【完結済】Fate/Grand Order 煉獄魔境大罪記ゲヘナ/虚ろなる煉獄の聖杯【長編版】 (朝霧=Uroboross)
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無題 作品設定集 part1


ピーンポーンパーンポーン。

こちらは、当作品における設定諸々を書けるだけ書いた設定集でございます。

まだ最新話まで読めておられない方は、読まないことをオススメ致します。
つって読んだ方が意外と人物像わかるって人は読んでええし、真名知りたくない人は最新話まで読んで、どうぞ。








 

『設定集《舞台》』

 

・『煉獄』

→ゲヘナ。当作品の最初の主舞台。元々は死者達があの世へと行く待合室的な意味合いの場所であったが、『魔術王』による『人理焼却』、『異星の神』による『人理漂白』によってついに飽和した亡者達が悪霊化し、地獄と魔界に通じたことで以後悪魔の本拠地と化す。

 魔界と地獄、そして煉獄の境界は果てのない荒野となっており、その中心には山のように大きな岩があるのみ。

 大地は延々と燃え盛り、草木一つ生えず、水の一滴スライド存在しないため、人が暮らすにはあまりにも苛酷。

 

 というようなこの世界は、実は表面上だけなのだとか────?

 

 

・『真・煉獄魔界』

→タルタロス・ゲヘナ。かつて、神々に逆らい、地よりも深き場所に堕とされた者達が行き着く終末の世界。

 元々は地上のように近代的であり、なおかつ魔術や自然とも融和していた美しき世界であった。が、神々の怒りを煽った"とある都市"と、人間と恋をした天使達を罰するため、神々が世界そのものを破壊し尽くした末路の地。

 あちこちにその文明力の高さが窺えるものが多く点在しているが、その全てに人の気配はなく、魔性の存在のみが跋扈している。

 その光景はまさしくこの世の終わり。イメージするなら『サイレント・ヒル』×『コンスタンティン』のような世界観。

 

 

・堕落魔界都市『ソドム』

→『色欲』の本拠地にして、かつてあまりの堕落ぶりに神々が怒りを放ったとされる堕ちた都市。この都市から直線上における反対側に『ゴモラ』という都市があり、そこから二等辺三角形をつくるような形で、遠くに『バベル』という都市がある。

『甚だしい性の乱れによって滅ぼされた』とされているが、その実態は『気が昂っていたアスモデウスが、何の前触れもなく、突然面白半分で呼び出されたことでついにブチギレてからの権能の暴走→性の乱れ→神々激おこプンプン丸』なのである。

 それ故、かなり引け目のあったアスモデウス──もといアシュリーは、自ら領主館に居を構え、本拠地としている(どっちかというとそれがいかんのでは)。館内では眷族たる淫魔達が住み着き、外から拐ってきた"お気に入り"と毎日桃色の世界を広げている。アスモデウスは二人して、毎日呆れため息をついている。

 

 

・偽・奈落牢

→モデル・タルタロス。ルールもへったくれもない悪魔達の中でも、破ってはいけない不文律を破った者が入れられる永遠の牢獄。

 主に『赤竜一派』の一人、『ネビロス』を筆頭に『強欲』が管轄しており、様々な悪魔達が投獄されている。

 中でも『禁忌区画(アヴァドンシャフト)』と呼ばれる場所には、余程の理由があって絶対に外に出してはならない者が投獄されている。

 また、"保護"という名目のもと、投獄(というか実際待遇はいい)されている者もいるのだが、『強欲』がカルデアに敗北した際に、権限を『虚飾』に簒奪された為、その厚待遇もなくなっている。

 

 余談だが、区画の名前になっている悪魔、アヴァドンは「我輩関係ないぞよ!?」と愕然としているらしい。

 

 

・大隊常駐都市『ゴモラ』

→名称で察しやがれ、と言わんばかりの名前の存在感を放つ、言わずもがな『暴食』と『強欲』の本拠地。

 作品に出てくることはないが、『強欲』がカルデアに敗北した後にこの都市へと帰還しており、療養している。

 他にもこの街には『暴食』貴下の大組織『独羅悪星(ゾロアスター)』の面々が常駐しており、そんじょそこらの国より治安がいい。実際永住してもいいと思えるぐらいに治安が良い。

 

 

・永劫神罰都市『バベル』

→『強欲』と『憤怒』の本拠地。互いに半分で土地を別け、片方は漆黒とモダン溢れる経済都市の様をし、もう片方は白亜の様式美溢れる都市空間を形成している。

 詳細不明。

 

 

・『果ての荒野』

→『虚飾』が普段いるとされる場所。

 詳細不明。

 

 

・『渦嘯海』

→メルゲレイ。『嫉妬』の本拠地たる煉獄に唯一の水場(海)。『バベル』を北に見て左側に広く存在し、海そのものが『嫉妬』の領域。

 メルゲレイは、より正確にいうと『メルビレイ』であり、それを捩らせた名前となっている。

 一応は海ではあるものの、何度でも言うが海そのものが『嫉妬』の領域であり、そこではどんな僅かな行動さえも感知されてしまう。

 最近の『嫉妬』の悩みで、海底に沈んでいる"デカイ塊"をどうしたものかと頭を悩ませている。

 

 

・ナイトクラブ『ルーヴル』

→『怠惰』経営のクラブハウス。誰でもなんでも踊ってよし、歌ってよし、はしゃいでよしのよしよし尽くしのパリピ共の集まり。

 半ばヤケクソで始めた結果、魔界では皆の分厚い表の皮を脱ぎ捨てる最高の息抜きの場所として有名になった。

 そして経営者である『怠惰』は、一通りはしゃぎ終わった後にいつも「こんなの僕じゃなぁぁぁいっ!」と泣いている。

 

 

・???

 

 

 

 

 

 

 

 





次は人物設定集。


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無題 作品設定集 part2


続いて人物設定集。



『人物設定集』

 

・〈バーサーカー〉『強欲(グリード)

真名:マモン

→性別は男性。身長178,2cm、体重60,8kgと平均的な身体の不良(ヤンキー)

 毛先が橙色ながら燃えるように真っ赤な長髪で、顔を縦断するような長い鎌のような前髪が特徴。さらに珍しいオッドアイ(右が赤、左が青)で、背が高いくせにメンチを切るかのように下から睨み覗く癖がある。

『暴食』貴下の大組織『独羅悪星(ゾロアスター)』の副総長にして親衛隊総隊長。

 

 性格はケンカっ早く、好戦的。性格面のイメージとしては『森 長可』を表情だけ軟化させたものに近い。ただ、真面目なときは真面目な話をして、相談された時は真摯に向き合い、時に励ます実は気のいいヤツ。そのため『嫉妬』からは「真面目な時ならカッコいいのに」と評されている。

 

 主に扱う武器は『大鎌』。地獄の女神"ヘル"より頂戴した魔界の樹海を宿した青紫の大鎌を片手でブンブンと振り回す。重そうな見た目のくせしてセイバークラスのように軽々と振り回すため、かなり強い。

 地力で押し込むのを得意としてはいるが、それを踏まえて手数を増やしていくスタイル。加えて戦局を冷静に俯瞰できるほどの頭脳を持つためかなり厄介。そこから相手の宝具を奪うetc……としていくが、不意を突かれることにめっぽう弱い。特に奪ったものを逆に奪われるなどされると気が動転して呆然とする。

 

『第一再臨』

→人の体に2対の鷲の頭の姿。伝承上の姿ではあるがただのキグルミであるとのこと。

 

【挿絵】→制作中

 

『第二再臨』

→他の大罪悪魔のように、黒いトレンチコートに似たロングコートを羽織り、Yシャツにジーパンを履いた姿。大きな赤い宝石の首飾りをつけており、脇元に大鎌を、大刃の部分をを下にして携えている。

 

【挿絵】→制作中

 

『第三再臨』

特攻服。真っ黒に染められた特攻服で、背中にはでかでかと『独羅悪星』の文字。第二再臨時と同じように大鎌が携えられている。

 

【挿絵】→制作中。

 

 

 

・〈キャスター〉『怠惰(スロウス)

真名:ベルフェゴール

→性別は男性。身長162,7cm、体重52,6kgと、大罪悪魔の中では小さい方。

 かなりのくせっ毛なのに腰あたりまで伸びた藍色の髪を持つ。猫背タレ目撫で肩の外見からも病的に気弱そうに見える研究者のような姿。左目にモノクルを掛けていり、目は紺色。

 堕天使や堕ちた神ではなく、正真正銘の悪魔の始祖。舐めプでも『魔術王』を魔術でリンチできる技量の持ち主。

 

 性格は気弱、コミュ障、根暗で引っ込み思案というインドア派及びオタクの鏡。しかし本気を出したときはかなり凛々しい姿を見せる。だが後にヘタれる。いい時はカッコいいのに普段がダメなので実質±0。

 

 戦闘時の基本的なスタンスは魔術オンリー。主に氷系統に秀でており、かの『スカディ』を越える氷の魔術を見せる。更には時空系統にも学があり、擬似的なテレポーテーションや、氷魔術と合わせて時間凍結を可能とする。加えて、長年の研鑽から『時間逆行の魔法』を使用することができる。

 

『第一~第三再臨』

→白衣の研究者のような格好。首に懐中時計がかけられている。手には何かの液体が入った様々な実験器具(フラスコ)を持っている。

 

【挿絵】→制作中

 

 

 

・〈ランサー〉『暴食(グラトニー)

真名:ベルゼビュート

→性別は男性。身長172,0cm、体重54,6kg。真上に爪のように尖った三つのトサカのような緑髪が特徴(本人にトサカと言うと怒られるので注意)。

 リーゼントではなく、あくまでリーゼント"風"な髪型になっており、襟足は首元まで伸びているほどに長い。耳は基本的に髪に隠れているが、その髪がなぜかすごいサラサラなのでたまに見える。

 若干つり目で、悪魔らしく細い瞳孔。さらに瞳は宝石のように深紅。

 

 性格は粗野で自由人。かと思えばとても紳士的であり、常識人でもある。マスター(今回は立香)のことを基本的に"兄弟"と呼び、親しく接してくる。更には元が豊穣神故にか料理上手であり、得意なのはフランス料理。腕前はあの"赤い弓兵"と"旅館の若女将"をも唸らせる程であり、最近は和食にも興味を持っているため、若女将に師事している。

「お前様も中々筋がいいでちね!」

「ハハハッ、先生にそう言ってもらえるたァありがてェな!」

 

 戦闘スタイルは、その手に持つ愛槍の三叉槍でとにかく攻撃あるのみ。真っ正面から突破していく猪突猛進型。だがその中でもかなりの駆け引きを同時展開しているため、ただのバカかと思ったら大間違い。足払い、切り落とし、切り上げ、袈裟斬りといった風に高速で切り刻んでくる上に、風を収束・一点照射する『突風穿彈(ガストショット)』や、『裂風乱舞(カマイタチ)』など多彩な技を放ってくる。

 加えてステゴロ・タイマンも得意なため、圧倒的な強さを誇っている。

 

『第一再臨』

→上は第二ボタンまで開けたYシャツに、下は緑の外ラインが入った制服に似たゆとりのあるズボンを履いている。無骨な三叉槍を肩に担いでいる。

 

【挿絵】→制作中

 

『第二再臨』

→第一再臨時の服装の上から、お馴染みのような黒いトレンチコートに似たロングコートを前を開けて着ている。さらに首元には逆十字のネックレスがつけられている。

 無骨な三叉槍は宝具としての姿を現した、真紅の刃に銛のような鋭さを持つ湾曲部が現れ、トライデントに似た形になっている。

 

【挿絵】→制作中

 

『第三再臨』

→先程の格好と似た姿だが、ロングコートの肩部に防護具が取り付けられ、背中に『七大罪:暴食の紋章』が刻まれている。

 槍も宝具としての真の姿を見せているため、魔王としての風格が顕著に現れている。

 

【挿絵】→制作中

 

 

 

・〈ライダー〉『嫉妬(エンヴィー)

真名:リリス&レヴィアタン

→性別は二人とも女性。腰下まで届かんばかりの長い柔らかそうにたなびく、毛先が紫色じみた金髪が特徴。

 男性が好むような豊満でうっかり目が奪われてしまうような美貌のリリス。だがそれは逆に女性から反感を買いやすく、それを男性が庇護し、また女性との確執が生まれ……が繰り返されるような魔性の美を持つ。

 

 性格は男を取っ替え引っ替えするように見えるが、実際は恋を対してかなり繊細。男を玩ぶことはあるが、本気で愛するつもりはない。『始まりの男』の件以来、本気の恋を避けている。……はずなのだが、最近、緑髪の同僚の背中を見ていると胸が疼くそうで。

 

 戦闘面に関しては『ステンノ』、『エウリュアレ』姉妹のように、玩んだ男性に決死の攻撃を仕掛けさせる。とは言え本人がなにもしないわけではなく、友人であり自身の側に浮遊する大蛇──『レヴィアタン』の力を借りて水のムチで迎え撃ったり、レヴィアタン自身が水を操作して高水圧切断などを繰り出してくる。

 また、伝承に同じくレヴィアタン自身は『あらゆる攻撃を無効化する能力』を持つが、リリスのは『一定以下の攻撃を無効化する能力』と若干弱体化している。

 

『第一再臨』

→ピッチリとしたライダースーツ。胸デカイ、体細い、足の肉付き良し(ド変態)。

 レヴィアタンは片側でコウモリの羽に似た魔術の翼で浮いている。

 

【挿絵】→制作中

 

『第二再臨』

→露出度超高めの服。服っていうかほぼ下着。デカイ胸は辛うじて服に包まれているが、腹出し袖無し。下は左側が長く、右側は普通のスカート並みの斜め(アシンメトリー)スカートでヒールを履いている。

 

【挿絵】→制作中

 

『第三再臨』

→チラリズムが、スゴイ(未設定)

 

 

 

・〈アサシン〉『色欲』

真名:アスモデウス(アシュリー&デール)

→女性の方がアシュリー、男性の方がデール。身長も体重も相対した者の願望によって変化する。

 これといった姿を持たず、相対した者が持つ『興奮する対象(フェチズム)』に対応して変化する。足フェチなら美脚美人、ショタコンならショタ化、レズなら好みの女性といった具合に姿も性格も千変万化。

 

 性格は上記の通り、対応する相手によっていくらでも変わり、どんなプレイにも対応できるようになっている。ただし、デールの方は元々が魔神柱の残りであったのをアシュリーが吸収・統合したため、根本の性格が残っている。

 

 戦闘に関しては、金星(デール)と木星(アシュリー)の力を借りた魔術を使いつつ、幻術・催眠術など相手の精神面への攻撃が多い。その上、アスモデウスの使う魔術は対魔力がAランク以上あっても昏倒しかねないレベルである。

 

『第一再臨』

→ショタ&ロリ。アシュリーが前でデールが後ろのディオスクロイタイプ。

 

【挿絵】→制作中

 

『第二再臨』

→高校生の幼なじみをイメージ。イケメン&美人。今度はデールが前でアシュリーが後ろになっている。

 

【挿絵】→制作中

 

『第三再臨』

→近所の若奥様と渋めのイケオジ。ここまで来たらもうなんでもあり。アシュリーが前でデールが後ろ。

 

【挿絵】→制作中

 

 

 

 

・〈アーチャー〉『傲慢(プライド)

真名:ルシファー

→結構な美形の青年。身長178.6cm、体重54.8kg。大体いつも目を瞑っているか物憂げ。が、内心はただ他のことに無関心なだけ。元々は首元まで伸びた輝くばかりの金髪だったが、堕天した際に銀色に変わった。けど変わらずキラキラしてる、あとサラサラしてる。

 背中の翼は左側が白く右側が黒い。逆で覚えるとキレられる。白い方の翼を褒めると割りと上機嫌になる。

 

 堕天してなお神の敬遠なる信徒にして使徒であると自負しており、主の導きのままにを是としている。そのため、わりかし聖職者達と意見が合う。

 その知名度故に『憤怒』と同視されがちだが、実際のところは全く違う。正確には兄か弟か、後か先かぐらいの違い。

 

 神聖系統のものを多く扱い、特筆するならばその手にもつ宝具『全ての栄光は我に有りけり』。光そのもので攻撃するために、物理的にも魔術的にも幾重に防御を張り巡らさなければ簡単に貫通される。

 遠距離主体の高機動型だが、近接も得意。基本的に隙の無いオールラウンダー。

 

※再臨設定は未定

 

 

 

『真名解放』

 

 

 

・〈アヴェンジャー〉『憤怒(ラース)

真名:サタン(通常)=サタナエル(獣化)

→最早語るべくもない超有名な大悪魔。漆黒のボルサリーノ帽に背広のトレンチコート、インナーはワイシャツ&ベストというまさしくマフィアな格好。加えて、眼光が鋭く、常にタバコを加えている。髪は短髪だが灰色に近い黒で、眉間のあたりに一房だけ赤のメッシュが入っている。

 性格は冷酷にして激情家ながらに計算高い。神と人間をとことん嫌っており、認識するとその存在が消滅するまで執拗かつ多彩な攻撃を仕掛ける。また、通常の聖杯戦争に喚ばれた場合、余程の者でなければ高確率でアゾられる。

 

 基本的に手加減は必要な場合以外は一切しない。ただし、余程心が綺麗な者や清廉極まった相手にはある程度の譲歩や誠意を見せる。

 自然を好んでおり、花鳥風月を尊び、人の手が加えられていないありのままの大地を是とする。そのため、自然を破壊し、陵辱し、踏みにじる現代の人間を完全に敵視している。

 

 通常時は、宝具でもある対物狙撃銃並みの火力を出す二丁のライフル銃を以て戦う。勿論ただのライフルではなく、銃下部と銃口上部に日本刀並みに研がれた剣刃が付いているため、近接格闘も問題ない。

 また、本人自身も宝具に『洗礼詠唱』を持っているため、『浄化』の力を無効化し、悪魔でもあるため、聖者に対する特攻も持っている。それだけでなく、『対魔力』に至ってはEXランクに近い程。

 宝具数も、剥奪されたものを含めると累計で15前後ほど持っており、全サーヴァント中トップ並みの宝具数を有する。さらにはそのスキルも破格であり、上手く喚びだせれば勝利は確実である*1

 

 とは言え、基本的には人間の召喚には答えず、そもそも『アラヤ』に対しても敵対に近しい立場なため、本当に呼べるかどうかは不明。

 捕捉ではあるが、逆十字を象った懐中ペンダントを着けており、中には二輪の小さな『花』が入っているとか。真偽のほどは分からないが、他の魔王達が言うには、『始まりの二人』からの贈り物だとか………。

 

『第一再臨』→制作中

→ザ・悪魔。腕部にブラスト砲のようなものが付いている。竜と悪魔が混ざったような見た目。

 

『第二再臨』→制作中

→ボルサリーノ帽に背広のトレンチコート。二丁のライフルのうち片方は担いだ、そのまんまマフィアのような格好。

 

『第三再臨』→ Coming soon…

→第二再臨にコートの外側からストールを肩掛けにした姿。その多細かい諸々が増えたりしている。マフィアのボス。

 

 

 

 

・〈BEAST・Ⅳ:R〉『忿怒』

真名:サタナエル

→聖書に語られる大悪魔、その究極形態。BEASTⅡである『ティアマト』よりも一回りほど小さいが、内包する魔力は『ティアマト』はおろか『ゲーティア』以上で、基本攻撃がほぼ『魔法』の域。

 

 その正体はサタンの持つ宝具の一つであり、元々『獣』であった『黙示録の獣』の存在を取り込んだことにより発現したもの。正式名は『獣冠授けし七角十冠の焉龍(アポカリプス オブ トライヘキサ)』。

 サーヴァントの通常攻撃を含める、あらゆる魔術攻撃を無効化し、半強制的に物理攻撃を強制させる。だがそもそも竜の身体なため、その物理さえも効きにくいという鬼畜仕様。加えて、サタナエルは宇宙そのものに匹敵するほどの魔力によって、隕石群や破壊光線など多岐に渡る攻撃を仕掛けてくる。

 唯一の弱点としては、この宝具を展開中は、"これ"以外の宝具が展開できなくなるという欠点がある。また、完全体になるまで時間がかかることもあり、滅多には使わない。

 撃破できないわけではないが、撃破するまでに世界の半分は焦土と化しているだろう。また、この『龍』はあくまで『前半』。後半にはこの『龍』が獣冠を授けた『BEAST・Ⅵ:L』が待っている。それなんて絶望…?

 

 

 宿す原罪は『忿怒』であり『拒絶』。人間の、自ら救いの手を悉く拒絶するその姿に嘆き、怒り、そして決意した。人間が救い、救われることを拒絶するならば、他者と歩むことを拒絶するならば、それを構成する悉くを『拒絶』して全てを救ってやろう、と。

 歪な世界を構築した神を憎み、己の救いたるものを拒絶し続ける人間に怒り、魔術なぞというイレギュラーを受け入れる世界を唾棄する。世界を破壊していることに気付こうともせず、一切のその全てをを拒絶して貪り尽くす。それでいて拒絶されたことへの理不尽な怒りを抱き、他者を踏みにじる。

『ならばオレも、貴様らがしてきたことと同じものを返し、この世界を救済(粛清)しよう』

 これにより、彼の獣性は定まった。歪なる救済者の証である『ネガ・メサイヤ』を宿した『忿怒の獣』。それこそが、"BEAST・Ⅵ:R(=ira) サタナエル"である。

 

 

 だが、そんな彼の根底にあるのは、『人類が理不尽な存在によって、己を奪われることの無い世界』であって欲しいという願いであり、この姿こそは、魔に属する者でありながら、ただひたすらに人を愛し続けてしまった者の末路なのである。

 

 

 

 本作でチート級の強さを誇っているのは、空想樹の内包魔力を生命力ごと吸い取っているのに加えて、体内に所持する『煉獄の聖杯』によるバックアップがあるため。

 それ故に、魔力消費を最小限にして最高の状態で敵を殲滅できる形になっている。

 であるがために、そのどちらかが欠けた場合にはその消費量に耐えきれないばかりか、今まで抱えていたリソース分が暴走し、自滅する要因となるであろう。

 

 

 

 

・〈アサシン〉『虚飾(ヴァニティ)

真名:アザゼル

→悪魔界隈の激ヤバ案件マン。普段からモノクロの道化師の様な全面仮面を着けていて素顔は誰にもわからない。『人間=オモチャ』という思考回路で、一方的に弄んだ後は殺してその皮を剥ぐ。剥いだ皮は自身の変装様に使われる。

 手先がかなり器用で、前述の皮剥ぎでは、薄い皮膚を内部の筋繊維一本傷付けずにスラリと取れるほど。それだけでなく、金属加工なども得意(※詳しくは原典『旧約聖書/レビ記』参照)。

 

 戦闘スタイルはかなりトリッキー。草刈り鎌に似て、内側が鋸歯状、外側が滑らかに反った二対の短剣で物理法則を無視した動きをする。

 さらに相手の見知った相手に成り代わることもでき、割とえげつないこともやったりする。というかやる。

 

 旧約聖書を見ると、『エグリゴリ』についての記載に、『人を愛した天使達が~』と続くが、本人にそんな人物がいたのかは不明。聞いても曖昧に返すだけで何も答えてくれない(というより聞く勇気があるだけでも凄い)。

 ただ、穏やかで綺麗な夕日を、どこか寂しげに見ていることが多々あり、もしかすると、本当は愛した人がいたのかもしれない。

 とにもかくにも、真実は本人のみぞ知る。

 

 

・〈アルターエゴ〉『憂鬱(メランコリア)

真名:マステマ

→性別は男。身長172,5cm、体重56,2kg。クズofクズ、グランドアルタークズ。どれぐらいクズかというと、マーリンと愉悦神父とキャスジルを掛けて割らずに二乗した状態。

 神への信仰心や忠誠心を問うためならば笑顔で他人を巻き添えに殺す。さらに普段は民間人となんらかわりない魔力量と服装で行動するため、判別がつかないということからもクソっぷりがわかる。

 

 性格は先程も言ったように、マーリンと愉悦神父とキャスジルを掛けて割らずに二乗したもの。殺しに躊躇はなく、誘惑は常に相手の弱い部分を突く。特に『天国へ向かうべき魂』を見つけると徹底した誘惑という名の試練を行い、それを乗り越えた者を天国へと半強制的に送らせる。そこに他者への配慮なんて一切合切無い。クズが。

 

 戦闘面に関しては『秩序/善』の存在以外からの殺傷を無効化するというチートっぷり。しかも毒も精神攻撃も大して効かないという頭のおかしいやつ。ただし『秩序/善』か、もしくは強大なまでの絶対性を持つ『混沌/悪』の存在からの攻撃は防ぎきれないのでそこを突くべし。

 

『第一再臨』

→英語の黒Tシャツにジーパンというラフな格好。ここまでは普通。

 

【挿絵】→制作中

 

『第二再臨』

→第一再臨時の格好のままだが、周りにウィボスが二体ほど現れる。SANチェックの時間です。

 

【挿絵】→制作中

 

『第三再臨』

→背に灰色の二対四翼の灰色の翼が現れる。某深淵の遣い共よりも会話が成立するぶんヤバい。

 

【挿絵】→制作中

 

 

*1
なお前述の性格を踏まえるべし





だぁぁクッソ長いッ!!
その他は感想次第で出します!クソ長いからな!覚悟しとけよ!!

