『悪魔』と始めるブラ鎮建て直し計画 (si@新米書き手)
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プロローグ

呉鎮守府。

 

栄光ある横須賀鎮守府と並び日本を守る防衛拠点。

 

そこに所属している少女達は笑うことが無い。

勿論、少女達に感情起伏がないという意味では無い。

 

世間や、周りの鎮守府からは『英雄』と呼ばれる提督によって笑うことなど忘れてしまったからだ。

 

『英雄』の艦隊指揮は犠牲者が出ない。

 

…………………………書類の上では。

 

戦艦と空母を主力とし、潜水艦は不眠不休の遠征艦隊、重巡洋艦は『英雄』の接待係。

それ以外の艦はただの弾除け、それが『英雄』の行う艦隊運営であり、それで実際に戦果を上げていた。

 

当然、納得等できるわけがない少女達は『英雄』に何度も「弾除けなんて扱いはやめて欲しい」、「自身の性能にも目を向けて欲しい」、「私達は接待の為に生まれた訳じゃない」と何度も懇願した。

 

しかし、たったの1度さえも『英雄』にその声は届くことはなく「駒が主に逆らうな」と一蹴されるだけ。

 

逆らった者は決まって懲罰房に送られ戻ってくることない。

 

それでも救いを求め大本営や周りの鎮守府に掛け合ったが、『英雄』と繋がりのある近隣の提督や大本営の上役、そして買収された憲兵にことごとく揉み消されていった。

 

そして、誰かが沈み誰かが泣いている光景が日常茶飯事となった頃

 

いつしか少女達は笑うことを忘れていった。

 

なにより、

 

『提督』に絶望した。

 

一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一

 

元帥「榊中佐」

 

榊「はっ。」

 

そこは大本営の会議室。

多くの提督達が集められ会議も終盤に差し掛かった頃、

元帥に名前を呼ばれ一人の男が規律する。

 

元帥「お前に横須賀鎮守府の提督補佐からの異動を命ずる。」

 

榊「っ…!?…………どういう意味でしょうか?」

 

元帥「お前には、呉鎮守府の提督として着任してもらう。」

 

周囲「「「!?!?」」」

 

「お待ち下さい、元帥!!!説明を求めます!」

 

そう声を荒げたのは現在の呉鎮守府の提督一一一一一一つまり『英雄』である。

 

元帥「落ち着け。何も君を首にするとは言ってないだろう?」

 

英雄「しかし、今のお話では私はどうなるのです?」

 

元帥「君には『大本営入り』してもらうつもりだ。」

 

英雄「なるほど、より大きな目で艦隊指揮を取れば良いのですね。」

 

元帥「そういうことだ。よって、君と現横須賀鎮守府提督を除く者の中で一番戦果を上げている榊中佐というわけだ。」

 

榊「なるほど。私も納得致しました。」

 

元帥 「うむ、ではこれにて定例会議を終了する。榊中佐には異動について詳しい話がある。残るように。」

 

榊「承知致しました。」

 

その言葉を合図に会議室から人が居なくなる。

榊は室内に榊と元帥だけなのを確認し、口を開く。

 

榊「それで?どういうつもりだ?」

 

元帥「フッ、相変わらず口調が治らんなお前は。」

 

榊「そりゃあな。あんたに今更気を遣うつもりなんてねぇよ。」

 

元帥「それもそうか。」

 

榊「それで?なんで俺を呉に送るんだ?」

 

元帥「……あそこはブラック鎮守府と予想される。それも、かなり悪質な運営だ。」

 

榊「待て、『英雄』とまで呼ばれるあの男の鎮守府なのにか?」

 

元帥「あぁ。私直属の部下から呉の報告書がおかしいと報告があってな。」

 

榊「……あの特務機関か。」

 

元帥「そうだ。さすがに看過できないのでな。」

 

榊「なるほど、俺を派遣して実情把握。最悪の場合鎮守府の復興をさせるって腹か。」

 

元帥「察しがいいな。お前なら任せられる。」

 

榊「ハッ。俺は周囲から『悪魔』って呼ばれる人間だぞ?」

 

元帥「そんなことは百も承知だ。」

 

榊「そうかよ、まぁ、ご命令だしな。やるだけやってやるよ。元帥殿」

 

そう言って榊は部屋を出た。

 

元帥「フッ。本当に不器用な男だ。」




あとがき

艤装を装着しない艦娘は人間と身体能力が変わらない設定です。
また、提督の許可無しでは艤装の力を引き出せず殺傷能力が無くなる為提督を殺すことは実質不可能となっています。

一度書いてみたかったブラック鎮守府建て直しものを書かせて頂きました。
何番煎じか分からないですがお付き合い頂けますと幸いです!

また、短め投稿、亀並みの更新速度、独自解釈、ご都合主義、性的描写など多々予定しております。

ちなみに主は艦これ初心者から抜けだせない素人であり今回の作品が処女作の為、駄文、誤字脱字を暖かい目で見てくださると嬉しいです。



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着任

『英雄』から異動の話を聞いた。

正直、嬉しいとか感じもしない、なぜなら奴が昇進しての異動だからだ。

 

「大本営に異動になった、まぁ、私の功績を考えれば当然だな。」

「おめでとうございます…『英雄』様」

「「「おめでとうございます」」」

 

言葉だけの祝辞を述べる。

こんな男が出世するんだ、と内心ではとても黒く澱んだ感情が消えない。

 

「ちなみにだが、私の後任には横須賀で提督補佐をしてた者が来る予定だ。」

 

「あの…横須賀鎮守府からですか…。」

 

横須賀鎮守府といえば誰もが知ってる日本の最重要拠点だ。

その様な重要な場所に配属される人間、しかもそこで提督補佐ということはやはり優れた…いや、大本営に好かれた『英雄』のような人間ということだろう。

 

「フフ、私と違い周囲からは『悪魔』と呼ばれている男だ」

「くれぐれも私の評価まで下げてくれるなよ?」

 

そう言い残し、『英雄』は大本営に向かっていった。

 

一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一

 

榊「あーあ。普通に見りゃ出世なんだけどなぁ。」

 

誰にも聞こえないようにため息と愚痴をこぼす。

それこそ、提督補佐から提督になるということで中佐から大佐になったし、横須賀と呉は他の鎮守府より扱いは上だ。

だけどなぁ、とまた愚痴が溢れる。

 

榊「何が『英雄』だよ、ブラ鎮産み出すくらいならアイツの方がよっぽど『悪魔』じゃねぇか…」

 

『英雄』に文句をぶつくさ言ってる間に鎮守府が見えてくる。

憲兵もこちらに気づいているようだな。

 

憲兵「止まれ」

 

榊「ご苦労、本日付けで呉鎮守府司令官の任に着いた。榊 柚紀、階級は大佐だ。よろしく頼む。」

 

憲兵「ハッ、確かに確認致しました。どうぞお通りください。」

 

…憲兵も疑っておかないといけないな、まぁ詳しい話は艦娘から聞かなきゃ分からんけど。

一見、真面目そうに見える分、『英雄』に買収されてたらかなり達悪いぞ。

そんなことを考えながら、門をくぐり鎮守府の入り口に向かう。

 

そこには二人の女性が立っていた。

出迎えか…。それにしても表情も空気も暗い。

 

鳳翔「…お待ちしておりました、提督。航空母艦、鳳翔です。」

 

夕張「兵装実験軽巡、夕張です。て、提督、お待ちしておりました。」

 

榊「あぁ、本日より私が艦隊指揮を執る榊 柚紀だ。鳳翔と夕張、よろしく頼む」

 

言葉は普通の自己紹介だ。だが、明らかに覇気がない。

 

鳳翔「それでは提督、執務室にご案内致します。」

 

そう言って歩き出した鳳翔についていく。

夕張も俺の数歩後ろからついてくる。

 

これ、連行されてるみたいだな。

そんなどうでもいいことを考えながら数分歩く。

 

鳳翔「お待たせしました」

 

鳳翔が扉を開けてくれた部屋を見て固まった。

やけに豪華な扉に広い部屋、高そうな机に高そうな椅子、明らかに金のかかっているボトルラックが並び(酒は無い)、全体的に金色過ぎて目がチカチカしてくる内装に頭が痛くなる。

 

榊「…この趣味の悪い部屋は?」

 

鳳翔「『英雄』様が使われていた部屋ですが…お気に召しませんでしたか?」

 

榊「あぁ。少しもな。」

 

鳳翔「申し訳ございません」

 

榊「君らが謝ることじゃないだろうよ。」

 

