ストライク・ザ・ブラッド~黒輪の根絶者〜 (アイリエッタ・ゼロス)
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キャラ設定

 伊吹 終夜

 年齢 16(?)歳

 身長 180cm

 体重 65kg

 誕生日 1月25日

 血液型 B型

 種族 人間(?)

 容姿 伊吹 コウジ

 

 彩海学園一年B組の生徒であり、魔術師の少年。が、真の正体は第四真祖以外の

 真祖達の眷獣を封印した最凶最悪の存在、"黒輪の根絶者(デリーター)"で、リンクジョーカーの

 ユニット達の先導者。その正体は南宮 那月と、一人の少女しか知っておらず、

 親友である暁 古城達にすらその正体を明かしていない。

 十数年前、ブラスター・ジョーカーとある契約を結び、自身の身体にリンクジョーカーの

 ユニット達の力を取り込んでいる。

 戦闘スタイルは、主に人間の姿では“サイバービースト”と”サイバーフェアリー“、一部の

 “サイバロイド”しか使わず、黒輪の根絶者(デリーター)になった時には、残った“サイバロイド”、

 “サイバードラゴン”、“エイリアン”、“サイバーゴーレム”を使い分けている。

 自身の肉体にリンクジョーカーのユニットを纏わせる事で、リンクジョーカーの

 ユニットの力を使いこなす事が出来る。その際、どのユニットにでもなる事ができ、

 一部のユニットは肉体に纏わせる事で姿が変わる事があり、能力が強化される。

 (例 ブラスター・ジョーカー)

 ただし、女のユニットになると自身の肉体も女体化するリスクがある。

 

 契約してから数年間、様々な国を渡り歩きながら他の真祖達の“夜の帝国(ドミニオン)”に入った際、

 三人の真祖と真祖達の臣下と戦闘になり、全て返り討ちにした。

 そして十年前、偶然来た絃神島で南宮 那月と出会い、ある人物を一緒に倒した。

 それから南宮 那月とは時折連絡を取り合うようになり、現在では南宮 那月と

 個人的な契約を結び魔族犯罪者を捕獲している。

 

 南宮 那月と出会ってから更に流浪の旅に出た際、煌坂 紗矢華と出会い彼女を救った。

 だが、それから一度も会わなかった為、姫柊に煌坂の秘密を知るまでは

 彼女の事を思い出せなかった。

 

 そして四年前、南宮 那月に誘われ彩海学園中等部に編入した。そこで暁 古城、暁 凪沙、

 藍羽 浅葱と出会った。

 

 滅多な事で怒る事がない性格だが、古城や凪沙、友人を傷つけたり、

 バカにする者に対しては人が変わったようにブチ切れる。

 

 面倒ごとに巻き込まれる体質があるのか、闇聖書事件、アッシュダウンの惨劇、

 アルディギア王国王女誘拐事件などの面倒ごとに巻き込まれている。

 

 能力

 召喚(コール)

 自身の魔力を使いユニットを召喚する能力。ユニットによって必要な魔力は

 変わるが、基本的には数十体出しても問題はない。

 

 ライド・ザ・ヴァンガード《ライド》

 自身の肉体にリンクジョーカーのユニットを纏わせる能力。口上があるユニットもいる。

 

 時空超越(ストライドジェネレーション)

 ライド・ザ・ヴァンガードの更なる発展系

 一部のユニットを更なる姿に、もしくは特殊なユニットになる為の能力で、

 圧倒的な戦闘力を手にすることができる。

 ただし、あまりにも強すぎる為、制限時間が設けられている。

 更に、魔力の消費が一時的に激しい為、滅多に使うことがない。

 

 双闘(レギオン)

 自身がリンクジョーカーのユニットを纏っており、絆の深い者と力を

 合わせることで発動する能力

 お互いの能力は共有され、双闘した相手もリンクジョーカーの力を使うことができる。

 ただし、ダメージも共有する為、お互いに息のあった動きが必要になる。

 

 呪縛(ロック)

 対象を黒い球体に封印する能力。封印した球体には外部からの攻撃が効かず、

 基本的には破壊することができない。(一部例外あり)

 解呪する事ができるのは、呪縛をした者、もしくは終夜のみ。

 

 根絶(デリート)(デリート・エンド)

 対象をこの世から抹消する能力。発動するには、相手が終夜を恐れているという

 条件があり、終夜を恐れない者にはその能力が効くことはない。

 抹消された存在はある異空間に飛ばされるが、終夜はその事を知らないでいる。

 

 

 滅星輝兵(デススターベイダー) ブラスター・ジョーカー・根絶者(デリーター)

 終夜に契約を持ちかけたユニットでリンクジョーカーの指揮官

 数十年前、故郷の星である惑星クレイを追放されこの地球にリンクジョーカーを

 率いてやって来た。その際、死にかけていた終夜に契約を持ちかけ命を救い、

 その見返りに消えかけていたリンクジョーカーの全ての力を終夜に託した。

 そのおかげで、現在は終夜の中でもう一つの人格として生きている事ができ、

 新たな姿に覚醒した。

 基本的に終夜が魔力を戻すために意識を封印している時にしか出てこず、南宮 那月しか

 この人格のことを知らない。

 

 デスティニー・ディーラー

 リンクジョーカーのユニットの一匹

 高速で飛び、羽から繰り出される風は吸血鬼の眷獣を叩き伏せるほどの威力を持つ。

 更に羽は鋭く、大半の物は切り裂く程の威力を持っている。

 

 黒門を開く者

 リンクジョーカーのユニットの一人

 空間と空間を繋ぐ力を持っており、主に長距離の移動や、危険地帯への移動の為に

 使われる事が多い。ただし、移動の為には正確な位置情報が分からないとできない

 欠点がある。

 

 綻びた世界のレディヒーラー

 リンクジョーカーのユニットの一人

 治療能力が高く、少しの傷なら一瞬で治す事が出来るほどの力を持っている。

 あまり感情が表に出ないため、何を考えているか分からないことが多々ある。

 

 重力井戸のレディバトラー

 リンクジョーカーのユニットの一人

 矢瀬の監視を任されていたユニットで、現在は終夜の元に戻っている。

 任務に忠実で、戦闘面でもかなりの実力を持っている。

 終夜からはツインテバトラーと呼ばれている。

 

 アステロイド・ウルフ

 リンクジョーカーのユニットの一匹

 鋭い爪と牙であらゆるものを引き裂く獰猛な狼。

 魔力の消費が少ないため、召喚する事が多い。更に、対象の攻撃力を二倍にする

 特殊能力を持っている。

 

 轟脚のブラストモンク

 リンクジョーカーのユニットの一人

 終夜が表立って動けない時の代わりを務めている。

 基本的に戦闘員のポジションにおり、その脚力はあらゆるものを砕く。

 終夜からはブラストと呼ばれている。

 

 質量転移のレディフェンサー

 リンクジョーカーのユニットの一人

 終夜が表立って動けない時の代わりを務めている。

 ブラストモンクと同じく戦闘員のポジションにおり、そのレイピアの使いこなしは

 残像すら見えないほど高い。

 終夜からはフェンサーと呼ばれている。

 

 ネグリジブル・ハイドラ

 リンクジョーカーのユニットの一匹

 三つ首から放たれるレーザーはあらゆるものを焼き尽くすほどの威力を持っている。

 ただし、強力な一撃を放つにはそこそこ時間がかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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聖者の右腕編
聖者の右腕 Ⅰ


「熱い....焼ける....焦げる....灰になる」

 俺の隣にいる友人、暁 古城はそんな事を言いながら問題集を解いていた。

 

「....言ってる場合かよ。浅葱、今何時だ?」

 俺は目の前でパフェを食っている友人、浅葱に聞いた。

 

「もうすぐ4時。後、3分32秒後」

「マジか....終わる気がしねぇ」

「確か追試は明日の9時からだったな」

「あぁ....」

「じゃあ今夜徹夜したら17時間はあるな」

 浅葱の隣に座っている友人、矢瀬は笑いながらそう言った。

 

「笑い事じゃねぇよ....ていうか、なんで俺はこんなに大量の追試をやらなきゃならねぇんだ! 

 追試の範囲は広すぎるし、授業でもやってねぇよ! ウチの学校の教師は俺になんか

 恨みでもあんのか!」

 古城の言葉を聞いて、俺達三人は目を合わせてため息が出た。

 

「そりゃあるだろ....」

「毎日毎日授業サボってるから舐めてると思われたんじゃない?」

「それに夏休み前のテストも無断でサボったしな」

「....あれは不可抗力なんだよ。色々事情があったんだ。ていうか、今の俺の体質的に

 朝一はキツいって散々言ってるのにあの担任は....」

 古城は担任に恨みを込めたようにそう言った。

 

「那月ちゃんには感謝した方が良いんじゃない? その課題やったら単位くれるんでしょ。

 アンタに恨む筋合いはないわよ」

「浅葱の言う通りだな」

「うっ....理不尽だ。俺は朝起きれない体質なのに....」

 古城がそう言うと、浅葱は不思議そうな表情をした。

 

「体質って何よ。古城って花粉症だっけ?」

「あ....いや、朝起きるのが苦手ってつぅか何というか....」

「それって体質の問題? 吸血鬼じゃあるまいし」

「だ、だよな....」

 古城は浅葱の言葉を聞いて苦笑いしていた。それを見ながら俺はため息が出た。

 

「ま、そんなあんたを哀れに思ってこうして勉強見てあげてるんだから。

 感謝しなさいよね」

「そんだけ飲み食いして恩着せがましい事言うなよ」

「それを立て替えるのは俺と終夜だぞ古城」

「わかってるって畜生....お前ら本当に温かい血の通った人間かよ」

「ひでぇ言われようだなおい....」

「だな。それに今の差別用語だから気をつけろよ」

 そう話していると、浅葱はカバンを持って立ち上がった。

 

「んじゃ、私はお先に」

「浅葱が帰るなら俺も帰るか」

 そう言って矢瀬も荷物をカバンに入れて立ち上がった。

 

「ま、頑張ってね〜。後、終夜またね」

「精々足掻けよ古城。じゃあな終夜」

「おう。じゃあな」

 俺は二人に手を振って見送った。

 

「はぁ、やる気無くすぜ....」

「なら俺らも帰るか。いつまでも居座ってるのは店にも迷惑だし」

「だな....」

 

 〜〜〜〜

 

「あぁ〜、あっちぃ....」

「そりゃ夏だからな。お前に取っては地獄だな」

 会計を終えた後、俺達は自分達が住んでいるマンションに向かって歩いていた。

 

「他人事みたいに言いやがって....」

「まぁな。....それよりも」

 俺と古城は店の影になっている所で足を止めた。

 

「古城、気づいてるか」

「あぁ。ファミレスを出た時からだが、俺達つけられてるよな」

 俺達の背後15mにはギターケースを背負った彩海学園の中等部の制服を着た少女がいた。

 

「俺達じゃなくてお前だと思うがな。....ま、もう少し泳がせてみるか」

「わかった」

 そう言って、俺達はショッピングモールの中に入った。そして、俺達はゲームセンターの

 中に入って店の外の様子を見た。

 俺達の事をつけていた少女は店の目の前で立ち止まっていた。

 

「凪沙ちゃんの友達か?」

「いや、どうだか....?」

 少女は店の前でオロオロしだした。おそらく、古城の姿を見失いたくないのだろうが、

 店の中に入っては古城と鉢合わせする可能性が高くなる。

 その葛藤に板挟みになっているのだろう。それを見て俺達は....

 

「終夜、俺凄い罪悪感に襲われてるんだが....」

「それは俺もだ....」

「はぁ、しゃあない....出ようぜ」

 そう言って俺達はゲーセンを出たが、偶然その少女と鉢合わせてしまった。

 

「っ! 第四真祖!」

 少女はそう叫んでギターケースの中身をいつでも取り出せるように警戒していた。

 すると、古城は急に変な事をやり出した。

 

「オゥ、ミディスピアーチェ! アウグーリ!」

 大げさなリアクションで腕を大きく動かしながら古城はそう言ったので、目の前の

 少女はポカーンとしていた。

 

「(何をしとるんだコイツは....)」

「私、通りすがりのイギリス人でぇす。日本語わかりませぇん!」

「お前みたいなイギリス人がいるか」

 そう言って、俺はカバンで古城の頭をしばいた。

 

「ぐふっ!?」

 古城はその場で頭を抑えた。

 

「えっ? えっ?」

 少女はその様子に困惑していた。

 

「はぁ....悪いなこのバカが。それと、第四真祖は人違いだと思う。

 すまないが他を当たってくれ」

 そう言って、俺は古城を引きずってその場から離れた。

 

 〜〜〜〜

 

「お、お前なぁ! 本気でしばくなよ!」

「本気ではしばいてねぇよ。てかあの子、お前の正体を知ってたみたいだな」

 俺と古城はゲーセン近くの物陰に身を潜めていた。

 

「そうだな....一体どこで知ったんだ」

 そう話していると少女はゲーセンから出てきた。だが、出てきた瞬間、二人の男に

 ナンパされていた。

 そして何かを言い争っていると、ナンパ男の一人が少女のスカートをめくった。

 俺は咄嗟に目線をそらしたが、古城はガン見していた。

 すると少女は....

 

「っ、若雷!」

 何か呪文のようなものを唱えてスカートをめくった男を吹き飛ばした。

 

「っ、コイツ攻魔師か!」

 そう言った男の表情は歪み、瞳は真紅に変わり牙が生えた。

 

「(D種か....)」

 俺は男が吸血鬼に変わるのを見てそう思った。

 

「灼蹄! その女をやっちまえ!」

 男がそう言うと、眷獣は少女に向かっていった。

 

「街中で眷獣を使うなんて! 雪霞狼!」

 少女がそう言うと、ギターケースから銀色の槍を取り出した。そして、その槍を眷獣に

 突き刺した。眷獣はその槍によって一瞬で消滅した。

 

「う、嘘だろ! 俺の眷獣が一撃で....」

 男はそこから後ずさった。そして、少女は槍を男に突き刺そうと走り出した。

 

「(流石にあれはマズイな....)」

 そう思い、俺は男の前に移動して槍の柄を掴んで止めた。

 

「えっ!?」

「そこまでにしとけ」

 そう言って俺は少女にデコピンをした。

 

「ひゃん!?」

 少女は今のが堪えたのか涙目で座り込んだ。

 

「す、すまん! 助かった!」

「....はぁ。これに懲りたらナンパは控えろ。じゃないと死ぬぞ」

「あ、あぁ。肝に免じておく」

 そう言って、男は吹き飛ばされた男を担いで逃げていった。

 

「....どうして邪魔したんですか」

 座り込んでいた少女は立ち上がって俺の事を睨みつけてそう言ってきた。

 

「流石に殺すのはやり過ぎだ」

「公共の場での魔族化、しかも市街地で眷獣を使うなんて明白な聖域条約違反です。

 あの人は殺されても文句は言えないはずです」

「確かにその通りだな。だが....」

「先に手を出したのはお前だろ」

「古城....」

 俺が言おうとした事を先に古城に言われた。

 

「そ、それは....」

「俺はお前が何者なのかは知らねぇけどよ、ちょっとパンツが見られたぐらいでそんな

 危険な物振り回して殺そうとするのはあんまりだろ。いくら連中が魔族だからって....」

 そう言った瞬間、少女の目から光が消えた。

 

「(余計なことを....)」はぁ

 俺はそれを見て頭を押さえた。

 

「もしかして、見てたんですか?」

「あ、いやそれは....」

 古城は俺に助けを求める視線を向けたが、俺はそれを無視した。

 

「....もう良いです」

 少女はそう言って槍をギターケースに直して歩いて行った。その時、振り返りながら....

 

「いやらしい....」

 そう言ってどこかに歩いて行った。

 

「....お前、一言余計」

「うっ....」

「はぁ....とりあえず俺らも帰る....」

 俺はそう言って帰ろうとしたが、道に財布が落ちているのに気づいた。

 

「この財布....さっきの子の財布か」

 そう言いながら、俺は財布の中にある彩海学園の生徒証を見た。

 そこにはさっきの少女の写真があった。名前は“姫柊 雪菜”と書かれていた。

 

 〜〜〜〜

 夜

 

我が先導者(マイ・ヴァンガード)

 俺が部屋にあるベッドの上で携帯を触っていると、急に頭の中から声が聞こえた。

 

「どうかしたのか、“ジョーカー”?」

『昼の少女の事、彼女に報告しなくて良いのか?』

「なっちゃんにか? どの道明日会うから大丈夫だろ」

『そうか....気をつけろ我が先導者(マイ・ヴァンガード)。もしかすると、奴等に我が先導者(マイ・ヴァンガード)がここにいるのが

 バレている可能性があるはずだ』

「わかっている。もしも俺や古城達に危害を加えるようなら、その時は....」

『あぁ。その時は....』

 ジョーカーがそう言うと、しばらく静寂が続いた。

 

『ではな、我が先導者(マイ・ヴァンガード)。何かあればいつでも我等の力を使ってくれ』

 そう言うと、頭の中から声が消えた。

 

「(さて、これから荒れそうだな....)」

 そう思いながら、俺は部屋から街を眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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聖者の右腕 Ⅱ

 次の日の朝、俺は隣に住んでいる古城の家に来ていた。

 

「あ、おはようシュウ君!」

「おはよう凪沙ちゃん。古城のバカはまだ寝てるか?」

「古城君? まだ寝てるよ。あ、そうだ! シュウ君朝ご飯食べていないなら

 食べていってよ!」

「わかったよ。じゃ、お邪魔します」

 そう言って俺は暁家に入り、古城の部屋に向かった。古城は凪沙ちゃんが言っていた通り

 爆睡していた。

 

「....」

 俺は携帯を取り出して古城の耳元で大音量でアラームを鳴らした。

 

「っ!? な、なんだ! 何が起きた!?」

 古城は音に驚いて飛び起きた。

 

「起きたか追試男」

「しゅ、終夜かよ! 朝から驚かすな!」

「わざわざ起こしに来てやったのに失礼な奴だな。さっさと着替えてリビングに来い。

 凪沙ちゃんが朝飯作ってくれてるぞ」

 そう言って俺は部屋から出た。リビングでは凪沙ちゃんが料理をしていた。

 

「凪沙ちゃん、これテーブルに運べばいいか?」

「うん! ありがとうシュウ君!」

 そうして凪沙ちゃんの手伝いをしていると、制服に着替えた古城が出てきた。

 

「おはよう古城君! 熱いうちに朝ご飯食べて!」

「あぁ....」

「んじゃ、俺もいただきます」

 俺と古城は凪沙ちゃんが作ってくれた朝ご飯を食べ始めた。

 

「やっぱ凪沙ちゃんの飯は美味いな」

「ありがとうシュウ君! あ、これも食べて良いよ!」

 そう言って凪沙ちゃんは冷蔵庫から果物を出してきた。

 

「ありがとな」

 そうして朝飯を食べ終わった俺と古城は学校に向かった。

 

 〜〜〜〜

 学校

 

 古城が追試を受けている時、俺はある空き教室にいた。すると、扉が開き一人の

 教師が入ってきた。

 

「あ、なっちゃん」

「教師をちゃん付けで呼ぶな」

 俺がそう言うと、入ってきた教師“南宮 那月”は俺の頭目掛けて扇を振り下ろしてきた。

 俺はそれが読めていたので後ろに下がって躱した。

 

「チッ....躱しよって」

「そりゃ痛いのは嫌だからな」

「はぁ....まぁ良い。それで私に用とは何だ」

「....古城に獅子王機関からの監視がついた」

「....何?」

 俺がそう言うとなっちゃんの表情は変わった。

 

「名前は姫柊 雪菜。この学校の中等部の生徒だ」

「どうして暁 古城の監視だとわかった」

「姫柊 雪菜は古城の事を第四真祖と言った。それに彼女が持っていた武器から獅子王機関の

 反応があったとジョーカーが」

「そうか....面倒なことに」チッ

 なっちゃんは忌々しそうに舌打ちをしてそう言った。

 

「お前の正体はバレてないのか?」

「バレてないと思う。というか俺が”黒輪の根絶者(デリーター)“っていう事を知ってるのはなっちゃんと

 ()()()ぐらいだ。獅子王機関にバレるはずが無いだろ」

「ふむ....それもそうか。それと、ちゃん付けで呼ぶな」

 そう言ってなっちゃんは再び扇を振り下ろしてきた。俺はそれを再び避けた。

 

「はぁ....まぁ良い。とりあえずお前は無茶な真似をして正体がバレないように気をつけろ」

「了解」

「なら良い。話が終わりなら私は戻るぞ」

 そう言ってなっちゃんは教室を出ていった。

 

 〜〜〜〜

 

 12時になり、俺は古城が追試を受けてる教室の前に来ていた。

 

「終わったか?」

「あぁ....頭いてぇ」

「自業自得だ。さて、中等部に財布渡して昼飯食いに行くぞ」

 そう言って中等部の職員室に行ったのだが....

 

「まさか担任が休みとはな」

 姫柊 雪菜のクラスの担任は休みだった。俺と古城は諦めて中等部の校舎を歩いていた。

 

「だな。なんか連絡先が分かる物でも入ってたらな」

 そう言って古城は財布を開いて見ていた。すると古城は急に口元を押さえた。

 

「急にどうした?」

「い、いや、なんでも....」

 すると、古城の足元に血が落ちた。

 

「....何で財布開いただけで吸血衝動が起きるんだよ」はぁ

「仕方ねぇだろ。上手く制御できないんだから」

 古城が止血していると、後ろから声が聞こえてきた。

 

「女子のお財布の匂いを嗅いで興奮するなんて....あなたはやはり危険な人ですね」

「姫柊 雪菜....」

 声の正体は、財布の持ち主である姫柊 雪菜だった。

 

「はい。何ですか?」

 姫柊は蔑む視線でこちらを見ていた。

 

「な、何でここに?」

「それはこちらのセリフだと思いますけど? 暁先輩。ここは中等部の校舎ですよね?」

「う....」

 古城の質問に姫柊は冷ややかに返した。そんな冷静な指摘に何も言い返せないでいる

 古城を見て俺はため息をついた。

 

「それよりも、それって私のお財布ですよね」

「あ、あぁ。これを届けに来たんだが笹崎先生が休みでな....」

「それで匂いを嗅いで鼻血が出るほど興奮していたんですか」

「あながち間違いではないな....」

「おい終夜! 誤解を招くこと言うなよ!」

 姫柊の目は更に冷たくなっていた。

 

「俺はただ昨日の姫柊を思い出して....」

 古城がそう言うと、姫柊は一瞬硬直したかと思うと、顔を赤面させて

 制服のスカートを抑えて後ずさった。

 

「き、昨日のことは忘れてください」

「いや、忘れろと言われても....」

「忘れてください」

 姫柊にそう言われ、古城は黙って肩をすくめた。

 

「....お財布返してください。そのつもりでここに来たんですよね」

 姫柊がそう言うと、何故か古城は財布を高く掲げた。

 

「返す前に話しを聞かせてもらいたいな。お前は一体何者で何で俺の正体を知っている」

「....わかりました。それは力づくでお財布を取り返せという意味でいいんですね」

 そう言った姫柊はギターケースに手を伸ばして中身を取ろうとした。すると、急に姫柊の

 腹が鳴った。

 

「えーと....もしかして腹減ってるのか?」

「察しろバカ」

「だ、だったら何だって言うんです?」

 姫柊がそう言うと、古城は財布を姫柊の目の前に差し出した。

 

「な、何ですか....」

「昼飯、奢ってくれ。財布の拾い主にはそれくらいの要求をする権利があるだろ」

「年下に飯を奢らせるなよ....」

 

 〜〜〜〜

 

「あ、あの、私の分までありがとうございます」

「気にすんな。こいつが迷惑をかけた迷惑料とでも思ってくれ」

 俺達三人はハンバーガーショップに来ていた。そして、俺は姫柊と古城に昼飯を奢ってやった。

 

「姫柊もハンバーガーとか食べるんだな。なんかこういう店とは縁がなさそうな

 イメージだったからな」

「高神の杜がある街は都会じゃありませんが、ハンバーガーぐらい売ってますよ。

 よく食べには行きませんが、偶に仲の良い子達とは行きますよ」

 古城の言葉に姫柊は少し拗ねたようにそう言った。

 

「高神の杜? 姫柊が前にいた場所か?」

「はい。表向きは神道系の女子校という事になっています」

「表向きってことは、裏があるのか?」

 古城の言葉に姫柊は少し考えたようだが、すぐに答えた。

 

「....獅子王機関の養成所です。獅子王機関については知っていますか?」

「いや、知らん」

「えっ?」

 古城の言葉に姫柊はどうしてといった表情で見ていた。

 

「古城....獅子王機関ってのは大規模な魔導災害や魔導テロを阻止する為の情報収集や

 謀略工作を行う国家公安委員会に設置されている特務機関だ。....まぁ簡単に言うなら

 公安警察みたいなもんだ」

「なるほど....」

「っ! よく知っていますね」

「まぁな」

 俺の説明に姫柊は驚いていた。

 

「てことは姫柊は獅子王機関の関係者ってわけか」

「はい、そうですよ」

「だったら姫柊が俺をつけていたのはどうしてだ? 魔導災害やテロの対策なら

 俺は関係ないだろ?」

「あの、暁先輩? ひょっとしてご存知ないんですか?」

「何をだ?」

 古城の言葉に呆れながらも俺はこう言った。

 

「....真祖の力は一国の軍隊も同等、それ以上だ。だから、お前個人の力一つで

 テロや災害に近い対応がされるんだよ。この事、お前に何回か言ったぞ」

「そ、そうだったか....?」

「はぁ....」

 古城のど忘れ具合に呆れていると、姫柊は何かを思い出したかのように話しを続けた。

 

「ですが、もう一つその対応が適応される存在がいるんです」

「適応される存在? 誰だよそれ」

「....数年前、第四真祖を除く全ての真祖達を打ち倒し、真祖や真祖達の臣下の眷獣を

 封印した存在————— "黒輪の根絶者(デリーター)"です。この存在は公には知られていませんが、

 ごく稀に様々な国の魔導犯罪関連でその存在が確認され、剣士やロボット、龍の姿をした

 存在だそうです。そして、この島に潜伏していると言われています」

「そんなヤベェ奴が野放しでこの島にいるのかよ....」

「お前が言えた立場じゃねぇだろ」

 俺の言葉に古城はバツが悪そうな顔になった。

 

「ま、まぁ他の真祖達やその黒輪の根絶者(デリーター)だっけか? 俺は何もするつもりはねぇぞ。

 するつもりもねーし、支配する帝国なんてどこにもないからな」

「そうですね。それは私も聞きたいと思っていました。先輩はこの島で

 一体何をするつもりなんですか?」

「何をって....」

「正体を隠して魔族特区に潜伏しているのは何か目的があるんじゃないですか? 

 例えば、絃神島を影から支配して登録魔族を自分たちの軍隊に加えようとしているとか。

 あるいは自分の快楽のために彼らを虐殺しようとしているとか....なんて恐ろしい!」

「(想像力豊かだなぁ....)」

 俺は一人、そんな呑気な事を考えていた。

 

「いや、だから待ってくれ! 姫柊は何か誤解してないか?」

「誤解?」

「潜伏するもなにも、俺は吸血鬼になる前からこの街に住んでいるんだが。俺がこの体質に

 なったのは今年の春だ」

「....吸血鬼になる前から、ですか?」

 姫柊は古城の言葉に、信じられないというふうに首を振った。

 

「そんなはずありません。第四真祖が人間だったなんて!」

「そんな事言われても事実なんだが....」

「普通の人間が途中で吸血鬼に変わることなどあり得ません。例え吸血鬼に血を吸われて

 感染したとしてもそれは単なる"血の従者"——擬似吸血鬼です」

「と言われてもだなぁ....俺はただこの厄介な体質をあの馬鹿に押し付けられただけだ」

「押しつけられた? それに馬鹿っていうのは....」

「第四真祖だ。先代のな」

「先代の、第四真祖!?」

 古城の言葉に姫柊は息を飲んだ。

 

「ほ、本物の“焔光の夜伯(カレイド・ブラッド)”の事ですか!? どうして第四真祖が暁先輩を候補者に

 選ぶんですか? そもそもなぜあの"焔光の夜伯(カレイド・ブラッド)“に遭遇したりしたんです?」

「いや、それは....」

「っ、古城! 思い出そうとするな!」

 古城は顔を顰めて顔をテーブルに伏せた。

 

「せ、先輩!? ....伊吹先輩、これはどういう....?」

「....古城は先代の第四真祖から力を受け継いだ記憶がないんだよ。今みたいに思い出そうと

 するとこうなるんだよ」

「そ、そうなんですか....伊吹先輩は何か知っているんですか?」

 姫柊の問いは、かつて古城に聞かれた問いだった。

 

「....あぁ、知っている。だが言うことはできない。これに関しては古城の問題だ」

「....」

 俺の答えに姫柊は何か言いたそうだったが、結局何も言ってこなかった。

 それからしばらくして、古城が落ち着くと姫柊は話しを続けた。

 

「私、獅子王機関から先輩のことを監視するように命令されていたんですけど....

 それから、先輩がもし危険な存在なら抹殺するようにとも」

「ま、抹殺....!?」

 姫柊の言葉に古城は固まった。

 

「....何となくその理由がわかったような気がします。先輩は真祖としての自覚が足りません。

 とても危うい感じがします。 なので、今日から私が先輩を監視しますから、くれぐれも

 変なことはしないでくださいね。 まだ先輩を全面的に信用したわけではないですから」

「監視、ね....」

 まぁいいか、といった様子で古城は肩の力を抜いた。

 

「....そういえば、伊吹先輩は一体何者なんですか? 素手で私の雪霞狼を掴みましたよね」

「俺か? 俺は一応魔術師みたいなもんだ。まぁ、滅多に魔術なんて使わないがな」

「そうなんですか....」

 俺は昔、古城に言った嘘をそのまま姫柊に言った。

 

「そうだ姫柊。俺の妹の凪沙の事なんだが....」

「先輩のことは秘密にしておくので安心してください。その代わり、私のことも秘密に

 しておいてください」

「助かる」

「....さて、話しも終わった事だし帰るか」

 そう言って店を出て家に帰るのだが、姫柊は俺達のマンションまでついて来た。

 そして、姫柊は俺とは反対側の古城の隣の部屋のドアに手をかけた。

 

「....家まで隣なのか?」

「はい。監視役ですから」

「....ご愁傷様だな、古城」

 

 

 

 

 

 

 

 



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聖者の右腕 Ⅲ

「魔族が無差別に襲われる事件か....」

 夏休み最終日、朝から俺は学園の教職員棟最上階の部屋に来ていた。

 この部屋の主人であるなっちゃんは優雅に紅茶を飲んでいた。

 

「あぁ。ここ2ヶ月ほどで既に7件だ」

「しかも、その中には旧き世代もいるのか」

 俺は捜査資料の一つを見ながらそう呟いた。

 

「そうだ。それでお前に話しがあってだな。今日の夜、少し私の見回りに付き合え」

「見回り?」

「そうだ。無論、ただでとは言わん」

 なっちゃんはそう言うと、俺の前に茶封筒を置いた。

 

「なるほど....手伝ったらバイト代を払うって事か」

「そういう事だ」

「....わかった。何時にどこに行けばいい?」

「今日の夜9時。身バレしないようにアレを纏って来いよ」

「了解」

 俺は机に置かれていた茶封筒をカバンに入れて部屋から出た。

 

 〜〜〜〜

 夜

 

 昼に姫柊と古城と買い物に付き合った俺は黒いフード付きのローブを纏って学園の

 門の前にいた。

 

「(はぁ、凪沙ちゃんの作った鍋食いたかったな....)」

 今日の夜、姫柊の引っ越し祝いで古城の家で鍋をするからと凪沙ちゃんに誘われたのだが、

 既になっちゃんとの約束があったので俺はその誘いを断った。

 

「時間通りに来たか」

 そんな事を考えていたら、背後からなっちゃんの声が聞こえてきた。

 

「そりゃバイト代を貰ってるからな....」

「ふっ、そうか。では行くぞ」

「了解」

 そう言って、俺はなっちゃんの後ろをついて行った。

 

 〜〜〜〜

 

 一時間ほど見回りを続けたが、魔族を襲っている人物は見つからず、代わりに彩海学園の

 不良生徒が見つかっていた。生徒達はなっちゃんに全員説教されていた。

 

「はぁ、何故ウチの生徒はこんな時間に出歩いている....」

「さぁ....? 夜遊びにでもハマってるんじゃ?」

「頭が痛くなる事を言うな....ん? アレは....」

 なっちゃんはゲームセンターの方を見ていた。そこには、ギターケースを背負った彩海学園

 中等部の女子生徒と、白色のパーカーを着た男がいた。

 

「ほぉ....」

 なっちゃんの表情はみるみる悪い笑顔になっていった。

 

「(あーあ....終わった)」

 俺はこれから起きる事が予想できたので、二人に向かって手を合わせた。

 

「そこの二人、彩海学園の生徒だな。こんな時間に何をしている」

 なっちゃんに声をかけられて二人はその場で固まった。ガラス越しに見えたが、古城は

 非常にマズイといった表情をしていた。

 

「そこの男。どこかで見た事があるような姿だが、フードを取ってこっちを向いてもらおうか」

 なっちゃんは二人をじわじわと追い詰めているようだった。

 

「(やってる事が鬼だ....)」

 俺が心の中でそう思っていると、なっちゃんに少し睨まれた。俺はすぐに視線を逸らした。

 

「はぁ....さて、どうしたんだ? 意地でも振り向かないなら、こちらにも考えがあるぞ」

 なっちゃんが扇を手で叩きながらそう言ったその瞬間、鈍い震動が絃神島全体を揺るがした。

 その後に、遅れるようにして爆発音が聞こえた。

 

「っ!」

「何だ!?」

「走るぞ姫柊!」

 俺となっちゃんが爆発音に注意が向いた一瞬を古城は見逃さず、

 姫柊の手を握って走って行った。

 

「待てお前ら!」

 なっちゃんの制止は虚しくも古城達には届かなかった。しかも、走って

 行った方向は爆発音が聞こえた方向だった。

 

「何やってんのさ....まぁ、良いや。ひとまず俺は爆発した所を見に行ってくる」

「わかった。気をつけろよ」

「了解。"召喚(コール)"、デスティニー・ディーラー」

 俺が腕を横に振るうと、俺の身体の周りに黒いカードが現れた。

 そして、俺の呼んだ名前に反応したカードが一枚、宙に浮かんで行き魔法陣が浮かび上がった。

 すると、その魔法陣から銀色の鳥が現れた。俺はその鳥の背中に飛び乗った。

 

「ディーラー、爆発音が聞こえた所まで頼む」

 俺がそう言うと、デスティニー・ディーラーは鳴き声を上げて爆発音が

 聞こえた所に向かって飛び始めた。

 

 

 〜〜〜〜

 姫柊side

 

 私は爆発音が聞こえた倉庫街を走っていた。そして、私の遥か前方には

 巨大な漆黒の妖鳥が何かと戦っていた。そして、近くのビルには、

 その妖鳥を操っているであろうと思われる長身の吸血鬼がいた。

 すると、急に爆煙の中から虹色に輝く半透明な腕が現れ、妖鳥の翼の根元を引きちぎった。

 そして、腕は実体を保てなくなった妖鳥に攻撃を続けていた。

 

「まさか....魔力を喰ってる!?」

 私が知る限り、倒した眷獣の魔力を喰らう眷獣というのは聞いた事がない。

 そして、私は眷獣の宿主を見て驚愕した。眷獣の宿主は自分よりも小柄で、素肌に

 ケープコートを羽織った藍色の髪の少女だった。

 

「吸血鬼....じゃない! どうして人口生命体(ホムンクルス)が眷獣を!?」

 呆然と立ち尽くしていると、急に背後で何かが落ちる音が聞こえた。

 驚いて背後を見ると、さっきまでビルの上で眷獣を操っていた吸血鬼の男が血を流して

 倒れていた。

 

「....ふむ、目撃者ですか。想定外でしたね」

 すると、物陰から低い男の声が聞こえてきた。声が聞こえた方を見ると、そこから右手に

 半月斧を持ち、法衣を纏った身長190センチ超えの男が現れた。

 

「戦闘をやめてください」

 私は男を睨んでそう警告した。

 

「若いですね....見たところ、魔族の仲間ではないようですが」

 男は私を値踏みするような表情で淡々と言った。

 

「行動不能の魔族に対する虐殺行為は、攻魔特別措置法違反です」

「魔族におもねる背教者たちが定めた法に、この私が従う道理があるとでも?」

 男はそう言って斧を振り上げた。

 

「っ、雪霞狼!」

 雪霞狼を構えて、私は男と吸血鬼の間に割り込んで斧を弾いた。

 

「ほう....!」

 男は見た目からは想像できない敏捷さで後方に飛び退いて私に向き直った。

 

「その槍、"七式突撃降魔械槍(シュネーヴァルツァー)"ですか!? "神格振動波駆動術式"を刻印した、獅子王機関の

 秘密兵器! よもやこのような場所で目にする機会があろうとは!」

 男は歓喜の笑みを浮かべていた。

 

「いいでしょう、獅子王機関の剣巫ならば相手にとって不足なし! 娘よ、ロタリンギア殲教師、

 ルードルフ・オイスタッハが手合わせを願います。この魔族の命、見事救ってみなさい!」

「ロタリンギアの殲教師!? なぜ西欧教会の祓魔師が、吸血鬼狩りを!?」

「我に答える義務なし!」

 殲教師の男は大地を蹴って加速し、戦斧を振り下ろしてきた。私はその斧の攻撃を完全に

 見切って紙一重で躱した。そして、私は槍を旋回させて右腕に向かって攻撃した。

 殲教師は回避不能と察したのか、鎧で覆われた左腕で防御した。

 武器と鎧の激突で、周囲に青白い閃光が撒き散らされた。

 

「ぬううん!」

 左腕の鎧が砕けると、私はその隙に距離を取った。

 

「我が聖別装甲の防護結界を一撃で打ち破りますか! さすがは"七式突撃降魔械槍(シュネーヴァルツァー)”! 

 実に興味深い術式です。素晴らしい!」

 殲教師の男は破壊された腕を見て満足そうに舌なめずりをした。

 

「(彼は、ここで倒さなければ....!)」

 剣巫としての直感が私にそう告げた。

 

「獅子の神子(みこ)たる高神の剣巫(けんなぎ)が願い奉る。破魔の曙光(しょこう)、雪霞の神狼(しんろう)、鋼の神威(しんい)

 持ちて我に悪神百鬼を討たせ給え!」

「む....これは....」

 私の体内で練り上げられる呪力を、”雪霞狼“で増幅させた。そして、私は殲教師の男に

 攻撃を仕掛けた。

 

「ぬお....!」

 私は”雪霞狼“を閃光のような速さで放つと、殲教師の男は戦斧で受け止めた。

 受け止められたが、私は嵐のような連撃を放った。殲教師の男は防戦一方になっていた。

 

「ふむ、なんというパワー....! それにこの速度! これが獅子王機関の剣巫ですか!」

 雪霞狼の攻撃で男の持っていた戦斧は音を立てて砕け散った。私は攻撃を仕掛けようと

 したが、人間である事を思い出して一瞬攻撃を躊躇してしまった。それを男は見逃さず、

 後ろに跳躍した。

 

「いいでしょう、獅子王機関の秘呪、確かに見せてもらいました....やりなさい、アスタルテ!」

 男がそう言うと、ケープコートを羽織った藍色の髪の少女が飛び出してきた。

 

命令受託(アクセプト)執行せよ(エクスキュート)、"薔薇の指先(ロドダクテュロス)"」

 少女がそう言うと、コートを突き破って虹色の巨大な腕が現れた。

 

「ぐっ!」

 私は雪霞狼で腕を迎撃した。

 

「ああ....っ!」

 かろうじて激突に勝ち、"薔薇の指先(ロドダクテュロス)"と呼ばれる眷獣を雪霞狼で引き裂いた。

 眷獣のダメージを受けたアスタルテと呼ばれる少女は弱々しく苦悶に息を吐いた。

 

「ああああああーーっ!」

 すると、少女が絶叫したかと思うと、もう一本の腕が背中から現れた。その腕は生き物の

 ように独立して動いて私の頭上を襲った。

 

「しまっ....!」

 雪霞狼の穂先は、眷獣の右腕に突き刺さったままであるため、もし一瞬でも力を抜けば、

 手負いの右腕に私は潰される。そして、この状況では私は、左腕の強撃から

 逃れることは不可能だった。

 

 私は死を覚悟した。

 ただ最後に一瞬だけ、見知った少年の姿が頭をよぎった。

 ほんの数日出会ったばかりの気怠そうな顔をした少年の面影が。

 私が死ねば、きっとあの人は悲しむ。

 

「(まだ、まだ死にたくない!)」

 そう思っていると....

 

「姫柊ーーーーー!」

 私が思っていたよりも近い距離から声が聞こえてきた。

 第四真祖、暁 古城先輩の声が....

 

「うおぉぉぉぉ!」

 先輩は握りしめた拳で私に向かって来ていた腕を殴った。先輩が殴った腕は吹き飛び、眷獣の

 宿主であるアスタルテという少女もその衝撃に転倒し、私と戦っていた右腕は消滅した。

 

「なっ....!?」

 私は先輩が起こしたデタラメな光景に呆然として見ていた。

 

「何をやってるんですか先輩!? こんな所で....!」

「それはこっちのセリフだ姫柊! このバカ!」

「バ、バカ!?」

「様子を見に行くだけじゃなかったのかよ! なんでお前が戦ってんだ!」

「うっ....それは....」

 先輩の正論に私は口ごもってしまった。しかし、先輩は詳しくは理解せずとも、現場を

 見ていろいろとあったことは理解しているようだった。

 

「で....結局コイツらは何なんだ?」

「わかりません。あの男は、ロタリンギアの殲教師だそうですが....」

 私は法衣を纏った男を睨みながら先輩にそう言った。

 

「ロタリンギア? なんでヨーロッパからわざわざやってきて暴れてるんだ、あいつは?」

「先輩、気をつけてください。彼らはまだ....」

 私の警告の前にアスタルテという少女が立ち上がった。その背後には虹色の眷獣が

 実体化したままで。

 

「先ほどの魔力....貴方はただの吸血鬼ではありませんね。貴族と同等かそれ以上....

 もしや第四真祖の噂は真実ですか? ....それならあの噂も真実の可能性が」

 そう呟く殲教師の男をかばうようにアスタルテという少女は前に出てきた。

 

再起動(リスタート)完了(レディ)命令を続行せよ(エクスキュート)、"薔薇の指先(ロドダクテュロス)"....」

「おい! 俺は別にあんた達と戦うつもりは....」

「待ちなさい、アスタルテ! 今はまだ、真祖と戦う時期ではありません!」

 先輩と男は同時に叫んだ。だが、すでに命令を受けた眷獣は止まらない。

 虹色の鉤爪を鈍く煌めかせ先輩に向かってきた。

 

「先輩、下がって....!」

 私はそう言って突き飛ばそうとしたが、突如上空から激しい風が吹いた。その風は

 虹色の鉤爪を地面に叩きつけた。

 

「な、何だ今の風!?」

「っ!?」

 私が上空を見ると、上空に巨大な銀色の鳥がいた。

 

「な、何ですかあの鳥は!?」

 すると、その鳥の上から何かが飛び降りてきた。

 飛び降りてきたのは、黒いフード付きのローブを纏った人型の何かだった。

 

「その辺にしてもらおうか、ロタリンギアの殲教師」

「何者ですか、あなたは? アスタルテの攻撃を相殺するほどの眷獣を操るなどと....

 ただの吸血鬼ではありませんね」

「....俺は吸血鬼などではない」

 声からして、ローブを纏っているのはどうやら男だった。

 

「....“黒輪の根絶者(デリーター)”、お前達は俺をそう呼んでいたな」

「なっ....“黒輪の根絶者(デリーター)”!?」

「“黒輪の根絶者(デリーター)”....!?」

 ローブの男の今の発言に、私と殲教師の男は固まった。

 

「バカな! このような辺境の地に“黒輪の根絶者(デリーター)“が....!」

 殲教師の男は侮蔑の視線でローブの男にそう言った。すると、その瞬間ローブの男から

 濃密な殺気が放たれた。

 

「ならば、試してみるか?」

「っ....!? アスタルテ! ここは引きますよ!」

命令受託(アクセプト)

 アスタルテという少女の眷獣が地面を砕いて粉塵を巻き起こした。そして、粉塵が

 消えると二人はその場には既にいなかった。

 

「逃げたか....」

 ローブの男はそう言うと、私達の方を向いた。私は咄嗟に雪霞狼を構えた。

 

「....第四真祖、暁 古城、獅子王機関剣巫、姫柊 雪菜だな。早くここから離れた方が

 良いのでは? 特区警備隊(アイランド・ガード)が来るぞ」

「....何故、私達の名前を」

「....さてな」

 ローブの男がそう言うと、男の近くに銀色の鳥が降りてきた。

 

「一つ教えておいてやろう。奴らは魔族狩りをしている。暁 古城、奴らが捕まるまでは

 夜に出歩く事を控える事だ」

 男はそう言って鳥に飛び乗り、どこかへ飛んで行ってしまった。

 

「....な、何だったんだアイツは?」

「....先輩、ひとまず今日は帰りましょう。凪沙ちゃんも心配してると思います。

 それに、特区警備隊(アイランド・ガード)も近づいてきてます」

 私の耳には特区警備隊(アイランド・ガード)のサイレンが聞こえていた。

 

「....そうだな。じゃあ急ぐか」

「はい」

「(“黒輪の根絶者(デリーター)”....まさか本当にこの島にいるなんて。一体何が目的なんでしょうか....)」

 私は飛んで行った方を見てそう考えていた。

 

 



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聖者の右腕 Ⅳ

「ロタリンギアの殲教師に眷獣を宿した人口生命体(ホムンクルス)だと?」

「あぁ。その二人がこの魔族狩りの犯人だ」

 次の日の朝、朝一に学校に行った俺はなっちゃんの部屋に行って昨日の話しをしていた。

 

「奴等の目的は何かわかったか?」

「いや、そこまではわからなかった」

「そうか....」

 なっちゃんは扇を叩きながら考え込んでいた。

 

「それと、姫柊と古城が昨日の現場に来ていた」

「....あのバカは」

 なっちゃんは頭を抑えながら鬱陶しそうにそう言った。

 

「一応警告はしたけど、なっちゃんからも言っておいてくれないか? なっちゃんから

 言っておけば古城も少しはおとなしくするだろうし」

「どうだか....まぁ言うだけ言っておこう。それに、昨日の件もあるからな」

 なっちゃんは呆れながらも、悪い笑顔を浮かべてそう言った。その様子を見て、俺は古城と

 姫柊に心の中で謝った。

 

「じゃ、報告も終わったし俺は教室に戻るわ」

「あぁ、ご苦労だった」

 俺はそう言って部屋を出て教室に向かった。

 

 〜〜〜〜

 教室

 

「うっす古城、浅葱」

「終夜か。おはよう」

「おはよ終夜。アンタは古城と違って眠くなさそうね」

「まぁな。....逆にお前は眠そうだな」

 そう挨拶をしながら俺は自分の席に座った。そして、俺達三人は昨日の爆発事故の

 話しをしていた。何でも浅葱は、昨日の爆発のせいで災害用のシステムを一から

 作り直したそうで随分と睡眠時間が少なかったらしい。

 

「そりゃお疲れさん。そんな頑張った浅葱に後で何か奢ってくれるってさ、古城が」

 俺は古城の方を指差してそう言った。

 

「お、おい終夜! 何勝手な事を....」

「お前、浅葱からレポート貰うんだろ? それと合わせたお礼だと思って奢ってこい」

「お前、俺の財布事情知ってて言ってんのか!」

「もちろん」

「お前は鬼かっ!」

 そう言い合っていると、後ろの方で男どもが何か騒いでいた。男どもは携帯を見て

 何故か興奮状態になっていた。

 

「何の騒ぎだ?」

「さぁ? あ、ねぇお倫。男子共は何であんなに盛り上がってるわけ?」

 浅葱は近くに通りかかった築島 倫に聞いていた。

 

「あぁ....何か中等部に女の子の転校生が来たんだって」

「中等部....」

「女の転校生....」

 俺と古城は顔を見合わせて何となく察した。

 

「凄く可愛い子らしくてね。部活の後輩に命令して写真を送らせたみたい」

「へぇ」

「暁君と伊吹君は見に行かなくて良いの?」

「あぁ....てか、その転校生知ってるし。なぁ古城」

「あ、あぁ....」

 古城は少し顔を引きつらせながらそう言った。すると、後ろにいた男子共が

 こっちに近づいてきた。

 

「古城! お前の妹って3年C組だよな?」

「あぁ....それがどうかしたのか?」

「この子、紹介してもらえないか?」

 男の一人が写真を見せて古城にそう言った。画面に写っていたのは、案の定姫柊だった。

 

「あぁ....多分それは無理だと思うぞ」

 俺は写真を見ながら男共にそう言った。

 

「な、何でだよ伊吹!」

「その子、古城にしか興味ないから」

 俺がそう言った瞬間、男共は固まった。浅葱も浅葱で古城の方を睨んでいた。

 

「お、おい終夜! 誤解を招くこと言うな!」

「いや事実だろ」

 そう話していると....

 

「暁 古城、いるか?」

 教室の入り口からなっちゃんの声が聞こえてきた。

 

「何すか?」

「昼休みに生徒指導室に来い。....中等部の転校生も一緒にな」

「どうして姫柊も....」

「お前達が深夜のゲームセンターから逃げ出した後、朝まで二人で何をしていたか....

 きっちり説明してもらうからな」

 なっちゃんはそれだけ言うと去っていった。

 

「(あーあ....この絶妙なタイミングで)」

「暁君、浅葱がいるのにどういうつもりかしら?」

「どうって....俺と浅葱はただの連れ....って築島ぁ!?」

「浅葱ならあっちだよ」

 築島が言った方を見ると、浅葱はゴミ箱の前で何かを破っていた。

 

「あぁ! 世界史のレポート!」

「ふんっ!」

 浅葱は古城の方を睨みつけて自分の席に戻っていった。

 

「(恋する乙女も大変だな....)」

 俺は一人呑気にそんな事を考えていた。

 

 

 〜昼休み〜

 

 食堂から戻ってくると、古城は席にいなかった。

 

「(アイツどこに行った?)」

「なぁ浅葱。古城見てないか?」

 俺は何となく居場所を知ってそうな浅葱に聞いた。

 

「....アイツなら私にロタリンギアの企業について調べさせてどっかに行ったわよ」

 浅葱はもの凄く不機嫌そうにそう言ってきた。

 

「ロタリンギア....詳細はわかるか?」

「スヘルデ製薬の研究所。主な研究内容は人工生命体を利用した新薬実験。二年前に

 閉鎖して撤退済みって話をしたら教室を飛び出して行ったわ」

「(あのバカ....)」はぁ

 浅葱の言葉を聞いて俺は頭を押さえた。

 

「そうか....助かる」

 俺はそう言って教室から飛び出した。

 

「ちょ! アンタもどこに行くのよ!」

 後ろから浅葱の声が聞こえたが、俺は無視して職員室に走った。そして、ちょうど職員室に

 着いた時、なっちゃんが出てきた。

 

「何をしている伊吹。もう授業は始まるぞ」

「悪いなっちゃん。俺早退するわ」

「何?」

「あのバカ二人、犯人を捕まえに勝手に動いたみたいだ」

 俺がそう言うと、なっちゃんは頭を押さえながらため息をついていた。

 

「....そうか。わかった、早退を認めよう。あのバカどもには後で説教と言っておけ」

「了解」

 そう言って、俺は学校から出てスヘルデ製薬に向かった。

 

 

 〜〜〜〜

 スヘルデ製薬

 

 スヘルデ製薬の研究所に着くと、姫柊は地面に座り込んで古城の頭を抱えていた。

 そして、その近くには血だらけになった古城がいた。

 

「先輩....」

「はぁ....なっちゃんの言いつけ聞いてたのか二人とも」

 俺はそう言いながら二人に近づいた。

 

「伊吹先輩....暁先輩が、暁先輩が私を庇って....!」

 姫柊は今にも泣きそうな声で俺にそう言ってきた。

 

「安心しろ。そんぐらいじゃ古城は死なねぇよ」

「えっ....」

 俺がそう言うと、周りの血は古城の元に戻っていき傷は、全て綺麗になくなった。

 

「第四真祖は規格外の存在だからな。アレぐらいじゃ死ぬ事はない」

 俺はそう言いながら古城の頭を数発シバいた。すると、古城は目を覚ました。

 

「イッテ!」

「起きたかバカ古城」

 起きた古城に俺はもう二、三発頭をシバいた。

 

「お、お前どんだけシバくんだよ!」

「どんだけシバいても足らんわ。なっちゃんから言われたこと、もう忘れたのか?」

「な、何でお前がその事を....」

 古城は俺にシバかれたところをさすりながらそう聞いてきた。

 

「俺も朝なっちゃんから言われたんだよ。魔族狩りに気をつけろってな」

「そ、そうだったのか....」

「はぁ....ったく、戻ったらなっちゃんが説教だとよ。異論は認めないそうだ」

 そう言って、俺は来た道を戻ろうとした。すると姫柊が聞いてきた。

 

「どこに行くんですか....?」

「なっちゃんに報告しに行く。最低でも二時間はかかるだろうな」

「二時間って、ここから学校まではそんなに時間は....」

「かかる。どっかのバカはこれで終わるつもりは無いみたいだしなぁ....」

 俺は古城の方を向いてそう言った。

 

「そうだろ? 古城」

「終夜....お前」

「どうするかはお前の好きにしろ。俺がお前の選択を止める権利は無いからな」

「....」

「姫柊、魔族狩りの目的は何かわかったか?」

 俺は姫柊にそう聞いた。

 

「....目的は、要を取り返しこの島を沈める事らしいです」

「要を取り返し島を....わかった」

 そう言って、俺はスヘルデ製薬の研究所から出て近くの屋根に跳んだ。

 

「要を取り返し島を....となると、目的は要石。要石がある場所は....」

 俺が要石のあるキーストンゲートの方を見ると、キーストンゲートから小さな

 煙が上がっていた。

 

「急いだ方が良さそうだな....」

 俺は腕を横に振るい、自分の周りにカードを展開させた。その中の一枚を手に取り、

 地面に投げて叫んだ。

 

召喚(コール)、”黒門を開く者“」

 すると、魔法陣が展開され、そこから銀色の鎧とバイザーを纏った女が出てきた。

 

『お呼びでしょうか、我が先導者(マイ・ヴァンガード)

「キーストーンゲートの最下層まで頼めるか?」

『了解しました』

 そう言うと、黒門を開く者は俺の目の前に黒いゲートの様なもの創った。

 

『ご武運を、我が先導者(マイ・ヴァンガード)

 その言葉を背中に受け、俺はゲートの中に入った。

 

 〜〜〜〜

 

 俺がゲートをくぐり抜けると、そこはキーストーンゲートの最下層だった。

 そして、俺は固定されたアンカーの上にいた。

 

「奴らより早かったか....」

 そう思っていると、急に隔壁が破られて虹色に輝く眷獣を寄生させられた

 人口生命体(ホムンクルス)の少女と、ロタリンギアの殲教師が現れた。

 

「おぉ....おぉ....!」

 要石を見たロタリンギアの殲教師は涙を流しながら膝をつき、

 悲観と歓喜の声が漏れていた。

 

「ロタリンギアの聖堂より簒奪されし不朽体....我ら信徒の手に取り戻す日を

 待ちわびたぞ! アスタルテ! もはや我らの行く手を阻むものはなし! 

 あの忌まわしき楔を引き抜き、退廃の島に裁きを下しなさい!」

 殲教師の男は高らかな笑い声を上げながら少女に命令するが、少女は動かず

 俺がいるアンカーの方を見ていた。

 

命令認識(リシーブド)。ただし、前提条件に誤謬があります。故に命令の再選択を要求します」

「何?」

 殲教師の男は戦斧を握りしめて立ち上がった。それを見て、俺もアンカーから

 降りて要石の前に立ち塞がった。

 

「残念だったな。あんたの願いは叶えることができない....一生な」

「何者ですか、あなたは....」

「俺は....いや、この姿の方が良いか」

 そう言って、俺は腕を横に振って周りにカードを展開させた。そして、俺を中心に

 巨大な魔法陣が展開された。

 

「絶望と闇と、死の支配する世界を束ねる無情なる破滅の魂よ! 

 今ここに、その力を顕現せよ!」

 俺がそう叫んでいくと、一枚の真っ黒なカードが俺の上空に浮かび上がった。

 

「立ち上がれ、俺の分身! ライド・ザ・ヴァンガード!」

 すると、俺の身体は赤黒い竜巻に包まれた。そして、俺は姿が変わると右手に持った

 剣で竜巻を斬り裂いた。

 

「っ!? あなたは....!」

『”滅星輝兵(デススターベイダー) ブラスター・ジョーカー・根絶者(デリーター)“....それが俺の名だ』

 そう言って、俺は剣を殲教師に向けた。

 

 

 

 

 

 



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聖者の右腕 Ⅴ

「驚きましたね....黒輪の根絶者(デリーター)が、まさかただの人間とは」

『人は見かけによらないって事だ。それよりも、ここから先は通行止めだ。

 この島を沈められるのは、俺にとって少し困るんでな』

 俺がそう言うと、殲教師は戦斧を構えた。

 

「そうですか....ですが、いくらあなたのような人間が道を拒もうと我らの悲願の

 達成まで後少し! 邪魔立てするようならば排除するまで! アスタルテ!」

「....命令受諾(アクセプト)執行せよ(イクスキュート)、"薔薇の指先(ロドダクテュロス)"」

 少女の声には悲しみがこもっていたが、命令には逆らえず、虹色の眷獣の輝きは増し、

 それに呼応するように魔力が勢いを増していた。

 

『....お前も悲しいんだな』

 俺はそう呟いて剣を構えた。そして、飛んできた腕を躱して斬り裂いた。俺は連続で

 斬り裂こうしたが、アンカーの上から魔力を感じてその場から飛び退いた。

 そしてアンカーの方を見た。そこにいたのは....

 

『来たか....』

「悪いなオッサン! これ以上はやらせねぇよ」

 銀の槍を構えた姫柊と古城がいた。

 

「っ! 黒輪の根絶者(デリーター)....何故あなたがここに」

 姫柊は俺を見て怪しげにそう言ってきた。

 

『お前達と目的は同じだ』

 そう言って俺は殲教師の男を見た。

 

「聖遺物....これがアンタの目的だったんだな」

 古城は石柱にある“腕”を見ながらそう言った。

 

「....貴方たちが絃神島と呼ぶこの都市が設計されたのは、今から四十年以上も前のことです」

 殲教師の男は、低く厳かな声でそう言った。そして、殲教師の男が語り出したのは

 この島の創設時の事。

 東洋で言う龍脈が通る海洋上に、人工の島を建設しようとしていた。だが、海洋を流れる

 龍脈の力は人々の予想を遥かに超えていた。都市の設計者、絃神千羅は東西南北、四つに

 分けた人工島を四神に見立て、龍脈を制御しようとした。そこで問題が発生した。

 要石の強度だ。当時の技術では、その力に耐えられる強度の要石が作れなかった。

 そして絃神千羅は忌々しい邪法に手を染めた。それが供犠建材、人柱だった。

 

「彼が都市を支える贄として選んだのは、我らが聖堂より簒奪した聖人の遺体。魔族どもが

 跳梁する島の土台として、我らの信仰を踏みにじる所業....決して許せるものではありません。

 ゆえに私は、実力を持って聖遺物を奪還します。立ち去るがいい、第四真祖、黒輪の根絶者(デリーター)! 

 これは我らと、この都市との聖戦なのです。貴方方と云えども邪魔は許さぬ!」

「気持ちは分かるぜオッサン。絃神 千羅って男がやったことは確かに最低だ」

 古城はそう言って殲教師の前に立ち塞がった。

 

「だからって、なにも知らずにこの島に暮らす五十六万人がその復讐の為に殺されて

 良いのかよ? 無関係な人間を巻き込むんじゃねーよ!」

『それに関しては俺も同感だ』

「この街が購うべき罪の対価を思えば、その程度の犠牲、一顧だにする価値もなし!」

 殲教師の男は冷酷にそう言った。

 

「もはや言葉は無用のようです。 これより我らは聖遺物を奪還する。 邪魔立てすると

 いうならば、実力をもって排除するまで!」

「そうかよ....けど、忘れてねぇかオッサン。 オレはあんたに胴体をぶった斬られた

 借りがあるんだぜ。 まずは、その決着からつけようか」

 そう言った古城の目は赤くなり、唇の隙間から牙が見えた。

 

「さあ、始めようかオッサン....ここから先は、第四真祖(オレ)戦争(ケンカ)だ」

 雷光を纏った右手を掲げて、古城はそう叫んだ。

 その隣で姫柊は銀の槍を構えて、悪戯っぽく微笑んだ。

 

「いいえ先輩....わたしたちの聖戦(ケンカ)です!」

『....暁 古城、姫柊 雪菜、殲教師はお前達に譲ろう。俺は人工生命体(ホムンクルス)の少女の相手をする』

 そう言って俺は人工生命体(ホムンクルス)の少女に斬りかかった。だが、少女の眷獣の前には謎の結界を

 纏っており、俺の攻撃を防いだ。そして、その隙に巨大な腕で俺を攻撃してきた。

 俺はそれを避けて少女から距離を取った。

 

『(....結界が邪魔だな)』

 そう思っていると、古城の方から巨大な魔力を感じた。

 

「オッサンがその気ならこっちも遠慮なく使わせてもらうぜ。"焔光の夜伯(カレイドブラッド)"の血脈を継ぎし者、

 暁 古城が、汝の枷を放つ! 疾く在れ(きやがれ)、五番目の眷獣、"獅子の黄金(レグルス・アウルム)“!」

 古城がそう言った瞬間、古城の近くには雷光の獅子が現れた。

 

『まず目覚めたのは五番目か....』

 俺はそう呟きながら少女の眷獣に攻撃しようとしたが、少女は咄嗟に殲教師の男の前に

 移動して古城の眷獣の攻撃を受け止めていた。そのせいで、周囲や俺の近くに古城の

 眷獣の雷撃が弾かれた。

 

『....こっちまで来んのかよ』

 俺はその雷撃を躱しながら少女の眷獣に近づいていった。そして、俺はもう一度眷獣に

 向かって剣を振り下ろした。案の定結界に攻撃を止められたが、俺は結界に向かって

 手を向けてこう叫んだ。

 

『”呪縛(ロック)“!』

 すると、周りにある結界は黒く染まり始め、結界の全てが黒く染まると結界は消滅した。

 

『はぁぁ!』

 俺は少女に当たらないように眷獣を斬り裂いた。俺の一撃で眷獣は消滅し、人工生命体(ホムンクルス)

 少女は落ちてきたので俺は優しく受け止めた。

 

「アスタルテ!?」

 少女が倒されたことによって、殲教師の男は動揺した。その隙を姫柊は見逃さず、殲教師の

 男の懐に入り込んだ。

 

(ゆらぎ)よ!」

 姫柊の掌打により殲教師の男は体制を崩した。

 

「終わりだオッサン!」

 そして、古城の追い討ちの拳で殲教師の男は聖遺物に手を伸ばしながら力尽きて倒れた。

 

『終わったか....』

 俺は殲教師の男を見てそう呟いた。

 

『さてと....』

 俺は背中のマントを外してそこに人工生命体(ホムンクルス)の少女を寝かせて腕を振るった。その中の

 一枚を俺は手に取った。

 

召喚(コール)、”綻びた世界のレディヒーラー“』

 俺がそう言うと魔法陣から金髪の少女が現れた。

 

『呼んだ? 我が先導者(マイ・ヴァンガード)

『この子の治療と状態を確認してくれないか』

『わかった』

 俺がそう言うと、レディヒーラーの両手から緑色の光が放出された。それが少女に当たると

 傷は綺麗に消えた。そしてレディヒーラーが手を握って目をつぶった。

 

『....この子に宿る眷獣が寿命を喰べてる。このままだと一ヶ月も保たない』

 目を開いたレディヒーラーは冷静にそう言った。

 

『そうか....』

『でも、これぐらいならどうにかできる。我が先導者(マイ・ヴァンガード)、腕を出して』

『腕を?』

 俺が腕を出すと、レディヒーラーは俺の腕に注射器を刺して血を抜いてきた。

 

『お、おい!』

 そして、その血が入った注射器を少女に刺して血を流し始めた。

 

『今、この子の眷獣を先導者(ヴァンガード)とリンクさせた。これで、眷獣が喰べるのはこの子の

 寿命じゃなくて先導者(ヴァンガード)の魔力になった』

『エネルギーの供給先を無理矢理変更させたのかよ....』

『でも、これが最善策。先導者(ヴァンガード)の魔力は他とは比較にならないほど強力だから。

 それに、この子の寿命も少しずつ伸びるかも』

『マジかよ....』はぁ

 俺がそう呆れていると、古城達が近づいてきた。

 

『何か用か?』

「いえ....」

「その子、大丈夫なのか?」

『....あぁ。エネルギーの供給先が俺に変わったからこの子の生命力が取られることは

 無いだろう』

「そうか....」

 古城はどこか安心したような表情をしていた。

 

『では、俺をこの辺で失礼させてもらう。ここにもう用はないからな。召喚(コール)、黒門を開く者』

 そう言って俺は黒門を開く者を召喚した。

 

『さらばだ暁 古城、姫柊 雪菜。このような場で出会わない事を祈っている』

 そう言って、俺は人工生命体(ホムンクルス)の少女をお姫様抱っこして、レディヒーラーと黒門を開く者が

 作ったゲートの中に入った。

 

 

 〜〜〜〜

 矢瀬side

 

「....かくして血の伴侶を得た暁 古城は眷獣を一体掌握。また一歩、完全なる第四真祖に

 近づいた、というわけだ」

 夜の彩海学園高等部。俺は一人そう呟いた。そして、俺が壁に寄りかかる隣には、

 一羽の烏がいた。

 

「しかしわかんねぇな。あんな化け物を、なぜわざわざあんたらが目覚めさせようと

 してんのか....」

『それが彼女達の目的なんでしょ』

「っ!」

 俺がそう呟いた瞬間、教室の入り口から声が聞こえてきた。見ると、

 そこにはこの学園の制服を着た女子がいた。

 

『初めましてと言っておくわ、第四真祖の真の監視者 矢瀬 基樹』

「あんた、一体何者だ....? その気配、明らかに人間の気配じゃないが....」

 俺は女子生徒から感じる気配が明らかに人間とは異なるものとわかった。

 

『私は"重力井戸のレディバトラー"。黒輪の根絶者(デリーター)様に仕える者の一人よ』

 女子生徒がそう言うと、姿は変わっていき、謎の鎧を纏った。

 

「黒輪の根絶者(デリーター)だと!?」

 女の言葉を聞いて、俺は身構えた。

 

『そう身構えなくて良いわよ。用があるのはそこの鳥よ』

 そう言って女が指差したのは俺の横にいる鳥だった。

 

『また随分とコソコソした真似をしているようね、"静寂破り(ペーパーノイズ)"。今度は

 何が目的なのかしら?』

「....それは一体何のことでしょうか?」

『....あくまでシラを切るのね。まぁ良いわ。一つ、我が先導者(マイ・ヴァンガード)様から忠告よ』

 女がそう言った瞬間、先程の様子からは想像ができないほどの殺気が放たれた。

 

『"何を考えてるのかは知らないが、あまりふざけた事をするなよ。もしも俺の周りの

 人間を危機に晒すような事をした場合には....この世から消滅すると思え"、だそうよ』

「....肝に免じておこう」

 少しの沈黙の後、鳥は一言そう言うと一枚の紙になって飛んで行った。

 

『....これで私の任務も終わりね』

 女はそう呟くと、元の制服の姿に戻った。

 

『それじゃあさようなら』

 女はそう言って教室から出て行った。

 

「お、おい! 待て....!?」

 俺は追いかけて教室を出たが、既に女の姿は消えていた。

 

「....こいつは面倒な事になりそうだな」

 

 

 〜〜〜〜

 終夜side

 

「熱い....焼ける....焦げる....灰になる....つか、追々試ってなんだ! あのチビッ子担任、

 絶対俺のこといたぶって遊んでやがるだろ!」

 宿題漬けの週末を乗り越えた月曜日の放課後。俺の目の前で古城は学生食堂の端っこの、

 テラス席に突っ伏していた。

 

「知るかよ。....それよりも、お前眷獣が覚醒したのか?」

「っ! 分かるのか!」

「まぁ、お前の魔力が高くなってる気がしたからな。それよりも、誰の血を吸った?」

「そ、それはだな....」

 案の定、誰の血を吸ったのかは分かっているが俺はワザと聞いた。

 

「....姫柊か」

「っ!」びくっ

 俺がそう言うと、古城は固まった。

 

「お前さぁ、吸って大丈夫だったのか?」

「そ、それは今日分かると思うんだが....」

「先輩。それに伊吹先輩も」

 俺がそう聞いていると、ちょうど良いタイミングで姫柊がやって来た。

 

「姫柊。その、結果は....?」

 古城は心配そうに聞くと、姫柊は頷いた。

 

「検査結果は陰性(だいじょうぶ)でした」

「そ、そうか。良かったよ。痛い思いをさせたし、姫柊を俺の血の従者に

 しちまったかと気が気じゃなかったんだ」

「少し血が出ただけで済みましたし、あの日なら比較的安全ってわかってましたから。

 それに先輩に吸われた痕はもう消えていますし」

「おいお前ら....話すのは良いがここでするなよ。周りからは勘違いされかね....っ!?」

 俺は二人の会話を止めようとしたが、突如背後から感じた寒気に身体が固まった。

 恐る恐る背後を見ると、ゾンビのように立ち上がってこっちに来る少女がいた。

 

「(あ、俺は何も見てないっと....)」

 俺はすぐさま現実逃避をした。

 

「ふーん....痛い思いをさせて、血が出て検査して、安全日で陰性なのね?」

「古城君のドスケベ! 変態! エロ!」

「浅葱!? それに凪沙まで!」

 浅葱は古城を睨みつけると、今度は姫柊に詰め寄った。

 

「あなたが姫柊さんね。いい機会だからはっきりさせておきたいんだけど、

 古城とどういう関係なの?」

「私は暁先輩の監視役です」

 姫柊は冷静にそう言い返した。

 

「監視役? ストーカーってこと?」

「違います。私は先輩が悪事を働かないようにと思って....」

「そのあんたがこのバカを誘惑してどうするのよ!」

「そ、それは....そうですけど....」

「違うだろ姫柊! そこは否定しろ!」

 古城は納得してしまいそうな姫柊にそう叫んだ。それを浅葱は冷ややかな目で見ていた。

 

「誰かー! ここに淫魔が! 妹のクラスメイトに手を出す淫魔がいますよー!」

「やめろ凪沙! 終夜も止めてくれ!」

「あぁ....悪いな古城。俺なっちゃんに呼ばれたの忘れてたわ」

 俺はそう言って急いでその場から離れた。

 

「お、おい終夜!?」

 古城の声は切羽詰まっていたが、俺はそれを無視して急いで逃げた。

 

「(はぁ、おっかねぇ....)」

 俺は少し離れた所から古城を見た。

 

「さて、動き出した歯車は止まらない。この先お前はどう生きるんだろうな、古城」



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戦王の使者編
戦王の使者 Ⅰ


『はぁ....鬼ごっこは終わりで良いか?』

 俺は夜の倉庫街で一匹の獣人と対峙していた。

 

「く、くそっ! 何故貴様のような化け物がここにいる! 黒輪の根絶者(デリーター)!」

『さてな。....面倒だからこれで終わりだ』

 俺はそう言って、一瞬で獣人に近づいて斬り伏せた。そして、俺は獣人の男に

 手を向けてこう呟いた。

 

呪縛(ロック)

 すると、獣人の男は黒い球体に封印された。

 

『これで俺の任務は終わりで良いんだよな、なっちゃん』

「あぁ。ご苦労だったな」

 俺は背後のコンテナの上にいるなっちゃんにそう聞いた。なっちゃんはコンテナから

 降りてくると、呪縛(ロック)状態の獣人を鎖で縛り始めた。

 

「今回の分のバイト代は明日にでも振り込んでおく」

『そいつはどうも。んじゃ、俺は帰ってもう一眠りでも....』

 そう言って立ち去ろうとしたその時、船の汽笛音が聞こえてきた。

 

『こんな時間に船か....』

「そのようだな。....しかし、何とも言えない嫌悪感を感じるのは私だけか?」

『なっちゃんもか....俺もそんな感じがするんだよな』

 俺となっちゃんは遠くに見える船を見てそう言った。

 

「お前もか....まぁ良い。私はコイツを連れて行く。お前も明日の授業には遅れるなよ」

『了解。じゃあまた明日』

 そう言って、俺は自分の家に向かって歩き出した。

 

 〜〜〜〜

 

「邪魔してるぞ古城」

「終夜か」

 獣人を捕獲したその日の朝、俺は古城の家にいた。何故俺が古城の家にいるかというと、

 昨日凪沙ちゃんに朝ご飯を食べに来てと誘われたからだ。

 机の上には既にベーグルサンドとイタリアンサンドが用意されていた。

 しかし、何故か4人分だった。

 

「何で4人分?」

「あー、それは姫柊の分だ」

「姫柊も誘われてたのか。....てか、凪沙ちゃんと姫柊は?」

「2人なら凪沙の部屋だが....」

 そう話していると、凪沙ちゃんの部屋から楽しげな話し声が聞こえてきた。

 

「俺、コーヒーいるか聞いてくるわ」

「おう。じゃあ湯は沸かしとくぞ」

 古城はそう言って凪沙ちゃんの部屋に行き、俺はキッチンで湯を沸かし始めた。

 すると、急に凪沙ちゃんの部屋から大きな音が聞こえてきた。

 

「(何の音だ....?)」

 俺は不思議に思って見に行くと、凪沙ちゃんの部屋の前で古城が鼻血を出して倒れていた。

 

「何してんだお前は....?」

 俺は古城に近づいて様子を確認しようとした。だが、俺は部屋から出てきた凪沙ちゃんを

 見て動きが止まった。部屋から出てきた凪沙ちゃんは、何故か下着姿だった。

 

「シュ、シュウ君....?」//

 俺がいることに気づいた凪沙ちゃんはどんどん顔を赤らめていき、両腕で胸元を隠した。

 

「ちょ、ちょっと待て凪沙ちゃん! 俺はただ古城の様子を見ようと....!」

「シュ、シュウ君のエッチ!」///

 俺の言葉は悲しいことに凪沙ちゃんには届かず、俺は凪沙ちゃんからタックルを食らって

 壁に叩きつけられた。

 

 

 〜〜〜〜

 

「すみませんでした....」

「ごめんなさい....」

 俺と古城は現在、姫柊と凪沙ちゃんそれぞれに土下座していた。

 

「大丈夫です。 先輩がいやらしいのは最初から分かっていた事ですし、警戒を怠った

 私の責任です」

 姫柊は古城を見下しながら呆れたようにそう言った。だが、凪沙ちゃんは....