逐次更新しておりんす。イラスト?まだや、待ってろ(白眼)


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第零章 序幕
0-前 序幕


初めまして、朝霧です。
結構前からあたためてた小説を初披露させてもらいました。何分と拙いですが、ごゆるりとお読み下さい。

あ、エピックシンボルはさんどきますね。
↓背景ありver

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↓背景なしver

【挿絵表示】



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 ・

 

 ・

 

 ────退屈だなぁ……───

 "彼"はそう呟かずとも思いながら、ロンドンの街の路地裏を歩いていく。姿こそ普通の、路地裏にいるようなガラの悪い青年に見えるが、その"中身"も、醸し出す空気も全くの別物だった。

 次第に"彼"は、どこからともなく取り出した双振りの短剣を、ジャグリングの様に器用に回して遊び始める。しまいにはあくびまで出す始末だが、手元が狂う気配は微塵もない。

 そうして暇潰しをしながら歩き、目的の場所までたどり着いた"彼"は、短剣を『まるで無かった』かのようにしまい、これまたガラの悪い青年達の中へと入っていく。

 

「────でよ~。……ん? おいおっせぇぞ、何やってたんだテメェ」

「────悪い悪い、ちょっと寄り道してたら久々に迷っちまった」

 

 そう言ってヘラヘラと笑う姿は、先ほどまでの異質な雰囲気が一切ないかの様に見え、それは本来の"彼"を知る者からすれば普段と変わりないように見えるだろう。

 

「はぁ? またかよ。昔からだけどお前ほんとトロいよなぁ。まぁいいけどよ」

「ハハ、悪いな。んで? 今日はどうすんだ?」

 

 気だるげそうに周りを見る。そこには同じく人相の悪い青年達が4,5人程集まっていた。彼らはこの路地裏の奥にあるスラム出身の者達であり、窃盗や恐喝をして生計を立ててきた者達である。そして何より、彼らは皆幼なじみであり、家族のようで家族よりも強い友情で結ばれていた。少なくとも今日までは。

 

「今日はあそこの露店でスってこうって話してたんだぜ」

「何気に人が多いもの、格好の獲物だらけね」

 

 そう言って、皆口々にどう盗むか、どう盗っていくかを談笑して決めていく。

 

「おいおい、スるのはいいけど、ちゃんと持ってくるもん持ってこねぇとバレるだろうが」

 

 そう言ってリーダー格である青年が言う。彼が言っているのは、この路地裏の少し奥に隠している変装用の衣装のことである。

 

「だな! バレたら元も子もねぇや!」

 

 そう言ってそれぞれ奥へと戻っていく、衣装がおいてあるのはスラムの丁度入り口にある、廃棄されたレンガのマンションの広間、その端だった。

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

「さてと、じゃおれは…………んー、これか」

「アタシは…………これね」

 

 そう彼らは次々に衣装を手に取る。そうして"彼"が最後に入ってきたとき、異変は起きた。

 

「………………ん?」

 

 リーダー格の青年は、どこか不思議な違和感を覚えた。まるで、『この空間だけが別世界になった』かのような。もしくは、『この空間だけが外と隔離された』ような。そんな不可解な感覚が彼を襲った。

 

「どうした? リーダー」

「…………いや、なんでもね。それよかお前も早く──────────」

 

 一迅の紅い閃撃が、リーダーの青年の首元を横一線に駆ける。次の瞬間、リーダーは膝から崩れ落ち、絶命する。皆の視線が集まり、一瞬の沈黙が流れる

 

「イ、イヤァァァァァァッ!!?」

 

 仲間の一人である少女の叫びが響き渡────

 

「……うるさい、よ?」

「ァ──────」

 

 違和感を覚え、少女が自身の胸元を見ると、音もなく鋭利な短剣が心臓があるであろう場所を貫いていた。それはまるで、はじめから生えていたかのように。

 

「ふ~たり目、っとぉ」

 

 血を吹き出すこともなく、眠り落ちるかのようにゴトリと倒れる少女。その目はまるで信じられないものを見たかのように見開かれていた。

 

「な、なんでだよ…………。なんでそんなことしてんだよお前!!」

 

 そう仲間の一人だった少年が激昂して叫ぶ。しかし"彼"は意に介した風もなく、手に禍々しい短剣を、先ほどのようにジャグリングしながらとぼけたように言う。

 

「んー、まぁ有り体に言うなら暇潰し?」

「なっ…………」

 

 その今までの彼とは思えないような言い方に、違和感よりも怒りを抱いた少年は、その感情のままに"彼"を殴り付けようと走り寄る。

 

「ッ──────! テンメェェェェッ!!」

 

 握り拳を作り、"彼"へと襲いかかる────、が

 

「はい、チョロいね~」

 

 そう言ってすれ違いざまに一閃する。少年はそのまま糸が切れたように倒れ、こと切れる。

 そうして一人、また一人と綺麗に殺されていき、最後の最後にたった一人の少年が残った。

 

「な、なんなんだよ、どうしたんだよお前!!」

 

 その質問に対し、"彼"は子供のように、口元に指を持っていき、考えるような仕草をする。

 

「ん~~、ま、最後に教えてあげるよ。君達の仲間だったボク────いや、彼かな? 彼はね、もう殺してあるんだよ、3日前にね」

「────…………は?」

 

 唖然とする少年。────殺した? 誰を? 自分が、自分を? 訳がわからないという風に目を見開く少年に、"彼"は嘲笑うかのように説明し始める。

 

「"これ"を見つけたときはほんっと楽しそうだなぁって思ったんだ~。だってぇ、中々に上物な魂で殺した時の絶望感が堪らなそうだったんだもん、でも蓋を開けてみればこの通り。つまんないったらありゃしないよ~」

 

 コロコロと笑う"彼"に、少年は恐怖を覚える。────違う、彼じゃない。これは、彼をマネした"ナニカ"だ、と。

 少年は必死に、そして懸命に逃げる方法を考える。どうにかしてあのバケモノから逃げなくては。だが、それを呼んだかのように、唐突に"彼"が振り替える。

 

「無駄だよ~。ボクの"劇場"からは誰も逃げられないのサ♪ まぁそもそも、逃げ道なんてあってないようなものだしねぇ~。……さてと、じゃそろそろ幕引き《カーテンコール》と行きましょ~」

 

 そう言って"彼"は少年に向き直り、ゆっくりゆっくりと歩いて距離を詰めていく。

 

「ヒッ! く、くるなっ! やめろっ! こないでっ!」

 

 コツコツと歩み寄る恐怖が目の前を染めていく。1つ2つと近付き、もう数歩で少年に触れるというところで、突如、"彼"に異変が起こる。

 

「ッ! グゥゥ……ッ! まだ……生きてたのね…………っ

 」

「っ、な、なんだ……?」

 

 少年は突然のことに驚き、固まる。すると、苦悶に歪んでいるが、いつもの彼の顔が戻り、少年に向かって声を上げる。

 

「くっ…………、逃げ、ろ…………。長くは、持たない、ぞ…………っ」

「っ! き、君なのか!?」

 

 少年が驚き、駆け寄ろうとする。だが、それを彼はにらみつけ、近付けさせないよえにする。

 

「おれのことはいい…………っ、早く、逃げろ…………っ!」

「で、でも…………」

「いいから……っ、いけ、っ!!」

 

 少年はその気迫に圧され、すぐさま広間の出口へと走っていく。走って逃げて、そうしてもうすぐ出られる────────

 

「────なぁんちゃって」

 

 そんな声が聞こえ、視界が反転する。そうして少年の意識は次第に消えていこうとしていた。が、そこへ"彼"がやってきて、

 

「ねぇ? これが戻ってきたとでも思ったぁ? 助かったとでも思ったぁ? 残念だったねぇ? ぜーんぶ、ウッソ♪ だってさぁ、言ったじゃん? 誰も逃げられないって────────」

 

 そう言われ、少年は悲しみと悔しさをかみしめ、暗転する意識の中、無力感と絶望感に襲われていった。




誤字脱字や意味のわからないなどありましたらご報告下さい。出来る限り直したり説明したりします(汗)


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0-後 序幕

 物言わぬ屍と化した青年達の中を、鼻唄を歌いながら歩む"彼"。帰り血1つなく、その場に滴る血の1滴もなく眠っているかのように見える現場は、ここで屠殺があったことなどわかりもしないだろう。

 "彼"は遺体を集めて並ばせ、何かしらの作業をしていく。さもオモチャを集めて作り直しているかのように、楽しげに作業をしていく。

 ふと、背後の空間が歪み、一人の軍服をキッチリと着たいかにも厳格そうな男が現れる。

 

「────……召集が掛かりました故、お迎えに上がりました」 

 

 軍人を思わせるかのような綺麗な敬礼と、重みのあるバリトンボイスでそう告げる男に"彼"は、

 

「ん。ん~、ちょっと予定より時間掛かかったのかなぁ~? ま、いっか」

 

 さもどうでもいいかの用に死体から雑に手を離し、男が現れた"穴"へと歩いていく。その間に、"彼"は自分の顔に手をかけ、なにかを引き剥がすように腕を引いていく。すると、紙を破り捨てるかの用な音が鳴り、今までの"彼"の姿が抜け殻のような薄っぺらいものになり、中から黒衣のトレンチコートに似たコートを着た青年が現れる。

 

「……御送り致します、『虚飾(ヴァニティ)』様」

「ん、ゴクローさん」

 

 そう言って二人は"穴"を潜っていく。軍服の男は取り残された遺体に、指を打ち鳴らして燃やし上げる。なぜなら、その残された死体は全て表面の皮のみを剥がされていたのだから──────────。

 

 ・

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

「『虚飾(ヴァニティ)』様、ご来場!」

 

 少女の声が広間に響き渡り、重厚な扉が開かれる。すると、リズムを取るかの様に体を揺らしながら、モノクロのピエロを象った仮面をつけた青年が入ってくる。

 広間の中心には円卓が置かれており、そこには九つの玉座にも似た椅子が置かれ、その内六つが埋まっていた。椅子の上にはそれぞれ紋章が描かれたボードが取り付けられていた。

虚飾(ヴァニティ)』と呼ばれた青年は、そのうちの、ピエロの笑った顔と泣いた顔を半々にしたような紋章が描かれた椅子に飛び乗るように座る。

 

「…………召集の声をかけたと言うのに、随分と遅かったな。虚飾」

 

 始めに口を開いたのは青年の真正面左側、鋭利な眼光の、華美に描かれた眼の紋章が描かれた席に座る、眉目秀麗な男だった。その背には純白と漆黒の3対6翼の翼があった。

 

「あー、ごめんねぇ? ちょっと面白そうなのいたからそっちいってたんだよぅ~」

「ハッ、また途中で飽きてきたんじゃァねぇのか?」

 

 そう言って鼻で笑ったのは先ほどの者と対になる右側、大きく口を開くハエの紋章が描かれた席に座る男だった。その頭はリーゼントじみた、どこかトサカを想起させる程鋭く整えられた緑髪である。

 ────あれどうやってセットしてるんだろなぁ……────そんな風に関係性のないことを思いながら、

 

「ぶー、だってしょうがないじゃーん? 思ったより根性なかったんだもん」

 

 と、拗ねたように言い返す。

 

「どうでもいいけど、早く要件言ってくれない? アタシお肌のケアしなくちゃいけないんだけど?」

「私も。忙しいから半身で来たから早く帰りたいのよね」

 

 まるでどうでもいいかの様に一連の流れに口を出す二人の女性。片方は水着のように際どい格好をして、剣に絡まる蛇の紋章の席に座っている。

 もう片方は前者よりも露出は少ないが、返って色気を放出している、ハートマークを絡み合わせたような紋章の席に座っている。

 そんな中狐が口を開けたような紋章の席に座る、異色眼(オッドアイ)で赤髪の男が、堪えきれないかのように声を荒げる。

 

「ンなことより早く要件をいいやがれってんだ! オレも兄貴もヒマじゃねぇンだぞ!」

 

 拳を円卓に振り下ろし不機嫌そうに前のめりになって催促する彼に、ヴァニティと呼ばれた彼は呆れたように首を振り、仕方ないとばかりに本題を言い始める。

 

「やれやれ、皆せっかちだねぇ。ま、いいや。今回皆を呼んだのはさぁ──────、────『星見(カルデア)』って奴らに興味ないかなーって、ね?」

 

「────………………聞かせろ」

「「「「ッ!!?」」」」

 

 その声に、翼の男とヴァニティを除き、一堂が驚き見る。その視線の先には、火を吹く狼と龍の紋章がかたどられた席に座る男が居た。

 

「『憤怒(ラース)』が興味を示すたァ…………。気が変わった、オレにも聞かせろよ」

「兄貴が興味持ったンなら自分も聞くっス。オラ、早く話せや」

「…………ねぇ? 『色欲(ラスト)』。話だけでも聞いてみる?」

「……そうね、私も興味あるわ」

 

 各々の反応を見てヴァニティは嗤う。これから起こるであろう出来事に、楽しみを隠せずに口元をニヤけさせる──────────。




これにて序幕は終わりです。次章から本編、行きます。
読みにくいよって人は言って下さいです(汗)


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第一章 泡沫の日常
1-1 日常の一幕


 〈カルデア内 外周廊下〉

 

「治療の時間ですッ!!」

「どう見ても治療じゃないよっ!?」

 

 医療用のメス(どこからどう見ても鉈)と包帯を手に走る看護師の姿をした《サーヴァント》と、それから必死に逃げる少年。

 この少年こそ、そう遠くない以前に人類最後のマスターとして戦い抜いた人類史の"希望"、『藤丸 立香』である。

 そんな少年を追いかけているのは、第五特異点において共に戦った、《クリミアの天使》こと『ナイチンゲール』。

 

「毎回だけどただの足の擦り傷だよ婦長!?」

「擦り傷であろうと治療は必要です!!」

 

 ──それだけで切断案件なんて洒落にならない────立香はそう思いながらカルデアの中を逃げていく。その中で、ふとロマン博士がいたらこんなことには、と思った時、

 

「わぶっ!?」

「きゃぁ!?」

 

 ふと、立香は自分が何かとても柔らかいものの中へと顔を突っ込ませた。それと同時に女性の驚きの混じった悲鳴のようなものも聞こえてきた。

 ナイチンゲールに追いかけられて慌てていたのもあってか、大急ぎで立香はそこから抜け出す。

 

「はぅぅ……」

「わわっ、ごめんリップ。大丈夫?」

 

 顔を離して目の前を見ると、恥ずかしいそうに顔を赤くして困ったような顔を浮かべている『パッションリップ』と、呆れたような、それでいて非難めいた目を向ける《メルトリリス》の二人がいた。

 

「うぅ……手、手が……」

「え? ……あ! ご、ごめん!」

 

 未だにリップの胸元に手を置き続けていたことに遅まきながら気付き、慌てて離す立香。その勢いで数歩後ろによろめいてしまう。

 

「はぁ……ほんと、ハーレム案件にならないと気が済まないんですかぁ? センパイ」

 

 そんな呆れ口調ながらもどこか面白そうに言いながらリップの後ろから現れる《BB》。

 そんなBBに対して、と言うよりもリップに対して弁明をしようと立香は口を開きかける。

 

「────捕まえました。時間が惜しいので手術を行います」

「へぁっ!?」

 

 気付けば真後ろにナイチンゲールが立っており、そのまま襟首を捕まれ、身動きができない体制にまで持っていかれる。

 ──────立香はメルトに助けを求めた! 

 

「何? アンタみたいな愚鈍なマスターなんて助けるわけないじゃない。というか、ここじゃなくて医務室でやって。私のヒールに汚い血がついたらどうするのよ」

 

 そう冷たく突き放すメルトリリス。立香のすがるような目に少し気まずく、けれどもどこか悦んでいるようにも見える。

 ナイチンゲールがメルトリリスの言葉に対して少し考えるような素振りを見せた後、立香を引きずってその場から離れようとした。

 

「おやマスター、丁度良かった。今ホットケーキが焼けたところなのだが────生憎と忙しそうだな」

エミヤ(オカン)! 助けて!」

「……分かった。だからそのオカンと言うのはやめてくれ」

 

 そんな言い合いをしつつ現れたのは《エミヤ》である。立香の心の声が駄々漏れレベルではなくはっきり言っていることに対してツッコミをいれながら、エミヤはナイチンゲールと対面する。

 

「その治療精神は尊敬するが、いきすぎれば毒にもなるぞ、ナイチンゲール女史」

「ですが、いかに擦り傷とは言えそこから伝染病が────」

 

 立香は黙して話の流れを見ながら、エミヤの救いに期待していく。

 

「何、その程度の傷ならば唾をつけておけばすぐに治る──────おっと……」

 

 エミヤの口が滑る。その場に一瞬の静寂が流れ、気まずいような空気が流れる。

 最初に口を開いたのはナイチンゲールだった。

 

「……気になる治療法ですね。それは本当ですか?」

「いや何、ただの言葉の綾なのだがね。実際の効果の程は私もよく知らないのだよ」

「ふむ…………」

 

 そう思案して、ナイチンゲールは立香の方を向く。立香はそこから関連してとても嫌な予感がしていた。

 このサーヴァントとしてのナイチンゲールは治療や医療の為ならば一切のことをためらいもなく行動する。

 そして、立香の危惧ははたして、現実のものとなる。

 

「……成る程、試して見るのも一考ですね」

 

 そう言ってナイチンゲールは立香の傷口に口を近づけていく。

 

「うぇ!? ふ、婦長!?」

 

 本人は医療関連として真剣にしようとしているのだが、いかんせん傍目から見ればそれは足に口づけしようとしているかのようであった。

 そうして唇が触れかけた時、

 

「────ップッ。これでいいでしょう。経過については後日医務室にて聞きますので安静に」

「「「「………………」」」」

 

 そう言ってスタスタと去っていくナイチンゲール。その場にはなんとも言えないような空気が漂っていた。

 だが、それも仕方ないと思われる。なぜならあの空気から察するにそのまま唇を付けかねず、そうでなかったとしても唾液が扇情的に見えるやもしれないと思うところがあったのだ。

 しかし、現実はそうではなく、ただ唾を吐きかけられただけである。より当てやすくするために顔を近づけた、ただそれだけなのだ。

 

「あー…………すまない。お詫びといっては何だが、マスターのホットケーキは少し豪華にしておこう」

「……うん、ありがとうエミヤ。そうだったね、婦長はあれが標準だったね…………」

 

 なんとも言えない空気の中、二人の気まずそうな会話から横槍が入ってくる。

 

「ふん、私の方がよく効くわよ……」

 

 そんな風に軽く拗ねたような声が、立香の後ろからする。ふと振り向くと、メルトリリスが立香の頭を自身の服の袖でペシペシと叩き、顔はそっぽを向きながらに言っていた。

 そんなメルトリリスに立香はすこしはにかんで見せる。

 

「うん……そうだね、ありがとメルト」

「ッ…………。ナマイキなのよ、アホでバカで鈍感でトロくてマヌケっ面のくせに……」

 

 そう言って叩く勢いは増すものの、メルトリリスの顔はほんのりと赤らみており、そこには二人だけの空間が出来上がろうとしていた。

 

「はいはーい! そんな甘い空間は超どうでもいいので、というか他人の目の前でしないでくれますぅ?」

 

 だが、不機嫌そうに眉間を震わせながらBBが二人の間に割って入ったことで、二人ははたと正気に戻り、立香は座り込んでいた姿勢から立ち上がる。

 多少驚いたのか焦ったのか、少しばかりもたつきながらであったが、エミヤに連れられて食堂へと向かう。

 行きすがらエミヤは周囲を、何かを探すように見渡し、立香に聞く

 

「そういえば、キリエライト嬢は一緒じゃないのかね?」

 

 その質問に立香は「あー……」と思い出すかのようにして答える。

 

「マシュはダ・ヴィンチちゃんに呼ばれていったかなぁ」

 

 

 

 

 





修正:メルトのセリフを改変しました。ちょっと違和感あったもので……。


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1-2 異常確認

 〈カルデア内 管制室隣接会議室〉

 

「くちゅんっ。す、すいません、大事なお話の最中で……」

 

 マシュ・キリエライトは、気恥ずかしさで顔を赤くして、申し訳なさそうに頭を下げる。そんな姿に引き詰まった緊張感の漂っていた会議室の空気は少しだけ緩み、室内に居る者達に一息のゆとりを生まれさせる。

 

「はいはーい。可愛らしいくしゃみに惚けてないで、話を戻していくよー」

 

 ダ・ヴィンチが乾いた音を出しながら手を叩き、意識を戻させる。ただ一人、マシュだけは照れたようにしていたが。

 そんな姿に少し鼻の下を伸ばす職員達に「はいそこ、鼻の下伸ばさない」と注意するダ・ヴィンチ。再び空気が程よく引き締まるのを見て口を開く。

 

「さてと、このズレは一体何なのか、ねぇ……。特異点でもなければ異聞帯でもない。でも確かにある歴史の"黒点"のようなもの……。どう見る? 探偵クン」

 

 そう言ってダ・ヴィンチは向かい側に立ち、黙考し続けていた〈名探偵〉『シャーロック・ホームズ』に問いかける。

 ホームズはなお黙考し続け、そしてふと組んでいた腕を解き、パイプを吹かして口を開く。

 

「……ふむ。これは私の頭脳を持っても解らないな。今まで3つの異聞帯を巡ってきたわけだが、そのどれもと性質が違う。ましてや特異点でもないときた。さて……これは一体何であるのだろうかね」

 

 そこから解説をするかのように自分達が今までに辿ってきた道筋を改めて確認していく。しかし、そのどれもがこの異常事態に関連付くわけではなかった。

 

「……幸い、この異常地点は現時点ではまだ何の影響もない。が、私が予測するに放っておけば恐ろしいことが起こるだろう」

 

 そう言って話を締めくくるホームズ。つまるところ彼の言うには『原因不明』ということである。過去を振り返り、該当する案件を探しても見つからず、会議室内の者達は途方に暮れていた。

 ふと、そんな空気の中で手を挙げる者がいる。マシュ・キリエライトである。

 

「あの、どうしてホームズさんはそう思うんですか?」

「どうして、か…………正直、その質問はすぐ来ると思っていたのだが」

 

 そんな風に言いながら肩を竦めるホームズ。一息つくようにパイプを吹かし、マシュに向き直りつつ説明し始める。

 

「まず、この異常は微小ながらも少しずつ拡大している。さらに特異点ても異聞帯とも違うというのが大きいね。……そして、これは私の直感だが──────この異常点は異聞帯並みの、人理を飲み込む"穴"になるだろう」

 

 ホームズの発言に、その場に居る全ての者が息を飲む。人理を飲み込む"穴"。特異点でも異聞帯でもない異常点。成長する不可思議な"ズレ"。そのよあなものが発生しているということに皆が皆、戦慄する。

 

「これは……立香クンを呼んで共有した方がいい案件だねぇ…………」

 

 そう呟いて、ダ・ヴィンチは管制室にある放送機器に向かい、館内放送をかける。

 

「あーあー。えー藤丸立香クン、藤丸立香クン、至急管制室まで来てくれたまえ」

 

 そう言ってダ・ヴィンチはマイクを切りながらに思う。────これは大事(おおごと)になりそうだなぁ、と。




これでもまだルーズリーフ3枚目の表なんやで……暇なときにどんどん更新していきます。


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1-3 混沌の始まり

――――〈カルデア内 ???〉

カルデア内の薄暗く、誰も立ち寄らないような場所。そこに二つの影があった。

 

「おや、おやおや、おやおやおやおやおやおやぁ?珍しい御方がいらっしゃいますねぇ?召喚ですか?降臨ですか?はたまたいつもの突飛な登場ですかぁ?」

 

そう言ってハイテンションで捲し立てるのは〈キャスター〉、『メフィストフィレス』。彼の前には、白黒のピエロのような仮面をつけた青年―――――『虚飾(ヴァニティ)』がいた。

 

「ん~、残念っ、召喚はされてないし降臨もしてないよン。ただ遊びに来ただ~け」

「おやおやおやまぁまぁまぁまぁ!そうでございましたか。ではでは此方へ、そして私に何用で?」

 

まるで古い付き合いであるかのように楽しそうに語らう二人。青年はケラケラと笑い、メフィストは演劇の支配人のように振る舞い、しかしおぞましい『悪魔』としての気配を漂わせて談笑する。

 