何故か鳳翔が頭を下げ、夕張がそれに続いたのを制し、改めて部屋を見渡す。

うん、この部屋で執務とか無理。

 

榊「…妖精さん、頼む」

 

俺がそう言うと、鞄から5人の妖精さんが飛びでてきた。

 

鳳翔「え?!」

 

夕張「妖精?!」

 

なにやら鳳翔と夕張が驚いているようだが今は執務室をどうにかすることが先決だろう。

そう思い、無視して妖精さんと話始める。

 

榊「いつもの感じで部屋を変えてくれないか?」

 

「ゴホウビハー?」

 

「メガチカチカスルー」

 

「モウツイタノー?」

 

「アタマナデテー」

 

「マダネターイ」

 

相変わらず自由人のようだが彼女らには世話になってるから無下になどできない。

 

「ご褒美はシュークリームだ、おやつの時に撫でるのでどうだ?」

 

「マカセテ!」

 

「シュークリーム!!」

 

「サスガニキブンガコウヨウシマス」

 

「ナデナデタノシミー」

 

「ヨンジュウビョウデシタクシナ!!」

 

そう言って妖精さんが部屋の中に散っていく。

勿論、企業秘密とやらで俺らは部屋から出されて待つこと5分。

 

匠の手により生まれ変わった執務室があった。

 

榊「ふっ、流石だ。」

 

満足げに頷いて執務室に入る。

そのあとを続きながら鳳翔と夕張も部屋の変わりように驚きを隠せないようだ。

 

榊「鳳翔、夕張」

 

「「は、はい」」

 

まだ驚きが抜けないらしい二人をソファーに座るよう声をかける。

 

榊「妖精さんに出すシュークリームは多めに買ってきたからな。お前達の分もあるぞ。」

 

「「…え?」」

 

榊「何をそんなに驚くんだ?」

 

鳳翔「いえ、あの、その。」

 

夕張「…提督、質問よろしいでしょうか。」

 

今まで無口だった夕張が真剣な顔で言ってくる。

 

榊「勿論だ、どうした?」

 

夕張「はい、妖精に好かれているようですが、その妖精達は提督についてきたということでしょうか?」

 

榊「そうなるな。移動中に気づいたが鞄に入り込んで勝手についてきてしまったのだ。」

 

夕張「…そう、ですか。」

 

そう言って何やら考え込む夕張。そのまま見守ろうかと思ったが妖精さんに服を引っ張られ断念する。

 

榊「とりあえず、シュークリーム食べないか?」

 

「ハヤクー」

 

「オナカヘッター」

 

「ミンナデタベヨー」

 

「アタマナデテー!!」

 

「タマゴトーストハアリマスカ??」

 

騒ぐ妖精さんに「はいはい」と苦笑しながら頭を撫でる。

 

榊「さ、二人も座ってくれ。見ての通り妖精さんがお腹を空かせてしまってな。」

 

鳳翔「は、はい」

 

夕張「はい」

 

二人が席に着くと待ってましたとばかりに妖精さんがシュークリームを頬張りだす。

 

「「「「「ウマーー!!」」」」」

 

シュークリームに夢中な妖精さんの頭を撫でながら夕張に顔を向ける。

 

榊「それで?俺に何か話したいんじゃないか?」

 

鳳翔「え?夕張、まさか?」

 

夕張「うん。ここまで妖精に好かれる人って居ないから話すだけ話してみようかなってさ。」

 

鳳翔「そう、ですね。分かりました、私も覚悟を決めます。提督、お話、聞いてくださいますか?」

 




あとがき

というわけで最初は提督視点での着任です、次話は艦娘視点(夕張or鳳翔)を予定しています。
ちなみに主の鎮守府には夕張も鳳翔さんも何故か着任してくれない悲劇が起こっています泣

次回より榊→提督となります。

暖かいコメントありがとうございます、励みになります


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望み

提督「あぁ、聞かせて欲しい。」

 

提督は妖精さんを撫でる手を止め、私達を見つめる。

正直、話すのは怖い。

海軍、それこそ民間からも『英雄』と呼ばれ特進している人間をこれから貶すのだ。

もし、この提督も『英雄』と心を同じにする人ならば私達は解体されるかもしれない。

そう思うと恐怖で体が硬くなる。

 

でも、妖精さんがあそこまで懐いている提督を私達は他に知らない。彼女達の幸せそうな笑顔と提督を信頼している態度を見ていたら何故か、話してみたくなった。

そして、少しだけ……羨ましい、と、思えた。

 

鳳翔「夕張さん…」

 

そう言って私の手を鳳翔さんが握ってくれる。

恐怖で硬くなった体が少しほぐれたようだ。

私は、深呼吸を2、3回繰り返し提督を見つめ話始める。

 

夕張「提督にお話したいのは『英雄』様が行ってきた艦隊運営と私達の望みです。」

 

提督は黙って頷き続きを促す。

 

夕張「まず、艦隊運営からお話させて頂きます。呉鎮守府の主力は戦艦、空母のみです。重巡洋艦は『英雄』様の接待係、これは接待と称してセクハラ行為がされてました。

軽巡洋艦、駆逐艦は揃って主力艦の弾除け……盾として扱われ、何隻も轟沈していきました。勿論、『英雄』様の命令で報告書は書き換えられ轟沈なんて情報は記載されていませんが…。これが『英雄』様の艦隊運営です。これを聞いて提督はどう思いますか?」

 

提督「待て、なぜその事を憲兵や大本営、周囲の鎮守府に助けを求めな「求めたにきまってるじゃないですか!!!」

 

提督の言葉を遮ってまで私は叫んだ。

提督は驚いているようだが私も驚いている。

でも、止まらなかった。涙が出てくるのを無視して話を続ける。

 

夕張「何度も何度も、助けてって、『英雄』なんかじゃない、大戦果だって私達の、犠牲の上にあるんだって。

でも、大本営も周りの鎮守府も、『英雄』がそんなことするはず無いの一点張りで、憲兵は『英雄』様と一緒になって、重巡洋艦に、接待させたって。」

 

そこまで言って涙で滲む視界を袖で拭い提督を見る。

提督は「そう、か…。」とだけ答えて何かを考えているように見える。

隣を見ると鳳翔さんも手で口元を隠して泣いていた。

 

提督「まずは、夕張、話してくれてありがとう。」

 

唐突な提督の言葉に私は驚いた。

しかもどう答えればいいか分からず黙ってしまう。

なにも答えない私に気にすること無く提督は続ける。

 

提督「…苦しかったよな。辛かったよな。俺なんかが気持ちが分かる、なんて言えない程の事だ。それでも苦しんで、もがいて、耐えてきたという事実だけは分かってやれる。」

 

また、涙が溢れてくる。

そうだ、提督に分かるわけがない。

軽々しく分かるなんて言って欲しくない、でも、認めて欲しかった。

知って欲しかった。

私達の苦しみを、必死に生きようともがいたことを、そして誰も味方がいないと知っても耐えてきたことを。

 

提督「それで?」

 

提督の言葉に「え?」と呆けてしまう。

 

提督「ここからが大事なことだろう。夕張達の望みを教えて欲しい。」

 

そうだ、提督が私達の苦しみを認めてくれたことで泣いちゃったけど、言いたいことはここからが重要だ。

涙をこらえて提督と対峙する。

 

夕張「まず、弾除けとしての艦隊運営をしないて欲しいです」

 

提督「ああ。」

 

夕張「艦娘への接待…セクハラ行為の禁止をお願いします。」

 

提督「当然だな」

 

夕張「駆逐艦や軽巡洋艦にもちゃんと個性や性能に目を向けて欲しいです。」

 

提督「勿論だ。」

 

夕張「あとは、えと、その……」

 

提督「…言うだけ、言ってみたらどうだ?」

 

夕張「……私達を…助けて、ください…。」

 

提督「了解した、私の持てる力すべてを君らの為に使うと約束しよう。」

 

提督は私の話を聞いて、望みを、承認してくれた。

それが安心となってもう、涙が止められない。

決壊してしまった私は座り込んでとにかく泣いた。

鳳翔さんが泣きながら私を抱き締めてくれる。

 

初めて、負の感情以外で泣いている私達の耳に突然聞こえてきたのは満足げな妖精さんの声だった。

「ゲフゥ」

 

「タベスギター」

 

「ヤリマシタ」

 

「モウハイラナイ」

 

「ネムクナッテキター」

 

