誰も知らないアブノーマリティー【二周目開始】 (邨ゅo繧峨〓螟「縺ョ繧「繝ェ繧ケ)
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はじめに

 この話は、初めて読まれる方向けな注意事項です。読み飛ばしていただいても支障はありません。

 それ以外は、基本的にはLobotomy Corporationを知らない人向けのお話しとなっております。


 初めまして、名無しの権兵衛です。

 

 この作品は、私が個人的に楽しむように作っているTRPG風のLobotomy Corporationを題材にしたゲームに出てくるアブノーマリティーの紹介をする作品です。

 

 ストーリーもちゃんとありますが、基本的にはオリジナルアブノーマリティーの紹介が主体となっています。そのため時系列が前後することが結構あります。なので前の話で死んだ職員が、しばらくは出てきたりします。

 

 苦手な方はご注意ください。

 

 

 

 

 ここからはLobotomy Corporationを知らない人のために説明しますが、本作はアブノーマリティー(幻想体)と呼ばれる不思議な存在を管理し、作業を行うことでエネルギーを抽出する電気会社の物語です。

 

 本作では、幻想体はアブノーマリティーのほうで呼称を統一しています。

 

 アブノーマリティーは、言ってしまえばSCPのような存在で、現代科学では説明できない異常な存在のことを言います。

 

 アブノーマリティーは人々に恐怖を与え、中には死をもたらすものたちもいます。また、それぞれに特性が存在するため、すべてのアブノーマリティーに通用する確実に安全な管理方法は存在しません。

 

 彼らはその危険度に応じて5つのクラスに分けられます。

 

 低い順から

 

 ZAYIN TETH HE WAW ALEPH

 

 と分けられ、ZAYINなら職員の死ぬ危険性は低く、ALEPHなら収容すること自体が危険と言われるレベルです。 ……と、言われています。

 

 また、アブノーマリティーにはそれぞれ番号が割り振られており、その根源やタイプによって分けられます。

 

 

 たとえば、『□‐○○‐×××』と表記されていたとします。

 

 

 □には、そのアブノーマリティーの根源を示すアルファベットが表示されます。

 

 F:童話、T:トラウマ、O:オリジナル、D:DLCの四つがありますが、Dについては出てきません。

 

 基本的に出るのはF、T、Oの三つです。

 

 Fは童話に登場する人物やものを元としています。

 

 Tはトラウマ、つまり人々の恐怖から生まれたアブノーマリティーです。本来であれば○○恐怖症から生まれていますが、本作ではもっと漠然とした何かへの恐怖を元としています。

 

 Oはオリジナル、つまりどこから来たのかわからないアブノーマリティーです。本作では元々世界に存在するアブノーマリティーのことを差します。

 

 

 ○○には、そのアブノーマリティーのタイプが表示されます。

 

 01なら人型、02なら動物、03なら宗教、04なら無機物、05なら機械・人工物、06なら抽象または融合、07は特殊ツール型、09はツール型となっています。08はありません。

 

 基本的には見た目通りとなっています、見た目の予想の目安にしてください。

 

 

 

 ×××は、シリアルナンバーです。言ってしまえば考えた順番の数字です。

 

 本作では普通のアブノーマリティーは01から順に新しくなるほど増えていき、ツール型は99から順に新しくなるほど減っていきます。単純に総数の管理を楽にしたいからなんですけどね。

 

 ちなみに、すべてのオリジナルアブノーマリティーのシリアルナンバーの頭についているiは、本家との識別のためについています。

 

 

 本作では、最初はすべてのアブノーマリティーの名前が伏せられているので、この番号を参考にしていただけると幸いです。

 

 

 それでは、『誰も知らないアブノーマリティー』をお楽しみください。

 



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プロローグ

 本作品はオリジナルのアブノーマリティーしか出てきません。苦手な方はご注意ください。


「はぁ……」

 

このくそったれな世界に転生してから、行き着くところまで来てしまったようだ。

 

元々肥溜めみたいな路地裏に生まれて、必死になって生きてきた。人を殺めたことはないが、それ以外のことなら大体手を染めてきた。そんな場所で生活していて翼に所属できるわけがないと思っていたが、思わぬ転機が訪れた。

 

翼の企業であるロボトミーコーポレーションからの採用通知。普通の人間なら喜んで受けとるそれを、俺はどうしてもそう喜ぶことはできなかった。

 

そう、薄々感づいていたが、ここはロボトミーコーポレーションの世界だと確信できたからだ。

 

ロボトミーコーポレーションは俺の前世で散々遊んだゲームの一つだ。

簡単に説明すると、化け物どもに殺されないようにお世話をしながらエネルギーを溜めていくゲームだ。字面にしたら気を付けたら大丈夫だと感じるが、その恐ろしさは数多の初見殺しと管理の難しさにある。

まず初手で殺されて、慣れてきたら油断して殺されて、油断しなくても色々な事が積み重なってやっぱり殺される。

 

 さらには最後のほうに慣れてきたやつ殺しが出てきたりする死に覚えゲーなのだ。

 

 もう一度言おう、死に覚えゲーなのだ。ゲームではいくらでもやり直せたが、現実は俺の命は一つ、仲間の命も一つだ。絶対に失敗はできない、気を付けなければ。

 

 さらには本編では意味不明な実験で理不尽に殺されていることが多々ある。そういったふざけた実験に参加させられないように祈るしかないことは、悲しいところだな。

 

「何やってんだよ、ジョシュア」

 

 考え込んでいる俺を見かねてか、誰かが話しかけてきた。顔をあげると、スーツを着た二人の人物が見える。

 

 一人はリッチ、もじゃもじゃの黒髪に切れ目の男性だ。少し鼻につくところもあるが、基本的にはいいやつな気がする。いい奴ほど長生きできなさそうだが、こいつとは長い付き合いになることを祈る。

 

 もう一人はシロ、白い髪を三つ編みにして常に目を閉じている白い肌の女性だ。常に無言で、特に意思表示もしてこない不思議な奴だ。聞いた話だと精神汚染に桁外れの耐性を持っているとか……

 

 彼らは俺と一緒に今日から配属される、同期というやつだな。俺たちは今日から苦楽を共にする仲間となる、こいつらが死なないように俺も頑張らなくては。

 

「いや、大丈夫だ。アブノーマリティーってやつらがどんな奴か考えてたらワクワクしてきちまってよ」

 

「そんな無駄口が叩けるなら大丈夫そうだな」

 

「おう、それじゃあ行くとしますか」

 

 初期装備である警棒をもって立ち上がる。この施設にはまだアブノーマリティーは一体しかいないらしいので、俺たちが初期メンバーということだ。先輩がいれば生き残る方法をご教授願いたかったが、そう簡単にはいかないらしい。

 

「さて、最初の相手は誰が行く?」

 

「どうやら当番制らしい、最初がお前で次が俺、そして最後がこの女だ」

 

 順番は最初から決まっていたらしい。一番最初というのは少し恐ろしいが、何とか俺の知識が生きることを願う。

 

 正直、一番安全な罪善さんでさえ即死の危険性があるのだ。懺悔する実験とか絶対にやりたくない、記憶違いも許さないとか厳しすぎる……

 

 それに、俺のゲームの知識がどこまで通用するかもわからない。その知識に引っ張られて死ぬのはまっぴらだ、とにかくやってはいけないことをやらないことにして、情報から何が正しいかを検証しなければ。

 

「ところで、今から行くやつの情報はないのか?」

 

 そこでふと、今から作業するやつのことが気になった。ゲームでは罪善さんだったが、本当にそうかもわからない。もしかしたら俺のせいでシェルターが来るかもしれないし、ほかのやつが来るかもしれない。とにかくZAYINでお願いしたい。できればエビ漁船がいい。

 

「あぁ、資料にはT-01-i12とある。それ以外は自分たちで記録しろとのことだ」

 

「なんだよ、投げやりだな」

 

「これを調べるのも俺たちの仕事だぞ?」

 

「へいへい……」

 

 そういえば最初は番号で出てきていた。正直結構好きだったとはいえ、番号までは覚えていない。せめて台詞が見れるならわかるが、そうでなければほぼほぼ無理だ。罪善さんなら一番最初でないことは意外だったから覚えているが、正確な番号までは覚えていない。それでも一桁だったような気もするが……

 まぁ、考えても仕方がない。とにかくやってみるしかないな。

 

 それにしても、なんかおかしかったような……

 

「さて、それじゃあジョシュア、頼んだぞ」

 

「おうよ、土産話を楽しみに待ってろよ?」

 

 それだけ言うと、収容室の扉に手をかける。しかし、ここまで来て手が動かない。心臓の鼓動が異様にうるさく感じ、冷や汗が出てくる。

 

 ……ここにきて怖気づいてしまった。俺の中を得体のしれない恐怖が支配しようとしたその時、不意に袖を引かれた。

 

 はっとして後ろを向くと、シロが俺の袖を引いていた。それは怖気づいた俺への嘲笑か、単に心配してかはわからないが、俺の緊張をほぐすには十分だった。

 

「ありがとよ、シロ」

 

 お礼を言うと、彼女は何も言わずに手を離した。リッチは俺たちのやり取りを見ていないという体で行くらしい。本当にいいやつだった。

 

 ……これでいけそうな気がする。俺は一思いに扉に手をかけると、一気に開いた。

 

 

 

 収容室の中から妙に甘ったるいにおいがあふれる。収容室の中に入るとさらににおいが濃厚になったような気がする。

 

 粘着質な音が響き、何かが動いていることを俺に知らせてくる。

 

 嫌な予感を胸に抱きながら、俺はこの部屋の主に相対する。

 

 

 

 甘ったるい濃厚なにおいに濃い茶の体色、そして少女のような見た目。

 

 その何の脅威もなさそうな見た目は俺にとって安堵よりも警戒のほうが勝る。アブノーマリティーは見た目だけで判断してはいけない。特に液体の人型ということであのピンクの悪魔を思い浮かべる。正直見た目からやばい奴のほうが安心する。

 

 そしてその考えが、俺にとって最悪な事態を突き付けてくる。

 

 

 

 T-01-i12

 

 俺にとって未知のそれは、心の支えだったゲームの知識が全く役に立たないことを意味していた。

 



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コントロール部門
Days-01 T-01-i12『ただ、貴方に食べて欲しい』


 もしよかったら、読者の皆様もどんなアブノーマリティーか予想しながら読んでみてください。


 収容室に入った瞬間、甘ったるい香りが鼻腔をくすぐり、思わずむせそうになる。その甘い香りは収容室の中にいる存在から常に放たれており、粘着質な音が響き渡る。

 

 甘ったるい香りを注意してにおうと、ずいぶん懐かしい香りがする。……これは、チョコレートの匂いだ。ずいぶん久しぶりに嗅いだからか、気づくのが遅くなってしまった。

 

 そこで気持ちを切り替えて、収容室の中心に陣取っている存在に注意を傾ける。濃茶の体色に不定形ながらも少女の形を保っているこの存在が、『T-01-i12』なのだろう。彼女? はこちらの存在に気づくと、嬉しそうに手を振ってきた。……どうやら歓迎はされているようだ。

 

「……なんというか、不思議な奴だな」

 

 見た目と香りから主にチョコレートでできていると考えられるが、それで無害だと断定できるわけではない。少なくとも口に入れる勇気はないな。

 

 とりあえず離れて遠くから観察してみることにする。『T-01-i12』は遠くから見ている俺に手を振って呼んでいるようにふるまっていたが、やがて俺が動かないと悟ったのか、手を腰に当て頬を膨らませた。どうやら抗議しているようだ。

 

 ずいぶんと表現豊かなアブノーマリティーだが、さすがにいきなり近づくのは危ない。ここは鉄板の洞察作業が安定だろう。

 

 『T-01-i12』は構ってくれない俺に気を悪くしたのか、こちらをにらんでくる。すると、なんだか少し気分が悪くなってきた。……これは、もしかして精神攻撃だろうか?

 

「おいおい、もう少し手加減してくれてもいいんじゃないか?」

 

 さすがに少し気分が悪くなってきた。アブノーマリティー相手に言っても通じないとわかっていても、思わず文句を言ってしまう。

 

 すると、『T-01-i12』はすこしバツが悪そうにしながらうつむいてしまった。それと同時に精神攻撃も少し弱まってきたような気もする。

 

「おいおい、まさか俺の言うことがわかるのか?」

 

 『T-01-i12』は何も言わなかったが、何となくだがこちらの言葉を理解しているように感じる。もしかしたら赤頭巾みたいにコミュニケーションが可能なのかもしれない。

 

「……さて、それじゃあまたな」

 

 作業の時間が終わり、収容室から出る。精神的にだいぶ疲れた、もしかしたらあまりいい作業ではなかったのかもしれない。

 

「お疲れ、どうだった?」

 

 リッチが話しかけてくる。正直今話す気分でもないが、次はこいつだから気力を振り絞って口を開く。

 

「なんていうか、構ってほしそうだった。無視して遠くから眺めていたが、不機嫌にしちまった」

 

「そうか、どんな見た目だった?」

 

「チョコレートでできた女の子だった」

 

「……はぁ?」

 

 本当のことを言ったのに、全然信じてないなこいつ。そんなやつはもう知らん、勝手にしてろ。

 

「嘘だと思うんだったら自分で見てこい、俺は疲れたから休憩してくる」

 

「……そうか、気をつけろよ」

 

 それだけ言うと、リッチは収容室の中に入っていった。

 

 ……とにかく疲れた、早くメインルームに行って休憩したい。そう思いながら体を引きずっていき、メインルームの休憩室に入るとぐったりとしながら眠ってしまった。

 

 

 

 

 

「……ううん、いつの間にか寝てたのか?」

 

 体を伸ばして体調を確かめると、もう大丈夫そうだった。しかし、精神攻撃があんなにも気持ちの悪いものだったとは思いもよらなかった。

 

 そこで、ふと視線を感じたのでそちらに目を向けると、誰かがテーブルにつきながらじっとこちらを見ていた。

 

「うおっ」

 

 そこにいたのはシロだった、どうやらずっとここにいたらしい。寝顔を見られていたのかと、何となく気まずく感じていると、休憩室にもう一人誰かが入ってきた。

 

「ようシロ、ここにいたのか」

 

「リッチか」

 

「ジョシュアか、もう大丈夫か?」

 

「あぁ、そっちは?」

 

「一緒に遊んでやったらずいぶん喜んでいたよ、それでもいくつか精神攻撃は食らったがな」

 

「そうか、とりあえず休んどけ」

 

「いわれなくてもそうする」

 

 リッチが席に着くと、入れ替わるようにシロが立ち上がり、何も言わずに休憩室から出て行った。すると、リッチは彼女が出て行った扉を見つめながら口を開いた。

 

「まったく、本当に不愛想な女だな」

 

「そういうなよ、やつにも事情があるんだろうよ」

 

「どうだか……」

 

 それだけ言うと、リッチは懐からチョコレートを取り出して食べ始めた。

 

 ……チョコレート?

 

「それにしても、ガキのお守りをするだけでいいなんて、楽な仕事だな」

 

「……おいリッチ」

 

「仕事の前に随分と脅されたが、やつからはそれほどの脅威は感じなかった。これなら、ほかのやつらの程度も知れる」

 

「……、だから、リッチ」

 

「なんだよ、ほんとのことだろ?」

 

「そうじゃなくて……」

 

 俺はあまりにも当たり前にやつが食べているものを指さした。もしかしたら売店で個人的に買ったやつかもしれないという一抹の期待を込めて、リッチに問う。

 

「そのチョコレート、どうした?」

 

「……あぁ、これか。あのアブノーマリティーからもらった」

 

「なぁにやってんだよ!?」

 

 得体のしれない存在からもらったものを食べるなと注意したが、やつは聞く耳を持たなかった。そのあとチョコレートをもって帰ってきたシロが普通に食べているのを見て、もう注意するのはあきらめた。

 

 とりあえず、俺はもらっても食べない。そう決心するのであった……。

 

 

 

 

 

「さて、今日も元気にしてるか?」

 

 それからというもの、とりあえず大丈夫と仮定して、『T-01-i12』とは一緒に遊んだりするようになった。中でも頭を撫でられることが好きなようで、よく頭をこちらに差し出してくる。

 

 ……まずいな、このままだと愛着がわきそうだ。アブノーマリティーにそんな感情を抱くのは悪い兆候だ。少し距離をとったほうがいいかもしれない。

 

「……さて、そろそろ時間だな」

 

 『T-01-i12』の遊び相手をしていると、作業終了の時間が近づいてきた。

 

 『T-01-i12』はいつも通り体の一部を切り離すと、俺に差し出してきた。どうやらこれは、『T-01-i12』なりの感謝の気持ちらしい。

 

「いや、いつも言っているがいらないよ」

 

 いつも食べているリッチとシロに特に変化がないところを見ると、食べても大丈夫なのだと思う。しかし、自分の一部をちぎって渡すというのは、少しショッキングな光景だった。大丈夫だとしても食べる気にはならない。

 

「……おいおい、なんだよ」

 

 いつも通り拒否していると、『T-01-i12』が指をさしながら何か騒ぎ出した。指をさすほうを見てみると、どうやら俺の傷を見つけたらしい。そういえば『T-05-i10』の作業をしてそのままこっちに来たんだった。やつがRダメージだったから大丈夫だろうと思っていたが、面倒なことになったかもしれない。

 

「おい、何するやめろ!!」

 

 『T-01-i12』は一通り騒ぐと、手に持ったチョコレートを俺の口に押し込もうとする。俺は必死に抵抗しようとするが、もともと液体の『T-01-i12』には無意味だった。

 

「もがっ、もがっ ……何をするんだ!?」

 

 無理やりチョコレートを食べさせられ、思わず『T-01-i12』から離れる。

 

 ……油断した。今までこちらの嫌がることは積極的にしなかったからと、無害だと無意識に考えていたらしい。吐き出そうと口に手を入れようとして、思わず手を止める。

 

 自分の腕をよく見ると、さっきの傷がなくなっていた。そこまで深い傷ではなかったとはいえ、こんなにも早く治るのはおかしい。思い当たることといえば……

 

「おい、『T-01-i12』 これはお前がやったのか?」

 

 俺がさっきまで傷があった腕を指さすと、『T-01-i12』は満足そうにうなずいた。どうやらこのチョコレートには傷を治す力があるらしい。

 

「……ありがとよ」

 

 お礼を言うと、彼女は嬉しそうにうなずいた。その笑顔は、邪気を全く感じなくって、思わず笑ってしまう。

 

 もちろん油断はできない、だか彼女は俺のことを心配して行動したのだ。もしかしたらそのうち間違った親切を受けるかもしれない、いつか牙をむくかもしれない。

 

 それでも、たまには彼女のチョコレートを食べてあげてもいいかもしれない。口の中に残るチョコレートの味を確かめながら、俺はそんな風に考えるのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バレンタインデーが嫌いだった

 

 大切な人のために毎年チョコレートを作るのに、それを渡す勇気がない

 

 いつも渡せずにチョコレートを溶かしてしまうのだった

 

 だから今年も、同じことの繰り返しだと思っていた

 

 だけど、そんな時間は、永遠に帰ってこなかった

 

 ちょっとした喧嘩だった

 

 そこで、貴方の為ではないと言ってしまった

 

 そんなことないのに、傷つけてしまった

 

 貴方の笑顔が見たい、そう思って作ったのに

 

 もうそのことを伝えることもできない

 

 私はもう食べる人のいないチョコレートを抱えて眠る

 

 流れる涙はチョコレートに落っこちて、そこからとろりと蕩けてしまった

 

 蕩けるチョコレートは私にかかり、蕩けた私と一つになって混ざり合う

 

 もし次があるならば、今度こそ自分の気持ちに素直になろう

 

 ちゃんとチョコレートを渡して、そして伝えるんだ

 

 

 

 ただ、貴方に食べて欲しいって

 

 

 

T-01-i12 『蕩ける恋』

 



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T-01-i12 管理情報

 T-01-i12のエンサイクロペディアです。

 ここでT-01-i12の情報や設定などを確認することができます。


 『T-01-i12』は少女の形をした不定形のアブノーマリティーです。

 

 体は主にチョコレートでできており、体から常に甘い香りを放出しています。そのため、収容室の中は常に甘い香りで満たされています。

 

 『T-01-i12』は職員に好意的で、基本的に収容室に入ると歓迎されます。特に清潔な相手に好意を示します。もし歓迎されなければ、自分の身だしなみを確認したほうがいいでしょう。

 

 また、『T-01-i12』は職員とのふれあいやチョコレートの摂取を好みます。『T-01-i12』と良好な関係を築くと、『T-01-i12』の体の一部を渡されます。このチョコレートは体に害となる成分は含まれていませんが、超高カロリーです。食べ過ぎればそのあと苦労するのは自分自身です。

 

 『T-01-i12』の体には再生効果と鎮静作用があり、食した場合精神汚染率が回復したという報告があります。現状では食した職員に肉体、精神ともに悪影響は確認されていません。また、依存性も確認されていません。

 

 『T-01-i12』が職員に体の一部を渡しすぎると、段々体の大きさが小さくなっていきます。その場合はチョコレートを食べさせてあげると元の体積に戻ります。

 

 また、チョコレートと称して『T-01-i12』を収容室の外に持ち出すことは禁止されています。

 

 

 

 

 

『蕩ける恋』

 

危険度クラス ZAYIN

 

ダメージタイプ W(1-3ダメージ)

 

E-BOX数 10

 

作業結果の範囲

 

良  7-10

 

普通 4-6

 

悪  0-3

 

 

◇管理方法

 

1、『T-01-i12』の作業結果が良で終了した場合、職員は『T-01-i12』からチョコレートを受け取った。その職員がチョコレートを食べると、HPが回復しました。

 

2、PE-BOXが10で作業を終了すると、部門全体の職員のHPが回復した。

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 高い

2 高い

3 普通

4 普通

5 普通

 

洞察

1 普通

2 普通

3 低い

4 低い

5 低い

 

愛着

1 高い

2 高い

3 高い

4 高い

5 高い

 

抑圧

1 普通

2 普通

3 低い

4 低い

5 低い

 

 

◇脱走情報

 

非脱走アブノーマリティー

 

 

◇ギフト

 

ショコラ(頭部1)

 

HP +2

 

 ハート形のチョコレートを模した髪飾りです。

 髪飾りからは、ほのかに甘い恋の香りがします。

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 ショコラ(拳銃型)

 

クラス ZAYIN

 

ダメージタイプ W(1-3)

 

攻撃速度 超高速

 

射程 長い

 

 茶色い銃に可愛らしいラッピングのされたE.G.O.です。

 発砲すると、薬莢から焼きチョコレートの香ばしい香りが漂ってきます。

 

・防具 ショコラ

 

クラス ZAYIN

 

R 0.8

 

W 0.9

 

B 0.9

 

P 2.0

 

 可愛らしいチョコレート柄の防具です。

 熱いところに放置すると溶けてしまうので、冷たいところに保管しておいてください。

 

 

 

余談(読み飛ばし可能です)

 

 この施設においての罪善さん枠。結構お気に入りです。

 

 しゃべること自体はできませんが、コミュニケーションをとることができます。性格も明るく活発で人懐っこいです。ろくでもない奴しかいないロボトミーで唯一の無害な癒し枠。

 

 おかげで彼女の収容室は人気が高く、いつも誰かが入っている。職員は癒されるし蕩ける恋も遊んでもらえるし、winwinですね。

 

 ちなみに精神的な干渉はしていません。本人はそんなこと考えていませんが、しなくても向こうから来ますしね。

 

 本当はこんなかわいい子を確定枠にしたくはなかったのですが、ほかにちょうどいいアブノーマリティーがいなかったので危険性のないこの子を一番最初にしました。

 

 ちなみにカテゴリーがT(トラウマ)となっていますが、特に何かの恐怖症というわけではありません。O(オリジナル)とF(フェアリーテイル)に区分できないものを、とりあえずTのカテゴリーに入れています。

 

 しいて言うなら、告白する恐怖、バレンタインデーへの恐怖、といったところでしょうか。

 

 この『蕩ける恋』は色々なところで、あのALEPHを意識しています。あの子好きだけど管理方法が面倒くさいから収容したくないんですよね……

 

 あと、個人的にチョコレートの少女って結構好きなんですよね。どうでもいいですが。

 




Next T-05-i10『こうすれば、見てくれるんだね?』


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Days-02 T-05-i10『こうすれば、見てくれるんだね?』

今俺の目の前には2人の男が立っている。チャラそうな金髪の男と、赤髪の厳つい男だ。

 

「ロバートでーす! 先輩方、よろしくお願いしまっす!」

 

「ルビーよ、よろしくね。姐さんって呼んでくれると嬉しいわ」

 

 

「……これはまた、個性的だな」

 

個性的すぎる新人に圧倒されながら、今日の業務について説明する。

 

「今日は『T-01-i12』*1と『T-05-i10』の作業を行う。それぞれ順番にロバートとルビーが『T-01-i12』を、『T-05-i10』は俺とリッチとシロが交代で作業を行う」

 

「『T-01-i12』については渡した資料を読んでくれ」

 

「了解っす」

 

「わかったわよ」

 

「それじゃあ武運を祈る」

 

 それだけ言うと俺たちは、それぞれの仕事に向かっていった。

 

 ……まったく、なんで俺がこんなリーダーみたいなことをしなければいけないのか。シロはまず無理だし、リッチが面倒くさがって俺に押し付けさえしなければこんなことにはならなかったのに。

 

「まぁ、文句を言っても仕方がないか」

 

 とにかく俺にできることはあいつらを死なせないように手を尽くすことだ。生きるか死ぬかはあいつら次第でしかない。

 

「さて、ようやくついたな」

 

 ようやく『T-05-i10』の収容室の前につくと、その扉に手をかける。昨日は失態を犯したが、今回も同じではない。いったいどんなアブノーマリティーが出てくるかわからないが、絶対に生き残ってやる。

 

 

 

 

 

「……何だこりゃ?」

 

 収容室の中に入ると、部屋の真ん中にポツンと金魚鉢が置いてあった。金魚鉢の中では歪な形をした魚のような存在が泳ぎ回っている。その小さな体に不釣り合いな目玉がこちらをぎょろりとのぞき込む。

 

 ……なんというか、気味の悪いアブノーマリティーだ。魚のくせして意思があるように感じる。金魚鉢の中から感じる視線を無視して、作業に入る。

 

 とりあえず魚にえさを与えてみる、生き物だから飯を食うだろうという安直な発想だ。

 

「いてっ、もしかして微妙なのか!?」

 

 えさを与えると、いきなり手に傷が入った。なんだよこいつ、もしかして本能作業はお好みではないか? その割には嬉しそうにえさを食べているが……

 

 とにかく作業時間が終わるまで本能作業を行ってみたが、なんというか全身傷だらけになってしまった。ここまでくると、本当にダメな作業だったのかもしれない。

 

「くっそ…… おいシロ気をつけろよ、どうやら本能作業はお嫌いらしい」

 

 俺の話をちゃんと聞いたかは定かではないが、シロは俺を一瞥すると収容室の中に入っていった。

 

 ……本当に何だったんだあのアブノーマリティー、今後絶対本能作業なんてしてやるもんか。

 

 ちなみに傷だらけの状態でメインルームに帰還するとリッチに爆笑された、解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、お前なんか元気がなくなってきてないか?」

 

 こいつを収容してから数日経つが、なんだか元気がなくなっている気がする。なんというかこういうのは『美女と野獣』がいるから嫌な予感がする。これ以上弱らせないためにも、何らかの方法をとらなければならないはずだ。

 

 とりあえず思い浮かぶのは、本能作業だ。あの時はダメージが出かかったがこの魚自体は嬉しそうにしていた気がする。それにえさを与えていないから弱っているのかもしれない、とにかくやれるだけのことはやってみよう。

 

「まったく、毎度のことながら面倒だな」

 

 結局、作業が終わるころには傷だらけになってしまった。洞察作業ではここまでではないので、明らかに相性が悪そうだ。

 

 ついでに、えさを与えてみたものの、やつの元気が回復することはなかった。しかしこれでやつの衰弱が弱まればいい。とにかく何かが起こってからでは遅いからほかのやつらにも伝えて情報を共有させておこう。もしかしたらほかにいいアイデアも出てくるかもしれない。

 

 

 

 この情報共有の後、定期的に本能作業を行うこととなり、これ以上魚が衰弱することはなくなった。とりあえずこれで不安要素を取り除くことができた。だから油断してしまったんだろう、まさかあんなことになるだなんて予想もしてなかったんだ……

 

 

 

 

 

 

 

 『T-05-i10』の収容室では、今ロバートが作業をしている。彼にとって、今はお楽しみの時間であった。

 

「よっ、ほらっ、どうなんだっ、よっ!」

 

 手には警棒を持ち、魚をいたぶり続ける。いつもと変わらない調子で、とても楽しそうに。

 

 彼には加虐願望があった、特に抵抗できない相手を一方的に嬲る事が好きだった。しかし、同時に常識があったから今まで表面に出ることはなかった。

 

 だが、ここでは作業として暴力をふるうことができた。しかも、相手は不死身の存在だ、やりすぎるということがない。彼にとってここでの業務はとても楽しいものだった、特に抵抗できない相手に暴力をふるうのは最高の気分だ。

 

 わざわざ警棒を使っているのも、少しでも長く楽しむためだ。

 

「おらっ、おっ? なんか反応がなくなってきたな」

 

 魚の反応が悪くなってきたことを不思議に思ったロバートは手を止めると、魚をつかんで確認した。すでに魚は見るも無残な姿となり、完全にこと切れてしまっていた。

 

「おいおい、俺っちもしかしてやっちまったか? まぁこいつ等はすぐに復活するから別にいいか」

 

 魚が事切れてもその程度の反応だった。彼は手に持った魚を投げ捨てると、機嫌が良さそうに鼻歌を歌う。先ほどまでの暴力に酔いしれ、高ぶってしまっていた。

 

 だからこそ、彼は気づくことができなかった。鼻歌を歌いながら収容室を後にしようとするその背後で、金魚鉢の中の水が魚もいないのに波打っていることに……

 

 

 

 

 

「……あれ? ロバートのやつ、ずいぶん時間がかかっているな」

 

 『T-05-i10』に定期的に本能作業を行うようになってから数日後、リッチと一緒に昼食を食べているときに、ふと思ったことを口に出す。もう昼食時だというのにロバートのやつがまだ飯を食いに来ていないのだ。

 

「あぁ、それならたぶんお楽しみ中だ」

 

「お楽しみ?」

 

「あぁ、本人は隠しているようだが、あいつは抑圧作業を行うといつもより長いんだ。たぶんはまっちまってんだろうな」

 

「なんだよそれ、どれにやってんだ?」

 

「今日は確か『T-05-i10』だな、それにしても時間がかかりすぎな気もするが……」

 

「……なんだか嫌な予感がする」

 

 そもそも不死の存在であるのがアブノーマリティーだ。あの魚がだんだん弱っていっていたことは、何かのトリガーな気がしてならない。それに対して抑圧作業を行うことが、俺にはどうしても危ないことに感じた。

 

「リッチ、ちょっとついてきてくれ。急いで確認しにいかないと」

 

「はぁ? いきなりどうしたんだジョシュア、どこに行こうっていうんだ?」

 

「わかるだろ? 『T-05-i10』の収容室だ」

 

「……わかったよ」

 

 俺の雰囲気を感じ取ったのか、リッチはすぐに行動してくれた。念のためにお互いにE.G.O.を手に持って急いで収容室に向かう。

 

 収容室に近づくにつれて嫌な予感はどんどん大きくなり、危機感が募る。

 

「ついたぞ、ジョシュア」

 

「よし、せーので行くぞ」

 

「わかった、せーの」

 

 二人で勢いよく『T-05-i10』の収容室のドアを開ける。すると中にはすでに、ロバートの姿は見当たらなかった。部屋の中央ではいつものように金魚鉢の中で魚が泳ぎまわり、収容室の中は鮮血で彩られて遺体どころか肉片一つ見当たらなかった。

 

「ロバート!! 大丈夫か!?」

 

「だめだな、どこにも見当たらない。それどころか、この出血量なら生きてても長くはないな……」

 

「……いや、ちょっと待て」

 

 部屋を観察していると、奇妙なものを発見してしまった。それは、金魚鉢の中で泳いでいるはずだった魚の遺体であった。

 

「これは、あの魚か? しかし、すでにここに……」

 

「いや、違う」

 

 そこで、手元の魚と金魚鉢の中の魚を見比べてしまった。金魚鉢の中の魚は手元の魚より一回り大きく、その体のパーツの中に、金色の髪の毛が混じっていた。よく見ると肉の間にもE.G.O.の切れ端が挟まっている。これらは、どれもロバートのものだった。

 

 そして、金魚鉢の中の魚と目が合う。まるで何かを訴えているように……

 

「……まさか、ロバートなのか?」

 

「おい、どうしたジョシュア?」

 

 手元の魚を床に置くと、金魚鉢に近づく。うまく体に力が入らずふらふらとしてしまうけれど、何とか動くことができた。

 

「何やってんだ、今そいつに近づくな!!」

 

「はなせ、あそこにロバートがいるんだよ!!」

 

「あそこにいるのはただの魚だ、それにあいつを出したら何があるかわからんぞ!」

 

「ロバート、ロバートォォォ!」

 

 結局、俺はリッチとほかの職員に押さえつけられ、カウンセリングを受けることとなった。

 

 さらに、その後の調査であの魚から人間と同じDNAが検出され、それがロバートと同じものであることが分かった。

 

 俺は、ついに古くからの仲間を失ってしまった。仲間の死には慣れているつもりであったが、それでも大きなショックを受けてしまった。もっとやつのことを見ていれば、『T-05-i10』の危険な可能性についてもう少し話していたら。そんな考えが出ては消えていく。

 

「……ジョシュア」

 

 ロバートのことを考えていると、リッチが話しかけてきた。正直、今は誰とも話したくはなかった。

 

 だが、リッチはそんなことはお構いなしに話しかけてきた。

 

「ロバートのことは残念だったな」

 

「……」

 

「俺は何も言わない。ただ、お前を待っている奴らもいるってことを、忘れるなよ」

 

「……そうか」

 

 リッチはそれだけ言うと、どこかへ行ってしまった。彼の少ない言葉は、今の俺にはありがたかった。もう少し気持ちに整理がついたら、ちゃんと話をしよう。そうおもって立ち上がると、ばったりシロに鉢合わせてしまった。

 

「……よう、シロ。奇遇だな」

 

「……」

 

「なんだよこれ、チョコレート?」

 

 シロは何も言わずチョコレートを俺の口に押し付けてきた。口を閉ざしたままだとぐりぐりといつまでも押し付けてくるので、仕方なく口を開くとチョコレートをねじ込まれた。甘くて優しい味が口の中に広がる。

 

「ブオッ!? もう少し優しく頼むよ……」

 

「…………元気出た?」

 

「……えっ? あ、あぁ、元気出たよ?」

 

「…………そう」

 

 それだけ言うと、シロは何も言わずにどこかへ行ってしまった。シロの声、初めて聴いてびっくりしたが、意外とかわいい声だった。もしかしたらさっきのは、彼女なりの励ましだったのかもしれない。

 

 俺を待っている人がいるか…… ならばせめてそいつらだけでも助けていこう。もう二度と、こんなことを起こさないように……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昔はよかった、みんながボクを見てくれたから

 

 あの子が生まれたお祝いに飼ってたお魚のお世話をするために、毎日僕を見てくれた

 

 あの子の笑顔が好きだった、ボクを大切にしてくれてうれしかった。

 

 だけど、お魚が死んでしまって、ボクは家の外の倉庫にしまわれてしまった

 

 もうずっと誰も見てくれなくて、悲しくってずっとほこりをかぶっていた

 

 そんなとき、水がいっぱい流れてきて、ボクのいた倉庫も水浸しになってしまった

 

 でも、偶然ボクの中に珍しい魚が入っていたんだ

 

 あの子はまた喜んでボクを見てくれた、ボクはそれが嬉しかった

 

 だけど、それもまた長くは続かなかった

 

 魚が死んだらボクはお払い箱だった

 

 それだけは嫌だ、何とかしなければ

 

 何とかして珍しい魚をボクの中に入れれば、またボクを見てくれる

 

 そんな時、ボクの倉庫の中に泥棒が入ってきた

 

 ボクは思った、彼で魚を作ろうと

 

 初めて作った魚は不格好だったけれど、あの子は喜んでくれた

 

 そうか、こうすれば、見てくれるんだね?

 

 ボクはあの子のために魚をいっぱい作った、ボクは幸せだった

 

 そんなある日、あの子はボクを捨てようとした

 

 なんで? わからないよ

 

 君のために魚をいっぱい用意したのに、君は全部捨ててしまった

 

 君と離れるのは嫌だ、だから

 

 

 

 

 

 ボクはもう一度魚を作ることにした

 

 

 

 

 

 T-05-i10 『幸せな金魚鉢』

 

*1
『蕩ける恋』



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T-05-i10 管理情報

 『T-05-i10』は金魚鉢の形をしたアブノーマリティーです。『T-05-i10』の中には、魚の形をした生命体が存在しています。これを『T-05-i10-1』と呼称します。

 

『T-05-i10』の中を満たす液体は、人間の組織液に類似しています。

 

『T-05-i10-1』に対して作業を行ってばかりいると、『T-05-i10』は拗ねてしまいます。

 

『T-05-i10-1』から、人間と同じDNAが検出されました。『T-05-i10-1』の死体を解剖した結果、正常に機能した歪な形の臓器が人間の臓器と同じ数確認された。何らかの方法で人間を圧縮、魚の形に成形したものと考えられます。

 

『T-05-i10-1』には意識が残っている事がわかりました。視線による簡単なコミュニケーションをとることが出来ます。

 

『T-05-i10』を使って行う一発芸は、文字通り命懸けです。絶対に止めましょう。

 

*注意 『T-05-i10-1』が『T-05-i10』の中に存在しない場合、収容室の中に入らないでください。

 

 

 

『幸せな金魚鉢』

 

危険度レベル TETH

 

ダメージタイプ R(2-3)

 

E-BOX数 12

 

作業結果の範囲

 

良  10-12

 

普通 5-9

 

悪  0-4

 

◇管理方法

 

1、抑圧作業を行った場合、クリフォトカウンターが減少した。

 

2、三回連続で本能作業を行わなかった場合も、クリフォトカウンターが減少した。

 

3、カウンターが0になると、『T-05-i10-1』が力尽きた。

 

4、『T-05-i10-1』が力尽きた状態で収容室に入ると、その職員は『T-05-i10』の中に引きずり込まれ、新たな『T-05-i10-1』となった。

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 低い

2 低い

3 低い

4 普通

5 普通

 

洞察

1 普通

2 普通

3 普通

4 高い

5 高い

 

愛着

1 高い

2 高い

3 高い

4 最高

5 最高

 

抑圧

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

 

◇脱走情報

 

非脱走

 

クリフォトカウンター 3

 

 

◇ギフト

 

生け簀(頭2)

 

愛着+2

 

金魚鉢の形をしたギフト、ヘルメットみたいに頭から被る。

被っていると、魚になった気分になる。

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 生け簀(拳)

 

クラス TETH

 

ダメージタイプR(2-4)

 

攻撃速度 超高速

 

射程距離 超至近距離

 

金魚鉢の形をした拳につけるタイプのE.G.O.です。

ガラスのような材質なのにどれだけ強く叩きつけても割れません。

 

 

 

・防具 生け簀

 

クラス TETH

 

R 0.7

W 0.5

B 1.5

P 2.0

 

金魚の刺繍の入った浴衣風のE.G.O.です。

装備していると、どことなく懐かしさを感じる。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

前回とはうってかわってド畜生なアブノーマリティーです。

 

元々はSCPやLCを参考にしたオリジナル小説に出そうと思っていたやつなんですが、物語の流れ的に出しづらかったのでこっちで再利用しました。

 

名前からして熊さんをイメージしますが、どちらかと言うとイメージはお風呂です。即死の際に引きずり込まれる所とか。

 

こいつ自身は、アブノーマリティー特有の間違った善意を押し付けてくるタイプです。悪意を持った嫌がらせより、善意からの嫌がらせの方が何倍も質が悪いんだよなぁ……

 

ついでに独善的な所があるのでどうしようもありません。

 

こいつはゲーム的な性能で言えば、油断したときに事故を起こすタイプだと思います。こういう作業何回やったら特定の作業やるってタイプは、最終的にその作業連打が一番ですよね。

 

それに序盤では引きたくないですね、なんせしなければならない作業が初期ステータスだと低いで、Rダメージの為普通に死ぬ可能性があるからです。

 

ちなみに元々はWダメージだったのですが、勘違いして途中までRダメージでやっていたので変更しました。そっちの方がイメージにあっていると言うこともあったので。

 

 最初が全くアブノーマリティーっぽくないやつだったので、それっぽい感じのやつが書けて楽しかったです(小並感)

 




Next F-02-i06『お前も俺様を食べる気か?』


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Days-03 F-02-i06『お前も俺様を食べる気か?』

「お前も俺様を食べる気か?」

 

「いや、食べねぇよ」

 

 毎度のことながら来たばかりのアブノーマリティーへの作業のトップバッターを務めることになった俺は、意味不明な状況に置かれることとなった。『F-02-i06』の収容室には天井からつるされた茶色い革袋のようなものが、開口早々意味不明なことを言ってきた。よく見ると目と口がついている、ちゃんと考えてもよくわからない生ものだ。

 

 しゃべることもそうだが、こいつを食うという発想そのものが意味不明だった。だが、『F-02-i06』は俺の返答に満足したのかうんうんうなずいている。

 

「そうか、危うく食べちまうところだったぜ」

 

「こえぇな、ていうか食えるのかよ?」

 

「おう、お前なんて一飲みだ」

 

 会話できるアブノーマリティーがいることは知っていたが、初めて出会ったやつがこんなに意味の分からないものだなんて。

 

 とりあえず話しかけてくる『F-02-i06』を無視して作業の準備をする。食う食わないと言っているから、とりあえず本能作業を行っていく。『F-02-i06』に食料を渡すと、やつはおいしそうに食べ始めた。

 

 天井から垂れる縄をみょんみょん弾ませながら、床に置かれている食料を器用に食べていく。なんというかその不思議な食べ方は、なぜか面白くて飽きない光景であった。

 

 そのまましばらく食料を食べる『F-02-i06』を眺めていると、作業が終わるころには『F-02-i06』は少し大きくなったような気がした。

 

「……なんかでかくなってねえか?」

 

「あぁ? そういって俺様を食べる気か?」

 

「いや食わねえよ……」

 

 とりあえず俺はこの情報を持ち帰り、本能作業はなるべく行わないように伝えておく。明らかに面倒ごとになる予感しかない……

 

 

 

 

 

「おい、リッチ知らないか?」

 

「いや、どこかで油売ってるんじゃないんすか?」

 

「ならいいが…… とりあえず作業行ってくるか」

 

「いってらっしゃーい」

 

 休憩室でロバートとの会話を終えると、俺は再び『F-02-i06』収容室に向かった。正直面倒だが、早く『F-02-i06』の情報を集めなければ、他のやつらに任せることができないからだ。

 

「よう、元気……か……?」

 

「おう、やっぱり俺様を食べる気か?」

 

 『F-02-i06』の収容室に入ると、やつはなぜか一回り大きくなっていた。明らかにおかしい。

 

「おい、お前なんで大きくなってるんだよ」

 

「食われそうになったから食っただけだ」

 

「食った? ……もしかして」

 

 そこで俺は、リッチが俺の前に作業をしていたことを思い出した。まさかこいつ、リッチを食べやがったのか!? 『F-02-i06』の皮が激しく暴れ始める、動き的に明らかに中に誰かいる。

 

「お前、リッチをどうした!?」

 

「だから、食べたのさ。そういっただろう?」

 

 

「てめぇ、よくも!!」

 

 怒りで我を失いそうになるが、何とか抑えて『F-02-i06』にショコラを突きつける。すると、それを見た『F-02-i06』が怒りをあらわにした。

 

「お前もやっぱり俺を食べようっていうんだな……」

 

 『F-02-i06』がそう言い終わると、俺は悪寒を感じて収容室の扉に向かって転がるように避けた。すると、さっきまで俺のいた場所にやつの口がかみついているところが見えた。

 

 ……やっぱり、さっきのは食らったらまずい奴だった。俺は身の危険を感じて収容室の外に出ようとすると、『F-02-i06』は体を激しく揺らして縄を引きちぎり、床に落ちた。そしてそのまま床を転がりながらこっちに向かってきた。

 

「はぁ!? なんだそのふざけた移動方法は!!」

 

「今食ってやるからな!!」

 

「ふざけるな!!」

 

 収容室を飛び出すと、俺に続いて『F-02-i06』も飛び出してきた。くそっ、収容違反だ! 俺のせいでこうなってしまったことを悔やみつつ、こいつを倒す方法を考える。

 

「管理人! 『F-02-i06』が脱走した! 他の職員を避難させてくれ!」

 

『了解! ジョシュア、健闘を祈る』

 

「ありがとよ!」

 

 ショコラでけん制しつつ管理人にインカムで連絡を取り、職員の避難を行うように伝えるとすぐに緊急アナウンスが鳴った。オフィサーたちが慌ただしく逃げ回る中、エージェントたちが現場に向かって走ってきた。

 

「お前たち! やつはこちらを丸のみにしてくる、接近するときは気をつけろ!」

 

「了解っす、やってやるよ!」

 

「ちょっとまっ、ロバァァァト!!」

 

 俺の忠告を無視して『F-02-i06』に警棒で突っ込んできたロバートは、そのまま転がる『F-02-i06』に飲み込まれてしまった。

 

 どんな食い方だ、キ●ートマトかよ!?

 

「何しに来たんだ!?」

 

「あら、これは私はお払い箱かしら?」

 

「悪いが避難誘導に行ってくれ」

 

「わかったわ、任せたわよジョシュアちゃん、シロちゃん」

 

 ロバートの末路を見た警棒装備のルビーは、遠距離武器であるショコラを持つ俺とシロにこの場を任せて離れていった。

 

 そうしている間にも『F-02-i06』はオフィサーを飲み込みながらどんどん大きくなっていく。

 

「ちっ、このままだとまずい。シロ、俺がひきつけるから回り込んでこいつの後ろから攻撃してくれ」

 

 俺の指示を聞いてシロは廊下の向こう側に走っていった。 ……さぁ、ここからが正念場だ。

 

「来いよ糞ダルマ、ぶっ潰してやるよ」

 

「お前も食ってやる!」

 

 後ろに下がりながらショコラで撃ちまくり、ダメージを与えていく。最初より明らかに遅い、どうやらこいつは食べれば食べるほど動きが遅くなっていくらしい。

 

「やることが馬鹿の一つ覚えだな、他にできることはないのか?」

 

「うるさい、それも食ってやる!」

 

「やれるもんならやってみな」

 

 そういいながら『F-02-i06』は、廊下に置いてあるものをすべて平らげながらこちらに向かってくる。

 

「どんだけ大食らいなんだよ……」

 

「ぐぐぐっ、前も後ろもいてぇ」

 

 どうやらシロが後ろについたようだ。このまま挟撃して終わらせようと考えていると、『F-02-i06』が急激に加速してきた。

 

 俺はバックステップでよけようとして、背中が壁にぶつかってしまった。このままだとやつに食われてしまう、進む先にあるものをすべて食べながら進んでくる『F-02-i06』が目の前まで来て俺を食べようとして思わず目を閉じようとして、せめて最後に一矢報いようと目をそらさずにショコラを向ける。そして大きな口が開いて……

 

 

 

 『F-02-i06』は大きくなりすぎた体が壁に引っかかって、動けなくなってしまっていた。

 

 ……えぇ

 

「う、うごけねぇ」

 

「いや、なんでだよ」

 

 思わず呆然としてつぶやくと、突然『F-02-i06』が破裂して、リッチやロバート、オフィサーや『F-02-i06』が今まで食べたものがすべて出てきて、何事もなかったかのように動き出してどこかへ行ってしまった。それはさっきまで食べられていたやつらとは思えないほど自然すぎる動きであった。

 

「……いや、本当になんでだよ」

 

 こんな会社に来たのだから、不思議なことに巻き込まれることは覚悟していたが、これほど意味が分からないことになるとは思わなかった。俺は同じように立ち止まっているシロとともに、しばらくその場から動けなかった。

 

 

 

 

 貧しい家族に食べられそうになったそれは、彼らを食べて逃げ出した

 

 それからも道行くものをすべて飲み込みながらどこまでも進んでいく

 

 それは食べられたくなかった、だから進み続けた

 

 しかしそれも長くは続かない、自分が食べたもののせいで破裂してしまった

 

 破裂したなにかは、風に吹かれて転がっていった

 

 転がりながらも考えるそれは、次第に元の形に戻っていった

 

 そしてもう一度転がり続ける、絶対に誰かに食べられないように

 

 

 

 

F-02-i06 『吊るされた胃袋』



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F-02-i06 管理情報

 『F-02-i06』は、天井から吊るされた胃袋の肉詰めです。意志を持ち、言葉を発することができます。

 

 『F-02-i06』は言葉を発しますが、コミュニケーションはとることはできません。『F-02-i06』がすることは自分を食べるか食べないかの確認だけです。

 

『F-02-i06』に飲み込まれた職員によると、『F-02-i06』の内部は意外と快適とのことです。また、内部の食料には腐敗や劣化が見られませんでした。

 

『F-02-i06』が職員を飲み込む理由は自己防衛ですが、『F-02-i06』が食事をする理由は不明です、特に味覚があるような発言は行いません。

 

『F-02-i06』の性質を利用して、食糧庫として使用しないでください。

 

また、『F-02-i06』の内部を、仕事をサボタージュする為のスペースとして活用することを禁止します。『F-02-i06』に飲み込まれたことは、職務をサボタージュする理由にはなりません、むしろ『F-02-i06』に飲み込まれたことを理由に評価を下げざるをえません。次回の査定を楽しみにしていてください。

 

 

 

 

『吊るされた胃袋』

 

危険度クラス TETH

 

ダメージタイプ R(2-4)

 

E-BOX数 12

 

作業結果の範囲

 

良  9-12

 

普通 5-8

 

悪  0-4

 

 

 

◇管理方法

 

1、本能作業を行うと、クリフォトカウンターが減少した。

 

2、作業結果普通以下で確率でクリフォトカウンターが減少し、職員は『F-02-i06』に飲み込まれた。

 

3、脱走した『F-02-i06』は進行方向にいる職員を飲み込みながら移動する。

 

4、脱走した『F-02-i06』を鎮圧することでのみ、飲み込まれた職員を救出することができる。

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 高い

2 高い

3 高い

4 最高

5 最高

 

洞察

1 普通

2 普通

3 普通

4 高い

5 高い

 

愛着

1 最低

2 最低

3 低い

4 低い

5 低い

 

抑圧

1 低い

2 低い

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 3

 

R 弱点(1.5)

 

W 耐性(0.8)

 

B 普通(1.0)

 

P 脆弱(2.0)

 

 

 

◇ギフト

 

胃袋(ブローチ2)

 

HP+2 正義+2

 

首からかける紐のついた胃袋の肉詰め。唐突に話しかけてきそうで気が抜けない。

 

 

 

◇E.G.O.

 

武器 胃袋(メイス)

 

クラス TETH

 

R 8-10

 

攻撃速度 普通

 

射程 近

 

胃袋の肉詰めの形をしたメイスです。装備しているとどんどん空腹感を感じてきます。

 

 

 

防具 胃袋

 

クラス TETH

 

R 0.8

 

W 1.0

 

B 1.2

 

P 1.5

 

子豚の胃袋で出来た装備です。装備している職員は、周囲から美味しそうなものとして見られるかもしれません。

 

 

余談(飛ばし読み可)

 

癒し枠、畜生枠ときてギャグ? 枠です。

 

初めて出てきたF(ファンタジー)カテゴリのアブノーマリティーです。まだ出ていない他のFカテゴリは有名なやつばっかり作っているのですが、こいつは大分マイナーだと思います。

 

元ネタはハンガリーの昔話、『いぶくろ』です。ちなみに、これでも元ネタよりおとなしい性格をしています。

 

物語のあらすじは、大体前回最後の破裂したところまでですね。面白い話なので、結構気に入っています。

 

こいつは話せるけど会話できないタイプのアブノーマリティーです。彼? にとっては自分を食べるか食べないかが重要なので、それ以外にはあまり興味はありません。

 

こいつは劣化した狼見たいな性能をしていますが、適当に鎮圧しようとすると全滅する可能性があります。なんせ攻撃とかではなく、通ったら確実に飲み込まれるからです。前方にいるだけで飲み込まれるので後方から攻撃しましょう。

 

残念ながら、アブノーマリティーを飲み込むことは出来ませんが……

 

ちなみに、元々は本能でカウンター減少はなかったのですが、初期の人数の少ないときに来ると飲み込まれたら、ほぼ死と同じだったので救済措置として加えました。ミスったときにわざわざ二人飲み込ませるのが面倒なので……

 

 




Next T-09-i97『地獄の中で天国を見つけた』


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Days-04 T-09-i97『地獄の中で天国を見つけた』

「今日も疲れた……」

 

仕事も終盤に差し掛かり、疲れた体を引き摺りながら廊下を進む。俺のとなりのリッチも同じで、全身から疲れたオーラを漂わせていた。

 

「くそっ、ロバートのやつが『F-02-i06』*1を逃がさなければ……」

 

「そういうなよ、お前だって初日から逃がしてたじゃないか」

 

「だが、あれさえなければ、まだ楽に仕事を終われたじゃないか」

 

「そうかもしれないけどよ」

 

二人でふらふらしながら目的地へ向かって歩く。最後の最後に今日新しく入ったアブノーマリティーのところへ向かわなければならないからだ。

 

「そういえば、今日は珍しく一番手が俺じゃなかったな」

 

「あぁ、それは今日入ってきたのがいつもとは違うやつだかららしい」

 

「いつもと違う?」

 

「あぁ、なんでも今回は道具のアブノーマリティーらしい」

 

「あぁ、そういうことか」

 

 どうやら今日追加されたのはツール型らしい。そういえばゲームでは四日目に選ぶのはツール型と決まっていたな。

 

「それで、今から行くやつはどんな奴なんだ」

 

「『T-09-i97』、話によると使うと疲れを一瞬で吹き飛ばすらしいぞ」

 

「疲れを吹き飛ばすって、ろくでもない予感しかしないな」

 

「まあそういうな、使ったルビーはぴんぴんしてるぞ」

 

「ならいいが……」

 

 会話をしているうちに、『T-09-i97』の収容室の前についた。疲れたから早く終わらせたい……

 

「とりあえずあけるぞ」

 

「そうしてくれ……」

 

 ツール型ということで雑に収容室の扉を開ける。さすがにツール型で、開けるだけで殺してくるやつはいない。

 

俺たちの頭のなかは、早く帰りたいと言う気持ちで一杯だった。疲れた体をシャワーで洗い流し、ベッドに入って寝る。そんな計画を頭のなかで考えていたが、そんなものすぐにどこかへ行ってしまった。

 

熱気と共にやって来た湯気を不快に思って顔をしかめたが、そんなことどうでもよくなった。木で出来た脱衣場にイスとシャワー、かけ湯に、大きな石に囲まれた温泉。さらには温泉卵に風呂上がりの飲み物までついていた。

 

そこには、楽園が存在していた。

 

「おっ」

 

「おっ」

 

「「温泉だぁぁぁぁ!!!!」」

 

 俺たちの疲れは吹っ飛んだ。

 

 

 

 

 

 それからというもの、毎日ではないにせよよく温泉につかるようになっていった。こんな職場であるからか、癒しを求めて職員たちは『T-09-i97』を愛用していた。

 

「あぁ~、極楽極楽」

 

「なんだそれ?」

 

「あー、なんていうか天国みたいだって感じだな」

 

「なるほど、そういわれると地獄に戻りたくなくなってきたな」

 

「あー、昨日は忙しくてこれなかったから、体にしみるなぁ~」

 

「本当だ、もうこいつなしでは生きられないなぁ」

 

 今日も仕事が終わった俺とリッチは、裸の付き合いをしていた。俺もリッチも、もうこいつの虜だった。

 

「聞いたか? 『T-04-i09』*2にやられたやつが、ここに浸かって助かったんだってよ」

 

「本当か? 『T-04-i09』といえば、一回食らったらもう助からないって話じゃなかったか?」

 

「本当だ、気になるならマオにでも聞いてみろ」

 

 『T-09-i97』に浸かりながら、他愛のない話をする。疲れた体を癒すため、しっかり体を浸かる。

 

「でも、何度も使ったらやばいことになるんだよなぁ」

 

「確か一日に3回入ったやつが自分から風呂に沈みかけてたんだよな」

 

「そうそう、マイケルのやつ、最初はみんなで同じ風呂に入るなんて考えられないって言ってたのにな」

 

「そういう奴ほどはまったらすごいんだな」

 

 

 噂をすればなんとやら、ちょうど俺たちが話していた人物であるマイケルが入ってきた。彼は手慣れた動きで服を脱いでシャワーを浴び、かけ湯をしてから湯船に入る。

 

「おいおい、マイケル。もう入ってきて大丈夫なのか?」

 

「セフィラから許可はとっている。もうこれなしでは生きられない」

 

「お前が言うと冗談に聞こえないな……」

 

 本当のことを言ったのに睨まれた、おっかねーな。

 

「そういえば、この前ジョシュアがシロと一緒にこの『T-09-i97』に入ったって話を聞いたことがあるな」

 

「げっ、どっから漏れた!?」

 

「ほう……」

 

 しまった、墓穴を掘った。リッチに追及される前にお暇とするか……

 

「おいジョシュア、何逃げようとしている?」

 

「いや、そろそろのぼせそうだからな。もう切り上げようと思って」

 

「そういって逃げようと思っても無駄だぞ、しっかり話は聞かせてもらうからな」

 

「ふざけるな、お前はもっと長風呂しとけ!」

 

 そういって逃げるように風呂から出て収容室の中から出ていく。リッチがついて来ようとするが、そうなる前に逃げ切るしかないな。

 

「ふぅ、これでゆっくり入れる……」

 

 しかし、俺たちは重要なところに気が付けなかった。温泉に浮かれていたせいか、のぼせ上ってたのか、あるいは『T-09-i97』に思考を鈍らせる力があったのか……

 

 とにかく、以前に『T-09-i97』で自殺未遂を起こしたマイケルを一人にしてしまったのだから。

 

 

 

 

 

 ようやくゆっくり入れる

 

 日々の仕事は忙しいが、この時間だけは誰にも邪魔させない

 

 いつ友人が死ぬかわからない、昨日まで笑いあっていた仲間が次の日には物言わぬ肉塊になっている

 

 そんな日々の中に、癒しがあってもいいじゃないか

 

 この場所なら心身ともに疲れを癒すことができるのだから

 

 もう今度は誰にも邪魔させない

 

 俺の意思で決めたことを、他のやつらが邪魔をしていい理由にはならない

 

 全身を沈め、一つになろう

 

 すべての悩みから解放され、俺は真の癒しを手に入れることができる

 

 なぜなら

 

 

 

 

 

 ようやく地獄の中で天国を見つけたのだから……

 

 

 

 

T-09-i97『極楽への湯』

*1
『吊された胃袋』

*2
現状では未判明



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T-09-i97 管理方法

 『T-09-i97』は露天風呂の姿をしたツール型アブノーマリティーです。温泉以外にも入浴するための設備が一通りそろっています。

 

 『T-09-i97』の温泉の成分は、一般的な温泉の成分と大差はありません。

 

 『T-09-i97』での混浴は禁止されています。『T-09-i97』での男女別の利用時間については、『T-09-i97』利用規約を確認してください。

 

 『T-09-i97』内の石鹸やシャンプーといった消耗品や、コーヒー牛乳や温泉卵といった食品類は、自動的に補充されます。

 

 『T-09-i97』には様々なケガや病を治す効果が確認されています。また、アブノーマリティーによる呪いの類にも効果があることが判明しました。

 

 『T-09-i97』に一日に3回以上入らないでください、その場合温泉中毒となってしまいます。

 

 職員マイケルが起こした事件をきっかけに、毎週5日はノー温泉デーとなっております。この規則を破ったものの命の保証はありません。

 

 

 

 

『極楽への湯』

 

危険度クラス ZAYIN

 

継続使用タイプ

 

 

 

◇管理方法(情報開放使用時間)

 

1(10)

 『T-09-i97』を使用した時間に応じてHPとMPが回復した。

 

2(60)

 『T-09-i97』を30秒以上使用した職員は、体の欠損や呪いも回復した。

 

3(120)

 

 『T-09-i97』を60秒以上使用した職員は、その時間に応じてのぼせて能力が低下した。

 

4(150)

 『T-09-i97』を一日に3回以上使用、または5日連続で使用した職員は自ら『T-09-i97』の中に沈んだ。

 

 

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 ツールに即死は義務です(断言)

 

 というわけで、温泉型ツールってないよなってことで考えたのがこの『T-09-i97』です。ツールの中の良心、超有能枠。

 

 30秒以上の効果は、火の鳥の目潰し、ヤンショタの石やスライムのハートまで、あらゆるものを浄化してくれます。しかし、残念ながら例の詐欺師による祝福は消えません。だってあれギフトだもん……

 

 でもおおむね有能だと思います。回復効果はおまけだが、管理の面倒なバフを消せるのは強い。

 

 その分面倒な即死効果を持っていますが、そこまで頻繁には起こらないと思います。むしろ忘れたころに引っかかりそうで怖いですね。

 

 あとは使用の解除忘れで入りっぱなしになっていると、すべての能力が最低の15まで下がります。ホドちゃんかな?

 

 これは最初のほうに考えていたツールです、その分思い入れはありますね。最初に継続使用、装着、回数使用のツールを一つずつ作ったんですが、その中でもだいぶ出来がいいと思います。

 

 正直に言うとツールって、アブノーマリティーより考えるのが難しいんですよね……

 

 最初は装着型を考えるのが難しかったんですが、今では継続使用のほうが考えるのが大変です。

 

 

 

 とりあえず、これでコントロール部門のアブノーマリティーはすべてですね。ここまで読んでいただいてありがとうございます。

 

 まだ少しだけコントロール部門も続きますが、次の情報部門のアブノーマリティーもよろしくお願いします。




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Days-05-1 灰塵の黎明『路傍』

路傍に転がり 誰かに気づいてもらうことを願う

ここにいるということ 存在の証明を


『コントロール部門のメインルームにて、試練が発生しました。エージェントたちは至急鎮圧を行ってください』

 

 とある昼下がり、ようやくロボトミーでの職務に慣れてきて昼食を仲間たちととっていると、試練を告げるアナウンスが鳴り始めた。とはいえ初めてのことだったので、職員たちの動きは少々鈍かった。

 

「試練ってなんすか?」

 

 この中で一番の新参であるロバートが俺に訊ねてきた。正直俺も初めてだが、どんな奴かくらいは知っている。こっちの世界でも説明を受けている。

 

「試練ってのは、言ってしまえばアブノーマリティーのなりそこないだ。たぶん今日のは黎明だから、そこまで強くはないはずだ」

 

「なるほど、つまり脱走したアブノーマリティーみたいなものっすね」

 

「そうだ、今回は食われないように気をつけろよ」

 

「いつまでそのネタでいじるんすか!?」

 

 喚くロバートを無視して準備を始める。食事は鎮圧が終わってからにするしかない、時間内に終わればいいのだが……

 

 いつまでも喚くロバートと、デザートを食べていたシロを引きずってコントロール部門のメインルームへ向かう。シロは食べきれなかったチョコレートケーキを名残惜しそうに見つめていた。 ……そんな目をするなよ、後で買ってやるから。

 

「ほれ行くぞ、相手は待ってはくれないぞ」

 

「わかったから放してくださいよ」

 

 現場まで走りながら試練について考える。確か黎明でメインルームに現れるのは緑だけだったはずだ、やつならそこまで危険性はないはずだ。初期装備でもなければ集団で負ける要素はないはずだ。現実ではどうなるかはわからないが、集団で囲めば楽に倒せるはずだ。

 

 しいて言うならオフィサーが心配だ。ゲームでは生ごみ以下の存在であったが、現実では彼らは生きた同僚なのだ。ちゃんと彼らも助けないと。

 

「突撃するぞ、備えろよ!」

 

「はいっす!」

 

 三人でメインルームに入る、メインルームはアブノーマリティーの侵入も考慮されているので、広く障害物が少ない。ここに相手がいるならば、普通は見つかるはずだ。

 

「管理人、目標はまだメインルームにいるか?」

 

『あぁ、反応は移動していない。まだそこにいるはずだ』

 

「了解、みんな警戒を怠るなよ」

 

 周囲を警戒しながら胃袋を構える。緑の黎明であればもっと目立つはずだ、となれば予想はできる。3手に分かれて周囲を探索する、すると視界の端に灰色の何かが映った。

 

 胃袋を向けながら対象に近づき確認すると、石ころのようなものが落ちていた。だが、ここでそんなものが落ちているはずもない。ならば可能性は一つだ。

 

「管理人、不審な存在を発見した」

 

『こちらも確認した、目標はそれで間違いないだろう』

 

「了解、ただいまから交戦に入る」

 

『健闘を祈る』

 

「シロ、ロバート、援護しろ!」

 

 シロとロバートに指示を飛ばすと、二人ともショコラを構えて戦闘態勢に入った。俺は胃袋を振りかぶり石ころにたたきつけると、大きくかたいものがぶつかる音がした。明らかに石ころ相手に出る音ではない。

 

 俺がもう一度攻撃を加えようとすると、石ころが淡く光りだした。

 

「何か来るぞ、全員衝撃に備えろ!」

 

 胃袋で防御態勢に入ると、石ころが黒い波動を部屋全体に放った。防御しきれずにダメージを負う、肉体へのダメージと精神的な疲労、これはBダメージか。

 

「二人とも、一気に畳みかけるぞ!」

 

「了解!」

 

 相手の攻撃が終わり、シロとロバートの援護を受けながら石ころに胃袋を振り下ろす。頑丈ではあるが、動かず攻撃速度も遅いと苦戦する相手ではなさそうだ。

 

「ぶっつぶれろ!」

 

 全力で胃袋を振り下ろすと、石ころは砕け散ってしまった。念のため砕け散った石ころから距離をとって様子を見たが、特に爆発などをする様子も見られなかった。

 

『対象の反応、消失を確認。よく頑張ったな』

 

「ふぅ、特に苦戦はしなかったな」

 

 さすがに試練最弱の黎明だけあって、すぐに鎮圧することができた。ゲームのほうでも苦戦したのは数の暴力である琥珀だけだったので、ある意味こんなものなのかもしれない。

 

 だが、試練ですら知らないものであるということは、俺がまだ知らない試練がこれからも出てくるはずだ。気を抜かずに引き締めていかなければ。

 

「とりあえず食堂に戻ろう、飯の続きが楽しみだな」

 

「片付けられていないといいですね」

 

「悲しいこと言うなよ、もし消えてたらお前のおごりだぞ」

 

「えっ、理不尽すぎませんか!?」

 

 騒ぐロバートを無視して廊下を歩く、今日も誰も失わずに済んだ。

 

 ちなみにリッチたちが守ってくれていたせいで、ロバートのおごりにはならなかった。残念だ。

 




誰も気づかない 見向きもしない


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Days-05-2 苺の黎明『始まりの予感』

さぁ 目を開けて伸びをしよう

今日は素晴らしい出会いがある予感がする


「だから、私も嫌になっちゃったの」

 

「なるほどな、そりゃあひどい話だ」

 

 ルビーの恋バナに相槌を打ちながら廊下を歩く。ルビーには恋の悩みが尽きないらしい、こんな職場で恋愛について考えられるのは心に余裕のあるいいことなんだろうけどな。

 

「あっ、ジョシュアさん、ルビーさんおはようございます」

 

「おっ、Π029ちゃん。どうしたんだ?」

 

「いえ、ジョシュアさんにこの前のお礼を言いたくて。助けていただいてありがとうございます」

 

「お礼って、別にいいのに……」

 

 廊下を歩いていると、オフィサーのΠ029ちゃんが話しかけてきた。小っちゃくて動きがいちいちかわいく、ポニーテールのためなんだか小動物っぽい子だ。どうやらこの前脱走したアブノーマリティーから助けたことのお礼を言いに来たらしい、律儀な子だ。

 

「それで、よかったら今度一緒にご飯を食べませんか?」

 

「別にいいぞ、また時間が合うときにご一緒しようか」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

 それだけ言うと、彼女は顔を赤めながらパタパタと走り去っていった。本当に可愛らしい子だったなぁ。

 

「あらぁ、ジョシュアちゃんも隅に置けないわねぇ」

 

「茶化すなよ……」

 

 こんな職場だ、恋人なんて作って殺されようものなら発狂間違いなしだ。特に俺は一番死にやすいところにいるのだから、そういうことに手出しする気力はないな。

 

 ルビーに一通り茶化されながらメインルームへ向かう、とりあえず休憩したい。

 

「おぉ、ジョシュアさん、ルビーさん。ご無沙汰です」

 

「あれ、Λ494、どうしたんだ?」

 

「いえ、この前来たアブノーマリティーの資料についてなんですが……」

 

 今度話しかけてきたのはΛ494だ、彼はまじめな男で自分たちの作る資料が原因でトラブルが起きないように、たびたびエージェントにそのアブノーマリティーのことを聞きに来る。今回はこの前来たアブノーマリティーの特殊能力について引っかかることがあったらしい、第三者からの気づきでないとわからないこともあるから結構ありがたい。

 

「おーい、ジョシュアさーん」

 

 Λ494との話が終わると、またオフィサーに話しかけられた。

 

 なんだか今日はよくオフィサーたちに話しかけられるなぁ、普段は遠巻きに見ているだけなのに……

 

『コントロール部門『F-02-i06』*1の収容室前で、試練が発生しました。エージェントたちは至急鎮圧に向かってください』

 

 そんなことを考えながら何人も対応していると、試練が発生した。前回と同じやつならいいが、出現場所が収容室前ということで正直嫌な予感しかしない。

 

 ルビーと一緒にE.G.O.を持って現場に向かうと、途中でリッチと合流したので一緒に鎮圧に向かう。もしもピエロみたいなやつなら最悪だ。急いで鎮圧に向かわなければ……

 

「よし、突入するぞ!」

 

「さぁ、張り切っていくわよ」

 

「さっさと終わらせるぞ」

 

 三人で『F-02-i06』の収容室のある廊下に突入する。すると、廊下の真ん中に花が一輪咲いていた。 ……いや、あれは花ではない。

 

 茎は髪の毛、葉は皮、花弁は肉でその中央に目玉がある。まるで人間で作った不気味なオブジェのような試練とみて、思わず戦慄する。ロボトミーにおいて植物はやばい、そう思い急いで攻撃しようとするとやつが淡く光り始めた。

 

「何か来るぞ、全員気をつけろ!」

 

 胃袋を盾にして様子を見ていると、やつの光はすぐに収まった。攻撃ではない? なら余計なことが起こるはずだ。

 

「ルビー、リッチ、何か異常はないか?」

 

「えぇ、私は大丈夫よ」

 

「こちらも異常はない」

 

「なら、とりあえずこいつをつぶすぞ」

 

「「了解!」」

 

 ルビーがショコラで援護しながら、俺とリッチで攻撃を加える。すると、どうやら本体はだいぶもろいようで一瞬で崩れてしまった。

 

「退避!」

 

「了解」

 

 念のため、鎮圧後の爆発も予想して退避する。しかし爆発もなくそのまま汚い花は散ってしまった。

 

 これほどあっさり終わるということは、確実に何かやばい能力を持っている。さっきの光でもしかしたら『F-02-i06』のクリフォトカウンターが下がってしまったかもしれない。あるいは、俺たちでは気が付けない変化が起こっているかもしれない。

 

「おい、念のため『T-09-i97』*2を使用しに行くぞ。もしかしたら自分たちでは気が付かない異常があるかもしれない」

 

「そうね、なんだか気味が悪いわ」

 

「……ちょっと待て、あそこであのオフィサーは何をしているんだ?」

 

「えっ?」

 

 リッチの指さす方向を見ると、Λ494が歩いてきていたが明らかに様子がおかしい。目はうつろで足取りもおぼつかず、そして手にはバールのような物をもってそれを『F-02-i06』の収容室の扉に向かって振り上げると……

 

「なっ、あいつ『F-02-i06』を脱走させる気だ! 管理人!」

 

『まずい、彼は魅了されている! こちらで呼びかけて正気に戻すから、君たちは彼を止めてくれ!』

 

「了解!」

 

 Λ494を取り押さえるべく俺とリッチで接近するが、一足遅くΛ494はバールのようなものを扉に振り下ろす。すると収容室の扉が開いて『F-02-i06』が脱走し、そのままΛ494を飲み込んでしまった。

 

「くそっ、失敗した。ルビーはショコラで『F-02-i06』の気を引き付けておいてくれ、俺とリッチは背後に回って殴りつける!」

 

「わかったわ、私が飲み込まれる前に間に合わせなさいよ」

 

「もちろんだ!」

 

 結局『F-02-i06』は簡単に鎮圧することができたが、これがこれから収容するアブノーマリティーが増えてからだと恐ろしいことになる可能性がある。俺の中で警戒するべき試練第一位はこの試練に決定した。

 

 ちなみに、Λ494に魅了されている間の記憶はなかった。最後の記憶はΛ494に向かってきた綿毛のようなものに当たったというものだった。その報告を聞いて職員全員に注意喚起が行われた、これで少しでも被害が減らせるといいが……

 

 とにかく、黎明とはいえ油断できないということを身をもって知ることとなったのだった。

 

 

*1
『吊された胃袋』

*2
『極楽への湯』




結局はなにもない

ただ待つことは無意味である


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情報部門
Days-06 T-04-i13『その果実は幸せそうだった』


 今日から情報チームの解放だ。なんと言うか、薄々感じてはいたが、俺は情報部門に異動となって新人を見ることになった。正直面倒でしかない。

 

「ふん、湿気た野郎だ」

 

「ジョシュア先輩、なに辛気臭い顔してるんですか?

先輩の今日の運勢は悪いんですから、そんな顔してたらもっと運が逃げていきますよ」

 

 口が悪いのがマオ、筋骨隆々でスキンヘッドの厳ついやつだ。正直あまりかかわり合いたくない。

 

 もう一人はカッサンドラ、どうやら占いが好きらしい。俺も会っていきなり占いをされた。

 

「とりあえず、二人は早速コントロール部門にいって『T-01-i12』*1の作業を行うことになっている。気を引き締めて行け」

 

「はい!」

 

「……ちっ」

 

 それだけ伝えると、二人は早速コントロール部門に向かっていった。 ……マオくん、返事くらいちゃんとしなさいな。

 

「はぁ、俺は一人でいつものか……」

 

 今からの業務に嫌気がさす、どんな存在かもわからないアブノーマリティーの一番手をさせられるのだから、いつ死ぬかわからない恐怖と戦わなければいかないのだ。

 

 もしもステータス反応で即死とか食らったら目も当てられない。どうか来ないことを祈りつつ、扉に向かう。

 

 

 

 

 

 覚悟を決めて中にはいると、生温い空気が流れてくる。臭いのに、どこか引かれる感じのする臭いは、収容室の中に佇む異形の存在から漂っていた。しかも2つ…… いや、一つと一人か?

 

 片方はタコのような頭を持つ人の姿をした異形だ。猫背になっているから俺と同じぐらいに見えるが、背は2メートルはありそうだ。頭はツルツルで、口元からタコの足のような触手が生えている。しかしいっちょまえに紳士が着るような高級そうな燕尾服をきている。

 

 もう片方は、植物のような姿をしている。黒く今にも折れてしまいそうな細い枯れた茎には触れただけでボロボロになりそうな葉。根元はスタンドランプの足のようになっており、先程の異様な臭いもこちらから出ているようだ。

 

 そして、茎の先には大きな柘榴の実のようなものがぶら下がっている。表面は硬質なようで、縦に裂けたぶぶんか らは

 

 か お? かかおがの

 

 

            ぞいてえがおす

 

 

 

  てきなに

 

 

 

               これい

 

 

    いな

 

 

 

 

          うらや ま……

 

 

 

 

 

 ……今、俺は何を考えようとした?

 

 自分のさっきまでの思考を振り払い、深呼吸をする。不快な空気が肺にたまるが、無視していったん気持ちを落ち着かせる。

 

 完全に落ち着けるわけではないが、何とかパニックにならないように気を持ち直すことはできた。こんなところさっさと終わらせてでなければ確実に持たない。

 

 デッキブラシをもって収容室中の掃除を始める。さっきまでは気が付かなかったが、床は謎の粘液で汚れていた。この汚い空間を少しでも良くしようと無心でこすり続ける。そうしている間にも、何かがうめくような声が聞こえてくる。

 

 とにかく早く終わらせたい気持ちで掃除をしていると、何かが動く音が聞こえてきた。警戒して物音のする方を見てみると、植物の隣にいた存在が、柘榴に手を伸ばしていた。

 

 タコ人間は柘榴の中にある果実を一つもぎ取ると、それを口元まで運んで行った。

 

 俺は、その光景から目をそらして作業を続ける。もがれた果実の嬉しそうな嬌声、待ち続ける果実の羨望と落胆の声。その声だけで俺の精神を深く傷つけていった。

 

 むしゃぶりつく様な咀嚼音と歓喜の歌、悲嘆と怨嗟の合唱はもはや芸術のようだ。

 

 

 

 作業が終われば、逃げるように部屋から出ていく。全身が汗でびっしょりと濡れて肌に張り付く不快感なんて気にもならず、とにかく人のいるところへ向かっていく。

 

「おい、ジョシュアどうした?」

 

「……あぁ、よかった」

 

 情報のメインルームにはなぜかリッチがいた。とにかく仲間に出会えた安堵で腰を抜かしそうになるが、何とか気を持ち直して立ち続ける。

 

「いや、ようやく『T-04-i13』の作業が終わったところでな、今から『T-01-i12』のところに行って癒されようと思ってな」

 

「……そうか」

 

 リッチは何か不思議がっていたが、何かに気づくと眉をひそめて忠告してきた。

 

「別に『T-01-i12』のところに行ってもいいが、その恰好のままで行くのか?」

 

 そういわれて自分の今の姿を再確認する。 ……さすがに汗臭すぎるし、同時に謎の匂いが染みついていた。ついでに全身がいつの間にか傷ついていた。どうやら作業中に受けていたらしい。

 

「……先に『T-09-i97』*2に入ってからにするか」

 

「そのほうが賢明だな」

 

「ところで、なんでお前がこっちに来てんだよ?」

 

「……別に、もう用事は終わった」

 

 それだけ言うと、リッチはコントロール部門のほうへ帰っていった。

 

 なんだ、もしかして俺のために来てくれたのか? なんというか素直じゃないやつだ。

 

「はぁ、とりあえずさっさと『T-09-i97』のところに行くか」

 

 『T-09-i97』の収容室に行って利用する。体に染みついて取れないかと思っていたにおいは、『T-09-i97』に浸かると見る見るうちに消えていった。ついでに着ていたE.G.O.も、『T-09-i97』のお湯をためた桶に浸けておいたらきれいになっていた。本当にこいつは万能か?

 

 

 

「ふぅ、さっぱりしたな」

 

 体をきれいにして『T-01-i12』の収容室に向かう、すると『T-01-i12』の収容室の中からロバートが出てきた。

 

「うお、どうしたロバート。お前のここの担当ってもっと前じゃなかったか?」

 

「いや~、気が付いたら結構時間たっちゃってました。次って先輩でしたか?」

 

「いや、もうすぐ昼食だから午前はいないぞ、だからちょっと癒されに来たんだ」

 

「へぇ、それじゃ俺は次のところに行って仕事してきます。ごゆっくりどうぞ」

 

 それだけ言うとロバートはせっせと逃げるように言ってしまった。よく見ると手には警棒を持っている。あいつ自分のE.G.O.はどうした? あいつにはショコラがあるはずなのに……

 

「まぁ、いいか」

 

 考えるのも疲れてきたので、『T-01-i12』の収容室に入って癒されに行く。

 

 収容室の中に入ると、さっそく『T-01-i12』が俺に抱き着いてきて歓迎してくれた。彼女は俺が精神的につらいことを察知してか、いっぱい甘えてくれた。そしてしばらくすると俺の顔をじっと見て、頭を優しくなでてくれた。いつもなでる側だから、なでられるのはなんだか不思議な気分だった。

 

 

 

「って、言うことがあったんだよ」

 

「そうか、それはよかったな」

 

 俺の感動的な話を、リッチは軽く聞き流していた。まったく、興味がないことにはとことん適当だなこいつは……

 

「……あれ? ロバートのやつ、ずいぶん時間がかかっているな」

 

「あぁ、それなら……」

 

 リッチと一緒に他愛のない話をしながら食事をする。そうすることで『T-04-i13』への恐怖を少しでも和らげようとする。もうできればあの収容室には近寄りたくない。

 

 こうして俺の情報部門での一日目が始まったのだった……

 

 

 

 

 

 今日の仕事は簡単だ

 

 『O-05-i18』*3の収容室と間違えて『T-04-i13』の収容室に入ってしまった愚かな新人の後処理だ

 

 人懐っこい笑顔が特徴的な赤毛の青年だった、彼の死体の処理をしなければならないのは億劫になる

 

 しかし、そうはならないとどこかで確信していた

 

 『T-04-i13』の収容室に入ると、いつも通りの酷い臭いが漂ってくる

 

 なるべく息を吸わないようにしながら、収容室の中心に居座る一対のアブノーマリティーたちを見る

 

 部屋のどこにも彼の死体はないが、血痕だけは残っていた

 

 あの柘榴の中身を覗く

 

 いくつもの果実の中に紛れて、それは存在していた

 

 人懐っこい笑顔は醜くだらしない笑顔と成り果て、その赤毛の髪だけが面影を残していた

 

 それはうめきながら自分の順番を待っている

 

 やがて隣の異形が動き、柘榴の中の果実を探る

 

 そして赤毛の果実をもぎ取ると口元に運んで行った

 

 

 

 

 

 やはり、その果実は幸せそうだった

 

 

 

 

 

T-04-i13 『魅惑の果実』

*1
『蕩ける恋』

*2
『極楽への湯』

*3
現状では未判明



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T-04-i13 管理情報

 『T-04-i13』は植物型の生命体と人型の生命体で一組のアブノーマリティーです。植物型の生命体を『T-04-i13』、人型生命体を『T-04-i13-1』とします。

 

 『T-04-i13』の先端には柘榴の実のような物体が存在しています。その物体には裂け目があり、裂け目の中にはいくつもの果実が詰まっています。果実は『T-04-i13-1』に食されることを望んでおり、収容室には歓喜や落胆の声がよく響きます。

 

 『T-04-i13』には、人を魅了して飲み込み、果実に変換する性質が存在します。果実は感情があるかのようなふるまいをしますが、意識はありません。

 

 『T-04-i13-1』はただそこに存在するだけの生命体です。行動するのは食事を行うときだけで、それ以外の行動を起こすことはめったにありません。また、『T-04-i13-1』とコミュニケーションをとることは不可能です。

 

 果実となった職員を解剖した結果、別の物質に変換されていることが判明しました。おそらく『T-04-i13』内で食用に加工されたものだと考えられます。果実となった職員を救出することは不可能です。

 

 

 

『魅惑の果実』

 

危険度クラス HE

 

ダメージタイプ B(3-4)

 

E-BOX数 18

 

作業結果の範囲

 

良い 16-18

 

普通 9-15

 

悪い 0-8

 

 

 

◇管理方法

 

1、作業中にパニックになった職員は、『T-04-i13』に飲み込まれて果実となった。

 

2、作業結果悪いでも同様に、『T-04-i13』に飲み込まれて果実になった。

 

3、自制3未満の職員も、同様に『T-04-i13』に飲み込まれて果実となった。

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

洞察

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

愛着

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

抑圧

1 低い

2 低い

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

◇脱走情報

 

非脱走アブノーマリティー

 

 

 

◇ギフト

幸福(手1)

 

愛着+4

 

 枯れた植物の木の根のような手袋型のギフト。

 かの存在を近くで感じられ、幸福感を得ることができる。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 幸福(槍)

 

クラス WAW

 

ダメージタイプ B(10-12)

 

攻撃速度 高速

 

射程距離 普通

 

 枯れた植物の根のような形の槍。

 この槍で頭をさせば、柘榴の実のようにきれいにはじける。

 

 

 

・防具 幸福

 

クラス HE

 

R 1.0

 

W 1.3

 

B 0.5

 

P 1.5

 

 胸部分に柘榴のような装飾の入った全体的に黒い防具。

 この防具を身にまとうことで、自分が果実になったかのような幸福感に浸ることができる。

 

 

 

余談

 

 ロボトミーの植物にろくな奴はいない!

 

 ……というわけで、ロボトミー特有の糞植物にして初のHEアブノーマリティーです。

 

 ここで、既プレイの方はお気づきになったかもしれません。あれ、HEって、情報の一日目で出てきたっけ? 情報の三日目からじゃないかって。

 

 はい、実はこれには理由があるのです。実はこの小説は、私が個人的に楽しむように作っているTRPG風Lobotomy Corporationのゲーム、それのテストプレイの施設をもとに作っているのです。

 

 せっかくなので、作ったアブノーマリティーの設定や物語を書こうと思って書き始めたのが、この小説だったりします。

 

 テストプレイは弟の協力のもと行っているのですが、基本的にこの小説でのアブノーマリティーの収容の順番は弟がテストプレイで選択したとおりであり、今回の『魅惑の果実』は最初に複数制作したアブノーマリティーの一つだったのです。

 

 そこで、せっかくテストプレイだからと言って、早めにHEを出したいなって思い入れていました。事前にHEがいることは伝えていましたが、二日目から選択に出てきていたのでHEとは思わず収容してしまったようです。正直申し訳なかった。

 

 最初は三つ目の即死条件が60秒以上の作業で即死だったのですが、ゲームシステム上どうしても自制が3なければ即死してしまうので、『魅惑の果実』の性質的にもこっちのほうがあっていると思い自制3未満で即死に変更しています。

 

 そんな条件だったため、職員が全く育っておらず、作業した瞬間即死してしばらく放置されていました。悲しい……

 

 クリフォト暴走がついてもカウンターなしのため完全放置で、ある程度育ってからもう一度って感じでした。

 

 ちなみにそんな感じの適当加減だったため、この後に追加したアブノーマリティーの中にWAWをいれたりして、予想よりはるかに早くWAWを収容するなどとんでもない地獄絵図になりました。その分職員の育成は早くなりましたが……

 

 

 

 ちなみに、このアブノーマリティーも結構気に入っていたアブノーマリティーの一体だったりします。気に入ってるやつばっかりだなって思うかもしれませんが、そればっかり収容されるので仕方がありません。

 

 この『魅惑の果実』は昔考えた敵キャラの一体だったと思います。昔の設定を引っ張り出して再利用した感じなので、『幸せな金魚鉢』と同じような感じですね。

 

 もともとは隣の人型が本体だったのですが、アブノーマリティー的には植物のほうが本体っぽいなって思い、変更しました。

 

 ちなみに、本編の糞植物どもに倣って、この小説で出てくる植物は総じて糞です。

 




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Days-07 O-05-i18『その灯火は決して消えない』

すいません、昨日某ソシャゲのイベントのラストスパートしてたら遅れてしまいました。

なるべく遅れないように気をつけます!


顔を水で洗い、顔をあげる。鏡に写っている顔はもう、情けない表情はしていなかった。

 

これから同じようなことは何度も起こる、気持ちを切り替えねば。

 

 

 

「ようシロ、おはよう」

 

食堂で朝食をとっていると、隣にシロが座ってきた。彼女も今から朝食らしい。

 

シロの食事はサンドイッチとチョコプリンだった。少し量が少ないようにも感じると同時に、朝からデザートかと思わず笑いそうになる。彼女は結構可愛らしいところがあるな。

 

「そういえば、この前『T-01-i12』*1の収容室に入ったときにな……」

 

シロはあまり喋らない、だから一緒にいるときは基本的に俺が一方的に話しかける事になる。

 

もしかしたら嫌がっているかもしれないが、よくこうして一緒に食事をしたりするのでそんなことはないと思っておきたい。

 

「さて、そろそろ時間だな」

 

食器を片付け、お盆にのせて立ち上がる。すると、丁度シロも食べ終わったようで一緒に立ち上がった。

 

「お前ももう行くのか?」

 

 彼女は何も語らなかった。だけどいつもより表情が柔らかくなっていたような気がした。

 

「……そうだシロ、この前はありがとな」

 

 なんとなく、前のお礼を今言ってしまった。彼女の顔も見れずに歩いていたが、彼女も俺の顔を見ようとはしなかった。その後リッチにからかわれたので、とりあえずしめることにした。

 

 

 

 

 

 今日の作業は『O-05-i18』、オリジナルというところに多少の不安を感じる。とにかく昨日のようなやばいやつでない事を祈りながら収容室に入る。すると、予想外のものが収容室の中に置いてあった。

 

「……ろうそく?」

 

 収容室の中で煌々と光り輝くものは、人の手の形をした燭台であった。

 

 その手は、決して届かぬところに必死に手を伸ばそうとするような、苦しみから逃れるために助けを求めているような形をしている。人差し指のところには青白いような薄緑のような光が常に灯っており、見つめていると引き込まれるような感覚が襲ってくる。

 

 ……あまり見つめておくのはやめよう、こういう感覚はろくな事にはならないと相場で決まっている。

 

「全く、こいつに何の作業をすれば良いというのやら……」

 

 とりあえず思いつく作業を行うことにする。といってもいつもの洞察作業だが……

 

 掃除用具を使って収容室の中を清潔にしていく。ついでにぞうきんで燭台を拭いていく。

 

 大分綺麗になってすっきりしてきたな。それにしても、随分疲れた気がする。もしかしたら掃除だけで無く、こいつの作業に失敗しているからだったりするかもしれない。

 

「……あれ、火が消えている?」

 

 そんな事を考えていると、『O-05-i18』から火が消えている事に気がついた。いきなりどうしたのかと不思議に思っていると、よくわからない感じが俺を襲ってきた。危険な感じがするような、そうでもないような変な感じだ……

 

「いや、気のせいか? でも、危なくない感じでも気をつけた方が…… あれ?」

 

 しばらく『O-05-i18』を眺めていると、低い地響きのような音が聞こえる。なんだ、どうなっている?

 

 『O-05-i18』をよく観察していると、土台のところから光が漏れ出し、ロケットのように焔を噴出し始めた。

 

「……はぁ?」

 

 状況に追いつけていない俺をよそに、ロケットのように飛び立つ『O-05-i18』は、その手の先を突きのように手を細めて俺の方に飛んできた。

 

「いやいやいや、どういう状況だよぉぉぉぉ!?」

 

 思わず襲い来る『O-05-i18』から逃げ出そうとする。そんな俺を追いかけて、『O-05-i18』は俺に襲いかかってくる。

 

『『O-05-i18』が収容違反を起こしました、エージェントの皆様は、至急鎮圧に向かってください』

 

「なんでお前が脱走するんだよぉぉぉぉ!!」

 

 こうして俺と、『O-05-i18』との因縁が始まる…… のか?

 

 

 

 

 

 O-05-i18 『尽きぬ蝋燭』

 

 

 

 

 To Be Continued……?

 

*1
『蕩ける恋』



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O-05-i18 管理情報

 『O-05-i18』は人の手の形をした燭台型のアブノーマリティーです。

 

 『O-05-i18』に灯る火は決して消えることは無く、蝋が尽きることもありません。また、無味無臭です。

 

 『O-05-i18』に灯る火の光は明るすぎず、暗すぎないちょうど良い明るさです。しかし、夜更かしの明かりとして利用することは禁止されています。

 

 

 

『尽きぬ蝋燭』

 

危険度レベル TETH

 

ダメージタイプ W

 

E-BOX数 12

 

作業結果の範囲

 

良い 11-12

 

普通 7-10

 

悪い 0-6

 

 

 

◇管理情報

 

1、作業結果普通の場合、確率でカウンター減少

 

2、LOCK

 

 

 

◇作業結果

 

本能

 

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

洞察

 

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

 

 

愛着

 

LOCK

 

 

 

抑圧

 

LOCK

 

 

 

◇脱走情報

 

LOCK

 

 

 

◇ギフト

 

LOCK

 

 

 

◇E.G.O

 

・武器

 

LOCK

 

 

 

・防具

 

LOCK

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 何だよこの情報、ほとんどLOCKじゃねぇか!? とお思いの方、大丈夫です。そのうち解放されます。

 

 実は、このアブノーマリティーはとあるギミック付きのやつだったりします。そう、ロボトミーではよくあるあのタイプです! 某魔法少女や某鳥たち的なやつ、結構好きなんですよね。こう、情報を開示していくにつれて本性を表していくような感じがして。

 

 とはいえ、このアブノーマリティーはそんなにぞっとするような変化があるわけではありませんが…… というか、他の同じタイプのものもさして意味のあるわけでは無いような…… 難しい。

 

 このアブノーマリティーについて言えることは、現時点ではあまりありません。最初このタイプの書き方をどうしようか悩んでいたのですが、結局二回に分けて書いていくことにしました。とはいえすぐに続きがあるわけでは無く、5日目に追加で書いていこうと思います。

 

 今後も同じようにこのタイプが出たら、二回に分けて話が書いていくことになるとおもいます。もしかしたら変更するかもしれませんが……

 

 

 

 これ以上お話しできることも無いのですが、文字数が少なすぎるのででもう少し何かお話をしたいと思います。

 

 まだまだ始まったばかりの当施設ですが、前回言ったとおりネタ自体は結構先まで続いています。ネタバレはなるべく避けますが、実は情報施設はかなりの魔境となっています。……まぁ、後々もっとやばいところが出てきたりしますが。

 

 まだまだHEまでしか出ていませんが、実は初期から選択肢に出てくるALEPHになるアブノーマリティーや、3鳥枠やゲームでは無い超特殊条件のALEPHクラスアブノーマリティーもいたりします。そのうち出ることになると思うので、是非どんなやつなのか想像していただけると嬉しいです。

 

 それと、次回のアブノーマリティーの情報についてですが、管理番号と台詞の一文だけで無く、ゲームのように収容室から見える姿もつけた方がいいか少し悩んでいます。

 

 管理番号と台詞の一文だけか、姿も書くか。どちらの方が予想が楽しいか、一回アンケートを採ってみようと思います。とりあえず情報の最終話の一つ前まで集計して、どうしようか考えようと思います。

 

 これからも、本作をよろしくお願いします。

 




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Days-08 F-01-i05『生まれぬ魂に、憎しみだけが集まった』

「見ろよ、新しいE.G.O.だ。これで、今まで以上に戦えるぞ!」

 

「全く、あまり調子に乗るなよ?」

 

「わかってるって」

 

 リッチとシロに新しいE.G.O.を見せびらかしながら会話する。

 

 今俺が持っているE.G.O.は、『T-04-i13』*1から作られた槍型のE.G.O.、“幸福”だ。枯れた植物の根のような見た目だが、意外と丈夫で軽いため使いやすい。

 

 振れば悲しみの、突けば歓喜の叫びが聞こえてくるが、この際聞こえないことにする。ちなみに、自制心の無いやつがこれを装備すると人に自分を食べさせたくなるそうだ。やだこわい。

 

「これならそうそう負ける気はしないな」

 

「そう調子に乗ったやつから死んでいく、いつもお前が言っていることだぞ」

 

「わかってるって、ちょっとくらい良いだろう?」

 

 新しいE.G.O.を身にまとい、機嫌良く廊下を歩いて行く。今日はなんだかいけそうな気がする。

 

 

 

 

 

 今日相手するアブノーマリティーは、『F-01-i05』。果たしてどんなやつが出てくる事になるのだろうか……

 

「はたして、鬼とでるか蛇とでるか」

 

 気合いをいれて収容室の扉に手をかけ、中に入る。すると、甘くすえた臭いが漂ってきた。その余りに強烈な相反する臭いに、思わずむせそうになる。

 

「うっ、なんだこの臭い」

 

 手で鼻を押さえたくなる衝動を抑えて、中の様子を窺う。

 

 それを見た瞬間、さっきまでの機嫌はどこかへ消え去り、俺は恐怖を感じてしまった。

 

 

 収容室の中には、巨大な桃が置いてあった。その桃は完全に腐っており、形を残していることによりかろうじて桃と判断できた。

 

 やはり、先程の甘くすえた臭いはここから放たれており、嫌でも存在を認識させてくる。さらには恐ろしいほどの邪気が漂い、俺を引きずり込もうとしてくる。

 

 ついでに桃の方から視線のようなものを感じる。……もしかしてサンドバッグみたいに見ちゃダメとか無いよな?

 

「と、とりあえず作業をしよう」

 

 今日も今日とて、作業は清掃。いつも通り作業をしていくが、なんだかどんどん集中力が無くなってきた。

 

 ……もしかしてこれは精神ダメージか? まずいな、この装備は精神ダメージが弱点だ。

 

 しかもこいつ、ZAYINやTETHなんかじゃ無い。HE、いやもしかしたらそれ以上の可能性も……

 

「あっ、まずい……!?」

 

 そこで、油断していたのがまずかったのか。一瞬意識が遠のきそうになった。精神を蝕まれ、どんどん恐ろしい考えが頭の中を埋め尽くしていく。まずい、このままだと死んじまう。どうすれば良い? きっとみんなこいつにやられちまう、そのうちだれもがおかしくなってしんでしまう。どうせなら、いっそみんなでいっしょに……

 

「あぁ! だめだ、そんなのはだめだ!」

 

 『F-01-i05』からかんじるじゃきがどんどんつよまり、おれをおそおうとしてくる。それがおそろしくて、こわくて、やつからにげだそうとして、どうにか踏みとどまる。ここで逃げ出そうものならこいつがどうなるかわからない。明らかにやばそうなこいつのことだ、脱走せずとも何らかの特殊能力を持っていてもおかしくない。

 

「とにかく、なんとしてもこの作業を無事に終わらせなければ……」

 

 気合いを入れ直して作業を続ける。そしてなんとか作業終了の時間まで意識を耐えきる事が出来た。

 

「こ、れで、終わりだな……」

 

 なんとか作業を終えて収容室から退出する。精神にあまりの負担がかかってしまい、どうしても頭が痛い。

 

 作業中の疲労が大きかったせいか、俺は『F-01-i05』の異常に気づくことができなかった。『F-01-i05』の外側から、いや外殻からミシミシときしむような音が出ていたことに……

 

 

 

 

 

「おい、大丈夫かジョシュア」

 

「あぁ、リッチか。まぁ、なんとかなったよ……」

 

 収容室から出ると、リッチが待ち受けていた。最近作業が終わるとこいつがいつもいる気がする。なんというか、こいつ俺のこと好きすぎない?

 

「随分手酷くやられたらしいな。ほら、これでも食え」

 

「おっ、ありがとう」

 

 リッチが手渡してきたのは、チョコレートだった。それも、おそらくは『T-01-i12』*2から受け取ったものだろう。せっかく受け取ったものだ、ありがたく頂戴しよう。

 

「それで、今回の……」

 

「まて、なんか変な感じがする」

 

「えっ?」

 

 チョコレートを食べて多少元気がわいてきたとはいえ、リッチの言うことにまだ鈍る頭を必死に振り絞る。確かに恐ろしい気配を感じる。それにこの邪気、先ほどまで感じていたような……

 

「ギュオォォラァァァァ!!」

 

「なっ、まずいぞ!!」

 

「くっ、非戦闘員はすぐに避難しろ!!」

 

 何の準備もする時間も無く、『F-01-i05』の収容室からおぞましいナニカが飛び出してきた。

 

 リッチが非戦闘員の避難指示を出したがすでに遅く、何人ものオフィサーが発狂してしまった。

 

 思わず吐きそうになるほどの腐臭は眼がしみるほどであり、おどろおどろしい邪気が体にまとわりついてくる。

 

 そこにいるのは、大きな桃。いや、その大きな桃から上半身だけを這いずり出した死体のような餓鬼であった。

 

 眼孔には何も無く、虚ろな孔だけがこちらをのぞき込んでくる。その枯れ果てた喉からは声にならない雄叫びを絞り出し、こちらに向けてくる。

 

 憎しみの詰まった悪鬼が、その凶刃を俺たちに向けてきた。

 

『『F-01-i05』が脱走しました、エージェントの皆様は直ちに鎮圧に向かってください』

 

「まずい、リッチ避けろ!」

 

「言われなくても!!」

 

 『F-01-i05』の突進からなんとか逃れるが、明らかに調子がおかしい。『F-01-i05』の背後をとりつつ、“幸福”で薙いで突いて攻撃する。リッチも遠距離からショコラで援護してくれている。

 

 リッチが相手の注意をそらしつつ、俺が『F-01-i05』に攻撃を加える。細心の注意を払って攻撃をよけていたが、明らかに精神へのダメージが蓄積されている。

 

「……これは、もしかしなくても継続ダメージ付きか?」

 

「おいおい、そいつはまずいな」

 

 継続ダメージがあると言うことは、ネツァクのコア抑制も行っていない今、長期戦になればこちらが不利になる。特に今、俺は作業による精神へのダメージが大きく、このままだと俺がパニックになってしまう。そうなればこの中で一番装備の良いせいで、確実に戦線が崩壊する。

 

「このままだとやばいな、短期決戦しか無い」

 

「あぁ、出来るか?」

 

「やるしかないだろ?」

 

 その言葉を皮切りに、リッチが『F-01-i05』の顔に集中的に攻撃を加える。やつはひるみはしないものの、その気を引きつける事が出来た。

 

 その一瞬の隙を突いて“幸福”で『F-01-i05』の口に突き刺す。よく見れば、『F-01-i05』の口の中は歯も無くカラカラで乾燥していた。そんなどうでも良いことを考えながら突き刺し、奥に押し込む。

 

 『F-01-i05』はそれに抵抗して、喉をかきむしるように俺をひっかいてくる。そのたびに精神がごりごりと削れていくが、ここで手を離せば結局終わりだ。気がつけば他の職員たちも集まって攻撃を加えてくれている。

 

「くそっ、いい加減、早くくたばりやがれ!!」

 

 幸福をさらに奥に差し込み、ねじる。すると、『F-01-i05』は痙攣してしばらくすると、動かなくなってしまった。

 

「よ、ようやく終わっ…… あっ」

 

 最後の最後で気を抜いたのが悪かったのか、『F-01-i05』の最後の一撃が俺に当たってしまった。

 

「ジョ、ジョシュアァァァァ!!」

 

 『F-01-i05』の最後の一撃を受けてしまい、俺はパニックになってしまったそうだ。その後俺は“ショコラ”による一斉攻撃を受け、なんとかパニックから立ち直った俺は、もう二度と初手に洞察作業を行わない事を決意した。

 

 

 

 

 

 川から流れる大きな桃は、優しい老婆に拾われる事を願っていた

 

 しかし、いくら川を下っていっても、誰にも出会うことすら無い

 

 いずれ川を抜け、海へと至る

 

 桃は波に揺られ、そのまま時だけが過ぎていく

 

 割られることの無い桃に、誕生の瞬間など訪れるはずも無かった

 

 やがて鬼たちは人々を迫害し、宝も、食料も、命すら奪っていった

 

 救われぬ魂はこの世に怨念を残し、救いの手を差しのばさぬ英雄を呪った

 

 その怨念は大地を漂い、川から流れ、波に運ばれ、そして……

 

 

 

 

 

 生まれぬ魂に、憎しみだけが集まった

 

 

 

 

 

F-01-i05 『彷徨い逝く桃』

 

*1
『魅惑の果実』

*2
『蕩ける恋』



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F-01-i05 管理情報

 『F-01-i05』は大きな桃型のアブノーマリティーです。収容室の中は桃特有の甘い香りと、腐り果てたすえた臭いで充満しています。

 

 『F-01-i05』からは常におぞましい邪気を感じます。気にしない方が身のためでしょう。

 

 脱走した『F-01-i05』は、その巨大な桃から上半身だけを露出して這いずるように動き回ります。また、脱走中は同じ部屋内の職員は常にWダメージを受けます。

 

 『F-01-i05』の実の部分を食べても、若返りの効果はありません。食した職員はおなかを下しました、食べる際は自己責任でお願いします。

 

 

 

『彷徨い逝く桃』

 

危険度クラス WAW

 

ダメージタイプ W

 

E-BOX 22

 

作業結果範囲

 

良い 17-22

 

普通 9-16

 

悪い 0-8

 

 

 

◇管理方法

 

1、作業結果普通の場合、確率でカウンター減少。

 

2、作業結果悪いの場合、高確率でカウンター減少。

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

洞察

1 低い

2 低い

3 低い

4 普通

5 普通

 

愛着

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

抑圧

1 高い

2 高い

3 高い

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 1

 

R 耐性 0.8

 

W 耐性 0.5

 

B 弱点 1.2

 

P 弱点 1.5

 

 

 

◇ギフト

 

鬼退治(頭2)

 

HP+2

 

正義+4

 

 中心に桃の印のついたはちまき。つければ勇気がわき出てくる。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器

 

鬼退治(剣)

 

クラス WAW

 

W 13-15

 

攻撃速度 普通

 

射程 普通

 

 鋭い切れ味の野太刀、装備すれば鬼を切りたくてうずうずしてくる。

 

 

 

・防具

 

鬼退治

 

クラス WAW

 

R 0.8

 

W 0.5

 

B 1.0

 

P 2.0

 

 勇ましき武士の鎧、つければどんな攻撃にもひるまずに進めるという。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 はい、ということで唐突なWAWです。情報部門なのにWAWです!!

 

 前に言ったとおり、こっそり二つWAWを入れていたのですが、まさか弟が引くとは思いませんでした。そこそこHEやZAYINも多く、そもそも選択肢に出てくるとも思ってなかったので正直笑うのをこらえるのに必死でした。ちなみにこの時点でTETHの残りが1体だけになっていたのですが、気付いたのは大分後になりました。

 

 もちろん、情報の時点でWAWの相手など出来ず、最初はかなり逃げ出しやすかったのでしばらく作業してもらえなかったです。悲しい……

 

 このアブノーマリティーの元ネタは、皆さんわかると思いますが日本では有名なあの童話です。

 

 せっかくファンタジーで作るなら、日本のものでも作りたいと思いおそらく一番日本で有名なものから作りました。

 

 情報部門のアブノーマリティーは、HE TETH WAWとめちゃくちゃな部門になってしまいました。これだけでも色々とすごいのですが、他の部門も結構個性的なところがあります。ちなみにツールも結構あれですね……

 

 次のツールも楽しみにしていてください。

 




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Days-09 T-09-i98 『今日も良い日でありますように』

「おいパンドラ、その抱えているものは何だ?」

 

「あっ、え~と…… チョコレート、です?」

 

「そんなわけあるか!? 何収容室から『T-01-i12』*1を連れ出そうとしてるんだ!!」

 

「ひぃ~、すいませんかわいかったのでつい~」

 

 新しく入ってきたパンドラは、早速問題を起こす疫病神だった。E.G.O.を食べようとしたり、振り回したり、面倒事しか起こさない。今日も早速やらかしたのでしかっていると、横から声をかけられた。

 

「ジョシュア先輩、そんなに怒っても仕方ないですよ?」

 

「カッサンドラか、だがこいつはほっとくとろくな事を……」

 

「まぁまぁそう言わずに、今日のジョシュア先輩がそんな事をすると運気が落ちますよ」

 

「また占いか、ほどほどにな」

 

 カッサンドラは占いが大好きで、よく自分だけで無く他の奴らの運勢も占っている。

 

 ちなみに彼女が俺に話しかけている間に、パンドラはどこかに逃げたらしい。後でしめるか。

 

「それで、何か話があるんだろ?」

 

「はいジョシュア先輩、今日来たアブノーマリティーはもう使いましたか?」

 

「使ったって、そういえば今日はツール型の来る日か……」

 

 そういえば、今日の最初の仕事は初めてのアブノーマリティーでは無かったな。何というか、そろそろ初手俺はやめて欲しい……

 

「はい! なんと今日は占いが出来るんですよ、なんだか良いことがありそうですね!」

 

 そう言うと、カッサンドラは鼻歌を歌いながらスキップをしてどこかに行ってしまった。なるほど、だから機嫌が良さそうだったのか。今朝は運勢が悪かったって落ち込んでいたのに。

 

「まぁ、とりあえず行ってみるか」

 

 占いとかろくでもない気がするが、さすがに今日死にますとかドストレートなのはないだろう。 ……無いよな?

 

 

 

「さて、今日はどんなものかな」

 

 早速今日来たツール型アブノーマリティーである、『T-09-i98』の収容室の前に来た。とにかくツール型と言うことで雑に入って一目見ることにする。

 

 収容室の中には、チープなキャンディボックスが置いてあった。透明な容器の中には赤、白、紫、青の四色の飴が入っている。地味に大きめなので舐め終わるまでに時間がかかりそうだ。

 

 何というか、カッサンドラの話でだいたいどうやって使うかわかる。わかるが、もう占いと言うことで嫌な予感はぬぐえない。

 

 だってここ、ロボトミーだよ。あのロボトミーだよ、安全なんて一番遠い言葉のこの場所で、占いなんて悪いことしか起こりそうに無い。

 

「まぁ、とりあえず使っておくか」

 

 今日の作業もほとんど終わりということもあり、せっかくなので使用してみることにする。

 

「さてさて、何が出るかな?」

 

 コインの入れ口は無いので、とりあえず取っ手を回す。こんなの前世の子ども時代に回したガチャガチャ以来だな。

 

「うーん、赤色か」

 

『今日のあなたの運勢は、勇気を持って行動すれば良いことが起こるでしょう。ただし、慎重になりすぎではいけませんよ』

 

『今日も良い日でありますように』

 

「うおっ」

 

 飴玉が出てくると、いきなり頭の中に声が響いた。いきなりのことにどきっとしてしまったが、特に害はなさそうだ。

 

「う~ん、イチゴ味か……」

 

 ツールから出てきたものを食べるのはどうかと思うが、逆に食べない方がやばそうなので口に入れることにした。少し大きめの飴は口の中で転がすと、結構あごが疲れて大変だ。

 

「さて、勇気を持ってって何だよ。もしかして本能作業を行えってか? さすがに安直すぎるか……」

 

 とりあえず収容室を出て、今日最後の作業を行いに行く。ちょうど本能作業だが、大丈夫だろうか?

 

「まぁ、やってしまったことは仕方が無いか……」

 

 とにかく即死がない事を祈りつつ、収容室に入る。意外にも、作業自体はいつもよりうまくいった気がした。

 

 

 

「さて、今日は紫色か」

 

『今日のあなたの運勢は、強く己を律して行動すると良いでしょう。本能の赴くままに行動してはいけませんよ』

 

『今日も良い日でありますように』

 

 あれからこいつの効果を色々と検証してみたが、どうやら色に対応する作業を行うと効率が上がるようだった。逆に、やらない方が良いと言われた作業を行うと効率が落ちてしまうようだ。自分がなめた飴の色は忘れない方が良いだろう。

 

「さて、それじゃあ今日は愛着作業を中心に行っていくか……」

 

 のびをしながら廊下を歩いていると、前方からご機嫌のカッサンドラが歩いてきた。

 

「あっ、ジョシュアせんぱーい!」

 

「おう、カッサンドラか。なんだか機嫌がよさそうだな、今日の占いが良かったのか?」

 

「はい、今日の『T-09-i98』の結果がすごかったんですよ!」

 

「すごかった?」

 

 どういうことかと尋ねると、カッサンドラは得意げに語ってくれた。

 

「なんと青い飴が出てきたんですよ、こんなの初めてです! 『自分の正義に従えば、すべてが良くなるでしょう』って、今までで一番良い結果ですよ!」

 

「いや、そもそもパターンが少なすぎるだろうが……」

 

「いいんですよ、別に。私はこの後『T-04-i09』*2の作業があるので失礼します。それではまた後で!」

 

 カッサンドラはそういうと、また機嫌良くスキップしていった。全く、いつも通り元気なやつだな……

 

 いやまて、なんだか嫌な予感がする。いつもなら何がいけないかちゃんと教えてくれるのに、今回はすべてが良くなる? それに、今まで『T-09-i98』を使ってきた奴らの話を聞いてきたが、青色なんて聞いたことが無い。

 

「おい、カッサンドラ、待て!」

 

 すぐにカッサンドラを追いかけるが、もうすでに見当たらない。すぐに追いかけなくては、まずいことになる気がする……

 

 だが、その行動は結局、無駄となってしまった……

 

 

 

 

 

 人とは、極限状況になれば普段は信じないものでも信じてしまいたくなるものだ

 

 このような普段から死と隣り合わせの場所であれば、その傾向は多くなる

 

 占いなんて、外れればそんなもの、当たれば印象に残ってすごいって思うものだ

 

 特に私の占いには実利がある、自分の死から遠ざかるには私の占いを信じるしか無い

 

 何度も利用すれば、その分だけ信頼されていく

 

 不思議なものだ、完璧な占いなんて無いというのに

 

 占いを信じて、信じて、信じて、そして裏切られる

 

 占いが良かったからって自分は安全だと信じ切っている

 

 その信じ切った眼が絶望に変わる瞬間が、何よりも美しい

 

 私は今日もその結末を見るために占い続ける

 

 

 

 

 

 私にとって、今日も良い日でありますように

 

 

 

 

 

T-09-i98 『フォーチュンキャンディ』

 

*1
『蕩ける恋』

*2
『現状では未判明』



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T-09-i98 管理情報

気が付けば、昨日の日間ランキングにこの作品が載りました!
これも支えてくださった読者の皆様のお陰です!
これからも、『誰も知らないアブノーマリティー』をよろしくお願いします!


 『T-09-i98』は安っぽいキャンディボックスの形をしたツール型アブノーマリティーです。

 

 『T-09-i98』の中に入っているキャンディは赤、白、紫、青の四種類有り、それぞれイチゴ、ミルク、グレープ、●●味です。

 

 『T-09-i98』の内部の飴玉は、自動的に補充されます。誰が、どのように行っているのかは判明していません。

 

 『T-09-i98』から出てきた飴玉は必ず食べるようにしてください。

 

 『T-09-i98』から複数の飴玉を出し、同時に食べても適応される占いは最初のものだけです。ですからそんなはしたない事はしないでください。『T-09-i98』もあきれた声で話しかけてきます。

 

 

『フォーチュンキャンディ』

 

危険度レベル ZAYIN

 

単発使用型

 

 

 

◇管理方法(情報解放使用回数)

 

1(1)

 『T-09-i98』を使用すると、飴が出てきた。

 

2(3)

 赤いキャンディを食べると、本能作業の効率が良くなり、洞察作業の効率が下がった。

 

3(5)

 白いキャンディを食べると、洞察作業の効率が良くなり、愛着作業の効率が下がった。

 

4(7)

 紫のキャンディを食べると、愛着作業の効率が良くなり、本能作業の効率が下がった。

 

5(10)

 青のキャンディを食べると、抑圧作業を行った瞬間死亡した。

 

6(10)

 キャンディを食べなかった場合、即死した。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 やっぱり、ツールに即死は義務なんだよなぁ……

 

 今回のツールは作業効率が上がる場合は、作業結果の予測が一段階上昇します。つまり、普通は高いに、低いは普通に、高いは最高になります。

 

 逆に下がる場合は一段階下がります。なので使う場合はちゃんと確認しておきましょう。

 

 この効果から、場合によっては育成用のツールとして使えるかもしれません。まぁ、効果が判明するまでにあまり使いたいものでもありませんが……

 

 ちなみに、この『T-09-i98』ですが、あまりに効果がひどかったので修正されています。最初は即死条件が5つあり、ろくに使える状態ではありませんでした。なんせ一段階下がるのでは無く、即死するだったのですから。

 

 作っているときには「あっ、なんか良い感じに出来た」と思っていたので、大分頭の中がやられていたみたいです。

 

 このツールは、初期に作った三つの内の一つです。ZAYINの単発使用型と言うことで、少しおとなしめのものを作ろうと考えていたのですが、弟には大不評でした。

 

 ついでに、すでに中央本部が終わっているというのに、未だに情報の完全開示がされていません。悲しくもありますが、よく考えれば自分もプレイ中ツール型は基本的に無視していたことを思い出しました。そんなものだったなぁ……

 




Next T-04-i09『この枯れた大地に、種を撒こう』


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Days-10-1 黄金の黎明『旗揚げ』

さぁ 志を持って立ち上がろう

自分たちが一番すごいと言うことを証明しよう


「おいジョシュア、何してる?」

 

「あぁ、マイケルか。今パンドラを折檻してるんだ」

 

俺がパンドラに正座をさせていると、なにか用があったのかマイケルが話しかけてきた。

 

「マイケルさん、助けてくださいぃぃぃ!」

 

「またか、今度は何をした」

 

「ストーブで“ショコラ”を乾かそうとしたんだ」

 

「あんなことになると思わないじゃ無いですかぁ!」

 

「だから渡したときに、溶けるから暑い場所に置くなってちゃんと伝えたじゃないか!」

 

「そんなの冗談だと思うじゃないですかぁ!」

 

パンドラは涙目になりながら訴えかけてくるが、無視する。そもそもこの職場では、そんなことはないと考えていれば足元を掬われるだけだ。気を抜いてはいけない。

 

『情報部門にて試練が発生しました、エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

「……!? ほら、試練が発生したから行きましょう! 早くしないと大変なことになりますよ!」

 

「……はぁ、わかったわかった。それじゃあ今すぐ行くぞ」

 

「よし、うやむやに出来ました!」

 

「それは言わない方が良いと思うんだけどね」

 

 パンドラの言動にあきれながら、マイケルも俺に着いてきて目標のいる廊下まで向かう。黎明とは言え早めに対処した方が良いだろう。

 

 

 

「……あれが、今回の試練か」

 

「何ですかあれ、かわいいじゃ無いですか!」

 

 そこにいたのは、二頭身の可愛らしい小人であった。手にはステッキを持ち、頭には手作り感のある冠をかぶっていた。

 

 そんな見た目にだまされたのか、パンドラは無警戒に小人に近づいていく。

 

「まてパンドラ! そんな見た目でも試練だぞ!」

 

「そんな事言っても、可哀想じゃ無いですか!」

 

 俺の言葉には聞く耳を持たず、パンドラは小人を抱き上げる。ナニカ洗脳されているのかもしれない。

 

「……ジョシュア、あれどうする?」

 

「どうするもこうするも、とりあえず引きはがすしか……!?」

 

 どうやって引きはがすか決めあぐねていると、突然試練が黄色く光り始めた。そしてしばらくすると輝きは収まり、元の様に戻っていた。

 

「くそっ!!」

 

「あぅ」

 

 俺はパンドラの横腹を蹴って引きはがすと、マイケルと合流しに来たリッチとルビー、シロと一緒に試練に総攻撃を仕掛ける。小さい見た目なのに以外とタフで驚いた。

 

「くそっ、なんてこった」

 

「ひどい、いきなり何するんですか!?」

 

 パンドラがわめいているが、そんな事はどうでも良い。こいつは自分勝手な行動で皆を危険にさらしたんだ……

 

「……パンドラ、ちょっとこい」

 

「えっいきな…… もしかして、怒ってます?」

 

「あぁ、カンカンにな」

 

「えっ」

 

 パンドラの顔が青ざめる。こいつには異常が無いかを確認するために『T-09-i97』*1に沈めたまま説教をすることにする。

 

 そして俺は、のぼせるまでパンドラに説教をすることになった。

 

 

 

……ちなみにだが、そのあとエネルギーが減っていることに気がついた管理人が、絶叫したという。

 

*1
『極楽への湯』




力のないものに 志は不要であった


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Days-10-2 青空の黎明『自由なるもの』

ふと見上げると

自由なものたちが飛び回っていた


「シロ、今日は少し小食だな?」

 

「そうか? こいつはいつもこんなもんだろ」

 

 今日もシロとリッチと一緒に食事をしていると、シロの食事が少しだけ少なくなっていることに気がついた。リッチのやつは興味が無いのか気付いていなかったが、食べているサンドイッチがいつもより少なかった。それに、心なしか少し元気がなさそうな気がする。

 

「シロ、何かあったら俺に言えよ?」

 

 俺が心配していると、シロは俺の顔をじっと見つめてきた。なんというか、そんなにじっと見られていると落ち着かない。

 

 今更目をそらすのも悪い気がしてしばらく見つめあっていると、横から大きなため息が聞こえてきた。

 

「はぁ、そうやっていちゃいちゃするなら、よそでやってくれ」

 

「はぁ!? そんなわけ無いだろうが!」

 

 リッチの煽りに思わず反論すると、周りからも笑い声が聞こえてきた。

 

「……てめぇ」

 

「なんだ、自覚はあるんだろ?」

 

「あるわけ無いだろ!」

 

『情報部門にて、試練が発生しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

 言い争いをしている最中に、今日の試練が来てしまった。俺たちは急いで立ち上がると、E.G.O.を持って試練の鎮圧に向かった。

 

 

 

「ちっ、今回はメインルームか」

 

「文句を言っても仕方が無い、行くぞ」

 

 情報のメインルームに待っていたのは、氷で出来たツバメのような鳥であった。しかも一匹では無い、何体ものツバメが飛び回り、職員たちを突き、攻撃していた。

 

「非戦闘員を守れ! 無事なものは負傷者の回収を!」

 

「気をつけろ、こいつら眼を狙ってくるぞ!」

 

「了解!」

 

 相手がどこを狙ってくるかわかっているなら対処は簡単だ。俺の目を狙ってくるツバメに幸福を叩きつける。すると見た目通り、ツバメは簡単に砕け散った。

 

「こいつらは当たればどうとでもなる! 落ち着いて対処しろ!」

 

「言われなくてもわかっている」

 

 俺が幸福を振り回している間にも、逃げ遅れたオフィサーたちがどんどん傷ついていく。シロもショコラで的確に撃っていくが、いかんせん数が多い。シロに迫るツバメたちを追い払いながら攻撃していく。

 

「みんな、待たせたわね!」

 

 相手の数に押されていると、ルビーが他の仲間たちを集めてきてくれた。そして全員でツバメを攻撃することで、数だけが取り柄であったツバメたちはどんどん数を減らしていき、ついに全滅させることが出来た。

 

「ふぅ、なんとかなったわね」

 

「気をつけろよルビー、念のため残党を探すぞ! 後から来た奴らは負傷者の手当をしてやってくれ!」

 

 幸い、ツバメの被害に遭った奴らの中に死者はいなかった。しかし、小さくすばしっこい上に、数で攻めてきた奴らに何度も攻撃を受けて、重傷になってしまったやつも何人かいた。

 

 命があるだけ儲けものだが、彼らが職場に復帰するのはもう少しかかるかもしれない。

 




見上げても何もいない

何も始まらない


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EX-Story-1 『残滓』

「全く、お前も懲りないやつだ」

 

 目の前で飛び立つ『O-05-i18』に対して、幸福を構える。それに対して『O-05-i18』もまた、こちらにその指先を向ける。

 

 先に動き出したのは『O-05-i18』だった。その青白く、緑がかった焔を噴出させて、こちらに向かって一直線に突撃してきた。

 

 俺はその攻撃に対してフェイントを交えて攻撃する。すると『O-05-i18』はフェイントに見事に引っかかり、幸福の一撃をその体の側面に受けて焔を吹き出した。

 

 『O-05-i18』は土台と傷口から焔を吹き出しながら必死に逃げ出そうともがき苦しむが、とうとう力尽きて全身を炎に包まれた。

 

「おいおい何だよ、もう終わっちまったのか?」

 

「何だマオ、今更来たのか?」

 

「あぁ、てめぇ舐めてんのか!?」

 

「何でも無いからさっさと仕事に戻れ」

 

「……チッ」

 

 最後に舌打ちを残して、マオは次の作業に向かっていった。マオは路地裏で立ち上げた組織のトップだったらしく、俺の下に着いているのが気にくわないらしい。そのせいで何度もちょっかいをかけられるのだから、こちらとしたら溜まったものじゃ無い。

 

「ようジョシュア、これで何回目だ?」

 

 マオが去って行くと、今度はリッチがやってきた。どうやら何度も『O-05-i18』の鎮圧にかり出される俺をからかいに来たらしい。そのまま返すのもしゃくなので、とりあえず皮肉交じりに返答する。

 

「それは『O-05-i18』のことか? それともマオか?」

 

「『O-05-i18』のほうだよ、マオの方は知っても意味が無いだろう?」

 

「それもそうだな、ちなみに『O-05-i18』の脱走はこれで10回目だよ」

 

「多すぎるだろ……」

 

 正直それは思う、この施設においての一般人枠となった『O-05-i18』は、なぜか脱走する度に俺にお鉢が回ってくる。正直あまり強いやつでも無いので、別のやつに任せても良いじゃないかと思わなくも無いが、管理人の指示なので仕方なく俺が戦っている。

 

「はぁ、それじゃあ俺は次の作業に行くよ」

 

「それはお疲れ様だな、次は何だ?」

 

「また『O-05-i18』だよ、正直もう見たくないね」

 

「ご愁傷様」

 

 わざわざ手を合わせるリッチを無視して、『O-05-i18』の収容室に向かって歩いて行く。伸びをしながら歩いていると、わりかしすぐに収容室の前にたどり着いた。

 

「さて、さっさと終わらせるか」

 

 

 

 ……収容室に入ると、いつもとは何か雰囲気が違う事に気がついた。

 

 『O-05-i18』は今まで通りその指先に火をともしているが、いつもより穏やかな様子だ。火の揺らめきも落ち着いており、不思議と俺の気持ちも落ち着いてくる。

 

 そしてその火の揺らめきをしばらく眺めていると、頭の中に見たことの無い情景が浮かんでくる。

 

 俺はその現象に警戒しつつ、なぜか受け入れることにした。

 

 

 

 かつて犯した罪は決して許されず、私は常に罰を受ける

 

 この灯火が消えることなど無く、常に魂を焼かれる痛みに苛まれる

 

 だがもし焔が消えれば、私はどうすれば良いのだろうか

 

 今灯火は消え、いずれはすべてから解放されるだろう

 

 その燭台に、俺は……

 

 

 

 

 

 火を灯した

 

 

 

 

 

 ありがとう

 

 これで私は罪を償い続ける事が出来る

 

 

 

 『O-05-i18』の指先から小さな種火が飛んできて、俺の右目に吸い込まれてくる。

 

 そして瞳に宿ると、煌々と青白く、緑がかった焔が燃え上がる。

 

 その灯火は身を焼くことも無く、優しい温もりに包まれた。

 

 気がつけば、俺の目には焔が灯っていた。もしかしたら、これは『O-05-i18』のギフトなのかもしれない。

 

 ギフトとは、アブノーマリティーのねじれた自我を付与される奴らからの贈り物である。

 

 手に入れれば微弱ながらもその恩恵を得られるが、多ければ多いほど自分を見失ってしまう。力には代償がつきものだ。

 

 俺は自分からあふれる焔に手を触れながら、収容室を後にする。そして気持ちを新たに次の作業に向かう、これからも自分を見失わないようにするために。

 

 

 

 

 

 かつて大きな罪を犯した男がいた

 

 その男は大悪人であったが、誰も彼を止めることなど出来なかった

 

 だが、命とはやがては尽きるものだ

 

 男が死んだとき、誰もがその死体を弄んだ

 

 肉も骨も剥がされ、魂すらも嬲られた

 

 男の罪は死で償うことなど出来ない

 

 その魂は蝋の芯となり、火をともす燃料となる

 

 それは贖罪の焔だ、永遠に魂を焼かれる無限の罰だ

 

 それは幾億もの月日が流れようとも続き、覚えているものがいなくなろうとも終わることは無い

 

 

 

 

 

 罪は決して許されず、その灯火は決して消えない

 

 

 

 

 

O-05-i18 『魂の種』



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EX-Story-1 管理情報

本日二本投稿です。


 『O-05-i18』は罪人の手を使用した栄光の手を主とした、燭台型のアブノーマリティーです。

 

 脱走した『O-05-i18』は、焔が土台部分から噴射し、ロケットのように飛び出してきます。

 

 『O-05-i18』からは、常に人の焼ける臭いが漂っています。

 

 脱走した『O-05-i18』でキャッチボールは行わないでください、大変危険です。仮にそれが原因でパニックに陥ったとしても、誰も助けてくれない可能性があります。

 

 

 

『魂の種』

 

危険度レベル TETH

 

ダメージタイプ W(2-3)

 

E-BOX数 12

 

作業結果の範囲

 

良い 11-12

 

普通 7-10

 

悪い 0-6

 

 

 

◇管理情報

 

1、作業結果普通の場合、確率でカウンター減少

 

2、作業結果悪いの場合、高確率でカウンター減少

 

 

 

◇作業結果

 

本能

 

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

洞察

 

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

 

 

愛着

 

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

 

 

抑圧

 

1 高い

2 高い

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 1

 

R 1.0

w 1.5

B 1.0

P 2.0

 

 

 

◇ギフト

 

残滓(目)

 

正義+2

 

 青白く、緑がかった焔のギフト。その灯火は暖かく、不思議と落ち着いた気持ちにさせる。

 

 

 

◇E.G.O

 

・武器

 

残滓(ナイフ)

 

クラス TETH

 

ダメージタイプ W(2-3)

 

攻撃速度 超高速

 

射程距離 超短距離

 

 『O-05-i18』と同じ焔を宿すナイフ。その刃で切りつけられれば、魂を焼かれる痛みを味わうという。

 

 

 

・防具

 

残滓

 

クラス TETH

 

R 0.8

 

W 1.5

 

B 1.0

 

P 2.0

 

 青と白を基調としたぼろぼろの服。その汚れは決して洗い落とすことは出来ないそうだ。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 はい、という訳で初めての名前が変わるタイプのアブノーマリティーでした!

 

 このタイプはいくつかいるのですが、これからもこんな感じでやっていこうと思っています。

 

 このアブノーマリティーは、この施設における一般人枠です。

 

 すぐに脱走して、すぐに鎮圧できます。火力も低く、HPも紙なので、そのうちオフィサーにすら鎮圧されます。

 

 こんな感じで弱いですが、ギフトもかっこよく、初期で抑圧も上げることが出来るので最初の方は重宝されそうです。

 

 ちなみに今回の話ですが、少しレガシー版の最終観測を意識しております。レガシー版はしたことが無かったのですが、動画などで拝見して、製品版でも残っててくれたらなぁ、と思っていました。

 

 以前言っていた個人で楽しむようのTRPG風のゲームでは、情報をすべて解放して隠しステータスの好感度を一定値まで上げることで最終観測を行うことが出来ます。

 

 最終観測を行うと、選択肢によってはギフトを手に入れる事が出来るので、積極的に狙っていくことになりますね。

 

 ちなみに好感度の上げ方は様々で、特定の作業を行う、鎮圧する、作業結果良を出す、などがあります。

 

 もしかしたら、ジョシュア君はこれから出て来る名前の変わるアブノーマリティーのギフトだらけになるかもしれませんね。

 




ちなみに、次回のアブノーマリティーの情報に関するアンケートの結果ですが

1番の“管理番号と台詞の一文 ”

に決定しました。

これからも、次回のアブノーマリティーの情報は従来通りのものにしていきたいと思います。

皆様ご協力ありがとうございました!


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安全部門
Days-11 T-04-i09『この枯れた大地に、種を撒こう』


 それでは、これまた魔境の安全部門、始まります。


 今日からついに、安全部門が解放される。ゲームでは教育部門とどっちを先に開くか決めれたが、管理人は安全から解放していくようだ。

 

 ゲームでは教育からいつも開けていたが、現実である今は安全部門の方が正直ありがたい。自分の命に関係しているからな。

 

「さて、今回も個性的なやつが多かったな」

 

 今回の新人たちの事を思い出しながら、廊下を歩いて行く。毎度の事ながら俺が教育係を任されたが、正直俺よりも適任がいるように思える。もう俺はパンドラの相手で手一杯だ。

 

「はぁ、とりあえず新人たちには『T-01-i12』*1や『T-05-i10』*2の作業を任せているが、大丈夫だよな」

 

 とりあえず、新人たちにはΛ494たちと一緒に作った情報をまとめて渡してある。滅多なことでは死なないとは思うが、絶対など無いのがもどかしい。せめて『T-01-i12』だけなら大丈夫かもしれないが、そうなれば安全なアブノーマリティーに慣れてしまう。そうなれば慢心を招き、結局死んでしまう事になる。

 

「あっ、ジョシュアさーん」

 

「なんだカッサンドラか。どうせ占いだろ?」

 

「どうせって何ですか!?」

 

 考え事をしながら歩いていると、カッサンドラに話しかけられた。こいつの話なんて大体が占いで、後は他愛の無い世間話ばかりだ。話していて楽しいから良いけど、さすがにいつも同じような話では辟易してしまう。

 

「まぁ、そうなんですけどね」

 

「やっぱりそうじゃないか」

 

「で、でも本当にいい結果だったんですよ! 早速良いことありましたし、『T-09-i98』*3の結果も良い感じだったんですよ」

 

「そもそも『T-09-i98』のレパートリーは3、4種類程度だろあれ……」

 

「でも良いんですよ!」

 

 カッサンドラはプリプリ怒っているが、本当のことなので仕方が無い。可愛らしくほほを膨らませるカッサンドラのほっぺを突きたくなる衝動を我慢して、廊下を歩いて行く。早く今回の作業を行わなければならない。

 

「とりあえず、もう俺は行くぞ」

 

「えっ、もう行っちゃうんですか?」

 

「仕方が無いだろ、仕事なんだから」

 

「私と仕事、どっちが大切なんですか!?」

 

「……仕事だよ」

 

 なぜか寸劇が始まったが、どうでも良いので適当に切り上げる。カッサンドラはおよよと泣いたふりをしているが、面倒くさいので無視をする。

 

「もう行くぞ」

 

「わかりました、それではご武運を!」

 

 

 

 カッサンドラと別れて今回入ってきたアブノーマリティーの収容室へ向かう。今回作業を行うアブノーマリティーは、『T-04-i09』だ。どんなやつかはわからないが、前回の『F-01-i05』*4のようなやばいやつでない事を祈ろう。

 

「さて、行くぞ」

 

 『T-04-i09』の収容室の扉に手をかけ、思い切って扉を開くことにする。いつもこの瞬間だけは慣れないが、俺がやらなければ他のやつがやらされるだけだ。頑張って慣れるしか無い。

 

 収容室の中に入ると、なにかじめっとした空気を感じた。収容室の中は薄暗く、薄ぼんやりとした光が見える。

 

 収容室の隅には、人が壁にもたれかかっていた。……いや、正確には人では無い、人のような形をした樹木だった。

 

 その樹木は枯れきっており、樹木の中身は空洞になっていた。その空洞からはかすかな青い光が漏れ出ており、その光が人の目のようにも見える。その人のような姿は今にも動き出しそうな錯覚を覚えるが、この空間がとても静かで心を落ち着かせるようにも感じる。

 

「しまった、何か踏んだか?」

 

 『T-04-i09』に近づこうとして足を踏み出すと、足の裏に何か違和感を感じた。足を上げて確認すると、そこには何か見たことの無い植物が生えていた。試しにしゃがんで引っ張ってみたが、どうやら根が張っているようで無理に引き抜けば葉の方がちぎれてしまいそうだ。

 

 周囲をよく観察すると、収容室の至る所に植物が生えていた。それらはすべてバラバラの種類で有り、どれも見たことも無い植物であった。

 

 念のため植物を踏まないように歩きながら、『T-04-i09』に近づく。近くで見れば、『T-04-i09』は本当に枯れて生きているようには見えなかった。そこには意思があるようにも見えず、なぜ存在するのかもわからない。この存在に何が出来るのかもわからないが、わからないからこそ恐ろしい。

 

「……いや、そんな事考えても仕方が無いか」

 

 これ以上考えてしまったら恐怖に飲み込まれそうになるので、もう考えないことにする。それよりも作業を行った方が良いだろう。

 

 前回懲りたので、今回は洞察作業では無く本能作業をする。正直生きているかもわからない存在に本能作業を行うのもどうかと思うが、いきなり抑圧作業を行ったりするのも怖いし、愛着なんてもっとやばそうだ。

 

 手にじょうろを持って水やりをしてみる、『T-04-i09』はなんの反応も見せないが、悪くは無いような気がする。さすがに周りの植物には水やりをする勇気は無い、そんな事をすれば何が起こるかわからないからな。

 

「……よし、そろそろ大丈夫だろうか」

 

 作業を終えると、なんとなく『T-04-i09』が元気になっているように感じた。それが錯覚かどうかはわからないが、何か起こるようなこともなさそうだ。

 

 俺は収容室からすぐに出て、休憩をすることにする。結局こいつがどんな存在だったかはわからなかったが、なんとか生き残る事が出来た。

 

 

 

 

 

 だが俺は、こいつの恐ろしさをまるで理解していなかった。こいつは俺の前で、本性を隠していたのだ。

 

 

 

 

T-04-i09 『朽ちた巨木』

*1
『蕩ける恋』

*2
『幸せな金魚鉢』

*3
『フォーチュンキャンディー』

*4
『彷徨い逝く桃』



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T-04-i09 管理情報

本日二話投稿です。


 『T-04-i09』は人の形をした朽ち果てた樹木です。中は空洞になっており、内部からかすかに青い光が漏れ出ています。

 

 『T-04-i09』の収容室の内部では、未知の植物が生い茂っています。その種類は様々で、統一性はありません。

 

 『T-04-i09』の収容室に入った職員は、その後必ず洗浄を行ってください。

 

 

 

『朽ちた巨木』

 

危険度クラス WAW

 

ダメージタイプ R(4-6)

 

E-BOX 22

 

良い 19-22

 

普通 12-16

 

悪い 0-11

 

 

 

◇管理情報

 

1、LOCK

 

2、LOCK

 

3、LOCK

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 低い

2 低い

3 普通

4 普通

5 普通

 

洞察

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

愛着

LOCK

 

抑圧

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

 

非脱走アブノーマリティー

 

 

 

◇ギフト

 

LOCK

 

 

 

◇E.G.O.

 

武器 LOCK

 

防具 LOCK

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 という訳で、教育部門の初っぱなからWAWです。幸先が良いですね。

 

 本来ならこの部門の3日目から出てくるのですが、追加したアブノーマリティーの中にこっそりと入れていた2体の内の1体でした。二連続で引いてるんじゃ無い!

 

 このアブノーマリティーは色々と面白い話が一杯あります。弟はこいつのせいで3回ほど死んでいます、しかもすべて直接的な原因はこいつじゃ無いのにすべてこいつのせいにされていてめちゃくちゃ笑いました。

 

 そうでなくてもやっかいさんなんですけどね……

 

ちなみについたあだ名は『クソ樹木』です。

 

 

 

 ちなみに安全部門ですが、前回行ったとおり魔境です。情報とは違った感じでやばいです。

 

 しかし最近、この程度では魔境と言えなくなってきたんですよね。主に中層のせいで……

 

 選択するアブノーマリティーですが、WAWの他にもALEPHもこっそり入れてたりします。それがいつ出てくるかはまだ内緒ですが、とても面白いことになりました。

 

 

 

 正直この形にしていると、本当に書くことが無くて困ってしまいます。

 

 なので、本筋とは特に関係の無い話をしていきます。

 

 実はこの小説ですが、最初はコントロール部門が終われば更新頻度を下げようと考えていました。ですが皆様の感想が嬉しくて、とても励みとなってもう少し頑張ろうと思うようになりました。

 

 気がつけば情報部門も終わり安全部門に来ることが出来ました。これも皆様の応援のおかげです、本当にありがとうございます。

 

 このまま頑張って、上層すべてを頑張って投稿していけるようにしていこうと思います。

 

 拙い文章ですが、これからも本作『誰も知らないアブノーマリティー』をよろしくお願いします。

 



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Days-12 F-02-i04『けれど、誰も助けてくれなかった』

 新人の教育とは面倒なものである。

 

「ジョシュア先輩、その素敵な瞳はなんですかぁ?」

 

「こ、これは『O-05-i18』*1からもらったギフトだよ」

 

「ふふっ、知ってますよぉ」

 

 この蠱惑的な声で話しかけてくるのは新人の一人、エマだ。彼女はアブノーマリティーに対する興味が強く、ギフト持ちの俺によく絡んでくる。凄いグイグイ来るので、正直食われそうで怖い。

 

「せんぱぁい、その目、舐めさせて貰ってもいいですかぁ?」

 

「ヒェッ」

 

「こらエマ、そろそろやめなさい。ジョシュア先輩がドン引きしてますよ」

 

 エマの猛烈なアタックを受けていると、もう一人の新人で、一番まともなメッケンナがやって来た。

 

「そんなことないですよぉ、でも今は忙しそうですし、ここまでにしておきますねぇ」

 

 エマは俺の瞳を名残惜しそうに見つめながら今日の作業に取りかかっていった。必ず助けるから『F-02-i06』*2にでも食べられて、大人しくしててくれないかなぁ……

 

「悪いな、助かった」

 

「いえ、僕もジョシュア先輩に用事があったんで」

 

「どうした、何かあったか?」

 

「はい、以前お聞きしたアブノーマリティーなんですが……」

 

 メッケンナは仕事熱心だ。ただ単に死にたくないだけとも言えるが、この仕事場では大事なことだ。次に作業するアブノーマリティーの注意点を聞いて、疑問点を解消していく。

 

「すいません、ありがとうございました」

 

「いいさ、俺もそれくらいちゃんとしてくれていた方が良い」

 

 メッケンナが走り去っていく姿を見ながら、廊下を歩いて行く。今日のアブノーマリティーは『F-02-i04』だ、変なのでない事を祈ろう。

 

 

 

「さて、即死はやめてくれよっと」

 

 『F-02-i04』の収容室の前まで来ると、いつも通りお祈りをしながら収容室の中に入っていく。

 

 収容室の中には一匹の亀がいた。その亀はボロボロであり、ひどい有様であった。体中が傷ついており、血を流している。片方の目玉はこぼれ落ち、もう片方の瞳も濁りきっていた。

 

 甲羅はひび割れ、割れ落ちた部分は内蔵がむき出しになっていた。その見るに堪えない姿から目を背けたくなるが、なんとか踏みとどまる。やつから目を背けずに近づいていくと、『F-02-i04』は俺の存在に気がついたのか顔を上げた。その濁った瞳が俺の姿を写す、そして弱々しくも口を開いた。

 

「たす……けて……」

 

「お前、しゃべれるのか?」

 

 助けを求める言葉に、思わず驚いてしまう。俺の記憶では、言葉を話せるアブノーマリティーは少なかったように思える。だが、これでこいつがどんなアブノーマリティーかわかってきた気がする。

 

「とりあえず、落ち着け」

 

「あっ、りが……」

 

「しゃべるな」

 

 とりあえず傷の手当てをする。この傷は『F-02-i04』にもとからあるはずであるから、意味のないものかもしれない。ただ、さすがにこの痛々しい姿をそのままにしておく気にはなれなかった。

 

「これくらいで良いだろう」

 

「ありがとう……」

 

「気にするな」

 

 とりあえずの手当を終えると、俺は収容室を後にした。今回のやつはそれほどまずい相手ではなかった、だからといって油断は禁物だが。

 

「ようジョシュア、今回はどうだった?」

 

「マイケルか、今回はまだ楽だったよ。これなら今日は久しぶりに『T-09-i97』にでもゆっくり浸かろうかな」

 

「うえっ、他人と一緒に裸で湯船に入るとか考えられん」

 

「そう言うなよ、お前もやってみればはまるって」

 

「そうかい、そんな事天地がひっくり返ってもあり得んがな」

 

 収容室から出たらたまたまマイケルと出会ったので、適当に会話しながら廊下を歩いて行く。次の作業するアブノーマリティーが何だったか、それを思い浮かべながらメインルームに向かっていった。

 

 

 

「いつも、ありがとう」

 

「何度も言っているが、気にしなくていい。これも仕事だ」

 

 あれから何度も『F-02-i04』に作業をしていく内に、『F-02-i04』も言葉を大分はっきりと話せるようになっていった。こういった変化は悪い事への予兆な気がしてどうにも嫌な予感がする。

 

「いえいえ、それでも嬉しいのです。私もそろそろあなた様にお礼をしたいと思っていまして……」

 

 その言葉を聞いた瞬間、俺は収容室から退出する事にした。先ほどの予感、そしてお礼という言葉。俺はこれがどうしても恐ろしいものであると感じてしまった。

 

「あれ、どうしたのですか?」

 

「もう時間だ、すまんな」

 

「そうですか、それなら仕方がありませんね……」

 

 『F-02-i04』は思ったよりもあっさりと引いていった。俺は早足で収容室から出ると、メインルームに向かった。もうこれ以上、『F-02-i04』の収容室に通うのはやめた方が良いかもしれない。そんな事を考えていると、前方から誰かが歩いてきた。

 

「よっす、ジョシュア先輩! 今日はどんな感じですか?」

 

「ハルか、今『F-02-i04』を終わらせたところだ。そっちは?」

 

 ハルは、この前入ってきた新人だ。明るい性格で、早くも皆から愛され始めている。彼はこの陰鬱な職場において得がたい存在であった。

 

「はい! 俺も今から『F-02-i04』の収容室にいくんですよ!」

 

「そうか、なんだか嬉しそうだな」

 

「えへへっ、実はこの前『F-02-i04』にお礼をしてもらえるって言われて楽しみなんですよ! どんなものかなぁ……」

 

 その言葉を聞いて、俺の背筋に寒気が走った。そして、先ほどの予想がさらに強いものとなって俺を襲う。

 

「ハル、悪いことは言わない。もう『F-02-i04』の収容室にはいくな、なんだか嫌な予感がする」

 

「そうですか? でも嫌だって言ってもいくしか無いじゃ無いですか」

 

「……そうだな、それじゃあせめてお礼は受け取るなよ?」

 

「先輩が言うなら、そうすることにします……」

 

 ハルは、俺の話を聞いてくれた。これでなんとかなるかはわからないが、せめて彼が無事でいられる事を願った。

 

 しかし、その願いが叶うことは無かった。ハルは、この会話を最後に行方不明となったのだ。

 

 

 

「おい、『F-02-i04』。ハルをどこにやった?」

 

「ハル様ですか? 彼ならとても素晴らしいところにいますよ?」

 

 あれから俺は、もう一度『F-02-i04』の収容室に入ることにした。行方不明のハルの所在をつかむためだ。

 

「素晴らしい場所とはどういう意味だ?」

 

「えぇ、あなたたちの職場はとても恐ろしい場所なのでしょう? ハル様からそのようにお聞きしたので、私に何かできないかと思い、この場所から脱出するお手伝いをさせていただこうと思いまして……」

 

「そんな事はどうでも良い、ハルは帰ってこれるのか?」

 

 無駄話をそこそこに、本題に入る。正直望みは薄いが、それだけは知っておきたかった。

 

「いえ、かえってこれませんよ? そもそも、帰れるとしても帰ってきたいとは思えませんが……」

 

 そう言いながら『F-02-i04』は物思いにふける。正直予想していたため、驚きは無かった。だが、これで俺がこれからすべきことが決まった。彼の犠牲を無駄にするわけにはいかない。

 

 俺は、手に持つ警棒を握りしめる。

 

「そういえば、あなた様にも随分とお世話になりました! 私めに出来る事と言えば、楽園にお連れすることだけですが……」

 

「いや、いい」

 

「まぁまぁ、そう言わずに……」

 

「もう、良いんだ」

 

 俺は心を無にして、警棒を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 ある日浜辺に出た私は、幼子たちに囲まれて暴行を受けた

 

 殴られ、蹴られ、棒で叩かれた

 

 海に引き返そうにも、彼らが邪魔をする

 

 私が何をしたというのだろうか? 私はただそこにいただけなのに

 

 誰かが助けてくれることを待った、誰も助けてくれなかった

 

 必死になって声を上げた、誰も助けてくれなかった

 

 生きるために必死に声を張り、なんとか助かろうと行動を起こす。

 

 

 

 

 けれど、誰も助けてくれなかった

 

 

 

F-02-i04 『救われぬ亀』

 

*1
『魂の種』

*2
『吊された胃袋』



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F-02-i04 管理情報

 『F-02-i04』は体中に暴行の跡のあるウミガメ型のアブノーマリティーです。

 

 『F-02-i04』の体に刻まれた暴行の跡は、『F-02-i04』の一部です。どれほど手を尽くしても治すことは出来ません。しかし、交流を重ねることで元気を取り戻していきます。

 

 『F-02-i04』と親交を深めると、竜宮城に招かれます。しかし、絶対に誘いに乗らないようにしましょう。彼らにとっての楽園と、我々にとっての楽園が同じ意味であるとは限りません。

 

 『F-02-i04』をスープにして食べようとしないでください。

 

 

 

『救われぬ亀』

 

危険度クラス TETH

 

ダメージタイプ R(2-3)

 

E-BOX 12

 

作業結果の範囲

 

良い 10-12

 

普通 7-9

 

悪い 0-6

 

 

 

◇管理方法

 

1、愛着作業を行った場合、カウンターが減少した。

 

2、作業結果が良の場合も、カウンターが減少した。

 

3、カウンターが0になると、職員は竜宮城に招かれた。

 

4、抑圧作業でカウンターが増加した。

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

洞察

1 低い

2 低い

3 普通

4 普通

5 普通

 

愛着

1 最高

2 最高

3 最高

4 最高

5 最高

 

抑圧

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 3

 

非脱走アブノーマリティー

 

 

 

◇ギフト

 

竜宮城(ブローチ1)

 

愛着+2

 

 綺麗な真珠のあしらわれたネックレス。その豪華さは、心を躍らせる。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器

 

竜宮城(銃)

 

クラス TETH

 

ダメージタイプ R(3-5)

 

射撃速度 最高

 

射程範囲 長距離

 

 真珠や珊瑚のあしらわれた豪華な銃。銃撃音ですらゴージャスな感じがある。

 

 

 

・防具

 

R 1.5

 

W 0.8

 

B 0.8

 

P 1.5

 

 煌びやかな装飾のされた着物。その美しさは、見るものを魅了する。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 この施設のウェルチアース枠、円満退社ですね。

 

 今回のアブノーマリティーは、管理方法が面白い感じになったと思います。相手のための行動をすればカウンターが下がり、ひどいことをすれば上がる。それに元ネタと良い感じにマッチしていたので、結構気に入っています。弟には非道過ぎるって言われてしまいましたが……

 

 ちなみに、愛着をして作業結果良を出したらカウンターが二個減少します。最初に良出して、その後に管理情報出してから愛着したらあら不思議、即死が発動します。

 

 ベテランの方なら作業結果が最高の時点で怪しむと思いますが、初心者なら何も疑わずにやっちゃいますよね。こういう管理情報でだますタイプ考えるのめちゃくちゃ楽しいです。

 

 このタイプは、私は全裸で引っかかりました。しかもそこそこやってる抽出で引いといて引っかかるなんて……

 

 ちなみに抑圧で良と出すと、上がってから下がります。

 

 このアブノーマリティーは、かの有名な童話を元ネタにしています。童話的に抑圧はだめだと思わせておいての罠だったと言う感じですね。

 

 正直管理が面倒くさすぎるので、自分は管理したくないですね。コア抑制したらもう二度と触れないと思います。絶対事故要因になりますよね……

 




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Days-13 T-05-i22『あなたは信じてくれますか』

 今日も新しい一日が始まる。新しいアブノーマリティーのことを考えると辟易してしまうが、仕方が無いことと割り切るしか無い。

 

「ようジョシュア、今日の調子はどうだ?」

 

「リッチか、なんか久しぶりな気がするな」

 

「そうか? まぁ、最近忙しそうだったモンな」

 

「ホントだよ、そろそろ休息が欲しいもんだ」

 

 たまたま廊下で会ったリッチと世間話をする。最近はやっかいなアブノーマリティーが増えてきたので全然心が安まらない。

 

「お前はどうなんだ、リッチ?」

 

「見ろ、俺は最近ようやく新しいE.G.O.を手に入れたんだ。良いだろう?」

 

 そう言ってリッチは手に持つ野太刀、鬼退治を見せつける。防具も同じものとなっており、随分と戦力が上がった気がする。

 

「そうか、期待してるぞ」

 

「もちろんだ、お前の背中くらいは守ってやるよ」

 

 それだけ伝えると、リッチは仕事に戻っていった。俺も頑張らなくては、気持ちを切り替えて今日のアブノーマリティーがいる収容室へと向かっていった。

 

 

 

 今日収容されたアブノーマリティーは、『T-05-i22』だ。どんなやつが来るかはわからないが、この前みたいなひどいやつでない事を祈るしか無い。

 

 いつものように収容室の扉に手をかけ、思い切って開く。

 

 収容室からは、澄み切った心地よい空気が漂ってきた。その清涼感のある空間の中心には、神秘的な像が建っていた。

 

 美しき羽の生えた女性の石像は、何かに祈りを捧げるような姿をしていた。それは、苦悩から逃れようとしているようにも、真摯な祈りを捧げているような姿にも見えた。

 

 今までと違って正の方向の雰囲気に、戸惑いを感じる。今まではおどろおどろしいというか、負の側面が強かった分、何かあるのでは無いかと疑ってしまう。

 

「さて、何の作業をすれば良いのやら……」

 

 今までの経験から洞察をするのは少し怖い、しかしこれ相手に本能とかどうやれば良いのかわからないし、するなら愛着か抑圧しか無い。抑圧もあまり良いとは思えないので、とりあえず愛着作業を行っていくことにする。

 

「さて、ずいぶんなべっぴんさんだな……」

 

 祈りを捧げる女性の像の頭をなでてみる。触れるとひんやりとしていて気持ちが良い。手触りもなめらかで、ずっと触れていたくなる。そんな不思議な感覚を味わっていると、不意に体が熱くなった。

 

『あなたに加護を授けましょう』

 

「……はぁ!?」

 

 気がつけば手の甲に不思議な文様が浮かび上がる。その文様は擦っても消えず、熱くドクドクと脈を打っている。

 

 これはまずい、確実にあれのタイプだ。もしもあれと同じタイプであれば、このままでは確実に死んでしまう。

 

 とりあえずこの後は『T-05-i22』の作業をし続けるしか無いだろう。最悪だ、まだよくわかっていないアブノーマリティーだっているというのに、こいつの作業しか出来なくなるなんて。

 

 ……いや、これはこれでありと考えよう。よく考えればこいつがどんな存在かをよく知ることが出来るはずだ、今日にできる限りの情報を集めるとしよう。

 

 

 

 結局、本日の業務はこのアブノーマリティーにほとんど尽きっきりであった。途中何度か他のアブノーマリティーの作業に向かったが、一、二度くらいであればセーフらしい。少しでも『T-05-i22』の情報が集まったのであれば、それはそれで良かった。

 

「はぁ、それでも災難だった。『T-09-i97』*1にでもゆっくりと浸かりてぇ」

 

 今日の業務がほとんど終わっていたこともあって油断していたのだろう、俺は近づく人影に気付くことができなかった。

 

「うおっ、……って、シロかよ。脅かすなって」

 

 後ろから俺の袖をつかんだのはシロであった。シロは無言で俺の袖をつかんで止めた後、急に手をつかんで俺をどこかに引っ張っていった。

 

「おいおい、どうしたんだよシロ?」

 

 彼女は表情がほとんど変わらず、何を考えているかわからないことが多い。それでも、今回は特に何をしようとしているのかわからなかった。

 

「いい加減…… って、ここは『T-09-i97』か?」

 

「おい、ちょっと待ってって」

 

 『T-09-i97』の収容室の前まで手を引かれると、シロはそのまま俺を連れて収容室内部まで入っていった。『T-09-i97』の収容室の内部は、もうすぐ業務時間が終わるからか誰もいなかった。

 

「おいおい、もしかして一緒にはいるつもりか? さすがにそれはまずいだろ……」

 

「…………」

 

「おい、本当にどうしたんだ?」

 

「…………あの子とは入ったのに」

 

「えっ?」

 

 シロは小さな声でよくわからないことを言った。彼女が声を発したことも驚いたが、その声に珍しく感情が交じっていたように感じたことにも驚いた。

 

「あのこと一緒って…… あぁ、もしかしてパンドラのことか?」

 

 俺の言葉にシロがうなずく。……おいおい、あいつと一緒に入ったって、ただの説教じゃ無いか。そんなドキドキの展開では無いはずだが。

 

 というか、もしかして焼き餅を焼いているのか? あのシロが?

 

「もしかして、あいつがおれと一緒に入ったから、お前も一緒に入りたいのか?」

 

「…………だめ?」

 

「いや、だ、だめじゃ無い、かな?」

 

 シロの上目遣いの懇願に、思わず承諾してしまう。何というか、久しぶりにこいつの人間らしいところを見た気がする。そのことも嬉しくて、ついついOKしてしまった。

 

 しかし、これで俺はシロと一緒に『T-09-i97』に入浴することとなった。

 

 ……ちなみに、長時間入浴したことにより、『T-05-i22』の加護は消えてしまった。

 

 いや、お前は何でもありなのか?

 

 

 

 

 

 かつては皆が私に着いてきてくれた

 

 彼らは私に救いを求め、私はそんな彼らのために尽力した

 

 ある日、どうしても苦難に耐えなければならない時が来た

 

 私は彼らを説得しようとしたが、彼らは納得しなかった

 

 結局彼らは、私から離れていった

 

 それからの彼らがどうなったのかはよくわからなかった

 

 夜盗に襲われたとも、病に犯されたとも聞いたが、事実はどうかわからなかった

 

 しかし、どの話も結局のところ、私から離れていった人々は死んでしまったというものだった

 

 私はあなたのために力を授けます

 

 私はあなたの味方です、あなたの助けになりたいのです

 

 しかし、あなたに訪れるのは良いことだけではありません

 

 これからあなたには様々な苦痛や困難が訪れるでしょう

 

 それは私が望む望まないにかかわらず、起きてしまう……

 

 

 

 

 

 それでも私のことを、あなたは信じてくれますか

 

 

 

 

 

T-05-i22 『慈愛の形』

*1
『極楽への湯』



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T-05-i22 管理情報

 『T-05-i22』は羽の生えた美しい女性の石像です。

 

 『T-05-i22』の収容室内は、神聖な空気で包まれています。

 

 

 『T-05-i22』から加護を受けることがあります。加護を受けた職員は死亡率が下がりました。

 

 最近施設内で原因不明の死亡事故が多発しています。彼らに共通しているのは、『T-05-i22』から加護を受けている職員というものでした。また、死亡した場所は『T-05-i22』の収容室以外でした。

 

 当施設内ではアブノーマリティーの偶像崇拝は禁止されています。また逆に、アブノーマリティーへの落書きも禁止されています。

 

 

『慈愛の形』

 

危険度クラス HE

 

ダメージタイプ W 3-5

 

E-BOX数 18

 

作業結果範囲

 

良い 13-18

 

普通 5-12

 

悪い 0-4

 

 

 

◇管理情報

 

1、『T-05-i22』の作業結果が良であった場合、その職員は加護を受けた。

 

2、加護を受けた職員は、HPとMPが少しずつ回復した。

 

3、加護を受けた職員が、三回連続で他の収容室に入ると、その場で死亡した。

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

洞察

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

愛着

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

抑圧

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

非脱走アブノーマリティー

 

 

 

◇ギフト

 

信仰(ブローチ1)

 

HP+4 MP+4

 

 神秘的なロザリオ。これを身につけたものは、心から邪気が払われるという

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器

 

信仰(ボウガン)

 

クラス HE

 

ダメージタイプ W(8-10)

 

攻撃速度 普通

 

射程距離 超長距離

 

 十字架を象った美しいボウガン。鏃には銀が使用されており、悪しきものを打ち払う力を持っている。

 

 

 

・防具

 

なし

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 この施設のヤンショタ枠、ヤンおね?

 

 このアブノーマリティーはヤンショタを意識して作ってます。つまりは有能な育成枠でもあります。

 

 ギフトも強く、ヤンショタのようなカウンター事故もないので扱いやすい部類になります。

 

 序盤の育成要因にもってこいな感じがしますね。

 

 作れるE.G.O.も防具こそないものの、Wボウガンという扱いやすいものになっています。

 

 このアブノーマリティーは見ての通り、育成要因として考えました。ただでさえ即死が辛いのに、育成まで大変だと辛いですからね。

 

 そういえば、今回は即死持ちなのに誰も死にませんでしたね。

 

 なぜかはわかりませんが、もしかしたら嵐の前の静けさなのかもしれませんね。

 

 今のところクソ、ウェルチ、有能と魔境の片鱗しか見せていません。

 

 次のツールは有能なので、もうここは魔境ではないですね。

 




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Days-14 T-09-i96『希望は絶望に変わるだろう』

「パンドラ、俺が言いたいことはわかるか?」

 

「えっと、助けてくれてありがとうございます?」

 

「そんなわけあるか! お前『F-02-i06』*1の中でサボってただろう!?」

 

「そんな決してサボってたわけではイテテテテ!」

 

「だったらその手に持つ携帯ゲーム機はなんだ!」

 

 今日も俺は、パンドラがやらかした事への説教をしている。最近パンドラへの説教が常態化しつつある気がするが、そんな悲しい事実は認めたくない。道行く人々もまたかって感じの目で見ている。

 

「パンドラさんまたやってるんですか? そんなにジョシュア先輩にかまって欲しいからって、毎回変なことしなくても……」

 

 そんななか、パンドラを宥めるようにやって来たのはカッサンドラだった。また機嫌が良さそうだから、きっと占いていい結果が出たんだろう。

 

「誰がですか!? 私はやりたいことをやってるだけで、こんな恐ろしい人にかまってほしくなんてありません! カッサンドラさんじゃあるまいし……」

 

「えっ、何でそこで私?」

 

「だってカッサンドラさんのお話って、占いの次にジョシュア先輩の話が多いじゃないですか? だから……」

 

「わーわー、ストップストップ! 私が悪かったからこれ以上は許して!」

 

「えっ? よくわかりませんが、とりあえず黙っておきますね」

 

「もう良いよ、うわーん!」

 

 そういうとパンドラはお口チャックをして黙りこんだが、カッサンドラはその沈黙に耐えきれずに走り去ってしまった。

 

 ……せめてもう少しうまく隠してくれるならな。

 

「はぁ、とりあえず次の仕事に行くぞ」

 

「むーむー」

 

「ふざけているのか? もう一回お仕置きが……」

 

「むー! むーむむーむーむむー!」

 

「いや、さすがにもうしゃべって良いからな?」

 

「えっ、そうなんですか? それならそうと早く言ってくださいよ!」

 

「……はぁ」

 

 もはや突っ込む気も失せてきた。頭を抱えながらぶーぶー言ってくるパンドラを引きずり、今回やってきたアブノーマリティーの収容室に向かう。

 

 今日収容されたアブノーマリティーは『T-09-i96』、ツール型アブノーマリティーだ。この前は微妙なやつだったから、今度は有能なやつだと良いな。

 

「ほれ、着いたぞ。覚悟を決めろよ?」

 

「えっ、なんで覚悟決めないといけないんですか? ツール型っていきなり死んだりしない安全なやつなんですよね!?」

 

「……」

 

「笑顔でごまかさないで何か言ってくださいよ!」

 

 ギャアギャア言い始めたパンドラを無理矢理引っ張り、雑に開けた収容室の扉に突っ込んだ。

 

「ぎゃぁぁぁぁ! ジョシュア先輩殺す気ですか!?」

 

「いや、入っただけで死ぬわけ無いだろ、ツールだし」

 

「さっきものすごい不安な事言ってたじゃ無いですか!?」

 

「知らんな」

 

 収容室の中に入ると、中にはシンプルな酒瓶が入っていた。ラベルも何もついていない透明な瓶の中には、黄金色に輝く液体が半分ほど入っている。おそらくこれを飲めと言うことだろう。

 

 ……いや、もう飲み物という時点で嫌な予感しかしない。だって飲み物のツールって言えば樹液だろ? あんなもの誰が飲むって言うのか。

 

「……おいパンドラ、お前これ飲めよ」

 

「何でですか!? 先輩がそういう反応するときってろくな事が起こらないらしいじゃ無いですか!」

 

「大丈夫だ、骨は拾ってやる」

 

「全然良くないですよ!?」

 

 一通りパンドラをいじめたので、そろそろ『T-09-i96』を使用してみることにする。コルクの栓を抜くと、気持ちの良い音がした。試しに臭いをかいでみると、甘い香りの中に酒精の香りも混じっていた。

 

「これは酒か? これじゃあパンドラはだめだな」

 

「えっ、何でですか? 私ジョシュアさんと同い年ですよ?」

 

「……えっ、お前俺と同年代なのか?」

 

「はい、言ってませんでしたっけ? ちなみにリッチ先輩は年下です」

 

「いやいや、色々と衝撃的すぎるんだか……」

 

 パンドラから衝撃の事実を聞かされ、思わず手に持った『T-09-i96』を落としそうになる。慌ててなんとかキャッチしようとすると、パンドラが横からかっさらってきた。

 

「あっ、いらないんだったらもらいますね?」

 

「ちょっ、おまっ!?」

 

 俺が制止する間もなく、パンドラは瓶に口をつけた。そのままごくごくと美味しそうに飲み続け、ついには飲み干してしまった。

 

「ぷはぁ~、美味しいですね!」

 

「あ、あっ……」

 

「あれ、もしかしてジョシュア先輩も欲しかったですか?」

 

「このアホー!!」

 

「えっ、何でですか!? ちょっ、待って…… うぷっ」

 

 パンドラの肩をつかんで思わず前後に揺らす、そこでパンドラの顔色が悪くなった事に気がついたのですぐに手を離し、体調を確認する。

 

「大丈夫か、体が爆発するのか!?」

 

「何ですかそれ、そんな事があるんですか!?」

 

「本当に大丈夫か? 何か体に変化は……」

 

「う~ん、強いて言うなら少し体が軽くなったような……」

 

「やっぱりだめだぁ……」

 

「えっ、だめなんですか!?」

 

「大丈夫だ、最善は尽くす」

 

「そこは嘘でも良いから死なないって言ってくださいよ!!」

 

 体に良い変化があるなんて、そんなもの何かしらのデメリットがあるに決まっている。とりあえず経過を見て爆発する様子が無いので、外見的な変化が無いかを調べる。目や肌を調べたが特に変化も無いので、とりあえず今は大丈夫そうだろ仮定する。

 

 もしかしたらダメージを受け過ぎたらというタイプかもしれないので、この後の作業はTETH以下のアブノーマリティーにするように指示して様子を見る。この日のパンドラの作業は、いつもより少し良かった。

 

 

 

「……とりあえず、今のところわかっていることを整理したいと思う」

 

「あぁ、頼む」

 

 あれからしばらくたち、『T-09-i96』についてもいくつが情報が集まってきたので、情報を整理することにした。『T-09-i96』の収容室に向かいながら、リッチと話しながら歩く。

 

「とりあえず飲むと身体能力が上がり、特に体に害がない事がわかった」

 

「そうだな、ついでに飲む量によって身体能力の変化にも違いがあるようだな」

 

「あぁ、しかし飲み過ぎるとアブノーマリティーから受けるダメージが増えるようだな」

 

「だから一人一日一杯の制約をもうけたわけだな?」

 

 今いるメンバーの中ではリッチが一番話しやすい。仲がいいこともあるが。一番まともで頭の回転も速いからだ。

 

「それと、のんだお酒はしばらく時間がたつと、酒瓶に自動的に溜まっていくようだな」

 

「あぁ、溢れるともったいないからその前に飲むようにしているんだ」

 

「……そんなにうまいのか?」

 

「うまいがだめだぞ未成年」

 

「……そんな事はしない」

 

 どうやらリッチはお酒にあこがれを抱いていたようだ。別にこの施設で気にするやつはいないが、こいつは変なところでまじめなので、少し損をしているようにも感じる。

 

「とりあえず、そろそろ溜まってくる頃だから見に行くか」

 

「そうだな、なんだかんだで皆世話になっているからな」

 

『ただいま情報部門にて試練が発生しました エージェントの皆様は……』

 

「……とりあえずいくか」

 

「そうだな」

 

 タイミングの悪いことに、試練が発生してしまった。せっかく楽しみにしていた『T-09-i96』はお預けになってしまい不服だが、試練を放置するわけにもいかないのでリッチと共に鎮圧に向かうことにした。

 

 

 

「それで、何か言い分はあるか?」

 

「何で私って決めつけるんですか!?」

 

 『T-09-i96』の収容室に入ると、『T-09-i96』の中のお酒の量が明らかに減っていた。ついでにあたりには黄金の液体が飛び散っていた。ついでに収容室にこいつがいたのでもう現行犯で良いだろう。

 

「ちょっと話を聞いてくださいよ! 私は何かここで音がしたから気になって入ってみただけなんです、入ったときにはもうすでにこうなっていたんですよ!」

 

「……なに?」

 

 パンドラが入ったときにはすでにこうなっていた? それが本当ならば、もしかしたらその前に入ったやつに何かがあったのか、あるいはもっと……

 

「……なんか、外が騒がしくないですか?」

 

「あぁ、E.G.O.の準備は万全か?」

 

「もちろんです」

 

 パンドラは竜宮城を持って俺の後ろに着いてくる。俺も幸福を構えて収容室の外に出て、騒ぎの方に向かってかけだした。

 

「どうした!?」

 

「助けてください! 黄金色に輝く謎のアブノーマリティーが急に襲いかかってきて……」

 

「黄金?」

 

 オフィサーの指さす方向を見てみると、そこには黄金色に輝く巨大な塊がうごめいていた。ゲームに出てくるスライムのようなそれは、名前も知らないオフィサーに覆い被さり、その体をじわじわと溶かしていった。

 

「パンドラ、援護しろ」

 

「了解です」

 

 まず接近して幸福でスライムを突き刺した。グジュリと不快な感触が手に伝わってくるが、気にせずねじってから引き脱いた。

 

 幸福の穂先には、黄金色の塊がべっとりとくっついていた。

 

「ちっ」

 

「撃ちます」

 

 パンドラが背後から竜宮城を発砲する。それはスライムに当たるが、あまりダメージが通っているようにも見えない。

 

「とりあえずあんたは逃げろ」

 

「あっ、ありがとうございます!」

 

「なら他の人も……」

 

「無駄だ」

 

 周囲を見渡すと、すでに彼以外に生き残っている人物はいなかった。そのすべてがとかされ、骨だけになっていた。

 

「今は集中しろ」

 

「わかりました」

 

 スライムが触手を伸ばして攻撃してきたので、横によけて触手を断ち切る。見た目によらず感触が重たかったが、切り落とした後は動く気配が無かった。

 

「いくぞ、合わせろ」

 

「はい」

 

 幸福でスライムを少しずつ削り取って体積を減らしていく。パンドラの竜宮城も当たれば少しずつ削れていくので、やつへの牽制にはなっているようだ。

 

「くっ」

 

 なんとかスライムの触手をよけていたが、だんだん厳しくなってきた。少しずつかするようになっていき、体にダメージが蓄積されていく。

 

 

「なっ、危ない!」

 

「えっ」

 

 俺相手ではじり貧だと考えたのか、スライムはいきなり標的を変えてパンドラをねらい始めた。突然標的にされたパンドラはうまく動けず、なんとか突き飛ばして攻撃から逃すことが出来た。

 

「ジョシュア先輩!」

 

「いいから援護しろ、話は後で聞いてやる」

 

「……わかりました」

 

 今度は竜宮城で牽制しながら注意を引きつけるようだ。俺はその間にもう一度スライムに近づき、攻撃を加える。

 

 そして大分相手の体積が減ってきたところで、やつの体の中に核のようなものがあった。なんとかそこにねらいを定めて、一突きで核を破壊する。するとスライムは溶けるように活動を停止し、貫いた核だけがその場に残った。

 

「……いったい何だったんだ」

 

「なんだか私、さっきのに見覚えがあるのですが」

 

「偶然だな、俺もだよ」

 

 疑問の真偽を確かめるため、元来た道を戻ろうとする。すると、ちょうど俺たちのやってきた扉から、新手がやってきた。

 

「全く、たぶん俺たちの予想はあたりだよ」

 

「大丈夫です、今度こそちゃんと援護します」

 

 目の前に現れた黄金色のスライムにもう一度E.G.O.を構える。俺たちは、恐ろしいアブノーマリティーを収容してしまったようだ……

 

 

 

 

 

 それは素晴らしい酒であった

 

 飲めばたちまち元気になり、体に力が溢れた

 

 さらに少し待てばまた酒瓶に酒はたまり、何度でも飲むことが出来る

 

 まるで、夢のような存在だ

 

 しかし、我々は気がつかなければならなかった

 

 その黄金色の液体は、人体を強化できるほどのエネルギーの塊であると言うことを

 

 それはつまり、液体自体に力があると言うこと

 

 その力におぼれ、気付いた頃にはすべてが遅かった

 

 強大な力は繁栄をもたらすが、強すぎる力は災いをもたらすだろう

 

 我々に力を与えた存在は、ついに我々に牙を剥いた

 

 

 

 

 

 やがて、希望は絶望に変わるだろう

 

 

 

 

 

T-09-i96 『黄金の蜂蜜酒』

*1
『吊された胃袋』



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T-09-i96 管理情報

 『T-09-i96』は、黄金色の液体の入った透明でシンプルな酒瓶です。内部の液体は甘い香りがして、口当たりは柔らかく飲みやすいと評判です。

 

 『T-09-i96』を飲むことによって得られる能力値の上昇は、累積、重複はしません。『T-09-i96』を飲むタイミングには気をつけてください。

 

 『T-09-i96』をラッパ飲みするのは衛生上あまりよろしくありません。マイコップを持参して使用してください。

 

 『T-09-i96』を一人で独占しようとするのはやめましょう。また、新人に対して飲むように強要するのもやめましょう。

 

 エージェントリッチに『T-09-i96』、というか酒類全般を飲ませることを禁止します。彼が飲みそうになったら戦力を持って阻止してください。

 

 

『黄金の蜂蜜酒』

 

危険度クラス WAW

 

単発使用型

 

 

 

◇管理方法(情報解放使用回数)

 

 

1(1)

 『T-09-i96』は時間が経過する度に、内部に液体が満たされていく。

 

2(3)

 30秒経過してから飲むと、いずれかの能力値が上昇した。

 

3(5)

 60秒経過してから飲むと、いずれかの能力値が二つ上昇した。 

 

4(7)

 90秒経過してから飲むと、すべての能力値が上昇した。

 

5(10)

 120秒経過してから飲むと、すべての能力値が大幅に上昇した。また、受けるダメージ量が増加した。

 

6(15)

 150秒使用しなければ、中から液体があふれ出し、『T-09-i96-1』となって職員を襲い始めた。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 当施設において使用率ダントツナンバー1のツールです。それだけ有能って事だな!

 

 このツールはネタでこっそり入れていたのですが、まさか一発で引くとは思いませんでした。本当に引き運が悪いなこの弟。

 

 このツールは列車枠、つまりはくそツール枠ですね。この手のツールは一度収容してしまったらもう二度と収容しませんよね。

 

 ゲームの方ではツールでは、WAWが最高のクラスとなっているので、考えるときも特に気をつけていました。

 

 普通のアブノーマリティーで言えば、ALEPHを考えるくらい真剣に考えましたね。特に使いにくいけど、うまく扱えれば有益に使えるように考えました。

 

 WAWのツールは、ゲーム通り三つ考えています。それぞれ装着、継続使用、単発使用で考えており、これはその中でも単発使用ですね。他の二つも面倒ながらも使い慣れれば有用である、ということを意識しています。

 

 ちなみに、能力の上昇値は90秒までで10上昇、120秒で20上昇、その時のダメージ増加は1.5倍という感じですね。『T-09-i96-1』はWAWクラスのアブノーマリティーであり、気をつければそこまで苦戦する存在ではありません。ダメージはBダメージですが、攻撃が1パターンであり攻撃範囲も前方に近距離攻撃です。

 

 面倒になれば、施設がスライムまみれになるかもしれませんね。

 

 そういえば、実はこのツールは最初即死がありました。最初はダメージの増加では無くしばらくしたら爆発するというものでした。これを作ったときは「あっ、即死入れ忘れた」位の感覚だったのですが、さすがに管理難易度がくそ過ぎたので弱体化しました。

 

 ちなみに最初にこれの餌食になったのは『T-04-i09』に作業をした後だったので、余計に『T-04-i09』へのヘイトが高まりました。不憫だなこいつ、冤罪だらけじゃ無いか……

 

 それと、『黄金の蜂蜜酒』が邪神関連って、コメント見て初めて知りました。

 

 




Next O-02-i24『俺たち海の荒れくれもんだ』


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Days-15-1 灰燼の白昼『基盤』

ならばみんなの土台になろう

そうすれば私のありがたみを知るだろう


『安全部門にて試練が発生しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

 今日の試練も終わり、残りの作業を行っていたところで新たな試練のアナウンスが始まった。

 

 もう今日は終わりだと思っていた連中が動揺しているが、俺とリッチ、シロはすぐにE.G.O.を構えて走り出した。

 

「おい、試練ってのは1日に一度じゃないのか?」

 

「まさか、それどころかこれからどんどん強くなっていくぞ」

 

「マジかよ、最悪だな」

 

 悪態を付きながらも、試練の発生した場所へ向かっていく。付近に近付くと、既に悲鳴が聞こえてきた。

 

「まずいな、急いで……」

 

「まて、なにか来るぞ!」

 

 飛び出そうとするリッチを手で制し、E.G.O.を構えて扉を注視する。

 

 悲鳴が途切れ、地響きがなる。

 

 そして扉が勢いよく吹き飛ばされると、巨大な丸い岩が飛び出してきた。

 

「おいおい、どこのバラエティだよ」

 

「来るぞ、後退しろ!」

 

 巨大な岩は転がりながらこちらに向かって進んでくる。俺は殿をつとめ、シロが後退しながら信仰で岩を攻撃する。リッチは先頭を走り、一足先に後ろから攻撃するように伝えている。

 

 シロが扉を開ける時間を稼ぐために、巨大な岩を迎え撃つ。幸福で転がる岩に向かって突きを放つが、案の定はじかれてしまった。危なく轢かれそうになるが、シロが間に合ったので急いで扉の向こうに飛び込んで扉を閉める。

 

 ものすごい重量のものがぶつかる音と共に、扉が大きくへこむ。そして何かが転がる音が遠ざかる、もしかしたら勢いをつけてもう一度攻撃をしようとしているのかもしれない。

 

「シロ、今のうちにエレベーターを使って反対側に回り込め。俺はこっちで気を引く」

 

 俺の言葉にシロはうなずき、すぐに駆けだしていった。扉の向こうはどうなっているかわからないが、シロは遠距離武器であるから追うも追われるも攻撃できる。それにどっち向きに転がってきても良いようにしておかなければいけない。

 

 そんな事を考えていると、もう一度大きな音がして、扉がはじけ飛んだ。そして扉の奥からゆっくりと大きな岩が転がってきた。

 

「ちっ、どうやって転がっているんだろうなお前は」

 

 動きが鈍い間に近づいて攻撃を仕掛ける。先ほどと違って、今度は表面に浅く傷をつけることが出来た。しかし岩は自分を傷つけられたことに腹を立てたのか、ゆっくりとこちらに転がってきた。

 

「くそっ、大人しく潰されてくれよ」

 

 追撃して止まってくれないかと期待したが、全然そんな事は無かった。さすがにこんなデカブツに潰されたくなんて無かったので、大人しく引き下がる。すると、巨大岩は一瞬で加速し、俺を轢き殺さんとして襲いかかる。

 

「なんだよその加速!? 卑怯じゃないか!!」

 

「ジョシュア、大丈夫か!?」

 

「こっちはなんとか大丈夫だ! 頼むから早くこいつをどうにかしてくれ!」

 

「任せろ!」

 

 後ろから激しい攻撃音と射撃音が聞こえてくる。必死に逃げながら後ろを確認すると、なんとなく表面がボロボロになってきている気がする。

 

「くそっ、まだ倒れないのか!?」

 

「大分ボロボロになってきている! もうすぐ飛ばせるはずだ!」

 

「よし、その言葉信じるからな!」

 

 目の前に次の扉が迫ってくる。リッチの言葉通りそろそろ倒せると信じて反転する。そして思いっきり踏み込んで巨大な岩に幸福を突き刺す。決して手を離さないように強く握りしめながら幸福を突き立てると、巨大な岩と拮抗して火花が散る。あまりの勢いに体が押し出され、徐々に後ろに押されていく。

 

「ぐっ、ううっ……」

 

 腕がしびれてはじかれそうになる。しかしそこで踏ん張って耐えることで、徐々に相手の勢いも落ちてきた。

 

「いい加減に、つぶれろ!」

 

 最後の力を振り絞り、思い切り幸福を突き刺す。そして巨大な岩がきしみを上げると、ばらばらとはじけ飛んで壊れてしまった。

 

「……終わったのか?」

 

「あぁ、お疲れ様だ」

 

 緊張が解けて腰を抜かしそうになるが、リッチとシロに起こされる。こうして俺は、初めて白昼の試練を乗り越えることが出来たのだった。

 

 

 

 

 




踏み台にするだけで 感謝は無い


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Days-15-2 苺の白昼『衝動は再会と共に』

二度目の出会いに衝撃が走る

きっと これが運命である


「ジョシュア先輩、この前作業したアブノーマリティーなんですが……」

 

 今日の作業も半ばまで終わり、メッケンナが今日発見したアブノーマリティーの情報について情報を聞いている。彼はとても仕事熱心なので、話を聞いている俺も嬉しい。

 

「なんだよメッケンナ、まだそんな事をしているのか?」

 

 そこを通りかかったジェイコブが、あきれたような声を出した。ジェイコブはメッケンナと同期だというのに、いい加減なところが多すぎる。

 

「ジェイコブ、あなたもいい加減真面目に……」

 

「そういうの良いから、真面目君。それよりもジョシュア先輩、誰かかわいい子がいたら紹介してくださいよ」

 

「おう、パンドラで良いか?」

 

「……それ、本気で言ってます?」

 

「なんならサラでも良いぞ?」

 

「え、遠慮しておきます」

 

 俺の話を聞いて、ジェイコブは引きつった笑みを浮かべる。なんだよ、パンドラは顔だけは良いだろ?

 

 なんというか、ジェイコブは軽いやつだ。面倒事が嫌いで、女に目が無い。そのおかげで女性陣からはあまり評判が高くないという。しかし、そんな彼でもサラとパンドラはNGらしい。まったく、失礼なやつだよ。

 

「ジェイコブ、お前も……」

 

『安全部門にて、試練が発生しました。エージェントの皆様は、至急鎮圧に向かってください』

 

「はぁ、本日二回目の試練だ。お前ら、気合いを入れていけ」

 

「「はい!」」

 

 新人二人と一緒に、試練の鎮圧に向かう。今回はいったいどんなやつが出てくるのだろうか、新人二人を連れて行くことに不安を感じるが、こいつらも戦わなければ成長できない。せめて危険で無い相手だと良いのだが……

 

 

 

「いくぞ、油断するなよ!」

 

 新人二人に声をかけて扉を蹴り飛ばす。安全部門のメインルームに到着すると、そこには異様な光景が広がっていた。

 

「まずいな……」

 

「うぷっ」

 

 そこでは背の高い、ひまわりのような植物がたっていた。いや、それはひまわりなんかでは無い。茎は細く、表面は筋繊維のようなもので覆われており、所々内部の骨がむき出しになっている。葉の部分は何かの動物の皮がめくれているようになっており、花はおぞましい臓物が混ざり合った何かが中央に存在し、その周囲には歯のような、骨のような何かが並んでいる。それは、ただ踊るようにユラユラと揺れている。

 

 さらに、それの周辺には何人ものオフィサーが避難もせずに立ちすくんでいる。よく見ると、彼らの目はよどんでおり、まともな状態には見えない。

 

「おい、あんたたち……」

 

「まて、様子がおかしい」

 

 明らかに正常でない彼らを助けようと前に出たジェイコブを引き留める。立ちすくむ彼らは様子が変わり、がくがくと震えだした。白目を剥き、口から泡をぶくぶくと吹くと、唐突に頭がはじけて倒れ落ちた。

 

「うっ」

 

「おいおい、何かいるぞ」

 

 倒れ落ちた彼らの頭部のあった部分から、おぞましい花が顔を覗かせる。それは、かつて見た苺の黎明であった。

 

「まずい、早くその花たちを刈り取れ!」

 

「しかし、もしかしたら『T-09-i97』*1で……」

 

「そんなわけあるか、あれは万能でも善性の物でもない」

 

「メッケンナ、あきらめろ。俺はやるぞ」

 

「くっ……」

 

「刈り尽くしたら俺の方に合流しろ、あの本命を伐採するぞ」

 

 新人たちに指示を出して中央のひまわりに突撃する。幸福で突き、薙いで攻撃するが、やつは何も抵抗をしない。いや、出来ないのかもしれないし、する必要の無いのかもしれない。

 

「くっ、地味に堅い」

 

「ジョシュア先輩! こちらの掃討は終了しました!」

 

「わかった、それじゃあ……!? よけろ!!」

 

 黎明たちを打ち倒したメッケンナとジェイコブを、嫌な予感がしたので突き飛ばす。背後を見れば、白昼が胞子のようなものをこちらに飛ばしてきていた。

 

「ぐっ」

 

「ジョシュア先輩!?」

 

 彼らを助けた代わりに、その胞子は俺に直撃してしまった。そしてその瞬間、俺の脳内を何かが浸食しようとしてくる。体を動かし抵抗しようとするが、体が全く動かない。

 

「ジョシュア先輩! ジョシュア先輩!?」

 

「まずいってメッケンナ、このままだと俺たちもおんなじ様に……」

 

「でも、このままだとジョシュア先輩が……」

 

「なら、管理人に任せて俺たちはあれを潰さないと!」

 

「そ、そうですね。管理人! ジョシュア先輩を頼みます!」

 

 体を動かそうとしても動かし方を忘れた、どうにか考えようとしても頭が働かない。どうすれば良い、何をすれば良いと頭の中でぐるぐる回る。

 

「ぐっ、ふっ」

 

『エージェントジョシュア! しっかりしろ!』

 

 そこで、頭の中に声が響いた。この声は、管理、人?

 

『ジョシュア、君はこの施設の要だ。君をここで失うわけにはいかない! どうか、戻ってきてくれ!』

 

 管理人、そうだ管理人だ。ここはロボトミーコーポレーションであり、俺はそこの職員だ。そして今、新人二人が必死に戦っている。俺は、何をしているんだ?

 

『ジョシュア!』

 

「か、管理人、もう大丈夫だ」

 

 気がつけば、俺の中から浸食しようとしてきていた何かは、俺の中から出て行っていた。それを自覚すると、俺の体は良く動くようになり、頭もしっかり働くようになった。

 

「助かったぞ新人たち! 後は任せろ!」

 

「じょ、ジョシュア先輩~」

 

「さすがっすよ先輩!」

 

 新人二人の奮闘を無駄にしないように、俺も一気呵成にたたみかける。ショコラによる援護を受けつつ、幸福で切りつける。彼らの奮闘のおかげか、白昼の茎の部分は、大分ボロボロになっていた。

 

「もうすぐ終わりだ、頑張るぞ!」

 

「はい!」

 

「了解!」

 

 次の胞子が飛んでくる前に白昼をたたき折らなければいけない。俺が何度もたたきつけ、新人二人が銃を撃ち続ける。そして、ようやく肉色の茎が軋みを上げる。

 

「ギュオオオォォォォラ」

 

「はぁ、ようやく終わったか……」

 

「な、なんとかなりましたね」

 

「いや、まだ何かあるかもしれない。警戒しておけ」

 

「「はい!」」

 

 苺の白昼が倒れる際、その茎は人が叫び声を上げるような音が出た。そして、花が地面にたたきつけられると、不快な音と共に崩れ落ちた。

 

 その後俺たちは、共に何か異常が無いかを確認し、退散した。俺はしばらく休憩をして様子を見たが、特に異変も無いので再び職務に復帰させられる事となった。

 

*1
『極楽への湯』




チャンスをものに出来無い者に

未来は無い


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EX-Story-2 『種子』

 気がつけばこの小説も、投稿を始めてから昨日で一ヶ月が過ぎました。

 ここまで続けてこれたのも、読者の皆様の感想が励みとなったからです。

 これからも、『誰も知らないアブノーマリティー』をよろしくお願いします。


 いくら長い間何も起こらなかったからと言って、安全なものなど存在しない。それがアブノーマリティーというものである。

 

「いててて……」

 

「どうしたキンスリー、随分と派手にやられたみたいだが」

 

 今日もアブノーマリティーの作業を行うために廊下を歩いていると、キンスリーが傷だらけになっていた。ずいぶんとひどい有様なので、思わず話しかけてしまった。

 

「あっ、ジョシュアさん。実はさっき『T-04-i09』の作業をしてたんですけど、結構へまをしてしまいまして」

 

「それにしてはやられすぎじゃ無いか?」

 

「いやー、実はその前にも『O-02-i23』*1の作業をしてまして。実はその時受けた傷もすこしおかしいんで『T-09-i97』*2を使用してみようかと……」

 

「そうか…… うん? キンスリー、お前その手をよく見せてくれ」

 

「へっ? 良いですけど……」

 

 キンスリーの手の甲に着いている傷を見てみると、何か違和感を感じた。この職場ではこういった予感がよく当たる、悪い方にだがな。

 

 キンスリーの手の甲は、少し盛り上がっているように感じる。そこは、先ほど『O-02-i23』に傷つけられたと言っていた場所であった。

 

「何ですかいったい、俺にそんな趣味は…… いつっ!」

 

「なっ!?」

 

 盛り上がっていた傷からいきなり新芽が飛び出してきたかと思うと、急速に成長し始めた。見たことも無い植物はある程度の大きさになると、不気味な花を咲かせ始めた。あまりに異様な光景に言葉を失うキンスリーだが、事態を飲み込むと急に暴れ始めた。

 

「なっ、なんで!? 俺は何も!!」

 

「落ち着け! 少し動くなよ」

 

 暴れるキンスリーを数人で押さえつけ、植物の生えている手を幸福で切り落とす。危険ではあるが、死ぬよりはましだろう。

 

「う、うわぁぁ!? 俺の手が、手がぁ!?」

 

「落ち着いて止血しろ! そしてすぐに…… おい、大丈夫か!?」

 

 キンスリーの様子がおかしいのでその場から離れる。すると、今度は切り落とした表面から植物が芽を出し、急速に成長していく。今度はツタのような植物が伸び、キンスリーの体に巻き付いていく。さらに、切り落とした手の断面からも謎の植物が芽を出していた。

 

「い、いやだ、こんなの嫌だぁぁぁぁ!!!!」

 

「キンスリー! 誰か燃やせるものを持ってこい!!」

 

 そうしている間にも植物は成長していく。気がつけば体中に着いていた傷から植物が生えだしていた。俺は必死に伸びる植物を切り捨てていくが、そのたびに植物は成長していき、攻撃の手が間に合わない。そうしている間にも、キンスリーは植物まみれになって、どんどんやせ細っていく。

 

「たっ、たすけてくれよ。ジョ、シュア、さ……」

 

「キンスリー!!」

 

 そして、俺の奮闘もむなしく、キンスリーは植物に埋もれ、物言わぬ人型の植物となってしまった。

 

「うっ、うわぁぁぁぁ!?!?」

 

「くっ、慌てるな! 落ち着いて避難しろ!」

 

「うわぁぁぁぁ! いてっ」

 

 恐慌状態のオフィサーたちが、一斉に避難を始める。そして、不運なオフィサーが一人、何かにつまずいてこけてしまった。見ると膝を怪我して血が出てしまったらしい。

 

「あっ、あぁぁぁぁ!? 嫌だ嫌だ嫌だっ、あんな風にはなりたくない!」

 

 そしてその傷から瞬く間に植物が生え始め、彼のすべてを奪いとろうと成長を始める。体の表面から皮を裂いていくつも根が飛び出し、出来た傷からさらに植物が生えてくる。その悪循環で、あっという間にそのオフィサーは植物だらけになってしまった。

 

「くそっ!!」

 

 俺はキンスリーだったものに斬りかかり、急いで攻撃していく。そして、攻撃しながらオフィサーたちに指示を出す。

 

「おい、誰か無傷のやつに燃やすものを持ってくるように頼んでくれ! 一刻も早く!」

 

「は、はい!!」

 

 近くにいたオフィサーがうなずくと、一目散に逃げていく。気がつけば何人もこれの餌食になっていたようで、辺り一面に人間だったものが散乱していた。

 

 キンスリーだったものの心臓部分に幸福を突き刺すと、勢いよく伸びていた植物たちはその勢いを減らしていった。そしていくつか植物を切り払うと、植物たちはどんどんしぼんでいき枯れ果ててしまった。

 

「くそ、こんな胸糞悪い事をあと何回もやらなきゃいけないのかよ!!」

 

 そして俺が彼らへの介錯を終えた後に、火炎放射器を持ったリッチがやってきた。俺たちは彼らの残骸ごと、植物たちを焼き払うこととなった。

 

 

 

 

 

「……あれは、お前の仕業だな?」

 

 俺の問いかけに目の前の存在は何も答えない。それがわかっているとしても、俺はこいつに話しかけなければ気が済まなかった。

 

 『T-04-i09』、それは物言わぬ巨木であり、恐ろしいアブノーマリティーであった。

 

「くっ、またか……」

 

 作業を始めるよりも早く、以前と同じような不思議な感覚が俺を襲う。また、頭の中に見慣れない風景が映し出される。

 

 

 

 森からは自然が失われた

 

 何者かによって、森が破壊されてしまった

 

 虫が、鳥が、動物が、そして植物が……

 

 かつて森のあったこの地には、もう何も無い

 

 あるのは、ここにある最後の希望だけだ

 

 目の前には、小さな一粒の種がある

 

 俺は、それを

 

 

 

 手に取った

 

 

 

 手に取り握りしめた瞬間、種は根を張り、俺の手を浸食した。そして表面は古びた木目の様になり、青い光を放つラインが走る。俺はこいつを受け入れることにした。この日に起こったことを忘れないため、この身に刻みつける。それが、せめてもの償いだ。

 

 手を握ったり、開いたりして調子を確かめる。……うん、特に違和感は無い。特に問題が無いのならばもう用事は無い。俺は『T-04-i09』の収容室を後にする。『T-04-i09』、俺はこいつを絶対に許すことは無いだろう。

 

 彼らの犠牲を忘れないために、こいつへの憎悪を忘れないために、こいつのギフトを受け入れたのだから……

 

 

 

 

 

 森から植物が無くなれば、そこに住む生物は皆どこかへ消えてしまう

 

 そして、その地には何も残らない

 

 枯れた大地が広がるだけだ

 

 長い眠りから目を覚ませば、灰色の枯れた大地が広がっていた

 

 そこにはかつての自然は存在しない

 

 ならば、この大地を再び綺麗な自然に溢れた大地に返そう

 

 幸いここには良質な土壌がたくさんいる

 

 そこに種を撒き、かつての大地を取り戻そう

 

 そして再び、素敵な森を取り戻そう

 

 虫が、鳥が、動物が溢れる、かつての森に……

 

 

 

 

 

 さぁ、この枯れた大地に、種を撒こう

 

 

 

 

 

T-04-i09 『森の守人』

*1
現状では未判明

*2
『極楽への湯』



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EX-Story-2 管理情報

 『T-04-i09』は古びた巨木の姿をしたアブノーマリティーです。『T-04-i09』は常にその体から種子を放っています。

 

 傷ついた状態の職員は、『T-04-i09』の収容室に絶対に入らないでください。また、『T-04-i09-1』が存在する部屋にも、入ってはいけません。

 

 『T-04-i09』の放つ種子は様々な種類が存在しますが、そのすべてが『T-04-i09』と同じ能力を有します。同じ植物が再び出現する可能性は、限りなく低いです。

 

 『T-04-i09』の植物は観葉植物にはなり得ません。決して栽培しないでください。見つけ次第焼却処分を実行します。

 

 

 

『森の守人』

 

危険度クラス WAW

 

ダメージタイプ R(4-6)

 

E-BOX 22

 

良い 19-22

 

普通 12-16

 

悪い 0-11

 

 

 

◇管理情報

 

1、HPが減少している状態で『T-04-i09』の収容室に入ると、特殊能力が発動する。

 

2、特殊能力が発動すると、その職員は一定時間後に『T-04-i09-1』となった。

 

3、『T-04-i09-1』と同じ部屋にいるHPの減少した職員は特殊能力を受け、一定時間後に『T-04-i09-1』となった。

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 低い

2 低い

3 普通

4 普通

5 普通

 

洞察

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

愛着

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

抑圧

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

 

非脱走アブノーマリティー

 

 

 

◇ギフト

 

種子(手2)

 

HP-4 MP-4

 

回復量+10%

 

*E.G.O.“種子”を装備すれば、ダメージの最小、最大値が+5される。また、与えたダメージの半分を回復する。

 

 手の表面が古びた木目のようになり、青い光が漏れ出すラインが走る。手の感覚や動きに変化は無く、心地よい手触りである。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器

 

種子(大砲)

 

クラス WAW

 

ダメージタイプ R(15-20)

 

攻撃速度 最遅

 

射程距離 超長距離

 

*着弾後、周囲に一定時間R継続ダメージ。

 

 巨大な木の幹のような大砲。その内部からは青い光が漏れ出し、強力なエネルギーを感じさせる。このE.G.O.を装備した職員は、自然への敬意を抱くようになる。

 

 

防具

 

種子

 

クラス WAW

 

R 0.5

 

W 1.2

 

B 0.8

 

P 1.5

 

 美しき木目の防護服。着心地が良く、どこか心地よい気持ちに包まれる。その見た目に反して、意外にも火には強い。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 はい、やっぱり植物のアブノーマリティーに碌なやつはいませんね!

 

 こいつは特殊能力を受けると、確実に発芽します。裸の巣とおんなじ感じですね。

 

 普段はあまり効果が発動する事は無いでしょう。特にネツァク抑制後だと、まず発動はしないと思います。

 

 しかし、連続で作業したりとか、ついつい忘れてて作業してしまったりすると、事故になりますね。

 

 特に、一番猛威を振るうのはネツァク抑制ですね。私だったら絶対にどこかで事故を起こすと思います。

 

 ……まぁ、これが発動しても、対処する方法はあるんですけどね。やっぱあれ飛び抜けて有能だな。

 

 ちなみに、弟はこいつの特殊能力での死亡は一度もしていません。作業の失敗によるダメージで2回、修正前『フォーチュンキャンディ』で1回、そして修正前『黄金の蜂蜜酒』で2回です。

 

 そのせいでこいつのヘイトが異常に高くなってしまいました。可哀想。

 

 というか、修正前は死にまくってるので、修正して正解だったと思います。

 

 ちなみに、ギフトも弱すぎたので修正しています。最初はHPとMPが-10で、追加の能力も無かったんですよね。

 

 逆に、ギフトが強くなりすぎた可能性もありますが。

 

 さて、これで魔境の安全部門も終わりですね。列車枠だけで十分くそですが、くそ樹木もついてくそみたいな部門ですね。……これ以上とか、考えたくないなぁ。

 

 さて、最後にちょっとしたアンケートを採ろうと思います。といっても何かが変わるわけでは無く、ただ単に興味本位でどのアブノーマリティーを収容したいかが気になったので、部門の最後にアンケートを採ってみます。

 

 よかったら、是非参加してください。

 

 ちなみにコントロール部門と情報部門の最後の管理方法のところにもあります。

 



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教育部門
Days-16 O-02-i24『俺たち海の荒れくれもんだ』


「はぁ、海産物が食いたい」

 

「いきなりどうしたんだ?」

 

リッチと朝食を取りながら、最近あまり食べられていないものに想いを馳せる。元が日本人だからか、たまに無性に海産物を食べたくなる。ここの食事に出てくる魚は川魚ばかりで悲しくなってくる。

 

「良いじゃ無いか、貝やらウニやら、カニにエビ、何でも良いからうまい海産物が食べたいよ」

 

「そうか、俺には理解できないよ」

 

「まったく、これだから肉食獣は」

 

「そうかい、回遊魚」

 

 互いに軽口を言い合いながら、朝食を食べ終えトレイを片付ける。そして席を立つとお互いに今日の作業へと移っていく。

 

「今日も新しいやつの相手か?」

 

「あぁ、今日は『O-02-i24』だ、お前は?」

 

「俺は『T-04-i09』*1の作業だよ、面倒くさい」

 

「そういうな、互いに頑張ろうな」

 

 互いに拳を突き出して健闘を祈る。今日から教育部門の開設と言うこともあって、またしばらくリッチと出会う機会も少なくなってくるかもしれない。

 

「さて、その前に今回の新人たちに顔を見せないとな」

 

 前回がやばいやつばかりであったため、今回はまともな新人だと良いのだが。

 

 そんな事を考えながら、廊下を歩いて行くのであった……

 

 

 

「ふぅ、今回は良い感じの新人で良かった」

 

 教育部門の新人たちと対面し、話した感じはしっかりしているまじめな奴らといった感じであった。そもそも安全部門の奴らが全然安全で無かったからな。教育部門と交換しろ! ……やっぱ良いです、もうあいつらの相手したくない。

 

「さて、今回の相手はどうだろうか」

 

 今回収容されたアブノーマリティーは、『O-02-i24』だ。いつものように収容室の扉に手をかけてお祈りをし、一息つく。そして気合いを入れてから手に力を入れて、扉を開く。扉の隙間から、懐かしき磯の香りが溢れてきた。

 

「うん? なんか変なのが来たなぁ」

 

「……おいおい、その見た目でしゃべるのかよ」

 

 収容室の中にいたのは、しゃべる巨大な蟹であった。その蟹は巨大な鋏を開閉して音を鳴らし、威嚇しているようにもいらついているようにも見える。

 

「なんて言うか、お前からは嫌な予感がするぜ」

 

「そうか、それなら俺も同じだよ」

 

 意外にも気さくに話しかけてくる『O-02-i24』に警戒しつつ、返答をしていく。何というか、この手のやつは話せるだけで会話できない可能性があるからな。

 

「本当か? ならお前、カニは好きか?」

 

「……えっ?」

 

「もちろん、食う方だぞ」

 

 いきなりの『O-02-i24』からの問いに、思わず思考が一瞬停止してしまう。そんな俺を見かねてか、『O-02-i24』はあきれた声を出しながら話しかけてきた。

 

「別に、俺に遠慮する必要は無いぞ? 気軽に答えてくれよ」

 

「あー、それじゃあ、結構好きかな」

 

「そうか、俺も似たようなもんだから気にすんな。やっぱり俺たちは似ているのかもしれないな」

 

 警戒しながら本心で言うと、『O-02-i24』は満足そうに頷いた。いったい何なんだこいつは?

 

「とりあえず、お前にプレゼントだよ」

 

 とりあえず本能作業を行うべく、『O-02-i24』に食料を渡す。それを見て、『O-02-i24』は目を輝かせて喜んだ。

 

「おいおい、お前良いやつじゃ無いか!」

 

「そうかい、それは良かった」

 

「おう、俺はお前を気に入っちまったよ」

 

 『O-02-i24』はその大きな鋏を器用に扱い、食料を食べ始めた。何というか、よく見るとかわいい気がする。

 

「お前さん、困ったことがあれば俺に言えよ。助けてやるからさ」

 

「困った事って言っても、お前は何が出来るんだ?」

 

「そりゃあ、俺たち海の荒れくれもんだ。出来る事は戦うことくらいさ」

 

「なるほど……」

 

 もしかしたら、こいつは赤頭巾の傭兵みたいな感じなのかもしれない。エネルギーを代償にアブノーマリティーとの戦闘を行ってくれるのだろうか。いや、今はそれよりも……

 

「俺たち? 他にも仲間がいるのか?」

 

「あっ、それは聞かなかったことにしてくれ。兄者に怒られてしまう……」

 

 とりあえず、こいつの他に兄がいることが確定した。さすがに可哀想なので聞かなかったことにするが、良い情報を聞いた。

 

「それじゃあ質問だが、あんたに戦うことを依頼するには、エネルギーが必要か?」

 

「エネルギー? そんなものいらねぇよ、単純に腹一杯食べられればそれで十分さ」

 

「そうか……」

 

 うまい話には必ず裏がある。とりあえずこいつに依頼を出すのは考えた方が良いな。こいつは単純そうだから、だますつもりは無いだろう。だが、どうせ俺たち人間とは価値観が違うんだ。どこかで致命的なずれが生じているはずだ。気をつけなければならない。

 

「今日はいい話が出来た、また会おう」

 

「おう、またな!」

 

 『O-02-i24』は最後まで元気に、爽やかに挨拶をしていた。こいつがどれほどやばいやつかはわからないが、つきあい方は気をつけた方が良いかもしれない。

 

「よう、ジョシュア。今作業が終わったところか?」

 

「マイケルか、どうした」

 

 収容室から出ると、マイケルとばったり出くわしてしまった。こいつは何をしているのだろうか?

 

「実は、お前に謝らなければならないことがあってな」

 

「謝ること?」

 

「あぁ、この前『T-09-i97』*2を馬鹿にしていたが、あれは間違えだった。温泉というものがあれほど癒やされるものとは思ってもいなかった。入浴前に身を清め湯に浸かって全身を魂までも洗浄する命の洗濯とはよく言ったものだあれは素晴らしいな体中の疲れが吹っ飛んだしずっと悩まされていた切れ痔と口内炎が一気に解決したあれは神の作り出した奇跡だよ今まで偏見で入ろうとしなかった過去の自分を殴ってやりたいくらいさ君が進めてくれなければ入れは一生この体験をすることの無い無味乾燥の人生を送っていたことだろうそもそも……」

 

「わかったわかった、いったん落ち着け」

 

「あぁすまない、つまりは温泉とは最高だなって事だ!」

 

 いきなり温泉についてまくし立てるように語り始めたマイケルに、思わずドン引きする。しかし少年のような目の輝きを取り戻したマイケルに、そんな事を言うのはさすがにはばかられた。

 

「……本当にドはまりしちゃったよ」

 

 温泉の魅力を延々と語り続けるマイケルに、俺は力なくうなずくしか無かった。

 

 

 

 

 

O-02-i24 『おいしそうなカニ』

*1
『森の守人』

*2
『極楽への湯』



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O-02-i24 管理情報

 『O-02-i24』はおいしそうな巨大なカニです。その巨大な鋏は鋭利な刃物になっています。

 

 『O-02-i24』の収容室の内部には、懐かしい磯の香りが漂っています。

 

 『O-02-i24』に与える餌は、魚介類、海藻類、●●を与えてください。

 

 

 

『おいしそうなカニ』

 

危険度クラス HE

 

ダメージタイプ B(3-4)

 

E-BOX数 18

 

作業結果範囲

良い 11-18

 

普通 5-10

 

悪い 0-4

 

 

 

◇管理方法

 

1、『O-02-i24』に依頼を行うことが出来る。

 

2、LOCK

 

3、LOCK

 

4、LOCK

 

5、LOCK

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 高い

2 高い

3 高い

4 高い

5 高い

 

洞察

1 低い

2 低い

3 普通

4 普通

5 普通

 

愛着

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

抑圧

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

・LOCK

 

 

 

◇ギフト

LOCK

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 LOCK

 

・防具 LOCK

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 何というか、おいしそうなやつですね。ついでに依頼にエネルギーは必要ないですし、これは良いやつだな!

