時を駆けた花聟 (つくば)
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時を駆けた花聟


不自然なストーリーだったのが気に食わず、改訂して戻ってまいりました。またよろしくお願い致します




ギシッ・・・ギシッ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ・・・あっ、ふ、ふうたろうくっ…ん!」

 

 

 

陽が照らさない暗い部屋。鳴り響くは、互いに肌をぶつけ合う官能的な音だけ

 

なぜ、なぜ俺はこの子を抱いているのだろう

自分の上で懸命に腰を振り、妖艶な目で喘ぐ彼女に、負けず劣らずの獣の目を向ける。言葉では形容し難い黒い欲望を抑えながら、ただただ奉仕してくれている彼女を見つめていた

 

歪んだ日常・関係が戻ることは無い

最初は本当に好奇心から来たものだった。この感情に至るまでの経緯は、誰にも共感されるものではない。そう断言できる程、特殊かつ例を見ないことだから

 

 

 

 

〜約1週間前〜

 

 

 

 

「そうです!私、良いこと思いつきました!せっかく相席になったんです」

 

「勉強、教えてくださいよ」

 

特徴的な赤い髪、お世辞にもいい趣味だとは言えない星のヘアピンのアクセサリー。それらを靡かせながら、前に座る彼女は、俺に向かって不躾に頼み込んできた

 

彼女は、この状況を何一つとして不自然には感じていないだろう

 

しかし、頼まれている俺はそうではない

 

俺はこの子を知っている。いや、正確には知っているなんてものじゃない

 

かけがえのない時間を過ごした彼女を、もとい、彼女達を忘れることなどできるはずもない

 

彼女達との出会いは、この台詞から始まっていたのだから

 

この図々しくも憎めない台詞を、俺はもう一度聞くことになるとは思ってもいなかった

 

つい数時間ほど前までは。

 

 

『人生に二度目はない』

 

 

それはそうだ。だからこそ後悔という文字が存在するのだ

 

こんな堅苦しいことを語り出したが、なにも哲学的な事が始まるわけでもなければ、なにかの論理について展開していくわけでもない。俺でさえそんな当たり前の事は理解したつもりでいた。そう。理解したつもりでいたのだが・・・

 

「・・・」

 

俺の目の前で、こんなイレギュラーなイベントが発生している以上、その言葉は信憑性に欠けるものとなってしまった

 

落ち着け、上杉風太郎。今こそ学年1位を誇る頭脳をフル回転させて考える時じゃないか

 

聞いたことのある台詞、煩わしいとさえ感じる学生の喧騒、俺に初対面かのように話しかけてくる彼女

 

極めつけは今日の日付だ

 

ここから導き出せる答えは――――

 

 

"タイムリープ"

 

 

それ以外考えられなかった。この際タイムスリップでもいい。時間が巻き戻っていることだけは間違いない

 

大掛かりなドッキリだと思いたかったが・・・

いつまで経っても『ドッキリ大成功』の看板が出てくることはなかった

 

「あの・・・」

 

長らく物思いに耽って、放置されていた彼女が困惑顔を浮かべている。その様子から、やはり意図的に行っているものではないと悟った

 

「・・・すまない、少し考えさせてもらってもいいか?」

 

「え、ええ、もちろんです。お願いしているのは私ですから」

 

本当は、遠慮などしなくても、互いに分かり合える間柄にまでなれたというのに

 

残酷な真実に胸を締め付けられ、歯を食いしばる。前世で後悔した決断を下すことはなく、未だに困惑顔の彼女に告げる

 

「・・・俺でよければ、解説してやるぞ」

 

その一言に、彼女は顔を明るくしてお礼を述べた

これが俗に言う『パラレルワールド』というものなのだろうか

 

どうやら、俺は新しい世界線を作ってしまったらしい

 

 

 

 

初の家庭教師と言っていい仕事を終えて、らいはが待つ自宅へ歩き出す

 

なぜタイムリープしたのか、タイムリープした事実を受け入れたとしても、なぜ高校二年生のこの時期なのか

 

それこそ小学生六年生の荒れていた時期だったり、母親を亡くした頃だったりと、俺の人生におけるターニングポイントは他にもいくつかあった筈だ

 

これが単に神のイタズラや気まぐれだとするのならば、とんだ迷惑話だ

 

人が時間をかけて積み上げた信頼を、いとも容易く崩壊させるなど、悪趣味もいいところだ

 

「くそっ・・・」

 

自分以外は誰も通っていない道で、悪態をつく

 

どうにかできないものかと試行錯誤するも、帰り道を歩く間に答えが出ることはなかった

 

 

結局、打開策を見つける前に自宅へ辿り着いてしまった

 

「ただいま」

 

帰ってきたことを報告しつつ、扉を開ける

 

部屋には鼻をくすぐる香ばしい匂いが立ち込めており、キッチンにはオーバーオールを着たらいはの姿があった

 

「おかえりー!」

 

さっきまでの疲れと悩みが吹き飛びそうになるほど、全開の笑顔を覗かせてくれた

 

早速、食堂で推察したタイムリープの説が間違っていないかどうかを確かめるため、らいはに聞いてみた

 

「・・・なあ、親父が俺の新しいバイトを見つけたって言ってたよな」

 

俺の知る話なら、それは家庭教師の仕事だ

五月との再会が無意味になるなんてことは、まず無いだろう

 

「うん!家庭教師のお仕事だって!」

 

予想通りとは言え、変わりのない内容にほっと胸を撫で下ろす

 

「そうか、3日後からだよな?」

 

知っていることだからか、つい先走って話を進めてしまう。その様子を不思議に思ったらいはが尋ねてくる

 

「お兄ちゃんよく知ってるね、お父さんから聞いたの?」

 

「あ、ああ、親父が職場から電話を掛けてきてな、学校の帰り際に知ったんだ」

 

「へー、そっか・・・とりあえず頑張ってね!」

 

「ああ」

 

危ない危ない、もう少しでいらない事まで暴露してしまうところだった

 

少し自制しないとな・・・タイムリープをしたことを知られたら、何をされるかわかったものじゃない

 

しかし、逆に聞いてみたいこともあった

らいはからしたら変な質問かもしれないが、これだけは聞いておきたい

 

「らいは、もうひとつ聞いてもいいか?」

 

「ん?なにー?」

 

晩御飯を作る手を止めず、視線もこちらには向けずに声だけで反応を示した

 

トントントンとリズミカルに響く乾いた音だけが響く部屋で、らいはにこう切り出した

 

「もしも、もしもだぞ?」

 

不信感を持たせない為に、もしもの話だと強調して話を始める。急にこんな非現実的な話をし始める俺は、一体らいはにはどう映るのだろうか

 

「人生をやり直せるってわかったら・・・お前は何をしたい?」

 

先程まで鳴っていた、まな板に当たる包丁の音がピタリと止む。耳を疑いながらもこちらに向き直ってから、心配そうに俺の顔を覗き込んできた

 

「お、お兄ちゃん?急になに?」

 

「もしもって言っただろ?別にそんなに深く考えなくていい」

 

それだけ伝えると、顎に手を当てながら唸り始めた。少し考える素振りを見せてから、普段の明るい口調で答えを聞かせてくれた

 

「うーん、やっぱりさ、やりたかったこととか、出来なかったことを思いっ切りしてみたいよね!」

 

その答えを聞き、ふと頭に浮かぶのは――――

 

 

やはりあの五つ子だった

 

 

「そうか、ありがとうな」

 

「どういたしまして!」

 

自分がやりたかったこと、出来なかったこと

 

そんなものは数え切れない程ある

 

裕福で不自由のない暮らし、彼女や親しい友人と過ごす華やかな学園生活etc...

 

まあ挙げるだけ野暮だ。これは俺の欲求と言うよりは、人間誰しもが一度は求める理想というやつだな

 

かく言う俺も年頃の男子高校生だ。人並みに性欲や物欲はもちろんある。だが自分が置かれている立場や環境、性格も相まって、とてもじゃないが贅沢や高望みができる位置にはいなかった

 

 

 

(だったら・・・俺はもっと自分の欲求に忠実になってもいいのか?)

 

 

 

 

環境・性格・立場

 

それらが結びついて、前世まで無意識に眠らせていた本能が――――

 

 

 

 

 

 

皮肉にも、らいはの一言で目を覚ましてしまった

 

 

 

 

 

 

タイムリープから2日後

 

一度過ごしたはずの日にちを跨ぎ、無駄だとはわかっていてもカレンダーを確認する。何度目を擦っても、日付や時間が変わることはなく、ため息をついてから学校へ向かう支度を整える

 

ため息こそついたが、俺にとっての問題は、タイムリープをしたこの事実ではなく、日常的に行われる授業なのだ

 

確かに勉強は好きだ。だが全く代わり映えのしていない授業を、あと最低でも2年は聞かされなければならない俺の気持ちにもなってくれ

 

既に高校を卒業できる学力まで達しているのにも関わらず、それが得になり得るかわからないこの状況においては、俺も項垂れる他ない

 

だがこんな不幸の中にも、利点があることに気が付いた

 

別になんでもいい、なんでもいいが、今回は例に全国模試を挙げるとしよう

 

五つ子に勉強を教えつつ、自分も結果を残さなくてはならない状況に置かれ、睡眠の取れない日々が続いていた

 

辛くて苦しい出来事だったが・・・それを今回のことに置き換えて考えてみよう

 

ここからは完全な予想故、賭けでもある

 

五月やらいはの仕草に台詞が何一つとして変わらなかったことから推測するに

 

 

模試の内容も変わらない可能性がある。ということだ

 

 

それこそさっき言っていた授業も、一言一句変わらずに進んでいたのだ

 

逆に変わることの方が稀なのかもしれない

これからも観察は必要な分、二度目ということもあり、アドバンテージもそれに比例して増えていくだろう

 

その点に関しての懸念は少ない

 

 

 

 

そしてもちろん、一番の問題は五つ子との関係だ

 

 

 

 

今まで通り普通に接して、今まで以上に友好な関係を築いていくのも悪くはないが・・・過程や達成感からか、どうしても――――

 

 

 

 

 

 

邪な考えばかりが浮かんでくる

 

 

 

 

 

『やりたかったこととか、出来なかったことを思いっ切りしてみたいよね!』

 

 

 

 

俺の・・・やりたいこと、か

 

 

 

「・・・二周目の人生くらい、開き直らせてもらおうかな」

 





5分後にもう1話投稿します。たくさんの方の感想お待ちしています


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この歪な感情の名は

連投はこの話までにしておきます


さて、タイムリープしてから4日目の朝だ

 

そして、今日が初めてのアルバイトの日である

五人が転校してきた日から2日が経ち、俺はあれからも前世とは異なる点がないかを模索していた

 

しかし、これと言った異常や変化は感じられなかった。変化がないことは、俺からしたら好都合なのだが・・・悪く言えば収穫がないとも捉えられる

 

いや、細かく言えばコレがあるか

 

 

「上杉君、ここの問題なのですが・・・」

 

 

この五月の態度の差だな。これが一番の変化だ。

だがこれは、俺が取った行動によって生まれた変化。つまり俺が意図的に変えたから存在するモノであって・・・ややこしい話だが、先程の変化とはまた種類が違うものなのだ

 

「えーとな、これは図を先に書いてから取り組んでみてくれ」

 

「わ、わかりました、やってみます」

 

しかし、何故こんなにも第一印象で態度に差が出るのだろうか?ありがたいことに、コンテニューした人生で第一印象の重要さを学ぶことが出来た。悲しきかな、皮肉にも前世の俺へのアンチテーゼとなってしまった

 

「解けました!」

 

解けた問題を見せ付けるようにして、なんとも嬉しそうにノートを掲げる五月

 

(もっと早くからこうしていれば、あんなに苦労せずに家庭教師をこなせていたのだろうか)

 

柄にもなく、その素直で満点の笑顔を見てそう思った

 

「その調子だ、頑張れよ」

 

「はい!」

 

五月が再び課題に戻った事を確認し、静まり返る図書館で、顎に手を当てひとりの世界へと深く潜る

 

それというのも、俺が企てた作戦を決行する為だ

 

決行と言っても、まだ作戦の全てが決まったわけではない。むしろ5分の1程度しか決まっていない。だが逆に言えば、その一部については成功させられる自信はある

 

 

 

それは――――

 

 

四葉の遠慮深さを解いてやれることだ

姉妹全員が恋心を寄せる前ならば、四葉は自分自身に枷をつけてしまうことはないだろう

 

四葉は出会った時から好意を寄せてくれていることも知っている

 

それこそ5年前に京都で出会った女の子は四葉だ。早速この後は四葉にアプローチをかけてみよう

 

 

 

 

「改めて、今日からよろしくお願いしますね。上杉君」

 

「ああ、こちらこそよろしくな」

 

春を感じさせる心地よい風、晴れ渡った青空、自分を慕ってくれている新しい世界線の美少女。前世とはかけ離れ過ぎた光景だ

 

学校の図書館での勉強に目処をつけ、五つ子の住むPENTAGONへと向かっている中で、どんな結果が得られるか楽しみな半分、不安も大きくなっていった

 

「ところで上杉君、私達は5人で授業を受けるわけですが・・・本当に大丈夫ですか?」

 

あと5分程で目的地に着くかという辺りで、五月が心配そうにそう尋ねてきた。以前の俺だったら、確かに5人分をこなすまでに時間がかかったが・・・今回は訳が違う

 

「なんだ?俺の腕を疑ってんのか?」

 

「ち、違います!とにかく、困ったことがあったらすぐ相談してくださいね!」

 

冗談抜きで、第一印象ってすごいな

もはや俺の知る五月ではなくなってる気がする

五月の皮を被った別の人物の可能性すら伺える

 

 

 

それから数分後

 

今となっては見慣れたオートロックの扉を開き、エレベーターに乗り込む。最上階へと運ばれる間も五月との会話は途切れることはなく、よく知った五つ子の特徴を聞かされていた

 

改めておさらいしておこう

 

長女・一花

女優の卵。現時点では五月を含め、姉妹は女優だということは知らない。長女なだけあってしっかり者だが、どこか抜けている

得意科目は数学

 

次女・二乃

姉妹一の女子力を誇るロマンチスト。攻撃的な性格だが、恋する異性には目がない

得意科目は英語

 

三女・三玖

ネガティブ思考の隠れ歴女。低レベルとは言っても姉妹の中では一番成績が良い

得意科目は社会(主に歴史)

 

四女・四葉

運動神経抜群で筋金入りのお人好し。困っている人は見過ごせない優しい女の子。出来れば今日中にでも攻略しておきたい

得意科目は国語

 

五女・五月

食べることを生業としているフードファイター。こいつのおかげで、後にうちのカレーは希少種となる。この教訓を活かし、今世では家に呼ぶ予定は今のところなし

得意科目は家庭科(本当は理科)

 

ざっとこれが五つ子の簡易的な紹介だ

必要に応じてまた追加していく。今はこんな程度に認識してくれていればそれでいい

 

 

ピンポーン

 

 

そんなことを話している内に、こちらの世界では初となる五つ子の住む部屋へ辿り着いた

 

しかし感慨深いものだな、ここまですんなり来ることができるなんて。ストーカー紛いの行為でこの最上階まで階段で駆け上がった日のことが懐かしい

 

「ここが私達の部屋です、どうぞ」

 

ガチャっとノブを回し、中へと案内される

広々とした玄関を潜ってからリビングへ

 

しかし、そこにはまだ誰もいなかった

 

「へー、広い部屋だな」

 

しらばっくれて、初めて来たかのように振る舞う。当たり前かもしれないが、俺はタイムリープをしてここへきた事は隠していこうと思っている。なので悟られない程度には白を切らなくてはならない

 

「4人を呼んできますね、少し待ってて下さい」

 

部屋へ着くなり、五月はカバンを置いて姉妹のいるであろう個室に行こうとするのだが――――

 

「いや、待ってくれ五月」

 

ガシッと手を握り、五月の身をこちらへ引き寄せる。当然驚いた顔で振り向くが、お構いなしに話を進める

 

「ど、どうしたんですか?」

 

「すまない、いきなり5人同時は厳しいと思ってな・・・悪いが今日から1人ずつ面談していく形にしてもらってもいいか?」

 

嘘も方便。それらしいことを言っておいて作戦へと誘導する

 

素直な五月の事だ、こうやって言っておけば協力はしてくれるだろう

 

「・・・なるほど、確かにそうした方がいいかもしれませんね。わかりました」

 

「助かる、じゃあ初日は一番協力的な奴でお願いしたいんだが・・・誰がいいと思う?」

 

これまた白々しく、分かり切った回答を待つ

十中八九、五月は四葉を推してくるだろう。勉強を教わりたいという意欲はこいつにも伝わっている筈だ

 

「・・・そうですね、四葉なら一番話を聞いてくれると思いますよ」

 

顎に手を当てながら考え込む五月

待っていた回答に、静かに安堵の息を漏らす

 

「そうか、じゃあ頼む」

 

「はい!お任せ下さい!」

 

 

 

 

「え!家庭教師って同級生だったんですか!?」

 

五月に呼ばれ、滞りなく個人面談を行っている

 

因みに五月には外してもらった。今は自室で自習に励んでいる頃だろう。ヘッドフォンと教材と資料を持って部屋に入っていったのを目撃した

 

 

あ、説明し忘れたな。この世界線では、五月以外とは初対面だ

 

本来だったら食堂で対面を果たすはずだったのだが、俺が敢えてその場に行かなかった故に生まれた状況となっている

 

だが心配はいらない。四葉俺の顔と名前で既に勘づいていたらしいので、ここで面と向き合ってしっかりと自己紹介さえ済ませてしまえば、こいつが思い出さないわけがない

 

「ああ、力不足なところもあると思うが、卒業までよろしくな」

 

「同級生なら嬉しいです!正直、大人の方の勉強の教え方はよく分からないと言いますか・・・あははは」

 

相変わらずの人当たりのいい笑顔で話してくれる四葉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自己紹介が遅れましたね、私は中野四葉です!」

 

天真爛漫、まさにその言葉をそのまま具現化したような、穢れの知らない笑顔

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よろしくな、四葉。俺の名前は――――

 

 

 

 

 

 

上杉風太郎だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・え?」

 

案の定、耳を疑いながら目をパチクリさせる四葉

やはりこの頃から覚えてはくれていたらしい

あとは畳み掛けるだけだが・・・慌ててはいけない

 

「何かおかしかったか?」

 

「い、いえ!もう一度聞いてもよろしいですか?」

 

「上杉風太郎。これでいいか?」

 

「―――っ、う、上杉さんですね!よろしくお願いしますっ」

 

取り繕ろいながら、平然を装う彼女

それは女優の一花が垣間見せる表情と酷似していた。そもそも嘘が絶望的に下手な四葉に至っては、気付けなかった俺に落ち度があると言っても過言ではない

 

 

 

 

 

 

そしてここから、世界線を大きく変える行動に出ようとしていた

 

 

 

 

 

 

「なあ、四葉」

 

「はい?なんですか?」

 

 

諄いかもしれないが・・・これから発しようとしてるこの台詞だけで、もう俺の知る未来とは大きく変わってしまうことになる

 

今一度、大きな決断を下す前に、首を傾げる四葉の顔をよく見てから、自分の本心に問いかける

 

 

 

 