妖精さんがまったく気にせずシュークリームを完食していたようだ……私達の分まで。

それに気づいた提督が「あ、こら。食べ過ぎだろう。」と苦笑いしている光景に私達も口角が上がっていた。

 

久々に本当に少しだが、笑えた。




あとがき

サブ情報
『英雄』
・年齢34歳
・身長170㎝のダンディーな雰囲気
・何よりも自分の戦果を気にする人間
・階級は少将

提督(榊 柚紀)
・年齢24歳
・身長175㎝の細身の爽やかイケメン
・提督補佐時は忙しく髪を切る時間もなく伸ばしていたが提督着任時短髪に。
・階級は大佐

次回から行動開始です!(提督視点)

まだ艦娘二人しか出してないことにいまさら驚いていますがここから出していきます。
この艦娘出して欲しいとかあればコメントで頂けると嬉しいです。


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準備

呉の実情を知った。

 

『英雄』の愚行を知った。

 

なにより

鳳翔の涙を見た、夕張の慟哭を聞いた。

 

提督「さて、どうしたもんかねぇ。」

 

誰も居なくなった部屋で一人呟く声は、返ってくることなく空気に溶けて消える。

 

あのあと、夕張と鳳翔が泣き止むのを待ち、部屋に返した。勿論、所属艦娘への挨拶は夕食時にするとだけ話し、シュークリームは1人1つ持たせることも忘れていない。

そして、俺は鎮守府の主要施設を見て回り部屋に戻ってきたところだ。

 

 

とにかく、迅速に動きますか。

なにより、自分の周りの害虫を放置してやれるほど俺は優しくない。

俺はさっそく元帥に電話を掛ける。

 

元帥「…もしもし」

 

提督「…呉の真相を知った。」

 

元帥「どうだ?」

 

提督「報告書の偽装、艦娘への性的暴行及び軽巡や駆逐の弾除け運用等の不当な扱い。ギリギリ使える整備のされていない工廠に、掃除されてないドッグ。数えりゃいくらでもでてくるぞ。」

 

元帥「…どうにかできそうか?」

 

提督「やるしかねぇだろ」

 

元帥「フッ、そうだな。それで?私に何を手伝って欲しいんだ?」

 

提督「お、察しがいいな。」

 

元帥「お前がこの電話を使うときは私に動いて欲しい時だけだろう。」

 

提督「それもそうか……単刀直入に言う、この鎮守府所属の軍人全ての人事権を俺にくれ。」

 

元帥「…どういうことだ?」

 

提督「本来、提督の人事権は憲兵には及ばないだろ」

 

元帥「なるほどな、憲兵も黒か。」

 

提督「あぁ、全員では無いと思うが艦娘からすれば同じだろうな」

 

元帥「分かった、明日1日有効の臨時人事権をお前に託し、新しい憲兵団はこちらで手配する。」

 

提督「分かった。」

 

元帥「『英雄』や憲兵相手に使える証拠はあるのか?」

 

提督「…なんとかする。」

 

元帥「ならばいい、明日の昼頃書類と視察のための憲兵がそちらに行く。それまでにやってみせろ」

 

それだけ言うと元帥との電話は切れる。

 

提督「ったく、返事も待たねぇのかよ。」

 

これで準備の1つは完了だな。

まぁ、あとは証拠の確保だけだが、これが難しい。

 

現状の荒れた鎮守府を見せればある程度の管理不足の責任は、追及することができるだろうが、肝心の艦娘轟沈の偽装の証拠、憲兵団の調査報告書の不正、『英雄』との癒着の確かな証拠が欲しいところだ。

 

提督「こればかりは俺1人じゃどうにもならんよなぁ」

 

愚痴を溢したが手がない訳じゃない。

時計を見る。

18時か…。

夕食は19時を指定したし、まだ時間はあるな。

俺はとある場所に向かうことにした。

 

憲兵「お疲れ様です、提督殿」

 

提督「あぁ、皆もご苦労。」

 

そう、憲兵団の詰所だ。

 

憲兵「して、本日は何用で?」

 

提督「あぁ、『英雄』殿からここを引き継いだ際に君達とも懇意にしてくれと伺ってな。」

 

憲兵「はて?なんのことでしょうか?」

 

提督「フン、とぼけなくともよい。私は単純に中古を使いたくないのでな。情報共有して欲しいということだ。」

 

憲兵「……なるほど。」

 

提督「あぁ。重巡には私も目をつけていたが、私は潔癖だからな。君達にあてがった者以外を使いたいのさ」

 

憲兵「…提督様もこちら側でしたか!分かりました、我々に『英雄』様があてがった物をお伝えします。」

 

提督「頼む。それと、分かる範囲でいいから『英雄』殿専用として使われていた者も教えて欲しい」

 

憲兵「提督殿は徹底して潔癖のご様子ですね。」

 

提督「仕方がないだろう。軽巡や駆逐のような弾除け艦なぞ興味も湧かん。何隻沈もうが知ったことではないしな。」

 

憲兵「ハハハッ、間違いありませんな!この間も軽巡洋艦の『龍田』が『英雄』様に逆らって難関海域に1人で遠征に行かせたきりまだ帰ってきてないですからな」

 

提督「そうか、『英雄』殿に逆らうとは馬鹿な奴が居たもんだな」

 

憲兵「提督殿、お待たせしました。こちらが我々が使った物に関するデータでございます。」

 

提督「ご苦労。ちなみに写真や映像などのデータは無いのか?」

 

憲兵「ありますが、何故そのようなものを?」

 

提督「上官の性的趣味に口を出す気かな?」

 

憲兵「なるほど、それは失礼致しました。こちらをどうぞ。」

 

提督「うむ、今日は楽しめそうだ。それでは失礼する。」

 

データと映像を貰い、詰所を後にする。

勿論、今の会話は完璧に録音してあるから憲兵共は終わりだろう。

あとは、…艦娘からの言葉が欲しいな。

実際に被害にあった、強要された、同意の上ではないといった明確な否定があれば助かるな。

 

 

「………………………………最低だね」

 

木陰から誰かの呟きが聞こえた気がした。

 

提督「…………気のせいか。」

 

あんな害虫共に話を合わせてゴミ野郎を演じたんだ。

きっと罪悪感で幻聴でも聞こえたんだろう。

 

提督「夕食に向かうか。」

 

俺は鎮守府の食堂に向かって歩き出した。

一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一

 

提督が去った後の憲兵の詰所

 

憲兵A「今回の提督は他人の行為を見たいなんてとんだ変態だな!」

 

憲兵B「まぁまぁ、俺たちは安定して甘い汁を吸わせてもらうだけだろ」

 

憲兵C「確かに実際に吸わせてもらってるしな、艦娘からよぉ」

 

憲兵B「そっちの意味じゃねぇよ、違わないけど。」

 

憲兵A,B,C「「「アハハハハハ!」」」

 

憲兵達は自身の終わりを告げる刻が近づいていることなど誰も知らない。




あとがき

前回の投稿から日にちが少したってしまいました、申し訳ないです!

今回、名前だけの出演の『龍田』は個人的に好きなキャラクターで、あのドSな感じなのに相手から来ると途端にあたふたしちゃうみたいな感じまでセットで妄想している主でございます(変態)

さて、物語の最後では誰が提督と憲兵の会話を聞いていたのか、本当に幻聴なのか。
まだまだブラック鎮守府の闇を簡単には払いきれない感じのお話が続きますが最終的にはハッピーエンドを予定しているのでご安心ください。

どの艦娘を出演させるかは全然決まってないので引き続き希望などございましたらコメントで教えて下さい!