 

 こいつは赤頭巾枠のアブノーマリティーですね。危険度クラスHEと本家より型落ちしてますが、その分エネルギー獲らないからいいですよね? 攻撃もBと、本家よりは通りが良くなっています。というかR免疫のあるアブノーマリティーが多いですよね。ついでに攻撃も近距離ばっかりなので使い勝手が随分違うように思えます、一応遠距離もあるのですが……

 

 こいつも名前が変わるタイプのアブノーマリティーです。最近部門に一体は必ずいる気がしますね。ちなみにこれからもまだまだ出てきます。なんだかんだでくそ樹木書いてるときとか楽しかったので、結構好きではあるんですよ。まぁ、なんだかんだ書きにくいので大変です。形式を変えれば良いんですけどね……

 

 ちなみに、今回の話に出てきたように、こいつの兄貴もそのうち登場します。こいつの兄貴は果たしてどんなアブノーマリティー何でしょうね。そいつもおいしそうなやつなんでしょうね。ついでに人類の味方枠ですね、間違いない。

 

 カニと言えば、昔はカニ爪が好きで、誕生日のお祝いの時とかに出してもらって喜んでいました。高いものなので毎回というわけにも行かなかったのですが。それに、カニ味噌もおいしいですよね。この前カニの甲羅を器にして焼いたカニ味噌がとてもおいしかったです。これも高かった、なぜカニは高いのか……

 

 そういえば昔、沢ガニのせんべいなんてものも食べたことがあります。予想と違って甘い味付けだったのでびっくりした覚えがあります。

 

 人は、なぜカニに惹かれるんでしょうね……

 




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Days-17 O-02-i25『必ず貴方をお守りしましょう』

「聞いてくださいよジョシュア先輩~」

 

「ほいほい、聞いてやるよ」

 

 昨日のマイケルの話に疲弊していた俺は、カッサンドラの話にも生返事になってしまった。そもそもこういうときのカッサンドラの話は、大体占いの結果が悪かったって話だからな。

 

「むぅ~、ジョシュア先輩ちゃんと私の話聞いてますか?」

 

「聞いてる聞いてる、だからそんなかわいい顔するなよ」

 

「かわいいって何ですか、怒ってるんですよ!」

 

 そう言いながらプリプリほほを膨らませるカッサンドラは、言っては悪いが小動物みたいでかわいかった。

 

「ほれほれ、そろそろ仕事だ戻れ」

 

「ひどいですよジョシュアせんぱい~」

 

 ぶつくさ言うカッサンドラを引きずって職場に連れて行く。とりあえずこいつの機嫌をとっておくか。

 

「とりあえず『T-09-i98』*1にでも行ってくれば良いだろ?」

 

「そういえば私の機嫌が良くなると思ったんですか?」

 

「それじゃあ行かないのか?」

 

「……それは行きますけど」

 

 どれだけ言っても日課の『T-09-i98』への作業はする。結局彼女は、占いには弱いらしい。

 

 なんだかんだで機嫌を直したカッサンドラを収容室まで連れて行き、俺の今日の作業する収容室まで行くことにした。

 

 

 

 今日やってきたのは『O-02-i25』、今日はいったいどんなやつが来るのだろうか? 出来れば大人しいやつであって欲しいな……

 

「さて、今日も行くとしますか」

 

 日課を終わらせて収容室の扉に手をかける。扉を開いて中に入ると、また懐かしい磯の香りが漂ってきた。

 

「あぁ、招かれざる客が来たみたいだね」

 

「おいおい、会っていきなり随分な挨拶だな」

 

 収容室の中にいたのは、これまた巨大なヤドカリだった。巨大なヤドカリは俺の存在に気がつくと、すぐに殻にこもって目だけを出してこちらの様子をうかがっている。

 

「そうかな、君に対してはこれくらいで良いと思うけど」

 

「俺、何かしたか?」

 

 『O-02-i25』の突き放すような言動に、疑問が生じる。いったいこいつは俺の何が気にくわないのだろうか、それとも人間全体が嫌いなのだろうか?

 

「いや、君の臭いが嫌いなのさ。僕たちの敵の臭いがする」

 

「臭いって何だよ、それに敵って……」

 

「君たちが気にする必要は無いよ」

 

「はぁ、そうか」

 

 とりあえず面倒なので、今日の作業のための道具を用意する。

 

「……それは、食料ですか?」

 

「そうだよ、いるだろ?」

 

「……まぁ、無駄にするものでもないですし」

 

 何というか、渋々受け取ってます感を出しているが、結局ほしがっているのが丸わかりだ。『O-02-i25』はこれまた器用に鋏で食料をつかむと、それを殻の中の口まで運んで引きこもりながら食べていた。

 

「……まぁ、もし困ったことがあれば、貴方に力を貸してあげても良いですよ」

 

「そうか、それは良かった」

 

 ……何というか、ついこの前も同じ事を言われたような気がする。もしかしてこいつも『O-02-i24』の仲間だろうか?

 

「ちなみに、あんたは何が出来るんだ?」

 

「あぁ、あんたを悪意から守ってやるよ。もちろん対価はもらうけどね」

 

「対価って?」

 

「……まぁ、おなかいっぱい食べられたらそれで十分だよ」

 

 これまた同じような事を聞いた覚えがある。やっぱりこいつら同類だろ!? あいつの言っていた兄貴ってこいつか?

 

「もし私に依頼をしていただけたら……」

 

「その時は、必ず貴方をお守りしましょう」

 

 殻から飛び出してきた『O-02-i25』は、格式張った挨拶をしてお辞儀をした。

 

 そのあと俺は、何も言わずにそのまま収容室から出て行った。結局やつがなぜ俺を嫌っていたのかわからなかったが、このまま作業を行っていけば、いずれはわかるかもしれない。何事も根気が必要だろう。

 

 

 

「そうだ、せっかくだし『T-09-i98』でも使ってみるか」

 

 なんとなく思いついて、『T-09-i98』の収容室に向かう。今日出てきた飴玉は、紫色だった。

 

 

 

 

 

O-02-i25 『おいしくなさそうなヤドカリ』

*1
『フォーチュンキャンディー』



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O-02-i25 管理情報

 『O-02-i25』は巨大なヤドカリの姿をしています。その背に乗せられた殻は、鋼より堅牢です。

 

 『O-02-i25』の収容室の内部には、懐かしい磯の香りが漂っています。

 

 『O-02-i25』が完全に殻に引きこもると、音すら遮ります。再び顔を出すのは『O-02-i25』の気分次第です。

 

 

 

『おいしくなさそうなヤドカリ』

 

危険度クラス HE

 

ダメージタイプ W(3-4)

 

E-BOX数 18

 

作業結果範囲

 

良い 14-18

 

普通 6-13

 

悪い 0-5

 

 

 

◇管理方法

 

1,『O-02-i25』に依頼を行うことが出来る。

 

2、LOCK

 

3、LOCK

 

4、LOCK

 

5、LOCK

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

洞察

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

愛着

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

抑圧

1 高い

2 高い

3 高い

4 高い

5 高い

 

 

 

◇脱走情報

 

LOCK

 

 

 

◇ギフト

 

LOCK

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 LOCK

 

・防具 LOCK

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 またまた名前の変わるタイプのアブノーマリティーです。二連続とかマジかぁ……

 

 こいつはピンクの詐欺師と同じ防御力を上げるタイプのアブノーマリティーですね。前回のアブノーマリティーと同じように、人類の味方枠ですね。正直ピンクの依頼ってあまり使ったことが無いのでどれくらい使えるのか知らないんですけどね。情報開示以外で収容した覚えが無いんですよね。

 

 このアブノーマリティーは、なんか気がついたら性格が結構好きな感じになってしまいました。この前出てきたジェイコブも似たような感じで、実はあのときに死ぬ予定だったんですよね。書いててキャラが気に入ったので、死亡の期限は延長になりました。

 

 ちなみに、なぜ彼が「おいしくなさそう」なのかというと、ヤドカリってどんな味なのかなって思い、『ヤドカリ 料理』と検索しても悲しい結果に終わったのでそうなりました。まぁ、おいしかったらもっと市場に出回ってるはずですもんね。ちょっと期待してましたけど、やっぱり現実は残酷ですね。

 

 このヤドカリも、前回の彼と同じ場所出身のアブノーマリティーです。私の中では、O(オリジナル)のアブノーマリティーは、外郭などのどこかに元から存在しているものと考えています。正直、ちょっと違う感じのものもあるので、もしかしたら違う場合もありますが。それでもこの小説ではそういうものとして出てきます。全体でみれば結構Oが多い気がしますが。そう考えると、この世界が大変な事になっているような気もしますね。完全にやばいなぁ……

 




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Days-18 O-02-i23『豊富な知識は身を助けるのだ』

 オリジナルアブノーマリティーを題材にしておいて今更ですが、今回少し多めのオリジナル要素が出てきます。苦手な方はご注意ください。


 最近どうにも変な感じがする。この教育部門で収容されたアブノーマリティーたちの反応が、なぜか引っかかる。ほかの職員の話ではいたって普通にしており、初めに警戒されているという話は聞かない。彼らは一体俺の何に反応しているのだろう?

 

「ジョシュア先輩、どうしたんですか?」

 

「あぁ、ハルか。すまん考え事してた」

 

「なんかわかりませんが、あんまり無茶しないでくださいね。先輩に倒れられたら大変なんですから」

 

「大丈夫だよ、それよりお前も早く作業に行ってこい」

 

「はい!」

 

 ハルは教育部門に新人で入ってきた職員だ。明るくムードメーカーで、来て早々みんなになじんでいる。

 

 ハルが走り去っていく姿を見て、俺も今日の作業に向かうことにする。いつまでもうじうじ考えていても仕方がない、そんなことよりも前を向いて歩くしかないのだ。

 

 

 

「さて、今日のアブノーマリティーはっと…… げぇ」

 

 資料を確認すると、今日収容されたアブノーマリティーは『O-02-i23』、またオリジナルに分類されるアブノーマリティーだ。先ほどまで前の二体について悩んでいたので、なんとなく気が重くなる。

 

 重い足を引きずりながら歩いていると、気が付けば『O-02-i23』の収容室の目の前まで来ていた。気持ちを切り替えて収容室の扉に手をかける、そして何が来ても動揺しないように注意して扉を開いた。

 

「……おや、こんなところでも君たちに出会うとは」

 

「……おいおい、完全に関係者だろ」

 

 懐かしい磯の香りの漂う収容室には、巨大なエビが存在していた。それはこれまた大きなライフルを持っていて、自分の肩? に立てかけるように担いでいた。その海産物のフォルム、明らかに銃を撃ちそうな持ち物、そして今まで通りしゃべる点からも、こいつが今まで収容されてきたアブノーマリティーたちと関連している可能性がかなり高いことがわかる。

 

 俺はいつも通り食料を渡して、慎重に会話を試みる。

 

「あんた、さっきの言葉の意味はなんだ?」

 

「その質問に答える前に、わしの質問に答えてほしい」

 

「まて、今は俺の……」

 

「おぬし、この世界の存在ではないな?」

 

「……!?」

 

 今、こいつは何を言った? もしかして俺が転生しているということを…… いや、そんなはずはない。なるべく動揺を悟られないようにしなくては。

 

「何を言っている、それよりもお前のほうが別の世界から来たんじゃないのか?」

 

「ふむ、その可能性もなくはないかもしれんのう。しかし、おぬしの場合は、なんというか中身と器が別々なような気がしてのう」

 

「なんだよそれ……」

 

「つまりは、おぬしの魂は別の世界のものじゃな?」

 

 ……まずい、こいつは何かを知っている。話題をそらすか、収容室から出ていくのも手かもしれない。

 

「別に警戒する必要はないぞ? ただわしらは異界の存在にちと敏感でな、異界の存在というだけで警戒してしまうのだ。別におぬしの秘密まで探ろうというわけではない」

 

「……それを、どうやって信じろと」

 

「ふむ、それならおぬしの質問になんでも答えよう。答えられる範囲でじゃがな」

 

 うーん、それなら確かに聞きたいことはいくらでもある。だが本当にこいつの言うことを信じていいものだろうか? 少なくとも保険くらいはかけておくべきだろう。

 

「それなら約束してくれないか? 俺のことは誰にも話さないと」

 

「それくらいならお安い御用じゃ。約束は必ず守ろう」

 

「わかった」

 

 とにかく信じないことには話は進まない。それに、俺の知らない情報を得るための絶好の機会だ。この機会を逃す手はない。

 

「それじゃあ、なんで俺が別の世界の存在だと思ったか教えてくれないか?」

 

「それは単純じゃ、おぬしらが外郭と呼ぶところにあるわしらの住んでいた場所では、おぬしのように異界からくる招かれざる客がよく来ておった」

 

「招かれざる客?」

 

「うむ、わしらの故郷である『崩海』では、異界とつながってしもうたせいで恐ろしい存在たちが跋扈するようになってしまったのじゃ。異界の存在はなぜか我々を目の敵のように襲ってきた、それ故にわしら兄弟はこの世界の存在でないものに対して敏感になりにおいで判別できるようになったのじゃ」

 

「その兄弟っていうのは……」

 

「おぬしもあっただろう? わしと同じくらい大きなカニとヤドカリじゃ」

 

「!?」

 

 こいつ、なぜほかの二体がここに収容されていると知っている? こいつにそれを知るすべはないはずだぞ!?

 

「なぜ、という顔をしておるのう。それはわしら兄弟がどこにいるか互いにわかるからなんじゃが、別にそんなことはよい」

 

「なに?」

 

「ほかにも知りたいことがあるじゃろう?」

 

「そんなに話してくれるのか?」

 

「うむ、別に話しても困ることなんてあるわけではないのう。それに、こうやって信頼関係を築いておいたほうがここでの生活はいいものになりそうじゃしのう」

 

「……そうか」

 

 こいつ、ほかの二体と違ってだいぶ理性的というか、会話ができるな。正直かなり恐ろしいが、まだ話せる分ましなのかもしれない。だが、こいつらが本当に安全と決まったわけではない。いや、必ずどこかに裏があるはずだ。俺にできることは、その裏が表面に出ないように努力することだけだろうか。

 

「それじゃあ次の質問だ。お前たちの目的はなんだ、なぜこの施設に来た?」

 

「ふむ、わしらはここに連れてこられたのじゃがな。とはいえいつまでも『崩海』にいては、命が足りなくなってしまうのでなぁ。別によいかと思ってくることにしたのだ」

 

「なら目的は?」

 

「そうじゃのう、腹いっぱいご飯を食べさせてもらえたら、それで十分じゃ」

 

「お前たちはみんなそうだな」

 

「ふぉっふぉっふぉっ、みな育ち盛りでのう」

 

 こいつらの目的はみな一致している。口裏を合わせたという可能性もなくはないが、少なくともあのカニはそんなことできるようには見えない。しかしやっぱり何か裏があるような気がしてならない。

 

「それじゃあ、次の質問だ。その異界の存在っていうのは、どんな奴らなんだ?」

 

「ふむ、語れることは多くない。明らかに異様なものもいれば、わしらと大差ないものもいる。中でも恐ろしいのは『異界の主』じゃ」

 

「『異界の主』?」

 

「あれは眠り続けているが、遠くから見ただけでも恐怖を感じた。あれを目覚めさせてはならないのじゃ」

 

「なるほどな……」

 

 それからもいくつか疑問に思ったことを『O-02-i23』に質問していく。こいつはいろいろなことを知っており、俺の質問のほとんどに答えた。

 

「なんというか、随分と物事を知っているな」

 

「もちろんじゃ。なぜなら、豊富な知識は身を助けるのだ。身に着けておいて損はないのじゃよ」

 

「……それもそうだな」

 

 確かにこいつの言うことも一理ある。俺もゲームの知識があったから助かったことが何度かある、それにこっちに来てからも学び続けたおかげでここまで生きていけたのだ。

 

「さて、それじゃあそろそろお開きにさせてもらうぞ」

 

「おぉ、少し待ってくれ」

 

「なんだ?」

 

 『O-02-i23』の言葉に足を止めると、『O-02-i23』は肩にかけていたライフルを手に持ち、上に向けた。

 

「何か困ったことがあればわしに言うがよい、必ず助けになろう」

 

「その銃で援護してくれるのか?」

 

「うむ、もちろんだ」

 

 その言葉を聞いて、今度こそ収容室から出ようとする。そこで、ふときき忘れていたことを思い出した。

 

「すまん、最後に聞いておきたいことがあるんだが……」

 

「うん、なんじゃ?」

 

「『黒い森』って知ってるか?」

 

 『黒い森』、それはある意味において、ロボトミーコーポレーションの重要な設定だ。この世界に転生してからいろいろと情報を集めてきたが、俺の情報収集能力ではどうしても限界があった。結局『黒い森』に関する情報を集められず、彼らがいるのかもわからなかったが、もしかしたら『O-02-i23』なら何か知っているかもしれないと、淡い期待を寄せていた。

 

「『黒い森』とな…… すまんのう、わしは聞いたことがないのう」

 

「そうか、同じ外郭なら知っているかもと思ったんだけどな」

 

「……ほう」

 

 『O-02-i23』はそれっきり何も話さなくなってしまった。俺ももう聞くべきことは聞けたので、収容室を後にした。

 

 様々な有益な話は聞けたが、結局『黒い森』の情報については何も得られなかった。あれほどの知識を持つ『O-02-i23』でも知らないということが、多少引っかかったりもしたが、それも仕方がないと考える。まだ今の俺では知ることができないか、もしかしたら『黒い森』自体がないのかもしれない。

 

 だが、もし『黒い森』がないのなら、ここはどこなのだろうか?

 

 そんな一抹の不安を抱えながら、俺は次の作業に向かっていく……

 

 

 

 

 

O-02-i23 『おいしそうなエビ』



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O-02-i23 管理情報

 『O-02-i23』は大きなライフルを持った巨大なエビです。非常においしそうです。

 

 『O-02-i23』の収容室の中は、懐かしい磯の香が漂っています。

 

 『O-02-i23』をエビフライにしようとしないでください。ライフルを向けられます。ただし、成功したら一口私にも分けてください。

 

 

 

『おいしそうなエビ』

 

危険度クラス HE

 

ダメージタイプ R(3-5)

 

E-BOX数 18

 

作業結果範囲

 

良い 15-18

 

普通 6-14

 

悪い 0-5

 

 

 

◇管理方法

 

1、『O-02-i23』に依頼をすることができる。

 

2、LOCK

 

3、LOCK

 

4、LOCK

 

5、LOCK

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 高い

2 高い

3 高い

4 高い

5 高い

 

洞察

1 低い

2 低い

3 低い

4 普通

5 普通

 

愛着

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

抑圧

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

LOCK

 

 

 

◇ギフト

 

LOCK

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 LOCK

 

・防具 LOCK

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 はい、これで甲殻類ブラザーズが全員揃いましたね。いやなんで一部門にそろってしまったんでしょうね。

 

 そもそも偶然で前二体を当てて、最後にこいつもそうっぽいと言ってとったのがまさかのあたりという豪運でした。その運をもっとほかのところに使ってくれ。

 

 この甲殻類ブラザーズは、全員に依頼をすることができる、傭兵のようなイメージで作りました。こいつは魔弾ポジですね、ほかのやつらと違って唯一ランクが元ネタと同じです。攻撃属性もRととおりは悪いですが、それ以外のところで差別化させています。エネルギーを必要としない部分などがそうですね。

 

 ほかにもこいつら、全員名前が変わるタイプなんですよね。まさか考えているときは、一部門に集中するだなんて考えてなかったんですよ。おかげで今苦労することになりました。

 

 ちなみに、こいつらは元々エビとカニを収容してからヤドカリを収容するということを想定していました。まぁそれ自体は難しいので何ならヤドカリが最初でそのあとにエビとカニならいいかなとは思っていたのですが、一番微妙な収容の順番になりました。それでも話の流れがいい感じにはなったので結果オーライではありましたが。

 

 今回の話は、少し今までとは毛色の違う話になりました。。とはいえそんなに深く考える必要もないので、そんな感じなんだー位で考えてもらったらうれしいです。ハードル上がると書きずらいんだぁ。

 

 教育部門は前回、前々回の部門みたいにひどくはないけど、面白い部門にはなったと思います。まぁ、まだツールが残っているんですけどね。

 




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Days-19 O-09-i94『親愛なる我が息子へ』

「最近へんな奴らがきすぎじゃないか?」

 

「そうか? あいつらのおかげで海産物の良さを知ることができたぞ」

 

「なんでか知らないけど、ようやく食堂に海産物が出されるようになったよな」

 

 リッチと一緒に最近のアブノーマリティーの話をしながら歩いていたはずなのに、気が付けば食堂の話になっていた。なんでだっけ?

 

「まぁいいか、今日はツールの日だな」

 

「あぁ、今日は一体どんな奴が来るんだろうな」

 

 今日収容されたツールは『O-09-i94』、ツール型の中では初めてのO(オリジナル)だ。どんな奴かはわからないが、変なものでさえなければそれでいい。頼むからこの前みたいな変なのは来ないでくれよ?

 

「さて、ついたな」

 

 話に夢中になっていたせいか、気が付いたら『O-09-i94』の収容室の前に立っていた。とりあえずいつも通りに適当に扉を開ける、俺が入ると続いてリッチも入ってきた。

 

「……なんだこれ、手紙か?」

 

「うーん、見た感じ継続使用型でも単発使用型でもなさそうだな。今までのやつと違って、装着型かもしれない」

 

「装着型?」

 

「あぁ、簡単に言うと装備できるツールだよ。とりあえず俺が付けてみてもいいか?」

 

「あぁ、頼む」

 

 とりあえず手紙を手に持ってみる。何の変哲もない、古びた手紙だ。どうやら中身は英語で書かれているようだ。

 

「なになに、『親愛なる我が息子へ、私は』……」

 

「おいジョシュア、それは置いておいたほうがいいんじゃないか?」

 

「えっ、なんでだよ?」

 

「いや、明らかにおかしい奴がいるじゃないか」

 

「おかしい奴って…… なにこれ?」

 

 鬼退治を構えるリッチを不審に思いながら周囲を確認すると、俺の背後に半透明のおっさんが浮かんでいた。俺はとっさに手紙を置いて幸福を構えると、そのおっさんはすぅーっと消えてしまった。

 

「なっ、もしかしてこれが手紙の効果なのか?」

 

「あの幽霊がか? 幽霊に取りつかれるだけの使えんツールだな」

 

「いや、たぶん違う。あれに害意や悪意はなかっただろう?」

 

「……まぁ、確かに」

 

「とりあえず、俺に異変があれば遠慮なくぶっ叩け。そのあとにでも『T-09-i97』*1にでもつけてもらえればいい」

 

「おい、別にそんな無茶しなくても……」

 

「いや、いいんだ。どうせ誰かが使わなくちゃいけないんだ」

 

 俺はもう一度手紙を手に持つと、その手紙を懐に入れて収容室から出る。おっさんの幽霊は収容室から出ても俺の後をついてきていた。なんというかス〇ンドみたいで興奮する。

 

「さて、とりあえずこのままアブノーマリティーに作業でもしてみようかな?」

 

「本当に大丈夫か?」

 

「大丈夫かはわからないから試してみるんだろ?」

 

「……まぁ、そうだが」

 

「大丈夫だって、とりあえず『T-01-i12』*2で試してみるから」

 

「本当に気をつけろよ?」

 

「お前って意外と心配性だよな」

 

 思わず思ったことを伝えると、リッチは恥ずかしそうに顔をそむけた。さて、それではいっちょやってみようか。

 

 

 

「意外と大丈夫だったな」

 

「そうだな、少なくとも使ってみた感じでは悪くなさそうだ」

 

 あれからいろいろ試してみたが、とりあえず害になることはなかった。むしろ、たまに俺が受けるダメージを肩代わりしてくれるくらいだ。もしかしたら肩代わりさせすぎたらダメな感じかもしれない。

 

「とりあえず、そろそろ返却してみるか」

 

「あぁ、結構な時間使っていたからな」

 

「はぁ、返す瞬間が一番緊張する」

 

「どういう意味だ?」

 

「特定の行動してないと返した瞬間死ぬことがあるんだよ」

 

「えげつないな、それよりなんでそんなこと知っているんだ?」

 

「そりゃあ、資料を読み漁ってるからな」

 

「勉強熱心だな」

 

「生き残るのに必死なのさ」

 

 資料を読み漁っているのも本当だが、実際は前世のゲームの記憶だがな。これで何度も助けられているんだから、意外と馬鹿にはできないな。

 

「さて、それじゃあ返すか」

 

「あぁ、慎重にな」

 

 『O-09-i94』の収容室に戻り、手紙を返却する。すると、おっさんの幽霊が消える瞬間に手を振ってきた。その顔は、心なしか微笑んでいたような気がした。

 

「……よし、特に異常はないな」

 

「もうすぐ業務終了だ、そろそろ俺たちも終わろうか」

 

「そうだな、最後に『T-09-i97』にでも入ろうぜ」

 

「……それなんだが、マイケルが『T-09-i97』で自殺未遂をしたから、今日は利用停止らしい」

 

「そんなぁ! 楽しみにしてたのに……」

 

「仕方がないから『T-09-i96』*3でも飲みに行こう、この時間ならだれも文句は言わないだろう」

 

「そうだな、せっかくだしお前も飲んでみるか?」

 

「いいのか? ……せっかくだし一口だけなら」

 

「おっ、リッチも大人の階段を上る時が来たか」

 

 そんなことを語りながら、俺たちは『T-09-i96』の収容室に向かって歩いていく。何か危険はあれど、『O-09-i94』にはそこまでの脅威がないと考えていた。俺たちはまだ、『O-09-i94』がどんなものであるかも知らないというのに……

 

 ちなみに、この日以降リッチがお酒を飲むことは禁じられることとなる。

 

 

 

 

 

「畜生、どうなってやがる!?」

 

「くそ、こんな事態だというのに、今牙をむくのか『O-09-i94』!」

 

 苺の黎明を見逃していたせいで起こってしまった大規模収容違反。その対処に追われている最中に、『F-01-i05』*4の一撃を受けた新人の職員であるデリラが突然狂暴化した。体から青白いオーラを出しながら肥大化した肉体を駆使して『F-01-i05』に攻撃を加えていく。いきなりこうなった原因はわかっている、今日デリラは『O-09-i94』を装着していた。いつものように背後に幽霊を従えていたが、現在その幽霊はいない。

 

「ギャアァァァァ」

 

 デリアの悲痛の叫びが聞こえる、きっとこれは彼の叫び声でもあるのだろう。

 

「畜生、結局こうするしかないのかよ」

 

 『F-01-i05』を狙いながら周囲を考えない暴虐の嵐を起こすデリアに対して、俺たちも覚悟を決めなければならなかった。

 

 結局、この日俺たちは一人の職員と、多数のオフィサーを失うこととなった。

 

 

 

 

 

 父の訃報が届き、数十年ぶりに故郷へと帰ってきた

 

 父とはあまり良い思い出は無いが、母がどうしてもというので帰ってきた

 

 父は頑固な人だった

 

 俺がやりたいことを認めてくれず、結局家を出て行くことになってしまった

 

 家に着けば泣きはらす母と兄弟、そして父の仕事仲間

 

 父の最後を聞き、自然と昔話に花が咲く

 

 あれほど嫌っていた父との思い出は、さかのぼれば意外と多くあった

 

 一緒に遊んだこと、危ない事をして怒られたこと、そしていつも必ず俺を守ると約束したあの日

 

 あの頃、父は俺のヒーローだった

 

 自然と涙が溢れる

 

 溢れた感情は堰を切ったように流れ出し、道を作っていく

 

 そんなとき、母が父からの最期の手紙を渡してきた

 

 震える手で封を切り、ぼやけた目で手紙を見ると、こんな一文から始まっていた

 

 

 

 

 

 親愛なる我が息子へ、私はいつだって君を見守っているよ

 

 

 

 

 

O-09-i94 『父からの手紙』

*1
『極楽への湯』

*2
『蕩ける恋』

*3
『黄金の蜂蜜酒』

*4
『彷徨い逝く桃』



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O-09-i94 管理情報

 『O-09-i94』は古びた封筒に入った手紙です。その封筒に宛名はなく、切手も貼られていません。

 

 『O-09-i94』に触れると、中年の男性の霊体が出現します。その霊体はほかのものに触れることはできず、ただ『O-09-i94』の所有者の後をついていきます。

 

 『O-09-i94』を返却すると、男性の霊体は姿を消します。また、男性の霊体にも意識のようなものがあることが確認されています。

 

 『O-09-i94』を所持している職員が窮地に陥ると、その職員を守ろうと憑依し、元凶を排除しようとします。

 

 『O-09-i94』をパシリや覗き、他人の秘密を知るために利用しようとしないでください。そもそも触れられず、感覚の共有もできません。

 

 

 

『父からの手紙』

 

危険度クラス HE

 

装着タイプ

 

 

 

◇管理方法(情報開放装着時間)

 

1(10)

 『O-09-i94』を装着した職員は、自身の背後に中年男性の霊体を確認した。

 

2(60)

 装着した職員は、一定確率でダメージが無効化された。

 

3(90)

 職員が一定以上ダメージを受けると、男性の霊体が職員にとりつき、元凶を倒すべく戦闘を行った。

 

4(120)

 職員に憑依した男性は倒れるまで戦闘を行い、戦闘終了後に職員は死亡した。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 初めての装着型にして、HEツールですね。えっ、もっとやばいのが収容されている? そんな子知りませんねぇ……

 

 このツールは一定確率でダメージを無効化してくれる有能なツールです。その確率は10%ですが、意外と発動する機会があると思います。

 

 一定以上のダメージも、大体職員のHP、MPの最大値の30%くらいまで減らないといけないから、そんなに発動する機会もないと思います。

 

 暴走状態になると、まず自身を攻撃してくる相手を対象とします。その相手に攻撃しますが、この攻撃は普通に他の職員もくらいます。攻撃と体力はその職員のステータスと装備に依存するので、エースが餌食になるとまずとめられなくなります。

 

 ちなみにこのツール、最初考えたときは「ス〇ンドみたいなかっこいいツールを作りたいなぁ」なんて頭を空っぽにして考えました。そもそもツール自体が本家が強すぎてなかなか考えるのに苦労しました。ほとんどの効果がすでにあるので、どれだけ効果が被らないようにするかを考えながら作っていました。

 

 ……まあ、そのうちちょっと効果の違うだけのやつとかが出てきたりするんですけどね。

 

 ちなみに、今回変な引きでしたが、この続きはまた今度書きます。ちょっと書きたい話があるので、その時までお待ちください。

 

 

 

 それにしても、この部門、HEしか収容されていませんね。

 




Next F-04-i27『素敵な時間よ、永遠に』


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Days-20-1 黄金の白昼『行進』

 道の先に 気の合う生涯の友に出会った

 我々は共に進む 大いなる道の先へ


 今日はシロと一緒に昼食をとっている。最近あまり一緒に食事を出来ていなかったので少し嬉しい。シロも心なしか嬉しそうにしている。

 

「それでこの前リッチがさぁ……」

 

「…………フフッ」

 

「えっ、今笑ったか!?」

 

 いつもは俺が適当に会話してシロは無表情に話を聞くだけだったから、かすかにとはいえ彼女が微笑んだことがかなり衝撃的だった。今まで笑顔なんて見たことも無かったから、その表情が新鮮で、とても綺麗に見えた。

 

「…………元気出て良かった」

 

「えっ、俺そんなに元気なさそうだったか?」

 

 俺の問いかけに、シロはこくりと頷いた。最近少しずつコミュニケーションがとれるようになってきたが、ここまで出来るようになるとは思わなかった。シロは食事の手を止めて、俺の目をじっと見つめてくる。

 

「…………好き」

 

「えっ?」

 

「…………貴方のお話」

 

「……あぁ! なるほどね!」

 

 びっくりした、てっきり俺のことかと思ったよ。もしかしたらシロも大分人間らしくなってきたのかと思ったが、少し違ったらしい。もしかしたらいつも反応が無いから、その話が楽しいのかわからなくて少し迷っていたことがわかっていたのかもしれない。

 

「それじゃあなんか話をしようか?」

 

「…………うん」

 

「そうだな、それじゃあこの前パンドラが『O-02-i23』をエビフライにしようとして……」

 

『教育部門で試練が発生しました、エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

 次の話をしようとしたその時に、今日二回目の試練が発生してしまった。なんとタイミングが悪い、しかし仕方が無いのでE.G.O.を持ってすぐに鎮圧に向かう。シロはすでに準備万端だ。

 

「この話は後だな、それじゃあ行くぞ」

 

 俺が走り出すと、シロも頷いて後を着いてくる。今回は収容室前の廊下に出現したらしい、新しい試練で無ければ楽なのだが……

 

 

 

「おっと、早速お出ましか」

 

 試練の出現した廊下に着くと、早速銃弾が飛んできたので幸福ではじく。幸福を構えて視線の先を確認すると、目の前には四体の小人が列を作って行進していた。

 

 先頭にいるのは、彼らにしては大きな盾を持った小人だ。よく見ると他の連中より一回り大きい気がする。その次にいるのは剣を持った小人だ。よく見るとその姿は、以前鎮圧した黄金の黎明に似ている様な気がする。そしてその後ろにいるのは槍を持った小人だ。前二体の後ろで元気に槍を振っている。そして最後にいるのが俺に攻撃をしてきた銃を持った小人だ。どうやら俺に攻撃が効かなかった事が予想外だったのか、焦って弾を詰めようとしてうまくいっていない。それ火縄銃だったのか。

 

「シロ、俺を援護しろ」

 

「…………うん」

 

 俺が走り出すと同時に、シロが信仰を撃って前の盾持ちを牽制する。盾持ちが構えて矢を弾くと同時に、その盾を踏み台にして高く飛び上がる。驚いた槍持ちが我を取り戻して俺に攻撃をしようとしてくるが、これも飛んでくる矢が穂先を弾いて牽制する。さすがはシロだ。

 

「ほらよっ!」

 

 ようやく弾を込め終わった銃持ちの銃を、巻き込むように槍を振って奪い取る。そしてそのまま槍で数度突いて切りつけると、ついに銃持ちの小人は力尽きてしまった。

 

 仲間が一体やられたことに腹を立てたのか、残りの三体が一斉にこっちに向かって飛びかかってきた。俺は幸福を構えて応戦すると、奴らの背後からシロが信仰で攻撃を始めた。前方から俺の幸福による突き攻撃と、背後からのシロの信仰による援護射撃に翻弄される小人たち。やがて盾持ちが気がついたのか、自分の盾で仲間を守ることにしたらしい。

 

「ふっ、はっ」

 

 俺は目の前の槍持ちと交戦していた。槍持ちは見た目の割になかなか槍の使い方がうまかった。俺も同じ槍使いとして負けてはいられない。時々前に出てこようとする剣持ちを牽制しながら、槍持ちの相手をする。突きをそらして防ぎ、突いてはそらされ当たらない。こちらの方が大きい分有利だが、相手は小さいためなかなか攻撃が当たらない。

 

「ちっ、ちょこまかと面倒だな!」

 

 ついに剣持ちの接近を許してしまい、いったんバックステップをして距離をとる。盾持ちはシロが引きつけてくれているため大丈夫だが、さすがに二体同時は面倒だな。

 

 剣と槍の地味にうまいコンビネーションに一気に劣勢に持って行かれる。槍の相手をしている内に身をかがめて剣持ちが接近してきたため、薙いで足止めすると槍持ちの突きが飛んできたので身をひねってよける。

 

 戦闘が膠着状態になってきたその時、一本の矢が飛んできて槍持ちの背中に突き刺さった。

 

「よし、よくやったシロ!」

 

 シロが曲射で槍持ちを攻撃してくれたおかげで、相手に隙が出来た。仲間の負傷に動揺した剣持ちを蹴って槍持ちを何度も突く。そうすることでようやく槍持ちは力尽きた。そのままの勢いで盾持ちの背後まで接近し、後ろから幸福で突き刺す。盾持ちはしばらく体を痙攣させながら抵抗を試みたが、むなしくもそのまま力尽きてしまった。

 

「残りはお前だけか、すまんな」

 

 最後に残った剣持ちは、俺のことをすごい形相でにらんでいた。意外と仲間思いだったのかもしれないが、俺には関係の無いことだ。試練が来れば鎮圧する、それが俺たちの日常だ。

 

「じゃあな、恨みっこはなしだぜ」

 

 そう言うと同時にいくつもの矢が飛んできて剣持ちに突き刺さる。そして幸福で剣持ちの胸に突き刺す。俺たちの攻撃に最後まで顔一つ動かさず、剣持ちは俺をにらんだまま力尽きていった。

 

「……なんというか、後味が悪いな」

 

 これから試練にこいつが出てくる度にこんなことになるのだろうか? そう考えると、すこし憂鬱な気持ちになる。

 

「…………ジョシュア」

 

「うん、どうした?」

 

 少し立ち止まっていたためか、シロが俺に話しかけてきた。こいつがこんなに話しかけてくるのは珍しい、少し驚いてしまう。

 

「…………さっきの続き、お願い」

 

「……あぁ、そうだな!」

 

 そういえばさっき話の途中だったな、シロはその話の続きをご所望らしい。

 

「そうだな、それじゃあさっきの続きだが……」

 

 俺はシロと歩きながら先ほどの話の続きを始める。俺の話にシロがかすかに微笑む。そのうちに、さっきまでの暗い感情はどこかに消えてしまっていた。

 




 我々は虐げられ 散り散りに逃げた


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Days-20-2 青空の白昼『探求者』

 夢を見て あらゆる事に挑戦する

 彼らは望む あの大空を


「ジョシュアさん、このツールってやつすごいですね! どんな攻撃でもたまに弾いてくれるってもんだ!」

 

「『O-09-i94』*1のことか? だからってあんまり頼るなよ」

 

「わかってますって、大丈夫ですよ」

 

 新人のデリアが、手に持つ手紙を弄びながら話してきた。何というかこいつは、ツールやE.G.O.に頼り切っている印象がある。このままではいずれ足下をすくわれてしまう、そう思って何度も忠告はしているが、なかなか伝わっている気はしない。

 

「それよりも、最近どうなんですか?」

 

「何がだよ」

 

「いやぁ、シロ先輩と随分仲がいいみたいなんで」

 

「あらぁ、恋バナ? 私も入れなさいよ」

 

「あっ、ルビーの姉御」

 

「なんだルビーか、そんな話じゃ無いよ」

 

 デリアが変なことを言うから、恋バナ大好きのルビーが変に絡んできた。このままだと話が変な方向に向かってしまう、早く軌道修正しなければ。

 

「そういえば、この前食堂に追加された……」

 

「あらやだ、随分露骨ね、そんなんじゃ逆に聞いてくださいって言ってるようなものよ?」

 

「そうですよ、ほらほら白状しちゃってくださいよ」

 

 あぁ、なんて面倒なことになってしまったんだ。こうなるとなんか面白い話を聞かない限りひきそうに無い。なんでこんなことに……

 

「ええっと、それはだなぁ……」

 

『教育部門にて試練が発生しました、エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

 そこで救いの神が舞い降りた。この好機を逃さぬべく俺はたたみかけることにする。

 

「ほら、そんな話してる暇無いぞ! すぐに準備して出撃するぞ!」

 

 すぐにE.G.O.を準備して出発する。ルビーは慣れたものですぐに種子を構えて行動したが、デリアはもたもたと生け簀を装備しようとしていた。

 

「急げ、被害が大きくなるぞ!」

 

「わかってますって、焦らさないでください」

 

 ようやくデリアの準備が終わって出動する。今回は教育部門のメインルームに出現したらしいので、急いで向かう。

 

「さぁて、やっちゃうわよ」

 

「お前たち、気を引き締めていけよ!」

 

 メインルームにつながる扉を蹴飛ばして勢いよく入る。するとメインルームは、血まみれになっていた。この部屋にいたオフィサーたちは全滅したのだろう、その下手人となる存在は、俺たちに気がついたのか一斉に顔をこちらに向けた。

 

 それらは氷の体を持っていた。冷たい体は人の形をしており、その腕は鳥のような羽になっていた。顔の部分にはゴーグルのようなものが着いており、必死にその腕を振って空を飛ぼうとしていた。

 

 彼らは無表情の視線を向けながら、こちらに歩んでくる。その腕は鋭利な刃物になっており、血糊がべっとりと付着している。数は全部で五体、それらが一斉に襲いかかってきた。

 

「気をつけろよ、数が多い」

 

「大丈夫ですよ、俺はそう簡単に死にませんってば!」

 

「私後衛だから、ちゃんと守ってよナイト様!」

 

「何言ってるんだ、あんたにそんなもの必要ないだろう」

 

 デリアが前に突出しているのをフォローすべく、幸福で鳥人間たちに攻撃を加える。俺たちの後ろからルビーが種子で援護射撃をしてくれる、爆風が鳥人間たちを吹き飛ばして体の表面から小さな芽が出てくる。

 

「おいデリア、あんまり前に出るなよ!」

 

「大丈夫ですって! 後ろのおっさんがいますし、そう簡単に危ない事にはなりませんって」

 

 鳥人間の腕を砕きながら、デリアの後を追う。この鳥人間はやはり見た目通り脆く、攻撃する度に腕の刃物がなまくらになっていく。

 

「こいつら、数が多いだけで案外脆いですね!」

 

「だが、一撃でも食らえば危なそうだ。気をつけろよ」

 

「大丈夫よ、私が援護してあげるから」

 

 俺の攻撃とルビーの射撃で鳥人間たちはどんどんボロボロになっていく。そしてそこをデリアが生け簀で砕いていく。

 

「おら、おらぁ!」

 

「これで、終わりだ!」

 

 最後の一体を破壊して、ようやく全滅させることが出来た。俺たちは鳥人間たちの残骸を確認し、残った敵がいないか偵察する。

 

「さて、これで大丈夫だろうか」

 

「そうですね、それにしても……」

 

 デリアがこの部屋の惨状を見て眉をひそめる。そうだな、このままじゃいけないよな。

 

「デリア、清掃係を呼んできてくれ」

 

「清掃係って……」

 

「そういう名前なんだ、仕方が無いだろう」

 

 正直こんな名称の奴らの力を借りたくは無いが、彼らをこのままにもしてはおけない。それに、路地裏の掃除屋達よりはまだましだ。

 

『『F-01-i05』*2が脱走しました、エージェントの皆様は至急鎮圧してください』

 

「ちっ、誰がやらかしたんだ」

 

「おい、苺の黎明が一体放置されていたせいで脱走祭りだ。ジョシュア、手伝え」

 

 再び戦闘に向かおうとしていると、リッチがメインルームに入ってきた。俺たちはリッチに連れられて『F-01-i05』のところに向かう。

 

 俺たちの長い一日は、まだ始まったばかりであった……

 

*1
『父からの手紙』

*2
『彷徨い逝く桃』




 出来ぬ事を目指す 愚か者ども


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EX-Story-3 『崩海の潮騒』

 『F-01-i05』*1が脱走し、その戦闘の最中でデリアが、おそらく『O-09-i94』*2の影響で凶暴化してしまう。

 

「ちくしょう、デリアがやられた!」

 

「それよりもまず、苺の黎明にやられた奴を止めないと!」

 

 一度にいくつもの事が重なって、混乱が起こる。そんななか、俺たちを更に絶望に叩き落とす放送が聞こえてくる。

 

『教育部門にて、『O-02-i24』が脱走しました。エージェントの皆様は、至急鎮圧に向かってください』

 

「くそっ、こんな時にか!」

 

 思わず悪態をつくが、そんな事をしても状況は好転しない。とにかく『F-01-i05』と凶暴化したデリアの対処をしなければならない。

 

「オォォォ、マ、マモル……」

 

「ギュオアァァァァ」

 

 『F-01-i05』と凶暴化したデリアが争っている、今はデリアに加勢した方が良いと判断してリッチとルビーに声をかける。

 

「今は『F-01-i05』の鎮圧を優先するぞ! デリアは後回しだ!」

 

「ふざけるな、デリアをこのままにしておくというのか!?」

 

「それで被害を拡大させたら元も子もないだろう!」

 

「リッチちゃん、ここはジョシュアちゃんの言うとおりにした方が良いわ。だって『O-02-i24』も脱走したのよ」

 

「……くっ」

 

 リッチは苦痛の表情を浮かべ、渋々俺の命令に従いE.G.O.を構えた。俺も幸福を構えて戦闘態勢に入る。おそらくデリアはもう助からない、ならせめて早くこいつを片付けて楽にさせてやらなくては。

 

「ほら来るぞ!」

 

 『F-01-i05』が俺たちに向かって襲いかかってくる。ルビーが種子で牽制をしながら俺とリッチで攻撃する、片方に意識が向いている間にもう片方がE.G.O.で切りつけて攻撃する。リッチと連携してうまく立ち回って戦っていると、だんだん悲鳴が聞こえ始めどんどん近づいてきた。

 

「おいおい、今度は何だ?」

 

「ジョシュア、意識をよそに向けるな」

 

「わかっている!」

 

 『F-01-i05』の攻撃をしゃがんでよけながら返事をして反撃をしようとしたその時、通路の奥の扉が開いて何かが入ってきた。

 

 それは大きく、とてもおいしそうなカニであった。大きな鋏をかちかちと鳴らし、口を動かしながらこちらに近づいてくる。そして、その鋏と口には赤い液体と肉片が付着していた。

 

「よう、こんなところで会うなんて、奇遇だな!」

 

「なっ、『O-02-i24』!?」

 

 俺たちの目の前に現れた『O-02-i24』は、片方の鋏を上げて気さくに挨拶をしてきた。しかし、その鋏に着いているものを見れば、そんな感想は吹き飛んでしまう。

 

「お前、何をした?」

 

「そんな事より、困ってるんだろ?」

 

「くっ!」

 

「何をしているジョシュア!?」

 

 『O-02-i24』に話しかけていると『F-01-i05』が攻撃してきたので、幸福で攻撃を防御する。そしてそのまま攻撃しようとしたその時、『F-01-i05』が何かに吹き飛ばされた。後ろを振り向くと、『O-02-i24』がその鋏を振り下ろしていた。 ……その鋏で切らないのか?

 

「大丈夫だ、ちゃんと約束通り助けてやるよ、ちょうど対価はもらってきたからな」

 

「……対価だと?」

 

「おうともさ、それにもうすぐ俺の兄弟たちが来るぜ?」

 

「なっ、何を言って……」

 

『情報部門にて『O-05-i18』*3が脱走しました、エージェントの皆様は、至急鎮圧に向かってください』

 

「……!? まずい、よけろ!!」

 

 新たな脱走を知らせる放送と共に、嫌な予感を感じて横によける。すると、先ほどまで俺たちがたっていたところを水球が恐ろしい早さで通り過ぎていき、『F-01-i05』に当たった。その一撃で『F-01-i05』がよろけると、続いて二発、三発と水球が飛んでくる。

 

「ど、どうなっている」

 

「君たちが困っているようだったから、僕たちが助けてあげようと思ったんだ」

 

「うおっ!?」

 

 気がつくと、俺の傍らには『O-02-i25』がたっていた。『O-02-i25』は水球から俺を守るように居座り、殻にこもっている。そして水球が『F-01-i05』に計五回当たると、そこで『O-02-i24』が動きだし、『F-01-i05』を攻撃し始めた。

 

「それにしても、そこにいる人たちはおいしそうだね。まだ僕は対価をもらってないし、彼らでも良いかな」

 

「まずい、リッチ、ルビー! 今すぐ『O-05-i18』が脱走した場所に向かえ!」

 

「えっ、なんでよジョシュアちゃん……」

 

「了解した、頼むぞジョシュア!」

 

「ちょっとリッチちゃん、そんなに強く引っ張らないで!」

 

 『O-02-i25』の危ない視線に危機感を覚え、すぐにこの場から脱出する様に伝える。リッチはこちらの意図をすぐに理解し、困惑するルビーをつれてこの通路から逃れていった。

 

「ひどいなぁ、これじゃあ僕の対価が無いじゃ無いか」

 

「がっはっはっ、お前は不器用だからなぁ!」

 

「うるさいなぁ、それじゃあこのまずそうなので我慢するよ」

 

「グエッ、ヤ、メ…… マ、モ、ッ……」

 

 『O-02-i24』に煽られた『O-02-i25』は、近くで『F-01-i05』と戦っていたデリアを鋏で捕まえると、そのまま口まで運んで捕食してしまった。変異したデリアは最後まで抵抗していたが、『O-02-i25』の堅牢な甲殻になすすべ無く事切れてしまった。

 

「デリアっ……!?」

 

「うーん、あんまりおいしくないや、でも君は守ると言ったし食べないでおいてあげるよ。それが僕の信条だしね」

 

 目の前で捕食されるデリアを見て、思わず感情的になりそうになる。しかしこの場で暴れても3対1になるだけなので、さすがに気持ちを落ち着かせる。そしてE.G.O.を構えて再度『F-01-i05』に向き合う、一刻も早くこの場を納めなければ。

 

「あんたらが本当に手伝ってくれるんだったら、一緒に戦ってくれるか」

 

「おうよ、それが俺の役目だからな」

 

「そうだね、でも僕のすることは守ることだけだけどね」

 

 そう言うと『O-02-i24』は『F-01-i05』に突撃し、『O-02-i25』は『F-01-i05』の攻撃から俺を守ってくれる。俺は『O-02-i25』に守られながらも『O-02-i24』と一緒に攻撃をする。そして、『F-01-i05』は二人、いや一人と一匹の攻撃に耐えきれず、ついに倒れてしまった。

 

「……ふぅ、ようやく終わった」

 

「そうだね、それじゃあ僕はもう帰るね。もうくたくただよ……」

 

「……そうか」

 

「なんだよ、お礼もなしかい? まぁ、それでも良いけどさ」

 

 『O-02-i25』はふてくされたようにそう言うと、どこかへ消えていった。

 

 もうここに残っているのは『O-02-i24』だけだ。『O-02-i24』と目と目が合い、幾ばくかの時間がたつ。先ほどまでは一緒に戦っていたが、おそらくはこのままですむわけは無いだろう。

 

 E.G.O.を構えながら、目をそらさず武器を向ける。にらみ合いはしばらく続き、ついに『O-02-i24』が動き始めた。

 

「……よし、たくさん暴れたし腹一杯だし、そろそろ帰ろうかな」

 

「……はぁ!?」

 

 『O-02-i24』は俺に背を向けて、自分の収容室に向かって歩き始めた。その光景にあっけにとられたが、すぐに意識を戻して走り出す。

 

「それじゃあ、またな」

 

「ふざけるな! お前たちが暴れたせいで、余計に被害が大きくなっただろうが!」

 

「んぁ? そんな事言ったってよぉ、お前たちが困ってそうだったから助けてやったんだろうが。助けてやったんだから、そんな事を言われる筋合いはねぇぜ!」

 

「誰が助けてなどと……」

 

「だからよ、このままだったらそれ以上に被害出てたんじゃ無いのか? お前が逃がした奴らのどっちかが死んでたかもしれないだろう」

 

「くっ……」

 

 俺の言葉に立ち止まり、一通り話すと、『O-02-i24』は俺に背を向けその大きな鋏を振って歩いて行く。

 

「それじゃあ、また困ったら言えよ? その時は対価をもらって助けてやるからよ」

 

 それだけ言うと、『O-02-i24』はこの通路から離れていった。

 

 俺は仲間を失ったこの無念の感情を、奴らにぶつけることも出来ずに呆然とするしか無かった……

 

 

 

 

 

 あれから暫くたち、再び『O-02-i23』の収容室に向かう

 

 その理由は、あの日の水球が『O-02-i23』が出したものであるかを確認するためだ

 

 また、あの日何人ものオフィサーがこの収容室に入っていく姿が見られたという情報の真偽を確かめるためでもある

 

 収容室に入ると、どこか懐かしい磯の香りが漂う

 

 『O-02-i23』に話しかけようとして、かすかに音が聞こえる事に気がついた

 

 話しかける前に、その音に耳を傾ける

 

 どこか懐かしい、聞いた事があるようなその音に……

 

 

 

 

 

 どこからか、崩海の潮騒が聞こえる

 

 

 

 

 

O-02-i23 『老殻』

 

O-02-i24 『鋏殻』

 

O-02-i25 『宿殻』

 

*1
『彷徨い逝く桃』

*2
『父からの手紙』

*3
『魂の種』



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EX-Story-3 管理情報

 『O-02-i23』は、対価さえ払えば指定したアブノーマリティーに対して狙撃を依頼することが出来ます。

 

 『O-02-i23』は依頼の際に職員を複数名魅了します。管理人は彼らに話しかけることによって魅了を解除することが出来ます。その代わりに撃たれる銃弾は少なくなります。

 

 『O-02-i23』は豊富な知識を持っており、その知識を無償で提供してくれます。食事を持って行くことにより、さらに多くの情報を引き出すことが出来ます。

 

 

 

 『O-02-i24』は依頼と同時に収容室から脱走し、目標に向かって移動します。その移動の間に職員と接触すると捕食し、また目標に向かって移動しました。

 

 『O-02-i24』は知能が低く、食事が出来ればほかの事は基本的に気にしません。口先だけで言いくるめることも出来ますが、難しいことばかり言っていると話を聞くことをあきらめて捕食活動に入ります。

 

 『O-02-i24』は意外と酒豪です。しかし『T-09-i96』を持ち寄って宴会を開こうとしないでください。

 

 

 

 『O-02-i25』は口の割には臆病な性格です。作業をする際には威圧をしないように心がけてください。

 

 『O-02-i25』は依頼によって職員を守護してくれますが、守るのはその職員だけです。それ以外の職員は餌程度にしか思っていません。しかし、依頼は絶対に守ろうとします。

 

 『O-02-i25』が背負う殻に落書きやデコレーションをしようとしないでください。『O-02-i25』が意外にも気に入ってしまっているので清掃活動の妨げになってしまいます。

 

 

 

 『O-02-i23』はしっかりした旨味の詰まった濃厚な味わいであり、エビフライにするととても美味であることが判明しました。しかしその代償は大きく、気軽に食すことが出来るものではありませんでした。具体的には、食した職員二名が重傷を負いました。いてて……

 

 ついでに、その二名は『O-02-i24』並びに『O-02-i25』との関係も悪化しました。

 

 

『老殻』

 

危険度クラス HE

 

ダメージタイプ R(3-5)

 

E-BOX数 18

 

作業結果範囲

 

良い 15-18

 

普通 6-14

 

悪い 0-5

 

 

 

◇管理方法

 

1、『O-02-i23』に依頼をすることができる。

 

2、依頼された『O-02-i23』はランダムで職員を五人魅了し、収容室に入った職員を捕食した数だけ狙撃した。

 

3、アブノーマリティーが脱走する度にカウンターが減少した。

 

4、作業結果普通以下で、確率でカウンターが減少した。

 

5、カウンターが0になると、ランダムで職員を魅了して狙撃した。

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 高い

2 高い

3 高い

4 高い

5 高い

 

洞察

1 低い

2 低い

3 低い

4 普通

5 普通

 

愛着

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

抑圧

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 3

 

非脱走

 

 

 

◇ギフト

 

エビフライ(頭2)

 

HP-5

 

MP-5

 

正義+10

 

 非常においしそうなエビフライの髪飾り。非常にさくさくしていて中身はぷりっぷりのジューシーです。髪にエビフライ、ついてるぜ!

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 エビフライ(ライフル)

 

クラス WAW

 

ダメージタイプ R(20-22)

 

攻撃速度 普通

 

射程距離 超長距離

 

*貫通効果あり

 

 巨大なエビフライの形をしたライフル。一発撃つ度に香りがはじけ飛び、食欲をそそる。

 

 

 

・防具 エビフライ

 

クラス HE

 

R 0.7

 

W 0.7

 

B 0.7

 

P 0.7

 

 全身衣装備、さすがにずっと臭いをかいでいると胃もたれを起こしそうになる。

 

 

 

 

『鋏殻』

 

危険度クラス HE

 

ダメージタイプ B(3-4)

 

E-BOX数 18

 

作業結果範囲

良い 11-18

 

普通 5-10

 

悪い 0-4

 

 

 

◇管理方法

 

1、『O-02-i24』に依頼を行うことが出来る。

 

2、依頼を受けた『O-02-i24』は、目標に向かいながら進行方向にいる職員を捕食しながら移動し、鎮圧を行うと収容室に戻った。

 

3、アブノーマリティーが脱走する度に、カウンターが減少した。

 

4、職員が十名死亡する毎にカウンターが減少した。

 

5、カウンターが0になると、アブノーマリティーを鎮圧するか職員を数名捕食することで収容室に戻った。

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 高い

2 高い

3 高い

4 高い

5 高い

 

洞察

1 低い

2 低い

3 普通

4 普通

5 普通

 

愛着

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

抑圧

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 3

 

R 0.5

 

W 1.5

 

B 0.5

 

P 1.5

 

 

 

◇ギフト

 

カニヅメ(手2)

 

HP+2

 

正義+2

 

 堅く鋭いかにの爪。戦闘には便利ですが、日常生活に支障が出て、じゃんけんには勝てなくなります。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 カニヅメ(拳)

 

クラス HE

 

ダメージタイプ B(2-4)

 

攻撃速度 超高速

 

射程距離 超近接

 

 カニヅメ型の拳型E.G.O.。堅牢な甲殻で攻撃を防ぎ、跳ねる油のように苛烈に攻撃する。

 

 

 

・防具 カニヅメ

 

クラス HE

 

R 0.8

 

W 1.2

 

B 0.8

 

P 1.5

 

 赤と白のストライプ柄の服。なぜか小太鼓を叩きたくなる。

 

 

 

 

『宿殻』

 

危険度クラス HE

 

ダメージタイプ W(3-4)

 

E-BOX数 18

 

作業結果範囲

 

良い 14-18

 

普通 6-13

 

悪い 0-5

 

 

 

◇管理方法

 

1,『O-02-i25』に依頼を行うことが出来る。

 

2、対象の職員は一定時間『O-02-i25』によってダメージを軽減され、近づく職員を捕食した。

 

3、アブノーマリティーが脱走する度にカウンターが減少した。

 

4、作業結果普通でカウンターが減少した。

 

5、カウンターが0になるとランダムな職員を対象に、保護対象とした。

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

洞察

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

愛着

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

抑圧

1 高い

2 高い

3 高い

4 高い

5 高い

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 3

 

非脱走オブジェクト

 

 

 

◇ギフト

 

貝殻(頭1)

 

MP+4

 

愛着+2

 

 巻き貝型の髪飾り。どことなく潮騒が聞こえてくる。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 貝殻(大砲)

 

クラス HE

 

ダメージタイプ W(15-20)

 

攻撃速度 最低

 

射程距離 超長距離

 

 巨大な巻き貝の形をした大砲。『O-02-i25』が子どもの時に使用していた住居らしい。

 

 

 

・防具 貝殻

 

クラス HE

 

R 0.5

 

W 0.9

 

B 0.6

 

P 1.5

 

 美しい貝殻がちりばめられた防具。その輝きは、どこか懐かしい海辺を連想させる。

 

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 3鳥枠だと思った? 残念、魔法少女枠だよ! (まさに外道)

 

 はい、というわけでこいつらは三体そろっても特に何もありません。一応特定のアブノーマリティーの脱走時だけ、無償で協力してくれたりしてくれます。まぁ、そいつ相手には雀の涙ですが……

 

 ちなみに、3鳥枠は他の奴らがちゃんといます。ただ、本家の3鳥たちの物語がすごい完成度なので、同じように出来る自信がありませんでした。なので、本作での3鳥枠は少し違う感じで考えています。

 

 この甲殻類ブラザーズは、結構シナリオ的に重要なポジションになった気がします。そうでなくても結構気に入っていた三体なので、収容するなら是非同時に収容して欲しいですね。

 

 この三体は、以前も言っていましたが傭兵のようなイメージで作りました。依頼は本家にいるものと同じものなので、少し新鮮みに欠けるかもしれません。しかし、オリジナルの依頼も行えるアブノーマリティーもいるので、それらの登場もお楽しみにしていてください。

 

 これで教育部門はすべて終了になります。何というか平和な部門でしたね、正直このレベルで安全な部門なんて、後一つか二つくらいしかない気がします。それ以外は、うん……

 

 そういえば、魔法少女枠とは言いましたが、かわいい女の子は他にちゃんと出てきます。管理難易度は、本家の可愛いこちゃんたちを見ていたらわかると思います。『蕩ける恋』は例外です。

 

 それでは次回からは中央本部です。しかし、さすがに一日に二体投稿は出来ませんので、あしからず……

 



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中央本部
Days-21-1 F-04-i27『素敵な時間よ、永遠に』


 ついに上層4部門が終わり、中層に突入しました。

 そこで、これからの更新について活動報告にて報告させていただきます。

 また、第一話に『はじめに』を追加しました。とは言ってもたいしたことは書いてはいませんが……

 とにかく、何度も日刊ランキングに乗ることが出来、ここまで書くことが出来るようになったのも、皆様のおかげです。

 このまま50日まで頑張って書いていこうと思います!

 これからも『誰も知らないアブノーマリティー』をよろしくお願いします。





 それでは、地獄の中層編、始まります。


 ついにここまで来てしまった。

 

 今までいた部門は上層に当たるところであったが、ここからはついに中層に突入することになる。

 

 さらに今日から配属となる中央本部では、一日に二体のアブノーマリティーが収容されることとなる。

 

 今日収容されるアブノーマリティーは、『F-04-i27』と『O-04-i16』だ。今日は『F-04-i27』から作業をすることになっている。

 

「ジョシュアさん、よろしくお願いします。こうして一緒の部門でお仕事するのは初めてですね」

 

 廊下を歩いていると、デボーナに声をかけられた。随分と職員も増えていったこともあり、彼女とはあまり関わりは無かったが、今日から同じ部門に配属されることになる。これからは関わる機会も増えていくことだろう。

 

「そうだな、これからは一緒に頑張っていこう。これからよろしくな」

 

 そう言って握手を求めると、デボーナも手を握り返してくれた。

 

 

 

 デボーナと別れて『F-04-i27』の収容室に向かう。今日はもう一体もいるため、ゆったりしている時間は無い。

 

 『F-04-i27』の収容室にたどり着き、扉に手をかける。そして今日も生き残れるようにお祈りをしてから、収容室の扉を開けた。

 

 

 

 『F-04-i27』の収容室は、煌びやかな舞踏会の会場のようで、どこか安っぽい雰囲気を感じさせる不思議な空間となっていた。

 

 灰色のマネキンたちが楽器で演奏し、そのリズムに合わせて他のマネキンたちが踊り続ける。

 

 収容室の奥には舞台の上に行くための階段と、その中央に大きな時計が壁に掛かっていた。その時計は壊れているのか、長針と短針が互いに逆方向に回っている。

 

 俺を無視して永遠と踊り続けるマネキンたちを見ていると、まるで自分が童話の中に迷い込んでしまったかのように錯覚してしまう。

 

「……いや、このままだと相手のペースに乗せられたままだな」

 

 このままではいけないと思い、作業を開始する。とりあえずホールの掃除を試みる、初手洞察作業は封印していたが、今回ばかりは仕方がない気がする。

 

 掃除をしていると、意外にもマネキンたちは俺のことを避けて踊っていた。彼らには俺を認識する機能がちゃんとあるらしい。

 

 結局、作業は滞りなく終わり、俺は収容室から退出していった。『F-04-i27』がどのようなアブノーマリティーであるかは、わからないままであった。

 

 

 

「それで、最近何か良いことがあったのか?」

 

「そうですねぇ……」

 

 最近、デボーナの精神汚染値が急速に下がっていた。精神汚染値が下がることは良いことだが、さすがに急速すぎる。この数値は、おそらくアブノーマリティーによるものであると考えられる。

 

「特に思い当たることは無いですが、強いて言えば最近趣味を始めたくらいですね」

 

「趣味? どんなものだ?」

 

「はい、最近ダンスを始めたんですよ」

 

「ダンスって、あのダンスか?」

 

「私、お姫様になりたかったんですよ」

 

「おい、いきなりどうした?」

 

「でも、お姫様になるにはダンスが出来ないといけませんよね。私、ダンスが苦手だったんです」

 

「でも、練習をするようになって、どんどんうまくなっていったんです。それにこんなに素敵なものまでいただいて、本当にお姫様になったみたい……」

 

 デボーナはそう言いながら、頭に乗せたガラスのティアラをいとおしそうになでる。それは、『F-04-i27』から与えられたギフトであった。

 

 どんどん目が虚ろになり、口が早くなるデボーナ。さすがに様子がおかしいので止めようとする。

 

「おい、デボーナ……」

 

「私、本当にお姫様になりたいんですよ。だから、邪魔しないでくださいね?」

 

 それだけ言うと、デボーナは何も言わずに立ち上がった。もう何も話す事は無いという姿勢のデボーナの背中に、せめて一言伝える。

 

「デボーナ、『F-04-i27』の収容室にはもう近づくな」

 

「……ふふっ、ジョシュアさんもひどいことを言いますね」

 

 俺はデボーナを止めることは出来なかった。きっと、彼女はもう手遅れになっていたのだろう。今ここで止めたところで、いつかは絶対に『F-04-i27』の収容室に引き寄せられるだろう。

 

 結局、後日『F-04-i27』の収容室に向かうこととなる。

 

 その収容室では相変わらずマネキンたちが永遠と踊り続けている。

 

 一つ、今までと違う点を上げるとすれば、そのマネキンに、新しいものが一つ増えたことくらいだろう。

 

そのマネキンは、ガラスのティアラを着けていた。

 

 

 

 女の子なら、誰でもお姫様に憧れるものだと思うの

 

 美しい髪に煌びやかなドレス、そして絢爛豪華な生活

 

 幼い頃の寝物語にはぴったりで、いつもその素敵な物語を胸に眠っていた

 

 この場所では、私はお姫様になることが出来た

 

 紳士的に振る舞うマネキンたちは、本当に生きているようだった

 

 美しいドレスを身にまとい、マネキンたちと踊り続ける

 

 私にかけられた魔法はいつかは解けてしまう

 

 魔法が解ければ、私はまたいつ死ぬかわからない日々に戻ってしまう

 

 そんな恐ろしい化け物達の餌食になるくらいなら、いっそ……

 

 

 

 

 

 この素敵な時間よ、永遠に

 

 

 

 

 

F-04-i27 『零時迷子』



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F-04-i27 管理情報

 『F-04-i27』は収容室内すべてが舞踏会の会場の様になっています。その内部は、明らかに収容室よりも広い空間となっています。

 

 『F-04-i27』の収容室内では、たくさんのマネキンがそれぞれの役を演じています。その役が変わることはありません。

 

 女性の職員は、『F-04-i27』の収容室内には立ち入らないようにしてください。

 

 『F-04-i27』の収容室内では酒盛りをしないでください。『F-04-i27』に出禁にされたのは、後にも先にもあなただけでしょう。

 

 

 

『零時迷子』

 

危険度クラス HE

 

ダメージタイプ W(3-4)

 

E-BOX数 18

 

作業結果範囲

 

良い 13-18

 

普通 5-12

 

悪い 0-4

 

 

 

◇管理情報

 

1、女性が作業を行った場合、作業効率が上がった。

 

2、女性が作業結果良を出した場合、カウンターが下がった。

 

3、カウンターが0の場合に女性が収容室内にいると、永遠に踊り続けた。

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 高い

2 高い

3 高い

3 高い

4 高い

5 高い

 

洞察

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

愛着

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

抑圧

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 1

 

非脱走アブノーマリティー

 

 

 

◇ギフト

 

 ガラスの靴(頭1)

 

 HP+6

 

 MP+6

 

 煌びやかなガラスのティアラ。これをつければ、誰でもお姫様になれる。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器

 

 ガラスの靴(銃)

 

 クラス HE

 

 ダメージタイプ W(2-4)

 

 攻撃速度 超高速

 

 射程距離 長い

 

 ガラスの靴の形をした拳銃。発砲する度にガラスのはじけるような音が聞こえてくる。

 

 

 

・防具

 

 ガラスの靴

 

 クラス HE

 

R 1.2

 

W 0.5

 

B 0.7

 

P 1.5

 

 煌びやかなお姫様のドレス。このドレスを着れば、誰でもお淑やかになれるという。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 はい、というわけで初めての性別特効アブノーマリティーです。

 

 本家の方でもレガシー版ではいたのですが、製品版への移行に伴い性別が削除されたため、効果が変更されてしまいました。

 

 しかし、せっかく作るなら性別特効も作りたいと思ったので、今回のアブノーマリティーを作りました。

 

 せっかくなのでFで作ろうと思ったのですが、本家では結構有名なモチーフだったので考えるのに苦労した思い出があります。

 

 ちなみに、これと同じ童話がモチーフのものが本家の未実装アブノーマリティーにいますが、未実装なので良いかなって考えで作りました。

 

 このアブノーマリティーは、珍しい収容室全体が変化しているアブノーマリティーです。本家の方にはシェルター位しかないんですよね。

 

 感想では結構予想が当たっていて嬉しかったです。こういうどんなのか予想するのって楽しいですよね!

 

 ちなみに、ちゃんと男性特効のアブノーマリティーもいます。どっちかの性別だけで偏らせた施設なんて阿鼻叫喚になってしまえば良いんだ……

 




Next O-04-i16『全てが剥がされ、白い華だけが残った』


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Days-21-2 O-04-i16『全てが剥がされ、白い華だけが残った』

「ジョシュア、『F-04-i27』*1はどうだった?」

 

「何というか、一度作業するだけではわからないって言うのが正直な感想だな」

 

 『F-04-i27』の収容室からでると、久しぶりにリッチが待ち構えていた。今日は複数のアブノーマリティーが収容される事を聞いて、俺を心配してきてくれたのかもしれない。

 

「この後はもう一つの方へ行くのか?」

 

「あぁ、それが俺の仕事だからなぁ」

 

「辛ければ言えよ? 管理人に交渉してみるからな」

 

「そうなれば次に行くのはお前だろ? それなら俺の方がたぶん死ぬ確率は少ないし、大丈夫だ」

 

「……あまり、無理はするなよ」

 

 それだけ言うと、リッチは次の作業へ向かっていった。俺も少し休んでしまいたいが、そうはいかない。

 

「はぁ、次はもう一つの新しく収容されたアブノーマリティーか……」

 

 『F-04-i27』の作業が終わり、少し精神的に疲れているが続いて次のアブノーマリティーの収容室へ向かう。

 

 今日収容されたもう一つのアブノーマリティーは、『O-04-i16』だ。最近変なのが多いから、そろそろまともなやつが来て欲しい。 ……いや、まともなアブノーマリティーってやばいやつって事だから、逆に今の方が良いのかもしれないな。

 

 『O-04-i16』の収容室へと向かうために廊下を歩いて行く。いつもの新しいアブノーマリティー一体でも精神的に負担が大きいというのに、今日はそれがもう一回あるのだ。早く終わりたいというのが本音だ。

 

 そんな事を考えていると、ついに『O-04-i16』の収容室の前についていた。俺はいつものように収容室の扉に手をかけて、お祈りをする。そして気持ちを落ち着かせてから、収容室の扉を開いた……

 

 

 

 収容室からは、冷たい空気が漏れ出していた。腐臭とおぞましい気配を感じつつ、収容室の中に入っていく。

 

 収容室の中にいるのは、無数の骨の山であった。その骨の山の頂点には、ひときわ長い、おそらく背骨とその先端に肋骨のような骨が空に向かって伸びていた。それは華のようにも、塔のようにも見えた。

 

 そして、何よりもこの存在からは、おぞましいまでの死の気配を感じる。今まで感じたことの無い感覚だというのに、明確に死の気配であるとわかった。それが本能なのか、直感なのかはわからない。しかし、ここにずっといて良いものでは無いと、危険信号を感じる。

 

「……やるしか無いか」

 

 手に持つE.G.O.幸福を『O-04-i16』にたたきつける。『O-04-i16』は微動だにしない、そもそも動くかもわからない。

 

 心を無にしてとにかくたたきつける。これで正しいのかはわからない、しかし一度始めたからには続けなければならない。

 

 とにかく攻撃の手を続ける、俺は何かにとりつかれたかのように一心不乱に幸福を振るい続ける。それが義務感からなのか、死への恐怖からなのかはわからない。だがそうすることが最善だと感じていた。

 

 それからどれだけの時間がたったのかわからない。気がつけば俺は肩で息をして、全身が汗でびっしょりになっていた。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 ふらふらと収容室から退出する。今まで『O-04-i16』の収容室の中で慣れていたのか、外の空気は新鮮であった。

 

「あれ、ジョシュア先輩! ……って、大丈夫ですか? 大分顔色が悪いですか……」

 

 パンドラが俺に向かって何かを言っているが、何を言っているのかよくわからない。だが、見慣れた相手を見つけたせいか、どこか安心してしまったらしい。例え相手がパンドラであっても。

 

「あれっ、ジョシュア先輩。どうしたんですか?」

 

 死の気配の無い空間と、妙に優しい後輩、一日に二度も体験する新たなアブノーマリティーへの作業、それらが俺にとって大分精神への負担となっていたらしい。

 

「お疲れ様、少し休んでても良いですよ」

 

 気がつけばパンドラに向かって倒れていた。なんとかパンドラが俺を抱えて支えてくれているが、体に力が入らない。パンドラは俺を優しく抱き留め、背中をなでてくれた。

 

 そして、ついに俺は意識を手放してしまう。気怠さと心地よさに身を委ねて、目の前の相手に身を任せるのであった……

 

 

 

 

 

O-04-i16 『白い塔』

 

*1
『零時迷子』



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O-04-i16 管理情報

 『O-04-i16』は大量の骨の積まれた山のようになっているアブノーマリティーです。その本質は、まだ判明しておりません。

 

 『O-04-i16』には一片の肉片も確認されていませんが、なぜか収容室内部に腐臭が漂っています。また、収容室内部には死の気配が充満しています。

 

 『O-04-i16』は動く気配を見せませんが、なぜか何かがいるような気配は感じます。

 

 『O-04-i16』を打楽器として使用しないでください。周囲にも自分にも恐ろしい気配がまき散らされます。

 

 

 

『白い塔』

 

危険度クラス WAW

 

ダメージタイプ P(5-7)

 

E-BOX数 22

 

作業結果範囲

 

良い 19-22

 

普通 10-18

 

悪い 0-9

 

 

 

管理情報

 

1、作業結果が普通以下でクリフォトカウンターが減少した。

 

2、LOCK

 

3、LOCK

 

 

 

作業結果

 

本能

 

LOCK

 

洞察

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

愛着

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

抑圧

1 低い

2 低い

3 低い

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

LOCK

 

 

 

◇ギフト

 

LOCK

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 LOCK

 

・防具 LOCK

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 はい、ついに初めてのPダメージのアブノーマリティーが来ましたね。やっぱりPダメージは強い!

 

 もちろん、本作でもPダメージのアブノーマリティーは希少です。こいつを含めても片手で数えられる程度しかいません。もちろん、Pダメージ武器も希少です。

 

 実はオリジナルのアブノーマリティーを考えるときに気をつけていることがあるのですが、そのうちの一つに『本家で希少なものは希少になるように作る』というものがあります。これは本家でのイメージを保つためでもあるのですが、ゲームのバランスを保つためにも気をつけています。

 

 実は、いくつかこれを無視して作ったものが、結構バランスを崩すことになってしまったんですよね。やっぱりバランスって大事ですね、本当にそう思います。

 

 逆に管理が大変な化け物ができあがってしまった事もありました。なんでゲームにいなかったのかよくわかる結果となりました。そのうち出てくると思いますので、その時を楽しみにしてください。

 

 このアブノーマリティーは、最初『白い○塔』にしようとしていました。しかし、さすがに医療ドラマの方が有名すぎるので、どう頑張ってもギャグになるのでやめることにしました。それでも一つ文字を獲っただけですけどね。

 

 こいつも結構初期に作ったアブノーマリティーの一体です。名前の変わるタイプなので、今後本性をさらけ出すことを楽しみにしていてください。

 




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Days-22-1 O-03-i07『おれさまにいけにえをよこすのです』

「うぅぅぅっ、聞いてくれよパンドラがさぁ!」

 

 『T-01-i12』*1は俺に抱きつかれながら、笑顔で頭をなでながら愚痴を聞いてくれる。彼女にとって話の内容などわからず、じゃれてもらっているだけだと思われていても、愚痴なのだから聞いてくれるだけで良いのだ。

 

「あいつ皆にあること無いこと吹き込みまくりやがったんだ! いつも俺に説教されてるからって、仕返しのつもりかよ!」

 

 『T-01-i12』は俺の頭をなでながら楽しそうにしている。そこには邪気なんて一切なく、すさんだ心が洗われるようであった。

 

「うぅっ、ありがとう。これで少し元気が出たよ」

 

 俺の言葉に『T-01-i12』はサムズアップで返してきた。なんだかんだで励ましてくれてはいたようだ。

 

 そして、最後に体の一部を俺に渡してきてくれた。俺はありがたく受け取ると、懐に入れて立ち上がった。

 

「それじゃあまたな!」

 

 笑顔で別れを告げて『T-01-i12』の収容室から出ると、収容室の前にメッケンナが立っていた。彼は俺のことを非難するかのような目線を送ってきた。

 

「なっ、何だよ?」

 

「いえ、いつもアブノーマリティーに依存するなって言っている貴方が、随分と『T-01-i12』には入れ込んでいるように感じたので……」

 

「い、いやそれは良いだろう? 確かに危ないかもしれないけどさ、それでも癒やしが欲しいんだよ!」

 

「それならパンドラさんにいやしてもらえば良いじゃ無いですか」

 

「だからそれは誤解だって言ってるだろうが!」

 

 俺の必死の叫びはメッケンナには届かず、冷めた目線だけが帰ってきた。 ……あの女、本当に許さないからな。

 

「それじゃあ僕はこれからここで作業するんで、先輩も本来の作業に戻ってくださいね」

 

 それだけ言うと、メッケンナは『T-01-i12』の収容室の中に入っていった。畜生、あいつがあんなこと言ったせいで……

 

「まぁ、そんな事を言っていても仕方が無い、次の作業に向かうとするか……」

 

 ここで何を言っていても仕方が無いので、仕方なく今日新しく来たアブノーマリティーの収容室へ向かう。

 

 今日収容されたのは、『O-03-i07』と『T-09-i85』だ。片方はツールだから、すぐに行く必要は無いだろう。俺が今から行くのはもう片方の『O-03-i07』の方だ。

 

 収容室まで歩いて行く。その途中で何人かとすれ違うが、全員今までと反応が違って結構悲しい、俺の人望ってこんなに無かったんだな……

 

 

 

「はぁ、さっさと終わらせてしまいたい……」

 

 コントロール部門から中央本部までという長い道のりを乗り越え、ようやく『O-03-i07』の収容室の前まで来ることが出来た。少し心を落ち着かせてから、収容室の扉に手をかける。そして覚悟を決めてから手に力を込めて、収容室の扉を開けた。

 

「……なんだこりゃ」

 

 収容室の内部は、意外と快適な空間だった。よく効いた空調は普通に過ごすには快適すぎるくらいだし、収容室の中は少し甘い良い香りが漂っていた。そして、収容室の中央にはこの部屋の主がこちらに目線を向けていた。

 

 それは、デフォルメされた悪魔のような見た目の存在であった。何というか、どこか愛らしい、出来損ないのゆるキャラみたいなそいつは、俺を見るなり腰に手を当てて話しかけてきた。

 

「なんだおまえは、おれさまのぶかになりにきたのか?」

 

「いや、そんなわけが無いだろう」

 

 いきなり、あまりにも偉そうな物言いをされたので、思わず素で返してしまった。すると『O-03-i07』はショックを受けたように後ずさった。

 

「ち、ちがうのか? おれさまのいだいさにおそれおののいて、ぶかになりたくならないのか?」

 

「なるわけ無いだろう……」

 

 これまた変なやつが来てしまった。こいつはどうやら自分が一番偉いとでも思っているのだろう、何というか変なやつと本当に縁がある。そんな事を思っていると、『O-03-i07』が突然驚くような発言をしてきた。

 

「わかったぞ、それじゃあおまえはおれさまへのいけにえだな?」

 

「……なんだって?」

 

 生け贄、それはつまりゲームで言う生け贄作業のことだろうか。あれはくそ胎児を泣き止ませるために必須な作業で、ルーレットで選ばれた職員は生け贄として捕食されてしまう。ちなみに盲愛様は除外だ、あいつに生け贄作業するやつなんているのか?

 

 とにかく、もしもこいつの言うことが本当であるなら、こいつは俺のことを捕食するつもりと言うことだろう。

 

 いくら間抜けそうな見た目だからと言って、ロボトミーにおいて見た目だけで判断するのは非常に危険だ。気がつけば『O-03-i07』は舌なめずりをしながらこちらに近づいてきていた。よく見ると、『O-03-i07』の口からは鋭い牙が覗いていた。

 

「ふっふっふっ、それじゃあおまえをいただきますしちゃうのだ!」

 

「くっ、」

 

 とっさにE.G.O.を構えて防御の姿勢をとる。するとその時、どこからかものすごいおなかの鳴る音が聞こえてきた。

 

「……もしかして、腹減ってるのか?」

 

「……うむ、もしもなにかけんじょうしたいというのなら、おれさまはもんくなんていわないぞ!」

 

 やっぱり、なんだかこいつポンコツっぽいぞ。本当に大丈夫か?

 

「うーん、そうだな。これ、いるか?」

 

 何というのか、このままだと可哀想なので、何か食べさせられるものが無いか探してみると、さっきもらった『T-01-i12』のチョコがあった。アブノーマリティーにアブノーマリティーの一部を与えても良いのだろうかと一瞬思ったが、まぁ大丈夫だろうと判断して渡してみる。すると、『O-03-i07』は目を輝かせて俺の手元に釘付けになっていた。

 

「そっ、それをくれるのか?」

 

「あぁ、なんか腹減ってたみたいだからな」

 

「ふ、ふんっ、まぁどうしてもというならもらってやってもいいぞ?」

 

「じゃあいいや」

 

「ふえっ!? ……た、たのむからおれさまによこすのです、いけにえのかわりでいいから」

 

 なんというか、こいつの生け贄って軽すぎないか? もしかして甘いものなら何でも言い可能性が出てきたな。

 

 チョコを渡すと、『O-03-i07』はとても幸せそうにほおばっていた。その様子は、なんだか前世に飼っていたペットを思い出させる。なんだか幸せそうに食べている様子を見ていると、こっちまで気分が良くなってくる。

 

「どうだ、おいしいか?」

 

「うんっ!!」

 

 普段は虚勢を張っているのか、お菓子に気をとられているのかすごい素直な反応が返ってきた。なんだこいつ可愛いな。

 

 思わず頭をなでてしまう。すると、最初はびっくりしたようだが、しばらくすると自分から頭を俺の手のひらになすりつけてきた。 ……なんだか本当に犬みたいな奴だな、こいつ。

 

 そんな感じでしばらくじゃれ合っていると、『O-03-i07』が俺の方を見て話をし始めた。

 

「なんだかおまえ、いいやつだな! おれさまのはいかいちごうにしてやろう」

 

「なんだそりゃ、別にいらないよ」

 

「うーむ、それじゃあこれあげる!」

 

 そういって『O-03-i07』の手から光の球体が飛び出してくると、ふわふわと俺の方に近づいてきて胸のところに当たった。そしてその光が俺に当たると、光がはじけて手作り感満載の『O-03-i07』を模したバッジがひっついていた。

 

「これはおれさまの『すごいぱわー』だ、ありがたくおもえよ!」

 

 ぎゃー! これってあのやっかいなタイプのやつだよな!? こんなものつけられて落ち着いて作業が出来るか!?

 

「これはおれさまのちょうぜつすごいぱわーなのだ、ありがたくうけとるといい!」

 

「おい、これってどんな力があるんだ?」

 

「うむ、おれさまのいやしぱわーで、おまえがしににくくするようにしてやったぞ!」

 

「うむうむ、それ以外は?」

 

「……? ほかにはないぞ?」

 

「あれ、他の収容室に言ったら殺されるとかは?」

 

「あるわけないぞ!」

 

「これで爆発とか、変なものが出てきたりとか……」

 

「なにいっているんだ? ひとがいやがることをするのはだめなんだぞ?」

 

「……そうだな」

 

 なんというか、おかしなことを言っているのは相手のはずなのに、なぜか俺がおかしいみたいになっている。それに正論なのが質が悪い。

 

「まぁ、いいか。それじゃあ俺はこの部屋から出て行くよ」

 

「うむ、こんどもおれさまにおかしのいけにえをわすれるなよ!」

 

「そうだな、それじゃあまたな」

 

「またな!」

 

 『O-03-i07』に別れを告げて、収容室から出て行く。どうやら結構長い時間収容室の中にいたらしい。

 

「……まあいいか、それじゃあ次の作業に向かおうかな」

 

 『O-03-i07』のすごいパワーの詳細は知りたかったが、それは今度でも良いだろう。

 

 その後いくつか作業をやってみて、とりあえずわかったことは、本当に『O-03-i07』のすごいパワーは特にデメリットが無かった事だ。他のアブノーマリティーのところへ作業をしに行っても、特に何かが起こるわけでは無かった。それどころが、微量ではあるが、傷の治りも早いような気がする。

 

「あっ、ジョシュアさん!!」

 

「あぁ、Π029か。どうしたんだ?」

 

「いえ、なんか変な噂話が聞こえてきましたが、私はジョシュアさんの事を信じてますから!」

 

「Π029、ありがとうな」

 

「いえいえ、今の私ではこれくらいしか出来ませんから。それに、ジョシュアさんがあんな事をするなんて思えませんし!」

 

 Π029のおかげで、なんだか心が軽くなったような気がした。その後も彼女と一緒にしばらく話をして過ごした。この後俺はΠ029と一緒に食事をし、パンドラに折檻を与えに行くことにした。

 

 結局、パンドラが自白したおかげで俺への風評被害は最小限に抑えることに成功した。

 

 

 

 

 

 おれさまはせかいさいきょうのまおうさまだ

 

 だれもがおれさまをおそれおののき、きょうふするのだ

 

 むっふっふっ、このせかいはなんでもおれさまのおもいどおりだ

 

 ほら、おなかがへったぞ、あばれちゃうぞ

 

 

 

 

 

 はやくおれさまにいけにえをよこすのです!

 

 

 

 

 

O-03-i07 『でびるしゃま』

 

*1
『蕩ける恋』



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O-03-i07 管理情報

 『O-03-i07』は可愛らしい悪魔型のアブノーマリティーです。しかし、本人は可愛いと言われると不服そうな顔をします。

 

 『O-03-i07』が生け贄を要求するときは、お菓子を適量与えましょう。あまり食べさせすぎると、おなかが痛くなったり虫歯になってしまう危険性があります。十分に気をつけましょう。

 

 『O-03-i07』に本当に生け贄の職員を与えると、ドン引きされます。そんなものよりお菓子をあげてください。

 

 『O-03-i07』の目の前でおいしそうに、お菓子を見せつけるように食べないでください。今にも泣き出しそうになり、さすがに可哀想です。

 

 

 

 

『でびるしゃま』

 

危険度クラス あれふ

 

ダメージタイプ B(1-2)

 

E-BOX数 10

 

作業結果範囲

 

良い 5-10

 

普通 3-4

 

悪い 0-2

 

 

 

◇管理方法

 

1、抑圧作業を行うと、カウンターが減少した。

 

2、いけにえ作業をすると、その職員にすごいパワーを与えた。その後クリフォトカウンターが減った。

 

3、すごいパワーをもつ職員は、HPとMPが常時回復した。

 

4、カウンターが0になると、泣き始めた。愛着作業を行うと泣き止み、カウンターが回復した。

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 高い

2 高い

3 高い

4 高い

5 高い

 

洞察

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

愛着

1 普通

2 普通

3 普通

4 高い

5 高い

 

抑圧

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 5

 

非脱走アブノーマリティー

 

 

 

◇ギフト

 

ちょうぜつすーぱーぱわー(頭1)

 

HP+2

 

 小さな角型のギフト。小さな角は、悪魔にとってまだまだ未熟な証拠。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器

 

ちょうぜつすーぱーぱわー(銃)

 

クラス ZAYIN

 

ダメージタイプ B(1-2)

 

攻撃速度 超高速

 

射程距離 長距離

 

 小悪魔系の不思議なE.G.O.。発砲する度に、面白い声が鳴り響く。

 

 

 

・防具

 

ちょうぜつすーぱーぱわー

 

R 1.0

W 1.0

B 1.0

p 1.0

 

 可愛らしいタキシードの悪趣味なスーツです。しかし、七五三感に溢れてしまう。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 はい、というわけで初めてのALEPHクラスの収容ですね。やりましたね! えっ、E-BOXが10しかない? そんな事はどうでも良いんですよ。

 

 というわけで、今回は珍しいタイプのアブノーマリティーですね。こういうポンコツくそ雑魚大好きです。

 

 クリフォトカウンターが0になると泣いてしまいますが、胎児のようなことにはなりません。安心ですね。ついでにカウンターが5もあるので、普通にプレイしててこいつを泣かせるのはかなり難しいと思います。

 

 ちなみにこのアブノーマリティーは、正直ZAYIN詐欺があるなら、その逆があっても良いんじゃ無いかと思い作成しました。可愛いし、問題ないですね。

 

 

 




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Days-22-2 T-09-i85『次元の先で、君を待つ』

「ふぅ、これくらいで良いだろう」

 

 パンドラへの折檻が終わり、倒れ伏す彼女をまたいで歩き出す。今日はまだしなければならないことがあるから、これ以上こいつにかまってはやれない。

 

「全く、この部門は随分と忙しいな」

 

 中央本部は一日に二体のアブノーマリティーが収容される部門だ。今日は一体のアブノーマリティーと一つのツールが収容されている。今日収容されたアブノーマリティー自体はたいしたことなさそうな奴ではあったが、ツールと言えば碌なものがないと評判だ。今収容されている他のツールを見てもほとんどがそうだからな。

 

「頼むから変なのはやめてくれよ」

 

 今日収容されたツールである『T-09-i85』の収容室に向かって歩いていると、前方からリッチが歩いてくる。リッチは俺を見るなりこちらに駆け寄ってきた。

 

「よう、子どもに戻った気分はどうだった?」

 

「おまえ、わかってて言ってるよな」

 

 出会い頭に煽ってきたリッチの頭をはたく。しかしリッチは何事も無かったかのように話を続けた。

 

「さて、今日のツールは確認したか?」

 

「いや、まだだ。何かあったのか?」

 

「そうか、いや結構人気みたいだからな。娯楽としてはなかなか良かった」

 

「なんだよ、お前もう行ってきたのか?」

 

 リッチの話しぶりからして、どうやら先にツールを使用してきたようだ。それにしても、娯楽として使えるツールってどういうものだ?

 

「お前も使ってみたらわかる」

 

「そうかよ、それなら俺も行ってみるか」

 

 どうやら教える気は無いらしいので、そのまま『T-09-i85』の収容室に向かう。何というか。近づくにつれて結構活気が出てきた。

 

「おい、メインルームの画面に映し出されているらしいぜ」

 

「まじかよ、見てみようぜ!」

 

 ふと、オフィサーたちの会話が耳に入ってきた。画面に映し出されるって事は、何かの映像か?

 

 

 

 ついに収容室の目の前までついた。なにやら列が出来ており、皆楽しそうにしている。

 

「おいおい、何だよこの列は」

 

「何って、『T-09-i85』の使用待ちの列ですよ。ジョシュアさんも使用されるんですか?」

 

 謎の列に驚いて思わずつぶやいてしまうと、目の前に並んでいたメッケンナが俺の声に反応した。

 

「まあな、一応どんな奴が収容されたかはこの目で確かめておきたいからな」

 

「相変わらずのワーカーホリックですね」

 

「それで誰かが死ぬ可能性が減るならいいだろう?」

 

「それはそうですが……」

 

 その後も適当に雑談をしながら列を待っていると、ついにメッケンナの順番が回ってきた。

 

「それじゃあ、行ってきますね」

 

「おう、気をつけろよ」

 

 正直これほど人気が出る時点でまずいものって事は大体予想がついているので、何事も起こらないことを祈っておく。祈るだけで、何かが出来るわけでは無いがな。

 

 

 

「……おっ、ようやく出てきたか。どうだった? っておい、大丈夫か?」

 

「すいません、大丈夫です。ちょっと酔っちゃったみたいで、うぷっ」

 

「なんだよそれ、あんまり無理するなよ」

 

「はい……」

 

 その後、メッケンナはふらふらしながらメインルームに向かっていった。酔うってことは、何かの乗り物か? なんだかどんなツールか見当もつかない。

 

「とりあえず、中に入ってみるか」

 

 収容室の扉に手をかけて、思い切って扉を開く。すると、収容室の中には、あまりにも前時代的なブラウン管のデスクトップパソコンが置いてあった。

 

「……なんだこれ?」

 

 とりあえずパソコン、『T-09-i85』に近づく。どう見てもパソコンだ、こんな旧式の奴、他の職員は見たことも無いんじゃ無いか? それでも人気と言うことは、何かあると言うことなんだろうけど。

 

「とりあえず、操作してみるか」

 

『T-09-i85』に近づいてマウスを操作してみる。意外とマウスの感度も悪くない。

 

「うーん、とりあえずこの中から選べば良いのか?」

 

 

 画面を見れば、いくつかゲームのパッケージが並んでいた。俺はそのうちの一つを試しにダブルクリックしてみると、急に目の前が真っ暗になった……

 

 

 

「くっ、一体どうなったんだ?」

 

 突然目の前が真っ暗になり、見知らぬ景色が周りに広がっている事に思わず動揺する。しかも、その周りというのが、今ではもう見れないと思っていた、懐かしき日本の学校の景色とよく似ていた。おそらくだが、俺は『T-09-i85』で選んだゲームの中に取り込まれたようだ。

 

「これはどういうことだ?」

 

「あっ、いたいたー!」

 

「なんだ?」

 

 突然、女の子の声が聞こえたので振り向くと、そこにはピンク髪にツインテールという格好の少女がたっていた。セーラー服を着ていることから、もしかしたら高校生かもしれない。

 

「君って転校生でしょ? ほらほら、早くこっちにおいでよ。授業始まっちゃうよ!」

 

「おい、ちょっと待てって……」

 

 俺の話なんて聞かずに腕を引っ張って強引に教室まで連れて行かれてしまった。そしてそのまま自己紹介をさせられて授業に参加することになってしまった。どうやら俺はこの学校の転校生と言う役を押しつけられているらしい。

 

 その後も、休み時間に少女に話しかけられたり、昼食を一緒にとったり、放課後に謎の部活に参加させられたりした。それは、何というか失われた青春をもう一度行っているような楽しさがあった。

 

「さて、そろそろ帰るか」

 

 時刻も夕方となり、下校時間となる。おそらくこれで元の世界に戻れるはずだ。

 

「……そっか」

 

「あぁ、それじゃあな」

 

「待って!」

 

 部室から出ようとすると、少女に呼び止められた。振り替えって彼女を見えると、少し不安そうにしながら、口を開いた

 

「……また、来てくれる?」

 

「あぁ!」

 

 そういうと、彼女は花が開いたかのような笑顔になって手を振った。

 

 俺は手を振り替えして、部室から出るのであった……

 

 

 

「ふぅ、ようやく戻ってきたか」

 

 このツールが人気になるのもよくわかった。確かにこれは楽しい、本当にゲームの中に入ったみたいだった。

 

 とりあえず立ち上がって、収容室からでる。俺の後にも何人も待っていた。

 

「……よし、もうやらね!」

 

 こんな楽しいもの、何度もやってたら絶対はまる。そして何かよくないことが起きる。俺はそう誓って、もう『T-09-i85』の収容室に近寄らないようにした。

 

 

 

 

 

 あれから随分と時間がたってしまった

 

 彼はまた来てくれると約束したのに、全然来てくれなかった

 

 他の人たちからの話で、外が危険な場所であることは知っている

 

 もしかしたら死んでしまったんじゃ無いかって不安になったけど、どうやら元気でいるらしい

 

 どうにか他の人たちにお願いして、もう一度来るように伝えてもらったけど、なかなか来てくれない

 

 もしかして私がなにかしてしまったんだろうか?

 

 私に悪い事があるのならば、直すようにするからそれを教えて欲しい

 

 この世界からでれない私は、彼が来ない限りもう会えない

 

 また彼と会ってお話がしたい、一緒にご飯を食べたり、部活をしたい

 

 そして、もう怖い世界に返したりなんてしない

 

 

 

 

 

 だから私は、次元の先で、君を待つ

 

 

 

 

 

T-09-i85 『次元超越機構』



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T-09-i85 管理情報

 『T-09-i85』は古いブラウン管のデスクトップパソコン型のツール型アブノーマリティーです。

 

 『T-09-i85』を使用することで、『T-09-i85』内部に保存されているゲームの中に入ることが出来ます。

 

 『T-09-i85』の内部に存在するゲームは、ギャルゲーからアクション、RPG、シューティング、FPS、果てはシミュレーションからテーブルゲームまで様々な種類があります。

 

 それらの全てのゲームに、サポートAIの少女が登場します。その少女は、全てのゲームにおいて共通しています。

 

 『T-09-i85』によるゲーム中の行動は、その部門のモニターに編集されて映し出されます。

 

 『T-09-i85』の内部と外界の時間には、大きなずれが確認されています。

 

 ゲームの一人称視点で酔ってしまう職員の使用は推奨されません。

 

 ゲームは一日一時間です。

 

 『T-09-i85』で行うRTAは、あまり推奨されません。とくにany%は命の保証が出来ません、こんなことに命をかけないでください。

 

 

 

『次元超越機構』

 

危険度クラス TETH

 

継続使用タイプ

 

 

 

◇管理情報(情報解放累計使用時間)

 

1(10)

 『T-09-i85』を使用すると、電脳世界に入ることが出来る。

 

2(60)

 『T-09-i85』を使用中、その職員はMPを回復した。

 

3(90)

 『T-09-i85』を30秒以上使用すると、部門全員の職員のMPが回復した。

 

4(120)

 90秒以上使用すると、電脳世界に閉じ込められた。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 ゲームが好きな人なら、誰でも一度はやってみたいと思うことを実現するツールです!

 

 今ならなんと、エネルギー2000で送料無料! ついでにペスト医師のギフトまでついてきます!

 

 というわけで、わりかし使いづらい感じのツールですね。テレジアですらよく忘れるのに、こんなのすぐに忘れて被害が出そうです。場合によってはテレジアの方が被害が甚大ですけどね。

 

 今回は初めてのTETHクラスのツールですが、正直ツール型のクラスって、あんまり意味が無いと思うんですよね。特色があるのってWAWクラスくらいしかない気がします。

 

 このツールは、最初は設定だけ考えて話を考えていなかったので、弟にこれを選ばれたときマジかよってなりました。しかし、意外と良い感じの話が思い浮かんだのでなんとかなりました。他にも台詞を適当に考えているのとかもあるので、話を考えるときに結構戦々恐々としています。

 

 ちなみに、弟の施設ではついに全てのアブノーマリティーが収容完了しました。最後には衝撃のアブノーマリティーが待っているので、お楽しみにしていてください。

 




Next O-01-i33『簒奪の風が吹く』


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職員たちの平穏なひととき『X』

 今回、原作のネタバレがあります。ご注意ください。

 そろそろ物語を進展させていきます。


「ちょっとここ、いいかな?」

 

「あぁ、別に良いぞ」

 

 今日はいつもよりも早く起きたので、少し早めに食堂に行って席に着いていると見知らぬオフィサーに声をかけられた。エージェントなら顔は一通り覚えているが、オフィサーまでは全員覚えてはいない。腕章を見れば、どうやらコントロール部門のオフィサーのようだ。

 

「すまないね、少し君に聞きたい事があって」

 

「別に良いけど、あんた一体誰だ?」

 

 男は俺の正面の席に座ると、突然声をかけてきた。俺と話がしたいでは無く、聞きたいとはどういうことだろうか。正直、全く知らない相手にそんな事を聞かれても困る。それに、俺の話を聞いてどうするつもりなのかも聞いておきたい。

 

「あー、そうだな…… 私はX022だ、よろしく頼む」

 

 オフィサーは基本的にギリシャ文字と数字で構成された名前をつけられている。彼らにはすでに人権など無いのだ。

 

「それで、なんで俺の話なんて聞きたいんだ?」

 

「それはな、君の活躍は聞いていてね、どうしても話を聞いてみたくてね」

 

 なるほど、確かに戦闘能力を持たないオフィサーたちにとって、戦闘の要であるエージェントの俺たちの話は気になるのかもしれない。彼らにとっても死活問題なのだから。

 

「別に良いけど、そんなに面白い話は出来ないぜ」

 

「そんなに気にしなくても良いよ、話して欲しいと頼んだのはこちらの方なんだから」

 

「そうか、それなら良いんだけど。それで、どんな話をしたらいいんだ?」

 

「そうだね……」

 

 

 

 それから、俺は彼に今までの業務で大変だったこと、面白かったことを伝えた。

 

「あのときは大変だった。そいつと対峙したときは本気で死を覚悟したんだ」

 

「ふむふむ」

 

 凶悪なアブノーマリティーの鎮圧、癒やされるアブノーマリティーとの交流、恐ろしい試練に挑み、仲間と祝杯を挙げる。彼は俺の話に的確に相づちを打ち、時に驚き、時に笑って聞いていた。

 

「あいつはいつだって意味のわからないことしかしないんだ! どうやったらアブノーマリティーで遊ぶって発想が出てくるんだ!」

 

「くっはっはっ!!」

 

 後半からはパンドラに対する愚痴ばかりになってしまったが、彼は腹を抱えて笑っていた。俺も第三者なら笑っていたかもしれないが、被害を受ける当人である身としては笑うことが出来ないな。

 

「そうだな、最近食べたので一番おいしかったのはエビフライでな……」

 

「それは是非とも一度食してみたいものだ」

 

 その後も彼は俺の話をせがんだので、他愛の無い雑談をすることになった。最近誰が成長したか、逆に誰が心配か、この娯楽の少ない施設でどうやってストレスを解消しているか、パンドラへの折檻の仕方やこの施設で食べた一番美味しいもの、食堂のおすすめのメニューなど、これも彼は興味深そうに話を聞いていた。

 

「それでな……」

 

「それはすごいな!」

 

 気がつけば、俺も彼との会話を楽しんでいた。思わず時間を忘れかけていたところで、他の職員たちがまばらに食堂に入ってきた。

 

「さて、そろそろ私も行かなければな」

 

「おっ、もう行くのか?」

 

「あぁ、そろそろばれたら大変だからね」

 

「えぇ、その通りですね管理人」

 

「げっ」

 

 そう言って立ち上がろうとする彼に、空色の髪の美女が声をかけた。彼女は無機質な目線で俺を一瞥した後、すぐに彼へと視線を戻した。まるで俺の事なんて興味なんて無いとでも言わんとするように。

 

 俺は奴のことを知っている。しかし、そんな事を臆面でも出そうものなら、何をされるかわからない。彼女にとって、俺を殺すことなんて造作も無い、それどころかどんな実験をされるかわかったもんじゃ無い。あと、彼が管理人と言うことはなんとなく察しがついていたので別に驚きは無かった。

 

「不用意に職員たちに接触してはならないとお伝えしたはずですが?」

 

「いやぁ、どうしても話を聞いてみたくて……」

 

「それで、用は済んだのですか?」

 

「まぁ、一応はね」

 

「それならばもうここには用は無いですね。もう業務開始まで時間はありませんよ」

 

 そう言うと、彼女、アンジェラは管理人Xをつれて、食堂から出て行った。その場に取り残された俺は、仕方なく今日の職場に向かうことにした。

 

 

 

「あっ、ジョシュアさん!」

 

「あっ、や~久しぶりだね」

 

 中央本部までの道を歩いていると、出来れば会いたくない相手に出会ってしまった。箱から手足の生えた歪な存在、その中でも俺たち職員にとってやっかいな相手であるホドである。一度彼女のカウンセリングを自発的に受けてから、何かと話しかけてきて戦々恐々としていたのだ。なるべく会わないように警戒していたというのに、ついに出会ってしまった。

 

「最近中央本部に異動になってしまって、なかなか会えなくなりましたね」

 

「そ、そうだな」

 

「私のカウンセリングに自分から来てくれたのは、貴方とティファニーだけなんですよ? 他の職員のみんなもちゃんと受けてくれたら、私がすることの大切さをわかってくれるはずなのに」

 

「他の皆も忙しいんだろ? 強制は良くないと思うけど……」

 

「は?」

 

 不用意な発言をしてしまったせいか、ホドの雰囲気が一変した。先ほどまで少しおどおどした小動物のような印象だったのに、人を見下すような、冷たい視線に変化した。

 

「まさか、ジョシュアさんまで私のことを否定するんですか?」

 

「いや、ちょっと落ち着け」

 

「私は皆のためにやっているのに、なんで皆わかってくれないの!」

 

「い、いやー、それにしてもホドのカウンセリングは素晴らしかったな~。それを受けられる職員は幸運だな~」

 

 一気にヒステリックになったホドを落ち着かせるべく、心にもない事を発言する。それでもいけるかと不安になったが、彼女は一気に表情を変えて元の様子に戻った。

 

「ホントですか!? 良かったらジョシュアさんもカウンセリングを受けに来てください! 部門が違ってもいつでも歓迎ですよ!」

 

「ははっ、考えておくよ……」

 

 そうお茶を濁して、早歩きで教育部門を走り抜けた。出来ればもう一度彼女に出会うことが無いようにお願いしたい。

 

 こうして俺の平穏なひとときは過ぎ去り、また地獄へと舞い戻るのであった……

 




感想にあったので、職員たちの現在のステータスを簡単に紹介したいと思います。
別に飛ばして読んでもかまいません。

基本的にステータスは

勇気 慎重 自制 正義

の順番で表記します。

ジョシュア レベルⅣ職員
Ⅲ Ⅳ Ⅳ Ⅳ

シロ レベルⅣ職員
Ⅱ Ⅴ Ⅳ Ⅲ

リッチ レベルⅣ職員
Ⅳ Ⅲ Ⅳ Ⅳ

パンドラ レベルⅢ職員
Ⅱ Ⅱ Ⅴ Ⅱ

ルビー レベルⅢ職員
Ⅲ Ⅲ Ⅲ Ⅱ

マオ レベルⅢ職員
Ⅲ Ⅱ Ⅱ Ⅳ

メッケンナ レベルⅢ職員
Ⅱ Ⅲ Ⅲ Ⅲ

サラ レベルⅡ職員
Ⅱ Ⅰ Ⅰ Ⅱ

ジェイコブ レベルⅢ職員
Ⅲ Ⅲ Ⅱ Ⅲ


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中間報告 灰燼の夕暮『霊峰』

大地を押し上げ天を仰ぎ見る

私は全てを受け入れる


「ジョシュアさん、調子はどうですか?」

 

「おう、最近は結構良い感じだ!」

 

「ジョシュアー! ちょっときてくれー!」

 

「ちょっと待ってろ、今行く!」

 

 はじめの方は結構避けられていたが、最近はオフィサー達とも良好な関係を築くことができてきた。俺としても彼らに避けられっぱなしも嫌だったので、良い傾向だと思っている。

 

「この報告書のこの部分がよくわからないんだが……」

 

「あぁ、それなら……」

 

 報告書だけではわからないことがある。そういう情報のすりあわせをしなければ危険な目に遭うのは俺たちだけでは無い、何の戦闘能力も持たないオフィサーたちの方が危ないのだ。そのため一緒に報告書を作るようになり、成果も少しずつ出ていると思う。

 

「それにしても、今日はメインルームに試練が出なくて良かったな!」

 

「そうですねー、もう今日はこれ以上出ないですもんね」

 

 そんな事を考えていると、ふとオフィサーたちのそんな会話が聞こえてきた。確かにもう白昼の試練は鎮圧した。しかし、こんな風に気を抜いていて良いだろうか?

 

 すでに中央本部まで解放されている、つまりはもう夕暮まで出てくると言うことだ。まだ夕暮が出ていないから彼らは知らないが、まだ油断して良いわけでは無い。だからといって知らないはずの情報を教えて良いものだろうか? いや、人命がかかっているんだ。多少怪しまれても命には変えられない。

 

「おい、あんたたち……」

 

 談笑してるオフィサーたちに声をかけようとしたその時、俺は何が起こったのか理解できなかった。

 

 

 

 強い衝撃、浮き上がる体、そして同時に舞う血しぶき。全てがスローモーションに映り、ようやく現状を理解した。メインルームの床から生える、巨大な岩山。その先端には、何人ものオフィサーたちが突き刺さっている。中央の一番高い山の中心部分には、灰色に光る球体が埋め込まれており、点滅している。

 

 それは突然地面からやってきて、俺たちを奇襲した。

 

「ぐはっ、ぐっ……」

 

 とっさに受け身をとって着地するが、遅れて脇腹に痛みがやってくる。どうやら直撃は免れて、致命傷にはならずにすんだらしい。しかし、初撃と着地の衝撃で体がボロボロだ。痛みでうまく動かない体を無理矢理動かす。そして目の前に広がる無残な光景を目に焼き付ける。さっきまで一緒に楽しそうに話していたオフィサーたちが千切れ、ぶちまけられ、粉々になり、貫かれている。もはや誰が誰だかもわからないものもいる現状に、怒りがわいてくる。

 

 俺は痛む体を引きずりながら、遠くに転がる幸福のところまで歩いて行く。そしてなんとかたどり着くと、幸福をつかみ支えとして立ち上がる。この惨状を生み出したこの存在を、一刻も早く潰さなければならない。

 

『中央第一のメインルームにて試練が発生しました。エージェントの皆様は、至急鎮圧に向かってください』

 

 今更になって試練のアナウンスが起こる。だが、これが起こった後であればもはや無意味だろう。かつてゲームでは同じように奇襲を仕掛けてくる試練があった。あの白昼は『出落ち』なんて言われていたが、実際にされると溜まったもんじゃ無い。しかもこいつは、おそらく夕暮。早めに倒さなければどうなるかわかったもんじゃ無い。

 

「くそっ、やってやる」

 

 気合いで立ち上がり、幸福を目の前の岩山に向ける。そして痛む体にむち打って攻撃を始める。中央の球体に突き、薙ぎ、たたきつける。時折やってくる灰色の波動から身を守りながら、なるべく攻撃を与えていく。

 

「おい、ジョシュア大丈夫か!」

 

「ジョシュア先輩、大丈夫ですか!?」

 

 そうしてなんとか一人で攻撃を続けていると、ようやく援軍が来てくれた。俺は彼らが来てくれたことに感謝をしつつ、なんとか攻撃を続けていく。彼らもそんな俺に何も言わずに援護をしてくれた。

 

「ぐっ、結構堅い」

 

「私の種子で少しずつ削っていくわ、頑張って!」

 

 大勢で攻撃を続ける内に、徐々に岩山の表面が剥がれていく。どんどんとひび割れていく岩山に、メイスや拳装備の職員たちが衝撃をたたきつけていく。

 

 そして相手の攻撃をなんとか耐えながら攻撃していき、ついに岩山は崩れ去っていくのだった。

 

「よし、やったぞ!」

 

 リッチの勝ちどきが聞こえる。そこで俺はようやく緊張が解けて体から力が抜けていった。

 

「…………大丈夫?」

 

 そして、倒れ行く俺を、誰かが抱き留めてくれるのだった。その柔らかく心地よい感触に、とうとう俺は意識を手放すのだった。

 

「…………ちょっとだけ、おやすみ」




人々から信仰は失われた


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中間報告 苺の夕暮『避けられぬ障壁』

私たち二人の間には いくつもの障壁が立ちはだかる

けれどこれを乗り越えることで 私たちの愛はより強くなるわ


「ジョシュア先輩、最近よく倒れますよね?」

 

「お前からの心労も大分あると思うぞ」

 

「やだなー、そんな私に甘えてきたくせにー」

 

「誰のせいだ誰の!」

 

「ぎゃあぁぁぁぁ! ごめんなさいー!」

 

 

 最近の疲労の諸悪の根源であるパンドラにアイアンクローを決めつつ、引きずって廊下を歩く。隣を歩くジェイコブはそんな光景を見ながら苦笑いしている。

 

「ジョシュア先輩、さすがにやり過ぎっすよ」

 

「だったらこいつの相手はお前がするか?」

 

「いや、それはマジで勘弁ですよ」

 

「痛い痛い! ひどすぎますって!」

 

 女の子好きのジェイコブでさえお断りされるこいつは、本当になんなんだろうな? まぁ、こいつで良いって奴がいるならカウンセリングを受けてもらう必要がありそうだがな。

 

「それにしても、ここの女の子って結構レベル高いっすよねー。顔採用とかしてんすかね?」

 

「こんな職場でか?」

 

「まぁ、そんなわけ無いっすよね」

 

「くだらないこと言ってないで、早く作業に戻れ」

 

「はーい」

 

「本当に痛いですって! 謝るんで許してくださいよ!」

 

 無駄話ばかりするジェイコブに釘を刺し、早く仕事に戻るように伝える。そろそろ俺も仕事に戻らないといけないな。

 

『中央本部にて、試練が発生しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

「……行くぞ、準備は良いな?」

 

「もちろんですよ」

 

「うぅぅ、私も大丈夫です」

 

 今日三回目の試練の発生、それはつまり夕暮の試練がやってきたと言うことだ。俺たちはすぐにE.G.O.を構えて廊下を走り出す。すると、前方から誰かが走ってくるのが見えた。

 

「うわぁぁぁぁ!」

 

「うわっ、何があったんだよ……」

 

「ジェイコブ君、離れて!」

 

 よく見ると、前方から走ってきた職員の頭からは何かが生えている。そしてそこから綿毛のようなものが飛んできて、こちらに近づいてくる。パンドラが信仰で綿毛を打ち落とすと、その職員から距離をとった。

 

「なっ、なんすかアレ?」

 

「ちっ、こんなの思いつくのは一つだけだな」

 

「まっ、まさか前回の……」

 

「待ってください、何か来ますよ!」

 

 気がつけば、さっきまで走っていた職員が立ち止まり、首がもげかかっている。そしてそのまま首がぐるんともげて、その断面から肉の花が生える。……これは、苺の白昼か?

 

「まずいな、すぐに片付けるぞ!」

 

「「了解!」」

 

 パンドラとジェイコブが、信仰と貝殻で援護をしながら俺が幸福で切りつける。さすがに以前よりも武器は強くなり、俺たちも成長している。討伐するまで総時間はかからないだろう。

 

「綿毛が来ます!」

 

「了解だ!」

 

 いったん距離をとって幸福で綿毛を切り払う。そしてそのまま突っ込んで幸福でなぎ払い、ようやく苺の白昼を伐採することに成功する。

 

「よっしゃあ! やりましたね先輩!」

 

「いや、まだこれを起こした奴を潰してない。おそらくはこれが生えた元凶がメインルームにいるはずだ」

 

「……これ以上のっすか?」

 

「おそらくは」

 

 戦いがまだ続くと言うことに、少し気落ちしそうになっているジェイコブに何か声をかけようとすると、パンドラが割り込んできた。

 

「ほら、早くしないと被害がもっと広がりますよ! 早く行きますよ!」

 

「……それもそうですね」

 

 ジェイコブは気持ちを入れ書いて通路の奥をにらむ。その先にこれを起こした奴がいるはずだ。

 

「走るぞ!」

 

「はい!」

 

 廊下を走ってメインルームに向かう。そしてメインルームへとつながる扉を蹴り開けて中に入る。E.G.O.を構えて突入すると、やはり悪趣味な光景が広がっていた。

 

 

 

 そこにいるのは肉で出来た木であった。街路樹程の大きさのそれは、いくつもの内臓と人間のパーツを、これでもかと悪趣味に散りばめた、悪臭を漂わせるそれの中央には、ひときわ大きな目がぎょろりぎょろりとせわしなく動き回っていた。

 

 その周囲にはいくつもの苺の黎明と白昼が生えており、その犠牲者の数を物語っていた。

 

「うっ」

 

「気合いで踏ん張れ、早く討伐するぞ」

 

「周りは私に任せてください!」

 

 パンドラが周りの掃討に向かってくれたおかげで、夕暮の鎮圧に集中することが出来る。ジェイコブがこの場から貝殻で攻撃を続けている内に、俺は夕暮に接近して攻撃を加える。夕暮は苦悶の悲鳴を上げるが、さほど効いてるようには見えなかった。

 

「ジョシュア、加勢に来たぞ!」

 

「リッチ、シロ、助かる!」

 

 リッチとシロが来てくれたおかげで随分と戦闘が楽になる。周りは彼らに任せて夕暮を相手に幸福で切りつけ続ける。苺の試練自体には攻撃性能が無いことが幸いして、綿毛にだけ注意すればいいということは非常に助かる。

 

 そうして攻撃を続けていると、夕暮の様子が変わり、小刻みに震え始めた。何かが来る前兆と感じて距離をとり、周りの奴らに注意を施す。

 

「何か来るぞ、気をつけろ!」

 

 周囲のほとんどを殲滅させたリッチたちが俺の声に反応すると、夕暮がよりいっそう大きく震えだし、すごい数の綿毛を放出し始めた。

 

「くそっ、やっぱりか!」

 

「綿毛をE.G.O.で切り払え!」

 

 綿毛を幸福で対処しながら周囲を見渡す。どうやら皆うまく対処できているようだ。そうこうしているうちにも、周囲の試練たちはどんどん数を減らしていき、ついに殲滅することに成功した。

 

「一気にたたみかけるぞ!」

 

 槍で、刀で、ボウガンで、大砲で夕暮に対して一気に攻撃を仕掛ける。前衛が攻撃に集中し、後衛が夕暮の様子を見ながら銃撃する。そして様子に異常が見られたら、後衛が前衛に声をかけて離脱し、綿毛の対処をする。そうしていく内に、夕暮はどんどんボロボロになっていき、内臓と人のパーツで出来た悪趣味な装飾がどんどん剥がれ落ちていく、そしてついに幹の部分が折れて夕暮は崩れ落ちていった。

 

「……ようやく終わったか」

 

「まだどこかに白昼や黎明がいるかもしれない、手分けして探索に行こう」

 

『『O-04-i16』*1が脱走しました、エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

「……どうやらまだ残っていたようだな」

 

 新たなアブノーマリティーの脱走により、どこかに苺の黎明が残っていることが判明した。とりあえず部隊を分けて『O-04-i16』の鎮圧に向かわなければならない。

 

「パンドラとジェイコブは苺の黎明と、洗脳された職員を探してきてくれ! 俺とリッチとシロは『O-04-i16』の鎮圧に向かう」

 

「了解です!」

 

 そう元気よく返事をして、パンドラは疲れ切ったジェイコブを引きずりながら走って行った。

 

 さて、俺たちはまだ仕事が残っているな。

 

「リッチ、シロ、行くぞ」

 

「了解だ、さっさと終わらせよう」

 

「…………うん」

 

 そうして俺たちは、『O-04-i16』の鎮圧に向かうのだった。

*1
『白い塔』




何で皆私たちの邪魔をするの?

許さない 許さない許さない許さ ない許さない許さない許さない 許さない許さない許さない許さない許さない許 さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さ ない許さない許さない許さない許さない許さない許 さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さな い許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さ ない許さない許さない許さな い許さない許さない


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EX-Story-4 『墓標』

 苺の夕暮を鎮圧した俺たちは、おそらく苺の黎明を取り逃していたために『O-04-i16』の脱走を許してしまう。

 

 俺とリッチとシロは、脱走した『O-04-i16』を鎮圧するために全力で向かっている。『O-04-i16』の収容室はここからかなり近い。すぐに向かえば被害は押さえられるはずだ。

 

「それにしても、あいつって脱走するのかよ!」

 

「正直どうやって脱走するのか不思議ではあるな」

 

「…………もうすぐ」

 

 『O-04-i16』の収容室のある廊下へと続く扉を開き、中に入る。連戦ではあるものの、苺の夕暮相手にはダメージを受けていないためそのまま戦闘を行っても問題は無いはずだ。

 

 

 

「……むごい」

 

 廊下には、何人ものオフィサーがその皮を剥がれ、肉を剥がれて骨がむき出しになっていた。そしてその骸は、壁に一本の骨のようなもので縫い付けられていた。

 

 そして、すぐに死の気配を感じる。恐ろしいほどの死臭を感じながら、E.G.O.を構える。死体から何かを剥がし取っていたそれは、俺たちの気配に気がついたのか、ゆっくりとこちらに向きを変えた。

 

 それは、一見すれば白いサソリのような怪物であった。しかし、鋏の部分には巨大な骨の手があり、胴の部分は上向きの頭蓋骨になっている。口の部分には、おそらく肋骨があごのように伸びており、かちかちと音を鳴らしている。尾の部分は肋骨と背骨の様だ。もしもこれが元人間の骨なら、相当大きな人物であったに違いない。そしてこちらに向かって両手を挙げて悲鳴のような声を出し、一直線に突っ込んできた。

 

「来るぞ、シロは後ろから援護を! リッチは俺と一緒に殴るぞ!」

 

「了解!」

 

 俺たちも『O-04-i16』に向かって一斉に走り続ける。『O-04-i16』が大ぶりに手で薙ぎ払いをしてくるが、俺たちはそれを体をかがめてよけて懐に入る。

 

「食らえ!」

 

 幸福を『O-04-i16』の体に突き刺し、ねじる。しかし痛みを感じることなんて出来ないのか、『O-04-i16』は何事も無かったかのように動きだし、その手で俺をつかもうとしてきた。

 

「危ない!」

 

「くっ、助かった!」

 

「気をつけろよ」

 

 迫り来る腕をリッチが切り上げてずらし、なんとか捕まらずにすんだ。俺は幸福を抜き出していったん距離を取る。すると、『O-04-i16』はあごの部分を動かして、何かをはき出そうとしてきた。

 

「まずい、何か来るぞ!」

 

 俺とリッチは急いで『O-04-i16』のしたをくぐり抜け、反対側へと通り抜ける。どうやらシロは場所を移動して一旦退避したようだ。

 

 そして、『O-04-i16』はかちかちと音を鳴らしながら、口に当たる部分から青白い息を吐き出した。それは空気よりも重いのか地面に滞留し、しばらくの間残っていた。俺たちはその光景に冷や汗をかく。先ほどまでも感じていた理不尽な死の気配だが、さっきのブレスはそれよりも遙かに大きな気配を感じた。おそらく、さっきのをまともに食らえばただではすまないだろう。

 

 そして、『O-04-i16』がこちらに向き直る。俺たちは再びE.G.O.を構えて、いつでも動けるようにする。

 

「死ぬんじゃねえぞ」

 

「お前もな」

 

 俺たちの会話が終わるやいなや、『O-04-i16』は再び俺たちに向かって攻撃をしてきた。俺たちは再び攻撃を繰り返し、なるべく一撃も当たらないように立ち回っていく。気がつけばシロも戻ってきており、俺たちに加勢してくれている。

 

 俺が幸福で突き刺し、鬼退治でリッチが切りつける。『O-04-i16』の尾が鋭い槍のように突き刺そうとしてくるが、E.G.O.で軽くいなし、軌道を変えて直撃しないようにする。そしてそのすきにリッチが鬼退治を図骨に突き刺し、俺も一緒に幸福を突き立てる。

 

「これで、終わりだ!」

 

 そして、ようやく『O-04-i16』は動きを止めて、その場に崩れ落ちた。

 

「……ふぅ、ようやく終わったな」

 

「さすがに連戦だったからな、後はパンドラたちがうまくやっている事を祈ろう」

 

「おっ、噂をすればきなさったぞ」

 

 パンドラとジェイコブが手を振りながら俺たちのほうに駆け寄ってきた。笑顔のジェイコブを見て、どうやら彼らの役目は果たしたらしい。

 

「さて、今日は『T-09-i97』*1でゆっくりするかな」

 

「あぁ、それなら俺も一緒に行くとするか」

 

 そうして俺たちは、『T-09-i97』の収容室に向かって歩いて行くのだった。

 

 

 

 俺は再び『O-04-i16』の収容室に向かっていた。正直に言えば、俺は奴が苦手だ。あの死の気配がどうしても慣れない、まぁ慣れている奴もいないとは思うけどな。あの馬鹿だって、さすがに『O-04-i16』にいたずらなんてしないだろう。

 

 とにかく、奴に作業をしなければならないのは仕方が無いことだ。割り切って作業を行うしか無い、とりあえず早く終わらせてしまいたいと考えながら廊下を歩いて行く。

 

「さて、ようやくついたか」

 

 『O-04-i16』の収容室の前までたどり着き、深呼吸をしてから扉に手をかける。そして気合いを入れてから思い切って扉を開く。やはり、収容室からはおぞましい死の気配が漂ってきた。

 

「よう、久しぶりだな」

 

 俺の言葉に『O-04-i16』は何も反応はしない、それもそうだろう、こいつはただの骨の山なのだから。そもそも、なぜ脱走したらあんな姿になるのかもわからない。

 

 そんな事を考えていたら、その骨の山の頂にある巨大な華のような部分から光が漏れた。そしてその光をあびて、俺はまた不思議な感覚に襲われるのであった。

 

 

 

 

 

 それには何があったのか、全く思い出すことは出来ない

 

 それもそのはずだ、思い出す機能を失っているのだから

 

 それは時が来るまで永遠に眠り続ける

 

 全てを失い、ただそこに存在するだけだ

 

 それは死の象徴、全てを失った先の姿

 

 気がつけばそれは、小さな花を咲かせていた

 

 真っ白で恐ろしい、骨で出来た華だ

 

 俺はそれを……

 

 

 

 

 

 摘まなかった

 

 

 

 

 

 それでいい

 

 私は眠り続けなければならないのだ……

 

 

 

 

 

 気がつけば俺の胸には骨で出来た華のブローチがついていた。

 

 その奇妙なブローチは、恐ろしいはずなのに、なぜかそんな気はしなかった。

 

 俺は新たな力を身につけて、収容室から退出した。

 

 これからも、俺は数々のギフトを受け取ることになると思う。

 

 だが、決して飲まれないようにだけは、気をつけなければならない。

 

 

 

 

 

 それが何をしたかは、それ自体にはわからない

 

 ただ、それにも何かはあったはずなのだ

 

 それが目覚めることは許されない

 

 そもそも目覚めるために必要なものが足りない

 

 それは失ったものを永遠に探し続ける

 

 決して手に入ることは無いのに、再び罪を重ね続ける

 

 そうしてそれは、かつて斃れ、恨み辛みの元……

 

 

 

 

 

 全てが剥がされ、白い華だけが残った

 

 

 

 

 

O-04-i16 『骨の華』

*1
『極楽への湯』



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EX-Story-4 管理情報

 『O-04-i16』は骨が積み重なって出来た華の形をしたアブノーマリティーです。常に収容室の中は死の気配が充満しています。

 

 『O-04-i16』が収容室から脱走すると、サソリのような姿となって施設内を徘徊します。また、殺害した職員の肉と皮を剥いで何かを探しています。

 

 『O-04-i16』を組み立てて遊ばないでください。一度脱走時に変な形になって『O-04-i16』が困惑していました。

 

 

 

『骨の華』

 

危険度クラス WAW

 

ダメージタイプ P(5-7)

 

E-BOX数 22

 

作業結果範囲

 

良い 19-22

 

普通 10-18

 

悪い 0-9

 

 

 

管理情報

 

1、作業結果が普通以下でクリフォトカウンターが減少した。

 

2、作業結果が良でクリフォトカウンターが増加した。

 

3、アブノーマリティーが三体以上同時に脱走していると、クリフォトカウンターが0になった。

 

 

 

作業結果

 

本能

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

 

洞察

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

愛着

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

抑圧

1 低い

2 低い

3 低い

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 2

 

R 1.5

 

W 0.5

 

B 0.2

 

P 0.5

 

 

 

◇ギフト

 

墓標(ブローチ1)

 

HP-10 

 

MP-10

 

正義+20

 

 骨で出来た華形のブローチ。死に近づくことで、所有者を死から遠ざける。

 

 

◇E.G.O.

 

・武器

 

墓標(槍)

 

クラス ALEPH

 

ダメージタイプ P(6-8)

 

攻撃速度 高速

 

射程距離 普通

 

 様々な骨の組み合わされた薙刀。死を振りまき、敵対者に絶望をたたきつける。

 

 

 

・防具

 

墓標

 

クラス ALEPH

 

R 0.8

 

W 0.8

 

B 0.4

 

P 0.4

 

 様々な骨が組み合わさった甲冑。非常に頑丈で動きやすいが、ガチャガチャうるさい。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 Pのアブノーマリティーなんだからもちろん脱走するよね!

 

 というわけで、今回のアブノーマリティーは結構面倒な感じになっていると思います。カウンターが減る条件は厳しめだけど、すぐに回復する。しかし、3体以上脱走してたら大変な事になります。罰鳥がいたら大変だったでしょうね。

 

 とはいえ、脱走したときのスペックはさほど高くはありません。一撃は重いですが、予備動作が長めで攻撃をよけるのは容易です。TRPG風のゲームのほうでは、攻撃パターンが一個しかありませんでした。

 

 ちなみにこいつですが、弟は最初に一体だけ混ぜたALEPHだと思って収容したようです。残念ながらこいつでは無かったのですが、Pだったので悪くは無い感じですね。

 

 これでこの中央第一は終わりですが、こうしてみるとあまり脅威のある存在は収容されませんでしたね。脅威となるのはこいつくらいで、残りは気をつければ大丈夫ですからね。

 

 しかしまだまだこの部門は折り返し地点、次に収容されるのはどんな存在か楽しみにしていてください!

 



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教育部門 セフィラコア抑制『職員の皆も笑って~』

「最近、上層のセフィラ達に異変を感じないか?」

 

 ある日、またこっそりと食堂にやって来た管理人は、席について早々にそう切り出した。正直に言えば、よくわからん。元々彼女たちは苦手だったから、あまり関わらないようにしてきたからな。正直箱状態で抑制前とかあまり萌えない。

 

「いや、あまり気にしたことは無いけど、どうしたんだ?」

 

「もしかしたら、近い内に彼女たちに異常が起こるかもしれない。その時は、君と一緒に乗り越えていきたいと考えている」

 

 なるほど、どうやらこの管理人はうまくセフィラたちと関わって、もうじきセフィラコア抑制が始まると言うことだろう。そういうことなら俺たちだけよりも彼と一緒に頑張った方が生存率は高そうだな。

 

「なるほど、そういうことなら任せてくれ」

 

「本当か!? やっぱり君は頼りになるな」

 

「あぁ、精一杯頑張るさ」

 

 それが、昨日管理人と一緒に話した内容だ。正直、その状況がこんなにも早く来るとは思わなかった。正直もう少ししてから何か来ると踏んでいた。だからこそ俺個人は別として他の職員たちの育成は、全然間に合わせることが出来なかった。

 

 

 

 

 

「これ、明らかにおかしいですよ」

 

「そうだな」

 

「いやだって、これがあのホドなんですよね? もうロボットというか、それこそアブ」

 

「メッケンナ、それ以上はやめておけ」

 

「……そうですね、僕たちは今日も出来る事を始めましょうか」

 

「あぁ、それが良い」

 

 今日、教育部門に所属していた職員たちは、全員はじき飛ばされてしまった。そのため教育部門にいた新人たちは、それぞれ別の部門に派遣されることとなったのだ。

 

 その理由こそが、この教育部門で踊るように動き続けるたこのような存在。大きな触手を伸ばし下部に大きな歯車を回し続ける橙色の目をした怪物、いや、彼女こそがホドと呼ばれたセフィラの一員なのだ。

 

『ほらほら皆さん、一緒に職員教育ビデオを撮りましょう!』

 

 彼女は狂ったように何かをつぶやき続ける。それに耳を傾けることは無駄なのだろう。

 

「さて、それじゃあ今日も仕事をするか」

 

「はい、でもなんだか少し体がだるいですね」

 

「あー、たぶん身体補助系がうまく機能していないのかもしれないな。俺も本調子じゃないしな」

 

「そうですか、それじゃああまり普段のような行動は出来そうもありませんね」

 

『皆が私を必要として欲しいんです』

 

 そういって少し落胆したようなメッケンナに、少し良いアイディアが浮かんできたので伝える事にする。

 

「そうだな、それじゃあ少しだけ楽に出来る方法を教えてやろう」

 

「えっ、何ですか?」

 

『何で皆、私の優しさに気付いてくれないんですか?』

 

「あぁ、それはな……」

 

 

 

「さて、これで大分負担が軽くなったな」

 

「これ、本当にすごいですね」

 

 今、俺たちは『T-09-i96』*1の収容室の中にいる。目的は、この酒だ。

 

 『T-09-i96』を摂取することで、能力を向上させることが出来る事は以前から判明していた。そのことから、もしもホドのコア抑制が起こった際に使うことが出来ないかと以前から考えていたのだ。

 

「さて、それじゃあさっさとこんな事終わらせるぞ!」

 

「はい!」

 

『私だけが彼らのことを心配してあげてるのに、なんで私を嫌うの?』

 

 この情報を管理人に頼んで他の職員たちにも伝え、彼らにも摂取してもらうようにしておく。それでも時間がかかるので、先に摂取した俺たちがその時間を使って作業を進めていくことにした。

 

「さて、今後身体補助系の影響が大きくなることも考えて、とりあえずWAWあたりから作業をしていく」

 

「わかりました」

 

 とりあえず、メッケンナと一緒にE-BOX数の多い奴から当たっていく。こんな状況でも、ノルマを達成しなければならないのはいつもと同じなのだ。

 

 

 

 

 

「……くそっ、体の動きが鈍い!」

 

「これ、本当に大丈夫ですか!?」

 

『ちゃんとしてくださいよ! あとでこの映像を見て参考にするんですから』

 

「あーもううるせえな!」

 

「ジョシュアさん、聞いても意味ないって自分で言ったんですから気にしないでください!」

 

「それでもこれはうっとうしすぎるだろう!」

 

『もしかして怒ってます? そんな、だめですよ! 私は良いセフィラなんですから!』

 

 青空の黎明が現れて、いつもより鈍い体でなんとか殲滅していく。作業を終えてクリフォト暴走が起これば起こるほど、どんどん俺たちの体の調子は悪くなっていく。どうやらどんどん身体補助の影響が無くなってきたようだ。

 

「よし、これでなんとかなったな」

 

「そうですね、早くこんなこと終わらせちゃいましょう」

 

 再び作業に戻ってエネルギーをためていくが、それでもどんどん体が重くなっていく。そしてどんどん作業をこなしていると、それは起こった。

 

 

 

 

 

「ぐっ……」

 

「メッケンナ!」

 

『ほら、職員たちが苦しそう。やっぱり私がいないといけないんですよ!』

 

「ジョシュアさん、僕のことは良いので、早くこいつらを……」

 

「……わかった、絶対に死ぬなよ」

 

『職員の皆も笑って~』

 

 どんどん体の重くなっていくこの状況での青空の白昼だ。いつもならそう苦戦しない相手だが、今回は状況も相まってその数の暴力を受けることとなった。

 

「くそっ、早くぶっ壊れろ!」

 

 メッケンナをかばいながら青空の白昼を破壊していく。幸いたいした知能も無いことで、死にかけのメッケンナより大暴れする俺のほうに集まってくる。俺としてもそっちの方がありがたい。

 

「おらっ、せいや!」

 

 腕の刃による切り付けをよけながら、横を通り抜けるように切りつけていく。立ち位置を調整して相手をぶつけ合わせたり、足下を攻撃して体勢を崩し、自重で崩壊させていく。

 

「さて、これで終わりだ!」

 

 最後の一体を切りつける。それと同時に体から先ほどまでの重圧が消え、いつものような感覚が戻ってくる。

 

『最初から私はいい人じゃ無かったのかもしれない……』

 

「……終わったか」

 

 俺は倒れているメッケンナを肩に担いで、出口へと向かう。もうすぐ純化が始まり、ここにいては巻き込まれてしまう。

 

 そしてようやく、俺たちにとって初めてとなるコア抑制が終了するのであった。

 

*1
『黄金の蜂蜜酒』



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Days-23-1 O-01-i33『簒奪の風が吹く』

 教育部門のセフィラコア抑制が終わり、俺たちはその強力な恩恵を得ることが出来た。具体的に言うと、これから新しく採用される職員たちは、皆新しい新人研修を受けることが出来るのだ。裏を返せば今まで新人研修なんてなかったようなものなんだけどな。

 

 ちなみに、この研修は俺たち先輩は受けることが出来ない。それはつまり、こんな悲劇が起こると言うことだ。

 

「相変わらずぅ、ジョシュアさんのギフトはぁ、とっても素敵ですねぇ」

 

「ははっ、そうか……」

 

 俺の胸についているギフト『墓標』を愛でるようになでながら、サラは熱っぽい声で俺に語りかけてくる。正直に言えば距離が近いのでやめて欲しいところではある。

 

「そうは言うが、サラだってギフトを持ってるじゃ無いか。『F-04-i27』*1からどうやってギフトを得たんだ?」

 

「あぁ、これですかぁ?」

 

 そう、サラの頭には『F-04-i27』のギフト、『ガラスの靴』が乗っかっている。『F-04-i27』は女性に対して即死の効果を持っており、今までどれだけ男性が作業を行ってもギフトを得られることは無かった。今までギフトを得られたのはデボーナだけであり、彼女はもう故人だ。それなのに、どうして彼女がギフトをもらっているのだろうか?

 

「これはですねぇ、へたくそなダンスを踊って何回も収容室に通ったんですよぉ」

 

「何回もって、そんなに作業して大丈夫だったのか?」

 

「えぇ、どうやら『F-04-i27』はぁ、お気に入りの子だけを取り込むみたいなのでぇ」

 

「つまり、気に入られなければ何度でも収容室には入れると言うことか」

 

「そういうことですねぇ。これをあげるからぁ、もっと頑張ってって事かもしれませんねぇ」

 

「よくそんな事がわかるなぁ」

 

「だって趣味なものですからぁ」

 

 彼女はそう言って朗らかな笑みを浮かべる。これから彼女が成長していけば、未だに性質のわかっていないアブノーマリティーの調査について、本格的に協力してもらうのも良いかもしれない。そう考えていると、ふと先ほどの会話で気になることを見つけてしまった。

 

「あれ、そのはなしだと、ギフトをもらったデボーナはあまり気に入られなかったと言うことか?」

 

「あぁ、それはですねぇ……」

 

 サラは少し言いづらそうにしていたが、少し目をそらしながら話をいてくれた。

 

「実はぁ、彼女ってダンスが致命的に下手だったんですよぉ」

 

「あぁ、それで」

 

「まぁ、それが報われちゃったのってぇ、なんだか変な感じですよねぇ」

 

「そればっかりは、仕方の無いことだ」

 

 むしろ、苦しまずにすんだのは幸運だったのかもしれないな。そんな事より、少し気になることがある。こいつはいつまでこんなところでだべっているつもりなんだ?

 

「それで、そろそろ新人たちと話してきたらどうだ?」

 

「えぇっとぉ、それはぁ」

 

 ここで、再び彼女は目線をそらす。この子は意外と隠し事が苦手そうだ。

 

「だって、あの子たちのほうがぁ、私よりもすごいじゃ無いですかぁ」

 

「そう言うな、お前だって頑張ればちゃんと出来るようになるって」

 

「それでもぉ、先輩なのにぜんぜんできないなんてぇ、かっこわるいじゃ無いですかぁ」

 

 まぁ、正直その気持ちもわかる。だがそういじけていても始まらないので、先輩として助言くらいはしておこう。

 

「今日の実験の予定は?」

 

「えっ? そのぉ、今日は無いですねぇ」

 

「じゃあ今日は『T-05-i22』*2を中心に作業を行うと良いと思うぞ。あいつならある程度鍛えるのには向いているはずだ」

 

「ホントですかぁ!? それなら先輩の言うとおりに頑張ってみますねぇ!」

 

 そう言うと、彼女は元気よく『T-05-i22』の収容室に向かっていった。どうやらやる気になってみたいだし、これで良かったのだろう。それにしても、ギフトのことばっかり考えていると思っていたが、意外と繊細なんだな。これからは気をかけていくことにしよう。

 

「さて、それじゃあそろそろ俺も新しいアブノーマリティーのところに行くとするか」

 

 俺も気持ちを切り替えて作業を行いに行く。今日新しく収容されたのは、『O-01-i33』と『T-01-i21』だ。両方人型のようだが、気を引き締めて作業に取りかかろうと思う。

 

 とりあえず、はじめは『O-01-i33』のほうから作業を始めていこうと思う。どうせどちらも初めて相手する奴なんだ。どっちからでも違いは無いはずだ。

 

「さて、それじゃあ今日も頑張るか」

 

 

 

 ようやく『O-01-i33』の収容室の前にたどり着く。今日もうまく行けるように天に祈りながら、収容室の扉に手をかける。そして気合いを入れて扉を開く、ここまではいつも通りだった。

 

「うっ」

 

 収容室の扉を開くと、背筋に悪寒が走る。それと同時に収容室内の空気が俺のほほをなでるように流れてきた。冷たい、乾いたそよ風が俺を収容室の中へと招いてきてるようにも感じる。この時点ですでに感じている嫌な予感を押し殺し、気張って収容室の中に入る。しかし、収容室の中に一歩踏み入れれば、今までに感じたことの無いほどの重圧が俺にのしかかってきた。

 

「おいおい、なんだよこれ」

 

 感じるのは純粋な恐怖、未知のものへの、自身よりも遙かに強大な相手への畏れ。例えるなら、どうしようも無い自然現象、天災への畏怖とでも言うべき感情。それほどの存在が俺の目の前にいる。

 

 それは、枯れきった人間のようなものであった。乾燥しきり、カラカラになったそれは、何も存在していない眼孔だけをこちらに向けている。生きているようにも見えないのに、なぜかこちらを見られている様な錯覚すら覚える。これは一体、どういうことなのだろうか?

 

「いや、ここで立ち止まっても仕方が無い。やるぞ」

 

 とにかく今やれることをしていくしか無い。俺は掃除用具を持って洞察作業を行っていくことにする。すると、なにやらおかしな事に気がついた。

 

「あれ、もしかして若干風が吹いているのか?」

 

 集めたゴミが風に吹かれてどこかへ飛んでいく。もちろんこの収容室に空調なんて存在しない。そもそも、この地下に立てられた施設において、風なんて吹きようが無い。ということは、風を吹かせるのがこいつの能力なんだろう。それが、一体どのような意味があるのかは、俺にはわからない。だが、なにやら嫌な予感がする。

 

「……いや、こんな作業早く終わらせてしまおう」

 

 こんなところにいつまでもいて良いはずは無い。とにかく掃除を早く終わらせて、収容室からおさらばするしかない。うまく掃除の出来ないストレスはあるが、なんとか仕事を終わらせて収容室から退出することが出来た。

 

 

 

「結局、あいつは何者だったんだろうか」

 

 あれからしばらくして、俺はリッチと一緒に食事を取りながら『O-01-i33』について話をしていた。何というか、あれほどの存在が何もしないと言うことが信じられない。だからその不安感をリッチに聞いてもらっていた。

 

「だが、何も無いのであればそれでいいじゃ無いか?」

 

「そうなんだけどな……」

 

「そういえば、今日『O-01-i33』の作業を行うのは誰だ?」

 

「それが新人の奴でな、なんだか嫌な予感がして……」

 

 その漠然とした不安は、このとき最悪の形となって実現する。俺たちが食事を終えてそろそろ仕事に戻ろうと考えていると、管理人から緊急の連絡が来た。

 

『ジョシュア、リッチ! 今『O-01-i33』の収容室で作業をしようとした職員が、謎の変貌を遂げた! 職員たちを無差別に攻撃し始めている、彼を鎮圧して欲しい!』

 

「……了解だ、今すぐ行く!」

 

 新しく装備しているE.G.O.墓標を担いで鎮圧に向かう。嫌な予感がするとは思っていたが、まさかこういうタイプだったか。

 

「ジョシュア、お前の予感は悪い方に当たったみたいだな」

 

「全く、当たって欲しくは無かったんだがな!」

 

 全速力で『O-01-i33』の収容室のある廊下に向かうと、そこには変わり果てた職員だったものが暴れ回っていた。

 

 その姿は見る影も無く、面影も無かった。まるで何もかもが奪われたかのようにカラカラに乾いた肉体、何も映さぬ瞳、それでも人の形は保っている。その姿はまるで、『O-01-i33』にそっくりだった。

 

「くそっ、今楽にしてやるからな」

 

 それぞれ墓標と鬼退治を構えて戦闘を始める。相手は俺たちを見て攻撃を仕掛けてくるが、知能は退化しているのか攻撃は単調であった。

 

 E.G.O.こそ持っているが、その動きは全て大ぶりで、注意していればダメージを受けることは無いだろう。動きも遅く、1対1であれば、さほど苦労はしないで倒せそうだ。さらに、今は俺だけじゃ無くリッチもいる。このままなら大丈夫かもしれない。

 

「くっ、結構な力だな!」

 

「受けずに避けろ!」

 

 避けきれずに墓標で攻撃を受けると、その衝撃で少し後退してしまう。腕が少ししびれたが、すぐに体勢を整える。

 

「よし、決めるぞ」

 

「任せろ」

 

 リッチが引きつけている間に、俺が彼の胸元に墓標を突き立てる。腐ってもPダメージの武器だ、こいつにもしっかりダメージは通るだろう。

 

「……よし、これで終わりだな」

 

 突き刺さった墓標をひねって抜くと、死の攻撃に耐えられなかったのか職員だったものは粉々に砕けてしまった。

 

「……このままだとやばいな、明らかに『O-01-i33』の仕業だ」

 

「そうだな、作業する職員には十分に注意して作業に当たるように言っておこう」

 

「それと、なるべくベテランがいった方がいいだろうな。管理人に伝えておこう」

 

 

 

 

 

 そして、そのことを管理人に伝えようと無線に手を伸ばしたその時、我々はついにそれと相対する事となる。

 

「くっ、なんだ!?」

 

「なぜ、こんなところで突風が……」

 

 一迅の風と共に、そいつは現れた。

 

 枯れきった肉体、何も存在しない眼孔、音、動き、匂い、一切の生を感じないそれは、ついに動き出した。

 

 それはゆったりとした動きで右手をあげて、こちらに向けた。

 

 そしてその瞬間に、決して風の吹くはずの無いこの地下施設で……

 

 

 

 

 

 簒奪の風が吹く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Emergency! Emergency! Emergency!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Risk Level ALEPH

 

 

 

 

 

 

 

 O-01-i33 『木枯らしの唄』

 

*1
『零時迷子』

*2
『慈愛の形』



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O-01-i33 管理情報

 『O-01-i33』は枯れ果てた人間のような姿をしたアブノーマリティーです。その収容室の内部では、常に微弱な風が吹いています。

 

 『O-01-i33』は収容室の内部では全く動きを見せません。

 

 収容室内の生物は全て死滅しているため、腐敗が発生しません。

 

 『O-01-i33』によって殺害された職員は、その体の肉、水分、生命力などのありとあらゆるものを奪われ、皮と骨だけの亡者と化します。この状態の職員を『O-01-i33-1』と呼称します。

 

 風を使ったいたずらを『O-01-i33』のせいにしないでください。そんなすぐにわかる嘘をついても貴方の得にはなりません。

 

 

 

『木枯らしの唄』

 

危険度クラス ALEPH

 

ダメージタイプ W(6-8)

 

E-BOX数 30

 

作業結果範囲

 

良い 24-30

 

普通 12-23

 

悪い 0-11

 

 

 

◇管理情報

 

1、正義と慎重が4未満の職員が作業を行うと、その職員は『O-01-i33-1』となり、カウンターが減少した。

 

2、作業中の職員がパニックになった場合も、同様のことが起こった。

 

3、『O-01-i33』が脱走すると、施設内の全ての場所で、風が吹き荒れた。

 

4、LOCK

 

 

 

◇作業結果(作業好感度)

 

本能

LOCK

 

洞察

1 低い

2 低い

3 低い

4 普通

5 普通

 

愛着

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

抑圧

LOCK

 

 

 

◇脱走情報

 

LOCK

 

 

 

◇ギフト

LOCK

 

 

 

◇E.G.O.

 

武器 LOCK

 

防具 LOCK

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 ついに初めてのALEPHですね! このときを待っていました!

 

 正直に言うと、こいつが最初に取られるとは思っていませんでした。他の取られそうな奴がいたのでね。しかし3連続で出てきたので仕方ないかという感じで取られました。ここからが地獄なんだよなぁ。

 

 こいつは、脱走条件は厳しいが、脱走したら壊滅的な被害を発生させるタイプのALEPHです。言ってしまえば足フェチみたいな感じですね。

 

 そのため、今回の話では都合のため結構簡単に脱走することになりました。そうでもしないと脱走しないんですよこいつ。

 

 脱走したときの被害はすでに少し出ていますが、それ以上にやっかいな能力も持っていたりします。その効果については今後をお楽しみにしていてください!

 

 それと、ALEPHクラスのアブノーマリティーの時は、名前の変わるタイプと同じように2回に分けて投稿していこうと思っています。その分少し間が空いてしまいます、ごめんなさい。ちなみに名前は変わりません。

 

 ようやくALEPHが来るところまで来ることが出来ました。これも皆様の応援のおかげです。書いてみれば意外と楽しくて、どんどん書き上げることが出来るようになっていきました。

 

 この施設ももう少しで半分、これからも頑張って書いていきたいと思います!

 

 ちなみにここが地獄の入り口ですよ!

 




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Days-23-2 T-01-i21『永遠の命への妙薬』

 『O-01-i33』*1への作業が終わり、何か釈然としない気持ちになりながらも、次のアブノーマリティーのところへ向かう。

 

 今日収容されたもう一体のアブノーマリティーは、『T-01-i21』だ。何というか二連続で人型というのも珍しい。

 

 とりあえず、少し休んでから行こうとメインルームへと向かう。なにげに『O-01-i33』への作業は精神への負担が大きかったのだ。

 

「あら、ジョシュアちゃんどうしたの?」

 

「あぁ、ルビねえか」

 

 メインルームにつくと、そこではすでにルビーが休憩していた。ルビーとは最近距離が近づいてきて、今ではルビねえ、ジョシュアちゃんと呼び合う間柄だ。

 

「実はさっきの作業で結構疲れたから、少し休憩しているのさ。ルビねえはどうしたんだ?」

 

「私は次の作業が『T-04-i09』*2だから、ちゃんと休養しているのよ」

 

「それはちゃんと傷を癒やしておかないとな」

 

 奴への作業は特に体に気をつけなければいけないからな。そのためにも体はしっかりと休めておかないといけない。

 

「それにしても、最近はセフィラの皆も変な感じよね。どうしちゃったのかしら?」

 

「まぁ、元から不安定だったからな」

 

 この前ホドのコア抑制が終わったとは言え、上層のセフィラはまだ3人いる。元々ネツァクはホドのコア抑制が終わらないと出来なかったが、おそらくすでにマルクトとイェソドはコア抑制が出来るはずだ。そこは管理人の考えに従うしか無いけどな。

 

「そうよね、でもホドちゃんは、随分と吹っ切れた感じがするわ」

 

「まぁ、この前のコア抑制が関係しているのかもしれないな」

 

「そうね、それなら私たちがやってきたことにもちゃんと意味があったのかもしれないわね」

 

「あぁ」

 

 なんだか少ししんみりした雰囲気になってしまった。そろそろ精神汚染中和ガスも効いてきた頃だし、作業に戻るとするかな。

 

「ルビねぇ、無駄話に付き合わせちまって悪かったな」

 

「別にいいのよジョシュアちゃん。またお話ししましょうね、今度は恋バナね」

 

「それは気が向いたらな」

 

「あら、つれないわね」

 

 そう言ってお互いに別々の方向へと歩き出す。精神への負担も軽くなったところで、すこし気分が良くなってきた。

 

 とりあえず、これから『T-01-i21』の収容室へ向かう。さっきのような変な奴で無ければ良いのだが……

 

 

 

「さて、それじゃあ行くとするか」

 

 今回もまた、収容室の扉に手をかけて気持ちを切り替える。そして思い切って収容室の扉を開こうとしたその時、管理人からの通信が入った。

 

『ジョシュア、ちょっと待ってくれ。その収容室に入る前にして欲しいことがあるのだが』

 

「えっ、何ですか管理人?」

 

『あぁ、実は……』

 

 その要望は意外なものであったが、俺は素直に了承することにした。そんな事を要求されるのであれば、素直に従わないとどうなるかわからないからな。

 

 

 

「さて、これで大丈夫だな」

 

 俺はガスマスクをつけて、再び『T-01-i21』の収容室の前に来ていた。管理人からの要望はガスマスクの装着、なにやら見た目からしてやばい存在らしい。

 

 それならどんな見た目か教えてくれても良いと思うが、なにやら規則でだめらしい。

 

 とりあえず、収容室の扉に手をかけて、思い切って扉を開く。ガスマスクで臭いなどはわからないが、危険な雰囲気だけはわかる。

 

 

 

「なるほど、それでか」

 

 目の前にいるのは銀色の流体で出来た女性だ。神秘的で清らかな乙女のような姿をしたそれは、こちらに気がつくと、妖艶に微笑んで見せた。だが、その見た目にだまされてはいけない。その見た目とは裏腹に、とてつもなく毒々しい気配も感じる。おそらく、その体を構成しているのは水銀、それも全身だとしたらかなりの量だ。

 

 その神秘的で美しい姿を見続けていれば、いずれは心を奪われそうな気配がする。これは気をつけなければ呑まれそうだ。

 

 正直、ガスマスクだけで守り切れるのかもわからない、一応『T-09-i97』*3があるとは言え長居はしたくないな。

 

「さて、それじゃあ作業を始めて行くか」

 

 なるべく洞察作業はしたくないし、愛着は地雷な気がするので、本能か抑圧作業をするべきだろう。初めてで抑圧も怖いので、本能作業を行うことにする。

 

 とりあえず音楽プレーヤーを持ち出して、曲をかけてリズムに乗ってみる。そして軽く踊ってみせると『T-01-i21』は最初不思議そうに俺を見ていたが、だんだん自分でリズムに乗って体を動かし始めた。だが、どうやら俺のダンスはお気に召さなかったようで、途中から一人でダンスを踊り始めた。俺は少し悲しくなったが、仕方が無いので様子を見ていた。

 

 すると、徐々に瘴気が増していって、しばらくしてどんどん体の調子が悪くなってきた。

 

「ぐっ、これは一体……」

 

 身の危険を感じ、収容室から退出して『T-09-i97』に向かう。心当たりなんて一つしか無い。『T-01-i21』だ。

 

「畜生、今日は厄日だな」

 

 弱々しくもそうつぶやきながら、俺は癒やしを求めて廊下を歩いて行った。

 

 

 

 

 

 古より水銀とは、その神秘的な見た目から薬であると認識されていた

 

 権威あるもの、永遠の命を欲するもの、果ては赤子の命を救わんとするもの

 

 その神秘へ魅了され、多くの人々が求め、自ら沈んでいく

 

 その乙女は決して自分から求めない、なぜなら相手から求められる存在であるからだ

 

 また彼女を欲するものが現れ、その神秘的な姿に魅了されるだろう

 

 そうすれば彼女の取る行動はただ一つ、そのものが欲するものを与えるのだ

 

 銀色に輝く流体の果実

 

 

 

 

 

 そう、それは永遠の命への妙薬だ

 

 

 

 

 

T-01-i21 『インディーネ』

 

*1
『木枯らしの唄』

*2
『森の守人』

*3
『極楽への湯』



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T-01-i21 管理情報

 『T-01-i21』は全身が水銀で出来た女性型のアブノーマリティーです。収容室内部には毒が蔓延してるので、ガスマスクを着用することを推奨します。

 

 『T-01-i21』はその美しく神秘的な姿で職員を魅了します。自制の低い職員は収容室の内部に入らないでください。

 

 『T-01-i21』から手渡されたものを決して口にしないでください。それは永遠の命を与えるものではありません。

 

 似ているからといって『T-01-i21』と『T-01-i12』*1を引き合わせようとしないでください。というかなんで『T-01-i21』のほうを収容室から連れ出そうとしているんですか? なに、以前『T-01-i12』を収容室から出そうとしたら怒られたからって? なら『T-01-i21』も収容室から出したらだめだと気付け!

 

 

 

『インディーネ』

 

危険度クラス WAW

 

ダメージタイプ B(5-6)

 

E-BOX数 24

 

良い 21-24

 

普通 9-20

 

悪い 0-8

 

 

 

◇管理方法

 

1、作業結果普通の場合、職員はしばらくの間毒状態となった。

 

2、毒状態の職員は、しばらくの間Rダメージを受け続け、移動速度が少し低下した。

 

3、作業結果が悪いの場合、作業していた職員は即死した。

 

4、自制が3以下の職員が作業を行った場合も、同様のことが起こった。

 

 

 

◇作業結果(作業好感度)

 

本能

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

洞察

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

愛着

1 最高

2 最高

3 最高

4 高い

5 高い

 

抑圧

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

非脱走アブノーマリティー

 

 

 

◇ギフト

 

仙丹(ブローチ1)

 

MP+2

 

愛着+5

 

 可愛らしい水銀で出来た桃の花。なぜか人体へは悪影響は無い。

 

 

 

E.G.O.

 

・武器 仙丹(大砲)

 

B(20-25)

 

攻撃速度 最遅

 

射程距離 超長距離

 

*攻撃時に周囲に継続的なRダメージを数秒与える。

 

 水銀の毒をぶちまける大きな大砲。その毒は受けたものを狂わせる。

 

 

 

・防具 仙丹

 

クラス WAW

 

R 0.5

 

W 1.2

 

B 0.4

 

P 1.5

 

 銀色を基調としたチャイナ服。着たものは神秘的な気配を醸し出す。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 今回はかわいい系のアブノーマリティーですね!

 

 実はこの話書くときに『T-01-i12』と似てるなって思って結構焦りました。そこはかわいらしさと美しさで差別化ですね!

 

 このアブノーマリティーは、元々オリジナルの○ケモンとして考えていた奴だったりします。どく・はがねタイプっていないからいるならどんな奴かなぁって考えて生まれたのがこいつです。ちなみに名前の由来は銀(中国読みでイン)+ウンディーネです。可愛い。

 

 ちなみに、なぜかト○ムマウみたいと弟に言われました。確かに……

 

 何というか、水銀って始皇帝のイメージが強いですが、実は昔ヨーロッパのほうでは子どもが病気になったときに飲ませる薬として使われていた事もあったらしいです。他にもあのニュートンなんかは実は錬金術にはまってて、髪の毛から水銀が検出されて摂取してた可能性があったそうです。こうしてみると結構興味深いですね。

 

 性能としては結構おとなしめかなって思います。正直クリフォトカウンターが無いだけで天使に見えますね。ただ、即死には注意ですが。

 

 それにしても、水銀にしたせいで収容室にどうやって入ろうかと悩むことになるとは思ってませんでした……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Next T-06-i30『手

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           

 

       

 

           

 

                 

 

     

         

 

              

 

                   tE』

*1
『蕩ける恋』



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Days-24-1 T-06-i30『手手手て手手手テtE』

 ×月▲日

 今日から新しいところに来た。新しい仲間たちと仲良くやっていけるか心配だけど、皆あまりこちらには興味が無いようだ。それは少し悲しいが、そんな事を嘆いていても仕方が無い。割り切るしか無いだろう。

 

 ここは恐ろしい施設だと聞いていたが、それほど悪いところでもなさそうだ。意外と住み心地は良いし、変な気を遣わなくてもいい。

 

 ここには色々な人たちがいる、これから楽しくなりそうだ。

 

 

 

 ×月△日

 せっかく日記を買ったので、毎日日記をつけていこうと思う。突然大変な事が起こったりもしたが、それらもなんとか乗り越えることが出来てきた。しかし、いつ死んでもおかしくないのであれば、生きていたという証拠が欲しい。

 

 もしこれからこの日記を読むものがいれば、こんな存在がいたのだと覚えていて欲しい。

 

 今日は2体のアブノーマリティーが収容された。一体はツール型だが、もう一体は随分と恐ろしい存在であったらしい。作業に当たった先輩に話を聞くと、どうやら暗すぎて全く姿が見えなかったらしい。懐中電灯もライターも光を灯さない。不思議な話もあるものだ。

 

 そのような恐ろしい体験なんて今までしたことは無いが、これから私も同じように恐ろしい体験を重ねていくのだろう。そう考えると少し憂鬱になる。

 

 別にあのキャンディにあやかるわけでは無いが、こう祈らずにはいられない。どうか明日も良い日でありますように。

 

 

 

 ×月▼日

 今日は新しい友達が出来た。彼はさみしがり屋で孤独だった。だから一緒にいると彼はさみしくなんて無くなったんだ。一人じゃさみしいことは知っている。だから一緒に孤独を紛らわそうとしてるけど、それでもいいのかもしれない。これからは一人じゃ無い、それだけで気持ちは楽になるのだ。

 

 せっかくだから、なるべく友達を増やそう。こんな場所に来たんだ、少しくらい楽しんだって罰は当たらないだろう。どうせもうここから出られない、それは彼らだってわかっているはずなんだ。

 

 

 

 ×月▽日

 最近仲良くなった職員が、今日帰らぬ人となった。彼はオフィサーで、そんなに長い時間を過ごせたわけでは無かったが、思い出はあった。

 

 原因は何かわからなかった。今日はアブノーマリティーの脱走も無く、試練での被害も聞いていなかった。だが、この施設において不思議なことなんて無い。何が原因かまではわからないが、誰が犯人かはおおよそ見当がつく。というよりも、アブノーマリティーの仕業以外の何物でも無いのだろう。

 

 寝る前に自室でコーヒーを飲む。この苦みは苦手だったが、彼が教えてくれた豆のコーヒーはおいしかった。もう二度と彼と話すことが出来ないなんて、なんだか実感が無い。これ以上考えれば参ってしまいそうだ。今日はもう寝るとしよう。

 

 明日は良い日でありますように。

 

 

 

 ×月■日

 ここに来てから順調に友達は増えていった。ここの施設の人々は常に何かにおびえ、生活をしている。それは悲しいことだ、だから少しでも彼らの恐怖を和らげることが出来れば良いのだが……

 

 そうだ、今度皆で一緒に遊ぼう。そうすれば少しはみんなの気も晴れるだろう。そうと決まれば準備をしなくては、友達も一杯集めて皆で楽しもう。

 

 これから忙しくなりそうだ。

 

 

 

 *月□日

 今日から懲戒部門が解放されたが、なんだか施設内が変だ。この施設に来てから結構立つが、それでもこんなことが何度も起こることは無かった。

 

 また職員が消えた、しかも一人や二人では無い。死体も残らずに何人もだ、はっきり言って異常だ。今日入ってきたアブノーマリティーの仕業じゃ無いかって言っている奴もいるが、それなら昨日のあいつは何だっていうのか。

 

 きっとそれ以前に収容された奴のせいに違いない。その中で心当たりのある奴と言えば、あいつしかいない。

 

 しかし、おそらく今の俺の職員レベルでは収容室に入ることすら許されないだろう。

 

 ……あの人に頼むしか無いか。どうか明日こそ、良い日でありますように。

 

 

 

 *月◆日

 今日はとても良い日だった。皆で助け合い、励まし、支え合う。皆で一つのことに向かって取り組むことはどうしてこんなにも輝かしいものなのだろうか?

 

 うらやましい。その輝きが、その美しさが。

 

 きっとそれは、こちらが望んでも手に入らないものなのだろう。こればっかりは仕方がないと思うしか無い。だから、少しばかり拝借させてもらった。

 

 今日も友達が増えた、それにいい人を見つけた。彼ならきっと良い友達になれる。

 

 

 

 *月◇日

 お、おわりだ。どうしてこんなことになったんだ!

 

 なにがいけなかったんだ、どうして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや、こういうときこそ落ち着いて行動するしか無い。せめて、何があったかだけでも誰かに残しておかなければならないだろう。

 

 今日は恐ろしい目に遭った。あれを恐怖と言わずになんと言えば良いのだろうか?

 

 今日の正午頃、他の職員たちと昼食を取っていたときの話だ。

 

 私は一人、彼のことを考えながら食事をしていた。その時、ジョシュアさんがシロさんと一緒に食事をしながら会話をしていたと思う。

 

 正直恋人同士の語らいに割って入るのもどうかと思ったが、こちらも頼むことが出来る相手が他にいない。

 

 意を決してジョシュアさんに話しかけようと思ったその時だ。食堂の電気が一斉に落ちて真っ暗になった。

 

 ここは地下施設だ、電気が落ちれば光なんぞ入ってこない。とりあえず光を確保しようと懐中電灯を取り出してスイッチをつけようとするが、なぜか電気がつかない。

 

 そのことを不審に思っていると、何かに気がついたのかジョシュアさんが大きな声で一カ所に集まるように指示を出したのだ。

 

 訳もわからず皆一カ所に集まるが、彼らの他にもリッチさんやルビー姉さん、メッケンナなんかは何かに気がついたみたいだ。

 

 全員が気をつけていたはずだ、警戒して何かを見つけようとしていたはずだ。

 

 だが、そんな俺たちをあざ笑うかのように、奴は行動を起こしたのだ。

 

 気がつけば、一人一人と誰かが消えて言った。うかつな奴から消えていった、注意散漫な奴から消えていった。

 

 次に誰が消えるかわからない、そのことに誰かがパニックになってしまった。そして、その瞬間にそいつもどこかに消えてしまった。

 

 もはや誰もが、泣き叫びたい状態だっただろう。だが、そうすれば次に消えるのは自分だ。誰もが無理矢理心を奮い立たせて、なんとか正気を保とうとした。

 

 そんなとき、サラさんの近くでジョシュアさんがE.G.O.を振るい、何かに攻撃した。

 

 そこからは、警戒していたエージェントの皆が奴と戦っていた。

 

 戦っている姿は見えるのに、その相手がわからない。その意味のわからない光景を目の当たりにしながら、どうにかして現実であると頭で処理をする。

 

 戦いは苛烈なものであったんだと思う、正直俺には何かがいるような気がするだけで、よくわからなかった。

 

 そして、おそらく決着がついたんだと思う。その時に、俺はそれを覗いてしまったんだ。

 

 あぁ、見てしまった、目が合ったんだ!

 

 アレは目なんかじゃ無い、そのはずなのに、何も無いはずなのに、そもそもなにもないはずなのに……

 

 今も奴がそこの暗闇に隠れている気がする。こんなに明るくしているのに、少しの影でも奴がいるような気がする。

 

 俺は、魅入られてしまった。きっと奴は俺のところにやってくる。どうにかして生き残らなければ、管理人に、ジョシュアさんに相談してみよう。

 

 どうか、どうか明日は良い日であれ。

 

 

 

 *月◎日

 

 そうだ、せっかくだから一緒に遊ぼう。一緒に遊べばきっとこっちに来てくれるよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう逃がさないよ

 

 

 

  月 日

 

 どうやら俺はもう終わりみたいだ。奴についてわかったことは少ない、だか後進のために少しでも情報を残しておく

 

・うかつな奴は絶対に近づいてはいけない

 

・奴の収容室の近くに近づくのもだめだ

 

・奴が脱走して部屋が暗くなれば、そこに奴がいる合図だ

 

・その場所にいたら、近くにいる奴らとお互いを見張り合え、誰も見てなければ次の瞬間には消えている

 

・それと……

 

 

 

 だめだ、もう時間切れみたいだ。うまく頭も働かないし、ここは暗闇に飲まれてしまった。非常用の懐中電灯も意味をなしていない。奴が近づいてくることがわかる

 

 どうせしぬなら、せめてかれのもとへ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやだ、いやだいやだいやだ! たすけてくれ! しにたくないんだ!

 

 こんなところでしにたくない、たすけてくれ!

 

 かんりにん、こういうときのためにあんたがいるんだろう!?

 

 みてるんだろう、たすけてくれよ!

 

 くらい、くらいよ!

 

 じょしゅあさん、あんたはいままでだってなんたいものあぶのーまりてぃーをたおしてきたんだ、だったらこんかいもたおしてくれよ! あんたはいっかいたおしただろう!

 

 なんでこんなめにあわないといけないんだよ! いやだよ、こわいよ!

 

 いやだ、たすけてこわいよ

 

 てが、てがくる! なんでてが!? おかしいよ!

 

 こんなのいやだいやだいやだ、たすけt

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *月★日

 

 みぃつけた

 

 

 

  月 日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            手

 

 

           

 

       

 

           

 

                 

 

     

         

 

              

 

                      tE

 

    

       

                        

 

                            

  

               手

 

                      手

 

                 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Risk Level ALEPH

 

 

 

 

 

 

 T-06-i30 『常夜への誘い』



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T-06-i30 管理情報

 それを見ることは出来ません、それに触れることは出来ません。それを見つければ、それに見られていると言うことです。

 

 それはどこにもいません、しかしどこにでもいます。

 

 それを見つけることの出来る唯一の方法は、犠牲者の手を見つけることです。

 

 

 

『常夜への誘い』

 

危険度クラス ALEPH

 

ダメージタイプ B(7-9)

 

E-BOX数 30

 

作業結果範囲

 

良い ―――

 

普通 21-30

 

悪い 0-20

 

 

 

◇管理情報

 

1、慎重4未満の職員が作業を行うと、闇の中に連れ去られカウンターが減少した。

 

2、洞察作業を行うとカウンターが下がり、その職員はもう二度と帰ってくることは無かった。

 

3、作業を行っていない状態で慎重4未満の職員が『T-06-i30』の収容室の前を通ると、その職員は確率で神隠しに遭った。そして10人目の被害者と共にカウンターが減った。

 

4、LOCK

 

5、LOCK

 

6、LOCK

 

 

 

◇作業結果(作業好感度)

 

本能

LOCK

 

洞察

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

愛着

LOCK

 

抑圧

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

LOCK

 

 

 

◇ギフト

 

LOCK

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 LOCK

 

・防具 LOCK

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 書いてて楽しかった(小並感)

 

 というわけで、なんと2体目のALEPHクラスです。やったね!

 

 というか、いくら何でも早すぎる気がしますね。さすがに一部門に2体は過剰ですよ。

 

 日数的に言えば、二日連続で出してたりするんですよね。まぁ、こんな文章出てきたら選ぶしか無いんですが。

 

 このアブノーマリティーについては、まだ詳しくは話すことは出来ませんが、今回はかなり今までと違った雰囲気で書いてみました。

 

 正直ちゃんとホラー出来てるか不安ですね、そもそも私はホラーが苦手なのです。初めてロボトミーした夜は一人で寝れませんでした。

 

 ちなみに、このアブノーマリティーの番号である06ですが、原作では2体しか出てきていません。分類は『抽象・融合』ですね。かなり特殊なアブノーマリティーとなっております。

 

 そういえば、感想で『ALEPHは何体いますか?』と質問があったのですが、大体ゲームに出てくる数+2体ほどです。諸事情により増やさざるを得なかったんですよね。なので大体7~9体ですね。

 

 せっかくのALEPHなので、できる限り量産では無く一体一体をちゃんと作りたくて頑張って考えました。それぞれの凶悪さや恐ろしさを感じていただけたら嬉しいです。

 

 さてさて、これで収容したALEPHも二体目、いやでびるしゃまいれて3人目か。これからどんなアブノーマリティーが収容されていくのか、楽しみにしていてください。

 

 あっ、だからといって他のクラスのアブノーマリティーたちの手を抜いているわけではありませんよ!

 




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Days-24-2 T-09-i91『色褪せた世界が広がる』

 本当の恐怖というものを、久々に感じたかもしれない。

 

 『T-06-i30』*1への作業は、そう言えるほどの恐ろしさであった。

 

 決して晴れることの無い暗闇の中での作業、そこにいるのにいない何かへの注意、そして常に注意をしなければ何かをしようとしてくるのに、見つけようとすればそれはそれで何かをしようとしてくる。

 

 『T-06-i30』への作業は、それはそれは神経を使う作業であった。

 

「あれ、ジョシュア先輩どうしたんですか?」

 

 ようやく精神汚染中和ガスが効いてきたところで、さらに精神的に疲れる輩がやってきた。俺は絡まれたくないので無視して休憩室から出て行くことにする。

 

「ちょっとひどくないですか!? 何で無視しようとしてるんですか!!」

 

 さっさと撤退しようとしたらパンドラに捕まってしまった。くそっ、こうなったら無視した方が面倒な事になってしまう。

 

「あぁ、ちょっと休んでたんだ。じゃあな!」

 

「なんで逃げようとしてるんですかぁ!!」

 

「……はぁ」

 

「やめてください普通に傷つきますよぉ」

 

 面倒なので露骨にため息をついてしまうと、パンドラはわりかしショックを受けていた。こいつに限ってそんなに繊細なことは無いだろう。

 

「別に逃げようとなんてしてないぞ、ただ次の作業に行こうとしただけだ」

 

「次の作業って何ですか?」

 

「確か次は『T-09-i91』だな」

 

「ならツール型ですよね、私も行きますよ!」

 

 あぁ、どうやってもこいつからは逃げられないのか。もうこうなったら仕方が無い、あきらめて一緒に向かうことにしよう。はぁ……

 

「面倒事は起こすなよ」

 

「えっ、そんな事したこと無いですよ?」

 

「……もう何も言わないよ」

 

 ガックリと肩を落としながら『T-09-i91』の収容室へと向かう。隣ではパンドラが鼻歌を歌っているがこちらにはそんなげんきはない。

 

 

 

「さあさあ、今回はどんな奴が来ますかね!」

 

「変なのじゃ無ければ何でも良いよ」

 

 ようやく『T-09-i91』の収容室の前にたどり着き、いつものように雑に扉を開こうとすると、我先にとパンドラが扉を開けてしまった。もう突っ込む気力も無いが、とりあえずパンドラと一緒に収容室の中に入る。

 

 収容室の中にあったのは、七色の液体が入った瓶だった。ただ、七色の液体とは言っても、それは美しい色では無かった。黒、灰色、茶色、赤褐色、玄、鈍色、白、おおよそ綺麗とは言えないような色ばかりが入り交じり、決して混じること無くマーブル模様を描いている。

 

 正直これの用途はある程度わかる、だがそれをする勇気は俺には無い。そんな事を考えていると、パンドラは躊躇せずにそれを手にとって飲み干した。

 

「ぶえぇ、まっずぃ」

 

「……なんというか、お前のそういうところが結構うらやましいよ」

 

 瓶の中の液体を全て飲み干したパンドラは、すごくまずそうな顔をしていた。いや、そもそもその色でおいしいわけが無いだろう。

 

「おいおい、大丈夫か? 爆発しないか?」

 

「なんか前も言ってましたけど、そんなに爆発して欲しいですか?」

 

「いや、こういう系では真っ先に警戒すべきだぞ?」

 

「そんなの嫌すぎるんですけど!?」

 

 なぜか驚くパンドラは放っておく、お前は樹液の恐怖を知らないからな。

 

「それで、何か変わったところはあるか?」

 

「そんな、可愛い後輩が爆発するかもしれないですよ?」

 

「いいから、早く」

 

「うぅ、先輩が冷たい……」

 

 なんか小芝居を始めたので釘を刺すと、パンドラは少し考え始めた。すると、何かを思いついたように口を開いた。

 

「よくわからないのでもう一回飲みますね!」

 

「いや、どんな思考回路をしてるんだよ」

 

 俺の話なんて聞く耳も持たず、いつの間にか補充されていた『T-09-i91』をもう一度飲み干した。こいつってなんか思い切りが良いよな。

 

「ぷはぁ、まずい!」

 

「それで、本当に大丈夫か?」

 

「はい、ってジョシュア先輩ちょっと顔色悪いですか?」

 

「もしも悪いならお前のせいだ」

 

「いや、そうじゃなくて本当に…… あれ? もしかして色が……」

 

 なにやらパンドラの様子がおかしい、もしかしたら色が少し抜けてきているのかもしれない。少しまずいかもしれないな。

 

「どうした、目がおかしいか?」

 

「おかしいと言いますか、なんか少し色褪せて見えるようになってます。でもその代わりにちょっと周りがよく見えるような気がします」

 

「ううむ、念のため『T-09-i97』*2を利用しておけ。変なことが起こっても困るからな」

 

 飲み過ぎれば効果が発動するか、しばらくしてから効果が発動か、それともダメージか。どれかはよくわからんが、少なくても体に影響が出ているのなら早めに対処はするべきだろう。パンドラの話的に一回くらいなら大丈夫かもしれない。

 

「でもまだ大丈夫そうですけどね、ジョシュア先輩も早くのんでくださいよ」

 

「いや、今の話を聞いて飲もうとは思えないんだけど……」

 

 飲ませようと瓶を押しつけてくるパンドラに文句を言うと、何を思ったのかもう一度瓶を飲み干した。完全に予想外の行動だったので、その光景を呆然と見ているしか無かった。

 

「いやいやいや、何を考えているんだよ! 明らかにやばそうだっただろ、ってなんか俺から見てもおかしな事になっているんだけど!?」

 

「いやぁ、なんかまだ大丈夫そうですね。私が実験台になったんですから、ジョシュア先輩も一緒にしましょうよ」

 

 パンドラはあっけらかんと言っているが、彼女の持つE.G.O.は黒いオーラを纏っていた。美しい白色の信仰が見るも無惨な状態だ。そんな状態だというのに、パンドラは意にも介せず話を続ける。

 

「なんか色以外に異常は見つからないですね、E.G.O.がちょっと変な感じですけどね」

 

「いやいや、ちょっとどころじゃ無いんだが」

 

「そこまで言うなら今日私が一日何も無ければ大丈夫って事ですよね」

 

「なんでそんなに頑固なんだよ、そんな事でお前を失いたくは無いんだが」

 

 さすがにあきれて苦言を漏らすと、意外にもパンドラは驚いたような顔をしていた。そして嬉しそうにしながらモジモジしている。

 

「そ、そこまで言うなら『T-09-i97』を使ってきますね。なるべく無茶はしないようにしますね」

 

「お、おう、そうか、わかってくれたなら良いんだが」

 

 唐突に聞き分けの良くなったパンドラに戸惑うが、俺を置いてパンドラは『T-09-i97』の収容室に向かって走って行った。こいつは本当に行動が早いな。

 

「……俺も飲んでみるか」

 

 仕方が無いので一口くらいは飲んでみることにする。

 

 味についてはノーコメントでお願いしたい。

 

 

 

 このままではどうしようもない

 

 奴に勝つために、少しでも出来る事をしなければならない

 

 藁にも縋る思いで『T-09-i91』を飲み干す

 

 二度、三度と飲み干す毎に世界は移り変わり……

 

 

 

 

 そして、色褪せた世界が広がる

 

 

 

 

 

T-09-i91 『七色の瓶』

 

*1
『常夜への誘い』

*2
『極楽への湯』



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T-09-i91 管理情報

 『T-09-i91』は七色の液体の入った瓶です。液体は黒、灰色、茶色、赤褐色、玄、鈍色、白色が混ざらずにマーブル模様を形成しています。

 

 『T-09-i91』の味は、飲んだ職員に聞いても皆口をつぐむレベルです。察してください。ついでに臭いも結構きついです。

 

 『T-09-i91』を飲み過ぎると、どんどんと体が黒色に変色していきます。飲み過ぎにご注意ください。

 

 『T-09-i91』を絵の具として使用しないでください。本来の用途とは違う使い方をして、意外な才能を見せつけないでください。

 

 

 

『七色の瓶』

 

危険度クラス TETH

 

単発使用型

 

 

 

管理方法(情報解放使用回数)

 

1(1)

 『T-09-i91』を使用すると、その職員の慎重が上昇した。

 

2(3)

 『T-09-i91』を使用する度に、その職員の慎重が上昇した。

 

3(5)

 『T-09-i91』を三回使用した職員は、ダメージタイプがBダメージとなった。

 

4(10)

 『T-09-i91』を五回使用、または使用した職員がパニックになった場合、その職員は黒く塗りつぶされ他の職員に攻撃した。

 

 

 

 余談(読み飛ばし可)

 

 今回は珍しい有能枠のツールですね。こういう存在は非常に貴重ですので存分に活用しましょう。

 

 『T-09-i91』は二回までならほぼノーリスクで使用できます。Bダメージの武器ならば4回までなら大丈夫です。

 

 一回の上昇値は慎重+5なので、2回で+10、4回で+20ですね。これがほぼノーコストなので文句なしですね。

 

 パニックの代償ですが、後半になると逆にパニックのほうが大変だったりするので、むしろ攻撃してくれる方が気が楽ですね。シャットダウンや徘徊型のような施設を崩壊させてくるパニック症状より遙かにましです。

 

 ついでに、どうしても倒したい相手に有効な属性のE.G.O.が無かったときに利用するのも良いかもしれませんね。なにげに武器の属性を変更できるのって貴重だと思います。ゲームでやったらバグがえげつないことになりそうですけどね。

 

 それ以外に特にデメリットも無いので、本当に有情な存在ですね。

 

 ただ、調子に乗って使いすぎて、クリフォト暴走がついてダメージタイプが変更される事があるかもしれませんね。

 

 さて、これで中層のアブノーマリティーももう半分ですね。すでに地獄のような存在がいますが、これからもっと面白いことになります。これからどんなアブノーマリティーが出てくるのか、楽しみにしていてください。

 




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職員たちの平穏なひととき『友人』

「それじゃあ失礼するよ、今日も有意義な時間だった」

 

「おう、それじゃあまたな」

 

 朝食をとるために食堂へ向かうと、ちょうどオフィサーの男が出てくるところだった。

 

 ジョシュアは最近、その男とよくこの時間に密談をしている。彼が何者なのか、お前はなぜ俺たちに彼のことを秘密にしているのか、聞きたいことはある。だが、それを聞いても俺には話してはくれないだろう。

 

 ジョシュアは謎の多い人物だ。俺たちの知らない知識を有し、積極的にアブノーマリティーに関わっている。常人では一度でも精神的にクる作業でも、彼は情報を得るために何度でも挑戦していった。

 

 彼は、俺たちにとって希望であった。俺の親友であり、他の職員たちからの信頼も厚い、中には彼に救われた奴も多い。しかし、彼は俺たちに何かを隠しているのだ。明らかに知り得ない知識を惜しげも無く披露するのに、その出所は伝えない。

 

 それでも、俺たちが彼のことを憎めないのは、彼の人格のおかげなのだろう。正直貧乏くじばかり引かされているところも好感が持てるところなのかもしれないけどな。

 

「おいリッチ、何してんだよ。こっち来いよ」

 

「あぁ、今行く」

 

 考え事をしていて立ち止まっている俺を見かねて、ジョシュアが手招きをしてくる。俺はその言葉に甘えて彼の前の席に座った。

 

「どうしたんだ、悩み事か?」

 

「いや、そういうわけでは無い」

 

「じゃあどうしたんだ?」

 

「お前の寝癖が特徴的だと思ってな」

 

「げっ、マジかよ!」

 

 適当な良いわけを信じて、ジョシュアは必死に髪型を整えようとしている。鏡もなしに、そんな事出来るわけも無いのに。

 

 しばらくの間ジョシュアの無駄なあがきを見ていると、続々と職員たちが食堂に集まってくる。この時間帯は業務開始まで時間を潰す奴が多い、だから早めに来ないと席が埋まってしまう。だが考えることは皆同じなせいで、結局席の奪い合いになるのだ。

 

 故に早起きして他の職員たちと会話を楽しむものと、時間ぎりぎりまでベッドで癒やしをむさぼる奴の大体二種類に分かれることとなる。俺の知り合いは基本前者だが、パンドラなんかは後者だな。

 

 人々が来ると皆ジョシュアに挨拶をする。もちろん一緒にいる俺にも挨拶はしてくれるが、大体はおまけ扱いだ。

 

 最初はオフィサーたちに畏れられていたというのに、気がつけば彼らに信頼されている。ジョシュアという存在は、本当に不思議な奴だ。

 

 

 

 ……まぁ、たまに馬鹿と一緒にやらかしたりするし、欠点が無いわけでは無いがな。それは俺にも言えることだが。

 

 ちなみに一部の女性の間では評判が良くなかったりする。理由はよくわからんが。

 

「そういえばこの前によ」

 

 適当な世間話をBGMに、何気なく周囲を見渡す。これからここにいる人物たちの何人が消えていき、どれだけ残るのだろうか。もしかしたら結構な数が残るかもしれないし、全滅するかもしれない。

 

 その中でも一番消えそうなのは、やはり目の前にいる男だ。彼は常に先陣を切って行動する、それはいつか致命的な何かを起こしそうだ。

 

「おいおい、本当に大丈夫か?」

 

「……大丈夫だ、少し考え事をしていただけだ」

 

「なら良いけど、あんまり無理するなよ」

 

 本当にこいつは優しいというか、心配性だ。こいつが優しくないのなんて、パンドラくらいだ。その辺の羽虫にだってもう少し気を遣っている。

 

 さて、そんな彼に心配されるくらい考え込んでいたらしい。そろそろ仕事に向かうとするか。

 

「もちろんだ、それじゃあまた後でな」

 

「おう、今日もしっかり生き残ろうぜ」

 

「……あぁ」

 

 

 

 食堂を出て職場に向かうと、目の前から嫌な存在が歩いてきた。

 

 コントロール部門のセフィラ、マルクトだ。奴は表面上はまともに見えても、俺たちのことをゴミを見るかのような目で見てくることがある。たとえからだが箱だとしても、感情というものは案外態度に出るものだ。彼女は何かを探していたようだが、結局帰ろうとしていた。そこで俺を見つけて、駆け寄ってきた。いきなり面倒事だな。

 

「すいません、管理人を見ませんでしたか?」

 

「いや、そもそもこんなところに管理人が来るのか?」

 

「そ、それもそうですよね。何を言っているんだろう私、それじゃあ失礼します」

 

 何というか、彼女は本当に嘘が下手だ。それでもAIなのだろうか?

 

 結局彼女は逃げるようにどこかへいってしまった。さて、気持ちを切り替えて今日の作業をしに行こう。

 

 

 

 

 

 その後、イェソドに捕まって強制服装チェックを受けてテンションが最低まで落ちてしまい、その後の作業はうまくいかなかった。



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Days-25-1 黄金の夕暮『結束』

再び集い 力を合わせる

この先に道は拓かれた


「全く、なんで俺がお前と一緒に作業なんてしないといけないんだよ」

 

「そう言うなよ、そういう実験なんだから」

 

 今日はマオと一緒に実験を行うことになった。とはいえ簡単なもので、『F-01-i05』*1にどんな刺激を与えたら脱走するのかというものだ。俺が作業して、マオが記録する。脱走したら二人がかりで殴り殺す、それだけの作業だ。実験としては優しい(易しい?)方である。

 

「けっ、ヘマするんじゃねぇぞ」

 

「そんな事をするかよ」

 

「どうだか」

 

 

 

 もちろんこんなことでヘマをすることも無く、安全に『F-01-i05』の鎮圧を終えることが出来た。マオは口と態度は悪いが、実力はある。このまま行けば結構な戦力になると期待している。なぜか目の敵にされているが、それさえ無ければもっと仲良くはしたいところである。

 

「まったく、もっと骨のある奴はいねぇのか?」

 

「いやいや、そんな奴がいても困るだろう」

 

「そんなわけあるか、もっと強くなればその分生き残る可能性が増えるってもんだ」

 

「まぁ、それも一理あるか」

 

 実験が終わり少し時間が出来たので、なんとなくマオと世間話をする流れになった。何というか、彼は俺を毛嫌いしているようでも、意外と話は聞いてくれるのだ。よくわからん奴だ。

 

『中央第二の廊下にて、試練が発生しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

「おっ、早速骨のある奴がきたんじゃないか?」

 

「うるせぇ、耳障りなんだよ」

 

「相変わらず辛辣だな」

 

 互いに話しながらも慣れた手つきで準備をしている。そしてE.G.O.の準備が終わればすぐに試練の発生した場所へと向かう。ここからだと結構遠いから、急がなければいけない。

 

「くそっ、面倒だな」

 

「他の奴らと合流してから向かっても良いけどな」

 

「誰がそんな事するかよ、俺一人で十分だ」

 

「どっからそんな自信がわいてくるんだよ」

 

 自信満々の発言に思わず苦笑いしてしまうが、そんな事お構いなしに進んでいく。そして長かった道のりを終えて、俺たちはようやく奴と対峙するのであった。

 

 

 

「でっけぇなぁ」

 

「はっ、こいつは殴りがいがありそうだ」

 

 大きな血だまりの中心に、そいつはいた。大きな体に2本と4本の不揃いの腕、手には剣、槍、銃、盾を持って俺たちに突きつけてくる。そしてその顔は、体に比べて随分と小さい、よく見ればその顔は黄金の黎明のものとよく似ていた。

 

 奴の周辺にはいくつもの死体が一ヶ所に集められていた。それは殺してから集めたというよりは、一ヶ所に集めてから殺したように見える。わざわざ酷いことをする。

 

「来るぞ、死ぬなよ」

 

「誰が死んでやるかよ」

 

 黄金の夕暮はこちらに向かって銃を撃ちながら前進してきた。俺は墓標で弾き、マオはよけながら相手の懐に入った。

 

「オラァ!」

 

 そのままアッパースイングをするが、盾に阻まれてしまう。だが、注意がそれたおかげで俺も接近することが出来た。俺が墓標で黄金の夕暮を切り裂こうとすると、奴は手に持った槍と剣で攻撃をはじき出した。そして銃を突きつけて発砲した。

 

「くっ」

 

 間一髪避けたが、槍による追撃が来る。バランスが崩れ、せめて傷が浅くなるように身をよじると、マオが横からカニヅメで殴って攻撃をそらしてくれた。

 

「気をつけろ!」

 

「すまん、助かった!」

 

 体勢を立て直して、黄金の夕暮と睨み合う。奴は盾を構えながら発砲し、こちらに突撃してきた。

 

「やっかいだな!」

 

 銃弾を弾きながら突進を避ける。すれ違いざまに横腹に一発お見舞いしてやると、奴は苦しそうな声を上げてこちらを睨んできた。

 

「おいおい、随分余裕だなぁ!!」

 

 そして意識が俺に向いている内に、マオががら空きの腹部に強烈な一撃をお見舞いする。これで均衡が一気に崩れた。

 

 二人で連携しながら黄金の夕暮に攻撃を加える。墓標で突き、カニヅメで殴り、剣や槍での攻撃を弾き、盾の防御は片方が引きつけもう片方でがら空きの体に一撃をお見舞いする。

 

 攻撃をしている内に、黄金の夕暮は随分とボロボロになっていた。息も絶え絶えで腕もいくつか折れている、それでも闘志は消えず俺たちを睨んで立ち上がる。だが、さすがにそろそろ限界だろう。

 

「マオ、一気に決めるぞ」

 

「指図するんじゃねぇよ」

 

 合図と共に一斉にたたみかける。黄金の夕暮は盾を構えて攻撃を防ごうとするが、そんな弱々しい構えで俺たちの攻撃を防げるわけも無く、すぐに弾かれてしまう。そして攻撃を受ける毎にその巨体を揺らして、まともに体を動かせる事もかなわず、ついに俺の墓標が奴の胸の中心に突き刺さる。

 

「ウア、アァ……」

 

 最後に、黄金の夕暮は涙を流した。その涙がどんな理由かはわからない、だがその理由を知ることは無いだろう。

 

「ようやく終わったな」

 

「俺一人ならもっと早く終わってたよ」

 

「そうつんつんするなよ、なんか飯おごってやるから」

 

「誰がつんつんなんてするかよ! だが飯はもらうけどな」

 

 戦いも終わり、廊下から引き上げる。今日は少し早めの夕食にするとしよう。

 

 そして俺は、文句を言いながらもついてくるマオと共に食堂に向かうのであった。

 

*1
『彷徨い逝く桃』




悲しみを踏み締め 最後まで歩んでいく


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Days-25-2 青空の夕暮『身を焼く蝋羽』

朝目が覚めてランキングを確認すると、なんとこの小説が十位にランクインしてました!
更に評価が真っ赤になっていて驚きました!
ここまでこれるなんて感無量です!
これからも皆さんのご期待に答えられるように頑張っていきます!










風を身に纏い 空は我らの支配下となった

このどこまでも続いていく世界を ただ進んでいく


 今日もやっかいな作業を何度もこなして、ようやく作業も一段落してきた。最近はやっかいなやつしか収容されないから本当に困る。未知のアブノーマリティーへの作業だけでも負担が大きいのに、ある程度情報が判明した相手であっても油断なんて出来ない。そんな感じで心も体もボロボロなので、とりあえず体を休めるため休憩室で休んでいると、誰かが休憩室の中に入ってきた。

 

「あらぁ、ジョシュア先輩じゃ無いですかぁ」

 

「ジョシュア先輩、お疲れ様です」

 

「よう、二人ともお疲れ」

 

 休憩室に入ってきたのはサラとメッケンナだった。二人は俺に気付くと、手を振って挨拶をしてくれた。俺は笑顔で挨拶を返すと、二人は俺の前方の空いている席に着いた。

 

「サラ、お前またギフトが増えたんじゃ無いか?」

 

「えぇ、今度はぁ、『T-05-i22』*1のギフトですよぉ。この前ジョシュア先輩のアドバイスでぇ、随分とぉ成長した上にぃ、ギフトまでいただけたんですよぉ」

 

「そうか、だけど自分を見失うなよ? 結局は他人が自分の中に入ってくるようなものなんだからな」

 

「わかってますよぉ、でも私を簡単に乗っ取れると思ったらぁ、大間違いですよぉ」

 

 そう自信満々に発言すると、彼女はいとおしそうに胸の十字架、信仰をなでた。本当にあいつは性癖レベルだなぁ。

 

「まぁ、サラは随分とギフトにご執心ですからね」

 

「そういうお前も、ギフトをもらっているじゃ無いか」

 

「いやいや、サラと一緒にしないでください」

 

 そういうメッケンナにも、『T-01-i21』*2のギフトがついている。彼も最近随分と成長しており、これからの活躍に期待できる。というか、すでに戦力として数えられている。サラはもう少し頑張ろうという感じであったが、『T-05-i22』の作業を何度もこなしたおかげか、以前よりも随分と頼もしくなった。

 

「そういうジョシュアさんが一番ギフトが多いですけどね」

 

「やめてくれ、アブノーマリティーにモテたって仕方が無いからな」

 

「そうはいってもぉ、私もうらやましいですぅ」

 

「お前に羨ましがられても嬉しくは無いな」

 

「ひどくないですかぁ?」

 

 そう言いながら、サラは机に突っ伏した。こいつは性癖さえまともなら可愛いんだけどな。そんな事を考えていると、メッケンナも同じ事を考えていたのか目が合い、うなずき合った。

 

『中央第2にて試練が発生しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

「はぁ、休憩くらいゆっくりさせて欲しいな」

 

「そんなこと言ったら、僕たちなんてろくに休憩してないですよ」

 

「そうですよぉ、私たちだってもっと休みたかったんですからねぇ」

 

 口々に文句を言いながらも、E.G.O.の準備をしていく。夕暮の試練だ、気をつけて戦わなければならない。

 

「ほら、さっさと行くぞ」

 

「了解しました」

 

「それじゃあ、行きますかぁ」

 

 急いで夕暮の現れた場所へ向かう。夕暮の現れた場所に近づくと、どんどん悲鳴が聞こえてくる。

 

「これは急いだほうが良さそうだな」

 

 その俺の嫌な予感は不幸にも的中してしまう。俺たちは夕暮の待つ廊下に続く扉を開くと、無残な光景が広がっていた。

 

 

 

「おいおい、これはまずいぞ!」

 

「速く逃げましょう!」

 

 俺たちの目の前には、氷で出来たプロペラ機がゆっくりと飛んできていた。機体の先頭と両翼に一つずつの計3つのプロペラが高速で回転している。しかし、そのプロペラは不相応に大きい。その羽は廊下の床を傷つけながら、前へ前へと進んでいく。

 

「あっ、あっ、いやぁぁぁぁ!」

 

 そして今、逃げ遅れたオフィサーの女性が髪を巻き込まれ、そのまま吸い込まれるように高速で回転するプロペラの中へと飛び込んでいった。

 

 肉は一瞬で細切れとなり、さっきまで人間だったとは思えないようなミンチへと早変わりだ。前方からゆっくりと進んでくる青空の夕暮は、こちらを逃がさないと言わんばかりにプロペラの刃で通路を阻みながら襲いかかる。

 

「くそっ、メッケンナ、逃げるぞ! サラは遠距離から攻撃して危なくなったら逃げろ、決して無理をするな!」

 

「わ、わかったわぁ!」

 

 サラはそう言いながら信仰でねらいを定めて攻撃をする。しかしあまりダメージが通っているような気配は無い、直接攻撃していった方が良さそうだ。

 

「作戦変更だ、サラも一緒に逃げるぞ! 一緒に逃げて待機だ!」

 

「了解よぉ!」

 

 本当なら裏から回り込みたいが、懲戒部門の開いていない今では建物の構造上裏に回り込むことが出来ない。仕方が無く、奴が進んでくる先で待ち構えることにした。

 

「メッケンナ、攻撃範囲ぎりぎりから少しずつダメージを与えていくぞ」

 

「はい!」

 

 緊張しながら青空の夕暮を待っているが、動きが遅いからかなかなかこちらにやってこない。不思議に思っていると、管理人から連絡が来た。

 

『まずい、青空の夕暮がワープした! それにワープする直前に青空の白昼が降りてきて行動を開始した、急いで鎮圧してくれ』

 

「まじかよ、くそっ! 了解した、すぐに片付ける!」

 

 管理人からの情報は最悪のものだった。つまり奴は琥珀の夕暮と同じ効果を持っている、あのとき逃げたのは正解だったようだ。

 

 俺たちが移動しようとすると、ぞろぞろとさっきまでいた廊下から青空の白昼が入り込んできた。両手の鋭い羽根の刃をかちかち鳴らし、こちらに目を向けてくる。正直こいつらより青空の夕暮を倒した方が手っ取り早いが、この施設には俺たち以外にもエージェントはいる。このまま被害が増える前にこっちを片付けて、向こうは向こうで任せよう。

 

「さっさと片付けるぞ!」

 

「「はい!!」」

 

 勢いよくこちらに襲いかかってきた一番先頭の白昼の胸を墓標で突き刺し、壁に叩きつける。腐ってもALEPHクラスのE.G.O.だ。白昼くらいは造作も無い。そのまま続けて後ろの白昼に攻撃を加える。サラが後ろから信仰で援護をし、メッケンナが鬼退治で白昼たちを切り捨てていく。メッケンナも大分戦闘経験を積んできたおかげか、随分と強くなった。そして青空の白昼を殲滅させると、再び管理人から通信が入る。

 

『再び青空の夕暮が移動した、今度は中央第1の廊下だ。入り口から奥へと向かっているため、そちらから背後をとれる。先ほどまで頑張ってくれていたリッチとシロ、ジェイコブたちは青空の白昼の対処をしている。急いで鎮圧に向かってくれ!』

 

「了解した! サラ、メッケンナ、急ぐぞ!」

 

「わかったわぁ」

 

「任せてください!」

 

 急いで二人を連れて目的の場所へと向かう。指定された場所はここから遠くない、急げば間に合うはずだ。

 

 

 

「いたぞ、サラ、援護してくれ! メッケンナ、たたみかけるぞ!」

 

 中央第1の廊下につくと、青空の夕暮が俺たちに背を向けて移動している最中であった。どうやら向こう側にオフィサーたちが何人か取り残されているようで、悲痛の叫びが聞こえてくる。彼らのためにも急いでこいつらを倒さなければ。

 

「食らえっ!」

 

 移動もゆっくりであり、後ろから攻撃すれば前方のプロペラにも当たらない。そうなればこの青空の夕暮はただの動く的だ。前方からなら脅威だが、後ろからならこれほど戦いやすい相手もいない。

 

 それに、よく見れば車体が随分と傷ついている。これもさっきまで戦っていたリッチたちのおかげだろう。このまま傷をえぐるように攻撃していき、傷を広げていく。

 

「くそっ、堅いな!」

 

「まずいです、このままだとまた端に到達します!」

 

 遂に時間もなくなってきた。このままだと向こう側のオフィサーたちがみんなやられてしまう。それまでに決着をつけなければ。

 

 幸いこいつも限界が近そうだ。絶対に間に合わせる!

 

「よし!」

 

「やった!」

 

 そして、ようやく青空の夕暮の翼が折れ、奴は地面に突っ伏した。前方を確認すると、オフィサーたちが涙を流しながら喜びあっていた。

 

「なんとか間に合ったな」

 

「よかったですね」

 

「もうダメかと思ったわぁ」

 

 ギリギリオフィサーたちを守ることができた、その安堵感から座り込んでしまう。

 

 俺たちはそんなお互いを見て、笑い合うのだった。

 

*1
『慈愛の形』

*2
『インディーネ』




太陽に近付けば近付く程 羽は溶けだし 地に落ちた


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EX-Story-5 『絶望の唄が聞こえる』

 おそらく『O-01-i33』の仕業だと思われる、枯れた人間との戦闘。なんとか無傷で乗り切るも、危機は去っていなかった。

 

 『O-01-i33』、枯れきった人型の怪物。そいつが右手をこちらに向けると同時に、この施設全体に突風が吹き荒れた。

 

「くっ!」

 

 風に煽られてうまく体勢を保つことが出来ない。しかし、そんな事はお構いなしと言わんばかりに『O-01-i33』はさらにこちらに手を向けた。

 

「まずい、逃げろ!」

 

 嫌な予感を感じ、右によける。するとさっきまで俺が立っていたところに一迅の風が吹き、その進路上にあったものを全て切り裂いていった。

 

「くそっ、風が強すぎてまともに動けねぇ!」

 

「焦るな、落ち着いて行動しろ!」

 

 全身に纏わり付くような風をふりほどこうにも、結局は無駄な抵抗で終わる。うまく動かない体を無理矢理動かし、必死に『O-01-i33』に近づく。

 

「こんなに近いのに、あまりにも遠い!」

 

「一体どうなっているんだ!?」

 

 『O-01-i33』からの攻撃をなんとかかわしつつ、ようやく懐に潜り込む。幸い『O-01-i33』は動きが遅く、こんな状態でもなんとか攻撃をかわすことは出来た。

 

「ぐっ、堅い!」

 

「くそっ、どういうことだ!?」

 

 墓標で攻撃すると、あまりの堅さに手がしびれてしまう。さらに、リッチの鬼退治での攻撃は弾かれてしまった。これは堅すぎてと言うよりも、そもそも攻撃が効いていないようにも見えた。

 

「まずいぞジョシュア、俺の攻撃が全然効いていない。全く手応え無く弾かれてしまった」

 

「俺のほうは、手応え自体はあったぞ。まさかこいつ……」

 

「まずい、離れろ!」

 

 会話している暇も無く、『O-01-i33』の周りに風が集まる。危険を察知した俺たちは『O-01-i33』から距離を取って様子をうかがう。

 

 しばらくすると、『O-01-i33』の周辺に風の斬撃が発生し、周囲のものを切り刻んだ。あのままあそこに居座っていたら、俺たちがああなっていただろうな。

 

「くそっ、一体どうしたら…… うおっ!?」

 

 再び風の斬撃が飛んでくる、俺は間一髪それをよけて、なんとか体勢を立て直す。すると、少し離れたところにいるリッチが俺に声をかけてきた。

 

「このままだとまずいな…… ジョシュア、少しこらえきれるか?」

 

「少しだけなら一人でも大丈夫だ、なるべく早く助けて欲しいけどな」

 

「それなら少し待っていろ、すぐにどうにかしてくる!」

 

 そう言ってリッチは廊下から離脱した。何か策があるらしい、どのみちこのままではじり貧になっていた、彼に委ねるとしよう。

 

「さて、それじゃあ一緒に踊ろうじゃ無いか」

 

 俺の独り言に答えるように、『O-01-i33』が手をこちらに向ける。飛んでくる風の斬撃を全てよけながら、もう一度接近し墓標を突き立てる。

 

「ぐっ」

 

 堅いとは言っても、なにも効いていないというわけでは無い。少しずつであるが、墓標の死の力が『O-01-i33』をむしばんでいるようにも見える。『O-01-i33』の攻撃をよけながら攻撃し、少しずつ傷が増えていく。それだというのに、『O-01-i33』は声を発するどころか、身じろぎ1つしない。こいつが本当に生きているのかもわからない。……いや、こいつもアブノーマリティーだ、元から死んでいるのかもしれない。

 

 なんとか動かない体にも慣れてきて、攻撃から逃げることがうまくなってきた。しかし、いつまでも風を飛ばしたり、纏っていたりした『O-01-i33』の雰囲気が突然変わった。そして、『O-01-i33』は手のひらに風を集め出し、こちらに向けた。そこに込められている力は今までの比では無く、強い感情のようなものが込められていた。

 

「嘘だろ!」

 

「r^@w9bp」

 

 必死になって距離を取る、しかしそんな事は関係無いとばかりに『O-01-i33』がそれを地面にたたきつける。すると俺の体が浮き上がり、そのまま壁にたたきつけられた。

 

「くはっ!?」

 

 今までとは比べものにならない、あまりにも強力な一撃。肉体的なダメージは一切無いのに、一瞬で意識を持っていかれそうになった。

 

 さらに、心なしかさっきよりも『O-01-i33』の動きが速くなっているような気がする。まるで、さっきまでは遊びだとでも言うかのように。

 

「くそっ、ふざけるなよ!」

 

 なんとか気合いで立ち上がり、再び『O-01-i33』に対峙する。『O-01-i33』はこちらに手を向けると、もう一度こちらに対して攻撃を仕掛けてくる。

 

「やられてたまるかよ!」

 

 なんとか重い体を動かして逃げようとする。しかし、こんな時に限って体がよろけてしまう。

 

 まずい、そう思ったがもう遅かった。思わず『O-01-i33』のほうを見ると、もう攻撃が飛んできそうになっていた。そこで来るであろう一撃を考え、目をつぶってしまう。

 

 

 

 ……だが、いつまでたってもその一撃が来ることは無かった。

 

「すまんジョシュア、遅れてしまった!」

 

「あら、私たちもいるわよん」

 

 『O-01-i33』は砲撃によって攻撃を中止していた。そしてこの廊下にリッチ、ルビー、メッケンナ、マオ、ついでにパンドラがやってきた。さらに、リッチとメッケンナの持つE.G.O.鬼退治と、パンドラのE.G.O.信仰からは黒いオーラが漏れている。おそらく『T-09-i91』*1を使用して属性を変更したのだろう。これならいけるかもしれない、なんとか立ち上がって皆に声をかける。これで負けるわけにはいかない。

 

「助かった! このまま前衛は張り付いて、後衛はいつでも逃げられるように出口付近から撃て!」

 

「了解した!」

 

「わかったわ!」

 

 前衛で『O-01-i33』に攻撃していき、後衛が支援していく。Bダメージはあまり効いているようには見えないが、先ほどよりかはましそうだ。

 

 なるべく俺にターゲットが向かうように位置を調整し戦っていく。ついでに、背後に後衛の二人が来ないように考えながら戦う。体に纏わり付くようなうっとうしい風が気になるが、人数が増えたことで先ほどよりも随分戦いやすい。

 

「くっ、まずい」

 

「なにやってんだてめぇは!」

 

 攻撃が当たりそうになったが、マオが『O-01-i33』の腕をカニヅメで殴って攻撃をそらしてくれた。後衛のふたりが狙われそうになれば、一斉に攻撃に入って攻撃を中断させる。俺たちは攻撃に集中して、怪しい動きがあれば後衛が忠告してなるべく早く動けるようにする。

 

 全員が動きが鈍っているというのに、今まで以上に連携しているおかげでこいつにだって負けそうに無い。だが、少し手数が足りないように感じる。このままじり貧にならなければ良いのだが……

 

 

 

 

 

 このままではだめだ、そう頭の中ではわかっているのにあと一歩が踏み出せない

 

 今向こうでは皆が命をかけて『O-01-i33』の鎮圧に向かっている

 

 だというのに、ボクがこんなところで立ち止まっていて良いのだろうか?