(本当にいいんだな?上杉風太郎。一度下せば、もう戻れなくなるんだぞ)

 

 

 

 

葛藤も虚しく、俺は言葉を続けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「5年ぶりだな。俺のこと、忘れちまったのか?」

 

 

 

 

 

 

簡潔且つ、単刀直入に尋ねる

ここで四葉が前の世界線のように突っぱねれば、延長線上を果てしなく彷徨うことになる

作戦を進める為には、こいつだけは何があっても丸め込まなくてはならないのだ

 

心臓の音さえ聞こえる中、四葉は――――

 

 

 

 

 

 

「な、なんで・・・なん、で・・・せっか、く、ひぐっ・・・風、太郎君のため、に・・・嘘、までついたのに・・・」

 

 

 

手で顔を覆って、涙を流していた

白く透き通った涙は美しいのに、俺はなんて邪な感情を抱いているのだろう

 

泣いている彼女を見て、喜び以上に・・・どうしようもない独占欲だけが湧いてきた

 

「髪型も喋り方も違ったのによ、何故かすぐわかったんだ」

 

こいつは、いや、こいつらだけは――――

 

 

俺以外は、傷付けてはならない奴らだから

 

 

我ながら、間違った愛情表現なのは重々自覚している

 

「頭の中で、昔に会ったあの子と面影が重なってな、確証はなかったが・・・またお前と再会出来て、本当に嬉しいよ」

 

漆黒の念で覆われた手を、偽善者ぶるように優しく彼女の肩に置く。これで第一段階は突破したと言っていい

 

だがあくまでも始めに過ぎない。ここからが本番だ

 

「四葉、俺の頼みを・・・ひとつ聞いてくれないか?」

 

「わ、私でできることなら・・・させてください」

 

零れていた涙を拭い、再び笑顔を覗かせる四葉

前の世界線では冗談のように言ってしまった台詞を、今度は至って真剣に頼み込んだ

 

「お前を・・・抱き締めさせてくれないか?」

 

「・・・え、え?ほ、本気で言ってるんですか?」

 

「これでもな、俺はお前に感謝してるんだ・・・冗談でこんな事は言わねえよ。嫌なら断ってくれればそれで構わない」

 

弱って開いた心の隙間を縫うようにして、四葉の懐へと私欲を流し込む。単に押しに弱い彼女に、断れないと知っている願いをこれでもかと投げつける

 

やはり満更でもないようだ。彼女は困り顔だが、表情からは嫌という感情は感じられなかった

 

「あの、私としては構わないのですが・・・五月も部屋にいるので、場所を変えてもいいですか・・・?」

 

漸く開いた口から、少なからず作戦の進捗を感じさせる台詞が出てきたせいか、思わず口角が歪んだ

 

「・・・わかった」

 

 

 

 

「ど、どうぞ」

 

場所を変えたい。そう言われ来たのは、四葉の自室だった。この世界線どころか、四葉の部屋に入るのも初めてだ

 

ゴミ屋敷な一花、ファンシーな部屋の二乃、和風テイストな三玖と部屋を見てきたが、五月と四葉の部屋に限っては入ったことがなかった

 

その四葉の部屋はと言うと、シンプルに綺麗な部屋だった。一花の部屋をよく掃除しているだけあって、部屋の隅々まで掃除されていた

 

細かな埃さえ感じ取れない空間、単純に興味が湧いたこともあり、諦観していると

 

「う、上杉さん?あの、さっきのことって・・・冗談じゃ、ないんですよね?」

 

モジモジしながら、恥じらいを持ちつつこちらを伺っていた

 

そんな彼女の腕を取り

 

「ちょ、上杉さ――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、名前で呼んでくれないのか?」

 

 

 

 

 

 

 

耳元で優しく囁いた

 

 

「あぅ・・・ず、ズルいですよ・・・」

 

「5年前からお前を想ってきたんだ、今更我慢なんてできないんだよ」

 

「あっ――――」

 

 

それだけ呟いた瞬間、四葉を強く抱き寄せた

いきなりだったことに驚いてはいたが、嫌がる素振りは見せなかった。何も言わず、彼女を抱き締め続けると、次第に四葉の方からも背中に腕を回してくれた

 

「ずっとこうしたかった。俺がこうしてここにいられるのはお前のおかげだ。ありがとう、四葉」

 

四葉の心情を揺さぶりながら言葉をかけ続ける。弱っていく様を見ているだけで、今にも飛び出して襲い掛かりそうな理性に蓋をする

 

「でも・・・風太郎君は約束を果たしてくれたのに・・・私の方は全然ダメで・・・」

 

「そんなことないさ、何も勉強だけじゃないだろ?お前にはお前のできることがあるんだからな」

 

「・・・風太郎君はさ、なんでそんなに優しいの?」

 

「俺は決して優しくなんてないぞ。その証拠に、学校で友達なんていないしな」

 

「・・・ししし、風太郎君にも弱点があったんだね」

 

いつの間にか、敬語も取れており、彼女の表情も柔らかなものになっていた

 

その砕けた言葉は、昔京都で出会った女の子を彷彿とさせる喋り方だ

 

敬語でいられるより、やはりこっちのがしっくりくる

 

「ああ、俺みたいに人付き合いの悪い人間でもな、胸を張れることができたんだ。そう考えれば、他のことなんてちっぽけなもんだ」

 

「勉強なんて、俺が幾らでも教えてやる。だからこれ以上・・・自分を責めるな」

 

優しく諭すと同時に、励ましの言葉をかける

さっきとは打って変わって、感極まった瞳で俺の瞳を見据えていた

 

 

「ありがとう・・・!風太郎君!」

 

 

腕の中で、再び涙を流す四葉

その間に四葉の頭に手をポンと置き、サラサラの髪を撫でる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(そろそろ、か・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

機は熟した。そう言わんばかりに、満身創痍で四葉を呼ぶ

 

 

 

 

「四葉」

 

 

 

 

 

埋めていた顔を上げ、反応を見せたと同時に――――

 

 

 

 

「なに?ふうたろうく――――んんっ!」

 

 

 

 

無理矢理、唇を重ねる

こんなところに4人が来てみろ、俺の人生は終わりも同然。だが最初から好感度マックスの四葉のことだ。こんなことが起きても、抵抗するとは思っていない

 

 

「んん、んむっ、はっ、ぷは・・・い、いきなり、どうした、の?」

 

 

一度唇を離し、肩で息をする彼女の顔を再び見据える。真剣な眼差しを向けてから――――

 

 

ぱっと彼女から手を解く。俺は続けるのではなく、敢えて行為を辞めた

 

「・・・すまん、忘れてくれ」

 

呆然とする四葉に背を向け、目の前から立ち去ろうとドアノブに手をかける

 

 

 

 

「ま、待って!」

 

 

 

 

だが安心してくれ

こうして彼女が、立ち去ろうとする俺の手を握り

 

 

 

 

 

「ふ、風太郎君がしたいなら・・・その・・・」

 

 

 

 

 

必死に止めようとするのも全て

 

 

 

 

 

 

 

「続けてほしい、な」

 

 

 

 

 

 

 

 

計画通りだから

 

 

 

 

 

 

「はっ・・・んっ・・・」

 

 

ベッドの上で、あれからもキスを続けていた

懸命に俺の口内をチロチロと小さく撫でる四葉の舌を、覆うように巻き込み返す。彼女の頬に両手を当て、上を向かせながらこの行為を行っていた。頭と下半身に血が流れるのを感じながら、口内を貪る

 

舌の筋、歯茎を舌で撫で回してから、今度は咥え込んで彼女の舌を引っ張る。もはや貪るという表現さえ生温く思えてきた

 

「これ、すごい、ね」

 

蕩けた目をしている隙に、たわわな果実が実る胸元へ手を伸ばす。キスに夢中になっていたせいで、普段は視野が広い四葉も、気付いた頃には鷲掴みにされていた

 

「ひゃっ!ふ、風太郎君!そこはいくらなんでも・・・んっ、あ、あんっ!!」

 

「言っただろ、もう我慢なんてしないって」

 

「で、でもぉ、まだ付き合ってもないのに・・・」

 

「俺じゃ不満か?」

 

対面して座り、ふくれっ面の四葉に、答えのわかっている質問を投げかける。しおらしく聞くだけで、四葉は都合の悪そうな顔をする

 

「嫌なわけじゃないけど・・・その、物事には順序というものが・・・」

 

「ごめんな、お前が可愛すぎて歯止めが効かなくなってんだ」

 

「・・・やっぱり風太郎君はズルい」

 

ふにふにと、彼女の豊満で綺麗な果実を揉みしだく。言葉ではなんだかんだ言っていたが、揉まれる度に悩ましい声を上げている

 

キスで栓をすることはなく、溢れ出るように漏らす嬌声は甘美なもので、残っている理性を着実に削ってくる

 

「・・・脱がすぞ」

 

既に確認など取ることはなかった。規則正しく着用されたベストとワイシャツを丁寧に剥いでいく

ボタンひとつひとつをゆっくりと外していく作業さえ、今は落ち着いて処理できない

張り裂けそうな心臓の鼓動は、荒い息となって外へ吐き出される

 

ぷちっ、ぷちっと音がなるだけで、下半身にあるモノが存在感を増していくのがわかる

 

やがて顕となった立派な胸は、最も男性の理想形に近いと呼ばれる釣鐘型のものだった

 

生唾をゴクリと飲み込み、視線は釘付けにされた

 

「や、優しく、してね・・・?」

 

その台詞と同時に、四葉の胸に顔が引き寄せられる。初めは舌で乳首を転がしながら、感触と漏らす嬌声を楽しむ。次第にぷっくりと大きくなり始めたことを確認すると、続けて吸う作業へと移行する

 

「ふ、風太郎くん、本当に、初めてな、の?」

 

「初めてだぞ、俺が女遊びなんてできるわけないだろ」

 

「む〜・・・あやしい、なぁ―――あんっ!♡」

 

深く深く追及される前に、咄嗟に四葉の乳首を強く抓った。上半身を仰け反らせて、快楽の反応を示したのを機に攻め立てる

 

だが俺が童貞ではないのは当たっており、実は一人だけだが、前の世界線で女性を抱いている

 

その時のテクニックを駆使しつつ、今は四葉の身体を堪能している

 

グイッグイッと右へ左へと乳首を捏ねくり回しながら、声にも抑制が効かなくなってきた頃を見計らう

 

「〜〜〜!んぁっ!♡そんなとこつねっ、たら・・・!」

 

ここが所謂性感帯というやつなのか、涙目になりながら痙攣を起こす。軽めの絶頂に達したらしい。知らない快楽に身を震わせ、垂れて蕩けた目で何かを訴えかけてくる

 

いよいよ抑えきれなくなった衝動は、右腕を伝って、彼女の秘部へと伸びる。スカートを捲り上げ、お子様パンツが湿り気を帯びているのが視認できた

 

「――――あっ!、だ、ダメだってば・・・んぐっ、ぷはっ・・・」

 

右手の中指を四葉の秘部の割れ目に擦りつけ、キスで口を塞ぎ、左手の親指と人差し指で乳首を摘み上げる

 

三箇所同時に弱点を攻める。抵抗する気さえ無くすかのように、ひたすら愛撫を続ける。クチュクチュといやらしい音を立てながら、下着をズラして指を介入させる

 

「ふ、ふうたろ、うくん・・・これ以上は、ほ、ホントに・・・」

 

服を掴み、必死に止めようとする四葉の言葉に反応は見せず、介入させた指をゆっくりと動かす。この後も行為があるのを悟らせる為に、懲り解しながら、指を縦、横、奥に滑らせる

 

「ダメだって言う割には濡れてるな、ここ」

 

「ひゃ、っ!い、いくらなんでもおこるよ!」

 

「お子様パンツに言われてもなぁ・・・いいから俺に身を委ねてみろ」

 

今一度、深く中指を突き刺す

快楽のドツボにハマりつつある姿は、この世の言葉では比喩すら烏滸がましい程、魅力的で艶っぽい

 

僅かだが、しっかりと開拓されていく秘部

膨張を続ける下腹部のもう一人のオレ

そろそろ、ファスナーで押さえ込んでおくのも無理になってきた。痛くて堪らない

 

「四葉、さすがに限界だわ」

 

「へ?な、なにが?」

 

「これが」

 

「うぅ・・・少しは恥ずかしがってよ」

 

ダメ元だとはわかっていたらしく、股間の膨らみを見て顔を赤らめる。段々強引になっていくプレイに、やや不満を零しているが、満更ではないのは手に取るようにわかった

 

スラックスのファスナーをゆっくりと下ろし、ベルトとチャックを外す。そしてここで、四葉にお願いしてみた

 

「あとは頼む」

 

「頼むって言われても・・・えーっと・・・下ろした後はどうすればいいの?」

 

「まあ・・・手で扱いたり、舐めたり咥えたりだな」

 

その行動に、やや抵抗があるみたいで、「え!」と驚いていたが、興味津々なのも見抜いている

 

やがて諦めるように、ファスナーの開いたスラックスを手にかける

 

手にかけてから、覚悟が決まるまでに多少の時間を有し、「ふーっ」と大きく深呼吸をしながら脱がしにかかった

 

当然存在感を増しに増した俺のブツは主張を激しくしているわけで、トランクスさえもテントの張り方が尋常ではなかった

 

「・・・一応聞いてもいい?」

 

「なんだ?」

 

「その・・・さ、最後まで・・・したい?」

 

「そりゃあもちろんしたいさ、お前と繋がれるなら本望だ」

 

「・・・風太郎君はズルいを通り越して卑怯だよ」

 

打って変わって、積極的になった四葉

心境の変化の転げ方にしては有難いことこの上ない。最初からこうやって出来るのなら、向こうの世界線であんなに真面目に生きてきたのがバカみたいになってきた

 

さっさと気付けば良かったんだ

こんな幸福な立ち位置にいたことに

 

「おわ・・・おっきい」

 

そんなことを考えていたら、いつの間にか四葉は俺の下半身の衣服を脱がし終わっていた

上の衣服を脱げば、生まれたままの姿になってしまう

 

対する四葉も、ワイシャツはもう衣服としての役割を終えていると言っていい。はだけて隠れていない胸、愛液で濡れてびしょびしょになってる下着

 

彼女の方がよっぽど羞恥に晒されている恰好をしているのは明確

 

だがそんなこともどうでもよくなる程に、感情が昂っている。ズイっと四葉にブツを突きつけると、困惑顔ながらも、しなやかで柔らかすぎる手で包み込んでくれた

 

「痛くない?」

 

「あ、ああ・・・続けてくれ」

 

しゅっ、しゅっと緩急をつけながら、こちらの反応を楽しむように、強弱まで器用に使いこなす様は、先程聞かれたように、逆に彼女に初めてか問いたくなってしまう程の気持ちよさ

 

ゾクゾク走る背中の快感は、射精欲を掻き立てながら擦られる度に下腹部のブツへと流れ込んでいく

 

天井を見上げていると、クラっとして思わず目を瞑った

 

そこから四葉の肩に両手を置いて、弱々しく告げる

 

「四葉、そろ、そろ」

 

「え!出るの!?まだ心の準備が――――」

 

 

 

 

 

 

「~~~~~っ!!!!」

 

 

 

 

 

端正な顔、整いすぎた双丘、華奢な腰、スカートから覗く健康的な太もも

 

それら全てを汚さんとするまで、他人の手によって達した絶頂の吐瀉物は、留まることを知らなかった

 

ビクビク痙攣しているブツを手放し、四葉は降り掛かった白濁の液を掬い取った

 

それをどうするのか、黙って見ていると――――

 

 

 

ペロっ

 

 

 

 

「!」

 

自分が食らいついていた小ぶりな舌が、指先で掬いとった液を口に含んでいった

 

期待していなかったと言ったら嘘になるが、改めて目の前でやってくれると、制御のしようがない独占欲が再び身体の内側から侵食してくる

 

その勢いのままに、彼女を押し倒した

 

 

 

 

ギシッ・・・ギシッ・・・

 

 

「するん・・・だよね?」

 

「ああ、もう我慢ならん」

 

「元々我慢してないじゃん・・・」

 

「お前だって後半はノリノリだったじゃねえか」

 

他愛のない会話をしながら、四葉のお子様パンツを剥ぐ。指を入れて凝り解していたとは言っても、破瓜を迎えさせようとしているのだ

 

自分で自分にお預けしている感覚に陥る程、ゆっくりと埋めていく

 

「あ、あぁ・・・」

 

「くっ、キツいな・・・」

 

スポーツで引き締まっているからか、あれだけ時間をかけたのに、異物の侵入を許すまじと躍動している。締め付けられるブツはそれで萎えるどころか、さらに凶暴さを増して大きく変貌していき、同時に己の限界を感じさせない膨張に不安を煽られる

 

「えへへ、キツキツだね」

 

「抜いた方がいいか?」

 

「だ、だいじょぶ・・・さっきも言ったけど・・・優しくお願いね」

 

「もちろんだ」

 

その後も四葉の表情から、快楽を感じているのか、はたまた痛みを感じているのかを伺いながら、処女膜まで辿り着いた

 

プルプルと震えながら、いよいよ破瓜の時を迎えようとしていた

 

「膣内には・・・出さないよね?」

 

痛みの恐怖に震える彼女の頬に手を添え、唇を重ねる。舌を入れるのではなく、不安を取り除く為の優しいキス

 

「さ、さすがに膣内には・・・俺もまだ責任は取れないしな」

 

「なんで避妊具ないの・・・?」

 

「まさかやるとは思ってないだろ・・・」

 

「それは私のセリフだよ?」

 

なんとも頼りない言い合いに、雰囲気が和らぐ

正確には、避妊具もわざと持ってこなかっただけだが、何も妊娠させる為に置いてきたわけではない。あくまでも、"偶然"を装う偽装工作というかひとり芝居だ

 

 

「行くぞ、四葉。痛かったらすぐ言えよ」

 

「う、うん・・・」

 

 

欲望を具現化したような棒が、ズブズブと沈まっていくのを見つめながら破瓜の時を待つ

肉壁を裂いている感触は何度体験しても、清々しいものとは言えない。相手を傷付ける。ただその一点に気を遣ってしまい、どうも億劫になる。

 

この破瓜を越えて、女性は初めて快感を得られるのだが、最初から快楽だけが押寄せる男性からしたら、価値観の薄い考えを持つ輩がいるのも、否定できない事実だ

 

こんな最低な作戦を決行している俺から言われても説得力がないかもしれないが、この時だけは乱暴に出来ない

 

目の前で苦悶の表情を浮かべる彼女でさえ、めちゃくちゃにしたいという欲求こそあるが、処女膜をぶち抜いてでも犯したいとは思わない

 

「あ、あと、どれくら、い・・・?」

 

「本当に少しだ、頑張れ」

 

やがて終わりの見えたお預け状態のところに、深呼吸を今一度挟んだ

 

 

すると

 

 

膜の貫通を終えると同時に、しっかりと四葉の秘部の入口に根元が当たった

 

互いの秘部の茂みまでピタッとくっつき、顔を見つめ合う

 

「えへへ、挿入っちゃったね」

 

「痛くなかったか?」

 

「お、思ってたよりは・・・でも、もう少しだけこのままでお願い」

 

痛みは人それぞれと言うが、四葉はあまり痛みが出ない方だったらしい

 

