護衛専門の親衛隊 (永遠の19)
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合流

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「てめ──ッぶっ殺してやる!!」

 

 

 男にしては高い、まだ未発達な声で物騒な言葉が聞こえてきたので、アレックスはそちらに目を向けた。清掃員の格好をして、さらに変装のために帽子を深く被っており前がよく見えなかったが、自分の護衛対象が何やらトラブルに巻き込まれているということは分かった。それだけで十分だ。

 

「おい、何してる! てめーその手を離せ!」

 

 客観的に見ればナイフを突きつけているのは護衛対象の方で、被害者は少年の方だ。だが、そんなことはアレックスにとっては関係なかった。自分はボス直々に娘を護るように指令を受けており、彼女は今トラブルに巻き込まれている──

 被害者だろうがなんだろうが関係なく、アレックスはナイフが顔に突き刺さった少年の頬を殴り飛ばした。鮮血が飛び散り、下手をすれば骨も折れているかもしれない。無慈悲にも殴られた少年は突然ものすごい力で殴られたので、ろくに受け身も取れずそのままズルズルと地面に倒れ込んでしまった。

 

「ナランチャ!!」

「な、なんだ!?」

「新手のスタンド使いか!」

 

 公衆トイレの中で何かをしていた彼の仲間たちも、ナランチャ少年が壁に激突する音で異常を感じ取りゾロゾロと出くる。奇抜な服装をした男たちである。この国のギャングは一般人と変わらない格好で目立たぬように行動しているはずなのに……こいつらが連れたって街を歩いていたなら、一発でカタギの者ではないと周囲にバレるだろう。よく今までそんな格好で生活してきたものである。仕事中は目立たないように心がけている(なお、本人の意思に反して非常に目立つ)アレックスには信じられないことだった。

 

「うむ! ひょっとして、ブチャラティか? そこにいるのかね!? ブローノ・ブチャラティ!」

 

 アレックスと共にここまで護衛対象を連れてきた老幹部、ペリーコロの呼び掛けに、集合体恐怖症の人間なら思わず目を背けたくなるような奇抜な柄のスーツを着た男が応えた。

 

「ええ、そうです。全員()だッ! 彼はパッショーネの幹部、ペリーコロさんだ!」

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

「100億リラ、確かに受け取ったぞ! これまでのポルポのナワバリは全て君が受け継ぐものとする!」

 

 ブローノ・ブチャラティはポルポの隠し財産である100億リラを無事に組織に献上することが出来た。彼の仲間も大喜びで、先程アレックスが殴り飛ばしたナランチャも復活して歓声をあげている。かなり強めに殴ったつもりだったが、細身でもギャングの一員、タフさも兼ね備えているようだ。

 ──だが、ここで浮かれている場合ではないことを、アレックスは知っていた。幹部になったから終わりではない……今から、最初にしてかなり重大な司令が下されることになるのだ……

 

「──早速じゃが、ポルポのやつは生前仕事を残していった……それを君たちに受け継いでもらいたい」

「……ポルポが残した仕事?」

()()直々の命令なんじゃよ……この命令がポルポのやつに行く直前に、やつは自殺してしまいおった」

 

 ペリーコロの言葉に、ブチャラティのチーム全員が動揺しているのがよく分かる。当然のことだろう……ボスの正体は誰も見たことがなく、謎に包まれている。そのボスからの直々の指令なのだ──幹部になって初めての仕事にしては、いささか難易度が高すぎる。そして、もし失敗すればチーム全員の命がないことくらい、猿でも分かることだ。

 

(…………)

 

 アレックスは注意深く観察した──これは勝手な憶測だが、アレックスはポルポは自殺ではないと踏んでいた。

 理由は3つ……1つ目は、ポルポを恨む者は大勢いたということ。やつはスタンドを悪用し、関係の無い人間の死にも何も思わない、ゲスな男だった。やつは恨まれて当然で、そして殺されても文句の言えないことをたくさんしてきているのだ。暗殺されても不思議ではない。

 2つ目には、ポルポの死で甘い汁を啜れるようになるやつが多いことかあげられる。ポルポの隠し財産の噂は組織に広まっており、その額は幹部を暗殺してでも手を伸ばしたくなるほどだ。バレて消されるリスクを背負うよりも、手っ取り早く幹部になりのし上がることを選ぶやつも少なくないだろう。

 最後の3つめは、ものすごくシンプルな理由だ……あいつが()()()()()()()()()()()()。やつは刑務所の中から部下を顎で使い、自分は手を汚さずに甘い汁だけを啜っていた男だ。アガりも特に問題なかったし、刑務所の中にいるのは自分が好んでやっていることなので嫌気がさした訳でもないだろう。

 そして現在アレックスの考える最重要容疑者は、ブチャラティだ。ポルポに金を隠すように頼まれたのは彼で、隠す際にほんのわずかな時間だが手元にあった100億リラに目が眩んだのではないかと考えている。さらに最後にポルポに会いに来た組織の人間が、このチームの新入り──ブチャラティが新入りにやつを始末させたと考えるのが妥当だ。……まあ、ブチャラティの評判からはそんなことをする男とは到底思えないわけではあるが。

 

「ボスの命令は、()()()()()()()()()()()……命に代えてだ」

「ボ、ボスの娘!!?」

 

 ペリーコロの言葉を引き継ぎ、ここで初めて口を開いたアレックスにブチャラティチームの視線が集中する。あまり目立つことは好きでは無いので、少し居心地が悪かった。

 