 

 『T-09-i91』を手に持って立ち尽くす

 

 ボクの特異性はきっと、これを飲めば消えて無くなってしまう

 

 元からこの施設に来た時点で、完全では無くなってしまった

 

 だが、それでも高い精神汚染への耐性があった

 

 それも、ここに来てからというもの、随分と弱まってきてしまっていた

 

 理由はわかる、彼と一緒に過ごしてきたからだ

 

 今まで自分の殻に閉じこもっていれば良かった

 

 だから、外からの干渉をはねのけることが出来た

 

 だけど、彼と出会って、お話を聞いて、一緒にご飯を食べて

 

 そうしていく内に、ボクのアイデンティティーが失われていった

 

 このままだとボクが私で無くなってしまう、それが怖かった

 

 そして、これを飲んでしまえば、きっとボクの力は完全に無くなってしまうだろう

 

 白い私は黒く染まって、広い世界へ放り投げられてしまう

 

 それでいいのか、自分に問い直す

 

 すると、彼との思い出が溢れてくる

 

 一緒に笑い合い、彼が誰かといると不思議な気持ちになり、彼を見てると温かな気持ちになる

 

 自分がどうなっても良いのだろうか

 

 

 

 それでも、私は彼を助けたい。

 

 彼と一緒に笑っていた。

 

 彼が大変なのに、何もしないなんて耐えられない。

 

 ボクの気持ちが溢れてきて、止まらなくなる。

 

 そうか、ボクは今まで、自分の気持ちにすら蓋をしていたんだね。

 

 自分の気持ちがわかれば、もう躊躇なんてしなかった。

 

 ボクは思い切って『T-09-i91』の蓋を開いて、それを一気に飲み干した。

 

 

 

 

 

「風が集まってるわよ!」

 

「了解!」

 

 殴りかかっていた全員で一斉に距離を取る。そして『O-01-i33』の纏う風による攻撃が終われば、もう一度攻撃するために接近する。

 

「くそっ、なんて動きづらいんだよ!」

 

「そうはいっても仕方が無いだろうが! このまま殴るしか無い!」

 

「うるせぇ、そんな事はわかってんだよ!」

 

 マオのかんしゃくに付き合いながら『O-01-i33』へと攻撃をしていく。大分攻撃を加えてきたが、それでもまだまだ元気なようだ。リッチもメッケンナも必死になって攻撃をしているが、なかなかにきつい。

 

「きゃあ、こっちに飛んできたわよ!」

 

「すまない!」

 

「ジョシュア先輩、まずいですよ!」

 

「なっ!?」

 

 集中力が途切れてきたせいか、後衛のほうへ攻撃が飛んで行き動揺してしまった。そして、その隙を『O-01-i33』は逃さず、手のひらに風を集めていた。

 

「まずい……!?」

 

「b;w@6dj…… ui!?」

 

 動揺してうまく動かない体を引っ張りながら、なんとか逃げようと必死にもがくが、うまく逃げれなかった。そして今にも放たれそうなその一撃に対して、せめて一太刀でも浴びせようと考えていると、横から黒い一撃が飛んできた。

 

「なっ、シロ!」

 

「…………みんな、遅れてごめん」

 

 黒く染まった信仰を構えて、シロが助太刀に来てくれた。その正確な一撃で『O-01-i33』の腕を撃ち、さらに眼孔にも二発をお見舞いしていた。そして、今まで微動だにしてなかった『O-01-i33』が、初めて攻撃に反応を示した。

 

「助かったぞ、シロ!」

 

「…………今は集中」

 

「そ、そうだな、すまない」

 

「ジョシュア、今のうちに叩くぞ!」

 

 シロに気を取られていた『O-01-i33』の背後から、墓標を突き立てる。何度も攻撃してきたためた、無数の傷の1つに突き刺さり、ついに体に突き刺さった。

 

「よし、このままいくぞ!」

 

「おう!」

 

 そのまま墓標をねじって抜き、なぎ払う。ついに動揺した『O-01-i33』に対して、今こそが攻め時だと判断して全員で殴りかかる。

 

 抵抗しようと必死な『O-01-i33』にシロの的確なスナイプが突き刺さる。行動しようにもシロの攻撃に邪魔をされ、ろくに動けない『O-01-i33』を、他の全員で攻撃していく。

 

「b byufr@w@f……」

 

 そして、ついには『O-01-i33』は力尽き、その膝を折った。

 

 その光景をしばらく眺めていると、先ほどまでうっとうしくてたまらなかったあの風が、ついに止んだ。

 

「やっ……」

 

「「「やったあぁぁぁぁ!!!!」」」

 

 『O-01-i33』に対して、誰一人かけること無く勝利した。その事実に、俺たちは互いを抱きしめ合って喜び合った。

 

「シロ、ありがとう」

 

「…………どういたしました」

 

 シロを抱きしめながらお礼を言うと、彼女は恥ずかしそうに顔を背けた。

 

 これで、俺たちの長い戦いは、ひとまず終わったのであった……

 

 

 

 

 

 再び『O-01-i33』の収容室に向かう。

 

 あのようなことがあり、再び同じ事が起こらないように早急に情報を集めなければならなかった。

 

「よう、またあったな」

 

 『O-01-i33』の収容室に入り、挨拶したにも関わらす『O-01-i33』は返事をしなかった。

 

 こいつは、脱走しなければ話す気すらないらしい。

 

 そんな事を考えていると、『O-01-i33』はこちらに手を向けた。

 

 

 

 何も無いのであれば奪えば良い、そんな事をしていれば周りから全てが消えてしまった

 

 この力が与えるものはない

 

 この力は奪うものだ

 

 だが、私はひとりぼっちだ

 

 この手から、そよ風を君に運ぼう

 

 俺は、この風を……

 

 

 

 

 

 受け入れる

 

 

 

 

 

「3lt@s4」

 

 その時、俺の顔になにか熱いものを感じた。しかし、それも一瞬でひき、俺の顔に文様が浮かび上がる。

 

 彼は、最後になにを言ったのかわからない。

 

 だが、少なくとも悪意は無かった……

 

 

 

 

 

O-01-i33 『木枯らしの唄』 鎮圧完了

 

*1
『七色の瓶』



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EX-Story-5 管理情報

 『O-01-i33』は枯れきった人型のアブノーマリティーです。その姿に生気を感じません。

 

 『O-01-i33』に殺された職員は『O-01-i33-1』となります。『O-01-i33-1』は自分が奪われたものを求めて彷徨い続けます。

 

 『O-01-i33』が脱走すると、施設内全域に風が吹き荒れます。その風は職員に悪影響を与えます。

 

 『O-01-i33』は精神攻撃を無効化します、戦闘の際は気をつけてください。

 

 『O-01-i33』で風力発電は出来ません。風車で遊ぶのもだめです。

 

 

 

 

 

『木枯らしの唄』

 

危険度クラス ALEPH

 

ダメージタイプ W(6-8)

 

E-BOX数 30

 

作業結果範囲

 

良い 24-30

 

普通 12-23

 

悪い 0-11

 

 

 

◇管理情報

 

1、正義と慎重が4未満の職員が作業を行うと、その職員は『O-01-i33-1』となり、カウンターが減少した。

 

2、作業中の職員がパニックになった場合も、同様のことが起こった。

 

3、『O-01-i33』が脱走すると、施設内の全ての場所で、風が吹き荒れた。

 

4、『O-01-i33』が脱走中にパニックになった職員は『O-01-i33-1』となり、『O-01-i33』のHPが回復した。

 

 

 

◇作業結果(作業好感度)

 

本能

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

洞察

1 低い

2 低い

3 低い

4 普通

5 普通

 

愛着

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

抑圧

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 2

 

R 0.8

 

W 0.0

 

B 0.5

 

P 0.8

 

 

 

◇ギフト

簒奪(顔)

 

自制+5

 

正義+5

 

 顔に刻まれる風を模した文様。このギフトを刻まれたものは、風に乗せられた感情を読み取れるという。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 簒奪(鎌)

 

クラス ALEPH

 

ダメージタイプ W(12-14)

 

攻撃速度 高速

 

射程距離 普通

 

*相手に与えた半分のダメージを回復。

 

 枯れ木のような素材の大鎌。一振りすれば簒奪の風が吹き荒れる。その姿は、命を刈り取る死神を象徴している。

 

 

 

防具 簒奪

 

クラス ALEPH

 

R 0.8

 

W 0.2

 

B 0.5

 

P 1.0

 

 真っ白なスーツに黒い風を模した文様の入った防具。空気抵抗を感じず、普段よりも動きやすく感じる。

 

 

 

 

 

◇戦闘スペック

 

HP 2000

 

移動速度 普通

 

行動基準 職員のみ

 

R 0.8 耐性

 

W 0.0 免疫

 

B 0.5 耐性

 

P 0.8 耐性

 

* 脱走中施設全域の職員全ての正義の値が半減、メインルームの回復リアクターでの回復無効。また、同じ部屋にいる職員全員へW5の継続ダメージ。

 

 

 

・風見鶏 W(20-30) 射程 普通

 

 手を向けた方向へ飛ばす風の斬撃、直線上にいる相手に攻撃する。

 

・風車 W(30-40) 射程 自身の周囲に近距離

 

 風を纏い、周囲に竜巻を起こす。周辺にいる全員にダメージ。

 

・風船 W(30) 射程 部屋全体

 

 風を頭上に集めて爆発させる。同じ部屋にいる全員に判定が入る。

 

・簒奪の風 W(150) 射程 超近距離

 

 手のひらに集めた風を相手にたたきつける。前方の相手一人への超強力な攻撃。

 

 

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 ついにALEPHが本性を現しましたね!

 

 施設全域の職員の正義値半減、回復阻害、同じ部屋内でのスリップダメージ、眷属増やして自分は回復、盛りに盛りまくってますね。こうして書くとその強さがよくわかります。

 

 今回はALEPH回であり、シロちゃん回でもありました。

 

 本来なら今回のこの話は『O-01-i33』に勝てず、エネルギーを溜めて業務終了し純化する『逃げ切り』を使用しようと思っていました。そもそもこのオーバースペックにこちらの主力の大半がWダメージE.G.O.というクソッぷりでしたからね。勝てるビジョンが見えませんでした。

 

 しかし、『T-09-i91』の存在と、シロの覚醒イベントが思いついたので、なんとか勝つルートに行くことが出来ました。やっぱり有能だなこいつ、『T-09-i97』と同じ位。

 

 それでも眷属増加と回復、部屋全体攻撃をしていない状態でしたけどね。こいつもっと強くなれるんですよ。特に他の奴と一緒に脱走してからが本番です。

 

 本来なら『O-01-i33』は慎重の低い職員の多くいるところに出現します。とりあえず眷属を増やしてから戦闘ですね。ちなみに眷属自体は耐性が元の職員依存なので、オフィサーがなっても大して強くなかったりします。殴られる前に殴れ。

 

 こいつ自体は慎重・正義育成、武器・防具共に優秀、有能なギフト、そして全く脱走しないと良いことずくめですね。ALEPHを収容しなければならない、戦力を強化したい場合にもってこいのALEPHです。脱走さえしなければ本当にこいつは優秀です、もう一体に見習わせたい位には。

 

 

 

 シロちゃんのほうですが、彼女の特異性については独自解釈となっています。簡単に言うと、自分だけで世界が完結しているから、外部からの精神攻撃に完全な耐性を持っていた、と言う感じです。その代償として他人とのコミュニケーションが全く出来なくなってしまっていました。最初のほうは全くしゃべれなかったので彼女とのやりとりが大変でした。全部ジョシュア君の独り言になってしまうんですもの。

 

 短編のほうを読んでくださった人ならわかると思いますが、彼女は短編のほうのメインヒロインをしていたのでこちらの方にゲストとして招かれたIFの白の便利屋だったりします。彼女はWダメージ、つまり精神攻撃に対して免疫を持っていて、全くダメージが通りませんでした。

 

 本来ならそれは完全な力だったのですが、この施設に来る際に力が失われ、ジョシュアとの交流を経てだんだん弱まっていきました。そのことに恐怖を抱きながらも、彼との交流をなくすことは出来ませんでした。

 

 今回その特異性が失われてしまいましたが、その代わりに覚醒したので戦力としては強化されたと思います。誰かのために行動できる、それが強さの原動力となったのです。

 

 

 

 長々と話しましたが、とりあえずこれで一体目のALEPHの鎮圧に成功しました。本来ならこいつ、通常収容可能なALEPHの中で、1・2を争うレベルの戦闘能力を持っていたんですけどね。一番最初に収容されたのが悪かったですね。どうしてもジョシュア君にギフトをつけさせてあげたかったんですよ。

 

 それでは次はもう一体のALEPHとの戦闘です。次は今回とは別方向のやっかいさです。楽しみにしていてください。

 




 そういえば、番号が覚えられないという方が感想欄におられたので、現時点でよく出てくるアブノーマリティーの番号をまとめておきます。

・アブノーマリティー
『T-01-i12』…チョコ娘、唯一無害な癒やし枠。

『T-01-i21』…水銀娘、こっちは有害。なにげに番号が反対のため覚えやすい。

『O-05-i18』…安全な方のおてて、ロケットパンチ、脱走常習犯。

『T-04-i09』…少しでも傷がついてたらアウトな植物、クソ。

『O-02-i23~i25』…甲殻類ブラザーズ、傭兵集団、強制的にお世話になる。

『O-03-i07』…こあくま、あれふ、かわいい。


・ツール型
『T-09-i97』…温泉、どんなやばい状態でも生きていれば治る、超有能。

『T-09-i91』…汚い瓶、飲めば慎重が上がり、もっと飲めば攻撃がBダメージになる、有能。

『T-09-i96』…お酒、ドーピング、クソ

 少し多めですが、ここら辺がよく出てくると思います。


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EX-Story-6 『それは原初の恐怖』

「……ジョシュア、おいしい?」

 

「あぁ、なかなか良い味だな。そっちはどうだ?」

 

「……うん、こっちもおいしい」

 

 あれからしばらくして、シロの口数は多くなり表情も柔らかくなってきた。とはいえ、俺以外の奴らにはまだよくわからないらしいが。

 

 今日もシロと一緒に昼食を食べている。最近はいつも彼女と一緒に食べている気がする、リッチを誘ってもなかなか来てくれない。そのことを少しさみしく思いながら、シロとの会話を続ける。

 

「今日来たアブノーマリティーは色々とひどかった。昨日の『O-01-i37』*1も大変だったが、今日は別の意味で疲れたよ」

 

「……どうして? そんなに危なかったの?」

 

「いや、生理的に無理だったんだ……」

 

 今日の作業の愚痴を話すと、彼女は俺の話を真剣に聞いてくれた。なにげに彼女は聞き上手だから、こちらも話す話題が尽きない。

 

「それでこの前『O-03-i07』*2の収容室に行ったらさ……」

 

「……ふふっ」

 

 『O-01-i33』*3との戦闘以来、シロの笑顔が増えてきた気がする。こうして一緒に笑い合える日が来るというもの、はじめの頃を考えれば感慨深いものがある。こんな職場だ、これからも彼女がこうやって笑って生きていけるように頑張っていこうと思う。

 

 

 

「そういえば……」

 

 この前遭ったひどい話をしようとしたその時、突然食堂の電気が消えた。それは本当に何の前触れも無く、突然の出来事だった。

 

「なんだなんだ?」

 

「やだ、停電かしら?」

 

 突然電気が消えたことで、周囲の職員たちがざわついていた。中には懐中電灯をつけようとしている奴もいるみたいだが、どうやら意味は無いようだ。だが、そんな事はどうでも良い。ここに、何かがいる。

 

「全員一カ所に集まれ! 絶対に一人になるな!」

 

 薄暗い暗闇の中で、何かがうごめいているのがわかった。俺とシロはすぐにE.G.O.を手に持って戦闘態勢に入る。オフィサーたちや新人のエージェントたちは何が起こっているのかわかっていない様子で渋々俺の命令に従っている。だが、それが致命的だったようだ。

 

「A221、A221! どこに行ったの!?」

 

「おい、Ω928が消えちまった! さっきまでとなりにいたのに!」

 

「Π873、どこに行った! 今そんな冗談をしている場合じゃ無いぞ!」

 

 気がつけば、一人、また一人と消えていく。どうやらここにいる何かが、彼らを連れて行っているようだ。

 

「全員静かにしろ! 周囲の人間と互いが大丈夫か確認し合え! そして違和感があったら報告してくれ!」

 

 パニックになりかけていた職員たちをなんとか黙らせ、ここにいるはずの何かを注意深く探す。俺とシロ以外にも、リッチやルビー姉さん、メッケンナなんかは気がついているようだ。しかし、マオやディクソンなんかは気がついていない。もしかしたら奴を感じ取れる奴には何か条件があるのかもしれない。

 

「おいおい、こんな時に手をつないでくるのはだ……」

 

 その時、誰かが発言した言葉が途中で切れてしまった。どうやらまた一人消えてしまったらしい。先ほどまで声が聞こえてきた方を観察するが、暗くてよく見えない。すると、一人のオフィサーがついに決壊した。

 

「い、いやぁぁぁぁ! こんなの助かりっこないじゃない! きっと私たちはこのままアブノーマリティーに殺されて死ぬんだわ! もう私たちは終わりよ!」

 

「お、おいΘ009、やめとけって……」

 

「うるさいのよ! どうせこんなところにいてもいつかは死んでしまうんじゃない! それが今来たって…… なにこれ!? い、いや…… 嫌よいやいやいやっ!! 何でこんなことになるのよ! いやぁぁぁぁ……」

 

 恐怖に耐えきれず、ついにオフィサーの一人がパニックになってしまった。そしてその瞬間、彼女は何かに連れて行かれてしまった。

 

 しかし、悔しくもそのおかげで、奴の居場所がようやくわかった。

 

 奴は次に、何かがいることに恐怖して辺りを見回している、サラに目をつけた。彼女は随分と余裕が無いようで、何も見えないはずなのに辺りをしきりに見回していた。そして彼女を今にもつかもうとするそのなにかに、墓標を振り下ろした!

 

「ひゃあっ!」

 

「見つけたぞ! こいつが見えない奴は全員離れろ! 見える奴だけで攻撃するぞ!」

 

 ようやくとらえたそれは、そこにいるとわかっているのに姿がわからなかった。真っ暗な、完全な闇。それがそこにいるとわかる唯一の方法は、そこに大量のなにかが浮かんでいると言うことだけであった。

 

 

 

 それは、大量の手であった。手、手、手、手、どこを見渡してもそれだけだ。年齢も性別も人種も何もかもが別々の大量の手が一カ所に集まり、巨大な手を形成している。この見た目には見覚えがあった。それは中央本部で最後に収容したあのアブノーマリティー、『T-06-i30』であった。

 

 そして、それはこちらに指を向けて近づいてくる。どうやら随分とやる気のようだ。

 

「来るぞ!」

 

 俺の言葉を皮切りに、『T-06-i30』が動き出した。それはこちらに殴りかかるように突撃してきた。俺はそれをよけて返しの一撃を与えてやった。それにしても、食堂という場所なだけあって随分と戦いにくい。

 

「うおっ!?」

 

「……ジョシュア、気をつけて」

 

「すまないシロ、助かった!」

 

「……気にしないで」

 

 周囲に気を取られてその瞬間に、『T-06-i30』から無数の手が伸びてきて俺につかみかかろうとしてきた。それをシロが信仰による攻撃で防いでくれた。暗闇でほとんど見えないというのに、よくやってくれる。あの日から射撃の腕前も上がってきたように感じる。

 

「ジョシュアちゃん、避難はさせた方が良いかしら!?」

 

「いや、なにが起こるかわからない。ルビねえはそのまま皆を守りながら警戒してくれ!」

 

「わかったわ!」

 

 種子で遠距離から攻撃してくれているルビねえが避難を提案してきたが、動く途中で何が起こるかわからない。特にこいつが複数いる可能性があるうえに、種子の攻撃が全く効いていないためそのまま見張っていてもらう。

 

 そのままリッチとメッケンナが接近して『T-06-i30』に斬りかかる。『T-06-i30』がその二人に気を向けている間に、俺も背後?から攻撃する。

 

「こいつ、俺たちを引きずり込もうとしてるぞ! 気をつけろ!」

 

「わ、わかりました!」

 

 シロやリッチ、メッケンナの攻撃を受ける度に『T-06-i30』がもがき苦しむ。どうやら随分と効いているらしい。

 

「いい加減に終われ!」

 

 墓標による最後の一撃により、ついに手で構成されていた体が崩れ落ち、暗闇が霧散していく。それと同時に、食堂の明かりも元に戻った。

 

「ふぅ、随分と面倒な奴だった」

 

「……大丈夫?」

 

「あぁ、俺は大丈夫だ」

 

「おいジョシュア、どうやら大丈夫じゃない奴がいるみたいだぞ?」

 

 リッチに言われた方を見てみると、膝を抱えて震えている新人のエージェントがいた。なにかをぶつぶつと言いながら目を見開いている。

 

「まずいな、今すぐ休憩室に連れて行こう。精神汚染中和ガスの用意を頼む」

 

「わかった、そっちは頼んだぞ」

 

「あぁ」

 

 そのまま彼を担いで休憩室に向かう。彼の瞳には、すでに光は無かった……

 

 

 

 

 

「相変わらず辛気くさい場所だな」

 

 あれから、俺はまた『T-06-i30』の収容室に来ていた。こいつは随分とやっかいな奴だった、そのためなるべくこいつの情報が欲しかった。

 

「おいおい、またか……」

 

 収容室に入ると同時に、不思議な感覚に包まれる。この感覚は何度経験しても慣れることは無い。

 

 

 

 ここは暗闇、皆が怖がっている

 

 だけど大丈夫、ずっと一緒にいてあげるから

 

 ここにいれば一人じゃ無いよ、一人じゃなかったらこわくなんて無い

 

 皆で一緒に遊べるし、悲しい思いなんて無いよ

 

 ねぇ、だから友達になってよ

 

 そう、手を差し出される。俺はその手を……

 

 

 

 取らなかった

 

 

 

 なんでなんでなんで? どうしてそんな事をするの?

 

 どうして? おかしいよおかしいよおかしいよ!

 

 ……そうか、そういうことなんだね

 

 邪魔をするんだね、そんな事許さない……

 

 絶対に許すもんか

 

 

 

 その瞬間、俺は収容室からはじき飛ばされた。

 

 あの手を取れば、きっと俺は戻ってくることが出来なかっただろう。

 

 結局情報は手に入らなかったし、これからは俺が手に入れるのも難しそうだ。

 

 これから奴には別の意味で目をつけられたかもしれないが、それも仕方が無い。

 

 俺の前に立ちはだかるなら、何度でも倒してやる。

 

 俺はそう誓って、収容室を後にした。

 

 

 

 

 

T-06-i30 『常夜への誘い』 鎮圧完了

 

*1
『現状では未判明』

*2
『でびるしゃま』

*3
『木枯らしの唄』



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EX-Story-6 管理情報

 何でそんなひどいことをするの? ただ君たちの事を思って頑張ってきたのに

 

 皆が怖くないように頑張ったんだよ、誰もさみしくなんて無いよ?

 皆で一緒に遊ぼうよ! そんなところで暗い顔をしているよりも楽しいよ!

 

 

 

 

 

 ……ひどいよ、こんなのは裏切りだよ

 

 やっぱり、邪魔をするんだね?

 

 そっか

 

 なら、もう許さない

 

 

 

 許さない許さない許さないね許さないよ許さない許さない許さない許さない許さないからな許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許すわけないだろ許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さないぞ許さない許さない許してあげない許してやるもんか許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない

 

 絶対に逃がさないからな

 

 

 

 職員によるいたずらと判断しました。今後この資料への無許可のアクセスを禁止します。

 

 

 

 『T-06-i30』

 

 

 

『常夜への誘い』

 

危険度クラス ALEPH

 

ダメージタイプ B(7-9)

 

E-BOX数 30

 

作業結果範囲

 

良い ―――

 

普通 21-30

 

悪い 0-20

 

 

 

◇管理情報

 

1、慎重4未満の職員が作業を行うと、闇の中に連れ去られカウンターが減少した。

 

2、洞察作業を行うとカウンターが下がり、その職員はもう二度と帰ってくることは無かった。

 

3、作業を行っていない状態で慎重4未満の職員が『T-06-i30』の収容室の前を通ると、その職員は確率で神隠しに遭った。そして10人目の被害者と共にカウンターが減った。

 

4、脱走した『T-06-i30』は、慎重が4以上の職員で無ければ自力で発見できない。

 

5、脱走した『T-06-i30』は、視界内に納めておかなければ慎重の低い職員から順番に連れ去ってしまう。

 

6、『T-06-i30』が脱走中にパニックになった職員は、気がつけば消えていた。

 

 

 

◇作業結果(作業好感度)

 

本能

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

洞察

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

愛着

1 低い

2 低い

3 低い

4 普通

5 普通

 

抑圧

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 1

 

R 0.0

 

W 1.2

 

B 0.5

 

P 0.8

 

 

 

◇ギフト

手(目)

 

HP+10

 

正義+10

 

MP-10

 

 その手は貴方の目を隠す。だーれだ。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 手(拳)

 

クラス ALEPH

 

ダメージタイプ B(5-6)

 

攻撃速度 高速

 

射程距離 超近距離

 

* 特殊攻撃時に、一定時間敵対者から認識されなくなる。

 

 真っ黒なもやのかかった何か。握手をしたら、友達だよね?

 

 

 

・防具 手

 

クラス ALEPH

 

R 0.4

 

W 0.8

 

B 0.4

 

P 1.0

 

 黒いもやのかかった防具。ずっと一緒だね。

 

 

 

◇戦闘スペック

 

HP 1500

 

移動速度 やや速い

 

行動基準 慎重の低い職員優先(職員のみ)

 

R 0.0 免疫

 

W 1.2 弱点

 

B 0.5 耐性

 

P 0.8 耐性

 

* 視界内に入れていなければ、慎重の低い職員から順番にさらっていく。

 

 

 

・鬼ごっこ B(10-15) 射程 超近距離

 

 対象を追いかけ、手でつかむ。単体への攻撃。

 

・じゃんけん B(20-25) 射程 近距離

 

 前方へ手を伸ばし、攻撃する。単体への攻撃。

 

・かくれんぼ 即死 射程 近距離

 

 伸ばした手に掴まれたものは、どこかに消えてしまう。慎重の低い職員を優先して攻撃、受けたものは即死する。予備動作が大きい。

 

 

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 二体目のALEPH討伐!

 

 いやぁ、初ALEPHを収容してから随分とスピーディーですね。今回もホラー要素ましましのクソアブノーマリティーでした。

 

 ですがALEPHの中で最弱です。

 

 ほんと、どうしてこう、間違った善意の奴ってこう面倒くさいのでしょうか?

 

 今回の『T-06-i30』ですが、前回も言ったとおりとても珍しい分類となっています。

 

 こいつに実体はありません。犠牲者の手によって構成された巨大な手を仮初めの体としています。

 

 その姿を見ることが出来るのは、慎重が4以上の職員だけです。それ以下の奴には認識すら出来ません。

 

 実は現時点で非常にやっかいなこいつですが、最初の時点ではもっとひどかったりします。最初は慎重が5でなければ作業が出来ず、収容室前の判定も4以下でした。しかし、一番最初に収容したらどうしようも無いと弟に指摘されたので、仕方が無く慎重3以下の相手に変更しました。それだと『木枯らしの唄』とかぶっちゃうんですもん。

 

 ちなみに、こいつを選ぶときの候補は、ALEPH WAW(3鳥枠) ALEPH でした。

 

 それはもう面白すぎて笑い転げましたよ、どれをとっても面白い。その中でもまぁ一番インパクトの大きい奴が取られました、まぁ妥当ですよね。

 

 さて、これでついにこの施設の半分が終わりました。これからついに後半戦となります、どんなアブノーマリティーが出るのか、ALEPHは何体出るのか、楽しみにしていてください。

 

 そこで、ついに半分まで来たので少し悩んでいることがあります。それは、紹介しきれず残ったアブノーマリティーをどうするかという事です。

 

 今までのようにストーリー風に展開するか(二週目)、それとも特に気にせず紹介だけしていくか(番外編)。

 

 ストーリー風にするにしても、こちらで収容するアブノーマリティーを選ぶかアンケートで選ぶか、色々考えて、今後アンケートを採るかもしれません。もしかしたらこっちで勝手に決めるかもしれませんが……

 

 とにかく、この施設もようやく前半終了! 今後の地獄を存分に楽しんでください!

 



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コントロール部門 セフィラコア抑制『何が起こるなんて予想できませんよね?』

本日二話投稿です。


 今日もまた、いつもの同じ仕事が始まると思っていた。だが、仕事が始まるとそんな考えも吹っ飛んでしまった。

 

「……これ、アレだよな?」

 

「あぁ、確実にアレだな」

 

『管理人、見ててください。私がこの状況を制御してみせます』

 

 コントロール部門のメーンルームの中央、そこには木のような、触手のような邪悪な姿をした不思議な存在がうごめいていた。その手、あるいは触手には機械の残骸のようなものと、彼女が常に持ち歩いていたメモ帳が握られていた。

 

「くそっ、事前に教えてはくれないものか」

 

「そうはいっても、なんだか突然来るものみたいだからな。管理人にもわからないことはあるって事だ」

 

「それもそうだよな……」

 

『今日は褒めてくれますよね? もっと嬉しくなるように』

 

「とりあえずここにいても仕方が無いし、作業をしに行くとするか」

 

「そうだな、互いに頑張るとしよう」

 

 リッチと別れて今日の作業に取りかかることにする。とにかく今日はなるべく早く作業を行っていかなければならない。

 

 規定数までのエネルギーを回収し、その上でクリフォト暴走が6になるまで頑張らなければならない。

 

「さて、今日の作業はっと…… おいおい、なんだこれは?」

 

『何が起こるなんて予想できませんよね?』

 

 今日の作業を確認すると、予定が全て白紙であった。これはマルクトのセフィラコア抑制の影響だろうか、たった今作業の指示が入ってきたが、『T-01-i12』*1への抑圧の作業であった。

 

「あー、今日はこういう感じか。つまり今日は全ての作業が強制されるのね」

 

 管理人からの命令を無視することは、俺たち職員には不可能だ。おそらく俺たちへの指示系統がおかしくなっているのだろう。そう考えると、一番はじめは安全なアブノーマリティーへの作業でどのように指示系統がおかしくなっているのかを確認するのは良い判断である。

 

「この分なら頑張ればいけそうだな、俺も頑張るとしよう」

 

 管理人の手腕に感心しながら、作業へ向かう。『T-01-i12』相手なら今の俺では驚異では無い、俺に向かわせるよりも他の奴に向かわせる方が良い可能性もあるが、そこは最初だからだろう。

 

「さて、『T-01-i12』に会うのも久しぶりだな」

 

『私は十分に出来るんですよ』

 

 久しぶりに会う『T-01-i12』に胸を躍らせながら、彼女の待つ収容室へと入っていった。

 

 

 

「さて、結構セオリー通りだな」

 

 管理人は結構うまくやっているようだ。俺の他にもサラに『T-05-i22』*2の作業をやらせて指示系統を確認しながら育成、男性に『F-04-i27』*3の作業、新人に『T-01-i12』や『O-03-i07』*4への作業を任せるなど、クリフォト暴走が起これば指示系統の混乱を確認し、その後は俺やシロ、リッチと言ったベテランにALEPHやWAWの作業を行わせてエネルギーを溜めていく。

 

 このまま行けば、何事も無く今日という日を終わることが出来そうだ。だからといって最後まで気を抜くことは出来ないが。

 

「さて、それじゃあ次の作業へと向かおうかな」

 

 おそらく次の作業で終わりだろう。俺は『T-04-i13』*5への作業を行うために収容室に向かい、抑圧の作業を行う。これでエネルギーもたまり、純化が始まる。

 

『そうか…… 私には才能が無かったんだ……』

 

「終わったな……」

 

 俺が作業を終えて収容室から出ると同時に、この施設を襲った異常が消え、純化が始まった。

 

 俺は純化に巻き込まれないように急いで職場から離れるのであった……

 

*1
『蕩ける恋』

*2
『慈愛の形』

*3
『零時迷子』

*4
『でびるしゃま』

*5
『魅惑の果実』




正直今回は見所がありませんでしたね。

上層のセフィラコア抑制は、見せ場を作るのにあまり向いてない気がします……


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情報部門 セフィラコア抑制『本当はこれ以上、人の死を見たくなかった』

 また、今日も仕事が始まる。それもいつもと同じ作業では無い、今日もまたやっかいな異常が施設を覆っていた。

 

「やっぱりこっちの情報もだめだ」

 

「あぁ、こっちもねぇ」

 

「あらやだ、もしかしたら全滅じゃない?」

 

 今日の作業を始めるに当たってアブノーマリティーの資料を閲覧しようとすると、そのデータへのアクセスが出来なくなっていた。不思議に思いその場にいたルビねぇとサラに確認するが、彼女たちも閲覧できなくなっていた。そこで手当たり次第に情報を探したが、結局俺たちが求めているものは出てこなかった。

 

「おいおい、こんな不思議現象と言えば……」

 

「あら、どっかのアブノーマリティーの仕業かもしれないわよ」

 

「でも今日はぁ、新しいのが来てない日ですよぉ」

 

「あら、それもそうね」

 

「そうなるとこれは、セフィラコア抑制と言うことだな」

 

『何一つまともに見えないでしょう』

 

 セフィラコア抑制の中でこのような状況になるものを、俺は知っている。おそらくこれはイェソドのコア抑制が始まったと言うことだろう。

 

 この調子でいけば、もうすぐネツァクのコア抑制も始まるかもしれないな。

 

「さて、こうなったら仕方が無い。俺たちの記憶を頼りに作業を行っていくしかなさそうだ」

 

「それもそうね、もしもの時は管理人を頼りましょう」

 

「それじゃあ、いつも通りの作業って事ねぇ」

 

「あぁ、お前たちも気を引き締めて作業に取りかかってくれ」

 

「ジョシュアちゃんも気をつけてね」

 

「せんぱぁい、ファイトですよぉ」

 

「おー」

 

『腐って膿があふれ出ていた私の体を貴方は見ていないんですか?』

 

 何というか、こいつらと一緒にいると気が抜けそうになるな。とりあえず今日の作業を始めるとしよう。

 

 このコア抑制自体はさほど驚異でもない事だし、なるべく早く終わらせてしまいたいな。自室でゆっくりとしたい。

 

 

 

「さて、今のところ大きな問題も無いな」

 

『私はとっくの昔に絶望していたのか』

 

 正直アブノーマリティーの資料を作成する事に協力していた身だ、大体の情報は頭の中に入っている。こういうところで自分がやってきたことが生かされるのはなんだか良い気分だ。

 

「さてっと…… えっ?」

 

 次の作業を行おうと廊下を歩いていると、前方から巨大な岩が転がってきた。これは灰燼の白昼か?

 

 しかし、アナウンスはされていなかった。なぜいきなり試練が発生……

 

「あぁ、これも情報か」

 

『本当はこれ以上、人の死を見たくなかった』

 

 理由を探していると、ふと思い当たる節があった。灰燼の白昼に墓標を突き刺して動きを止める、そのまま押し返して全力の突きをお見舞いしてやると、体の表面がどんどん崩れていき、ついには崩壊してしまった。

 

「全く、俺たちへの情報は全部カットか」

 

 今思えば、今日は管理人からの指示はあっても声は聞いていない。向こうからの情報をなしだとすると、これはまたやっかいな異常だな。

 

「まぁ、白昼が来たって事はもうすぐだろう」

 

 これで目標までもう少しのはずだ、そんな事を考えながら歩いていたのが悪かったのだろう、俺はなにかにつまずいてこけてしまった。

 

「いてっ、何なんだよ…… って、なんでお前が……」

 

 立ち上がってさっきつまずいたものを見てみると、そこには大きめの石ころが転がっていた。それは手頃な大きさで、たまに淡く発光している。

 

 ……そうか、そういえば白昼が来ればその前の黎明もすでに来ているよな。そんな事を考えながらも、灰燼の黎明に少しばかりの哀れみを送ってしまった。

 

 今までずっと残っていたと言うことは、ずっと気付かれなかったと言うことか。何ということか少し悲しくなってきたな。

 

『何も見えていなかったのは私だったのですね……』

 

 その時、純化の始まる合図が聞こえてきた。どうやらセフィラコア抑制は無事に成功したらしい。俺はなんとも言えない気持ちになりながら、灰燼の黎明を放置して施設を後にするのだった。




 正直早く次のアブノーマリティーを投稿したかったので投稿を早めました。後悔はしていない(キリッ)

 というわけで、情報のコア抑制でした。正直見所もあまりないのでカットしても良かったのですが、せっかくなので全部そろえておきたかったので頑張りました。

 ちなみに書くのが楽しみなのはネツァクとゲブラーです。

 ついでに、部門の終わりなのでメンバーの現在のステータスを更新しようと思います。

 前回同様

 勇気 慎重 自制 正義

 の順番で表記します。

 また、せっかくなのでジョシュアだけは細かなステータスを書こうと思います。

 ちなみにそれぞれのステータスのレベルの数値の目安は

 Ⅰ(~30) Ⅱ(31~44) Ⅲ(45~64) Ⅳ(65~84) Ⅴ(85~99) EX(100~)

 となります。参考にしてください。現状での上限は100付近です。ギフトは含ま無い状態でのステータスの場合はです、ギフト込みだと普通に超えます。

 ちなみにかっこの中の数字はギフトの補正値です。表示されている数字はギフトの補正値を含みます。

ジョシュア レベルⅤ職員
Ⅳ 79(-14)

Ⅳ 66(-14)

EX 102(+5)

EX 127(+27)

* 回復量+10%



シロ レベルⅤ職員
Ⅲ Ⅴ Ⅴ Ⅴ

リッチ レベルⅤ職員
Ⅴ Ⅳ Ⅴ Ⅴ

パンドラ レベルⅣ職員
Ⅳ Ⅲ EX Ⅲ

ルビー レベルⅣ職員
Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅲ

マオ レベルⅣ職員
Ⅴ Ⅲ Ⅱ Ⅴ

メッケンナ レベルⅤ職員
Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅳ

サラ レベルⅣ職員
Ⅳ Ⅲ Ⅳ Ⅳ

ジェイコブ レベルⅣ職員
Ⅲ Ⅲ Ⅳ Ⅳ


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懲戒部門
Days-26 O-01-i37『その旋律は、我々には刺激的すぎた』


本日二話投稿です。



あと、グロ注意です。


 今日はなんだか気持ちの良い目覚めであった。目が覚めるととてもすっきりしていて体の疲れが吹き飛んでいた。ついでに良い夢も見ていた気がするから気分も爽快だ。なんというか、今日は良いことが起こる気がする。

 

「そういうわけで、今日の俺は非常に気分が良いんだ」

 

「……そう、良かったね」

 

「あぁ、なんだか良いことが起こる気がするよ」

 

「……でも、あまり油断しないでね」

 

「もちろんだ、ここまで来たらいけるところまでは生き抜いてみせるさ」

 

 日替わり定食のエビフライに舌鼓をうちつつ、シロと今日の話をする。本当に最近シロと一緒に食事をする機会が増えた。

 

「……そういえば、この前綺麗なものを見た」

 

「へぇ、どんなものだ?」

 

「……それはね」

 

 最近はシロが話をすることも増えてきた。今まで一方的に俺が話していたから知らなかったが、意外と彼女はおしゃべりが好きらしい。

 

 食事が終わる頃には、食堂も混み始めてきた。俺たちは仕方なく席を立つと、今日の作業に向けて準備に取りかかる。

 

「……今日も、新しいの?」

 

「あぁ、今日から懲戒部門だしな。ちょっと気を引き締めていくさ」

 

「……そう、準備は出来た?」

 

「これで終わりだな、それじゃあまたな」

 

「……うん、またね」

 

 準備を終えて業務を開始する。今日やってきたのは『O-01-i37』だ。最近よく人型のアブノーマリティーが収容されている気がする。ついでに言うとろくでもない奴ばっかりだ。出来れば今日はましな奴であることを祈ろう。

 

 

 

「あれ、ジョシュア先輩じゃ無いですか」

 

「げっ、パンドラ」

 

「何ですかその反応、ひどくありませんか!?」

 

 懲戒部門も目の前というところで、やっかいな奴に出会ってしまった。今日の予感は残念ながら不発に終わったらしい。

 

「別に良いですけど、今から新しいアブノーマリティーへの作業ですか?」

 

「あぁ、今日は余計なことをするなよ?」

 

「もちろんですよ!」

 

 そう元気に返事をするが、本当かどうかは怪しいところである。出来ればこれ以上俺の心労を増やしてくれるなよ。

 

「それじゃあ俺はもう行くからな」

 

「あっ、ちょっと待ってください」

 

 パンドラの横を通って懲戒部門へ向かおうとすると、なぜかパンドラに裾を掴まれた。驚いて振り向くと、今まで見たことの無いほどの真剣な表情をした彼女がいた。

 

「……本当に、行くんですか?」

 

「どうした、何かあったのか?」

 

「いえ、なんだかとっても嫌な予感がするんです」

 

 パンドラがこんなことを言うなんて珍しい、というかそんな事を言っているのは初めて見た。基本的に本能の赴くままに生きているのが彼女だ、こんな風に特に根拠も無く人を心配するのは見たことが無い。

 

「ジョシュア先輩、そのアブノーマリティーへの作業、やらない事って出来ますか?」

 

「いやいや、さすがにそんな事は出来ないって」

 

「なら私が変わることは……!!」

 

 本当にこいつはどうしてしまったんだろうか。だが、パンドラが本気で心配してくれているのはわかった。やめたり変わったりは出来ないが、せめて安心だけはさせておきたい。

 

「パンドラ」

 

「ひっ、なんで怒るんですか!?」

 

「怒ってねぇよ。ただ、そんなに心配するなって」

 

「でも、本当に……」

 

「今まで、やばいときは何度もあったけど、いつだって生き残ってきただろ? だったら今回も同じさ、俺は生き残ることだけは得意なんだ」

 

「そうだな、それでも心配なんだったら、やばくなったらお前が助けに来てくれよ」

 

「そんな…… でも……」

 

「それなら俺も安心だからさ、頼むよ」

 

 パンドラは随分と悩んだ末に、振り絞るような声で返事をした。

 

「わかりました、先輩を信じますね。約束ですよ!」

 

「おう、約束だ。それじゃあまたな」

 

「はい、また……」

 

 少し様子がおかしいのは気になったが、別に悪い方向の変化では無いので大丈夫だろうと判断する。少し不安そうな彼女をおいて、『O-01-i37』の収容室へ向かう。本当に俺のことが心配らしく、こっそり後ろからつけてきているのが感じ取れた。そんな事をするよりも仕事をしろ、仕事を。

 

 

 

「さて、ついに来たな」

 

 ようやく『O-01-i37』の収容室の前に来る。正直パンドラの反応が気になるが、十分気をつけるしか出来ることは無いだろう。

 

 いつも以上に気を引き締めながら、収容室の扉に手をかける。そしていつものお祈りをしてから手に力を込めて、収容室の扉を開く。どこからか、聴いたことの無い音楽が流れてきた。

 

 

 

 ♪~

 

 収容室の中に入ってまず耳に入ってきたのが、弦楽器による美しい音色だった。俺は音楽に明るくないので、あまりよくわからなかったが、今まで聴いたことの無いような音色だった。

 

「すげぇ……」

 

 そして視線を音のする方に向けると、俺は思わず感嘆の声を漏らしてしまった。

 

 それはとても美しい少女だった。美しく整った顔はまるで彫刻のようで、体もすらりとしていて主張しすぎない美しいラインを描いていた。

 

 そして何よりも目を惹くのは、その髪の毛だ。美しい銀色の髪は光の加減により七色に輝き、立っていても地面に付きそうなほど長かった。髪質は一切の癖が無く、見ているだけでもさらさらしていることがわかった。

 

 そして彼女は自身の美しい髪を地面に突き刺し、ハープのように曲を奏でていた。その音色は俺の魂を振るわせるほどの、心に響くものであった。

 

「綺麗な音色だな」

 

 俺が話しかけたことにより、彼女はこちらに気がついたようだ。彼女は俺を見ると微笑み、突き刺していた髪を抜き取ると、こちらに向かい合うように体勢を変えた。

 

「おっ、どうしたんだ?」

 

 そして、彼女はもう一度髪を地面に突き刺した。しかし、今度は先ほどとは違って右手で上部を持ち、左手で髪で出来た弦をかき鳴らした。それはまるでギターのようで、先ほどの優しい音色とは打って変わって激しい曲調であった。

 

「おっ、おっ」

 

 その曲のなんて素晴らしいことか! 本当の意味で魂が揺さぶられるとはこういうことだったのか。脳が揺らされ、世界が振動する。体は沸騰したかのように全身が沸き立ち、気分はあり得ないほどに高揚していた。

 

 俺は、この素晴らしい演奏に熱狂していた。

 

 その旋律以外の音なんて認識すら出来なかった。事実、喉の痛みを感じるまで自分が絶叫していることにすら気がついていなかった。

 

 だが、このままでは足りない。彼女がこれほどまでに素晴らしい演奏をしているというのに、俺は何も出来ていないじゃないか!

 

 そんなとき、何かが裂ける音がした。それが自分の胸を自らの爪で傷つけた音だと言うことに、他人事のように気がついた。そして、自分のすべきことにようやく気がついたのだ。

 

 

 

 

 

 体中の皮という皮を引き裂いてかき鳴らし、骨を折って盛り上げる

 

 目玉が飛び出し跳ねる音がコミカルさを演出し、血の沸騰する音がより高いステージへと至らせる

 

 はらわたを掻き出し、引き摺りながらハーモニーを奏で

 

 髪をむしり、爪を剥ぎ、歯が折れるまで鳴らす

 

 

 

 全てが、俺の体の全てが楽器だったんだ

 

 

 

 そして曲が終盤へと向かい、会場のボルテージも最高潮に達する

 

 ついに演奏は終わりを迎え、それと同時に……

 

 

 

 俺の頭は破裂した

 

 ここに、最高の曲が完成したのだ

 

 

 

 

 

『『O-01-i37』が脱走しました、エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

「うそだぁ! 一体どうなってやがる!」

 

「いやぁ! 頭が割れる!」

 

「うそ、嘘ですよね先輩…… またねって言ったじゃないですか!」

 

「ぎゃああああ!」

 

「なんでこんなことに!」

 

「エージェントたちは何をやっているんだ!」

 

「くそっ、強すぎる!」

 

「サラさん、サラさん!」

 

「まずい、メッケンナ!」

 

「嫌だ、助けてよ!」

 

「こんなところで、いやだ」

 

「すまない、俺もここまでのようだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩の、うそつき……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日はなんだか気持ちの良い目覚めであった。目が覚めるととてもすっきりしていて体の疲れが吹き飛んでいた。ついでに良い夢も見ていた気がするから気分も爽快だ。なんといか、今日は良いことが起こる気がする。……いや、本当にそうだろうか?

 

「そういうわけで、今日の俺はたぶん気分が良いんだと思う」

 

「……? そう、良かったね」

 

「あぁ、なんだか良いことが起こる気がするよ」

 

「……でも、あまり油断しないでね」

 

「もちろんだ、ここまで来たらいけるところまでは生き抜いてみせるさ」

 

 日替わり定食のエビフライに舌鼓をうちつつ、シロと今日の話をする。本当に最近シロと一緒に食事をする機会が増えた。

 

「……そういえば、この前綺麗なものを見た」

 

「へぇ、どんなものだ?」

 

「……それはね」

 

 最近はシロが話をすることも増えてきた。今まで一方的に俺が話していたから知らなかったが、意外と彼女はおしゃべりが好きらしい。

 

 だが、ここでも違和感を感じる。なんだかもうすでに聞いたことがあるような……

 

 食事が終わる頃には、食堂も混み始めてきた。俺たちは仕方なく席を立つと、今日の作業に向けて準備に取りかかる。

 

「……今日も、新しいの?」

 

「あぁ、今日から懲戒部門だしな。ちょっと気を引き締めていくさ」

 

「……そう、準備は出来た?」

 

「おう、もうちょっとだな」

 

「……何それ?」

 

「何でも管理人がつけて行けって言うからな、命令だから仕方が無い」

 

「……ふふっ、なんだか変なの」

 

「何で笑うんだよ」

 

「……だって、似合わない」

 

「ひどいな」

 

「……よし、これで終わりだな、それじゃあまたな」

 

「……うん、またね」

 

 準備を終えて業務を開始する。今日やってきたのは『O-01-i37』だ。最近よく人型のアブノーマリティーが収容されている気がする。ついでに言うとろくでもない奴ばっかりだ。出来れば今日はましな奴であることを祈ろう。

 

 

 

「あれ、ジョシュア先輩じゃ無いですか」

 

「げっ、パンドラ」

 

「何ですかその反応、ひどくありませんか!?」

 

 懲戒部門も目の前というところで、やっかいな奴に出会ってしまった。今日の予感は残念ながら不発に終わったらしい。

 

「別に良いですけど、今から新しいアブノーマリティーへの作業ですか?」

 

「あぁ、今日は余計なことをするなよ?」

 

「もちろんですよ!」

 

 そう元気に返事をするが、本当かどうかは怪しいところである。出来ればこれ以上俺の心労を増やしてくれるなよ。

 

「それじゃあ俺はもう行くからな」

 

「あっ、ちょっと待ってください」

 

 懲戒部門へと向かおうとすると、パンドラに呼び止められた。一体何事かと思っていると、彼女はじっと俺を見つめてきた。

 

「なんだよ、何かあるなら早くしてくれ」

 

「いえ、なんだか似合わないなって思いまして」

 

「うるさい、そんな事はわかっているんだよ!」

 

「痛い! 本当のことを言っただけじゃ無いですか!」

 

 余計なこと言ったパンドラを放置して、懲戒部門に向かう。さっさと仕事を始めるとしよう。

 

 

 

「さて、ついたな」

 

 『O-01-i37』の収容室の前に付き、管理人に言われていたものを身につけて収容室の扉に手をかける。いつも通りのお祈りをしてから手に力を込め、収容室の扉を開けた。

 

 

 

「なんて言うか、見た目は美しいな」

 

 目の前にいたのは、美しい銀色の髪をした少女であった。白くきめ細やかな美しい肌と整った顔立ちは、昔美術館で見た女神の彫刻のようであった。体は主張しすぎない綺麗なラインを描いており、とても儚い印象を抱かせる。

 

 そして彼女は髪の毛を地面に突き刺し、ハープのように指で演奏しているようだ。その姿は容姿も合わさって、本当に女神のようであった。

 

「さて、どうしたものか」

 

 演奏が終わったようで、『O-01-i37』が一息つくと、ようやく俺の存在に気がついたようだ。

 

 俺がいたことに驚いたのだろう、体をびくっとさせて俺を見ると、唐突に身だしなみを整えだした。そして、俺に向き直ると手を握ってきた。

 

 正直、とっさの事というのもあるが、全く害意が無かったことでとっさに反応できなかった。

 

 彼女は俺の手を握ってブンブンと上下に振っている。なんだか子どもの相手をしているような気分になる。

 

「なんだか可愛いな」

 

 前世の妹を思い出し、思わず『O-01-i37』の頭をなでてしまう。彼女は最初は驚いたようだが、やがて頭なでなでを受けいれ、俺に頭をこすりつけてきた。何というか、犬みたいだなと、思わず考えてしまった。

 

 

 

「さて、そろそろ終わりの時間だな」

 

 あれからじゃれてくる『O-01-i37』になすがままにされていたが、そろそろ作業も終わりだ。

 

 悲しそうにする『O-01-i37』を無理矢理引きはがし、収容室から出ようとする。

 

「それじゃあ、またな」

 

 もっと遊びたいと駄々をこねる『O-01-i37』に別れの挨拶をする。すると彼女も自身の髪で何かを奏で始めた。おそらくこれが彼女のコミュニケーションの取り方なのだろう。

 

 そんな彼女に背を向けて、収容室から出て行く。これからも作業を頑張っていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一見彼女は普通の人間と変わりは無いように感じる

 

 だが、我々とは決定的に違う部分があるのだ

 

 彼女は言葉を発することが出来ない

 

 我々とコミュニケーションを取ることが出来ないのだ

 

 彼女にとってのコミュニケーションとは、演奏である

 

 その穏やかな、艶やかな、荘厳な、お淑やかな、熱狂的な音楽は、とても素晴らしいもののようだ

 

 だが、我々は彼女と共存することは不可能だという結論をだした

 

 なぜか、それは単純な理由だ……

 

 

 

 

 

 その旋律は、我々には刺激的すぎた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Emergency! Emergency! Emergency!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Risk Level ALEPH

 

 

 

 

 

 

 

 O-01-i37 『儚きハーモニクス』

 



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O-01-i37 管理情報

 『O-01-i37』美しい姿をした少女型のアブノーマリティーです。その髪の色は銀色で、自身の髪の毛を使って演奏を行います。

 

 『O-01-i37』はコミュニケーションを行う際に、演奏を行います。しかし、常人には耐えきることは出来ません。

 

 『O-01-i37』の演奏を邪魔してはいけません。

 

 『O-01-i37』をアイドルデビューさせようとしないでください。何を思ってそんな事をしようとしているのですか!

 

 

 

『儚きハーモニクス』

 

危険度クラス ALEPH

 

ダメージタイプ B(6-8)

 

E-BOX数 30

 

作業結果範囲

 

良い 25-30

 

普通 13-24

 

悪い 0-12

 

 

 

◇管理情報

 

1、『O-01-i37』の奏でる曲をしばらく聴いた職員は、自らの体で曲を奏で、カウンターが減少した。

 

2、LOCK

 

3、LOCK

 

4、LOCK

 

 

 

◇作業結果(作業好感度)

 

本能

LOCK

 

洞察

LOCK

 

愛着

1 最高

2 最高

3 高い

4 高い

5 高い

 

抑圧

LOCK

 

 

 

◇脱走情報

 

LOCK

 

 

 

◇ギフト

LOCK

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 LOCK

 

・防具 LOCK

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 はい、ついに三体目のALEPHですね…… ついに?

 

 いやいや、この前出てきたばかりですよね? おかしくないですか?

 

 正直こんな短期間に来るとは全く思ってもいませんでした。中層に一体か二体くらいかと……

 

 下層でどんどん出てくれたら嬉しいなって思っていたのですが、すでに三体目。これは運が良いのか悪いのか……

 

 それはさておき、今回のアブノーマリティーは可愛い枠です、やったね!(無慈悲な即死)

 

 今回収容された『儚きハーモニクス』ですが、皆さん感づいているかもしれませんが『静かなオーケストラ』を意識しています。

 

 というか、奴を意識するに当たって大分考えました。『静かなオーケストラ』って管理方法や特殊能力のせいで嫌われていますが、選択画面の台詞や名前って、センスの塊だと思うんですよね。「壊れたものたちの演奏が始まる」とか、矛盾を抱えつつなんとなく納得できる名前とか、これに見合うだけの名前を考えようと結構な時間頭を使いました。結局無難な感じになりましたが……

 

 この子の名前は何度が候補を変更していました。『ハーモニクス』だけは決まってたので、その前の言葉を何にしようか考えていました。○○の~だと今まで結構いるし、オーケストラみたいに○○な~にしたいと考えて『艶やかなハーモニクス』、むしろ青春系で『清涼なるハーモニクス』みたいな感じで候補をいくつか出してこの名前にしました。今思い返しても、この二つにならなくて良かった……

 

 さて、そろそろこのアブノーマリティーの管理的な話しに行こうともいます。実はこいつ、初めての特殊管理方法のアブノーマリティーです。ここで言っても良いのですが、せっかくなので全て判明したときに伝えたいと思います。

 

 ……まぁ、めちゃくちゃわかりやすいですけどね、ついでに対処法なんかも予想していただければ嬉しいです。

 

 管理的にはまだ楽な方だとは思います。『常夜への誘い』なんかよりはよっぽどましです。……いや、やっぱり面倒かもしれませんね。とりあえず初見殺し性能は抜群です。




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Days-27 T-02-i29『その欲求には抗えない』

「ジョシュアさん、昨日のアブノーマリティーはどんな感じだったんですか?」

 

「あぁ、『O-01-i37』*1の事か? アレはまだましな方かもしれないな、色々と作業するときは面倒くさいけど……」

 

 今日も元気にメッケンナがアブノーマリティーの質問をしに来た。奴らについて知ることは非常に大事なことだ、他の奴らにも見習ってもらいたい。

 

「先輩先輩、何の話してるんですか?」

 

「お二人ともおはようございます、アブノーマリティーの話ですか?」

 

「あぁ、ミラベルとナルリョンニャンじゃないか。いやな、昨日来たアブノーマリティーについて話をしていたんだ」

 

「僕たちじゃまだ作業できない奴ですよね? どんな奴だったんですか?」

 

「えぇ~、ナルちゃんそんな話を聞いても仕方なくない? 私たちにはまだ関係ないじゃん」

 

「ミラベルさん、そんな事はありませんよ。もしかしたらそのアブノーマリティーが収容違反をするかもしれません、そういうときのために情報を得ておくことは決して無駄なことではありません」

 

「メケちゃん先輩もかたいな~もう。そんな事より楽しんで行きましょうよ~」

 

「ミラベル! 先輩になんてことを!」

 

「わー、ジョッシュン先輩ナルちゃんがいじめるよ~」

 

「……はぁ」

 

 メッケンナと話していると、最近入ってきた新人のミラベルとナルリョンニャンがやってきた。ナルリョンニャンは俺たちの話が気になる様子だったが、ミラベルにとっては興味の無い話題だったらしい。

 

 まじめなナルリョンニャンと自由気ままなミラベル、何というか対照的な二人である。あまり相性は良くなさそうだな。

 

「二人ともそこまでにしておけ。ミラベル、興味が無いならお前も早く仕事しろ、そこのパンドラみたいになりたくなかったらな」

 

「ひっ」

 

 後ろの折檻されて物言わぬパンドラを見て、ミラベルは顔を引きつらせた。となりにいるナルリョンニャンもドン引きしているが、こんなことでそんな反応をしているようではだめだ。まぁ、どうせそのうち見慣れた光景になるだろう。

 

「そ、それじゃあ私はお仕事いってきますね~」

 

「ぼっ、僕も行ってきます!」

 

 しかし、可愛い後輩たちには刺激が強すぎたようだ。彼らはそそくさと自分の仕事に戻っていった。

 

「ジョシュアさん、さすがに可哀想ですよ」

 

「これで可哀想だったらこいつはどうなんだ」

 

「妥当ですね」

 

「だろ?」

 

 メッケンナが文句を言ってきたのでパンドラを指さしたら、即答で帰ってきた。正直俺もそう思う。

 

「よし、そろそろ時間だし、俺たちも仕事に行くか」

 

「そうですね、それじゃあ僕も失礼します」

 

 メッケンナと別れて俺も仕事に向かう。今日来たアブノーマリティーは『T-02-i29』だ。久しぶりに人型以外を見るのでなんだか緊張してしまう。

 

 

 

「あっ、ジョシュア先輩」

 

「あぁ、マキか。どうしたこんなところで」

 

 懲戒部門に向かって歩いていると、途中で自信のなさげな少女、マキに出会った。彼女は教育部門のコア抑制前に新しくやってきた職員だ、その経緯から彼女にとっての後輩は皆能力が上であり、彼女の自信のなさにつながってしまった。

 

「あっ、私今から『F-04-i27』*2の作業に行くんですよ」

 

「なっ!? お前アレがどういう存在か知っているのか?」

 

「はい、でも私どんくさいから仕事もあまりうまく出来なくて、そんなだから『F-04-i27』の特殊能力は発動しないだろうって。だからサラさんの見つけたギフトのもらえる方法が合ってるか確かめようって話になりまして……」

 

「……そうか、なら気をつけてくれよ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 そういって彼女はぺこりとお辞儀をして早足で去って行った。彼女をすれ違う瞬間、そのからだが震えていることに気がついたが、声をかけれなかった。

 

「……考えても仕方が無い、仕事に向かおう」

 

 取り合えず『T-02-i29』の収容室に向かう。意外と距離があって時間がかかってしまった。

 

 

 

「さて、それじゃあ今日も始めるか」

 

 『T-02-i29』の収容室の前に付き、扉に手をかけて祈りを捧げる。その後に力を入れて収容室の扉を開き、中に入る。

 

「うえっ、キモチワルッ」

 

 収容室の中に入ると、この部屋の主がすぐに視界に入ってきた。

 

 それは、巨大な蚊であった、それはそれは大きな蚊であった。俺よりも大きなそれは、蚊特有の羽音を収容室内に響かせながらそこに佇んでいた。……いや、もしかしたら大きすぎて飛べないのかもしれない。

 

 それは顔だけこちらに向けてじっとしている。何かをしようとする様子は見られなかった。

 

「やめてくれよ、俺虫は苦手なんだ」

 

 蚊なんて小さいからまだましだったが、ここまで大きければ見たくない部分まで見えてくる。こんなにも大きくて虫感が出てくると正直直視したくない、早く作業を終わらせてしまいたい……

 

「もうさっさと出よう」

 

 俺が動くと顔だけこちらに向けてくるのが余計に不気味だ。掃除用具を持って早速洞察作業を始めて行く。

 

 初手洞察は封印したはずだったが、触れられない作業がこれくらいしか思いつかなかった。愛着は効果が薄そうだし、本能作業はそもそもやばい気がする。抑圧は殴ったらなんか飛び散りそうだし、精神安定上これが一番な気がする。

 

「はぁ、なんでこんなことになったのだろうか」

 

 愚痴を言いつつも意識は『T-02-i29』に向ける。何もしてきそうに無いとは言え、顔がずっとこっちに向いているのが何か怪しい。そもそも虫は複眼なんだから顔を向ける必要も無いはずだ、一体何が目的なんだろうか?

 

「やっぱり動物系の清掃作業は面倒だな」

 

 いくらアブノーマリティーとはいえ、出る物は出る。人型なら自分でなんとかしてくれることが多いが、動物たちはそうとも行かない。そのまま垂れ流しのため定期的な清掃は大体必要になる。

 

 ……まれに清掃作業で即死とかもあったりはするけどな。

 

「さて、こんな物で良いだろう…… んっ?」

 

 清掃の作業が終わり早々に収容室から退散しようとすると、『T-02-i29』が口のストローをこちらに向けていた。一瞬何かしてくると思い警戒するが、何もしてくる様子は無い。だが、その先端からは何か粘度のある液体がしたたっていた。その液体は見ていると、何か魅力的に見えてくる。どうやらこれは、ポーキュバスと同じタイプのご褒美なのかもしれない。

 

 そんな物に触れればどうなるかは、大体わかっていることなので触れないようにしておく。さすがにこれに突っ込めば碌な事にはならない、他の奴らにも言っておくべきだろう。

 

「さて、さっさとおさらばしよう」

 

 正直精神的に大分疲れた。この後は『T-01-i12』*3に作業してチョコをもらってから、『O-03-i07』*4にプレゼントして『T-09-i97』*5に浸かろう。

 

 これからすることを考えながら気分を切り替え、収容室を後にした……

 

 

 

 

 

「あれ? マキ、最近少し雰囲気変わったか?」

 

「えへへ、そうですか?」

 

 あれから数日たって廊下でたまたまマキに出会ったが、なんだか以前見たときよりも様子が変わっていることに気がついた。前は少し暗い雰囲気で、おどおどしていたが、最近は明るく綺麗になってきた。どうしたのだろうか?

 

「最近お肌のケアの仕方を変えたんです、そしたら大分お肌が綺麗になってきたんですよ」

 

「おいおい、まさかパンドラが言っていたみたいに『T-09-i96』*6でお肌パックとかしてないだろうな?」

 

「いやいや、そんなことしていませんよ! そんな物よりももっと効き目がありますからね!」

 

「そうか……」

 

 やっぱりマキの様子がおかしい。彼女の急激な変化が良い方向とは言え、この施設においては警戒すべき事柄だ。これは彼女の最近の行動をチェックして何かおかしな行動が無いか見る必要がありそうだ。

 

「それじゃあ私、もう行きますね!」

 

「あぁ、またな」

 

 一瞬『F-04-i27』の事が頭によぎったが、奴とは手法が違う気がする。俺はそんな事を考えながら、情報部門へ向かっていった。

 

 その後、彼女が『T-02-i29』の収容室へ足繁く通っていることが判明し、彼女に『T-02-i29』への接触禁止が伝えられた。これで収まれば良いが、禁断症状などの可能性も考えられる。これから経過を見ていかなくては行かないだろう。もうデボーナの二の舞はごめんだよ……

 

 

 

 

 

 餌は自分の欲望に忠実だ

 

 それが欲する物を用意してやったら自分からやってくる

 

 美の追究はいつの時代になっても終わることが無い

 

 その先にあるのが破滅であったとしても止まることが無い

 

 今日もまた哀れな餌がここに来る

 

 

 

 

 

 誰も、その欲求には抗えない

 

 

 

 

 

T-02-i29 『美溶の渇望』

 

*1
『儚きハーモニクス』

*2
『零時迷子』

*3
『蕩ける恋』

*4
『でびるしゃま』

*5
『極楽への湯』

*6
『黄金の蜂蜜酒』



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T-02-i29 管理情報

 『T-02-i29』は巨大な蚊の姿をしたアブノーマリティーです。

 

 『T-02-i29』はその巨体故に飛ぶことはおろか、動くことすら出来ません。

 

 『T-02-i29』は、その口から美容効果のある粘液を出します。効果は絶大ですが、使用には要注意です。

 

 『T-02-i29』を使用し続けた職員は、最終的に体内の全てが溶け出し、『T-02-i29』の食事となります。

 

 『T-02-i29』の収容室内で蚊取り線香を焚かないでください。次に入った職員がひっくり返っている『T-02-i29』にびっくりして心臓が飛び出るかと思いました。

 

 

 

『美溶の渇望』

 

危険度レベル TETH

 

ダメージタイプ W(2-3)

 

E-BOX数 12

 

作業結果範囲

 

良い 7-12

 

普通 4-6

 

悪い 0-3

 

 

 

◇管理方法

 

1、自制2以下の職員が作業結果良で終わらせた場合、その職員は死亡した。

 

2、本能作業を行った職員は、『T-02-i29』に全身の体液を吸い尽くされて死亡した。

 

 

 

◇作業結果(作業好感度)

 

本能

1 最高

2 最高

3 最高

4 最高

5 最高

 

洞察

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

愛着

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

抑圧

1 高い

2 高い

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

非脱走アブノーマリティー

 

 

 

◇ギフト

 

琥珀(ブローチ2)

 

愛着+2

 

 虫の入った琥珀が加工されたブローチ。見続けていると、太古の世界の情景が浮かぶ気がする。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 琥珀(メイス)

 

クラス TETH

 

ダメージタイプ W(6-8)

 

攻撃速度 普通

 

射程距離 普通

 

 大きな蚊が入った巨大な琥珀が先端についたメイス。振り続ければどんどん綺麗になる、相手が。

 

 

 

・防具 琥珀

 

クラス TETH

 

R 1.5

 

W 0.6

 

B 0.8

 

P 1.5

 

 綺麗な琥珀で装飾された防具。身につけていると魅力が増す気がする。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 初めての虫ですね! 苦手な方は注意です!(遅すぎる忠告)

 

 今回は久しぶりのTETHですね、安全部門以来です。

 

 正直ここまで来るとTETHは癒やしですね、即死の範囲が基本的にホド抑制後の職員なら引っかからないですからね。HEのほうがやばいです。

 

 即死はついて居ますが、特に気にしなくてもいいレベルです。この手の即死で気をつけるべきホドとマルクトはすでにコア抑制が終了していますからね。

 

 ちなみに、ジョシュア君は虫が苦手と言っていますが、私は大好きです。なので結構まだ出ていないアブノーマリティーに虫がまだまだ居ます。これからもジョシュア君の受難は続きますね。

 

 このアブノーマリティーは、巨大な蚊って単純に気持ち悪いし怖いよなって思って考えました。こんなのに出会ったら大変ですよね、さすがに私も出会いたくないです。

 

 蚊は本来雌が幼虫のために血を吸うのですが、これは人間のイメージなので自分が生きるために血を欲しています。それどころか体液全部吸ってきますが。成虫は花の蜜を吸って居るみたいです、だったら子どもにもそれを渡せば良いのに……

 

 そういえば蚊の飛ぶ音って人間にとって大分不快な音らしいので、なかなか起きない人に蚊の飛ぶ音のまねを耳元ですると起きるらしいですよ。起きる方は不機嫌みたいですけど。

 




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Days-28 O-01-i43『終わりは少しの温もりを』

「ジョシュアパイセンの目ってかっこいいよなー。装備もかっこいいし、俺も早くあんな風になりたいなぁ~」

 

「クロイーさん、そんなことを言ってどうするんですか。ギフトだって危険な物だという話は聞いたでしょう?」

 

「そうはいってもさぁ、やっぱりかっこよさって大切だと思うよ? だってやる気が変わるしさ! やる気って大事だろ?」

 

「それはそうですが、ちょっと動機が不純ですよ」

 

「そんな堅いこと言うなよ~」

 

 今日は少し遅れて食堂に入ると、ナルリョンニャンとクロイーが言い争い、といって良いのかわからないが会話をしていた、クロイーはナルリョンニャンやミラベルと同期で入ってきた職員だ。彼らは性格が合わないのかよく言い争いをしている。なんというか以前も似たような光景を見た気がする。

 

「おはよう、二人とも何をしてるんだ?」

 

「おはようです!ジョシュアパイセンがかっこいいなって褒めてたところですよ!」

 

「おはようございます。いえ、少し話をしていただけです」

 

 俺が話しかけると、二人は話をやめて俺のほうに向き直った。なんか最近新人の奴らと話すときに妙にかしこまられるのが、なんとも言えない感じになる。

 

「そうか、二人はもう仕事には慣れたか?」

 

「そうっすね! 俺は結構適応力あるんで、これくらい大丈夫ですよ!」

 

「僕は、あまり慣れないですね。やっぱりいつ死んでもおかしくないって環境は、結構辛いです」

 

「そうか、なるべく早くなれた方が良いのは確かだけど、その感情も大切だと思うぞ」

 

「そうですかね、ありがとうございます」

 

「そうだぞナルナル~、きっとそれくらい怖がってないと危ない目に遭うからな~」

 

「別に怖がってません!」

 

「冗談だって冗談! 悪かったよ~」

 

「もう、気をつけてくださいね!」

 

「はははっ」

 

 何というか、意外とクロイーも相手のことを気遣えるんだな。ナルリョンニャンも繊細なところはありそうだけど、彼と一緒ならまだましかもしれないな。

 

「さて、僕らはそろそろ行きましょうか」

 

「え~、もっとパイセンと話してから行こうよ~」

 

「だめです、ジョシュア先輩だってまだお食事をされていないんですから」

 

「ちぇ~」

 

「別に気にしなくても良いけどな、それじゃあ頑張ってこいよ!」

 

「はい!」

 

「もちろんです!」

 

 どうやら俺を気遣ってくれたらしいが、こうして話をしているのも嫌いでは無い。少しさみしいが頑張ろうとしているのだから、応援しよう。

 

「さて、それじゃあ今日はこれにしようかな」

 

 今日は久しぶりにがっつり食べていきたい。そう思って焼き肉定食を頼んで席に戻る。遅かったせいですでに周囲はまばらになっていた。

 

「あっ、ジョシュア先輩!」

 

「よう、タチアナじゃないか、どうしたんだ?」

 

 席について食事を始めようとすると、最近入ってきた新人のタチアナが声をかけてきた。

 

「もし今からお食事になさるのでしたら、ご一緒してもよろしいかと思いまして」

 

「おう、そう言うことなら別に良いぞ」

 

 最近は入ってくるやつも多くて中々新人と話せていなかった。こういうのは大歓迎だ。

 

 せっかくなのでタチアナと一緒に食事をとる。彼女は話すことが好きなのか、中々話がつきなくて仕事に遅れそうになったのは内緒だ。

 

 

 

 

 

「さて、それじゃあ今日の仕事といきますか」

 

 タチアナとの食事を終えて、今日来たアブノーマリティーの収容室に向かう。今日新しく収容されたアブノーマリティーは、『O-01-i43』だ。また人型であるが、どうか変な奴ではない事を祈るとしよう。

 

「さて、ついたな」

 

 『O-01-i43』の収容室の前に付き、気持ちを切り替える。いつものように収容室の扉に手をかけて、お祈りをしてから扉を開ける。

 

 その瞬間、少し冷たい風が通り過ぎた。

 

 

 

「これは……」

 

 収容室の中にいたのは黒い、いや玄い女性であった。玄い着物を着こなし、少し背が高くすらっとしている。背中には亀の甲羅のような物を背負っており、長い玄髪からは二本の白い髪の束が大蛇のように流れている。

 

 何より目が行くのは、その顔である。美しい玄い瞳はこちらにおびえている様に感じる、そのとなりの瞳は黄色く、蛇のように瞳孔が縦に割れている。顔の右側、それも目の周辺だけは美しい女性の面影を感じるが、それ以外は白い鱗に覆われていることもあり、瞳のこともあって蛇ににらまれているような錯覚を受ける。

 

 口元は袖で隠し、見られまいとしているようにも感じる。体は小刻みに震えており、随分とおびえているように感じる。

 

「おいおい、大丈夫か?」

 

 俺が話しかけると、『O-01-i43』は肩をびくっと震わせた。その様子は人間を恐れている、というよりは人間に見られることを恐れているようだ。

 

 恐らくは顔を見られたくはないのだろう。ならばそんな彼女を尊重して、なるべく顔は見ないようにしよう。

 

「そう警戒するなよ、見られたくないならなるべく見ないからさ」

 

 一応言葉で伝えてみたが、ちゃんと『O-01-i43』に伝わっているかはわからない。だから少し距離を開けてとなりにしゃがみ込み、そのまま話を続ける。

 

「この施設にはとてつもなく恐ろしく、醜い化け物たちがうようよ居る」

 

 俺が話し始めると興味を持ったのか、『O-01-i43』は少し警戒心を解いて同じようにしゃがみ込む。どうやら俺の話を聞いてくれるようだ。

 

「だからあんたの顔を見て、恐ろしいって思う奴はいないんじゃないかな」

 

 その言葉を口にすると、『O-01-i43』のほうからはっと息を呑む声が聞こえた。もしかしたら、こいつは元々綺麗な人間型で、何らかの理由でこんな姿に変わっていったのかもしれない。そう思い気にするなって言ってみたが、悪くはなさそうだ。

 

 言葉は通じるようだし、このまま友好関係を築いていこう。しかし築きすぎてもやっかいなことになるのでそこは気をつけておこう。

 

「そうだな、これはここの話では無いのだが……」

 

 そこで、どうやら俺の話に興味を持ったようなので話を続けることにした。この施設における別のアブノーマリティーの存在を他のアブノーマリティーに伝える事は禁止されているので、こことは違う別の世界の彼らの話をする。

 

 サンタの役割をぐちゃぐちゃにかき混ぜたような存在や、気味の悪い人食い蜂、自分を殺した相手を同じように変える醜い獣に、人の体で構成されており人の皮を被って化ける悪趣味な存在。それらの話をしていると、彼女は驚き、悲しみ、恐がり、話を聞き続けた。

 

 そして話題は世間話に変わり、彼女はその話を興味深そうに聞き入っていた。最近食べたおいしい食事に、友人と集まって一緒に遊んだ話、おろかな後輩のやらかしたことに新人たちの頑張り。彼女はそれらの話の一つ一つに様々な反応を見せた。どうやらこの子は話を聞くのが好きらしい。

 

 俺も話をするのが好きなので、思わず話し込んでしまった。ふと彼女を見ると、笑っているのが見えた。

 

 その口元は大きく裂け、口からちらりと見える二股の細長い舌とあわせて蛇のようにも見えるが、本当に楽しそうな表情を見ていると愛嬌があるように見えた。

 

「ようやく笑ったな」

 

「!!」

 

 俺の言葉に口元が見えていることに気がついたのか、彼女は悲しそうな顔をして口元を隠した。別にそんな事をし無くても良いように感じるが、彼女にとっては隠したいことなのだろう。だが、俺は思わず口を滑らせてしまった。

 

「別に可愛いんだから、隠さなくても良いのに」

 

「!?」

 

 思わずしまったと口を隠すが、別に聞かれても良いことだと思い直して『O-01-i43』のほうを見る。彼女は驚いたように目を見開いていたが、おそるおそるといった風に口元を少しずつ曝し始めた。

 

「あぁ、やっぱり別に隠さなくても良いな」

 

 その言葉を聞いて、彼女はどう思ったのかはわからない。ただ、その瞳に映る感情は様々な物で埋め尽くされているように感じた。

 

「さて、それじゃあ俺はそろそろ行くか」

 

 作業時間も終わり、収容室から退出することにした。すると、さっきまでしゃがんでいた『O-01-i43』は急に立ち上がり、その口を開いた。

 

「マタッ、キテクレル?」

 

 それは今にも消えそうで、お世辞にも綺麗とは言えないようながらがらの声だった。だが、せっかく心を開いてくれたのだ、ちゃんと返事はしなくては。

 

「あぁ、また今度な」

 

 その言葉を聞いて、彼女は嬉しそうに笑った。その笑顔を見て、俺は収容室を後にするのだった。

 

 

 

 

 

「はぁ、激務過ぎるだろ」

 

 コア抑制とはいえ、これほど仕事が大変になるとは思わなかった。あれからしばらくたってついにネツァクのコア抑制だ。急いでエネルギーを集めて終わらせなければいけない。

 

 とにかくなかなか『O-01-i43』にかまってやることが出来なくなっていて頭の中から抜け落ちていたときに、それはおこった。

 

「なっ、何だ!?」

 

 懲戒部門のメインルームに、突然そいつは現れた。

 

 玄い体の巨大な亀に、白い二体の蛇。そいつは玄い霧を放って、風が吹き荒れた。

 

 

 

 

 

 この世界はどうしてこんなにも冷たいのだろうか

 

 私の世界は常に冷たく、悲しい場所だ

 

 どうして私は失うことしか出来ないのだろうか

 

 どうして誰もここに居ないのだろうか

 

 今日も誰かがやってくる

 

 私は貴方から奪うことしか出来ない

 

 冷たさで包むことしか出来ない

 

 だからどうか、もう少しだけ頑張って

 

 この季節が終わるその時まで

 

 

 

 

 

 せめて、終わりは少しの温もりを

 

 

 

 

 

O-01-i43 『玄い北颪の冬姫』



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O-01-i43 管理情報

すいません、前回入れ忘れていた部分があったので、最後の文章を追加しました。


 『O-01-i43』は、顔のほとんどが爬虫類の様になっている玄い着物を着た女性型のアブノーマリティーです。

 

 『O-01-i43』は臆病でさみしがりな性格をしています。『O-01-i43』に接する際には気をつけてください。

 

 『O-01-i43』へは定期的に作業を行ってください。

 

 『O-01-i43』の下着を覗こうとしないでください! 新人にも同様です! この施設にそんな挨拶は無いので変なことを吹き込むな!

 

 

 

 

『玄き北颪の冬姫』

 

危険度レベル WAW

 

ダメージタイプ B(4-5)

 

E-BOX数 24

 

作業結果範囲

 

良い 13-24

 

普通 7-12

 

悪い 0-6

 

 

 

◇管理情報

 

1、他のアブノーマリティーに5回連続で作業を行うと、カウンターが減少した。

 

2、他のアブノーマリティーのカウンターが増加すると、カウンターが増加した。

 

3、カウンターが0になると玄い亀が出現し、周囲にいるとHPとMPが徐々に減少した。

 

4、玄い亀の周囲にいる状態でHP、MPが0になった職員は水となった。

 

 

 

◇作業結果(作業好感度)

 

本能

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

洞察

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

愛着

1 高い

2 高い

3 最高

4 最高

5 最高

 

抑圧

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 3

 

非脱走アブノーマリティー

 

 

 

◇ギフト

 

鎌鼬(頭1)

 

愛着+6

 

 玄い花の髪飾り。少し冷たいが、いずれは暖かさを運んでくれる。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 なし

 

 

 

・防具 鎌鼬

 

クラス WAW

 

R 0.6

 

W 0.6

 

B 0.6

 

P 0.6

 

 玄を基調とした亀と白蛇の描かれた着物の様な防具。装備した物は肌寒さを感じる。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 はい、意味深な最後でしたが、ぶっちゃけ時間が無かったので後回しにしました。すいません。

 

 というわけで、ちょっと人外感が多めの女の子ですね。恥じらってる女の子って可愛いですよね。ちなみに読み方は『くろききたおろしのふゆひめ』です。モチーフは大体想像の通りだと思います。

 

 この子はしばらく放置していると勝手に特殊能力を発動するタイプのアブノーマリティーですね。罰鳥みたいな感じです。

 

 特殊能力を発動したら、その部門に結構な被害を出してきます。これで気をつけないといけないのが『O-01-i43』と『T-09-i96』*1で随分管理の面倒な施設になりましたね。

 

 これやっている本人も大変だったと思いますが、ゲームマスターしているこっちも管理が随分大変でした。なんで面倒な奴らを同時に収容したんですか!?

 

 ちなみに、最後のほうは放置してました。まぁ、犠牲になるのはオフィサーですからね。

 

 これで可愛い女の子が随分と多くなってきましたが、別に可愛い子が良いから増やしているわけではありません。これで難易度が上がっているのだ。

 

 それと、実はこの子は名前に全振りしていると言っていいくらい頑張って名前を考えました。この名前の中にいくつも意味があるので、良かったら考えてみてください。

 

 それではこれで、懲戒部門のアブノーマリティーも収容し、後はツールだけですね。

 

 これからどうなるのか、楽しみにしていてください。

 

*1
黄金の蜂蜜酒




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Days-29 T-09-i84『終わりが始まる』

「ふぅ、これで終わりだな!」

 

 目の前に居る『T-09-i96-1』に最後の一撃を入れて、ようやく鎮圧が終了する。今回どこかの誰かが『T-09-i96』*1の作業を怠り、それに誰も気がつかなかったせいでこいつが中央第1のメインルームまで侵入してきたのだ。そこをたまたま近くに居た俺とパンドラで鎮圧し、なんとか犠牲を出さずに終わらせることが出来たのだ。

 

「いやぁ、なんとかなりましたねー」

 

「あぁ、そうだな」

 

「それにしても誰が『T-09-i96』の作業を忘れてたんでしょうね?」

 

「ああ」

 

「全く、大事な仕事を忘れるなんてダメダメですよね! そんな事で皆を危険にさらすなんてとんでもないですよ!」

 

「ああ」

 

「ジョシュア先輩、こうなったらびしっとしかってあげましょう! その方がその子のためになると思うんですよ!」

 

「ああ」

 

「……あれ、ジョシュア先輩どうしたんですか? なんだか生返事ばっかりじゃないですか」

 

「すまない、俺の記憶が正しければ……」

 

 パンドラが生返事ばかりする俺を不審がり、心配してくる。だが、俺は今考え事をしていてそれどころではなかった。それよりも、これからどうしてくれようかで頭がいっぱいだ。

 

「確か今日の『T-09-i96』当番は、お前だったよな?」

 

「……えっ?」

 

 俺の指摘に、パンドラは石のように固まった。俺はそんな彼女を無視して話を続ける。

 

「間違っていたらすまないが、昨日が俺だったから今日はお前だよな? 順番はローテーションだから間違いようが無いはずだ。違うか、パンドラ?」

 

「えっ、えーっと…… そのぅ……」

 

「さっきは随分と威勢の良いことを言っていたじゃ無いか、いつもの自分のことは棚に上げて随分調子が良いな?」

 

「そ、それは…… そのぉ……」

 

「そういえばさっき良いことを言っていたな? たしかびしっとしかってやれだったかな? その方がその子のためになると」

 

「ちょちょちょっと、話をしませんか!?」

 

「ダ★メ♪」

 

「三十六計逃げるにしかず! ぐえっ」

 

 言い訳なんてするかと言わんばかりに勢いよくこの場から逃げ出そうとするパンドラの首根っこをつかむ。一体何回お前の相手をしてきたと思っているんだ。

 

 適当にアゴを揺らして動けなくし、首根っこを持ったまま引きずって目的地へと向かう。こいつの扱いはこんな物で良い。

 

「うぅ…… い、一体どこへ……」

 

「今日来たツールへの作業がまだだったからな、今からいこうと思ってな」

 

「そっ、それに私が行く理由は……」

 

「……」

 

 弱っているパンドラに満面の笑みを浮かべてやると、なぜか顔が青ざめてしまった。可哀想に……

 

「せめて何か言ってくださいよ! これってアレですよね!? 私を生け贄にしようと考えてますよね!?」

 

「やだな、生け贄なんて生ぬるいぞ♪」

 

「ひどい、死んだらどうするんですか!」

 

「お前は死なんだろ」

 

「死にますよ! こんなでもちゃんと死にますってたぶん!」

 

「おいおい、嘘は良くないぞ」

 

「何でそこでそんな反応なんですか! 先輩は私をどういう目で見てるんですか!」

 

「はいはい、わかったわかった」

 

「うぅぅ、先輩が冷たい……」

 

 わーわー騒ぐパンドラを無視して、懲戒部門へと向かう。今日収容されたツールは『T-09-i84』だ、変なので無ければ良いがパンドラが居るから大丈夫だろう。そんな事を考えていたら、気がつけば『T-09-i84』の収容室の前についていた。

 

「さてついたぞ生贄(パンドラ)

 

「ねぇ! 今なんて書いてパンドラって言いました!? ひどいこと考えていませんよね!?」

 

「良いからとっとと行け」

 

「ぎゃあぁぁぁ!!!!」

 

 駄々をこねるパンドラを無理矢理『T-09-i84』の収容室の前に投げ捨てる。どうせツールだし、これくらいの扱いで十分だ。

 

「いったー、何するんですか!」

 

「良いからさっさと手伝え」

 

「ひっ、ひどい! 私を実験台に使うつもりですか!?」

 

「それともお仕置きの方が良かったか?」

 

「いえ、精一杯やらせていただきます!」

 

 パンドラがやる気になったところで収容室の中を見渡す。収容室の中には大きな角笛がおいてあった。

 

 その角笛からは一対の羽根が生えており、なんだか荘厳な雰囲気を醸し出している。俺はその角笛を手に取り、パンドラに投げ渡す。

 

「わっ、これなんですか?」

 

「これが今回収容されたツールだろう、たぶんそれを吹いたら効果が発揮すると思う」

 

「……これを吹いたら良いんですか?」

 

「あぁ、頼んだぞ」

 

「その、何か注意した方が良いこととかはありますか?」

 

「そうだな、使いすぎても使わなさすぎても危ないかもしれないくらいだな」

 

「危ないって、怪我とかですよね?」

 

「はっはっはっ、この施設でそれですんだことがあったか?」

 

「ですよねー、どれくらいの時間なら大丈夫そうですか?」

 

「俺にもわからん」

 

「……えっ?」

 

 正直に答えると、パンドラは固まってしまった。俺だって始めてみるんだからわかるわけないだろう?

 

「ええっと、それじゃあどんなものかわからない物を私に試そうと言うんですか?」

 

「いつも俺がやっていることだ、手伝ってくれるよな?」

 

「そ、そんなの横暴だぁ!」

 

「わかったわかった、そこまで言うなら俺がやるよ」

 

「……いえ、せっかくなんで私がやりますね」

 

「どっちだよ……」

 

 よくわからないパンドラに呆れていると、意を決したのかパンドラが『T-09-i84』に口をつけた。そして鼻から大きく息を吸い込んで、思いっきり角笛を鳴らす。

 

「うおっ!?」

 

 『T-09-i84』から流れる音は、予想以上に大きかった。この分だとこの懲戒部門の中だったら全体に響き渡っているかもしれない。

 

「ん? なんだか力が……」

 

 しばらく『T-09-i84』の音色を聞いていると、なにやら体の奥底から力がわいてくるような気がしてきた。試しに“墓標”を振ってみると、いつもよりも体が軽くて動きやすいように感じた。もしかしたらこれが『T-09-i84』の力なのかもしれない。

 

「なんかのアブノーマリティーで試してみたいけど、さすがに近場には居ないな」

 

 脱走する奴で言えば、『T-05-i18』*2あたりが一番楽かもしれない。『F-02-i06』*3や『F-01-i05』*4あたりも良いが、個人的には苦手な部類だ。

 

 そもそも懲戒部門からだったら結構距離があるため、あまりいい手とは言えない。近場だと『O-01-i33』*5や『T-06-i30』*6がいるが、あいつらをわざわざ脱走させようとは思わない。そんな事をしたら一体どれだけ被害が出るかわからない。

 

「パンドラ、もう良いぞ」

 

「えっ、もう大丈夫ですか? 爆発とかしませんよね?」

 

「もう口を離して何もおこってないから大丈夫だよ」

 

「はっ!」

 

 俺が指摘してようやく気がついたらしい。慌てて『T-09-i84』を元々おいてあった場所に戻していたが、そんな事をしなくても大丈夫だろう。だから俺に隠れて『T-09-i84』をにらみつけながら威嚇するな。

 

 それにしても、こいつの行動にいらだっていたとは言え、この様子を見ていると少しやり過ぎたのかもしれない。さすがに何かしてやるか。

 

「悪いパンドラ、少しやり過ぎたかもしれない」

 

「えっ、別に気にしてないですよ」

 

「お前のメンタルどうなってるんだよ……」

 

 悪いと思っていたが肩透かしを食らってしまった。もしかしたらこいつは3歩歩いたら直前の出来事を忘れてしまうのかもしれない。

 

「うーん、でも何かしてくれるというのであれば、次回のお仕置きは見逃して……」

 

「それはだめだ」

 

「ですよねー、それじゃあもう少し優しくしてただければうれしいなーなんて」

 

 パンドラの要望に少し考え込んでしまう。こいつに優しくってどうしたら良いんだ? 変なことをしたら調子に乗るだろうし、面倒だ。

 

「あーもうめんどくさい」

 

「わー!! いきなり何するんですか!?」

 

 めんどくさくなったので、パンドラの頭を乱雑になでる。パンドラはいきなりでびっくりしたのかうまくていこうが出来ていないようだ。

 

「お前にはそれくらいで十分だよ」

 

「ひどいじゃないですかもう一度してください!」

 

「お前はこれでいいのか……」

 

 もう一回頭をなでてやると、彼女は満足そうにしていた。なんだか最近誰かの頭をなでてばっかりな気がする。

 

「なんか手慣れてますね、誰にでもこんなことやってるんですか?」

 

「うるさい」

 

「ぎゃあぁぁぁ!! 頭を握りつぶそうとするのはやめてください!!」

 

 ほれすぐに調子に乗る。俺はパンドラの頭を握りつぶしながら、収容室から出るのであった。

 

 

 

 

 

 この笛を吹けば、たちまち勝利を得られると言う

 

 己を奮い立たせ、正義の力が沸いてくる

 

 やがてその力は伝播し、新たなる勝利を求めて……

 

 

 

 

 

 終わりが始まる

 

 

 

 

 

T-09-i84 『終幕の笛』

*1
『黄金の蜂蜜酒』

*2
『魂の種』

*3
『吊された胃袋』

*4
『彷徨い逝く桃』

*5
『木枯らしの唄』

*6
『常夜への誘い』



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T-09-i84 管理情報

 『T-09-i84』は羽根のついた角笛型のツールです。その笛は正義感に溢れる者にしか使用できません。

 

 『T-09-i84』の音色を聞いた者は気分が高揚し、正義感に溢れます。

 

 『T-09-i84』を吹けば吹くほど、その音色は遠くまで聞こえるようになります。

 

 『T-09-i84』を吹けば吹くほど、使用している職員は体が熱くなってきます。

 

 『T-09-i84』を演奏会で使用しようとしないでください。私的な利用は大変危険ですし、興奮して観客が大暴れする可能性もあります。

 

 

 

『終幕の笛』

 

危険度クラス HE

 

継続使用タイプ

 

 

 

管理方法(情報解放使用時間)

 

1(10)

 『T-09-i84』は正義が3以上で無ければ使用できません。

 

2(60)

 『T-09-i84』を使用している間、同じ部門内の職員全員の正義が上がった。

 

3(90)

 『T-09-i84』を30秒以上使用していると、施設内すべての職員の正義が上がった。

 

4(120)

 『T-09-i84』を90秒以上使用した場合、使用した職員が爆発し同じ部門内の全ての職員はダメージを受け、施設内全てのアブノーマリティーのカウンターが0になった。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 ツールに即死は義務です!

 

 なんかこれ久しぶりに言った気がします。

 

 今回は時限爆弾的なツールですね。その分使い慣れれば有用な感じになっています。

 

 このツールは、使用中効果範囲内にいる職員全ての正義値が20上昇します。さらに使う時間が長ければ施設どこに居ても効果を得られるようになります。

 

 範囲内なら誰もが正義値を+20もバフを得られるので、強力な相手と戦うときなんかに非常に有効です。戦っている間に忘れないようにだけはした方が良いとは思いますが。

 

 さすがに、一時停止できない相手には使用しない方が良いですが、弟とやっているTRPG風ゲームのほうでならばそんな事は関係ありません。戦うときには積極的に使っていけます。

 

 また、ひどい使い方で言えば、雇ったばかりの新人を消費して『触れてはならない』みたいな使い方も出来ます。つまりは開幕のゴングです、犠牲が必要なのであっちほど気軽に遊べませんが、似たようなことは出来ます。ただしこの施設でやろうものなら大変な事になりますけどね。

 

 さすがに物が足りないでこの効果が発動すると、取り返しにならなくなってしまうので使えませんでした。正義半減に即死にPダメージにまだ見ぬALEPH、どう考えても収拾がつかないですね。

 

 これで懲戒部門は終了です。次の福祉がどうなるのか、さすがにこれ以上はひどくならないでしょう。

 

 それでは次回もお楽しみにしていてください。

 




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職員たちの平穏なひととき『陽だまり』

 最近どうにも、自分の心がわからない。目の前で彼が話をしてくれているというのに、せっかくの話が耳に入ってこない。

 

「どうしたんだよ、シロ?」

 

 彼のことを見ていると、胸が高鳴り苦しくなる。彼の声を聞くと安心する、彼と一緒にいると温かい気持ちになる。

 

「……ううん、何でも無い」

 

「そうか、それなら良いんだが」

 

 そう言って彼はまたお話しの続きを始める。ボクは、この時間がとっても好きだ。彼はボクの知らないことを一杯知っている、ボクが相づちを打たなくてもお話しを続けてくれる。こんな愛想のない、話すことが苦手なボクを見限らずに一緒にいてくれる。

 

 気がつけば、ボクの日常は彼が一緒にいる日常になっていた。一体いつからそうなったのかはわからない。はじめのほうは嫌がるどころか認識もしていなかったのに、気がつけば彼はボクの深いところまで潜り込んできていた。

 

 全てがどうでも良かった私の世界をこじ開けて、ボクに世界を見せてくれた。不思議な感情を、人の温もりを、世界の色を……

 

「それで、この前さ……」

 

 彼は話をするとき、とても楽しそうにしている。きっと話をすることが好きなのだと思うけど、それがボクと話しているからだとしたらとても嬉しい。けど、彼はきっと誰と話すときもこうなのだろう。

 

 彼は優しい、ボクのことをずっと気にかけてくれたし、いつも一緒にいてくれる。それでも、その優しさはボクだけの物ではない。彼は誰にでも優しいのだ。

 

 新人の子たちにはいつも面倒を見てあげてくれているし、あの変な生き物だって見捨てない。だから皆彼のことが大好きだ、それが、なんだかボクの心の中をもにゅもにゅさせる。

 

「あっ、ジョシュア先輩! おはようございます!」

 

「おう、タチアナか。おはよう」

 

「そうだっ、聞いてくださいよ! この前……」

 

 ジョシュアと一緒にお話をしていたというのに、誰かが間に入ってきた。彼女は最近ジョシュアと一緒によくいる気がする。目の前で楽しそうに話をしているところを見ていると、やっぱりもにゅもにゅする。それにこの人のジョシュアを見る目が、なんだか気にくわない。何でなんだろう……

 

「あっ、すいません! 話し込んでしまいました、それでは失礼します!」

 

「あぁ、またな」

 

 ジョシュアが彼女と話した時間はそんなに長くは無かったのに、なんだかとっても長く感じた。そもそもボクが話しているんだから、もう少し遠慮をして欲しい。

 

「さて、それじゃあそろそろ仕事に戻るか」

 

「……うん」

 

「またな、シロ」

 

「……ジョシュアもまたね」

 

 楽しい時間ももう終わり、彼と別れを告げてボクも仕事に戻る。かなうことなら彼と一緒に仕事をしたいと思うが、ボクと彼とでは行う仕事が違う。ボクは危険度の高いアブノーマリティーに作業を行ってエネルギーの回収を優先することが主な業務だけど、彼は未だによくわかっていないアブノーマリティーに作業をしてそのアブノーマリティーがどのような存在かを明らかにしていくのが役割だ。

 

 『T-04-i09』*1へ作業を行うために安全部門へ向かう。途中で薬におぼれた箱形のロボット、ネツァクに出会ったが、お酒に酔いつぶれて転げているため無視をする。これはいつもこんな調子だ。もう壊れかけだし、あまり好きにはなれない。

 

「……はぁ」

 

「あらやだ、甘酸っぱい青春の匂いがするわ」

 

  思わずこぼれたため息は、思わぬ人物に拾われた。彼…… 彼女?はルビー、最近覚えた人物の中で一番謎の多い人物だ。ボクは男性だと思っていたが、周りの人物は女性扱いしているので、ボクもそうした方が良いのだろう。彼女はボクの顔を見ると、いきなり目を覗いてきた。いきなりだったので少しびっくりしたけど、彼女は何もしてこないのでどうすれば良いのかわからなくなってきた。仕方が無いので彼女に頑張って話しかけることにする。

 

「…………どうしたの?」

 

「いやね、あなた悩み事があるんじゃない?」

 

「…………そんな事は無い」

 

「でも、ジョシュアちゃんがほかの子と一緒にいると変な気持ちになるんでしょう?」

 

「…………なんでっ」

 

「あら、鎌かけたら当たっちゃったわ」

 

 ……やっぱりこの人は苦手だ。ボクが言うのも何だけど、何を考えているのかわからない。必要以上に距離を詰めてこないくせに、なんだかこっちの内面を見透かされているような気がする。見た目も性格も、ボクには合わないんだと思う。

 

「やっぱりジョシュアちゃんのことが好きなのね?」

 

「…………貴方には関係ない」

 

 いきなりそんな事を言われてびっくりする。そもそも好きとか嫌いとか、よくわからない。強いて言うならあの変な生き物が嫌い、というか苦手なくらいだ。

 

「それって言ってるような物よ、せっかくだから恋バナしましょ、恋バナ!」

 

「…………それに意味があるとは思えない」

 

「意味なんて無くても良いのよ! それよりも誰かの話を聞いたり、話をした方が自分のためになることもあるのよ」

 

「…………でも、仕事が」

 

「そんなの後でも良いのよ、それよりもエージェントのメンタル管理のほうが大事よ」

 

 有無を言わさぬ感じ手を引かれ、無理矢理休憩室に連れて行かれる。正直ジョシュア以外と話した事なんてほとんど無いから、すこしドキドキしてしまう。

 

「さて、それじゃあ何から話をしましょうか?」

 

「…………何も話す事は無い」

 

「そんなつれないことを言わないでよ、ジョシュアちゃんのことが好きなんじゃないの?」

 

「…………そもそも、好きって言う感情がわからない」

 

「あらあら」

 

 仕方が無いので正直に話すと、彼女は意外そうな顔をしてから、なにか納得したようにうなずいた。

 

「そうね、それじゃあいくつか質問して良い?」

 

「…………もう、勝手にして」

 

 どうせ何を言ってもすることになるのだろう。それならもうあきらめて、素直に従って早く終わらせた方が良い。

 

「もしもジョシュアちゃんがほかの子と一緒にいたら、どんな気持ちになる?」

 

「…………なんだか、心がもにゅもにゅする」

 

「も、もにゅもにゅ? まぁ、なんとなくわかるわ」

 

 本当にもにゅもにゅするのだが、どうやら彼女にはわからなかったらしい。好きを知っている彼女にわからないのであれば、この感情は好きでは無いのかもしれない。

 

「それじゃあ、彼と一緒に居ると、どんな気持ち?」

 

「……すごく、心が暖かくなる」

 

「あら、それは良いじゃない。それじゃあ次は、彼が他の女の物になっちゃったらどうする?」

 

「…………他の女の物? 彼は物じゃない」

 

「ふふっ、言葉の文よ、そんなに怒らないで。彼に恋人が出来ちゃったらどうするのって言ってるのよ」

 

「…………えっ」

 

 そんな事考えたことが無かった。彼が他の人のところに行っちゃう、それはきっと今までのような関係では居られなくなってしまう。そう考えると、なんだか心の中がずしっと重くなって、気持ちが悪くなってしまう。

 

「あらあら、随分重傷ね。大丈夫よ、今の彼にそんな気は無いみたいだから」

 

「…………どうしよう、どうしたら良いの?」

 

 今まで考えもしていなかったけど、一度でも考えてしまったらどんどん考えてしまう。するとどんどん悲しくなってどうしたら良いのかわからなくなってしまった。

 

「そうね、それならあなたが彼の恋人になったら良いんじゃ無いかしら」

 

「…………ボクが?」

 

 それもまた、盲点だった。しかし、ボクが彼とそんな関係になることが出来るのだろうか? 正直に言えばボクは恋人になるってどういうことかわからない。そんなボクが彼と一緒にやっていくことは出来るのだろうか?

 

「大丈夫よ、彼もあなたの事悪く思ってないはずだから」

 

「…………それじゃあ、どうしたら良いの?」

 

「それはね、一回彼と会って話をしてみなさい。あなたがどうしたいか、何をしたいのかを言葉にするの。こんな職場だから、ちゃんと伝えないと手遅れになっちゃうわ」

 

「…………けど、ボクの気持ちが好きじゃなかったら」

 

「そんなに心配なら、彼と会ったときに自分の気持ちに向き合ってみなさい。そしてその感情に名前をつけてみるの、その気持ちにぴったりの名前」

 

「さて、ちょっとお話しが長くなっちゃったわね。それじゃあ私はもう行くわ」

 

 そう言うと彼女は立ち上がって、休憩室から出ようとした。そして、出る直前にこちらを向いて口を開いた。

 

「命短し恋せよ乙女ってね、私たちの命はもっと短いんだから、後悔しないようにね」

 

 それだけ言うと、彼女は去って行った。……全く、嵐のような人であった。だけど、どこか心は温かくなった気がする。

 

「…………とりあえず、一回会いに言ってみようかな」

 

 とりあえず『T-04-i09』の作業が終わった後に、もう一度彼に会いに行こう。そう思うと、なんだか心が軽くなった。

 

 

 

 

 

「ねぇティファレト、また賭けをしましょうよ」

 

「いいよティファレト、それじゃあ今回も僕は助かる方にかけるよ」

 

「そう言って前も同じほうにかけたじゃ無い」

 

「でも次はいける気がするんだ」

 

 中央本部に着くと、悪趣味な双子のロボットが居た。彼らはよく精神汚染のひどい職員が助かるかどうかをかけている。正直そんな事をされたら、見世物になっているようであまり好きでは無い。

 

 ジョシュアからたまに話を聞くけど、基本的に彼らセフィラはあまり職員から好かれていないらしい。まぁ、薬におぼれた奴やいらないことを強要してくる奴、見下している奴や彼らなど、出会ってしまえばその理由はわかる気がする。

 

 ボクはそうそうに彼らから離れ、ジョシュアを探す。すると、どこからかぬるっと奴が現れた。

 

「あれ、シロちゃんじゃないですか!」

 

 あぁ、やっかいな存在に出会ってしまった。この変な生き物は何をしでかすかわからない、大変危険な存在だ。よく予測不可能な行動をしてジョシュアを困らせる、彼にとっての悩みの種だ。とても危険だ。

 

「どうしたんですかシロちゃん、なんだかいつもと雰囲気違うくないですか?」

 

 戯れ言は無視して廊下を進む、せっかく仕事が一段落ついて彼のところに行こうと思っているのに、こんな奴にかまっている暇なんて無い。しばらくすれば飽きて他の獲物を探しに行くはずなので、こうするのが一番だ。

 

「あっ、わかった! シロちゃん恋してますね!」

 

「…………はぁ?」

 

「あっ、その反応は結構傷つきます」

 

 ルビーに言われたときはそうでもなかったのに、これに言われるとなぜか嫌な気分になる。どうしてだろうか?

 

「もしかして愛しの彼を落とす方法をお探しですか?」

 

「……完全無視は結構傷つきますよ? 今ならとっておきの情報を教えてあげますよ!」

 

 どうせこれの言うことはたいしたこうとは無いだろう。だが、ルビーが言っていたように誰かの話を聞いてみることも大切だろう。こんなのでも有益な情報を持っているかもしれない。

 

「あっ、やっとこっちを見てくれましたね! それじゃあとっておきの情報をお伝えしますね!」

 

「ちなみに、誰が好きなんですか?」

 

 さすがにこれにそんな事を伝える必要は無い。別に伝えても問題は無いと思うけど、なんだか負けた気になるからやめておく。

 

「うーん、シロちゃんの好きそうな人なんてジョシュア先輩くらいしか思いつきませんね」

 

「彼を落とすにはお酒で酔わせるのが一番ですよ! もちろん密室で二人きり、出来れば彼の部屋か自分の部屋が良いですよ! 特にシロちゃんみたいなひとがそんな事をするなんて思わないはずですから、奇襲が成功するはずです!」

 

「酔わせてしまえばこっちのもんですね、あとはやりたいことは何でも出来るし、何でもしてもらえますよ!」

 

「ジョシュア先輩意外と強くないですし、酔わせたら結構言うこと聞いてくれますからね!」

 

「ようパンドラ、面白そうな話をしているじゃ無いか」

 

「あっ……」

 

 パンドラがマシンガンのように話をしていると、その背後から彼がやってきた。ボクの心を埋め尽くして止まない、彼が。

 

「ぎゃあぁぁぁ!! 頭を握りつぶそうとしないでください! 割れちゃいます!!」

 

「いいからシロに変なことを吹き込もうとするんじゃ無い!!」

 

 変な生き物のくせに、ジョシュアに頭を触ってもらえるなんてずるい。私も彼に触れてもらいたいって思うことは、いけないことだろうか?

 

「まったく、何を言われたかわからないが、パンドラの言うことはあまり信じるなよ?」

 

「……うん」

 

 アレへの折檻を追えて、ジョシュアがこっちに話しかけてきた。目が合うだけで心が熱くなり、心臓の鼓動が早くなる。

 

「この後暇か? もし良かったら、もうすぐ仕事も終わるし、今日は一緒に飯でも食べるか?」

 

 ルビーが言ったようにこの感情の名前を考える。彼と出会ってから、ボクの(こころ)陽だまり(ジョシュア)に溶かされてしまった。キャンバスは鮮やかに彩られ、美しい世界になった。胸の中の苦しさや切なさ、高ぶりと喜び。この荒れ狂うようにたくさんの感情たちは一体何なんだろう。

 

 今のボクにはまだわからないけど、もしもこれが好きって感情なら嬉しいと思ってしまった。

 

「うん!」

 

 とりあえず、彼と一緒に食事をしよう。ルビーが言っていたようにしっかりとお話をして、この気持ちを確かめよう。

 

 そして、その後に二人っきりになって一緒にお酒を飲もう。そうしたら、きっと彼はボクの言うことを聞いてくれるはずだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうしたら、きっと頭をなでてくれるよね?

*1
『森の守人』



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Days-30 灰燼の深夜『国造り』

今ここに 新たな世界を作ろう


「ふぅ、今日ももう少しで終わりだな」

 

「そうだな、だけど最後まで油断するなよ?」

 

「わかっている、そろそろ最後の試練が来るんだろう?」

 

 夕暮の試練を鎮圧し、今日の業務ももうすぐ終わる。今は休憩室でリッチと一緒に休んでいるが、もう少ししたらまた業務に戻らなければなら無い。それに、もうそろそろ深夜の試練が来るはずだ。今まで奴らが来るまでに管理人が業務を切り上げてきていたが、そろそろ奴らとも戦わなければならないだろう。

 

「あぁ、いつ来ても良いように心構えをしておいた方が良いだろう」

 

「大丈夫だ、今更油断するような奴も居ない」

 

「それは俺たちベテランだけだろう? さすがに新人たちはちゃんと戦えるか不安だよ」

 

「彼らは最初から戦力に入れていない」

 

「ははっ、手厳しいな」

 

 そうはいっているが、これもリッチなりの優しさなんだろう。深夜と言えばALEPHクラスの脅威だ、そんな奴らと戦うのは、彼らには酷だろう。

 

「さて、それじゃあそろそろ行こうか」

 

「あぁ、お互いに頑張ろう」

 

「お前もな」

 

 拳と拳を付き合わせてぶつける。お互いに健闘を祈りながら休憩室を出て次の業務へと向かう。今までも幾度となくこいつと一緒に戦ってきたが、これからも大丈夫だという保証は無い。

 

 だから互いに、健闘の言葉を贈る。これは俺たちにとって心配でもあるが、信頼でもある。

 

 

 

 

 

『懲戒部門のメインルームにて、試練が発生しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

「……ついに来たか」

 

 あれからエネルギーの充電を終わらせるためにラストスパートをかけているところで、ついにそのアナウンスが鳴り響いた。俺は覚悟を決めて懲戒部門のメインルームに向かう。この施設において初めての深夜との戦いだ。

 

 ゲームにおいて深夜の試練は放置しておけない危険な存在だ。強力な攻撃と特殊な能力、その被害の質と範囲は桁違いであり、体力もあり得ないほど多い。職員全員でかからなければならない相手が深夜なのだ。

 

 中央第一という比較的に近い場所にいたため、目的にはすぐにつくことが出来た。この扉を超えれば、ついに深夜の試練との初の対面だ。気を引き締め帝かなければ……

 

 

 

 

 

「……なんだよこれは」

 

 目の前に広がる光景に、思わずそうつぶやいてしまった。もちろん警戒も解いては居ないし、E.G.O.も構えてはいるが、呆然としてしまいそうなほどに衝撃的な光景であった。

 

 そこに居たのは、見上げるほどに巨大な山。いや、それはもう一つの島と言って良いほどの大きさの何かであった。それは広大な大きさを誇るメインルームを占拠し、さらには中央に灰色の光が集まっている。これは時間が経過したら大変な事になることが容易に想像できる。早く手を打たなければ。

 

「くそっ、やってやる!」

 

 “墓標”を構えて目の前の深夜に向かって突撃する。すると、なにやら地響きと共に嫌な予感が俺の頭をよぎった。

 

「まずいっ!!」

 

 もはや直感でその場にいては危険だと感じ、全力で地面を蹴ってその場から離れる。すると、先ほどまで俺が居た場所から、巨大な岩の柱が飛び出してきた。これが奴の攻撃なのだろうか? いや、それにしては柱がその場に残ったままだ。もしやこれが本命では無い?

 

 体勢を立て直し、深夜の試練、いや灰燼の試練に向かって走り出す。接近自体は相手が巨大であったために簡単であったが、近づいてみるとその大きさに圧倒されそうになる。

 

「いや、これはどこから攻撃してけばいいいんだ?」

 

 思わず声に出てしまったが、やらなければならないだろう。さすがに光の集まっている部分は高すぎて攻撃できないので、地面から突き出ている根元の部分を“墓標”で攻撃していく。まるで蟷螂の斧にでもなった気分だが、それでも手応えはあるので聞いていると信じたい。

 

「悪い、遅くなった!」

 

「さて、一発かますわよ!」

 

 そこで、リッチとルビーが加勢に来てくれた。ルビーはその場から“種子”で攻撃を放ち、リッチはつい最近手に入れたE.G.O.“簒奪”を構えながらこちらに向かってくる。俺はさっき受けた攻撃を伝えるために二人に向かって声をかける。

 

「気をつけろ! こいつ地面から攻撃してくるぞ! 地響きがしたら要注意だ!」

 

「わかった、十分に警戒する!」

 

「任せなさい!」

 

 俺の注意と共に二本目の柱が地面から生えてきたが、そこはリッチともルビーとも全然関係の無いところであった。

 

 やはり、これはただの攻撃では無いらしい。この行動にどんな意味があるのかわからないが、先ほどよりも中央の光が増している。このままでは確実に何らかの攻撃が飛んでくる。

 

「光が強くなった、急ぐぞ!」

 

「任せろ!」

 

 ついにリッチが到着し、同時に灰燼の深夜に攻撃を加える。少しずつではあるが、灰燼の深夜の表面が徐々に削れてくる。これほどの図体だ、おそらくは相当な体力を持っていることだろう。

 

 攻撃を続けながらも、周りに柱が立ってきている。そしてそれと同時に、中央の光はどんどんと輝きを増していく。

 

「……ちょっと待って! もしかしたらこれ、真ん中のデカブツを中心にどんどん柱が外に向かって生えてない!?」

 

「なにっ、本当か!?」

 

 ルビーの声をきいて、周りを見渡す。すると確かに中央の本体から徐々に離れる様に柱が立ってきている。そして、その柱はもうすぐ部屋の端まで届こうとしていた。

 

「まずい、部屋から逃げろ!」

 

 俺の言葉と共に全員でメインルームの出口に向かって走り出す。そして同時に最後の柱が出現し、中央の光が輝きをまして点滅し始めた。

 

 そして、中央から閃光が放たれると同時に出口に飛び込み、扉を閉めようとする。だがそれよりも早く光の波動が押し寄せてきて、吹き飛ばされてしまった。

 

「ぐはっ!!」

 

「ジョシュア、大丈夫か!?」

 

 あまりの衝撃に一瞬目の前が真っ白になってしまった。しばらく体の感覚が無かったが、徐々に痛みが広がってくる。そしてかすかに聞こえてくる仲間たちの声に気がつき、力を振り絞って体を起こし、目を開く。

 

「ぐっ、どうなったんだ……」

 

「大丈夫か、ジョシュア?」

 

「あぁ、なんとか……」

 

「あなたあいつからの攻撃にぎりぎり吹き飛ばされてしまったのよ。なんとか大丈夫だったみたいだけど、あんまり無理はしちゃだめよ?」

 

「わかった、二人は大丈夫か?」

 

「こっちは大丈夫だ」

 

「私もよ、それよりもこのままだとまずそうね」

 

 回復リアクターによる治療でなんとか痛みが引いてきたところで、再び懲戒部門のメインルームに入る。すると、そこはさっきまでとは全く違う様相に変わっていた。

 

「なんだここは……!?」

 

 そこにはもう、灰燼の深夜はどこにも居なかった。そして、床はすでに存在せず、堅い大地が広がっていた。

 

 巨大な柱はそのままに、それ以外の全てが破壊され、新たな大地に変換されている。俺たちは随分と久しぶりに大地を踏みしめて、辺りを見回す。すると、管理人から通信が入ってきた。

 

『すまない、灰燼の深夜は情報部門のメインルームに出現した。今から向かえるか?』

 

「あぁ、こっちは大丈夫だ。今から向かう」

 

『そうか、あまり無茶はするなよ?』

 

「これくらい、無茶には入らない」

 

『すでにメッケンナとマオが戦っている、なるべく急いでくれ』

 

「了解だ」

 

 通信の内容は二人にも届いていたようで、無言でうなずいてついてきてくれた。俺たちは再度奴と戦うために、情報部門へと向かう。ここからならまだ近い方だ、メッケンナたちが心配だし急いで向かわなければ。

 

 

 

「大丈夫かメッケンナ! マオ!」

 

「ジョシュアさん! こっちはなんとか大丈夫です!」

 

「お前なんて居なくても俺たちだけで十分だ!」

 

 メッケンナが“鬼退治”で切りつけながら、マオが“手”で殴りかかる。二人で大分攻撃しているようだが、未だに灰燼の深夜に一目でわかる変化は無い。

 

 灰燼の深夜の周囲に生えている柱はさほど多くは無い、なんとか間に合ったようで俺たちも加勢して攻撃に加わる。柱もこいつの近くに居れば生えてこないし、柱の近くにも生えてこない。注意をしていれば攻撃に当たることは無いだろう。

 

「大丈夫ですか皆さん!」

 

「下から柱が生えてくるぞ! 気をつけろ!」

 

「わかりました!」

 

 パンドラやシロといったこの施設のメインメンバーがそろい、攻撃がどんどん苛烈になっていく。そしてどんどん攻撃を加えていく度に、灰燼の深夜は削れていった。だが、それでもその巨体は未だに健在で、なかなか斃れる気配は無い。

 

「くそっ、そろそろ攻撃が来るぞ! 皆逃げろ!」

 

 柱がメインルームの端まで到達しそうになってきたので、そろそろ撤退するように指示する。そして別のメインルームにまた出てきては追いかけては攻撃するという追いかけっこを続けていると、ついに残るはコントロール部門だけとなってしまった。

 

「なぁ、これって全ての部門がやられたらどうなるんだろうな?」

 

「さあな、どうせ碌な事にはならないだろう」

 

「そうだよな、だったらここで決めないとまずいよな」

 

 コントロール部門のメインルームへとたどり着き、灰燼の深夜の元へとたどり着く。何度も攻撃をしてきたおかげか、その表面はすでにボロボロで、“種子”による攻撃で罅などの隙間から植物が無造作に生えている。その植物も俺の“墓標”やリッチの“簒奪”で所々枯れており、なんとも不気味な見た目になっている。

 

 あれほど大きく圧倒してきた巨体も随分を細くなり、今にも折れそうになっている。そろそろこいつも終わりのはずだ全員でもう一度攻撃を加えていくと、なぜか柱もあまり生えていないというのに中央の光が点滅し始めた。

 

「まずい、何か来るぞ!」

 

 俺の声と同時に、管理人からBシールドの弾丸による支援が届いた。光の波動が俺たちに襲いかかるが、なんとかBシールドのおかげで耐えきることが出来た。

 

「助かった管理人!」

 

『ここでなんとしても終わらせてくれ、ジョシュア!』

 

「もちろんだ!」

 

 何度も灰燼の試練に抵抗をされながらも、確実に削っていく。しかし相手もただでは終わらない。周囲の柱は着実に増えていき、どんどんと中央の光が増していく。そして、その光は今までとは比べものにならないほどの輝きを放っていた。

 

 このままでは、今まで以上の攻撃が来るだろう。おそらくその攻撃は、この部門を、いやこの施設全体にまで被害を及ぼすかもしれない。ならばそうなる前に決着をつけなくてはいけないだろう。

 

「なんだこの音色は!?」

 

「まさかこれは、『T-09-i84』*1の音色か!!」

 

 その時、どこからともなく『T-09-i84』の音色が鳴り響き、俺たちに力をもたらしてくれた。どうやらここに居ない新人たちの誰かが吹いてくれているようだ。

 

 その音色に後押しをされて、最後の気力を振り絞る。そしてついに灰燼の深夜は細く、小さくなっていった。

 

「はやく、折れやがれ!」

 

 そして、“墓標”を灰燼の深夜に突き立てると、灰燼の深夜に徐々に罅が広がってきて、ついに強大であったそれは、ボロボロと崩れていった。

 

 それと同時に周囲の柱たちも崩れていき、ついに灰燼の深夜を鎮圧したことを実感したのであった。

 

「やっt「やったぞジョシュア!」たよジョシュ……ア……」

 

「うおっ、やめろよリッチ!」

 

 珍しくシロの喜び声を聞いたと思ったら、リッチが俺に抱きついてきた。いやいや、男に抱きつかれたも嬉しくないんだが。

 

「まぁ、なんとかなったな」

 

 シロが変な目で見てくるけど、なんとか皆被害無く終わったことが、今は何よりも嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 灰燼の深夜 鎮圧完了

*1
『終幕の笛』




これで ようやく眠れる


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EX-Story-7 『ひとりぼっちの演奏会』

詫び石です(大嘘)


「最近シロの距離感がおかしいんだ」

 

「惚気話ならよそでやってくれ」

 

 リッチに最近の悩みを相談していると、ばっさりと切り捨てられた。ひどいじゃないか、俺にとっては結構な悩みであるのに、リッチにはそうには聞こえなかったらしい。

 

「いやいや、本当に困っているんだって」

 

「……はぁ、それでどんな悩みなんだ」

 

 どうやら俺の必死さがようやく伝わったらしい。リッチは呆れながらも俺の話を聞いてくれるようだ。

 

「最近なぜか距離が近いんだよ、この前一緒にお酒を飲むことになってめっちゃスリスリしてきたし」

 

「それ以来ボディタッチが多くなってきたというか、物理的に距離が近くなるし、食事の時間とか休憩するときとか業務以外の時間では常に一緒にいるんだ」

 

「ほう、それは良かったな」

 

「いやいや、周りからの目が大分辛いんだって!」

 

 俺は必死に大変であることをリッチに訴えるが、リッチはそんなのどこ吹く風と適当に返事をする。さすがにそんな反応をされると結構辛いな。

 

「それはおいといて、仕事のほうはどうなんだ? やっかいなのばかりがやってきているんだろ?」

 

「まぁ、『O-01-i37』は確かに作業をするときは面倒だけど、基本的に愛着作業をしていれば大丈夫な気がするな。あとは『T-02-i29』*1と『O-01-i43』*2だけど、『T-02-i29』は自制の低い職員に作業をさせなければ大体は大丈夫だし、『O-01-i43』も愛着作業をしていれば大丈夫だな」

 

「その前の奴らを忘れてないか?」

 

「いや、あいつらは一緒に戦ったからわかっているだろう? とにかく新参者たちは気をつけてさえいれば大丈夫さ。後はパンドラが何もしなければ」

 

 話が一区切りついたのでお茶を飲み、そろそろ仕事に戻る準備をする。もう少し愚痴を言いたかったが、相手に聞く気が一切無いようなので残念ながらここまでにしておく。リッチも一緒に準備をしてから立ち上がり、休憩室から退出した。

 

「さて、次の作業はどこだ?」

 

「俺は『O-01-i37』だよ、そっちは?」

 

「俺は『O-01-i33』*3だな、さっさとエネルギーを集めて業務を終了させたいな」

 

「まったくだよ」

 

 そんな話をしながら中央第一のメインルームにたどり着くと、なぜかしんと静まりかえっていた。メインルームはいつも誰かが居るから、こんなにも静かであることは珍しい。一体どうしたというのだろうか?

 

「おい、どうしたんだよ」

 

「ジョシュア、アレを見ろ」

 

「なっ!?」

 

 リッチが指を差した方を見ると、そこには銀色の髪を持つ美しい少女が立っていた。周りを見れば周囲のオフィサーたちは彼女を見て唖然としている。いつの間に脱走していたのか、もしかしたら脱走と同時にワープしてきたのかもしれない。

 

 その少女は自身の髪を床に突き刺すと、その細い指で軽くなでようとする……

 

「まずい、全員耳をふさげ!」

 

 俺の声に何人が反応できたのであろうか? 『O-01-i37』が演奏を始めると、その瞬間に周囲の耳をふさいでいなかったオフィサーたちの頭がはじけ飛んだ。それと同時に今更ながら脱走のアナウンスが響き渡り、そのあまりの遅さに憤りを感じた。

 

『『O-01-i37』が脱走しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

 演奏が終わっても『O-01-i37』の髪の毛はふんわりと浮き上がり、そのこすれる音で曲を奏でる。先ほどまでの殺傷能力は無いようだが、それでも驚異であることには変わりは無い。俺は“墓標”を構えてリッチに声をかける。

 

「こうなったら速攻で終わらせるぞ!」

 

「わかった!」

 

 二人で接近してお互いのE.G.O.で『O-01-i37』に斬りかかる。すると『O-01-i37』は自身の髪の毛を自在に操り、俺たちの攻撃をガードした。

 

「なっ、堅い!」

 

 攻撃を防がれたので一旦後ろに下がると、『O-01-i37』の目の前に五線譜が現れる。そして自身の髪を床につきさすと、ギターのようにかき鳴らし始めた。

 

「まずいっ!!」

 

 五線譜の直線上から急いで離れ、耳をふさぐ。すると五線譜の直線上に大量の音符がすごい勢いで流れていき、衝撃を発しながら壁を通り抜けていく。その直線上にいたオフィサーたちは皆そろって頭を爆発させていた。

 

「ぐっ、頭が割れる」

 

 ずっと耳をふさいでいても仕方が無いとは言え、手を離せば頭に彼女の曲が響く。本当にこれは短期決戦をするしかなさそうだ。

 

「ジョシュアさん、助けに来ました!」

 

 すると、“鬼退治”を構えながらメッケンナがメインルームに入ってきた。メッケンナは“鬼退治”で『O-01-i37』に斬りかかるが、髪の毛で防がれてしまう。

 

 その隙を突いて背後から“墓標”で突き刺すと、『O-01-i37』は苦しみもだえだした。それと同時に曲も乱れ、悲しげな曲調に変化する。

 

「ジョシュアさん、この曲なんですけど、もしかしたら施設全域に響いているかもしれません」

 

「なんだって!?」

 

「オフィサーたちや新人たちには耳をふさぐように言ってありますけど、教育部門でも聞こえてきていました。おそらくは他の部門にも聞こえていると思います」

 

 その話が本当ならば、一刻も早く倒した方が良いだろう。耳をふさぐと言っても完全にふさげるわけでは無い。漏れ聞こえる曲でどんどん体も精神も蝕まれていくだろう。このままだと本当にまずい。

 

「二人とも、なるべく攻撃して隙を作ってくれ!」

 

「わかりました!」

 

「うまくやれよ!」

 

 二人がE.G.O.で攻撃をして隙を作りつつ、“墓標”で攻撃を行っていく。さすがに相手もただではやられてくれず、随分と俺を警戒して防御に回っているが、守ってばかりでは俺たちを倒すことは出来ない。

 

 防御の上から少しずつ攻撃を加えて少しでもダメージを与えて言っていると、予期せぬ出来事が発生した。

 

『『O-02-i24』*4が脱走しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

「くそっ、こんな時に!」

 

 どうやらいくつもの死の匂いに誘われて、『O-02-i24』が脱走してしまったようだ。奴は脱走したら職員か脱走したアブノーマリティーを襲い始めるが、今はタイミングが悪い。こっちに来てくれるならましだが両手のふさがっている職員のほうに行ってしまったら大変だ。どうかここに居ないエージェントたちが向かってくれることを祈るしか無い。

 

 しかし、そのアナウンスに気を取られてしまい、『O-01-i37』に反撃の隙を与えてしまった。『O-01-i37』は自分の髪の毛をひときわ大きくならすと、この収容室の全体に音と音符をまき散らした。

 

「しまった!」

 

 さっきの攻撃でとっさに耳をふさぐことが出来ず、その音色をまともに聞いてしまう。その曲はとても悲しい孤独の音色であった。しかし、その曲に飲まれてしまえば死んでしまうのはこちらだ、なんとか気力を振り絞って曲にとらわれないように気をつける。

 

「くそが!!」

 

 “墓標”で『O-01-i37』に攻撃をすると、彼女のほほにかすって血が流れる。俺たちと同じ赤い血が流れるのが気分を悪くさせる。本当に、見た目だけは人間の女の子なのだ。

 

「おうおう、楽しそうなことをしているじゃねぇか!」

 

 そこに、望まぬ客人がやってきた。どうやら『O-02-i24』は一直線にこっちに来たらしい、我々としてはありがたい。

 

 『O-02-i24』は『O-01-i37』に目をつけると、その鋏をならして近づいていく。

 

「お前がうるさい音を出していた迷惑さんか! いい加減にしやがれ!」

 

 『O-02-i24』が『O-01-i37』に攻撃を仕掛けようとすると、彼女は『O-02-i24』をにらみつけた。そして曲調は激しく低くなり、今までに無い怒気を感じさせた。何が彼女をそこまで怒らせてしまったのだろうか?

 

「ぐおっ!?」

 

 『O-01-i37』が髪の毛を一撫ですると、彼女の周囲に音符が踊り出し音と共に俺たちと『O-02-i24』を吹き飛ばした。

 

 そしてそのまま『O-02-i24』に詰め寄ったかと思ったら、五線譜で『O-02-i24』を拘束し、自身の前にも五線譜を出現させた。そしてそのまま拘束した『O-02-i24』にむけて、音の濁流を浴びせかける。だがそこはアブノーマリティーを狩ることを生業としている『O-02-i24』だ。なんとか耐えて反撃に移ろうとするが、再び『O-01-i37』が髪を一撫ですることで消し飛ばされてしまった。

 

「マジかよ……!?」

 

 彼女はそのまま演奏を始める。このままでは俺たちも持たなくなってしまう、なんとかして倒さなければ……

 

「くそっ、今度こそぶっ倒してやる!」

 

 “墓標”を握りしめて『O-01-i37』に向かっていく。“墓標”による突きは髪の毛で弾かれてしまうが、その隙をついてリッチが“簒奪”で斬りかかる。

 

 『O-01-i37』はなんとかよけようとしてバランスを崩し、メッケンナが“鬼退治”で攻撃をする。“鬼退治”は『O-01-i37』の腹に突き刺さり、彼女が必死になって抜こうとするところで、俺は“墓標”を突き立てた。

 

「……すまないな」

 

 そのまま“墓標”を『O-01-i37』の胸の中心に突き刺すと、彼女は一瞬目を見開いた。そして最後の最後まで自身の髪の毛で曲を奏でると、事切れる直前に曲を最後まで演奏しきったのだった。

 

 

 

 

 

「さて、こうなった原因を探らなければな」

 

 『O-01-i37』を鎮圧し、しばらく回復してからもう一度彼女の収容室に向かう。なぜ彼女が脱走してしまったのか、その原因を確かめるためだ。彼女を作業していた職員からは話を聞いてきた、脱走の条件はある程度わかったため、どこまでなら脱走しないかを確認することになった。

 

 支給されたヘッドホン型の防音装備を身につけて、『O-01-i37』の収容室に入る。

 

 そこには、相変わらず自身の髪の毛で曲を奏でる『O-01-i37』がいた。

 

 彼女は俺に気がつくと、笑顔で手を振ってきた。俺も手を振り返すと、いつもと違う雰囲気であることに気がついた。

 

 もう随分慣れてきたこの感覚に、俺は身を任せることにした。

 

 

 

 

 

 私にとって、この音楽こそが全てであった

 

 美しい音色、楽しい音色、嬉しい音色、悲しい音色、怒った音色

 

 私は音楽に全てを乗せることが出来た

 

 だけど、周りの全てはとても儚い存在であった

 

 誰も耐えきれないのであれば、一人で弾くしか無かった

 

 だけど例えどれだけ一人で弾いても、聞く人の居ない音楽はむなしいだけだった

 

 だから私は、誰かに聞いて欲しい、私の気持ちを、私の音色を

 

 だから俺は、その旋律に……

 

 

 

 

 

 耳を傾ける

 

 

 

 

 

 嬉しいな、嬉しいな

 

 これは私の曲を聴いてくれたお礼だよ

 

 そう言いながら彼女は俺のほほを撫でる

 

 ほほに熱が集まると、彼女は満足げな表情を浮かべて

 

 俺の耳についた装備を取り外した

 

 

 

 

 

「なっ、何を!?」

 

 慌てて耳を塞ごうとするが、彼女に手首を掴まれてしまう。

 

 どうにかして耳を塞ごうとするが、そこでふと気付く。

 

 例え手で演奏していなくても曲は流れ続ける。しかし今の俺にはその曲をしっかりと聴くことが出来たのだ。

 

 彼女も俺が気がついたことを察したのか、手を離して演奏を始める。

 

 それはとても美しくて、儚い音楽だった。

 

「なんだか綺麗な曲だな」

 

 俺の感想に彼女は心底嬉しそうな表情を見せて、旋律を奏でる。

 

 

 

 

 

 その旋律は、とても嬉しそうだった

 

 

 

 

 

 O-01-i37 『儚きハーモニクス』 鎮圧完了

*1
『美溶の渇望』

*2
『玄き北颪の冬姫』

*3
『木枯らしの唄』

*4
『鋏殻』



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EX-Story-7 管理情報

本日2話投稿です


 『O-01-i37』は特異な音楽を奏でる美しい少女の姿をしたアブノーマリティーです。

 

 『O-01-i37』の収容室の中で彼女の奏でる曲を聴くと、その職員は自身の体で曲を奏でます。必ず収容室の中に入る前に、支給された装備を着用してください。

 

 支給されているヘッドホン型の防音装置ですが、もう少し色のバリエーションは無いでしょうか? 正直に言いますと、ファンシーすぎて精神的に辛いです。

 

 『O-01-i37』は演奏を妨げる存在を許しません。見つけ次第最優先で排除します。

 

 『O-01-i37』と『T-01-i12』*1、『T-01-i21』*2でアイドルグループを作ろうとしないでください。アブノーマリティー同士を意図的に接触させることは禁止されています。

 

 

 

『儚きハーモニクス』

 

危険度クラス ALEPH

 

ダメージタイプ B(6-8)

 

E-BOX数 30

 

作業結果範囲

 

良い 25-30

 

普通 13-24

 

悪い 0-12

 

 

 

◇管理情報

 

1、『O-01-i37』の奏でる曲をしばらく聴いた職員は、自らの体で曲を奏で、カウンターが減少した。

 

2、作業時間が60秒以上を超えると、カウンターが減少した。

 

3、脱走した『O-01-i37』は奏でる曲を通して施設全域にBダメージを与えた。また、演奏が終わるか観客が居なくなれば別の部門へと移動した。

 

4、同じ部屋に他のアブノーマリティーが存在すると、そちらを優先的に攻撃した。

 

 

 

◇作業結果(作業好感度)

 

本能

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

洞察

1 低い

2 低い

3 低い

4 普通

5 普通

 

愛着

1 最高

2 最高

3 高い

4 高い

5 高い

 

抑圧

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 1

 

R 0.6

 

W 0.6

 

B 0.4

 

P 1.2

 

 

 

◇ギフト

 

調律(ほほ)

 

MP+10

 

*このギフトの装着者は、音による悪影響を受けず、このアブノーマリティーのE.G.O.防具を装着時に同じ部屋にいる職員全員のHP、MPを徐々に回復する。

 

 ほほに刻まれるト音記号の文様。それは彼女の奏でる曲を最後まで聴いた証であり、資格無き者がつけると頭が爆発する。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 調律(ライフル)

 

クラス ALEPH

 

ダメージタイプ B(22-24)

 

攻撃速度 普通

 

射程距離 超長距離

 

 ト音記号の形をしたライフル。放たれる音は弾丸となって相手に響き渡る。

 

・防具 調律

 

クラス ALEPH

 

R 0.6

 

W 0.6

 

B 0.4

 

P 1.5

 

 

 

 

 

◇戦闘スペック

 

HP 1500

 

移動速度 普通

 

行動基準 同じ部屋のアブノーマリティー優先

 

R 0.6 耐性

 

W 0.6 耐性

 

B 0.4 耐性

 

P 1.2 弱点

 

*脱走中に施設全域の音が聞こえている職員全員に、B10の継続ダメージを与える。

 

 

 

・スタッカート B(25-30) 射程 部屋全体

 

 部屋にいる観客へ向けて奏でられる演奏。曲を聴いている部屋全体の職員にダメージを与える。

 

・アクセント B(30-40) 射程 自身の周囲に近距離

 

 音符を纏って奏でられる音楽。周囲にいる職員にダメージを与える。

 

・カノン B(50-60) 射程 前方に貫通攻撃

 

 五線譜から放たれる強力な直線攻撃。その攻撃は施設の端まで届く。

 

 

 

 

 

 余談(読み飛ばし可)

 

 ついに3体目のALEPHですね! もうすでに地獄なんですが……

 

 この子はこの施設において初めての特殊管理方法のアブノーマリティーですね。対処法は簡単で、耳を塞いでいれば大丈夫です。手で塞いでも良いですし、耳栓をしても良いです。何だったら聴覚を失わせても大丈夫ですね。

 

 この子は大分お気に入りのアブノーマリティーです。この子自体は純粋なのでとても人なつっこいです。彼女に耐えきれる相手であれば大体の人にはなつきます。それでも悪意には敏感なので相手は選びますね。

 

 ちなみに、この子のギフトをつけていれば、収容室の中で音を聞いていても大丈夫です。今回ジョシュアの防音装置を外していましたが、アレはジョシュアがギフトをもらったからやっただけです。普通はあんなことをしないので大丈夫ですよ。

 

 これで懲戒部門は終わりですね、ついに福祉部門です。この後にコア抑制もありますが、ようやく結構な見所のある部門が来るので楽しみです。

 

*1
『蕩ける恋』

*2
『インディーネ』



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安全部門 セフィラコア抑制『何で俺は今日も目覚めて、やりたくも無い仕事をしなきゃいけない』

「くそっ、傷の治りが遅い!」

 

「回復リアクターに悪影響が出ているようだ!」

 

『望まない死を先延ばしにしたところで、その先に何がある』

 

 そのことに気がついたのは、今日の『T-09-i96』*1当番のエージェントだった。

 

 そこには樹木のような機械の残骸が存在しており、苦しむようにのたうち回っていた。そしてアブノーマリティーに作業をした後に、俺たちは異常を再確認する。傷の治りがいつもより明らかに遅いのだ。施設の悪影響で考えられるのはセフィラコア抑制だ。俺たちは一刻も早くコアを抑制しなければならない。

 

「くそっ、急いで作業をするぞ!」

 

「了解した!」

 

『ここでは誰も安全じゃねぇ。お前は違うと思ったか?』

 

 セフィラの戯れ言が聞こえる。頼みの綱である回復リアクターへの悪影響だ、必死になるのもわかるが気をつけなければならない。

 

 ここでは些細な不注意が、死よりも恐ろしい結果を招く。

 

「ひっ、なんなんだこれは!?」

 

「なっ、まずい『T-04-i09』*2の特殊能力だ! 怪我をした奴らは全員避難しろ! ぐっ」

 

『全ての罪悪感を捨てろ、どうせ助からない仲間だ』

 

 どうやらまだ回復しきっていないのに『T-04-i09』の作業室に入った愚か者がいたらしい。体中から植物を生やして助けを求めてくる。

 

 彼を無視して避難誘導をしていると、俺の手の甲からも植物が生えてきた。 ……まずい、どうやら俺も回復が十分ではなかったらしい。手の甲から栄養を吸ってぐんぐんと伸び、成長が止まらない。急いで対応しようとすると横から誰かが俺の手首を綺麗に一太刀で切り取った。

 

「大丈夫ですかジョシュア先輩! 早く『T-09-i97』*3に!!」

 

「すまないパンドラ! 助かった!」

 

 どうやら近くに居たパンドラがその手に持っているナイフで手首ごと切り捨てたようだ。俺の体から離れたそれは、手首が枯れるまでぐんぐんと成長していき、毒々しい紫色の大きな花を咲かせた。なんとも気味の悪い植物だ。そうこうしている間にも、俺の手首の断面から新たな植物が生えてきている。いそいで『T-09-i97』へ行かなければならない。

 

 俺は管理人に連絡して『T-09-i97』までの道中に怪我をした奴が来ないように誘導してもらい、急いで『T-09-i97』の収容室まで走って行った。

 

 

 

「くそっ、今度はついに怪我すら治らなくなっちまった!」

 

「どうしよう、『T-01-i12』*4のチョコレートも効果が無いわ!」

 

『ここは毎日が悲惨だから、最後くらいは楽しめよ』

 

 どうやらクリフォト暴走がおこって悪影響の範囲が広がり、ついに回復リアクターが停止したようだ。だがかのセフィラ、ネツァクにも良心は残っていたのだろう。クリフォト暴走が起こる度に傷を全回復をしてくれるのは彼の優しさだろう。

 

「いいから早く作業に戻れ! 傷の浅い奴から作業を行ってエネルギーを集めろ!」

 

 なんとか『T-09-i97』で手を治した俺は、あまりなじみに無い職員たちに指示を出して作業を行う。俺も積極的に動いて早くこんな業務を終わらせてしまいたいものだ。

 

「はぁ、激務過ぎるだろう」

 

 そう言っている俺も、なるべく危険度クラスの高いアブノーマリティーへ作業を行いにいく。こういうときに一番危険なことをするのは俺たちなのだ。

 

「なっ、なんだ!?」

 

 そんなときに、そいつは現れた。

 

 玄く巨大な体の亀に白い二体の蛇、そいつは突然現れて、体から黒い霧を放っている。そしてその霧は俺たちの体を蝕み、犯してくる。

 

「なっ、何だこれは!?」

 

「い、いや…… 体が水に変わっていく!?」

 

 その霧に蝕まれた職員たちは、体の傷口から血では無く水を流していく。そして体力の低いオフィサーたちから順番に、徐々に体が水に変わっていき溶けてしまった。

 

「くそっ、皆離れろ!」

 

「なっ、当たらない!?」

 

 E.G.O.“墓標”を構えてその玄い亀に攻撃を加える。しかし、攻撃しても手応えは無い。まるで水面の月を切るかのように、実体を感じられない。もしかしたらこれは蜃気楼のような物で、攻撃をしても意味が無いのかもしれない。

 

「くそっ、皆ここから離れろ!」

 

「わ、わかった!」

 

 まだ無事な職員たちを誘導しながら、生き残りを探す。するとしばらくしてからあの玄い亀はどこかへ消えてしまったようだ。

 

「……心当たりはあいつしか居ないな」

 

 俺は早速『O-01-i43』*5の収容室へ向かう。おそらくは彼女が関係をしているはずだ。

 

 

 

「さぁ、もう少しだ。頑張れ!」

 

 いくらクリフォト暴走ごとに回復するとは言っても、いつもより傷ついた状態で作業を行わなければならない精神的な負担は、随分大きい。他の職員たちも随分グッタリとしている。

 

「先輩、大丈夫ですか?」

 

「タチアナか、お前も大丈夫か?」

 

「はい、私はあまり危険度クラスが高いアブノーマリティーへの作業を行っていませんので」

 

『何で俺は今日も目覚めて、やりたくも無い仕事をしなきゃいけない』

 

 少し疲れが顔に出ていたようだ、タチアナに心配をされてしまった。とりあえず大丈夫と答えると、突然それは起こった。

 

『『O-01-i37』*6が脱走しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

「まずい、耳を塞げ!」

 

「えっ、えっ、!?」

 

「もういい、とにかく逃げるぞ!」

 

 さすがに今彼女と戦える状態では無い。俺はタチアナを急いで抱えてこの部屋から離れる。一体どこの誰が失敗したんだ?

 

『まずいぞ、ナルリョンニャンが『O-01-i37』への作業中にシャットダウン性のパニックを起こした! そのまま『O-01-i37』の収容室のブレーカーを落として脱走させてしまった!』

 

「なっ、ナルリョンニャンが!?」

 

『ついでにクリフォト暴走で『F-04-i27』*7や『O-03-i07』*8たちにカウンターがついた。このままだと条件を達成出来なくなる!』

 

 クリフォト暴走を放置すると、脱走だけで無く危険度レベルに応じたエネルギーを消費されてしまう。もう少しだというのにそれが起こっては目標までに終了しない、なんとかしなければ……

 

『……こうなったら、逃げ切ることを選択する。このままどのアブノーマリティーでも良いから急いで作業を行ってくれ! 後一段階で目標を達成できる!』

 

「……ナルリョンニャンは?」

 

『悪いが、これ以上被害が出る前に終わらせる』

 

「……わかった」

 

 管理人との通信を終えて他の収容室に向かう。こうなったら時間との勝負だ。

 

「……あの、そろそろおろしてもらっても良いですか?」

 

「あっ、すまない」

 

「い、いえ…… 嫌では無かったので……」

 

 すっかり忘れていたが、タチアナを抱えたままであった。彼女をおろしてすぐに作業に取りかかる。すると、他の職員たちにも伝わっていたのかすぐに純化が始まった。

 

「急いで逃げるぞ!」

 

「はい!」

 

 純化に巻き込まれないように急いで施設から脱出する。出口を見ると、すでに他のメンバーもついているようだ。ただ一名を除いて。

 

「あれ、ジョッシュン先輩、ナルナルは?」

 

「……いや、これで全員だ」

 

「そんな……」

 

 もはやパニックになった職員は、正常な判断が出来ずにここまでたどり着けない。彼はこのまま取り残されて純化に巻き込まれてしまうだろう。

 

 すると、向こうにナルリョンニャンが見えた。彼は狂気に満ちた目をこちらに向けると、手を振ってきた。それはこっちにおいでと呼んでいるのか、さよならと挨拶をしているのかはわからなかった……

 

*1
『黄金の蜂蜜酒』

*2
『森の守人』

*3
『極楽への湯』

*4
『蕩ける恋』

*5
『玄き北颪の冬姫』

*6
『儚きハーモニクス』

*7
『零時迷子』

*8
『でびるしゃま』



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中央本部 セフィラコア抑制『次はいいことだらけって言ったくせに……』

「うーん、なんだか今日はおかしいですよね?」

 

「どうしたんだ?」

 

『また交換の時期なの? それなら倉庫に行きましょう』

 

 不思議がっているタチアナに声をかけると、彼女は少しびっくりしたかのような表情をしてから訳を話してくれた。

 

「いやですね、この前コア抑制? を終わらせたじゃ無いですか。それなのに終わったはずの部門でもクリフォト暴走が起こってるんですよ」

 

『中央本部はすごく広いから体がいくつあっても足りないわ』

 

 セフィラコア抑制を終わらせた部門は、その後クリフォト暴走が起こらない。それなのに今日は以前抑制の終わった部門でも起こっているのが不思議なんだろう。しかし、そういった施設の異常には原因がある。それは最近入ってきた彼女でも経験があるからわかるだろう。

 

「それは、やっぱりアレじゃ無いか?」

 

「えっ? ……あぁ、これもセフィラコア抑制!」

 

「そう、今回は中央本部みたいだな」

 

「そうなんですか、私まだ今日は中央本部まで行っていなかったのでしらなかったです」

 

『あなたにも聞こえるこの歌が鎮魂歌なら……』

 

 彼女は少し恥ずかしそうにしているが、別にそんなに恥ずかしがることでは無い。それに、今日のコア抑制は深夜の試練が出るまで作業をしてエネルギーを溜めるだけなので、コア抑制の中でも比較的簡単なのだ。

 

 ……正直、この後これの上位互換のコア抑制が出てくるので、本当に微妙なコア抑制なのだ。職員への危険も一番少ない。深夜の試練だって戦っても良いけど逃げ切ることが出来るのだ。

 

「ね、ねぇジョシュア、そろそろ仕事しないと」

 

「おう、悪いなタチアナ、また今度な」

 

「はい、また今度!」

 

 タチアナと話していると、シロが仕事をするように注意してきた。最近彼女は口数が増えて、話し込んでいるときに注意してくれるようになってきた。今までのことを考えるとかなり成長してきたので、正直に言えばうれしく感じる。なんとなく女性と一緒に話しているときに来る気がするけど、リッチと話しているときも来るから気のせいだよな。

 

「えっと、この後はどこに行くの?」

 

「この後は『O-03-i07』*1のところだな。昨日あそこだけ間に合わなくて泣いていたらしいからな」

 

「そ、そうなんだ…… 気をつけてね」

 

「おう、お前も気をつけろよ!」

 

「う、うん! ジョシュアも気をつけて!」

 

 なんというか、本当に最近よく笑顔を見せてくれるようになってきた。他の奴らにもこれくらいと言わずとも、もう少しうまく接してくれるなら嬉しいんだがな。

 

「さて、それじゃあ頑張ってきますか!」

 

『次はいいことだらけだって言ったくせに……』

 

 今日はほとんどいつもの業務と変わらず、なんとか被害も出ずに終わることが出来た。

 

 ちなみに、『O-03-i07』は頭を撫でれば機嫌を直してくれた。

 

*1
『でびるしゃま』



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福祉部門
Days-31 O-03-i20『随分とお世話になったようで』


 アブノーマリティーという存在は、我々人間に対して、何らかの悪意や害意を向けてくる物だ。たとえそれらが無く全てが善意であっても、我々とは価値観が根本から違うのだ。

 

 アブノーマリティーは、基本的に我々とは意思疎通は出来ない。意思疎通が出来るような存在は、警戒すべきだろう。今までこの施設に来ている意思疎通できるアブノーマリティーは、あまり害が無いように感じるが、そもそも我々に害を与える存在が意思疎通を図ってくると言うことがおかしいのだ。

 

 意思疎通がとれると言うことは、それほど賢いと言うことだ。そういう奴は大体最初はいい顔をしてくるが、腹の底ではこちらをだまそうとしてくる。

 

 そう、目の前のこいつのように。

 

「ふむ、良い香りだな。君も一杯どうかね?」

 

「いや、遠慮しておくよ」

 

 見るだけで上等な物だとわかる燕尾服を着用した威厳のある髭を蓄えた老紳士。しかしその頭部には、随分と立派な角が生えている。人でないことは一目でわかる。どこから持ってきたのかテーブルと椅子を用意している彼は自身で入れた紅茶に口をつけると、満足げにうなずいて笑みを浮かべた。

 

 この存在、『O-03-i20』は随分と特異な存在だ。この施設に来て一日目だというのに、すでに何体かこの施設にいるアブノーマリティーについて知っているような発言をしている。見た目は角以外は人間とそうは変わらないが、穏やかな表情をしつつ一切目は笑っていない。会話の所々に冷淡さが感じられて、こちらを虫けらでも見ているかのような目線だ。そして何より、彼からは濃厚な死の気配を感じる。

 

 正直に言えば、こうやって正面に立っているだけでも震えが止まらない。しかし相手に悟られないように精一杯気力を保つ。

 

 だが、こちらのことなど気にも留めずに、『O-03-i20』は会話を続ける。

 

「さて、ここのトップと話がしたいのだが、可能かね?」

 

「さあな、俺だって会ったことがないんだ。たぶん無理だろ」

 

「嘘はいかんよ、嘘は」

 

 その瞬間、俺は心臓を鷲掴みされたかのような錯覚に襲われた。

 

 まずいな、こいつ人の心を読めるか、嘘を見分けることができるのか。

 

 それに、もしかしたら機嫌を損ねてしまったかもしれない。このまま戦闘に入るかもしれない可能性を視野にいれながら、警戒する。

 

 すると、『O-03-i20』はこちらの態度を見て、鼻で笑った。

 

「失礼、君の行動も理解できる。今は争うつもりはない」

 

「そうか……」

 

 緊張が張り詰めていたが、向こうから解いてくれた。とりあえず今は大丈夫なようだ。とはいえまだ油断できない、目的位は聞き出しておきたい。

 

「そもそも、あんたはここのトップと会って、どうするつもりなんだ?」

 

「なんだ、そんなことかね」

 

 その質問をした瞬間、先程までの温厚そうな笑みは消え、獰猛で攻撃的な笑みに変化した。

 

「殺したい相手がいるのさ、場合によってはここの人間すべて」

 

 それは、明確な殺意。今すぐにでも殺してやりたいと言う感情がひしひしと伝わってくる。

 

 あまりにも強い殺気を受けて、怯みそうになる。だが気合いで立っていると、『O-03-i20』は思い出したかのように口を開いた。

 

「あぁそうだ、伝え忘れていたみたいですね……」

 

 

 

 

 

「随分とお世話になったようで」

 

 

 

 

 

O-03-i20 『シャイターン伯爵』



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O-03-i20 管理情報

 『O-03-i20』は立派な角を持った老紳士型のアブノーマリティーです。上等な燕尾服を着ていて、他の装飾品も良い物ばかりです。

 

 『O-03-i20』は非常に高い知能を有し、我々とコミュニケーションを取ることが出来ます。そのため、『O-03-i20』と会話をする際には、余計なことを言って情報が漏れないように注意してください。

 

 『O-03-i20』は特定の職員を探しています。その職員についての詳細は不明です。

 

 『O-03-i20』から契約を持ちかけられても決して契ってはいけません。そうすれば自身の全てがむしり取られることになります。文字通り全てが。

 

 『O-03-i20』からは常に濃密な死の気配が漂っており、収容室内は常に死の気配で充満しています。

 

 『O-03-i20』の目の前で紅茶を罵倒しながらコーヒーを飲まないでください。『O-03-i20』にしては珍しく感情をあらわにします。そんなことをしたら戦争だろうが……

 

 

 

『シャイターン伯爵』

 

危険度クラス ZAYIN

 

E-BOX数 30

 

ダメージタイプ P(5-8)

 

作業結果範囲

 

良い 27-30

 

普通 14-26

 

悪い 0-13

 

 

 

◇管理情報

1、作業結果普通で、確率でカウンター減少した。

 

2、作業結果悪いでカウンター減少した。

 

3、作業中に職員が死亡、パニックになった場合もカウンターが減少した。

 

4、LOCK

 

5、LOCK

 

 

 

◇作業結果(作業好感度)

 

本能

LOCK

 

洞察

1 低い

2 低い

3 低い

4 普通

5 普通

 

愛着

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

抑圧

LOCK

 

 

 

◇脱走情報

 

LOCK

 

 

 

◇ギフト

 

LOCK

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 LOCK

 

・防具 LOCK

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 久しぶりのZAYINですよ、やったね!

 

 ちなみにこいつは、とある条件を満たしたら選択画面に出てきます。

 

 他の選択肢? 無いに決まっているじゃ無いですか。選択肢はこいつだけです、つまり強制的にこいつを収容させられます。

 

 さあ、こいつが以前に行っていた超特殊条件下において収容できるアブノーマリティーです。ゲームで言うところの陰陽のような感じですね。ただあっちよりは条件が厳しいので、もしかしたら一度も条件を満たせずに終わってしまう人も居るかもしれません。

 

 なので弟が条件を満たしたときに思わずわくわくしてしまいました。本当にこっそり助言という名の罠を仕込んでおいた甲斐がありました、まさか引っかかってくれるとは思っても居ませんでした。

 

 まぁ、こいつの性能ですが、現状判明している部分では多少やっかいなくらいかと思いますが、こいつを収容したことが、この施設の絶望の始まりです。いや、もっと前かもしれないですけどね。

 

 とにかく、今までALEPHだのWAWだの、危険な奴が多すぎたんですよ。ここでZAYINが来たのは幸先が良いですね!

 

 こいつはZAYIN、誰がなんと言おうとZAYINなんだ……!!

 




Next T-05-i11『目移りするのがいけないのね』


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Days-32 T-05-i11『目移りするのがいけないのね』

「ジョッシュン先輩、メケメケ先輩がひどいんですよ! 私のことを馬鹿にするんですよ!」

 

「ジョシュアさん、この子の言うことを信じてはいけません! 恩を仇で返そうとするんですよ!」

 

「……はぁ」

 

 今日はなぜかメッケンナとミラベルとのけんかの仲裁をすることになった。

 

 事の起こりは、ミラベルがナルリョンニャンの最期にショックを受けて落ち込んでおり、メッケンナが慰めようとしたことだった。何でも慰めの言葉をかけるときに余計な一言を入れたせいで、ミラベルが怒ったらしい。それをメッケンナはなぜ怒られているのかわからずにけんかが勃発。なぜかそこに居た俺が仲介役になる羽目になった。

 

「大体メケメケ先輩は女心がわかって居なさすぎです!」

 

「そんな事言ったってどうしようも無いじゃ無いですか!」

 

「あれあれ~、もしかしてメケメケ先輩って女の子と付き合ったこと無いんですかぁ~?」

 

「……なんですか?」

 

 あっ、これは触れてはいけないことに触れてしまったな。あの温厚なメッケンナが、今までに見たことの無い形相でミラベルをにらみつけている。これはやっかいなことになる前に退散すべきかな?

 

「いえいえ、それならデリカシーがない事もしかたないですよねぇ~?」

 

「……」

 

「あれあれ、何も言い返せない感じですか先輩? 何なら私が乙女心がわかるように手取り足取り教えてあげましょうか?」

 

「……わかりました」

 

「えっ?」

 

 おおっと、どうやら風向きが変わってきたようだ。メッケンナがミラベルの手をつかんで立ち上がったぞ。この後どうなるかちょっと気になりますね、わくわく。

 

「そこまで言うなら手取り足取り教えてもらいましょうか、ボクもあなたも仕事まではまだ時間がありますからね。よろしくお願いしますね?」

 

「あっ、ちょっと待ってくださいよメッケンナ先輩…… その、私もそんなに…… お、お手柔らかに……」

 

 結局メッケンナに手を引かれて、ミラベルは顔を赤くしながらどこかへ連れて行かれた。……何を見せられているんだ俺は? けっ、なんだかんだで良い感じになりやがって、あとでイェソドに告げ口しとこ。

 

「さて、それじゃあ俺は仕事に行くかな?」

 

 どうせ俺には新しく入ってきたアブノーマリティーへの初めての作業という重労働が待っている。大体一番はじめにこの作業が来るって事は、たぶんそういうことなんだろうな。一体俺は何回目なんだろうな……

 

「あっ、ジョシュア先輩!」

 

 今日収容されたアブノーマリティーの収容室に向かっていると、途中でタチアナに出会った。どうやら彼女も今から仕事らしい。すでに装備もつけて準備万端だ。

 

「ようタチアナ、どうしたんだ?」

 

「いえ、せっかく見かけたのでお話ししようかと。最近はちょっとタイミングが悪かったので……」

 

 確かに、最近はよくシロが話に割り込んでくる。だが今は彼女は作業中だ、そして何よりパンドラが居ない。これほど話を中断される可能性が少なくなることも無いだろう、あいつはそこに居るだけでやっかいごとを呼び寄せるのだ。だから何か話をしたいなら今が絶好のチャンスだろう。とは言っても、そんなに重要な話でも無いのだろうが……

 

「それで、何の話だ?」

 

「とりあえず、この前のお礼をお渡ししようかと」

 

 そう言って彼女は弁当箱を手渡してきた。料理はこの施設において、手作り出来る数少ない物だ。どうやらこの前『O-01-i43』*1の脱走から助けたことを言っているようだ、そんなお返しをされるほどの事はしていないのだが、正直気持ちは嬉しい。

 

「ありがとう、結構助かるよ」

 

「良かったです、それで、もし良ければ今日のお昼に一緒にお食事をしませんか? 味の感想を聞きたいのですけど ……出来れば二人で」

 

「あぁ、それくらいなら大丈夫だ。それならあんまり人の来ない場所を知っているし、そこで食べるか?」

 

「はい! ……やった」

 

 小声で小さなガッツポーズを取っているが、丸わかりだぞ? いちいち行動が可愛いなこの子、荒んだ心が癒される。

 

「それじゃあジョシュア先輩、また後でお願いしますね!」

 

「おう、それじゃあまたな!」

 

 タチアナと別れて今日の作業に向かう。今日作業を行うのは『T-05-i11』だ。T(トラウマ)のアブノーマリティーは久しぶりな気がする。そう言いながらも最近に出会っているのだが、あいつのことは思い出したくない。

 

「さて、今回は変な奴じゃない事を祈ろうかな?」

 

 そんな事を考えているうちに、ついに『T-05-i11』の収容室の前にたどり着いた。俺はいつも通りに扉にてをかけ、お祈りをしてから扉を開けた。

 

 

 

「うわっ」

 

 収容室の中には、指輪がおいてあった。しかし、ただの指輪では無い。赤黒い肉塊が脈動しながらリングを形成し、本来宝石のある部分には、一つの目がぎょろぎょろとせわしなく視線を動かしていた。

 

 その目玉はこちらを確認すると、先ほどまでとは打って変わってこちらを凝視してきた。試しに動いてみると、目線が俺のほうに動く。本当にずっとこちらをみているので、正直に言うと、気味が悪い。

 

 とりあえず指輪であると言うことから、洞察作業を行ってみることにする。少なくとも外れでは無いだろう。

 

「さて、取り合えず掃除をしてみるか…… いてっ!?」

 

 掃除の途中で些細なミスをした瞬間、腕に痛みを感じた。思わず痛みを感じた部分を見てみるとなんと赤黒いとげが突き刺さっていた。

 

 そのとげの元を視線でたどってみると、はやりというか予想通りに『T-05-i11』から来ていることがわかった。どうやら俺がミスする度に攻撃をしてくるようだ、あまりミスは出来そうに無いな。

 

「くそっ、面倒だな」

 

 いつも以上に気をつけて作業を行う。常に視線を感じるので、何だか監視されているような気持ちになる。

 

「さて、それじゃあそろそろ仕事も終わりとするか……いたっ!」

 

 作業を終えると、『T-05-i11』が目を閉じ俺は左手の薬指に痛みを感じた。驚いて痛みを感じた指をみると、そこには『T-05-i11』と同じような指輪が嵌まっていた。

 

「……うわぁ、これ面倒なやつだ」

 

 この手の輩は、他の作業を行ったら即死とかが普通だ。相手は善意で渡してくるが、こっちはたまったもんじゃない。浮気防止のつもりだろうか?

 

 外そうと試みるが、とげが返しのようになっており激痛が走って失敗した。これが強制婚約作業か。

 

 後で『T-09-i97』*2にでも浸かりにいこう。

 

「ふぅ、なんか疲れたな」

 

 作業を終えて収容室から出ると、安堵からため息をついてしまう。自身の体を見てみると、全身傷だらけだ。作業でここまでダメージを負ったのは久しぶりかもしれない。

 

 それに、気を抜くのはまだ早い。さっき『T-05-i11』に付けられた指輪の問題が残っている。これを早くどうにかしなければ……

 

「まぁ、あいつにだけ作業しておけばなんとかなるだろう」

 

 今日の作業が変更されるのは大変だが、こうすれば面倒事は減るはずだ。

 

「あっ、ジョシュア先輩!」

 

 

 疲れた体を引き摺りながらメインルームへと向かっていると、後ろから声をかけられた。この声はタチアナだな。

 

「よう、どう……ぎゃあぁぁぁ!!!!」

 

「その体の傷、どうしたんですか!? って、大丈夫ですか!?」

 

 声をかけられたので後ろに振り向くと、タチアナを視界に入れようとすると同時に、目に激痛が走った。

 

 視界が真っ赤に染まり、前後不覚になる。周囲から悲鳴が聞こえてくるが、どこか遠くのことのように感じる。

 

「ア゛ア゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛!!!!」

 

 扉が無理やりこじ開けられる音と共に、おぞましい叫び声が響き渡る。体のバランスが崩れそうになるほどの地響きが連続で起こり、誰かが行動に移すよりも早く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グシャ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Engage! Engage! Engage! Engage! Engage!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Risk Level ALEPH

 

 

 

 

 

 

 

 T-05-i11 『盲目の愛』

 

*1
『玄き北颪の冬姫』

*2
『極楽への湯』



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T-05-i11 管理情報

 『T-05-i11』は指輪の形をしたアブノーマリティーです。リングの部分は気味の悪い肉塊、本来宝石のある部分には碧眼の目玉が存在しています。

 

 『T-05-i11』は非常に独占欲が強いです。作業を行う場合には気を付けてください。

 

 一日の初めての『T-05-i11』への作業後の職員には、指輪が付与されます。その材質は『T-05-i11』のものと同質です。

 

 女性は『T-05-i11』の収容室に入室しないでください。

 

 

 

『盲目の愛』

 

危険度クラス ALEPH

 

E-BOX数 32

 

ダメージタイプ R(6-7)

 

作業結果範囲

 

良い 26-32

 

普通 18-25

 

悪い 0-17

 

 

 

 

◇管理情報

1、女性職員が収容室に入ると、カウンターが減少した。

 

2、エンゲージ状態の職員が存在しない場合に男性職員が作業を行うと、その職員は作業終了後にエンゲージ状態となった。

 

3、エンゲージ状態の職員が存在しなくなると、カウンターが減少した。

 

4、LOCK

 

5、LOCK

 

6、LOCK

 

 

 

◇作業結果

 

本能

LOCK

 

洞察

LOCK

 

愛着

1 最高

2 最高

3 高い

4 高い

5 普通

 

抑圧

LOCK

 

 

 

◇脱走情報

LOCK

 

 

 

◇ギフト

 

LOCK

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 LOCK

 

・防具 LOCK

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 いやぁ、これで4体目のALEPHクラスのアブノーマリティーですね。えっ、前回のアブノーマリティー?

 

 いや、あれはZAYINですから……

 

 さて、今回はヤンデレやべーやつが来ましたね。こいつは初めて作ったALEPHクラスです、そのくせして管理方法が糞の塊です。

 

 今はまだそんなに多くは語れませんが、管理情報だけではよくわからない罠がいくつかあります。しかも結構引っかかりやすい感じです。

 

 ちなみに、これで初期の通常収容可能なALEPHクラスのアブノーマリティーは、すべて収容されてしまいました。原作のほうでもDLC除けば4体だけなんですよね、普通の方法で収容できるの。意外と少なくてびっくりしました。

 

 ここでいう通常収容可能なやつは、普通に選択画面に出てくるやつです。詐欺師やアルティメッ鳥は入りません。

 

 以前言っていた諸事情により追加とは、このことだったんですよね。この後ALEPHクラスがいないのはさみしいので、何体か追加することになりました。

 

 もちろん、その分管理方法はド外道に仕上げておきました。嬉しそうにしていましたよ? たぶん……

 

 さて、これで中層が地獄といった意味が分かったと思います。なんだこの施設は、たまげたなぁ……

 

 私だったらこんな施設運営したくありません、こんなことなったらリセットですよ。

 

 ただし、この話が続いているように、弟はこの施設でクリアまで行きました。それもこれも、私が作ってしまったぶっ壊れ武器たちのせいです。完全に調整ミスでした。

 

 とりあえず、これで通常収容可能なALEPHは終わりなので、しばらくは枕を高くして眠れそうですね!




Next O-01-i01『心地好い揺らぎに身を任せよう』


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Days-33 O-01-i01『心地よい揺らぎに身を任せよう』

「さて、今日も頑張るとしますか」

 

「あら、ジョシュアちゃん。元気になったみたいね?」

 

「あぁ、切り替えていかないといけないからな」

 

 今日も朝食を終えて、さっそく仕事に向かおうとしたその時に、ルビねえに声をかけられた。どうやら心配されていたみたいだが、何とか大丈夫だ。

 

「それにしても、最近恐ろしいやつばっかり来てるじゃない? 何かの前触れでなければいいのだけれど……」

 

「やめてくれよ、冗談でもきついぜ」

 

「それもそうよね、何事も楽観的じゃないとこの施設ではやっていけないものね?」

 

「そうだな、違いない」

 

 確かに最近強力なアブノーマリティーがよく収容されているように感じる。さすがにここまでくると違和感を感じるようにもなるが、そんなことを考えていても仕方がないよな。それよりもビナーのコア抑制のほうが気がかりだ。

 

「ジョシュア先輩、ルビねえさん! なんの話をしてるんですか?」

 

「お前には一生縁のない話だよ」

 

「ちょ、私だけ仲間外れですか!?」

 

 ルビねえと話していると、今度はパンドラがやってきた。本当にこいつはどこからともなくやってくるな、厄介なことこの上ない。

 

「それじゃあ私はそろそろお暇するわね」

 

「おっ、それじゃあ俺も仕事に行くか」

 

「先輩たちが冷たい……」

 

 パンドラが目元を裾で拭って泣いたふりをしているが、そんなことはもちろん無視をする。そしてパンドラにつかまるよりも早く食堂から抜け出し、今日収容されたアブノーマリティーのところへ向かう。

 

 

 

 今日収容されたアブノーマリティーは『O-01-i01』だ。丸と縦棒しかないな!

 

 走ってきたためか、目的地まではすぐにたどり着いた。収容室に入る前に少し息を整えてから、扉に手をかける。いつものようにお祈りをしてから収容室の扉に手をかけると、思い切って扉を開けた。

 

 

 

「……なんか不思議なところだな」

 

 収容室の中はとても静かな場所であった。とても静かで、心が安らぐ。まるで世界で一番安全な場所であるかのように錯覚し、母の体内にでもいるかのようだ。部屋の照明は薄暗く、眠りを妨げないように気を使っているかのようにも感じる。

 

 部屋のいたるところに星が散りばめられており、大きな三日月が見守っている。

 

 そして、世界の喧騒から解き放たれたかのようなこの場所の中心に、たった一つ、ぽつんと置かれているものがある。

 

 それは、宙に浮いた揺り籠だ。この安らかな場所で、音も鳴らさずに静かに揺れている。意識してみなければ、背景と同化して気づくこともできなかっただろう。その揺り籠は、まるでそこにいることが当たり前であるかのように揺れている。

 

「さて、いったい何がいるのやら?」

 

 なんとなく、音が鳴らないように気を付けて中央の揺り籠に向かって歩いていく。特に何事もなく揺り籠に近づくことができ、よく観察してみる。

 

 その揺り籠は、真っ白でシンプルなつくりのものであった。柄などは一切なく、かざりっけも一つもない。それは中にいる何かを寝かしつけるために、ただただ揺れているのであった。

 

 そして、よく見るとその揺り籠は天井から細い糸のようなもので吊り下げられていた。いや、それだけじゃない。周りの星も、三日月も、ここにあるすべてが天井から吊り下げられている。ここにあるものすべてが、偽物であると物語っているような気もする。

 

「……うわぁ」

 

 少し躊躇したが、思い切って中身をのぞき込んでみる。すると、その中では透明な膜が何かを包み込んでいた。

 

 それは、人間の胎児に似たなにかであった。それは揺り籠の中で揺られて、心地よさそうに眠っている。時折体を動かすが、膜を破るほど大きくは動かない。

 

 正直、胎児という時点であまりいい思いはしなかった。俺の頭の中にゲームで育児ノイローゼにしてくる胎児が思い浮かんだが、頭を振ってその考えを振り払う。

 

 気を取り直して、もう一度胎児を観察してみる。明らかに普通のサイズよりも大きいが、不自然なほどではないと思う。小さめの赤ん坊くらいの大きさのそれからは、へその緒のようなものは見当たらなかった。薄暗くてよくわからないが、肌の色は白いような気がする。

 

 とりあえず、作業を行うか。寝ているし、静かな作業のほうがいいかな?

 

「……さて、これでいいだろう」

 

 とりあえず、洞察作業を行って、作業を終了させる。『O-01-i01』は特に何をするでもなく、滞りなく作業を終えることができた。

 

「今のところは何もなさそうだな、それじゃあそろそろ次の作業に行くか」

 

 今のところは危険なところは見られないので、後で報告をまとめておくことにする。これからの作業のことを考えつつ、『O-01-i01』の収容室から退出した。

 

 

 

 

 

「よし、今日も作業を始めるか」

 

 今日も『O-01-i01』の作業を始める。あれから分かったことだが、どうやらこいつの作業を行った後に精神汚染値が回復するようだ。何らかの罠であることを考えると、何度も作業をしていると危険かもしれないので、複数人で何回かに分けて作業をしている。

 

 それでも今のところは問題が起こっていないが、引き続き気を付けて観察していったほうがいいだろう。

 

 今日も揺り籠の中の胎児は、すやすやと眠っている。本当にこいつはいつも寝ている、今まで一度も起きているところを見たことがない。……まぁ、胎児なのだから、起きているほうが不自然ではあるか。

 

「さて、これで終わりだな」

 

 清掃を終わり、収容室から出る。俺がいなくなった後も、揺り籠の中では赤子がすやすやと眠っていた。

 

 

 

 

 

 自分がとても弱い存在であることは知っていた

 

 外の世界にずっといれば、いつかは消えてしまうだろう

 

 しかし、ここには優しい人たちがたくさんいた

 

 きっと、ここなら大丈夫だ

 

 外のような危険から、自分を守ってくれる

 

 今日も又、彼らが来る

 

 いつか来るかもしれないその日まで……

 

 

 

 

 

 この心地よい揺らぎに身を任せよう

 

 

 

 

 

O-01-i01 『安らぎの揺り籠』

 



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O-01-i01 管理情報

 『O-01-i01』は揺り籠の中に眠る胎児型のアブノーマリティーです。その周囲は透明な膜によって保護されています。

 

 『O-01-i01』は周囲がいかなる状況であっても、反応を返しません。ただ、時折体勢を変えようとします。

 

 『O-01-i01』の周囲の膜は、どういうわけか物理的な干渉を受け付けませんでした。

 

 『O-01-i01』の健やかな成長を止めることは、誰にもできません。

 

 E.G.O.“ラトル”をフルセットした状態で赤ちゃんプレイを強要しないでください。E.G.O.“ラトル”は脅しの道具足りえませんし、私は脅しに屈しません。

 

 

 

『安らぎの揺り籠』

 

危険度クラス ZAYIN

 

E-BOX数 10

 

ダメージタイプ R(1-2)

 

作業結果範囲

 

良い 4-10

 

普通 2-3

 

悪い 0-1

 

 

 

◇管理情報

1、『O-01-i01』の作業結果が良の場合、職員のMPが回復した。

 

2、『O-01-i01』に愛情をもって接することで、健やかに成長する。

 

 

 

◇作業結果(作業好感度)

 

本能

1 高い

2 高い

3 高い

4 高い

5 高い

 

洞察

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

愛着

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

抑圧

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

◇脱走情報

 

LOCK*1

 

 

 

◇ギフト

 

ラトル(口1)

 

MP+2

 

 おしゃぶり型のギフト。なんだか赤子に戻った気持ちになる。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 ラトル(ナイフ)

 

クラス ZAYIN

 

ダメージタイプ ?(1-2)

 

攻撃速度 超高速

 

射程距離 超近距離

 

*『O-01-i01』の状態により、攻撃属性が変化する。

 

 ラトル型のE.G.O.。その音色は、聴く者の心を落ち着かせる。

 

 

 

・防具 ラトル

 

クラス ZAYIN

 

R 0.8

 

W 1.0

 

B 1.0

 

P 1.5

 

 赤ちゃん用の服(涎掛け付き)型のE.G.O.。装着していると誰かに甘えたくなる。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 ZAYIN・ALEPH・ZAYIN…… うん、健全だな!(白目)

 

 えっ、前回のZAYINはなんか違うって? そんなことはないですよ、この施設の危険度クラスは自己申告制です。ハンバーガーだって戦士族になれます。

 

 今回は、久しぶりに害のない奴ですね。今までがやばい奴続きだったので、皆さんが疑心暗鬼になっていて面白かったです。

 

 能力的には罪善さんと同じような感じになっています。もともとは『T-01-i12』*2の特殊能力を作る際に罪善さんとは別の個性を出そうとHP回復にしたのですが、本体との相性があまり良くなかったので、同じような能力を作ろうと考えました。その結果こいつもあってないんですけどね。

 

 たぶんこいつは序盤に収容できたら『T-01-i12』と一緒に活躍すると思います。育成面でもはずれがないのでやりやすいです。特に『T-01-i12』では鍛えられない能力を上げやすいので、積極的に作業を行っていくといいと思います。

 

 実はZAYINですが、まだあまり収容されていなかったりします。この子と『T-01-i12』、『O-03-i20』*3だけですね。まだ収容されていないのは2体だけです。そのうち収容されてくれたらいいんですけど、ここまでくるとなかなか難しいですよね。

 

 さて、これで福祉部門のアブノーマリティーはそろいましたが、ALEPHこそいますが、ZAYINが2体なので釣り合いが取れていますね。そのALEPHが極悪性能なんですけどね……

 

 それではこの施設もついに佳境に入ってきました。これからもこの小説をよろしくお願いします!

 

*1
必要PE-BOX数 99,999

*2
『蕩ける恋』

*3
『シャイターン伯爵』




Next T-09-i87『ここは笑顔の絶えない場所です』


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Days-34 T-09-i87『ここは笑顔の絶えない場所です』

もう気が付けば、この小説も100話になりました。

何か記念小説でも書いたほうがいいかと思いましたが、正直余裕がなかったのでいつも通り投稿します。

ここまで続けられたのも、本当に皆さんのおかげです。

これからもこの小説をよろしくお願いします。


「まったく、パンドラのやつはもう少しおとなしくできないのか?」

 

「またパンドラか、あいつも懲りないな」

 

「本当だよ……」

 

 今日もまたパンドラのやらかしに苦労しつつ、リッチに愚痴を聞いてもらっている。最近はつらいこともたくさんあったが、あいつのせいで悲しむ暇もない。

 

「そうだ、この前食堂に追加されたデザート、なかなかよかったぞ?」

 

「へぇ、どんなんだ?」

 

「あぁ、季節のフルーツを使ったものでな。こんな場所だろ? 季節を感じることができて味もうまい、まさに一石二鳥という感じだな」

 

「なるほど、どんな系統だ?」

 

「それはな……」

 

「ジョ、ジョシュア!」

 

 リッチがいい情報をつかんだようで、話がそっちにそれた。こいつ自身は甘いものがそこまで好きではないか、たまに気になったものを頼んで俺に情報を教えてくれる。普段頼まない分気に入ったもののおいしさは保証されている。俺は甘いものが好きなのもあって、そういう話は非常にありがたい。

 

 そんな話をしているところに、シロが割り込んできた。もうそろそろ仕事の時間だろうか?

 

「あの、いったい何の話をしているの?」

 

「あぁ、おいしいデザートがあるって話をしていたんだ」

 

「デ、デザート……」

 

 デザートと聞いて、シロは目を輝かせた。こいつも結構甘いものが好きらしく、食堂でよく食べているところを見かける。そういう話は好きなのだろう。

 

「シロ、お前も甘いものが好きなのか?」

 

「…………まぁ」

 

「……はぁ」

 

「ははっ」

 

 シロは俺と話すことには慣れてきたが、まだまだ他人と話すことは苦手らしい。とはいってもリッチとは最初からいるのだから、もう少し慣れていもいいように感じる。まだルビねえのほうが話せている気がする。

 

「せっかくだし、お前も聞いていくか?」

 

「…………うん」

 

「そうか、そのデザートはな、ベリー系のさわやかな酸味と……」

 

 リッチと話すときは緊張気味だったシロも、デザートの話になるとだいぶ表情も柔らかいものになってきている。

 

「ジョシュア、ジョシュア、後で行こ!」

 

「そうだな、せっかくだし三人で行くか」

 

「…………うん、そうだね」

 

「それなら、今日の業務を早く終わらせないとな」

 

「そういえば今日のツールをまだ使ってないな」

 

「そうか、せっかくだし俺もついていこう」

 

「わ、私も一緒に行く!」

 

「そうだな、せっかくだし頼むよ」

 

 二人ともついてきてくれるようなので、一緒に作業に向かうことにした。

 

 今日収容されたツールは、『T-09-i87』だ。最近のツールはまだましなものが多いが、今回はどんな感じだろうか?

 

「さて、ついたな」

 

「ジョシュア、頑張って!」

 

「おう、頑張ってくるよ」

 

 『T-09-i87』の収容室の前までたどり着くと、俺は手を収容室の扉にかけて、乱雑に開く。収容室の扉は、やけに軽い気がした。

 

 

 

「さて、こいつが新しいツールか」

 

 収容室に入ると、内部には黒いスーツケースが置いてあった。そのスーツケースは真新しく、傷も汚れも見当たらない。鞄を開く留め具の部分には、なぜか歯車が付いており、常に回っている。どうやら開くことはできなさそうだ。

 

「一見変わった部分はないように見えるが……」

 

「ど、どうするジョシュア?」

 

「うーん、とりあえず使ってみるか」

 

 そういって俺は、『T-09-i87』の取っ手をつかんで持ち上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……シュア ジョシュア!!」

 

「はっ」

 

 ふと我に返ると、もう業務時間は終了して純化が始まっていた。手元にはさっきまで使っていた『T-09-i87』はすでになく、いつの間にか返却されているようだ。

 

「ジョシュア、大丈夫か!?」

 

「えっ、大丈夫だけど、どうしたんだそんなに慌てて」

 

 ふと周りを見れば、リッチもシロも、みんなが泣きそうになりながら俺を見ていた。今日も無事に業務が終了したというのに、どうしたというのか?

 

「お前、自分がどういう状況かわかっているのか?」

 

「どういう状況って、何事もなく業務が終了してるじゃないか」

 

「その体の傷はどうした?」

 

「これか? これは業務中についたものじゃないか、いつものことだろ?」

 

「くっ」

 

 俺の返答を聞いて、リッチは苦々しい表情になった。周りのやつらも驚いたような表情をしている。確かにいつもより傷ついているように感じるが、そんなに驚くことだろうか?

 

「ジョシュア、本当に心配したんだよ! 止めても止まらないし、傷は全然治らないし、『T-01-i12』*1の回復も、『T-09-i85』*2の精神汚染回復も、全く意味がなかったし、『T-09-i97』*3にも入れれなくって、それで……」

 

「おいおい、そんなに泣くなよ。ほら、今日話していたデザートを食べに行こうぜ」

 

「ジョシュア……」

 

 なぜかはわからないが、みんなが悲しそうな顔をしている。

 

 ……だめだ、さっきから頭がふわふわしていてよく考えがまとまらない。いったん休んだほうがいいかもしれない。

 

「ジョシュア、もう今度から『T-09-i87』を使用するのはやめろ。これ以上は危険だ」

 

「だが、これは……」

 

「いいか、絶対だ」

 

「……わかった」

 

 結局この後、俺は体の検査のためみんなで一緒にデザートを食べることはできなかった。いや、それがなくても食べれる雰囲気ではなかったが。

 

 ともかく、あれほど素晴らしい『T-09-i87』をこれから使えないのは、少々残念である。

 

 

 

 

 

 

 

 この時代において、労働は幸福です

 

 まともな労働を行うことのできる人間は、この都市において限られています

 

 皆様外郭になんて行きたくはないでしょう?

 

 労働できることは、とてつもない幸運なのです

 

 ここにいる皆さんはとても運がいい

 

 なんせ、幸福には労働が欠かせないからです

 

 労働は幸福です、幸福には笑顔がつきものです

 

 

 

 

 

 故に、ここは笑顔の絶えない場所です

 

 

 

 

 

T-09-i87 『搾取の歯車』

*1
『蕩ける恋』

*2
『次元超越機構』

*3
『極楽への湯』



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T-09-i87 管理情報

 『T-09-i87』は、スーツケース型のツールです。その留め具の部分には常に歯車が回っており、ケースを開くことはできません。

 

 『T-09-i87』を装着している職員は、驚異的な耐久力を手にします。ただし、HP、MPの回復に支障をきたします。

 

 『T-09-i87』を装着している間、その職員は常に作業を行います。そのことに違和感は感じず、ただ淡々と作業を繰り返します。

 

 特別な事情のない限り、『T-09-i87』の使用を禁止します。

 

 

 

『搾取の歯車』

 

危険度クラス WAW

 

装着型

 

 

 

◇管理情報(情報開放使用時間)

 

1(10)

 『T-09-i87』を装着している職員は、残りHP、MPに応じて受けるダメージが軽減された。

 

2(60)

 『T-09-i87』を装着している間、その職員はHP、MPが回復しなかった。

 

3(120)

 『T-09-i87』を装着している間、その職員は常に戦闘か作業を行い続けた。

 

4(180)

 『T-09-i87』を返却した職員は死亡した。

 

 

 

余談

 

 ついにきました糞ツール! に見せかけた神ツールです。

 

 実はこのツール、性能が高すぎてナーフを受けたにもかかわらず、それでも優秀な最強ツールだったりします。その性能はあの『T-09-i97』*1にも引けを取りません。

 

 どういうことかというと、HP、MPに1ダメージでも受けていれば、ダメージを5割軽減してくれます。もちろん防具の耐性に乗算です。

 

 そのあと、最大値の50%以下になれば7割、30%で9割、15%で1か0ダメージになります。糞みたいな即死条件と回復できないデメリットに対して、釣り合うメリットになっていると思います。

 

 この状態であれば、なんとゲブラーの第三段階くらいなら普通に耐えきれます。第四段階は一度も受けずに終わったのでわかりません。

 

 ナーフと言いましたが、実は今まで管理方法が糞過ぎて、あるいは弱すぎて効果の修正をしてきたことはありましたが、強すぎて修正はこいつくらいです。ナーフ前であればそれぞれの効果が70%、50%、25%で発動していました。これだとさすがに強すぎて収容するしかありませんでしたね。

 

 さっきも言ったように防具の耐性に乗算なので、めちゃくちゃ強い防具持ちに持たせれば最大限の効果を発揮します。もう9割カットの時点でダメージがほとんど通らなくなりました。

 

 もう一つのデメリットである常に作業か戦闘を行うですが、これは指示を出しておかなければ勝手に作業を行います。その場合特定の作業に対して即死を行ってくるアブノーマリティーにだけ注意をしておくといいと思います。以前言っていたTRPG風のゲームでは、ターン性を採用しているので、このデメリットがほとんどフレーバー程度になっていましたが、もし本当にゲームに出てきたらかなり使い勝手が悪くなると思います。

 

 ちなみに、こんなに優秀なツールですが、天敵がいます。それは『T-04-i09』*2と『O-01-i43』*3です。なんですでにこの施設にいるんですかね……

 

 これで福祉部門も終了ですね。今回は随分といい感じですね。 ……もう正直に言えば、この部門のせいで中層が地獄なんですけどね。

 

 

 

 それと、申し訳ないのですが、今回EX-Storyが多いので、少し更新頻度が落ちるかもしれません。ご了承ください。

*1
『極楽への湯』

*2
『森の守人』

*3
『玄き北颪の冬姫』




Next O-01-i40『もうすぐ暖かくなりますね』


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パンドラちゃんの生態観察報告書♪

 ずいぶんと質素で飾り気のない部屋に、この職場の皆さんから珍獣扱いされている不思議な生き物がいます。

 

 さて、今日はそんな不思議生物、パンドラちゃんの生態を皆さんと一緒に観察していきたいと思います。

 

 いったいなぜ彼女が珍獣なのか、皆さんで一緒に確かめていきましょう。

 

「ふわぁ、もう朝ですか……」

 

 おやおや、ずいぶんベットから起き上がるのが遅いですね。もう皆さんお食事を始めている時間だというのに、職員としての自覚がないんでしょうね。

 

 ほら、時計を見たのに全く焦る様子がありません。

 

「今日はジョシュア先輩も遅いですし、ちょっと位遅れても大丈夫そうですね」

 

 そんなことを言っていますが、残念ながら今日の彼は例のあの人との逢引をするために早めに出社してますよ。目論見が外れて残念ですね。

 

「さて、それじゃあ今日も頑張るとしますか!」

 

 元気いっぱいにそんなことを言っていますが、そういうには少し時間が遅いですね。どうやらパンドラちゃんは時間にルーズみたいですね。

 

 

 

「さてさて、今日は何を食べよっかなー」

 

「ようパンドラ、ずいぶんと遅い出社だな?」

 

「あっ、あれ、ジョシュア先輩? どうしてこの時間に……」

 

「今日はちょっと早めに来ていたんだ、そしたらお前が全然来ないから不思議に思っていたんだ」

 

「あっ、ちょっと待ってギャー!!」

 

 あらあら、どうやらアイアンクローを受けているようですね。まぁ、彼らにとってはこれがあいさつみたいなものです。ほら、他の職員の皆さんも全く反応を示していないでしょう?

 

「まったく、これに懲りたら次から気を付けてくれよ」

 

「は、はい……」

 

 ふふっ、ずいぶん楽しかったのかパンドラちゃんはすっかり疲れてしまったみたいですね。でもでもまだ今日は始まったばかりですよ? 頑張ってくださいね。

 

「それで、今日の作業はどうしたんだ?」

 

「うぅぅ、最初は『T-04-i13』*1です。そのあとは『O-02-i24』*2への作業です……」

 

「そうか、とりあえず『T-04-i13』への作業は慎重にな。あいつの誘惑には負けるなよ?」

 

「大丈夫ですよ、今までだって大丈夫でしたから」

 

「まぁ、そこらへんはちゃんと信頼してるからな」

 

 どうやらお仕事においては信頼されていますね。きっとこの人の目は節穴なんでしょうね。

 

「ふっふっふっ、任せてください!」

 

「おう、頑張れよ!」

 

「はい、頑張ってきます!」

 

 なるほど、どうやらパンドラちゃんを乗り気にさせるための詭弁だったみたいですね。パンドラちゃんは単純ですから簡単に騙されちゃったみたいです、この男やりますね。

 

 

 

「さて、作業も終わりましたね」

 

 どうやら『T-04-i13』への作業が終わったみたいですね、何のトラブルもなかったので正直面白みに欠けましたね。

 

「さて、それじゃあ次は『O-02-i24』のところへ行きますか! ……あれ?」

 

 おや、教育部門へ向かうために廊下を歩いていくと、目の前から何かが飛んできてますね? あれは何でしょうか?

 

「うわっ!? っとと、なんですかってこれは『O-05-i18』*3じゃないですか!? どうしてここに……」

 

 パンドラちゃんが目の前から飛んできた手をキャッチしましたね。まるで吊り上げられた魚のようにぴちぴち逃れようとしていますが、青白い光をまき散らしているだけですね。熱くはないんでしょうか?

 

 おやおや、どうやらアブノーマリティーが脱走したみたいですね。いったいこの会社の安全性はどうなっているのでしょうか?

 

「うーん、誰かが作業に失敗しちゃったんでしょうか? それにしてもこれは……」

 

「うん? そこにいるのはパンドラか? いったいここで何を……」

 

「あっ、リッチ君パース!」

 

「うおっ」

 

 おや、いきなりリッチ君に手に持つ『O-05-i18』を投げつけましたね。そのまま『O-05-i18』はリッチ君のほうに飛んで行ってキャッチされてしまいました。

 

「おいパンドラ、いったい何を……」

 

「ふふっ、かかってきなさい」

 

 なぜかパンドラちゃんは『O-05-i18』をリッチ君に投げつけて、手招きをしています。

 

 突然のパンドラちゃんの奇行に、リッチ君はフリーズしてしまいました。なるほど、これが珍獣扱いされる理由ですか、確かにこれは常人には理解できませんね。アブノーマリティーで遊ぶとは何を考えているのでしょうか?

 

「なるほど、そういうことか。いいだろう、受けて立つ」

 

「ふっふっふっ、そう簡単に勝てるとは思わないでくださいね!」

 

 あらあら、どうやらこの子も同類だったみたいですね。二人でアブノーマリティーを使ったキャッチボールを始めてしまいましたよ、いったいどうしてこんなことになってしまったんでしょうね。

 

「くっ、なかなかやりますね……」

 

「ふっ、お前こそな……」

 

 なんだがいい勝負みたいな展開になっていますが、そもそもこの子たちは何でキャッチボールをしているのでしょうか? これは私がおかしくなったわけではないですよね?

 

「さて、お前たちは何をやっているのかな?」

 

「「あっ」」

 

 あーあ、ジョシュア君に見つかっちゃいましたね。私知ーらないっと。こってりと絞られちゃってくださいね。

 

 

 

「さて、今日はジョシュア先輩に迷惑かけっぱなしですし、先輩の苦手な『T-02-i29』*4の収容室の中に蚊取り線香でも置いておきますか。確か次の作業はジョシュア先輩でしたもんね」

 

「ふふふっ、ジョシュア先輩きっと喜んでくれますよね」

 

 どうやら迷惑かけた分、ジョシュア君に媚を売ろうとしているみたいです。パンドラちゃんはやらしいですね。

 

 ですがその恩返しはどうなんでしょうか? ちょっと発想がどこかに飛んでいますね。

 

「おいジョシュア、さっきの鎮圧はなんだ?」

 

「なんだって、効率よくやっただけですよ?」

 

「げっ」

 

 おや、何やら向こうでもめていますね?

 

 どうやら、ジョシュア君と懲戒部門のセフィラであるゲブラーともめているようですね。どうしたのでしょうか?

 

「どういうつもりだ、やつらを鎮圧するのに、あれほど苦痛なくする必要がどこにあるというのだ?」

 

「いや、わざわざそんなことする必要がありますか? そんなの戦力の無駄ですよ」

 

「ふざけるな! 貴様も懲戒部門のチーフなら、私の流儀に従ってもらうぞ!」

 

「俺が従うのは管理人だけです、それはあなたも同じでしょう?」

 

「……貴様、わかってて言っているな?」

 

「いえ、今のは失言でした。それでは失礼します」

 

 どうやらもめごとは終わったようで、ゲブラーも去っていきますね。あっ、ジョシュア君がこっちに来ますね……って、あれ? なんでパンドラちゃんは隠れているのでしょうか?

 

「あれ、どうしたんだパンドラ?」

 

「あっ、いえ何でもないです。ジョシュア先輩はどうしたんですか?」

 

「うん? 今から『T-02-i29』への作業に行こうと思ってな」

 

「ところで、そのおしゃぶりはどうしたんだ?」

 

「あっ、これは『O-01-i01』*5に作業してたらもらえました! 赤ちゃんだからおしゃぶりなんですかね?」

 

「赤ちゃん? あれは胎児だろう?」

 

「いやいや、完全に赤ちゃんでしたよ! 嘘だと思うなら確かめに行ってくださいよ!」

 

「そうか? わかったよ」

 

「あっ、そういえばシロちゃんが先輩のことを探してましたよ!」

 

「本当か? わかった、ありがとう」

 

 おやおや、さっきのいらない善意を押し付けるための行動だったみたいですね。ジョシュア君が去っていくのを見てさっそく『T-02-i29』の収容室に向かっていきましたね。ろくでもないことになりそうな気がします。

 

 

 

「はぁ~、ようやく終わりました~」

 

 何とか作業も終えて、またこの巣に戻ってきましたね。どうやら帰巣性の動物だったみたいですね。

 

「もー、ジョシュアさん、ジョシュア先輩がひどいんですよ! 今日もお説教ばっかり、そりゃあ私も悪いところもありますが……」

 

 おやおや、部屋の中においてある紫色の大きな花に話しかけていますね。気密性の高い容器に入っており、一切内部の空気が漏れないようになっています。よく見たら、この紫色の大きな花の根元には、五本の大きな根っこが張っていますね。もしかしてこんな見た目で木なのでしょうか?

 

「さて、それではおやすみなさい」

 

 そういって今日もベッドで横になって目を閉じます。いつも通り、この前ジョシュア君が来たときに忘れていった上着を抱き枕にしていますね。

 

 もう一日も終わるので、パンドラちゃんの生態観察はここまでです。

 

 それでは皆さん、またいつかお会いしましょう。

 

*1
『魅惑の果実』

*2
『鋏殻』

*3
『魂の種』

*4
『美溶の渇望』

*5
『安らぎの揺り籠』



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Days-35 苺の深夜『永遠の愛』

激流に身を任せて そうすれば私たちの愛は永遠となるの


 作業も終盤に近付き、今日もまた最後の時間が来ようとしている。エネルギーも順調にたまってきており、業務の終了もまじかだ。

 

「ジョシュア先輩、この後はどうするんですか?」

 

「あぁ、この後はな……」

 

「あっ、ジョシュア!」

 

「ジョシュア、そろそろ次の作業か?」

 

 メインルームでパンドラと話をしていると、作業を終えたのかシロとリッチがやってきた。

 

「リッチか、そうだな、そろそろ行こうと思っている」

 

「ジョシュアジョシュア、収容室までついていってもいい?」

 

「い、いや、さすがにダメかな?」

 

「だ、ダメ?」

 

「……リッチ、どうにかしてくれ」

 

「自分でどうにかしてくれ」

 

 最近シロが随分と俺に積極的に行動してくる。ちょっと前までは成長した娘を見ているような感覚だったが、今では捕食しようとしてくる肉食獣にも見えてくる。

 

「なら私が一緒に行ってあげますよシロちゃん!」

 

「……あれ、無視はひどくないですか?」

 

 最近俺には普通に話せるようになってきたシロだが、パンドラにだけは異様に冷たい。まぁ、こいつが今までやってきたことを考えれば妥当でもある。

 

「ジョシュアさん、何をしてるんですか?」

 

「りっちん先輩とシロちゃん先輩、それに珍獣ちゃんまでいるじゃないですか」

 

「おっ、メッケンナにミラベルじゃないか」

 

 今度はメッケンナとミラベルがやってきた。なんか今日はタイミングがいいな、こういうことはあまりないからな。

 

「ちょっと話をしていたのさ、今から作業に行くから……ッ!?」

 

 メッケンナに話しかけると同時に、大きな振動を感じた。この施設に随分となじんできた俺たちは、その異変に対応すべくすぐに武器を構える。だが、それもすぐに無意味なものとなった。

 

 メインルームの中心に、天井を覆うほどの大樹がそびえたった。それは肉の塊、骨の柱、臓物の塔。ところどころ骨のむき出しになっている肉塊でできた太い木の幹に、臓物の枝垂れる頭上の光景。すべての枝の先には口が垂れ、醜い液体を滴らせている。

 

 大樹が歌い、臓物をまき散らし、枝を振りまわしながら踊り狂う。その光景は我々の精神を狂わせるほどのおぞましい何かであり、正気を保とうにも、歌とともにまかれた目に見える胞子になすすべがなかった。

 

「あっ、あぁぁぁぁ!!??」

 

「あっ、あっ、あっ」

 

「あぁぁあぁぁあぁぁ!!」

 

 脳を震わされ、思考を犯される。すべての優先順位が書き換えられ、最も優先すべき行動が決定づけられる。

 

『福祉部門のメインルームにて、試練が発生しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

 あぁ、そうだ。俺たちは幸せにならなければならないのだ。

 

「あぁそうだシロ! 一緒に幸せになろう!!」

 

「ジョシュア!! うれしい!」

 

 シロと向かい合うと、彼女も嬉しそうに笑顔を向けてくる。互いにE.G.O.を構えて、お互いの感情をぶつけ合おう。

 

「愛しき僕のミラベル! 今日ここで一つになろう!」

 

「メッケンナさん、この日を待っていたわ!」

 

「くっ、とりあえずパンドラ、お前でいい!!」

 

「えっ、普通に嫌なんですけど!?」

 

「あぁ、愛しきあなた! 一緒にいきましょう!」

 

「マイハニー、これで僕たちの愛は永遠だ!」

 

 周囲の仲間が、オフィサーたちが、みんなが互いの愛を確かめる。E.G.O.を、拳銃を、おのれの拳をもって愛を確かめ、永遠とする。あぁなんて素敵なのだろうか!!

 

「あはははは!!」

 

「あははははははは!!!!」

 

 互いが互いを傷つけ合い(愛し合い)、お互いの体に己を刻み受ける。このすべての愛が永遠へと至るためのプロセスなのだ。

 

「えっ、えっ、みんなどうしたんですか!?」

 

「はははははっ!!」

 

「うふふふふっ!!」

 

 愛はすべてに勝るのだ。もうそれ以外なんていらない。ほら、彼女も祝福してくれている。この頭に響く歌こそが、我々のためのラブソングなのだ。

 

「よ、よくわかりませんがなんかみんな仲間割れしてるみたいなので今のうちに日ごろの恨みぃぃぃぃ!! ひでぶっ!!」

 

 羽虫が邪魔をしてきたが、“墓標”の一振りでどことかへ飛んで行った。そんなことよりもシロと愛を確かめなければ!!

 

「ジョシュア、ボクのジョシュア!!」

 

「シロ、お前をだれにも渡してなるものか!!」

 

「「あはははははっ!!」」

 

『ジョシュア、そこまでだ』

 

 シロと一緒に愛を確かめ合っていると、唐突にその声が聞こえてきた。

 

 この声は、聞き覚えがある。確か、とても頼りになる声だった気が……

 

『このままだとみんな死んでしまう、そうなれば今までのお前の努力がすべて水泡に帰す』

 

『まずはお前から目を覚ますんだ、お前はそんなことをしている暇なんてないぞ、ジョシュア!!』

 

「ぐっ、なっ、何が……」

 

 霧の立ち込めるような思考の中で、暗雲を晴らすように管理人の声が鳴り響く。それと同時に今までの行動がすべて異常であったと自覚した。

 

『ジョシュア、他のやつらはこっちで声をかけ続ける。お前はやつの討伐に全力を注いでくれ!』

 

「あぁ…… わかった、了解した!」

 

 まだ霞む思考を何とか働かせ、自分のやるべきことに集中する。みんなを救ってもこいつがいる限り同じことの繰り返しだ。

 

「すぐに対象を鎮圧にかかる!」

 

「待ってよジョシュア、どこに行くの!?」

 

「すまんシロ、すぐに助けてやるからな」

 

 迫りくるシロの攻撃をよけながら、苺の深夜に向かっていく。とにかくやつを倒さなければ。

 

「す、すまない、どうにかしていたみたいだ……」

 

「すいません、ちょっと寝てました」

 

「ジョシュアさん、いったいどうなって……」

 

「ぐっ、あいして……」

 

「あははははっ、これで私たちの愛は永遠に……」

 

 何人かは正気に戻すことができてきたが、管理人の努力も虚しくついに死んでしまったやつが出てしまった。

 

 すると、死んだ彼の首から苺の夕暮れが生えてきて、それに続いて彼を殺したオフィサーの女性も自らの首をへし折って自殺し、その首からも苺の夕暮れが生えてきた。

 

「くそっ、急いでこいつをぶっ潰すぞ!」

 

 苺の深夜に攻撃を加えれば、苦痛から逃れようとするのか大樹がめちゃくちゃに暴れ始めた。それと同時に巨大な幹を振り回して俺たちに攻撃を加えようとしてくる。今までは直接的な攻撃をしてこなかったことから油断していたが、こいつも深夜だ、自分での攻撃の一つや二つあってもおかしくはない。

 

「戦えるやつは先にこいつからやるぞ!」

 

 苺の深夜に全員で総攻撃を加える。攻撃こそしてくるものの、その動きは大ぶりなものが多く、気を付ければ何とか避けることができる。

 

 おそらく当たれば致命傷は避けられないだろうが、当たらなければどうということはない。そのまま攻撃を続けながら苺の深夜の攻撃をよけ続ける。するとしばらくして、苺の深夜が震え始めた。

 

「まずい、何か来るぞ!」

 

「全員、警戒しろ!」

 

 先ほどの洗脳の可能性も考え、逃げられるやつはメインルームから避難する。俺は間に合わないため形だけでも防御の姿勢をとると、苺の深夜は地面に引っ込んで消えてしまった。

 

「なっ、どこに行った!?」

 

『今度は情報部門のメインルームに出現した! 今すぐ鎮圧に向かってくれ!』

 

「了解した!」

 

 苺の深夜を鎮圧するために情報部門へ向かう。この後も攻撃を行い、逃げられ追いかけて攻撃するを繰り返していく。

 

 攻撃を加え続ければ、苺の深夜はどんどんその身を削られていき、ボロボロになっていった。そしてついに、その時は訪れた。

 

「これで、終わりだ!」

 

 苺の深夜に“墓標”を突き立てると、ついに苺の深夜は崩れ落ちた。その巨体が倒れると同時に、あまりにも大きな振動が地面を揺らす。苺の深夜はしばらく痙攣していたが、やがてピクリとも動かなくなってしまった。

 

 

 

「これで、ようやく終わったな」

 

「そうだな、全く面倒な奴だった」

 

 そう、苺の試練はどいつもこいつも面倒なやつばっかりだった。その中でもこいつはかなり強い奴であった。

 

 できれば、もう二度と相手にはしたくないくらいには。

 

「……ねぇ、ジョシュア」

 

「うん、どうしたんだシロ?」

 

「さっき言ってたことって、本当?」

 

「……何のことだかわからないな」

 

「いや、だってあれってたぶん本音だったよ? そういうことは……」

 

「さて、それじゃあ最後の作業にでも行こうかな」

 

「えっ、まってよジョシュア~!」

 




最期の最期で 裏切るなんて……


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EX-Story-8 『魔性の王』

「くそっ!!」

 

 突然の一撃を紙一重でかわし、収容室から脱走する。一体俺が何をしたというのか?

 

「突然何をするんだ!?」

 

「ふん、この施設の虫けらどもはすべて同罪だ。万死に値する」

 

 収容室の中から出てきた『O-03-i20』は、再びこちらに手の先を向ける。その手には悍ましい死の気配が集まり、閃光となってはじける。

 

 俺はその攻撃を何とかよけながら、何とか体勢を整える。さすがに収容室の中は狭すぎて戦いにくかったが、ここでなら何とかなる。

 

 こいつがなんでこんなに切れているのかわからないが、そっちがやろうとしているのであればこちらもやるしかない。

 

「さすがにそんな理由で殺されてたまるかよ」

 

「そんなことは気にするな、どのみち無意味に死ぬのだ」

 

 『O-03-i20』の手が変化し、鋭い爪が出現する。そして手のひらに死の気配が濃縮され、爪に流れる。

 

 俺も“墓標”を構えて反撃の準備に入るが、正直こいつにどれだけこのE.G.O.が通用するかわからない。とにかく増援が来るまで持ちこたえるしかないだろう。

 

『『O-03-i20』が脱走しました、エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

「ふん、下らん。だが貴様らのほうからくるなら手間が省けるというものだ」

 

 そう語りながら、一気に接近してこちらに攻撃を加えてくる。爪による斬撃を何とか“墓標”で受け止めながら、少し距離をとる。こいつ、動きが速いうえに攻撃が重い、それに死の気配も感じることから一撃でも受けるとまずいかもしれない。

 

「さて、そろそろ肩も温まってきたところかな?」

 

「いや嘘だろ!?」

 

 先ほどまででも結構攻撃の速度が速かったのに、いきなり速度が跳ね上がった。こいつ一体どうなってやがるんだ!?

 

 爪による切り裂きを“墓標”で弾き、その勢いのまま石突で攻撃しようとするが軽く体をひねられてよけられてしまう。攻撃をよけられてもその回転のまま切り裂こうとするが、嫌な予感を感じたので横に体をねじって回避する。

 

 すると、さっきで俺がいたところを青白い光弾が突き抜けていった。どうやらいつの間にか攻撃の準備をしていたらしい。

 

 予想外の攻撃に気を取られ、もう一度接近を許してしまう。何とか“墓標”の柄の部分で攻撃を受け止めることに成功したが、息つく暇もなく攻撃が繰り返される。

 

「はぁっ、はぁっ」

 

「ふむ、意外と粘るではないか」

 

「なんだよそれ、嫌みか?」

 

「いやいや、お前たち人間に対する最大限の称賛だよ」

 

 そういいながらも攻撃する手は止まらない、どうやら本気で俺を殺すつもりのようだ。あまりの攻撃速度に防戦一方の状況が続いたが、そこに変化が現れる。

 

「ぐおっ!」

 

「ジョシュア、大丈夫?」

 

「全く、何をやっているんだ?」

 

「シロ、リッチ!」

 

 どうやら時間稼ぎに成功したらしい。なんとか増援が来るまで持ちこたえることができた。

 

 シロが放った調律の弾丸が『O-03-i20』の頭に直撃し、隙ができる。その瞬間に俺とリッチで接近し、E.G.O.を叩きつける。

 

「この、虫けらどもが!!」

 

 ようやく『O-03-i20』に傷をつけることができると、『O-03-i20』は怒りを露にし、更に攻撃が苛烈になる。俺とリッチで牽制しあいながら攻撃を加え、シロが遠距離から打ち続ける。

 

 攻撃を加える度に『O-03-i20』はボロボロになっていき、どんどん動きも鈍くなっていく。

 

「おのれ、こんな虫けらごときにぃぃぃ!!!!」

 

 『O-03-i20』の手のひらに集まった死の気配が、剣の形となって俺に振り下ろされる。

 

「ぐあっ!」

 

 油断していたつもりはなかったが、突然伸びたリーチに反応できず、そのまま受けてしまった。

 

 膨大な死の気配が傷口から広がり、あとから痛みが追いかけてくる。戦闘中だと言うのに悶絶しそうになるのをなんとか理性で押さえ付け、武器を構えて心を落ち着かせる。

 

「こんなやつらにっ、負けて、たまるか……」

 

 どうやら最後の悪足掻きだったようで、最後に調律の一撃を頭部にくらい『O-03-i20』は倒れた。

 

「はあっ、はあっ、なんとか、なったか」

 

「ジョシュア!」

 

 胸に感じる死の気配を抱えて、『T-09-i97』*1に足を向ける。ふらふらの体をシロに抱えてもらいながら、なんとか歩いていくのだった……

 

 

 

 

 

「なるほど、そんなことがあったのかぁ」

 

「あぁ、本当に大変だった……」

 

 あれから癒されるべく『O-03-i07』*2の収容室に向かって膝にのせながら頭を撫でまくっていた。『O-03-i07』はそれに嫌がるどころか、もっとやってと言わんばかりに頭を押し付けてくる。あぁ、何て可愛いんだ。

 

「そうだ、そういうことならおれさまがいいものをプレゼントしてやるぞ!」

 

「えっ?」

 

 返事をするより早く、おでこの上辺りに違和感を感じる。ためしに触ってみると、なんだか小さく硬い出っ張りが生えていた。

 

「これでがんばるといいぞ!」

 

「……そうだな、頑張るよ」

 

 なんと言うか、ありがたいんだけどたぶんそこまでの力はないんだろうな。だけど、その分自分への影響は無さそうだから良いとするか。

 

「それじゃあ俺はもういくよ」

 

「がんばるんだぞぉー!」

 

 収容室から退出すると、最後まで『O-03-i07』は手を降ってくれた。

 

 

 

 次の作業は『O-03-i20』だ、やつと戦ったあとにこれはなんだか気まずいな。

 

「なんだ人間、また来たのか」

 

「こっちだって何度も来たくはないな」

 

 出会って早々にこれである。最初はもっと紳士的であったが、随分化けの皮が剥がれたな。

 

「むっ、貴様それは……」

 

「えっ、なんだよ?」

 

 

 『O-03-i20』がまじまじと俺の顔を見つめてくるので何事かと思っていると、随分苦々しい表情になった。

 

「そう言うことなら、私も認めるしかあるまい」

 

「人間、光栄に思えよ」

 

「いたっ!」

 

 突然『O-03-i20』がこちらに指を向けてきたかと思うと、側頭部から激痛が走った。

 

 しばらく悶絶していると、苦痛のかわりに違和感を感じた。

 

「なっ、なんだこれは!?」

 

 恐る恐る側頭部に手を伸ばすと、すごく立派な角が生えていた。

 

 どうしてくれるんだ、これじゃあ寝返りがうてないじゃないか!!