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挨拶

19時。

時間丁度に食堂に着くと、そこには夕張と鳳翔が扉の前に待機していた。

 

夕張「提督、お待ちしておりました。呉鎮守府所属全艦娘、集合完了しております。」

 

そう言って敬礼する二人を手で制し、「うむ、ご苦労様」と返し返礼しておく。

 

しかし、俺は夕張の言葉に違和感を覚える。

 

提督「全員か?」

 

夕張「はい、所属艦娘は全員食堂にて待機しています。」

 

提督「…その中に『龍田』はいるのか?」

 

夕張 鳳翔「「!?」」

 

二人は驚愕の目を向けているが構わず続けた。

 

提督「先程、憲兵から話を聞いたぞ。『英雄』に逆らった罰として難関海域に単艦出撃している、とな。」

 

夕張「…その通りです。」

 

提督「そうか。日付と出撃場所は?」

 

夕張「えっと…」

 

鳳翔「2日ほど前に出撃しています。場所は、南西海域ですが、詳細の場所までは…。」

 

こういった事務関連はどうやら鳳翔が管理していたのかスラスラ出てくる。

しかし、話している鳳翔は顔を暗いものに変えながら俺に伝える。

 

鳳翔「提督、改装前の軽巡洋艦が単艦で2日も生き残る可能性は0に等しいです。諦めるのも仕方ありません。」

 

そういった鳳翔は手を強く握りしめていて、言葉とは裏腹に本当は諦めたく無いと強く訴えていた。

 

提督「…そうか。まぁいい、まずは挨拶を済ます。」

 

夕張「は、はい」そう言いながら夕張が扉を開けてくれる。『英雄』は艦娘を侍女か何かと勘違いでもしてたのか。

 

提督「夕張、お前は艦娘だ。」

 

夕張「え?…はい、そうですけど」

 

提督「だからそんな扉を開けたりとか侍女のようなことはするな。『英雄』はどうか知らんが俺は好かん。」

 

そこで夕張はまたも目を見開く。

そして、うっすらと笑みを浮かべながら「はい」とだけ答えて後ろに下がった。

 

食堂に入ると完全な静寂と艦娘からの目線だけが場を支配していた。

しかし、どの艦娘もあまりに暗い表情をしていて歓迎なんてされていないのが目に見えて伝わる。

 

そして、俺が来るからと用意してくれたのであろう正面の台座に向かう。

 

提督「初めまして、だな。私が本日より呉鎮守府の司令官を受け持つことになった、榊 柚紀だ。以後、よろしく頼む。」

 

俺のその言葉に全員一糸乱れぬ敬礼を返す。

……横須賀ならタメ口で「よろしくー」なんて言われてたのが嘘のようだ。

 

提督「敬礼はいい、全員座れ。さて、さっそく本題だが……榛名」

 

駆逐、軽巡、重巡、大型艦の順で席についている中で目に入った艦娘の名を呼ぶ。

 

榛名「は、はい!なんでしょうか、提督様」

 

提督「その、粗末な食事はなんだ?」

 

果たして食事と読んで良いのだろうか。多分…戦時中に食べられてたスープだろう物が1人1皿並べられている食卓を指して俺は聞いた。

しかし、榛名はどうやら誤解してしまったようで慌てながら必死に弁明する。

 

榛名「あ、えと、提督様には別にちゃんとしたお食事をご用意しています!」

 

"ちゃんとしたお食事"ね。

自分達がまともな食事じゃないと把握しているということだろうな。

 

提督「艦娘の食事はいつもそれか?」

 

榛名「はい、艦娘は燃料の補給があれば死にはしませんので、大丈夫です」

 

提督「なるほど、食事担当者は誰だ?」

 

俺がそういうと中から割烹着を着た軍人が数名出てきて俺に敬礼をする。

 

軍人「提督様、私がここの食堂を任されております。」

 

提督「そうか。して、何故艦娘の食事はあんなに粗末なのだ? 呉にはそこまで金がないのか?」

 

軍人「いえ、そのようなことはございません。しかし、『英雄』様の指示で効率を考えた結果このようになりました。」

 

ここでも『英雄』の指示か。ということは、こいつはそんなに悪いやつじゃないんじゃないか?と、考えた瞬間軍人の「それに、」に続く一言でその考えが甘いと知る。

 

軍人「艦娘ごとき、我々軍人と同じものを食べるなど烏滸がましいにも程があります。食べさせて貰えるだけありがたいと思って欲しいものですな。」

 

提督「……なるほど、理解した。」

 

いよいよ、俺は鎮守府の軍人全員クビにする覚悟を決めて艦娘に向き直る。

鳳翔と夕張は期待の目を向けていたが明日までに軍人共に感づかれる訳にはいかない。

 

提督「各自、食事を摂ったら速やかに入渠し23時にもう一度食堂に集合。以上だ。」

 

「提督様、質問よろしいでしょうか?」

 

そう言って手を挙げたのは呉鎮守府の恐らく主力であろう扶桑だった。

 

提督「なんだ?言ってみろ。」

 

扶桑「23時に集まる理由をお伺いしても?」

 

提督「フム、身体検査だ。」

 

俺がそう言った瞬間、艦娘達の間では絶望的な空気が漂い軍人は鼻息荒く提督に意見する。

 

軍人「提督様、ぜひ私共にお手伝いを!!」

 

提督「いらん、最初くらい1人でじっくりと悩みたいのでな。貴様らは22時には軍人寮に戻りその後の外出を禁ずる。いいな?」

 

軍人「ハッ、畏まりました」

 

提督「では、挨拶は以上だ。夕張、鳳翔お前たちには引き続き用がある。執務室まで同行しろ。」

 

そう言って俺は食堂を出ていった。

後ろから夕張と鳳翔が酷く暗い瞳で俺を睨んでいたがそれさえ無視して執務室に戻る。

 

 




あとがき

すれ違う提督の思惑と艦娘の感情。
次は艦娘視点(鳳翔)でのお話をします、なかなかテンポが悪いのですが、もう少しだけ辛抱してくださいますと助かります。

まだ準備期間といった感じで本当のスタートは2日目になってからの予定です!
あと1、2話お付き合いください


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提督の思惑

鳳翔「…どういう、ことですか?」

 

提督は何故か執務室に入らずその隣の仮眠室に私たちを招いた。

ここは……『英雄』が接待に使っていた部屋だ。

自然と私と夕張さんの表情が強張っていく。

しかし、提督は私達を一瞥すると「計画通りだ。」とだけ返した。

 

鳳翔「計画通り、ですか…?」

 

提督「ああ。」

 

瞬間、私は艤装を展開して弓を構えていた。

 

夕張「鳳翔さん!!」

 

夕張さんの慌てた声も今の私には届かない。

 

提督「鳳翔、艤装の使用許可は出してないぞ」

 

分かっている。艤装の使用許可の無い私が提督を怪我させることなど無理に等しい。

 

それでも、私は弓を構えるのを止めない。

いつの間にか涙が流れていたことにさえ気づかず提督を睨む。

 

鳳翔「夕張さんのあの訴えを聞いても貴方は、『英雄』と同じ事をするというのですか?!」

 

提督「あぁ、その通りだ。」

 

やはり表情1つ変えず提督は返した。

しかし、提督はキョロキョロと辺りを見回して、しきりに壁、家具やわざわざ執務机に乗って天井まで触って何かを確認し始めた。

 

そのあまりに不可解な行動に私も夕張さんも提督を見つめて首をかしげる。

しかし、同時に私は苛つきを覚えながら提督を睨み付けて言った。

 

鳳翔「私の話など、真面目に聞く気もないと…?」

 

提督「…………」

 

ついに返答さえないことに私は弓を本当に射ってやろうかと構える。

そんな私を必死に止めようとしているのか、妖精さんが私の弓や服に飛び付く。

 

「アブナイヨー??」

 

「テイトクサンハイイヒトナノデス!」

 

「ガイシュウイッショクヨ!」

 

「テイトクサンヲマモレー!」

 

「ユミガスベリダイミタイデタノシイヨ!」

 

「「「「ヤルッ!!!」」」」

 

止めに来たのだろうが妖精さんは私の弓を滑り台にして遊び始めた。

どうして、妖精さんはここまで提督を庇うのだろうか。

言ってることは『英雄』と何も変わらない。

それなのに、『英雄』の時代には必要最低限の会話しかしなかった妖精さんが提督を慕っている。

 

私がそんなことを考えているといつの間にか提督が戻ってきていた。

 

鳳翔「提督、その紙とペンはなんですか?」

 

そう、何故か提督は紙とペンを手にして戻ってきたのだ。

意味がわからずそのまま質問する。

 

提督は紙に何かを書いた後、「なに、少しばかりは執務を始めないといけないと考えてな。」と答える。

 

そんなノートとペンでは執務ができるわけがない。本当に意味が分からない。

しかし、提督がノートをこちらに向けた瞬間、私はさらに困惑することになった。

 

『この部屋は盗聴されている』

 

紙に書かれている内容に私は息を飲む。

 

鳳翔「どういう、ことですか?」

 

提督「どういうもなにもお前たちには私の執務を補佐してもらう為に連れてきただけだが?」

 

『カメラは妖精さんにお願いして不具合に見せかけて止めてある』

 

提督「私は『英雄』殿に感服してな。あの方を見習おうと思っただけさ。」

 

『これからの計画を話す。協力して欲しい。』

 

提督が言葉にしている内容と紙に書いてあることが違いすぎて頭がパンクしそうになる。

 

『会話はダミーとして続けてくれ』

 

いつの間にか怒りは消えて、困惑ばかり広がるが、なんとか会話には応じることはできた。

 

鳳翔「私たちは『英雄』を認めていません。」

 

提督「お前がどう思おうが知ったことではないな。」

 

『皆を傷つけてすまない。』

『明日まで耐えて欲しい。』

 

鳳翔「提督、見損ないました。」

 

明日?どういうことだろうか、提督は何がしたいのだろうか?

