Fate/heritage (アグナ)
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とある少女の独白

エタ作者を信用してはならない(戒め)



執筆活動を何ヶ月かサボ……休んでいる間に書き方を忘れたのでリハビリがてら投稿。
尚、続くか否かは神のみぞ知る。


 鋼のよう──。

 

 私が“彼”に抱いた第一印象は、そのようなモノだったと記憶している。

 物言わず、粛々と、ただ己を研磨する。

 人間としてあるべき情も、目指すべき理想もなく。

 ただ『そうあるべし』と定められたルートを淡々と進む。

 そこに個としての意思も、望みも、祈りはない。

 ある意味で“彼”は、徹底して完成され尽くしていた。

 

 それは“彼”と出会ってからの日常生活にも散見している。

 例えば、同級生たちが将来の自分(ユメ)を回想する。

 ああなりたい──、こうなりたい──。

 アレが欲しい──、アレを手に入れる──。

 

 未来に希望を抱き、無邪気に思い描く。

 同年代ならば以て然るべき青臭い理想の数々。

 友達が十人十色に未来(あした)を口ずさむ中。

 “彼”の言葉だけは何処までも、無色だった。

 

『先祖代々の家業を継ぐ。そのために、努力を重ねるだけだよ』

 

 同級生たちの中でも達観した。

 義務と義理で結ばれた、淡々とした口調だった。

 

 確かに夢といえば夢になるのかもしれない。

 なりたい自分とは、人それぞれ、様々にあるのだから。

 もしかしたら先祖代々の家業に誇りを持ち、自分もそうなりたいという願望の発言だったとも取れるだろう。

 

 だが、それでも私の主観においては違うと断定できる。

 まるで依頼人から仕事を請け負うような言葉は。

 まるで情を映さない色の抜け落ちたその言葉は。

 

 断じて──願いと呼ぶに相応しい自分(ユメ)を持っていなかった。

 

 故に“彼”の印象は一切変わらない。

 物言わぬ鋼。個を持ち得ない、ただただあるだけの存在。

 一種、人外染みた超越性を持つナニカ。

 それが“彼”という人間性だった。

 

 しかしそれに私が気づけたのはある意味、彼と似たもの同士だったからだろう。

 私は彼ほど、硬質とした、固定された在り方を持たないが。

 自分に相応しい己を持たないという一点だけでは共通していたから。

 

 さしたる願いも望みもなく、フワフワユラユラ漂う風船。

 地に足がついていない根無し草。

 ──それが私だったから。

 

 クラスメイトでも“彼”の異質さに気づいたのは私だけだったと思う。

 透き通った鋼は鏡のように相手を映す。

 自分(おのれ)が無いが故に“彼”は人間社会に紛れ込むのが巧みだった。

 

 そこは消極的で、根が暗く、人付き合いが苦手な私とは違った。

 傍目に見れば勤勉で真面目な努力家。

 家業を継ぐに相応しい己足らんと振る舞う風に見える“彼”には人が集まる。

 多くを率いるリーダー的な存在では無いけれど。

 多くの人に頼りにされる立派な存在ではあったのだ。

 

 別にそこに対して思うところはないが。

 己が無いモノ同士、どうして此処まで差がついてしまうのかと自己嫌悪。

 嫉妬や羨望があるわけでは無いが、ああも完璧に人前で振る舞える点について言えば、無い物ねだりを抱かずには居られない、なんて。

 

 総括するに、自分のクラスに変わった転校生が現れた。

 一言で私と“彼”の関係性を明らかにするなら正にそれで。

 そしてそれ以上、私と“彼”に特別な繋がりはなかった。

 

 私からすれば変わった転校生。

 “彼”からすれば物静かな大多数(クラスメイト)

 

 その日──運命に出会った。

 ……そんな言葉は、とても使えないほどに。

 

 

 “彼”との出会いは『普通』だった。

 

 

 ──それから語るべき学校生活(時間)も。

 思い出に残るような会話もなく。

 