 

「シュウ君に下着姿見られた....凪沙、もうお嫁さんに行けないよ」

 すごく小さな声で俺にそう言ってきた。それを聞いて、俺は精神的なダメージを受けていた。

 

「本当にごめん凪沙ちゃん....俺に出来る事なら何でも一つ言うことを聞くから

 許してもらえないか?」

「....何でも?」

 凪沙ちゃんは確認するようにそう聞いてきた。

 

「はい....」

「....わかったよ。なら、今回は許してあげる」

「ありがとうございます....」

「ほら、もう頭上げて朝ご飯食べよ。雪菜ちゃんと古城君も」

 凪沙ちゃんの言葉で俺と古城は何とか頭を上げる事ができ、朝ご飯を食べる事が出来た。

 

 

 〜〜〜〜

 

「てか、部屋で二人で何してたんだ?」

 朝ご飯を食べ終わってモノレールに乗って学校に向かっている時、古城が凪沙ちゃんに

 そう聞いた。

 

「雪菜ちゃんが球技大会で使うチアの衣装の採寸と仮縫いをやってたの」

「チアの衣装?」

「そんなつもりはなかったんですけど、どうしても断り切れなくて....」

 俺がそう言うと、姫柊は深々しくため息を吐いた。

 

「クラスの男子全員が土下座して雪菜ちゃんに頼んだの。姫がチアの衣装で応援して

 くれるなら家臣一同なんでもする、死に物狂いで優勝目指してがんばるって」

 凪沙ちゃんは笑いながら明るい声でそう言った。

 

「男子全員、土下座....?」

「凪沙ちゃんのクラスの男ども、絶対アホだろ....」

 古城は唖然としており、俺は凪沙ちゃんのクラスも男どもに呆れていた。

 

「普通ならそんなのドン引きなんだけど、なにしろほら、相手が雪菜ちゃんだから男子が

 そう言いたくなる気持ちもわかるから、女子も協力してあげようって話になったんだ」

「....ご愁傷様だな姫柊」

「クラスを掌握してるんだな、お姫様」

「そ、そんな事してません!それとその呼び方やめてください!」

 姫柊は焦ったように反論してきた。

 

「それで、お前も一緒にやるのか凪沙?」

「へっへー、いいでしょ。 あ、もしかして古城君とシュウ君も応援して欲しかった?」

「いや、それは別にどうでもいい」

 古城は無頓着にそう答えた。すると、凪沙ちゃんの表情はみるみる不機嫌になっていった。

 

「えー、どうして!? 嬉しくないの!?」

「たかが学校の球技大会で、そんな気合の入れた恰好で妹に応援されたら恥ずかしいっての」

「恥ずかしい....格好....」

 古城の言葉に姫柊は憂鬱そうに俯いた。

 

「は? なにそれ? 雪菜ちゃんは良くて、私に応援されるのは恥ずかしいわけ!?」

「そうは言ってねぇだろ....」

「むぅぅぅ! シュウ君は私が私が応援したら嬉しいよね?」

「えっ....?」

 凪沙ちゃんはほっぺを膨らましながら、何故か俺に聞いてきた。

 

「嬉しいよね? ねっ?」

「....まぁ、嬉しいといえば嬉しいけど」

 凪沙ちゃんの謎の圧に押されて俺はそう言った。

 

「ほら! シュウ君もこう言ってるよ古城君!」

「....お前、凪沙には甘いよな」

「....黙れ」

 俺は余計な事を言った古城の頭をしばいて顔を背けた。

 

 



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戦王の使者 Ⅱ

 校門の前で俺と古城は凪沙ちゃんと姫柊と別れて高等部の校舎に

 向かって歩いていた。そして、ちょうど靴箱に着くと浅葱がいた。

 

「よぉ浅葱」

「おはよ、古城に終夜。珍しいわね、あんた達が二人で登校なんて」

「まぁちょっと色々あってな。てか、その荷物は?」

 俺は浅葱が持っている荷物が気になってそう聞いた。すると、浅葱は古城を

 見るとニヤリと笑い....

 

「ちょうどいいところに来てもらっちゃて悪いわね。 意外に重くて面倒だったのよ」

 そう言って浅葱は古城に荷物を渡した。

 

「いやー、ホント助かるわ。 ロッカーの前に置いといてくれたらいいからさ」

 浅葱は呑気そうにそう言っていた。

 

「....ていうか、何だこれ? ラケット?」

「球技大会の練習で使うの。学校の備品だけじゃ足りないみたいだから姉ちゃんに頼んで

 借りてきたの」

「お前ってたまに気がきくよな」

「何言ってんの。私は気配りのできる美人女子高生の浅葱さんよ」

「気配りのできる美人女子高生はそんな事言わない....」

「うるさいなぁ」

「....おいそこの夫婦。朝から夫婦漫才してないでさっさと行くぞ」

 俺は二人の漫才に呆れながらそう言って教室に向かった。

 

「「誰が夫婦だ(よ)!」」

 

 〜〜〜〜

 

「よぉ終夜」

「おはよう伊吹君」

「おう。矢瀬に築島」

 教室に入ると、二人はそう言ってきた。二人は黒板に何か書いていた。

 

「何書いてんだ」

「球技大会のメンバー表。伊吹君、何でも良いって言ってたからバスケにしといたよ」

「サンキュ」

「それよりも終夜。これ見ろよ」

 矢瀬はそう言ってバドミントンの表を見せてきた。そこには、ダブルスのペアで

 藍羽 浅葱と暁 古城と書かれていた。

 

「....お前ら、良い奴らだなぁ」

「流石終夜! そう言ってくれると思ったぜ」

 そう話していると、浅葱と古城が教室に入ってきた。すると、藍羽は黒板を見て

 一目散に自分の名前がある所に歩いてきた。

 

「ちょっと....な、なんで、あたしが古城と組まなきゃいけないのよ!?」

「今年からそういう規定になったの。シングル減らして、ミックスダブルス増やすって」

 浅葱の絶叫に築島は冷静に返していた。

 

「そういう事聞いてるんじゃないの! 何で私と古城かって話!」

「え、だって好きでしょ?」

「は、はぁぁぁ!?」////

 築島の言葉に、浅葱は顔を赤らめながら叫んだ。

 

「バドミントン」

「へっ....?」

「前に好きって言ってたじゃない。....もしかして、何かと勘違いしたのかなぁ?」

 築島の顔は、完全に浅葱をおちょくる気満々の笑顔だった。

 

「(悪い顔だな....)」

「べ、別に好きだなんて言ってないし....」///

「何を?」

「バドミントン!」

「あっそ....まぁいいや。暁君もバドミントンで良いわよね?」

「まぁ楽そうっちゃ楽そうな競技だしな」

 古城は別に良いといった様子でそう言った。

 

「じゃあ決定ね」

 築島の言葉に、浅葱は複雑そうな表情をしていた。

 

 

 〜その頃〜

 那月side

 

 私は今、攻魔師の仕事である研究所にいた。

 

「ここか」

「はい」

 一緒について来た攻魔師の男はそう言って扉を開けた。

 

「カノウ・アルケミカル・インダストリー社開発部、槙村 洋介だな」

「何だ君達は! ここはクラス6の機密区域だぞ」

「槙村研究主任、この研究所で扱っている荷物には魔導貿易管理令に違反する

 物品が含まれている疑いがある」

「な! ま、待ってくれ! 何かの間違いでしょ? ここにはそんな物は....」

 槙村は私達に見え透いた嘘を言ってきた。そこで、私はこう言ってやった。

 

「クリストフ・ガルドシュ」

「っ!」

 その瞬間、槙村の表情は変わった。

 

「我々は既に先日、その部下を1名捕獲している」

 私がそう言うと、隣にいた攻魔師の男は手錠を持って槙村に近づいていった。

 だが、攻魔師の男は槙村によって吹き飛ばされた。そして槙村は服を破り獣人へと

 姿を変えた。

 

「やはり未登録魔族....黒死皇派のシンパか」

 槙村は私達の方に向かって走り込んできた。隣にいたもう一人の攻魔師の男は

 拳銃を構えたが....

 

「下がっていろ」

 私はそう言って槙村に向かって走り出し、槙村からの攻撃を避けて逆に頭を

 踏みつけてやった。槙村はその場で倒れた。

 

「アスタルテ。少しぐらい手荒に扱っても構わん。そいつを拘束しろ」

 そして、私は槙村の前に立ったアスタルテにそう命じた。

 

命令受託(アクセプト)

「人工生命体? こんなガキが、俺を止められるとでも思っているのか!」

 槙村はそう言って睨みつけたが....

 

「....執行せよ(イクスキュート)薔薇の指先(ロドダクテュロス)

 アスタルテは特に気にせず背中から虹色に黒が混ざった眷獣を呼び出して

 槙村を壁に殴りつけた。壁は突き破れ、槙村は隣の部屋で倒れた。

 

「(....伊吹の魔力を喰うと言っていたが、ここまで威力を出すとはな)」はぁ

 私はこの惨状を見て、少しため息が出た。

 

「アスタルテ、もう少し手加減をしろ。そうしないと参考人が死ぬ」

命令受託(アクセプト)

 アスタルテは私の目を見てそう言ってきた。

 

「南宮教官。ありがとうございます。お陰で助かりました」

「礼には及ばん。働いたのはウチの新人だ」

 そう話している間に、私は槙村が触っていたパソコンの前にいた。そして、

 私はキーボードの上にある写真を取った。

 

「密輸品はコレか....オリジナルは」

「対象、確認不能。既に当施設から運び出されたものと想定します」

「....出遅れた、というわけか」

 アスタルテの言葉を聞き、私は近くのモニターを見た。すると、そこには

 驚くべき単語があるのに気づいた。

 

「ナラクヴェーラだと!」

 ナラクヴェーラとは、第九メヘルガル遺跡から発掘された古代超文明の遺産だ。

 

「一体、何を考えている....クリストフ・ガルドシュ」

 私はその単語を見ながらそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 



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戦王の使者 Ⅲ

「サボりか古城」

 放課後、球技大会の練習の休憩時間に俺は自販機に飲み物を買いに行くと、

 ちょうど古城が自販機で炭酸を買っていた。

 

「ちげぇよ。浅葱はまだ来てなかったし、バドミントンの練習してるあの空間に

 居づらいから逃げて来たんだよ」

「....あっそ」

 俺はそう言って自販機の前に立って飲み物を買おうとした。だが、突如背後から

 何かの殺気を感じた。その殺気は古城に向いているものだった。

 

「っ! 古城!」

 俺は咄嗟に古城の体操服の襟首を掴んで引っ張った。

 

「うおっ!?」

 古城がいた所には水色の針の様なものが刺さっていた。

 

「な、何だよ急に!」

「っ、言ってる場合か! 避けるぞ!」

 そう言っている間にも、針の様なものは俺達に向かって飛んできた。俺と古城は

 それを避けながら近くの草むらに隠れた。

 

「な、何なんだよ今のは!」

「俺が知るわけないだろ! ....ともかく、今はコイツらだ」

 そう言うと、俺達の目の前に金色のライオンと銀色の狼がいた。

 

「コイツらが、俺達を狙ってきたのか!」

「正確にはお前だけどな....俺はただ巻き添え食らっただけだ」

「そ、それはすまん....それよりもどうするんだよ。流石に学校で俺は眷獣を使えねぇぞ」

「....一応、少しは自分の力の危険性が分かってて安心したわ」ふぅ

 古城の言葉を聞いて、俺は安心した。

 

「仕方ねぇ。ここは俺がどうにかするか」

「どうにかって、どうやって....?」

「お前には初めて見せるな、俺の魔術は」

 そう言って俺はライオンと狼の方に手を向けた。

 

「我等を守護せよ! "アステロイド・ウルフ"!」

 俺がそう叫ぶと、目の前には緑色の魔法陣が現れ、そこから二体よりも

 少し巨大な銀色のメカメカしい狼が現れた。

 

「校舎に被害がいかないように奴等を蹴散らせ!」

 そう命令すると、アステロイド・ウルフは高速で動き、銀色の狼を腕で叩き潰した。

 それを見て、金色のライオンはアステロイド・ウルフに嚙みつこうとしたが、

 アステロイド・ウルフはそれを躱して逆にライオンの首元に噛みついた。

 ライオンはアステロイド・ウルフに首を引き裂かれて消滅した。

 

「....思ったより呆気なかったな」

「というかお前の召喚した狼強過ぎるだろ!」

 古城は今の惨劇を見てそう叫んだ。

 

「そうか?」

「先輩! 無事ですか!」

 そう話していると、雪霞狼を持ったチア姿の姫柊がやって来た。

 

「姫柊か」

「伊吹先輩? それに、そこにいる狼は....」

 姫柊はアステロイド・ウルフを警戒しながら見ていた。

 

「あぁ....コイツは俺の魔術で召喚した奴だ」

「召喚って....伊吹先輩、召喚術なんて使えるんですか!?」

 俺の言葉に姫柊は目を見開いて驚いていた。

 

「まぁな。戻っていいぞ、アステロイド・ウルフ」

 俺はアステロイド・ウルフの方を見てそう言うと、アステロイド・ウルフは

 魔法陣の中に帰って行った。

 

「それよりも、姫柊はどうしてここに?」

「暁先輩を監視していた私の式神が、攻撃的な呪力の存在を知らせてきたので、

 気になって来てみたのですが....」

 姫柊がそう言うと、青白い蝶が姫柊の指に止まった。

 

「あぁ....悪いな、俺が先に倒しちまった」

「そうだったんですね」

「おい姫柊。監視していた式神ってどういうことだ?」

 姫柊の言葉に疑問を持ったのか、古城が姫柊にそう聞くと、姫柊はあからさまに肩を

 ふるわした。

 それを無言で古城が見つめると、姫柊はわざと咳払いをして開き直ったように胸を張った。

 

「....任務ですから!」

「ちょっと待て! もしかして、これまでずっとそうやってオレのこと見張ってたのか!?」

「あ、安心してください。先輩のプライバシーは守りますから」

「安心できるか!」

 そう言って古城が怒鳴っている間に、俺はライオンが落としたと思われる破片を拾った。

 

「アルミ箔か....」

「伊吹先輩、それも式神の一つです。本来は、遠方にいる相手に書状などを送り届ける為の

 もので、攻撃的な術ではないはずなんですけど....」

 俺がアルミ箔を見ていると、後ろから姫柊がそう言ってきた。すると、急に姫柊は

 雪霞狼を握りしめた。姫柊の視線の先には二人組の女子生徒がいた。

 

「すいません先輩。 雪霞狼を見られました。 すぐに捕まえて記憶の消去を....」

「待て待て姫柊!」

 すぐにでも飛び出しそうな姫柊を古城は止めた。

 

「そんなことをしなくても大丈夫だから! 心配要らないって!」

「どうしてそんな事が言えるんですか!」

「どう見ても痛いコスプレ少女だよ。今の姫柊は」

「っ! ジ、ジロジロ見ないでください!」

 姫柊はスカートを押さえて後ずさった。

 

「いや、でもスパッツ履いてるだろ」

「そう言う問題じゃねぇだろ」バシンッ

「イッテェ!」

 俺は古城の頭を結構な威力で叩いた。古城はその場でうずくまった。

 

「はぁ、このアホは....」

「伊吹先輩も苦労してるんですね....」

 姫柊は哀れむような目で俺を見ていた。すると、古城が何かを持って立ち上がった。

 

「なぁ姫柊。さっきの式神が書状を届ける術なら、こいつは俺宛ってことでいいのか?」

 古城の手には黒い封筒に金色の装飾が施され銀色の封蝋された手紙があった。

 俺はそれを見て頭が痛くなった。隣にいる姫柊も驚いた表情をしていた。

 

「その刻印....まさか....」

「姫柊?」

 古城が姫柊に何かを聞こうとしたその時....

 

「....古城?」

 背後から聞き覚えのある声が聞こえた。背後にいたのはバドミントンのユニフォームを

 着た浅葱がいた。

 

「こんな所でなに騒いでんのよ。 あんたがいつまでも練習に来ないから、捜しに来て

 やったのよ。 まったく、私をあんなカップル空間に置き去りにするとはいい度胸....」

 すると。浅葱は古城の持っている手紙をじっと見ていた。

 

「....その手紙、何?」

「えっ?」

 浅葱の言葉を聞いて俺はこの状況に気づいた。

 放課後の体育館裏に男子二人に女子一人。古城の手には手紙があり、正面には姫柊が。

 俺はその光景を少し離れた所で見ている。どう見ても俺がこの場をセッティングしたと

 思われる。これは明らかに告白の現場だ。

 

「もしかして、邪魔しちゃった?」

「いや違う。俺が姫柊とここで会ったのは予期せぬ事故というか緊急事態というか、

 決してこの手紙を俺たちが渡したり受け取ったりしてたわけじゃなくてだな....」

「そ、そうですよ!」

 古城と姫柊はどうにか説得をしようとするが、あまりにも二人の息が合い過ぎる為、

 説得力が皆無だった。

 

「(よくここまで合わせられるな....)」

 俺は、別に二人が口裏を合わせてないのに息が合い過ぎている事に驚いていた。

 

「はぁ....もういいわよ。私には関係ないことだしさ」

 浅葱はにこやかに笑ったが、どうにも浅葱らしくない笑顔だった。古城も恐らく

 分かっているだろうが、明らかにショックを受けていた。

 

「私、帰る」

 浅葱はそれだけ言うと、背中を向けてこの場から走って行った。

 

「あ、浅葱....」

「....これはやっちまったな」

 俺は空を見上げながらそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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戦王の使者 Ⅳ

「アルデアル公ディミトリエ・ヴァトラー....一体誰だ?」

 俺と古城、姫柊はスーパーに寄っていた。そして、古城はさっきの手紙を

 眺めながらそう言った。

 

「アルデアル公国は戦王領域、第一真祖の“忘却の戦王(ロストウォーロード)”が支配する東欧の

 夜の帝国(ドミニオン)を構成する自治領の一つだ」

 俺はカートを押しながら古城にそう言った。

 

「で、何で第一真祖の臣下が絃神島なんかに来てるんだ? ....てかタマネギ

 多すぎるだろ」

 姫柊がカートの中にタマネギをドサドサと入れるのを見て古城はそう言った。

 

「おそらく、先輩と会うためだと思われます。それと、好き嫌いはダメですよ」

「いや、にしてもだろ!」

「安心しろ古城。凪沙ちゃんが美味い料理にしてくれるだろ」

 そう言っている間にも、姫柊はタマネギをどんどん入れていった。

 古城も諦めたのかため息をついていた。

 

「てか、なんでヨーロッパの吸血鬼がオレの名前知ってるんだ?」

 古城は封筒にある自分の名前を見てそう言った。

 

「お前の眷獣が覚醒したからだろ。それで第四真祖、お前の居場所が分かったんだろう」

「確かにその可能性はありそうですね....先輩、どうかしたんですか?」

 姫柊がそう聞いた時、古城は何故か困惑した表情をしていた。

 

「いや....何かここにパートナーを連れて来いって書いててな」

「パートナーか....確か欧米とかのパーティーでは夫婦や恋人を同伴させるのが

 基本だったな」

「いない場合は代役を立てるしかないですね」

「代役か....」

 古城は困ったように考え込んだ。

 

「吸血鬼がらみのパーティーに凪沙は連れて行けない。浅葱は怒ってたから下手に

 ヤバイことに巻き込めないし....」

「先輩の正体を知ってて危険な状況にも対処できる人材というと、選択の余地は

 あまりないと思いますけど」

 そう言った姫柊は可愛らしく古城を見ていた。

 

「そうだな....巻き込むのは気が引けるけど頼んでみるか。那月ちゃんに」

「「え....」」

 俺と姫柊は同時にそう言った。

 

「いや、だって那月ちゃんなら俺の正体知ってるし、攻魔師の資格も持ってるし、

 危険な状況にも対応できる。 適任だろ」

「いや、その前にもう一人いるだろ。お前の隣に」

 俺がそう言うと、古城は姫柊の方を見た。

 

「姫柊に頼んでもいいのか?」

「はい。先輩の監視が私の任務ですし」

「じゃあ、姫柊に頼むな」

「はい!」

 姫柊はどこか嬉しそうだった。

 

「おいそこ。イチャついてないでさっさと行くぞ」

 俺はそう言って二人の前を歩いて行った。

 

「「だ、誰がイチャついて....!」」

「お前ら以外に誰がいるんだよ....」はぁ

 

 

 〜〜〜〜

 

「あ....」

 マンションに着いてエレベーターに乗っていると、急に姫柊が声を上げた。

 

「どうした?」

「その、今考えてみたんですけど、私、パーティーに着ていく服が無いと思って....」

「パーティーに着ていく服か....まぁ普通は持ってないわな。てか、お前もパーティに

 着ていく服を持ってないよな」

 俺は隣で荷物持ちをしている古城にそう言った。

 

「確かに言われてみれば....」

「どうしましょうか....?」

「最悪、この時間にレンタルできるところでレンタルするのが良いんじゃないか?」

 俺はそう言って、携帯でレンタル出来るところを探し始めた。その間にもエレベーターは

 俺達が住んでる階に着き、俺達は古城の家に向かった。

 

「....? 何だこれ」

 古城の家に入ると、急に古城がそう言って立ち止まった。俺も携帯から視線を離して

 古城の方を見ると、玄関に何か大きいダンボールが置かれていた。

 

「送り主は....獅子王機関?」

「獅子王機関が先輩宛に?」

「....何で古城の家に? 姫柊の家で良かっただろ」

「....とりあえず開けてみるか」

 古城はそう言うと、ダンボールの箱を開けた。ダンボールの中には青いリボンが付いた

 白いドレスと黒のタキシード、ネックレス、それと一通の手紙が入っていた。

 

「見たところ、パーティーに着ていけそうなドレスとタキシードだな」

「みたいですね。獅子王機関も私達がパーティーに呼ばれるのを知っていたのでしょうか?」

「その辺は姫柊の上司に聞いたらどうだ。それよりも、その手紙は?」

 俺は手紙を持った古城にそう聞いた。

 

「えっと....オーダーメイドのパーティードレス一式、バスト76、ウエスト....」

「(嫌な予感が....)」

 俺はそう思って両耳を塞いだ。古城は俺に気づかずに続きを言っていった。

 そして、俺は恐る恐る姫柊の方を見たら雪霞狼を構えて古城を睨んでいた。

 

「(....死ぬなよ古城)」

 俺は心の中でそう思いながら姫柊に頭を下げて隣の自分の家の中に入った。

 その後、古城の悲痛な叫び声がマンションに響き渡った。

 

 

 〜〜〜〜

 

「おぉ、二人とも似合ってるな」

 部屋で着替えてから古城の家にもう一度行くと、二人はドレスとタキシードに

 着替えていた。

 

「そ、そうか?」

「で、でもこの服、肩とか脚が出過ぎなような....」//

 姫柊はドレスの露出の多さに少し恥ずかしそうにしていた。

 

「まぁパーティー用のドレスはそんなもんだろ。....てか、もう行くのか?」

「あぁ。ここから会場までタクシーで行っても時間がかかるからな」

「それに渋滞に巻き込まれるかもしれないですから」

「そうだな。途中の高速道路は夜に混むからなぁ」

 俺は会場までの道を思い出しながらそう言った。

 

「じゃあ私達は行ってきますね」

「すまねぇが終夜、凪沙のことを頼む」

「了解。適当に言い訳しとくから安心しとけ」

「悪いな。じゃあ行ってくる」

「おう。いってらっしゃい」

 俺がそう言うと、古城と姫柊は玄関から出て行った。そして、古城達が

 出て行ってから10分後....

 

「....さてと」

 俺は腕を振るってカードを出現させた。俺はその中から二枚のカードを手に取った。

 

召喚(コール)、轟脚のブラストモンク、質量転移のレディフェンサー」

 俺がそう言ってカードを投げると魔法陣が現れ、そこから金髪で髪を結んだ男と、

 腰にレイピアを差した薄緑色の髪の女が現れた。

 

『呼んだか、我が先導者(マイ・ヴァンガード)

『私達に何か任務かしら?』

「あぁ。お前達にある所に行ってもらいたくてな」

『ある所?』

「ディミトリエ・ヴァトラー、覚えているか?」

 俺が二人に聞くと、『あぁ....』といった表情になった。

 

『あの胡散臭い金髪ね』

『確か蛇の眷獣を使う男だったな』

「その通りだ。ヴァトラーは現在、絃神島に来ていて古城を船上パーティーに誘った。

 奴のことだ。古城に会いに来るためだけにこの島に来たとは思えない。何か裏があって

 来たはずだ。だから、お前達二人には古城を影から護衛するのと、奴の目的を聞く事、

 忠告をしてきてもらいたい。この島で余計なことをするなってな」

『了解した』

『わかったわ。それで場所は?』

「南湾地区の大桟橋だ」

 俺は携帯の地図で場所を指差した。

 

『そうか。もしも奴が何かをしようとした場合は?』

「そうだな....殺すと面倒な事になる。精々痛めつける程度が妥当だ」

『了解した。では』

『行ってくるわね。報告を楽しみにしていて頂戴』

 そう言って二人はベランダから飛び出し南湾地区の大桟橋に向かって走り出した。

 

「....さて、俺は飯を作って凪沙ちゃんを待っとくか」

 俺はそう呟いてキッチンに立った。

 

 

 〜〜〜〜

 1時間半後

 

「ただいまー!」

 俺が飯を作り終わって携帯を触っていると玄関から凪沙ちゃんの声が聞こえてきた。

 

「おかえり凪沙ちゃん」

「シュウ君!? どうしてウチに?」

「古城に少し頼まれてな。アイツ、ダチの家に行ってるらしくてな。

 帰るのに時間がかかりそうだから凪沙ちゃんを見ててくれって頼まれたんだ」

「そうだったんだ。というか、見ててくれって私もう中学生なんだけど!?」

 凪沙ちゃんはどうやら子供扱いされたことに怒っているようだった。

 

「まぁアイツもアイツで凪沙ちゃんのこと心配してるからだろうな。

 あんまりそう言ってやらないでやってくれ」

「むー....」

 凪沙ちゃんは複雑といった表情だった。

 

「まぁ文句は帰ってきてから言ってやんな。それよりも晩ご飯を食べようぜ。

 もう作ってあるんだ」

「シュウ君が作ってくれたの?」

「あぁ」

「ありがとうシュウ君! じゃあ早く食べよ!」

「そうだな。用意は俺がやっておくから凪沙ちゃんは着替えてきな」

「はーい!」

 そう言って凪沙ちゃんはリビングから出て行った。

 

「(さてと、今頃アイツらはどうしてんだろうな)」

 俺はそんな事を思いながら窓の外を見た。

 

 

 

 

 



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戦王の使者 Ⅴ

「オシアナス・グレイブ....洋上の墓場か。趣味の悪い名前だな」

 俺は客船に刻まれた名前を見て呆れたようにそう呟いた。

 俺は今、姫柊と一緒に南湾地区の大桟橋に来ていた。そして、俺達の

 目の前には巨大な豪華客船が停泊していた。

 

「戦王領域がそれだけの権力を誇示するのが目的なんだと思いますよ」

「そういうもんなのか....その辺は俺にはよくわからんな」

 姫柊は説明してくれたが、俺はあまりピンとこなかった。

 

「....まぁ、そうだと思いました。それよりも、早く行きましょうか。

 ここで止まっていても仕方がないですから」

「....そうだな。じゃあ行くか」

 そう言って、俺と姫柊は船に乗り込んだ。

 

 〜〜〜〜

 船内

 

「....俺達、完璧に浮いてるよな」

 船内に入って、俺はまずそう思った。船内には大物政治家や俺でも知ってる

 絃神市の要人達ばかりだったからだ。

 

「いえ、第一真祖の使者がこの島に訪れて真っ先に挨拶すべき相手はこの地を支配する

 第四真祖である先輩です。先輩がこのパーティーのメインゲストなんですから

 もっと堂々としていてください」

 姫柊は俺に淡々とそう言ってきた。

 

「そんなこと言われてもだな。俺は数ヶ月前までただの高校生だったんだよ!」

 俺がそう言うと、姫柊は少し同情したような目で俺を見てきた。

 

「....ていうか、俺を呼びつけた張本人はどこにいるんだ?」

「おそらく上かと。行きましょう先輩」

 姫柊はそう言って上に上がる階段の方に向かって歩き出した。そして、人気が少なく

 なったところを歩いていると、急に俺に向かってナイフとフォークが飛んできた。

 

「うおっ!?」

「先輩!?」

 俺は咄嗟に後ろに下がってナイフとフォークを躱した。すると目の前に茶髪の

 チャイナドレスを着た女が立っていた。

 

「雪菜から離れなさい、暁 古城」

「っ、何で俺の名前を....」

「紗矢華さん!?」

 姫柊が驚いてそう言った瞬間、紗矢華と呼ばれた女は俺を突き飛ばして姫柊に抱きついた。

 

「雪菜! 雪菜雪菜雪菜! 久しぶりね、元気だった?」

「は、はい。でも、どうして紗矢華さんがここに?」

「アルデアル公の監視の任務で来たの」

「っ、じゃああの手紙は紗矢華さんが....」

「そうよ。それよりも身体は平気? 獅子王機関も何て酷い! 私がいない間に雪菜を

 第四真祖の監視を押し付けるなんて....」

「おい姫ら....」

「呼ばないで」

 俺が姫柊の名前を呼ぼうとした瞬間、女は俺にそう言ってきた。

 

「はぁ!?」

「貴方に雪菜の名前を呼ばれたくない。雪菜もそうでしょ?」

「え、えーっと....」

「っ、とにかくコイツは誰なんだ?」

 俺は姫柊の方に向かってそう言った。

 

「煌坂 紗矢華。獅子王機関の舞威媛で私のルームメイトだった人です」

「舞威媛? 剣巫とは違うのか?」

「舞威媛の真髄は呪詛と暗殺。雪菜につきまとうものを抹殺するのが私の使命」

「いや完全に私情を挟んでるだろ!」

 舞威媛の説明を聞いて俺はそう叫んだ。

 

「ま、まぁまぁ先輩。それよりも紗矢華さん、アルデアル公の監視役なのに

 ここにいて良いんですか?」

「違うのよ。アルデアル公に連れてくるように言われたの。そこの変態真相をね」

 煌坂は俺を睨みながらそう言ってきた。

 

「だったらさっさと案内してくれ....」

「言われなくても分かってるわよ。だからさっさと死んできて」

「死ぬかっ!」

「待ってください先輩、紗矢華さん」

 俺は煌坂について行こうとした瞬間、姫柊が俺達に向かってそう言ってきた。

 

「どうしたの雪菜?」

 煌坂が姫柊に聞くと、姫柊は雪霞狼を構えて背後を向いてこう叫んだ。

 

「さっきから私達をつけていますが、一体何者ですか!」

 姫柊が叫んでから少しすると、物陰から金髪でタキシードを着た男と、薄緑色の髪で

 赤いドレスを着た女が現れた。

 

『気づいていたのか』

「えぇ....」

『そうか。なかなか洗練された感覚だな』

 金髪の男は素直に賞賛したように言った。

 

「それはどうも。それで貴方達は一体何者ですか? ただの人間では無いようですが....」

『俺は豪脚のブラストモンク』

『私は質量転移のレディフェンサー。黒輪の根絶者(デリーター)様に仕える者よ』

「黒輪の根絶者(デリーター)....!」

「っ!」

 二人がそう言った瞬間、姫柊は警戒し、煌坂は目を見開いて驚いていた。

 

「....どうして私達をつけていたのですか?」

『それが私達に与えられた任務だからよ。ディミトリエ・ヴァトラーにこの島に来た

 目的を聞くこと。そして第四真祖、あなたの護衛をするためよ』

「俺の護衛?」

「一体どういう事ですか?」

『さてね。それよりも、そこのあなた。私達も勝手について行かせてもらうわよ』

 ドレスの女は煌坂を指差してそう言った。

 

「....」

「紗矢華さん?」

「っ! な、なに?」

「あの人達も勝手について行くって言ってますけどどうしますか?」

「....好きにしてくれたら良いわ」

 煌坂は少し動揺しながらもそう言って階段の方に向かって行った。

 

『そうか』

 金髪の男は煌坂の後ろについて行った。そして、女は俺の隣にやって来た。

 

『安心してくれて良いわ。私達は貴方達と敵対するつもりは毛頭無いから』

「....」

「そ、そうか....」

 姫柊は雪霞狼を直したが、未だに警戒を続けているようだった。俺も少し動揺していたが

 向こうに敵意が無いのは何となく分かったので、大人しく煌坂について行った。

 そして、俺達は上甲板に出た。すると、広大なデッキに一人の男が立っていた。

 金髪で白いスーツを纏った男は蒼い瞳で俺を見ていた。

 刹那、男の全身が純白の閃光に包まれた。閃光の正体は炎の蛇で、俺は咄嗟に

 躱そうとしたが....

 

『ふっ!』

 いつのまにか俺の目に前に金髪の男と薄緑色の髪の女が立っており、男は蛇を上空に

 蹴り上げ、女は何処から取り出したのかレイピアで蛇を斬り裂いていた。

 

「なっ!?」

 その様子に姫柊は驚いて目を見開いていた。

 

『随分と手荒な歓迎だな、ディミトリエ・ヴァトラー』

 金髪の男は白いスーツの男を睨みながらそう言った。

 

「まさか、彼の部下が乗り込んでいるとは....これは想定外だったねぇ」

 白いスーツの男は二人の正体に驚きながらもこっちに近づいて来た。

 

「初めまして、と言っておこうか、暁 古城。我が名はディミトリエ・ヴァトラー。我らが真祖、

 “忘却の戦王(ロストウォーロード)”よりアルデアル公位を賜りし者。 今宵は御身の尊来をいただき恐悦の極み....」

 男の口上に、俺、姫柊、煌坂は固まっていた。

 

「そして同時に、黒輪の根絶者(デリーター)に仕える者達よ。久しぶりと言っておこう。その節は

 随分と世話になったものだね」

『....こっちは大迷惑を被ったけど』

『もう数十年はお前と顔を合わせなくても良かったがな....』

 二人は嫌そうにそう言っていた。

 

「と、とりあえず。あんたが俺を呼び出した張本人のディミトリエ・ヴァトラーなんだな?」

 俺は困惑しながらそう聞いた。

 

「その通りだ暁 古城、いや焔光の夜伯(カレイドブラッド)。我が愛しの第四真祖よ!」

 ヴァトラーは愛おしそうに俺を見つめながら腕を広げていた。

 



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戦王の使者 Ⅵ

 俺達は今、船の中にあるホールにいた。

 

「....ふむ。一瞬感じた気配、獅子の黄金(レグルス・アウルム)だね。普通の人間が第四真租を喰ったって噂、

 わざわざ確かめに来たのも、案外無駄じゃなかったわけか」

 ヴァトラーは俺の方を見ながらそう言ってきた。

 

「何で獅子の黄金(レグルス・アウルム)のことを....」

 俺はヴァトラーに獅子の黄金の事について話した事がないのに、ヴァトラーが

 獅子の黄金(レグルス・アウルム)について知っている事を疑問に思ってそう言った。

 

「おや、気づいていなかったのかい? 僕の眷獣が君に向かった時に一瞬現れようと

 していたんだけど。まぁ、彼等が僕の眷獣を吹き飛ばしたから実物を見る事は

 叶わなかったけどね」

 ヴァトラーは笑みを浮かべながら黒輪の根絶者(デリーター)の部下である二人を見てそう言った。

 

『つまらん世間話はいい。さっさと聞かせてもらおうか、貴様がこの島に来た目的をな』

『第四真祖に挨拶してはい終わりでは無いでしょ』

「....そうだね。ちょっとした根回しって奴だよ。この魔族特区が第四真祖の領地

 だというのなら、まずは挨拶しておこうと思ってね。もしかしたら迷惑を

 かけることになるかもしれないからねぇ」

「迷惑ってどういう事だよ」

「クリストフ・ガルドシュという男を知っているかい?」

「....いや、誰だ?」

 俺はヴァトラーが言った男に覚えがなかった。

 

『....クリストフ・ガルドシュ。戦王領域出身の元軍人で黒死皇派という

 過激派グループの幹部の男だ』

『十年ほど前のプラハ国立劇場占拠事件では民間人に四百人以上の

 死傷者を出したテロリストよ』

 黒輪の根絶者(デリーター)の部下の二人は俺にクリストフ・ガルドシュの事を説明してくれた。

 だが、俺はその説明を聞いて一つ疑問に思った。

 

「黒死皇派って名前は聞いたことがあるが、何年も前に壊滅したんじゃなかったか?」

『そうね。リーダーはそこの蛇遣いが殺したわ。クリストフ・ガルドシュは

 その生き残りよ。蛇遣いが中途半端に逃がしたせいで残党が新たな

 指導者としてクリストフ・ガルドシュを雇ったのでしょうね』

「ちょっと待ってくれ! じゃあヴァトラーがこの島に来た目的は、

 そのガルドシュって男が関係してるのか?」

 俺は何となく嫌な予感を感じたのでヴァトラーにそう聞いた。

 

「察しが良くて助かるよ古城! そのとおりだ。ガルドシュが黒死皇派の部下達を

 連れて、この島に潜入したという情報があった」

『なるほど....また随分とふざけた事を考えてるわね』

 そう言った黒輪の根絶者(デリーター)の部下の女はレイピアをヴァトラーに向けていた。

 それを見て、周りのヴァトラーの部下らしき奴等も戦闘態勢を取っていた。

 

「お、おい! 何で今のヴァトラーの言葉でそうなるんだ!」

『....わかりやすく言うとな。あの蛇男はクリストフ・ガルドシュに襲われた際、

 正当防衛の大義名分を使って黒死皇派の残党と殺りあうのが目的だ』

「ふふふっ、流石は黒輪の根絶者(デリーター)の部下! 感が良いという次元を超えているね!」

 ヴァトラーは黒輪の根絶者(デリーター)の部下の男の言葉に笑いながら答えた。

 

『....あんた、そんな事した時には“根絶(デリート)”するわよ』

「っ!」

 そう言った黒輪の根絶者(デリーター)の部下の女のドレスは燃えていき、いつに間にか銀色の鎧を

 纏ってヴァトラーを睨みつけていた。その気迫に押されたのか、ヴァトラーも女を

 睨みつけて眷獣が出ようとしていた。気がつけば、場は一触即発の空気になっていた。

 すると....

 

「待ってください!」

 姫柊が雪霞狼を持って二人の間に入った。

 

「恐れながら、アルデアル公の心配には及ばないと思います。それに貴方も」

「....たしか君は、獅子王機関の剣巫、紗矢華譲のご同輩だね」

『....それはどう言う意味かしら?』

「この地の首領は第四真祖。 この地の火の粉を払うのは領主の務めなので、

 アルデアル公は大人しくしててください。そして、貴方達の主人にも」

「ひ、姫柊!?」

 姫柊は冷静な様子で二人にそう言った。

 

「....まぁ良いよ。君が古城の伴侶として相応しいか見極める良い機会だ」

『....言うだけなら別に構わないわ。ただし、選択を決めるのは先導者様よ。

 それだけを忘れないでもらえるかしら』

「....そうですか」

 そう言うと、女はレイピアを腰の鞘に直し、ヴァトラーも眷獣を戻していた。

 

『....さて、貴様の目的も聞けたし我等はこれで失礼するぞ』

『そうね。....言っておくけど、私達は忠告したわよ蛇遣い』

「あぁ....そうだね」

 そう言ったヴァトラーは少し冷や汗が流れていた。

 

『ではな』

 そう言って二人が部屋から出て行くと、何故か煌坂は二人を追いかけて出て行った。

 

 

 〜〜〜〜

 ブラストside

 

「ちょっと待って!」

 俺達が部屋から出て階段を降りていると、急に舞威媛の女の声が聞こえてきた。

 

『何か用か?』

「一つだけ、貴方達に頼みたい事があるの」

『頼みたい事?』

「えぇ。貴方達の主人に、こう伝えてもらえないかしら」

 舞威媛の女はそう言うと、一つの伝言を俺達に言ってきた。

 

『....わかったわ。先導者様には私の方から伝えておくわ』

「っ、ありがとう....!」

『....ではな』

 俺達は船から降り、我が先導者(マイ・ヴァンガード)の家に向かって走り出した。

 

 〜〜〜〜

 

我が先導者(マイ・ヴァンガード)、ただいま戻りました』

 俺とフェンサーは我が先導者の前に跪いていた。

 

「二人ともおかえり。それで、何かわかったか?」

『はい』

 フェンサーは蛇男から聞いた目的を話した。

 

「....そうか。面倒ごとをこの島に持ってきやがって....」

 先導者は忌々しそうにそう言った

 

『それと、もう一つ報告が....』

「もう一つ?」

『はい。蛇遣いの監視をしていた獅子王機関の舞威媛から先導者様に伝言が....

「あなたは覚えていないかもしれないけど、私はあなたに感謝している。10年前、

 私を助けてありがとう」だそうです』

「10年前....」

 フェンサーの言葉を聞いて、先導者は何かを思い出そうと考え込んでいた。

 

『心当たりは無いのですか?』

「あぁ....」

『そうですか....』

「まぁ良い....とにかくご苦労様。二人は戻って休んでくれて構わないぞ」

『はい』

『では、失礼します』

 俺とフェンサーはそう言ってカードの状態に戻った。

 

 

 

 



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戦王の使者 Ⅶ

「....あの蛇遣いが来ているのか。それも暁 古城も巻き込んで」

「あぁ。俺の部下の二人が目的を聞くのと忠告はしてくれたけど....」

 次の日の朝、俺は学校にあるなっちゃんの部屋に行って昨日の事を話していた。

 

「あの軽薄男が忠告を聞くとは到底思えんがな....」

「それに関しては同感だ....」

主人(マスター)根絶者(デリーター)。紅茶です」

 俺となっちゃんが話していると、アスタルテが紅茶を淹れてくれていた。

 

「ありがとう。それと、俺のことは根絶者(デリーター)じゃなくて名前で頼む」

命令受託(アクセプト)。では、これからは終夜さんと呼ばせていただきます」

「あぁ」

 何故ここにアスタルテがいるのかと言うと、俺がなっちゃんにアスタルテを預けたからだ。

 俺の所にいると俺が黒輪の根絶者(デリーター)という事がバレてしまうため、俺の正体を

 知っており、何かあった際にすぐ見に行く事が出来る人物に頼った結果、なっちゃんの所に

 預ける事になったというわけだ。それにアスタルテは現在保護観察中の身のため、

 攻魔師であり、教師であるなっちゃんの所が適任だったというのも理由だ。

 

「そういや、昨日行ったカノウ・アルケミカル・インダストリー社はどうだった?」

 俺はなっちゃんが昨日、攻魔師の仕事で行った所のことを聞いた。

 

「あぁ、黒死皇派のシンパがいた。それとガルドシュの目的がわかった」

「ガルドシュの?」

「奴の目的はナラクヴェーラだ」

「....ナラクヴェーラ?」

「南アジア、第九メヘルガル遺跡から発掘された先史文明の遺産だ。かつて存在した

 無数の都市や文明を滅ぼしたといわれる神々の兵器だ」

 なっちゃんは丁寧にナラクヴェーラについて説明してくれた。

 

「まさかと思うが、そんな危険物がこの島に?」

「表向きには無いはずの物だが、カノウ・アルケミカル・インダストリー社がサンプルの

 一体を非合法に輸入していた。....既に強奪されていたがな」

「強奪って....」

「所詮九千年前に作られたガラクタだ。制御するためにはこの石版を解かない限り

 動く事は無いだろう」

 そう言ってなっちゃんは一枚の紙を見せてきた。そこには訳の分からない呪文なのか

 術式なのかを書かれた石版の写真があった。

 

「(全く読めねー....)」

「ま、今日か明日にでも特区警備隊がガルドシュを狩り出すだろう」

「....だと良いけどな」

 俺は石版を見ながらそう呟いた。

 

「....どういう意味だ?」

「何か嫌な予感がするんだよなぁ....」

「....お前がそう言うと当たりそうで嫌なんだが」はぁ

 なっちゃんは嫌そうにため息をついてそう言ってきた。

 

「そう言われてもなぁ....」

「....そういえば、一つお前に頼みたい事があったな」

 なっちゃんは何か思い出したようにそう言った。

 

「頼みたい事?」

「あぁ。アスタルテの力を制限する事はできるか?」

「アスタルテの?」

 何でもアスタルテの眷獣の力が俺の魔力をキッカケに強力になったため、

 黒死皇派のシンパがかなりの重傷を負ったらしい。そのため、力を少し封印して欲しいそうだ。

 

「まぁ、それぐらいならすぐにできるけど....」

「そうか」

「アスタルテ、ちょっとこっちに来てくれ」

 アスタルテにそう言うと、アスタルテは俺の前に立った。

 

「ちょっと手を触るぞ」

「はい」

 俺はアスタルテの手を握って、魔力の流れを見た。

 

「....これで良いか。呪縛(ロック)

 俺はそう呟いて、アスタルテに渡している魔力の一部を呪縛(ロック)した。

 

「良し。もう良いぞ」

 そう言って手を離そうとしたのだが、俺の手はアスタルテに強く握られて離せなかった。

 

「アスタルテ?」

「っ! すいません!」///

 アスタルテに声をかけると、アスタルテは逃げるように俺から距離を取った。

 その時のアスタルテの顔は少し赤くなっていた。

 

「(な、何かまずいことしたか....?)」

 俺が困っていると、なっちゃんは俺の方を見て苦笑していた。

 

「....何さ」

「いや、お前も罪作りな男だと思っただけだ」

「どういう事....?」

 そう言って話していると、扉が開く音がした。

 

「那月ちゃん。少し良い....」

 入ってきたのは古城と姫柊で、古城の顔面には広辞苑が投げられていた。

 

「私のことを那月ちゃんと呼ぶなと言っているだろう。いい加減に学習しろ暁 古城」

「イッテェ....って、終夜!」

「伊吹先輩! こんな所で何してるんですか」

 二人は俺がいることに驚いていた。

 

「コイツは私が呼んだ。コイツには聞きたい事があってな。....まぁその話はもう終わったが」

「そういうこと。二人は何か聞きに来たのか?」

「あ、あぁ」

「そうか。ま、大事な話そうだから俺は退出するか。じゃあななっちゃん」

「....教師をちゃん付けで呼ぶな!」

 なっちゃんは俺に向かって扇を投げつけてきた。俺はそれを慌てて躱して逃げるようにして

 教室に向かった。

 

 〜〜〜〜

 那月side

 

「はぁ....それで、お前達はこんな朝から何の用だ」

 私は目の前にいる二人に聞いた。

 

「クリストフ・ガルドシュについて教えてください」

「....蛇遣いから聞いたな」

「ヴァトラーのこと知ってるのか!」

 暁 古城は驚いたようにそう叫んだ。

 

「当たり前だ。それで、ガルドシュを捕まえるとでも言うのか?」

「っ! 何故その事を!」

 予想通りの反応に私はため息をついた。

 

「奴から聞いた」

「奴って?」

「黒輪の根絶者(デリーター)の部下だ」

「「っ!?」」

 私がそう言った瞬間、二人は目を見開いた。

 

「黒輪の根絶者(デリーター)と知り合いなんですか!」

「知り合いなどでは無い。昔に共闘した事があっただけの関係だ。今では私に

 面倒ごとを押し付けてくる厄介な奴だがな」

 そう話していると、アスタルテが紅茶を淹れて持ってきた。アスタルテの姿を見て、

 再び二人は驚いていた。

 

「お前、オイスタッハのオッサンが連れてた眷獣憑きの....!」

「アスタルテ....さん!?」

「お前達とは顔見知りだったな。アスタルテも少し前に奴から預かった。

 自分の所より、私の所が安全だという理由でな。アスタルテ、そいつらに茶はいらん」

「....命令受託(アクセプト)

 アスタルテはそう言って下がっていった。

 

「....とにかく、お前達がガルドシュを捕まえる必要はない。黒死皇派が成そうと

 していることは無駄だからな」

「どう言う意味ですか....?」

「(....面倒だが、仕方あるまい)」

 私はそう思いながらナラクヴェーラの事について話した。

 

 

「とにかく、あの蛇遣いが何かを言ったところで、お前達の出る幕はない。強いて言えば、

 追い詰められた獣人どもの自爆テロに気をつけることだな」

「自爆テロ....!」

 思いがけない私の言葉に、暁 古城は顔を引きつらせていた。

 

「それからもう一つ忠告しといてやる。ディミトリエ・ヴァトラーには気をつけろ。

 奴は自分よりも格上の“長老”....真祖に次ぐ第二世代の吸血鬼をこれまでに二人も喰っている」

「同族の吸血鬼を喰った....アイツが!?」

 中等部の転校生と暁 古城は驚愕していた。

 

「奴が、“真祖に最も近い存在”といわれる所以だ。せいぜいお前も喰われないようにする事だ。

 わかったならとっとと出て行け。私ももう出る」

 そう言って、私は二人を無理矢理部屋から追い出した。

 

「さて、アスタルテ。留守番は任せるぞ」

命令受託(アクセプト)

 私はアスタルテにそう言って外に待たせている車に乗って増設人工島(サブフロート)に向かった。

 

 〜〜〜〜

 終夜side

 

「(何なんだろうな....あの石版を見た時と嫌な予感)」

 俺は教室でそんな事を考えていた。

 

「(なっちゃんは動くことはないって言ったが....っ!)」

 そう考えていると、急にこの校舎の屋上から巨大な魔力を感じた。

 それと同時に、校舎の窓ガラスが割れ始めた。

 

「(この魔力の気配....古城か!)」

 俺は急いで教室から出て屋上に向かって走り出した。そして、屋上に着くと、膝をついている

 古城と、茶髪のポニテで剣を持った女と、気を失って倒れている浅葱と、雪霞狼を持った

 姫柊がいた。

 

「....これは一体、どういう状況だ?」

 話しを聞くと、そこにいる剣を持った煌坂という女が古城に襲いかかって眷獣の一体が

 覚醒しそうになったらしい。その気配に気づいた姫柊が雪霞狼で古城の眷獣を止めたそうだ。

 すると....

 

「雪菜ちゃん! 何かすごい勢いで飛び出していったけど大丈夫?」

 急に屋上の扉が開き凪沙ちゃんが入ってきた。

 

「って、何これ! なんで屋上が壊れてるの!? それに浅葱ちゃん!? 

 怪我してる!? どうしよう!?」

「....はぁ。伊吹先輩、すみませんが私と凪沙ちゃんが藍羽先輩を保健室に連れて行きますから。

 その間、二人の事を監視してもらえませんか?」

「別に構わないが....」

「ありがとうございます。先輩と紗矢華さんはここで正座して反省していてください」

「ひ、姫柊!?」

「そんな殺生な!」

「....文句は聞きません。良いですね」

「「は、はい....」」

 姫柊の睨みで二人は縮こまってその場で正座した。

 

「あ、それと先輩。これをお願いしますね」

 そう言って姫柊は折りたたんだ雪霞狼を古城に渡した。

 

「それでは伊吹先輩。二人の監視、お願いしますね」

「あぁ。浅葱のことは頼んだぞ」

「はい」

 



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戦王の使者 Ⅷ

 姫柊が凪沙ちゃんと浅葱を連れて屋上から出て行くのを見送ると、

 俺は正座している二人の前に座った。

 

「....で、今度は何したんだ古城?」

「俺が何かやった前提かよ!」

「まぁ、最近のお前を見てるとな....」

「今回は俺じゃねぇよ! この嫉妬女が一方的に襲いかかってきたんだよ!」

 古城は煌坂を指差してそう叫んだ。

 

「はぁぁ!? そもそもアンタが雪菜を裏切るような破廉恥なことをするから

 いけないんでしょうが!」

「そんな事、俺がいつやった!」

「今日の朝、さっき気絶していた子を押し倒してたじゃない!」

「何でお前が知ってんだよ! それにあれはただの事故だ!」

「どうかしら! 鼻の下伸ばしてデレデレしてたくせに!」

「してねぇっつの!」

「....はぁ」

 古城と煌坂は小学生のような低レベルな言い争いをしていた。

 

「ていうか、アンタは誰よ! 暁 古城が第四真祖って事を知ってるなんて! アンタ、

 コイツと同じ吸血鬼なの!」

 すると、急に煌坂は俺の方を指差してそう言ってきた。

 

「違う。....俺は伊吹 終夜。このバカで変態な第四真祖のダチで魔術師だ」

「バカと変態は余計だ!」

「うるさい。で、お前こそ一体何者だ? 姫柊の知り合いみたいだが....」

「....煌坂 紗矢華。獅子王機関の舞威媛よ」

「....舞威媛」

「(ということは、フェンサーの報告にあった奴はコイツか)」

 俺はフェンサーからの報告を思い出し、煌坂のことをじっと見た。

 

「(....確かに、どこかで会ったことがあるような無いような)」

 俺はそんな気がするのだが、どこで会ったかまでは思い出せなかった。

 

「ちょっと! 何ジロジロ見てんのよ!」

「っ、悪いな。何だか、どこかで会った事があるような気がしてな....」

 俺はそう言って視線を逸らした。そうして30分以上の時間が経った。

 

「ていうか、俺達はいつまで正座してればいいんだよ....」

「雪菜、いくらなんでも遅すぎるわ....」

「確かにそうだな....」

 すると、突如拳銃の発砲音が五発ほど聞こえてきた。

 

「っ! 今の音!」

「拳銃の発砲音....!」

「それに、音の方向的に保健室の方からか....!」

 俺の言葉に二人は戦慄していた。

 

「保健室って、さっき雪菜が!」

「とにかくここで考えても仕方ない! 保健室に向かうぞ! 煌坂は迷わないように

 俺達について来い!」

「言われなくても分かってるわよ!」

 そう言って、俺達は保健室に向かって走り出した。

 

 〜〜〜〜

 保健室

 

 俺達は保健室の前に着くと勢いよく扉を開けた。そして、保健室に入って

 目にしたのは血を流して倒れているアスタルテだった。

 

「っ、アスタルテ!」

 俺はアスタルテを抱き起こした。

 

「終夜、さん....」

「一体何があった! それに姫柊達は!」

「....報告、します、第四真祖、終夜さん。現在時刻から、二十五分三十秒前、

 クリストフ・ガルドシュと名乗る人物が本校校内に侵入。藍羽 浅葱、暁 凪沙、

 姫柊 雪菜の三名を連れ去りました」

「「なっ....!?」」

 アスタルテの報告を聞いて二人は絶句した。

 

「何処に向かったかはわかるか?」

「行き先は不明です....謝罪します....私は、彼女達を守れなかった....」

 アスタルテはそう言うと気を失った。

 

「....報告、ありがとな」

 俺はそう言ってアスタルテを保健室のベッドまで運んだ。そして、俺はアスタルテを

 うつ伏せの状態で寝かせると、着ている服を脱がせた。

 

「お、おい!?」

「アンタ何やって....!」

「少し黙ってろ....来い、星輝兵(スターベイダー) エーテル・ルーパー」

 俺がそう言うと、アスタルテの上空に緑色の魔法陣が出現し、そこから

 ウーパールーパーの様な生物が現れた。

 

「エーテル・ルーパー、アスタルテを頼む」

 エーテル・ルーパーは俺の言葉に了承すると、アスタルテの肌の上に乗った。

 すると、エーテル・ルーパーとアスタルテの身体は緑色に光り出した。

 

「な、何が起きてるんだ?」

「エーテル・ルーパーは治癒の力を持っている。今、エーテル・ルーパーの

 力でアスタルテの傷の修復をしている。時間はかかるがな....」

 そう言いながら、俺はアスタルテに布団をかけた。

 

「よし、じゃあ行くぞ」

「行くってどこに....」

「決まってるだろ。....黒死皇派のアジトがある増設人工島(サブフロート)だ」

 

 〜〜〜〜

 

「なっちゃん」

『....今は授業中のはずだぞ、伊吹』

 古城と煌坂がタクシーを呼びに行っている間に、俺はなっちゃんに電話をかけていた。

 

「それどころじゃないんだよ。....ガルドシュが学園に現れて、姫柊、浅葱、凪沙ちゃんが

 連れ去られた」

『....何だと』

 俺の言葉になっちゃんは驚いていた。

 

「それにアスタルテも重傷を負った。今は傷を治すために仲間が治療しているが....」

『そうか....』

「それで、なっちゃんに頼みたい事がある。今すぐに特区警備隊(アイランド・ガード)増設人工島(サブフロート)から

 撤退させてくれ」

特区警備隊(アイランド・ガード)を? 何故だ?』

「そこにいる黒死皇派の奴等はただの囮だ。奴等の狙いは、特区警備隊(アイランド・ガード)をテストに使うことだ」

『テストだと....?』

「あぁ。....ナラクヴェーラのな」

『なっ....!』

 なっちゃんは電話越しにでもわかるくらい絶句していた。

 

『バカな! ナラクヴェーラの石版を解けるものは....』

「....浅葱なら、解けるかもしれない」

『っ! そういう事か....!』

 なっちゃんは納得して忌々しそうにそう言った。

 

「おーい終夜! タクシー来たぞ!」

 すると、古城が俺を呼んできた。

 

「わかった! ....てな訳でなっちゃん、俺達も今から向かうから」

『は....?』

 俺はなっちゃんの返事を聞かずに電話を切ってタクシーに乗った。

 

 

 



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戦王の使者 Ⅸ

 姫柊side

 

 私達は今、窓が塞がれた狭い部屋にいた。

 

「ねぇ....ここってどこだと思う?」

「わかりません。ヘリコプターが飛んでいた時間は十分くらいでしたから、

 それほど遠くまで連れて来られたわけではないと思いますが....」

 藍羽先輩の言葉に、私は冷静に返した。すると、藍羽先輩は怪訝そうに目を細めて

 私にこう聞いてきた。

 

「....随分と冷静ね。怖くないの?」

「え....あ、いやそんな事は無いんですけど。あ、藍羽先輩は落ち着いてますよね?」

 私は少し照れながら藍羽先輩にそう言った。すると、藍羽先輩は隣で

 眠っている凪沙ちゃんの方を見た。凪沙ちゃんは保健室で獣人の姿を

 見て叫び声を上げて気絶してから、ずっとこの状態だった。あの時の凪沙ちゃんの

 反応は明らかに普通の恐怖とは違っていた。

 

「....凪沙ちゃんのアレを見ると、自分がしっかりしなきゃって思うのよ。

 それに、この三人の中だったら私が一番年上だしね」

 そう言いながら藍羽先輩は凪沙ちゃんの頭を撫でていた。

 

「....これはここだけの話にして欲しいんだけど」

 藍羽先輩は急に唇の前に指を立てながら驚くべきことを言った。

 

「凪沙ちゃん、一度死にかけたことがあるのよ」

「えっ....?」

 藍羽先輩の言葉を、私は一瞬理解できなかった。

 

「四年前にね、魔族がらみの列車事故に巻き込まれてさ。どうにか命は取り留めたけど、

 一生意識が戻らないかもしれないって言われてたそうよ」

「じゃあ、凪沙ちゃんが魔族を怖がるのはそれが原因なんですか?」

「そんなこと、本人には聞けないけどさ、そうだとしても無理はないよね」

「(だから、先輩は凪沙ちゃんに自分が吸血鬼ということを黙って....)」

 私は初めて先輩が凪沙ちゃんに吸血鬼だということを隠し続けている理由が

 わかった気がした。

 

「あとごめんね。私のせいで巻き込んじゃって」

 藍羽先輩は私に気を遣ってくれたのか、普段先輩達と話すような軽い口調で

 そう言ってきた。

 

「いえ。それよりも、藍羽先輩はどうして自分が拐われたのかご存知ですか?」

「....まぁ、心当たりはあると言われればあるんだよね。連中、私に仕事を

 やらせようとしてるみたいだし」

「お仕事、ですか?」

 藍羽先輩の言葉に私は首を傾げた。

 

「そ。学校には内緒にだけど、私、フリーのプログラマーみたいなこと

 やってるから。たまにあるんだわ、非合法なハッキングの依頼みたいなのが。

 ....さすがにここまで強引なお誘いは初めてだけどさ」

「....どうやら君は、自分が有名人という自覚が足りないようだな、ミス・アイバ」

 すると、突然ガルドシュが迷彩服を着た部下を二人に連れて部屋に入ってきた。

 

「少なくとも我々が雇った技術者達の中に、君の名前を知らない者はいなかったよ。

 さすがに彼等も、“電子の女帝”の正体がこんな可愛らしいお嬢さんだとは

 思ってなかっただろうがね」

「....それで、私に何か用なわけ?」

 藍羽先輩はそう言うが、目には恐怖の色が見えた。

 

「これが何かわかるかね?」

 そう言って、ガルドシュは分厚い資料の束を藍羽先輩に渡した。すると、藍羽先輩は

 目を見開いて驚いていた。

 

「これって....“スーヴェレーンⅨ”じゃない!? こんなものどこで....」

「我々の理念に賛同してくれた篤志家がいてね。アウンストラシア軍に

 納入予定のものを横流ししてもらった。絃神島の管理公社で君が使っている

 スーパーコンピューターの同型機の、最新機種だそうだな」

「....こいつでナラクヴェーラとかって古代兵器の制御コマンドを

 解析しろ、ってことかしら」

「素晴らしい。我々は君に対する評価をもう何段階か引き上げる必要がありそうだ」

「昨日、つまんないパズルを送りつけてきたのはアンタ達だったわけね」

 藍羽先輩は不愉快そうな表情でガルドシュにそう言った。

 

「我々はこれまで百五十人を超えるハッカーに同じ内容のメールを送ったが、

 君の言うところの『つまらないパズル』を解読できたのはわずか八人。

 その中で一切の矛盾のない正解を導き出せたのはきみだけだ。

 しかも三時間足らずという圧倒的な短時間でね」

「私にも色々あったのよ。現実逃避したい理由とか」

 そう言った藍羽先輩はなぜか横目で私を見ていた。

 

「我々の目的は、あの忌まわしき聖域条約の即時破棄と、我ら魔族の裏切り者である

 第一真祖の抹殺だ。その悲願を成就するために、ナラクヴェーラの力が必要なのだ」

「そんな事を聞かされて藍羽先輩が協力するわけないでしょう! 

 もし、そんな計画が実現すれば世界中を巻き込んだ戦争になりますよ!」

 私がガルドシュに言うと、何故かガルドシュは笑っていた。

 

「何がおかしいんです!」

「その通りだ獅子王機関の剣巫。だが、それこそが我々の望む世界の姿なのだがね....

 確かに君達の価値観とは相容れまいな。だがそれでも....いや、だからこそ、

 彼女は我々に協力してくれると信じている」

「何を言って....」

「これが何かわかるかね?」

 そう言ってガルドシュは薄いタブレットPCの画面を見せてきた。そこには、

 呪文のような奇妙な長い文字列が映されていた。私の知る限りではその文字列に

 当てはまる術式はなかった。

 

「それって、私が昨日解読した例の暗号文....古代兵器の制御コマンドね。

 だけどそれって全体のほんの一部なんじゃないの?」

「そのとおりだ。ナラクヴェーラとともに出土した石板は、全部で五十四枚。これはその中の

 たった一枚にすぎない。だが、ここに書かれていた内容は覚えているかね?」

「まさか....アンタ達....」

 ガルドシュの言葉に、藍羽先輩の顔色は変わった。逆にガルドシュ達は

 愉快そうに、冷酷に笑っていた。

 

「そうだ。この石板の銘は『はじまりの言葉』....ナラクヴェーラの起動コマンドだ」

 

 

 〜〜〜〜

 終夜side

 

「....何で凪沙達が連れ去られるんだよ」

「そんなの知らないわよ....」

 タクシーに乗って増設人工島(サブフロート)に向かっている時、二人はそう言った。

 

「凪沙ちゃんと姫柊は巻き込まれたんだよ」

「どういうこと?」

「ガルドシュの目的は浅葱だったんだよ」

「浅葱が!?」

「浅葱って、あの金髪の人よね?」

「そうだ」

「ちょ、ちょっと待て! どうして浅葱がガルドシュの目的になるんだよ!」

 予想もしない事に古城は焦ったようにそう言ってきた。

 

「ナラクヴェーラ....」

「「っ!」」

 俺の一言に二人は固まった。

 

「あの兵器を制御するにはこの石板を解かないとならない」

 俺はそう言って、ポケットに入れていた石板のコピーを見せた。

 

「な、なんでアンタがこんな物を....」

「まぁ色々あってな....この石板の暗号を解くにはかなりの知識が必要だ」

「じゃあ、この暗号を浅葱って人は解けるって言うの!」

「あぁ。アイツのプログラム技術は天才的だ。これぐらいの暗号だったら

 数時間もあれば解けるだろうな」

「....確かに、浅葱だったらパズルみたいに解くな」

 古城は石板のコピーを見ながらそう言っていた。

 

「おそらく凪沙ちゃんと姫柊は人質だろうな、浅葱に言う事を聞かせるためのな」

「っ、ガルドシュの野郎....!」

 古城は怒りで石板のコピーを握り潰していた。すると、タクシーは急に止まった。

 

「お客さん、悪いがここから先は通行止めみたいだ」

 タクシーの運転手がそう言うと、前には通行止めの看板があった。

 

「どうする終夜」

「歩いて行くしかないだろ。ここで降りるぞ」

「そうかい。2610円だよ」

「だそうよ暁 古城」

「俺が払うのかよ!」

「こんな所で言い争いすんな! 俺が払う!」

 そう言って俺は千円札を三枚運転手に渡した。

 

「釣りはいらない。急いでいるんだ」

「そうかい。何をするかを知らないが、気をつけなよ」

「....あぁ」

 運転手の言葉を背中に受けて俺達はタクシーから降りた。

 

「さて、どう行くの?」

「(道はまだ特区警備隊(アイランド・ガード)が塞いでいる。他の道は....)」

「道は塞がれてるんだ。だったら、あそこから行くしかないだろ」

 古城がそう言って指差した先は、絃神島と増設人工島(サブフロート)を隔てている間だった。

 距離は大体八メートル弱といったところだ。

 

「本気で言ってるの!? 第四真祖の十二体の眷獣の中に、使えそうな能力を

 持ってる子はいないの!」

「俺の言うことをまともに聞く眷獣は今のところ一体だけだ。あいつも

 姫柊の血を吸ってようやく俺を宿主と認めたからな」

「なにぃ....!」

 古城の言葉を聞いて煌坂は剣を握りしめた。

 

「落ち着け煌坂! ....とにかく、向こうに渡る方法はある」

 俺はそう言いながら煌坂に近づいた。

 

「ちょ、ちょっと....何で急に近づいて」

「....頼むから動くなよ」

「ちょっと....ひゃっ!?」

 俺は一言そう言って、煌坂をお姫様抱っこした。

 

「古城は自分で来いよ」

 俺はそう言うと、助走をつけて増設人工島(サブフロート)に向かって跳んだ。だが、跳んだは良いが、

 半分ぐらい所で落下し始めた。

 

「お、落ちてるんだけど!?」

「安心しろ! グラヴィテート・タートル!」

 俺がそう叫ぶと、落下地点の海に棘が生えた亀が現れた。俺は亀を足場にして跳び、

 向こう岸に着地した。

 

「ア、アンタね! 一回落ちるなら一言言いなさいよ! 危ないじゃない!」

 着地した瞬間、煌坂は暴れ出した。

 

「....悪かったな。だが時間があまり無かったんだ。あの方法が一番最短だったんだよ」

 俺は謝罪しながら煌坂を下ろした。

 

「っ〜〜! ノーカウント! こんなのノーカウントだからね!?」

「イッテェ!?」

 俺は煌坂にそう言われながら頭を一発叩かれた。特に防御とかは一切

 していなかったため、今の俺に煌坂の一撃は結構効いた。

 古城はその様子を見て、"何やってんだ"みたいな表情をしていた。

 

「....何をやってるんだお前は」

 すると、俺達の目の前に呆れた表情をしたなっちゃんが現れた。

 

「....なっちゃん」

「....獅子王機関の舞威媛にお前も一緒か、暁 古城」

「那月ちゃん! テロリストの相手をしてたんじゃ....」

「教師をちゃん付けで呼ぶな!」

 そう言ってなっちゃんは古城を扇で叩いた。

 

「なっちゃん、古城で遊ぶのは後にしてくれ。....それで、特区警備隊(アイランド・ガード)の状況は?」

「お前が言った通り撤退させた。増設人工島(サブフロート)の中にはもういない」

「そっか。無理を言って悪い」

「気にするな。これぐらいどうってことはない」

 そう言って話していた次の瞬間....

 

 ゴオオオオオオオォォォン....

 

 突如、轟音が鳴り響いた。その轟音に共鳴するように増設人口島が激しく揺れた。

 轟音の発生源は監視塔の所からだった。

 

「何だよ今の爆発!?」

 監視塔は炎に包まれて崩壊していっていた。

 そして、その監視塔から大量の瓦礫を押しのけて、巨大な何かが動きだそうとしていた。

 その何かからは、そこそこの巨大な魔力を感じた。

 

「ふゥん。 よくわからないけどサ、まずいんじゃないのかなァ。 これは」

 俺達が魔力を感じた方を見ていると、急に近くのビルから軽薄な声が聞こえてきた。

 

「ヴァトラー!?」

「どうして貴方がここに!?」

 古城と煌坂はこんな所にヴァトラーがいる事に驚いて声を上げた。そして、なっちゃんは

 鬱陶しそうにヴァトラーを見ていた。

 

「....何の用だ、蛇遣い」

「まぁまぁ、積もる話は後にして。それよりも君達の部隊を....って、もう撤退して

 いるのかい?」

 ヴァトラーは特区警備隊(アイランド・ガード)が撤退している事に少し驚いたようにそう言った。

 

「あぁ、優秀な助手のお陰で無駄な犠牲が出なくて済みそうだ」

「ふぅーん....」

 ヴァトラーは面白くないといった様子で監視塔の方を見ていた。

 

「ア、アレが....」

「ナラクヴェーラ....」

 煌坂と古城がそう呟いた先には、瓦礫を撒き散らしてナラクヴェーラが姿を現した。

 

 

 〜〜〜〜

 姫柊side

 

「了解だ、グリゴーレ」

 無線を切ったガルドシュはゆっくりと私達の方を向き直った。

 私と藍羽先輩はタブレットPCに映し出されたナラクヴェーラの閃光を見つめていた。

 

「....ということだが、まだなにか質問はあるかね?」

 そんな私達を無表情で眺めてガルドシュが聞いてきた。沈黙していた

 藍羽先輩の代わりに、私はガルドシュに聞いた。

 

「何故ですか」

「....何故?」

「どうしてあなた達がここにいるんです?」

「我々の目的はすでに説明したと思ったが?」

「いいえ、そうではなく。何故、アルデアル公があなた達に協力したのか、ということです」

 私がそう聞くと、ガルドシュは微かな驚きの表情を浮かべた。

 

「そうか。服装は違うから分からなかったが、君はあの夜の、第四真祖の同伴者だな」

「ここは“オシアナス・グレイヴ”の中なんですね」

 アルデアル公が暁先輩を招待したあの夜、給仕を勤めていた彼の執事が

 ガルドシュだということに私はさっき気がついた。

 

「何故ですか? 獣人優位主義の黒死皇派は、戦王領域の貴族であるアルデアル公と

 敵対関係にあるはずです。ましてや彼は、あなた方の指導者を暗殺した張本人なのに....」

「そう。だから魔族特区の警備隊も、この船を疑おうともしなかった。

 この船の乗組員の約半分は、我らが黒死皇派の生き残りだ。しかし、ああ見えて

 ヴァトラーは貴族だからな。自分の船に乗り組んでいる船員の素性など、

 いちいち詮索したりはしない。船員を雇った船の管理会社の責任、ということになるな....」

 それを聞いて、私は不快そうに眉をひそめた。

 

「アルデアル公は何も知らなかった、と言い張るつもりですか。

 そんなことをして、彼になんのメリットが....」

「不老不死の吸血鬼の考えなど知ったことではないが、おそらく奴は退屈だったのだろうさ」

「....退屈?」

「そうだ。だからナラクヴェーラとの戦いを求めた。真祖をも倒しうるやもしれぬ

 神々の兵器。黒輪の根絶者(デリーター)に力を封印されている奴にとっては、ナラクヴェーラは

 暇を持て余した吸血鬼にはちょうどいい遊び相手だ。それに、ナラクヴェーラが

 暴れれば、どこからか黒輪の根絶者(デリーター)が来るのを期待しているのだろう。

 来たら来たで、黒輪の根絶者(デリーター)との戦いを楽しもうとしているだろうな」

「そんな....」

「(もしも黒輪の根絶者(デリーター)が現れれば、この島は....!)」

 私は最悪の事態を想定してしまった。

 

「....黒輪の根絶者(デリーター)が誰かは知らないけど、どのみち私には選択肢はないってわけね。

 いいわ。だけどこの貸しは高くつくわよ」

 その言葉に満足したのか、ガルドシュは部下を連れて部屋から出て行った。

 すると、藍羽先輩は部屋の奥にある扉を乱暴に蹴り開けた。

 冷蔵室の中には、魚や肉などではなく、スーパーコンピューターが置かれていた。回路を冷却

 するために、冷やされた部屋の中へ藍羽先輩が入ろうとすると、思いがけない方向から

 声がした。

 

「....焦るな、娘」

 私が声が聞こえた方を見ると、さっきまで眠っていた凪沙ちゃんが立っていた。

 だが、その様子は普段とは違い、短く結い上げた髪が解けて、腰近くまで流れ落ちており、

 声も普段とは違っていた。

 

「心を乱すな。お前とその機械の性能なら、滅び去った文明如きの

 書きつけを読み解くのに、さして時はかかるまいよ」

「凪沙....ちゃん?」

 普段とは別人のような凪沙ちゃんに、藍羽先輩は戸惑っていた。

 そして、私はあることに気づいた。

 

「いえ、違います....この状態は、神憑りか....憑依....?」

「ふふ、そうか。おまえも巫女だったな。獅子王の剣巫よ」

 凪沙ちゃんはそう言って愉快そうに笑った。

 

「ならばおまえにもわかっていよう。心配せずとも、あの坊やが時を稼いでくれる。

 そこの娘の策が練り上がるまでの時はな。....それに、どうやら奴も

 動いているようだからな」

「あなたは一体....!」

 私はそう聞くが、凪沙ちゃんは何も答えず、静かに瞼を閉じてその場に崩れ落ちた。

 私は地面に激突する寸前に凪沙ちゃんを抱き留めた。

 

「今のは、何? 誰なの?」

 藍羽先輩の言葉に、私は首を横に振った。私自身、何が起こったのか

 分からなかったからだ。そして、私は藍羽先輩に一つ頼み事をした。

 

「藍羽先輩、携帯を貸していただけますか?」

 

 

 〜〜〜〜

 終夜side

 

「アレがナラクヴェーラの"火を噴く槍"か。まぁまぁ、良い感じの威力じゃないか」

「あぁくそ! 何であんたがここにいるんだ。 自慢の船はどうした!?」

 ヴァトラーの余裕そうな様子に古城は苛立っていた。

 

「“オシアナス・グレイヴ”は乗っ取られてしまってねぇ」

「乗っ取られた!?」

「そうそう。そんなわけで、命からがら逃げてきたんだよ」

「....その割には、随分と冷静じゃねぇか」

 古城もヴァトラーが嘘をついてることに気づいて更に苛立っていた。

 

「....そう言えば逃げて来る途中でこんなのを拾ったんだが」

 そう言って、ヴァトラーは濡れている何かを投げて来た。古城はそれを

 キャッチした。ヴァトラーが投げて来たのは彩海学園の制服を着た男子生徒で、

 ツンツンに逆立てた短い髪をしており、ヘッドホンをつけていた。

 

「や、矢瀬!?」

「っ! 大丈夫だ、息はある」

 俺は矢瀬の首に手を当て息があることを確認した。

 

「あれ? もしかして知り合いだった?」

「テメェ....!」

 古城は今にもキレそうで、身体からは雷が走っていた。

 

「落ち着け古城! ....俺達がここに来た目的を忘れるな」

「しゅ、終夜....悪い」

 俺の言葉に古城は落ち着きを取り戻し、雷は収まった。

 

「さて、まぁ安心してくれ。ナラクヴェーラはボクが責任を持って破壊する」

「お前....! 最初からあの化け物相手に暴れたかっただけだろ!」

 古城がそうしてヴァトラーに怒鳴った時、急に携帯の着信音が鳴った。

 

「あぁ、くそ! 誰だよこんな時に....」

 そう言いながら古城は携帯を取り出して画面を見ると、突然叫んだ。

 

「浅葱!? もしもし! 無事か浅葱!」

「っ!」

 古城が電話に出ると、俺も携帯に耳を近づけた。

 

『....私です、先輩』

「姫柊!?」

「雪菜! 無事なのね! 今どこにいるの!」

 電話の相手が姫柊と分かると、煌坂も携帯に顔を近づけた。

 

『今は“オシアナス・グレイヴ”の中です。藍羽先輩や凪沙ちゃんにも怪我はありません』

「そうか....とりあえず、こっちにいるよりは安全そうだな」

 古城は少し安心したように安堵の声でそう言った。

 

『....やっぱり、ナラクヴェーラの近くにいるんですね』

 姫柊は呆れたようにそう言ってきた。

 

「あ、あぁ」

『またそうやって勝手に危ない場所に頭を突っ込んで。先輩は自分が

 危険人物だという自覚があるんですか。伊吹先輩と紗矢華さんが一緒にいて、

 何をやってたんですか』

「悪いな姫柊。連れて来たのは俺だ。説教だったら今回は後で俺が全部聞く」

『....分かりました。とりあえず、今はこれぐらいにしておきましょう』

 姫柊はそう言って一度咳をした。

 

『先輩方、今から三人にお願いがあります。....ナラクヴェーラが市街地に

 近づかないように、しばらく足止めをしてください』

「「足止め....?」」

「どう言う事だ」

『藍羽先輩が今、ナラクヴェーラの制御コマンドを解析してくれてます。

 それが終われば、現在の無秩序な暴走は止められます』

「浅葱が....なるほどな」

 古城は重々しく頷いた。

 

『....足止めだけでいいんです。無理に破壊しようとして被害を拡大するような

 真似だけはやめてください。あと、それから紗矢華さん』

「何? 私にできる事なら何でも言って!」

 煌坂は声を弾ませながら携帯に耳を押し当てたが....