「今日はねぇ~、メフィっちにお願いしたいことがあって、ねぇ……?」

 

そう言ってヴァニティは妖しい気配をその場に満ちさせる。ヴァニティの目を見たメフィストはさらに笑みを深め、口が裂けんばかりの笑みを見せる。

 

「フ、フフ……ヒヒ…ヒャハハハハ!成る程成る程なぁるほどぅ!このメフィスト委細承知ですよぉ?」

 

二人はお互いに見合って頷き合い、そしてニタリと笑う。ヴァニティの姿は次第にメフィストとそっくりになっていき、ついには瓜二つとなる。

悪意に満ち満ちた談笑をする二人。青年もメフィストも、ニヤニヤケラケラと嗤い合う――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈カルデア内 食堂〉

 

『あーあー、えー、藤丸立香クン、藤丸立香クン。至急管制室まで来てくれたまえ』

 

立香達が食堂にてエミヤの作ったホットケーキを食べていると、突然放送で指名して呼ばれる立香。

放送の声は少女然としていたがダ・ヴィンチのものであり、何事だろうと席を立つ。

 

「ごめんエミヤ、ちょっと行ってくるね」

「それは構わんが………食べ残しを漁られても私は何も言えないぞ?」

 

そうやってエミヤがチラリと視線を向けた方向を見ると、メルトリリスと〈バーサーカー〉『茨木童子』が、立香の残したホットケーキを狙っているのが見える。

茨木は言わずもがな狙ってますよと言わんばかりに仰視し、メルトリリスは我関せずと言った風にしているが、視線が立香のホットケーキの方をよく見ている。

 

「あはは………まぁ残すのも悪いからね…」

「ふむ……マスターがそういうのならばいいのだがね。引き留めて悪かった、早く行くといい」

 

微笑みを携えたエミヤは、そう言うと立香のホットケーキを持って厨房へと戻っていく。その行く先を仁王立ちして防ごうとする茨木に、エミヤは片手にステンレスのお盆を出して、気持ちのいい音を響かせる。

うずくまる茨木に立香は苦笑してから管制室へと向かう。

 

 

 

 

〈カルデア内 管制室〉

 

「お待たせしました!」

「お?来たねー」

 

立香が管制室へと入ると、さも何か話し合っていたかのように人が集まっていた。立香はその集まっている方向へと向かって行く。

 

「先輩、お疲れ様です」

「お疲れ様、マシュ。それでどうしたんですか?」

 

立香がマシュにあいさつしながらダ・ヴィンチに聞くと、ダ・ヴィンチは「慌てない慌てない」と言いながら近くのボタンを押す。

すると、管制室の画面に不思議な光景が写し出される。

 

「あの………これは?」

 

そう立香が問うと、ホームズが歩み寄ってきて、画面について説明していく。

 

「藤丸君、実は先程極小の、けれどどうしても見過ごせないズレを確認したのだよ。私達は、これを仮称『異空点』とした」

「『異空点』……?」

 

立香が困惑したかのように首をひねると、ホームズに続きダ・ヴィンチが続ける

 

「そう、『異空点』。特異点でも異聞帯でもないナニカ。でも放っておけば人理が危ういという結論が出たのさ。ちなみにシバでも同じように出たよ」

 

その言葉を聞いて立香は驚く。特異点でも異聞帯でもないナニカが人理を侵そうとしている、という事実に立香は驚いていた。

しかし、彼はかつて人類最後のマスターとして戦い抜いた程の胆力がある。故に――――、

 

「行きます。どうなってるのか調べて解決しましょう」

 

その言葉にダ・ヴィンチやホームズ達を始め、管制室内にいる者達が半ば納得しているかのような反応を見せる。

その様子に立香が困惑していると、

 

「皆さん、先輩ならそう言うって判ってたんですよ」

「そうそう、お前ならこういうのは見過ごさないだろうしな」

 

と、マシュに続き、職員達が口々に賛同していく。自分が何を言うか見透かされていたことに、立香は少し照れながらも、どこか嬉しい気持ちもあった。

その様子を見ながらダ・ヴィンチはシバを操作していく。

 

「ほらほら、喋ってないで早く準備しておいでー。あと、今回は何が起こるかわからないからサーヴァントも連れてくこと。いいね?」

「はい!ありがとう、ダ・ヴィンチちゃん!」

 

ダ・ヴィンチはシバの準備をしながら立香に大事なことを伝え、戻りを待つ。

座標位置は"十九世紀のロンドン"。奇しくも第四特異点と同じ場所であった――――――――――。

 




小ネタ
・立香のホットケーキには程よくハチミツがかかり、アイスクリームが乗っかってる甘くて美味しいやつ。ぶっちゃけ美味い。
・メルトが狙ってた理由は間接キス狙い。ただ恥ずかしいのとプライドで板挟みになってて堂々と狙えなかった。
・実は他にも数名立香の食べ掛けを狙ってた人がいるのはお察し。


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1-4 罪禍司りし者達

 ────〈十九世紀 ロンドン? 〉

 

 人気のないロンドンの街の中、激しい剣戟の音が鳴り響く。人の生きる気配もしないために、刃物がぶつかり合う音だけが、遠く大きくこだまする。

 広場に戦闘音をかきならしながら現れたのは4騎のサーヴァント達だった。

 

「────────くっ!」

 

 〈セイバー〉────『ディルムッド』は、自らの背に、悪寒にも似たおぞましい何かが走るのを感じていた。目の前で接敵するは、黒く背広なロングコートを着た、真名の知らない緑髪の〈ランサー〉。

 そして、自身の視線の奥にて戦うは〈アサシン〉────恐らくは名高いハサンの系譜────と、同じく黒い背広のロングコートを着た〈バーサーカー〉と思われる紅髪のサーヴァント。

 

「…………フーッ、フーッ…………」

 

 ────まずいな、ディルムッドは自身の額に嫌な汗が流れるのを感じていた。幾度となく刃の応酬を重ねたが、未だに本気を出していないことがよく分かる。そして、手加減されてまでなお自身が競り負けていることも。

 息を吸い、呼吸を整え、ディルムッドは意を決して剣先を向けて声高々に名乗り上げる。

 

「────我が名は、誇り高きフィオナ騎士団が一人、ディルムッド・オディナ! 貴殿の名を問う、〈ランサー〉!!」

 

 その声明に驚いたのか、目を軽く見開く〈ランサー〉。そして髪をかきあげるような動作をするとニヤリとして揚々と答える。

 

「…………へぇ? 中々勇ましいじゃァねぇか。いいぜ、答えてやろう。────────オレの名は『ベルゼビュート』。〈七大罪の悪魔〉が一角、『暴食』のベルゼビュートだ!」

 

 

 

 

 

 

 〈アサシン〉──────瞬雷のハサンは焦っていた。相手は〈バーサーカー〉、まともにやり合って勝てるはずもなし。そう思い距離を置こうとしても、気付けば回り込まれている。

 

「────せォらァッ!!」

「──ぬぅっ!」

 

 大鎌の刃が、風を切り裂きながら頭上を通り抜ける。

 眼下では先程声高々に名乗りを上げた〈セイバー〉と〈ランサー〉がめぐるましい程の戦いを繰り広げている。

 まずは距離を離してから、そう思い気付かれぬよう飛び退こうとした時だった。

 

「────────させるわけねェだろ」

 

 まだそうそうに近くにはこれない程度の遠くにいたはずの〈バーサーカー〉の声が背後から聞こえた。と、次の瞬間、

 

「ぐっぬぅぅっ!?」

 

 強い衝撃と共に、今の今まで立っていた民家の屋根の上を転がっていく。勢いを利用しつつ向き直ると、〈バーサーカー〉の手には身の丈程もある巨体な戦槌が握られていた。

 ────おかしい、彼奴の獲物は大鎌のはずでは。さう驚きに目を見張っていると、不意に〈バーサーカー〉が腰の布の小袋から先程の大鎌を取り出していた。

 

「なっ!?」

「ハッ、こンなもんまだ序の口なんだがなァ?」

 

 そう言って一気に距離を詰められ、戦槌と大鎌の二つの武器による連擊が繰り出される。

 雷速のハサンはなんとかして避けていくが、それでも少しずつ追い詰められ、ついには戦槌の一撃をモロに食らってしまう。

 

「ぐぅっ!!?」

 

 屋根の上を転がり、重い一撃を食らったがために起き上がれず倒れ伏す雷速。そこへ戦槌を引きずりながら歩み寄る〈バーサーカー〉。

 

「これで終いだな────、あーばーよ、っ!」

 

 戦槌が振り上げられ、今叩き落とされようとした────が、次の瞬間、

 

「──────オォ、ルァ!!」

 

 赤い稲妻がほとばしり、目前まで迫っていた戦槌を弾き飛ばす。あまりの勢いの強さに〈バーサーカー〉が数歩よろめき、その隙を突いて稲妻が飛び込む。

 しかし、それを見越していたかのようにニヤリと笑うと、下げていた大鎌を下から切り上げようと腕を上げる。

 

「────哀しい。野猪のように突撃していく卿の短絡さが哀しい」

 

 そんな声と共に竪琴のような音が聞こえてくる。と思えば、敵に向かって無数の斬擊が降り注いでいる。

 

「私は哀しい……マスターを置いていくのはどうかと思いますよ」

「うっせぇ! てかそれより外してんじゃねぇかトリ野郎!」

 

 敵が目の前にいるというのに堂々とケンカをし始める二人。さも長年の付き合いのように言い合う二人に対して、雷速が唖然としていると、

 

「大丈夫? 間に合って良かった」

 

 そう声をかけられた方へ顔を向けると────────《令呪》を持った少年がいた。

 



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1-5 会敵

長いよ長いよ、長くなったよぉ(´д`;;)


 〈十九世紀 ロンドン? 〉

 

 立香達は異常があった、かつて第四特異点の舞台ともなった十九世紀のロンドンの街へと降り立つ。しかし、違和感を感じて不思議に思う。なぜなら────

 

「…………先輩、この街に、人の住んでいるような気配がありません」

 

 そう、人の気配が全くしないのである。辺りを見渡して人影を探すも、その欠片一つとして見当たらないのだ。不思議というよりも、どこか怪しむ立香。

 ふと、カルデアから通信デバイスに連絡が入る。

 

『おーい? 繋がってるー?』

「あっ、繋がってるよ」

「はい、大丈夫です」

 

 立香とマシュが、デバイスから流れるダ・ヴィンチの声に返事を返す。第四特異点のような霧がないとは言え、通信が繋がらない場合があるというのは事前に聞いていたことだ。無事に繋がり、安堵する二人。

 

「おい、早く行く先教えろよ。じれってぇな」

 

 鎧を鳴らしながら足踏みして、苛立ちを隠そうともせず露にしているのはモードレッドである。

 その横で、竪琴の様な弓を持った男、トリスタンがモードレッドにやや呆れたように言う。

 

「私は哀しい……。忍耐も騎士として必要ですよ、モードレッド卿」

「うるせぇ、テメェに忍耐どうこう言われたくねぇよトリ野郎」

 

 威嚇するようにトリスタンを睨み付けて言い返すモードレッド。そんな様子に後ろでやれやれとばかりに肩をすくめながら首を振っているのはジキルである。

 

「はぁ……全く、どうしてこうも噛みつくかな……」

「うー?」

 

 そんなジキルに、心配しているかのような反応を見せるフランケンシュタイン。

 レイシフトする前にダ・ヴィンチから許可が下ろされた同行者。立香が選んだのはマシュを含めるこの五人だった。

 

『はいはい、じれったいのは分かったよー。じゃあそこから北西にしばらく行ったところでどうやら戦闘中らしいから、まずはそこへ向かってくれる?』

「了解!」

「安全第一ですね、先輩」

 

 二人がそう返事をすると、デバイスから満足そうな雰囲気が流れ、その後に通信が切れる。

 立香達は小走りながらも、その戦闘中の場所へと向かっていく。

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 立香達がダ・ヴィンチから教えられた方向へと向かっていると、その先には噴水広場のような開けた場所があった。

 そして広場へとあと少しというところで、突然モードレッドの目が鋭くなる。

 

「────悪ぃマスター、先行くぞっ!」

 

 剣呑な空気を帯びて立香にそう告げると、赤雷を纏って駆け出していく。あまりに突然の行動であった為に、立香は返事することさえできなかった。が、慌てて指示を出していく。

 

「ト、トリスタンっ。モードレッドをお願いっ」

「御意に(イエス,マイ マスター)」

 

 立香の指示にトリスタンが頷くと、飛び上がって屋根伝いにモードレッドを追いかける。

 トリスタンはあの一瞬の間にモードレッドがどこへ向かったかというのをしっかりと判っていた。なぜなら、向かった先には〈アサシン〉らしき気配と、曰く形容し難い妖しい気配がぶつかっていたからだ。

 

「────オォ、ルァッ!!」

 

 モードレッドの叫びが聴こえる。小さなため息を吐きながら、トリスタンはその後少ししてモードレッドに追い付く。

 

「はぁ……哀しい。野猪のように突撃していく卿の短絡さが哀しい」

 

 弓に張られた弦を爪弾く。するとそこから無数の斬擊が矢のように、雨のように妖しい気配の元へと飛んで行く。しかし、その全てが避けられていることに、トリスタンは驚く。

 ──────ふむ……これは少々不味いでしょうか────そう思い、モードレッドと合流する。

 

「私は哀しい……マスターを置いていくのはどうかと思いますよ、(サー)

「うっせぇ! てかそれより外してんじゃねぇかトリ野郎!」

 

 モードレッドの怒号が隣に聴こえる。とは言え本人も力量差を感じ、本気で突っかかるつもりではない様子。

 ふと、後ろからマスタ────藤丸立香の気配を感じる。どうやら、背後の〈アサシン〉に手を差しのべているようだ。

 ────……いささかどうやって登ったのか気になりますね────そんな関係のないことを思い、自らの緊張感を多少なりとも和らげる。そうでもしなくては勝てない相手だと、トリスタンは悟っているからだ。

 弓を握り直し、相手を注意する。かなりの強敵であろう相手に、トリスタンは目が見えないことを焦れていた──────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────立香達はトリスタンが去った後、自分達も追おうとしていた。だが、トリスタン達が向かったのは屋根の上。

 

「どうする? 立香君、上へ行くならどうにかして道を────」

 

 そうジキルがいいかけた時、不意にフランケンシュタインがジキルと立香を抱え込んでくる

 

「うぅ――っ!!」

「うわわっ!?」

「うわぁっ!? ど、どうしたんだい!?」

 

 慌てふためく二人を、どこふく風とばかりに無視して跳び上がる。気付けば三人は屋根の上に立っていた。フランケンが二人に抱え、屋根の上へと跳び登ったのである。

 

「あ、ありがとうフラン……」

「し、心臓に悪い…………」

「うー?」

 

 唐突すぎてぐったりしかけている二人に、どうしたのと言わんばかりに首を傾げるフランケンシュタイン。

 なんとか気を持ち直してトリスタン達の元へと向かう立香達。すると、丁度トリスタンが弦を爪弾き、攻撃を加えてる場面に出た。その隣には膝を突いている〈アサシン〉────ハサンの姿があった。

 立香はそのハサンへと駆け寄り、手を差しのべる。

 

「大丈夫? 間に合って良かった」

 

 立香のその言葉に、ハサンは顔を上げる。表情は仮面をしていてわからないが、驚いているということはわかった。

 少しして、ハサンが立香の手をとる。

 

「あ、あぁ…………助かった、礼を言う……」

 

 少しよろめきながらも立ち上がり、そして視線を反らす。その視線を追って見ると、それはモードレッドが戦っている黒コートの男を見ていた。

 

「あれ……サーヴァント、だよね?」

「はぁ、はぁ……お、追い付きました、先輩。もう既に戦闘中でしたか」

 

 立香のぼやきに被せるようにマシュが遅れてやってくる。軽く息切れをしているが、立香はどうやって屋根まで登ってきたのかが気になった。だが、それを問うよりも、

 

「…………あれは、恐らく〈バーサーカー〉のサーヴァントだ。確証はないがな」

 

 と、ハサンが立香のぼやきに答える。それに答えるようにしてデバイスが鳴る。

 

『〈バーサーカー〉だって? あんなサーヴァント、カルデアの記録にないぞ?』

 

 デバイスから鳴るダ・ヴィンチの声、が訝しげそうに言う。カルデアの記録にないということは、未確認のサーヴァントか、もしくはカルデアが記録を採った後にサーヴァントになった者か、ということになる。

 立香が考えこんでいると、不意に黒コートの男がこちらを向いた気がした────と同時に、目の前に無数の短剣が現れる。

 

「────────えっ?」

「っ! 先輩、危ないっ!」

 

 咄嗟にマシュが盾を構えて短剣を弾き、事なきを得たが、もう少し遅れていれば立香の体が針山のようになるところであった。

 

「チィ! んにゃろぉっ!!」

 

 モードレッドが力任せに横薙ぎに剣を振り、男を弾き飛ばす。男は空中で綺麗に回転しながら、着地の瞬間にステップを踏むようにして体勢を整える。

 

「マスター! 離れてろ! コイツ、マスター狙ってんぞ!」

 

 歯噛みしながら相手を睨み付けつつ、立香にそう伝えるモードレッド。注視している相手はトリスタンの攻撃を難なくかわし続けている。

 攻撃の手が止み、互いに距離を取り合う。ふと、男が立香のことを見て口を開く。

 

「…………はァン? テメェがカルデアってとこのマスターだな?」

 

 得心が言ったように、口元に笑みを浮かべる男。

 カルデアを知っている。つまり、男はクリプター側のサーヴァントなのかと立香は思い、口にする。

 

「……そうだ。君は……クリプターのサーヴァントなのか?」

 

 立香の質問、と言うよりも返答に「ハッ」と鼻で笑う男。その眼をよく見ると、右眼が青く左眼が赤いオッドアイだった。

 

「バカ正直に答えるたァ…………テメェ、さては相当のお人好しだな? もしくは相当のバカか。ま、いいさ」

 

 そこまで言うと、右手に持っていた大鎌を振り回して地面(屋根)に突き刺し、片足を乗せて嘲笑うかのような目を向けると、

 

「クリプターだかコラプターだか知らねぇがオレ様には関係ねぇな。よく聞いとけ────────オレ様の名は〈マモン〉!! 《七大罪》の魔王が一人、『強欲』のマモン様だ! 覚えとけ、ニンゲン」

 

 そう高らかに名乗り上げ、立香に向かって指を指す。マモンという名、そして七大罪(強欲)という二ッ名。それはただ一つの答えを指し示す。そう──────敵は、かの《大悪魔》である。



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1-6 vs大罪魔王(立香side)

 ──────マモン。目の前で佇むサーヴァントはそう名乗った。デバイスから息を飲むような空気が伝わってくる。

 

『マ、マモンだって!? 聖書にも記されてる大物中の大物じゃないか!』

「はい! 七つの大罪のうち、《強欲》を宿すとされている大悪魔…………彼が、そうなのでしょうか」

 

 ダ・ヴィンチの驚きと焦りの声がデバイスから流れ、マシュは今まで以上に警戒する。

 だがしかし、モードレッドだけは違った。

 

「ハッ、マモンだかサモンだか知らねぇな。敵は潰すだけだろ」

「シハハ、違ぇねぇ」

 

 モードレッドのケンカを売るような発言に、マモンは笑いながら同意する。大鎌を引き抜き、モードレッドに向かって水平に構える。

 ふと、マモンが思い出したように立香に言う。

 

「そういや、下にアニキに一対一(タイマン)ふっかけてる命知らずもいるけどよォ。行かなくていいのかァ?」

 

 そのマモンの発言に立香は驚く。このハサン以外にももう一人ここにいたのか、と。逡巡する立香に、

 

「マスター! ここはオレとトリに任せろ! マスターがいると全力で飛ばせれねぇ」

 

 と、モードレッドが声を張り上げて言い、

 

「異邦のマスターよ。ここは良い、下へ向かってくれ。私も、もう動ける」

 

 と、ハサンが前に出て言う。二人の言葉を聞いて立香は心を決める。

 

「────先輩」

「……うん、任せよう。マシュ、フラン、ジキル、行こう!」

 

 三人の名を呼んで下へと降りていく。三人もそれ続いて下へ向かって降りていった。ジキルだけは「ボク案内しかできないんだけどなぁ……」と呟いていたが。

 立香達が降りたのを気配で知りながら、モードレッドは剣をマモンに向かって構える。マモンを中心にしてトリスタンとハサン、そしてモードレッドで三角形をつくるようにして取り囲む。

 

「さてと……んじゃ気の赴くままに闘り合うとしょうぜ」

「言われなくてもそうしてやるよ」

 

 マモンとモードレッドが向かい合い、互いに口火を切らす。互いに見合い、隙を見計らい、そして一瞬の隙を突き、激突する────────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 立香達が地上に降り立つと同時に、隣に人が吹き飛ばされ、壁に衝突し、土煙を上げる。

 驚く立香達が目を見張っていると、土煙の中からよろめきながら一人出てくる。

 

「──────ディルムッド!?」

「……っ? 貴殿らは?」

 

 手痛そうなダメージを負いながらも立つそのサーヴァントに、立香は駆け寄る。

 思っていた以上にダメージが入っていたのか数歩歩いて膝を着けるディルムッド。すぐさまジキルを傷を見て応急処置を行う。

 

「────……ん? なんだァ? …………あー、そうか、テメェらが星見(カルデア)か」

 

 そう言って、ディルムッドが吹き飛ばされてきた方向から歩み寄ってくる、マモンと同じ黒いコートを着た緑髪の男。この男もまた、カルデアを知っていることに、立香は警戒体制を取る。

 

「…………流石は、最強とも言われる大悪魔────《ベルゼビュート》だ。よもやここまでとは……」

 

 そのディルムッドの発言に立香達は驚き、ベルゼビュートと呼ばれた男を見る。それと同じくしてデバイスからホームズの声が出る。

 

『ベルゼビュート! 七大罪(暴食)の権能を持つ、七人の悪魔の中でも最強格の悪魔。マモンがアニキと呼ぶ相手がまさか君とはね…………』

 

 珍しくホームズの絶句するような声が鳴り、ベルゼビュートは肩に身の丈程もある槍を担ぐ。

 

「はっ、やめろやめろ。オレァそう大したもんじゃァねぇよ。……それに、ディルムッドだったなァ? テメェも中々の強さだぜ」

 

 空いた片手で払うようにしながら謙遜して、しかしディルムッドをその双眸でしっかりと見つめて言う。その口元には好青年のような笑みを浮かべている。

 そんな姿に、ディルムッドもまた笑みを浮かべて双剣を構える。

 

「……ふっ、悪魔とは言え、これ程にまで清々しい決闘をするとは……。ならば私も、誠意を持ってお相手しよう!」

 

 そう言って互いに互いを見合い、刃を交えようとする。だが、そこへ一人の影が入ってくる。

 

「う!」

「フ、フラン!?」

 

 その突然の行動に立香は驚き、慌てて引き戻そうとする。が、フランは頑なに動こうとしない。ジキルも引き戻そうとするものの、全く変わる様子がない。

 その様子にベルゼビュートは笑いを圧し殺しながら、

 

「ククク、構わねぇよ。そら、一人でも二人でもいいからかかってこいや」

 

 となんでもないかのように言いながら、槍を腰中段に、穂先を下に向けて構える。それはいつでも突きを撃てる構えであった。ディルムッドとフランもまた各々の構え方で戦闘体制を取る。

 少しばかりの沈黙が流れ、刹那──────ベルゼビュートが動き出す。一瞬遅れてディルムッドもまた駆け出し、共にぶつかり合う。

 ベルゼビュートの渦巻く風を纏った鋭い一撃を、ディルムッドは双剣を交差させて受け止める。そして、ディルムッドの背後からフランがメイスを振り上げてベルゼビュートに襲いかかる。だが、ベルゼビュートはそれを半身避けるだけでかわしていく。

 

「クハハ! いいねぇ! 即席なクセしていいコンビネーションじゃねぇか!」

 

 ディルムッドの双擊を、フランの重擊を、ベルゼビュートは槍を縦横無尽に振り回して流し、そして避けては攻撃を加えていく。

 

「そらァッ!!」

「ウゥゥアァァッ!!」

 

 ベルゼビュートの薙ぎを、フランはメイスで叩くようにして迎撃する。方々に風と稲妻が走り、周囲を破壊していく。

 そして、エネルギーが収束し、暴発する。二人はその勢いで弾かれたように距離を空ける。瞬間、ベルゼビュートの背後からその時を狙ってたいたかのようにディルムッドが低身で懐に潜り込む。

 

「そこだ! ────『憤怒の波濤(モラ・ルタ)』ッ!!」

 

 ディルムッドの宝具が、ベルゼビュートの間近にて発動される────。




波濤は『はとう』と読むらしいです。


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1-7 vs大罪魔王(モードレッドside)