 

提督「ふん、どうとでも言うがいい。」

 

『この場所が監視されていることは憲兵からの情報で既に把握していた』

 

やはり疑問ばかりが浮かび提督が考えていることが分からない。

私がそのような状態と知ってか知らずか提督は続けて言う。

 

提督「このあと、私もこの部屋を使うつもりだからな。掃除を手伝いたまえ。」

 

『22時になったら私と一緒に艦娘全員分の料理を作るぞ』

 

鳳翔「え?」

 

私は会話することも忘れ、声を漏らした。

それでは、23時の集合は…。

提督の思惑が少しだけ分かって嬉しくなる。

しかし、まだ半分だ。

 

なぜ提督は盗聴されてる部屋でこんな話を?そもそも盗聴させる意味とは?

それに、艦娘に対するあの態度は何だったのだろうか。

 

私と夕張さんに向けられた優しさはまだ私たちしか知らない。

でも、信じてみたいと希望を持ってしまうくらいの心強い言葉を皆にも投げてほしかった。

提督がそれをしない心理は、なんなのだろうか。

 

提督「何を呆けている。」

 

提督の声にハッとする。そうだ、会話しないといけないのだった。

 

『憲兵共は俺の権力ではどうにもならない』

『だから、明日、元帥権力で潰す。』

 

明日の意味、盗聴させてまで『英雄』を慕う提督を演じている意味が全て繋がった気がした。

提督は自身が改革する前に憲兵にありもしない罪で潰されることを懸念しているのだろう。

そして、元帥権力。この人は元帥にそこまで頼める力を持っているのだろう。

 

鳳翔「……はい、かしこまり、ました。」

 

もう私は提督に弓を向けたことへの後悔と本当にこの鎮守府を救うつもりなんだと分かって嬉しさが混じり自分でもよく分からない感情で頷く。

 

提督「フン、泣いたところで俺には逆らえまい。」

 

『困惑させてしまってすまなかった。』

 

言葉は冷徹な毒を吐くくせに紙に書かれた言葉には私への気遣いがこれでもかと籠められていて、私の目元を濡らす。

 

そんな私を見て提督は、そっと私の頭を撫でた。

 

正直、驚いた。

誰かの頭を撫でたことならいくらでもあった、でも逆に撫でられることは1度さえもなかったから。

 

この人になら、甘えてもいいのかもしれない。

 

いつの間にか涙は止まり、私の中に燻ってしまっていた感情は消えていた。

 

提督「さぁ、23時までに間に合わせるぞ。このあと、私が楽しむために必要だからな。」

 

鳳翔「…はい。」

 

本当に、この人は。

私の頭を撫でることをやめず何を言ってるのか。

ちぐはぐ過ぎて自然と口元には笑みが浮かんでいた。

 




あとがき

日にちが相手の投稿になってしまいました
服屋さんは忙しいですね、SALEが始まり時間が作れなくてなかなか次話を書けずとなりお待たせ失礼致しました!

今回は鳳翔さん目線でのお話です。
彼女は艦隊の母的な役割が多いですが母も少しは誰かに甘えたいんじゃないかなと僕が勝手に考えている為、このような性格になってます。

できるだけ早く次話を書けるよう努力しますので、もう少しお付き合いください。


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食堂

提督「二人とも、すまなかったな。」

 

あれから、執務室につくなり俺は頭を下げた。

勿論、何の説明もなく二人をあんな茶番に付き合わせたことだ。

 

鳳翔「て、提督。頭をお上げください!!それよりも、艤装を提督に向けてしまい申し訳ございませんでした。」

 

鳳翔がそう言って頭を下げる。

二人して謝罪を繰り返していると、困った顔をしながら夕張が止めに入った。

 

夕張「提督も鳳翔さんも謝りすぎですよー!それよりもさ、提督、説明してくださるんですよね?」

 

夕張のその言葉に俺は「勿論だ」と頷く。

 

提督「まず、俺がこの鎮守府を再建するために元帥より異動命令を受けたということは理解して欲しい。」

 

鳳翔 夕張 「「はい」」

 

提督「その上で二人から話を聞かせて貰い把握はしたのだがな証拠が必要でな。」

 

俺の説明を聞いている二人は『証拠』という言葉に表情を暗くする。

それもそうだろう、憲兵が俺を『英雄』と繋がってる提督と信じてくれたから証拠は手に入ったけど艦娘達じゃ録音も映像を手にすることさえできないだろうな。

そんな機材を用意するお金も『英雄』に奪われていたのだろうから。

 

提督「夕張、鳳翔。どうか安心して欲しい。」

 

鳳翔「え?」

 

夕張「どういうことですか?」

 

提督「既に、元帥に話は通してあるし、物的証拠や状況証拠も抑えてある。」

 

二人は「え?」というと顔を見合わせている。

どうやら理解が追い付いていないようだ。

二人の頭を撫でながら心を込めて話をする。

 

提督「だから二人に言っただろう?私の持てる力を全て使うとな。」

 

その言葉に二人は安心してくれたのだろう、笑顔を向けてくれた。

 

鳳翔「では、提督に全てお任せします。協力が必要な時はお声がけくださいね。」

 

夕張「私も協力しますよ!」

 

提督「助かる、早速だがもうすぐ22時になるな。食堂へ行って飯を作るぞ。」

 

「「はい!」」

 

三人で食堂に着くと当然だが他に誰もいないことを確認した。

さて、さっさと始めますか。

 

提督「夕張、机や椅子が壊れかかっている。修理を頼む。皆の食事スペースを綺麗にしてくれ。」

 

夕張「はいっ!」

 

夕張が元気の良い返事をしていつの間に着替えたのか作業着姿で工具を持って部屋に入っていった。

 

提督「鳳翔は食事を作るのを手伝ってくれ。今回は急ぎだからな。米を炊いて欲しい。おかずは私が担当しよう。」

 

鳳翔「一時間であの人数をとなるとメニューはなんでしょうか?」

 

提督「チーズリゾットだ。楽だし。何より私が作り慣れている。男の作る武骨な飯だがそこは許して欲しいな。」

 

鳳翔「ちーずりぞっとですか。申し訳ございません、私の知らない料理です。」

 

提督「そりゃあ、ここでは料理を学ぶ機会すらないからな。気にするな、それより米は任せるぞ。」

 

鳳翔「はい!」

 

鳳翔が米を炊く間に細かく切った野菜や鶏肉をバターで炒め、柔らかくなったところで牛乳を鍋に投入。

どれもこれも量が量なので米を炊くのと同時に始めても問題ないだろう。

実際、米が炊け、蒸らしてる間にようやく次に進めた。

牛乳が馴染むとコンソメを入れ、蒸らした米を鍋にいれ、主役のチーズと絡ませる。

後は味見をしながら塩コショウで味を整えて終わりだ。

 

本当に時短に武骨に作ってるからプロのリゾットとかとは比べるべきではないが戦時中に食べるような飯よりは遥かにマシだろう。

 

食堂にはチーズリゾットの少し焦げのある香ばしい匂いが充満し鳳翔と夕張が興味深げに鍋に近づいてくる。

 

鳳翔「これが、ちーずりぞっと、ですか」

 

夕張「美味しそうな匂いですね、これ本当に私達食べられるんですか?」

 

提督「あぁ、勿論だ。」

そう言って俺は一口分をすくいそれぞれに食べさせる。

二人とも「熱っ」と口をハフハフさせながら次第に表情が綻んでいく。

しまったな、冷まして食べさせてあげるべきだったなと一人反省していると鳳翔達から声が上がる。

 

鳳翔「これは……美味しいですね」

 

夕張「うん…美味しい…です、凄く。」

 

二人の声に涙声が混じっているが俺は気づかないふりをして話を始めた。

 

提督「夕張、食事スペースはどうだ?」

 

夕張「…はい、修理は終わって掃除は軽くなら終わりです。本格的に掃除するのはちょっと間に合わなくて…。」

 

提督「充分だ、ありがとう。」

 

