ミラージュボヤージュ (エリオット・ウィット)
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デコイが俺なら死んでたぜ

 

 

 

 

 

 

『はっきり言わせてもらう、お前は弱い』

 

 ミラージュはもう一人の自分とカニ歩きをしながらトークを飛ばす。

 

 マシンガントークの決め打ち。

 

 オクタンガントレッドの隅っこ。

 

『どれくらい弱いか分かってるか? 俺の半分の力も出てねえ、なんならイマイチだ』

 

『……』

 

『でも安心してくれ兄弟、俺と組めば楽勝だぜ』

 

 その横をウイングマンの赤い弾がデコイを撃ち抜く。

 

 さよならマイデコイ。

 

 

『何をしているの?』

 

 レイスは銃身をタンッと叩いてウイングマンのマガジンを弾き出すと新しい物を入れ直す。

 

 

「それはお前もだレイス、デュオだから安心できるがオクタンが見たらどう思うだろうな? こんな隅っこでこんな話をしている、オクタビオの興奮剤がダーツみたいに」

 

「聞きたくないわ」

 

 スッと向けられるウイングマンにミラージュは分かった分かったと手を上げる。

 

「ならいいわ」

 

 普通の声で普通の話ができる距離までレイスは近づくと親指を離して、人差し指を軸に銃口を下げた。

 

「これとヘムロックを交換してくれるかしら」

 

「いいぜ! ……いいのか? スカルピアサーまで付いてる、しかもこれは無慈悲の翼! 持ち主が無慈悲じゃないとこうはならない」

 

 ミラージュの長い文句をレイスは聞き流す。

 

「サンタさんよりも優しい理由を聞いてもいいか?」

 

 騙す側の男は騙されない方法を知っている。

 

 受け取ったウイングマンを眺めながらレイスを横目でチラチラ。

 

『……弾抜けが辛い、それだけよ』

 

 特に顔色が変わるわけでもなかった。

 

 

「それは3点バーストも変わらねえ、いや待て? お前が言いたいことは分かったぜ」

 

「言ってみて? 虚空の声が大外れだって言ってるけど」

 

「俺がヘムロックとロングボウだって気づいて交換してくれたんだ、違うか?」

 

「……」

 

「脳裏をヘッドショットされた感覚だろ? 俺もよくあるんだ、こっそり仕掛けたいたずらが」

 

「どちらも大外れ、リングまで競走しましょう」

 

 そう言ってレイスは一歩だけ走る。

 

 

「ドカンとデコイ! これがフライングかどうかビデオを回すか?」

 

 反射的に走ってしまったミラージュ。

 

「そんな暇はないわ」

 

「なら寂しいな、隣にレイスクイーンが居ないなんてな、前にも居ない、これじゃあ一位だぜ」

 

 不意に近づいてくる粒子音。

 

 横を見るとレイスがポータルを繋げようとしていた。

 

 

 

『騙されたわね』

 

 

 開いていたレイスの左手はギュッと虚空を掴んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 これが面白いなら何かを残していくべきだ、例えばヘビーアモとか?評価ヒア!今のはジョークだ。

 ……ジョークっていうのは嘘なんだが、バレないかヒアヒアしたぜ。騙されたな!おっと、騙してはいないぜ。

 

 ヘビーアモを発見。騙してはいないが鉛だまはあったぞ。

 

 だまされたな!

 

 




本当の後書きはここなんだが、バレるはずない。
バレルスタビライザーもない。
口ずさむ反動は抑えられないってことさ。


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虚空の声

 

 

 

 

 

 

 

 レイスは不思議な声が聞こえる。

 

『昨日の晩飯はポークチョップ! ちなみに今日もだ、理由は単純明快、明日も勝つからだ』

 

 ミラージュの長い自慢より聞き覚えがある不思議な声。

 

(誰かに狙われているわ)

 

 その声の正体は不思議と理解していた。

 

「ミラージュ、後ろに居るのはわかっているわ」

 

「なんで分かるんだ……?」

 

「声が親切に教えてくれた、右手にクラッカーを持ってるって」

 

 レイスが人差し指でミラージュの手を示す。

 

「今は戦場じゃない、休んだらどうだ? お前もそう思うだろ、パスファインダー」

 

 

 ここはAPEXゲームのロビー。

 

 羽を広げたドロップシップの行く末を眺めながら、次の羽を休める場所。

 

 そんな場所のソファーで次の機会を探っていたレイスの背後を取ったミラージュ。

 

 

『人間なら休んだ方がいいよ』

 

 が、声を掛けた青いロボットはカシャカシャと二人に近づく。

 

 

「じゃあ休もうぜ、多数決の結果は俺の勝ちだ」

 

「なにをするつもり?」

 

「珍しく乗り気だな、そうだな、ババ抜きなんてどうだ?」

 

 レイスの答えを待つ前に青いロボットのディスプレイが黄色く光る。

 

「……やりたいみたいだぜ」

 

「分かったわ」

 

 どこからともなくトランプを取り出したミラージュはシャッフルを始める。

 

「イカサマがないか、僕がセンサーで見ておくね」

 

 そう言ってカメラのような顔がミラージュの手元を見つめる。

 

「い、いいぜ?」

 

 ミラージュはパスファインダーに聞こえないように小声でやりにくいなと呟いていた。

 

 いつも笑い調子なミラージュが皮肉にも公平なロボットに苦しめられている。

 

「ふふ」

 

 不意にレイスは面白く思った。

 

 

「……よし、カードは3等分にしたぜ」

 

「僕はジョーカーがどこにあるか分かってしまったから、最後に選ぶよ」

 

「やり直そうか? それじゃあ楽しめないぞ」

 

「大丈夫! 見えないようにシャッフルしてくれたら引くカードも君のイカサマも分からなくなる!」

 

「そこまで俺は野暮じゃない……はずだ、なあ?」

 

 レイスはさあねと言った。

 

(ジョーカーは真ん中にあるわ)

 

 カードの中から揃った数字を消して挑むババ抜き。

 

「僕がミラージュのカードを引けばいいのかな?」

 

「そうだ」

 

 レイスの耳に不思議な声が響く。

 

(数字の3はパスファインダーの一番右の手札にあるわ)

 

 黙って。

 

 レイスは声を塞いで左のカードを取る。

 

「……」

 

 ジョーカーだった。

 

「さて次は俺が引く番だ! 見せてくれるか、カードを」

 

「どうぞ」

 

「なかなかいいカードだ、捨てるのはもったいないぜ」

 

 そう言ってミラージュが手札に加えたのはジョーカー。

 

「そのカード、貰ってもいい?」

 

「いいぜ」

 

 

 ミラージュのカードを受け取ったパスファインダーが気づく。

 

「酷いよ、ジョーカーだなんて!」

 

 胸のスクリーンが赤くピカピカ光る。

 

 

「俺にとって最高だったんだ、そのカードをレイスに渡してみな、最高の気分になる」

 

「本当かい?」

 

「本当だ、嘘じゃねえ」

 

 パスファインダーは一枚のカードをレイスに向ける。

 

「これをあげるよ、受け取って」

 

 レイスが渡されたカードはハートの3。

 

「本当だ、貰ってくれると最高のカードだね!」

 

「そうだろ? 見てみろレイスの苦悶の顔を……」

 

 

 レイスが虚空の声を頼りにパスファインダーのジョーカーを引き抜く。

 

 

「あっ、僕のジョーカーが」

 

「そういうことだったのか」

 

 ウンウンと笑顔のロボットを褒めるミラージュ。

 

「私も最高の気分になろうかしら」

 

「どうやってなるんだ? 教えてくれ」

 

 

 レイスは片手でポータルを作るとその中にジョーカーを投げ捨てた。

 

「お、おい! 最後のジョーカーなんだぜ、あれは!」

 

 手を伸ばそうとしたポータルがシュンッと消える。

 

 

 

『本当に最高の気分ね』

 

 

 

 

 

 

 



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全能の目

 

 

 

 

 

 

 

『やられてノックダウンシールドでごめんなさいしても殺そうしてくる奴がいる、レイスとかな。やり返そうとしたら、ヒュン、いつの間にか消えちまってる、レイスとかな』

 

 ミラージュはブラッドハウンドで愚痴ることにしていた。

 

「それはお前が弱いからだろう?」

 

「きついこと言うぜ、そもそもの話、レイスは強すぎるんだ、その主神を超える強さってもはや神だろって話さ」

 

 

 右手をウイングマンのように指を折ってバーンと小声。

 

 

「それはありえるようでありえもしないこと、主神は相手を称えることができる」

 

「さっき俺を弱いと言っただろ、それはどうなんだ」

 

「主神は価値を定める、相応の答えが降り(たまわ)れたのだ」

 

「意味わかんねえ、全く、これっぽっちもな」

 

 

 ここはワールズエッジ。ブラッドハウンドの試練。

 

 試練をこなすとミラージュよりもゴールデンな装備が主神より送られる場所。

 

 

 最後のアイテムが金スコープという体たらくにミラージュは『おい! ここに主神とやらが居るぜ!』と煽るとチャージライフルの角で殴られていた過去がある。

 

 

「それより敵の気配が少ない、ファーザーの目が嘘を言っているとは到底思えない」

 

 ブラッドハウンドのマスクが一瞬だけ赤く光る。

 

「いつもなら第4の試練が来てもおかしくねえ、例えば……おお、この文章を見てる奴がいるとはな、驚いてやろう」

 

「おかしいのはお前だ」

 

「そうか? そうかもしれないな? パッシブで90秒前にこっそり食べたパエリアの消化状況を見てくれよ」

 

「黙っていろ」

 

「またチャージライフルの角で殴るつもりか? 来いよ、受け止めてやるぜ」

 

「フンッ!」

 

 振られたチャージライフルがミラージュを捻り潰す。

 

 モワモワと青い光が漏れるだけだった。

 

「あぶねえことをする前に武器を大切にしたほうがいい、命を守るのは俺じゃなくて武器だからな!」

 

 その光を透かすように現れる本人。

 

「あまり、私を、怒らせるな」

 

「敵がいないうちは余裕ぶりたいんだ、分かるだろ?」

 

 口を聞いてくれなくなったミラージュは口を閉ざし、垂れているジップラインで試練を後にする。

 

「痕跡なし」

 

 

「了解、どっちを探索する?」

 

「まだ範囲内だ、動くべき時まで待つ必要がある」

 

「俺が手品を見せてやる、特別の取っておきに近い」

 

「痕跡でタネはバレてしまう、見る必要はない」

 

 ブラッドハウンドはミラージュが開催する手品ショーに参加したことは一度しかない。

 

「まあ待てよ、最高に面白い手品だぜ」

 

「そこまで言うのなら」

 

 ミラージュが手をパンと叩き、皿のように広げる。

 

「おてて絵本って知ってるか?」

 

「……少しは」

 

「最高に面白いエンターテインメントは常に頭の中にある、俺はそれを完璧に出すことができるんだ、凄いと思うだろ」

 

「戦いには向いていない」

 

 ミラージュは「それは野暮だぜ」と続ける。

 

「まあ見とけ」

 

 

 ブンと特殊な音と共にミラージュのホログラム装置が青く光る。

 

 手の中に小さなミラージュとブラッドハウンドが現れた。

 

 

『俺達は試練中。プロウラーを2本のプラウラーでボコボコにしていた』

 

 手の中にプロウラーが放たれる。

 

 それを撃滅していく二人。

 

『そして俺は噛まれた、アーマーからでも痛くて仕方がなかったんだが、次のプロウラーが現れた』

 

 これは第3の試練だぜ。ミラージュはブラッドハウンドにおどけて見せた。

 

『そのプロウラーをブラッドハウンドは全部倒しちまったんだ! すげえ事をしてくれた、回復もくれたしな、まあ試練の中身は金スコープだったんだが』

 

 尻もちを着いたミラージュの前に立ったブラッドハウンドは迫り来るプロウラーを的確に撃ち抜いていた。

 

 

 

 おてて絵本はパチンと閉じられ、ミラージュが次の範囲が分かったなと肩を叩く。

 

「……ああ、とても良い話だった」

 

「そうか? じゃあ行こうぜ、180秒前に食ったパエリアが消化されてるといいんだが」

 

 ミラージュは歩きながらウイングマンを取り出す。

 

 中指を軸にくるくる回している。

 

「ファーザーの目に聞いてやってもいい」

 

「聞いてみるか、へいファーザー、俺達の勝率を調べてくれ」

 

 

 

 ピタリとグリップを握り直すとアイアンサイトに金スコープを滑らせていた。

 

 

 

 

 

 



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今日も一日ガンバロール!

 

 

 

 

 

 

 

 

『今日のヒーローは俺だが本当は俺じゃない、確証はどこにある? 俺である確証がどこにあるかって聞いてるんだ、ポークチョップの歯形だって昨日からあれば俺が食ったという証拠はねえ、そうだろ』

 

『本当にそう思うの? この中でポークチョップを毎日食べてるのはあんただけよ、ミラージュ』

 

 ミラージュの小言に入ってきたのはバンガロール。

 

「イントロセリフを運営に提案してやってるんだ、最高に生かすだろ?」

 

「使用率も生きてたら最高だったのに、惜しいわね」

 

「それは言わねえ約束だぜ」

 

 

 ここはキングスキャニオンのザピッド。

 

 二人はスラムレイクから逃げてきたところだった。

 

 周りのサプライボックスは幸運にも漁られていない。

 

 

「全く、アーマーとディボーションがあれば無双できたんだが、ないと俺達は弱いからな」

 

「そうかしら?」

 

「そうだぞ、目隠しピースキーパー組み立て王。そんな特技もケアパッケージからしか出てこない強力武器には必要ねえ、なんでそんなもんを組み立てれるようにしたんだ?」

 

「科目としてあっただけ、それに、ピースキーパーはおちゃらけた平和のおじさんよりも平和に貢献してくれてる、構う価値はあるわ」

 

「俺の平和は和平の方だ、武器なんか必要ねえ」

 

 

 そう言って出口にデコイを送り出す。

 

 

 パンと銃声。光を吐いたデコイが敵の居場所を通知する。

 

 

「な、おい、マジかよ……」

 

「だらだらしないで、隠れるわよ!」

 

 バンガロールに手を引かれて近くの棚に身を潜める。

 

「ブラッドハウンドが居なくてよかったわ」

 

 ワットソンとレイスのコンビがケアパッケージを漁っている。

 

「なあ提案があるんだが……いや、それよりしたい話がある、俺達って結構有名なんだぜ」

 

「しっ」

 

「それこそ漫画にされるくらいにはな、見たかアレ? 渋い顔した女子会チームをな」

 

「うるさいわ」

 

 無音でどつかれるミラージュ。話は止まらない。

 

「ヒールドローンの焚き火に手持ち部沙汰なレイス、そんでバンガロールが言うんだ、今日も一日ガンバロールってな! 傑作だぜ、努力王のスモークサーモンを向こうに炊いてくれ」

 

「バレたらどうするの? 黙って」

 

「錯乱するのさ、俺はスモークにデコイを走らせる、そこから出てくる俺とここから出てくる俺、どっちも撃つだろうな? その間にマスティフショットガンをくれてやれ、もちろん覗きながらな」

 

「……了解、ミスは許さないわ」

 

 

 スモークランチャーがレイスとワットソンを囲むように二発打ち出される。

 

 聞こえてくる足音は忙しなさが増す。

 

 

「デコイを行かせる、飛び出す合図をくれ」

 

「今よ……」

 

 

「ん? なんか言ったか? いや、突発性の難聴かもしれねえ、突発的なセリフを待っているからそう名付けてやった、学名はロスタイムにしておこう」

 

 

 バンガロールがマスティフを構え直す。

 

 

 

『今日も一日ガンバロール!』

 

 

 

 

 

 



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独立変数

 

 

 

 

 

 

『この場所には俺が溢れすぎてる、あの草も捨てられた興奮剤もそしてクナイも、本当は俺かもしれないんだぜ、相手は怖いだろうなあ、間違いない』

 

『頭がイカれたのかしら……元々ね』

 

『その言い方は酷いんじゃねえか、レイス』

 

 ここはリパルサーから最寄りの蘇生ビーコン近くの物件。

 

「ポータルを設置する」

 

 キュンッと展開された青いオーラがレイスを取り囲む。

 

「ああ、ちゃんと戸締まりして待ってるからな」

 

 ドアを開けて飛び出たレイスの後を塞ぐ。

 

 

 フシューと投げられたガストラップが膨らむ。

 

『独立変数を設置する、あまりデコイを近づけない方がいい』

 

 

「流れ弾で起動なんて最悪だ、マスクをしてるやつには分からないだろうがこの匂いはマジでヤバい」

 

「オクタビオの御曹司が興奮剤とやらを撃ち込んで逃げ惑うように、私のマスク越しでもこれは効いている」

 

「な、な、なんだとっ!?」

 

「どうした? 敵が居たのか」

 

 ミラージュは驚いていた。

 

「ガス浴びてピンピンしてるっていうのかよ!」

 

「私は戦う前に完璧な抗生物質を摂取している。科学者が実験の前に対策を用意するのは、賢さに拍車をかけたいためだ」

 