 結論から言えば、ディルムッドの宝具は当たることはなかった。

 状況から考えれば、回避は不可、必中の一撃のはずだった。だが、ベルゼビュートに当たることはなかった。より正確に言うならば、ディルムッドは宝具を当てることなくベルゼビュートに弾かれたのだ。

 

「ここだ! ────『憤怒の波濤(モラ・ルタ)』ッ!!」

 

 ディルムッドの宝具がベルゼビュートに迫る────刹那、ベルゼビュートが高速で行動する。

 

「甘ェ! 威圧(いお)とせ、『暴風の大公(バアル・ゼブル』!!」

 

 ベルゼビュートがそう叫ぶと、周囲に黒い風が集まり、と思うとディルムッドの元へと殺到する。

 

「なっ!? ────くっ、ぬぁっ!!」

「ウァァゥッ!?」

 

 さながら鎌鼬(かまいたち)の如く刃物のように鋭利な突風がディルムッドを切り裂き、弾き飛ばす。その余波はフランの元にも届きはしたが、フランはなんとか耐え忍ぶ。

 

「ふぃー、危ねぇ危ねぇ。なかなかやるじゃねぇか」

 

 肩を回しながら、楽しそうに言うベルゼビュート。ディルムッドは完全に膝を突き、フランは立っているとは言え、そのダメージはかなりのものである。

 だが、それでもフランは荒い息を吐きつつ睨み付け、ディルムッドの闘志もまた尽きてはいなかった。

 ベルゼビュートが黒い風を纏い、二人に歩み寄ってくる。ふと、立香達の後ろにて、轟音と共に巨大な土煙が立ち上がる。そこから現れたのは──────、

 

「だぁぁっ! クソがっ!!」

 

 ボロボロになりつつも暴言を吐くモードレッドであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────時はさかのぼり…………────

 モードレッド達はマモンに対して猛攻を仕掛けていた。

 トリスタンは距離を取りつつ弦を弾いて斬擊を飛ばし、ハサンは短剣(ダーク)を投げつつ死角から切りかかる。そしてモードレッドは真正面からマモンに対して斬りかかっていた。

 しかし、そのどれもをマモンは弾き、流し、そして受け止めていた。

 

「だァァァッ! しゃらくせェ!!」

 

 雄叫びをあげるようにして叫ぶと、マモンは右手の大鎌を空に放り投げ、片手の戦槌を両手でしっかり持つと一気に振り下ろす。

 

「そォルァッ!! 『震撼する鉱鉄槌(オア・シェイク・ロア』!!」

 

 マモンが足元に向かって大きく打ち鳴らす。マモンを中心として球形な不可視の衝撃波を生み出し、モードレッド達に襲いかかる。

 

「ぐっ!?」

「のぁッ!?」

「ぐぁッ!!」

 

 衝撃波によって吹き飛ばされた三人のうち、トリスタンは比較的軽傷ですぐさま体勢を持ち直し、ハサンは身軽さ故にか苦痛の声を上げ、屋根の上を転がる。だがしかし、中でも一番にダメージが大きかったのはモードレッドだった。

 

「チッ、クッソがぁ…………鎧貫通かよ、ソレ……」

 

 素面を晒しているが故にか、モードレッドの口から血が一筋流れ、足元にポトリポトリと落ちていく。

 モードレッドの外見こそ無傷のように見えるが、鎧な中は強い衝撃を直に食らったかのような深刻さだった。

 

「おいおいなんだァ? その程度でギブアップか?」

 

 挑発するかのように煽るマモン。モードレッドはそれにまたしても舌打ちをして、耐えるために足元に突いていた剣をマモンに向け直す。

 

「ハッ、テメェこそ、これでネタ切れなんて言うんじゃねぇだろうな」

 

 挑発的に言い返し、マモンを見るモードレッド。そんなモードレッドにマモンは愉快そうな笑みを浮かべ、戦槌を肩に担ぎながら半身を逸らし、大鎌を前に向ける。

 

「なわけねぇだろ。三人相手にしてンなシケたマネするかよ」

 

 そう言って闘気を上げていく。しかしマモンはモードレッドだけではなく、他の二人の動きも注意していた。

 トリスタンは距離を取りつつ隙を見計らっており、ハサンもまた満身創痍ながらに戦意は挫けていなかった。

 互いの闘気が膨れ上がり、隙を見合うかのような沈黙が──────流れることはなく、モードレッドが真っ先に動く。

 

「赤雷よ!!」

 

 自身に突っ込んでくるモードレッドを、マモン悠々と待つ。そして体をひねりながら両手を後ろに大きく振りかぶる。

 

「"Take that,you Fiend"(これでも食らいな)!!」

「"Be crushed,for you"(潰れちまいな)!!」

 

 互いの攻撃が激突・交錯し、拮抗する。だがしかし、それも長くは続かず、モードレッドは吹き飛ばされる。

 モードレッドの攻撃は持続性がなく瞬間的な威力が高い。それに対してマモンの攻撃は重量や勢いによる持続性があり、体力をも削っていくものである。

 競り負けたモードレッドは吹き飛ばされた先にある家屋に衝突してしまう。土煙を煩わしく思いながらも家屋から出て叫ぶ。

 

「だぁぁっ!! クソがっ!!」

 

 思わず暴言を吐きながら自分が飛ばされた方向を見る。そこでは、マモンとトリスタンが戦闘しているところであった。

 何度目かわからない舌打ちをするモードレッド。そんなモードレッドに聞き覚えのある声が聴こえる。

 

「モードレッド!? 大丈夫!?」

 

 目線を下に下げると、マモンと似た空気を纏う緑髪の男、そしてそれと戦う立香達の姿があった。

 




編集秘話

実は後半一度データ消えちゃったのよね。だから元のと微妙に違うのよ。流れはほぼ同じだから無問題ネ。


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1-8 魔風と虚宝

個人的な諸事情でだいぶ遅れお待たせしました。

以下修正点
・行頭空白を入れました。
・線を書き直しました。
・これまでの第話の誤字等修正しました。




 吹き飛んできたモードレッドは、ベルゼビュートを警戒して、しかし訝しむように睨む。

 

「おいマスター、なんでまだこんなとこいんだよ」

 

 モードレッドがベルゼビュートから意識を離さず立香に語りかける。立香はどう言おうか逡巡している。

 ちなみに件のベルゼビュートはと言うと、自らの槍を地面に突き刺してはもたれ掛かり、手空きではない暇そうに欠伸をしている始末である。

 

「さっきの今でそこまで離れられるわけがないだろう? それに複数人いるなんて僕らも知らなかったんだし」

 

 そうモードレッドに教えるようにして言い返すジキル。その傍らには、ジキルに肩を貸されながら足を引きずり歩くディルムッド。息は切れ切れで今の状態ですら辛そうにしている。

 

「間違いなく敵でしょうに、それすらわかりませんか? 卿は」

 

 そう言って立香の近くにトリスタンが降りてくる。脇にはぐったりとして動かない、というよりも動けなくなっているハサンが抱えられていた。

 よく見ればトリスタンも怪我をしており、かなりの戦闘があったことがわかる。

 

「チッ、うっせぇなぁ、わかってらぁよンなことはよ。………………おい、そこのお前! 何だ!」

 

 不機嫌そうにベルゼビュートに向かって叫び聞くモードレッド。内容に軽くこけるジキルを尻目にしてベルゼビュートを睨み続ける。

 隣へ来た紅髪の男と何かしら話していたベルゼビュートは、モードレッドの問いかけに不思議そうにして向き直る。

 

「あん? 何ってお前…………それじゃァ悪魔としか答えれねぇよ」

 

 呆れたように、そしてどうしようもないかのように肩をすくめるベルゼビュート。その反応にモードレッドは軽く眉間を震わせて言い直す。

 

「じゃあテメェらは何者なんだ?」

 

 状況が違っていれば今すぐにでもキレて殴りにいきそうなモードレッドを見て、立香は軽く自分の頬がひきつるのを感じていた。

 ベルゼビュートは「及第点だな」と呟くと、手に持つ槍を立香達に向けて言う。

 

「初見が多いからな、改めて直らせてもらうぜ。オレは《ベルゼビュート》。『七大罪』の魔王が一人、『暴食』のベルゼビュートだ!」

「そしてオレは同じく『強欲』の《マモン》様だ! よくよく覚えとけよ? 人間(マスター)サマよォ」

 

 ベルゼビュートに続き紅髪の男──────マモンも立香に名乗り上げた。これで立香は、ディルムッドらと交戦していた悪魔たち二人の真名を知ったことになる。

 

「ケッ、知るかよ。オレはお前らがなんだろうとぶっ飛ばすだけだ」

 

 口元を手の甲でぬぐいながら剣先を向けるモードレッド。既に他の面々も臨戦体勢に入っている。先に戦いに参戦していたディルムッドとハサンは近場で体力を戻すことに専念している。

 

「ハッ、そうだな。じゃァたっぷりと楽しませてくれよ」

 

 腰に槍を抱え直しすベルゼビュートと、戦槌を掲げ、大鎌を後ろにして体をひねり、突っ込もうとするマモン。

 両者の中間点で火花が弾けるような空気が流れ──────────

 

 

 ────────先に動いたのはマモンだった。

 

「そォるァッ!!」

 

 立香を狙い、戦槌と大鎌を交差させるように振るマモン。しかし、その攻撃は立香に届くよりも先に現れた巨大な盾によって防がれる。

 

「チィ! 抜け目ねぇなガキンチョ!!」

「先輩には手出しさせません!!」

 

 せめぎあっていたところを、マシュがシールドバッシュで弾き、そのまま盾でマモンを殴る。

 マモンは防御体勢を取るが、そのまま吹き飛ばされる。しかし舗装された地面を砕きながらもブレーキをかけて耐える。

 

「ぐぉっ、こんの…………ぬぉぉ!?」

 

 マモンが顔を上げるまでの一瞬の隙を突いてトリスタンが弦を鳴らし、無数の斬擊を飛ばす。始めこそ驚いたマモンだったが、避けるうちに余裕が出たのか、時折逆に切り裂いていく。

 

「そらそらそらァ!! ほい兄貴!!」

「おゥらよ!!」

 

 マモンが弾き返しきった間隙を狙ってベルゼビュートが突風を纏って突進してくる。それを赤い雷を纏ったモードレッドが突っ込みながら迎え撃つ。

 両者の攻撃がぶつかり合い、風と雷を撒き散らしながら競り合い、互いの勢いで弾かれながら下がる。

 

「やるじゃねぇか騎士サマよ!」

「テメェもな風ヤロー!」

 

 お互いに好敵手を見つけたかのような笑みを浮かべながら再び衝突する二人。

 ベルゼビュートの突きを避け、隙を見たモードレッドの剣を仰け反ってかわしながらも地面に槍を刺して、ブレイクダンスのように蹴り上げる。それを剣の腹で流しながらそのまま腹でひねりを加えた一撃を加える。

 

「ウゥゥァァァッ!!」

「うぉ!? らっとォ!」

 

 そんなラッシュの中の一瞬を突いてフランがメイスでベルゼビュートに殴りかかる。しかしベルゼビュートはそれを難なく避けて距離を空けてしまう。

 ふと、琴弦を弾くような音が聞こえたベルゼビュートは、危険を感じてそこから飛び退く。

 

「ハハハ! 集中砲火かよたまんねぇな!」

「私は哀しい……これでも当たりませんか」

 

 先程までマモンを引き離すために斬擊を飛ばしていたトリスタンが、ベルゼビュートに向かっても攻撃を加えていく。

 一方のマモンはどうやってか二人に分身し、マシュの猛攻とジキル────ハイドを相手取っていた。

 

「ヒャーハハハハ! 殺してやるぜぇ!」

「ハハハハハ! なんだオメェ、さてはヤベェ奴だなぁ!?」

 

 ハイド側のマモンは、ハイドのナイフを愉快そうにしながら避け、大振りなナイフを二刀、逆手に持って戦っている。

 

「くっ!」

「未熟! 未満! そして無力!! ンな程度でオレ様の相手なんざ千年早ェ!!」

 

 大鎌を両手持ちにして猛攻を仕掛けているマモンと、それを受けるばかりで一向に攻めきれないマシュ。その後ろでは立香が立っていた。

 そして、意を決したかのように、立香がマシュ達に向かってある魔術を発動する。

 



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1-9 意味深な撤退

「礼装魔術! 『全体強化』!!」

 

 立香が"礼装魔術"を発動する。立香の着る服装にダ・ヴィンチが備え付けた特殊な魔術。それが礼装魔術である、

 立香が発動した魔術により、マシュを含める立香のサーヴァント達が強化される。

 

「たぁぁっ!!」

 

 立香のおかげで、先程まで押されぎみだったマシュに余裕ができ、攻勢に出る。

 マモンの大鎌を大きく弾き、体勢が崩れたマモンに向かって返す盾で槍のように突き打つ。その際に底部のバンカーを打ち出して大打撃を与える。

 

「ぐぼぁっ!?」

 

 派手に吹き飛ばされたマモンは地面にバウンドしながら転がっていく。それでも四つん這いになり地面を砕いて耐え、ユラリと立ち上がる。

 

「ハハハ、ハーッハハハ! ンだよンだよ、思ったよりやるじゃねぇかガキィ!!」

 

 瞳孔を見開き、狂喜するかのように笑みを深めるマモン。

 ふと、立香がベルゼビュート側を見ると、黒い風が吹き荒れ、赤と緑の雷が絡み合っている危険地帯となっていた。あちこちの周囲、地面は戦闘の衝撃や余波でボロボロになっている。

 

「さぁもっとだ! もっと…………あァ?」

 

 猛り叫ぼうとしていたマモンが、訝しげな声を上げる。その目線の先には、全てが真っ黒な蝶が飛んでいた。

 その蝶はマモンの目の前で2、3程回ると、ベルゼビュートの元へと向かっていく。

 

「……な、なんだ? あれ」

「……チッ、興醒めだァ……。兄貴!!」

 

 立香の疑問を余所にマモンがベルゼビュートを呼ぶ。丁度距離を取り合っていたベルゼビュートは目線だけでマモンを見ると、マモンと共に蝶が舞っているところまで下がる。

 

「随分とまァ早かったな……おいお前ら」

 

 何事か呟いてからベルゼビュートが立香に話しかける。

 

「悪ィがここで幕引きだ、また会える日を楽しみにしてるぜ。それと…………オイ」

「アイッサー」

 

 ベルゼビュートに呼び掛けられたマモンが、自身の腰にある布袋を探る。そして中から何かを取り出すと、ボソボソと呟いて立香達、もとい立香に向かって投げつける。

 立香はそれを慌てて受け止め、手の中のものをみて驚く。

 

「……これって、聖杯!?」

「なぜ聖杯をあの人達が!?」

 

 立香とマシュが驚きの声を上げると、ベルゼビュートが手を払うようにして振りながら立香に言う。

 

「お前らの欲しがってたモンだろ? くれてやるよ、オレ達にはいらねぇからな」

「そ、そうなんだ……」

 

 そんな会話を交わす立香とベルゼビュート。その後ろではマモンがまた布袋から何かを取り出しており、それを虚空に刺している。すると、そこに巨大な漆黒の、それでいて精緻な細工の掘られた城門のような扉が現れる。

 

「兄貴、オッケーっス」

「おう。んじゃァなカルデアのマスター、また会おうぜ」

 

 そう言って空いた門をくぐっていく二人。ふとベルゼビュートが何かを思い出したかのように足を止める。が、すぐに立香に向かって振り返り、

 

「……あー、言い忘れてたがな。聖杯(ソレ)を大事に抱えてても良いことねぇからな?」

 

 と立香の持つ聖杯を指差して言う。そうして「じゃあな」とそのまま扉をくぐっていってしまう。二人が通った後に扉は閉じ、消えていく。

 丁度消えたタイミングで通信が入ってくる。

 

『あー、やっと通じた。そっちは大丈夫だった?』

「はい、一応なんとか」

 

 ダ・ヴィンチの声が鳴り、立香はそれに応える。ふと、マシュが疑問を浮かべる。

 

「あの、どうして通信が途絶していたのでしょうか」

『んー、多分彼らの出す存在感で空間がねじ曲げられていたからだと思うよ?』

 

 そう話していると、途中でホームズの声に切り替わる。

 

『あんまり悠長にはしていられないね。そろそろその空間が狭まっている。消滅が近いみたいだから早く帰ってきたまえ』

 

 その通信を聞いた直後、立香達はレイシフトの状態へと移行する。

 そんな立香達に近づいてくる気配を感じて、立香は振り返る。そこには、歩ける程度にはケガが治ったのか、ディルムッドとハサンの二人がいた。

 

「お別れ、ですか……」

「そうだね……大丈夫?」

 

 立香が不安げに訪ねると、ディルムッドは微笑みを浮かべてこう返す。

 

「えぇなんとか……此度は感謝します、異邦のマスターよ」

「他の者等も奴等に挑んだが、ついには勝てなんだ。だからこそ、感謝する」

 

 そう言う二人はどこかホッとしているようで、清々しそうにしていた。立香もそれに頷き、そして彼らしく言葉を紡ぐ。

 

「それじゃあ……また会おう、二人とも」

「あぁ」 「えぇ、その時は是非」

 

 お互いに言葉を交わして、立香達はカルデアへと帰還していく──────────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────異邦のマスター達が去り、静寂な街を見つめるディルムッド。これで我らが呼ばれし使命は終わった。一息ついて、そう気が抜けて瞬間────────ズブリ。

 

「カッ!? ハッ…………」

 

 何かが自身の胸部を貫く感覚がする。胸元を見ると、腕のようなものが自身の胸元から出ている。そのまま勢いよく引き抜かれ、ディルムッドは地に伏す。

 顔を上げて背後を見ると、ハサン──────ではない。ハサンを模したナニカが蠢いていた。

 

「貴様…………っ、何者だ…………っ」

 

 最後の力を振り絞りつつディルムッドはソレに問う。ソレの背後からコツコツと硬い靴音が鳴り、異質な空気を持つ女性がソレの隣で立ち止まる

 

「あら? まだ生きてるわよ? 早くトドメを刺さなきゃね?」

「そうだな、ここまで英霊がしぶといとは計算外だった。とはいえ、それは彼の神殿で思い知っていたがね」

 

 そう言ってソレ──────青年の姿に変わった男が腕を振り上げる。それと共に、ディルムッドの意識は闇の中へと落ちていく。

 

「うふふ……始まるわよ、"宴"が」

「あぁ、始まるな……あのカルデアがどこまでやるか見物だな」

 

 彼らのその会話だけが、彼が最後に聞いたものであった──────────。




実は眠気と戦いながら書いてます。
割とマジで辛いっス(遠い目


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1-10 煉獄開門

 〈カルデア レイシフトルーム〉

 

 立香らがカルデアに帰還し、ダ・ヴィンチ達が迎え出る。

 

「おかえり、首尾はどうだった?」

「はい、この通りに」

 

 マシュの返事に続いて、立香が手に入れた聖杯を見せる。ウンウンと頷くダ・ヴィンチの後ろからホームズが現れて悩むような仕草をとる。

 

「しかし、結局あれが何だったのか判らず終いだったね」

「「あっ……」」

 

 二人が思い出したように呆けた声を出す。それもそのはず。二人はベルゼビュートらとの戦闘に集中しすぎていたがために、当初の目的をすっかりと忘れてしまっていたのだ。

 

「おいおいマスター……しっかりしろよ……」

 

 モードレッドの呆れ声が追い討ちをかけ、立香は恥ずかしいやら申し訳ないやらで縮こまっていた。

 そんな立香を、ダ・ヴィンチは仕方ない子を見るかのように見つめて微笑みを浮かべる。

 

「さて、それじゃその聖杯を保管しにいかないとね」

「あ、はいっ」

 

 マシュが慌てたように返事をして、立香から聖杯を受け取ろうとした──────その時。

 

「そうは問屋が卸さねェ、って言うヤツだなァ?」

 

 そんな声が室内の響き、立香達は一気に警戒体制を取りながら声の主を探す。

 ふと、立香が上を見上げるとそこには────────、

 

「テメェ…………マモンッ!!」

「ギャハハハ! マジで覚えてるか! 流石はサーヴァントだなァ?」

 

 モードレッドの反応に愉快そうに笑いながら、空中であぐらをかいて座るように浮いているマモンがいた。

 マモンはカルデアの面々を眺めるように見ていき、最後に立香を見た。

 

「よォ人間、さっきぶりだよなァ?」

「なんでここにいるんだ!?」

 

 立香の驚き叫ぶような問いに対し、マモンは悩むような見定めるような目を向け、「そうだなァ……」と呟く。

 ホームズが立香の前に出るようにしてマモンを見つめる。

 

「……君が《強欲》の悪魔……マモンか」

「おうともよ。敬意と畏怖を持って《グリード》様と呼んでもいいンだぜ?」

 

 ホームズの問いかけに対して、そう嘲るようにニヤリと笑みを浮かべて答えるマモン。

 立香達の後ろでは、マモンが立香達に集中しているであろう隙をついて、ダ・ヴィンチらが職員を避難させている。ちなみに現所長──ゴルドルフ所長はというと、

 

「き、聞いてないぞ…………カルデアに直接侵入するサーヴァントなぞ……」

 

 となるべく気づかれないようボソボソと愚痴をたれながらも避難しようとしていた。

 しかし、その呟きはマモンの耳へと届く。

 

「おいそこの下等なデブ」

「誰が下等なデブだね!? な、なんの用だ」

 

 ゴルドルフ所長に向かってマモンが不機嫌そうに睨みつけて、所長の呟きに対する文句を言う。

 

「オレ達はサーヴァントじゃねェ、れっきとした《悪魔》だ。覚えとけゴミ」

 

 そう吐き捨てると興味を失せたかのように視線を立香へと戻す。否、その視線は立香ではなく、その手に持つ聖杯に向けられていた。

 

「さ、て、と……さっさと用事を済ませるかねェ」

 

 そう言ってマモンは、立香の持つ聖杯に向けて手を伸ばし、握り潰すような動きを見せる。すると、立香の持つ聖杯がカタカタと揺れ始める。

 

「おう人間、さっきの答えだ。オレサマの目的はなァ……────テメェらを"コッチ"にご招待する為だぜ」

 

 マモンが手を握りしめる。それと同時に立香の持つ聖杯が、紙をクシャクシャに丸めたように潰れてしまう。

 

「あぁっ! 聖杯が!」

 

 マシュの悲痛な叫び。そして、一瞬の間を置いて巨大な地震が起きる。カルデア中が激しく揺れ、立香達はあまりの揺れに思わず床に手をついてしまう。

 そんな中、マモンは空中で両腕を広げ、高笑いをしていた。

 

「ハハハハハ、ハーッハッハッハッハ!! さぁ開け! そして飲み込め! 我らが《煉獄の門》よォ!!」

 

 揺れが一層激しくなり、立香達は誰もが立つことさえままならない状態になる。

 そして、突然の浮遊感に襲われ──────────。




次章入りまぁす


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第二章 『強欲』の進行
2-1 燃え盛る世界


 空中で両腕を広げ、満面の笑みを浮かべているマモン。そのマモンに対し、揺れが落ち着いたことで立てるようになったモードレッドが飛びかかる。

 

「何しやがったクソッタレがぁぁ!!」

 

 モードレッドの袈裟懸けに降られた一撃を、避けずにその身で受けるマモン。しかし、斬られたはずのマモンからは何もなく、それどころか砂となって落ちていく。

 

『ギャハハハ! バァーッカ、オレサマが何の考えもなくそっちにいくわけねェだろゥがよ』

 

 どこかからマモンの声が響く。立香らはまたしても声の出所を探して辺りを見渡す。

 

「どこだ! 出てこい!!」

『ンなもんで出るヤツはただの間抜けかビビりだろゥが』

 

 モードレッドの怒りの声に、マモンの正論なツッコミが入る。それがモードレッドの怒りにさらに燃やし、地団駄を踏む。

 それを嘲笑うかのような笑い声が響く室内。出所は依然としてわからないまま、マモンの声だけが通る。

 

『さっきテメェらに渡したのはただの"鍵"だ。聖杯でもなんでもねェよ。ンでもってそれでテメェを"ここ"に呼んだってェワケな』

「"此処"……だと……?」

 

 ホームズが眉間を寄せ、しかしまるで恐れを抱いているかのような声をあげる。少しして、ホームズが何かを理解したかのような顔になる。だが、その額には汗が流れていた。

 

「まさか……我々が、カルデアが今ある場所は……」

『おゥ、察しがいいのは嫌いじゃねェぜ。じゃァま、外見てみな』

 

 そう言ってマモンの声が途切れる。「外を見よう」とホームズに連れられ、立香達が外周廊下へと出る。そこの窓から見た世界は──────

 

「これが…………《煉獄》…………」

 