 

『暁先輩と伊吹先輩に話したいことがあるので、ちょっと離れてください』

「え? えぇ!?」

 姫柊の言葉で今すぐにでも泣きそうな表情でふらふらと後ずさり、

 その場でうずくまって膝を抱えた。

 

「....で、話って何なんだ?」

『実はその、紗矢華さんのことなんですけど....』

 そう言って姫柊はある事を語り出した。

 

「えっ....」

「っ!」

 姫柊の話を書き終えた俺達はそれぞれ別の反応をした。

 

「(....思い出した。煌坂はあの時の....)」

 俺は姫柊の言葉で、煌坂のことを思い出した。

 

「....わかった。とりあえず、足止めについては任せろ」

『はい。先輩方もお気をつけて』

 姫柊がそう言うと通話は切れた。古城は携帯をポケットに入れると監視塔にいる

 ナラクヴェーラを見ていた。

 

「(ひとまず煌坂の事は後回しだ。今は....)」

「なっちゃん。俺達三人でナラクヴェーラを足止めする。その間に浅葱達を

 頼んでも良いか?」

「....良いだろう」

「....悪いな」

「おいおい、他人の獲物を横取りとは礼儀としてどうかと思うんだが、人間?」

 すると、ヴァトラーは俺を見下したように言ってきた。だが....

 

「黙ってろ、ヴァトラー! 他人の縄張りに入り込んで好き勝手してるお前の方が

 礼儀知らずだろ! 俺達がくたばるまで引っ込んでろ!」

 それにキレた古城がヴァトラーにそう言い返した。

 

「ふぅむ、それを言われると返す言葉もないな」

 古城の言葉にヴァトラーはあっさりと引き下がった。

 

「さて、じゃあ行くかって言いたいとこだが....その前に....」

 俺は増設人工島と絃神島を連結させるアンカーを見た。

 

「来い、ネグリジブル・ハイドラ」

 俺がそう言うと、前方に巨大な魔法陣が現れ、そこから三つ首の巨大な銀色の蛇が現れた。

 

「やれ、ネグリジブル・ハイドラ!」

 俺がそう言うと、ネグリジブル・ハイドラは増設人工島(サブフロート)と絃神島を連結させるアンカーを

 レーザーで破壊した。

 

「(これで島への被害は気にしなくて良さそうだな....)」

 そう思いながら古城達の方を見ると、二人は呆然としていた。

 

「....マジかよ」

「嘘でしょ....」

「はぁ....」

「へぇ....ただの人間ではなかったみたいだねぇ」

 なっちゃんは呆れたように、ヴァトラーは意外といった様子で俺を見ていた。

 

「さて、行くぞ二人とも」

「お、おう!」

「え、えぇ....」

 俺は驚いている二人にそう言って、ナラクヴェーラに向かって走り出した。

 

 

 



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戦王の使者 Ⅹ

 俺達三人は、ナラクヴェーラに向かって走っていた。すると、ナラクヴェーラは俺達に

 向かって真紅のレーザーを放ってきた。俺と煌坂は横に躱したが、古城は

 ナラクヴェーラの足元を潜ってレーザーを躱した。すると、ナラクヴェーラは古城を

 標的にしたのか、無数のレーザーを放ち始めた。古城はそれを何とか躱し続けるが、

 足下の瓦礫に脚を取られ地面に転がってしまった

 

「くっ....!」

 古城はすぐさま体勢を立て直そうとしたが、ナラクヴェーラの攻撃準備は既に

 終わっており、今にもレーザーが発射されそうだった。

 

「アステロイド・ウルフ! 奴の脚を潰せ!」

 俺はアステロイド・ウルフを急いで召喚してナラクヴェーラの脚を一本破壊した。

 しかし、ほぼ同時のタイミングでナラクヴェーラのレーザーは古城に向かって発射された。

 

「暁 古城!」

 だが、そのレーザーは古城の前に立った煌坂の剣の前で受け流された。その様子を

 古城は目を丸くして見ていた。

 

「....その剣、攻撃を受け流す事が出来るのか?」

 俺は煌坂の隣に降りそう聞いた。

 

「正確には違うわ。私の剣、"煌華麟"の能力は二つで、一つは物理攻撃の無効化よ。煌華麟が

 斬り裂くのは物質ではなく、物資を支える空間同士の連結。どんな攻撃も、空間切断による

 断層を越えることはできない....だからこの剣が薙いだ空間は、一瞬だけ絶対無敵の障壁と

 なるの。そして....」

 煌坂はそう説明しながらナラクヴェーラに向かっていった。

 

「無敵の障壁は、この世で最も堅牢な刃にもなる。たとえ神々の兵器だろうと、私の剣舞に

 斬れないものは無い!」

 煌坂はナラクヴェーラの足元に入り、アステロイド・ウルフが潰した脚の

 反対側を斬り裂いた。その影響でナラクヴェーラは体勢を崩し、煌坂は

 ナラクヴェーラの上空に跳躍し頭部を刺し貫こうとした。だが、その攻撃は

 ギリギリのところで届かなかった。

 

「えっ!?」

 煌坂はすかさず二撃目を放つが、再び結界のようなもので攻撃は防がれていた。

 

「煌坂! 一度退がれ!」

 俺がそう叫ぶと煌坂はナラクヴェーラから飛び降りたが、ナラクヴェーラの

 レーザーの射程範囲に入ってしまっていた。

 

「っ! 星輝兵(スターベイダー) パルサーベアー!」

 俺は瞬時に煌坂の前に黒い輪を背負った巨大なクマを召喚した。

 パルサーベアーはレーザーを腕の装甲で受け流した。

 

「こっちだ煌坂!」

 俺はすぐさま煌坂の腕を引いて瓦礫の影に隠れた。だがその時、レーザーが

 弾き飛ばした何かの金具が俺の手を掠った。

 

「チッ....」

 瓦礫の影に隠れて手を見ると、手からは少し血が出血していた。

 

「お、おい終夜!」

「安心しろ。掠っただけだ」

「っ、ごめんなさい....私のせいで」

「気にするな。ここに来てる以上、怪我の覚悟はできている。....それよりも、

 何で煌坂の攻撃が防がれた」

「何か結界みたいなものはあったけどな」

「多分、斥力場の結界ね。私の煌華麟の能力は全て刀身に触れないと発動しないのよ。

 だからナラクヴェーラの装甲に触れられる前に斥力場の結界で覆う事で私の煌華麟が

 触れる前に攻撃を防がれたんだわ」

「なんか、二人の攻撃を学習したみたいだな....」

 古城の言葉を聞いて、煌坂は苦い顔をした。

 

「そうなると、古城の獅子の黄金(レグルス・アウルム)で一撃で仕留めるのが良さそうだな....

 古城、一撃で仕留められる自信は?」

「わからねぇ....成功すれば良いが、失敗したら....」

「再び暴れ出す....」

「(俺がユニットになれれば良いが、この状況だと流石に無理がある....

 面倒な状況だな....)」

 そうこう考えているうちに、急にナラクヴェーラがブースターを噴射して

 上空へと離陸し始めた。

 

「アイツまさか! このまま島へ渡る気!?」

「っ、んな事させるかよ! 叩き落とせ、獅子の黄金(レグルス・アウルム)!」

 古城の言葉によって獅子の黄金(レグルス・アウルム)は現れ、ナラクヴェーラの上空に向かって飛翔し始めた。

 そして、ナラクヴェーラを上から押さえつけるように増設人工島(サブフロート)に叩きつけた。

 古城としては島への移動さえ阻止してくれれば良かったものの、肝心の獅子の黄金(レグルス・アウルム)は加減と

 いうものを知らず、かなりの威力でナラクヴェーラを叩きつけてしまった。その結果、

 俺達が立っていた地面は突如崩壊を始めた。

 

「マジかよ....!」

「バカ─────!」

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 そして、俺達三人は増設人工島(サブフロート)の底に落下していった。

 

 

 



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戦王の使者 Ⅺ

「....かなり落とされたな」

「えぇ。全く....アイツは加減ってものを知らないわけ!?」

「それは俺にじゃなく古城に言えよ....」

 俺と煌坂は増設人工島(サブフロート)の地下らしき所にいた。古城の獅子の黄金(レグルス・アウルム)が派手に

 やり過ぎたため、俺達は地下に落とされてしまった。落ちた時に大量に瓦礫が

 落ちてきたが、煌坂が全て煌華麟で弾いてくれたお陰で俺は怪我をせずに済んだ。

 

「てか、さっきはありがとな。お陰で怪我をせずに済んだ」

「別に....さっきアンタに助けてもらったんだからこれでお相子よ」

「そうか。....それよりも、あの馬鹿は何処に」

 俺は古城が周りにいないか探していると....

 

「おーい! 二人とも無事かー!」

 俺達がいる所より少し上から古城の声が聞こえた。

 

「お前、そこにいたのか....こっちは無事だ!」

「そうか! なら良かった....」

 古城は安堵したように息を吐いた。

 

「暁 古城! そこからナラクヴェーラは?」

「見えねぇよ。多分、瓦礫に埋まってると思う」

「破壊したの!?」

「多分な。少なくとも、修理しないと動けないくらいのダメージは与えたはずだ」

「....わかった。とにかく一度合流するぞ。俺らも上に行く道を探す。古城もどうにか

 上に行く道を探して上に進め」

「わかった。二人とも気をつけろよ!」

 そう言って、古城は奥へと進んで姿が見えなくなった。

 

「....さてと、俺達も上に行く道を探すか」

「そうは言うけど、何処から探すの? 広過ぎて何があるかわからないのに」

「んなもん、時の運に身を任せるだけだ」

 そう言って進み出そうとしたが....

 

「ちょっと待って!」

 急に煌坂は俺を呼び止めた。

 

「何だ?」

「ちょっと手の怪我見せて」

「手の怪我を?」

「いいから早く!」

 煌坂は真剣な表情で言ってきたため、俺は大人しく怪我を見せた。怪我の傷はさっきよりも

 広くなっており、血も少し流れる量が多くなっていた。すると、煌坂はポケットからハンカチを

 取り出して怪我の部分をハンカチで結んでくれた。

 

「これで血の出血は少しマシになるはずよ」

「....ありがとな」

「べ、別にこれぐらい普通よ! 元はと言えば私のせいで....」

 そう言いながら煌坂が歩こうとした時....

 

「きゃっ!?」

 煌坂の足元が崩れて煌坂は倒れそうになった。

 

「っ!」

 俺は煌坂を支えようとして動き、倒れる前に煌坂を支えることができたのだが、

 俺の足元の地面も同じように崩れてそのまま後ろに倒れてしまった。

 その時、俺の掌にはとてつもなく柔らかい感触があった。

 

「(何だこれ....って!?)」

 俺は自分の掌がある位置を見て背筋が凍った。何故なら、俺の掌がある場所は

 ちょうど煌坂の胸の位置だったからだ。

 

「....わ、悪い!」

 俺はすぐさま両手を離して誠心誠意の謝罪をした。

 

「どうして謝るの! 故意なの! やっぱりあなたも暁 古城と同じ邪な下心があったわけ!」

 煌坂は胸元を押さえながら、上目遣いで睨んでそう叫んだ。

 

「アイツとは一緒にすんな! ....その、さっき姫柊から聞いたんだよ」

「雪菜が、何を....?」

「お前が男嫌いなこと....」

「っ!」

 そう言った瞬間、煌坂の表情は強張った。

 

「その、本当にすまなかった。男嫌いなのに俺、お前の事散々触れちまって....」

「....」

 俺の謝罪を黙って聞いていた煌坂は、急に俺の頬をつねってきた。

 

「い、痛いんだが....! 急に何すんだ....」

「あ....いや、その....何で雪菜はそんなこと言ったんだろうって....」

「煌坂を怖がらせるような事するなって言われたんだよ。単純に姫柊は煌坂の事を

 心配してるんだろ。男嫌いのお前に俺ら男二人だからな」

「....別に怖いわけじゃなくて、苦手なだけよ。というかウザい? いや、気持ち悪い?」

「よくもまぁ男の胸を抉るような事をポンポンと....古城だったら膝をついて

 ダメージを受けてるな」

 俺は煌坂につねられたところをさすりながらそう言った。すると、煌坂は

 俺に向かって微笑んでいた。それは、気負いのないものだった。

 

「あなたって、変な人間ね。....あなたからは、少しあの人と似たような

 感じがするわ」

「あの人?」

「....十年前に私を救ってくれた恩人、黒輪の根絶者(デリーター)よ」

「....そうなのか」

「(....こういう運命とかもあるものなのか?)」

 そう考えていると、急に背中に何かが落ちてきた。

 

「何だ....?」

 俺は頭上を見上げると、小さな水滴が落ちてきた。

 

「この匂い....海水か」

 俺のユニットと、古城の獅子の黄金(レグルス・アウルム)のせいで、増設人工島(サブフロート)はかなりガタが

 来ているみたいだった。周りをよく見てみれば、俺達が気づかなかっただけで、

 あちこちで浸水は始まっていた。

 

「あんまりのんびりしてる余裕はなさそうだな。先を急ぐぞ」

 そう言って進み出そうとしたが、突如大きな揺れが起きた。

 

「今度は何!?」

 俺は周りを見ると、瓦礫から這い出て増設人工島(サブフロート)に空いた穴をよじ登る

 ナラクヴェーラの姿を見つけた。

 

「煌坂、多分アレだ」

「ナラクヴェーラ!? 第四真祖の眷獣の攻撃を受けて何でまだ....」

 すると、突如ナラクヴェーラの破壊された脚が光り出し、形は歪だが、

 動く分には問題が無さそうな脚に修復された。

 

「まさか、元素変換!? 増設人工島(サブフロート)の建材を使って自己修復したんだわ! 

 ....でも、飛行能力はまだ回復していないみたいだけど」

 そう、煌坂が話している間にナラクヴェーラは破壊された部分を修復しながら

 穴をよじ登っていた。だが、脱出が不可能と思ったのか、自身の足元に

 真紅のレーザーを放って大穴を開けた。ナラクヴェーラが開けた大穴からは

 大量の海水が入ってき、半壊していた場所からも大量の海水が流れ込んできた。

 

「っ、ヤバイな....急ぐぞ煌坂」

 俺は煌坂の手を取り、一目散にここから走り去った。

 

 〜〜〜〜

 

「....また行き止まりか」

 俺達はメンテナンス用に使われる狭い通路にいた。普通この通路は地上に

 繋がっているのだが、先ほどのナラクヴェーラのレーザーのせいで、

 天井が崩落して進める道が塞がれていた。更に、海水が浸水するスピードが

 速くなっており、既に足首のところまで浸水し、俺と煌坂は頭上から

 降り注ぐ海水を潜ったせいで全身びしょ濡れだった。

 

「へっくしゅ....!」

 すると、後ろにいた煌坂がくしゃみをした。

 

「....煌坂、これ羽織っておけ」

 俺は魔法陣からブラスター・ジョーカーの背中にあるマントを煌坂に渡した。

 

「あ、ありがとう....」

「別に良い。....それよりも、こっからどうするかだ」

「あなたの召喚する子達で使える子はいないの?」

「....いやまぁ、いるにはいるんだが、全員かなり破壊力が高過ぎてな。

 ここでやると、上にいる古城にまで被害が及ぶから使おうにも使えねぇんだよ。

 使うんだったらアイツが合流してからだな」

「そう....」

「まぁ一応、他に方法があるといえばあるんだが....」

「何よ、その方法って?」

「....古城の眷獣を新しく覚醒させる」

 俺がそう言うと、煌坂は目を見開いた。

 

「新しくって....肝心の暁 古城と合流できなきゃ意味無いじゃない。

 それに....誰がやるのよ?」

「まぁ、それはお前に頼むしかない....俺じゃ霊媒としては弱いからな」

 それを聞いて、煌坂は苦い表情になった。

 

「....暁 古城に血を吸わせろって言うの?」

「いや、別に吸わせなくても良い」

「へっ?」

「お前の血を俺が採血して、アイツにそれを飲ませたら良い」

「さ、採血って....道具が何処にも無いじゃない」

「そんな事はない」

 そう言って、俺は手を前に向けた。

 

「来い、星輝兵(スターベイダー) ステラガレージ」

 俺達の前に展開された魔法陣から、銀髪で首に黒い輪がある男が現れた。

 

「コイツの持っているこれで血の採血ができる。まぁ、普通の採血より結構

 痛いけどな....」

「....」

「先に言っておくが、無理にとは言わない。煌坂が嫌なら、俺も最後の手段を使って....」

 考え込んでいる煌坂に俺がそう言うと、急に煌坂は俺に変なことを聞いてきた。

 

「....ねぇ、私って大きいよね?」

「....何がだ?」

「....身長よ」

「あぁ....まぁ確かに姫柊と比べたらな」

 煌坂の身長は、確かに俺のクラスの女子とかよりも全然高い。というか、

 167ぐらいは女子ならかなり高いほうだ。

 

「....だよね。可愛くないよね」

 煌坂は寂しそうな笑顔を浮かべてそう言った。

 

「そこまで気にする事か? 大きい方が好きって男もいるだろ」

「そうなの? 小さい方が可愛くない?」

「それは個人の問題だ。まぁそもそも、大きいから可愛くないって理論には

 ならねぇよ」

「そう、なんだ....じゃあ、あんたはどっちが好き?」

「(責任重っ....)」

 煌坂の少し期待したような言葉を聞いて、俺は心からそう思った。

 そして、色々と考え抜いた結果....

 

「....俺的にはどっちも同じぐらい良いと思うけどな。大きいかったら

 大きいなりに良いことがあるし、小さかったら小さいなりに良いことが

 あるからな。まぁ、だからそんなに自分の身長が高いことを卑下すんな」

「....そっか」

 すると、煌坂は小さな声でこう言ってきた。

 

「あのね....私ってこの身長だからさ、お姫様抱っこをするのは私の役なの。

 だから、あんたにお姫様抱っこをしてもらった時、少し嬉しかったの」

 増設人工島(サブフロート)に跳び移った時、「ノーカウント!」と叫んでいたのは

 こういう意味だったらしい。

 

「ほ、ほんとにそれだけだからね! いつか運命の相手に強引に抱きかかえられて

 恋に落ちるかもとか、そんな妄想したわけじゃないんだからね!」///

 煌坂は顔を赤くしながら、慌てて捲し立ててきた。その様子を見て、

 俺は笑ってしまった。

 

「な、何笑ってるのよ!」

「いや....あんなこと言っておいて、お前も可愛いところがあるじゃねぇか」

 すると、煌坂は耳まで真っ赤になってしまった。

 

「ほ、本当にそう思ってる?」///

「あぁ」

「....私、可愛いかな?」///

「可愛いし美人だ」

「っ! ....そっか」///

 すると、煌坂は小さく笑い、俺に近づいてきた。

 

「....じゃあ良いよ」

「良いって....」

「採血! これなら、私は暁 古城に血を吸われなくて済むんでしょ?」

「....本当に良いのか?」

「....まだ男は苦手だけど、あんたのことは信じれそうなの。だから....」

 煌坂はそう言いながら、腕をまくった。

 

「....わかった。頼む、ステラガレージ」

『....了解』

 煌坂の覚悟を聞いた俺は、ステラガレージは針のついた筒と、液体を

 入れる筒を手に取った。

 

「....ねぇ、一つだけお願い」

「何だ?」

「手、握って」

 煌坂は採血する腕とは反対の腕を出した。

 

「....わかった」

 そう言って、俺は煌坂の手を優しく握った。そして、ステラガレージは

 煌坂の腕に針を刺して採血を始めた。

 

 

 

 

 

 



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戦王の使者 Ⅻ

「っ! 二人とも! 無事だったか!」

「お前もな、古城」

 煌坂の血を採血してから急いで上に登った俺と煌坂は、ようやく古城と合流ができた。

 

「さて、合流して早々だが古城、これを飲め」

 俺は煌坂の血が入った筒を古城に渡した。

 

「コレは?」

「私の血よ」

「煌坂の!? 何で....」

「これでお前の新しい眷獣を覚醒させるためだ」

「っ! で、でも煌坂は....」

「その事に関してはしっかり話した。それに煌坂からは了承をもらっている。

 ....というか早く飲め。時間もあまり無いんだよ」

「いや、急に言われてもな....」

 古城はどこか躊躇っていたようだった。それに、眷獣を目覚めさせるには古城が吸血衝動を

 起こさないといけなかった。

 

「....煌坂、後で土下座でも何でもしてやる」

「えっ....?」

 俺は色々と考えた結果、煌坂に謝罪して俺が渡したマントを奪った。すると煌坂は、

 びしょ濡れの制服が肌に張り付いた姿になった。それを見た古城の口元からは鋭い牙が見えた。

 

「そいつを飲め!」

「っ!」

 俺の声に反応した古城、筒のフタを開けて一気に血を飲んだ。すると、古城の瞳は

 真紅に変わり、右腕は鮮血が走っていた。

 

「さ、頼むぜ古城」

「あぁ! "焔光の夜伯(カレイド・ブラッド)"の血脈を継ぎし者、暁古城が、汝の枷を解き放つ! 疾く在れ(きやがれ)

 九番目の眷獣"双角の深緋(アルナスル・ミニウム)"!」

 

 

 〜〜〜〜

 

「....誰がここまでやれって言った」

「本当よ。地上に出るためにこんな馬鹿でかいクレーターを造って....私がいなかったら

 今頃生き埋めになってたわよ」

「俺は通路を塞いでる瓦礫さえどうにかして貰えれば良かったんだよ。文句なら

 アイツに言ってくれ....」

 古城の眷獣のおかげで何とか地上に出る事は出来たのだが、古城の眷獣は一切の手加減を

 せずに力を使ったので巨大なクレーターを作っていた。俺達は煌坂の煌華麟が無ければ

 今頃生き埋めになっていただろう。

 

「まぁそれについての説教は後だな。今は....」

 俺はナラクヴェーラの方に視線を向けた。ナラクヴェーラは先程とは違い、瓦礫の影に

 隠れながら真紅のレーザーを放ってきた。

 

星輝兵(スターベイダー) パルサーベアー」

 俺は向かってきたレーザーを、全てパルサーベアーで防いだ。

 

「....動きが変わったか」

「多分、操縦者がいるのよ」

「チッ....制御システムは解読されたか。古城、防御は煌坂と俺に任せろ。

 お前はナラクヴェーラを破壊してこい」

「あぁ! 双角の深緋(アルナスル・ミニウム)!」

 ナラクヴェーラから放たれるレーザーを全てパルサーベアーと煌坂の煌華麟で防いでいる間に、

 双角の深緋(アルナスル・ミニウム)がナラクヴェーラに向かって衝撃波を放ってナラクヴェーラを原型が

 分からないほどに破壊した。

 

「....中の操縦者は、無事だよな?」

「そこ心配するのかよ....」

「獣人は生命力が高いから簡単には死なないわ。それよりも、あの五機を早く! 

 操縦者が乗ると面倒だわ」

 煌坂がそう言った視線の先には新たに五機のナラクヴェーラがいた。

 

「わかった。双角の深緋(アルナスル・ミニウム)!」

 そう叫び、双角の深緋(アルナスル・ミニウム)はナラクヴェーラに攻撃をしようとしたが、突如複数の爆発に

 襲われていた。

 

「っ! 何だ!?」

 古城の眷獣を襲ったのは円盤状のミサイルのような物だった。

 すると、オシアナス・グレイブの中から巨大な何かが現れた。

 

「ナラクヴェーラの派生....いや、上位個体って言った方が正しいか」

 現れたのは、ナラクヴェーラよりもひと回りもふた回りも巨大なナラクヴェーラと

 似た機体だった。その機体は俺達に向かって大量のミサイルを放ってきた。

 

「二人とも伏せてっ!」

 煌坂はそう言って防御障壁を造りミサイルを受け止めた。俺のパルサーベアーと

 古城の双角の深緋(アルナスル・ミニウム)もミサイルを破壊したが、いくつかが攻撃を抜けて絃神島に

 向かっていった。

 

「っ! ネグリジブル・ハイドラ!」

 俺は咄嗟にネグリジブル・ハイドラを召喚してミサイルを捨て身で受け止めさせた。

 

「野郎! 見境なしに撃ってきやがったか!」

 すると、ナラクヴェーラ達は統制のとれた動きで俺達を包囲した。

 

「....ふぅん、これが本来のナラクヴェーラか。やってくれるじゃないかガルドシュ。

 こんな切り札を隠していたとはね」

 俺がナラクヴェーラにキレていると、近くのビルの上からヴァトラーの声が聞こえてきた。

 

「どうする古城? やっぱりボクが代わろうか?」

 ヴァトラーは挑発したように古城にそう言った。

 

「引っ込んでろって言った筈だぜヴァトラー! どいつもこいつも好き勝手しやがって! 

 いい加減こっちも頭にきてんだよ!」

 古城の怒りに、双角の深緋も共鳴していた。

 

「相手が戦王領域のテロリストだろうが古代兵器だろうが知ったことか! 

 ここから先は、第四真祖(オレ)聖戦(ケンカ)だ!」

 すると、その言葉に合わせるかのように一つの人影が現れた。

 

「いいえ先輩。わたしたちの聖戦(ケンカ)です!」

 人影の正体は雪霞狼を持った姫柊だった。

 

「ひ、姫柊!?」

「何でしょう?」

「え、と....何でここに?」

「私は先輩の監視役ですから。ここへは南宮先生に空間転移で飛ばしてもらったんです」

 姫柊はさも当然のようにそう言った。

 

「姫柊。浅葱と凪沙ちゃんは?」

「安心してください伊吹先輩。南宮先生が既に保護してくれています」

「そうか....」

「(二人は無事、姫柊の援軍、そしてヴァトラーはここに....これなら)」

「先輩、新しい眷獣を掌握したんですね」

「あ、あぁ。でも心配ない! 煌坂を怖がらせるようなことは一切....」

 俺があることを考えている間に、古城は姫柊に必死に訳を話していた。

 

「とにかく、その話は後で聞きます。それよりも今は目の前の相手を優先しますよ!」

 そう言って雪霞狼を構えた時....

 

「姫柊、ここはお前に任せてもいいか?」

 俺は姫柊にそう聞いた。

 

「急に何故ですか?」

「奴は島にまで攻撃が飛ぶ。だから島に攻撃を仕掛けられると危険だ。だから、島への

 攻撃を俺が全て防ぐ。だから、姫柊にここを任せたいんだよ」

「なるほど、そういう事ですか。でしたら、ここはお任せください。先輩の分まで

 私が戦わせていただきます」

「すまないな....後は任せるぞ」

 俺はそう言ってその場から急いで離れてビルの陰に隠れた。

 

「さて、パルサーベアー、ネグリジブル・ハイドラ、アルベド・コンドル。ここは任せる」

 俺は三体のユニットを召喚(コール)し、それぞれ配置に着かせた。そして、俺はカードを展開した。

 

召喚(コール)、黒門を開く者」

 俺は展開したカードの中から一枚掴み、黒門を開く者を召喚(コール)した。

 

『お呼びでしょうか、我が先導者(マイ・ヴァンガード)

「適当に海の上に転送できるか?」

『う、海の上ですか?』

「あぁ」

『わ、分かりました』

 黒門を開く者は困惑しながらも黒いゲートを開いた。

 

「悪いな」

 俺はそう言ってゲートの中に入った。ゲートを出た先は、増設人工島(サブフロート)から数百m離れた

 場所だった。

 

「さて、始めるか」

 俺がそう呟くと、俺を中心に巨大な魔法陣が現れた。

 

「全てを根絶する無情なる者よ! 破滅、孤独、絶望を持って我に仇なす敵を滅ぼせ!」

 俺がそう叫ぶと、空は暗雲に包まれ俺の目の前に一枚の黒いカードが浮かび上がった。

 

「今ここに権限せよ、我が分身! ライド・ザ・ヴァンガード!」

 すると、カードと魔法陣は黒く光り、俺の身体は巨大な竜巻に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 



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戦王の使者 XIII

 煌坂side

 

 伊吹 終夜が島への攻撃を防ぐと言ってここを離れてから、私達はナラクヴェーラと

 対峙していた。

 すると、ナラクヴェーラは私達に向かってミサイルを放ってきた。

 私は二人の前に立ち、ミサイルを受け流した。受け流したミサイルはいくつかが本島の方に

 向かってしまったが、伊吹 終夜が召喚した三体の獣が全て撃ち落としていた。

 

「凄いわね....あんな力を持った獣を一気に三体も召喚するなんて」

 私は三体の獣の動きや、攻撃の威力、防御力を見てそう呟いた。

 

「あぁ....だけど、これなら後ろに気を使わずに戦える!」

「そうですね」

「さぁ、一気に行くぜ! 獅子の黄金(レグルス・アウルム)!」

 暁 古城は獅子の黄金(レグルス・アウルム)を召喚して、ナラクヴェーラの女王機に攻撃したが、

 ナラクヴェーラの女王機には装甲の表面に少し焦げ目をつけただけだった。

 

「なっ!? 効いてねぇのかよ!」

『その眷獣の攻撃は君達が戦っていたナラクヴェーラを通して既に学習済みだ。

 もう通用しないのだよ!』

 女王の機体からはガルドシュらしき男の声が聞こえてきた。

 

「マジかよ....! そんなもん、どうやって倒すんだよ!」

「大丈夫ですよ先輩。方法なら....」

 そう言って雪菜が何かを説明しようとした時、突如空が暗雲に包まれた。

 

「っ、今度は何だ!」

 突然の暗雲に、私達やガルドシュは周囲を警戒した。

 

「(向こうも警戒している? という事は、ガルドシュの味方ではなさそうね....)」

 そう考えていると、増設人工島(サブフロート)から数百m離れたところで巨大な竜巻が発生した。

 

「竜巻!?」

「何故あんな所で....!」

 暁 古城と雪菜は突然の出来事に驚いていた。そして警戒していた次の瞬間、

 竜巻が晴れ、そこに青いロボットのようなものが現れた。

 

「アレは....!」

「黒輪の、根絶者(デリーター)....」

 私と雪菜は、その現れた正体を獅子王機関の資料で見たことがあった。

 

「何で、こんな所に....」

 私がそう呟いた瞬間、黒輪の根絶者(デリーター)の姿は消え、いつのまにか私達の背後に浮いていた。

 

「いつの間に....!」

 そして、黒輪の根絶者(デリーター)は近くにいたナラクヴェーラを一機、バンチで破壊した。

 

「嘘だろ....!? 一撃でナラクヴェーラを!」

『バニッシュデリート』

 黒輪の根絶者(デリーター)は破壊したナラクヴェーラにそう言うと、ナラクヴェーラは

 黒い球体の中に封じ込まれた。そして、黒輪の根絶者(デリーター)は私達の方を向いた。

 

『また会ったな、暁 古城、姫柊 雪菜。....それと、お前はあの時の少女か』

 黒輪の根絶者(デリーター)は私を見てそう言ってきた。

 

「っ! 覚えていてくれたの」

『まぁな。それよりも、前を見ろ』

 そう言って、黒輪の根絶者(デリーター)は巨大なバリアを張って私達に向かってきた

 ナラクヴェーラのレーザーを全て無効化した。

 

『あの女王機に何も手立てが無いなら、俺がもらうぞ』

 その言葉に....

 

「待ってください! あの女王機を倒す手立てはあります。ですから....

 あなたは手を出さないでください」

 雪菜が待ったをかけてそう言った。その言葉に私と暁 古城は驚いた。

 

『....良いだろう。ならば、俺は雑魚の処理をしてやる。その間に、奴をさっさと倒せ』

「....言われなくても」

『そうか』

 それだけ言うと、黒輪の根絶者(デリーター)はナラクヴェーラの破壊を始めた。

 

「ひ、姫柊! 本当にナラクヴェーラを倒す手立てはあるのか?」

 黒輪の根絶者(デリーター)がナラクヴェーラを破壊している間に暁 古城は雪菜にそう聞いた。

 

「はい。この携帯にナラクヴェーラの自己修復を利用して自滅させる

 コンピューターウイルスの一種があります。その音声を女王機の中で流せば....」

「一体、どこでそんなものを....」

「藍羽先輩が解析をしながら作ったそうです」

 それを聞いて、私は暁 古城の周りにいる人間はめちゃくちゃだと思った。

 

「なるほどな。だが、この状態をどうやって抜ける....?」

 ナラクヴェーラはどんどん黒輪の根絶者(デリーター)が黒い球体の中に封じ込めていくが、

 ナラクヴェーラの増援は増えていった。それに、黒輪の根絶者(デリーター)のレーザーや

 攻撃でこの中を突破して女王機に潜り込むのは至難の技だった。

 だけど、私には一つだけ策があった。

 

「....私が動きを止めるわ」

 そう言って私は前に出て煌華麟を前に突き出して煌華麟を真の姿にした。

 

「"六式重装降魔弓(デア・フライシュッツ)"....これが煌華麟の本当の姿よ。

 そして、この状態で使う事の出来る技が一つあるわ。だけど、チャンスは一度きりよ。

 もし失敗でもしたらアンタのこと灰にするから」

「....わかった」

「....では、行きます!」

 雪菜の言葉に暁 古城と雪菜は女王機に向かって走り始めた。

 

 〜〜〜〜

 終夜side

 

『(姫柊はまだ警戒してるか....)』

 俺はナラクヴェーラ達を呪縛しながらそんな事を考えていた。

 すると、さっきまで話し合いをしていた三人がそれぞれ動き始めた。

 

『(さて、俺は援護してやるか)』

 そう思いながら、俺は古城達に向かってレーザーを放とうとする

 ナラクヴェーラを集中的に攻撃した。すると....

 

「黒輪の根絶者(デリーター)!」

 急に煌坂に呼ばれた。

 

「今から私が技をそこの周囲に向かって放つわ! 魔法陣が現れたら、その魔法陣の外に出て!」

 煌坂はそう言うと、弓の形になった煌華麟を上空に向けた。

 

「獅子の舞女(ぶじょ)たる高神の真射姫(まいひめ)が讃え奉る。極光の炎駒(えんく)、煌華の麒麟、其は天樂(てんがく)と轟雷を統べ、

 憤焰をまといて妖霊冥鬼を射貫く者なり!」

 煌坂の詠唱が終わり、銀色の矢を放つと上空に巨大な魔法陣が描かれた。

 俺はそれを見て、急いで魔法陣の外に出た。魔法陣からは無数の光の矢が

 ナラクヴェーラに降り注ぎナラクヴェーラ達の動きを止めた。

 

『(チャンスだな....)』

 俺はそう思い、動きが止まったナラクヴェーラに向かって身体から出ている

 コードでナラクヴェーラを貫き、一斉に呪縛(ロック)した。

 

「っ、先輩!」

「あぁ! 獅子の黄金(レグルス・アウルム)! 双角の深緋(アルナスル・ミニウム)!」

 古城は一気に駆け抜け、二体の眷獣で女王機に攻撃した。

 

『(なるほどな....)』

 女王機は既に二体の眷獣の攻撃に耐性はついているが、二体同時の攻撃の

 耐性を付いていないことに古城は気づいたようだった。

 すると、女王機から獣人化したガルドシュが出てきた。

 

「ハハハッ! やはり戦争というのはこうでなくては!」

「守るべき国も民も持たないあなたに、戦争を語る資格はありません!」

 姫柊は哀れみの目でガルドシュを見ると、煌坂の援護を受けて女王機に走っていった。

 

「うおぉぉぉ!」

 そして、姫柊に気を取られていたガルドシュは、背後に回っていた古城に殴られて

 吹き飛ばされた。

 

「ぶち壊れてくださいナラクヴェーラ!」

 そして、姫柊は携帯を女王機に投げ入れると不協和音が流れ始めた。

 それは、聞いているだけで気分が悪くなりそうな音だった。

 そして、その音ともにナラクヴェーラは崩壊を始めていった。

 呪縛(ロック)していたナラクヴェーラも同じように身体の崩壊を始めていた。

 

解呪(アンロック)

 俺は音が止まると、呪縛(ロック)していたナラクヴェーラ達を解呪(アンロック)した。

 そこから出てきたのはただの砂となったナラクヴェーラだった。

 

『(これで、全部終わった....)』

 そう考えていた矢先、背後から強力な魔力を持った蛇が俺に向かってきた。

 

『....はぁ』

 俺は向かってきた蛇の首を掴んで消滅させた。

 

『....何の真似だ、ヴァトラー』

 俺は蛇を飛ばしてきたヴァトラーを睨みつけながらそう聞いた。

 

「決まっているだろう? 君へのリベンジだ! あの時、君にはやられてしまったからねぇ」

 ヴァトラーはそう言いながら魔力を高めていった。

 

「さぁ、君も構えたまえ」

『断る。ここで俺とお前が戦えば島が無事では済まないからな』

 そう言いながら、俺はヴァトラーに手を向けた。

 

解呪(アンロック)

 すると、ヴァトラーの中にある眷獣の呪縛(ロック)解呪(アンロック)された。

 

「これは....」

『お前の中にある眷獣を三体解呪(アンロック)した。だから、ここは引いてもらおうか』

「断ったら?」

『....この場で根絶(デリート)する』

 そう言ってしばらく対峙していると、ヴァトラーは自分の魔力を抑えた。

 

「....わかったよ。今日のところは引こう」

『....そうか』

 その言葉を聞き、俺も腕を下げた。

 

「では、僕はガルドシュを連れて帰るとしようかな。彼を連れて帰らないと僕の沽券に

 関わってくるからね」

『ならさっさと帰れ。お前がいると面倒で仕方がない』

「ふふふ、釣れないなぁ」

 そう言って、ヴァトラーはガルドシュを担いで何処かに歩いていった。

 

『....俺も帰らせてもらうか。ではな、姫柊 雪菜、暁 古城、煌坂 紗矢華』

「っ、どうして私の名前を....!」

『....さてな。召喚(コール)、黒門を開く者』

 俺は適当に言葉を濁してゲートの中に入り、この場から姿を消した。

 

 

 

 

 



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戦王の使者 XIV

 ナラクヴェーラとの戦いが終わって二日後、俺は学校をサボって絃神島の空港にいた。

 何故俺がこんな所にいるかというと....

 

「よう、煌坂」

「い、伊吹 終夜!? 何でここに!」

 今日絃神島を出る煌坂の見送りをするためだ。

 

「お前の見送りに来たんだよ」

「が、学校はどうしたのよ!」

「サボった」

「なっ....」

 俺の言葉に煌坂は驚いていた。

 

「ま、一日ぐらいサボっても問題ねぇからな」

「....そういう問題?」

「あぁ。それに、お前に渡す物がいくつかあるからな」

 そう言って、俺は背中のカバンから色々と取り出した。

 

「まずはこれだ」

「....手紙?」

「姫柊からのな」

「ゆ、雪菜から!?」

 煌坂は姫柊からと聞くと驚いていた。

 

「あぁ。何か色々と書いてたぞ」

 そう言って、俺は姫柊から渡された手紙の束を煌坂に渡した。

 

「まぁ時間がある時に読んでやれ」

「わかってるわ。それで、これ以外にまだあるの?」

「あぁ。まぁ、残りは俺からだけどな」

 俺は煌坂に神社で買ったお守りと紙袋を渡した。

 

「この紙袋は?」

「開けてくれて良いぞ」

「?」

 俺の言葉に煌坂は不思議そうにしながらも紙袋を開けて中身を取り出した。

 

「コレ....」

 煌坂が取り出したのは桜の花びらが刺繍されたハンカチだった。

 

「この前の戦いの時に、お前のハンカチを俺の血で汚したからな。だから、

 そのお詫びみたいなもんだ」

「良いの? こんなに良さそうな物....」

「世話になった礼だ。気にすんな」

「そう....あ、ありがとう。大切に使うわ」//

 煌坂は少し顔を赤らめて礼を言ってきた。

 

「どういたしまして。それと、そのお守りは無病息災のやつだ。姫柊から海外の

 仕事が多いって聞いてな」

「わ、わざわざありがとう」

 そう話していると、飛行機の搭乗手続きが始まるアナウンスが流れた。

 

「今の、お前が乗る飛行機のじゃないか?」

「えぇ、そうよ」

「そうか。じゃあもう行かないとな」

 俺がそう言うと、煌坂は何故か俺に近づいてきた。

 

「き、煌坂?」

「....ねぇ、今携帯持ってる?」

「携帯? まぁ、持ってはいるが....」

「じゃ、じゃあ、良かったら連絡先交換しない?」

 煌坂はそう言って、自分の携帯を取り出した。

 

「....そういう事か。別に良いぞ」

 俺はそう言って煌坂と連絡先を交換した。

 

「あ、ありがとう!」

「どういたしまして」

「た、たまに電話すらからちゃんと出なさいよ!」//

「わかった」

 そう話していると、煌坂はどこか嬉しそうに携帯を見ていた。

 

「じゃ、じゃあ私はもう行くわね」

「あぁ。元気でな、煌坂」

「....矢華」

「えっ?」

「....紗矢華で良いわよ。私も、終夜って呼ぶから」

「....良いのか?」

「....あんたなら、信用できそうだから」

 煌坂....紗矢華は真っ直ぐな目で俺にそう言ってきた。

 

「そうか....なら、これからはそう呼ばせてもらうぞ、紗矢華」

「っ! え、えぇ!」//

 俺の言葉に紗矢華は嬉しそうに答えた。

 

「じゃ、じゃあね終夜!」

「あぁ。またな、紗矢華」

 俺は手を振って紗矢華を見送った。

 

「(にしても、何で急に名前で呼んで良いって言ったんだ....?)」

 俺は、紗矢華の心境の変化を不思議に思いながら空港を出た。

 

 

 〜〜〜〜

 紗矢華side

 

「ふぅ....」

「(心臓、まだドキドキしてる....)」//

 飛行機に乗って席に座っている時、私は自分の胸を押さえながらそう考えていた。

 あの戦いが終わってから、私は終夜の事を考えるとずっと胸がドキドキしていた。

 そして、さっきも連絡先を聞いたり名前の呼び方を変えてと言った時も、顔に出ていないだけで

 ずっと胸はドキドキしていた。

 

「(何で、こんなに胸がドキドキするの....?)」

 私はこの胸のドキドキが分からず、飛行機を降りるまでずっとこのドキドキが何なのかを

 考えていた。

 

 

 

 

 



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天使炎上編
天使炎上 Ⅰ


 ある日の深夜一時頃、三十分前まで紗矢華と電話をしていた俺は深夜番組を見ていた。

 そんな時、急に携帯が鳴った。

 

「(誰だこんな時間に....また紗矢華か?)」

 そう思いながら携帯の画面を見ると、電話をかけてきた人物は紗矢華ではなく

 なっちゃんだった。

 

『起きていたか伊吹』

「....こんな時間に何か用かなっちゃん」

『あぁ。今から西地区(ウエスト)の市街地に来い。少しお前に依頼がある』

 そう言うと、なっちゃんからの電話は切れた。

 

「こんな時間からって....」

 俺は色々な可能性を考えながら服を着替えて、バイクに乗って西地区(ウエスト)に向かった。

 

 

 〜〜〜〜

 西地区(ウエスト)

 

「おいおい....ここで何が起きたんだよ」

 バイクを走らせて西地区(ウエスト)に着いた俺はこの惨状に驚いていた。ビルは半壊していたり、

 炎上していたりと、何かしらの巨大な事件が起こったのだとすぐに俺は理解した。

 すると、特区警備隊(アイランド・ガード)を指揮していたゴスロリ服の幼女が俺に近づいてきた。

 

「来たか。....それにしても、今随分と失礼な事を考えなかったか?」

「何も考えてねぇって....で、俺に依頼って?」

「....そうだったな。ついて来い」

 そう言われ、俺はフードをかぶってなっちゃんについて行くと救急車の前に着いた。

 そして、救急車の前にいた特区警備隊(アイランド・ガード)の男がなっちゃんに敬礼した。

 

「南宮教官、お疲れ様です!」

「あぁ、お前もご苦労」

「....あの、南宮教官? そちらのフードの男は....」

 特区警備隊(アイランド・ガード)の男は俺を怪しそうに見ていた。

 

「私の古い知り合いの魔術師だ。そこにいる小娘の容態を見てもらおうと思ってな」

 なっちゃんがそう言うと、男は俺に一度頭を下げ、救急車の扉を開けて下がっていった。

 そして、俺が救急車の中に入ると、簡易ベッドに一人の少女が眠っていた。

 だが、その少女の容態は普通ではなかった。その少女の身体全体には包帯が巻かれており、

 その巻いている包帯の一部は血だらけになっていたからだ。

 

「これは....」

「....最近、未登録魔族が暴れているのは知っているな」

「あぁ。ニュースでもそんな事を言っていたな。....じゃあ、この娘がその原因って事か?」

「....正確には片割れと言ったところだ」

「なるほど....とりあえず容態を確認するか。召喚(コール)、綻びた世界のレディヒーラー」

 俺は少女の容態を確認するためにレディヒーラーを召喚(コール)した。

 

『....お仕事? 我が先導者(マイ・ヴァンガード)

「あぁ。この娘の容態を確認してくれ」

『わかった』

 レディヒーラーは少女に手をかざした。そして三分後....

 

『....大体わかった。一番傷が深いのは横隔膜と腎臓周辺。この世界で腹腔神経叢(マニプーラ・チャクラ)って

 呼ばれる所。そして傷の状況を見るに、何かに喰われたと思う』

「喰われた....」

『正確に言えば、霊体その物が食べられてる。それに、この娘は魔族じゃなくてただの人間』

「人間!?」

「っ!」

 レディヒーラーの言葉に俺は驚いて声を上げた。なっちゃんも珍しく目を見開いて驚いていた。

 

『間違いない。....これは私の推測だけど、誰かが何らかの実験として普通の人間だったこの娘に

 無理矢理魔術的な肉体改造をしたと思う』

「....ただの人間が魔族特区の上空を飛びまわり、ビルを薙ぎ倒し炎上させた、か」

「随分とふざけた真似を....」

 俺は少女の頭を撫でながらそう呟いた。

 

「この娘を治してやる事は出来るか?」

『出来る。だけど、それには我が先導者(マイ・ヴァンガード)の力が必要』

「....マジか」はぁ

 レディヒーラーの言葉に俺は頭を押さえた。

 

『どうする?』

「....人命には変えられないか」

 俺はそう呟いてレディヒーラーに手を向けた。

 

「我が願いによりて、その姿を顕現せよ。時空超越(ストライドジェネレーション)

 すると、レディヒーラーの身体と俺の身体は光り出し、一つに重なった。

 そして俺の姿はレディヒーラーの姿と似たような金髪で露出が多く、腰の部分に

 装甲を纏った姿になった。

 

『さて、早くやるぞ』

『了解』

 俺は少女に身体の上に手をかざし、傷のある部分や出血した血、腹腔神経叢(マニプーラ・チャクラ)と呼ばれた場所を

 元通りに治した。

 

『これで、この娘は肉体改造される前の姿に戻った』

『そうか』

 そして、俺の身体からレディヒーラーが抜けると、俺の姿は銀髪ロングで胸が控えめな

 女の姿に変わった。

 

「....不便だな、この姿」はぁ

「私は似合ってると思うがな」

 そう言いながらなっちゃんは携帯で俺の姿を連射していた。

 

「見世物じゃねぇんだよ....やる事は終わったんだ。俺はもう帰る」

「そうか。気をつけて帰れよ、伊吹ちゃん」

「....うるせぇ、このロリ教師」

 俺はそう言い返してバイクに乗り家に帰った。

 

 

 



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天使炎上 Ⅱ

「....はぁ、浅葱と築島にノート借りないとな」

 次の日、俺は学校を休んで絃神島をフラフラしていた。流石に女の姿で学校には

 行けず、一日中俺は外で買い物やら食べ歩きをしていた。その時に、今日俺は

 街を歩いている人々に凄く見られていた。特に女性を中心に....

 

「(何かすごく疲れたな....)」

 そんな事を考えながら俺はネカフェでパソコンの画面を見ていた。家に帰っても良かったが、

 この姿を古城達に見られるのは抵抗があったため、ネカフェで寝泊まりをしようと考えていた。

 そんな事を考えていると、急に携帯が鳴った。電話をかけてきたのは紗矢華だった。

 

「もしもし」

『終夜、今大丈夫?』

「あぁ。今日はどうした紗矢華」

『あ、あのね。私、今週末に絃神島に行くから』

「....またあの金髪か」

 俺は心底嫌そうにそう言った。

 

『金髪って....違うわよ。今回は別件』

「別件....」

『アルディギア王国の要人が来日するから、それの護衛と道案内』

「アルディギア....」

『どうかしたの?』

「いや....少し知り合いを思い出しただけだ。にしても、護衛って大変だな」

 俺がそう言うと、紗矢華は少し歯切れが悪そうにこう言ってきた。

 

『そうなんだけど....何かトラブルがあったみたいでね。その要人との連絡が

 取れなくなったのよ』

「....そうなのか。その要人ってどんな人間なんだ?」

『悪いんだけどそれは言えないわ。私も任務だから』

「....そうか。悪いな、変なこと聞いて」

「(....まさか、アイツじゃないよな)」

 俺はある一つの不安を感じた。

 

『べ、別に気にしてないわ! そ、それでね、そっちに行ってもすごく、すごーく

 忙しいんだけど....もし時間があったら私に付き合ってくれる?』

「俺なんかで良いのか?」

『そ、そうよ! あんたが良いの!』

 紗矢華は耳に響くぐらいの声でそう言ってきた。

 

「わ、わかった。一応、いつでも良いように予定は空けておく」

『い、言ったからね! 約束破ったら許さないわよ!』

「わかってるっての。....じゃあ、日が決まったら電話してくれ」

 俺はそう言って切ろうとしたのだが....

 

『ねぇ、声どうかしたの?』

「えっ?」

 紗矢華は不思議そうに聞いてきた。

 

『あんたの声、そんなに高い声だった? もしかして、どこか調子が悪いの?』

 紗矢華は心配そうな声だった。

 

「い、いや、別に調子は悪くねぇよ。ちょっと魔術でドジって声が変になっただけだ。

 二、三日あれば治る」

『そうなのね。気をつけなさいよ』

「あ、あぁ。悪いな、変な心配かけて」

『べ、別に心配なんかしてないんだから! じゃ、じゃあね! 身体、暖かくして

 寝なさいよね!』

 紗矢華はそう言って電話を切った。

 

「心配してるかしてないのかどっちなんだよ....」

 俺はそう呟きながら携帯である人物に電話をかけた。

 

「あぁ、もしもし。少し調べて欲しい事があるんだが....」

 

 

 〜〜〜〜

 次の日の夜

 

「遅いぞ伊吹」

「悪かったな....それとアスタルテ、久しぶりだな」

「....? 終夜さん、ですか?」

「あぁ。ちょっと色々あって今は女の姿だがな....」

 俺は今、とある商店街に来ていた。そして、俺の目の前には浴衣を着たなっちゃんと

 アスタルテがいた。

 

「悪いが、この姿の時は紗夜って呼んでくれ。この姿を他の奴等にバレるのはすごく

 困るからな....」

「....命令受託(アクセプト)

「で、何で俺をこんな所に呼びつけた?」

「アスタルテに祭りを楽しませてやりたくてな。私はあまりそういう事に詳しくないから

 お前に任せようと思ったんだ。もちろんタダでとは言わん」

 そう言ってなっちゃんは一つのUSBメモリを俺に見せてきた。

 

「....ソレは?」

「お前が昨日の晩に頼んできたブツだ」

「っ!」

「今日アスタルテを楽しませてくれたらコレをお前にくれてやろう」

「....わかった。じゃあアスタルテ、俺が祭りを楽しませてやるよ」

 そう言って、俺はアスタルテに手を差し出した。

 

「は、はい。お願い、します....」

 アスタルテは少しずつ俺の手を握ってきた。そして、俺は祭りの屋台の方に向かおうと

 したが....

 

「ちょっと待て」

 急になっちゃんに呼び止められた。

 

「....何だよ」

「浴衣を着ずに祭りに行く気か? これに着替えて行ってこい」

 そう言って、空間転移で白い浴衣を取り出して渡してきた。

 

「本気で言ってるのか....?」

 俺は不満げにそう言ったが、なっちゃんはUSBメモリをチラつかせた。

 

「....わかった。着替えたら良いんだろ」はぁ

 

 

 〜〜〜〜

 

 俺は文句を言わずに近くの服屋の試着室で浴衣に着替えてアスタルテと一緒に祭りの

 会場に来た。

 

「アスタルテ、まずは何処に行きたい?」

「....その、私はお祭りというものが分かりません。だから何があるのかも....」

「祭りに関しては殆ど知らないのか....」

 俺はそれを聞いて色々と思考を巡らせた。そして....

 

「よし。なら最初は美味いものを食べようか」

 そう言って、まずは綿あめ屋に向かった。

 

「すいません、綿あめを二つ」

「あいよ!」

 俺は綿あめ屋の店員に女のような喋り方で注文した。そして、料金を渡すと思ったよりも

 巨大な綿あめが出てきた。

 

「お二人さん美人だからサービスしといたぜ!」

「ありがとうございます。はい、アスタルテ」

 俺は受け取った綿あめをアスタルテに渡した。

 

「ありがとうございます」

 そして、アスタルテは綿あめを一口食べると目が爛々と輝いた。

 

「美味いか?」

「はい。とっても美味しいです....!」

「そうか。何か気になるものがあったら言うんだぞ」

「じゃ、じゃあ次はアレを....!」

 そう言ってアスタルテが指差したのはりんご飴屋だった。

 

「じゃあどんどん行こうか」

 りんご飴屋に行った後、金魚すくい、射的、輪投げ、型抜き、ヨーヨー釣りといった

 祭りの定番の店を回った。そして、今俺とアスタルテはベンチでかき氷を食べていた。

 その時、アスタルテは俺のかき氷をじっと見ていた。

 

「少し食べてみるか?」

「っ! 良いんですか?」

「あぁ。ほら、あーん」

 俺がスプーンで一口すくうとアスタルテの口に近づけた。

 

「あ、あーん....」

「美味いか?」

「は、はい....とっても、美味しい、です....」///

 すると、アスタルテの顔はみるみる赤くなっていき、湯気が出始めていた。

 

「お、おい! 大丈夫か!」

 俺は咄嗟にアスタルテのおでこに手を置いた。

 

「だ、大丈夫です....」///

 アスタルテはそう言うが、顔はどんどんと赤くなっていた。すると、急にアスタルテの

 携帯が鳴った。

 

「す、すいません....はい、教官」

 電話の相手はどうやらなっちゃんのようだ。そして、アスタルテが少し話していると....

 

「さ、紗夜さん。教官が変わってほしいと....」

 アスタルテはそう言って携帯を差し出してきた。

 

「俺に?」

 俺は携帯を受け取って電話に出た。

 

「どうしたなっちゃん」

『今からアスタルテと一緒に指定した場所に来い』

「指定した場所って....」

『既にお前の携帯に送った。少しお前にもある事に手伝ってもらおうと思ってな。

 出来るだけ急いで来い』

 それだけ言うと、なっちゃんは電話を切った。そして、俺は自分の携帯を見ると

 なっちゃんからある場所の座標が送られていた。

 

「(面倒な予感しかしないが、行くしかないか....)」

「アスタルテ、行こうか」

 俺はそう言って、アスタルテに手を差し出した。

 

「....はい」

 アスタルテは少し残念そうな表情をしながらも俺の手を握り、一緒に目的地まで向かった。

 

 〜〜〜〜

 

「(....何でここにお前らがいるんだ)」

 目的地に着くと、俺は頭を押さえた。何故なら、そこに古城と姫柊がいたからだ。

 

「来たか紗夜。アスタルテの面倒を見てくれて助かったぞ」

 なっちゃんはいつもの様子でそう言ってきた。俺はそれを聞いてなっちゃんに近づいて

 小声で聞いた。

 

「何でここにあの二人がいるんだよ」

「暁は私が呼んだ。剣巫は知らん」

 なっちゃんはそう言うと、アスタルテに近づいていった。

 

「アスタルテ、祭りは楽しかったか?」

「はい。しゅ....紗夜さんがいっぱい楽しませてくれました」//

「そうか。なら、約束通りにこいつを持っていけ」

 なっちゃんは俺にUSBメモリを投げてきた。

 

「....どうも」

「なぁ、那月ちゃん。そこにいる人誰だ?」

 すると、急に古城がなっちゃんにそう聞いた。

 

「コイツは私の友人で魔術師の十六夜 紗夜だ。紗夜、あの男は第四真祖の暁 古城。

 そして隣にいるのが獅子王機関の剣巫の姫柊 雪菜だ」

「そ、そう。はじめまして、暁さん、姫柊さん」

 俺は初対面のフリをして二人に頭を下げた。

 

「ど、どうも」

「は、はじめまして」

 二人も何処かぎこちない様子で俺に頭を下げてきた。

 

「....それで、私に手伝って欲しい事って何、那月?」

「アレの捕獲だ」

 そう言って指を指した先にいたのは、仮面を付けて背中に羽を生やした人間だった。

 そう言った瞬間、空には花火が打ち上げられた。

 

「アレって....」

「この前の犯人だ。お前は状況を見ながら動け」

 そう言うと、なっちゃんは空間転移を使い仮面がいる近くの電波塔に転移した。

 

「うおっ! 何で急にこんな所に!」

「那月の空間転移です。それよりも、上を」

 俺がそう言うと、古城と姫柊は俺が指を指した方を見た。そこでは、二人の仮面を付けた

 少女が戦っていた。すると、その少女達が放った光の矢が電波塔や街に降り注いだ。

 

「那月!」

「手を貸せお前達! まとめて仕留めるぞ!」

「わ、わかった! 疾く在れ(きやがれ)、九番目の眷獣、双角の深緋(アルナスル・ミニウム)!」

「わかりました!」

 二人は仮面を付けた少女達を撃ち落そうとしたが、二人の攻撃は無効化されていた。

 

「何!?」

「私達の攻撃を無傷だなんて!」

 二人が驚いている間にも、仮面を付けた少女は光の矢を構えてこっちに向けていた。

 

「っ! 仕方ない....来て、特異点を射抜く者!」

 俺がそう叫ぶと、銀色の鎧を纏い、羽を生やした女が現れた。

 

「彼女を撃ち落として!」

『了解』

 射抜く者はそう答え、手から出現させた黒い矢で仮面の少女の羽を撃ち抜いた。

 それと同時に、上空から光の矢が降り注ぎ、仮面の少女の腹を貫いた。仮面の少女が

 地面に落ちていくと、もう一人の仮面の少女が落ちていく少女を地面に叩きつけた。

 そして、仮面の少女は叩きつけた少女の腹腔神経叢(マニプーラ・チャクラ)の所を抉り始めた。

 

「....アイツ、俺達を助けてくれたのか?」

 古城は急にそんな事を言った。

 

「いえ、違うと思います。おそらく、彼女の霊体を狙って....」

 そう言っていたその時、腹腔神経叢(マニプーラ・チャクラ)を抉られていた少女が抉っている少女の仮面を

 破壊した。その仮面の先の顔を見て、古城と姫柊は固まっていた。俺も俺で、

 その少女の顔を見て少し驚いた。何故なら、その少女の顔は俺の友人の顔に

 どこか似ていたからだ。

 

「バ、バカな....アイツ、あの顔!」

「嘘....」

 そして、その仮面が割れた少女は叩きつけた少女の腹腔神経叢(マニプーラ・チャクラ)を喰らい始めた。

 

「叶瀬!」

 古城はそう叫ぶが、少女は止まらず、腹腔神経叢(マニプーラ・チャクラ)を喰らい尽くした。

 そして、次の瞬間には何処かに飛び去って行った。それを、古城と姫柊は呆然と見ていた。

 

 〜〜〜〜

 

「....とりあえず、今日はご苦労だったな伊吹」

 腹腔神経叢(マニプーラ・チャクラ)を喰われた少女を病院に送り、古城達が帰った後、俺はなっちゃんに

 そう言われた。

 

「あぁ」

「後の処理は私の仕事だ。お前も今日のところは帰れ」

「わかった。なら、後は頼む」

 俺はそう言って、ネカフェに向かって歩き出した。その時、俺はある事を考えていた。

 

「(さっきの子、何処かアイツに似ていた....何でだ? アイツの妹....? 

 いや、アイツの妹はもっと幼かったはず....)」

 そう考えながら、俺はなっちゃんから貰ったUSBメモリを取り出した。

 

「(とにかく、まずはコレの情報を見てからだ。....アイツじゃない事を祈りたいが)」

 

 

 



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天使炎上 Ⅲ

 次の日

 

「何故こうも嫌な予感は当たるんだか....」はぁ

 今日の朝、起きると俺の姿は何とか男に戻っていた。そして今、俺は人のいない

 とある増設人工島(サブフロート)にいた。何故なら、俺はとある人物を探そうとしていたからだ。

 

「さて....」

 俺は腕を振るい、周りにカードを出現させた。そこから、俺は八枚のカードを手に取った。

 

召喚(コール)星輝兵(スターベイダー) ガンマダイル、クォーク・シュービル、オーロライーグル、

 シニスター・イーグル、スプレイ・バーディ、スピキュール・シャーク、アルベド・コンドル、

 ダーククラウド・スネーク」

 俺がそう言ってカードを投げると、八体のユニットが召喚された。

 

「ガンマダイル、オーロライーグルは島の北側で、シャーク、シニスター・イーグルは南側で、

 スネーク、シュービルは西側で、バーディ、コンドルは東側でアルディギアのマークが

 描かれた救命ポッドを探してくれ。俺は飛行船の反応が消滅した所から探す。見つけ次第、

 すぐに俺の所まで来い」

 そう言うと、ユニット達は鳴き声を上げてそれぞれ俺が言った場所に向かっていった。

 そして、俺は真っ黒なカードを手に取った。

 

「ライド・ザ・ヴァンガード!」

 俺がそう叫ぶと、俺の姿はブラスター・ジョーカーに変わった。

 

召喚(コール)、デスティニー・ディーラー』

 俺はデスティニー・ディーラーを召喚してその上に飛び乗った。

 

『ディーラー、頼むぞ』

 俺がそう言うと、ディーラーは目的の場所に向かって飛び始めた。

 

 〜十分後〜

 

『....ここが、反応が消滅した所か』

 ディーラーに乗って、目的の場所に着いた俺の周りには巨大な飛行船の

 残骸が海の上を漂っていた。

 

『(救命ポッドは何処にも無いか....上手く逃げたか、それとも....)』

 そんな一抹の不安を抱えながらも、俺はこの付近の無人島を探し始めた。

 だが、二時間近く探したが何処にもアルディギアのマークが付いた救命ポッドは

 見つからなかった。

 

『ここにも無いか....』

 俺は無人島を出て周りの景色を見た。

 

『(この付近の島は全て調べた。そうなってくると、残った可能性はここより離れた島か、

 既に飛行船を落とした連中に連れ去られたか....)』

 すると、突如シニスター・イーグルが俺の目の前に降りてきた。

 

『見つけたのか? シニスター・イーグル』

 俺がそう聞くと、肯定といった様子で鳴き声を上げた。

 

『っ、そうか! じゃあ今すぐ案内してくれ!』

 その言葉にシニスター・イーグルは頷き、空に向かって飛び始めた。俺もディーラーに乗って

 シニスター・イーグルを追いかけた。

 

 〜〜〜〜

 

 シニスター・イーグルを追いかけて見えてきた場所は絃神島から南西に三十分ほどで着く

 無人島だった。

 

『思ったよりも絃神島の近くまで流れて来たのか....』

 すると、海辺の付近にスピキュール・シャークが巨大な丸い何かを守っていた。

 よく見てみると、その丸い何かは純金製でゴム製の浮力具がついており、アルディギアの

 マークが描かれていた。

 

『....これ、救命ポッドかよ』

『(制作費いくらだよ....)』

 そんな事を考えながら、俺はディーラーから降り、救命ポッドに近づいた。

 すると、救命ポッドの近くには誰かの足跡が残っていた。その足跡は森の方に続いていた。

 

『まだ新しい....て事は、まだアイツは....』

 そう思い、俺は森の方に向かって走り出した。

 

 〜〜〜〜

 

 俺は森にある足跡を辿っていた。そして、辿り着いたのはそれなりに広さのある湖だった。

 

『無人島なのに、こんな綺麗な湖があるのか....』

 そうして、しばらく湖を眺めていると、急に背後から拳銃を突きつけられた。

 

「そのまま動かないで手を挙げてください」

 声からして、拳銃を突きつけているのは女だった。俺は大人しく女の言う通りに手を挙げた。

 

「....ここで一体何をしているんです?」

『....ちょっと人探しをしていただけだ』

「人探し、ですか....」

『あぁ』

「そうですか。でも残念ですね。あなたはここで終わりですよ」

 そう言って、女は引き金を引いた。だが、女の拳銃から聞こえてきたのは空砲の音だった。

 

『....はぁ。茶番はこれで終わりでいいか、()()

「....ふふふ。えぇ、わざわざ付き合ってくれてありがとうございます終夜。

 もう腕を下ろしてくださって構いませんよ」

 俺は腕を下ろし、後ろを向いた。そこには、俺がさっきまで探していた人物、

 アルディギア王国第一王女のラ・フォリア・リハヴァインが立っていた。

 

「終夜、きっと助けに来てくれると信じていましたよ」

『そうか....の割には、随分な茶番をしてくれたな。後、この姿の時にその名前で呼ぶな』

 俺は懐疑の目でリアを見ながらそう言った。

 

「あなたならノリに乗ってくれると思いましたから。実際、あなたも結構乗り気で

 やってくれましたからね。後、名前についてはごめんなさい。うっかり忘れていました」

 リアは嬉しそうにそう言いながら拳銃をホルダーに直した。

 

「さて、色々と聞きたい事もあるでしょう?」

『....まぁな』

「では、救命ポッドの方に戻りましょう。ここだと日差しが強いですからね」

 リアはそう言って、救命ポッドがあった方に向かって歩き出した。

 

『(自由奔放な性格は相変わらずか....)』

 そんな事を考えながら、俺はリアの後についていった。

 

 



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天使炎上 Ⅳ

「ありがとうございます、ポッドを守っていてくれて」

 救命ポッドの所に戻ると、リアはシャークの頭を撫でながらそう言った。

 

『なるほど....お前がシャークに守るように頼んでいたのか』

 俺はシャークが救命ポッドを守っていた理由を理解した。

 

「えぇ。終夜の魔力の気配がしているのを感じましたから。さ、どうぞ中に」

 リアはそう言って救命ポッドの扉を開いた。ポッドの中はそこそこ広く、ベッドやトイレ、

 食料に飲料水も備わっていた。

 

『これ作るのにいくらかかるんだよ....』

「さて? 数百万か数千万ぐらいでしょうか?」

『数百万....数千万....』

 リアの言葉に俺は何も言えなくなった。

 

「それよりも終夜、室内なのですからその鎧を取ったらどうです? 

 それに、私はあなたの正体を知っていますし」

『....それもそうだな』

 俺はそう呟き、ブラスター・ジョーカーから人間の姿に戻った。すると、リアは急に俺に

 抱きついてきた。

 

「っ! きゅ、急にどうしたリア?」

「....少しの間だけ、私を抱きしめてくれませんか?」

 そう言ったリアの声は、普段聞く声とは違ってどこか不安そうな声だった。それを聞いて、

 俺は黙ってリアを抱きしめた。

 

「....どうかしたのか?」

「....すごく、すごく不安だったんです。この二日間、誰とも会えずにずっと一人だったので....」

 たった一人で知らない無人島にいるのはさぞ不安だっただろう。それにリアは女の子だ。

 俺なんかでは想像できないほど辛かったはずだ。

 

「そうか。....一人でよく頑張ったな」

 俺はそう言って、リアの頭を優しく撫でた。すると、リアは俺を抱きしめる力が強くなった。

 

「....温かいですね、終夜は」

 俺は何も言わず、少しの間リアを抱きしめて頭を撫でてやった。

 

 〜〜〜〜

 

「ありがとうございます終夜。もう大丈夫です」

 十分ほど経つと、リアはそう言って俺を抱きしめる力を緩めた。

 

「そうか」

 俺はリアの背中に回していた手を退けた。そして、リアはベッドの上に座った。

 

「さて、それでは終夜、聞きたい事があるならどうぞ聞いてください。

 あ、でも私の3サイズはまだ教えてあげませんよ」

 リアは少し笑いながらそう言ってきた。

 

「何で今ここでそんな事を聞くんだよ....俺が聞きたいのは、お前が絃神島に

 来ようとした理由とお前の飛行船を落とした連中は何処の奴かぐらいだ」

「もぉ、つれないですねぇ....まぁ、良いでしょう。それで、私が絃神島に

 来ようとした目的でしたね」

「あぁ」

「終夜、あなたは今、彩海学園に通っていますよね?」

 リアは突然そう聞いてきた。

 

「あぁ。それがどうかしたのか?」

「では、中等部の叶瀬 夏音という少女を知っていますか?」

 リアの言葉に、俺は昨日の事を思い出した。

 

「叶瀬? それって、お前とよく似た銀髪のショートカットの子か?」

「知っていたんですね」

「知っていたって言っても、昨日初めて会ったばかりだ。で、その叶瀬って子が

 お前がここに来た理由に関係しているのか?」

「はい。彼女は、実はアルディギア王家の一員なのです」

「アルディギアの?」

 俺がそう聞くと、リアは静かに頷いた。

 

「先日、祖父の重臣が亡くなりまして、彼の遺言で叶瀬 夏音の存在が発覚したのです。

 それを聞いて祖父は逃亡、祖母は怒り狂....とにかく、今王宮は大混乱していて....」

「....それってつまり、叶瀬って子は」

「祖父の浮気相手の娘という事になります」

「マジか....」

「(てか、リアの祖母さんの怒ってるところあんまり想像できねぇな)」

 俺は昔、リアに会うためにアルディギアの城に忍び込んだ事がある。

 その時に何度か見た事があったのだが、とても優しそうな人で誰かを

 怒るなどという姿が全くと言っていいほど想像できなかった。

 

「それで、逃亡している祖父の代わりに私が叶瀬 夏音を迎えに来ようとしたのです。ですが....」

「その道中を襲われた....」

「はい。そして、私達の船を襲ってきたのはメイガスクラフトです」

 メイガスクラフトとは国際的な機械人形(オートマタ)生産の大手だ。

 

「だがちょっと待て。何でメイガスクラフトがお前の乗っていた船を襲う?」

「恐らく私の身体が目的でしょう」

「....身代金か」

 俺の言葉にリアは首を横に振った。

 

「いえ。言葉通り、私の身体、アルディギア王家の血筋です」

「....確か、アルディギア王家の血筋は強い霊媒を持っていたな」

「その通りです終夜。メイガスクラフトにいる元宮廷魔道技師の叶瀬 賢生は

 私の強力な霊媒を必要にしたのでしょう。ある魔術儀式のために」

「叶瀬って....叶瀬 夏音の」

「養父です。終夜、絃神島の修道院で起きた事故を知っていますか?」

「いや、俺は聞いた事がない」

「そうですか。その時に賢生は夏音を引き取りました。彼の行う儀式、模造天使(エンジェル・フォウ)のために」

模造天使(エンジェル・フォウ)?」

 聞いた事のない言葉に、俺は首を傾げた。

 

「賢生が研究していた魔術儀式です。人為的な霊的進化を引き起こすことで、人間をより高次の

 存在へと生まれ変わらせるのが目的です」

「アレで天使か....俺から見れば、天使なんてものには程遠いものに見えたがな」

 俺は昨日見た模造天使(エンジェル・フォウ)を思い出しながらそう言った。

 

「....とりあえず話しを纏めると、リアは叶瀬 夏音を迎えに来ようとしていたが、

 メイガスクラフトの奇襲を受けた。そして、メイガスクラフトはリアを連れ去って

 模造天使(エンジェル・フォウ)の儀式の生贄にしようとしたって事か」

「おそらくそうなりますね」

「....メイガスクラフトは潰すか。リア、ペンと紙はあるか?」

「はい。どうぞ」

 俺はリアからペンと紙を受け取り、なっちゃんに送るある手紙を書いた。

 そして、外に出てその手紙をシニスター・イーグルに渡した。

 

「これをなっちゃんに届けに行ってくれ」

 シニスター・イーグルは鳴き声を上げて絃神島の方に向かって飛んで行った。

 

「さてと....これからどうする?」

「そうですね....まずはあの船を破壊しましょうか」

 そう言ったリアの視線の先には黒い船が一隻いた。

 

「アレはメイガスクラフトの船です。二回程、この島に機械人形(オートマタ)を送り込んできました」

「そうか。なら、あの船は沈めるか」

 俺はそう呟いて腕を振るい、目の前に止まったカードを一枚手に取った。

 

召喚(コール)星輝兵(スターベイダー) グラヴィトン」

 すると、俺とリアの目の前に巨大な銀色の巨人が現れた。

 

「グラヴィトン、あの船を沈めろ」

 俺がそう言うと、グラヴィトンの肩の装甲が開きエネルギーがチャージされた。

 そして、エネルギーが溜め終わった次の瞬間、二本の巨大なビームが

 船に向かって放たれた。ビームは二本とも船に直撃し、巨大な水柱を上げて船は大爆発した。

 

「さすがです終夜」

 そう言ったリアは、不意に小さな欠伸をした。

 

「眠いなら寝てて良いぞ。見張りは俺がやっておく」

「....そうですか。ではお言葉に甘えて」

 リアは救命ポッドの方に向かって歩いて行った。そして、中に入ろうとした時、

 急に何かを思い出したような表情をして俺の方を向いた。

 

「そういえば終夜。侍女から聞いたのですが、日本には"夜這い"という文化があるとか....」

「するかっ! 後、それは文化なんかじゃねぇよ!」

「あら、そうでしたか」

 リアは悪戯っぽい笑顔を浮かべながらポッドの中に入って行った。

 

「....はぁ、アイツの侍女はどんな日本文化を教えてんだ」

 俺はリアの発言に頭を押さえながら海の方を見た。

 

 

 〜〜〜〜

 那月side

 

 ゴンゴン

 

 私が教員室にいる時、突如窓を叩く音が聞こえた。窓を見ると、そこには

 伊吹の使い魔の銀色の鷲がいた。

 

「何故アイツの使い魔が私の所に....」

 そう思いながら窓を開けると、鷲は私に一枚の手紙を渡してきた。

 

「手紙か....」

 そして、鷲は手紙を渡すと何処かに飛び去って行った。私は不思議に思いながらも、

 手紙の封を切った。そこには、伊吹の字でこう書かれていた。

 

『なっちゃんへ

 現在、俺は絃神島の南西に向かって三十分ほどで着く無人島にリアといる。

 昨日戦った羽付きは模造天使(エンジェル・フォウ)という魔術儀式で改造された人間だ。

 そして、その儀式を行っているのはメイガスクラフトで、アルディギアの

 飛行船を落としたのもメイガスクラフトの連中だ。悪いが、メイガスクラフトへの

 ガサ入れとリアの迎えの船を頼む。俺はこっちで今回の実行犯を叩き潰す。』

「....メイガスクラフトか」

 私はすぐに自分の携帯で特区警備隊(アイランド・ガード)に連絡した。

 

「さて、アイツにばかり働かせる訳にはいかんな。アスタルテ」

命令受託(アクセプト)

 私とアスタルテは空間転移で特区警備隊(アイランド・ガード)の攻魔班の所に転移した。

 

 



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天使炎上 Ⅴ

 リアが眠って数時間が経った。俺はその間にリアを探させていたユニットを呼び戻し

 ずっと周囲の見張りをしていた。すると、突然俺のいる反対側の方からヘリが飛んできた。

 そのヘリは一度着陸すると、すぐさま島を離れていった。

 

「(救援ではないな....てなると、敵か、それとも別の何かか)」

 俺は様子を見に行きたかったが、リアのそばから離れるわけにはいかなかった。そこで、

 俺はカードを展開して一枚のカードを手に取った。

 

召喚(コール)、落日の刀身 ダスクブレード」

 俺が地面にカードを投げると魔法陣が展開され、そこから燃えるような赤い髪をし、

 黒い刀を持った剣士が現れた。

 

『....我に任務か?』

「あぁ。さっきのヘリが降りた場所を見てきてくれ。敵なら斬っても良いが、

 それ以外なら様子見だ」

『承知』

 ダスクブレードはそう言うと、ヘリがいた所に向かって走って行った。

 そして数分後、ダスクブレードは困ったような表情で俺の元に戻ってきた。

 

「どうだった?」

『....非常に言いにくいのだが、いたのは主人の友人だった』

「友人って....まさか....!」

 俺はそれを聞いてとんでもなく嫌な予感がした。

 

『第四真祖と剣巫だ』

「はぁぁぁぁ....」

 それを聞いた瞬間、俺は深いため息が出た。

 

「どうしてアイツはこうもピンポイントに面倒ごとに巻き込まれるんだよ....」

『それは時の運としか言えないのでは?』

「どんな運してんだよ....まぁ良い。悪いがダスクブレード、二人を影から見守っといてくれ。

 あの二人だと何をやらかすか....」

『....承知した』

 ダスクブレードはそう言って再び古城達がいる方に向かっていった。その後、向こうからは

 巨大な爆発音が聞こえてきた。

 

「(あのバカは一体何をやってんだ....)」

 俺は爆発音が聞こえるたびに頭を痛めながらも見張りを続けていた。

 そして、辺りが真っ暗になった頃、リアがポッドから出てきた。

 

「起きたかリア」

「んっ....おはようございます終夜。見張り役ご苦労様です。何か変化はありましたか?」

「....第四真祖とその監視役の剣巫がこの島に来た」

 俺は古城達がいる方向を見てそう言った。

 

「第四真祖が、ですか....」

「あぁ....何でアイツはこうも面倒ごとに巻き込まれるんだか....」

「そういえば終夜の友人でしたね。会いに行ったんですか?」

「無理だ。リアの見張りもあるし、この島にいるって知られたら何を聞かれるか....