 

「待て待て、俺達にはそれをくれねえのか」

 

 ミラージュはコースティック――アレクサンダー・ノックスが服用している薬と貰う薬の差に気づいていた。

 

 

「APEXゲームは被験者と科学者の関係にある、私より知能指数が劣る時点でお前もレイスもただの被験者に過ぎないだろう」

 

「じゃあ最近、お前のガスの中でも運動会が開けるのは……」

 

「薬のランクを上げてやったという、教える必要もない話だ」

 

 そう言って頭を搔くコースティック。

 

「なんで俺はこんな奴と組んでるんだ、しかも仲間が被験者だって?」

 

「今日会ったばかりの下等生命体に、仲間という称号を与えるのは早計だと言わざるを得ない」

 

 ミラージュがコースティックの首元を掴んで巨体を引き寄せる。

 

「チームはいつでも仲間だろ! 下等とかそんな単純に話を進めるんじゃねえ、お前の世界はどう見えているんだ? 茶色の煙で笑ったことしかないのか」

 

「下等は下等、それ故にお前のようにうるさいやつがいる」

 

『俺はここに来るまでに大量の仲間を失ってきたんだ、ぼっちには分からねえか? グッチで買った財布で仲間とフラつけなくなった時の悲しさなんてな』

 

『仲間とやらが、下等で残念で無念な生き物だったのだろう。死んでも変わらない存在を不活性物質とでも言おうか』

 

「黙れ」

 

 コースティックを押し飛ばすとウイングマンがチャキンと抜かれる。

 

「そうやって殺してきた仲間の数はいくつになる?」

 

 コースティックは手を上げるでもなく、淡々と質問を述べる。

 

 

「あいにく1になるかもしれないな」

 

「お前は賢い被験者だ、不活性物質と違い、変数になることができている」

 

「本当に殺してやってもいいんだぜ、ちょうど目の前にビーコンもある」

 

「どちらにせよ、賢いというのは本当のようだな」

 

 ポータルが開き、そこからレイスが戻ってくる。

 

『行きましょう』

 

「ああ、あぁ、そうだな、くそっ」

 

 ガストラップの根元を撃ち抜くとミラージュはレイスより先にポータルへ入っていく。

 

 

「何の話をしてたの?」

 

「仲間とはなんなのか、彼に説かれていた」

 

「あなたが話を聞くなんて珍しいわね」

 

「実験の退屈しのぎに過ぎない」

 

 

 二人は後を追うようにポータルへ足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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パラダイスロビー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『だ、だ、だ、騙されたな!』

 

 パスファインダーがミラージュのデコイに手を振るとシュンッと消えていく。

 

『やあミラージュ、元気にしてた?』

 

「全然だ、全然、こきゅ……故郷にいた時の方がピンピンしてる」

 

「滑舌が良くないよ、大丈夫? 僕の音声ファイルが必要?」

 

「俺はロボットじゃないぜ」

 

「じゃあ……お手本になる喋り方をしよう! 僕はロボットだからね」

 

 ミラージュはなんの参考になるんだと首を傾げる。

 

「あ、い、う、え、お、か、き、く」

 

「も、もういいぜ、分かったから」

 

 

「口を大きく開けるのもいいよ、練習足りてる?」

 

 パスファインダーがグッと親指を立てる。

 

 ここはAPEXゲームのロビー。

 

 

「お前はバーカウンターに立つセンスがある、タバスコを傷口に落とせるんだ、カクテル作りも上手いだろうな」

 

「ブラッディマリーだね! 僕知ってるよ! どんな味がするんだっけ?」

 

「青いロボットみたいに不愉快な味だが、目が覚める」

 

「僕、嫌われてるの?」

 

 悪意だけは的確に読み取れる笑顔の素敵な青いロボット。

 

「言葉の綾だ、忘れてくれ」

 

「嫌われてないんだね、それは良かった。ところで綾さんって誰?」

 

「おいおい壊れちまったのか? あやさんなんて居ないだろ」

 

「ああ! 言葉の方のこと? ニュアンスが読み取れなくて、ごめんごめん」

 

 ムッとしたミラージュの隣にレイスが近づいてきた。

 

『あまりそういうことを言わないであげて欲しいわ、いつも戦闘の合間に早口言葉を練習してるの』

 

 

「そ、それは言うんじゃねえ」

 

 やめろとミラージュの手がレイスに伸びる。

 

「へえ、ミラージュって努力家なんだね! 僕と同じだ!」

 

 ハイタッチをしよう。キシュンと伸びた右手をミラージュは仕方なく返す。

 

「調子が狂うな、全く」

 

 そう言い残してその場をレイスに託すと、デコイを置いていってしまう。

 

「あっ、うん……またお話したいな」

 

「全部見てたけど、喧嘩でもしたの?」

 

「実はそうなんだ、怒らせちゃったのかも」

 

 人差し指と人差し指をディスプレイの前に持ち出すとパスファインダーは寂しそうに液晶を青く光らせる。

 

 

「大丈夫よ、人間は寝ると忘れる」

 

「どうやって忘れるんだい?」

 

「リフレッシュ、それだけで少し前のことなんてどうでも良くなるわ」

 

「うーん、それでも僕はちゃんと仲直りがしたいよ、ミラージュの話は面白いから!」

 

 ピカピカとディスプレイがやる気に光る。

 

「プレゼントをしてあげたらどう? それも寝て起きて寛容な朝に」

 

「レイスは何がいいと思う?」

 

 

「いつも眠そうにしていたかしら、髪のセットに早く起きてるみたいよ」

 

 

「僕も髪があったらなあ」

 

 パスファインダーがツルツルの丸い頭に手を置く。

 

「……そうだ! 朝から元気になってもらおう、そうすれば髪も作ってもらえるね!」

 

「それは無理だと思うけれど……」

 

「髪をセット、できるんでしょ? 楽しみだなあ!」

 

 パスファインダーはスキップを踏みながらロビーを後にしていった。

 

 それから一日が立ち、ロビーにパスファインダーとミラージュの姿がレイスに映る。

 

 パスファインダーの頭にはペンか何かで茶色の線が引かれている。

 

「……あなたって二重だったのね」

 

『そうだ、聞いてくれよ、朝起きたらこいつが部屋に立ってたんだ』

 

「僕の手はピッキングもできるくらい繊細なんだよ!」

 

 ミラージュは思い出したと言わんばかりにレイスに起きたことを話す。

 

「起きたら髪をセットして欲しいって言われて、ないだろって返したんだが、ペンを持ってきたんだ」

 

「その線は髪なのね」

 

 

「僕イケてる? かっこいい?」

 

 レイスが優しく、そうねと相槌を打つ。

 

 

「俺の髪をセットしてくれたのはパスファインダーなんだぜ」

 

「良いプレゼントを貰ったじゃない」

 

「これはレイスの案か、そりゃ妥当だな」

 

「これは、って他にも何か貰ったの?」

 

「もちろん、最悪なものを貰っちまった」

 

 

 ミラージュが今にも辛そうな顔を作る。

 

 

『この顔なんの真似か分かるか? レヴナントじゃないぞ俺の真似だ、いちごジュースだと思って一気飲みしてやったら、ブラッディマリーだったからな』

 

 

 

 レイスは虚空でその場を後にすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ブラッディマリー、トマトジュースにタバスコとウォッカと好みでブラックペッパー少々を混ぜた刺激的な飲み物だぜ。俺はパラダイスラウンジでバーテンダーをしてたから知ってる、くらいやがれ眠眠打破!
ちなみに色が変わる要素はほとんどない、トマトジュースとの見分けはデコイより分からない。
俺はデコイをいつ出したか覚えてるんだ、嘘じゃないぜ。


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サイレンス

 

 

 

 

 

 

 

 

『赤と青の関係性は信号が誰よりも教えてくれてるんだな、渡れる青と渡れない赤、優しいロボと怖くて仕方がないロボ、この差はなんなんだ?』

 

『僕も青信号が好き!』

 

『赤は血の色に似ているが、私は血ではない、故に血に飢えている』

 

 最悪だぜとミラージュがレヴナントを見る。

 

「何を見ている?」

 

「み、見るくらいは許してくれ、後ろを取られて殺されるなんて嫌なんだ、頼むから殺さないでくれ」

 

「そんなに私が怖いのか?」

 

「はは、いや、そんな、はっはっは」

 

 こいつ俺を食ったりしないよな? そんな小言がスカルタウンの隅っこから聞こえてくる。

 

 

「ミラージュが怖がってるよ! もっと笑おうよ!」

 

 パスファインダーお得意のディスプレイ笑顔。

 

 黄色く笑う丸いアイコン。

 

 

「私はロボットではない」

 

「そうなの? 残念、仲間だと思ったのに。でも今からお友達だ!」

 

「そうかもしれない……ロボットを殺しても何もならない、人間で引くピアノは楽しいぞ、鉄クズ……」

 

「人の手が引くピアノを聞いたことがあるんだ? 僕もパラダイスラウンジで聞いたことがあるよ、強弱がテープとは全然違ってたなあ、録音もしちゃった、聞きたい?」

 

 ミラージュがレヴナントより先に聞きたいと割り込む。

 

「ここは戦場だから、ボリュームを下げて再生するね」

 

 パスファインダーの口元から流れ始めたピアノの音は誰が聞いても上手いと言うだろう。

 

 弾かれた音に安らぎが生まれるのは間違いない。

 

「最高だな」

 

 

『黙れ……』

 

 このサイレンス悪魔を除いては。

 

 

『黙れ黙れ!』

 

 レヴナントの手の中に太陽のようなデバイスアビリティが顔を出す。

 

 

『やめやがれ!』

 

 

 カシンと解き放たれたデバイスを寸前でミラージュのデコイが防ぎ切る。

 

 

 バチバチと音を立てて残留するデバイス。

 

 

「なぜ機械を庇う?」

 

「友達だからな、当然だろ? 当たり前だがお前のことは庇ってやらねえ」

 

 パスファインダーは『ダウンした時は起こし合わないと負けちゃうよ』と二人の間に立つ。

 

「期待などしていない、皮付き」

 

「されたら困る悪魔め、起こすときに叩き込む薬を増やしてやったらどんな顔してくれるんだ? こんな顔か?」

 

 ミラージュは目を見開くと強気におどけてみせる。

 

 

「目尻から涙を流す方法を、教えてやっても良いんだぞ……」

 

「喧嘩はダメだよ、楽しくない!」

 

「戦うことが楽しいのか?」

 

「うーん、勝つことは楽しいから、僕は負けたくないかな?」

 

「勝つことが楽しいとほざけるお前は私に良く似ているな」

 

 はあはあと乾いた笑いを作る人口の悪夢。

 

 

「パスファインダーとお前は似てねえさ、似てるところは素材だけだ」

 

「やったあ、仲間だね!」

 

 意外と嬉しそうに親指を立てる笑顔の悪夢。

 

「い、良いのか? 攻撃しようとしてきた悪魔だぜ?」

 

「仲間は多い方が嬉しいからね」

 

 レヴナントが細く尖らせていた手を戻す。

 

 

「……エリオット、お前の心臓をニンニクと塩で頂くのは勝ってからにしてやる」

 

「俺の名前を知っているのは理解し難いが、それでいいぜ、友達が増えてお前も嬉しいんだろうな? 友達の友達は友達って言うからには、俺も手を回してやらなくもない、例えば自殺の手助けとか」

 

「勝ったら食ってやる」

 

 

「冗談だ、ははは……お前も冗談だよな?」

 

 

 冗談ではなさそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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シルバのライフライン

 

 

 

 

 

 

 

 

『壮絶になるぜ、壮絶に。そうだな、これから話すのはちょっと前のことだが』

 

『シェの姉貴! 俺のプッチンプリンがどこにあるか知らないか? 確かに隠して置いたのに……ないぞ?』

 

『知らないわ、薬物をキメすぎて物事も的外れに決め撃ちし始めちゃったの?』

 

 

 ミラージュの言葉をちぎってジャンプパッドに捨てたのはオクタビオ・シルバ。

 

 もう一人はライフラインのアジェイ・チェ。

 

 

『……』

 

 APEXロビーに用意されている共用冷蔵庫の中身を眺めるオクタンとライフライン。

 

 それを眺めるミラージュは何も言えないで居た。

 

 

「本当にないわ? どうしてだろ?」

 

「食いたかったのによ、悲しいぜ! うおおお!」

 

 泣くように興奮剤を頭に突き刺すとヘッドバンキングを繰り出す。

 

「ま、待て待て? オクタン、お前に質問がある」

 

「なんだ、エリオット・エリオット」

 

「どうやってプリンを食うんだ、気になる」

 

 オクタンは常日頃マスクを外さないで過ごしていた。

 

「ここに空の注射器があるだろ? これをプリンに突き刺すのさ、引くと黄色いブツが溜まってくる」

 

「それをどうする?」

 

「肩に刺して血液と一緒に流すのさ!」

 

 

 ミラージュは生まれて初めて他人のプリンを食った奴を褒めたくなった。

 

 

「そ、そ、そうか……」

 

「全く、楽しみを奪いやがって、プッチンと来そうだ、すーーはーー、ふう」

 

 息を吸って吐いて呼吸を整えるオクタン。

 

「誰が食べたのか、探したいけど」

 

「戦ってからだと証拠が消えちゃうな、ウィットも来てくれねえか?」

 

 俺か? ミラージュは呼ばれると思って居なかった。

 

「そうだ、誰が一番キルできるか競走しようぜ!」

 

 義足でカチカチ足踏みするとミラージュの手を引いた。

 

『戦場はすぐそこだアミーゴ!』

 

 

 

 

 戦場。例えばスカルタウンとか?

 

 ライフラインに背中を押されて飛び出た場所はスカルタウンだった。

 

 真ん中の建物で誰よりも物資を取る。

 

 ミラージュはウイングマンを手に取るとこっそりモザンビークを捨てた、少し開けた場所の砂混じりの空気が美味い場所で話し込む二人をよそに足音に気づく。

 

 

「アネキ! やっぱりプリンの犯人は女だ!」

 

「どうして?」

 

「なんとなくってやつ」

 

「もしかして、私が取ったって言いたいの?」

 

 オクタンはコクコクと頷く。

 

 

『話し合いは後にしてくれないか?』

 

 二人を狙う敵にウイングマンをぶっぱなすミラージュ。

 

 デコイと合わせて二人がかりで三人の相手をしている。

 

 

「そんなわけないでしょ!」

 

「でも俺は食ってないし、本当になくなってる、アネキが新しいプリンを買ってくれるならその言い分も分かってやれるぞ?」

 

「食べられたくせに偉そうね? 本当は食べてて記憶が飛んでるんじゃない?」

 

 

 ダンスパーティー用に取っておいたデコイを大量に展開してやり過ごすミラージュ。

 

『仲がいいのは良い事だが、目の前の光景が見えていないのか?』

 

 言う猿が居ても、聞かざる見ざるでは意味がない。

 

 

「姉貴、怪しいぞ」

 

「じゃあその義足を今から返してもらえる? 毎日プリンをあげるから病院のベッドで過ごしな」

 

 言い合うオクタンの後ろに敵が一人、なけなしのモザンビークを向けて近づいていた。

 

「な、おいっ!」

 

 コケてしまったミラージュがウイングマンを投げる。

 

「ライフライン! ……ババア受け取りやがれ!」

 

「今なんて言った!?」

 

 ウイングマンを受け取ったアジャイがオクタンに銃口を向ける。

 

「こ、殺されちまうー!」

 

「どいてシルバ」

 

 

 オクタンがしゃがむと発砲音。

 

 

 モザンビークの散弾は二人を避け、代わりに持ち主の命を奪い去った。

 

 

「なんだ? 敵が居たのか」

 

「危なかったわね」

 

 

「姉貴は優しいな、やっぱりプリンを食ったのは男だな!」

 

 あー、その話なんだが。そう言って割り込んできたのはミラージュ。

 

 

 

『そのプリンを食ってしまったのは、俺なんだ』

 

 

 

 

 

 



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竹と南瓜

APEXゲームの公式サイトに俺様のことが書いてあるみたいだな、アウトランズの誰かが書いたんだろう……ん?
な、おいっ、で、で、出会い系の秘匿情報が!
これこそマジで誰が持ってきやがったんだ!? 
ファンのみんなは要チェックだ、こいつに削除申請を送ってくれ、頼む!
こんなのがジブラルタルに見られちまったら……


 

 

 

 

『――ってことがあったんだよ』

 

『そういうことかブラザー、末っ子らしい悩み事だ』

 

 ここはミラージュもとい、エリオット・ウィットが経営しているバー。

 

 パラダイスラウンジ。

 

 デコイ兄弟にコップを拭く素振りと銀カップの底を鏡替わりに使わせると、本人はカウンターでジブラルタルと愚痴をこぼしていた。

 

 

「人間誰しも間違えることはある、それは許してくれたんだろう?」

 

「二人は優しかったからな、プリン二つで許してくれた」

 

 ライフラインの分を買ったことに不満はないようだ。

 

「なら、大丈夫だ」

 