 マシュが絶句する。窓から見える周囲の世界は、先程までカルデアのあった南極の氷原ではなく、あちこちに炎が燃え上がる荒野であった。

 

『ようこそ皆様(ニンゲンども)。我らが悪魔共の古巣、《煉獄(ゲヘナ)》へ』

 

 そう告げるマモンの声。立香が廊下を見渡すと、他にも外を見て驚く者、恐怖するもの、中には不機嫌そうな顔をしている者や事を面白そうにしている者もいた。

 三々五々な反応を見せる面々を見つつも、驚きのあまり呆然とする立香。そして改めて煉獄の景色を見る。

 

 ──────赤く、禍々しく揺らめく炎が、灼土の荒野に燃え盛る。

 空は虚空のように黒々とし、果てさえ見えないでいた。

 聞こえてくる風の音は、聞くものを震え上がら線ばかりの悲鳴のような音。それはまさしく、この世の終わりのような光景────────

 

『あーあー、見とれるのはいいが現状おわかり?』

 

 そんなマモンの声で立香達はハッと我に帰る。あまりのおぞましい光景に茫然としていた立香は、マモン────正確にはその声に注意を向ける。

 

「……君はこんなことをして何がしたいんだ?」

 

 そうホームズが虚空に向かって問う。その返答には少しの間があったが、すぐに返ってくる。

 

『……ンなもん、暇潰しに決まってンだろ?』

 

 悪魔だ。立香はそう感じた。もちろん、サーヴァントにも悪魔はいる上に、立香は魔神柱なる悪魔達と戦ったことはある。

 だが、この声の主は、ここに住む者達は皆、正真正銘の悪魔なのだと否応なく知らされる。

 

『さァさ、お楽しみを始めようぜェ? ハハハハハ!!』

 

 笑い声を響かせながら声が遠退いていく。何をするかはわからないが、悪魔故かろくでもないということは全員が痛感していた。

 

「チィ! どうにかぶっ飛ばせれねぇのかよマスター!」

 

 モードレッドの怒号が立香に向かうが、立香はどうしようもできないと首を振るばかりである。というよりも、マモンについてどうこうより、モードレッドの怒りの矛先が自分に向いて焦っているというのが正しいだろう。

 息を深く吐き、ダ・ヴィンチらが頭を働かせようとした時であった。

 

「マモン達はここを攻める気だよ」

 

 突然の声に立香達はその方向を見る。

 そこには────────蝙蝠の羽を生やして滞空する、妖精サイズの青年がいた。




爆速投稿中ゥ


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2-2 怠惰なる使者

 立香達は声のした方向を見る。そこには紺色の髪をボサボサに伸ばし、蝙蝠に似た羽で滞空する、モノクルをかけた手のひらサイズの青年がいた。

 はたと、自身に視線が集中してるとわかり、縮こまって顔を隠す青年。

 

「あぅぁ…………み、見ないでぇ…………」

 

 そんな情けない声を出しながら、ひゅるひゅると床に落ちていく。ついには床に座り込んで萎縮したように丸まっている始末である。

 

「いや、突然声が聞こえたらそっち見ちゃうよそりゃ……」

 

 立香の苦笑いを含んだツッコミに、青年はまたしても「あぅ……」とうめく。

 チラリと顔を上げて、何かを諦めたかのようにかぶりを降ってまた飛び上がる。

 

「んんっ……ぇ、えっと……彼らは今、ここを攻めようとしています」

「「「「それはさっき聞いた」」」」

 

 青年が説明を始めようと、先程言ったことを繰り返した。それに対する一同のツッコミに「はぅ」と、涙目になりつつも話していく。

 

「え、えっとね? なんていうかね? ここ邪魔だから攻めるーみたいな。その……、面白そうだから攻めるーみたいな感じなんです、はい……」

 

 そんなもごもごとした要領の得ない説明に、一部の者達は苛立ったようにまくしたてる。それを一番始めに、そして誰よりも強かったのがモードレッドであった。

 

「ナヨナヨしてんじゃねぇよ、もっとシャキッとしろ!」

「ひぃっ!?」

 

 モードレッドの苛立ちの声に、青年は驚きすくんで悲鳴を上げる。そんな彼を助けるかのように前に進み出る影があった。

 

「つまり、彼らは己の享楽と何らかの目的が相増ってここを目指している、ということかね?」

 

 わかりやすく要約し、聞き返すのはアヴィケブロンである。

 そのアヴィケブロンに対して、青年はその通りだと言わんばかりに首肯する。

 

「それはいいけどよ、その目的がわかんねぇとどうしようもねぇだろ?」

 

 そこに横槍を入れてくるランサーのクー・フーリン。その言葉を皮切りにあちらこちらで相談しだすカルデアの面々。そこに──────、

 

「「それはいいけど、場所を変えようじゃないか(かね)」」

 

 と、ホームズとアラフィフ──────もとい、モリアーティがハモって全員に言う。と同時に、二人の間に剣呑な空気が流れ始める。

 それを見た立香は慌てて賛同し、皆を移動させようとする。

 

「ふ、二人の言う通りもう少し広い落ち着ける場所にいこう!」

「そ、そうですね! あっ、でしたら食堂がよろしいのではないでしょうか!」

 

 場の空気を読んでいたマシュは、多少無理矢理感があるものの、皆を食堂に集めることを勧めて移動していく。

 二人は未だ、笑顔のまま危ない空気が流れている。

 

「…………それはそうとして、それはどういう魔術なのです?」

「ふむ、僕も興味あるね」

「ふぇ、えっと…………」

 

 そんな中でも青年に対して好奇心を隠せないパラケルススとアヴィケブロンは、いつの間にか青年の近くに寄って何かしらを聞いていた。

 そんな様子に、立香は苦笑しつつも食堂に向かうのだった。

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 〈カルデア 大食堂〉

 

「──────なるほど、ゴーレム技術と操作系の魔術、さらに死霊魔術など様々なエッセンスでできているのですね」

「ゴーレムにこれ程の可能性があったなんて……僕としたことが節穴だった」

 

 移動中にあれこれと聞いていたパラケルススとアヴィケブロンは、納得した顔で頷いていた。当の青年はどこかしらぐったりとしており、気分が悪そうにしていた。

 そんな光景を、立香は傍目に見つつ、皆が席に座ったり、壁に寄りかかったりしているのを確認すると、青年を呼ぶ。

 

「大丈夫? …………無理しなくてもいいんだよ?」

「だ、大丈夫だよ……無理でも、今しなきゃいけないから……」

 

 そう言ってパタパタと飛び上がり、フロアの中心で止まる。もちろん、そこには集まっている皆の視線が一斉に集まっているため、青年は渋い顔をしていた。

 しかし、意を決したような顔をすると、口を開き始める。

 

「スゥー、フゥー…………皆さん、初めまして。ボクの名前は《ベルフェゴール》と言います」

 

 その名前に、知る者達は目を見開く。顕著に反応したのはホームズ、モリアーティ、天草四郎、ジャンヌダルクを始めとした者達であった。

 それに気づいていたベルフェゴールと名乗った青年だが、気にしたのは風もなく話を続けていく。

 

「ボクは…………《七大罪》の魔王の一人であり、《怠惰》の権能を持っています。しかし、他の、彼らとは互いに相反する者であり、あなた達に協力する者です」

 

 真剣な顔をして言い放つベルフェゴール。その話に、食堂に集まった者達は今度こそ、大きな驚きを見せていく。

 



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2-3 協力者

 協力者。フロアの中心にて浮き続けているベルフェゴールは、自らをそう言った。

 それにいち早く反応し反発したのは、モードレッドを始めとする血の気の多い者達であった。

 

「テメェもあの悪魔共と同じヤツらなんだろ? ンなもん信用できるかよ」

 

 というモードレッドの意見を主として、ベルフェゴールの協力者という話を否定する。

 しかし、それに意を唱えたのは、ホームズやエルメロイ二世を始めとする者達であった。

 

「まぁ待ちたまえ。悪魔とは言え我々に情報提供してくれるのだ。それを使わない手はない」

「そうだね。それに、何かしらの対価は当然あるのだろう?」

 

 そうホームズが問うと、ベルフェゴールが小さく頷く。

 

「では、教えてくれないかな?」

「ぅ、うん……」

 

 ベルフェゴールが返事をして、大きく深呼吸をする。二度、三度と息を吸って口を開く。

 

「対価は…………ボクをこの煉獄にある監獄から解放すること、そして、ボクの身の安全を保証すること。これによるボクからの対価は、《七大罪》の情報と、ボクからの本格的な協力体勢……です」

 

 ゆっくりと一つ一つの言葉をつむいでいく。周りの者達は静かにしてそれを聞き、終わると共に吟味する。

 ある者は怪しみ、ある者は納得し、またある者は難しい顔をしている。各々を反応を見せる中、立香は問う。

 

「……監獄から解放、ってことは、君は閉じ込められてるの?」

「…………そうだよ」

 

 そう言ってベルフェゴールは自嘲ぎみな笑みを浮かべる。それはまるで、自身の無力さを責めるかのような、憂いを帯びていた。その反応は、見る者からすればとても悪魔とは思えない程だった。

 

「ボクは元々、こういうことは嫌いなんだ。ただ、静かに暮らせられるならそれでよかったんだ」

 

 うつむきながら言葉をこぼしていくベルフェゴール。

 悪魔でありながら平穏を望む。悪とされた存在でありながら無事を祈る。そんな相反する願いを持った彼は、まるで人間のようであった。

 

「……まぁ、こんな性格だから、邪魔っていわれちゃったんだけどね……」

「…………」

 

 立香に微笑みかけるベルフェゴール。その笑みは立香からすれば、孤独を耐えて耐えて耐え続けている少年のようであった。

 そんなどこかしんみりとした空気を破ったのは────

 

「おやおやおやぁ? なんだかしんみりさんみりとしておりますなぁ?」

 

 つい先程まで不在であったメフィストフィレスであった。

 ベルフェゴールの顔が一瞬だけ渋い顔をする。しかしそれは一瞬だけであり、誰かが気づくことはなかった。──────二人を除いて。

 

「さて、ではそろそろ君が提示できる情報をお願いしたいところだが…………」

 

 言葉尻がすぼみながら、ホームズは立香を見る。

 立香はホームズの視線に気付き、ベルフェゴールからホームズを見る。

 

「まず先に、ベルフェゴール君への返事をお願いしなくてはね」

「うん…………もう決まってるよ」

 

 立香はそう答え、ベルフェゴールを見る。立香にしっかりと見つめられたベルフェゴールは、多少挙動不審になりつつ、立香を見つめ返す。

 そんなベルフェゴールの姿を見ながら立香は言う。

 

「解放しよう、そして守るよ。ちゃんと、協力してくれればね」

 

 立香の答えに、ベルフェゴールの表情が輝く。そしてホッとしたように息を吐くと、先程よりも気合いのこもった顔をする。

 その顔はまるで、自信をもらって気合い入れをした者のような、満ち満ちている顔であった。

 

「じゃあ……今話せる限りのことを話します」

 

 そう言ってベルフェゴールはフロアにいる全員に向き直し、芯の入った目で説明を始めた。




ストーリー構成に悩み中。
ちゃんと書いてるから待っててね


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2-4 情報提供

お待たせしました新話でござい。


 覚悟を決めたような、そんな気合いが見えるベルフェゴールから伝えられたのは次の通りだった。

 1,カルデアを攻める件を提案したのは『虚飾』の悪魔。

 2,真っ先に『憤怒』が賛同したことで他の者達も賛同し始めたこと。

 3,しかしそれでも中立にいる者達がいること。

 の三点だった。

 

「あのあの~? ワタクシのことは無視ですかぁ?」

 

 メフィストをまるで示し合わせたかのようにスルーする一同。一部からは、あれは関わらない方がいいオーラさえでている。

 そんな味方がいない状態のメフィストは、それでも笑っていた。

 

「ん~、ひっじょーっに手厳しいですなぁ!」

 

 立香達はベルフェゴールから聞いた話を元に、これからのことを考えていた。

 ベルフェゴールから与えられた情報は、先の3つだけではなく、大まかな能力値についても知らされていた。しかし、詳しいことは未だ話せない状態であり、不正確な部分が多くあった。

 

「とは言え、これ程の情報ならかなり役に立つね」

 

 と、ダ・ヴィンチの言。職員達と共に持ってきた携帯端末をいじりつつ、知り得た情報を整理していく。

 現在の状況は、煉獄へと強制的に引きずり込まれた形のカルデアにマモン率いる軍勢が向かっており、総数は千近くにも上るという。

 ふと、立香がダ・ヴィンチに頼み、マモンの姿や戦闘データを表示してもらう。

 

「……ほう? これが見慣れぬ宝具を使うなどというマモンと言う輩か。気に食わんな」

 

 不機嫌そうな声を上げる"賢王"ギルガメッシュ。しかし、そんな不機嫌さとは裏腹に、体がウズウズとしているのが見てとれていた。

 

「自分の知らないものを見たいんだね、わかるとも」

 

 ウンウンと、ギルガメッシュの隣で頷いている鮮やかな緑髪のサーヴァント──────エルキドゥの言葉に、ギルガメッシュは、

 

「違うわ! ただ我の知らぬ宝具があることが許せんだけだ!」

 

 照れ隠しなのか、怒号混じりで反論しているが、エルキドゥはニコニコしたままギルガメッシュを見ている。

 そんなギルガメッシュに、ホームズが問いかける。

 

「賢王、あの手の宝具は?」

「知らぬ。我が知らぬ程のものだ、何かしら"遇った"ものなのだろうよ」

 

 鼻を鳴らして答えるギルガメッシュ。ベルフェゴールからも詳細は話せないことから、マモンの考察はここまでとなった。

 続いて、ベルゼビュートの映像えと切り替わる。

 

「これは…………私の《風王結界(インビジブルエア)》と似ていますね」

 

 そんな感想を漏らす"騎士王"────アルトリア。確かに、ベルゼビュートの風は醸し出す空気さえ覗けば、アルトリアの《風王結界》と酷似している。

 だがしかし、確実に違うのは────────、

 

「いや、あれは私と同じ嵐の力だ。"私"の《風王結界》とは似て非なるものだ」

 

 室内でありながらも騎馬形態にて佇む、《ランサー》の反転した獅子王ことアルトリア・オルタ。

 その眼光は鋭く研ぎ澄まされ、ベルゼビュートの風をにらんでいた。彼女の他にも、嵐に縁のある者達は皆様々に顔をしかめている。

 

「クハハハ! 面白い! かの監獄搭の番人たる大罪ではなく、本物の大罪悪魔が来るとはな!」

 

 高笑いを響かせて立香の影より現れる"岩窟王"エドモン・ダンテス。

 エドモンは立香を睥睨し、そしてまた高らかに、声高々に語りかける。

 

「さぁどうするマスター! 悪魔を相手に、この果ての地の監獄に! 貴様はどう動く!」

「言うまでもないさ、迎え撃つ!」

 

 立香の即答に、一瞬呆気にとられたものの、今まで思案していた者達は笑みをこぼし、難儀していた者達は口元をつり上がらせ、闘気を燃やし始める。

 徐々に室内に熱気が立ち込み、各々の反応を示していく。

 ある者は立香を激励し、ある者は静かに武具を磨き、ある者は鬨の声を上げる。

 

「す、すごい…………」

 

 その光景に、ベルフェゴールは驚く。いかにサーヴァント、いかに召喚体とは言え、ただ一人にここまでの信頼が寄せられていることに。ただ一人のためにここまでの熱気を見せる、その事実に。

 

「さぁ始めよう、よろしくベルフェゴール」

 

 立香の呼び掛けが聞こえる。ベルフェゴールはその声にいわれのない高揚感と期待を胸に抱いていた。

 ──────いつか、いつか僕も。そんな、今の今まで思うことのなかったことをいつの間にか抱いていたことを、ベルフェゴールはまだ知らなかった。




Twitterにベルゼビュートの設定画を乗せています。マモン、ベルフェゴールはもうしばらくお待ち下しぁ…。


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2-5 闘志沸騰

 闘志燃え上がる室内に、一人、また一人と眼に炎を宿らせていく。

 

「ふん、マモンとやらが来るのであったな。どれ、罪を背負いし者の力、我が見定めてやろう」

「やれやれ、仕方ないから僕もギルと一緒にいくよ」

 

 堂々と不遜に言うギルガメッシュと、隣でやれやれとばかりに呆れ笑いを浮かべるエルキドゥ。

 離れたところでは"征服王"イスカンダルに絡まれるエルメロイ二世と、それを案ずるグレイの構図が出来上がっていた。

 

「ハハハハハ!! 悪魔の軍勢とぶつかり合うとは、また滾る話よな、坊主よ!」

「ええいうるさい! 耳元で騒ぐなバカッ!!」

「だ、大丈夫ですか師匠」

 

 またある場所では────────

 

「ふっはっは! この第六天魔王たるワシの力を見せるときが来たようじゃな!」

「いやいや、相手ガチな魔王ですよ? ノッブみたいなパチモンじゃ勝てないですって」

「なんじゃとぉ!?」

 

 高らかに笑う織田信長と、冷静な返しをする沖田総司のコンビが言い合っていた。

 彼女らだけでなく、カルデアの、この室内にいる誰もが互いに士気を高め合っていた。

 そんな中、ようやくイスカンダルから解放されたエルメロイ二世は、フラフラとグレイに支えられながらも、立香とベルフェゴールの側へと来る。

 

「はぁぁ……」

「し、師匠……」

「だ、大丈夫ですか……?」

 

 グレイと立香が心配する中、エルメロイ二世は手で払うような仕草をして問題ないと伝える。

 

「ベルフェゴール……だったね。敵の具体的な数値を知りたい。いいかな?」

 

 エルメロイ二世に話しかけられたベルフェゴールは、ビクッと驚いたものの、おずおずと頷く。

 

「ぇ、えっと…………《下位(レッサー)》が大体5000近く、《上位(グレーター)》が1000近く…………かな? ごめんね、今はこれぐらいしか……」

「ふむ…………いや、充分だ。感謝する」

 

 感謝の言葉を言うと、エルメロイ二世は黙考し始める。そんなエルメロイ二世に、立香は恐る恐るといった風に聞く。

 

「どう……?」

「あぁ……。マスター、まず彼は信用できる」

 

 エルメロイ二世が断言する。それはベルフェゴールは信用できる悪魔であるということだった。

 エルメロイ二世が断言したことにより、サーヴァント達はベルフェゴールに対する見方を変える。

 

「さぁてさてさて? それじゃあ(強欲)の魔王作戦を始めよう」

 

 ダ・ヴィンチが音頭をとって皆を集める。これよりカルデアは、マモンへの本格的な作戦を取り始めていく────────。

 

 

 

 

 

 

 ──────《強欲》は笑う。口角をつりあげ、数多の軍勢を率いてただ一点を目指す。

 爆音を鳴らし、自らの相棒たる"死神"に股がり、荒野を疾走する。

 ついぞ先ほど、大罪会議にてカルデアへの本格的な侵攻が下された。これにより、マモンは自らの軍勢を率いて先駆けを行った。

 無論"兄"たるベルゼビュートへの報告は済んでおり、許可も降りている。その際に言われたことはただ一言。

 

『悔いは残すなよ』

 

 その短い一言に、マモンはシビレていた。かの王からの激励に、思いやりに、マモンは打ち震えていた。

 

「────シャハハハ、滾ってきたぜェ」

 

《鉄馬》のかき鳴らす爆音の中で、先頭を走るマモンはそう一人言を言う。

 後ろには、自分と似た者同士な荒くれ者の部下達が、エンジンを吹かして爆走している。そんな部下達に、マモンは自身の本来の"宝具"たる布袋からメガホンのような宝具を取り出すと、爆音よりも大きな声をあげる。

 

「さぁテメェらァ! 祭りの時間だァ、"独露悪星(ゾロアスター)"の意地見せてやれァ!!」

「「「「「アイッサーッ!!」」」」」

 

 煉獄の荒野を、悪魔達の鬨の声と爆音で震え鳴らす。

 彼らの心内はただ一つ、『我らが総長に、我らが《暴食》に勝利を』と。

 猛る彼らを止められるのは、はたしているのだろうか────────。



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2-6 強欲の侵攻

 〈カルデア 管制室〉

 

「遠方より多数の魔術反応! 及び、霊基名『マモン』の反応あり!」

「落ち着いて、状況報告」

 

 カルデアの管制室にて、職員たちの怒号の混ざった報告があちこちにて上がる。室内には、《"虚数潜航艇"シャドウ・ボーダー》より借用された観測機器が置いてあり、その機器の中心には《キャプテン》がいた。

 

「総数、約7000強! 推定時速、約100km! カルデアまでの距離、推定50km! あと約30分後に接敵します!」

「速いな…………」

 

 ホームズの真剣味を帯びた声が、職員の報告への返事であった。

 そんな報告と怒号が飛び交う管制室内で、一人震えたように顔を青くしている者がいた。何を隠そう、ゴルドルフ所長である。

 

「だだっだ、大丈夫なのかね!? その数相手に勝てるんだろうな!?」

 

 ついぞ先ほどマモンの威圧を直に食らい、その恐ろしさを体感したゴルドルフ所長はこの上なく不安そうにしていた。

 そんなゴルドルフ所長をなだめるようにホームズが言う。

 

「勝てないわけではないでしょう。こちらには、一騎当千のサーヴァント達がいる。それに……」

 

 ホームズはそこで句切ると、外部を映すモニターの中で、堂々と迎え撃つ用意をしている立香を見る。

 

「魔術王さえ退けた(マスター)がいます。後は彼に任せるしかありません」

 

 怯えたような顔をするゴルドルフ所長に、ホームズはそう言いながら立香を見続ける。

 そして、立香らの視線の先に来るであろう、悪魔達の大軍に意識を向けていく──────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────〈煉獄 カルデア付近〉

 立香らは、いつマモンが来てもいいようにカルデアの外縁部にて布陣を整えていた。

 側にはマシュが立ち、周りには頼もしい英霊達が今か今かと待ちわびていた。

 

「──────! 先輩! 管制室から、大軍が接近中。まもなく目視範囲に入るとのことです!」

「っ、分かった。皆、来るよ!」

 

 立香の声に全員が無動作で、しかし強い意思を持って呼応する。

 待つこと少し。遠くより爆音と長大な砂煙が見え始める。

 

「────ヒュゥ、大軍勢だな。しかもあれバイクじゃん」

 

 サングラスの上に手を掛け、遠くを見るようにしていた金時が口笛を吹きながら目視する。

 立香も、金時の見ている方角を見る。そこには数多のバイクに乗った人に似た悪魔達が、カルデアに向かってきていた。

 

「ほう、よもやここまでの軍勢とは。なかなかに滾るというものではないか」

 

 イスカンダルのその闘志溢れる台詞を始めとして、その場にいる様々なサーヴァント達が臨戦体勢を取っている。

 立香はその様子を傍目に、軍勢を見ていた。その先頭でたなびく紅髪──────マモンを見据えて。

 

 

 

 

 

 ──────愛機を走らせ早数刻、ついにカルデアのある目立つ岩山が見え始める。口角をあげ、メガホンのような宝具────『奉ろわぬ者の角笛(エイジ アザー ホルン)』の口をカルデアに向けると、

 

「スゥー…………『"宣戦"! 七大罪《強欲》のマモンッ! 予告通りテメェらを蹂躙してやらァ!!』」

 

 空気が揺れるかのような大音響を鳴らして宣言する。その宣言と共に、背後で走っている悪魔達のうち、2人乗りをしている者達の内、後部にいる悪魔らが大砲のようなものを構える。

 

「"魔砲"、撃てァッ!!」

 

 マモンの号令と共に無数の魔術砲弾が打ち出されていく。その全てがカルデアへと向かい──────しかし、当たることはなかった。

 なぜならば、当たる前に突如として白亜の城壁が現れ、その全てを弾いたからである。

 

「ハ、ハハ、ハッハッハッハっハァ! やァっぱそうじゃねェとなァ!!」

 

 マモン自身もいくつかは防がれるだろうとは思っていたものの、全て弾かれるとは露程にも思っていなかった。

 だがそれでも、まだ見ぬ強敵達に対して、マモンは腹の内から燃え上がる闘志を抑えきれずにいた。




手持ち大砲(魔砲)は自衛隊でも使われている迫撃砲をイメージすると近いかもしれない。


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2-7 相撃つ軍勢

お待たせしました。
なかなか更新できなくてすみません…。



『"宣戦"七大罪(強欲)のマモンッ! 予告通りテメェらを蹂躙してやらァッ!!』

 

 距離がまだ遠く離れているはずのマモンの声が、カルデアの周囲にいる者達全員に響き渡る。

 その直後、悪魔の軍勢の中から無数の光弾がカルデアへと向かって飛来してくる。

 

『仮想理論、接続良し! 聖槍との記憶回路接続、良好! 今回限りだけどいけるよー!』

「はい! 疑似円卓回路接続──────それは全ての疵、全ての怨恨を癒す我らが故郷。顕現せよ! 『いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)』!!」