それから待つこと1、2分

四葉の「動いていいよ」という合図を皮切りに、腰を振り始めた

 

「あっ、あっ・・・ふ、ふうたろうくんの、かたす、ぎ・・・!」

 

「お前も、締め付け過ぎ、だ・・・はぁ、っ・・・」

 

肌をぶつけ合い、その度に揺れる双丘

我慢していた分の欲求を余すことなく、腰の躍動に乗せてピストン運動を行う

 

段々と『女』の表情を浮かべ始める四葉

頭が真っ白になりそうで、息を切らしているのか、だらしなく口呼吸をしながら喘いでいた

 

「あっ、は、はげし、いってばぁ・・・!」

 

「すまん・・・!」

 

俺の両手によって腰は固定されており、正常位の体勢で打ち付けているのだが、四葉は感じている筈の下半身ではなく、上半身をうねらせて甘い声を上げ続けた

 

包み込むような四葉の穴は、こちらの事情などはガン無視で、白濁の液は一滴も零させまいと躍起しており、遠慮なく締め上げてくる

 

周りの姉妹に悟られないように声を抑えながら、お互いの秘部を結合させること、約5分

絶頂を我慢していた二人は、一度限界を迎えてしまう

 

 

「ふう、たろうく、ん!も、もう無理ぃ・・・!」

 

「あっ、うぅ・・・〜〜〜っ!!!」

 

 

あまりの気持ち良さに、断末魔に近い声を上げながら、彼女の秘部からパンパンに詰まった棒を引き抜いた。打ち付けあった際に出来た泡のせいか、抜く際にじゅぽっと卑猥な音が聞こえた

 

四葉のクビレがしっかりと浮き出ている腹の辺りに、溜まりに溜まった液をぶちまけた

 

本日二度目の絶頂。中出しという最悪の結末は免れたが、体力的に辛かったこともあり、四葉の横にそのままへたり込んだ

 

 

 

 

 

「はっ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「はぁ、はぁ、あぁ・・・」

 

 

 

もはや別の人のモノか?と思うほど萎んだ竿を見て、どれだけ彼女に思いっきりぶちまけたかを悟った

 

そして自分を受け止めてくれた彼女の方を見ると、なんとも幸せそうに微笑んでいた

 

「・・・ししし、気持ちよかった?」

 

「マジで頭が飛びそうになったぜ・・・」

 

終わって満足感のある笑顔を目の当たりにして、心の底から込み上げてくる感情を感じながら、四葉の手を取った

 

 

 

「ふうたろうくん」

 

 

 

息も整って、落ち着いた様子の声が聞こえてきた

呼ばれたままにその方へと振り返ると――――

 

 

 

 

シュルっと、頭に巻いていたリボンを取っていた

 

 

 

 

髪の長さ以外、何一つ変わらない容姿

幼さを残した端正な顔立ちで、俺を見据えていた

 

「ありがとう・・・四葉」

 

その彼女にお礼を言ってから・・・再び恋人のような甘いキスを交わした

 

 

 

 

 

 

 

 

四葉と体を重ねた日の夜

 

 

作戦の第一段階を見事に踏破

だがまだ浮かれてはいられない。前に言ったように、これで5分の1程度の進捗度合いだ

 

しかしここは素直に祝っておこう

頑張った、俺。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて――――次はどうしようかな




感想待ってます


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思い出の色


プロローグ以外のストーリーの導入は諺や名言から。


四葉と身体を重ねた日の翌日

 

小鳥が囀る長閑な朝。強い日差しを受けて起き上がる。四葉が初めてだったこともあり、配慮しながら抱いてたのだが、それでも僅かに腰が痛い

 

四葉はこれより痛いだろうに、情けないことは言っていられない立場にあることを自覚し、重苦しい体を思いっきり伸ばす

 

植物が光合成で太陽光を取り込むように、俺も目いっぱい伸ばして体を解す

 

伸ばし終えると同時に、カレンダーに目をやる

わかってはいたが、やはり4月なのは変わりない。ということはタイムリープはしたままだ

 

疲れ切って腐った目を、今度は小さな食卓へ向けると、そこには一切れの紙が置いてあった

 

 

『お兄ちゃんへ。疲れてたの?起こしても起きなかったから先に学校に行くね!朝ごはんはちゃんと食べていってね! らいは』

 

 

紙切れはそんな内容の置き手紙だった

お世辞にも豪華とは言えない質素な朝ごはんに、柔らかい笑を零しながら、学校へ向かう準備を整えた

 

 

 

 

 

 

「どうしたもんかな」

 

 

学校の通学路にて、俺は独り言を零しながら作戦を企てていた

 

四葉を攻略することに成功したのはいいが、むしろ問題はここからだ

 

何が問題なのか、ひとつずつ状況を整理していこう

 

まず大前提として、一花・二乃・三玖は現在、俺に全くと言っていい程恋愛感情がない

 

そこに加えて、パラレルワールドを作り出してしまったせいで、五月の好感度は未知数としか言い様がないことも、これまた面倒な点だ

 

特に序盤の二乃・三玖は俺のことを拒絶している

あの二人は俺が長い時間を要して、漸く好意を寄せてくれるようになったのだ

 

なんとも懸念点が多すぎる

だが慌てていても仕方ない・・・

 

現実逃避をしたいわけではないが、一度ここでタイムリープの利点と欠点を比較してみよう

 

例えばこの世界線での利点は

 

一つ目。四葉との再会を早めに果たせたこと

 

二つ目。前世と全く変わらない世界観故、次に何が起こるか予想しやすいこと

 

となっている

 

次に欠点だな

 

一つ目。あまり目立った行動が出来ないこと、知っているが故に、他人を不審に思わせてしまう恐れがある

 

二つ目。五つ子に対して積み上げてきた信頼がリセットされたこと

 

 

と、大まかに挙げればこんな感じだ

まあわかると思うが、問題は欠点の二つ目だ

これに関しては本当にお手上げ状態

 

一花や三玖はまだしも、二乃は冗談抜きで厄介この上ない相手

 

睡眠薬を盛られる事件は、俺が個人面談にしたことで避けられたが、きっとまたどこかで俺を追い出す為に仕掛けてくるに違いない

 

前回みたいに時間をかけて、ゆっくり溶かしていくのも作戦のひとつだが・・・もうあんな悠長に付き合っていられない

 

頭を捻っていると――――

 

 

 

 

 

 

「・・・!」

 

 

 

 

 

妙案が思いついた

 

 

 

 

 

学校・屋上にて

 

少し抵抗はあるものの、無碍には出来ない案を思いついてしまった俺は、とある人物を屋上へと呼び出し、先に待機していた

 

間もなく約束の時間だ

 

 

ガチャ・・・ギィー・・・

 

 

そんなことを考えていたら、ちょうど入口から音が聞こえた。落下防止の金網に預けていた頭を起こし、重厚感のある音が鳴った方へ首を向ける

 

 

「上杉さん?どうしたんですか?」

 

 

俺が呼んだ相談相手、それは先日関係を持ったばかりの四葉だ

 

「少しお前の意見を聞かせてほしくてな、軽い相談だ」

 

「・・・再会して数分しか経ってないのに、人のことを襲っちゃう上杉さんでも相談はするんですね」

 

少し不機嫌気味に、そして何故か皮肉を浴びせてきた四葉に、こちらも負けじと皮肉で返す

 

「自分だって人のブツを握りながら扱いてただろ」

 

態と羞恥心を抉る言い回しにして、四葉のメンタルを攻撃する。案の定顔を赤くして反論してきた

 

「うっ・・・あれはノーカンですよ!」

 

「・・・そのあとは精液も掬って飲んで――――」

 

「わーー!今日はいい天気ですねー!」

 

自分でも聞くに耐えない事実を、さらに掘り下げて追撃をかけると、無理やり話題を変えて空を指さした

 

「・・・曇ってるけどな」

 

こんな下な話は、前世では考えられない話だな

とりあえず、ここまでの関係にまで持ってこられたのは大きな収穫と言える

 

「そ、それはそうと・・・相談ってなんですか?」

 

下品な話もそこそこに、本題へと漕ぎ着ける

 

「お前が喜んでくれると有難いんだがな・・・その・・・」

 

「・・・?」

 

いざ口にしようとすると、どうも小っ恥ずかしくなる。思いついた作戦は確かに効果的なものだが、俺が耐えられるか心配になってきた

 

その恥ずかしくも効果的な作戦というのは――――

 

 

 

 

「昔にみたいに・・・金髪にでも染めようかなって思ったんだが・・・どうだ?」

 

 

 

キンタローになろうという作戦である

もちろん、髪を染めてからキンタローという架空の人物を演じる訳ではない。今回はただただ上杉風太郎が金髪になるだけ

 

 

「・・・えぇ!?ど、どういうことですか!?」

 

 

四葉からしたらこんな脈絡もない話に当然驚くのだが、別に嫌ではないだろう。現に目を輝かせて喜んではくれている

 

俺が金髪にしようというのも、作戦を潤滑に進める為だ

 

"一花・二乃・三玖は、俺に恋愛感情がない"

 

この世界線での欠点を逆に利用させてもらおうというのが、この作戦の肝

 

キンタローになることによって、実は今よりも優位に立ち回れることに勘付いたのだ

 

では今度はそのキンタローになった時の利点について話そう

 

一つ目。二乃の態度の柔和を狙うこと

二つ目。一花の恋心を早めに自覚させられる

 

知っての通り、当初の二乃の異性のタイプはワイルドな男。俺が金髪のカツラを被っただけで態度が豹変したのも事実であり、恋する異性にはとことん目がない。そこが唯一の付け入る隙と言っていい

 

そしてもうひとつ

前の世界線の一花曰く、林間学校で俺の金髪姿を見たことによって、京都で会ったことを思い出したそうだ

 

そこから次第に興味をもっていったらしく、結局そのまま意中の相手になったとのこと

 

・・・状況整理とはいえ、これって自分で言ってるとすげえ恥ずかしいな

 

長くなったが、要約すると・・・さっき挙げた利点に繋がるのだ

 

まさに一石二鳥。なんならお釣りも返ってくる

 

序盤の今となっては破格の条件だということに今更気付いた

 

俺が羞恥の視線に多少目を瞑るだけで、一花と二乃が勝手に好意を寄せてくれるようになるのだから

 

 

 

だが四葉にこんな本音など話せるはずもなく。これもまたでっち上げた理由を意気揚々と話す

 

「いや、な、お前と再会できたし・・・その証として・・・みたいな感じだ」

 

相手側に都合よく言っておけば、まあ反対されることはないと思う

 

 

 

「・・・また、昔の風太郎君と会えるの?」

 

 

 

唐突に襲ってくる、小悪魔のような甘い声

敬語の外れた話し方は愛くるしいもので、自分以外に見せない彼女の姿を見ていると、性欲となって放出された独占欲が沸々と込み上げて来る

 

 

「大袈裟だな、今もお前の前にいるだろ?」

 

「そ、そうじゃなくて・・・」

 

 

本当はわかっている。こんな揚げ足など取らなくても、お前が言いたいことは理解している

 

ノーデリカシーと揶揄されてから、女心には多少の気遣いをするようになった

 

・・・まあ、タイムリープした世界でまで使うとはさすがに思ってもいなかったが

 

 

「・・・こっちに来い、四葉」

 

 

毒されて衝動の抑えきれなくなった感情に、屈服するようにして、彼女を懐へ呼び寄せる

学校の屋上ということもあり、やや躊躇った四葉だったが、昔からの想い人の甘い一言には抗えなかった

 

彼女が胸に顔を埋めて、腕を背中へ回したところで、語りかけた

 

「機嫌直せって」

 

「・・・小学生の時はもっと優しかったのに」

 

「性格はアレからも変わってないぞ?」

 

「嘘。身長と態度も変わってるもん」

 

「それはお互い様だろ・・・」

 

胸元で膨れっ面の彼女。抱き寄せる腕の力をさらに強くしてから、顔を近づける

 

「ふ、風太郎君、近い・・・」

 

「前も言ったろ、嫌なら拒め」

 

「・・・いじわる」

 

拒めないことを知っているからこそ、息が肌にあたり会うまで密着する

 

小柄な身体に見合わない大きな乳房は抱き締めた力によって変形していく。双方次第に荒くなる呼吸。底の見えない欲望

 

気付いたら頃には――――

 

 

 

「んっ、はっ・・・んむっ」

 

 

 

彼女の口を貪っていた

いつの間にか首元に回された手によって、行為が中途半端に終えられる可能性はガクッと下がった

 

 

そう。下がったハズだった

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

 

 

「・・・さすがに、二人で一緒にサボるのは・・・ダメ、ですよね?」

 

「・・・そう、だな」

 

 

現実に引き戻されるチャイムによって、これからしようとしていた行為に待ったをかけられた

 

名残惜しい感情の行き場が分からず、二人は若干の気まずい空気に包まれながらも、屋上を後にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人間50年、下天のうちを比ぶれば、夢幻のごとくなり。

 

 

 

 

天下統一目前まで行った信長公が、この詞を好んで、桶狭間の戦いの前に舞ったというのは有名な話だ

 

しかし、この諺は暫し間違った解釈をされることが多いという。その一例がこんな感じだ

 

"人間の一生はたかだか50年程度しかない"

 

昔のヒトの寿命は平均すると約50歳

このような勘違いを起こして、解釈を誤るのも無理はない

 

だが真の意味は

 

"人の世の50年は、下天と比べれば、ただの1日でしかなく、儚いものだ"

 

といった意味合いになっている

 

 

この言葉は、まさに今の俺にはうってつけの諺

なにも下天の生物になったわけではないが、人生二週目というのは、時間の有効活用と言っていい

 

 

・・・まあ、こんな前置きはただの現実逃避だ

 

 

 

 

本当に――――この金髪をどう説明しようか・・・

 

 

 

 

 

前日、四葉には"再会の証"と言って誤魔化しは利かせたのだが・・・他の4人には説明のしようがない

一・二はまだいいとして、三と五にはどうやっても言い訳がましい理由になってしまう

 

美容室にてカットとカラーリングを施してもらったおかげで、自分で言うのもなんだが、結構イケてる部類に入ることができた

 

そして、カットとカラーリングだけで数万も飛ぶとは思っていなかった為、致命傷となりうる痛手の出費をしてしまったのも新たな問題だ

 

あと少し待てば、家庭教師代の数十万が入ってくる。そう腹を割って金髪に染めてきた

 

染めてきたまではいいのだが・・・あとのことを全く配慮してなかった

 

 

「はぁ・・・」

 

 

言い訳を考えることすら面倒になり、ため息を吐いてから学校へ行く準備を始めた

 

 

 

 

「お、おい、アレって・・・」

 

「あんな人いたっけ?」

 

「へ〜・・・結構イケてない?」

 

 

予想通りとは言え、やはり注目を集める結果となってしまった。通りかかる生徒が口々に感想を零していくのが聞こえる

 

本当に煩わしい。お前らの為にこんなことをしているわけじゃないんだ

 

髪を染めて来た位で騒がれるような学校でもないだろ、放っておいてくれ

 

朝からこんなにイラつくとは思ってもいなかった

少し乱暴に教室の扉を開けると――――

 

 

「う、上杉君!?」

 

 

この色に反対されるであろう、五月と目が合ってしまった

 

・・・どうしても、愛想を尽かされる結末しか見えてこない。黙って目を逸らしておこう

 

「・・・」

 

「何か言って下さい!」

 

どうやらだんまりは逆効果だったらしい

言及しながらズイっと近寄ってくる

元々異性の友人に対する距離感が曖昧な彼女が、無遠慮に自分の領域に踏み込んでくる

 

「と、とりあえず落ち着いてくれ」

 

「これが落ち着いていられるわけがないでしょう!説明してくれるまで離れません!」

 

四葉が誰よりも優しかったことを知っていたように、こいつが誰よりも頑固なのは知っている

 

一応、気休め程度にしかならないが、言い訳は考えてきたので・・・ここはそれでどうにか乗り切ろう

 

「染めてきたのにも理由があるんだ・・・聞いてくれ」

 

「・・・それがまともな理由なら聞きます」

 

懲りもせず、俺はまたひとつ嘘を重ねていく

なぜ嘘を吐くことが、こんなにも簡単になってしまったのか

 

悪びれもなく、口から邪気を含んだ声色で音が発せられる

 

「俺にも恩師がいてな・・・その人が金髪で・・・それに憧れて、お前らの家庭教師に見合うようにってやってきたんだが・・・ダメか?」

 

飽くまでも、自分の恩師からのインスパイアだと言い張る。形から入ったと思わせるための嘘

この金髪が作戦の狼煙のようなものだ

 

「・・・では、浮ついた理由で染めたわけではないんですね?」

 

「当たり前だ、不完全とは言っても教師の立場にあるんだからな」

 

翌々考えれば、零奈さんの背中を追っていた五月には効果覿面な嘘なのかもしれない。バレるとは思っていないが、それでも目は泳ぐし、心臓の鼓動は早くなる

 

穏便に行けば、第一の鬼門は突破できる

依然としてムッとした表情を浮かべているが――――

 

 

 

「・・・そうですか、今回は信じますが・・・それ以上はさすがに辞めてくださいね?」

 

 

 

諦めるようにそっぽを向いた

若干頬を膨らませながら納得してくれたので、言う必要もないのにお礼を言ってしまった

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうな、信じてくれて」

 

 

 

 

 

当然、誰一人として聞こえない声量でだが

 

 

 

 

 

 

「あー!風太郎くんだー!」

 

お昼休み、学校の屋上で四葉と密会をしていた

晴れて五月にも作戦を押し通せたこともあり、気分が舞い上がっていた

 

出会ってから一番嬉しそうな笑顔で出迎えてくれて、懐かしむようにジロジロと覗き込んでくる

 

本当に、この姉妹の距離感は何故こんなにも近いのか。体を重ねた今ですら、髪の匂いがほんのり鼻につく距離まで近づいて来るのはどうかと思う

 

自分だけが見られるのは割に合わないので、四葉の顔と肢体を改めてじっくりと見返す

 

視姦というのにピッタリな下卑た視線を送る

この身体を好き勝手できると思うと、性欲がどんどん煽られる

 

「えへへ〜」

 

それにも関わらず、頬擦りをして抱き着いてきていることが合わさって、真摯に接しているのがバカバカしく思える

 

どこかあどけない仕草と口調に心臓を射抜かれ、つい反射的に抱き締め返してしまう

 

数週間前までだったら、抱き締められただけで情けない声を上げていた彼女が、今は既に黙って受け入れてくれるようになった

 

押しに弱い四葉も好きなので、どちらにせよ最高な二択なのは変わりない

 

俺の理性がそんな無邪気で儚い笑顔にノックアウトされるのは、もはや見えた未来である

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、あっ・・・だ、ダメ、ぇ・・・!」

 

 

宣言通り我慢などできる筈もなく、屋上という解放的な空間で四葉を犯していた。お互い制服は着たまだ。俺はファスナーだけを下ろし、四葉もスカートと下着は穿いている

 

先日訪れた際に身を預けていた落下防止の金網に、四葉の手をつくよう促し、後背位からガンガン突いて喘ぎ声を響かせていた

 

校庭にいる生徒、又はここに現れるかもしれない生徒の存在に危惧しながら、行為に及んでいた

 