「またやらかしたくはないんだ、もしレヴナントの大ハズレを取ってみろ、父親はもう居ねえが母親が心配だぜ……」

 

「その時はジブラルタル様に任せろ、真摯に謝れば許してくれる」

 

「だといいんだが、そんなことより」

 

 

 ジブラルタルは誰よりも大きな体を持っている。

 

 壁と呼ぶ人間も居れば、一つの要塞と定義できる賢い人間も居る。

 

 実際はどれも間違っている。

 

 武器を持ったジブラルタルは要塞の中でも主砲だからだ。

 

 

「いつもは鎧で来てるくせに、今日はファッションスター顔負けじゃないか」

 

 そんなジブラルタルの装備はカジュアルなタキシードで来ていた。

 

 余裕のある黒さから覗ける光沢感は意外なオシャレを醸し出す。

 

「今日は特別な日だ、一肌脱ぐ価値があって来た」

 

「そうか? そうか……そうか、そうか」

 

「どうしたんだブラザー」

 

「いやあ、はっはっは、俺のニガテな物はドテカボチャとキオナンダケなんだ、見てるのはいいが食うのは好きじゃねえ、あの日の夜から確信してるんだ」

 

「そういう意味で来たわけじゃない」

 

 ジブラルタルは心外だという表情をしていて、急いで聞き返すミラージュ。

 

 

「じゃあなんの日なんだ?」

 

「この後にパーティがあるんだ、そのパーティで司会をしなければいけない」

 

「心優しいドテカボチャはみんなの好物だからな、頑張ってくれ」

 

「アルコールでも取れば緊張がほぐれると思っていたんだがなあ」

 

 逆にドキドキしているよ。ガッハッハッとジブラルタルは笑い飛ばす。

 

「じゃあ行ってくるよ、遅れたら笑えないからなあ」

 

「かなり酔ってるぜ? 信号を渡る資格があるとは思えねえ」

 

 要塞の千鳥足は道行く全てをぶっ壊してしまいそうな勢い。

 

「酔いすぎたな、まあいいか!」

 

「良くねえだろ! テクシーは心配すぎる、そうだ、あれだ、た、タクシーを使え、呼んでやるし金も出す、それでいいだろ?」

 

「……頼む」

 

 カウンターに突っ伏したジブラルタルを見ながら電話を掛けて簡単なタクシーを招く。

 

 

『すぐ来るってよ! 運が良かったな、苦しい思いは短く済む』

 

「良くはないさ」

 

「それもそうだったな、司会なんてできるとは到底思えないが、どこでやるんだ?」

 

「ソラスシティのコンサート市民ホール、185番の方だ」

 

「わお、近所で良かったな、車酔いの心配はなくてなによりってところだな、変わってやろうか?」

 

「大丈夫だ」

 

 ミラージュはジブラルタルの肩を持って外に運ぶと、待っているタクシーの後部座席に投げ込む。

 

『どちらへ向かいましょうか?』

 

 

 ジブラルタルは『またなブラザー』とミラージュに言ってドアを閉め、それよりも短い言葉を運転手に呟いた。

 

 

「お、おい、金はまだ……」

 

 

 ガラス越しのミラージュには、要塞がガアガアと寝ているように映る。

 

 

『どうやって司会をするつもりなんだ?』

 

 

 

 タクシーはブオンと走り去っていった。

 

 

 

 

 

 

 




そういや竹を英語にするとバンブーだな、ここにちょうどバンブーズルって言葉がある、俺の口癖にぴったりな嘘って意味さ
しかし、ドテカボチャってのは言いすぎたかもしれねえ。


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ミラージュが強くなった理由

いつか話せる時が来る、こんなことがあったんだぜってな。


 

 

 

 

 

 

『おいクリプト、後ろを見ろっ!!』

 

 ミラージュの声に気づいたクリプトが素早く後ろを見る。

 

「……なんてな、やる気を出させてやっただけだよ、この被害妄想の変人め」

 

 本当に、クリプトの背後には何もなかった。

 

「狼少年の話を聞いたことがないかウィット? 嘘も続くと真実が嘘になる、デコイも一緒だ、出しすぎるとお前もデコイみたいに、お話にならなくなるぞ?」

 

 クリプトにとってミラージュの嘘は話にならないということが言いたいようだ。

 

 

「そうだ、その話をしたかったんだ、助けてくれ」

 

 APEXロビーの隅っこでドローンの手入れをしていたクリプトにちょっかいをかけたミラージュ。

 

 

 壁側に立っているクリプトを信じ込ませて振り返らせた演技はヒゲモジャの俳優に似ていた。

 

 

「助けだと?」

 

「そうなんだ、デコイがバレちまう、最近は素通りさ、足音なんて鳴っても遠距離は目視だからな」

 

 ホログラム装置の限界かな。ミラージュもそれは理解していた。

 

「そんな装置は捨てた方が早い、俺のドローンなら貸してやってもいい」

 

「そ、それはできねえ! これはゲームをする時に母親から貰ったんだ、エゴってのは分かってるぞ? だがこれのおかげで寂しくないからな」

 

「貰い物か、よくそんなものに命を預けれる」

 

「こいつを悪く言うんじゃない、悪いのは使い方が悪い俺だぜ? 賢いクリプトさんよ、新しい使い方を考えてくれ、俺はまだ死ねないし死にたくない」

 

「口数が多いな、お前は。黙ってくれたら考えてやろう」

 

 ミラージュは本気で口を閉じた。

 

「…………」

 

 

 クリプトの考えが纏まる。

 

「随分と、大切に使ってきたみたいだな」

 

「壊したことがないのは自慢だ、使わないで勝ってきたとかじゃないからな?」

 

「じゃあなしでしばらく戦ってくれ」

 

「えっ……?」

 

「いいから貸せ、本業でもやってこい」

 

 ミラージュのホログラム装置をあっさり奪い去ると少し眺めてからロビーを後にしていた。

 

「俺はお払い箱ってことかよ……?」

 

 

 ホログラム装置を取り上げられたミラージュはバーテンダーを本気で頑張った。

 

 ホログラムの手解きを母親から受けては居たが、実際にマークツーを生み出せるほどではなかった。

 

 しばらく、ミラージュがロビーに顔を出すことはなかった。

 

 

『コーヒーを頼む』

 

「ここは酒を飲む場所なんだが……く、クリプトか!?」

 

「どうせ会えないと思ってな、ついでに味を確かめてやろうと」

 

「戦えないのはお前のせいだぜ」

 

「それはこれからも言えるのか?」

 

 クリプトはカウンターにホログラム装置を置く。

 

「没収しといてそれか? 賢いのは頭だけで相手の気持ちは」

 

「付けて使ってから文句を言うんだな、ウィット」

 

 

 コーヒーの香りを楽しむクリプトを見ながら装置を付ける。

 

 ミラージュが人差し指を前に向けながらデコイを撃ち出す。

 

「何も変わらないぞ? 文句を言いたいな、これは」

 

 

『パフォーマンスを改善して、デコイは一分間存在できるようにした、足音は出せなくなったが、足音の演算は重かったからな。お前の言う通り遠距離では音も要らないだろう』

 

「うお、まだ居るぜ兄弟が!」

 

 

『クロークと称した透明化も広範囲を包めるようにしてやった、これは長い時間使えない、ダウンした友だちとやらをこっそり起こす時に使うんだな』

 

「本当だ、酒瓶が消せる!」

 

 

 ミラージュはホログラム装置の完成度に驚いていた。

 

「デコイが動く! マジで俺みたいだな!」

 

『ドローンの技術を積んで、お前の動きを認識させてみただけだ』

 

「ジャンケンもできるな、アイコだが。クリプトすごいぜ、しばらくは俺の奢りで沢山飲め、鍵も置いていってやる、帰る時は戸締まりしておいてくれよな」

 

 早口でクリプトに店仕舞いを託すとカウンターを軽やかに乗り越える。

 

 

「おい、まだ話は――」

 

「今はAPEXがしたくて仕方ねえ! あとで聞いてやる!」

 

「……これを飲んでみるか」

 

 ミラージュはAPEXロビーに入ると簡単な自慢話をレイスにしてからゲームに挑んだ。

 

 戦いの中で発生する危険と優位。

 

 倒れた仲間を起こすのは彼にとって簡単なこと。

 

 そしてさらなる危険。

 

「うお、敵がやばいな、引いた方が良さそうだ、お前もそう思うよな」

 

 四方八方から撃たれては仕方ない。

 

 

 

 誰もが諦める局面でホログラム装置が青く光る。

 

 

 

『デコイエスケープを使う!』

 

 ミラージュがクローク効果で消える。

 

 

「な、なんだこれ! やべえ!」

 

 クロークはすぐに終わるとデコイを周りに解き放った。

 

「まるでダンスパーティみたいだぜ、ここは元々そうだが。俺が参加者になっているなんてことはないだろうな、全く……」

 

 クローク効果を強化してしまったことで、緊急時に使うエスケープ機能は低負担なデコイパーティライフにカスタムされていた!

 

 

 ただでさえ負担が強くなったクローク機能を連続で使えば壊れかねない。

 

 

 それを危惧したクリプトはエスケープとしてのクロークを最小の一秒に留めることにした。

 

 

 

 

『一瞬の目くらましだけでお前は勝てるだろう、ウィット』

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ボンブロ!!!

 

 

 

 

 

 

 ワットソンは誰よりもバチバチとした展開を望んでいないが、電気と仲が良い。

 

 

 例えば静電気。

 

『痛えっ!』

 

 

『ごめんなさーい』

 

 ワットソンは軽率に触ってきたミラージュに軽く謝る。

 

「誰よりも痛かった、これは本当に恐ろしいと思うぜ」

 

「そんなに?」

 

「脳裏に第二ラウンドのリング外が浮かんだくらいにはな」

 

「まあ嬉しい」

 

「嬉しいだって?」

 

「そうよ」

 

 ミラージュは変な奴と組んでしまったことに気づいた。

 

 

 ここは沼沢の最終ラウンド目前。

 

 ぬまさわではなくしょうたく、と読む。

 

 うるさいフェンスの中に篭もるというのは良い気がしない。

 

 

「アンドラーデって奴はどう思う? いや、暇なだけだからやっぱりなしだ、暇はもうなくなる」

 

 ミスアンドラーデ。コースティックがそう呼んでいた。

 

 レジェンド名はローバ。

 

「あの人は悪い人じゃないと思うの、少し悪い人に触れてしまったから、鉄のように変化しちゃったんじゃないかしら、磁石にね」

 

「人工の悪夢に触れてたしな、間違いねえ」

 

「だから惹かれ合う、電気と電気みたいに鉄と鉄が。レジェンドとレジェンドも、もしかしたら」

 

「俺とノロけたいのか? 良いぜ、勝つ準備はばっちりだ」

 

「ミラージュは――レイスとくっつけば良いわ、どう考えてもモテそうにないメンツだから、誰よりもお似合いよ」

 

 ワットソンは眼中にないとキッパリ。

 

 

「レディを殴ったりはしないが腹立つな、なんで俺なんかがレイスなんかとなんやかんやで組まなきゃいけないんだ? あの人はもうおばさんってことを知った方がいいぞ」

 

「私はお姉さんって?」

 

「そういうわけさブラボー、ミラージュボヤージュに連れて行ってやらなくもない、もちろんワールズエッジの方だが、まさか婚約の旅だと思っていたのか?」

 

「……考えてあげるわ」

 

 少しだけワットソンの声色が高くなった気がした。

 

 

「考えてくれ、ソラスシティ以外なら大歓迎さ」

 

「どうして? ソラスに住んでるのにソラスが嫌い?」

 

『デートの最後はバーで一本、あわよくばベッドの祭りさ、それを叶えてくれるのは最高のバーになるんだが……ソラスシティで最高のバーはエリオット・ウィットが経営するパラダイスラウンジって相場が決まってるんだ』

 

「まあ! 少しだけ興味あるわ」

 

「勘弁してくれ、カウンターテーブルで寝るのはもう三回目になるからな」

 

 寝て起きて腰がピヨっているミラージュを見かけれるのは朝だけらしい。

 

「そのつもりはないけど……」

 

「歳はいくつだ? 歳の数だけコップの縁にレモンを振ってやるよ」

 

『22よ』

 

「あー、その話はなかったことにしてくれ」

 

「どうして?」

 

 

『今日が十三日の金曜日なら喜んで抱いていた、これで分かってくれ』

 

 

 ワットソンは不満げに頬を膨らませるとフェンスを二重に置いていた。

 

 

 

 

 

 

 




結局はやる気が創作の要なんだ、分かるだろ?本当は頭の中で終わらせてやってもよかったんだ、でも書いてる。
神出鬼没でいて欲しくないならリアクションしてみるんだな。


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アンコール

 

 

 

 

 

 

 

『俺は強い、敵の数が減るほど強い。なぜかって? 順位を見てみろ、簡単なことさえほっえほっ』

 

 ミラージュはスモークの中でもノックスガスでもなく、己の中に潜む不調感に咳き込んでいた。

 

 レイスは特に声を掛ける訳でもない。

 

「さ、さ、最悪だぜ……このミラージュ様が風邪なんてよ」

 

『口は災いの元って言うけれど、災い本人が災いにかかることもあるのね』

 

「いつもに増して辛辣だな、レイス」

 

「あなたの陰口はお見通しよ」

 

「まさか、ワットソンが告げ口したっていうのか!」

 

 違うわと首を振るレイス。

 

 

 

 ミラージュがおばさんだと馬鹿にしていた時、レイスは戦場で敵を踏み台にして範囲に走っていた。

 

『敵に狙われているわ』

 

 虚空の声。

 

『あなた、ミラージュにおばさん呼ばわりされてるわ』

 

 別次元のレイスが教えてくれたのであった。

 

 

 

「どう考えてもワットソンだろ、ひでえぜ」

 

『な、何も言ってないわ! おじさん!』

 

 反論するワットソンは本当に言っていない。

 

「俺は29……いや、30なんだが」

 

 レイスに睨まれたミラージュは本当のことを言うことにした。

 

「若者嫌いなんておじさんで充分!」

 

「それは効く、頼むからやめてくれ」

 

「じゃあレイスはおばさんではないってことね?」

 

「それは別じゃないか?」

 

「おじ、さん」

 

「あ、ああ! レイスはもうおばさんじゃねえ、アウトランズの墓地でデスボックスを予約する必要は未来永劫なくなったぜ! 永遠は嘘だが……」

 

「ありがとう、ミラおじ」

 

 ワットソンは皮肉混じりのお礼を言うと家をフェンスで固め始めた。

 

 ここは皮肉にも沼沢の一軒家。

 

 

「銃声が聞こえるわね、ポータルを引いてみる」

 

「スカルピアサーの音がするな、俺のウイングマンにつけてやりたいと思ってたんだ、頼む」

 

「検討しておくわ」

 

「なんだそりゃあ? 倒す奴に変わりないってのに」

 

 ポータルを敷きに二階のドアから飛び降りたレイス。

 

「ワットソンは何をしてるんだ?」

 

「笑顔の練習よ、ロボットの彼がした方が良いって」

 

「笑顔は俺も得意なんだぜ、スマホで撮って勝負するか? なんてな」

 

「良いわ、勝負しましょ?」

 

 並んでミラージュのスマホでパシャリ。

 

 その写真はワットソンの間に立つ二人のミラージュが笑顔を決めていた。

 

「俺が二人いる、俺の笑顔も二倍ってわけだ、言うまでもなく……圧勝だな」

 

「ズルいわ!」

 

「じょ、冗談さ、アイコでいいだろ? チョキとチョキでダブルピースキーパー!」

 

 Vの字にした両手を見せつけるミラージュ。

 

 

「ちょっと面白いわね」

 

「笑わなかったらピースキーパーで二度と笑えなくしてやろうと思ってた……いや、冗談だ」

 

 それから程なくしてレイスが戻ってきた。

 

「ポータル、繋いだわ」

 

「ま、待って」

 

「早く戦わないとキルポイントが」

 

 ミラージュもワットソンの真似をして引き止める。

 

「まあ待て、ここにアルティメット促進剤がある」

 

 未使用のアルティメットデバイスを受け取ったレイスは起動させて次回のポータルを準備する。

 

「分かったわ、使っておきましょう」

 

 レイスがポータルに入ろうとしないワットソンに気づいた。

 

「なんで入らないの?」

 

「……ポータルが怖くて」

 

「怖い? さっきのダウン中はすぐに入ってきたのに?」

 

 コクコクと頷くワットソン。

 

 

「虚空の寒さは一瞬よ」

 

 デバイスはカチンと音を立てて役目を果たす。

 

 

「では行きましょう、戦場の方が怖いことに気づけるといいわね」

 

 それは酷いんじゃないか?とミラージュ。

 

「そうかしら、戦いに行けないのは足でまといと何も変わらない」

 

「逃げ性能がないならここに居ても良いと俺は思うんだが」

 

 

 ワットソンは思いを声に出す。

 

 

 その為に大きな一歩と右手をレイスへ出す。

 

 

『て、手を繋いでポータルに入りましょ?』

 

 