 それに俺の正体がバレるわけにはいかねぇんだよ」

 俺の正体を知っているのは、現状、リアとなっちゃんと俺が捕獲した一部の魔導犯罪者だけだ。

 

「まぁ、一応部下に二人を見守るようには頼んだけどな」

「そうですか」

 そう話していると、リアはポッドの中に戻りタオルを持って何処かに行こうとした。

 

「何処に行くんだ?」

「水浴びです。ここに来る時に湖がありましたよね? 終夜も一緒にどうですか?」

「....俺は遠慮しとく。だけど一人で行かせるのは流石にな....」

「そうですか。分かっていても、覗かれるのは少し恥ずかしいですね」///

 リアは顔を赤らめながらそう言ってきた。

 

「覗くかっ!」

「あら、そうなのですか?」

「....はぁ、行くなら早く行くぞ。ライド」

 俺はそう言ってブラスター・ジョーカーに姿を変えて湖の方に向かって歩き出した。

 

 〜〜〜〜

 

「では、出来るだけ早く済ませてきますね」

『あぁ。そこの岩陰にいるから何かあったらすぐに呼べよ』

「....なら、一緒に入れば良いのでは?」

『....勘弁してくれ』

 俺は疲れたようにそう言って岩陰に座った。そして、少しすると湖から波紋が起きた。

 おそらくリアが湖の中に入ったのだろう。俺は湖から聞こえる水音を聞きながら周囲を

 警戒し、時折月を見ていた。そして、二十分程経つとリアは髪を拭きながら俺に

 近づいてきた。

 

「お待たせしました」

『おう。それじゃあポッドに戻っ....』

 俺が続きを言おうとしたその時、突如轟音が響き渡った。その音の方を見ると、

 今日の昼に見た黒い船が島に停泊していた。

 

『性懲りも無くまた来やがったか....リア、先にポッドに戻っていろ。俺はあの船を

 破壊しに行く』

「除け者にされるのは心外ですね。私も行きます。自分の身は自分で守りますから」

 そう言ってリアが取り出したのは、金色に豪華な装飾が施された呪式銃だった。

 銃身には銃剣(バヨネット)が装着されていた。

 

『....残弾は』

「残り一発です」

 リアはどこか自信ありげにそう言った。

 

『....前線には出るなよ。あくまでお前は後方支援だ。ヤバいと思ったらすぐに逃げろ。

 わかったな?』

「えぇ。こうして貴方と肩を並べるなんて心が踊りますね」

『頼むからホントに無茶をしないでくれよ....』

 俺は少しの不安を感じながらも船の方に向かって走り出した。

 

 

 〜〜〜〜

 姫柊side

 

「鳴雷!」

 私は今、とある黒い兵士を蹴り上げていた。水浴びに行った帰り道、私と先輩は謎の

 黒い兵士からライフルを放たれた。そして、敵と認識した私は呪力で強化した脚で兵士を

 攻撃していた。

 

「姫柊無事か!」

 すると、銃弾の嵐から解放された先輩が駆け寄ってきた。

 

「っ! 先輩まだです!」

 次の瞬間、私がさっき攻撃して首を吹っ飛ばした兵士が私に襲いかかってきた。

 

「土雷!」

 私は懐に潜り込み、脇腹に肘打ちを叩き込んだ。すると、その部分は大きく陥没した。

 

「うおぉぉぉぉ!」

 その間に先輩も、自分に向かってきた兵士を吸血鬼の力を解放して殴り飛ばしていた。

 だが、何故か兵士達は何事もなかったように立ち上がった。その様子に気を取られている間に

 私達は黒い兵士達に包囲されていた。

 

「っ! ....すみません先輩。囲まれました....」

「くそっ....! 眷獣を使うしかねぇのか!」

 そう話していた次の瞬間、私の目の前を黒い何かが通り過ぎた。そして、私の方にいた

 黒い兵士達は全て胴体を真っ二つに斬られていた。

 

「なっ....」

「な、何だ急に!」

 先輩の方を見ると、先輩の方にいた黒い兵士達も真っ二つに斬られていた。

 

『そこにいた者達はメイガスクラフトの機械人形(オートマタ)だ。加減をする必要はない』

 すると、突然謎の声が聞こえてきた。私と先輩が声の方を向くと、そこには燃えるような

 赤い髪をし、黒い刀を持った男がいた。

 

「っ、何者ですか!」

 私は男から濃密な殺気を感じて雪霞狼を向けた。

 

『我は落日の刀身 ダスクブレード。黒輪の根絶者(デリーター)様に仕える者の一人だ』

「黒輪の根絶者(デリーター)だって!?」

 先輩は男の言葉に驚いていた。

 

「....何故、黒輪の根絶者(デリーター)に仕える者がこの無人島にいるんですか」

 私は警戒しながらもそう聞いた。

 

『それは....チッ!』

 男は突如私達の方に向かって走ってきた。そして、私達の背後にいた機械人形(オートマタ)

 斬り伏せていた。

 

『まだ来るか....』

 そう言った男の視線の先には数十体の機械人形(オートマタ)がこっちに向かって走ってきていた。

 男は刀を構えていたが、突然その構えを解いた。すると、次の瞬間、金色の閃光と黒い閃光が

 機械人形(オートマタ)達を貫いていた。

 

『ダスクブレード、そいつらの監視ご苦労だったな』

「三人とも無事ですか?」

 私達がこの状況に驚いていると、突然男女の声が聞こえてきた。声の方を見ると、

 そこには剣を持った姿の黒輪の根絶者(デリーター)と銀髪の美しい女性がいた。

 

『ラ・フォリア、俺はあの船を沈めてくる。ダスクブレードと一緒に先に戻っておけ。

 ダスクブレード。少しの間、ラ・フォリアの護衛を頼むぞ』

『承知』

「わかりました」

 そう言った黒輪の根絶者(デリーター)は海の方に向かって目にも留まらぬ速さで走っていった。

 

「....そういうわけなので。お二人とも、一緒に来ていただけますか?」

 女性は笑顔を浮かべて私達にそう言ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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天使炎上 Ⅵ

 メイガスクラフトの船を沈めて、俺はポッドがある所に戻ってきた。

 そこには岩に座って何かの話を聞いている古城と姫柊の姿があった。

 

『すまんなダスクブレード。護衛ご苦労だった』

『気にするな。我は主人の命を守っただけだ。では、我は一度退却する』

 そう言うと、ダスクブレードはカードになって俺の元に戻ってきた。

 

『で、どこまで話したんだ?』

「私が絃神島に向かっていた目的とメイガスクラフトの目的は話し終わりました」

『そうか』

「そ、それよりも! 何でアンタがこんな無人島にいるんだよ!」

 古城は何処か慌てた様子でそう聞いてきた。

 

『コイツを探してたんだよ』

 俺はリアを指差した。

 

「....貴方は、彼女と知り合いなのですか?」

『知り合いというか、個人的な友人だ。数年前に色々あってな』

「はい。ジョーカーには私も随分とお世話になりましたから」

 リアは俺の言葉に笑顔でそう言った。

 

『まぁそう言うわけで、俺はコイツを探してここにいたってわけだ』

「....そうですか。っ!」

 すると、姫柊は何かを感じ取ったのか雪霞狼を掴んで海を見た。同じタイミングで

 俺も海から気配を感じて海の方を見た。すると、海の上にはさっきよりも少し巨大な

 メイガスクラフトの船がこっちに向かって来ていた。

 

『....まだ来るか』

 俺は剣を船に向けてレーザーを放とうとしたが....

 

「ジョーカー、待ってください」

 突然、リアが俺の剣を船から逸らした。

 

『....何の真似だ』

「アレを見てください」

 そう言ったリアは船の方を指差した。そして、船からは白旗が見えた。

 

 〜〜〜〜

 

 島に着いた船から降りてきたのは眼鏡をかけた初老の男とちゃらんぽらんそうな男、

 厚化粧なババアだった。

 

「よぉバカップル。人目を気にしないでイチャつけたか?」

「テメェ....よくもぬけぬけと」

『暁 古城。ああいうタイプの獣人には何を言っても意味は無い。突っかかっても

 無駄に疲れるだけだ』

 俺は古城にそう言って気を落ち着かせた。すると、リアが一歩前に出た。

 

「久しぶりですね、叶瀬 賢生」

「殿下におかれましてはご機嫌麗しく....七年ぶりでしょうか。 お美しくなられましたね」

 初老の男は恭しくリアに礼をした。

 

「わたくしの血族をおのが儀式の供物にしておいて、よくもぬけぬけと言えたものですね」

「お言葉ですが殿下。 神に誓って、私は夏音を蔑ろに扱ったことはありません。 私があれを、

 実の娘同然に扱わなければならない理由....今のあなたにはおわかりのはず。

 いえ、むしろ実の娘同然なればこそ、と申し上げましょう」

「....叶瀬 夏音はどこです、賢生」

 リアは叶瀬 賢生を睨みながらそう言った。

 

「我々が用意した模造天使(エンジェル・フォウ)の素体は七人。 夏音はこれらの内三人を自らの手で倒し、

 他の者にやられた者たちの分も含めて六つの霊的中枢を手に入れました。 これは人間が

 己の霊格を一段階引き上げるのに必要十分な最低数です」

模造天使(エンジェル・フォウ)の儀式とは、所謂蠱毒の応用です。候補者同士を戦わせ、勝者に霊的中枢を

 取り込ませる。そして、これを繰り返して最良の一体を生み出す....」

 リアは俺達にも分かりやすいようにそう言った。

 

「そこで、出力が足りないなら数を増やせばいいと賢生は考えました」

「その通り。それならば人の肉体の限界を超えることなく霊的進化が可能となる。

 ヒトよりも神に近きモノ....即ち、天使に」

「....何でそこにメイガスクラフトが関わってんだ」

 すると、古城が急にそう聞いた。

 

「いやな、ウチの会社やっベーんだわ。経営状態が」

「はぁ?」

「掃除ロボなんざ技術革新も早くて利幅が出なくてな、仕方なく戦争用ロボなんてモンに

 手ぇ出してみたはいいものの、これがまた売れなくてよぉ。ウチらとしては兵器としての

 天使様に社運賭けてるって訳よ」

「兵器って....お前らまさか!」

『そういう事か....』

 俺はメイガスクラフトが関わっている理由が理解できた。

 

「そういうことだから。アタシらからの要求を伝えるわ。まずアルディギアのお姫様。

 アンタは無駄な抵抗を止めて大人しく投降しな。そうすりゃ命までは取らないであげる....

 ま、死んだ方がマシってくらい気持ちいい思いをして....」

 厚化粧のババアがそう喋っている時、俺はブラスター・ブレードをババアに向け、気づけば

 高出力のバースト・バスターを放っていた。だが、その一撃はギリギリのところで避けられた。

 

『チッ....』

「ア、アンタ! 人が話している時に!」

『敵の前で呑気に喋ってる方が悪いんだよババア』

「バ、ババア....!」

 俺の今の一言にババアは肩を震わしていた。

 

『何だ? ババアって言われた事にキレてんのか?』

 俺は畳み掛けるようにそう言った。すると、俺の後ろにいたリアは笑っていた。

 

「テ、テメェ!」

「おいおい! 抑えろってBB! てか、お前何者だ?」

「黒輪の根絶者(デリーター)....聞いた事ぐらいはあるのでは?」

「こ、黒輪の根絶者(デリーター)だと!?」

 リアの言葉に叶瀬 賢生は驚いていた。

 

「な、何故このような所に....!」

『さぁな....』

「黒輪の根絶者(デリーター)か何だか知らないけど、どうせあんたもここで死ぬんだよ! キリシマ!」

「わ、わかったっての!」

 キリシマと呼ばれた男は、慌てるように後ろにあるコンテナを開いた。そこには、叶瀬 夏音が

 眠っていた。

 

「さっさと起動しな!」

「あなたはそれで良いのですか、賢生」

「....起動しろXDAー7。最後の儀式だ」

 叶瀬 賢生が端末を操作すると、眩しい光と共に模造天使(エンジェル・フォウ)になった叶瀬 夏音が翼を広げた。

 それと同時に、姫柊は叶瀬 夏音に向かって走り出し雪霞狼を突き刺そうとした。恐らく、

 雪霞狼の力で模造天使の魔術を破壊しようとしたのだろう。だが、その一撃は叶瀬 夏音の

 身体に届く前にはじき返された。

 

「そんな....!」

「無駄だ。所詮人の手によって作られた神格振動波が本物の神性を帯びた模造天使(エンジェル・フォウ)

 傷つけられるはずがない」

「くっ....」

 叶瀬 賢生の言葉を聞いても、姫柊は諦めずに突撃しようとしたが、紅い槍を持ったババアが

 姫柊の前に立ち塞がった。

 

「アンタの相手は私だよ! そんでアンタを殺したら次はお前だ鎧男! キリシマ! 

 その男は殺すんじゃないよ!」

「はぁ、無茶言ってくれるぜ」

 そう言って獣人化した男は俺とリアの方に近づいてきた。

 

『ラ・フォリア、下がってろ』

 俺はリアにそう言ってブラスター・ブレードを構えた。すると、男の背後から強烈な光が

 放たれた。その光の正体は完全に起動した模造天使(エンジェル・フォウ)だった。

 

『Kyriiiiiiiiiiiiiii──!』

 そして、模造天使は甲高い絶叫を上げながら六枚羽根の天使に変わった。その羽根一つ

 一つには眼球のようなものがあり、そこから閃光が古城に向かって放たれた。

 

「っ、やめろ叶瀬!」

 古城はそう叫びながら閃光を避けるが、その声は彼女には届かなかった。

 

「くっそ....! 疾く在れ(きやがれ)獅子の黄金(レグルス・アウルム)双角の深緋(アルナスル・ミニウム)!」

 古城は二体の眷獣を呼び出し模造天使(エンジェル・フォウ)に突撃させたが、その攻撃は当たらずに模造天使(エンジェル・フォウ)

 身体をすり抜けた。

 

「無駄だ第四真祖。今の夏音は、すでに我らとは異なる次元の高みに至りつつある。

 君の眷獣がどれほど強力な魔力を誇ろうとも、この世界に存在しないものを

 破壊することはできまい」

 叶瀬 賢生は淡々とそう言った。そして、模造天使(エンジェル・フォウ)から六つの閃光が古城に向かって

 一斉に放たれた。

 

「叶瀬ーー!」

『っ、あのバカ....!』

 俺は咄嗟に一枚のカードを手に取り古城に向かって投げた。そして、次の瞬間、古城の周囲は

 砂煙に覆われた。

 

「先輩!」

 悲痛な声で古城を呼ぶと、姫柊は逆風の中、古城の元に向かって行った。

 

「もう終わりかよ。世界最強の吸血鬼ってのも随分と呆気な....」

 獣人の男がそう言った時、俺は獣人の男の腕を斬り落とした。

 

『呆気ないのはどっちだ。今の攻撃を躱せないとか、それでも獣人か?』

「テ、テメェ!」

 獣人は俺に襲いかかろうとしたが、突然動きを止めた。それと同時に、俺は海上が

 凍りついている事に気付いた。

 

『OAaaaaaaaaaa──!』

 そして、血の涙を流す叶瀬 夏音を中心に巨大な暴風が吹き始めた。

 

『マズイな....召喚(コール)、グレートウォール』

 俺は自分の目の前にグレートウォールを召喚した。

 

『グレートウォール、結界を張れ』

 すると、グレートウォールを中心に巨大な黒い結界が張られた。

 

「叶瀬 夏音....あなたは....」

『こいつはまた....とんでもない事になったな』

 そう言って、俺とリアは氷柱になった叶瀬 夏音を見た。

 

 

 

 



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天使炎上 Ⅶ

「そうだ! 先輩は!」

 俺とリアが氷柱を見ていると、姫柊は思い出したように古城がいた場所に走り出した。

 すると、そこから砂けむりで咳き込んだ無傷の古城が現れた。

 

「せ、先輩....」

「無事だったか姫柊!」

「よ、良かった....」

 古城が無事な様子を見ると、姫柊はその場で座り込んだ。

 

「心配、したんですからね....」ポロポロ

「うっ....悪い....」

 古城は申し訳なさそうに姫柊に謝りながら背中を撫でていた。そして、しばらくして姫柊が

 泣き止むと古城にこう聞いた。

 

「それよりも先輩。どうして無傷なんですか?」

「あぁ、実はな....」

『俺の部下がそいつを守ったからだよ』

 姫柊の質問に俺はそう答えた。すると、古城がいた所に腕に盾を付けた男がこっちに

 向かって来た。

 

『ご苦労だったな、コスモリース』

『いえ。あれぐらいの攻撃なら問題ありません』

 そう言って、コスモリースは消滅してカードに戻った。

 

『運が良かったな暁 古城。後少し遅かったらお陀仏だったぞ』

「あぁ。ありがとな」

『礼はいらん。それよりも、これからどうするかだ』

 俺は氷柱となった叶瀬 夏音を見た。

 

「どうすれば叶瀬を助けられるんだ....」

「私の雪霞狼も、先輩の眷獣もダメ....そうなると、打つ手はもう....」

「いえ、まだ打つ手はあります。そうでしょう? ジョーカー」

『あぁ。まだ彼女を救う方法はある』

 そう言うと、二人は目を見開いた。

 

「本当なのか!」

『あぁ』

「でもどうやって....」

『この剣で、彼女と俺達の空間を繋ぐ』

 俺はそう言ってブラスター・ブレードを地面に突き刺した。

 

「で、ですが! この世界に存在しないものをどうやって....」

『そんな事はこの剣の前では無意味だ。この剣はあるゆるものを断ち切る....

 例えば、次元とか、空間とかな』

 すると、姫柊はハッとした表情になった。

 

「そうか....! 叶瀬さんをこちらと同じ空間に戻す事ができれば....」

「俺達の攻撃も通るって事か!」

『その通りだ』

 俺の言葉に、二人は納得したようにそう言った。

 

「なら、俺に出来る事は何かあるか!」

 古城は詰め寄って俺にそう聞いてきた。

 

『....はっきり言うと、今のお前に出来る事はない。だが....』

「だが?」

『お前の中に眠る第四真祖の眷獣が覚醒すれば、少しは出来る事があるだろうな』

「俺の中に眠る眷獣が....」

 そう言った瞬間、姫柊は制服のボタンを外した。

 

「だ、だったら先輩。私の血を吸ってください」

「ひ、姫柊!?」

「あ、あくまで叶瀬さんを助けるためです! そこのところを勘違いしないでくださいね!」

「....わかった」

 そう言って、古城は姫柊の首筋に噛み付いた。そうしてしばらく吸血していたのだが、

 一向に眷獣が覚醒した気配はしなかった。

 

「覚醒、していないようですね....」

「あぁ....この前は覚醒したのにどうして....」

『....なぁラ・フォリア。お前の血、少し貰っても良いか?』

 俺は隣にいたリアにそう聞いた。

 

「私の血ですか?」

『あぁ』

「....何か考えがあるみたいですね。良いですよ」

『悪いな。じゃあ腕を出してくれ。召喚(コール)、綻びた世界のレディヒーラー』

 俺はそう言いながらレディヒーラーを召喚した。

 

『レディヒーラー、ラ・フォリアの血を少し採血してくれ』

『了解』

 レディヒーラーは空間から注射器やら消毒液やらを出すと、リアの腕を消毒して注射器の針を

 刺した。そして、目盛りの三分の一程度の血を採ると注射器を抜き絆創膏を貼った。

 

『はい』

『すまんな。さ、暁 古城。腕を出せ』

「あ、あぁ」

 古城が腕を出すと、俺は注射器の針を突き刺し血を流し込んだ。すると、古城の魔力が

 一気に高まった。

 

「....どうやら、成功したみたいですね」

『....みたいだな』

 リアの言葉に俺はそう答えた。

 

「何故、ラ・フォリアの血で覚醒したのでしょうか....?」

「わかんねぇ。でも、これならきっと叶瀬を助けられる....」

 古城は拳を握りしめてそう言った。

 

「では、反撃と行きましょうか。私と雪菜が吸血鬼と獣人の対処をします」

『....ラ・フォリア、お前も戦う気か?』

「えぇ。守られているだけはもうゴメンですから」

『....そうか。なら、お前に力を貸しておくか』

 リアの覚悟を決めた目を見て俺はそう言うと、リアの手に自分の手を重ねた。

 

『我に宿りし破滅の力、共に戦う盟友(メイト)にその力を授け、未来への道を切り開け! 双闘(レギオン)!』

 俺がそう叫んだ瞬間、俺の左手とリアの右手に対となる剣の模様が現れ、リアの服の色が銀色と

 赤色に変わった。

 

「これは....」

『今、ラ・フォリアに俺の力を貸した。これでラ・フォリアは、俺と同じ力を使う事が

 出来るようになった』

「黒輪の根絶者(デリーター)と同じ力を!?」

『て言っても一部だけだ。そんな全部を使えるわけじゃない』

 驚いている姫柊に俺はそう言った。

 

『だが、奴等と戦うには十分な力だ』

「そうですか。わざわざありがとうございます、ジョーカー」

『気にするな。友人のお前に死なれるのは流石にな....』

 そう言いながら俺はブラスター・ブレードを引き抜いた。

 

『さ、この戦い、終わらせに行くぞ』

 俺はそう言って結界を解除して氷の壁をバースト・バスターで貫いた。そして、外に出ると

 叶瀬 賢生がいた。

 

「っ、第四真祖!? 生きていたのか!」

「あぁ。こっちはピンピンしてるぜオッサン」

『....誰のお陰と思ってやがる』はぁ

 俺はため息をつきながらそう呟いた。

 

「そうか....だがありがたい。君ともう一度戦えば今度こそ夏音は最終段階に達し、誰かを

 傷つけずに済む」

「勝手な事を言わないでください!」

 すると、姫柊は飛び降りて叶瀬 賢生に雪霞狼を向けた。

 

「あなたは、叶瀬さんを娘として育てていたんじゃないんですか!」

「あぁ。私は夏音を、実の娘も同然に思ってきた。何故なら、夏音の母親は私の妹なのだからな」

「「『っ!』」」

 それを聞いて、リア以外の俺達は驚いた。

 

「だったら! 何で叶瀬を実験台なんかにしたんだよ!」

「娘の幸福を願わない親がいるかね?」

「幸福だと? あの姿がか!」

「夏音はまもなく人間以上の存在へと進化する。もう何者にも傷つけれれることはない。

 やがて彼女は神の御元へと召され、本物の天使となるのだ。これを幸福と言わずして

 何とする!」

『それは、彼女が望んだ事なのか』

 俺は飛び降りて、叶瀬 賢生の前に立ってそう聞いた。

 

「何だと....?」

『確かにアンタは彼女を愛していたのかもしれない。だが、それは本当に彼女自身が

 望んだのか? ....もしも、それが彼女が望んでいない事ならそれはただの、アンタの

 押し付けだ』

「っ、知ったような口を....!」

 叶瀬 賢生がそう言った瞬間、突如紫色の触手のようなものが叶瀬 賢生に向かって行った。

 俺は咄嗟に地面を蹴って叶瀬 賢生に向かって来た触手のようなものを斬り伏せた。

 

『厚化粧のババア....』

「のんびりと育児方針について話してるとこ悪いんだけどさぁ。アタシら時間外労働でさっさと

 帰りたいのよ。だからさっさと第四真祖をぶっ殺しちゃってくれないかしら。でないと....

 コイツらが売れ残っちゃうからさぁ!」

 そう言うと、手元のリモコンを起動させると上空に二つの眩しい光が現れた。見ると、

 それは模造天使(エンジェル・フォウ)だった。

 

模造天使(エンジェル・フォウ)!?」

『おい....アンタが造ったのは七体じゃなかったのか』

「そのはずだ! 私は儀式に必要な最低数しか素体を用意していない!」

『てことは、アイツらはクローンか....』

「出来は悪いけど、アンタ等を殺すには十分なんだよ!」

 ババアがそう言うと、模造天使(エンジェル・フォウ)は俺達に向かって光の槍を投げてきた。俺はそれを

 叩き斬ろうとしたが、突然背後から飛んできた黒い銃弾が光の槍を打ち消した。

 

「黒輪の根絶者(デリーター)相手には、些か戦力が乏しいのでは?」

 そう言いながら、呪式銃を構えたリアがババアにそう言った。

 

『ラ・フォリア....』

「確かに強力な力ですね。ですが、何とか使いこなす事は出来そうですか」

『そうか。なら、全て終わらせようか。行けるか暁 古城』

 俺は後ろにいる古城にそう聞いた。

 

「あぁ! コイツらをぶっ飛ばして叶瀬を助ける! ここから先は、第四真祖(オレ)戦争(ケンカ)だ!」

「いいえ先輩! 私達の聖戦(ケンカ)です!」

 

 

 

 



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天使炎上 Ⅷ

 リアside

 

召喚(コール)、小惑星帯のレディガンナー』

 古城が厚化粧の吸血鬼に叫んだ後、終夜は一体の部下を召喚した。

 

『小星ガンナー、模造天使(エンジェル・フォウ)を頼むぞ』

『YES、我が先導者(マイ・ヴァンガード)

 終夜がそう言うと、召喚された者はそう答え模造天使(エンジェル・フォウ)に銃を向けた。

 そして、終夜は古城とともに叶瀬 夏音の元に向かって行った。

 

「さて、では私達も参りましょうか雪菜」

「はい!」

 そう言うと、雪菜は厚化粧の吸血鬼に向かって行った。すると、私の目の前には

 片腕を失った獣人が立った。

 

「何で姿が変わってるか知らねぇが、さっさと捕獲させてもらうぞ!」

 そう言うと、獣人は一気に私に接近し、私に鉤爪を振り下ろしてきた。それを私は障壁を

 作って防いだ。

 

「何っ!?」

「その程度の攻撃では、この障壁は傷一つ付きませんよ」

 私はそう言いながら呪式銃から黒い弾丸を放った。弾丸は目にも見えない速さで獣人の脚を

 貫いた。

 

「グッ!?」

「....ここで時間をかけても仕方がありません。一瞬で終わらせましょう」

 私がそう言うと、呪式銃の銃剣(バヨネット)が白と黒の光に包まれた。

 

「こんな、こんな所で終わってたまるかぁぁ!!」

 獣人の男は足の傷を無視して私に向かってきた。

 

「....終わりですよ、あなたは」

 私は獣人の攻撃を避け、銃剣(バヨネット)で獣人の胸を斬り裂いた。

 

「ガハッ....!」

 獣人の男の胸は私の銃剣(バヨネット)で斬り裂いた痕ができ、そこから大量の血が流れていた。そして、

 私は獣人の男に手を向けてこう言った。

 

呪縛(ロック)

 すると、獣人の男は黒い球体に封じ込まれた。それと同じタイミングで、上空で何かが

 割れる音が聞こえた。見ると、終夜が召喚した者が模造天使(エンジェル・フォウ)の仮面を破壊していた。

 

「(これで模造天使(エンジェル・フォウ)の方も終わりましたか。後は....)」

 そう考えながら雪菜の方を見ると、私に向かって紅い槍のエネルギー波が数本向かってきた。

 私はそれを再び作った障壁で全て無効化した。

 

「獣人と同じく、あなたも甘いですよ。ベアトリス・バスラー」

 私はそう言いながら厚化粧の吸血鬼に近づいて行った。その時、私はある詠唱を唱え始めた。

 

「我が身に宿れ、神々の娘。軍勢の守り手。剣の時代。勝利をもたらし、死を運ぶ者よ」

 すると、私の呪式銃に付いている銃剣(バヨネット)が巨大な光の剣になった。その光の剣には黒い線が

 一本あった。

 

「そ、それはヴェルンド・システムの擬似聖剣!?」

 厚化粧の吸血鬼は擬似聖剣に驚いていた。

 

「馬鹿なっ、そいつは精霊炉を備えた母船が近くになきゃ....まさか、精霊を召喚したのか! 

 自分の中に!」

 吸血鬼は察したかのような表情でそう叫んだ。

 

「えぇ。今は私が精霊炉です。ベアトリス・バスラー」

 そして、私は呪式銃を天に掲げた。

 

「騎士のみならず、非戦闘員にまで手にかけたあなたの所業....ラ・フォリア・リハヴァインの

 名において断罪します。我が部下たちの無念、その身で思い知りなさい」

「んな事....私が知った事じゃないのよ!」

 吸血鬼は再び紅い槍で攻撃しようと槍を出現させたが、私の背後から飛んできた黒い銃弾が槍を

 持った手と脚を貫いた。

 

「グッ....!?」

『後は貴方の好きにしなさい、王女様』

 銃弾を撃ってきたのはどうやら終夜の部下のようだった。

 

「えぇ、感謝します」

 そして、私は吸血鬼に向かって擬似聖剣を振り下ろした。

 

「こんなガキ共に....! この、私が....!」

 吸血鬼は恨み言を呟きながら地面に倒れた。そして、私は獣人と同じく吸血鬼を呪縛(ロック)した。

 

「これでこちらは終わりですね....」

 そう呟きながら、私は終夜達の方を見た。

 

「二人とも、後は頼みましたよ」

 

 

 〜〜〜〜

 終夜side

 

 俺は今、古城とともに覚醒した叶瀬 夏音を見上げていた。

 

『....暁 古城、一回で決めろ。時間がかかれば、彼女への負担が多くなるぞ』

「あぁ、わかってる」

『....では、行くぞ!』

 俺は地面を蹴り、叶瀬 夏音に一気に接近した。叶瀬 夏音は俺に向かって光の槍を

 放ってきたが、俺はブラスター・ブレードで弾きながら叶瀬 夏音の前まで来た。

 

『はぁぁぁっ!』

 そして、俺は自分と叶瀬 夏音の間で剣を振った。すると、剣を振った場所には巨大な

 穴が開いた。

 

『今だ暁 古城!』

「あぁ! ”焔光の夜伯(カレイドブラッド)"の血脈を継ぎし者、暁 古城が、汝の枷を放つ! 疾く在れ(きやがれ)

 三番目の眷獣"龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)"!」

 古城がそう叫ぶと、俺の背後に水銀の鱗に覆われた双頭龍が現れた。

 

「行け! 龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)!」

 龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)は叶瀬 夏音から放たれる光の槍を躱しながら両翼を喰いちぎった。そして、

 俺は落下する叶瀬 夏音を受け止めようとしたが、突然放たれた凄まじい閃光に

 吹き飛ばされた。

 

『チッ....!』

 俺は空中で受け身を取りながら地面に着地して上空を見た。上空には、燃えるような赤い

 歪んだ翼を生やした叶瀬 夏音がいた。

 

「くそっ....! あれでもダメなのかよ!」

『....いや、ここで終わらせる』

 俺はそう言って一瞬で叶瀬 夏音の背後に回った。そして、俺は叶瀬 夏音の翼を根本から

 断ち切った。すると、叶瀬 夏音と翼は離れ、翼は制御する術を失い暴走を始めた。

 

『暁 古城! やれ!』

「っ! 龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)!」

 俺の言葉に反応した古城は、龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)を動かし翼を喰らった。そして、俺は叶瀬 夏音を

 キャッチして地面に着地した。

 

『....終わったな』

 俺はそう呟きながら晴れた空を見上げた。



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天使炎上 Ⅸ

 全てが終わり、俺はレディヒーラーを召喚して叶瀬 夏音の治療を頼んだ。

 

『悪いな、レディヒーラー』

『....そう思ってるならシフトを減らして欲しい。私も疲れる』

『....わ、わかった』

『....じゃあ、私は戻る』

 そう言って、レディヒーラーはカードの姿に戻って俺の元に帰ってきた。

 

「....叶瀬は、大丈夫なのか?」

『あぁ。魔術によってダメージを負った場所は治った。それに、魔術の痕も綺麗さっぱり

 消滅させた。後は眼が覚めるのを待つだけだ』

 心配そうに聞いてきた古城に俺はそう答えた。

 

「そうか....良かった」

 古城は安心したのか深く息を吐いていた。

 

「....魔術の痕までも消滅させるとは。私はとんでもない者を相手していたのだな....」

 すると、急に叶瀬 賢生がそう呟いた。その顔は、どこか安心したような表情だった。

 

『(....叶瀬 夏音の事、この男なりに本当に愛していたんだな)』

 俺はその表情を見てそう思った。そう思っていると、遠くから船の汽笛の音が聞こえてきた。

 見ると、沿岸警備隊(コースト・ガード)の船が海上に浮いていた。

 すると、突然俺達の近くに魔法陣が現れた。そこから現れたのはなっちゃんだった。

 

「....今回はまた随分な行動をしてくれたなお前達」

「だっ!?」

「いっ!?」

 そう言うと、なっちゃんは古城と姫柊の頭を扇で叩いた。二人は叩かれた所を押さえながら

 その場で座り込んだ。

 

「それと、お前はご苦労だったなジョーカー。今回の件に関わっていたメイガスクラフトの

 連中は捕獲しておいたぞ」

『そうか。すまないな。こちらも首謀者は呪縛(ロック)しておいた』

「そうか。なら呪縛(ロック)を解除してお前はさっさと帰るが良い」

 そう言って、なっちゃんは扇を振った。

 

『あぁ。そうせてもらう。解呪(アンロック)

 俺はリアが呪縛(ロック)した二人を解呪(アンロック)した。すると、なっちゃんはその二人を

 戒めの鎖(レージング)で縛った。

 

召喚(コール)、黒門を開く者』

 そして、俺は黒門を開く者を召喚すると、黒門を開く者は絃神島に繋がるゲートを造った。

 

『では、後は頼んだぞ空隙の魔女。....それと、ラ・フォリア。またアルディギアには遊びに

 行く』

 俺はそう言ってゲートの方に入ろうとしたが....

 

「ジョーカー、少し待ってください」

 俺はリアに呼び止められた。

 

『....何だ?』

 俺はリアの方を見ると、リアは俺に近づいてきた。

 

「今回は本当にありがとうございました。お陰で夏音も無事に救出する事が出来ました」

『....お前と俺の仲だろう。気にするな』

「....ふふっ、そうですか」

 すると、リアは急に俺の頭の後ろに手を回してきた。

 

「でしたら、これは私からのお礼です」

 そう言ったリアは、自身の唇を俺の唇に押し当ててきた。

 

『ん"!?」

『「「なっ....!?」」』

「ほぉ....」

 突然の事に俺は頭が回らず、俺はリアにされるがままだった。そして、姫柊と

 黒門を開く者と古城は驚いて声を上げ、なっちゃんは悪い笑みを浮かべながら写真を

 撮っていた。

 

『お、お前何やって....!』

「さっきも言いましたよね? これは私からのお礼です。あ、もしかしてジョーカーも

 ハジメテで....」

『〜〜〜〜っ! か、帰るぞ黒門!』///

『は、はい!』

 リアは悪戯っぽい笑みを浮かべながらそう言った。このままここにいると、俺はますます

 マズイ事に巻き込まれそうな予感を感じたので逃げるようにゲートの中に入った。

 

 

 

 

 

 



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根絶者のとある一日編
根絶者と王女 Ⅰ


少しオリジナル回を挟みます


「はぁぁぁ....終わった....」

 リアを救出してから三日程経った。俺は家でなっちゃんに大量に渡された課題を

 処理していた。そして、ようやくその課題が終わり床に寝転がった。

 

「(四日サボったツケには多過ぎる....)」

 そんな事を考えていると、急に腹が鳴った。

 

「....何かあったか?」

 俺は起き上がって冷蔵庫や引き出しを見るが、食べれそうな物は何一つ無かった。

 

「こ、こんな時に....はぁ、外に何か食いに行くか」

 俺はそう思い服を着替えて財布と携帯を持って出ようとした時、急にチャイムが鳴った。

 

「(....誰だ? 古城....それか凪沙ちゃんか?)はい....」

 俺はそう考えながら扉を開くと、そこにはありえない人物がいた。

 

「こんにちは終夜」

 扉の前にいたのは何故か私服姿のリアだった。俺はリアの顔を見た瞬間、扉を閉めた。

 

「(....疲れてるから幻覚でも見たか)」

『(いや、それは無理があるぞ我が先導者(マイ・ヴァンガード)....)』

 頭の中でそう考えているとジョーカーがそう言ってきた。そう考えている間に、リアは何度も

 何度もチャイムを押してきた。これ以上は近所迷惑になると思った俺は諦めて扉を開いた。

 

「....リア、それ以上は近所迷惑だからやめろ」

「でしたら急に扉を閉めないでください。せっかく時間を作って遊びに来たんですよ」

「遊びにってお前....護衛は」

「上手く撒いてここまで来たんです。まぁ取り敢えず、お邪魔しますね」

 リアは俺の許可なく勝手に俺の家に入ってきた。

 

「ここが終夜の家ですか....なかなか良い所ですね」

「そりゃどうも....てか、お前どうやって俺の家の場所を。それに入り口はカードキーが....」

「家の場所は南宮 那月に教えてもらいました。その時に一緒にこれも渡されたので」

 そう言ってリアが見せてきたのは俺がなっちゃんに渡したカードキーだった。

 

「あのロリ教師....」

「まぁまぁ。それよりも、終夜は何処かに行こうとしていたのですか?」

 リアは今の俺の姿を見てそう聞いてきた。

 

「....昼飯食いに行こうとしてたんだよ」

「そうなんですね。何を食べに?」

「....強いて言うならラーメンだな」

「ラーメン! 確か、中華麺とスープに様々な具材を乗せた麺料理ですね!」

 リアはどこかテンションが高そうにそう言った。

 

「あぁ....お前まさか、ついて来る気か?」

 俺は嫌な予感を感じてそう聞いた。

 

「えぇ。さっきも言いましたけど、今日は終夜と遊ぶためにここまで来たんですから。

 あ、別に断ってくれても構いませんが、その時は....」

 リアはそう言いながらある写真を見せてきた。その写真は俺が女体化して浴衣を着た写真と、

 俺がジョーカーの姿でリアとキスをした写真だった。

 

「この二枚の写真をばら撒かせていただきますね」

「....お前、それほぼ脅迫じゃねぇか」はぁ

 俺はそう言って諦めたようにため息をつきながら、部屋から帽子とメガネを

 持ってきてリアに渡した。

 

「....ついて来るのは良いが、せめて変装だけはしてくれ。街中でバレたら面倒な事に

 なるのが目に見える」

「分かりました」

 リアは素直にそう言うと帽子をかぶりメガネをかけた。

 

「では、早速行きましょうか!」

 

 

 〜〜〜〜

 

「ここがラーメン屋、ですか....!」

 電車に乗って数十分、俺とリアは俺がよく行くラーメン屋の前にいた。

 

「あぁ、たまに古城とかと行くんだよ。とりあえず店の中に入るぞ」

 俺はそう言って店の中に入った。

 

「いらっしゃい....って、アンタか伊吹」

「どうもミサキさん」

 店に入って話しかけてきたのは店員のミサキさんだった。

 

「....その隣にいる子、見た事ないけどアンタの友達?」

「えぇ。アルディギアにいた時の友人で」

「アルディギアね....ま、とりあえず好きな席に座って」

 そう言われ、俺とリアは窓側の席に座った。そして、ミサキさんはメニュー表と

 お冷を持ってきた。

 

「今、期間限定でトマト味噌ラーメンってのやってるから。....って言っても、アンタは

 いつものか」

「別に良いじゃないっすか」

「別に悪いとは言ってないよ」

 そう言うとミサキさんは厨房の方に戻っていった。俺がミサキさんとそう話している間に

 リアはメニュー表を見ていた。

 

「何か良いのあったか?」

「そうですね....どれもこれも気になりますが、一番気になるのはコレですね」

 リアが指を差したのは期間限定のトマト味噌ラーメンだった。

 

「そうか。じゃあ注文するぞ」

 俺はそう言うとボタンを押した。すると、厨房からミサキさんが出てきた。

 

「ミサキさん、トマト味噌一つと黙示録の炎一つ」

「はいよ。シンさん、トマト味噌と黙示録の炎一つだって」

 ミサキさんは厨房の奥に戻るとそう言っていた。

 

「....はぁ。てか、昼飯がラーメンで良かったのか? この島だったら他にも結構

 飯屋はあるぞ」

「えぇ。お城でまずラーメンなんて出る事はありませんから。お城で出る麺類なんて

 パスタぐらいですし....」

「....そうか。じゃあ今度は蕎麦でも食いに行くか?」

「あら、また一緒に行ってくれるんですか?」

「飯屋ぐらいなら暇な時だったらいつでも付き合ってやるよ。....ただし、前もって

 連絡ぐらいしろよ。急用でたまに出かけてる時があるからな」

「ふふっ、そうですか。では、また次の機会を楽しみにしていますね」

 リアは嬉しそうに笑みを浮かべながらそう言った。そうして、少し話しをしていると

 ミサキさんがラーメンを運んできた。

 

「はい、トマト味噌と黙示録。ごゆっくり」

 リアの前には赤いスープに野菜がたっぷりと乗ったラーメンが、俺の前には石釜にリアとは

 比べものにもならない程赤いスープに赤い粉が乗ったラーメンが置かれた。

 

「....赤過ぎじゃないですか?」

「....まぁ超激辛ラーメンだからな。んじゃま、いただきますっと」

「私も、いただきます」

 そう言って、俺達はラーメンを食べ始めた。すると、半分ぐらい食べ終わった時、リアが

 俺のラーメンをジッと見ていた。

 

「....リア、まさかと思うが食べてみたいとか思ってるのか?」

「....えぇ。それだけスパイシーの香りがすると流石に気になります」

「....そうか。食べるのは良いが、スープは出来るだけ落として食えよ」

 俺はラーメンが入った石釜をリアの前に置いた。そしてリアは麺を少し取って食べたが、

 口に含んだ瞬間咳き込んだ。

 

「....やっぱそうなると思った」

「ケホッ、ケホッ! か、辛すぎます....!」

 リアは慌てたように水を飲んだ。

 

「そりゃハバネロやら何やらかんやら入ってるからな。よっぽど辛いのが好きじゃないと

 食えねぇぞ」

 俺はそう言いながら石釜を自分の前に戻してラーメンを食った。

 

「終夜....あなたの舌、絶対にオカシイですよ....」

 リアはありえないものを見るような目で俺を見てそう言ってきた。

 

「ひでぇ言われようだなおい....」

 俺はリアの言葉を流しながらラーメンをすすった。

 

 

 

 

 



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根絶者と王女 Ⅱ

「まいどあり。また来な」

 俺とリアは会計をして店を出た。

 

「....お前、体調大丈夫か?」

「....まだ舌がヒリヒリします」

「だよな....じゃあ甘いものでも食べに行くか」

「甘いもの、ですか?」

「あぁ。ついでに遊びに行くか」

 そう言って、俺は駅に向かって歩き出した。

 

 

 〜〜〜〜

 ショッピングモール

 

 電車に揺られること二十分、俺とリアは俺がよく行くショッピングモールに着いた。

 

「さて、到着っと」

「終夜、何故ショッピングモールに来たんですか?」

 リアは不思議そうな表情でそう聞いてきた。

 

「さっきも言っただろ? 甘いものを食うのと遊ぶためだ。とりあえず先に甘いものを

 食いに行くぞ」

 そう言って俺はたまに浅葱や凪沙ちゃんと行くクレープ屋に向かった。

 

「すごく色んな種類があるんですね....」

 店に着き、リアはメニューを見ながらそう呟いた。

 

「まぁな。好きなの選べよ」

 そう言ってしばらくすると、リアはメニュー表の一つを指差した。

 

「じゃあアレにします」

「わかった。すいません、生チョコ一つと季節のフルーツ一つ」

 俺が店員に注文して少しすると、店員がクレープを渡してきた。

 

「リア」

「ありがとうございます終夜」

 俺はリアにクレープを渡すと、自分の分のクレープを食べ始めた。そして、半分ぐらい

 食べ終わったところでリアがこう聞いてきた。

 

「終夜、終夜のクレープ一口頂けますか?」

「良いぞ。ほら」

 そう言ってクレープを差し出すと、リアは俺のクレープを一口食べた。

 

「....なかなか美味しい物ですね」

「そうか。美味いんだったら良かった」

 そう話しながらクレープを食べていると、突然リアは俺の背後に隠れた。

 

「どうした?」

「....入り口の所を見てください」

「入り口?」

 リアに言われた通り、俺は入り口の方を見た。すると、入り口の方には黒いスーツに

 サングラスをした男達がいた。

 

「おい、まさかと思うがあの黒いスーツの男達って....」

「えぇ。私の護衛をしていた者達です」

 それを聞いた瞬間、俺は頭を押さえた。

 

「お前....撒いてきたんじゃなかったのかよ」

「そのはずなんですが....どこかで足取りを掴まれたのかもしれません」

「はぁぁ....とりあえず、男共が入り口から離れたらここを出るぞ」

 俺はそう言ったのだが....

 

「いえ、このままここで遊びましょう」

「....お前、マジで言ってるのか?」

 リアは俺の予想と反した返事をしてきた。

 

「えぇ。その方がスリルがあって面白いじゃないですか」

 リアは笑みを浮かべながらそう言ってきた。

 

「....はぁ。バレたら言い訳はしてくれよ。こんな所で殺されるのはゴメンだぞ....」

「あなただったら返り討ちにするでしょう?」

 そんな事を話しながら、俺とリアはある所に向かった。その時、リアは俺の腕に

 抱きついてきた。

 

「....おい」

「これぐらい許してください。こうしていれば、ただのラブラブのカップルに見えるでしょう?」

「....お前とカップルになった記憶はないんだが」

「あら、随分と冷たい対応ですね。キスもしたという仲なのに」

「アレはお前が勝手にやってきた事だろうが....」

 俺はそう言いながらも、抵抗する事なくこの場から離れた。

 

 

 〜〜〜〜

 

「ふぅ....こんなに楽しいなんて、日本のショッピングモールは侮れませんね」

「そうか。楽しかったのなら何よりだ」

 あの後、俺とリアはゲーセンで遊んだり、服屋で服を見たり、アクセサリーショップで

 アクセサリーを見たりした。ただ、ランジェリーショップに入ろうとした時は全力で

 拒否したが....

 

「それにしても、店員の人達は私達のことカップルと思ってたみたいですね」

「....そうだな」

「むぅ....気の無い返事ですね」

 リアは俺の返事に納得がいかないという表情をしていた。

 

「終夜は私の事が嫌いなんですか?」

「何でそうなる....嫌いだったらわざわざこうして遊んでねぇっての....」

「じゃあどうしてそんなに反応が薄いんです」

「....俺は普通の人間と違って、愛や好意ってものがわかんねぇんだよ」

「....どういう事ですか?」

 リアは不思議そうな表情になり俺にそう聞いてきた。

 

「....いつか話す時が来れば、その時に話してやるよ」

 そう言って話している間に、俺とリアはリアが宿泊しているホテルの近くに着いた。

 

「悪いがここまでで良いか? 警備の人数がとんでもない事になってるからな....」

 俺の視線の先にはアルディギアの防具を纏った人間が数人見えた。

 

「えぇ。今日は楽しかったですよ終夜。王族である事を忘れたのはあの時以来です」

「そうか。俺もお前と久しぶりにこうして遊べて面白かった」

 俺はそう言いながら一枚の紙をリアに渡した。

 

「これ、お前にやる」

「コレは?」

「俺の携帯の番号だ。遊びに来る時や何かあった時はかけてこい。よっぽどの事が無い限り

 すぐに駆けつけてやる」

「....ふふっ。なら、頼りにしていますよ」

 そう言うと、リアは紙をポケットに直した。そして、俺はリアに買った物の袋を渡した。

 

「....んじゃ、俺も帰るか。じゃあなリア」

 そう言って歩き出そうとした時....

 

「終夜」

 俺はリアに呼び止められた。

 

「....何だ」

「私は終夜の事が好きです。そして、私はあなたとお付き合いをしたいと思っています。

 その事を、どうか覚えていてください」

「....あぁ、わかった」

 俺はそう言って歩き始めた。

 

 

 〜〜〜〜

 その日の夜

 

「....なぁジョーカー」

『何だ、我が先導者(マイ・ヴァンガード)

「人を愛するって何なんだ」

 俺は家でベッドの上で寝転びながら頭の中でジョーカーに聞いた。

 

『....難しい質問だな。愛するといっても、人によってそのカタチは異なる場合がある』

「カタチ....」

『知りたいのならば、周りの友人に聞いてみたらどうだろうか? 

 電子の女帝や空隙の魔女は良い答えをくれるだろう。というか、

 あの時にアルディギアの王女にも聞けば良かったのでは?』

「....言われてみればそうだな」

 そう言われて俺は携帯を取り出すと、突然、携帯の着信音が鳴った。

 電話をかけてきたのは紗矢華だった。

 

「....もしもし」

『しゅ、終夜? 今良いかしら?』

「あぁ。どうした」

『私、アルディギアの要人の護衛をするって言ったの覚えてる?』

「あぁ....そんな事を言ってたな。それがどうかしたのか?」

『じ、実はね....明日一日休暇になったの。だ、だから、その....あ、明日一日! 

 私に付き合いなさい!』

「明日か....」

 俺は壁に掛けてあるカレンダーを見た。カレンダーには何も書かれておらず白紙だった。

 

「良いぞ。明日は俺も暇だ」

『ホ、ホント!』

「あぁ」

『じゃ、じゃあ明日の10時! 〇〇ホテルの前に来て』

「〇〇ホテル....わかった。じゃあ明日の10時にな」

『え、えぇ! 遅れてくるんじゃないわよ!』

 紗矢華がそう言うと電話は切れた。

 

「(....明日、紗矢華にも少し聞いてみるか)」

 俺はそう考えながらベッドから起き上がり、クローゼットから明日着ていく服を選び始めた。

 

 〜〜〜〜

 紗矢華side

 

「や、やった....!」

 私は電話を切ると携帯を握りしめた。

 

「(まさかこんなに上手く行くなんて....!)」

 私はこんなに上手く話が進むとは思っていなかった。にも関わらず、終夜は一切断らずに

 私の誘いに乗ってくれた。

 

「(ど、どうしよう! 明日着ていく服とか行きたい場所とか決めないと....!)」

 そう思い、私はスーツケースの中から服を取り出して部屋にある姿見の前に立った。

 

 

 

 

 

 

 



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根絶者と舞威媛 Ⅰ

 次の日、俺は紗矢華と待ち合わせをしているホテルの前に来ていた。

 

「終夜!」

 そして、十分ほど待っていると後ろから紗矢華の声が聞こえてきた。

 振り向くと、白色のトップスに水色のスカートを履いた紗矢華がこっちに走ってきた。

 

「ごめんなさい! 着替えに時間がかかって....」

「俺も今来たところだから気にすんな」

「そ、そう? なら良かった....」

 紗矢華は安心したように息を整えていた。そして、息が整うと俺は紗矢華に聞いた。

 

「....それで、今日は何処に行くんだ?」

「えっと、服を見に行きたいのよ。後は何か美味しい物を食べたいわ」

「服と美味い飯か....行きたい服屋とか決まってるか?」

「えぇ、一応ね」

「そうか。じゃあ飯屋は後で決めて先に服を見に行くか」

「そうね」

 そう言って、紗矢華は歩き出そうとした。その時、俺は紗矢華を見て思った事を口にした。

 

「そういえばその服、紗矢華によく似合ってるな」

「ふえっ!?」///

「....? どうした?」

「な、何でもないわよ! ....きゅ、急に何言うのよ」///

 紗矢華はそう叫ぶと早歩きで歩いて行った。

 

「(何故怒られた....)」

 俺はそう考えながらも紗矢華を走って追いかけた。

 

 

 〜〜〜〜

 ショッピングモール

 

「(....まさか二日連続でココに来るとは)」

 俺は、昨日リアと来たショッピングモールの中にある服屋に来ていた。

 そして、俺の視線の先には秋物の服を選んでいる紗矢華がいた。

 

「ねぇ、コレとコレだったらどっちが良いと思う?」

「そうだな....薄紫色の方が似合うんじゃないか」

「そう。じゃあこれは後で試着っと」

 そう言って、紗矢華はカゴの中に服を入れていった。カゴの中には既に

 数着の服やスカートが入っていた。

 

「じゃあ一回試着してくるから。そこで待ってて」

「わかった」

 紗矢華はそう言うと、カゴを持って試着室の中に入っていった。

 そして紗矢華が着替えている間、俺は外で待っていると店員に話しかけられた。

 

「彼女さんですか? 綺麗な人ですね」

「あぁいえ....アイツは彼女じゃなくて友人です」

「あ、そうだったんですね。すごくお似合いのカップルに見えたのでつい....」

「(何か似たような事を昨日も言われたような....)」

 

 〜〜〜〜

 昨日

 

『じゃあコレとコレ、試着してきますね』

『あぁ。俺はここで待ってるぞ』

 そう言うと、リアは試着室の中に入っていった。すると、店員が近づいてきて

 こう聞かれた。

 

『綺麗な方ですね。彼女さんですか?」

『あぁいや....アイツは友達です。この島に用事で来たついでに買い物をしたいって

 言われて....』

『そ、そうだったんですね。それは大変失礼いたしました』

 

 〜〜〜〜

 

「(....似たような事じゃなくて同じ事じゃねぇか)」

 そう考えていたら、紗矢華が入っていた試着室のカーテンが開いた。そこには、さっきまで

 選んでいた服とスカートをコーディネートした紗矢華が立っていた。

 

「ね、ねぇ....どう、かな」///

「....いや、良く似合ってると思うぞ。すごく綺麗だ」

「ほ、本当....?」///

「あぁ。嘘じゃねぇよ」

「そ、そっか....じゃ、じゃあ次のやつ着るから少し待ってて!」///

 そう言って、紗矢華は試着室の中に戻っていった。

 

「....あの、お客様。本当に彼女さんではないのですか?」

「....? そうですけど」

「....これはあの女性も苦労されますね

 すると、店員の人は紗矢華のいる試着室の方に合掌していた。

 

「?」

 俺は合掌している理由が分からず首を傾げていた。

 

 〜〜〜〜

 

「....な、なんか悪いわね。荷物持ちさせて」

「別に。荷物持ちは慣れてる」

「(にしても結構買ってるな....)」

 俺は両手に持っている袋を見てそう思った。

 

「そういえば、紗矢華って食べれないものってあるか?」

「食べれないものは特に無いけど?」

「そうか....じゃああそこに行くか」

「あそこ?」

「あぁ。結構美味いレストランみたいな所だ」

 

 

 〜〜〜〜

 PSY

 

「....ここ?」

「あぁ」

 俺と紗矢華はショッピングモールを出てすぐ近くの裏路地に入った。

 そして、PSYと書かれた看板が置かれた店の前にいた。

 

「....何か、ここの時点ですっごい不穏なんだけど」

「まぁ場所と外観を見たらそうなるわな....でも安心しろ。味は保証する」

「....そ。じゃあ期待してるわよ」

 そう話しながら、俺は店の扉を開いた。

 

「....えっ?」

 すると、紗矢華は中を見た瞬間、驚いたような声を上げた。店の中は

 外観からは想像出来ないほど綺麗で広いからだろう。すると、赤い髪の

 店員が近づいてきた。

 

「いらっしゃいませ〜、って、伊吹じゃん!」

「ようレッカ。久しぶりだな」

「アンタが来るなんて珍しいわね。てか、隣にいる人はアンタの彼女?」

「か、彼女....!?」///

 レッカの言葉に、紗矢華は顔を赤らめていた。

 

「違ぇよ。コイツは友人だ」

「....ふーん。ま、いいや。とりあえず席にどうぞ」

 レッカはそう言って席に案内してくれた。

 

「注文決まったらそこのボタン押して呼んで」

 レッカはそう言い残して厨房に戻っていった。

 

「紗矢華、俺が奢るから好きな物選んでくれて良いぞ」

「....」

 俺は紗矢華にそう言うが、紗矢華からは何故か返事が返ってこなかった。

 

「紗矢華?」フリフリ

「っ! な、何!?」

 俺が目の前で手を振ると、紗矢華は驚いていた。

 

「いや、俺が奢るから好きな物選んでくれよ」

「わ、わかったわ」

 紗矢華はそう言うとメニュー表を見てどれにするか考えていた。そして五分後....

 

「決めた。この海鮮パスタにするわ」

「そうか。んじゃ店員呼ぶか」

 そう言って俺はボタンを押した。

 

「あ、決まった?」

「あぁ。海鮮パスタとアラビアータで」

「はいはーい。じゃ、ちょっと待ってて。コーちゃーん、海鮮とアラビアータだってー」

 レッカは厨房にそう言いながら歩いていった。

 

「....何か、外観からは想像できないような内装ね」

 紗矢華は内装を見渡しながらそう言った。

 

「最初に来た時は俺もそう思った。まぁあの外観のおかげで人が少ないから俺はこの店を

 気に入ってるんだけどな」

「そう。でも、よくこんな店を見つけたわね」

「見つけたっていうか、教えてもらったってのが正しいけどな」

 そう話していると、紗矢華は身体を伸ばした。その時、関節がポキポキと鳴った。

 

「随分と疲れてるんだな」

「....ちょっと昨日問題が起きて一日中走り回ってたのよ」

「問題?」

「えぇ。私が護衛することになっていた要人が消えて大騒ぎだったのよ。

 まぁその要人は夕方になって戻ってきたんだけどね」

「(....なんかすまん)」

 俺は紗矢華が誰を探していたのかを察し、心の中で謝った。そうしていると、

 レッカが料理を運んできた。

 

「はーい、海鮮パスタとアラビアータ。ごゆっくりー」

「お、来たか」

「....へぇ、なかなかオシャレね」

 紗矢華は目の前に置かれた海鮮パスタを見てそう呟いた。

 

「んじゃ、いただきますっと」

「私も、いただきます」

 そう言って、紗矢華はパスタを一口食べると驚いた表情をした。

 

「っ!」

「どうだ? 美味いか?」

「え、えぇ。ちょっと頭の中が混乱するぐらい美味しいわ」

「そうか。なら、ここにした甲斐があったってもんだ」

 俺がそう話している間にも、紗矢華は笑顔を浮かべながらパスタを食べていた。

 

「(前に可愛くないとか自分で言ってたが、可愛い所結構あるじゃしねぇか)」

「....? どうしたのよ、私の顔見て」

「いや、何でもねぇよ」

 そう言いながら俺は料理を食べ終わると、紗矢華にこう聞いた。

 

「なぁ紗矢華。一つ聞きたい事があるんだが」

「何?」

「紗矢華の思う人を愛するってなんだ?」

 俺がそう聞いた瞬間、紗矢華はむせた。

 

「だ、大丈夫か?」

「ア、アンタねぇ! 急に何を聞いてくるのよ!」

「何故キレられる....ただ質問しただけだろ....」

「その質問の内容が突拍子ないからよ!」

「す、すまん....」

 俺は紗矢華の圧に押されて謝罪した。

 

「....で、何で急にそんな事を聞いてきたのよ」

 謝罪してしばらくすると、紗矢華は呆れたような口調でそう言った。

 

「いや、まぁちょっと色々あってな....」

「色々ねぇ....まぁあまり深くは聞かないけど....愛する、か....」

 紗矢華は少し考え込むと、こう言ってきた。

 

「....そうね。私はその人と一緒にいたいって思う事が愛するって事だと思うわ。

 その人と同じ景色を見たい、同じ時間を過ごしたい....」

「一緒にいる、か....」

「で、でもこれは私が思っている事よ! 愛のカタチはきっと人それぞれだろうし....」

「....いや、貴重な意見をありがとな。お陰で、少し分かった気がした」

「そ、そう? なら良いんだけど....」

 俺が紗矢華に礼を言うと、紗矢華は少しだけ困惑したような表情をしていた。

 

 

 



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根絶者と舞威媛 Ⅱ

「....さて、飯も食い終わったし次は何処に行く?」

 飯が食い終わり、俺は紗矢華にそう聞いた。

 

「そうね....」

「なぁに? 行くとこ決まってないの〜?」

 すると、皿を片付けに来たレッカがそう言った。

 

「決まってないならここに行ってきたら?」

 レッカはそう言うと、ポケットの中から二枚のチケットを取り出した。

 

「それは?」

「今、ショッピングモールでやってる猫祭りのチケット。何か世界中の猫と遊べるんだってさ」

「へぇ....」

「それの期限今日まででね。行きたかったんだけど店があるから。何にも予定が

 決まってないなら私達の代わりに行ってくれる?」

 そう言って、レッカは机の上にチケットを置いた。

 

「....だそうだ。紗矢華、どうする?」

「そうね....少し興味が湧いたし行ってみましょ」

 紗矢華がそう言ったので、俺はありがたくレッカからチケットを貰った。

 

「ありがとなレッカ」

「良いってことよ! 今度写真見せなさいよ」

「あぁ」

 そう言って俺は立ち上がり、伝票をレッカに渡した。

 

「はい、1650円ね」

「おう」

 俺は財布から千円札を二枚取り出してレッカに渡そうとしたが....

 

「ちょ、ちょっと! 自分の分ぐらい出すわよ!」

 紗矢華は慌てたように自分の財布から千円札を出そうとした。

 

「良いって。飯代ぐらい俺に奢らせろって」

「で、でも....」

「良いから気にすんな。レッカ」

「はい、350円のお釣り」

 俺はレッカに二千円を渡して釣りを貰った。

 

「い、良いの?」

「あぁ」

「あ、ありがとう....」

「おう。さ、ショッピングモールに戻るぞ」

 俺は紗矢華にそう言って店を出た。

 

「また来てねー!」

 俺達が店を出ると、後ろからレッカの声が聞こえてきた。

 

 

 〜〜〜〜

 ショッピングモール

 

「可愛い....!」

 ショッピングモールに戻ってきた俺と紗矢華はチケットに書かれていた場所に来ていた。

 そして、イベントスペースの中に入ると数え切れないほどの猫がいた。

 

「すげぇ数だな....」

 そう思っていると、数匹の猫が俺達に寄ってきた。

 

「おぉおぉ、よしよし」

 俺はその場で座り込み、一匹の猫を抱き上げた。すると、俺の膝や肩の上に

 他の猫達が乗ってきた。

 

「(お、重い....てか、紗矢華の声が聞こえないような....)」

 俺は気になって紗矢華の方を見ると、紗矢華は寄ってきた猫を膝に乗せ、猫にエサを

 あげていた。

 

「美味しいかにゃ〜?」

「「「にゃー」」」

「(美味しいかにゃ〜って....メロメロだな....)」

 俺は猫にメロメロになってる紗矢華の様子を携帯で撮った。紗矢華はカメラのシャッター音に

 気づかず、ずっと猫を撫でていた。

 

「(まぁ、癒されてるなら良いか....)」

 そう思いながら、俺は笑顔で猫を撫でている紗矢華を見ながら、自分の上に乗っている

 猫の相手をした。

 

 〜数時間後〜

 

「....猫、どうにかして飼えないかしら」

「....流石に無理だろ。お前の場合、海外に行く事が多いんだろ?」

「そうなのよね....はぁ....」

 散々猫と遊び、癒されていた紗矢華は帰り道を歩きながらそう呟いた。

 

「終夜の住んでる家ってペット禁止なの?」

「あぁ。俺の住んでるマンションはペット禁止だ。....てか、何気に俺に猫を飼わせようと

 してないか?」

「そ、そんな事ないわよ!」

 俺が聞き返すと、紗矢華は目を逸らしてそう言った。

 

「(目が泳いでるんだが....)」

「....帰ったら猫カフェ的なものがないか探しといてやるよ」

「っ! ホント!」

「あぁ。今度、紗矢華の休みが取れた時に一緒に行こうぜ」

「ま、また付き合ってくれるの?」

「あぁ」

「じゃ、じゃあ楽しみにしてるわよ!」

「おう。....っと、言ってる間に着いたな」

 話しているうちに、俺達は紗矢華の宿泊しているホテルに着いた。

 

「そうね....終夜、今日はありがとね。その....すごく楽しかったわ」

「そうか。俺も楽しかったぞ」

「そう。....それじゃあ、またね終夜。今度、楽しみにしてるわね」

「あぁ。紗矢華も舞威媛の仕事頑張れよ」

 そう言って、俺は紗矢華と別れて家の方に向かって歩き出した。そして、家に帰って

 10時頃になった時、俺はある事を思い出した。

 

「(あの写真、紗矢華に送っておくか)」

 あの写真とは、紗矢華が猫にエサをあげていた写真だ。

 

「(後で怒られそうだな)」

 そんな事を考えながらも、俺は迷う事なく紗矢華にメッセージ付きの写真を送った。

 

 

 〜〜〜〜

 紗矢華side

 

「今日は楽しかったわね....」

 私は猫フェスの時にこっそり撮った、猫と戯れている終夜の写真を眺めながらそう呟いた。

 

「(欲しかった服も買えたし、美味しい料理を食べれたし、可愛い猫達に癒されたし....

 今度、あの店員の人にお礼を言いに行かないと....)」

 そう思いながら、私は今日買った服を見た。

 

「今度着ていったら、気づいてくれるかな....」

 そう呟いていると、携帯のメールが来た音が聞こえた。見ると、メールは終夜からだった。

 

「しゅ、終夜....!」

 私は驚きながらもメールを開いた。そのメールには、一枚の写真が送られてきていた。

 

『「美味しいかにゃ〜」って聞いてる紗矢華、可愛かったぞ』

「なっ....!?」///

 私はそのメールを見た瞬間、顔が熱くなっていくのがわかった。

 

「(か、可愛いって....! って、そうじゃなくて!)」///

 メール越しだが、可愛いと言われた事は嬉しかったのだが、いつ撮られていたのかわからない

 写真に私は混乱していた。

 

「(は、早く消させないと! は、恥ずかしいじゃ済まないわ!)」

 そう思い、私は急いで終夜に電話をした。

 

『....はい』

「終夜! 今すぐその写真消して!」

『えぇ....』

「えぇじゃなくて! は、恥ずかしいったらありゃしないわ!」

『せっかく可愛い瞬間を撮れたんだが....もったいねぇ』

「か、可愛い....!」///

 終夜の電話越しの可愛いに、私の頭の中はパニックを起こした。

 

『ま、気が向いたら消しておく』

「い、今すぐ消して! じゃ、じゃないと、煌華麟でアンタの携帯を真っ二つにするわよ!」

『怖っ....まぁ良いか。電話を切ったら消しとく』

「ぜ、絶対だからね! 間違ってでも誰かに送らないでよ!」

『分かったって。んじゃ、おやすみ』

 終夜はそう言うと電話は切れた。

 

「(な、何だかこの一瞬で凄く疲れたわ....そ、それよりも、可愛いって....!)」///

 私は終夜に可愛いって言われた事が嬉しく、ニヤけた顔が抑えきれなかった。

 

 

 

 

 

 



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根絶者と嫉妬と第四真祖の妹

「こうしてみんなで登校するの、何だか久しぶりだね」

 紗矢華と遊んだ次の日、登校中に凪沙ちゃんがそう言った。

 

「そう言われるとそうだな....」

「シュウ君がしばらく居なかったし、古城君が朝なかなか起きなかったもんね」

「....言われてるぞ」

 俺は後ろを歩いている古城にそう言った。

 

「分かってるっての....てか、四日もサボって何してたんだ?」

「私も気になりますね。伊吹先輩、暁先輩と違って授業もちゃんと受けてるって

 聞きますし」

「....ちょっと俺の魔術の事で海外に行ってたんだよ」

 俺がそう言った瞬間、姫柊は焦ったような表情になった。

 

「魔術って....」

「い、伊吹先輩! 凪沙ちゃんの前でそういう話は....!」

「あぁ、大丈夫だよ雪菜ちゃん。シュウ君が魔術師って知ってるから」

「そ、そうなんですか!?」

 凪沙ちゃんの言葉に姫柊は驚いていた。

 

「うん。色々偶然が重なってね。ねっ、シュウ君」

「そうだな」

「....それで、魔術の事って何だったんだ?」

 俺が凪沙ちゃんの言葉に返事すると、古城がそう聞いてきた。

 

「あぁ....俺の使う魔術って色々とわからない事が多いんだよ。だから、偶に俺は自分の

 魔術に似た物を見に行ったり探したりしてるんだよ」

「そうなんですか。それで、結果はどうだったんですか?」

「大外れ。全く関係なかったし、変な魔導犯罪者と戦闘になった」

「そ、それはまた....」

「何か....ご愁傷様だな」

「全くだ」はぁ

 俺の嘘に二人は完璧に騙されていた。そう話している間に、俺達は学校に着いた。

 

「じゃあ二人とも、また昼休みにな」

「はい」

「また後でね!」

 そう言って、俺と古城は姫柊と凪沙ちゃんと別れた。

 

「さて、俺らも行くか」

「あぁ」

 そして、俺と古城は高等部の校舎に向かって歩き出した。

 

 〜〜〜〜

 

「あ! 伊吹君!」

「「終夜!」」

 もう少しで教室に着くってなった時、突然前から築島と浅葱と矢瀬が走ってきた。

 

「どうした? 三人揃って。何かあったか?」

「あぁ! 学年の男子どもがヤベェ事になってんだよ!」

「....はぁ?」

「と、とにかくアンタはどっかに隠れてなさい! じゃないと確実に面倒な....」

 浅葱がそう言っていたその時....

 

「来たな伊吹 終夜!!」

 浅葱達の背後には学年の男子どもがいた。男どもは何故かはわからないが、俺のことを

 憎んだような目で見ていた。

 

「あぁ....面倒な事に」

「んだよ、朝から学年の男どもが勢揃いで。何か用か?」

「あぁ! 伊吹 終夜! 貴様は我々の逆鱗に触れたのだ!」

「....俺、何かやったか?」

 俺は隣いた古城に聞いた。

 

「さ、さぁ....」

 古城は特に心当たりがなさそうにそう言った。

 

「分からないと言うのか! 我々が何故こんなにも殺気を向けている事が!」

「あぁ。全く」

「....そうか。ならば教えてやろう! 何故我々がこんなにもキレているのかを!」

 そう言うと、一番先頭に立っていた男が二枚の写真を見せてきた。その写真は、俺とリアが

 ショッピングモールで買い物をしている写真と、俺と紗矢華が猫と戯れている写真だった。

 

「げっ....何でそんな写真が....」

「ショッピングモールにいた奴等からだ! 伊吹 終夜! 貴様はこんなにも綺麗な彼女と

 デートをしている事が許せん! それも二人も!」

「いや、二人とも彼女じゃないんだが....」

「この後に及んで言い訳か! おいみんな! 伊吹 終夜をこのまま許して良いか!」

「「「許してはダメだ!」」」

「ならば今こそ立ち上がれ! あのような反逆者は、我等の手で滅ぼさなければならない!」

 先頭の男側そう言うと、後ろにいた男どもは雄叫びをあげた。

 

「行くぞ! 今こそ我等の力を見せつける時だぁぁ!」

 そう叫ぶと、男どもは俺に向かってきた。

 

「朝から鬱陶しいな....古城、カバン頼んだぞ」

 俺は古城にカバンを投げると、指の関節を鳴らした。

 

「しゅ、終夜? お前まさか....」

「....雑種どもが。調子に乗るなよ」

 その後、学園全体に醜い断末魔が響き渡った。

 

 

 〜昼休み〜

 

「あ、シュウ君古城君! コッチだよ!」

 昼休みになり、俺と古城は食堂に来ていた。そして、俺達は凪沙ちゃんと姫柊と近くの

 席に座った。

 

「あれ? シュウ君、何か疲れてない?」

 凪沙ちゃんは俺の顔を見ると不思議そうに聞いてきた。

 

「....朝から面倒ごとがあったんだよ」

「面倒ごとですか?」

「....古城」

 俺が古城を呼ぶと、古城はさっきの二枚の写真を二人に見せた。

 

「これ、紗矢華さんですよね? それと、もう一枚の写真に写っているのは....」

「アルディギアに住んでる俺の友人だ。一昨日に急に来て買い物に付き合ったんだよ。

 で、紗矢華は休暇ができたから買い物に誘われたんだよ。それを見た学年のアホどもは

 彼女と勘違いして俺をボコろうとしてきたんだ。朝の鬱陶しい時間に」

「まぁ、終夜は全部返り討ちにしてたけどな....」

「朝の叫び声や断末魔はそれが原因ですか....」

「正解....」

 そう話していると、凪沙ちゃんが古城の携帯を奪い写真をジッと見た。

 

「どうかしたのか凪沙ちゃん?」

「う、ううん。凄く綺麗で、大人な人だなぁと思ってね....」

 凪沙ちゃんはどこか落ち込んだ様子でそう言った。

 

「それにしても、男の人が嫌いな紗矢華さんが伊吹先輩とお出かけなんて意外ですね....」

「そういえばそうだな....」

「伊吹先輩、紗矢華さんと何かあったんですか?」

 姫柊は不思議そうに聞いてきた。

 

「いや、特にこれといっては無いはずだ」

「そうですか....」

「....ねぇ、シュウ君ってこういう大人な女の人が好きなの?」

 姫柊の質問に答えていると、凪沙ちゃんが不意にそう聞いてきた。

 

「いや、別にそんな事はないと思うが....」

「(そもそもその感情が分からないんだけどな....)」

「そ、そっか....! じゃ、じゃあ私にもまだチャンスはあるよね!