こんな大っぴらに彼女とひとつになっている所を誰かに見られでもしたら、俺と四葉は社会的に死ぬことになるのは間違いない

 

しかし、そんな背徳感は性欲に変わるだけで、行為を辞めようとは絶対にならない

 

「あー・・・くっ」

 

「だ、だれかきちゃ、うぅ〜・・・」

 

立ち後背位ならではの感触に竿を唸らせ、恥骨部が彼女の引き締まった桃尻に当たる度、腰の動きが早くなり、射精を我慢する苦悶の声を漏らす

 

金網に必死に縋る姿は更に性欲を増幅させ、その都度俺の竿が硬くなっていく

 

ゴツゴツと亀頭が子宮口に頭突きする毎に飛びそうになる意識を、細すぎる彼女の腰を両手でがっしりと掴むことで、なんとか保っていた

 

しかしそんな頑張りも虚しく、呆気なく果ててしまった

 

 

「はっ・・・〜〜〜〜!!」

 

 

「ふ、ふうたろ、うくんの、ばかぁ・・・」

 

もちろん膣出しだけは避け、小ぶりな桃尻に向かって、下着越しにぶっかける。白く染めあげられた布と尻を横目に、そのまま流れるように彼女の体勢を変えさせる

 

「あ、あの、まだイったばっか――――んぁっ!!」

 

次は金網に背中を預けさせて、片足を持ち上げてからスカートをたくし上げ、下着をズラして無理やり挿入した

 

立ち鼎と言われる体位で2回戦へ突入

突くたびに揺れるクセのない髪の匂いが鼻腔を擽り、女の子特有の甘い香りも楽しみながら、快楽に善がる様を見物する

 

やがて服の胸元を掴んでいた両手は、首に回されていた

 

中途半端に終わってしまった昨日のキスを思い出すかのように、優しく触れ合うだけのキスを交わす

 

舌を入れることはなかったが、唇が重なっていた時間は、過去最長となった

 

だが突いて突かれている2人は息を切らしている為、鼻呼吸で意識を紡いでいる

 

「ふーっ・・・ふむっ・・・」

 

キスを辞めて顔を覗くと、まだ続けて欲しいと言わんばかりの瞳でこちらを見つめていた

 

抱き締められているせいで、離れることは到底出来ない。要求に応えるしかないのは明白だった

 

「よつ、ばっ!」

 

「ふうたろう、くん・・・!」

 

すぐ傍にいると言うのに、互いの存在を今一度確認しながら名を呼ぶ。その後すぐに愛液と先走り汁の混ざった肉棒は限界を迎えた

 

腟内で暴れていた棒を再び引き抜き、臍からむっちりとした太ももに至るまでの区間に白濁の液を吐き出した

 

行為を終えて肩で大きく息をする2人は、満足感に覆われた。そこからやってきた睡魔には抗えず、制服を正してから眠りについた

 

 

 

 

 

 

その夜

 

タイムリープしてからの日々の恒例

一人反省会を開いていた

 

「・・・金髪にしちまった以上、一旦三玖は保留にするしかないよな・・・黒髪に戻してから本格的に接近しよう」

 

だが安心してくれ、保留にはするが、好感度はちょくちょく上げていく予定だ

 

会話で補っていくしか道はない

人生二週分の戦国知識を総動員させてどうにかしていこう

 

大きな区切りをつけ、次に金髪の染めたことの講評を自己分析してみた

 

「やっぱり五月の好感度は下がったな・・・話しかけても素っ気なかった気がする」

 

あまりいい反応ではなかったのは織り込み済みだが、いざ目の当たりにしてみるとクルものがある

 

だがそれとは反対に、やはり四葉には好評だった

四葉が上がった分、五月が下がったとなれば、結局プラスマイナスで言えばマイナスだ

 

元から高かった四葉をさらに上げ、そんなに高くない五月の好感度を下げてしまったのだから

 

「作戦としては後退なのか・・・?」

 

心の中で危惧していたことが、ついポロッと口から出てしまった。その不安を取り払うように、必死に自分で自分に弁明する

 

「いや、一花と二乃で挽回できる・・・ここからプラス要素になる迄に持っていこう」

 

ポジティブシンキングで考え、作戦への意欲とモチベーションを底上げしておく

 

いい方向でまとめ、やや強引に一人会議を終わらせる。張り詰めていた思考をスっと解除して、カレンダーに目を向ける

 

明日の日にちには、○のマークがされていた

俺のバイトがある日を示している

 

二度目となる家庭教師のアルバイト

一花か二乃にアプローチは当然するのだが・・・どちらかに絞り込まないと攻略できないかもしれない

 

二兎を追う者は一兎をも得ず。とはまさにこのこと

 

横着して家庭教師の座から降ろされる位なら、慎重に進めて確実に堕としていった方がいいに決まっている

 

 

ビジュアルを使って、二乃を堕とすか

初恋を利用し、一花を堕とすか

 

 

 

 

 

 

今夜はじっくり考えよう




次回は新たなヒロインへ。5分後に投稿します


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2つ目の分岐点

こんな諺を知っているだろうか

 

"逢い戻りは鴨の味"

 

意味は単純で

 

『一度別れた男女がよりを戻すと、以前よりも一層仲が良くなること』

 

タイムスリップしたこのご時世に何言ってるんだと思うかもしれない。だがよく考えてほしい。俺と姉妹は既に一度別れているので・・・この諺に該当するのかも・・・いや、タイムスリップを"別れ"と比喩するのは無理やりすぎたな。適当な言い訳が出なかった

 

・・・そもそも二週目なんだから都合よく展開が進むのは当たり前だろ

 

簡単なことだ。とある女の子の第一印象が最悪だったとしたならば、第二印象をかえてしまえばいいだけの話。一度最悪な出会いをした過去さえ改変してしまえばいいのだ

 

 

 

 

だがこんな暴論はどうでもいい

 

 

 

 

「ふ、フー君?優しく、ね?」

 

「大丈夫だから・・・少し肩の力を抜いた方がいいぞ」

 

 

 

 

 

俺は今、お洒落な服や可愛らしい人形が並べられている女の子の部屋にいた。高級マンションの最上階に位置するこの部屋は、その高さも然ることながら、一般的なプライベートルームとは比べ物にもならないほどの広さを誇っている

 

そんな部屋の中で、俺の目の前にはツーサイドアップの髪型が特徴的な美少女がいる

 

二人っきりの空間に水を差す存在は一切なく、真剣な表情で見つめ合っている

 

このセリフにこのシチュエーション

 

 

俺は今――――

 

 

 

 

 

 

 

 

二乃のピアス穴を開けようとしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

既に消毒液は耳朶に塗り終わっている。あとはこのピアッサーで穴を開けるだけだ

 

「1回深呼吸してみろ、ほら」

 

「え、ええ・・・」

 

そう促すと、二乃は素直に深呼吸を挟んだ

対面で座っている為、お互いの顔が近くで見える。やはり痛みに対する不安が大きいのか、目元から僅かな震えが感じ取られた

 

「・・・大丈夫か?」

 

「ご、ごめんなさい・・・やっぱり怖くて・・・」

 

これでは埒が明かない。印象付けの為にも、ここは俺がサービスしてやろう

 

「二乃、少しだけ我慢してくれ」

 

「・・・え?」

 

その一言に戸惑う二乃に構わず、俺は一度ピアッサーを持ってスタンバっていた右手を引っ込める。それと同時に、今度は隣合うように座ってから、左手を二乃の肩へ置く

 

軽めに置いた左手をそっと引き寄せ、彼女の肩を自分の胸板にくっつける

 

「フー君・・・?」

 

「俺がそばにいるだろ?ほら、掴んでろ」

 

いつしかのバイクで言ったようにではなく、彼女を包み込む仕草を見せてみた

 

制服の胸元を引っ張り、二乃の手を誘導する

制服の生地をキュッと握る小さくて白い手は、弱々しくも確かに二人を繋いだ

 

次第に震えは収まり始め、今一度深呼吸をしてから、彼女の表情を見つめる

 

「あ、ありがと・・・」

 

その礼に頷き、再び右手に持っていたピアッサーを耳朶へと構える

 

力む様子はなく、二乃は目を瞑ってその時を待っていた。軽く声をかけて、肩に添えている左手の力を僅かに込めた

 

「すぐ終わらせるからな、動くなよ」

 

 

そして、遂にその時は来た

 

 

 

 

 

 

 

カチャン――――

 

 

 

ピアッサーが当たる音が響いた

 

二乃も慌てている様子はない。想像していた以上の痛みは襲ってきていないようだ。針を抜いて、テキパキと後処理を済ませる

 

あとはこの空洞が安定するのを待つのみ

一通り作業を終え、添えていた手でポンと肩を叩いて、笑顔を覗かせる

 

「お疲れ、終わったぞ」

 

「ほ、ほんと・・・?」

 

「ああ、痛くなかったろ?」

 

胸元の生地を掴んでいた左手を離し、化粧台の上に置いてある手鏡を取った二乃

 

耳元が見えるように、長い髪を手で持ち上げつつ、あちらこちらに鏡を傾けながら、念願のピアス穴が開いたことを確認した

 

「俺も最初は怖かったけどな、やってみれば意外と――――っ、二乃!?」

 

「ありがとう!フー君!」

 

経験則から語ろうとした瞬間、二乃がダイブしてきた。まさかここまで喜んでくれるとは本気で思っていなかったので、思わず反応も遅れる

 

俺からしたら、そんな大層なことを成し遂げたつもりはないが・・・この好意は素直に受け取っておこう

 

「いきなり抱き着くな・・・心臓に悪いだろ」

 

毎度思う。なぜこの姉妹は揃いも揃って距離感のとり方がこんなにも危なっかしいのか

 

俺の理性をアイスクリームとするのなら、この姉妹の破壊力はスプーンのようなもの

 

これ以上近くにこられても、今日この瞬間に襲うわけにはいかないのだ

 

企てた計画を台無しにするくらいなら、態と自殺して三週目の人生に突入させてくれる可能性に賭けるしかなくなってしまう

 

そんな不確定要素に今まで得た全てを賭ける度胸は、今の俺は持ち合わせていない

 

「あっ・・・ご、ごめんなさい!」

 

嬉しさのあまりに身を乗り出してしまったことを恥じた二乃。すぐさま冷静さを取り戻して、乱れた髪と制服を整える

 

こちらも先走りそうになった気持ちを落ち着かせて、一つ息を吸う。いつも通りの鼓動の早さになった頃を見計らってから、平然を装って話しかけた

 

「気にするな、とりあえず無事に終わってよかった」

 

「え、ええ・・・ありがとうね」

 

まだ余韻が抜けていないのか、尚も頬は赤く染まっていた。お得意の腕組みで佇むフォルムは、何度見ても照れ隠しのポーズにしか見えなくなってきた

 

「おう、俺はそろそろ帰るからな。菌とか洗剤には気をつけろよ」

 

初日だけでグッと心の距離を縮められた嬉しさを噛み締めながら、部屋に飾ってある時計を見て立ち上がる

 

柄にもなく舞い上がった気持ちを悟られないように、ゆったりとした口調で警告を出した

 

「あっ・・・フー君!」

 

「ん?」

 

帰ろうとした矢先、二乃に待ったをかけられた

既視感のある光景に違和感を感じつつ、声の先の彼女に向き直る

 

「なんだ?」

 

予想できない言葉を、視線を据えて待つ

目にかかる金髪を掻き分けていると――――

 

 

「も、もう少しだけ・・・私のわがままを聞いてもらってもいい?」

 

 

内容の掴めないお願いだけが返ってきた

 

 

 

 

 

 

結論から言おう。俺は二乃の頼みを断れなかった

 

というか、断ることのメリットが見当たらなかった。どうせ好感度はあげておかなければならないのだ。作戦を練る時間を犠牲にするのはリスキーだが、これも今後の為

 

今日だけはわがままを聞いてやろう

 

「あ、これも可愛い・・・!」

 

そんな張本人は、俺の横でなんともご満悦な笑顔を浮かべていた。光る装飾品を手に取りながら、感想を口から零していた

 

結局二乃に頼まれた事というのは・・・"ピアス選び"だった

 

「な、なあ、安定するまでは少しかかるし・・・そんな急いで決めることなんてないんじゃないか?」

 

早すぎるピアスの物色に、二乃に尋ねるのだが・・・

どこかはぐらかされたような返答しか得られなかった

 

「ほ、ほら!取り置きってやつ?しておいてもらえればいいかなぁ〜って・・・」

 

目が泳いでいたり、髪を手櫛で梳かしていたりしてる忙しいやつ。それが今の二乃を表す言葉

 

四葉にも匹敵する程の嘘の下手さに戸惑うも、カマをかけて様子を伺った

 

「それなら俺が来なくても良かったんじゃないか?」

 

まあ、大方の予想なんてついている

別に聞くまでもない理由を急かし、二乃の心情を汲み取る

 

もちろん心を読めるわけではない。これまでに培った観察眼で、"昔"の二乃だったら――――

 

という予測を礎に、"今"の二乃の心情を読む

 

「その、ほら・・・男の子の意見も聞きたくて・・・迷惑だった?」

 

前世とは比べることすら無意味な比較はさっさと辞めて、見慣れないしおらしい彼女にカマをかけたことを心中で謝った

 

「別に迷惑ではないさ。気にするなよ」

 

「・・・ありがと、フー君」

 

何度もお礼を言われると、こちらの調子が狂う。

 

二乃が無理をしてでも俺を呼び止めた理由、

それはぶっちゃければ、"恋"からくる私欲的な感情に取り憑かれた結果だろう

 

何度も言って諄いかもしれないが、二乃は俗に言う一目惚れで初恋を経験した女の子

 

タイプの異性に肩を抱き寄せられ、自分の頼みを聞いてくれた時点で、相当株が上がっていることは火を見るより明らかだ

 

株が急上昇したことはさておき、頑張って"金太郎"でも演じてみるとしよう。それがきっとこの場においての正攻法である

 

「そ、それでね!フー君はどっちがいいと思う?」

 

「そうだな・・・俺はこれなんていいと思うぞ」

 

なんとなく目に付いた物を手に取る。特に意味なんてないのだが、意見を出すことが大事なのだ

 

「ええ〜・・・それじゃ普通すぎるわよ?」

 

「学校でもつけるなら、俺は目立つ方のが問題だと思うがな」

 

「・・・確かにそうね。もう少し控えめの方がいいのかしら?」

 

意見を言われても折れず、物色する姿はなんとも楽しそうだ

 

だからこそ構いたくなったのか。悪戯に二乃へ手を伸ばしてしまうのだ

 

「・・・!」

 

「例えばだぞ?こうやって髪を耳にかければ・・・ピアスだって目立つだろ?」

 

彼女の押しの強さはよく理解しているが、逆に押される弱さも理解している。だから強気に2人の距離を近づけようと試みることができる

 

「もう・・・びっくりしたじゃない・・・」

 

攻めすぎたか、視線は動いて落ち着きがない。可愛らしい一面を拝んでいるところで追撃をかける

 

「なにか期待してたのか?」

 

「し、してないわよ!」

 

弄ばれたことの悔しさと、それにときめいてしまった事実が相まって、行き場のわからない手は胸元のカーディガンへと誘われた。握り締める手の力が強くなるのを感じていた。どうしようもない胸の高鳴りは収まろうとしない

 

 

 

 

ピコン♪︎

 

 

 

 

だがそんなやり取りも、とある連絡によって中断を余儀なくされたしまう。結局ピアスを買うことはなく解散となり、各々帰路に着いた

 

 

 

 

『上杉さん?なんで二乃とデートしたんですか?』

 

家に着くなり、デートの中断を余儀なくされたメールと対峙していた。もちろん差し出し人は四葉なのだが、文面から二つの意味が取れる内容なのが辛い

 

純粋に二乃とデートしていた理由を聞いているのか、なぜ私というものがありながらに二乃とデートしていたのか。そう取れてしまう

 

『お前が心配するほど、聞かれて困るようなことはしてないぞ』

 

『さすがにされてたら困ります・・・なにか理由はあるんですよね?』

 

『用もなく行くわけがない。親睦を深めるためのレクリエーションみたいな感じだ』

 

『そうですか・・・なら許してあげます』

 

この分だと姉妹全員への道のりは長いな。それどころか、もう一つの問題が浮かび上がった

 

その問題も、今この状況にある

 

人数が増えるにつれ、監視の目も増えることが懸念されるのだ。四葉1人でさえこの観察眼を持っているのだから、二乃や一花なんてもはや手に負えるのかすらわからない

 

一花に至っては本当に刺されそうで怖い。空白だらけのメールに"ごめん"と"さよなら"だけ書かれてる結末なんて俺はごめんだからな

 

さて・・・どうするか

 

しかし考えることにも疲れて、布団に入ってから眠りにつくまでの短い時間に丸投げして、きょうは一日を終えたのだった



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晴天の霹靂

某所での6話と7話を合併。長めですが次回はR18回


"器量は当座の花"

 

 

見た目の美しさというのは、長い人生のほんの一時のものに過ぎず、外見にとらわれてはいけないということ

 

こんなことを意味する諺だ

 

二乃に拒絶された前世で知った言葉でもある。一生を添い遂げる相手を見た目だけで判断するのは、些か滑稽だと思うようになったことも最近だ

 

しかしなんて皮肉なんだろう。今となっては見た目を利用して二乃に近付く自分が少し憎い。滑稽なのは俺の方じゃないか?