 精一杯の笑顔。

 

 

「ダメよ、集中砲火の危険がある」

 

「レイス、手を繋いでやれ」

 

「同時に行く必要はあるかしら?」

 

 

『…………』

 

 ワットソンは静かにポータルに入ってしまった。

 

「虚空の声って地獄耳に似てるな、嫌味と敵意しか聞こえないんなら俺の嫌味で耳栓しちまっても問題ないよな?」

 

「何を言ってるの?」

 

「役に立たないパッシブなんて捨てちまえってことさ、おっと! これに他意はないからな、本当だぞ?」

 

「意味が分からないわ、あなたもこの声で射線を切ってるのに」

 

 

『その心の虚空、ワットソンからのプレゼントだぜ』

 

 バーン。そんな銃声の空真似が家に響いた。

 

「もう一回私の真似をしてみなさい、その時は容赦しないわ」

 

 

『アイオブザ……きゃあっ! ダウンしちゃった!』

 

 唐突なワットソンの無線。

 

 

 レイスは耳の装置に人差し指と中指を当てる。

 

「ノックダウンシールドはミラージュと交換させた紫だったかしら?」

 

「うん、物陰にはなんとか行けたけど……ごめんなさい」

 

 

 深刻そうなレイスの顔に気づいたミラージュの目が鋭くなる。

 

「ミラージュ、話は後よ」

 

「なんの事だ? できるだけ大きな声で教えてやってくれ」

 

 

 

『クロークで助けに行って! アンコール(早く)!!』

 

 

 

 レイスはミラージュを掴むとポータルへ強引にバックステップを踏んだ。

 

 

 

 

 

 




同志が増えてきて嬉しいことこの上ない、今なら言えちまう。

ボンヤージュ!
ごきげんよう。


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ローバ・アンドラーデ

 

 

 

 

 

 

 

 

『ありがと、ベイビー』

 

『べ、べい? なんだって? この髭が目に入らないのか?』

 

『私にはみんな赤ちゃんなの、分かってくれる?』

 

『やめてくれ気色悪い……俺は大人な女なら大歓迎だが』

 

『ほら、忘れ物でちゅよー?』

 

 ミラージュのウイングマンを手馴れた動きで盗んだローバ・アンドラーデ。

 

「か、返してくれ」

 

「もちろん」

 

 帰ってきたウイングマンに細工がされていないか、銃身を縦に開いて眺める。

 

「扱いにくさはお前もレヴナントと同等だぜ、さっさと終わらせよう」

 

「あいつと一緒だって!?」

 

 

「こわいこわい、俺は何も言っていないさ」

 

 ミラージュはカチンと親指を下に滑らせる。

 

 ウイングマンの開いていた銃身が元に戻った。

 

 

「二度と、アレの名前は、出さないで!」

 

「あ、ああ……」

 

 さっきとは打って変わり、ブラックマーケットのように視覚化できてしまいそうなほどの威圧的態度がミラージュを襲う。

 

 ここはスラムレイクの調査ビーコンがある高い場所。

 

 

 マジでめんどくせえ。

 

 

 ローバのアイテム発見センスが人間のサプライボックスに傾いたら、きっとミラージュのそんな声が金色に表示されていたに違いない。

 

「し、しかし、良い尻をしているな……ははっ」

 

「はっ?」

 

「おいおい反応してくれ、へいSiri? 今日の天気は何度だ? 降水量は曇りか?」

 

 ご機嫌取りのつもりが変なことを聞いてしまったと確信したミラージュの会話デコイ術。

 

『あなたってレディに対する扱いが下手なのね、期待してたのに』

 

「期待? 俺の何を知ってるんだ」

 

「ウイングマンは丁寧に扱えるのに、って」

 

 ピクリとミラージュの眉が動く。

 

「丁寧に扱ってないぞ、スカルピアサーでヘッドショットをキメてたら火薬焼けする前にお役御免になってるんだ。かわい子レディにはしっかりハートを射抜いて、年の数だけレモンを振るんだが、お前には……コレだ」

 

 ミラージュはニヤリと笑って小指をレモンのように振った。

 

 

「その程度で怒る女じゃないの」

 

 ローバもお返しと言わんばかりに小指を立て返す。

 

 

「な、お前っ!」

 

「ふふふっ」

 

 男に向けられる小指はミラージュにとって侮辱に映っていた。

 

「許さねえ、これはマジだからな」

 

「いいわよ別に? どんな嫌がらせがあるの?」

 

 

 ミラージュは歩きながらローバを横切る。

 

 

「愚直ね」

 

 ローバは隙を晒さないようにミラージュに体をずっと向ける。

 

「……」

 

「そんな雰囲気作り? 窓を見て、敵が居て、それから混乱の振り?」

 

 バンと外から重厚な音が鳴る。

 

 予想通り、鉄格子の窓から赤いロングボウの弾がミラージュを貫くと割れた風船のように青い光が漏れて消えていく。

 

「っ……!」

 

 ローバはありえない現象に混乱した。

 

 

 

『騙されたな!』

 

 

 

 ミラージュはローバの背後で透明化を解くと背中の99を奪い取った。

 

「返しなさいよ!」

 

「返すぜ、随分とリアクションの振りが上手いなあ? はっはっは、最高だった、アンドロイドのインカメラとデコイで再現してやりたい」

 

「黙って」

 

「クリプトのおかげで簡単に再現できる、ローバのあの顔はこれくらいか? 違うな、もっとほうれい線が深くて……」

 

「しっ、本当に黙って?」

 

 カタカタと聞こえる足音。

 

 ロングボウの持ち主がやってきたんだろう。

 

 

「背中はあなたの綺麗なウイングマンに任せても良いのよね?」

 

「その話だが、このウイングマンは拾ったばかりなだけだったんだ」

 

「なんですって!?」

 

 

 ドンッ。

 

 

 スカルピアサー弾がローバの後ろに入ってきた敵の頭を的確に撃ち抜く。

 

 

 

『騙されたな』

 

 

 

『あなたにブラックマーケットは使わせてあげないんだから!』

 

 

 

 

 

 

 



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再演の意味

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日も今日とてミラージュはバーでグラスを磨き、ドリンクを作り。

 

 それをデコイへ提供している。

 

 その光景をレイスはミルクティー片手に眺めていた。

 

『何をしているの?』

 

『ごっこ遊びさ、いいだろ』

 

 ここはAPEXロビー。

 

 

 ソファーとテーブルとソファーの一角、パラダイスラウンジにはロイヤルなミルクティーはあるが、タピオカは邪道だと置いていない。

 

「そろそろ本番なんだけど……」

 

「それまでには終わらせる、多分な」

 

 

 ソファーに座るレイスの後ろでワットソンが肩に手を伸ばす。

 

『電気の力でモミモミしてあげる』

 

 

「助かるわ」

 

 バチバチと低刺激なマッサージが始まる。

 

 ゴロゴロのタピオカを残した空のカップがズルズル音を立てる。

 

「レイスはタピオカを飲むのが下手だな、パラダイスラウンジのミルクティーならここにあるが」

 

「……アンコール」

 

「いいぜ」

 

 ミラージュはボトルに入った甘い口溶けミルクティーをタピオカの山に注いだ。

 

『ねえ、アンコールって何?』

 

 ワットソンの率直な疑問。

 

 ダウンしていた時にミラージュの無線から微かに聞こえていた言葉。

 

 

「あなたには関係ないことよ」

 

「あれはそうだな……」

 

「言うのね」

 

「自慢のエピソードだからな」

 

 当然だろ? あの時は静かなワールズエッジだったことを覚えてる。

 

 ミラージュボヤージュの近く……いや、嘘だ。

 

 間欠泉の話だ。

 

 俺とレイスとバンガロールで、バンガロールがダウンした。

 

 その時はレイスと組んだことなんてなかったからな。

 

『お前は何ができる?』

 

『あなたこそ何ができるの? 私の邪魔はしないで』

 

『俺はデコイを出せる』

 

『私はポータルを出せる』

 

 蘇生は簡単だった。

 

 レイスが運んで俺が起こす! な、簡単だろ?

 

 その先は簡単じゃなかったんだが。

 

 まず別の戦場でレイスがダウンした。

 

 

『スモークはもう出せない!』

 

 バンガロールがスモークを使い切っていたが、直前に炊いてくれていたポジションの中にレイスが収まった。

 

 

 ここで一旦ワットソンの意見を聞きたい、どう思う?

 

「えっ? 危ない状況だわ、今すぐにでも助けに行きたい」

 

 その通りだ、俺もその意見だった。嘘じゃないぞ?

 

 

『待ってろ、助けに行くからな』

 

『来なくていいわ、順位を上げることが重要よ』

 

『それはできない、仲間だからな』

 

 バンガロールのカバーと同時にスモークに飛び込んでレイスを寝かせた、薬品装置の力を借りていざ蘇生って時だ。

 

 スモークが晴れる。そんな予感がした。

 

『こんな状況で蘇生なんて、無理だわ!』

 

『大丈夫だ、安心しろ。俺のパッシブを見せたことはまだないか? それぐらい危機の回避をお前は毎回してくれたんだ、起こすのは当然だろ?』

 

『虚空で引けてもあなたが……』

 

『俺にとってこのゲームは鉛玉の演奏会なのさ、誰もが繰り返しを望んでる、俺だってお前の再演を望んでる、強引にでもしてやるのが俺のパッシブだぜ?』

 

 

 

 ミラージュの右手がレイスの胸を強く叩く。

 

 

 

『アンコール! 立ち上がれ!』

 

 

 

 スモークが晴れると同時にホログラム装置が起動。

 

 

 ミラージュの触れる物全てを包み隠し、レイスを起き上がらせた。

 

 

 

「ってな、いい話だろ」

 

「そんなことがあったのね! それで二人とも仲良くなったの?」

 

 ワットソンは真摯にレイスの活躍を聞いていた。

 

「いえ、この後にもいくつかトラブルがあったわ」

 

「例えば?」

 

「透明化って蘇生する時しか効果ないんだけど……」

 

 

 ミラージュが『そうだ!』と大きな声を出して話を逸らす。

 

『こ、こ、この辺に美味しい食べ物屋さんがあるんだ、はっはっ、行ってみないか?』

 

 

「あの後、戦場に晒されたミラージュはダウンしてたわ」

 

「言うんじゃねえ、あのままなら俺の英雄譚だったのに」

 

「漁夫も沢山いて、シンプルに負けたかしら」

 

 ワットソンは『わあ……』とミラージュに残念そうな眼差しを向ける。

 

「お、俺が悪いって言いたいのか」

 

「そうよ! レイスは悪くないもの!」

 

 レイスも確かにと頷く。

 

「理不尽だな、全く……」

 

 

『まあ、嬉しかったのは事実ね』

 

 ポツリと漏れた言葉はミラージュに届かない。

 

 

「何か言ったか?」

 

「別に」

 

「アンコール!」

 

 

「別に。これでいいかしら?」

 

 レイスは分かりきった様子で皮肉的な態度を取った。

 

 

 

 

 

 

 



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絵に書いたような不調子者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『笑顔のロボットじゃないか』

 

『また会ったね』

 

 パスファインダーとハイタッチを交わすミラージュ。

 

「またと言っても、最近は本当に久しぶり、偶然の出会いに近ぇ」

 

 パスファインダーのフレームはいつもより陽に焼けていない様子。

 

「少し、考え事をしていたんだ」

 

「考え事? そんなふうには見えねえ……いや、それは失礼か」

 

「僕にはマスターが居るはずなんだけど、その前に僕がこわれちゃったらどうなるんだろうって」

 

「お前は壊れないさ、そのグラップルがあればな」

 

 

 ディスプレイが心配そうな暗い青色を映し出す。

 

 パラダイスラウンジの飲み物を一滴も飲めないパスファインダーが訪ねてきた理由。

 

 

「問題があるのか?」

 

「少し前に、グラップリングフックの射出速度が下がったんだ、故障と言うよりは部品の摩耗だけど……」

 

「それが分からないくらいにはお前は強かったってことだ、心配する必要はないぞ」

 

 それだけじゃないよと丸い顔が俯く。

 

「最近は連続で使えないからもっと困ってるんだ」

 

「そういや、謎のクールダウンを挟んでるのは何か理由が? それとも演出だったり!」

 

「グラップルはね、射出する時と戻る時に摩擦熱が発生するんだ」

 

 ミラージュはなんとなくいつものパスファインダーを浮かべる。

 

 ワイヤーがパッと出てきて戻る瞬間の速さ。

 

「お湯が湧かせてもおかしくねえ」

 

 

「それを冷まさないとワイヤーが切れたり、故障の原因になって大変! 友達に迷惑はかけたくないからね、だからなるべく外気に晒す設計にしてるでしょ?」

 

 

 青い肩から剥き出しのグラップルワイヤーに目がいく。

 

 

「こりゃ賢い、熱々の夫婦もすぐに冷めちまう」

 

「15秒もあれば冷えてたのに、今は35秒かかっちゃうんだ」

 

「それこそ摩耗じゃないか? ワイヤーが熱を貯め込むようになったとかな」

 

「ワイヤーは使ってない部分にしてみたけど、何も変わらなくて……冷却装置がダメなのかなあ」

 

 不安そうなパスファインダーを見てミラージュも頭を捻るが髪しかうねらない。

 

「その装置とかって代わりは利くのか?」

 

「僕はロボットだからね、ミラージュよりは換えが効くんじゃないかな? でもどこにあるのかは分からないから、変えれないんだ」

 

 珍しく楽観主義がしょんぼりしている。

 

 

「そ、そんなに落ち込むんじゃない、俺は何もできないが酒くらいなら出せる」

 

「僕は飲めないよ?」

 

「マジで何もできないのはつらいな」

 

 いつもがいつもでなくなっている。

 

 ミラージュは調子が出なくなるような気がして、焦っていた。

 

 

「な、な、なんとかしてやりたいな、協力はする」

 

「本当に? ありがとう!」

 

 

『当たり前だろ、俺とお前は友達だからな、手伝うのは当然さ』

 

 

 グラスの代わりに出されたミラージュの拳。

 

 

 パスファインダーが機械の手を丸めて押し返す。

 

 

 その時、ディスプレイがピンク色に変わった。

 

 

 

 

 

 



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研究者と研究者と研究者

俺だってホログラムのことは詳しいんだが。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうしてお前らはソリが合って、その、俺とは合わないんだ? どう考えても俺の方がフレンドリーで接しやすい、そうだろ?』

 

『ボンブロ! 見事なトラップ機構!』

 

『そのフェンスも悪くはない、合理主義の結晶のようだ』

 

 そうではないらしい。

 

 本来は誰よりも悪夢を生み出しているアレクサンダー・ノックスに、ナタリー・パケットはワットソンとして……ではなく、同志として話しかけていた。

 

「このトラップは円盤状なのに、置くとどうして膨らむの?」

 

「風船と同様、空気で膨らむのは分かるだろう」

 

「だけど、私達が吸ってる酸素をどうやって毒に?」

 

「毒にはしていない、元々これには有毒物質を封入していて、それを下から汲み上げた酸素で放出している」

 

 

「そうなのね」

 

 手のひらを口元に寄せて驚いた素振りをする。

 

 

 ここは当然ながら戦場。

 

 リパルサーの最も出口に近いワンルーム。

 

 

「あー、科学話は嫌いじゃないが……」

 

「あらミラージュ、お出かけしてたんじゃ?」

 

「最初から居るぞ、俺だって死にたいわけじゃないんだ」

 

 リングのプロに嫌がらせのプロ、そして黙って騙すプロ。

 

「負ける理由が一つもないからなあ、慎重に動くのは当然」

 

 あるとすればリングが機嫌を拗ね、嫌がらせのプロが立ち塞がり、プロが無駄なことを喋りだした時。

 

『あら、リングが遠い』

 

『あそこに良い被験者が見える、当然ながら私の資産は物質を腐らせることができる、レヴナントとやらに人口の悪夢が誰か教えてやらなくてはならない』

 

『人口の悪夢には俺も入ってるんだら、だろうな? フェンスに失敗作に成功作! 毒に力を借りるまでもない、比べることは毒だ、比べるまでもなく目前の戦いにドックドク! なんてな』

 

 

 例えばこんな状況。

 

 

「私が失敗作の定義を説くなら、それは規定の致死量をオーバーしたことだろう」

 

「ちっ、そんな悪魔と一緒ってことが憎いぜ」

 

 ワットソンはトリプルテイクを両手に二人の間を横切り、フェンスに手を伸ばす。

 

「私も、オーバーで人を殺したことがあるわ」

 

「マジかよ……電気でバチバチ、ボンって?」

 

 特に否定をするでもなく、話が続く。

 

『私はそれを、失敗だなんて一つも思ってない。なにもが成功で結果論しか残ってない世界で失敗は恥ずかしいもの』

 

 フェンスにワットソンの手が伸びる。シュンッと音を立てて消えた。

 

 

「……変わってるってよく言われないか?」

 

「変わってる」

 

「そうだろ? 思想が、狂ってる、俺にはそう見える。失敗がないなんて――」

 