 

 マシュの、かつての宝具が姿を現す。終局特異点以後、"彼"がいなくなったことで発動できなくなり、それ以降あくまで模したものでしか発動できなかった鉄壁の宝具。

 本来ならば、これは広範囲を防げるような代物ではない。しかし、マシュの守護の覚悟とダ・ヴィンチ達による技術によって限定展開することができた。

 

『全弾、防御確認!』

「っ、王様!!」

 

 立香の呼び声に、今まで腕組み仁王立ちをしながら軍勢を見ていたギルガメッシュが反応し返す。

 

「叫ぶでない、視ておるわ。さて……この我に向かって砲撃をかます不敬者には、相応の罰を与えねばなるまい」

 

 そう言ってギルガメッシュは、手元に石板と杖斧を顕現させる。ギルガメッシュが魔力を込め始めると、石板に輝く文字が浮かび上がり、一気に収縮していく。

 

「見るが良い! 我が至高の財を持って貴様らに裁きを下す! 放て! ──────『王の号砲(メラム・ディンギル)』ッ!!」

 

 ギルガメッシュの叫びと共に、背後に彼の王の城壁が現れ、無数の光矢が放たれる。それは放物線を描きながら悪魔の軍勢へと向かっていく。

 ギルガメッシュの宝具と共に、遠距離への攻撃手段を持つ者達は次々に攻撃を放っていく。それでもなお、敵の進撃の勢いは止まらずカルデアへと向かってくる。

 

「ほほう? 悪魔というからには絡め手が多いかと思ったが、存外漢気があるではないか。これは滾るな、坊主!」

「だぁもう! だから耳元で騒ぐなと言っているだろう!」

 

 カルデア側の先頭にて、戦車に乗って仁王立ちをするイスカンダルと、その後ろで大声に耳を塞ぎながら抗議するエルメロイ二世。

 イスカンダルの顔には、戦いへの高揚を隠せないかのように笑みが浮かんでおり、敵の軍勢を見つめている。

 

「ふぅむ、これは出し惜しみなぞできんな! そうであろう坊主!」

「坊主坊主言うな! 好きにしろ、バックアップぐらいはしてや────────ぅおぁっ!?」

 

 エルメロイ二世の抗議の声も最後まで聞かず、戦車の手綱を張って走らせるイスカンダル。そして片手に手綱を持ち、空いた片手にて剣を抜いて声を上げる。

 

「さぁ行くぞ!! 我ら人も大地も、煉獄をも蹂躙せんと進む者ぞ! 我が後に続けぇ!! 『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』ィッ!!」

「「「「ウォォォォォ!!」」」」

 

 イスカンダルの後ろから彼を慕う英霊の軍勢が現れ、各々の武器を構えて突撃していく。

 そんな中、エルメロイ二世はふと疑問を持つ。

 

「…………おかしい、ライダーの宝具は固有結界のはず。なのになぜこんな中途半端なんだ……?」

 

 呟くように吐いた疑問は、目前まで迫っていた悪魔達の轟音でかき消される。

 エルメロイ二世が疑問に思ったのは、本来ならばイスカンダルの宝具は、世界そのものを塗り潰すような固有結界が現れるはず。なのに今はイスカンダルの後ろで限定的に砂漠となっているだけであった。

 

「■■■■、イ、スカ、ンダ、ル──ッ!!」

 

 疾走するイスカンダルの隣に並ぶように、ダレイオス三世が象に騎乗して駈ける。その後ろには何万もの不死兵が続いていることから、すでに宝具である『不死の一万騎兵(アタトナイ・テン・サウザント)』を発動していると見れる。

 

「おお! お主も来たか! ならばこそ恐れるものなど何も無し! 行くぞぉ!!」

「■■■■!!」

 

 二人の雄叫びと、彼ら率いる軍勢の声が合わさり、何者にも引けをとらない無双の軍となる。

 そして遂に、イスカンダルらと悪魔の軍勢が互いに迫り、火蓋が切って落とされる。



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2-8 激突

 悪魔の軍勢とイスカンダルの軍勢がぶつかり合い、戦線が開く。悪魔達の"鉄馬(バイク)"に轢かれる者や、逆にバイクから叩き落とされる者、さらには降りて正面から戦う者などと混沌と化していた。

 

「行きます!」「選り取り見取りだぜ、グレイ!」

 

 悪魔達の中へと降り立ち、手に持つ大鎌=アッドを振り回して次々と倒していくグレイ。

 空を飛ぶものに関しては、撃ち落とせるアーチャークラスの者達が対処にあたっている。

 

「冥土の土産に見て死ねぃ! これが魔王の『三段撃ち』じゃぁ!!」

「"I am the bone my sword…………"カラドボルグッ!!」

 

 各所で戦火が飛び交い、広大に入り乱れる戦場となっていく。

 そんな中、円卓の騎士らと共に立香を護るために側に控えていたモードレッドは、ある一点を見て目を細める。

 

「悪ぃマスター、ちょいと出張ってくる」

「わかった、気をつけてね」

 

 そんな短い、しかしそれでも互いに伝わるような感覚を持つやり取りを済ませて、モードレッドは赤雷を纏い見つめていた一点を目指す。

 そこには、大鎌を振り回す紅髪の悪魔──────マモンがいた。

 

 

 

 

 

 

 愛機である"ペイルライダー"に股がりながら、器用に大鎌を振り回して近づく英霊〈下っぱ〉を蹴散らしていく。

 時折、相手側の外した対空攻撃が落ちてくることがあるものの、巧みな運転で全てかわしていく。さらに避けながらサイドボックスから鈍く輝く宝石を落としていく。すると、あちこちで爆発が巻き起こる。

 

「けッ、他愛ねぇ──────」

 

 そうマモンがいい掛けた時、

 

「アッド!」「おうさ!」

 

 その掛け声が聞こえると共に、目前に刃が迫る。マモンは仰け反りながらバイクから降り、現れた敵を見据える。

 

「ハハハッ、やるじゃねェか。ちょっとヒヤッとしたぜ」

「おいおいヤバいんじゃねぇか?」

「でも、やらなきゃ」

 

 強い意思を目に宿す、フードを被った少女。そして軽薄な雰囲気を出す匣────否、大鎌を持っていた。

 骨のありそうな相手だ────そう思い、ニヤリ共に笑みを浮かべる。手元の大鎌を持ち直し、狙いを定める。

 

「来るぞ!」「ッ!」

 

 疾駆、激突。互いの刃が交差し、せめぎあう。しかし、膂力で悪魔に敵うはずもなく、グレイは弾き飛ばされる。

 

「くぅ……っ!」

「まだまだだろォ!?」

 

 連撃に次ぐ連撃。自由に、変幻自在に切り刻んでかるマモンの大鎌に対して、グレイは攻勢に出れずにいた。

 そして、一瞬の隙を突かれ、攻撃を受けきれずグレイは体勢を崩してしまう。

 

「くぁっ……!」

「あの世で会おうぜ────」

 

 マモンの凶刃がグレイに向かう──────刹那、赤雷がほとばしる。

 

「ッ、はァッ!!」

「オルァッ!!」

 

 グレイを袈裟斬りに斬ろうとしていた刃の向きを無理矢理に変えて迎撃するマモン。それは丁度、モードレッドがマモンの首を切り落とそうとするところであった。

 

「よう"悪魔(クソッタレ)"。借りを返しにきたぜ!」

「おいおいマジかよ"好敵手(クソッタレ)"! ハハッ、熱いじゃねェか!」

 

 互いに罵倒と興奮が入り交じったかのような声を上げ、また激突する。

 切り結び、離れて、そしてまた鍔競り合う。赤い雷跡と、紫色の刃閃が何度も何度も混じり合い、一瞬の領域となる。

 

「おっとぉ、隙ありだぜ!」

「ッ!?」

 

 不意の轟雷に撃たれ、マモンの動きがほんの一瞬だけ止まる。その一瞬を見逃さなかったモードレッドはマモンの土手っ腹を蹴り飛ばす。

 地面を転がりながらも跳ねて体勢を立て直すマモン。先程声のした方であろうところに視線を向けると──────、

 

「ん? 余計なお世話だったか?」

「ったりめぇだ! っていいてぇが、正直助かった」

 

 それはさも黄金のように、輝く雷を走らせる一人の東洋人────坂田金時だった。

 マモンは自身の体に着いた土埃を払い落としながら相手を見る。

 

「おーおーいてぇいてぇ…………それなりに効いたぜ雷男」

「そいつぁどーも。……つってもまぁ、あんまり効いてねぇみたいだがな」

 

 片手斧を肩に担いで、サングラスをかけていてもしかめっ面をしているその様に、マモンはクックッとこらえるような笑いを溢す。

 

「ったりめェだ。こんなもンで大罪魔王がくたびれるかよ」

 

 そう言って大鎌を片手で、水平に相手に向けて挑発する。

 

「来いよ、もっと遊ぼうじゃねェか」

 



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2-9 足蹴の宝石

Q,マスター(立香)は?
A,カルデア正面玄関で戦闘指揮を取っています。
ちなvsマモンは見えるほどに目立ってます。



『ハハハハハハ! どうした! そンな程度かァ!?』

 

 "三体"のマモンが三人を追い詰める。それぞれが一人ずつ相手しており、その全てが元々のマモンと同等の強さを持っていた。

 

「チィッ! うざってぇんだよ!」

 

 モードレッドが苛立ちのままに剣を振るう。感情任せとはいえ、モードレッドは英霊。そうでなくとも洗練された剣技を持つ。しかし、そんなモードレッドの剣をマモンは難なく避ける。

 なぜそうなったのかはしばらく前になる──────。

 

 

 

 

 

「来いよ、遊んでやる」

 

 マモンは大鎌をモードレッド達に向けながらそう挑発する。その顔には余裕の笑みが浮かんでおり、それが余計にモードレッドを苛立たせた。

 

「いいさ、殺ってやる────よッ!!」

 

 そう言ってモードレッドは飛び込む。しかし、それを見切っていたかのように、マモンの体のひねりを利用した反撃で相殺される。

 だが、モードレッドの後ろから金時とグレイが左右から現れ、マモンを挟み撃ちにしようとする。

 

「っととっとっとォ、おいおい、3対1は卑怯じゃァねェか?」

 

 それに気づいたマモンは、ヘラヘラしながらも二人の攻撃をひらりひらりと避けてさがる。

 モードレッドが追撃を加えようと、空いた一瞬を狙うも、先程までとはうってかわったような滑らかな動きで受け流されてしまった。

 

「はァン、そっちがその気なら…………"開封"、『足蹴の宝石(ダスター・プレシャス)』」

 

 マモンの言葉と共に、腰につけていた袋が勝手に開きはじめる。そして中からマモンの背丈ほどはある大きな鏡のようなものが現れる。

 

「んだ……? そりゃ……」

「オレ様本来の宝具、『足蹴の宝石』よォ。ま、言ってみりゃ棄てられちまったオタカラだな」

 

 モードレッドのつい、といった風にこぼした言葉に、マモンは自慢げに話す。

 袋から出てきた鏡は、ゆっくりとマモンの側へと降り、その鏡面をマモンへと向ける。すると──────、

 

「なっ!?」

「えっ!?」「マジかよ!?」

「なんだそりゃぁ……」

 

 三人が驚いた理由、それは────

 

『まっ、中にはこういうのもあるからな』

 

 そうおちゃらけるマモンは、三人に増えていた。鏡の中から、真っ黒な姿ではあるがマモンが二人現れ、元いたマモンと同じ動きと言葉を放っている。

 その様子にものが達が呆然としていると、マモンが笑みを浮かべたまま鏡の中へと入っていく。

 

「あっ!? 待ちやがれ!」

「誰が待つかよバーカ」

 

 と言い残してマモンは鏡へと消えてしまう。それと同時に鏡が勢いよく回り出して、ついにはどこかへ消えてしまう。

 モードレッドはマモンを追おうと鏡へと駆けていたが、その前に鏡から出てきたマモンの分身が立ちはだかる。さらに周りに気を張ると、金時にもグレイにもそれぞれ一人ずつ立ちはだかっていた。

 

「倒せるもんならやってみろよ」

「ちっ、うっせぇ邪魔だってのっ!」

 

 先程までの本体とほぼ変わらない強さを持つ分身体。それが一人に一体ずつ付くというのがどれほどの苦難か、モードレッドはそれを思い、歯噛みする──────。

 

 

 

 

 

 

 

 〈カルデア前戦場 ??? 〉

 

「──────よっとォ」

 

 鏡より現れたマモンは、宮殿のような場所、その玉座が置かれた場所へと出てくる。内部は禍々しい空気で満ちており、そこらじゅうに悪魔達が息吐くかのような気配があった。

 

「うっし、じゃあ始めるかねェ」

 

 手を打ち鳴らして両手を広げる。その手の上には2つの宝具があった。

 一つは先程までマモンが持っていた大鎌。もう1つはミニチュアサイズの宮殿であった。そう、この宮殿こそがマモン本来の宝具の1つ──────、

 

「母体、『胎動する万魔殿(パレス・オブ・パンデモニウム)』。合成体、『煉獄の青薔薇樹海(ローズリィ・ヘルヘイム)』。錬体合成を開始」

 

『胎動する万魔殿』、それは数多の悪魔を内包せし城塞宝具。それに地獄の女神より譲渡された宝具を合成していく。

 宝具を合成するという荒業をしながらも、まるでなわてことのないような顔をしながら粛々と進めていく。

 

「──────完成」

 

 ニヤリと笑みを浮かべて終わりを告げる。マモンの手によって作り替えられたことで新たに生まれた宝具。それが今、マモンの手の中にある。

 ふと、玉座から見て正面の方向を見る。そこにはスクリーンのようなものが写し出されており、中ではモードレッドらと自身の分身達が戦っていた。

 

「ちったァ骨があったけどよ…………随分と詰めが甘ェもんだ」

 

 薄ら笑いを浮かべてマモンは手の内にある宝具を発動する。中で渦巻いていた薔薇のような茨が解き放たれ、マモンのいる万魔殿から"裏世界"を侵食していく。

 

「さぁ起きろ! そして飲み込め! オレ様の、そして人間共の欲のように!! ────────『貪欲樹海の万魔殿(ロゼンプリズン・パンデモニウム)』ゥ!!」

 



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2-10 蠢く万魔殿

「チィッ! あぁもううぜってぇなぁッ!」

 

 苛立ち任せに剣を震い抜く。しかし相手────マモンの分身はさしたる難もないかのように受け流して後ろへと退がる。

 対するモードレッドは、鎧はあちこちが欠けており、疲労困憊といった様子であった。

 否、モードレッドのみならず金時やグレイらも息を途切れ途切れにしつつマモンの分身と相対していた。

 

『ハハハッ、そう簡単にやられるわけねぇだろ』

 

 嘲るかのように笑い声を上げるマモンの分身。その様子がまたモードレッドの勘に障る。

 しかし、沸き上がる怒りと反対に、体はすでに言うことを聞かなくなりつつあり、踏み込もうとした瞬間モードレッドの足が、一瞬力が抜けてしまう。

 その隙を見逃す程甘くはないマモンが迫り、モードレッドは内心で自らを罵倒する──────だが、

 

「──────ふん、他愛のない」

 

 金色に輝るいくつもの武器がマモンの背に突き刺さっていく。それとともにマモンの分身体は黒く染まったかと思うと、泥のように溶けて消えていく。

 ふと、モードレッドが響いた声に既視感を覚えて顔を上げると、

 

「なんだ? セイバーに似た顔をしておる癖に、この程度も退けられんのか」

 

 傲岸不遜に言い放つ黄金の鎧を着た男────ギルガメッシュが空から降りてきていた。

 その直後に、背後から鎖が絡み合うような音が鳴り響き、ハッとしてモードレッド振り替えると、丁度エルキドゥが他のマモンの分身体を蹴散らしていた。

 

「はぁ…………メンドクセェやつに助けられちまったな」

「ほう? その物言い、我を恐れぬと見えるな?」

 

 一触即発もかくやという空気に、グレイはどうしようかとあたふたしていると、エルキドゥが微笑みを浮かべながらギルガメッシュの元へと近寄っていく。

 

「ふふふ、ほんとは早く戦いたくてウズウズしてたんだよ、ギルは」

「…………」

 

 そう言われ、なんとも言えなさそうに黙りを決め込むギルガメッシュ。その姿に呆れたモードレッドがまたしても減らず口を叩こうとしたその時、巨大な地鳴りが起きる。

 

「ぬっ」

「うおっ!? なんだっ!?」

「きゃぁっ!?」

 

 突然の地震に驚く一同だった。が、次の瞬間、全員が絶句する。なぜなら──────

 空間を裂いてとてつもない大きさの茨が溢れでできたからである。

 

「おいおいありゃヤベェぞグレイ!!」

 

 アッドがこの上ない危険を察知してグレイに告げるが、時既に遅し。大茨はモードレッド達を飲み込み、周囲を凪ぎ払いながら、半径1kmほどもあるかのような円を描き始める。

 そしてそのまま茨が上へ上へと伸びていき、まるで鳥かごをつくるかのように空中の一点に集っていく。

 

 ────『貪欲樹海の万魔殿』。マモンの最大の宝具であり、決して抜け出せない人の欲の性を表したかのような"城塞宝具"。荒れ狂う茨は全てを飲み込み、その命果てるまで閉じ込め続ける──────

 

「この程度で我が止められるとでも思ったか」

 

 不動の黄金が仁王立ちで、迫り来る大茨に向かって言い放つ。それとともに背後で宝物庫を開き、無数の武具を射出し、茨を粉砕していく。

 しかし、茨の勢いはそれに止まらず、ついには茨のトゲが串刺しにせんと伸びてくる。しかし、それらは少しばかり余裕のできたモードレッドらが弾き返していく。

 

「クソッ、いつになったら終わりやがるんだ!」

「無駄口叩いてる暇はなさそうだよっ!」

「おうおうおうこいつぁとんでもねぇな!」

 

 各々がそう言い合う中、エルキドゥは内心で冷や汗をかいていた。なぜならば、迫り来る茨は波のように、遅い来るトゲは鋼鉄の剣のように鋭く硬かったのである。

 それらが何千と遅い来る光景は、自分たちでなければたちまち串刺しとなっていたであろうことが用意に想像つく。

 

「はぁはぁ……止んだか?」

 

 モードレッドの息切れる声が聞こえる。そこにはすっかり勢いをなくして静かになった茨の樹海が出来上がっていた。

 太い大茨は巨木のように、伸びたトゲは木々の葉のように。おぞましさすら感じさせる静けさに、グレイの背筋が冷える。

 

「…………兎にも角にも、元凶どうすっかね」

 

 金時の、困ったように頭を掻きながら発した言葉だけが空しく響く。

 そう、このようなことをしたということは、少なからずどこかにマモンがいるということ。どうしようかと皆が首を捻り始めた時、

 

「あ、あの…………」

 

 おずおずとグレイが手を上げる。そこに全員の注目が集まる。

 

「ちょっとだけだけど……、あの悪魔の気配を感じます」

「……それ、追えるか」

 

 モードレッドの短な問いに、グレイは小さく、しかししっかりと頷く。

 その答えに、モードレッドは短く鋭く息を吐くと、剣を肩に担いで空を見る。その眼光はとても鋭く、さも待っていろよと言っているようなものであった。

 

 




遅くなってすんません……
ネタと時間がとれんとです……


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2-11 撃墜

 マモンは自身の宝具で造り上げた万魔殿の玉座で、優雅にワインを飲んでいた。

 というのも、この玉座は魔力回復、ワインはダメージの治癒をかねており、決して慢心しているわけではなかった。

 悪魔だなんだと言われる彼らだが、そこには各々の"生き方(スタンス)"や"理念(ポリシー)"がある。

 

「────ふぅ、ちィっとばかし飛ばしすぎたか……」

 

 すっかり疲れきった顔で背もたれに体を預けるマモン。内包する魔力は確かに悪魔であるが故に膨大であるが、だからといって無尽蔵にあるというわけではない。

 宮殿の周囲に取り付けられた監視カメラ代わりの"邪眼(イーヴィルアイ)"から送られる映像を見ながらマモンは一息つく。

 

「戻るまであと4割……流石はサーヴァントってとこか……」

 

 そこには先程までの下卑たような苛烈さはなく、まるで上に立つ者かというような圧倒的な空気をかもしだした"王"がいた。

 もうしばらく休んだらいくか────そうマモンが思った矢先のことだった。急激な魔力の高まりを感じ、急いでその方向を確認する。

 

「オイオイオイオイ、冗談じゃねぇぞあの"槍"はよォ!?」

 

 魔力の高まる場所を見たマモンは、必死といわんばかりに宮殿の防御結界を張り直す。

 だがしかし、時既に遅しというべきだろう。魔力の集中体は極光を放ちながら宮殿へと向かってくる。

 ────其は全ての幻想に楔を穿つもの、全ての夢想を砕くもの。かつて誇り高き騎士王に与えられし偉大なるもの。輝けるは聖槍、名を────"ロンゴミニアド"と。

 

 

 

 

 

 

 

「あそこです」

 

 しばらく樹海の中を歩き回り、ついにグレイが一点を指差す。そこは──────、

 

「おい、なんにもねぇぞ」

 

 カゴの中の真ん中の虚空のみであった。

 ただその一点のみを指差していたグレイは、モードレッドの不機嫌さをはらんだ声に怯えるように身をすくめる。

 しかし、その後ろからエルキドゥが前に出て、指された虚空を見つめる。

 

「…………へぇ、すごいね。世界の裏側に隠れるなんてさ。しかも巧妙に隠してる」

 

 エルキドゥが感心したように言いこぼす。そう、今エルキドゥが言ったように、マモンの万魔殿はこの世界と薄皮一枚挟んだ裏世界に隠されていたのである。

 グレイはそんなこと露知らずであったが、エルキドゥ、そしてギルガメッシュはマモンがその裏世界に隠れていることに気付き、小さな不快感を抱いていた。

 

「さて……どうやって引きずり出す?」

「決まっておろう、力づくにだ」

 

 ギルガメッシュが不遜にもそう言い放ち、自らの宝物庫を開けようとする。しかし、そこで手をあげたのはグレイだった。

 

「待って下さい」

 

 そしてギルガメッシュの前に出て、怯えを含みつつもしっかりとした目付きで、しっかりとした決意をもって対面する。

 

「拙に、やらせて下さい」

「…………ほう? ならば、我の行動を妨げるほどの余程な理由はあるのだろうな?」

 

 普段と変わらないようで言いも知れぬ不機嫌さを表すギルガメッシュ。だが、グレイはキッとギルガメッシュを見て言い返す。

 

「拙は、まだ何の役にも立っていません。だから、拙がやるんです、やりたいんです。師匠に、拙の今までを見せるためにも」

 

 ハッキリと自分の意見を言うグレイ。それを押し黙って見つめ続けるギルガメッシュ。

 

「…………ふふ、ふはは、ふはははははは!」

 

 唐突に笑い始め、グレイは目を丸くして驚く。てっきり「万死に値する」などと鎧袖一触に振られるものだと思っていたが、返ってきた反応は予想外のものだった。

 そして、

 

「良かろう。だが、しかと撃ち落とせよ。手抜きでもしおれば只で済むと思うな」

「っ! はいっ!」

 

 笑みを浮かべて了承するギルガメッシュに、喜色満面で返事をするグレイ。そして、ギルガメッシュらから離れ、マモンが隠れている方へと体を向ける。

 その傍ら、エルキドゥがギルガメッシュの隣へと歩み寄る。

 

「珍しいね。ギルから譲るなんてさ」

「なに、あの騎士王と同じ顔をした人形が、どのようなことをするかが楽しみになっただけだ」

 

 仁王立ちで変わらずに言うギルガメッシュに、エルキドゥは「全く、素直じゃないね」と呆れ気味で返される。そんな反応に、多少ムスッとしながらなものの、グレイの動向を観察するギルガメッシュだった──────。

 

 

 

 

 

 

 ──────許可された、良かった。グレイはそう思っていた。一か八かだったか、不機嫌になるよりも、まさか笑われるとは思ってもおらず、呆けた顔をしてしまったグレイだが、今はその顔を引き締まっている。

 

「スゥー……フゥ…………行くよ、アッド」

「おうさ! 任せなグレイ!」

 

 匣を天に掲げ、グレイは匣へと魔力を集中させていく。否、匣にかけられし"封印"を解く言葉を述べていく。

 

「……"Gray……Rave……Crave……Deprave……"」

 

 グレイが綴る言葉が連なるにつれて、アッドの雰囲気がガラリと変わっていく。それはまるで、今までのは全て演技で、その無機質な機械のような雰囲気こそ本当のものなのだと言わんばかりに。

 

『擬似人格停止。魔力の収集率、規定値を突破。封印礼装、第二段階限定解除を開始』

「"Grave……me……。……Grave……,for you…………"」

 