そんな話をしている間に23時になりそうだ。

5分前になると艦娘達がどんどん入室してきた。

入室した艦娘は俺が既に部屋にいることに驚き、敬礼したあと元から決まっているのであろう位置に整列を始める。

そして、23時ちょうどになると俺の後ろに控えている鳳翔と夕張を除く全艦娘が食堂に集まった。

代表して扶桑が声を上げる。

 

扶桑「提督様、お待たせしてしまい申し訳ございません。呉鎮守府艦娘集合完了致しました。」

 

提督「ご苦労。では、改めて本日より呉鎮守府を預かることになった榊 柚希だ。よろしく頼む。」

 

扶桑の言葉を受け、もう一度挨拶をしてみたが返ってきたのは沈みきった目で見つめられながらの拍手だった。

…やめておこう、もう食事に移った方がいいな。

そう判断し俺は口を開く。

 

提督「では、駆逐艦から一人ずつ今から私がいる場所に来るように。」

 

俺のその言葉で動いたのは駆逐艦ではなく、扶桑と重巡洋艦だった。

 

扶桑「提督様、どうか幼い駆逐艦や軽巡洋艦は見逃して頂けないでしょうか?」

 

愛宕「私達はどうなっても構いませんから」

 

扶桑・愛宕「どうかご慈悲を…!!」

 

そう言って頭を下げる二人、そこでようやく気づく。

身体検査とか言ってしまってるし、警戒されてるのは当然だ。だが、人間に傷つけられた怪我の具合等は一人一人確認しなければならないのも事実だしな。

ここは、心を鬼にするか。

 

提督「これは提督命令だ、私は駆逐艦から順に来いと話をしたはずだ。これは命令であり意見具申に耳を貸す必要性は感じないな。」

 

そう言うと二人は顔を下に向けて「はい…」とだけ呟く。

なんというか、申し訳ない気持ちでいっぱいだが今まともに説明しても理解されないだろうし明日が終わるまでは皆の気持ちも整理つかないだろう。

そう考え、強制的に夜中の身体検査(食事つき)を開始した。




あとがき

書けるときに書くとなかなか定期更新できず申し訳ないです!!
仕事の合間だと色々追い付かないあたり自分の本職での力も勉強中だなとひしひし感じています。

今回は鳳翔と夕張をメインに食事の準備会でした!
次回は扶桑、愛宕との絡み開始、そして???の声が明らかになるのでお楽しみ頂けると幸いです。
提督の身体検査本当にやるのかよ、って思われた方には安心してください、口頭でのカウンセリング、本人が見せられる範囲での傷の写真撮影のことを言ってるので意味深なものではありません、ご安心下さいませ。


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真夜中の食事~駆逐艦~

食堂の調理場は食事スペースから死角になる場所がある。

 

そこに駆逐艦を一人ずつ招き、話を聞く。

 

提督「君は?」

 

駆逐艦「わ、私は…、あ、あ、あかちゅきでしゅ!!」

 

緊張のせいか、噛み噛みだった。

あかちゅき…俺が知らない駆逐艦だな、沖縄あたりでけんぞうされたのだろうか。美ら海的な感じで。

確かに怖いよなぁ、申し訳なく思いながら仕事をさっさと済ませようとあかちゅき?に声をかけた。

 

提督「えーと、あかちゅき?で良いのか?」

 

駆逐艦「暁よ!!!!………あっ、ごめんなさい」

 

暁か。なるほど、第六駆逐隊の子か。

一人納得した俺だったが、暁の様子が気がかりになる。暁はプンスカという擬音がピッタリな怒り方をしたが何かに気づき顔を下に向け震えだした。

 

提督「そうか、暁。すまなかったな、名前を間違えてしまった。」

 

暁「…え?」

 

暁はポカンとした顔を俺に向ける。

そして、恐る恐るといった様子で声をかけてくる。

 

暁「あの、怒らない、の?」

 

提督「誰だって名前を間違えられてしまうと不愉快だろうさ。」

 

そう言って暁を帽子の上から撫でる。

暁は驚いていたがしばらくすると目を細めて心地よさそうな顔をしていた。

 

暁「も、もう!子供扱いしないで!!暁はレディーなのよ!」

 

俺への警戒を解いたのか素の暁が見れた気がする。

 

提督「そうか、一人前のレディーか。了解した。」

 

そう言って俺は、暁の手を取りかしずいた。

 

提督「では、暁。姉妹艦を連れてきてはくれないだろうか。君達が嫌な思いをしないようにすることは保証する。なんなら、後ろに控えている夕張と鳳翔に艤装の使用許可を与えるから私が危険だと思ったら助けを求めると良い。」

 

俺の言葉に暁はしばらくポカンとしていたが先程までの俺の行動と、警戒を天秤にかけているのだろう。

 

暁「…信じてあげる。暁達が嫌なことは絶対だめなんだからね!」

 

そう言うと暁は姉妹艦を呼びに行ってくれた。

しばらくすると暁と銀髪の少女を先頭に茶髪の双子のような子が後に続いて入室してくる。

 

暁「司令官、連れてきたわよ!」

 

提督「ありがとう、暁」

 

そう言ってまた暁の頭を撫でる。何故だろう、暁は無性に撫でたくなるな。

 

暁「も、もう!子供扱いしないでったら!!」

 

そう言いつつも顔が気持ち良さそうに緩んでいる暁は見ていて微笑ましい。

そう思い、そして、俺がまた撫でたい為返答を考える。

 

提督「すまないな。一人前のレディーだからこそ頭を撫でて愛でたいと一人の男性として思うのだよ。一人前のレディーとして許容してくれないか?」

 

暁「そ、そうね!暁は一人前のレディーだから司令官の撫で撫でを許して上げる!」

 

暁はドヤ顔で胸を張る。

その様子を見ていた3人は安心したような顔で名乗り出す。

 

響「司令官、私は暁型二番艦の響だよ。」

 

雷「雷よ!かみなりじゃないわ」

 

電「電なのです!」

 

提督「あぁ、響に雷、電だな。よろしく頼む。」

 

響「それで、司令官は身体検査とは何をする気なんだい?」

 

響が話し方や態度は緩くなりつつも姉妹艦を守ろうと一歩前に出て声を出す。

 

提督「あぁ、君達が『英雄』やここの憲兵共につけられた傷を確認したい。可能なら大本営に提出できるよう写真を撮らせてくれるとありがたい。勿論、君らの許容範囲内での撮影であることは誓おう。」

 

響は俺の言葉を聞いてキョトンとする。

 

響「司令官は『英雄』と繋がっているんじゃないのかい?」

 

提督「まさか。大本営の会議でしか顔を合わせたことはないし、戦果1位だから『英雄』なんて呼ばれてるが、私だって戦果3位で横須賀を運営してきた人間だからな。勿論、横須賀で轟沈なんてさせたことはない。」

 

俺が『英雄』へ思ってることをそのまま答える。

それが良かったのか、どうやら響は安心してくれたようだ。

 

響「うん。嘘は言ってないようだね。私は司令官を信じるよ。」

 

こうして、第六駆逐隊のメンバーがあの害虫共から受けた暴力の数々を写真に納めた。

そこで気になったことが艦娘は入渠すれば傷は癒えるはずでは…?

俺の疑問を感じ取ったのか響が答える。

 

響「司令官、私達駆逐艦や軽巡洋艦の皆は資材の無駄だって入渠は禁止されているんだ。何の効能もないシャワーしか使ってないのさ。」

 

提督「…そうか。明日まで耐えてくれ。」

 

響「うん、信じてるよ。」

 

写真撮影も一息着くと、4人にチーズリゾットと即席コンソメスープをよそい「食堂で食べなさい」とだけ言って食事スペースに返そうとした。

 

暁達はなにがなんだか分からない顔をしていたが食事から漂う香ばしい匂いに我慢できなかったのか、期待に満ちた顔で笑顔を向けてくれた。

 

「「「「ありがとう(なのです!)!」」」」

 

提督「あぁ、熱いからよく冷まして食べるといい」

 

暁「大丈夫よ!」

 

そして、4人が食事スペースに戻ると部屋中がざわつく。

しかし、数秒後には4人の歓声で部屋の空気が変わっていくのを感じ、口元の笑みを消せず次の駆逐艦を呼び寄せるのだった。

 




あとがき

ようやくお食事会が始まりました!
次話は艦娘視点でのお話になります、結局???の声の艦娘でなかったのですが、次話ではメインになる予定ですのでお楽しみにしていただけると幸いです。



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疑惑と真実

暁が連れていかれた。

 