 

最終的には中身を好きになってくれた彼女に、これ以上の侮辱なんて存在しないのではないか

 

終わったことや今更に感じることでも、罪悪感というのは時と場合を考えずに襲ってくる。なんかごめんな、二乃

 

 

 

「フー君!怖い顔してどうしたの?」

 

 

 

そんな心中での謝罪も無に帰す。どうやら長いこと物思いに耽りすぎていたらしい。勉強中だというのに気が散ってたのは俺。情けない・・・

 

「少し考え事だな。あとそこ、計算違うぞ」

 

「うそ!」

 

ロングヘアの二乃が楽しそうに勉強している姿がなんとも新鮮で、それでいて家庭教師としての嬉しさが込み上げてくる

 

「え、えーと・・・ここがこうで・・・」

 

事前に用意したテスト問題を渡しただけなのに、答えを見ずに自力で解き始めた時は驚いた

 

根は素直で可愛らしいことは重々承知している。本人が諦めるまでは、俺も答えを教えることはない。計算は解けるまでの過程が大事なのだ

 

「できた!」

 

ノートを持って見せびらかす姿を、頬杖をついて拝んでいる。間違えてる計算過程は置いといて・・・頑張りは伝わってきた

 

「惜しいな。ここは足すんじゃなくて引くんだ」

 

「うぇ〜・・・頑張ったのに・・・」

 

「それは伝わってきたさ、そこを踏まえて教えてやるから・・・もうひと踏ん張りだ」

 

「うん!」

 

この時間は何を思って過ごしているのか、この笑顔が作られたものなのか、そんな不安を抑えながら解説を始める

 

一つ文句を言うことが許されるなら、ここで"ヤツ"の登場に気付けなかったことに対して文句を言いたい

 

「うーえすーぎさーん!」

 

二乃の前だということは理解しているのか?そう問いかけたくなるほど異常なスキンシップ。まるで自分のモノだと言い張る子供に近いものを感じた

 

肩から顔をぴょこんと覗かせる四葉に、二乃が牽制する

 

「・・・四葉?今は私と勉強してるのよ?」

 

「えへへー、ごめんごめん」

 

悪気はないらしく、衝動でしたことを謝る

だがこの場から出ていこうとはしない。2人を見守ると言えば都合はいいが、どうにも監視されているという表現の方が近い

 

「四葉、わかったから今日は部屋に戻ってくれ」

 

「なぜですか?」

 

何とかこの場を去ってもらうために、説得に走る

 

「個人で進めてるんだから、お前がいたら二乃の気も散るだろ」

 

「むむむ・・・どうしてもですか?」

 

「ああ、どうしてもだ」

 

「むー・・・わかりました。邪魔者は消えますよ!」

 

やや不貞腐れて、後処理がめんどくさくなったことは言わない約束だ

 

一連の流れを終えて、二乃へ振り返る

すると、少し申し訳なさそうに四葉を細い目で見つめていた

 

さすがに何を考えているのかは知らないので、そんな目に気付かないフリをして話を戻す

 

「さて、続きを解説してもいいか?」

 

「・・・ええ、お願い」

 

元気がなくなったことは、誰から見ても明らかだ。ここから先を二乃に尋ねていいのかすらわからないので、黙ってその場を過ごした

 

 

 

 

「・・・」

 

あの時、二乃も四葉も何を考えていたのか。俺は未だに答えを導き出せていない

 

らいはが眠っている横で、タイムスリップ後は恒例となっている一人反省会を開催していた

 

月明かりという明かりしかない殺風景でシンプルな部屋。深夜に行うものでもないのだが、あの時の二乃と四葉に感じた違和感だけが引っかかっていた

 

なんなら引っかかりすぎて、喉につっかえてる気分だ。寝ようにも寝れないのが正直なところ

 

幸い明日は休日だ。勉強する意欲が欠かれてしまったタイミングとしては有難い

 

 

 

仕方ない・・・女心とやらについて、もう一度調べてみるか

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん?最近、家庭教師に精を出してるのはわかるけど・・・この『恋愛のいろは』って本は何?」

 

勉強しようとした矢先、また前世と同じミスを犯してしまった

 

「俺だって高校生だし・・・そろそろ焦ってるんだよ」

 

「危機感を持ってくれたことは嬉しいけど・・・このタイミングでこの本って・・・どう考えても自分の生徒に恋してる人にしか見えないよ?」

 

さすが我が妹だ。的確に痛くて刺さる箇所を突いてきやがる・・・人生3週目に突入できねえかな

 

「・・・元々それは、あいつらと関わる前から持っていたものだぞ。家庭教師の件とはなにも関係ない」

 

「ほんとにー?」

 

高校生が小学生の妹に怒られることなんてあるか?ある意味貴重かもしれない時間だな。二度とこんなことを起こさぬように緒を締めなそう

 

"二度あることは三d((殴

 

こんな時にそんな諺持ってくるな。適材適所って言葉を知らんのか

 

「お兄ちゃん、聞いてる?」

 

「聞いてる聞いてる。そもそも俺がお前を巻き込むような面倒臭いことを引き起こすと思うか?」

 

「ないって信じてるけどさ〜・・・それとこれとは話が別だもん!」

 

どこでませたのだろうか。近頃の小学生はここまで進んでるのかと思うと頭が痛くなる

 

「大丈夫だから・・・もう何も言うな」

 

そこから多少気まずくなったらいはから逃げるように、図書館へと駆け込んだ。先程らいはに見つかった本もここから借りたものなので、予定より早めに返す羽目になってしまった

 

見つかってしまっては家に長々と置くこともできない。潔く別の本を借りようと決心した

 

せめて表紙だけでも誤魔化せる物が好ましいのだが、そんな都合のいい本はないことを、俺は図書館に着く前から知っていた

 

僅かに残ってる淡い期待を胸に探すも、悲しい現実に打ちひしがれた

 

「ったく・・・人に見つかっても気まずくならない表紙の本は置いてないのか・・・ん?」

 

まだまだ悪口なら出てきそうな言葉尻に、疑問符が引っ付いてきたのにも理由がある。とある本棚の近くにたまたま目がいき、知っているシルエットが佇んでいたのだ

 

本を選ぶフリをして、怪しまれぬよう横目で見つめる

 

その人物の特徴と言えば、片目を隠す程の長さの髪型と、首にかけてあるヘッドフォン。おまけに付け足せば、歴史関連の本棚にいることが最大のヒント

 

 

もうわかったかもしれないが――――

 

 

昨日、俺に違和感を与えた二乃と四葉の間の姉妹。三女の三玖だった

 

 

まさかこんなところで初対面とはな・・・これは嬉しい誤算だ

 

三玖との初対面をヘマした散々な過去は一旦忘却して、俺は行動を起こした

 

目の前にある本を何冊か持って椅子に座ったところで、眩ませていた姿を現す

 

「三玖、隣いいか?」

 

まだ親しいとも呼べない間柄の男の登場に驚くも、秘密を知られまいと本を隠した三玖。当然機嫌は悪い

 

「・・・いつから見てたの」

 

ひた隠すように抱えた歴史本。彼女の趣味を否定することなどもうない。前世の段階では、下手したら俺より歴史を知ってた女の子だから

 

「ついさっきだ。休日に図書館に来るなんて、勉強熱心なんだな」

 

「そんなのじゃない。ただの暇つぶし」

 

「暇つぶしだとしてもだ。歴史についての本を読もうとしている時点で、勉強といっても過言じゃないだろ?」

 

しっかりとフォローしつつ、彼女の周りの氷を溶かすように話を展開する

 

段々顔が柔らかい表情になるのを確認しながら、慎重に言葉のチョイスを繰り返す

 

「・・・フータローはさ、変だと思わないの?」

 

「何の話だ?」

 

「こーゆーのを読んでても・・・って話だよ」

 

そう言うと、ようやく抱えて隠していた歴史本を見せてくれた

 

まず間違いなく言えること、それはここが三玖との1つ目のターニングポイントだということだ

 

このやり取りも二度目だしな。今更100点以外の言動なんか取れるか?

 

「・・・逆に聞くが、変なことなんてあるのか?」

 

「え?」

 

驚く三玖に構わず、話を進めた

 

「俺も歴史は好きだし、その知識活かして仕事をしている人だっている。男も女も、女子高生も大人も関係ないさ。人に言えなくても趣味は趣味だ。無理に他人と合わせる方がどうにかしてる」

 

「・・・」

 

熱く説かれ、抱えていた本と向き合う三玖

悲しそうなその目は、哀愁さえ漂う程のものだった

 

「"いつの時代も変わり者が世の中を変える。異端者を受け入れる器量が武将には必要である"」

 

「!」

 

急に発した偉人の言葉に、三玖は目をこちらに向けた。

 

「こんな言葉、知ってるか?」

 

「うん。織田信長の名言・・・だよね?」

 

知らなかったら知らなかったで、解説が必要かと思っていたが、やはりそんな必要はなかった。なぜ俺がこの台詞を口にしたのか、それについて三玖に話し始めた

 

「この理論でいくと、確かにお前は変わり者かもしれない」

 

「・・・もしかして、ここで口説いてちゃっかり家庭教師の勉強を受けさせようとしてる?」

 

鋭すぎる質問に足を掬われるも、なんとか説得を続ける。こじつけだと言われても仕方がないのはわかっている

 

「まあ聞いてくれ・・・今回の話を、変わり者と武将に置き換えるとだな・・・俺は変わり者5人を抱える武将なわけだ」

 

「・・・まだ認めてはないけど」

 

ジト目で見られてる気がするが気にしない。図を書きつつ無理やり納得に走る

 

「お前がある程度の知識を身につければ、いつか武将である俺に代わって、姉妹のあいつらに歴史を教えられるんだぞ?」

 

「そうすれば、"変わり者"はいつしか"武将"として見られるようになる。輝ける時だって必ず来る・・・どうだ?俺と一緒に、勉強してみないか?」

 

セールスマンばりの情報の多さ、取ってつけたような理由。深く理解されなくてもいい、家庭教師について前向きな検討をしてくれるだけでいいんだ。形だけでも家庭教師として認めてほしい

 

「・・・1つ質問」

 

「ああ」

 

「フータローは、私よりも歴史に詳しいって事?」

 

その質問で忘れかけていたことを思い出す。三玖の性格上、簡単に引き下がろうとしないことを

 

前世はこの質問に対する返答を間違えた結果、説得までの時間を浪費してしまったのだ

 

さすがにここまできて返答を間違えるわけにはいかない

 

 

 

 

「・・・そんなわけないだろ」

 

 

 

返ってきた答えが予想外だったのか。三玖は目を丸くする一方だ

 

「ど、どういうこと?」

 

「どういうことも何も・・・一概に俺の方が詳しいって明言して、生徒を下に見る方が問題じゃないのか?」

 

「た、確かにそうかもしれないけど・・・家庭教師なんだから、私よりも知ってないとおかしいんじゃないの?」

 

前世との初対面と、三玖の心情が同様と考えるならば、「俺の方が詳しいから教えてやる」なんて上からものを言われるとでも思っていたんだろうな

 

「さっき、俺はなんて言ったか覚えてないのか?」

 

「・・・さっき?」

 

「俺は一度も、教えてやるなんて言ってないぞ?」

 

「――――あっ」

 

気付いたと同時に、その言葉をもう一度言った

 

 

『俺と一緒に、勉強してみないか?』

 

 

あくまでもそういっただけだ。強要でもなんでもない。ただの勧誘だ

 

「家庭教師以前に、俺だって人間だぞ?知らないことは知らないし、教わることだってある。例えそれが自分の教え子だとしてもだ。教わって初めて視野が広がるんだ。なにも恥じることではないさ」

 

「だからこそ・・・一緒に勉強しないか?って聞いたんだ。これでわかったか?」

 

自分でもひくくらい上手く纏まったのではないか。これ以上の言い分はもう出てこない。会心の一撃とも呼べる説得に、俺は全ての神経を集中させて、三玖の答えに耳を傾けた

 

答えを待って逸る心臓を、早くいつも通りの鼓動に戻してやってくれよ。この時間が心臓に悪すぎる

 

「もう少し・・・」

 

返答を待つこと数十秒。ようやく口は開かれた。しかし、俺がほっと安堵できる回答ではなかった

 

「もう少しだけ・・・考える時間がほしい」

 

告白して答えをはぐらかされた〜みたいなこんな気持ち、誰かわかるか?勉強に対する気持ちの整理に時間がかかりすぎだろ・・・

 

だがもちろんそれも口にしない。余裕のある雰囲気だけは醸し出して今日は引き上げよう。欲張っていいことはこの世にない

 

「おう。勉強のモチベーションだってお前の気持ち次第だ、いつでもいいからまた連絡をくれ」

 

「・・・わかった」

 

結局、それが三玖との初の会話だった。初対面での感触も中々に手応えを感じられた。だから家へと帰る足が軽やかだったのか?珍しく嬉しい誤算にあやかれたことに感謝していた

 

これが棚からぼたもちなのか?青天の霹靂というべきなのか?いや、とにかく三玖との再会を少しでも早くできたことに喜ぶべきだ

 

二乃との関係も順調に進む中、俺は久しぶりに深い眠りについた

 

 

 

 

’’愛多ければ憎しみに至る’’

 

 

ある人から特別に愛されすぎると、別の人から憎まれて身を滅ぼすことになるということ

 

この諺には、少しだけ思い入れがある

身をもって経験したわけではないが、共感できる部分がいくつか見受けられる

 

誰かを好きになるということは、自分を好いてくれている他の誰かを裏切るということ。極論だが突き詰めれば恋愛なんてそんなものだ

 

この現場だって、その’’誰か’’に目撃されれば、裏切りの行為とさえ取られてしまうのだから

 

「次は・・・これなんてどうかしら?」

 

上品な洋楽と、お洒落な服装をした店員が印象的な服屋に連れてこられていた

 

普段からこんなところで買い物をしていれば、確かに金銭感覚はズレてくるよな・・・この値札を見るだけで目眩がしてきそうだ

 

「さすがに買えないぞ?前にも言ったが、俺の財布事情は知ってるだろ?」

 

「ウインドウショッピングってやつよ。今日は見て回るだけ」

 

「それの何が楽しいんだ?」

 

一瞬むっとした顔になったと思うと、今度はエジソンが発明したであろう古典的な電球が頭に浮かんで見えた気がした

 

「・・・何が楽しいんだと思う?当ててみて」

 

このたった数秒の間に、ふくれっ面と考え込む顔とニヤつき顔の3点セットを拝む事って中々ないよな

 

「買いたくても買えない貧乏人を見下して楽しむとかか?」

 

「違うわよ!」

 

「じゃあどういうつもりで回ってるんだよ」

 

世間一般からしたら理解し難い価値観を押し付けられ、問いかけ直す

 

「そんなのいっぱいあるじゃない。物色して楽しめるのも、ひとつのステータスみたいなものよ?」

 

「そのステータスとやらには、どんなメリットが生まれるんだ?」

 

得意げに語る二乃の答えを聞くも、結局理解するまでには至らない

 

「うーん・・・その人の人となりがわかるって言ったら理解できるかしら?」

 

「・・・それで人となりが理解出来る程の観察眼があるなら、少しでも勉強に向けることは出来ないのか?」

 

「ああ言えばこう言うって、フー君のことを指してるのかしら?」

 

「知ったことか・・・俺からすれば減らず口を叩かれてる気分だ」

 

「お生憎様。それはお互いそう思ってるわよ」

 

水掛け論が展開される中、とあることを思い出して二乃に告げた

 

「って、そんなことはどうでもいい。俺は今日は早めに帰らなきゃならないんだ」

 

「何か用事があるの?」

 

「用事というか・・・妹の体調が優れないらしい。親父が夜勤で帰らないから、俺が看病することになってる」

 

そう言った瞬間に、二乃の目が見開かれる。慌てた様子が見受けられたのと同時に肩を掴まれてゆらされた

 

「なんでそれを早く言わないの!?」

 

言ったら言ったで、こうなることが予想できてしまっていたせいか、居た堪れない空気が流れていく。重たく開かれた口は、その空気の重さを表していた

 

「・・・お前に余計な心配をかけたくなかったのと、どの道ここで買い物をある程度して行かないといけないからだ」

 

「それでももっと早く言うべきよ!さっさと買い物してそっちに向かうわよ!」

 

そっちに向かう、という単語に違和感を感じて尋ねた

 

「・・・え、お前も来るのか?」

 

「当然じゃない!連れ回した責任もあるし、フー君1人で看病なんて心配だもの!」

 

よっぽど俺の事を見くびっているのか、看病さえまともにできない男と認識されていたらしい。謎に悔しさが込み上げてきたので、多少の反論はさせてもらう

 

「・・・看病くらいできるぞ。昔から体調を崩しやすいあいつの面倒を見るのも、生活の一部みたいなものだからな」

 

「だったら尚更ね。フー君より看病に慣れてる私がいけば、妹ちゃんも心底安心するはずだもの」

 

僅かな抵抗を見せるものの、言いくるめられてしまうのがお決まりの流れ。諦めてその言葉に甘えることにした

 

 

「・・・じゃあ、看病を頼んでもいいか?」

 

「任せなさい!」

 

 

最低限の買い出しを終えて、2人は上杉家へ走っていった

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

「お、お邪魔します」

 

 

中野家の部屋とは比べ物にならない、狭くて質素な部屋。生活する上で、最低限必要なキッチンや机や布団以外は、教材しか見当たらない

 

見渡せば数秒で把握出来る面積に戸惑いながらも、二乃は持ってきた荷物を置いた

 

だというのに、いつものように元気で明るく出迎えてくれる声はない。その姿を見れば、体調が優れていないというのは一目瞭然だった

 

布団に包まるらいはに膝を着いて頭を撫でた

 

「あ、お兄ちゃん・・・おかえりなさい」

 

「遅くなってごめんな。これ、飲めるか?」

 

「うん・・・ありがと・・・あ、あと・・・その人はだれ?」

 

水分補給用のドリンクを渡したところで、二乃の存在に気付いたらいは。体調に気遣うように優しい声音で自己紹介を済ませる

 

「中野二乃よ。よろしくね?」

 

ニコッと向けられた笑顔のおかげか、らいはの表情にも笑顔が伝染した。やはり頼れる年上のお姉さんというのは偉大だと知る

 

「せっかく来てくれたのに・・・こんな状態でごめんなさい・・・」

 

自分の体調が悪い時でも、客人の心配をするらいはに、二乃はこう返した

 

「それなら安心して?この人に無理言って私が妹ちゃんを看病しに来たの。早く治して元気になってね?」

 

その事が嬉しかったのか、らいははまたしても笑顔になった。普段は見せない弱さを吐露するかのように、二乃へ甘え始める

 

「えへへ〜・・・じゃあ、今日はお姉ちゃんがいるって思っていいですか?」

 

トドメとなったその台詞は、二乃のやる気を俄然と勢い付けた。張り切って腕まくりをしている姿が印象的だ

 

「ふふ、もちろんよ!」

 

短時間でこんなにも打解ける能力はさすがの一言。口を挟むことなく会話は繋がっていく。しかし今度は、俺に向かって話を振った

 

「お粥なら食べられると思うから・・・フー君、台所を借りてもいい?」

 

「ああ。好きに使ってくれ」

 

「ありがと、晩御飯もまとめて作っちゃうから・・・妹ちゃんのこと見ててあげてちょうだい」

 

「言われなくとも」

 

お互いにやるべきことを確認しつつ、それぞれの作業へ移った

 

 

 

 

「はい、あ〜ん」

 

「あ〜ん・・・」

 

やや気だるげに口を開けて、二乃のお粥を咀嚼するらいは。味加減を伺うように二乃が恐る恐る尋ねる

 

「どうかしら・・・?」

 

だがそんな心配も杞憂で、聞くまでもなく美味しいと言い、満足そうな表情だった

 

「美味しい〜・・・二乃さん好きぃ〜!」

 

愛しの妹を取られた気分はなんとも言えないもので、諦めと同時に、不思議と安心感を覚えた。母の温もりというものを断片的に感じているのかもしれない

 

「らいはちゃん!?」

 

「もっと食べたい〜・・・」

 

「・・・もう、そんなに慌てなくても大丈夫よ。はい、口開けて?」

 

抱きつかれて驚く二乃、それでも甘え続けるらいは。見ていてほっこりする光景もそこそこに、時計を確認して二乃に話しかける

 

「二乃、そろそろ帰った方がいいんじゃないか?これ以上はさすがに申し訳ないからな」

 

「・・・それもそうね。この分だけ食べさせたら帰るわ」

 

だが1人、この話に納得できない人物がいた

 

「えぇー!ダメだよ!今日は二乃さんにお泊まりしてもらうもん!」

 

風邪だというのが嘘だと言われても信じるくらい張った声に、頭を抱えざるを得なかった

 

「らいはちゃん・・・泊まるのはまた今度にしましょ?いきなり上がり込ませてもらった上にお泊まりするのは、いくらなんでも気が引けちゃうもの」

 

説得しようと試みるも、今日は風邪のせいでわがままを自制することはできなかったみたいだ。らいはの必殺が二乃を襲った

 

 

 

 

 

「どうしても・・・ダメ、ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・で、結局それに押し切られちまったんだな」

 

「あれは無理よ。可愛すぎ」

 

「わかる」

 

二乃の作った夕食を食べ終え、風呂も全員済ませた。二乃の着替えはどうしようもないので、俺の余っているシャツとズボンを渡すことにした

 

もちろん着てから数分は顔を真っ赤にしていたことは内緒だ

 

そんなこんなで、先に寝静まったらいはと同じように床につこうとしていた。前世での五月と同様に川の字で布団を敷く

 

「川の字でしか寝れないが・・・それでも大丈夫か?」

 

「もちろんよ。泊まらせてもらってるんだから文句なんて言えないわ」

 

同意も得られたところで、らいはを挟んで布団を敷く

 

 

 

電気を消して、風太郎・らいは・二乃の順に並んで横になる

 

 

真っ暗な夜空に神々しく輝く満月を見つめながら、前世の台詞が頭を過ぎった

 

 

 

 

 

 

――――上杉君。少し外を歩きせんか?