「フェンスの電圧が変わってるわ、多分なにかの影響を受けてる」

 

 変化。

 

 ミラージュがなんだってと聞き返す。

 

「例えば? 俺の悪口が指先を腐らせた?」

 

 

「ローバの、ブラックマーケットとか」

 

 よく見ると落ちていたヘビーアモがふわふわ浮いている。

 

 静電気ではない。

 

 

「これは近い、かなり近いぜ……」

 

「問題はない」

 

 コースティックの言うように、このガストラップとフェンスは陥落の要素になり得ない。

 

 それはここが陥落しないことを意味する。

 

「そうか?」

 

「もちろんだとも」

 

 ガストラップに腰を下ろしていたワットソンが尻もちをつく。

 

「いたた」

 

 ミラージュは内心どんくさいなと思いつつ、手を貸した。

 

ドゥリアン(どういたしまして)

 

「それは俺の台詞だ、どういたしまして」

 

「私と手を繋ぎたかったんじゃ?」

 

「ノーだ、それはない」

 

 

 コースティックがガストラップを投げる。

 

 

 そこはワットソンが座っていた場所。

 

 

「おいおい、毒で目がやられたのか? ガスはもう必要ねえ」

 

「必要になった」

 

 ふと周りを見る。

 

 

 ガストラップが、フェンスの右側が。

 

 

 青い光に変わって特定の方向に伸びる。

 

 

 アイオブザストームも目の前で消えていった。

 

 

「我々は襲撃に備える時が来たらしい、実験を始めよう」

 

 それぞれが迎撃の構えと三個のガストラップとヘンテコに繋げ直したフェンスに全てをかける。

 

 

 足音。ドアが蹴破られる。

 

 

 

『ショップを開店、戦況を回転、ここは閉店。良いリズムね、ベイビー』

 

 

 

 

 

 

 




もしローバが強化されるとしたら?
俺だったらガストラップとアイオブザストームとフェンスをブラックマーケットで持ち出せるようにするぜ。
コースティックのメタがコースティックなんて、信じたくないからな。


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強い言葉

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺は強い! 仲間がいればもっと強い、当たり前か』

 

「それ本当?」

 

 ミラージュの一人自慢にワットソンが割り込んできた。

 

「ああ、本当だが?」

 

「私も強くなりたいわ! 教えて!」

 

「どうして? 既にフェンスは需要があるし、そしてなにより、リングに詳しい、もう強いぜ」

 

「それは技術の……言ってしまえばカンスト、いくら頑張っても静電気に驚くだけ、心の中から私は強くなりたい」

 

「実際俺は強い、強くなる前から強かった、これは嘘はつけねえな」

 

 ちょっとだけ強がるミラージュに目を背ける。

 

 

 APEXロビーで実力を証明することはできない。

 

 口先だけで強さは語れない。

 

 誰が強いのか、現時点では誰も分からなければ知らなければ、誰もが弱いと錯覚する。

 

 

「その、強さを教えてくれたらいいの」

 

 さっさと教えて。そんな空気がワットソンから溢れる。

 

「俺の強さか? 教えてやろう、それは男らしさだ」

 

 手と手を空中で組むとパントマイムの領域で肘をつく。

 

「男らしさ?」

 

「女はか弱い、お前も弱い、だから俺が守ってる、だから強い、簡単なことだろ?」

 

「じゃあ私には無理ってこと?」

 

「そうは言ってない、男らしさって言ったのはそこにある。男のような強い心、少年漫画を読み漁る強い気持ち! それが大切なんだぜ」

 

 組んだ手の上に顎を置いてニヤリと笑ってみせるミラージュ。

 

 

「しょうねんまんが? ここにはなさそう」

 

「比喩だからな!」

 

「じゃあなにをするの! くどいわ!」

 

「そうだな、口調から強くなってみたらどうだ」

 

「口調……」

 

「俺の言葉を真似てみるといい」

 

 うーんと悩むワットソン。言葉を繋げる。

 

『俺たちは……ハモンドのためにこんなことを?』

 

 はっはとミラージュは笑ってみせる。

 

 

「そんな感じだ、傑作だな」

 

「俺についてきて! みたいな」

 

「強いぞワットソン、アーティファクト探しの時は意識しろ、死にたくなければだが」

 

「がんばるぜよ!」

 

 強気な声に引かれてレイスが二人の空間に迷い込む。

 

『何をしているの?』

 

「俺はミラージュに強くなる秘訣を教わっていたの……だ!」

 

 ワットソンは慌てて言い直すが、恥ずかしそうにしていた。

 

「様子がおかしい」

 

「こいつが強くなりたいって言ってきたんだ、俺のデコイは強いからな、俺の真似をしたら強くなるって教えてやった」

 

「言葉だけで強くなれるなら、誰もがそうする、私だってするわ」

 

 

 ちらりとミラージュを睨むワットソン。

 

 

「だ、だ、騙してなんかいないぞ? そうだ、思い出した、言葉には言霊の力があって、言葉を出すとその言葉通りに頭の中も変化する、男らしい言葉を吐けば男の気持ちになって不安が解消するかもしれないって寸法だ、頼むから殴らないでくれ」

 

 ミラージュの口数はマシンガンと言っていいほどの威嚇射撃だった。

 

 

「ナタリー、強くなりたいなら私と組む?」

 

「えっ!」

 

「手取り足取り教えてあげる、この男はあなたをデコイに仕立てあげようとするホログラム野郎だから、話を聞くだけ無駄」

 

 ミラージュは、よく分かってるじゃないかと相槌を打つ。

 

「でも……迷惑はあまり」

 

「行ってこいワットソン、お前は弱すぎてマジで話にならない、レイスに教えて貰った方がいい」

 

 それでも行きたがらないワットソン。

 

 しかし、その胸の内には静電気が渦巻いていることもミラージュは知っている。

 

「なあレイス、ワットソンを頼めるか? できれば一生。そう、もちろん勝ってもそばに居てやるんだ、こいつが知ってるのは遠慮とリングそれだけ、笑いそうになる」

 

「今からR-99を撃ちに行くから、リコイルと射線を教えるわ」

 

 

「よし、行ってこい!」

 

 ミラージュの右手がワットソンの背中を強く押す。

 

 

 

 バチバチと雷のような音が静電気としてミラージュに襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 



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アルティメットフィギュア

 

 

 

 

 

 

『世間を席巻! 観衆を監修! 喜べお前ら、課金しろお前達! 俺様のアルティメイターゴールデンは精神衛生ドクターに最適さ、右手で持てばブンッ、ポークチョップで敵をチョップって訳なんだ、こいつに魅入られて死んでも責任は取らないけどな』

 

 ニッとAPEXロビーではにかむミラージュ。

 

『な、なにそれ?』

 

 レイスは説明を聞いても意味を理解できなかった。

 

 

 金色のフィギュアを抱えて走るなんてどうかしている。

 

『分からないのか? ゴールデンフィギュア、またの名をミラージュ・ア・トロワ、コイツと俺とデコイの三人で相手にする内容だ』

 

「金メッキは目立つわ」

 

「こいつは純粋な純金だ、舐めるんじゃない」

 

「もっとダメだと思うけど」

 

 金は柔らかい物質なのである。

 

「や、や、やっぱり純金は嘘だ、ははっ」

 

「虚空に捨ててきてあげるわ」

 

「やめてくれ! これは俺だ、それを捨てるなんて冗談か!」

 

「だって目立つから」

 

 朝日の返しがスナイプスコープのように自己主張してしまわないよう、お祈りする必要が出てくる。

 

 

「言っとくが俺はこれで戦場を歩いてやるからな! デスボックスの上に置いて記念撮影したら、毎日ツイートしてやるんだ」

 

「なんてツイートするの?」

 

『俺が来た頃にはキンキンに冷えてやがった!ってな、イカすだろ?』

 

「ああ、そう、しょうもないわね」

 

 自分のフィギュアという今までにない贈り物で上がり調子のミラージュはあがり症気味。

 

 

 上がった後は下がるだけ。

 

 下がった後は上がるだけ。

 

 

「戦術的ディスアドバンテージでも考えたらどう?」

 

 レイスはついていけないとその場を去る。

 

「強いやつは良いよな、全く、限界を誤魔化すには危険色で威嚇しちまうのが一番なんだが、する必要がないやつは分かりもしない」

 

 不意に右手のフィギュアが零れ落ちる。

 

「うおっ!」

 

 拾おうと全身を躍動させて右手を振るう。

 

 その瞬間、フィギュアは青い光に吸われる。

 

 

 光の方向にはローバが居た。

 

『大切な物が落ちてたから、拾っちゃったわあ』

 

 

 ミラージュが掘られた金色アイテムをローバは眺める。

 

「返してくれー」

 

「い、や、よ」

 

「俺だけのアイテムなんだ」

 

「壊したりするわけじゃない、ちょっと見てるだけ」

 

 レジェンダリーコレクションは六種類になりつつある。

 

 

「……嫌いじゃないわ、ねえ、部屋で飾ってもいい?」

 

「へ? 飾る?」

 

「金色はセンスのお目が高い、趣味が合うのかも?」

 

 ミラージュはあんまり良い反応をされるとは思っていなかった。

 

「か、飾ってやってくれ、そいつもその方が幸せさ」

 

「あら、良いんだ?」

 

「その代わり俺みたいに扱えよ、そいつは俺でもあり俺の友達でもあるんだからな」

 

「昼休憩一時間、三食ご飯付きでどう?」

 

「よし、俺も連れて行ってくれ、実は三人のセットなんだ」

 

 

 デコイがローバの前で青い光を宿す。

 

 

『……これだけで良いわ』

 

 

 

 

 

 

 




フィギュアを持っていない奴が居たら、そいつは俺みたいにプレゼントしちまったんだろうな。もったいねえが幸せ者の結末にはお似合いだ。


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言葉遊び

 

 

 

 

 

 

 

『貴様は踊る、日はまた昇る……貴様、つまりお前は実際のところ、どうだ? 踊れそうか? あー答えるまでもねえか』

 

 ウイングマンのスカルピアサーが終わりを告げる。

 

 クルクル片手間劇場。

 

『死人に口なし君ん家十人並み。戦い方どころか死に様も似てやがる、こいつにお似合いさ』

 

「なにそれ?」

 

 レイスにとってミラージュの異常はそこまで異常と定義することではない。

 

「これか? ウイングマンだ、わかるだろ?」

 

「それじゃなくて、変なリズム」

 

 

「韻を踏むってわけだ、お前風に言うなら新パッシブ、ライムウォーク!」

 

 タラタラとサルベージでムーンウォークをしてみせる。

 

 

「ら、らいむ?」

 

「アイムライム、タイムアップ」

 

 チェケラと締めてみせるミラージュにとって、ライムとはキルボイスに似ていた。

 

「腹立たしいわ」

 

「だろ? これをAPEXゲームに提案してるんだ、各自で韻を踏んだ煽りで場を盛り上げてこうってな」

 

「そうね、もし私がするなら」

 

 今のは嘘なんだが。言うには言えない状況。

 

「……難しいわ」

 

「簡単に、直観的に考えろ」

 

 

 虚空の声が軽々しく韻を踏む。

 

『誰かに、狙われてるわ手が出せれる距離で』

 

 

「スナイパー、それを撃ち抜くファインダー」

 

 レイスは振り返って目標を指差すと二人を見守っていたパスファインダーが高台の敵を終了させる。

 

「良いリズムだね、僕にはできないや」

 

 グッと親指を立ててスコープをカメラに合わせる。

 

「俺も悪くないと思うぜ、よくやった、ところでお前が踏めないって本当か?」

 

「言葉だけなら知ってるけど、その中で適正に正しい意味で選ぶとなると、僕にはむりだねできないね」

 

 言葉で遊びたい気持ちはあるようだ。

 

「知ってるだけ偉いぞ、どうせレイスは虚空の中で韻ノートを見てたんだ、間違いない、それが本当のライムウォーク」

 

「見てはいないわ」

 

「なんだって」

 

 ミラージュは余裕があればデコイを置いてクロークを使う。

 

 

 その度に韻ノートを閲覧していた。

 

 

 パーティライフでデコイの歩きが遅い時は回復しているのではなく、韻の確認である。

 

 

「あなたこそ、韻ノートを見てるんじゃない?」

 

「そ、そ、そんなわけ!」

 

 ミラージュは必死に言葉を縫い合わせて取り繕う。

 

「悔しさ濁る目も濁る、つまり先堕つ戦闘民族性処理道具! 連勝記録を更新だ!」

 

 空き樽は音が高い。

 

「バレバレね」

 

「ミラージュがズルしてるとは思わなかったなあ」

 

「空き樽勝ちたく、卑怯な韻ノート? 悲愴感立候補」

 

 

 

『お、お、お、覚えてろ!』

 

 ミラージュは死んだ素振りをするいつものデコイを作り出すとクロークで逃げていった。

 

 

 

 

 

 




認めてやるよ、韻ノートは使った、そうだ使った。
でも全部じゃない、オリジナルだってある。
全てを偽と思うのはダメだぜ。
つまりデコイは本物だ。


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異物混入事件

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺が好きなのはジャパニーズソーバーメン、ざるでもそばでもなく、俺の近くで食われる運命、もしくはさだめ、だ』

 

『親から食事中の礼儀を学ばなかったのか?』

 

 APEXロビーのコンビニチェーンで買った惑星アースのジャパニーズ文化を嗜むミラージュ。

 

 そんな姿をレブナントは皮肉に摘んだ。

 

「学んでいたぜ! 今は学ばせてる側かもしれないが」

 

「ならば黙って食え、言葉の数だけ飯は腐る」

 

「お前は食わないだろ、良いじゃないか」

 

 ツルツル流れるそば。つゆについつい付けすぎている。

 

 

「死んだモノには敬意を払え」

 

「敬意? いつもムゴイくらい目ん玉引き抜くやつに言われるとはな」

 

「動かないモノは、等しく同等だ」

 

「そりゃお前にとって無価値も良いところだからな」

 

 ミラージュのざるそばを食べる手が止まる。

 

「な、なんじゃこりゃ!」

 

「どうした、お前にも亡霊が見えたか、はあはあ」

 

「そんなんじゃねえ!」

 

 割り箸をテーブルに叩き捨てると最悪だと言葉を漏らす。

 

「見ろ、これを!」

 

 レブナントは演技とは思えない驚きの原因を見る。

 

 空いたざるそばケースの中に這って進みそうな虫の死骸。

 

「はっはっは、言っただろうミラージュ? 動かないモノは等しい……それは周りの価値を下げるからに等しい」

 

「そ、それは分かったが! 本当は2匹居て食っちまったんじゃねえのかって、なあ!」

 

 

「食ったか食ってないかで言うと食っていない、どちらかというと何もいない方が食っている」

 

 乾いた笑い。

 

 

「おー、最高だな! 食わずに済んだことを祝してお前をボコボコにしてスクラップにしてやりてえ!」

 

「気が動転するのは分かる、と言ってやらなくもない」

 

「ああ、不愉快だ」

 

 ミラージュはソーダ飲料を流し込んで気持ちをシュワシュワリセット。

 

 

『仕返しが希望か?』

 

 細い人差し指がキシュンと尖る。

 

 レヴナントの質問。

 

 

「まさか突入するって?」

 

「まずは保健所に連絡しろ、今度はその店のサポートセンターだ」

 

「そっから銃撃戦だな、分かってる。さすが殺人マシーンだ、保険屋も知ってたか」

 

「大企業にとって保健所は悪夢に似ている、きっと多額の礼が降りるだろう……」

 

「なんだ、なんなんだ? お前変だな」

 

 

 レヴナントは生かすも殺すも自由に生きている。

 

 

「殺されることよりも辛い目は、そこに、ある」

 

 

 しかし、そのどちらもが。どれもが。

 

 

「謝罪会見のオンパレードってか? そりゃな」

 

「下がった頭の上を貫く瞬間を体験したことはあるか? 心地良いぞ、やみつきになるぞ……」

 

 

 同じ結末を辿る。

 

 

「あー、そういうことが目的だったのか」

 

「ミラージュ、お前も例外ではない」

 

「俺は自衛手段ならあるぜ」

 

 レヴナントは人差し指で赤いマフラーを撫でる。

 

 

 

 

『その異物に対する謝りは金で解決しないと知る。二度と食えないと悟る、怒る、そして知る。お前は、私を求めていると』

 

 

 

 

 そして辿る、同じ結末を。

 

 

 

 

 

 

 




実際にあった話でノーフィクションだ。


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スキンの色

 

 

 

 

 

 

 

『努力を怠るもの食うべからず! 何も知らないものは食わなかったことも忘れちまうんだ』

 

 腰を下ろしたミラージュはセンチネルを起こし、コッキング作業で弾薬を抜く。

 

 

 カチャンカチャンと浮いたアモがカランカラン。

 

 

 最後の一発を抜いたところで掛けていた指を捻り、弾薬の出口を固定する。

 

 

『ねえミラージュ』

 

「なんだレイス?」

 

「ここはあなたの部屋じゃないわ」

 

 レイスの部屋は簡素な部屋だ。

 