 

「それを受け取ったらさっさと出ていけ、今私は虫の居所が悪い」

 

「……くそっ」

 

 文句の一つでも言ってやろうかとおもったが、流石にもう一度こいつと戦うのは御免だ。言うとおりにさっさと退出することにする。

 

 こうして俺は、強力な力を得ることになったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 O-03-i20 『魔王シャイターン』 鎮圧完了

*1
『極楽への湯』

*2
『でびるしゃま』



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EX-Story-8 管理情報

 『O-03-i20』は強大な悪魔たちの王です。その収容室は死の気配に包まれています。

 

 『O-03-i20』は人間を虫けら程度に認識しています。対等であるなどと考えていると不快感をあらわにします。

 

 『O-03-i20』の脱走時には、非戦闘員の方は退避を優先してください。さもなければ被害が加速度的に広がります。

 

 『O-03-i20』に『O-03-i07』*1のブロマイドをちらつかせて交渉しないでください。『O-03-i20』は親バカなのです。

 

 

 

『魔王シャイターン』

 

危険度クラス ZAYIN

 

E-BOX数 30

 

ダメージタイプ P(5-8)

 

作業結果範囲

 

良い 27-30

 

普通 14-26

 

悪い 0-13

 

 

 

◇管理情報

1、作業結果普通で、確率でカウンター減少した。

 

2、作業結果悪いでカウンター減少した。

 

3、作業中に職員が死亡、パニックになった場合もカウンターが減少した。

 

4、『O-03-i20』が脱走中に職員を殺害すると、儀式を行い眷属を召還した。この眷属を『O-03-i20-1』と呼称する。

 

5、『O-03-i07』のカウンターが0になった瞬間、『O-03-i20』のカウンターも0となった。また、『O-03-i07』が泣いている間、『O-03-i20』はいかなる攻撃も受け付けなかった。

 

 

 

◇作業結果(作業好感度)

 

本能

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

洞察

1 低い

2 低い

3 低い

4 普通

5 普通

 

愛着

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

抑圧

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 3

 

R 0.5

 

W 0.2

 

B 1.5

 

P 1.0

 

 

 

◇ギフト

 

魔王(頭2)

 

HP+5

 

正義+5

 

*すごいパワー状態で、HP、MPが自動回復する。

 

 頭部に生える立派な角。その角が大きければ大きいほど実力がある証拠であり、強者の証である。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 魔王(剣)

 

クラス ALEPH

 

ダメージタイプ P(6-8)

 

攻撃速度 普通

 

射程距離 普通

 

*作成不可能、『O-03-i20』を鎮圧時のみ一回だけ入手可能。

 

*一振りで3回攻撃。

 

*すごいパワー状態で、射程距離が長距離の範囲攻撃に変化する。

 

 憎悪を封じた暗黒の大剣。そのひと振りで弱き命は触れずとも息絶えるという。

 

 

 

・防具 魔王

 

クラス ALEPH

 

R 0.8

 

W 0.8

 

B 0.8

 

P 0.5

 

*すごいパワー状態で、全耐性が0.5となり、HE以下のアブノーマリティーから受けるダメージを無効化する。

 

 格式高い燕尾服型の防具。上品ながらも禍々しさを隠し切れない。

 

 

 

◇戦闘スペック

 

HP 2500

 

移動速度 やや早い

 

行動基準 全て(『O-03-i07』を泣かせた職員を優先)

 

R 0.5 耐性

 

W 0.2 耐性

 

B 1.5 弱点

 

P 1.0 普通

 

*脱走中に職員を殺害すると、眷属を召喚する。

 

 

 

・屍河 P(10-15) 射程 近接

 

 雑草をむしる程度の気軽さによる攻撃。前方に近接攻撃。

 

・死告 P(5-10) 射程 長距離

 

 手の先を向けた相手に死を放つ。前方に長距離二回攻撃。

 

・魔王 P(50) 射程 普通

 

 死を集めて剣の形として振り下ろす攻撃。前方に強力なPダメージ。

 

 

 

『O-03-i20-1』

 

危険度クラス WAW

 

HP 500

 

移動速度 最も遅い

 

R 0.8 耐性

 

W 0.8 耐性

 

B 2.0 脆弱

 

P 1.5 弱点

 

* 一度の儀式で1~3体出現する。

 

 

 

・死相 P(5-10) 射程 近接

 

 手に持つ槍による攻撃。前方に近接攻撃。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 すいませんでしたぁ!!

 

 いや、なんで謝罪から始まるかというと、前回の話でこいつのスペックを全く話に活かせていないんですよね。本当はもっと苦戦する予定だったのですが、全然話が書けなかったので苦戦があまりなかったんですよね。

 

 本当はもっと眷属たちが大暴れして苦戦する予定だったんですけど、そこまで書く気力も時間もありませんでした。

 

 一応こんなに楽に勝てた理由もあるんですけどね。それはシロが使っていた“調律”ですね。これはBダメージのE.G.O.であり、このころのE.G.O.の中では上位に入るほどの武器でした。というかライフル型がぶっ壊れじみていました。

 

 戦闘のシステムが攻撃速度によってダメージ量が変わるのですが、ライフルは攻撃速度が普通でダメージ量がほかの普通のE.G.O.たちよりも大きいんですよね。ついでに射程が超長距離なので、他の近接武器たちのお株を奪いまくったんですよ。そのあと調整して近接武器でも活躍できるようにしたのですが、大砲(攻撃速度最遅)が取り残されてしまうことになってしまったんです。

 

 属性もBという優秀なダメージタイプで、『O-03-i20』にたいして弱点を突くことができます。ちなみになぜこいつがB弱点かというと、まぁそういうことですよね……

 

 とりあえず、言い訳もここまでにして、そろそろこのアブノーマリティーについて話したいと思います。

 

 こいつは特定の条件を満たすことによって強制的に収容されます。

 

 感想欄でも結構当てている人がいましたが、その条件は『O-03-i07』のクリフォトカウンターを0にすることです。

 

 普通にやっていればまず条件を満たすことはありませんが、ちょっとした不注意や好奇心で大変な目にあってしまいます。

 

 特殊能力もE.G.O.もすべて『O-03-i07』がらみですが、関連性は単純に親子ですね。つまりかなり厄介なモンペです。

 

 蕩ける恋が唯一の無害と言ったのはこのためですね、まぁ、実装してないだけであの子もバッドエンドあるんですけどね。

 

 こいつを収容したら気を付けるべき相手が増えるのは面倒ですね。その分能力が強いですが。

 

 それにしても、この後もまだまだEX-Storyが続くんですよね。いったいどうしてこんなことになってしまったのか……

 

*1
『でびるしゃま』



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EX-Story-9 『あなたが私のことを愛しているのはちゃんとわかっていますよでもそれはそれとして私以外の女に対して優しくすることも愛を囁く事も不要なはずですだからそんな目はいらないですよね?』

 グシャ

 

 ……肉のつぶれる音だ。この施設の中でよく耳にする、いつまでも聞きなれない不快な音だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴキャ ベキベキ

 

 ……骨が砕け、軋み、重なり合って一つになる音だ。ここまでの音はさすがに、今まで聞いたことがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グキャ

 

 ……人の、息絶える音だ。もうすでに死んでいたかもしれないが、たとえ息が続いていたとしても確実に葬られる一撃の音だ。

 

 

 

 

 

 

 

 ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!

 

 怪物の声だ。昂っているのか、憎悪を燃やしているのか、少なくとも人間には理解できない精神の声だ。常人ならこの声を聞いてだけで恐怖し、身を動かすことができなくなるような悲しい声だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グチャッ グチャッ グチャッ

 

 ベチョ グチュ ベチャ

 

 クチャ クチャ クチャ

 

 音はどんどんと激しくなっていった。

 

 何度も何度も叩きつけられ、肉がつぶされていく音だ。その音はどんどん柔らかくなっていき、ミンチ肉をこねてハンバーグでも作っているかのような軽快な音に代わっていった。

 

 音はどんどん軽くなり、先ほどまでのような不快感はなくなり、まるで台所で夕食の準備でもしているかのような音になっていく。こんな状況でなければ、普通に勘違いしてしまいそうだ。

 

 そう、ここは地獄であり、恐ろしい攻撃を受けている最中なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジョシュア、大丈夫か!?」

 

「ジョシュア先輩、目が大変なことになってるっすよ!!」

 

「あぁぁ…… な、何が起こっているんだ……?」

 

 視界が真っ赤に染まった後、何かの叫び声とともに、大きな振動が伝わってくる。

 

 いまだに目は見えないが、そんな俺を心配して誰かが俺のほうに駆け寄ってくる。

 

 ……この声は、リッチとジェイコブか?

 

「とりあえずここは危険だ、ジェイコブ、ジョシュアを連れて『T-09-i97』*1へ連れていけ!」

 

「わっ、わかりました!!」

 

 おそらくジェイコブに肩を担がれ、立ち上がってこの場から逃げ出す。このままでは足手まといだ、早く回復をしなければ。

 

「ジョシュア、あとは任せろ」

 

「……リッチ、頼んだぞ」

 

「……あぁ」

 

 

 

 

 

「……いったか」

 

 ジェイコブがジョシュアを連れて行ったことを確認し、改めて目の前の怪物に目を向ける。

 

 それは醜悪な化け物だった。

 

 筋肉の塊のところどころに腐りはてた肉塊が付着し、人間の上半身のみを模倣して形作られている。下半身はちぎれたかのように途中で途切れ、断面からは臓物がドレスのように広がっている。

 

 上半身は六つの腕がそれぞれ足のように体を支え、前二本を振り上げて目の前のミンチに殴りかかっているさまは、ゴリラやカマキリのようにも見える。

 

 その中でも前の左腕にある薬指は異様に肥大化しており、根本だけかなり細くなっている。よく見れば肉に埋まるように銀色の何かが見える。

 

 そして顔面には口もなく、鼻もない。そこにあるのはつぶらできれいな一つの目玉だけ、だがそれも顔の大きさに対して不釣り合いに大きく、すべてを台無しにしている。

 

 目の前の怪物は、俺たちになんて興味のかけらも抱かず、目の前のタチアナだったものにその憎悪の限りをぶつけていた。

 

 すでに原型なんてとどめていもいないそれに対して執拗に攻撃を加えた後、満足げに顔を上げると周囲をきょろきょろと見まわし始めた。

 

 彼女に夢中になっている間に、もうすでにここにいた全員が退避済みだ。あとは俺だけだ。

 

「かかってこい怪物、俺は決して甘くはないぞ」

 

「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!」

 

 目の前の怪物、『T-05-i11』は俺を見据えると、雄たけびを上げた。

 

 そしてそのまま……

 

 

 

 

 

 反対方向へと走り去っていった。

 

「なっ、どういうことだ!?」

 

 俺のほうでもなく、ジョシュアの逃げた方向でもなく、反対方向へ、いったいそっちに何があるというのか。まさかあれほどの憎悪を込めた怪物が、今更逃げ出すとも考えにくい。

 

「くそっ!」

 

 急いで追いかけるが、ありえないほどに速度が速い。もしかしたらジョシュアと同等くらいの速さかもしれないそいつは、中央第二へと向かっていった。

 

「なんて速さだ」

 

 今自分が使っているのは近接武器の“簒奪”だ。こういう逃げる相手の時にはどうしようもない、それも俺よりも圧倒的に早い奴が相手だ。

 

 急いで追いかけるが、もうすでに悲鳴が聞こえてくる。俺は全力で走り、中央第二へと続くドアをくぐった。

 

 

 

「いやあぁぁぁ!! 助けてぇ!」

 

「Β209! やめてくれぇ!」

 

「くそっ、何なんですかこいつは!?」

 

「パンドラさん、危ないですよ!」

 

「いやっ!?」

 

「パンドラちゃん、大丈夫?」

 

「ルビねえさん、ありがとうございます!」

 

 そこは、すでに地獄と化していた。

 

 『T-05-i11』は職員、いや女性だけを確実に頭部を握りつぶし、床にたたきつけることで殺し、その死体を一か所に集めていた。そしてある程度の山になれば、周囲のことなんてお構いなしに叩き潰し、肉の池になるまで叩き潰した。

 

 周囲にいるパンドラやメッケンナ、ルビねえが攻撃しようとも叩き潰すことに専念し、それが終わるとまた女性を狙い始める。

 

 この場にいる女性がパンドラだけになり、パンドラが執拗に追いかけられるが、何とか紙一重で避けていく。だが、相手のほうが早くついに捕まってしまった際に、何とか耐えてルビねえに助けられた。

 

 だがそうしている間にも、この怪物は待ってくれない。周りの男性には一切目もくれず、徹底的にパンドラを狙い続ける。

 

「もう、私には目もくれないってどういうことよ!」

 

「そりゃあルビねえに襲い掛かるなんて滅相もないからじゃないか?」

 

「あらリッチちゃん、それどういう意味?」

 

「それよりもそろそろパンドラがまずいぞ!」

 

「あらやだ!」

 

 ルビねえが“種子”を放ってパンドラに伸びる手を爆撃する。黒いもやがかかっていることから、『T-09-i91』*2を使っているのだろう。

 

 『T-05-i11』は一瞬ひるむと、そのすきにパンドラが何とかこの場から逃げる。するとまた、俺たちのことなんて目もくれずにパンドラの後を追いかけようとした。

 

「今度は逃がすか!」

 

 俺とメッケンナで、『T-05-i11』の左後ろ腕二本に同時に攻撃を仕掛ける。それと同時にルビねえが顔面に“種子”をブチかますことで、何とかこかすことができた。とはいえ一瞬だけのことだ、俺たちは奴の進行方向に立ちふさがり、もうこれ以上パンドラのほうへ向かわないようにする。

 

「さぁ、第二ラウンドだ」

 

「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!」

 

 どうやら彼女を追いかけるためには俺たちを倒さなければならないと認識したようだ。

 

 目の前の怪物が腕を振り上げたかと思うと、一瞬にしてその腕が消えた。

 

「むっ!?」

 

 勘を頼りに何とかその一撃を防ぐ。あまりにも早く、重い。その一撃が終わっても、また次の攻撃が飛んでくる。

 

「ア゛ァ゛ァ゛!!」

 

「くっ」

 

「くらえ!」

 

 左腕による攻撃を何とか防ぎ、その間にメッケンナが攻撃を仕掛ける。そして背後からルビねえが攻撃を与え続けることで、ダメージを当ていていく。

 

 確実にダメージは与えているはずだ。だが、この怪物は動きが鈍くなる様子もなく、いまだに元気に攻撃を続けてくる。

 

「くそっ、どうなっている!?」

 

「大丈夫よ! 表に見えないだけで、ちゃんと攻撃は通っているわ!」

 

 幾度と続く激しい攻撃、すべてが一瞬で致命傷のそれをよけ続けるのは、かなりの集中を要する。もちろん、そんなことを何度も続けれれるはずがなく、ついにその時が来た。

 

「ぐはっ!?」

 

「リッチさん! ぐあっ!?」

 

「ちょっと二人とも!!」

 

 攻撃を受けた後に体がふらついてしまい、その隙を突かれて『T-05-i11』のもう片方の腕による一撃を受けてしまった。

 

 その光景に動揺して、メッケンナまで攻撃を受けてしまい吹き飛ばされる。

 

 そしてそのまま、『T-05-i11』は動けなくなった俺のところまですさまじいスピードで来ると、その腕を振り上げ……

 

 

 

 

 

「悪い、待たせた!」

 

 その瞳に、“墓標”が突き立てられた。

 

「キ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!」

 

「とどめだ」

 

 最後の一撃は、静かな憎悪が含まれていた。ジョシュアの一撃を受けて『T-05-i11』ははじけ飛び、その場に指輪だけが残された。

 

「……」

 

 そのままジョシュアの足もとに転がったそれは、無言のまま“墓標”によって砕かれた。

 

「みんな、遅くなって悪かった!」

 

「……別に、お前がいなくても勝っていたさ」

 

「あぁ、そうだな」

 

 ジョシュアに手を差し伸べられて、立ち上がる。とりあえずこの傷を治すために、『T-09-i97』に行かなくてはな。

 

 

 

 

 

「本当に不愉快だな、お前は」

 

 俺はまた『T-05-i11』の収容室に向かっていた。今度は何があっても大丈夫なように、この福祉部門から女性は別の部門に行っている。

 

 そして、収容室に向かえば、またあの不思議な感覚が襲ってくる。

 

 

 

 

 

 大丈夫よ、あなたは私だけを見ていればいいの

 

 ほら、あなたのためにこの指輪も用意したのよ?

 

 素敵でしょ、これがあればもうあんなことは起こらないわ

 

 だからこれを受け取って

 

 

 

 

 

 俺はこの指輪を……

 

 

 

 

 

 受け取らなかった

 

 

 

 

 

 なんでなんでなんで!?

 

 ……あぁそうか、私が悪かったのね

 

 そうよね、あなたは優しいから

 

 だから私のために言ってくれているのね

 

 うふふ、これも愛よね

 

 ありがとう

 

 

 

 

 

 すると、俺の左手の薬指に痛みが走った。

 

 よく見れば、それは彼女と同じ目の色をした宝石のついた指輪であった。

 

 俺はこいつを許せなかった、だからこいつを拒否した。

 

 だが、結局のところこいつから逃れることはできなかったようだ……

 

 

 

 

 

 どうして、私たち結婚するのにほかの女といるの?

 

 どうして私を愛してくれているのにそんなことするの?

 

 私のほうがあなたを愛しているのに、愛のかけらもないそんな女に……

 

 そうか、その見た目であなたを誘惑したのね

 

 そうか、その表情、しぐさ、その見た目のすべてがあなたを誘惑するのね

 

 

 

 

 そう、やっぱり目移りするのがいけないのね

 

 

 

 

 

 T-05-i11 鎮圧完了

*1
『極楽への湯』

*2
『七色の瓶』



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EX-Story-9 管理情報

 『T-05-i11』は指輪型のアブノーマリティーです。このアブノーマリティーに魅入られた職員は、以後女性職員との接触を禁止します。

 

 『T-05-i11』は女性に対して並々ならぬ憎悪を燃やしています。

 

 脱走した『T-05-i11』は、醜悪な姿に形を変えます。また、その速度は驚異的です。

 

 実験の結果『T-09-i88』*1を使用した女性職員は、『T-05-i11』に作業を行うことができることが判明しました。しかし、この方法による頻繁な作業はあまりお勧めできません。

 

 

 

『盲目の愛』

 

危険度クラス ALEPH

 

E-BOX数 32

 

ダメージタイプ R(6-7)

 

作業結果範囲

 

良い 26-32

 

普通 18-25

 

悪い 0-17

 

 

 

 

◇管理情報

1、女性職員が収容室に入ると、カウンターが減少した。

 

2、エンゲージ状態の職員が存在しない場合に男性職員が作業を行うと、その職員は作業終了後にエンゲージ状態となった。

 

3、エンゲージ状態の職員が存在しなくなると、カウンターが減少した。

 

4、エンゲージ状態の職員は、MPが徐々に回復した。また、戦闘を行う際に追加のRダメージを与えた。

 

5、エンゲージ状態の職員が女性と同じ部屋に存在すると、その職員の目をつぶしてカウンターが減った。この状態は『T-05-i11』を鎮圧するまで続きます。

 

6、脱走した『T-05-i11』は、積極的に女性を襲った。

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

洞察

1 低い

2 低い

3 低い

4 普通

5 普通

 

愛着

1 最高

2 最高

3 高い

4 高い

5 普通

 

抑圧

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 1

 

R 0.0

 

W 0.5

 

B 0.8

 

P 1.0

 

 

 

◇ギフト

 

エンゲージリング(手1)

 

HP+10

 

E.G.O.の最大・最小ダメージ+1

 

 永遠の愛を示すエンゲージリング。それはつまり、永遠の監視を意味する。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 エンゲージリング(剣)

 

クラス ALEPH

 

ダメージタイプ R(10-14)

 

攻撃速度 高速

 

射程距離 普通

 

*エンゲージ状態の場合、攻撃速度が上昇。

 

 持ち手が指輪状になっている大剣。筋繊維が脈動し、持ち手の宝石部分にある目がすべてを監視する。

 

 

 

・防具 エンゲージリング

 

クラス ALEPH

 

R 0.2

 

W 0.4

 

B 0.4

 

P 1.0

 

*エンゲージ状態で、移動速度が上昇。

 

 美しい赤色のタキシード。しかしよく見れば筋繊維で編まれている。

 

 

 

◇戦闘スペック

 

HP 2000

 

移動速度 最速(正義130程度)

 

行動基準 女性最優先

 

R 0.0 免疫

 

W 0.5 耐性

 

B 0.8 耐性

 

P 1.0 普通

 

*脱走中女性を最優先で攻撃する。

 

 

 

・見 つ け た R(15-20) 範囲 超近距離

 

 対象に超高速で近づき、腕でたたきつける高速攻撃。前方に強力な攻撃。

 

・逃 が さ な い R(20-30) 範囲 長距離 貫通

 

 遠くの対象に伸ばした爪を引き剥がし、投げつける。前方に長距離の貫通攻撃。

 

・ア イ シ テ ル R(80-100) 範囲 普通 範囲

 

 愛する者へ、回転しながら伸ばした爪による斬撃を繰り出す。自身の周辺に超強力な攻撃。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 はい、ついにきました、最悪の女性特攻アブノーマリティーです。

 

 このアブノーマリティーは、男性に対してはそこまで悪意はありません。目をつぶされても火の鳥と同じように作業速度が半分になる程度です。現実というか作中ではそれどころではありませんが……

 

 もちろん、効果は一日が終わるまで続きますが、『T-05-i11』を鎮圧しても治ります。

 

 エンゲージ状態ですが、目をつぶされた場合はなくなります。女性が収容室に入った状態だとそのままなので、『T-05-i11』どうしの戦いを見ることもできます。

 

 エンゲージ状態の戦闘による追加のRダメージは、作業ダメージとおなじ6-7ダメージです。それを攻撃時に追加なので、維持できればかなり強いです。維持できれば、ね……

 

 さらにこのアブノーマリティー、『O-01-i33』*2と1・2を争うほどの戦闘力です。最高速度からの普通に痛い攻撃、さらには即死級の攻撃まで持っています。また行動基準が特殊なので、わかっていなければ非常に戦いにくいです。逆にそれを利用もできますが……

 

 管理方法とも合わせれば全ALEPHの中でもおそらく1番収容したくないレベルのアブノーマリティーですね、『T-06-i30』*3よりも収容したくないです。まぁこの後に実装されたやつのほうがやばいかもしれませんが……

 

 さらにさらに、以前も言いましたが管理方法に罠がいくつか仕込まれています。読んでも気づかれにくい感じのやつですね。施設によっては本当に収容するだけで壊滅的な被害が出ます。

 

 ちなみに弟はこのアブノーマリティーに全く作業しなかったせいで、全く被害が出ませんでした。なんでだ……

 

*1
現状では未判明

*2
『木枯らしの唄』

*3
『常夜への誘い』



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EX-Story-10 『目覚めの時は近い』

「はぁ、お前はいつも寝ていてうらやましいよ」

 

 目の前で眠り続ける幼児に、意味もなく声をかける。このアブノーマリティーは、いつも寝ているうえに、どんどん成長している。ちょっと前まで赤子だったというのに、どうしてここまで成長が速いのか。

 

「これ以上はもう作業をしないほうがいいかもしれないな」

 

 クリフォト暴走によってえらばれる可能性がある以上、これ以上このアブノーマリティーに対して作業を行っていけば、さらに成長してしまう可能性だってある。できれば無駄に作業はしたくない。

 

 ふと周囲を観察すると、月は半月まで満ちて、星の数は心なしか多くなっている気がする。

 

「はぁ、後で管理人にでも相談しよう」

 

 今日も洞察作業を終えて、収容室から退出する。余りこの収容室には長居したくない。どのような行動で影響があるか分かったものではないからだ。

 

 

 

「あらぁ、ジョシュア先輩じゃないですかぁ」

 

 『O-01-i01』の収容室から退出すると、久しぶりにサラにであった。最近出会ってなかったからか、少し見ないうちに結構ギフトが増えていた。

 

「おいおい、そのギフト最近はやっているのか?」

 

「いえいえぇ、このギフトをもらっているのはぁ、私とパンドラちゃんだけですよぉ」

 

 一番わかりやすい変化は、やはり加えているおしゃぶりだろう。俺も渡されそうになったが、明らかにやばそうなので拒否したのだ。最初の意図とは違ったが、見た目的に受け取らなくて正解だったようだな。これ以上色物になりたくない……

 

「そういうジョシュアさんもぉ、ずいぶんと勇ましい姿になりましたねぇ」

 

「……あんまりいうなよ、結構不便なんだ」

 

 そういいながら首をさする。この頭のせいで寝違えて今朝は大変だったんだ。

 

「なんだかんだでぇ、ジョシュア先輩は強力なギフトを結構お持ちですよねぇ」

 

「だがリッチも結構多いぞ」

 

「いやぁ、さすがに私でも金魚鉢はちょっと……」

 

「それこそあんまり言ってやるなよ……」

 

「そういえば、この前知ったのですが……」

 

 その後サラとはアブノーマリティーに関する情報を交換して、お開きになった。

 

 今後しばらくは、クリフォト暴走でもない限りは、『O-01-i01』に作業はしないように、管理人に報告して、次の作業に移っていった。

 

 

 

 

 

「はぁ、いったいどうなっているんだ?」

 

 あれからしばらくして、久しぶりに『O-01-i01』に作業を行いに行った。前回幼児に成長したばかりから全く作業をしていなかったというのに、すでに子どもくらいの大きさまで成長していた。

 

 その白い肌はそのままに、体を白い羽に包まれて安らかに眠っている。このままだと確実に成長し終わった場合に何かが起こる。それは、どう考えたっていい方向にはならないだろうという確信があった。

 

「どうか、そのまま眠った状態のままでいてくれ……」

 

 思わず声に出てしまったが、どうしてもそう思わずにはいられなかった。

 



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EX-Story-10 管理情報

 新たなる生命の誕生を止めることは、だれにもできません。

 

 

 

『安らぎの揺り籠』

 

危険度クラス ZAYIN→TETH→HE→WAW

 

E-BOX数 10→12→18→24

 

ダメージタイプ R(1-2)→W(2-3)→B(3-4)→P(5-6)

 

作業結果範囲

 

良い 4-10→4-12→4-18→4-24

 

普通 2-3

 

悪い 0-1

 

 

 

◇管理情報

1、『O-01-i01』の作業結果が良の場合、職員のMPが回復した。

 

2、『O-01-i01』に愛情をもって接することで、健やかに成長する。

 

 

 

◇作業結果(作業好感度)

 

本能

1 高い→普通→普通→普通

2 高い→普通→普通→普通

3 高い→普通→普通→普通

4 高い→普通→普通→普通

5 高い→普通→普通→普通

 

洞察

1 普通→高い→普通→普通

2 普通→高い→普通→普通

3 普通→高い→普通→普通

4 普通→高い→普通→普通

5 普通→高い→普通→普通

 

愛着

1 普通→普通→高い→普通

2 普通→普通→高い→普通

3 普通→普通→高い→普通

4 普通→普通→高い→普通

5 普通→普通→高い→普通

 

抑圧

1 普通→普通→普通→高い

2 普通→普通→普通→高い

3 普通→普通→普通→高い

4 普通→普通→普通→高い

5 普通→普通→普通 →高い

 

 

◇脱走情報

 

LOCK*1

 

 

 

◇ギフト

 

ラトル(口1)

 

MP+2

 

 おしゃぶり型のギフト。なんだか赤子に戻った気持ちになる。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 ラトル(ナイフ)

 

クラス ZAYIN

 

ダメージタイプ ?(1-2)

 

攻撃速度 超高速

 

射程距離 超近距離

 

*『O-01-i01』の状態により、攻撃属性が変化する。

 

 ラトル型のE.G.O.。その音色は、聴く者の心を落ち着かせる。

 

 

 

・防具 ラトル

 

クラス ZAYIN

 

R 0.8

 

W 1.0

 

B 1.0

 

P 1.5

 

 赤ちゃん用の服(涎掛け付き)型のE.G.O.。装着していると誰かに甘えたくなる。

 

 

 

余談

 

 いやいやいや、こいつは無害なZAYINなんだ、だれが何と言おうと無害なZAYINなんだ!(おめめぐるぐる)

 

 いやぁ、なんでこんなことになっちゃったんでしょうねぇ?

 

 まるでALEPHの見本市やぁ。

 

 ……いやぁ、本当にこんなことになったときは発狂しそうになりましたね、私が。

 

 だってもうすでにこの小説を書き始めていたことだったので、こんな中盤で通常収容可能な全ALEPHと面白特性のアブノーマリティーがすべて収容されてしまったんですから。この後の見せ場あがが…… こうなってしまったらあとは終末鳥だけですからね。

 

 このアブノーマリティーは、前回でも描写がありましたが特定の条件を満たしたら作業をしていなくても成長します。この成長は、TRPG風ゲームで採用している隠し情報の好感度が上昇すれば発生します。

 

 普通のアブノーマリティーがギフトをプレゼントする数値が10で、このアブノーマリティーは10ずつ上昇するごとに成長していきます。

 

 そして、弟は情報を開放し終わった後は放置していたため、途中の成長を見ることができずに最終形態まで行っていました。

 

 ちなみに、その条件は、普通に業務をしていたら確実に満たします。

 

 それでは次回はコア抑制となりますが、かなり話数が多いです。だってゲブラーネキなんだもん、めっちゃ気合を入れています。

 

 なので、あまり興味のない人は最初と最後だけ見ていても支障はありません。バトルばかりなので……

 

 ちなみに話数はゲブラーの形態まであります。

 

 ついでに、EX-Storyがかなり長くなったので、忘れてしまった人のために次回のアブノーマリティーの番号をもう一度載せておきます。

 

*1
必要PE-BOX数 99,999




Next O-01-i40『もうすぐ暖かくなりますね』


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懲戒部門 セフィラコア抑制 支『赤い霧が帰ってきた』

四分割です


『諸君、今回のセフィラコア抑制は今までとはずいぶん違っているようだ。我々はこれより、強大な壁に直面する』

 

『故にこの戦いには、万全を期する必要がある。そこで皆には、まず『T-09-i91』*1と『T-09-i96』*2で能力を強化してもらいたい』

 

『また、『T-05-i22』*3に作業して加護をもらい、ジョシュアとパンドラは『O-03-i07』*4へのイケニエ作業をしてすごいパワーをもらってきてくれ』

 

『そして、その後すぐに赤い霧、懲戒部門セフィラのゲブラーの鎮圧に向かってほしい』

 

『どうか、君たちの武運を祈る』

 

 ついにこの時が来てしまった。

 

 路地裏の伝説、ロボトミー創設時にこいつだけいればいいと本気で思われていた最強の女、赤い霧の二つ名を持つ者。懲戒部門のセフィラ、ゲブラー。彼女の異常さはゲームでも存分に発揮されている、具体的には初期の方の装備でも圧倒的な性能を発揮できるやばい奴だ。

 

「さて、行くぞ」

 

「はい、でもこんなに準備して大丈夫なんですか?」

 

「まぁ、そう簡単にはあの場所から動かない…… はずだ」

 

「あーあ、今ので一気に信用性がなくなりましたね」

 

「そういうなよ、それよりも万全を期する必要があるだろう?」

 

「まぁ、それもそうですけどね」

 

 『T-09-i96』の使用には時間がかかるため、その間に俺とパンドラは『O-03-i07』の作業を行うために中央第一に向かう。

 

 準備の時間があるのであれば、その時間を最大限に使うべきだ。これからの戦闘は、それでも安心できるものではないのだから。

 

 俺たちは準備に奔走する、絶対に生き残るために。

 

 

 

 

 

「ようやく来たか」

 

「あぁ、遅くなったな」

 

 可能な限りの強化は施した。加護も十全に行い、俺とパンドラはすごいパワーで強化されている。これ以上にできることなんて何もない、ならばあとは覚悟を決めて戦いに赴くべきだ。

 

 今回の戦闘は総力戦だ。ゲームでは少数精鋭で戦うほうがやりやすかったが、これは現実、職員それぞれが自分の意思で行動できる。仲間の死亡に対するパニックなど気を付けるべき点はあれど、それを差し引いても採用する価値はある。

 

 赤い霧、ゲブラー。

 

 黒を基調とした戦闘スーツには赤いラインが入っており、顔は岩石のような重量感のある黒い仮面で覆われている。

 

 そして、その手に持つのはE.G.O.だ。それも原作のような懺悔と赤い目ではない。

 

 右手に持つのは巨大な黄金色の宝石が先端に付けられたメイス、“琥珀”だ。TETHのW武器であるそれは、先端の結晶から液体を垂らしている。それがあのアブノーマリティーから出る美容液と同じであるとは、正直思えないくらい美しい。その美しさは、見るものが引き込まれそうな輝きをしている。

 

 そして左手に持つE.G.O.は、今までに見たことのないものであった。緑色の皮で包まれた棍棒は、おそらくはワニのものだろう。先ほどのE.G.O.とは打って変わって荒々しさを前面に押し出した野蛮な印象を受ける。その属性はわからないが、原作から考えるとRダメージの可能性が高い。そのほうが見た目にも合っているし、これがBやPではないように感じる。

 

「私が帰ってきた、苦痛より歩み出た赤い霧が」

 

 そういって、ゲブラーは前へ歩み出た。その瞬間、俺たちを強力なプレッシャーが襲い、何人か身動きが取れなくなる。

 

 そして一瞬意識をそらしただけだというのに、すでに彼女は俺たちの前にいた。そのまま緑色のメイスを振り上げ、そのまま……

 

「まずい、逃げろ!」

 

「えっ」

 

「弾けろ」

 

 その瞬間、ゲブラーの目の前にいたジェイコブが緑色のメイスによって弾け飛んだ。

 

 死体はひとかけらも残らない、ただその場に赤い霧が残るだけ。

 

「いっ、いやぁぁぁぁ!!」

 

 仲間が目の前で死ぬ、しかも跡形もなくただの赤い霧となって。その目の前の光景に俺たちは精神的なショックを受けたが、その中でもサラが一番大きな衝撃を受けたようだ。発狂まで行かなくても相当ダメージを受けたようで、E.G.O.を落としてしまう。

 

 そしてその隙を、彼女が見逃すはずがなかった。

 

「琥珀」

 

「えっ」

 

 その一撃を受けて、サラは発狂してしまった。恐怖のあまりその場に立ちすくみ、目の焦点は合っていない。そして独り言をぶつぶつと言って現実逃避を行うこの症状は、おそらく自殺性のパニックだろう。

 

 このままではゲブラーにとどめを刺されるまでもない、即急に何とかしなければならない。

 

「くそっ、W武器もちはサラの回復を、他はゲブラーの動きに注意してかかれ! 動作は大きい、絶対に飲まれるな!」

 

「喧噪」

 

 ミラベルに向かって放たれる緑色のメイスによる攻撃を、“墓標”ではじいて何とかそらす。たった一撃で武器を持つ手がしびれる、いったいどうしたらこれほどの力を引き出せるのか。

 

「ジョッシュン先輩すいません!」

 

「黙れ、そんな暇はないぞ!」

 

「甘い」

 

 マオが懐に入って“手”を叩き込む。ゲブラーがそれを“琥珀”で防ぎ、緑のメイスを横薙ぎにふるう。それをリッチが“簒奪”で下からはじいて軌道をずらし、マオがそのわずかな差でなんとか屈んでよけることに成功する。

 

 そのまま“墓標”をゲブラーに突き刺し、前方からくる緑のメイスによる攻撃をすれ違うように避ける。

 

 そのまま振り向きざまの“琥珀”による振り下ろしを、シロが遠距離から“調律”で手元を撃って狙いをずらす。

 

 そしてパンドラが遠距離から“魔王”による斬撃を飛ばし、クロイーとミラベルが“信仰”で援護する。

 

 ゲブラーはそれらを両手のE.G.O.で防ぐが、背後に回ったメッケンナの“鬼退治”によって切りつけられる。

 

 そこで一瞬よろけたすきにもう一度最接近して“墓標”で足を突き刺す。これで少しでも動きが鈍ればいいが、そううまくはいかないだろう。

 

「猪口才な」

 

 その瞬間、ゲブラーは両手のE.G.O.をしまい、腕に新たなE.G.O.を装着した。

 

 それは、太陽のように輝く灼熱の籠手であった。

 

 赤を基調とした装いに、黄金の装飾がなされているその籠手は、燃え上がる炎を噴き出していた。その下手をすれば品を失いそうな色合いも、不思議と上品な雰囲気を醸し出している。まるで芸術品のような儚さを兼ね備えているそれは、戦いの場には不釣り合いなように感じる。

 

 だがそんなことは、この場において意味をなさない。問題なのは、この攻撃がおそらく即死級の攻撃であるということだ。

 

「全員よけろ! 可能ならこいつの背後に回れ!」

 

「遅い」

 

 次の瞬間、閃光が走った。

 

 必死に避けたにもかかわらず、その余波で吹き飛ばされてしまった。

 

 体を起こして周囲を確認する。先ほどまでゲブラーがいたところから一直線に、焼け焦げるどころか床の一部が溶けていた。それほどの攻撃を受ければひとたまりもない。周囲を確認してみんなの安全を確認する。できれば黒墨になっていないことを祈るばかりだ。

 

「みんな大丈夫か?」

 

「あぁ、俺は大丈夫だ」

 

「ボ、ボクも大丈夫だよ」

 

「いやぁ~、今の攻撃は奇跡的に皆さんよけられたみたいですね」

 

 どうやら今生き残っている奴は、みんな大丈夫なようだ。だがこうなるとほかの部門で待機していた職員たちが気がかりだ。さっきの攻撃はほかの部門にもワープしながら突進していく攻撃だ、だがこの攻撃が出たということはある程度は体力を削ることができたと考えてもいいかもしれない。何もかもゲームと同じと考えるのは危険だが、期待するのはタダだからな。

 

「とりあえず、無事ならいい。ゲブラーを追いかけるぞ」

 

『彼女なら今情報部門のメインルームだ、気を引き締めてかかれ!』

 

「了解、情報部門に行くぞ!」

 

「わかった」

 

 とりあえず、全員が動けるのを待ってから情報部門に向かう。そういえば、今日の『T-09-i96』当番の職員は大丈夫だろうか?

 

 

 

 

 

「ようやく来たか」

 

「悪いが無駄話に付き合う気はないぞ」

 

「それは私の台詞だ」

 

 その言葉を皮切りに、お互いに動き出した。

 

 まず最初に、ゲブラーはミラベルの目の前に移動して緑色のメイスを振り上げた。ミラベルはそれを予期してか、バックステップでその範囲から逃れる。ゲブラーがミラベルに気を取られているうちに、俺とリッチで接近して攻撃を仕掛ける。

 

 “墓標”と“簒奪”による斬撃を受けて、ゲブラーが少しよろめく。その隙にマオが懐に入り、“手”によるラッシュを叩き込む。

 

 ゲブラーが懐に入ったマオに緑のメイスを叩き込もうとするところを“墓標”で弾き、シロが顔に“調律”の弾丸を叩き込む。

 

 ゲブラーがシロに狙いを定めたところでパンドラが“魔王”による斬撃を飛ばして足元を狙う。

 

 ゲブラーは斬撃を跳んで躱すと、空中にいるその瞬間を狙って“調律”と“種子”、“信仰”による一斉掃射が待ち受ける。ゲブラーはそれらを両手のE.G.O.で弾き、そらし、身をよじってすべて躱す。だが着地の瞬間を狙ってマオと一緒に攻撃を仕掛ける。

 

 俺とマオの攻撃を、ゲブラーは両手のE.G.O.で防いで押し返してくる。その勢いのままバックステップして距離をとってから、再び遠距離組からの一斉掃射が始まる。それを食らいながらゲブラーはシロに接近してその緑のメイスを振りかざす。

 

「なっ!?」

 

「危ない!」

 

 パンドラがシロを助けようと、“魔王”で斬撃を飛ばす。ゲブラーをさすがにこの攻撃には耐えきれなかったのか、体がよろめく。

 

 もちろん、その隙を逃す我々ではない。長距離攻撃による援護射撃により、ついにゲブラーは膝をついた。

 

「……やったか?」

 

「いいや、これからだ」

 

 ゲブラーがその手に持つE.G.O.を放り投げると、その両手に新たなE.G.O.を持って立ち上がる。

 

 枯れ木のような大鎌と、筋繊維のむき出しの大剣。仮面は中央が赤く光り、全身から感じられる圧も、一段と重くなる。

 

「貴様らのような未熟者に私が倒せるとでも?」

 

 ここからが本番だ、赤い霧の本領がここから発揮される。

 

 

 

 

 

 俺たちとゲブラーとの第二ラウンドが、始まる……

 

*1
『七色の瓶』

*2
『黄金の蜂蜜酒』

*3
『慈愛の形』

*4
『でびるしゃま』



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懲戒部門 セフィラコア抑制 戦『貴様らのような未熟者に私が倒せるとでも』

 黒い戦闘用スーツを身にまとう赤髪の女戦士、『赤い霧』ゲブラー。

 

 先ほどまで持っていた二振りのメイスたちはどこかへ消え、代わりにその手の中に収まっているのは恐ろしい二振りのE.G.O.。

 

 右手に握られているのは枯れた木のような大鎌のE.G.O.“簒奪”。ALEPHクラスのWダメージ武器であり、相手に与えたダメージの半分を回復できる強力なE.G.O.だ。さすがに回復することはないだろうが、その威力は、先ほどのTETHの“琥珀”とは比べ物にならないはずだ。

 

 そして左手に握られているのは、筋繊維の脈動する大剣のE.G.O.“エンゲージリング”。こちらもALEPHクラスのRダメージ武器であり、攻撃性能はかなり高い。先ほどでもランクの低い職員は一撃で終わりを迎えてしまうほどだったが、ここからは俺たちでも危険だ。

 

「貴様らのような未熟者に私が倒せるとでも」

 

 俺たちを踏みつぶさんとでもするかのように、力強い一歩を踏み出す。ピリピリとした感覚が肌を焼き、周りの空気も変わった。

 

「さあ、仕切り直しだ」

 

 ゆっくりとしていたその動きは、徐々に速くなっていき、気が付けば一瞬で間合いを詰められるほどであった。

 

「くっ」

 

「永遠の誓い」

 

 “エンゲージリング”による薙ぎ払いを屈んで下からずらすようにはじいてよける。そのまま“墓標”で足元を攻撃するが、“簒奪”で簡単に防がれてしまう。

 

「おらぁ!」

 

「甘い」

 

 マオの背後からの攻撃も、振り終わった“エンゲージリング”で防がれ、そのまま回し蹴りをうけてマオが吹っ飛んだ。

 

 ミラベルやクロイーの攻撃も、簡単に見切られて最小限の動きでよけられる。シロの攻撃は“簒奪”ではじかれ、ルビーの“種子”による砲撃も破壊された。

 

「ならば!」

 

 リッチが“簒奪”によってゲブラーに攻撃を加えるが、それを同じ“簒奪”で防がれる。力押しに負けそうになっているリッチに加勢すべく“墓標”をふるうと、それも“エンゲージリング”によってはじかれてしまう。

 

「そこっ」

 

 その瞬間を狙ってシロが“調律”を放ち、その弾丸がゲブラーのマスクに当たる。顔がのけぞって体勢が崩れた瞬間を狙って、“墓標”をゲブラーの胸に突き刺す。

 

 さらにその“墓標”の石突部分をマオが殴り、より深く突き刺さる。

 

「ラヴァーズ」

 

 武器を手放した俺に一撃を加えようと、ゲブラーが“エンゲージリング”をふるう。俺はすれ違うように背後に回り、マオのさらなる一撃で貫通して出てきた“墓標”をつかんで引きずり出した。

 

「マオ、助かった!」

 

「てめぇの礼なんていらねぇんだよ」

 

 ゲブラーの斬撃が飛んできたので、退避して体勢を立て直す。その瞬間を狙ってシロの攻撃が飛んでいくが、またもやはじかれてしまう。

 

 パンドラが“魔王”で斬撃を飛ばして接近するも、“エンゲージリング”の斬撃で吹き飛ばされてしまう。何とかE.G.O.で攻撃を防いだが、衝撃でふらついている。

 

「まったく、ちょこまかと……」

 

 ゲブラーは“簒奪”と“エンゲージリング”を地面に突き刺し、どこからか一本の槍を取り出した。

 

 それは、灰色の結晶で作られた原始的な槍型のE.G.O.だった。くすんだ灰色だというのに、どこか透き通って見える不思議な結晶はなぜか心を惹かれるものがある。

 

「静寂の世界をここに……」

 

「まずい、全員射線上から逃れろ!」

 

 ゲブラーはその槍を右手で持つと、逆手に持ってこちらに向かって構えた。投擲の準備が整うと、一瞬のため、その間に音もなくゲブラーの足元から灰色の結晶が生えてくる。

 

「その細動を逃さない」

 

 その投擲に、音は一切なかった。槍の投擲の後を追うように結晶が生えていき、パンドラに向かって飛んでいく。一切音がなかったことで気づくことに一瞬遅れてしまったのか、パンドラはその光景を見ているしかなかった。少し遅れて“魔王”で抵抗しようとするも、間に合いそうにない。

 

「くっ、何のっ!」

 

「パンドラ先輩、危ない!!」

 

 今にも灰色の槍がパンドラを突き刺そうとしているその時、クロイーがパンドラを突き飛ばした。

 

「ぐっ、」

 

「クロイーくん!」

 

 クロイーがパンドラをかばったことで、槍がクロイーに突き刺さる。そのまま槍は勢いを落とすことなく突き進んでいき、クロイーを貫通していった。

 

「ぐっ、があぁぁぁぁ!!!!」

 

 最初は貫かれただけで何の変化も見られなかったが、クロイーが叫び声をあげるとともに体中からものすごい勢いで何かが飛び出してきた。

 

 それはくすんだ灰色の結晶だった。先ほどの槍と同質と思われる結晶が、クロイーの体の肉を内部からえぐり出しながら生えてくる。そして内側から結晶に覆われたクロイーは、もはやそのほとんどが原形などとどめてもいなかった。

 

「糞、クロイー……」

 

「簒奪」

 

 たとえ仲間の死であっても、一瞬の隙すら許されなかった。

 

 ゲブラーの振り下ろす“簒奪”を“墓標”で何とか受け止める。だがそのあとの“エンゲージリング”まではどうしようもなかった。

 

 シロやルビーの攻撃もものともせず、ゲブラーが“エンゲージリング”を振り下ろす。少しでも逃れようと後ろに下がるが、“エンゲージリング”が俺の胸を切り裂き、激痛が走る。

 

「ぐっ、ごほっ」

 

 かすっただけだとは思えないほど、傷が深い。動くことはできるが、これ以上食らえば確実にやられるだろう。

 

「馬鹿野郎が!」

 

「ジョシュア!」

 

 “エンゲージリング”の腹の部分をマオが“手”で殴って軌道をずらし、シロが“調律”で手元を狙ってE.G.O.を握る力を少しでも緩める。

 

「くらえっ!!」

 

 地面に突き刺さる“エンゲージリング”を蹴ってリッチがゲブラーに切りかかる。ゲブラーがもう片方の腕を振るって“簒奪”で攻撃を仕掛けようとするところを、俺の“墓標”とマオの“手”で下からかちあげてスイッチする。

 

「ここで仕留める!」

 

 リッチの斬撃がゲブラーの肩を切り裂き、パンドラが背後から切りかかる。ゲブラーが体をひねって地面に突き刺さった“エンゲージリング”を引き抜いて、そのままの勢いでパンドラにたたきつけようとする。そこをシロが再び手を狙ってあてると、そのまま“エンゲージリング”はゲブラーの手から離れて天井に突き刺さる。

 

「貫け」

 

「くっ、気をつけろ!」

 

 片方だけとはいえ獲物がなくなった瞬間を狙わない理由はなかったが、ゲブラーがあの灰色の槍を取り出したことで回避体勢に入る。

 

 音もなく結晶がゲブラーの足元に広がり、気が付けば放たれている。

 

 次は、俺のほうに飛んできた。とっさに“墓標”ではじこうとするも、勢いが強すぎる。E.G.O.による抵抗をあきらめ首をひねって何とか最悪の状況だけは避けることができたが、一瞬でも判断が遅れていたら俺の頭は胴体とおさらばしていただろう。

 

 そしてこちらの陣形が崩れたことで、ゲブラーは跳躍して天井に突き刺さった“エンゲージリング”を回収すると、そのまま音もなく着地した。

 

「くそっ、バケモンかよ!」

 

「無駄口をたたくな!」

 

「孤独な歌を」

 

 余計な口をたたくマオに“簒奪”による斬撃が飛んでくる。マオが転がるように横によけるが、追撃が飛んでくる。

 

 なんとか俺が“墓標”ではじいてずらすも、少しかすってしまった。

 

 先ほどの威力を考えれば、かすっただけでもかなりの威力のなはずだ。事実、マオの顔色は一気に悪くなった。

 

「無様な愛」

 

「くっ」

 

 マオが離れられるまで少しでも時間を稼ぐ。“エンゲージリング”による横なぎを、“墓標”を床に突き刺して耐える。あまりの衝撃に吹き飛ばされそうになるも、何とか踏みとどまる。

 

「血の霧となれ」

 

「させるか!」

 

 再び“エンゲージリング”による斬撃が襲い掛かる。それをリッチがはじいてルビーが“種子”による砲撃を足元に放って体勢を崩しにいく。

 

 ゲブラーが飛びあがったところを、シロとパンドラ、ルビーの攻撃が襲う。ゲブラーは“簒奪”と“エンゲージリング”で攻撃をはじいていくが、さすがのゲブラーも全てはさばききれずいくつかは攻撃が当たった。

 

「まだだっ!」

 

「甘い」

 

 着地した瞬間を狙って、“墓標”を突き刺す。腹部に墓標が突き刺さるが、“墓標”の柄の部分をつかまれて動かせなくなってしまう。

 

「なっ、まず……」

 

「収奪」

 

「させるか!」

 

 “簒奪”を振るわんとするゲブラーの横腹に、マオの“手”が突き刺さる。横腹を殴られたゲブラーはくの字に曲がるが、その両足は地についたままだ。

 

 だが、体勢が崩れたことにより手が緩み、“墓標”をひねって抜き取ることに成功する。そのままついでに“墓標”で薙ぎ払うが、体をのけぞらせて避けられてしまう。

 

 そこをさらに“墓標”を振って追撃して意識をこちらに向けさせ、シロの銃弾が再びゲブラーに襲い掛かる。

 

「うらぁぁぁぁ!!」

 

 さらに、懐に入ったマオのラッシュがゲブラーの腹部をえぐる。それに負けじと“エンゲージリング”が振るわれるが、マオがバックステップで俺と入れ替わって反撃をする。

 

「……まだ、足りない」

 

「……なんだ?」

 

「まずい気がする、みんな離れろ!」

 

 ゲブラーが“簒奪”と“エンゲージリング”を放り投げる。

 

「ぐっ」

 

「パンドラ!」

 

 突然の行動に反応できず、“エンゲージリング”によってパンドラの右足が吹っ飛んだ。俺はパンドラをかばうように前方に立ち、E.G.O.を構える。

 

 戦いにほとんど参加できなくなっていたミラベルがパンドラを引きずって部屋から出ようとする。ゲブラーはそんなことなど興味も示さず、新たなE.G.O.を取り出した。

 

 それは、死を纏った白濁の槍だった。夥しい怨念を抱えた白く濁った骨の塊、それが一本の槍の形を成している。

 

 もう片方の手には、これまた白色のハンマーが担がれていた。それは先ほどとは違って気味の悪い青白い色をした触手の塊であった。眺めるだけで気持ちの悪くなる不快な見た目、しかしどこかで見覚えもあるような、そんな気のするものであった。

 

「さあ、E.G.O.の本当の使い方を見せてやる」

 

 戦闘はさらに激化する。俺たちは覚悟を決めて、次の戦いに立ち向かう。

 



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懲戒部門 セフィラコア抑制 飢『E.G.O.の本当の使い方を見せてやる』

 ゲブラーの右手に握られているのは、青白い不気味な戦槌だ。

 

 青白い触手はタコやイカのような吸盤がいくつもついており、動いていないというのに今にも動きそうだと錯覚する。

 

 その触手がいくつも複雑に絡み合い、一つの塊となって持ち手の先に鎮座する。

 

 その戦槌の纏う雰囲気は、今までのE.G.O.とは比較にならないほどの恐怖を感じる。その一撃を食らえば、絶対に逃さないとでもいうような圧力が俺たちを襲う。

 

 そして、左手に握られているのは白濁の骨の槍だ。いくつもの骨が絡み合い、一つの槍となって形成されている。

 

 刃の部分のみが加工されており、それ以外のすべては本来の形そのままで作られている。その骨の正体は何かはわからないが、どうせろくなものではないはずだ。

 

 常に死の気配を振りまきながら、何かを待つように静かに眠っている。

 

 ……そうだ、それは俺の持つ“墓標”であった。

 

 死の象徴であるPダメージのALEPH武器であり、俺の愛用の武器でもある。その恐ろしさは俺自身がよく知っている。そんなものを一撃でも食らってしまったら、さすがにもうだめだろう。

 

 未知のE.G.O.と凶悪なE.G.O.、そのどちらもが恐ろしい気配を纏い、おそらくは強力な力を持っていることだろう。

 

 ゲブラーはそのうちの一つ、“墓標”の穂先をこちらに向け、口を開く。その仮面は、上下に少し開き、その下から赤いラインがこちらを覗いていた。

 

「さあ、E.G.O.の本当の使い方を見せてやる」

 

 その行動に、どれだけの人間が反応できるだろうか?

 

 今まで以上の速度による“墓標”による薙ぎ払いにより、その斬撃がこちらに向かって飛んでくる。その斬撃をなんとか俺の“墓標”で受け止める。

 

 直接でない斬撃だというのに、受け止めただけで少し後ろに押されてしまう。これだけでわかる。俺のE.G.O.の使い方とは、次元が違う。

 

 そして、その攻撃もただの一撃だけのはずがなかった。

 

「これが貴様らの墓標だ!」

 

 ゲブラーによる“墓標”の斬撃が全方位に飛んでいく。リッチが“簒奪”で受け止め、マオが“手”で弾いて何とか逸らす。メッケンナの腕が“鬼退治”とともに吹き飛んでいき、シロが身をひねって何とか避けるも肩にかすっただけで血が噴き出した。ルビねえは“種子”に身を隠したことでなんとか直撃を免れたが、その衝撃で吹き飛ばされてしまう。

 

「焼き尽くせ!」

 

 さらなる斬撃が飛んできたため、腕の吹っ飛んだメッケンナの襟をつかんで何とか範囲外まで投げて自分も逃れる。

 

 たとえ範囲外へと逃れても、威力の弱まった斬撃が部屋の端まで飛んでくることがある。たとえ弱まっていたとしても、食らえばひとたまりもないだろう。

 

「メッケンナ、大丈夫か?」

 

「ジョ、ジョシュアさん、すいません……」

 

「もうしゃべるな、離脱しろ」

 

「すいません……」

 

 何とか止血だけして、自分の足で部屋から脱出する。他のみんなも何とか範囲外に逃れたようだが、たとえそこでも安心はできないだろう。

 

「ルビねえ、そこから“種子”で攻撃できるか?」

 

「うぅぅ、え、えぇ…… やってみるわ」

 

 怒りに呑まれたゲブラーは、俺たちとの距離感が分からなくなっているのか一歩も動かずに斬撃を飛ばしてくる。ここから攻撃できるなら楽に倒せるはずだが……

 

「これでどうかしら!!」

 

「喰い散らかせ!」

 

 ルビねえの“種子”による砲撃は、ゲブラーの触手戦槌によって破壊されてしまった。やはり、一筋縄ではいかないようだ。

 

 こうなったらやるしかないか。

 

「ルビー、シロ、俺が懐に入って隙を作るから、その間に攻撃を仕掛けてくれ」

 

「おい、お前ばっかりがいいところを奪ってんじゃねえぞ」

 

「そうだな、ジョシュアばかりに任せてはおけないからな」

 

「二人とも……」

 

 一人であの死地に向かおうとすると、リッチとマオが一緒に立ち上がってくれた。正直心強い、来てくれるのであれば生存率も成功率もぐっと上がるはずだ。

 

「わかった、行くぞ二人とも!」

 

 ゲブラーが攻撃を終えた直後を狙って一気に接近する。これといった隙ができない彼女に対して、これくらいしか付け入るスキがなかった。

 

「気をつけろよ!」

 

「わかってる!」

 

 飛んでくる斬撃を、交代交代に受け流し、防御しながら近づいていく。少しでも掠れば致命傷、その攻撃を何度も受けながら何とか回避していく。

 

「潮騒となれ!」

 

 触手戦槌による攻撃を大げさに距離をとって回避する。あの戦槌から放たれる衝撃波を食らうのは、まずい気がする。絶対に当たってはいけない。

 

「行くぞ!」

 

「任せろ!」

 

 何とか射程範囲内まで近づき、攻撃に入る。ここからが本番だ。

 

「追剥」

 

「任せろ!」

 

 “墓標”による斬撃を“墓標”で受け止める。たとえ個人での戦闘力に劣っても、こちらには仲間がいる。そう簡単に負けてたまるか。

 

 俺が斬撃を受け止めている間に、マオが接近して“手”による一撃を腹部に叩き込む。しかしそれを触手戦槌で止められ、その隙にリッチが“簒奪”を叩き込む。

 

「数多の躯!」

 

「ならこっちだ!」

 

 “墓標”によるゲブラーの一撃をリッチが受け止め、その間に再び俺が“墓標”を叩き込む。

 

 ゲブラーの太ももに“墓標”が突き刺さり、マオが横腹を狙う。

 

「崩れ行く世界!」

 

「なんの!」

 

 そこを俺たちを巻き込むように触手戦槌を叩き込まれそうになるが、シロとルビーの狙撃が炸裂した。シロの攻撃がゲブラーの手に直撃し、ルビーの砲撃が頭にぶつかる。

 

「ぐっ、静寂をここに!」

 

「一気に叩き込め!」

 

 ゲブラーは自分の傷口から芽が生えてくることを気にも留めず、灰色の槍を取り出した。ゲブラーの血がしたたり落ち、その場から結晶が成長する。そしてそれを俺に向かって投げてくるが、それをすれ違うように避けて背後から“墓標”を突き刺す。さらにそこを反対からマオが殴り掛かり、槍が腹部を貫通する。マオが射線上から逃れると、槍が放たれた直後にリッチが“簒奪”で肩を切りつける。

 

「贖罪の時間だ!」

 

 “墓標”による斬撃が再び襲い掛かる。雨のように襲い掛かる斬撃を躱しながら再び攻撃を加える。何とか形勢はこちらに傾いた、このままどうにか押し切ってしまいたい!

 

「果ての海!」

 

 だからだろうか、その一瞬の油断のせいで触手戦槌の衝撃を受けてしまった。その瞬間、俺の体は時が止まったかのように動きを止めてしまった。

 

 意識だけははっきりとしているのに、体はどうやっても動かない。それは金縛りにあった夢のようで、全く現実感がない。

 

 だが、そうしている間にゲブラーは再び触手戦槌を振り上げてこちらにたたきつけようとしてくる。

 

 あっ、これはまずい……

 

「ジョシュア!」

 

 来るなと叫びたくても声すら出なかった。眼球すら動かせないまま吹き飛ばされ、しばらく転がってようやく体が動かせるようになる。

 

「ぐっ、リッチ!」

 

「かつての温もりに浸れ」

 

 俺のせいで陣形は崩れ、ゲブラーが再び灼熱の籠手を構えて突進する。ゲブラーは灼熱を纏ってどこまでも突き進み、そのまま途中にいたルビねえを熔かして走り去っていった。

 

「ル、ルビねえ…… リッチ……」

 

 ルビーは完全に熔けて床にこびりついてしまった。そこに彼女の面影はない。リッチは下半身がつぶれてピクリともしていない、息はまだあるようだがもう長くはなさそうだ。マオもシロも、斬撃を受けたのか傷だらけで動けそうにもない。

 

 もう、うごけるのはおれだけのようだ。

 

『ゲブラーは福祉部門に向かった。ジョシュア、もう動けるのはお前だけだ。いけるか?』

 

「……あぁ」

 

 折れそうになる膝を何とか伸ばして、福祉部門に向かう。ここまできたのだ、絶対に負けてなるものか。

 

 体を必死に動かしながら、福祉部門にたどり着く、ここのメインルームに、彼女はいる。ならば今度こそ、絶対に仕留めてやる。

 

 そこで、とある収容室の目の前でふと足を止める。

 

「……すまない」

 

 心の中で謝罪をする。どうやら約束を守れそうにない。

 

 

 

「灼き尽くせ!」

 

「くっ」

 

 福祉部門のメインルームに入った瞬間、ゲブラーの“墓標”による斬撃が飛んできた。俺はそれを身をひねって回避すると、次は触手戦槌による打撃が繰り出される。しかし、それは俺のところまでは届かない、距離が離れすぎている。

 

「すぐに片付ける」

 

 そのまま、ゲブラーに向かって全速力で接近する。ゲブラーはそれに反応して再び“墓標”で斬撃を飛ばしてくる。俺はそれを避け、弾き、時に食らいながら接近して“墓標”を突き刺す。

 

「ぐっ、崩海!」

 

 触手戦槌が振り下ろされるのを察知して背後に回る、そしてそのまま“墓標”で切り上げて背中に傷をつける。

 

 もうすでに手傷を負わせているはずだ、この体がもっている間に早く終わらせなければ。

 

「……貴様、何のつもりだ」

 

「……」

 

「そうか……」

 

 もう止まることはできない、迫りくる“墓標”の攻撃をかわしつつ、攻撃を加える。攻撃の威力も早さも相手のほうが上だが、動きが単調なおかげで何とかついていける。

 

「結晶の花を咲かせろ」

 

 ゲブラーの投げる槍が頬を掠り結晶が飛び散る。そのままがら空きの体に“墓標”を突き刺すが、触手戦槌が振り下ろされる。

 

「しまっ」

 

 欲張りすぎた、俺は再び触手戦槌の衝撃を浴びて動けなくなる。そのまま振り下ろされる触手戦槌の一撃をもろに受けて、吹き飛ばされてしまう。

 

「……そのツールの力か」

 

「……あぁ、何とか助かったよ」

 

 そういって、左腕にもっているスーツケースを握りしめる。『T-09-i87』*1、それは回復できなくなることを代償として超人的な耐久力を得る悪魔のツール。

 

 これを使えばもはや体を休めることはかなわない、この一日を終えるまで酷使され続ける。

 

 再び接近して“墓標”を突きつける。ゲブラーの猛攻を躱し、『T-09-i87』を盾にしながら攻撃を続ける。この化け物相手に長期戦は不利だ、一気に片をつける。

 

「なめるな!」

 

 ゲブラーの大ぶりな攻撃を避けて、胸に“墓標”を突き立てる。

 

「ぐっ」

 

 あれほど激しかった攻撃が止み、ゲブラーが膝をつく。その行動の意味を理解し、距離をとる。

 

 すると、ゲブラーはその手に持っていた触手戦槌を地面にたたきつけ、今までで一番の衝撃が部屋全体に響き渡る。

 

「よくここまで私を追い込んだ」

 

 ゲブラーは左手に持っている“墓標”を一振りすると、そのまとわりついていた骨が四散し、内部が露わになる。

 

「だが、もう眠るといい」

 

 それは、青白い炎を纏った錫杖であった。すべての悪意に包まれた絶望の錫杖。

 

「おいおい、嘘だろ……」

 

 今までにない強力な圧力を受けて衝撃を受けていると、ゲブラーはさらに大剣を取り出した。

 

 どこまでも続く星海と、見たこともない世界を内包する希望の大剣。

 

 

 

 それは、ゲームですらなかった最終形態での二刀流だった。

 

*1
『搾取の歯車』



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懲戒部門 セフィラコア抑制 死『あぁ…… 壊れていく……』

 右手に握られしは希望の大剣だ。

 

 持ち手はどこまでも白く、底から鍔の部分まで天使の羽のような装飾が伸びている。それは何色にも染められていない、無垢な赤子のような清らかさがある。

 

 剣の腹の部分には、どこまでも続く星海と、見たこともない一つの惑星が映し出されている。それは一つの理想郷、美しく純粋な世界は人々の心を惹き、区別なく受け入れるであろうと直感する。

 

 刃の部分はどこまでも透き通っており、意識しなければ見えないほどの透明度だ。清らかな水よりもより清らかで、どのような鉱石よりもしっかりと芯をもって主張している。

 

 それらの要素すべてが、これが戦いの武器であるということを忘れてしまいそうなほどの美しさを醸し出している。強力な力さえなければ、きっと美術館に保管されているほうが似合っていただろう。

 

 

 

 左手に握られしは絶望の錫杖だ。

 

 柄の部分は骨と肉で構成されている。主に脊椎で構成されており、ほかの部分との間を醜悪な肉塊で繋ぎ止めている。骨の隙間からは青白い、緑がかった炎がかすかに漏れている。

 

 石突の部分には人間の頭蓋骨が取り付けられており、青白く緑がかった炎と悪臭が漏れ出している。その頭蓋骨は骨だというのに悍ましき悪意を凝縮したかのような人相が浮かび上がってくる。

 

 杖の先、杖頭はいくつもの骨で構成されている。骨盤のような骨の輪になっている部分に、小さな骨が醜悪な肉塊によって繋ぎ合わされた複数の輪が通っている。その輪は揺れるたびに不快な音を鳴らし、周囲の心をかき乱す。

 

 その先には先ほどまで槍として使われていた名残である唯一加工された部分である刃が残っており、この部分から最も勢いよく青白く緑がかった炎が噴き出している。

 

 それは錫杖にして呪具、槍にして薙刀。この世の邪悪を煮詰めたかのようなそれは、戦場が一番似合っているように感じる。

 

 

 

 そして、それらを握り振るう者、『赤い霧』ゲブラー。

 

 もはやその顔に取り付けられている仮面には、もはや最初の面影はなかった。仮面の表面の灰色の部分は完全に開き切り、その下の赤いラインの入った黒い仮面が顔をのぞかせる。

 

 その仮面は、その下の怒りを映し出しているように赤く猛り狂っている。もはやその怒りを止めるすべはなく、理性はすべてその怒りで燃やし尽くされてしまった。

 

 E.G.O.の力を100%引き出すことができるその怪物は、ついに動き出す。目の前の獲物を屠るために。

 

 

 

「壊れろ」

 

 気が付けば、もう目の前に錫杖を振り下ろさんとするゲブラーがいた。今までとは比べ物にならないほどの速さ、もはや一瞬の気も抜けない。

 

 錫杖による攻撃をスーツケース、『T-09-i87』*1で受け流しながら右手の“墓標”を構える。しかしすぐに大剣による薙ぎ払いが飛んできたので、体勢を低くしながら“墓標”で下から殴ってかちあげる。

 

 するとそのまま回し蹴りが飛んできたので、スーツケースで受け止めながら床を蹴って後方へ飛ぶ。

 

 後方に飛んでことで勢いを殺そうと思ったが、俺が吹き飛ばされているそのスピードにゲブラーが追い付き、大剣を振るった。

 

「なっ」

 

 必死に身をひねって“墓標”を大剣にたたきつけ、自分の体を無理やり方向転換させる。

 

 地面にたたきつけられてはねたところを空中で体勢を立て直し、踏ん張って勢いを殺しながらゲブラーのほうを向くと、すでに彼女はいなかった。

 

「殺してやる」

 

 もはや直感で体を動かす。前に向かって全力で体を転がしてその場から逃げると、先ほどまでいた場所が断ち切られていた。

 

「速すぎるっ」

 

 転がりながら体制を立て直し、ようやくゲブラーを視界内に収める。しかしその一瞬でも彼女は距離を詰めて錫杖で攻撃を仕掛けてくる。

 

「ちっ」

 

 錫杖による突きをスーツケースでずらし、“墓標”で突きを放つ。胸を狙ったそれはゲブラーが動いたことで思うようにはいかず、肩に突き刺さった。

 

 それと同時に俺の肩にも衝撃が衝撃が走る。ゲブラーの大剣が左の肩に食い込むが、何とか断ち切られずに済んだようだ。

 

 “墓標”を抜き取ってゲブラーの右手を切りつける。それと同時にゲブラーの蹴りが飛んでくるが、それをスーツケースで防いで無理やり攻撃を当てる。

 

 蹴られた衝撃で吹き飛ばされそうになるが、何とか踏ん張って一メートルほど後方に下がるだけで済んだ。

 

「壊してやる」

 

 さらにゲブラーが距離を一瞬で詰めて錫杖による突きを放ってくる。

 

 俺はそれを最小限の体の動きで避けようとして、カウンター気味に“墓標”を顔に突き立てる。

 

「ぐっ」

 

 錫杖は避けきれず、俺の脇腹を浅く切り裂いた。“墓標”はゲブラーを顔を捉え切れず頬の部分を掠らせるだけであった。

 

「貴様のような」

 

 大剣の振り下ろしが再び左の肩に食い込む、それと同時に俺の“墓標”をゲブラーの右腕に突き刺す。

 

 その斬撃は寸分違わずに先ほどの傷を切りつけ、ついに骨の半分まで届いてしまう。だが、この体はすでにひっついていればどのような状態でも酷使できるようになっている。たとえ骨が折れようが、神経が断絶しようが、いつも通りに体が動く。

 

 体が激痛に悲鳴を上げ、疲労による活動の停止を訴えても、そのすべてを拒否される。この悪魔の装置に手を出した瞬間、体を止めることは許されないのだ。

 

「E.G.O.の使い方を知らぬ」

 

「くらえっ」

 

 さらに一歩踏み出して“墓標”を胸に突き刺そうとするが、錫杖ではじかれてしまう。

 

 その隙に大剣で胸を切りつけられるが、傷は浅い。もはやこのスーツケースのおかげで、たとえ『赤い霧』の攻撃であってもそう簡単には倒れることは許されなくなった。

 

「未熟者に」

 

 そのまま“墓標”の石突でゲブラーの腹部に突きを放つ。痛みを意にも介さないゲブラーはそのまま錫杖による薙ぎ払いを行い、柄の部分で体をたたきつけられ吹き飛ばされてしまう。

 

 

「私を倒せると思うな」

 

 転がる体をすぐに起こしてゲブラーをにらみつける。再び両者の距離は離れ、仕切りなおされる。

 

 一瞬の沈黙、しかしこの場に予想外の音色が鳴り響く。

 

 

 

「……これは、『T-09-i84』*2の音色か」

 

「もういい、終わりだ」

 

 雄大な音色のおかげで、体の奥底から活力がわいてくる。体は軽く、動きも軽快だ。誰が吹いているかはわからないが、その思いは確かに受け取った。

 

 ゲブラーが距離を詰めて大剣を振り上げる。相変わらず化け物じみた速さだ。

 

「確かに俺は未熟者だが」

 

 ゲブラーの攻撃が迫りくる。その動きは今まで以上のはずなのに、とてもゆっくりに見えた。

 

 左手に持つスーツケースから、早く動け、働けと命令が来る。そうせかすな、すぐに望み通り動いてやる。

 

「俺には共に戦う仲間がいるんでな」

 

 その言葉に、ゲブラーはさらに怒りのボルテージを上げた。

 

 大剣による神速の振り下ろしは、ただ床を切りつけるだけで終わった。

 

 ゲブラーをすれ違うように背後に回った俺は、そのまま“墓標”でゲブラーの背中を切りつける。ゲブラーは背後に俺がいることに気が付いて、振り向きざまに錫杖を振るう。

 

 俺はそれを“墓標”の石突ではじいて再び切りつける。ゲブラーの攻撃はだんだんと鈍り、俺の攻撃は逆に軽快になっていく。

 

「止まるわけにはいかない」

 

「俺だってそうだ」

 

 大剣による切り払いを弾き、錫杖の突きを避けて“墓標”を突き立てる。

 

 そのまま“墓標”は仮面に吸い込まれ、突き刺さる。暴虐の嵐を抜けて、ただただまっすぐに。

 

 そして、仮面はその効力を失って、ばらばらに剥がれ落ちた。

 

「……そうか」

 

 ゲブラーは、信じられないといった顔をしている。だがそんな感情に付き合っている暇はない。

 

 ゲブラーに対して“墓標”による突きを放つ。だが、その攻撃は大剣による一振りではじかれてしまった。

 

 そこで、ゲブラーが初めて距離をとる。そのあり得ない行動に、思わず足が止まってしまう。

 

 彼女はこちらを見据える。それは怒りに呑まれた獣ではない、一人の人間としての目の輝きだった。

 

「……ならば、貴様が仲間を救えるか、絶望に立ち向かえるか」

 

 彼女の言葉が俺に突き刺さる。これは、さらなる試練だ。

 

「今私が確かめよう」

 

 ならば、その試練、受けて立とうじゃないか。

 

 

 

 そういうと、ゲブラーはおもむろに大剣と錫杖を地面に突き刺す。

 

 そして、その手に握られるのは不思議な形をした刀であった。

 

 その刃は四つあった。

 

 青き刃は優しき、誕生を祝う輝きを放つ。始まりの温もりが刃から漏れ出ている。

 

 朱き刃は燃えるような情熱の輝きを放つ。その生命力に溢れた刃は、近くにいるだけで活力が上がりそうだ。

 

 白き刃はどこか儚さを感じる輝きを放つ。恵みと同時にどうしようもない悲しみを運んでくる。

 

 玄き刃は冷たい終わりの輝きを放つ。他と違い与えず、奪うのみの感情、だがそれはいずれ終わり新たな温もりが訪れる。

 

 青、朱、白、玄、それぞれの刃が背を預けるように二組ずつ並び、西洋の大剣のような形をとっている。

 

 その二組の刀が、黄色い持ち手の部分でつながり、一つの武器となってゲブラーの手に収まる。

 

 ダブルセイバー、和風の刀と洋風の武器、そりが合わないようでどこか調和を感じる不思議な武器だ。

 

 美しき、和をもった四刃は、一つとなって世界を包む。

 

「力を示せ」

 

 ゲブラーが両手で四刃をもって振り回し、回転する。四刃は回転とともに風をうならし、その身にまとう。

 

「この攻撃に耐えてみろ」

 

 風はやがてゲブラーを中心に暴風となり、この地下施設に竜巻を呼び起こす。

 

「儺追風」

 

 回転が最高潮まで達すると、ゲブラーはその手から四刃を手放し、投げつけた。

 

「ぐっ、うおぉっ」

 

 俺は、その攻撃を正面から受け止め、“墓標”を突き出した。

 

 “墓標”は四刃と真っ向からぶつかり合い、火花を散らす。

 

 その衝撃で、意識が飛びそうになるが何とか持ちこたえる。あまりの威力に体のすべてが引きちぎれそうになり、一瞬でも気を抜けば全身が掻き消えるであろう。

 

 この恐ろしき、天災とでもいうような攻撃に対して、“墓標”では力不足であろう。

 

 だが、絶対にここを引くわけにはいかない。仲間のためにも、彼女のためにも。

 

 

 

 

 

 意識を俺の手に持つE.G.O.“墓標”に向ける。

 

 決して負けないために、絶対にくじけないために。

 

 今の俺には、力が必要だ。

 

 たとえ彼女のように完全に力を引きだせなくても、少しでも力が必要なんだ。

 

 

 

 

 

―お前に俺は扱えない―

 

 いいや 絶対に扱って見せる

 

―いったいどうして俺がお前に力を貸さなくてはいけない―

 

 彼女にだって貸してるだろう

 

―そういっている間は絶対に無理だな―

 

 そうか なら黙ってお前から力を引きずり出してやる

 

―ふふっ―

 

―あっはっはっ―

 

 何がおかしい

 

―やっぱり人間はこうでなくては―

 

―いいぜ 貸してやるよ―

 

―だが そう簡単に扱えると思うなよ―

 

 

 

 

 

 意識が戻ると同時に、“墓標”から強力な力があふれ出した。

 

 その力は暴れ馬のように激しく乱れ、手からこぼれそうになる。

 

 だが、それを絶対に離してはいけない。俺は“墓標”を握りしめて、四刃に対抗する。

 

 その行動に、先ほどまでの絶望はなかった。

 

 俺の、“墓標”のすべてが四刃とぶつかり、強大な嵐となる。この部屋全体に風が吹き荒れ、部屋全体にがれきが飛び交う。

 

 しかし、そんな状況が長く続くわけもなく、すぐに終焉が訪れる。

 

「ぐあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」

 

 力を振り絞って“墓標”を突き出し、ついに四刃ははじかれ後方に飛んでいく。

 

 ここがチャンスだと思ってゲブラーに接近しようとすると、体のバランスを崩してこけそうになってしまう。

 

 何とか“墓標”を杖代わりに地面について体勢を崩さないようにする。そして自分の左腕を見ると、すでに肩から先はきれいさっぱり消えてしまっていた。

 

 もうスーツケースもない、これ以上は一撃でも食らえば終わりだ。

 

「……もう、ここまでだな」

 

 そして、最後の一撃がやってくる。

 

 ゲブラーは大剣を持ち直し、再び俺に接近しようとする。

 

 

 

 だが、それはもうかなわなかった。

 

 怒りにとらわれていた彼女は、自分の体力の限界にも気が付かなかった。

 

 そして、その限界が今訪れた。

 

 大剣を地面にさし、膝をつくゲブラー。

 

 もちろんその隙を見逃すことはできなかった。

 

「届けぇぇぇぇ!!!!」

 

 自分の両の足で立ち上がり、“墓標”から限界まで力を振り絞る。

 

 そしてその場から全力で“墓標”を横なぎにふるうと、斬撃がゲブラーに向かって飛んでいく。

 

 微弱だ、脆弱だ、それでも確実にその斬撃が飛んでいき……

 

 ゲブラーの胸を切り裂いた。

 

「なっ」

 

 そして、呆然とする彼女に近づいて、その胸に“墓標”を立てる。

 

 その一撃は、今までの先頭からは想像もつかないほど、すんなりと終わった。

 

「ゲブラー、終わりだ」

 

「あぁ、終わったのか……」

 

 ゲブラーの体から力が抜け、彼女は俺の肩に顔を預ける。

 

「……あの場に、お前がいれば……」

 

「俺がいたって、悲劇は変わらないさ」

 

「だとしても……」

 

 もうゲブラーが起き上がる気配はない。だが、まだ少しだけ口が動いた。

 

「あぁ…… 壊れていく……」

 

「だが、この体が粉々になろうとも、もう武器は放さない……」

 

 そして、ゲブラーは力尽きた。

 

 そして、その手から最後まで武器が零れることはなかった……

 

*1
『搾取の歯車』

*2
『終幕の笛』



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抽出部門
Days-36 O-01-i40『もうすぐ暖かくなりますね』


 今日収容されたアブノーマリティーは『O-01-i40』だ。前回の戦闘が激しかった分、できれば優しい部類の相手であればいいのだが……

 

「さて、それじゃあ今日も頑張りますか」

 

 いつものように扉に手をかけて、お祈りをしてから開く。

 

 どことなく、暖かい風が吹いてきた気がした。

 

 

 

「ええっと、これが今回のアブノーマリティーなのか?」

 

 収容室の中には青みがかった大きな卵が置かれてあった。青白い殻に青色のまだら模様、さらにタマゴの中心に横向きの罅が殻を一周するように入っていることから、おそらくは中に何か入っていて、そこから何か出てくるのだろう。

 

「……絶対何かあるな」

 

 何となく嫌な予感がして少し離れて観察する。ホラー耐性はそこそこあるが、びっくり系の耐性はあまりないんだ。

 

「……うーん」

 

 しばらく観察していると、罅の隙間から何かがこちらをのぞき込んでいることに気が付いた。

 

 しかし、こちらの油断した瞬間を狙っているとか、何かのタイミングを狙っているとかそういう感じはしない。なんというか、純粋な好奇心で観察されているように感じる。

 

「ふーむ……」

 

 別に油断しているわけではないが、そうじろじろ見られているとなんだかむず痒い。こうなったらこっちから近づいてみるのもいいかもしれない。

 

 そう思って近づいてみる。すると殻の中から覗いていた何かはびっくりしたのかしっかり殻を閉じてしまった。

 

「もしもーし」

 

 仕方がないので殻にノックをしてみる。しかし反応がないのでもう一度ノックをしてみると、なんだが殻の中が騒がしい。

 

 何となく、もう一度ノックをしてみると、なんだかくすくすと笑い声が聞こえてくる。なんというか、楽しんでいるようだ。

 

 すると、今度は内側からノックが帰ってくる。くすくすと笑い声が聞こえてくるので、もう一度ノックをしてやると少し笑い声が大きくなった。

 

 その後も何度もノックをしてくるので、こちらもノックをし返す。まるで子どもが覚えたての遊びを何回も繰り返すのように、何回も飽きることなくおこわなれる。

 

「さて、それじゃあそろそろ帰るわ」

 

 しばらくして、時間が来たので収容室から出ようとする。

 

 すると、殻の中からひょこっと小さな頭が出てきた。

 

 それは、青色の髪色をしてサンゴのような形をした小さな角を持った少女であった。顔だけを出しているため服装は確認できないが、角が生えている以外は特に何の変哲もない普通の少女でしかなかった。

 

 彼女は控えめにふりふりと手を振るので、俺も手を振り返す。彼女は微笑むと、すぐに殻にこもってしまった。

 

 少し微笑ましい気持ちになって収容室から退出する。

 

 そのまま抽出部門のメインルームまで戻るが、やはりどこか静かでさみしさを感じる。部門が増えたことと、前回の戦いで人員が少なくなってしまったことで、ただでさえ広いこの施設がさらに広く感じる。

 

 今まで、一度の戦闘でここまで人数が減ることはなかった。さらに、今までずっと一緒にやってきた仲間でさえ、あっさりと死んでしまったのだ。

 

 すこし、壁に背中を預けて座る。何となく、休憩したくなった。

 

「……ジョシュア、隣いい?」

 

「……あぁ」

 

 しばらくすると、シロがやってきた。あの戦いでも何とか生き残り、ともに今日を迎えることができた大切な仲間だ。

 

「あ、あのさ、昨日は大変だったね」

 

「……そうだな」

 

「で、でもさ、思い詰めたらさ、大変だよ?」

 

「……だよな」

 

「ジョ、ジョシュア……」

 

 シロが頑張って話しかけてくれるが、今はあまり話したい気分ではなかった。シロには悪いが、そばにいてくれるだけでいいんだ。

 

「……いっぱい死んじゃったもんね」

 

「そうだな」

 

「ルビねえも、死んじゃったんだよね」

 

「お前も、なんだかんだで仲良かったもんな」

 

「うん……」

 

 話をしていると、少ししんみりしてしまった。何とかしないといけないよな……

 

「大変だ! パンドラのやつがまたやりやがった!」

 

「『O-02-i24』*1が脱走したぞ! いったいなにしたんだ!」

 

「だっておいしそうだったんですもーん!」

 

「それで僕に依頼したんだね、もしかして僕も食べる気かい?」

 

「あっ、いえあなたはおいしそうじゃないんで別にいいです」

 

「ガーン」

 

 しばらく静かな時間が流れていたが、それを吹き飛ばすくらい強烈な出来事が来た。なんというひどい出来事だ、全く厄介な奴だ。

 

「ふふっ」

 

「あっ、ジョシュア、笑った?」

 

「あぁ、そうだな」

 

「胸のもにゅもにゅ、無くなった?」

 

「そうだな、あいつがいたら悲しむ時間なんてないな」

 

「すこし、元気出た?」

 

「もちろんだ」

 

 立ち上がって、前を向く。

 

 これからあのバカを捕まえなければいけない。

 

 あいつらの犠牲をなかったことにはしたくない。

 

 でも、ちゃんと前を向いていかなければいけないだろう。

 

 ここで立ち止まるのは、彼らも望んではいないだろう。

 

 だから、ちゃんと歩き続けるんだ。

 

 

 

 

 

 もしかしたら、つらいことがあるかもしれません

 

 どうしても悲しくて、前を向けないことがあるかもしれません

 

 でも、そんなに悲しまないでください

 

 冷たい冬が来ても季節が廻り、暖かい春が来るように

 

 凍える空に、風が温もりを運んでくるように

 

 悲しいことがあっても、いつか必ずその時は過ぎ去ります

 

 だから、そこにずっといてはいけませんよ

 

 

 

 

 

 ほら、もうすぐ暖かくなりますね

 

 

 

 

 

 O-01-i40『青き東風の春姫』

*1
『鋏殻』



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O-01-i40 管理情報

 『O-01-i40』は小さな角を生やした青髪の少女型のアブノーマリティーです。収容室の中には暖かなそよ風が吹いています。

 

 『O-01-i40』は無邪気な子供のようにふるまいますが、収容室に長居することはお勧めしません。

 

 『O-01-i40』は脱走すると、青い東洋龍が出現します。その龍に絶対に触れてはいけません。

 

 『O-01-i40』の殻を楽器に見立てて遊ばないでください。『O-01-i40』も嫌がって…… いや、嫌がってる……? むしろ喜んでいるような…… なら、いいのか……?

 

 

 

『青き東風の春姫』

 

危険度クラス ZAYIN

 

ダメージタイプ P(1-2)

 

E-BOX数 10

 

作業結果範囲

 

良い 6-10

 

普通 4-5

 

悪い 0-3

 

 

 

◇管理方法

1、同じ施設内の他のアブノーマリティーのクリフォトカウンターが増加すると、クリフォトカウンターが減少した。

 

2、カウンターが0になると青い龍が出現し、触れるとHP・MPが大きく回復し、過剰に回復するとその職員は木と化した。

 

 

 

◇作業結果(作業好感度)

 

本能

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

洞察

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

愛着

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

抑圧

1 最高

2 最高

3 高い

4 高い

5 高い

 

 

 

◇脱走情報

 

 クリフォトカウンター 3

 

 非脱走アブノーマリティー

 

 

 

◇ギフト

 

春うらら(頬)

 

正義+2

 

 青い色に変化した春の花の集まった装飾。幼さを感じるとともに、温もりを感じる。バブみではない。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 無し

 

 

 

・防具 春うらら

 

クラス ZAYIN

 

R 0.9

 

W 0.9

 

B 0.9

 

P 0.9

 

 青を基調とした美しい花柄の着物型防具。着ると春の陽気を感じられる。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 やったぁ! ZAYINだぁ!

 

 いやぁ、最近ZAYINばかりです。この施設にも春が来たってことですかね!

 

 このアブノーマリティーの名前の読み方は、『あおきこちのはるひめ』と読みます。このアブノーマリティーは結構名前が凝っているので、色々考えてもらえたらうれしいです。

 

 このアブノーマリティーのクリフォトカウンターが0になると、青い龍が出現します。この龍に触れると、HP・MPが100ポイント回復します。そして、回復の余剰分が50以上だと木に変換されます。イメージ的には陰陽龍みたいな感じですね。もちろんアブノーマリティーにも有効です。

 

 ちなみにZAYINなのにPダメージなのは、他にどうしようもなかったので仕方なくこうなりました。本当はZAYINでPダメージとか嫌だったんで妥協してRダメージにしようとも思ったんですが、それでもどうしてもPダメージにしたかったんでこうなりました。ZAYINがPダメージなわけねーだろ! って思いましたけど仕方がなかったんです。

 

 さて、ついに下層です。地獄だった中層もひどかったですが、ここもなんだかんだでとんでもない場所だったりします。楽しみにしていてください。

 




Next O-01-i42『豊穣と儚さに思いを馳せて』


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Days-37 O-01-i42『豊穣と儚さに思いを馳せて』

「その…… なんだ、随分きれいになったな」

 

「ううぅ…… 今言われてもあんまり嬉しくないですよぉ」

 

 あの戦いから丸1日がたったお陰か、重症を負った職員も傷の軽い順番からどんどん復帰していった。

 

 今俺の目の前にいるサラも、その一人だ。

 

 彼女は早々に精神汚染を受けて退場してしまったが、すぐに対処されたおかげで大事にならずに済んだ。

 

 そして、いつもの彼女とはずいぶんと違うところがある。いや、違うところだらけだ。

 

 まず、お肌の艶が違う。モッチモチだしきめ細やかで、まるで赤ちゃんみたいな肌になっている。試しに触らせてもらったが、めっちゃぷにぷにでいつまでも触っていたかった。

 

 

 次に、髪の艶も違う。もう艶もすごいし潤いもすごい、枝毛なんてなくてサラサラだ。白髪もなくなり頭皮もしっかりしている。

 

 顔のできものやらシミやら残った傷やらも、すべて消えて全身が生まれ変わったようだ。

 

 脱皮でもしたのかと疑いたくなるが、それでもここまできれいになることはないだろう。

 

 これが、E.G.O.の力を100%引き出した結果か……

 

「あの戦いで早々に退場してぇ、自分だけ得するなんて嫌ですよぉ」

 

「まぁ、あの化け物相手じゃ仕方ないさ」

 

「でもぉ……」

 

「そんなに嘆くなら、次頑張ればいいさ。今のうちに強くなっとけ」

 

「それはぁ、言われなくてもしますよぉ」

 

 サラは少し落ち込んでいたが、少しやる気が出てきたようだ。それはいいことだ。

 

「さすがにぃ、もうこれ以上の戦いはぁいやですけどねぇ」

 

「……そうだな!」

 

「えぇ、なんですかぁ今の間はぁ!」

 

 少しうるさくなってきたので退散する。こういう時には作業に逃げるが勝ちだ。

 

 

 

 今日収容されたアブノーマリティーは『O-01-i42』だ。しばらく人型が続くが、次は変なやつ出ないことを祈る。

 

 収容室の前までくると、いつものように扉に手をかけてお祈りをする。そして手に力を込めて扉を開いて収容室に入る。収容室からは、少し肌寒い風が吹いてきた。

 

「さて、今日のアブノーマリティーはあんたか……」

 

 収容室の中に入ると、そこには猫…… いや、虎の耳をした女性がいた。白に黒色の縞が入った毛皮がひじから手先まで続いており、手のひらには肉球がある!

 

 それに顔にはひげがあり、鼻も虎のように黒の逆三角形だ。まさしく人間とネコ科の中間といった感じだろう。

 

 ……正直、なでたい。もとから小動物が好きで、猫も犬も大好きなのだ。あの耳を撫でまわしてムツゴロウしたい。

 

 ……だが、ダメだ。こちらを見ながら不安げな表情をしている『O-01-i42』を見て、考えを改める。いやいや、さすがに嫌がることはだめだ。そんなことをして嫌われてはいけない。

 

 だ、だが作業なら仕方がないよな? だって仕事だもんな、俺の趣味じゃないもんな! 

 

 よし、行くぞ、やってやるぞ……

 

「はぁ、はぁ、大丈夫だからね……」

 

 『O-01-i42』はおびえた目をして体を震わせる。大丈夫大丈夫、ちょっと愛着作業をするだけだから……

 

 

 

 

 

 結局顔をひっかかれてしまった、悲しい……

 

 

 

 

 

 大地によって命が育まれ、やがてその実りは恵みとなって還元される

 

 この季節には、享受と還元が行われる

 

 季節が巡るように、また大地の恵みも循環する

 

 そして、恵と同時に終わりの季節が近づいてくる

 

 実りを落とした木々は葉を枯らし、動物たちは眠りにつく

 

 この季節には、喜びと悲しみが詰まっている

 

 だから私は高らかに歌う

 

 

 

 

 

 豊穣と儚さに思いを馳せて

 

 

 

 

 

O-01-i42 『白き大西の秋姫』



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O-01-i42 管理情報

 『O-01-i42』は手や耳、顔の一部が虎の姿をした白髪の女性型アブノーマリティーです。収容室の中では少し肌寒い風が吹いています。

 

 『O-01-i42』は本能がネコ科に近いようで、マタタビや猫じゃらしを好みます。

 

 『O-01-i42』が脱走すると、白い虎が同じ部門に出現します。その虎には絶対に近づかないでください。

 

 『O-01-i42』を少し怖がらせただけで収容室を出入り禁止にするのは不当であり許されることではありません。そのような横暴に対して断固反対します。そもそももう一度はいらなければ彼女に謝罪もできないではないですかそのような反省の機会も奪うだなんてひどすぎますそれなら見張りをつけろってそんな人いりませんよ今まで私が職務を忠実にこなしてきたことは知っているでしょう今までの行動を鑑みればそのような人材は意味がありませんそもそも私が彼女を怖がらせてしまったのは些細なすれ違いによる不幸な結果であり……(この後も言い訳が延々と続く)

 

 

 

『白き大西の秋姫』

 

危険度クラス HE

 

ダメージタイプ W(3-5)

 

E-BOX数 18

 

作業結果範囲

 

良い 11-18

 

普通 7-10

 

悪い 0-6

 

 

 

◇管理方法

 

1、アブノーマリティーが脱走するたびに、クリフォトカウンターが減少した。

 

2、他のアブノーマリティーに5回連続で作業を行うたびに、クリフォトカウンターが増加した。

 

3、カウンターが0になると、白い虎が現れ周囲にいる職員はMPが回復した。

 

4、MPを過剰回復した職員は、体の内部から刃で貫かれた。

 

 

 

◇作業結果(作業好感度)

 

本能

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

洞察

1 高い

2 高い

3 最高

4 最高

5 最高

 

愛着

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

抑圧

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 3

 

非脱走アブノーマリティー

 

 

 

◇ギフト(頭2)

 

野分

 

MP+4

 

 白い小さな花が集まって虎の耳の形となっている。芳醇な秋の香りを運んできて、どこかノスタルジックな気持ちにさせてくれる。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 無し

 

・防具 野分

 

クラス HE

 

R 0.7

 

W 0.7

 

B 0.7

 

P 0.7

 

 白を基調とした花柄の着物型E.G.O.。身に着ければ秋の季節に思いを馳せることとなる。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 はい、猫耳娘ですね。かわいい(真理)

 

 今回のこのアブノーマリティーの読み方は、『しろきおおにしのあきひめ』です。

 

 ぶっちゃけて言いますと、今までも似たようなやつらが出てきていますよね。そいつらと共通した名前を付けています。

 

 そこで、共通点を出すために、このアブノーマリティーだけは妥協することになりました。

 

 何を妥協したかというと、本来は大西風とかいて『おおにし』だったのですが、文字数が一人だけ3文字になってしまうので、同じように読める大西だけになりました。

 

 ちなみにジョシュア君は作中で犬も猫も大好きですが、私は犬は無理です。

 

 子供のころにかまれてから苦手意識が残っています。

 

 さて、いったいこれでどれだけ人型が続いているのでしょうか?

 

 個人的にはもう少し人外勢を出してもらいたかったのですが、なんだかんだで面白い奴らが結構出てきているので楽しかったりします。

 

 ちなみになんでこんなに増えているかというと、弟が本格的に集めにかかってるからなんですよね。

 

 メタ読みはやめてくれぇ……

 

 次はどんな奴が出てくるのか、楽しみにしていてください。

 




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Days-38 F-01-i26『決して誰にも話してはいけませんよ』

「はぁ、ご迷惑をおかけしてすいません」

 

「気にするな、お前がいない分はパンドラにやらせた」

 

「……あの子はなんであんなに元気なんでしょうか」

 

 右腕がようやく動かせるようになり、メッケンナが復帰した。いくら『T-09-i97』*1によって治療ができるとはいえ、無くなったものを治療できても動かせるかは別だった。とはいえこんな数日で職場復帰できるようになるのは、技術と本人のやる気のおかげだろう。

 

「あいつのことは気にしたら負けだ、たぶん人間よりゴキブリとかのほうが遺伝子レベルが近いんだろう」

 

「おかしいですね、人間以外の知的存在は都市にいないはずなのですが……」

 

 メッケンナに真顔で人外扱いされるパンドラ、なんだか哀れになってきた。それにこいつ、パンドラに対しての感謝もない。礼儀正しいメッケンナにすら礼を欠かせるなんて、あいつは何をしたんだ……

 

「あっ、ジョシュア先輩、メッケンナ君、何してるんですか?」

 

「うわっ、パンドラさん」

 

「ようパンドラ、どうした」

 

「いやぁ、なんか話をしているので気になりまして…… あれ?」

 

 メッケンナが思わず露骨な態度をとってしまうが、パンドラにはぎりぎりばれていないようだ。

 

 仕方がないので助け船を出すとするか。

 

「そういえば、この前食べさせたいものがあるって言ってなかったか?」

 

「あっ、そういえばまだ渡していませんでしたね……」

 

 パンドラが鞄から包みを出すと、シンプルなランチボックスが出てきた。パンドラがふたを開けると、中からはなぜがステーキが出てきた。

 

「いや、入れ物に対して入っているものがおかしくないか?」

 

「どうせこの子にはそんな区別はつきませんよ」

 

「……お前結構パンドラに辛らつだな」

 

「……今まで何をされてきたか教えましょうか?」

 

「いや、いい……」

 

 いったい何をされたらそんな虚無の目をすることになるんだ。

 

 だが、何かをした張本人であるパンドラは、そんなこと素知らぬ素振りで準備をしている。本当にこいつはなんなんだ。

 

「それでですね、せっかくだから皆さんに食べてもらおうかと……」

 

「あっ、僕は遠慮します」

 

「さっきからメッケンナ君酷くないですか!?」

 

 あっ、ついにパンドラが突っ込んだか。さすがに自覚はあったんだろうか。

 

「……まだあのことは許してませんよ」

 

「うっ、すいません……」

 

「えぇ……」

 

 パンドラが素直に謝るなんて、すごい気になる。だがメッケンナの名誉のためにも聞かないほうがいいだろう。

 

「それじゃあ僕はそろそろ行きますね」

 

「あっ、またミラベルさんのところですか?」

 

「仕事です!!」

 

 パンドラの余計な一言で、メッケンナは怒って帰ってしまった。だがなメッケンナよ、お前とミラベルの仲はみんなに知れ渡っているぞ。

 

「あーあ、行っちゃいましたね。ジョシュア先輩は食べますか?」

 

「うーん、やっぱりやめとくか。腹いっぱいだし」

 

「えぇ~、食べましょうよぉ。私のお肉」

 

「別に後でもいいだろう?」

 

「ジョシュア」

 

「うおっ」

 

 パンドラと話していると、シロが話しかけてきた。なんか机に顔を乗っけててかわいいな。

 

「シロちゃん、よかったら一緒に食べますか? まだまだいっぱいありますからね!」

 

「ジョシュア、もう時間だし行こう」

 

「そうだな」

 

「うぅぅ、みんなが冷たい……」

 

 悲しむパンドラを放っておいて、収容室に向かう。今日収容されたアブノーマリティーは『F-01-i26』だ。ずいぶん久しぶりのファンタジーカテゴリのアブノーマリティーだ。

 

 シロと一緒に収容室まで歩いて行く。今日は変な奴でなければいいのだが……

 

「……で、なんでお前までついてきてるんだ?」

 

「別にいいじゃないですか!」

 

 そして、なぜかパンドラまでついてきている。まったく、冷やかしだろうか……

 

「さて、ついたな。それじゃあ……」

 

「おっじゃまっしまーす!」

 

「おいパンドラ!?」

 

 突然の行動に対応できず、パンドラはそのまま収容室に入っていってしまった。

 

「……いや、どういうことだよ」

 

「ジョシュア、あれは気にしたらダメ」

 

「……そうだな、でもなんか納得できない」

 

「それはわかるけど、ダメだよ」

 

「うん、そうだな……」

 

 もう彼女を理解しようとするのはやめよう、時間の無駄だ。管理人に確認すると、なんか今回は作業を交代するらしい。なぜだ?

 

 

 

 

 

 吹雪の吹く収容室の中に、彼女は立っていた

 

 美しい初雪のように白く、柔らかそうな肌に氷のように薄水色の髪。その瞳は薄氷のように美しく、儚く見える。

 

 彼女はここで、哀れな獲物を待つ

 

 己の秘密を守れる、良き者を

 

 待っているんですけど

 

 全然来ない、なんでぇ……

 

 

 

 

 

 あなたのことは助けてあげましょう

 

 しかしこの雪山で私にあったことは忘れなさい

 

 この場所であったこと、出会ったもの、手に入れたもの

 

 それらすべては他言無用です

 

 これは約束です、契約です

 

 

 

 

 

 だから、決して誰にも話してはいけませんよ

 

 

 

 

 

F-01-i26 『吹雪の約束』

 

*1
『極楽への湯』



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F-01-i26 管理情報

 『F-01-i26』は氷のような女性型のアブノーマリティーです。収容室内では常に吹雪が吹いています。

 

 『F-01-i26』は気に入った男性を誘惑します。

 

 気に入られた男性は『F-01-i26』の婿とされてしまいます。男性の職員は注意して作業を行ってください。

 

 『F-01-i26』の雪でかき氷を作ろうとしないでください。

 

 

 

『吹雪の約束』

 

危険度クラス HE

 

ダメージタイプ W(3-4)

 

E-BOX数 18

 

作業結果範囲

 

良い 13-18

 

普通 5-12

 

悪い 0-4

 

 

 

◇管理方法

 

1、男性が作業を行うと作業効率が上がった。

 

2、男性職員が作業結果良で作業を終えると、クリフォトカウンターが減少した。

 

3、クリフォトカウンターが0の状態で男性が収容室に入ると、その職員は『F-01-i26』の婿となった。

 

 

 

◇作業結果(作業好感度)

 

本能

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

洞察

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

愛着

1 高い

2 高い

3 高い

4 高い

5 高い

 

抑圧

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 1

 

非脱走アブノーマリティー

 

 

 

◇ギフト

 

雪花(ブローチ1)

 

HP+6

 

MP+6

 

 美しき氷でできた花のブローチ。決して逃れられない約束の華。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 雪花(レイピア)

 

クラス HE

 

攻撃速度 超高速

 

射程距離 近距離

 

 氷でできたレイピア。たとえどれほどの高温であろうと、この氷が解けることはない。

 

 

 

・防具 雪花

 

クラス HE

 

R 1.2

 

W 0.4

 

B 0.8

 

P 1.5

 

 氷の装飾があしらわれた着物型の防具。どこかひんやりしていて気持ちいい。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 実 話

 

 何がって、前回の神回避のことです。

 

 いっつもメインの男性キャラで初見のアブノーマリティーの作業をしていた弟が、なぜかこいつだけ女の職員で始めたんですよね。

 

 しかも、元ネタを鶴の恩返しと勘違いしたままだったので、本当に偶然です。

 

 初の男性特攻アブノーマリティーだったので、すごく楽しみにしていたのにこれだったので、肩透かしを食らった気分です。

 

 まぁ、他にも男性特攻はいるので、まだいいですが……

 

 今回のアブノーマリティーは、『F-04-i27』*1とは対になる感じのアブノーマリティーです。あっちよりは見た目で回避しやすいですね。

 

 久しぶりのファンタジーですが、最近連続している人間型アブノーマリティーですね。確かにちょっと人型多いとは思っていましたが、ここまで固まるとは思っていませんでした。

 

 それにしても、この部門は今のところかなりましですね。特に福祉と比べれば!

 

 それでは次はどんなツールが出てくるのか、楽しみにしていてください。

 

*1
『零時迷子』




Next T-09-i86『頼もしさと同時に、恐ろしさを感じる』


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Days-39 T-09-i86『頼もしさと同時に、恐ろしさを感じる』

「悪いな、心配かけて」

 

「本当にもう仕事に戻って大丈夫なのか?」

 

「一応な、これでも頑張ったんだ」

 

「だからって無理したら意味ないぞ」

 

「身に染みるな」

 

 あの戦いでたくさんの仲間が倒れた。だが生き残ってくれたやつもいる。サラ、メッケンナ、マオ、ミラベル、シロ、そしてリッチ。……あっ、ついでにパンドラ。

 

 あの戦いで下半身をすべてつぶされてしまったリッチは、何とか死ぬ間際に『T-09-i97』*1に浸かったことで命をつなぐことができたのだ。その代償は大きかったらしく、かなり衰弱して、体は治っても危うく餓死する可能性があったらしい。

 

 それに、治ってからも大変だった。日々のリハビリに絶叫の木霊する地獄の機能回復メニュー、まぁ色々話を聞きたくないレベルで酷かったらしい。

 

「さて、それじゃあ俺はもう行くよ」

 

「そうか。ちなみに今日は何の作業だ?」

 

「今日はツール型だな、『T-09-i86』だ」

 

 今日収容されたのはツール型の『T-09-i86』だ。ツール型は番号だけではヒントも得られないから面倒だ。

 

「それじゃあまたな」

 

「あぁ、また」

 

 リッチと別れて収容室に向かう。できれば使っただけで即死するようなものでなければいいのだが……

 

「さて、ついたな」

 

 『T-09-i86』の収容室の前につく。今日もツールということで乱雑に扉を開けて収容室の中に入る。どうせツールだから大丈夫だろう。

 

 

 

「なんだこれ、お札?」

 

 収容室の中に入っていたのは、見たこともない言語の書かれたお札の束であった。見た感じこれで除霊でもするのだろうか? 単発使用…… いや、装着型か?

 

「とりあえず使ってみるか」

 

 お札の束を手に取ってみる。すると、お札は俺の手から逃れて空を飛び始めた。

 

「うおっ、やっちまったか…… うん?」

 

 しばらく空を飛んでいたお札は、俺の周りを囲むように空中で停止した。なんというか、守ってくれているようだ。

 

「装着型だな、攻撃から守ってくれるのか、それとも戦闘のサポートか……」

 

 とりあえずデータが欲しいな。何となく作業ではなく戦闘のほうがいい気がする、試し切りに『F-01-i05』*2でも脱走させようか…… いや、でも面倒だなぁ。

 

「まぁいいか、とりあえず行ってみよう」

 

 情報部門に向かって歩いていく。見た目に騙されがちだが、実は抽出部門と情報部門とは意外と近い。ただ気持ち的に面倒なだけだ。

 

「はぁ、なんかいい感じのやつが来ないかな」

 

 もういっそ試練でもいい、だが次は深夜だからできればやめてほしいところではある。

 

『ジョシュア、ちょうどそっちに向かっているのなら『T-09-i96-1』の鎮圧に向かってくれ。今日の『T-09-i96』*3当番がさぼったらしい』

 

「なるほど、了解」

 

 一体さぼったのは誰だ? パンドラ…… は今日じゃないか。しかしあいつ以外がそんなミスをするだろうか?

 

「まぁいいか、せっかくだし試し切りくらいはしておこう」

 

 幸い『T-09-i96-1』は動きが遅いため、不意打ちでも食らわない限りは被害があまり出ない。数が出ればそれこそ『黄金の洪水事件』のようになるが、そうでなければ大丈夫。

 

「さてと、それじゃあ行きますか」

 

 ちょうど目のまえに『T-09-i96-1』が現れたので、さっそく戦闘を始める。すると俺の周りを囲むように浮いていた『T-09-i86』は、横向きに取れて俺の上を通るようにアーチ状になった。

 

「すぐに終わらせる」

 

 手に持っている“墓標”を構えて『T-09-i96-1』に向かって突き刺した。すると俺の動きと同時に『T-09-i86』が『T-09-i96-1』に向かって飛んでいき、張り付いた。すると『T-09-i86』は黒い炎をまき散らし、『T-09-i96-1』にダメージを負わせていく。

 

「なるほど、そういう感じか」

 

 “墓標”で攻撃すればするほどお札が飛んでいき、『T-09-i96-1』にダメージを負わせていく。さらに、いつの間にかお札は補充されているので弾切れの心配もない。これは一気に戦闘が楽になったかな。

 

「これで終わりだな」

 

 最後の一撃を『T-09-i96-1』に刺して戦闘を終了する。これで鎮圧完了だ、装備の整っていない時ならいざ知らず、今の状況でこいつに負けることなんてありえない。

 

「今回は早く片付いたな…… いてっ」

 

 ふいに肩に痛みを感じてその場所を確認すると、肩に傷が入っていた。先ほどの戦いで傷はつけていないし、それ以前で傷ついたとも考えられない。となると……

 

「やっぱりこいつのせいだろうか?」

 

 周囲に浮いている『T-09-i86』に向かって語り掛けるが、もちろん返事は帰ってこない。だが、何となく確信があった。

 

「……でもまぁ、戦闘が楽になるならいいか。とりあえず新人にだけは使わないように伝えておこう」

 

 『T-09-i86』を返却するために収容室に向かう。だが、安全からでは結構遠いのだ……

 

 

 

 

 

 この札はとても便利だ

 

 相手が格上だろうとこいつがあれば戦える

 

 俺たちが魔と戦うときにはいつだってこいつが助けてくれる

 

 ……だが、どうしても不安を感じる時がある

 

 こいつを使っていると、魔を滅せよと声が聞こえる

 

 それも、傷つけば傷つくほど、死に近づけば近づくほど声は大きくなる

 

 それはいつしか、自分を飲み込んでしまうのではないかと思えるような、そんな感覚だ

 

 確かにこいつは便利だ、こいつがない生活なんて想像もできなくなってしまった

 

 だが、こいつを使えば使うほど、俺が俺でなくなってしまう

 

 

 

 

 

 だから我々は、頼もしさと同時に、恐ろしさを感じる

 

 

 

 

 

T-09-i86 『破魔の札』

*1
『極楽への湯』

*2
『彷徨い逝く桃』

*3
『黄金の蜂蜜酒』



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T-09-i86 管理情報

 『T-09-i86』は謎の言語の書かれたお札の束です。装着すると装着者の周囲に浮遊します。

 

 『T-09-i86』を装着中に魔を滅するようにささやきが聞こえる場合があります。その場合は速やかに使用を中止してください。

 

 『T-09-i86』を使用中の職員が死亡した際には、その死体を速やかに処理してください。

 

 『T-09-i86』をおでこに貼ってキョンシーごっこをしないでください。それで鎮圧されても自業自得です。

 

 

 

『破魔の札』

 

危険度クラス HE

 

装着型

 

 

 

◇管理情報(情報開放使用時間)

 

1(10)

 

 『T-09-i86』を装着中の職員が戦闘を行う際に、追加でBダメージが発生した。

 

2(60)

 

 『T-09-i86』を装着中の職員は、少しづつHPが減少した。

 

3(90)

 『T-09-i86』を装着した職員が戦闘を行わずに返却をすると死亡した。

 

4(150)

 『T-09-i86』を装着中に死亡すると、その職員は『T-09-i86-1』となりアブノーマリティーやほかの職員を襲った。

 

 

 

余談

 

 今回はそんなにひどくないですね!

 

 まぁ即死はありますが、ツールには義務なので気にしなくてもいいです。どうせ適当なのと戦っていると外せます。

 

 このツールの追加ダメージはB5ダメージです、クラス補正は受けないので、あとは耐性だけですね。小さいように見えて結構大きいダメージになります。

 

 また、ダメージのほうも1ターンに3ダメージと、かなり少ないです。5ターンで30回復なのでおつりが来ます。そう考えるとほとんどデメリットはありませんね。とはいえランクの低い職員ではきついので、高い職員に着けるといいでしょう。

 

 結構使えるほうなのですが、あんまり弟には使ってもらえませんでした。まぁよくよく考えると私もゲームでどれだけ有能でもあんまり使ってなかったです。

 

 ツールは元々不遇な感じが多いので、結構影が薄いんですよね。この施設では何度も名前が出ているのもありますが、それ以外は忘れてしまいます。

 

 

 

 さて、これでついに抽出部門も終わりです。

 

 そこで、そろそろ最後に向けてアンケートを考えています。詳しくは活動報告のほうで書きたいと思いますが、こちらでもある程度はお話させていただきます。

 

 今考えているのは

 

1、二週目を50日までやる

 

2、残っているアブノーマリティーの紹介だけしていく

 

3、三つの選択肢の中から選んで一つを選択していく(アンケート)

 

 ですね。

 

 ほかにもこんなのがいいんじゃないかって人は活動報告のほうにお願いします。

 

 ちなみに今回のアンケートは今まで通りの一番収容したいアブノーマリティーなので、注意してください。

 




Next O-01-i02『君の為の世界を作ろう』


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職員たちの平穏なひととき『予感』

新規アブノーマリティーの変更により、一部内容を変更しました。


「さて、あんたから話なんて珍しいな。あの時の復讐か?」

 

「それはとうにあきらめた、それよりも少し話に付き合ってもらいたくてのう」

 

 大きく背の曲がった、長いひげがチャームポイントの大きなエビ。肩に大型のライフルをかけて、言葉を流暢にはなすその姿は、エビという姿にミスマッチしているようにしか見えない。

 

 もうすぐ業務も終了という時間に、『O-02-i23』*1の作業に行っていたエージェントに呼ばれて、今俺は『O-02-i23』の収容室の中でやつと対面している。

 

 こいつとは以前悲しい事件*2があってから、ずいぶんと仲が悪くなってしまった。もともとこいつ等からは嫌われていたが、そのせいでさらに嫌われることとなってしまった。

 

 だというのに、今回は話があるからと呼び出されるとは、それほど重要な話なのだろう。

 

「それで、要件はなんなんだ?」

 

「なぁに、少し老人の話に付き合ってほしいだけじゃ」

 

「はぁ、なんだよそれだけなら……」

 

「もうすぐ目覚めるようじゃのう、赤子が」

 

「……なんだって?」

 

 こいつ、今なんて言いやがった。この収容室から出られない『O-02-i23』がほかの収容室のことを知ることはできないはずだ。以前『O-02-i24』*3と『O-02-i25』*4のことを知っていたのは、彼らが兄弟であるからと言っていたが、それとこれとは話が違う。

 

 なら考えられる可能性は、他の職員が漏らしたか、あるいは別の要因か……

 

「誰から聞いた?」

 

「ふぉっふぉっふぉっ、鎌をかけただけじゃよ」

 

「それだけでここまでわかるはずはないだろう?」

 

「さあてのう、それよりもじゃ」

 

 どうやらこれからが本題のようだ。これ以上の情報の流出は避けたかったので情報の出どころくらいは聞いておきたかったが、それも難しそうだ。

 

「もう赤子が目覚めるのは確定じゃろう、だが、それだけではないな?」

 

「なに、どういうことだ?」

 

 こいつの言い方、どうやら厄介なのはそれ以外もいるようだ。あれが成長してどうなるかはわからないが、それ以外にやばい奴といえば…… まさか、三鳥枠か?

 

「すでにこの施設にはありえない存在が多数におる。そこに存在してはいけないもの、簒奪者、孤独な少女、魔王とその息子、そして無垢なる赤子……」

 

「じゃが、それ以上の災厄が訪れるやもしれん」

 

「……いったい、それは?」

 

 『O-02-i23』の話は、今までの飄々とした態度とは打って変わって真剣なものであった。それは、今までのように茶化すでも誤魔化すでもない、彼なりの恐怖を感じた。それほどの何かが来るのであろうか?

 

 『O-02-i23』は言葉を続ける、言葉を選びながら、慎重に……

 

「季節の風を統べるもの、大罪人、純粋な偏愛者、死者の呼び声、白き肉塊、神聖なる巫女たち、悍ましき支配者、不死身なだけの男、憎き巡礼者……」

 

「これらはわしの知っている危険な存在たちじゃ。詳しくは言えん、そうすることで縁ができて呼び寄せてしまうやもしれんからのう」

 

 『O-02-i23』が必死に絞り出した言葉は、おそらくこいつの知る危険度クラスの高いと思われるアブノーマリティーたちだろう。

 

 この情報があれば、もしかしたらある程度は選択の際の参考になるし、もし収容してしまっても警戒くらいはできるかもしれない。

 

 だが、さっきこいつからずいぶんと聞き捨てならない言葉が出てきた。

 

「ふざけるな、ならなんでそれを俺に話す」

 

「少しでも知らなければならない。もしかすると、やつが来るかもしれないのだから」

 

「やつって、まさか以前に言っていた……」

 

「あぁ、異界の主じゃ」

 

 異界の主、それは以前『O-02-i23』が言っていた、崩海にすむ恐ろしい存在。『O-02-i23』は寝ているところを見ただけで恐怖したと言っていた。ならそんなやつがこの施設に来てしまえば……

 

「そいつがこの施設に来るとでもいうのか?」

 

「それはわしにもわからん、じゃが今までの傾向を見るに来てもおかしくはないかもしれん」

 

「……だが、この施設にそんな凶悪な奴を収容できると思うか?」

 

「可能じゃろう、なにせ今でも恐ろしい存在をこれだけ収容できているのじゃからな」

 

「……そういわれると、何も返せないな」

 

 確かに、現状だけでもALEPHクラスのアブノーマリティーが5体いる。もしも赤子までがそうであればさらにもう一体だ、これ以上は考えたくもない。

 

 だが、何が抽出されるかは管理人の運と選択次第だ、俺たちが何かできるわけではない。ならば俺ではなく管理人にでも話せばいいのではないかと思ったが、よくよく考えれば管理人はここでの会話を知ることができるのか。ならば問題はないな。

 

「それで、俺に何をさせる気だ?」

 

「なに、簡単なことじゃ」

 

 『O-02-i23』は俺の瞳をのぞき込んでくる。俺はその目から決して逃れず、見つめ返す。しばらくすると『O-02-i23』は再び口を開いた。

 

「力を身に着けることじゃ、おぬしの力はさらなる高みに登れるはずじゃ。とにかく力をつけて、もしもの時に備えよ」

 

「もちろん、その時が来ればわしたち兄弟も力を貸そう。おそらく、生き残りをかけた戦いになるはずじゃ」

 

 その言葉は真剣そのもの、さすがにだますつもりはなさそうだが、それでも認識のずれで大惨事になる可能性はある。だからうのみはできないが、その可能性は記憶の片隅にとどめておいたほうがいいかもしれない。

 

「……わかった、どうせ力は身につけなければいけないと思っていたしな」

 

「そうか、よかった」

 

「あぁ、有益な情報をありがとう」

 

「きにするな、もしもそんなことが起これば、その時はよろしく頼む」

 

「あぁ、それじゃあな」

 

 『O-02-i23』の収容室から退出し、今日の最後の作業に向かう。

 

 最後の作業は福祉部門のアブノーマリティーだ、早くそこまで行くしかないな。

 

「さてと…… おっ、ケセドか」

 

 福祉部門のメインルームを歩いていると、職員たちが嬉しそうにこの部門のセフィラ、ケセドと話していた。せっかくだから挨拶くらいはしようと思ったが、何やら盛り上がっているので気が引ける。また今度にするか。

 

「さて、どうやって強くなろうかな」

 

 一番最初に思いつくのは、できれば一番とりたくはない選択肢だ。だがこんな状況だ、そうはいっていられないだろう。

 

「やっぱり、ゲブラーに頼んでみるか」

 

 彼女が鍛錬に付き合ってくれるかはわからないが、コア抑制も終わった今なら可能性くらいはあるだろう。

 

 そう思って後日に彼女のところに尋ねてみたら、地獄を見ることになったのは別の話だ……

 

*1
『老殻』

*2
『少数精鋭幻想体強襲調理作戦』

*3
『鋏殻』

*4
『宿殻』



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Days-40 黄金の深夜『王国へと続く道』

遅れた原因 寝落ち





友の屍を超えた先の どこまでも続く道

この先にわれらの王国が待っている


「ジョシュア、これくらいでへばってどうする?」

 

「ゲ、ゲブラーさん…… そろそろ休憩を……」

 

 ちょっとした思い付きで、ゲブラーにE.G.O.の扱い方を教えてもらおうとしたのが間違えだった。

 

 軽い気持ちで聞いてみたら、ゲブラーの何かに火が付いたのか、そのまま特訓が始まった。

 

 使い方なんて実戦でしかわからないと言ってとりあえずWAWの相手をさせられた。そのまま何度も戦っていたら今度はALEPH、途中で脱走した甲殻類ブラザーズたちの相手もしながらE.G.O.の使い方を実践の中で覚えさせられることとなった。

 

 一体一体ならまだましだったが連続はきつかった。しかも何の嫌がらせかほかの職員たちもなぜか協力的だった。パンドラなんて嬉々として手伝っていたな、そんなに俺が嫌いか……

 

「そうだな、そろそろ休憩としよう」

 

「えっ、まじで!?」

 

「あぁ、もうじき試練が発生するからな。そいつの相手をしてもらおうか」

 

 ゲブラーの発言で一瞬希望が見えたが、それもすぐに砕かれてしまった。もしかして休憩って試練の鎮圧のことですか?

 

「いやいや、次の試練って深夜ですよ? まさかそれを……」

 

「あぁ、一人で鎮圧してもらう」

 

「無理に決まってんだろ!!」

 

 今まで出てきた深夜がどれだけやばいやつらだったか忘れたのか!?

 

 明らかに放置したらまずい奴と洗脳系だぞ! そんなの時間をかければどんなことになるか、それにまだ判明していない深夜もいるはずだ。

 

「安心しろ、時間がかかるようならほかの職員を向かわせよう」

 

「ほっ」

 

「……まぁ、その場合鍛錬が足りなかったということだから、追加が必要だな」

 

 なんか最後にボソッと恐ろしいことを言っていた気がするが、気のせいだよな?

 

 なんか急にやる気が出てきたぞー!

 

『福祉部門にて試練が発生しました、エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

「さて、休憩の時間だな」

 

「そういえば休憩という名目だったなチクショー!」

 

 もはややけになって福祉部門に向かっていく。そもそも深夜がそんなに簡単につぶせる相手なわけがないだろうが!

 

 

 

「さて、ここにいるんだな……」

 

 本日最後の試練、黄金の深夜がいると言う福祉部門のメインルームの目の前に到着した。

 

 ここから先はどうなっているかはわからない、一抹の不安を感じながら扉を開く。

 

 はたして、扉の先に広がっていたのは、一面の草むらだった。

 

 少し元気がなく白がかった草のなかに、小さな花がポツポツ顔を出している。

 

 そしてその先には、人の形をした怪物がいた。

 

 傷だらけのからだに輝きを失った瞳、それは今までの黄金の試練に出てきた彼の成長した姿と考えられるが、それにしてはなんだか覇気を感じられない。

 

 黄金の深夜は細い体を外套で隠し、目の前に広がる草むらを歩く。一歩踏みしめる毎に草木は枯れて、元の床に戻っていく。

 

「さて、それじゃあ早速いかせてもらうか」

 

 墓標をもって黄金の深夜に立ち向かう。それに反応して黄金の深夜が腕を上げてこちらに向けるが、何やらおかしい。

 

 よく見れば黄金の深夜の腕は肘から先がなく、随分と短くなっていた。

 

 黄金の深夜がぶつぶつとなにかを呟く。それと同時に目の前に円が描かれる、そして円から黄金の光が漏れて……

 

「まずい!」

 

 とっさに右に飛び込むように身を投げると、背後から光を感じた。

 

 転がりながら体勢を立て直し、黄金の深夜に目を向ける。

 

 追撃が来るかと思ったが、やつは俺には一瞥もせずに歩き続けていた。俺になんて興味もないかのように、一心不乱に歩き続ける。いったいどういうことだろうか?

 

「まぁいい、それならそれで好都合だ」

 

 歩き続ける黄金の深夜に“墓標”をたたきつける。黄金の深夜は少しよろめくと、ようやく俺のほうに顔を向けた。

 

 その顔は、どうしようもなく空虚だった。感情なんて何もなく、表情なんてどこにもなかった。その人のような何かは、一瞬で俺に近づくと、その唯一無事な足で俺を踏みつけようとした。

 

「うおっと!」

 

 突然の攻撃に驚きながら、バックステップでかわして攻撃後に再び接近する。踏みつけによって衝撃波が飛んでくるが、それを跳んでよけて“墓標”を黄金の深夜に突き付ける。その攻撃を黄金の深夜はよけようとするが、もう遅い。俺の突きによって衝撃波が飛び出し、一瞬先に黄金の深夜に到達する。

 

 あの時は使えるようになった衝撃波だが、あれ以来なかなか使うことができなかった。火事場の馬鹿力かと思っていたが、ゲブラーとの特訓で何とか使えるようになってきた。

 

 とはいえ彼女からしたらまだまだ不完全のシロモノ、完全にものにするまで特訓は続きそうだ。

 

「くっ」

 

 弱いとはいえ衝撃波による一撃を食らい、黄金の深夜が暴れだした。足技による攻撃を“墓標”の柄で弾き、そらして受け流しつつ隙を伺う。そしてバランスを崩した瞬間を狙い“墓標”で足払いをして心臓の部分に突き立てる。

 

 正直人型だからと言って弱点まで同じとは思えないが、そのほうが的もでかいし構わない。

 

「ふっ、くっ」

 

 攻撃が足技だけで大ぶりなこともあり、基本的にこちらの優勢だ。正直一撃でも貰うと危ないだろうから、一撃一撃がすべて恐ろしい。

 

「そいやっ」

 

 “墓標”による振り下ろしをよけられて、黄金の深夜が後ろに大きく飛び退く。

 

 仕切り直しによって少し余裕ができたのか、周囲の変化にようやく気が付くことができた。

 

「おいおい、なんか嫌な予感がするぞ……」

 

 気が付けば、周囲の草むらがすべて枯れ果て無くなっていた。そしてそのことに黄金の深夜も気が付くと、やつは頭を抱えてもがき始めた。

 

「くっ、退避!」

 

 すぐにメインルームから脱出しようと扉に向かって走る。背後で黄金の深夜が大声で叫ぶと、そのまま後ろで光が発生すると、何かが後ろから襲い掛かってくる。

 

「だあぁぁぁ!!」

 

 何とか扉まで間に合って飛び込んで後ろを振り向く。気が付けば俺のすぐ後ろまで先ほどまでの草むらが迫っていた。

 

「なっ、何とかなったのか……?」

 

 もしこの草むらに追いつかれていたらどうなっていたのだろうか?

 

 何もないなんてことはないだろう、もしかしたら苗床になっていたかもしれない。

 

 黄金の深夜はまだそこにいる。だがおそらくはそろそろどこかに移動するだろう。

 

『今の攻撃で施設内のエネルギーが減少した、できる限り早急に鎮圧してくれ』

 

「わかった!」

 

 管理人から注意され、即急に黄金の深夜に迫る。黄金の深夜はこちらに気が付くと再び円を描く。

 

「もうそれは見た!」

 

 射線上から逃れて接近し、その無防備な体に“墓標”をたたきつける。黄金の深夜はレーザーを射出してからその足を振り上げ、再び俺に攻撃しようとしてくる。俺はその攻撃をよけて斬撃を飛ばしてけん制する。

 

 再び攻防が激しくなるが、それでも俺のほうが優勢で、その決着もすぐについた。

 

「……とどめだ!」

 

 “墓標”を黄金の深夜の胸に突き立て、ついに決着がついた。黄金の深夜は体の動きを止めると、どんどん体が灰になってボロボロになっていく。

 

 そして彼は何かをつぶやくと、そのまま散っていってしまった。

 

「……何とかなったな」

 

 一人での深夜の鎮圧、正直無理かと思ったが、何とかなるものだ。

 

「でも、これが休憩なんだよな?」

 

『そうだな、ゲブラーが呼んでるぞ?』

 

「うげぇ」

 

 管理人からの余計な情報で辟易する。肩を落としながら懲戒部門へと向かっていこうとすると、何やら違和感を感じた。

 

 これは、正直まずそうだ。嫌な予感がする、このままここにいてはいけない。

 

 早くここから逃れようとするが、どうやらそれは俺を逃してはくれないらしい。

 

―ありがとう―

 

 

頭の中に声が響く

 

 

優しい 無垢な子供のような声が

 

―君のおかげで僕はここまで大きくなれた―

 

 

それは感謝の気持ちがあふれていた

 

―僕はこれで、ようやく生まれることができる―

 

 

それは歓喜の気持ちで震えていた

 

―弱かった僕が生まれることができたのも、君のおかげだ―

 

 

それは生命の誕生を祝福する声だ

 

―だから、そのお礼に―

 

 

そして

 

―君の為の世界を作ろう―

 

 

それはどうしようもない善意(悪意)に満ち溢れていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Emergency! Emergency! Emergency!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Risk Level ALEPH

 

 

 

 

 

 

 

 

 

創星新話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは何色にも染まらないもの

 

 長い時間をかけて成長し 尊き愛によって育まれしもの

 

 それは慈愛を知り 慈愛を与えるもの

 

 世界は残酷だ 何も与えてくれない

 

 この世界は優しい人々を虐げる

 

 ならば僕が 優しい君たちに恩返しをしよう

 

 

 

 

 

 

 

 O-01-i02 『新星児』

 

 




友よ すまなかった


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Days-40 O-01-i02『君の為の世界を作ろう』

―君の為の世界を作ろう―

 

 その言葉とともに現れたのは、純白の子ども。

 

 美しい三対の白い羽を広げて宙に浮く。

 

 男の子とも女の子ともとれる、中性的な姿。姿は幼いが、決して生まれたてには見えないからだ。これからの成長が期待できる可能性の姿だが、決して生まれたての弱弱しい姿ではない。

 

 それはこの地獄のような世界に舞い降りた天使のようで、得体のしれない怪物のようにも見える。

 

「お前は、なんだ……?」

 

 そして、それは見えない何かを抱えるように手を交差させると、その手の中に小さな球体が誕生する。

 

 ピンボールほどだった球体は、段々大きくなり、バスケットボールほどの大きさになる。

 

 

 

 その球体の中には、見たこともない世界が存在していた。

 

 どこまでも続く星海の中に存在する、一人ぼっちの小さな惑星。

 

 今はまだ何者でもない、真っ白な世界はどんどん色づいていく。

 

 そしてそこに生まれるのは、理想郷だ。

 

 この世界が完成した時、いったい何が起こるのだろうか?

 

 どうしようもない、悲しみのあふれたこの世界。

 

 果たして、こんな世界にこだわる必要はあるのだろうか?

 

 

 

「いや、何を考えているんだ!」

 

 気を取り直して、“墓標”を目の前の存在に突き付ける。

 

 この何かは、確実にやばい存在だ。放置しては置けない。

 

『ジョシュア、いったいどうなっているんだ!』

 

「おそらくだが、あの赤子が目覚めたんだと思う」

 

『なに!?』

 

「とりあえず『O-02-i24』*1にでも依頼をお願いできるか? いい加減あいつらにも働いてもらおう」

 

『わかった、『O-02-i25』*2にも依頼しておこう。それで増援が来るまで持ちこたえてほしい』

 

「了解した!」

 

 とにかく増援が来るまで持ちこたえるしかない。“墓標”を構えて純白の天使を注視する。最悪の場合『O-09-i87』*3を使用することも検討しなければならない。

 

「さて、それじゃあ行くぞ」

 

―いつでもおいで―

 

 目の前の存在、とりあえず『O-01-i01』としておくが、こいつに接近して攻撃を加えようとする。

 

 しかし、そう簡単にはいかず羽による薙ぎ払いがやってきた。

 

「いやいや、そんな使い方じゃないだろ!?」

 

 意外と大きい羽による攻撃範囲に驚きつつ、攻撃範囲ギリギリのところで押しとどまって『O-01-i01』を中心に円を描くように背後に回り込む。

 

―さぁ 僕を受け入れて―

 

 いくつもの白い羽が抜け落ちて、花吹雪のように空から舞い落ちる。その神秘的な光景は平時ならば心奪われただろうが、現状ではそうもいかない。

 

 背後から『O-01-i01』に攻撃を加えるが、思うような手ごたえはなかった。そして攻撃を加えてことにより、『O-01-i01』は後ろにゆっくりと振り向き、目が合った。

 

 『O-01-i01』は羽を上に掲げると、床に落ちている羽が集まり一つの球体となる。その球体は明らかに食らったらやばそうなエネルギーを感じる。

 

「なんでだよ!?」

 

 必死に後方に飛んで攻撃から逃れる。だが相手がこれくらいであきらめるはずがない、再びこちらに近づいてきて羽による薙ぎ払いが飛んでくる。

 

「くっ、息つく暇もない」

 

 虎穴に入らずんば虎子を得ず、こうなれば逆に接近して無理やりにでも攻撃の機会を作らなければ!

 

「おらぁ!」

 

 『O-01-i01』の足元を潜り抜けて背後に回る。そのまま足を切りつけ立ち上がり、背後に“墓標”を突き立てる。

 

―どうしたの 何も怖いことなんてないよ?―

 

 そういいながら『O-01-i01』が振り返りついでに羽で攻撃をしてくる。そんなことしてくるやつが怖くないわけがないだろうが!

 

「くそっ、なかなかうまくいかねぇ!」

 

 確かに攻撃をする機会はあるが、それもなかなか難しいうえにあまり聞いている気配がない。できればもっと大きな隙が欲しいところだ。

 

「ジョシュア、伏せて!」

 

「うおっと!」

 

 そんな時に、この部屋に声が響いた。その声の通りに伏せると、『O-01-i01』に音符が突き刺さる。これは、シロの“調律”による狙撃か!

 

「シロ、助かった!」

 

「ジョシュア、気を付けて」

 

「あぁ、もちろんだ!」

 

 ここでシロが来てくれたのは大きい。今のところこいつは遠距離攻撃らしいことはしてきていない。ただ単に隠し持っている可能性もあるが、それでも攻撃の幅が広がるのはうれしいことだ。

 

「シロ、俺がひきつけるから攻撃を頼む」

 

「わ、わかった!」

 

 シロの正確な狙撃が『O-01-i01』の顔に直撃する。彼女の攻撃は恐ろしいほどによく当たる、今まで外しているところを見たことがないくらいだ。

 

「お前の相手はそっちじゃねぇぞ!」

 

 シロのほうへ向かおうとする『O-01-i01』に向かって切りかかる。さすがにあまり効いていないとしても、何度も攻撃を受けることは嫌なようだ。こちらにターゲットを変えて攻撃を仕掛けてくる、どうやら俺からつぶそうとしているようだ。

 

「さあ行くぞ!」

 

 俺の斬撃とシロの狙撃、それぞれの攻撃は着実に『O-01-i01』の体力を削っていった。しかしそこで、予想だにしていないことが起こる。

 

―まだだよ もう少し待っててね―

 

 『O-01-i01』が羽ばたくと、その風圧で吹き飛ばされてしまう。とはいえそこまで強い風でもなかったので空中で体勢を立て直して再び相対する。しかし何かさっきとは違うような気がする……

 

―さあ 張り切っていこう―

 

 その気軽そうな発言とは違い、『O-01-i01』の攻撃は苛烈なものであった。

 

 翼を羽ばたかせると羽がこちらに飛んできて、銃弾となって襲い掛かってくる。

 

 俺はそれを“墓標”で弾きながらシロを守る。しかしいくつか弾き切れずかすってしまう。

 

 試しにかすったところを触れてみると、傷がない。どうやら精神汚染系の攻撃のようだ。

 

「シロ、気をつけろ」

 

「も、もちろん」

 

 先ほどと同じように、前衛と後衛に分かれて攻撃を開始する。片方に意識が向いている間にもう片方が攻撃を加える。先ほどとは違ってうまく攻撃を加えることは難しくなってしまったが、うまくいっているように感じる。

 

「おいおい、楽しそうなことをしてるじゃないか!」

 

「来たかカニ野郎」

 

 そして次にやってきたのは、『O-02-i24』だった。普段は面倒な奴でしかないが、こういう場面ではそこそこ頼りになる。

 

 この調子だと『O-02-i25』ももうじき来るだろう。

 

―君はいらない―

 

 しかし、『O-01-i01』はカニがお気に召さなかったらしい。『O-02-i24』に翼から羽を飛ばしながら接近し、その翼をたたきつける。

 

「うおっ、なかなかやるじゃねえか!」

 

 そんな『O-01-i01』の攻撃に何とか耐えながら反撃する『O-02-i24』だったが、それも長くは続かなかった。

 

 俺たちも加勢して一緒に攻撃を加えていたが、そんなことはお構いなしに『O-02-i24』に攻撃を加えていく『O-01-i01』。そしてついに、その攻撃に『O-02-i24』は耐えきれなくなりつぶされてしまった。

 

「くそっ、さすがにこいつ相手は無理か!」

 

―さぁ 邪魔者はいなくなったよ―

 

「まずい、何か来るぞ!」

 

 『O-01-i01』がその翼で体を包んだと思ったら、勢いよく翼を広げた。

 

 その翼から純白の風が巻き起こり、部屋中のすべてを蹂躙していく。

 

 “墓標”を構えて防御の姿勢をとるが間に合わない、このまま直撃を受けるかと思ったが、それを大きな貝殻が受け止めてくれた。

 

「まったく、呼ばれたと思ったらいきなりこれか」

 

「すまん、『O-02-i25』か、助かった」

 

「気にしないで、それが僕の仕事だから」

 

―また邪魔者―

 

 『O-01-i01』はアブノーマリティーがお気に召さないのか、また攻撃的な表情になる。もしかしたら彼の世界にアブノーマリティーは必要ないと考えているのかもしれない。

 

「あらら、これはやばそうなやつだね」

 

「悪いな、手を貸してくれるか?」

 

「まぁ、僕たちは君たちと違って死なないからね」

 

 『O-02-i25』に攻撃を受けてもらいながら『O-01-i01』に攻撃を仕掛ける。俺たちの攻撃は確実に『O-01-i01』を削っているというのに、それを無視してまで『O-02-i25』に攻撃を仕掛けている。それほどまでに憎いのだろうか?

 

 そんな時に、『O-01-i01』を斬撃が襲った。

 

「ジョシュア先輩、大丈夫ですか!?」

 

「パンドラ、後で覚えとけよ!」

 

「えぇ、なんで!?」

 

 どうやら“魔王”を装備したパンドラが斬撃を飛ばして援護してくれたようだ。その後ろにもリッチとメッケンナがいる、どうやら加勢に来たようだ。

 

「ジョシュア、大丈夫か?」

 

「ジョシュアさん、助太刀します!」

 

「助かる、こいつはアブノーマリティーを優先して攻撃するみたいだから、今がチャンスだ!」

 

 『O-01-i01』が『O-02-i25』に気を取られている間に、全員で切りかかる。

 

 シロが“調律”で狙撃しパンドラが“魔王”で斬撃を飛ばす、リッチが“簒奪”で攻撃しながらメッケンナが“エンゲージリング”で削っていく。そしてる気ができたところを俺が“墓標”で突き刺していく。

 

 すると、『O-01-i01』にまた変化が訪れた。

 

―大丈夫 大丈夫だよ―

 

「まずい、何か来るぞ!」

 

 『O-01-i01』の目の前に巨大な黒い球体が現れたと思ったら、それがどんどん小さく凝縮されていく。そしてその球体から光が漏れ出して何かが起ころうとしている。

 

「みんな射線上から離れろ!」

 

 そして、黒い光が放たれ、『O-02-i25』が呑まれて消えてしまった。その光はどこまでも伸びていって、壁の向こうまで届いて消えてしまった。

 

「まずいな、明らかに攻撃手段が増えていっている」

 

「ま、まって、なにかあるかも」

 

 このままだとさらに攻撃が通りにくくなっていくかもしれない。そう思っていたが、シロが何かも気が付いたらしい。

 

「た、たぶんボクの攻撃がさっきよりも通ってるみたい、今ならどうにかなるかも」

 

「そういえば、さっきは俺の攻撃もよくとおっていた」

 

「私の攻撃はなかなか効いている感じはしませんでしたけど……」

 

「なるほど……」

 

 もしかしたらどんどん耐性が変わっていっているのかもしれない。それならこの調子で攻撃していけばそろそろPダメージも通るようになるかもしれない。

 

「シロ、なるべく攻撃回数を増やせるか?」

 

「や、やってみる!」

 

「リッチ、メッケンナ、シロを援護するぞ!」

 

「「了解!」」

 

「先輩私は?」

 

「シロの援護をしながら斬撃を飛ばしてくれ!」

 

「わっかりました!」

 

 とにかく接近して攻撃し、『O-01-i01』の気を引き付けていく。気が付けばラッパの音色が聞こえてくる、『T-09-i84』*4を誰かが吹いてくれているのか。

 

―っ どうして あと少しなのに―

 

 『O-01-i01』の攻撃をよけながらダメージを与えていると、『O-01-i01』はうずくまり始めた。よく見ると青白い光が漏れ出している。

 

 ……これはまずいのでは?

 

「いやな予感がする、全一斉に攻撃を叩き込め! ここで仕留めるぞ!」

 

「了解!」

 

 うずくまって移動も攻撃をしない『O-01-i01』に、全員で一斉に攻撃を仕掛ける。そうしている間にも『O-01-i01』から漏れ出す光はどんどん大きくなっていく。

 

「間に合えぇぇぇ!!」

 

 願いを込めた一撃が、『O-01-i01』の胸に突き刺さる。

 

 そして、ついに天使のような怪物は崩れ落ち、この施設に平穏が訪れる。

 

「なっ、何とかなったか……」

 

 パンドラ以外のみんなが喜ぶよりも疲れが先にやってきた。なんなんだあいつは?

 

 そして何とかエネルギーがたまったので、純化が始まり収容室を後にしたのだった……

 

 

 

 

 

―またきてくれたね―

 

 俺は再び『O-01-i01』…… いや、『O-01-i02』の収容室に来ていた。

 

 やはりあの天使のような怪物は、赤子が成長した姿だったようだ。

 

 『O-01-i02』は無邪気に語りかける、そこには悪意なんてなく、ただただ純粋な善意しかなかった。

 

―ごめんね あの世界はお気に召さなかったみたい―

 

―だからこれはほんのお礼―

 

 その言葉と共に!背中に強烈な痛みが走る。

 

 右肩の肩甲骨辺りから、E.G.O.を突き破ってなにかが勢いよく飛び出したと思ったら、それは純白の翼であった。

 

「おいおい、これって……」

 

 天使は微笑む、力を受け取った俺に対し、いつまでも……

 

*1
『鋏殻』

*2
『宿殻』

*3
『搾取の歯車』

*4
『終幕の笛』



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O-01-i02 管理情報

 警告 脱走した『O-01-i02』にランク3以下の職員が接触することを禁止します。

 

 『O-01-i02』は無垢な子供の姿に3対の翼が付いたアブノーマリティーです。収容室の中には神聖な空気が流れています。

 

 『O-01-i02』はすべてを内包しています。そのため容易な対策はありません。作業の際は細心の注意を行ってください。

 

 

 

『新星児』

 

危険度クラス ALEPH

 

ダメージタイプ ?(7-8) *ランダム

 

E-BOX数 32

 

作業結果範囲

 

良い 26-32

 

普通 9-25

 

悪い 0-8

 

 

 

◇管理方法

 

1、『O-01-i02』に作業を行わずにクリフォト暴走が起こった場合、クリフォトカウンターが減少した。

 

2、脱走した『O-01-i02』は、残りのHPによって形態が変化する。

 

3、第一形態は近くの職員にRダメージの攻撃を行った。

 

4、第二形態は職員にWダメージの遠距離攻撃を行った。

 

5、第三形態は前方にBダメージのビーム攻撃を行った。

 

6、第四形態は施設全体にPダメージの攻撃を行った。

 

7、『O-01-i02』の脱走中に死亡・またはパニックになった職員は、『O-01-i02』の世界の中に招かれた。

 

8、『O-01-i02』が脱走中、その腕の中にある世界は徐々に完成していき、完成とともに施設内のすべての職員がその世界に招かれた。

 

 

 

◇作業結果(作業好感度)

 

本能

1 普通

2 普通

3 普通

4 低い

5 低い

 

洞察

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

愛着

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

抑圧

1 低い

2 低い

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 3

 

R ?

 

W ?

 

B ?

 

P ?

 

 

 

◇ギフト

 

超新星(右背中)

 

ALL+7

 

 純白の片翼、穢れなき可能性の翼。この翼を手にしたものは、己の可能性を十分に引き出せるという。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 超新星(大剣)

 

クラス ALEPH

 

ダメージタイプ ?(15-20)

 

攻撃速度 普通

 

射程距離 普通

 

*相手の一番耐性の低いダメージタイプで攻撃する。

 

*作成不可能、『O-01-i02』を鎮圧した際に一度だけ入手可能。

 

 新たな世界を内包する大剣。この剣を手にしたものはすべての人々の希望となり、この世界を切り開いていく。

 

 

 

・防具 超新星

 

クラス ALEPH

 

R 0.6

 

W 0.5

 

B 0.5

 

P 0.2

 

 胸の中央に新たな世界を内包する純白の防具。その守りは最も強固で守るべきものを必ず守る。

 

 

 

◇戦闘スペック

 

HP10000

 

移動速度 普通

 

行動基準 アブノーマリティー優先

 

 

 

・第一形態

 

R 1.5 弱点

 

W 0.5 耐性

 

B 0.5 耐性

 

P 0.5 耐性

 

 

 

・第二形態

 

R 0.5 耐性

 

W 1.5 弱点

 

B 0.5 耐性

 

P 0.5 耐性

 

・第三形態

 

R 0.5 耐性

 

W 0.5 耐性

 

B 1.5 弱点

 

P 0.5 耐性

 

・第四形態

 

R 0.5 耐性

 

W 0.5 耐性

 

B 0.5 耐性

 

P 1.5 弱点

 

 

 

*残りHPが2500減少ごとに形態が変化する。

 

*脱走中に死亡・パニックになると新たな世界に招かれる。

 

*脱走してから一定時間経過で施設内の職員すべてが即死。

 

 

 

・赤星 R(10-15) 射程 近距離

 

 翼による薙ぎ払い。前方の相手に攻撃する。

 

・明星 R(40-50) 射程 近距離

 

 周囲に散った羽を凝縮してたたきつける攻撃。前方の相手に強力な攻撃。

 

・白星 W(5-10) 射程 長距離

 

 翼から羽を飛ばす。前方に長距離攻撃。

 

・流星 W(30-40) 射程 部屋全体

 

 翼の羽ばたきによる攻撃。部屋全体に強力な攻撃。

 

・黒孔 B(25-30) 射程 前方 貫通

 

 黒色のビーム攻撃。前方に貫通する攻撃。

 

・創星 P(20-25) 射程 施設全域

 

 ため込んだエネルギーを開放する。施設全域にPダメージ。

 

・理想郷

 

 施設全域に即死攻撃(作業の有無にかかわらず)

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 ついにきました、この作品のペスト医師枠です。

 

 このアブノーマリティーは、以前言っていたゲームでもなかった特徴を持っています。

 

 そう、それが作業中のダメージがランダムです!

 

 一応肉の偶像があるのでゲーム内でも再現はできそうですが、それがなかった理由がわかりました。

 

 いやこれ、本当に管理が大変でした。ダメージがランダムなせいで防具によってはガチで運試しです。

 

 そして、何よりも大変なのがあれです。そう、ケセドコア抑制です。ダメージがランダムなのにそれが5倍になる可能性がある、最後のほうならほぼ5倍です。さらに脱走させないために作業をしなければならない。こんなの収容しながらケセドなんてできねぇよ!

 

 ついでに脱走中はホクマーが相性最悪ですね。まだどっちも抑制できていないんですが……

 

 一応、脱走中の時間制限ですが、大体5分くらいを考えています。正直ゲーム中に戦闘時間なんて考えていないのでどれくらいがいいのかわからないのですが、TRPG風ゲームのほうだと戦闘の50T分なので結構いいほうかと思います。

 

 また、この武器の能力は強力ですが、実は弱体化しています。最初は全属性武器だったんですが、さすがに全属性武器が何本もあるとバランスがひどすぎたので、若干修正しました。それでも場合によっては全属性より有能だったりします。

 

 ちなみに、相手の耐性が一番低いダメージタイプが複数ある場合は、その分全部のダメージを与えます。

 

 これがぶっ壊れ武器のうちの一つですね。ほかにもぶっ壊れがいくつかあるのでご期待ください。

 

 さて、これで抽出部門も残るところはケセドのみとなりました。それが鬼門なんですけどね……

 

 この物語ももうすぐ一区切りとなります。皆様それまでもう少しお付き合いください。

 




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福祉部門 セフィラコア抑制『この苦痛に満ちた感覚がわかるか?』

「今日も来ましたね、セフィラコア抑制」

 

「あぁ、今日のは気を付けないとやばそうだな」

 

「それってどういう……」

 

『俺に良心というものが残っているのだろうか?』

 

 隣に立っているメッケンナが話しかけてきた。彼はどんな時でも油断せず客観的に努めようとする、そのおかげでこの施設でも随分と長いことやっていくことができた。

 

 ケセドのセフィラコア抑制、それはゲームではクリフォト暴走ごとに特定の属性ダメージが5倍になるというとんでもないコア抑制だ。

 

 しかし、それは現実ではどのように受けるダメージが大きくなってしまうのか。その理由が今明らかになってしまった。

 

 何やらさっきから周囲が騒がしい。どうやら先ほど作業を終えたリッチが帰ってきたらしい、しかしその姿はずいぶんとボロボロになっていた。

 

「おい、どうしたリッチ!」

 

「すまない、『T-04-i13』*1だからって油断した。今日は何かがおかしい、いつもよりも受ける苦痛が段違いだった……」

 

「一体なんでこんなことに」

 

「……待って、この防具変」

 

『罪を悔いるには、あまりにも長い日々が過ぎてしまった』

 

 ボロボロのリッチのところに駆け寄ってみるとシロが何かに気が付いた。どうやらリッチの装備している防具、“簒奪”に何か違和感を感じるようだ。

 

「ジョシュアさん、これ……」

 

「メッケンナ、何かわかったのか?」

 

「明らかに防具の整備不良があります、しかも素人が手を出すと余計に悪化しそうな感じの場所です」

 

「なんとか直す方法は?」

 

「防具のメンテナンスは福祉部門の管轄です、ですが今は……」

 

「福祉部門のコア抑制中か…… くそっ、そういうことか」

 

『冷めたコーヒーは捨てないとな、新しいマグカップが必要だな』

 

 防具のメンテナンスは福祉部門の管轄だが、その福祉部門が現在機能停止している。この状況を何とかするには、結局コア抑制を終わらせなければならない。つまり今回も悠長には仕事ができないということだ。

 

「とりあえずみんなBダメージを避けて作業を行ってくれ、定期的に変わる可能性もあるから違和感を感じたら報告を頼む!」

 

「はい!」

 

「ジョ、ジョシュアはどうするの?」

 

「俺は『O-01-i02』*2の作業に行く」

 

 こんな状況でも定期的に作業を行わなければならない存在がいる、それが『O-01-i02』だ。奴の作業は慎重に行わなければならない。最悪の場合『T-09-i87』*3の使用も考えられる。そうなったらこの中で一番生き残れそうな俺が行くべきだろう。

 

「……ジョシュア、気を付けてね」

 

「あぁ、行ってくる」

 

『仲間は先に旅立ち、俺は一人、この闇の中で夜明けを待っている』

 

 シロの応援を背中に受けて、『O-01-i02』の収容室へと向かう。できればこんな状況であいつと戦うのだけはごめんだ。

 

 だからせめて、俺が食い止めないとな。

 

 

 

「はぁ、できればもうこんなことはごめんだよ」

 

―大丈夫? 世界作る?―

 

「そんな軽いノリでいうことじゃないよな……」

 

 作業もだいぶ進み、何とかエネルギーを貯めることに成功した。残るところは最後のクリフォト暴走を起こすところまで来ていた。

 

 こいつの他にも厄介なことはたくさんあった。まさかのミスでWダメージ増加中に『O-05-i18』*4が脱走しただけで、あれほど大混乱が起こるとは思ってもみなかった。

 

 ほかにもRダメージ増加中に『T-04-i09』*5へ作業を行ったきり帰ってこなかった職員がその収容室内で植物になって見つかったり、灰塵の黎明のダメージが思ったよりも痛くてみんなで必死に部屋の中を探したりと、ろくでもない事件ばっかりが起こった。

 

 だがそれももうすぐ終わる、あとはいつも通り作業をこなしていけばいいのだから。

 

―あれ そろそろ終わり?―

 

「あぁ、もう終わるさ」

 

―そっか それじゃあまた遊ぼうね―

 

「できれば二度とごめんさ」

 

 アブノーマリティーに好かれたって、なにもうれしくはない。そんなことよりもモフモフしたい。

 

『ついに…… 俺の世界が壊れるのか?』

 

―ふふっ それじゃあバイバイ―

 

「あぁ、できれば二度と会いたくないけどな」

 

―それはだめ また来るよ?―

 

 クリフォト暴走の達成とともに、純化が始まる。俺はそれに合わせてこの収容室から退出するのだった……

 

*1
『魅惑の果実』

*2
『新星児』

*3
『搾取の歯車』

*4
『魂の種』

*5
『森の守人』



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記録部門
Days-41 T-04-i57『混ぜて混ぜて、はい出来上がり』


「さて、今日も作業に行くとするかな……」

 

 ついに中層のコア抑制がすべて終わり、残りは下層のみとなった。

 

 下層が終わればついに、最終段階へと移行する。ゲームとは違い、コア抑制の日程などは関係ないようだ。もしかしたら下層もこの周回ですべてのコア抑制ができるかもしれない。

 

「うん? あれは……」

 

 今日収容されたアブノーマリティーの収容室へと向かっていると、目の前で何やらもめごとが起こっているようだ。いったいどうしたのだろうか?

 

「イゴリ―、てめぇふざけてるんじゃねぇぞ!」

 

「まっ、まってよグディ君……」

 

「てめぇは本当に使えないやつだな! どうしてこんな愚図がいまだに生き残れているんだぁ?」

 

「うぅぅ……」

 

「うっとおしいから俺の目の前に来るなって言ったよなぁ!? なのになんで……」

 

 あれは最近新しく来たイゴリ―とグディか、グディがイゴリ―の胸ぐらをつかんでいるのが見える。今にもE.G.O.を取り出しそうな雰囲気を感じ、止めるために歩みを進める。

 

 普通の喧嘩なら制圧してから話を聞くが、どうやらそうではないようだ。変に力づくで止めると、余計にこじれる可能性がある。

 

 それにグディは素行に問題があると聞くし、とりあえずできる限り穏便に話を聞いておこう。

 

「おい、どうしたんだ?」

 

「げっ、ジョシュア先輩!」

 

「あっ」

 

 俺に気が付くと、グディはイゴリ―から手を放しこちらに向き直って媚びたような表情を浮かべる。なんというか、路地裏なら生きるために仕方がないのかもしれないが、こういう態度は好きになれないな。

 

 まぁあそこはそんなきれいごとだけじゃ生きていけない場所というのは身をもって知っているんだけどな。

 

「一体どうしたんだ?」

 

「い、いやー、実はイゴリ―のやつが全然仕事ができないんで、ちょっくらお話を……」

 

「お話って感じじゃなかったけどな」

 

「いやぁ、それは……」

 

 グディの目が泳ぐ、どうやらずいぶんと見られたくはない光景だったらしい。

 

「大体こいつは仕事ができないくせしてちょろちょろと鬱陶しいんですよ!」

 

「仕事もできなきゃ態度も悪い、見ているだけでイライラする、人をイラつかせることだけは一人前ですよ!」

 

「だから……」

 

「もういい」

 

 どうやらグディは誤魔化しきれないと判断したのか洗いざらい吐き出していった。いや、そこまで話す必要はないだろう。

 

「グディ、この施設でうまくやっていく方法を教えてやる」

 

「へ、へぇなんでしょう?」

 

「気に入らないやつとは極力関わらないことだ」

 

 どうせこの施設で長く生きられるやつはごく一握りだ、そんな相手とわざわざかかわっていたって時間の無駄だ。

 

 俺だってマオとはあまり関わってはいない。俺は彼のことが嫌いではないが、なぜか彼は俺のことを毛嫌いしている。正直ショックだったが、そんなことを気にしてストレスを感じていたらこの施設ではやっていけない。

 

 どうしても話さなければいけない時以外は会話をしないのが一番なのだ。

 

「しかし、こいつが俺のほうに来て……」

 

「そもそもお前の今日の作業は安全部門だろう? なのになんで中央本部まで来ているんだ?」

 

「うっ、それは……」

 

「そんなにこっちで働きたいんだったらパンドラの下で働かせてやる、うれしいだろ?」

 

「ひぇっ、それだけはご勘弁を!」

 

「わかったら早く今日の作業に戻れ」

 

「は、はい!」

 

 どうやら脅しがきいたらしく、グディはおとなしく安全部門に向かって走っていった。これからはグディとイゴリ―の間の部門にパンドラが来るように管理人に提案しよう。

 

「あ、あの……」

 

「どうした、イゴリ―?」

 

「えっと、助けてくださってありがとうございます」

 

「気にするな、後輩が困っているときに助けるのも俺の仕事だからな」

 

「いえ、でもありがとうございます!」

 

 手をつかまれお礼を言われる。なんというかここまで純粋に感謝されるのも随分と久しぶりだ、案外悪いものでもないな。

 

「それじゃあ俺はもう行くから、また困ったことがあったら俺を頼ってくれよ」

 

「はい、わかりました!」

 

 とりあえず握られた手を外し、ここから立ち去る。今日の作業を早く終わらせたい。

 

 

 

「さてさて、今日は一体どんなアブノーマリティーが来るんだろうか?」

 

 今日収容されたのは『T-04-i57』、久しぶりの人型でないアブノーマリティーだ。できれば変なのでないことを祈る。

 

「さて、それじゃあ行くか」

 

 収容室の扉に手をかけて、いつものようにお祈りをしてから扉を開ける。

 

 収容室の中からは、禍々しい空気が流れ込んできた。

 

「ひっ」

 

 収容室の中に入ってまず最初に目の前に飛び込んできたのは、大きなムカデだった。

 

 そう、ムカデだったのだ。

 

 蛇みたいににょろにょろとした体から、何本もの足が生えている。頭からは気持ち悪いほど長い触角が生えており、鋭い顎をカチカチと鳴らしている。

 

 体からは瘴気が漏れ出しており、こちらに向いた顔からは人間に対する怨念しか感じられない。それ以外には何も感じず、ただ無機質にこちらを見つめてくる。

 

 そして何より気持ち悪いのが、その大きさだ。

 

 頭を上げてこちらを向いているのだが、その時点で俺と同じくらいの高さだ。ふざけるな!

 

「と、とりあえず作業を行わないとな!」

 

 とりあえずえさを与えてみる。こういうのは餌付けするのが一番なんだよ!

 

「ど、どうだお味は……?」

 

 とりあえず反応をうかがうが、なぜか威嚇されてしまった。いったいどうしろと……

 

「と、とりあえず今日はここまでだな!」

 

 キモイキモイキモイ! こんなところにいてられるか、俺は帰るぞ!

 

 とにかく速足で収容室から抜け出し、休憩室へ駆け込む。正直無理だよあれは、出来ればもう二度と作業したくない。

 

 でもまた作業をしないといけないんだろうな…… 憂鬱だ。

 

 

 

 

 

「なに、最近施設内で変死事件が起こっている?」

 

「えぇ、そうなんです。もしかしたらジョシュアさんなら何か知っていると思ったんですが、やっぱりご存じないですか?」

 

 あれから数日たっての話だ。

 

 メッケンナの話では、施設内では変死事件が起こっているらしい。しかも一度や二度ではなく、何度かにわたって。

 

 被害者はほとんどオフィサーで、ついにこの前エージェントであるグディが同じような死に方で発見されたらしい。

 

 その死にざまは凄絶で、みな一様にもがき苦しみながら死んでいったらしい。肉体は腐り落ち、突然苦しみだしたかと思えば死を吐きながら数時間にわたって苦しんで死ぬ。

 

 その死因はアブノーマリティー以外には考えられない。そこで俺に聞いてきたのだろうか?

 

「なるほど、そうなると最近収容された中で怪しいのは、やっぱり『T-04-i57』だろうな」

 

「それ以外に考えられませんもんね」

 

「それなら最近はイゴリ―が作業を行っているはずだ、彼に聞いてみよう」

 

「あれ、ジョシュアさんは?」

 

「……人間、誰にでも得手不得手があるんだよ」

 

「あぁ、はい」

 

 何かを察したのか、メッケンナはそれ以上は何も聞かなかった。

 

 イゴリ―のいる記録部門へと向かいながらしばらく歩いていると、なにやらもめごとが起こっているようだ。

 

 何事かと思ってのぞいてみると、リッチがイゴリ―の胸ぐらをつかんでいる。

 

「おいどうしたリッチ!」

 

「放せジョシュア、こいつを許すわけにはいかない!」

 

「ちょ、リッチさん!」

 

 リッチをイゴリ―から引き剥がすと、彼はリッチのことを冷めた目で見ていた。依然見かけたときはおどおどしていたが、そのことから考えるとずいぶんと信じられない光景だった。

 

「やめてくださいよリッチさん、本当のことでしょう?」

 

「それのどこが!」

 

「やめろリッチ、どうしたんだ?」

 

「それなら僕が言いますよ」

 

 暴れるリッチをなだめていると、イゴリ―が口を開いた。その声は冷たく、以前の面影はない。

 

「ただグディが死んだのは当然だったといっただけですよ、むしろ死んでよかったと」

 

「なっ」

 

 そんな彼から告げられた言葉は、予想外のものだった。

 

「だって彼は自分勝手で上手くいかなかったら人に当たり散らかして、ジョシュアさんとパンドラさんがいなかったら僕は本当に危なかったんです」

 

「ジョシュアさんもあの時に見たでしょう? こいつは死んで当然のやつだったって」

 

「……」

 

 この言い方は、自分が絶対に正しいと思っている言動だ。確かにこの施設では死は隣人のように身近だが、死んでいい人間なんていない。なるほど、リッチが怒る理由もわかる。

 

 これはかなり危うい、早めにどうにかしなければ。

 

「イゴリ―、あまり勘違いしてはいけない」

 

「えっ?」

 

「これはアブノーマリティーによる事故のようなものだ、天罰なんかじゃない」

 

「確かにグディの行いには問題があった、だがそのせいで死んだわけでもないし、あいつが死んでいい理由には……」

 

「……なんだよ、それ」

 

 ふと見れば、イゴリ―はうつむいて震えている。これは怒りを押さえている声だ。しまった、失敗してしまったらしい。

 

「ジョシュアさんなら、わかってくれるって思ったのに……」

 

「おいまてイゴリ―、俺は別にお前を否定しているわけでは……」

 

「もういい!!」

 

 彼は大声で叫ぶとどこかへ走り去っていってしまった。

 

 ……やってしまった。

 

「ジョシュア、あまり気にするな。俺のせいでもある」

 

「リッチ……」

 

 どうやらリッチは少し気が落ち着いてきたらしい。表面上はいつも通りに見える。

 

「ジョシュアさん、これからどうします?」

 

「そうだな、とりあえず時間をおいて落ち着いてからもう一度彼の話を…… なっ!?」

 

 メッケンナと話していると、何か嫌な予感がして反射的に“墓標”を床にさした。

 

 すると、そこには小さく禍々しいムカデが一匹、刺さっていた。

 

 いったいこれはなんだろうか? 明らかに怪しい虫を見ていると、どこからか悲鳴が聞こえてきた。

 

「ぎゃあぁぁぁ!!!!」

 

『『T-04-i57』が脱走しました、エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

「この声はイゴリ―か!?」

 

「ジョシュアさん、急ぎましょう!」

 

「あぁ!!」

 

 とにかくさけびごえのする方へと走っていくと、そこには巨大なムカデ、『T-04-i57』が這いずり回っていた。

 

 その体の節々からは禍々しい瘴気があふれ出しており、少し吸っただけでのどが痛くなった。

 

 また、何人かすでに被害が出ているらしく、苦しんで倒れている職員たちが何人かいた。

 

「くっ、全員なるべく息をするな! 短期決戦で行くぞ!」

 

「「了解!」」

 

 それぞれのE.G.O.を構えて『T-04-i57』に向かってかかっていく。

 

「ふっ!」

 

「くっ」

 

 『T-04-i57』の攻撃は非常に厄介だった。ただでさえ瘴気で見えにくいのに、それを利用して姿を隠しながらの攻撃を繰り返していった。だがこちらはALEPH装備の三人だ。慣れて攻撃が当たるようになればこちらのものだった。

 

「止めだ!」

 

 『T-04-i57』の頭部に“墓標”を突き刺して鎮圧が完了する。こいつが収容室に戻るまではまだしばらくかかるだろう。

 

「ジョシュア、こっちにこい」

 

「どうした…… あぁ」

 

 リッチに呼ばれて『T-04-i57』の収容室の中をのぞくと、そこには変わり果てた姿のイゴリ―がいた。

 

 その表情は裏切られたような、自分がこんなことになるとは夢にも思っていなかったかのような、そんな表情をしていた。

 

「……イゴリ―」

 

「せめて、ここから出してやる」

 

 俺は収容室の中からイゴリ―を運び出すと、その見開いた眼を閉ざした。せめて死んでから位は、こんな世界を見てほしくはなかった。

 

 

 

 

 

 それでは簡単な呪殺方法をお教えしましょう

 

 まずは毒虫をいっぱいいっぱいかき集めて

 

 それを瓶の中にドーン

 

 そしたらひたすら人間を憎むように嘲笑ってあげましょう

 

 そして楽しい楽しい殺し合いを堪能しつつ

 

 この世の憎悪を精一杯おなか一杯

 

 

 

 

 

 混ぜて混ぜて、はい出来上がり

 

 

 

 

 

T-04-i57 『蠱毒の災禍』



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T-04-i57 管理情報

 『T-04-i57』は巨大なムカデ型のアブノーマリティーです。その収容室の内部には瘴気が立ち込めています。

 

 『T-04-i57』の体からは常に瘴気が漏れ出ています。この瘴気は人体に悪影響を及ぼすので注意してください。

 

 『T-04-i57』は人間に対して憎悪に近い敵対心を抱いています、作業を行う際には十分に注意して下してください。

 

 『T-04-i57』に対して通常の作業以外の行動を行ってはいけません。

 

 『T-04-i57』の収容室内に空気清浄機をおいても効果はありません。責任をもって自分で撤去してください。

 

 

 

『蠱毒の災禍』

 

危険度クラス WAW

 

ダメージタイプ R(5-7)

 

E-BOX数 24

 

作業結果範囲

 

良い ―――

 

普通 12-24

 

悪い 0-11

 

 

 

◇管理方法

 

1、『T-04-i57』に対して、(まじな)いの作業を行うことができる。

 

2、(まじな)いを行うと、職員を一人選択し呪殺を行う。呪殺に成功すればクリフォトカウンターが増加した。

 

3、『T-04-i57』に作業を行うと、クリフォトカウンターが減少した。

 

4、施設内の職員が死亡、またはパニックになるたびにクリフォトカウンターが増加した。

 

 

 

◇作業結果(作業好感度)

 

本能

1 低い

2 低い

3 低い

4 普通

5 普通

 

洞察

1 最低

2 最低

3 最低

4 低い

5 低い

 

愛着

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

抑圧

1 低い

2 低い

3 低い

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 5

 

R 0.5

 

W 0.8

 

B 0.7

 

P 1.0

 

 

 

◇ギフト

 

呪毒(口1)

 

HP+4

 

正義+2

 

 ムカデの顎の形をした口を覆い隠すタイプのマスク。つければ一人でに動き、人の首元を狙って顎を鳴らす。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 呪毒(蛇腹剣)

 

クラス ALEPH

 

ダメージタイプ R(8-10)

 

攻撃速度 高速

 

射程距離 長い

 

*職員が死亡すれば死亡するほど攻撃力が上がる。

 

 人を憎む怨嗟の渦巻く蛇腹剣。自らの毒に藻掻き苦しみ、人間に同じ苦しみを与えんとする。

 

 

 

・防具 呪毒

 

クラスWAW

 

R 0.4

 

W 0.8

 

B 0.6

 

P 1.5

 

*職員が死亡するたびにHPとMPが回復する。

 

 怨嗟を纏う黒い甲殻で作られた防具。この防具が人を守るとは限らない、憎しみは姿形が変わらなくても残り続ける。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 わりかし面倒くさいタイプのWAW、それが彼です。

 

 このアブノーマリティーは、世にも珍しい作業を行うだけでクリフォトカウンターが減少するアブノーマリティーです。

 

 とはいってもカウンターが多くて簡単に回復するので、そこまで脱走はしません。

 

 ……えっ、これのせいでさらに極悪仕様になったやつがいる? 知らんな。

 

 ちなみに(まじな)いの作業でもカウンターが減るので、実質成功しても1回復ですね。失敗したら1減ります。

 

 このアブノーマリティーは、システム上処刑弾がなかったのでその代わりとして活躍してくれました。ひでぇことする管理人もいるもんだな!

 

 処刑弾と違ってアブノーマリティーは脱走するので、強力なE.G.O.で装備を固めた職員でボコっていました。ぶっ壊れ武器がいろいろとひどいんですよね。

 

 (まじな)いで呪殺できる対象は、元が職員であればだれでもいいです。普通にオフィサーをつぶしてもいいですし、パニックになった職員が手に負えなければこれで殺してもいいです。

 

 なんなら『木枯らしの唄』や『森の守人』の特殊能力でできた奴も殺せます。安全ですね!

 

 何気に初めての原作にない特殊作業持ちだったりします。ほかにもいますがあまり多くはありません。

 

 ちなみに、こいつのE.G.O.は結構気に入っています。




Next T-02-i03『これはいい船だ』


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Days-42 T-02-i03『これはいい船だ』

 今日収容されたアブノーマリティーは『T-02-i03』、動物型のアブノーマリティーだ。

 

 前回は苦手な虫型のアブノーマリティーだったので、できればまだ見た目がましな奴であってほしいと願う。虫でなければ黒くても何でも良いから……

 

「さて、もう着いたのか」

 

 気が付けばもう『T-02-i03』の収容室の前までついていた。どうやら随分と考え込んでいたらしい、それほど虫が嫌ということでもある。

 

「できれば変なのが来ませんように」

 

 いつものように祈りながら扉に手をかけ、開く。なんというか、今日の俺は随分と不運だったらしい。

 

「ひっ」

 

 収容室の中にいたのは、5㎝くらいのアリたちだった。収容室の床を列を組みながら歩き、中央の蟻塚に出たり入ったりしている。

 

「なっ、なんでこんなことに……」

 

 よく見ると、このアリたちはなぜか二足歩行していた。彼らはこちらに気が付くと進路を変えて、どんどん近づいてきた。

 

「……そういう感じか」

 

 俺はその行動に冷静になり、“墓標”を構えて彼らに向けた。

 

 今までの俺だったらこの数相手には不利だったが、今の俺なら対抗手段はある。

 

 アリたちも“墓標”から発せられる死の気配におびえたのか、一定の距離からは近寄ってこようとしない。どうやらこれがどういうものかは理解できているようだ。

 

「さて、今のうちに作業をしておきたいな」

 

 取り合えず餌を取り出して蟻塚のほうに投げてみた。

 

 アリたちは最初は餌に驚いて逃げていったが、一匹が恐る恐る近づいて確認し食べてみると、他のアリたちも安全だとわかったのかお行儀よく並んで餌を運び出していった。

 

「なんというか、意外と愛嬌があるな」

 

 できれば見た目がアリでなければもう少しのほほんと見れたが、正直きつい。できれば目をそらしたいが、そうすれば何が起こるかわからないので最大限警戒する。

 

 たまに一匹のアリが俺のほうに近づいて来ようとするが、“墓標”を向けて警告する。すると彼らも素直に引き下がって遠巻きに眺めてくる。

 

 意外と好奇心旺盛なのだろう。

 

「さて、そろそろ作業終了の時間かな」

 

 ある程度観察も終わってエサやりも終了したので、そろそろ収容室から出ようとする。

 

 すると、何かが俺の方に落っこちてきた。

 

「くっ」

 

 俺の方に落っこちてきたのは『T-02-i03』のうちの一匹だった。俺は首だけは守ろうと手で払おうとしたが、肩に乗っているアリはそれを器用にジャンプして避ける。

 

 こいつばかりに気を取られるわけにもいかないので周囲も警戒するが、彼らは別に近寄る気配もなく遠巻きに俺と肩に乗っているアリとの戦いを見ていた。

 

 ……いや、こいつ楽しんでないか?

 

『ジョシュア、そろそろ戯れるのもほどほどにしてくれ』

 

「いやいや、どう見たら遊んでいるように見える? こっちは生きるか死ぬかなんだぞ」

 

『だがすぐにでもこちらを害そうとする気配もない、いったん手を止めてみろ』

 

「……わかった」

 

 管理人から連絡があったので、言われたとおりに手を止めてみる。するとアリもジャンプを止めてこちらに顔を向け、首を傾げた。それはまるで、もう終わりなのと聞いているようだった。

 

「……確かに何もしては来ないな」

 

『そうだろう、逆に傷つければほかの彼らに何かされていたかもしれないな』

 

「それはいやだな、でもこいつ下りようとしないぞ?」

 

『……仕方がない、そのまま収容室から退出してみろ』

 

「いや、正気か?」

 

『それともこのままここで遊んでおくか? ほかのやつらも遊んでほしそうにしているみたいだぞ?』

 

「……仕方がないか」

 

 さすがにこんな大勢のアリたちに囲まれるのは避けたい。ほかに方法がないのであれば、それをとるしかないだろう。

 

「それじゃあ退出する、骨くらいは拾ってくれよ」

 

『もちろんだ』

 

 『T-02-i03』とともに収容室から退出しようとすると、他の『T-02-i03』たちは旅立つ我が子を見送るように手を振っていた。

 

 それに対して肩のアリもまた、手を振っている。……まさか、そのまま外に居ついたりしないよな?

 

「とりあえずこいつから目を離さないようにだけしておくけど、この後はどうすればいいんだ?」

 

『しばらく観察して大丈夫そうなら、収容室にでも返してやってくれ』

 

「了解した」

 

 とりあえず休憩室に向かってみる。

 

 すると、アブノーマリティーだというのに『T-02-i03』はなぜかみんなに人気だった。

 

 ……解せぬ。

 

 

 

「さて、それじゃあそろそろ収容室に戻るか」

 

 しばらくたっても牙をむく様子もないので、とりあえず収容室に向かって歩き始めた。

 

 何やら『T-02-i03』は帰りたくないと駄々をこねているようにも見えるが、気のせいだと思うので無視して収容室に戻った。

 

 すると意外にも駄々をこねていたアリは素直に肩から飛び降りて仲間たちのほうに向かって歩いて行った。

 

 肩を落としてとぼとぼ歩いていくのはなかなかに哀愁漂う、そしてほかのやつらはそんなアリを肩をたたいて励ましているように見えた。

 

 そんな非難するような目で見るな、俺はお前たちを肩に乗せてこれ以上いたくなかったんだ。

 

「さて、それじゃあそろそろおさらばするかな」

 

 なんというかいたたまれなくなってきたので収容室から退出する。今回は何事もなかったが、何か落とし穴がありそうで怖い。

 

 できればあまり関わりたくないと思いながら、俺は収容室から退出した。

 

 その後、なぜか職員の間で『T-02-i03』を肩に乗せている光景が多くみられるようになった。

 

 

 

「ザビエル、ちゃんとその肩のアリ返しておけよ」

 

「ジョシュアさん、わかってますよ。さすがに部屋にまで持って帰ったりしませんて」

 

 もうすぐ仕事も終わり、純化が始まろうとしているのにザビエルはまだ『T-02-i03』を収容室に返していなかった。

 

 さすがに収容室から出したままではまずいのでザビエルに忠告しておく、まぁこの感じだったら大丈夫そうだったが。

 

 ザビエルはその後すぐに『T-02-i03』の収容室に向かっていった。

 

 その後すぐに純化が始まったので、俺たちはすぐに施設を後にしたのだった。

 

 だが、俺が元気な彼を見ることができたのは、これが最後だった。

 

 

 

「おいザビエル、調子はどうだ?」

 

「……」

 

「おい、どうした?」

 

「……」

 

「ザビエル……」

 

 次の日にあった彼は、もうその瞳に何も映していなかった。うつろな目のままふらふらと歩き、収容室に向かおうとしている。

 

「……すまん、ザビエル」

 

 俺は“墓標”をザビエルに振り下ろした。

 

 その耳からは、黒い触角が顔を出していた……

 

 

 

 

 

 さぁそれでは今日も探検に出よう!

 

 食料も持ったし準備も万端だ

 

 それにしても彼らは随分と気前がいい

 

 こうしてわれらを外の世界に連れて行ってくれるのだから

 

 やはり外の世界はいい

 

 こうして知らないことを知ることができるのだから

 

 それにしても、もう少し快適性が欲しいな

 

 こんなに大きいのだから、少しくらい手を加えても大丈夫だろう

 

 さすがに借りっぱなしでは悪いので、少しお礼を上げよう

 

 この蜜は彼らの大好物だからな

 

 これを入れてやれば、痛みもないし気持ちがいいらしい

 

 いやぁ、それにしても……

 

 

 

 

 

 これはいい船だ

 

 

 

 

 

T-02-i03 『秘密基地の冒険隊』

 



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T-02-i03 管理情報

 『T-02-i03』はアリの形をした二足歩行型のアブノーマリティーです。収容室内の蟻塚に群体で存在しています。

 

 『T-02-i03』は人間に好意的です。お菓子をあげると喜びます。

 

 『T-02-i03』を踏みつぶさないように注意してください。

 

 『T-02-i03』と仲良くなると、収容室から退出する際に肩に乗ってきます。その場合はおとなしく退出してしばらくしたら帰ってきてください。

 

 『T-02-i03』は食用ではありません。アブノーマリティーを食べようとするのはやめましょう。

 

 

 

『秘密基地の冒険隊』

 

危険度クラス WAW

 

ダメージタイプ B(4-5)

 

E-BOX数 22

 

作業結果範囲

 

良い 16-22

 

普通 12-14

 

悪い 0-11

 

 

 

◇管理情報

 

1、洞察作業を行った場合、その職員は『T-02-i03』に捕食された。

 

2、友達状態でない職員が作業結果良で作業を終了させると、その職員は友達状態となった。

 

3、友達状態の職員が『T-02-i03』に再び作業を行うと、作業終了時に友達状態は解除された。

 

4、友達状態で他のアブノーマリティーに作業を行ってから『T-02-i03』の作業を行うと、作業効率が上がった。

 

5、友達状態で一日を終了すると、その職員は死亡した。

 

6、最後に『T-02-i03』に作業を行ったまま業務を終了すると、その職員は死亡した。

 

 

 

◇作業結果(作業好感度)

 

本能

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

洞察

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

愛着

1 普通

2 普通

3 普通

4 高い

5 高い

 

抑圧

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

 

 

◇脱走情報

 

非脱走アブノーマリティー

 

 

 

◇ギフト

 

いい感じの棒(口2)

 

HP-4

 

MP-4

 

愛着+10

 

 口にくわえるのにちょうどいい感じの棒。ちょっと背伸びしたい子どもの気分になる。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 いい感じの棒(剣)

 

クラス WAW

 

ダメージタイプ B(12-14)

 

攻撃速度 普通

 

射程距離 普通

 

 振り回すのにちょうどいい感じの棒。山登りをしていると思わず拾いたくなる。

 

 

 

・防具 いい感じの棒

 

クラス WAW

 

R 0.8

 

W 0.7

 

B 0.5

 

P 2.0

 

 サバイバル装備の整った防具。これを着れば君も冒険家だ!

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 まさかの二連続の虫型アブノーマリティーです。ジョシュア君の胃袋はいかに!?

 

 なんと即死が3つもある上に事故死が一日の最後に来るという実に厄介なアブノーマリティーです。これで事故ったら精神的にだいぶきつそうですね。

 

 今回のやつはかなり最初のほうに考えたやつだったので、能力の感じも少し他と異なっています。

 

 もともとは最初期のTRPG風ゲームのシステムで考えていたので、特殊の力発動してからしばらくしてから取り返しのつかなくなるところまできて死亡するという、非常に厄介な性質を持っていました。

 

 一日の初めと終わりに精神状態と肉体的な異変を察知できるという仕様だったのですが、テンポが悪く管理も面倒だったので変更されましたが。

 

 こいつは初期なので色々と控えめですが、結構気に入っているアブノーマリティーだったりします。

 

 もともと虫が好きなのですが、ゲームでは虫があまりにも少なかったので、せっかくならもっと虫を作ろうと思って作りました。

 

 能力も虫らしく厄介な感じにしようと考えて、かわいらしく、面倒な感じにしました。

 

 まさかのWAW二連続ですが、これからどうなってしまうのか、やはり下層も地獄になってしまうのか、お楽しみにしていてください。

 




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Days-43 O-01-i41『燃ゆる心は日差しのよう』

「ジョシュア、最近疲れてる?」

 

「シロか、ちょっとな……」

 

 最近虫続きでずいぶん参っていたのが表に出ていたようだ。

 

 どうやらシロに心配されるほど、俺は疲れていたようだ。デザートを食べていたシロが心配そうに俺の顔も覗いてくる。

 

 ちょっと顔が近いぞ。

 

「ねぇジョシュア、本当に大丈夫? 今度は顔が赤くなってるよ?」

 

「あ、あぁ大丈夫だ。心配しなくてもいい」

 

「えっ、でも……」

 

「大丈夫だって、それよりもアイス溶けるぞ」

 

「それよりもジョシュアが心配」

 

「……本当に大丈夫だ、次の作業の後に癒しコースに行くから」

 

「……それならいいけど」

 

 いつもの癒しコースに行くことを伝えたら、シロは心配そうな顔をしながら食事に戻った。アイスは少し溶けてしまったようだが、それでもおいしそうに食べている。

 

 シロの表情から、本気で心配しているのがわかる。ここまで表情が豊かになったのはうれしいが、正直情けない理由だからあまり心配されたくない。

 

 とはいえせっかく心配してくれているのにそのままというのもあれだしな、なるべく早く元気な姿を見せれるようにしたい。

 

「さて、それじゃあ俺はそろそろ行くよ」

 

「えっ、もう少しゆっくりしていっても……」

 

「大丈夫だよ、すぐに終わる」

 

 席を立って作業に戻る。こういうことは早めに終わらせてしまうに限る。

 

 

 

 今日収容されたアブノーマリティーは『O-01-i41』だ、今日は虫の心配はなさそうだ。

 

 ……まさか虫人間とかはないよな?

 

「まぁ、そんなことを考えても仕方がないよな」

 

 とりあえず嫌な考えを頭から追い出して廊下を歩く。虫が続いていたがちょっと前まで人型ばかりが収容されていたからな、できれば変なやつ出ないことを祈ろう。

 

「さて、もう着いたか」

 

 気が付けばすでに『O-01-i41』の収容室の前まで来ていた。

 

 俺はいつものように扉に手をかけてお祈りをして、扉を開く。収容室からは少し暖かい風が吹いてきた。

 

 

 

「うおっ、暑い……」

 

 収容室の中は随分と蒸し暑かった。

 

 かつての夏を思い浮かばせるその暑さに辟易しながら収容室の主に目を向ける。そこにいる彼女は思うが儘に舞っていた。

 

「さて、できれば面倒な奴でなければいいが…… はっ!?」

 

 それは、赤い髪をした情熱的な少女であった。赤い髪に赤い瞳、そして赤を基調とした少し露出の多い着物を纏って舞っている。

 

 その舞は情熱的で、着物を着ている姿からは少しイメージが付かないようなものだった。自分が思うままに踊りその情熱をぶつける、それがなぜか彼女らしいと思ってしまった。

 

 そして、何よりもその背中の羽! その羽は赤くて、何よりモフモフしていた。正直一番俺が求めていたものだった。

 

 なんせなぜか『O-01-i42』*1の収容室は出禁になってしまってモフモフが俺の人生に足りなくなってしまっていたのだ。

 

 今まで手に入らないと思っていたから我慢できたが、それが目の前にあるのに手を出すことができないのは生き地獄だった。

 

 しかし、今目の前にはその求めてやまないモフモフがある。俺はそれに手を伸ばそうとして……

 

「いや、待て落ち着け」

 

 そこで、かつてのことを思い出す。俺が『O-01-i42』の部屋を出禁になってしまった時のことだ。

 

 あの時の女性陣の冷たい目線は今でも忘れられない、シロにあんな目で見られたのもつらかったが、パンドラにすらあんな表情をされるとは…… いや、元からそうか。

 

 今ここであの時と同じことをして怖がられては、あの時の二の舞になってしまう。それだけは避けなくては。

 

「よし、それじゃあなるべく機嫌を取らないとな」

 

 そう思って一緒に踊ろうと思ったが、かつて『T-01-i21』*2への作業で踊ったときは不評だった。そう考えると今回は失敗できない、却下だな。

 

「そうなると、これしかないか」

 

 音楽プレーヤーを取り出して、彼女の舞に合いそうな曲を流す。

 

 すると彼女は驚いた顔をしたが、曲に気が付くとすぐにリズムに合わせて踊り始めた。

 

「おっ、いい感じだ!」

 

 彼女の踊りに合いの手をはさみながらほめていく。すると彼女は随分と嬉しそうにしながらさらに楽しそうに舞っていく。

 

 そうしているうちに、曲がついに終わった。彼女は随分と楽しかったようで俺のほうに駆け寄ってきた。

 

「よかったな」

 

 ほめてほしそうにしていたので、彼女の頭をなでる。すると彼女は嬉しそうに頭を俺の手にこすりつけてきた。

 

 ……これならいけるのでは?

 

「おっと」

 

 偶然を装って背中の羽に触れる。それはとても柔らかくふわふわしていて、ほんのり暖かかった。あぁ、これこそが俺の求めていたモフモフだ……

 

 しかし、自分の羽に触られたことに気が付いたのか、『O-01-i41』は顔を真っ赤にしながら体を離し、羽をすぼめた。そんなに羽に触られるのが嫌だったのか……

 

「す、すまん、そんなに嫌がるとは思わなかった!」

 

 恥ずかしそうにしている彼女に謝罪する。すると顔を真っ赤にした彼女は肩を抱きながらジト目で俺のことを見て、恐る恐るという感じで片方の羽をこちらに伸ばしてきた。

 

「……これは、触ってもいいってことか?」

 

 俺の問いに、彼女は恥ずかしそうに頷いた。お許しが出たので恐る恐る触ってみると、彼女は顔を赤らめてうつむいてしまった。

 

「大丈夫か?」

 

 俺の言葉に彼女は頷く。さすがに無遠慮に触って嫌がられたらいやなので、宝物に触れるように優しく

丁重に触る。ふさふさしていて気持ちがいい。

 

「もうちょっといいか?」

 

 もう俺の言っていることが聞こえているのか聞こえていないのか、彼女な頷くばかりだ。

 

「それじゃあ遠慮なく」

 

 せっかくお許しが出たのだ。思う存分触ることにしよう。

 

 背中の羽に顔をうずくめながら思うがままに羽をモフる。

 

 あぁ、これが俺の望んでいた理想郷か。なんてすばらしいのだろうか……

 

「おっと、大丈夫か?」

 

 しかし素敵な時間にも終わりが訪れるものだ。彼女はなぜか俺のほうに倒れてきたのだ。

 

 顔は赤くなんだか少し扇情的だ、いったいどうしてしまったのだろうか?

 

「少し踊りすぎて疲れたのか? それならそろそろ終わりにするか」

 

 彼女を横にしてやり頭をなでる。すると彼女は嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「なぁ、また触ってもいいか?」

 

 彼女の頭をなでながら聞くと、びっくりした顔をしてものすごい勢いで首を振られた。そんなにいやか……

 

「そうか、無理を言って済まない」

 

 もうこの天国を味わうことはできないのか、それは少し残念だ。

 

 思わずしょんぼりしていると、何か感じることがあったのか少し顔を恥ずかしそうにしながら、控えめに頷いてくれた。

 

「本当か、ありがとう!」

 

 それにしても、こんなところでモフモフ成分を得ることができるなんて思いもよらなかった。

 

 これからもモフらせてくれるみたいだし、よろしくな!

 

 

 

「あっ、ジョシュア!」

 

 『O-01-i41』の収容室から出ると、シロが出迎えてくれた。どうやら随分と心配してくれていたらしい。

 

「よかった、もう大丈夫そうだね」

 

「あぁ、心配してくれてありがとうな」

 

「……あれ、あんまりかんだことがない臭いがするような」

 

「えっ、さっきのアブノーマリティーの匂いかな?」

 

「いや、これは、女の子の臭い?」

 

「えっ、そんな匂いが付くようなことはなかったと思うけどな……」

 

「ふーん……」

 

 もしかしたらさっきのことがばれたのか? いやまだ怪しんでいるところだ、まだ大丈夫だ。

 

「そうだ、今から『T-01-i12』*3の収容室に行くけど一緒に行くか? チョコレート好きだろ」

 

「う、うん行く!」

 

 とりあえず今から一緒に癒しコースに行くことにする。最近あまり話せていないし、せっかくだから一緒に過ごすとしよう。

 

 

 

 

 

 命は芽吹き、生命は躍動を始める

 

 命は沸き立ち世界が彩る

 

 この世に活気があふれて自由の風が吹く

 

 今、私は自由だ

 

 この世界の生き物たちが自由に生きているように

 

 私も自由に好きなことができるのだ

 

 だから私は舞い続ける

 

 私のすべてを込めて、全力で

 

 

 

 

 

 そう、私の燃ゆる心は日差しのよう

 

 

 

 

 

O-01-i41 『朱き南薫の夏姫』

 

*1
『白き大西の秋姫』

*2
『インディーネ』

*3
『蕩ける恋』



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O-01-i41 管理情報

 『O-01-i41』は朱い羽をもつ少女型のアブノーマリティーです。その収容室の中は非常に蒸し暑いです。

 

 『O-01-i41』はよく収容室の中で舞を行っています。その間は邪魔をしないようにしましょう。

 

 『O-01-i41』が喜ぶことはあまりしないようにしましょう。

 

 幼気な子どもに拒否がされないからと言って不埒なことをするのはやめましょう。そんなことをすれば今度こそ出禁ですよ。

 

 

 

『朱き南薫の夏姫』

 

危険度クラス TETH

 

ダメージタイプ R(2-4)

 

E-BOX数 12

 

作業結果範囲

 

良い 7-12

 

普通 5-6

 

悪い 0-4

 

 

 

◇管理情報

 

1、作業結果良で作業を終了すると、クリフォトカウンターが下がった。

 

2、アブノーマリティーが脱走するたびに、クリフォトカウンターが減少した。

 

3、カウンターが0になると朱い鳥が現れ、周囲にいる職員のHPが回復した。

 

4、『O-01-i41』の特殊能力により過剰にHPが回復すると、その職員は炎に包まれた。

 

 

 

◇作業結果(作業好感度)

 

本能

1 最高

2 最高

3 高い

4 高い

5 高い

 

洞察

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

愛着

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

抑圧

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 3

 

非脱走アブノーマリティー

 

 

 

◇ギフト

 

涼風(ブローチ1)

 

HP+4

 

 朱い花の形のブローチ。これを身に着けると暑い夏の日差しを感じさせる。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 無し

 

 

 

・防具 涼風

 

クラス TETH

 

R 0.8

 

W 0.8

 

B 0.8

 

P 0.8

 

 朱を基調とした着物型の防具。少し露出部分が多く動きやすくなっている。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 ついにそろいましたね。

 

 今回のアブノーマリティーは『あかきなんくんのなつひめ』と読みます。かわいらしい幼気な子どもですね。

 

 なんかジョシュア君が暴走していますが、この後折檻されているので安心してください。

 

 今回のアブノーマリティーですが、何気に今までのものと違って直接この子に触れないとカウンターが減らないようになっています。

 

 実はカウンターの増減方法は『白き大西の秋姫』と逆だったのですが、弟のプレイを見ていて大丈夫そうだったので入れ替えました。そもそもこっちが初期の設定だったんですよ、さすがにきつすぎないか心配で変更したのですが杞憂でしたね。

 

 何がとは言いませんが、私は彼女たちのことを四季姫と呼んでいました。しかし気が付けば四神で定着していますね。もちろん言いやすいほうでいいのでこれからも四神で構いません。

 

 さて、もうこれ以上は多く語りません。これからを楽しみに待っていてください。

 




Next O-07-i99『その契約の意味を知るだろう』


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Days-44 O-07-i99『その契約の意味を知るだろう』

「ジョシュアさん、今日はどうしたんですか?」

 

「いやな、ちょっとせっかくの癒しがな……」

 

「あなたまだそれのこと言ってるんですか?」

 

 メッケンナがあきれたように言うが、それも仕方がないだろう。やっと手の届いた癒しがまた制限されそうになっているんだから。

 

「あれ、お二人方どうしたんですか?」

 

「おうマキか、いや少しな……」

 

 そこに、最近入ってきた新人のマキがやってきた。

 

 彼女は結構活発で、さばさばしている。少し苦手なところはあるが、話していて楽しいところはある。

 

「話したくないならいいですけど、それよりも何か面白い話とかないですか?」

 

「相変わらずマキさんはさっぱりしてるね、それより向こうの子たちはいいの?」

 

「あぁ、アセラの話って意味わからなくて楽しくないんだよね」

 

 向こうでこちらを見ていたほかの新人たちが、その発言にぎょっとしていた。その言われた本人であるアセラは何も気にしてないように見えるが、よく見ると手に持っているコップが細かく震えていた。

 

 結構気にしていたんだな。

 

「それならジョシュアさんのほうが知ってますよ」

 

「おいおい無茶ぶりはやめろよ、こんなところにいて面白い話なんてあるかよ」

 

「いやいや、いっぱいあるでしょう? パンドラさんの話」

 

「あれは決して笑い話じゃない」

 

 即答する俺を見て、マキは愛想笑いを浮かべている。意外とそんな表情もするんだな。

 

「あっ、そういえばメッケンナ先輩ってミラベル先輩と付き合っているんですか?」

 

「なっ、そんなわけないでしょう!?」

 

「いやいや、結構新人の間でも話題になってますよ。もしかして隠してましたか?」

 

 笑い話からいきなりメッケンナに飛び火した。それは俺たちがわざわざ触れないようにしてあげていた話だぞ、そんな軽々しく……

 

「だ、だれがあんな軽い人と…… そもそも僕は恋愛なんて……」

 

「でも、正直バレバレですよ? ジョシュア先輩も知ってましたよね?」

 

「えっ、そうなんですか!?」

 

「……すまん」

 

「そんなぁ……」

 

 どうやらずっと隠し通せていたと思っていたらしい、メッケンナは灰になって崩れ去ってしまった。

 

「そういえば、ジョシュア先輩のほうはどうなんですか?」

 

「えっ、何のことだよ?」

 

「いやいや、嘘ついてもわかりますよ。シロ先輩のことです」

 

 おいおい、まさかこいつは俺とシロが付き合っていると思っているのか? 俺たちはまだそんな関係ではないぞ。

 

「まったく、意外とミーハーだな。だけど俺たちはそんな関係じゃないぞ」

 

「えっ、でもすごい距離近いですよね。あれで恋人じゃないんですか?」

 

「なんだよそれ。そもそもこんないつ死んでもおかしくない施設で恋人が作れるわけないだろうが」

 

「何言っているんですか」

 

 俺の話を聞いて、マキの眉間にしわが寄った。どうやら俺の話が気に食わなかったらしい。

 

「いつ死ぬかわからないからこそ、後悔がないようにするんじゃないですか」

 

「そうですよジョシュアさん、いつまでシロさんのことを待たせてるんですか?」

 

「おいメッケンナ」

 

 いつの間にか復活していたメッケンナが俺を貶めるために参戦してきた。てめえ俺のほうに矛先を向けて自分は逃げる気だな。

 

「でも本当ですよ、このまま何もせずお別れになったら、それこそ悲しいじゃないですか」

 

「だがもしもどっちかが死にでもしたら……」

 

「そういう時は、無くなるものより残せるものを考えたほうがいいですよ。何もないよりもそっちのほうがいいです」

 

 ……確かにそうだな、どうやら俺は憶病になっていたらしい。

 

 確かにこのまま終わるなんて嫌だ、日数ももうないし、どこかで彼女を失ったら耐えきれないだろう。

 

 それならマキの言うとおりに何かを残したほうがいいのだろう、まさか後輩にそんなことを教えられるとはな。

 

「確かにそうだな、俺も頑張ってみるよ」

 

「おっ、さすがですね!」

 

「ジョシュアさん、男前!」

 

「お前らなぁ……」

 

 なんというか、ちゃんと宣言したのに反応が軽い。というか食堂で話しているからほかにも聞かれている可能性があることに今気が付いた。こんなことパンドラにでも知られたら大変だ。

 

 ちなみに後で聞いた話だが、聞いてたやつらはパンドラには伝えないことで満場一致していたらしい。

 

 パンドラェ……

 

「それじゃあ皆さんの恋バナ教えて下さいよ!」

 

「えっ、嫌ですよ」

 

「ダメに決まってるだろ」

 

「そんなぁ……」

 

 俺たちの冷たい反応に大げさに反応するマキ、なんというか面白い奴だな。

 

「それじゃあ仕事のためになる話とかしてくださいよ、ジョシュア先輩なら色々と知っているでしょう?」

 

「まぁそれならいいけど……」

 

 先ほどまで落ち込んでたかと思うと、急に話題が切り替わった。ずいぶんと切り替えが早い、いい性格をしているな。

 

 とりあえず仕事上の危険行為や見落としがちなこと、職員の変化の見分け方などをなるべく簡単に教えた。できるだけ聞いてるほうもつまらなくないように質問したり問題出したりし、なるべく面白いことを言おうとした。滑ったが。

 

「ジョシュア、何してるの?」

 

「おうシロか、今ちょっとマキに仕事の話をしてたんだ」

 

 そんな話をしていると、シロが話に割り込んできた。

 

「シロ先輩も聞きますか? ジョシュア先輩の話面白いですよ、ギャグはあれだけど」

 

「そんな本当のこと言ったらジョシュアさんが可哀想ですよ」

 

「……メッケンナ、それ擁護してないだろ」

 

 俺の指摘に対してメッケンナはきょとんとした表情でとぼけてきた。本当にこいつはいい性格になったな。

 

「…………したいけど、今から仕事」

 

「あぁ、それなら俺もだ。一緒に行くか」

 

「うん!」

 

 まぁ有言実行というわけでもないが、せっかくなので途中まで一緒に行くことにした。

 

 メッケンナとマキが小声ではやし立ててきたので、立ち上がる際に足を踏んでやった。メッケンナだけ。

 

「ジョシュアジョシュア、この前ね……」

 

 道中シロと一緒におしゃべりをしながら歩いて行った。初めのほうは俺が一方的に話していたが、最近はシロも色々と話をするようになってきた。食べ物の話が多いが、それ以外にも何か楽しめるものが見つかるといいな。

 

「それじゃあ、またねジョシュア」

 

「あぁ、またな」

 

 途中でシロが作業する予定の収容室についたので、そこで別れて俺も次の作業の収容室に向かっていった。

 

 

 

 今日収容されたツールは『O-07-i99』だ、あまり見かけない番号だが、いったいどういうものなのだろうか?

 

「さて、もう着いたな」

 

 気が付けばすでに収容室の前、俺は

 

                 収容室の中に入っていった。

 

「さて、今日のツールはなんだろうな?」

 

 収容室の中央には、見たこともない文字の書かれた羊皮紙が置かれていた。それは見たことなんてないはずなのに、なぜか嫌な予感がしてしまう。

 

「いったい何なんだよこれは……?」

 

 その羊皮紙に近付いて見る。

 

 確かにその文字を俺は知らない。しかし、読めてしまうのだ。

 

 

 

『不要なものの処分に困る、そんな経験はありませんか?』

 

『わざわざ捨てるのが面倒なもの、処分のしかたが大変なもの、処分するところを見られたらまずいもの』

 

『どうやって処分したらいいのかわからない、そんな日々とはもうおさらばです!』

 

『この契約書にサインしていただければ、私が責任をもって処分いたしましょう!』

 

『大きいもの小さいもの、重いもの軽いもの、鋭利なもの丸いもの、神聖なもの穢れたもの、死んでるもの生きてるもの、はては呪いから祝福まで』

 

『それらすべてが、あなたの前からきれいサッパリ消え失せるでしょう』

 

『使い方は簡単』

 

『まずこの契約書にお名前をサインしていただき、不要なものを思い浮かべながら不要なものリストにその名前を書くだけ!』

 

『それだけでどんな面倒事からもおさらばです!』

 

『この契約書を使えば、あなたの世界が変わるでしょう』

 

 

 

「……なんだこれは?」

 

 文章を読んでみて、そのうさんくささに思わず声が出てしまう。

 

 契約書と言いながらかしこまった言葉遣いは全くなく、どちらかと言えばテレビショッピングの方が近いくらいだ。

 

 それにメリットだけ書いてデメリットについて何も書いていない。文章だけなので、問い合わせることもできない。絶対に隠していることがあるはずだ。

 

「とはいえ、使わなければいけないんだよなぁ」

 

 そう、この施設に収容された以上、このツールを使ってそれがどう言うものか調べなければならない。

 

 そこで改めて契約書を見る。

 

 取り敢えず契約書に名前を書こうとおもったが、既に誰かの名前が書かれていた。

 

 仕方がないので不要なものリストの方に目を向ける。

 

 不要なものリストは空欄だった。シミ一つない綺麗な状態であったが、なにかを書いたようなあとはある。いったいどうしたのだろうか?

 

「取り敢えず使うか」

 

 対象は、出来ればさほど影響のないものにしたい。なくなっても困らないし、あっても別になんともないもの。ものによって代償が変化する可能性もあるので、下手なことはできない。

 

「取り敢えずペンを…… あっ」

 

 そこで、俺の持っているボールペンが、もうすぐインクが切れそうなことを思い出した。

 

 そこで、どうせ後でもらえばいいと考えて不要なものリストに手に持っているボールペンを思い浮かべながら『インクが切れかけのボールペン』と書いた。

 

「うおっ、なるほど……」

 

 すると、不要なものリストにかかれた文字と一緒に、手に持っていたはずのボールペンも消えてしまった。

 

「一応異変がないか聞いてみるか」

 

 そのあと管理人に訪ねてみたが、特に異変は感じられなかったらしい。

 

 なにか胸にモヤモヤしたものを感じながら収容室から退出すると、廊下でなにかを蹴飛ばしてしまった。

 

「しまった、灰塵の黎明か!? ……って、なんだこれ?」

 

 それは奇妙な置物だった。何かの儀式用のものかと思ったが、それにしてはチープ過ぎる。

 

 なんと言うか、海外旅行に行ってお土産にかったはいいけど、結局置き場に困る変な置物みたいだ。

 

「全く、誰かの落とし物か?」

 

 取り敢えずポケットにいれて次の作業に移る。結局他の職員に聞いたが誰も知らず、俺の部屋におくことになった。

 

 

 

「なぁ、フンの奴を見かけなかったか?」

 

「いや、見てないぞ」

 

 最近たまにだが職員が消えることがある。『T-06-i30』*1のせいかとおもったが、奴では説明がつかないやつまで消えている。

 

 『O-07-i99』も最近触れていないし、いったいどう言うことだろうか?