「....? 何か言った?」

「う、ううん! 何でも無いよ! そ、そうだシュウ君! 今日の放課後、買い物に 

 付き合って!それで、一緒に晩御飯食べようよ!」

「良いぜ。じゃあ放課後にそっちの校舎に行く」

「う、うん! じゃあ待ってるね!」

 そう言うと、凪沙ちゃんはいつもの元気な様子に戻った。その時、古城と姫柊が呆れた様な

 目で見ていることに気づかなかった。

 

 

 

 

 



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根絶者と第四真祖の妹 Ⅰ

「シュウ君何食べたい?」

「そうだな....」

 学校が終わって放課後になり、俺は凪沙ちゃんとスーパーに来ていた。そして、二人で

 食材を見ながら今日の晩御飯の事を考えていた。すると、いつのまにか俺と凪沙ちゃんは

 肉売り場に来ていた。

 

「凪沙ちゃん。すき焼きはどうだ?」

「すき焼き! 良いね! それだったら古城君にも野菜を食べさせる事が出来るし」

「そっか」

「じゃあお肉と野菜と卵、あとキノコも買わないと!」

「それとシメのうどんだな」

 そう言って、俺と凪沙ちゃんは手分けしてすき焼きに必要な物をカゴに入れてレジに

 向かった。

 

「あっ....」

 すると、凪沙ちゃんが財布を見ると声を上げた。

 

「どうした凪沙ちゃん」

「ポイントカード忘れちゃって。シュウ君、カード持ってる?」

「あぁ。持ってるぞ」

 そう言って、俺は財布からカードを取って店員に渡した。

 

「ありがとうシュウ君」

「別に良いって」

 そう言いながら、俺は財布から一万円札を取り出してキャッシュトレイに置いた。

 

「シュ、シュウ君!? ココは私が....!」

「気にしなくて良いって凪沙ちゃん。俺は作ってもらう側だから食材代ぐらい払うって」

「で、でも....流石に全額払ってもらうのは悪いよ....」

 凪沙ちゃんの言葉に俺は少し考えてこう言った。

 

「....じゃあ、帰ってから飲み物代とデザート代だけくれるか?」

「っ! う、うん! じゃあ帰ったらレシート貸してね」

「わかったよ。それじゃあ家に帰ろっか」

 俺は袋に買った物を入れて持ち、凪沙ちゃんと一緒に家に向かって歩き出した。

 

 

 〜〜〜〜

 

「ただいま〜!」

「お邪魔しますっと」

 俺は今、凪沙ちゃんの家に来ていた。だが、家の中からは返事が聞こえなかった。

 

「....まだ帰ってないのかな?」

「....そういえば、なっちゃんに残るように言われてたような」

「南宮先生に? って事はまた居残りなのかなぁ」

「多分そうだろうな。ま、料理の準備している間に帰ってくるんじゃないか?」

「そうだね。それじゃあ準備しよっか」

 凪沙ちゃんがそう言ったので、俺は一度自分の家に戻って着替え、食器やガスボンベを

 持っていった。

 

「よし。じゃあ凪沙ちゃん、俺は何をしたらいい?」

「えっと、じゃあ玉ねぎと白菜を切るのをお願い。私は長ネギとキノコを切るから」

「わかったよ」

 俺はそう言うと、玉ねぎの皮を剥いて薄切りにした。そして、白菜はざく切りにした。

 

「シュウ君、いつ見ても思うけど手際良いよね」

「ん? まぁ一人暮らししてるからな。というか、そう言ってる凪沙ちゃんの方が手際は

 良いと思うけど」

「あはは....まぁ、暁家のキッチンを任されてるからね!」

 凪沙ちゃんはそう言いながらも、手際良く具材を切っていた。

 

「よし。具材は切り終わったし、次は割り下作ろっか!」

「わかったよ」

 

 

 〜〜〜〜

 姫柊side

 

「あー....頭痛ぇ」

「先輩、お疲れ様でした」

 私は今、先輩と一緒に先輩の家に向かっていった。

 

「はぁ....今日は一段としごかれたな....」

「授業中に寝ている先輩の自業自得ですよ。....それよりも少し意外でしたね」

 私は先輩を待っている間に思っていた事を呟いた。

 

「何がだよ」

「先輩が凪沙ちゃんと伊吹先輩の事について何も言わない事ですよ」

 その言葉を聞いて先輩は足を止めた。

 

「先輩、この前凪沙ちゃんのクラスメイトの子が屋上に呼び出した時はあんなに慌ててたのに....

 伊吹先輩には何も言わないんですね」

「....ま、凪沙があんなに嬉しそうにしてるところに水を差すのは流石にな。それに、凪沙が

 好きになった奴は信頼できる終夜だし。もしも凪沙が終夜と付き合うって言っても、俺は

 反対する気はねぇよ」

 私は先輩の言葉に驚いて思考が停止した。

 

「....シスコンの先輩がそんな事を言うなんて。明日は雪でも降るんでしょうか....」

「おい待て。それどういう意味だ」

「そのままの意味ですよ。....でも、伊吹先輩は凪沙ちゃんの好意に気づいてなさそうですよね」

 私は朝の伊吹先輩の様子を思い出しながら先輩にそう言った。

 

「そうだよな....アイツ、変に鈍感なところあるよな」

それ、先輩が一番言えない事ですよ....」はぁ

 私は先輩に聞こえないぐらいの声でそう呟いた。

 

「ん? 今、何か言ったか?」

「....何でもないですよ。さ、早く帰りましょうか」

 私はそう言って先輩の前を歩き出した。

 

 

 〜〜〜〜

 終夜side

 

「....ふぅ、後は古城君達が帰ってくるのを待つだけだね」

「そうだな」

 あれから割り下を作った俺と凪沙ちゃんは野菜や豆腐を割り下に入れて二人の帰りを

 待っていた。

 

「....そういえばシュウ君」

「何だ凪沙ちゃん?」

 俺が四人分のコップや箸を用意していると凪沙ちゃんが声をかけてきた。

 

「今日のお昼に古城君が見せてくれた写真の人ってさ、シュウ君の友達なんだよね?」

「あぁ。それがどうかしたのか?」

「その、確認なんだけどさ....彼女さんじゃないんだよね?」

「....? あぁ、別に彼女とかではないけど」

「っ! そ、そっか! だったらまだ私にもチャンスが....!

 凪沙ちゃんはどこか安心したような表情をしていた。

 

「凪沙ちゃん?」

「な、何シュウ君?」

「安心したような表情してるけど、どうかした?」

「う、ううん! 何でもないよ! そ、そういえばさ! シュウ君って....」

「帰ったぞ凪沙ー」

 凪沙ちゃんが何かを言おうとした時、古城の声が玄関から聞こえてきた。

 

「....帰ってきたか」

「み、みたいだね....じゃ、じゃあ私は卵取ってくるね!」

 凪沙ちゃんはそう言って冷蔵庫の方に走っていった。

 

「(....凪沙ちゃん、何聞こうとしたんだ?)」

 俺はそんな事を考えながら凪沙ちゃんの後ろ姿を見ていた。

 

 

 

 

 



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根絶者と第四真祖の妹 Ⅱ

「ごめんねシュウ君。洗い物に片付けまでしてもらって」

「気にしなくて良いって凪沙ちゃん」

 あの後、帰ってきた古城達とすき焼きを食べ、デザートを食べた俺は、凪沙ちゃんと

 一緒に洗い物をしていた。ここにいない古城は、部屋で姫柊に勉強を教えられていた。

 そうして洗い物をしている時に、俺はある事を思い出した。

 

「そういえば凪沙ちゃん。古城が帰ってきた時に何か聞こうとしてたけど、何を聞こうと

 したんだ?」

 俺がそう聞いた瞬間、凪沙ちゃんの身体は固まった。

 

「....? 凪沙ちゃん?」

「あ、あぁ! アレね! そんなに大した事じゃないよ! ちょっと気になっただけだから!」

「気になった?」

 俺がそう言って首をかしげると、凪沙ちゃんは少し遠慮したようにこう聞いてきた。

 

「え、えっと....そのね....シュウ君ってさ、もし彼女にするならどんな人が良いの?」//

「....えっ?」

 俺は予想外の質問に思考が停止した。

 

「そ、その、私のクラスメイトの子がね! シュウ君の事が気になるって言ってて。

 それで私に聞いてくれないって言われててさ!」

 凪沙ちゃんはどこかまくしたてるようにそう言ってきた。

 

「そ、そっか」

「そ、それで、シュウ君ってどんな人を彼女にしたいの!」

「そうだな....」

「(....今まで考えた事がなかったな)」

 俺はしばらく考えこみ、凪沙ちゃんにこう言った。

 

「....強いて言うなら、優しくて、俺のことを信じてくれる人が良いな」

「そ、そうなんだ....」

 俺がそう言うと、凪沙ちゃんは何かを考え込んでいた。そんな時、俺は逆に凪沙ちゃんに

 こう聞いてみた。

 

「逆に聞くけど、凪沙ちゃんはどんな人を彼氏にしたいんだ?」

「わ、私!?」///

「あぁ」

「わ、私はその....シュウ君みたいにカッコよくて、一緒にいて楽しい人が良いかな」///

 凪沙ちゃんは顔を赤くしながらもそう答えた。

 

「そっか。凪沙ちゃんと付き合う人はきっと楽しい毎日だろうな」

「そ、そうかな?」///

「あぁ。俺は凪沙ちゃんと話ししてて楽しいぜ。多分凪沙ちゃんの周りの人もそう思ってるって」

「そ、そっか....! シュウ君、楽しいって思ってくれてるんだ....!

 そう話している間に、俺は洗い物が全て終わった。

 

「よしっ、洗い物終了っと」

 すると、突然ポケットに入れている携帯が鳴った。電話を掛けてきたのはなっちゃんだった。

 俺は一言凪沙ちゃんに言って電話に出た。

 

「もしもし」

『伊吹、今暇か?』

「まぁ、暇と言われれば暇だが....何か用なのか?」

『あぁ。先程眷獣を使った馬鹿な連中がいてなぁ。そいつらをとっ捕まえてこい』

「....それ、俺じゃなきゃダメか?」

『人員を集めている間に逃げられたら面倒だ。それに、私も私ですぐに動けん』

「....そういう事なら仕方ないか。わかった。じゃあ今からすぐに動く」

『あぁ、頼んだぞ』

 なっちゃんはそう言うと電話を切った。

 

「悪い凪沙ちゃん。ちょと用事が出来ちまったから今日は帰るな」

 そう言って俺は自分の家から持ってきた物を纏めた。

 

「う、うん。じゃあまた明日!」

「あぁ。すき焼きご馳走様」

 俺は暁家を出て自分の家に戻って荷物を置くと、バイクに乗ってなっちゃんからメールで

 送られてきた場所に向かった。

 

 

 〜〜〜〜

 凪沙side

 

「シュウ君、ああいう人が良いんだ....」

 私は自分の部屋でシュウ君の言っていた事を思い返していた。

 

「(優しくて、信じてくれる人か....)」

 私は自分の携帯を開いてある事を調べ始めた。

 

「(えっと、好きな人にやってあげたら喜んでもらえる事って何があるんだろ....)」

 そうして調べている時、部屋の外から古城君と雪菜ちゃんが私を見ている事に

 私は気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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蒼き魔女の迷宮編
蒼き魔女の迷宮 Ⅰ


 紗矢華side

 

「紗矢華、今回はありがとうございました。夏音の件では面倒をかけました」

 私は今、ラ・ファリア王女の見送りのため空港にいた。

 

「いえ、王女のお役に立てたのなら何よりです」

「ふふふ、そうですか。ところで....波朧院フェスタとは何ですか?」

 王女は私の後ろにある電光板を見ながらそう聞いてきた。

 

「あぁ....この時期に絃神島で行われる祭典で....って!?」

「まぁ! 年に一度のお祭りなのですね!」

 王女は笑顔を浮かべながら携帯を取り出した。

 

「お、王女! 既に二度帰国を延期されております! これ以上はご家族も心配して....!」

「まぁ、楽しそうなお祭りですこと!」

「王女!」

 王女は私の言葉に聞く耳持たずの状態で波朧院フェスタの写真を見ていた。

 

「(マ、マズい....このままだと王女は再び帰国を延期しかねない....!)」

 そう思った私は王女の腕を掴んで飛行機の搭乗ゲートに向かって歩き出した。

 

「飛行機の前までお送りします!」

「....むぅ、分かっています。興味本位であなたの国に迷惑をかけるわけにはいきません」

 王女は少し残念そうな表情をしながらも私に引っ張られていた。

 そして、搭乗ゲートを通過した瞬間、私は謎の浮遊感を感じた。

 

「ですが、飛行機に辿り着けないのではどうしようもありませんね」

「えっ....?」

 王女がそう言った瞬間、私は辺りを見渡した。私達はさっきまで空港の中にいたはずなのに、

 何故か今、私達がいるのは以前ナラクヴェーラと戦った増設人工島だった。

 

「これは....! 一体何が!?」

「さすがは魔族特区。しばらくは退屈せずに済みそうですね」

 私が焦っているのに対し、王女はどこか嬉しそうにしていた。

 

 

 〜〜〜〜

 終夜side

 

「....暑い」

「言うな古城....余計に暑くなるだけだ....」

「やっぱりこの時期は人が多いよね....」

 学校に行くためのモノレールの中、俺、古城、凪沙ちゃんはそう言っていた。

 

「今日はいつもよりも混んでますね」

「波朧院フェスタが近いからね。島外からの観光客の人が多いんだよ雪菜ちゃん」

 姫柊の疑問に、凪沙ちゃんはそう答えた。

 

「波朧院フェスタですか....中等部でも最近よく話題になってますけど、こんなに沢山の

 観光客の人が来るお祭りなんですね」

「あぁ。島内の企業は殆ど休み。それに、この時期は絃神島への訪問許可が下りやすいからな。

 企業との取り引き目的の人間には千載一遇のチャンスって言っても過言じゃないだろうな」

「そうなんですね。それに、ハロウィンがモデルですか....」

 姫柊は電車の中のポスターを眺めてそう言った。

 

「まぁ時期的にハロウィンだから....」

 凪沙ちゃんがそう言ったが瞬間、モノレールが減速を始めた。それに伴い、凪沙ちゃんと

 姫柊はバランスを崩した。

 

「おっと....大丈夫か凪沙ちゃん」

「う、うん。ありがとうシュウ君....」///

 凪沙ちゃんは俺が抱き留めたのだが、姫柊は古城が胸を揉みしだきながらも抱き留めていた。

 

「先輩....!」

「古城君....サイテー」

「....何をしてんだお前は」

「ま、待て! これは不可抗力だろ!」

 俺と凪沙ちゃんの冷たい視線に古城は狼狽えていた。だが、姫柊の冷たい視線は古城に

 向けられてはいなかった。

 

「そうじゃなくて! あの子....!」

 姫柊が見ていたのは、混み合った通路にいる彩海学園の制服を着ている少女だった。

 

「高等部の生徒か? 何か危なっかしい感じだな....」

「(あの後ろ姿....)」

 古城がそんな事を言っている時、俺はその少女の後ろ姿に見覚えがあるのを感じていた。

 

「はい。それよりも、あの子の後ろにいる男性....」

 姫柊の視線の先には、どこか挙動不審な中年の男がいた。

 

「っ、痴漢か! 野郎!」

「ちょっ!? 先輩!」

 古城は人混みを掻き分けながらその女の子に向かっていった。姫柊も、人混みを避けながら

 古城の後を追っていた。

 

「はぁ....凪沙ちゃん。俺らも二人の後を追おう」

「う、うん」

 そう言って、俺は凪沙ちゃんと手を繋いで二人の後を追うと、何故か古城が凪沙ちゃんの

 担任である笹崎先生に捕まっていた。

 

「笹崎先生!?」

「どういう状況だよこれ....」

「ありゃ、暁ちゃんに....君は確か、暁ちゃんのお兄さんの親友君!」

 笹崎先生は思い出したような表情をしながらそう言ってきた。

 

「あの、笹崎先生? 古城君の腕、離してあげてくれませんか?」

「笹崎先生! 暁先輩は痴漢じゃなくて、痴漢を捕まえようと....」

「あれ? そうなの?」

「本当の痴漢はコイツだ馬鹿犬」

 すると、突然背後から聞き覚えのある声と男の恐怖に怯える声が聞こえた。俺達が声の方を

 見ると、そこには彩海学園の制服を着て、片手に鎖を持ったなっちゃんがいた。

 

「えっ!?」

「「南宮先生!」」

「(どっかで見覚えがあると思ったら....やっぱりなっちゃんだったか)」

 俺以外の三人は、なっちゃんの今の姿に驚いていた。

 

「那月ちゃん、何だよその格好は?」

「巡回だ。最近この車両で痴漢に遭う生徒が多くてな。無理を承知で変装して犯人を

 あぶり出していたんだ。案の定、引っかかった馬鹿がいたがな」

 そう言いながらなっちゃんは、鎖に縛られている男を睨みつけていた。

 

「無理どころか全然違和感ねぇぞ那月ちゃん。むしろ中等部の制服の方が似合ってたんじゃ....」

「ほらほら那月先輩。私の言った通りじゃないですか」

「やかましい....中等部の制服は残っていなかったんだから仕方ないだろう」

南宮先生、彩海学園の卒業生だったんだ

みたいですね

 那月ちゃんの言葉に、凪沙ちゃんと姫柊は小さな声でそう話していた。

 

「残ってなかったって....それ、那月ちゃんの自前なのかよ」

「担任教師をちゃん付けで呼ぶな! だいたいどうしてそこの馬鹿犬が先生呼ばわりで

 私だけ那月ちゃんなんだ」

「威厳と風格の差だったりして」

 笹崎先生はそう言いながらなっちゃんの頭を撫でていた。

 

「撫でるなこの馬鹿犬!」

「....俺達、もう行って良いっすかね?」

 古城は争っている二人にそう言いながら駅の改札の方に向かって歩いていった。俺達も

 古城について行こうとしたその時....

 

「暁 古城、伊吹 終夜」

 俺と古城は那月ちゃんに呼び止められた。

 

「はい?」

「何だよなっちゃん」

 俺と古城がなっちゃんの方を見ると、なっちゃんはどこか不思議そうな表情を浮かべていた。

 

「もうすぐ波朧院フェスタだな」

「あぁ、そうっすね」

「それがどうかしたのか?」

「....週明けからは普通に授業を再開するからな。暁は遅れずにちゃんと来いよ。そして伊吹。

 お前は波朧院フェスタで羽目を外しすぎるなよ」

 それだけ言うと、那月ちゃんは笹崎先生とどこかに歩いていった。その時、俺は一人、

 変な違和感を感じていた。

 

 

 

 

 



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蒼き魔女の迷宮 Ⅱ

 学校で授業を受け昼休みになった。俺は浅葱達の所にいたのだが、何故か古城は

 クラスの男どもに囲まれていた。

 

「なぁ暁。お前、波朧院フェスタのイベントに何か出る予定はあるか?」

「いや、何も決めてないが....」

 古城がそう言った瞬間、男どもの目の色が変わった。

 

「そうか! だったらバイトしないか? 町内会でオープンカフェをするんだが人手が

 足りなくてな。時給1000円でどうだ!」

「待て古城! どうせならうちのブースで売り子やってくれ! 今なら特典で利益の一割....

 いや、二割をバイト代としてくれてやる!」

「待て待て古城! 波朧院フェスタのといえば伝統のビーチバレー大会を忘れてないか? 

 俺達と一緒に砂浜で爽やかな青春の汗を流そうじゃないか!」

「待て待て待て! 祭りの花といえばミスコン! 貴様には特別に審査員の席を用意した。

 だから当日は命に替えてもテティスモール前のイベントステージに来るんだ!」

「....何、あれ?」

「モテモテだね暁君」

 浅葱は冷めた目で古城の方を見ながら築島にそう聞いた。だが、築島は普段と変わらない

 様子でそう返していた。

 

「ま、あれは古城じゃなくて姫柊ちゃん目的だろうな」

 俺の隣にいた矢瀬は浅葱に笑いながらそう言った。

 

「姫柊って、中等部の転校生?」

「あぁ。あの子がどういうわけか古城につきまとっているからな。古城が来るってなれば

 必然的に姫柊ちゃんが来るってなるだろ? あの子が来たら大きいだろうな。客寄せと

 目の保養として」

「アホだ....」

「....馬鹿じゃないの、どいつもこいつも」

 浅葱は冷めた目で男どもを睨んでいた。すると、さっきまで黙っていた古城が口を開いた。

 

「あー....誘ってもらって悪いんだがやめとくわ。今年はちょっと一緒に回る奴がいてな」

 古城がそう言った瞬間、男どもの目の色が変わり古城に敵意を向けた。

 

「貴様! やはり例の中等部の転校生と....!」

「いや、姫柊は関係ないぞ」

 すると、男ども不思議そうな表情をしながら考え込みだした。

 

「中等部の転校生じゃないだと? じゃあ一体誰が....」

「藍羽じゃないか?」

「あぁ....藍羽か」

「正直この際藍羽でも....」

「....アイツらの個人情報、流出させてやろうかしら」

「流石にやめとけ....」

 男どもの発言に、浅葱は心底機嫌が悪そうだった。すると....

 

「暁ー! あんたに中等部からお客が来てるよー!」

 誰かが古城の名前を大声で呼んだ。その呼んだ生徒の背後には、リアの家族である

 叶瀬 夏音が古城の方を見ていた。

 

「なっ!? 中等部の、聖女だと....!」

「何故彼女が暁のことを....!」

 男どもは予想外の人物の訪問に固まっていた。その間にも、古城は叶瀬の元に行って

 話しをしていた。

 

「....あれってどういう知り合い?」

「....さぁ?」

 俺はどういう知り合いかを知っていたが、色々と面倒になるため何も言わなかった。

 すると、次の瞬間、叶瀬 夏音の発言に教室内が凍りついた。

 

「あの、今日の夜、泊まりに行っても良いですか? お兄さんのお宅に」

「あぁ、別に構わないぞ」

「なっ....!?」

「....あの子、この殺伐とした空気の中でとんでもないこと言うな」

 矢瀬の言葉に築島は頷いた。すると、築島は何か思いついたのか、浅葱の腕を掴んで

 手を挙げた。

 

「ちょっと待った暁君! 私達も一緒にお邪魔して良いかな?」

「えっ....?」

「えぇぇぇぇー!?」

 突然の出来事に、浅葱は状況を理解できず大声を上げた。

 

 〜〜〜〜

 

「夏音ちゃん、退院おめでとー!」

 学校が終わり、俺は暁家にお邪魔していた。そして、その暁家には叶瀬と姫柊、

 何故ここにいるのか謎の築島、矢瀬、浅葱がいた。

 

「あ、ありがとう凪沙ちゃん....それに皆さんも....」

 叶瀬は凪沙ちゃんのテンションに若干驚きながらもどこか嬉しそうだった。

 

「良いの良いの! さ、今日は夏音ちゃんの為に沢山作ったから! いっぱい食べてね!」

 俺達の目の前には大量の皿に盛りつけられた料理が並べられていた。

 

「いやー、にしても凪沙ちゃんに終夜。また料理の腕上げたんじゃないか?」

「そうね。凪沙ちゃん、古城の妹にしとくのが勿体無いわ。....終夜に関しては

 ちょっとムカつくけど」

「自分が料理出来ないからって僻むなよ....てか、お前ら少しは遠慮して食え。

 今日の主役はお前らじゃないんだから」

 俺はそう言いながらも料理を食っていた。その時、俺はある事に気づいた。

 

「てか、築島何処に行った?」

「お倫なら確か....」

「へぇ、これが暁君の部屋なんだ。意外に普通だね」

 築島の声は古城の部屋の方から聞こえてきた。見に行くと、築島は古城のベッドの下を

 覗いていた。

 

「他人の部屋に入るなりベッドの下を覗き込むのはやめてくれないか、築島」

「ごめんごめん」

 そう言いながらも、築島は古城の部屋を物色していた。すると、本棚から何かを

 取り出した。

 

「ねぇ、このアルバム見ても良い?」

「別に良いが、それ小学生の時のやつだぞ」

「へぇ。なら、なおさら興味が湧いてきた」

 そう言って、築島はアルバムを開いて中を見始めた。すると、他の五人も古城の

 部屋に集まってきた。

 

「小さい暁君、今とあまり変わらないね」

「ホントだな」

 そうしてページを捲っていくと、矢瀬が古城にこう聞いた。

 

「てか、よく一緒に写ってるコイツは?」

 矢瀬が聞いたのは、古城と凪沙ちゃんと一緒に写っている茶髪の子だった。

 

「あぁ、ユウマか」

「ユウマ?」

「ガキの頃、よくつるんでた遊び仲間だ。幼馴染っていうか、バスケ友達っていうか、

 腐れ縁の親友みたいなもんだ」

「へぇ〜。暁君の友達にしてはかなり男前だね」

「それどういう意味だよ!?」

 築島の何気ない発言に古城はそう叫んだ。

 

「ま、ユウちゃん昔から女の子に人気あったよね。古城君とは違って」

「まぁそうだな....そういや凪沙、ユウマから連絡あったか?」

「うん! 明日九時ぐらいに空港に着くって」

「えっ? て事は、一緒に回る奴ってのは....」

「ユウマの事だ。何か親戚のツテでフェスタの招待チケットを貰ったらしくてな。

 それに、島の中の案内をするって約束したしな」

「そういう事か....」

 矢瀬が一人納得してる中、姫柊と浅葱はどこか慰めあったような目でお互いを見ていた。

 すると、築島は何か思いついたように俺の方を見た。

 

「そういえば伊吹君って暁君の隣に住んでるんだよね?」

「あぁ」

「だったら伊吹君の昔のアルバム見せてよ」

「終夜のアルバムか....確かにそれは気になるな」

「確かにそうね....」

「あ、私も昔のシュウ君見てみたい!」

「あぁ....その、期待してるとこ悪いんだが....俺、ガキの頃のアルバムねぇんだよ」

 俺は期待している四人に申し訳なさそうにそう言った。

 

「そうなのか?」

「あぁ。ちょっとガキの頃は色々あってな....できれば詮索しないでくれたら助かる....」

「....そうか。じゃあ仕方ねぇな。ほら、戻って飯食おうぜ」

 古城は気を遣ってくれたのか、そう言って全員をリビングの方に連れて行った。

 

「(変に気を遣わせちまったな....今度何か奢ってやるか)」

 

 

 〜〜〜〜

 

「んじゃお前ら、気をつけて帰れよ」

「おう」

「じゃあね」

「晩御飯ご馳走さま」

 矢瀬、築島、浅葱をマンション下まで見送った俺は古城の家で片付けをしていた。

 そして、片付けも全て終わり自分の家に戻ろうとした時....

 

「あの、伊吹さん....少し良いですか?」

 俺は突然、叶瀬に呼び止められた。

 

「何だ?」

「あの、変なことを聞くかもしれませんが....私と、何処かで会った事がありませんか?」

 それを聞いた俺は、一瞬驚いたがすぐにこう言った。

 

「いや、叶瀬とは今日初めて会ったと思うが....」

「....そう、でした。すみません、変なこと聞いてしまって....」

「いや、気にすんな。それじゃあ、俺は帰るな」

「はい....その、今日はご馳走様、でした」

「おう。じゃあな」

 俺は叶瀬にそう言うと古城の家を出て自分の家の中に入った。

 

「(....急にあんな事を聞かれのは流石に驚いたな。リアの家族なだけあって魔力の気配は

 意外と鋭いのかもな)」

 そう思いながら、俺は風呂に入り眠りについた。

 

 この時、俺は気づかなかった。この島に、とてつもなく面倒な存在が侵入している事に....

 そして、俺にとって大忙しな二日間が始まる火蓋が切られている事に....

 

 

 

 

 

 

 



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蒼き魔女の迷宮 Ⅲ

「げっ....コーヒーがねぇ....」

 朝起きた俺は冷蔵庫を見てコーヒーが無いことに気づいた。

 

「仕方ねぇ....下の自販機に買いに行くか」

 俺は机の上にある財布を取って家を出たその時....

 

「っ!」

 突然俺は謎の浮遊感を感じた。この浮遊感はなっちゃんが使う空間転移に

 どこか似ていた。

 

「(何で急に空間転移が....!)」

 そう考えているうちに、俺は何処かの島に転移されていた。そして、少し向こうには

 絃神島が見えていた。

 

「(ここは....この前模造天使(エンジェル・フォウ)と戦った島か)」

 俺がそう考えていると、突然色んな方向から魔力がこもった何かが向かってきた。

 

召喚(コール)! 真空に咲く花 コスモリース! 銀河の一輪 コスモチャプレット!」

 俺は咄嗟に二人を召喚して飛んできた何かを無効化した。そして、俺は何かが飛んできた方を

 見ると、そこにはスーツを着た男やローブを纏った女が大量にいた。

 

「アイツらは....」

 すると、その男や女達の前にリーダーらしき女が二人現れた。

 

「シュラン、あんな餓鬼が本当に黒輪の根絶者(デリーター)なのか?」

「こうしてここに転移して来たという事はそういう事だろう」

 二人の女はそう言いながら俺の方を見ていた。

 

「お前が黒輪の根絶者(デリーター)だな、餓鬼」

 白いローブを纏った女は俺にそう聞いてきた。

 

「そうだって言ったらどうする。....それよりも、お前らは何者だ」

「我等はLCO。図書館と呼ばれてる魔導犯罪者組織だ」

「LCO....」

 その言葉に俺は聞き覚えがあった。

 

「黒輪の根絶者(デリーター)。汝は我等LCOの計画において最も障害になる者....故に

 今ここで汝を潰す!」

 青いローブを纏った女がそう叫んだ瞬間、周りにいた連中は俺に向かって炎や氷といった

 魔法攻撃を放ってきた。だが、その攻撃は全てコスモリースとコスモチャプレットによって

 弾かれた。

 

「....とりあえず、テメェらは俺の敵って認識で良さそうだな」

 そう呟いた俺はコスモリースとコスモチャプレットを退却させて腕を振ってカードを

 展開した。そして、俺を中心に巨大な紫色の魔法陣が展開された。

 

「人が起きたばっかって時に訳の分からねぇ事しやがって....テメェら全員纏めて

 ぶっ飛ばす」

 そう言うと、一枚の黒いカードが浮かび上がった。

 

「過去、現在、未来、全ての繋がりを絶つ者よ。我に仇なす敵を討ち滅ぼし、

 全てを無に帰せ! 今ここに再誕しろ、我が分身! ライド・ザ・ヴァンガード!」

 そう叫び終わると、俺の身体は黒い霧に包まれた。そして、霧が晴れると、

 俺の姿は巨大な青い翼の様な物を生やした異形の姿に変わった。それはまるで、

 エイリアンの様な....

 

絆の根絶者(ドッキング・デリーター) グレイヲンNEO』

 この姿を見た部下の様な人間達は恐怖で後ずさっていった。

 

「怯むんじゃねぇ! 所詮は一人! 数で押し潰せ!」

 白いローブの女がそう叫ぶと、部下の連中は俺に攻撃を仕掛けてきた。俺はその攻撃を

 巨大な腕で全てかき消した。

 

召喚(コール)呼応する根絶者(ヘイリング・デリーター) エルロ、呼応する根絶者(ヘイリング・デリーター) アルバ、迅速な根絶者(スイフト・デリーター) ギアリ、

 欺く根絶者(ライダウン・デリーター) ギヴン』

 すると、俺の周りに四体のユニットが現れた。

 

『....行けお前達。誰一人逃すな』

 そう言うと、四体のユニットは雄叫びをあげて雑魚どもに向かっていった。そして、

 俺は二人の色付きローブの女を見た。

 

『さぁ、こっちも始めようか。魔女ども』

 

 〜〜〜〜

 姫柊side

 

「雪菜ちゃん、朝ご飯できたからシュウ君呼んできてくれない?」

「伊吹先輩ですか?」

「うん」

「分かりました」

 朝、先輩の家に来ていた私は凪沙ちゃんにそう言われた。そして、私は伊吹先輩の

 家の向かってチャイムを鳴らした。だが....

 

「....出ませんね」

 既に三回押したのだが、伊吹先輩の反応はなかった。すると、凪沙ちゃんが出てきた。

 

「シュウ君出ない?」

「はい....」

「ん〜....ちょっと待ってて」

 凪沙ちゃんはそう言うと家の中に戻りカードーキーを持ってきた。そして、伊吹先輩の

 扉のカードロックにカードをかざして伊吹先輩の家の中に入っていった。

 

「ん〜....靴は無いしカードキーも無い。何処かに出かけちゃったのかなぁ?」

「な、凪沙ちゃん? どうして伊吹先輩の家のカードキーを....」

 私は凪沙ちゃんの流れる様な動きに戸惑った。

 

「シュウ君がくれたの。たまに家を空ける事があるから電気とかガスが止まってるか

 確認して欲しいって理由でね。あと掃除もだけど」

 そう言うと、凪沙ちゃんは靴を脱いで家の中に入り、何かの部屋の中に入っていった。

 だが、入って数秒も経つと部屋から出てきた。

 

「シュウ君、携帯を置いて何処かに行ってるみたい。部屋の中にお財布が無かったよ」

「そうですか....どうしましょうか?」

「何処に行ったか分からないんじゃどうしようもないからね....とりあえず、私達は先に

 朝ご飯を食べよっか。シュウ君の分は冷蔵庫の中に入れておくよ」

「....それが良さそうですね」

 そう話しながら、私は凪沙ちゃんの家に戻り朝食の準備を手伝った。

 



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蒼き魔女の迷宮 Ⅳ

 姫柊side

 

「シュウ君、一体何処に行ったんだろう....」

「バイクはあったからそう遠くに行ってはないと思うが....」

 朝食を食べ終えた私達四人は空港にいた。

 

「....てか、何でお前らまでいるんだよ。矢瀬、浅葱」

 暁先輩がそう言った先にはパーティーマスクを付けた矢瀬先輩と藍羽先輩がいた。

 

「よく気づいたわね、私達の完璧な変装に」

「何が完璧だよ....逆に目立ちまくってたぞ。てかそれ、何処から持って来たんだよ」

「仮装パレード用のやつをちょっとな」

「あれ? 終夜は?」

 マスクを外した藍羽先輩は伊吹先輩がいない事に気づいてそう聞いてきた。

 

「分かんねぇ。朝、家に居なかったからなぁ」

「あ、そうなんだ。連絡は?」

「携帯忘れてるから無理だ」

 先輩が藍羽先輩にそう言っていたその時....

 

「古城!」

 突然私達の頭上から先輩の名前を呼ぶ声が聞こえた。上を見ると、先輩に向かって

 飛び降りてくる人影があった。飛び降りて来たのは快活そうな雰囲気の人で、髪型は

 ショートボブ。ポーツブランドのフード付きチュニックとショートパンツを着ていた。

 

「うおっ!?」

 先輩はその人を何とか受け止めたが、何故か抱き合うような姿勢になっていた。

 

「ユ、ユウマ!?」

「久しぶり。元気そうだね、古城」

「ユ、ユウマって....」

「あの子、昨日の写真の子!?」

 藍羽先輩は昨日の写真の人だという事に驚いていた。私も声には出さなかったが内心では

 もの凄く驚いていた。

 

「お前、相変わらずむちゃくちゃするな....」

「古城の前でぐらいしかここまでむちゃくちゃしないって」

 そう言いながら、ユウマさんは先輩から離れると、凪沙ちゃんがユウマさんに

 近づいていった。

 

「ユウちゃん久しぶり!」

「久しぶりだね凪沙ちゃん。美人になったね。見違えたよ」

「またまたぁ....この前写真送ったばっかじゃん」

「ねぇ、あれは一体どういう事!」

「わ、私に聞かれても....」

 鬼気迫った藍羽先輩に、私はそう返すしかなかった。

 

「そうだユウマ。紹介しておく。こっちの二人は凪沙のクラスメイトの叶瀬 夏音と

 姫柊 雪菜。そこの二人はただの通行人」

「誰が通行人よ!」

 藍羽先輩と先輩のやり取りを見てユウマさんは笑っていた。

 

「面白い友達だね古城」

 ユウマさんはそう言って私達に頭を下げた。

 

「仙都木 優麻です。みなさん、どうぞよろしく」

 

 

 〜その頃〜

 終夜side

 

「かはっ....!?」

「ネーナ!」

『バニッシュデリート....』

 現在、俺は白と青のローブを纏った女と戦っていた。そして、俺は今、白いローブを

 纏った女は呪縛(ロック)した。

 

『....雑魚は全て奴等が潰した。これで、残るはお前だけだ』

「....っ、ありえない! あれだけの数を、たった四体の化け物に倒されるなど!」

『じゃあこの状況をどう説明する』

 そう言った俺は背後を見た。背後には、エルロ達が呪縛(ロック)したLCOの魔術師どもがあちこちに

 転がっていた。

 

「それはっ....!」

『これで分かっただろ。お前等は俺を、いや、俺達を舐めすぎた』

 そう言いながら俺は腕に力を溜めた。

 

『失せろ、この魔女風情が』

 そして、溜めた力を一気に解放し巨大な光線を放った。光線を受けた魔女はその場で

 倒れていた。

 

『....終わりだな』

 そう言って腕を向けた瞬間、魔女の持っていた魔導書が光り出した。

 

「そうは行くか....! せめて、汝だけはここから抜けさせぬ!」

 そう叫んだ瞬間、島の全体を包み込む様に巨大な結界が張られた。

 

「破壊できるならしてみるが良い....ただし、絃神島の人間の無事は保証せぬがな....」

 そう恨み言を残しながら、魔女の女は気絶し魔導書は燃えて灰になった。俺はそれを見届け、

 女を呪縛(ロック)した。そして、俺は四体のユニットを退却させて一度人間の姿に戻り結界を見た。

 

「一体何の結界だ....」

 俺はそう呟いてカードを展開させて四枚のカードを手に取った。

 

召喚(コール)、極微の星輝兵(スターベイダー) マヨロン、黒門を開く者、星輝兵(スターベイダー) コロニーメイカー、

 鍵盤の星輝兵(スターベイダー) ビスマス」

 そして、四枚のカードを投げると、投げた所に魔法陣が展開され四体のユニットが現れた。

 

我が先導者(マイ・ヴァンガード)

『我等に何かご用でしょうか?』

 四人は俺の前で膝をつきながらそう聞いてきた。

 

「お前達、この島に張られた結界を調べてくれ」

『結界を、ですか....』

「あぁ。この結界が絃神島とどう関係しているか。それと、結界の解除の方法もな」

『承知いたしました』

『少し時間は掛かると思いますが、お任せください。行くぞお前達』

 黒門を開く者の言葉で、四人はそれぞれ別の方向に向かっていった。

 

「....さて、コイツらの記憶の処理と魔導書の回収するか」

 そう呟き、俺は四枚のカードを手に取った。

 

召喚(コール)、回想の星輝兵(スターベイダー) テルル、星輝兵(スターベイダー) マゼラニックストリーム、星骸者 ルールリ、

 連なる黒輪 プレアデス」

 俺は四枚のカードを上空に投げると、魔法陣から四体のユニットが現れた。

 

我が先導者(マイ・ヴァンガード)

『ワレラニ、ニンムカ?』

「あぁ。ここに呪縛(ロック)されて転がっている奴等の記憶を書き換えてくれ。ついでに、

 コイツらの記憶からここに来た目的を探し出してくれ」

『承知しました』

 そう言って、俺と四体のユニットは魔導書の回収と記憶の書き換えを始めた。

 



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蒼き魔女の迷宮 Ⅴ

 ラ・フォリアside

 

「....全くと言っていいほど規則性がありませんね」

「そうですね....」

 増設人工島に転移された私と紗矢華は現在、何処かのビルの屋上にいた。あれから既に

 五回以上転移しており、私達は一向に転移の規則性が掴めなかった。

 

「王女、どうなさいますか?」

 紗矢華の言葉を聞き私は少し考えた。その時、私は終夜から受け取った物を胸ポケットに

 入れているのを思い出した。私はそれを取り出して、そこに書かれている番号を携帯に

 打ち込み電話をかけてみた。

 

「王女、一体誰に電話を?」

「私の友人の魔術師にです」

 そう言って電話を掛けるが、終夜は一向に電話に出る気配はなかった。

 

「....出ませんか?」

「えぇ。恐らく、私達と同じように転移の影響を受けているのかもしれません」

 私は携帯をポケットに入れてこれからの動きを考えた。

 

「(さて、終夜もこれに巻き込まれているとなるとかなり厄介な事な気がしますね....

 とりあえず、どこか屋内にいる方が良さそうですね)」

「紗矢華、一先ず私達は屋内に向かいましょう。このままでは、今夜は最悪野宿に

 なってしまうかもしれません」

「っ、それは確かに避けたいですね....わかりました。では、早速向かいましょう」

 そう言うと、紗矢華は扉の方に向かっていった。

 

「(....終夜、貴方は今、何処にいるんですか?)」

 私は一人、街を見下ろしながらそう思った。

 

 〜〜〜〜

 古城side

 

「ったく、ユウマも叶瀬も凪沙も元気だな」

 空港でユウマと合流した俺達はキーストーンゲートの最上部の展望ホールに来ていた。

 そして、俺の目の前では三人が景色を見て喜んでいた。だが、何故か姫柊は....

 

「っ....!」

 何故か後ろでガラス張りの所を躱しながら歩いていた。

 

「....そういや姫柊、飛行機とか苦手だったな」

 俺は後ろで手すりに掴まりながら歩いている姫柊にそう言った。

 

「ち、違います! ガラスに強度が不安というだけで怖がっているわけではありません!」

「はいはい....ほら」

 姫柊の強がりを適当に聞き流した俺は姫柊に手を差し出した。

 

「あ、ありがとうございます....」

 姫柊は俺の手を掴むと俺の後をついてきた。すると....

 

「古城、ちょっと野暮用ができたから先に帰るな」

「私も。急にバイトが入ったから帰るわね」

 突然、矢瀬と浅葱がそう言ってきた。

 

「あ、あぁ....」

 俺がそう言うと、二人はエレベーターに向かって走り、そのまま下に降りていった。

 それと同時に、別のエレベーターから一人の人物が上がってきた。その人物は俺の姿を

 確認すると俺の方に近づいて来た。

 

「捜索対象を目視にて確認」

「ア、アスタルテ?」

 その人物は那月ちゃんのメイドであるアスタルテだった。

 

「アスタルテ、さん?」

「現状報告。本日、午前九時の定時連絡を持って教官との連絡が途絶しました」

「途絶....?」

「南宮先生が、失踪したということですか?」

「発信機、および呪符の反応も消失(ロスト)しています」

 アスタルテは淡々とそう言ってきた。

 

「そして、このような場合の対応手順を、既に教官から伝えられています」

「南宮先生は何と?」

「叶瀬 夏音を最優先保護対象とし、緊急の事態が起こった場合には終夜さんの

 指示を仰げ、との事です」

「伊吹先輩の指示、ですか....」

「ちょっと待ってくれ。那月ちゃんは自分がいなくなるって前から知っていたのか?」

「不明。データ不足により回答不能です」

 アスタルテは目を伏せて答えた。

 

「あの、アスタルテさん」

 すると、急に姫柊はアスタルテに声をかけた。

 

「伊吹先輩の行方が分かっていない場合は、どうしたら良いのですか?」

「....終夜さんは、行方不明なのですか?」

 アスタルテはどこか驚いた様な表情をした。

 

「はい」

「....その場合でしたら、何があっても大人しくしておくようにと教官から言われています」

「....そうですか」

「終夜に続いて那月ちゃんまでも行方不明....何か、嫌な感じだな」

「....同感です」

 俺と姫柊は、どこか嫌な予感を感じていた。

 

 

 〜〜〜〜

 終夜side

 

我が先導者(マイ・ヴァンガード)

 LCOの連中に記憶の書き換えをしている時、突然マヨロンが俺に声をかけてきた。

 

「マヨロン? どうかしたのか」

『はい。まだ完全には解析できてはいませんが、現状までで解析できた結界の報告を

 させていただきます』

 そう言うと、マヨロンが本を開くと、空中にホログラムのモニターが出現した。

 

『この島に張られている結界は絃神島に張られている空間転移の結界と同じ物で絃神島に

 張られている空間転移の結界とリンクしていました。そして、この島の結界を破壊すれば

 同時に絃神島の結界も消滅するという結果が出ました。しかし....』

 マヨロンはどこか苦虫を潰した様な表情になりながらこう言ってきた。

 

『結界を破壊した際、その時に絃神島に張られた結界によって転移していたものは

 空間と空間の狭間に取り残されるという結果になるようです。故に、無理矢理強力な力で

 破壊した場合、必要のない犠牲が出ると分かりました』

「....そうか」

「(あの魔女め....面倒な事を)」

 俺は心の中で苛立ちながらそう思った。

 

「ならば、解析が終わり次第、結界の解除に向けて動いてくれ。人手が必要なら言ってくれ」

 そして、俺はマヨロンに次の指示を出しておいた。

 

『了解しました』

 そう言うと、マヨロンは俺の前から姿を消した。

 

「さて、ここまで用意周到ってなると....LCOの目的は()()()か....」

 そう呟いた俺は、()()()()()()()を眺めていた。

 

 

 



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蒼き魔女の迷宮 Ⅵ

「雪菜ちゃんも一緒に晩御飯食べれれば良かったのにねぇ」

 島内を回って家に帰ってきて料理をしている凪沙はそう言った。

 キーストーンゲートでのアスタルテの話を聞いた俺と姫柊は相談し、叶瀬と

 アスタルテは今夜は姫柊の家に泊まることになった。

 

「俺達に気を遣ってくれたんだろ。大勢いるとユウマとゆっくり話ができないしな」

 俺は頭をフル回転しながら必死に言い訳を考えてそう言った。

 

「そっか。....それよりも、結局シュウ君帰ってなかったね」

「....あぁ」

 帰ってから一応終夜の家を俺は見に行ったのだが、家の中は出る前と全く変わって

 いなかった。

 

「凪沙ちゃん、“シュウ君”っていうのは?」

 すると、ユウマが不思議そうに凪沙に聞いた。

 

「シュウ君っていうのはウチの隣に住んでる古城君の同級生。とっても優しくて、頭も良くて、

 カッコよくて....私や古城君はすっごく助けられてるんだ!」

「へぇ....そうなのかい、古城?」

「あぁ。この島に来て、一番最初にできた親友だ」

「ふぅーん....そうなんだ」

 俺がそう言うと、ユウマは少しムッとした様な表情になった。

 

「古城、その“シュウ君”とやらの写真はあるかい?」

「写真か? 確か....あった。この銀髪の奴だよ」

 俺は携帯の写真フォルダから終夜の写っている写真を見せた。

 

「へぇ....これが“シュウ君”か。確かに、なかなかのイケメンだね」

「でしょ!」

「....それよりも、さっき凪沙ちゃんが言ってた帰ってなかったってのは?」

 ユウマは、さっきの凪沙の発言を思い出した様にそう聞いてきた。

 

「....昨日の夜、一緒に晩飯を食べたんだが、今日の朝に家を見に行ったらいなくてな。

 帰って来たら家にいると思ったんだが、まだ帰ってなくてな」

「....そうなんだ」

「....アイツにもユウマの事を紹介したかったんだがな」

「....そっか。僕も少し話をしてみたかったよ」

 ユウマはどこか歯切れ悪そうにそう言うと、それ以上は何も聞いてこなかった。そうして、

 少し俺がテレビを眺めていると凪沙がこう言ってきた。

 

「古城君、暇なら先にお風呂入っちゃってよ。私、ユウちゃんと後で一緒に入るから」

「あぁ、わかった」

 俺は立ち上がって脱衣所に行き、腰にタオルを巻いて風呂場に入った。だが、風呂場に

 入った瞬間、俺の視界は真っ白な湯気に覆われた。

 

「えっ?」

「(何でこんなに湯気が....っ!?)」

 そして、次の瞬間、俺はあることに気づいた。それは、この風呂場に先客がいた事だ。

 

「お兄さん....ですか?」

「....第四真祖」

「叶瀬!? それにアスタルテ!? なんで二人が....!?」

 俺は何故こんな事態が起きているのかわからず混乱していた。すると、浴槽に浸かっていた

 アスタルテの背中から薔薇の指先(ロドダクテュロス)が姿を見せていた。

 

「....第四真祖、いつまで見ているつもりですか? これ以上は、流石の私でも怒りますよ?」

「っ、わ、悪い! すぐに出る!」

 俺は咄嗟に身の危険を感じて風呂場から出た。

 

「ほ、ほんとに何が起きてるんだよ....」

 俺は脱衣所にある鏡を見てそう呟いた。

 

 

 



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蒼き魔女の迷宮 Ⅶ

「....色々と事情がよく呑み込めないのですが、取り敢えず叶瀬さんとアスタルテさんの

 お風呂を覗いたので自首しに来た、という事ですか?」

 現在、俺は姫柊の家のリビングで土下座をしていた。

 

「違う! いや違わないけど最大の問題点はそこじゃないだろ!?」

 姫柊の言葉に、俺は咄嗟にそう言い返した。

 

「でも、覗いたんですよね」

 姫柊は冷たい視線で俺を見下ろしていた。

 

「ア、アスタルテは湯船に浸かってたし、叶瀬はシャンプーの泡でほとんど....」

「でも、覗いたんですよね」

「....すいませんでした!」

 俺は姫柊の視線に恐怖を感じて再び頭を下げた。

 

「はぁ....」

「お、お粗末様でした....」///

「いや、お粗末って事は全然....」

「先輩?」

 俺がそう言った瞬間、姫柊は笑顔を浮かべながらそう言ってきた。だが、表情とは裏腹に

 言葉にはどこか怒りが込められていた。

 

「....な、何でもありません」

 俺は咄嗟にさっきの言葉を否定した。すると、姫柊は真剣な表情をしながら俺の前に正座した。

 

「....取り敢えず、先程の話を聞くに、先輩は自分の家のお風呂に入ろうとしたら私の家の

 お風呂に出た、というわけですね」

「あ、あぁ」

「....何故、先輩の家のお風呂と私の家のお風呂が繋がったのでしょうか」

 姫柊はそう呟くと考え込み始めた。

 

「....何だか、那月先生の空間転移みたいでしたね」

 すると、叶瀬がふとそう呟いた。

 

「えっ?」

「いえ、その....お兄さんの言っている事を考えているとワープみたいだなと....」

「教官の空間転移、ですか....」

「言われてみれば....確かに那月ちゃんの空間転移と似た様な感じはした様な....」

「....ですが、南宮先生は現在行方不明ですよ?」

「だよな....」

 そう話しながらしばらく考えていると、遠くの方から携帯の鳴る音が聞こえてきた。

 その携帯の着信音に、俺は聞き覚えがあった。

 

「先輩、誰かの携帯が鳴っていませんか?」

「....多分、この音は終夜の携帯だな。少し様子を見に行ってくる」

「でしたら私も行きます。叶瀬さんとアスタルテさんは少し待っていてください」

「分かりました」

「了解です」

 姫柊の言葉に頷いた二人を置いて行き、俺と姫柊は終夜の家の中に入っていった。そして、

 終夜の部屋に入り携帯を見た。携帯の画面には、煌坂と登録されていない番号から何件も

 電話が掛かっていた。

 

「この番号、誰の番号でしょうか?」

「少なくとも、俺のクラスの奴ではなさそうだな....」

 そう言っていると、登録されていない番号から電話が掛かってきた。

 

「....どうしますか?」

「....出るだけ出てみるか。もしかしたら、終夜の居場所を突き止める手掛かりになるかも

 しれないからな」

「....そうですね」

 姫柊は少し不安そうな表情をしながらも賛成してくれた。

 

「じゃあ、出るぞ」

 そう言って、俺は電話に出た。

 

「....もしもし」

『もしもし、終夜ですか?』

「えっ....?」

 電話の向こうからは、女の声が聞こえてきた。その声に、俺はどこか聞き覚えがあった。

 

『....? 今の声、もしかして古城ですか?』

「その声....お前、ラ・フォリアか!?」

「えっ!?」

 俺の声に姫柊は驚いていた。

 

『はい、そうですよ古城。それよりも、どうして古城が終夜の携帯に出たのですか?』

「いや、その....終夜の携帯が鳴ってたから取っただけなんだが....って、そうじゃなくて! 

 何でラ・フォリアが終夜の携帯に電話を掛けてるんだよ!」

『何でと言われましても....終夜は私の友人ですから。友人に電話を掛けるのは

 何かおかしいですか?』

「友人って....」

「(アイツ、一体どこで知り合ったんだよ....)」

 ラ・フォリアの発言を聞いて、俺はそう思った。

 

『それよりも、終夜はそこに居ますか?』

「....終夜なら今は行方不明だ。その代わり、姫柊が俺の横にいる」

『....やはりそうですか。でしたら、ビデオ通話に切り替えてください。少し、貴方達二人に

 話しておきたい事があります』

「話しておきたい事?」

『はい。事は一刻を争いますので』

 そう言われて、俺はビデオ通話に切り替えた。

 

『紗矢華、少し来てください』

「どうされましたか王女....って、暁 古城!? それに雪菜!」

 すると、携帯越しに煌坂が現れた。

 

「紗矢華さん!」

『雪菜! あなた大丈夫だったの!』

「大丈夫って....何がですか?」

『それは今からお話しします雪菜』

 そう言うと、ラ・フォリアは急に真剣な表情に変わった。

 

『今日の朝、私はアルディギアに帰国するつもりでした。ですが、空港のゲートを

 通過した瞬間、私と紗矢華は人工増設島(サブ・フロート)に飛ばされました』

人工増設島(サブ・フロート)に!? んなバカな! 島のほとんど反対側だぞ!」

『アンタはそう言うけど事実よ。その後も、何度も私と王女は空間を転移させられたわ』

 煌坂は冷静な表情でそう言い返してきた。

 

「紗矢華さん達は今どこにいるんですか?」

 すると、隣にいる姫柊が煌坂にそう聞いた。

 

『今はホテルの一室にいるわ。とりあえず、夜はここで過ごそうって話になったわ』

「そうですか....」

『さて、ではここから話すことが最も重要な部分です。これは私と紗矢華が立てた

 仮説なのですが、この謎の空間転移は魔力や霊力が関係してると思っています』

「魔力や霊力、ですか」

『えぇ。私や紗矢華の魔力は普通の人間とは比較にならないほど強力です。ですので、

 剣巫である雪菜、第四真祖である古城は十分に気をつけてください。そして、これは私からの

 お願いなのですが、夏音の事をどうかよろしくお願いします。彼女も私と同じくアルディギアの

 血筋を引いているので強力な魔力を持っています。ですので、二人のうちどちらかでも良いので

 夏音の護衛を頼みたいのです』

「叶瀬さんの護衛でしたら、既に南宮先生から手配されています。ですから、その心配は

 ご無用ですよ」

 ラ・ファリアの言葉に姫柊は落ち着いてそう返していた。

 

『そうですか。あの空隙の魔女の護衛でしたら安心ですね』

「とりあえずラ・フォリオ、色々とありがとな。お陰で終夜の行方不明の理由が

 わかった気がした」

『いえ、気にしないでください。....それと、念のために終夜の携帯を持っていてください。

 何かあればこちらから連絡させていただきます』

「あぁ、わかった」

『それでは』

『暁 古城! 雪菜に変な事したらタダじゃおかないわよ!』

 煌坂がそう言うと電話は切れた。

 

「....とりあえず、伊吹先輩は紗矢華さん達と同じように謎の空間転移に巻き込まれた、

 という見解で良さそうですね」

「あぁ。それと、さっきの風呂場の件もこれと同じみたいだな」

「えぇ....」

 すると、姫柊は突然こんな事を聞いてきた。

 

「....先輩。伊吹先輩は、一体何者なんでしょうか」

 

 

 〜その頃〜

 

 凪沙side

 

「凪沙ちゃん、中学生にしては結構胸大きいよね」

「そ、そんな事ないよ! ユウちゃんの方が大きいじゃん!」

 夕食を食べ終わった私はユウちゃんとお風呂に入っていた。

 

「それに身長も高いし....私もユウちゃんぐらいの身長が欲しいよ」

「大丈夫。高校生になったら凪沙ちゃんも伸びるって」

 そうして、色々と話しているとユウちゃんがこんな事を聞いてきた。

 

「そういえば凪沙ちゃん、好きな人とか出来た?」

「えっ!?」

 私はユウちゃんの言葉に固まった。

 

「さぁさぁ。素直に言いなって」

「べ、別に好きな人はいない....」

「シュウ君」

「っ!?」

 ユウちゃんの思いがけない単語に私の肩は震えた。

 

「やっぱり」

「な、何の事かな〜....」

 私はしらを切ろうとしたが....

 

「凪沙ちゃん、シュウ君の話しをしてる時すっごく笑顔だったよ。まるで恋する乙女

 みたいにね」

「う、うぅ....」///

 そう言われて、私は顔が赤くなり鼻まで湯船に浸かった。

 

「やっぱり、凪沙ちゃんはわかりやすいね」

「そ、そんなはっきり言わないでよ! 私も少しは気にしてるんだよ!」

「あはは、ごめんごめん。それで、凪沙ちゃんはシュウ君に告白とかしないの?」

「こ、告白!?」///

 ユウちゃんの言葉に、私の顔はさっきと比べ物にならない程真っ赤になった。

 

「シュウ君の事が好きなんでしょ? だったら告白しないと。じゃないと、他の人と

 付き合っちゃうかもしれないよ」

「そ、それは....そうかもしれないけど....」

「チャンスがある時に告白した方が良いと思うよ。じゃないと、二度とそのチャンスが

 訪れないかもしれないからね....」

 そう言ったユウちゃんの目は、どこか悲しそうな目をしていた。

 

「....ユウちゃん?」

「っ! ....ごめん。今のは忘れて」

「う、うん....」

「....そろそろ出よっか。明日も早いからね」

 ユウちゃんはいつもの様子に戻ってそう言った。

 

「....そうだね」

「(ユウちゃん、何であんな悲しそうな目をしてたのかな....)」

 私はユウちゃんの目が気になったが、それ以上深くは聞かなかった。

 

 



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蒼き魔女の迷宮 Ⅷ

「ふぅ....」

「(とりあえず、夏音の方は安心ですね。後は終夜の行方ですが....)」

 一先ず、古城と連絡して夏音の事を頼んだ私は終夜の事を考えていた。すると....

 

「あの、王女....少しよろしいでしょうか」

 何か、色々な感情が混ざった様な表情をした紗矢華が声をかけてきた。

 

「何ですか紗矢華?」

「王女はその....伊吹 終夜の知り合いなのですか....?」

 紗矢華はどこか不安そうな表情でそう聞いてきた。

 

「....えぇ、そうですよ。それがどうかしましたか?」

「っ! い、いえ! その....王女と終夜はどういった関係なのかと気になったもので....」

「終夜との関係ですか....」

 私は少し考えてこう言った。

 

「簡単に言えば、私の婚約者....」

「え....」

 そう言った瞬間、紗矢華の表情はショックを受けた様な表情になった。そして、目には

 少し涙が溜まっていた。

 

「と、というのは冗談で....終夜は私の個人的な友人ですよ」

 私は慌ててそう言った、すると、紗矢華は少し落ち着いた様な表情に変わった。

 

「そ、そうですか....! 良かった....

 紗矢華は小さな声でそう言っていたが、私の耳には聞こえていた。

 

「紗矢華も終夜の事を知っているのですか?」

「は、はい。少し前に知り合ったばかりですが....」

「そうですか....その時に、終夜に惚れましたか?」

「ふえっ!?」

 そう言った瞬間、紗矢華の顔は一気に真っ赤になった。

 

「わ、私がアイツの事を!? そ、そんな事は....」///

 紗矢華は慌てた様に否定しようとしているが、顔は真っ赤で、表情は完璧に恋する

 女の子だった。

 

「紗矢華、それだけ顔を赤くしていたら言い逃れはできませんよ」

「う、うぅ....」///

 そう言うと、紗矢華は顔を伏せた。

 

「(ふむ....やはり、終夜はモテるのですね。男性が苦手な紗矢華が恋をしたとなると、他にも

 私のライバルが多そうですね)」

 私は紗矢華の様子を見ながらそう考えていた。

 

「(....まぁ、それは後で考えるとして。一先ず紗矢華を落ち着かせましょうか)」

 私はベッドで悶えている紗矢華を見て、落ち着かせるためにこう言った。

 

「紗矢華、別に恋をするという事は恥じる事ではありませんよ。女の子だったら恋の一つや

 二つするものです」

「そうなのでしょうか....」///

「えぇ。私だって、現在進行形で恋をしていますから」

「王女が恋を....その人ってもしかして....」

「えぇ、終夜です。だから、紗矢華とはライバル関係になりますね」

「っ....!」

 すると、紗矢華は悲観した様な表情になった。

 

「安心してください紗矢華。別に終夜とはまだ友人関係です。婚約関係ではないので

 紗矢華が終夜とお付き合いしても問題はありません」

「それは....」

「紗矢華が何もしないというなら、私は終夜を攫っていきますが?」

「っ! そ、それはダメです!」

 私の言葉に、紗矢華は強くそう言い返した。

 

「でしたら、お互いに終夜に振り向いてもらえるように頑張りましょう。どちらかが

 選ばれた時に少しでも後悔を残さないように」

「王女....」

「お互いに頑張りましょうね、紗矢華」

「は、はい!」

 そう言うと、紗矢華は普段の様子に戻った。

 

「(ふぅ....何とかなりましたね)」

 私は紗矢華の様子を見て、ようやく落ち着く事ができた。

 

「紗矢華、明日に備えて今日はもう寝ましょう。少しでも体力を回復しておかないと、

 いざという時に力を発揮できませんからね」

「そ、それもそうですね」

 そう言って、私達はベッドに入った。すると、紗矢華はすぐに眠ってしまった。

 

「....」

 そして、私は紗矢華を見てこっそりある事をした。

 

 〜〜〜〜

 終夜side

 

「さて、現状報告を始めるぞ」

 俺は焚き火の炎の近くに座って召喚(コール)していたユニット達にそう言った。

 

「まずは結界組。結界について何か分かった事は増えたか?」

 すると、マヨロンが立ち上がった。

 

『はい。この結界は絃神島で最も魔力量が多い者が転移させられると分かりました。

 そのため、我が先導者(マイ・ヴァンガード)だけがこの島に転移させられたのだと思います』

「そうか....」

「(だから俺だけがここに転移させられたのか....)」

 俺は一人、心の中でそう思った。

 

『そして、現在は結界の解析作業に入っております。ですが、あまりにも結界の魔術式が

 めちゃくちゃなため、二割ほどしか解析が終わっておりません』

「そうか....」

「(二割か....思ったより時間がかかりそうだな)」

 そう思った俺はカードを展開して二枚のカードを手に取った。

 

召喚(コール)、超原子の合いの子、虚数領域のホロウゲイザー」

 そして、俺が地面にカードを投げると、二体のユニットが現れた。

 

「お前達、マヨロンのサポートで結界の解析を進めてくれ」

『『了解しました』』

 そう言って、二人は島の端っこの方に向かっていった。

 

「増援は出しておいた。引き続き解析を進めてくれ」

『了解しました。では』

 マヨロンはそう言うとこの場から消えた。そして、俺は記憶の書き換えを行なっていた

 四人の方を向いた。

 

「さて、じゃあ次は書き換え組。何かわかったか」

『では私が』

 そう言って前に出て来たのはマゼラニックストリームだった。

 

『記憶の書き換えでわかった事なのですが、LCOの目的は監獄結界にいる仙都木 阿夜の

 解放でした』

「(やっぱりか....)」

 俺は予想通りだったので特に何も言わなかった。

 

『そして、この件はある人物が先導している事がわかりました』

「ある人物?」

『はい。....その者の名は、仙都木 優麻』

「(優麻って、まさか!?)」

 俺は優麻という名前に、一つ心当たりがあった。

 

『そして、その優麻という者は第四真祖、暁 古城の肉体を奪い、第四真祖の魔力を利用して

 監獄結界の封印を解こうとしているようです』

「....マジかよ」

「(もう色々と最悪だ....)」

 マゼラニックストリームの言葉を聞いて、俺は頭を押さえた。

 

『既に仙都木 優麻はこの島に侵入しています。現状、この島に封じ込まれている先導者様に

 できることは殆ど無いかと....』

「言わなくてもわかってるっての....」はぁ

 俺は何もできない事への苛立ちでため息が出た。

 

『先導者様が出来る事を強いて言えば、出来るだけ睡眠をとって休憩される事かと....』

「....お前らが働いているってのに寝れるかよ」

『我々の事は気になさらないでください。先導者様は少しでも休んで魔力を回復させた方が

 良いと我々は考えております』

 その言葉に、記憶の書き換えを行なっていた他の三体は頷いていた。

 

『島に戻っても、LCOの構成員はまだ潜んでいます。それに、先導者様は今日一日我々を

 使役しています。いくら我々を召喚する魔力が少ないからといっても、我々が力を使えば

 先導者様の魔力はどんどんと減っていきます。先導者様も、自分の魔力がかなり減っている

 という事に気づいていますよね?』

「(....何も言えねぇ)」

 そう言われて、俺はマゼラニックストリームの視線から目を逸らした。

 

『戦うにも、我々を使役するにも魔力は必要です。先導者様の呪縛(ロック)している魔力を解放しない

 ためにも、ここはどうか』

 そう言って、マゼラニックストリームは頭を下げてきた。それに続いて、他の三体も頭を

 下げてきた。その様子を見て、俺はカードを展開して二枚のカードを手に取った。

 

「....召喚(コール)、無双の星輝兵(スターベイダー) ラドン、飛将の星輝兵(スターベイダー) クリプトン」

 そして、俺は二枚のカードを上空に投げると、ロボットの様なユニットが二体現れた。

 

「お前ら、俺は少し寝る。その間、周囲の警戒を頼む」

 そう言うと、現れた二体のユニットは頷いた。

 

「じゃ、俺は寝るから。お前達はカードに戻っておけ」

 その言葉を聞き、四体のユニットは頷いてカードに戻った。そして、四体のユニットが

 いた所には魔導書が積まれていた。

 

「(....これ枕にして寝るか)」

 そう思い、俺は丁度良さそうな魔導書を選んで枕にして眠りについた。

 



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蒼き魔女の迷宮 Ⅸ

「何者って....どういう意味だよ」

 俺は姫柊の言葉にそう聞き返した。

 

「私がこの島に来て数ヶ月が経ちました。そして、この島で沢山の事件が起きましたよね」

「あ、あぁ....」

「その事件の全てに、黒輪の根絶者(デリーター)は必ずと言って良いほど関与していました。そして、

 私は思ったんです。....もしかしたら、伊吹先輩が黒輪の根絶者(デリーター)じゃないのかと」

「なっ!?」

 姫柊の言葉に、俺は絶句した。

 

「一応、そう思った根拠はいくつかあるんです。まず、ロタリンギアの宣教師の事件。伊吹先輩が

 私達の元に来て宣教師の目的を私に聞いてきたんです。そして、私達が向かった時に、そこには

 黒輪の根絶者(デリーター)がいました」

「で、でもそれは、黒輪の根絶者(デリーター)もおっさんを追いかけてたんじゃ....」

「確かにそう考える事もできます。私もその線を考えましたから。....では、ナラクヴェーラの

 件はどうでしょうか? ナラクヴェーラとの戦闘の際、伊吹先輩は私にこの場を任せると言って

 何処かに行ってしまいました。そして、それと同時に黒輪の根絶者(デリーター)が現れた....」

「....」

 姫柊の言葉を、俺は黙って聞くしかできなかった。

 

「そして、この前の模造天使(エンジェル・フォウ)です。あの時、私達は伊吹先輩を行方不明扱いにしていました。

 ですが、気づけば伊吹先輩は帰っていました。私達が無人島から帰って来た時と同じ日に....

 いくらなんでも、おかしいとは思いませんか? それに、伊吹先輩がいる時に黒輪の根絶者(デリーター)

 一度として現れてはいません」

「....確かに、姫柊の言う通りだな。だけど、偶然って線も考えられないか?」

 俺は色々と思案した結果、そう言ってみた。

 

「それを言われると何も言えません。では、少し視点を変えてみましょうか」

「視点?」

「先輩、ロタリンギアの宣教師と初めて出会った際、黒輪の根絶者(デリーター)は私達の名前をフルネームで

 呼んでいたのを覚えていますか?」

「あぁ、覚えてるが....」

「何故、黒輪の根絶者(デリーター)は私達の名前をフルネームでわかっていたのでしょうか? あの時、先輩は

 私を姫柊、私は先輩を先輩としか呼んでいません。なのに、黒輪の根絶者(デリーター)はフルネームで

 呼んだ。これはつまり、私達二人と接点のある人が限られてきませんか?」

「言われてみれば....」

「あの時に、私と先輩、どちらの名前もフルネームで知っていたのは伊吹先輩、凪沙ちゃん、

 ぐらいです。そして、あの時の声は男でした。つまり、消去法でいくと伊吹先輩になります」

「確かにそうだな....」

 俺は過去の記憶を思い出しながらそう言った。

 

「そして、伊吹先輩の持つ力も気になります」

「終夜の力って....あの召喚してる力か?」

「はい。あれ程強力な力を持っているのに噂の一つが無いのは不思議で仕方がないんです。

 それに、初めて会った時に伊吹先輩は私の雪霞狼を素手で掴みました。戦いの訓練を

 受けてきた私の槍を素手ですよ。よほど戦い慣れをしていないとできません」

「確かにあれは凄かったな....」

 俺は姫柊の初めて会った時の事を思い出した。

 

「そして、先程の電話....言い方はアレですが、ただの一般人である伊吹先輩がどうやって

 ラ・フォリアと知り合ったのでしょうか?」

「それは....確かにそうだな。ラ・フォリアは王族だし....もしかしたら、昔にアルディギアに

 住んでたとか?」

「....そんな話、聞いたことあります?」

「いや、ねぇけど」

「じゃあ何で言ったんですか....」はぁ

 姫柊は呆れた様にため息をついた。

 

「というか、先輩は伊吹先輩の過去について何か知らないんですか?」

「終夜の過去か....アイツ、昔の話されるの嫌そうだからな....俺も凪沙もあんまり聞かない様に

 してるんだよ」

「....そうなんですか。でしたら聞くのは避けた方が良さそうですね」

「そうだな。....てか姫柊、俺も姫柊に一つ聞きたい事があるんだが良いか?」

「何でしょうか?」

「....もしも、もしも本当に終夜が黒輪の根絶者(デリーター)だったらどうする気なんだ?」

「っ....!」

 そう言うと、姫柊は黙ってしまった。

 

「....獅子王機関の上司に報告か?」

「....それは分かりません。伊吹先輩の目的次第では報告せざるを得ないかもしれませんが、

 出来ることならそうならない事を祈っています」

「....そうか」

 そう言うと、俺達はお互いにしばらく黙っていた。そして、その沈黙を破ったのは俺だった。

 

「....終夜が帰ってきたら、聞いてみようぜ。それで全部ハッキリさせよう。アイツが、

 黒輪の根絶者(デリーター)か否か」

「....先輩」

「親友がいつまでも疑いかけられるのは、俺も嫌だからな。それに、もしも本当にアイツが

 黒輪の根絶者(デリーター)なら俺はアイツに礼をちゃんとしねぇと。この数ヶ月で何回も助けてもらって

 きたからな」

「それは....そうですね。でしたら、私もお礼を言わないとダメですね」

「だな。じゃあ、明日に備えようぜ。ラ・フォリアが言ってた事も気になるしな....」

「それもそうですね....先輩はユウマさんと凪沙ちゃんの事、お願いしますね」

「あぁ。そっちも頼んだ」

 俺と姫柊はお互いにそう言うと、それぞれの家に帰って行った。そして、俺が家に帰ると、

 既に家の中は真っ暗だった。

 

「凪沙ー....もう寝たのか?」

「凪沙ちゃんならもう寝たよ」

 すると、何処からともなくユウマが現れてそう言った。

 

「お、脅かすなよユウマ....てか、その格好なんだ?」

 俺の前に立っているユウマの姿は、どこかコスプレ感がした。

 

「明日着る魔女のコスプレ。凪沙ちゃんに貰って試着してたんだ」

「そうか。結構似合ってるな」

「ありがとう古城」

 そうして、俺とユウマはしばらく話し込んでいた。すると、突然ユウマは俺に近づいてきた。

 

「....やっぱり、古城は優しいね」

 そう言った瞬間、ユウマは俺の肩を掴んだ。

 

「ユウマ....?」

 すると、突然ユウマは俺にキスをしてきた。

 

「っ....!?」

「ごめんね古城。君の優しさ、利用しちゃって」

「ユウ、マ....」

 ユウマの呟きが聞こえた瞬間、俺は謎の睡魔に襲われた。そして、俺が最後に見たのは、

 ユウマの悲しそうな顔と、謎の蒼い鎧騎士だった。

 

 



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蒼の魔女の迷宮 Ⅹ

 紗矢華side

 

「ん....もう朝....って.....!?」

 カーテンから射す朝陽で、私は目が覚めた。その瞬間、私は自分の身体に違和感を

 感じた。その違和感の正体は、自分が服を一枚着ていない事だった。

 

「な、何で....!? 寝る時に私は服を着てたはずなのに....」

「ん....」

 私の慌てた声が聞こえたのか、隣で寝ていた王女も目を覚ました。そして、何故か王女も

 服を一枚も着ず、下着姿だった。

 

「おはよう紗矢華。昨夜のあなたは、とても情熱的でしたね」

「ちょっ....!? な、何言ってるんですか! それだと色々と誤解が起きるんですけど!」

 私はブランケットを身体に纏ってベッドから出た。

 

「あら? 日本では同じベッドで朝を迎えた人に対してこう言うと侍女から教わったのですが....