 ワンルームに最低限の設備と最上級のフカフカベッド。

 

「ま、そんなことはいいんだ」

 

「よくないわ……よくないでしょう?」

 

「我慢してくれ、こいつが疼いてる」

 

 ハンカチーフを抜き取って、せっせと砂汚れを拭き取って。

 

 パラパラ落ちていく汚れ。

 

「ちょっと、迷惑にも程がある」

 

「これは俺が悪い」

 

 細かな汚れをハンカチで摘み上げてまとめる素振り。

 

 休憩姿のレイスは全身水玉模様の寝巻きに白いマグカップ。

 

「そんなスキンのセンチネル、あったかしら?」

 

 レイスが横目に気づいたのは青いカラー。

 

「これか? クリアウォーターだ、クラフトメダル30で構えてもらった」

 

「金色が好きなんじゃ?」

 

「それも好きなんだが、心理効果を知らないのか」

 

「心理効果って?」

 

 

「色が及ぼすのはかっこよさだけじゃない、内なる精神に薬も毒も与えるんだ、それを心理効果と言う。馬鹿野郎、今のは怒りの心理効果を刷り込む罵詈雑言だな」

 

 

 レイスはへえって聞き流す。

 

「赤は闘争心、ピンクは優しさ、黄色とゴールデンはポジティブ。他にも効果はあるが重要じゃない、今の俺が欲しくて仕方ないのは青」

 

「青? どうして?」

 

「青は冷静の象徴で見るだけで頭が冷えていく。それだけじゃないぞ? 集中力が上がって体感時間が短く住む! これは試行回数の向上を意味するが、そんなことより前者だ、前者」

 

 センチネルのマガジンを抜いてアモをカチカチ詰めていく。

 

「いいか? 頭が冷えて冷静になれるってことはエイムがぶれなければ立ち回りもブレにくいってことなんだ、どう考えても強い、強くならない理由がない」

 

 

「……で、キルレは?」

 

「1.19」

 

「そう、ぶれてもぶれなくても関係ないエイムってことね」

 

「なんてことを言いやがる」

 

 マガジンを戻すとレバーを戻して構える。

 

「このまま撃ってやってもいいんだぜ」

 

「はいはい」

 

「ハイは一回だ」

 

「はい」

 

 レイスはミラージュの反応に分かりきった素振りを見せる。

 

「まあいいが、俺も死にたいわけじゃないからな、強くなる為にはなんでもしてやる、文句は言うんじゃないぞ!」

 

『一番はトレーニング、じゃない?』

 

 

「……なんも言えねえ」

 

 

 

 

 



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使いやすくなったができることは減った

 

 

 

 

 

 

 

 

『どれが本物に見える? 質問を変えよう、どれが本物だ?』

 

『これかしら』

 

 少し動いて止まった複数のミラージュ。

 

 バンガロールは役目を果たしたG7の髪留めを膝小僧に向けて投げた。

 

 

 実体に当たって跳ね返ったマガジンは自然に床を叩く。

 

 

『正解だ、なんで分かった?』

 

 

「足音、耳を済ませるとひとつしか聞こえない」

 

「やっぱりそうだよなあ」

 

 腕を組んでコクコク頷くここは練習場。

 

「何か問題でも?」

 

「そう、問題だ! 俺は敵の前でデコイを装って眼前で足を止めてやった、どうなったと思う?」

 

「どうせ撃たれたんでしょう?」

 

「正解だ、完璧な作戦だったんだがな、よくよく考えるとデコイから足音は出なくなってた」

 

 フッとミラージュは撃たれたことを細い息に捨てる。

 

「確かにこのデコイから足音が出てたら……あなたが敵でよかったわ」

 

「マジで異議あり、ありよりのありだ、足音は必要だったんだ」

 

「でもそんなに必要?」

 

「近距離で騙すから強いんだぜ、こいつは、なのに判断基準を置いてどうなる?」

 

 バンガロールが適当に頷いて言葉を返す。

 

「……銃声の中なら足音なんて判断に入らないから、足音の必要性は限定的じゃない?」

 

「おいおい、ワールズエッジのミラージュボヤージュを知らないわけじゃないだろ? そこで船の真下から雪をキュッキュッて踏み砕く、そんな足音をひとつまみ。あとは俺がジップラインを駆け上がって先制攻撃ができないんだぞ!」

 

「それの何が強いの?」

 

「一人の時と二人の時で対応を変えるのが連携戦術だ、一人の時に二人と少しでも思わせれる隙は三タテ、二タテの要因になる、デュオモードならそのままと同等ってことなる、ならないか?」

 

 さあ?って雰囲気のジェスチャー。

 

「デコイみたいな反応はやめてくれ、寂しがりなんだ」

 

 

「そもそも決定力がある強さってことならスモークランチャーを貸してあげる」

 

「それはノーだろ、どう考えても」

 

「根本的にあなたの能力は限定的すぎる、物理的な影響を生じれない時点で論議できない、これが戦争なら使うなって命令するわ」

 

「そんなこと言われたって、これで飯を食うつもりなんだぞ?」

 

 ミラージュの職業はアーティスト。

 

 戦場コンサートを本気で信じている。

 

 

「どうやって何を食べれるって?」

 

「例えばこのホログラムは背負ってる武器を再現しているが、手に取った石も再現可能だな、それでホログラムの棒風船を捻ると子供のウケが良い」

 

「ああ……戦場で食べていくとかじゃないの」

 

「戦場で食べれるのは注射器だけだろ?」

 

 冗談はやめてくれと手を仰ぐミラージュ。

 

 

『それは私のセリフ』

 

 

 

 

 

 




足音の使い方を何度も議論した、その必要はなくなった。
新しい方向性は手に入ったがそれはエンターテイメント性であって強さじゃない。
fpsの根底を揺るがしかねない強さはファントムのように一見ないようであったが、それすらも失われている。
デコイを行かせる?それはもう違う。
今から俺がデコイとして、主役の為にパーティを開く。


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サイレンス・フィクション

 

 

 

 

 

『お前と貴様、貴様と私、僕と君、それともワタシトワタシカ? お望みか?』

 

 誰もがたじろぐレヴナントの無機質な声が近づく。

 

『だ、だまれ!』

 

「黙れ? ミラージュが言うなら黙ってやろう、そうしてやろう、そうしよう」

 

 左手の平を射出機のように機械的に広げると真上に赤い影を飛ばす。

 

「バグってんのかよ」

 

「逃げてもいい」

 

「は、ははっ、お前に……足を落とされたせいで動かないぜ」

 

「レイスは何処にいる? 答えないとさもなくは」

 

『悪魔め、死ぬ時を待ってた! 殺さなかったらさもなくは』

 

 

 レヴナントが細い手で図太い精神を刺す。

 

 

 中からホタルにも似た光のさじ加減。

 

 

 

 ミラージュが支柱の裏からレヴナントの真横に不意を打つ。

 

 

 

『俺がお前をぶっ壊してやる!』

 

 コントラバスに似た声を引きずって複数のデコイを展開する。

 

「これか? これか? ミラージュ」

 

 デコイに向かって片手間の機関銃が唾を吐く。

 

 ビリビリと電子音を残して光が四散する。

 

「本物はここさ、騙して悪いが」

 

「うるさい、武器無し」

 

 レヴナントは本格的に狙おうと全身を傾ける。

 

 

『それはさせない!』

 

 その背後をレイスは羽交い締めで捉える。

 

 

「ふん、その程度で何ができる? 女は武器がなければ弱い」

 

「なくてもあなたは殺せる!」

 

 レイスの左手から何かを引き絞る高い音。

 

『虚空へ、連れて行ってあげるわ』

 

 黒いオーラが電気のように立ち昇る。

 

「よし! これでレヴナントは終わりだな!」

 

 

『黙れ』

 

 

 ドンッと赤いオーラが一つだけ降り注ぐ。渦巻くように二人を包み込んだ。

 

 

「あ、アビリティが使えない!」

 

「謝れるなら許してやろう……」

 

 緩んだ隙をついてレイスを背負い投げると右足で踏んでミラージュに威嚇射撃を繰り出す。

 

「ぐっ……」

 

「おいおい、まじかよ」

 

「ミラージュ、打開策はあるわ、多分、きっと」

 

 

 レヴナントは真下にサイレンスデバイスを叩きつけた。

 

「あああっ! 耳が、狂うっ!」

 

『黙れ、タンパク質』

 

 両耳を抑えてサイレンスに苦しむレイス。

 

 

「な、なあ? そうだ、こうしよう、示談でどうだ?」

 

「する必要もあるまい」

 

「いや、聞いた方がいい、お前は死ぬような目に遭うからなあ、ははは」

 

「してみろ」

 

 ダラダラと続くスピットファイアが弾を切らす。

 

「こんなもの、もう不要だ」

 

 煙を銃身に宿す機関銃は無残に床へ叩きつけられた。

 

 大きな音が一回。別れたマガジンが飛び跳ねる。

 

「さっきの話は無しだ、話だけにナシ、そう、俺は勝って終わる」

 

 無機質な狭い空間に鉄を弾く高音。

 

「グレネード、か」

 

 

 足されたサイレンスデバイスはまたレイスを唸らせる。

 

『死んじまえ、悪夢め』

 

 投げられたグレネードをレヴナントは左手で受け取る。

 

 

 

『……私が死ぬとでも思っているのか?』

 

 右手にミラージュの白い未来を宿す。

 

 

 

 頭蓋骨はガコンと崩れ。

 

 散る、残る、握る拳。

 

 

 

 

『それは小さな間違いに過ぎない』

 

 

 

 

 レヴナントの全身が錆びた赤鉄のように影った。

 

 

 

 

 

 

『お前には、大きな間違いだと教えてやろう』

 

 

 

 

 

 



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お兄ちゃんって呼んでもいい?

 

 

 

 

 

 

 

『グレネードだ、気をつけろ』

 

 レヴナントはパスファインダーに投げ物を知らせる。

 

『うん、分かった』

 

 その次はアイテムのシェア。

 

『ボディシールドを発見、レベル3だ』

 

『良いの?』

 

『私を他の生物と一緒にするな』

 

『ありがとう! お兄ちゃんって呼んでもいい?』

 

 ディスプレイが桃色に光る。

 

 

『勝手にしろ』

 

 パスファインダーは、レヴナントから執拗に追いかける術などを学んだ。

 

 

「お兄ちゃん! また来たよ!」

 

「帰れ鉄クズ」

 

「僕は帰らないよ、帰り道を忘れちゃったからね」

 

「帰ってくれ……」

 

「今日はオクタンからすごろくを借りてきたんだ!」

 

 レブナントにとって賽の目は問わない。

 

 

「3だから、……どうしよう、3億ドルの借金だって! ゴール目前なのに!」

 

「はあ、私がそれを受けよう」

 

「やったあ! じゃあゴールしたらそのお金で僕が払うね!」

 

 すごろくが終われば人生ゲーム、それが終わればAPEXゲーム。

 

 

 戦場の真ん中でレブナントはミラージュに頼み込んだ。

 

「ミラージュ、話がある」

 

 

『なんだ? 言っておくが促進剤は譲らないからな』

 

「それは寄越せ」

 

 レヴナントはそんなことを話に来たわけじゃないと(さと)す。

 

 

「パスファインダーは知っているだろう?」

 

「ああ、お前の後ろにいるな」

 

「この距離感をどうにかしてくれ、借りを返せ」

 

「じゃあ促進剤を返しやがれ」

 

 当の本人は特に気にしない様子。

 

「何が嫌なんだ? あいつは優しい」

 

「興味もない退屈を誘ってくる、それが堪らなく、不愉快だ」

 

「それはお前がおかしい、あいつと楽しめないなんてな」

 

「楽しむ価値はない」

 

 レヴナントは振り返りもせずに後ろへサイレンスデバイスを投げつける。

 

「わっ! びっくりしたなあ、お兄ちゃん酷いよ!」

 

「ストックはもう一つある」

 

 ミラージュがやめろと手を下げさせる。

 

 

「かわいいじゃないか、なあ? 少なくとも俺よりはかわいい、だろ?」

 

「女でもかわいいと思ったことはない」

 

「それは狂ってる、お前が」

 

「甘いチョコの先にシロップを掛けたことはあるか? 今はそれによく似ている」

 

「俺も胸焼けしているよ、特にお前で」

 

 パスファインダーはディスプレイを暗く光らせてミラージュにSOS。

 

 

「お前が残虐な性格にカテゴライズされてるのは分かるが、ロボットはお前と後ろだけなんだ」

 

「私は人間だ」

 

「いや? ロボットの端くれ、似た物同士だぞ? どれも中身を人間だと思ってやがる、仕方なく人間やってる俺より、人間になりたいってやつほど人間っぽいぜ」

 

「そうなのか、鉄クズ?」

 

 レヴナントが振り返る。赤いマフラーが砂混じりの黄色を吐く。

 

 

『僕も人間になることができるってお話? それなら、なってみたいかな』

 

『探しているご主人様にでも、頼めばどうだ?』

 

『手伝ってくれる?』

 

 

『手始めに、今日を生き延びよう』

 

 

 指先がトーテムを大地から引きずり起こす。

 

 

 両手のひらを上に向け、指先を握るように手繰り寄せた。

 

 

 

『デストーテム』

 

 

 

 

 



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ブロス『ふぅん?』

 

 

 

 

 

 

 

『ミラージュ、朝食は取ったか? 狩人は手始めに栄養を奪うところから始まる』

 

「俺は狩人じゃないんだが……まあ、食ったよ」

 

 ブラッドハウンドは腕を組んでミラージュを見つめ、左手首のデバイスに指を添える。

 

「な、なんだ?」

 

 

 カチリと鳴る。全能の目が周囲をリサーチ。

 

 

「おいおい、ここは戦場でもなければただの通路だ」

 

「ふぅん?」

 

「だるいことこの上ないな」

 

 

『神から真実を拝聴した、その胃には何も入っていない』

 

 人差し指が告げる真実。

 

 

「げ、そんなことのために全能の目を使いやがったのか」

 

「なぜ食べない? なぜ嘘をつく?」

 

「明日の敵かもしれないやつに弱みは見せたくないに決まってる」

 

「どうやって朝食につけ込めばお前を殺せる?」

 

 特に思いつかないミラージュは黙る。

 

「ではこれを後で食せ」

 

 桃色の布に包まれた二段の弁当箱。

 

「や、やめとく」

 

「なぜ?」

 

「狩人の弁当といえば、虫をメインに入れてそうだろ? 実際、虫を追いかけてるところを見たことがある」

 

「これは私が食べる分ではない、それでも嫌う食材があるなら手をつけなければいい」

 

 弁当をミラージュに押し付けるとブラッドハウンドは立ち去っていった。

 

「虫は食ってるのか……」

 

 残すのも良くない。ということで物思いにふけるレイスの隣に座って弁当をお開きしてみるミラージュ。

 

 

 

『なんで隣なの?』

 

「なんとなく」

 

 イートインにも似たスペースは顔見知りが多い。

 

「……弁当?」

 

「ああ、ブラッドハウンドがくれたんだ」

 

「へえ」

 

 弁当の内容は一般的なチョイス。

 

「おお、一段目が日の丸とは、和を分かってるな」

 

「食べる人には和の欠片もないけれど」

 

「こういうのは気持ちの問題だ、多分」

 

 ミラージュは一口で意外な弁当のポテンシャルを悟る。

 

「あいつは女子力が高いんだな、かなり美味くてとても……美味い」

 

 ピッと親指を立てて話を盛る。

 

 

「でしょうね」

 

「感想がこれ以上浮かばないんだ、食レポってやつをしてやりたいんだが、難しいな」

 

「白米しか食べてないのにそれ以上浮かぶわけないじゃない」

 

「それもそうだな……」

 

 二段目のおかずのミラージュ好みにできていた。

 

「ああ、美味(うま)い、めちゃくちゃおいしくて、美味(びみ)で、素材の旨みが生きてる」

 

「全部うまいって意味しかないんだけど」

 

「つまり、そういうことなんだ」

 

「あなたが下手ってことね」

 

「否定はしない」

 

 ぱくぱく食べ終えたミラージュは満足そうに弁当を組み立てる。

 

 

「ブラッドハウンドって、こんなの食べるかしら」

 

「こんなのだって?」

 

「戦闘の後、捕まえたバッタをポケットに収める人なのに」

 

「ほ、本当にそんなやつだったのか」

 

 ミラージュはポケットの中身を想像して震える。

 

「本人は何か言ってなかったの?」

 

「私が食べる分ではない〜とか言ってた」

 

 

「ああ! 良かったじゃない!」

 

 レイスの手がミラージュの肩をパンッと叩く。

 

 

「な、なにがだ?」

 

 

 

 

 

 



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ノックス『これだけは言える……』

 

 

 

 コースティック。アレキサンダーノックス科学者。

 

『これだけは言える……』

 

 賢ければドロップシップから出ないが、今にも飛び降りそうなコースティックは誰よりも賢いと言える。

 

『誰かが、死ぬ――』

 

 なぜなら、戦場を実験だと捉えているからである。

 

 

「……そ、そりゃな」

 