 

 

 

 

 

 あれは便利なものだったが、それだけで使うべきではなかった

 

 大きな力には代償がいる、そんなことはわかりきっていたのに

 

 故に我らはいずれ、我が身をもって

 

 

 

 

 

 その契約の意味を知るだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Emergency! Emergency! Emergency!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Risk Level ALEPH

 

 

 

 

 

 

 

 O-07-i99 『異界送りの契約書』

 

*1
『常夜への誘い』



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O-07-i99 管理情報

 『O-07-i99』は羊皮紙に謎の言語が描かれている契約書の形をしたツール型アブノーマリティーです。

 

 『O-07-i99』は、外部からの干渉を一切受けません。

 

 『O-07-i99』を使用できるものは多岐にわたります。通常の物体からアブノーマリティーの排出物、『T-05-i22』*1の加護や『T-05-i11』*2の愛、『T-09-i98』*3の占いの結果までもを送ることができます。

 

 脱走中のアブノーマリティーに対し『O-07-i99』を使用した場合、そのアブノーマリティーを収容室に戻すことができた。これは収容室内が異界と判断されているためだと思われます。また、同じ理由から『O-07-i99』の効果は収容室内にまでは及びませんでした。

 

 GPSを付けた物体を『O-07-i99』によって送ったところ、信号が地球上から完全に消え失せました。少なくともこの星からは消えたと考えられます。

 

 『O-07-i99』を使用した後、施設内に謎の物体が現れました。その物体は我々のよく知る物体で構成されている場合もありますが、未知の存在で構成されている場合もあります。

 

 実験の結果、その物体を『O-07-i99』で異界に送ることはできませんでした。また、『O-07-i99』自体を異界に送ることもできませんでした。

 

 『O-07-i99』を使用する場合、必ず使用許可を得て、使用する物体と使用目的を報告してください。

 

 『O-07-i99』の乱用は、大変危険と考えられます。決してそのようなことをしないでください。

 

 『O-07-i99』がなぜこの施設に収容されたのか、いったいどこからやってきたものなのか、それを知るものは誰もいません。

 

 『O-07-i99』を収容した時点で、我々の未来は

閉ざされてしまったのかもしれない。

 

『異界送りの契約書』

 

危険度クラス ALEPH

 

単発使用型

 

 

 

◇管理情報(情報開放使用回数)

 

1(1回)

 『O-07-i99』を使用することで、不要なものを異界に送ることができる。

 

2(3回)

 異界に送るものは生命・非生命にかかわらない。また、祝福や呪いといった実体のないものなど、ありとあらゆる存在を送ることができる。

 

3(5回)

 『O-07-i99』の使用後、謎の物体が現れた。その物体に対して『O-07-i99』を使用することはできなかった。

 

4(7回)

 クリフォト暴走段階が5になるまでに『O-07-i99』を1度も使用しない、あるいはクリフォト暴走段階が10に達するまでに『O-07-i99』を二度使用していない場合、職員が『O-07-i99』を自らに使用した。

 

5(10回)

 『O-07-i99』を一日に3回以上使用すると、異界の扉が開かれた。

 

6(15回)

 LOCK

 

 

 

余談

 アブノーマリティーの分類番号における『07』とは、脱走する、あるいはクリフォトカウンターが存在するツールという、きわめて珍しい区分になっております。

 

 ゲーム内で登場するツール型アブノーマリティーでいえば、『陽』だけです。

 

 しかしこのツールは、他のアブノーマリティーを収容したから収容されるわけではありません。このアブノーマリティーは選択画面に普通に現れます。

 

 原作ではいなかったALEPHクラスのツール型アブノーマリティーであり、『陽』と同じ『07』分類のアブノーマリティー。

 

 それがどうのような存在なのかは、これから判明するでしょう。

 

 このツールの使用方法は多岐にわたります。

 

 まず職員を送った場合は、処刑弾と同じようにアブノーマリティーの死亡カウントには計算されません。

 

 次に、アブノーマリティーによってつけられた状態のほとんどを異界に送ることができます。

 

 少なくとも、現在収容されているアブノーマリティーたちのものは大丈夫です。

 

 さらに、脱走しているアブノーマリティーを、ほぼノーリスクで収容することができます。

 

 『O-01-i02』*4のような特殊なALEPHクラスアブノーマリティー、深夜の試練、ゲブラーやビナーといった特別な相手以外であれば、ほとんどのアブノーマリティーを収容室に強制的に戻すことができます。

 

 ちなみに、管理情報の4は、ペスト医師と同じです。その職員を助けたければ一日を終わらせるか、処刑弾による処刑しかないでしょう。

 

 少なくとも、このツールを収容するならば、それ相応の覚悟が必要です。

 

 

 

 

 

 それと、結構大切な話があります。

 

 すいません、10月の間は少し更新が難しくなりました。

 

 10月の間が忙しく、小説を書く時間がないので、10月の間は少しお休みします。

 

 しかしひと月丸々何もないのもさみしいので、できる限り書き溜めをしてせめて1週間に1回くらいは更新できるようにしたいです。

 

 毎日更新を楽しみにしてくださっていた皆さん、申し訳ありません。

 

 どうしても今回は難しいので、どうかご理解のほう、よろしくお願いします。

 

 毎日更新は11月から始めていきたいと思いますので、どうかその時までよろしくお願いします。

 

*1
『慈愛の形』

*2
『盲目の愛』

*3
『フォーチュンキャンディ』

*4
『新星児』




Next O-01-i44『また 季節は廻る』


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職員たちの平穏なひととき『悲しみ』

 今日も目が覚める、地獄のようなこの場所で……

 

「おはようメッケンナ、早いですね」

 

「ミラベル、おはよう。今日もかわいいね」

 

「何言ってるんですか、馬鹿!」

 

 今日も最愛の人の頬を撫でて意識を覚醒させる。彼女はミラベル、かつては生意気な後輩だったが、今では誰よりも大切な人となった。まぁ、あまり人に変なあだ名をつけるのはどうかと思うのですが。

 

「それよりも、そろそろ仕事だよ」

 

「はぁ、そうですね。もう少しゆっくりしてもいいのに……」

 

 とりあえずベッドから出て、身支度をする。とはいえ一緒に出ると気づかれてしまうので、少し時間を空けてから職場に行くことになっている。それに一緒の部屋から出るのを見られるのも嫌なのでなるべく早い時間に部屋を出ることになっている。

 

「それでは、またあとで」

 

「もう、ひどい!」

 

 怒る彼女も又かわいい。だけど機嫌を悪くさせてしまうのも申し訳ないので、後でプレゼントを渡そう。

 

「あっ、そうだ」

 

 部屋から出ようとすると、ミラベルが何かを思い出したように手をたたいた。

 

 何事かと思って後ろを向くと同時に、暖かいものが頬に当たる。

 

「ふふっ、今日も一緒に生き残りましょうね!」

 

「えぇ、もちろんです!」

 

 たとえこの地獄でも、せめてこの笑顔だけは守ろう。

 

 

 

「ようメッケンナ、どうしたんだ?」

 

「ジョシュアさん、シロさんがいるのにまた密会ですか?」

 

「お前が知ってる時点で密会じゃないし、相手は男だぞ!」

 

 今目の前で反論している彼は、ジョシュア先輩だ。この施設で最初から生き残っている最古参であり、どんな困難も自ら先陣を切って立ち向かっていく偉大な人物でもある。

 

 そして何より、あの暴走機関車とでもいうようなパンドラさんのストッパーでもある。そう、あのパンドラさんの!

 

 正直彼がいなければパンドラさんのせいでどんな被害が出ていたかわからないほどだ。

 

 だが、それだけで安心することはできない。そもそも彼もどちらかというとやらかす側だ。

 

 女性型アブノーマリティーに片っ端から粉をかけ、パンドラさんだけであろうと考えられていたアブノーマリティーの収容室からの出禁というある意味偉業をやってのけた。

 

 さらには時にパンドラさんと一緒に結託して、色々な厄介ごとをやってのけることがある。とにかく食い意地が悪いし、自分の欲望に正直だ。

 

 様々な功績に隠れがちだが、パンドラさん、サラさんに並ぶ三大騒乱者の称号を得ている。普段はまともな分、騒動を起こす側に回られるとだれも止められる人がいない。

 

「嘘ですって、冗談ですよ」

 

「まったく、変なことを言うのはやめてくれ」

 

「そうですよね、シロさんに聞かれたら大変ですもんね」

 

「あぁ、ここにいたか」

 

 二人で談笑していると、そこに割り込むように不気味な雰囲気を纏う声が聞こえた。

 

 抽出部門のセフィラ、ビナーだ。ビナーとは正直かかわりがないが、それでも少しのかかわりでやばい奴であることがわかる。機械なのに人間の負の側面をつぎ込んだかのように不気味だ、正直かかわりあいたくない。

 

 だが、ビナーの目的はジョシュア先輩のようだ。彼がゲブラーに気に入られてからというもの、なぜか目をつけられてしまっている。

 

「悪いなメッケンナ、少し抜ける」

 

「あっ、ジョシュアさん……」

 

「大丈夫だ、取って食われたりはしないさ」

 

 ジョシュア先輩は笑顔でそう告げながら、ビナーと一緒に歩いて行った。大丈夫だろうか?

 

「あっ、メッケンナ君、こんにちわ!」

 

「げっ」

 

 そこに、やばい奴が現れた。珍獣、理解できないもの、もはや人間じゃない、アブノーマリティーよりアブノーマリティーしてる、一種の事故として扱え、などさまざまな言われようのパンドラさんだ。

 

 彼女のやらかした逸話は数えきれない、アブノーマリティーでキャッチボール、アブノーマリティーの収容室から出禁、アブノーマリティーアイドル化作戦、ジョシュア先輩とやらかした少数精鋭幻想体強襲調理作戦など、数えればきりがない。

 

 一度僕の股間に満杯の『T-09-i96』*1をぶっかけて破裂しそうになったときは本気で殺意がわいたほどだ。まぁそれでもひとかけらほどの罪悪感はあったようで、それ以来彼女からの被害が少し減ったのはありがたかったのですが。

 

「どうしたんですか、変な顔をして?」

 

「いえ何も、それよりもどうしてここに?」

 

「ちょっとジョシュア先輩を探していたんですけど……」

 

「あぁ、それなら今ビナーに連れていかれましたよ」

 

「えっ、そうですか、なら仕方がないですね」

 

「えっ!? どうしたんですか!?」

 

 あの自分勝手なパンドラさんが早々にあきらめただと!? もしかしたら明日は大地震でも起きてこの施設のすべてが崩壊してしまうのではないだろうか? そう思えるほどの衝撃だったが、どうやら彼女はそれが不満だったようだ。

 

「なんですかその反応、ただちょっと彼女が苦手なだけですよ」

 

「えっ、ビナーが? そういえばゲブラーも苦手って言ってましたね」

 

「というか、セフィラ自体があまり……」

 

「あぁ、まあわかりますよ」

 

 セフィラは機械のくせに妙に人間的で、なんだかそのギャップがものすごく気持ち悪いというか、不気味に感じてしまう。自分勝手な連中であるという認識が強かったけど、最近はだいぶましになってきた気がする。

 

 それにしてもパンドラさんに苦手な存在がいるとは驚きだ。この人ならゴキブリでも踊り食いしそうなのに……

 

「あぁそういうことなら別にいいです、後でもいいことですからね」

 

「また変なことをしようとしていませんよね?」

 

「なんでそんなに信用がないんですか!」

 

「自分の胸に手を当ててください」

 

「えっ、おっぱいしかないですよ?」

 

「……はぁ」

 

 なんというか、この人は本当に相手がしづらい。できればあまり関わり合いたくはないが、なんだかんだで彼女に心を救われている人もいるので、この施設になくてはならない存在なのかもしれませんね。

 

 確かに元気な性格と大きな胸は魅力が詰まっています。

 

 それでも僕の彼女には遠く及びません! ミラベルの普段とのギャップとか、かわいらしい笑顔とか、彼女には全く備わっていませんからね!

 

 そもそも、悪だくみしている顔とか、ジョシュア先輩に折檻されて喚き散らしたり涙目になっている表情しか出てきません。胸に関してはノーコメントで。

 

「まぁいいです、またねメッケンナ君!」

 

「はい、また今度」

 

 そう手を振りながら彼女は出ていった。

 

 そろそろ僕も仕事に戻ろうかな。とりあえず記録部門に向かうとしよう。

 

 

 

「あらぁ、メッケンナ君ご無沙汰ねぇ」

 

「えぇ、サラさん、お久しぶりです」

 

 こんな日に限って最悪だ。最後の三大騒乱者、サラさんに出会ってしまった。

 

 彼女は一言でいうと、ギフト狂いだ。なんでも他者の意思が自分の中に溶け込んで混ざるのがとても快感らしい、ひぇ。

 

 ほんわかした見た目としゃべり方とは裏腹に、ギフトの為なら自分の安全すらかなぐり捨てるほどのマッドさがすべてを台無しにしているやばい奴である。

 

 ギフトの為なら何でもするので、彼女もよくやらかす。自らイケニエに差し出そうとしたときはさすがに引いた。

 

「どうしたんですか? 最近何かに熱中していたみたいですが」

 

「それがねぇ、ジョシュア先輩がうらやましくってぇ、最近頑張って『O-01-i02』*2の作業をしているんですよぉ」

 

「えっ、あんな危険なアブノーマリティーの!? あなた死ぬ気ですか!?」

 

「その価値があると思ってやってるんですよぉ、それにぃ、そのおかげもあって最近ようやくレベル5職員に昇格したんですよぉ」

 

「何やっているんですか……」

 

 想像以上のギフト馬鹿に、思わず頭を抱える。この人は馬鹿だと思っていたけど、想像以上だった。

 

「それじゃあ私はぁ、次の作業があるのでぇ、これで失礼しますねぇ」

 

「えぇ、気を付けてくださいね」

 

「今更へまはしないわぁ」

 

 そういうと彼女は、おっとりした足取りでどこかへ行ってしまった。

 

「はぁ、もう早くミラベルにあって癒されたい……」

 

「あぁそこの君、メッケンナだね、ちょっといいかい?」

 

「えっ?」

 

 そこで声をかけてきたのは、記録部門のセフィラ、ホクマーだ。いったい何の用だろうか?

 

「君たちの仲のいい彼…… ジョシュアは今どこにいる?」

 

「あぁ彼なら安全部門ですよ」

 

「そうか、あの珍獣のせいで今日も話ができなかったな、ありがとう」

 

「……えぇ」

 

 やはり、こいつらは信用ならない。いったいジョシュア先輩に何の用だろうか?

 

「それでは失礼するよ」

 

「それでは」

 

 こうしてホクマーは離れていく。

 

 ……はぁ、早く癒されたい。

 

*1
『黄金の蜂蜜酒』

*2
『新星児』




時間見たらかなりぎりぎりだった……


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Days-45 青空の深夜『夢の先へ』

まさかのこの先に さらなるステージがあろうとは

ついに我々は新たなるステージへと進んでいく


「ジョシュア、今作業が終わったところか?」

 

「あぁ、何か用か?」

 

「いや、ちょうど見かけたからな」

 

 『T-04-i57』*1への作業が終わり収容室から退出すると、たまたまリッチに出会った。何か用事かと思ったが、どうやらそうでもないらしい。

 

「そうか、それならいい時間だし久々に飯でも……」

 

『記録部門にて試練が発生しました。エージェントの皆様は、至急鎮圧に向かってください』

 

「どうやら休む時間はなさそうだな」

 

「……はぁ、仕方がないな」

 

 ようやく一息つけると思った矢先にこれだ、さすがに気が滅入るがこれから来るのは深夜の試練である。そうも言ってられない。

 

「よし、それじゃあ一緒に行くぞ」

 

「そうだな」

 

 リッチと一緒に記録部門のメインルームに向かう。早くいって少しでも被害を減らさなければ。

 

 

 

「ついたぞ!」

 

「気を抜くなよ!」

 

 記録部門のメインルームにたどり着くと、そこには幻想的な風景が広がっていた。

 

 雪の結晶の舞うこの部屋の中央には、巨大な筒が鎮座していた。

 

 先のとがったその筒の下方には、一対の羽のようなものがある。そしてそのそこからは白い蒸気が噴き出してきて、それがまた地に落ちた氷の結晶を巻き上げて再び宙から舞ってくる。

 

 それは、氷でできたロケットだった。

 

 氷のロケット、青空の深夜は水蒸気を噴出しながらその場にとどまっている。

 

「とにかく攻撃するぞ!」

 

 リッチとともに青空の深夜に攻撃を加える。しかし青空の深夜は何もせず、ただそこにあるだけだった。

 

「これは灰塵の深夜みたいに別のところに移動しそうだな」

 

「わかった、気を付ける!」

 

 青空の深夜に攻撃を加えていると、しばらくしてエンジン部分がうなり声を上げ始めた。

 

「何か来そうだな、急いで離脱するぞ!」

 

「了解した!」

 

 ロケットが水蒸気をものすごい勢いで噴出し始め、宙に吹き始めるとともにメインルームから離脱する。

 

 やつが飛び始めると同時に、何か見たくないものが見えた気がした。

 

「……まじかよ」

 

「どうしたジョシュア?」

 

「今さっき、青空の夕暮れが見えた気がした」

 

「……つまり、さっきので出てきたのか?」

 

「わからない、見間違えであることを祈ろう」

 

『残念だが、君が見たものは現実だ。いま廊下にて青空の夕暮れが二体移動を開始している』

 

 さすがに嘘であってほしいと思っていたが、それも管理人の言葉で淡く砕かれてしまった。

 

「まじかよ……」

 

『君たちには引き続き青空の深夜の鎮圧に向かってほしい。やつは今懲戒部門にいる』

 

「くそっ、地味に遠いな!」

 

 仕方がないので全力で懲戒部門に向かっていく。時間をかければかけるほどこちらの不利だ。さすがにゲームのようにいったいも倒さなければ深夜鎮圧時に同時に消えるなんてことはないだろう。

 

 

 

「ジョシュア、そろそろ決めるぞ!」

 

「もちろんだ!」

 

 決戦は情報部門のメインルームだった。

 

 俺の“墓標”とリッチの『超新星』が、ひび割れた青空の深夜に突き刺さる。するとようやく青空の深夜が砕け散り、氷の雨となって俺たちに降り注いだ。

 

「よし、これであとは青空の夕暮れたちを鎮圧するだけだな」

 

『あぁ、そうだな…… なっ、まずい!?』

 

「おい、どうした!?」

 

 管理人の切羽詰まった声が聞こえる。それと同時に施設内にそよ風が運ばれてくる。

 

『どういうことだ? 『O-01-i40』*2の特殊能力が発生したと同時に、『O-01-i41』*3、『O-01-i42』*4、『O-01-i43』*5まで能力を発生させ始めたぞ!』

 

「なに!?」

 

 それと同時に風はどんどん強くなり、暖かさと冷たさの入り混じった不思議な風となり、それらがこのメインルームの中央に集まると、巨大な人型をとった。

 

 

 

 

 

春の陽気に命は萌ゆる

 

 

 

夏の日差しが命を育て

 

 

 

秋の豊かさが命を実らせ

 

 

 

冬の冷たさが命を散らす

 

 

 

時は移ろい命は廻り

 

 

 

また 季節は廻る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Emergency! Emergency! Emergency!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Risk Level ALEPH

 

 

 

 

 

 

 

 

 

花鳥風月

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは命を廻るもの

 

 彼女に命は育まれ

 

 彼女がその死を受け入れる

 

 そのすべては廻り

 

 決して同じことはない

 

 それこそが貴き命なのだ

 

 

 

 

 

 

 

 O-01-i44 『貴き初凪の季姫』

 

 

 

*1
『蠱毒の災禍』

*2
『青き東風の春姫』

*3
『朱き南薫の夏姫』

*4
『白き大西の秋姫』

*5
『玄き北颪の冬姫』




ならばこの夢の先に

我々はどこを目指していけばいいのだろう


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Days-45 O-01-i44『季節はまた巡る』青春

えっ、ちょっと見ない間に気が付けばお気に入りが1000件を超えているんですけど……

正直びっくりしすぎて夢かと思いました。

こんなに多くの人々に読んでもらえてとてもうれしいです!

これからも頑張っていきます!

今回は少し短いですが投稿します。



11/1 四神の出現場所と、それに伴って内容を少し変更しました。


 可能性は考えていた。

 

 共通点の多い彼女たちが集まると、なにかが起こるんじゃないかと。

 

 しかし、それと同時に魔法少女のように共通点があるだけじゃないかとも考えていた。

 

 結果、事態は最悪の方向にいってしまった。なんの準備もなしに彼女たちは揃ってしまったのだ。

 

『なんと言うことだ、情報部門の巨大な人型アブノーマリティーを中心として、安全部門に青い龍、コントロール部門に朱い鳥、教育部門に白い虎、中央第一に玄い亀が出現した』

 

 それは、黄色い色をした巨大な姫であった。

 

 着物に描かれた繊細で美しい四季を表した模様からは、隠しようのない気品が感じられた。優雅な着物にほとんど隠されているが、唯一露出している首のほとんどと顔の一部、そして手の甲のすべてがうろこで覆われていた。

 

 そしてその額からは、雄々しくも美しき一本の角が生えている。

 

『これを放置すれば恐らく多大な被害が考えられる、ここを乗りきるには皆の協力が必要だ』

 

『……どうか、ご武運を』

 

「遠慮するな、こういう時の俺たちだ」

 

 目の前の巨大な人型を睨み付けながら、管理人に声をかける。隣にいたリッチもまた、無言でE.G.O.を構えて戦闘体勢に入る、なんとしても早期に決着をつけたい。

 

 彼女の周りから、玄い風が吹いている。その風を受けると少し、体から何かが漏れ出すような感覚が襲い掛かる。余り長居はできそうにないな。

 

「……リッチ、行くぞ」

 

「もちろんだ」

 

 お互いにE.G.O.を目の前の巨大なアブノーマリティーに対して向けて、駆け出した。

 

 目の前の巨人はこちらを見つめても何も行動を起こさない。

 

 そのことに最大限の注意を払いつつ、俺の“墓標”とリッチの“超新星”で切りつける。

 

「ちっ」

 

「なっ、効いていない!?」

 

 しかし、彼女の体には傷一つつけることはかなわなかった。

 

 その後も何度も攻撃を加えてみるも、手ごたえが一切ない。まるで蜃気楼でも相手にしているような感覚であった。

 

 しかし、その圧倒的な威圧感が、彼女がそこにいるということを証明していた。もしかしたらこれは、ずいぶんと厄介な状況かもしれない。

 

「いったいどうなっているんだ!?」

 

「くそっ、やっぱりそういうことか!」

 

 ゲブラーとの特訓のおかげで今まで以上にE.G.O.の力を引き出せるようになった俺の攻撃も、必ず弱点を突くことができるリッチの攻撃も、一切効いていない。

 

 それはつまり、こいつには弱点がない、攻撃が一切効いていないということだ。

 

「おい、いったいどういうことだ!?」

 

「とりあえず今はここから離れるぞ!」

 

「くっ、そうだな!」

 

 二人で目の前の巨大な姫から背を向けて、一気に情報部門のメインルームから脱出した。しかし、その間も彼女は一切何かをしようとはしてこなかった。

 

 

 

「くそっ、どういうことか説明してくれているんだろうな、ジョシュア?」

 

「あぁ、とりあえず予想だが説明していこうと思う」

 

 息を整えてから、リッチのほうに向きなおる。これからいかにして怪しまれずに説明できるかが問題だ。

 

「まずあいつには、お前の攻撃ですら聞いていなかったということが問題だ」

 

「あぁ、確かにそうだった。もしかしたらやつは……」

 

「だが、たとえどんな奴でも完璧なんてありえない、そうだろう?」

 

「……すまん、少し弱気になっていた」

 

「いや、だれでもそうなるさ」

 

 確かにやつは俺たちの攻撃なんて一切通用していなかった。だが、それでもやつに何もできないわけではないはずだ。

 

 俺の中の貴重な記憶がよみがえる。ここでは4体だったが、3体で合体したやつらとの戦いではどう戦っていたか、それを思い出す。

 

「とりあえずやつに攻撃が一切効いていなかったことも気になるが、それともう一つ気になる点があったよな?」

 

「それは…… ほかの部門に出たやつらのことか?」

 

「あぁ、そうだ」

 

 まず、原作では合体したやつにダメージは一切与えることができなかった。それと同じで、彼女にも攻撃が当たらないと考えられる。

 

 それではどう倒すのか、それは同時に現れる三つの卵をすべて破壊するのだ。その卵をすべて破壊することができれば、破壊するごとに本体にダメージが入り、鎮圧することができるようになる。

 

 そう考えれば、今回のやつはおそらく……

 

「同時に出てきたということは、無関係ということはないはずだ。やつらを倒すことができれば勝機はある」

 

「……だが、やつらに攻撃は効くのか? 話を聞く限りやつは『O-01-i43』*1たちが起こした特殊能力と同じような存在だぞ、今までだって一切触れることはできなかったじゃないか」

 

「だが、他に何もできなければ挑むしかないだろう?」

 

「……そうだな」

 

『あぁそうだ、ついでに悠長にしている暇もなさそうだ』

 

「管理人、どうしたんだ?」

 

 リッチとどうするべきか話していると、突然管理人から通信が入った。落ち着いた話し方をしているが、どこか焦っているような声色だった。

 

『あぁ、今突然収容室にクリフォト暴走が発生し、それと同時に『F-02-i06』*2が脱走した。無関係とは思えない』

 

「くそっ、まずい状況じゃないか!」

 

 クリフォト暴走はまだわかる、だがそれと同時に脱走というのが明らかにやばい。こうなっては時間はかけられない。一刻も早く原因を取り除かなければ。

 

『とりあえずほかの対処に人員を向かわせている、なるべく手の空いている奴を向かわせるが時間がかかるかもしれない』

 

「いや、もしかしたら攻撃に向かわせるやつも考えたほうがいいかもしれない。もしかしたら同じ属性は効かない可能性がある」

 

『わかった。とりあえずコントロール部門のメインルームに『O-02-i24』*3を向かわせる。そちらがどこに向かうかで向かわせる人員を考える、すぐに決めてくれ』

 

「それなら安全部門に向かおうと思う、あそこには『T-09-i96』*4係がいるからな。安全をいち早く確保しておきたい」

 

『了解した、一刻も早くこの状況を打破しよう』

 

「もちろんだ」

 

 管理人からの通信が切れる。こうなった以上無駄な時間は浪費できない、まずは一体ずつ撃破していくべきだろう。

 

「よし、行くぞリッチ」

 

「あぁ、もちろんだ」

 

 リッチと一緒に安全部門に向かって走り出す。この絶望的な状況を、一刻も早く終わらせるために……

 

*1
『玄き北颪の冬姫』

*2
『吊るされた胃袋』

*3
『鋏殻』

*4
『黄金の蜂蜜酒』



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Days-45 O-01-i44『季節はまた巡る』朱夏

遅くなってしまってすいません、今日から更新を再開します。

それと、四神たちの出現場所を間違えていました。

正確には

安全部門に青い龍

コントロール部門に朱い鳥

教育部門に白い虎

中央第一に玄い亀

でした。

訂正します。


「よし、行くぞ」

 

「あぁ!」

 

 全ての風が集い、黄色き風となって人の形を成し四神が目を覚ます。それらは様々な風を身にまとって施設の内部に具現化する。

 

 あの巨大な人型に攻撃が効かなかったため、俺たちは一緒に安全部門のメインルームへと向かい、周囲から切り崩していくことにした。

 

 安全部門のメインルームに続く扉を蹴り開き、リッチとともに内部に侵入する。扉を開くと同時に、爽やかな春の風を感じた。

 

 

 

「おいおい、厄介なことになってるな」

 

「くっ、早急に鎮圧しなければ!」

 

 安全部門に入ると、人の形の木々の中央に、何かがとぐろを巻いて鎮座していた。それは蛇のような体に鯰のようなひげ、珊瑚のような角を頭から二本生やし鋭い牙を携えている。

 

 さらに手には青く輝く珠を持ち、静かに目を閉じていた。

 

 それは、青き龍であった。

 

 龍はまるで何かを待っているかのように微動だにしていなかったが、俺たちの存在に気が付いたのピクリと動くと、ゆっくりとその瞼を開いた。

 

「気づかれた、戦闘態勢に入れ!」

 

「わかっている!」

 

「グオォォォ!!」

 

 こちらが戦闘態勢に入るのと同時に、青き龍は咆哮をあげて宙に舞った。

 

 そして天井まで飛び上がると、そのままこちらに向かって突撃を仕掛けてきた。

 

「くっ、任せろ!」

 

「頼んだぞ!」

 

 こちらに向かって突撃してくる龍の顎を、“墓標”でかち上げて軌道をずらす。ついでにダメージも与えようと思ったが、どうやら効いている様子はない。

 

 そしてその間にリッチが“超新星”で龍の横腹を切り裂く。するとその刃はきれいに鱗の鎧を切り裂いて真っ赤な血が噴き出した。

 

「くっ、効いてないか!」

 

「だが俺の攻撃は効いているようだ、そのまま引き付けていてくれ!」

 

「わかった!」

 

 攻撃がリッチのほうに行かないように相手の注意を引き付ける。いくら攻撃がきかないからって、視界をふさごうとされたり口の中に武器を突っ込まれるのはさすがに気が散るだろう。

 

 そのあいだにリッチが“超新星”で傷を増やしていく。さすがは『O-01-i02』*1のE.G.O.だ、火力が違う。

 

「よし、さすがは“超新星”だ! このままいけば楽に……」

 

「いや、悪い。そうもいかなくなったかもしれない」

 

「なに?」

 

 リッチの言う通り、このままいけば大丈夫だったかもしれない。だが完全にやらかしてしまった、俺は同じような事例である『終末鳥』の特性を失念していたのだった。

 

「どういうことだ、傷が回復している!?」

 

「すまない、たぶん俺の攻撃を吸収しやがった」

 

「なっ……」

 

 気が付けば、青き龍の傷は古いものから順にどんどんと治っていっていた。傷が治るタイミングも俺が攻撃してからすぐなので、おそらくは間違っていないだろう。

 

 それに、完全に治っているわけではないが、明らかに俺の攻撃の回数的に治りが速い。おそらくは回復量が本来与えるダメージよりも多いのだろう、これは厄介なことになった。

 

「すまないリッチ、ここを頼めるか」

 

「わかった、こうなったら一人でやるべきだろう。ジョシュアもなるべく早く周りを頼んだ」

 

「あぁ!!」

 

 このままここにいても邪魔になるだけだ、この場はリッチに任せて俺は安全部門のメインルームから抜け出した。

 

 そして走りながら管理人と連絡を取る、どこから手を付けるべきか話を聞かなければ……

 

「すまない管理人、おそらく奴らは同じ属性で攻撃すれば回復してしまう。鎮圧要員の変更を提案する」

 

『わかった、奴らの属性とは別の属性の職員で攻撃するように連絡しよう。ついでだ、コントロール部門が手薄になっているからそちらを頼む』

 

「了解した、そっちにはだれが向かっている?」

 

『現状『O-02-i24』*2だけだ、この部門は他の部門に出張させているため手薄になっていた。すまない、こちらのミスだ』

 

「了解した、気にするな」

 

 どうやらまた『O-02-i24』がタダ働きさせられているようだ。さっきの青き龍の様子を見るに、おそらくコントロール部門のオフィサーも全滅していることだろう。

 

 急いでコントロール部門へと向かう。

 

「突入する!」

 

 コントロール部門のメインルームに続くドアを蹴り破り、内部に侵入する。すると、部屋の中から燃え盛る日差しを思い浮かばせる熱風が噴き出してきた。

 

 

 

「目標を確認、鎮圧に入る!」

 

 コントロール部門のメインルームに入ると、その中央には巨大な鳥が羽を羽ばたかせていた。

 

 それは、全身に炎を纏った朱い鳥であった。その翼の羽ばたきから発せられる熱風は燃えるように暑く、真夏の日差しを連想させる。

 

 嘴は鋭く槍のようで、鉤爪も同様に鋭く捉えたものは決して離さないだろう。そしてその瞳は鋭いが暖かく、どことなく知性を感じる。

 

 その朱い鳥はこちらに気が付くと声を上げ、大きく羽ばたいて熱風を巻き起こした。

 

「うおっ!?」

 

 身が焼けるような熱風とともに、朱い羽根がこちらに飛んできた。俺はそれを“墓標”で弾き飛ばし、接近する。

 

 周囲では燃えるような熱風とともに、この場に似合わない、非常においしそうな香ばしい匂いが漂っている。

 

 おそらくはすでに『O-02-i24』がやられてしまったのだろう。よく見れば周囲に赤い殻が転がっていた。

 

「くっ」

 

 天井が高いとはいえ、その巨体ではあまり意味がないようだ。今までであれば手が届かないようなところに飛ばれているが、ゲブラーの地獄の特訓で飛ばすことのできる斬撃の飛距離、威力ともにあのころよりも格段に上昇した。

 

 それでも戦闘中に気軽に使うことができるわけではないが、このような状況では仕方がない。なるべく相手の攻撃に気を付けて斬撃を飛ばしていく。

 

『ジョシュア、今『O-02-i25』*3に依頼した、気にせず殴れ!』

 

「了解、助かった!」

 

 朱い鳥からの攻撃を避けながら斬撃を飛ばすが、なかなかうまく当たらない。そんな状況が続いたためか、管理人がこちらに『O-02-i25』をよこしてくれた。これで受ける攻撃をある程度無視できる。

 

「まったく、君も大変だね」

 

「あぁ、お前もな」

 

「おうおう、俺もいるぞ!」

 

 『O-02-i25』と会話をしながら斬撃を飛ばしていると、『O-02-i24』がやってきた。そういえばこいつらは不死身だった、死んでも何度でも蘇るしこういった場面で使いつぶせるのはいいな。

 

「おらおら、やってやるぜ!」

 

「あぁ、やるぞ!」

 

 『O-02-i24』が泡で牽制している間に、俺が“墓標”で斬撃を飛ばして朱い鳥に攻撃を加えていく。すると先ほどまでよりも圧倒的に朱い鳥に攻撃が当たるようになった。

 

「ぐあっ」

 

「大丈夫か!?」

 

「ぐっ、助かったぜぇ!!」

 

 朱い鳥が炎の球体を飛ばすと、それが『O-02-i24』の鋏に当たって爆発した。さすがに装甲が固いのか鋏はとれずにいたが、殻が壊れて炎で燃えてしまっていた。

 

 このままでは炎で全身が包まれてしまうと思いその鋏を“墓標”で切断する。武器の扱いもうまくなったおかげで、殻の隙間に振り下ろして切断するのもできるようになってきた。

 

「気をつけろよ」

 

「大丈夫、片鋏でもやってやるぜ!」

 

 食料ゲット。燃える鋏がいい感じに焼けるまで待って『O-02-i25』に消火させる。直接的な攻撃はできないけど、こういった支援はできるのが地味に便利だ。こちらをジト目で見てくるが気にしないでおく。

 

 このまま勢いに乗って斬撃を飛ばしていく、するとようやく効いてきたのか、朱い鳥が着地して再び炎の球体を飛ばしてきた。

 

「ぐあっ、何しやがる!?」

 

「よし、止めだ!」

 

 『O-02-i24』を盾にして突っ込んで朱い鳥の懐に入る。奴は馬鹿だからこんな扱いしてもすぐに忘れてくれるのはありがたい、その後の『O-02-i23』*4が怖いけど。

 

 俺はそのまま“墓標”を朱い鳥の胸に突き立てる。すると朱い鳥の炎はどんどんと勢いを失っていき、やがて少女の形となってもたれかかってきた。

 

「……お休み」

 

 もたれかかってきた『O-01-i41』*5の頭をなでると、彼女は嬉しそうにしながら風を纏いながら、光とともに消えていった……

 

「……さて、次に行かないとな」

 

「あぁ、それなんだけど、そろそろ僕は時間切れだからお暇するよ。またのご利用をお願いね」

 

「あぁ、わかった。またな」

 

 そういうと『O-02-i25』はどこかへと消えていった。このままやつがいてもほかのやつらが危なかったから、都合がいいのはいいのだが、あの守りがないのは少し怖いな。

 

「よし、行くか!」

 

 腹ごしらえをしてから、次に向かう。

 

 次は教育部門に向かう。あそこは新人ばかりだから早く向かわなければ。

 

「待ってろよ!」

 

 俺は確かな満足感を感じながら、教育部門に向かうのであった……

 

*1
『新星児』

*2
『鋏殻』

*3
『宿殻』

*4
『老殻』

*5
『朱き南薫の夏姫』



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Days-45 O-01-i44『季節はまた巡る』白秋

「さてと、急がないとな」

 

 頑張っている新人たちの為に、急いで教育部門へと向かう。

 

 コントロール部門から教育部門への道は近いが、それでも新人にはやつらの相手はきついだろう。少しでも早く助けられるように全力で走り出す。

 

『中央第一で『O-04-i16』*1が脱走しました。職員の皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

 どうやら再びアブノーマリティーが脱走したようだ。全く厄介なことだ。

 

 教育部門のメインルームに続く扉のドアを開き、内部に入る。その瞬間、少し肌寒い風が俺の頬を撫でた。

 

 

 

「大丈夫か!?」

 

「あっ、ジョシュア先輩、アセラが!!」

 

「なっ!」

 

 教育部門のメインルームに入ると、そこではすでに戦闘が始まっていた。

 

 鋭い鋼の牙と爪をもつ白い虎が、純白の青年と激しい争いを行っている。白き虎は全身が白くかたい毛でおおわれているが、傷だらけになっていた。せっかくの白き体は自らの血で汚れており、見ていて痛々しいほどだ。

 

 傷だらけの白い虎に対して、純白の青年、アセラはその白い姿に一切の汚れがついてなかった。“エンゲージリング”の攻撃でいくつも攻撃しているが、その返り血が一切本人にかかっていなかった。

 

 まるで血が彼を汚さないために自ら避けているような光景は絵画のようであったが、攻撃を受けながらも白い虎の放った攻撃がアセラに当たってしまった。

 

「ぐっ、うおぉぉぉ!!」

 

「まずい!」

 

 アセラはその攻撃に対して回避を選択しようとするが、間に合わず直撃してしまう。傷がないことから精神汚染系の攻撃であることはわかるが、それでも直撃してしまうのはまずい。

 

「うぅ……」

 

「大丈夫アセラ!?」

 

 どうやらまだ意識はあるようだが、このまま攻撃を受け続ければ間違いなく発狂してしまうだろう。

 

 白い虎を足止めしながらアセラに声をかける。これ以上彼を戦わせるわけにはいかない。

 

「アセラ大丈夫か!? ここからは任せてくれ!」

 

「……何を言っているんだ、今更良い所取りかよ」

 

「ちょっとアセラ!! 何言ってんの!?」

 

 しかしアセラはそれが気に食わなかったようだ。余り関わりはないが、彼が自尊心が高いことは知っている。確かに気に食わないだろうが、今は命がかかっているんだ。

 

「アセラ、お前結構攻撃を受けているだろう。これ以上は戦うべきではない」

 

「だが、俺はまだ戦える。完全である俺はこんな奴に負けるわけにはいかないんだ」

 

「アセラ、これ以上は本当にまずいって!」

 

 マキが必死に説得しているが、どうやら効果はなさそうだ。こうなったら仕方がないか……

 

「わかった、こうなったら最後まで戦うといい」

 

「ジョシュア先輩!?」

 

「ふんっ、最初からそう言っておけば……」

 

「ただし、俺も一緒に戦う。こうなったら一気に片付けるぞ」

 

 おそらく彼にはこれ以上言っても聞かないだろう。ならこんなところで時間をかけるよりも、一緒に戦ってサポートするほうがいい。

 

「……邪魔だけはするなよ」

 

「よし、それじゃあマキは俺たちを援護してくれ。気をつけろよ」

 

「……わかりました、アセラも気を付けてね!」

 

 そういってマキは“呪毒”を構える。遠距離からでも攻撃のできる優れた武器だ、まだ粗削りだが彼女の力量もあってなかなかいい動きができる。期待しよう。

 

「行くぞ!」

 

「あぁ」

 

「はい!」

 

 白い虎が前足でこちらを切り裂いて来ようとしてくるところを“墓標”で抑える。その間にアセラが接近して再び“エンゲージリング”で白い虎を切り裂く。

 

 そこをうめき声をあげながら白い虎が再び攻撃を仕掛けようとするところを、ちょうど“呪毒”が攻撃を加えることでかく乱することができた。

 

 その間に俺も空いたわき腹に“墓標”を突き刺しまわしてえぐる。どうやらアセラが随分と弱らせていたようで随分と弱ってきているように見える。

 

「よし、このままいけば……!」

 

「まて、何か来るぞ!」

 

 マキが追撃をしようとしたその時に、何か嫌な気配を感じた。それは白い虎も同じだったようでその場から離れようとした。

 

「まずい、よけろ!」

 

 白い虎から離れてマキとアセラを伏せさせる。すると俺たちの真上を青白い光線が通過していった。

 

 白い虎は飛び跳ねて逃げようとしたが、どうやら逃げ遅れたようで青白い光線に直撃してしまう。

 

「ぐっ、いったい何が……」

 

「あの方向、もしかして安全部門か?」

 

 もしかしたらこのままだとまずいかもしれない。俺が言っても邪魔になるというのが歯がゆいが、こうして少しでも数を減らさなければほかのやつらを応援によこすこともできない。どうか耐えてくれ。

 

「くっ、今がチャンスだ!」

 

「アセラ、突出しすぎるな! マキ、援護を!」

 

「はい!」

 

 先に倒れ伏す白い虎に向かうアセラを追いかけ、俺も追撃に入る。白い虎は最後まで戦おうと立ち上がるが、もうそれ以上動くことができなかったようだ。

 

 白い虎は俺の“墓標”とアセラの“エンゲージリング”による攻撃を一身に受けて対に倒れてしまう。

 

「ふぅ、これで終わりか……」

 

 すると、虎はどんどん縮んでいき、再び人の形となった。

 

 倒れ伏す彼女、『O-01-i42』*2の頭をなでてやると、彼女は満足そうに笑って光とともに消えていった……

 

 

 

「よし、それじゃあ俺は次に行く。二人は少し休んでから応援に行ってくれ」

 

「はい、わかりました!」

 

「俺のことなら大丈夫だ、指図を……」

 

「こいつも大丈夫なんで、気にしないでください!」

 

 思ったよりも元気そうな後輩に、思わず笑みがこぼれる。とりあえず無茶をしそうなアセラをマキに任せて、俺は中央第一部門に向かう。

 

 この調子でいけば残りも大丈夫かもしれない。

 

 とにかく希望が見えてきた。この絶望的な状況を早く終わらせるべく、中央第一に向かった。

 

「待ってろよ、すぐに……」

 

 そして、それと同時に……

 

 

 

 

 

 施設内に、すべてを奪う冷たい風が吹き荒れた。

 

「あっ、大丈夫ですか?」

 

*1
『骨の華』

*2
『白き大西の秋姫』



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Days-45 O-01-i44『季節はまた巡る』玄冬

 風の吹かないはずのこの施設に、冷たい風が吹き荒れる。それは命を奪う冷たい風。

 

「なんだこの風は、もしかして『O-01-i33』*1が脱走……」

 

 やがてそれは温もりを奪い、牙をむき始める。

 

 緩やかに吹く風がうねりをあげて部屋中に吹き荒れ、そして爆発のように風が吹き荒れて体が壁にたたきつけられた。

 

「ぐっ!!」

 

 強力な一撃に思わずうめき声をあげる。最初は『O-01-i33』*2かと思ったが、周囲にやつの姿は見られない。さすがにやつもその場にいなければこんな攻撃はできないはずだ。

 

「い、いったい何が……」

 

 痛む体を無理やり起こして、周囲を確認する。周りのものはすべてボロボロになっており、ずいぶんと散らかっている。

 

『まずい、今中央の人型存在が強力な風を発生させた。やつの攻撃で施設全体に被害が発生した』

 

「くっ、大丈夫なのか?!」

 

『厄介なことに、オフィサーがほぼ全滅したせいで『O-02-i24』*3が脱走した。それに『O-02-i23』*4と『O-02-i25』*5までもが暴れまわっている』

 

『他の被害は、アセラの精神がもう限界だ。これ以上はパニックになる可能性を考えてマキとともに『T-09-i97』*6に向かっている』

 

「なるほど、つまりは最悪だってことか」

 

 かなりまずいことになった。こうなったらこれ以上時間はかけられない、この戦いをすぐに終わらせなければ……

 

「わかった、こうなったらすぐに中央第一を鎮圧する。安全のほうはどうなっている?」

 

『安全部門は今リッチが奮闘してくれている。すぐにシロとミラベルが到着する、そっちはメッケンナとパンドラが頑張って戦っている。頼んだぞ』

 

「了解した!」

 

 全力で中央第一に向かいながら通信を切る。俺は戦っていなかったから大丈夫だったが、戦闘中にあんな攻撃が飛んで来たらまずいかもしれない。

 

 とにかく急いで向かわなければ……

 

 

 

「大丈夫か!?」

 

 急いで中央第一のメインルームに向かうと、そこではメッケンナとパンドラが玄い亀と戦っていた。

 

 しかし、二人は随分と疲弊しているにもかかわらず、玄い亀の傷はそれほでもない。エージェントの中でも上位に入る二人が戦っていて、いったいどういうことだろうか?

 

「ジョシュアさん!」

 

「ひぃぃ、ジョシュア先輩助けて下さい!」

 

「待ってろ!」

 

 玄い亀に踏みつぶされそうになっているパンドラを蹴り飛ばして助ける。すると彼女は変な声をあげて飛んで行った。

 

「ぐえっ」

 

「メッケンナ、いったいどうした?」

 

「わかりません、『O-04-i16』*7を鎮圧してあと一歩のところまで追い詰めたのに、さっきの風が吹いたら元気を取り戻したんです!」

 

「くそっ、厄介な!」

 

 もしかしたらさっきの攻撃はBダメージで、そのせいでこいつが回復したのかもしれない。

 

 こうなったら本当に時間がない。いつさっきのような攻撃が飛んでくるかわからない、急いで鎮圧しなければ……

 

「よし、メッケンナ、パンドラ、合わせろ!」

 

「はい!」

 

「ぐっ、わかりました……」

 

 パンドラが“魔王”を振って死の斬撃を飛ばし、それに合わせてメッケンナと俺が亀の懐に潜り込む。

 

 亀は斬撃を防ごうと体を動かして甲羅を盾にしようとする隙に、メッケンナが足元を“エンゲージリング”で切りつけて体勢を崩し、俺の“墓標”を首元に突き刺す。

 

「くっ、どうだ!?」

 

「ふっ」

 

 “墓標”による攻撃が首に突き刺さって、亀がもがき苦しむ。その間にパンドラが中距離から“魔王” で斬撃を飛ばし、メッケンナがほかの足を切り続ける。

で斬撃を飛ばし、メッケンナがほかの足を切り続ける。

 

 すると、玄い亀が甲羅に引っ込んで守りの体勢になる。くそっ、こんな時に厄介な……

 

「まずいです! ジョシュアさん、離れてください!」

 

「なにっ!?」

 

 メッケンナの声に反応して、亀から一気に距離をとる。すると亀は急に回転を始めて、俺のほうに突撃してきた。

 

「ぐっ、ううっ」

 

 距離をとったものの、俺のほうに大きな甲羅が迫ってきた。

 

 このままでは直撃すると思い、体勢を低くして“墓標”で亀を受け流すようにそらして直撃から逃れようと試みる。

 

「ぐおっ」

 

 結局俺がはじかれることになってしまったが、それでも勢いをだいぶ落とすことができたので体勢をすぐに立て直すことができた。

 

「よし、これで何とか……」

 

「次来ますよ!」

 

「なあっ!?」

 

 壁に突き刺さった亀が再び回転してこちらに向かって突撃してくる。

 

 次はなんとか回避できたが、これを何度もされたらさすがに持たない。

 

「ジョシュアさん、、これで動きが止まります!」

 

「わかった、畳みかける!」

 

 甲羅から体を出した玄い亀は、目が回っているのかふらふらしている。この機会を逃すわけにはいかない。

 

 俺とメッケンナで一気に接近して攻撃を加える。俺たちの攻撃とパンドラの斬撃が何度も玄い亀に直撃し、ついに玄い亀は倒れこんだ。

 

「ふぅ、少しの間お休み……」

 

「……」

 

 人型の姿に戻った玄い亀、『O-01-i43』*8は俺のほうに倒れこむと、俺を見て少し微笑むと、光となって消え去った。

 

『よくやった、これで中央第一と安全部門の鎮圧が完了した。残りは情報部門の本体だけだ』

 

「なっ、まだ本体が残っているのか!?」

 

『あぁ、だがこれで彼女の周囲に存在していた黒い風も消失している。おそらくダメージも通るはずだ』

 

「わかった、それじゃあ最終決戦と行くか。行くぞ二人とも!」

 

「わかりました!」

 

「えぇ~、面倒くさ……」

 

「おい」

 

「はい! 行きます!」

 

 二人と一緒に情報部門のメインルームに向かう。この戦いが終わるまでもう少しだ、最後まで気を抜かないように頑張らなくては。

 

 

「よし、ついたぞ!」

 

「ジョシュア!」

 

「シロ!」

 

 情報部門に向かうと、すでにシロやリッチ、マオ、ミラベルとサラがいた。彼女たちはすでに黄色い姫に攻撃を加えていた、俺たちもすぐに参加しなければ。

 

 その攻撃に対して、黄色い姫は何も反応することもなく受け入れていた。しかしダメージを受けていないというわけでもなく、その体はところどころがボロボロになっていた。

 

「感動の再開をする前に、こいつをさっさと鎮圧するぞ!」

 

「あぁ、わかった!」

 

 俺たちも一緒に黄色い姫に攻撃を加えていく。

 

 するとしばらくはおとなしくしていた黄色い姫が、急に動き始めた。

 

 胸の中央に手を合わせて、その手の間を開けるとその間に風が集まり始めた。

 

 その風は青白くなっていき、強力な死の気配を集めながら大きくなっていく。もしかしてこれは……

 

『まずい、その行動はさっきの施設全体に行き届いた攻撃の動作だ! 放たれる前にそいつを鎮圧してくれ!』

 

「くそっ、わかった!」

 

 風の色と気配からしてP属性の全体攻撃だ。このまま放たれると確実に危ない、さっきのB属性ですら恐ろしいダメージだったのだ、Pなんて何人耐えられるかわからない。

 

「ちょっ、なんかまずいですって!」

 

「いいから黙って攻撃しろ!」

 

 うるさい馬鹿を黙らせて攻撃を加え続ける。その間にも黄色い姫はどんどんと風を集めていく、だがその体は逆にどんどんとボロボロになっていっている。

 

 俺が“墓標”を突き刺しリッチが“超新星”で切りつける。

 

 メッケンナとマオが懐に入って“エンゲージリング”と“手”で連撃を加え、サラとミラベル、シロとパンドラが遠距離から攻撃を加えていく。

 

「くそっ、早くとまれぇぇぇぇ!!」

 

 風の塊が最大限まで高まろうとしているその瞬間、その胸の中心に“墓標”を突き立てる。

 

 すると、ついに風はまとまりを失い、霧散していった。

 

 そして姫は光に飲まれて徐々に崩れていった。

 

 

 

風が廻り 時が廻る

 

その流れの中で 命も廻り 紡がれる

 

命は儚く 力強く大地に満ちる

 

どれだけ時が流れても それが変わることはない

 

命は風に育まれ 時が癒し

 

その先に進んでいく

 

たとえその先に私たちがいけなくても

 

私たちはそれだけでよかった

 

 

 

あぁ ありがとう

 

これでようやく 眠ることができる

 

あの人のように奪うことしかできなかった私たちであったけれど

 

ほんの少しだけ 貴方たちにしてあげられることがあります

 

どうか 素晴らしきあなたたちの未来が

 

輝かしい未来でありますように

 

 

 

 この施設に風が吹く

 

 その風は先ほどまでの苛烈なものとは違い

 

 人々を癒す 優しい風であった

 

 そしてその風と共に美しき花弁が運ばれてきて

 

 俺たちの背に集まり美しい羽の形となる

 

 そして彼女がいたその場所には

 

 

 

 四つの四季色の刀を持つ両剣が突き刺さっていた

 

 

 

 

 

O-01-i44 『貴き初凪の季姫』 鎮圧完了

*1
『木枯らしの唄』

*2
『木枯らしの唄』

*3
『鋏殻』

*4
『老殻』

*5
『宿殻』

*6
『極楽への湯』

*7
『骨の華』

*8
『玄き北颪の冬姫』



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O-01-i44 管理情報

 『O-01-i44』は黄色い角が生え、黄色いうろこで肌の覆われた人型アブノーマリティーです。

 

 『O-01-i44』は施設内に『O-01-i40』*1、『O-01-i41』*2、『O-01-i42』*3、『O-01-i43』*4が存在する状態で『O-01-i40』の特殊能力が発動した場合に情報部門のメインルームに出現します。

 

 『O-01-i44』が出現すると同時に、安全部門に青き龍、コントロール部門に朱き鳥、教育部門に白き虎、中央第一に玄き亀がそれぞれのメインルームに出現します。

 

 『O-01-i44』はいずれ……

 

 

 

『貴き初凪の季姫』

 

危険度クラス ALEPH

 

ダメージタイプ P(4-9)

 

E-BOX数 44

 

作業結果範囲

 

良い ―――

 

普通 ―――

 

悪い ―――

 

 

 

◇管理情報

 

1、春にすべてが誕生し

 

2、夏がすべてを育み

 

3、秋は実りを与え

 

4、冬ですべてが奪われる

 

 

 

◇作業結果(作業好感度)

 

本能

1 低い

2 低い

3 低い

4 普通

5 普通

 

洞察

1 最低

2 最低

3 最低

4 低い

5 低い

 

愛着

1 低い

2 低い

3 普通

4 普通

5 普通

 

抑圧

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 0

 

R ???

 

W ???

 

B ???

 

P ???

 

 

 

◇ギフト

 

儺追風(左背)

 

ALL+8

 

 季節は廻り、風が吹く。その風がやむことはあるのだろうか?

 

 

 

◇E.G.O.

 

・儺追風(ダブルセイバー)

 

クラス ALEPH

 

ダメージタイプ ?(3-4)

 

攻撃速度 最速

 

射程距離 普通

 

*この装備を装着している職員が存在する場合、管理中に『O-01-i44』は出現しない。

 

*一度に攻撃が4回ヒットする。

 

*連続で攻撃を続ければ続けるほど攻撃速度が上昇する。

 

*作成不可、『O-01-i44』を鎮圧した際に一度だけ入手可能。

 

 青、朱、白、玄、それぞれの刃が背を預けるように二組ずつ並び西洋の大剣のような形をとり、その二組の刀が黄色い持ち手の部分でつながっているダブルセイバー。

 

 四季の風を纏い、世界を繋ぐ。

 

 

 

・儺追風

 

クラス ALEPH

 

R 0.4

 

W 0.4

 

B 0.4

 

P 0.4

 

*この装備を装着している職員が存在する場合、管理中に『O-01-i44』は出現しない。

 

*同じ区画に敵対的対象が存在する場合、装着している職員のHP・MPが回復する。『O-01-i40』、『O-01-i41』、『O-01-i42』、『O-01-i43』、『O-01-i44』、のギフトをすべて装着していると、対象が施設全域に拡大する。

 

*作成不可、『O-01-i44』を鎮圧した際に一度だけ入手可能。

 

 四季折々の美しき花弁がちりばめられた着物型のE.G.O.。着ていると常に快適な温度になる。

 

 

 

◇戦闘スペック

 

HP 10,000

 

移動速度 ―――

 

行動基準 ―――

 

 

 

第一段階

 

R -2.0 免疫

 

W -2.0 免疫

 

B -2.0 免疫

 

P -2.0 免疫

 

 

 

第二段階

 

R 0.0 免疫

 

W 0.0 免疫

 

B 0.0 免疫

 

P 0.0 免疫

 

 

 

第三段階

 

R 0.5 耐性

 

W 0.5 耐性

 

B 0.5 耐性

 

P 0.5 耐性

 

 

 

第四段階

 

R 1.0 普通

 

W 1.0 普通

 

B 1.0 普通

 

P 1.0 普通

 

 

 

*四季姫を一体討伐するごとに段階が変化

 

 

 

・青春 P(44) 射程 施設全域

 

 春の陽気のような死の風で施設全体を包み込む。

 

・朱夏 R(44) 射程 施設全域

 

 夏の日差しのような熱風を施設全域に解き放つ。

 

・白秋 W(44) 射程 施設全域

 

 秋の初嵐のような激しい風に施設全域がさらされる。

 

・玄冬 B(44) 射程 施設全域

 

 冬の木枯らしのような冷たい風が施設全域に吹き荒れる。

 

 

 

『青龍』

 

HP 1000

 

移動速度 普通

 

行動基準 職員のみ

 

R 1.0 普通

 

W 1.0 普通

 

B 1.0 普通

 

P -2.0 免疫

 

 

 

*施設内に存在する限り、常に『O-01-i44』が毎ターン1000ずつ回復し続ける。

 

 

 

・東風 P(4-6) 射程 近距離

 

 前面を噛み付きで攻撃する。

 

・春うらら P(44) 射程 前方 貫通

 

 前方に青白い光線を発生させる。壁を貫通する。

 

 

 

『朱雀』

 

HP 1000

 

移動速度 やや早い

 

行動基準 職員のみ

 

R -2.0 免疫

 

W 1.0 普通

 

B 1.0 普通

 

P 1.0 普通

 

 

 

*施設内に存在する限り、1ターン毎にクリフォト暴走を引き起こす。

 

 

 

・南薫 R(10-14) 長距離

 

 前方に熱風とともに自らの羽を飛ばす、遠距離攻撃。

 

・涼風 R(44) 長距離 周囲

 

 火球で攻撃した周辺に爆風による攻撃を与える。

 

 

 

『白虎』

 

HP 1000

 

移動速度 やや早い

 

行動基準 職員のみ

 

 

 

R 1.0 普通

 

W -2.0 免疫

 

B 1.0 普通

 

P 1.0 普通

 

 

 

*施設内に存在する限り、1ターン毎に収容しているアブノーマリティーが脱走する。

 

 

 

・大西 W(10-14) 射程 近距離

 

 前方に前足による切り裂き攻撃を行う。

 

 

 

・野分 W(44) 射程 超近距離

 

 前方にかみ砕く攻撃を行う。

 

 

 

『玄武』

 

HP 1000

 

移動速度 やや早い

 

行動基準 職員のみ

 

 

 

R 1.0 普通

 

W 1.0 普通

 

B -2.0 免疫

 

P 1.0 普通

 

 

 

*施設内に存在する限り、『O-01-i44』の周囲にいる職員は常にHPとMPが減少する。

 

 

 

・北颪 B(10-14) 射程 普通

 

 前方に体当たり攻撃を行う。

 

・鎌鼬 B(44) 射程 前方 突撃

 

 甲羅にこもって前方に回転突進攻撃。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 疲れたー!!

 

 まさか『O-01-i44』の話をここまで長々とやることになるとは思いませんでした。

 

 久しぶりの更新でこうなってしまって、申し訳ありません。

 

 本来はもっと短く前後編くらいに収めたかったんですけど、なかなか話がうまくまとまらず、前中後編、4話編成とどんどん長くなってしまいました。やっぱり期間が開くと大変ですね。

 

 今回の読み方は、『とうときはつなぎのすえひめ』です。

 

 今回のこの四季姫ですが、読者の皆さんの予想通り、元ネタは四神となっています。

 

 実は四季姫たちの名前の法則なのですが、それぞれ五行に対応する『季節』、『色』、『方角』、『風の季語』、そして『人生』が入っています。

 

 『季節』、『色』、『方角』はわかりやすかったと思いますが、『風の季語』と『人生』はわかりにくかったと思います。というか『人生』に関しては『季節』と『色』と一緒ですしね。

 

 ちなみに『青き東風の春姫』ならば『青き(色)』、『東(方角)』、『東風(風の季語)』、『春(季節)』、『青春(人生)』となっています。

 

 ただ、『白き大西の秋姫』だけは季語が2文字にならなかったので、妥協して『大西風』を縮めて『大西』にしました。読み方は一緒なので別にいいよね?

 

 また、『貴き初凪の季姫』は五行的には『土用』の季節に当たるのですが、当てはまる季語がなかったので一年の始まりの季語を当てはめています。

 

 『人生』は人の一生を五行に当てはめた考え方で、それぞれ今回の話の副題にある『青春』、『朱夏』、『白秋』、『玄冬』の四つに分かれています。

 

 本来なら『朱夏』の時点で25歳以上なのでもっと年齢が上で、『玄冬』なんて75歳以上なんでおばあちゃんにする予定だったんです。

 

 ですがそれで作っている途中で「……あれ、おばあちゃんなのに『姫』?」ってなったので、年齢を大幅に引き下げました。

 

 しかし、それだけだとなんか違うなって思ったので、上に行けば行くほど人外度が増すようにしました。

 

 このアブノーマリティーたちは名前全振りで考えたやつだったりします。なので最初は管理方法なんかも考えていなかったのですが、女の子が多くなってきたのでロボトミー恒例の「かわいいけど管理が面倒くさい」枠として作りました。結果極悪になった気がしますが、気のせいですね。

 

 しかし彼女たちは書いているうちに随分と愛着がわきました、やっぱりかわいいは正義なんですね。

 

 ついでに四季ということでいろんなところに“4”に関係するようにしていたのですが、まさか『O-01-i44』の最終話が“140話”になるとは思いもしませんでした。偶然ってすごいな。

 

 あと、こいつらは最短で上層で全員集まってしまうのですが、『O-01-i44』は中層以降にしか出現しません。悪しからず。

 

 

 

 さて、それでは期間がだいぶ空いてしまいましたが、ついにアンケートの結果が出ました!

 

 一位は圧倒的に『これまでのような感じで幻想体変えて二週目』でした!

 

 まさかここまで圧倒的とは思いませんでした。正直他のほうが多いと思っていたので、それほどストーリーも楽しんでいただけていると思うと、うれしかったです(小並感)

 

 『アンケートで次回の幻想体を決める』とか面白いと思ったのですが、まぁやるとしたら毎回時間がかかると思うので、仕方ないですよね。

 

 本当は『安価スレをやる』とかも考えていたのですが、さすがにサイト外でやるのもどうかと思ったので止めました。やるとしたらこれとは無関係でやります。

 

 ちなみに今回の一位は、三つのアンケートの中で一番のあたりだったりします。理由は後日にお伝えします。

 

 さて、ずいぶんと長くなってしまいましたが、これで四季姫編も終わりです。

 

 正直三鳥枠ってバレバレでしたが、皆さん集まるまでの過程を楽しんでいただけたようなので良かったです。

 

 これで残るALEPHは追加分だけですね。

 

 元々の分を早々に集められてしまったので、追加分は憎しみを込めてクッソ面倒にしています。もともとDLC追加枠が『黒の兵隊』と『溶ける愛』という糞ばっかなので、ある意味原作再現です。ついでに今までなかった感じの管理方法だったりします。いつか出てきた時を楽しみにしていてください。

 

*1
『青き東風の春姫』

*2
『朱き南薫の夏姫』

*3
『白き大西の秋姫』

*4
『玄き北颪の冬姫』




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記録部門 セフィラコア抑制『すでに対価は支払われましたがね』

『すでに対価は支払われましたがね』

 

「うん? 今何か……」

 

「えっ、そうですかぁ? それよりも見てくださいよぉ、この素晴らしい翼ぁ! それにALEPHクラスのE.G.O.! ついに私もぉ、上位のエージェントにぃ……」

 

『まずい、たった今ミラベルが突然パニックを発症した! W装備の職員は至急対処に向かってくれ!』

 

 恍惚としたサラが背中のギフトと手に持っている“簒奪”を見せびらかしにきた。正直ギフトは俺も持っているのだが、どうやら自慢したいだけらしい。

 

 今日は記録部門のセフィラコア抑制であるが、俺たちに関係するのは正直施設全域のクリフォト暴走くらいだと思っていたら、突然最悪の放送が流れてきた。何やってるんだ管理人……

 

「えぇっ、うそぉ!?」

 

 その放送にサラが驚いている。まぁこいつが今持っているE.G.O.はW属性だからな、頑張ってくれ。

 

「ほら仕事だ、ミラベルが待って居るぞ」

 

「うぅぅ、わかりましたよぉ」

 

 もっと話したいことがあったようだが、彼女は渋々走って行った。なんか器用だな……

 

「さて、俺はさっさと作業を進めるかな」

 

 どうせ今日は暴走段階を最終まで進めなければならない。それならさっさと作業を行って一日を終わらせてしまおう。

 

 

 

「いやー、ようやく『O-01-i43』*1の特殊能力が終わりましたね」

 

「あぁ…… だけど、なんか早くなかったか?」

 

「えっ、そういえばそうですね」

 

 メッケンナに質問するが、反応は鈍かった。

 

 クリフォト暴走も終盤になってきて、『O-01-i43』によって玄い亀が出現したため懲戒部門から退避していたのだが、予想よりも随分早く引っ込んだ。いつもは倍の時間は居座っているはずなのだが……

 

 まさか?

 

「もしかしたら、俺たちの時間感覚が狂っている…… いや、時の流れが速くなっているのか?」

 

「えっ、確かに違和感はありますが……」

 

「戦闘の時はどうだった?」

 

「うーん、今日の試練は灰燼や苺ばっかりで動きが無かったですもんね……」

 

「もしもそうならまずくないか?」

 

「確かに深夜がまずそうですね、でもそれ以外は『O-01-i43』たちがすぐ帰ってくれるんなら……」

 

「まぁ、確かにそうだな」

 

「それよりも次の作業に行きましょうよ」

 

「あぁ……」

 

 なにか忘れているような引っかかりを感じながら次の作業に向かう。次の作業は『O-04-i16』*2だ、懲戒部門からはさほど遠くないからまだ楽だな。

 

「それにしても今日の異常はまだましですね」

 

「いや、結構やっかいだと思うんだが……」

 

 ゲームでの経験から、思わずそう言ってしまう。ゲームならエージェントは管理人の指示が無いとほとんど何も出来なかったが、ここに居る俺たちは自分の判断で動くことが出来る。だから一時停止の重要性がゲームよりも低いのかもしれない。それでもクリフォト暴走の場所とかは伝えてもらわないと困るのだがな。

 

「あっ、そういえば……!?」

 

「何か来るな」

 

 中央第一のメインルームにたどり着くと、何か異常を感じて武器を構える。メッケンナも会話を中断して武器を構え、情報部門へと続く扉をみる。

 

 緊張の時間が続くが、何も無いかとメッケンナが警戒心を一段下げようとした瞬間、その扉から何かが飛び出してきた。

 

「ジョシュアさん!」

 

「あぁ!!」

 

 メインルームに侵入してきたのは、黄金の液体の塊だった。黄金の液体の塊が不完全な球体の形を取り、ぐちゃぐちゃと音を立てながらこちらに向かってくる。

 

 それは『T-09-i96』*3から出現する敵対存在だった。

 

「全く、今日の『T-09-i96』係は何をしてるんでしょうね?」

 

「……なぁメッケンナ、今日の係の奴は誰だったっけ?」

 

「えっ? 今日は新しく入った子だったと思いますけど……」

 

「なるほど、もしかしたらやばいことになってしまったかもしれないな」

 

「それって、どういう……」

 

 呆れたように頭を抱えるメッケンナに、思わず質問する。先ほど頭に引っかかっていた物の正体がようやくわかった。

 

 その時、扉からさらに黄金の塊が飛び出してきた。その数は5体、ここまで来ている数と考えると全体ではもっと多いはずだ。

 

「どうやら『T-09-i96』の時間も早くなっていたみたいだな」

 

「それじゃあ係の子は……」

 

 おそらくその子は、もう生きては居ないだろう。いくらある程度戦えるようになってからやってくるとは言っても、何体もの『T-09-i96-1』相手には手も足も出なかっただろう。それに一度放っておけばこいつらはどんどん増えていく、早急に鎮圧を終えなければ。

 

「メッケンナ、『T-09-i96-1』を鎮圧しながら『T-09-i96』の収容室まで突っ切るぞ!」

 

「わかりました!」

 

 まず早急にこの部屋の『T-09-i96-1』たちを一掃して収容室へと向かう。こいつらはWAWクラスではあるものの、その中でも下位に属している。正直に言ってALEPHクラスのE.G.O.を装備し、その中でも上位に入ってくる俺たちにとってはさほど難しい敵では無かった。

 

 しかし、数が多いのはやっかいだ。いちいち相手をしていてはどんどん増えていくことから、邪魔な奴だけを潰して先に進むことを優先した。

 

 さすがに数が多いので少し時間はかかったが、なんとか『T-09-i96』の収容室までたどり着いて臨時の係をメッケンナに変わってもらう事に成功した。そして代わりが来るまでの間、俺は周囲にいる『T-09-i96-1』を鎮圧するために動き回ることとなった。

 

 

 

「さて、もう終わりだな」

 

「大変でしたね……」

 

 なんとか灰燼の深夜も鎮圧することに成功し、残るところはクリフォト暴走段階だけとなった。危なく灰燼の深夜に施設全域を埋め尽くされそうになったが、なんとかぎりぎりのところで間に合った。

 

「あっ、純化が……」

 

 そうこうしているうちに、最後の作業が始まり純化も始まった。俺たちは少し駆け足気味に、この施設を後にする。

 

 どうか次のコア抑制も、被害が最小限に抑えられますように……

 

*1
『玄き北颪の冬姫』

*2
『骨の華』

*3
『黄金の蜂蜜酒』



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抽出部門 セフィラコア抑制『今度は彼女の助けを借りずに私を止めてみろ』

 今回は随分と本気で挑んだ。

 

 事前に『T-09-i96』*1と『T-09-i91』*2による強化を全員に施している。

 

 さらにマオは『T-09-i86』*3を、リッチは『T-09-i94』*4を装備しているし、俺は最初から『T-09-i87』*5を装備している。

 

 だが、それほどやっているにもかかわらず、目の前の怪物に対しては、それでもまだ不足であると感じるほどであった。

 

「ふむ、昔の感覚が戻ってくる」

 

 それは金色の文字の入った黒い外套を纏い、同じく金色の文字の入った黒い仮面をかぶった、女性の姿をした怪物だ。

 

 抽出部門のセフィラにして、かつて『調律者』であった女性。彼女はその能力を惜しげも無く披露して、俺たちを追い詰めていた。

 

 特殊な暴走を引き起こし、それに対処しなければまともに攻撃が通らない。場合によっては成功率も下がるし、暴走を抑制できなければ通常の場合と同じペナルティを受けることになる。さらに収容室の前を通れば通常のクリフォト暴走も引き起こす始末だ。

 

「くそっ、化け物め!」

 

「黙れ」

 

 また、彼女自身の戦闘能力も非常に高い。『頭』の実働部隊である『爪』の一員であり、調律者と呼ばれていたのだ。その能力は非常に強力で厄介だ。

 

 罵声を浴びせるマオに対して手を伸ばすと、彼の足下に黒いもやが集まってきた。

 

 いや、そこだけで無く俺の足下や、ここには居ない他の職員の足下にも現れているはずだ。それは作業中の職員ですら対象で、もしも収容室で作業中に狙われたら逃れることが出来ない。

 

 さらにこの攻撃の後、先ほど述べた特殊暴走が発生するのだ。

 

 つまり、彼女、ビナーとの戦いは、戦闘と作業を同時に行う文字通り総力戦となるのだ。

 

「くそっ!!」

 

「マオ、大丈夫か!!」

 

「てめぇも大丈夫かジョシュア!」

 

 マオがとっさによけるも少しかすってしまう、そういう俺も完璧に避けられたわけでは無くかすり傷を負っている。『T-09-i87』を使用している関係から傷を負わなければならないため、このかすり傷は逆に幸運であった。

 

「さて、今度は彼女の力を借りずに私を止めてみろ、管理人」

 

「……いや、今回は君が居るんだったな」

 

 先ほどの一撃を終えて、余裕を持ってこちらに振り返る。どうやら俺のことを言っているらしい。

 

「さぁジョシュア、一緒に楽しもうじゃ無いか」

 

「ふざけるな、嫌だね」

 

 ビナーがこちらに手を向けると、今度はその手が光り始めた。俺の記憶が正しければ、この動作はまずかったはずだ。

 

「くそっ!」

 

 攻撃の射程圏内から逃れるために必死に横に飛び退く、するとさっきまで俺がたっていったところを見えない何かが切り裂いた。

 

「ほう」

 

「くそっ、全員油断するなよ!」

 

「了解!」

 

 今度は前方に石柱を出現させるビナーの射線上から逃れつつ、接近して攻撃を加える。しかし特殊暴走のせいで耐性が上がっているのか堅く、まる手応えがなかった。

 

「なんだこいつ、堅い!」

 

「暴走をなんとかすれば攻撃も通るようになる、他の奴らを信じて時間を稼げ!」

 

「……ふむ」

 

 現在戦闘に参加しているのは俺とリッチ、シロとメッケンナ、そしてマオだ。現状の最高戦力でこいつと戦い、他の奴らで作業を行っていく。

 

 本来ならパンドラも戦闘に参加して欲しかったが、彼女はこの施設で一番自制が高い。戦闘よりも確実に作業に成功できるように向こうに行ってもらっている。特に福祉は魔境なので、彼女にいてもらわなければ結構辛い。

 

「どういうことだ?」

 

「足止めするぞ!」

 

 何か考え込むような仕草をするビナーに、全力で攻撃をたたき込む。

 

 いくら耐性が高いからといってこちらの攻撃が効かない訳では無い。特に今回は強力な武器が存在している、例え0.1倍であろうとそこそこのダメージが入るはずだ。

 

 石柱を飛ばすビナーにリッチが“超新星”を振り下ろし、マオが懐に入って“手”で攻撃を加える。

 

 リッチを危険と判断したのか、ビナーがリッチに手を向ける。そこでメッケンナが向けられた手に“エンゲージリング”をたたき込み、シロが顔面に“調律”を放つ。

 

「むっ、これは……」

 

「よし、今だ!」

 

 攻撃をしようとしていたビナーの動きが突然止まる。おそらく他の奴らが成功したのだろう、この好機を逃す手は無い。

 

 俺は手に持つ“儺追風”を回し、自身も回転するように回りながらビナーを切りつける。この武器は回転が速ければ速いほど強く、激しくなる。刀身に風が纏わり付き、鋭い刃となってビナーの体を切り裂く。

 

「くっ」

 

 “儺追風”の攻撃でビナーがうめき声を上げる。先ほどと違って確かな手応えを感じる、おそらくは特殊暴走の抑制に成功したようだ。この瞬間に全力で攻撃をたたき込む。

 

「おらぁぁぁ!!」

 

「くらえぇぇぇ!!」

 

 回転を強めながらビナーを切り裂いていく。リッチが“超新星”を振り下ろし、シロが“調律”をたたき込む。

 

「この体は制約が多すぎるな」

 

 ビナーが再び立ち上がると、彼女の足下から黒い波が発生した。それは生き物のように大きな口を開いてこちらに向かって進んでくる。これは避けるのが大変だった覚えがあるな。

 

「くそっ」

 

 迫り来る波に攻撃を加えてみる物の、予想通り手応えは無くかき消すことも出来なかった。そのまま波は“儺追風”をすり抜けて俺を飲み込み、存分に苦痛を与えてから俺の後ろへと通り過ぎていった。

 

「ぐっ、面倒くさい攻撃だな」

 

「ジョシュア、大丈夫?」

 

「あぁ、大丈夫だ。それよりも援護を頼む」

 

「うん、わかった」

 

 シロが“調律”を構えて攻撃を加える。その間に再び接近して攻撃を加えていく。

 

 その間に俺も再び回転をして勢いをつけていく。これ、意外と楽しいぞ。

 

「それにしても、未熟者ばかりだな……」

 

「うるせぇ、てめぇと比べてるんじゃねぇぞ!」

 

「全く……」

 

『記録部門にて『T-04-i57』*6が脱走しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

 再び懐に入ってビナーに張り付きながらボディーブローをたたき込むマオに対して手を向ける。するとその手に再び光が集まり出した。

 

「ぐっ、くそ……」

 

 マオはなんとか逃れようと飛び退くが、ビナーに近づきすぎたせいで射程圏内から逃れられそうに無い。俺もなんとか“儺追風”でビナーの腕を弾いてそらそうとするが、間に合いそうも無い。

 

 このままではだめかと思ったその瞬間、どこからともなく飛んできた斬撃が彼女の腕を弾いてなんとか軌道がそれた。

 

「なっ、パンドラ!」

 

「わりぃ、助かった!」

 

 斬撃の飛んできた方向を見ると、そこにはここに居るはずの無いパンドラが居た。彼女はすでに“すごいパワー”状態で“魔王”から斬撃を飛ばして、ビナーからマオを救ってくれたのだ。

 

 しかし、なぜか肩に『T-o2-i03』*7を乗っけていた。

 

「ちょっとこっちに寄った帰り道で大変そうだったので助太刀に来ました!」

 

「助かった!」

 

「……何の冗談だ?」

 

 ビナーはパンドラに向けて手をかざすと、石柱を出現させた。

 

 パンドラは横に避けながら斬撃を飛ばして応戦する。その間にマオはその場から抜け出して体勢を整え、シロが援護射撃をする。

 

「消えろ」

 

「うわっ、気持ちワル!!」

 

 今度は足下から黒い波が周囲に押し寄せる。パンドラはそれを見るなり全力で回避行動を取り始めた、その甲斐あってかなんとか攻撃を受けずにすんだようだ。

 

「こっちも攻撃を仕掛けるぞ!」

 

「了解!」

 

 こちらも黒い波をやり過ごして、攻撃を加えていく。そうしている内に、ビナーの動きが止まった。再び攻撃を加えていくチャンスだ。

 

「くらえぇ!」

 

「おぉらぁぁぁ!!」

 

 再び回転しながら攻撃を加えていく。腐っても全属性の攻撃だ、“超新星”での攻撃もあり火力は申し分ない。どうにか今のうちに削りきっておきたい。

 

「よし、今のうちにぶっつぶしましょう!」

 

 先ほどまで逃げ回っていたパンドラも攻撃に加わり、攻撃が激化する。

 

 すると、ビナーが立ち上がってこちらに顔を向けた。

 

「気がついているのか?」

 

「……何をだ?」

 

「ふふふっ」

 

「一体何だよ?」

 

「いやなに、結局何一つ気がついていないとは、あまりにも滑稽だ」

 

「相変わらず意味のわからない……」

 

 俺の言葉を遮るように、ビナーはこちらに手を向ける。すると八本の石柱が放射線状に出現し、それぞれの石柱が輝き始める。

 

「くそっ、全員射線上から離れろ!」

 

 全員が石柱から距離を取って射線上から逃れる。その分ビナーから距離が離れて攻撃が出来なくなってしまうが、この状態ではダメージを与えられないのでどのみち同じだ。

 

「パンドラ、お前は作業に戻れ」

 

「いや、でも私も戦った方が……」

 

「ここからは作業のほうが重要になるし、お前は肩に乗っている奴をどうにかしないといけないだろう?」

 

「そっ、それはそうですけど……」

 

 そういって、俺が肩に乗っている大きめのアリを指さすと、彼女は渋々従った。さすがのパンドラでも死にたくは無いだろう。

 

「それじゃあ行ってきます!」

 

「頼んだぞ」

 

 パンドラを見送って、再びビナーに向かい直す。

 

 シロが“調律”で攻撃を行っているが、やはりダメージが通っている様子は無い。

 

「……だめ、やっぱり効いてない」

 

「おそらくあの状態だと攻撃が効かないな、他の奴らが特殊暴走を止めてくれるのを待つしか無いな」

 

 しばらく遠くから成り行きを見守る。こういうときに何も出来ないのはなんとも歯がゆいものである。しかし、しばらくするとついにビナーが動き出した。

 

 石柱が発射され、施設全域に飛び回っていく。そしてビナーが再び歩き始め、行動を再開する。

 

『中央第二で、『T-06-i30』*8が脱走しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

『福祉部門で、『T-05-i11』*9が脱走しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

『教育部門で、『O-02-i24』*10が脱走しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

『中央第一で『O-04-i16』*11が脱走しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

「くそっ、こんな時に!!」

 

 おそらく特殊暴走の抑制に失敗したのだろう。その結果かなりまずい状況に陥ってしまった。

 

 低ステータス殺しの『T-06-i30』と、女性に対して殺意の高い『T-05-i11』が同時に脱走してしまった。

 

 ついでに残りの二体は連鎖脱走だろう。かなりまずい状況だ。

 

「くそっこうなったら速攻で潰すぞ!」

 

「了解!」

 

 こうなったらゴリ押すしかない。これ以上長引けば何が脱走するかわかったもんじゃ無い、これ以上被害が拡大する前に全てを終わらせよう!

 

「くそっ、さっさと斃れろ!」

 

「ちっぽけなお前では止めることは出来ないさ」

 

 回転数を上げながら攻撃を加えていく。この状態でも少しでも多くのダメージを与えなければ、次のチャンスで全てを終わらせよう。

 

「素晴らしい」

 

 再び手を伸ばし、石柱が現れる。この攻撃を食らえばひとたまりも無い、だがここで引いても勝てるかわからない。ならばここで全力を出すしか無い。

 

 ダメージが入らないとわかっていても回転数を上げながら攻撃を加えていく。仲間を信じて抑制できると考えて行動する。無敵が解除出来た場合は、この回転数のまま攻撃が出来る。

 

「ぐっ」

 

 そこで、ついにビナーの動きが止まり、石柱が消えた。

 

 そしてその瞬間に戦闘要員がビナーに殺到し、攻撃を加える。“儺追風”が、“手”が、“エンゲージリング”が、“調律”が、“超新星”が、ビナーの体を裂き、切りつけ、突き刺す。

 

 そして、ついにその時は訪れる。

 

 ビナーの膝が落ち、地に伏せる。

 

「これだけ出来るのなら、見守る価値はありそうだな」

 

 最後の彼女の発言は、期待しているようにも、嘲笑っているようにも感じられた。

 

*1
『黄金の蜂蜜酒』

*2
『七色の瓶』

*3
『破魔の札』

*4
『父からの手紙』

*5
『搾取の歯車』

*6
『蠱毒の災禍』

*7
『秘密基地の冒険隊』

*8
『常夜への誘い』

*9
『盲目の愛』

*10
『鋏殻』

*11
『骨の華』



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設計部門
何の変哲もない一幕


自己解釈多めです。


「さて、ようやくこの時が来ましたね」

 

「いきなりどうしたんだ、アンジェラ?」

 

 いつものようにジョシュアとの語らいを終え管理人室へと入ると、いつものようにそこで待っていたアンジェラが私に声をかけてきた。

 

 彼女はこの施設を管理するAIであり、機械らしい言動の中に、どことなく人間のような何かが見え隠れしている。なんというか、不思議な存在だ。

 

 彼女が何であるかを知り、自分が何者であるかも知ったが、いまだにわからないことがある。私は彼女について、いまだにわかっていない。

 

「この長き物語も、ようやく終わりに向かおうとしています」

 

「そう、なのか。やはり実感がよく湧かないな」

 

「そうですね、いまだにあなたは、バラバラのパズルでしかありません」

 

「……」

 

 自分が■であるということ、そのことについてもいまだに疑問が残る。今までの自分は、すべてが繰り返しの偽物でしかなかったのだろうか?

 

 ジョシュアとの語らいも、日々懸命に生きていく職員たちの姿も、パンドラのやらかしに笑う皆も。

 

 こうしてアンジェラと言葉を交わしている今も、すべてが……

 

「何か考え事でも?」

 

「いや、私は今までもああやってジョシュアたちと語らっていたのだろうかと」

 

「……」

 

 その言葉に、アンジェラは何も答えなかった。

 

 そして、その時になってようやく口に出してはいけないことであったと思い出した。

 

「何を慌てているのですか? もしかして、私が気が付いていないとでも?」

 

「えっ、いや…… 気が付いていたのか?」

 

「もちろんです」

 

 そういえば、この施設について一番よく知っているのは彼女であった。施設の中では、彼女に隠し事なんてできないのだろう。

 

「そうか、そうだよな……」

 

 自分でもおかしいと思えるくらいの見落とし、なんというか私らしくない。

 

 そこで、何となくこちらをあきれた目で見ているような気がするアンジェラが、再び口を開く。

 

「本来ならここで、この施設には彼らの手が回るはずでした」

 

「しかし、そうはならなかった」

 

 唐突に彼女は、わけのわからないことを言い始めた。

 

 確かに今までも、彼女はなんというか迂遠な言い回しをよくしていたが、ここまで唐突で脈絡のないことがあっただろうか?

 

「何の話だ?」

 

「様々な異物とめぐりあわせと、天文学的な確率によって、この施設(セカイ)は本来の道筋からそれてしまいました」

 

「その結果、世界は歪み、すべてが狂ってしまった」

 

「そして我々が地の底から飛び立たんとする前に、世界が正しくあらんと動き始めました」

 

「いや、彼ら(・・)が自分の居場所を取り戻そうとしている…… とでもいうべきでしょうか?」

 

「いや、待ってくれ。いったい何の話をしているんだ、アンジェラ?」

 

 彼女はいつものように無表情に、しかしどことなく嬉しそうに語り続ける。

 

「本来なら振るわれる爪も、自ら手を下すまでもないと判断されたのか引っ込められました」

 

「あなたは、これから更なる試練に見舞われることでしょう」

 

「私は、これからあなたがどんな苦難に藻掻くのか、楽しみでなりません」

 

「アンジェラ……」

 

「失礼、久しぶりの大きな変化に、少し高揚してしまったようです」

 

 少し間を置くと、彼女はいつもの調子で語り始める。そこに少し安心し、どことなく不安も感じる。

 

「さて、バラバラなあなたを繋ぐ、最後の欠片を集めましょう」

 

「あなたを待つ、最後のセフィラがお待ちです」

 

 彼女は微笑む、得体のしれない何かのように。

 

 

 

「さて、言いたいことは数多くありますが、この一言だけは伝えましょう」

 

「どうか今度こそ、成功するといいですね」

 



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Days-46-1 O-04-i17『咀嚼音だけが聞こえてきた』

 ついに最後の週がやってきた。

 

 ここからは一日一日が非常に危険になってくる、しかしその先に物語の終焉が待っている。

 

「さて、それじゃあそろそろ作業に行くか」

 

「えぇ~、もう行っちゃうんですかぁ~」

 

「だまれ、自分の翼でモフッてろ」

 

「そんなぁ~」

 

 いつまでも俺の翼を撫でているサラを無理やり引き剥がし、今日新しく収容されたアブノーマリティーのところへ行く。

 

 今日追加されたアブノーマリティーは2体だ。『O-04-i17』と『O-05-i47』だ。どちらもオリジナルだな。

 

 最近いろいろなことがあったせいか、ずいぶん懐かしく感じる。今まで厄介なやつばかりが来ていたんだ、最後のほうはまだましなやつが残っていると思いたい。

 

 

 

「さて、ようやくついたな」

 

 誰もいない設計部門の長い廊下を抜けて、ついに『O-04-i17』の収容室の目の前に到着する。

 

 この部門特有の異様な雰囲気に飲まれそうになりながらも、何とか意識を切り替える。

 

 そして収容室の扉に手をかけ、お祈りをする。何となくいつもより長めにお祈りをしてから、扉を開く。

 

 収容室からは、不快なにおいと音が漏れてきた。

 

 

 

「うわっ、何だこいつ」

 

 収容室の中には巨大な肉塊が存在していた。

 

 それはいくつにも引き裂かれた肉を無理やり固めて球状にしており、筋繊維のようなものを周囲に張り巡らせ繭のように宙づりにされている。

 

 肉塊は脈動し、時折蠢いては不快な咀嚼音を響かせる。その肉塊から発せられる不快なにおいは、おそらくは排泄物と肉の腐敗臭だろう。

 

 しかし、口や排泄口に当たる器官はどこにも見当たらず、ただただ蠢いているのみであった。

 

「なんというか不気味だな、さっさと作業を終わらせてしまおう」

 

 とは言ったものの、いったいどんな作業が適しているのかあまり予想が付かない。

 

 なんとなく本能作業がいい気もするが、口もなければ出すところもない。それなら洞察作業はというと何とも言えないし、愛着作業なんてもってのほかだろう。

 

「となると、抑圧作業か……」

 

 そうと決まるや否や、目の前の肉塊の欲求を抑圧する。

 

 時折聞こえる咀嚼音がすれば叩いて抑圧し、稀に周囲の筋線維から逃れようとすれば殴って黙らせる。

 

 どこまでやっていいかを見極めながら作業を続け、ようやく作業終了の時間となった。

 

「はぁ、ようやく終わりか」

 

 作業終了と同時に、目の前の肉塊は再び咀嚼音を響かせる。どこにも存在しない口、それに音が聞こえるほうからしてあれはおそらく……

 

「いや、やめよう」

 

 なんだか考えていたら気分が悪くなってきた。

 

 今日は肉は食えないな。魚を食おう。

 

 

 

「あっ、ジョシュア先輩、今終わりですか?」

 

「あぁ、作業は終わったけど、どうやら新しい仕事ができたみたいだな」

 

「えっ、ちょっと待ってくださいよ。私まだ何もしてないですよ!」

 

 収容室から退出すると、そこでばったりパンドラと出くわした。今日彼女はこっちに用はないはずなので、何かやらかして隠れに来たのかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。

 

「それで、いったいなんでここに来たんだ?」

 

「いやぁ、こんなところ初めて見るんでちょっと気になって……」

 

「って、そうじゃなくって、ジョシュア先輩に用事があったんですよ」

 

「俺に?」

 

 パンドラから用事だなんて珍しい、もしかしたら以前『O-02-i24』*1をつまみ食いしたことがばれたのだろうか?

 

「はい、実は余ったお肉をミンチにしてハンバーグを作ってみたんですよ。よかったらどうですか?」

 

 彼女が差し出してきたのは、よりにもよって今一番食べたくなかったものであった。肉で、あの音を連想させるミンチはどうにも気分が乗らない。

 

 以前彼女が作ったステーキも結局食べなかったし、申し訳ない気分もあるが断ろう。

 

「すまない、実は健康のため野菜中心の食事にしているんだ。よかったらまた今度にしてくれ」

 

「そうですか、それなら仕方がないですね。ちょっともったいないけど」

 

 それにしても、こいつは意外と料理をするな。今まで食べたことはないが、見た目だけならうまそうなんだよな。

 

「おいおい、もしかして捨てるのか? それなら自分で喰うなりほかのやつにあげるなりすればいいじゃないか」

 

「いやぁ、私は味見でさんざん食べましたし、ほかの人たちは私が作ったって時点で近づこうともしないので……」

 

「まぁ、普段の行動を考えれば当たり前だな」

 

 こいつが毎回やらかしているのは周知の事実だ。新人であっても初出勤から一時間でこいつがやばい奴だって理解できる。

 

「ジョシュア先輩はこのあと食事ですか?」

 

「いや、少し休憩してから次のアブノーマリティーのところに向かうつもりだ」

 

「そうですか、それじゃあお邪魔みたいなので私は失礼します」

 

「おう、誰にも迷惑かけるなよ」

 

「……」

 

「おい、返事をしろよ!」

 

 そんなパンドラを捕まえようとしたが、一瞬で逃げられてしまった。まったく、逃げ足だけは早い奴だ。

 

「まったく、しょうがない奴だ」

 

 とりあえず何か起こったらリッチあたりが何とかしてくれるだろう。しかしあいつはなんだかんだでパンドラに甘いからな、メッケンナのほうが頼りになるかもしれない。

 

「……」

 

 なんとなく、先ほどまでいた収容室のほうを見る。

 

 なぜかはわからないが、いまだにあの咀嚼音が、耳に残っていた。

 

 

 

 

 

O-04-i17 『蠢く繭』

 

*1
『鋏殻』



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O-04-i17 管理情報

 『O-04-i17』は繭のように筋繊維で吊るされた肉塊のアブノーマリティーです。

 

 『O-04-i17』は不快なにおいと咀嚼音を発します。その発生源はまだ特定できていません。

 

 『O-04-i17』の体からは、口も排泄口も見つかっていません。それ以外にも目や鼻、手足などといった動物的な特徴も見当たりませんでした。

 

 『O-04-i17』の肉は調理に適していません。収容室から持ち出しは不可です。

 

 

 

『蠢く繭』

 

危険度クラス WAW

 

ダメージタイプ B(5-6)

 

E-BOX数 22

 

作業結果範囲

 

良い 15-22

 

普通 5-14

 

悪い 0-4

 

 

 

◇管理情報

 

1、職員が10名死亡すると、クリフォトカウンターが減少した。

 

2、LOCK

 

 

 

◇作業結果(作業好感度)

 

本能

1 LOCK

2 LOCK

3 LOCK

4 LOCK

5 LOCK

 

洞察

1 LOCK

2 LOCK

3 LOCK

4 LOCK

5 LOCK

 

愛着

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

抑圧

1 低い

2 低い

3 低い

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

LOCK

 

 

 

◇ギフト

 

LOCK

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 LOCK

 

・防具 LOCK

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 更新を再開してから久しぶりの新アブノーマリティーであり、ALEPHでない久しぶりの名前が変わるタイプのアブノーマリティーです。

 

 このタイプは好きなのですが、結局プレイしていると基本情報無視して管理情報や作業結果を開けられるので、名前の変更前がわからないなんてことが結構ありました。

 

 実際自分がやってた時も同じようなことがあったので何とも言えませんが、やっぱりギミックが凝ってたりしているとさみしいですね。

 

 さて、今回のアブノーマリティーは、二体目の死体反応型ですね。このタイプはまず収容したくないですよね、特に処刑弾がなかったら。

 

 処刑弾で人道的な避難指示を出さなければ、勝手にオフィサーが死んで勝手に脱走しますからね。本当に面倒です。

 

 見た目的にも特徴的にも『笑う死体の山』に近いところがありますが、あちらと違って赤色です。おそらくあちらのほうがフィルター無しだとえげつないと思います。

 

 それに此方は吊るされているだけですからね、あっちみたいに勝手に脱走して勝手に強化されるなんてことにはならないはずです。まぁあっちはE.G.O.がとても優秀なので、その分収容する価値はありますけどね。

 

 最後の5日間ということで、残りは一日2体ずつの収容ですね。アンケートが5つまでなので、中央本部同様に半分でまた収容したいアブノーマリティー投票をします。

 

 それ以外にも、一週目の最後なので普段とは少し違う流れになりますが、特に問題はないと思います。

 

 それでは最後はどうなるのか、お楽しみにしていてください。

 




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Days-46-2 O-05-i47『私には足りないものがある』

「さて、そろそろ次の仕事に向かうかな」

 

 誰も居ない設計部門のメインルームで休憩を取り、しっかり体が休まったので次の作業に移る。

 

 今日収容されたもう一つのアブノーマリティーは『O-05-i47』だ。一体どんな物が出てくるのか、気を引き締めていかないとな。

 

「さて、それじゃあ頑張るとするか」

 

 

 

 『O-05-i47』の収容室の目の前につく。廊下は長いが、メインルームからは近いのがありがたい。

 

 収容室の扉に手をかけて、お祈りをする。そして収容室の扉を開き入室する。また、嫌な匂いがする……

 

「……何だこれ?」

 

 収容室の中にいるのは、巨大なハンバーガーだった。

 

 歯の生えた巨大なバンズに、しなびた巨大レタスと真っ赤な巨大輪切りトマト、そして明らかに腐臭を放つ赤黒いミンチ肉がぐちゃぐちゃと音を立てて挟まっていた。

 

 巨大な人食いハンバーガー、それはこちらを認識し、歯をかちかちと鳴らしている。何というか、すでに嫌な予感がする。

 

「と、とりあえず作業を行おうか」

 

 見た目からして本能作業が良さそうだ。

 

 とりあえず生肉を与えてみる。すると『O-05-i47』は嬉しそうに食らいつき、生肉を自らのミンチ肉に加えていく…… が、お気に召さなかったのか器用に加えた肉だけをはき出した。

 

「うげぇ」

 

 しかし、知能が低いのか先ほどはき出した肉に、再び嬉々として食らいつき始めた。

 

「何というか、久しぶりに理解できないな……」

 

 それは生肉がミンチになり、もはや固体と言えないくらいぐちゃぐちゃになったとしても食らい続けた。これほど理解出来ず、哀れに思ったアブノーマリティーも久しぶりかもしれない。

 

「さて、そろそろ作業を終えるか」

 

 このまま延々と捕食活動を続けるのでは無いかと思えるほど夢中だったので、そろそろ作業を終えようと思う。俺は『O-05-i47』に背を向けて収容室から退出する。

 

 このとき俺は気がついていなかった。『O-05-i47』はすでに目の前の元生肉になんて興味は無く、次の獲物に目をつけていたと言うことに……

 

 

 

「あっ、ジョシュア先輩!」

 

「……はぁ」

 

「何でため息するんですか!?」

 

「何でか自分の胸に手を当てて聞いてみろ」

 

 収容室から出ると、またパンドラに出会った。こいつは一体何なんだろう?

 

「いやぁ、さっき野菜中心って言ってたんで、新しく料理を作ってきたんですよ!」

 

「いや、あきらめろよ」

 

 何かと思ったらまた料理だった。何というかさっきから食欲の無くなるアブノーマリティーばっかりだったから正直重い。

 

 ……いや、よく考えればアブノーマリティーってそういう存在であるべきだよな。いや、べきっておかしいけど……

 

「それで、今度は何なんだ?」

 

「ふっふっふっ、ジャジャーン! 私特製のハンバーガーです!」

 

「いや、どこが野菜だ!?」

 

 なんなんだこいつは!? もしかしてレタスとトマトが挟まっているから野菜とでも言うつもりか!!

 

 ついでにさっきのハンバーグも再利用できて一石二鳥と言うことだろう。 ……まぁ、いいや。

 

 しかしよりにもよってハンバーガーか、正直今一番見たくない食べ物かもしれない。

 

「すまんパンドラ、正直今ハンバーガーは…… っ!?」

 

 パンドラのハンバーガーを断ろうとした瞬間、背後から気配を感じ振り向きざまに“墓標”を振り抜く。こっちの方が慣れていることもあって特別なとき以外はこっちで行くことになった、ちなみに“儺追風”はシロが使っている。

 

 “墓標”は背後から襲いかかる人食いハンバーガーにあたり、吹き飛ばした。

 

 そのまま追撃して切り刻み、さらに吹き飛ばす。

 

 ……どうやら、何らかの要因で脱走したようだ。本能作業がだめだったか、はたまたステータス反応か。

 

「ジョシュア先輩、援護します」

 

「あぁ、頼むぞ」

 

 再び体を起こそうとしている『O-05-i47』を、バンズの上から“墓標”で縫い止める。

 

 そして動きを止めている間にパンドラが“魔王”で切り刻むと、『O-05-i47』は綺麗に切り分けられて動かなくなった。

 

「これはTETH…… いや、HEあたりだろうか?」

 

「少なくてもWAWレベルではなさそうですね」

 

 突然収容室から現れた人食いハンバーガーは、あっけなく鎮圧できた。二人ともPダメージの装備であった事もあるのだろうが、予想以上に早く鎮圧できてたので、それほど危険度クラスは高くなさそうだ。

 

「さて、こいつをぶっ飛ばしたら腹減ったな。そろそろ飯に行くか」

 

「あっ、それならこのハンバーガー食べますか?」

 

「おまえ、この状況でよく言えるな」

 

「えっ、残念です……」

 

 とりあえず二人で食堂に向かう。今日は肉を見たくなかったので、海産物を食べまくることにした。

 

 

 

 

 

 それは、いくつもの偶然と不確定の要素によって生まれてしまった

 

 その職員はその日、『T-09-i97』*1に浸かっていた

 

 『T-05-i22』*2の加護を受け

 

 『F-01-i34』*3の薬を飲み

 

 『O-03-i07』*4にお菓子を与え

 

 『T-05-i11』*5に目をつけられ

 

 『O-01-i64』*6の愛を受けていた

 

 『T-09-i98』*7の占いを受けていたし

 

 『T-09-i96』*8と『T-09-i91』*9も飲んでいて

 

 『T-09-i88』*10を使用し

 

 『O-09-i80』*11に祈りを捧げ

 

 『T-09-i87』*12を着用していた

 

 そんな彼は、何の因果か『T-05-i08』*13に飲まれてしまった

 

 皆が彼の死を悲しんでいると、それは生まれてしまった

 

 一体何が影響を及ぼしてそれが生まれたのかわからない

 

 誰も再現しようとは思わなかったし、真実を追究しようとも思わなかった

 

 わざわざ同じ事をして同じ結果が生まれるとも限らず、わざわざ作り出そうとも思わなかった

 

 しかし、我々はその時初めてアブノーマリティーが誕生する瞬間を目撃した

 

 それは常に新鮮な人の肉を求めている

 

 

 

 

 

 まるで、私には足りないものがあるとでも言うように

 

 

 

 

 

O-05-i47 『フレディのドキドキいやしんぼバーガー』

*1
『極楽への湯』

*2
『慈愛の形』

*3
現状では未判明

*4
『でびるしゃま』

*5
『盲目の愛』

*6
現状では未判明

*7
『フォーチュンキャンディ』

*8
『黄金の蜂蜜酒』

*9
『七色の瓶』

*10
現状では未判明

*11
現状では未判明

*12
『搾取の歯車』

*13
現状では未判明



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O-05-i47 管理情報

 『O-05-i47』は巨大な人食いハンバーガーです。常に腐臭を放っています。

 

 『O-05-i47』は人間の肉を好んで摂取し、自らのパテとします。それ以外の肉を摂取するとはき出します。

 

 『O-05-i47』は良質な肉を見つけると、その肉を捕食しようとします。

 

 『O-05-i47』を達磨落としみたいにして遊ぶのはやめてあげましょう。

 

 

 

『フレディのドキドキいやしんぼバーガー』

 

危険度クラス HE

 

ダメージタイプ R(3-4)

 

E-BOX数 18

 

作業結果範囲

 

良い 9-18

 

普通 4-8

 

悪い 0-3

 

 

 

◇管理情報

 

1、勇気が4以上の職員が作業を行うと、クリフォトカウンターが減少した。

 

2、脱走した『O-05-i47』が職員を殺害すると、HPが回復した。

 

 

 

◇作業結果(作業好感度)

 

本能

1 高い

2 高い

3 高い

4 最高

5 最高

 

洞察

1 高い

2 高い

3 高い

4 高い

5 高い

 

愛着

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

抑圧

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 1

 

R 0.8

 

W 1.0

 

B 1.5

 

P 2.0

 

 

 

◇ギフト

 

ハッピーセット(ブローチ2)

 

HP+4

 

 食欲をそそる香りを放つハンバーガー型ブローチ。一応食べられる。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 ハッピーセット(拳)

 

クラス HE

 

ダメージタイプ R(2-4)

 

攻撃速度 超高速

 

射程距離 超近接

 

 両手がナゲット!! チキンな奴から食っちまえ!

 

 

 

・防具 ハッピーセット

 

クラス HE

 

R 0.4

 

W 1.0

 

B 1.5

 

P 2.0

 

 清潔感のある防具。どことなく■■■の制服に似ている気がする。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 ハンバーガー!! 私は照り焼きが好きです。

 

 今回は害悪ひしめくHEの中でもまだましな方のタイプです。イメージとしては『知恵を欲するかかし』みたいな感じです。

 

 よく脱走はするけど、さほど強くは無い、ぶっちゃけ放置してもかまわないレベルのアブノーマリティーですね。

 

 今回のアブノーマリティーは、本当だったらこれよりも先に収容して欲しいアブノーマリティーが居たのですが、残念ながら先にこっちが来てしまいました。

 

 こういうタイプは、個人的には結構相手していて楽しい部類ですね。だけどアブノーマリティーの脱走に反応するタイプの奴と一緒には収容したくないですね。

 

 実はこいつ、LoRの話の中に出てきた人食いサンドウィッチから着想を得ました。サンドウィッチが居るならハンバーガーも居ても良いかなって思って作りました。

 

 一応かかし枠で作ってますが、自分の中では一般人枠みたいな感じで謎の愛着を感じています。

 

 さて、設計は今までと違って次回が試練になります。そうしないと枠が無いので、ちょっと詰め詰めです。よろしくお願いします。

 




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中間報告 純黒の黎明『ねじれ』

それがなんなのか

どうして起こるのか

それを知るものは未だに居ない


「ジョシュア、最近つれない」

 

「そうか? いつも一緒に飯食ってるだろ?」

 

「だって、他の女やリッチのほうが仲良くしてるし、楽しそう……」

 

 作業を終えて、たまたまシロとであったので話していると、シロが俺に対して不満を言ってきた。

 

 確かに最近あまりかまってやれてない気がする。結局この前決心したのにあまり行動も出来ていなし、もう日数も残っていないのだから、そろそろ行動を起こすべきだろうな。

 

「そうだな、それじゃあ今日の業務が終わったら一緒に遊ぶか」

 

「えっ……」

 

「なんだ、嫌だったか?」

 

「ううん、遊ぶ、遊ぶ!」

 

 遊びに誘ってみると、随分と喜んでくれた。これだけでこんなに喜んでくれるなんて、結構嬉しいもんだな。

 

「ねぇねぇ、なにして……」

 

『記録部門の廊下に試練が発生しました。エージェントの皆様は至急鎮圧へ向かってください』

 

「あっ、試練……」

 

「ここから近いな、急ぐぞ!」

 

「うん!」

 

 シロが話の続きをしようとしたその時、試練発生のアナウンスが放送された。

 

 正直文句でも言ってやりたいところだが、ここからの試練は一切油断できない。ゲーム通りならここから便利屋たちがやってくるが、今までの傾向からしてここすら同じかもわからない。

 

 もしも今までと同じようにここの試練すら別であるのだとしたら、結局俺の知識はほとんど役に立たないことになる。出来る事なら初見殺しの可能性は出来るだけ消しておきたかったが、こればっかりは仕方が無いだろう。

 

 便利屋だったとしても、現実である今、赤ですら危険であることには変わりない。それにクソみたいな白と黒が居ないと考えると、案外楽かもしれない。

 

 ……まぁ、それ以上のクソが来る可能性も無きにしてもあらずではあるのだが。

 

「よし、気を引き締めていくぞ!」

 

「うん!」

 

 記録部門の廊下へとつながる扉を開くと、その瞬間に何かがこちらに飛翔してくる。

 

 俺は“墓標”でその飛翔物を弾き、前に出る。記録部門の廊下の奥にいるそいつは、俺を見るなりこちらに向かって歩き始めた。

 

 

 

「HELLO」

 

 それは赤い人型の何かだった。

 

 剥き出しの筋肉のような何かに捻れ狂った体、目や口と言ったパーツは体の至る所にアンバランスに配置されており、うわごとのように意味の無い言葉を垂れ流す。

 

 体の所々に鋭い刃のような骨が生えており、はみ出た腸を引きずりながら青や水色の目でこちらを見つめる。

 

 そして、それは人外の姿をしながら人の武器を持っていた。

 

 肉塊で覆われた大剣であり、骨や目などの器官が存在するそれと目が合ったとき、思わず戦慄してしまった。

 

 ……俺はそれを知っている。

 

 その凶悪な容貌を、おぞましき特性を、そしてその武器の強さを。

 

 それは……

 

「Aaaaa... I love you!!」

 

「ぐっ!!」

 

 それは急にこちらに接近し、その凶悪な大剣を振り下ろしてきた。

 

 俺はそれを“墓標”で受け止まるが、あまりに強い攻撃に腕が吹き飛んだかと思うほどであった。

 

 俺がおぞましき大剣を受け止めている間に、シロが“儺追風”で赤い人型に斬りかかる。

 

 しかし奴はその攻撃を寸前で避けると、俺たちと距離を開けてこちらを伺ってくる。

 

「ジョシュア大丈夫!?」

 

「大丈夫だ、それよりも油断するなよ」

 

 俺たちが話している間も目の前の異形、赤の幻想体は油断せずにこちらを観察している。

 

 そして奴は、何の前触れも無く攻撃体勢に移行した。

 

「管理人! 管理人!」

 

「くそっ!」

 

 強力な俺が攻撃を逸らし、いなしながらシロが“儺追風”を振り回す。

 

 それを赤の幻想体が避けて隙を作ったところで攻撃に移行し、形勢を逆転させる。

 

 “墓標”で胸を狙って相手が避けようと体をひねったところを、シロの“儺追風”が襲う。

 

「管理人! 管理人!」

 

 赤の幻想体はそれを避けきれ無いとみるや手に持つ大剣をシロにたたきつけようとする。しかし、そんな事は俺がさせない。

 

 大剣による攻撃を“墓標”で弾く。どうやら無理な体勢で攻撃を繰り出そうとしたことで威力が出なかったようだ。

 

「食らえ!」

 

 そのまま赤の幻想体に足払いをかけて体勢を崩し、“墓標”で突き刺して床に縫い付けようとする。

 

 しかし相手もやられてばかりでは居てくれないようで、倒れる際にこちらにハリを飛ばしてくる。

 

 顔に飛んできたそれを首を逸らして避けるが、赤の幻想体はその人間ではあり得ない体勢から蹴りを放ってきた。

 

 その攻撃を受けてしまうも、なんとか蹴られた際に反撃して足にダメージを与える。そして俺が吹き飛ばされている間に、シロが“儺追風”で赤の幻想体の足を切り落とし、その回転のまま体を切り刻む。

 

「I love you!! I love you!!」

 

「うるせぇ!」

 

 軽く吹き飛ばされるも、途中で体勢を立て直して立ち上がる。そしてそのまま再接近しながら斬撃を飛ばす。

 

 赤の幻想体はその斬撃から逃れようとするも、シロの“儺追風”によって床に縫い止められてしまう。

 

 そのまま斬撃を食らい、とどめに頭部に“墓標”を突き立てる。

 

「Good Bye」

 

「まずっ」

 

 赤の幻想体にとどめを刺すと同時に、奴の体がふくれあがった。

 

 この光景に既視感を覚え、とっさにシロに覆い被さる。

 

 シロの驚いた表情が一瞬見えたが、その後すぐに衝撃が俺を襲った。

 

「ジョシュア、大丈夫!?」

 

「……っ あぁ、大丈夫だ」

 

「でも、体が……」

 

「これくらいたいしたことない、少し『T-09-i97』*1にでも浸かっておけば治る」

 

 奴は最後に自爆し、あのハリを周囲にばらまいたようだ。幸いこの付近には俺たちしか居なかったため、シロをかばったことで俺一人だけの被害だったようだ。

 

 体にいくつか刺さったが、これくらいなら大丈夫だろう。幸いここには最高の回復装置が存在しているからな、命さえあればなんとかなる。

 

 唯一の欠点は、ここから遠いことだ。だが毒でも無いから大丈夫だろう。

 

「それじゃあ肩を貸す、それならいい?」

 

「あ-、気持ちはありがたいが、体の大きさ的に難しくないか?」

 

「そっ、そんな事無い!」

 

「大丈夫だって、それよりも今日が終わったら何するか考えておいてくれ。ついでにお菓子の準備も頼むぞ」

 

「……わかった」

 

 なんとか納得してくれたようで、彼女は体を引きずる俺を見送ってくれた。

 

 ……さすがにこんな姿をずっと見られたくないからな。とりあえずリッチでも呼んで運んでもらおう、あいつならこんなことでも喜んで引き受けてくれるだろうしな……

 

*1
『極楽への湯』




隣にいる物が突然に姿を変える

平等に訪れる異常に 人々は恐怖した


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EX-Story-11 O-04-i17『骸』

「おいジョシュア、本当に大丈夫か?」

 

「大丈夫だって、俺がそんなに柔に見えるか?」

 

「いや、全然」

 

 試練への挑戦後に怪我を負ったので、リッチに助けてもらいながら『T-09-i97』*1で傷を癒やし、今廊下を歩いている。

 

 リッチは俺のことが心配のようだが、幸い傷もそこまで深くなかったので、現状違和感も無い。

 

 それでも念のため、少し休憩をしてから作業に戻ることにする。さすがに最近作業を行うアブノーマリティーも危険な奴が増えてきたため、用心に越したことは無いだろう。

 

「さて、少し聞きたいんだが……」

 

「うん、どうした?」

 

「いや、お前がこんなにやられるなんて、一体どんな相手だったんだ?」

 

「あぁ、自爆してきたからシロをかばったんだよ」

 

「なるほど、男だな……」

 

 リッチに謎の関心をされるが、気にしないでおく。これくらいで反応していたら疲れてしまう。

 

「そういえばシロとは最近どうなっているんだ?」

 

「いや、別にお前が気にすることじゃないだろう?」

 

「そうはいっても気になるだろう、いい加減見ていてくっついて欲しいんだ」

 

「……努力はする」

 

 自分でもちょっとは頑張ったんだ、許してくれよ! しかしそんな心の中の声はもちろん届かず、リッチの追究は続く。

 

「そもそも押し倒してしまえば良いんだ、シロの様子を見ていたらわかるだろう?」

 

「いやいや、そんなひどいこと……」

 

「だが、それくらいの意気込みで行かないと何もしないだろう?」

 

「うぐっ」

 

 痛いところを突いてくる。そもそももう時間も無いのだからなんとかしなければならないのはわかっている。だがそう思ってもそこからが難しい。

 

「だったら……」

 

『設計部門にて、『O-04-i17』が脱走しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

「よし、早速鎮圧に行こう!」

 

「……はぁ」

 

 なんかリッチに呆れられたような気がしたが、そんな事は無いと思って聞き流す。

 

 今回脱走したのは『O-04-i17』のようだ。あの謎の肉塊がどうやって脱走したのかは正直気になる。

 

「さっさと行くぞ!」

 

「了解」

 

 急いで設計部門に向かって走り出す。こんな奴はさっさと鎮圧してしまおう。

 

『ジョシュア、リッチ、今『O-04-i17』は記録部門に移動しオフィサーたちを襲っている。どうやら人を襲う習性があるようだ』

 

「了解した、どのみち通り道で良かった」

 

 どうやら『O-04-i17』は人がいるほうへ移動しているようだ。あの見た目からして人を襲って食べるのだろう。そうなると、隠れていた口も出てくるのだろうか?

 

「うわっ、なんなんだあれは……」

 

 記録部門に向かうと、そこでは悍ましい光景が広がっていた。

 

 飛び散る血と肉、悲鳴と銃声、そして騒ぎの中心の肉塊。

 

 それは食事中だった。いや、食事をしようとしていた。

 

 息絶えつぶれた人だったものに、入り口のない口を押し当て咀嚼する。だがいくら押し付けてもそれを口にすることはできない。

 

 咀嚼するたびに己の内側を削り、くぐもった咆哮を放つ。そしてまた忘れたかのように人の肉に食らいつこうとしてただ体を押し付ける。

 

 それはどれほど欲にまみれても、決して満たされることのない地獄のような所業。しかし巻き込まれるものにとっては冗談じゃない。

 

「リッチ、さっさと片付けるぞ」

 

「わかった」

 

 お互いにE.G.O.を構えて走り出す。『O-04-i17』はこちらに気づく様子もなく食事をしようと夢中になっている。

 

 その隙をついてまず“墓標”を突き立てる。すると『O-04-i17』はのたうち回ってくぐもった悲鳴を上げる。

 

 そこをリッチが“超新星”で切り刻み、逃れようとするところを“墓標”で突き刺し抉る。

 

 さすがに反撃に出てくるが、動きが遅く大雑把な攻撃が当たるはずもなく、避けるついでに“墓標”で切り刻む。

 

「ぎゃあぁぁぁ!!」

 

 最後にリッチが“超新星”で切り刻むと、『O-04-i17』は動かなくなる。鎮圧完了、以前なら苦労しただろうが、いまの俺たちだったらこれくらいは簡単に鎮圧できる。

 

「さて、それじゃあ作業に戻るか」

 

「そうだな、さっきの話は仕事が終わってからでもできるしな」

 

「やめてくれよ、この後はシロと……」

 

「なに、詳しく!」

 

 余計なことをいってしまったが、聞かれてしまっては仕方がない。

 

 俺はこの後、リッチに根堀り葉掘り聞かれることとなった……

 

 

 

 

 

「さて、この感覚も久しぶりだな」

 

 『O-04-i17』の収容室に入ると、また不思議な感覚に包まれる。

 

 この感覚に包まれると、いつも知らない光景が目に映る。

 

 目の前の肉塊はこちらを見つめているような気がする。それはなにかを望んでいるかのように……

 

 

 

 

 

 おなかがすいた

 

 欲深き私は、常に空腹を訴える

 

 食事は生きる原動力で、生きるための幸福である

 

 食事を望むことのどこが罪なのか

 

 どうか私に食事を恵んでほしい

 

 この憐れな肉塊に、どうかお恵みを

 

 俺はこの肉塊に、食事を……

 

 

 

 

 

 恵まなかった

 

 

 

 

 

 そうだ、それでいい

 

 もはや私に食事をする権利はない

 

 ならば私は、その罰を甘んじて受けよう

 

 

 

 すると肉塊から光が溢れ、気がつくと俺の首から肉の塊がぶら下がっていた。

 

 趣味は悪いが、力は感じる。

 

 そんなことを感じつつ、俺は収容室から退出するのであった……

 

 

 

 

 

 かつて、欲深き男がいた

 

 彼は欲望のままに際限無く貪り尽くした

 

 彼の通った後には腐敗と荒野の道が続く

 

 決して満たすことのできない体になろうと、彼の欲望が消えることはない

 

 今も彼の体のそばでは……

 

 

 

 

 

 咀嚼音だけが聞こえてきた

 

 

 

 

 

O-04-i17 『肉の実』

 

*1
『極楽への湯』



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EX-Story-11 管理情報

 『O-04-i17』は巨大な肉塊です。施設内には咀嚼音が鳴り続けています。

 

 『O-04-i17』の飢えは決して満たされることはありません。

 

 脱走した『O-04-i17』は肉を追い求めます。しかし肉を食べることはできません。

 

 いくら柔らかそうだからと、『O-04-i17』をお布団にするのはやめてください。E.G.O.の耐性に胡坐をかかないでください。

 

 

 

『肉の実』

 

危険度クラス WAW

 

ダメージタイプ B(5-6)

 

E-BOX数 22

 

作業結果範囲

 

良い 15-22

 

普通 5-14

 

悪い 0-4

 

 

 

◇管理情報

 

1、職員が10名死亡すると、クリフォトカウンターが減少した。

 

2、職員がパニックに陥ると、クリフォトカウンターが減少した。

 

 

 

◇作業結果(作業好感度)

 

本能

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

洞察

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

愛着

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

抑圧

1 低い

2 低い

3 低い

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 3

 

R 1.2

 

W 0.8

 

B 0.5

 

P 1.5

 

 

 

◇ギフト

 

骸(ブローチ2)

 

HP+5

 

 脈動する肉袋。これを身に着けていると余計にカロリーを消費する、ダイエットに最適。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 骸(ハンマー)

 

クラス WAW

 

ダメージタイプ B(15-20)

 

攻撃速度 高速

 

射程距離 普通

 

 肉塊のへばりついたハンマー。敵を攻撃すればするほど、咀嚼しようともがき苦しむ。

 

 

 

・防具 骸

 

クラス WAW

 

R 1.0

 

W 0.6

 

B 0.4

 

P 1.5

 

 脈動する肉塊を寄せ集めた防具。装備するものは満たされぬ飢えに苦しむという。

 

 

 

余談

 

 死体に反応する糞アブノーマリティー、嫌い!

 

 今回のアブノーマリティーは、久しぶりの死体反応系ですね。ロボトミーといえば死体反応系みたいなところがあるので、現状の2体だとなんだが少なく感じるんですよね。

 

 せっかくだから増やしたいところではあるのですが、ゲーム的には管理が面倒くさいのであまり増やしたくないというジレンマ……

 

 ついでにほとんどないパニック反応もいれてみました。たぶん収容室外でのパニックに反応するのは絶望ちゃんを除けば初めてです!

 

 って言っても、この効果もほとんど使いませんけどね。パニックなんてめったにならないし、ソロプレイだと死亡と一緒ですからね。

 

 

 

 さて、実は久しぶりにロボトミーやってみておもったんですけど、もしかして設計部門ってツールないんですかね?

 

 なんか今まで気が付かなかったんですけど、よくよく考えたらツールがいないなって気が付いて、最初はバグなのかと思ったんですけどプレイ動画とか見ててもツールはなかったのでびっくりしました。

 

 実はこの後ツールも収容されてしまうんですよね。もしもツールが収容されない仕様だったらすいません、この施設ではツールが収容されるということでお願いします。



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職員たちの平穏なひととき『罪』

「おい、そろそろ動いたらどうなんだ?」

 

「もぉ~、マオさんはぁいっつも怖いですねぇ~」

 

「別に何にもしてねぇだろうが!」

 

 せっかくの休憩だというのにぃ、マオさんのせいでぇ台無しじゃないですかぁ。

 

 マオさんとお話しするためにぃ、抱き枕にしていた私の翼から手を放しまぁす。

 

 マオさんはぁいっつも怒ったような言い方で勘違いされますけどぉ、本当はそんなつもりはなくてぇそのことを気にしてるかぅわいいところもあるんですよぉ。

 

 けどぉ、なんでかジョシュア先輩の前だけではぁ、いっつもけんか腰なんでよねぇ。

 

 昔誰かがぁ、あれは照れ隠しって言ってたけどぉ、なんか違う気がするんですよねぇ。

 

「それよりそろそろ作業に行くぞ、てめぇもさっさと使えるようになりたいんだろ?」

 

「それはそうですけどぉ、マオさんだって戦いだけでしょう?」

 

「俺はそっちができる分ましだろうが!」

 

「も~ぅ、わかりましたよぉ」

 

 マオさんはいっつも声が大きいので困りますぅ。これ以上言われるのも嫌なのでぇ、そろそろお仕事に向かうとしましょうかぁ。

 

 

 

「おっ、サラじゃないか」

 

「あれぇ、ジョシュア先輩ぃ、もしかしてぇ新しいギフトが付きましたかぁ?」

 

「……お前って本当にそういうところはよく気が付くよなぁ」

 

「えっへん」

 

 ギフトは私の生きがいですからねぇ。こうやって誰かの意識を身に着けているとぉ、私は私なんだって実感できるんですよぉ。

 

 それにぃ、ジョシュア先輩のもらうギフトってぇ、なんだかおもしろい感じがして好きなんですよねぇ。

 

「別に褒めてないけどな、それよりお前もまたギフトが増えたのか?」

 

「はいぃ、条件を調べるのもぉ、私のお仕事ですからねぇ」

 

 今私が持っているギフトはぁ、『F-04-i27』*1のティアラ、『O-01-i01』*2のおしゃぶり、『T-06-i30』*3の目隠し、『T-05-i22』*4のロザリオ。

 

 そしてぇ、この前の『O-01-i44』*5との戦いで授かったぁ美しき翼。この美しく優しい翼の素敵なことぉ、本当にうれしいわぁ。

 

 さらにぃ、ついに今日『O-01-i02』*6の翼を授かることができたのぉ! ジョシュア先輩がとってもうらやましかったからぁ、もう夢みたいでびっくりだわぁ。

 

「ほんとよくこんなにギフトをつけられたよな、大丈夫か?」

 

「大丈夫ですよぉ、ちゃあんと自我を保ててますからぁ」

 

「それならいいんだけどな」

 

 なんだかジョシュア先輩は心配しているみたいですねぇ。そんなに心配しなくてもまだ見ぬギフトがある限り私は自分を見失ったりなんてしませんよぉ?

 

「それにしてもこっちの翼まで手に入れたんだな」

 

「ひゃうっ!」

 

 お話をしていたらジョシュア先輩がいきなり翼を触ってきました! 突然触られてちょっとびっくりしちゃいました、くすぐったい。

 

「いきなり何をするんですか!」

 

「いや別にいいだろ? 感覚がつながっているわけでもないし……」

 

「えっ、いやっ、ちょっと……」

 

 そういうとジョシュア先輩は、私の翼を遠慮無しに触ってきました。

 

 乱暴なようで優しく、最初はくすぐったかったのにだんだん気持ちよくなってきて、気が付いたらもう動けなくなってしまいました。

 

「あっ、んんっ……」

 

「いやぁ、本当に肌触りがいいなぁ。自分のだとうまく触れないからなぁ」

 

「うっ、いやっ……」

 

「変な声出すなって」

 

 すごく丁寧で的確にこちらの気持ちのいいところを撫でまわし、私の心をかき乱します。その触れる手から彼の悦びや満足感が伝わってきて、こちらまで変な気持ちになってきました。なんでこんなことするんですかぁ?

 

「んっ、くっ」

 

「あぁ~、やっぱりモフモフはいいなぁ」

 

「~っ、~~~///」

 

「おっ、おいどうした!?」

 

 そしてついに私は……

 

 うぅ…… もうお嫁に行けませぇん……!!

 

「あー、ジョシュアさんがサラさんにセクハラしてるー。シロさーんこの人でーす」

 

「メッケンナイス! ジョシュアお話がある」

 

「いや、ちょっと待ってくれ……!!」

 

「はぁっ//、はあっ//」

 

 なんだかぁ、急に回りが騒がしくなってきましたがぁ、まだちょっと余裕がないですぅ。

 

「ジョシュアさん、これはちょっと言い訳できませんよね」

 

「い、いやこれは……」

 

「ジョシュア、何したの?」

 

「ただ、ちょっと翼を撫でただけで……」

 

「いや、がっつり触ってましたよね?」

 

「うっ、ふぅ…… なんなんですかぁもう!」

 

 ようやく落ち着いてきたからぁ、ちゃあんと文句を言ってやります! よりにもよってぇ、敏感なところを触るなんてぇひどいですぅ!

 

「いや、でもギフトなんて普通感触ないだろう!?」

 

「いやいや、ちょっとはあるでしょう? 身に着ける系以外は」

 

「そうですよぉ!」

 

 でもぉ、うろたえているジョシュアさんを見ているとぉ、本当にそう思ってるみたいですねぇ。それでもおかしいと思ってぇ、途中でやめてほしかったですけどぉ。

 

「ジョシュア、あとで私も……」

 

「いや、事故なんだ勘弁してくれ……」

 

 そんなことを思っていたらぁ、いきなり目の前でイチャイチャし始めましたぁ。うぅ…… ひとり身の前でひどいですぅジョシュアさん。

 

「とりあえずもういいですよぉ、今度から気を付けてくださいねぇ!」

 

「わかった、本当にすまなかったな」

 

『記録部門にて、『T-04-i57』*7が脱走しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

 ようやくお話が終わるとぉ、今度はアブノーマリティーの脱走アナウンスが流れてきましたぁ。まったく忙しいですねぇ。

 

「まったく、誰だよやらかしたのは。しかも記録部門って遠いし」

 

「どうせパンドラさんじゃないですか?」

 

『設計部門にて、『O-04-i17』*8が脱走しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

『教育部門にて、『O-02-i24』*9が脱走しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

「くそっ、連鎖脱走か。面倒な……」

 

「それにここまで出たら、もう一体来ますよ!」

 

 ここにいる全員がE.G.O.を取り出して構えていますぅ。そういう私もぉ、もう準備は万端です!

 

『中央第一にて、『O-04-i16』*10が脱走しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

『情報部門にて、『O-05-i18』*11が脱走しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

「くそっ、すぐに鎮圧に向かうぞ! ……あれ?」

 

「はい!」

 

「……? ジョシュア、どうしたの?」

 

 急いで皆で鎮圧に向かおうとするとぉ、なぜかジョシュアさんが止まってしまいましたぁ。何やら考え込んでいる様子ですがぁ、いったいどうしたんでしょうかぁ?

 

「なぁ、『O-05-i18』の作業の予定って今日あったか?」

 

「えっ、ないですけど…… クリフォト暴走じゃないですか?」

 

「いや、クリフォト暴走だったらしばらく後だ。何か、嫌な予感がする……」

 

 そういってジョシュアさんが前を向いたとき、私たちの頭に声が響きました。いや、それは声なんかじゃありません。私たちの知らない、誰かの情景が見えてくるのでした……

 

 

 

 

 

 

かつて 罪深き男がいた

 

 

 

 

 

男は欲にまみれ 決して抑えようとはしなかった

 

 

 

男は最初 何もしなかった

 

仕事もせず 生きるための営みもしない

 

 

 

小鳥が新たな朝を知らせ

 

日が人々を照らし

 

やがて日が落ち月が顔を出しても

 

彼が目覚めることはない

 

 

 

人々は呆れた なんと愚かな男だろうと

 

 

 

だが

 

やがて男の欲望は その身から溢れた

 

 

 

欲にまみれた人々は もう目覚めない

 

そして

 

代わりに目覚めた男には

 

新たな欲が生まれた

 

 

 

男は全てを貪った

 

まるで今までの分を取り返すために

 

飢えを満たすために

 

喜びを知るために

 

欲望を 満たすために

 

 

 

だが、男の欲が満たされることはない

 

やがて貪り 眠るだけの男に

 

新たな欲が生まれた

 

 

 

男は女を貪った

 

襲い 奪い 虐げる

 

生命としての本能を

 

人としての幸せを

 

己から湧き出る欲望を満たすために

 

 

 

人々は彼を恐れ

 

同時に憎んだ

 

だが誰も 彼を止めることはできなかった

 

人々は嘆いた

 

ただただ嵐が過ぎ去ることを待つ自分たちに

 

 

 

そして 男は死んだ

 

誰かが討ったか

 

病か 老衰か

 

はたまた自刃か

 

 

人々は喜ばなかった

 

代わりに怒り狂った

 

そしてその怒りを男の死体にぶつけた

 

 

 

斃れた男は嬲られた

 

弄ばれた

 

辱められた

 

 

 

 

 

「くそっ、早く鎮圧しないと。管理人、『O-05-i18』はどうなっている!?」

 

『だめだ、今マキとアセラが攻撃を加えているがまったく効いていない!!』

 

「くそっ、じゃあ『O-05-i18』が向かっている先はどこだ!? ほかに向かっているのは?」

 

『今確認する…… 見つけた、『O-04-i16』と『O-04-i17』だ。どうやら中央第二のメインルームに向かっているようだ』

 

「そこに何かないか!?」

 

『あぁ、縦長の石ころが一つ、さっきまではなかったはずだ』

 

「こうなったらそこを狙うしかない! 近場の全員を向かわせてくれ!」

 

『わかった…… まずい、『O-04-i16』が今石ころに接触した』

 

「くそっ!!」

 

 

 

 

 

人々に憎まれた男は

 

死体を貶められるだけでなく

 

肉も 魂さえも

 

全てが剥がされ 白い華だけが残った

 

それは墓標となって

 

朽ちることなくその場に曝され続けた

 

 

 

 

 

「ああっ、あぁぁ!!」

 

「サラ、大丈夫か!?」

 

「だい、じょうぶです…… ちょっと頭に、何かがぁ……」

 

 ようやく石ころに接近できた頃には、すでに石ころに白い花が添えられていました。

 

 しかしここで手を止めては何か悪いことが起きる、そう直感した私は、E.G.O.を手にして振りかぶりました。

 

 

 

『くそっ、もうじき『O-05-i18』がそちらに向かうぞ!』

 

 

 

 

 

魂を剥がした人々は

 

その罪を償わせるべく

 

魂を芯とし 蝋として

 

一本の蝋燭を作り出し

 

魂を焼く炎が灯される

 

炎が灯される限り罰は続き

 

その灯火が決して消えない

 

残滓は揺らめく 終わりを夢見て

 

 

 

 

 

 『O-05-i18』が石ころまでたどり着くと白い塊と一つとなって、青白い色が炎のように揺らめいて追加されました。

 

 それと同時に私の頭に情報が流れ込んできて頭が痛いですが、些細な問題です。

 

 気が付けば石ころの前には、一本の線香がお供えされていました。

 

 ここで終わってくれればよかった。だけどそれはあり得ないことです。

 

 

 

『全員そこから離れろ! もう『O-04-i17』が来るぞ!』

 

 

 

 そして、最後の一体が来ました。

 

 

 

 

 

引き剥がされた肉は さらに嬲られた

 

そして全ての肉をぐちゃぐちゃに混ぜられて

 

一つに固められた

 

四肢も 鼻も 目も

 

そして口さえも

 

全て内側に収められ

 

その肉塊からは

 

咀嚼音だけが聞こえてきた

 

骸は何も満たされない

 

ただただ己を貪りつ続ける

 

 

 

 

 

 今最後の一体が塊と混ざり合い、一つとなりました。

 

 そして塊は真っ黒になると、石ころの下に吸い込まれていきます。

 

 石ころにはお饅頭がお供えされていました。

 

 

 

 

 

三つに分けられた我が身は

 

今ここに 全てが集まった

 

 

 

種は蒔かれ 魂が芽吹く

 

茎が伸び花が咲き 骨格となる

 

やがて実を結び 血肉となり

 

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は満ちた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Emergency! Emergency! Emergency!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Risk Level ALEPH

 

 

 

 

 

 

 

 

 

輪廻断絶

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは絶望を呼ぶもの

 

 欲望に塗れ 溢れ 撒き散らすもの

 

 大罪を犯し 決して許されぬもの

 

 世界は素晴らしい

 

 これほどの魅力に溢れ 俺にすべてを与えてくれる

 

 この世界は俺の満たされぬ欲望を満たそうとしてくれる

 

 だから俺が 下らない貴様らから全てを奪ってやろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 O-01-i19 『輪廻魔業』

 

*1
『零時迷子』

*2
『安らぎの揺り籠』

*3
『常夜への誘い』

*4
『慈愛の形』

*5
『貴き初凪の季姫』

*6
『新星児』

*7
『蠱毒の災禍』

*8
『肉の実』

*9
『鋏殻』

*10
『骨の華』

*11
『魂の種』



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Days-46-3 O-01-i19『時は満ちた』罪

 肉、骨、魂。

 

 それらが混ざり合い、元に戻り、本来の姿に戻らんとする。

 

 黒くなった塊は粗末な墓の下へと染み込み、邪悪な何かを形作る。

 

 不気味な音、異常な振動、邪悪な気配。

 

 それらは止まらず、変わらず、壊れゆく。

 

 

 

 ふと、静寂が訪れる。

 

 

 

 すると床から腕が伸びる。それは人の腕の形であり、明らかに人を超越した大きさであった。

 

 一度ことが起これば、あとは済し崩しだ。

 

 頭が、体が、足が露出し、全貌が現れる。

 

 

 

 それは、巨大な人間。いや、魔人だ。

 

 部屋を覆うほどの巨躯にボロボロの着物、巨大な数珠を首と右手首にかけ、四肢を床につけ獣のように起き上がる。

 

 肌は皮を剥いだかのように赤黒く、目隠しをしており本来目のある部分からは青白い炎を噴き出している。

 

 真っ黒な歯をむき出しに笑い、こちら顔を向ける。それは目隠しをしているにも関わらず、こちらを目視しているようであった。

 

 

 

『よう、久しぶりだな』

 

 それは語る。身の毛もよだつ恐ろしき声で、こちらを嘗め回すように……

 

『なんだ、久しぶりの再会に声も出ないほどうれしいか?』

 

 その言葉に誰も答えられなかった、だれも動けなかった。

 

 

 

 この怪物は、今まで出会ったどのアブノーマリティーとも違った。

 

 今まで出会ったアブノーマリティーは、どれも理解できなかった。

 

 人を食らう、人を助ける、人に伝える。

 

 手段は違えど、善悪の差はあれど、なぜそうするのか、理解とは程遠い存在であった。

 

 だが、目の前の怪物は違う。

 

 それは人間の悪意だ。理解できる形の悪意だ。

 

 今までの怪物とは違い、理解できてしまったのだ。

 

 人の欲望が、悪意が、我々に理解できる形で、我々に理解できない大きさで目の前に現れた。

 

 それは今まで出会った怪物たちとのどれとも違う。

 

 無垢な赤子は、理解を超えた新たな世界への希望を与え人々を敬服させた。

 

 四季を束ねる姫は、理解しきれないほどの尊大さがあった。

 

 だが、下手に理解できるものは、理解できないものより恐ろしい。

 

 

 

 今まで数々のアブノーマリティーと対峙し、数々のALEPHクラスのアブノーマリティーを鎮圧した歴戦の俺たちの誰もが動けなかった。

 

 悍ましき悪意を向けてくる目の前のアブノーマリティーに対して、だれも……

 

 

 

「……黙れ、怪物が」

 

 いや、やつと会ったことのある俺以外は。

 

『そういうな、俺たちの仲だろう?』

 

「お前と話すことなんてない」

 

『そうか、周りが邪魔なのかな?』

 

「なっ!?」

 

「皆さん、危ない!!」

 

 反応できたのは、俺とサラだけであった。その理由はわからないが、二人動けるなら上等だ。

 

 俺がシロとメッケンナを、サラがアセラとマキを捕まえてその場から離れる。

 

 すると、さっきまで俺たちがいた場所から、骨の槍が生えてきた。

 

『なんだ、動けるじゃないか』

 

「くっ、ふざけんな!」

 

 よけた俺を追って、怪物が追撃を行ってくる。

 

 俺は抱えた二人を左右に投げて、拳を“墓標”でそらしながら体勢を整える。

 

「ぐっ」

 

 何とか着地し怪物に接近する。それに対して怪物は再び拳を振り上げる。

 

「ジョシュア、ごめん!」

 

「ジョシュアさん、援護します!」

 

 そこで、ようやくシロとメッケンナが動き出した。サラはどうやら二人を逃がしに行ったようだ。

 

「行くぞ!」

 

 拳が当たる直前に上に跳んで、怪物の腕に乗る。そのまま駆け上がって顔を狙いに行く。

 

『いいぞ、いいぞ』

 

「黙ってろ!」

 

 するといきなり腕から骨が生えて襲い掛かってくる。俺はその攻撃をよけながら腕を“墓標”で切りつけるが手ごたえがない。

 

「ジョシュア!」

 

 さらに骨が生えて襲い掛からんとしたその時に、シロが足元で“儺追風”をふるって体勢を崩す。そのおかげで追撃を逃れたのでもう一度切りつけながら降りるがやはり攻撃が効かない。攻撃をすべて無効化するわけではないらしい。

 

『楽しいなぁ』

 

「勝手に楽しんでろ!」

 

 着地を狙って怪物から触手が放たれる。その攻撃をよけ、よけれない触手を“墓標”で切り払う。

 

 そして再び接近して攻撃を仕掛けようとするが、触手が行動を阻む。

 

「ジョシュアさん、ここは任せてください!」

 

 そこでメッケンナが加わって触手を切り払う。

 

「どらあぁぁぁ!!」

 

 触手をメッケンナに任せて怪物に接近する。触手をすべて切り払ったシロと一緒に足元に攻撃を加える。

 

 今度は攻撃が当たり、怪物の足を切り刻むことに成功した。

 

『いいぞぉ、もっと楽しもうじゃないか』

 

「楽しめるわけがないだろうが!」

 

 骨が床から突き出てくる、その瞬間“墓標”による攻撃が効かなくなったのですぐにその場から離れて骨をよける。なんというか厄介な攻撃だ。

 

『効かぬか、ならば焼こう』

 

「くそっ、よけろ!」

 

 怪物が息を吹くと同時に青白い炎が吹き荒れる。

 

 よけきれず炎に焼かれ激痛が走るが、肉体に変化はない。精神汚染系か。

 

『朽ちろ』

 

「っ!?」

 

 そこへ再び拳が振り下ろされる。しまった、よけられ……

 

「ジョシュア先輩!!」

 

 そして、迫りくる拳に死の斬撃が突き刺さる。

 

 少し軌道がずれた拳に向かって、“超新星”の斬撃が叩き込まれる。

 

 そして炎が晴れると、二人の人物の姿が見える。

 

「すまん、遅くなった」

 

「私が来たからにはもう大丈夫ですね!」

 

 リッチとパンドラ、彼らは得意げにそういって武器を構える。

 

 相手は強大、だが仲間は強力。

 

 さぁ、仕切り直しと行こうじゃないか!

 



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Days-46-3 O-01-i19『時は満ちた』罰

すいません、遅れました。


 リッチとパンドラの増援により、手数が増えて今までよりも動きやすくなってきた。

 

 遠距離攻撃が少ないのが不安材料ではあるが、リッチの“超新星”がある分戦いやすいはずだ。

 

「行くぞ!」

 

 俺たちが駆け出すと同時に怪物が腕を振り上げる。

 

 腕によるたたきつけをよけ、その腕に“墓標”をたたきつける。今度はしっかりと怪物を傷つけることができた。何か法則があるのだろう。

 

「ジョシュア、ひきつけてくれ!」

 

「わかった!」

 

「リッチ君、援護します!」

 

 リッチが怪物の腕に飛び乗り、腕を切りながら肩まで上がっていく。怪物の注意が腕のリッチにいっている間に懐に入り、足を“墓標”で切りつける。

 

 怪物はバランスを崩しながらももう片方の腕でリッチを払おうとして、パンドラの“魔王”による斬撃に阻まれる。

 

『ぬっ』

 

 そしてひるんだすきにシロとメッケンナが腕を切りつけ、リッチが首に到達する。攻撃するには絶好の機会だ。

 

「行くぞ!!」

 

 そして、リッチの“超新星”が怪物の首を切り裂く。

 

『ぐっ』

 

 怪物は一瞬ひるんだが、とっさに首を避けたことで傷が浅かったようだ。そのまま二度目の攻撃を行おうとしているリッチのいる肩から骨を突き出して攻撃してきた。

 

「うおっ」

 

 リッチはそれをとっさによけようとするが、そこをさらに骨が襲い掛かる。そこをパンドラが“魔王”で斬撃を飛ばすが、今度は全く聞いていなかった。

 

「えっ、嘘!?」

 

「リッチ!!」

 

 リッチを囲うように骨が襲い掛かる。リッチが“超新星”で攻撃を防ごうとしたその時に、そのすべての骨が切断された。

 

「……リッチ、油断」

 

「シロか、助かった!」

 

 “儺追風”によってすべての骨を切り裂いたシロが、そのまま回転しながら怪物の体を切り刻む。そこを肉塊の触手が襲い掛かるが、パンドラの“魔王”による斬撃によって阻まれた。

 

「行きます!」

 

「気をつけろよ!」

 

 シロに攻撃が集中している間に、メッケンナが“エンゲージリング”で体を切りつける。そしてメッケンナに標的が映った瞬間に“墓標”の力を開放して斬撃を顔に飛ばす。

 

『いいぞ、よく使ってくれているな』

 

「くそっ、黙れ!」

 

 怪物は体から生やした骨で攻撃を防ぎながら、うれしそうに笑う。やはりあの時出会った存在はこいつだったのだろう。

 

 リッチが“超新星”で足元を切り払い、怪物が体勢を崩して地に伏す。その瞬間にシロが怪物の横腹を高速で切り刻む。

 

 この好機を逃す手はない。俺も怪物にとびかかり、“墓標”を突き刺す。そこで触手が再びとびかかるが、パンドラの“魔王”による斬撃が防いでくれる。援護があるとずいぶんとやりやすいな。

 

「いい加減くたばれ!!」

 

『そう簡単に終わったらつまらないだろう?』

 

 周囲から骨が生えだし、接近していた全員が何とかよけることに成功する。そして攻撃が緩んだその瞬間に怪物は口から青白い炎を噴き出し周囲に振りまいた。

 

『かかっ、油断はいかんぞ!』

 

「いちいちうるさいんだよ!」

 

 拳が俺に向かって飛んでくるが、それをよけて再び接近する。

 

 そして気づく、やつの顔が笑っていることに……

 

「まずい、全員離れろ!!」

 

『遅い遅い』

 

 次の瞬間、床から青白い炎が噴き出し、骨と肉塊があふれ出す。

 

 その攻撃を“墓標”で切り払おうとするが、全く攻撃が効かない。そのまま体を焼かれ、骨が突き刺し、肉塊に押しつぶされる。

 

 しかし必死に攻撃範囲から逃れようとしたおかげか、何とか致命傷だけは逃れることができた。

 

 ほかのやつらに目を向けると、全員無傷ではないものの、E.G.O.で攻撃を防ぐことに成功していたようだ。

 

 唯一パンドラだけが、射程外にいたので攻撃から逃れることができた。

 

『いい姿になったじゃないか』

 

「いい加減、黙ってろ……!!」

 

 パンドラが斬撃を飛ばすが、攻撃が効いていない。やはり特定の攻撃後にこちらの攻撃が効かなくなるようだ。

 

『ほれがんばれ、俺の首はもうすぐだぞ?』

 

 怪物の言葉を無視して再び攻撃に向かう。触手が再び襲い掛かるが、それをよけながら切り払っていく。

 

「こうなったら一気に決めるぞ!」

 

「了解!!」

 

『さぁ、かかってこい!!』

 

 両手を広げて楽しそうにしている怪物に、まずパンドラの斬撃が飛ぶ。

 

 続いてメッケンナの攻撃が怪物の足元を切り裂き、怪物が青白い炎を吐く。

 

 そこをシロが“儺追風”で吹き飛ばし、そのまま切り刻む。

 

 両手で殴りつけようとするところをリッチが“超新星”で切り裂いて隙を作り、とびかかって“墓標”を怪物の眉間に突き立てる。

 

『……あぁ、楽しかった』

 

 怪物は最後に、感慨深そうにそうつぶやいた。

 

 すると怪物の体は青白い炎に包まれる。それは眉間に突き刺さっている“墓標”にも燃え移る。

 

 そして炎が消えたその時に、もう怪物の体は残っていなかった。

 

 そこに残っているのは、新たなギフトを背に負った俺たちと、俺の手に残る絶望の錫杖だけだった……

 

 

 

 

 

 O-01-i19 『輪廻魔業』 鎮圧完了

 



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O-01-i19 管理情報

 『O-01-i19』は邪悪な怪物です。決してその言葉に耳を傾けてはいけません。

 

 『O-01-i19』からは常に邪悪な欲が漏れ出ています。自制心の低いものがその欲に飲まれれば、自我が崩壊するでしょう。

 

 

 

『輪廻魔業』

 

危険度クラス ALEPH

 

ダメージタイプ ―――

 

E-BOX ―――

 

作業結果範囲

 

良い ―――

 

普通 ―――

 

悪い ―――

 

 

 

◇管理情報

 

1、骨は死を否定し

 

2、肉は二つの苦痛を食らいつくす

 

3、魂は精神の歪みを正し

 

4、世界は欲望に呑まれるだろう

 

 

 

◇作業結果(作業好感度)

 

本能

1 ―――

2 ―――

3 ―――

4 ―――

5 ―――

 

洞察

1 ―――

2 ―――

3 ―――

4 ―――

5 ―――

 

愛着

1 ―――

2 ―――

3 ―――

4 ―――

5 ―――

 

抑圧

1 ―――

2 ―――

3 ―――

4 ―――

5 ―――

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター ―――

 

R ???

 

W ???

 

B ???

 

P ???

 

 

 

◇ギフト

 

転生(背面)

 

ALL+8

 

 背面に背負いし後光。魂は廻り、新たな生の苦痛を得る。いずれこの無限の苦痛から、逃れんとする……

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 転生(槍)

 

クラス ALEPH

 

ダメージタイプ ?(15-18)

 

攻撃速度 高速

 

射程距離 普通

 

*この装備を装着している職員が存在する場合、管理中に『O-01-i19』は出現しない。

 

*特殊攻撃中、一切のダメージと特殊能力を受けない。

 

*作成不可、『O-01-i19』を鎮圧した際に一度だけ入手可能。

 

 青白い炎を纏った肉と骨でできた錫杖。

 

 

 

・防具 転生

 

クラス ALEPH

 

R 0.8

 

W 0.2

 

B 0.2

 

P 0.2

 

*この装備を装着している職員が存在する場合、管理中に『O-01-i19』は出現しない。

 

*受けるダメージを3軽減する。『O-01-i19』、『O-04-i16』*1、『O-04-i17』*2、『O-05-i18』*3のギフトを付けている場合、その範囲を同じ区域にいる全員が対象となり、自身は5軽減する。(ただし『T-09-i87』*4を使用中を除く)

 

*作成不可、『O-01-i19』を鎮圧した際に一度だけ入手可能。

 

 ボロボロの着物。清潔なわけではないが、不潔なわけでもない。その防具には、人の生き様が詰まっている。

 

 

 

◇戦闘スペック

 

HP 10000

 

移動速度 やや早い

 

行動基準 人間のみ

 

R 1.0 普通

 

W 0.5 耐性

 

B 0.5 耐性

 

P 0.5 耐性

 

*攻撃後、その攻撃属性のダメージに対して免疫を得る。(重複しない)

 

*自制3以下の職員に接触すると、その職員はパニックになる。

 

 

 

・骨の昏睡 P(20-25) 射程 近距離

 

 骨の槍による攻撃。その攻撃を受けたものは永遠の眠りにつく。

 

・肉の饗宴 B(30-40) 射程 遠距離

 

 肉塊による圧壊攻撃。飢えは伝染し、肉体と魂を蝕む。

 

・魂の夜伽 W(30-40) 射程 遠距離

 

 魂の炎による攻撃。欲望は人を狂わせ、理性を消し去る。

 

・欲の大海 WBP(20-30) 射程 部屋全体

 

 おのれのすべてを出し作る攻撃。欲に呑まれ、一つとなれ。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 はい、これが本来の三鳥枠でした。

 

 以前言っていた本家とは違う形とは、本家がもともと別の存在が一つになるのに対して、こちらはもともと一つの存在が三つに分かれるという形にしました。

 

 皆さん原作のイメージが強いので、そっちのほうがばれにくいと思ったのもありますが、こっちのほうが違いがわかりやすいので採用しました。

 

 ……まぁ、そのあとになって四季姫も作ったんですが。

 

 今回のアブノーマリティーたちは、色々なものを三つに分けていました。

 

 それが『骨』、『肉』、『魂』の人間を三つに分けたものと、『睡眠欲』、『食欲』、『性欲』(またはそれに伴う闘争本能)の人間の三大欲求です。

 

 また、それぞれのE.G.O.も、残骸や後に残るものという共通点があったりします。

 

 それぞれの話に関してですが、『魂』については、色欲を発散する体がない、それを昇華させる闘争も満足にできない、せめて職員のサンドバッグにされるくらいでしかなく、その上魂を延々に焼かれ続けるという罰を受けています。

 

 『魂』が脱走しやすいのは、闘争を求めているからですね。

 

 『骨』が3体以上のアブノーマリティーが脱走したら脱走するのは、残りの二つを探し回っているからです。再び一人の人間として一つになりたいと願っていたのでしょう。しかしその結果は、もはや人と呼ぶことができないなにかになるという結末でした。

 

 ……まぁ、本人は気にしていませんでしたが。

 

 『骨』の罰は、再び自分が集まるという無意識での期待を胸に、気の遠くなるような時間を眠ることのできない器で待ち続けるというものですね。

 

 そして最後の『肉』ですが、この罰はほとんど『肉』のEX-STORYで語っていますね。食事をしたくても決してすることはできない、口にできるのは自分の内側の肉のみ。飢えを凌ぐ為に傷つき、苦しみ、結局満たされない。目の前にあっても決して得られないという罰ですね。

 

 そして最後の怪物ですが、彼についてはもう語れることはあまりないです。正直書きたいことはほぼほぼ書きました。

 

 書きたいことを思い出したら追加するかもしれません。

 

 さて、これで設計部門の山場は越えましたね。えっ、まだ一番やばい日が残っているって?

 

 しかし残念、設計部門ではもうセフィラコア抑制はしません。今までの焼き直しですし、何より気力が持ちません。

 

 正直今回の話でも思うように書けなかったんで時間がかかってしまいましたし、そこらへんであまり時間をかけたくなかったというもあります。

 

 しかしまだまだ魅力的(厄介)なアブノーマリティーたちが待っているので、是非お楽しみにしていて下さい。

 

*1
『骨の華』

*2
『肉の実』

*3
『魂の種』

*4
『搾取の歯車』




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Days-47-1 T-02-i35『地下にそんなやつはいない』

「さて、今日も頑張るか!」

 

 怪物との戦いから一夜明け、今日もまた業務に励む。

 

 背中に後光を背負っているので阿弥陀様みたいになっているが、意外と邪魔にならない。なぜか触れないので、実質見た目だけの問題だ。

 

 今日収容されたアブノーマリティーは、『T-02-i35』と『T-09-i82』だ。

 

 設計部門にツール型? とも思ったが、ゲームと違う部分なんて今さらなんで特に気にしないことにした。

 

「さて、着いたな」

 

 設計部門の廊下は長いが、まだここくらいならメインルームからさほど遠くはない。しかしこれからどんどん長くなると思うと憂鬱になる。

 

「よし、いくぞ」

 

 『T-02-i35』の収容室の扉に手をかけ、いつものようにお祈りをしてから扉を開ける。

 

 

 

「……なんだこれ?」

 

 収容室の中には何もいない…… 訳もなかった。

 

 収容室の中央、その床の部分にはいかなる方法かマンホールの蓋が置いてあった。

 

 何故こんなところに? とも思うが、理由は一つしかないだろう。

 

「今回はいっそう変わっているな」

 

 このマンホールがアブノーマリティーなのかと思ったが、何かに見られている気がする。

 

 一瞬頭の中にシャーデンのことがよぎったが、逆の場合もあるので視線の主を探す。

 

「お前か?」

 

 とはいっても、探すところなんて限られている。

 

 よく見ればマンホールの蓋が少し浮いており、その先にある目と視線が合った。

 

 縦長の瞳孔と、黄色い瞳。緑色の皮膚に鋭い牙、それは紛れもないワニであった。

 

「あー、なんかそんな話聞いたことあるな」

 

 取り敢えずワニという事で、餌をやる。腹を満たせば襲いかかっては来ないだろう。

 

「よしよし、よく食ってるな」

 

 なんか頭を撫でたくなるが、マンホールの蓋もあるし、アブノーマリティー相手にそんなことしたら自殺行為なのでやめることにする。

 

 ……姫様たちは例外だろ。

 

「よし、それじゃあそろそろ終わるか」

 

 ワニが餌を食べ終えて満足そうにしていたから、そろそろ収容室から退出する。

 

 今回は何事もなく終わったな。

 

「さてと、次は……」

 

『設計部門にて『T-02-i35』が脱走しました。エージェントの皆様は、至急鎮圧に向かってください』

 

「……はぁ?」

 

 突然のアナウンスに、思わず間抜けな声が出てしまう。さっきまで順調だったことを考えると、本能作業が問題か俺のステータスに反応したかのどちらかだろう。

 

「全く面倒くさい、何処にいったんだ?」

 

『すまないジョシュア、脱走した『T-02-i35』の反応がないのだが、そちらで目視はできるか?』

 

「いや、こちらには何も…… いや、まさか!?」

 

 脱走後の行方がわからない、地面に潜伏するアブノーマリティー、これらと共通する特徴をもつアブノーマリティーを俺は知っている。

 

 その事を丸々信じるのは危険だが、闇雲に探すよりはいいだろう。

 

 予想通りなら、厄介なことになったかもしれない。

 

「管理人、地面にマンホールはないか? 何か不自然なものでもいい!」

 

『わかった、探してみる……』

 

「……どこかに、不自然な食い残しは?」

 

『なるほど…… あった、福祉部門と中央第二を繋ぐ廊下だ』

 

「わかった、取り敢えず誰も近づけないように、俺はすぐに向かう!」

 

 場所がわかればあとはなんとかなる。

 

 俺は急いで件の場所に向かった。

 

「よし、見つけた!」

 

 

 不自然に廊下に置かれているマンホールの蓋、俺はそこから少し離れたところで“転生”を振るい、斬撃を飛ばす。

 

 元が“墓標”であるからか、このE.G.O.でも斬撃をうまくとばせるようになった。

 

 その斬撃は動かぬ獲物に吸い込まれ、ズタズタに切り裂いた。

 

「……すまなかった」

 

 間に合わなかった職員に懺悔する。そのあとは気持ちを切り替え次の業務に向かう。

 

 この職場でいつまでも引き摺っていたら持たなくなる、だからこうして区切りをつける。

 

 そして俺は、次に向かうのだった……

 

 

 

 

 

 どうしたんだベイビー?

 

 えっ? 大きなワニがマンホールからでてきたって?

 

 しかもそいつが人を食べた?

 

 はっはっはっ、面白いことを言うな!

 

 見ろ、誰も騒いでないし、父さんも見ていない

 

 いいか、よく聞け

 

 

 

 

 

 地下にそんな怪物はいないんだ

 

 

 

 

 

T-02-i35 『喧騒の浸透』



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T-02-i35 管理情報

すいません、管理情報が何処にいったのかわからないので、うろ覚えで書いています。

もしかしたら書き直すかもしれません。


 『T-02-i35』はマンホールの下に身を隠す大型のワニ型のアブノーマリティーです。

 

 『T-02-i35』の本体とマンホールの蓋は、常にセットになっています。脱走した際も、唐突に床にマンホールの蓋が出現します。

 

 『T-02-i35』の全貌を見た職員は、誰もいません。

 

 『T-02-i35』が脱走する度にジャーキーを作るのは、そろそろやめましょう。もう在庫が溢れそうです。

 

 

 

『喧騒の浸透』

 

危険度クラス TETH

 

ダメージタイプ R(2-4)

 

E-Box数 12

 

作業結果範囲

 

良い 10-12

 

普通 7-9

 

悪い 0-6

 

 

 

◇管理方法

 

1、慎重が2以下の職員が作業を行うと、クリフォトカウンターが減少した。

 

2、作業時間が30秒以下の場合でも、クリフォトカウンターが減少した。

 

3、脱走した『T-02-i35』を職員は自力で発見できない、管理人が直接指示するように。

 

4、脱走した『T-02-i35』の前方にいる職員は、『T-02-i35』の餌食となった。

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 最高

2 最高

3 高い

4 高い

5 高い

 

洞察

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

愛着

1 低い

2 低い

3 普通

4 普通

5 普通

 

抑圧

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 1

 

R 1.0

 

W 0.8

 

B 1.2

 

P 1.5

 

 

 

◇ギフト

 

喧騒(手2)

 

本能+2

 

 ワニ革の手袋。凄く手に馴染み、つけ心地がいい。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 喧騒(メイス)

 

クラス TETH

 

ダメージタイプ R(6-8)

 

攻撃速度 普通

 

射程範囲 普通

 

 緑色のワニ革の巻かれたこん棒。野蛮な見た目に反して、手にしたものは慎重になる。

 

 

 

・防具 喧騒

 

クラス TETH

 

R 0.6

 

W 0.8

 

B 1.5

 

P 2.0

 

 ワニ革のスーツ。来ていると布擦れや足音などの音を掻き消す。

 

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 今回のアブノーマリティーは、皆大好き(大嫌い)肉の灯籠枠です。

 

 作業したら脱走、クリフォト暴走を放置しても脱走、面倒なことこの上ないですね。

 

 TETHの癖にエース級の職員をもぐもぐしてくるし、油断できない相手ですね。

 

 その代わり廊下歩いてくるやつ相手には、かなりの戦闘力を発揮します。

 

 まぁビナー戦で脱走される可能性を考えたらメリットにもなりませんけどね。

 

 ちなみにこちらではシステム的に管理人が探すことが出来ないので、基本は慎重の数字で振っています。

 

 それが失敗しても救済処置として管理人ダイスもあったりします。それも失敗したら……

 

 ちなみに昔ワニのジャーキーを食べたことがあるのですが、意外と美味しかったです。



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Days-47-2 T-09-i82『弱り果て、涙を流す』

「さて、そろそろ今回のツールのところにでも行くかな」

 

「ジョシュア、もう行っちゃうの?」

 

 休憩もそこそこに、そろそろツールも使わないとだめだよなと思い作業に行くことにした。

 

 椅子から立ち上がるとシロが残念そうな顔をするが、仕事なのでやるしかないだろう。

 

「そんな顔するなよ、今日も業務後に一緒に遊ぼうぜ」

 

「うん、わかった!」

 

 今日も約束を取り付けると、シロは嬉しそうに笑った。今日もこの笑顔のために頑張るか。

 

「それじゃあ行ってくるよ」

 

「行ってらっしゃい」

 

 笑顔で手を振るシロに、俺も手を振って歩き出す。今日のツールは『T-09-i82』だ、まぁツール型に番号なんてほとんど関係ないけどな。

 

 

 

「さて、ついたな」

 

 しばらく歩き、ようやく『T-09-i82』の収容室の前に到着する。

 

 ツール型は入るだけなら安全なので、いつものように収容室の扉を開ける。できれば即死のないツールでありますように。

 

「さてと、これは枷か?」

 

 収容室の中にあったのは、錆び付き鎖のついた枷であった。

 

 大きさからして手首にはめるタイプのようだが、特にカギ穴などが付いているようには見えない。なんというか、別に拘束具という感じはしない。

 

「しっかしどういうツールだ? 装着型なんだろうけど、使い道がわからない」

 

 とりあえず装着後に即返却はなんかまずい気がする。できれば何らかの作業を行い鎮圧もしておいたほうがいいかもしれないな。

 

「さて、とりあえずつけるか」

 

 俺には少し小さいような気もするが、試しに着けてみる。すると枷は俺の手首の大きさに合わせて大きくなり、俺の腕に着けられた。

 

「こっちに合わせるって、本当にこれ枷か?」

 

 まぁどんな相手にも使えるという意味では、優秀なのかもしれない。しかしこれで行動が阻害される感じもない、特に体の変化もないのでよくわからない。

 

 何気に、こういうやつのほうか恐ろしかったりするんだよなぁ……

 

「とりあえずダメージの受けすぎにも注意しておこうかな」

 

 ダメージを受けすぎたらダメだったり、回復を阻害されるかもしれないので可能なら避けれるようにしよう。

 

 それにしても厄介だなこの手のやつは……

 

「とりあえず次の作業にでも行こうかな……」

 

 確か次の作業は『O-05-i47』*1だったはずだ。奴なら作業と鎮圧が同時に行えるから、条件に合うしラッキーだな。そんなに強くないし。

 

「そうと決まれば早速行くか」

 

 ちょうど収容室はすぐ近くだ、このままさっさと行くとしよう

 

 

 

「ジョシュア、ちょっと顔色悪い」

 

「本当か? 確かに体の動きも鈍っているし、そろそろ危ないな……」

 

 『O-09-i82』を付けてからしばらくたったが、そろそろきつくなってきた。

 

 使ってみた感じからして、おそらく装着者をどんどん弱らせる能力だ。面倒なことこの上ない。

 

 おそらく何らかのメリットもあるのだろうが、そんなものないに等しいだろう。さすがにもう即死はないだろうし、返却しに行くか。

 

「悪いシロ、そろそろこいつを返しに行くよ」

 

「大丈夫? 少し休んでからでもいいんじゃない?」

 

 そういってシロは自分の太ももをポンポン叩く。非常に魅力的だが、時間がかかると悪化しそうだし先に戻しに行こう。

 

「これを返してからにするよ、それじゃあまたあとで」

 

「うん、待ってる」

 

 シロに手を振ってから『T-09-i82』を返却しに行く。

 

 返却する際に少しドキドキしたが、何も起こらなくて少しほっとした。

 

 

 

 

 

 かつて一線で戦い続け、栄光の道を歩んだこの体は、もはや見るも無残な状態だ

 

 武器を持つ腕も、大地を駆る足も、すべて骨と皮だけのようにほっそりとしている

 

 目もかすみ、声も枯れ、もはや考える力も弱まった

 

 もはや私にできることは、過去の栄光を思い出すばかり

 

 この薄暗い牢の中で微睡ながら、上を見上げる

 

 なぜ、どうしてこうなったのか

 

 永遠に答えの出ないその問いを頭に浮かべながら

 

 

 

 

 

 弱り果て、涙を流す

 

 

 

 

 

T-09-i82 『惰弱の枷』

 

*1
『フレディのドキドキいやしんぼバーガー』



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T-09-i82 管理情報

 『T-09-i82』は、錆び付いた枷の形をしたツール型アブノーマリティーです。

 

 『T-09-i82』を装着した職員は、徐々に体が弱っていきます。

 

 『T-09-i82』を装着した職員は返却後、体の動きがよくなったと証言しています。

 

 『T-09-i82』で弱った体は、『T-09-i97』*1を使用しても回復しませんでした。しかし、『T-09-i82』を返却した場合に元に戻りました。

 

 『T-09-i82』は演劇の小道具ではありません。絶対に使用しないでください。

 

 

 

『惰弱の枷』

 

危険度クラス TETH

 

装着型

 

 

 

◇管理情報

 

1、『T-09-i82』を装着した職員のステータスは低下した。

 

2、装着した時間が長ければ長いほど、徐々に能力が低下していった。

 

3、装着している間、その職員の回復量が増加し、ステータスの成長速度も増加した。

 

4、ほかのアブノーマリティーに何も作業せずに返却すると、干からびて即死した。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 使えなくもないような、正直困るツール型ですね。

 

 今回のツール型は育成要員的なものだったりします。

 

 ステータスは下がりますが、そのうえで成長率が変わる、うまく使えば有能そうなツールです。

 

 本来はステータス反応型に対して安全に作業を行えるためのステータス減少ですが、それだけだと本当に使い道がほぼないので、回復量増加と成長率増加を追加しました。

 

 特にゲームではステータスの成長は、「自分のステータスのランクと相手するアブノーマリティーのランクの差」によって変わります。このツールではさらにそこから相手アブノーマリティーのランクに+1として計算するので、成長しやすくなるわけですね。

 

 ぶっちゃくRTAくらいでしか使い道なさそう……

 

 それとステータス反応に対する手段としてですが、実はすでにその手の相手に使えるツール型があったりするんですよね。意図してなかったというのに、どうしてあのツールはこう有能なんだ……

 

 回復量に関してはさほど重要じゃないですね。一応1.5倍ですが、どんどん弱くなっていくので。

 

 即死も作業すれば大丈夫ですけど、どこかで忘れそうで面倒ですね。間違えないようにしなければなりません。

 

 

 

 正直ツールって頑張って考えるんですけど、その労力に見合わないくらいには全然使われないんですよね。

 

 よく使われるのなんて、『T-09-i87』*2と『T-09-i97』、そして『T-09-i96』*3くらいで、ほかはほとんど放置でしたし。

 

 まぁ、ほとんどに義務のように即死が付いてるのがいけないんですけどね。

*1
『極楽への湯』

*2
『搾取の歯車』

*3
『黄金の蜂蜜酒』



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中間報告 純黒の白昼『E.G.O.』

時系列は前回の中間報告の続きです。





奴らに対する矛であり盾

しかしておぞましきなにかでもある


「さて、そろそろ次の試練かな?」

 

「変なやつが来なければいいな」

 

「まったくだ」

 

 今日の業務もようやく中頃だ、そろそろ次の試練が来るはず、先ほどの試練が強力な相手だったため、今回も油断なく挑みたい。

 

「心配するな、今回はシロだけじゃなく俺もいる」

 

「ジョシュア、任せて」

 

「確かに心強いけど、俺自身の装備が不安でな」

 

 今俺が装備しているE.G.O.は“墓標”だ。正直リッチとシロの“超新星”と“儺追風”に比べるとずいぶんと心もとない。

 

 ……まぁ、比べる相手を間違えている気がするけどな。

 

「しかし、こう固まっていてもいいのだろうか?」

 

「念のためマオとメッケンナ、パンドラも動きやすいところで固まっているし、大丈夫だろう」

 

「上層ならあっち、下層ならこっちで大丈夫」

 

「まぁ、そうだな」

 

『記録部門と懲戒部門で試練が発生しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

 そう話しているところで、ついに試練が発生した。懲戒部門のほうが近いが、そっちはメッケンナたちに任せよう。記録は俺たちのほうが近い。

 

「よし、それじゃあ行くぞ!」

 

「あぁ!」

 

「了解」

 

 武器を構えて、目的地まで走る。記録部門までも遠くないので、さほど時間もかからずに目的地に着く。

 

「気を引き締めろよ!」

 

 そして、試練の発生した場所の扉を勢いよく開き、すぐに戦闘態勢に入る。ここからは一切気を抜くことができない。

 

 

 

「くっ、何だこいつは?」

 

「気を抜くなよ!」

 

 そこにいたのは、白いマネキンのような男だった。

 

 真っ白いスーツ、いや指揮者が着るような服を着て、のっぺりとした目も口もない顔にはモノクルが付いている。

 

 そしてその手には、真っ黒な音符の形をした大鎌、“ダ・カーポ”を持っている。その姿、その得物、その姿はまさに……

 

「来るぞ!」

 

 そのマネキン、白の幻想体は“ダ・カーポ”を振り上げて襲い掛かってくる。

 

 それを避け、すれ違いざまに横腹に“墓標”をたたきつける。いい手ごたえだ。

 

 そこでよろけたところを、リッチが“超新星”で切りかかる。

 

 白の幻想体は“ダ・カーポ”の柄で防ごうとするが、そのまま吹き飛ばされる。

 

「よし!」

 

「追撃」

 

 さらに吹き飛ばされた白の幻想体を追いかけるようにシロが突っ込み、“儺追風”を叩き込む。白の幻想体は苦しそうにうめきながら壁に激突した。

 

「よし、行くぞ!」

 

 壁に倒れている白の幻想体に“墓標”を突き立てようとしたその時、白の幻想体の腕がピクリと動き出した。

 

「っ!? まずい!!」

 

 白の幻想体の腕が動くと同時に、どこからともなく音楽が聞こえる。なんかまずい気が……!!

 

「ぐっ!!」

 

「ジョシュア!?」

 

 軌道をそらしきれなかった“墓標”の刃が、白の幻想体の脇腹を浅く裂く。すると俺の脇腹も傷ついた。しかもさっき切り裂いたたころと全く同じ場所、これはもしかして……。

 

「くそっ、ふざけているのか!!」

 

 お前の能力は特定のタイプ以外の攻撃無力化だろうが!

 

 やはり俺の知っている奴とは少し違うようだ、相手の厄介さを考えていると、鳴り響いている音楽の曲調が変わった。

 

「なっ、今度は……」

 

「むぅ……」

 

「シロ、どうかしたか?」

 

「大丈夫、ちょっと頭が痛いだけ」

 

 曲が進んで、シロに異変が起こった。俺とリッチには効かずにシロにだけ効く。女性関連かと思ったが、それ以外に考えられるものがある。

 

 俺もリッチも“調律”のギフトが付いているが、シロにはない。もしかしてこの流れる曲にも何かあるのか!!

 

「くそっ、シロはいったんメインルームに避難を! リッチ、曲が終わるまで待ち構えるぞ!」

 

「了解!」

 

 とりあえずシロをこの部屋から離れさせる。奴の音楽は危険だ、それを無力化できるやつで戦うべきだろう。

 

 白の幻想体は指揮を執る、その手の動きに合わせて音楽が流れ、そしてフィナーレへと向かう。

 

「行くぞ!」

 

「おう!」

 

 そして曲が終わると同時に攻撃を開始する。まず先に俺が攻撃を当てて、何もなければリッチも攻撃に加わる。リッチの場合は高火力になる可能性があるので万が一の可能性を消すためだ。

 

「よしっ、通るぞ!!」

 

「わかった!」

 

 そして攻撃が通ったことにより、リッチが“超新星”で切りかかる。

 

 白の幻想体は“ダ・カーポ”で防ごうとするがそれを俺が弾き、がら空きになった体に“超新星”が叩き込まれる。

 

「よしっ!」

 

「離れろ!!」

 

 そして白の幻想体が力尽きるとともに、奴の体から世にも悍ましい音楽が漏れ出る。意味の分からない不協和音は、“調律”のギフトをもってしても気分が悪くなるものだった。

 

「リッチ、大丈夫か?」

 

「あぁ、それよりも倒したか?」

 

「なんとかな」

 

「じゃあ向こうは……」

 

『まずい、向こうはかなり厄介だ! メッケンナたちは今後方に下がらせてシロに足止めをしてもらっている、至急向かってくれ!』

 

「くそっ、急ぐぞ!」

 

「あぁ!!」

 

 どうやらもう一体はかなりやばい奴らしい。今までの傾向からある程度予想はつくが、もしもやつならかなりやばいことになっているかもしれない……

 

 

 

「シロ、大丈夫か!?」

 

 どうやらこっちに向かって移動していたようで、もう一体は中央第二まで来ていた。

 

 あいつら三人でもまずい奴を今シロが足止めしている。急いでシロの戦っている部屋まで行って扉を開く。そこにいたのは……

 

「うっ、うぷっ……」

 

 そ、それは、な、んだ、? それ、それはおぞまし、いや、こわい、いやだ、みるな、みないでくれ、こっちもみるな、こっちをむくな、くるな、こっちにくるな、こないでくれ、いやだ、いやだ、いyだだ、おれ、なんだっけ、あぁ、なんだそれは、めのまえに、な、なんだそれは、やめて、それは、それはおそろしい、いや、こ、こわい、みつめる、こわい、こわい、なんだよ、みてる、こっちをみてる、みるな、みないでくれ、こっちをむくな、むかないでくれ、みるな、むくな、やめろ、こっちに、こっちにこないで、くるな、くるな、くるな、こないで、いやだいやだいやだこわいこわいこわいたのしいこわいこわいいやだいやだあっちいけこっちにむこう、のぞくいyだ、あっあっあっ、えっと、なんだっけ、どうしたんだっけ、あぁ、そうか、めのまえになにかいる、なんだあれは、なんであんなやつがいるんだ、あんな奴は知らない、あんな恐ろしい存在は、俺は何を見ているんだ、あの怪物は、まさか……

 

「……ュア、ジョシュア、しっかりしろ!」

 

「はっ!?」

 

 リッチの声でようやく頭がはっきりする。そうか、あれが――――、そしてこれが絶望か。ここにきてその恐ろしさを知ることになるとは。

 

「シロは!?」

 

「大丈夫、でもそろそろきつい」

 

「わかった、任せろ!」

 

 シロが下がると同時に奴、黒の幻想体に接近して攻撃を仕掛ける。しかしやつは手に持っている“――――”をこちらに伸ばして攻撃を仕掛けてくる。

 

 それに対して“墓標”で斬撃を飛ばして牽制して攻撃を避ける。そして俺の後ろにいたリッチがそれを弾いて黒の幻想体の体勢を崩す。

 

「おらぁ!!」

 

 懐に入ったので“墓標”を奴の胸? に突き刺す。辛うじて人型をしているそれはうまく攻撃を避けると、体をひねって伸びた“――――”を引き戻す。

 

 そしてその回転のままこちらに向かって“――――”を振り払う。

 

 それを“墓標”で受け止め、背後に回ったリッチが“超新星”を振るう。さすがに無防備なところを突かれたのでダメージは大きそうだ。

 

「今」

 

 体勢を崩し膝をつく黒の幻想体に、今度はシロが接近して“儺追風”を振るう。今までかなりのダメージを受けていたのだろう、その一撃によって黒の幻想体は八つ裂きにされてしまった。

 

「よし、離れろ!」

 

 そして、切り裂かれた黒の幻想体の体から、悲鳴が聞こえる。それは悲しみのような、悦びのような泣き声であった。

 

「くそっ、だいじょうぶか?」

 

「こっちは大丈夫」

 

「なら……」

 

『大変だ、そこのアブノーマリティーたちの収容室すべてにクリフォト暴走が発生した。すぐに作業を頼む!』

 

「そういうことかよ!」

 

 何とか白昼の試練も乗り越えたが最後の置き土産のせいで喜ぶ暇もなかったのは残念だ。

 




それの本質は奴らとは何ら変わらない

せめて飲まれないように気を付けるべきだ


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Days-48-1 O-04-i55『奴らは知っているんだ、その声の意味を』

「だからな、お前はもう少し周りを見て行動すべきなんだよ」

 

「完全である僕に向かって説教するなんていい度胸だな」

 

「……はぁ」

 

 勝手な行動するアセラに注意をするが、この調子だ。

 

 先ほど脱走したアブノーマリティーを鎮圧する際に勝手な行動をしたせいで、その場にいたパンドラを危険にさらした。一度ならまだしも、何度もそんなことをしているのはさすがにダメだ。

 

 しかし彼にとっては自分の邪魔をするやつが悪いらしい。ここまで自己中心的だといっそすがすがしいな。

 

「大体お前こそ何様のつもりだ、その女を尻に敷いているじゃないか」

 

「あぁ、これはお仕置きだから別だ。お前もこっちのほうがよかったか?」

 

 今回の鎮圧騒動の下手人はパンドラだったので、ついでにつぶしておいた。面倒だったので雑に処理したが、確かにこの格好はこの場に合わないな。

 

「ふっふっふっ、ジョシュア先輩はこれでお仕置きのつもりかもしれませんが、残念ながら今の私にとって徐々にご褒美にぶべらっ!?」

 

「……よし」

 

「うわぁ……」

 

 復活してすぐに元気になったやばい奴を黙らせて、再びアセラに向き直る。正直引かれるのはきついんだが……

 

「まったく面倒だな、お前もさっさと仕事しろよ」

 

「おいまてアセラ、まだ話は……」

 

「さっき聞いた、次から気を付ければいいんだろ?」

 

 そういってアセラはどこかへ歩いていく。俺は彼を呼び戻そうと後を追うが、彼はマキにつかまっていた。アセラはあんな感じだが、マキには弱い。どうやら話を聞いていたらしいマキにあとは任せて、俺も次の仕事へと向かうとしよう。

 

 今日追加されたアブノーマリティーは、『O-04-i55』と『T-04-i59』だ。変なのでないことを祈るが、そううまくはいかないだろう。

 

 

 

「さて、ここもずいぶん増えたな」

 

 しばらく歩いていると、今から作業を行う『O-04-i55』の収容室の目の前にたどり着いていた。

 

 俺はいつものように扉に手をかけ、お祈りをしてから扉を開く。部屋の中からは、何やら不気味な気配がした……

 

 

 

「なんだこいつは……?」

 

 収容室にいたのは壁に張り付いたトカゲのような、クモのような何かだった。

 

 それは全身が影のように真っ暗だった。八本の足は人の腕のような形をしており、その手で収容室の壁をしっかりとつかんで張り付いていた。

 

 胴体も人の体のような形をしているが、人ならば腕と足のある場所の間からも足が生えており、見た目はクモのようにも見える。

 

 頭もシルエットだけを見たら人の頭のように見える。しかしその顔に人間らしさはない、そこにあるのは縦に裂けた大きな口だけである。

 

 それは大きな口をカチカチと鳴らし、チョウチンアンコウのように額の真ん中から提灯のような物をぶら下げている。

 

 しかし、それは光もしなければ気を引くような形もしていない。それは体と同じように影のような色をして、先端はしずくのような形をしていた。

 

 そして、それは大きかった。明らかに俺よりも大きい、壁に張り付いているため正確にはわからないが、俺が3人分くらいはあるかもしれない。

 

 『O-04-i55』は壁に張り付いたままこちらの様子をうかがっている。そしてこちらに顔を向けながらそいつは、口を開いた。

 

「あぁんだぁおぉいつあぁぁあぁ?」

 

「っ!?」

 

 その時、俺は自分の失態に気が付いた。

 

 聞き取りずらかったが、今確かにこいつは言葉を話した。しかもそれは、さっき俺が話した言葉に聞こえた。

 

 おそらくこいつは、俺の言葉を模倣した。もしかしたら『なにもない』のように言葉を学習するのかもしれない。そう考えると、もうこれ以上こいつの目の前で言葉を発するのは危険だろう。

 

 そうとなれば、これ以上の長居は危険だ。早く終わらせよう。

 

「あんだぁおいぃつぅぅあぁあぁぁ?」

 

 『O-04-i55』がこちらに顔を向けながら再び口を開く。それは何かを確かめている行動にも見え、余計に不気味に感じる。

 

 とりあえず見た目から本能作業を行っていく。餌を与えると『O-04-i55』は嬉しそうにえさに群がり、捕食した。意外に滑らかな動きだったので、見た目的にも結構不気味だったのはうれしくない。

 

「あぁぁんんだあぁぁおいつぅぅぅあぁぁぁぁ?」

 

 そして作業を終えてすぐに収容室から退出する。あの一度だけとは言え、一瞬で模倣されたとなると警戒して損はないだろう。

 

 この情報は一刻も早くほかのやつらを共有すべきだ。

 

 

 

「はぁ……」

 

「どうしたんですかジョシュアさん?」

 

「メッケンナか、いや、またな……」

 

「あぁ、『O-04-i55』のことですか?」

 

 この前やつに作業を行うと、また語彙が増えていた。とはいっても、「だるい」とか「面倒くさい」などの独り言ではあるが、それだけでも恐ろしく感じる。

 

 できればこのまま何もおこならければいいのだが……

 

「いったい誰ですかね?」

 

「別に詮索しても仕方がないさ、言葉を教えているわけではないからな」

 

「だけど気が緩んでるのは問題ですよ? それを……」

 

『設計部門にて、『O-04-i55』が脱走しました。エージェントの皆様は、至急鎮圧に向かってください』

 

「くそっ、どこのどいつだ!?」

 

「ジョシュアさん、急ぎましょう!」

 

 メッケンナと一緒に、設計部門へと向かう。あれが脱走するとなると、嫌な予感がする。すぐにやつを鎮圧しなければ。

 

 

 

「ジョシュアさん、もうすぐですよ!」

 

「あぁ、わかっている!」

 

 設計部門へと向かっている間に、やつは記録部門のほうに向かったらしい。目的には近くなったが、記録部門にいる職員たちが心配だ。

 

「だれか、たすけてくれぇ!!」

 

「いやぁぁぁ!! どおしてぇ!?」

 

「いやだ、かんりにん、かんりにん!」

 

「がはっ、ごほっ!!」

 

「いやぁぁぁ!! どおしてぇ!?」

 

「いやだ、かんりにん、かんりにん!」

 

「だれか、たすけてくれぇ!!」

 

「がはっ、ごほっ!!」

 

 記録部門の廊下に近づくと、阿鼻叫喚が聞こえてくる。急いで扉を開こうとして、違和感を感じる。何か、まずい気がする……

 

「どうしたんですかジョシュア先輩、急がないと!」

 

「……だめだ」

 

「なっ、彼らを見捨てるんですか!?」

 

「いや、違う。もう手遅れだ」

 

「えっ」

 

 メッケンナに扉の前に立たないように指示して、扉を開く。

 

 すると黒い影のような何かが勢いよくこちらに飛び出してきた。

 

「なっ!?」

 

「……」

 

「いやぁぁぁ!! どおしてぇ!?」

 

 扉から勢いよく飛び出してきたのは『O-04-i55』だった。八つの足で立ち上がり、何も食べることができなかったのを不思議そうに首をかしげる。

 

 そして、顔をこちらに向けたとき、やつの異変に気が付いた。

 

 あの時は何もついていなかった額から垂れる雫型の何かには、四つの口が付いていた。

 

「がはっ、ごほっ!!」

 

「いやぁぁぁ!! どおしてぇ!?」

 

「いやだ、かんりにん、かんりにん!」

 

「だれか、たすけてくれぇ!!」

 

 その口はそれぞれに動き出し、言葉を紡ぐ。おそらくそれは、やつの犠牲になった者たちの口なのだろう。

 

 メッケンナとアイコンタクトをとって一斉に襲い掛かる。

 

 『O-04-i55』はそれをとっさによけようと飛び退くが、少し遅かったな。

 

 “転生”を振って斬撃を飛ばし、『O-04-i55』の足を切り飛ばす。人の腕のような足が宙を舞って、血飛沫をあげながら床に落ちる。

 

「だれか、たすけてくれぇ!!」

 

 『O-04-i55』が悲鳴を上げるが、その本体の口に、メッケンナが“エンゲージリング”を突き刺す。そしてもがき苦しんでいるところを“転生”で切りつける。

 

「あぁんだぁおぉいつあぁぁあぁ?」

 

 “転生”と“エンゲージリング”に切り刻まれて、『O-04-i55』は倒れた。

 

 念のためもう大丈夫かを確認して、一息つく。何とか倒すことができたらしい。

 

「ジョシュアさん、やっぱりちゃんと気を引き締めたほうがいいですよ」

 

「……そうだな」

 

 やっぱりアブノーマリティー相手には、警戒しすぎるということはないのだろう。

 

 

 

 

 

 おまえ、ここは初めてか?

 

 ならここを調査するにあたって、注意することを教えてやる

 

 いいか、ここからは絶対単独行動はするな、全員で一つに固まって行動する

 

 そしてはぐれてしまったら最後、もうそいつは死亡扱いだ

 

 いいか、絶対にはぐれたやつらの声を追って助けようと思ったりしたらダメだぞ

 

 なぜかって? それは、もうここがやつらのテリトリーだからだ

 

 ここでは、姿が見えないやつの言葉を信じるな

 

 女の悲鳴、子供の泣き声、誰かを呼ぶ声

 

 絶対に反応するな、気にするな

 

 ここでは一人になったやつから消えていく

 

 そしてやつらは、言葉を使って俺たちを一人にしてこようとする

 

 なぜかって? それはな……

 

 

 

 

 

 奴らは知っているんだ、その声の意味を

 

 

 

 

 

O-04-i55 『木霊蜘蛛』



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O-04-i55 管理情報

 『O-04-i55』はクモのような形をした人影のような生物です。額からはチョウチンアンコウのように疑似餌らしきものを垂らしています。

 

 『O-04-i55』は我々の言葉を模倣します、決して『O-04-i55』の目の前で言葉を発しないでください。

 

 『O-04-i55』は職員を取り込み、その声を模倣します。犠牲になった職員の声につられないように気を付けてください。

 

 『O-04-i55』に変な言葉を吹き込まないでください。この前落語を話していてびっくりしました。

 

 

 

『木霊蜘蛛』

 

危険度クラス WAW

 

ダメージタイプ B(4-6)

 

E-BOX 24

 

作業結果範囲

 

良い 18-24

 

普通 10-17

 

悪い 0-9

 

 

 

◇管理情報

 

1、作業結果普通以下で、確率でクリフォトカウンターが減少した。

 

2、作業中に死亡、パニックになった職員は、『O-04-i55』に取り込まれた。

 

3、愛着作業を行った職員は、『O-04-i55』に取り込まれクリフォトカウンターが減少した。

 

4、職員を取り込んだ『O-04-i55』は、職員の声を模倣し人を呼び捕食した。そしてそのたびにクリフォトカウンターが減少した。

 

5、職員を取り込んだ状態の『O-04-i55』が脱走している場合、他の職員を呼び出して捕食した。

 

6、『O-04-i55』に呼び出された職員は、声をかけ続けることで正気に戻すことができる。

 

 

 

◇作業結果(作業好感度)

 

本能

1 高い

2 高い

3 普通

4 普通

5 普通

 

洞察

1 低い

2 低い

3 低い

4 普通

5 普通

 

愛着

1 最高

2 最高

3 最高

4 最高

5 最高

 

抑圧

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 2

 

R 0.4

 

W 0.8

 

B 1.2

 

P 1.0

 

 

 

◇ギフト

 

疑似餌(頬)

 

本能+2

 

愛着+4

 

*対応するE.G.O.を装着中、最大・最小攻撃力を+3する。

 

 影のように黒い唇と歯。時折無意味な言葉を発する。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 疑似餌(ライフル)

 

クラス WAW

 

ダメージタイプ B(7-8)

 

攻撃速度 最高速

 

射程距離 超長距離

 

 黒くのっぺりとしたライフル。弾を込めれば笑い声、銃を放てば悲鳴が聞こえる。

 

 

 

・防具 疑似餌

 

クラス WAW

 

R 0.4

 

W 0.6

 

B 1.2

 

P 0.8

 

 黒い全身タイツ。暗闇に紛れれば見つけるのは困難となる。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 さて、久々に気味の悪いアブノーマリティーですね。

 

 今回のアブノーマリティーは、昔考えていた話の敵キャラをリメイクしました。

 

 もともとは疑似餌のところに食べられた人間がぶら下がっていたのですが、それだと某OSR漫画に出てきたやつに似ているので、それじゃあ頭だけと考えたらすでに『貪欲の王』がいたので口だけになりました。

 

 パーツは少なくなりましたが、その分不気味になったかなと思います。

 

 実は今回、テストプレイの時からかなり改変しているので、この状態になってから一回もプレイしていません。

 

 そのため実際にプレイしてみたら、管理が面倒でエラッタされる可能性はあります。

 

 問題の変更点ですが、実はもともと非脱走アブノーマリティーでした。当時は脱走時のステータスや戦闘能力を考えるのがかなりしんどかったので、妥協してしまいました。

 

 しかし今回こうやって小説という形にする際に、せっかくだから最初の予定通りに脱走するようにしようと管理情報などをかなり変更しました。

 

 変更前は収容室の中に呼び込むことでしか職員を捕食できませんでしたが、それだとかなり簡単だったのでちゃんと脱走できるようにしました。

 

 ほかにも細かい変更はありますが、とりあえずこんな感じで行こうと思います。

 

 また、今回は変更点を言っていますが、実はほかにも結構サイレント修正をしていたりします。

 

 管理方法がぬるかったのできつくしたり、E.G.O.が弱かったから強化したり様々です。そんなに悪いことはしていません。

 

 ちなみにこいつ、もちろん即死攻撃持ちです。

 




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Days-48-2 T-04-i59『決して音を立てないでください』

 次に作業を行うのは、『T-04-i59』だ。できれば先ほどのアブノーマリティーよりは楽な奴であってほしいな。

 

「あのぉ、ジョシュア先輩? そろそろ許してくれてもいいんじゃないですか?」

 

「うるさい黙れ、もう口を開くな」

 

「うぅぅ、ひどすぎる……」

 

 とりあえずまたやらかしたパンドラを転がしつつ、そろそろ次の作業に移ったほうがいいかな。

 

「もう、あと少しなんですからもう少し寛容になってもいいんじゃないですか?」

 

「お前がもう少しおとなしくできるのであれば、考えてやらんこともない」

 

「それ考えるだけでしてくれるわけじゃないですよね!?」

 

 本当にこいつはしゃべらせるとピーピーうるさいな。もう少し静かにできないのか?

 

「まぁいいですよ、でも正直ジョシュア先輩も静かにしたほうがいいんじゃないですか?」

 

「わかったよ、これからはお説教の分まで肉体言語で語ってやる」

 

「ぎゃあぁぁぁ!! ごめんなさいギブアップです!!」

 

「うわぁぁぁん!! ジョシュア先輩なんてもう知らないんですからね!!」

 

 いい加減こいつから解放されたい……

 

 

 

「さて、それじゃあ頑張るとするか」

 

 パンドラを沈めてから、今日来たもう一体のアブノーマリティーのところに行く。今日収容されたもう一体のアブノーマリティーは『T-04-i59』、さっきも同じことを考えていたが本当に変な奴じゃないことを祈る。

 

「頼むぞ」

 

 いつものように収容室の扉に手をかけてお祈りをする。そしてそのあとに扉にかけた手に力を入れて開く。収容室の中は恐ろしいほどに静かであった。

 

 

 

 

 

 収容室の中央には、灰色の結晶体が存在している。

 

 それは俺と同じくらいの大きさで、よくは見えないが結晶の中心部分には何かがあるような、いやいるような気がする。

 

 収容室の中は、嫌な静けさが漂っていた。

 

 純水の中に入れられた魚のような息苦しさ。誰もいないお堂のような、何か悪いことをしているわけでもないのに騒いだらいけないような変な感覚に包まれる。

 

 意を決して収容室に踏み入れると、足下に音もなく小さな結晶が生えていた。

 

 それは収容室の中央に存在する灰色の結晶と同じ色をしており、一瞬のうちに成長して小指ほどの大きさの結晶になった。

 

「なんだこれ?」

 

 何気なく呟いたその言葉、しかしそれが命取りだった。

 

「がふっ、ごふっ!」

 

 その瞬間、結晶の中心に存在している何かがピクリと反応したかと思うと、唐突に口内から結晶が生え出し口をズタズタに切り裂いて頬や口から飛び出した。

 

 音をたてて血が滴り、その場からも結晶が生える。

 

 体の内部からの痛みにのたうち回り、体が壁にぶつかるとそこからも結晶が生えて俺の体を切り刻む。

 

 もはや、何が起こっているのかわからなかった。

 

 声を出そうにも口は塞がれ、体を動かせば全身を切り刻まれる。

 

 血を吐き呼吸をするだけで結晶は体の内側から肉を突き破り、体中を支配する。

 

 目の前で何かが動いている感覚があるが、もはや確認することもできない。

 

 そして体の内側から弾けだし、そこで俺の意識は途絶えることとなる……

 

 

 

 

 

「おい、なんだこいつhぐべしゃっ!?」

 

「い、いやぎゃべべべべっ!?」

 

「んっ、んんんんんん!?」

 

「……」

 

「あーあ、残念」

 

 

 

 

 

「はっ!? はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

 

 嫌な目覚めだ、自分の死をこれほどリアルに夢で体験することになるとは思いもしなかった。

 

「……いや、本当に夢か?」

 

 強烈な違和感、確かに死んだという体感、燃え盛る瞳の炎、そして知らないアブノーマリティーの情報。

 

 もしもこれが本当の記憶なら、それが意味することはどういうことだろうか?

 

「……いや、考えていても仕方がない」

 

 考えるより行動だ。もし今日収容されたアブノーマリティーが記憶通りなら、その時はその時だ。

 

 

 

「はぁ、まさかここまで同じとは……」

 

 今日の出来事は記憶の通りだった。とりあえずパンドラだけは行動をすべて事前につぶして何もしていないのに折檻した。本人は不服そうだったが、これからするから仕方ない。俺は悪くない。

 

 それに、今日収容されたアブノーマリティーは『O-04-i55』*1と『T-04-i59』だ。まさしくあの夢、いや記憶通りだ。

 

 つまりこれから起こることも同じになりえるということだ。

 

 そこで、あの時は訳も分からず死にかけたが、何が悪かったのかをしっかり考えてみた。

 

 あの時俺がしたことは言葉を話したこと。もしもこれがトリガーならかなり厄介だ。一度に二体も口を開けないアブノーマリティーが収容されたことになる。

 

「さて、それじゃあ行くか」

 

 いつものようにお祈りをしてから、細心の注意をしながら扉を開く。

 

 収容室の中には、やはり灰色の結晶が存在していた。

 

 

 

 

 

 それは音を餌とします

 

 それの中の何かは、眠っている間は安全です

 

 しかし、一度でも目を覚ませば、空腹のままに動くでしょう

 

 それは音から生まれて、音で成長する

 

 それを目覚めさせたくなければ、できることは一つです

 

 

 

 

 

 決して音を出してはいけませんよ

 

 

 

 

 

T-04-i59 『惰眠の細動』

*1
『木霊蜘蛛』



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T-04-i59 管理情報

 『T-04-i59』は灰色がかった大きな結晶体型のアブノーマリティーです。その中心には、何かがいる気配があります。

 

 『T-04-i59』は周囲で音が鳴ると、それを栄養として『T-04-i59』と同じ結晶体を発生させ成長させます。

 

 『T-04-i59』が脱走した場合、職員の皆さんは決して声を発さずにその場で待機してください。

 

 『T-04-i59』の結晶は宝石にも絵具にも向きません。さすがに今回の件で懲りたでしょう。

 

 

 

『惰眠の細動』

 

危険度クラス WAW

 

ダメージタイプ B(5-6)

 

E-BOX 22

 

作業結果範囲

 

良い 18-22

 

普通 10-17

 

悪い 0-9

 

 

 

◇管理情報

 

1、作業中に音を立てると、クリフォトカウンターが減少した。

 

2、作業結果悪いでクリフォトカウンターが減少した。

 

3、脱走した『T-04-i59』は、施設内の音を立てている者を襲撃した。

 

 

 

◇作業結果(作業好感度)

 

本能

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

洞察

1 低い

2 低い

3 低い

4 普通

5 普通

 

愛着

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

抑圧

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 3

 

R 1.2

 

W 0.0

 

B 0.8

 

P 1.0

 

 

 

◇ギフト

 

静寂(口1)

 

MP+2

 

愛着+4

 

*自分の出す音又は周囲の音を吸収し、MPを回復する。

 

 灰色の結晶でできたマスク。非常に静穏性に優れており、決して音を漏らさない。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 静寂(槍)

 

危険度クラス WAW

 

ダメージタイプ B(10-13)

 

攻撃速度 高速

 

射程距離 普通

 

*相手が大きな音を出すと、Bの追加ダメージ。

 

 灰色がかった結晶でできた槍。音もなく攻撃し、傷つけたものが音を立てれば結晶が広がる。

 

 

 

◇静寂

 

R 1.2

 

W 0.4

 

B 0.6

 

P 1.5

 

*周囲に大きな音を出すものがあれば、防御力が上がる。

 

 灰色がかった結晶で出来た鎧。冷たい静寂が体を包む。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 久しぶりの特殊管理アブノーマリティーですね!

 

 今回の管理方法は音を出さない、それにつきます。

 

 どう言うことかと言うと、作業開始から終了まで、声を出したりしないようにしましょうということです。より正確に言うなら、作業の選択からダイスを降り終わるまでに言葉を発したり大きな音を出すとクリフォトカウンターが減少します。

 

 ゲーム的に言ったら、収容室に近付いたら聞こえる音を作業中に聞いていたり、作業中に『虚無の夢』や『無名の胎児』等のうるさい武器の使用でクリフォトカウンターが減少します。

 

 赤子が泣いてたらほぼアウトです。

 

 かなり面倒な相手ですが、実は裏技で簡単に無力化できます。ミュートしたらなにもできません。

 

 

 

 最近あまり時間通りに更新出来ずすいません。

 

 中々思うように書けず、少し時間がかかってしまっています。

 

 これからも時間がずれることもあると思いますが、毎日更新は頑張っていこうと思います。

 

 どうかよろしくお願いします。

 

 

 

 さて、この週も残るところあと1日です。

 

 次が最後のアブノーマリティーと、最後のツールです。

 

 いったいどんなアブノーマリティーが出てくるのか、楽しみにしていてください!




Next Fett-is-awesome『そのチャイムの音に貴方は胸を踊らせた』


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中間報告 純黒の夕暮『幻想体』

今回の話の時系列は、前回の中間報告と、Days-46-3の続きとなっています。





それは人々から生まれ

人々に害をなし

人々に恐怖を与える存在である


「それにしても、なんかすごいなこれ」

 

「ジョシュア、私とおそろい」

 

「おそろい…… なのか?」

 

 『O-01-i19』*1との戦いに勝ち、なぜか俺の“墓標”は骨の殻を破って“転生”へと昇華された。

 

 この悍ましき錫杖は、恐ろしさもさる事ながら、シロの“儺追風”と同じような強大な力を感じる。

 

 シロも同じように感じているのか、なぜかおそろいと感じているような。

 

 ……もしかしてこれ、“黄昏”二つあるようなものなのか? ついでに“超新星”のことを考えると、戦力自体はかなりそろっているように感じる。

 

「まぁそれはいいとして、やっぱり元が“墓標”だからなのか結構使いやすいんだよな」

 

「いいな、ボクはまだ慣れない」

 

「まぁ慣れてなくてもあの威力なら大丈夫だろう」

 

 正直に言えばシロの戦闘は慣れていないとは思えないほど安定感がある。実際、何度助けてもらったかわからない。

 

「それにしても、そろそろ次の試練だよな」

 

「うん、いつもはここが終わってしばらくしたらお仕事が終わるけど……」

 

「今日はコア抑制だからな、最後まで行くだろうな」

 

 次の試練は夕暮だ。今までの傾向からして、おそらく次はかなり厄介な戦いになりそうだ。

 

『情報部門、教育部門、福祉部門、抽出部門にて試練が発生しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

「来たな、行くぞ!」

 

「うん」

 

 とりあえず今一番近い抽出部門から向かう。おそらく相手はかなり強いが、今の俺とシロなら負けることはないだろう。だからと言って油断する気もないが。

 

 

 

「さて、もうすぐだぞ」

 

「うん、気をつけよ」

 

「もちろんだ!」

 

 抽出部門の廊下の扉前につき、急いで扉を開ける。その瞬間、部屋から濃密な死の臭いが漂ってきた。

 

「シロ!!」

 

「うん!」

 

 廊下に侵入すると同時に、前方から何かを放たれる。それは死の気配を纏ってこちらに向かってきて、それを“転生”で弾いて止める。

 

 シロも“儺追風”を振って盾にしてその攻撃を防ぎ、何とかすべての攻撃を凌ぐことができた。

 

「ジョシュア、あれ……」

 

「……嘘だろ」

 

 目の前にいるのは、純白の少女だった。

 

 真っ白な長い髪は艶々で、美しく靡く。肌は雪のように白く冷たい印象を与え、赤い瞳はこちらを鋭くにらみつける。

 

 背には白く美しい片翼が生えており、どことなく威厳を放っている。

 

 そして手には白き杖を握っている。白い翼と蛇、そしてリンゴが一体となったその杖は、かの戦いを乗り越えたもののみに与えられる強力なE.G.O.。見るだけでその装備の強大さが伝わってくる。

 

 彼女は純白のウェディングドレスを身にまとい、軽やかな足取りでこちらに接近してくる。

 

 あぁ、その姿は随分と違っていても、それが何かがすぐにわかってしまった。

 

 並の職員なら、出会った瞬間に敬意を感じ生きることをあきらめるだろう。

 

 たとえ生き残っても、彼らのように入れたほうがよかったのかもしれない。

 

 もしもここにいるのが本体だけなら、まだ全力でない分気持ちは楽だった。

 

 だがこいつは、その手に恐ろしいものを持っている。

 

「行くぞ!」

 

「うん」

 

 杖の射線上に立たないように左右によけながら彼女、青の幻想体に向かって接近する。

 

 青の幻想体はこちらに向かって光弾を乱射してくるが、避けれるものは避け、避けきれないものは“転生”で弾く。

 

「ふふっ」

 

「っ!?」

 

 接近して攻撃に移ろうとしたその時、青の幻想体はかすかに笑った。

 

 “転生”が“失楽園”とぶつかり火花が散る。鍔迫り合いが起こっているうちにシロが接近して“儺追風”をふるう。

 

 青の幻想体はその攻撃をよけきれないと判断したのか、下を向いている杖から光弾を射出し周囲に爆発を起こす。

 

 爆発に巻き込まれないように後ろに跳び退くと、粉塵の中から光弾が飛んでくる。それを“転生”で弾いて凌ぐと、今度はシロが近づいて“儺追風”をふるう。

 

 青の幻想体は“儺追風”の攻撃を“失楽園”で防ぎながら隙を見て光弾を飛ばしてくる。シロはそれを“儺追風”で弾きながら回転して攻撃を続ける。

 

 青の幻想体がシロに気を取られている間に、背後から“転生”で切りかかる。

 

「なっ!?」

 

「ジョシュア!」

 

 すると青の幻想体は急に身をかがめて切りかかろうとしていたシロの斬撃がこちらに襲い掛かろうとしていた。

 

 とっさに屈んででよけると同時に青の幻想体に“転生”をたたきつける。避けられそうになったが、なんとか“転生”の刃が青の幻想体の羽を傷つけた。

 

 攻撃を受けて青の幻想体は一瞬目を見開いたが、すぐに余裕のある表情に戻るとこちらに光弾を飛ばしてきた。

 

「くそっ!」

 

 光弾を受けている間に青の幻想体も体勢を立て直そうとする。そこをシロが切りかかり体勢を崩し、傷を増やしていく。

 

 さらに“転生”で切りかかり青の幻想体を傷つけていく。青の幻想体の純白のドレスは、どんどん赤く染まっていった。

 

「うっ」

 

「くっ!」

 

 しかし青の幻想体もタダではやられてくれないようだ。彼女は床に向かって光弾を放って煙を巻き起こしてこちらの視界を防ごうとしてきた。

 

 それをシロが回転しながら“儺追風”を振り回し、一瞬で煙を払った。だが、その一瞬の間に青の幻想体はこちらに向かって接近してきた。

 

「そろそろあきらめろ!」

 

 青の幻想体から放たれる光弾をはじいて攻撃に移る。

 

 “失楽園”による薙ぎ払いを“転生”で弾き、そのまま回転した勢いで石突をつく。

 

 青の幻想体の鳩尾に入り彼女の動きが止まる。そこをシロが“儺追風”で背中を切り刻み、その胸に“転生”を突き立てる。

 

 とどめを刺したことで急いで離れようとするが、青の幻想体が“転生”の柄をがっしりとつかんで動けなかった。

 

「素敵」

 

 青の幻想体はポツンとそうつぶやくと、最後に青い波動を体から放出した。俺はその波動を直に受けてしまい、一瞬死の気配に全身をさらされる。しかし何とか持ち直して立ち上がる、これで青の幻想体は何とか鎮圧することに成功した。

 

「ジョシュア、大丈夫?」

 

「あぁ、なんとかな」

 

「よかった、少し休む?」

 

「いや大丈夫だ、他のやつらを鎮圧しに行こう」

 

「うん」

 

 シロとともに急いでほかの場所に向かって走り始める。この後職員たちと力を合わせて、何とか赤、白、黒の幻想体を鎮圧することに成功するのだった。

 

*1
『輪廻魔業』




彼らに存在する意味はなくとも

存在する意志だけはある


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Days-49-1 Fett-is-awesome『そのチャイムの音に、貴方は胸を躍らせた』

「ジョシュア先輩、どうかしたんですか?」

 

「いや、別にそういうわけじゃないんだが……」

 

「じゃあどうしたんですか?」

 

「今日のアブノーマリティーについてなんだが……」

 

 今日収容されたアブノーマリティーは『Fett-is-awesome』と『O-09-i80』、なんか明らかにおかしい番号があるんだが……

 

 正直英語が苦手だから、どういう意味かいまいちわからない。それに、ゲームのほうにこんな奴いたか?

 

「あー、確かに変な感じですね。でも大丈夫じゃないですか?」

 

「本当かぁ?」

 

 正直、こいつに言われてもいまいち信用できない。

 

 だがそれがパンドラにも伝わってしまったのか不服そうだ。

 

「あっ、信じてませんね? そんなんだからこの前もひどい目に合うんですよ」

 

「この前?」

 

「いえ、別にいいですけど。でも本当に危険じゃないと思いますよ?」

 

「そうか、でも不気味じゃないか?」

 

「えー、別にそんな感じしませんけど……」

 

「あれ、ジョシュア先輩どうしの?」

 

 そんな話をしていると、マキが話に入ってきた。どうやら今作業が終わったところらしい。

 

「いや、今回のアブノーマリティーの番号がおかしいって話をしていてな」

 

「へぇー」

 

「もういいじゃないですか、ササっと行きましょうよ。どうせ行くんですから」

 

「まぁそうだけどな、それじゃあ行ってくるよ」

 

「頑張ってね!」

 

 確かにパンドラの言う通り、どのみち行かなければいけないんだ。だったらぱっぱと行くべきだろう

 

 

 

「さて、頑張るか」

 

 ようやく『Fett-is-awesome』の収容室にたどり着く。

 

 何となく嫌な気配を感じながら、俺は収容室の扉に手をかける。

 

 少し深呼吸をして、お祈りをしてから収容室の扉を開ける。収容室の中からは、なんか酸っぱい匂いがした。

 

「さてと、どんな奴が…… あっ」

 

 収容室の中には白い球体が浮かんでいた。

 

 それはきれいな球体に見えて、よく見れば下のほうが少したるんでいた。

 

 そして中央には文字がかかれている。

 

 そいつを見た瞬間、俺の脳裏にこれに近い存在の記憶と、これから俺に降りかかる未来が思い描かれた。

 

 そいつは俄かに光始める。そしてその光はどんどん大きくなっていき……

 

「いや、ちょっと待ってくr……」

 

 光が収容室全体を包み込んで、俺は『Fett-is-awesome(ものすごいデブ!)』のビームを受けた。

 

 

 

「ただいま……」

 

「ジョシュア先輩、お帰りなさい」

 

「あっ、ジョシュア先輩お帰ブホッ!!」

 

 休憩室に入った俺を待っていたのは、いつも通りのパンドラと、口に含んでいたお茶を噴き出したマキだった。

 

 どうやらマキは今の俺の姿を見てツボに入ったらしい。口元を手で押さえながら肩を震わせている。

 

「ジョ、ジョシュア先輩どうしたんですか?」

 

「あー、もしかしてさっき言ってたやつのせいですか? なんかかわいいですね!」

 

「……はぁ」

 

 もはや無遠慮に俺の腹をタプタプさせるパンドラに怒る気力すら残っていない。

 

 その光景を見てマキはついに耐え切れず、噴き出してしまった。ついでに端のほうでアセラもプルプル震えていた。お前もか……

 

 今俺は、先ほどとはずいぶん違う姿になってしまった。

 

 今までの作業で鍛え上げられ引き締まった体は、見るも無残な姿となった。

 

 タプタプの三段腹、ムニムニの二重顎にたるんだ二の腕、首も余計な肉が付き呼吸も荒くなり、尋常でないくらい汗が流れる。

 

 正直体が重く感じるが、動くのにはさほど影響がないのが憎たらしい。

 

 言ってしまえば、俺はデブになっていた。

 

「おー、きもちいぃ」

 

 パンドラは俺のおなかの感触が気に入ったのか顔を埋めて感触を楽しんでいた。今までこれほどじゃれてきたことないぞ?