 

 

 

――――月が綺麗ですよ

 

 

 

 

 

 

戻れぬ過去に手を伸ばすように、輝く月に向かって右手を掲げる。哀愁という名の月明かりが身に染みて、眠気が削がれていく

 

そんな月明かりから目を背けるように、隣に眠る最愛の妹へ視線を向ける。穏やかな寝息を立てている寝顔を眺めながら、布団へ潜ると――――

 

 

「フー君、起きてる?」

 

 

らいはの向こう側から、前世の出来事を彷彿させる台詞が聞こえた

 

さすが姉妹と言うべきなのか、既視感のあるフレーズを聞き流して、起きているというサインを静かに送った

 

「・・・そりゃあな。なんなら寝付けなくて困ってたところだ」

 

短い対応を見せ、二乃の返事を待つ

 

「・・・じゃあ、少しだけ話さない?」

 

二乃も寝付けないのか、そんな話題を振ってきた

 

「・・・それなら、俺から先に話してもいいか?」

 

「あら、珍しいわね」

 

らいはを起こさぬよう細心の注意を払いながら、この機会にしか言えないことを伝えようと決めた

 

「この際だしな。お礼を言わせてくれ・・・今日は本当に助かった」

 

「当然のことをしただけよ。そんな改まって言うことじゃないわ」

 

「だとしてもだ。俺の気持ちだから、受け取ってくれ」

 

「・・・わかったわよ。どういたしまして」

 

素直な気持ちだけ伝えて、ふと仰向けに体制を変える。見慣れた天井を眺めていると、今度は二乃が話を始めた

 

「ねえ、フー君」

 

「・・・なんだよ」

 

決してぶっきらぼうに返したつもりはなかったが、妙にこの状況を意識させられてしまったことが祟ったのか・・・そんな口調になっていた

 

「あの、ね・・・その・・・」

 

切り出されたのはいいものの、煮え切らない態度の二乃に違和感を抱いた。問いかけを催促するようにして、詰まっているであろう言葉を吐かせる

 

「らしくないな。どうしたんだ?」

 

仰向けのままで、目だけ二乃側へ向けて問いかけると――――

 

 

 

 

 

「・・・隣、行ってもいい?」

 

 

 

 

予期しない台詞が、耳を通り過ぎた




次回はR18回ですが、その後は多少の考察要素も加わってきます。よければ考えてみてくださいね。アンケートも置くと思います


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危険なランデブーの代償

’’据え膳食わぬは男の恥’’

 

「据え膳」は、すぐに食べられる状態のお膳を指している。女性のほうから言い寄ってくるのを受け入れないのは、男の恥だということを意味することわざだ

 

まだ襲ったわけでもそういった流れになったわけでもないのに、心のどこかではこの先の展開に胸を馳せている自分がいる。そりゃあ男だったら、こんな台詞を一度は言われたいと思うのは当然のことで、俺とて例外ではない

 

二乃が詰まらせていた台詞も、自分が予期していないものだった。目も驚きを隠せないようで、ぱちくりと意味のない動きをひたすら繰り返していた。暗闇で二乃には見えてはいないだろうが、逆に今度はこっちの言葉が喉につっかえてしまった

 

 

「やっぱり・・・ダメ?」

 

「・・・好きにしろ」

 

 

動揺を隠せずにいることを悟らせない為に、冷静を装う声音で許可を下ろす。許可を伝え終えると同時に、二乃が自分の布団から出てきて、枕を抱えて俺の布団へ潜り込んでくる

 

その小動物を彷彿とさせるこじんまりとした動きが、また愛くるしかった

 

「フー君・・・あったかい」

 

入ってくるなり、持ってきた枕は今のところ使用される様子はない。俺が抱き枕代わりに抱き着かれているのだから

 

「わかったから、そんなにくっつくな・・・」

 

一人用の布団に、思春期真っ盛りの高校生男女が一緒にくるまる風景は、どこからどう見てもカップルのそれだ。人肌を恋しく思ったのかはわからないが、いつも以上に距離が近い

 

大して大きくもないこの布団に二人で寝るということは、必然的に体が密着することを意味するわけでして、姉妹共通と言える主張の激しい双丘は胸板に押し付けられ、近さ故によく聞こえる呼吸音が妙に色っぽい

 

煩悩に洗脳されて猿になる前に、とあることを尋ねる

 

「二乃、ひとつだけ聞かせてくれ」

 

「・・・うん」

 

こんな状況だからこそ、聞けることというのもある。今この瞬間に、どうしてもハッキリとさせたいことがあった

 

 

 

「お前は俺のこと・・・どう思ってる?」

 

 

 

揺れて定まらない二乃の気持ちを確かめる為、覚悟を決めて切り出す。密着した事さえ忘れ去る程、真剣な眼差しをぶつける

 

最初こそ困惑顔を浮かべていた彼女も、俺と同じく腹を括ったのか、過去の金太郎に見せた"乙女"の表情で、こう告げた

 

 

 

 

 

 

「好きよ」

 

 

 

 

 

 

世界線が変わっても、彼女の意志と言葉が変わることはなかった。漸く聞けた本心に縋るように、思いっきり二乃を抱き締める。彼女の言葉ひとつで一喜一憂している単純な自分も、この場においてはどうでもよくなった

 

 

「・・・そう、か」

 

「一目惚れかしらね?家庭教師ってのは気に入らなかったけど・・・それも今は関係ないくらい、貴方の事が好きなの」

 

 

そこはかとなく、二乃の緊張が解けていた。月明かりが当たり、彼女の頬が未だに赤いことに気付く。この衝動が条件反射だとするのならば、まさにお手本のような反応を見せた。無意識のうちに伸ばされた左手は、そんな彼女の赤い頬へ添えられた

 

 

「フー君?」

 

 

そんな様子を不思議に思ったか、横で寝そべる彼女は不安そうな顔でいた

 

月が作り出す光と影は、彼女の美しさを際立たせる協奏曲。月下のスポットライトを経て、二乃の魅力は更に輝きを増していく

 

 

 

だからだろうか――――

 

 

この瞬間まで抑えていた理性が、再び開かれてしまったのは

 

 

 

 

「二乃」

 

 

 

名を呼んで、頬へ添えていた左手を顎へ持っていく。俗に言う顎クイを彼女に施行する。分不相応でナルシストじみた行動なのもわかっている。四葉の時と同様に、抗い難い独占欲が俺を駆り立てていた

 

彼女のリアクションに心臓を締め付けられながら、その時を待つ

 

「ふ、フー君、あ、あの・・・いい、の?」

 

「それ、お前が訊くのか?」

 

「だ、だって――――うぁ!」

 

間抜けな声を上げて、二乃は半ば強制的に俯きかけていた顔を持ち上げられる。潤う艶めかしい唇を一瞥して、告げた

 

 

「ここから先、止まれって言われても無理だからな」

 

視線を一閃に浴びせて、誤魔化しの効かない場面へ突入。バクバクと鼓動する心臓を裏切るように――――

 

 

二乃は目を閉じる

 

 

 

対する俺も、目を閉じてから・・・そっと影を重ねた

 

 

 

 

 

「んっ・・・んんっ・・・むぅ・・・」

 

「はっ・・・あっ・・・」

 

乱れる息、混じり合う唾液と舌

ファーストキスを奪った直後だというのに、衝動に流されて深く舌を突き刺してしまう

 

隣で眠る最愛の妹を起こさぬよう配慮しながら、布団の中で音を立てまいと、その行為に及んでいた。ただ余りにも強すぎる性的欲求が、それさえ頭から排除させようとするのだ

 

快楽だけを求めろ。そう言わんばかりに、脳全体を覆い尽くす。理性というガードマンがいる限り善処はするのだが・・・既にどこかへ行ってしまいそうなのが事実。今にも呑まれそうなところで踏みとどまって、舌でお互いを慰め合う

 

「ふー、くん、触って?ここ、も、ここも」

 

蕩けた甘いボイスで、手を誘う二乃。誘われた手が触れたのは、くびれが目立つ臍あたりのお腹だった

 

要望通り、最初は彼女の腹を軽く撫でる

くびれを確認するように、しっとりと撫で回していくと、悩ましい喘ぎ声が口から漏れていった

 

「ふぁっ・・・くすぐったい・・・」

 

満足感に包まれた様子の彼女に、ちょっとした意地悪を仕掛けてみる

 

「声抑えないと、らいはが起きちまうぞ」

 

「わ、わかってるわよっ・・・んっ♡」

 

スリスリと撫で回している内に、寝間着をたくし上げて、ブラジャーに守られている双丘に手を滑らせた

 

「あっ・・・え、えっちぃ・・・」

 

「ブラジャーの上からだが・・・柔らかいな」

 

「そ、そんな感想いらないっ」

 

暗くてよくは見えないが、二乃は口を手で抑えていた。大きな音を立てないよう必死に頑張ってくれているのが、逆に俺を興奮させた

 

ついつい手の動きがアグレッシブになっていく

 

「あんっ♡・・・ちょくせつ、さわって?」

 

「・・・わかった」

 

さらなる快感を求めて、二乃はそう懇願する

ホックを外すべく手を背中に回すのだが――――何故かホックの感触が感じられなかった

 

「ん?フロントホックか?」

 

「あっ…ごめんなさい」

 

自分が付けていたブラジャーのホックの位置さえ覚えていなかったらしく、慌てて寝間着を捲って見せた

 

捲った裾を口で咥えて、得意気にブラジャーを見せ付ける

 

「んっ、はずして?」

 

裾を咥えているために、若干篭った声で強請られた。とろんとした座った目で笑みを浮かべる彼女をしり目に、フロントホックを外す

 

外した瞬間、支えられていた双丘は重力に従いながら顕になった

 

解き放たれたと言っても過言ではない程、存在感をアピールする双丘に目を奪われるも、手を目一杯広げてから、整ったその2つの果実を持ち上げる

 

重量感のある果実を鷲掴みにして、未だに声を殺して踏ん張る彼女の反応を楽しむ

 

「ふっ・・・んっ・・・♡」

 

「これはどうだ?」

 

「あっ!そ、それは!ひうっ!♡」

 

裾を利用して声を殺していたことにも限界が訪れる程の快感を与える。先端の突起部を摘んだだけだったのだが、思いの外満足いったらしい

 

そのまま続けて、右手を秘部へ潜り込ませる

下着と寝間着(下)は着用されたままなので、指だけで媚肉の柔らかさを堪能する

 

「あ、あぁ・・・ふーくんの手ぇ、おっきいよぉ・・・!」

 

秘部に宛てがわれた手で、女性としての象徴を覆われると、開脚してだらしない姿を晒した

 

乱れる姿と台詞で我慢出来なくなり、一度手を離してから両手で下着を剥がした

 

ピンクサーモン色の秘部を親指で開いてやると、ヒクヒクと躍動しているのがわかる。傷付けないように、優しく舌で割れ目を愛撫していく

 

「ん♡・・・はぁっ、うぅ・・・」

 

じゅるっとはしたない音が響くのだが、らいはが隣にいることによって、声を殺さなくてはならない状況だからか、もどかしく喘ぐ

 

藻掻いて口を抑えている姿に、嗜虐心が燻られる。舌を離して、中指を第一関節まで埋めた

 

「うあっ!♡・・・あん!♡」

 

抑える手の指と指の間から零れる嬌声を上げる二乃に、耳元で囁く

 

「声、我慢できそうにないか?」

 

「う、うん・・・」

 

「・・・じゃあ――――」

 

申し訳なさそうに頷く二乃。栓をするように、瑞々しい彼女の口を塞ぐ

 

「んむっ・・・んあ、ふっ・・・」

 

多少だが、これで応急処置にはなった筈だ。入れては出して、入れては拡げて、肉壁を開拓しながら舌を蠢かせる

 

手持ち無沙汰になっている左手を彼女の肩に置き、互いの距離を更に縮める。舌の根元まで咥え込むようにして、唾液交換を行う

 

「・・・あっ、ふーくん♡」

 

舌が麻痺でも起こしているのか、呂律が回っていなさそうな印象を受けた。俺の名を呼んでキスの幸福感に溺れる彼女に、今まで以上に発情してしまう

 

 

 

 

 

 

「・・・二乃、その・・・俺の方もそろそろ・・・頼みたい」

 

 

 

 

 

 

 

「これが・・・ふーくん、の?」

 

特徴的な碧い瞳は、多少の畏怖と多大なる好奇心を併せ持つ複雑な心境を映し出している

 

既に脱ぎ捨てられた無惨な寝巻きの下とトランクスは見る影もない

 

そうして晒された愚息はというと・・・丑三つ時だろうが、昼下がりだろうが、早朝だろうが、お構い無しに存在をアピールしているくせにここぞとばかりに子孫を残そうと、目の前の美少女に媚びを諂っている

 

「そんなに見るな・・・」

 

「人のは散々触っておいて、今更怖気付いたの?」

 

得意気な微笑み。これも彼女ら姉妹特有の顔。

揚げ足取りの名を欲しいままにしている二乃なら尚のこと、それが似合う

 

「お前こそ、実は怖いんじゃないのか?」

 

前世からなんら変わらない、減らず口の応酬

ムキになることすら愛嬌のある彼女だから許容出来ることなのか、二乃という油に、煽りという炎をぶち込む

 

「ふん、こんなの怖くないわよ」

 

その勢いのままに、息子は握られた。ネイルが目立つ綺麗な手は、怖いもの知らずという言葉を具現化させたような動きを見せ始めた

 

最初は成されるがままだったが、手元がまだ慣れない動きのせいか、快楽を素直に感じられずにいた。正直言えば擽ったいくらいなのだ

 

「あー・・・ん」

 

「おい、二乃・・・!」

 

そう考えていたことを見透かすように、亀頭が咥えられた。月明かりが演出する上目遣いがなんとも破壊的で、今度は打って変わっていつ絶頂に達してもおかしくないくらいの快楽に見舞われた

 

「んっ、じゅっ、んっんっ・・・きもひいい?」

 

「こんな、こと・・・どこで知ったんだよ・・・」

 

まだ四葉にもされたことのないフェラが、あまりにも気持ち良くて、ついつい手で二乃の頭を押さえ込んでしまう

 

高速ピストンとまでは言わないが、根元まで咥え込む二乃の様を見ていると、また性欲が掻き立てられる

 

普段から気の強い二乃が、奉仕をしてくれているということだけでも興奮が収まらないのに、これ以上どうやって耐えたらいいのか。理由が見当たらなかった

 

根元からカリまで、ストロークがどんどん深くなっていく。その度に鳴るぴちゃぴちゃという瑞音も、それを恥ずかしげもなく立てる姿も、二乃に欲望という名の精液を発車する起爆剤となった

 

「くぅ・・・!!」

 

「んっ…んむっ――ぷはっ」

 

本番前に出し過ぎてしまったのではないかと言っても差し支えない程の量を、彼女の口内に放出させた

 

だがそれより驚いたのは、受け取った彼女が喉を鳴らして白濁の液を流し込んでいたことだ

 

「うぇ・・・にがい・・・」

 

「なにも無理に飲まなくても・・・」

 

「いーの。好きな人のくらいは独占したいし・・・男の子はこーゆーのが好きなんでしょ?」

 

そう言いながら二乃はゴソゴソと俺の上に跨って来る。ここで一度、お互いに見つめ合うだけの落ち着いた時間が訪れた。挿入していない対面座位で、二乃はこんなお願いをしてくる

 

 

「ぎゅーって・・・して?」

 

 

お願いに逆らうことはせず、ただ黙って彼女を包み込む。長い間抱き合った後に、隣に眠る幼い妹についつい目がいってしまう

 

これからの行為のことを考えると、どうしても快楽より配慮を優先させてしまう。しかし抗えないものというのは、いつだって思考より先に身体が勝手に動いてしまうもの。抱きかかえている二乃を布団に押し倒して、今一度呟いた

 

「寝てるとは言っても、妹ちゃんの前でこんなことしてて大丈夫なの?」

 

「・・・充分アウトだろ」

 

「困ったお兄ちゃんね」

 

「最初に仕掛けてきたのはお前じゃないか」

 

「気のせいよ。キスしてきたのはフー君の方じゃなかった?」

 

ここまで来て責任の擦り付けを行うくらいなら、責任など両者が背負うべきなのだ。誰が見たって共犯なのは明白な事実

 

「・・・これじゃ埒が明かないな。ちゃっちゃと終わらせて証拠隠滅もしないとな」

 

「むー…人の初めてを軽く扱ってない?」

 

二度目となる行為が仇となったか、彼女の初めてを軽んずる台詞が出てしまった

 

「す、すまん」

 

「別にいいけど・・・雰囲気、壊れちゃったかしら」

 

「無理やり戻すさ」

 

頬に手を添え、彼女の唇に自らの唇を重ねる

もちろん雰囲気作りのキスだから、舌で口内を撫で回すことも臆さない

 

左手で二乃の右手を握って、正常位の体制に持ち込んだ。その流れがあまりにもスムーズだったせいか、

 

 

「・・・ぁ」

 

 

二乃は成されるがままだった。小さく漏れた悲鳴は気にせず、その間にコンドームもしっかり装着して、花弁の肉壁に亀頭を宛てがう。四葉の時は挿入前に確認をしていたが、今の雰囲気で訊くことすら野暮だと気付く

 

「あ、うぅ・・・」

 

痛みの大小は個人差があることも承知しているので、定期的に声をかけながら媚肉の中に埋もれつつある突起物を挿し進める

 

 

 

「二乃はこういうのが好きなんだろ?」

 

 

 

痛みに耐える彼女の目に、繋ぎ合った手を見せる。涙の潤む瞳からは、決意の色が見て取れた

 

それからも必死に痛みを和らげようと努めた結果、無事に破瓜を迎えることができた

 

「っ、あ、ま、まってぇ・・・」

 

しかし腰を動かそうとした瞬間、待ったを掛けられる。まだ慣れない陰部の痛みに囚われているらしい

 

「あ、ああ。いつまでも待つぞ」

 

「ありがとっ、ね?」

 

待つ間も手を強く握って気を紛らわせる。だが待ったのはものの数秒程度で、2人とも落ち着きを取り戻した

 

「よしっ・・・動くぞ」

 

「え、ええ」

 

合意も得られたところで仕切り直して、お猿さんの如く腰を前後させた。最初はゆっくり、そして徐々にスピードを加速させていく

 

「ん、んぁっ!♡」

 

「は、はっ、うっ・・・!」

 