今度の提督は重巡洋艦のようなスタイルが良い人だけじゃなく暁のような子供までもそういう対象として見ているのかもしれない。

正直気持ち悪いとさえ思う。

もし、姉妹艦の夕立や村雨に何かされたらと思うだけで怒りや恐怖で手が震えだす。

新しい提督が『英雄』と繋がっていないかもしれない、僕達を救ってくれる人かもしれない。

皆が絶望して諦めていたけど、僕だけは密かに期待していたんだ。

でも、確かに僕は聞いてしまった。

 

提督「うむ、今日は楽しめそうだ。それでは失礼する。」

 

それまでの会話も何もかも聞いた。

吐き気が込み上げてくる、あの人も結局『英雄』や憲兵と同じ。

人間そのものがそういう生き物なんじゃないかとさえ思えてくる。

だから僕は姉妹艦を呼びにきた暁を見て驚いた。

最初に提督の元へ向かった時の警戒していた目は艦娘達と話す時と同じになっていたから。

しかも、幼いけど妹思いで姉妹艦を差し出すことなんて絶対にしない暁が提督が呼んでいることを理由に響達を連れていったのだ。

 

暁は、確かに幼い。

けれど、姉としての責任感や姉妹愛に関しては見た目以上の大人な感性を持っている。

僕達はそれを知っているし、勿論、響達も知っているからこそ暁についていったのだろう。

 

そして、10分程経って戻ってきた4人はなんとも嬉しそうな顔をしていた。

どういうことだろう、彼女らに何かしたのだろうか。

他の皆が心配して話しかけてもいつもの彼女達で何かされたという感じはしない。

それに、気になるのは4人が持ってきたお盆。

見たことのない食事とスープが1人1つ用意されていてなんとも芳しい香りを放っている。

僕のお腹もその誘惑に負け音がなってしまう。

少しだけ恥ずかしいな…。

と、周りを見るとどうやら皆気持ちは同じだったようだ。

僕のお腹の音など気づかずに暁達の持つ食事に目を奪われている。

そして、4人が食事を口にした。

 

暁「美味しいわ!!!」

 

響「これは…いいね」

 

雷「おいひいわね」

 

電「今までのご飯で1番なのです」

 

4人が上げた歓声は僕達の暗い沈みそうな気持ちを払拭するには充分だった。

提督は僕達に美味しいご飯をくれるというのだろうか。

それに何かされるにしても10分では襲われたということもないだろう。

何より暁達の表情を見てそれはないと確信できる。

皆、気持ちが軽くなっていったのだろう、場の空気も和らいでいく。

しかし、僕だけは違う。

僕は提督のあの発言を聞いているから。

憲兵と話していた内容を全部記憶しているから。

何が正しいかなんて分からないけど、どこか信用しきることはできない。

僕が思考の海に潜っているとついに僕達の番がきた。

どうやら暁達の次は僕達の番のようだ。

 

時雨「じゃあ、行ってくるよ。」

 

夕立・村雨「うん、いってらっしゃい(っぽい)」

 

二人に見送られ僕は提督が待つキッチンスペースに入る。

 

提督「改めて初めまして、だな。」

 

時雨「僕は白露型駆逐艦二番艦の時雨だよ、提督」

 

提督「そうか、よろしく頼む。早速だが本題に入ろう。」

 

きた。ここで何をするのかが勝負所だろう。

暁達のように夕立と村雨を危険に巻き込まず美味しいご飯だけを手にできる。

それが理想だと思う、だからこそ提督には最大限の媚びと共に警戒を向ける。

 

時雨「うん、分かっているよ。姉妹艦を集めればいいんだよね?」

 

提督「話が早くて助かる。では、頼めるか?」

 

時雨「提督、1つだけお願いがあるんだけどいいかな。」

 

提督は僕の言葉に首をかしげながら答える。

 

提督「あぁ、私のできる範囲の願いでならできる範囲で聞こう。」

 

時雨「夕立と村雨には手を出さないで欲しいんだ。提督の衝動は僕が受け止めるから。」

 

僕は、自己犠牲を選んだんだ。

そうしてでも夕立と村雨を守りたい。

僕の可愛い妹達には手を出して欲しくなかった。

僕の必死な願いを聞いた提督は何かを考えた後、1人で納得したのか頷いて僕を見る。

 

提督「すまないな、そこは夕立と村雨の意見を尊重させて貰う。2人が協力してくれるというなら私は喜んでお願いするしな。」

 

まずい、提督は2人の意見を尊重すると言っているが夕立や村雨は僕が自己犠牲をしようとしていることを知れば確実に一緒にやろうとする。

 

時雨「提督、お願いだよ。僕はどうなっても良いんだ。だからあの二人だけは手を出さないでくれないかい?」

 

提督「そこまで言うなら2人は免除でもいいが傷の写真撮影がそこまで厳しいのか?」

 

時雨「え?」

 

提督「ん?」

 

なんだろう。凄く話が噛み合ってない気がする。

 

時雨「傷の写真撮影?」

 

提督「そうだ、『英雄』や憲兵共につけられた傷の証拠写真を集めているのだが、暁達から聞いてないのか?」

 

時雨「聞いてないよ!」

 

提督「なるほど、時雨は私が何をすると思ったんだ?」

 

時雨「それは…」

 

言いかけて頬が赤くなる。

それを見た提督が「もういい、察しがついた。」とだけ言って手のひらをこちらに向けた。

それにしても、どういうことだろうか。

提督は僕の想像していた人間と全く違って見える。

 

時雨「提督、夕食前に憲兵と話してたよね?」

 

僕は切り込むことにした。これで提督の本性が分かるかもしれないから。

提督は何故か納得したような顔をして僕に苦笑して見せた。

 

提督「なるほどな、だから私に恐怖以外に猜疑心みたいな感情を向けてきたわけか。納得だ。」

 

そう言うと提督はボイスレコーダーを取り出し音声を再生させる。

中には僕が聞いた内容と同じものがそこにはあった。

 

時雨「提督、これって。」

 

提督「勘が良いな。相手から情報を聞き出したいのなら仲間と思わせて口を割らせるのが一番てっとり早いだろう。」

 

驚いた。

提督は僕の期待に応えてくれるかもしれない人だったから。

この人に賭けてみようかな。

そんな感情さえ浮かんでくる。

 

時雨「それで、アイツらはどうするんだい?」

 

提督「当然、全員クビにする」

 

提督が即答する。僕達が待ち望んだ環境が生まれるかもしれない。

自分の勘違いが嫌になる。

さっきまでは夕立、村雨を守ろうとしていた筈なのに今は早く提督に会って欲しい。

 

時雨「色々と勘違いをしていたみたいだ。ごめんね、提督」

 

そう言って夕立と村雨を呼びにいく。

2人は怯えていたが僕と提督の会話を聞いてビクつきながらも提督に挨拶をしてくれた。

 

夕立「提督さん、夕立っ…ぽい」

 

村雨「提督、私は村雨です…よろしく、ね?」

 

提督「あぁ、よろしく頼む。夕立に村雨だな。時雨を見て気づいてるかもしれないが敬語でなくても私は怒らんぞ。」

 

提督の言葉に僕は苦笑しながら、2人に事情を説明する。

2人共、3人一緒を条件に写真撮影に協力してくれた。

その後、提督から暁達が食べていたご飯を貰った。

 

夕立「提督さん、ありがとうっぽい」

 

村雨「ありがとうございます」

 

時雨「もしかして、全員分用意しているのかい?」

 

提督は僕達の頭をそれぞれ軽く撫でた後に「当然だ、鳳翔と夕張にも協力を頼んだがな。」と、後ろで控えている2人に目を向ける。

2人共凄く優しい顔をしていた。

そっか。提督がこういう人だから暁達も鳳翔さんもあんな顔しているんだね。

 

その後、食堂に戻って食べたご飯は今までで一番美味しくて、少しだけ、しょっぱかった。

 




あとがき

ということで今回は長らくリクエスト頂いていた時雨の登場です。個人的にも夕立と時雨のわんこコンビは大好きなのでこの後も活躍してくれる話になればと思っています。

相変わらずの不定期更新で申し訳ないです!