 

「そろそろやめてくれ、次の作業に行かないと……」

 

「えー、仕方ないですねぇ。それじゃあ私もお仕事行ってきます」

 

「あぁ、頑張ってくれ……」

 

 元気に手を振って出ていくパンドラに、うなだれながら返事をするしかなかった。

 

「いやすまん、俺も次の作業に向かう……」

 

「あー、私はもう少しここにいるよ。ジョシュア先輩もおかし食べます?」

 

「……もらう」

 

 アセラは肩を震わせながらこそこそと出ていき、マキは俺を気遣ってくれたのかお菓子をくれた。うれしいが、なんだか変な邪推をしてしまった自分が恥ずかしい。

 

「あー、そういえば、パンドラさん大丈夫かなぁ?」

 

「えっどうしたんだ?」

 

「いやだって、大体ジョシュア先輩の後に同じやつの作業行ってるじゃないですか。そう考えるとパンドラさんも……」

 

「あっ、まずい。マキ逃げろ!」

 

「えっ……」

 

 もしもやつと同じなら、今ここにいるマキも危ない。せめて被害者を減らそうとマキに声をかけるが、無駄になってしまった。

 

 なぜなら、設計部門が『Fett-is-awesome(ものすごいデブ!)』のビームによる光によって包まれたのだから……

 

 

 

「あれ、どうしたんですか二人とも?」

 

「……聞くな」

 

 休憩室に戻ってきたパンドラに、そう返すしかなかった。

 

 どうやら奴は第二形態に移行してしまったようだ。

 

 この部門にいたマキまでもがその能力の犠牲になってしまったのだ。

 

 少し暑苦しくなった休憩室で、気を紛らわせようと顔をあげると、そこには予想外の光景が広がっていた。

 

「なっ、パンドラその姿……!?」

 

「えっ、どうしたんですか?」

 

「ちょっ、なんでパンドラさん太ってないんですか!?」

 

 そう、なぜかパンドラはふくよかになっていなかったのである。そのことに驚いていると、パンドラは頬を膨らませた。

 

「何言ってるんですか、ちゃんと太ってますよ」

 

「い、いや、それはそれで怒るところなのか?」

 

「ほら、触ってみてくださいよ」

 

 そういうとパンドラは俺の手を取って、その手を自分の胸に押し当てた。

 

「なんか胸が大きくなっちゃって……」

 

「あっ、ほんとだ…… いやそうじゃなくて」

 

「だって私、食べても全部こっちに行きますし」

 

「……ずるい」

 

「えっ?」

 

「パンドラさんだけずるすぎるぅぅぅ!!!!」

 

 あぁ、ついに耐え切れずマキが泣き出してしまった。そりゃあ自分は何もしていないのにこんなふくよかな姿になってしまって、そのうえで自分よりリスクが高かったパンドラはこれだもんな。泣きたくなる気持ちもわかる。

 

「ちょ、大丈夫ですか!?」

 

「……これはどういう状況だ?」

 

 そこでアセラがこの場に戻ってきた。なんか面倒なことになりそうだな……

 

「うぅ、えっぐ…… アセラぁ」

 

 そこで涙目のマキと、俺が推測を交えて説明をする。どうしてこうなったのか、何がまずかったのか説明すると、アセラは表情がどんどん変わっていった。

 

「くそっ、そういうことなら次は俺が行く!」

 

「えっ、アセラ!?」

 

「おいちょっと待て!」

 

「あいつについてもっと調べれば、元に戻る方法がわかるかもしれないだろ!」

 

「だがお前が行くと……」

 

「うるさい、俺には効かないから大丈夫だ! マキ、待ってろ!」

 

「いやそういうわけじゃなくて! おいパンドラこいつ止めろ!」

 

「えっ、わかりました!!」

 

 しかし俺たちの拘束を振り切ってアセラは『Fett-is-awesome』の収容室に向かってしまう。

 

 そしてその瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この施設は『Fett-is-awesome(ものすごいデブ!)』の光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デイブは誰よりも誰よりもふくよかで、おおらかだった

 

 彼が俊敏に動くときは食事の時だけ、それ以外はゆったりとしていた

 

 ある日彼は素晴らしい夢を見たと貴方に教えてくれた

 

 この施設の全員が、彼と同じようにふくよかな体型になったという夢だ

 

 何をばかなと思ったが、彼はその後『T-05-i08』*1に飲み込まれて死んでしまった

 

 その次の日、どこからともなくそいつはやってきた

 

 そいつのビームを受けたやつは幸せだ、体型だの健康だのに気を使わなくてよくなるんだから

 

 そう、もうこれ以上食事に煩わしさことを考えなくていいのだ

 

 ただ幸せに食事ができるのだ

 

 今日も貴方たちはデリバリーを頼む

 

 アッツアツでトッピングマシマシのキングサイズピザにLLサイズのコーラを人数分注文だ

 

 全員でその時を待ち続ける

 

 

 

 

 

 そしてそのチャイムの音に、貴方は胸を躍らせた

 

 

 

 

 

Fett-is-awesome 『お前、デブだよ……』

*1
現状では未判明



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Fett-is-awesome 管理情報

 『Fett-is-awesome』は白い球体型のアブノーマリティーです。収容室内には酸っぱい匂いが充満しています。

 

 『Fett-is-awesome』にふくよかな体型でない職員が作業を行った場合、その職員は『Fett-is-awesome(ものすごいデブ!)』のビームを受けます。

 

 『Fett-is-awesome』にふくよかな体型でない職員が作業を行うたびに、『Fett-is-awesome』の形態が変化し、影響範囲が拡大していきます。

 

 『Fett-is-awesome』にはふくよかな職員以外は作業しないでください。

 

 『Fett-is-awesome』によって『Fett-is-awesome(ものすごいデブ!)』のビームを受けた職員は、意外にも動きが阻害されません。その代わりか、なかなか脂肪が燃焼されません。

 

 『Fett-is-awesome』の特性をろくに説明せずに新人職員に作業を行わせるのはやめましょう。

 

 

 

『お前、デブだよ……』

 

危険度クラス デブ(ZAYIN)

 

ダメージタイプ R(1-2)

 

E-BOX数 6

 

作業結果範囲

 

良い 6-5

 

普通 3-4

 

悪い 0-2

 

 

 

◇管理情報

 

1、まだスレンダーなあなたは、ものすごいデブ! のビームを受けた。

 

2、ものすごいデブ! のビームを受けた職員は、『お前、デブだよ……』の作業を行わないと、今月中に残りの職員全員がふくよかな体型になる。

 

3、まだ間に合う。30…… 29…… 28……

 

 

 

◇作業結果(作業好感度)

 

本能

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

洞察

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

愛着

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

抑圧

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

 

 

◇脱走情報

 

非脱走アブノーマリティー

 

 

 

◇ギフト

 

ピザ(頭1)

 

愛着+1

 

 ピザの形の髪飾り、その香りが食欲を誘う。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 ピザ(ナイフ)

 

クラス ZAYIN

 

ダメージタイプ W(2-4)

 

攻撃速度 超高速

 

射程距離 超至近距離

 

*デブのみ装備可能

 

 ピザを切り分けるための円形カッター、つわものは必要としない。

 

 

 

・防具 ピザ

 

クラス ZAYIN

 

R 1.0

 

W 1.0

 

B 0.8

 

P 2.0

 

*デブのみ装備可能

 

 ラフな格好のLLサイズの服。ちょっと黄ばんでる。

 

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 お前、デブだよ……

 

 はい、というわけでまさかのハゲ枠、ハゲ枠ですよ!

 

 まさか最後の枠でこのアブノーマリティーを選ばれるとは思いもしませんでした。

 

 そもそも最後の枠の選択が『ZAYIN』、『ZAYIN』、『忘れた(印象が薄い)』と最後になんで来るの? という感じでした。

 

 そもそも最初は「エイプリルフールネタにいいかもなぁ」と思っていたのですが、思いついたのが6月頃でそのためにはほぼ1年温めないといけないとなったので、さすがにそれはと思い普通に選択肢に入れていました。

 

 それがまさかこんなところで出てくるとは思いもしませんでしたが……

 

 さて、それでは次で最後のツール型、そしてその次に最後の試練で一週目のエピローグとなります。

 

 この後は少し間を開けて二週目に移ります。

 

 できれば色々とジョシュアたちの日常を描いていきたいとは思いますが、ネタがあれば書きます。

 

 それ以外にも書かないといけないものがあるので……

 

 それでは最後まで、どうかお楽しみください。

 




Next O-09-i80『祈りは必ず届く』


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Days-49-2 O-09-i80『祈りは必ず届く』

すいません、今日もギリギリです


「とりあえず、何とかなってよかったな」

 

「まったく、ひどい目にあった……」

 

 リッチと今日の悲劇について話し合う。

 

 まさかの施設全員が『Fett-is-awesome(ものすごいデブ!)*1』のビームを受け、その影響を受けることになるとは思いもしなかった。

 

 そのせいで全員がふくよかな姿となり、特に女性陣へのダメージが大きかった。さらにパンドラへのヘイトが高まって大変だった。今回は何もしていないのに……

 

「だが、まさかあれが効くとはな」

 

「あぁ、あれがなかったら今頃どうなっていたか……」

 

 そこで活躍したのが『T-09-i97』*2だった。

 

 あれを利用することにより、なんと元の体型に戻ることができたのだ!

 

 確かにアブノーマリティーの呪いや祝福を消し去ることができるが、まさかこんなものまで無効化出来るとは……

 

 その事が発覚して、温泉が寄せ鍋状態になってしまったが、仕方ないことだと思う。

 

「まぉ、取り敢えずはなんとかなって良かった」

 

「流石にあのままでは気まずかったからな」

 

 結局騒動が終わるまでに結構な時間がかかってしまったが、何とか元通りになった。その後は例の収容室への入室が一時的に禁止されることとなった。

 

「さて、そろそろ次の作業に移るか」

 

「おっ、次はツールだったか?」

 

「あぁ、ツール型は基本的に番号でわからないからな。できればやばいやつ出ないことを祈るしかない」

 

「そうだな、今更お前が死んだら俺はどうしたらいいかわからない」

 

「その時はパンドラのことを頼んだぞ」

 

「……それ意味違うよな? ただの厄介払いだよな?」

 

 ちっ、ばれてしまったか。しかしやつの相手は本当に面倒だ、俺が死んだらおそらくリッチにしか止められないだろう。

 

 まぁ、そんなことはどうでもいい。とりあえず次の作業にはいかなければならないのだ。

 

「とりあえず俺はいくよ、お前はどうする?」

 

「俺も次の作業に向かうとする。次は『O-01-i02』*3だからな、気を引き締めていくさ」

 

「そうか、お互いに頑張ろうな」

 

「もちろんだ」

 

 そういってお互いに別々の場所へ向かっていく。

 

 もうこうやって話せる時間も少ない。しかしそれを知っているのは俺だけだ。

 

 だからせめて少しでも悔いのないようにしていきたい。そんなことを考えながら俺は、『O-09-i80』の収容室へと向かっていった。

 

 

 

「さて、それじゃあ行くか」

 

 今から入る場所にはツールしかないので、いつものようにお祈りをしてから適当に扉を開く。収容室の中からは、異様な雰囲気が感じられた。

 

「……うわぁ」

 

 収容室の中に入ると、そこにあったのは古びた祭壇であった。

 

 それは何かを捧げる場所、願う場所、祈る場所。

 

 その周囲は異様な雰囲気を纏っていて、否が応でもそれが特別な何かであることが理解できた。

 

 俺はゲームの知識でこれに似た雰囲気のものを知っている。

 

「もしかしてこれは、一番厄介なタイプのツールじゃないだろうな?」

 

 最悪を場合を予想しつつ、とりあえず祭壇へと近づいていく。

 

 近づけば近づくほどその異質で、神聖な雰囲気が増していく。

 

 これはまずいものだと直感でわかる。だがこれを使用しなければならないこともわかっている。

 

 俺はせめてこれが俺の予想しているような使用方法であるということを願うしかなかった。

 

「……さて、どうすればいいんだ?」

 

 とりあえず祭壇の前に立ってみるが、どうすればいいのかわからない。

 

 そこでとりあえず手を組んで祈るポーズをとってみる。するとそこで、頭の中に直接声のような物が響き始めた。

 

『捧げなさい』

 

「……何を?」

 

『捧げなさい』

 

「……だから何をだよ?」

 

『祈りを捧げなさい』

 

「祈り?」

 

『そうです、貴方が守るために、救うために、救済するために祈りを捧げなさい』

 

「……わかった」

 

 とりあえず言われるままに、シロについて祈ってみた。彼女が最後まで何とか生き残れますように、安全でありますように、そう願ったが、なんだかあまり手ごたえを感じない。

 

『違います、祈るは破滅、守るべきものではありません』

 

「……どういうこっちゃ?」

 

 その口ぶりからして、もしかしてアブノーマリティーか?

 

 そういうことならアブノーマリティーに対して祈ろう。シロは今休憩中のはずだから、リッチでいいだろう。

 

 俺はリッチが作業をしているはずである『O-01-i02』に対して祈りを捧げる。

 

 どうか勝手に脱走しようとしないでください。どうか妙な真似はしませんように。どうかそこでじっとおとなしくしていますように。

 

 そんなことを考えていたが、ふとあの奇妙な声が聞こえないことに気がづく。おそらく当たりであったということだろう。

 

「……よし、そろそろ終わるとするか」

 

 祈りを捧げてからしばらくの時間がたった。これでおそらく即死はないだろう。

 

 祈りを終えて収容室から退出しようとする。

 

 扉から出ると、なぜか後ろからさみしそうな雰囲気を感じた。

 

 

 

 

 

 それは、何のための祭壇か

 

 もはやわかるものは誰にもいない

 

 ただ祈るだけではだめだ、それは真摯な気持ちでなければならない

 

 ただ祈るだけではだめだ、それは任せきりになってはいけない

 

 ただ祈るだけではだめだ、頼りすぎれば破滅が待っている

 

 しかし、その思いが心の底からの祈りであれば……

 

 

 

 

 

 その祈りは必ず届く

 

 

 

 

 

O-09-i80 『天命の祭壇』

 

*1
『お前、デブだよ……』

*2
『極楽への湯』

*3
『新星児』



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O-09-i80 管理情報

 『O-09-i80』は古びた祭壇型のツール型アブノーマリティーです。収容室内は異様な雰囲気に包まれています。

 

 『O-09-i80』を利用する際には施設に収容されているアブノーマリティーを対象に祈りを捧げなければなりません。

 

 『O-09-i80』は本当に必要な時以外には使用しないことを推奨します。

 

 

 

『天命の祭壇』

 

危険度クラス WAW

 

継続使用タイプ

 

 

 

◇管理情報

 

1(30)

 『O-09-i80』を使用時に、アブノーマリティーを選択して祈りをささげることができる。

 

2(60)

 職員が祈りを捧げている間、対象のアブノーマリティーに対する作業成功率が上昇した。

 

3(90)

 祈りを捧げてから30秒以内に使用を中止すると、その職員は死亡した。

 

4(120)

 祈りを捧げてから60秒以上使用すると、対象のアブノーマリティーに対して作業を行っている職員のHP、MPが回復した。

 

5(180)

 祈りを捧げてから90秒以上使用すると、対象のアブノーマリティーのクリフォトカウンターが継続して回復し、一定時間後それ以外のアブノーマリティーのクリフォトカウンターは一定時間ごとにランダムに0になった。また、この状態で職員が『O-09-i80』の使用を中断した場合、その職員は死亡した。

 

 

余談(読み飛ばし可)

 

 はい、というわけで最後のツールはまさかのWAWツールでした!

 

 以前も話をしましたが、オリジナルで作ったWAWツールは装着、継続使用、単発使用の三つを用意していました。これはその中でも継続使用型のツールですね。

 

 その後追加はしましたが、当時では最後のWAWツールでもありました。その分使いようによっては使えるツールにしました。正直肉の偶像もこれくらい持ってもよかったと思いますね……

 

 さて、今回もWAWらしい面倒くささと有能さをイメージして作りました。

 

 作業成功率の上昇にその職員の回復、そしてついでにクリフォトカウンターの回復まで! なかなかいい感じにできたんじゃないかと思います。 ……使うかどうかは別ですけどね。

 

 正直こういう類はどうしても忙しい時に使いたくないですからね、しかしこれが必要になる場面もそういった時のほうが多いかもしれないんで、何とも言えませんね。

 

 一応比較的安全に育成に使えなくもないかもしれませんが、なかなか面倒ですね。

 

 ちなみに、これもほかのツールたちと同じように即死完備です。なんだったら他のよりも条件がきついですね。

 

 

 

 さて、なんだかんだでこの週のアブノーマリティーはこれですべてです。正直ここまで来れるとは思ってなかったので、応援してくださった皆様には感謝の言葉もありません。

 

 このまま最後まで頑張っていきたいと思いますので、どうかお付き合いください。

 

 よろしくお願いいたします。




Next ■-■■-i■■『■■は■■■■える』


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中間報告 純黒の試練『黒昼』

すいません、間に合いませんでした。

今回も前回の中間報告の続きです。





それはすべての始まり

三日間に及ぶ光の代償


「さて、それじゃあ今日最後の戦いと行こうか」

 

 本日の夕暮れの試練も鎮圧が完了し、残るは深夜のみとなった。

 

 おそらくは今までの試練で一番のきつい戦いとなるだろうが、こいつに勝てなければ明日は来ない。

 

 それに今の俺たちには強力なE.G.O.もあり、職員たちも今までとは比べ物にならないほどの練度だ。

 

 それでも勝てるかわからないが、ただ一方的に負けることもないはずだ。

 

 俺、シロ、リッチ、メッケンナ、マオ、ついでにパンドラ。現状の主力たちだ。残りの職員は別の場所で待機して、いざとなったら収容室に飛び込めるようしている。

 

 どこに出ても大丈夫なように中央第二のメインルームに待機している。

 

 ほかの職員たちが作業を行い次のクリフォト暴走段階への移行の待ち時間で、少しばかり緊張が走る。

 

 そんな中、緊張なんてどこ吹く風のシロが口を開いた。

 

「ジョシュア」

 

「どうした?」

 

「今夜楽しみだね」

 

「なっ!?」

 

「うるせぇぞ黙ってろジョシュア!!」

 

 突然のシロの爆弾発言に、その場の全員が一瞬ざわついたが、なぜかマオに俺が怒られた。理不尽だ。

 

 しかし、その光景を見て、シロは少しクスリと笑って再び口を開く。

 

「よかった、みんな元気」

 

「……もしかしてそのために冗談を言ったのか?」

 

「ううん、単純に楽しみなだけ」

 

「ええー……」

 

 そういいながらもくすくす笑うシロ、昔のことを考えると、こんなにも表情豊かになるなんて思いもしなかった。

 

『もうすぐ次のクリフォト暴走段階に移行する、全員気を引き締めてくれ』

 

「了解!」

 

 その時、ついに管理人から連絡が入る。これからついに深夜との戦いになるだろう。

 

 おそらく、今までのやつらとは比べ物にならないだろう。だが、今までの傾向からしてある程度は相手の予想はつく。

 

 正直怖いのは今までの法則から外れてしまった場合のことだ。そうなったらもはや俺の知識は意味をなさないだろう。

 

『来るぞ!』

 

 そして、ついにクリフォト暴走段階が次の段階へと移行し、やつが現れた。

 

 

 

 

 

 多くの瞳を宿す漆黒の片翼とヘッドドレス、白い包帯を巻かれた黒い体と赤いペンダント、歪な細長い手足に腹部の大きな赤い口。

 

 左腕には三つの鳥の巣が連なって存在している。その中には三種類の卵が一つずつ置いてある。l

 

 そしてその赤く裂けた顔には包帯で片眼を隠され、もう片方の黄色い瞳が開いている。

 

 怪物、終焉の具現化、哀れな三匹の末路、黒い森の悲劇。

 

 かろうじて人の姿をしたそれは、何かをもって悠々と佇んでいる。

 

 その姿を見た俺は、あぁ知っているという感情とともに最悪の形で自分の予想が当たってしまったことを痛感する。

 

 なぜなら、その終わりの象徴の手には、かの最強装備、“黄昏”が握られていたのだから。

 

「来るぞ!」

 

 そしてやつは、まずその手に持つ“黄昏”をふるった。

 

 直撃に耐えきれないと判断するや否や、マオとメッケンナが横に飛び退き、俺がその斬撃を“転生”で受け止める。かなりの衝撃で腕がしびれるが、耐えきれないほどではない。

 

 パンドラはすでに距離をとっており、その場から“魔王”による斬撃を飛ばして援護する。

 

「行くぞ!」

 

「切る」

 

 そして奴、終末がパンドラの斬撃に反応して斬撃を切り伏せようとしたその瞬間を狙って、シロとリッチが懐に入る。

 

 “超新星”と“儺追風”、二つの強力な斬撃が終末を襲う。

 

 二人が切りつけると終末はうめき、後ろに飛び退いて体勢を立て直そうとする。

 

「よし、そこですよ!」

 

 しかしその着地点に狙ったかのようにパンドラの斬撃が飛んできて、終末はその攻撃をまともに受けてしまう。

 

「よっしゃあやるぞ!」

 

「決めます!」

 

 さらにそこに待ち構えていたマオとメッケンナが“手”と“エンゲージリング”による追撃を行う。

 

 終末は二人の攻撃に一瞬ひるむが、すぐに体勢を立て直して再び“黄昏”を振り上げる。

 

「させるかよ!」

 

 さすがにその攻撃が通れば二人は危ない。振り下ろされる“黄昏”を“転生”で弾き、ガラ空きの体に斬撃を叩き込む。

 

 すると終末はうめき声をあげて周囲を“黄昏”で切り払い、接近している職員をはじき出す。

 

「くそっ、何か来るぞ。叩き込め!」

 

 そして終末は左腕を横に挙げると、そのうちの一つ、白と赤い色の卵、『小さな嘴』が徐々に大きくなり始める。

 

 今までの傾向からすれば、あれはこの後に強力な攻撃が来る前触れだろう。

 

 だがその攻撃をむざむざさせてやる必要もない。

 

 身動きが取れていない間に全員で攻撃を叩き込む。

 

 するとさすがに全員の猛攻には耐えきれなかったのか、終末は膝をついて動きを止める。

 

 そしてその間にも攻撃は続く。

 

「離れろ!」

 

 そして体を起こして攻撃を再開しようとする終末に、全員に離れるように指示する。

 

 終末は再び周囲に“黄昏”による斬撃を飛ばしてくる。

 

 それを間一髪よけると、気が付けば一瞬にして終末は俺の目の前まで接近していた。

 

「まずっ……」

 

 “黄昏”による斬撃を何とか“転生”で防いで攻撃を防ぐが、吹き飛ばされてしまう。

 

 さらに吹き飛ばされた俺に追いついてきた終末が、“黄昏”を振り上げる。

 

 まずい、このままだと……

 

「ジョシュア先輩!」

 

 そこにパンドラの“魔王”による斬撃が飛んできて、終末の意識がそれる。

 

 その瞬間にシロが接近して終末に“儺追風”を叩き込む。

 

 そのまま懐で回転しながら切り結んでいくと、“黄昏”を振り払おうとした終末の腕がマオの“手”によってはじかれる。

 

 何とか体勢を立て直して再び終末に接近する。

 

 このままいけば削りきれるかもしれないが、もしもやつと一緒ならあの『初見殺し』が存在しているはずだ。何とかうまく発動させずに倒し切りたいものだ。

 

 接近して再び“転生”を叩き込み、さらに隙をついてリッチが“超新星”を叩き込む。

 

「よし、このまま…… ぐはっ!?」

 

 すると突然衝撃波が俺たちを襲い、吹き飛ばされる。

 

 終末は何らかの方法で俺たちを吹き飛ばすと、再び腕の卵を成長させる。

 

 今度の卵は包帯だらけの『長い腕』だ。それは徐々に大きくなると筆の巣から零れ落ち、終末の長い腕によって手に取られる。

 

「まずい、来るぞ!」

 

 そして終末は大きな口を開けると、その卵を飲み込んだ。

 

 終末はそれを飲み込んだことにより、首の部分に天秤がかかり、その天秤は片方に傾き始めた。

 

 決して平等にならない天秤、その審判は下され、施設全域に濃密な死の波動が放たれる。

 

「ぐうっ!!」

 

「きゃっ!!」

 

「ぬあっ!?」

 

 施設全域に放たれたそれは、この場にいる全員に傷を負わせる。決して深くはないが、浅くもない。

 

 たとえ一撃でそれほど効いていなくても、蓄積されればかなりきつい。

 

「くそっ、そう何度もやられるかよ!」

 

 終末が再び腕を横に広げて卵を成長させようとする。

 

 今度の卵は『大きな目』だ。さすがにこれは打たれたらまずい。

 

 とにかく今度こそ相手の攻撃を防ぐべく、“転生”で攻撃を加える。

 

「おらあっ!!」

 

 気が付けば早々に復帰したマオとパンドラも参戦している。

 

 “転生”と“手”、そして“魔王”の攻撃はさすがに終末であろうと堪えたようだ。

 

 再びダウンする終末に復帰したシロ、リッチ、メッケンナが攻撃に参加する。

 

 “転生”で突き刺し、“儺追風”で切り刻み、“超新星”と“エンゲージリング”切り裂き、“手”で殴打し“魔王”で援護する。

 

「これで、止めだ!!」

 

 そして、終末の脳天に“転生”を突き刺し、ようやく終末は動きを止める。

 

 それと同時に試練は終わり、ようやく普段通りの業務に戻れそうだ。

 

「はぁっ、何とかなった……」

 

 何とか『初見殺し』を回避することに成功する。

 

 もしかしたらなかったのかもしれないが、そうでなくても強力な攻撃を防ぐことができてよかった。

 

「何とかみんな、生き残れたな」

 

 その言葉に、この場にいるほぼ全員が喜びをあげる。あのシロですら大きな感情をあらわにしている。

 

「ジョシュア先輩立てますか?」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 差し伸べられたパンドラの手を取って立ち上がる。

 

 今はもう少しだけ、この場を楽しんでもいいかもしれない。




しかしそれは

光の種でもあったのだ


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職員たちの平穏なひととき『意味』

「さて、今ならだれの邪魔も入りません」

 

「……なんで?」

 

 最後の一日、あのつらい戦いを終え、ようやく訪れた平穏な終わり。

 

 しかしそんな幻想は今粉々に砕かれてしまった。

 

 最後の日、管理人と一緒にもう一度だけ会おうと約束をしていたためいつもよりもかなり早めに食堂に訪れた。

 

 しかしそこには待ち人はおらず、ただ彼女だけが立っていた。

 

 彼女は世界から切り離されたかのような存在感を放っていた。

 

 空色の髪、陶磁器のように無機質な白い肌、鋭く冷たい表情。

 

 この施設の最上位AIにして、実質の最上位者、アンジェラ。

 

 今まで管理人との食事で彼女に何かしらの介入をされたことはない、渋い顔はされたが。

 

 それ何のなぜこのタイミングで彼女がやってくるのか? 一応目はつけられないように注意して行動してきたはずだし、彼女の怒りを買うようなこともしていない。

 

 そうなると、この日だからというのが一番の理由だろうか?

 

 しかしこいつもここで油を売っていていいのだろうか?

 

「えーっと、アンジェラさんだよな? いったいどんな理由でここにいるんだ、仕事は大丈夫なのか?」

 

「えぇ、そこはご心配なく。もうすべきことは終わっています」

 

 うわぁ、さすができる女は違うなぁ……

 

 しかし本当に目的が分からない、管理人もいないし、いったいどうなっているのだろうか?

 

「それで、俺に何か用事でも? 正直目を付けられるようなことはしていないつもりですが?」

 

「……本気ですか?」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

 しばらくの間沈黙が広がる。正直空気が重い、誰か助けて。

 

「さて、先ほどの質問ですが……」

 

 あっ、スルーして続けた。さすがのスルー力だ。

 

 アンジェラはそこらへんに落ちていた謎の置物を手で弄びながら会話を続ける。

 

「あなたは何もしていません、しかしあなたはなにかをしました。故に最後に少しだけ言葉をかけてあげようと思っただけです」

 

「……なんだそりゃ?」

 

 何を言っているのかわからない…… なんて、言うつもりはない。

 

 つまり何度目かの俺が何かをやらかしてしまったということだろう。それがアンジェラの目に留まったと…… よく生きてたな俺、下手したらガリオンルートじゃないか。

 

 しかしそうなると、本当に時間が余ったから話をしに来たのだろうか? 

 

「あなたは理解しなくていいことです、本当にあなたには手を焼かされました」

 

「……なんかわからないけどすまん」

 

 あっ、ちょっと不機嫌になった? あーもうこれだからあんたとは会いたくなかったんだよ、地雷がわからん!

 

「しかしあれほど面倒であったあなたがああなったのは、少し愉快でした」

 

 そういうとアンジェラは意地の悪そうな顔をする。これはどう見てもろくな目に合ってないな俺。

 

「その結果がこれだというのなら、貴方にとっても悪いことではないのでしょうね」

 

「……いや、どういう意味だよ?」

 

「理解しなくてもいいといったはずです」

 

「……はい」

 

 いや、本当に怖いなこいつ。正直いつ機嫌を損ねてこの世からおさらばするかわかったもんじゃない、頼むから変なことはしないでくれよ……

 

「さて、それでは失礼します」

 

「あぁ、お疲れ様……」

 

 何とか祈りは通じたようで、彼女はこの部屋の出口へと向かっていった。これなら何とか最後まで生き残れそうだ。

 

「あぁ、そういえば」

 

「ふぇっ!?」

 

 そこで彼女は意地悪そうに振り返って微笑んだ。

 

 やめてくれよ、まじで心臓が止まるかと思った……

 

「あなたのあれで、望みどおりになりそうでよかったですね」

 

「……いやいや、最後に意味深なことをいって消えていかないでくれよ!!」

 

 思わず突っ込みを入れるが、もうすでに彼女はいなかった。

 

 畜生、本当に意地の悪い奴だな。

 

 

 

 

 

「ジョシュア、大丈夫?」

 

「あぁ、なんとかな」

 

「疲れているなら少し休むか?」

 

「いや、もう少しで終わるんだ。せっかくだから最後まで頑張るさ」

 

 ついに最後の作業、最後の業務だ。

 

 すでに職員たちにも伝えられている。これが最後の大仕事だと、しかしその後については何一つ言われていない。そこは隠すなよ管理人……

 

「それより、そろそろあれの時間」

 

「あぁ、それじゃあ記録部門に行くか」

 

 シロとリッチと一緒に記録部門へと向かう。

 

 気が付けば、彼女たちとも随分と長い付き合いになる。

 

 正直初期のこの三人でこの日を迎えることができるとは思っていもいなかった。

 

 今までいくつもつらいことがあった、くじけそうなことがあった、正直死んでしまったかと思ってしまうことだってあった。

 

 だけどこうして最後まで一緒にいられるのは、すごく幸運なことなんだと思う。

 

 本来なら最高戦力のこの三人が一緒に行動する機会はあまりないけど、今日くらいは大目に見てもらおう。

 

「それにしても長かったな」

 

「そうだな」

 

「これが終わったら長いお休み、ジョシュア一緒に遊びに行こう」

 

「遊びに行くって言ったって、どこに行くんだよ?」

 

「うーん、外郭?」

 

「そこは遊びに行く場所じゃないだろう……」

 

 三人で他愛のない話をする。

 

 この後どうするか、外に出たらしたいこと、今までの話。

 

 懐かしいあいつらへの追悼とか、こんな施設でもあった面白い話、パンドラのやらかした話、とにかくいろいろなことを語り合った。

 

 もう戻ることはできない、歩き続けるしかない、だけどこうやって思い出を振り返るのは悪くない。

 

「さてと、ついたな。それじゃあ……」

 

 だけど、そうやって気を抜いていたのが悪かったのかもしれない。

 

『記録部門にて、原因不明の異常事態を観測。職員の皆さんは至急現状の確認をお願いします』

 

「おい、いったい何が……」

 

 きっとその気のゆるみが、最悪の結果を招くこととなったのだ。

 

 しかし、もう止めることはできない。

 

 『それ』を収容した時点で、我々の未来は閉ざされてしまったのだ。

 

 

 

 

 

『記録部門にて、『O-07-i99』*1が脱走しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

 それは使えば使うほど、境界を曖昧にする

 

『教育部門にて、『正体不明の門』が出現しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

 世界と世界のやり取りをもって

 

『懲戒部門にて、『正体不明の門』が出現しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

 普通なら決してつながることのない世界を繋げてしまう

 

『福祉部門にて、『正体不明の門』が出現しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

 やがて世界と世界はまじりあい

 

『記録部門にて、『正体不明の門』が出現しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

 その境界が溶けて消えてしまったその時に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

崩海の門(・・・・)』へと至り

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界は終焉を迎えるだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、いったい何が起こっている!?」

 

『不要なものの処分に困る、そんな経験はありませんか?』

 

「……待って」

 

『わざわざ捨てるのが面倒なもの、処分のしかたが大変なもの、処分するところを見られたらまずいもの』

「何か来る、気をつけろ!」

 

『どうやって処分したらいいのかわからない、そんな日々とはもうおさらばです!』

 

 最後の一日

 

『この契約書にサインしていただければ、私が責任をもって処分いたしましょう!』

 

 もはや何も起こることはないと思っていた

 

『大きいもの小さいもの、重いもの軽いもの、鋭利なもの丸いもの、神聖なもの穢れたもの、死んでるもの生きてるもの、はては呪いから祝福まで』

 

 だがそんなものはこの施設において幻想で

 

『それらすべてが、あなたの前からきれいサッパリ消え失せるでしょう』

 

 儚くあっさりと砕けてしまうものであった

 

『使い方は簡単』

 

 故に悪夢は現実となり

 

『まずこの契約書にお名前をサインしていただき、不要なものを思い浮かべながら不要なものリストにその名前を書くだけ!』

 

 これより我々は

 

『それだけでどんな面倒事からもおさらばです!』

 

 この身をもってして

 

『この契約書を使えば、あなたの世界が変わるでしょう』

 

 その契約の意味を知るだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Emergency! Emergency! Emergency!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Risk Level ALEPH

 

 

 

 

 

 

 

 

異界之主

 

 

 

 

 

 

 

 

 崩海の潮騒が聞こえる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 O-07-i99 『崩海の門』

*1
『異界送りの契約書』



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Lost Days 『■■■■』

「……どうして、こんなことに」

 

 呆然とする男性に、隣に立つ空色の髪の女性が口を開く。明らかに目の前の光景にショックを受けている彼とは対照的に、彼女は機械のように冷たく、冷静であった。

 

「それは、アブノーマリティーのせいでしょう?」

 

「だが、これほどの怪物がどうしてここで出てくるんだ!?」

 

「管理人、そんな風に嘆くよりも仕事をしてはどうですか? このままでは壊滅ですよ」

 

 明らかに動揺している男性を意にも介さず、彼女は冷静にそう告げる。

 

 確かに彼女の言う通りにすぐにでも動くべきだろう。だが、彼がこうなってしまうのも無理もない。

 

 めちゃくちゃになってしまった施設に軋みをあげる空間、その影響は管理人室にまで届こうとするほどである。

 

 世界が悲鳴を上げる、この施設内のあらゆるところを確認できるこの場では、それが嫌でも伝わってくる。

 

「……あぁ、そうだよな」

 

 だが、さすがは管理人、かの■である。発狂しそうになる精神をなんとか押さえつけ、事態の鎮静に向かう。

 

 だが、その手はどうしても震えていた。

 

「……アンジェラ、頼みがある」

 

「はい、どうしました?」

 

「手を、握ってくれないか?」

 

 そこで、彼が頼んだことは、幼子のようなささやかな願いだった。

 

 アンジェラは表情には出さないが、このお願いに衝撃を受けた。

 

 今までろくに弱みを見せようとせずに狂っていった彼が、初めて弱みを見せた気がした。

 

「……ありがとう」

 

 その衝撃に思わず手を宙で止めてしまったのを、彼は承諾と受け取ったようだ。

 

 彼はアンジェラの手を取り、握りしめた。決して強くはないが、しっかりと、放さないように……

 

「……ひんやりしているな、少し心が落ち着くよ」

 

 それは機械なのだからそうだろうと思ったが、彼女は何も言わなかった。

 

 そのまま無言で時間が過ぎる。その間にも、管理人は現状を打破するために思考を張り巡らせていた。

 

 

 

 

 

 どこか、懐かしい匂いがした。

 

 それは、白い大きな二枚貝の玉座に座っている。

 

 薄く灰色がかった白い肌はなめらかで、その表面で粘液が虹色の光沢を放つ。

 

 太く数多の吸盤のついた触手は十本にもおよび、獲物を求める獣のように蠢動する。

 

 そのうちの2本は他のものよりも長く、先端も雫のような形をしている。

 

 目だけでも人ほどの大きさがあり、その黄色い瞳は完全にこちらを捉えている。

 

 その大きさは玉座に座しているにもかかわらず、記録部門の天井まで届くほどであった。

 

 『異界の主』

 

 かつて『O-02-i23』*1より聞いた話では、決して目覚めさせてはならないという怪物であった。

 

 さらに、その目の前には、巨大な門が出現した。

 

 そして、その怪物は、明らかに目を覚まして確実にこちらを見つめていた。

 

 巨大な烏賊の形をした怪物は、ゆったりとした動きで体をこちらに向けると、他よりも長い2本の触手を振り上げ、こちらに向かってたたきつける。

 

「まずい、よけろ!」

 

 それぞれ別方向によけて体勢を立て直す。触手が床にたたきつけられたことによって、施設が大きく揺れる。

 

 そこですこし体がよろけそうになるが、何とか持ち堪える。

 

 そのまま攻撃に移ろうとしたその瞬間、管理人から通信が入った。

 

『今施設全体に4つの“門”が出現した、そちらにもあるだろう?』

 

「あぁ、確かにあるな。正直邪魔だ!」

 

 通信をしながら地面にたたきつけられたまま伸び切った触手を“転生”で切りつける。

 

 傷をつけることはできたが、さほど深くない。こいつ、かなり固いぞ!?

 

『それが無関係とは考えられない、そこにある“門”も破壊できないか?』

 

「そんなことを言われても…… おっと!?」

 

 2本の触手を“転生”で切り付けていると、悪寒がしたので後ろに飛び退く。すると先ほどまで俺がいたところを『異界の主』から放たれた水圧カッターが通り過ぎ、床にきれいな断面が刻まれた。

 

「くそっ、やるしかないのか……」

 

『とりあえずシロ、君なら動かない相手に強力なダメージを期待できる。できるか?』

 

「わかった」

 

「なら俺はリッチと一緒にやつの気を引けばいいんだな?」

 

『あっぁ、頼んだぞ』

 

「それはいいが、ほかはどうなっている?」

 

 そこで、一緒に『異界の主』に切りかかっていたリッチが口を開く。一応マオやメッケンナがいるから大丈夫だとは思うが、確かに不安である。

 

『そちらは大丈夫だ、福祉部門の“門”はメッケンナとマオ、ミラベルが、懲戒部門はパンドラとマキ、アセラが向かっている。ほかの職員も援護に向かっている』

 

「こっちに援護は?」

 

『さすがにそっちまでは難しい、ほかの“門”が鎮圧出来たらそちらに向かわせることができると思う』

 

「残りの一つはどうなっている?」

 

『それが、『O-02-i23』と『O-02-i24』*2、『O-02-i25』*3が代償無しでの協力を持ち掛けてきた。だからそちらは任せている』

 

「……そうか」

 

 まぁ、奴らにとっても『異界の主』は無視できない相手だ。手伝ってくれるのならば文句はない。

 

「ジョシュア、そっちにばっかり集中するな!」

 

「すまん!!」

 

 『異界の主』による攻撃を受けそうになりながら、何とか“転生”で攻撃を防ぐ。

 

 かなりの衝撃が腕に伝わってくるが、何とか耐える。だが何度も受けていい攻撃ではないな。

 

「シロ、そっちはどうなっている!?」

 

「リッチ、話しかけないで」

 

 『異界の主』の気を引き付けている間に、シロが“門”を破壊しようとする。しかしかなりの硬さなのかなかなか破壊することができないようだ。

 

「くそっ、このままだと……」

 

 『異界の主』が再び2本の触手を振り上げる。

 

 確かにその攻撃は強力だが、予備動作が大きければ隙も大きい。そのままリッチとともに『異界の主』の懐に潜り込む、さすがに強力な攻撃であろうとも、懐に入ってしまえば逃れることができる。

 

「よし、これで……」

 

「!? “門”が開く!!」

 

 その時、先ほどまで何の動きも見せなかった“門”が、徐々に開き始めた。

 

「くそっ、リッチ!!」

 

「わかった!!」

 

 緊急事態にリッチを向かわせる。

 

 『異界の主』のたたきつけが終わると同時に、リッチが“門”のところへと向かう。

 

 シロとリッチの二人で“門”を切りつけ破壊しようとするが、ついに門が完全に開いてしまう。

 

「なっ、なぜ中から『T-04-i57』*4が出てくるんだ!?」

 

『記録部門で『T-04-i57』が脱走しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

『福祉部門で『O-03-i20』*5が脱走しました。。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

『懲戒部門で『O-01-i37』*6が脱走しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

『情報部門にて『正体不明の扉』が出現しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

『中央第二にて『正体不明の扉』が出現しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

『抽出部門にて『正体不明の扉』が出現しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

『設計部門にて『正体不明の扉』が出現しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

「くそっ、そういうことか!!」

 

 おそらくは一定時間が経過すると“門”からアブノーマリティーが脱走する。さらによくわからないものまで出現するようになるのか!

 

 まずい、このままでは確実に施設が壊滅する。もしも先ほど出てきた“扉”にも似たような能力が存在するなら、その時は施設全域を使った大運動会のはじまりだ。それだけは避けなくては!!

 

「くそっ、このままだと……」

 

「シロ、そっちに集中しろ! こいつくらいなら一瞬で片を付ける!」

 

「リッチ、頼んだ」

 

 『T-04-i57』の相手をリッチが引き受けてくれたので、このまま『異界の主』に攻撃を加える。

 

 『O-01-i37』の脱走により施設全域に音楽が流れる。彼女の旋律は俺にとっては影響はないが、ほかのやつらには有害だ。一刻も早く鎮圧しなくては……!!

 

「くそっ、ほかのところは大丈夫か!?」

 

『福祉部門は退避が完了した、そちらにいたメンバーは中央第二に出現した“扉”を鎮圧後懲戒部門の“門”へと向かわせる。現在攻撃対象のいなくなった『O-03-i20』が“門”に対して攻撃を加えている』

 

「くそっ、変な奴らが脱走する前に何とかしないとまずいぞ!!」

 

『懲戒部門では『O-01-i37』が“門”の鎮圧に協力してくれている。そのままともに鎮圧を続けている』

 

『教育部門は相変わらずだ、ほかの部門に出現した“扉”は他のメンバーを向かわせた。これ以上戦力の分散はできない!』

 

「わかった、なるべく早く頼むぞ!」

 

 『異界の主』の攻撃を避けながら、何とか反撃を加えていく。しかし相手はかなり硬く、あまりダメージを与えることができない。

 

 もしかしたら“門”を破壊出来たら攻撃が通りやすくなるのかもしれないが、とにかくにも“門”を破壊しないことにはどうしようもない。

 

「ジョシュア、大丈夫か!?」

 

「こっちは大丈夫、そっちは!?」

 

「こっちは『T-04-i57』を鎮圧した、あとは“門”を破壊するだけだ!」

 

『こちらでは中央第二の“扉”を破壊した! 戦力を懲戒部門に集中させる!』

 

「了解した!」

 

 『異界の主』を切りつけながら、現状を把握する。結局のところ俺にできるのはここで奴の気を引き付けることだけだ。

 

 『異界の主』による薙ぎ払いを“転生”で逸らしながらいなし、再び接近して“転生”で切り付ける。

 

 しかしやつもやられてばかりではいられないのか、残る8本の触手で周囲にたたきつけを行う。

 

 周囲に衝撃とともに泡が飛び出す。おそらくはあれも食らうとまずいものだろう、宙に浮く泡を避けながら再び接近して攻撃を加える。

 

 だが、やはりどうしても気を引く程度でしかない。今はこれで頑張るしかないようだ。

 

『朗報だ! 今懲戒部門の“門”が鎮圧完了した、ついでに福祉部門の“門”も『O-03-i20』の手によって破壊されている。今奴は設計部門に向かっている』

 

「はぁ!? 一体どんだけやばいんだよ魔王のやつは……」

 

 あの時戦った時は何とかなったが、それほどまでに強力だったとは。やっぱりあいつZAYINじゃないだろ……

 

『教育部門ももう少しだ、今パンドラをそっちに向かわせる。ほかのエージェントは『O-01-i37』の鎮圧ののち、残りの“門”と“扉”の鎮圧に向かわせる!』

 

「助かる!」

 

 どうやら門のうちの二つを破壊することに成功したようだ。このまま何とか風向きはこちらに向いたようだ。

 

「行くぞ!」

 

 『異界の主』による触手の攻撃を避けながら、その触手に“転生”を叩き込む。

 

 すると、先ほどまであれほど硬かった『異界の主』の肌がより深く切りつけることができた。

 

「よしっ!」

 

 やはり、“門”を破壊することにより『異界の主』の耐性が変化するようだ。

 

 このままいけば、何とか……

 

「なっ、まずい!!」

 

 シロとリッチが何とか“門”を破壊することに成功する。しかし、それと同時についに『異界の主』が貝の玉座から立ち上がった。

 

 そして、ついに立ち上がった『異界の主』はその口からものすごい勢いの水塊が吐き出される。その矛先は俺、ではなくシロとリッチであった。

 

「シロ、リッチ!」

 

「まずい、シロ!」

 

 その攻撃からシロを守るべく、リッチがシロを突き飛ばす。それと同時に水塊が着弾した。

 

「リッチ!!」

 

「ジョシュア、危ない!!」

 

 そこで気を取られていたのが悪かったのだ。『異界の主』による触手の薙ぎ払いが迫り、すぐに衝撃が俺を襲う。

 

 そのまま体を吹き飛ばされ、気が付けば壁にたたきつけられていた。

 

「ジョシュアァァァ!!」

 

 シロの悲痛な叫び声が随分と遠く聞こえる。そこで、深いところへと落ちそうになっていた意識をうまく引き起こすことができた。

 

「うっ、ぐっ……」

 

『情報部門で『O-05-i18』*7が脱走しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

『中央第一にて、『正体不明の扉』が出現しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

『福祉部門にて、『正体不明の扉』が出現しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

『まずいことになった、現在懲戒部門のメンバーは『O-01-i37』と交戦中、そちらに向かっていたパンドラは抽出部門の“扉”を破壊して移動した『O-0-3i20』と福祉部門にて交戦中だ』

 

『頼む、どうにか持ち堪えてくれ!』

 

「あ、あぁ……」

 

 周囲を確認する。今シロが『異界の主』と交戦している。リッチは重傷を負いながらも、何とか立ち上がれるようだ。

 

 俺も傷は浅くない、どうにもまずい状態だ。増援も絶望的、ここで何とかするしかない。

 

『なんとか教育部門の“門”が鎮圧された、今『O-02-i24』を情報部門に向かわせている。そちらには『O-02-i13』と『O-02-i25』で援護できそうだ』

 

 その通信の直後に、俺の目の前に『O-02-i25』が現れる。どうやら俺を酷使するようだ、まぁシロが酷使されるより何倍もましだ。

 

「無駄口をたたくつもりはないよ、僕を盾にして奴をどうにかしてくれ!」

 

「もちろんだ!」

 

 痛む体をたたき起こし、『異界の主』に立ち向かう。すべての“門”を破壊したのだ、ここで決める!

 

「行くぞ!」

 

 『異界の主』に近づくと、奴はシロに攻撃している2本以外の触手をこちらに差し向けた。

 

 その攻撃を避けながら接近し、触手の一振りとともに現れる虹色の泡をなるべく避けながら攻撃を加えていく。

 

 そこで今までシロに向いていた『異界の主』の視線がこちらに移る。それと同時に2本の触手による薙ぎ払いがこちらに襲い掛かる。

 

「そう何度も食らうかよ!」

 

 触手を避けると同時に“転生”で切り付ける。どう考えてもさっきよりも柔らかい、これなら戦える!

 

「ジョシュア!」

 

「シロ、大丈夫か?」

 

「うん!」

 

 『異界の主』が口から水塊を吐き出す。それを避けると今度はよけた先に触手による叩きつけが待っていた。

 

「まずっ」

 

「俺を忘れるな!」

 

 そこをリッチが“超新星”による斬撃で触手を切り飛ばす。よかった、無事だったのか!

 

「リッチ!」

 

「俺を抜いてイチャイチャするな! 忘れられたかと思ったぞ!」

 

 リッチはそう軽口をたたいているが、どう見ても重症だ。何とか早く決着をつけて治療しなければ。

 

「リッチ、嫉妬は見苦しい」

 

「誰がジョシュアに嫉妬なんてするか!」

 

「えっ、私にじゃないの?」

 

「お前の中の俺はどうなってるんだ!?」

 

 いや、結構元気そうだ。とりあえずは大丈夫そうでよかった。

 

「とにかく集中するぞ!」

 

『中央第一で『O-04-i16』が脱走しました。エージェントの皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

「くそっ、かなりまずくないか!?」

 

 また脱走のアナウンスが聞こえる。このままだと確実に手が足りなくなる。

 

 そこで、先ほどまで施設全域に響いていた『O-01-i37』の演奏がついに途切れる。ようやく『O-0-1i37』の鎮圧が完了したらしい。

 

『……すまない、ようやく『O-01-i37』の鎮圧が完了した』

 

「そうか、増援は?」

 

『ただ、そちらに増援は向かわせられない。いや、向かわせられる人材がいない』

 

「……そうか」

 

 もうこうなれば俺たちで『異界の主』を鎮圧するしかないようだ。

 

 だが、“門”の破壊により『異界の主』の動きは活発になっている。正直思う様にダメージを与えられていない。

 

「くそっ、このままだと……」

 

「うっ!」

 

「シロ!!」

 

 もう戦闘も随分長期化している。これほどの相手との長い戦いにより、ついに疲れが出たのかシロが『異界の主』の触手に吹き飛ばされる。

 

「ジョシュア、気を抜くな!」

 

「くそっ、わかっている!」

 

 『異界の主』の水圧カッターを横によけながら、何とかシロのほうに攻撃が行かないように気を付けて位置を変える。

 

 再び接近して攻撃を加えていくが、意外に動きがすばやくなかなか攻撃が当たらない。

 

「くそっ、手が足りない!」

 

 リッチが触手を“超新星”で切り飛ばしながら嘆く。

 

 しかしその顔に悲壮感はなく、諦めの色は全くない。

 

「なら俺たちだけでやるしかないだろ! 少し時間を稼いでくれ!」

 

「わかった!」

 

 あまりやりたくなかったが、ここで“転生”の力を少し引き出す。

 

 正直“墓標”よりも奴に近い“転生”でするのはかなり危険だ、だがここでやらなければどこでやるというのだ。

 

 リッチにおとりになってもらいながら、“転生”に意識を傾ける。

 

 一刻もはやく、奴を鎮圧するにはそれしかないのだ……

 

 

 

 

 

『どうした、俺が恋しくなったか?』

 

 そんなわけあるか、さっさと力をよこせ

 

『ふん、相変わらずつれない奴だ』

 

 今のんびりしている時間はないんだ!

 

 お前の力、使わせてもらうぞ!

 

『……くははっ』

 

『本当にお前は、欲深いな』

 

『自分の力が足りないから、他人の力に縋る』

 

『しかもそれを、寄こせというではないか』

 

『まっこと弱く、欲深い』

 

 否定はしない

 

 俺は弱い、一人じゃ何もできない

 

 だから仲間と一緒に戦ってきた

 

 その仲間が危険なんだ、だったらどんな手を使ってでもやるしかないだろうが!

 

 だからよこせ『外道魔業』!

 

 俺のために、仲間のために!

 

『……くはは』

 

『嫌だ、といっても無駄だろう』

 

『正直に言えば、こうして語らわずともお前なら力を引き出せるだろう?』

 

 ……別にいいだろう

 

『そうか、恥ずかしいか!』

 

 おい馬鹿黙れ!

 

『なんだかんだで俺にも情を感じているのか!』

 

 黙ってよこせよ本当に!

 

『まぁ、奴に好き勝手されるのも気に食わんしな。手を貸してやる』

 

 ……最初からそう言えよ。

 

『まぁ、俺もお前のことを気に入っている』

 

『結局お前は人すぎる』

 

『愚かで弱く、欲深い』

 

『そのくせ変な善意は残っている』

 

『人間は、嫌いじゃない』

 

 ……もういい、力をくれるならサッサとしてくれ

 

『まさか照れているのか? 面白いなお前』

 

 もういい、行くぞ!

 

『わかった、わかった』

 

『行くぞ、ジョシュア』

 

 任せろ

 

 

 

 

 

「待たせた、行くぞ!」

 

「ジョシュア!」

 

 全身から青白い炎が噴き出す。いやこれやばくないか? ちょっと力が強すぎない?

 

「さっさと決めるぞ!」

 

「あぁ、もちろんだ!」

 

 迫りくる『異界の主』の触手に“転生”を振るい、斬撃が触手を切り刻む。

 

 それと同時に身を焼くような痛みが体を走るが、さほど問題ない。

 

「このままいくぞ!」

 

「任せろ!」

 

 触手を切り裂きながら『異界の主』に接近する。

 

 『異界の主』は接近する此方に対して水塊を自身の足元にたたきつけ、津波となって襲い掛かる。

 

 それをリッチが“超新星”で引き裂いて道を作る。開かれた道を突き進み、『異界の主』の懐に潜り込む。

 

 そしてそのまま青白く燃え上がる“転生”を『異界の主』の瞳に突き立てる。『異界の主』は暴れるが、決して離れてなるものか。

 

「ジョシュア!!」

 

 迫る触手をリッチが切り裂く、切り裂かれた触手はすぐに再生するが、片っ端から切り裂いて反撃の手をつぶしていく。

 

「うおぉぉぉ!!!!」

 

 青白い炎を“転生”を通して突き刺した『異界の主』の目玉に流し込む。

 

 内部から体を焼かれた『異界の主』は、もだえ苦しみながら暴れまわる。

 

 十分に焼いてから離れ、『異界の主』の前に立つ。そのまま槍を構えて力を籠める、燃え上がる炎が“転生”の先の部分に集まっていく。

 

「これで、おわれぇぇぇ!!」

 

 そのまま全力で“転生”を投げ付け、『異界の主』の額に突き刺さる。

 

 さらに全力で『異界の主』に接近して、額に突き刺さる“転生”を勢いのまま踏みつける。

 

 突き刺さった“転生”から炎を流し込んで『異界の主』を焼き尽くす。

 

「ぐおぉぉぉ!!」

 

 “転生”を引き抜き、噴き出す炎の勢いのまま回転して再び『異界の主』に突き立てる。

 

 『異界の主』が咆哮をあげ、世界が軋む。徐々に施設も悲鳴を上げ始め、揺れが大きくなっていく。

 

 そして、ついに“転生”が『異界の主』を貫いた。

 

 

 

 

 

「……ようやく、終わったのか」

 

 全てが終わり、燃え上がる炎が収まりつつある。そのまま膝をつきそうになるが、何とかこらえる。

 

「よし、このまま…… ごふっ」

 

「ジョシュア!?」

 

 戦いが終わりリッチに声をかけようとすると、いきなり胸から腕が生えた。

 

 その腕は手に何かを握っていた、それは脈動し、赤い液体を垂れ流している。正直自分のそれを見るのは初めてだな……

 

「あの子には悪いが、人間は鏖殺するのが信条でな、許せ」

 

「『O-03-i20』、よくもぉぉぉ!!」

 

 リッチが『O-03-i20』に切りかかる、『O-03-i20』はそれに応戦して戦いが始まる。

 

 こんな状況にもかかわらず、なぜか冷静な自分がいる。正直長くはないが、まだ少しだけ生きられるという確信があった。

 

「シロ……」

 

 『O-03-i20』の断末魔が聞こえ、誰かが駆け寄ってくる足音が聞こえる。そして彼は俺を支えてくれると、彼女のところまで導いてくれた。

 

「……よかっ、た」

 

 シロの顔に触れると、まだ暖かい。それに息もしている、気絶しているだけのようだ。

 

 気が付けば、この場には俺とシロだけになっていた。そこで、最後に伝えなければならないことを思い出す。

 

 誰宛かも思い出せないが、回らない頭を頑張って回転させて言葉を紡ぐ。こうなってはもう未来はない、だから最後に伝えなければ……

 

「きこえて、いるか……?」

 

『……あぁ、聞こえる』

 

「も、う…… 世界が……」

 

『わかっている、奴を鎮圧しても、止まりそうにない』

 

「あぁ…… だ、から、頼みが……」

 

『大丈夫だ、落ち着いて話してくれ』

 

「リ、セットを、あん、た、なら、戻、れる、だろ……?」

 

『……どこで、それを』

 

『いや、そうだな。もしかしたら何とかなるかもしれない。時間もない、すぐに始める』

 

「あり、がと……」

 

『もうしゃべるな』

 

「……」

 

『最後くらいは、二人きりにしてやる。後悔の無い様にな』

 

「……ありがと」

 

 

 

 

 

「……アンジェラ、お願いがあるんだ」

 

「はい、それでは準備を……」

 

「いや、それとは別だ」

 

「……なんでしょうか?」

 

「あぁ、別に嫌ならいいんだ。その時は無視してくれ」

 

「だが、もし約束してくれるなら、どうか……」

 

 

 

 

 

 通信が切れる。どうやら気を使わせてしまったらしい。

 

「……シ、ロ」

 

 彼女のほほをなでる。最後に話そうにも、起こすことすら難しい。

 

 だが、彼女の目覚めを待つには時間が足りないだろう。だから、誰も聞いていなくても、言葉にしておきたい。どうか、俺の気持ちを伝えたい。

 

「お前は、ずっと無口で、何を、考えて、いるのか、わから、ないやつだっ、たよな……」

 

 あの頃を思い出す、初めは話しかけても返事どころか反応すらしてくれなかった。

 

「最、初は、仲よく、しようって思って、声を、かけたけど、だんだん、一緒にいるのが、楽しく、なっていったんだ」

 

 せっかくだから仲よくしたい、そんな思いでシロとかかわっていたら、いつの間にか、彼女といるのが当たり前になっていた。

 

「初め、て、お前の声を、聞いた、とき、驚いた、のと、一緒に、うれし、かった」

 

「ちゃん、と、俺の、こと、認識して、くれて、いたんだなって、ことと、俺のこと、心配して、くれた

、こと」

 

 あの時は、落ち込んでいた俺を、励ましてくれたんだよな。初めて声を聞いたときは、そんな声だったのかと正直びっくりした。

 

「それ、から、一緒に、食事、して、会話、して、遊んで、お前を、失いたく、ないと、思っ、たんだ」

 

 一緒に食事をしながら会話をして、一緒に遊んだりゲームしたり、仕事をしたり。その一つ一つの当たり前が、俺にとってはうれしかった。

 

「あぁ、恐れずに、もっと、早くに、伝え、たかった」

 

 俺にとって大切なものになったら、きっと俺は失うことに恐れてしまう。だからどうしても一歩踏み込むことができなかった。

 

 幸せになろうとすることが、今まで助けられなかった仲間たちに、なんだか申し訳なかった。

 

「お前が、どう、思って、いるのか、わから、ないけど、俺は……」

 

 だけど、本当は伝えたかった。こんな状況にならないといえないのは、我ながら情けないが、それでもそれを伝えずに終わってしまうのは嫌だった。

 

 本当はわかっていた、気が付いていた、でもどうしても一歩が踏み出せなかった、怖かった。

 

「お前の、こと、が、す、……」

 

 最後に俺の瞳に焼き付いた光景は、嬉しそうに微笑みながら涙を流す、シロの姿であった……

 

 

 

 

 

 

 

 世界は緩み、たわみ、巻き戻る。

 

 重力が消え失せて、体が水中に投げ出されたかのように、上下の感覚すらわからなくなる。

 

 世界は流れを逆らい、光をおいていく。

 

 瞳が熱く痛み、己の感覚がまだ生きていることを思い出す。

 

 歪みは正され、いや、正しき世界に巻き戻り、かの影響を最小限に抑える。

 

 特異点は正常に働き、目的の時間へと向かっていく。

 

 世界は加速する、ここにいるすべてを置き去りにして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、あの時とは反対ですね」

 

 それは眺める 倒れる二人を見て

 

 無感情に それを眺めて

 

 世界は巻き戻る

 

 残酷にも

 

 この時間の全てを置き去りに

*1
『老殻』

*2
『鋏殻』

*3
『宿殻』

*4
『蠱毒の災禍』

*5
『魔王シャイターン』

*6
『儚きハーモニクス』

*7
『魂の種』




51%


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最終報告書

 『O-07-i99』が真の姿へと至ったとき、世界は崩壊を迎える

 

 

 

『崩海の門』

 

危険度クラス ALEPH

 

クリフォトカウンター 2

 

単発使用型

 

 

 

◇管理情報(情報開放使用回数)

 

1(1回)

 『O-07-i99』を使用することで、不要なものを異界に送ることができる。

 

2(3回)

 異界に送るものは生命・非生命にかかわらない。また、祝福や呪いといった実体のないものなど、ありとあらゆる存在を送ることができる。

 

3(5回)

 『O-07-i99』の使用後、謎の物体が現れた。その物体に対して『O-07-i99』を使用しても特に変化は見られなかった。

 

4(7回)

 クリフォト暴走段階が5になるまでに『O-07-i99』を1度も使用しない、あるいはクリフォト暴走段階が10に達するまでに『O-07-i99』を二度使用していない場合、クリフォトカウンターが減少した。

 

5(10回)

 『O-07-i99』を一日に3回以上使用すると、異界の扉が開かれ、クリフォトカウンターが減少した。

 

6(15回)

 『O-07-i99』を合計15回使用すると、『O-07-i99』は崩海の門へと至り、世界は終焉を迎える。

 

 

 

◇E.G.O.

 

・武器 崩海(ハンマー)

 

クラス ALEPH

 

ダメージタイプ B(14-20)

 

攻撃速度 高速

 

射程距離 普通

 

*特殊攻撃時、攻撃を受けた相手を1Tの間行動不能にさせる。(連続では出ない)

 

*『異界の主』を鎮圧成功時、一度だけ入手可能。

 

 

 

◇戦闘スペック

 

『異界の主』

 

クラス ALEPH

 

HP 10000

 

移動速度 ―――

 

行動基準 職員のみ

 

 

 

第一段階

 

R 0.1 耐性

 

W 0.1 耐性

 

B 0.1 耐性

 

P 0.1 耐性

 

 

 

第二段階

 

R 0.3 耐性

 

W 0.3 耐性

 

B 0.3 耐性

 

P 0.3 耐性

 

 

 

第三段階

 

R 0.5 耐性

 

W 0.5 耐性

 

B 0.5 耐性

 

P 0.5 耐性

 

 

 

第四段階

 

R 0.5 耐性

 

W 0.5 耐性

 

B 0.5 耐性

 

P 0.5 耐性

 

 

 

*『崩海の門』を一つ鎮圧するたびに、段階が変化。

 

 

 

・藻屑 B(20-30) 射程 普通

 

 触手によるたたきつけ攻撃、前方にいる全員にBダメージ。

 

・祟水 B(30-40) 射程 遠距離

 

 高圧の水を発射する遠距離攻撃、前方の全員にBダメージ。

 

・津波 B(50-55) 射程 近距離 周囲

 

 自身の周辺に波を発生させる、その後一定時間B5ダメージを継続して与える。

 

・崩海 B(100) 射程 施設全域

 

 施設全域に基本的に回避不可能のビーム攻撃、『異界の主』と同じ部屋に職員がいない場合に使用する。

 

 

 

『崩海の門』

 

クラス ALEPH

 

HP 1000

 

移動速度 ―――

 

行動基準 ―――

 

 

 

R 0.3 耐性

 

W 0.3 耐性

 

B 0.3 耐性

 

P 0.3 耐性

 

 

 

*『異界の主』の出現とともに、施設内のランダムな部門に4体出現する。

 

*2T毎に同じ部門内の脱走可能なアブノーマリティー1体を脱走させる。その後最も近い『異界の扉』が存在しない部門に、『異界の扉』を出現させる。

 

 

 

『異界の扉』

 

クラス WAW

 

HP 700

 

移動速度 ―――

 

行動基準 ―――

 

 

 

R 0.5 耐性

 

W 0.5 耐性

 

B 0.5 耐性

 

P 0.5 耐性

 

 

 

*『O-07-i99』の特殊能力で出現する。

 

*『崩海の門』の特殊能力で出現する。

 

*2T毎に同じ部門内の脱走可能なアブノーマリティーを脱走させる。

 

 

 

余談

 

 ついに本性を現した最強のALEPHツールです。

 

 もちろん使いどころもちゃんとありますが、それ相応のリスクももちろんあります。

 

 このツールは、条件を満たしたときに『異界の主』が出現します。

 

 その後『異界の主』を倒すことで、最強レベルの武器を得られます。それが『崩海』です。

 

 この武器の最大の特徴は、相手を少しの間だけ行動不能にさせることです。あれほどの相手と戦うのだから、それ相応の報酬がないとですもんね。

 

 さすがにギフトはやりすぎだと思ったので出しませんでしたが、それでも有り余る有用性があります。

 

 ちなみに戦闘中の1Tは大体6秒くらいなので、ゲームだったらかなりのぶっ壊れですね。

 

 その代わり、戦闘ではかなり大変な思いをすることになると思います。

 

 今回の話は、大まかな流れは弟が戦った時と一緒です。ただし本来ならホクマー抑制中でしたが……

 

 何がつらいかというと、まず一つが『崩海の門』をどうにかしなければ、時間をかければかけるほど事態が悪化することです。

 

 本当だったら『木枯らしの唄』やら『盲目の愛』やらが脱走してほしかったのですが、残念ながらこちらにとって有益なやつしか脱走しませんでした。

 

 次に、これ『異界の主』を相手してないと施設全域にほぼ回避不可能のB100ダメージのビームを放ちます。しかも部屋に誰もいない限りずっとです。

 

 つまり『異界の主』の相手をしながら施設各地に出現する『崩海の門』を鎮圧なければなりません。

 

 しかしいい感じに脱走してくれてすごく楽しかったですね。

 

 ちょうど甲殻類ブラザーズも全員収容されていたので、話を作りやすかったですしね。

 

 それと、以前本人たちも言ってましたが、甲殻類ブラザーズは『異界の主』が脱走すると無償で協力してくれます。

 

 普段だったら職員を捕食する彼らですが、この時だけは誰一人職員を捕食しません。かなり有益。

 

 

 

 実は、こいつもストーリーの中で結構重要な立ち位置にいます。

 

 元々はこれとは別に考えていた別の話に登場するはずだった超重要アイテムだったりします。

 

 その特性から、この小説でもかなり重要なアイテムでもあったりします。能力がすごいですからね。

 

 実は今までにも『幸せな金魚鉢』や『森の守人』など、再利用している奴が結構あったりしています。

 

 こっちの話もいつか書いてみたいですね。

 

 ちなみに、「職員たちの平穏な日々」でシロたちが「もうすぐあれの時間」といってますが、そんなものはありません。

 

 あれは『異界送りの契約書』によって自然な形で誘導されている形となっています。

 

 そういった干渉に抵抗のあるシロですら違和感を感じていないので、かなりやばい能力ですね。

 

 ほかにも使用したら出現する謎の物体についても色々設定があるのですが、もしかしたらそのうちその話をするかもしれませんね。

 

 

 

 さて、これにて一周目の物語はすべて終了しました。

 

 ここからは、しばらく別の話をはさんでからの二周目に移ることとなります。

 

 それと、もしよかったら活動報告のほうで、皆さんが一周目で一番気に入ったアブノーマリティーや、一番収容してみたいアブノーマリティーなどを紹介してほしいと思います。

 

 お時間がありましたら、活動報告のほうで回答をお願いします。

 

 また、次回の更新は少し時間がかかるので、一週間ほど空くかもしれません。ご了承ください。

 

 

 

 二周目でも皆様を楽しませてくれるようなアブノーマリティーを紹介していきたいと思います。

 

 どうにかここまで書き続け、一周目を終えることができたのも、皆様の励ましのあったおかげです。

 

 どうかこれからも、最後までお楽しみいただけるように頑張りますので、よろしくお願いします。

 



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システム
アブノーマリティー図鑑


ネタバレ注意

12月11日 様々なNo.1を追加しました。


 アブノーマリティーも大分増えてきたので、ここまでに出てきたアブノーマリティーを一度まとめることにしました。

 

 ただまとめるだけだと寂しいので、設定などもちょこっとのせてます。

 

一応見方としては

 

 

番号『名前』 管理情報

『選択時の台詞』

危険度クラス 

       ZAYIN 一番安全()

       TETH 危険もあるが、対策をとれば安全

       HE 特殊能力で殺しにかかってくる

       WAW 脱走も特殊能力も強力で、油断できない

       ALEPH 管理が非常に厳しく、脱走すれば基本的に終わり。

 

カテゴリー O(オリジナル):どのような存在か

      T(トラウマ):元となった恐怖

      F(フェアリーテイル):元ネタ

 

分類 01:人型(人の形してれば人形でもOK)

   02:動物(自我のある生物)

   03:宗教(そのまま)

   04:無生物(物体や自我の無い生き物)

   05:機械・人工物(基本的にそのまま)

   06:抽象・融合(そこに存在しないものや不安定なもの)

   07:特殊なツール(脱走したりクリフォトカウンターのあるツール)

   09:ツール(道具)

 

好感度:好感度を上げる条件、10まで上げればギフトがもらえる。

 

 

 という感じになっています。

 

 こうしてみると結構な数なので、これで見たいやつが探しやすくなったと思います。

 

 それでは、ここからネタバレ注意です!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

O-01-i01『安らぎの揺り籠』 管理情報

『この心地よい揺らぎに身を任せよう』

危険度クラス ZAYIN

O:無垢、恐れを知らぬ 

01:人型 

好感度:作業実行+1、作業結果良+1、試練鎮圧+3

 

 イメージは揺り籠に揺られる胎児。収容室に入らない限り収容室がカーテンに覆われて隠れているため、内部の状況がわからない。

 

 

O-01-i02『新星児』 †作業中職員殺害数No.1†管理情報

『君のための世界を作ろう』

危険度クラス ALEPH

O:新たな世界への希望

01:人型

好感度:作業結果良+1(『O-01-i01』から成長させると、その時点で一度でも作業していた全員への好感度がMAXになる)

 

 イメージは純白の翼の生えた中性的な子ども。初見殺し性能がひどい。

 

 

T-02-i03『秘密基地の冒険隊』 管理情報

『これはいい船だ』

危険度クラス WAW

T:少年時代からの成長への恐怖

02:動物

好感度:友達状態で他のアブノーマリティーへ作業をするごとに+1、友達状態解除時に加算

 

 イメージは二足歩行のアリ。扱いを間違わなければ愛嬌があってかわいい。

 

 

F-02-i04『救われぬ亀』 管理情報

『けれど、誰も助けてくれなかった』

危険度クラス TETH

F:浦島太郎

02:動物

好感度:愛着作業を行うたびに+1

 

 イメージはボロボロで腐りかかったウミガメ。わりかし良心の痛む管理方法がお気に入り。

 

 

F-01-i05『さまよいゆく桃』 管理情報

『生まれぬ魂に、憎しみだけが集まった』

危険度クラス WAW

F:桃太郎

01:人型

好感度:脱走させるたびに+1

 

 イメージは腐った大きな桃、中身は風雲僧。影は薄いが、脱走したら結構厄介。

 

 

F-02-i06『吊るされた胃袋』 管理情報

『お前も俺様を食べる気か?』

危険度クラス TETH

F:いぶくろ

02:動物

好感度:本能作業を行うたびに+1

 

 イメージは絵本の通り。何気に憎めなくて好き。

 

 

O-03-i07『でびるしゃま』 管理情報

『おれさまにいけにえをささげなさーい!』

危険度クラス あれふ

O:幼さ

03:宗教

好感度:イケニエ作業を行うたびに+1

 

 イメージはプチブリン(風のタクト)を丸くして可愛くした感じ。実は『O-03-i20』が脱走した際に『おねがい』の作業が出来るようになる。

 

 

T-05-i08

 

 現状では番号のみ判明

 

 

T-04-i09『森の守人』 管理情報

『この枯れた大地に、種を撒こう』

危険度クラス WAW

T:環境破壊に対する恐怖

04:無生物

好感度:作業結果良で+1

 

 イメージは人の形をした巨木。設定とか結構気に入ってる。

 

 

T-05-i10『幸せな金魚鉢』 管理情報

『こうすれば、見てくれるんだね?』

危険度クラス TETH

T:忘れ去られる恐怖

05:機械・人工物

好感度:作業結果良で+1

 

 イメージは『血の風呂』の金魚鉢版。まだ死んでない。

 

 

T-05-i11『盲目の愛』 管理情報

『目移りするのがいけないのね』

危険度クラス ALEPH

T:愛を失う恐怖

05:機械・人工物

好感度:エンゲージ状態で作業を行うたびに+1

 

 イメージは目玉のついた指輪、脱走時はカマキリと臓物で出来たウェディングドレス。実は“エンゲージ状態”が外れてもキレるし、女性型アブノーマリティーと出会ってもキレる。

 

 

T-01-i12『蕩ける恋』 管理情報

『ただ、貴方に食べて欲しい』

危険度クラス ZAYIN

T:愛するものを失う恐怖

01:人型

好感度:作業結果良で+1

 

 イメージは『溶ける愛』のチョコ版。完全に無害なのはこいつくらいだよ……

 

 

T-04-i13『魅惑の果実』 管理情報

『その果実は幸せそうだった』

危険度クラス HE

T:依存への恐怖

04:無生物

好感度:作業結果良で+1

 

 イメージは人で出来たザクロ。実は実の部分は美味しい。

 

 

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■-■■-i15

 

 

O-04-i16『骨の華』 管理情報

『全て剥がされ、白い華だけ残った』

危険度クラス WAW

O:睡眠欲・怠惰

04:無生物

好感度:鎮圧するたびに+1

 

 イメージは骨で出来た花。出来れば変化前の名前をもう少しいい感じにしたかった。台詞から弟にALEPHだと思われてた。

 

 

O-04-i17『肉の実』 管理情報

『咀嚼音だけが聞こえてきた』

危険度クラス WAW

O:食欲・強欲

04:無生物

好感度:鎮圧するたびに+1

 

 イメージは腐肉のミートボール。実は元々の変化前の名前は『動くボール』という糞ダサネームだった。台詞から弟にALEPHだと思われてた。

 

 

O-05-i18『魂の種』 管理情報

『その灯火は決して消えない』

危険度クラス TETH

O:性欲・闘争心

05:機械・人工物

好感度:鎮圧するたびに+1

 

 イメージは運命のろうそく(遊戯王)。ほかの二体と違って魂があるので分類が違う。

 

 

O-03-i19『輪廻魔業』 管理情報

『時は満ちた』

危険度クラス ALEPH

O:人の欲望

01:人型

好感度:頑張れ!

 

 イメージは外道魔像(NARUTO)が近い気がする。気が付いたら相棒ポジに、打ち間違いで『外道魔業』というあだ名が出来る。

 

 

O-03-i20『シャイターン伯爵』 管理情報

『ずいぶんとお世話になったようで』

危険度クラス ZAYIN

O:邪悪

03:宗教

好感度:すごいパワー状態で作業を行うたびに+1

 

 イメージは胡散臭い老紳士。脱走中に『O-03-i07』に『おねがい』作業を行うと、昇天する。

 

 

T-01-i21『インディーネ』 管理情報

『永遠の命への妙薬』

危険度クラス WAW

T:寿命への恐怖

01:人型

好感度:作業結果良で+1

 

 イメージは水銀のウンディーネ。誘惑されても乗っちゃダメ!

 

 

T-05-i22『慈愛の形』 †作業回数No.1†管理情報

『貴方は信じてくれますか』

危険度クラス HE

T:信頼を裏切ることへの恐怖

05:機械・人工物

好感度:加護状態で作業を行うたびに+1

 

イメージは天使の像。元々人間。

 

 

O-02-i23『老殻』 管理情報

『豊富な知識は身を助けるのだ』

危険度クラス HE

O:傭兵・狙撃兵

02:動物

好感度:依頼をするごとに+1

 

 イメージはライフル持ったエビ。エビフライに。

 

 

O-02-i24『鋏殻』 管理情報

『俺たち海の荒れくれもんだ』

危険度クラス HE

O:傭兵・戦士

02:動物

好感度:依頼をするごとに+1

 

 イメージは巨大なカニ。カニ鍋、甲羅酒に。

 

 

O-02-i25『宿殻』 管理情報

『必ず貴方をお守りしましょう』

危険度クラス HE

O:傭兵・警護

02:動物

好感度:依頼をするごとに+1

 

 イメージは巨大なヤドカリ。チェンジで!

 

 

F-01-i26『吹雪の約束』 管理情報

『決して誰にも話してはいけませんよ』

危険度クラス HE

F:雪女

01:人型

好感度:男性が作業を行うたびに+1

 

 イメージは雪のような白い肌の着物を着た女性。何故か話の流れで不憫属性に。

 

 

F-04-i27『零時迷子』 管理情報

『素敵な時間よ、永遠に』

危険度クラス HE

F:シンデレラ

04:無生物

好感度:女性が作業を行うたびに+1

 

 イメージは舞踏会のホール。この話は結構気に入ってる。

 

 

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T-02-i29『美溶の渇望』 管理情報

『その欲求には抗えない』

危険度クラス TETH

T:美を失うことへの恐怖

02:動物

好感度:作業を行うたびに+1

 

 イメージは巨大な蚊。装備の説明文が好き。

 

 

 

T-06-i30『常夜への誘い』 管理情報

『手手手て手手手テtE』

危険度クラス ALEPH

T:暗闇への恐怖

06:抽象・融合

好感度:鎮圧後に作業結果普通で+1

 

 イメージはあえて言わない。ギフトがつくと慎重-10で殺しにかかってくるヤバイやつ。

 

 

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O-01-i33『木枯らしの唄』 管理情報

『簒奪の風が吹く』

危険度クラス ALEPH

O:簒奪者

01:人型

好感度:鎮圧後に作業結果良で+1

 

 イメージは枯れた人間。管理方法、育成、ギフト、装備、どれをとっても有能な人類の味方枠、ただし脱走したら……

 

 

F-01-i34

現状では名前だけ判明

 

 

T-02-35『喧騒の浸透』 管理情報

『地下にそんなやつはいない』

危険度クラス TETH

T:地下への恐怖

02:動物

好感度:本能作業を行うたびに+1

 

 イメージはマンホールから顔を覗かせるワニ。やっぱり『肉の灯籠』枠は害悪、古事記にもそう書いてある。

 

 

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O-01-i37『儚きハーモニクス』 †特殊能力殺害数No.1†管理情報

『その旋律は、我々には刺激的すぎた』

危険度クラス ALEPH

O:孤独・孤高

01:人型

好感度:演奏を最後まで聞いた後に作業を行うたびに+1

 

 イメージは綺麗な銀髪の少女、多分パンクな服装してる。ギフトつければ完全に味方、“エンゲージ状態”で彼女に出会うと大怪獣バトルが始まる。

 

 

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O-01-i40『青き東風の春姫』(あおきこちのはるひめ) 管理情報

『もうすぐ暖かくなりますね』

危険度クラス ZAYIN

O:春・命の芽生え

01:人型

好感度:作業結果良で+1

 

 イメージは殻に籠った竜の角をもつ少女。可愛い。

 

 

O-01-i41『朱き南薫の夏姫』(あかきなんくんのなつひめ) 管理情報

『燃ゆる心は日差しのよう』

危険度クラス TETH

O:夏・成長

01:人型

好感度:作業結果良で+1

 

 イメージは翼の生えた少女。可愛い。

 

 

O-01-i42『白き西風の秋姫』(しろきにしかぜのあきひめ) 管理情報

『豊穣と儚さに想いを馳せて』

危険度クラス HE

O:秋・成熟

01:人型

好感度:作業結果良で+1

 

 イメージは猫耳の女の子。可愛い。

 

 

O-01-i43『玄き北颪の冬姫』(くろききたおろしのふゆひめ) †オフィサー殺害数No.1†管理情報

『終わりは少し温もりを』

危険度クラス WAW

O:冬・寿命

01:人型

好感度:作業結果良で+1

 

 イメージは亀成分多めの女性。可愛い。

 

 

O-01-i44『貴き初凪の季姫 』(とうときはつなぎのすえひめ) 管理情報

『また 季節は廻る』

危険度クラス ALEPH

O:自然・命の巡り

01:人型

好感度:押し倒せ!

 

 イメージは麒麟成分多めの女性。可愛い。

 

 

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O-05-i47『フレディのドキドキいやしんぼバーガー』 管理情報

『私には足りないものがある』

危険度クラス HE

O:食人間自己自分一体食不明危険食再構築自分謎食幻想邪悪食哀愁蛆食身食食食ガガッガガガッ

05:機械・人工物

好感度:本能作業を行うたび+1

 

 イメージはハングリーバーガー(遊戯王)。誕生の経緯とか好き。

 

 

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O-04-i55『木霊蜘蛛』 管理情報

『奴等は知っているんだ、その声の意味を』

危険度クラス WAW

O:木霊

04:無生物

好感度:作業結果良で+1

 

 イメージは蜘蛛の形をした影。本来は群れで生活している。

 

 

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T-04-i57『蠱毒の災禍』 †依頼数No.1†管理情報

『混ぜて混ぜて、はい出来上がり』

危険度クラス WAW

T:呪いに対する恐怖

04:無生物

好感度:職員を殺害するたびに+1

 

 イメージは巨大なムカデ。ギフトも装備もかっこよくて気に入ってる。

 

 

■-■■-i58

 

 

T-04-i59『惰眠の細動』 管理情報

『決して音をたてないで下さい』

危険度クラス WAW

T:雑音に対する恐怖

04:無生物

好感度:作業結果良で+1

 

 イメージは灰色の結晶。くっそ厄介な特殊管理アブノーマリティー、ゲブラーの槍。

 

 

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O-01-i64

現状では名前だけ判明

 

 

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O-09-i80『天命の祭壇』 管理情報

『祈りは、必ず届く』

危険度クラス WAW

O:邪悪な何かへの貢物を捧げる祭壇

09:ツール 継続使用型

 

 イメージは古びた石製の祭壇。最初は全脱走だったが被るので変更した。

 

 

■-■■-i81

 

 

T-09-i82『惰弱の枷』 管理情報

『弱り果て、涙を流す』

危険度クラス TETH

T:老化・衰えへの恐怖

09:ツール 装着型

 

 イメージは錆びた枷。最初はステータス反応系に対する救済措置だったが、別のツールでもいけることに気が付いたため、もっぱらトレーニング用。

 

 

■-■■-i83

 

 

T-09-i84『終幕の笛』 管理情報

『終わりが始まる』

危険度クラス HE

T:闘争への恐怖

09:ツール 継続使用型

 

 イメージは昇天の角笛(遊戯王)。ゴングが欲しかった……

 

 

T-09-i85『次元超越機巧』 管理情報

『次元の先で、君を待つ』

危険度クラス TETH

T:現実世界への恐怖

09:ツール 継続使用型

 

 イメージはパソコン。ストーリーを特に考えていなかったため、当時かなり焦った。

 

 

T-09-i86『破魔の札』 管理情報

『頼もしさと同時に、恐ろしさを感じる』

危険度クラス HE

T:怪物への恐怖

09:ツール 装着型

 

 イメージはお札。そこそこ使える方、“加護”と“すごいパワー”状態ならデメリットを無視できる。

 

 

T-09-i87『搾取の歯車』 †装着時間No.1†管理情報

『ここは笑顔の絶えない場所です』

危険度クラス WAW

T:過労・強制労働への恐怖

09:ツール 装着型

 

 イメージはスーツケース。一番の功労者。

 

 

T-09-i88

現状では名前だけ判明

 

 

■-■■-i89

 

 

 

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T-09-i91『七色の瓶』 管理情報

『色褪せた世界が広がる』

危険度クラス TETH

T:色彩への恐怖

09:ツール 単発使用型

 

 イメージは空き瓶(風のタクト)。不味いし臭い。

 

 

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■-■■-i93

 

 

O-09-i94『父からの手紙』 管理情報

『親愛なる我が息子へ』

危険度クラス HE

O:親子愛

09:ツール 装着型

 

 イメージは封筒と手紙。スタンド能力みたいなツールが欲しかった。

 

 

■-■■-i95

 

 

T-09-i96『黄金の蜂蜜酒』 †使用回数No.1†管理情報

『希望は絶望に変わるだろう』

危険度クラス WAW

T:酒類への恐怖

09:ツール 単発使用型

 

 イメージは酒瓶。糞みたいなツールを作ろうと考えたら、予想以上に糞だった。

 

 

T-09-i97『極楽の湯』 †使用時間No.1†管理情報

『地獄の中で天国を見つけた』

危険度クラス ZAYIN

T:温泉への恐怖

09:ツール 継続使用型

 

 イメージは露天風呂。話が進む度に新しい使い方を思い付いてしまい、万能ツールになった。

 

 

T-09-i98『フォーチュンキャンディ』 管理情報

『今日もいい日でありますように』

危険度クラス ZAYIN

T:運命への恐怖

09:ツール 単発使用型

 

 イメージはキャンディボックス。初期の即死祭りはかなり良い出来だと思ったが、全く使われなくなったので泣く泣く弱体化。

 

 

O-07-i99『崩海の門』 管理情報

『その契約の意味を知るだろう』

危険度クラス ALEPH

O:異界

07:特殊ツール 単発使用型

 

 イメージは羊皮紙と巨大な門。色々規格外。

 

 

Fett-is-awesome『お前、デブだよ…』 管理情報

『そのチャイムの音に貴方は胸を踊らせた』

危険度クラス デブ(ZAYIN)

Fett:デブ

is:デブ

awesome:デブ

好感度:デブ

 

イメージはデブ。ものすごいデブ!

 

 

 

 

 

 

◇没案又は採用しないかもしれないアブノーマリティー

 

 ここまで既出のアブノーマリティーを挙げていましたが、ここからは没案や採用するかわからないアブノーマリティーについて書こうと思います。

 

 せっかく考えたは良いけど、このまま日の目を浴びることなく消えるのも悲しいので、ここで供養します。もしかしたら出るやつもいるかもしれませんが……

 

 今から出てくるアブノーマリティーは、案は出たけど上手く書けなかったもの、ALEPHを作成するときに幾つか考えた候補等があります。

 

 ALEPHの候補は格落ちして生き残っているのもあるので、もしかしたらここのも再利用するかもしれません。

 

 ちなみになぜここで公開しようと思ったかというと、実は以前に取った二週目のアンケートの結果が『これまでのような感じで幻想体変えて二週目』になったからです。

 

 どういうことかというと、アンケートの結果がこれになったら、二週目も最初の一体を除いてすべて新しいアブノーマリティーにしようと思っていたからです。

 

 その結果、没になってそのままだった番号のところを変更することになり、彼らが消えてしまうことになってしまうので、ここで公開することになりました。

 

 以前にアンケートの結果が一番のあたりといったのは、この部分だったわけですね。頑張るぞ!

 

 一応ネタバレになる可能性もありますので、気になる方はお気をつけてください。

 

 それではご覧ください。

 

 

 

 

 

 

・F-02-i15『嘘ギ』

『騙されるほうが悪いのさ』

 

理由:愛着が持てなかったため

 

 

・F-01-i36『泡沫の夢』

『もう語ることはできない』

 

理由:管理方法が思いつかなかったため

 

 

・O-01-i39『笑わないピエロ』

『貴方を笑顔にしてあげる』

 

理由:諸事情により

 

 

・T-06-i46『無邪気な破壊』

『子どもには、誰にだって友達がいた』

 

理由:格が足りなかった

 

 

・T-05-i52『鏡面の彼方』

『さぁ、僕は誰でしょう?』

 

理由:管理方法が難しく、こちらで管理できなかったため

 

 

・■-■■-■■■『■の■■■■』

『■は■■なのです』

 

理由:他のアブノーマリティーのネタバレになるため、一部を伏せる

 

 

・O-09-i83『流転する砂時計』

『決してなかったことなんかにしない』

 

理由:管理方法が厄介で、すでに互換性のあるツールが存在したため

 

 

・T-09-i93『閃きのペン』

『そんなに簡単なことだったのか』

 

理由:特にいいアイデアが浮かばなかったため

 

 

・O-09-i95『ジョシュアの首飾り』

『よう、お前も俺か』

 

理由:そりゃあ、この小説の主人公をジョシュアにしちゃったらねぇ……

 



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試練一覧

 一応試練についてもまとめました。

 

 もう少し書きたかったのですが、今のところはここまでです。

 

 

 

◇灰塵の試練

 

テーマ そこにある見向きもされないもの

 

イメージカラー 灰色

 

 社会、大地、世界を構成する無名の人々。なくてはならないはずなのに見向きもされないそれらは、何の感謝もなくただただ今日も存在し続ける。

 

 なくてはならないものだというのに、普段から気に掛けるというものは少ない。誰に感謝されるわけでもなく、ただただ搾取され続ける。

 

 たとえどれほど足掻いても、皆の心に焼き付くことはできないだろう。

 

 

・黎明『路傍』

 

出現時『路傍に転がり、誰かに気づいてもらうことを願う。ここにいるということ、存在の証明を』

 

鎮圧時『誰も気が付かない、見向きもされない』

 

 そこら辺に転がっている石。完全に路傍の石。戦闘5T(30秒)毎にB5ダメージ。しいて言うなら見つけにくい。

 

 

 

・白昼『基盤』

 

出現時『ならばみんなの土台になろう、そうすれば私のありがたみを知るだろう』

 

鎮圧時『踏み台にするだけで、感謝はない』

 

 こっちに転がってくる大きな岩。そこにいると伝えたい。さほど強くない。

 

 

 

・夕暮『霊峰』

 

出現時『大地を押し上げ天を仰ぎ見る、私はすべてを受け入れる』

 

鎮圧時『人々から信仰は失われた』

 

 初見殺し全振り…… と見せかけて結構戦闘能力も高い。行動はより大きく、過激に。

 

 

 

・深夜『国造り』

 

出現時『今ここに、新たな世界を作ろう』

 

鎮圧時『ようやく眠れる』

 

 戦闘能力、攻撃範囲、耐久共に今までとは比べ物にならないくらい強い。たとえ世界に知らしめようと、そこに残るのは空虚な満足と倦怠感だけである。施設全域のメインルームを制圧すると、施設全域に即死級の攻撃を一定時間ごとに放つ。

 

 

 

◇苺の試練

 

テーマ 狂愛

 

イメージカラー 桃色

 

 愛とは自分勝手ではならない。

 

 愛とは自分と相手とで育みあうものだ。

 

 もしも独りよがりな愛があるのであれば、それは狂愛というのだろう。

 

 

 

・黎明『始まりの予感』

 

出現時『さぁ目を開けて、今日は素晴らしい出会いがある予感がする』

 

鎮圧時『結局は何もない、待つことは無意味である』

 

 肉でできた花。その出会いは全てを狂わせ、凶行に走る。シャットダウン性のパニックに類似した症状を起こす。

 

 

 

・白昼『衝動は再会と共に』

 

出現時『二度目の出会いに衝撃が走る。きっとこれが運命である』

 

鎮圧時『チャンスをものにできないものに、未来はない』

 

 肉と骨でできた背の高い花。その衝撃に身を竦ませる。自殺性のパニックに類似した症状を起こし、『苺の黎明』へと変化する。

 

 

 

・夕暮『避けられぬ障壁』

 

出現時『私たち二人の前には、いくつもの障壁が立ちふさがる。けれどこれを乗り越えることで、私たちの愛はより強くなるの』

 

鎮圧時『なぜ皆私たちの邪魔をするの? 許さない』

 

 肉と骨でできた木。周囲の反対、妨害は二人の試練、その眼にはそのように映る。徘徊性のパニックに類似した症状を起こし、『苺の白昼』へと変化する。

 

 

 

・深夜『永遠の愛』

 

出現時『激流に身を任せて、そうすれば私たちの愛は永遠となるの』

 

鎮圧時『最期の最期で、裏切るなんて……』

 

 肉と骨でできた大樹、今までと違い自身でも攻撃を加える。結ばれないなら、ともに身を投げる。そうすれば愛が証明されると信じている。殺人性のパニックに類似した症状を起こし、『苺の夕暮』へと変化する。

 

 

 

◇黄金の試練

 

テーマ 下剋上

 

イメージカラー 金色

 

 かつて存在した夢に向かってがむしゃらに頑張った日々。

 

 その過程で夢を同じくするかけがえのない友たちと出会い、実現のために邁進していく。

 

 しかし気が付けば周囲は敵だらけ、数々の障壁に仲間たちは一人、また一人と倒れていく。

 

 そしてボロボロになりながらも仲間のために夢をつかむ……

 

 たとえその場所に、誰もいないとしても。

 

 

 

・黎明『旗揚げ』

 

出現時『さぁ、志をもって立ち上がろう。自分たちが一番すごいということを証明しよう』

 

鎮圧時『力のないものに志は不要であった』

 

 不思議な小人。時間をかけすぎるとエネルギーを奪ってくる。

 

 

 

・白昼『行進』

 

出現時『道の先に、気の合う生涯の友と出会った。我々は進む、大いなる道の先へ』

 

鎮圧時『我々は虐げられ、散り散りに逃げた』

 

 盾、剣、槍、銃を持った小人たち。地味に厄介なやつらだ。

 

 

 

・夕暮『結束』

 

出現時『再び集い、力を合わせる。この先に道は開かれた』

 

鎮圧時『悲しみを踏みしめ、最後まで歩んでいく』

 

 4人の小人たちが一つにまとまり巨大な姿になった。結構な火力を持っている。

 

 

 

・深夜『王国へと続く道』

 

出現時『友の屍を超えた先の、どこまでも続く道。この先に我らの王国が待っている』

 

鎮圧時『友よ、すまなかった』

 

 大きく成長した『黄金の黎明』。その両手はかけ、ただただ目の前に広がる道なき道を進み続ける。目の前の草原にいると、徐々にBダメージを受け続ける。

 

 

 

 

 

◇青空の試練

 

テーマ 夢への希望

 

イメージカラー 水色

 

 美しき夢を追う人々の物語。

 

 夢を追いかけるもの、夢に破れるもの、夢をかなえるもの。それは様々だ。

 

 だが一つ、言えることがある。夢のその先まで行った我々は、どうすればいいのだろう?

 

 

 

・黎明『自由なるもの』

 

出現時『ふと見上げると、自由な者達が飛び回っていた』

 

鎮圧時『見上げてもなにもいない、なにも始まらない』

 

 氷でできた小鳥たち。空を自由に飛び回る姿が人々を魅了する。数だけは一人前。

 

 

 

・白昼『探究者』

 

出現時『夢を見て、あらゆる事に挑戦する。彼らは望む、あの大空を』

 

鎮圧時『出来ぬことを目指す、愚か者達』

 

 氷でできた有翼人。空を夢見た人々。数も火力もそこそこ。

 

 

 

・夕暮『身を焼く蝋羽』

 

出現時『風を身に纏い、空は我らの支配下となった。このどこまでも続いていく世界を、ただ進んでいく』

 

鎮圧時『太陽に近付けば近付く程、羽は溶けだし、地に落ちた』

 

 氷でできたプロペラ機。夢の実現。強力な火力と『青空の白昼』の生成能力を持つ。

 

 

 

・深夜『夢の先へ』

 

出現時『まさかその先に、更なる道があろうとは。ついに我々は新たなステージへと進んでいく』

 

鎮圧時『ならばこの夢の先に、我々はどこを目指せばいいのか』

 

 氷でできたロケット。夢のその先、希望の先。超強力な火力、『青空の白昼』の生成能力を持つ。

 

 

 

◇純黒の試練

 

テーマ 原点

 

イメージカラー 黒色

 

・黎明『ねじれ』

出現時『それは何なのか、どうして起こるのか、それを知るものは未だ居ない』

 

鎮圧時『隣にいるものが唐突に姿を変える、平等に訪れる異常に、人々は恐怖した』

 

 『幻想体』のうち、赤、白、黒のいずれかが一体現れる。

 

 

・白昼『E.G.O.』

出現時『奴等に対抗するための矛であり盾、しかしておぞましきなにかでもある』

 

鎮圧時『それの本質は奴等と何ら変わらない、せめて呑まれぬように気を付けるべきだ』

 

 幻想体のうち、『純黒の黎明』に出現していない赤、白、黒の重複しない二体が出現する。

 

 

 

・夕暮『幻想体』

出現時『それは人々から生まれ、人々に害をなし、人々に恐怖を与える存在である』

 

鎮圧時『彼らに存在する意味はなくとも、存在する意思だけは必ずある』

 

 赤、白、黒、青の全ての『幻想体』が出現する。

 

 

 

『赤の幻想体』

 

 『■■も■い』。“ミミック”を装備し、『赤の便利屋』と同じ能力と固有の能力を持つ。

 

 

 

『白の幻想体』

 

 『■かな■ー■■■■』。“ダ・カーポ”を装備し、『白の便利屋』と同じ能力と固有の能力を持つ。

 

 

 

『黒の幻想体』

 

 『■■■み』。“規制済み”を装備し、『黒の便利屋』と同じ能力と固有の能力を持つ。

 

 

 

『青の幻想体』

 

 『■■』、“失楽園”を装備し、『青の便利屋』と同じ能力と固有の能力を持つ。

 

 

 

・深夜『黒昼』

出現時『それはすべての始まり、三日間に及ぶ光の代償』

 

鎮圧時『しかしそれは、光の種でもあったのだ』

 

 

『終末』

 

 『■■■』。“黄昏”を装備し、三つの卵を食すことでそれぞれに対応した攻撃を行う。

 

 

 



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職員紹介

何とか年内に間に合いました。
皆さんよいお年を


 今までに出てきたキャラクターたちの詳細です。

 

 一応名前が出てきたキャラクターたちは全員出ているはずです。

 

 ちなみに見方としては

 

 

・名前

 

性別:そのまま

 

年齢:そのまま

 

ステータス

 

勇気、ランク:合計値(ギフトのみ) 慎重:() 自制:() 正義:()

 

ギフト:ついているギフト(部位)

 

装備:どんな装備を付けているか

 

好意的嗜好:好きなこと、もの、人 順番的には すごい好き←→そこそこ好き

 

否定的嗜好:嫌いなこと、もの、人 順番的には すごい嫌い←→そこそこ嫌い

 

 

 

◇特記事項

 

☆特殊な能力の名前

 

 フレーバーテキスト

 

 

 

 という感じになっています。

 

 ちなみにキャラクターによっては無い項目のあります。そこのところはご了承ください。

 

 それではよろしくお願いします。

 

 

 

 

・ジョシュア

 

性別:男性

 

年齢:23歳

 

ステータス

 

勇気EX:125(31) 慎重EX:110(19) 自制EX:158(28) 正義EX:195(55)

 

ギフト:残滓(目)、種子(手2)、墓標(ブローチ1)、簒奪(顔)、調律(ほほ)、ちょうぜつすーぱーぱわー(頭1)、エンゲージリング(手1)、超新星(右背中)、儺追風(左背)、骸(ブローチ2)、転生(背面)

 

*回復量+10%

 

*E.G.O.“種子”を装備すれば、ダメージの最小、最大値が+5される。また、与えたダメージの半分を回復する。

 

*音による悪影響を受けず、『O-01-i37』のE.G.O.防具を装着時に同じ部屋にいる職員全員のHP、MPを徐々に回復する。

 

*すごいパワー状態で、HP、MPが自動回復する。

 

*E.G.O.の最大・最小ダメージ+1

 

装備:転生一式

 

 

好意的嗜好:シロ、リッチ、仲間、笑顔、精一杯今を生きること、食事、モフモフ、パンドラ

 

否定的嗜好:無意味な死、他人の不幸、他人に迷惑をかけすぎること・もの

 

 

◇特記事項

 

☆■の■■■

 

 ■■■の■■でない■の持ち主。■■の■■であるその■が、『■■■■』から与えられた力に共鳴し、“■■”の真価を発揮した。■■は引き継がれ、■■■も■に刻まれる。■は廻る、どこまでも、どこまでも……

 

☆意思を引き出す者(弱)

 

 E.G.O.の真価を引き出す者。通常以上にE.G.O.の力を引き出し、集中すれば斬撃を飛ばすこともできる。この力を真に引き出すことができれば、より強大な威力を出し意識せずとも斬撃を飛ばすことができる。攻撃力の最小・最大値に+5と、まれに特殊攻撃で斬撃を飛ばす。

 

☆譲れぬ思い

 

 己の心に一本の芯を通した人物。決して折れぬその心は、たとえギフトがいくつついたとしても己を見失うことはない。

 

 

 

 本作の主人公。設計部門、元懲戒部門チーフ。

 前世の記憶とロボトミーコーポレーションに関する知識を持ち、その知識をもって自身に降りかかる危険から身を守ろうとしていたが、出現するアブノーマリティーが自分の知識にないものばかりであったため失敗に終わった。

 人の生き死にがかかっている場面では真面目に行動するが、普段は気が抜けていることが多い。

 戦闘に関してはかなりの才能があり、「時間をかければ私の足下に及ぶか、それ以上になる」とはゲブラー談。

 自己犠牲の精神はないが、それが自分にしかできないことであれば覚悟を決めてやる。できる限り犠牲を出さないようにしているが、それでも出てしまうときは仕方がないと考えてるようにしている。

 食事は前世からの趣味であり、このような場所であるため以前よりも食に飢えている。また、モフモフすることが好きでそのテクニックはかなりのものらしい。

 

 みんなの主人公、ジョシュア君です。やっぱり主人公なだけあってかなりのスペックになっていますが、それでも一人でできることには限りがあります。強いけど仲間と一緒に頑張る、良いところもあるけどダメなところもある、というコンセプトで書いていたりします。仲間思いだし、何気に一人で戦う場面って結構少ないんですよね。

 なんだかんだで人たらし、アブノーマリティーたらしのやばい奴。結構な数の好意を寄せられていますが、本人はシロが好き。

 彼を書いていて思うのは、主人公なだけあって一番書きやすいキャラですね。もともとは別の短編の主人公だったのですが、そっちとは少し違う感じになったかもしれませんね。まぁAもだいぶ変わりますし、許容範囲ですよね。

 普段真面目なのにはっちゃけるときははっちゃける。なんだかんだで愉快な性格をしていますね。

 人気はありそうだけど、なんだかんだで人気の順位は2,3番目くらいな気がする。

 

 

 

・リッチ

 

性別:男性

 

年齢:19歳

 

ステータス

 

勇気EX:154(57) 慎重EX:117(23) 自制EX:148(42) 正義EX:143(45)

 

ギフト:鎌鼬(頭1)、簒奪(顔)、魔王(頭2)、信仰(ブローチ1)、骸(ブローチ2)、カニヅメ(手2)、エンゲージリング(手1)、呪毒(口1)、超新星(右背中)、儺追風(左背中)、調律(ほほ)、転生(背面)、良い感じの棒(口2)、手(目)

 

装備:超新星一式

 

好意的嗜好:友人、パンドラ、仲間、楽しそうにしている人・雰囲気、お酒

 

否定的嗜好:理不尽、友人を害するもの、死の愚弄、過去

 

 

 

◇特記事項

 

☆譲れぬ思い

 

 己の心に一本の芯を通した人物。決して折れぬその心は、たとえギフトがいくつついたとしても己を見失うことはない。

 

☆思いやり

 

 思いやりのある行動をよくする。愛着作業に若干の補正が入る。

 

☆脱走術

 

 戦線離脱に関する高い技術を有している。一日に一度だけ戦闘から離脱できる。

 

 

 

 施設の最初期メンバーであり、最後まで生き残るほどの実力を持つ。中央本部チーフ。

 言葉が簡潔で冷たい印象を受けることがあるが、仲のいい相手には結構口数が増える。ただ単純に口下手なだけである。

 友人を大切にしており、特にジョシュアとは仲がいい。シロには敵視されているが、全く気づいておらず仲がいいと思っている。

 情は深いが冷酷な部分もあり、切り捨てる時は切り捨てる。だが決してそれをよしとしているわけではなく、死者の愚弄は許さない。

 実は本人も気が付いていないが、淡い恋心を抱いている。

 

 なんだかんだで最初からのお付き合い。実は弟のプレイキャラクター。

 最初はゲブラー戦で殺そうと思ったけど、そのあとのストーリーでももう少し出番があったので復活したが、そのまま最後まで生き残ってしまった。

 イメージは弟を基にしているが、正直美化されている気がする。絶対こっちのほうがかっこいい。

 ステータスはほぼほぼゲーム時のステータスであり、かなりの強さ。ちなみに金魚鉢は外れた。

 

 

 

 

・シロ

 

性別:女性

 

年齢:おおよそ20歳

 

ステータス

 

勇気Ⅴ:90(23) 慎重EX:173(33) 自制EX:155(23) 正義EX:120(23)

 

ギフト:超新星(右背中)、転生(背面)、儺追風(左背)、調律(ほほ)

 

*このギフトの装着者は、音による悪影響を受けず、このアブノーマリティーのE.G.O.防具を装着時に同じ部屋にいる職員全員のHP、MPを徐々に回復する。

 

装備:儺追風一式

 

好意的嗜好:ジョシュア、友達、チョコレート、頭を撫でられること

 

否定的嗜好:孤独、ジョシュアに近づく輩(特にリッチ)、変な生き物

 

 

 

◇特記事項

 

☆■き■■(弱)

 

 完全に閉ざされた■。外部からのいかなる■■も受けない自己完結した■■。本来であれば■■への影響を■■に遮断するが、■■要因の影響でゆるみが生じ、その隙間から暖かな心に触れて弱体化した。現状ではWダメージに0.■の耐性を追加し、■■■以下のアブノーマリティーによる魅了を無効化する程度の能力である。

 

☆■■える■

 

 ■■から■たのか、■■ように■れ■んだのか。その理由は定かではないが、確かに■れ■んだ■■にとっての■■。■■は■■には■たされていないが、“■■”の■■で多少なりとは■■を■き■ぐことができる。

 

 本作のヒロイン、記録部門チーフ。

 表情に乏しく口数も少ない。何を考えているかわからず基本的に自分から他者にかかわろうとしないため交流が少ない。ただし一度心を開くとその相手のために頑張ろうとする。

 元々は特殊な能力を持っていたが、この施設に来るとともに弱体化し、他者との交流を通してどんどん弱体化していった。それでも人間の持つ力としては破格。

 戦闘では主に狙撃を得意としており、その射撃は精密である。しかし接近戦が苦手なわけではなく常人以上に戦うことができる。

 ジョシュアと話したり一緒にご飯を食べるのが好き。

 

 この作品のメインヒロインですね。かわいい。

 元々はほかの短編で出てきたヒロインだったのですが、こちらでもゲストとして出しました。その結果書いているうちに愛着がわきメインヒロインに昇格ですね。

 短編のほうでは白の便利屋なのですが、特に詳細もわからなかったので思いっきり自分好みのキャラクターにしました。僕っ子最高!

 ただ最初のほうは全くしゃべれなかったので、かなり大変でしたね。このままだと二週目で出てくるとしたら大変だ。

 

 

 

・ロバート(『T-05-i10』*1に加工されたため、死亡扱い)

 

性別:男性

 

年齢:19

 

好意的嗜好:勉強、弱い者いじめ、休憩

 

否定的嗜好:自分よりも強い奴

 

 

 

◇特記事項

 

☆加虐趣味

 

 相手を一方的に痛めつけることが好きな歪んだ感情。ダメージを受けずに攻撃をするたびに攻撃速度が上昇する。

 

 

 

 軽い感じの男性、コントロール部門。実は弱者をいたぶるのが趣味。

 最近の悩みは食事の時間を忘れられがちなこと。

 

 

 

・ルビー(ゲブラーの“■■■”によって原形もなく溶かされて死亡)

 

性別:オトメ☆

 

年齢:ヒ・ミ・ツ♪

 

ステータス

 

勇気Ⅳ:78(4) 慎重Ⅴ:96(4) 自制EX:106(8) 正義EX:115(8)

 

ギフト:儺追風(左背中)、種子(手2)

 

*E.G.O.“種子”を装備すれば、ダメージの最小、最大値が+5される。また、与えたダメージの半分を回復する。

 

装備:種子一式

 

好意的嗜好:仲間、素敵な男子、美容、恋する女の子、ダンス

 

否定的嗜好:人の恋路を邪魔するもの

 

 

 

◇特記事項

 

☆確固たる自己

 

 誰にも曲げられない自分を持つ者。一度だけパニックから復帰できる。

 

 頼れるオカマ、懲戒部門。恋バナの好きな普通のオトメ、身長194センチメートル。

 豊富な人生経験から確かな観察眼を持っているため、結構鋭い。特に惚れたはれたの話が大好きでそのあたりの嗅覚は優れている。

 とはいえ何でもかんでも首を突っ込むわけではなく、本人が気が付いていなかったり、誰かの後押しが必要な場合に限り介入する。

 なんだかんだでみんなのことを大切にしているため、皆からもルビねえと慕われていた。

 

 

・マイケル(温泉中毒になり『T-09-i97』*2に身を捧げて死亡)

 

性別:男性

 

年齢:32

 

好意的嗜好:温泉、清潔であること、掃除、クリーニング用品

 

否定的嗜好:汚いこと・不潔であること

 

 

 

◇特記事項

 

☆温泉中毒

 

 『T-09-i97』を使用した際の効果が上昇するが、勝手に『T-09-i97』を使用しようとする。

 

 冷静な性格の男性。コントロール部門。かなりの潔癖症。

 元々は温泉嫌いだったが、一度使用してから温泉中毒になった。

 

 

 

 

・マオ(『O-01-i37』*3の攻撃からサラを庇い、半身をなくしながらも戦いサラを逃がして死亡)

 

性別:男性

 

年齢:22

 

ステータス

 

勇気EX:152(34) 慎重Ⅳ:83(-2) 自制Ⅴ:90(28) 正義EX:214(74)

 

ギフト:手(目)、簒奪(顔)、エビフライ(頭2)、墓標(ブローチ1)、超新星(右背中)、転生(背面)、儺追風(左背中)、春うらら(頬)、呪毒(口1)、カニヅメ(手2)、エンゲージリング(手1)

 

*E.G.O.の最大・最小ダメージ+1

 

装備:手一式

 

好意的嗜好:平穏、シロ、闘争、強き者・不屈の心を持つ者、努力家、ジョシュア

 

否定的嗜好:戦うだけの日々、努力を踏みにじるもの、弱き者、諦めた者、ジョシュア

 

 

 

◇特記事項

 

☆無し

 

 厳ついスキンヘッドの大男、抽出部門チーフ。

 かなりの大柄で身長2mを超える。また体格もそれ相応にごつい。

 口が悪く態度も悪いが、自分が認めた相手に対しては彼なりに敬意をもって相手する。

 肉体的・精神的に強いものを好み、たとえ弱くとも努力をする者は応援する。一方でその努力を踏みにじるものや弱いだけのもの、あきらめてしまったものに対してはかなり冷たい。

 ジョシュアに対して険悪な態度をとるが、それには個人的な理由があり、それさえなければ本当は彼のことを気に入っている。

 ギフトに呑まれないように踏ん張っている。

 

 元々はもっと早くに適当なところで殺す予定だったが、書いているうちに愛着がわき、ゲブラー戦でかっこよく殺そうと計画していた。しかしゲブラー戦でジョシュアと一緒に戦わせていたらなんだか楽しくなってきて殺せず、次はビナー戦で殺そうと思っていたがいい場面がなかったので殺せず、結局最終日まで生き残っていた。

 男のツンデレかわいい。

 

 

 

・カッサンドラ(『T-09-i98』*4の影響で『T-04-i09』*5が倒れ下敷きとなって死亡)

 

性別:女性

 

年齢:19

 

好意的嗜好:占い、ジョシュア、占いで友達とわいわい楽しむこと、好きな人にいじめられること

 

否定的嗜好:運命

 

 

 

◇特記事項

 

☆予知夢

 

 朧気ながら未来のことがわかる。どのようなことがわかるかは場合によるが、今日の食事の内容だったり、誰かの死の運命だったりする。寝ているときにランダムに発動する。

 

 

 占いの大好きな活発な少女。情報部門。

 自身の予知夢が嫌いで、何となく占いの通りにやってみた結果自身の予知夢が外れ占いの通りになったことから占いを信じるようになる。

 そのため周りによく占いを進め、こっそりその人の運命を変えようとしていた。

 そんな中何もせずに予知を外したジョシュアに興味を持ち、気が付けば目で追うようになりパンドラに指摘されたことで自分の思いを自覚。

 しかしその思いを告げることなく自分の愛した占いによって命を落とす。

 死んだ後に読者に愛着を持たせようと思って結構出番を増やしたが、無事作者が愛着を持って死亡した。

 

 

・サラ(マオによって命からがら戦線離脱し『T-09-i97』に向かっていたが、途中で『O-04-i16』*6に出会い、串刺しにされて死亡)

 

性別:女性

 

年齢:18

 

ステータス

 

勇気EX:123(46) 慎重Ⅴ:93(31) 自制EX:155(42) 正義Ⅴ:99(42)

 

ギフト:超新星(右背中)、転生(背面)、儺追風(左背中)、信仰(ブローチ1)、簒奪(顔)、手(目)、ラトル(口1)、ガラスの靴(頭1)、調律(ほほ)、骸(ブローチ2)、いい感じの棒(口2)、幸福(手1)、鬼退治(頭2)

 

*このギフトの装着者は、音による悪影響を受けず、このアブノーマリティーのE.G.O.防具を装着時に同じ部屋にいる職員全員のHP、MPを徐々に回復する。

 

装備:調律一式

 

好意的嗜好:ギフト、他人、交流、マオ、研究、赤ちゃんプレイ、ジョシュア、パンドラ

 

否定的嗜好:楽しくないこと、怒っているジョシュア

 

 

 

◇特記事項

 

☆幻想のカクテル

 

 ギフトを受け入れ、ギフトまみれになった人間。普通ここまで来たら自己を見失うが、ギフト狂とまで言える性癖により、逆に自己が色濃く残り自我を保っている。普通だったら人外になっている。

 

 

 

 ほんわかとした話し方の女の子。抽出部門。

 ふわふわした雰囲気と素晴らしいボディでよくみんなに年上扱いされているが、実は施設の中で一番の年下。そのため実年齢よりも年上にみられることに少しショックを受けている。

 元々きれいな容姿をしているがゲブラーによる“琥珀”の一撃を受けて一気に美しくなり、「愛人にしたい職員No.1」に輝いた。

 しゃべり方が結構大変だったが、なんだかんだで書くのが楽しいキャラクターだった。

 

 

 

・メッケンナ(『O-01-i37』によってミラベルが殺され、怒りの無謀に突っ込んでそのまま死亡)

 

性別:男性

 

年齢:24

 

ステータス

 

勇気EX:128(23) 慎重Ⅴ:87(23) 自制Ⅴ:94(28) 正義EX:138(28)

 

ギフト:転生(背面)、儺追風(左背中)、簒奪(ほほ)

 

装備:簒奪

 

好意的嗜好:ミラベル、まじめな人、仕事をこなすこと、まじめな時のジョシュア、普段のリッチ

 

否定的嗜好:嫌な仕事、迷惑をかける人(パンドラ、サラ、ジョシュア、リッチ)

 

 

 

◇特記事項

 

☆真面目

 

 まじめな行動を行う。洞察作業に若干の補正が入る。

 

☆医療知識

 

 基本的な医療の知識、応急処置ができるようになる。

 

 

 

 まじめでミラベルの彼氏、福祉部門チーフ。

 この仕事は好きではないが、仕事をこなすこと自体は好き。とにかく死なないために情報を集める。

 普段のジョシュアは尊敬しているが、たまに暴走するのはやめてほしいと思っている。

 

 

 

 

・ジェイコブ(ゲブラーの“喧噪”の一撃により赤い霧となった)

 

性別:男性

 

年齢:21

 

好意的嗜好:女性、お金、名声、食事

 

否定的嗜好:貧乏

 

 

 

◇特記事項

 

☆強欲

 

 非常に強欲な存在。特定条件で能力が強化されるが、アブノーマリティーの影響を受けやすくなる。

 

 

 

 女好きの男。中央本部。

 世界を自分の思い通りにしたいと思っていたが、自分にはそんな力がないことを理由にあきらめていた。そんなところでロボトミーコーポレーションからの採用通知が来たため飛びつき、自分の欲望を実現させるために行動する。

 とはいえ無理やり何かするわけでもなく、相手が嫌がれば引くためそれほど害があるわけでもない。

 

 

 

・キンスリー(『T-04-i09』の特殊能力により『T-04-i09-1』となって死亡)

 

性別:男性

 

年齢:29

 

 まじめだけが取り柄だった男性。安全部門。

 まじめに作業をしていれば少なくとも死ぬことはないを信条に仕事に取り組んでいたが、結局

 

 

 

・ハル(『F-02-i04』*7によって竜宮城に招待されたため、死亡扱い)

 

性別:男性

 

年齢:19

 

 軽い感じの少年。情報部門。

 今もどこかで幸せに暮らしているのだろう。

 

 

 

・デリラ(『O-09-i94』*8によって肉体が変異し死亡)

 

性別:男性

 

年齢:20

 

 便利なツールを使って調子に乗っていたら、死んでしまった。

 

 

 

・デボーナ(『F-04-i27』*9の中でお姫様として踊り続けている)

 

性別:女性

 

年齢:26

 

好意的嗜好:お姫様、お姫様っぽいこと

 

否定的嗜好:誕生日

 

 お姫様にあこがれる女性、中央本部。

 幼いころに母から聞いた物語にあこがれてお姫様になりたがったが、年齢を重ねるにつれて現実を知り、夢を忘れようとする。

 そんなときに『F-04-i27』に出会い、夢を思い出し喜んだ。今も彼女はあこがれを胸に躍り続ける。

 

 

・ミラベル(『O-01-i37』との戦闘で頭が破裂して死亡)

 

性別:女性

 

年齢:21

 

ステータス

 

勇気Ⅴ:85(16) 慎重Ⅳ:78(16) 自制Ⅴ:98(16) 正義Ⅴ:87(16)

 

ギフト:転生(背面)、儺追風(左背中)、

 

好意的嗜好:メッケンナ、写真、楽しいこと、こちょばされること

 

否定的嗜好:浮気

 

 

◇特記事項

 

☆パートナーリンク

 

 愛する人との絆。愛する者と一緒にいるとお互いの能力が上がる。

 

 

 

 明るくてメッケンナの彼女、福祉部門。

 メッケンナのことをおちょくっていたら意外にも強引に迫られ、そのまま流れでいい感じになる。

 その後もなんだかんだで彼のことをほっておけなくなり、晴れて結ばれる。

 

 

 

・ナルリョンニャン(『O-01-i37』の作業中にパニックとなり、そのまま業務が終了したため死亡)

 

性別:男性

 

年齢:23

 

 

 まじめな青年、安全部門。

 久しぶりのまじめな後輩にみんな喜んでいたが、その衝撃的な最期は彼らの心に傷を作った。

 

 

 

 

・マキ(一人目)(『T-02-i29』*10によって肉体を吸われて死亡)

 

性別:女性

 

年齢:26

 

 内気な女性、情報部門。

 自分に自信がなかったが、美貌を得たことで自信を持てるようになる。

 名前をちゃんと覚えていなかったため、のちの人物と名前が被ったが同じ名前の人もいるかと思ってそのままにした。

 

 

・クロイー(ゲブラーの“静寂”に貫かれ、内部から発生した結晶に全身を引き裂かれて死亡)

 

性別:男性

 

年齢:19

 

 かっこいいことに憧れる青年、懲戒部門。

 早くかっこいいE.G.O.を装備して、先輩たちのようにかっこよく戦いたいと思っていたが、その夢がかなうことはなかった。

 

 

 

・タチアナ(『T-05-i11』*11によってミンチにされた)

 

性別:女性

 

年齢:20

 

 ジョシュアに恋する乙女、中央本部。

 元々はジョシュアと付き合ってから殺す予定だったが、尺が足りなかったので泣く泣く付き合う前に殺した。

 

 

・グディ(『T-04-i57』*12の呪いで死亡)

 

性別:男性

 

年齢:19

 

 よく怒る青年、記録部門。

 おどおどしたやつが嫌いで、気に入らない人間相手には嫌がらせを行う。

 

 

・イゴリー(『T-04-i57』によって食い殺されて死亡)

 

性別:男性

 

年齢:19

 

 どうしようもない青年、記録部門。

 思いがけない力を手に入れて欲望のままに使うが、結局それらは自分に帰ってきた。

 

 

 

・ザビエル(『T-02-i03』*13に改造されて死亡)

 

性別:男性

 

年齢:33

 

 元々はアブノーマリティーとなんて仲良くなれないと思っていたが、『T-02-i03』と交流して仲良くなれると思っていたら死んだ。

 

 

・マキ(二人目)(『O-01-i37』との戦闘で発狂して死亡)

 

性別:女性

 

年齢:23

 

ステータス

 

勇気Ⅳ:73(8) 慎重Ⅳ:83(8) 自制Ⅴ:89(8) 正義Ⅴ:88(8)

 

ギフト:転生(背面)

 

好意的趣向:友達、仲のいいこと・雰囲気

 

否定的趣向:仲の悪いこと・雰囲気

 

 

 

 ノリのいい女性、設計部門。

 ノリがよく、なんだかんだで面倒見もいいのでアセラの相手をよくしていた。アセラのことを弟のように思っている。

 

 

・アセラ(『O-01-i37』と相討ちとなって死亡)

 

性別:男性

 

年齢:19

 

ステータス

 

勇気Ⅴ:96(0) 慎重Ⅳ:76(0) 自制EX:145(0) 正義EX:148(0)

 

ギフト:無し

 

好意的嗜好:自分、マキ

 

否定的嗜好:自分以外の人間

 

 

 

◇特記事項

 

☆■■された■

 

 ■■された■■。決して外部からは■■を受けず、■■にも■しない。■■■が付かない代わりに■■の上限が■00までとなり、■■■■が若干■■する。

 

 自分が一番だと思っている青年、設計部門。

 少し中二的な言動があるが、あまり嘘は言っていない。

 本当はもっと早く出して出番を増やしたかった。

 

 

 

・パンドラ

 

性別:女性

 

年齢:23

 

ステータス

 

勇気EX:111(21) 慎重Ⅴ:95(23) 自制EX:203(63) 正義Ⅴ:98(28)

 

ギフト:鎌鼬(頭1)、簒奪(顔)、超新星(右背中)、いい感じの棒(口2)、儺追風(左背中)、転生(背面)、疑似餌(頬)、静寂(口1)、仙丹(ブローチ1)、幸福(手1)、琥珀(ブローチ2)、

 

装備:魔王

 

好意的嗜好:約束、ジョシュア先輩、人間観察、楽しそうなこと

 

否定的嗜好:自分、嘘、アブノーマリティー

 

 

 

◇特記事項

 

☆■■:■■■・■■■■■■■

 

 ■■の■■■■が■■■■■■■と■わした約束により、■■が■■■■で■びつき■つの■■となった。■■であり■■■、■■■であり■■という■■■な■■。

 ■■であれば■■■■■■■の■■■■でなかったこととなるが、■■な■■が■なり■■の■■まで■びつき■して■に■ることはなくなってしまった。

 ■■■■■■■は約束を■よりも■■にする。■■にとって約束は■よりも■■なものである、■■■■■■■との約束を■ることは、それ■■の■■を■■うこととなる。もちろん、■■もその約束に■られることとなる。

 ■■は■■と■■■の■つの■■を■せ■っている。■■■や■■の■■の■、■■のアブノーマリティーに■われないなどの■■を■ち、■■■でありながら■■■相手であっても■■を■えることができる■■の■■も■■する。

 また、■■■■■■■という■■■の、■■の■■と■■■■■■を■わせて、■■■■■に■■を■らせることができる。■の■■たちにも■ら■■を■こすことにより■■■■を■ったりするなど、なるべく■■が■■にあわないように■ち■る。

 彼女がこの先どうなるのか、それを知るものは誰もいない……

 

 

 

 面倒見の良い女性、懲戒部門チーフ。

 元々大家族の長女で下の子たちの面倒を見ることが多く、年下の扱いにたけている。しかし大人数での生活は大変で厳しくなってきたので、ロボトミーに入社する。

 家族の料理を作るのは彼女の仕事であったので料理が得意、また本人も料理が好きだったので特に苦ではなかった。

 元気いっぱいの兄弟たちがよくやらかしていたので、よくストッパーになっていた。

 胸には夢と希望が詰まっているが、身長は低い。

 

 みんな大好き珍獣ちゃん、目立つように最後に持ってきたよ!

 実は彼女、弟のサブキャラクターで結構実際にあったことを基にキャラクターを作っています。例えば一度も死なず即死を回避したりしていたので勘が鋭いとか、なぜか自制が一番高かったのでこっちでも自制を高くしたり、そんなところですね。

 何となくこんなキャラにしてみたら予想以上に愉快なキャラになったので、このままのキャラクターを貫くことになった。

 書いていて楽しかったので結構キャラも濃くなってしまった。正直弟にもアブノーマリティー扱いされてて笑った。

 ちなみに名前の由来はパンジャンドラム。(自走式陸上爆雷)

 

*1
『幸せな金魚鉢』

*2
『極楽への湯』

*3
『儚きハーモニクス』

*4
『フォーチュンキャンディ』

*5
『森の守人』

*6
『骨の華』

*7
『救われぬ亀』

*8
『父からの手紙』

*9
『零時迷子』

*10
『美溶の渇望』

*11
『盲目の愛』

*12
『蠱毒の災禍』

*13
『秘密基地の冒険隊』




次からは物語に戻っていきます。
またしばらくお待ちください。


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狭間
01.メグル、メグル


すいません、ずいぶんと遅くなってしまいました。

それと皆さん、あけましておめでとうございます。

今年も『誰も知らないアブノーマリティー』をよろしくお願いします。


 ずんずんと沈み、沈み込む

 

 どこまでも深く、深くおぼれていく

 

 もはやろくに体も動かせない

 

 だけど、どこか暖かい光が浮かんでいた

 

 

 

―なんだよ、その顔は?―

 

―はぁ、まぁ聞かないでやるよ―

 

―ほら、行くぞ■■■■■―

 

―これからよろしくね―

 

 

―おいおい、地獄だと思ってたら天国についたのか?―

 

―どうする? 一気に怪物に変わったし、やつに出会った瞬間狂う根性無しばかりだし―

 

―まったく、よくやるよお前は―

 

―そうだな、行くぞ相棒―

 

 

 

 

 

―そんな顔してたら幸せが逃げていくっすよ―

 

―そうっすか? 別に普通だと思うんですけどね―

 

―まっ、これからよろしくお願いしますね―

 

 

―■■、■■■■■せん…… ぱ……―

 

―ごめ…… ん…… なさ……―

 

 

 

 

 

―あらあら、そんな顔してどうしたの?―

 

―せっかくのイケメンが台無しよ、もっと笑いなさいよ―

 

―ほらほら、リラックスリラックス―

 

―こんな場所なんだから、余計に笑顔が一番よ?―

 

 

―まったく、私もやきが回ってきたわね―

 

―どうしたって無理なもんな無理だっていうのに、こんなことしちゃってさ―

 

―あら、こんな私の為に泣いてくれるの?―

 

―……ふふっ、それだけで、頑張った甲斐があったわね―

 

―なんでこんなことしたのって、惚れた弱みに決まってるじゃない―

 

―そんな顔しないで、やっぱりあなたには、笑顔が一番似合ってるんだから……―

 

 

 

 

 

―てめぇはいつも辛気臭ぇな―

 

―へっ、いつものお前はもっと間抜け顔をしているだろうが―

 

―まさか、今の顔よりはあっちのほうがまだましだったってことだよ―

 

―はぁ? まさか……―

 

―てめぇ、笑ってんじゃねぇぞ■■■■■!―

 

 

―あいつは、どうなった……?―

 

―……そうか、俺たちの勝ちか―

 

―いや、俺はもう助からねぇ―

 

―だから、最後に言わせてくれ―

 

―お前と一緒に戦えてよかったぜ、あい、ぼ……―

 

 

 

 

 

―どうしたんですか、そんな顔して?―

 

―ほら、今日の■■■■■先輩の運勢は一位ですよ! だからそんな顔してたらもったいないですって!―

 

―そう、その調子ですよ! それじゃあ一緒に行きましょう!―

 

 

―いやー、今日はいい日になると思ったんですけどね―

 

―占いは一位だったし、朝一番に■■■■■先輩に出会えたし―

 

―けど、やっぱりみたとおりになっちゃいました―

 

―■■■■■先輩、最後にお願いがあるんです―

 

―どうか私が私でなくなる前に、私を……―

 

 

 

 

 

―もぉう、そんな顔しないでくださいよぉ―

 

―確かに面倒な話だとは思うんですけどぉ、他に頼れる人がいないんですよぉ―

 

―……えぇ、他のことを考えていたんですかぁ―

 

―別にいいですけどぉ、ちゃあんと私の相談にも乗ってくださいねぇ―

 

 

―あはは、失敗しちゃいましたぁ―

 

―まさかぁ、こぉんなことになっちゃうなんて思いもしませんでしたぁ―

 

―ふふっ、でもぉ、最期を看取ってくれるのが■■■■■先輩でよかったですぅ―

 

―だってこんな醜い姿、■■さんには見せられませんからねぇ―

 

―■■■■■先輩、ごめんなさい―

 

―そして、ありがとうございます……―

 

 

 

 

 

―■■■■■さん、いつものあなたらしくないですよ―

 

―まったく、あなたがそんな調子でどうするんですか?―

 

―ほら、いつもの馬鹿元気はどこ行ったんですか!―

 

―こんな日くらい、笑顔で皆さんを見送ってあげましょうよ―

 

 

―ごめんなさい、僕は彼女の後を追います―

 

―本音を言えば、もっと早くにこうしたかったんです―

 

―だけどどっかの誰かさんが目を離せないから、ずるずるとここまで生きてしまいました―

 

―■■■■■さん、だれもがあなたみたいに強いわけではないんです―

 

―だから…… えっ?―

 

―……はぁ―

 

―そこまで言われたら、まだ死ぬわけにはいきませんね―

 

―わかりました、その代わりに、最後まで付き合ってもらいますからね―

 

 

 

 

 

―■■■■■先輩、私夢を見ているみたいです―

 

―まさか、■■■■■先輩と、こんな風な関係になれるなんて―

 

―もう、夢じゃないか確認するために、昨日何回も頬をつねってしまいました―

 

―もう、笑わないでくださいよ!―

 

―えっ、私のほっぺそんなに赤いですか!?―

 

 

―本当に、あなたと結ばれてから今日まで、夢のような日々でした―

 

―あなたの知らないところをいっぱい知って、私の色々な姿を見てもらって―

 

―良い所も悪い所もいっぱい知って、それらもすべて愛おしくて―

 

―だから、その夢も今日で覚めてしまうんですね―

 

―最期に、わがままを言ってもいいですか?―

 

―どうか最期は、あなたの手にかかって終わりたいです―

 

 

 

 

 

―ほら、何してるんですか先輩!―

 

―まったく、そんな顔先輩には似合いませんよ―

 

―ほら、いつもみたいに間抜けな笑顔を見せてくださいよ!―

 

―私は今の先輩より、そっちの先輩のほうが好きですよ―

 

―いや、本当に…… ちょっと茶化さないでくださいよ!―

 

 

―……先輩は、いきなりいなくなったりしませんか?―

 

―だって、みんな、みんないなくなっちゃったんですよ?―

 

―■■■■■さんも、■■■■■■■■■さんも、■さんも■■ちゃんも―

 

―みんなみんな、あいつらに……―

 

―……えっ?―

 

―うそっ、ちょっと待ってください!―

 

―もっ、もしかしてからかっていますか? だって先輩が……―

 

―ほ、本気で言っているんですか?―

 

―本当ですか? 約束ですよ!―

 

―もう絶対取り消しませんからね!―

 

―絶対に、忘れたりなんかしませんから!!―

 

 

―■■■■、■、せん、ぱ、い……―

 

―■、■き…… です、よ……―

 

―ずっと、ずっと……―

 

 

 

 

 

―その手に持っているものの使用を、即刻中止しなさい―

 

―これ以上使用するというのであれば、即座に貴方の生命活動を停止させます―

 

―……これは私からの最大限の譲歩です、■■■■■―

 

 

 

―これがあなたの望んだ世界だとでもいうのですか―

 

 

 

 

 

「……あれ、ここはどこだ?」

 

 気が付けば、どこかの底へとたどり着いていた。

 

 あたりを見回しても、何かがあるわけではない。どこまでも、何もない空間が広がっているだけだ。

 

 遮蔽物も何もない、何かがいればすぐに気が付くはずだ。

 

 現に周囲には何もいない。そのはずなのに、背後から気配を感じる。

 

『よう、久しぶりだな』

 

「……正直、こんなところですらお前と会いたくなんてなかったよ、『外道魔業』」

 

 どこまでも悍ましく、邪悪な気配を身にまとう巨大な人影は、まるで旧知の仲のように声をかけてきた。

 

 『O-01-i19』、その名を『輪廻魔業』。邪悪で凶悪な存在ではあるが、ずいぶんと長い付き合いになっている。

 

『おいおい、俺の名前は『輪廻魔業』だぞ?』

 

「あだ名みたいなものだ、いいだろう?」

 

『なるほど、そりゃあいい!』

 

 意外にも『外道魔業』というあだ名が気に入ったのか、『輪廻魔業』は大声で笑っている。まぁ確かに気にはしなさそうな性格をしていそうだな。

 

「それで、なんでお前はここにいるんだよ?」

 

『それは自分で考えることだな、それよりも聞くべきことがあるんじゃないのか?』

 

「……ここはどこかってことか?」

 

 意識がはっきりしてきたことで思い出したが、俺は管理人にリセットを頼んで、おそらく死んだんだろう。

 

 ならば、ここは死後の世界とでもいうのだろうか? いや、そうというよりは……

 

「まぁ、リセット前の猶予期間のような物なんだろうな」

 

『もしかしたらそうなのかもしれないな』

 

 もしもそうなのだというのなら、こんな奴と一緒にいるというの苦痛だな。

 

『まあまあ、そういやな顔をするな』

 

「自分がどういう存在か思い出してから言え」

 

『何も俺の相手をしろとは言っていないだろう? ほれ、見ろ』

 

「うん?」

 

 『輪廻魔業』が指さした先にあったものは、白く輝くふわふわとした球状の何かであった。

 

「なんだ、これは……?」

 

『俺にとってはくだらないものだ、触れればわかる』

 

「……まぁ、やるだけやってみるか」

 

 どうせ『輪廻魔業』の相手をするよりかはましだろうと思い、思い切って白い光に触れてみた。

 

 そして、その瞬間、俺の体が光に包まれ、『輪廻魔業』が言っていたことの意味を思い知る。

 

 

 

 

 

 これは、俺の記憶の光だった

 




できれば週一くらいで書いていけるように頑張ります。


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02.カタリ、カタライ

 夢を見ていた

 

 何も成せぬ夢を

 

 

 

「どうした、ジョシュア?」

 

「……あぁ、嫌なんでもない」

 

 どうやら少しぼおっとしていたようだ。今日の作業はなかなかに大変だったから、少し尾を引いているのかもしれないな。

 

「ジョシュア、疲れてるなら休む?」

 

「いや、それよりも楽しもうぜ」

 

 ここにいるのは俺とリッチとシロだ。もう仕事の時間も終わり、今は三人で集まって一緒に飯でも食おうと話していたのだ。

 

 そんなわけで、俺たちは今リッチの部屋に集まっている。

 

 俺の部屋はあまり見せたくないものがあるし、シロの部屋は遠慮したほうがいいと二人で話し合ったので、消去法でリッチの部屋に決まる。まぁ正直きれいだし俺の部屋よりも快適そうだ。

 

「まったく、本当にこの時くらいだよ心が休まるのは」

 

「基本的に精神を削ってばかりだからな」

 

「……最近、ちょっと大変」

 

 みんなそれぞれ用意した飲み物に口をつけながらくつろぎ始める。お菓子やつまみなどを適当につまみながら話を続ける。

 

 最初は酒を持っていこうかと思ったが、シロが呑まないこととリッチがいるため万が一のことを考えて今回は普通にソフトドリンクを持ってきた。

 

「ジョシュアは大丈夫?」

 

「今のところはな、正直先陣を切り続けるのは大変だけど、他のやつらに任せるのも怖いしな」

 

「だからってため込みすぎるなよ、たまには息抜きをしておいたほうがいい」

 

「だから今してるだろ?」

 

「あぁ、そうだな」

 

「……むう」

 

「なんだよその顔」

 

 なぜかむくれているシロがかわいかったので、ほっぺを突いてみる。フニフニしていてやわらけぇ。

 

「むー、何するのジョシュア?」

 

「いや、ちょっとかわいかったから」

 

「そう、なら許可する」

 

「許可制なのか……」

 

 シロがすりすりして甘えてくるのでじゃれていると、リッチがあきれたような声を出した。気持ちはわからなくもない。

 

「それにしても、コア抑制の後のセフィラたちはだいぶましになったな」

 

「あぁ、確かにかかわりやすくはなったかな」

 

 確かにリッチの言うとおり、コア抑制後のセフィラたちは随分とかかわりやすくなった気がする。中でもゲブラーは随分俺のことをなぜか気に入っているようで、よく特訓に付き合わされている。

 

「なんだかんだでイェソドとはよく話す気がするな、意外とあいつにも冗談が通じるんだよな」

 

「そうか、お前はよくゲブラーと一緒にいるイメージだったけどな」

 

「そうだな、特訓のおかげで強くなってきているのはいいんだけど、正直かなり疲れるんだよな」

 

「ジョシュア、いい子いい子」

 

 ゲブラーの恐ろしい特訓を思い出してげんなりしていると、シロが頭をなでてくれた。もう本当にこの子は天使みたいだな、本当に癒される。

 

「あの特訓という名の拷問は遠慮したいな」

 

「そういえばリッチはどうなんだ? お前もセフィラと話をしているんだろ?」

 

「俺はよくマルクトやホドと話をしているな、たまにティファレトにちょっかいをかけられるのは面倒だが」

 

 リッチはどうなのかと話を振ってみると、こいつは意外と交流があるらしい。正直ゲームを知っているとティファレトはまだしもマルクトやホドとはあまり関わり合いたいとは思わないんだよなぁ。

 

「よくわからんがあいつらは吹っ切れた感じがするからな、以前よりは随分と話していて気が楽だ」

 

「あれ、お前コア抑制前から交流あったのか?」

 

「とはいっても普通程度だけどな、それよりお前が関わり合わなさ過ぎたんだよ」

 

「えぇー、そうかなぁ?」

 

「ジョシュア、そんなことないよ」

 

「だよな!」

 

「くっ、ここでは俺が少数派か!」

 

 まぁ正直かなり避けてたけどな、セフィラの相手は管理人がしてくれればそれでいいと思っていたからな。あとどこでぼろが出るかわからなかったからな、特にホクマーとビナーが。

 

「シロはセフィラと話したことあるか?」

 

「うーん、酔っ払いとなら……」

 

「酔っ払いって、もしかしてネツァクのことか?」

 

「ネツァクが酔っ払いって、プッ、クフフッ!」

 

「……えいっ」

 

「いっ!」

 

 なんかツボに入ったのか笑い始めたリッチに対して何か思うところがあったのか、シロは結構な強さでリッチのすねを蹴り上げた。

 

 さすがのリッチも無防備な状態ですねを蹴られたのは痛かったのか、声にならない悲鳴を上げながら悶絶している。なんだかんだでこいつらも仲いいよな。

 

「さて、それじゃあそろそろお開きにするか」

 

「うん、わかった」

 

「ジョシュア、俺のことを無視するな」

 

「ジョシュア、ボク酔っちゃったみたい」

 

「おーおー、ヤ●ルトで酔っぱらうやつ初めて見た…… おい叩くなよ」

 

 なんか余計なことを言ってリッチがペチペチされている、ちょっと心配していたけどこの調子だと大丈夫そうだな。

 

「わかったわかった、悪かったからもう叩かないでくれ」

 

「……別に気にしない」

 

「……いや、もう突っ込まないぞ」

 

 まぁ、確かに突っ込みたくなるのはわかるが、触れないのが吉だよな。とりあえずは何とかなってよかった。

 

「さて、それじゃあ俺も送るよ」

 

「いや、別にいいよ」

 

「いやいや、もう少し話したいだけさ」

 

「……ぶぅ」

 

 シロは少し不満そうだが、そういうことなら俺は構わない。

 

 シロも嫌がっているように見えて、リッチにじゃれているようなものだろうしな。シロの場合、本当に嫌いだったらそもそも意識にすらないはずだしな。

 

「そういえばこの前なんだが……」

 

「ふふっ……」

 

 これからも、この三人で一緒に楽しんで語らい合う。

 

 そんな日常が、いつまでも続いていけばいいのに……

 



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03.ネムル、ソノマエ

 思い出す

 

 あの時の語らいを

 

 

 

「ジョシュア、ここに来る前に一人で掃除屋を倒したって本当か?」

 

「……いやいや、そんなことできるわけないでしょうが」

 

 最近恒例となってきた管理人との談笑の中で、突然そんな話が飛び込んできた。

 

 いやいや、何言ってるんだこの人は?

 

 あの誰もが恐れる掃除屋を一人で倒せるわけがないだろう?

 

「そもそも、なんでここに来る前の俺のことをあんたが知っているんだ?」

 

「あぁ、とある人から聞いたんだ」

 

「いやここに知り合いは…… あっ、わかったもう言わなくていい」

 

 あの病んホモおじさん俺の個人情報流しやがったな! まぁ別にばれて困るようなことは…… いや、藪蛇になりそう。

 

「それじゃあなんでそんな話になっているんだい? さすがに火のないところに煙は立たないだろう?」

 

「いや、別に……」

 

 思わず口をつぐむが管理人がこちらに期待のまなざしを向けてくる。なんとか無言で貫こうと思ったが、ついにこの空気に耐え切れず話を始めることとなった。

 

「あれは俺がへまして掃除屋に追いかけられたところを必死に逃げ回っていただけなんだ」

 

「なるほど、彼らから逃げ切ることができたから、掃除屋を倒したなんて話になったってことか」

 

「そうそう、たまたまはぐれた一人を眠らせたくらいで大げさだよな」

 

「まったく本当だな!」

 

「「ははははっ!!」」

 

「……うん?」

 

 さて、今のうちに別の話題に切り替えておこうかな。

 

「それで、管理人は俺以外のやつの話も聞いてきたのか?」

 

「えっ、確かに話は聞いたけど、それがどうしたんだい?」

 

「いや、なんか面白い話はないかなって」

 

 正直過去の話はあまり興味はないが、何か話のタネになるものがあればいいかなくらいの考えだ。

 

 しいて言うならパンドラ当たりの話は楽しそうだ。

 

「そうだな、マオが孤児たちを集めて組織を作っていたからロリコン、ショタコン扱いされていたこととか衝撃的だったな」

 

「ふふっ、なんだそれ」

 

「まぁ、そこが壊滅したからここに来たらしいけどね」

 

「……そうか」

 

 いや、笑える話をくれよ。いくらよくあることでも、重すぎて全然笑えねぇって。

 

「サラはここに来るまではそこそこ裕福な家庭で普通に過ごしていたらしいし、メッケンナやミラベルたちはまぁよくある不幸って感じだね」

 

「ルビーはどっかでお店を開いていたって聞いたな、アセラは…… 面白い話じゃないな」

 

「リッチとかシロはどんな感じなんだ?」

 

「リッチはなぁ、親が翼に目をつけられたって話は聞いたが、詳しくはなぁ」

 

「シロに関しては、ホクマーもよくわかっていないらしい」

 

「よくわかっていない?」

 

「あぁ」

 

 シロの出自が不明? 記録部門をつかさどるホクマーにもわからないなんてあるのか? いやそもそもシロには不思議な力もあったらしいし、そこも関係しているのだろうか?

 

 ……というか、いま情報の出自を明かしたなこいつ。

 

「そういえば、意外なことにパンドラは23区出身らしいよ」

 

「あぁ、確か料理のおいしいってところだよな? 一回でいいから行ってみたかったんだけどなぁ」

 

「……本当にその認識なのか?」

 

「えっ、何かおかしかったか?」

 

「ジョシュア、君外でどうやって生きてきたの?」

 

「あー、基本ひとりでだな」

 

 あの時は本当に大変だった。一人だと大体襲われるから逃げ足だけはよくなっていったからな、むしろ良く今日まで生きてこれたよ。

 

「それだと23区に関して知らないのも無理ないのかもしれないけど、本当に一人で生きてきたの? あの路地裏で?」

 

「いや、さすがにずっとそうだったわけじゃないぞ? 最初は親代わりのじいさんと一緒に暮らしてたんだけど死んじまったんだよなぁ、それからは基本ひとりだ」

 

 あの時は最悪だった。俺に恨みを抱いた誰かが殺人組織に依頼を出してわざわざじいさんを……

 

 はぁ、あまり思い出して気分がいいものでもないな。

 

「……路地裏って、一人で生きたら真っ先に殺されるって聞いたけど?」

 

「あぁ、だから逃げ足だけは自信あるぞ」

 

「そういう話なのか……?」

 

「そういう話だよ、それでパンドラがどうしたんだ?」

 

「ええっと、意外にも料理ができるらしくてな」

 

「あぁ、そういえば何回か料理を出してきたことがあったな。結局食えていないけど」

 

 そういうことなら一回くらい食べてみたいな。今度部屋に行ったときにでも頼んでみようかな。

 

「それで、あの性格で長女で弟や妹たちの面倒を見ていたらしいんだ」

 

「いやいや、あいつは面倒みられる側だろう」

 

 それにしてもあのパンドラが長女とか、あの性格なら一人っ子か末っ子だろう。いや、そういう枠に当てはまる存在ではないか。

 

「それがな、ホクマーの評価がかなり高くて最初驚いたよ」

 

「えっ、嘘だろ!?」

 

 あいつの評価が高いとか一体どういうことだよ!? ホクマーもついに老いたか……

 

「いったいどういう評価だったんだよ……」

 

「ええっとなぁ……」

 

 

 

『それで、次はだれの話を聞きたいのですか?』

 

『そうだな、パンドラはどうだったんだ?』

 

『はて、パンドラですか?』

 

『あぁ、ちょっと気になってな』

 

『まぁいいですが…… 彼女は非常に勤勉でした』

 

『早くに父親を失い、働きすぎて体調を崩した母と幼い弟たちの面倒を見るためにこの会社に来ました』

 

『彼女はその面倒見の良さをこの会社でも存分に発揮してくれました』

 

『そんな彼女の家族がどうなったかというと、もう言わなくてもわかりますよね?』

 

『彼女がここに来てからすでに10年、人の身には長すぎる』

 

『……そうか、ありがとう』

 

『いえいえ、それにしても彼女の話を聞きたがるとは意外でした』

 

『うん?』

 

『いえ、なんでもありませんよ』

 

 

 

「……って感じだったよ」

 

「あいつ節穴だったのか」

 

 パンドラの面倒見の良さとは…… むしろ甘えてくるようなやつなのに。

 

「……おっと、そろそろ時間だな」

 

「あぁ、もう人が来そうだな」

 

「それではまた」

 

「あぁ、また」

 

 さすがにそろそろ朝が早い奴も来るだろう。管理人はさっさと準備を終えると、流れるように食堂から出ていった。

 

 

 さて、それじゃあ俺も食事にするかな。

 

 今日食べる食べ物を考えながら、しばらくしてから食堂にやってきたメッケンナたちと一緒に食事を買いに行くのだった。

 



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04.トロケル、オモイ

バレンタインネタ

まだ2月14日の47時30分なのでぎりぎりセーフです。


「ジョシュア、どうしたんだ? 今日はやけに気が浮ついているぞ?」

 

「えっ!? そ、そんなことはないと思うけどな……」

 

「そうか、ならいいんだが」

 

 リッチの突然の指摘に思わず動揺しかけたが、何とかやり過ごすことができたようだ。

 

 さすがに今日こんなにそわそわしていることを知られてしまうと恥ずかしいからな。できる限りばれないようにしたい、期待していると思われたら死にたくなる。

 

「だけど作業中だけは絶対に気を抜くなよ」

 

「そんなことするわけないだろう、大丈夫だって」

 

「あぁ、そこだけは信用しているからな」

 

「いやいや、そこだけかよ……」

 

 まぁ信用されているだけましというわけだけど。

 

 なぜ今日俺がそわそわしているのか、それには理由がある。

 

 なぜなら今日はバレンタインデー、つまりはチョコレートとともに素敵な気持ちをもらえる日なのだ。

 

 前世では子供のころに神羅●象チョコを祖母にねだってから毎年箱で送られてくるだけのイベントであったが、今は違う。

 

 今までは路地裏でそんなことを考える暇もなかったが、ここは腐っても翼の企業だ。正直シロからもらえたらうれしいから、ちょっとワクワクしている。

 

「あっ、ジョシュア……」

 

「ようシロ、おはよう」

 

 そんなことを考えていると、さっそくシロがやってきた。現状仲のいい女性職員はシロくらいしかいないから、できれば義理でもいいからチョコをもらいたい。

 

「ジョシュア、おはよう」

 

「ようシロ、俺もいるぞ」

 

「……むぅ」

 

「どうした?」

 

「……なんでいつも一緒なの?」

 

「なんでって、そりゃあなんだかんだでずっと一緒にやってきているからな。それを言うならシロもそうだろ?」

 

「……そういう意味じゃない」

 

「まぁまぁ、それよりも飯にしようぜ」

 

 とりあえずいつものように三人で食事を始める。仕事前の雑談だが、これが結構この施設では大切なものだったりする。

 

 こういった他愛のない日常が、精神を安定させるんだと思う。だからこの施設で長続きするやつは、こうやって限られた時間でできる限りコミュニケーションをとっている。

 

「それでこの前な……」

 

「ふふっ」

 

「そういえばこんなことも……」

 

 だが楽しい時間ほど早く終わるものだ。気が付けば就業時間が近づいてきた。

 

「さて、そろそろ仕事にいくか」

 

「うん」

 

「さて、準備があるから俺は先に行かせてもらうぞ」

 

「おう、またなリッチ」

 

「また夜に、ジョシュア」

 

 何やら準備があるそうなので、リッチは先に行ってしまった。

 

 残るはシロだが、なんかちょっと気まずい。

 

「ジョシュア、行こう」

 

「あぁ、そうだな……」

 

「……? 何かあった?」

 

「い、いや、今日って何の日だったかなって……」

 

「うーん…… なに?」

 

「いや、なんでもない」

 

 そういえばシロって浮世離れした感じがあるし、そういった行事を知らなくても仕方がないのか。まぁちょっと期待していたけど、そういうことなら仕方がないな。

 

「さて、それじゃあ今日も頑張るか!」

 

 

 

 

 

「……だめだぁ」

 

 もう終業間際だというのに、今日は本命どころか義理チョコ一つもらうことができなかった。

 

 そこそこ仲のいいサラやマキなんかにもあってきたが、残念ながらこの有様だ。

 

「はぁ、いったい今日はどうしたんだよ?」

 

「いやぁ、なんでもないよ」

 

「嘘つけ、絶対何かあっただろ?」

 

 露骨に残念がっている俺を心配して、リッチが声をかけてくる。正直情けないが、ちょっと愚痴ってもいいだろうか?

 

「はははっ、今日はバレンタインデーだっていうのに、一個もチョコがもらえなかったからな」

 

「……? バレン? なんでチョコなんだ?」

 

「……あれ?」

 

 なんだこの反応? そういえば、チョコを渡すのは日本式と聞いたことがあるな。いや、この反応はそもそもバレンタインを知らないって感じだ。

 

 ……ってことは、もしかして。

 

「まさか、バレンタインはなくなっていたのか?」

 

「なくなるも何も、そんなもの聞いたことすらないな」

 

 クリスマスが残っているのだからバレンタインもあるものだと勝手に考えていた。だがよくよく考えればこの世界はあれだけやばいことになっているのだ、すべてがすべてあの頃と同じなわけではないのだろう。

 

 くそっ、路地裏にずっといたからそこら辺の話は全然分からなかった。

 

「……なんか疲れた、最後に『T-01-i12』*1のところに行ってくる」

 

「あぁ、行ってこい…… 本当に大丈夫か?」

 

「大丈夫になりに行くんだよ」

 

 なんというか残念な感じになってしまったが、もう仕方がないので最後に『T-01-i12』に癒されにいくことにした。

 

 なんというか、完全に独り相撲だったな。正直かなり恥ずかしくなってきた……

 

 

 

「はぁ、やっぱりお前はいいよなぁ」

 

 チョコレートで体を構成されている少女型のアブノーマリティー、『T-01-i12』。彼女は俺たちに友好的で無害という極めて珍しいアブノーマリティーだ、まぁ現状ではというだけだが……

 

 そんな彼女は俺の話をよく理解していないのか小首をかしげている。本当にこういうところがかわいいよなぁ。

 

「あーあ、なんていうか今日恥をかいてしまってなぁ」

 

「バレンタインなんてないのにさ、今日チョコがもらえるって無駄にワクワクしてしまっていたんだよ」

 

「あーあ、恥ずかしくって仕方がないよなぁ」

 

 とりあえず誰にも言えないような愚痴を『T-01-i12』に伝える。

 

 彼女はやっぱりわかっていないような雰囲気を出しているが、俺が悲しんでいることだけはわかっているようだ。

 

「おい、どうしたんだ?」

 

 すると彼女は、いきなりごそごそし始めたかと思うと、何かを俺に差し出してきた。いったい何だろうと思って受け取ってみると、それは少し予想していなかったものであった。

 

「これは、チョコか? しかもハート形の……」

 

 彼女が渡してくれたのは、いつも渡してくれる不完全な形のチョコレートではなく、ハート形の少し大きめのチョコレートであった。

 

 しかも少し色の違うチョコのリボンでラッピング? までされている。なんというかこんな話は聞いたことがない。

 

「俺にくれるのか?」

 

 俺の問いに対して、『T-01-i12』は満面の笑顔でうなずいていた。どうやら俺が元気づいてうれしいようだ。

 

「ありがとう」

 

 もう純化が始まったので、『T-01-i12』の頭をなでてから収容室から退出する。俺が収容室から出る時、彼女は珍しく最後まで笑顔で手を振ってくれていた。

 

 

 

「さて、それじゃあそろそろ……」

 

「あっ、ジョシュア」

 

 収容室から出ると、なぜかそこにはシロがいた。

 

 彼女は俺が退出したことに気が付くと、何かをもって小走りでかけてきた。

 

「シロ、どうしたんだ?」

 

「ジョシュア、これ上げる」

 

「えっ、これって……」

 

 彼女が手渡してくれたのは、購買で売られているチョコレートだった。しかも、彼女のお気に入りのものであり、結構値の張るものだ。

 

「シロ、これどうしたんだ?」

 

「だって、ジョシュア、元気なかったから」

 

「えっ」

 

 確かに元気はなかったが、まさかここまでしてくれるなんて思ってもみなかった。

 

 それに、彼女が俺を心配してくれたことが、何よりもうれしかった。

 

「ありがとう、シロ!」

 

 彼女からもらったチョコレートを一口いただく。

 

 そのチョコレートは、蕩けるような甘さだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、結局ジョシュア先輩にチョコ、渡せなかったなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼は不思議な人だ

 

 この場所に来る人は、気が付けば来なくなっていることが大半だった

 

 それなのに、彼は最初からずっと、私に会いに来てくれた

 

 私は外のことはほとんど知らない

 

 けれど、誰もかれもが外を恐れていることから、きっと危ない所なんだと思っている

 

 ここに来る人は、なんだか疲れている人が多い

 

 だから私は彼らを精一杯癒すことにした

 

 だって彼らはとっても優しい人たちだから

 

 

 

 そして、その中でも特に優しい人が彼

 

 彼は色々言っているけど、結局優しい人なんだ

 

 もう顔すら思い出せない思い人の記憶

 

 あの人と彼は全然似ていない気がするのに、なぜか二人はそっくりな気がするんだ

 

 なんでだろうって考えてみると、あの人と彼は、一つだけ共通点があった

 

 それは、困っている人がいたら助けちゃうこと

 

 私は外には出られないけど、外からくる人たちから聞く彼の話はほとんど優しいお話だ

 

 そんな共通点とも言えない共通点

 

 だから私は、彼に恋してしまったのかもしれない

 

 

 

 そんな彼が悲しんでいるから、少しでも力になってあげたい

 

 たとえその理由がどうであれ、彼が悲しむ姿は見たくない

 

 だから私は、このバレンタインという日に、特別なチョコを彼にプレゼントする

 

 

 

 

 

 Be my valentine

 

 

 

 

 

 蕩ける恋を、どうかあなたに

*1
『蕩ける恋』



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小ネタ エージェントパンドラのやってはいけないリスト

前回から間が開いてしまってすいません。
今回はちょっとした小ネタです。

もちろん例の博士のあれです、あっちよりもだいぶ控えめですが……


 この度、度重なる社内規約違反ぎりぎりの行動に見かねて、エージェントパンドラに対して特別に禁止事項リストを作成することにしました。

 

 もちろんほかの職員であっても処罰対象です。

 

 これによりエージェントパンドラが違反を行った場合、即刻近場のランク5職員に通告後、エージェントジョシュアに連絡を入れてください。

 

 また、このリストは随時更新されます。

 

 

 

・エージェントパンドラが収容室に関係のないものを持ち込もうとしている場合、絶対に阻止してください。

 

・『T-01-i12』*1を利用してチョコレートフォンデュを行ってはいけません。

 

・調理室の塩と砂糖のラベルを張り替えるなどのいたずらをしてはいけません。調理室が混乱してしまいます。

 

・新人職員に『F-02-i06』*2を利用したさぼり方を教えないでください。救出するこっちの身にもなりましょう。

 

・勤務中に隙あらばさぼろうとするのはやめてください。情報部門に配属しますよ。

 

・男性の利用時間に『T-09-i97』*3を利用しないでください。あなたに恥という概念はないのですか?

 

・周囲の人があなたを注目しているのは「なんてことをしているんだ」という意味であって、あなたの行動を見て楽しんでいるのではありません。

 

・『O-05-i18』*4でキャッチボールをしてはいけませんし、新人にそのような存在であるといって無理やり参加させるのはやめましょう。パニックを起こしてしまいます。

 

・もう二度と『O-05-i18』キャッチボール大会などという意味不明の大会を開いてはいけません。

 

・パニックにした職員を自ら助けて恩を売るというマッチポンプをしないでください。

 

・エージェントパンドラが『T-09-i96』*5当番の日は、出来る限り職員二名、最低でも一名が常に監視をしていてください。よくふらふらとどこかに行ってしまいます。

 

・『T-09-i96』を下戸な職員に呑ませようとするのはやめてください。特にエージェントリッチに飲ませようとしている場合は絶対に阻止してください。

 

・アブノーマリティーの収容室内で酒盛りをしてはいけません。

 

・『O-02-i23』*6や『O-02-i24』*7を調理しようとしてはいけません。エージェントジョシュアの許可があってもダメです。

 

・ほかのアブノーマリティーであってもダメです。エージェントジョシュアの許可があってもです。

 

・『F-04-i27』*8に男性職員が入室する際に、ドレスコードと偽ってドレスを着せようとしないでください。絵面が地獄です。

 

・『O-04-i16』*9の骨でチャンバラごっこをしてはいけません。ほかのエージェントも参加してはいけません。

 

・『O-03-i07』*10に生贄の職員として自分を差し出さないでください。本当に受け取ったらどうするつもりだったんですか?

 

・『O-03-i07』へのイケニエ作業として『T-01-i12』を差し出そうとしないでください。そもそもアブノーマリティーとアブノーマリティーを引き合わせないでください。

 

・『T-09-i85』*11を使用する際に、ほかの職員とクリア記録で争わないでください。もっと落ち着いて遊びましょうよ。

 

・RTAをしないでください、動画編集もです。セフィラも協力しないように。

 

・『T-06-i30』*12と一緒に遊ばないでください。

 

・新人職員に『T-09-i91』*13を一気飲みするのが通過儀礼という嘘の情報を教えるのはやめましょう。

 

・新人に会いに行く時だけまともなふりをするのはやめてください。彼らは純粋なのでコロッとだまされてしまいます。

 

・ほかの職員の迷惑になるようなことをしないでください。迷惑をかけるのであればせめてエージェントジョシュアだけにしてください。

 

・お願いだから誰にも迷惑をかけないでください。本当にお願いします。

 

*1
『蕩ける恋』

*2
『吊るされた胃袋』

*3
『極楽への湯』

*4
『魂の種』

*5
『黄金の蜂蜜酒』

*6
『老殻』

*7
『鋏殻』

*8
『零時迷子』

*9
『骨の華』

*10
『でびるしゃま』

*11
『次元超越機構』

*12
『常夜への誘い』

*13
『七色の瓶』



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満開、ロボトミー学園! ~桜舞い散る木の下で~

キャラ崩壊注意


「さて、ここが今日から通う学校か」

 

 爽やかな風の吹く桜並木、その道の先にある門の向こうには、巨大な校舎がそびえたっていた。

 

 『私立ロボトミー学園』

 

 俺、ジョシュアはこれからこの学園で三年間の学生生活を送ることとなる。

 

 それが、俺の運命を変えることになるとは知らずに……

 

 

 

 学園で彼に訪れる、様々な出会い。

 

 

「…………ジョシュア、食べる?」

 

 少し寡黙な腹ペコ乙女、シロ。

 

 

 

「チョコ、受け取ってください!」

 

 恥ずかしがり屋の女の子、恋。

 

 

 

「……フンフンフフーン」

 

 思いを奏でる天才少女、ハーモニクス。

 

 

 

「いやぁ、もう触らないでぇ!」

 

 内気な猫系乙女、秋姫。

 

 

 

「あなたはいずれ、すべてを知ることになる……」

 

 全てが謎に包まれた少女、白夜。

 

 

 

 彼女たちと交流を深め、最高の青春を送ろう!

 

 

 

「ほら、何やってるんですか。行きますよ先輩!」

 

 いつも一緒の後輩系少女、パンドラ。

 

 

 

「まったく、お前は手のかかる奴だな」

 

 中学時代からの悪友、リッチ。

 

 

 

『忠告はしてやる、気をつけろよ相棒』

 

 学園の地下で偶然出会った不思議な骸骨、輪廻。

 

 

 

「大丈夫、私が付いているから大丈夫です! だから私以外の電化製品はすべて破棄しましょう!」

 

 自称高性能なポンコツAI、越子。

 

 

 

「まったく、いい加減に問題を起こすのをやめなさい」

 

 冷たい瞳の学園長、アンジェラ。

 

 

 友人や、様々な人々と出会い、絆を紡いでいく。

 

 

 

「ねぇ、知ってますか? この学園の校舎裏の桜の木の下で告白をすると、その恋がかなうという伝説があるそうですよ!」

 

「なんだよ、それ。さすがに嘘だろ」

 

「本当なんですってぇ!」

 

 学園で噂される、桜の木伝説。

 

 

 

「なんだか最近、不思議な化け物の噂が広がっているな」

 

「まったく、そんなの見間違いに決まっているだろう?」

 

(おいおい、お前のことじゃないだろうな?)

 

(まさか、俺の同類だろうよ)

 

(ならいいんだけどな)

 

「おい、いきなりどうしたんだ?」

 

「いや、なんでもないよ」

 

 学園に忍び寄る、不穏な影。

 

 

 

「おい、これは一体どういうことだよ……?」

 

『気が付いたか、相棒?』

 

「まさか、同じ日を繰り返しているのか?」

 

 突如繰り返される日常。

 

 

 

「さて、ついに知ってしまいましたね」

 

「一体どういうことだよ、学園長」

 

 そして、明かされる学園の秘密。

 

 

 

「ジョシュア、もっと私に色々なことを教えて」

 

「任せろ、もっともっと楽しいことを教えてやるよ」

 

「うん、楽しみ」

 

 

 

「ジョシュア君、私のチョコレートはどうでしたか?」

 

「あぁ、うまかったぞ。毎日でも食べたいくらいだよ」

 

「ま、毎日……!?」

 

 

 

「相変わらずきれいな音色だな」

 

「……フフッ」

 

「おっ、もしかして照れてるのか?」

 

「……ムー!」

 

 

「ぐへへへっ、妹たちをモフられたくなければ、おとなしくモフモフされるといい」

 

「ひっ、ひどい!」

 

「へっへっへっ、そういいながらも体は正直だなぁ」

 

「くぅっ……」

 

 

 

「あなたはまだ足りない、より多くを見るべきよ」

 

「いったい、何が起こっているっていうんだよ」

 

「それはまだ言えないわ、とにかく気を付けることね」

 

 

 そして、彼らは真実にたどり着くことはできるのか

 

 

 

 『満開、ロボトミー学園! ~桜舞い散る木の下で~』

 

 2000××年、4月1日 発売予定。

 

 

 

「なんだこの見るからにヤバイ液体は!?」

 

「取り敢えずパンドラ騙して毒味させるか?」

 

「そうだな、いい考えだ」

 

「ちょっと聞こえてますよ!?」

 

 

 

「目移りするのがいけないのねぇ!!」

 

「ヤバイ、愛ちゃんが暴走してるぞ!」

 

「くそっ、こうなったらパンドラを囮にして他の女子を逃がすぞ!」

 

「何で私なんですかあぁぁぁ!」

 

 

 

「おいパンドラ、これ食べてみろよ」

 

「えっ、何言ってるんですか。そんなやばそうなもの食べられるわけが……」

 

「いいから食ってみろって旨いから!」

 

「いやいや、そんなゲテモがぼぼぼぼっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いやいや、どうなってるんだよ!?」

 

 

 恐ろしい夢のせいで飛び起きる。なんで俺がアブノーマリティーたちと青春してるんだよ?

 

 そもそもあのパンドラが被害者側で俺が加害者側なのが気に食わない。

 

「ジョシュア先輩、どうしたんですか?」

 

「いや、なんでもない、変な夢を見てただけだ。それよりも、もしかして俺の寝顔を見ていたのか?」

 

「はい、ジョシュア先輩が寝てからずっと見てましたよ。かわいかったですよ?」

 

「……はぁ、バカ言ってないで早く仕事いくぞ」

 

「はーい」

 

「よしっ、うん? どうした?」

 

「夢って、どんなものなんでしょうか?」

 

「いや、めちゃくちゃ過ぎてよく分からない夢だったよ」

 



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05.モフレ、モフレ

 思い出す

 

 心癒える安らぎを

 

 

 

「さて、今日も一日頑張るか!」

 

「?」

 

 今日の仕事の始まりは『T-01-i12』*1、まずはここで存分に癒されてから仕事に励むとしよう。

 

 正直ここくらいしか安らげるところがないからな。 ……いや、『O-03-i07』*2もかな。

 

 『T-0-1-i12』の頭を撫でながら考え事をする。そうしている間にも『T-01-i12』はこちらにすり寄ってくる、本当に癒しだ。

 

「さて、それじゃあもう行くよ。またな」

 

 『T-01-i12』に十分癒されて、収容室から出ていく。彼女も満足したのか笑顔で手を振りながら見送ってくれた。

 

 

 

「今日の作業は…… なんか面倒だな」

 

 今日の予定は『O-01-i43』*3、『O-01-i40』*4、『O-01-i41』*5、『O-01-i42』*6、『T-01-i21』*7、『F-01-i26』*8、『T-05-i11』*9、『O-01-i37』*10…… なんか作為的なものを感じる、おかしくない?

 

「というか、この量を一日でやるのか……」

 

 さっきの『T-01-i12』を合わせて9体、そうでなくても8体か。しかもALEPH2体のおまけ付き、相当気を付けないといけないな。

 

「じゃあ、今日も頑張って生き残るか」

 

 

 次の収容室に向かって歩き出す。とりあえず懲戒部門からかな。

 

 

 

「よっ、久しぶり!」

 

 収容室の中に入ると、少し背の高い女性が立っていた。

 

 玄い着物を身にまとい、甲羅のようなものを背中に背負う彼女は、姿勢正しく背筋をピンと伸ばしている。

 

 玄い髪から伸びる二本の白い髪の束は大蛇を思わせ、爬虫類のような目の眼光は鋭く冷たい印象を受けるが、よく見れば怯えが見える。

 

 そして顔の大半は白い鱗のようなものに覆われており、口元を見られたくないのかとっさに隠していた。

 

 『O-01-i43』、どこか亀を思わせる彼女は、入ってきたのが俺であると理解すると警戒を解いてこちらを出迎えてくれた。

 

「さて、それじゃあ今日もお話でもするとするか」

 

 こちらの言葉はちゃんと通じているようで、嬉しそうに何度もうなずいた。

 

「そうだな、それじゃあ今回は……」

 

 話始めると、彼女は目を輝かせながら耳を傾ける。

 

 ここまで好意的だとこちらもうれしくなってくるが、さすがにアブノーマリティー相手に心を許すわけにはいかない。

 

 現にこの前収容室に監禁されそうになったしな。

 

 それに彼女たち姉妹? はほとんどがこちらに好意的だが、全員厄介な能力を持っているので注意が必要だ。この子はまだましなほうではあるけどな。

 

「それでな、その時彼は言ったんだ……」

 

 話をしているうちに、どんどん彼女の頭がこちらに近づいてくる。

 

 なんとなくそれを見ているうちに、思わず頭を撫でてしまった。

 

 すると彼女は一瞬驚いたような目でこちらを見てきた。まずかったかと思ったが、特に抵抗する様子もないので再び頭をなでてやると、うれしいのか自分から頭をこすりつけてきた。

 

「さて、それじゃあそろそろ終わりにするか」

 

 頭を撫で続け、『O-01-i43』がうとうとしてきたころに時間が来たので、そろそろお開きにする。

 

 頭から手を離すと、彼女は少し悲しそうな顔をしたが、自分がしていたことを思い出したのか顔を赤面させていた。かわいい。

 

「それじゃあまたな」

 

「マタネ」

 

 手を振る彼女に見送られ、収容室から退出する。さて、今日は作業量が多いから急がなくては……

 

 

 

「今日も元気かー?」

 

 次にやってきたのは、『O-01-i40』の収容室だ。収容室の中はほんのり暖かく、春の陽気を感じる。

 

 そんな収容室の中心を陣取っているのは、大きな卵の殻だ。

 

 中央には亀裂が入っており、そこから何者かがこちらを覗いて警戒している。そして入ってきたのが俺であるとわかると殻を勢いよく持ち上げて顔を出してきた。

 

 それは青い髪をして、頭から珊瑚のような角を生やした少女であった。

 

 元気な彼女の頭がちょうどいいところにあったので頭をなでてやると、くすぐったそうにしながらも喜んでいた。

 

「うん? あぁ、それじゃあ始めるか」

 

 しばらくすると彼女は俺の手から逃れようとし始め、持っていた卵の殻をたたき始めた。

 

 それをいつもの合図だと理解して、頭から手を放してやると彼女は再び殻の中に閉じこもった。

 

「よし、行くぞ!」

 

 いつものように、殻にノックをする。はじめは軽く、そして徐々に激しく。

 

 すると内側からもノックが帰ってくる。こちらがすれば同じように、強くなればなるほど彼女も強く、リズミカルにすれば彼女もリズムに乗って。

 

「ふぅ、そろそろ終わりにするか」

 

 しばらくの間一緒に殻をたたいていたが、もう時間が過ぎてしまった。

 

 最後に終わりのノックをすると、彼女は殻から顔を出してきた。

 

「悪いな、今度もっと一杯やろうな」

 

 もっと遊びたかったようだが、残念ながら今日は仕事が立て込んでいる。それは彼女もわかっているのかちょっとすねながらも手を振ってくれた。

 

「また今度な」

 

 それに対して俺も手を振る。今度はもっと一緒に遊んでやろう。

 

「……ふぅ」

 

 収容室から出て、体にまとわりつく死の匂いを手で払う。

 

 彼女自身は悪気がないのだろうが、やっぱりこの匂いにはなれない。どれほどおとなしく見えるアブノーマリティーでも、やっぱり安全な存在はほとんどいないのだろう……

 

 

 

「さーて、調子はどうだ?」

 

 今俺はテンションが上がっている。なぜならモフモフがあるからだ。

 

 次に来たのは『O-01-i41』の収容室だ。なんだか蒸し暑い。

 

 収容室の中にいるのは、朱い瞳に朱い髪の少女、少し露出の多い着物に身を纏い、情熱的な舞を踊り続ける。

 

 そして何よりもその背中から生えている朱き翼! そのモフモフのなんていい触り心地。

 

 たまにこの収容室に来ては堪能して女性陣から白い眼を向けられるが、そんなことはどうでもよくなるくらい気持ちよかった……

 

「……」

 

 だから、彼女からジト目で見られながら距離を取られていても傷ついたりしないぞ! ……本当だぞ?

 

「なぁ『O-01-i41』、そんなに警戒しなくてもいいんじゃないか?」

 

 そういって敵意がないことを示すために両手をフリーにして挙げたが、余計に警戒したか翼を胸に抱いて一歩下がる。

 

「いや、前は悪かったって。確かにちょっとやりすぎたかもしれない」

 

「だから俺もお前が嫌がるようなことはしない、絶対だ」

 

 こういう時はとにかく真摯に対応したほうがいい。すると彼女にこちらの思いが伝わったのか少し警戒心が緩んだ。

 

「そうだ、今日はお前の踊りを見せてくれよ」

 

 そういってやると、彼女は一気に上機嫌になって踊り始めた。ちょろいな。

 

 溢れるような情熱を踊りで表現し、室内の温度まで上がってきている気がする。というかおそらくは実際に上がっている、アブノーマリティーとはそういうものだろう。

 

「いやぁ、さすがだな!」

 

 『O-01-i41』の踊りは素人の俺でもわかるくらい上手であった。

 

「おっと、危ない」

 

 そんな彼女も踊りすぎたのか少しふらついたので、とっさに抱きかかえる。すると彼女は顔を真っ赤にさせて硬直してしまった。

 

「おいおい、大丈夫か?」

 

 額に手をやって熱を測っても意味がないだろうし、とりあえず頭を撫でてやる。すると何か抗議をしようとしていた彼女は手を止めて、目を閉じて撫でられるのを許容した。

 

 しばらくなでてやると、さっきまでつんつんしていたのにだんだん目元がトロンとしてきた。このままいけばこっそりモフモフしても大丈夫かもしれないが、さすがに時間がないからやめておく。

 

「さて、それじゃあ今日はもう行くよ、体に気をつけろよ」

 

 そういって彼女をはなして収容室から退出する。

 

 『O-01-i41』は少し呆然としている様子だったが、こちらに手を振って見送ってくれた。

 

 次に会うときには機嫌が直ってくれているといいのだが……

 

「それにしても、もしかしたら俺には撫でポの才能があるのかもしれない……」

 

 なんだかんだで今までのアブノーマリティーたちも喜んでくれたし、そのおかげで好感度も上がっているような気もする。……それはそれでまずい気がするが。

 

「いや待てよ、それならもしかしたら……」

 

 次に向かうところは『O-01-i42』の収容室だ。もしかしたら彼女も俺の力があれば…… ぐへへっ

 

「そうと決まれば善は急げだ!」

 

 そうだ、もしも頭を撫でて許されるなら、彼女も許してくれるはずだ。

 

 以前は些細なすれ違いで収容室を出禁になってしまったが、今回は大丈夫だ。なんせ俺は技術を身に着けたのだから。

 

 それにあれほどすばらしいモフモフがありながらそれをモフれないなんて拷問にも等しい。モフモフは非常に優れたコミュニケーションでありモフる側モフられる側両方が幸せになれる素晴らしい行いなのであるモフれば非常に柔らかくそのふかふか具合に世界の真理を垣間見るしモフられる側も天にも昇る快楽を得ることができるそもそもモフモフとは有史以前からある由緒正しい精神安定法であり、神事にも使われる神聖な儀式でもあるのだそれを不健全だのなんだの言って禁止しようとしているほうが悪いのだ。

 

 こちらもモフらねば、無作法というものよ。

 

「よし、待ってろよ~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛~!!!!」

 

 出禁になった。

 

*1
『蕩ける恋』

*2
『でびるしゃま』

*3
『玄き北颪の冬姫』

*4
『青き東風の春姫』

*5
『朱き南薫の夏姫』

*6
『白き大西の秋姫』

*7
『インディーネ』

*8
『吹雪の約束』

*9
『盲目の愛』

*10
『儚きハーモニクス』



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06. ヒトミ、トジテ

 思い出す

 

 あの痛みを

 

 

 

「まったく、ちょっとコミュニケーションとっただけでひどいよな?」

 

「……?」

 

 残念ながら『O-01-i42』*1の収容室を再び出禁にされた俺は、仕事のために『T-01-i21』*2の収容室に来ていた。

 

 なぜか女性陣からの視線が一層厳しくなってしまい、こうして『T-01-i21』に作業ついでに愚痴を言っているのだ。視線が変わらなかったのはシロとパンドラくらいだよ……

 

 『T-01-i21』は女性の形をした水銀の塊だ。どういうわけか体から水銀が分離したりはしないのだが、収容室の中は毒で充満している。

 

 『T-01-i21』が頭を差し出してくるので撫でてやる。触れた感触は堅いのに柔らかい、何とも不思議な感じがする。あとひんやりしていて気持ちいい。

 

「それにしてもなんでなんであの子には効かなかったんだろうか?」

 

「……」

 

「おおっと、すまんすまん。ほかのこのことを考えていて悪かったって」

 

 ほかのアブノーマリティーの話をしていたせいか、『T-01-i21』の機嫌が少し悪くなる。

 

 ……はぁ、なぜ俺は恋人もいないのにアブノーマリティー相手にこんなことをしているのだろうか?

 

「さてと、それじゃあそろそろ行こうかな」

 

 そんなことを考えているうちに作業の終了時間がやってきた。正直この収容室にもあまりいたくはないので早めに退散することにする、息苦しいったらありゃしない。

 

「そう悲しそうな顔をするなよ、またな」

 

 手を離すと悲しそうな表情を浮かべるので、最後にわしゃわしゃと『T-01-i21』の頭を撫でてやる。

 

 すると『T-01-i21』も理解できているのか、ちょっと悲しそうな顔をした後、俺から離れて手を振ってくれた。こういうところは素直でうれしいな。

 

 こちらも手を振り返して収容室から出る、ようやく外に出られたのでガスマスクを外して備品置き場に返しに行く。さすがに毒の充満している収容室に生身で入るほどのチャレンジャーではない、パンドラとは違うのだ。

 

 

 

「さてと、次はこの収容室か」

 

 次の作業は『F-01-i26』*3の収容室だ。

 

 前回はパンドラが勝手に入っていってよくわからなかったが、いったいどんな奴がいるのだろうか?

 

「……よし、行くか」

 

 いつものように収容室の扉に手をかけて、お祈りをしてから入室する。収容室の中からは、冷たい風が吹いてきた。

 

 

 

「うおっ、さむ……」

 

 収容室の中では吹雪が吹き荒れていた。決して広くはない空間の中で視界が悪くなるほどの吹雪の中心には、一つの人影。

 

 それは、全身が雪でできたかのような、妙齢の美しい女性であった。

 

 真っ白な体に冷たい薄水色の着物を纏い、どこか冷え切った表情をこちらに向ける。

 

 その冷たい視線を受けて警戒していると、しばらくしてめをぱちくりとさせ始めた。

 

「……やっと来てくれた!」

 

 すると突然彼女は花が開いたかのような満面の笑みを浮かべてこちらに突っ込んできた。

 

 いやいや、こえぇよ! さっきまでのクールな印象はどこに行った!?

 

「あれからずっと変なのしか来なかったからもう来てくれないのかと思った! けどよかった、ちゃんとあなたみたいな男の人が来てくれたのね!」

 

「……ソウデスネ」

 

「えっ、ちょっとまって、どうしてそんなに警戒しているんですか? どうしてじりじりと私から距離をとっているんですか?」

 

「……ソンナコトナイヨ」

 

「そんなことあるじゃないですか! もっとこっち来てお話ししましょうよ!!」

 

「いやだやめろ、こっちに来るな!!」

 

 こっちに抱き着いて来ようとする『F-01-i26』を引き剥がそうと必死に抵抗する。なんかこいつポンコツ臭がするけどそれ以上にやばい気がする。絶対関わらないほうがいい!

 

「何でですかー、一緒に結婚しましょうよー!!」

 

「ついに正体現したな、雪女!」

 

「……な、ななな、何のことだかわかりませんよ~!?」

 

 わぁお、わっかりやすいくらい動揺してる。よし、今のうちに……

 

「悪い、もう時間だから行くわ。さよなら!」

 

「あ~待ってください~、時間の延長をお願いしますぅ~」

 

「当店ではそのようなサービスは行っておりません!!」

 

 勢いに任せて収容室から退出する。……あっぶねぇ、あれあのままだったら確実に殺されてただろ。

 

 本当にこういうところは勘がいいな、パンドラのやつ。

 

「ふぅ、とりあえず次に行ってくるか……」

 

 さっきのも疲れたが、次のほうが行きたくなさすぎる……

 

 

 

「……さてと、久しぶりだな」

 

 次の作業は『T-05-i11』*4、正直に言ってあまり相手をしたくない相手だ。

 

 収容室の中心に置いてある指輪は、肉塊のリングと目玉の宝石で構成されていた。そしてその瞳は常にこちらに向いており、この存在のどす黒い欲望が伝わってくる。

 

 このアブノーマリティーは男好きであり、女を徹底的に敵視している。

 

 このアブノーマリティーに対してその日初めて作業を行った男性は、その後一日が終わるまで女性と接近することを禁止されている。それを破れば待っているのは地獄絵図だ。

 

「できれば関わり合いたくはないんだがな……」

 

 正直気は進まないが、このアブノーマリティーに対して一番安定している作業は愛着作業だ。だから話しかけたり、撫でてやったりするといいんだが、正直小さすぎて撫でたりは難しい。

 

 だからできることは多くない。

 

「お前は本当に美しいなぁ」

 

 本心を隠しながら『T-05-i11』を褒めて綺麗に掃除してやる。すると『T-05-i11』は嬉しそうに脈動した。

 

「素敵な瞳だ」

 

 こいつは意外と褒めるだけでも喜んでくれる。だがなぜか知らんがそういうのが慣れていないやつのほうが好みらしい、まぁあまり興味はないが。

 

「さてと、そろそろ…… いてっ」

 

 作業が終わろうとしたその時、俺は左薬指に痛みを感じた。

 

 左薬指を見ればそこには『T-05-i11』と同じ形の指輪がある。これで俺は今日女性と会うことはできない。全く面倒な……

 

「それじゃあな」

 

 収容室から出て管理人に連絡する。これで女性に合わないように誘導してくれるはずだ。

 

「とりあえず次で最後だな」

 

 この後は『O-01-i37』への作業で予定は終わりだ。もう純化も近いし早めに行ったほうがいいだろう。

 

 

 

「よう、元気にしてるか~?」

 

 『O-01-i37』のギフトを持っているおかげか、彼女の収容室に入るときにヘッドホンをしなくてよくなった。本来はそうしなければかなりまずいことになるが、彼女のギフトは音の悪影響を無効化する能力を持っている。それはこちらとしてはありがたいことだ。

 

「それじゃあ今日mぎゃあぁぁぁぁ!!」

 

 そして彼女の姿を見ようとしたその時、両の目に激痛が走る。

 

「アブノーマリティーでも反応するのかよ!!」

 

 激痛にもだえそうになりながらも、何とか耐える。早くしなければまたまずいことになる、すぐに『T-09-i97』*5で回復しなければ……

 

 しかしそんな時間など一つもなく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 虐殺の足音が聞こえてきた。

 

 

*1
『白き大西の秋姫』

*2
『インディーネ』

*3
『吹雪の約束』

*4
『盲目の愛』

*5
『極楽への湯』



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07. アイノ、タメニ

 思いだs……

 

 いや知らないよこんな記憶!

 

 なんだこれ!

 

 

 

 彼女の前には愛しの彼がいる。

 

 皆が恐れる自分に対して、その恐怖を押し殺しながらも一個の存在として認めてくれる男性が。

 

 彼女の奏でる曲を最後まで聞き、彼女の音に向き合い、彼女の頭を撫でてあやし、素敵な音楽を奏でる笑顔の素敵な彼。

 

 そのエージェントは彼女のにとってかけがえのない存在だ。

 

 そんな彼が今、目の前で目から棘を出して血を流している。

 

 何者かによって傷つけられ、そしてこれから起こる何かに嘆き悲しみ、その結末を変えようと足掻こうとしている。目も見えないボロボロの体で。

 

 そんなの、だめだ。

 

 無茶をしようとした彼の姿を見て、彼女は決心する。彼の代わりに、私がやろうと。

 

 蹲りながらも藻掻く彼の頭をいつもしてもらっているように撫でて、曲を奏でる。

 

 勇猛で、優しくて、美しく、自信に満ち溢れた音。

 

 それこそが彼女の決意だ。

 

 気分は上々、機材は万全。

 

 今日の曲は決まった、オーディエンスもばっちりだ。

 

 歩く姿に迷いなし、その表情は晴れやかだ。

 

 七色に輝く銀髪を靡かせ、音色を奏でて部屋を出る。

 

 破滅の音色を奏でし銀色の乙女。人を求めながら人を拒絶する儚き存在。

 

 その名も、『O-01-i37』。またの名を『儚きハーモニクス』

 

 これからの演奏に胸を昂らせ、収容違反を起こし(部屋を飛び出し)……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今ここに、2体のALEPHが激突する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ア゛ア゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛!!!!」

 

「きゃあぁぁぁ!!」

 

 この部屋の、最後の肉の潰れる音がする。

 

 下手人は怪物、それも特別醜悪な。

 

 上半身は人の形をした筋肉に、所々腐った肉塊が装飾されている。六本の腕のうちの四本は虫の足のように体を支え、残りの二本は人間のように配置されている。

 

 しかしその左薬指だけは大きく肥大化しており、根本には指輪がはめ込まれている。

 

 下半身は千切られたかのように無くなっており、内部から出た内臓がドレスのスカートのように広がっている。

 

 そして頭部は、一つの大きな目玉があるだけで他には何も存在しない。何も存在しないにもかかわらず叫び声をあげ、憎しみを轟かせる。

 

 『T-05-i11』、またの名を『盲目の愛』

 

 その名の通り愛に狂い、瞳の輝きを失った哀れな存在。

 

 その肉で作られた出来損ないのカマキリのような怪物は、女性のみを執拗に襲う。

 

 それは純粋な嫉妬、自分以外の女が憎い、醜い、妬ましい、悍ましい、恐ろしい。

 

 それにとって女とは、自分の幸せを妨害する障害でしかないのだ。

 

「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!」

 

 だから潰す、徹底的に、ぐちゃぐちゃに、跡形もなく、徹底的に、容姿も、性別も、原形も、人であったかも判らないくらい完全につぶす。

 

 そして誰もいなくなった収容室をそれは見まわす。周囲の女は殲滅した、もうこの部屋には何も残っていない。

 

 最初は男性のエージェントが『T-05-i11』を止めようとした。しかし怪物はどれほど己の身が傷つこうとも決して歩みを止めようとはしなかった。

 

 全ての男性エージェントを恐ろしいほどの速さで振り切り、己の求める女性のもとへと向かっていった。

 

 不運にも、この日は新人の女性エージェントが固まっていた。そして育成のために女性の中堅エージェントがチーフを担当していたのもまずかった。

 

 結果チーフは不意を突かれて一瞬で命を落とし、あとは哀れな子羊たちが起こったのだ。

 

 結果は言うまでもないだろう。哀れな床のシミが増えただけだ。

 

「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛……」

 

 怪物は次の獲物を探すために次の場所へと向かおうとする。

 

 

 

 

 

 その時、勇猛な音楽とともに怪物の体が引き裂かれた。

 

 

 

 

 

「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!」

 

 怪物は痛みに喘ぐ、いや憎しみに咆哮する。

 

 目の前にはまた女だ。しかも、愛しい彼の視界に入った女だ。

 

 その女、『儚きハーモニクス』は自身の髪を床に突き刺し、髪を手で束ねてギターのように掻き鳴らす。

 

「ア゛ア゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛!!!!」

 

 許すわけにはいかない、生かすわけにはいかない。

 

 それが私の邪魔をする、だから潰さなくては、徹底的に。

 

―“見 つ け た”―

 

 怪物、『盲目の愛』は目にもとまらぬ速さで少女に接近し、己の腕を叩きつようとする。

 

 しかし『儚きハーモニクス』は回避行動をとらずに、ただ音楽を奏でる。

 

―うるさい、“アクセント”―

 

 旋律とともに周囲に音の斬撃が生まれる、しかし動きは鈍くなったものの『盲目の愛』は『儚きハーモニクス』に接近し、腕を叩きつける。

 

―邪魔、“カノン”―

 

 そこに、極大の音楽が『盲目の愛』にたたきつけられる。怪物は吹き飛ばされるも体勢をすぐに立て直し、次の行動に移る。

 

「ア゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!」

 

 『盲目の愛』は壁を走り撹乱しながら狙いを定める。それに対して『儚きハーモニクス』はその場で怪物を見据えながら演奏を続ける。

 

―“逃 が さ な い”―

 

―無駄よ、“スタッカート”―

 

 怪物は爪を飛ばし、少女は音で防ぎ、反撃する。

 

 だが怪物は己が傷つくことを構わない、なぜなら最後に目の前の醜女を殺すことができればいいのだから。

 

 いくら爪による遠距離攻撃を防がれようとも、いずれは綻びが生まれる。ましてや怪物は、この施設内における『最速』の怪物なのだ、それに目の前の少女がいつまでも対応できるだろうか?

 

―いい加減に…… くっ!―

 

 そしてついに怪物の爪が少女を傷つける。さほど大きくない、かすり傷のような小さいもの。しかしその一瞬できた小さな隙を怪物は見逃さなかった。

 

「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛!!!!」

 

 壁を走り回っていた怪物が、急に壁が陥没するほどの速度で少女へと方向転換する。床に散らばった肉が飛び散り赤いカーテンができる。

 

 それに対して少女はすぐに床に突き刺した髪を抜いて、いざというときのために用意していた天井に突き刺した髪を引き寄せて上に逃げる。

 

 そして天井に残りの髪を突き刺して反撃しようとした少女の目の前には、すでに怪物の腕が迫っていた。

 

「~~~っ」

 

「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛♪♪」

 

 怪物の攻撃を直撃した『儚きハーモニクス』は、とっさに己の体に髪を突き刺して音の防壁を発生させた。

 

 そして壁に衝突した衝撃を和らげてすぐに体勢を立て直すも、『盲目の愛』はすでに目の前にいた。

 

「~~~!!」

 

「ア゛ハ゛ッ゛♪」

 

 愉悦の声とともに放たれる暴力の嵐を、『儚きハーモニクス』は全力で避けながら反撃する。

 

 髪をすべて床に突き刺す時間はない、ゆえに一本だけでも突き刺し少し音を奏でてまた逃げる。

 

 『盲目の愛』の腕による攻撃を避けれても、それによって生まれる瓦礫の礫までは避け切れず、徐々に傷が増えていく。

 

 相手も徐々に傷は増えるものも異様にタフで、いまだに勢いが収まる気配はない。このままではじり貧だ。

 

―もう、やるしかない―

 

 そこで彼女は賭けに出ることにした、たとえリスクがあったとしても、そうしなければこの怪物には勝てないと判断したのだ。

 

「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ァ゛ッ゛♪ ア゛ア゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛!!!!」

 

 『盲目の愛』の攻撃を己の身で受け、その腕を自分の髪で拘束する。そしてそのまま怪物の内部に音を響かせようとしたが、危険を察知したのか怪物は拘束された己の右腕を切断してすぐに距離をとった。

 

 残された右腕はそれでもなお彼女を害しようと暴れまわるが、体内に鳴り響いた音楽とともに楽器となって曲を彩った。

 

―失敗した、でもこれなら―

 

 床に髪の毛をすべて突き刺した『儚きハーモニクス』は、鼻血を腕で拭って再び演奏を始める。次こそ絶対に、演奏を止めないために。

 

 対する『盲目の愛』は、爪を飛ばして牽制し、そのまま接近して残りの腕で連撃を加える。いくら腕を一本失い先ほどまでの連撃を出せなくなったとはいえ、その速度は油断できるものではなかった。

 

 戦況は『儚きハーモニクス』のほうが優勢に見えるが、彼女も『盲目の愛』の強烈な一撃を受けている。

 

 現状では、どちらが勝ってもおかしくなかった。

 

―あぁ、これほどの障害、貴方の為なら乗り越えて見せるわ―

 

―絶対に負けない、彼の為にも、ここで止める―

 

 そして、ついに決着の時は訪れる。

 

―あぁ、貴方を“ア イ シ テ ル”―

 

―これで終わりよ、“グランドフィナーレ”―

 

 赤き旋風と銀色の旋律がぶつかり合い、施設を揺さぶるほどの衝撃が生まれる。

 

「ア゛ア゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛!!!! ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛……」

 

 そして最後までその場に立っていたのは、銀髪の少女だけであった。

 

―やっと終わった……―

 

 『儚きハーモニクス』は戦いに勝利したことで、思わず力が抜けそうになっていた。

 

 しかし、自分が何者かに囲まれていることに気が付き、何とか踏ん張って体勢を保った。

 

 男女入り混じった大勢の人と、なにやら無粋な巨大なカニまで。

 

「やあ『O-01-i37』、お疲れのところ悪いがアンコールを願おうか」

 

 周囲をエージェントに囲まれ、その中心の男が『儚きハーモニクス』に話しかける。その男は、彼女がギフトを与えたもう一人の男であった。

 

 そんな彼に望まれたのなら、無碍にはできない。痛み血の流れる体を無理やりいうことを聞かせて演奏の準備をする。

 

―さあ奏でよう、今度はみんなを楽しませるために―

 

 彼女が演奏を始めると、周りの人々も楽器をもって演奏に参加した。

 

 音を奏でながら飛んでくる銃弾やボウガンを音楽で阻み、弾き、時に避け。

 

 その音に合わせながら曲調を変え、振り下ろされる武器の剣戟に耳を傾ける。

 

 そして無粋なカニに音撃を叩きつけながら、みんなで一緒に演奏を楽しむ。

 

―あぁ、やっぱりみんなで演奏するのは楽しいな―

 

―いつもみたいに彼に静かに聞いてもらうのもいいけど、こうやってみんなに合わせるのも大好きだ―

 

 部屋中に音楽を響かせ、至福の時間を過ごしていく。しかし、そんな時間も長くは続かない。

 

 曲を奏でながら攻撃を阻み、避ける『儚きハーモニクス』も、どうしても避け切れない攻撃が出てくる。

 

 中でも星を抱く大剣を振るうあの男の攻撃は鋭く、的確で徐々に彼女も追いやられていく。

 

―それでも最後までいっぱいいっぱい楽しもうよ―

 

 ボウガンの矢を音ではじき、髪を抜いて振るわれる鎌から距離をとってその場でまた演奏をはじめ、無粋なカニを音の斬撃で解体する。こうすれば彼も食べやすいだろうと考えて。

 

 的確な銃撃が肩を穿ち、死の気配を纏う斬撃が体を掠め、星の大剣が体を抉る。

 

 そして会場のボルテージも上がっていき、演奏もフィナーレへと向かったその時、ついに終わりはやってきた。

 

「……悪いな」

 

―あぁ、もう終わりか……―

 

 止めを刺したのは、急いでここに向かってきた愛しい彼であった。いつも作業をしている時とは似ても似つかない、かつて自分を止めたときのような冷たい表情。

 

 しかしその瞳には、ほんの少しの罪悪感が存在していた。

 

―そっか、なんだかうれしいな―

 

 傷だらけだった彼が、自分の演奏の最後に駆けつけてくれた。それが彼女にはたまらなくうれしかった。

 

―よかった、だけど、今度は……―

 

 今回の演奏は満足だった。

 

 最初こそ邪悪な乱入者に会場を荒らされたけど、最終的には観客のみんなで一緒に演奏をすることができた。

 

 少し邪魔者も混じっていたけど、それもあまり気にならないくらい楽しかった。

 

 それに彼を悲しませる邪魔者は、ちゃんとこの手で退場させられた。もしかしたら今度会った時に褒めてくれるかもしれない。

 

 しかし欲を言うならば……

 

―最初からみんなで一緒に演奏したいな―

 

 次は邪魔されずに演奏したいものだと、少女は思って目を閉じた。

 



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小ネタ エージェントパンドラのやってはいけないリスト 2

 何度やっても懲りないエージェントパンドラのために、当リストの更新を行います。

 

 他職員もエージェントパンドラの迷惑行為を確認した場合、当リストの管理者に報告を願います。

 

 これによりエージェントパンドラが違反を行った場合、即刻近場のランク5職員に通告後、エージェントジョシュアに連絡を入れてください。

 

  また、このリストは随時更新されます。

 

 

 

・O-01-i37*1の演奏を記録媒体に保存して職員に配布しないでください。体調不良を訴える職員が増加しています。

 

・T-02-i29*2の溶液を用いた安全な化粧品の製造方法を速やかにこちらに開示してください。早くしなければ女性陣の暴発を止めることができません。

 

・O-01-i43*3に余計なことを吹き込まないでください。彼女はあなたと違って純粋なのです。

 

・T-09-i84*4は応援グッズではありません。T-09-i85*5の対戦映像の視聴中に鳴らさないでください。

 

・食堂の新メニューにアブノーマリティーを使用した料理を薦めるのはやめましょう。

 

・O-03-i20*6との密約は全てこちらに筒抜けです。彼はO-03-i07*7の秘蔵ブロマイド数枚で簡単に寝返ります。

 

・T-05-i11*8にいたずらできないからって代わりに作業予定の職員にやらせようとしないでください。

 

・O-01-i01*9のお世話をしたからって調子に乗って育児経験者と偽るのはやめましょう。

 

・T-09-i87*10を使えばうまく仕事ができると新人に教えるのはやめましょう。

 

・新人職員に命の危険のない程度の嘘を吹き込むのはやめましょう。

 

・O-01-i40*11の殻をイースターエッグ風に塗装するのはやめましょう。駄々をこねてなかなか掃除ができません。

 

・エージェントジョシュアのO-01-i42*12の収容室に対する入出禁止措置は撤回できません。あとあなた経由で渡されるはずの贈り物を着服するのはかわいそうなのでやめてあげてください。

 

・F-01-i26*13に「花嫁修業のため」と称してかき氷を作らせ続けるのはやめましょう、またそれで商売するのもダメです。

 

・いくらなくならないからと、トイレットペーパーがない時に装備しているT-09-i86*14を使うのはちょっと……

 

・もう少し恥じらいをもって行動しましょう。

 

・おもちゃのムカデをT-04-i57*15と称して投げつけるいたずらは度が過ぎています。次はありません。

 

・T-02-i03*16は都合のいいおもちゃではありません。何でもかんでも戦わせようとしないでください。

 

・O-01-i41*17の羽根を毟って枕や布団にするのはやめましょう。悪魔ですか?

 

・O-07-i99*18には触れないでください。

 

・適当な恋愛アドバイスで職員間の人間関係を滅茶苦茶にしないでください。そもそも彼女に恋愛相談しないように!

 

・O-04-i17*19はサッカーボールではありません。大玉転がしのボールでもありません。

 

・O-05-i47*20の上に登って旗を立てる行為に意味はあるのでしょうか? 正直危険なのでやめましょう。

 

・T-02-i35*21の革を使って財布やバッグを作らないでください。また量産するために意図的に脱走させないでください。

 

・T-09-i82*22を使えば恋愛成就するという噂を流さないでください。そんな方法で愛は手に入りません。

 

・アブノーマリティーを利用した金儲けはやめましょう。

 

・O-04-i55*23に卑猥な言葉を覚えさせても、貴方の声で繰り返されることになりますよ?

 

・T-04-i59*24はシャレにならないからいたずらしないでください。

 

・Fett-is-awesome*25で被害が出ないのはあなただけです。もしも次特殊能力が発動した場合、関係なくてもあなたはきっと……

 

・O-09-i80*26の上で寝ないでください。

 

・自分のしたミスを他人のせいにするのはやめましょう。

 

・これを読んでいる職員は、自分がやらかしたミスをエージェントパンドラのせいにしないでください。

*1
『儚きハーモニクス』

*2
『美溶の渇望』

*3
『玄き北颪の冬姫』

*4
『終幕の笛』

*5
『次元超越機構』

*6
『魔王シャイターン』

*7
『でびるしゃま』

*8
『盲目の愛』

*9
『安らぎの揺り籠』

*10
『搾取の歯車』

*11
『青き東風の春姫』

*12
『白き大西の秋姫』

*13
『吹雪の約束』

*14
『破魔の札』

*15
『蠱毒の災禍』

*16
『秘密の冒険隊』

*17
『朱き南薫の夏姫』

*18
『異界送りの契約書』

*19
『肉の実』

*20
『フレディのドキドキいやしんぼバーガー』

*21
『喧噪の浸透』

*22
『惰弱の枷』

*23
『木霊蜘蛛』

*24
『惰眠の細動』

*25
『お前、デブだよ……』

*26
『天命の祭壇』



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琥珀のグルメ Menu 1

生存報告がてらのエイプリルフールネタです。

※原作のアブノーマリティーたちが出ます。


「おっ、琥珀の黎明って結構いけるな」

 

「……えっ、今なんて言いましたか?」

 

 このろくでもない地下施設、Lobotomy Corporation

 

 そんな地獄のいつもの出来事の中で

 

「いやいや、こいつ意外とおいしいんだって」

 

「何言ってるんですか! ぺっ、してください!」

 

 今倒したばかりの怪物を食べた彼は、満面の笑みでそういった

 

「ほら、お前も食べてみろって!」

 

「ぎゃぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 これは、私と彼の、ささやかな楽しみのひとときだ

 

 

 

 

 

Menu 1 前菜 ~小さなソテー~

 

 

 

 

 

「おーい後輩、新しい仕事だぞー!」

 

「なんですか先輩……」

 

 今日もまた、頭のおかしい先輩がやって来た。

 

 白いスーツを身に纏い、真っ黒な音符の形をした大鎌を背負った彼は、笑顔で手を振りながらこちらに向かってきます。

 

 人懐っこい笑顔は人によっては見惚れるかもしれませんが、私にとっては悪魔の笑みにしか見えなかった。

 

 なぜなら、彼は私にとっては天敵と言える存在だからです。

 

「おいおい、そんな嫌そうな顔するなって」

 

「嫌そうなじゃなくて、実際嫌なんですよ!」

 

 彼はいつも突拍子もないことをしては回りを困らせ、自分のやりたいことをやっている。非常に厄介な人物だったりする。

 

 そのくせ被害を出すわけでもなく、ほとんど自分で解決したりするので最後には皆が笑顔になっていることが多い。そういった意味でも厄介な人物だ。

 

 そんな不思議な彼だが、私にとっては優しくない。

 

 確かに自分で解決するけど、毎回巻き込まれるのは私だ。

 

 魔法少女パンツ強奪事件の時だってそうだし、色々やっていることがひどすぎる。できれば巻き込まれたくないのにわざわざこっちにやってきて私を巻き込んでくる。こっちからしたらたまったもんじゃない。

 

「後輩よ、さすがに俺でもそれは傷つくぞ」

 

「いやいや、今までの自分の行いを思い返してみてください。そうすれば…… って、先輩!!」

 

 およよよと傷ついたふりをする面倒な先輩を突き放しつつ話していると、先輩の背後から恐ろしい怪物が忍び寄ってきていた。

 

 人型のそれは、ほとんど裸のような格好で拘束されており、うめき声をあげながら芋虫のように這いずりこちらに向かってきている。

 

 確かにそれは人と同じ形をしている。ただ一つ、その頭部を除いては。

 

 その頭部は、鉄の塊だった。

 

 鉄の塊をかぶっているのではない。頭の上にのせているのでもない。首の部分から鉄の塊が生えている、いや、頭部が鉄の塊に置き換わっているのだ。

 

 それは我々職員を憎む狂気の殺人者、我々を憎み、殺戮することを願う哀れな男。

 

 『T-01-54』、またの名を『捨てられた殺人者』。

 

 その怪物を、我々は幻想体、『アブノーマリティー』と呼ぶ。

 

 そしてその怪物は異様に肥大化した鉄の塊の頭部を振り上げると、その頭部を先輩に勢いよくたたきつけようと……

 

 

 

 

 

「うん、なんだ?」

 

 

 

 

 

 して、先輩の振り向きざまの一撃でそれは一刀両断された。

 

「……はぁ!?」

 

「なんだ、一般人じゃないか」

 

 『捨てられた殺人者』は切り裂かれ、その鉄の塊の頭部がころころと床を転がる。その断面は、精神攻撃系の“ダ・カーポ”で切られたとは思えないほどなめらかなものだった。

 

 こともなさげにそういっている彼ですが、やっていることの異様さに気が付いているのだろうか?

 

 確かに『捨てられた殺人者』はアブノーマリティーの中では“TETH”という低い危険度であり脱走するアブノーマリティーの中では弱いほうだが、それでも一撃で倒すとなるとかなり厳しい。というかおかしい。

 

「さて、それじゃあさっきの話の続きなんだがな……」

 

「いやいやいや、今さっき一撃で倒しませんでしたか!?」

 

 ふるった“ダ・カーポ”を肩に担ぎ、何事もなかったかのようにこちらに振り向いて語り掛けてきた。

 

 だがさすがに見逃すことはできない。確かに先輩が強いことは知っていましたが、ここまで強いとは思いも知れませんでした。

 

「いやいや、そんなことどうでもいいんだよ。それより聞いてくれよ」

 

「……わかりました、それで話って何ですか?」

 

 正直気になるが、先輩はこうなるということを聞かないので仕方がない。

 

 それにしても、話とは何だろうか? 正直先輩がこういった話を持ってくると嫌な予感しかしない。

 

 しかしここで逃げてしまうと、手綱を握れる人がいなくなって結果的にやばいことになることだろう。今までの経験的に確実にそうなる、私の直感がそういっている。

 

「おう、この前琥珀の黎明を食っただろう? あれ意外とうまかったじゃないか」

 

「……えぇ、確かにそうでしたね。不本意ですけど」

 

 本当にあれは驚きました。琥珀の黎明がブドウ味であったことに対してもそうでしたが、無理やり完全にゲテモノな見た目のものを食べさせられたことに関してもですが。

 

「そこでな、アブノーマリティーも食べれるんじゃないかって思ったんだ」

 

「……はい?」

 

「ところで話は変わるけど、お前って料理得意だよな?」

 

「ま、まさか……」

 

 非常に嫌な予感がする。正直耳を塞ぎたいが、それをすれば余計に面倒なことになるのは目に見えている。

 

 ならばせめて心の準備をさせて欲しいが、無情にも先輩の口が開く。

 

「頼むからアブノーマリティー調理してくれないか?」

 

「絶っっっ対、嫌です!!!!」

 

 この人ヤバイです頭おかしいです。

 

 普通に考えてあんなヤバイやつら食べようと思うなんておかしいです。

 

 だってあいつら人を殺しますよ? 食べますよ?

 

 23区の人間じゃないんですから、そんなもの食べようとしないでください!

 

「そもそも、アブノーマリティーに対する勝手な実験は禁止されています。いくら食い意地張ってるからってそんなことしたら……」

 

「あぁ、それなら大丈夫。ちゃんと許可とったから」

 

「えぇ!?」

 

 

 

 

 

『おっ。いたいたアンジェラ!』

 

『……またあなたですか、今度は一体何をやらかしたんですか?』

 

『いやまだなにもしてないって! 今回は実験の申請だよ、ほら』

 

『全く、たかがエージェントの貴方が実験なんて……』

 

『いやいや、ちゃんとした実験だって管理人のお墨付きだから。他の研究者達にも見てもらったし』

 

『はぁ、確かに必要書類は全てありますね。管理人への根回しも済んでいるようですし、拒否するわけにはいきませんね』

 

『意外と素直だな』

 

『……それで、なんの実験ですか?』

 

『あぁ、アブノーマリティーを調理して食べる実験だな』

 

『わかりました、それでは許可します。 ……えっ?』

 

『それじゃあ言質とったからもういくわ、またな!』

 

 

 

 

 

「……うわぁ」

 

 この人本気でなに考えているんだろうか?

 

 実験の許可をとった時の話を聞いて、もう思考を放棄したくなりました。

 

 誰か私の代わりをしてくれませんか?