 次第にアッドは、匣の形から巨大な光の槍へと姿を変えていく。そうして、その槍先をマモンが隠れているであろう中心部へと向ける。

 

「古き神秘よ、死にたまえ。甘き謎よ、ことごとく無に還れ。──────聖槍、抜錨。『最果てにて輝く槍(ロンゴミニアド)』ォォッ!!」

 

 輝ける螺旋を描いて、それは放たれる。全ての幻想を打ち砕く聖槍は、確かにその宮殿へと向かい、そしてそれを護らんとする結界に阻まれる。

 だが、その結界も、まるで紙を貫くかのように破れていき、ついに最後に拮抗していた結界でさえも打ち破ってその宮殿を捉える。

 聖槍の光は、宮殿の中央には巨大な穴が空け、あまつさえ茨を檻さえも貫いて破壊して彼方へと飛んでいく。地響きを鳴らして墜ちていく宮殿から、一つの人影が舞い降りる。

 

「……やってくれンじゃねぇか、テメェら。────死ぬ覚悟はできてンだろうなァッ!!」

 

 そこには、墜落する宮殿を背に、とてつもない威圧感を持って激昂するマモンの姿があった。

 

 



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2-12 決戦!強欲

訂正部位:今までの一部カッコ内のものをルビ振り化


「死ぬ覚悟はできてンだろうなァッ!!」

 

 オレは激昂していた。いや、それは見せかけだけだ。ぶっちゃけるなら今は非常に焦っていた。

 まず、第一に宮殿を墜とされたのは大きな痛手だ。あれはただの防御用の宮殿なわけじゃない。あれは所謂補助装置でもあった。

 第二に、檻を壊されたのはマズイ。あれはこいつらを隔離して叩き潰すためにしていたものだった。

 

「ハッ、そこまでのものならば、精々丁寧に扱えば良い話であろう?」

 

 ギルガメッシュのその返しに、その場にいたマモン含める全員の内心が一致する。

 

((((お前が言うなよ…………))))

「…………ぬ?」

 

 周りをみれば微妙な顔をされていることに気づいたギルガメッシュ。

 その様子に、マモンはかぶりをふって気を取り直す。先程までの、演技とは言え少なからず抱いていた怒りはほぼ霧散していたが、苛立ちはなお持っており、それを表面に浮き出す。

 

「はン……いいさ、強奪だ。略奪だ! テメェらの全部何もかもを奪って狂えろ!」

「ぬかせ! 貴様程度にくれてやるものなど、何一つとして無いということを知れ!」

 

 マモンとギルガメッシュ、二人の口先争いを皮切りに火蓋を切って落とし、互いに衝突し合う。

 

 

 

 

 ────戦局、カルデア側:被害軽微、死者0名

 マモン側:被害多数、脱落者2000強

 カルデア側有利にて進行中──────

 

 

 

 

「どォら!!」

「おらよっと!」

 

 あまりにも力任せに振り抜かれた大鎌と、雷を纏う鉞が拮抗して跳ね返る。その不意をついて金時の背後からエルキドゥが鎖を飛ばす。

 だが、跳ね返った反動を使って、マモンは体を捻りながら一撃でその全てを吹き飛ばす。

 

「余所見してんじゃぁ────ねぇ!」

「するかよマヌケ!」

 

 マモンの背後からモードレッドが斬りかかるも、しゃがんでかわされ、ムーンサルトのような動作で蹴り上げようとするマモン。しかし、それはかすっただけど避けられてしまう。

 サーヴァントが多くいるなかで、マモンは彼らと互角以上の戦いを短く、しかし長いような時間やりあっていた。

 

「すみません…………っ、拙も……」

「無理しないで。君は充分に働いてくれたから」

 

 無理矢理にでも起き上がろうとするグレイに、エルキドゥはなだめるようにして休ませる。実際、グレイな活躍がなければ、マモンの居場所が割れることはなかったのだから。

 

「甘いッ!」

「ぐぬァッ!? ──な……めんなッ!!」

 

 そして、先程まで余裕を持って避けれていたはずのギルガメッシュの攻撃さえも当たるほどに、マモンが憔悴しているのもまた事実。

 大鎌を振り、マモンはギルガメッシュに向けて斬撃を飛ばす。だが、振り抜いた直後、マモンの足がもつれ、マモンの意識が揺らぐ。

 

「油断大敵だぜ! ぶっ飛べッ、『黄金衝撃(ゴールデンスパーク)』ッ!!」

 

 その一瞬を突いた金時の宝具がマモンに直撃し、その背に深い傷を刻む。

 

「ぐッ!? ガハッ」

 

 初めてマモンに直撃した宝具は、その全身に迸る雷撃で体内にまでダメージが広がり、ついに明確なダメージを見せる。

 そして、その空いた瞬間を逃す者はなく────

 

「やっと隙を見せたなクソ野郎!」

「せめて……っ、一矢……っ!」「やってやろうぜ、グレイ!」

 

 モードレッドの雷光がごとき一撃と、グレイのアッドが変形した弓によって更にダメージを深めていく。

 

「ぐぼァッ! …………なめてンじゃねェぞゴルァァァッ!!」

 

 だが、そう簡単に倒せるはずもなく、マモンの絶叫と共に膨大な量の魔力が膨らみ、圧倒的なまでの威圧感を撒き散らす。

 しかしそれは、見る者からすれば、まさしく最後の一撃を放たんとしているかのようにも見える。

 

「オレ様は……オレは! 七大罪、『強欲』のマモンッ! このオレの全ての力と魂を込めて! 負けるわけにはッ、いかねェんだよォォッ!!」

 

 腹の奥、魂から叫ぶかのような雄叫びとともに、おぞましい魔力がマモンからあふれだし、一つの獣の形をとる。

 

「死ね! 遥か彼方の亡霊共ッ! オレの『権能』と共に!」

「ほざけ! 死ぬのは貴様だ亡者! だがよく吼えた! その蛮勇を持って我が宝具を見せてやろう」

 

 その言葉と共に、ギルガメッシュは自らの宝物庫の鍵を取り出し、一つの"宝具"を取り出す。

 その裏でエルキドゥは自らのカタチを変え、ギルガメッシュと共に、己の宝具を放とうとしていた。

 

「行くよ、ギル。──────我は神に造られし、なれども、星と共に生きる者。人よ強くあれ、故に──────」

「身の程を知れ。畏怖を抱いて己が業を知れ。死して拝せよ──────」

 

 赤く、神代を想わせる強大な魔力の嵐と、数多の鎖と、自らを組み換えて高く翔ぶエルキドゥ。その行く先はマモンへと。

 

「ふざけろよ、死ぬのはテメェらだ。────"権能解放(リミッターオフ)"。喰らえ、喰らいて奪え。我は天に仇なす者が一人、あまねく財を貪る強魔────」

 

 巨大な黒紫の狐の頭部を浮かび上がらせ、浮遊する二人を見上げるマモン。その狙いはただ、彼らにだけ向けられていた。そして──────その時が来る。

 

「『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』!!」

「『人よ、神をつなぎとめよう(エヌマ・エリシュ)』!!」

 

「噛み砕け、『厄災垂らす強欲(グリード・パンドゥラ)』!!」

 

 二つの超越した神代よりの宝具と、大悪魔たる者の権能たりえる宝具が激突・拮抗する。

 だが、その拮抗を破ったのは、この上なく赤くほとばしる叛逆の雷だった。

 

「ガラ空きなんだよ、これでも喰らえ! 『我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)』!!」

 

 紅い雷がマモンを捉え、身動きのとれないマモンは気付きはしたものの、避けることなくその奔流へと飲み込まれる。

 今ここに、雌雄は決した。

 




やー、なかなか時間がとれんとですよ、えぇ。
次回、終章。


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2-13 願いよ、彼方へ

 気づけば空を見上げていた。体は動かない、自分でもわかるぐらいにボロボロだから。

 ────あぁ、負けた。既に戦闘の音は遠く離れており、だがしかし、小さくとも聞こえている。

 ふと、いくつもの足音が聞こえ、マモンはただ静かに瞑目する。

 

「まぁ、なんだ……おめでとう。すげぇよ、お前らは」

 

 自らの口から出たのは、そんな陳腐なものだった。己という悪魔────マモンを打ち倒したということに、倒された者からの、心からの賛辞を送る。

 

「……まだ、生きているんだね」

「あァ? あー……まぁ悪魔だしな」

 

 立香の問いにクックックッと笑って返すマモン。その顔に以前までの凶暴さはなく、むしろ清々しいといった具合だった。

 

「なぁ、教えてくれよ。お前は、一体何を求めているんだ?」

 

 今度はマモンから立香に問われる。立香は、少しだけ考える仕草をすると、苦笑いをして答えた。

 

「助けられる誰かを助けれる力、かな?」

「……そりゃご苦労なこってェ」

 

 同じく苦笑いを浮かべるマモン。再び瞑目すると、少ししてから嘆息して、

 

「いるんだろ? 『怠惰(スロウス)』。いや、ベルフェゴールよゥ」

「…………うん」

 

 そんなマモンの問いかけに、ベルフェゴールは反応して、立香の肩から顔を出す。

 目を開けたマモンは、ある方向を指差して言葉を放つ。

 

監獄(・・)はあっちだ。だが、中には"少将"と"旅団長"がいる。精々気を付けな」

 

 そう言ったマモンにベルフェゴールは驚き目を見開く。それは立香らも同じで、まさかマモンがそんなことを言うとは思ってもみなかったからである。

 

「…………教える、の?」

「負けたからなァ…………ちっとは大人しくするわ」

 

 ぐったりとして仰向けに倒れるマモン。そこに、先程まで着ていた黄金の鎧を脱いだ"賢王"としてのギルガメッシュが現れる。

 

「同情はせんぞ愚物。それは貴様が自ら招いたことだ」

「あたぼうよ、これぐらい自分でやれらァ」

 

 そんなやり取りをしたマモンはゆっくりと、しかし力無く起き上がる。困ったように頭をかくマモンは、立香の方を向いて話しだす。

 

「まぁ、なんだ、言いたいことは色々あるだろうが、悪かった」

「えっ? あ、うん……」

 

 突然謝られたことに、立香は少なからず驚く。なにせ謝られるなどと夢にも思わなかったのだから。

 

「この煉獄じゃァ強くなきゃ生きられねぇ。強さこそが絶対だ。オレ達すら倒せねぇならこの先は無理だ」

 

 いきなり、なんの脈絡もなく語り出すマモン。しかし立香は、なにか大事な話をされている気がして、静かに聞き続ける。

 

「元々お前らを呼んだのは戦うためじゃねぇ、止めてほしいやつがいるからだ」

「っ…………それは…………」

 

 ベルフェゴールがマモンの言わんとしていることに気づいたかのような反応を見せる。しかし、次の瞬間には口をつぐむ。なぜなら────

 

「っと、悪いが誰かは言えねぇ。そういうモンだからな」

 

 そういい放つとマモンは立ち上がる。首を鳴らしながら真剣な顔付きで立香を見つめ、悪魔とは思えないような威厳を持って語り続ける。

 

立香(マスターサン)よ、頼む。兄貴もオレも、あんたを見込んでのことなんだわ。じゃないと、なにもかも手遅れになる」

「…………解った。必ず止める」

 

 立香の返事に、マモンは深く頭を下げる。

 

「すまねぇ……恩に着る。この恩、この傷を癒して必ず返す。絶対にだ、約束する」

 

 鋼のような意思が見えるマモンの瞳に、立香はただ頷き返す。

 その姿を見たマモンは、何事かを呟くと、すぐさまマモンの愛機を持った悪魔達が現れ、マモンを丁寧に乗せる。

 

「監獄へ行った後はこの先にある荒野を目指せ。そこに兄貴がいるはずだ」

「うん、わかった」

 

 そしてマモンは、「じゃあな」と言ってそのまま去っていく。マモンが去ると共に遠くで鳴っていた戦闘音も消えていき、ついには収まる。

 しばらく立香達はマモンの去った方向を見ていた。

 

「……アイツも、色んなしがらみがあったんだな」

 

 モードレッドがどこか遠くに思い馳せるような、それでいて何かやるせないものを想うかのような声音で呟く。

 その後、しばらくは無言の空間が続いたが、少ししてマシュ達が立香らを呼び、立香達はそれに返してカルデアへと戻っていく。

 

 ────ここに、大罪魔王『強欲』との戦争が終結する。




マモン編完結となります。次章からはベルフェゴール編です。


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2-幕外 『強欲』が願ったモノ

マモンの過去小話(?)みたいなものです。




 オレは、昔はあの輝く蒼穹、その雲上の世界で、階位天使の一人として神サマに仕えていた。

 元々は『マモン』なんて名前じゃなくて、『マムエル』って名前だったんだが、まぁ悪魔になって名前が変わることなんてザラにあることだからな。

 

 オレの役目は、『人々が互いに互いを信頼しているか否か』を見定めることだった。

 そういうのは知人同士ってのも確かにそうだったんだが、特に商人達にそういうのが多かったわけだ。

 

 来る日も来る日もそれを見続けてきたオレは、ふと、人間達がなぜそこまでして信頼・信用に、そしてなぜそこまで金銭や宝石などに執着するのか不思議に思った。

 そこでわかったのは、『人は、己たり得らんとするために、何かを求める』のだということだ。

 

 だが、神サマ達はそんなこと許しはしなかった。一人、また一人と無欲な人間が出来上がっていくにつれて、天使としてのオレは素晴らしいと思った。

 けど、心の奥底では、なんと虚しいのだとも思った。

 

 だからオレは、神サマに直訴した。「このままでは、人は物に頓着しない人形になってしまいます」ってな。

 だけどな、神サマは何て言ったと思う? 「ならばそれで善いではないか」ってさ。

 笑えるぜ、アイツらは人間のことなんざ都合のいいもんとしか見てねぇってこったァ

 

 愛想を尽かしたオレは、こっそりとだが遂に下界に降り立ったわけだ。けどな、そこじゃあ金貨やとんでもない価値がある財宝なんかが、炉端のゴミのように散らかってたんだわ。

 オレは見るに耐えきれず、衆人観衆のいるなかで大演説しちまった。「金銀財宝とは、時になにものにも変えがたい栄誉となるのだ」ってな。

 

 ま、案の定神サマに目ェつけられて、「そんなに金銀財宝を好むというのなら、お望み通り地に堕ちていくらでも拾うがいい」とさ。

 そうしておれは階位を没収され、天使としての資格も剥奪されて、地に墜ちるどころか地獄の底にまで堕とされたってワケだ。要するに、堕天して悪魔になっちまったってこと。

 

 

 

 

 それからのオレは地獄の底で他の悪魔共とシノギを削る日々だった。ある時は共闘し、ある時は裏切り、またある時は利用しされる世界。そんな恐ろしい程に狂ってた世界だったな。

 そんな世界が変わったのは、"兄貴"と出会った時だった。

 

 兄貴は、元々は神サマだったらしいんだが、人間共に裏切られて、更にはいわれのない罪すら背負わされてここに堕とされたらしい。

 けど、だからといって兄貴は凡夫なのかというとそうじゃない。むしろ憧れる程にすげぇ人さ。

 

 荒くれ者やはみだし者共を集めて、めちゃめちゃ規律のいい、軍隊みたいな軍勢を生み出し始めてたんだわ。ちなみにオレはその初期組の一人な。

 そうやってオレ達が荒くれ者なりの規律を持った集まりになって、"三大勢力"なんて言われはじめてきてな。遂に兄貴は『大罪魔王』の一角になったわけだ。

 

 オレはそんな兄貴をみて、「やっぱ兄貴はすげぇ」って思ったよ、そりゃあな? けど、オレはそれだけじゃなくて、「いつか、いつか兄貴の隣に並びてェ」って思ったんだわ。

 兄貴に追い付くため、オレは色んな方法を試して試して試しまくったんだわ。もちろん、悪魔らしく欲望への誘惑だってしまくったさ。

 

 そのお陰もあってか、オレは遂に兄貴と並ぶ大罪魔王の席の一つ、『強欲』の席に座ることができた。他のやつらは明らかヤベー奴らばっかりだったけどな、それでもオレはめげずにがんばり続けたんだわ。

 こういうのを紆余曲折っていうんだろうけどな、でもオレは、堕ちて良かったと思ってるぜ。

 

 何せ、堕ちてなかったらこんな自分をはっちゃるけともできねぇし、そもそも兄貴に出会うことすらできなかったんだもんな。

 つくづくオレは、「やっぱり欲を持つことは大切なことなんだな」って思うぜ。

 

 なぁあんたら、あんたらはちゃんと欲があるか? 自分が求めるものがちゃんとハッキリしてるか? やりたいことはやれてンのか? 

 自分を抑制しまくってちゃァ欲しいモンだって手に入らねぇし、そもそもチャンスすら来やしねェぞ。

 

 いいか? 自分のやりたいことに貪欲になれ、自分の欲しいモンは無我夢中で掴め。じゃなきゃ自分は一生変わらねぇ、人形みたいに生きて、生かされて、そして無様に死ぬだけだ。

 そうなりたくないなら足掻け。そして掴め、自分の本当に欲しいモンをさ。

 

 ──────ま! オレが言えたことじゃァないがな!




長々としたマモンの自己語りでした。
ちなみにマモンの元名は、様々な文献からあさった創作名となっています。
マモンの元々の意味は『人の信頼するもの』なんだとか。真面目な話にはちゃんと真面目に返してくれる彼らしいですね。






あとお忘れでしょうが、彼ほんとは〈バーサーカー〉なんですよ。


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2-Status 〈バーサーカー〉

マモンのステータスページです。
これ見てもう一度見直すっていうのも一興ですね。




適正CLASS:1,Barserker(バーサーカー)/2,Rider(ライダー)/3,Avenger(アヴェンジャー)

 

真名:マモン

マスター:無し

性別:男性

身長/体重:178,2cm/60,8kg

属性:混沌/悪

 

筋力:A-~A+

耐久:C+~B+

敏捷:A

魔力:B+~A

幸運:A+

宝具:~EX

(※最大値はアヴェンジャー時)

 

〈クラス別スキル〉

・狂化:B+

→一部能力の劣化の代わりにステータスの強化がかかるスキル。マモンの場合、長時間の戦闘を行うと自己の欲望を抑えきれない状態になる。しかしその代わりに強靭なステータスと、ちゃんとした理性を持って顕界する。

 

・騎乗:C-~B

→乗り物に対する適応力を表すスキル。なぜかどのクラスでも必ず存在する。ライダー時以外はC-となる。ただしある"乗り物"に乗る時のみAランク相当となる。

 

・道具作成:A+

→魔術師における特性スキルで、魔力を帯びた器具をつくることができる。上記と同じくなぜかどのクラスにもある。マモンはこれにより自身の保有する宝具同士を結合・分離することができる。

 

・大罪魔王:B+~A++

→悪魔達の王に与えられる神性の変異スキル。あらゆる"異常"に対してどのスキルよりもとても高い耐性を与える。

さらに、ある一定の資格を得た者には追加効果が発生する。マモンの場合、「宝具構造の完全理解」能力が付与される。

 

〈固有スキル〉

・金の亡者:A

→財宝に対する超直感的な察知能力を与えるスキル。字体は悪いが効果は絶大であり、相手が宝具を隠していたり、何かしらの貴金属・宝石系統を隠し持っていたりするとすぐにわかる。蛇足だが、その財宝の大まかな売価がわかるらしい。

 

・戦闘続行:B+

→決定的な致命傷を負わない限り戦闘し続けられるスキル。マモン曰く「ド根性」。決定的な致命傷というが、マモンの場合はそんな傷を負ったところで、それこそ肉片すら残らない状態にでもならなければ悪魔としての機能で自己修復できる。なので「ド根性」。

 

・大罪『強欲』:A~EX

→マモンの『七大罪の悪魔』としての権能。宝石、財宝、宝具など自らが欲しいと思ったものを横取りできるスキル。さらに『スキル:金の亡者』と合わせて使うことで相手の宝具の支配権を奪取できる。

アヴェンジャー時にはランクEXとなり、ただ「来い」と念じるだけで相手から半永続的に奪取できる。返却もできるが、基本的にマモンを倒さない限り帰ってこない。というか返さない

 

 

〈宝具〉

・足蹴の宝具:A+

→ダスター・プレシャス。

マモンが持つ、逸話による本来の宝具。見た目はただの少し大きめなだけの布の袋だが、いざ開くと中は無限空間(=虚数空間の類)となっており、そこに幾多もの宝具が収納されている。

「道端に棄てられた金貨を、神の祝福よりも喜んだ」という逸話が元になっているため、この中に収納されているのは「人類史において棄てられた宝具」となっている(例:vsモードレッド時のハンマー、宣戦布告時の角笛型メガホン)。

また、マモンの望みに合わせて取り出すものを自動的に選別でき、見た目上の中身ですら偽装できる。もちろん本来の"お財布"としての運用も可能となっている。

 

・駆けるは死神の騎馬:B

→ライドオン・ペイルライダー。

マモンの自作合成宝具の一つ。見た目はかなりごついオフロードバイクだが、様々な宝具が素材となっているため、へたな乗り物より頑丈でメンテいらず。

「轢いて突っ込んで潰す」がコンセプトであるため、速度は市販の平均的なバイクよりそこそこ速い程度。とは言え全速力だとマッハ近くまで行くので侮ってはいけない。

なお、マモンはこのバイクに騎乗する時のみ、騎乗スキルがランクA相当となる。なぜなら自分用にチューニングや魔改造しまくったためである。

 

・胎動する万魔殿:B+

→パレス・オブ・パンデモニウム。

マモンが本来持つ宝具の一つ。かなり特殊な『裏世界』と呼ばれる虚数空間上に宮殿を出現させる城塞宝具。防御専制なため攻撃力はないが、結界が何重にも張られており、並大抵の宝具では一枚も破ることはできない。

内部では、マモンの魔力を回復させる諸々の設備が整った「謁見の間」があり、客室もないわけではないが、大半がその場で「悪魔モドキ」と呼ばれる魔物を生み出す施設になっている。ぶっちゃけ見ない方がいいレベル。

 

・貪欲樹海の万魔殿:A

種別:城塞宝具、レンジ:~500、最大捕捉:1,000人

→ロゼンプリズン・パンデモニウム。

前述の『胎動する万魔殿』と、地獄の女神「ヘル」より頂戴したとある宝具を合成したことにより誕生した自作宝具。

『胎動する万魔殿』の基礎的な部分はそのままにしておきながら更なる強化が施されており、さらに『裏世界』より半径がが平均的な人間ほどもある茨のツルの伸ばして現実を侵食し、飲み込んだ者を迷わし、串刺しにしていく魔の樹海を生み出す。分類上は城塞宝具になる。

 

・権能解放「厄災垂らす強欲」:EX

種別:対国宝具、レンジ:1~1,500、最大捕捉:2,000人

→リミッターオフ:グリード・パンドゥラ。

アヴェンジャー時のみ使用可能となる、マモンの『権能』を極限まで解放した宝具。発動の際はスキル自体が宝具化する。

魔力によってできた巨大な狐の頭部をつくりだし、敵に向かって放つ。それによってその頭部自体にはさほどダメージはないが、食らった相手の能力、宝具に収まらず、記憶や寿命など、あらゆる全てを奪っていく禁忌の宝具。

さらには、例え呪われた力だとしてもその呪いのみを残して奪っていくため、ノーリスクハイリターンというとんでもない能力を持つ。ただし発動し、奪った対象が死んだ際には一定期間自身の全能力封印状態というリバウンドがある。

 




なおこちらはfate通常召喚時におけるステータスとなっています。ゲームだとまた別物になりますね。


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第三章 嗚呼、人よ『怠惰』たれ
3-1 祝勝


訂正:章話番号を章番号に合わせました。


 〈煉獄 ??? 〉

 円卓に備え付けられた九つある椅子。そこに今は二人しかいないが、対面するようにして座っている。対象的なピエロの紋章と、火を吹く狼龍の紋章の席。ただその二つのみに人影がある。

 

「────ん~、そっかぁ。『強欲(グリード)』は負けちゃったかぁ」

 

 さもゲーム感覚であるかのような声の伸びで会話を切り出す青年──────『虚飾(ヴァニティ)』。

 そして視線は自ずと、上座に座る男の方へと向く。

 

「…………下らん。末席たる彼奴の勝敗なぞ、気にする価値もない」

 

 憮然とした態度で語る男。つばの広いビーバーハットのような帽子の下からは、まるで興味がないかのような空気が漂う。

 ふと、その意識が『虚飾(ヴァニティ)』へと向けられる。

 

「それよりも、例のものに怠りはなかろうな」

「もちモッチ~。仕込みは上々よン」

 

 そう言って懐から一つの聖杯(・・)を取り出す。しかしそれは、聖杯と言うには赤黒く禍々しいものであった。

 笑いを深める道化師と、ただ静かに佇む黒衣。二人の謀略は今なお深まっていく────────。

 

 

 

 

 

 

 

 〈カルデア内 食堂〉

 

「さーて、まずは祝・マモン撃破ってとこかな?」

 

 ダ・ヴィンチの茶化すかのような口調が、微笑みを携えて立香に向けられる。

 その周りでは先の戦いで活躍し者達が、皆口々に談笑していたり、さらなる作戦を起てていたりしていた。

 

「まだ安心できないけどね」

「うんうん、先を見据えるのはいいことだよ」

 

 ダ・ヴィンチが頷きながら立香の言葉を肯定する。

 そして、視線は立香の隣にて、机の上に座り込むベルフェゴールへと向けられる。

 

「さて……マモンが言ってくれなかった件、君も言えないんだろ?」

「う、うん……ごめん……」

 

 申し訳なさげに眉を下げるベルフェゴール。マモンが去る前に言っていた黒幕について、そして彼らの目的について。立香達が各々の考えをまとめていた。

 しかし、そのどれもが確証を得られず立ち往生にも近かった。

 

「ま、この件はキミを檻から出してから。ってことかな」

「はい、まずは救出。そうすればベルフェゴールさんは私達の手助けをしてくれる、ですね」

 

 マシュの発言に、ベルフェゴールはおずおずと頷く。

 ベルフェゴールのいる監獄についてはマモンから教えられ、ついぞ先程帰って来た先見隊からそれが事実であったことが告げられた。

 

「で、でも、監獄の外だと、本体のリンクが切れて、えっと……わかんないです……」

 

 口ごもるように言葉が尻すぼみになっていくベルフェゴール。つまるところ、監獄の外に出ると、本体の方のベルフェゴールと連絡がつかなくなるということであった。

 

「なら、余計に心配だよ。ダ・ヴィンチちゃん、すぐに行こう」

「はいはい焦らない焦らない。でもそういう君の大胆なとこ嫌いじゃないぜ?」

 

 そう言って席を立つダ・ヴィンチ。職員たちに声をかけていく姿を見送り、立香はベルフェゴールへと向き直る。

 

「大丈夫、きっと助けるよ」

「はい、先輩とならきっと、ベルフェゴールさんも無事に脱出できます!」

「う、うん……ごめんね、うん、ごめん……ありがと」

 

 マシュの勢いを腰が引いたようになったベルフェゴール。その後申し訳なさそうにしつつも柔らかく微笑む。

 その様子を傍目に、立香は顔を上げて天を見上げる。そこには天井しかないが、立香には目指すべき場所を見据えてるような感覚を覚えていた。

 



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3-2 偽・奈落牢

訂正情報下さった方、ありがとうございます!
自分では中々気付けないので感謝一杯です!