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真夜中の食事~巡洋艦~

はじめに

長らく続きを書けず申し訳ありませんでした!!
ようやく仕事が一段落して執筆を再開できそうです

仕事が佳境に入ると亀更新になりますがお付き合い頂けますと幸いです。。。


暁、時雨達の後は比較的スムーズに終えた。

もっとも駆逐艦の娘達は全員入渠させる必要がある。

明日以降損傷の激しい順に入渠させるしかないだろうな。

写真に納めていく内に怒りが募っていく。

そんな俺の肩に、鳳翔が手を置いた。

 

鳳翔「提督、お気持ちは察しますがもう少し抑えてください。」

 

提督「…。そうだな、すまない。」

 

鳳翔の言葉を受け、少しだけ深呼吸をする。

このあとは巡洋艦の順番だろう。

特に重巡洋艦の娘達は『英雄』の接待係をさせられていた娘達だ。

それは要するに今見てきた以上に傷をおった娘達が来るということと同義なのだから。

怒りを露にして恐怖を与えてはいけないだろう。

 

提督「私もまだまだのようだな。」

 

鳳翔「いえ、そんなことはありませんよ。提督が怒ってくれていること、駆逐艦の娘達にも伝わってると思います。だから、皆信用してくれたんだと思います。」

 

提督「そうだと助かるな。」

 

鳳翔「では、軽巡の娘達を呼びますね」

 

そう言って鳳翔が食堂に向かう。

俺はもう一度深呼吸をして怒りを逃がす。

正直、実際の傷を見てしまうとなかなかに抑えるのが難しいものだ、と、後ろで待機している夕張に聞こえないように呟いた。

 

鳳翔「提督、お待たせ致しました。」

 

鳳翔が、軽巡の娘を連れてキッチンに入ってきた。

確か、この娘は知っている。軽巡洋艦で最も有名な娘であろう。

 

提督「……神通か。」

 

神通「…………」

 

神通はこちらに虚ろな視線を向けているだけで返答がない。

彼女は、華の二水戦にして最強の軽巡としても有名だ。

元々は佐世保に居たが数々の作戦で武勇を示し改二にまで至っているところが評価され、呉に配属になった筈。

しかし、呉に異動してからは彼女の話を聞いたことはない。ましてやその神通は今や見る影も無いほど弱々しく感じられる。

 

提督「…何があった?」

 

神通「………………………………」

 

神通は何も喋らない。部屋は重たい沈黙が支配する。

見かねた鳳翔と夕張が神通に声をかけようとしたが視線で何もするなと訴える。

二人は頷いて下がってくれた。伝わったようで良かった。

 

提督「神通」

 

名前を呼び、彼女の肩に触れようした瞬間、初めて沈黙を破り動きを見せた。

しかしそれは望んだ動きでは到底無いものであったが。

 

神通「ヒッ、ごめんなさい、ごめんなさい」

 

彼女は目に見えて怯えている。

それも全身を震わせてポロポロと涙を流して。

そこに居たのはかつて武勇を響かせた軽巡の姿は無く、恐怖に支配された一人の少女だった。

 

提督「神通」

 

神通「ごめんなさい、ごめんなさい」

 

提督「神通!!」

 

言葉に怒気を持たせて名前を呼ぶ。

彼女は「ごめんなさい」を繰り返しながらも怯えた顔を俺に向ける。

いや、正確には俺個人ではなく軍人に怯えている様に感じた。

何故なら、彼女の視線は提督に支給される白い軍服と胸につく紋章を捉えていて一度たりとも俺の顔を映していない。

 

提督「よく見ておけ。」

 

俺はそう判断すると軍服を脱ぎ竈に放り投げる。

 

神通「!?」

 

神通は当然だが夕張や鳳翔も驚愕の顔をした。

初めて、彼女の目に俺が映ったように感じる。

 

提督「神通、俺が見えるか?『英雄』や『軍人』ではなく私が見えているか?」

 

神通「…は………い。」

 

掠れていたが確かに神通は答えた。

 

提督「そうか。ならいい。」

 

神通「……え…?」

 

俺は神通を抱き締めた。

神通が困惑していたが次第に「嫌…はな、して…」と腕の中でもがく。

だが、ここで離しては彼女の心を知ることはこの先無いだろうと俺の直感が告げているから離さない。

 

そのまま10分程暴れる神通を抱き締め続けた。

 

神通「どう…して、?」

 

神通の動きは疲れもあるだろうが弱々しくなり俺の腕の中でポツリと呟いた。

 

提督「何がだ?」

 

神通「…おこ、らないの…です、か?」

 

提督「怒る理由がないからな」

 

神通「あばれ…まし、た」

 

提督「それは急に抱き締めた私が悪いだろうな」

 

神通「え、と…」

 

『提督』という存在が怖いのだろうな。俺を呼ぼうとして口が震えているのが分かる。

 

提督「私は榊 柚紀だ。榊でも柚紀でも好きに呼ぶといい。」

 

神通「柚紀…さん」

 

提督「ああ。何だ?」

 

神通「……怖かっ、たんです…」

 

神通はついにその心に抱えていた闇を口に出した。

俺は話を聞こうと離そうとしたが慌てて俺の背中に手を回す神通に、離すのをやめ頭を撫でる。

 

神通「佐世保から、…異動し、て……使われなくなって……殴られ…て、姉さんが、沈ん、で…」

 

神通「でも、最強、の、軽巡とか、鬼の、神通とか周囲、の、期待も、あって、誰にも、話せな、くて…」

 

嗚咽混じりに語られたのは神通が呉で体験した地獄だった。

一人呉という大きな鎮守府に異動して、使われないことに焦りを覚え、『英雄』に話に行くと意見するなと殴られ、弾除けとしての扱いをされ始めても改二まで至ってる自分が敵と戦うために弾を避けたことを『英雄』には責められ、また殴られた。

そして、その事を周囲の艦娘からは期待の眼差しを向けられていて言い出せず、唯一そんな話を出来るようになった川内は『英雄』の難関海域の弾除けとして犠牲になった。

そこで彼女は何の為に戦えばいいのか分からなくなったのだろう。

そして『軍人』という生き物に恐怖を覚えた。

 

提督「そうか。本当に、すまない。」

 

神通の話を聞いた俺から出た言葉はそれだった。

 

神通「どう、して…?」

 

提督「私達軍人がもっと君達を大切に扱っていれば、あんなふざけた奴に鎮守府を、君達を任せてしまったのは、私達全員の責任だろう。」

 

提督「神通、君は確かに華ノ二水戦で軽巡洋艦最強と名高い。しかし、君だって周りと何一つ変わらない一人の少女だ。」

 

彼女を抱き締めたまま続ける。

 

提督「もう、頼っていいんだ。君は独りで苦しみすぎだ。少なくとも私は『提督』としてではなく榊 柚紀個人として君に寄り添おう。」

 

神通はまた、ポロポロと涙を流し始める。

俺は彼女の顔が見えないように彼女の頭ごと抱く。

 

神通「もう少し、だけ…強く…」

 

提督「了解した。」

 

そこから彼女が泣き止むまで強く彼女を抱き締めていた。

 

 

神通「柚紀さん」

 

神通の声か今までよりしっかりとしていることに気付き彼女と顔を合わせる。

 

提督「もう、大丈夫か?」

 

神通「はい。すいませんでした。」

 

提督「謝らなくて良い。また何かあったら頼ると良い。」

 

神通「はい、でも、あの、そんなに見つめられると、照れちゃいます」

 

提督「そうか。それはすまなかったな。」

 

そう言って神通を離すとだいぶ不機嫌な夕張と鳳翔がこちらに来る。

 

鳳翔「提督、早く写真を撮りませんか?」

 

夕張「……私の時はここまでやってくれなかったくせに…」

 

何だろう、鳳翔から謎のプレッシャーを感じるし夕張は何か言っていたが声が小さすぎて聞こえなかった。

しかし、今は鳳翔の言葉を無視して夕張に問い掛けることは無理だろう。

彼女の目が剣呑としているからだ。

 

提督「…そうだな、鳳翔、写真を頼む」

 

鳳翔の頭を撫でながら俺は後ろを向く。

さすがに軽巡洋艦からは俺が見るわけにいかないからな。

 

鳳翔「…もう、ズルいんですから。」

 

鳳翔は何かを呟くと神通と夕張を連れ傷の撮影を行ってくれた。

その後、神通にもチーズリゾットとコンソメスープを渡して食堂に戻した。

 

まだ半分も終わっていないことに少しだけ焦りを覚えながら「まぁ、仕方ないよな」と、誰に向けた言葉でもない言葉を漏らす。

 

時間なんて気にしてられないのだから。




あとがき

本当に本当にお待ちしてくたさった方々本当にお待たせ致しました。
まだまだ艦娘のケア話は続くと思います。
各艦種一人は書きたいのでしばらくお付き合いできればと思います。


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