本当に、何者なの…?」

 

「…私が何者か、ですか。」

 

「さっきの歌といい、さっきの譜面といい。異世界人っていうことは知ってるけど……それだけじゃ、ない……よね?」

 

カナエは香をまっすぐと見つめてそう聞いた。その言葉に香がため息をついた。

 

「……さすがに、隠し通せないですかね?」

 

「いくらなんでも不自然すぎるよ。咲ちゃんや奏ちゃんに聞いたけど、貴女達のいた世界は文化がこことほとんど一緒……ううん、言ってしまえばこの世界よりも前の時間なんでしょ?」

 

「…」

 

「香ちゃんは、私が来た時に聞いてた曲のことをいう時に、“未来”って言った。それは、この世界の結末を知っているってこと。“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思う。」

 

「……なるほど。」

 

「…ねぇ。香ちゃんは何者なの?」

 

その言葉に香は深くため息をついた。

 

「…まず、一つ訂正です。」

 

「え?」

 

「確かに、私は“未来”を知っています。ですが、()()()()()()()()()()()()辿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「…どういうこと?」

 

「…その前に、一つ約束してください。」

 

香がカナエの目をまっすぐに見つめた。

 

「絶対に、この話を誰にもしないこと。私にとってこの話は、あまり他人に話したくないものなのです。そしてこの話は、本来なら私が覚悟できた時点で鬼殺隊の皆さんに明かすつもりだった話。ここでもすべてを話すつもりはないですが、貴女の疑問に答える点だけ、お話しします。理由は、長引いて他の人に聞かれるのが嫌だからです。…いいですか?」

 

「…わかった。それで、何者なの?」

 

「…簡単な話ですよ。私は、この世界でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()です。」

 

「え…」

 

香が言ったその言葉にカナエは言葉を失った。

 

「じゃあ、香ちゃんのご家族は…灯純さんは!?」

 

カナエの治療ができてから、灯純が蝶屋敷を訪れたことはある。香が“お父様”と呼んでいたため、父なのだと思っていたのだ。

 

「お父様は…灯純さんは、あの世界に落ちた私を拾ってくれた方です。…私の本当の家族は遠く離れた場所にいます。この世界にも、あの世界にも私の本当の家族は……いません。」

 

「…鈴ちゃんは?」

 

そう聞かれた時、香は頭をガクッと落とした。

 

「いや、あの……付き合っているとはいえ結婚も何もしてないんですよ!?それで本当の家族……姓も同じ家族だと言えますか!!」

 

「あ、そっか…でも、もしも…香ちゃんが元々いた世界に帰ることになったら鈴ちゃんはどうするの?」

 

「あぁ…既に鈴には、全てを話してあります。その上で鈴は、私と共に世界を越えると。例えどんな世界であったとしても、私とならどこまでもついていくと。そう、言ってくれました。」

 

「そっか…」

 

「ほんと、私にはもったいないほどの恋人ですよ……」

 

「…幸せにね。」

 

「…まぁ、幸せにしますけど…」

 

「…顔、真っ赤だけど」

 

「誰のせいですか。…この話はこれで終わりです。続きを聞きたいなら私が話す覚悟ができてからにしてください。」

 

そう言って香は蝶屋敷内に入っていこうとした。

 

「あ、まって!」

 

「…なんですか」

 

「1ヵ月前は声が掠れて上手く伝えられなかったけど……改めて言わせて。…ありがとう。この恩は、いつか必ず返すよ。」

 

「……私は私のやれることをした。ただそれだけです。」

 

そう言って香は蝶屋敷内に姿を消した。

 




香がやっていたのは聞いたことがある人も多いでしょう、“Beat Saber”です。私はやったことありませんがやってみたいと思ってるVRゲームです。
ちなみにプレイしていた曲ですが…ほとんど使用楽曲として許可されないものばかりでしたので曲名とちょっとした説明を。

トラベルナ(モンスターハンターの言語ver:フル){モンスターハンターXより。原曲キー}

バラライカ(フル){実はカナエが目覚める前に歌ってた。原曲よりキー高め。断じて“ヤラナイカ”ではない

撥条少女時計(フル){#コンパス 戦闘摂理解析システムより。ちなみに読みは“ぜんまいしょうじょどけい”。原曲キー}

Grievous Lady(フル){Arcaeaより。カナエがプレイしたのはこの曲。ちなみに大本のゲームとほぼ同じ譜面。もちろん難易度は最高でプレイ。読み方は“グリーヴァスレディ”。ちなみに作者はGrievous Ladyまでたどり着けません}