腟内で絡みつくひだが何度もうねって、快楽の頂へと誘う。奥に突いては、先端が見えるまでとギリギリまで引いてみたり。小刻みにピストンをして自分が快楽を得るより、初めてである二乃に感じて欲しかったのが正直な意見だ

 

子宮の入口にキスをするように、一回一回を深く突き刺した

 

「ひゃ、あぅ♡・・・!」

 

その彼女はというと、男がしてほしい反応をそのまましてくれている。だからだろうか、排出しようとしている溜まった精液が掻き立てられる

 

手持ち無沙汰な右手を、豊満な乳房へ置いた。これだけ感じてくれいるのなら、今以上の快楽を与えたらどうなるのか、純粋に試したくなった

 

「ひあっ・・・あ、だ、めぇ、い、いまは、だめぇ・・・!」

 

突くたびに揺れる双丘の突起物を捏ねくり回すと、よほど余裕がないことが伺える。味をしめたせいか、もっと虐めたくなってしまう

 

「二乃・・・体制、変えるぞ」

 

「ふぇ・・・あ、んん♡」

 

一度突くことを辞め、体位を変えた。二乃を持ち上げて、自分が仰向けになる

 

そう。騎乗位である

 

「ほら、二乃・・・自分で動いてみろ」

 

「ぁ、う、うん♡」

 

しっかり指を絡めあって、両手で互いの手を繋ぐ。自分に跨って上下に腰を動かすこの状態は、彼女の美しい裸体がこれでもかと晒されるのだ。眼福とはまさにこのことで、揺れる大きな乳房、連結し合う秘部、女の表情。全てが一望できる最高のスポットだ

 

「ん、ふー、くん?」

 

「くっ・・・なん、だ?」

 

「きもち、いい?♡」

 

「ああ・・・」

 

最低限の会話くらいしかできなくなっていたこともあって、限界が近いことを悟った。ラストスパートをかける為に、多少強引に二乃を抱き寄せた

 

「あ、ちょっ、それ、だ、めっ…」

 

仰向けで寝ている俺の上に、二乃が覆い被さるように抱き着く。今度は二乃が動くのではなく、俺が下から上へ突くことにした

 

抱擁で拘束されていることもあって、二乃は胸に顔を埋めて声を殺そうとするのがやっとだった

 

 

 

「イクぞ・・・二乃!」

 

 

 

 

「ひぁ、ん、ひぃ、ふーく・・・〜〜〜〜っ!!♡」

 

 

 

意識や自我が飛びそうな程の快楽に、お互いは強く抱き締めることしか術を持たなかった。名を呼び合って、愛しの異性が近くにいることに酔いしれていた。ゴムが白の液で溢れかえる前に引っこ抜かなくてはと思ってはいるものの、抱き心地が良すぎて離す気にはなれない。これもまた、二乃の魅力の一つと知る

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

「もう・・・出し、過ぎだってぇ…」

 

会話が成り立つ程度には回復した頃を見計らって、息子を引き抜いた。らいはがまだ目覚めていないことがもはや奇跡なのだが、それさえ頭から抜けようとしていた

 

「あ、後片付け、しないと・・・」

 

「そう、だな」

 

丑三つ時さえ過ぎ、季節によっては太陽が登り始める数時間前といったところか。元々早起きのらいはにこんなところを見られては、人生お先真っ暗一直線待ったナシ。服に手を伸ばすまでは

 

 

 

 

全てが順調だった

 

 

 

 

 

 

 

「・・・おにい、ちゃん?」

 

 

 

 

 

 

寝ぼけ眼を擦る、最愛の妹の声が耳に届くまではの話だが



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いじわる太郎君

M二乃ちゃんはいいぞ


万事休す。八方塞がり。お手上げ

 

 

これ以外の言葉で、今のこの状況を説明できる言葉なんて存在するのか。純新無垢で穢れを知らない幼い妹の前で、逢い引きをしていた現場など、到底見せていいものではない。証拠を隠滅しようとする以前の問題だ。倫理観が欠けてたなんてものでは、言い訳がましいにも程がある

 

「おにいちゃん?・・・あれ、にのさん、は・・・?」

 

口調と視線の先を見るに、まだ完全に目覚めたわけではなさそうだ。そして最悪の事態を避ける為に、布団の中でしていたことが功を奏したらしい。眼を擦って余所見をしている間に、身体で覆って、半裸の二乃を隠すことに成功する

 

「もしかして…バレてない?」

 

「なんとかだけどな…とりあえず、俺が服を着てらいはを寝かしつけるから…隙を見て布団に帰ってくれないか?」

 

「りょ、りょうかい」

 

幸い、俺は服全てを脱いでいたわけではないので、トランクスとズボンを履けば事を荒立てずに済ませられる。服を着て、らいはの視線が俺の布団に行かないように、身体で視線を遮る

 

「二乃なら、暑いから外に行くって言ってたぞ。散歩でもしてるんじゃないか?」

 

「う〜ん・・・いま、なんじ?」

 

「まだ夜中の3時だぞ。体調崩してんだから、もう少しだけ寝てような」

 

「は〜い・・・」

 

胸の辺りを軽くトントンと一定のリズムで叩いやるうちに、寝息も規則的になっていった。最後まで油断はせずに、二乃を布団に返した結果、疲労がどっと押し寄せて、登校時間ぎりぎりまで眠ってしまった

 

お天道様が見てる。そんな諺の真意を体現した朝方から数時間後。なんとか不祥事もバレることなく今に至る。心情的ななにかから来ているだけかもしれないが、心做しか昼下がりの風が冷たい

 

「ん、んんぅ〜・・・完全に寝不足だ」

 

「うーえすーぎさーん」

 

「午後は起きてられるかどうか…」

 

「うえすぎさーん?」

 

「徹夜も考えものだな」

 

「ふうたろうくーん!」

 

当然気付いている。気付かないわけがない。だから敢えてこうして疲れたアピールをしているというのに、なぜこんなに健気に話しかける気になるのだろう。無視してることがどことなく申し訳なくなってくる

 

「……なんだ」

 

「ようやく反応を見せましたね!お疲れなんですか?」

 

「お前の見るに堪えない成績のおかげでな。朝まで資料作りをしてたんだ」

 

「へ、へぇ〜……それは大変ですね!」

 

「なぜ他人事」

 

現実逃避にも限度ってものがある。その逃れ方はさすがに考え直した方がいいと思うぞ

 

「それより!風太郎君に聞きたいことがあるのです!」

 

「手短にな」

 

「・・・わかりました。手短にお話するためです。失礼します!」

 

「おわっ!」

 

その刹那、四葉に抱き着かれる。昨日の二乃との行為が頭を過ぎってしまったせいで、無意識に四葉と二乃の身体が重なった

 

「聞きたいことと、この行動はどう繋がってくるんだ」

 

「動かないでください!」

どう考えても叱られる立場ではないのに、その一喝で身体が強ばってしまう。いや、普通に叱られる立場にある人間だった

 

「・・・やっぱり」

 

一人、譫言のようになにかに納得した四葉。話を聞く前に鳥肌が立ったような気がする

 

「二乃の匂いがします」

 

開いた口が塞がらないとはこのことだ。鋭すぎる勘と犬のような嗅覚。これは一体どこから突っ込めば正解なんだろうか。いや、正確に言えば非があるのは俺だから・・・突っ込む資格はない

 

「お前の思い過ごしだ」

 

「この匂いは二乃の香水と同じですよ?間違えるはずがありません」

一難去ってまた一難。立て続けに押し寄せるピンチの波。そのリボンはお人好しの証みたいなものじゃなかったか?本当に俺の知る四葉か?

 

「・・・わかったよ。素直に言えばいいんだな」

 

「そうですそうです。話した方が楽なこともありますからね!」

 

観念した俺は、四葉に事の顛末を話した

 

「――――てな感じだ。これで合点はいったか?」

 

当然、一部の出来事を隠蔽しながら。だが

 

「むむむ…腑に落ちないところはありますけど…らいはちゃんを出されると弱いです」

 

「らいはにも確認してもらっても構わないぞ」

 

「…遠慮しておきます。可愛いらいはちゃんを疑うなんて罪悪感が出てしまうので」

 

「俺にはその罪悪感は湧かないんだな」

 

「当たり前ですよ!」

 

さて、どこからが当たり前だったのか。怒らないで優しく解説してくれと懇願しても、自分で考えろの一点張りだった。優秀な頭脳はその為にあるわけじゃないんだが

 

根気強く粘りを見せるも、話を逸らすように四葉は別件の話を始める

 

「一旦その事は置いといて…上杉さんに朗報があるのです!」

 

風に揺れる頭のリボン。大抵ロクなことを考えていない時に揺れるのがあのリボンなのだ。諦めの境地に立ち、悟りを開く覚悟で聞くのが一番の対処法

 

「朗報の意味は知ってて言ってるんだよな?」

 

「…私をなんだと思ってるんですか?」

 

「留年候補生」

 

「あー!言いましたね?!そこは…え、えーと…お、おぶらると?に包むところですよ!」

 

「オブラートな」

 

やはり心配になってきた。悟りを開く余地も与えてくれないのはさすがに予想外が過ぎた

 

「もうわかったから…早く朗報とやらを聞かせてくれよ」

 

「逸らしたのは上杉さんなんですが…」

 

一進一退の攻防。そして実にならないスッカスカな内容の集会。そろそろ投げやりにならざるを得ない

 

「俺が悪かったから。話を進めてくれ…」

 

「少し雑なのが気になりますが…わかりました」

 

長い茶番を経て、漸く本題にありついた。やたらと真面目な表情をしたかと思えば、煮え切らない喋り方に戻った

 

「その…来週のこと、なんですが…」

 

「来週?」

 

なにかあったかなと、頭の中にある記憶を断片的に繋げて、話題の中心であるイベントについて思い出した

 

「林間学校か?」

 

「…そうです。林間学校で、その…上杉さんと踊りたいって仰ってる方がいましてですね…」

 

それも察するに、結びの伝説のことを指しているのだろう。伝説にかこつけて、その場のテンションに任せて一生を誓うのは未だにどうかとも思うが、ロマンチストな高校生にはありがちな若気の至り

 

バカにしているわけではないが、それだけで一生を添い遂げられるなら安いものだ。話がよすぎると感じているのは俺だけじゃないはず…というかそうであってほしい

 

「林間学校でダンスか…俺には合わねえよ」

 

「そんなことないと思いますよ?」

 

「…やめてくれ。そんな気にはなれないんだ」

 

「そう、ですか…」

 

「すまないな。そいつにはそう伝えといてくれ」

 

「い、いえ…大丈夫ですよ」

 

そう言うと、四葉はスカートを正して立ち上がった。ゆっくりのその場を立ち去ろうとするのだが、扉を閉めて姿を消す前に、一言だけ告げた

 

「考え、変わったら教えてくださいね」

 

「……ああ」

 

やっぱり。今日は一段と風が冷たい

 

 

 

 

いくらその場を乗り切ったとは言っても、四葉に向けられた疑いの目というのは中々払拭できないもので

 

家庭教師と自分の成績維持でさえ激務だというのに、四女の監視の目が光っていることは考えたくない

 

今日だって、逃げ込むように二乃の部屋へ転がり込んでいた

 

「あの…妹ちゃん、大丈夫…だった?」

 

所狭しと配置された人形や家具が空疎に感じられる程、状況を掴めずにいた。既にらいはのことがあった事後な上、四葉のやたらと執拗い詮索…何故だ、凄く嫌な予感がする

 

「今朝は元気に学校へ行ったぞ。昨日はありがとうな」

 

「い、いいけど…ああなったのは私の責任でもあるから…フー君に迷惑かけないようにしなくちゃって思って…」

 

詮索されっぱなしの日々が続いていたが所以の出来心で、今の言葉だけで二乃がオアシスに見えてきた

 

何度も言って理解はしてくれているとは思うが、前世との対応の差がサブリミナル効果を生み出しているのかもしれない

 

性懲りも無く。俺はまた二乃に手を伸ばしてしまう

 

 

 

 

「あっ…き、きのうの、きょ、うなのにぃ…」

 

ほぼ無理やり、興奮していきり立っていた愚息を二乃に挿し入れていた。やはり制服姿というのは唆るものがある。夢見心地のよい枕のような肢体は、こちらの性欲をどこまでも貪欲にしてくれる

 

そして、寝バックで犯していたその最中、わかった事がひとつだけあった。充分に濡れきっていない秘部に挿入れた時の反応が、新たな可能性を見出していた

 

「二乃…ひとつ、いいか?」

 

「あ、んっ♡…なぁ、に?」

 

「…お前――実はMだったりしないか?」

 

割と意を決して言った事だが、二乃にも思い当たる節があるのか。都合が悪そうに枕に顔を埋めて誤魔化す

 

「っ……な、なんのこと、かしら」

 

「……本当に、心当たりはないのか?」

 

「ほん、と…よ!」

 

必死な顔を見て、またひとつ。俺の手は好奇心が衝動に駆られた

 

 

 

――――パシン!!!

 

 

 

「ひうっ!!♡」

 

 

たまたま手の近くにあった、女子高生の健康的でムチムチの太腿を掌で叩いただけなのだが…もしかしたら、もしかするかもしれん

 

「あっ、いまのはちがくて、あ、あのっ…その…」

 

弁明をして躍起している彼女だが、この可能性については前世から考えていたことだ。ここにきて属性付与とは…

 

「…へー、何が違うん、だっ!」

 

「ぅあん!!♡」

 

一体どこからこんなに魅惑的な甘いボイスが出ているのか。はたまたストーカー紛いの行動をした時の低い声はどこから出ていたのか。謎は深まるばかりだ

 

最近、二乃に対する戦力差が逆転した気がする。猫撫で声を上げる美女を前にして、一点集中放火式バズーカの装填が完了してしまう

 

「まぁ…この際、お前の性癖はどうでもいいよなっ」

 

「う、うるひゃい…ばかっ…ばかぁ…」

 

言いたいことすら満足に言えない舌は、ただただ男根を奮い立たせるだけ。そして腰を打付ける力を強めただけで、こんな大きな声で鳴くのだから。男冥利に尽きるの一言

 

端的且つ率直な感想で…二乃が可愛いすぎる

 

「あぁぁあ♡……イっちゃうぅぅ♡イっちゃうからぁぁ!!♡」

 

涙と汗で湿った、大事そうに抱えた枕に力を集中するばかりではなく、体内に生成されている子種全てを搾り取ろうとするかの如く膣圧が上がった。ここに来て一段とギアを上げた腟内は、キツいなんて言葉すら生温く感じる締め上げ具合だ

 

今だってこんな余裕ぶって見えているかもしれないが、気を抜いた刹那に意識が飛びそうになる程度には、頭に血が上っている

 

絶頂とともにノックアウトなんて不名誉な結末だけは避ける為、意識が朦朧とする前に腰をフルスロットルさせる

 

「だめっ…そんなはげしくされたら…わた、しっ!!!♡♡」

 

「は、っ…二乃ぉ!!」

 

「かっ…あ、あぁぁぁぁ♡♡……ふーくんの、あついぃぃ♡♡♡」

 

ひくひくと痙攣しながらも、二乃と共に果てた。昨晩の反省を活かすどころか、真っ先にその教訓を殺していることに気付いたのは後の祭り

 

こうなってしまっては吹っ切れる以外に道が見当たらない。というか直線一本道しかない道を、どうやって迂回すればいいんだ

 

わかりずらい比喩だが、今はそんな状況

 

「二乃…口、開けてくれ」

 

 

 

 

 

 

「はむっ、ちゅぷ、んん、ふむぅ…」

 

背徳的な行為のアフターは、俗に言うお掃除フェラ。あんな意地悪までされた後だというのに、この忠誠心は見上げたものだ

 

どうすれば気持ちよくさせられるのか、そんな様子で顔を覗き込む姿がなんとも卑猥で、それでいて美しい。ここかここかと小さな舌で攻めてくるも、フェラで達するにはまだ根本的なテクニックが足りていないみたいだ

 

しかし昨夜は違ったことを思い出した。2人とも興奮のさなかに、あまりされ慣れていないフェラを施行されたことと、不意打ちの襲撃のような感覚に陥ったせいで達したと考えれば、なんら可笑しくはない

そこは本人も薄々勘づいていたようで、そうとわかるや否や、羞恥心を捨てたように顔を窄めて、鈴口に残留していた精液を口に含んだ。仕上げには根元から先端まで、徹底的に舌を這わすのだった

 

「……フェラ、好きになったのか?」

 

頼んだことであるが、拒否する素振りすら見せないことに驚きを隠せずにいた

 

「……ん、ぷはっ、あむっ…」

 

「それは肯定と見なしていいのか…?」

 

果たしてこれは黙秘というに値するのか。目は口ほどに物を言うとはこのこと。明らかに目が泳いでいた。そしてこの反応で確信に変わった。やはり二乃はMの素質を持っている。普段は強気で高飛車な女の子が、性癖は隠れMだったなんて知られたら…男が黙っている筈がない

 

国家機密並の情報を抱えた気分だ。悪くない

 

「…はい、早く服を着ましょ?」

 

何事も無かったかのような顔。事実は認めなければ、公にならないとでも思っているのか…プライドの高さだけはご健在らしい

 

「それでね、フー君にお願いがあるの」

 

なんかもう無視されてるのかなってレベルで話が粛々と進んでいく。この次女には翻弄されてばかりだ

 

「…お前には借りがあるからな。できることなら手伝うよ」

 

らいはの看病のこともあって、この時の俺は…願いとやらを軽く考えていた

 

 

 

 

 

「――――私と、踊ってくれませんか?」

 



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ミライのシカク

’’思い立ったが吉日’’

 

何かをしようと思ったら、即座に手をつけるのがよい。たとえ暦の上ではその日が凶であっても、実行することで吉日になるという意味だ

 

この諺を連想させた時、皆は誰が頭を過ぎるだろうか。姉妹の中でも行動力に長けた四葉か?はたまたこういった予期せぬ行動を連発してくる二乃か?