「……ところで、あなたは誰なんですか? あなたもパッショーネの幹部なのでしょうか?」

「いや、おれは幹部ではない。ボスの親衛隊の、アレックス・デッドマンだ。ここまで彼女を護衛してきた」

「ここからはアレックスと君たちと合同で任務をしてもらう。彼はボスからの命令で、私と共に金を受け取るのと同時に君たちと合流するためにやってきたのだ……護衛は今より始まる! ()()()()! ブチャラティ」

()()()……?」

 

 未だにほうけているブチャラティたちが気づくように、アレックスは黙って話を聞いていた()()の元へ歩み寄り、ブチャラティの前に行くよう促した。

 

「こ、こいつ……いや、この人は女です!」

「彼女が、ボスの娘……」

 

 だが、彼女は動揺するブチャラティたちなど目に見えていないような態度でペリーコロにトイレに行ってもいいかと聞き、了承を得るとさっさと女性用トイレの中に消えていった。アレックスが護衛している間は、あんなに冷たい態度はとらなかったはずなのだが……彼らのことが気に入らなかったのだろうか? 

 

「ペリーコロさん、おれも着替えてきます。変装したままではかえって目立つ」

「そうだな、着替えてきてくれ。これで君も少しは負担が減るじゃろう……その間に見ていてくれる人間が増えたからな」

 

 ペリーコロ言葉に少し微笑んで頷いてから、アレックスも男性用トイレに入っていった。

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

「彼女はトリッシュ・ウナ、15歳。彼女は生まれてから1度も父親に会ったことは無いし、当然姓も母親のものだ。だが、ボスは絶対に正体を知られることを許さない……少しでもボスを探るきっかけになる娘を、保護して隠せという命令が下ったのじゃ」

 

 ペリーコロはブチャラティに事の詳細を説明した。ボスの娘は何者かに拉致されそうであったこと、その何者かはボスを倒し、麻薬のルートのナワバリを乗っろうとしていること……そして、敵がスタンド使いだと予測されること。スタンド使いが襲ってくるのを回避しながら護衛任務をするのは容易ではない。敵がどんな能力を持っているのか分からない上に、彼女に傷一つでもつければボスに何をされるか分からないのだ。

 

「とにかく、わしにはスタンド能力はないからな……役に立てるのはここまでじゃ」

「……彼も、デッドマンもスタンド使いなのですか?」

「ああ、そうじゃ。彼のスタンドは護衛向き……だから今回の任務に親衛隊の彼も加えさせられたのだ。ボスからの信頼も厚い。きっと心強い仲間としてやって行けるだろう……それじゃあな。すぐにこの島を出て彼女をどこかに隠すんじゃ」

 

 ペリーコロはそう言い残し、その場を立ち去った。

 後に残されたブチャラティチームは、それぞれが複雑な心境を抱えていた。任務の重大さに押し潰されそうな者、この任務を成功させればもっとのし上がれると意気込む者、そしてボスを倒すきっかけをどうにかして掴もうと考える者。だが、全員が絶対に彼女を守るという意思に燃えていた。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

(だいぶ時間かけちまったな……)

 

 アレックスはトイレで清掃員の格好から細いストライプのスーツに着替えるのにだいぶ手間取ってしまった。というのも、万が一人が来た時のために個室で着替える際、図体のでかいアレックスは上からはみ出してしまうので屈んで着替えなければならない。しかも痕跡が残らないようにチェックするので、余計に時間がかかったのだ。

 

「いてて……首を痛めちまった──ン??」

 

 アレックスがトイレから出ると、何やらトイレの前で3人の青年が固まっていた。恐らくトリッシュの護衛のためにトイレの入口を見張っていたのだろうが……

 何故か上半身裸でびしょびしょの上着を2本の指で摘んでいるフーゴと、それを眺めているミスタとナランチャの様子は何かあったのだろうとしか思えなかった。

 

「やっと来たわ。随分と準備に時間がかかったのね」

「あ、ああ、悪かった。個室が狭くて」

 

 青年3人の様子を眺めていたところに、トリッシュが歩み寄ってきたのでそちらに視線を移す。彼女は清掃員の変装を解き、15歳とは思えない美貌を纏った元の姿に戻っていた。護衛任務中も3つ年下の彼女の色気に参ったりしたものだが、公的な任務であるし、何よりボスの娘に間違って手でも出したら大変だ。元々アレックスに言い寄ってくる女は沢山おり、彼自身も来るもの拒まずだったので任務中に()()()がいないのは中々堪えたが、ボスの怒りを買うよりマシだった。

 どういう訳か彼女はブチャラティたちよりアレックスの方がお気に入りらしく、彼らには目もくれずにアレックスの傍にいることに決めたようだ。

 

(……おれの方が長く一緒にいたからかな。こんな危険な状況じゃ、会ったばかりのやつを信用するのは難しいか……まあ、いずれにせよおれの近くにいた方が守りやすくていーけど)

 

 そんなことを考えてトリッシュの隣を歩きながら、後頭部に突き刺さる視線に気づき少し振り返る。

 金髪の新入り──ジョルノ・ジョバァーナ。ポルポに手を下したであろう青年……ポルポを殺したことはあまり問題にはならないが、彼の視線には何か野心的な、危険なものが含まれているような気がする。間違ってもボスに楯突くような素振りを見せれば、その時は──

 アレックスは視界の端に映る金髪に注意しようと心に決めて、トリッシュの隣を歩くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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