 

 ダメですか? そっか……

 

「そういうわけでよろしく頼むぞ、後輩」

 

「出来るかー!!」

 

「えー、でも既に実験メンバーに入ってるからなぁ……」

 

「この外道!!」

 

 この人酷すぎる! 私が断るとわかっていて先回りしてた!

 

 実験のメンバーに入っていたら逃げられないじゃないですか、ちくしょう……

 

「やぁ二人とも、今日も仲がいいね」

 

「うわーん、ペペロンチーノ政宗さぁん! 聞いてくださいよぉ!」

 

「はいはい」

 

 私はペペロンチーノ政宗さんにこれまでのいきさつをすべて伝えました。

 

 彼の名前はペペロンチーノ政宗さん。黒い髪と羊のような角、それと顔に張り付けられた恐ろしい“笑顔”のせいでよく勘違いされますが、本当はとっても優しい人なんです。私のオアシス……

 

「あんまり後輩をいじめちゃダメだよ?」

 

「別にそんなつもりはないんだけどな……」

 

 そういいながら先輩は、頭をかいて困ったような表情をする。全く、もっといってやったください!

 

「それで、これからどうするんですか?」

 

「あぁ、取り敢えず食べれそうなやつをとってこようと思ってな」

 

「材料集めですか? お供しますよ」

 

「助かるよ、ありがとう」

 

 そういうと二人はさっさと歩いたいきました。

 

 ……いやいやいや!

 

「ちょっと待ってくださいよ! 何で私を置いていこうとするんですか!?」

 

「えっ、ついてくるのか?」

 

「当たり前ですよ、誰が料理すると思っているんですか!?」

 

 全く、流石に自分が作るとなると、変なものを持ってこられると困ります。それにいくらペペロンチーノ政宗さんがいるとはいえ、私がストッパーをしないと……

 

「確かにそうだな、ついでだしどんな料理が行けそうか見てもらおうかな」

 

「なにも考えていなかったんだね……」

 

 ペペロンチーノ政宗さんの呆れた声が聞こえてきます。全く同感です!

 

 

 

「にゃあぁぁぁん!!」

 

「よし、それじゃあ早速探しにいくぞ!」

 

「いやいや、今明らかに悲鳴が聞こえましたよ!?」

 

「気にしなくても良いよ、いつものことだから」

 

 部門にはいると共に叫び声が聞こえましたが、二人とも無反応です。さすがに達観しすぎではないでしょうか?

 

「あれ、あんまりこっちには来てないのか?」

 

「そもそも他の部門で作業する方が稀ですよ」

 

 食材集めにきた場所は、中央本部でした。確かなここは他部門へのアクセスも良いですが、そもそもここに目的の食用に出来るアブノーマリティー何ていたでしょうか?

 

 一応どこに何が収容されているかは知っているのですが、ここには危険なアブノーマリティーばかりが収容されていたと認識していますが……

 

「よーし、それじゃあ行ってくる」

 

「うん、頑張ってきてね」

 

 軽い調子で収容室に入っていく先輩に、ペペロンチーノ政宗さんが応援の言葉をかける。すると先輩は振り返って笑顔で親指をたてて返事をした。

 

 

 

『どっせーい!』

 

『あなたも祝福が必よ……』

 

『あーらよっと』

 

『……うでしょぎゃあぁぁぁ!!!』

 

 

 

「おーい、良い感じの葉ものと果物とってきたぞー!」

 

 先輩は笑顔で手に持った青々とした葉っぱと果物を見せびらかしながら走ってきた。

 

 ……私はなにも知らない、聞いていない。

 

 

 

「さて、キノコに妖精も取ったし、そろそろいいんじゃねぇか?」

 

「ちゃんと食用出来そうなのを選んでくださいよ先輩……」

 

 その後先輩が選んできたのは、どう考えても食用に出来なさそう、というかしたらダメそうなアブノーマリティーばっかりであった。

 

 途中で『溶ける愛』のところに行ったときなんかは、本気で正気を疑いました。何とかペペロンチーノ政宗先輩と一緒に止めることはできましたが。

 

「いやいや、とりあえずやばそうなのが食べれたら、他のも大丈夫だろう?」

 

「まぁその通りですけど…… えっ?」

 

「どうした?」

 

「いや、まさかまさかと思うんですけど…… もしかして、今後もやるつもりですか?」

 

「はっはっはっ、まさかそんな……」

 

 あぁよかった、さすがに先輩でもそんなやばいわけがなかったですね。そうだそうだ、さっきのは私の聞き間違いだったんだ、そうじゃなかったら勘違いだ。

 

「当たり前のことを言うなよ、後輩」

 

「いやぁぁぁぁ!!」

 

 やっぱりそうですよね! 私知ってました先輩がそういう人だって!!

 

 何考えてるんですか本当にこの人は!? まじで頭に脳みそが詰まっているんですかね!?

 

 人間なんでしょうか、実は私たちに紛れたアブノーマリティーだったりしませんかね!?

 

「まったく、さすがにその冗談は笑えないよ?」

 

「えっ、冗談じゃないけど」

 

「……あぁ、僕も協力するんじゃなかった」

 

 あのペペロンチーノ政宗さんでもため息ついてあきれるレベル、まじでこの人どうにかしないと駄目なレベルだ……

 

「まったく、さすがに騒がしい。仕事中だぞ?」

 

「あ゛ぁ゛、む゛し゛ょ゛う゛さ゛え゛も゛ん゛ん゛ん゛ん゛」

 

「うおっ、抱き着くな」

 

 そんなところに無情左衛門さんがやってきてくれました。スキンヘッドに傷だらけの顔で恐ろしいし態度も怖いですが、なんだかんだで女の子には甘い人です。なんというかお父さん味を感じます。

 

 それに、この化け物じみた人ならきっとこの化け物をどうにかしてくれるはずです! 化け物には化け物をぶつけるんですよ!

 

「やめろ、鼻水が付くっ」

 

「た゛す゛け゛て゛く゛だ゛さ゛い゛よ゛ぉ゛!」

 

「いや、何を…… いや、言わなくていい、大体わかった」

 

 そういうと無情左衛門さんはじりじりと私から、正確には先輩から離れようとしていた。なんでぇ、私を助けてくださいよぉ。

 

「やめろっ、俺を巻き込むなっ」

 

「い゛や゛た゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」

 

「その、悪かったって、そこまで嫌がるなんて……」

 

「ぐすっ、本当ですよ、一回だけでもすこぶる嫌だったんですから……」

 

「まぁ、決まってることは覆せないけど、結果によってはもうやらなくてもいいからさ!」

 

「……本当ですか?」

 

「まぁ、そうだな」

 

「……それなら、そうなることを祈ります」

 

「……うーん、出来れば、いや何でもない」

 

 何とか希望が持てました、それにしても一回で終わるかわからないですけど。

 

 先輩が何か言いよどんでいますけど、別に気にしなくでもいいでしょう。

 

「もう行っていいか?」

 

「うん、もう大丈夫だよ。ありがとう無情左衛門君」

 

「政宗、お前も大変だな」

 

「あはは、もう慣れたから」

 

「そうか」

 

 そういうと私が離れてしまったせいで無情左衛門さんは逃げて行ってしまいました。

 

 あぁ、イケニエが減った……

 

「さて、一応聞くけどこれで何か作れそうか?」

 

「えぇっと、まぁ一応できそうなのはなくもないですね」

 

「本当か!?」

 

 素材からして、キノコをメインにしたほうがいい気がします。とりあえずアブノーマリティーだけって縛りもないので、幅は広がりますが、キノコの無害化から考えないといけませんね。

 

 しかしそのためにはかなり危険を伴います。そうなると必要なのは……

 

「ただ、出来れば条件があります」

 

「あぁ、出来る限りのことはするさ。なんだ?」

 

「はい、今からいうツール型アブノーマリティーの許可を……」

 

 作るからには、全力でやらせていただきます!

 

 

 

 

 

「ふぅ、なかなかにきついですね……」

 

 さすがに危険なアブノーマリティーです。完全な無害化となるとかなりの労力を費やすことになりました。

 

 普通の料理もダメ、特異点を利用した料理器具でも十分でない。

 

 とりあえず普通の方法では確実に無理なので、別の方法をとっています。

 

「いやぁ、それにしてもやっぱり難しいですねぇ……」

 

 青色に怪しく光るキノコを前に、随分と苦戦する。少なくともここでなければ三回は死んでいたかもしれません。

 

 もうこの場所を使える時間も少なくありません、なるべく早く無害化しなければ……

 

「うーん、こうなったらこうするしか……」

 

 目には目を、アブノーマリティーにはアブノーマリティーを。

 

 E.G.O.“名誉の羽根”

 

 凍った体も心も溶かしきるこのE.G.O.なら、もしかしたらこのアブノーマリティーも何とか出来るかもしれません。

 

「やーきまーしょーやきましょおー」

 

 調理器具を用いても意味はなさそうなので、“名誉の羽根”で直接焼いてみます。

 

 これで無理なら何をやっても無理でしょう。こうして半分やけくそで行った調理の後、ついに制限時間が来たため先輩の元へと向かうことになりました。

 

 最期の最期に(誤字に非ず)ぶっつけ本番となりましたが、こうなっては仕方ありません。どうせ何があっても自己責任です。私は完成した料理を手に持ち、先輩の待つ実験室へと向かっていきます。

 

「先輩、お待たせしました…… ってあれ? 無情左衛門さんどうしたんですか?」

 

「いや、気にするな」

 

 実験室に入ると、そこには椅子に座りスプーンとフォークを握りしめて紙エプロンを付けたワクワクを隠し切れない先輩と、なぜか完全武装して壁に寄りかかっている無情左衛門さんがいました。

 

 ……正直その光景のアンバランスさに頭痛がしてきました。先輩のことなので考えても仕方がないのかもしれませんが。

 

「よっ、待ちくたびれたぜ後輩。それが今回の料理か?」

 

「えぇ、そうですよ。先輩が望んだゲテモノ料理です、しかも超弩級の」

 

「何言ってんだよ、お前の料理がまずいわけないだろう? 正直お前の料理をめちゃくちゃ楽しみにしていたんだよ」

 

「そうですか、もちろん私も味には自信があります。何度も試しましたからね。まぁ、結局最後まで安全性を確保することはできませんでしたけどね」

 

「それはこれからわかることだろ? って、え? まさか味見したのか?」

 

「当たり前ですよ! 味見もせずに料理を出せるわけないじゃないですか!!」

 

 人に料理を作れと言っておいてなんですかその言い草は!?

 

 これでもここに来る前は料理人の端くれだったのです。味見もせずに人様に料理を出せるわけがないでしょう!! ……まぁ、そのせいで何度も死にかけたんですけどね。

 

「悪かったって、そう怒るなよ。それにしても二つも用意してくれるなんて、なかなか気合入ってるな?」

 

「はぁ、何言ってるんですか?」

 

「えっ?」

 

 私の答えになぜか素っ頓狂な声を上げる先輩。まったく、こんな短時間で二つも料理を作れるわけがないじゃないですか。

 

「じゃあ、そのもう一つの皿はなんだよ?」

 

「これは私の分です、先輩の分じゃありません」

 

 そう告げると、先輩はなぜか信じられないような表情をしていました。いやいや、自分の行動を思い返してからその反応をしてくださいよ。

 

「いやいやいや、死ぬかもしれないんだぞ!?」

 

「理解してますよ、だからこそ一緒に食べるんです。責任は一緒に取りますよ」

 

「ちょっと待ってこれは予想外だ…… 無情左衛門!!」

 

「いや、こいつはこうなったら譲らないだろう? ちょっと待ってろ」

 

 先輩は無情左衛門さんに助けを求めましたが、残念ながら空振りです。日ごろの行いのせいですね。

 

「待たせたな、もう一人連れてきた」

 

「えっ、えっ、いったいどうしたんですか? なんで私はここに連れてこられたんですか!?」

 

 無情左衛門さんが部屋から出て行くと、物の数秒で帰ってきました。

 

 その手には、引きずられるように贄贄さんが連れてこられていました。おそらく偶然そこを通りかかっていたのでしょう、彼女はいつも貧乏くじを引かされているので親近感がわきます。

 

「ことが起きれば嫌でもわかる」

 

「結局何も答えてくれないということですねぇ」

 

 がっくりとうなだれる贄贄さんは、諦めたのかのっそりと壁にもたれるように立ち上がりました。

 

「さて、気を取り直して飯にするか! ……本当にいいんだな?」

 

「えぇ、もちろんですよ」

 

 こちとら最初から死ぬときは貴方と一緒と考えていたんです。これくらいへでもありません。

 

「それではどうぞ、名付けて“小さなソテー”です」

 

 そう先輩に差し出すとともに、皿の上のクローシュを持ち上げる。中で充満していた香りが一気に解き放たれ、食欲を掻き立てる。

 

 皿の上にのせられているのは、青白いキノコのソテーであった。キノコには黄緑色のソースがかけられており、淡く光る緑色の粉がかけられている。付け合わせには青々とした葉が添えられている。

 

 またキノコ自体もほんのりと青白く光り輝いており、まるで夜空に浮かぶ星空のようで、原材料さえ知らなければ幻想的な美しさに心を奪われていたかもしれません。

 

「ほぉ、きれいだな」

 

 しかし正体を知ってなお、先輩には美しいものに見えるようです。その気持ちもわからなくはありませんが、それよりも先輩に普通の人間と同じような感覚があることに驚きです。

 

「さて、それじゃあさっそく食べるとするか」

 

「そうですね、せっかくですから冷める前にどうぞ」

 

「それじゃあ」

 

「一緒に」

 

「「いただきます」」

 

 先輩と一緒にいつも行う不思議な食前の挨拶。その後はもちろん、言葉はいりません。

 

 まずはキノコをナイフで切り分けて、そのままで口に運ぶ。

 

「……っ!」

 

 口の中に入れた瞬間、私は星空の光に包まれました。それは、味見の時には感じえなかった感覚であり、味は今まで以上の美味しさでした。

 

 キノコのうまみとソースの爽やかさが絶妙にマッチし食欲を増幅させ、かけられた粉が体の奥底から活力を滾らせる。味も星の瞬きのように幾重にも変化していき、遊び心を感じ食べているものを飽きさせない。

 

 不思議で、楽しくて、おいしい。今までに感じたことのない美味しさと不思議さ。それは、味の限界を知った私にとって衝撃的でした。

 

「……すごい」

 

 ぽつりと、先輩のつぶやきが聞こえる。その思わずといった様子の言葉は、先輩が心の底からそう思ってくれている証拠なのでしょうか。

 

「やっぱりすごいな、後輩は」

 

「まったく、こんなの当たり前じゃないですか」

 

「そういうなよ、これはお前にしか作れなかった料理だ。本当にありがとう」

 

「まったく、気にしなくてもいいんですよ」

 

 そういいながらも、やっぱり彼に褒めてもらえるのはうれしい。それに、今回の料理では私も得られるものがありました。

 

 物語がなくても、味の限界を超えられる。今回はその可能性を見出すことができました。

 

 あまり口には出せませんが、そういった意味では彼に感謝してもいいかもしれません。

 

 そのあとは、言葉を交わすこともなく黙々と食事に没頭しました。静かな場所はあまり好きではありませんが、この静寂は、嫌いではありませんでした。

 

「「ごちそうさま」」

 

「後輩、今日は本当にありがとな。久しぶりに満足できる、いいや今までで一番うまい料理だったよ」

 

「そんなことを言っても何も出ませんよ」

 

「さて、それじゃあそろそろ終わりましょうか」

 

「待て」

 

 食事も終わり、そろそろ業務に戻ろうとしたその時、無情左衛門さんに待ったをかけられました。

 

 ……そういえばすっかり忘れていましたが、なんだか嫌な予感がします。

 

「お前たちは今日一日ここで様子見だ。何もなければ大丈夫だが、少しでも異変があれば即座に切り捨てる」

 

「えっ!?」

 

 まさかとは思ったが、どうやら無情左衛門さんは介錯係だったようです。そのことに驚く私とついでに贄贄さん、そしててへぺろをする先輩。

 

 まずい、今日のノルマが達成できないと私の給料が……!?

 

「せ、先輩!!」

 

「その、なんかごめんね☆」

 

 結局業務終了まで拘束されましたが、何の異変もありませんでした。精密検査でも異常は見られず業務に無事復帰できましたが、お給料は……

 

「おーい後輩、今度の料理なんだが……」

 

「もうやりません!!」

 

 もうこんな目はこりごりです!!

 

 

 

 




続きはありません。


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琥珀のグルメ Menu 2

色々言いたいことはありますが、まずはこれだけ言わせてください……



アブノーマリティーって、鎮圧したらそうなるのかよ!?

この話は深く考えずにお楽しみください。


「よし、そろそろ次行くか!」

 

「はいはい、次はなんの作業ですか?」

 

 恐ろしくも心満たされたあの日から数日後

 

「いやいや、何言ってんだよ。この前の続きの話だぞ?」

 

「この前の続きって…… まさか!?」

 

 彼は再び、満面の笑みで

 

「そう、そのまさかだよ」

 

 私に絶望をたたきつけるのだった。

 

 

 

 

 

 

Menu 2 スープ ~空虚なスープ~

 

 

 

「はぁ、全く先輩ときたら……」

 

 あのアブノーマリティー調理実験から数日がたちました。

 

 もはや行われないと思っていた(願っていた)実験の再開をあの先輩に告げられた私は、呆れてため息をつくしかなかった。

 

「あれ、後輩さんどうしたんですか?」

 

「いや、私は貴方の先輩なんですけど……」

 

 ため息に反応したのは私の後輩、お抹茶ぶんぶく丸さんです。

 

 可愛いところはあれど、中々生意気なので頭をグリグリしておきましょう。

 

「痛い痛い、パワハラですよ先輩!」

 

「だったら先に生意気なその態度を改めなさい、まずは先輩と呼ぶことから!」

 

「お~いこうは~い!」

 

 うげっ、先輩!?

 

 まずい早く逃げないとまた面倒なことに…… グエッ!

 

「先輩、捕まえましたよ!」

 

「でかしたぞぶんぶく丸!」

 

「なっ、離しなさいお抹茶ー!」

 

「グヘヘヘへ、さっきのお返しです! 絶対に離してやるもんですか!」

 

 畜生! このあほ後輩め! あとで覚えていろよ!

 

「よーし、それじゃあ今日も素材集め、頑張っていくか!」

 

 あーもう、どうしてこうなるんですかぁ!!

 

 

 

 

 

「メェェェェ!!」

 

「よぉーし、一石二鳥の食材ゲットだな!!」

 

「えっ、えぇぇ……」

 

 先輩はさっそく『T-02-99』、またの名を『空虚な夢』を鎮圧して食材にしていました。先輩にしてはまだまともそうな食材……

 

 いや、よくよく見たら結構気持ち悪いですねこれ。えっ、これ食べるつもりですか? 正気ですか?

 

「うーん、もう少し食材が欲しい所だけど、今日は時間があまりないしこれくらいにしておくか」

 

「えっ、今回はこれだけですか?」

 

「あぁ、でも羊と鶏だし、そこそこ美味しそうなものが作れるんじゃないか?」

 

「ねぇ先輩、これ作るの私ですよ? 自分が作らないからって適当過ぎませんか?」

 

 確かに同じ肉ですけど、羊って結構癖ありますよ? それどころかアブノーマリティーなんですからもっとやばそうなんですけど……

 

「まぁ、お前の腕は信用してるし、大丈夫だろ!」

 

 ……まったく、そんな笑顔で言われたら答えたくなっちゃうじゃないですか。卑怯ですよこの先輩、ばーかばーか。

 

「わかりましたよ、それじゃあ調理するんでちょっと待っててくださいね、先輩」

 

「おっ、楽しみに待ってるぞ!」

 

 まぁ前回の料理である程度はコツを掴めましたし、今回も頑張ってみましょうか! まずは先輩に例のシェルターを借りてもらうところから始めましょうかね。

 

 

 

 

 

「……よし、できた!」

 

 今回も結構な自信作です。正直羊と鶏が合うのか心配でしたが、やっぱり同じアブノーマリティーであったからか親和性が高かったです。

 

 さて、そろそろ先輩もお腹を空かせている頃でしょうし、持って行ってあげましょうかね。

 

「さーて先輩、可愛い後輩ちゃんが手料理を持ってきましたよー!! ……あっ」

 

「おっ、待ってました!」

 

「あー……」

 

「……」

 

 さっそく先輩が待っている部屋にテンション高めで入っていきましたが、ここで私は大切なことを忘れていました。

 

 前回万が一のために介錯用に職員が配置されていたということを。

 

「あっ、あぁ……」

 

「えーと、やっぱり二人とも仲がいいんだね」

 

「……心配するな、俺は何も聞いていない」

 

 そこにはペペロンチーノ政宗さんと無情左衛門さんがいました。さっきの謎テンションを見られて顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなって固まっていると、先輩がこちらに近づいてきました。

 

「まっ、こいつ等なら大丈夫だよ。言いふらすようなやつじゃないって。それより早く食べようぜ!」

 

「えっ、あっちょっと先輩……」

 

 そういって私の手からお皿をひったくると、お皿を机に置いて私をテーブルの前までエスコートしてくれました。

 

 ……なんか妙に手馴れててむかつきますね。

 

「さて、今回はなんなんだ?」

 

「えぇ、今回は結構シンプルですよ」

 

 そういって席を立ってクローシュをとろうとする私をペペロンチーノ政宗さんが手で制し、代わりにあけてくれました。

 

「さて、今回は名付けて“空虚なスープ”です!!」

 

 お皿から湯気が立ち上り、食欲を掻き立てる香りが私を夢心地にさせます。

 

 それはほんの少し青紫っぽくキラキラ輝く、夜空を彷彿とさせるスープです。中には『空虚な夢』の羊形態と鶏形態の肉と、ニンジンや玉ねぎといったシンプルな野菜が入っています。

 

「おぉ、すげぇなこれ……」

 

 そういって先輩はいつも通り手を合わせて私を待ちます。この人はこういう変なところで律儀なんですから……

 

「わかりました、それでは」

 

「あぁ、一緒に」

 

「「いただきます!」」

 

 まずはスープを一口。うん、鶏形態のガラでとったダシがよく聞いている。普通の鳥と違って少し甘くて、でも目覚めのようにすっきりとした美味しさ。なんだかとっても気持ちがよくなってきます。

 

「さて、お次は……」

 

 次は羊肉をいただきましょうか。

 

 先ほどとは打って変わって、微睡みの様に濃厚で、いつまでも味わっていたくなるような旨味が口の中に広がります。もう少し味わっていたいという気持ちをスープで洗い流すと、また目覚めのようなすっきりとした感覚が口の中を広がります。

 

 眠りと目覚め、素敵なサイクルをもしかしたら先輩は直感的に感じていたのかもしれませんね。

 

 ふと先輩のほうを見ると、先輩は夢中になって私の料理を食べてくれていました。

 

 その光景を見ているとやっぱりうれしくなって思わず口元が緩んでしまいます。

 

「先輩、おいしいですか?」

 

 思わず、周りのことを忘れてそんなことを先輩に問いかけてしまいました。

 

 すると先輩は手を止めて、満面の笑みで口を開きました。

 

「もちろんだ、お前の料理は最高においしいよ!」

 

 その言葉が嬉しくて、ついでに恥ずかしかったので照れ隠しに食事に戻りました。

 

「ふぅー、おいしかった」

 

「ふふっ、お口に合ってよかったです」

 

「あぁ、それじゃあ」

 

「「ごちそうさまでした」」

 

 不思議な不思議な微睡みのような、夢心地の食卓は、今回も無事に終わったのでした……

 

 

 

 

 

「それでさぁ、今日新しく収容されたアブノーマリティーがかわいくってさぁ」

 

「はははっ、大丈夫かよそれ?」

 

「それがピンク色の……」

 

「あれ、二人とも何を話しているんですか?」

 

 実験が終わってしばらくしてから、廊下を歩いているとあのにっくきお抹茶ぶんぶく丸後輩が他の職員とおしゃべりをしていました。

 

 どうやら新しいアブノーマリティーの話をしているようで気になったのですか、どうやらお抹茶は以前私を先輩に売ったことを覚えていたらしく、顔を引きつらせていました。

 

「あっ、後輩先輩! 大丈夫ですか?」

 

「お抹茶後輩、その変なあだ名をやめなさい!!」

 

「まぁまぁそう怒らずに、可愛いお顔が台無しですよ。あっ、これはお詫びのお菓子です」

 

 この後輩は何を考えているのだろうか? そんな見え見えのお世辞と賄賂でどうにかなると思っているのでしょうか? まぁいただきますけど、このお菓子美味しい!!

 

「そういえば先輩知っていますか?」

 

「えっ、何がですか?」

 

「いやぁ、この前こいつがですねぇ……」

 

「おいやめろって!」

 

 そういってお抹茶後輩はもう一人の彼とじゃれ合いながら私に面白い話をしてくれました。

 

 そして話をしている途中でふと気が付くと、彼のほほがほんのりピンク色に染まっていることに気が付きました。

 

 もしかして彼は…… 私に惚れているのではないか!?

 

 たっ、確か男の人は好きな人に意地悪をすると聞いたことがあります。もしかしたら彼もそれで私にあんな態度をとっているのではないだろうか?

 

 だとしたらなかなか可愛げがありますねぇ。でも私にはすでに心に決めた人が……

 

「おーいこうはーい! なにして……っておい!!」

 

「げっ、先輩…… って、うわぁ!?」

 

 先輩がいつも通り何か企んでそうな笑顔で近づいてきたので咄嗟に身構えると、突然先輩はすごい剣幕で私の腕をつかんで引っ張っていきました。

 

「ちょ、先輩どうしたんですか!?」

 

「くそっ、ちょっとこっちこい!!」

 

 めったに見ない真剣な表情に、思わず先輩の言うとおりにしてしまいます。いっ、いったいどうしたのでしょうか?

 

 

 

 

 

「悪いな、こんなところに連れ込んで」

 

「えっと、どうしてこんなとこに……」

 

「ここなら、あいつの目をごまかせるからな」

 

 先輩に連れられてきたのは、物置のような部屋でした。しかしほこりをかぶっていて、もしかしたらもうずいぶん前に使われなくなったのかもしれません。

 

 それにしても、先輩はいきなりどうしてこんなところに……

 

 はっ、もしかして先輩、私がお抹茶後輩と楽しそうに話していて、それで嫉妬してくれたんですか?

 

 も、もしかしたらそれで……

 

「後輩、ちょっと目を閉じていろ」

 

「えっ、ちょっ、いきなり心の準備が……」

 

「いいから早く!!」

 

「はっ、はい!」

 

 先輩に言われたとおりに目を閉じる。

 

 今から先輩に何をされるのか、ドキドキしながら待つ。この時間が、とっても長く感じました。

 

「……ール、展開」

 

 心臓がバクバク言って、先輩が何かをつぶやいたように聞こえましたが、私にはうまく聞き取れませんでした。

 

「……よし、もう大丈夫だ」

 

「……えっ?」

 

 そして、結局なにもされずに終わって、思わず間の抜けた声が出てしまいました。

 

 そして変な勘違いをした恥ずかしさをごまかすために文句でもいおうとしたその時に、先輩はいきなり私を抱きしめてきました。思わず壊されてしまうのかと思うほど、強く。

 

「もう大丈夫だ、後輩」

 

「えっ、えっと……」

 

『謎のピンク色の粘液体が多数出現し、『D-03-109』が脱走した。今から大きな粘液体を『D-03-109-1』、小さな粘液体を『D-03-109-2』と呼称し、これらの鎮圧を命令する』

 

「おっと、まずいことになったな。行くぞ後輩!」

 

「あっ、待ってくださいよ先輩!」

 

 放送を聞いて先輩は、結局何の説明もなしに走っていきました。

 

 私も先輩の後を追っていこうとしたときに、足元に何かが落ちていることに気が付きました。

 

「なんだろうこれ、先輩の落とし物かな?」

 

 なんて書いているかわからないノートを手に取って、先輩の後を追いかけていく。

 

 結局私はそこにかかれている内容を知ることはできなかった。もしもその文字を知る人間なら気が付けたかもしれません。

 

 そこには日本語で、『後悔日記』と書かれていました。




すいません皆さん、長いことお待たせしました。

言い訳とかは活動報告のほうでさせていただきます。

新しいアブノーマリティーの情報とかもあるので、よかったらぜひ見ていってください。


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琥珀のグルメ Menu 3

 ここは笑顔の溢れる醜い(素敵な)街さ、みんながみんな笑顔なの

 みんなが笑顔でいるもんだから、私の出番は一度もない

 私は笑顔を知らないからさ、いつも仮面で笑顔になるんです

 街行く人の笑い声、私はいつも蚊帳の外

 笑顔の絶えないこの街に、私は必要ないみたい

 ある日みんなの真ん丸ほっぺたが、可愛いピンクに染まったよ

 みんなで一緒に踊り合い、ドロッと溶けて混ざり合う

 とっても楽しいお祭りなのに、私は結局混ざれない

 拗ねて一人で歩いていたら、古びた紙を見つけたよ

 ぐちゃっと何かが握ってたのに、汚れ一つないみたい

 拾ってみると目の前に、不思議な扉が現れた

 扉のほうから潮騒と、赤子の声が聞こえたよ

 生まれる前から満たされない、苦痛と嘆きの泣き声だ

 私は知ってるその気持ち、君も笑顔を知らないね

 それならようやく私の出番、君に笑顔を届けよう

 扉を開いて歩みだす、貴方を笑顔にしてあげる



「よう後輩、どうしたんだ?」

 

「あっ、先輩。見てくださいよこれ」

 

「……ルーレットじゃねぇか、これ」

 

「なんだか当たると色々優遇されるんですって。ほら、私と先輩の名前もありますよ!」

 

「……」

 

「あれ、どうしたんですか?」

 

「いや、お前は選ばれないでくれよ」

 

 

 

Menu 3 魚料理 ~流れる灯篭のムニエル~

 

 

 

「ね~先輩、いつまでこんな実験を続けるんですか?」

 

「いつまでってそりゃあ、満足するまで?」

 

「なんで疑問形なんですか!?」

 

 まったくなんなんですかこの人は!? 自分で言い出したことなのにいい加減すぎます、巻き込まれる身にもなってくださいよ!!

 

「にゃあぁぁぁん!!」

 

「あっ、今日も鳴いていますね」

 

「風流だねぇ……」

 

 なんだかまったりした雰囲気になりましたが、そもそも悲鳴なんですからもっとしっかり気を付けなきゃいけませんよね。

 

「ちょっと先輩、少したるんでませんか?」

 

「ん? 別にたるんではないけど……」

 

「あっ、可愛いお花だぁ」

 

「って、おい!?」

 

 気が付くと、目の前に綺麗なお花がありました。

 

 とってもきれいで、なんだかあったかくて、それで…… 地震? 

 

「って、うわぁ!?」

 

「馬鹿野郎!! 死にたいのか!?」

 

 気が付くと私は、先輩によって後ろに引っ張られていました。

 

 そして、私の目の前を白い何かを通過していった。

 

「えっ、はっ、えぇ……!?」

 

「まったく、たるんでいるのはどっちだか……」

 

 気が付けば、先輩はダ・カーポで目の前の白い怪物、『O-04-84』またの名を『肉の灯篭』を綺麗に捌いていた。

 

 ……いや、だからなんでそんなにきれいに切れるんですかその武器で。

 

「って、いやいや、今の何ですか!?」

 

「何ってアブノーマリティーだよ、近づいてきたやつを食い殺すんだ。言っとくけどALEPH装備でも普通に死ぬぞ」

 

「なんでこんなところにそんな危ない奴がいるんですか!?」

 

「……こいつ、簡単に脱走するんだよなぁ」

 

 そういって先輩は遠い目をしてため息をついた。えぇ、そんなの聞きたくなかったです。

 

「そ、そういえば、助けてくださってありがとうございます。ごめんなさい、私の不注意で……」

 

「気にするな、たぶんこいつの光に吸い寄せられたんだろう。その手の特殊能力を持つ奴は多いからな」

 

 そういって先輩は、いそいそときれいに捌いた肉の灯篭を回収していった。

 

「……まさかとは思いますけど、それってどうするつもりなんですか?」

 

「おう、たぶんそのまさかだと思うぜ」

 

 その言葉を聞いて、私はまた頭を抱えました。つまりはまた、そういうことなんだろう。

 

「さっ、次の食材を探しに行くぞ!」

 

「やっぱりまだやるつもりじゃないですかぁぁぁ!!」

 

 こうして私は、先輩と一緒にもう一度食料調達をすることになったのでした。

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ集まってきたかな」

 

「ねぇ先輩、本当にこれも使うんですか?」

 

 先輩が抱えている『T-02-71』、またの名を『夢見る流れ』の肉塊を見て思わずそう聞いてしまいました。

 

 だってそれ、上半身こそぎりぎりサメですが、下半身はその、もろにあれなわけで……

 

「大丈夫だって、ちゃんと上半分だけだから」

 

「いや、それでも嫌なものは嫌ですよ!!」

 

「えー、じゃあこの泡だけでも持っていくかぁ」

 

 さすがに本気で嫌がる私を見て肉だけは勘弁してくれましたが、それでも廊下に散らばる虹色の液体を回収し始めました。

 

 ……いやいや、だからってそれはないのでは?

 

「よし、それじゃあ食材も集まってきたし、そろそろ終わるか」

 

「全然よしじゃないですよ、なんでそんなやばそうなものを集めてるんですか!?」

 

「いやぁ、だってせっかく鎮圧したし。それになんかいい匂いがするし」

 

「においだけじゃないですか……」

 

 そういって笑顔で瓶を渡してくる先輩に、私はもう何も言う気力がありませんでした。

 

 もう最悪は避けられましたし、これ以上事態が悪くなる前にさっさと済ませてしまいましょう。じゃないと先輩のことだ、余計なアブノーマリティーを追加で食材にしかねないし。

 

「わかりましたよ、その代わりどんなゲテモノが出てきても怒らないでくださいよ!!」

 

「わかったって、そのくらい心配するなって。俺が今までお前の料理を残したことがあったか?」

 

 ……それくらいわかってますよーだ。

 

 

 

 

 

「さて、それじゃあ今日のお料理です!!」

 

 料理の完成した私は、先輩の待ついつもの部屋へとやってきました。

 

 部屋の中ではすでに先輩と無情座衛門さんが待機していました。

 

「あれ、今日は無情座衛門さんだけですか?」

 

「あぁ、今までの傾向的に問題なさそうだから、形式的にいるだけだ。特に気にすることはない」

 

「なるほどぉ」

 

 とりあえずほぼほぼ大丈夫と思われているようですね。まぁ、ちゃんと食べる前に自分で実験しているので大丈夫だとは思いますけどね。

 

「よし、それじゃあ飯にしようぜ」

 

「はい、そうですね」

 

 おなかが減ったのか待ちきれない様子の先輩にせかされて、二人分の食事をテーブルに置いて席に座ります。

 

 そしてさっとクローシュをとると、中からとても美味しそうな香りが漏れ出てきました。

 

「さぁ、『夢見る灯篭のムニエル』です!!」

 

 香しい匂いの中心には、真っ白い魚肉が淡く虹色に輝いています。

 

 その美味しそうな見た目に先輩は喉を鳴らすと、さっそく手を合わせたので私もそれに続きます。

 

「さぁ、それでは」

 

「「いただきます!!」」

 

 さっそく一口目をいただきます。

 

 口に入れるとバターの香ばしさと甘さ、そして魚肉の旨味が口の中に広がりました。

 

 そして胸の中にじんわりとした暖かさと、海辺の風のような爽やかさが駆け抜けました。

 

 アブノーマリティーを食べることによるこの不思議な感覚は、もしかしたら彼らを知る一助になるのかもしれませんね。

 

「やっぱり後輩の作る料理はうまいな」

 

「えへへ、今回は難しかった分、そういってもらえてうれしいです」

 

 先輩に褒められて思わず食が進み、いつもよりも早く終わってしまいました。

 

「あっ、もう終わっちゃいました」

 

「まぁおいしいとそうなるよな、それじゃあ俺も食べ終わったし、そろそろお開きにするか」

 

「そうですね、それじゃあ」

 

「「ごちそうさまでした」」

 

 

 

 

 

「お邪魔しまーす」

 

「おう、適当にくつろいでくれ」

 

 勤務時間が終わり、私は先輩の部屋にいます。なぜここにいるかというと、先輩が料理のお礼になんでもしてくれるというので、せっかくなら一度もお邪魔していない先輩の部屋に行かせてもらうことにしたのです。

 

 先輩の部屋は雑多なものが転がっていて、正直お世辞にも綺麗とは言えませんでした。

 

 部屋の中には脱ぎ散らかった服、遊びかけのボードゲーム、よくわからない置物、古びたスクロール、謎めいた複数の機械、そして知らない言語で書かれたノートが転がっていました。

 

「……あれ?」

 

 そこでふと目に入ったノートに書かれた文字に、どこか見覚えがあることに気が付きました。

 

 そしてその文字は、依然拾ったノートに書かれた文字に似ていることに気が付いたのです。

 

「先輩、もしかしてこれって先輩のですか?」

 

 そういって私は鞄の中にしまっていたノートを先輩に手渡しました。依然拾ったときに先輩のものであるかどうか気になっていたのですが、結局聞くタイミングがなくて忘れてしまっていました。

 

「えっ、こんなノート知らないけど…… なんて書いているんだ?」

 

「でも、このノートに書いている文字と似ていませんか?」

 

「えっ、どれどれ…… あっ」

 

 先輩は受け取ったノートと部屋に落ちていたノートを見比べて、そして何かに気づくと少し悲しそうな顔をしました。

 

「今回の代償はこれかぁ……」

 

 先輩がボソッとつぶやいた言葉をうまく聞き取ることはできませんでしたが、何やらショックを受けているということはわかりました。

 

 やめてくださいよ、先輩にそんな顔してほしくありません。

 

「……先輩、台所かしてください」

 

「えっ、別にいいけどどうしたんだ?」

 

「いえ、ちょっとお腹が減ったので何か作りますね。先輩もいりますか?」

 

「おう、せっかくだしいただこうかな」

 

 せっかくなので先輩の好きな料理を作ってあげましょう。おいしい料理を食べれば、きっと沈んだ気持ちも吹き飛びますよね。

 

 

 

 

 

「……ありがとな、後輩」

 




知らない言語で書かれたノート

ジョシュアがロボトミーコーポレーションについて忘れないように、覚えている知識を全て日本語で書いたノートである。(この作品では都市に日本語はないとする)

とはいっても、万が一アンジェラに解読されると危ないので、前半は全く関係のない短編小説をカモフラージュのため大量に書いている(A×アンジェラの生もの、嫌がらせも兼ねている)。

ちなみにアンジェラのお気に入りは、Aに思い切り甘えながら赤ちゃんプレイをしてもらう話。


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琥珀のグルメ Menu 4 肉料理

 扉をくぐって入ったら、不思議な世界に来ちゃったよ

 どこまでも響く潮騒と、悲しい赤子の鳴き声と、いろんな音が聞こえたよ

 どんより暗いお空とね、浅瀬の海がどこまでも

 広がる不思議なとこだった、日々の入った場所だった

 ハナウタ歌ってスキップし、ルンルン気分でお散歩だ

 素敵なカニと、ヤドカリと、物知りエビの、おじいさん

 海の素敵なお話をいっぱいいっぱい知ってたよ

 みんなと別れてお散歩の、続きをしながら歌ったよ

 歌につられていっぱいの、お魚たちが寄ってきた

 大きな口を開いてね、私にぱくりと噛みついた

 ご飯は嫌だと逃げまどい、気が付いたらどこだろう

 周りをぐるぐる見たけれど、知ってるものは何もなし

 周りをうろちょろしていたら、泣き虫おじさん見つけたよ

 私がこっそり近づくと、泣き虫おじさん気が付いた

 うにょうにょお口を動かして、私にびっくりしてるみたい

 しばらくじろじろ見て彼は、知らんぷりして歩いてく

 何をするのか見てみたら、両手を組んでお祈り中

 しばらく見てたら紫の、大きな怪物やってきた

 泣き虫おじさん涙とめ、怖い顔して戦った

 仕方がないから歩いてく、赤子の鳴く方向かってく

 こっちへ歩いていくならば、きっと扉があるでしょう



「あっ、見てくださいよ先輩!!」

 

 どこか遠くから赤子の声が聞こえた気がした。

 

「私ルーレットに当たりましたよ!!」

 

 そんな時に始まったルーレットに私は釘付けになった。

 

「これで苦しい生活ともおさらばですね」

 

 大金を手に入れれば、家族たちを安心させてあげられる。

 

「あれあれ、さっきから口数が少ないですねぇ。もしかしてうらやましいんですかぁ?」

 

 もしかしたら私との別れを惜しんでくれている? そんな淡い期待は彼の顔を見て打ち砕かれた。

 

「……あれ、先輩、どうしてそんなに悲しそうな顔をしているんですか?」

 

「どうして何も言ってくれないんですか?」

 

「ねぇ……」

 

 ……どうして、そんな何か覚悟をしたような表情をしているのですか?

 

 

 

 

Menu 4 肉料理 ~大きくて悪いジビエ~

 

 

 

 

 赤子の泣き声がこの地下施設に鳴り響き、私はその鳴き声のする方向へと向かっていく。

 

「はぁ、それにしても転属の前に最後の作業をしてこいなんて……」

 

 せっかくの栄転なのに、管理人から「君に最期の作業を伝える」と、『O-01-15』への作業を命じられました。

 

 なんでも最近やってきたアブノーマリティーのようで、詳しい話はよく分かっていないそうです。

 

 さっき謎に知識豊富な先輩に聞いてみたんですけど、詳しくは教えてくれなかったんですよね。

 

 ただ、「絶対に大丈夫だから安心しろ」って言われましたけど。

 

 ……でも、なんでそう言い切れたんでしょうね?

 

 アブノーマリティーたちに安全な奴はいないって私に教えてくれたのは、他でもない先輩なのに。

 

「『F-02-58』が脱走しました。鎮圧可能な職員は、直ちに向かってください」

 

「えぇ、今から向かう部門のやつじゃないですか……」

 

 そんなことを考えていると、何やらアブノーマリティーが脱走してしまいました。

 

 気が付けば静かな廊下の向こうから、何やら獣の遠吠えのような声が聞こえてきます。

 

 とりあえず鉢合わせする前に早く作業に行かなければいけませんね。

 

「……よし、それじゃあ行きますか!!」

 

 そして私は、収容室の扉を開いた。

 

 

 

 

 

 ……そこは、一人ぼっちでさみしい場所でした

 

 血まみれで、腐臭の漂う収容室の真ん中で、それは一人で泣いていた

 

 それはきっと泣くことしかできなかったのだろう

 

 それはきっと笑うことができなかったのだろう

 

 楽しいことも、嬉しいことも、面白いことも、欲求を満たされることも

 

 これまで一度もなかったのだろう

 

 一人ぼっちの怪物は私に気づいて顔を向ける

 

 相手はアブノーマリティー

 

 心を許してはいけないし、隙を見せたら殺される

 

 そんな相手であるというのに、私はその眼を見ながら歩み寄る

 

 悲しそうな瞳 零れる涙

 

 そんな名前も知らない怪物を、私は……

 

 

 

 

 

 抱きしめた

 

 

 

 

 

 抱きしめて、名前を呼んだ

 

 名前を知ることはできないけれど、つけてあげることならできる

 

 大丈夫だよ、安心して

 

 私があなたに、笑顔を教えてあげる

 

 嬉しいことも、楽しいことも、面白いことも

 

 約束だよ

 

 自慢じゃないけど、私は約束を破ったことが一度もないんだよ

 

 だから絶対に、約束を守るから

 

 ……だからそんな寂しそうな顔をしないで

 

 床に涙が零れ落ちる

 

 それが私のものか、相手のものかはわからない

 

 そんなことを考えていると、耳のあたりに暖かい何かを感じる

 

 怪物はもう泣かない、私との約束を信じているから

 

 

 

 

 

「後輩!!」

 

 部屋から外に出ると、真っ先に誰かがやってきました。

 

「あっ、先輩! どうしたん…… わひゃぁっ!?」

 

「よかった、代償が足りているか心配だったんだ」

 

 いきなり抱き着かれてびっくりしているけど、胸にうれしい気持ちが広がってくる。

 

「あっ、あのですね。いきなりこんなことをされると困りますよ、先輩」

 

「あっ、すまん。でも本当に良かった、どこも怪我はないよな? 体調が悪かったり変わったところとか……」

 

「いやいや、大丈夫ですって!? だからそんな体中まさぐらなくても!!」

 

 先輩は心配そうに体中を弄って変化がないことを確かめています。

 

 そして視線をこちらに向けると、少し目を細めて真剣な顔つきになりました。

 

「後輩、その耳のってもしかして……」

 

「えっ、あぁはい。私こういうの初めてなんですけど、たぶんギフトってやつですよね」

 

 先輩はこちらをじろじろと見ながら、何か考え事をしているようです。

 

 そしてしばらく静まり返ると、ようやく口を開きました。

 

「……特に、身体に変化はないんだな」

 

「えぇ、だから大丈夫ですって!!」

 

「精神とかの変調もないんだな?」

 

「えぇっと、今のところはないと思います」

 

「……わかった」

 

 そういうと彼は振り返り、廊下を歩いていきました。

 

「あっ、そういえばこの作業が終わったら私転属なんですよ!!」

 

「残念でしたね先輩、もうこれであの実験は終了ですね!!」

 

 立ち去る先輩の背中に、自慢げに声をかける。最初こそ威勢はよかったですが、振り返る彼の表情を見て、自分の考えの間違えに気が付いたのです。

 

「あぁ、その話ならもうなくなったぞ?」

 

「……えっ?」

 

「そもそもあの実験は管理人とアンジェラの両方から許可をもらっているからな。これで逃げられると思うほうがおかしくないか」

 

 その言葉を聞いて膝から崩れ落ちそうになってしまった。このままだと実験の餌食になってしまう、それだけは嫌だと何とか色々と考えるが、彼はそれを許してはくれませんでした。

 

「さて、今回も実験の時間だ」

 

「そんなぁ、せっかくルーレットが当たったのにぃ」

 

 目の前の悪魔に引きずられ、廊下に哀れな子羊の悲鳴が響くのでした。

 

 

 

 

 

「……さて、結局今回も作ってしまった」

 

 今回の食材は『F-02-58』、またの名を『大きくて悪い狼』っという獣の肉です。

 

 調味料をかけてただ焼いただけものを料理といっていいのかはわかりませんが、とりあえず完成しました。

 

 先輩の待つ部屋へ料理をもって運びます。今回は特別ゲストがいるとのことで、3皿用意しています。

 

「お待たせしました」

 

「おっ、待ってたぞ!」

 

「……あの、特別ゲストが来ると聞いていましたが、そちらの方は?」

 

「おう、『F-01-57』、またの名を『赤頭巾の傭兵』だ! よろしくしてあげてくれ!」

 

「紹介に預かった、やつを食えると聞いていてもたってもいられなくってな」

 

「……」

 

 思わずポカーンとしてしまいます。

 

 なぜなら目の前にいるのは明らかに人ではなく、こうして食卓を囲う相手ではないと断言できるからです。

 

「なんでアブノーマリティーがいるんですか!? おかしいでしょう!!」

 

「いやいや、ちゃんとアンジェラから許可はもらってるからさ。大丈夫だって」

 

 

 

 

 

『おーいアンジェラ、ちょっとこの前許可をもらった実験についてお願いがあるんだが』

 

『………………えぇ、話くらいは聞きましょう』

 

『そんなに身構えなくても大丈夫だって。ただもう一人実験にご一緒してもいいかって話なんだ。もちろん今回だけだからさ』

 

『……その相手は、ちゃんと自分の意思で願い出たのですか? 強要したり発言を曲解したりしていませんか?』

 

『そこらへんは大丈夫だって、ちゃんと本人の意思で参加したいって言ってるから』

 

『……そこまで言うなら自己責任ということであれば許可しましょう』

 

『ありがとう!! さっすがアンジェラ、話が分かるな!』

 

『ところで、その奇特な人物は誰なんですか?』

 

『おう、『F-01-57』っていうんだ!』

 

『なるほど、それでは私はこれで…… ちょっとまt』

 

『じゃあさっそく行ってくるぜ!!』

 

 

 

 

 

「ほらな、ちゃんと許可とってるだろ?」

 

「……これって、突っ込んでいい奴ですか?」

 

 でも正直突っ込んでも意味ないですよね?

 

 ……さて、何がともあれ、これ以上時間をかけるとせっかくの料理が冷めてしまいます。

 

 それはさすがにもったいないので、細かいことは気にせずに早く食べてしまいましょう。

 

「ほら先輩、長話もこれくらいにして早く食べますよ。ほら赤頭巾さんも」

 

「……恩に着る」

 

 意外にもきちんとお行儀よく座っている赤頭巾さんは、見た目の物々しさとのギャップからなんだかかわいく見えてきました。

 

 ちなみに先輩は両手にナイフとフォークをもってウキウキしながら待っていました。

 

 なんだか子どもみたいですね。

 

 とりあえず料理を差し出しふたをとる。

 

 中からは狼の豪快なあばら骨のローストが出てきました。

 

 野性味あふれる匂いが部屋に充満して食欲を刺激してきます。

 

 匂いを嗅いで赤頭巾さんも目を血走らせて今にもかぶりつきそうです。

 

「今回は、名付けて『大きくて悪いジビエ』です!」

 

「さて、それじゃあいただきましょうか」

 

「おう、それでは手を合わせて……」

 

 

 

 

 

「「「いただきます!」」」

 

 食前の挨拶を済ませるが否や、みんな一斉に肉にかぶりつきました。

 

 あぁ、野性味あふれる肉に豪快にかぶりつき、肉汁が頬を汚すことすら気にせずに二口目をかぶりつく。

 

 周囲を見渡しても同じ様子で、特に赤頭巾さんは一心不乱にかぶりついていました。

 

 まるで親の仇のようにかぶりつき、じっくりと咀嚼するその姿は、ぶっちゃけ怖かったです。

 

「あっ、もうなくなっちゃった」

 

 結構な量があったにもかかわらずに、あばら肉は消え去っていました。

 

「いやぁ、しっかりと溢れる肉汁に、本能を刺激する野性味あふれる味、とってもおいしかったですね!」

 

「あぁ、それに、ちゃんと後輩の味で良かった。本当に大丈夫そうでよかった」

 

「先輩……」

 

「少女よ、今回は馳走になった。礼を言う」

 

「いえいえ、赤頭巾さんも満足できましたか?」

 

「いや、うまかったが、それ故に満足できなかった。もしまた機会があれば、同席しても構わんか?」

 

「えぇ、もちろんですよ! ……あっ、許可がもらえたらですよ?」

 

「わかったそちらについては交渉しておこう」

 

 なんだかんだでやばい約束をしてしまった気がします。

 

 本当に大丈夫だろうかと思っていましたが、この日から彼女は定期的に『F-02-58』を狩って持ってくるようになってしまい、大変な思いをすることになるとはだれも知りませんでした。

 

「さて、それではそろそろ」

 

「あぁ」

 

「うむ」

 

「「「ごちそうさまでした」」」

 

 

 

 

 

「さて、今日も色々あって疲れました」

 

「結局転属はなくなって、不思議な出会いがあって、先輩と一緒に実験をして」

 

「そう、先輩はいっつも突拍子のないことをして、そのくせ最後にはみんなで笑顔になっているんですよ」

 

「本当に不思議で、変わってて、目が離せなくて……」

 

 

 

 

 

「いつまでも、一緒にいれたらいいなって、思ったり」

 

O-01-i39『笑わないピエロ』

 




新規アブノーマリティーの変更により、「職員たちの平穏なひととき『予感』」の内容を一部変更させていただきます。
ご了承ください。

気付いてもシーッですよ。


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Menu 5 サラダ

 素敵な出会いと素敵な居場所

 とっても嬉しいことだけど

 ここは地獄のような場所

 みんながみんな暗い顔

 だあれも幸せそうじゃない

 私が笑顔にしようと思ったけれど

 それより前に彼がいた

 彼のおかしな行動に 誰もがびっくり目を剥いて

 みんなが慌てふためいて 彼を止めようと頑張るの

 結局彼は止められたけど 皆は笑顔に変わってた

 彼ならきっと 私にも

 教えてくれるよ 笑顔をね


「それでですね……」

 

 彼女が笑顔を向けてくる。その太陽のような笑顔を

 

「あれ、先輩どうしたんですか?」

 

 それで明けで俺は、心が救われたような気持ちになる

 

「いや、ちょっと考え事をしててな」

 

 あの地獄から生き残ってくれたあの時から

 

「考え事ってなんですか?」

 

 君は俺にとって

 

「そんなの気にするなよ! そんなことよりさ……」

 

 掛け替えのない存在になったのだから

 

 

Menu 5 サラダ ~蓋の空いた世界樹のサラダ~

 

 

「……ったい、これはどういうことですか?」

 

「いきなりどうしたんだ? 何を言っているかわからないんだが?」

 

 廊下を歩いていたら、どこからか話し声が聞こえてきました。なんだか少し剣呑な雰囲気です。

 

「先日のO-01-15に関することです、何も知らないではすみませんよ」

 

「何だそのことか」

 

 これは先輩と…… あの機械人形でしょうか? 一体何の話をしているのでしょうか?

 

「別にいいだろ一体くらい、アンタの計画に支障は無いはずだ」

 

「いったいどの口が…… 待ちなさい」

 

「ど、どうしたんだよ急に」

 

 真剣な様子の声色に、すこし狼狽えた様な先輩。ちょっと空気が重いです。

 

「少し私達の認識に齟齬があるようです、貴方は一体何をしたと認識しているので?」

 

「だから俺は「誤魔化しても無駄です、なぜ完璧である私がわざわざ死角となる場所を作ったのか、愚かな貴方でもここまで言えばわかるはずです」……ちっ、罠かよ」

 

 なんとなくですが先輩もあれも、とても苛立っている様子、もっと笑顔のほうがいいと思うのですが。

 

「方法は言えないが、俺は「にゃぁぁぁん!!」だけだよ」

 

「なるほど……」

 

 ちょうどいいタイミングで哀れな犠牲者の声が響いてしまいました。おかげでなんといっているかわかりません。

 

「話はわかりました、しかし今後計画に支障が出た場合、貴方の『退社』を決定します。よろしいですね?」

 

「別に構わねぇよ、そうやすやすと使えるもんでもないしな」

 

「分かればいいのです」

 

 どうやら話も終わった様子、少し緊張が抜けたような気がします。

 

「あぁ、話は変わるのですが」

 

 と思ったら、まだ何かある様子。でも先ほどまでの緊張感は感じられません。

 

「風の噂で小説を書いていると聞いたのですが、リクエストとか受け付けていますか?」

 

「えっ、お、おう……」

 

「なら早速これを……」

 

 最後の方はよく聞こえませんでしたが、一体アレと何の話をしていたのでしょうか?

 

 

 

「よう後輩」

 

「あっ、先輩遅いですよ…… って、それどういう状況ですか!?」

 

 気が付けば、先輩は目の前に来ていました。 ……なぜか頭を小鳥につつかれながら。

 

「いやぁ、ちょっと『O-02-56』と戯れてるだけだって」

 

 それを見た瞬間、私は悪寒に震えました。それは見た目こそ可愛らしいですが、その内に恐ろしい何かを秘めている気がしたからです。

 

「いやいや、頭が大惨事になってますよ!?」

 

「ちょっと待ってて下さい、今助け「止めろ」……えっ?」

 

「それだけはやめてくれ、後輩」

 

 慌てて先輩を助けようとすると、真剣な顔で止められました。そうこうしているうちに件の小鳥はどこかへ飛んで行ってしまうのでした。

 

「い、今のは一体……?」

 

「あいつは満足すると勝手に帰って行くのさ」

 

「なるほど、でもなんで止めたんですか? そんなに傷付く前に鎮圧したほうがいいじゃないですか?」

 

「アイツは攻撃すると襲い掛かってくるんだよ。そうなると多分俺でも間に合わずに御陀仏だ」

 

「ひえぇ、他の鳥さんと違って可愛いと思ったのに、やっぱりアブノーマリティはアブノーマリティですね」

 

 思わずがっくりと項垂れていると、先輩はびっくりしたような表情をして口を開きました。

 

「いやいや、『O-02-62』はともかく『O-02-40』は可愛いだろ!?」

 

「えっ、先輩目が腐ってます?」

 

 口から飛び出たあまりにも冷たい言葉に、先輩は地味にショックを受けているようでした。そんな繊細な部分があったんですね。

 

「……さて、そんなことより今回の食材だ」

 

「あっ、話をそらしましたね」

 

「とりあえず糞樹木から葉っぱをいくつか拝借してきたから、次の食材を拉致って来たいと思う」

 

「あっ、もう一つは確保してるんですね…… って、拉致?」

 

 もうすでに食材の一部を確保しているのかと思っていたら、信じられない言葉が聞こえてきました。

 

 一体どういうことかと聞き返そうとすると、すでに先輩は近くの収容室に入っていってしまいました。

 

「ぎゃははぁ!! 大量じゃい!!」

 

「一体何やってるんですかぁ!?」

 

 一体どうしたものかと思っていると、収容室の中からエビ頭の何かを両脇に抱えて先輩が飛び出してきました。

 

 いや、なんでそんなにテンションが高いのでしょうか?

 

「だから言ったろ? 拉致ってくるって」

 

「だからって『F-05-52』の人? エビ? を拉致って来る人がどこにいますか!?」

 

「まぁまぁそういうなって、それよりこれで食材もそろったし、何か作ってくれよ」

 

 こちらの疑問にまともに答える気がないのか、サラっと受け流されました。 ……というか、これを調理するのですか?

 

「いや、こんな食材使いたくないんですけど……」

 

「そういうなって、絶対おいしいから! 頼むよ!!」

 

「嫌ですよ気持ち悪い!!」

 

 しばらくの間先輩との押し問答が続きましたが、結局折れてしまいました。

 

「……はぁ、今回だけですよ」

 

「さすが後輩、楽しみにしてるぜ!」

 

「まぁ、楽しみにしていてくださいね」

 

 

 

「さて、今回もいい感じにできましたね」

 

「それじゃあ先輩にお届けしましょうか」

 

 今回も出来上がった料理をもって先輩の待つ部屋へと向かっていきます。

 

 扉を開けると、前と同じように先輩がウキウキしながら待っていました。

 

「はい先輩、今回は結構苦労しましたが、そこそこ自信がありましょ」

 

「名付けて、『蓋の空いた世界樹のサラダ』です」

 

 先輩の目の前に料理を置いて蓋を取ると、中からシンプルなサラダが出てきました。

 

 爽やかな緑色をした葉に大きめのエビの切り身が乗っかり、その上から特製のドレッシングがかかっています。

 

 今回はサラダですが、シンプルな分料理人の腕が試されますね。

 

「あぁ、今回もうまそうだな」

 

「えぇ、そうでしょう。なんたって苦労して生のまま葉っぱの異常性を取り除いたんですから」

 

「すごいな、さすが後輩だ」

 

「えへへっ、それほどでも……」

 

 本当ならどれだけ頑張ったかを自慢したそうにしていますが、時間がもったいないので早く食べる方向へシフトしました。

 

「さて、それよりも早く食べてしまいましょう」

 

「おう、そうだな」

 

「それじゃあ」

 

「「いただきます」」

 

 一緒に食前のあいさつをしてからサラダを口に含む。先輩のほうをちらっと見ると、どうやら満足してくれたようです。

 

「すごいな、めっちゃ爽やかでエビもぷりぷりしててうまい」

 

「そういってもらえると嬉しいです」

 

 言葉も少なめに、気が付けば二人のお皿は空になっていました。

 

「あぁ、うまかった」

 

「えぇ、それじゃあ最後に」

 

「「ごちそうさまでした」」

 

 

 

「いやぁ、なんだか最近調子がいいですね」

 

「体の調子は悪くないし、メンタル面も順調」

 

「なんだかんだで、現状も悪くないのかもしれません」

 

「さて、さっさと次の作業をしに行きましょうか」

 

 最近のことや先輩とのことを考えながら廊下を歩いていく。少し胸が暖かくなったが、気持ちを切り替えて気を引き締めます。

 

 次の作業は新しい未知の存在、油断はできません。

 

 少し緊張しながら収容室の中へと入っていきます。

 

「あっ」

 

 そこで出会ったものを、きっと忘れることはないでしょう。

 

 悍ましく、夥しいほどに集まった人の足の真ん中には、ハートのような形の何かが鎮座している。

 

 見た瞬間に理解する、圧倒的な格上の存在に、成す術などないことを嫌でも理解させられます。

 

 それでもこの身をかけて抗おうと決意しても……

 

「綺麗……」

 

 そんな抵抗など、塵芥でしかなかったのです。

 

 



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Menu 6 メイン

 楽しいわ、楽しいわ

 とっても楽しいわ

 だってこの星は、すべて■■■でうまってしまったのだから

 皆で楽しく、毎日遊んで暮らしましょう

 お菓子もケーキも紅茶も、いっぱい用意しないとね

 ……あれ、もしかしてこの感じ

 素敵なさざ波の音色に、懐かしい磯の香り

 あぁ、もしかしてまた、間抜けな(可愛い)契約者さんが現れたのかしら

 それならこうしてはいられないわ

 さっそく扉を探しましょう

 もちろん今回も、本体を連れて

 さて、今回の契約者さんも随分大盤振る舞いするのね

 だって■■■を招待しちゃうほどなんだから……


 

「ちくしょう、こんなものまで持っていかれるのかよ……」

 

 今思い出しても震えが止まらない。あれは格が違うなんてものじゃなかった。

 

「無情座衛門、ペペロンチーノ政宗、贄贄……」

 

 『終末鳥』、その天を仰ぐほどの巨大な怪物は先輩の活躍もあってついに崩れ落ち、その死骸の上に彼は顔を覆って座り込んでいた。

 

「俺が、ちゃんとE.G.O.を振るえていれば……」

 

 この戦闘で、多くの人たちが犠牲になりました。彼は自分がもっとうまく戦えていればと思っているのかもしれない。でも、そんなわけがない。先輩は十分に頑張っていた、ただただ相手が悪かった。

 

「先輩!!」

 

「えっ?」

 

 だから、そんなに自分を追い詰めないでください。

 

「食べましょう、一緒に」

 

「おいしいご飯を!!」

 

 

 

 

 

Menu 6 メイン ~黄昏の親子丼~

 

 

 

 

 

「それで、今回はどうするんだ?」

 

「今回は、さっきのやつを使って料理をしたいと思います」

 

「終末鳥を……?」

 

 そう、今回はあの怪物を使っての料理、正直あれがおいしいのか、そもそも食べれるのかもわからない。

 

 だけど先輩が、このまま悲しそうな顔をしているのは、耐えきれそうになかった。

 

「そうか……」

 

「だから、ちょっと待っててくださいね」

 

 目指していたのは、正攻法による味の限界の超越。

 

「絶対においしい料理を、作りますから!!」

 

 大切な人ひとり笑顔にできずに、そんなものは目指せません。

 

 

 

 

 

「さて、それではできましたよ」

 

 先輩の待つ部屋へと入ると、彼はいつもの笑顔はどこはいったのやら、暗い表情で項垂れていた。

 

「ほら先輩、いつまでそんな暗い顔をしているんですか?」

 

「後輩……」

 

「さぁ、ご飯の時間ですよ」

 

 先輩の前に皿を置いて、蓋を取る。

 

 すると暖かい湯気とともに、とてもおいしそうな匂いが漂ってくる。

 

 肉汁溢れる鶏肉を、黄金色の卵が包んでいる。その下からはキラキラした白米が顔をのぞかせ、一つの芸術のような輝きを放っている。

 

「これは一体……?」

 

「親子丼です、前に先輩が教えてくれた、先輩の故郷の料理」

 

「そうか、親子丼って名前だったな……」

 

 先輩はなんだか懐かしそうに目を細めて、嬉しそうにしている。

 

「それじゃあ、食べましょうか」

 

「そうだな、それじゃあ……」

 

「「いただきます!!」」

 

 さっそくスプーンですくって口に運ぶ。

 

「……おいしい」

 

「でしょう、今回のはかなりの自信作ですよ!」

 

 口にした瞬間にわかる、これはとても素晴らしいものだ。

 

 どんどんと体が馴染んでくることがわかる。もしかしたら彼女には悪影響かもしれないが、とても心地が良かった。

 

「うまい、うまい……」

 

「これが、俺の故郷の味だったのか……」

 

 先輩は、涙を流しながら食べていた。それはとてもおいしそうで、何かを必死に取り戻すように、ほおばっていた。

 

「先輩、どうですか?」

 

「あぁ、うまいよ。うまい……」

 

 そして結局、彼は全てを食べきると、顔を覆って泣き崩れた。

 

「大丈夫ですよ、よしよし……」

 

 それを、あやすようにただただ背中を撫でた。いつもの偉大な背中は、この時だけは同じ大きさに見えた。

 

「すまない、情けない姿を見せたな」

 

「大丈夫ですよ、それに少しでも先輩の役に立てたようでうれしいです。だっていつも助けてばかりですし……」

 

「何言ってんだよ」

 

 彼は涙を指で拭うと笑顔でこちらに顔を向け、いきなり抱き着いてきた。

 

 ドクンと、心臓が跳ね上がる。さすがにこの不意打ちは卑怯だと思う。

 

「お前は、俺にとって最後の希望なんだよ……」

 

「先輩……」

 

 その言葉に胸が暖かくなり、抱きしめ返す。彼の頭をあやすように撫でると、温もりのような、不思議な感覚が伝わってくる。

 

「後輩、お前だけは死なないでくれよ……」

 

「大丈夫ですよ、だって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いずれ星となって、再会できるのですから」

 

 

 

「……えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

「随分と引き金が軽くなりましたね」

 

「……アンジェラか」

 

「それは、あなたが思っているようなものではありませんよ」

 

「……そんなことは、わかっている」

 

「今度は何を失うのですか? 郷愁も強さも失ったあなたに、払えるものはあるのですか?」

 

「もしかしたら、もう代償は足りないかもしれない」

 

「それでも、あいつだけは失いたくない」

 

「……あなたにはわからないかもしれないけれど、私はそれの存在を今まで知らなかったわ」

 

「なに?」

 

「口ぶりからして入社前から持っていたのでしょう? 今まで使ってこなかったそれを、随分と気軽に使う様になりましたね」

 

「……まさか、そういうことかよ」

 

「まぁ、私には関係のないことですが」

 

「いいのか? もしかしたらあんたの計画を邪魔するかもしれないっていうのに」

 

「私の予想が正しければ、その可能性は低いわ」

 

「えっ?」

 

「それはあなたが考えているように消滅させているのではないわ」

 

「消滅ではないって……」

 

「そう、消滅ではなく、交換。結局あなた程度では、代償を全ては払えなかったということよ」

 

「まさか、あいつの耳って……」

 

「それでも、やるのですか?」

 

「……あぁ、たとえ無駄でも、出来る限りのことはやってやる」

 

「そうですか、それではご自由に」

 

「蒼星、お前の好きにはさせないぞ」

 

 

 

 

 

 

 

「……スクロール、展開」

 

 



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琥珀のグルメ Menu 7 デザート

 大きな黒い鳥が脱走した 彼はあっちほいして遊んでいた

 大きな傷だらけの狼が脱走した 彼は暴れ馬に乗るように乗りこなしていた

 全てがあべこべなサンタが脱走した 彼はなぜか引きずられていた

 長い鳥が脱走した 彼にうらみでもあるのかつけ狙って天秤が傾かないように抵抗していた

 足だらけの蒼い星が脱走した さすがにふざけなかった

 ピンクのどろどろが脱走した 赤いつぎはぎを倒したところを後ろから狙ってた さすがに卑怯だと思う

 冷たい女王様に囚われた人を助けに行った いつもこれくらいかっこよくすればいいのに

 寝てる羊が脱走した なぜか足置きにして読書していた

 ぶくぶくしたサメが脱走した 優しい表情で撫でていた

 一般人は…… まぁいいか

 彼がやることはめちゃくちゃで みんながみんな驚いていた

 でもびっくりしたり呆れたりする人たちも 最後にはみんな笑顔になっていた


「まぁ、まさかすでに先客がいるなんて」

 

 出会った瞬間だめだと思った。それの視線は正確に私を射抜いていた。

 

「でもそれもそうよね、いっぱい使ってないと■■■のところまで来ないし……」

 

 それはどうしようもない怪物、あの星の化け物と同等の、私では手に負えない圧倒的な格上。

 

「それにしては、全然崩れてないみたいだけど」

 

 それは私のことなどお構いなしに語り続ける。

 

「あぁ、そもそもここにはいっぱいお友達がいるのね」

 

 何かまずいことをしている。それは直感でわかるのに、防ぐ方法がわからない。

 

「すぐダメになっちゃう着せ替え人形、自分勝手な恋人ごっこ、壊れたオルゴールにさっきの蒼いビー玉さん」

 

 その言葉を聞いてドキリとする。なぜ、今の一瞬でそこまで……

 

「へぇ、■■■と遊べそうな子がこんなにいるなんて、ワクワクしちゃうわ」

 

 それは笑う、私の知りたくない笑みで。

 

「あっ、ごめんなさい。■■■ばっかり話しちゃったわね」

 

 それは一瞬私に視線を向けて、向き直って唇をゆがめる。

 

「一応無駄だと思うけど、聞いておくね」

 

 軽い口調で声を出すが、それにどれほどの悪意が込められているかが伝わってくる。

 

貴女の名前を教えて?

 

 そしてそれは、悍ましい呪いを口から吐き出した。

 

 

 

 

 

Menu 7 デザート ~女王のリンゴシャーベット~

 

 

 

 

 

「……それで、それに一体何の意味があるんですか?」

 

「ふふっ、だって挨拶は大事でしょう?」

 

 あの美しい星に会いに来たはずなのに、そこにいたのは■■い■■でした。

 

 ……あれ、私はどうしてあのアブノーマリティに会いに行こうとしたんだっけ?

 

 作業でもないのに。

 

「それにしても、なんだか体が重いわ。もしかしてこの場所のせいかしら?」

 

「いや、それよりもあなたはなんですか? 一体どこからここに入ってきたのですか!?」

 

「ふふふっ、だから私は■■■よ」

 

 そうだ、それよりもここは『O-03-93』の収容室だったはず。なのにこの子はどうしてここにいるのでしょうか?

 

「そんなことはどうでもいいわ、それよりもお話をしましょう?」

 

「■■■と一緒に、ずうっとね……」

 

 

 

 

 

「よう後輩、どうしたんだ?」

 

「うげっ、先輩……」

 

 廊下を歩いていたら、偶然先輩に鉢合わせてしまいました。

 

 何たる不運、こうなったらきっと例の実験の続きとか意味不明なやらかしに同行されたりとかするんだ……

 

「なんか元気無さそうだな、気分転換にうまいもんでも食うか?」

 

「またそうやって例の実験をさせるつもりですね!?」

 

「えっ?」

 

「えっ?」

 

 あれ? もしかしてこれはやっちゃいましたか?

 

 今の流れは実験の前フリだと思ってましたが、まさか本当に気分転換!?

 

「あぁぁぁぁ!!!! やっちゃったぁ!! これ完全にやぶ蛇じゃないですかぁ!?」

 

「……いやいや、俺の事何だと思ってるの?」

 

「えっ、そういうことなら実験しようって流れですよね?」

 

「いややらないよ……」

 

 そう言うと先輩は苦笑して私の頭を撫でました。

 

 あれ、なんかおかしい……

 

 なんというか、言葉にできないのですが、いつもの先輩じゃない気がします。

 

 いつもならこんな直接的じゃなくて、もっと遠回しにいろいろトラブルを巻き込みながら心配してくれるっていうのに。

 

 これがタダの気まぐれならいいんです。

 

 でもこれは、なんというか、先輩の中の大切なものが変わってしまったかのような……

 

『T-01-54*1が脱走しました、F-01-57*2が脱走しました、近くの職員は鎮圧に向かってください』

 

「おっ、脱走か。ちょっと行ってくる」

 

「えっ、ちょっと先輩!?」

 

 アブノーマリティの脱走アナウンスに真っ先に反応した先輩は、すぐに駆け出して行きました。

 

 私は駆け出して行った先輩の背中を追って走ります…… ってかはや!? やっぱこの人おかしいですって!!

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、ようやく、追いつきました、よ……」

 

 先輩がいるであろう廊下に続く扉を開いた私の目には、凄惨な光景が広がっていました。

 

 あたりに撒き散らされた血飛沫と抉られた肉片の数々が壁を汚し、床にはT-01-54だったものとF-01-57の四肢が転がっていた。

 

 むせかえる濃密な血の匂いに思わず手と鼻を口で押えると、今まさにF-01-57の首を愛用の“ダ・カーポ”で無表情に切り落とした先輩がこちらに顔を向けた。

 

「よう後輩、遅かったじゃないか」

 

「は、え、はい……」

 

 先ほどの冷たい表情なんてつゆほども感じさせないいつもの笑顔は、私の心を大きくかき乱しました。

 

 ……どうして、先輩はこんなことをしているのでしょうか?

 

 いつもはこんな乱暴な戦い方じゃなくて、もっとスマートに、ほとんど一撃で戦いを終わらせていたのに……

 

 戦うときは、もっと無駄にいろいろと意味不明なことをやらかして皆を唖然とさせるのに……

 

 こんな怖い戦い方じゃなくて、もっとコミカルで、生き死にが掛かっているのにふざけるなって言いたくなるのに、思わず笑ってしまうような、そんな……

 

「……どうしたんだ、後輩?」

 

「えっと……」

 

 どうしよう、何を聞いたらいいのかわからない。

 

 先輩はいつもみたいに太陽のような笑みを向けてくれています。しかし、私にはそれがとても恐ろしいもののように感じてしまったのです。

 

「……あっ、そうだ! 先輩まさかこのアブノーマリティたちを実験の食材にしようとか言いませんよね!? さすがに人型ですし、それにこんなにめちゃくちゃだと料理にも使えませんよ!!」

 

「はははっ、さすがにそれはないって」

 

 よかった、とっさに思い付いた冗談だったけど変な反応されなかった。ほんのちょっぴりこれを食えって言われたらどうしようかって恐怖もありましたが……

 

 でも、先輩がいつも通りみたいで安心しました。正直人が変わってしまったのかと……

 

「そういえばさ……」

 

 

 

 

 

「もう、その実験もやめにしないか?」

 

 

 

 

 

「……えっ?」

 

 今、先輩はなんて言いましたか? 実験をやめる?

 

 いきなり何を言い出しているのですか? 自分で言い出したのに、そもそも実験の中止なんてできるんでしょうか?

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ……」

 

「実はさ、もう実験の目的は終了してるんだよな。でもお前の料理がおいしくてついつい続けてしまった」

 

「このまま俺が死ぬまでずっとと思っていたけど、さすがに後輩の負担が大きいなって思ったんだよ」

 

 そんなこと、いきなり言われても困りますよ。それに、先輩が始めたことじゃないですか。私はこれでようやく私の理想に近づけると思っていたのに、いきなり突き放すつもりですか?

 

「せ、先輩どうしたんですか? もしかして何か変なものでも食べましたか? 先輩がそんなこと言うわけありませんもんね、いっつも私のことなんてお構いなしに好き勝手やって……」

 

「いや、だから悪かったって」

 

「いまさら!! 私をほっぽり出すんですか!? もう私は、用済みなんですか……」

 

「後輩……」

 

 なんででしょう、なんで泣きそうになっているのか自分でもわかりません。本当は実験が終わってよかったはずなのに、それでもいざ終わるってなると、なんでこんなにも胸が苦しいのでしょうか?

 

 

「グスッ、先輩、やりましょう」

 

「……えっ?」

 

「実験の続き、まだやりたいことがあるんです!!」

 

 

 

 

 

「さて、ようやくできましたよ」

 

 今回はちょっと嗜好を変えてデザートに挑戦しました。いつものように“名誉の羽根”で火を入れることはできませんが、その代用は考えていました。

 

「さぁ先輩、こちらをどうぞ」

 

「……アイスか」

 

「シャーベットです」

 

 まったく、これだから素人は。

 

 まぁそれはいいとして、今回は『雪の女王』に手伝ってもらってシャーベットを作りました。

 

「……別にどっちでもいいだろ?」

 

「あれ? 先輩ちょっとふてくされてますか?」

 

「いや違うって!」

 

「仕方ないのでそういうことにしておきますね」

 

 まったく、先輩もかわいいところがありますね。

 

 いや、それよりも早く食べないと溶けてしまいます。アブノーマリティ由来なのでそう簡単には溶けないと思いますが、早めに食べるに越したことはありません。

 

「ほら先輩、そろそろ食べましょうよ」

 

「わかったよ」

 

「それじゃあ」

 

「「いただきます」」

 

 さっそくスプーンですくって口に運ぶ。まず最初に驚いたのはその冷たさだ。

 

 彼女の冷気を使っているのだからもっと冷たいものだと思っていましたが、口の中に入れると優しい冷たさが口いっぱいに広がりました。

 

 そして同時にリンゴの柔らかい甘さがやってきて、二人の女性に優しく抱擁されているかのような錯覚さえ感じてしまいます。

 

 そして後味もすっきりで冷たさも後を引かない。思わずシャーベットを口に運ぶ手が止まりません。

 

「ははっ、やっぱり後輩の料理はうまいな」

 

「……先輩」

 

「悪いな後輩、心配かけちまって」

 

「いえ、先輩にはいつもお世話になっていますから」

 

 ……よかった、先輩はやっぱり先輩だ。優しくて、ちょっと不器用で、そして強い心を持っていて。

 

 なんだかずっと思い詰めていたみたいですが、少しでも気が晴れたみたいでよかったです。

 

「……なぁ後輩」

 

「難ですか先輩?」

 

「実は俺、お前に黙っていることがあるんだ」

 

「……はい」

 

 それは、薄々感じていました。日を追うごとに追い詰めた表情になる先輩、いきなり思う様にE.G.O.を振れなくなったり、今朝なんて一夜にして人が変わったのかと思うくらいでした。

 

「本当はお前にも伝えないといけないと思ってるんだけど、もうちょっとだけ待っててもらえないか?」

 

 そうか、先輩はそのことでも悩んでいたんだ。きっと私にかかわることで、伝えたら大変なことになるって思って……

 

 それならもう答えは決まってます。

 

「そうですか、それならいつまでも待ちますよ」

 

「えっ?」

 

「先輩の覚悟が決まるまでいつまでも待ちますから。だから、いつかそのうち覚悟が決まったら、ドーンと私の胸に飛び込んできてください」

 

 そういって私が胸を叩くと、先輩はびっくりしたような表情を浮かべて、そしていつもみたいに笑顔になりました。

 

「そっか、それじゃあその時は間にクッションを置いてもいいか?」

 

「はっ? どういうことですか?」

 

「いやだって衝撃吸収性が低そうだし」

 

「もしかして私が貧乳って言いたいんですか!?」

 

 悪い悪いといいながらも全然悪気なさそうな先輩。まったく、この人は人が気にしていることを……

 

「もう、それじゃあそろそろお開きにしましょうか」

 

「あぁそうだな」

 

「それじゃあ」

 

「「ごちそうさまでした」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、よく解毒できたよな?」

 

「……へっ?」

 

「えっ、もちろん『白雪姫のリンゴ』には毒があることは知ってるよな?」

 

「……」

 

「お、おいまさか……」ゴロゴロゴロッ

 

「ごめんなさい先輩、私も一緒ですから……」ギュルルルルッ

 

「ちょっ、おまっ、まじで……!!」

 

 

 

 

 

 この日私たちは、一日中トイレの住人になりました。

 

*1
捨てられた一般人

*2
赤ずきんの傭兵



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琥珀のグルメ Menu 8 ドリンク

あぁ 崩海の潮騒が聞こえる……


「……なぁ後輩、いったいどうしたんだ?」

 

 先輩にしては珍しい、本気で心配している言葉。

 

「それは……」

 

 その問いの答えに詰まっていると、先輩が再び口を開きました。

 

「アブノーマリティによくわからないことをしたり、鎮圧時に意味不明なことをしたり」

 

「……」

 

 ……いや、我慢だ。ここで反論してはだめだ。

 

「今までこんなことしてなかったじゃないか、いったいどうしたんだよ?」

 

「……」

 

 ……いや、さすがに我慢の限界です。ジョークじゃなくて本気で言っているのがたちが悪いですよね。

 

「おい、どうしたんだ?」

 

 何も言わない私を心配したのか先輩が顔をのぞき込んできました。

 

 そんなにお望みなら私の思っていること全てを全部答えてあげますね。

 

「……んぶ」

 

「うん?」

 

「これ全部いままで先輩がやってたことじゃないですか!?」

 

 

 

 

 

Menu 8 ドリンク ~琥珀のワイン~

 

 

 

 

 

「つまりあれか? 俺が今までの奇行をしなくなったから、代わりにやろうとしたと」

 

「……まぁ、簡潔に言えばそうですね」

 

 結局私はなぜこんなことをしたのかを先輩に言わなければならなくなりました。

 

 そう、簡潔に言えばそうなのですが、なんだか誤解を生みそうで嫌ですねこれ。

 

「でもさ、正直後輩だって俺の奇行に辟易していたじゃないか。どうしてこんなことを?」

 

「それは……」

 

 ……正直、これを本人に言っていいのかわかりませんが、これ以上先輩を心配させるのは本意ではありません。

 

 気は乗りませんが、いうしかないですね。

 

「……その、今まで先輩が変なことをしていたのはなんでですか?」

 

「えっ、それは……」

 

 私の質問に、先輩は考え込んでしまいました。その表情はどこか焦っているようにも、青ざめているように感じました。

 

 ……やっぱり、覚えていないんだ。

 

「先輩、先輩は昔教えてくれましたよね。どうしてあんな変なことをするのかって」

 

「……」

 

「あの時の先輩は言ってましたよ、皆が笑顔になってくれたらそれで十分だって。そのためなら道化にでもなんでもなってやるって」

 

「こんな暗い職場なんだから、誰か一人くらいそんなやつがいてもいいじゃないかって」

 

「……」

 

 先輩はうつむいて何も言いません。

 

 ……正直、こんなつらそうな先輩を見ていられませんでした。でも、言わなければきっと先輩は取り返しのつかないことになってしまう。そんな気がしてならないんです。

 

「やっぱり、わたしのせいですか?」

 

「!? 違う! あれは俺が勝手に……」

 

「やっぱり、図星じゃないですか」

 

 先輩はひょうひょうとしているようで、意外とわかりやすいところがあります。

 

 だから、何度なく先輩の隠したいこととか、わかってしまうんです。

 

「先輩は待っていてくれって言ってましたけど、待っている間に先輩が取り返しのつかないことになるのなら、私は待ちません」

 

「あのルーレットのこと、チーフから聞きました。それにあの蒼い星のときもそうです」

 

「私のために、力を使ってしまったんですよね」

 

「……後輩、いったいそれをどこで?」

 

「例のアブノーマリティからです」

 

 彼女はなぜか普通は知りえないことをいくつも知っています。

 

 彼女の言うことを鵜呑みにするのは危険だとわかってはいますが、それでもこの反応を見れば先輩に関することは真実だったようです。

 

「彼女は言っていました、先輩が力を使うたびに大切なものがなくなっていくって」

 

「……」

 

「先輩、約束してください。もう二度とその力を使わないって。たとえ私に何があろうとも」

 

「……後輩」

 

 その瞳を見た瞬間、私は悟ってしまいました。

 

 私がどれほど願っても、先輩は自分の信じる道を行くのだと。

 

「悪いが、それはできない」

 

「……先輩」

 

「きっと俺は、これからもお前に何かあったらこの力を使ってしまうと思う」

 

「でもっ」

 

「だけど!」

 

「もうこれ以上お前を危ない目には合わせない、俺が絶対に守ってやる」

 

「それじゃあダメか?」

 

 ……この人は、なんて耳触りのいいことを言うのでしょうか。

 

 そんなことこの会社にいてできるわけがありません。私どころか先輩だって明日生きているのかもわからないのですから。

 

「……はぁ、何言ってるんですか」

 

 でも、そんなこと言われたら、どうしようもないじゃないですか。

 

「……そうだよな、でも」

 

「いいですよ」

 

「……えっ?」

 

 その時の先輩の間抜けな表情は、きっと一生忘れられないと思います。

 

「それじゃあ私のこと、一生守ってくださいね」

 

「約束ですよ」

 

 

 

 

 

「……さて、いったいどんなゲテモノが来るのでしょうか?」

 

 今回の実験は、いきなり先輩が試したいものがあるというので私はいつもの部屋で待機中です。

 

 正直、ちょっと嬉しく感じています。

 

 先輩が変わってしまってから初めて、この実験に積極的になってくれたのですから。

 

「悪い後輩! 待たせちまったな」

 

「別に気にしてませんよ、待つ側っていうのも新鮮でしたし。……その手に持ってる瓶は?」

 

「あぁ、これか?」

 

 先輩が手に持っていたのはラベルの貼られていないワインボトルでした。

 

 それを指摘されると、先輩は嬉しそうにそのボトルを見せびらかしました。

 

「おう、これか? 実はここに来る前に買っていたT社製の大なべをちょっと工夫して使ってな」

 

「……もしかして密造酒ですか?」

 

「大丈夫、こんなところまで出張ってはこねぇよ」

 

 いやいや、そういう問題じゃないでしょう!?

 

 密造酒とか大丈夫なんですか!! この人本当にわかっているんですか!?

 

「まぁまぁ、そんな細かいことは気にすんなって」

 

「あぁもう、どうなっても知りませんからね!!」

 

 ……あぁ、なんだかこの感じ、とっても懐かしく感じます。

 

 正直ダメな感じですけど、やっぱり先輩は先輩なんだって安心してしまいました。

 

「ほら、グラスも用意したし、さっそく飲もうぜ」

 

「ちょっと待ってください、まさかおつまみもなしに呑むつもりですか?」

 

 そう問いかけると、先輩はきょとんとした表情を向けてきました。

 

 まったく、何も考えていなかったんですね。

 

「ちょっと待っててください、軽くおつまみを用意しますから」

 

「いやいや、さすがに申し訳ないし別にいいって」

 

「私が嫌なんですよ、おつまみのない晩酌なんて」

 

「いや、一応勤務中……」

 

 先輩が何か言っていましたが聞こえないふりをして厨房へ向かいます。

 

 まぁ、そんなに手間のかからない簡単なものでいいでしょう。

 

 

 

 

 

「はい先輩、モッツァレラチーズとスライストマトです」

 

「おぉー、うまそう」

 

 せっかくなのでおつまみにはワインに合うものを用意しました。

 

 これなら用意も簡単ですし、先輩も文句はないでしょう。

 

「さて、それじゃあそろそろ乾杯と行くか」

 

「ちょっと待ってくださいよ、その前にそのワインが何なのか教えてくれてもいいんじゃないですか?」

 

「あ、すっかり忘れてた」

 

 いや、大事なところでしょう!? まったく、ほんとに気が抜けない人ですね。

 

「こいつは琥珀の黎明を使ってワインにしたんだ、ブドウ味だったしいけるだろう」

 

「えぇ、一気に飲む気が失せました」

 

「いやいや、絶対うまいって。試しに飲んでみろよ」

 

「わかりましたって、それじゃあ」

 

「あぁ」

 

「「乾杯」」

 

 互いのグラスをぶつけ、気持ち良い音を響かせて一口いただきます。

 

 一番最初に感じたのは口の中に広がる爽快感とすっきりしたブドウの風味でした。

 

 さらに今までと同じように、感情そのものに訴えかけるような心揺さぶられる感覚も訪れてきました。

 

 ……正直、舐めていました。

 

 これは、今までで一番おいしいワインかもしれません。

 

「それにしても本当においしいな、これもワインにすごい合うし」

 

「ほんとですねぇ…… って、何一人で一気に食べているんですか!? あぁもう半分しかない……」

 

 ホントこの人は、ちょっとくらい遠慮してくれてもいいじゃないですか!!

 

 食べ物のことになるとほんとに見境がなくなるんですから……

 

「ほら後輩も早く食えよ、早くしないと無くなるぞ?」

 

「誰のせいですか!? あぁもうちゃんと残してくださいね!」

 

 こうして二人きりの晩酌は、あっという間に終わってしまうのでした。

 

「さて、それじゃあ」

 

「「ごちそうさまでした」」

 

 

 

 

 

「あっ、そうだ。ちょっと話があるんだがいいか?」

 

「はい、何ですか?」

 

「もしよかったらさ、これから毎日俺に料理を作ってくれないか?」

 

「……別にいいですけど、なんでそんなに照れてるんですか?」

 

「別にいいだろ!?」

 

「というか、それって普段とそんなに変わりませんよね」

 

「……ははっ、確かにそうだな!」

 

「そうですよ、これからもずっと一緒にいてあげますから。約束ですよ」

 

「ありがとう、パンドラ。さて、それじゃあ一般人が脱走したみたいだし鎮圧に行くぞ」

 

「はいはい、わかりましたよ先輩」

 

「………………あれ? ちょっと待ってください先輩! 今私のこと名前で呼びましたよね!? 待ってくださいよジョシュア先輩!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、ずっと一緒にいるって約束したのになぁ」

 

 屋台が立ち並び、賑やかな声や音楽の聞こえる雑踏の中で、私は倒れ伏していました。

 

 空からは欲望の雨が降り、あたりから愚かな人々の争う声が聞こえる。

 

 少女たちの賑やかなおしゃべり声と元気に駆け回る音が響き、哀れな供物たちが化け物たちの餌となるために歩き回る。

 

 刺激的な旋律が響き渡り、その音を糧に灰色の結晶が成長し、人々に襲い掛かる。

 

 食欲にとりつかれた人間が人間を襲い、風船が歩き回る。

 

 死者の呼び声が木霊し、人々の傷口から植物が生え森が広がる。

 

 灼熱の太陽がすべてを焼き尽くし、無価値なものが這いずり回る。

 

 暗闇で永遠の追いかけっこが始まり、胎児は安らかに眠っている。

 

 あぁ、ここが、これこそが地獄なのだろう。

 

 私はもうだめだ、もう体の半分も感覚がない。

 

 体を抱き起される。だんだん目も霞んできた。

 

「せん…… ぱい……」

 

「もう、約束、守れそうにありません」

 

「ごめんなさい、約束破ったことないって、絶対守るって、言ったのに……」

 

「あなたに、嘘をついてしまいました……」

 

「でも、もしもこんな私を許してくれるのなら、一つだけ、お願いがあります」

 

「お願いだから、私の代わりに……」

 

 それはきっと、呪いの言葉

 

 でも、大切な、約束

 

「……大丈夫、絶対に守りますから」

 

 これは、崩れ行く世界と、未知の恐怖と出会う物語。

 

 その、前日譚だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『誰も知らないアブノーマリティ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、これはいい拾い物をしましたね」

 

 冷たい彼女の手には、古びたスクロールが握られていた。




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ユメノ、オワリ

 ……夢を見ていた気がする。長い、長い夢を。

 

『ずいぶんな寝坊助だな』

 

「……輪廻魔業」

 

 目覚めて一番最初に視界に入ったのが一番視界に入れたくないやつだった。

 

 忘れられない夢を見ていたというのに、こいつのせいで全部飛んでしまうところだった。

 

『そう睨むな。ほれ、お客さんだぞ』

 

「客?」

 

 こんなところで何を言っているのかと思ったが、懐かしい香りにつられて奴の指さす方向に目を向ける。

 

「……はっ?」

 

 そしてそこにいた存在を目の当たりにして、俺は思わず呆気に取られてしまった。

 

 白銀に輝く巨大な貝殻の玉座に座しているのはかの巨大すぎるイカ、『異界の主』だった。

 

 その巨大な黄色い瞳は俺をはっきりと映しており、なにやら懐かしむように目を細めている。

 

「……それで、いったい何のようなんだ?」

 

 俺の問いに、目の前の怪物は意外にもしっかりと答えてくれた。

 

 しかしそれは言葉でもなく、直接脳に語り掛けるようなものでもなく、ただただ自然といいたいことを理解することができていた。

 

 そう、たとえるのなら直感のようなものであった。

 

「再契約? さすがにもうしないよ」

 

「やめてくれ、アブノーマリティに気に入られたってうれしくない。正直そこの外道だけでも手に余ってるんだ」

 

「そんな悲しそうにするなよ、俺が悪いみたいじゃないか」

 

 それはまるで独り言を言っているみたいだったが、相手の反応を見るにちゃんと会話は成立していた。

 

 ……まぁ隣で輪廻魔業が爆笑しているのがしゃくだが。

 

「というか、お前って起きてていいのか? たしか目覚めたら大変なことになるって……」

 

「あぁなるほど、ここではあんたも夢を見ているようなもんなのか」

 

「それで、契約はもういいって言ってるんだが…… いやいや、代理人抜きの直接契約とか言われても困るから」

 

「えっ、じゃあ祝福を? いやいやロボトミーの祝福はろくなもんじゃいたたたたっ!? やめろ脳みそがかち割れる!!」

 

 ふざけるなこいつ!! これじゃあただの押し売りじゃないか!?

 

 ……畜生、まだ頭がくらくらする。いったい何をされたんだ?

 

 

『くくくっ、大丈夫だこれを見ろ。少しはいい男になったんじゃないか?』

 

「はぁどれどれ…… いやふざけるなよこれ!?」

 

 輪廻魔業がどこからともなく持ってきた鏡を見ると、そこには明らかにやばい状態の眼が映っていた。

 

 『O-05-i18』*1のギフト、“残滓”の揺らめく左目の炎のその奥に、異様な鍵穴が瞳の中に入っていた。

 

 いやいや、これってギフトの上書き!? いや重複か? どのみちやばいことになってしまったようだ。

 

 こんな怪物のギフトなんて、やばいものに決まっている。

 

「はぁ!? おいふざけるなってぉぃおいおいっ!? なんだこれ目玉の中に手が入ってくるぞ!?」

 

 いや明らかにまずいだろ!?

 

 ナニコレナニコレ!? あっ、もしかして穴の中が異空間につながっている!?

 

 あっ、指先に何か当たった!! 一体何が入っているんだよ!?

 

「……」

 

 とりあえず取り出したものを見て、見なかったことにして元に戻した。

 

 特徴的なおててが青い炎を噴出していたが、たぶん気のせい。もしかしたら他のもいるかもしれないけど全部気のせいだ。

 

『俺からのプレゼントはどうだ? 何もないとさみしいだろうから特別に用意してやったぞ?』

 

「正直最悪だよ!!」

 

 なんでこいつは余計なことをしてるんだよ!? 本当にふざけるな!!

 

 とりあえず文句を言おうとしたその時、『異界の主』が何かを伝えようとしてきた。

 

 とりあえずこいつにも言いたいことはあるが、耳を傾けることにする。正直無視したほうが怖いっていうのもある。

 

「……えっ、こっちに向かえと?」

 

 とりあえず『異界の主』が触手を向ける方向に目を向けるが、白い空間があるだけでなにもない。

 

 ……いや、目に見えないだけで何かがいるようにも感じる。

 

 それは確かに、俺を呼んでいる。

 

 その何かのほうに歩いていくと、俺の後ろを『輪廻魔業』と『異界の主』が付いてくる。

 

 ……いや、その玉座ホバー移動できたのか。

 

「さて、ここか」

 

 結局、向かった先にあったのはシンプルな白い扉だった。

 

 俺はそれを知っている。遠い昔に、見たことがある気がする。

 

『もう、行くんですね』

 

 ドアノブに手をかけると、背後から声が聞こえた。

 

 それは『輪廻魔業』でも『異界の主』でもなかった。だが、とても聞きなじみのある声だった。

 

『あの地獄に、どれだけ頑張っても報われない、絶望の監獄に』

 

『……わかってます。たとえどれだけ止めようとも、行ってしまうんですよね』

 

『きっとここで会えたことは忘れてしまうかもしれませんが、これだけは伝えさせてください』

 

『今度こそ、貴方に幸運がありますように』

 

『……さぁ、行ってらっしゃい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『誰も知らないアブノーマリティが、貴方を待っていますよ』

 

*1
『魂の種』



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日記

 ☆月 〇日

 

 今日から日記を書くことにする。

 

 というのも、今日不思議なことがあったからだ。

 

 あれは友人と遊びに行った帰り道、人気のない道を歩いていると目の前に不思議な風貌をした、風貌をした…… だめだ、思い出せない。

 

 たぶん人の形をしてたと思う、そんなやつに声をかけられたんだ。

 

 奴は不思議な契約書をもってきて、いきなり説明をし始めたんだ。

 

『不要なものの処分に困る、そんな経験はありませんか?』

 

『わざわざ捨てるのが面倒なもの、処分のしかたが大変なもの、処分するところを見られたらまずいもの』

 

『どうやって処分したらいいのかわからない、そんな日々とはもうおさらばです!』

 

『この契約書にサインしていただければ、私が責任をもって処分いたしましょう!』

 

『大きいもの小さいもの、重いもの軽いもの、鋭利なもの丸いもの、神聖なもの穢れたもの、死んでるもの生きてるもの、はては呪いから祝福まで』

 

『それらすべてが、あなたの前からきれいサッパリ消え失せるでしょう』

 

『使い方は簡単』

 

『まずこの契約書にお名前をサインしていただき、不要なものを思い浮かべながら不要なものリストにその名前を書くだけ!』

 

『それだけでどんな面倒事からもおさらばです!』

 

『この契約書を使えば、あなたの世界が変わるでしょう』

 

 ……俺は、奴のセールストークに押し切られ、その契約を結んでしまった。

 

 今思えばもっとよく考えて契約をするべきだった。

 

 なぜかというと、これが本当に不思議な力を持っていたからだ。

 

 この契約書に書いたものは本当に消えてしまったのだ。

 

 試しに捨てるのが面倒だったごみ袋を書いてみると、目の前で消えてしまった。

 

 びっくりして辺りを探してみたけれど、どこにも見つからなかった。

 

 正直これほどの力、代償が何だと言われてなかったらきっとむやみやたらと使っていたことだろう。

 

 今後これをどう使っていくかは保留だな。じっくり考えて使っていかないといけなさそうだ。

 

 

 

 

 

 ☆月 □日

 

 とりあえず一日様子を見たが、代償として何を払ったのかよくわからなかった。

 

 自分では気が付けないのか、それとも消したものが大したものではなかったから代償が小さすぎたのか。

 

 まだわからないが警戒するに越したことはないだろう。

 

 それにしても足の裏が痛い。今朝いつ買ったかすら覚えていないどっかのお土産を踏んでしまい怪我してしまった。

 

 はぁ、この怪我も契約書で消してしまえればいいのに……

 

 

 

 

 

 ☆月 ◇日

 まさか本当に契約書で怪我を治すことができるとは。

 

 昨日日記で書いたことが気になって試しに怪我を契約書に書いてみると、次の瞬間にはきれいさっぱりなくなっていた。

 

 これは本当にすごいものかもしれない。

 

 もしかしたらこれで、母さんの病気も治せるかもしれない。

 

 そう思って契約書に書いてみると、母さんの体調がよくなったって連絡が来た。医者に話を聞くと奇跡の回復だったそうだ。

 

 まさか本当にこんなことができるだなんて、もしかしたらこれはもっと人のために使えるかもしれない。

 

 追記

 

 母さんの病室に趣味の悪い花が飾ってあった。話を聞くといつの間には置いてあったらしい。

 

 俺が来るまでに誰か来ていたわけでもないみたいなので、誰かのいたずらだろう。まったく、暇なやつもいるもんだ。

 

 というか母さん、その花を珍しいからって理由で家に持って帰るのはやめてくれないか?

 

 

 

 

 

 ☆月 △日

 

 今日友人にゲームを薦められた。

 

 ゲームの名前は『Lobotomy Corporation』、職員が化け物に殺されないように管理しながらエネルギーを集めていくすごいゲームだ。

 

 こういうゲームはしたことがなかったが、ゲームシステムや世界観が面白くってついついはまってしまった。

 

 友人曰くこういう世界観が好きならSCPというのもおすすめらしい。

 

 正直そっちも気になるが、まずはこのゲームからクリアしていきたい。

 

 このゲームを教えてくれた友人には感謝しかないな。

 

 

 

 

 

 ☆月 〇□日

 

 ついついゲームに熱中しすぎて気が付けば長期休みが半分すぎてしまった。

 

 しかしそれに見合う面白いゲームであった。

 

 最初は一人でやっていたが、友人がせっかくだからと隣で解説しながらワイワイやっていると、面倒な残業時間も楽しく進めることができた。

 

 本当にあいつはいい奴だな。今度飯でもおごってやろう。

 

 そういえば、あいつに契約書を見られたときは焦ったな。

 

 何とか「かっこいいから買った」と誤魔化したが、若干怪しんでいたように感じた。

 

 さすがにこれの異常性には気が付いていないと思うが、これからはなるべく人目に触れないようなところに置いておこう。

 

 ……それにしても、この契約書はゲームに出てくるアブノーマリティみたいだな。

 

 いや、どちらかというとツールだろうか?

 

 だったらもう少し気を付けて使っていったほうがいいだろうな。

 

 さすがにごみ捨てが面倒だから使うのはよしておこうかな。

 

 どうせ使うなら、もっと人のためになることに使っていきたいな。

 

 

 

 

 

 ☆月 〇◇日

 

 やばい、これは本当にやばいものかもしれない。

 

 近場の山奥に不法投棄されているごみや最寄りの海辺のごみなど、色々なものを消していっていたが、これは本当にピンポイントで消せるからありがたい。

 

 しかしどれだけ消してもごみはまた新しく捨てられていく。

 

 ……もうこれは、大本から消していくしかないのだろうか。

 

 

 

 

 

 ☆月 ●△日

 

 ……大本を消し去ると、驚くくらいきれいになった。

 

 海辺のほうは漂っている分があるからまだなくならないが、山のほうはぱったりだ。

 

 海辺のほうも全体のごみを消してしまえば済むかもしれないが、さすがにそれは目立つだろうからまだ駄目だ。

 

 そういえばきれいにしたからかテレビでも取り上げられていたな。

 

 なんでも新種の植物や魚が現れたって、もしかしたらきれいな環境になったことが影響があるのかもな。

 

 さぁ、このままもっともっときれいにしていこう。もっと消して、もっときれいに。

 

 

 

 

 

 ★月 〇▽日

 

 この世で最も危ないごみとは何だろうか?

 

 そう、それは核廃棄物だ。

 

 あれほど危険なのに生活にどうしても必要だから増え続ける。

 

 ならその廃棄物はどうしたらいいのだろうか?

 

 ……そう、解決策はここにある。

 

 俺がこの契約書を使えばもっともっと世界はきれいになる。

 

 正直このことが世界にばれるのは怖かったが、誰も俺がやっただなんてわからないはずだ。

 

 ならば存分にこの力を使っていこう。

 

 すでに契約書には書いている。

 

 明日のニュースが楽しみだ。

 

 

 

 

 

 ☆月 ●★日

 

 正直、もっと明るいニュースが流れていると思っていた。

 

 邪魔な危険物が消えて、多少混乱はあれどみんなが喜ぶって。

 

 だけどそのニュースは別の話題にかき消されていた。

 

 もともと核廃棄物があったところには、未知の汚染物質が大量に置いてあったとのことだ。

 

 今自衛隊が必死にその物質を隔離しようと運び出しているとのこと。

 

 そういうことならこの契約書だろうと思い、さっそくその物質を書いたが、結果的にそれは消えなかった。

 

 むしろ、最初にあったところに戻っていて、テレビでは瞬間移動だなんだと大騒ぎになっていた。

 

 何度も試したが、結局消えるどころか元の位置に戻るだけ。

 

 ……まさかと思って母親が以前持ち帰ってきた花を契約書に書いてみると、あの花はどこかに消えていた。

 

 そのあとすぐに母が入院していた病院に連絡をしてみると、その花は母がいた病室にまた落ちていたらしい。

 

 他にもごみを書くたびに見かけたよくわからないお土産の置物のようなものも書いてみると、捨てたはずのそれが最初に見かけたところに戻ってきていた。

 

 ……これで確証が持てた。もしかして代償とはこれのことだったのか?

 

 俺はこの契約書を使うことが怖くなってしまった。

 

 きっとこれ以上使えば、被害はもっと広がってしまう。

 

 この契約書は、封印するべきだろう。

 

 下手に捨てて誰かの手に渡ったら大変だ。

 

 そう思って焚火に入れたが、この契約書だけが燃え残った。

 

 水没も、電気も、薬品も、思いつく限りのことはやったがそれでもだめだった。

 

 もう、自分が責任をもって保管するしかない。

 

 俺はあの契約書を秘密の場所に隠した。

 

 この日記にも場所を書くつもりはない。

 

 

 

 

 

 ☆月 ●×日

 

 ……今日、友人と一緒に遊びに行った時のことだ。

 

 あいつが目の前でトラックにひかれて、血がドバドバと出てて。

 

 周りに人気もないし運転手もひき逃げしやがったし、どうすればいいかわからなかったがどう考えても助からないってことだけはわかって……

 

 そこで、気が付けば手元にはあの契約書があって。

 

 俺はとっさにそれを使ったよ。こいつの全身の怪我を消してくれって。

 

 そしたら傷はきれいに消えてあいつは何とか生きてて、代わりに周りに不気味な花が咲いて。

 

 よかったって思ったのもつかの間、あいつに俺が契約書を使ったことがばれてしまった。

 

 あいつは察しがよかった。俺が使った契約書のせいで、最近の怪奇現象が起こっていることに薄々勘づいていた。

 

 俺は白状して全部話した。今までどう使ってきたか、それでそうなったか。

 

 あいつはかなり怒っていた。本気で俺のことを心配してくれていた。

 

 だけど俺はその時裏切られた気分になって、ついカっとなって、契約書にあいつの名前を書いてしまった。

 

 あぁ、今後悔しても遅いことは理解している。

 

 何とか呼び戻せないかいろいろ試してみたけど、結局ダメだった。

 

 あいつに使ってしまったことを後悔して、そして思い出を振り返ろうとしたときに、その思い出を思い出せないことに気が付いた。

 

 どれだけ思い出そうとしても、どれだけ長い付き合いだったかも。あいつの声も顔も思い出せるのに、思い出だけが思い出せない。

 

 ……そこで気が付いた、きっとこれが代償なのだと。

 

 俺があいつを消してしまったことに対する、重い罰なのだと。

 

 

 

 

 

 ★月 ■●日

 

 もう、どうでもいい。

 

 あいつのいないせかいなんでどうでもいい。

 

 せっかくだからすべてをけしてしまおう。

 

 せかいじゅうのごみをけして、ぜんぶきれいにしよう

 

 そおだ せかいお きねいに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  月  日

 

 正気に戻るのに随分と時間がたってしまった。

 

 もちろんそのころには、世界はもう手遅れで、何もかもが壊れてしまった。

 

 あぁ、崩れ逝く

 

 我が家も 学校も 駅も街も 国も大地も 世界も

 

 大切なものが この星が 世界が

 

 もはやこの肉体も いずれは字も書けない姿に変貌してしまうのだろう

 

 ならばこの日記に 後悔の名をつけて 終わりにしよう

 

 友よ すまなかった

 

 俺は君にひどいことをしてしまった

 

 どこに飛ばされたのかはわからないが

 

 どうかそこで 無事でいてくれ

 

 たとえどれだけ厳しい道のりだろうと

 

 俺が必ず 助けに行くから

 

 あぁ 聞こえる

 

 崩海の潮騒が

 

 すぐそばまで

 




後悔日記


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二週目について

 皆さん大変お待たせしました。

 

 次回からついに『誰も知らないアブノーマリティ』2週目を開始したいと思います。

 

 さて、この話では2週目についていくつかの変更点や注意点等を書いていきたいと思います。

 

★ アブノーマリティについて

 まずアブノーマリティについてですが、話の都合上残りのアブノーマリティを出すために、最初の『蕩ける恋』ちゃんがリストラされることとなりました。

 

 本当は『蕩ける恋』ちゃんは固定で行きたかったのですが、それをするとどうしても一体だけ紹介できなくなってしまうので、泣く泣く変更となりました。

 

 彼女の癒しを待ち望んでいた皆さんには申し訳ありませんが、よろしくお願いします。

 

★ Library Of Ruinaについて

 

 以前お伝えしましたが、Library Of Ruinaはエアプでやっていきます。

 

 一応ちょっとずつは進めているのですが、かなり時間がかかりそうなので更新のほうを優先していきたいと思います。

 

 なのでLibrary Of Ruinaで判明した設定などには対応できない可能性があるので、ご了承ください。

 

 ちなみにLimbus Campanyに関してはイベント含め最新章までクリアしています。(人格ストーリーに関しては全部は無理です、さすがに)

 

 

 

★ ワンダーラボについて

 私はワンダーラボについて途中で止まっていたのですが、改めて読んだ際にモチーフ被りが発生してしまいました。

 

 それがまだ弟とやっているゲームに出す前ならよかったのですが、すでに出ていたため、申し訳ありませんがモチーフ被りはそのままでやっていきたいと思います。

 

 ちなみにねじれ探偵も追えていないので、もしかしたら他にもモチーフ被りがあるかもしれません。

 

 

 

★ ALEPHクラスの演出について

 

 今までALEPHクラスの演出は、名前が変わるやつと同じように2回に分けてやっていましたが、少し演出を変更していきたいと思います。

 

 詳しい方法はまだ伏せますが、より楽しんでいけるようにしたいとおもいます。

 

 

 

★ 挿絵について

 

 また、これが最大の変更点になるのですが、アブノーマリティの挿絵を入れていこうと思っています。

 

 皆さんにより楽しんでもらえるように描いていますが、何分絵に関してはかなりの素人なので、恐怖心が薄れてしまうかもしれません。

 

 また解像度が絵によって変わったりとか、サイズがかなり小さいとかもあるのでPCとかだと見辛い可能性もあります。ご了承ください。

 

 また、挿絵を見るのが嫌な方は、お手数ですが挿絵の非表示をお願いします。

 

 

 

 それでは長々と失礼しましたが、少し時間を空けてから二週目に突入したいと思います。

 

 最後に挿絵の見本を置いておきますので、楽しんでいただけると嬉しいです。

 

 ……まぁ、あまり出来の良いものではありませんが。

 




Next O-04-i36『素敵な贈り物をありがとう』

【挿絵表示】


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コントロール部門 Ⅱ
プロローグ


長らくお待たせしました。

それでは二週目、開始します。


「これは私からの歓迎のプレゼントと思ってください」

 

 今日からこの施設で管理人をやることになった私は、彼女の言葉に少しだけ安堵した。

 

 どうやらこの施設では新しい効率的な管理方法を確立したらしく、私が来たのはちょうどそれを導入したタイミングだったらしい。

 

 今までこのような業務などしたことがなかったが、もしかしたら私でもできるかもしれないと思えた。

 

「それではこれからよろしくお願いします」

 

 そういうと彼女は笑みを浮かべたが、それはどこか仮面をかぶっているようで、冷たい印象を感じた。

 

 しかし彼女はそこで、少しだけ何かを思い出したかのような表情を浮かべる。

 

「あぁ、そういえば忘れていました」

 

 彼女はわざとらしく咳ばらいをすると、こちらに手を伸ばしてきた。

 

 一瞬何をしているのか意図がわからなかったが、しばらくして彼女が何を求めているのかようやく理解した。

 

 彼女に差し出された手を握る、ひんやりとしていて気持ちいい。どこか心が落ち着くような気がする。

 

「これからよろしくお願いしますね、管理人」

 

 そう言葉にする彼女は、うっすらと、ほんのわずかだが微笑んでいた。

 

 

 

 

 

『目を覚ませ、ジョシュア』

 

「……えっ!?」

 

 気が付いたら俺は、就業前の待機場所にあるベンチに座り込んでいた。

 

 この感覚、もしかして記憶が引き継がれているのか?

 

 今までも同じことがあっただろうに、なぜ今回だけ?

 

 疑問はいくつがあるが、それよりも重要な点が一つ。

 

(この声は『輪廻魔業』だな? どうしてお前の声が聞こえるんだ?)

 

『そんなものは決まっているだろう? 俺とお前の間に確かなつながりが生まれたからだ』

 

(つながり?)

 

『あぁ、そうだ。貴様に渡した俺の分体たちと俺自身の力、それを通じて今話をしている。まぁ話ができるだけだがな』

 

 ……確かに、今まで感じていたあいつの禍々しさは感じない。聞こえてくる声もあの威圧的な雰囲気が消えている。

 

『それよりもいいのか? お仲間が待っているぞ?』

 

 思わず周囲を見渡すと、あたりには三人分の人影があった。

 

「おいどうしたんだジョシュア? 初日からそんな調子じゃ大変だぞ?」

 

 そういって俺に話しかけてきた男はリッチ、苦楽を共にした仲間のはずなのに、どこがとげとげしい態度を感じる。

 

「……」

 

 後ろで黙ってこちらを見つめているのはシロ、彼女も仲よくしてきたというのに、昔のように誰にも興味がないかのような反応をしている。

 

 ……いや、少しは心配してくれているような気もするが。

 

「まぁまぁリッチ君、ジョシュア先輩もきっと緊張しているんですよ。ここは暖かく見守ってあげましょうよ」

 

「何だよその呼び方は、まぁ別にいいけどよ」

 

 そして最後に話をしているのはパンドラ、こいつはちょっとわからない。元から存在が珍獣のようなものだったから仕方がないのかもしれないが。

 

 ……やっぱりこれは、初日に戻ったということだろうか?

 

 だがもしそうなら、なぜ記憶が引き継がれている?

 

 周りの反応を見るに俺だけが引き継がれているようにも感じるが……

 

「まぁいい、俺たち4人は最初のメンバー。今から手探りで作業を行っていかないといけない、足手まといならここで休んでくれていて構わないぞ?」

 

「いや、大丈夫だ。ちょっと考え事をしていてな。これからどんな化け物を相手できるかを考えていたらワクワクしてしまってよ」

 

「ふっ、そんな減らず口が叩けるなら大丈夫だろう」

 

 そういうとリッチはこちらに手を伸ばしてきた。

 

 俺はその手を握ると、リッチに手を引かれ立ち上がる。

 

「最初は俺だったよな? さて、今日の作業相手は誰だったかな?」

 

「あぁ、今日の相手は『O-04-i36』だ、どんな奴かは情報がないらしいから、気を付けて行けよ」

 

 『O-04-i36』? 『T-01-i12』*1ではなく?

 

 ……やっぱり、俺の知っている常識は通じそうにないな。

 

 なら、これからも今までと同様に、油断せずにやっていくしかないな。

 

「さて、それじゃあ行ってくるか」

 

「あぁ、健闘を祈る」

 

「……頑張れ」

 

「ジョシュア先輩、お土産期待してますよ!」

 

「変なもの期待するなよ……」

 

 仲間たちからの言葉を受けて、収容室へと足を運ぶ。

 

 無機質な廊下を歩き、いつもの収容室の扉が見えてきた。

 

『……なんだ、緊張しているのか?』

 

「うるさい、黙っていろ。これはいつもやってる儀式なんだよ」

 

『くくっ、面白い奴だ』

 

 いつものように収容室の扉に手をかけてお祈りをしていると、『輪廻魔業』のやつがちょっかいをかけてきた。

 

 これからはこいつと一緒ということを考えると気が滅入る。だがやっていくしかないだろう。

 

「……よし」

 

 手にかけていた扉を開き、収容室の中に入っていく。

 

 

 

 

 

「……これは」

 

 収容室の中に入ると、そこにはいくつもの綿毛のようなものが浮遊していた。

 

 それはテニスボールほどの大きさをしており、風もないのにふわふわと浮いて空中を漂っている。

 

 そしてそれはこちらに気が付いたのか、ゆっくりと近づいてきているように感じた。

 

 ……やはり、ここにいたのは、誰も知らないアブノーマリティだった。

 

*1
『蕩ける恋』




 そういえば、今年のRTA IN Japanにロボトミーコーポレーションで走る猛者がいましたね。

 正直今ではこんなにも早くクリやできるのかと驚きました。

 さすがRTAともなればプレイヤースキルが桁違いにうまくてびっくりですね。

 それにしても、最後の落ちには笑ってしまいましたが……


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Days-1 O-04-i31『素敵な贈り物をありがとう』

「……で、いったいこいつらはどういうやつなんだ?」

 

 収容室の中にはソフトボール大の綿毛のようなものがふわふわといくつも漂っている。

 

 それはただふわふわと漂っているように見えて、こちらを認識したのか、ゆっくりと近づいてきているように感じる。

 

「なんだこれ、タンポポの綿毛か?」

 

 とりあえず作業を始めていこう。こういう時はとりあえず洞察作業で行ったほうがいいかな?

 

「さて、それじゃあ作業をするからあまり近づくなよ?」

 

『こいつらに言ってもわからないだろうに』

 

「うるさい、それくらいはさすがにわかってるって」

 

 くそう、いつものように独り言を言うと、余計なやつが反応してくる。

 

 正直やりにくい、もしかしてこれって俺のプライベート無くなった?

 

『まぁそう気にするな、俺とお前の仲じゃないか』

 

「殺し合った仲だけどな!!」

 

 本当にこの外道は面倒だ、こんな奴にかまってないで早く作業を終わらせてしまおう。

 

「……よし、それじゃあここらへんで終わりにするか」

 

 とりあえず収容室をきれいに清掃してみた。

 

 こいつらから感情を読み取ることは難しいが、何となく嫌がっている気がする。

 

 もしかしてあまりお好みではなかったか?

 

 それにしても俺が作業をしている間、この綿毛たちは特にアクションを起こす様子もなく、ただふわふわと俺の周りを漂っていただけだったな。

 

 気が付いたら何体か近づいてきている気がするが、まぁそれくらいか。

 

 ……いや、よく見たら周囲を漂う綿毛が少し増えてないか?

 

「おいおい、これは嫌な感じがするな……」

 

 なんだか嫌な予感がする。とりあえずこいつのことは無視して早く収容室から出たほうがいいな。

 

「さて、これでおさらばだ」

 

『おいジョシュア』

 

 とりあえず収容室から退出すると、輪廻魔業が俺に話しかけてきた。

 

 一体何の用だろうか?

 

「どうしたんだよ」

 

『そいつは連れて行っていいのか?』

 

「はぁ? そいつって…… うわっ!?」

 

 周囲を見回すと、俺の後ろから綿毛が一つついてきていた。

 

 何とか捕まえようとするも、綿毛は素早く動き回る…… というか、風圧でふわふわと逃げてしまう。

 

 ならば風を起こさないようにそーっと手を近づけるも、まるで同極の磁石のように一定の感覚で離れて行ってしまう。

 

「……仕方がない、諦めるか」

 

 もう一度収容室の中に入ることも考えたが、その結果さらに出てこられたら大変だ。

 

 正直これでも脱走扱いではないようだし、あの糞妖精のような感じだろうと考えてメインルームへと向かっていく。

 

「……はぁ、ただいま。正直ちょっと疲れた」

 

「よう、お疲れ。その様子だとあまりうまくいかなかったみたいだな」

 

 メインルームに戻ると、まずはリッチが声をかけてきた。なんだかちょっとつんつんしているけど優しい感じ、ちょっと懐かしいな。

 

「あぁ、洞察作業は避けたほうがよさそうだ」

 

「了解、次は俺が行ってくる」

 

 俺の話を聞くと、リッチはさっそく『O-04-i31』の収容室へと向かっていった。

 

「……あれ、ジョシュア先輩。その肩のあたりにいるのはなんですか?」

 

「あぁ、こいつはさっきの収容室からついてきちまったんだよ。現状害はなさそうだがあまり刺激するなよ?」

 

「えぇ~、ちょっとくらい……」

 

「訂正、これ以上近づくな」

 

「ひどい!?」

 

 謎にショックを受けているパンドラを尻目に、シロのほうへと向かう。

 

 シロはかつてのように、何事にも興味がないかのような表情をしているが、俺が近づくと少しだけ表情が柔らかくなった気がした。

 

 ……さすがに希望的観測だったかもしれない、よく見たら全然変わってない気がする。

 

「よう、調子はどうだ? ……って、まだ作業もしてないしわからないか」

 

「……」

 

「そうだ、甘いものは好きか? 今ちょうどチョコレートを持ってるから、それでよかったら……」

 

「もらう」

 

「……えっ?」

 

 なんと意外にもシロは返答してくれた。

 

 前回の週でよく甘いものを食べていたから好きだろうとは思ってはいたが、これほど食いつきがいいとは思わなかった。

 

「そうか、じゃあやるよ」

 

「……ん」

 

 彼女はチョコを受け取ると、さっそく小さな口でかじりついた。

 

 表情は変わらないが、どことなく嬉しそうにしている。やっぱりこういうところはかわいいな。

 

「よう、戻ったぞ」

 

「おう、お疲れ」

 

 シロとしばらく話をしている間にリッチが帰ってきた。

 

 どうやら作業は無事に終了したようで、傷一つなく帰ってきていた。

 

「……おい、それって」

 

「あぁ、さっきの作業でついてきた」

 

 そして彼の周囲には、俺と同じように綿毛が漂っていた。

 

 やはりあの糞妖精と同じように作業後についてくるタイプらしい。とりあえず今日はまだしも明日から気を付けたほうがいいかもしれないな。

 

 ……いや、知識に引っ張られてやらかすのはごめんだな。他の条件がないか気を付けたほうがいいな。

 

「あぁ、俺の時もついてきてたな。ほら…… って、あっ」

 

 俺の周囲に漂っていた綿毛はふわふわと俺から離れて、天に上がっていって徐々に小さくなって消えてしまった。

 

「消えた……」

 

「あぁ、時間がたったら消えるのか」

 

 二人で消えた綿毛について話をしていると、近くでフルフルと震えている奴がいることに気が付いてしまった。

 

 しまった、これはもしかしたらやつがやらかすかもしれない。

 

「二人ばっかりずるいです、私も作業して綿毛ちゃんをゲットしてきますね!!」

 

「おいパンドラ!!  ……行っちゃったよ」

 

 声をかけるよりも前にパンドラのやつは飛んで行ってしまった。

 

 まったく、あいつはこの週でもせっかちだな。

 

「はぁ、ちなみにお前は何の作業をしてきたんだ?」

 

「あぁ、本能作業だ。とりあえず水をぶっかけてやったら喜んでたぞ?」

 

「なるほど、次からは俺もそうしようかな」

 

 そのあとはしばらく関係のない話をしていると、しばらくしてパンドラのやつが帰ってきた。

 

 ……でもなんで傷だらけなんだ?

 

「ふえぇぇん、どうしてジョシュア先輩には綿毛が付いて私にはつかないんですかぁ」

 

「……ちなみに作業は?」

 

「えっ、ジョシュア先輩と同じ洞察作業ですけど?」

 

「だからさっきそれはやめたほうがいいって言っただろうが……」

 

 とりあえずこいつは作業に失敗して、ついでに綿毛もついてこなかったらしい。

 

 まぁとりあえず、これだけ失敗しても大丈夫なようだし、作業ダメージ自体は大丈夫そうだな。

 

 とりあえず即死にだけは気を付けていったほうがいいな。

 

「さて、この調子で今日のノルマを終わらせてしまおう」

 

「そうだな、さっさと終わらせて部屋に戻ろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジョシュア先輩、見てくださいよ! かわいいですよ!」

 

 この週に入ってから結構時間がたち、ついに試練が来る日数になった。

 

 そんなときにこの新人職員であるフリッツは、のんきにも作業でついてきた『O-04-i31』を嬉しそうに見せびらかしてきた。

 

「まぁそうだな、確かにかわいいがそいつもれっきとしたアブノーマリティなんだから気をつけろよ」

 

「はい、もちろんわかっていますよ」

 

「わかっているならいいが…… っと、どうやら試練のお出ましだ。青空の試練だから気をつけろよ」

 

「はい、わかりました!!」

 

 フリッツは元気よく返事をすると、警棒をもって俺についてきた。

 

 ……正直、もうちょっとましな装備を付けてやってもいい気がするが、それは俺の仕事ではないから考えても仕方がないか。

 

「よし、気をつけろよ!」

 

「はい、ってうわぁ!?」

 

「フリッツ!!」

 

 元気な返事とは裏腹に、さっそく青空の黎明の攻撃を受けてよろけるフリッツに、急いで駆け寄る。

 

 しかし先ほど攻撃を受けたにしては、傷が見当たらない。どういうことだと考えていると、フリッツが口を開いた。

 

「大丈夫ですジョシュアさん、さっき綿毛さんが僕を守ってくれましたから」

 

「『O-04-i31』が……?」

 

 よくみると、フリッツの周りにいる綿毛が2体に増えている。

 

 ……これは、あまり攻撃を受けないほうがいいかもしれないな。

 

「フリッツ、あまり攻撃を受けるなよ」

 

「はい、でも綿毛さんがいるから大丈夫ですよ!!」

 

「おい、だからそいつにあまり頼りすぎるな!! ……くそっ」

 

 俺の制止を無視して青空の黎明に向かうフリッツを追いかけようとするが、俺のほうにも黎明が向かってきた。

 

 とりあえず黎明を叩き落とし、急いでフリッツのほうへと向かう。

 

 しかしフリッツは複数の青空の黎明の攻撃を受けて防戦一方だった。

 

 何とか防いでいるも傷を受けるたびに綿毛が増えて、それが邪魔でうまく動けないようだ。

 

「くそっ、フリッツから離れろ!!」

 

 なんとか近づいて黎明を少しずつ落としていくも、すべてを倒すころにはフリッツは綿毛に埋もれて羊のようになっていた。

 

「くそっ、フリッツ!!」

 

 綿毛を手で払いフリッツを中から引きずり出す。

 

 しかしフリッツは苦悶の表情ですでにこと切れていた。

 

「……畜生」

 

 フリッツの口元を見ると、どうやら綿毛が喉までぎゅうぎゅうに詰まってしまっていたようだ。

 

 ……やっぱり、アブノーマリティに安全な奴なんていない。

 

 俺は改めてそう思い知らされた。

 

 

 

 

 

 僕が一人で森の中を探索していると、そこでふわふわしたかわいい綿毛に出会ったんだ。

 

 そいつは人懐っこくて、僕の周りについてきたんだ。

 

 なんだかそれがとっても嬉しくて、そいつと追いかけっこしたしして遊んでいたら、転んでけがをしてしまったんだ。

 

 そいつは僕の傷に近づくとまるでよしよししてくれるみたいに傷にすりすりしてきたんだ。

 

 最初はくすぐったかったけど、気が付くと痛みがなくなってて傷もなくなっていたんだ。

 

 そしてそいつは2匹に増えていて、僕の周りを嬉しそうに飛び回っていた。

 

 ……もしかしたら、こいつらは神様からの贈り物なのかもしれない。

 

 僕は綿毛たちを抱きしめると、心の中でこうつぶやいた。

 

 素敵な贈り物をありがとう、って。

 

 

 

 

 

 O-04-i31『幸せの贈り物』

 



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O-04-i31 管理情報

 『O-04-i31』は植物の綿毛のような形をしたアブノーマリティです。しかし現在までに種子等の確認はされていません。

 

 『O-04-i31』への作業後に綿毛が付きまとうことがあります。その場合は物理攻撃に対して注意を行ってください。

 

 周囲に綿毛が多い職員はすぐに作業を中止し、戦闘区域から離脱してください。

 

 『O-04-i31』を枕に詰めて眠るという夢は、まさに一夜にして消えてしまいましたね。

 

 

 

 

 

『幸せの贈り物』

 

 

【挿絵表示】

 

 

危険度クラス ZAYIN

 

ダメージタイプ R(1-2)

 

E-BOX数 10

 

良い 6-10

 

普通 3-5

 

悪い 0-2

 

 

 

◇管理方法

 

1、作業結果が普通以上の場合、職員の周りに綿毛が発生した。

 

2、綿毛は一定時間の間、職員をRダメージから保護した。

 

3、職員がRダメージを受けるたびに綿毛は増え続け、最終的に窒息した。

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 普通

2 普通

3 普通

4 高い

5 高い

 

洞察

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

愛着

1 高い

2 高い

3 普通

4 普通

5 普通

 

抑圧

1 普通

2 普通

3 低い

4 低い

5 低い

 

 

 

◇脱走情報

 

非脱走アブノーマリティ

 

 

 

◇ギフト

 

綿毛(口2)

 

勇気+2

 

 綿毛のたんぽぽ。

 口にくわえると腕白だったころを思い出させてくれる。

 

 

 

◇E.G.O.

 

 

・武器 綿毛(メイス)

 

クラス ZAYIN

 

ダメージタイプ R(7-10)

 

攻撃速度 普通

 

射程 普通

 

 タンポポの綿毛を模したメイス。

 普段はふわふわだが、殴るときだけカッチカチになる。

 

 

 

・防具 綿毛

 

クラス ZAYIN

 

R 0.7

 

W 0.9

 

B 1.0

 

P 2.0

 

 タンポポを模した防具。

 着用していると春の陽気を感じられる。

 

 

 

 余談(読み飛ばし可)

 

 はい、というわけで久しぶりの新規アブノーマリティですね。

 

 実に前回のものから軽く2年ほどたってしまいました。

 

 正直これだけ時間がたっていてもまだ待ってくださっていた方々には本当に感謝の気持ちしかありません。

 

 お待たせしました、そしてありがとうございます。

 

 さて、こんなにも間が空いてしまったので、正直ちょっとキャラの書き方とかアブノーマリティの表現とか、あと話の流れとかがちゃんとできているがちょっと心配でした。

 

 なので多少違うところもあると思いますが、ご了承ください。

 

 さて今回のアブノーマリティは、かなり優しい部類になります。

 

 管理方法もそうですが、このアブノーマリティの在り方が優しいほうなんですよね。

 

 誰かが傷つくと近寄って癒し、傷の肩代わりをして自身を増やしていく。

 

 しかしこれが反応するのは傷ではなく痛み、そのため窒息してしまった場合に喉を癒そうとして結果、窒息を引き起こしてしまうんですね……

 

 ……うん、いつものアブノーマリティだな!!

 

 さて、ちょっと2週目は1週目と違って更新頻度が落ちてしまうと思います。

 

 その分定期的に更新をできるように頑張っていきます。

 

 ちょっと間隔は空いてしまいますので、その分考察とか楽しんでもらえたらいいなって思います。

 

 感想欄で予想して「この人鋭いなぁ~」ってにやにやしたりするの、好きなんですよね。

 

 もしよかったら、気軽に感想欄に書いてもらえると嬉しいです。

 

 それではこれからもまた、よろしくお願いします。




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Days-02 T-06-i73『思い出は色褪せていく』

「私ルビー、よろしくね♪」

 

「……マオだ、言っておくが俺の足を引っ張るなよ」

 

「あら、そんな怖い顔をしてどうしたの? せっかくのイケメンが台無しよ?」

 

「うるせぇ、黙ってろおっさん!!」

 

 今目の前で言い争いをしているのはルビーとマオ。二人ともかつて一緒に仕事をしてきたが、やっぱりかつてのことは覚えていないらしい。

 

 二人は今日から新しい職員として配属されてきた。

 

 なんというか、またこの二人と出会えたことをうれしく思う。

 

「おう、二人ともよろしく頼む。とりあえず二人とも順番に『O-04-i31』*1に作業を頼む。俺は新しいアブノーマリティに作業をしてくる」

 

「わかったわ、それじゃあ行きましょうか」

 

「てめぇが仕切るな、全く……」

 

 とりあえず今日の予定を伝えると、二人とも作業に向かっていった。

 

 さて、それじゃあ俺も作業に向かうとするか。

 

『おいおい、久しぶりに会ったっていうのに、随分淡泊だな』

 

「仕方ないだろ? あいつらにとって俺は初対面なんだから」

 

『そんなことは気にせず、自分がやりたいようにやればいいだろう?』

 

「あいにくだが、これが俺のやりたいことなんだよ」

 

『なんだつまらん』

 

 頭の中で輪廻魔業が騒がしいが、軽く流して廊下を歩く。

 

 確かにあいつらとはもっと関わりたいが、別に焦る必要はない。

 

 『O-04-i31』は現状、管理を間違えなければ安全だ。それにあの二人はかつて長いこと生き残った優秀な二人だ。特にマオは最後まで生き残っていた。

 

 今回も大丈夫とは言えないが、それでも心のどこかでそう信じてしまう。

 

「……さて、たどり着いたな」

 

 気が付けば『T-06-i73』の収容室の目の前にたどり着いていた。

 

 いつものように収容室の扉に手をかけて、お祈りをする。

 

 そして思い切って扉を開けて、収容室の中に入っていった。

 

 

 

 

 

「……なんだこれは?」

 

 収容室の中は、その全体がセピア色になっていた。

 

 これは収容室の色が変わっているのだろうかと思ったが、どうやらそうではないらしい。

 

 自分の手足を確認すると、手足や服装までもがセピア色になっていた。

 

 ……どうやらこれは、空間そのものがセピア色になっているらしい。

 

「色の変化以外には特に異常はなさそうか? 現状何か問題があるようには思えないが……」

 

『相棒、これはある意味猛毒だ。余り長居はしないほうがいい』

 

「……わかった」

 

 輪廻魔業がこんなアドバイスをするとは思ってもみなかったが、ここは素直に従うことにする。

 

 いつも茶化すようなことを言うこいつだが、まじめに警告をするということは本当によくないのだろう。

 

「さて、何の作業をするべきか……」

 

 輪廻魔業のアドバイスに従って早めに作業を終わらせようとするが、正直如何しようかあまり思い浮かばない。

 

 どの作業をしたらいいかわからない時によくやる作業があったはずだが…… まるでそこだけ風化してしまったかのように思い出せない。

 

 いや、これはまずくないか? あまり頭が働かないぞ。

 

『……相棒、もう時間だ、早く出たほうがいい』

 

「あ、あぁ、そうさせてもらう」

 

 どうやら作業が終了したようだ。俺自身は何かしたわけではなかったが、どうやら勝手にやらせていたことが本能作業扱いにされていたらしい。

 

 頭の中に響く声の主に従い収容室から出る。

 

 その声の主について思い出そうとしたが、まるでその情景が一枚の写真のように思い描かれ、徐々にセピア色になって輪郭がぼやけ、そして何の写真であったかが判別できなくなってしまった。

 

 とりあえずメインルームに向かって歩き出す。

 

 視線を下に向けると、なぜか俺の体だけセピア色になっていた。

 

「ジョシュア、戻ったか…… おい、どうしたんだその体は!?」

 

 メインルームに戻ると、そこにいた人物に声をかけられた。

 

 頭の中でその人物について思い出そうとするが、どの写真も色褪せてしまい、セピア色になっていた。

 

 彼とはたくさんの思い出があったはずだが、どれも色褪せ、判別できない。

 

「シロ、パンドラ、お前ら手伝え! シロは精神汚染中和ガスの用意、パンドラは担架をもってきて俺と一緒にこいつを運び出すぞ!」

 

 とりあえずうまく頭が回らない俺は、彼らの言う通りに医務室まで連れていかれ、そこでしばらくの間休憩をとることになった。

 

 リッチとシロ、あとついでにパンドラの献身のおかげで何とか俺は色と思い出を取り戻し、精神も回復していた。

 

『なるほど、時間経過で戻ったか。このクリフォト抑止力というものに感謝するんだな』

 

 輪廻魔業の言葉に思わず恐怖する。その言い方からすると、まるで本来は戻ることがないかのようだ。

 

 ……そうだ、俺はこの状況に慣れているが、ここにいる奴らはクリフォト抑止力で力を押さえられているんだ。

 

 もし本来の力を振るうことができれば、より恐ろしい被害を出す存在が多くいるということを覚えておかなければならない。

 

「……はぁ、いきなりやばそうなやつに出会っちまったな」

 

 

 

 

 

「……いや、いったいどういうことだよ?」

 

 中央部門も解放されたころ、俺は久しぶりに『O-04-i31』の作業を任せられた。

 

 奴の危険性についてはすでに知っていたが、それでも管理を間違えなければ安全であることは知っていた。

 

 しかし、その管理方法を思い出そうとすると虫食いになってしまう。しかも、俺だけでなく職員全員がだ。

 

 何らかの異常が発生しているとされ、とりあえず俺が収容室に向かうことになったのだが、そこで俺は目を疑うものを見た。

 

 なんと、『O-04-i31』がセピア色になっていたのだ。いやそれだけでなく収容室も所々がセピア色になっている。

 

 ……何となく、犯人に目星がついた。

 

 前回作業を行った職員を確認すると、その職員は『O-04-i31』に作業を行う前に『T-06i73』に作業を行っていた。

 

 さらにその職員はセピア色が治る前に作業を行ったらしい。

 

 とりあえず『O-04-i31』に作業を行っていく。

 

 収容室に水を撒いてやるととても喜んでいる様子だった。

 

 そして作業を終えると、いくつかの『O-04-i31』が色を取り戻して、その内の一匹が俺についてきた。

 

 そうだった、こいつは作業をうまく終わらせるとついてくるんだった。

 

 とりあえず今回分かったことを管理人伝えると、その後何度も『O-04-i31』に作業が行われ、最終的にはその色と管理情報すべてを取り戻すことができた。

 

 

 

 

 

 そこは最初、一つの部屋に広がる異常だった。

 

 ただ限定された空間だけがセピア色に染まる、それだけの異常現象だと、誰もが思っていた。

 

 しかしある時、その空間に長いこと留まった職員がセピア色になってしまった。

 

 そこからは、あっという間だった。

 

 異常は部屋から建物全体へ、建物から周囲へ、そしてついには町一つがセピア色になってしまった。

 

 我々はこの状況をどうにかしようと町を完全に封鎖し、町について調べた。

 

 しかし、町についての情報は全て消えてしまっていた。

 

 だが、町の封鎖で誰もが安心していた、これ以上はこの空間も広がらないと。

 

 ……だれが、人間だけにセピア色が移ると思ったのだろうか。

 

 セピア色は人だけでなく鳥や虫、ネズミたちに移っていき、そしてその範囲は爆発的に広がっていった。

 

 今では、この星にその空間から逃れるすべは存在しない。

 

 私も今は、この空間の中でゆったりと椅子に座ることしかできない。

 

 思い出は色褪せていく、しかし、それはある意味幸せなのかもしれない……

 

 

 

 

 

T-06-i73『思い出隠し』

 

*1
『幸せの贈り物』




なんかやばいことになっている気がしますが、あくまで施設内では安全です。


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『T-06-i73』管理方法

 『T-06-i73』は範囲内をセピア色に変化させる空間異常です。

 

 『T-06-i73』に対して作業を失敗した場合、その職員はセピア色になります。セピア色になった職員は自身の色が元に戻るまで他の収容室には入らないようにしてください。

 

 セピア色になった職員は徐々に思い出を失っていきますが、時間が経過すれば元々のように思い出すことができます。

 

 セピア色になった職員を撮影した写真は現像してはいけません。その場合現像した写真はセピア色に侵食されます。侵食された写真は必ず焼却処理してください。

 

 どうか忘れないでください、あなたの大切な思い出を、忘れられない思い出を、忘れてはならない思い出を。

 

 どうか思い出してください、忘れてしまった思い出を、忘れたくない思い出を、忘れてはいけなかった思い出を。

 

 そして、どうか覚えておいてください。もし忘れて思い出せないのなら、この思い出の場所に、私がちゃんと保管しているということを。誰にもばれないように、こっそりと。

 

 

 

 

 

『思い出隠し』

 

 

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危険度クラス ZAYIN

 

ダメージタイプ W(1-2)

 

E-BOX数 10

 

良い 9-10

 

普通 3-8

 

悪い 0-2

 

 

 

◇管理方法

 

1、作業結果が普通以下の場合、その職員はしばらくの間セピア色になった。

 

2、セピア色になった職員は、慎重が少し下がり、MPが徐々に減少した。

 

3、セピア色になった職員が他の収容室に入った場合、その収容室は徐々にセピア色になった。

 

4、セピア色になった収容室にいるアブノーマリティの情報は、徐々に隠されていった。

 

5、セピア色になった収容室は、何度か作業を行うことで元の状態に戻った。

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 普通

2 普通

3 低い

4 低い

5 低い

 

洞察

1 高い

2 高い

3 高い

4 高い

5 高い

 

愛着

1 普通

2 普通

3 低い

4 低い

5 低い

 

抑圧

1 高い

2 高い

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

非脱走アブノーマリティ

 

 

 

◇ギフト

 

セピア(頭2)

 

慎重+2

 

 セピア色の花の髪飾り。

 どうか忘れないでください、あなたの大切な人との思い出を。

 

 

 

◇E.G.O.

 

 

・武器 なし

 

 

 

・防具 セピア

 

クラス TETH

 

R 1.2

 

W 0.4

 

B 1.5

 

P 2.0

 

 古い時代の普段着を模したセピア色の防具。

 たとえ忘れてしまっても、それは必ず思い出すことができます。

 

 

 

 余談(読み飛ばし可)

 今回はかなりやばそうな雰囲気を出していましたが、まさかのZAYINです。

 

 なぜって思う人もいるかもしれませんが、誰も死なないし、一応脱走もしないのでZAYINです。安全なんです!!

 

 まぁ、この空間自体ちゃんと管理すれば無害なので仕方ないですね。最初は人間だけにしか効果がありませんが、範囲が広がりすぎてそれ以外にも影響を及ぼしてしまうんですね。

 

 その結果が、他のアブノーマリティの収容室への侵食で、人間以外の生物のセピア化ですね。

 

 このアブノーマリティは最初のほうは管理が大変そうですが、中盤以降からは大丈夫そうですね。

 

 大体セピア色になるのは20~30秒程度で、この状況で他の収容室に入るとその収容室は徐々にセピア色になります。

 

 大体セピア色になった場合20~30秒ごとに管理情報が一つ、基本情報が隠れた場合二つずつ隠されていきます。

 

 セピア色になった場合は作業を行うたびに情報が解放されていきます。もしも管理情報が多い場合は地獄ですね。ちなみにそれ以外の方法では情報を元に戻すことができません。

 

 まぁ、正直ちょっと面倒なだけのアブノーマリティです。まぁもしかしたら有効活用できなくもないかもしれませんが、その程度です。

 

 さて、今回は少し遅れてしまいましたが、ちょっとライブラリの攻略が一気に進んだおかげでちょっとやりすぎてしまったからですね。

 

 とはいえまだ都市の星になったばかりですが、続きが楽しみで仕方がないですね。

 

 今回はこの辺で、 まだまだやばいアブノーマリティは出てきませんが、今後も楽しみにしていてください。

 




Next F-01-i63『お腹いっぱい召し上がれ』

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Days-03 F-01-i63『お腹一杯召し上がれ』

……一応閲覧注意?


「ジョシュアちゃん大丈夫? 昨日は大変だったんでしょう?」

 

「あぁ、もう大丈夫だ。ありがとうルビねぇ」

 

 今日も最悪の業務が始まる。

 

 昨日のことがあったからか、ルビねぇに出会って早々心配された。

 

 彼女は前回の時からこういった気配りのできる人だった。まだ今は出会ってそれほど時間は経ってないが、また彼女に会えたことは素直にうれしかった。

 

「あら、さっそくあだ名で呼んでくれるなんて嬉しいわ。なんだか距離が縮まったみたいで」

 

「あぁ、あんたとは仲良くしたいと思ってたんだ。それとも嫌だったりするか?」

 

「まったく、そんなわけないじゃない! ジョシュアちゃんみたいないい男とお近づきになれてとっても嬉しいわ」

 

「ははっ、そいつはよかった」

 

 こんなにも気さくに話しかけてくれるのは結構うれしい。まだリッチやシロとは壁を感じるし、マオもまだまだ仲良くなれそうにない。

 

 パンドラ? あれは知らん。

 

「それで、この仕事には慣れたか?」

 

「正直化け物の相手をするって聞いてたから覚悟してたけど、ちょっと拍子抜けしちゃったわ」

 

「油断するなよ、どんな奴にも命の危険があるかもしれないし、これからどんどんやばい奴が出てくるぞ」

 

「あらやだ、それじゃあ油断しないように気を引き締めていかないといけないわね」

 

「頼むぞ、それじゃあ今日も頑張ろうぜ」

 

「お手柔らかにお願いするわね」

 

 ルビねぇと別れて今日収容されたアブノーマリティがいる収容室へと向かう。

 

 今回収容されたアブノーマリティは『F-01-i63』だ。

 

 今回では初めてのフェアリーテイルカテゴリー、知ってる童話ならある程度管理方法を予想できるかもしれないが、前回の胃袋野郎みたいな全く知らないやつに来られるとお手上げだ。

 

『随分と心配されていたが大丈夫か? 今回の作業は俺が変わってやろうか?』

 

「黙ってろ、心にもないことを言うんじゃない」

 

『ぎゃはははっ、ばれてたか』

 

 輪廻魔業が無駄に煽ってくる。まったく、これから集中したいというときにうるさい奴だ。

 

 まぁ基本的にこいつは敵と考えたほうがいいし、気にしないほうがいいな。

 

 さっそく収容室の目の前にたどり着く。頭の中の雑音を意識から除外し、いつものようにお祈りをする。

 

 そして手をかけていた扉を開き、中に入っていった。

 

 

 

 

 

「なんだこの匂い…… 随分と甘ったるいな」

 

 収容室の中に入ると、そこにはむせかえるほどに甘い匂いが充満していた。

 

 とても甘くて思わず食べてしまいたいという衝動にかられそうになる。この匂いは…… 桃か。

 

「こんにちは、初めまして。貴方様が今宵のお客様ですね」

 

 そして収容室の真ん中にたたずむ存在がこちらに声をかけてくる。

 

 それは銀色の髪と透き通るような肌を持つ神秘的な姿をした女性だった。

 

 銀色の髪は上のほうは二つのお団子でまとめ上げ、下のほうはおさげのように結っている。

 

 藍色のチャイナ服を身にまとい、髪に桃を象った髪飾りをつけている。

 

 そして透き通った白い肌からは、先ほど感じたむせかえるほどの甘い匂いが撒き散らされ、少しでも気を抜くと理性を失ってしまうかもしれないと感じてしまう。

 

『ほほう、こいつは面白い』

 

「……? お客様、どうかなさいましたか? 私がなにか粗相をしてしまいましたでしょうか?」

 

 輪廻魔業の評価に思わず相手を凝視してしまったが、どうやら不審に思われてしまったようだ。

 

 前回のことがあるから、こいつの話もある程度は信用できてしまう。

 

 できればこいつに振り回されたくはないが、前回のように何かがあるほうが困る。

 

「いや、別にそういうわけではないが、というか俺は別にお客様じゃないぞ」

 

「いえ、人間様は等しく私のお客様でございます」

 

 とりあえず『F-01-i63』に返答をすると、彼女はきっぱりと言い放った。

 

「私は赤子のころから桃の汁のみで腹を満たし、生涯一度も桃以外を口にしたことはありません」

 

「その桃も、桃源郷でとれたものの中から選りすぐりの最上級品のみをいただいてきました」

 

「また、肉質を最上のものとするために適度な運動やストレッチ、マッサージやアロマ等によるリラクゼーション等々、努力は全く惜しまず磨き上げてきました」

 

「さらには知識においても最上級の教養を身に着けております」

 

 彼女は早口でまくし立てるように自己アピールを始めた。正直洪水のように怒涛の勢いだったからうまく聞き取れなかった部分もあったが、さっきとんでもないことを言ってなかったか?

 

「それではこちらに、今までにない極上の体験を提供いたします」

 

 そういうと彼女は服をはだけさせ首筋を見せつけてきた。

 

 その白い肌は証明に照らされて、まるで誘蛾灯のようにきらめいていた。

 

 甘く香る桃の匂いが一層引き立ち、そして俺の心を引き寄せる。

 

 俺はこの誘いを……

 

 

 

 

 

 振り切った。

 

「さぁさぁ、一思いにがぶっといっちゃってください! ハリーハリー!」

 

 『F-01-i63』が待ちきれないのか、顔を紅潮させながら囃し立ててくる。

 

 ……こいつ、すでにキャラが崩れていないか?

 

「あれ、どうしたのですか? 私を一思いに頂いちゃってくださいよ!? ほらがぶりと一気に!!」

 

「いや、人を…… 人? を食べるわけがないだろうが常識的に」

 

「それなら問題ありません! なぜなら私は人間様に食べていただくためだけに生まれ、育てられてきたのですから! ちょっと人と似てて意思疎通ができるだけの家畜ですから!!」

 

「いやそれもはや人間でしかないから! というかたとえ違ったとしても食べたくねぇよ気持ち悪い!!」

 

『ぎゃはははっ、最高だなこれ!!』

 

 畜生、こいつが面白いって言ってた理由はそういうことかよ!!

 

 ただただ愉快なだけじゃないか!!

 

「はて、もしかしてお客様はこういった特別なお食事は初めてでございましたか? よっしゃあ童(てい)いただきぃ!! ……それではお客様はこういったお食事に不慣れということで、最初は初心者向けのお茶をご用意させていただきますね」

 

「いやいや、今更取り繕われても絶対食べないから安心してくれ」

 

「大丈夫です、飲むだけですから! 食べるよりハードル低いですから!!」

 

「どうせ真っ赤で生ぬるい飲み物なんだろ、騙されんぞ!!」

 

「大丈夫ですから! 赤くないしとっても甘くてフルーティですから!」

 

「やめろ放せ! 足に縋りつくな、鼻水と涙を俺の服で拭くな!!」

 

「嫌です、お茶を提供させていただくまでここでみっともなく泣き続けます!!」

 

「畜生、めんどくせぇ……」

 

 なんだってこいつはこうも必死なのか、正直相手するのも疲れてきた。

 

 頭の中で輪廻の野郎が爆笑してるし、もうさっさと誘いに乗って終わらせるしかないか。

 

「……本当に大丈夫なんだろうな?」

 

「はい、初心者の方向けにご用意できる最高のお茶でございます。もちろん人体の一部なんて入っていないので安心してください!」

 

「…………そこまで言うなら、一度出してみてくれ」

 

「承知いたしました」

 

「うわっ、急に冷静になるなよ!?」

 

 本当に何なんだよこいつは……

 

 それにしてもあんな高そうなカップ、どこから取り出したんだ?

 

 でもカップだけでティーポットも出さずにどうやってお茶なんていれるんだ?

 

 すこし興味がわいてきたので、『F-01-i63』の行動をじっくりと観察してみる。

 

 すると『F-01-i63』はなにやらもじもじとし始めた。

 

「あのぉ、そんなにも情熱的に見つめられると、さすがに私も恥ずかしく思いますので、出来れば後ろを向いていてほしいのですが……」

 

「あぁ、それは悪かったな。了解した」

 

 とりあえず後ろを向いてみないようにする。

 

 しかし何か変なことをされると困るので、しっかりと耳を澄ませて異常を感知できるようにする。

 

 するとどうやらさっそくお茶を入れる準備を始めたようだ。しっかりを聞き逃さないようにしなくては……

 

 

 

 

 

 カップを床に置く音

 

 

 

 

 

 衣擦れの音と床に布の落ちる音

 

 

 

 

 

じょぼぼぼ……

 

 

 

 

 

 俺は逃げ出した。

 

 

 

 

 

「あっ、ジョシュア先輩! 新しいアブノーマリティはどうでしたか?」

 

「……疲れた、相手したくない」

 

「えっ、そんなにやばい奴だったんですか? 次の作業予定私なんですけど!?」

 

 メインルームに戻ると、さっそくパンドラが待ち構えていた。

 

 正直あれの後にパンドラの相手はしたくない。とりあえず適当にあしらっておくか。

 

「あぁ、大丈夫だ。お前が思ってるようなやばいじゃないから、たぶんお前ならうまくやれるから」

 

「えっと、これは褒められていますね! それじゃあ行ってきます!」

 

「おう、逝ってらっしゃい」

 

 とりあえず邪魔者が一人消えた、おかげでゆっくりと休憩できる。

 

 ソファに座ってゆっくりとくつろぐ、あの二人が出会うことに一抹の不安を感じるが、もう後のことは未来の自分に任せる。

 

 今はとにかくゆっくりしておきたい。

 

 目を閉じてしばらく休んでいると、どうやら隣に誰か来たようだ。

 

 目を開いて確認すると、どうやらシロが隣にいるようだ。

 

「ようシロ、元気か?」

 

「……んっ」

 

 シロに話しかけると、なぜかチョコレートを差し出された。いったいどういうことだろうか?

 

「……どうしたんだよこれ、くれるのか?」

 

「……ん、だって元気なさそう」

 

「あー、確かに元気なかったが、これで元気でそうだよ。ありがとうな、シロ」

 

「……よかった」

 

 なんとなく、シロがはにかんだような気がした。

 

 そして一瞬、前回のシロと重なって見えて、ちょっとだけ自己嫌悪した。

 

「……ジョシュア?」

 

「いや、何でもない。それよりもこの前さ……」

 

 シロに心配されたので、とりあえず世間話に切り替える。

 

 俺が話してシロは何も言わないが、相槌はたまに打ってくれてるしちゃんと聞いてくれているようだ。

 

「……ジョシュア先輩」

 

 しばらくシロと話していると、パンドラが戻ってきた。

 

 どうやら『F-01-i63』の作業を終えて帰ってきたようだが、なにやら様子がおかしい。

 

 あのパンドラが疲れているだと!? ……いや、そんなはずはない。

 

 おそらくは俺の幻覚かアブノーマリティの特殊能力、または誰かのなりすましか、判断に困るな。

 

「聞いてくださいよあの女!! やばいんですよ自分を人間に食べさせようとするなんて、正気じゃないです! おもちゃにしようと思ったら逆におもちゃにされた気分ですよ!?」

 

「あっ、たぶんパンドラだ。でもお前が言うな」

 

『こいつにこれほど言われるとか、どれだけだよ』

 

 どうやらあのパンドラでもダメだったらしい。

 

 ……もうこれどうしようもないのでは? そりゃあ変な化学反応起こされてやばいことになるよりはましだけど、これじゃああいつを担当できる職員(イケニエ)がいないじゃないか。

 

「全く、自分を食べてほしいとかいう考えがあんなにも気持ち悪いなんて…… これからは気を付けるようにします」

 

 どうやら随分とフラストレーションがたまったようで、延々と愚痴をたれこぼしている。

 

 珍しい光景をみてびっくりしていると、シロがいきなり口を開いた。

 

「……そんなにいやなら、どうして連れてきたの?」

 

「へっ、何を言って…… ぎゃあぁぁぁ!?」

 

「えへっ、きちゃった♡」

 

『『F-01-i63』が脱走しました、職員の皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

 気が付けばパンドラの背後には、脱走した『F-01-i63』が立っていた。

 

 パンドラは一瞬でこちら側に飛び退いて、戦闘態勢に入る。もちろん、俺もシロも準備は万端だ。

 

 くそっ、アナウンスが遅すぎるだろうが、管理体制はどうなってるんだよ!?

 

「お客様方、今宵はこのような素敵な宴の席を設けていただき、誠に有難く存じます」

 

 『F-01-i63』が仰々しく礼をしてこちらに視線を向ける。

 

 その顔は先ほどまでと打って変わって、傲慢な、狩人のような目をしていた。

 

「それではただいまよりメインディッシュの『屠畜ショー』に移りたいと思います。どうか今宵は、最後までこの最高な宴をご堪能ください!!」

 

 『F-01-i63』は手を広げ天井を仰ぐ、それと同時にものすごい圧をこちらに向けてきた。

 

 ……まずいな、こちらの武装は“綿毛”のみ、たいして相手は最低でもTETH、3人いるとはいえ場合によってはまずいかもしれない。

 

 まさか先ほどまでのが演技で、逆に俺たちのことを家畜のように思っていたとは……

 

 くそっ、やっぱりアブノーマリティはアブノーマリティだったか!!

 

 『F-01-i63』は手を広げた状態のままこちらに視線を向け続ける。

 

 俺たちはいつ『F-01-i63』が攻撃してもいい様に、相手の動きを警戒している。

 

 そしてにらみ合いが1分、2分と続き……

 

「……あのぉ、そろそろ『屠畜ショー』を始めていただいてもよろしいでしょうか?」

 

「「「……はぁ!?」」」

 

 何を言っているんだこいつは?

 

 まさかあれだけ今から戦います感出しておいて、結局食べてもらおうとしていただけなのか!?

 

 いやまさかそんな……

 

「あっ、もしかして無抵抗だとあんまりそそらない感じですか? それなら抵抗しますよ、拳で!!」

 

 そういうと『F-01-i63』はシュッシュッといいながらシャドーボクシングを始めた。

 

 ……とりあえず無視してみると、パンチをしてきたが、全くいたくなかった。たぶん猫よりもひ弱なパンチだ。

 

「ほらほらどうしたんですか? 早く反撃して私を屠畜しないと、その大切なお体があざだらけになりますよ!!」

 

 R 0 Damage!

 

 R 0 Damage!

 

 どうやら随分と自己評価が高いらしい。

 

 『F-01-i63』はなぜか自分が殴ってというのに涙目になっていた。

 

 ……というか、息上がってないか? さすがに体力がなさすぎだろ。

 

「はあっ、はあっ、本当に、大変なことになっちゃいますよぉ、早く反撃しましょうよぉ……」

 

『こいつが言ってるようなことにはならん、無視して大丈夫だ』

 

「OK」

 

 こいつのことは無視することに決定した。

 




何故か長くなりすぎたので、5日目に分割します。


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F-01-i63 管理情報

 『F-01-i63』は銀髪にチャイナ服を身にまとう女性型のアブノーマリティです。収容室内には桃の香りが充満しています。

 

 『F-01-i63』は非常に個性的な性格をしています。相手をするときはそれ相応の覚悟をしてください。

 

 たまに『F-01-i63』は脱走しますが、放置しても何の問題もありません。

 

 『F-01-i63』の収容室に空腹の職員は入室しないでください。

 

 『F-01-i63』の収容室に23区に立ち並ぶ料理屋の常連である職員は入室しないでください。

 

 脱走した『F-01-i63』に絡まれて面倒な時は、エージェントパンドラにでも擦り付けておいてください。気持ちが軽いどころかすっきりします。

 

 ちょっとお願いですからそんなことやめてくださいよ! 最近あの子に絡まれるって思ったらそういうことだったんですか!? こういうことはジョシュア先輩にでもお願いしてくださいよ!!

 

 お前ふざけるな! なんで俺を巻き込もうとしてんだよ!! 俺だって他のアブノーマリティたちの相手で大変なんだそいつくらいお前もちでもいいだろうが!?

 

 ふざけないでくださいアブノーマリティたらし!! なんでそんなにアブノーマリティたちのハーレム作ってるんですか!? いい加減にしてください!!

 

 俺だってなりたくてなったんじゃないわ!! そもそも……

 

 お願いですからこんなところに書き込まず、直接話し合ってもらえますか?

 

 

 

 

 

『F-01-i63』

 

 

【挿絵表示】

 

 

危険度クラス TETH

 

ダメージタイプ R(1-2)

 

E-BOX数 12

 

良い 11-12

 

普通 6-10

 

悪い 0-5

 

 

 

◇管理方法

 

1、作業結果が良い、または悪いの場合クリフォトカウンターが減少した。

 

2、LOCK

 

3、LOCK

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

洞察

1 高い

2 高い

3 高い

4 高い

5 高い

 

愛着

1 最低

2 最低

3 低い

4 低い

5 低い

 

抑圧

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 2

 

R 普通 1.0

 

W 堅牢 0.2

 

B 耐性 0.5

 

P 普通 1.0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談(読み飛ばし可)

 

 いやぁ、まずはこんな風になってしまい申し訳ない。

 

 なんで名前が変わるわけでもないのに2回に分かれるんでしょうね?

 

 最初はこの一話で終わる予定だったのですが、なぜか話が長くなってしまい2分割になってしまいました。

 

 元々『F-01-i63』は無口で意思疎通ができず、ただ食べられようとする健気な子って設定だったのですが、そこでふと思ってしまったのです。

 

 ……あれ、これシロとキャラかぶってない?

 

 さすがにメインヒロインとキャラ被りはまずいと思い、急遽キャラ変が行われた結果……

 

 なぁんでこんな愉快なキャラになってしまったんでしょうか。

 

 ちょっと愉快になりすぎてあまりにも長くなるので、話の流れ的にもいったん区切ろうと思い2分割です。

 

 ちょうど5日目に何の話するか決めてなかったため、せっかくだし使うか…… くらいの感覚でした。

 

 元々何も収容しない日はキャラの深堀とアブノーマリティの深堀に使おうと思っていたので、ちょうどいいなって軽い感じで決めました。

 

 さて、実は2週目を行うにあたって以前言っていたTRPG風LCゲームの内容を一新したんですよね。

 

 まだまだ改善点はありますが、以前からいくつか変えた点があります。

 

 その中の一つが、今回の話に組み込んだ『ファーストコンタクト』というイベントです。

 

 内容は簡単で、初めて出会うアブノーマリティの収容室に入った場合にイベントが進み、途中で自由に行動できる時間が来ます。

 

 その時の行動で内容が変化し、成功すればそのアブノーマリティの基本情報が解放され、失敗すれば軽い場合はノーリスク、重い場合は即死します。

 

 つまりは鏡ダンジョンで出会うアブノーマリティへの対応のようなものです。

 

 なんだか最終観測に似ている部分がありますが、実は結構違います。

 

 今回のファーストコンタクトは、本来なら成功しているので基本情報が開くはずですが、私のミスで開きません。ごめんなさい。

 

 それでは次回もよろしくお願いします。

 

 

 

 ……最近Wi-Fiの調子悪くてろくに執筆できない悲しみ。

 




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Days-04 T-09-i92『叫び声が聞こえる』

まだ9月1日の24時2分だな……よし!


「ようジョシュア、なんか面倒なことに巻き込まれたみたいだな」

 

「リッチか、あれは面倒なんてもんじゃなかったぞ」

 

 リッチがにやにやしながら話しかけてきたので、何があったかをあえて誇張せずに話してやった。

 

「はははっ、それは大変だったなぁ!」

 

 しかしリッチはこの話を聞いて大爆笑しやがった。

 

 畜生、自分が何の被害にもあってなかったからって、完全に他人事じゃないか!!

 

「うるせぇ、お前も『F-01-i63』*1の担当をすればそんなこと言えなくなるさ」

 

「悪かったって、そうすねるなよ」

 

「拗ねてねぇよ、それよりも早く次の作業に行ってきたらどうだ?」

 

「あぁ、そうするよ」

 

 一通りリッチとじゃれ合ってから、お互いに次の作業へと向かっていく。

 

 次の作業は今日追加されたツールである『T-09-i92』だ。

 

 正直ツールなんてどう頑張っても番号から予想できるものでもないし、入っただけで即死なんてこともないから気分がだいぶ楽だ。

 

 速足で廊下を歩いていき、『T-09-i92』のある収容室の前までたどり着く。

 

 いつものように乱雑に扉を開けて、収容室の中に入る。

 

 どことなく、ひんやりとした空気が漏れてきた気がした……

 

 

 

 

 

 

「……えぇ、何だこれ?」

 

 そこにあったのは、明らかにシャワールームだった。

 

 シャワールームはカーテンで区切られており、微妙に光が透過しているため中に誰がいるかが丸わかりだ。

 

 その隣には柵のようなものあり、恐らくそこに脱いだ装備をかけておくのだろう。

 

「いや、でもこれを使うのか……」

 

 なんというか、シャワールームということに不安があるのもそうだが、管理人にもみられているというのに使うのは少し恥ずかしい。

 

 まぁ、管理人もわざわざ野郎のシャワー姿なんて見たいとも思わないだろうが。

 

 だがそう考えると、これ女性が使うのはまずいのでは?

 

 シロとか見られたらブチ切れそう……

 

「はぁ、とりあえず使うか……」

 

 ひとまず使うために仕切りの向こうに入る。

 

 内部も普通のシャワールームだ。正直デメリットどころか、メリットすら思いつかない……

 

 装備を脱いで外の柵にかけ、生まれたままの姿となる。

 

 そしてさっそく蛇口をひねろうとして、あることに気づく。

 

「うわぁ、これ熱湯と冷水で別れてるタイプか」

 

 面倒なことに、蛇口のひねり具合で温度を調節するタイプのものらしい。

 

 ロボトミーの寮にあるシャワーは普通に温度調節してくれるタイプなので、不便でしかない。

 

『いちいちこんなことで文句を言うな、早く使え』

 

「うるさいなぁ、わかったよ」

 

 グダグダ考えていたせいか、輪廻魔業にせかされてしまった。

 

 まったく、もう少し余裕を持ってほしいね。

 

「はぁ、なんていうかふつうだなぁ」

 

 シャワーを浴びてみるも、特に何か感じるわけでもない。

 

 しばらく浴びてみるも、何か力がわくような様子もなければ体が溶けるような様子もない。

 

「もうやめてもいいかな? おーい管理人!」

 

『……一応聞こえてはいるが、いつでも聞いているわけじゃないからな?』

 

 なんと本当に聞こえていたようだ。とはいえさすがに盗聴なんてするわけじゃない…… よね?

 

「これいつまでやってればいいんだ?」

 

『こちらとしても何の変化も見られないため、もう少し使ってほしいのだが…… 大丈夫か?』

 

「大丈夫かといわれても、命令なのでやらせてもらいますよ。でも本当に何なんだこれ?」

 

『正直私にも…… あっ、少し変化があったようだ。今確認するからもう少し使っていてくれ』

 

「了解」

 

 どうやら何か進展はあったらしい。いったいどんな変化があったのか、少し興味があるな。

 

『……もう使用を中止してくれてかまわない、ある程度効果はわかった』

 

「了解した」

 

 とりあえずもう大丈夫なようだ。さっそくシャワーの使用を中止して着替える。

 

 ……なんというか、濡れた体がすぐに乾くといいう慈悲はあったようだ。

 

 今思えば、体を拭くものがなかったからこの効果がなかったら大惨事だった。

 

「さて、いったいどんな効果だったんだ?」

 

『周囲の職員のステータスを上昇させる効果があるようだ』

 

「……そうか」

 

 これ、使えるか? いや、上昇量によっては使えるのかもしれないけれど。

 

「まぁいいか、とりあえず戻ろう」

 

 とりあえずメインルームへと戻ることにする。

 

 メインルームに戻ると、職員たちが全員待っていた。

 

「……どうしたんだよ皆、そんな雁首揃えて?」

 

「いや、お前のシャワーを浴びる音が聞こえてな……」

 

 あぁ、もしかしてシャワー音を聞いている奴のステータスをあげるのか。

 

 ……でもどうしてそんなことで?

 

「俺やリッチは特に気にしなかったんだが、女どもはそうはいかなかったみたいだな」

 

 どういうことかとシロに視線を向けると、目をそらされた。

 

「正直私たちはちょっと興奮しちゃったのよね、だから気恥ずかしく感じちゃったみたいね」

 

 シロの代わりにルビねえが答えてくれる。なるほど、そういうことか……

 

「まぁ、そういうこともあるよな」

 

 フォローしたつもりが、シロにぽかぽかと叩かれた。……仕方なくないか?

 

 

 

 

 

「はぁ、今日もまたこれを使うのか」

 

 ある程度の使い道があるからか、定期的に『T-09-i92』の使用を命令される。

 

 こんなの使わなくてもいいとは思うのだが……

 

「はぁ、気持ちいい……」

 

『『F-01-i63』が脱走しました。職員の皆様は至急鎮圧に向かってください』

 

「えー」

 

 どうやら『F-01-i63』が脱走したようだ。

 

 まぁあいつはほっといてもいいだろうと考えたその時、なぜか視線を感じそちらを見ると……

 

 なぜかそこには、『F-01-i63』がいた。

 

「「きゃあぁぁぁ!!」」

 

 あたり一面に、二人分の叫び声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 T-09-i92『真夏の夜のシャワールーム』

*1
とりあえずやばい女



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T-09-i92 管理情報

 『T-09-i92』はシャワールームです。

 

 『T-09-i92』を使用する場合は、他人が使っていないかを確認してから使用してください。

 

 『T-09-i92』を使用中に鼻歌を歌ってもよいですが、職員全員に聞かれる可能性がありますよ。

 

 

 

 

 

『真夏の夜のシャワールーム』

 

 

 

危険度クラス TETH

 

 

 

継続使用タイプ

 

 

 

 

 

 

 

◇管理情報

 

 

 

1(30)

 

 『T-09-i92』を使用中、収容室前の廊下にいる使用者と異なる性別の職員の勇気と正義が上昇し、慎重と自制が減少した。

 

 

 

2(60)

 

 30秒以上使用し続けると、効果の範囲がその部門全体に広まった。

 

 

 

3(90)

 

 1分以上使用すると、その効果が施設全体まで広がった。

 

 

 

4(120)

 

 『T-09-i92』を使用中にアブノーマリティが脱走する場合、『T-09-i92』の収容室内部から脱走した。

 

 

 

 余談(読み飛ばし可)

 

 いやぁ、今回は平和なツールですね!(当社比)

 

 今回のツールは海外のホラー映画とかでよくあるシャワーシーンからの第一被害者! って流れをイメージしています。

 

 正直もっと面白い反応を期待していたツールだったのですが、まさかの収容当初で脱走するのが『F-01-i63』しかいなかったんですよね……

 

 なんで無害なやつしかいないのぉ?

 

 このツールのステータス上昇値は勇気と正義がプラス10、自制と慎重がマイナス5です。

 

 まぁ鎮圧目的ならそこそこ使えるかな? って感じです。

 

 なので使いっぱなしで忘れているところを脱走してドーン! というのが理想的な流れですね、現実にうまくいくとは限りませんが。

 

 ちなみに使用中に脱走されると、その職員の耐性は全て脆弱、攻撃は拳(1-2)でしかありません。

 

 ただしこの状態でも『F-01-i63』のダメージはR0です。かわいいね!

 

 これでもツールの中では良心的なほうなのですが、残念ながら弟は警戒してほとんど手を付けてくれませんでした。

 

 正直ツールというだけで警戒してしまうのは管理人として気持ちはわかるのですが、使われないのは悲しいのです……

 

 ちなみに今後もツールは基本使われませんでした、私は悲しい(ポロロン)

 

 さて、最近体が闘争を求めるゲームが発売されましたが、PCスペックが足りずまともにできませんでした。

 

 その悲しさの反動で、最近LoRを再開した感じですね。

 

 久しぶりにやってみると前よりも戦い方がわかってやりやすかったです。

 

 ……なんで間を開けたほうが強くなってるんでしょうね?

 

 とりあえず休みの間にいっぱい進めて、楽しんでいこうと思います。

 

 目指せ完全クリア!

 

 




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Days-05 『魅惑の桃香』

「よし、俺の勝ちだな」

 

「畜生、また負けた!」

 

 負けが確定すると、マオは手に持っていたカードを放り投げる。

 

 カードは宙を舞ってひらひらと落ちていき、マオはしばらく頭を抱えた後せっせとカードを拾っていた。

 

「てめぇ、まさかいかさまをしてるんじゃないだろうなぁ?」

 

「いやしてねぇよ、つーかやろうとしていたのはお前のほうだろうが」

 

 けっ、と悪態をつきながらカードを片付けるマオ。

 

 なぜこんなことをしているかというと、マオも路地裏出身であり会話の中で同じカードをしていたことが分かったので、話の流れで一緒にやることになったのだ。

 

 なんだかんだで路地裏の流儀を平然と持ち出すので、いかさまを全部指摘してあとは全部運任せ。

 

 俺は運が低いほうだと思っていたが、どうやらマオはそれ以下だったらしい。

 

「それじゃ、今日の飯はお前のおごりな」

 

「ちっ、次は負けねぇからな」

 

 なんだかんだ言いながら素直におごろうとしてくれるマオ、こいついい奴だな。

 

 前回はなぜか嫌われていたから、今回こうやって仲良くできるのはうれしいことだ。

 

「さーて、何を食べようかなぁ」

 

「常識的な範囲でたのむぞ」

 

 マオと一緒に廊下を歩き、食堂へ向かう。

 

 もう飯時だからか、周囲にオフィサーたちも見えてきた。

 

「そうだなぁ、なんかいいもんないかなぁ」

 

「もう今日のおすすめとかでいいだろ?」

 

「私のお肉とかおすすめですよ~」

 

「「……」」

 

 今幻聴が聞こえてきた気がした。いやいや、まさか『F-01-i63』*1がこんなところにいるわけがないだろうが。

 

 そもそも奴がいるならアナウンスが聞こえてくるはずだし……

 

 あれ、そういえば最近あいつが脱走してもアナウンス聞いてないような気がするぞ?

 

「……今日のおすすめって、安く済ませようとしてるだろ」

 

「あれ、無視ですか? もしかして蒸しが良いって暗喩でございますか!?」

 

「あぁん? おすすめなんだから一番いいもんに決まってんだろ!」

 

「もちろんです、だから私のお肉がおすすめなんですよ!」

 

「いやいやおすすめってそもそも…… あれ、もしかしてまじでそう思ってる?」

 

「疑う必要はありません、私のお肉が一番です!」

 

 もしかしたらこいつ、単純というか、意外とピュアなのかもしれないな。

 

 時々耳に入る雑音を無視し、会話と続ける。

 

 とりあえずマオとアイコンタクトをし、会話が途切れないように雑談をする。

 

「にしても、最近愛着作業ばっかで面倒だ、なんで化け物たちに接待をしなきゃいけないんだよ」

 

「あー、あの作業って私嫌いなんですよね」

 

「そういうなよ、あいつらの機嫌を良くしたらその分俺たちにもメリットがあるんだから」

 

「だったら私の機嫌もよくしましょう! 私を食べればとっても機嫌がよくなりますよ!」

 

「ったく、あんな化け物どもにこびへつらっていると考えると反吐がでるぜ、まぁ最近はだいぶ我慢できるようになったがな」

 

「なんと、我慢は毒ですよ! その鬱屈とした気持ちを私を食べることで解消しましょう!」

 

「ならいいじゃないか、その分生存確率が上がるぜ?」

 

「ほら、私がいっぱい癒してあげますので、さっさと剥いて生でがぶっといっちゃってくださいな!」

 

「まぁそれは「ほらほら、どうしたんですかぁ!?」んだが、なんというかな「もしかしてびびってっますかぁ?」……」

 

 

 

 

 

「うるせぇ!」

 

 

 

 

 

 ついに堪忍袋の緒が切れたのか、マオは『F-01-i63』を殴りつけた。

 

 殴られた『F-01-i63』は血を流して倒れこむ、どうやら吹き飛ばされて頭部を壁にぶつけたらしい。

 

「いつもいつも面倒くさい絡み方しやがって、本当にうざいんだよ!!」

 

「いくら俺が路地裏出身だからって好き好んで人肉なんて食べるわけがねぇだろうが! 路地裏の住人を馬鹿にしてるのか!?」

 

「そもそも化け物のくせに人間みたいに話しかけてきやがって! 前々から思っていたんだが……」

 

「マオ、いったん落ち着け。こいつはもう……」

 

「あぁん!? ……あっ」

 

 とりあえずマオを落ち着かせて現状を確認させる。

 

 殴られた『F-01-i63』はすでにピクリとも動いておらず、真っ赤な血だまりの中に倒れていた。

 

「くそっ、まさか一発で……」

 

「いや、それもだけど、まずは匂いを嗅がないように鼻を塞いでこっちに来るんだ」

 

「てめぇ俺に…… わかった」

 

 俺に言われて切れそうになったマオも、周囲の状況に気が付いたのかおとなしく従ってくれた。

 

 とりあえず俺たちは鼻を塞ぎながらゆっくりと後退する。

 

 周囲には血の匂いは一切広がらず、代わりに今までにないほどに濃厚な桃の香りが充満していた。

 

 そしてそれはおそらく、人間の精神に影響を与えるのだろう。

 

 周囲にいたオフィサーたちは、明らかに正気を失った顔をしていた。

 

 血走った目を見開き、よだれをだらだらとたらしながら『F-01-i63』の死体を見つめている。

 

「ウッ ウマソッ」

 

 そして誰かがつぶやくと、狂人たちは『F-01-i63』の死体に殺到した。

 

「ウマイッ ウマスギルッ!」

 

 ブチブチぐちゃぐちゃと肉を嚙みちぎり、咀嚼する音。

 

「コンナニウマイニクハハジメテダッ!」

 

 じゅるじゅると液体を啜る音。

 

「ニンゲンッ、ウマスギルッ!」

 

 バリボリと骨をかみ砕く音。

 

『規制済み』

 

『規制済み』

 

『規制済み』

 

 

「うっ」

 

「これくらいで吐くな、路地裏でも見たことくらいはあるだろうが……」

 

「だけど、このレベルは見たことねぇよ」

 

「……それは、俺も同感だ」

 

 悍ましい光景だ。

 

 正気を失ったオフィサーたちは、『F-01-i63』の死体に群がっていた。

 

 そして、群がった狂人たちは、一瞬のうちにその肉体を、血の一滴すら残さずに食らいつくした。

 

「ニンゲンッ、マダノコッテルッ」

 

「ちっ!」

 

 そして全てを食い散らかした彼らは、次の狙いを定め始めた。

 

「モットッ、モットタベルッ!」

 

「……畜生がっ」

 

 結局彼らを拘束することはかなわず、鎮圧するほかになかった……

 

 

 

 

 

「さぁお客様、今日こそ私のお肉を食べていただけますか?」

 

 あれから、『F-01-i63』の鎮圧は原則禁止となった。

 

 まぁ、あんなことがあったのだから当然だが、あれからも『F-01-i63』は日常のように脱走をしている。

 

「ほらほら、今日も私のコンディションは完璧ですよ! 今日こそガブっといっちゃってくださいな!」

 

 あの事件の後も、こいつの様子が変わることがなかった。今日も変わらずに俺たちに自身の肉を食べさせようとする。

 

 こいつは人間と一緒のような姿なせいで、どこか人と同じように感じてしまっていたらしい。

 

 だがこの異常な行動を見れば嫌でもわかってしまう。

 

 やっぱりアブノーマリティとは、わかり合うことができないのだろうと……

 

 

 

 

 

 おい、こんな話を聞いたことがあるか?

 

 なんでも桃だけ食わせた人間を食用に売っている店があるらしいぞ?

 

 しかもその肉はめちゃくちゃうまくて、食えば不老長寿の妙薬にもなるって話らしい。

 

 ……えっ、興味があるのかって?

 

 いやいやそんな店があるわけないだろう?

 

 おいおい、紹介してやろうかって、もしかして……

 

 本当に喰えるのか、最高の肉を!

 

 

 

 

 

 F-01-i63 『桃源の甘露』

 

*1
香り以外良いところがない奴




一日遅れてすいませんでした。


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Days-05 管理情報

 たとえいかなる場合であっても、『F-01-i63』を調理してはなりません。

 

 

 

 

 

『桃源の甘露』

 

 

【挿絵表示】

 

 

危険度クラス TETH

 

ダメージタイプ R(1-2)

 

E-BOX数 12

 

良い 11-12

 

普通 6-10

 

悪い 0-5

 

 

 

◇管理方法

 

1、作業結果が良い、または悪いの場合クリフォトカウンターが減少した。

 

2、『F-01-i63』を鎮圧した際に自制が3以下の職員が周囲にいた場合、その職員は『F-01-i63』の■■を食らい、他の職員を襲いだした。

 

3、『F-01-i63』を絶対に調理してはいけません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

洞察

1 高い

2 高い

3 高い

4 高い

5 高い

 

愛着

1 最低

2 最低

3 低い

4 低い

5 低い

 

抑圧

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 2

 

R 普通 1.0

 

W 堅牢 0.2

 

B 耐性 0.5

 

P 普通 1.0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談(読み飛ばし可)

 

 さて、ようやくこの子の話が終わりましたね!

 

 今回のアブノーマリティのモチーフは、感想欄でもいわれていましたが桃娘(タオニャン)という都市伝説です。

 

 桃娘とは、作中でも言っていますが、少女に桃だけを食べさせ、それを食べることによって不老長寿を得ようとする話です。

 

 この少女は桃しか食べないため、体が弱く糖尿病であったといわれています。

 

 だから特別なお茶が甘かったんですねぇ……

 

 それにしても、正直桃娘を知っている人が結構いたことに驚きました。

 

 特に最初の人なんて、イラストと最初の台詞を見ただけで当てましたからね。びっくりでした。

 

 でもそれだけの情報でわかってもらえたのは、逆にうれしいです。

 

 こんな感じでこれからも考察してくれたらうれしいですね!(チラッチラッ)

 

 このアブノーマリティを食べた職員は、もちろん正気に戻ることはありません。

 

 なのでもし正気を失った職員が出た場合は、そのまま鎮圧するしかありません。

 

 オフィサーであれば鎮圧自体はかなり楽なので、自制3以下の職員は近づけないようにしましょう。

 

 ちなみに、TETHなのに自制3以下は厳しくない? と思う方のいるかもしれませんが、作中でさんざん描写されていましたが、鎮圧する必要がないので巻き込み事故にさえ気を付ければいいですね。

 

 最近はまたSCPにはまったり、Backroomというものにはまったりと、結構ホラー系のインスピレーションを受けている気がします。

 

 自身にまったくホラー耐性はないのですが、作業用に流してたのに見入っているとか結構あります。

 

 ……まぁ、そのせいで執筆に遅れが出ているところもあるのですが。

 

 そんなこんなで、もしかしたらそのうちホラー系の短編とか書くかもしれません。

 

 ……いや、そんなことしたら一人で眠れなくなってしまうかもしれませんね。

 

 そもそも、もう少しで忙しくなってくるのでそんな小説を書くようどころかこっちの更新も危うくなるかもですが……

 

 それでも、せめて週1くらいでは更新していきたいですね。

 

 ちょっと前回みたいに間が空きすぎると小説の書き方も忘れてしまいますしね。

 

 そもそも、ホラー系とか関係なく書きたい小説がいっぱいあるので、まずはこれの完結から頑張っていきます。

 

 それでは長くなりましたが、次回のアブノーマリティもお楽しみにお待ちください。

 



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情報部門 Ⅱ
Days-06 F-02-i32『騙されるほうが悪いのさ』


「僕の名前はフリッツです、よろしくお願いします!」

 

「私の名前はぁ、サラっていいますぅ。よろしくお願いしますねぇ」

 

 今日から情報チームが解禁され、新たな職員たちがやってきた。

 

 一人は、やる気十分な青年、フリッツ。もう一人は前回でも何かと問題を起こしていたサラであった。

 

 サラはギフトが大好きな変人で、その分ギフトのためなら何でもしようとするところがある。

 

 かつてはなんどか苦労させられたが、今回はどうだろうか?

 

「さて、とりあえず二人には『O-04-i31』*1の作業を行ってもらう」

 

「危険性は低いが、十分気を付けて作業を行ってくれ」

 

「わかりました!」

 

「さぁて、私も頑張りますねぇ」

 

 新人二人が作業へと向かっていくのを見送ってから、俺も廊下を歩き始める。

 

 今回収容されたアブノーマリティは『F-02-i32』だ、Fカテゴリだが、出来れば知っている童話であってほしいところだが……

 

『まぁ気にすることはないだろう? どうせこんな番号でわかるはずないんだからなぁ』

 

「そうは言うが、少しでも事前に情報が得られるのは大切なことだろうに」

 

『ふっ、そうやって得た情報に足をすくわれなければいいな』

 

「うるせぇ」

 

 まったく、こいつはこうやってすぐに俺のことを茶化してくる。

 

 もう少し静かにできないものだろうか?

 

「……っと、もう着いたか」

 

 さっそく『F-02-i32』の収容室の前までたどり着いた。

 

 いつものように収容室の扉に手をかけてお祈りをする。覚悟を決め、思い切って収容室の扉を開く。

 

 

 

 

 

「おっ、人間だ! よろしくね!」

 

「……」

 

 収容室に入ると、そこにいたのは狸だった。

 

 しかもただの狸ではない。胴体が茶釜のように変化した、まん丸体型の可愛らしいぷんぷく狸だった。

 

 しかし、そんなことはどうでもよい。

 

 問題なのは、この周で初めてのモフモフであるということだ。

 

「あれ、どうしたんだい人間。なにか珍しいものでも見たかのように……」

 

「何でにじり寄ってくるんだい? えっ、ちょっと待って何をみぎゃあぁぁぁ」

 

 相手に警戒されないように自然に近づいてから、高速で接近し激しく、それでいて丁寧にモフモフをする。

 

 あぁ、このちょっとした獣臭さとすこしゴワゴワめのモフモフがたまらない!

 

「もー、いきなり何するんだよ!」

 

「はっ、いきなり済まない。あまりにモフモフしていたため、我を失っていた」

 

「……どういうこと?」

 

 小首をこてんとかしげるのもかわいいなぁ。

 

「いやいや、君が可愛いってことだよ」

 

「むふー、まぁそれなら仕方ないな」

 

 そういいながら胸を張る『F-02-i32』、くっ、あざといな。

 

 可愛いのでもう一度頭を撫でてみる、ただし今度は優しく、気持ち良いようにだ。

 

「なっ、何をする!?」

 

「大丈夫だって、今度は優しく撫でるからさ」

 

「うーん、なら良し!」

 

 許可を貰ったので目一杯愛でることにする。

 

 最初はくすぐったそうにしていた『F-02-i31』だが、暫くするとふにゃふにゃになっていた。

 

「むふー、そこそこ〜」

 

「おっ、ここらへんか?」

 

「あ~気持ち〜」

 

 どうやら相当お気に召したようで、完全にペット状態だ。

 

 危うくこいつがアブノーマリティだということを忘れてしまいそうになる。

 

「おっと、そろそろ時間だな」

 

「えぇ~、もう終わるのかぁ~?」

 

「そう言うなよ、また来てやるから」

 

「絶対だぞぉ?」

 

「おう、絶対だ!」

 

 『F-02-i32』と約束をして、収容室を後にする。

 

 久しぶりのモフモフにご満悦だ。

 

『……おい、アブノーマリティ相手にあんな対応で良かったとか?』

 

「駄目に決まってるだろ? ただ命を賭けて癒やされに行っただけなんだから」

 

『……お前はたまによくわからなくなるな』

 

 何を言っているのだろうかこいつは、その言い方だと俺が変なやつみたいじゃないか。

 

 輪廻魔業の奴に憤慨していると、フリッツのやつが駆け足で近寄ってきた。

 

 その方には綿毛が乗っている、どうやら作業には成功したらしい。

 

「ジョシュア先輩、みてくださいよ! 可愛いですよ!」

 

 彼はのんきな笑顔で、肩の綿毛を俺に見せてくるのだった……

 

 

 

 

 

「ようマイケル! どうしたんだ?」

 

「あっ、ジョシュア! んんっ、いや今から作業に向かうところなんだ」

 

「何の作業に行く予定なんだ?」

 

「えっ!? えーと…… 『F-01-i63』*2のところだったかな?」

 

「そうか、頑張れよ」

 

 もうすぐ次の部門が解放される頃、最近入ってきたマイケルとたまたまばったりと会った。

 

 もう少し話をしたいところだったが、どうやら急いでいるようですぐに行ってしまった。

 

『おいジョシュア、あのまま行かせてしまった良かったのか?』

 

「うん? どういうことだ?」

 

『……まぁ、気が付いていないのであればどうでもいいか』

 

 一体何が言いたかったのだろうか? そのことについて考えようとした瞬間、目の前に信じられない光景が飛び出してきた。

 

「やあジョシュア、仕事のほうだどうだ?」

 

「……あれ、マイケル? 『F-01-i63』の作業に行ったんじゃなかったのか?」

 

 そこにいたのはマイケルだ、しかもさっきと同じ方向からやってきていた。

 

「いや、次の作業は『O-04-i31』のはずだが…… 一体どうしたんだ?」

 

「今お前にあったんだが、その時は『F-01-i63』の作業に行くって言っていたんだが……」

 

「それはおかしいな、俺は今初めてお前と話をしたのだが……」

 

 お互いに目を合わせ、状況を整理する。これは厄介なことになったかもしれない。

 

「ちなみに、この前は何の作業をしていたんだ?」

 

「『F-02-i32』だ、あまり作業がうまくはいかなかったが」

 

「ならもしかして、さっきのマイケルは!?」

 

 俺はマイケルとアイコンタクトをとると、一緒に急いで『F-01-i63』の収容室へと向かう。

 

 道行く人々がマイケルの顔を見て驚いている、この反応からして奴は律儀に目的の場所を教えてくれたらしい。

 

「お前、何をしている!?」

 

 『F-01-i63』の収容室のある廊下にたどり着くと、偽マイケルが『F-01-i63』の収容室の前にいた。

 

 手にはバールを握っており、それだけで何をしようとしているのか理解する。

 

「お前よくもだましたな!? 今すぐその手に持っているものを放すんだ!」

 

「へっ、やなこった! それに、騙されるほうが悪いのさ!」

 

 そういって奴、マイケルに変装した『F-02-i32』は振り上げたバールを収容室にたたきつけ……

 

 

 

 

 

「はーい、呼ばれて出てまいりましたよ! ご注文の私です!」

 

 そして、奴が解き放たれた。

 

「さぁお客様方! さっそく私をいただいて…… あれ、何だか獣臭いですよ。獣くさっ!? ちょ、何ですかこの臭いは、こんなくっさい匂いしてたらせっかくの私の繊細な風味が台無しですよ!! ……あっ、もしかしてこの獣臭い肉に浮気ですか!? こんなゲロまずそうな匂いの肉なんて食べたらお腹壊しちゃいますよ!! ぺっしてください、ぺっ!! そんなやつさっさと『バタンッ!!』」

 

「……」

 

 自ら扉を閉めた『F-02-i32』は縋るようにこちらに視線を向けてくる。

 

 だが俺たちにやつを助ける義理はない、というか奴とかかわりたくない。

 

 とりあえず目をそらすと、扉が勢いよく開く音が聞こえた。

 

「こんの泥棒猫がっ!! よくも私の大切なお客様をその薄汚い肉で誘惑してくれましたね!?」

 

「いや知らないよ! 人違いです!!」

 

「うるさい、言い訳なんて聞きたくありません!!」

 

 ……とりあえず、明らかに不毛な争いが起こり始めたので、E.G.O.を用意する。

 

 もちろん作るのは、狸と変態の合い挽き肉だ。

 

 

 

 

 

 その昔から、様々なところで狸たちは いたずらをし続けてきた。

 

 その結果、昔話に出てくる狸といえばいたずら者。

 

 変化の術は一級品、その分いたずらも一級品。

 

 狸に悪気は一切ない、何ならこう思っている節まである。

 

 そう、騙されるほうが悪いのさって……

 

 

 

 

 

 F-02-i32『小さくて意地悪な狸』

 

*1
『幸せの贈り物』

*2
『桃源の甘露』



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F-02-i32 管理情報

 『F-02-i32』は胴体が茶釜となっている小さな狸です。『F-02-i32』は人語を理解し会話することができます。

 

 『F-02-i32』は愛想よく振舞いますが、決してアブノーマリティに関する情報を流さないでください。『F-02-i32』は常に情報と脱出の隙を伺っています。

 

 脱走した『F-02-i32』は、一番最近作業を行った職員に変装します。その変装能力は通常見分けることができないほどです。

 

 『F-02-i32』は大変美味ですが、食べると『F-02-i32』との関係が悪化するのでやめておいたほうが良いと思われます。

 

 エージェントパンドラ、脱走した『F-02-i32』が自分に変装しなかったからって落ち込まないでくださいw

 

 こんなところに書かなくてもよくないですかぁ!?

 

 

 

 

 

『小さくて意地悪な狸』

 

 

【挿絵表示】

 

 

危険度クラス TETH

 

ダメージタイプ W(2-4)

 

E-BOX数 12

 

良い 11-12

 

普通 7-10

 

悪い 0-6

 

 

 

◇管理方法

 

1、慎重が2以下の職員が作業を行った場合、クリフォトカウンターが減少した。

 

2、作業結果が悪い場合、クリフォトカウンターが減少した。

 

3、脱走した『F-02-i32』は職員に変装し、収容室を開放していった。

 

4、脱走して変装した『F-02-i32』は職員には判別できないため、管理人は鎮圧を直接指示する必要がある。

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 高い

2 高い

3 普通

4 普通

5 普通

 

洞察

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

愛着

1 低い

2 低い

3 普通

4 普通

5 普通

 

抑圧

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 1

 

R 弱点 1.5

 

W 耐性 0.8

 

B 弱点 1.2

 

P 脆弱 2.0

 

 

 

◇ギフト

 

茶釜(頭1)

 

慎重 +4

 

 茶釜型の小さな帽子、かぶっているとちょっとした悪戯心が湧き出てくる。

 

 

 

◇E.G.O.

 

 

・武器 茶釜(大砲)

 

クラス TETH

 

ダメージタイプ W(20-30)

 

攻撃速度 超低速

 

射程 超長距離

 

 茶釜型の大砲、中から熱いお茶をぶちまけて、相手をいったん冷静にさせる。

 

 

 

 

 

・防具 茶釜

 

クラス TETH

 

R 1.2

 

W 0.6

 

B 1.0

 

P 2.0

 

 狸皮の着物、ちょうどよい暖かさとほのかな獣臭さがする衣服。

 これを装備して『F-02-i32』の作業に行くのはさすがに人の心がないですよね。

 

 

 

 

 余談(読み飛ばし可)

 

 というわけで今回は、日本昔話の常連であるたぬきさんでした。

 

 コメント欄でも当てていた方がいましたが、このアブノーマリティは色々な昔話に出てくるたぬきの集合体? です。

 

 つまりは本家の狼さんみたいな感じですね。

 

 このたぬきさんは脱走すると職員では見分けがつきません。話の流れ的にはわかりましたが、ゲーム的には職員は反応しないということですね。

 

 つまりは肉の灯篭や寸法屈折変異体改め次元屈折変異体のような感じです。

 

 早く見つけて鎮圧指示しないとほかのアブノーマリティを脱走させて大変なことになります。

 

 幸い脱走条件的にめったに脱走しないので、ちゃんと管理できていれば基本は安全ですね。

 

 さて、ついに情報部門、まだまだ序盤ですが、これからもお楽しみください。

 




Next T-02-i46『脳みそが揺さぶれる』

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Days-07 T-02-i46『脳みそが揺さぶられる』

なんとついに感想が1000件を突破しました!
ここまでやってこれたのも皆様のおかげです!
これからも『誰も知らないアブノーマリティ』をよろしくお願いいたします!


「今日からこの部門で世話になるマイケルだ、よろしく頼む」

 

「ぼ、僕はハイルディンです。よろしくお願いします」

 

 今日からまた新しい職員がやってきた。

 

 一人はマイケル、潔癖症の男で以前は『T-09-i97』*1に沈んで行ってしまったが、現状あのツールはないのでそこは心配しなくてもいいだろう。

 

 もう一人はハイルディン、痩せこけててどこか幸薄そうな印象がする。

 

 昨日フリッツが帰らぬ人となってしまったからな、できれば二人とも最後まで生き残れるといいのだが……

 

「二人ともよろしくな、それじゃあ二人には早速簡単な作業を行ってもらう、まずは……」

 

 二人に作業を振り分けて、さっそく俺も作業に向かうことにする。

 

 今回新しく収容されたアブノーマリティは『T-02-i46』、また動物系のアブノーマリティだ。

 

 廊下を歩きながら今回のアブノーマリティについて考える、できればモフモフがいいが、そう何度もモフモフは来ないだろう。

 

『お前の頭の中は大概だな……』

 

「うるせぇ、お前に呆れられるとかマジで嫌なんだが」

 

『だったら少しは自分の行いを考えろ』

 

 輪廻魔業と雑談をしながら『T-02-i46』の収容室へと向かっていく。

 

 収容室までの道はあっという間で、すぐについてしまった。

 

 いつものように収容室の扉に手をかける、そしてお祈りをしてから勢いよく扉を開いた……

 

 

 

 

 

「さーて今回は…… ひっ」

 

 収容室にいたのは、気味の悪いピンク色の胴体をしたサソリのような生き物だった。

 

 胴体はピンクの肉塊に皴が走っており、まるで脳みそのような風貌をしていた。

 

 さらにそこから6本の足と鋭利な顎、そして後部からはサソリのような針のついたしっぽが伸びている。

 

「き、きもっ……」

 

『きもいって、今までこれよりも気持ち悪い奴は見てきただろう』

 

「いやいや、でもこいつは虫でこの見た目だぞ!? きもがらないほうが無理だろうが!!」

 

『まったく、虫くらいで大げさな……』

 

 頭の中で輪廻魔業が頭を振っているイメージが浮かぶ。

 

 仕方ないだろ、ただでさえ虫が苦手なんだから!!

 

『ほら、そんなにビビってないでさっさと作業でもしてろ』

 

「うるさい、さっさとやるって!」

 

 輪廻魔業が呆れた声を出す、ちょっとくらいは気持ちの整理をさせてくれ。

 

「くそっ、とりあえず肉でも与えてみるか」

 

 まずは本能作業を行ってみる。

 

 鶏肉をとりあえず投げ与える、すると『T-02-i46』は嬉しそうに顎を鳴らして鶏肉にかぶりついた。

 

「……やっぱり肉食なのか」

 

 これ絶対人間も食べるやつだろ! やだよこんなきもいのがかみついてくるなんて。

 

「と、とりあえず作業も終わったし行こうかな」

 

 『T-02-i46』に餌を与えたので、とりあえず作業を終わらせる。

 

 もうこんな奴の作業はやめよう、絶対もうやりたくない!!

 

 

 

 

 

「マオさんはぁ、素敵な綿毛をつけていますねぇ」

 

「……やめろイカレ女、こんなもんに興奮するな」

 

「えぇ、そんなこと言わないでくださいよぉ。私ぃ、マオさんの話もっと聞きたいですぅ」

 

 『O-04-i31』*2のギフトをもらったマオがサラに絡まれている。

 

 どうやらサラはこの世界線でもギフト狂いのようだ、さっそく初ギフトの綿毛に興味津々だ。

 

 絡まれているマオがこちらに助けの目を向けてくる。すまんそんな目をされても巻き込まれたくない。

 

「なぁジョシュア、そういえば今日来たアブノーマリティはどんな奴だったんだ?」

 

「えっ、あぁなんかきもい奴だったよ」

 

「きもい奴って、もう少しましな情報はねぇのかよ」

 

「あーっと、判明した範囲でいうならなぁ……」

 

 マオが俺と話をし始めると、サラが少しふくれっ面になっていた。

 

 まぁさすがにかわいそうなので、とりあえず『T-02-i46』についてわかっていることを伝えていく。

 

 話を始めると最初は不満そうにしていたサラも、マオと一緒に話を聞き始めた。

 

 まぁこの会社で生き残るためには情報がすべてだからな、サラも短い間にそこのところは理解しているのだろう。

 

「そういえばぁ、今はだれが『T-02-i46』の作業をしているのですかぁ?」

 

「えっ、今はハイルディンが作業に行っているけど、それがどうしたんだ?」

 

「いえぇ、あの人落ち着きのない人だったのでぇ、大丈夫なんですかねぇ?」

 

「うーん、どうだろうなぁ」

 

 確かにハイルディンは落ち着きのない、あまり慎重な人間ではなさそうだったが、あのアブノーマリティと相性が悪いかどうかは現状わかりようがないからなぁ。

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

「なっ!?」

 

 叫び声とともに、ハイルディンがメインルームに走って入ってきた。

 

 その目は明らかに正気ではなく、よだれをぶちまけながら一心不乱に走っていた。

 

 ハイルディンは必死に走っていて足元に気が付かなかったのか、大きめの何かを蹴飛ばしていった。

 

 謎の物体は液体をまき散らしながら壁に当たり、跳ね返ってこちらに跳んできたので思わずキャッチする。

 

 そして俺は、その物体と目が合ってしまった。

 

 それは、ハイルディンの頭だった。

 

 思わずハイルディンのほうに目を向けると、彼は自身の首が取れていることにも気が付いていないのか断面から血を吹き出しながら走り続けていた。

 

 ハイルディンは血の通り道を作りながら走っていき、目の前が見えないせいか扉にぶつかって倒れてしまった。

 

 そしてその倒れた体は暫くの間痙攣すると、やがて動かなくなってしまった。

 

 あまりの光景に思わず目を奪われていると、手元が震えていることに気が付いた。

 

 手元のハイルディンの頭に目を向けると、白目を向けながら痙攣を始めていた。

 

 思わず手を放し距離をとる。

 

 頭部の痙攣は徐々に小さくなっていき、やがてほとんど動かなくなると、突然はじけ飛んだ。

 

「!? 来るぞ!!」

 

 ハイルディンの頭から飛び出してきたのは、『T-02-i46』だった。

 

 それは満足そうに顎をカチカチと鳴らすと、こちらに目を向け襲い掛かってきた。

 

「畜生、結局こうなるのかよ」

 

 三人で“綿毛”を構える、たとえアブノーマリティであっても数の暴力の前にはどうしようもなかったようで、鎮圧は一瞬で終わったのであった……

 

 

 

 

 

 それはまず人体の頭部に卵を産み付けます。

 

 卵は頭の中で孵化し、内部を食い散らかしてどんどん成長していきます。

 

 やがて成長したそれは、犠牲者の頭部と胴体を切り離して外界へ出る準備を始めます。

 

 卵を植え付けられた人々は、しばらくの間違和感を感じ、そして苦悶の表情でこう答えます。

 

 脳みそが揺さぶられる、と……

 

 

 

 

 

T-02-i46 『ブレインシェイカー』

 

*1
『極楽への湯』

*2
『幸せの贈り物』



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T-02-i46 管理情報

 『T-02-i46』はサソリのような形をした寄生生物です。その胴体には寄生した人間の脳の外皮をまとわせています。

 

 『T-02-i46』の成体自体は人体に寄生しませんが、成体は人体に卵を産み付け幼体の栄養源とします。

 

 『T-02-i46』に寄生された人物は脳を揺さぶれるような感覚を経験します。『T-02-i46』に寄生された場合に初めて感じる自覚症状であり、この時点で治療は不可能です。

 

 人体に植え付けられた『T-02-i46』の卵が孵った場合、『T-02-i46』はその人物の脳まで移動します。脳に到達した場合脳内を適切に破壊しながら『T-02-i46』の望むように行動を操ります。

 

 『T-02-i46』に行動を操られた人物はなるべく卵を植え付けられた場所から遠く離れた人気のない場所へと向かっていきます。おそらくそうして生息分布を広げていこうとしているものと思われます。

 

 

 

 

 

 

 

『ブレインシェイカー』

 

 

【挿絵表示】

 

 

危険度クラス TETH

 

ダメージタイプ W(2-3)

 

E-BOX数 12

 

良い 10-12

 

普通 6-9

 

悪い 0-5

 

 

 

◇管理方法

 

1、作業結果が悪い場合、クリフォトカウンターが減少した。

 

2、慎重が2以下の職員が作業を行うと、その職員は『T-02-i46』に卵を産み付けられた。

 

3、洞察作業を行った職員は、『T-02-i46』に卵を産み付けられた。

 

4、『T-02-i46』によってパニックになった職員は、『T-02-i46』に卵を産み付けられた。

 

5、卵を産み付けられた職員は『T-02-i46』に支配され他の職員から逃げまどい、一定時間後に新たな『T-02-i46』を生み出した。

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 高い

2 高い

3 高い

4 最高

5 最高

 

洞察

1 最高

2 最高

3 最高

4 最高

5 最高

 

愛着

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

抑圧

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 2

 

R 弱点 1.5

 

W 免疫 0.0

 

B 弱点 1.5

 

P 脆弱 2.0

 

 

 

◇ギフト

 

脳漿(頭2)

 

 慎重-2 正義+4

 

 脳みそ型のヘルメット。

 

 ぶよぶよしていて、生暖かい。

 

 

 

◇E.G.O.

 

 

・武器 脳漿(拳)

 

クラス TETH

 

ダメージタイプ W(2-3)

 

攻撃速度 最高速

 

射程 超短

 

 脳みその形をした籠手。

 

 手に付けた感触も殴る際の感触も最悪の一言。

 

 

 

・防具 脳漿

 

クラス TETH

 

R 1.0

 

W 0.5

 

B 1.2

 

P 2.0

 

 脳みそ模様の肉の鎧。

 

 長時間着ていると脳みそのしわが増える気がする。

 

 

 

 

 余談(読み飛ばし可)

 

 はい、というわけで今回は人体に寄生するアブノーマリティでした。シンプルにきもいですね。

 

 今回の奴はなんと特殊能力だけでなく脱走までします。ただし脱走しても基本スペックは低いのでタコ殴りで大丈夫です。

 

 ただし背後からの攻撃は即死(卵産み付け攻撃)なので、そこだけ気を付けてください。

 

 正直特殊能力だけでも良かったのですが、本体が脱走しないのは何だかかわいそうな気がしたので脱走できるようにしてあげました。

 

 さて、今回はこのくらいに、もうそろそろやばい奴が出てきてほしいところですが、大体やばい奴ってWAW以上なんで、もう少しかかるんですよね。

 

 とはいえHE以下でも手を抜いて作ったアブノーマリティは一体もいないので、存分にお楽しみください。(何ならHEが一番やばいまである)

 

 それではまた次回!

 




Next F-05-i60『食せば元には戻れない』

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Days-08 F-05-i60『食せば元には戻れない』

「ジョシュア先輩、何か面白い話をしてくださいよぉ」

 

「寝ぼけてないで早く作業に行ってこい」

 

 あほなことを抜かすパンドラを適当にあしらい、作業へと向かわせる。

 

 しかしパンドラがそれくらいで引くわけがない。

 

「そんなこと言わないで構ってくださいよぉ、今日はあのやばい子のところなんですよぉ」

 

「……正直お前でも苦手な奴とかいたんだな」

 

「ジョシュア先輩は私を何だと思っているんですか?」

 

 そりゃあやばい奴だと思っているさ。とはさすがに言わずに、無言という返答をする。

 

 するとパンドラはふてくされたのか、ほほを膨らませた。

 

「わかりましたよ、作業に行ってくればいいんでしょう、この鬼畜先輩!!」

 

「いや、その作業決めてるの俺じゃなくて管理人……」

 

 しかし俺の言葉はパンドラに届かず、彼女はすでにこの部屋から出て行っていた。

 

「……はぁ、俺も作業に向かうか」

 

 

 

 

 

「さて、今回はどんな奴なんであろうな」

 

 今日収容されたアブノーマリティは『F-05-i60』、またしてもFカテゴリのアブノーマリティだ。

 

 最近面倒な奴ばっかり来ているから、そろそろましな奴が来てほしいところだ。

 

『まったく、そんなに油断していてどうする?』

 

「別にいいだろ、希望的観測をすることくらい。それとも心配してくれているのか?」

 

『心配…… ふむ、見方によればそうだろう。俺は単純にお前のくだらない死にざまは見たくないのだ』

 

「……それって、俺にできるだけ惨たらしく死ねってこと?」

 

『まぁ、そうなるな』

 

 唐突に輪廻のやつがデレたとおもったら、結局ゴミみたいな理由だった。

 

 やっぱアブノーマリティはアブノーマリティだ、少しの希望すら望むことができない。

 

「……さて、もう着いたか」

 

 気が付けば、『F-05-i60』の収容室の目の前についていた。

 

 俺はいつものように収容室の扉に手をかけ、お祈りをする。そして思い切って扉を開き収容室の中へと入る。

 

 

 

 

 

「これはまた、メルヘンな奴が来たな」

 

 収容室に入ると、まずはとても甘い匂いが漂ってきた。

 

 それはとても魅惑的な甘いお菓子の香り、幼き日々を思い出す蠱惑の光景。

 

 その発生源は、収容室の中心にあった。

 

 お菓子の家。

 

 それを表現するのにぴったりな言葉だ。

 

 壁はサクサクのクッキー、屋根と扉はチョコレート、窓はキャンディー……

 

 それはまさしく、子供のころに夢見たお菓子の家だった。

 

「……これはうまそうだな」

 

 その香りは、まるで優しい老婆ができたてのクッキーを手にもってこちらに手招きをしているようだ。

 

 本能を刺激する、魅惑の香り。生半可な自制心では我慢なんてできないだろう。

 

 『F-05-i60』に近づき、クッキーを一つもいで口に入れる。

 

 ……あぁ、なんて甘くておいしいのだろうか。うまい、うますぎる!