 沈黙を割いたのはミラージュ。

 

 

『それはどういう意味だ?』

 

 クリプトはコースティックの意図を探ろうとする。

 

 

「物事にリバーシブルなど存在しない、シンプルに考えて60人中、57人は確実に死を見るだろう」

 

 クリプトは内心『そりゃあ、そうだろうな』って思いつつ、シンプルに言葉を返す。

 

「なあ、アレク」

 

「どうした」

 

「パンを食った人間は、150年以内に死んでしまうらしい」

 

「お前が私に言った物事は真実味を帯びているな」

 

 

 クリプトは口元を抑えて背を向ける。 

 

「み、みら、ミラージュ、後は、たの、んだ」

 

 肩がプルプル震える。

 

 

「お、俺か? 何を頼んでるんだ?」

 

 手だけを振ってジェスチャーでミラージュに託す。

 

「まあいいが、パンを食った人間が150年以内に死ぬのは当たり前だぞ?」

 

「なぜそう言える?」

 

「よく考えろ、人間は100歳で死ぬのが大半、そりゃあ何食っても150年以内に死ぬわけさ」

 

「それは盲点だった」

 

「ひょっとして、俺はじじいと戦場を共にしちまうのか……?」

 

 ミラージュはクリプトを見て負けを覚悟する。

 

 

「私はじじいではない、時事で判断するな」

 

「言っておくが上手くないぞ」

 

「私は常に検証と結果を求める、故に自然の摂理を答えに含む前に結果を探る」

 

「なんだそりゃあ、屁理屈か?」

 

「私は考える前に行動しているということだ」

 

 結局屁理屈じゃないか。ミラージュは我慢することにした。

 

 

「……ここに降りよう、展望だ」

 

「俺はそれでいいが」

 

 クリプトも特に意義はないみたいだった。

 

「急速に迫る死がもっとも生を実感する」

 

 そう言ってジャンプマスターコースティックは展望へ向けて飛び降りる。

 

 併走するミラージュはちょっといいかと口を挟んだ。

 

「臆するなら、それも賢い」

 

「そんなに死が迫ってるか?」

 

「ランクマッチでのポイント減少は死を意味する」

 

 

『そうじゃなくてだな、その、言い難いんだが、展望の周りには誰も降りてねえ』

 

 

「……そう、だな」

 

 それから物資を揃えて最終範囲。

 

 一室に三人で篭っていると全能の目で検知されてしまった。

 

「やべえ! ガストラップがバレちまった!」

 

「俺のドローンはまだ使えない、詰めてくるのは、妥当だろう」

 

「よく冷静で居られるよなアホプト! くそ、相手に釣られてドローンデートなんてしたからだ」

 

「売られた喧嘩は常に買って、手堅く売りさばく」

 

 手元のダイスデバイスを転がしたクリプト。天井を見上げてポツリ。

 

 

 

「……ひょっとして、それを俺に売ってもらうことはできないか?」

 

「お前の為に用意したチューニングホログラムはこの戦いを切り抜けれる、わけがないだろう? これを切り抜けれるならもっとまともな戦い方をしている」

 

「そこは(おご)ってくれ、士気が下がる」

 

「ミラージュ、そのデコイは飾りか? 必要ないなら後ろから破壊してやってもいい」

 

「喧嘩は(おご)るな」

 

「おいおっさん」

 

「怒るぞ」

 

 足音が聞こえてきそうな空気。

 

 

 

「……私は、狡猾に生きているつもりだ」

 

 コースティックはガストラップを回収すると同じ場所へ置き直す。

 

「お、おい、なにしてる? 遺品整理なら後にしてくれ」

 

「スキャンされた罠を回収することで、アドバンテージの喪失を最小限にしている」

 

 

 

「同じ場所に置いたら意味ないだろ……?」

 

 

 

 結果、チャンピオンに繋がった。

 

 

 

 

 

 



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ドクタードローン

 

 

 

 

 

 

 

『ドクター? 大丈夫?』

 

『こいつがどうかしたのか? くたばった亀みたいにフラフラしてるぜ、大丈夫なわけがない』

 

『そんなに悪く言わないで、シルバ』

 

 ライフラインとオクタン。二人はドクターと呼ばれるヒールドローンの不安定感に首を傾げていた。

 

「元気はなさそうだぞ?」

 

 なんとなく緑を帯びた青い光量は少ない。なんとなく、回復力が低い。なんとなく。

 

 

「なんでー?」

 

「どうせ弟とか言ってドローンを二つ目用意したのが原因だ」

 

「よ、用意してないんだけど!?」

 

「じゃあ聞くぞ、こいつが俺を起こしてくれている間に別のこいつを出しただろ」

 

 言葉を詰まらせるライフライン。

 

 うるさいロビーの中で一際うるさい空間にミラージュは近づいた。

 

『弟が、できたのか?』

 

「らしいぞ、アミーゴ」

 

 顎髭を撫でつつ、聞き耳の内容を纏める。

 

 

「で、できてないってば」

 

「姉貴、嘘は良くないぞ」

 

 

 ミラージュはそうだぞとオクタンの片棒を担ぐ。

 

「隠し子を隠したがるのは分かるが、それがメタファーってもんだ」

 

 

「…………あー、何言ってるんだ?」

 

「今のはナシ、話だけにそれハ、ナシ。はは」

 

「そんなことより、調子が悪いのは問題しかない、俺の回復が遅くなる、俺は遅いのが嫌いなんだ」

 

 それぞれがドローンに触れても特に思い浮かぶことはない。

 

「このままは嫌だな、こいつは置いて弟を連れていこう」

 

「これしかないんだって!」

 

「姉貴は頑固だなあ」

 

 ふと思い出したことをミラージュは口に出す。

 

 

「クリプトがドローンのチューブに端末を刺してたぞ? 関係あるかは分からねえ」

 

「それだろアミーゴ……」

 

「それかもしれないな」

 

「違うのかアミーゴ?」

 

「違うかもしれないな」

 

 

「オーマイゴー」

 

 両手を広げて驚いた様子を作るオクタン。

 

「……ふう、よし、クリプトに話を聞きに行こう?」

 

 

「あいつは次の戦いでスタンバイ中だから、待たないと行けないはずだ」

 

「飛び入り参加だな! 姉貴はドローンを慰めとくんだぞ!」

 

 ミラージュの肩を掴んで前へ前へ押し進む。

 

「止まったらカツオみたいにくだばりそうなんだ、分かるだろ!」

 

「会いに行けるといいが……」

 

 それからクリプトのマッチに足を踏み込んだ二人。

 

 

『前回のチャンピオンです』

 

『奴らより先に、俺に見つかるよう望むんだな』

 

 

 二人もそれを望んでいる。

 

「全員倒せばクリプトに会えるな!」

 

「クリプトがくたばったらどうするんだ」

 

「俺は速い! だから殺しちまっても追いついて話しかけちまえば何も問題ない」

 

 手を引かれてミラージュはドロップシップを飛び降りた。

 

 

 ワールズエッジのハーベスターでアイテムを揃えた二人はクリプトを探しに向かう。

 

「そう言えば俺達は二人なのか」

 

「いても追いつけない」

 

「かもしれないが……不安だな」

 

 しばらくして仕分け工場にクリプトが居ることを突き止めた二人は大きな建物に入ってキルリーダーを見つける。

 

「おお、クリプトだな!」

 

「まずはデコイで予想した方がいい」

 

 ミラージュはデコイを送り込み、声を出す。

 

 

「クリプト! 後ろを見ろ!!」

 

 声に気づいたクリプトが振り返る。

 

「なんてな、変な顔するのは何回目だ? 正解は九回目」

 

 手を振るデコイに一発の弾丸が吹き抜けた。

 

「……あー、危なかったな、オクタン? あーなってたかもしれねえ」

 

「あのさ、言わせてもらうけどよ、俺でも撃つ」

 

「そうか?」

 

「本人が出てきても滅多打ちしてやりたくなる」

 

 クリプトもそういう状態だった。

 

 

「拳で押さえ込んで尋問でもするか?」

 

「それしかないぞ、ミラージュ」

 

「わ、悪かった、俺がクリプトを仕留める、そんな目で見るんじゃない」

 

 

 ミラージュはクリプトに真剣勝負を挑むことにした。

 

 

『デコイの出番だ!』

 

 

 

 

 

 




新シーズンが楽しみだ。


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APEXの面白い所、そして面白いところ

 

 

 

 

『APEXのバージョンアップについては?』

 

『賛成だ、変わらぬ日々より巡りめく日々の方が退屈はしない』

 

『それは俺も、だ』

 

 ガストラップから立ち上がったミラージュはドアの隙間から外を見た。

 

『進化アーマー常備については?』

 

『答えるまでもあるか?』

 

『だよな、分かってる、最高だ。アーマー運に左右されない戦いは俺にとっては神の賜物だがお前にとっては地獄の宴となる』

 

 人差し指の先ででコースティックを示すと垂れた髪をホイップクリームの包みのようにやんわり触れる。

 

「進化式について文句はないのだが、175の体力が平均化しているのは賛否が複数」

 

 

「ディボーションとヘムロックが問題視されてるだけで、賛しかないはずだぞ? 99環境なら誰も文句ねえ」

 

「逆に聞くがミラージュ、ボルトを使ったことはあるか?」

 

「ショットガンボルトのことか?」

 

 違うと言われたミラージュは「ああ」と言い直す。

 

「ディボの陰に隠れがちだがR-99の上位互換だ、そしてディボより強い、間違いない」

 

 

「……正気か?」

 

「小回りが聞くからな、適正距離の長さ、遮蔽物、それを活かせば良い、それを分かってるやつが握るディボは怖いが、根本的にアレを使う奴の実力はお察し、だろ」

 

「強い武器を強い人間が使うというのはよくある事ではないか?」

 

「いや、ディボよりボルトの方がDPSは高い、なぜならディボは全部当たるわけじゃないからな!」

 

 つまりは当たったら死ぬ。

 

「それはボルトもそうだ」

 

 

「じゃあアンケートをしようじゃないか、ディボーションとボルトSMG、どっちが強いかをな!」

 

 

「ターボチャージャーはどうする」

 

「なしに決まってるだろ! あったら後撃ちでもデュドドドってアナーキーなチーズに転職、そして天職」

 

「一定の強さは認めているようだな」

 

「当然だ」

 

 コースティックの体格では何を撃たれても変わらない。

 

 死ぬ速さしか変わらない。

 

「まあ! 俺のデコイならディボーションを惑わすことができるんだがな!」

 

「ナーフされるまで待つ方が賢い」

 

「それはそうだが、現状、俺を採用するのも悪くないと思うぜ」

 

「もし私がディボーションに勝つなら、ジブラルタルのガンシールドとディボーションを持つだろう」

 

 ミラージュは物理的に勝てないことを悟った。

 

 

「立ち回りの欠片もなくて呆れる」

 

「飛び出て敵を仕留めることが楽しいのだろう」

 

「それは楽しいが、それで死ぬのは不快だ」

 

 やるせない現状を手のひらに握り込む。

 

 

「今度、ディボーションに勝つ方法を聞いてくるか」

 

 

「武器に詳しい人間、バンガロールか?」

 

 

 

『違う、ランパートだ』

 

 

 

 

 

 




聞こえた、来てみた、怖かった! 俺はパーティーピーポーじゃないってことが分かった、インドアよりもアウトなドアを探してる。
ひとまず言えることはタイタンフォールはマジな呪いってことだ。
ディスラプターの時もそうだが、APEXがタイタンフォールに近づくその度に評価が落ち、タイタンフォールから離れる度に評価を増す。
新キャラクターのアビリティで落ちる理由もタイタンフォール由来のスクリプト。パンドラフォールを開いちまったか!?
嘘だ。ところで雑にローバが強いな。


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ランパート

逆転するかもしれないが、ディボーションとボルトは拮抗する形でディボーションの勝利だった。意外だった。
それを元にランパートはいいことを少しだけ教えてくれるらしい!


 

 

 

 

『パリーク、いつもの前にいつものことをするぞ、何も持ってきてないよな、追われてない、よなあ?』

 

 ミラージュはカウンターでキュッキュとコップを拭きながら、前も見ないで足音に話しかける。

 

『トウゼン! シラフなのが見て分からないのかい?』

 

 ラムヤ・パリークはサイドテールを結った改造職人。

 

 借金と犯罪の数だけスキルを売り捌いてはミラージュの酒で自身をチューニングしていた。

 

「シラフに知らん振りってか? シーラを持ってきやがって」

 

「いいだろー? それくらい」

 

 シーラと呼んだ重火器を椅子に座らせるとカウンターテーブルに直接、腰を下ろして酒をねだる。

 

 

「武器の方が行儀が良いってどういうことなんだ?」

 

 

「払うからさ、頼む〜」

 

「まあなんでもいいが……」

 

「さっすがウィット! 最高に最高の最高!」

 

「へいへい」

 

 とはいえ収入源をムゲにはできない。

 

「まずコップ、そして酒だ、勝手に入れて飲んでくれ」

 

 さっきまで拭いていたコップを立てて人差し指で押し出す。

 

「じゃあアレ取って」

 

 パリークの指した酒瓶をドンッとカウンターに置く。

 

「楽しんでくれ」

 

「うわ、もうウィットが二人に見えてきた」

 

「それは本当の出来事だぞ」

 

 トクトク注いでゴクゴク流すパリークの飲みっぷり。

 

「お前も飲めよー」

 

「また始まったな……」

 

「どうせアタシが払うんだからさ!」

 

 ミラージュは適当にパリークの飲みかけに口を付ける。

 

「そう言えばギアヘッド、聞いてもいいか?」

 

「ギアヘッドじゃないけど、割引してくれるなら答えてもー」

 

「どうせ割り引いてもその分飲むだろうからな、割ってやる」

 

「よし! なんでも答えてやるよ!」

 

 

 パリークはコップの前にミラージュの質問に傾ける。

 

 

『ディボーションに勝つ方法って何がある? こういうのは大得意なやつに聞くのが正解だからな』

 

 

「あのLMGが強い? 正気?」

 

「強いだろ」

 

「正気だったのかー?」

 

 残念そうな声。

 

「チョベリグ・オブ・ザ・リグの大正解! 言わせてくれてセンキューベリベリまにまに!」

 

「狂ってるねー!」

 

「はっは、そうだろ? ディボーションみたいにな」

 

 ミラージュに頷いて質問にパリークは答える。

 

 

「アレの特徴は最初の弱さと後半の強さでメリハリをつけてる」

 

「そうだな」

 

「つまり、撃たせるほど相手は苦境に落ちちゃうんだよ」

 

「そうなのか?」

 

「残り20発しかないディボーションは誰も好まないだろー? アタシも使いたくないね」

 

 10発のフルレートで仕留めれるとはミラージュも思えなかった。

 

「それはそうだ」

 

「だから勝つなら最初に撃たせちゃえばいいんだよ、射撃を誘う。あれはLMGだけどスピットファイアじゃないからね」

 

「ターボチャージャーが付いてたらどうするんだ?」

 

「諦めなー、もし勝てたらデスボックスに銃痕つけたらいいよ」

 

「ああ、そうする。それに勝てうる武器も教えて欲しいな、相棒を起こすためにな」

 

 パリークの手がツマミに伸びる。

 

「自慢じゃないが、俺はプラウラーも得意なんだ」

 

「それよりもボルトかなー」

 

「ど、どうしてだ?」

 

「ボルトならディボーションを威嚇しつつ、リロードしないで倒す隙を探せるしリロード自体も快適、プラウラーはリロードした時にチャンスを逃しやすい」

 

 なるほど。ミラージュは静かに頷いた。

 

 

 

『そんなことより、ウィットはアタシのこと好き?』

 

 

 

「……えっ? あ、あぁ?」

 

「好きじゃないんだ、そうだったんだなあ、ウィット」

 

『す、好きさ! 大好きさ! 月とスッポンなら、月を愛する、そうだろ!? ギアヘッドとアジャイなら、そりゃギアヘッドだぜ!』

 

 パリークが喜びそうなことをシラフに並べ立てていく。

 

「そ、そうなのかウィット……? 突然の告白は泥酔でもキモがられるぞ?」

 

 

 

 髭に手を広げて周りをキョロキョロ見るミラージュ。頭の上に両手のひらを伸ばして長耳のように揺らす。

 

『う、ウッソピョーン! 俺が20代のギアヘッドを好きなわけがねえ! 本当に好きの合格ラインは三十代だからな! 泥酔でも過ちなんて犯すわけないだろ!』

 

 

 

『そうなのかウィット!?』

 

「え? まあ、酔ってるってのは嘘だが、三十代の方が好きだな」

 

「うおおおお!」

 

 パリークはシーラをテーブルに叩きつけた!