 違いましたか?」

「違います! そ、そういうのは自分が好きな人に対して言う事で....」

「あぁ....! では、私達の場合は終夜に言えば良いのですね!」

「っ!?」

 王女の言葉に私の思考は一瞬停止した。

 

「どうしましたか紗矢華? ....もしかして、終夜に向かって自分が言っているのを

 想像しましたか?」

「なっ....!?」///

 そう言われた瞬間、私の顔は一気に真っ赤になった。

 

「あらあら。図星でしたか」

「ち、違います! へ、変な誤解をしてください!」///

 私はそう言うが、顔が赤くなっていくのは抑えられなかった。

 

「ふふふ....まぁそれは置いておきましょうか」

 そう言いながら、王女は充電器に挿していた携帯を確認し始めた。

 

「時に紗矢華。今回のこの事態、どう考えていますか?」

 王女は携帯の確認を終わらせると、急にそう聞いてきた。

 

「こ、今回の事態ですか....?」

 私はこれまでの事を考え、それを纏め上げてこう言った。

 

「....その、悪ふざけにしてはあまりにも度が過ぎているものかと」

「紗矢華もそう考えていましたか」

「と言うと、王女もですか?」

「えぇ。恐らく、今回のこの空間異常は本来の目的ではないのかもしれません」

「本来の目的ではない、ですか?」

 王女の言葉に、私は疑問を持ちながらそう言った。

 

「えぇ。恐らくですが、空間異常はただのブラフで、本来の目的は別のものかと....」

 すると、突然王女の携帯が鳴った。王女は携帯を手に取り画面を見ると、なぜか笑顔を

 浮かべていた。

 

「紗矢華、どうやら今日は一段と忙しくなりそうですよ」

「えっ....?」

 

 

 〜〜〜〜

 終夜side

 

「....朝か」

 陽の光で俺は目覚めた。空は随分と晴れており、気温としては丁度良いぐらいだった。

 俺は周りを見ると、ラドンとクリプトンが周囲を警戒していた。

 

「お前達、見張りご苦労だったな」

 俺が二体に向かってそう言うと、二体は頷きカードになって俺の手元に戻ってきた。それを

 カードの束に戻すと、俺はマヨロンの気配がする方に歩いていった。そして、海岸の近くで

 マヨロンが結界に向かって何かしているのが見えた。

 

「マヨロン」

『っ! 我が先導者(マイ・ヴァンガード)。おはようございます』

「おう。....結界の方はどうだ」

『あと一時間もすれば解除が終わります。それと我が先導者(マイ・ヴァンガード)、黒門にコレを』

 そう言うと、マヨロンは謎の数式が書かれた紙を渡してきた。

 

「コイツは?」

『絃神島に入るための空間転移に必要な演算です。結界を力づくで破壊しても良いですが、

 その場合、図書館の者に我が先導者(マイ・ヴァンガード)の存在が気づかれ妨害を受ける可能性があります。

 ですので、ここは図書館に気付かれずに絃神島に戻り、結界を作り出している魔導書を

 超遠距離からの狙撃で破壊した方が良いと思いましたので』

「そうか....すまないな」

 俺はそう言って演算が書かれた紙をポケットに入れた。

 

『いえ。結界の解除が終わり次第、こちらから報告させていただきますので、我が先導者(マイ・ヴァンガード)

 それまで魔力の回復に専念してください』

「あぁ。じゃあ、そっちは任せたぞ」

 そう言って、俺は自分がさっきまで寝ていた所に戻った。そして、カードを展開して召喚する

 ユニットの選抜を始めた。

 

 

 

 

 

 

 



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蒼き魔女の迷宮 Ⅺ

「私と初めて会ったのは何処でしたか?」

「学校の屋上だ。凪沙と一緒に猫の貰い手を探してたよな」

「正解でした....」

 朝、私の家ではユウマさんになった暁先輩の尋問が行われていた。

 

「質問。私があなたと初めて会った場所は?」

「倉庫街だ。ロタリンギアの宣教師のオッサンといたのをよく覚えている」

「....ピンポン」

「では、あの子の名前を覚えていますか」

 私は雪霞狼が入っているギターケースに付いているネコマたんを指差した。

 

「確か....マネキねこんだったか? 俺がゲーセンで取ったやつだろ?」

「名前はネコマたんです....とりあえず、先輩だという事は分かりました」

「本当か!」

「えぇ。こんないい加減な人は先輩しかいませんから」

「ぐっ....ひでぇ言われようだなおい....」

 私の言葉に、先輩は少し傷ついているようだった。

 

「さてと....まず、どうして先輩の精神が優麻さんの身体に入っているんですか。それと、

 先輩の身体は今何処に?」

「それがわかんねぇんだよ。普通に考えたら俺の身体はユウマがいるはずなんだが、

 あいつ何処にも見当たらなくてな....」

「自発的に出ていった....いや、それよりも私の式神に気付かれずにどうやって....」

 私は色々と考えたが、これといって確証を持てたものは無かった。

 

「何か、こうなったキッカケになりそうな事は無かったんですか?」

「キッカケ....そういえば、昨日アイツにキスされた時に意識が消えたような....あと、なんか

 蒼い何かの影を見たような....」

 その言葉を聞いた瞬間、私は何故かイラッとした。

 

「....優麻さんと、キスしたんですか」

 そして、気づけば私は雪霞狼を握りしめていた。

 

「ちょ、ちょっと待て姫柊! 今の俺の身体はユウマのだぞ!」

「っ! そういえばそうでしたね....」

 私はその言葉を聞いて、着ているパジャマの裾を押さえた。私は着替えの途中で出たため、

 下着とパジャマの上以外は着ていない状態だった。

 

「....先輩、覚悟を決めてくださいね」

「ちょっ....!?」

 私のその発言の後、マンションに可愛らしい悲鳴が響き渡った。

 

 〜〜〜〜

 

「....本当に誰もいませんね」

 波朧院フェスタの衣装に着替え、雪霞狼を持った私は先輩の家に来ていた。先輩の家には

 優麻さんも、凪沙ちゃんもいなかった。

 

「ユウマの荷物も消えてるか....アイツ、一体どこに行ったんだ....?」

「先輩、この机の上にあるオムレツは凪沙ちゃんが作った物ですか?」

 私は机の上に置かれてある巨大なオムレツを見ながらそう言った。

 

「あぁ。いつも凪沙が作ってるやつだからな」

「そうですか」

「(朝ご飯の準備をしているという事は誰かに連れ去られたわけではなさそうですね....)」

 私は今と、これまでの状況を思い返しながら、一つの仮説が浮かび上がった。

 

「....先輩、おおよその事情はわかりました。それと、先輩が見たという蒼い影の正体も」

「えっ?」

「これはまだ仮説の段階ですが、ユウマさんがこの空間異常を引き起こしているのでは

 ないかと、私は考えています」

「アイツが!?」

 私の言葉に、先輩はそう叫んで驚いていた。

 

「まだ仮説ですよ。それに、もしこの仮説が本当なら、空間異常はただのブラフ。本当の

 目的は....」

 私は先輩を指差してこう言った。

 

「先輩の身体です」

「か、身体が目的って....えっ!?」

 そう言うと、先輩は自分の今の身体を両腕で押さえた。

 

「ち、違います! 何を想像してるんですか!?」

「お前が言い出したんじゃねぇか!」

「だからそうではなくて! 先輩の身体というのは第四真祖の肉体という意味です!」

 そう言うと、先輩の表情は驚愕といった表情に変わった。

 

「な、何でアイツがそんな事を....」

「そうとしか仮説が思い浮かばないんです。....こう言っては失礼ですが、優麻さんみたいに

 可愛らしい人が、わざわざ先輩なんかの身体と入れ替わる理由がありますか?」

「本当に失礼だな....」

 先輩はそう呟くと考え込み、何かを思いついたのか私にこう聞いてきた。

 

「てか、吸血鬼の身体ってそう簡単に奪えるのか?」

「今回の場合は少し違うと思います。おそらく、優麻さんは空間を歪めたんです。空間同士を

 接続して、先輩の五感と優麻さんの五感を入れ替えたんだと思います。その結果、先輩は

 自分の身体を動かしているつもりで優麻さんの身体を動かしているんです」

「....それってつまり、電化製品の配線を入れ替えた様な感じか?」

 先輩は私の言葉を聞き、少し考え込んでそう言ってきた。

 

「簡単に言えばそういう事です」

「でも、それってずっと空間を制御し続けるって事だよな。そんな事、ユウマができるって

 言うのか?」

「いえ....空間制御は超高等魔術です。ただの人間には不可能ですが、先輩は空間制御を

 得意としている人物を一人知っていますよね」

「まさか....!」

 先輩は私の言葉に再び驚愕の表情を浮かべた。

 

「....優麻さんの正体は魔女です。....それも、南宮先生と同じタイプの」

 

 

 

 

 



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蒼き魔女の迷宮 Ⅻ

我が先導者(マイ・ヴァンガード)

 一時間後、俺の元にマヨロンがやって来た。

 

『ご準備の方はよろしいでしょうか?』

「あぁ」

『では、こちらへ』

 そう言って、俺はマヨロンに連れられ海岸に着いた。そこには、マヨロン以外の結界を

 解析していたユニット達が揃っていた。

 

我が先導者(マイ・ヴァンガード)。黒門にあの紙を』

「あぁ」

 俺はマヨロンに渡されていた紙を黒門を開く者に渡した。

 

『では黒門、後のことは全てあなたにお任せします。我が先導者(マイ・ヴァンガード)、ご武運を』

 マヨロンがそう言って頭を下げると、黒門を開く者以外の結界を解析していたユニット達も

 頭を下げた。そして、カードに戻り俺の手元に戻ってきた。

 

『それでは我が先導者(マイ・ヴァンガード)、結界の解除をいたしますがよろしいでしょうか?』

「あぁ。頼む」

 そう言うと黒門を開く者は頷き結界に手をかざした。すると、結界は音を立てて割れた。

 

召喚(コール)星輝兵(スターベイダー) シニスター・イーグル」

 俺は結界が割れるとシニスター・イーグルを召喚し、黒門を開く者とその上に乗った。

 

「頼むぞ、シニスター・イーグル」

 そう言うと、シニスター・イーグルは鳴き声をあげて絃神島に張られている結界の手前まで

 俺達を運んだ。

 

「さて....召喚(コール)、獄門の星輝兵(スターベイダー) パラジウム、掃射の星輝兵(スターベイダー) ルテニウム、

 星輝兵(スターベイダー) ボルトライン、星輝兵(スターベイダー) ルイン・マジシャン、

 抜刀の星輝兵(スターベイダー) ボーリウム、撃滅の星輝兵(スターベイダー) タングステン、

 凶爪の星輝兵(スターベイダー) ニオブ、沈黙の星輝兵(スターベイダー) ディラトン、混濁の星輝兵(スターベイダー) アイアン、

 猛攻の星輝兵(スターベイダー) ドブニウム、降着円盤のレディバトラー、真空崩壊のレディアタッカー」

 俺はカードを展開させ、そこから十二枚のカードを手に取り空中に投げた。

 すると、投げた場所に魔法陣が現れ十二体のユニットが召喚された。

 

「お前達、手筈通り頼むぞ」

 俺がそう言うと、ユニット達は首を縦に振った。

 

「黒門」

『はい』

 黒門を開く者は結界の前に三つのゲートを創り出した。そして、そのゲート一つに四体ずつ

 ユニットが入っていった。

 

「ライド、ディープスコルピウス」

 そして、それを見届けた俺はディープスコルピウスにライドした。

 

我が先導者(マイ・ヴァンガード)、ご武運を』

 そう言うと、黒門を開く者は俺の目の前にゲートを創った。

 

『あぁ。お前もご苦労さん』

 そう言って、俺はゲートの中に入った。俺がそのゲートを抜けると、抜けた先は絃神島にある

 とある増設人工島(サブフロート)だった。俺はその場から浮かび上がり、キーストーンゲートに向かって弓を

 構えてキーストーンゲートの屋上を見た。その屋上には三人の人物がいた。

 そのうちの二人は、俺が昨日倒した魔女と別の色のローブを纏った女達だった。そして、

 その場にいる最後の一人は、吸血鬼らしき仮装をした古城だった。

 

『肉体は既に奪われてるのかよ....』チッ

 俺は小さく舌打ちをしてそう呟くと、エネルギー体の巨大な矢を構えた。

 

『(これ以上、奴等の好きにさせてたまるか)』

 俺はそう思いながら矢に魔力を込めた。すると、矢の先端は赤く光り出した。そして、俺は

 古城の姿をした仙都木 優麻が操っている魔導書に狙いを定めた。

 

Dreadful Meteor(戦慄の流星)!』

 俺はそう叫び、魔力が込められた矢を放った。矢は目にも留まらぬ速さで、真っ直ぐ魔導書に

 向かって飛んで行った。俺はそのまま魔導書に当たると思っていたのだが、魔導書がある

 キーストーンゲートの屋上に入った瞬間、突如大爆発を起こした。

 

『っ!?』

『(何で急に爆発が....!)』

 俺が驚いていると、爆発した場所から傷だらけの巨大な蛇が現れた。

 

『アイツは....!』

 そこにいた蛇は、ヴァトラーの眷獣の一体だった。その眷獣の足元には出血している

 ヴァトラーがいた。

 

『(あの野郎....!)』

 俺はすぐに二発目を放とうとしたのだが、キーストーンゲートの屋上は謎の触手の様なものに

 覆われた。そして、同時に特区警備隊(アイランド・ガード)の軍用機がキーストーンゲートの上空に現れた。

 

『(チッ....これじゃあ攻撃ができねぇ)』

 ディープスコルピウスの矢は、飛んでいる間にも強力な力を持っている。矢が通り過ぎた

 だけでも、周囲への影響がとてつもない。

 

『(こうなったら、直接乗り込むしかねぇか)』

 そう思い、俺は地面に降りてカードを展開させ、一枚のカードを手に取った。

 

『ライド、勅令の星輝兵(スターベイダー) ハルシウム』

 俺は勅令の星輝兵(スターベイダー) ハルシウムにライドし、右手にエネルギー波を纏った刀を手に持った。

 

『(急がねぇと....)』

 俺は辺りにある建物に跳びながらキーストーンゲートの屋上に急いだ。

 

 〜その頃〜

 

「今度はこっちだ!」

「はい!」

 姫柊と仙都木 優麻の姿をした古城は絃神島を走り回っていた。

 

 

 

 

 




投票の期限は観測者達の宴編までにしようと思っています。


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蒼き魔女の迷宮 XIII

『(特区警備隊(アイランド・ガード)の軍用機じゃ話にならねぇか)』

 キーストーンゲートに向かっている途中、謎の触手によって落とされていく軍用機を

 見てそう思った。

 

『(ここは正面突破あるのみか....)』

 俺はそう考え、キーストーンゲートに一番近いビルに着地して刀に魔力を込めた。

 すると、刀のエネルギー波は凝縮され、赤く輝いていたエネルギー波は濃い赤色に変色した。

 俺はその刀を構えると、軍用機に向かって攻撃した触手を足場にして、キーストーンゲートの

 屋上を覆った触手の一部分を斬り裂いた。斬り裂いた部分は綺麗に消滅し、俺はその隙間を

 潜ってキーストーンゲートの屋上に入った。

 

「なっ!?」

「私達の守護者を!?」

 屋上に入ると、黒と緋色の魔女が触手を消滅した事に驚いていた。俺はその二人の魔女に

 見覚えがあった。

 

『(こいつ等、十数年前のアッシュダウンの魔女か)』

 俺の目の前にいる魔女どもは、十数年前に俺が北欧にいた際に、謎の魔術を使っていた

 魔女どもだった。

 

『(つか、コイツらは後回しだ。今は....!)』

 俺は魔導書を操っている古城の姿を仙都木 優麻に向かって走り出した。

 

「っ、守護者達よ!」

「そいつを止めろ!」

 二人の魔女はそう叫んで触手を操り、俺の道を遮ろうとしてきた。それを俺は右手の刀で

 斬り裂いたり、蹴飛ばして触手を消滅させていった。そして、後数メートルで届くといった

 その瞬間....

 

「“徳叉迦(タクシャカ)”!」

 突如俺の目の前に緑色の蛇が現れた。その蛇は仙都木 優麻への道を防ぎ、俺に攻撃を

 仕掛けてきた。

 

『チッ....!』

 俺はその攻撃を躱して、一度距離を取った。

 

『邪魔をする気かヴァトラー』

「あぁ。黒輪の根絶者(デリーター)、今、君に邪魔をされるのはボクにとっては非常に困るんだよ」

「こ、黒輪の根絶者(デリーター)ですって!?」

「そんな馬鹿なっ!? 黒輪の根絶者(デリーター)は彼女らが....!」

『あの雑魚どもなら全員ぶっ飛ばした』

「「何ですって!?」」

 俺の言葉に、アッシュダウンの魔女どもは驚いて声を上げた。

 

「....やはり、あの数では足止めが限界か」

 すると、突然古城の姿をした仙都木 優麻がそう言った。

 

『随分とやってくれたな、仙都木 優麻』

 俺は右手に持った刀を向けてそう言った。

 

「僕の名前も把握済みか....」

『雑魚どもの記憶を覗かせてもらったからな。お前の目的も、既に把握済みだ』

「....だと思った。でも、だからといってここで降参するわけにはいかない」

 そう言うと、仙都木 優麻は魔導書に魔力を込めた。すると、魔導書の光は強くなっていった。

 俺はその光が強くなった魔導書を破壊しようとしたのだが、突然横から魔力の気配を感じ取り

 魔力を感じた方向を見た。

 

『(あ....)』

 そこから現れたのは、コスプレをした姫柊と、仙都木 優麻の姿をした古城だった。

 

「古城....それに姫柊さん....」

「優麻!」

「アルデアル公に、アッシュダウンの魔女....それに、そこにいる人は....」

「姫柊さん。そこにいる剣士は黒輪の根絶者(デリーター)だよ」

「....やはり、そうですか」

 姫柊は俺の事を見極めるかの様な目で俺を見てきた。

 

「優麻! 俺の体を返してくれ!」

「ああ、すぐに返すよ。でも、少しだけ待ってくれないかな。もうすぐ見つけられそうなんだ」

「見つけるって....何のことだ?」

「僕の母親だよ。まだ一度も会ったことはないけどね」

「母親....」

『変に同情するなよ暁 古城。仙都木 優麻の母親が見つかればこの島は惨劇と化すぞ』

 俺は古城に同情をさせないようにそう言った。

 

「どういう意味だよ」

『仙都木 優麻の母親はLCOの総記(ジェネラル)で“書記(ノタリア)の魔女”。十年前、この島を壊滅させようとした

 魔女だ』

「なっ!?」

「それって....もしかして闇聖書事件の....」

『その通りだ姫柊 雪菜。奴の母親はその事件の首謀者、仙都木 阿夜だ』

 俺はそう言うと、地面を蹴って一気に仙都木 優麻が持っている魔導書を斬ろうとした。

 だが、それは再びヴァトラーに邪魔をされた。

 

『いい加減しつこいぞヴァトラー!』

「こんなチャンス、二度とないからね! いくら君でも邪魔はさせたくないんだよ!」

『テメェ....』

「それよりも、あっちは良いのかい?」

 ヴァトラーはそう言うと俺の後方を指差した。俺は横目で後方を見ると、古城と姫柊は

 触手に捕まっていた。

 

『(っ、アイツら....!)』

 俺は助けに行こうと思ったが、ヴァトラーの邪魔のせいで思うように動けなかった。すると....

 

「“煌華麟”!」

 その声とともに、古城達を捕まえていた触手が斬られた。その触手を斬ったのは、さっきまで

 ここにいなかった紗矢華だった。そして、その後ろにはリアと叶瀬 賢生がいた。

 俺はヴァトラーを蹴っ飛ばすとリアがいる場所まで後退した。

 

『ラ・フォリア、何でお前がこんなとこにいるんだよ....』

「今回の件を解決するためですよ」

『相変わらずのじゃじゃ馬っぷりだな....お前も巻き込まれた口か? 叶瀬 賢生』

「そんなところだ」

「あら、酷い言われようですね」

 そう話していると....

 

「な、なんじゃそりゃぁぁぁぁ!?」

 突然、紗矢華の絶叫が聞こえてきた。何の騒ぎかと思って見てみると、恐らく古城が女の姿に

 なっている事に驚いている様だった。

 

「彼女が古城なのですか?」

『正確に言うと古城の魂があの肉体に入っているってとこだ』

「なるほど....確かに本物の古城があんなに凛々しい顔をしているのはおかしいですね」

『っ!』

 俺は突然の発言に声を殺して笑った。

 

「ラ・フォリア酷くないか!? それにアンタも何笑ってんだ!」

『わ、悪い悪い....』

 そんな事を話していると、突然途轍もない魔力の気配を感じた。俺は咄嗟に魔力の方を見ると、

 仙都木 優麻が魔導書に古城の魔力を大量に流し込んでいた。

 

『(マズイ....!)』

 俺は危険を察知し。持っていた刀を魔導書に向かって投げた。だが、刀が当たる直前に、

 魔導書は炎を上げて燃えてしまった。それと同時に、絃神島の北側の海に巨大な神殿の様な物が

 現れた。

 

『っ! しくった....』

 その現れた神殿こそ、仙都木 優麻の目的である“監獄結界”だった。

 

 

 

 

 

 

 



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蒼き魔女の迷宮 XIV

「アレが....」

「監獄結界....」

 海上に現れた監獄結界に、古城と姫柊は言葉を失っていた。

 

『チッ....完全にミスった....』

 俺は現れた監獄結界を見て小さく舌打ちした。

 

「ふははは! どうやら、こちらの勝ちみたいだね黒輪の根絶者(デリーター)。それじゃあ、ボクは

 一度引かせてもらうよ」

 ヴァトラーは高笑いしながらそう言うと、霧になってこの場から消えた。

 

『あの野郎....!』

「それじゃあ、ここは君達に任せるよ」

 そう言って、今度は仙都木 優麻が空間転移でこの場から消えた。

 

『っ....どいつもこいつも好き勝手荒らしやがって....』

 俺はこの状況に対してイライラが爆発しそうだった。

 

『おい叶瀬 賢生。仙都木 優麻を追えるか?』

「流石に無理だ。だが、監獄結界の近くにゲートを開くことはできる」

『そうか。なら....暁 古城! 姫柊 雪菜! お前らは仙都木 優麻を追え! ここは俺が

 引き受けてやる!』

 俺は魔女と対峙している二人に向かってそう叫んだ。

 

「い、良いのかよ?」

『アイツはお前のダチだろ! アイツを本当の意味で止められるのはお前だけだ! それに、

 姫柊 雪菜の雪霞狼があれば身体を取り戻すぐらいは出来るだろ!』

「....確かに、その通りかもしれません」

 姫柊は納得したかの様にそう言った。

 

「先輩、ここは黒輪の根絶者(デリーター)に任せて優麻さんを止めに行きましょう」

「....そうだな。じゃあ、悪いがここは頼んだ!」

 そう言って、二人は叶瀬 賢生が創り出したゲートの中に入っていった。

 

『さてと....俺はこのババアどもに八つ当たりしてから向かうか』

 俺はアッシュダウンの魔女を見てそう言った。

 

「バ、ババアですって!?」

『嘘は言ってねぇだろ。なぁ、ラ・フォリア』

「そうですね。先程激怒した時に小じわが目立っていましたよ、おばさま方。それに、

 お肉のたるみも。いやしくも悪魔と契約したのに、不老延命の肉体を得られないとは....

 よほど素養に恵まれなかったのか、それとも度を過ぎた無能だったのでしょうか? 

 無理な若作り滑稽ですと忠告するのか迷ってしまいますねぇ。ねぇ、紗矢華」

「そ、そうですね....」

『相変わらず、敵に対しての口の悪さは健在だな』

 リアの余裕綽々とした言葉に、紗矢華は若干、いや、かなり引いていた。そして、俺はそれを

 聞いて大爆笑していた。

 

「こ、この小娘がぁぁぁ!」

「わ、私達がどれほどの苦労をしてきたのかも知らずに....! 口惜しや!」

「そ、そこまでキレるの!?」

 紗矢華はババアどもキレている様子に驚いていた。

 

『その程度でキレるから空隙の魔女に及ばないんだよ、テメェ等は』

 そう言いながら、俺はカードを展開して一枚のカードを手に取った。

 

『ライド、無心なる刃 ハートレス』

 俺は別のユニットにライドすると、武器である燃えるように赤い剣を構えた。

 

『煌坂 紗矢華! 俺とラ・フォリアでババアと触手の足止めをする。お前はその間に

 あの技を使え』

「あの技って....」

『ナラクヴェーラの時に使ってた技だ。あの触手の正体はアッシュダウンの森の木だ。

 ババアどもの手によって悪魔の眷属と化したってつくがな』

「っ! ....なるほど。わかったわ!」

 そう言うと、紗矢華は煌華麟を弓の形に変えた。

 

『ラ・フォリア。お前は煌坂 紗矢華に向かっていく触手を撃墜しろ。俺はそれ以外の触手を

 ぶっ潰す』

「わかりました」

 リアはそう言うと、呪式銃で周りの触手と紗矢華に向かっていく触手を撃墜していった。

 俺はそれを横目に見ながら、ババアどもの周りにある触手を斬り裂きながら、ババアどもの

 逃げ道を塞いでいった。

 

「このっ....!」

『遅いわ!』

「ガハッ....!?」

 俺は魔弾を放ってきたババアの攻撃を躱して、腹に剣をぶつけた。

 

「オクタヴィア!」

『テメェもよそ見してる暇あるのか!』

 そう言いながら、俺はもう一人のババアにも剣を振りかぶった。だが、その攻撃は触手に

 よって阻まれた。だが、ババアは剣を振った時の風圧で吹き飛ばされていた。それと同時に、

 俺達の上空に巨大な魔法陣が形成された。その魔法陣を見るに、紗矢華がこの前使った技と

 同じ魔法陣だった。その魔法陣からは、無数の光の矢が降り注ぎ、周囲の触手を浄化して

 焼き尽くしていった。

 

「わ、私達の守護者が!?」

『終わりだババアども!』

 俺はババアどもに一気に接近し、腹に剣をぶつけて気絶させた。

 

「流石の腕前ですね」

『そいつはどうも。....じゃ、悪いがここは任せるぞ。召喚(コール)、デスティニー・ディーラー』

「えぇ。お任せください」

 俺はリアにそう言ってデスティニー・ディーラーに乗り、ある場所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 



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蒼き魔女の迷宮 XV

今更ですが、あけましておめでとうございます。
今年も『ストライク・ザ・ブラッド~黒輪の根絶者〜』
その他の小説もよろしくお願い致しますm(_ _)m


 デスティニー・ディーラーに乗った俺は、絃神島の北端にある岸壁の近くに向かっていた。

 

『....いた』

 そして、俺がその近くに着くと、巨大な蛇が出現していた。

 

『....ライド』

 俺はそれを見た瞬間、カードを展開させてブラスター・ジョーカーのカードを手に取り、

 自分の目の前に投げた。投げた所には巨大な魔法陣が現れ、魔法陣を潜ると、俺は

 ブラスター・ジョーカーに姿を変えた。そのまま俺はデスティニー・ディーラーから

 飛び降り、巨大な蛇を頭から斬り裂いた。

 

『おいヴァトラー....調子に乗るのも大概にしろ』

 俺は地面に着地すると、目の前にいるヴァトラーにそう言った。

 

「よくここがわかったね。黒輪の根絶者(デリーター)

『テメェの魔力を追うぐらい、俺にとっては造作もない事だ。....それよりも、さっさと自分の

 国にでも戻ったらどうだ? これ以上暴れるってなら、俺も本気でお前を潰すぞ....』

 そう言いながら、俺は剣をヴァトラーに向けた。

 

「ほぉ....! それはそれでまた一興というものだ! その言葉の通りに、君とは少し遊んで

 もらおうか!」

 そう言って、ヴァトラーを中心に強力な魔力が放出された。そして、ヴァトラーが眷獣を

 呼ぼうとしたその時....

 

『っ!?』

 俺は身体中に謎の冷気と、ヴァトラーと同等かそれ以上の魔力を肌に感じ取った。俺は周りを

 見てみると、コンテナの上に謎の人影があるのが見えた。そして次の瞬間、その人影の背後に

 巨大な人魚の姿をした異形が現れた。

 

妖姫の蒼氷(アルレシャ・グラキエス)....』

 俺がそう呟いた瞬間、妖姫の蒼氷(アルレシャ・グラキエス)は俺の後ろにいたヴァトラーをコンテナの山に

 吹き飛ばした。そして、妖姫の蒼氷(アルレシャ・グラキエス)を背後に連れた人影はコンテナから飛び降りると

 俺がいる場所に向かって歩いてきた。その時、俺は人影の正体に目を疑った。

 

『(凪沙ちゃん....!? いや違う! この気配は....)』

『久しいな、根絶者(デリーター)。いや、しゅ....』

『その名前はここではやめてもらえるか、アヴローラ....』

 俺は声をかけてきた凪沙ちゃんらしき人物に向かってそう言った。

 

『ほぉ、今の一言で我と見抜くか。流石は真祖を殺すほどの力を持つ男だ』

『それはどうも....それよりも、何でお前が生きている? お前はあの時、古城の手で....』

『確かに、我はあの時死んだ。だが、この娘のお陰で意識をこの娘の中に眠らせていたのだ』

『凪沙ちゃんの中に....』

 俺はなかなかぶっ飛んだ言葉に驚きながらも、冷静に話を聞いていた。

 

『信じるか信じないかは汝に任せるが....それよりも、ここで今、汝と話している場合ではない。

 汝は急いで監獄結界に向かえ。どうやら、まだ終わりそうにはないようだからな....』

『どういう意味だ....?』

 そう言った瞬間、監獄結界から十を超えるほどのそこそこ強力な魔力を感じた。

 

『コレは....!』

『監獄結界の囚人どもが解き放たれたようだな....それも十を超えるほどの、な』

『ミスったのかよアイツら....!』

『さてな....それよりも、ここは我に任せて早く迎え。今のあの者達二人では、長くは持たんぞ』

『....わかった。なら、今はお前の言葉を信じるぞ』

 俺はそう言って、カードを展開させて一枚のカードを手に取った。

 

『ライド。無音の射手 コンダクタンス』

 俺はコンダクタンスにライドすると、監獄結界に向かって飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 




これにて、蒼き魔女の迷宮編は終わりです。次回から、観測者たちの宴編に
入ります。


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観測者たちの宴編
観測者たちの宴 Ⅰ


『....』

『(まさかここまでの事態になるとはな....)』

 俺は監獄結界に向かっている途中の空中でそう思った。

 

『(さっきの気配....間違いなくあの女の気配だった。それに、それ以外の気配も....)』

 俺はさっき感じた気配の連中を頭の中で整理した。

 

『(ここで一気に始末しないと....街で暴れられたら流石にやばい事になる....)』

 そう考えている間にも、俺は監獄結界の上空に着いた。そして下を見ると、監獄結界の上に

 十人の監獄結界の囚人がいた。そして、その監獄結界の下には古城と姫柊、血を流した

 仙都木 優麻がいた。その様子を確認していると、監獄結界の上にいた男の一人が古城達に

 向かって攻撃を仕掛けようとしていた。

 

『(考えてる時間はないか....!)』

 そう思った俺は、弾丸の威力の調整をして監獄結界の上にいる囚人どもと、古城達に

 攻撃を仕掛けようとした囚人に向かって弾丸の雨を降らせた。そしてそのまま古城達の

 前に降り立った。

 

『無事....とは言えねぇか』

「ア、アンタは!」

『お前ら、少し下がってろ』

 そう言いながら、俺は両腕の銃を監獄結界の方に向けていた。すると、監獄結界の前を

 包んでいた砂煙が晴れた。そこには....

 

『....チッ。やっぱり防がれてたか』

 ほとんど無傷な囚人どもがいた。よく見てみると囚人どもは、黒い着物を纏った女が

 創り出したと思われる紫色の障壁に守られていた。

 

「....やはり来たか」

 黒い着物を纏った女は俺を見た瞬間そう言ってきた。

 

『....あぁ。十年ぶりだな、仙都木 阿夜。それと、その他の囚人どもも久しぶりだな』

 そう言いながらも、俺は仙都木 阿夜を警戒して銃を向けていた。

 

「....あぁ。久しいな、黒輪の根絶者(デリーター)

『まさか監獄結界から出てくるとはな....空隙の魔女はどうした』

「那月の行方は我も知らぬ。上手い具合に逃げられたからな。....だが」

 仙都木 阿夜はそう言いながら一冊の魔導書を見せてきた。

 

「既に手は打たせてもらった。今の那月は魔術も使えないただの娘だ。今の我でも、

 魔術を使えない那月を消す事は容易い」

『面倒な事を....』

「この十年、我はこの時のために策謀を巡らせてきた。....黒輪の根絶者(デリーター)、いくら汝でも

 今回の計画の邪魔立てはさせぬ」

 そう言うと、監獄結界に立っていたドレッドヘアーの囚人が俺に向かって腕を振りかぶって

 きた。すると、その方向から強烈な風を感じた。

 

『....』

 俺はその風を感じた方向に、弾丸を放ち風を打ち消した。

 

「なっ!? 俺の轟嵐砕斧をかき消しやがった!?」

『囚人どもが....あまり調子にのるなよ。今の俺は、虫の居所が悪いんでなぁ....』

 そう言いながら、俺が囚人どもに向かって弾丸を放とうとした瞬間、背後から覚えのある

 魔力を感じた。そして次の瞬間、監獄結界を中心に巨大な魔法陣が形成され、魔法陣から

 無数の稲妻が降り注いだ。

 

『これは....』

「乗って雪菜! ついでに暁 古城も!」

 すると、背後からそんな声が聞こえてきた。振り向くとそこには、謎の戦車に乗った

 紗矢華がいた。

 

『(良いタイミングで来てくれた!)』

『暁 古城! 姫柊 雪菜! 仙都木 優麻を連れてさっさと行け! ここは俺が足止めをする!』

「....わかりました。先輩! 黒輪の根絶者(デリーター)が足止めをしてくれる間に行きましょう!」

 すると、大人しく俺の言うことを聞いてくれたのか姫柊がそう言って古城と仙都木 優麻を

 連れて戦車の上に乗った。

 

「紗矢華さん! 出してください!」

「了解! しっかり掴まっててよ!」

 そう言って、紗矢華は戦車を動かしてこの場から去っていった。

 

『さてと....』

 紗矢華達が去っていく間に、稲妻は降り終わり、監獄結界を包んでいた煙は晴れた。

 その晴れた先にいたのは、四人の囚人と仙都木 阿夜だけだった。

 

『仙都木 阿夜、他の囚人どもは何処に行った』

「さてな。さっきの攻撃の間にバラバラに逃げていったぞ。おそらく、那月を探すためにな」

 そう言っている仙都木 阿夜の背後には魔法陣があった。

 

「では、我も一度退散させてもらおう。....黒輪の根絶者(デリーター)よ。我の計画、止められるものなら

 止めてみると良い」

 そう言って、仙都木 阿夜は魔法陣の中に消えていった。すると、監獄結界の上に残っていた

 囚人どもが一斉に俺に攻撃を仕掛けてきた。

 

『邪魔をするな囚人ども!』

 俺は囚人どもの攻撃を全て弾丸で打ち消すと、一瞬で背後に回り、囚人どもの身体を

 弾丸で撃ち抜いた。すると、囚人どもの周りに魔法陣が現れ、その魔法陣からなっちゃんが

 操っている戒めの鎖(レーシング)が飛び出してきた。その戒めの鎖(レーシング)は囚人どもを縛り上げると魔法陣の中に

 消えていった。

 

『(監獄結界のシステムは生きてるのか....?)』

 そう考えていると、突然腕の銃が粒子となり消えかかっていた。

 

我が先導者(マイ・ヴァンガード)。魔力がほとんど無くなっている。魔力の封印を一時的に解かないとまともに

 戦えないぞ』

 すると、カードの状態のブラスター・ジョーカーが俺の前に現れてそう言った。

 

『そうか....』

『(思ったより魔力を使い過ぎてたか....)』

 そう思っていると、俺の元に十二体のユニット達がカードとなって戻ってきた。

 

『(仕方ない....一時的だが、やるしかない)』

解呪(アンロック)

 俺がそう呟いた瞬間、俺の身体から黒い波動が放たれた。

 

『この力を解放するのも久しぶりだな....』

 そう呟きながら、俺はブラスター・ジョーカーのカードを手に取って

 ブラスター・ジョーカーにライドした。

 

『後は....』

 俺は展開させたカードから二枚のカードを手に取った。

 

召喚(コール)、磁気嵐のレディボンバー、黒の光鞭 フリックヒッター』

 俺が二枚のカードを投げると、そこから二体のユニットが現れた。

 

『レディボンバー、お前は行方不明のなっちゃんを探して見つけ次第俺に連絡を。

 フリックヒッターは逃走した囚人どもを排除しろ』

『『了解しました』』

 そう言って、二人は街の方に走り出していった。

 

『さて、今のうちに俺は....』

 俺は古城達の魔力の向かった方向を探して古城達が居る所に向かった。

 

 

 

 

 




投票は明日の昼12時までにしようと思います。


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観測者たちの宴 Ⅱ

「そういえば紗矢華さん、ラ・フォリアは?」

 戦車に乗って監獄結界から離れてしばらくすると、雪菜がそう聞いてきた。

 

「王女? 王女ならさっき帰国されると言われて別れたわ。ここでのやるべき事は

 終わったからですって」

「そうですか」

「というか雪菜....王女を呼び捨てで大丈夫なの?」

「....? はい、大丈夫ですよ。王女からもそう呼ぶ様に言われましたので」

「そ、そう....」

「(何考えてるんですか王女....)」

 私は雪菜の言葉に困惑しながらも戦車に乗っている仙都木 優麻を見た。

 

「というか....その子、図書館の犯罪者じゃなかったの?」

「違うんだよ....こいつは、自分の母親に利用されてたんだ」

「母親? 何の事よ」

「....優麻さんの母親は、LCOの大司書、仙都木 阿夜だったんです。それで、監獄結界に

 収監されていた仙都木 阿夜は脱獄のために優麻さんを利用していたんです」

「っ! じゃあ、脱獄して用済みとなったからこの子はこんな事に....」

「....そういう事です」

「実の娘に向かってこんな仕打ちをするなんて....!」

 私はさっきまで犯罪者だと思っていた子に同情した。

 

「(実の親に殺されそうになるって....形は違うけど、私と同じなのね....)」

 そう思っていると、突然暁 古城がこう聞いてきた。

 

「なぁ煌坂。お前だったら、ユウマをどうにかできないか?」

「無茶言わないでくれる....こんな傷を治せるのは強力な魔女か魔導医師だけよ」

「魔導医師....だったら煌坂。次の信号を左に曲がってくれ」

「えっ?」

 そう言われて、私は信号を左に曲がった。

 

「一人だけ、ユウマを治せそうな人物がいる。家に帰ってなければ、この時間だったら

 まだMARの研究所にいるはずだ」

「家に帰ってなければって、変な言い方するわね。誰の話をしてるのよ」

「....暁 深森。俺と凪沙の母親だ」

 

 〜〜〜〜

 

 戦車に乗ってしばらく走ると、私達はMARの研究所の片隅にある円筒形のビルに着いた。

 

「こ、ここにアンタのお母さんがいるわけ?」

「あぁ。俺の母親はMAR医療部門の主任研究員なんだよ。臨床魔導医師の資格も持ってるし

 ユウマとも知り合いだしな」

「へぇ....アンタのお母さん凄い人じゃない」

「....まぁ、凄いのは凄いんだがな」

 暁 古城はどこか諦めた様な表情をしていた。

 

「....?」

「先輩....今になって思ったんですが、私達も一緒にお邪魔しても良いんでしょうか?」

 すると、エレベーターが止まった瞬間、雪菜がそう言った。今の雪菜の姿は、服は埃や

 かすり傷でボロボロで、雪霞狼は返り血で汚れていた。確かにこの格好を波朧院フェスタの

 仮装というのは無理がありそうだ。

 

「あぁ....その辺は心配いらない。会ってみればわかると思うけどな」

「は、はぁ....」

 戸惑っている雪菜を横目に見ながら、暁 古城は呼び鈴を押した。すると....

 

『はいはーい。どなたですかぁ?』

 インターホンからふわふわとした女の人の声が聞こえてきた。

 

「俺だ母さん。悪いけど少し頼みがあるんだが....」

「(今の声の人、暁 古城のお母さんなの!?)」

 さっきの若々しい声が暁 古城のお母さんと分かり、私は内心驚いていた。

 

『あら、古城君? ちょっと待ってね、今開けるから』

 その声が聞こえると、ドアの向こう側から走り回る音が聞こえてきた。そして、ドアの鍵が

 外れると、暁 古城はドアを開いた。すると、ドアの向こう側から突然白衣を着た巨大な

 ジャックランタンが飛び出してきた。

 

「ばぁ!」

「ひゃぁぁぁぁぁ!?」

 突然のジャックランタンの登場に雪菜は驚いたのか、悲鳴を上げながら暁 古城の腕に

 抱きついてきた。

 

「ちょっ! ゆ、雪菜!?」

 私は雪菜が暁 古城に抱きついたのを見て、頭の中が一瞬真っ白になった。

 

「ふふふ〜、驚いた?」

 そう言いながらジャックランタンは頭のカボチャを取った。そのカボチャの中にいたのは

 童顔の女の人だった。

 

「驚くわっ! 何やってんだアンタは!」

「だって今日は波朧院フェスタでしょ? 私も行きたかったのにー。悪戯か死か!」

「色々間違ってるわ! 怖いわその祭り!」

 暁 古城は童顔の女の人と言い争いをしていた。

 

「(この人が暁 古城のお母さん....? 何かすごく若そうに見えるけど....)」

 私は二人の言い争いを見てそう思っていた。すると、暁 古城のお母さんらしき人は私と

 雪菜を見た。すると暁 古城の脇腹を肘打ちすると私達に顔を近づけた。

 

「ちょっと! めちゃくちゃ可愛い子達じゃない! どの子? どっちが本命? もうヤった? 

 ヤっちゃった? やだ、もしかして家族が増えちゃうの? 私おばあちゃんになっちゃうの?」

「増えねぇし、なるかぁ! 少しはこっちの話を聞け!」

 暁 古城のお母さんらしき人のマシンガントークに呆れながら暁 古城はそう叫んだ。

 

「(私、何見せられてるんだろ....)」

 そんな事を思っていると、家の中から小柄な人物が現れた。

 

「(嘘でしょ....!?)」

 その人物を見て、私は背中から嫌な汗が流れた。

 

「凪沙! おまっ、何でここに....」

「今朝早くに深森ちゃんに呼ばれて着替えを届けに来たんだよ」

「それからずっとここにいたのか....?」

「そうだよ」

「そ、そうか....」

 そう言いながら暁 古城はどこか安堵した様な表情をしていた。

 

「(こっちはそれどころじゃないんだけど....!)」

「ていうかユウちゃん、怪我してるの!? 何かあったの? そっちの女の人は....って、

 あなたは....」

 すると、暁 古城の妹の凪沙ちゃんは私を睨んできた。

 

「....あなた、確か煌坂さんでしたよね? 古城君とシュウ君とどんな関係なんですか?」

「わ、私!? てかシュウ君って誰!?」

「....シュウ君ってのは伊吹の事だ。悪いが煌坂、しばらく凪沙を引き止めておいてくれ」

 そう言って、暁 古城は私の背中を押してきた。それと同時に私は凪沙ちゃんに腕を

 掴まれた。

 

「....逃がしませんよ」

 そして、私はそのまま家の中に連れて行かれた。

 

「ちょっ! あ、あとで覚えておきなさいよ暁 古城!」

 

 

 

 

 

 

 



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観測者たちの宴 Ⅲ

 凪沙ちゃんに腕を掴まれ、私はどこかの部屋の中に連れて行かれた。

 

「さて、色々と聞きたい事は多いですが....まず! あなたとシュウ君はどういう関係

 なんですか!」

「ど、どういう関係って言われても....」

「私知ってるんですよ! あなたが夜にシュウ君と長電話をしてること! それにこの前、

 一緒にショッピングモールに行ったのも知ってるんですからね!」

 そう言って凪沙ちゃんは携帯の画面を見せてきた。その画面には、私と終夜が

 ショッピングモールで買い物をしていた写真が映っていた。

 

「な、何よその写真!?」

「シュウ君の同級生が撮った写真らしいです!」

「それ盗撮じゃない!」

「私に言われても知りません! それよりも、あなたはシュウ君の何なんですか!」

「っ....今はただの友人よ。それ以上でも、それ以下でもないわ」

「今はって....もしかしてあなた....シュウ君の事が好きなんですか?」

「っ!」

 凪沙ちゃんの言葉に、私は身体が固まった。

 

「その言い方....もしかしてあなたも....」

「....そうですよ。私はシュウ君の事が大好きです。だから、あなたなんかに

 シュウ君は渡しません!」

 そう言って、凪沙ちゃんは私の事を敵意を持った目で睨みつけてきた。

 

「(まさか王女以外にアイツの事が好きって言う人がいるなんて....しかも

 暁 古城の妹だし....)」

 そう思いながら内心困っていると....

 

「とりあえずシュウ君の事はこれで終わりですが....次はユウちゃんの事です! 

 ユウちゃんのあの怪我、もしかしてあなたがやったんですか!」

 凪沙ちゃんは怒ったような声で私にそう言ってきた。

 

「わ、私は何も知らないわよ!」

「嘘つかないでください! この前だって浅葱ちゃんを怪我させたじゃないですか!」

「いや、あれは事故で....」

「それにあの時の剣! あなたは一体何者で、どうして古城君を狙ったんですか!」

「(マ、マズイ....)」

 凪沙ちゃんの怒ったような言葉を聞いて、私は背中に嫌な汗が流れた。

 

「答えるまでこの部屋からは出しませんからね!」

「(....これ以上聞かれたら流石に隠しきるのが難しいわね)」

 そう思った私は手を後ろに回して手に呪術の術式を描いた。

 

「さぁ! 早く話してください!」

「....えぇ。でも、それは別の機会にね」

 そう言って私は凪沙ちゃんに一気に近づき、凪沙ちゃんの頭に手を置いた。すると、

 私の手は光り、凪沙ちゃんは身体の力が抜けたのか目をつぶって前のめりに倒れた。

 私は凪沙ちゃんの身体を受け止めると、凪沙ちゃんを抱き上げてベッドに寝かせた。

 

「力技だけど仕方ないわよね....」

 そう呟き、私は部屋の電気を消して部屋から出ると、暁 古城がいる部屋を

 探し始めた。

 

「(見つけたら散々文句を言ってやる....!)」

 そう思いながら部屋をしらみ潰しに探していると....

 

「紗矢華さん?」

 偶然、ナース服を着た雪菜と会った。

 

「雪菜! ....って、そのナース服どうしたの?」

「こ、これは先輩のお母様に着るように言われて....」

「そ、そうなのね....」

「(やっぱり雪菜は何着ても似合うわね!)」

 そんな事を考えていた時、突然近くの部屋から何かが倒れる音が聞こえた。

 

「っ! 何、今の音....」

「分かりません....あの部屋から聞こえましたよね」

 そう言いながら、私と雪菜は音が聞こえた扉の前に雪霞狼と煌華麟を構えて立った。

 

「....開けるわよ」

「....はい」

 そう言って、私は扉を開けた。扉を開けて、警戒しながら部屋の中に入ったのだが、

 部屋の中には侵入者らしき人物はいなかった。だが、そのかわり部屋の中には

 床に倒れている暁 古城がいた。

 

「暁 古城!?」

「先輩!?」

 暁 古城が倒れているのを見て、雪菜は暁 古城に駆け寄って肩を揺すった。

 

「先輩! 先輩!」

「ちょ、ちょっと! しっかりしなさいよ!」

 私もそう声をかけたのだが、コイツから返ってきた言葉は想定外の言葉だった。

 

「は、腹減った....」

 

 

 

 

 



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観測者たちの宴 Ⅳ

 煌坂side

 

「ほんっと....! アンタ一回死ねば良いのに」

「先輩....流石に今回は紗矢華さんに同意です」

「仕方ねぇだろ! ユウマのやつ、一食も食ってないと思わなかったんだよ!」

 空腹で倒れていた暁 古城を起こした私達は、この家の冷蔵庫にある冷凍ピザを

 チンして食べていた。

 

「そういえば雪菜、彼女の容態は?」

 私は仙都木 優麻の事が気になり、私は雪菜にそう聞いた。

 

「傷の手当ては終わって今すぐに命に関わるような事はないそうです。ですが、

 現状これ以上の回復は望めないそうで....」

「ここの設備でも無理なのか....」

「魔女契約は解析不能な超高難易度魔術の一種ですから。臨床データも

 不足しているそうですし....」

「そうか....だったら早く那月ちゃんを見つけるしかないな」

「確かにそうだけど....場所が分からないのにどうやって探すのよ。ただでさえ

 フェスタで人が溢れてるのに」

 私がそう言った時、突然扉がノックされた。

 

「母さんか....? どうした母さん」

 そう言いながら暁 古城が扉を開けると、そこにいたのは意外な人物たった。

 

『誰がお前の母親だ』

「ア、アンタは!?」

「っ!?」

「っ! 黒輪の根絶者(デリーター)!」

 雪菜は扉の前にいるいた黒輪の根絶者(デリーター)の姿を見ると雪霞狼を構えた。そして、

 私は黒輪の根絶者(デリーター)の姿を見て思考が一瞬止まった。

 

「な、何であなたがここに....」

『少しお前達に話があってな。邪魔をするぞ』

 黒輪の根絶者(デリーター)はそう言いながら部屋に入ってくると、ベッドの上に座った。

 

『とりあえず、時間もあまりないから用件だけを話す。....南宮 那月を救出するまで

 俺と手を組まないか?』

「....えっ?」

『お前らも南宮 那月を助けに行くんだろ? だったらここは手を組んだ方が

 良いと思ってな』

「....黒輪の根絶者(デリーター)であるあなたが私達と手を組むメリットは? 私達と手を組んでも

 あなたの足手纏いになると思うのですが」

 雪菜は黒輪の根絶者(デリーター)の提案に疑問を持った様子でそう聞いた。

 

『お前らと手を組んだ方が安全に南宮 那月を救出できる。足手纏い云々なんかは

 今は心底どうでもいい』

「....」

『それで、どうするんだ暁 古城』

 そう言われた暁 古城は少し考え込むと....

 

「....わかった。アンタと手を組む。今は少しでも戦力が多い方が良い。だよな、二人とも」

 暁 古城は黒輪の根絶者(デリーター)の提案に賛成して私達にそう聞いてきた。

 

「まぁ、それは確かにそうね」

「....色々と納得できないところはありますが先輩の言っている事も一理あります。

 だから、ここは私が折れてあげます」

 雪菜は半分納得、半分納得していない様子でそう言った。

 

『とりあえず、全員手を組むって事で良さそうだな』

 黒輪の根絶者(デリーター)はそう言いながらふとテレビの方を見た。すると、黒輪の根絶者(デリーター)

 何かに気づいたような表情をした。

 

『お前ら、南宮 那月の居場所が分かった』

「本当か!?」

『あぁ。テレビ見てみろ』

 黒輪の根絶者(デリーター)にそう言われてテレビを見ると、テレビに暁 古城の友人である

 藍羽 浅葱と黒髪で髪の長い小さな女の子が映っていた。

 

「浅葱! それに隣にいる女の子は....」

「何だか、南宮先生に似てますね....」

「確かに....」

『似てるじゃなくておそらく南宮 那月本人だ。仙都木 阿夜の魔導書によって

 姿を変えられたんだろうな』

「マジかよ....! とりあえず浅葱に連絡を!」

 そう言いながら、暁 古城は携帯を取り出して藍羽 浅葱に電話をかけ始めた。

 それを見ながら黒輪の根絶者(デリーター)は自分の周りにカードを展開し、一枚のカードを手に取ると

 窓の外にカードを投げた。

 

「浅葱! おい浅葱!」

 すると、電話をかけていた暁 古城が必死に藍羽 浅葱の名前を呼んだ。

 

「ど、どうかしたんですか?」

「浅葱のやつ、何か変な老人がいて逃げるって言って電話が切れた....!」

『変な老人....監獄結界のキリカ・ギリカだな』

「あいつ囚人に追われてんのかよ!?」

「急がないとマズイやつじゃない!?」

『だな。じゃあお前ら、とりあえずこいつの上に乗れ』

 そう言って、黒輪の根絶者(デリーター)は窓の外を指差した。窓の外には銀色の鳥のような

 何かがいた。

 

「こいつは....!」

「アスタルテさんの時の....」

『四人乗るには十分な大きさだ。とっとと乗って南宮 那月を救うぞ』

「おう!」

 こうして、私達は黒輪の根絶者(デリーター)の使い魔に乗って南宮 那月がいる場所に向かった。

 

 〜〜〜〜

 黒輪の根絶者(デリーター) side

 

 デスティニー・ディーラーに三人を乗せた俺は浅葱となっちゃんが映った

 場所の近くの上空にいた。

 

『この辺りで下に降りるぞ』

 そう言って、俺はビルの上にデスティニー・ディーラーを降りさせた。

 そして、デスティニー・ディーラーから俺達は降りたのだが三人は何故か

 気分の悪そうな表情をしていた。

 

「気持ち悪い....」

「私も同感です....」

「速度出過ぎよ....」

『お前らピザ食ってたからだろ....』はぁ

 俺はさっき机の上に置かれていたピザを思い出しながらため息をついた。

 

『グロッキーになってないで早く探す....っ!』

 俺はそう言って言葉を続けようとした時、突然ここから少し離れた所で強力な魔力を感じた。

 俺と同じように他の三人も魔力を感じたのか、魔力の気配を感じた方を見た。

 すると、俺達の視線の先には巨大な蛇がいた。その蛇に俺は見覚えがあった。

 

『ヴァトラー....! アイツまだ島にいたのか!』

「アイツ眷獣ぶっ放してるって事は....!」

「あそこに囚人がいるって事じゃない!」

『いらん仕事を増やしやがって....お前ら! 南宮 那月の事を少し任せるぞ!』

 そう言って、俺は地面を蹴って住宅の屋根に乗り、ヴァトラーがいる場所に向かって

 走り出した。

 

 

 

 

 

 



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観測者たちの宴 Ⅴ

 浅葱side

 

「サナちゃん、絶対に私の手を離さないで!」

 そう言いながら私はサナちゃんの手を握り走っていた。何故私が走っているかというと、

 突然現れた変な装束を着て燃えているお爺ちゃんに追われていたからだ。

 

「ったく、あのお爺ちゃん誰なのよモグワイ!」

 私はサナちゃんの手を引きながらポケットから携帯を取り出して携帯にそう怒鳴った。

 

『そんなに怒鳴らなくても聞こえてるぜ嬢ちゃん』

「状況は!」

『全部分かってるぜ。あの爺さんの名前はキリカ・ギリカ。色々と内容は飛ばすが、

 六年前に絃神島でテロを起こそうとして監獄結界に送られた魔導犯罪者だ』

「監獄結界!? それって都市伝説じゃなかったの!?」

『残念ながらあるんだよ。あの爺さんが証人ってとこだ』

「っ....! とにかくモグワイ! 地下共同溝からキーストーンゲートまでルート計算! 

 あと隔壁のコントロールも!」

『了解。じゃあ次の角を曲がって右、地下街に降りる階段の踊り場に共同溝のハッチがある』

 モグワイの言葉を聞き、私は地下街に入り、サナちゃんを抱き抱えて階段を駆け下り

 共同溝のハッチを蹴り上げてハッチの中に入った。そしてしばらく走ると、

 私は地面に膝をついた。

 

「(流石に体力がキツいわね....もうちょっと運動しよ)」

「ママ、大丈夫?」

「....大丈夫よサナちゃん。ちょっと疲れただけだから」

「(しっかりしないと。今サナちゃんを守れるのは私だけなんだから....!)」

 そう思いながら、私は走って来た道を見た。走って来た道にはモグワイが遠隔で操作した

 分厚い隔壁が降りていたのだが、その分厚い隔壁が淡くオレンジ色に発光していた。

 

「(そううまくはいかないわよね....!)」

『まずいぜ嬢ちゃん。予想よりも隔壁の消耗が激しい』

「そんなの見たらわかるっての!」

『それともう一つ残念なお知らせだ。嬢ちゃんの背後から何かが接近してる』

「えっ?」

 モグワイがそう言ったので、私が背後を見ると、何か黒い細長い物が私達に向かって

 飛んできた。咄嗟の出来事に私は何もできなかったのだが、その飛んできた物は

 私とサナちゃんを躱して隔壁に突き刺さった。そして、隔壁の向こう側からは

 お爺ちゃんの叫び声が聞こえて来た。

 

『....対象を排除。同時に対象を発見』

 すると、背後から黒いバイザーをした銀色の鎧を纏った男が現れた。

 

「(な、何よこの人....見るからにヤバい気配してるじゃない....!)」

 その男からは、言葉では言い表せないような気配を私は肌で感じていた。そして、その男は

 ゆっくりと私達の方に近づいて来た。

 

『....南宮 那月を守護していたのか、藍羽 浅葱』

「っ! なんで私の名前を....」

『....俺の名はフリックヒッター。黒輪の根絶者(デリーター)様に仕える者の一人だ』

「黒輪の根絶者(デリーター)って....」

「(確か、ガルドシュって奴がそんな名前を....)」

 その名前に、私は聞き覚えがあった。

 

『嬢ちゃん....黒輪の根絶者(デリーター)ってのは最強最悪と言われてる謎の存在だ。噂では

 三人の真祖と真祖の臣下を倒したって言われてる』

「う、嘘でしょ!?」

『こんな時に冗談は言わねぇっての。....とりあえず、大人しく従った方が身のためだ』

 そう言って、モグワイは携帯の画面から一度消えた。

 

『....とりあえず、俺についてこい。俺の仲間が外にいる。そいつと合流して

 南宮 那月を守護する』

 そう言うと、男はやって来た方向に歩いて行った。

 

「(....このままついていっても大丈夫なの)」

『....安心しろ。俺はお前達には一切危害を加えない。加えたら我が主人から

 怒られるからな』

「っ!?」

 男は私の心を見透かしたのかそう言ってきた。

 

「ママ....あの人、怖くないと思う」

 すると、サナちゃんが男を見ながら私にそう言ってきた。

 

「サナちゃん....」

「(....サナちゃんがそう言うなら、今は信じてみるか)」

 そう思い、私はサナちゃんと手をつなぎ男の後ろについていった。

 

 ~~~~

 

 男についていくと、私達はキーストーンゲートのEエントランスに出た。

 すると、出口の近くにはアスタルテさんと白髪の女の人がいた。

 

『フリック』

『レディボンバー、対象を一人排除。同時に南宮 那月を発見した』

『そう。わざわざ悪いわね』

『別に構わん。それよりも、お前も南宮 那月を捜索していたのか。人工生命体(ホムンクルス)の娘』

「肯定。既にあなたが先に見つけたようですが....」

「(なんであんなに親しげに話してんの....?)」

 そう思っていると、突然私は背中からとてつもない寒気を感じた。すると、

 サナちゃんも何か感じ取ったのか私の足に手を回してきた。

 

「っ!?」

「へぇ、本当に子供になってるのね。空隙の魔女」

 私が寒気を感じた方向からはどこか妖艶な雰囲気の声が聞こえてきた。

 その方向を見ると、そこには露出度の高い服装の女がいた。

 

『これまた面倒なタイミングで現れたわね....』

 すると、さっきまで話していた三人が私達を守るように囲んで立っていた。

 

『ジリオラ・ギラルティ....』

 すると、白髪の女の人が女を見ながらそう呟いた。

 

「ジリオラって、クォラタス劇場の歌姫の....」

「あら、まだ私の事を覚えてくれている子がいたなんて嬉しいわ」

「なんで....なんであなたが絃神島に!?」

『....あの女はヒスパニアの魔族収容所で囚人や監獄を好き勝手やった。

 だが、被害を防ぐためにあの女は空隙の魔女によって監獄結界に封じ込まれていた。

 ....先程監獄結界が一時的に開いたことによって脱獄してきたがな』

 男は冷静な口調で私にそう説明してくれた。

 

「ま、そこの男の言う通りなの。とりあえず、その子を渡してくれたらあなたは

 見逃してあげるけど?」

「そんなの....はいそうですかって渡せるわけないでしょ....!」

「同意。後退してくださいミス藍羽。執行せよ(イクスキュート)、"薔薇の指先(ロドダクテュロス)"」

 そう言ってアスタルテさんは虹色の眷獣を召還した。すると、ジリオラはため息を

 つき自分の手に真紅の鞭を出現させた。そして、その鞭を地面にたたきつけた瞬間、

 私達に向かって周囲から拳銃の発砲音が聞こえてきた。だが、何故か拳銃の弾丸は

 私達に一切向かってこず、私達のいる少し離れた場所に落ちていった。

 

『いくら操って弾丸を撃とうが私がいる限りここには届かないわよ』

 すると、白髪の女の人がそう言った。その女の人の手には、何か黒くて渦を

 巻いている何かがあった。

 

『私の能力は磁気を操ること。鉄や鉛は全部私の領域に入ったら私の制御下よ。

 そして....』

 白髪の女の人は指を鳴らした。すると、女の人の周りには黒い球体が現れた。

 その黒い球体を自在に操りジリオラに向かって蹴り飛ばした。すると、蹴り飛ばした

 球体は大爆発を起こした。

 

『魔力を大爆発させる。これが私の能力よ』

「(な、なんて威力してんのよ....!?)」

 私は目の前で起きたことに言葉が出なかった。

 

『ま、この威力じゃ落ちないわよね』

「えっ?」

 そういった瞬間、爆発した所を包んでいた砂煙は払われた。

 

「よくもやってくれたわね....! もうただじゃおかないわよ!」

 ジリオラはそう叫びながらこちらを睨みつけていた。

 

「ちょ、ちょっと! あいつめちゃくちゃ怒ってるわよ!」

『大丈夫よ。フリック』

『あぁ』

 そう言って、男は両手に黒い鞭を出現させて自在に操っていた。だが、突然その鞭を

 私達の背後に向かって振るった。

 

「ちょっ! どこに向かって....!」

「おっと、危ないじゃないカ」

 すると、男が鞭を振るった所には白いスーツを纏った金髪の男の人がいた。

 

『....何故、貴様がここにいる。ディミトリエ・ヴァトラー』

「監獄結界の囚人を捕獲するためサ。それ以外に理由があると思うのかイ?」

『ならお前の出る幕はない。奴は俺が捕獲する』

「フフフ、そうカ! なら早い者勝ちダ! 娑伽羅(シャカラ)!」

 そういった瞬間、アルデアル公の背後には水でできた蛇が現れた。

 

「さァ、楽しもうじゃないか! 黒輪の根絶者(デリーター)の部下ヨ!」

『チッ! 二人とも、そこの二人を守っておけ!』

 そう言うと、男はアルデアル公とジリオラに向かって黒い鞭を振るいだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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観測者たちの宴 Ⅵ

 フリックヒッターside

 

『いい加減しつこいぞ!』

 俺はヴァトラーの攻撃を捌きながらそう叫んだ。

 

「いいネ! さすがは彼の部下ダ!」

『(コイツ....これ以上は我が先導者(マイ・ヴァンガード)の友人に悪影響になりかねない。一度本気で

 気絶させたほうが....!)』

 そう思い、俺は鞭に魔力を込めてヴァトラーとヴァトラーの眷獣を潰そうとしたのだが、

 突然ヴァトラーの眷獣は地面に叩きつけられた。

 

『っ!?』

『(一体何が....)』

 そう思いながら上空を見ると、人影が俺の前に降りてきた。その人影の正体は....

 

『お前達、よく耐えた』

我が先導者(マイ・ヴァンガード)!』

 俺達の主である我が先導者(マイ・ヴァンガード)だった。

 

 ~~~~

 黒輪の根絶者(デリーター)side

 

 建物の屋根を伝って走り続け、俺はヴァトラー達がいる場所の近くのビルに着いた。

 

『(あの野郎....好き勝手やりやがって。ひとまず浅葱となっちゃんは無事だから良かったが

 これは流石に一度ぶっ飛ばしたほうが良いな....)』

 そう思い、俺はヴァトラーの眷獣の上空に跳んでブラスター・ブレードに力を溜めて

 渦状の衝撃波を放った。すると、ヴァトラーの眷獣は地面に叩きつけられ俺は眷獣と

 戦っていたフリックヒッターの前に降りた。

 

『お前達、よく耐えた』

我が先導者(マイ・ヴァンガード)!』

「おっと、思ったより早い到着だネ」

 俺がフリックヒッターにそう言うと、ヴァトラーは少し驚きながらも笑っていた。

 

『ヴァトラー....お前、いい加減にしろよ。今日だけでお前と顔を合わすのも三回目だ。

 いい加減に自分の国に帰れ。お前の相手をしてる暇はこっちにはないんだよ』

「冷たい事を言ってくれるネ」

『実際そうなんだよ』

 そう言いながら、ヴァトラーを睨みつけていると坂から何かが高速で登ってくる音が

 聞こえた。音のほうをちらっと見ると、何故か古城がチャリに乗って登ってきていた。

 

『(どこでそのチャリ手に入れた....)』はぁ

「ヴァトラー! お前色々とやりすぎだ!」

「やぁ古城。良い夜だね」

「呑気にあいさつしとる場合か!」

『暁 古城、先にそっちの心配してやれ』

 俺はそう言って浅葱の方を指差した。

 

「あぁ」

 古城はそう言うと、浅葱に近寄って行き何かを話していた。すると、ヴァトラーは

 小さくなっているなっちゃんを見ていた。

 

「南宮 那月....なるほど。脱獄囚の目的は空隙の魔女か」

『あぁ。誰かのせいであんな姿に変えられたしな』

 そう言いながら俺はヴァトラーを睨んだ。

 

「はは....ははははは....ははははははははは!」

 すると、突然ヴァトラーは声を上げて笑い出した。その様子を俺は警戒していたが、古城は

 困惑していた。

 

「まったく、何て姿だ。見る影もないな空隙の魔女。あははははは!」

「ヴァ、ヴァトラー....?」

 古城はヴァトラーの様子に困惑し続けていたが、俺は何か嫌な予感を感じていた。

 

「見たところ、君も手負いのようだね古城。その状態で彼女を守るのは大変そうだネ。だから、

 これは提案なんだが彼女をボクの船で預かろう」

「なっ!?」

『....どういう風の吹き回しだ』

「監獄結界の囚人は空隙の魔女を狙っている。このまま市街地にいれば一般人を巻き込むかも

 しれないヨ?」

『なるほど....そういう事か』

『(コイツは都合が良いか....奴の船だったら壊しても問題がない。いざ戦闘になった時に

 周囲への被害や一般人に戦闘を見られずに済む)』

『暁 古城。そいつの話しを受けておけ。南宮 那月が近くにいる以上、囚人どもは必ず

 狙いに来る。ここはヴァトラーの船を囮にして囚人を一ヶ所に集めたほうが良い。それに、

 民間人への被害もなくなるだろう』

「っ! 確かに....」

 俺の言葉に、古城はどこか納得したような表情をしていた。そして....