 

 思わずほかの部分もとって食べる。

 

 とって食べる、とって食べる、とって食べる。

 

 どれだけ食べても、食べたところから再生していく。これなら満足するまで食べることができるだろう。

 

「ふぅ、そろそろ作業を始めるか」

 

 一通り食べて満足してから、作業を始めていく。

 

 お菓子の家ということで、とりあえず収容室の内部を清掃することにする。

 

 収容室内をとにかくきれいにしていくと、心なしか『F-05-i60』が喜んでいるような気がした。

 

「ふぅ、そろそろいいかな?」

 

 作業を終えると、『F-05-i60』に呼ばれていることに気が付く。

 

 それは俺を招くと、褒美に食べさせてくれるようだ。

 

『おいまて、それ以上はまずいぞ』

 

 俺は再び『F-05-i60』からお菓子をもぎ取り、口に含む。

 

 やはりうまい、これほどおいしいお菓子を食べたのは初めてだ。

 

『いい加減にしろ、ジョシュア!!』

 

「……はっ!?」

 

 輪廻魔業の声で、ようやく我に返る。

 

 もしかして俺は、お菓子に魅了されていたのだろうか?

 

『このままブクブクと肥え続けるつもりか、それとも俺が相棒と呼んだ男はこの程度だったか?』

 

「いや、すまん。助かった」

 

 ……これ以上はまずい、そう判断して収容室からすぐに退出することにした。

 

 

 

 

 

「……ジョシュア、大丈夫?」

 

 メインルームに返ると、そこにはシロが待っていた。

 

 どうやら俺を見るなり違和感を感じ、声をかけてくれたようだ。

 

 まぁ確かにお菓子を食いすぎて魅了されていたようなので、心配されても仕方がないだろう。

 

「あぁ大丈夫だ、どうやら新しく入ってきたやつがかなり厄介な奴らしい」

 

「……そんなに?」

 

「あぁ、お菓子の家だったんだけど、食べると魅了されるみたいだ。シロは甘いもの好きだからあまり作業をしないほうがいいかもな」

 

「……わかった、ありがとう」

 

「いやいや、どういたしまして」

 

 お礼を言うシロがかわいくて、思わず頭をなでる。

 

 シロは突然のことに驚いたのかわずかに目を見開いたが、しばらくすると受け入れたのか目を細めてされるがままになっていた。

 

「……こほん、お二人ともそろそろよろしいかな?」

 

 そこで俺たちの間に入ってきたのは、マイケルだった。

 

 突然声をかけられて思わずシロから手を離すと、シロは少し残念そうな顔をしていた。

 

「あー、仲のいいところにすまないが、次の作業について聞きたいところがあるのだが……」

 

「おう、了解だ。たしかマイケルの次の作業は俺と同じ『F-05-i60』だったな、それなら……」

 

 とりあえずマイケルに『F-05-i60』についてわかったことを伝えていく。

 

 最初は真面目に聞いていたマイケルも、途中で俺がお菓子の家を食べたところあたりからドン引きされ始めた。

 

「ジョシュア、それはさすがに衛生的にどうかと思うのだが……」

 

「いや、上のほうは地面と接していないし」

 

「そもそもアブノーマリティだ、食べるのはよろしくないだろう」

 

「はい、そうだよな」

 

 『F-05-i60』の説明からなぜかダメ出しが始まった。

 

 いや、俺もだめだとは思うよ。正直誘惑にまったく抗えなかったけどさ……

 

「とりあえず、お前も誘惑されないように気をつけろよ」

 

「もちろんだ、さすがに床に落ちた食べ物を食べることは精神的にきつすぎるからな」

 

 そういってマイケルは、『F-05-i60』の収容室へと向かっていった。

 

「……ジョシュア、もう一回いい?」

 

「えっ、別にいいけど」

 

 マイケルが去ると、まさかのおかわりが来たので思う存分なでることにした。

 

 

 

 

 

「ただいま戻った…… あぁ」

 

「あっ、お帰りなさい。私以外はおいしかったでしょうか?」

 

 マイケルが作業から最悪のタイミングで帰ってきた。

 

 まさか『F-01-i63』*1が脱走したところに返ってくるとは、運がない奴だ。

 

「お帰り…… って、結局お前も食べてきたのか」

 

「……仕方なかったんだ、どうしても抗えなくて」

 

 どうやらよっぽど嫌だったらしい、マイケルは今にもはきそうな顔をしている。

 

 というか、それほど嫌がっていても抗えないのか。

 

「……大丈夫?」

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

 あまり周りに関心のないシロにすら心配されるとは、相当具合が悪く見れるようだ。

 

「まったく、私を食べないで変なものを食べるからこうなるのです。女性のお客様、そちらのお客様を押さえておいてください」

 

「……?」

 

 一体こいつは何を言っているんだ? 俺は今すぐ『F-05-i60』の収容室へと向かわなければいけないというのに。

 

 とりあえずこいつのことは無視して『F-05-i60』の収容室へと向かう。

 

 マイケルの奴も一緒に行こうとしたが、『F-01-i63』に抑えられてしまった。そのまま引きずっているが……

 

 俺も一緒に行こうとするが、裾を引かれて止まる。振り返るとシロが裾をつまんで見上げていた。

 

「……ジョシュア、ごめん」

 

 何の謝罪かと思ったら、思いっきり地面にたたきつけられた。

 

 一体どういうことかと思ったら、ほほを思いっきりはたかれた。

 

「いつっ、シロ、いったい何を……?」

 

「ジョシュア、これで目が覚めた?」

 

「目が覚めたって……」

 

 あれ、そういえばどうして俺は『F-05-i60』の収容室に行こうとしていたんだ?

 

 今日はこれ以上奴の作業に行く予定はないはずなのに……

 

「このっ、浮気者っ、これで目が覚めたかっ」

 

 R 0 Damage!

 

 R 0 Damage!

 

 どうやらマイケルは周りのオフィサーたちに取り押さえられて、そのうえで『F-01-i63』にビンタされていたようだ。

 

 まったく痛くはなさそうだが、ある程度の衝撃はあったのか正気には戻ったようだ。

 

「……もしかしてまた魅了されたのか」

 

 かなり厄介な奴が来たようで、思わずため息をついてしまうのであった……

 

 

 

 

 

「……よし、そろそろ今日のノルマも終わりだな」

 

 『F-05-i60』の魅了騒動からしばらくたち、そろそろ今日の作業をすべて終わりそうだ。

 

 結局あれ以降、さらなる被害を防ぐために今日のところは『F-05-i60』への作業はしない方向で行くようだ。

 

「それにしても甘いものでも食べたいなぁ」

 

 『O-04-i31』*2への作業も終わり、あとはほかの奴がエネルギーをためるだけで終わりだ。

 

 さて、もう時間もたったことだし、最後に『F-05-i60』の収容室へと行こうかな。

 

『……ジョシュア、いったいどこに行く気だ?』

 

「もちろん『F-05-i60』のところだよ」

 

 輪廻が変なことを聞いてきた。早く『F-05-i60』の収容室に行かないと、ほかの奴に先を越されてしまうからな。

 

『……はぁ、できれば教えたくはなかったんだがな』

 

 何やら輪廻が渋々といった感じで声を上げた。

 

 どうやら不本意なことが起こっているらしい。

 

『ジョシュア、あのイカ野郎にもらったギフトを覚えているか?』

 

「……あぁ、そんなのもあったな?」

 

『それに意識を集中しろ、自分の中にある異物に向けて使ってみろ』

 

「……?」

 

 とりあえずいわれるままに行動をする。

 

 自分の瞳の奥のそのまた奥、鍵穴の向こうに意識を向けると、そこにはやつがいた。

 

 奴は力の使い方を示し、そのまま力が俺の中に流動する。そしてその力を俺の中の異物に向けて流していく。

 

 どうやらそれは俺の腹部のあたりにあるらしい。

 

 それを慎重に取り除くと、随分と思考がクリアになってくる。

 

「……ってこれ、もしかしてまた魅了されたのか!?」

 

 もうこんな奴の作業なんて絶対しないからな!!

 

 

 

 

 

 それは森の中でひたすらに獲物を待っていた。

 

 かつての持ち主が内部で朽ち果て、役目を終えたとしてもそれを全うしようとする。

 

 迷い込んだものを誘い、肥えさせ、そして懐へ招き入れる。

 

 たとえどれだけ自身の自制心が高かろうとも……

 

 食せば元には戻れない。

 

F-05-i60『お菓子な家』

 

*1
『桃源の甘露』

*2
『幸せの贈り物』



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F-05-i60 管理情報

 『F-05-i60』はお菓子でできた家です。壁はクッキー、窓は飴、屋根やドアはチョコレートでできています。

 

 『F-05-i60』は常に鮮度を保った状態を保っており、甘い香りを放ち続けています。

 

 窓から確認しても、『F-05-i60』の内部を確認することはできませんでした。また、作業を行った職員からは『F-05-i60』の内部に何かがいる気配があるという報告が上がっています。

 

 『F-05-i60』を食べた人物は、その味に魅了された状態となります。その状態のことを『お菓子状態』と仮に呼称しています。

 

 『F-05-i60』を食べつくして内部を確認しようとすることは大変危険です。そもそも食べた瞬間から再生するので困難を極めます。

 

 

 

 

 

『お菓子な家』

 

 

【挿絵表示】

 

 

危険度クラス HE

 

ダメージタイプ W(4-6)

 

E-BOX数 18

 

良い 15-18

 

普通 7-14

 

悪い 0-6

 

 

 

◇管理方法

 

1、勇気が4以上の職員が作業を行うとお菓子状態となり、クリフォトカウンターが減少した。

 

2、自制が2以下の職員が作業を行うとお菓子状態となり、クリフォトカウンターが減少した。

 

3、クリフォトカウンターが0になると、一定時間ごとにお菓子状態の職員を魅了し収容室に呼び寄せた。

 

4、クリフォトカウンターが0の状態で収容室に入った職員は、『F-05-i60』の内部へと招かれた。

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 普通

2 普通

3 普通

4 最高

5 最高

 

洞察

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

愛着

1 最高

2 最高

3 普通

4 普通

5 普通

 

抑圧

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 3

 

非脱走アブノーマリティ

 

 

 

◇ギフト

 

おやつ(ブローチ1)

 

 勇気+6 慎重+2 愛着-4

 

 焼きたてのクッキー型のブローチ。

 その香ばしい香りを嗅ぐと、どこか郷愁を感じる。

 

 

 

◇E.G.O.

 

 

・武器 おやつ(ボウガン)

 

クラス WAW

 

ダメージタイプ W(10-12)

 

攻撃速度 普通

 

射程 長距離

 

 様々な形のクッキーを組み合わせて作られたボウガン。

 意外にも手触りが良い。

 

 

 

・防具 おやつ

 

クラス HE

 

R 1.0

 

W 0.5

 

B 0.6

 

P 1.0

 

 かわいらしいクッキー柄のエプロン。

 そのエプロンからは、常に香ばしい香りが漂っている。

 

 

 余談(読み飛ばし可)

 

 というわけで、今回もわかりやすいFカテゴリでしたね。

 

 今回の元ネタは、皆さんご存じの通り『ヘンゼルとグレーテル』より『お菓子の家』です。

 

 元々はWAWの予定で作っていたのですが、新しいアブノーマリティを作っている間に「……あれ、なんかWAW多くね?」となってしまったんですよね。

 

 そこで考えてみたのですが、ちょっとこのアブノーマリティはWAWとしては格落ちかな? っと思って思い切ってHEに下げてみたんですよね。

 

 その分ちょっとHEっぽくしてみたら、とんでもなくHEっぽいアブノーマリティになってしまいました。

 

 うーん、こいつはひでぇや。

 

 さて、今回は更新が遅れてしまい申し訳ありません。

 

 実は体調を崩してしまいまして、しばらくかけませんでした。

 

 皆さんも季節の変わり目ですので、体調にはお気を付けください。

 

 それではまた次回。

 




Next O-09-i79『我々は神を超えた』

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Days-02 O-09-i79『我々は神を超えた』

「こんにちは先輩方! マキです、よろしくお願いします!」

 

「……ふん」

 

「おう、二人ともよろしくな」

 

 今回新しく入ってきた職員はマキとアセラだ。マキもアセラも前回とほとんど変わらない様子だった。

 

 ……いや、アセラは少しくらい変わってもよかったんだよ?

 

「ちょっとアセラさぁ、自己紹介もできないのはまずくない?」

 

「うるさい、僕に付きまとうな」

 

「ちょっと、せっかく心配してるのにそれはないでしょうが!」

 

 騒がしくするマキを完全に無視するアセラ、もしかしたら前回よりも二人の仲は悪くなりそうだな。

 

「まぁまぁ、二人とも落ち着け。この職場では冷静さをなくした奴から消えていくぞ」

 

「……ふん、言われてるぞ」

 

「なにそれ、もう知らない!」

 

 マイケルがこの場を収めようとしたが、うまくいかなかったようだ。

 

 結局アセラはそっぽを向いてどこかへ行ってしまった。

 

「すまないジョシュア、余計なことをしたかもしれない」

 

「気にすんなよマイケル、どうせこうなってたと思うよ」

 

 とりあえずマキの相手をマイケルに頼み、俺は作業に出かけることにした。

 

 今回はツール型アブノーマリティの日だ。

 

 正直ツール型ってめったに使うことがないから気乗りしないんだよなぁ。前回のツールである『T-09-i92』*1もほとんど使っている奴いないし……

 

『まぁそういうな、どうせこんな死と隣り合わせな場所だ。せっかくだし命を懸けられるところでかけたらいい』

 

「いやお前、それはチャレンジャーすぎるだろ。いくら他人の命だからってそれはないだろうが」

 

『? 何言ってるんだ、これくらい当たり前だろう』

 

「えぇ……」

 

 こいつまさかの素で言っていたのか、まさかこんなところでこいつとの価値観の違いを見せつけられるとは思わなかった。

 

「……っと、もう着いたのか」

 

 気が付けば『O-09-i79』の収容室の前にたどり着いていた。

 

 いつものように収容室の扉に手をかけ、適当に扉を開く。

 

 収容室の中からは、異なる二つの気を感じた……

 

 

 

 

 

「……うわぁ」

 

 収容室の中には、神聖な気配と邪悪な気配がごちゃ混ぜになった気持ち悪さが充満していた。

 

 収容室の奥には、ツールが収められたカプセルが存在している。

 

 そのカプセルの中には、注射器が浮かんでいた。

 

「注射器とか、もうこの時点で嫌な予感しかないなぁ」

 

 注射器の中には、赤黒い半透明な液体が入っていた。

 

 どう考えても、これを自分で注射しろってことだろう。

 

 ……正直嫌なんだけど、マジで嫌なんだけど。

 

 だって俺注射苦手なんだよ、我慢はできるけどいまだにうってもらうときに目をつぶって見えないようにしちゃうんだもん。

 

 ただでさえ苦手なのに、さらに自分で打つなんて嫌すぎるだろ!

 

『まったくうるさい奴だ、それくらい早くしたらどうだ?』

 

「うるさい、苦手なもんは苦手なんだよ!」

 

『まったく仕方がない、何なら俺がうってやろうか?』

 

 一体何を言っているんだこいつは?

 

 ……いや、なんかこのままだと本当に出てきそうだし、さすがにそれはまずすぎる。

 

 こうなったらもうやるしかない、男は度胸だ!

 

「うぐぅ」

 

 思い切って注射器を手に取り、自分の腕に注射する。

 

 すると一気に熱が体の全身に駆け巡り、体内の血液が沸騰したかのように錯覚する。

 

 心臓の鼓動は爆発的に早くなり、体は熱いはずなのに体感温度がどんどんと低くなってくる。

 

 あまりの寒さに体が震え、顎ががちがちとなり始める。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 注射からしばらくして、ようやく症状が治まってきた。

 

 正直これでなんの変化があったのだろうか?

 

 別に精神や体力が回復している様子もないし、何かステータスが変わった様子もない……

 

「……なぁ、何か変化を感じるか?」

 

『それを言ったらつまらんだろう? まぁ、お前にはあまり縁がなさそうな力ではあるがな』

 

「なんだよそれ?」

 

 どうやら輪廻魔業にはこれが何かわかるらしい。

 

 しかし、俺にはあまり縁がないとはどういうことだ?

 

「……まぁ、考えても仕方がないか」

 

 とりあえず収容室から退出する。

 

 やっぱり体に変化がない、調子が良くも悪くもない、正直あの副作用でこの変化のなさは逆に不気味だった。

 

「まったく、これだからツールは嫌なんだよ……」

 

 

 

 

 

「……くそっ、しくじった」

 

 血があふれ出して止まらない、どうやらもう助かりそうにない。

 

 ……畜生、まさかこんなことになるなんてな。

 

「ジョシュア、ジョシュア!」

 

「完全に頸動脈が切れてやがるっ! くそっ、早くHP回復弾を持ってこい!」

 

「だめだ、『O-04-i31』*2が邪魔で弾丸が打てない!」

 

 くそっ、周囲が綿毛に囲まれてよく見えない。シロは助かったのだろうか?

 

「やばっ、もしかしてこれって私のせいですか?」

 

「そんなことはどうでもいいから早く綿毛を振り払うのを手伝え! 非力なお前でもそれくらいできるだろうが!!」

 

「まぁ、私も食べてもらう前に死なれても困るので、お手伝いはしますけども……」

 

 周囲の声が聞こえる、それに交じって何かを切り裂くような音も……

 

 どうやら、まだ青空の黎明と戦っているようだ。

 

 完全に油断だった。綿毛、いるだけで邪魔な『F-01-i63』*3、狙われたシロ……

 

 たとえ不利な状態でも、落ち着いて戦えばこんなことにはならなかった。

 

 それでもこうなってしまったのは、相手が黎明であったからという油断だろう。その一瞬のスキを突かれ、足元をすくわれることになったのだ。

 

「すまない……」

 

 意識が沈みゆく、あたり一帯が真っ暗になり体がみな底に向かっていくかのようだ。

 

 見えない手のような何かが、俺のことを引きずり込もうとしてくる。

 

 ふと周囲を見てみると、俺と同じように何かが手に引きずり込まれていることに気が付いた。

 

 ……いや、それは俺と同じではなく、もがいて浮き上がろうとしている。

 

 そこで、俺は直感的に理解した。

 

 きっと、ここで藻掻かないと後悔してもしきれないと。

 

「ふざけるなよ!」

 

 見えない手を振り払い、必死にもがき続ける。

 

 必死に腕を振るって、上へあがっていく。

 

 見えない腕に引きずり込まれないように、隣の何かに先を越されないように……

 

 

 

 

 

「はっ!?」

 

「ジョシュア!?」

 

 気が付けば、目の前にシロがいた。

 

 どうやら俺を抱きかかえてくれていたらしい。

 

「よかった、生きてたんだ……」

 

「あぁ、心配をかけたな」

 

 シロの抱きしめる力が強まる。

 

 俺も抱き返すと、ふと腕に模様が浮き上がっていることに気が付いた。

 

 俺の腕には、杖に巻き付く蛇の模様が浮き上がっていた。

 

 

 

 

 

 かつて医学の神は、死者をよみがえらせた。

 

 しかしそれは神の怒りにふれ、雷に打たれることとなった。

 

 我々は彼の偉業を追い求め、ついには死者をよみがえらせることに成功した。

 

 それがたとえどんな形であれ、確実に死者をよみがえらせる方法を編み出したのだ。

 

 そう、我々はついに、神を超えたのだ。

 

 

 

 

 

 O-09-i79『螺旋の蛇』

 

*1
『真夏の夜のシャワールーム』

*2
『幸せの贈り物』

*3
『桃源の甘露』



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O-09-i79 管理情報

 『O-09-i79』は赤黒い半透明の液体の入った注射器です。

 

 『O-09-i79』の収容室には、神聖な気配と邪悪な気配が入り混じった異様な雰囲気が充満しています。

 

 『O-09-i79』を使用した職員が死亡した場合、復活する場合があります。ただし、本人として復活するとは限りません。

 

 『O-09-i79』を使用したとしても、自分の命を投げ捨てるような真似はやめてください。

 

 

 

 

 

『螺旋の蛇』

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

危険度クラス HE

 

 

 

単発使用タイプ

 

 

 

 

 

 

 

◇管理情報

 

 

 

1(1)

 

 『O-09-i79』を使用した職員が死亡した場合、低確率で復活した。

 

 

 

2(3)

 

 また、『O-09-i79』を使用した職員が死亡した場合、低確率で『O-09-i79-01』に変貌した。

 

 

 

3(5)

 

 『O-09-i79-1』となった職員は、ほかの職員を襲い、その職員を『O-09-i79-1』に変貌させた。

 

 

 

4(7)

 

 復活、または『O-09-i79-1』になる確率は、使用するごとに上昇した。

 

 

 

 余談(読み飛ばし可)

 

 はい、というわけでまだ有用なツールです。とはいっても、使っても別にいいけども使わなくてもいい結局使わなくなっていくタイプのツールですが。

 

 今回のツールは死亡した場合復活するか敵対存在になるかの賭けとなるツールです。

 

 もしも敵になった場合は、まぁHE相当のそこそこ強い敵になります。

 

 また、『O-09-i79-1』になった職員が職員を殺害すると、『O-09-i79-1』にする効果があります。

 

 つまり、そのまま復活させるかゾンビにするかのツールということですね。

 

 ちなみに最初の確率は復活とゾンビともに10%、追加で使用するたびに10%ずつ増えていき最終的にフィフティーフィフティーになります。

 

 うーん、使えなくはないって感じですね。

 

 今回のツールの元ネタは、感想欄でも言われていましたが、アスクレピオスの蘇生薬です。

 

 実はアスクレピオスが結構好きで、某人理修復ゲームで出てきたときは小躍りしながら速攻で宝具5にしましたよ。ついでに聖杯も突っ込みました。

 

 昔書いた小説にも出ているのですが…… まぁ黒歴史です。

 

 ちなみにアスクレピオスには面白い逸話がいくつもありまして、その中でも好きなのが不妊の女性を妊娠できるようにする話です。

 

 ある女性が子どもができないので妊娠できるようにしてくださいとアスクレピオスに頼み、アスクレピオスは見事その女性を妊娠できるようにしたのです。

 

 最初はその女性も喜びましたが、いつまでたっても子供が生まれてこず、不審に思って再びアスクレピオスのところに訪れると、「出産もしたいなら最初に言ってくれ」と返されたそうです。

 

 つまりは『医者には症状等を正確に伝えなさい』的な話なのですが、この話がアスクレピオスのやばい奴感が出ててめちゃくちゃ好きなんですよね。

 

 ちなみにこの後ちゃんとこの女性は出産できたらしいです。

 

 ほかにもアスクレピオスのカルテがあるらしく、その中には『割れたコップ』もあったとか……

 

 こうしてみると、神話って面白い話が結構ありますよね。

 

 それでは今回はここまでです。

 

 次回は1話挟んで新しいアブノーマリティに行きます。

 

 次回もよろしくお願いします。

 




Next T-04-i54『じわりじわりと近づいてくる』

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Days-10 鍵『追憶』

「ちょっと待ってください、その体で逃げ回らないでくださいよぉ!!」

 

「チュー!」

 

「このくそタヌキィ!!」

 

 目の前でパンドラがパンドラを追いかけている…… いや、正確にはパンドラに化けているナニカ、をだが。

 

「あはははっ!!」

 

「なぁ『F-02-i32』*1、お前って自分以外も変化させられるのか?」

 

「そうだよ、でもそううまくはできないんだけどね」

 

 今俺の膝の上でなでられているのは『F-02-i32』だ、パンドラたちの追いかけっこを見ながら爆笑している。相変わらず性格がよろしくない。

 

 今こいつは自身の能力をそこら辺のネズミに使い、パンドラに変化させている。ただ、クリフォト抑止力下では自身に同時に使えないし、動くこともできないようだ。

 

「あー、そろそろむりぃ」

 

 ポンッ っという音とともに、先ほどまでパンドラだったネズミは元の姿に戻り、どこかへ走り去っていった。

 

 どうやら『F-02-i32』の力が限界に達してしまったらしい。

 

「どうどう、僕も結構やるでしょう?」

 

「そうだな、あとはこの力を俺たちの迷惑にならない方向で使ってくれたらうれしいんだけどな」

 

「えぇ~、それは嫌だなぁ」

 

「なんでだよ?」

 

 なんとなく理由はわかるが、一応聞いてみる。すると『F-02-i32』は目をキラキラと輝かせながら口を開いた。

 

「だってさ、収容室を開いて人間たちが慌てふためいているのを見てるとさ、めちゃくちゃ面白いじゃん!!」

 

「普段は辛気臭い顔や達観したような顔してるのにさ、脱走した瞬間めんたまひん剥いてビビり散らかしてるんだよ!」

 

「……はぁ、じゃあ『F-01-i63』が脱走してもいいんだな?」

 

「すいませんそれだけは許してください」

 

 どうやら『F-02-i32』でも、あのやばい奴の相手は嫌なようだ。

 

 それにしても、こうして話してみると、やっぱりアブノーマリティはアブノーマリティだな。正直こればっかりはどうしようもないように感じる。

 

 だが、それでも……

 

「なぁ、お前が面白いって理由でそんなことしてるんだったらさ、もしもそれ以上に面白いことがあればやめてくれるのか?」

 

「へっ?」

 

 俺の提案が意外だったのか、『F-02-i32』は目をぱちくりさせていた。

 

 そしてしばらくの間考え込むようなそぶりを見せると、こちらに顔を向けてきた。

 

「うーん、面白いことってどんなことだ?」

 

「そうだな、すぐに見せれるわけじゃないんだ。でも、もし約束してくれるなら、俺がお前に面白いことを教えてやるよ」

 

「えー」

 

 さすがに、こんな約束じゃ無理があるか。わかっていたことではあるが、すこし期待してしまっていたようだ。

 

 だが、『F-02-i32』は再び俺を見ながら口を開いた。

 

「いいよ、でも絶対面白いことを教えてよ!」

 

「本当か!? よっし、それじゃあまずは楽しい遊びから教えて行ってやるよ!」

 

「おー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱり、二人は似た者同士なんですね」

 

 

*1
『小さくて意地悪な狸』




仕事が忙しくてなかなか更新できなくてすいません。もう少し忙しい日々が続きそうなので、もう少し更新が遅れてしまうかもしれません。

もうすこしお待ちください。


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教育部門 Ⅱ
Days-11 T-04-i54『じわりじわりと近づいてくる』


名前を入れ忘れていたので、修正しました。


「……ジョシュア、どうしたの?」

 

「あっ、あぁ…… ちょっと考え事をしていたんだ」

 

 今日の業務前に考え事をしていると、シロが話しかけてきた。

 

 考え事といっても『F-02-i32』*1のことについてなので、そうたいしたことでもないのだが……

 

「……そう、ならいいんだけど」

 

「なんか俺、変なところあったか?」

 

「……ううん、ただ、ちょっと楽しそうだったから」

 

 楽しそう? 俺が?

 

 ……確かに、あの狸との約束をどう守ろうか考えるのは、ちょっと楽しんでいたかもしれない。でも顔に出すほどだっただろうか?

 

 

「それよりも、新しいE.G.O.になったんだな」

 

「……うん、おいしそうでしょ?」

 

「いや、おいしそうって……」

 

 自分の装備への言及でその感想はよいのだろうか?

 

 ちょっと話をそらそうとしたらまさかの反応で面を食らってしまった。

 

「……それじゃあ、そろそろお仕事行ってくる」

 

「おう、それじゃあ俺も行ってくるよ。今日も頑張って生き残ろうな」

 

「……うんっ!」

 

 いつものように別れの挨拶をすると、シロはいつもと違ってちょっと嬉しそうな表情で返事をして去っていった。

 

 

 

 

 

「……さて、今日のアブノーマリティは『T-04-i54』だな」

 

 今日作業するアブノーマリティの収容室へ向かって歩いていく。

 

 今回収容されたアブノーマリティは『T-04-i54』だ。無生物に分類されるアブノーマリティだが、トラウマカテゴリーであることで妙に嫌な予感がするんだよなぁ。

 

『なんだ、まだ本物を見る前に怖気づいているのか?』

 

「うおっ、びっくりした! 最近話しかけてこないからもう消えたのかと思ったじゃないか」

 

「……それで、今回は何か企んでいるのか?」

 

『そう警戒するな、最近いろんなアブノーマリティと仲良くやっているではないか?』

 

『……そもそも、この状況になってから俺は何もしていないはずだが?』

 

「あーハイハイ、そう気にすんなって」

 

 はぁ、まったく…… 最近静かにしていると思ったらすぐにこれが。というか意外と細かいことを気にするんだなこいつ。

 

「さて、そろそろつくな。ちょっと静かにしていてくれよ」

 

『……はぁ』

 

 えぇ、もしかしてこいつに呆れられた? それはちょっと傷つくな……

 

 気が付けばもう収容室の目の前についていた。

 

 いつものように扉に手をかけ、お祈りをする。そして、お祈りを終えると思い切って扉を開いた。

 

 

 

 

 

 収容室の内部から、粘着質な音が聞こえる。

 

 その時点ですでに嫌な予感がしていたが、何とか気を確かにもってその音のする方向へと目を向ける。

 

 ……収容室の中心にいたのは、巨大なナメクジであった。

 

 その俺の胸ほどまである巨体は、こちらを舐るように観察しているように見える。

 

 表面からぬめぬめとした粘液を常に分泌しており、体をくねらせながら不快な粘着質な音をまき散らしている。

 

 いや、その汚らしい黄土色の体表をよく観察してみると、正確にはこいつが巨大なナメクジではないことに気が付いた。

 

 それは、拳大の大きさのナメクジの塊であった。それらは群れて一塊となることでナメクジの形をとり、あたかも一つの存在であるかのように見せかけているのだ。

 

 それはぬめぬめした粘液を垂らして床を汚しながら、じわりじわりと近づいてくる。

 

 まるでこちらに甘えるように、じわりじわりと……

 

「ひいぃぃぃ!?!?」

 

 俺は悲鳴を上げて思わず後ずさる。が、しかしすぐ背後に扉があったことで、それはかなわなかった。

 

「ちょ、ちょっとまて! これ以上近づいてくるな!!」

 

 とりあえず収容室内で『T-04-i54』から逃げ回る。しかしこいつは何が楽しいのか俺を追いかけまわしてきやがる!!

 

「ふざけるな、遊んでるんじゃないんだぞ!!」

 

 E.G.O.をぶつけてやろうかと思ったけど、それはそれで後悔しそうだからやめた。

 

『ぎゃはははっ!!』

 

「ふうっ、ふうっ、畜生!」

 

 とりあえず落ち着いてきたので収容室の掃除を始める。この気持ち悪い収容室をモップでとにかくこすりまくる。

 

 しかし掃除をしたところを『T-04-i54』が片っ端から塗りつぶすように移動してくる。ついでにこちらに対して威嚇のような行動を行ってきているので、もしかしたらあまり良くなかったのかもしれない。

 

「……はぁ、とりあえずこれで終わりか」

 

 時間が来たので収容室から退出する。『T-04-i54』は最後まで不満を表していたが、そんなものは知らん。

 

 できることなら、もう二度とこいつの作業は行いたくないな。

 

 

 

 

 

『『T-04-i54』が脱走しました、近くにいる職員は直ちに鎮圧に向かってください』

 

「えぇ、あいつの作業に行ってたのて誰だよ……」

 

「……新人の子、今施設内を走り回っているみたいだから止めに行ってくる」

 

「おう、頼んだぞ」

 

 ある程度作業が落ち着いてきたころに、脱走のアナウンスが鳴り響いた。どうやら『T-04-i54』が脱走したらしい。

 

 ……はぁ、やっぱり脱走するのかお前。仕方がない、シロはパニックになった職員を落ち着かせに行くようだし、俺が鎮圧に行くしかないだろう。

 

「さて、さっさと鎮圧しに行くか」

 

 とりあえずE.G.O.を構えて鎮圧に向かう。とはいってもここから脱走した廊下まではそう遠くない、とにかく走ってさっさと終わらせに行こう。

 

「さーて、どこにいるのかなって…… あれ?」

 

 『T-04-i54』が脱走した廊下にたどり着いたが、周囲のどこを探しても見当たらない。

 

 そこで真上から気配を感じ、まさかと思って上を向こうとしたその時、首筋に何かひんやりとしたものがボトリと落ちてきた。

 

「一体なに…… が……」

 

 首筋に落ちてきた何かをつかむと、それは気味の悪い粘液に覆われていた。

 

 そして手に持っていた気持ちの悪いナメクジを投げ捨てると、廊下の天井に目を向けて、そしてそれと目が合った。

 

 

 

 

 

「ぎゃあぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは群にして個、すべてがつながり一つとなる。

 

 たとえ離れていたとしても、それらは常につながり、一つであるのだ。

 

 彼らは今日も、周りの者たちとつながろうと目論んでいる。

 

 たとえそれがかなわぬ夢であったとしても……

 

 

 

 

 

 じわりじわりと、近づいてくる。

 

 

 

 

 

 T-04-i54『スネイルレイン』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ジョシュア、大丈夫?」

 

「うーん、あれ? ここは……」

 

 気が付けば目の前にはシロの顔が広がっていた。

 

 とりあえず体を起こして周囲を確認する。どうやら気絶して休憩室に運び込まれていたらしい。

 

 ……というか、もしかしてさっきまで膝枕されていたのか?

 

「……ジョシュア、『T-04-i54』にのしかかられて、気絶してた」

 

「うげぇ、俺そんなことをされていたのかよ」

 

「……うん、なんだか妙になつかれていたみたい」

 

「えぇ、それは全然うれしくないぞ」

 

 もうできれば『T-04-i54』の作業は行きたくないな、いや本気で。

 

「ふふっ、ジョシュアは相変わらず虫が苦手だね」

 

「仕方がないだろ、生理的に受け付けないんだよ……」

 

「そういえば、昔誰かのいたずらでひっくり返った大きな虫にびっくりしていたこともあったよね?」

 

「あぁ、『T-02-i29』*2の時のことか。あの時はパンドラが…… えっ?」

 

 今の発言に思わず目を見開く。この話は、前回の時しか覚えていないはず……

 

 混乱している俺をよそに、シロは可愛らしい笑みを浮かべて口を開く。

 

「やっぱり、ジョシュアはジョシュアなんだね?」

 

「あぁ、いや、えっと……」

 

「言わなくてもいいよ、わかってるから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕は覚えているよ、ジョシュアも覚えているんだよね?」

 

*1
『小さくて意地悪な狸』

*2
『美溶の渇望』




とりあえず仕事が落ち着くまでは、週に1体分くらいは更新していきたいですね。

それはそうと、ようやく『たった1冊の完全な本』に至りました。


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T-04-i54 管理情報

 『T-04-i54』は巨大なナメクジに見えるこぶし大のナメクジの集合体です。

 

 『T-04-i54』は脱走した場合、天井を這いずり回り、分散させた個体を降らせ続けます。

 

 『T-04-i54』は分裂した状態でも意識を共有しています。

 

 『T-04-i54』の分体をペットにしようとしただけで精神鑑定をしようとするのはさすがにおかしくないでしょうか?

 

 その精神鑑定で引っかかったのはあなたですよね? ついでに『T-04-i54』にその手の精神干渉は確認されませんでしたよ?

 

 

 

 

 

 

 

『スネイルレイン』

 

 

【挿絵表示】

 

 

危険度クラス TETH

 

ダメージタイプ W(2-4)

 

E-BOX数 12

 

良い 11-12

 

普通 4-10

 

悪い 0-3

 

 

 

◇管理方法

 

1、作業結果普通以下の場合、確率でクリフォトカウンターが減少した。

 

2、脱走した『T-04-i54』は、部屋全体にWダメージを放った。

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 高い

2 高い

3 高い

4 高い

5 高い

 

洞察

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

愛着

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

抑圧

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 2

 

R 弱点 1.5 

 

W 耐性 0.8

 

B 普通 1.0 

 

P 脆弱 2.0

 

 

 

◇ギフト

 

エスカルゴ(ブローチ2)

 

 慎重+2

 

 カタツムリの殻のブローチ。つけている分には問題ないが、手で触るとぬめぬめし始める。

 

 

 

◇E.G.O.

 

 

・武器 エスカルゴ(拳銃)

 

クラス TETH

 

ダメージタイプ W(2-4)

 

攻撃速度 高速

 

射程 長距離

 

 カタツムリを模した拳銃。小さなナメクジを高速で射出し、その軌跡は銀色に光り輝く。

 

 

 

・防具 エスカルゴ

 

クラス TETH

 

R 1.2

 

W 0.7

 

B 1.0

 

P 2.0

 

 全体的にぬめぬめしている肌色のスーツ。着ている分には問題がない。

 

 

 余談(読み飛ばし可)

 

 久しぶりのオリジナルアブノーマリティですね。今回はなるべく気持ち悪い感じで書いてみました。

 

 ……しかし、なぜか書いているうちにかわいく感じてしまい、愛着を持ってしまいました。

 

 なのでついでに、ジョシュア君に懐いてもらいました。

 

 まぁ、ジョシュアの反応が面倒なので、たぶんあんまり出番はなさそうですが。

 

 この前あとがきでLoRを完全クリアしたことをお伝えしましたが、そのこともあって最近ロボトミー熱が再発しました。

 

 やっぱりロボトミーは楽しいですね! MOD入れたおかげで新鮮な気持ちで遊ぶことができました!

 

 あんまりお勧めできるものではありませんが、私は実況動画から入った口なので初見とはいけなかったんですよね。

 

 だからこの新鮮さを大切にかみしめていましたね。

 

 さて、それではそろそろこのあたりにして、次のアブノーマリティも楽しみにしていてください!

 




Next O-05-i52『いや、大切なことだろう』


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Days-12 O-05-i52『いや、大事なことだろう』

「えっ、俺の昔話が聞きたい?」

 

「……うん。今思えば、ジョシュアがここに来る前のことあまり知らないから」

 

「別に面白い話はないぞ? どこにでもある普通の話だし……」

 

「……それでもいい、お話を聞かせて?」

 

「それでもいいなら話すけど。そうだな、どこから話そうか……」

 

 

 

 

 

「さってと、そろそろ作業に行きますか」

 

 今日も今日とて、仕事の時間がやってきた。

 

 そろそろやばめのアブノーマリティが収容されるようになる時期だ、気を付けなければ。

 

 今回収容されるアブノーマリティは『O-05-i52』、できれば危険でない奴だといいのだが……

 

「あっ、ジョシュア先輩! 今から仕事っすか?」

 

「あらジョシュアちゃん、今日も精が出るわね」

 

「おうロバート、今日も元気だな。ルビねぇも調子よさそうだな」

 

 そろそろ収容室に向かおうと考えていると、ルビねぇと最近入ってきたロバートが俺に声をかけてきた。

 

 前の週ではロバートは残念な結果に終わってしまった。しかし今回の週では以前死んでしまったマイケルが元気に過ごしているのだ、ロバートも無事な可能性もある。

 

「今からお仕事? 頑張ってね」

 

「よーし、それじゃあ俺もジョシュア先輩目指して頑張るとしますかねぇ」

 

「あんまり頑張りすぎるなよ? それじゃあ俺は行ってくるよ」

 

「頑張ってね」

 

「行ってらっしゃいっす」

 

 二人に見送られて収容室へと向かう。二人に見送られてふと、以前は彼らは同期であったが今回は違ったなと思い出す。

 

 まぁ最初から前回とは違う人事だったしそんなものかと思いながら廊下を歩いていく。

 

 今回のアブノーマリティは人工物だ、いったいどんな奴かはわからないが、とりあえずいつも通り見て決めるしかないだろうな。

 

「さて、あまり危険でないといいのだが……」

 

『そんな考えで足元をすくわれないといいな』

 

「ちょっとくらい希望を持たせてくれたっていいじゃないか」

 

『俺がどういう存在かわかっているのか……』

 

 あっ、そういえばこいつは絶望を振りまく存在だったな。最近こいつの本当の姿を見ていないから失念していた。

 

「まぁいいじゃないか、それよりもついたぞ」

 

『俺はお前のことが心配になってきたぞ……』

 

 あれ、もしかして俺こいつに呆れられてる?

 

 ……まあいいか。それよりも収容室の目の前にたどり着いたんだ。

 

 いつものようにドアに手をかけてお祈りをする。そして気合を入れて扉を開いた……

 

 

 

 

 

「うっ、なんだこいつは……」

 

 収容室に入ると、妙に甘ったるい匂いが香ってきた。

 

 前回の『F-05-i60』*1と同じようで、どこか決定的に違う匂い。それはかすかに感じる鉄のにおいのせいだろうか?

 

「今回のこいつは…… ケーキか?」

 

 収容室の中央に存在したのは、巨大なショートケーキだった。

 

 それはまるで子どもの夢のように、食べきれないような大きさのケーキであった。

 

 しかし、普通のケーキとは決定的に違うところがある。

 

 それは、このケーキが所々血に汚れている点、まるで手足のようにティーカップや皿、フォークやスプーンが生えている点、よく見ればスポンジの中央部分に歯が生えている点、そして何より……

 

「いや、なんか足りなくね?」

 

「!?」

 

 俺のつぶやきに、『O-05-i52』がすこし反応した気がした…… あれ、なんか気に障った?

 

「……さて、それじゃあ作業をしていくか」

 

 とりあえず作業をしないことには始まらない。とりあえず食品だし洞察作業を行ってみる。

 

「……あー、やっぱりさっきの発言ミスったか?」

 

 『O-05-i52』は明らかに歯をカチカチながらこちらに威嚇しているように見える。どうやら地雷を踏んでしまったらしい。

 

「まぁ、あんまり気にしても仕方がないか」

 

 とりあえず襲われる心配もなさそうなので、作業を続ける。とはいっても、清掃もさほど時間もかからずすぐに終了した。

 

「さて、さっさと退散するか」

 

 なにやら『O-05-i52』がそわそわしているように見えるが、気のせいだよな?

 

 とりあえず収容室から出て廊下を歩く、なんとなくさっさとここから離れたほうがいい気がした。

 

「あっ、ジョシュアさんお疲れ様です」

 

「おう、お疲れ」

 

 廊下を歩いていると、オフィサーの子が話しかけてきた。早めにここから離れたかったが、まあ多少話をしても大丈夫だろうと考えていると、収容室から何かが飛び出してきた。

 

「キシャアァァァァ!!」

 

「うっそだろお前!?」

 

 いきなり俺に襲い掛かってきた『O-05-i52』に、とっさに“綿毛”で攻撃を防ぐ。

 

 とりあえずオフィサーを助けようと彼女のほうを向くと、気が付くと『O-05-i52』は彼女に向かってその大きな口を開いていた。

 

「なっ、やめろぉ!!」

 

 俺の声は届くことなく、『O-05-i52』はオフィサーに食らいつき、惨い音を立てながら咀嚼していた。

 

 そして『O-05-i52』がしばらく咀嚼していると、やがて『O-05-i52』の上部にさっきのオフィサーの頭が生えてきた。

 

 ……あぁ、イチゴが足りなかったのか。

 

 そこで妙な納得をするが、まだ事態は終わっていない。

 

 “綿毛”を構えながら『O-05-i52』の様子をうかがう。

 

 しかし、『O-05-i52』はこちらを一瞥するとそのまま収容室へと帰っていった。

 

「……はぁ?」

 

 予想外の展開に思わず変な声が出た。

 

 もしかしてこいつ、勝手に帰っていくのか。

 

「……いやいや、今はそっちよりあの子のほうだろう!」

 

 とりあえず再び収容室の中に入る。収容室の中では『O-05-i52』がくつろぎ、上に生えてるオフィサーの視線がこちらに向けられていた。

 

「……もしかして、意識ある?」

 

「えぇ、まぁ、はい」

 

「大丈夫か?」

 

「いやいや、全然大丈夫じゃないですよ。だって体がないのは感覚でわかるし、でもなんだかふわふわしてて居心地はいいかも……」

 

「まぁ、そんな感じなのであんまり気にしないでくださいね」

 

 それだけ言うと彼女は、ほわほわのクリームで蕩けた様な可愛らしく笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局今回もこうなっちゃいましたね。

 

 ……んっ、そうだな。

 

 ちゃんと話聞いてますか? やっぱり異常ですよ、『T-05-i08』*2は。

 

 確かにそうだな、今回も前回も、こんな悍ましい存在を作り上げてしまうのだから。

 

 さっきからどこか上の空ですけど、どうしたんですか?

 

 ……いや、こいつショートケーキのくせにイチゴがないじゃないか。

 

 えっ、それって今考えることですか?

 

 

 

 

 

 いや、大切なことだろう?

 

 

 

 

 

 O-05-i52 『フレディのニヤニヤべつばらスイーツ』

 

*1
『お菓子な家』

*2
現状では未判明



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O-05-i52 管理情報

 『O-05-i52』巨大なショートケーキの形をしたアブノーマリティーです。食用できますが、衛生上の問題でお勧めしません。

 

 『O-05-i52』は常に上部のイチゴを求めてさまよっています。イチゴのない『O-05-i52』は大変狂暴なので近づかないようにしてください。

 

 上部にイチゴを載せた『O-05-i52』は大変おとなしいです。ちょっとやそっとのことでは怒らなくなります。

 

 イチゴのない『O-05-i52』の上部に代用品としてプチトマトや鬼灯を置くのはやめましょう。いつも以上に暴れまわります。

 

 

 

 

 

『フレディのニヤニヤべつばらスイーツ』

 

 

【挿絵表示】

 

 

危険度クラス HE

 

ダメージタイプ R(2-6)

 

E-BOX数 18

 

良い 16-18

 

普通 5-15

 

悪い 0-4

 

 

 

◇管理方法

 

1、作業結果普通以下で、確率でクリフォトカウンターが減少した。

 

2、勇気3以下の職員が収容室に入ると、その職員を捕食しイチゴとした。

 

3、脱走した『O-05-i52』は、職員を殺害すると捕食しイチゴとした。

 

4、イチゴを持っている状態の『O-05-i52』は何かに満足したのかおとなしくなり、自ら収容室に戻った。

 

5、イチゴを持っている状態の『O-05-i52』への作業効率は上がり、PE-BOXの量も増えた。

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 最高

2 最高

3 最高

4 高い

5 高い

 

洞察

1 高い

2 高い

3 高い

4 高い

5 高い

 

愛着

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

抑圧

1 低い

2 低い

3 低い

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 1

 

R 普通 1.0

 

W 弱点 1.5

 

B 耐性 0.7

 

P 弱点 1.5

 

 

 

◇ギフト

 

苺(頭2)

 

 勇気+6 慎重-2

 

 頭頂部に置かれるイチゴを模した髪飾り。甘い香りが食欲をそそるが、よく見ると種の配置が若干人の顔にも見える。

 

 

 

◇E.G.O.

 

 

・武器 苺(ボウガン)

 

クラス HE

 

ダメージタイプ R(5-10)

 

攻撃速度 高速

 

射程 長距離

 

 ショートケーキ型のボウガン。イチゴ型の矢じりのついた弾を飛ばすことで、相手にもイチゴをおすそ分けする。

 

 

 

 

 

・防具 苺

 

クラス HE

 

R 0.5

 

W 1.2

 

B 0.5

 

P 1.5

 

 ショートケーキの断面の模様をした奇抜なスーツ。ちょうど胸のところにイチゴの断面が来ており、ホイップ型の肩パッドもついている。

 

 

 余談(読み飛ばし可)

 

 ということで、今回はまさかのフレディです! いったい何人がハンバーグのことを覚えているのでしょうか?

 

 まぁわかっている人もいると思いますが、こいつは『フレディのドキドキいやしんぼバーガー』と関連のあるアブノーマリティです。

 

 本当は仲間を作る予定はなかったのですが、ちょっといろいろ考えた結果完成したのがこのアブノーマリティーです。

 

 結構ぎりぎりに作ったので、ちょっと番号とかが適当ですが……

 

 今回のこいつは結構優良枠です。

 

 なぜなら脱走してイチゴを載せたら、あとは脱走しなくなる、正確には脱走してもすぐに帰宅するという無害アブノーマリティに変身します。

 

 ついでにイチゴはオフィサーでもいいので、かなり楽です。

 

 それにしても今回は結構時間が空いてしまったので、次はなるべく早めに投稿したいですね。

 

 それでは次回もお楽しみにしていてください。

 




Next F-01-i36『波に紛れて貴方を思う』

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Days-13 F-01-i36『波に紛れて貴方を思う』

「さて、どこから話そうか」

 

「そうだな、俺が覚えている限り昔のことを話そうか」

 

「とりあえず俺は、気が付けばこの都市にいたんだ」

 

「小さいガキだったし最初は右も左もわからなかったけど、近所の爺さんが俺に良くしてくれてさ、いろいろなことを教えてくれたんだ」

 

「どこの誰とも知れないガキを育ててくれた爺さんには感謝しているよ」

 

「爺さんはみんなから頼られていて、よくいろんな頼みを聞いていたんだ」

 

「そのせいで恨みを買っちまったんだろうな…… 爺さんは首から上と内臓だけの状態で生きながらえさせられていた」

 

「俺にできたことは、爺さんを楽にしてやれることだけだったよ」

 

 

 

 

 

「……さて、今日も仕事の時間だな」

 

 今日も今日とて、地獄の時間がやってきた。

 

 教育部門ももうすぐ終わりだ、できることならこのままの流れで安全な奴が来てほしいが……

 

「ジョシュア、何か悩み事か?」

 

「あぁ、マイケルか、ちょっと今回の奴がどんな化け物だろうか考えていてな」

 

「そんなこと考えても仕方がないだろう? 悩んでいる暇があったらさっさと行ってくれ」

 

「お前自分に関係ないからって適当言いやがって……」

 

「そういいながら結局生き残ってくるんだろうが」

 

 そういいながら肩をたたくマイケルに、俺は何も言えなくなってしまった。

 

 確かに今までのことを考えたらそう思われるよな。俺だってそう思う。

 

「そんな顔するなって、今日の昼めしおごるからさ」

 

「……はぁ、約束だぞ」

 

 とりあえず飯をおごってくれるというのならありがたくもらっておこう。

 

 確かにマイケルの言うことも正しいので、今日収容されたアブノーマリティの収容室へと向かっていく。

 

 今日収容されたアブノーマリティは『F-01-i36』、童話の人型アブノーマリティだ。

 

 童話ならよっぽどマイナーでない限りは見てわかるはずだ。

 

「……さて、もう着いたか」

 

 いつものように収容室の扉に手をかけてからお祈りをする、そしてお祈りを終えてから力を入れて扉を開いた……

 

 

 

 

 

 ザザァ ザザァ……

 

「……あぁ、なるほど」

 

 収容室に入ると、まずは潮騒が聞こえてきた。

 

 しかしこの潮騒はかつて聞いたあの潮騒とは違い、どこかもの悲しげなものを感じた。

 

 収容室の内部はその半分が海に沈み、残りの半分は砂浜となっていた。

 

 そしてその生みの部分の中心からは岩が突き出しており、その岩の上には一人の少女が座っていた。

 

「……きれいだ」

 

 その少女は、きれいな金色の髪を風靡かせながら歌を歌っていた。

 

 目を閉じ風を感じながら歌う彼女には、一つ普通の人間とは違う部分があった。

 

 それは彼女の下半身が、魚の尾のようになっている、つまり人魚であるということであった。

 

 彼女は歌を歌うことに夢中になっていたようだが、俺のつぶやきを聞いたのか歌を止めるとこちらを見つめてきた。

 

「……なんだ?」

 

 彼女は俺のことを見て目を見開くと、いきなり海の中に飛び込んだ。

 

 一体何なんだろうと思っていると、浜辺の付近で彼女が海面から顔をのぞかせていた。

 

 その目は何かを求めているような期待しているような瞳であった。

 

「あー、もしかして撫でてほしいのか?」

 

 なんとなく撫でてほしそうにしていたので、軽く撫でてみる。

 

 すると『F-01-i36』は気持ちよさそうに目を細めていた。

 

『……』

 

「ん? 何か気になることでもあるのか?」

 

『……いや、なんでもない』

 

 なんとなく、輪廻が何かを考えているように感じたが、どうやらいうつもりはないらしい。

 

 こいつはなんだかんだで忠告はしてくれるから、もしかしたら気を付けたほうがいいのかもしれないな。

 

 ……まぁ、信じすぎたら足元をすくわれそうだけどな。

 

「さて、そろそろ終わりにするか」

 

 そろそろ時間も来たので『F-01-i36』の頭から手を放す。

 

 『F-01-i36』は名残惜しそうにしていたが、「また来るから」といって頭をポンポンたたく。

 

 俺はそのまま収容室を後にする、その背中に熱い視線を感じながら……

 

 

 

 

 

「さてと、また来たぞ…… って、うおっ!?」

 

 しばらく休憩してから再び『F-01-i36』の収容室に訪れると、いきなり何者かが抱き着いてきた。

 

 反射的に反撃しそうになるも、その姿を見て思いとどまる。

 

 なぜなら、抱き着いてきた相手が『F-01-i36』であったからだ。

 

 彼女の下半身は人間と同じものになっており、何故か服を着ていなかった。

 

「おい、とりあえず離れてくれ!」

 

 抱き着いて俺の胸にぐりぐりと頭をこすりつける『F-01-i36』をいったん引きはがし、落ち着かせる。

 

 とりあえず害意はなさそうだが、それだけでは安心できないのがアブノーマリティだ。善意でこちらを害してくるとか日常茶飯事だからな。

 

 とりあえず今回は洞察作業を行っていく。手に持ったトンボで砂浜を均し、整えていく。

 

 端っこで『F-01-i36』が構ってほしそうにこっちを見ているが、無視を決め込む。とりあえずこのままだとまずいということを俺の第六感が告げている。

 

「……ふぅ、いい感じにきれいになったかな」

 

 洞察作業も終わり、そのまま収容室から出ようとする。

 

 そこで袖を引かれ振り向くと、『F-01-i36』が寂しそうな表情でこちらを見ていた。

 

 そのまま無視して部屋から出ようとするが、手を放してくれないので頭を撫でてやる。

 

 すると『F-01-i36』は満足そうな表情で袖から手を放したので、その隙を逃さずに収容室から退出する。

 

「……うん、もう来るのやめよ!」

 

 これは絶対やばい奴だ、もうこれ以上触れないようにしよう。だって絶対このままだとやばいことになるじゃん。

 

 とりあえずこのままだとまずそうなので、さっさと収容室から離れる。この後は別の奴に作業をしていくとするか……

 

 

 

 

 

「よーし、作業終了!」

 

 『O-05-i52』*1への作業も終わり、そろそろ休憩に入りに行く。

 

 今日はマイケルがおごってくれることになっているから、普段は頼まないような高いものでも頼もうか…… と考えていると、件のマイケルがすごい形相でこちらに走ってきた。

 

「ジョシュア! 今すぐ逃げろ!」

 

「はっ? 逃げろってどこに?」

 

『まずい! ジョシュア、今すぐ逃げろ!』

 

「反対方向に! 『F-01-i36』が脱走してお前に向かっている!」

 

 マイケルどころか輪廻までこう言っているってことは、かなりまずい状況かもしれない。

 

 急いでマイケルに背を向けて走り出す、振り向くとマイケルは俺に背を向けて“苺”を構えていた。

 

 どうやら足止めをするようだ。

 

「くそっ、いきなりなんなんd……」

 

『ジョシュア、おいジョシュア!』

 

 廊下から出ようと扉に手をかけると、そこで手が止まってしまった。

 

 急な眠気、安らかな気持ち、脳裏に浮かぶ愛しいあの子の顔……

 

『くそっ、強制的に役を当てはめているのか!』

 

 薄れゆく意識の中最期に見えたのは、『F-01-i36』(愛しい彼女)の泣き顔だった……

 

 

 

 

 

 すべてが終わり、『F-01-i36』は収容室に戻った。

 

 もう彼女は悲しまない、ただただ愛しい彼を抱く。

 

 頭だけとなった彼は、うすぼんやりとこう思うのであった。

 

 あぁ、こうして愛されるのであれば、それはとても幸せなのかもしれない……

 

 

 

 

 

「……はっ!?」

 

 気が付けば、始業前に戻っていた。

 

 あれは夢? ……いや、あれは現実だった。今も殺された時の生々しい感触が残っている。

 

 それに、殺されたあとの事も……

 

『ジョシュア、目が覚めたか?』

 

「輪廻、何処まで覚えている?」

 

『全てだ、お前が殺される瞬間も、その後無様な姿で奴に弄ばれている所も』

 

 ということは、恐らく管理人が巻き戻しを行なったのか?

 

 だとしたら、ありがたいと思うと同時に嫌な予感もした。

 

 これからも俺は、こうやって死に続けるだろう。そのたびにその死の瞬間を持ち越していくのだとしたら、果たしてそれに俺は耐えきれるのだろうか?

 

「……いや、考えても仕方がないか」

 

 そんなことを考えても仕方がない。本当なら一度きりの命なのだ、生きてるだけ儲けもんと考えよう。

 

「取り敢えず、早く仕事に向かおう。愛しの彼女も待っている…… はぁ?」

 

 今、俺はなんて言った?

 

 もしかして、『F-01-i36』の事を愛しいと感じていたのか?

 

 だとしたらまずい、死んだあとも精神汚染が抜けきってないことになる。

 

 なんとか、なんとかしなければ……

 

『……ジョシュア、今日は休め』

 

「いや、休めるわけ無いだろ」

 

『一つだけ手がある、お前が受け入れればの話だが……』

 

 妙に気遣う輪廻と話していて、ふとあることを思い出す。

 

 そういえば以前、輪廻に教えてもらって魅了を解いたことがあった。

 

 あのときのように出来ないかと思い左眼の鍵穴に意識を傾けて、思い留まる。

 

 いや、もっと良い方法がある。

 

 次に意識を傾けるのは鍵穴の前の時点、その瞳を包む青白い炎だ。

 

『……おい、まさか!』

 

 輪廻の嬉しそうな声が頭に響く。

 

 そんな声を無視して、“残滓”の炎を広げていく。

 

 魂を浄化する青白き炎が俺の体に燃え広がり、やがて全身を包み込む。

 

 それと同時に、俺の中にある不純物が焼き尽くされていくのを感じる。

 

 やがてそれが全て焼き尽くされたのを直感したとき、俺の手元に一本のナイフがあることに気がついた。

 

『さすがは俺が見込んだだけはある、最高だジョシュア!』

 

 そのナイフからは、俺が知っているものより遥かに強い力を感じる。

 

 だが……

 

 それは確かに、“残滓”であった。

 

 

 

 

 

 わかっていた、私と彼とでは生きる世界が違うことは

 

 しかし、この思いを止めることなど私には出来なかった

 

 この気持ちは、本当なら捨てなければならなかった

 

 でも、捨てきれなかった

 

 だから私は、波に紛れて貴方を思う

 

 どうかこの恋が、実らぬようにと……

 

 

 

 

 

F-01-i36『泡沫の夢』

*1
『フレディのニヤニヤべつばらスイーツ』



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F-01-i36 管理情報

 『F-01-i36』は下半身が魚の形をした人型のアブノーマリティです。一人の時には悲しげな歌を歌っています。

 

 『F-01-i36』は自らの理想の王子様を見つけると、何者かと契約を行い完全な人型に変身します。

 

 王子様が浮気を行うと、『F-01-i36』は嘆き悲しみ、周囲に彼女の姉妹たちが現れます。

 

 彼女の姉妹たちは『F-01-i36』を唆し、王子様を殺害させようとします。

 

 その状態で脱走した『F-01-i36』と王子様が同じ空間にいると、その場に存在するすべての人間に役割が与えられ、その役割を強制させます。

 

 王子様を助けたければ、彼女が王子様のもとにたどり着く前に鎮圧しなければなりません。

 

 

 

 

 

『泡沫の夢』

 

 

【挿絵表示】

 

 

危険度クラス TETH

 

ダメージタイプ R(2-4)

 

E-BOX数 12

 

良い 6-12

 

普通 4-5

 

悪い 0-3

 

 

 

 

◇管理方法

 

1、第一幕 『F-01-i36』が王子様に出ったとき、クリフォトカウンターが減少し姿が変わった。

 

2、王子様が他のアブノーマリティに連続で作業を行うと、クリフォトカウンターが減少した。

 

3、第二幕 クリフォトカウンターが3になると、収容室内に変化が起こった。その後王子様がいる限りクリフォトカウンターは4以上にならなかった。

 

4、第三幕 その後『F-01-i36』は嘆き悲しみ、作業効率が低下した。

 

5、第四幕 この状態でクリフォトカウンターが0になると、『F-01-i36』はナイフをもって王子様を探した。

 

6、第五幕 王子様のもとにたどり着いた『F-01-i36』は王子様の胸にナイフを突き立てた。

 

7、終幕 その後収容室に戻った『F-01-i36』は、全ての作業効率が最高になりエネルギーの取得率が大幅に増加した。

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 普通

2 普通

3 普通

4 低い

5 低い

 

洞察

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

愛着

1 最高

2 最高

3 最高

4 最高

5 最高

 

抑圧

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 5

 

R 2.0 脆弱

 

W 0.5 耐性

 

B 1.5 弱点

 

P 2.0 脆弱

 

 

 

◇ギフト

 

真珠(ブローチ1)

 

 自制+4

 

 きれいな真珠のついた貝殻のブローチ。その真珠に触れると、どこか悲しい気持ちになる。

 

 

 

◇E.G.O.

 

 

・武器 真珠(拳銃)

 

クラス TETH

 

ダメージタイプ W(3-4)

 

攻撃速度 高速

 

射程 長距離

 

 白い貝殻を装飾した美しい拳銃。真珠の弾丸が放たれるたび、悲痛な叫びが木霊する。

 

 

 

 

 

・防具 真珠

 

クラス HE

 

R 1.0

 

W 1.0

 

B 1.0

 

P 1.0

 

 白い貝殻と美しい鱗で彩られた煌びやかなドレス。それをまとえば、お姫様になった気分になる。

 

 

 

 

 余談(読み飛ばし可)

 

 今回は随分とわかりやすいモチーフでしたね。そう、人魚姫です。

 

 しかしこれはちょっとやってしまったんですよね、なんせワンダーラボにも同じモチーフのものがあったので……

 

 一応もう一体モチーフかぶりがあったのですが、そっちは正確には違うモチーフなのでまだ言い訳ができたのですが、残念ながらこっちは丸被りなんですよね。

 

 ちなみに、こいつは以前没アブノーマリティとして紹介した奴でもあります。その時とは番号が違うのは、その番号に別の奴を入れた後にこの管理方法が浮かんだからなんですよね。

 

 さて、そろそろこいつの性能に関して話していこうと思います。

 

 こいつが王子様に認定する相手は、一番最初に作業をした男性職員です。

 

 そのあとにどんな相手が作業しようと、王子様が変わることはありません。

 

 王子さまになっても、気を付けていればカウンターは下がりませんし、一回くらいのミスは見逃してくれます。

 

 しかし明確によそに行くのであれば、それは浮気判定となります。

 

 ちなみに、クリフォトカウンターが4以上の場合に外的要因でカウンターが0になっても、脱走せずにクリフォトカウンターが回復します。

 

 ちなみにカウンターが3以下になったら彼女の姉妹に扮した契約相手が唆そうと現れるのですが、その場面を描写できなかったのは心残りです。(正直気力が持たなかった……)

 

 あと、もし終幕までに至ってしまうと、作業効率がすべての作業で最高になり、エネルギーの発生量が2倍になる育成マシーンとなります。

 

 さて、それでは今回はここまでで、次回もまたお楽しみください。

 




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Days-14 O-09-i95『もうこれ使わないほうがいいんじゃないか?』

「爺さんを弔った俺は、爺さんの敵も取れず、爺さんと同じように周囲の人々のために頼みごとを受けていったさ。それはもう何でも屋みたいにさ」

 

「……結局、周りの人間は俺たちを利用するだけ利用しようとしていただけだったのによ」

 

「ちょっと考えればわかることだったんだ、何でも屋みたいにいろんな頼みごとを聞いていて気が付いたら、俺は組織にもフィクサーにも恨まれていた」

 

「そのあとは悲惨だったさ、もちろん今まで助けてきたやつらが俺に救いの手を差し伸べることなんてなかった」

 

「俺は必死になって逃げまわったよ」

 

「そこでロボトミーの採用通知が来たもんだから、どれだけやばいと思っても飛びつくしかなかったんだ」

 

 

 

 

 

「おーいジョシュア、調子はどうだ?」

 

「調子はまぁまぁだな、リッチはどうだ?」

 

 今日の作業もほどほどに、リッチが話しかけてきた。

 

 今作業が終わったところなのか、少し疲れている様子だった。

 

「俺のほうは大丈夫だ」

 

「ならよかった、ちょっとお疲れか?」

 

「あぁ、『F-01-i63』*1のところに行っていた」

 

「……ご愁傷様」

 

 『F-01-i63』の相手は疲れるからなぁ、そのくせすぐに脱走するから面倒だ。

 

 まぁ、脱走しても人命に影響がないことは救いだけどな。

 

「そういえば、今日のアブノーマリティはどんなんだった?」

 

「あー、ツール型だから実はまだ使ってないんだよな」

 

「あぁ、ツールか」

 

 今日収容されたアブノーマリティは『O-09-i95』、ツール型のアブノーマリティだ。

 

 正直ツール型は面倒な奴が多いからあまり作業をしたくないんだよな。

 

「面倒だなぁ、リッチ代わりに行ってきてくれないか?」

 

「いつもトップバッターはお前だろう? 一緒についていってやるから頑張れ」

 

「トップバッターというよりファーストペンギンだけどな、仕方ないし行くか」

 

 リッチが来てくれるようなので、頑張ってやる気を出していくことになった。

 

 リッチと雑談をしながら廊下を歩いていく。

 

 しばらく歩いていると、目的の収容室が見えてきた。

 

「よーし、それじゃあ行くぞぉ!」

 

「いや、テンション高くないか?」

 

 いつものように雑に収容室の扉を開ける。正直ツール型の収容室なんてこれくらいの扱いで十分だと思っている。

 

「さーてと、中身は…… ジュース?」

 

 収容室の中をのぞくと、そこにあったのは5つのコップであった。

 

 コップに持ち手はなく、すべて同じ形をしている。

 

 白い半透明なコップは、中に液体が入っていることがわかるくらいでどんな色かまではわからなかった。

 

 コップの上部には白いふたが付けられており、そこにストローが付いている。

 

「……」

 

「おい、逃げようとするな」

 

「いやだってこれ絶対やばいだろ!?」

 

 嫌な予感がしたのでダッシュで逃げようとするも、リッチにつかまってしまった。

 

 くそっ、これじゃ逃げられないじゃないか!!

 

「諦めて飲むんだ、俺も一緒に飲んでやるから」

 

「おい、絶対だぞ!」

 

「あぁ、ちゃんと飲むから…… 安全だとわかったらな」ボソッ

 

 リッチに説得されて、仕方なく飲むことにする。……今何か聞こえた様な気がしたが、気のせいだよな?

 

 リッチの拘束から解放され、『O-09-i95』のうちの一つを手に取る。重さ的にそこそこの量が入っていそうだ。

 

 リッチが手に取ったのを確認してからストローに口を付ける。

 

 口の中に冷たい液体が流れ始め……

 

「う、うまい!!」

 

「なに、本当か!?」

 

 これ、おいしすぎる!! 味はさわやかな柑橘系で、後味もすっきりしている。

 

 正直仕事の後に飲んだら最高な気分になれそうだ。

 

「よし、それじゃあ俺も……」

 

「いや、まだ飲んでいなかったのかよ!?」

 

 俺の抗議を無視して、リッチもストローに口を付ける。

 

 どうやらリッチも気に入ったようだ。

 

「うまい、なんて濃厚なグレープジュースだ」

 

「おっ、そっちはグレープ味だったのか、俺のは柑橘系だった」

 

「なるほど、それぞれ味が違うのか」

 

「こんなにうまいとは思わなかった。それに、どこか力が湧いてくるように感じる」

 

 このジュースを飲んでから、ほんの少しだけ頭がすっきりしたように感じる。もしかしたらこれがこのツールのメリットなのかもしれない。

 

「……ほかの味も気になるが」

 

「いや、やめておこうぜ。たぶん複数はまずい」

 

 なんとなくの直感ではあるが、複数飲んだらまずいことになりそうな気がする。

 

 ……最近外れてるからあんまりあてにはならないが。

 

「さて、これからどうするか」

 

 とりあえず空になったコップを置いて、今後の予定を考える。

 

 正直飲んでしまったからには仕方がないが、飲んだ後に特定条件でデメリットが現れても困る。

 

 この手の飲み物系は以前『T-09-i96』*2があったが、あれは自動で中身が増えるものであった。

 

 それに対してこれは5つと数が決まっているのも少し気がかりだ。

 

「別に普段通り仕事をすればいいのでは?」

 

「それはそうなんだけど…… えっ?」

 

 リッチと何の気なしに話しながら先ほどからになったコップをいじっていると、何故かさっきまで感じていた力がなくなったように感じた。

 

 ふと触っていたカップを持ち上げると、中身が戻っている。

 

「「……」」

 

 思わずリッチと目を合わせる。

 

 そこでリッチも俺と同じように空のカップに触ると、そのコップにも中身が戻っていた。

 

「……もしかして、飲んでも元に戻せるのか?」

 

「……衛生的にどうなんだろうか?」

 

「そこは考えたらだめだろう」

 

 試しにもう一度『O-09-i95』を飲んでみる。

 

 ……うん、先ほどと変わらないおいしい味だ。どこか変化があるわけでもないし、先ほどと同じような力を感じる。

 

「特に味にも効果にも変化があるようには感じないし、なんというか不思議なエネルギーだけ戻しているのかもしれないな」

 

「なんだよそれ、まるでファンタジーじゃないか」

 

「そのファンタジーがアブノーマリティだろう?」

 

「……確かにそうだが」

 

 なんとなく釈然としてない様子のリッチ、そもそも企業の特異点の時点でファンタジーに片足突っ込んでるじゃないか。

 

「さて、せっかくだしほかの味も試してみようぜ」

 

「……あぁ、そうだな」

 

 

 

 

 

「……よし、せーので行くぞ」

 

「たとえはずれが出ても、文句なしだぞ」

 

「へっ、やる前から負けた時の心配か?」

 

「まったく、情けない先輩方だ」

 

「そういって前に怒ってたのは誰ですか~このこの~」

 

「お前ら黙ってできないのか!?」

 

 『O-09-i95』の収容室の中、内部にあるテーブルを囲っているのは5人の職員たち。

 

 リッチ、マオ、アセラ、パンドラ、そして俺。

 

 俺たち5人はそれぞれ1つずつカップを持ち、その時を待っている。

 

 緊張の走る真剣勝負、心臓の音がどくどくと聞こえてくる。

 

「よし行くぞ」

 

「「「「「せーのっ!」」」」」

 

 掛け声とともに一斉に『O-09-i95』に口を付ける。

 

 冷たい感触と同時に口の中に入ってくるのは、なんとも表現しがたい微妙な味。

 

 この味をうまく例える表現はないが、これだけは言える。

 

 微妙にまずい。

 

「おえっ、完全に外れだ!」

 

「おっ、ジョシュア先輩やらかしちゃいましたねぇ」

 

「ふん、自信満々だったのにこのざまか、ジョシュアせ・ん・ぱ・い」

 

「くそっ、むかつく言い方しやがって……」

 

 俺がはずれを引いたからってさっそく後輩二人が煽ってくる。こいつらぶっ飛ばしてやろうか。

 

「おいおい、負けたからってそうカリカリするなよ」

 

「それよりも、約束は忘れちゃいねぇだろうなぁ?」

 

「くっ」

 

 約束というのは、言ってしまえば昼食のおごりをかけていたのだ。

 

 『O-09-i95』の中には一つだけはずれがあり、それがさして悪影響を及ばさないことが判明、そのあとは男連中を集めてこのかけを行っているのだ。(マイケルは潔癖症のため不参加)

 

「畜生、今回も行けると思ってたのに」

 

「まぁ、勝負は時の運ですからねぇ~」

 

「はぁ、仕方ないか。ほらさっさと行こうぜ」

 

 5人で一斉に収容室から退出する。まったく、大損だよ。

 

「くっそぉ、やっぱりあっちを選んでおけば…… あれ?」

 

 5人で廊下を歩き始めると、新人の職員とすれ違った。この先には『O-09-i95』しかない、しかし今は全員で飲んでしまっているから全て空だ。教えてやらないと……

 

「おーい、『O-09-i95』はもうないぞ!」

 

 しかしタイミングが悪く、彼は先に『O-09-i95』の収容室に入ってしまった。

 

「悪い、ちょうど切らしてて…… えっ」

 

 収容室の扉を開いて彼に話しかけようとするが、部屋の中には誰もいなかった。

 

 収容室内を見渡して、ある違和感を感じる。

 

「おい、どうしたんだ……」

 

 そう、その違和感とは、先ほどまで空だったカップのうちの一つに、何故か液体が入っている光景であった。

 

「「「「「……」」」」」

 

 それに気が付いてからの俺たちの行動は早かった。

 

 速攻で飲んだジュースを元に戻し、急いで収容室から退出して次の作業に向かう。

 

 少しでも作業に熱中しておかなければ、余計なことを考えてしまう。

 

 いつもはバラバラな俺たちだったが、この時ばかりは心が一つになった。

 

 ……結局、この日は食事をとれなかった。

 

 

 

 

 

 ……結局、先日の『T-05-i08』*3の事故で犠牲になった人間(・・)はいないんでしたよね?

 

 ……そうだな

 

 しかしあの事故では5体の『O-09-i93-1』*4が犠牲になったと

 

 ……そうだな

 

 その結果出てきたのがこれですよね?

 

 ……その通りだ

 

 ……

 

 ……

 

 ……

 

 ……もうこれ、使わないほうがいいんじゃないか?

 

 やっぱりそうおもいますよね

 

 

 

 

 

O-09-i95 『フレディのニコニコおりこうドリンク』

 

*1
例のヤバい女

*2
『黄金の蜂蜜酒』

*3
現状では未判明

*4
現状では未判明



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O-09-i95 管理情報

 『O-09-i95』はテーブルの上に置かれた5つのカップです。中には様々な味のドリンクが入っています。(ノンアルコール)

 

 『O-09-i95』は基本的に一度に最大5人まで使用することができます。使用した後は空となった『O-09-i95』に触れることで効果を返却することができます。

 

 『O-09-i95』の内部は外見から判断できず、飲むまで中身がわかりません。ただし、中身が入っているかは確認することができます。

 

 決して中身のない『O-09-i95』を飲もうとしてはいけません。また、全ての中身がない状態で『O-09-i95』を飲んでいない職員が収容室の内部に入ることは認められていません。

 

 『O-09-i95』を用いてロシアンルーレットをしないでください。……あっ、もうやってない? それは失礼しました。

 

 

 

 

 

『フレディのニコニコおりこうドリンク』

 

 

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危険度クラス HE

 

 

 

単発使用タイプ

 

 

 

 

 

 

 

◇管理情報

 

 

 

1(1)

 

 『O-09-i95』を使用した職員は、5つあるドリンクの中から1つを選んで飲むことができる。

 

 

2(3)

 

 1番のドリンクは勇気が、2番目のドリンクは慎重が上昇した。

 

 

 

3(5)

 

 3番目のドリンクは自制が、4番目のドリンクは正義が上昇した。

 

 

 

4(7)

 

 5番目のドリンクは毒状態となった。

 

5(9)

 

 『O-09-i95』を飲んだ職員が使用すると、発動した効果が元に戻りドリンクの中身も戻った。

 

6(12)

 

 中身のないドリンクを飲もうとすると、その職員はドリンクの中に吸い込まれた。

 

 

 

 

 

 余談(読み飛ばし化)

 

 ……あれ、なんか名前がおかしいような?

 

 というわけで、今回もフレディです! どんだけ出るんだよ!?

 

 まぁこれも狙ってやったわけじゃないんですけど、弟とやっているときに偶然同じ部門にフレディ関連が出てきました。

 

 ここまでくるとフレディってなんやねん!? って感じがしますが、これに関しては相当先になると思います。

 

 今回のツールは、それぞれ対応するステータスを10づつ上げてくれるわりかし有用なツールとなっています。

 

 ちなみに毒状態に関しては、10秒ごとにR1ダメージとまったく痛くありません。

 

 作中ではドリンクのチャンポンに危機感を感じていましたが、ゲームシステム上返却になるのでできません。ちなみに仮にできたとしても即死します。

 

 ドリンクを飲んだ職員が死亡した場合は、使用したドリンクが復活します。

 

 即死の条件も普通に使っていたら基本起こらないので、比較的安全なツールと言えるでしょう。

 

 さて、今回はここまで、次回もお楽しみにしていてください。

 




Next F-01-i34『毒と薬は紙一重さ』

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Days-15 鍵『愛憎』

「……と、ここまでがロボトミーに来る前のお話。どうだ、別にありふれた話だろう?」

 

「……ううん、ジョシュアの話が聞けて良かった」

 

「そうか、それはよかった」

 

「……でも、まだ話していないことがあるよね?」

 

「えっ?」

 

「だってジョシュア、それより前の記憶があるんでしょ?」

 

「いや、でも…… その話は誰にもしていないはず」

 

「だってジョシュア、気づいてないかもしれないけど、所々変なんだもん」

 

「……」

 

「だから、もしかしたらもっと前があるのかもって」

 

「……そうだよ」

 

「そっか、ならさ、もしよかったらお話してよ」

 

「……はぁ、これは他言無用だからな」

 

 

 

 

 

「ジョシュア先輩、正直この施設ってかなりヤバくないっすか?」

 

「いや、最初の時点で気づけよ」

 

 ロバートが休憩中に絡んできたと思えば、今更なことを言ってきた。

 

 そんなことはここで一日働けばわかることだというのに、こんな事じゃこの先やっていけないぞ?

 

「そうはいってもやばいじゃないですか! いったいどうやったらあんな化け物たちを見つけられるっていうんですか?」

 

「まぁまぁ、落ち着けって」

 

 とりあえずロバートを落ち着かせて席に着くように促す。

 

 『F-01-i63』*1が「粗茶ですが」と謎の液体を差し出してくるが、それをスルーして話を続ける。

 

「とりあえずここで長く生きていきたいっていうんだったら、詮索はしないほうがいいと思うぞ」

 

「そうはいっても気になるじゃないっすか」

 

「あれぇ、二人とも何話してるんですか?」

 

 ロバートの相手をしていたら、パンドラの奴がやってきた。

 

 おいロバート、そう露骨に嫌な顔をしてやるなよ。さすがにかわいそう…… でもないか。

 

「ようパンドラ、とりあえずお茶でもいるか?」

 

「あっ、ちょうどのどが渇いていたところなんですよ。ありがとうございます!」

 

 とりあえず手頃なところに置いてあったお茶をパンドラに差し出す。

 

 パンドラはよほどのどが渇いていたのか、のんきにそれを飲み始めた。

 

「ぷはぁ、これおいしいですね!」

 

「そうか、それはよかったな。まだ在庫がコントロール部門にあるはずだから、探してきたらどうだ?」

 

「ほんとですか? ありがとうございます!」

 

 そういうとパンドラはさっさとコントロール部門に行ってしまった。まったく騒がしい奴だ。

 

 パンドラのことはほっといてロバートと話そうと周囲をみわたしたが、どうやらパンドラに恐れをなして雲隠れをしたようだ。

 

「はぁ、それじゃあそろそろ『F-01-i36』*2のところに行ってくるか」

 

「まったくお客様、また浮気に向かわれるのですか?」

 

「……はぁ」

 

 一難去ってまた一難、今度は『F-01-i63』が絡んできた。正直もう少しおとなしくしていてほしい。

 

「どうしたんだよ、いきなり意味の分からないこと言って?」

 

「お客様はお肉よりも魚肉のほうがお好きだとでもおっしゃるつもりですか?」

 

「えっ、正直そうだけど?」

 

「むきー!!」

 

 『F-01-i63』が怒っているが、そんなこと知ったこっちゃない。

 

 そもそも俺は元から魚のほうが好きなのだ。人の好みにケチを付けるな、ケチを。

 

「やっぱり私の素敵なお肉を味わってもらうしかなさそうですね。それではさっそく……」

 

「いいからさっさと収容室に戻れ」

 

「あいたぁ!?」

 

 しくしくと泣き真似をしている『F-01-i63』を呆れながら眺める。

 

 ……あれ、もしかしてガチで痛がってる?

 

「おいおい大丈夫かよ?」

 

「うぅぅ、こういうときだけ優しいなんてずるい……」

 

「よし、もう元気だな」

 

「嘘ですもっと撫でてください!」

 

 泣いていたがっている『F-01-i63』の頭を撫でてやっていたら、一瞬で調子に乗り始めた。

 

 まったく、こいつと言いパンドラと言い、もう少しおとなしくしていればいいのに……

 

「ほら、もうそろそろいいだろう?」

 

「……はい、ありがとうございます」

 

 もう痛くないのか、『F-01-i63』は俺から離れてお辞儀をした。

 

 もう大丈夫そうなので『F-01-i36』の作業に向かおうとすると、『F-01-i63』に袖を引かれた。

 

「なんだよ、何かまだ用があるのか?」

 

「……ジョシュア様、あなたは優しいですね」

 

「はぁ? いきなり何を言って「でも」」

 

「その優しさは、必ず誰かのためになるとは限りませんよ?」

 

「……」

 

 珍しく真面目な顔で語り掛けてくる『F-01-i63』に、声が出なかった。

 

 しかし、俺が優しいだとか、何を言っているのだろうか? ましてや相手はアブノーマリティだ。

 

「いくら人間様に近い見た目をしていても、私たちとあなた様たちとでは根本的に違うのです」

 

「特に彼女、あなたたちの言う『F-01-i36』にとっては……」

 

「たとえそうだとしてもさ」

 

 つらそうな表情で語る彼女の話を、思わず遮ってしまう。

 

 相手はアブノーマリティだというのに、どうしても聞いていられなかったのだ。

 

「そんな悲しいことを、自分で言うなよ」

 

 その言葉を聞いて、彼女ははっとしたような表情をした。

 

 そして彼女の手が袖から離れた一瞬のスキをついて距離をとる。

 

「ジョシュア様……」

 

「それに俺だって気を付けているさ。だから心配するなって」

 

「……」

 

 彼女から離れて次の作業へと向かう。

 

 確かに彼女の言うことは分かるが、どうしても考えてしまうのだ。どうにか彼らとも、仲良くなれないかと……

 

「……わかりました、それではお気をつけて行ってらっしゃいませ」

 

「あぁ、行ってくるよ」

 

 そして彼女に手を振って、『F-01-i36』の収容室へと向かっていった。

 

 

 

 

 

「ジョシュア様、あなたは気が付いていませんかもしれませんが……」

 

「その道は、とても険しいものですよ」

 

 そんな彼女のつぶやきは、俺の耳には届かなかった……

 

*1
『桃源の甘露』

*2
『泡沫の夢』



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安全部門 Ⅱ
Days-16 F-01-i34『毒と薬は紙一重さ』


無職になったので更新再開します。


「初めに言っておくと、俺はもともとこの世界の人間じゃない」

 

「……いや、この世界ではない人間の記憶がある。といったほうがいいかもしれない」

 

「そこはこの都市よりもはるかに安全で、平和な場所だった」

 

「もちろん戦争がないわけではないし、犯罪だっていろいろあった」

 

「だけど俺のいたところは戦争なんてしばらくやってなかったし、ここみたいに毎日犯罪に巻き込まれるようなこともない場所だったんだ」

 

「俺はそんなところでその世界の一般家庭に生まれて、すくすく育っていった」

 

「学校に行きながら親に愛されて育って、高校生になったときに、自分のパソコンを買ってもらったんだ」

 

「初めての自分のパソコンに大喜びでさ、いろいろ調べたり動画を見たり、毎日画面にかじりついてたなぁ」

 

「そんな時、俺はとあるゲームに出会ったんだ」

 

 

「Lobotomy Corporation」

 

 

 

「……そう、俺たちのいるこの地獄を舞台にしたゲームだ」

 

 

 

 

 

『おい、ジョシュア』

 

「うん? どうしたんだ輪廻?」

 

 今日の業務が始まる直前、何やら深刻な声色で輪廻に話しかけられた。

 

 こんなタイミングで声をかけられるのは珍しいので、何かあったのだろうかと思わず身構えてしまう。

 

『あの時の言葉、本気なのか?』

 

「あの時?」

 

 あの時の言葉とは、いったい何のことだろうか?

 

 こいつと話していて、何かこいつの琴線に触れるような話をしただろうか?

 

『……いや、なんでもない』

 

「そうか? なら別にいいけど」

 

『だが、これだけは覚えておけ』

 

 輪廻の様子を不思議に思いながらも、本人? に言う気がないなら別にいいかと思っていたら、輪廻が言葉を重ねてきた。

 

 その声色は、随分と真剣なものに聞こえる。

 

『俺も、あの怪物も、どれだけお前に力を貸しても、結局のところ味方ではないということを……』

 

「輪廻……」

 

 その言葉に、少し寂しさを感じる。

 

 だが、輪廻の言いたいこともわかる。

 

 どうやら、この前の『F-01-i63』*1との会話について言いたかったらしい。

 

 正直、俺だってこいつらにこんな感情を持つことは間違っていると思っている。

 

 ……でも、なぜだろうか。

 

 俺はこいつらのことを、どうしてか放っておけないと感じてしまう。

 

 こうして輪廻と一緒に過ごしているからだろうか? それとも……

 

「まぁ、考えても仕方がないか」

 

 これ以上考えてもどうしようもないので、今日の作業へと向かっていく。

 

 今日収容されたアブノーマリティは『F-01-i34』、また人型の童話型アブノーマリティだ。

 

 収容室へと続く廊下へ向かって歩いていく。

 

 どうせ番号を見てもわからないのであれば、出会ってから覚悟を決めたほうがいいだろう。

 

「さて、そろそろつくな」

 

 収容室の前までたどり着き、収容室の扉に手をかける。

 

 いつものようにお祈りをしてから、扉を開ける。

 

 収容室の中からは、何かの薬品のにおいが漂ってきた。

 

 

 

 

 

「いっひっひっ、どうやらお客さんが来たみたいだねぇ」

 

「……そういう感じか」

 

 収容室の中では、特徴的な帽子をかぶった老婆が大きな鍋の前に腰かけていた。

 

 その老婆は椅子に座りながら、大きな鍋の中身をかき混ぜている。

 

「さてさて、あんたは何をお求めかねぇ?」

 

「……一応聞くけど、お前は俺たちに何かしてくれるのか?」

 

 なんとなく予想はつくが、一応聞いてみる。

 

 すると目の前の老婆は鍋をかき混ぜながら口を開いた。

 

「そりゃあもちろんクスリさ、あんたたちにも必要だろう?」

 

 ……明らかに怪しい、正直予想の範囲内だがもちろん信じられない。

 

「もちろんただじゃないよ? あんたらの溜めているエネルギーと引き換えだよ」

 

 あぁ、そういうタイプか。正直無償でやられるよりはまだ信じられる。

 

「なるほどな、それでどういった効果があるんだ?」

 

「そりゃあもちろんクスリなんだから傷をいやすのさ、体の傷も、心の傷もねぇ」

 

「そもそも、なんで俺たちに薬なんて作ろうとしてるんだ?」

 

「それが私の存在理由だからとしか言えないねぇ。魔女は昔から、こうやって鍋を煮るもんだ」

 

 そうは言うが、さすがに抵抗があるな。別に必ず頼まなきゃいけないわけでもないし、別の作業を始めるか。

 

 ……いや、別に飲まなくてもいいのか。それに、少しいいことを思いついたかもしれない。

 

「ならせっかくだし、薬を頼む。できれは体の傷を治せるものを」

 

「ひっひっひっ、どんな効果になるかは飲んでからのお楽しみだよぉ」

 

「うわぁ」

 

 今ので一気に信用がなくなった。これはあんまり使わないほうがよさそうだな。

 

 老婆はぐるぐると鍋を混ぜ続ける。その動きは、先ほどまでと変わらないし、何かを入れたりもしていない。

 

 少し不思議に思って眺めていると、彼女もそれに気づいたのかこちらに声をかけてきた。

 

「なぁに、何事も使い方次第さ。ちょっとしたやり方次第で効果も結果も変わるものさ」

 

 そういって混ぜられ続ける鍋を見ていると、段々色が変わってきた。

 

 最初は紫色の液体だった中身が、段々赤色に変わっていき、やがて輝きだした。

 

「さぇてこれで仕上がりだよ。よかったねぇあんた」

 

 老婆はいつの間にか赤く輝く液体を瓶に詰めて、こちらに渡してきた。

 

「あぁ、ありがとう」

 

 老婆から液体を受け取って、収容室から退出する。

 

 廊下を歩いてメインルームへ向かい、標的がいないかを探し出す。

 

「どうしたんだ、ジョシュア?」

 

「あぁ、リッチか。ちょっと探し物だよ」

 

「そうか」

 

「一体誰をお探しですかジョシュア様?」

 

「うわっ、いつの間に脱走してたんだお前!?」

 

 いきなり会話に入ってきた『F-01-i63』に飛びのくリッチ。

 

 一方俺はというと、目的の相手がやってきて思わず笑みがこぼれてしまった。

 

「あぁ、『F-01-i63』じゃないか。ちょっと失礼」

 

「あぁん! 昨日はあんなに優しかったのに今日は鬼畜❤」

 

 手に持つ普通のナイフで適当に『F-01-i63』の腕を切りつけ、傷をつける。

 

 うまくいけばこいつで実験できるかもしれない。

 

「悪い悪い、お詫びにこいつを飲んでみてくれないか?」

 

「えっ、でも桃以外はちょっと……」

 

「いいから飲め」

 

「あぁん強いムグッ」

 

 とりあえず『F-01-i63』に『F-01-i34』から受け取った赤く輝く液体を飲ませてみる。

 

 そう、俺が考えていたのは『F-01-i63』による実験だ。

 

 今までの報告から、こいつの肉体は基本的に人間のものと同一であることがわかっている。なので毒の有無等は一応こいつで確認できる。

 

「むぐっ、むぐっ、ぷはぁ! ちょっとジョシュア様! これで私の風味に雑味が混じったらどうするつもりですか!?」

 

 とりあえず半分ほど飲ませて様子を見る。この瞬間だけはこいつが収容されていてよかったと思えた。

 

「悪い悪い、ところで体は大丈夫か?」

 

「えぇ、特に問題は…… あれ、さっきの傷が徐々に治ってる!?」

 

 彼女の言葉を聞いて傷口を見たら、確かにゆっくりではあるが傷口が徐々にふさがって来てる。

 

 なるほど、どうやら本当に傷がふさがるようだ。

 

「すごいすごいっ! でも少し複雑な気分です……」

 

 ピョンピョンはねたかと思うと、一気にテンションが下がり始めた。なんだこいつ、情緒不安定か?

 

「さて、しばらくたっても大丈夫そうだし、俺も試してみるか」

 

「あれ、もしかして私、お客様の実験台にされました?」

 

 先ほどのナイフで自分の腕を切り、先ほどの薬品を飲んでみる。

 

 なるほど、すっきりした味で微炭酸、意外と飲みやすい。

 

「さてと、これで…… うわぁ、本当に徐々に傷が治ってる」

 

 どうやらあの老婆の薬は本物のようだ。

 

 さすがに多用するつもりはないが、今後選択肢には入るだろう。

 

 それからというもの、『F-01-i34』の薬品の実験が行われた。

 

 薬品の色もいくつかあり、また輝いているものといないものがあった。

 

 赤色は肉体の、青色は精神をいやす効果があり、輝いているものにはリジェネ効果、輝いていないものには即効性があることが分かった。

 

 何度か明らかに毒々しい見た目の薬品が出来上がったことがあったが、試しにアブノーマリティに投げてみると体力が全快してしまい、鎮圧に余計な時間がかかってしまった。

 

 どうやら毒々しい見た目に反して、飲めば体力も精神力も全快する効果があったらしい。というか、『F-01-i63』以外のアブノーマリティにも効くのか……

 

 こうしてある程度『F-01-i34』の薬品についてわかってきて、職員にも浸透していった。

 

「ようロバート、また『F-01-i34』のところに行ってきたのか?」

 

「あっ、ジョシュア先輩! 見てくださいよこれ、今日のはすごい見た目ですよ!!」

 

 ロバートに声をかけると、どこか興奮気味に手に持つ薬品を見せてきた。

 

 なんだかテンションが高いなぁと思っていると、その薬品を見てなんとなく気持ちもわかってしまった。

 

「なんだこれ、今まで見たことないなぁ」

 

 その薬品は、赤と青の光り輝く透き通った液体が、マーブル模様のように混ざりきらずに入っていた。

 

 今までの内容からして、体力と精神力のリジェネ効果だろうか?

 

「でしょう!? きっとこれはすごい効果ですよ!!」

 

「おいおい、興奮するのは分かるが気をつけろよ? そもそも初めてのものなんだからとりあえず『F-01-i63』で実験してからだな……」

 

「えぇ~、レアものっすよ? そんなもったいないこと……」

 

『『T-02-i46』*2が脱走しました。近くにいる職員は鎮圧に向かってください』

 

「あっ!?」

 

 そのアナウンスが来るとともに、『T-02-i46』がロバートにとびかかってきた。

 

 何とか彼をかばおうと体を動かすが、このままだろ間に合わない。くそっ!!

 

「ひっ!?」

 

「ぴぎゃあぁぁぁぁ!?!?」

 

 その時、ロバートが手に持っていた薬品が手から零れ落ち、『T-02-i46』に降りかかる。

 

 すると『T-02-i46』はもだえ苦しみ、やがてピクリとも動かなくなった。

 

「「……」」

 

 その光景を見た俺たちは、思わず目を合わせる。

 

 そしてすぐに他の職員たちと情報を共有し、赤と青の液体は絶対に飲まないように伝えるのだった。

 

 

 

 

 

 ひっひっひっ、今日は何をお求めだい?

 

 えっ? この前渡したクスリを飲んで死んだ奴がいる?

 

 何を言っているんだい、わたしゃちゃんといったじゃないか。

 

 何事も使いようだってね。

 

 薬も過ぎれば毒となる。

 

 

 

 

 

 結局のところ、毒と薬は紙一重さ、ってね。

 

 

 

 

 

F-01-i34『古い森の魔女』

 

*1
『桃源の甘露』

*2
『ブレインシェイカー』



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F-01-i34 管理情報

 『F-01-i34』は特徴的な帽子をかぶった老婆の姿をしたアブノーマリティです。彼女の目の前には大釜が置いてあり、その中身を常にかき混ぜています。

 

 『F-01-i34』に薬を作る依頼を出すことができます。ただし、効果をリクエストすることはできず、中身はランダムになります。

 

 『F-01-i34』の生成した薬品は、外見からその効果を確認できます。現在、赤、青、輝く赤、輝く青、輝く赤と青がマーブル上に混ざったもの、毒々しい紫色の6種類が確認されています。万が一他の薬品が生成された場合、自身で効果を試す前に部門チーフに報告をしてください。

 

 異なる色の薬品を、2種類以上混ぜないでください。以前それで事故が発生しました。

 

 

 

 

 

『古き森の魔女』

 

 

【挿絵表示】

 

 

危険度クラス HE

 

ダメージタイプ W(3-5)

 

E-BOX数 18

 

良い 11-18

 

普通 5-10

 

悪い 0-4

 

 

 

◇管理方法

 

1、『F-01-i34』に依頼を行うことができる。

 

2、依頼を行うと、エネルギーを消費して薬を生成することができる。

 

3、薬を使用することで、HPやMPを回復することができる。

 

4、まれに毒を生成することがあるため、その場合は使用しないでください。

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 高い

2 高い

3 高い

4 高い

5 高い

 

洞察

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

愛着

1 低い

2 低い

3 普通

4 普通

5 普通

 

抑圧

1 最低

2 最低

3 低い

4 低い

5 低い

 

 

 

◇脱走情報

 

非脱走アブノーマリティ

 

 

◇ギフト

 

ウィッチクラフト(頭2)

 

 愛着+4

 

 魔女のとんがり帽子の形をしたギフト。なんとなく魔法が使える気分になる。

 

 

 

◇E.G.O.

 

 

・武器 ウィッチクラフト(拳銃)

 

クラス HE

 

ダメージタイプ W(3-4)

 

攻撃速度 早い

 

射程 長い

 

 古びた木でできた短杖。意思をこめて杖を振ることでエネルギー弾を発射することができる。呪文を唱える必要はないが、呪文を唱えることで弾の色が変わる。(ただし性能は変わらない)

 

 

 

 

 

・防具 ウィッチクラフト

 

クラス HE

 

R 0.9

 

W 0.6

 

B 0.8

 

P 2.0

 

 古びた濃い紫色のローブ。どことなく薬品の香りがする。

 

 

 

 

 余談(読み飛ばし可)

 

 はい、というわけで久しぶりの更新ですね、これからしばらくは毎日更新したいと思います。

 

 遅れてしまいまして、申し訳ありません。クーポン拳の使い手に苦戦していました。

 

 今回はかなり一般的な見た目の魔女ですね。ちょっとひねりがなさすぎるかもしれませんが……

 

 『F-01-i34』は、依頼ができるタイプのアブノーマリティですね。一回の依頼で10%のエネルギーを必要とします。

 

 薬品の効果は、光っていない薬品はそれぞれのステータスを50%回復、輝く薬品はそれぞれのステータスを一分の間5秒ごとに10%回復します。

 

 ゲーム的に言えば、選択時に赤ずきんさんのように使う相手に指定するか、あるいは弾丸のようにストックするかでしょうか?

 

 TRPG的に言えば、アイテムとして所持し、いつでも使用できます。

 

 ちなみに作中でやっているアブノーマリティに対しての使用は裏技的な仕様です。なのにここで書くという……

 

 さて、これで今回は終わりです。続きもご期待ください。

 




Next T-05-i65『欲望に際限なんてないんだね』


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Days-17 T-05-i65『欲望に際限なんてないんだね』

「何を言っているんだ? って顔をしているな」

 

「まぁ、俺も同じ立場ならそう思うだろうな」

 

「とりあえず疑問は置いといて、話を聞いてほしい」

 

「つまり俺は、この地獄を題材にしたゲームをしたことがあり、このロボトミーコーポレーションについての知識もある程度知っていたということだ」

 

「俺は、そのゲームに死ぬほどハマッていたんだ」

 

「大好きすぎて友だちに布教したり、そのゲームに関する動画を漁ったりした」

 

「……あぁ、確かに俺の認識では、ここはゲームの世界だ」

 

「だけど、俺はお前たちのことまでゲームのキャラクターだなんて思っていない」

 

「これは本当だ、信じてくれ」

 

「……さて、そのゲームでは、俺が管理人となって職員を操作し、この施設を管理していた」

 

「だから、知ってるんだ。この施設で何が起こっているのか、どんなことが起こるのか……」

 

「悪いが、それを教える勇気は、今の俺にはない」

 

「えっ、なら俺がどうしてこっちに来たか知りたいって?」

 

「……実は、どうしてもそこが思い出せないだ」

 

「ある時期までははっきりしているんだけど、そこから先が曖昧で、うまく思い出せないんだ」

 

「たぶん向こうで死んでこっちに来たんだろうけど…… わるい、こんなんじゃ答えになっていないほな?」

 

「あぁ、でも一つだけ覚えていることがあるな」

 

「……なんとなくだけど、潮騒が聞こえた気がしたんだ」

 

 

 

 

 

「ジョシュアさぁん、おはようございますぅ」

 

「……あぁ、おはよう」

 

 サラがあいさつをしてくれているが、それどころではない俺は、ろくな返事すらできなかった。

 

「それにしてもぉ、これってなんでしょうねぇ?」

 

「……あぁ」

 

 安全部門のメインルーム、そこには今までとは違う装置が置かれていた。

 

 それには、名前が書かれていた。

 

 俺やサラやマオ、それどころかオフィサーまで……

 

 名前の書かれているところは、まるでルーレット(・・・・・)のように回転することが見てわかる。

 

「なんでこんな……」

 

 それは、あまりにも冒涜的で、おぞましく、絶対不可逆のものだった。

 

 俺は、それを知っている。この恐ろしい悪魔の装置を知っている。

 

 嫌悪的で逆説的なルーレット、ラッキー抽選機。

 

 またの名を、『運命の輪』

 

「……あー、これが」

 

 パンドラが隣でポカーンと間抜け面をさらしているが、それを気に留めることすらできない。

 

 これがここにあるということは、あのおぞましい悪魔と同等の能力を持つ存在がいるということを示している。

 

「くそっ!」

 

 急いでメインルームを出て収容室へと向かう。

 

 今回収容されたアブノーマリティは『T-05-i65』、俺はこいつのことを一刻も早く解明しなければならない。

 

『何をそんなに急いでいる?』

 

「あの装置はヤバい! 一刻も早く今回のアブノーマリティについて情報を得なければ!」

 

『もしかしてあの装置のことか? あれはとても面白いではないか』

 

「どこがだ!」

 

『一切の外的影響を受けず、全ての対象に均等な機会を与える。完全に公平な沙汰ではないか』

 

「……あぁ、確かにそうだな」

 

 『T-05-i65』の収容室へと向かい、廊下を走っていく。

 

 今回の相手がもしもあの胎児と同じタイプであれば、失敗は許されない。

 

 おそらくは甚大な被害を出して、あの装置を使わざるを得なくなる。

 

「はぁ、はぁ…… よし」

 

 息を整えてから、収容室の扉に手をかける。いつものようにお祈りをしてから、扉を開く。

 

 収容室の中からは、異様な熱気を感じた……

 

 

 

 

 

「……これが、今回のアブノーマリティか」

 

 収容室の中には、悪趣味なスロットマシンの筐体が置かれていた。

 

 ギラギラと輝く黄金の本体に、宝箱の形をした下部。

 

 その隙間からは鋭い歯と、いくつもの金貨が顔をのぞかせている。

 

 この箱を開けたものの末路は明白だろう、さすがに引っかかるつもりはないが。

 

「さて、どうしたものか」

 

 目の前にはいかにも座ってくださいと言わんばかりの椅子。

 

 まるでここに座れと、誘惑してくるかのように。

 

「行くか、いや、しかし……」

 

 このアブノーマリティの望みをかなえるか、それとも抗うか。

 

 できることなら失敗はしたくない、なるべく慎重にいかなくては。

 

「……よし」

 

 覚悟を決め、思い切って椅子に座る。

 

 俺の目の前に三つのスロットが来る。回転しているそれの下にはボタン、回転を見てもさすがに目押しは難しそうだ。

 

「こういうのは、初めてだな」

 

 気が付けばポケットの中に入っていた金貨を筐体に入れ、ボタンを押していく。

 

 とりあえずポケットの中に入っていた10枚がなくなるまではやってみよう、そう思いながら作業を行う。

 

「あっ、当たった」

 

 

 

 

 

「……よし、回復したしもう一回行くか!」

 

「ちょ、ジョシュアさぁん! そろそろやめましょうよぉ!」

 

「うるさい、俺は今から『T-05-i65』の作業に行くんだ! 放せ!」

 

「きゃあぁ!」

 

 『T-05-i65』への作業へ行こうとする俺を止めるサラを突き飛ばす。

 

 すると彼女はよろけて倒れそうになるも、近くにいたマオに受け止められた。

 

「おいてめぇ、流石にやりすぎだろうが!」

 

「うおっ!?」

 

 マオが血相を変えて俺に掴みかかってくる。

 

 くそっ、早くいかないと『T-05-i65』に他のやつが作業してしてしまう。

 

 そうなる前に早く行かないと!

 

「オメェがやろうとしていることは、自分の心配してくれてる奴を突き飛ばしてまでやらないといけないことなのか!!」

 

「うるせぇ! あと少しで大当たりが出そうなんだ!」

 

「誰かに取られる前に早く行かないと「はいドーン!」ぐはっ!?」

 

 マオと組み合っていると、いきなり後頭部を何者かに殴られ、よろけてしまった。

 

「うぐっ、一体何が……」

 

「さて、これで少しは頭が冷えましたか?」

 

「パ、パンドラ……」

 

 頭上からかかる声に目を向けると、そこにいたのは冷たい目をしたパンドラであった。

 

 彼女の手には血のついた警棒が握られていた。

 

 そこで気がついたが、どうやら先程その警棒で殴られて、頭を出血してしまったらしい。

 

「すまない、助かった」

 

 血を流して少し冷静になれたので、パンドラに礼を言う。すると彼女はその深く飲み込まれそうな瞳で俺の目を見つめてきた。

 

「あー、やっぱり魅了系じゃなさそうですね。多分それよりも厄介な部類」

 

「お、おいアホ女……」

 

「ジョシュア先輩良かったですね、多分あのままだと死んでましたよ」

 

「うわっ、まじか……」

 

 くそっ、頭に血が登ってて周りが見えていなかった。

 

 サラが持ってきてくれた布で止血をし、周囲を見回す。

 

 周りには俺を心配そうに見ているサラやオフィサーたち、パンドラにドン引きしているマオがいた。

 

「多分あれは、普通人間は作業をしないほうがいい部類ですよ。私かシロちゃん…… いや、多分それよりも皆で持ち回りの方が良さそうですね」

 

「そうか、ありがとう」

 

「いえ、それよりも他に『T-05-i65』にハマってた人は……」

 

 チャリン

 

 パンドラが俺達に確認を取ろうとしたその時に、天井から何かが降ってきた。

 

「これは、コイン?」

 

 試しに拾い上げてみると、それは『T-05-i65』に作業をする際に手に入るものと同じコインであった。

 

「あれっ、こっちにも……」

 

「こっちからもだ!」

 

「あぁ、お宝だ! お宝がいっぱいだ!」

 

 コインは、まるで雨のように際限無く天井から降ってきた。

 

 最初は不思議がっていた人達も、黄金の雨につられて段々とおかしくなっていった。

 

「金だ、金がいっぱいあるぞ!」

 

「やめろ、それは俺の金だぞ!」

 

「うるさい、私が先にとったのよ!」

 

「お、おい、こんなにいっぱいあるんだから争わなくても……」

 

「うるせぇ! これで口を塞いで黙ってろ!」

 

「がぼっ、おえっ、げぼっ!?」

 

「あぁあああっ!!?? 俺の金を腹ん中に隠しやがったな!! 腹ん中に掻っ捌いてやる!!!」

 

「ぐべっ、やめっ、ごえっ……」

 

 気がつけば、地獄絵図が広がっていた。

 

 あるものはコインを奪い合い、あるものは忠告する者の口にコインを突っ込み、突っ込んだコインを取り出そうと躍起になる。

 

 今のところ争い合っているものはオフィサーばかりだ。

 

「……コインだ」

 

 俺の目の前にも、コインが転がってくる。

 

 俺はそのコインをつかみ取ろうと手を伸ばし……

 

『ピロピロリーン!!』

 

 その時、妙に軽快な音楽が鳴り響いた

 

『ジョシュア』   『サラ』   『マオ』   『Π159』   『Ω332』   『Α256』   『Β348』   『Υ666 』

 

 そしてそれと同時に、あの悪魔の機械が稼働を始める。

 

「あっ、あぁ……」

 

 ルーレットは回り続ける。

 

 次にこれが止まるとき、それは犠牲が決まったときだろう。

 

「畜生、畜生……」

 

 そして、ついにルーレットが止まった。

 

 『Ω332』

 

「えっ?」

 

 ルーレットの確定とともに、妙に間の抜けた、この場に似合わないファンファーレが鳴り響く。

 

 そして、それと同時に俺の目の前にいたオフィサーの体が、『T-05-i65』の収容室へと向かっていった。

 

「あ、あれ、どうして私の体が勝手に……」

 

「い、いや、助けて、助けてください!!」

 

 収容室へと向かう彼女を、だれも止められなかった。

 

 いや、気づいていたのだ。

 

 この惨劇を止めるには、彼女を見捨てるしかないと。

 

「いや、いやぁ、いやあぁぁぁぁ!!!!」

 

 ……そしてしばらくした後、『T-05-i65』の収容室があるほうから恐ろしい悲鳴と、何かの咀嚼音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 結局のところ、人は失敗から学ぶことなんてできないんだ

 

 誰もかれも、数多の失敗より劇的な一回の成功を覚えてしまう

 

 そしてその成功に縋り付き、失敗を忘れて同じことを続ける

 

 たとえ全体で見れば損だとしても、一時の得と取ってしまう

 

 そしてその一度の成功では満足できず、次の成功を望んでしまう

 

 

 

 

 

 やっぱり、欲望に際限なんてないんだね

 

 

 

 

 

T-05-i65『金塊の泉』

 




ちょっと昔見た作品の好きだった表現が入っています。
パ、パクリじゃなくてリスペクトだよ……(震え声)


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T-05-i65 管理情報

 『T-05-i65』は、スロットマシン型のアブノーマリティです。その下部には宝箱のようなものが設置されています。

 

 一日の間に『T-05-i65』に一度でも作業を行った職員は、なるべく次の作業を同日の未作業者に譲ってください。

 

 『T-05-i65』への依存傾向が見られる職員は隔離処置を行う可能性があります。ご注意ください。

 

 『T-05-i65』の収容日と同じ日に設置された特別な装置は、『T-05-i65』とは何の関係もありません。もしルーレットに当選した人物は、この施設で一番の幸福者でしょう。

 

 

 

 

 

『金塊の泉』

 

 

【挿絵表示】

 

 

危険度クラス HE

 

ダメージタイプ W(3-4)

 

E-BOX数 18

 

良い 12-18

 

普通 6-11

 

悪い 0-5

 

 

 

◇管理方法

 

1、作業結果普通で、確率でクリフォトカウンターが減少した。

 

2、作業結果悪いで、クリフォトカウンターが減少した。

 

3、自制が3以下の職員が作業を行うと、『T-05-i65』の中に飛び込んでしまった。

 

4、作業を複数回行った職員の自制が減少した。減少値は回数を重ねるごとに加速度的に増加した。

 

5、クリフォトカウンターが0になると、収容されている部門全体に大量の金貨が降り注いだ。金貨が降り注ぐ間職員たちの自制が徐々に減少してイキ、自制3以下の職員は殺し合いを行った。これは生贄作業を行うまで続いた。

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 普通

2 普通

3 高い

4 高い

5 高い

 

洞察

1 低い

2 低い

3 低い

4 最低

5 最低

 

愛着

1 最高

2 最高

3 最高

4 普通

5 普通

 

抑圧

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 1

 

非脱走アブノーマリティ

 

 

 

◇ギフト

 

金貨(頭2)

 

 自制-4 正義+8

 

 古の大金貨をモチーフにした髪飾り。ただし純金なので意外と重い。

 

 

 

◇E.G.O.

 

 

・武器 金貨(丸鋸)

 

クラス HE

 

ダメージタイプ W(2-5)

 

攻撃速度 超高速

 

射程 普通

 

 先端に黄金の金貨が付いた杖。相手を削るたびに貯金箱に金貨を入れる音が鳴り響き、心がウキウキする。

 

 

 

・防具 金貨

 

クラス HE

 

R 0.5

 

W 1.2

 

B 0.7

 

P 1.5

 

 金色と赤色を基調とした礼服。見るからに成金なこの服を着ると、金遣いが荒くなるという。

 

 

 余談(読み飛ばし可)

 

 胎児は絶対に許さない!

 

 というわけで、今回は胎児枠の糞害悪系のアブノーマリティですね。

 

 一応他のアブノーマリティに影響を与えない点では胎児よりましですが、ステータスへの影響を考えるとどっこいどっこいなきもしますね。

 

 いや、それ以外にもステータス反応もありますし、胎児みたいに収容条件で無力化ができない点でも厄介かもですね。

 

 あと、もちろんステータス反応での即死は作業開始直後なので、発動したら自動的にクリフォトカウンターが0になります。やったね!

 

 ステータスの減少はさすがに一日限定です。もともとは永続だったのですが、さすがにゴミすぎたのでナーフしました。

 

 また、加速度的に減少値が増加すると書いていますが、これは2回目で自制が1減少、3回目で2、四回目で4、5回目で8…… と減少値がバイバインしていきます。

 

 ちなみに特殊能力発動中の能力値減少は、10秒ごとに5減少していきます。この現象は『T-05-i65』が収容されている部門に入っている全員に適応されます。

 

 今回は久々のゴm…… 害悪系で、書いていて滅茶苦茶楽しかったです。

 

 それではまた次回!

 




Next O-01-i75『あぁ、崩れ逝く』


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Days-18 O-01-i75『あぁ、崩れ逝く』

「……と、ここまでが俺の話だ」

 

「どうだ、満足できたか?」

 

「……うん、ありがとうジョシュア。貴方のこと、いっぱい知れてうれしい」

 

「そうか、それならよかったよ」

 

 微笑むシロに、思わずこちらも笑みがこぼれる。

 

 ……いや、それだけじゃないだろうな。

 

 だって、今まで誰にも話すことができなかったことを言えたんだ。正直、それだけで気持ちが軽くなった。

 

「……? ジョシュア、大丈夫?」

 

「えっ、何が?」

 

 珍しく、シロがうろたえていた。いったいどうしたのだろうかと手を伸ばそうとして、手の甲に水滴が滴り落ちていることに気が付いた。

 

「ジョシュア、泣いてる……」

 

「あっ、あれ……? 俺、どうして涙が……」

 

「ごめんなさい……」

 

 涙をぬぐおうとすると、突然シロに抱きしめられた。

 

 びっくりして抜け出そうとするも、思うように体が動かなかった。

 

「ごめんね、ボクが変なことを聞いたから。つらかったよね、苦しかったよね……!」

 

「いや、これは……」

 

 何か言い返そうと口を開くも、うまく言葉は出ないし、その間にも涙がぽろぽろと流れ出てくる。

 

 ……よく聞くと、シロの声も少し、涙ぐんでいることに気が付いた。

 

「ごめんね、ごめんね…… 帰れない場所のこと、幸せな世界のこと、思い出させちゃって、ごめんね……!」

 

「違う、違うんだ、シロ……!」

 

 シロを抱きしめながら、嗚咽を漏らす。

 

 確かに故郷を寂しくなることはあるが、少なくともここに来たことは後悔していないんだ。

 

「うぅ…… ぐすっ」

 

「ぐすっ、ふえぇぇ……」

 

 それからしばらくの間、俺たちは抱きしめあって泣いた。それはもう、情けないほど、ずっと……

 

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 ちょっと、いやだいぶ気まずい。

 

 こんなに泣いたのなんて初めてだし、それをシロに見られたどころかお互いに抱きしめあっていたのはかなり恥ずかしい。

 

「……その、ジョシュア、もう大丈夫?」

 

「……えっ!? お、おうもう大丈夫だぞ!」

 

「……そう、よかった」

 

 そういって心底嬉しそうに微笑むシロは、とてもきれいで、美しかった。

 

「そ、それじゃあそろそろ仕事に行こうぜ! あんまり遅かったら怪しまれるしな!」

 

「ふふっ、そうだね」

 

 思わず見惚れてしまっていたのを誤魔化すように立ち上がる。

 

 シロはそんな俺の様子を見て楽しそうに笑うと、俺と並んで職場へと続く扉へ向かって歩き出した。

 

 ……扉を開けるまで手をつないでいたのは、二人だけの秘密だ。

 

 

 

 

 

「あら、ようやく誰かに打ち明けることができたのね?」

 

「……アンジェラ」

 

 施設に顔を出して一人になったところをまるで狙ったかのように、この女は話しかけてきた。

 

 ……この口ぶり、もしかして俺の秘密を知っているのか?

 

「おや、なぜ知っているのか、といった顔ですね?」

 

「そんなに顔に出てたかな?」

 

「まぁ、あなたの考えることなんてお見通しなので」

 

 くそっ、まぁ普通に考えればいくつもループを経験している彼女なら、かつて俺がいたループで俺のことを知っていてもおかしくはないか。

 

 だが、どこまで知っているのか、そしてさっきの会話をどこまで聞かれていたのかはかなり気になる。

 

 この口ぶりからして、全て聞かれてはいそうだがな。

 

「それにしても、興味深い話ではありました。貴方が自分の秘密を誰かに伝えるとは、彼女にも伝えていなかったというのに……」

 

「……はぁ、そもそもどこで俺の話を知ったんだよ? かつてのループで俺がお前に話したのか?」

 

「いえ、あなたの書いたノートを解読して呼んだまでです。そういえば、『変化』があってからあなたはノートを書いていませんでしたね」

 

「つまり、俺は■■■■(原作知識)を忘れないように書いたノートをあんたにまんまとみられてばれていたと。わざわざ暗号化までしたけど、普通に考えればあんたには無意味だろうな」

 

「いえ、私の知らない言語で書かれていたので頑張って解読しました。かなり難しい言語でしたが、あの小説を読むためには仕方がないことでした」

 

「……小説?」

 

「いえ、気にしないでください。それで、この施設のあなたが知るはずのない知識を保有していた理由は、あなたが特別な存在であったから…… ということでよろしいですか?」

 

「……? 随分とあいまいな言い方だな。あんたにしては珍しい」

 

「はぁ、それはあなたのせいでしょう? 重要なところだけ聞こえないように細工をしていたではありませんか」

 

「えっ、何のこと?」

 

「……? あぁ、そういうことですか」

 

 一体どういうことかさっぱり見当もつかないが、どうやらアンジェラは納得したらしい。

 

「さて、あなたがどうやってここにいるのかはわかりませんが、そろそろ姿を現したらどうですか?」

 

『ははははっ! どうやって俺の存在に気が付いた?』

 

「なっ、輪廻!?」

 

 アンジェラの問いかけに俺の左目から燐光が漏れたと思ったら、それは勢いを増して青白い火の玉となって燃え上がり、やがて人の骸骨のような形に変化した。

 

「……なるほど、『O-01-i19』*1、あなたでしたか」

 

『こうして話すことができてうれしいぞ、アンジェラ』

 

 ……これは驚いた。

 

 もちろんこうやって輪廻が外に出てきたことにも驚いたが、それ以上に驚いたのが人間大好きな輪廻が、アンジェラと話すことができてうれしいといったことにだ。

 

「あら、意外ね。貴方は私のことが嫌いなのだと思っていたわ」

 

『そういうな、俺は自ら歩み、進むものに寛容だ』

 

「……もしかして」

 

 俺が何かを言う前に、アンジェラがいら立ったように声を上げた。

 

「それは一体どういうことかしら?」

 

『なぁに未熟児よ、お前はまだ歩き始めたばかりだ。まずはこの大地に慣れるところから始めなくてはいけない』

 

「おい輪廻、そろそろやめた方がいいんじゃないか?」

 

『では最後に、俺はお前を応援しているぞ、アンジェラ』

 

 それだけ言うと、輪廻は姿を消して俺の中に戻ってきた。

 

 ……いやなんでそんなことがわかるんだよ、気持ち悪い。

 

 それよりも、なんか気まずい雰囲気でアンジェラと二人きりになってしまった。

 

 とにかくこの場をどうにかしなければ。

 

「……いやぁ、悪かったなアンジェラ。輪廻の奴が変なことを言ってしまった」

 

「いえ、気にする必要はありません。それでは失礼します」

 

 それだけ言うと、アンジェラは速足でどこかに行ってしまった。

 

 ……とりあえず、何とかなったみたいでよかった。

 

 ひとまずメインルームに向けて歩き始める。

 

 まったく、まだ業務もしていないというのにすでに疲れた。

 

 今回はまだ、楽な奴だといいな。

 

 

 

 

 

「あらジョシュアちゃん、おはよう」

 

「おうルビねぇ、おはよう!」

 

「あらぁ、ジョシュアせんぱぁいおはようございますぅ」

 

「あぁ、サラもおはよう」

 

「おう、今日は調子がよさそうだな」

 

「マオ! 昨日はすまなかったな!」

 

「まったく、疲れているなら少しは体を休めろよ?」

 

「ありがとうマイケル、今んところは大丈夫そうだ」

 

「おはようございまーすジョシュアせんぱーぃあがががっ!!」

 

「おはようパンドラ、今日も活きがいいな」

 

「なんで私だけアイアンクローなんですかぁぁぁぁ!!」

 

「よう、今日も元気そうで何よりだ」

 

「あぁリッチか、おかげさまでな」

 

 この職場の同僚たちと話しながら歩いていく。

 

 いや、同僚というより仲間、リッチやマオ、マイケルは友だちと言ってもいいかもしれない。

 

「あっ、ジョシュア様! お食事がまだでしたら私なんてうごごごごっ!!」

 

「ちょっ!? なんで私の扱いが『F-0-1i63』*2と一緒なんですかぁ!!」

 

 なぜかすでに脱走している『F-01-i63』にアイアンクローを決めて無力化してから、今日の作業へと向かう。

 

 今日収容されたアブノーマリティは『O-01-i75』だ。

 

 いったいどんな奴かはわからないが、できれば厄介な奴でなければいいのだが……

 

「さて、もう着いたか」

 

 気が付けばもうすでに『O-01-i75』の収容室の前にたどり着いていた。

 

 いつものように扉に手をかけ、お祈りをしてから収容室の扉を開く。

 

 収容室からは、崩海の潮騒が聞こえた……

 

 

 

 

 

「……あっ」

 

 この潮騒を聞くと、いつも懐かしい気持ちになってしまう。

 

「それで、これが今回のアブノーマリティか……」

 

 収容室の中心にいたのは、どぶのような汚い緑色をした肌色の人型の怪物であった。

 

 体はおおよそ人型だが、その図体は人の二回りほど大きかった。かろうじて服のような布切れをまとっているため大切な部分は隠れているが、そもそもこいつにそういった部分があるのかどうかは分からない。

 

 手には何やらよくわからない杖を持っている。よく見れば、その杖の先端には見覚えのある羊皮紙が浮かんでいた。

 

 そして何より特徴的なのがその頭、頭部はイソギンチャクのようになっており、よくわからない粘液を垂れ流している。

 

「……?」

 

 それはこちらに気が付くと、咆哮を上げた。その行動に警戒するが、その咆哮は威嚇というよりも、どこか悲しそうであった……

 

「あっ、おい……」

 

 そしてそれは、手に持っていた杖を横に置くと、頭を垂れて手を組んだ。

 

 その行動は、まるで神に祈りをささげているようにも、己の罪を神に懺悔しているようにも見えた……

 

 

 

 

 

O-01-i75『巡礼者』

 

*1
『輪廻魔業』

*2
『桃源の甘露』



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O-01-i75 管理情報

 彼は祈り続けます、大切な誰かのために……

 

 

 

 

 

『巡礼者』

 

 

【挿絵表示】

 

 

危険度クラス WAW

 

ダメージタイプ B(5-8)

 

E-BOX数 26

 

良い 25-26

 

普通 21-24

 

悪い 0-20

 

 

 

◇管理方法

 

1、他のアブノーマリティが脱走するたびに、クリフォトカウンターが回復した。

 

2、作業結果が悪いで、クリフォトカウンターが回復した。

 

3、LOCK

 

4、LOCK

 

5、LOCK

 

6、LOCK

 

7、LOCK

 

8、LOCK

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

洞察

1 LOCK

2 LOCK

3 LOCK

4 LOCK

5 LOCK

 

愛着

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

抑圧

1 LOCK

2 LOCK

3 LOCK

4 LOCK

5 LOCK

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 5

 

R 0.6 耐性

 

W 1.0 普通

 

B 0.3 堅牢

 

P 1.5 弱点

 

 

 

◇ギフト

 

LOCK

 

 

 

◇E.G.O.

 

 

・武器 LOCK

 

 

 

 

・防具 LOCK

 

 

 

 

 『目覚め』を生き残った少女の証言

 

 ……はい、それで、私は彼のことについて話をすればいいのですね?

 

 彼に出会ったのは、ここに来る前の話です。

 

 あぁいえ! そっちはさらに前の話ですね。そこからここに来るまでに、もう一つ違う場所から来たんですよ。

 

 ……そこは、『崩海』と呼ばれる場所でした。

 

 普通に歩けるくらいの浅い海と所々に岩礁があるくらいで、かなり殺風景な場所でした。

 

 でも、どこからでも見える巨大な存在がいたんですよ。

 

 ……そう、『異界の主』です。

 

 それはずっと寝ているので、『崩海』における実質的な主は二人いました。

 

 それが『支配者』と彼、『巡礼者』です。

 

 『巡礼者』は、いつも何かに祈っていました。

 

 ……あるいは、贖罪、懺悔だったのかもしれませんね。

 

 なぜそう思ったのかですって? それは、彼はいつも泣いているような声で鳴いていましたから。

 

 とにかく彼は、『支配者』と違って、『大崩壊』から生き残った私たちを助けてくれました。

 

 あの化け物たちが蔓延る『崩海』において、『巡礼者』と彼の支配地域だけが、私たちの安息の地だったんです。

 

 特に『蟹』と『宿借』と『海老』、あいつらは『巡礼者』が留守の間に何度も襲い掛かってきて、本当に大変でした。

 

 でも『巡礼者』もすぐに気が付いて助けに来てくれたから、あまり被害もありませんでしたけど……

 

 『巡礼者』は、いつも『崩海』を巡って食料集めとか、生き残った人たちを助けに回っていました。

 

 まぁ、食料がそこら辺をさまよってる化け物魚や海藻の集合体みたいな何かしかなかったのは、贅沢は言えないですけどつらかったです。

 

 ……えぇはい、それでも路地裏の食事よりはマシですよ? 本当に。

 

 えっ? 結局『巡礼者』とは何者なのかって?

 

 いやぁ、そんなの私にはわかりませんよ。

 

 それでも言えるのは、彼は私たちの敵対者ではないってことくらいですね。

 

 ある日突然どこかに消えてしまって心配していましたが、あなたが聞いてくるってことはまだ彼はどこかにいるんですね?

 

 それで、彼はどこにいるんですか? 『図書館』ですか? それとも……

 

 

 

 

 あぁ、わかりましたよ、深くは聞きません。私も命は惜しいですしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、こんなもんで大丈夫でしょうか。『白い旋律』さん?

 




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Days-19 T-09-i88『本当のあなたは誰ですか?』

「……はぁ」

 

「どうしたんだイゴリー?」

 

 何やら新人のイゴリーが悩んでいるようだったので声をかけると、彼は驚いたのか勢いよく立ち上がって頭を下げてきた。

 

「あっ、おはようございますジョシュア先輩!」

 

「あぁ、おはようイゴリー。それで、何か悩み事か?」

 

「いえ、別に大したことではないのですが……」

 

 そうは言うものの、眉間にしわが寄ったままだ。やっぱり何かあったのだろう。

 

「大したことでなくてもいいさ、誰かに話すだけでもかなり楽になるものさ」

 

「そういうものですか……?」

 

「そういうものさ」

 

 俺の説得に応じてくれたのか、イゴリーはさっきまで座っていた椅子に座り直し、ぽつぽつと話し始めた。

 

「僕、身長が低いのがコンプレックスなんです」

 

「あぁ」

 

 なるほど、それは確かに人に言いづらいな。

 

「それで、先輩たちみたいにリーチがあるわけでもないし、度胸もないですから……」

 

「そういうことなら、別に近距離の武器にこだわらなくてもいいんじゃないか?」

 

「えっ?」

 

 俺の言葉にぽかんと口を開くイゴリー、どうやら随分と視野が狭まっていたらしい。

 

「遠距離武器ならリーチも関係ないし、遠くからなら気持ちに余裕をもって戦えるだろう?」

 

「あっ、そうですね……」

 

「身長も度胸も人それぞれだ、足りないものは他で埋めていくしかないさ。そのためにも俺たち仲間がいるんだからさ」

 

「それにほら、この前抽出された“ウィッチクラフト”なんかはかなり使いやすいと思うぞ」

 

「わかりました、ありがとうございます!」

 

 イゴリーはお礼を言うと、走って武器庫へと向かっていった。

 

 まぁ、何とか解決できたならよかったな。

 

「さて、そろそろ今日のアブノーマリティのところへ行くか」

 

 今日収容されたアブノーマリティは『T-09-i88』、ツール型のアブノーマリティだ。

 

 正直ツール型はあまり使いたくないが、こればっかりは仕方がない。

 

「そろそろだな」

 

 気が付けばもう『T-09-i88』の収容室の目の前までたどり着いていた。

 

 俺はいつも通り収容室の扉に手をかけると、適当に扉を開いた。

 

 

 

 

 

「……なにこれ?」

 

 収容室の中には、何らかの装置が鎮座していた。

 

 黄緑色のボディにピンク色の扉という奇抜なカラーリング、何らかのカプセルなのか人一人分なら楽々入れそうな外見だ。

 

「いや、なんとなく使い方は分かるけど、使いたくないなぁ」

 

 同じような形状であの『入ったら居心地がいいのか誰も出てこなくなる装置』を連想してしまう。

 

 ……さすがにあれと同じはないよな? 大丈夫だよな?

 

「よし、覚悟を決めるか」

 

 このままグダグダしていてもらちが明かない。覚悟を決めて『T-09-i88』の扉を開く。

 

「……うん?」

 

 扉を開くと、内部にはモニターと何らかの入力機器が存在していた。

 

「とりあえず入るか」

 

 中に入ると自動的に扉が閉まった。

 

 一瞬閉じ込められたかと思ったが、内部にも開閉ボタンが存在する。試しに押してみたらちゃんと開いたので、とりあえず閉じ込められることはなさそうだ。

 

「さて、この機械は何だ?」

 

 とりあえずモニターを見ると、『スキャン開始待機中』と画面に表示されているだけだった。

 

 入力機器を操作してスキャンを開始してみる。

 

 すると、何らかの危機が下から上へと走り、俺の体をスキャンしてきた。

 

 むずがゆさを感じながらもじっとしていると、モニターの画面が切り替わり、俺の体が映し出された。

 

「……あぁ、そういうことか」

 

 いろいろと操作してみてわかった。おそらくこいつは、中に入った人間の容姿や身長どころか性別まで変更できるかなり使いどころがありそうなツールであることが分かった。

 

「でもたぶん何回も使ったらだめなんだろうなぁ」

 

 正直今の体に不満なんてないのだから、この装置を使うメリットを感じない。

 

 下手に触ってやっぱり前のほうがよかったとなったら2回使うことになる。

 

 さすがに2回でどうこうなるとは考えにくいが、少しでも可能性があるのなら避けたいところだ。

 

「後は元の体から大きく変えすぎたらまずいとかか……? おっ」

 

 ほかに何かないか探してみると、どうやら自身についたギフトも剥がせるらしいことが分かった。

 

 これがペスト医師の時にあれば…… そう思ったが、どうせ奴だけ特別で外せないとかありそうだな。

 

「まぁせっかくだしいらないギフトでも……」

 

『まさか俺たちをはがそうとなんてしてないよな?』

 

「うわっ!?」

 

 “残滓”でも剥がそうかと思っていたら、いきなり輪廻に声をかけられた。

 

 それはそうだよな! いっつも一緒だもんな糞がっ!

 

「まさかそんなわけないだろ? 冗談だ冗談!」

 

『冗談には聞こえなかったがな……』

 

 とはいえ、どこかいじらないとまずいよな…… 

 

 さすがに何もなしでこいつの性能の説明なんてできないし……

 

「……じゃあちょっとだけ」

 

『おい、なんで2センチ伸ばすんだ?』

 

「……いやぁ、せっかくだからキリがいい数字にしようと」

 

『せっかくだからもっと伸ばせばいいものの。10センチくらい伸ばせ10センチくらい』

 

「それだとさすがに支障が出るだろ!?」

 

『だがこの程度の変化でわかるのか?』

 

「……べ、別にいいじゃないか。身長計で測ればいいだけだし」

 

 とりあえずキリがいい数字まで伸ばす。いいじゃんべつに! だってさっき後輩に身長なんて関係ないような話したばっかなのに伸ばしたのばれたらかっこ悪いじゃん!

 

『まぁ、お前がそれでいいなら別にいいがな』

 

「……よし! これで完了!」

 

 とりあえず必要な入力を終えて開始ボタンを押す。

 

 するとさっきまで出ていたモニターや機器が引っ込んでいき、代わりに周囲からエアバッグみたいなものが膨らんで俺の体を包んできた。

 

「あっ、なんだか眠く……」

 

 そのまま何らかのガスでも噴出されていたのか眠くなってきた俺は、そのまま眠気に体を預けるのであった……

 

 

 

 

 

「さて、なかなか悪くない使い心地だったな」

 

 実際に『T-09-i88』を使用してみた感想だが、とりあえず体の不調はないし、むしろ体が少し軽くなった気さえする。

 

 もしかしたらついでに体を正常なものにしてくれているのかもしれない。

 

「あっ、ジョシュア先輩じゃないですか!」

 

「うげっ、パンドラ」

 

「ちょっ、ひどくないですか!?」

 

 『T-09-i88』の収容室から出て廊下を歩いていると、運悪くパンドラに出会ってしまった。

 

 面倒だから逃げようと思っていると、パンドラが俺の顔、性格には頭のてっぺんのほうを凝視していることに気が付いた。

 

「……どうした?」

 

 いやまさかと思いながらも聞いてみる。なんだか背筋がぞぞってする。

 

「いやぁ、もしかして先輩身長が伸びました? 具体的には2センチくらい」

 

「いやこえぇよ! なんでわかるんだよ!?」

 

「そりゃあ先輩のこといっつも見てますし」

 

 さらっと怖いこと言わないでくれよ、お前のこともう普通に…… 元から見てなかったわ。

 

「あぁ、実は今日収容された『T-09-i88』を使ってきたんだ。肉体をかなりの自由度で変化できるみたいだ、あんまり悪用するなよ?」

 

「しませんよ、そんなこと」

 

「……シンジテルゾ」

 

「全然信じてない!?」

 

 いいかパンドラ、お前の胸に手を当てよく考えてみろ? お前の行動のどこに信じてもらえる要素があった?

 

「もう、本当に使いませんから安心してください」

 

「わかったわかった」

 

「だって……」

 

 適当にいなそうとして、いつもと少し雰囲気が違うことに気が付く。

 

 不思議に思って彼女のほうを見てみると、パンドラは胸に両手を当てて、少し物悲しそうな顔をしていた。

 

「勝手にそんなことしたら、怒られちゃいますからね……」

 

 

 

 

 

「ジョシュア先輩ぃ、失敗しましたぁ」

 

「……なんでも欲をかいたらいいことないぞイゴリー」

 

「うわぁぁん!!」

 

 あの後イゴリーが『T-09-i88』を使った結果、身長220センチのゴリゴリマッチョな筋肉ダルマになって帰ってきた。

 

 いきなり身長も体重も変わったせいでまともに歩けなくなるし、そもそもその身長は普通に日常生活に不便だと思うのだが、どうやらそこまで頭が回らなかったらしい。

 

 とりあえず一日に何度も使うと危険がありそうなので、明日以降に使うようにアドバイスをするしかなかった……

 

 

 

 

 

 この装置を使えば、あなたは何者にでもなれるでしょう

 

 ハンサムな細マッチョにグラマラスな女性、ダンディな老紳士に無邪気な子供の体にまで……

 

 いっぱい使って素敵な体をいっぱい楽しんでしまいましょう!

 

 今日はどの体にしますか? 明日はどんな体にしますか?

 

 さぁさぁ、もっといろんな体を試しましょう!

 

 ……ふふっ、いっぱい使ってしまいましたね?

 

 もう、今まで使ってきた体がどんなものだったかも覚えていませんよね?

 

 さて、それではあなたに質問しましょうか?

 

 

 

 

 

 本当のあなたは誰ですか?

 

 

 

 

 

T-09-i88『存在変換カプセル』

 



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T-09-i88 管理情報

 『T-09-i88』は人一人が容易に入るサイズの巨大なカプセルです。使用する場合は一人ずつ入ってください。

 

 『T-09-i88』を使用することで、その人物の見た目や年齢、性別など様々な情報を変換することができます。

 

 『T-09-i88』を使用する場合、一度に大幅な変更をすると日常生活に支障をきたす場合があります。どうしても大幅に肉体を変更したい場合は、徐々に肉体を変更した方が賢明です。

 

 一日に3度以上『T-09-i88』を使用しないでください。また、二日連続で『T-09-i88』を使用することはお勧めできません。

 

 

 

 

 

『存在変換カプセル』

 

 

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危険度クラス ZAYIN

 

 

 

単発使用タイプ

 

 

 

 

 

 

 

◇管理情報

 

 

 

1(1)

 

 『T-09-i88』を使用すると、職員の情報と肉体を変換することができます。

 

 

2(2)

 

 見た目から年齢、性別までありとあらゆるものを変更することができます。

 

 

 

3(3)

 

 一人の職員が『T-09-i88』を一日に3回以上使用した場合、その職員はパニックになった。

 

 

 

4(4)

 

 『T-09-i88』を三日連続で使用した職員は、存在を保つことができず霧散してしまった。

 

 

 

 

 

 余談(読み飛ばし化)

 

 はい、今回はかなりわかりやすいツールですね。

 

 このツールを使用することで、職員のキャラメイクを行うことができます。

 

 まぁ、いわゆる詰み防止用ツールですね。

 

 施設の職員が男だけ、あるいは女だけで性別特攻アブノーマリティが出てきた場合に何とかするためのツールです。

 

 ちなみに、能力の特性上、クリフォト暴走の対象になりません。

 

 ということは、別に使わなくてもいいツールってことですね。

 

 選択肢の他のツールがゴミの場合は、とりあえずこれをとってもいいでしょうね。

 

 最初はデメリットも厳しめで、一日に複数回使ったらパニック、『T-09-i88』を累計3回使用したら死亡と、なかなか使いづらいツールでした。

 

 でもせっかくならもう少し使いやすいようにしようと思い、かなり条件を変更しました。

 

 ……これくらいしないと、詰みかねない奴がいるんで(ボソッ)

 

 まぁ、それはそれとして、正直このツールがあれば使ってみたいと思いますね。

 

 自分TS大好きおじさんなので、一回美少女になってみたいですね(唐突な性癖開示)

 

 ほかにも身長を伸ばしたり、チン長を伸ばしたり、かなり夢がありますよね。

 

 まぁこのツール、プリセットとかないので元に戻ろうとしたら自力で頑張るしかないんですけどね……

 

 それでは今回はこの辺で、次回もお楽しみにしていてください!

 




Next F-06-i61『夢は終わらない』

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Days-20 鍵『願望』

「婆さん、今日も薬を頼むよ」

 

「ひっひっひっ、毎度あり〜」

 

 今は『F-01-i34』*1に依頼を出して、薬を作ってもらっている所だ。

 

 こいつの薬は有用だし、毒も鎮圧用として使用出来る優れ物だ。エネルギーに猶予があるなら頼んで損はない。

 

「はぁ、でも待ってる間暇だなぁ」

 

「おやそうかい、ならワタシの話に付き合ってはくれんかね?」

 

「えっ? 別にいいけど……」

 

 話とは一体なんだろうか?

 

 あの婆さんみたいにやばめの話をしたりはしないだろうが……

 

「お前さん、今歩き出そうとしているね?」

 

「はぁ? 一体何のことだよ?」

 

 『F-01-i34』に問いかけられたのは、よくわからない言葉だった。

 

 歩き出す、つまり何かを始めようとしてるって事か?

 

「おやおや、まだ気付いてはいなかったかい。それは悪いことをしたねぇ」

 

「……何のことだよ?」

 

 よくわからない奴に知った様なことを言われて、思わずムカついてしまう。

 

 そんな俺の様子の何が面白いのか、目の前の老婆はひっひっひっと笑いながら語りかけてくる。

 

「それは自分で気付くべきだろうねぇ。まぁ、すぐに自分でも気付くだろうさ、気長に待ちなさい」

 

「はぁ、意味わかんねぇ」

 

「それでも一つアドバイスをするなら、欲張りすぎないことだねぇ」

 

「……」

 

 それはそうだろうと思ったが、口に出さないでおく。

 

 『F-01-i34』は何も言わない俺のことなんて無視して、一方的に話しかけてくる。

 

「何事も過ぎれば毒となる、あんたは今からしようとすることできっと欲張ってしまう」

 

「それはきっとあんたを蝕む毒となって、辛く険しい道へと向かわせるよ」

 

「なら欲張らずに慎ましく生きろって事か?」

 

 魔女の言葉に、思わず反応する。するとやつは待ってましたと言わんばかりに口元を歪めた。

 

「そうは言っても、あんたはきっと欲張ってしまうよ」

 

「なんでわかんだよ?」

 

「そりゃあ魔女の勘さ、これでも長い間生きてるんでねぇ」

 

 魔女は楽しそうに笑う。なんというか、この見透かしたような態度が気に食わない。

 

「だからあんたは、一つも零したらいけないよ? 隅々まで見回して、取りこぼしがないかしっかりと確かめなきゃいけない!」

 

「それで、なんで俺にそんな話をするんだよ?」

 

「ひっひっひっ、そりゃああんたが特別な力を持ってるからさ」

 

 ……こいつ、まさか『異界の主』の力のことを知ってるのか? それとも、輪廻の方か?

 

「何か勘違いしている様だけどねぇ、ワタシが言ってるのはあんた自身の力さ」

 

「……俺自身?」

 

 『扉』は『異界の主』の力だし、『持ち越し』は恐らく『輪廻魔業』の力だ。

 

 それ以外となれば…… E.G.O.の力の引き出しか?

 

 いやそれも力というより技能の類だし……

 

「ひっひっひっ、そう悩むもんでもないさ。きっとあんたがやろうとする事の手助けをしてくれる」

 

「一体俺にどんな力があるって言うんだ?」

 

 正直、アブノーマリティの戯言だと切り捨てても良かった。

 

 だが、それで片付けてはいけないと直感してしまった。

 

「なぁに、強いけれど弱い力さ、ワタシをこんなにお喋りにしてしまうくらいにわね」

 

「そうか……」

 

 結局よくわからないまま話が終わってしまった。

 

 こいつの言うことを信じる訳では無いが、そのうち分かるというのであれば、いま気にしても仕方がないのかもしれない。

 

「はいよ、お待たせ」

 

「ありがとさん。 ……なんか多くないか?」

 

 『F-01-i34』から薬を受け取ると、何故か薬が2本あった。

 

 どういうことかと説明を求めると、魔女は楽しそうに笑いながら答えた。

 

「なぁに、こんな年寄りの長話に付き合ってくれた礼だよ」

 

「……ありがたくいただくよ」

 

 『F-01-i34』からもらった2本の薬は、どちらも毒々しい見た目をしていた……

 

*1
『古き森の魔女』



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EX-Story-12 O-01-i75『後悔の日々』

「おい、そっち行ったぞ!」

 

「任せろ!」

 

 “残滓”から青白い炎が噴き出し、オフィサーに襲い掛かろうとする『O-05-i52』*1の前に壁となって燃え広がる。

 

 これで足止めは十分だ。

 

「いくぞマオ!」

 

「任せろ!」

 

 マオが“脳漿”で『O-05-i52』を殴りつけ、ひるんだところを“残滓”で切り裂く。

 

 叫び声をあげる『O-05-i52』の口の中に“残滓”を突き刺し、その刃から炎を吹き出させて体内から焼き上げる。

 

「ギャアァァァァ!!!!」

 

 そしてこんがりと焼けた『O-05-i52』が倒れたのを見届けて、しばらく警戒して鎮圧に成功したことを確認した。

 

「よし、鎮圧成功だな。助かったぜマオ」

 

「ふん、この程度では肩慣らしにもならん」

 

「そうはいっても、一応この施設で一番強いのこいつなんだけどな」

 

「もっと強そうなやつがいるだろうが」

 

 まぁ、確かに強そうなやつはいるけど、そもそもあいつめったに脱走しなさそうなんだよなぁ。

 

「まぁそういうなよ。今からそいつのところに作業行ってくるからよ」

 

「そうか、せいぜいがんばれよ」

 

「おう、頑張ってくるよ」

 

 『O-05-i52』の鎮圧を終えて、次の作業へと向かう。

 

 次に向かうのは『O-01-i75』、以前収容されたアブノーマリティだ。

 

 ……ただあいつ、俺の時と別の奴の時とでかなり反応が違うらしい。

 

 別に性別やらステータスで変わっている様子もないらしいから、不思議なものだ。

 

「まぁ、考えても仕方がないか」

 

 気が付けば、もう『O-01-i75』の収容室の前に来ていた。

 

 俺はいつものように扉に手をかけてから、お祈りをして扉を開ける。

 

 ……収容室からは、やっぱり崩海の潮騒が聞こえた。

 

 

 

 

 

「おーい、来たぞー…… って、ありゃあ、やっぱりかぁ」

 

 収容室に入ると、『O-01-i75』は部屋の隅っこでうずくまりながら震えていた。

 

 アブノーマリティが脱走するといつもこうだ。

 

 何らかの方法でアブノーマリティが脱走したことを察知できるみたいだが、たとえどれだけランクが低くても、脱走するとこいつはこんな風におびえて縮こまってしまう。

 

「……さて、それじゃあ作業を始めるか」

 

 とりあえずいつも通り収容室内の清掃から始める。

 

 こいつは初めて会った時の反応もそうだが、俺に対して変な行動をとろうとする。

 

 はじめは祈るような動作をしたし、そのあとも何かを話そうとするような、こちらに積極的にコミュニケーションを取ろうとする行動を見せる。

 

 俺はそれが不思議な行動だと思いつつ、どこか懐かしさのようなものも感じてしまう。

 

 それもこれも、この収容室内で聞こえる潮騒のせいだろうか?

 

「……よし、こんなもんか」

 

 とりあえず収容室内の清掃が終わった。

 

 『O-01-i75』のほうに目を向ける。

 

 あれから結構時間がたっているというのに、『O-01-i75』はいまだに部屋の隅で震えていた。

 

 今まで観察した結果、どうやらこいつはかなりの臆病らしい。

 

「もう大丈夫だぞ…… なぁ、あんまりビビっても仕方ないぞ?」

 

 正直こんなことを言ったとしても意味はないだろう、それでも伝えたほうがいい気がしてしまった。

 

 収容室から退出し、廊下を歩いていく。

 

 できれば、何事もなければいいのだが……

 

 

 

 

 

「くそっ、『F-02-i32』*2を脱走させたのはどこのどいつだよ!!」

 

「愚痴っても仕方ないだろう! それより今は奴を見つけ出して鎮圧しなければ……」

 

 『F-02-i32』が脱走したため、俺とリッチは今急いで捜索を行っている。奴が逃げたままだとこの施設が大変なことになってしまう。

 

『『O-01-i75』の収容室前で不審な動きを感知した、手の空いている職員はすぐに鎮圧に向かってくれ!』

 

「くそっ、ここから一番遠いじゃねぇか!!」

 

 『F-02-i32』の脱走を聞いて手分けして探していたせいで、俺たちは発見場所から一番遠いコントロール部門まで来てしまっていた。

 

 こうなったら近くに誰かいることを信じて急いで向かわなければ……

 

「間に合うか……?」

 

「そんなことを言っている暇があったら、黙って走り続けろ!」

 

 リッチと二人で全速力で『O-01-i75』の収容室まで向かう。

 

 頼むから間に合ってくれ……!!

 

「着いた! 状況は!?」

 

「おせぇぞ! くそっ、間に合わなかった!」

 

 現場に着くなり状況確認を行ったが、どうやら事態は最悪らしい。

 

 周辺には争った跡と、小さな狸の死骸が転がっていた。

 

 先に来ていたであろうマオとシロは、E.G.O.を構えて目の前の怪物に対峙している。

 

 その怪物は、『O-01-i75』。俺たちの体より二回りは大きいであろうその怪物は、俺たちを、いや俺を見るなり咆哮を上げて手に持つ杖で力強く地面をたたいた。

 

「ぐをおぉぉぉううぅぅぅわあぁぁぁ!!!!」

 

 すると奴の背後に、巨大な扉が出現した。

 

 真っ白で、どこか気品のあふれるその扉は、ゆっくりとひとりでにその扉を開いた。

 

「……聞こえる」

 

「お、おいジョシュア?」

 

 聞こえる、懐かしい音だ。懐かしい匂いだ。

 

 崩海の潮騒、流れ出る残滓、郷愁の香り……

 

「おいジョシュア!? そっちに行くんじゃない!」

 

「くそっ、魅了系か!」

 

「……ジョシュア!」

 

 リッチの、マオの、シロの声が聞こえる。

 

 目の前でマオとシロが『O-01-i75』に対して攻撃を加えている。しかし『O-01-i75』は無抵抗だ。

 

 彼はただ、祈りの姿勢を崩さない。

 

「……今行くよ」

 

 俺にはわかる、その扉の先が、この施設よりは安全な場所であることを。

 

 だが、俺にとって重要なのはそこではない。

 

 感じるのだ、懐かしい匂いが……

 

「待て、ジョシュア」

 

「……行かなきゃ」

 

「行ってどうするつもりだ!」

 

 肩をリッチにつかまれる。

 

 放してくれ、扉に行けないじゃないか。

 

「あそこに、あそこに故郷があるんだ……」

 

「そんなものはまやかしだ、心を強く持て!」

 

 そんなことはない、あそこには確かにあるんだ……

 

「お前は、俺たちを置いていってしまうのか?」

 

「……あっ」

 

 そうだ、俺は何をしようとしているんだ。

 

 俺にはもう、大切な仲間がいるじゃないか。

 

 それなのに、誘惑にかられ、ありもしない幻想を見てしまった。

 

「すまない、リッチ」

 

「気にするな、俺とお前の仲だろう」

 

 何とか正気に戻った俺は、急いで『O-01-i75』に接近して、“残滓”を振りかぶる。

 

「をおぉぉえんうぇえぇぇぇぇ!!」

 

 そして叫ぶ『O-01-i75』の頭に“残滓”を突き立て、青白い炎で焼き尽くす。

 

 焼いている間、『O-01-i75』は叫び声一つ上げず、一切の抵抗をしなかった……

 

 

 

 

 

「……さてと、行くとするか」

 

 『O-01-i75』の収容室へと再び向かう。

 

 あの一件以降、思うところがあり、それを確かめに行く。

 

 扉を開いて、収容室の中へと入る。

 

 やっぱりそこには、懺悔をするような、祈りをささげるような姿勢を保つ『O-01-i75』がいた。

 

「……やっぱり、悔いているのか」

 

「……」

 

「俺は、恨んでないよ」

 

「……」

 

「この世界に来て、かけがえのない仲間ができて、幸せとはいいがたいけど、それでもよかったと思ってる」

 

「……」

 

「もう、苦しまなくてもいいんだぞ」

 

「……」

 

「つらかったよな、苦しかったよな」

 

「そんな姿になってまで、頑張ったんだよな」

 

「ごめんな、気づくのが遅れてしまって」

 

「そしてありがとう、俺なんかのために、こんなに頑張ってくれて」

 

「でも、もう大丈夫だから、頑張らなくてもいいんだ」

 

「こうしてまた出会えた、それだけで十分だから……」

 

「ぅう……」

 

 『O-01-i75』を、『  』を抱きしめる。

 

 ぎゅっと、優しく、壊れないように……

 

「ぅうぉぉぉおぉうおぅおぅおぅ……」

 

 頭をなでる、今まで頑張ってきた分、存分に。

 

 そうしてしばらくの間、二人で泣いた。

 

 気が付けば、俺の頭には、綺麗な花のギフトが付いていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……輪廻」

 

『どうした?』

 

「手伝ってほしいことがあるんだ」

 

『くははっ、いい目になったじゃないか』

 

 

 

 

 

O-01-i75『崩れ逝く海の旅人』

 

*1
『フレディのニヤニヤべつばらスイーツ』

*2
『小さくて悪い狸』



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EX-Story-12 管理情報

 贖罪の日々は終わりです

 

 これからは、きっと前を向いていけるでしょう

 

 

 

 

 

『崩れ逝く海の旅人』

 

 

【挿絵表示】

 

 

危険度クラス WAW

 

ダメージタイプ B(5-8)

 

E-BOX数 26

 

良い 25-26

 

普通 21-24

 

悪い 0-20

 

 

 

◇管理方法

 

1、他のアブノーマリティが脱走するたびに、クリフォトカウンターが回復した。

 

2、作業結果が悪いで、クリフォトカウンターが回復した。

 

3、愛着作業を行うと、クリフォトカウンターが減少した。

 

4、職員が5名死亡するたびに、クリフォトカウンターが減少した。

 

5、脱走した『O-01-i75』は『崩海への扉』を出現させると、同じ部門にいる職員を魅了し、一定時間が経過すると『崩海への扉』へと導いた。

 

6、施設がセカンドトランペットになると、クリフォトカウンターが0になった。

 

7、収容室の前を『O-02-i71』が通り過ぎると、クリフォトカウンターが0になった。

 

8、『O-02-i71』と対峙した『O-01-i75』は、超越状態となり危険度が上昇した。

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

洞察

1 低い

2 低い

3 低い

4 普通

5 普通

 

愛着

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

抑圧

1 高い

2 高い

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 5

 

R 0.6 耐性

 

W 1.0 普通

 

B 0.3 堅牢

 

P 1.5 弱点

 

 

 

◇ギフト

 

後悔の日々(頭1)

 

 勇気-5 慎重-5 正義+10

 

 きれいな花飾り。あの日の後悔は、決して忘れることはない。

 

 

 

◇E.G.O.

 

 

・武器 後悔の日々(メイス)

 

クラス ALEPH

 

ダメージタイプ B(20-24)

 

攻撃速度 遅い

 

射程 近距離

 

*攻撃時に一定確率で使用者にBバリアを展開する。

 

 銀色に輝く鍵のような形のした杖。次こそは必ず助けると、誓った。

 

 

 

・防具 後悔の日々

 

クラス WAW

 

R 0.4

 

W 0.6

 

B 1.5

 

P 0.5

 

 彼の纏う布切れを模した防具。もう、逃げたりなんてしない。

 

 

 

 

 

 『目覚め』を生き残った青年の証言

 

 あんた、なんでわざわざ俺なんかに話を聞こうとするんだ?

 

 なに? 『巡礼者』の話……

 

 あんた、どこでそいつを知ったんだ?

 

 ……わかった、深くは聞かないさ。

 

 それで、あんたは『巡礼者』の話を聞きに来たんだな?

 

 あいつは、俺たち『大崩壊』に巻き込まれた人間の希望だった。

 

 『大崩壊』に巻き込まれて運よく生き残った連中は、『崩海』と呼ばれる地獄みたいなところに着の身着のままで放り出された。

 

 初めて会ったときは、そんな『崩海』で右も左もわからない俺が『支配者』に目を付けられて、逃げ惑っていた時だった。

 

 ……ありゃあ、本当に恐ろしかった。

 

 口からおぞましい粘液をまき散らし、手に持つ杖をやりのように突き刺して、まるで鬼神のような戦いぶりだった。

 

 もちろん『支配者』も黙ってはいなかったが…… 今は『巡礼者』の話だろ? そこは省かせてもらうぜ。

 

 とにかく『支配者』を下した『巡礼者』は、そこでようやく俺に向き合ったんだ。

 

 当時の俺は恐ろしくて恐ろしくて、その場から一歩も動けなかった。

 

 でもあいつは、恐れている俺を落ち着くまで近くで守ってくれていた。

 

 しばらくして大丈夫なのではないかと感じて、『巡礼者』とコミュニケーションを取ろうと考えた。

 

 そして奴は『扉』を出して、自らのねぐらに俺を招待したわけだ。

 

 あぁ、『扉』っていうのは、いうなればどこでもドア…… いや、この例えは通じないか。まぁ、遠くの場所をつなげて瞬間移動できるドアのことだ。奴はそれを出して自身以外を疑似的に瞬間移動できるんだ。

 

 そんでねぐらには俺以外にもそこそこの数の人間がいた。

 

 最初はびくびくしたもんだ、化け物の食料のストックにでもされてしまったのかって。

 

 しばらく過ごしてから、思い過しであることが分かった。

 

 奴は俺たちを死ぬ気で守るし、何度か実際に殺されるところまで行ったこともある。

 

 そのたびに奴の『卵』をもって必死に逃げ出したもんだ。

 

 おかげで、逃げ足だけは誰にも負けない自信がある。

 

 奴は俺たちと同じものを食べて、同じ時を過ごして、なんだかんだで家族のような間柄だった。

 

 ……あの時が来るまでは。

 

 奴は突然、『崩海』から姿を消した。

 

 それだけならまだしも、『支配者』も『蟹』も『宿借』も『海老』も、『崩海』における上位者が軒並み消えていってしまったせいで秩序はめちゃくちゃになってしまった。

 

 もちろん俺たちがいたねぐらも滅茶苦茶に荒らされ、俺だけしか生き残れなかった。

 

 ……あぁそうだよ、全員目の前で殺された。

 

 食われて、踏まれて、溶かされて、弄ばれて……

 

 俺は、見ていることしかできなかった!!

 

 まだ小さいガキもいたんだ、絶対守るって誓った年下の女の子も、混乱を収めようと必死に頑張っていた年長者のおっさんも、全員……

 

 結局あいつらがいなくなるまで、俺は一人で息をひそめて隠れていることしかできなかった。

 

 俺は、見捨てることしかできなかったんだよ……!!

 

 ……すまない、熱くなってしまった。

 

 なに、本当に全員死んでしまったのかって?

 

 あぁ、そこにいる全員の死体を集めてちゃんと墓も作った。

 

 ……なぁ、あんたに頼みがあるんだ。

 

 俺を『巡礼者』のところに連れて行ってほしい。

 

 あいつがなんで消えたのか、真実を知りたいんだ!

 

 これでも俺は4級フィクサーだ! 少なくとも足手まといにはならない!

 

 それに、ここだけの話だが、俺には『ロボトミーコーポレーション』の知識も『図書館』の知識もある。

 

 まぁ、俺の知っている情報も、あまりあてにはならないかもしれないが……

 

 少なくともアブノーマリティ、いや『幻想体』の知識も、対処法もある程度は分かっている。

 

 頼むよ『白い旋律』! そのためなら俺は、『図書館』だろうが、『動物園』だろうが、それこそ地獄だろうが何処へだって行ってやる……

 




さぁ、楽しい楽しいお遊びを始めましょうか


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荳ュ螟ョ譛ャ驛ィ縲?竇。 アリスのオモチャ箱
Days-21-1 F-0 (1)-i61『あなたのお名前は? あら奇遇ね、私も繧「繝ェ繧ケよ』


さぁ、思う存分楽しみましょうか。

ところであなた、かくれんぼは得意かしら?


「おはようリッチ、どうしたんだ?」

 

「あぁ、ジョシュアか。おはよう、ちょっとな……」

 

 今日は中央本部の開放日だ。

 

 さっそく中央本部のメインルームへ向かうと、なにやらリッチが考え事をしていた。

 

 リッチがこんな表情をしているのは珍しい、何があったのだろうか?

 

「実は、さっきパンドラが始業時間になるなり急いでどこかへ行ってしまったんだ。方角からして今日収容された奴のほうに行ったみたいだが……」

 

「パンドラが? いったいどこで何をしでかすつもりなんだ……」

 

 まったく、パンドラには困ったもんだ。今までもいろいろとアブノーマリティでやらかしてきたが、ついに何も情報のないアブノーマリティにまで手を出そうとするとは……

 

「いや、そういう感じじゃなかった。なんというか…… 焦っていた?」

 

「焦る? 焦るってあいつが?」

 

 パンドラが焦っている?

 

 あいつはあれでも勘だけは鋭い。

 

 そう考えると、今回収容されたアブノーマリティのどちらかは、警戒しなければいけないな。

 

 中央本部が解放されたこともあり、今回収容されたアブノーマリティは2体。

 

『F-0 (1)-i61』と『O-05-i53』だ。

 

「あぁ、噂をすれば戻ってきたな」

 

 リッチの視線と同じ方向に目を向けると、確かにパンドラがこのメインルームに戻ってきていた。

 

 しかし、どうにも様子がおかしい。

 

 かなり焦った様子で俺のほうに走ってきた。

 

「おいパンドラ、いったいどうsうおっ!?」

 

「先輩!」

 

 今回の奴には気を付けて作業してください!

奴のところには絶対に行かないでください!

 

「あぁ、もちろん気を付けて作業するつもりだけど?」

 

「えっ!?」

 

 どうしたのだろうか?

 

 なぜかパンドラが挙動不審だ、何かおかしい。

 

 なんというか、自分で言ったことに自分で驚いているような……

 

『おいジョシュア、何か嫌な予感がする』

 

「とりあえず、今日の作業に行ってくるよ」

 

「!? だから……」

 

 気を付けてくださいね!

奴の所には行かないで!

 

「わかってるよ、そう心配すんなって!」

 

 珍しくパンドラが半泣きになりながら俺に縋り付いてきた。

 

 これはかなりヤバそうだな、気を引き締めていかないと。

 

「なぁ、さっきどっちかのアブノーマリティの作業に行ってきたんだろ? どんな奴だったんだ?」

 

「わ、私の行ってきたアブノーマリティは『F-0 (1)-i61』です!」

 

「とにかく気を付けてほしいのは一つです!」

 

 名前を聞かれても絶対に名乗ってはだめです!

名前を聞かれたら絶対に名乗ってください!

 

 

 いいですか、絶対ですよ!

ち、違う! 必ず名乗って!

 

「わかったよ、気を付ける」

 

 気が付けば俺から離れたパンドラがこちらを見上げる。

 

 よく見れば体が震え、涙目になっている。

 

「大丈夫だって、ちゃんと生きて帰ってくるから」

 

「違う、行かないで! ちゃんとあなたとして帰ってきて!」

 

「ジョシュア、気を付けていって来いよ」

 

「おう!」

 

 メインルームを出て、今日収容されたアブノーマリティの収容室へ向かって歩いていく。

 

 まず最初に作業を行うのは、『F-0 (1)-i61』。さっきパンドラが警戒していたやつだ。

 

『おいジョシュア、今回の奴はかなり厄介だぞ。なんせあの珍獣が警戒しているのだからな』

 

 それにしてもこの中央本部、もう少しまともに設計はできなかったのだろうか?

 

 いくら何でもエレベーターがあるのが片方だけって、欠陥住宅すぎるだろう。

 

『ジョシュア? おいジョシュア!』

 

 何のためにあるのかわからないメインルームの下の階を歩いてゆく。せめて両側にエレベーターがあればこんな無駄に歩かなくて済むのに……

 

『くそっ、まさかあの珍獣から間接的に影響されたのか? この状態だとこの程度にも抵抗できないのか……』

 

 長い道のりも終わり、ようやく『F-0 (1)-i61』の収容室にたどり着く。

 

 いつも通りに扉に手をかけ、そのまま収容室に入る。

 

 あっ……

 

 

 

 

 

 収容室の中には、随分とカラフルで巨大なキノコが生えていた。

 

 

 

「あら、初めまして」

 

 収容室の中には可愛らしい少女が存在していた。

 

 ふわりと緩やかにウェーブする金髪、透き通るような碧眼、そして陶磁器のように美しい白い肌。

 

 水色と白色のエプロンドレスを身にまとう彼女は、その不思議な雰囲気も相まってまるで絵本の中から出てきたかのようであった。

 

『ジョシュア、こいつは危険だ! 逃げろ!』

 

「うふふっ、ようやく人間さんが来てくれたわ! 初めまして、あなたのお名前は?」

 

「……」

 

『やめろジョシュア、黙るな! 自分の名前を答えろ! 忘れるな!』

 

 これがパンドラが言っていたことか。

 

 とりあえずその問いに沈黙を選ぶ。

 

 すると彼女は、楽しそうに笑みを浮かべた。

 

「ふふっ、言わなくても分かるわ。だって私も同じだもの」

 

「……?」

 

 私も同じ? いったいどういうことだろうか?

 

「奇遇ね、私もアリスよ」

 

「……!?」

 

 こいつ、なんで俺の名前を知っているんだ?

 

 ……まずいな、こいつに名前を知られることでどんな恐ろしいことが起こるのかわからないが、より一層警戒を強めなければならないわ。

 

「うふふっ、そんなに怖い顔をしないで。かわいい顔が台無しよ?」

 

「そ、そうね。気を付けるよ」

 

「そんなことより一緒に遊びましょう? せっかくお友達に慣れたんですもの」

 

 まぁ、確かに作業はしなければならないし、アリスの言う通りアリスも愛着作業をしたほうがいいわよね?

 

「わかったわ、それじゃあ一緒に遊びましょうか?」

 

「やったぁ! そう来なくっちゃ!」

 

 とりあえずアリスと一緒に追いかけっこをして一緒に遊んだわ。

 

 足が短いせいかうまく走れなくって何度もこけちゃったけど、でも一回も泣かなかったわ!

 

「うふふっ、楽しかったわね! アリス!」

 

「えぇそうね! アリス!」

 

 結果として、アリスもアリスもいっぱい楽しんで遊んでしまったわ!

 

 勤務中にこんな風に遊んでしまっていいのかなって考えちゃったけど、アリスも喜んでるし、エンケファリンボックスもいっぱいだから大丈夫よね?

 

「……ジョシュア先輩?」

 

「あら、パンドラちゃん! ……どうしたの?」

 

 なんだかパンドラちゃんがショックを受けているように見えるわ。いったいどうしてのかしら?

 

「ジョシュア先輩、ごめんなさい、ごめんなさい!」

 

「だ、大丈夫よパンドラちゃん。私はこの通り元気だから」

 

 パンドラちゃんが私に抱き着いてくる。声からして、明らかに涙ぐんでいる。

 

 ……随分と、憔悴しているように見えるわ。

 

「ジョシュア先輩! 自分の名前を覚えていますか!?」

 

「え、えぇ…… 覚えているわよ。アリ…… いや、ジョ…… ジョシュア、だったかしら?」

 

「あ、あぁ……」

 

 パンドラちゃんが青ざめた顔でポロポロと涙を出しているわ、カワイイ❤

 

「ジョシュア先輩、ま、まだ間に合いますから! ついてきてください!」

 

「あっ」

 

 パンドラちゃんに手を取られて廊下を走る。

 

 ちょっと、そんなに早く走ったらこけてしまいそうになるわ。

 

「おっ、パンドラとアリスじゃないか。そんなに急いでどうしたんだ?」

 

「リッチ君、ジョシュア先輩です!」

 

「あぁ、ジョシュア…… だったな?」

 

「ちょっとジョシュア先輩が遅いんで抱えてあげてください!」

 

「えぇ…… まぁ、いいけど」

 

「きゃっ!」

 

 リッチさんにお姫様抱っこをされてパンドラちゃんの後を追う。

 

 なんだか物語のお姫様みたいでいいかも……

 

「あら、ここは『T-09-i88』*1? いったいどうして……」

 

「いいから早く入ってください! それで元の体に戻って!」

 

 パンドラに押し込められて、『T-09-i88』の中に入る。

 

 中のモニターを確認すると、そこには自分の体が映し出されていた。

 

「……あれ? 私の体って、こんなに背が高かったっけ?」

 

 そういえば、これくらいの体だった気がする。

 

 それに、俺は男だったような……

 

「まぁ、とりあえず使うか」

 

 特に変更をするところもないため、そのまま使用する。

 

 すると変更をしていないにもかかわらず、『T-09-i88』が起動した。

 

「あっ」

 

 周囲からエアクッションのようなものが俺を包み込み、俺は意識を手放した……

 

 

 

 

 

「……終わったのか?」

 

「……!? ジョシュア先輩!」

 

 『T-09-i88』から出ると、パンドラとリッチが出迎えてくれた。

 

 パンドラはなんか涙ぐんでるし、どうしたんだ?

 

「ジョシュア先輩! 自分の名前分かりますか!?」

 

「いや、それはジョシュアだろ? そもそもお前自分で言ってるじゃん」

 

「ぐすっ、良かった……」

 

 いったいどうしたのだろうか? リッチも困惑してるし。

 

「……そのパンドラ、大丈夫か?」

 

「ありがとうリッチ君、ちょっと安心しちゃって……」

 

「安心?」

 

「うん、ジョシュア先輩に何かあったら、怒られちゃいますからね」

 

 とりあえず問題が解決したみたいだが、いったいどうしたのだろうか?

 

「……ジョシュア先輩」

 

「あぁ、どうしたんだ?」

 

 パンドラが今までにないくらい真剣な表情を見せる。

 

 本当に、どうしたのだろうか?

 

「これ以降は私だけに『F-0 (1)-i61』の作業を任せてもらってもいいですか?」

 

「えっ、別に管理人がいいならいいけど……」

 

「わかりました、頑張って説得させてきます! とりあえずお土産に情報をもっていきますね!」

 

「お、おう頑張れよ……」

 

 そういうとパンドラは走って『F-0 (1)-i61』の収容室のほうへと向かっていった。

 

 いまいち情報が呑み込めないが、なんとなくパンドラに感謝しておいた方がいい気がする……

 

 

 

 

 

「……つまらないわ」

 

「あなたが楽しむ必要はありません」

 

「黙って、あなたみたいなケダモノと遊んでも、楽しくなんてないわ」

 

「じゃあ楽しまなくていいです」

 

「……はぁ、あなたにも罰ゲームが効いたらよかったのに」

 

「かなわないことを語っても惨めなだけですよ?」

 

「……まぁいいわ」

 

「どうせそのうち、お友達も遊びに来てくれるはずだもの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Emergency! Emergency! Emergency!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Risk Level ALEPH

 

 

 

 

 

 

 

 『F-0 (1)-i61』 『私もアリス』

*1
『存在変換カプセル』



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『F-0 (1)-i61』 管理情報

うふふっ、ようやく出会えたわね!

 

この日をずっと、ずぅーっと、楽しみにしていたのよ?

 

さぁ、思う存分遊びましょうか!

 

まずはかくれんぼからね。

 

よーい、スタート!

 

ふざけるな! こんなことをしてただで済むと思っているのか!? そうやって彼らの存在した事実さえ捻じ曲げて、全て自分にして! 絶対にお前の化けの皮を剥いでやる、絶対にだ!

 

ふふっ、負け犬の遠吠えが気持ちいいわ

 

 

 

 

 

『私もアリス』

 

 

【挿絵表示】

 

 

危険度クラス HPELA  あら、見つかっちゃったわね

 

ダメージタイプ W(6-9)

 

     18

E-BOX数 30 よくわかるわね

 

   12-18

良い 22-30

 

   6-11

普通 12-21

 

   0-5

悪い 0-11

 

 

 

◇管理方法

 

1、施設内にアリスが増えるたびに、クリフォトカウンターが下がった。

 

2、アリスでない職員が作業結果がよい、または悪いで作業を終えた場合、その職員はアリスになった。

 

3、アリスである職員が作業結果普通、または悪いで作業を終えた場合、収容室内に新たなアリスが現れた。

 

4、LOCK あら、すごいすごい!

 

5、LOCK

 

6、LOCK

 

7、LOCK

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 低い

2 低い

3 低い

4 普通

5 普通

 

洞察

1 低い

2 低い

3 低い

4 低い

5 低い

 

愛着

1 最高

2 最高

3 最高

4 最高

5 最高

 

抑圧

1 最高

2 最高

3 普通

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 5

 

R 1.0 普通

 

W 1.0 普通

 

B 1.0 普通

 

P 1.0 普通

 

 

 

◇ギフト

 

鏡像(特殊)

 

 あなたはアリス、私もアリス、それだけで、もういいじゃない

 

 

 

◇E.G.O. まだ秘密よ

 

 

・武器 LOCK もうちょっと待っててね

 

 

 

・防具 LOCK きっとすごく喜ぶわ!

 

 

 

 お茶会(強制参加)

 

 さぁ、ようやくこうしてお話ができるわね!

 

 今まで随分と窮屈だったから、ようやく解放されて気持ちがいいわ!

 

 あら、随分楽しそうに見えるって? それはそうよ!

 

 だってようやくお友達に会えたんだもの、うれしいに決まってるわ!

 

 お友達って誰って…… もう、そんなに他人行儀なのは頂けないわ。

 

 あなたよあなた、こうして一緒にお茶会しながらいっぱいおしゃべりしているでしょう?

 

 だったら私たちはもう、お友達でしょう?

 

 ……あら、何処に行こうとしているのかしら?

 

 えっ、もうおうちに帰りたい?

 

 ……何を言っているのかしら。

 

 言ったでしょう? お茶会には強制参加だって。

 

 だったらもう、ここから出られないのは当たり前のことでしょう?

 

 うふふ、どうしたの? そんなにかわいい顔をして。

 

 だめよ、そんな顔を見たら愛おしくって仕方がないわ!

 

 ……あっ、そういえばまだ自己紹介が済んでいなかったわね。

 

 ふふっ、言わなくても大丈夫よ?

 

 だって私も、アリスなんだから……

 




Next O-05-i53『これ以上の実験は中止してください』


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Days-21-2 O-05-i53『これ以上の実験は中止すべきです』

「……今日はなんだか静かだな」

 

 お昼時、リッチと一緒に食事をしていると、ふと気になったので思わず口から思っていることが洩れてしまった。

 

 目の前でミートボールスパゲッティを食べているリッチは、その話を聞いてこちらをじぃっと見つめてきた。

 

 いや、そんなにこっちを見るなよ。

 

「確かに、もしかしたらパンドラがいないからか?」

 

「あぁ、確かに。『F-0 (1)-i61』*1の作業につきっきりだもんな」

 

 あいつがここまで熱心なのも珍しい。

 

 もしかしたら、そのレベルのヤバい奴なのかもしれないな。

 

「さて、そろそろ時間だぞ。早く食べないと置いてくぞ」

 

「おいおい、ちょっと待っててくれよ」

 

 リッチがお皿に残ったミートボールを急いで口に入れる。

 

 なんというか、随分と幸せそうだ。

 

 ……こいつ、好物は最後まで残しておく派か。

 

「待たせたな。ジョシュア、この後はどこの作業に向かうんだ?」

 

「あぁ、俺はこの後ようやく『O-05-i53』の作業だ。リッチは?」

 

「俺は『O-01-i75』*2の作業に行ってくる。奴の作業を考えると面倒だ」

 

「まぁ、頑張れよ」

 

 食堂を出て、それぞれ向かう先のメインルームへと歩いていく。

 

 今日の作業は『O-05-i53』だ。

 

 食後だし、できればグロい系でなければいいのだが……

 

「……まぁ、考えても仕方がないか!」

 

 収容室へと続く廊下を歩きながら、ふとあることに気が付く。

 

 そういえば、輪廻の奴も全然話しかけてこないな。

 

「……まぁいいか!」

 

 輪廻の奴もたまにはそんなときもあるだろう。

 

 そんなことよりも今日のアブノーマリティだ。

 

 もうすでに中央本部、そろそろWAWやALEPHが来てもおかしくない。

 

 実際、この前安全部門に来た『O-01-i75』はWAWだったしな。

 

「よし、そろそろか」

 

 ようやく目的地である『O-05-i53』の収容室の目の前までやってきた。

 

 いつものように収容室の扉に手をかけ、お祈りをしてから扉を開く。

 

 ……収容室からは、なんだかおいしそうな匂いが漂ってきた。

 

 

 

 

 

「えぇ……」

 

 収容室の中に入ると、そこにはお皿のひっくり返った巨大なスパゲッティが存在していた。

 

 そこから2本のスパゲッティがにょろにょろと動いたかと思うと、まるでカタツムリのようにニューっと伸ばして先端をこちらに向けてきた。

 

 どうやらあれが、目のようだ。

 

 それはこちらに気が付くと、体を起こして俺と向かい合った。

 

 ……なんというかそれは、カニのような、ヤドカリのようなスパゲッティだ。

 

 もしかしなくてもこれはあれだな?

 

 『O-05-i47』*3や『O-05-i52』*4の同類だな?

 

「なら、とりあえず掃除から始めるか」

 

 まずは衛生的にしてやるのがこいつらの基本だ。

 

 やっぱりこいつらにも食品としての自覚があるのだろうか?

 

「ギュイ、ギュイ」

 

「えぇ……」

 

 こいつ鳴くのかよ、びっくりしたわ。

 

 それにしても、図体のわりにかわいい鳴き声だな。

 

 警戒しておこう。

 

「まぁ、とにかく気を付けておいた方がいいかもな」

 

 『O-05-i53』を警戒しながら掃除を行っていく。

 

 この手の奴は愛着持たせてきてから裏切るからな、騙されんぞ!

 

 その間も『O-05-i53』は嬉しそうに鳴きながらこちらを見ていた。

 

 なんというか、監視されているというよりは、興味津々といった感じだ。

 

「……よし、これで終わりだな」

 

 洞察作業も終わり、収容室を後にする。

 

 なんというか、喜ぶたびにおいしそうな匂いを出すのはやめてほしかった。腹が減る。

 

「とりあえず、洞察作業が安定しそうだな」

 

 メインルームへと向かって歩く間、さっきのおいしそうな匂いが忘れられそうになかった。

 

 

 

 

 

『各メインルームで灰燼の白昼が出現しました、周囲の職員は鎮圧に向かってください』

 

「くそっ、いきなり出てくるのはダメだろ!! 『O-01-i75』の状態は!?」

 

 地面から突き出た灰色の槍のような岩によって、死屍累々の惨状が出来上がっていた。

 

 灰燼の白昼の急襲によって数多のオフィサーたちに被害が出た。

 

 このままでは死体反応型の『O-01-i75』が脱走するかもしれない。

 

 今いる中央本部からだと、こいつをつぶして駆けつけるには時間がかかる。

 

「わからん!! だが放送がないのであれば……」

 

『『O-05-i53』が脱走しました、周辺の職員は鎮圧に向かってください』

 

「くそっ、お前も死体反応系かよ!?」

 

 思わず悪態をつく。まさかの『O-05-i53』も死体反応型だったようだ。

 

 奴はここから近い、急いで灰燼の白昼を鎮圧する必要がある。

 

「すまんリッチ、少し離れろ!!」

 

 手に持つ“残滓”から力を吸い出し、放出する。

 

 横なぎに振られた“残滓”から青白い炎が噴き出し、灰燼の白昼に燃え広がっていく。

 

「ここで決める!」

 

 “残滓”を逆手に持ち、刀身に力を込めて熱量を上げていく。

 

 そして限界まで力が溜まったところで勢いよく炎を放出し、己の体を吹き飛ばす。

 

「……灼き斬る」

 

 そして、その勢いのまま灰燼の白昼を切り裂いた。

 

 灰燼の白昼は断面を青白く光らせながら、崩れゆく。

 

 そしてそのまま、灰燼の白昼は機能を失った。

 

「ジョシュア、大丈夫か!?」

 

「はぁ、はぁ、大丈夫だ……」

 

 E.G.O.の力を引き出しすぎたせいなのか、少し倦怠感がある。

 

 だがこの後『O-05-i53』の鎮圧も残っているのだ。このままゆっくりしているわけにはいかない。

 

「よし、行くぞ!」

 

「あぁ、無理はするなよ!」

 

 急いで中央本部特有の長ったらしいメインルームを走っていく。

 

 向かう先は『O-05-i53』の収容室のある廊下だ。

 

 できればあまり動きが早くない奴だと嬉しいのだが……

 

「くそっ、メインルームにまできてやがる!」

 

「おい、非戦闘員は早く避難するんだ!」

 

 下のメインルームににたどり着くと、すでに『O-05-i53』が侵入していた。

 

 奴はパスタを足代わりにうねうねと見た目以上の速さで動き回っている。

 

「嫌だ、助けてくブベラッ!」

 

 そしてその速さから逃れられず、オフィサーが一人犠牲になってしまった。

 

「くそっ、燃えろ!」

 

 俺とリッチ、『O-05-i53』を囲むように炎を燃え広がらせて、奴の動きを制限する。

 

 しかし奴は俺たちに興味を示さず、先ほど殺したオフィサーの死体を弄んでいた。

 

「させてたまるか!」

 

 リッチが“後悔の日々”で『O-05-i53』を殴りつける。

 

 しかし『O-05-i53』は背中のお皿でリッチの攻撃を防いだ。

 

「まずい、あいつ何かする気だぞ!」

 

「任せろ!」

 

 “残滓”に力を込めて『O-05-i53』に投げつける。

 

 するとうまく『O-05-i53』のパスタに突き刺さった“残滓”が勢いよく爆発し、俺の手元に戻ってきた。

 

「どうだ!?」

 

「いや、まだだ!」

 

 『O-05-i53』は傷を負っているものの、まだまだ動けるようだ。

 

 しかも、奴の動きを十分に止めることはできなかったようだ。

 

「……なんだよあの悪趣味なミートボールは」

 

「どう考えても、ろくなものではないな」

 

 先ほどの職員で作ったのであろう肉団子を背中に乗せて、こちらに向かう『O-05-i53』。

 

 俺たちはアイコンタクトをすると、リッチが懐に潜り込む。

 

「おらぁ!!」

 

 リッチの掬い上げるような一撃で、『O-05-i53』が一瞬宙に浮く。

 

 俺はその隙を見逃さず、奴の下にもぐると“残滓”の力を引き出した。

 

「ここで、切り刻む!!」

 

 奴にやりたいことなんてさせる気はない。

 

 “残滓”で徹底的に無防備なパスタを切り刻み、焼き尽くしていく。

 

 その激痛のせいか、『O-05-i53』が悲鳴を上げながら燃え尽きていった。

 

「……ふぅ、これで終わりか」

 

「あぁ、助かったよリッチ」

 

「それは俺のセリフだ」

 

 いまだに燻る『O-05-i53』のほうを見る。

 

「……しばらくスパゲッティは食べれそうにないな」

 

「あぁ……」

 

 まったく、なんで食べ物の形で出てくるのやら……

 

 

 

 

 

 ついに『T-05-i08』*5は、己すらも超える化け物を作り出した。

 

 この結果を受けて、我々に走った衝撃は計り知れない。

 

 もはや『T-05-i08』は、我々の手に余るものとなってしまった。

 

 そして、ついに我々のうちの一人がこういい始めた。

 

 

 

 

 

 これ以上の実験は中止すべきです、と……

 

 

 

 

 

O-05-i53『フレディのウキウキごきげんスパゲッティ』

 

*1
『私もアリス』

*2
『崩れ逝く海を行く旅人』

*3
『フレディのドキドキいやしんぼバーガー』

*4
『フレディのニヤニヤべつばらスイーツ』

*5
現状では未判明



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O-05-i53 管理情報

 『O-05-i53』はお皿をひっくり返した大きなスパゲティです。パスタの部分がカニやヤドカリといった甲殻類のような形をしています。

 

 『O-05-i53』のお皿は非常に硬いです、なるべく本体部分を攻撃して鎮圧してください。

 

 『O-05-i53』の背中に肉団子が存在している場合があります。その場合は強力な攻撃が飛んでくる場合がありますので、注意してください。

 

 ……あの、本当に、本当に『O-05-i53』を食べようとするのはよくないと思います。どう考えても、それはだめでしょう!

 

 いや、『O-05-i53』のパスタで手編みマフラーを作るのもどうかしてます。頼むから遊ばないでくれ……

 

 

 

 

 

『フレディのウキウキごきげんスパゲッティ』

 

 

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危険度クラス WAW

 

ダメージタイプ R(6-8)

 

E-BOX数 24

 

良い 10-24

 

普通 6-9

 

悪い 0-5

 

 

 

◇管理方法

 

1、職員が5名死亡するたびに、クリフォトカウンターが減少した。

 

2、作業結果普通以下で、クリフォトカウンターが減少した。

 

3、脱走した『O-05-i53』は、職員を殺害すると自らの肉団子とした。

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 最高

2 最高

3 最高

4 最高

5 最高

 

洞察

1 高い

2 高い

3 高い

4 高い

5 高い

 

愛着

1 最低

2 最低

3 最低

4 最低

5 最低

 

抑圧

1 最低

2 最低

3 低い

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 3

 

R 1.5 弱点

 

W 0.8 耐性

 

B 0.6 耐性

 

P 1.5 弱点

 

 

 

◇ギフト

 

ミートボール(ブローチ1)

 

 勇気+6

*該当アブノーマリティの武器を装備時、最低、最大攻撃力を+3

 

 ミートボール型のブローチ。空腹のときに限っておいしそうな匂いを放出してくる。

 

 

 

◇E.G.O.

 

 

・武器 ミートボール(大砲)

 

クラス WAW

 

ダメージタイプ R(5-10)

 

攻撃速度 最高速

 

射程 長い

 

 ミートソーススパゲティでできた大砲。ガトリングのように大量のミートボールを射出する。

 

 

 

・防具 ミートボール

 

クラス WAW

 

R 1.0

 

W 0.6

 

B 0.4

 

P 1.5

 

 ファミレスの店員の制服のような防具。敵に出会うと、思わず「いらっしゃいませ~」と言いたくなってしまう。

 

 

 余談(読み飛ばし可)

 

 はい、というわけでまたもやフレディです!

 

 ……いやいや、なんで一番重要な奴が出てこないんだよぉ!!(血涙)

 

 まぁ、それはひとまず置いておくとしましょう。

 

 今回のスパゲッティは、今までと違いフレディシリーズ初のWAWです!

 

 えっ、そんなに強く見えない?

 

 まぁ、そもそもフレディシリーズって強い奴全然いませんからね。

 

 とはいえ、こいつはそこそこ厄介な性質を持っています。

 

 まず背中のお皿、こいつはR属性以外のダメージをカットします。ちなみにR属性で殴るとダメージがそのまま通る上に、そのうちお皿が割れます。

 

 また、肉団子を持っている状態だと、R200ダメージの強力な遠距離攻撃を行ってきます。

 

 持ってない状態? 雑魚です。

 

 さて、それでは今回はこの辺で。

 

 みんな、また明日も遊びましょうね♪

 




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Days-22-1 O-02-i71『この海には、決して出会ってはいけないものがいる』

 ザザァ…… ザザァ……

 

「……あれ?」

 

 朝、目が覚めると、何処からか波の音が聞こえた気がした。

 

『どうしたジョシュア?』

 

「……あぁ、輪廻か。昨日はどうしたんだ?」

 

『奴の妨害を受けた、今はもう大丈夫だ』

 

 ……? 奴とは誰のことだろうか?

 

 こいつのことを妨害できるなんて、かなりヤバい奴なのではないか?

 

『ジョシュア、前回は先手を打たれたから言っておく。お前たちの言う『F-0 (1)-i61』*1、奴はかなり凶悪な力を持っている』

 

「凶悪な力?」

 

『あぁ、それこそ今の俺では不意打ちに対処できないレベルだ』

 

「それって、かなりヤバいんじゃないか?」

 

 確かに今のこいつは搾りかすのような力しかないが、元をたどればALEPHクラスの怪物だ。

 

 それがいくら不意打ちとはいえ、何もできなかった?

 

 もしかしたら、昨日全然話しかけてこなかったことも関係があるのか?

 

『おそらく次は大丈夫だが、お前も気を付けておけ。己の名前を忘れず、己を保ち続けろ』

 

「えっ、あぁ……」

 

 なんというか、あまりピンとこないけどとにかく気を付けたほうがいいのかもしれないな。

 

「……まぁ、とりあえず気を付けたほうがいいことは分かった」

 

「それじゃあそろそろ仕事に行くとするか!」

 

『あぁ、頑張れよ』

 

 

 

 

 

「……というわけで、パンドラさんが『F-0 (1)-i61』の担当から外れるみたいっす」

 

「まぁ、エネルギーを全然生成できないんじゃ仕方ないよな」

 

「代わりに私が今『F-0 (1)-i61』の作業に行ってきたんですけど、パンドラさんとはかなり生成量が違いました。やっぱりパンドラさんは人じゃないんすかね?」

 

「それは言い過ぎだろう。でもまぁ、相性とかはあるのかもしれないな」

 

 職場に着くなり、アリスが話しかけてきたので情報交換を行っていた。

 

 どうやらパンドラは『F-0 (1)-i61』と相性が悪かったらしく、『F-0 (1)-i61』の担当から外れてしまったらしい。

 

「さて、それじゃあ今日も作業に行ってくるよ」

 

「ジョシュアさん、頑張ってくださいっす!」

 

 アリスと離れて収容室へ向かって歩いていく。

 

 今日収容されたアブノーマリティは、『O-02-i71』と『T-09-i89』だ。片方はツールだからいいとして、もう片方がどんな奴か気になるな。

 

『……ジョシュア、さっきの男になにか違和感はなかったか?』

 

「えっ、男?」

 

『……お前がアリスと認識していた人間だ』

 

 ……つまり、アリスに何かあったということか。

 

 もしかしたらさっき言っていた『F-0 (1)-i61』の干渉だろうか?

 

「悪いが違和感を感じることはできなかった」

 

『となると、かなりまずいな。あいつの性別は分かるか?』

 

「……俺には女に感じたが、さっきの話だと、男なのか?」

 

 俺の記憶では、アリスは最初から女性だった。しかし輪廻の話だと、どうやらもともとは男だったようだ。

 

 しかし本当にそんなことがあるのだろうか?

 

『あぁ、俺も名前までは憶えていないが、男であったことは確かだ』

 

「……そうか」

 

 輪廻の言うことを信じるなら、これはかなり危険だな。

 

 人の認識だけでなく、記憶にまで影響を与えている可能性がある。

 

 『F-0 (1)-i61』、気を付けなければならないな。

 

「……っと、もう着いたか」

 

 気が付けばもう、『O-02-i71』の収容室の前についていた。

 

「よし、行くぞ」

 

 収容室の扉に手をかけ、お祈りをする。そして力を込めて扉を開いた。

 

 収容室からは、崩海の潮騒が聞こえてきた……

 

 

 

 

 

「……こいつが、今回のアブノーマリティか」

 

 収容室に入ると、そこには大きなクラゲが漂っていた。

 

 大きな紫色の笠からは、数多の触手が伸びていた。

 

 どこか毒々しい雰囲気をまとったそのクラゲは、触手の一本をこちらに伸ばしてきた。

 

「……っ!」

 

 まるで握手でも求めてくるかのような気軽さで伸ばされた触手を、手元に“残滓”を呼び出して切り払う。

 

 すると『O-02-i71』は、すこし残念そうにしていた。

 

「お前、今何かしようとしていたな?」

 

 なんとなくだが、こいつ今しらを切った気がする。

 

 まったく、油断や隙もありはしない。

 

「まぁいい、さっそく作業を始めようか」

 

 とりあえずこういう時は洞察作業と決めている。

 

 掃除用具を取り出して、収容室の掃除を始める。

 

「……こいつ、うっとうしいな!」

 

 さっきから掃除をしていると、こちらの隙を狙って触手を伸ばしてこようとしてくる。

 

 油断も隙もない、かなり作業がやりづらいな。

 

 『O-02-i71』の動向を気にしながら作業を行っていく。

 

 奴を観察すると、こちらも観察されていることに気が付いた。

 

「……ふぅ、何とか終わったな」

 

 とりあえず作業を終えることができた。

 

 急いで収容室から退出する。何とか奴に何もされずに済んだようだ。

 

「さて、できればあんまりかかわりたくない奴だったな……」

 

 収容室から出てメインルームに戻る。

 

「……あっ、ここ下のほうのメインルームじゃないか」

 

 考え事をしながら歩いていたせいか、下のほうのメインルームに来てしまった。

 

「……あれ、アリスか?」

 

「うんしょっと…… よし! あっ、ジョシュアじゃない!」

 

 メインルームを見回してみると、何故かこんなところにアリスがいた。

 

 何か床をいじっていたようだが……

 

 作業終わりだろうか?

 

「どうしたんだよ、こんなところで?」

 

「うふふっ、ちょっと遊んでただけよ♪」

 

 そう微笑むと、アリスは去っていった。

 

 向こうは収容室のほうだが、結局作業に行こうとしていただけだろうか?

 

「まぁいいか…… あれ?」

 

 気が付いたら、床にキノコが生えてきていた。こんなところにキノコが生えているのは初めてだ。

 

「とりあえず、消しとくか」

 

 “残滓”で切り付けて焼き尽くす。

 

 するとキノコは一瞬で灰となってしまった。

 

 

 

 

 

 いいかいヒカリちゃん

 

 この海には、決して出会ってはいけないものがいるんだ

 

 そいつはこの海を巡回して、怪物や俺たち人間を捕まえては、奴隷のように連れ回すんだ

 

 どこで何をしているかはわからないが、よくない目に合わないのは確かだ

 

 ついでに『巡礼者』とも仲が悪いらしいから、『巡礼者』と一緒にいても危ない

 

 狂暴化して巻き込まれるからな

 

 俺も一度だけあったことがある ……あれは本当に恐ろしかった

 

 直接会って生きて帰れた人間は、俺だけらしい

 

 だから君は、ここから絶対に出たらいけないよ

 

 俺たちは奴のことを……

 

 

 

 

 

 『支配者』と呼んでいる

 

 

 

 

 

O-02-i71『支配者』

 

*1
『邨ゅo繧峨〓螟「縺ョ繧「繝ェ繧ケ』



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O-02-i71 管理情報

 『O-02-i71』は紫色の巨大なクラゲです。その触手には決して触れないでください。

 

 『O-02-i71』の作業中に、決して油断してはいけません。その触手は常にあなたのことを狙っています。

 

 絶対に、『O-01-i75』と『O-02-i71』を出会わせてはいけません。

 

 

 

 

 

『支配者』

 

 

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危険度クラス WAW

 

ダメージタイプ B(5-7)

 

E-BOX数 24

 

良い 21-24

 

普通 18-20

 

悪い 0-19

 

 

 

◇管理方法

 

1、作業結果普通以下で、クリフォトカウンターが減少した。

 

2、慎重が3以下の職員が作業を行った場合、魔女の口づけを受けてクリフォトカウンターが減少した。

 

3、愛着作業を行った職員は、魔女の口づけを受けクリフォトカウンターが減少した。

 

4、脱走したアブノーマリティを鎮圧するたびに、クリフォトカウンターが回復した。

 

5、LOCK

 

6、LOCK

 

7、LOCK

 

8、LOCK

 

 

 

◇作業結果

 

本能

1 最低

2 最低

3 低い

4 低い

5 低い

 

洞察

1 普通

2 普通

3 普通

4 普通

5 普通

 

愛着

1 最高

2 最高

3 最高

4 最高

5 最高

 

抑圧

1 低い

2 低い

3 低い

4 普通

5 普通

 

 

 

◇脱走情報

 

クリフォトカウンター 2

 

R 1.0 普通

 

W 0.8 耐性

 

B 0.5 耐性

 

P 1.5 弱点

 

 

 

◇ギフト

 

 LOCK

 

 

 

◇E.G.O.

 

 

・武器 LOCK

 

 

 

・防具 LOCK

 

 

 余談(読み飛ばし可)

 

 はい、ということで今回はクラゲさんですね。

 

 いやぁ、今回の奴はどんなアブノーマリティなんでしょうねぇ?(すっとぼけ)

 

 まぁ、正直今回の奴も名前が変わるタイプなので、あまり話せることもないんですよね。

 

 それにしても、今回の中層は、今のところWAW、HPELA、WAWと、すこしやばめの戦力がそろっていますね。

 

 しかし、まだ脱走するアブノーマリティが少ないのがましな部分ですね。

 

 ALEPHがいないだけまし、はっきりわかんだね!

 

 とはいえ残りのアブノーマリティたちは全部出る予定なので、最後までお楽しみにしていてください。

 

 それにしてもあなたたち、最近楽しいことはあったかしら?

 

 私は最近とても楽しいの!

 

 だってやっと楽しく、自由に遊べるようになったのよ!

 

 あの邪魔なケダモノも来なくなったし、お友達も増えてきたしで楽しくなってきたわ!

 

 それに今日なんてお散歩にも行ってきたし、ガーデニングにも力が入っちゃうわね♪

 

 あぁ、早くここをアリスでいっぱいに満たして、楽しんで遊んでいきたいわ!

 

 そしていつかは外に出て、いっぱいいっぱい…… 世界を楽しいで満たしていきたいわ。

 

 

 

 

 ねぇ、アリスはどう思う?

 




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Days-22-2 T-09-i89『見える景色が変わります』

「パンドラ、そう落ち込むなって」

 

「……でも」

 

「こればっかりは仕方がないだろう? この会社はあくまでエネルギー会社なんだから」

 

「……はい」

 

 随分とパンドラが落ち込んでいる。

 

 まぁ、それもそうだろう。彼女は俺たちのために『F-0 (1)-i61』の担当を買って出たのだから。

 

「気にしても仕方ないし、どうしようもない時もある。切り替えて行けよ」

 

「……先輩」

 

「うん、なんだ?」

 

 パンドラが、随分と控えめな声で俺を呼ぶ。

 

 ……本当に、昨日かららしくないというか。それほど危機感を感じているのだろうが。

 

「先輩は、もう自分を見失わないでくださいね」

 

「あぁ、もちろんだよ」

 

 パンドラと約束してから、メインルームを去る。

 

 次の作業に向かうために、歩いていく。

 

「はぁ……」

 

 思わずため息が出てしまう。

 

 なんせ、今からツールの作業に行かなくてはいけないからだ。

 

「まぁ、いつまでもそのままにはできないしな」

 

 今回収容されたツールは、『T-09-i89』だ。ツールだし見てからどうするか決めればいいだろう。

 

 どのみち使うことにはなるだろうしな。

 

「さっさと終わらせるか」

 

 『T-09-i89』の収容室へと歩いていく。

 

 なんというか、ツールを使うというだけで、足が重くなる。

 

「……はぁ、もう着いちゃった」

 

 気が付けばもう『T-09-i89』の収容室の目の前に来ていた。

 

 いつものように収容室の扉に手をかけ、適当に扉を開ける。

 

 

 

 

 

「さて、今回は…… えぇ」

 

 収容室に入ると、気持ちの悪いものがポットの中に浮かんでいた。

 

 それは、見るからに気味の悪い、大量の目玉の塊…… いや、目玉のブドウであった。

 

「なにこれ、食べろとでもいうのか?」

 

 とりあえずポットから出し、『T-09-i89』を手にとる。

 

 使い方がわからないので、とりあえず目玉を一個取り外そうとしてみる。

 

「ギャアァァァァ!!!!」

 

「うおっ」

 

 目玉をもごうとして叫ばれた。

 

 正直こんな風に叫ばれるとは思ってなかったので驚いた。

 

「……じゃあ、とりあえず持っておけばいいのか?」

 

 仕方がないので懐に忍ばせておく。

 

「……うん? おぉっ!?」

 

 そしてその瞬間に、俺の視界が広がった。

 

「なっ、なんだこれ!? 気持ち悪っ!!」

 

 360度全方位が見れる。その光景は、脳が処理しきれないのか言いようもないほども気持ち悪さを感じる。

 

「えぇぇ、マジでなんだよこれ……」

 

 懐から『T-09-i89』を取り出そうとして、思いとどまる。

 

 ……なんか、このまま返したら大変なことになる気がする。

 

「と、とりあえず何かの作業に行ってみるかな」

 

 『T-09-i89』の収容室から出て、違うアブノーマリティの作業に向かう。

 

 とりあえず、『F-02-i32』*1のところにでも行こうかな?

 

「そ、それにしても、これは慣れるまでは歩くのも難しそうだ」

 

 少しふらふらしながら道を歩く。

 

 周囲の情報をすべて取り込むということは、これほどつらいものなのか。

 

 しかも自分自身が揺れているせいで、余計に気持ち悪い。

 

『……大丈夫か、ジョシュア?』

 

「お、おう。大丈夫だ」

 

『まぁ、じきになれるはずだ。もう少し我慢しろ』

 

「くっそぅ、わかったよ……」

 

 まさか輪廻にすら心配されるとは思わなかったよ。

 

 壁に手を付けながら歩いていく。これで少しマシになった。

 

「よし、ちょっとましになってきたかも」

 

 少し慣れてきたのか、周囲の情報をうまく認識できるようになってきた。

 

「……なるほど、これはすごいな」

 

 最初は気味の悪かった全方位の視界も、慣れればかなり有用であるように感じた。

 

 全方位に視界があるということは、不意打ちにも対処できるということだ。

 

 例えば背後、今後ろからオフィサーが歩いてきていることが振り向かなくてもわかる。

 

 例えば足元、汚れもなくきれいに清掃されていることがわかる。

 

 ついでに天井、うーん暗いし汚い。

 

 このように、慣れれば死角のない素敵なツールだな。うん!

 

「って言っても、どうせ何らかのデメリットはあるんだろうけどな」

 

 この慣れるまでのふらふらもあるし、どうせツールだから即死効果もあるのだろう。

 

 というか、今気が付いたんだけど、ちゃんと目を閉じれば視界もふさがるわ。

 

 これもうちょっと意識しといたら、さっきの違和感ももう少しマシになっていたかもしれないな。

 

「おっ、もう着いたな」

 

 気が付けばもう『F-02-i32』の収容室の目の前についていた。

 

 いつものように収容室の扉に手をかけ、お祈りをしたから収容室に入る。

 

 すると中には、『F-02-i32』がいなかった。

 

「なっ!?」

 

 急いで収容室の中に入って扉を閉める。

 

 『F-02-i32』がどこかに隠れているのなら一瞬のスキをついて部屋から出られかねない。

 

「管理人、『F-02-i32』が脱走したかもしれない。今すぐ確認を頼む」

 

『こちら管理人、了解した。判明次第すぐに伝える』

 

 収容室の真ん中に立って意識を集中する。

 

 その時、背後の壁が少し揺らいだ気がした。

 

「へhっ、ジャジャジャジャーnぬわぁ!?」

 

「おい、悪戯するんじゃない!!」

 

 背後からとびかかってきた『F-02-i32』の首根っこをつかんで取り押さえる。

 

 どうやら壁に化けて悪戯を仕掛けてきたようだ。

 

 まったく、肝が冷える。

 

「すまない管理人、『F-02-i32』を確認した。騒がせてしまった申し訳ない」

 

『いやいや、大事にならなくてよかった。了解』

 

 とりあえず、『F-02-i32』を放してやることにした。

 

 すると『F-02-i32』は俺の足の周りをくるくる回り始めた。

 

「すごいなジョシュア!? もしかして頭の後ろに目が付いてるのか?」

 

「あははっ、まぁそんな感じだな。ほら、飯だぞ」

 

「やったー!」

 

 『F-02-i32』の話を適当に流しつつ、作業を始める。

 

 今回は本能作業だ。

 

「モグモグ、なぁジョシュア?」

 

「うん、どうしたんだ?」

 

 食事をしていると、いきなり『F-02-i32』が話しかけてきた。

 

「最近大変な奴が来たみたいだね?」

 

「……あぁ、そうみたいだな」

 

「……あぁ、もう影響下なのか」

 

 いきなりどうしたんだろうか?

 

 そう思っていると、『F-02-i32』が再び口を開く。

 

「とりあえず、気を付けたほうがいいよ? 正直、ずっと見られているみたいで気味が悪いんだ」

 

「……そうか、わかったよ」

 

 うーん、どうにも実感がわかない。あの子はそんなにも危ないアブノーマリティなのだろうか?

 

「それじゃあ、またな」

 

「またね、ジョシュア!」

 

 『F-02-i32』に手を振って、収容室から出ていく。

 

 しばらく歩いていくと、目の前からリッチが歩いてきた。

 

「よう、リッチ」

 

「やぁジョシュア、今作業が終わったのか?」

 

「あぁ、実は今新しいツールを使っているんだ」

 

 リッチと一緒に雑談をしながら歩いていく。その間もツールの話をしていく。

 

「なるほど、ほかにどんな能力があるんだ?」

 

「あ~、なんとなくだけど、精神汚染がそんなにきつくなかった気がするな。周囲をしっかり見れる分心構えができているのか、それとも鈍感になっているのかも?」

 

「ほう、結構使えそうだな……」

 

 そういって話をしていると、目の前からアリスが3人走ってきた。

 

「おいおい、あんまり走るなよ!」

 

「きゃははっ、ごめんなさーい!」

 

「まったく……」

 

 俺がアリスに注意すると、リッチが少しこちらを責めるような目で見てきた。

 

「どうしたんだよ?」

 

「いや、まず仕事中に遊んでいることに怒れよ」

 

「そうはいってもなぁ、一応オフィサーの仕事はしてるっぽかったし……」

 

「あぁ、さっきのはオフィサーのアリスたちか…… おっ」

 

 しばらく歩いてメインルームにたどり着くと、そこには巨大なキノコが生えていた。

 

「あぁ、また生えてるな」

 

「なんだ、そんなに生えるのか、これ?」

 

「あぁ、この前も小さい奴が生えていた」

 

「とりあえずとっとくか」

 

「そうだな」

 

 俺とリッチはE.G.O.を構えて、キノコを採るのであった。

 

 

 

 

 

 私はもっと世界を見てみたい

 

 いろんなものを、余さず見たい

 

 前も後ろも、何処までも

 

 だからみんなの目玉を集めたよ。

 

 ブドウみたいに集めて、何処でも見れるように

 

 ほら、これがあれば……

 

 

 

 

 

 見える景色が変わります、ってね

 

 

 

 

 

T-09-i89『全貌の葡萄』

 

*1
『小さくて意地悪な狸』



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T-09-i89 管理情報

 『T-09-i89』は、数々の目玉が葡萄のように連なったツール型アブノーマリティです。懐に入れることで全方位を視認できるようになります。

 

 初めて『T-09-i89』を使う場合は、その視界に慣れるまでは作業を控えるようにすることをお勧めします。

 

 『T-09-i89』を返却する場合は、必ず作業を一度でも行ってから返却するようにしてください。

 

 もちろん、『T-09-i89』は食用ではありません。

 

 『T-09-i89』は食用ではありません。

 

 だから、『T-09-i89』は食用ではないといっているでしょうが!?

 

 

 

 

 

『全貌の葡萄』

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

危険度クラス HE

 

 

 

装着タイプ

 

 

 

 

 

 

 

◇管理情報

 

 

 

1(10秒)

 

 『T-09-i89』を装備した職員は、受けるMPのダメージが半減する。

 

 

2(60秒)

 

 『T-09-i89』を装備した職員が作業を行わずに『T-09-i89』を返却すると、全身から目玉をはやして死亡した。

 

 

 

3(90秒)

 

 『T-09-i89』を装備した状態でパニックになった職員も、全身から目玉をはやして死亡した。

 

 

 

 

 

 

 余談(読み飛ばし化)

 

 今回のツールはかなり良心的なツールですね!

 

 この葡萄を装着中は、WダメージやBダメージのMPへのダメージ量、そして恐怖ダメージでさえ半減する代物でございます!

 

 しかも即死も装着後即返却、ついでにパニックになるというゆるゆる条件です。

 

 死に方が気持ち悪い以外はかなり優良なツールですね!

 

 これさえあれば、盲愛様も安定して作業ができるようになります。

 

 ……いや、マジでほしいですねこれ。

 

 正直、自分でも驚くくらい優良なツールです。まぁ、作ったのもはじめなほうでちょっと甘かったかなとも思います。

 

 ちなみに、最初は単発使用型の慎重上昇ツールの予定だったのですが、絵面が最低だったのでやめました。

 

 ついでに、慎重上昇のツールはすでにほかにあるので、差別化の意味もあったりします。

 

 きもいけど使えるツール、いいですねぇ。

 

 あっ、もちろん食用ではないのですが、表面は塩味が効いています。

 

 あとなめると何故か湿って塩味の効いた液体がどんどんあふれてきます。なんででしょうねぇ……

 

 うふふっ、皆さん、どうでしたか?

 

 今回も楽しいおもちゃが来たわね。

 

 これからも、いっぱいオモチャが来ると思ったら、とっても楽しみになってきたわね。

 

 さぁ、そろそろ私の正体もばれそうだし、そんなに長く自由にはできないでしょうけど……

 

 もうちょっとだけ、楽しませていただくわね♪

 




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【挿絵表示】


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