 

五姉妹で考えた場合の話だが、多くの輩はこの二人を筆頭に思い起こすことだろう

 

しかし、こと’’恋愛’’という概念に話が限定されるならば、二乃の右に出る者はいない。俺はそういう結論に至る

 

「――――私と、踊ってくれませんか?」

 

予想外の出来事というのは、いつだって思いがけぬタイミングで襲ってくるものだ。まぁ、だから予想’’外’’と綴るのだろうが。まさか同日に姉妹2人からダンスのお誘いを受けるとは誰が予想できただろう

 

あんな回りくどい誘い方に最初こそ戸惑ったが、俺はとっくに気付いている。四葉の嘘を見破れない程、伊達に人生を共にしちゃいないのだ。とは言っても、二乃のこの奇襲には対応を考えていなかった。四葉の誘いを受けるのが先決とされるのならば、二乃からの誘いを断る事もひとつの決断と言える

 

だが、俺には…どうしても確かめなくてはならないことがあるのだ

 

二乃には悪いかもしれないが、キャンプファイヤーの話をしている悠長な時間はないのだ。最悪、林間学校を棒に振ってまででも、突き止めておかねばならない事実が発覚してしまったのだから

 

「…すまない。二乃」

 

突っ撥ねた返事をしたにも関わらず、二乃は何故かわかっていたような表情で続けた

 

「…そう。でもなんでかしらね?不思議とこうなることが読めてた自分がいるの」

 

「…どういうことだ」

 

「簡単な話。フー君は意外と優柔不断だし?今焦ってもいいことないし?ま、それでも私と踊ってもらうことに変わりはないから。公衆の面前で踊る覚悟ができたら、今度はあなたから誘ってちょうだい」

 

汚れた布団のシーツを交換しながら、彼女は飄々と告げた。女心に踊らされてばかりの俺が、公衆の面前で踊りたいと思える日は来るのか。そんな疑問も無駄になるのは目に見えた事実であった

 

しかし、まだ返事を先送りにできるのなら好都合。その話には乗らせていただく以外に選択肢はない

 

「それに、こういうのは男の子から言われるのが嬉しいものなのよ?楽しみにしてるわね♡」

 

大きな瞳を、器用に片方だけ閉じたウインク。星かハートが飛び散ったんじゃないかと疑うくらいのあざとさ。どこまで行っても二乃は二乃で、四葉は四葉だ。インビテーションの違いが性格の違いを表している

 

林間学校までの生活は、その事態に備えて…俺なりに準備を進めさせてもらうとしようか

 

 

「フータロー君?勉強はもういいのかな?」

 

帰ろうとした矢先、汚部屋の主にして姉妹の長である中野一花に絡まれてしまう。時刻は14時なので、お開きになってもおかしな時間ではない

 

「1人体制だとやりやすくてな。思ってたより順調だ」

 

「おお〜頼もしいねぇ〜、次は誰にする予定なのかな?」

 

そのコーヒーは、本来朝起きに飲む物であって、間違いなく昼飯前に飲むものではない。生活習慣から改善しなければ、こいつに勉強を専念させることさえ叶わない。目の前の課題が多すぎる

 

「成績順に行けば一花だろうな。逃げるなよ」

 

「失礼だなぁ…逃げるわけないじゃん!」

 

「…バイトも入れるんじゃねえぞ」

 

前世は家庭教師のある日に合わせるように入れていたバイトなのもお見通しだ。面と向かって言っておけば、この手の逃げ道は無くなるだろう

 

 

 

「……入れるわけないもん。せっかくまた会えたんだから」

 

 

 

逃げ道を潰す台詞の後は、声が小さすぎて聞こえなかった

 

「なにか言ったか?」

 

「…んーん。なんでもないよ?今日はお疲れ様!」

 

「お、おう…」

 

半ば強制的に追い出された高層マンションを背に、帰路へ着いた

 

 

その翌日、鞄に入っていたファイルと筆記用具を取り出した。それというのも、先日行った学力測定の為の小テストを採点するからだ。内容は初期のテストと全く変わらないので、これが全員併せて100になるのは目に見えている故に、採点すら煩わしくなってしまう

 

 

しかし答え合わせを進める内に、また相違点が生まれた

 

 

「…101点?」

 

 

意図せず口から出たように、何度計算しても総合点は101点だった。採点をし直しても点が変動することはない。採点ミスを疑っては手計算をして、算出し終えたら紙に筆算。最大でもたかが500点の計算を今更間違えるとは思えない。何故こうなったのか、思考を張り巡らせる

 

考えられる原因とすれば…家庭教師を予定より早く行えたこと…だよな。しかし原因はそこではない。何故そう断言できるのというと…五月・四葉・二乃に勉強を教えはしたが、今回の小テストの問題については、一問たりとて触れていないからだ。俺が教えたのは、飽くまでも次の中間テストの問題

 

つまり、小テストに関する問題に限っては、前世との知識量に差はない筈だ。仮に小テストの範囲の問題を解説していたとすれば、この点数よりは遥かに高くなる筈…低くなることなど以ての外だが、低くなる方がまだ納得できる

 

それも中途半端に一点…どう考えてもおかしい。知識量に差はなく、且つ一点の誤差を出しているってことは――――

 

 

5人のうち、誰か1人が点数を前世の自分に寄せにいった?

 

 

そう導き出す他なかった。その調整を間違えた結果、こんな曖昧な点数になったってのか…?

 

 

こうして、風太郎の疑念は…確信へと変わった




さて…ちょっとしたミステリーが始まりますよお


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偽りのシンデレラ

’’井の中の蛙大海を知らず’’

 

 

「…どういうことだ」

 

大海を知らずして、己が一番だと思い込む井戸の中に住む蛙の気持ちが漸くわかった。狭い世界で物事を考えていたことを悔やみ、力なく呟いた

 

たかが紙切れ1枚。されど紙切れ1枚。目の前に置かれた紙切れ。’’101’’の数字に恐れ戦いて、身体から出る変な汗と目眩がしてきそうな程の動悸を押さえ込みながら、ひたすらに五姉妹との接触を思い出す

 

走馬灯が如く、今までの出来事が頭を駆け巡っていた

 

五月にした返答。四葉との再会。二乃との和解。三玖との接触。一花との会話。考えられるであろう原因を徹底的に洗い流した。口元に手を添えて、更に厳戒態勢へ

 

 

『…んーん。なんでもないよ?今日はお疲れ様!』

 

『私と、踊ってくれませんか?』

 

『もう少しだけ・・・考える時間がほしい』

 

『林間学校で、その…上杉さんと踊りたいって仰ってる方がいましてですね…』

 

『これが落ち着いていられるわけがないでしょう!説明してくれるまで離れません!』

 

どれだけ必死に探し続けていても、人の脳というものには限界が来てしまう。頭を抱えながら画策すること数十分後

 

「まさか…な」

 

限界まで張り詰めた脳を休ませるように、そのまま現実逃避をするように、畳の上に倒れ込むように寝転がった

 

「ただいまー!」

 

そんな折、晩御飯の買い出しを終えた妹が帰還した。背丈の3分の1程ある買い物袋を持っていたので、それを受け取りがてらに出迎える

 

「…おかえり。親父はどうしたんだ?」

 

「今日も遅いんだって〜。朝に帰ってくるって言ってたよ!」

 

「…そうか。晩御飯は何にしたんだ?」

 

「今日はオムライス!」

 

親父の給料日前だというのに、いつにない豪勢な晩御飯。だが家庭教師の給料から差し引かれたものと考えるのなら、別に不自然ではない。懐が潤ってきている証拠だ

 

「楽しみだな。晩御飯、頼んだぞ」

 

「はーい…って、お兄ちゃん?どこかに行くの?」

 

玄関でらいはを出迎えて、買い物袋をキッチンへ置いた瞬間に、また玄関へ足を戻した。その光景を不思議に思ったらいはがそう尋ねる

 

「散歩だよ。考えたいこともあるしな」

 

「ふ〜ん…あ、そうだ!」

 

出ていこうとした直後に何かを思い出したかのように、らいはは買い物袋を漁り始めた。買い物袋の奥底から出てきたのは……

 

「この前のお礼なんだけどね…二乃さんに渡してほしいの!」

 

兎のキーホルダーだった。看病のお礼と言いつつ、らいはの携帯にも同じものがぶら下がっていた。いわゆるペアルック。余程二乃の事が気に入ったのだろう

 

「散歩がてら届けてくる。できたら電話してくれ」

 

「うん!二乃さんにもありがとうって言っといてね?」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

「お礼…ね」

 

 

気分転換で外を歩く中で、らいはから託されたキーホルダーを眺めていた。住宅街の並ぶ昼間に歩いていることもあって、気温もそれなりに高い

 

ヴー…ヴー…

 

「ん?」

 

ポケットにしまっていた携帯が鳴った。その携帯のディスプレイには’’中野五月’’と映し出されていた。意外な人物からのコールに少し戸惑ったが、急いで電話を取った

 

『上杉君?今よろしいでしょうか』

 

冒頭から丁寧で落ち着いた口調。これならディスプレイを見るまでもなく誰だかわかる。休日とはいえ、こんな昼間に五月から電話をかけてくるとは珍しい。なにかあったのかと身構えてしまう

 

「五月か、どうしたんだ?」

 

『家庭教師の件に関して、少しだけ困ったことがありまして…』

 

さっきみたいなイレギュラーが起こったあとだからか、過剰に’’家庭教師’’という単語に心臓が反応してしまう

 

「…なにか問題か?」

 

『ええと…問題と言うには取るに足らないことかもしれませんが…上杉君の家庭教師代を、どうお渡ししたらよいのかと思いまして、お電話させていただきました』

 

だが思っていたより深刻な問題ではなかった。単なる相談事らしい。ホッと胸を撫で下ろしてから会話に戻った

 

「あ、ああ…そんなことか」

 

『そんなことって…お金が絡んでくる事です。しっかり決めておかなくてはダメですよ』

 

普通のバイトだったら、給料は口座に振り込まれるのだが…うちはそうもいかない程貧困状態にある。雇い主である院長の中野さんも、だからこそ五月に給料を渡したのだろう

 

しかし、ここでひとつの疑問が浮かび上がってくる

 

「…俺のところに直接届けてくれて構わないぞ?」

 

前世のように、直接この家に来て届ければいい話なのではないか。そう思って五月に頼んでみると

 

 

『直接…?上杉君のご自宅にですか?』

 

 

至極当たり前なことを聞き返してきた

 

「それ以外にあるか?」

 

どこか噛み合わない、電話越しでもわかる五月の戸惑いよう。次の五月のセリフで、俺は重要なことを思い出した

 

 

『何を言ってるんですか?私は上杉君の住所は知りませんよ?』

 

 

「――――え?」

 

オウム返し以前に、何を言っているんだと本気で思ってしまう。本日二度目の頭のフル回転。五月が家の住所を知ったきっかけを脳内で投影した

 

 

「……そういうことかよ…!」

 

 

電話は繋がったままなのに、大きな大きなため息が出てしまう。これも前世との別ルートに行った結果が生んだパラレルワールド

 

二乃に睡眠薬を使って追い出されていないが故の弊害なのか…

 

『え、どういうことですか?』

 

当然置いてけぼりの五月に説明することもなく、気にするなと言い聞かせる

 

「…すまない。こっちの話だ…ったく、お前の姉妹には困らされたもんだ」

 

『は、はあ…』

 

一方的に愚痴を吐きつつ頭を抱えて、五月にどうするかの旨を伝える

 

「…どうせそっちに用事があるから、今日のところは俺が取りに行く。待っててくれ。今後それをどうするかはまた後で決めるぞ」

 

『わ、わかりました。お待ちしてます』

 

 

一通り話を終えて、俺は中野家へ向かうのだった

 

 

 

 

「気が乗らねえ」

 

既に色々あったせいで疲弊感が拭えない。高層マンション用のエレベーターに乗ることさえ躊躇いそうになってしまうのだ。オートロックを解除してからノロノロと目的の階へ

 

「じゃまするぞ」

 

一方的に言い放って、待ってるであろうリビングに足を運ぶ。扉を開けた先には、給料袋を持った五月とスマホを弄っている二乃がいた

 

「いらっしゃい。フー君」

 

「わざわざありがとうございます。これが今週のお給料です。個別面談ということで、3人分のお給料が入っているそうですよ」

 

「…そうか。ありがとな」

 

五月・四葉・二乃の分の家庭教師代か…個別面談で一花と三玖にはまだ勉強を教えられていないので、3人分なのもおかしくはない。しかし札束は分厚かった

 

一人5千円、それを一週間分

15000×7=105000円

相変わらず金銭感覚がおかしくなりそうな給料。ブラック企業の会社の手取りと同じかそれ以下くらいには匹敵している

 

「お、重いな」

 

「そうでしょうか?それくらいの仕事はしてくれていますよ」

 

「…ならいいが」

 

何度手にしても慣れない厚さ。脳内では’’ズシッ’’といった擬音が勝手に連想されてしまう。大事に懐にしまってから、持っていたキーホルダーを取り出す

 

「二乃、これをらいはから預かった」

 

五月との会話の間はスマホを弄って時間を潰していた二乃が、ゆっくりとこちらに振り返って歩み寄る

 

「もらってもいいの?」

 

「この間のお礼だそうだ。らいはとお揃いらしいから…大事にしてやってくれ」

 

「…ふふっ、義妹ちゃんとお揃い、ね?」

 

「なんか言ったか?」

 

「なんでもなーい。ありがとうって伝えといてちょうだいね。早速携帯につけてみようかしら」

 

またしても聞こえにくい程の声量。この姉妹は独り言が多いのか、よからぬ事を考えている輩が多い。可能な限り発言を拾いたいところだが、如何せん耳という人体機能にケチをつけている暇がないのだ

 

喜んで携帯につけてくれているから問題はない。らいはにも吉報が届けられそうだ

 

ここは大人しく引き下がって、多少の世間話でもしてから帰ろう

 

「課題の方は進んでるのか?」

 

質問にギクッとする瓜二つの姉と妹。案の定思い通りには進んでいないと見受けた。テスト問題を渡したのにもこれとは…逆に流石だなと感服してしまう。こんなことで感服させないでほしいと切に願うのが本心だ

 

「え、ええ。頑張っています…」

 

「そうよ。頑張ってるところなの」

 

「進んではいないんだな」

 

「「…」」

 

「無言はないだろ…」

 

五月は外の景色を見るように首を逸らして、二乃はキッチン側へ首を逸らしている。同じ方向を向かないのも面白い点だ。いや、面白いなんて言ってる場合じゃない

 

「…どこがわからないんだ」

 

「…ここなんです」

 

座っていた場所の足元から資料を持ち出して机に並べると、いつの間にか筆記用具の準備まで終わらせていた。元々勉強をするつもりでいたのなら褒めるべきだが、課題の内容はとても褒められたものではなかった

 

「確かに頑張ってはいるみたいだが…ひどいな」

 

「あぅ…」

 

「それと、ここは1じゃなくて4だ」

 

なんだかんだ言って、結局は五月の課題を見ることに時間を割いていた。赤点を取られては元も子のないので、約束されたテスト問題を懇切丁寧に解説していく

 

「フー君。ここは?」

 

机を隔てて鎮座する五月に解説していると、今度は二乃も聞きにやってきた。部屋から持ってきたであろう一式を広げると、何食わぬ顔で隣に座ってくる。向上心が増したことに関しては嬉しいが…胸を押し当てていること以外に文句はない。その一点が唯一の不満だ

 

「離れろって、暑苦しい」

 

「…フー君のいけず」

 

「五月の前なんだぞ。少しは自制しろ」

 

五月に聞こえないようヒソヒソと話して、気付かれる前に離そうと説得に走るも、香水と髪の毛から漂うシャンプーの匂いが脳をチラつかせる

 

「…離れないと、お前だけ課題増えることになるんですが?」

 

「あら、保健体育の課題かしら?」

 

「んなわけねえだろ…!」

 

「あ、あの、どうかされました?」

 

積極的すぎる二乃の発言に、ついついさっきより大きい声が出てしまう。それと同時に五月のペンが止まった

 

振り回されるのには耐性がついたものだとばかり思い込んでいた。不覚を取るとは…

 

「大丈夫だ…大丈夫だから…続けてくれ」

 

「…変な上杉君ですね」

 

「変なフー君ね」

 

なんとか誤魔化せたが、その後もこんな感じのブラインドアタック(五月の角度からは見えないボディの接触)を何度かされた。しかし誘惑に耐え忍んだというのに、何故か負けた気になったのは言うまでもない

 

「ありがとうございました。わからなかったところはまた連絡します」

 

「おう…」

 

「なぜそんなに疲れているのですか?」

 

「勉強を教えるのって大変なんだな…」

 

「…?」

 

遠い目をしていた事が不自然だったのか、五月に尋ねられるがこれも誤魔化す。どっと疲れたのも、この二乃のせいである

 

「電話来ちゃったから、私は一足先に部屋に戻るわね」

 

だというのにその問題児は、早々に部屋へと戻って行ったのだった

 

「…まあいい、今日は俺も帰る」

 

「あ、待ってください!」

 

立ち上がって帰ろうとした矢先に、五月はそれに待ったをかけて冷蔵庫へ駆けた。冷えたお茶を持って俺の前に置いた

 

「お時間があればなのですが…お話しませんか?」

 

これも交流を深める為なのか。意図は汲めないが、持ち上げかけた腰をまた座らせた

 

「お前がそう言うなら…少しだけな」

 

「ありがとうございます。そういえば、こうしてしっかりとお話したことはありませんよね」

 

「…言われてみればそうか」

 

翌々考えた結果、確かにそうだった。五月には勉強を教えることしかしてこなかったので、悪いことをしたなと心中で感じた

 

「つっても、俺に話すことなんてあるのか?」

 

「話題は出せと言われても難しいですから…身近なことでお話しましょう。例えば、上杉君の妹さんについて、などはいかがでしょう」

 

またしても、話題にはらいはが挙がった。最近、会話の内容にらいはが取り上げられることが多すぎる気がする。聞かれても困るようなことでもないが、やはりどこか他人を惹きつける要素を持っているのだろうか

 

「らいはのこと、か」

 

「…なるほど、お名前はらいはちゃんと言うんですね。今度会わせて下さいよ!」

 

いつかの食堂の時の邂逅を彷彿とさせる頼み方。俺としては構わないが、こいつに作るカレーで家計が火の車になることだけは絶対に避けたいのが正直な意見

 

「いつかな。暇が出来たら会わせるさ」

 

「約束ですよ?」

 

満足そうに笑う五月。笑顔を見ていて、ふと思い出したことがあった

 

 

 

(…ん?らいはとの面識はない…んだよな?)

 

 

 

今となっては当たり前のことを考えながら、五月に尋ねてみる

 

「な、なあ、五月」

 

慌てたあまりに吃ったが、構わずに話を続けた

 

「はい?」

 

「お前ら5人で…花火大会に行ったことってあるよな」

 

「急にどうしたんですか?それはもちろんありますし…先日も行きましたよ」

 

大きく変えた話題だが、五月は淡々と答える。そこに漬け込んで話をもっと掘り下げた

 

「その花火大会、楽しめたのか?」

 

姉妹5人がバラバラになってしまうという結末を知っている。あの場にらいはと俺がいないとなると、その行く末はどうなっているのかが、純粋に疑問として気になっていた

 

「う〜ん…楽しかったは楽しかったのですが…」

 

予想通り、五月の表情は曇っていた

 

「5人とも途中ではぐれてしまいまして、全員で見ることができなかったんです」

 

しかしこちらの世界線でも、特に変わったことはなさそうだった。俺の思い過ごしか?とも思ったが――――

 

 

 

 

「それでもですね、最後に5人だけで花火を出来ただけでも…私は嬉しかったです。決して派手なものではなかったかもしれませんが…一生の思い出なんです」

 

 

 

 

俺が危惧していた’’可能性’’が、今の五月の一言によって全て繋がってしまった

 

 

 

「嘘だろ…!」

 

 

 

「う、上杉君!?」

 

 

突如として2階へ駆け上がった俺を見て、五月は慌てふためいていた。俺を駆らせたその’’可能性’’というのは――――

 

 

 

 

(’’あいつ’’までタイムリープしてたってことじゃねえか!!)

 

 

 

 

もう一人。’’タイムリープをした人物がいた’’という事実だった

 





さて、シンデレラの正体は誰でしょう。過去の話で既に答えは出てるので考えてみてくださいね

追記.pixiv様の方では既に13話まで投稿してあります。主な活動はそちらでしていますので、続きが気になるという方はぜひそちらもチェックしてみてください


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