 

「わかった。お前の話しに乗ってやるよ」

「そうかそうか! ならば案内しよう。黒輪の根絶者(デリーター)、君も来るだろう?」

『当然だ』

「ちょ、ちょっと古城! あんた何勝手に決めてるのよ! てか、なんで古城が戦王領域の

 貴族と知り合いなのよ!? あとそこの騎士みたいなの誰!」

 古城がヴァトラーの話しに乗ると、浅葱が古城に向かって一気に質問攻めをしていた。

 

「いや、ちょっと色々あってだな....」

「あんたねぇ....私がそれで納得できると思ってるの?」

「だよなぁ....」

『おいお前ら。一回集合。あとアスタルテも』

 俺は古城と浅葱が言い争いをしている隙に三人を集めた。

 

『アスタルテ、特区警備隊(アイランド・ガード)の状況は?』

「今日一日で半分は壊滅状態になりました」

『そうか....お前はまだ戦えるか?』

「はい。魔力が温存できたので』

「そうか。なら、お前はそのまま残った特区警備隊(アイランド・ガード)を使って負傷者の手当てをしてくれ。

 なっちゃんの方はこっちでどうにかする』

「わかりました。....主人(マスター)の事、お願いします」

 そう言って、アスタルテは倒れている特区警備隊(アイランド・ガード)の方に向かっていった。

 

『フリックヒッター、囚人は何人捕らえた?』

『俺の方では二人だ。イフリートのジジイとクォラタス劇場の歌姫だ』

『あ、私も探してる時に一人ぶっ飛ばしたわよ我が先導者(マイ・ヴァンガード)。何か若い女だったけど』

『そうか』

『(三人か....少なくとも、あと二人いるな)』

 俺は二人の報告を聞いてそう考えていた。

 

『それと我が先導者(マイ・ヴァンガード)。空隙の魔女を探しながら仙都木 阿夜を探そうとしたのだけど

 何処にいるかわからなかったわ。この島全体に仙都木 阿夜のような魔力が点々と

 感じられたから、おそらくダミーが山ほどあるわ』

『それはわかっている....』

 そう言いながら俺は少し考えて、俺は二人にこう言った。

 

『ひとまず二人ともご苦労だった。あとは俺達に任せておけ』

『了解』

『じゃ、後は頼んだわよ我が先導者(マイ・ヴァンガード)

 そう言うと、二人はカードになって俺の手元に戻ってきた。そして、俺と古城と浅葱、

 小さくなったなっちゃんはヴァトラーの船に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 



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観測者たちの宴 Ⅶ

「オシアナス・グレイブの中ですって!?」

『そんなにでかい声で叫ぶな....一応夜だぞ』

 ヴァトラーの船の外に出た俺はキレ気味の紗矢華にそう言った。

 

「それで、どうして先輩達をこの船に乗るように言ったんですか。黒輪の根絶者(デリーター)

『連中は"空隙の魔女"を追いかけている。もしあのまま街中にいれば民間人に被害が

 出る。この船だったら民間人に被害も出ないし船が壊れたところでアイツの船だ。

 一隻壊したところで問題ないだろ』

「無茶苦茶に言うわね....」

『アイツの扱いなんてこんなもんでいいんだよ』

「....それで、先輩達は今何を?」

『何か風呂入りに行ったぞ』

「えっ?」

「はぁ!?」

『(さっき俺も誘われたが....)』

 

 ~数分前~

 

「こちらにいらっしゃったのですか、黒輪の根絶者(デリーター)様」

 ヴァトラーの船に来て、俺はデッキの所にいた。すると、背後から声をかけられた。

 振り向くと、金髪で碧眼の赤いメイドがいた。

 

『お前は?』

「アルデアル公にお仕えするメイド軍団の一人、ヴィクトリア・カーマインと申します。

 先程、大浴場の準備ができましたので。第四真祖と二人のお客様は入るそうなので、

 黒輪の根絶者(デリーター)様もいかがと思いましてお声をかけさせていただきました」

『そうか。わざわざありがたいが俺は遠慮しておく。アイツの船で呑気に風呂なんて

 入れるか』

「随分とバッサリおっしゃいますね」

『これまでのアイツを見てたら誰もがそう思う....で、お前、それを言うためだけに

 俺に近づいたわけじゃないな』

 俺はヴィクトリアから感じた気配に気づき警戒しながらそう聞いた。

 

「....やはり気づかれてしまいますか。さすがは黒輪の根絶者(デリーター)様ですね」

『御託は良い....とっとと話せ』

「そうですね。では、簡潔に申しますが黒輪の根絶者(デリーター)様の子種をいただきたいと思いまして」

『....悪い。何て言ったかもう一回言ってくれ』

「黒輪の根絶者(デリーター)様の子種をいただきたいと思いまして」

『(聞き間違いじゃなかった....)』

『(我が先導者(マイ・ヴァンガード)、この娘危険な香りがするぞ....)』

『(今の会話で大体わかるわ....)』

 ヴィクトリアの言葉を聞いて、俺とジョーカーは警戒心を引き上げた。

 

『....取り敢えず、何で俺の子種を欲しいのか聞いても良いか?』

「その言い方から察するに理由があれば子種をいただけるということですか?」

『そうは言ってない....というか、何でアイツのメイドが俺にそんな事を言ってくる』

「そうですね....まず私はアルデアル公のメイドなのですが、元々私は戦王領域近くの

 国の王族の娘でした。レイズ王国というのをご存じですか?」

『....確か戦王領域のすぐ近くの国だっだな』

「その通りです。レイズ王国の国王、私の父は国を守るために戦王領域に私を売りましてね。

 なので、黒輪の根絶者(デリーター)様の子種をいただき子供を産んで一発下剋上をしようと思いまして。

 あなたほどの強力な子種であればアルデアル公を超えそうですし」

『下剋上ならヴァトラーでも良いだろ....』

「駄目ですよ。あの人、女性に興味がないですし」

『そういえばそうだったな....』

「そんなわけで一発どうですか?」

『どうですかって聞かれても断るに決まってるだろ....』

 俺は一連の話しを聞いて呆れながらそう言った。

 

『そもそも、よく知りもしない女とそういうのは俺はごめんだ。というか、俺がOKとでも

 言うと思っていたのか』

「まぁ、3割ほど」

『....はぁ。下剋上を狙うなら俺じゃなくて第四真祖に言ってみろ。俺よりも奴の方が

 いくらか可能性はあるだろ』

 そう言って、少し面倒と思った俺は全部古城に丸投げするようなことを言った。

 

「あら、そうなのですか?」

『さぁな。知りたかったら自分で聞いてみろ』

「そうですか。では後程聞いてみることにします」

『好きにしろ』

「では、私はこの辺りで。気が変わったらいつでもおっしゃってくださいね」

 そう言って、ヴィクトリアは一礼してここから去っていった。

 

 ~~~~

 

「この緊急事態に何やってんのよあのアホ真祖!?」

「先輩....」

『(おっかね....そういや、アイツ大丈夫なのか?)』

 俺は目の前でキレている二人を見ながらそんなことを考えていた。

 

 

 その頃、大浴場では五人のメイドに言い寄られ、浅葱に抱き着かれて鼻血を噴き出した

 男がいたとか....

 

 

 

 

 



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観測者たちの宴 Ⅷ

 古城side

 

「そういえば、あの騎士みたいな人は誰なのよ?」

 風呂に入り、ヴァトラーのメイド軍団に子種が欲しいと言われて、浅葱に抱き着かれて

 鼻血を噴き出した俺は浅葱と那月ちゃんととある部屋にいた。そして、さっき浅葱に

 下駄で殴られ、那月ちゃんのバックアップが覚醒してバックアップの説明を聞くと

 浅葱が俺にそう聞いてきた。

 

「あの騎士みたいなのは黒輪の根絶者(デリーター)。何か真祖と同じ扱い受けてる存在だとよ」

「あ、あの騎士みたいな人が!?」

 すると、浅葱は驚いたように声を上げた。

 

「あぁ」

「あ、あんた何でそんな化け物と知り合いなのよ!」

「知らねぇよ....俺だってよくわかってねぇのに。あ、でも那月ちゃんとは知り合い

 だったはずだ」

「そうなの!?」

「あぁ。この前那月ちゃんがそんなことを言ってた。それに、今は那月ちゃんを救うために

 協力関係だ」

「何で那月ちゃんもそんな化け物と知り合いなのよ....」

 浅葱はどこか疲れたようにそう言った。すると、部屋にあるテレビが急についた。

 

『ようやくつながったぜ。嬢ちゃん、聞こえるか?』

「モ、モグワイ!」

 ついたテレビにはどこか不細工なぬいぐるみが映っていた。

 

「....あんた、何でそんなところから出てきてんの」

『嬢ちゃんがスマホを切ってたもんでな。ハッキングさせてもらったんだ。それよりも

 嬢ちゃん、また厄介なトラブルが起きたんだ。ちょっと手を貸してほしんだ』

「あっそう。イヤよ」

 そう言うと、浅葱はリモコンを使ってテレビを消した。だがテレビはすぐにつき、モグワイは

 土下座していた。

 

『そこを何とか頼むぜ』

「絶対イヤ! あんたね、ただのバイトの学生にどんだけ働かせるのよ。あんたのせいで

 こっちは、祭り初日をまるっと台無しにされたんだからね!」

『それは悪かったって思ってるって。だけど今回のトラブルは嬢ちゃんとも無関係じゃ

 ねぇんだって』

「どういう意味よ」

『彩海学園を中心に妙な空間が発生してるんだ。その中では魔術に関する物が全部

 キャンセルされちまうらしい』

「それって、魔術が無効化されるってこと?」

『端的に言えばそうだな』

「ふーん。平和でいいじゃない」

『あぁ。ここが人工島じゃなかったらな』

「あ....」

「おい、それってまさか....」

『お二人さんの想像通り、島本体の建築魔術が機能を停止してやがる。今はまだ学園周辺しか

 影響を受けてないが、このままだとマズいことになるな』

 そう言われて、俺と浅葱は事の重大さが理解できた。この人工島は多くの魔術によって

 支えられている。もしもその魔術が機能停止したら、この島が海に沈んでしまうのが俺は

 予想できた。

 

「最悪だわ....」

『つーわけで、強度計算やら避難誘導のプログラムができる人材を絶賛募集中なんだわ。

 バイト代も弾むぜ』

「事情は分かったけど....こっちもすぐには行けないわよ。こっちはこっちで面倒ごとに

 巻き込まれてるんだから」

『そいつはわかってる。それもこっちの方で....』

 モグワイが続きを言おうとした瞬間、突然テレビの画面が消えた。それと同時に、船体が

 激しく揺れた。

 

「な、何だ!?」

「監獄結界の囚人ニャン。正面からこの船に乗り込んでみたいニャ」

「キャラがブレブレじゃねぇか....てか、囚人ならヴァトラーがどうにかするだろ」

「いやー....どうかな」

 いつの間にか窓の近くにいた那月ちゃんが外を見ながらそう言った瞬間、船体に何かが

 叩きつけられる音が聞こえた。音が気になり俺も窓に近づいて外を見ると、船体に

 ヴァトラーが血まみれで倒れているのが見えた。

 

「これはちょっとまずいかも....キュン」

 那月ちゃんはそう言いながら下をペロッと出した。そのあざとい仕草にイラっとしながらも

 俺は那月ちゃんと浅葱の手を引いてこの場から逃げ出した。

 

 ~古城たちが逃げる数分前~

 黒輪の根絶者(デリーター)side

 

「あいつ何なの! この状況でお風呂に入るってどういう神経してるのよ! 私だって

 お風呂に入りたいのに!」

『欲望が出てるぞ....まぁそれよりも、いつまでこっちを見てるつもりだ、ヴァトラー』

 紗矢華にツッコミを入れながら、俺は誰もいない所に向かってそう言った。すると、金色の

 霧が集まり、ヴァトラーが現れた。

 

「やっぱり気づいていたのか。流石だネ」

『当然だろうが。ま、コイツも気づいてたみたいだがな』

 そう言いながら、俺は姫柊の方を見た。

 

「そうカ。流石は第四真祖の監視者だネ。君が古城の監視者に選ばれた理由が納得

 できるヨ」

「それは、どういう意味ですか....?」

「いや、質問を変えよう。そもそも第四真祖は何者だ? 三柱しか存在しないはずの吸血鬼の

 真祖に何故四番目が存在するのか。四番目が生み出された理由は何なのか。古城が完全な

 第四真祖になればそれがわかるかもしれない。その状態の古城と戦って彼を喰うのも

 面白そうだ」

「アルデアル公....あなたは....」

 姫柊は笑みを浮かべているヴァトラーを警戒しながら槍に手をかけていた。

 

「そして君もだ、黒輪の根絶者(デリーター)

 ヴァトラーは警戒している姫柊を横目で見ながら俺にそう言ってきた。

 

「本来真祖には真祖しか勝てないと言われているのに君は三人の真祖を倒した。そして、

 真祖の眷獣を封印する力を持っている。過去にそのような存在はいなかったのにネ。

 そして君は古城には一切手を出さない。それどころか古城に手を貸している。君という

 存在は一体何者で何を目的にしているんだろうネ?」

『....少なくともお前に話す気はない』

 そう言いながら、俺は腰に差しているブラスター・ブレードを抜いた。

 

『それよりも、この場にふさわしくない客が来たみたいだな』

 そう言って、俺は埠頭の方を睨んだ。睨んだ所には、背中に大剣を背負っている男がいた。

 

「「監獄結界の囚人!?」」

 姫柊と紗矢華も囚人に気づき、それぞれの武器を構えた。すると、囚人の男がこちらに

 気づき背中の大剣を抜こうとした。だが、それよりも早くヴァトラーが眷獣を呼び出して

 囚人に攻撃を仕掛けた。

 

「ア、アルデアル公!?」

 姫柊はヴァトラーの容赦のない一撃に驚いていた。だが、ヴァトラーの一撃は大剣で

 斬り裂かれ、ヴァトラーの眷獣は真っ二つに斬られた。

 

「嘘!?」

「眷獣を斬った!?」

 眷獣を斬った囚人はそのままヴァトラーに突っ込み、ヴァトラーを吹き飛ばした。

 

『お前ら、アイツはヴァトラーに任せておくぞ』

「えっ?」

「だ、大丈夫なの?」

『あの程度でやられるなら俺が昔に消してる。それよりも、俺らはこっちだ』

 俺はそう言って背後を見た。

 

「おぉ....派手にやってんな。ちょいと出遅れちまったぜ」

「あなたは....!?」

 背後にいたのはドレッドヘアの囚人だった。

 

「なんだぁ....? 魔族特区じゃ攻魔師がナースもやってんのか?」

「え?」

 ドレッドヘアは姫柊を見ながらそう言った。

 

「ま、そんな事はどうでもいいがなぁ!」

 そう叫びながら、ドレッドヘアは姫柊に向かって腕を振りかぶった。姫柊はドレッドヘアの

 攻撃を防ごうとしていたが、その前に俺と紗矢華が同じタイミングで姫柊の前に動き

 攻撃をかき消した。

 

「ちょっと! 私の雪菜に何やってんのよチリチリ頭!」

 紗矢華はドレッドヘアの囚人に向かって怒りながらそう叫んだ。

 

「面白いじゃねぇかこの野郎!」

「雪菜! コイツは私と黒輪の根絶者(デリーター)でどうにかするから。あなたは暁 古城達をお願い」

「っ! わかりました」

 そう言って、姫柊は船の方に向かって走り出した。

 

「悪いわね、こっちに巻き込んで」

『別に良い。それよりも、さっさと倒すぞ』

 そう言いながら、俺は一瞬感じた強烈な気配の事を考えていた。

 

『(気配の感じた方向....奴の居場所はあそこか....)』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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観測者たちの宴 Ⅸ

『数が多いだけで威力は知れてるな』

「そうね....だけど数が多すぎよ....!」

 俺と紗矢華は場所を変えて、囚人と戦っていた。囚人の攻撃事態は弱いのだが、囚人の

 一度の攻撃回数はかなり多かった。俺一人なら力づくで抜けれるのだが、紗矢華が

 いるので俺は下手に攻撃を仕掛けれなかった。

 

『(さて、どうしたもんか....)』

「さっきから俺の攻撃を消しやがって....! テメェらいい加減にしやがれ!」

 すると、突然囚人がそう叫び光に包まれた。そして、光が収まると囚人の背中には腕が

 四本生えていた。

 

「あれは....!」

『....天部か』

「そういう事だぜこの野郎! さっさと落ちなァ!」

 そう叫んで、囚人はさっきの三倍の数の衝撃波を放ってきた。

 

「まだ増えるの!?」

『煌坂 紗矢華、少し下がってろ。ライド』

 俺はそう言って紗矢華の前に出て、斬伐の白刃 ラペジウムにライドして向かってきた

 衝撃波を全て双剣で斬り捌いた。

 

「んなっ!? あれだけの轟嵐砕斧を!?」

『煌坂 紗矢華、攻撃は俺が全て捌く。その間にお前は奴を一撃で倒せ』

「一撃でって....」

『あるだろ。お前の一撃必殺のアレ』

「っ! そういう事....わかったわ」

 そう言って、紗矢華は煌華麟を弓に変形させて太もものダーツを矢に変えてを弓に構えた。

 それを見て危険と感じたのか、囚人は攻撃の数を増やし、攻撃の速度を上げてきた。だが、

 俺も攻撃の速度と攻撃の威力を上げて向かってきた衝撃波を全て斬り捌き、攻撃が通る空間を

 一ヶ所作り出した。

 

『今だ!』

「獅子の舞女(ぶじょ)たる高神の真射姫(まいひめ)が讃え奉る。極光の炎駒(えんく)、煌華の麒麟、其は天樂(てんがく)と轟雷を統べ、

 憤焰をまといて妖霊冥鬼を射貫く者なり!」

 そう叫び、紗矢華は煌華麟から必殺の一撃を放った。必殺の一撃は囚人の上空で魔法陣に

 変わり、巨大な雷が囚人に降り注いだ。

 

「く、くそがぁぁぁぁ!!」

 囚人はそう叫びながら地面に膝をつき、周囲に現れた魔法陣から出てきた鎖に縛られて

 消滅した。

 

『....流石の一撃だな』

「ありがとう。おかげで助かったわ」

『そいつはどうも。....それよりも、そっちも終わったのか。姫柊 雪菜』

 俺は紗矢華の背後に見えた姫柊にそう言った。

 

「ゆ、雪菜!? それに暁 古城と....その子は....」

「南宮先生です」

「本当に小さくなってたのね....」

 紗矢華は驚きながらもなっちゃんを興味深そうに見ていた。

 

「そちらも終わっていたのですね、黒輪の根絶者(デリーター)

『あぁ。それと、仙都木 阿夜の居場所がわかったぞ』

「っ!? 本当なのか!?」

『あぁ。奴は彩海学園にいる。10年前と同じ場所にな』

「10年前って....」

「それってもしかして、闇聖書....」

 姫柊はそう言った瞬間、上空から俺達に向かって敵意のある気配を感じた。

 

『っ! ライド!』

 俺は咄嗟にカードを展開してコスモリースのカードを取ってライドし、俺達の上空に

 防御障壁を張った。

 

「ほぉ....今の攻撃を防いだか。流石だな、黒輪の根絶者(デリーター)

『それは嫌味か? 仙都木 阿夜』

 上空にいたのは今回の首謀者である仙都木 阿夜だった。

 

「仙都木 阿夜!」

「お前も那月ちゃんを追いかけて来たのか!」

「そういきり立つな、第四真祖。我は"空隙の魔女"を殺しに来たのではない。むしろ

 感謝しているのだ。脱獄者共を引きつけていたおかげで宴の準備が整った」

 そう言った瞬間、紗矢華の煌華麟の剣先が重力従うように地面に落ちた。

 

「っ! 煌華麟が....!?」

「...."(ル・オンブル)"」

『っ! お前ら伏せろ!』

 仙都木 阿夜がそう言った瞬間、顔が無い漆黒の鎧騎士が俺達に向かって剣を振り下ろして

 きた。だが、その一撃は俺の盾によって防がれた。

 

疾く在れ(きやがれ)、"獅子の黄金(レグルス・アウルム)"!」

 すると、後ろにいた古城が"獅子の黄金(レグルス・アウルム)"を呼び出し仙都木 阿夜に

 攻撃を仕掛けた。だが....

 

「まだ余力を残していたか。だが、それももう終わる」

 そう言って仙都木 阿夜が虚空に文字を描くと"獅子の黄金(レグルス・アウルム)"が霧のように

 なって消滅した。

 

「先輩の力が....! そんな....」

 姫柊はこの現状を見て力なく首を振った

 

「これが闇聖書の力だ。すでにこの島は我の世界となった。ここでは我以外の異能の力は

 すべて失われる。それが例え真祖の力でもな」

 そう言いながら、再び仙都木 阿夜は"(ル・オンブル)"で俺達に向かって攻撃してきた。俺はその攻撃を

 盾で防いだのだが....

 

「かかったな」

『っ!』

 仙都木 阿夜がそう言うと、俺の目の前にいた"(ル・オンブル)"は消滅し、古城の背後に回っていた。

 そいて、"(ル・オンブル)"は巨大な剣を古城の腹に突き刺した。

 

「がはっ....!?」

『暁 古城!?』

 俺は咄嗟に倒れそうになった古城を支えて、持っていた盾で"(ル・オンブル)"を殴ろうとした。だが、

 俺の攻撃よりも先に姫柊が雪霞狼で"(ル・オンブル)"を吹き飛ばした。

 

「雪菜!?」

『(アイツ、何で魔力が....)』

「やはりそうか。我が世界の支配を拒むか、獅子王機関の剣巫」

 そう言うと仙都木 阿夜は一瞬姿を消し、俺達の背後にいたなっちゃんを捕まえていた。

 

「それでこそ我が実験の客人に相応しい。わざわざ迎えに来た甲斐があったというものよ」

 仙都木 阿夜はそう言いながら姫柊を鋼鉄の檻に閉じ込めた。

 

「さぁ、宴はもう終盤だ。黒輪の根絶者(デリーター)、ここまで来たのなら汝でも止めることはできんぞ」

 そう言って、仙都木 阿夜は姫柊達を連れてこの場から消えた。

 

「くそっ....アイツの目的は、姫柊だったのか....」

 そう呟きながら、支えていた古城の力は抜けていった。

 

『っ! おい! しっかりしろ!』

「暁 古城!? あんた不老不死の吸血鬼なんでしょ!」

『とにかく一度場所を変えるぞ! このままだとコイツがマズい!』

 そう言って、俺と紗矢華は一度この場から離れた。

 

 

 



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観測者たちの宴 Ⅹ

『....』

『(何とかなったか....)』

「ねぇ....コイツ、死なないわよね?」

『今できる処置はすべてした。死ぬことはない』

「そう....」

 古城が気絶し、俺と紗矢華はこの付近にあったフェリーターミナルの医療室に移動し、俺は

 レディーヒーラーにライドして古城の傷を治していた。すると....

 

「....っ! 痛ぇな....!」

 腹の傷を治した古城が腹を抑えながら起き上がった。

 

「暁 古城!? 目が覚めたの!?」

「煌坂....ここは....」

「フェリーターミナルの一室よ。アンタが倒れたからここに運んできて、さっきまで

 黒輪の根絶者(デリーター)が治療してくれてたのよ」

「そうだったのか....悪いな」

『別に良い。それよりも、お前はもう休んでろ。あとは俺がケリをつける』

 そう言いながら、俺はブラスター・ジョーカーに姿を変えた。

 

「っ! まだ俺は....!」

 古城はそう言って立ち上がろうとしたのだが、すぐに膝を地面につけた。

 

『....やめておけ。出血多量で血が足りてなくてまともに動けない上に、眷獣を使えない

 お前が行っても無駄死にするだけだ』

「それはっ....」

『自分の身体の状態がわからないわけではないだろ。だから....』

「なら、血が足りて眷獣を使えれば行ってもいいんだね」

 すると、突然背後からそんな声が聞こえた。俺が背後を見ると、全身に包帯を巻いて白衣を

 着た仙都木 優麻がいた。

 

「ユウマ!?」

『....何をしに来た。仙都木 優麻』

「古城に希望を託しに来たんだ。仙都木 阿夜に対抗できる最後の希望を....」

「仙都木 阿夜に対抗って....」

「仙都木 阿夜は闇聖書を使ってこの島の異能の力を全て消した。だけど自分自身の力だけは

 消さなかった。つまり、彼女のコピーとして造られたボクの魔力も健在なんだ。だから、古城が

 ボクの血を吸えば....」

「っ! 暁 古城の吸血鬼の力は戻るかもしれない....!?」

「そういう事だよ煌坂さん」

 そう言いながら、仙都木 優麻は古城の前に立ち白衣を脱ぎ始めた。

 

「ちょっ!?」

『煌坂 紗矢華、目をつぶっといてやれ』

 そう言いながら、俺も二人から目を逸らした。そして、少しすると仙都木 優麻は弱々しい声を

 出し激しく血を吐いた。

 

「ここまでみたいかな....古城、それと黒輪の根絶者(デリーター)。勝手かもしれないけど、あの人を

 止めてくれ....」

「ユウマ....」

『言われなくてもわかっている....召喚(コール)、綻びた世界のレディヒーラー』

 そう言って、俺はレディーヒーラーをコールした。

 

『レディーヒーラー』

『....えぇ』

 レディーヒーラーは仙都木 優麻をソファに運んで周りに治療道具を並べだした。すると....

 

「ちょ、ちょっと暁 古城!? そんな血走った目でこっちに近づかないでくれる!?」

 少し目を離した隙に、古城が紗矢華に血走った目で近づいていた。

 

『....おい暁 古城』

 俺は古城の肩を掴み、さっきの治療中に紗矢華から少し貰って試験管に入れていた紗矢華の血を

 古城に無理やり飲ませた。

 

「ん!?」

『レディーヒーラー、そこの馬鹿が襲おうとしたら力づくで止めろ』

『わかったわ』

『じゃあ、俺は先に向かわせてもらうぞ』

 そう言って、俺は医療室から外に出てカードを展開した。

 

『ライド、突貫する根絶者(ペニトレイト・デリーター) ヰギー』

 俺は突貫する根絶者(ペニトレイト・デリーター) ヰギーにライドすると、一直線に学園の方に向かって飛んだ。

 



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観測者たちの宴 Ⅺ

「我の邪魔をするのか、那月。そして、黒輪の根絶者(デリーター)

「あぁ。これ以上、お前の罪を増やすわけにはいかないからな」

『はぁ....俺はそもそも関わる気はなかったんだがな....』

 私の目の前では若い頃の南宮先生と仙都木 阿夜、そして黒輪の根絶者(デリーター)がいた。

 

「那月、どうしても私の邪魔をするのだな」

「....あぁ。おい、貴様も手を貸せ」

『はいよ』

 そう言って、三人の戦いは始まった。だが、その戦いは南宮先生が無人島で見たラ・フォリアと

 同じような姿になった瞬間、一瞬にして終わった。そして、次の瞬間三人の姿は霧のように

 消滅した。すると、私は彩海学園の教室の中にいた。

 

「(....雪霞狼がない)」

 私の手元には雪霞狼はなく、あるのは学園のカバンだけだった。すると....

 

「姫柊!」

 突然背後から誰かに名前を呼ばれた。振り向くと、そこには先輩と紗矢華さん、伊吹先輩が

 いた。

 

「無事なの雪菜?」

「先輩? それに紗矢華さんに伊吹先輩も? 怪我は平気だったんですか?」

「あぁ。見るか?」

 そう言って先輩が服をめくろうとした時、伊吹先輩と紗矢華さんが先輩の頭を叩いた。

 

「何しようとしてんだお前は」

「そうよ! 私の雪菜が汚れるじゃない!」

 そう叫んで、紗矢華さんは私を抱きしめてきた。紗矢華さんからは肌のぬくもりや胸の

 柔らかさが実際に伝わってきた。

 

「(これは、夢じゃない....?)」

「こんなバカの事は放っておいて、部活行こ雪菜」

「部活....ですか? 私は先輩の監視が....」

「監視?」

「何だ? 練習でも見に来てくれるのか?」

「え?」

 そう言って先輩を見ると、先輩は何かのスポーツバッグを持ってることに気づいた。

 バッグからははみ出したバッシュやスポーツタオルが見えていた。

 

「先輩....またバスケ始めたんですか?」

「またってなんだ? 弱小だけどバスケ部、潰れてないぜ」

「でも、魔族の力は?」

「マゾ....?」

「....お前、そういう性癖か」

「変態....」

「違うわ! まぁ確かにうちのマネージャーはサディストだが....」

「後で浅葱に報告だな」

「やめろ! 俺が死ぬわ!」

「はぁ、こんな変態と話していたらマゾが伝染るわ。雪菜、早く弓道場に行こ」

「伝染るか!」

「(....そういう事か)」

 先輩と紗矢華さん、伊吹先輩達がこうしていがみ合いながらも同じ学園に通っている。これが

 私が望んだありえたかもしれない世界なのだとわかった。

 

「確かに、こうして普通の後輩として先輩達と出会って、紗矢華さんが一緒にいてくれたのかも

 しれないんですね。....でも、いつまでも夢に浸るわけにはいきません!」

 そう叫ぶと、私の手には消えていた雪霞狼が現れた。私は現れた雪霞狼を振るうと、目の前の

 三人と教室が消え、鳥かごのような檻に私は囚われていた。そして、隣の檻には眠っている

 サナちゃんがおり、私の目の前には仙都木 阿夜がいた。

 

「お前が望むなら、今の夢を現実に変えることもできたぞ」

 私が目覚めたことに気づくと、仙都木 阿夜は私にそう言ってきた。

 

「今のが闇聖書の力....自分が望むように世界を創り変える。あなたはその力で自分以外の

 異能の力を消したんですね」

「そうだ....」

「何故その様なことを....」

「....証明するためだ。呪われているのは魔女ではなく、この世界だという事をな」

「証明....?」

「これは実験なのだ。そして、お前はこの実験の立会人....っ!」

 仙都木 阿夜がそう話していると、何かを警戒したのか屋上に張られた結界を見ていた。

 すると、突然結界が身体のいたるところが尖っている異形によって破壊された。そして、異形は

 私とサナちゃんの檻を破壊して身体が光り出した。

 

「土足で踏み込んできたか....黒輪の根絶者(デリーター)

 仙都木 阿夜がそう言うと、異形がいた場所に騎士の姿をした黒輪の根絶者(デリーター)が現れた。

 

 

 

 

 



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観測者たちの宴 Ⅻ

「黒輪の根絶者(デリーター)....」

『まったく....祭りをとんでもない規模にしてくれたな』

 なっちゃんと姫柊の檻を破壊した俺は仙都木 阿夜にそう言った。

 

「....相も変わらず訳の分からない能力を使うな、汝は」

 そう言いながら、仙都木 阿夜は俺と姫柊の方を見てこう言ってきた。

 

「....黒輪の根絶者(デリーター)、そして剣巫。汝らは、本当にこの世界の人間か?」

「....どういう意味ですか」

「剣巫....汝が持つ槍、"七式突撃降魔械槍(シュネーヴァルツァー)"は魔力を無効化しありとあらゆる結界を

 斬り裂く破魔の槍と言われていたな。だがそれは事実か?」

「....何が言いたいんですか」

「汝の槍は魔力を無効化しているのではなく、本来あるべき世界の姿に戻しているのではないか? 

 異能という存在がない世界にな....」

「そんなもの、ただの憶測ではないですか」

 そう言った姫柊の言葉に、仙都木 阿夜は笑っていた。

 

「憶測か。ならば、汝は何故闇聖書の効果を逃れて、今も呪術を使える理由を我に聞かせて

 欲しいものだな」

「っ! それは....」

 姫柊は仙都木 阿夜の言葉に何も言い返せなくなっていた。

 

「そしてそれは汝もだ、黒輪の根絶者(デリーター)

 そして、仙都木 阿夜は俺に向かってそう言ってきた。

 

「誰も知らない数々の異形の姿を持ち、真祖と同等....いや、それ以上の力を持つ汝は一体

 何者だ? ただ一人の存在が、あれだけの異形の力を持ち、自在に操るなど....汝は本当に

 この世界の存在なのか?」

『そうだな....一つ言えるとすれば、俺はこの世界....いや、この惑星の存在ではないな』

 仙都木 阿夜の言葉に、俺はそう返した。

 

「えっ....?」

「何だ? それはつまり、汝は宇宙人とでも言いたいのか?」

『そうなるな』

「ふっ....宇宙人か。ならば、この世界が消滅した時、汝はどうなるのだろうな?」

『さぁな....というか、そもそもこの世界を消滅させると思っているのか?』

 そう言って、俺はブラスター・ブレードを構えた。

 

『それに、どうやらアイツが来たみたいだ』

「この魔力....!」

「っ! 馬鹿な....」

 仙都木 阿夜は、自分が創り上げた障壁が謎の霧によって包まれているのに気付いた。

 

『(注意を引いて正解だったな....)』

 俺がそう思っていると、障壁は第四真祖の三番目の眷獣、"龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)"によって

 破壊された。そして、破壊された穴から血まみれの古城と仙都木 優麻を背負った紗矢華が

 入ってきた。

 

「何故だ....汝の魔力は既に....」

「アンタが不要と言ったユウマのおかげだ」

「....まだ動けたのか、あの人形は」

 仙都木 阿夜は怒りで身体から魔力があふれ出ていた。

 

「あんたは俺の仲間を大勢傷つけた....あんたがユウマの母親だろうが関係ねぇ! 目的も

 知ったことか! ここから先は、第四真祖(オレ)戦争(ケンカ)だ!」

「いいえ先輩! 私達の反撃(ケンカ)です」

「....言ってくれるな餓鬼どもが! ここはいまだ我が世界の中ぞ!」

 そう叫んだ瞬間、仙都木 阿夜は空中に文字を描きだした。すると、文字を描いた場所から

 俺達が倒した監獄結界の囚人の偽物が現れた。

 

「記憶を元に魔導犯罪者を....!」

『偽物如きが....失せろ! バースト・バスター!』

「煌華麟!」

 だが、偽物の囚人は俺と紗矢華が全て消し去った。その間に、古城と姫柊は連携攻撃で

 仙都木 阿夜が自身の前に創り出した水晶の壁を破壊していた。

 

「世界に拒絶された異端どもの連携がこれほど厄介とはな。ならば....!」

 すると、仙都木 阿夜は袖口から一冊の魔導書を取り出した。それと同時に、姫柊は黒い触手に

 捕まった。

 

「汝の記憶、奪わせてもらうぞ剣巫! "(ル・オンブル)"!」

 そう叫ぶと、仙都木 阿夜の"守護者"が現れ姫柊に斬りかかろうとした。だが....

 

『今度はお前がかかったな、仙都木 阿夜!』

 俺がそう叫んだ瞬間、姫柊の前に金色の"守護者"が現れた。

 

「黄金の、"守護者"だと....!?」

『ライド!』

 仙都木 阿夜が金色の"守護者"に注意が向いた一瞬の隙をつき、俺はフリックヒッターに

 ライドして仙都木 阿夜の取り出した魔導書を奪った。

 

「しまっ....!?」

『返してもらったぞ、南宮 那月の時間』

 そう言って、俺はなっちゃんに魔導書を投げた。

 

「礼を言うぞ、黒輪の根絶者(デリーター)

「那月ちゃん! 魔力が戻ってたのか?」

「一瞬だけ魔術が使える程度のわずかなストックだがな。どこぞの真祖が風呂場で鼻血を

 出したおかげだ。藍羽にも感謝しなければな」

「幼児化の記憶も残ってんのかよ!?」

 そう話している二人を、触手から脱出した姫柊は冷めた目で見てた。

 

「姫柊 雪菜、阿夜の意識を一瞬刈り取れ。あとそこの舞威媛! 阿夜の娘には意識があるか」

「意識は....」

「....少しだけならあるよ」

 紗矢華に背負われた仙都木 優麻はなっちゃんにそう言った。

 

「あくまで我の敵に回るのか! 那月!」

 仙都木 阿夜はそう叫び、無数の溶岩や氷塊、地面から突き出す針をなっちゃんに飛ばした。

 

『させるか!』

 だが、その攻撃は俺の持つ鞭によって全て破壊された。

 

「鳴雷!」

 仙都木 阿夜の意識がこっちに向いている隙をつき、姫柊は仙都木 阿夜に蹴りを一発お見舞い

 した。

 

「ぐはっ....!?」

「悲嘆の氷獄より出で、奈落の螺旋を守護せし無謀の騎士よ....」

 仙都木 阿夜の意識が一瞬飛んだ瞬間、なっちゃんは呪文を唱えだした。

 

「我が名は空隙。永劫の炎をもって背約の呪いを焼き払う者なり。汝、黒き血の軛を裂き、

 在るべき場所へ還れ、御魂を恤みたる蒼き処女に剣を捧げよ!」

 なっちゃんの呪文が言い終わった瞬間、"守護者"の黒い鎧がひび割れて蒼い鎧が見えた。

 

「ユウマ!」

「"(ル・ブルー)"!」

 仙都木 優麻の言葉に、"守護者"は共鳴し、仙都木 阿夜は"守護者"を失った。

 

「我が生み出した人形が、我の支配に逆らうか....!」

 膝をついた仙都木 阿夜は血を吐きながらそう呟いた。

 

「潮時だ、阿夜....監獄結界に戻れ。お前が見た夢は、もう終わった」

 なっちゃんは諭すように、仙都木 阿夜にそう言った。

 

「孤立無援とはこの事か....LCOの魔導師を見限ったツケがこのような形で回ってくるとはな」

 仙都木 阿夜はゆっくりと首を振りながらそう言った。

 

「だが、まだ我の世界は終わっていない。夜明けまで耐えれば我の勝ちだ」

「そうなる前に、あなたを倒します」

 姫柊は雪霞狼を向けながらそう言った。

 

「....できるか、剣巫?」

 その瞬間、仙都木 阿夜から魔力が急上昇する気配を感じた。その気配はなっちゃんも

 感じたのかどこか焦った様子だった。

 

「っ、よせ! やめろ阿夜!」

 なっちゃんはそう叫ぶが、仙都木 阿夜には聞こえず、仙都木 阿夜は謎の紫色の炎に包まれた。

 

「な、なんだこれ!?」

堕魂(ロスト)だわ....魔女の最終形態。自らの魂を悪魔に喰わせて肉体を本物の悪魔と化す」

「こうなったら、誰にも止められない。阿夜はもう....」

「嘘だろ....」

『諦めるには早いぞ。ライド』

 俺は悔しそうにそう呟いたなっちゃんの頭をなでながらブラスター・ジョーカーにライドした。

 

「貴様....」

『助けるんだろ、親友を』

 そう言いながら、俺は一枚のカードを指で挟んだ。

 

「....あぁ、そうだな。借りるぞ、お前の力」

『あぁ。....我に宿りし破滅の力、共に戦う盟友(メイト)にその力を授け、未来への道を切り開け! 

 双闘(レギオン)!』

 俺はそう唱えなっちゃんにカードを投げると、なっちゃんの姿は伴星の星輝兵(スターベイダー) フォトンに

 姿が変わった。

 

『一撃で決める。合わせろよ』

「あぁ」

 そう言って、俺となっちゃんは仙都木 阿夜だった存在に向かって走り出した。

 仙都木 阿夜だった存在は、俺達が向かってくるのを防ぐため、怪物を呼び出した。だが、

 現れた怪物達は姫柊や紗矢華が全て倒してくれた。

 

「終わりの刻だ! 阿夜!」

『チェックメイトだ、仙都木 阿夜!』

 そして、俺となっちゃんの双闘(レギオン)アタックは決まり、仙都木 阿夜の炎を分離した。

 その瞬間、なっちゃんは虚空から鎖を呼び出し仙都木 阿夜は引きずり出し、俺は分離された

 炎を呪縛(ロック)した。それと同時に、学園を包んでいた結界と闇聖書の力が消滅した。

 

「....終わったか」

『あぁ』

 そう言いながら、なっちゃんは気絶している仙都木 阿夜を見ていた。

 

『(魔女としての力はかなりやられたか....)』

 俺は仙都木 阿夜の様子を見て少し考え、ある事を思いついた。

 

『空隙の魔女、仙都木 阿夜はこちらで少し預かるぞ』

 そう言って、俺は気絶している仙都木 阿夜を背負い、黒門を開く者を召還(コール)した。

 

「お、おい!」

『安心しろ。事が終わればすぐに返す。ではな、お前ら』

 俺はそう言って黒門が開く者が創り出した黒いゲートに入りこの場から去った。

 

 

 

 

 

 

 

 



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観測者たちの宴 XIII

「阿夜はどうだ....?」

「取り敢えず、今の今まで治療して五割治療できた。そう時間はかからないはずだ」

「そうか....すまないな」

 仙都木 阿夜との戦いが終わった十数時間後、俺はなっちゃんと学園の屋上にいた。

 

「気にすんな。俺となっちゃんの仲だろ?」

「....そうか」

 そう言いながら、なっちゃんは虚空からワイングラスを二つと一本のワインを取り出した。

 そして、なっちゃんはワインを注ぐとグラスを一つ渡してきた。

 

「私からの奢りだ」

「どうも」

 そう言って、俺はグラスを受け取り一口ワインを飲んだ。

 

「はぁ....働いた後のワインは美味いな」

「そのワインも、そこそこ高いものだからな」

 そう言いながら、なっちゃんもワインを飲んでいた。

 

「あ、そういえば....これの処理頼んだ」

 俺は虚空に手をかざすと、虚空には黒いゲートが開き、そこから十数冊の魔導書と捕獲した

 LCOの魔導師と魔女が落ちてきた。

 

「何だこの数は....」

「俺に無謀にもケンカを売ってきた馬鹿どもだ。魔導書は一冊残らず回収、魔女が二人いる。

 記憶の処理はしておいたからそっちで処理を頼む」

「....はぁ。よくもまぁこれだけの人数を....」

 なっちゃんは呆れながら魔法陣の中にしまっていった。

 

「これだけの人数を捕まえたのだ。給料だけでは足らんだろう。何か欲しいものはあるか?」

 なっちゃんは俺の働きを認めてくれたのかそんな事を言ってきた。

 

「そうだな....強いて言うなら休みが欲しいな。ここ二日働きっぱなしなんでな」

「そうか、休みか....なら四日ほど病院に入院していろ」

「病院?」

「この二日間、お前は暁達と一度も会っていないだろう。そんなお前が普通に登校すれば

 間違いなく剣巫に怪しまれるぞ」

「確かに....」

 なっちゃんの言う事には一理あった。姫柊はああ見えて勘は鋭い。普通に登校すれば間違いなく

 怪しまれるのが想像できた。

 

「とにかく、今日中に病院に入院しておけ。後は私がどうにかしてやる」

「ありがとな、なっちゃん」

「....教師をちゃん付で呼ぶな」

 そう言いながら、なっちゃんは俺のグラスにワインを注いできた。

 

「そうだ。お前に会いたいという人間がいたぞ」

「俺に?」

「あぁ」

 なっちゃんはそう言って指を鳴らすと、なっちゃんの近くの空間が歪んだ。すると、空間から

 仙都木 優麻が現れた。

 

「こいつはまた意外な....」

「初めまして、黒輪の根絶者(デリーター)。今は伊吹 終夜って呼んだほうが良いのかな?」

「あぁ。そうしてくれると助かる」

「そっか。....君にはとても迷惑をかけたね。すまなかった」

 そう言うと、仙都木 優麻は俺に頭を下げてきた。

 

「気にすんな。お前が古城の親友じゃなかったら根絶(デリート)してただけだ」

「....手厳しいね」

 そう言いながら、仙都木 優麻は苦笑いしていた。

 

「で、俺に何か用があるのか?」

「いや、そんなに深い理由はないよ。ただ、古城がこの島でできた親友はどんな人物か興味が

 あったんだ」

「へぇ....」

 そう言って、仙都木 優麻は興味深そうに俺を見ていた。

 

「うん....確かに面白い人間だ。それに....いや、これはやめておくよ」

 仙都木 優麻は意味深に笑うとなっちゃんの背後に回った。

 

「もういいのか?」

「あぁ。彼がどういう人間がわかったからね」

「そうか。伊吹、これから私とコイツは暁達に会いに行く。お前は今のうちにこの病院に

 行っておけ」

 そう言って、なっちゃんは一枚の紙を渡してきた。そこには病院の場所と病室の番号が

 書かれていた。

 

「どうも」

「また病室でな、伊吹。二日間ご苦労だった」

「じゃあね」

 そう言うと、二人は空間転移でこの場から消えた。

 

「....あ」

 俺は二人が消えた場所を見ると、そこにはさっき飲んでいたワインの瓶が置かれていた。瓶の

 中にはまだ半分ほどワインが残っていた。

 

「お前も飲むか? ジョーカー」

 そう言いながら、俺はブラスター・ジョーカーのカードを手に取って自分の横に投げた。

 

『....そうだな。お言葉に甘えさせて頂こうか」

 ジョーカーはなっちゃんが置きっぱなしにしていたグラスを手に取った。俺はそのグラスに

 ワインを注ぎ、自分のグラスにもワインを注いだ。

 

「んじゃ、お疲れさん。乾杯」

『乾杯』

 その瞬間、この日のフィナーレを飾る花火が打ち上げられた。

 

 ~その頃~

 

「ねぇ、そういえば終夜は....?」

「「あっ....」」

 とある埠頭で親友の事を忘れていた吸血鬼と、吸血鬼の親友の事を忘れていた剣巫がそのことを

 思い出したとか....

 

 

 

 



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観測者たちの宴 後日談 上

「ここか....」

「みたいですね....」

 花火大会の次の日、私と先輩は伊吹先輩が入院しているという病院の病室の前にいた。

 昨日の花火大会の時、紗矢華さんの一言で私と先輩は伊吹先輩がいなくなったという事を

 思い出した。すぐさま探しに行こうと思ったのだが、突然現れた南宮先生によって

 伊吹先輩は病院に入院しているという事を教えてもらった。そして、昨日は時間も

 時間だったので、次の日である今日に伊吹先輩のもとにお見舞いに来ていた。

 

「取り敢えず入るか」

 そう言うと、先輩はノックもせずに伊吹先輩の病室に入っていった。

 

「(ノックぐらいしましょうよ....)」

 口には出さなかったが、私は心の中でそう思った。そう思いながら中に入ると、伊吹先輩は

 静かに眠っていた。そして、伊吹先輩の身体にはチューブや酸素マスクがつけられて

 いなかった。

 

「外傷は少ないのでしょうか....」

「見た感じそうだよな....」

 先輩も同じことを考えていたのかそう言っていた。すると....

 

「来ていたのかお前達」

 いつの間にか背後に南宮先生がいた。

 

「南宮先生」

「那月ちゃん」

「教師をちゃん付で呼ぶな!」

 そう言って、南宮先生は先輩に扇子を振り下ろした。

 

「痛ってぇ!?」

「まったく....病室に来てまで私を怒らせるようなことをするな」

 そう言いながら、南宮先生は伊吹先輩に近づいていった。

 

「あの、南宮先生。伊吹先輩はどうして入院を? 見たところ外傷はなさそうですが....」

 私は気になったことを南宮先生に聞いてみた。

 

「あぁ。コイツに外傷はほとんどない。だが、魔力がほぼ空の状態だ」

「魔力が空?」

「あぁ。どうやら、昨日の件でコイツはLCOの魔導師と戦っていた。それも50を超える人数で

 中には十部門の組織のトップが二人いた」

「十部門のトップが二人....!?」

「あぁ。コイツが倒れている近くに魔導書と一緒に気絶しているのをアスタルテが確認した。

 奴らは既に特区警備隊(アイランド・ガード)に身柄を拘束されている」

「(十部門のトップを二人も....それもたった一人で....やはり伊吹先輩が....でもそれだと....)」

 そう考えていると、突然南宮先生の隣に黒いゲートの様なものが現れた。そのゲートの様な

 ものに私は見覚えがあった。そしてそこから現れたのは黒輪の根絶者(デリーター)だった。

 

「黒輪の根絶者(デリーター)!?」

「何でアンタが!」

『第四真祖に剣巫か。お前達もコイツの見舞いか?』

「あ、あぁ....って、そうじゃなくて!」

『俺も見舞いだ。弟子であるコイツのな』

「....えっ?」

「....今、何て言った?」

『弟子であるコイツの見舞いと言ったんだ。南宮 那月、コイツの容態は?』

 黒輪の根絶者(デリーター)は私達の驚いている様子を気にせずに南宮先生にそう聞いていた。

 

「....ただの魔力切れだ。数日もすれば退院できるだろう」

『そうか。なら大丈夫だな。ではな、第四真祖、剣巫』

 そう言い残すと、黒輪の根絶者(デリーター)はゲートの様なものに入りこの場から消えた。

 

「おい那月ちゃん! 終夜が黒輪の根絶者(デリーター)の弟子ってどういう事だよ! 黒輪の根絶者(デリーター)

 終夜なんじゃ....!」

「教師をちゃん付で呼ぶな....アイツ、余計なことを....」はぁ

 南宮先生はどこか呆れた様子でため息をついた。

 

「南宮先生、黒輪の根絶者(デリーター)が言っていた事はどういう事ですか」

 私は南宮先生を見てそう聞いた。

 

「....ある意味、いい機会かもしれんな。お前達、話してやっても良いが今から話すことは

 誰にも口外するな。特に姫柊 雪菜、お前は絶対にこの事を上司に話すなよ」

「っ....! わかりました....」

「そうか....なら話してやろう」

 そう言って、南宮先生は伊吹先輩の過去を話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 



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観測者たちの宴 後日談 下

 雪菜side

 

「私と伊吹が出会ったのは、私が攻魔師になって一年が経った時だ。私はある任務で

 とある違法研究所の摘発を行っていた」

「違法研究所?」

「あぁ。その研究所では強力な魔力を持つ子供に無理矢理眷獣を埋め込む実験が行われて

 いたのだ」

「「っ!?」」

 南宮先生の言葉に私と先輩は言葉を失った。

 

「私と数人の攻魔官は奇襲を仕掛けて研究所に乗り込んだ。そして、研究員を全員捕獲し

 生き残っていた子供たちを救出した。だが、一つイレギュラーな事が起こった」

「イレギュラー、ですか....?」

「あぁ。子供たちの中に一人だけ、眷獣を埋め込まれて暴走した子供がいた。そいつがコイツ、

 伊吹 終夜だった」

 南宮先生はそう言いながら伊吹先輩の方を見た。

 

「急に暴走を起こしたからな。対処できるのは私だけだった。だから私は力づくでコイツを

 抑えた。そしてそのままこの島に戻り子供たちを親の元に返していった。だが、コイツの

 親だけは消息を絶っていたのだ。不思議に思い研究所の資料を調べると、コイツは実の親に

 大金で売られていた」

「っ! マジかよ....」

「だから伊吹先輩の親を見ないんですね....」

「あぁ。その後、伊吹の処遇については一悶着あった。だから私は一度伊吹を引き取った。

 伊吹を抑えることができ、何より監視下に置くには私は都合が良かったからな。それから

 伊吹はしばらく私の家に住みながら魔力を抑える特訓を行っていた。だが、私も教えるには

 限界があった。そんな時に....」

「....黒輪の根絶者(デリーター)が現れた」

 私の言葉に南宮先生は小さく頷いた。

 

「奴は何処から知ったのかは知らないが伊吹の情報を知っていてな。自分なら伊吹に魔力を

 抑える方法と魔力を自在に操る方法をが分かると言って伊吹を弟子にした。この事に伊吹も

 同意して、しばらく伊吹はジョーカーとともに旅に出かけた。そして二年ほど経つと一人で

 私のもとに戻ってきた。自分の中にいる眷獣を自在に操れるほどになってな。そして、

 伊吹はその力を私に貸すようになった。今までの恩を返したいと言ってな。それからは私の

 秘密の助手となった」

「秘密の助手?」

「あぁ。魔導犯罪者や指名手配犯の捕獲といった私の手伝いを任せている」

「ちょっと待ってください。だったら伊吹先輩は攻魔師なんですか?」

 私は南宮先生の言葉が気になりそう聞いた。

 

「いや、伊吹は正式な攻魔師ではない」

「だったら勝手に行動するのはマズいんじゃ....」

「あぁ。だから黙っておけよ。外にバレると色々と処理が面倒だ」

「良いのかよそんなんで....」

「まぁな。伊吹のおかげで今まで捕まらなかった犯罪者が捕まり私の地位も上がって

 色々と無理が通るようになったし、伊吹も伊吹で私からの給料が出る。winwinの関係と

 言ったところだな。....これで私が話せることは全てだ」

 そう言って、南宮先生は話しを終えた。

 

「終夜にそんな過去があったのか....知らなかったな....」

「当然だ。私も伊吹には自分の過去については喋るなと言っていたからな。面倒ごとの

 元になるかも知らんからな」

「そうか....」

「とにかく、今話した事は誰にも話すなよ。研究所の件も特区警備隊(アイランド・ガード)ではなかった事件と

 されている。本来これを話すのも問題になるからな」

「わかった」

「....わかりました」

「....なら良い」

 

 ~~~~

 那月side

 

 二人に話し終えると、二人は帰っていった。私は二人が帰るのを病室から確認すると、

 病室にある花瓶を手に取った。そして、花瓶の下に付いていた式神を剥がして病院の

 屋上に転移した。すると、そこには舞威媛がいた。

 

「盗み聞きとは良い趣味をしているな、舞威媛」

「っ!? 空隙の魔女....!」

 舞威媛は私が現れていた事に驚いているようだった。

 

「どうしてここが....」

「魔力を辿っただけだ。....それよりも貴様、さっきの話しを聞いたな?」

「....えぇ。聞いたわよ」

「そうか。....なら、分かっているな?」

 私は少し睨みながら舞威媛にそう言った。

 

「っ....! 分かっているわよ。聞いたことは誰にも話さないわ」

「なら良い。あぁ、それと....好きな男の見舞いぐらい式神を使わずに自分で行け」

「は、はぁぁぁぁ!?」

「ではな」

 私は舞威媛の絶叫を聞きながら伊吹の病室に転移した。

 

「....ぐっすり眠りよって」

 私はそう呟きながら伊吹の頭を撫でた。すると、私の隣にゲートができジョーカーが現れた。

 

「ジョーカーか」

『感謝する南宮 那月。おかげで時間が稼げた』

 そう言って、ジョーカーは私に頭を下げてきた。

 

「別に構わん。貴様らにも今回の件には随分と世話になったみたいだからな」

『そうか。....では、俺も一度眠りに就く』

 そう言うと、ジョーカーの姿は光り出しカードとなって伊吹の身体の中に消えた。

 

「ふぅ....一先ずご苦労だったな伊吹。ゆっくり休めよ」

 私はそう言い残してこの場から転移した。

 

 

 

 

 

 

 



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錬金術師の帰還編
錬金術師の帰還 Ⅰ


「叶瀬 賢生が襲われた?」

「あぁ。昨日の夜にな」

 病院を退院して数日後、凪沙ちゃん達と買い物に行く前に学園のなっちゃんの部屋で

 そんな事を言われた。

 

「襲われたって誰に?」

「天塚 汞という錬金術師だ。見た目は赤白チェックの奴だ。見つけたらとっ捕まえる前に私に

 連絡しろ」

「了解」

 そう言いながら、俺はなっちゃんの部屋から出て待ち合わせ場所に向かった。

 

 ~~~~

 

「くっそ....どんだけ買うんだよ」

「言ってやるな。女子は大変なんだろ」

 そう言いながら、俺と古城は凪沙ちゃんと姫柊、そしてリアの叔母にあたる叶瀬 夏音の

 買い物の荷物持ちをしていた。

 

「シュウ君の言う通りだよ古城君! 女の子は大変なんだから!」

「へいへい、それは悪かったな」

「まったく....あ! 二人ともあそこのお店入ろ! 二人は外で待っててよ!」

「了解」

「言われなくても入らねぇっての....」

 そうして、三人はランジェリーショップの中に消えていった。

 

「アイツのテンションには付き合いきれんな....」

「そんだけ楽しみにしてんだろ。凪沙ちゃん、島外に出るのが久しぶりなんだろ?」

「あぁ。浮かれるのは別に良いが、調子に乗って羽目を外さなきゃ良いんだがな....」

「凪沙ちゃんだし大丈夫....っ!」

 そう言いながら、俺は古城と俺に近づいてくる男が目に入った。その男は赤白チェックの

 帽子とネクタイ、真っ白なマントコートを纏った男だった。そして、左手には銀色の

 ステッキを持っていた。

 

「どーも。さっきの銀髪の彼女、綺麗な子だね」

「あぁ、まぁ....」

「下がれ古城! "アステロイド・ウルフ"!」

 俺は古城にそう叫び、アステロイド・ウルフを召喚(コール)した。

 

「やれ!」

 アステロイド・ウルフは男の腕に嚙みついて腕を奪った。だが、奪った腕はすぐに銀色の

 液体金属の様な物で剣に変わった。

 

「チッ....」

「おっと....随分と遠慮がないなぁ」

「おい終夜。アイツ何者だ」

「天塚 汞っていう錬金術師の犯罪者だ。昨日、叶瀬 賢生がコイツに襲われて重傷を負った」

「なっ!?」

「随分と余裕だね!」

 そう叫びながら、天塚 汞は剣を振り下ろしてきた。

 

「取り敢えず広い所に移動するぞ!」

「あ、あぁ!」

 そう言いながら、俺と古城は天塚 汞の攻撃を避けながら広場の方に出た。

 

「できれば目立たないように殺したかったんだけど....見たところ、二人ともただの人間じゃ

 ない感じだね。それに、フードの方は吸血鬼か」

「テメェ、何の真似だ! 目的は叶瀬か!」

「誘拐、にしては物騒だがな....」

 すると、何故か天塚 汞は笑い出した。

 

「誘拐だって? 何処かに連れて行くって事かい? あの子は何処にも行けない。ただの供物に

 なって貰おうと思っただけだよ」

「供物だと?」

「そうだよ。だから、邪魔な君達には死んでもらう!」

 そう叫びながら、天塚 汞は俺達に向かって飛びかかってきた。俺は別のユニットを

 召喚(コール)しようとしたが、それよりも先に俺達の目の前に姫柊が現れ、天塚 汞の攻撃を雪霞狼で

 弾いた。

 

「姫柊!」

「お二人ともご無事ですか?」

「あぁ」

「まぁな」

「そうですか。....それよりも、あちらの方は?」

「天塚 汞。錬金術師で叶瀬を狙ってる」

「叶瀬さんを?」

「ふぅん...."七式突撃降魔械槍(シュネーヴァルツァー)"か。そういえば、獅子王機関の剣巫が、

 第四真祖の監視役に派遣されてきたという噂があったっけ」

 そう言いながら、天塚 汞は弾かれた腕を地面に落ちていた鉄柱に触れて元に戻していた。

 

「剣巫に第四真祖、それにわけのわからない魔術師。三対一は流石に分が悪いか。叶瀬 夏音の

 始末は一度諦めるのが正しいか」

 そう言うと、天塚 汞は背中を向けて俺達から逃げ出した。

 

「っ、待て! この赤白チェック!」

「古城止まれ!」

「駄目です先輩! 相手の能力が把握できていない以上は....!」

 俺と姫柊は古城に追いかけるのを止めようとしたが、古城はそれを無視して天塚 汞を

 追うために走り出した。だが、それと同時に古城が走り出した方向にあった木が金属に

 変わって倒れようとしていた。

 

「っ! "オルバース・パンゴリン"!」

 俺は咄嗟に倒れてくる木の場所にオルバース・パンゴリンを召喚(コール)して金属の木を受け止めた。

 

「っ!? あぶねぇ....」

「あぶねぇじゃねぇっての....」

「そうですよ先輩! 伊吹先輩が間に合わなかったら大怪我でしたよ!」

「あ、あぁ....すまねぇ終夜。助かった。姫柊もありがとな」

「怪我が無いなら別に良い」

「当然のことをしただけです。私は先輩の監視役ですから」

 そう言いながら、俺はユニットを退却させて服に付いた砂埃をはたいた。その時、俺はある事に

 気づいて姫柊から視線をそらした。

 

「なぁ、姫柊。二人はどうした?」

「二人なら試着中だと思いますよ。それよりも、どうして私から視線を逸らして....」

「....胸元見てみろ」

「えっ? っ!?」

 そう言った瞬間、姫柊は自分の服装を見てその場に座り込んだ。

 

「い、伊吹先輩....いつから気づいていたんですか....!?」

「俺はついさっきだ。そっちは....いつから気づいてたかは自分で聞いてくれ。俺は少し電話を

 してくる」

「お、おい終夜! 今ここで俺を一人にするなよ!」

 そんな悲痛な叫びを無視して、俺は少し離れた所でなっちゃんに電話をかけた。

 

『....何だ』

「天塚 汞と接触した。どうやら狙いは叶瀬 夏音みたいだ」

『そうか....予想通りだな』

「どうする? 俺の方で叶瀬 夏音に護衛でも付けておこうか?」

『....そうだな。二、三人ほど頼んでおく』

「了解」

 そう言って、俺は電話を切って少し考えた。

 

「(何故奴は叶瀬 夏音を狙う....アルディギアの血筋だから? いや、この情報はほぼ外に

 流れていない。じゃあ何だ....)」

 その時、俺はリアから聞かれた事を思い出した。

 

「(そういえば、リアは修道院の事故の事を聞いてきたな....そうなると、修道院の事故が

 関係ありそうだな。少し確認に行ってみるか)」

 そう思いながら、俺は古城達がいる場所に戻った。

 

 

 



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錬金術師の帰還 Ⅱ

「....」

「(随分と人が多いな....)」

 天塚 汞の襲撃があった次の日、俺は昼休みに例の修道院に来ていた。だが、修道院には

 特区警備隊(アイランド・ガード)の男達がいた。

 

「....ライド」

 俺はバレないように近づこうと思い、多足の根絶者(ポリポディア・デリーター) ヲロロンにライドして近くの木に登って

 糸を使い、修道院の屋根に移動した。そして、屋根から中を覗き込んだ。修道院の中では、

 研究員の様な人間が修道院の中にあるレリーフに装置を当てていた。

 

『(あのレリーフ、魔力の気配があるな....)』

 そう思って見ていると、背後の方で打撃音が聞こえた。俺が打撃音が聞こえた方を見ると、

 そこには浅葱と、浅葱を押し倒した古城と呆れた表情をしたなっちゃんがいた。

 

『(あんな所で何やってんだか....)』

 俺は呆れながらそう思い、近くの木に移ってライドを解除して三人に近づいた。

 

「何やってんだ二人とも」

 俺が着いた時には、古城と浅葱はなっちゃんの前で正座していた。

 

「しゅ、終夜!」

「....やはりお前も来ていたか」

「ア、アンタこんな所で何してるのよ!」

「ちょっと調べ物をしてたんだよ。昨日の件でな」

「昨日....?」

「あぁ。ま、事情はなっちゃんから聞け。それでなっちゃんどうする? 俺の方でもここに

 監視を置いておくか?」

「好きにしろ。ただし、特区警備隊(アイランド・ガード)にバレるなよ」

「了解。じゃ、また後でな二人とも。説教ちゃんと受けろよ」

 そう言って、俺は二人から離れ監視用に蹂躙する根絶者(オーバーライド・デリーター) ヲルグと進撃する根絶者(マーチング・デリーター) メヰズを

 召喚して学園の方に戻った。

 

 ~放課後~

 

 放課後になり、俺は凪沙ちゃんとショッピングのためにアクセサリーショップに来ていた。

 

「シュウ君、これとかどうかな?」

「そうだな....」

 何故俺と凪沙ちゃんがアクセサリーショップにいるかというと、二日後の11月11日は

 凪沙ちゃん誕生日で、少し早いが凪沙ちゃんの誕生日プレゼントを買うために

 アクセサリーショップに来ていたのだ。

 

「(凪沙ちゃんにあうアクセサリーは、そうだな....)」

 俺も俺で凪沙ちゃんに合いそうなアクセサリーを探していた。すると、俺は一つのネックレスに

 目が留まった。そのネックレスは三日月の形をしており、一つ小さな宝石が付いて

 どこか神秘的な力を感じた。

 

「このネックレス....」

「うわ~....! すっごく綺麗....」

「あぁ....」

「(確かに綺麗だ....だが、この親近感がわくような感じは....)」

「シュウ君! 私、これが良いなぁ」

「....わかった。じゃ、チェーンの長さとか合わせてもらおっか」

「うん! ありがとうシュウ君!」

 そう言って、凪沙ちゃんは店員にチェーンの長さを測ってもらっていた。その間に、俺は

 会計をしていた。

 

「お会計、16万5000円になります」

「(....高)」

「カードで」

 そうして、チェーンの長さも測り終わり、俺と凪沙ちゃんは店から出た。すると、突然頭の中に

 ヲルグとメヰズの声が聞こえた。

 

「(っ! この声....奴が来たのか)」

 俺はそう思い、隣にいた凪沙ちゃんにこう言った。

 

「悪い凪沙ちゃん。魔族関係でちょっと問題が発生したみたいだ」

「えっ? 魔族関係で?」

「あぁ。どうやら見張ってた犯罪者が動いたみたいでな。ちょっと捕まえてくるから先に

 家に帰っておいてくれないか?」

「だ、大丈夫なの?」

「あぁ。すぐに終わるから」

「....わかったよ。怪我しないで帰ってきてね」

「了解」

 その言葉を聞き、俺は修道院の方に向かって走り出した。その時、俺は気づかなかった。

 凪沙ちゃんの左目に、謎の紋章が現れたことに....

 

 

 

 

 

 



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錬金術師の帰還 Ⅲ

 凪沙ちゃんと別れ、俺は修道院の方に向かって走っていた。そして、残り数百mという所で

 突然俺の前にヲルグとメヰズのカードが現れた。だが、カードに描かれているヲルグと

 メヰズの色は灰色に変わっていた。

 

「(退却させられた....? 監視はバレないようにしていたのに....何があった)」

 俺は二枚のカードを見て嫌な予感を感じ、スピードを上げて修道院に向かった。

 

 ~~~~

 

「っ、浅葱!?」

 修道院に着くと、何故か修道院は崩壊し、浅葱が血まみれで地面に倒れていた。

 

「おい! しっかりしろ浅葱!」

 俺は浅葱を抱きかかえたのだが、浅葱の息はかなり衰弱していた。

 

「(っ、マズい....)」

召喚(コール)! 星輝兵(スターベイダー) エーテル・ルーパー!」

 俺はエーテル・ルーパーを召喚して、エーテル・ルーパーに浅葱の回復を任せ俺は

 崩壊した修道院の上に立っている天塚 汞に近づいた。

 

「天塚....テメェが浅葱をこんな目に合わせたのか」

「まぁね。彼女には見られたくない物を見られたしね」

「テメェ....人のダチに手出してただで帰れると思ってんのか?」

 そう言った瞬間、俺の右目に普段は隠れているリンクジョーカーの紋章が光り出した。

 そして、俺の身体からは黒いオーラの様な物が出始めた。

 

「っ!? そのオーラ....! まさか!?」

「気づいたところでもう遅い....顕現せよ(Revelation)、ボーリウムソード」

 そう呟いた瞬間、俺の左手に抜刀の星輝兵(スターベイダー) ボーリウムの刀が現れた。そして、俺は右手を

 鞘に置きながら天塚に一気に接近した。すると、天塚は驚き腕を液体金属に変えて俺の動きを

 妨害しようとしてきた。だが、俺は刀を抜いて液体金属を全て斬り飛ばし天塚の頭上で

 刀を構えた。

 

「死ね....」

 そう呟いた瞬間、俺は天塚の身体を真っ二つに斬り裂いた。天塚は俺の一撃で真っ二つに

 斬れたが、俺の手の感覚には人を斬った感覚はなかった。そして、天塚がいた場所には

 小さな鉄球が落ちていた。

 

「(....偽物か)」

 俺は小さな鉄球を拾うと手で握りつぶし、ボーリウムソードを戻して浅葱のもとに向かった。

 

「(出血が酷い....輸血パックが無いとマズいな)」

 そう思いながら次の動きを考えていると....

 

「終夜!」

「伊吹先輩!」

 突然俺の目の前に古城と姫柊、そしてなぜかメイド服姿の紗矢華らしき何かが現れた。

 

「お前ら....何でここに」

「浅葱が修道院の近くにいるって言うから急いで来たんだよ! てか、浅葱に一体何があった!」

 古城は浅葱の様子を見てそう叫んできた。

 

「....天塚にやられた。俺が来た時にはこの状態で現在応急処置中だ」

「天塚は?」

「俺が殺した。だが、おそらく偽物だ。とにかく詳しい話はあとだ。今は浅葱を....」

 そう言って浅葱を見ると....

 

「いったぁ....って、何じゃこりゃ!? てかこれ何!?」

 浅葱は何故か起き上がって自分の血とエーテル・ルーパーを見て驚いていた。

 

「(嘘だろ....)」

「浅葱....?」

 俺は起き上がった浅葱に言葉が出なかった。

 

「(あれだけの出血量と傷でもう起き上がった....? ありえない....エーテル・ルーパーを

 置いたが精々数分だ。エーテル・ルーパーに即効性の治癒力はないはずだ....一体何が....)」

 俺は目の前で起きたありえない状況に考えを巡らせた。

 

「えっと....これ、どういう状況?」

 そして、この空間には何とも言えない空気が流れていた。

 

 

 

 

 



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錬金術師の帰還 Ⅳ

「....」

「....伊吹先輩、そんなに疑うような目をしてどうしたんですか?」

 浅葱を助けた帰り道、俺が浅葱を見ながら歩いていると姫柊にそう聞かれた。

 

「....浅葱、アイツ何であんなに出血してたのにもう回復したんだと思ってな」

「....伊吹先輩のウーパールーパーの力じゃないんですか?」

「違う。エーテルルーパーは確かに癒しの力を持っているが、エーテルルーパーの

 癒しの力は時間をかけて癒す力だ。あんなに即効性の回復をする力はない」

「ではどうして....」

「それが分からないから困ってるんだよ....てか....」

 俺は立ち止まって姫柊の背後を歩いていた紗矢華を見た。

 

「その紗矢華の偽物。式神か何かか? 会った時からずっと気になってたが....」

「あぁ....これは私と紗矢華さんのお師匠様の師家様の式神です」

「....何故にメイド服?」

「罰ゲームだそうですよ。ハロウィンの時、勝手に煌華麟を使用したという理由で」

「そうか....」

「(これを古城に見られてたら紗矢華のやつ大暴れしそうだな....)」

 そう思いながら歩き、交差点に着くと姫柊は小声でこう言ってきた。

 

「伊吹先輩、私は今から師家様に起きた事を報告に行きます」

「そうか。....俺もなっちゃんに報告に行くか。古城、浅葱を連れて先帰っててくれ。

 俺と姫柊は後から帰る」

「そうか。んじゃ、先に帰っとくぞ」

「あぁ」

 そう言って、俺と姫柊はそれぞれ別の方向に走り出した。

 

 ~~~~

 那月宅

 

「....そうか。わざわざ報告ご苦労だったな」

「そいつはどうも。そういやこれ」

 なっちゃんの家に来て報告を終えた俺は三枚のカードをなっちゃんに渡した。

 

「コイツ等でも過剰戦力だが念には念を入れたほうが良いだろ」

「そうか。これは後で私が渡しておこう」

「頼んだ。....それよりも、お客さんが来てるみたいだな」

「あぁ。来たついでだ。お前が片付けて来い」

「人使いが荒いこって....わかった」

 そう言ってなっちゃん宅から出て俺は地下駐車場まで降りた。すると、そこには偽物の天塚が

 いた。

 

「....顕現せよ(Revelation)、デュアルコンダクト」

 そう呟くと俺の両腕は無音の射手 コンダクタンスの銃に変わった。

 

「失せろ、紛い物が」

 そう言って、俺はデュアルコンダクトから無数の弾丸を放った。弾丸は天塚を打ち抜き、

 天塚は灰色の石のようになり粉々に砕けていった。

 

「はい、仕事終わりっと」

 俺は腕を元に戻してのんびりと自分の家に帰った。

 

 ~~~~

 

「おっ」

「あっ」

「あっ! シュウ君!」

 帰り道、俺は姫柊と凪沙ちゃんに会った。

 

「二人とも奇遇だな」

「シュウ君何処かに行ってたの?」

「あぁ。ちょっと用事でな。凪沙ちゃんは買い物の帰りか?」

「うん! 古城君に牛乳頼んでたのに古城君忘れてたから。まぁ、ついでにお菓子も買いに

 行けたから良かったけどね」

「そうか。荷物持とうか?」

「これぐらいなら大丈夫だよ。それよりも早く帰ろ! 今日はグラタンだよ!」

 そう言って、凪沙ちゃんは俺達の前を歩きだした。

 

「....姫柊」

「....何ですか伊吹先輩?」

「明日からの宿泊研修、警戒しとけよ。天塚の奴、ダミーで叶瀬を襲いに来る可能性がある。

 なっちゃんの家で一体襲撃があった」

「っ! ....わかりました。ご忠告ありがとうございます」

「気にするな。....取り敢えず怪我とかせずに帰って来いよ」

「えぇ」

「シュウ君! 雪菜ちゃん! 早く帰ろ!」

 俺が姫柊とそう話していると、前を歩いていた凪沙ちゃんにそう言われた。

 

「あぁ。行くぞ姫柊」

「はい」

 そう言って、俺と姫柊は凪沙ちゃんの後に続いて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 



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錬金術師の帰還 Ⅴ

 一度家に帰り、古城の家に行くと何故か古城はリビングにいなかった。そして、

 何故か古城の部屋からは知らない気配を感じた。

 

「(何だ....この覚えのない気配は。敵....いや、この家にいるという事は敵ではないか)」

 そう思いながら俺が凪沙ちゃんの手伝いをしていると、古城と浅葱がリビングに入って来た。

 だが、入ってきた浅葱からは何か別の気配を感じた。

 

「....古城、ちょっと来い」

 俺は古城にそう言って古城をリビングの外に連れ出した。

 

「どうしたんだよ急に」

「浅葱の中にいるアレは何だ? 気配からして相当な魔術師だと思うが?」

「っ! 気づいたのか?」

「まぁな。こう見えて魔力の気配には敏感なんだよ。で、アレの正体は?」

「あぁ....浅葱の中にいるのはニーナ=アデラード。古の大練金術師様だと」

「ニーナ=アデラード....敵、ではなさそうか?」

「あぁ。浅葱の命を救ってくれて、敵意もなさそうだからな」

「....そうか。なら良い。古城、先に戻っとけ。なっちゃんに連絡してくる」

「あぁ」

 俺がそう言うと、古城はリビングの方に戻っていった。そして、俺はなっちゃんに

 電話をかけた。

 

『....何だ伊吹』

「追加報告。浅葱の身体にニーナ=アデラードとかいう錬金術師が憑依した」

『ニーナ=アデラード....そうか。報告ご苦労』

 なっちゃんは特に驚いた様子もなく電話を切った。

 

「(監視は、しなくても良いか。何かあったら古城がどうにかするだろ....)」

 そう古城に丸投げしようと思い、俺は暁家のリビングに戻った。

 

 〜その日の夜〜

 古城side

 

「のう古城よ」

 晩飯も食べ終わり、風呂に入った俺が部屋に戻って来るとニーナが話しかけてきた。

 

「何だニーナ?」

「先程夕食を食べていた時にいた銀髪の男だが....」

「終夜の事か?」

「あぁ。あの男には気を付けておいたほうが良い」

「えっ?」

 ニーナはどこか真剣な表情でそう言ってきた。

 

「あの男から感じた魔力....底が見えず、危険な気配がしていた。うまく隠して

 いるようだがな」

「魔力を隠して....?」

「あぁ。理由はわからぬがな。気を付けておくに越したことはないだろう」

「....」

「(魔力を隠して....一体何のためにだ? 黒輪の根絶者(デリーター)の関係者だとバレないためか? 