 

「ま、まてまてまて! 酔い過ぎだ!」

 

 

『風穴開けて綺麗な月でも拝もうよ?』

 

 

 直前でカウンターに3脚を杭打って自立したシーラはパリークの重みで銃口を上に向ける。

 

 

「頑張れシーラちゃん!」

 

 

 

「やめるんだ、パリーク! いや、シーラ!」

 

 

 

 キュインと回る音と共に、連続的に強い光が吹き出した。

 

 

 

 

 

 




俺がランパートと話す時に狂ってるように見えるのは正解だが、狂ってないかもしれない理由はこの中にあるのかもしれないんだぜ。


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すれ違い通信

 

 

 

 

 

 

 ミラージュは二画面のゲーム機を畳んでAPEXの自由で有益なエリアを踏み歩いていた。ゲームショップにも似た赤く硬いカーペットをただただ、ただただ、ただただ。

 

 ひた進んで様々なレジェンドとすれ違う。

 

『よお、ブラザー』

 

『アミーゴが欲しいアミーボはなんだ? 俺は、いや、なかったことにしてくれ』

 

『あなたも数奇の虚空に飛んでごらんなさい』

 

『おじさん、このランパート様と飲みに、あ、行かないんだ』

 

『おっさ……ウィット! ブラッドハウンドに聞かれたら俺は向こうに行ったって言ってくれ!』

 

『同志、クリプトは、ほう? 我が名はブロスフゥンダル!』

 

 最後にレヴナントとすれ違う。

 

「私の顔に、なにか付いているのか? それとも、憑いているのか?」

 

「皮膚もついてないくせに」

 

「その通りだ」

 

 ミラージュはひとしきり歩くと途中で壁に酔いながらゲーム機を開いた。

 

 

「さすがにないだろ」

 

 すれ違った回数を思い浮かべながらゲーム機を直視する。

 

「す、すれ違ってるだと!」

 

 ミラージュは周りを見て急いでゲーム機を閉じた。

 

 誰だ? 誰がこんな古いゲームをやってる?

 

 しかし、もうレジェンドは通ってこない。

 

 

 

 次の日、ミラージュはAPEXロビーのど真ん中に居座った。

 

 ゲーム機を閉じて静かに待っているとレブナントがやってきた。

 

「それは……dsか?」

 

「そうだぞ」

 

「懐かしい、とても懐かしい記憶が薄れていく」

 

「そんなに思い出が?」

 

「人肌の温もりを人肌で感じていた時はあった……」

 

 ミラージュはDSに三の数字を足した次世代機を開きながら真実を確かめる。

 

「ドラクエ……」

 

「しかも九番目だ」

 

「配信クエストを探す為に中古のソフトを片っ端開いて探しに探し……オホン、そんなプラクズが面白いのか?」

 

「遅い、挽回も遅いしお前のds事情はもっと遅い」

 

 すれ違ったユーザーはレブナントだったのかもしれない。

 

「遅い? 私がか?」

 

「WiFiコネクションは確かに終わったが、有志がコネクションのサーバーを置いてくれてるんだ、それにアクセスすれば配信クエストと部屋の勇者が手に入る」

 

「そうだったのかミラージュ! 久々に始めてやろう」

 

「まて、昨日からやってるんじゃないのか?」

 

 

「やっていない、全てのソースコードは雇い主に招集されてしまった」

 

 配信クエストがないドラクエはただのフライヤーだと言うレブナント。

 

 

「じゃあ誰なんだ」

 

「昨日の闊歩は……」

 

「そうだ、その時に酒場にキャラが来て、確かめるために今日はここで吟味してる」

 

 しかしすれ違わない。

 

「女子会のテーマはすれ違い通信にしよう」

 

「そこはソースコードだろ」

 

「誰がドラクエをしているか分からないのだろう?」

 

 

 

 レブナントは小さく背を向ける。

 

 

『だったら全員がドラクエを始めたらいい』

 

 

 

 死にたいんじゃないのかよとミラージュは思った。

 

 

 

 

 

 

 




冒険の旅+冒険の旅+冒険の旅


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クリプちゃん

 

 

 

 

 

 

『ダウンした!』

 

 

 ミラージュのそんな声から始まる戦場。

 

 リパルサーの頂点から撃っていたAPEX状態は崩壊しつつある。

 

 一人が誰かのノックでダウンした今、ジップラインを差し込まれていた。

 

 

『おっさん……』

 

 クリプトは背中のドローンを抜き投げ、ダイスデバイスを横に広げて操る。

 

 

『EMPプロトコルを』

 

『それはしないで、クリプト』

 

『実行――』

 

『しないで!』

 

 

 青白い光のドームが拡大しながら進行する。

 

 

 ドンッ。

 

 

 一発の銃弾がそれを掻き消した。

 

 

『お、おい! 正気か!』

 

 ワットソンのセンチネルは事実を煙に巻く。

 

『あなたに頼る方が、正気じゃない』

 

 武器を置いたワットソンは転がったミラージュをバチバチ叩き起した。

 

「た、助かった、のか……?」

 

 失敗したとはいえ、EMPの前に蜘蛛の子を散らすことはできたようだった。

 

 

「ちょ、チョベリグ?」

 

 沈黙の空間に親指を立ててみたミラージュ。

 

 

「ドゥリアン」

 

「クリプトのEMPも良かった! 良かったぞ! な!」

 

 蝶ネクタイを閉めるようにシールドセルを回しながら、精一杯のフェニックスキットを演じる。

 

「そうか……」

 

 クリプトはデバイスをサイコロに戻してポケットに転がす。

 

 何か言ってきそうなわけでもない。

 

「ど、どうしちまったんだ、変だぞ?」

 

「……」

 

「無視するな、答えてくれ? クリプちゃーん?」

 

「それはやめろ」

 

 

 いつの間にか元通りのドローンソードが背中から手元へ。

 

 ミラージュの顎先に突きつけられる。

 

 

「向かうところ敵無しって感じだな? 後ろに敵を作ったんだ、前に居るわけがねえ」

 

 

 

『作ったんじゃない! 作られた、()められた、(おとし)められた!』

 

 

 

 ドローンを横に振って手放す。白い刃が背中の鞘に逃げる。

 

 

 珍しく言葉を荒らげるクリプト。

 

 

 それでも八つ当たりをしないのは賢者の知性。

 

 

「お前らに何があったんだ」

 

「話す意味がない、誰も信じやしないからな」

 

 クリプトは後ずさりながらワットソンを横切る。

 

 それでもワットソンの視線だけは横切れない。

 

 

 

『凝り固まった評判(カオ)が変えられるなら、俺はここに居ないだろう。』

 

 

 

 そう言ってリパルサーの頂点を降りるクリプト。

 

「さっさとしろ、今だけはリング外に居たくない」

 

「ワットソンちゃーん、聞いてたか?」

 

 ミラージュは彼女の背中を叩いて前進を促す。

 

「まあ、そうね……」

 

「アイツに従うのは嫌なのは分かる、俺も嫌だからな!」

 

「でもついていけるなら嫌じゃないでしょ?」

 

「それはない、ただ、なんて言うか、そう、偶然。俺もそう思ってたんだが、あいつの方が一口……一足早かった、だから従ったとは言わせない」

 

「うーん」

 

「とにかく進め、それがアドバイスってもんだ」

 

 

 ミラージュに、従うことにした。

 

「決めたわ!」

 

「その調子だ!」

 

「私もそう思ってたの! ミラージュより早く!」

 

「よし……えっ?」

 

 

『行きましょ、早くして』

 

 

 ワットソンはミラージュを従わせたことにした。

 

 

 

 

 

 




どの武器が現在強いかアンケート結果。
ディボ171
ボルト155
プラウラー49

スプリットが変わる、その前にアンケートも変える。


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ガスガスハンマー

 

 

 

 

 

 

 

『居るのは分かってるぜ? アルティメットフィギュアで勝負したいやつが!』

 

 ミラージュは間欠泉の最終エリア直前エリアでブンブンフィギュアを振るう。

 

 足元からはポロポロ医療キットやバッテリー、ウイングマンとウイングマンが落ちていく。

 

 チャポチャポ水が跳ねる。

 

 

『ほう、格闘を所望しているのか、望み通りにしてやろう』

 

 コースティックの声。

 

 

『偏屈爺さんの拳に負けるわけが』

 

 振り返ったミラージュは片手に宿る武器に後ずさる。

 

『ハンマーだと……』

 

 タンッタンッと左手が触れる度に持ち手の延べ棒が音を立てる。

 

「そうだが、何か問題はあるかね?」

 

 それは髑髏を嵌め込まれ、ガスの瘴気を纏う。

 

 しかし、本人に正気は残されていない。

 

「ひ、卑怯だろ! ハンマーとフィギュアだぜ!?」

 

「私はお前の為に接近戦を挑んでやっている、後ろには仲間も居る、それでも文句を言える立場か?」

 

「くっ……」

 

 コースティックはハンマーからガス瓶を抜き出しては入れ直す動きを三回繰り返す。

 

 チャカン、チャカン、チャカン。

 

 威圧にも似たチャカパチ。

 

 

「お、お前のガスガスハンマーは読めたぞ? 攻撃する度に『でガス!』って言うだけだろ? 痛恨の一撃が出たら『でゲス!』ってな? それはヤンガスハンマーか」

 

「何度でも叩こう、頭蓋骨から腐らせるように」

 

 ハンマーがブオンと素振られる。

 

「冗談だ、冗談……嘘じゃない!」

 

「私も嘘を言うつもりはない」

 

「ま、待ってくれ! 頼む! まだ死にたくないんだ!」

 

 スッと近づくハンマーの臭気。体内で暴れ回る毒。

 

 

「く、苦しいっ! ぐ、あ、あ」

 

「そうか、そうか」

 

 意識が消える寸前でハンマーが離れていく。

 

「あぶねえっ」

 

 はあはあと息を吸いながら医療キットを挟むミラージュ。

 

「実験に協力的で結構な事だ」

 

「ま、まだすんのか……?」

 

「被験者に非はないが、賢者でもない人間が役立つ機会は少ない」

 

 首元を掴まれたミラージュにガスが近づく。

 

『これは誉れ高いことだ、ミラージュ。』

 

「ぐっああ!」

 

 

 反射的にアルティメットフィギュアがガスマスクを突き破る!

 

 

 仰け反るコースティックがハンマーを手放す。

 

 

 落ちたハンマーは範囲外へ蹴り飛ばされ。

 

 

 コースティックを蹴り倒す。

 

 

「っ、はあ、あぶねえ」

 

 

「私の怒りは有頂天となった……血管の振動が留まることを知らない」

 

 握り拳に手袋がギュッと音を立てる。

 

 

「黙れ!」

 

 膝立つコースティックに追撃のフィギュアが落ち込む。

 

『選択は、賢く選べ』

 

 寸前で軌跡が止まる。

 

 コースティックの手にはモザンビーク。その先にはミラージュ。

 

「マジか……」

 

「このモザンビークにハンマーポイントが入っていれば、お前は死ぬ。アーマーがないというのは、そういった事実も示す」

 

 ひりつく戦場。どちらも一撃で死ぬ可能性。

 

 

「だ、だったら撃て? なぜ撃たない?」

 

「実験を、続ける」

 

「続ける?」

 

「そうだ、勝利よりも答えを求めている」

 

 割れたガラスグラスの中にしわくちゃな眼が光を取り込む。

 

 

 

 ミラージュは眼前の頭を叩き割った。

 

 

 

「本当にハンマーポイントが入ってたら、迷いなく撃つだろ」

 

 

「賢いな、ミラージュ。だが、結末は変わらない。誰かが死ぬ」

 

 

 

 

 どこかでクレーバーが跳ねた。

 

 

 

 

 

 




書いてくれと言われたら書きたくなる。期待に応えたくなる。
事前に言っておく、もう書かない。本当だぞ、ウソじゃない。
言われても書かないぞ。だからガッカリするんじゃない。
理由はシンプル。
二次創作の前には一次創作がある、そういうもんさ。でもAPEXは大好きだ、スーパーなレジェンドも3つある。3人纏めて相手にしてやる。

このアンケートはなんだって?
シーズン8までには書きたいお話さ。


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オリンパス

 

 

 

 

 

『オリンパスとかけてサロンパスと解く!』

 

 ミラージュは地下のオアシスカフェでハボックを手に取りながら唐突に喋り出す。

 

『……その心は?』

 

 どうでも良さそうにジップラインに手をかけるレイス。

 

『その心は、そうだな、どちらも、そうだな……』

 

「行きましょう」

 

「待てよ、まだ言ってないだろ」

 

「時間はあまりない」

 

「みんなここに慣れてない、俺のなぞかけに慣れてないのも分かるが余裕は持てる、保証してやるよ」

 

 歩きながらなぞかけを披露してレイスに近づく。

 

 

『その心は、どちらもシップ(湿布)の降下(効果)が大切です』

 

 

 ドヤ顔とウインクと足音。

 

 

「なぞかけって意味を調べてきたらどう?」

 

 そう言い残してレイスはジップを昇っていく。ミラージュも急いで駆け上がる。

 

「こ、これはマジな話だ! 降下は大切だと俺は思ってる!」

 

「本当に?」

 

「大切すぎてどうでもいいくらいだ」

 

「どうでもいいじゃない」

 

「セオリーってのがある、みんなホロサイトが嫌いとかホロサイトが嫌いとか! 当然の事実は聞くまでもない」

 

 ジップラインを昇り終えるとレイスは建物の階段へ進もうとする。

 

「こっちだ」

 

「どうして?」

 

「時間に余裕がない」

 

「あなたが勝手に……」

 

 

「最初あれはデコイだと言ったが実は敵だったんだ」

 

 早く言いなさいよ。ミラージュは握り拳に肩をどつかれた。

 

 

「不安だからな、先にトライデントを取ってここから離脱するぜ」

 

「まだアイテムが足りない」

 

「俺はここのアイテムを求めて降りたんじゃない、トライデントを求めて降りたんだ」

 

「どういうこと?」

 

「後で分かる、その方が気になるだろ」

 

 二人はトライデントに乗り込むとミラージュの舵で進み出す。

 

 

 トライデントとは車輪がついていない車両。

 

 スイスイ進んで銃声より早く前へ横へ。

 

 

「心地よいドライブだと思わないか?」

 

「もしかして、それだけ?」

 

「違うぞ」

 

 しばらくして誰にも手をつけられていない地域を発見する。

 

「ここでアイテムを集めよう」

 

「もう範囲外よ、リングも来てる。負けたわ、あなたのせいで」

 

「そう思うか? そうだろうな、俺はそう思わないが」

 

 レイスはミラージュに従って虚空に入りながら精一杯の装備を整える。

 

 その頃には赤い世界に飲まれてしまっていた。

 

「外は赤だが俺達は紫色に染まってるんだ、勝てるに違いない」

 

『沈みゆく船に乗り込む気持ちってこんな感じなのね』

 

「勝てばいいんだ、勝てばな」

 

 

 トライデントはエリアを翔ける。

 

 道中で歩く部隊とすれ違った。

 

 

「撃ってもいい?」

 

「ダメならこんな道通るわけない」

 

 撃たれても気にしない。

 

「なんで、歩いてる人が多いのかしら」

 

「今までこんなのなかったからな、なくてもいいと思ってるんだ、それは間違いだけどな」

 

 ミラージュは不意に急ブレーキを掛ける。

 

「レイス船長! 俺は引き返すことにしたぜ!」

 

 クルンとスピンを決めてブーストを掛けながら引き返す。

 

「ど、どうして?」

 

「知らないのか? 範囲内は戦争中だからだ」

 

「倒せばいいじゃない」

 

「お前は何も分かってない」

 

 指を振ってチッチッと舌を鳴らすミラージュ。

 

「分かってないのはあなたよ。シルバー帯で逃げすぎてるわ」

 

「オリンパスは真ん中が高いポジションになってるんだぜ?」

 

「高い?」

 

「マップが外になるほど下り坂で拓けてて、マップの中心になるほど上り坂で建物が増える、高いと低いなら高い方が圧倒的に強い。強引に行っても良かったが、回復する時間がないみたいだしな」

 

 そう言ってミラージュは静かなところで範囲に入っていく。

 

「もうトライデントは用済みね……」

 

「何を言ってるんだ? 勝つまで乗るぞ?」

 

「は、はあ?」

 

「よし、回復したら横槍を入れてやろう」

 

 トライデントで接近した二人は奇襲を成功させ、ポイントを稼いで贅沢に整えた。

 

 

「さすがにもうトライデントは……」

 

「エリアに行くぞ、レイス」

 

 ミラージュはトライデントに乗り込むとレイスの隣に寄せていく。

 

「嘘でしょ?」

 

「騙されてると思ってるのか? 黙って乗っとけ」

 

 結果的に二人は勝つまでトライデントに乗っていた。

 

 次のリングに入れないならトライデントで入っていく。

 

 自家用車で仕事をするような、そんな感覚。

 

「苦しまないで勝てた気がする」

 

「そうだろ? トライデントがある場所にドロップシップから降下して、ずっと乗り続けることが大事なんだ」

 

「よくやったわ」

 

 

「言われてるぜ、トライデント」

 

 ミラージュはキュッキュとトライデントを撫でる。

 

 

 

『あなたに言ってるのよ、エリオット』

 

 

 

 




書くつもりはなかったんだが、トライデントは最後まで乗った方が勝てるってことを言いたかったんだ。それだけだぞ。


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