 やがては、私と“彼”も多くの出会いがそうであるように。

 見ず知らずの隣人として卒業と同時に忘れていくはずだった。

 

 だったのに──嗚呼。

 

 

『──チッ、目撃者か。なんて幸脇の悪い……いや、運がなかったのはお前の方か』

 

 

 日常を犯す、魔術師(よく分からないモノ)と出会った。

 

 

『貴女は──何のために戦うのですか?』

 

 

 想像を絶する、神秘的な存在(サーヴァント)と出会った。

 

 

『……アンタたちも魔術師、なのか? 聖杯を求めているって言う』

 

 

 清く雄々しい、少年の蛮勇を目にして、

 

 

『ほう、随分と無様な様だが……ハハ! 面白い! こういうこともあるのか!』

 

 

 竦むほどに恐ろしい、王威を目の当たりにして、

 

 

『ゴメンなさい。これがエゴで、偽善で、言うべきことではないと分かってはいるけれど、どうか私の未熟を許して──貴女は、今すぐこの戦いから降りるべきよ』

 

 

 度しがたいほどの、憐憫と慈愛に触れて、

 

 

『君は──! そうか、いや……こういうこともある、のか……』

 

 

 半身を担う存在の、過去へと触れた。

 そして───。

 

 

「貴女、だあれ?」

 

 

 今、私は全てを喰らう災害の前に立っていた。

 

 

 これまで積み重ねた多くの出会いは。

 決して、私の日常にはあり得なかったものだ。

 

 痛い思いもいっぱいして、怖い思いもいっぱいして。

 少しだけ嬉しい出会いも、楽しい思い出もあったりして。

 

 それは一週間にも満たない短い旅路だったけど。

 それは私の何も無い生涯において『旅路』と呼ぶに相応しい思い出だった。

 

 恐怖は消えない。力への忌避感もまた。

 でも歩んできた足跡と、これから目指す未来に悔いは無い。

 後悔と呼ぶべき嘆きは一つも無い──何故なら。

 

 

『──この選択がより君を苦しませるかも知れない』

『或いはまた、君を日常ならざる場所へ引きずり込むかも』

 

 ──何故なら。

 

『それでも君は日常へ帰るべきだと思うから』

『一つ、狐に化かされたとでも思ってくれ』

 

 ──何故なら。

 

『騎士よ──貴君が英霊に相応しきモノだというのならば』

『どうか、彼女を、善き者の魂を守り給え』

 

 

 どうでもいい誰かのために。

 呆気なく、自分の在り方を捨て去った愚者(カレ)を想うたびに。

 私の心は奮い立つのだ。

 

 “彼”は私のために、役目を捨てて。

 たった一つのお節介のために命を削った。

 

 胸を満たす一色は、言葉に尽くしがたい感謝の心。

 特別な運命なんて何一つ無いのに。

 何一つ無いままに手を差し伸べてくれた“彼”への想い。

 

 まさか私に、こんな強い祈り(ネガイ)があるだなんて想像もしなかったけれど。

 でも、嘆きも後悔もなく。

 澄み切ったように心地よい、晴れやかなこの心はなんて──。

 

 その時、私はようやく命を懸けるに相応しいユメを知ったから。

 

 

「……私は、タチエ」

 

 

 口にするのは過去の残響。

 今はまだ、終わっている私の名前。

 それを宣誓のように告げる。

 

 

「貴女を止めるために、此処に来た」

 

 

 いざ──最後の戦いを始めよう。

 此処まで二人で歩んできた足跡が無駄でなかったと証明するために。

 奪われたもの全てを取り戻して、明日(みらい)を歩むために。

 

 私は……災厄の席に立つ──。




【どうでもいい余談】

タチエ……捨てられた子犬系ヒロイン。
    没にするなんて勿体ない!

恋する獣……英霊よりも怖い人。
     本気で倒そうとする二次創作あんまり見ないよね。

主人公……未登場。
    生まれる時代を間違えたお方。


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