 だが、底が見えないってのはどういう....)」

 俺はニーナの言った事の真意が見えず、寝るまでずっと考え込んでいた。

 

 ~次の日~

 伊吹side

 

「じゃ三人とも。気をつけて行ってくるんだぞ」

 次の日の朝五時、俺は姫柊と凪沙ちゃん、そして叶瀬を見送るためにマンションの

 ロビーに降りていた。

 

「はい」

「伊吹先輩、先輩の事少しの間お願いしますね」

「シュウ君、お土産楽しみにしててね」

「あぁ。いってらっしゃい」

 そう言って、俺は三人が見えなくなるまでロビーにいた。そして、三人が見えなくなると

 エレベーターの方に向かって歩いていった。そしてエレベーターに乗ってエレベーターに

 ある鏡を見た時、俺の眼が虹色に光り出した。そして、俺の頭の中にはある映像が見えた。

 それは、港付近のコンテナ置き場で赤いスライムの様な物が特区警備隊(アイランド・ガード)と、矢瀬が乗っている

 コンテナを運ぶために配置されているクレーンに向かって荷電粒子砲が放たれている

 映像だった。

 

「....」

「(朝から面倒が起こったな....)」

「ジョーカー、行けるか?」

『我らはいつでも』

「そうか。じゃあ行くか」

 そう言って、俺は頭の中に見えた場所に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 



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錬金術師の帰還 Ⅵ

『(随分と大所帯だな....それに、矢瀬もいるのか)』

 俺は星骸者 ルールリにライドして気配を消しながら矢瀬と特区警備隊(アイランド・ガード)の様子を

 見ていた。すると、突然地面が割れてそこから謎の金属生命体が現れた。その瞬間、

 特区警備隊(アイランド・ガード)は金属生命体に向かって銃弾を放ち始めた。そして、しばらくすると

 近くにあった装甲車から水が放射された。だが、水はただの水ではなく、白く煙るほどの

 冷気を纏っていた。そして、同時に金属生命体を包むように魔法陣が浮かび上がり

 金属生命体を凍らせていた。

 

『(ここまで上手くいってるな....だが、あの映像の事を考えると....)』

 そう考えていると、凍結している金属生命体の前に天塚が現れた。そして、天塚は

 凍結した金属生命体の凍結を解除すると杖の様な物を突き刺した。すると、金属生命体の

 色は赤く変色し形を変え始めた。

 

『(このタイミングだな....)』

 そう思い、俺は特区警備隊(アイランド・ガード)の前に降りて金属生命体の周囲にゲートを作った。すると、

 予想通り金属生命体は俺がゲートを作った場所に向かって荷電粒子砲を放ってきた。

 

特区警備隊(アイランド・ガード)! ここから早く撤退しろ! 受けたら全員死ぬぞ!』

 俺はそう叫びながら荷電粒子砲を吸収し続けた。すると、危険だと思ったのか

 特区警備隊(アイランド・ガード)は一斉に逃げ始めた。俺は全員が逃げたのを確認すると、吸収した

 荷電粒子砲を新たに作ったゲートから金属生命体に放った。金属生命体の放っていた

 荷電粒子砲と直撃したのだが、俺が放った荷電粒子砲の方が威力は強く、金属生命体の

 荷電粒子砲を押し返して金属生命体に荷電粒子砲は直撃した。直撃した金属生命体は

 大爆発を起こし、周囲一帯は吹き飛ばした。俺も咄嗟に躱し、近くの物陰に移動して

 ライドを解除した。

 

「あの近距離での爆発は流石にえぐいな....」

 俺は服に付いた砂埃を払いながらそう呟いた。

 

「(そういえば天塚は....)」

 俺は周囲の魔力の気配を探ったのだが、天塚の魔力の気配は感じなかった。その代わりに、

 覚えのある魔力が俺の背後に一つ、少し離れた所に二つあった。

 

「これはまた随分な惨状だな。だが、特区警備隊(アイランド・ガード)を守ったのは誉めてやろう」

「お早いご到着で....」

 俺の背後にいたのはなっちゃんだった。

 

「悪いが天塚には逃げられた。多分だが....」

「あぁ。叶瀬 賢生から大体の事情は聞いた。恐らく叶瀬 夏音のいるフェリーだろうな」

「どうする? 追いかけるか?」

「いや、今回はお前は行かなくていい。むしろ行くな。正体がばれかねん。それに、

 夏音にはお前の部下を持たせてある。心配はいらんだろう。それに、行くとしたら

 丁度いい奴が近くにいるだろう」

「....まぁ確かにそうだな」

「まぁ少し私に付き合え。良いな?」

「了解」

 そう言って、俺はなっちゃんとともに空間転移で跳んだ。すると、跳んだ場所には

 服がはだけて倒れている浅葱と、褐色肌の浅葱、古城がいた。

 

「やはり来ていたな暁。それと、貴様がニーナ・アデラードだな」

「那月ちゃん! それに終....!」

「教師をちゃん付で呼ぶな」

 那月ちゃんはそう言いながら日傘で古城の頭を叩いた。

 

「まったく、お前は常にトラブルの渦中にいるな」

「それは悪かったな....って、それどころじゃねぇんだよ! 急いで天塚の居場所を

 探してくれ! アイツが復活させようとしてるワイズマンってのは相当ヤバいんだよ!」

「心配すんな古城。居場所はほぼ確定で姫柊達が乗ってるフェリーだ。天塚は叶瀬を

 供物に使う気だからな」

「いや、それだけとは限らん。雪菜という娘も優れた霊媒を持っておる。狙われて

 いてもおかしくはないだろうな」

「マジかよ....! 那月ちゃん、今すぐフェリーまで跳んでくれ!」

「無理だな。距離が遠すぎる」

「っ....」

「心配するな。そう言うと思って足は用意してある」

「そうなのか?」

 俺は那月ちゃんの発言を不思議に思いそう言った。

 

「あぁ」

「ならそこに早く!」

「....後悔するなよ」

 そう言った時、那月ちゃんは少し笑っていた。

 

「(絶対ヤバい奴だな....)」

 俺はあえて口に出さず心の中でそう思った。

 

 ~~~~

 

 俺達五人が転移した場所には謎の巨大飛行船があった。

 

「あのマークってまさか....」

 俺は飛行船に描かれているマークに見覚えがあった。すると、突然飛行船からホログラムの

 映像が映った。

 

『えぇ。アルディギア王国が誇る装甲飛行船、”ベズヴィルド”です』

 ホログラムに移ったのはリアだった。

 

「お久しぶりですね古城、終夜」

「おう。元気そうで何よりだ」

「ラ・フォリア、あんたが手を貸してくれるのか」

『事は一刻を争いますからね。我がアルディギアが持つ最速の移動手段を用意させて

 頂きました。ただし、機体の関係で乗れるのは二人までですが....』

「いや、それでも十分だ。俺と誰が行く?」

「今回は俺は留守番しとくわ。魔力の使い過ぎであんま役に立てなそうだし。大錬金術師様、

 俺の代わりに古城を頼んでも良いか?」

 俺はニーナ・アデラードの顔を見てそう聞いた。

 

「....良いだろう。古城も構わぬか?」

「あぁ。大丈夫だ」

「決まりだな」

「では、お二人はこちらへ」

 すると、飛行船の近くにいたアルディギア王国の騎士団の服を着た女性がいた。その女性は

 昔に何度か顔を合わせた事があるユスティナ・カタヤだった。ユスティナは俺を

 見ると少し頭を下げた。俺もそれに気づいて少しだけ手を挙げた。

 

「じゃ、今回は任せたぞ古城」

「あぁ。じゃあ行って....」

『お待ち、第四真祖の坊や』

 そう言って古城が飛行船に乗ろうとした時、突然俺達の背後からそんな声が聞こえた。

 振り向くと、そこには黒い車と一匹の黒猫がいた。その黒猫からは相当の魔力を感じた。

 

「(おいおいマジか....何で獅子王機関の結構偉い奴がいるんだよ)」

 俺は顔には出さなかったが心の中でかなり警戒した。

 

「ニャンコ先生!」

「(何でアイツはあんなに親しげなんだよ....)」

 俺は古城が親しげにしてるのを見て頭が痛くなった。

 

「何でここに?」

『お前さんに渡したい物があるんだよ。紗矢華! いつまで車にいるんだい! さっさと

 車から降りな!』

「嫌です師家様! よりにもよって終夜がいる所でこんな格好で出たくないです!」

 すると車の窓が開き、車の運転席にいた紗矢華が猫にそう叫んだ。

 

『ぐちぐち言ってんじゃないよ! たかだか服がちょっと変わったごときで!』

「これのどこがちょっとなんですか!」

「お、おい紗矢華? 何をそんなに怒って....」

 俺はそう言いながら車に近づくと、突然車の扉が開いて運転席にいた紗矢華が俺の方に

 飛んできた。

 

「きゃっ!?」

「っ!」

 俺は咄嗟に飛んできた紗矢華を受け止めた。

 

「大丈夫か紗矢、華....」

 俺は受け止めた紗矢華の服を見ると、紗矢華の服は昨日見た式神の紗矢華のメイド服と

 同じだった。

 

「あ、ありがとう....って、見ないで!」

 紗矢華はそう叫ぶと俺の目を手で押さえてきた。

 

「あの、紗矢華....言っちゃ悪いがその服装、式神の紗矢華で見たぞ」

「はぁ!? それ本当なの!?」

「あ、あぁ....」

「っ~~~! 師家様! 何してくれるんですか!」///

 紗矢華は猫に向かってそう叫んでいた。それと同時に俺の目から手が離れたので紗矢華の

 顔を見ると、紗矢華の顔は真っ赤だった。

 

「でも紗矢華、その服よく似合ってると思うぞ」

「な、何言ってんのよバカ終夜!?」///

『いちゃついてんじゃないよ紗矢華。さっさとあれを第四真祖の坊やに渡しな』

「わ、わかりましたよ!」

 紗矢華はそう言うと、車の中から姫柊が普段持っているギターケースを古城に渡した。

 

「これは....」

『雪菜を頼んだよ、第四真祖の坊や』

「あぁ!」

 そう言って古城とニーナ・アデラードは巡航ミサイルの様な物に乗ってフェリーの方に

 飛んでいった。

 

『さてと、お前さんが伊吹 終夜だね。うちの雪菜と紗矢華が世話になってるね。特に

 紗矢華とは随分と仲良くしてくれているみたいだね。師匠として礼を言わせてもらうよ』

 紗矢華が師家様と呼んでいた猫は律儀に頭を下げてそう言ってきた。

 

「それはこちらもだ。俺も俺で紗矢華には世話になった。お互い様ってやつだ」

『そうかい。なら、これからも紗矢華の事をよろしく頼むよ』

 そう言って、猫は笑っていた。

 

『さて、紗矢華。そろそろ帰るよ』

「わかりました....じゃあ終夜、またね」

「おう。じゃあな」

 紗矢華はそう言うと猫を車に乗せて走って行った。

 

「さて、伊吹。お前は学校に行け。特別に空間転移で送ってやろう」

「そいつはラッキーだ。じゃあリア、またな」

『えぇ。では』

 そう言われた次の瞬間、俺は空間転移でこの場から消えた。

 

 ~~~~

 紗矢華side

 

『紗矢華、あんた随分と良い男を捕まえたじゃないか』

 帰り道、車を運転していると突然師家様は私にそう言ってきた。その言葉に驚き私は

 急ブレーキをかけてしまった。

 

「お、男って!? 別に終夜とはそんなんじゃ!?」

『ありゃいい男だね。男嫌いのアンタが気にいるのが納得できるよ。で、あの子と

 付き合ってんのかい?』

「つ、付き合ってはないです....」

『そんな事だろうと思ったよ。アンタスタイルが良いんだから胸でも押し付けて誘惑でも

 何でもしてしっかり落としなよ』

「だ、誰がしますかそんな事!?」///

 笑いながらそんな呑気な事を言う師家様と違って、私の顔は鏡を見なくてもわかるほど

 熱く真っ赤になっていた。

 

『ま、せめて後悔するんじゃないよ』

 そう言うと師家様は眠りに就いた。

 

 



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錬金術師の帰還 Ⅶ

「っ!」

 フェリーに突然嫌な気配がまとわりついた時、私は船内の中を走っていた。

 

「(この嫌な気配は....)」

 そう思って私が駐車場に行くと、そこには叶瀬さんと腕を剣に変えて叶瀬さんに

 振り下ろそうとしている天塚 汞がいた。

 

「叶瀬さん!」

 私は咄嗟に天塚の攻撃を防ごうとしたのだが、それよりも早く叶瀬さんの前に

 竜巻が起こり、竜巻の中から飛んだ攻撃が天塚を吹き飛ばした。そして竜巻が収まると、

 そこには三体の機械の動物がいた。

 

「(アレは、伊吹先輩が使っていた....!)」

 叶瀬さんの前に現れた三体の機械の動物は、私が以前見た伊吹先輩の狼とどこか酷似していた。

 すると、天塚は状況がマズいと思ったのかこの場から逃げ出した。その隙を見て、

 私は叶瀬さんに近づいた。

 

「叶瀬さん!」

「雪菜ちゃん....!」

「大丈夫でしたか! それよりも、この機械の動物達は....」

「南宮先生が護衛と言って私にこのカードを三枚渡してくれました」

 そう言って、叶瀬さんが見せてくれたのは絵の部分が消えている三枚の黒いカードだった。

 

「(黒輪の根絶者(デリーター)が使っていたカードと同じ....伊吹先輩、弟子っていうのを隠す気は

 ないんですか....?)」

 私は一人そんな事を思っていた。

 

「そうですか。怪我はないですか」

「はい。この子達が守ってくれました」

 そう言いながら、叶瀬さんは機械の動物の頭を撫でていた。

 

「それなら良かったです....それよりも、叶瀬さんも早く避難を。再び天塚が来るかも

 しれません」

「....いえ。それはできません。私は彼に、言わなければならない事があるんでした」

「彼に? それは一体....」

 そう聞いた瞬間、突如私達が乗っている船が大きく揺れた。

 

「っ! 急がないと....私を乗せてくれませんか?」

 叶瀬さんはライオンの様な機械にそう聞いた。すると、ライオンの様な機械は叶瀬さんの前で

 膝をついて一度鳴き声を上げた。

 

「っ! ありがとうございました」

 そう言って叶瀬さんがライオンに乗ると、ライオンはどこかに向かって走り出した。

 

「叶瀬さん!」

「(私も追わないと....!)」

 そう思っていると、残っていた二体のうちの一体が私の前で膝をついて鳴き声を上げた。

 

「乗っていいんですか?」

 そう聞くと、膝をついた方の機械の動物は鳴き声を上げた。

 

「ありがとうございます!」

 私はそう言うと動物の上に乗って叶瀬さんを追いかけた。

 

 ~~~~

 

 追いかけて着いたのは船首部分だった。

 

「あなたは可哀そうな人でした....偽りの記憶を与えられて自分が騙されていることに

 気づかず、あの人の言いなりにさせられてました」

 叶瀬さんは船首部分にいた天塚にそう言っていた。

 

賢者(ワイズマン)を復活させて、あなたは何がしたいんですか?」

「決まってるだろ! アイツに喰われた半身を取り戻して人間に戻るんだ!」

「....だったら、あなたは人間の頃の記憶はありますか?」

「何っ....?」

「一体どこで生まれて、どんな風に生きていたか....あなたは覚えていますか?」

「....黙れよ。叶瀬 夏音....」

「そうでしたよね。あなたは何も覚えていない....いえ、そもそも思い出す記憶は無い。

 だってあなたは、賢者(ワイズマン)によって創られた人工生命体(ホムンクルス)だから....」

「黙れぇぇぇぇ!」

「叶瀬さん!」

 天塚が叶瀬さんに斬りかかろうとしたその時、突然背後から凄まじい風が吹いた。

 風の方向を見ると、フェリーに向かって何かが飛んでくるのが見えた。よく見てみると、

 飛んできた物の正体は巡航ミサイルだった。

 

「なっ!?」

「巡航ミサイルだと!?」

 巡航ミサイルは真っ直ぐにフェリーに接近していたのだが、突如霧に包まれて消滅した。

 それと同時に、霧からは先輩の眷獣の気配がした。

 

「まさか....!」

「あぁ~くっそ! 着地ミスったか....」

 すると、突然叶瀬さんの近くからそんな声が聞こえた。その声の正体は....

 

「まぁ着いたから良いか....天塚、決着をつけに来たぞ」

「先輩!」

 

 

 

 

 

 

 



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錬金術師の帰還 Ⅷ

「ん....?」

 昼休み、屋上にいると突然俺の前に灰色になった三枚のカードが現れた。そのカードは

 俺がなっちゃんに叶瀬の護衛に渡した三枚のカードだった。

 

「(コイツらがやられた? 相当魔力は乗せておいたはずだが、面倒が起きたか....)」

 俺は退却してきた三枚のカードを消滅させて周りに誰もいないのを確認してカードを展開した。

 

「ライド」

 俺は展開したカードの中から"黒門を開く者"を手に取ってライドした。そして、俺は現在

 古城達がいると思われるフェリーの上空にゲートを作り、目の前に作ったもう一つの

 ゲートをくぐった。ゲートをくぐった先はフェリーからちょっとだけ離れた所の上空だった。

 

『(ちょっと離れたがまぁ良いか....)』

 そう思いながらフェリーがいる方角を見ると、フェリーには一体の金色の巨人と、第四真祖の

 眷獣である"水精の白鋼(サダルメリク・アルバス)"がいた。

 

『(アイツ、新しく目覚めさせたのか....)』

 そう思っていると、"水精の白鋼(サダルメリク・アルバス)"が金色の巨人の掴み、海水の中に引き摺り込んだ。金色の

 巨人は抜け出そうとするが、"水精の白鋼(サダルメリク・アルバス)"の力は金色の巨人を超えておりどんどん海の中に

 呑み込まれていった。そして、金色の巨人は完全に海の中に呑み込まれて消滅した。

 

『(....無駄な心配だったか)』

 そう思っていると、絃神島がある方向から巨大な飛行船が飛んできた。

 

『(俺も退却するか....)』

 そう思い、俺は彩海学園までゲートを使って撤退した。そして、俺は学園に着くとライドを

 解除した。

 

「(後は帰ってくるのを待つか....)」

 そう思いながら教室に戻ろうとした時....

 

我が先導者(マイ・ヴァンガード)、少し良いか?』

 突然俺の頭の中にジョーカーの声が聞こえてきた。

 

「(どうしたジョーカー)」

『さっき、あのフェリーの上から何かを感じなかったか?』

「(何か? 特に俺は何も感じなかったが....強いていうならアヴローラの魔力の残骸ぐらいだな)」

『....そうか。なら、俺の気のせいか....すまない、変な事を言った。さっき言った事は

 忘れてくれ』

 その言葉を最後にジョーカーは何も言わなくなった。

 

「(....ジョーカーだけに、何か感じる魔力でもあったのか?)」

 そう思いながら、俺はなっちゃんに連絡を取った。

 

「なっちゃん、今良いか?」

『教師をちゃん付けで呼ぶな....で、何の用だ?』

「今フェリーにいるだろ。そのフェリーから変な魔力を感じないか?」

『変な魔力だと? ....私は特に感じないぞ』

「そうか....なら良いんだ。悪い、変な事を聞いた」

 俺はそう言って電話を切った。

 

 ~~~~

 ジョーカーside

 

『....』

『ジョーカー』

 我が先導者(マイ・ヴァンガード)を介して感じた魔力の事を考えていると、フォトンが声をかけてきた。

 

『....フォトンか。何か用か?』

『お前がさっき感じていた魔力、他の者も感じているようだったぞ』

『やはりそうか....』

『あぁ。微弱だったが、あの魔力には俺にも覚えがある』

 フォトンはそう言って俺の隣に立った。

 

『あの魔力、間違いなくオラクルシンクタンクのツクヨミだったな』

『....あぁ』

『何故、奴がこの星にいると思う』

『さてな....だが、惑星クレイに何かが起きてこの星に来た....そう考えるのが妥当だ』

『....』

『問題は、誰と契約したかだな....』

『考えられるのは剣巫の娘、もしくは模造天使(エンジェル・フォウ)の娘、それか....』

『第四真祖の妹、か....』

 俺の言葉にフォトンは頷いた。

 

『....一先ず、今は様子見だ。ツクヨミ本人を見たわけではないからな。ただ、調べる事が

 できる時は調べておくぞ。全員に伝えておいてくれ』

『了解した』

 そう言うと、フォトンは俺の視線から消えた。

 

『ツクヨミ....一体何故、貴様がこの星にいる』

 

 

 

 

 

 

 



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錬金術師の帰還 Ⅸ

「お疲れさん。倒してきたみたいだな」

「あぁ、何とかな」

 放課後になり、俺は埠頭に来ていた。その埠頭には巨大な飛行船と凪沙ちゃん達が

 乗っていたと思われるフェリーがあった。

 

「あ、シュウ君!」

「伊吹先輩」

「伊吹さん....」

「おかえり三人とも。その....色々と残念だったな」

 俺は飛行船から降りてきた三人にそう言った。

 

「ホントだよ....恋バナ....枕投げ....」

 凪沙ちゃんは残念そうにそう言った。

 

「うしっ....じゃあ今日は美味いもの食いに行くか。それで嫌な事を忘れよう。な?」

「回らないお寿司でも良い....?」

「あぁ。三人もそれで良いか?」

「私達も良いんですか....?」

「当たり前だろ?」

 叶瀬の言葉に俺はそう答えた。

 

「....ありがとうございました」

「でもどこの店に行くんだ?」

「昔なっちゃんに教えてもらった店。ここから離れた場所にあるからタクシー呼んで行くぞ」

 そう言って、俺はタクシー会社に電話をした。

 

 ~~~~

 寿司屋

 

「うめぇ....!」

「大トロもう一つください!」

「あ、私はサーモンを....」

「....」

「どした姫柊? 食わないのか?」

 寿司屋に着き、他の三人は各々食べたい物をどんどん注文していたのだが、姫柊だけは

 どこか箸が進んでいなかった。

 

「い、いえ! その....先輩達があんなに食べてるのに私も食べたら支払いの方が凄いことに

 なるんではと思って....」

「....後輩がそんなこと気にすんじゃねぇよ。アイツもそうだが姫柊も天塚を倒すために

 頑張ったんだろ? この寿司はそのご褒美と宿泊研修に行けなかった残念賞と思っとけ。

 ゴウキさん、この子に大トロとウニ、あとイクラを」

「あいよ!」

「先輩....」

「せっかくの高級店だ。食えるだけ食っとけよ」

「....ありがとうございます」

 

 ~~~~

 

「あの、今日はありがとうございました。それと、ごめんなさいでした」

 寿司も食べ終わり、俺は叶瀬をなっちゃんのマンションに送っていた。そして、なっちゃんの

 マンションに着くと叶瀬はそう言ってきた。

 

「ごめんなさいって何がだ?」

「伊吹先輩が貸してくれた子達、みんな倒されてしまって....」

「あぁその事か。二日もあったらアイツらの傷も癒える。だからそんなに心配しなくて大丈夫だ」

「....そう、でしたか。それなら良かったです」

 叶瀬は俺の言葉にどこかホッとした表情をしていた。

 

「....じゃあ、俺は帰る。またな」

「あ、待ってください」

 俺はそう言って立ち去ろうとした時、突然叶瀬に呼び止められた。

 

「何だ?」

「一つだけ教えてください....伊吹さんは、黒輪の根絶者(デリーター)でしたか?」

「....どうしてそんな事を聞く?」

 俺は叶瀬の顔を見ずにそう聞いた。

 

「伊吹さんが渡してくれた子達から感じた魔力、私が模造天使(エンジェル・フォウ)になった時に戦った

 黒輪の根絶者(デリーター)と同じだった気がしたんです。だから、伊吹さんが黒輪の根絶者(デリーター)ではないかと

 思いました。....どうなんですか?」

「....そうだな。いつか、答える時が来たら答えてやる。それまでは秘密だ」

「....」

「....じゃあな。今日はゆっくり休めよ」

 俺はそう言って手を振りながら、自分の家に向かって歩き始めた。

 

 

 

 




次回で錬金術師の帰還編は最終回です。


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錬金術師の帰還 Ⅹ

「(よく気づくもんだな....かなりうまく魔力は隠してたんだがな....)」

 家に帰る道中、俺は叶瀬の言葉を思い出しながらそう考えていた。

 

「(話す、わけにもいかないな....まぁ、今はなるようなる事を祈るか)」

 そう考えていると、気づけば家に着いていた。そしてエレベーター乗って自分の部屋の

 階に着くと、家の前には何故か姫柊がいた。

 

「姫柊?」

「あ、おかえりなさい伊吹先輩」

「何してんだ俺の家の前で」

「....少し、伊吹先輩に話しておきたいことがあって。時間良いですか?」

「....? 別に構わないが....取り敢えず家に入れ」

 そう言って、俺は自分の家の鍵を開けて姫柊を中に入れた。そして、適当に飲み物を淹れて

 ソファに座った。

 

「それで、話ってのは何だ?」

「....凪沙ちゃんの事です」

「凪沙ちゃん?」

 姫柊が名前を出した人物に俺は首を傾げた。

 

「はい....」

「凪沙ちゃんがどうかしたのか?」

「....実は、フェリーで先輩と覚醒した賢者(ワイズマン)が戦っている時に凪沙ちゃんが謎の力を使って

 いたんです」

「謎の力....」

「(アヴローラの事か....)」

「はい。戦いの中で先輩は金属化されてしまったんですが、突然何かが憑依した凪沙ちゃんが

 現れて先輩の金属化を解除したんです。それと同時に先輩の眷獣が解き放たれて....」

 姫柊の話しを聞く限り、俺は謎の力の正体がアヴローラであることを確信した。だが....

 

「何とか眷獣は私が抑えたのですが、私が抑えている間、凪沙ちゃんがたった一人で賢者(ワイズマン)

 相手をしていたんです。それも、見た事のない光の魔力で....伊吹先輩は何か知りませんか?」

 姫柊から語られた魔力について、俺の頭の中にそのような魔力の記憶は無かった。

 

「光の魔力? ....いや、俺は全く知らないが。本当に光の魔力だったのか?」

「間違いありません。それに、何処か変わった形と剣と盾を持っていました。攻撃したら

 すぐに消えたんで一瞬しか見えなかったんですが....」

「....」

「(アヴローラじゃない? いや、眷獣を解放させたのはアヴローラ以外考えられない....

 だがアヴローラは剣や盾などは持っていなかった....じゃあ一体何だ? アヴローラ以外に

 凪沙ちゃんの中には何かがいるのか?)」

 俺はいくつかの可能性を考えて、一つの仮説を立てた。

 

「あの、伊吹先輩?」

「っ! 悪い、色々考えてた。....取り敢えず、姫柊の言った魔力については俺も知らない。

 多分だが、古城も知らないだろうな」

「じゃあ、凪沙ちゃんのあの魔力は....」

「さぁな....ただ、話を聞く限り悪いものでは無い気がする。お前達や凪沙ちゃんを守るために

 魔力が使われた、っていうのが俺の中での仮説だ」

「私達や凪沙ちゃんを....」

「....取り敢えず、一先ず様子見だ。恐らく魔力を使っている時に凪沙ちゃんの意思は

 無いはずだ。聞いても凪沙ちゃんは何も知らないと思う」

「....わかりました」

「何かわかったら教えろ。こっちもこっちで調べておく」

「了解です」

 そう言って、姫柊はコップに淹れていた紅茶を飲み干すと自分の家に帰っていった。

 

「....召喚(コール)

 そして、俺は姫柊が家から出るのを確認すると蹂躙する根絶者(オーバーライド・デリーター) ヲルグと

 遊泳する根絶者(ナタトリアル・デリーター) ニヱを召喚(コール)した。

 

「お前達、凪沙ちゃんを観察してくれ。アヴローラ以外の魔力を感じたらすぐに俺に報告しろ」

 そう言うと、二体は首を縦に振って窓から外に出ていった。

 

「さて、鬼が出るか蛇が出るか....」

 

 



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ヴァルキュリアの王国編
ヴァルキュリアの王国 Ⅰ


「そういえば伊吹先輩。最近よくその飲み物飲んでますね」

「これか? 知り合いに勧められてな。意外に美味かったから箱買いしたんだよ。良かったら

 何本かやるよ。古城もいるか?」

「まぁ、貰えるなら貰っとくか」

 そんなことを話しながら、俺と古城と姫柊は学校に向かって歩いていた。

 

「....それにしても、どこもかしこもこのニュースばっかりだな」

 そう言いながら、俺はビルの電光掲示板を見てそう呟いた。電光掲示板には"北欧の立憲君主

 国家アルディギア王国より、ラ・フォリア・リハヴァイン第一王女、国王夫妻

 ルーカス・リハヴァイン国王陛下、ポリフォニア・リハヴァイン王国王妃が魔族特区絃神島に

 来日。今夜にも絃神島到着予定"と書かれていた。

 

「伊吹先輩、かなり大きなニュースだから仕方がないですよ。この島にアルディギア王国の国王や

 戦王領域の要人が相互不可侵条約期間延長のために沢山来るんです。これだけ大きなニュースに

 なるのは仕方がないですよ」

「....まぁそうか。お前ら、厄介ごとは起こさないでくれよ」

「何で起こす前提なんだよ....」

「そうですよ。それに何で私もなんですか....」

 姫柊は古城をジト目で見ながらそう言ってきた。

 

「ここ数ヶ月の事を思い出してから言ってくれ....ロタリンギアの宣教師、ナラクヴェーラ、

 仙都木 阿夜、賢者(ワイズマン)....後はなっちゃんから聞いたが模造天使(エンジェル・フォウ)もか。この数ヶ月でお前ら

 五つの事件の渦中に、何なら事件の中心にいるんだ。その事後処理や、お前らが関わっていた

 事実を隠しているのは俺となっちゃんだ。だから、ホントに頼むぞ? お前らを見限るつもりは

 無いが、あんまり酷いようだと八つ当たりするからな」

「....すんません」

「ごめんなさい....」

 俺の言葉に、二人は申し訳なさそうな表情でそう言ってきた。

 

「わかってるなら良い。さ、さっさと学校行くぞ」

 そう言って学校に向かって歩き出そうとしたのだが、突然俺の目が虹色に光り頭の中に

 ある映像が流れてきた。その映像とは俺達に向かってものすごいスピードで車が向かってき、

 その車からリアが降りてくるものだった。

 

「....はぁ。古城、姫柊、さっそく面倒ごとが起こるぞ」

「は?」

「えっ?」

 二人がそう言った時、俺が頭の中で見た水色の車が俺達の方に走ってきた。二人はものすごい

 スピードで走ってきた車に警戒していたが、俺は一切警戒せずに車を見ていた。そして、

 その車は俺達の後ろで急ブレーキをかけて止まった。そしてその車から降りてきたのは....

 

「終夜! 助けてください!」

「「ラ・フォリア!?」」

「はぁぁぁ....」

 頭の中で見えた通りリアであった。そして、リアは俺に抱き着いてきた。

 

「何でお前がここにいるんだか....」

「説明省きます。それよりも....」

 そう言ってリアが何か言おうとした時、黒塗りの車がものすごいスピードで走ってき、俺達の

 目の前で止まった。そして、その車からヴァイキングの様な格好の男が斧を持って降りてきた。

 

「もう逃がさんぞラ・フォリア」

 俺はそう言った男に見覚えがあった。

 

「....おいリア。お前とんでもない厄介なもの連れてきやがったな....」

 俺は小声でリアにそう言った。

 

「倒してくださいね、終夜」

「めんどくせぇ....」

「何こそこそと話している! ラ・フォリアから離れんかこの小童!」

 そう叫びながら、ヴァイキングの男は俺に向かって斧を振るってきた。

 

「終夜!」

「伊吹先輩!」

「....はぁ。顕現せよ(Revelation)

 俺がそう呟くと、俺の左手に星輝兵 マグネットホロウが持つ刀、ホロウブレードが現れた。

 俺はその刀でヴァイキングの斧を止めた。

 

「何っ!?」

「悪いなおっさん」

 俺はそう言って、右脚に魔力を込めてヴァイキングが乗ってきた車に蹴り飛ばした。

 

「がはっ!?」

 バイキングは車に激突し、車は原型がないほど潰れていた。

 

「....これで良いのか?」

「えぇ。お疲れ様です。ですが....第二陣が来ましたね」

「はぁ?」

 俺がそう言っていると、数十台の黒塗りの車こっちに走ってきた。そして車が止まるとSPと

 思わしきスーツの男達が降りてき、拳銃を構えて俺とリアを囲んだ。

 

「動くな!」

「大人しく王女を解放しろ!」

「....はぁ。ネビュラキャプター」

 俺は手元に数枚だけカードを展開し、その中からネビュラキャプターを召喚した。

 

「全員拘束しろ」

『YES』

 ネビュラキャプターはそう言うと、囲んでいた男達を手から放出した蜘蛛の糸のようなもので

 拘束した。拘束された男達は全員地面に倒れ身動きが取れなくなっていた。

 

「....さてと、どういうことか説明してもらおうか? リア」

 俺はリアの方を見て半分呆れた目でそう聞いた。

 

「そんな目で見ないでください終夜」

「こんな目にしたのはお前だよ....」

「あら、それはごめんなさい」

「....茶番はいいからさっさとしろ」

「わかりました。ですが、ここでは場所が悪いですね。終夜、彼等の拘束を解いてください。

 少し場所を移したいので。それと古城、雪菜、あなた達も是非ついてきてください」

「....わかった」

 俺はそう言ってネビュラキャプターに解除するように言った。そして、俺と古城と姫柊は

 リアが乗ってきた車に乗ってどこかに向かった。

 

 



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ヴァルキュリアの王国 Ⅱ

 車に乗って着いたのはファミレスだった。俺達は窓の方から姫柊、古城、俺、リアの

 順番に座っており、俺達の向かいの席には包帯を巻いたさっきのヴァイキングの男、

 リアの父親が座っていた。

 

「な、なぁ....これどういう状況だ?」

「知らん。俺に聞くな」

 そう言いながら、俺はコーヒーを一口飲んだ。

 

「貴様が第四真祖か....真祖と言うにはあまりに冴えない男だな。これでは長老や貴族の方が

 よっぽど迫力があるわ」

「だとよ、古城」

「余計なお世話だ....」

「....貴様が第四真祖ではないのか」

「第四真祖はこっちだ。俺はただの第四真祖の親友で見張り役だ」

「ただの見張り役、ではないでしょう? 終夜」

 俺の言葉にリアは微笑みながらそう言ってきた。

 

「....余計なことは言うな」

「ふふふ。分かっています」

「はぁ....もう帰って良いか? 正直この状況、ものすごく面倒なんだが....」

「まぁ待ってくださいな。....お父様。お父様がどうしても私に結婚をしろというのなら、

 私は彼を、終夜を結婚相手の候補に希望します!」

「....はぁ!?」

「「結婚!?」」

 リアの言葉に、俺と姫柊、古城は驚きの声を上げた。

 

「ラ、ラ・フォリア、終夜と結婚って....」

「ほ、本気で言ってるんですか!?」

「えぇ。もちろんです」

「で、でも黒輪の根絶者(デリーター)とキスを....」

「あれは私なりのけじめです。彼、誰とも結婚しないと言われたので。だから、あのキスは

 決別のキスです」

「(よくもそんなペラペラと噓が出るもんだ....)」はぁ

 そう思いながら、俺はため息をついた。

 

「ラ、ラ・フォリア....儂は誰でもいいから結婚しろと言っているのではない。そ、それに、

 その男はただの一般人で....」

「でしたら終夜はお父様を倒したではありませんか。これまで私の婚約者を力比べと称して

 返り討ちにしてきたお父様をです」

「ぐぬっ....!」

「お父様を倒すほどの実力を持った終夜です。婚約者としては申し分ないではありませんか」

「ぐぬぬぬっ....!」

 リアの言葉に、リアの父親は顔を歪ませていた。そして、リアの父親は俺の方を睨んできた。

 

「貴様! 儂に勝ったぐらいで図に乗るなよ! 我がアルディギアには最新の軍用魔導兵器が

 多数ある! 人型サイズのベルゲルミル! それより大型のアウルゲルミル! さらにロキに

 トール、最終兵器のオーディンが控えておる! だから....!」

「お、おい終夜....このままだとまずくねぇか....?」

「知るかよ....」

 そう呟いた時....

 

「あらあら、落ち着いてくださいなあなた」

 突然店の入り口の方からそんな声が聞こえてきた。声の方を見ると、そこにはリアによく似た

 女の人がいた。

 

「言ったじゃないですか。本末転倒になるって」

「お母様!?」

「ポリフォニア!?」

「(なんかややこしくなってきた....)」

 リアによく似た女の人はリアの母親で、アルディギアの現王妃でもある

 ポリフォニア・リハヴァインだった。

 

「ラ・フォリア、お父様はお父様なりに考えて他の方との縁談を勧めようとしていた

 のですよ」

「それは....存じていますわお母様」

「あなたも。力比べで負けたのですから少しはラ・フォリアの言い分を聞いてあげてくださいな」

「いやなポリフォニア。儂は負けを認めたわけじゃ....」

「あなた?」

「はい」

「(怖....)」

 俺は王妃の笑顔を見て心の中でそう思った。

 

「私はポリフォニア・リハヴァイン。娘と妹が随分とお世話になったようですね。暁 古城さん、

 伊吹 終夜さん」

「妹?」

 王妃の言葉に古城は首を傾げた。

 

「叶瀬の事だ古城」

「....あぁ、そういう事か」

「色々とお伺いしたいことはあるのですが、これ以上はお店の方にご迷惑になってしまうので....

 古城さんに終夜さん、それと剣巫のお嬢さん。実は今夜パーティーがあるんです。よければ

 皆さんを招待させてくださいな?」

 

 ~~~~

 

「(やっぱ面倒なことになった....)」はぁ

 店を出ると、俺はそう思いながらため息が出た。

 

「(行くの面倒だな....)」

 そう思った時、俺はどこからか悪意のある視線を感じた。

 

「(....どこだ)」

 周囲の建物を下から上に見ていくと、ファミレスの目の前にあるビルの屋上に双眼鏡を持った

 女がいるのが見えた。

 

「(そこか....)」

顕現せよ(Revelation)

 俺はそう呟くと、俺の右手にチャクラムの様な武器が現れた。そして、俺は双眼鏡でこっちを

 見ている女に向かってチャクラムを投げた。だが、女は勘が良いのか投げたチャクラムを

 躱して姿が見えなくなった。俺は脚に魔力を流して地面を蹴って屋上まで跳んだ。屋上には

 既に女の姿はなく壊れた双眼鏡だけが残されていた。

 

「逃げたか....」

 俺は双眼鏡を回収して下まで降りた。

 

「終夜!」

「急にビルに攻撃してどうしたんですか!?」

 下に着くと、古城と姫柊に詰め寄られた。

 

「こっちを悪意のある視線で見てるやつがいた。多分テロリストだろうな」

「テロリスト!?」

「そのテロリストは!」

「逃げられた。かなり逃げ足は速いな」

 そう話していると、周囲のSPは辺りを警戒していた。

 

「リア、気をつけろよ。今この周囲には連中はいないがパーティーには来る可能性はあるぞ」

「....わかりました」

「そういう事だ王妃さん。パーティーの警備、強化しといてくれ」

「わかりましたわ」

「....さて、じゃあ俺らは一回学校行くか。行くぞ古城、姫柊」

 そう言って、俺は二人とともに学校に向かった。

 

 



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ヴァルキュリアの王国 Ⅲ

「....予測通り獣人か」

『あぁ。トリーネ・ハルデン、北海帝国に雇われたフリーのテロリストでジャコウネコの

 獣人だ。お前は問題ないが、暁には厳重注意をしておけ。恐らく、狙われるとすれば

 奴の方だ』

「だろうな....もうこっちに着いてるのか?」

『いや、私は私の方でやることがある。代わりにアスタルテを向かわせている』

「了解。何かあったらまた連絡する」

 そう言って、俺は電話を切った。

 

「(何も起きない、なんてことはないよな....)」

 そう思いながら、俺はホールの方に戻った。

 

 俺は王妃に招待されたパーティー会場であるホテルにいた。ホテルには島の政治家や

 会社の社長が集まっており、政治的な話やら世間話やらをしていた。そんな人の群れを

 避け、俺は古城と姫柊がいる場所に向かった。

 

「伊吹先輩」

「終夜。電話誰からだったんだ?」

 古城と姫柊がいる場所に着くと、古城からそう聞かれた。

 

「なっちゃんから。テロリストの正体がわかったって連絡があった」

「誰だったんですか?」

「ジャコウネコの獣人だ。古城、お前は女に警戒してろよ?」

「何で俺が?」

「それは....」

「....へぇ。そういう格好初めて見たけど似合ってるじゃない古城、終夜」

 俺が古城に理由を話そうとした時、突然背後からそんな声が聞こえた。その声に、俺は

 聞き覚えがあり背後を見た。そこにいたのは....

 

「「浅葱!?」」

「俺もいるぜ」

 浅葱と矢瀬だった。

 

「何でお前らがここに....」

「今日の昼頃に招待状が届いたのよ。ほらこれ」

「俺にもな」

 そう言って、二人はアルディギアの国章が付いた招待状を見せてきた。

 

「多分、古城と終夜、それに夏音ちゃんの関係者が集められてるっぽいな。ほら、あそこにも」

 そう言って矢瀬が指差した先にはアスタルテと凪沙ちゃんがいた。

 

「アスタルテ! それに凪沙ちゃんまで....」

「っ! 終夜さん」

「シュ、シュウ君!」

 二人は俺に気づくと驚いた表情をしていた。

 

「シュウ君も来てたんだ....」

「まぁな」

「終夜さん、教官から話しは....」

「さっき聞いた。お前もなっちゃんの代わりご苦労さん」

「い、いえ....それよりも、このドレス似合ってますか....?」///

 アスタルテはどこか俯きがちにそう聞いてきた。

 

「ん? よく似合ってると思うぞ。明るい色の服着てるのあまり見ないから新鮮な感じだな」

「っ! そ、そうですか....」///

 そう言うと、アスタルテの頬は赤くなっていた。

 

「凪沙ちゃんもよく似合ってるぞ。ドレス姿、すごく可愛いな」

「あ、ありがとう....シュウ君もスーツ姿かっこいいよ」///

「そうか? あんまこういう服好きじゃなんだけどな....」

 そう話していると、古城が近づいてきた。

 

「おい凪沙。お前そんなに料理を皿に取って食いきれるのか?」

「だ、大丈夫だよ! 珍しい料理ばっかりだったから今度家で作る時の参考にするの!」

「残すなよ」

「わかってるもん!」

 そう言うと、凪沙ちゃんはこの場から離れて別の料理を取りに行った。凪沙ちゃんがこの場から

 離れると、アスタルテも凪沙ちゃんについていくようにこの場から離れていった。すると、

 二人と入れ替わるように一人の女がこっちに来て姫柊に抱き着いた。

 

「ゆっきな~! そのドレスすっごく似合ってるわ!」

「紗矢華さん!?」

 姫柊に抱き着いたのは紗矢華だった。

 

「紗矢華....お前も来てたのか」

「そうよ。明日の警備の打ち合わせがあってね」

「....あの蛇使いは来てないのか」

 俺は近くにヴァトラーの気配を感じなかったのでそう言った。

 

「えぇ....本国に戻って式典出席者を迎えに行ってるから」

「そうか....」

「(面倒は一つ消えたな....)」ふぅ

 そう思いながら、俺は一つ息を吐いた。

 

「なら紗矢華....」

 俺は紗矢華の耳元に近づき周りに聞こえないぐらいの声でこう言った。

 

「多分このパーティーにテロリストが来る。主犯はジャコウネコの獣人だ」

「っ! それ本当なの?」

「あぁ。なっちゃんの確認も入ってる」

「....わかった。警戒しておくわ」

「あぁ」

 そう言って、俺は紗矢華から離れた。すると、紗矢華は何故か俺に近づいてきて俺の前に

 立った。

 

「どうした?」

「その....私のドレス似合ってる?」

「ドレス? ....よく似合ってると思うぞ。紗矢華に合ってる色だしな」

「ほ、本当!? な、ならしっかり選んだ甲斐があったわ....」///

 そう言いながら、紗矢華は頬を赤らめていた。そして、少し紗矢華と話していると....

 

「終夜!」

「お兄さん! 雪菜ちゃん!」

 フロアの王族が集まっている所からリアと叶瀬に俺達は呼ばれた。

 

「来てくれて嬉しかったですお兄さん、雪菜ちゃん」

「意外と似合ってますね終夜」

「スーツなんて柄じゃないんだがな....」

「でしょうね。....それよりも、私のドレスはどうです?」

「よく似合ってる。あれだな、本当の姫様みたいだな」

「みたいじゃなくて事実です。....というか、並んでみると結婚式みたいですね」

「....あんま余計なこと言うな。後ろでお前の父親が俺を睨んでる」

 リアの背後ではリアの父親が俺の事を殺意を持った目で睨んでいた。

 

「あらあら。でも、二人ともお似合いですよ」

「王妃さんまで....頼むから面倒になることは言わないで....!」

 そう言って言葉を続けようとした時、俺の眼は虹色に光り、頭の中にある未来が見えた。

 

「(来るな....)」

「姫柊、紗矢華、警戒態勢。十秒後に襲撃が来る。顕現せよ(Revelation)

 そう言いながら、俺は左腕に丸い盾、右手に巨大な剣、エルビウムバスターを装備した。

 そして、俺はこの場所から少し離れた窓に向かって跳び、エルビウムバスターを振り下ろした。

 すると、振り下ろしたタイミングで一体のカブトみたいな魔獣がバスターの下に粉砕されて

 いた。そして、俺の目の前の窓ガラスはこのカブトによって破壊されていた。俺の目の前に

 ある割れた窓ガラスの向こうには大量のカブトが飛んでいた。

 

「姫柊! 紗矢華! 二人は王族の護衛を! アルディギアのSPは客の避難を急げ!」

 そう叫んだと同時に、カブトの魔獣はフロアの中に突っ込んで来た。魔獣を見た客はパニックを

 起こしながらフロアの入口の方に走り出した。

 

「行かせるか!」

 俺は客に近づこうとした魔獣を頭から叩き潰した。姫柊と紗矢華も王族に近づこうとする

 魔獣を斬り伏せており、古城もリア達に近づこうとした魔獣を雷を纏った拳で叩き落していた。

 

「古城! お前は外で戦え! 外ならぶっ放しても問題ねぇ!」

「わかった!」

 俺の声が聞こえたのか古城は割れた窓から外に飛び降りて行った。

 

「とっとと全部潰れろ!」

 俺がそう叫びながらバスターを地面に叩きつけると、魔獣の足元から魔力で出来た黒い剣が

 現れた。その剣はフロアにいたすべての魔獣に突き刺さり魔獣を消滅させた。

 

「(フロアはOK、外も古城がいるから問題ないな....)」

「姫柊! 紗矢華! 後は頼むぞ! 俺は避難通路の方を見てくる!」

 そう言って、俺は後の事を二人に任せて避難通路の方に向かった。

 



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ヴァルキュリアの王国 Ⅳ

 王族の方を二人に任せた俺は避難通路の方に来ていた。客の避難は済んでおり、

 避難通路の方に客は一人もいなかった。

 

「(こっちは問題なさそうだな)」

 そう思いながら俺は避難通路を走り抜け、武器を消して一度ホテルの外に出た。

 

「(逃げ遅れもなし。後は....)」

「っ! アスタルテ!」

 俺はSPに指示を出しているアスタルテを見つけて声をかけた。

 

「終夜さん」

「避難指示ご苦労さん。怪我人は特にいなかったか?」

「はい。こちらは特に問題は」

「そうか。ありがとな」

 そう話していると....

 

「終夜!」

 突然浅葱が俺達の方に走って来た。

 

「浅葱、どうした?」

「凪沙ちゃんが! 凪沙ちゃんがどこにもいないの!」

「はぁ!?」

「あたりを探したんだけどどこにもいなくて!」

 その言葉を聞き、俺は地面に手をついた。そして、俺は凪沙ちゃんの観察を任せていた

 二体の魔力を探した。すると、二体の魔力はホテルの中にあった。

 

「マジか....! 浅葱、少しここで待っといてくれ! 凪沙ちゃんを助けてくる!」

 そう言って、俺はホテルの中に戻り二体の魔力がある場所に向かって走った。道中で魔獣が

 いたが、魔力を乗せた蹴りで全て潰し先に進んでいた。そして、魔力の感じる場所に着くと

 そこには凪沙ちゃんを守るようにヲルグとニヱが魔獣を倒していた。凪沙ちゃんは二体の

 後ろにおり、耳をふさいで座り込んでいた。

 

「凪沙ちゃん!」

 俺は凪沙ちゃんに近づき声をかけた。

 

「シュウ君....シュウ君!」

 凪沙ちゃんは俺に気づくと俺に抱き着いてきた。

 

「よしよし、怖かったな」

 俺はそう言いながら凪沙ちゃんの背中を撫でた。そしてしばらく撫でている間に二体は

 周囲の魔獣を全て殲滅していた。

 

「さて、急いで出るか」

 そう呟き、俺は凪沙ちゃんをお姫様抱っこした。

 

「ひゃっ!?」

「しっかり掴まっててくれよ」

 そう言って、俺は最短距離でホテルから出た。そして、俺は浅葱がいる所に向かった。

 

「浅葱!」

「終夜! それに凪沙ちゃんも!」

「悪いが凪沙ちゃんの事頼んだ。俺はもう一度ホールの方に戻る」

「わかったわ」

「頼んだ」

 そう言って俺はここから離れホールの方に戻った。

 

 ~~~~

 

 ホールの方に戻ると、既に魔獣の姿は消えていた。

 

「こっちは終わったか?」

「終夜。えぇ、そっちは?」

「逃げ遅れはなし。怪我人は少し出てたが軽傷で済みそうだった」

「そう」

 紗矢華とそう話していると、外で巨大な雷が落ちた。

 

「....こっちも終わったな。古城! 取り敢えずこっちに戻ってこい!」

 俺は窓の外に向かってそう言うと、出していた武器を消滅させた。

 

「咄嗟の判断力にその力、素晴らしいですね終夜さん」

「....どうも」

 武器を消滅させて近くの壁にもたれると、王妃が俺の前に立ってそう言ってきた。

 

「ねぇあなた。終夜さんに我が国に来ていただけたらとっても心強くないですか?」

「ポ、ポリフォニア!?」

「伊吹 終夜さん、あなたさえよければぜひ我が国に来てラ・フォリアを娶ってください

 ませんか?」

 王妃は突然突拍子もないことを言ってきた。

 

「なっ!?」

「お母様!」

「....いや王妃さん、無茶言わないでくれません?」

 俺は王妃の言葉にそう返した。

 

「あら、そうですか?」

「そうですかって、そりゃそうですよ」

「そ、そうです! 終夜は王族や貴族とは無縁の魔力の強いただの一般人ですよ!」

 俺の言葉に続いて紗矢華は王妃にそう言った。

 

「それなら心配いりませんわ。この人だって元々は傭兵でしたから。無縁の人間でも愛が

 あればどうにでもなりますよ」

「そ、そんな無茶苦茶な....」

「ではこうしましょう」

 そう言うと王妃はある提案をしてきた。詳しい話は明日に持ち越し、今夜はこのホテルで

 泊まり考えてもらうといった内容だった。

 

「いかがでしょうか?」

「まぁ俺は別に良いですよ。このホテルでやることもあるんで。二人はどうする?」

「私は構いませんが....どうします紗矢華さん?」

「泊まります!」

 紗矢華は随分食い気味に王妃にそう言った。

 

「....決まりだな。じゃ、俺はやることがあるから先行くぞ。何かあったら電話か警備室に

 来てくれ。それとリア、これ渡しとく」

 そう言って、俺はリアに一枚のカードを渡した。

 

「緊急時にそれに魔力籠めろ。俺の仲間が出てくる」

「わかりました」

「じゃ、部屋割りは適当にしといてくれ。あぁ、それと王妃さん。招待客の写真付きリスト、

 後で貰うことはできるか? 少し調べたいことがある」

「わかりました」

「ありがとうございます。じゃあ、また後でな」

 そう言って、俺は先にこの場から離れた。この事を、俺は後々後悔することになるとは

 知る由もなかった。

 

 

 

 

 



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ヴァルキュリアの王国 Ⅴ

「....時間掛かるな」

 警備室で俺はホテルの壊れた監視カメラの修復を確認しながら、壊れていない監視カメラの

 映像を見て招待客のリストにチェックを付けていた。

 

「(あの魔獣は術式に集まる習性があったはず....なら、間違いなくホテルの中に

 テロリストが侵入してると思うんだが....)」

 そう思いながら、カメラの映像を見ていると警備室の扉が叩かれた。

 

「誰だ?」

『終夜、私だけど。今良い?』

 扉の向こうから聞こえたのは紗矢華の声だった。

 

「紗矢華か? 良いぞ」

 そう言うと紗矢華が警備室に入って来た。

 

「お疲れ様。これ差し入れ」

 紗矢華はそう言って缶コーヒーを渡してきた。

 

「何が良いかわからなかったら適当だけど....」

「これでいい。ありがとな」

「....どう? 何かわかった?」

「今のところ成果0。カメラも何台か壊されて調べるのに時間がかかってる。まぁ入り口の

 監視カメラは生きてるからここで何か分かればいいんだが....」

「そう....」

「そういやあいつ等は?」

「全員部屋で休んでるわ。暁の妹さんと、あと藍羽っていう人もいたけど」

「(二人もいるのか....)」

 そう考えながら映像の方を見ていると....

 

「ん....?」

 映像の中に一人不審な人物がいた。俺は映像を止めて画像を拡大してみた。

 

「どうしたの?」

「この女....」

 俺は王妃から貰ったリストを確認したがリストの中にはその女の写真はなかった。

 

「リストにいねぇ....」

「....ちょっと待って! この女、さっき暁 古城といたわ!」

 すると、女の顔を見た紗矢華はそう言った。

 

「....それ本当か?」

「えぇ! 終夜がフロアを離れた時かしら....外で暴れてたアイツが助けた女がこの女だった

 はずよ。あの状況で外にいたのが奇妙に思ったからよく覚えているわ。それに、何だか

 随分と距離が近かったし....」

「っ....!」

「(距離が近かった....まさか....!)」

「紗矢華! 古城は今どこだ!」

「へっ....!? た、多分部屋だと思うけど....」

「っ....急いでアイツ捕まえるぞ!」

 そう言って俺は警備室から飛び出した。

 

「きゅ、急にどうしたのよ!」

「俺の予想が当たってれば....リアが危ねぇ」

「お、王女が?」

「あぁ。テロリストはジャコウネコの獣人だ。その獣人のフェロモンは一種の催眠効果が

 あるんだよ。恐らく古城に近づいてたのはフェロモンを吸わせるためだ」

「じゃあ今のアイツは....!」

「あぁ、恐らく....」

 そう言って走っていると....

 

「終夜、ここにいたのか」

 突然曲がり角から古城が現れた。

 

「古城....」

「おいおい、どうしたんだよそんなに警戒して?」

「....古城。お前は、誰の味方だ?」

「俺か? そんなの決まってるだろ?」

 そう言いながら、古城は右腕を上げた。

 

「俺はお嬢様の味方だ。龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)!」

「っ!? 紗矢華!」

 俺は咄嗟に紗矢華を突き飛ばした。紗矢華がいた場所には龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)が突っ込んでき、

 紗矢華を突き飛ばした俺の左腕は龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)によって消滅させられた。

 

「終夜!」

「っ....! 古城、テメェ....!」

双角の深緋(アルナスル・ミニウム)!」

 俺は右腕に拳銃を出そうとしたが、それよりも早く双角の深緋(アルナスル・ミニウム)の衝撃波によってホテルの

 外に突き飛ばされた。

 

「ガハッ....!?」

「(マズい....! モロに受けて態勢が....)」

 俺は空中で態勢を立て直そうとしたが攻撃をモロに受けたため態勢を変えれずにいた。

 そして、俺の頭上には獅子の黄金(レグルス・アウルム)がいた。

 

「ヤバ....」

 俺は確実に攻撃が当たると思ったため右腕で顔を覆った。そして、雷撃が落ちたその時、

 俺の前で突然雷撃は周囲に分散した。その理由は、俺の目の前に紗矢華がおり、煌華麟で

 雷撃を弾いてくれていた。

 

「終夜、手掴んで!」

「っ、あぁ....!」

 俺は紗矢華の伸ばしてくれた手を掴んだ。すると、紗矢華は身体を回転させながら

 ホテルの壁に近づくと壁に煌華麟を突き刺した。

 

「止まれぇぇ!」

 煌華麟は壁を斬り裂いていくが、地面に直撃するギリギリの所で止まった。

 

「(あぶね....)」

「紗矢華悪い、助かった」

「....助かったって、そんなボロボロじゃ助かったって言わないわよ! バカじゃないの!」

 紗矢華は半分泣きそうになりながらそう叫んできた。

 

「そこに座って! 今できる応急処置するから....!」

「....いや、それよりも先にリア達の方見てきてくれ」

「....っ! 何言って....!」

「リアが攫われると面倒なことになる。現状、あのバカを止められる可能性があるのは

 お前と姫柊だけだ。だから、どうにか二人がかりであのバカを止めてくれ。応急処置は

 最悪俺でどうにかなるから」

「でも....!」

「頼む紗矢華....今俺が頼れるのはお前だけなんだよ」

「っ....すぐ戻ってくるから!」

 そう言うと、紗矢華はホテルの方に走っていった。

 

「....召喚(コール)

 俺は紗矢華の姿が見えなくなると、終焉に灯る光 カリーナとアクシーノ・ドラゴンを

 召喚(コール)した。

 

先導者(マスター)、無茶しすぎですよ....』

「耳が痛いこと言わないでくれ....」

 そう言いながら、カリーナは俺をアクシーノ・ドラゴンの背中に乗せた。

 

『取り敢えず、少し大人しくしていてください。出血止めますから....』

 そう言うと、カリーナは俺の身体の傷の治療を始めた。

 

 

 



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ヴァルキュリアの王国 Ⅵ

 アクシーノ・ドラゴンの背中に乗った俺は王家の人間がいる部屋に向かっていた。

 

「ここか....」

『私が開けます』

 すると、俺の隣で宙に浮いていたカリーナが扉を開けた。部屋には国王と王妃、

 SP、紗矢華がいた。

 

「終夜! ....何そのドラゴンみたいなのと、その女の人」

「俺の師匠の使い。電話で呼んだら来てくれた。....で、状況は?」

「....最悪よ。王女に、それに雪菜も攫われた」

「....確かに最悪だな」

「終夜さん、その傷は....」

「あの操られたバカにやられました....腕以外はどうにか治りましたが....」

 そう話していると、SPのような黒服の男が部屋に入って来た。その男は何かの紙を

 持っていた。

 

「陛下! 大使館に犯人グループから犯行声明が!」

「....っ!」

 国王は内容を見ると紙をぐしゃぐしゃに握り潰した。

 

「何が書いてあったんですか....?」

「....人質を解放して欲しければアルディギアに収監されている犯罪者を解放しろ

 とのことだ。それも全員が終身刑のな」

 紗矢華が国王に聞くと国王はそう答えた。

 

「....どうするんですか」

「アルディギアはテロには屈さぬ。この方針はずっと貫き続けた。その方針はこれからも

 貫き続ける」

「ですが王女は....」

「....っ!」

 その話を横に聞いていた時、俺の右目が光った。

 

「しゅ、終夜!? 目が光ってるけど....」

「(....はぁ。あのバカ、こんな使い方をしろって言ってないんだがな....)」

 俺の身体にはリアに渡しておいたリンクジョーカーの魔力の気配が感じられた。

 

「(ま、場所が分かったことだしさっさと助けに行くか)」

 そう思い、俺はアクシーノドラゴンから降りた。

 

「終夜?」

「あぁ、目が光ってんのは気にすんな。どうやら発信機が作動したみたいだからな」

「発信機?」

「リアにさっき渡したカード。あれが発信機代わりになったみたいだ。おかげで二人の

 居場所も分かった。....てなわけで、とっとと二人を助けに行ってくる」

 そう言いながら、俺は上に着ていた上着を脱いだ。

 

「助けに行くって、そんな状態で!? バカじゃないの! あんた一応重症人なのよ! 

 そんな不安定の状態で行くのは危険よ!」

「大丈夫だ。カリーナさん」

『....わかりました。後悔しないでくださいね』

 そう言うと、カリーナは俺の左腕に手を当てた。すると、腕は緑色の光に包まれ光が

 収まると、俺の消滅した腕は元に戻っていた。

 

「これで問題ないだろ?」

「嘘でしょ....」

「何と....」

「んじゃ、ちょっくら行ってくる。紗矢華、俺がいない間こいつら使っててくれ」

 そう言って、俺は手元に四枚のカードを出し四体のユニットを召喚した。

 

「じゃ、少しの間頼んだ」

 俺はそう言って部屋から出た。すると、丁度部屋の前に浅葱がいた。

 

「浅葱」

「終夜。何かさっきすごく騒がしかったけど何かあったの?」

「テロリストが襲撃してきたんだよ。おまけに王女と姫柊と古城が攫われた」

「っ!? 嘘でしょ!」

「マジだよマジ。で、今から助けに行ってくる。悪いが凪沙ちゃんと叶瀬の事お前に

 任せるぞ」

 俺はそれだけ言うとここから走って外に出た。

 

「さて....」

 俺は外に出るとインフラト・スワローを召喚(コール)した。そして、俺はインフラト・スワローの

 背中に乗った。

 

「最速で頼むぞ、インフラト・スワロー」

 そう言うと、インフラト・スワローは鳴き声を上げ空に飛びあがった。

 

 ~~~~

 ラ・フォリアside

 

「(後で終夜には怒られそうですね....)」

 古城に誘拐された私は拘束された状態でそう考えていた。そして、私の目の前では

 操られた古城が電話をしているテロリストであるトリーネのネイルを塗っていた。

 

「(さて、どのタイミングで仕掛けましょうか....)」

 そう考えていると、突然私達がいた場所が大きな揺れに襲われた。

 

「っ!」

「ちょ、何なのよこの揺れ! ちょっと! 何が起こったの!」

 トリーネは無線を繋いでそう叫んでいた。

 

『襲撃だ! 変な連中と魔獣が襲撃してきた!』

「魔獣!? どこのどいつよ!」

『知るかよ! 術者の姿は見えねぇ!』

「ちっ! 古城! あんたも行って襲撃者を潰してきなさい!」

「Yes my lady」

 そう言うと、古城はこの部屋から出て行った。

 

「私も行くしかないか....あんたらここで大人しくしとくんだね。下手な動き見せたら

 息の根を止めるからね」

 そう言って、トリーネもこの部屋から出て行った。

 

「(さて、丁度よさそうですね....)」

 私はこの状況を見てそう思い、終夜から預けられたカードに魔力を込めようとした。

 だが、それよりも早く私達がいる部屋の天井が音を立てて崩壊を始めた。そして、

 私達の目の前は砂煙に包まれた。その砂煙の中には一つの人影があった。人影は

 周りを見渡し、私達に気づくと私達の方に歩いてきて砂煙を払いこう言った。

 

「....見つけた。ここにいたか」

 その人影の正体は、私が愛する終夜だった。

 

 



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ヴァルキュリアの王国 Ⅶ

「ここか....」

 リアに預けていたカードの魔力を辿り、俺はとある廃工場の上空にいた。

 

「(魔力の場所的に地下の方か....)」

 そう考えながら、俺は手元に六枚のカードを出した。

 

「お前ら、好きに暴れていいから連中をかく乱しろ」

 そう言って、俺は地面に向かってカードを投げた。カードは空中で魔法陣が展開され、

 魔法陣を抜けるとそこには六体のユニットが召喚(コール)された。六体のユニット達は廃工場の

 壁を破壊し、廃工場の中に入っていった。

 

「さて....スワロー、呼んだら来てくれよ」

 俺はスワローの頭を撫でてそう言うと、スワローから飛び降りた。そして、俺は右足に

 魔力を込めてかかと落としの要領で廃工場の天井を破壊した。そのままリア達が

 いる場所まで床を破壊していき、リア達のいる場所の手前で魔力を抑えた。すると、

 ちょうどリア達がいる部屋で俺は止まった。周囲を見ると、そこには天井の鎖に繋がれ

 口枷をされていたリアと姫柊がいた。

 

「見つけた。ここにいたか....って、お前どんな格好で捕まってんだ。目線に

 困るんだが....」

 そう言いながら、俺は空間から剣を取り出しリア達を縛っていた鎖を破壊し、口枷を

 外した。

 

「来てくれましたね終夜....おかげで助かりましたわ」

「伊吹先輩! すいません、助かりました」

「無事なら何よりだ。....それよりも、さっさと逃げるぞ。敵が来ると面倒....」

 そう話していた時、部屋の扉が開いた。部屋に入って来たのは銃を持ったテロリストの

 男だった。

 

「っ!? テメェ! 何者....!」

 男は俺達に銃を向けてきたが、銃弾を撃つよりも早く俺は斬撃を飛ばして気絶させた。

 

「はぁ....おいリア、お前に渡してたカード返してくれ」

「えぇ、わかりました」

 リアが借りていたカードを返すと、俺はそのカードを空中に投げた。すると空中に

 魔法陣が現れそこから銀色のユニコーンが現れた。

 

「適当に暴れてかく乱してこい」

 俺がそう言うと、ユニコーンは壁を破壊してどこかに走り去っていった。

 

「さて、そろそろ行くぞ。スワロー!」

 そう言うと、上からスワローが降りてきた。

 

「ま、待ってください! 先輩は....!」

「古城は後だ。流石に今の状況で回収は無理だ。....古城は後でなっちゃんに任せる。

 こっちもあまり時間が無いからな....」

 そう言って、俺は二人を掴んでスワローに乗った。

 

「行けスワロー」

 そう言うと、スワローは上空に飛び上がった。

 

「さて、最後の仕上げに....」

 俺は空間に魔法陣を開き手榴弾を廃工場に落とした。手榴弾は爆発を起こし、廃工場は

 火に包まれた。

 

「(まぁこれで追っ手は出せねぇだろ)」

 そう思いながら、俺はリア達の方を見た。

 

「にしても、誰があんな使い方しろって言ったリア。俺はあくまで護衛用に渡したはずだが?」

「それはすみません。少々油断してしまいました」

「....まぁそういう事にしておくか。取り敢えず、姫柊」

「は、はい」

「悪いがホテルに戻ったら後の事は頼むぞ。ホテルに戻ったら俺は時間切れで倒れる」

「時間切れって....」

「その辺は王妃さんか紗矢華にでも聞いてくれ」

 そう言って、俺は左腕をさすりながら空を見上げた。

 

 



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ヴァルキュリアの王国 Ⅷ

「....」

「(終夜、本当に大丈夫なのかしら....)」

 終夜が助けに行くと言って30分ほどが経った。私はホテルの外に出て周囲の警備を

 していた。終夜から預けられた四体もバラバラの場所で警備をしていた。そう考えていると

 上空から何かの鳴き声が聞こえた。私は敵かと思い上空を見て煌華麟を構えたが、鳴き声の

 正体を見て私は煌華麟を下げた。

 

「終夜!」

 鳴き声の正体は終夜の出した燕のような眷獣で、その上には終夜と雪菜と王女がいた。

 

「戻ったぞ紗矢華。何とか二人は助けられた」

 そう言いながら、終夜は王女と雪菜を抱えて燕から飛び降りてきた。

 

「んじゃ、悪いけど後頼むな。そろそろ時間切れだ」

 そう言った終夜の腕は光り出した。

 

「それって....」

「まぁそういうこった。預けた奴らは上手いこと使ってくれ。お前の命令を聞くようには

 してあるからな」

 そう言い終わると、終夜の左腕は消滅した。それと同時に....

 

アァァァァァァ!?

 終夜は叫び声を上げながら地面に倒れた。そして、左腕からは大量の血が流れだした。

 

「終夜!?」

『それに触らないでください』

 私が倒れた終夜に触れようとした時、背後からそんな声が聞こえた。振り向くと、

 そこにいたのは終夜の腕を治していた人がいた。

 

「あなたは....」

『まったく....受けたダメージが何倍にもなってこうなるからやりたくなかったんです』

 そう言って、彼女は終夜を担ぎ上げた。

 

『これから治療をするので誰も部屋には入ってこないでください。何かあった際の

 対処は皆さんに任せます』

 彼女はそう言うとホテルの方に歩いて行った。

 

「任せるって....」

「(適当な....)」

 そう考えたが、一先ず私は雪菜と王女の方に向かった。

 

「王女、それに雪菜も。怪我は?」

「私もラ・フォリアさんも無事です。伊吹先輩のおかげで」

「それよりも紗矢華、終夜のアレは?」

「操られた暁 古城にやられたものです。さっきのあの腕は一時的なものだそうで....

 時間切れで再び腕は消滅したんです。ついでにダメージも何倍にもなったそうで」

「そうですか....終夜にはかなり無茶をさせてしまいましたね....」

 王女は申し訳なさそうにそう呟いた。

 

「一先ず私はお父様とお母様の部屋に行きます。二人は今はゆっくり休んでください」

 そう言って王女はホテルの方に歩いて行った。

 

「....私達も一度部屋に行きましょうか」

「そうですね....」

 私は雪菜にそう言って自分達の部屋に向かった。

 

 ~~~~

 

「さて、手短に明日について少し話をしましょうか」

 部屋に戻り少し休んでいると、私は王女に呼ばれ王妃様のいる部屋にいた。そして、

 雪菜と終夜の残した眷獣も王女に呼ばれたのか部屋にいた。

 

「会場の警備は王家の護衛に、周辺地域の警備なのですが....」

「姫柊さん、煌坂さん、あなた達お二人にお願いしたいのですが....大丈夫でしょうか?」

「大丈夫です王妃様。ね、雪菜」

 王妃様の言葉に私はそう言って雪菜の方を見た。

 

「そうですね。伊吹先輩が倒れた今、私達が最後の砦です」

「....頼もしい限りですね」

「二人とも、お願いします。終夜の眷獣達も頼みましたよ」

 王女はそう言って終夜の眷獣を撫でていた。

 

「では、会議はこれで終わりです。二人ともおやすみなさい」

「おやすみなさい王女」

「おやすみなさい」

 私と雪菜はそう言って終夜の眷獣を連れて部屋から出た。

 

「そういえば、終夜の眷獣ってどこで寝れば....」

 私が疑問にそう思い口にすると、終夜の眷獣達は窓から外に飛び降りホテルのライトが

 当たらない所に固まって身体を横にしていた。

 

「....外で寝るみたいですね」

「そ、そうね....私達も早く寝ましょうか」

「はい」

 そう言って部屋に戻る時、私達は終夜の部屋の前を通った。部屋の扉には「入室禁止」と

 書かれた紙が貼られていた。

 

「....大丈夫ですよ紗矢華さん。伊吹先輩は、きっと目を覚まします」

「....そうよね。終夜が、そう簡単に死ぬわけないわよね」

「(終夜....早く目を覚ましなさいよ)」

 そう祈りながら私達は自分の部屋に向かった。

 



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ヴァルキュリアの王国 Ⅸ

 次の日

 

「終夜....」

 朝、私は終夜のいる部屋に来ていた。終夜はベッドで眠っており、マスクと左腕には

 大量のチューブが繋げられていた。

 

『治療は夜中に終わりました。腕の方も2週間もすれば元に戻るはずです』

 終夜の腕を治していた人はソファにもたれかかってそう言った。

 

「そうですか....いつ目覚めるかは....」

『本人次第といったところです』

「....」

『この人の事は私に任せて、あなたはあなたのできることをやってください』

「....わかりました。終夜の事、お願いします」

 そう言って私は終夜の部屋から出た。

 

「(私は、私のやるべき事をやらないと)」

 そう思い、私はホテルの外に向かった。

 

 ~~~~

 

「じゃあ雪菜、そっちはお願いね」

「はい」

「あなた達はそれぞれここの配置について」

 会場に着いた私は雪菜と終夜の眷獣に指示を出していた。そして指示が終わると

 全員それぞれ配置場所に向かっていった。

 

「....」

「(後は、天に任せるのみね....)」

 そう思いながら、私は目の前に広がる海を見た。

 

 ~~~~

 トリーネside

 

「(襲撃者のせいで完全に計画が狂ったわね....!)」

 私は強奪していたビフレストの中で苛立っていた。昨日の襲撃者のせいでこのビフレストを

 起動させるラ・フォリアを奪い返され、テロリストの人間どもの半数が襲撃者によって

 使い物にならなくなった。

 

「(このビフレストが使えなくちゃ意味がないわ....だったら....)」

「古城! あんたの眷獣でこのビフレストをどうにか動かしなさい!」

「(こっちには第四真祖がいる。まだまだどうにでも....)」

「Yes, My lady.来い! 獅子の黄(レグルス・アウ)ご....!」

「そこまでだバカ真祖」

 古城が眷獣を呼び出そうとした瞬間、どこからかそんな声が聞こえた。それと同時に

 古城は謎の鎖によって身体の動きと口を封じ込められた。

 

「なっ....!? 誰!?」

 私が周囲を見渡すと、突然ビフレストの窓が破壊され一人の女が入ってきた。その女は

 ゴスロリ服を着た女で、その女を私は知っていた。

 

「あんたはっ....!? 空隙の魔女、南宮 那月!」

「うちの生徒が随分と世話になったな、獣人のテロリスト」

 そう言いながら、空隙の魔女は古城をどこかに転移させた。

 

「あんた、古城をどこに....! いや、それよりもどうやってここを!」

「監獄結界だ。これ以上暴れられるのは迷惑なんでな。どうやってここを見つけたかは

 昨日貴様らを襲撃した奴のおかげだ」

「何ですって!?」

 私はその言葉に動揺を隠せなかった。

 

「襲撃した奴は貴様らの内の何人かにマーキングをしたみたいでな。その魔力を追って

 ここに来たというわけだ」

「っ....」

「(まさか昨日の襲撃は空隙の魔女の差し金!? どこまで読まれて....!)」

「さて、年貢の納め時だな。貴様らには聞きたいことが山ほどあるぞ」

 そう言った空隙の魔女の背後には大量の魔法陣が現れた。

 

「こんな所で、捕まってたまるか!」

 私はそう叫び、獣人化して近くの扉から逃げようとした。だが....

 

「アスタルテ」

 私が逃げようとした扉は急に吹っ飛び、私は地面に叩きつけられた。

 

『ガハッ!?』

『(な、何が起きて....)』

 私が扉があった方を見ると、そこには虹色の巨人のようなものがいた。

 

「私の助手だ。どうやら随分苛立っているようでな....」

 空隙の魔女がそう言うと、虹色の巨人は私に近づいてきた。私は逃げようとしたのだが

 何故だか虹色の巨人から放たれる銀色と黒色のオーラのせいで身体が動かなかった。

 

「アスタルテ、間違っても殺すなよ」

 空隙の魔女はそう言うと巨人が吹き飛ばした扉からこの部屋から出て行った。そして、

 虹色の巨人は無言で私の方に近づいてきた。

 

『や、止めて....! 来ないで!』

「....安心してください。生死の狭間を少し体験するだけですので」

 そう言って虹色の巨人は腕を大きく振り上げた。

 

『嫌....! 嫌ぁぁぁぁ!?』

 

 ~~~~

 那月side

 

『....はい』

「私だ。例のテロリストどもは全員捕獲、暁も回収したぞ」

『そうですか。ありがとうございます、空隙の魔女』

「....それで、奴の容態は?」

『左腕は完治するには2週間、元通りに動かすにはさらに2週間といったところです。

 今はベッドで眠っています』

「....そうか。目を覚ましたら電話するように言っておけ」

『わかりました』

 そう言って電話は切れた。

 

「まったく....暁の奴め、面倒なことをしてくれよって」はぁ

 そう呟き私はため息をついた。

 

「(ともかく、これで今回の件は終わりだな)」

「アスタルテ、お前は先に戻っておけ。私は用が終わってから戻る」

命令受託(アクセプト)

 そう言って、アスタルテは特区警備隊(アイランド・ガード)の車に乗りこの場から去った。

 

「(さて、私はあのバカの処理だな....)」

 私はそう考えながら空間転移を使い、この場から姿を消した。

 

 ~~~~

 煌坂side

 

 配置場所から周囲を警戒していると、調印式の会場から拍手が聞こえてきた。そして、

 同時に雪菜から電話がかかってきた。

 

「もしもし雪菜」

『紗矢華さん。調印式、無事に終わったみたいです』

「本当!? こっちは襲撃無かったんだけど!」

『私の方もありませんでした。恐らく昨日の伊吹先輩の襲撃で全員やられたのかも

 しれませんね。それか特区警備隊(アイランド・ガード)による制圧があったのか....』

「私達の出る幕は無かったって事か....」

『そうですね。....ひとまず会場の方で合流しましょう。私は先に向かってます』

「わかったわ」

 そう言って雪菜からの電話は切れた。

 

「(....まぁ、襲撃が無いに越したことはないわよね)」

 そう思いながら私は会場の方に向かって歩き出した。

 

 

 



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ヴァルキュリアの王国 Ⅹ

「....」

『目が覚めましたか?』

「あぁ....」

 俺は目覚めるとベッドの上にいた。俺の左腕にはチューブが、口には酸素マスクが

 付けられていた。

 

「今何時だ?」

 俺は酸素マスクを外しながらカリーナに聞いた。

 

『今は朝の9時です。もっとも、倒れてから既に一日経ってますが』

「そんな経ってんのかよ....調印式は?」

『問題なく終わりました。暁 古城も空隙の魔女によって回収され元に戻っています』

「そうか....問題なく全部片付いたか」

 俺はそう呟き肩の力が抜けた。

 

「古城達は?」

『空港です。ラ・フォリア達王族は本日、国に帰るそうなので見送りに』

「今日帰るのか....俺も見送りに行っていいか?」

『まぁ構いませんが....チューブが外れると困るので車椅子で行ってください。私が

 押しますので』

「わかった」

 俺はそう言うと、カリーナが持ってきた車椅子に乗り黒門を開く者を召喚(コール)した。

 

「黒門、空港に繋げてくれ」

『かしこまりました』

 そう言うと、黒門は俺の目の前にゲートを創った。

 

「んじゃ、行きますか」

 

 ~~~~

 

 ゲートをくぐると出た場所は空港の外だった。

 

「さて、アイツ等はっと....」

『飛行機の時間的に....あちらの方ですね』

 カリーナは電光掲示板を見ながらアルディギア行きのゲートの方に車椅子を押し始めた。

 そして搭乗口ゲートに着くとリア達がいるのが見えた。それと同時に、リアは俺に

 気づいたのか俺の方に走ってきた。

 

「おうリア。調印式ご苦労さん」

「終夜! もう起きて大丈夫なんですか?」

「まぁな。流石に腕はすぐには治らんが痛みは無いからな」

「そうですか。....今回はこちらのごたごたに巻き込んでしまい申し訳ありませんでした」

 そう言うとリアは俺に頭を下げてきた。

 

「よせよ。俺とお前の仲だろ。それに....ごたごたにはそこの二人で慣れてんだよ」

 そう言って俺はリアの背後にいた古城と姫柊を指差した。

 

「伊吹先輩....」

「終夜....その、迷惑かけちまった」

「今さらだバカ古城。一月もしたら元に戻るから気にすんな」

 俺はそう言いながら無い方の腕の袖を揺らした。すると、いつの間にかリアの背後にいた

 王妃さんが俺の前に来た。

 

「伊吹さん、この度は娘を助けていただきありがとうございます」

「気にせんでくれ王妃さん。俺は俺の仕事をやったまでだ」

「....本当に、ここに残していくには惜しい人材ですね。以前にもお話ししましたが、

 ラ・フォリアとの結婚はどうでしょうか? あの子も伊吹さんの事は随分好いているの

 ですが....」

「....リアの事は嫌いじゃないが、悪いがその話は受けらんねぇな」

「その理由は?」

「....まぁ、結婚ってのがよく分かんねぇのと、俺は愛がよくわからないんだ。

 だから軽はずみにその話は受けらんねぇ。それに、一つ見届けたいものがあるんでな」

 そう言って、俺は古城の顔を見た。

 

「?」

 古城は不思議そうな顔をして俺を見ていた。

 

「....そうですか。では、今回はここで打ち切りにしておきましょう。ですが、

 気が変わった際にはいつでもご連絡ください」

「ポリフォニア!?」

「さ、私達は先に行きますよあなた」

「お、おい! おい小僧! 儂は絶対認めんからなぁぁぁ!」

 そう叫びながら、国王は王妃に引きずられながら搭乗ゲートの方に連れていかれた。

 

「じゃあ、しばらくお別れだな」

「えぇ。....終夜、私はこれでも欲しいものは必ず手に入れる主義なんです。だから、

 いつかあなたの心を手に入れてみせますわ」

 リアはそう言うと、俺の頬にキスをしてきた。

 

「それじゃあ終夜、今度は私の国に遊びに来てくださいね」

 そう言って、リアは搭乗口の方に歩いて行った。

 

「(アイツ、ふいうちでしてくんなよ....)」

 そう思いながら、俺はキスされた方の頬を触った。

 

「相変わらず嵐のような人ですね....」

 姫柊は俺の隣に立ちそう言ってきた。

 

「まったくだ。....って、いててて!?」

 俺が姫柊にそう返すと突然誰かに耳を引っ張られた。見ると、俺の耳を引っ張っていたのは

 紗矢華だった。

 

「何だよ紗矢華!」

「このっ...! 人がどれだけ心配したと思って....!」

「やめっ....! おまっ、耳取れる!」

「ふんっ!」

 紗矢華は飽きたのか耳から手を離すと空港の入り口の方に歩いて行った。

 

「....俺、アイツになんかやった?」

「....はぁ。そういうところですよ伊吹先輩」

 姫柊は呆れたようにそう呟いた。

 

「シュウ君の唐変木! 行こ夏音ちゃん!」

 すると、突然俺は凪沙ちゃんに罵倒され凪沙ちゃんは叶瀬を連れて空港の入り口に

 向かってしまった。

 

「俺、凪沙ちゃんにも何かした....?」

「....ほんと、私の先輩はダメな先輩達ですね」はぁ

 

 

 



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休暇の根絶者編
休暇の根絶者 Ⅰ


「まったく....今回は随分と無茶をしたな」

「流石に言い返せねぇな....」

 リア達を見送った後、俺はなっちゃんの家に来ていた。

 

「で、その腕は?」

「2週間で元通り、さらに2週間で元のように動かせるらしい」

「1か月は役に立たんか....まぁいい。お前は2週間家で大人しくしていろ。欠席分は

 別で補えるようにしてやる」

「そりゃ助かるよ」

「そうか。ならさっさと帰ることだ。良いか、2週間は絶対に面倒に首を突っ込むなよ」

 俺はなっちゃんに釘を刺された。

 

「わかったよ。じゃ、俺は帰るわ」

 そう言って、俺はなっちゃんの家から自分の家に帰った。

 

 ~~~~

 

「....ねぇシュウ君。その腕どうしたの?」

 家に帰ると、俺は古城に呼ばれ古城の家に来ていた。そして、俺は少し不機嫌な凪沙ちゃんに

 そう聞かれた。

 

「あぁ、その~....一昨日の襲撃事件の時にちょっと油断してだな....まぁ、バクッと

 腕を食われて....」

「....」

「い、一応1か月したら元には戻るみたいだから....」

「....そっか。元には戻るんだ」

「あ、あぁ....」

「じゃあしばらくは食べやすい物にしないとね」

 そう言うと凪沙ちゃんは少し考え込むような表情をして冷蔵庫を見ていた。

 

「うん、じゃあこれにしようかな。ご飯出来るまで待っててね。....あ、後はさっき

 怒っちゃってごめんね。ちょっと気が動転しちゃって」

「あ、あぁ、気にしてないから大丈夫だ....」

「そっか。じゃあご飯出来るまで待っててね」

 そう言って凪沙ちゃんはキッチンの方に向かっていった。俺はキッチンに行くのを見て

 リビングから出た。そして古城の部屋に入った。古城の部屋には古城と姫柊がいた。

 

「話終わったのか」

「あぁ。腕の説明はぼかしたがな」

「まぁそうですよね....それより、南宮先生に呼ばれた理由は何だったんですか?」

「一応俺の腕の状態を見るためだろうな。で、2週間は自宅待機で面倒ごとに首を

 突っ込むなって言われた」

「そうですか....」

「終夜....今回の件に関しては本当にすまねぇ」

 古城は突然そう言うと、俺の前で土下座をしてきた。

 

「よせよ。被害が俺の腕だけだったからまだマシだ。ま、リアとかを傷つけてたら一発

 ぶん殴るぐらいはしただろうけどな。ま、悪いと思ってんならしばらく買い出し頼むぜ。

 家から出るのも億劫だしな」

「終夜....あぁ、何かあったら連絡くれ」

「おう。じゃ、これでこの話は終わりだ」

 

 ~その頃~

 

「師家様」

「何だい紗矢華。そんな神妙な面持ちで」

「少し、お願いしたいことがありまして....」

 

 

 

 

 



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