紅蓮華(フル){お馴染み鬼滅の刃OP。日本語の場所は原曲キー、英語の場所は低音キー}

この5曲です。ここで一つ疑問点、何故2年前───香の元居た世界は現実と同じ時間が流れているので2018年───から自分が元居た世界から離れていたのにごく最近の曲である鬼滅の刃OP曲、“紅蓮華”を香が知っているのか。その理由は香が出す青い板にあります。


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第陸拾伍話 仁とカナエの回避訓練

第六十五話、時間は1915/11/26より。最近時間飛びますけど次回は1915/12/06まで飛ぶ予定です。そしてそろそろ無限列車にも……の前に、あの会議入れないと。


 

「ん~……」

 

昼。カナエと仁の訓練をしているとき、香が唸り声をあげた。

 

「どうした、香?」

 

「ん…いやこの後どうしようかなって…」

 

「この後?」

 

「仁、今使える属性を全部展開してみて」

 

「ん?あ、あぁ…まだうまくいかないが…」

 

仁はそう言って手から火、風、雷、土を生み出した。

 

「す、すごいね、仁くん…」

 

「いや…まだまだですよ」

 

「カナエさんも、今使える属性を全部展開してみてください」

 

「あ、うん…“花よ”」

 

その言葉にカナエの手から花が生まれ落ちた。その花はカナエの手から生まれた風で宙を舞う。

 

「…仁の成長速度早すぎでしょ。なんで自然六素属性のうち水と氷以外使えてるのよ…」

 

「…香ちゃん、仁くんって修行開始してからどれくらいなの?」

 

「2ヵ月経つかどうかですよ…ちなみに最優先適性は火。」

 

「…うわぁ」

 

カナエが少し引き気味になった。

 

「水と氷はうまくいかないんだよな…」

 

「火属性適性者の難関なんだろうね…加熱が得意だから冷却が苦手になる。」

 

「…そういえば、香の適性って聞いたことなかったような…」

 

「私は最優先が花、次に音、三番目に闇。……自然六素属性には適性そこまでないんだよ、私。」

 

「お、おう…」

 

香の言葉に仁が少し引いた。

 

「ちなみに前に言ったことあるかもだけど私が苦手なの火ね。一番苦手なのは虫…かな?」

 

「虫嫌いだっけか。」

 

「虫は嫌い。」

 

「どうかしましたか?」

 

その話しているところに声。その声の方向を振り向くと、そこにはしのぶがいた。

 

「虫は嫌い、と言いましたが。それは私に向かって嫌いと言っているのですか?」

 

「……あぁ、そういえばしのぶさんって“蟲柱”でしたっけ。別にしのぶさんに向かって言ったわけじゃないです。」

 

「そうですか…」

 

「…ところで、何か用ですか?」

 

香はしのぶにそう聞いた。何故なら、香が仁やカナエに何かを教えているとき、蝶屋敷のアオイ以外の誰かが来ることは少ないからだ。

 

「あぁ、そうでした。10日後、お館様がこちらにいらっしゃるようです。仁君との修行風景も見学されたいとのことですので失礼の無い様に。」

 

「はぁ…分かりました。用件はそれだけですか?」

 

「ええ、まぁ。…それでは。」

 

そう言ってしのぶは蝶屋敷の奥へと戻っていった。

 

「…さ、仁。あとカナエさんも…魔力の方は大丈夫ですか?」

 

「魔力?俺は大丈夫だが…」

 

「私も大丈夫だけど…?」

 

「…では、今日からちょっと違う修行に入りましょうか。」

 

「「違う修行?」」

 

見事にハモった二人にクスリと笑ってから香は口を開いた。

 

「回避訓練です。」

 

「回避…」

 

「訓練?」

 

「えぇ。緩めの状態から始めますけど、徐々に段階を上げていく形で。」

 

「それに何か強くなる方法があるの?」

 

「ある、というか…動体視力の向上でしょうか。とりあえず、まずは回避から。段階が上がってきたら相殺訓練です。」

 

その言葉に仁とカナエが首を傾げた。

 

「相殺…?」

 

「…一つ言っておきます。この回避訓練は相殺訓練の前段階。もしも相殺しきれなかった場合にそれを回避できるように設定している段階です。訓練ではありますが、当たれば痛いですからね。」

 

「う…」

 

「…じゃあ、始めましょうか」

 

そう言って香は空に浮き上がった。

 

「回避訓練…5分の間私が放つ弾幕を回避し続けてください。」

 

「それだけでいいのか?」

 

その言葉に香が少しむっとした表情をした。

 

「…言っておきますが属性弾幕ですから当たれば痛いですしけがだってします。それと…」

 

香が自身の前に魔方陣を展開した。

 

「あまり私の弾幕を舐めていると痛い目を見ますよ。咲け、花達!!」

 

そう宣言した瞬間。魔方陣から飛び出した複数の花弁が仁とカナエに襲いかかった。

 

「「!?」」

 

「私はここから動かない…けど、これを避けきらないと次の段階には進めない!!」

 

仁とカナエはその場で跳躍し、自分たちの元居た場所へ襲いかかってきていた花弁を回避した。だがそれもつかの間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「追尾…!?」

 

「言っておくけどその花に追尾性能はない!標的を定めたらそこに一直線に飛ぶだけ!()()()()()()()()()なんだよ、これは!!」

 

「そういうことか…!!つまりこの回避訓練の果ては追尾付きの弾幕を避けろってことか!?」

 

「いや、追尾付きは避けられないから」

 

「だよね」

 

香とカナエから冷静なツッコミが入った。

 

「でも、着眼点はいいかもね。そして被弾してるの見えてるからね?」

 

「う…っぐっ」

 

「まぁ、流石にいきなりこの弾幕は辛いか…」

 

そう言って香は魔方陣を消した。

 

「システムコール!ジェネレート・メタリック・エレメント!!」

 

「なにを…する気だ!?」

 

「フォームエレメント・アローシェイプ!オートターゲット・フライストレート!!ジェネレートモード・オートジェネレート!!ディスチャージ!!」

 

そう宣言した瞬間、香の前から銀色の矢が射出され始めた。

 

「なんだそりゃ…!」

 

「当たったら痛そう!?」

 

仁とカナエは避けるのに必死だった。

 

「言っておくけど、これまだかなり序盤だからね?」

 

「さっきより密度薄いからわかるわ!!」

 

「薄いって…それでも一回当たり二十本近く来てるよね!?」

 

(…まぁ、端末は空間だし。()()()()()()()5(),()0()0()0()()()()()()()()()()()()()()…)

 

香は香でもっとエグイことを考えていた。

 

「とりあえず、これを避けられるように頑張って…特にカナエさん!」

 

「うぅぅぅ…頑張ります…」

 

「完全に物理なので属性でもいくらか弾けることは覚えておいてください!!」

 

「は、はいぃ…」

 

カナエは軽く涙目になりながら花弁を自身の周りに展開して状況に合わせて防ぐ、弾く、避けるを切り替えていた。

 

「うおっととと!」

 

仁は仁で多少危ないが全ての弾幕を避けていた。

 

 

 

その後。

 

 

 

「今回はこの辺にしますか。」

 

「…あ、あぁ……」

 

「う、うん……」

 

3時間ほど回避訓練を行い、カナエは30本の矢を避けられるようになり、仁は60本の矢を撃ち込まれるようになっていた。

 

「では続きはまた明日。…もしかしたら、すぐにでも相殺訓練に移れるかもしれませんね」

 

「勘弁してくれ…」

 

「言っておきますけどまだまだですよ、この程度は。…まぁ、100矢回避ができるようになったら花弾幕に切り替えましょうか。」

 

そう呟いたのを聞いて仁とカナエが落ち込んでいた。

 

「…香ちゃん、絶対弱いっていうの嘘でしょ。」

 

「…分かってませんね、カナエさんは。()()()()()()()()()()()。…()()()()んですよ。」

 

「え…」

 

その言葉に顔を上げたカナエが見たのは辛そうな表情をした香だった。

 




あぁぁぁ……やっと魔法要素の修業入れた……といってもまだ序盤ですけどね。
ちなみにですが、カナエさんの修行開始時期は1915/11/10ごろです。属性適性は第一に花、次点で風、三番目に水。ここまでの登場人物で香が鍛錬の相手をしている人物の属性適性列記しますと……

香………第一適性:花 第二適性:音 第三適性:闇
仁………第一適性:火 第二適性:風 第三適性:影
鈴………第一適性:水 第二適性:音 第三適性:想
花………第一適性:風 第二適性:花 第三適性:幻
雫鞠……第一属性:闇 第二属性:影 第三属性:火
凛音……第一属性:影 第二属性:闇 第三属性:雷
楽………第一属性:影 第二属性:火 第三属性:闇
涼………第一属性:影 第二属性:水 第三属性:闇
妹紅……第一属性:火 第二属性:光 第三属性:風
美月……第一属性:闇 第二属性:光 第三属性:幻
流華……第一属性:花 第二属性:水 第三属性:氷
風兎……第一属性:風 第二属性:想 第三属性:魚
大地……第一属性:土 第二属性:幻 第三属性:石
日向……第一属性:光 第二属性:聖 第三属性:水
カナエ…第一属性:花 第二属性:風 第三属性:水

とまぁ、こんな感じになります。スマートフォンなんかから見ている人は読みにくいと思いますけど…ごめんなさい、それはもうどうにもできないです


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