「──────海が、ないっ!」

 

 キャプテンの心の奥からの叫びがシャドウ・ボーダーの艦内にこだまする。今、僕らは燃え盛る荒野の中を突き進んでいる。向かう先はベルフェゴールが幽閉されている監獄である。

 

「あのね、僕は元々陸を走るなんて嫌いなんだよ。こんな枯れ果てた黒海のような場所なんてもっと嫌いだよ」

 

 だいぶ鬱憤がたまっているのか、普段よりも勢いのある口調でまくしたてるように文句を垂れるキャプテン。

 そんなキャプテンの文句に対して、立香の肩に乗っていたベルフェゴールがおずおずと言う。

 

「う、海なら……深部に近いところに、"渦嘯海(メルゲレイ)"っていう海が、あ、あったはず……」

「「「海!」」」

 

 ベルフェゴールの言った海に関して、キャプテンだけでなく、彼に付き添う船員(クルー)達も 一斉に反応する。

 その様子に驚き怯えたベルフェゴールは、またしても立香の後ろへと隠れてしまう。

 

『はいはい。海に関心持つのはいいけど、今は監獄が優先だよ?』

 

 艦内スピーカーからダ・ヴィンチの注意する声が鳴る。キャプテンは口惜しそうにしながらも、荒れた大地の上を的確な指示の元に突き進ませる。

 

「フッ、煉獄と言う牢獄の、更に中にある監獄。どの様な地か見物だな、マスター」

 

 不敵な笑みを見せながら立香の元へと歩み寄るエドモン。

 その後ろでは拗ねたように頬を膨らませながら文句を言い続けるBBの姿があった。

 

「なんで私を連れていくんですか、人選ミスじゃないですか? というか私のチートスキルこんなことのために使うものじゃないんですけど」

 

 ふて腐れたように、そしてさも不機嫌ですよと言わんばかりに愚痴をたらす。

 その反対側では、

 

「その点、ワシは強いからの! 頼りになるじゃろ? まっ、是非もないよね!」

「なんで私ノッブと一緒なんですかぁ……、お目付け役じゃないのにぃ……」

 

 呵ヶと笑う信長と、涙目でうなだれる沖田総司の姿があり、艦内は混沌と化していた。

 

「おたくらなんでそこまで能天気でいられるんだか……」

 

 そんな混沌を見かねたロビン・フッドが思いがけず、呆れたようと呟く。それに賛同するかのようなキャプテンのため息も続く。

 

「え、えぇと……と、ところで、目標地点までは、あとどのくらいなのでしょう」

 

 どう答えたものかわからなかったマシュは、ほぼ無理矢理に近い形ではあるが話を反らそうとした。

 そのマシュの質問に、キャプテンは計器類を見ながら真剣な表情をして答える。

 

「ん……予定通りいけばそろそろだけど……」

「キャプテン! あれでは?」

 

 そう言って一人のクルーが正面を指差す。そこには、山のように巨大な漆黒の壁が連なっていた。

 クルーの声にベルフェゴールが顔を出して、それを捉える。

 

「…………うん、あそこ。あそこが……"偽・奈落牢(モデル・タルタロス)"だよ」

 

 シャドウ・ボーダーが正面らしき大門の前で止まる。その大門もまた漆黒であったが、よくよく見れば、門だけでなく壁すらも青銅でできていることがよくわかる。

 立香達はその門前へと立ち、その大きさを見上げて呆然とする。来るものを拒むような巨大さに威圧感を感じながらも、立香は前に出る。

 

「……行こう」

「はい……あ、でも入り方が……」

 

 マシュが困ったようにしながらも入り口を探そうとする。ふと、ベルフェゴールが立香の肩から離れ、大門の前で止まる。

 

「……『I tell, as open the gate(私は告げる、門よ開け)』」

 

 滑らかな発音で言葉を発するベルフェゴール。すると、次第に大門がゆっくりと開いていき、内部へと通ずる道が開かれる。

 内部からはうっすらとした霧が水のように流れ出てくる。奥からはおどろおどろしい空気が溢れ、来る者の恐怖を駆り立てる。

 

「だ、大丈夫……?」

 

 ベルフェゴールの心配する声にハッと我に帰る立香。かぶりを振って気持ちを取り直し、覚悟を決めた顔で顔を上がる。

 

「よし……ベルフェゴール救出作戦、開始だ!」

 

 その立香の号令に従い、全員が中へと入っていった──────。

 

 

 

 

 

 

『さて、立香クンたちも行っちゃったし、私たちはここで待機かな?』

「とは言え、ゴーレムの護衛だけじゃ、サメの大群に囲まれたイワシの気分だよ」

『そうは言うけれどもねぇ……』

「あれ? おかあさん達、行っちゃった? あっ、行ってきます! 待って~」

『はい、いってら…………』

「「『えぇっ!? いつの間に!?』」」

 

 ここに一人、監獄へと入っていく無垢な少女が走っていった。

 

 





英語については優しい目で見てください……。
ほんとは造語にしようかと悩んだんです………。


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3-3 クラブハウス"ネクロ"

 ────光輝くフロア、鳴り響くホップビート。吊り下げられたミラーボールは虹色の光を反射し、音楽に合わせて躍り狂う者達。

 

「Hey!ノってるかいbaby!」

「「「Yeahaaaaaaッ!」」」

 

 ハイテンションな空気についていけず、角で呆然とする立香は、ただただ圧倒されるなか、開いた口が塞がらずに言葉をこぼす。

 

「……なにこれぇ…………」

 

 

 

 

 時は少し遡り──────、

 

 

 

 

 立香らは大門から霧が立ち込める中、ベルフェゴールの案内で奥へと進んでいた。

 はぐれないようにしつつも、的確に奥へ奥へと進んでいる立香達。次第にそれは下へ下へと向かう形になり、霧は晴れ────

 

「あっ、おかあさん!」

「えっ? ……えっ!? ジャックちゃん!?」

 

 駆け出して立香の胸元へと飛び込むジャック・ザ・リッパーに、まさか来るとは思っていなかった立香は驚きよろける。

 そして驚いたのは立香だけでなく、その場にいる全員が驚いていた。

 

「ジャ、ジャックさん!? なぜここに……。というより、どうやってついてきたんですか!?」

「?、ふつうにいっしょに乗ってきたよー?」

 

 きょとんとしてマシュの追求に答えるジャック。その様子にロビンは苦笑いし、BBは呆れたような顔をする。

 

「まぁ付いてきちまったもんは仕方ないでしょう。とりまお先進みましょうや、マスター」

「そ、そうだね」

 

 気だるげな声で間を取り直すかのように意見を言うロビン。立香はそれを聞き、同じく苦笑いを浮かべながら曖昧に賛同する。

 

「じゃあ、一緒に行こっか」

「うん!」

 

 満面の笑みを浮かべるジャックと手を繋ぐ立香。それはここが監獄でなければ微笑ましいものに見えただろう。

 しかし実際は、周りの岩肌が見える壁には、ところどころ血痕が付着し、下層からはうめき声のようなものが響いてきていた。

 

「はぁ……とにかく早く行きま──────っ!? マスター、下がって」

 

 そんなほのぼのとした立香達を、多少呆れながら先に広い空間に出た沖田が、何らかの異様な気配を感じて刀を抜く。

 ふと、コツコツと靴を鳴らすかのような音が鳴り響く。しばらくして、歴戦の気配を感じさせる、軍服隻眼の男が現れる。

 

「……お待ち申し上げておりました、『怠惰(スロウス)』様。そして、カルデア御一行様方」

 

 まるで賓客への対応とも言うべき丁寧な口調と言葉が、その渋い声から発せられる。

 その男を見たベルフェゴールは、苦虫を噛み潰したかのような表情をして、額に一筋の汗が流れる。

 

「…………まさか、君がここにいるなんて……」

 

 

「────"赤竜一派"の一人…………"少将"『ネビロス』」

「しょう、しょう…………この人が"少将"、ですか……」

 

 ベルフェゴールが恐れるように出した名前に、マシュはまたしても驚いたかのような反応を見せる。

 名前を呼ばれた男────ネビロスは、静かに目を瞑り、半身をずらすと、エスコートするかのように片腕を広げる。

 

「皆様の目的地はこちらに…………ご案内致します」

 

 そう言って奥へ歩いていく。まるでこちらを警戒していないかのような行動に、度肝を抜かれたような気を覚える一堂だったが、率先して立香がネビロスについていく。

 

「せ、先輩!?危ないですよっ」

「大丈夫。あの人はきっと、案内しに来ただけだから。そんな感じがする」

 

 そのまま立香はネビロスについていってしまう。それにため息をつきながらもロビンが、次に警戒心を解かずに沖田がついていき、そのまま他の面々も後に連なっていく。

 しばらく歩いていると、不意にネビロスが話しかけてきた。

 

「ご安心を────等と言っても安心なぞできませんでしょう。ですので、今はただ付いてきて頂ければ」

「…………何があったの」

 

 静かに、そして丁寧に話すネビロスに、ベルフェゴールは唐突に問いかける。

 それに対して悩むような空白の後、とある扉の前でその歩みを止める。

 

「その答えは、この先にて……」

「…………ねぇ待って、ちょっと待って。すごく嫌な予感がする」

 

 目的地として着いた重厚な扉の上には、光るネオンの看板でこう書かれていた。

 

 ────『クラブハウス"ネクロ"』────

 

「待って、待ってヤダヤダヤダヤダ見ないで見ないで開けないで待って開けちゃダメェェェッ!?」

 

 立香が意気込んで取手に手をかける。その姿にベルフェゴールが大慌てで止めようとする。

 しかし、時既に遅し。立香が扉を開くとそこには────────

 

 

 

 

「────なにこれぇ…………」

 

 そこには、男女様々な姿の悪魔達が踊る、クラブハウスがあった。

 



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3-4 ポップなビート?ラップでファイト#1

アイェェッ!?お気に入り増えてるナンデ!?

ラップ勉強に時間かかりすぎました……


「ここはベルフェゴール様が直々に経営なされているクラブハウスになります」

「あ、そう…………」

 

 ネビロスの淡々とした答えに、悶えうずくまるベルフェゴール(正確にはその分身個体)を見ながら、同情するかのようにしつつも何とも言えない顔をする立香。

 フロアの中心では、黒のジャケットやサングラスなど、ロックな格好をしてDJセットを鳴らすベルフェゴール本体の姿が。

 

「モウヤメテ…………コロシテ…………」

(((うわぁ………………)))

 

 そのあまりにもエンジョイしている姿と、分身個体の悲壮感漂う顔に、一同の表情が引き吊る。

 周りは未だ熱狂しており、逆にほぼ棒立ちな立香達はよく目立つ。それすなわち────―、

 

「Hey,men´s。待ってたZE?」

「「「うわぁ…………」」」

 

 今度こそ全員が心から引きつった声を口に出す。

 いかにもな格好をしたベルフェゴールが、いつの間にか立香達の近くまで来ており、声をかけてきたのである。

 

「連れてきたよ、"本体(オリジナル)"……」

「Year,サンキュー"妖精(ピクシー)"」

 

 分身個体は本体のベルフェゴールに、立香達を連れてきたという旨を伝えると、ベルフェゴールの手の上で糸が切れた人形のようになる。

 それをジャケットのポケットの中にいれて立香達に向き直るベルフェゴール。

 

「Hmmm,さてどうしようか?」

 

 ベルフェゴールが依然として"らしい"口調で考えるように問う。

 多少困惑しながらも立香は、

 

「えぇっと…………とりあえず────」

 

 脱出。と、答えようとした時、

 

「ヘーイそこのお主! このビートなかなかロックじゃのう!」

 

 先程入ってきたときからはしゃぎまくる信長、もといノッブが割り込んでくる。

 その発言を聞いたベルフェゴールはというと────、

 

「Oh,year! 分かるかいこのBeat!」

 

 とノリノリで返していた。

 そんなノッブに沖田は、「何ややってるんですか……」と言わんばかりに眉間を押さえ、BBに至っては嫌悪するかのように顔をしかめていた。

 

「うぬ! じゃがのう……? わしの方がまだまだロックじゃわい!」

「へぇ……?」

 

 ノッブの爆弾発言に、ベルフェゴールが含みある返しで反応する。

 あ、これまずい。そう全員が判断したが時既に遅し。

 

「Yearー! 皆聞いてくれぃ! 今! 彼女が俺たちよりもロックだって言ったZE!?」

 

 マイクを持って、どこからともなく出してきたボックスな上に立ち、この騒ぎの中よく聞こえる声で喋りだすベルフェゴール。

 その声に全員が振り返り、立香達を、正確にはベルフェゴールとノッブを見る。

 

「だから! どっちがロックか決着つけてやろうじゃねぇか!」

「Woooooooo!」

 

 一気に盛り上がる会場。ベルフェゴールがパチンと指を鳴らす。

 会場が暗転し、次の瞬間、立香達は中央の舞台の上にいた。

 

「今からMCバトルしてやるぜ! ネビロス!」

「これよりクラブ"ネクロ"MCバトルを執り行う。司会は私ネビロスが」

 

 歓声が上がる。ネビロスは面倒そうな顔をしながらも、そのまま仕方なしに司会を勤めていく。

 

「審判は左から、まずは部下のサルガタナス」

「ふぇぇぇん! 隠れてたのになんでバレてるのぉ!!」

 

 涙目で抗議の声を上げるサルガタナスと呼ばれた、ネビロスと似た軍服を着た少女。

 どちらかと言うとネビロスよりも地味な感じのする服ではあるが、どうしてか見た目よりも近寄りがたい空気がある。

 

「その隣、バーのマスター、ゲイザー氏」

「ヨロシク」

「「いや目玉じゃないですか!?」」

 

 歓声と共にBBと沖田の鋭いツッコミが入る。

 

「最後にカルデアから、藤丸立香とその仲間達」

「ははは……どうも……」

 

 同じく歓声が上がり、司会と審判の紹介が終わる。

 そしてノッブとベルフェゴールが互いに舞台に立って向き合う。その視線は今にも火花を散らかねない。

 

「青コーナー、DJもといMCスロウス。赤コーナー、チャレンジャー、ノッブ・ザ・ATUMORI」

「Wooooooooッ!」

 

 二人の闘志がさらに上がる。会場の熱気も同じく上がっていく。

「ノッブェ…………」と言う呟きが聞こえた気がするが、立香はスルーした。同じことを思ったがスルーした。

 

「DJ、8ビート刻み。鳴らし」

 

 ネビロスの指示がかかり、ベルフェゴールの代わりにDJをしている悪魔がDJセットを鳴らす。

 ビートを刻んだBGMが鳴り、二人はそのビートに乗ってリズムを刻んだり唇を潤していたりする。

 

「先攻後攻、ジャンケン」

 

 ノッブとベルフェゴールがジャンケンをする。

 

「先攻、青コーナー MCスロウス。後攻、赤コーナー ノッブ・ザ・ATUMORI。DJ用意(レディ)、Fight」

 

 ネビロスの開始の声がかかる。先に攻めるのはベルフェゴール。

 

「よゥ!こそおれの独壇場、ここはクラブハウス"ネクロ"。ノコノコやってきて即退場? 無様に負けて即惨状。ナめてくるならとっとと帰んな、甘い汁なんて有りはしねぇ。そもそもガキの来るとこじゃねぇ! 回れ右してねんねしなbaby!」

 

「舐めてるのはどっちだFancy、根暗か陽気かはっきりしなcrazy! そもそもワシも魔王じゃし? こんな程度で帰るのはありえないし? つか甘い汁すすってるのはどっちだって言いたいぐらいの差があるんじゃがワシピンチ? 両極端もいい加減にしろよワシ覇王じゃし!」

 

 




拙いのは………勘弁してくれ……

実験ついでにアンケートでも取ります。自分の望む方をお選び下さいまし(ぶっちゃけラップできるやつはすげぇよ)。期限は、まぁ9/1までで。


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3-5 ポップでビート?ラップでファイト#2

〈小設定〉
()の番号は序列位。

・ネビロス(5)→キャスター(物理)な"少将"。悪魔のくせして法の番人。渋さと若さがベストマッチした顔。固そうな顔だが意外とノリがいい(大抵仕方なし)。

・サルガタナス(6)→万能アサシンの"旅団長"。ピッキングや透明化、トラップ設置など実際万能。普段は気弱で及び腰だが仕事中は真剣な忍者。



 お互いのラップの応酬が終わり、熱気に当てられて汗を流す舞台の上の二人。

 ネビロスが何度目かわからないジャッジの声を上げる。

 

「審判、ジャッジ」

 

 立香らは自分達が一番いいと思った相手の色の札を上げる。

 何巡もしたがために二人の色は最初の色に戻っており、審判の声を喉を潤しながら待つ。

 ──────判定(ジャッジ)、青、赤、赤

 

「赤、勝者ノッブ・ザ・ATUMORI」

 

 ネビロスから判定結果が告げられる。ノッブが腕を真っ直ぐ上げたことで会場が一気に沸き上がる。

 ベルフェゴールはやりきった顔をして、ノッブの握手を求める手に答える。

 

「やるねぇ、負けたよ」

「いやいや、お主こそたまげたもんじゃったわ。これでワシらはダチだの!」

 

 にこやかに握手をかわす二人。そんな二人を沖田とBBは冷めた目で呆れたように見ていた。

 

「先輩、先輩! 凄かったですね! こう、上手くリズムを踏んで激しい舌戦が繰り広げられてて!」

「うんマシュ落ち着いて」

 

 興奮したように声を上げるマシュをなだめる立香。

 そして立香はベルフェゴールに向かって歩み寄っていく。

 

「……で、一緒に来てくれる?」

「Year、もちろんだZE。ただまぁちょいと待っててくれ」

 

 そう言ってベルフェゴールは会場にいる群衆へと体を向ける。

 

「Hey,Friend´s! 今日はここまでだ! そして! 今日からクラブ"ネクロ"はしばらく無期閉店だ! すまねぇ!!」

「いいぜぇ!」「かまわないよー!」「楽しかったぞー!」

 

 ベルフェゴールの謝罪に、群衆は皆口々に許すどころか最後の公演を称賛していく。

 そしてベルフェゴールは立香達を手招きすると、そのまま舞台から降りてバックヤードの控え室へと歩いていく。

 

「Aー……悪い、隣で待っててくれ」

 

 そう言ってベルフェゴールは自分の控え室へと入っていく。

 立香達も控え室へと入っていき、しばらくの間ベルフェゴールを待つ。

 

「あれ? そう言えば、ネビロス達はここで何してたの?」

「えぇ……自分はここの看守統括なので、罪人達の監視を。もっとも、ベルフェゴール様の投獄には些か不信感がありまして」

 

 ネビロスが立香と向き合って答える。

 その陰からひょっこりと顔を出してくるサルガタナスもネビロスに追随して答える。

 

「わ、私は囚人の監視を…………やりたくなかったですけど……後は、こっそりと皆さんの護衛を…………」

 

 涙目になりながら言葉を紡ぐ姿に、なんとも言えない気分になる立香。

 そんなサルガタナスを見ていた沖田が、後ろから彼女を抱きしめて頭を撫で始める。

 

「あぁぁぁなんですかこのかわいい子は!」

「ひゃぁぁぁ!?」

 

 ワシャワシャで頭を撫で続ける沖田と、それに驚いて硬直するサルガタナス。

 そんな混沌(カオス)の中、静かにドアがノックされる。

 

『は、入って、いいです、か…………?』

「? いいよー」

 

 立香は、扉の奥の声が心なしか震えているようにも感じていた。

 そして扉が開き、先程とはうって変わって博士然として気弱だが柔和そうな顔を覗かせる。

 

「あ、あの……その……」

「?」

 

 顔を隠すように下に向けてそそくさと、しかし俊敏な動きで入ってくるベルフェゴール。

 そのまま立香達の前まで行くと、音が鳴るほどの勢いで土下座する。

 

「どうか忘れて下さいぃ……ッ!」

「あー…………はい……」

 

 小刻みに震えるベルフェゴールに、先程までのことを思い出してなんとも言えなくなる立香。

 周りのサーヴァント達の間にも何とも言えない空気が漂う。

 そんな静寂を破ったのはネビロス達であった。

 

「だから言ったでしょう。何時此処に来られるかわからないのですから止めておくように、と」

「うっ…………」

 

 それにサルガタナスが、未だ沖田に抱き締められながら追随する。

 

「そ、そうですよぅ……。それでも強行したのはベルフェゴール様じゃないですかぁ……」

「はぐっ……」

 

 言われる度に図星を当てられ、苦悶の声を上げるベルフェゴール。

 流石に見かねた立香は「大丈夫だよ」とベルフェゴールの肩を軽く叩いて立ち上がらせる。が、

 

「っていうか、そこまでなるぐらいなら最初からしなきゃよかったじゃないですかDJサン」

「ごはぁッ」

 

 BBのトドメの一撃でベルフェゴールは吐血するかのような声を上げ、背中から倒れる。

 言わんこっちゃないという風に全員が呆れ返り、白目を剥いて気絶するベルフェゴールに、立香は一抹の不安を覚えたのだった。

 




続きだよー、続けるよー
なんでそんな見たがるのぉ…


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3-6 監獄脱出

やっべ、投稿時間間違えてた。テヘペロ


 走る、走る、走る。たまに角に隠れ、やりすごす。

 しかしそれでも、やはりここでは見つかってしまう。

 

「居たぞ! こっちだ!」「逃がすな! 追え!」

 

 監守達の怒号が廊下に響く。

 立香達は息を切らしながら、ベルフェゴールと、潜伏していたロビンの案内の元、出口へと向かっていた。

 目的地へと向かうために角を曲がり、直進し、また角を曲がる。

 

「──────あっ、あそこ! あれが"禁忌区画(アヴァドンシャフト)"の入り口だよ!」

「それよかおたくも走ってくれませんかねぇ!? いい加減きついんだけどね!」

 

 ロビンに担がれたベルフェゴールが、出口へと続く近道である"禁忌区画(アヴァドンシャフト)"を指差す。

 そこには数人の番人代わりの監守達がいた。だが、立香の影から飛び出た何者かに全員が倒れ伏す。

 

「クハハハハ! 緩い! この程度では、オレのマスターの執念は止められん!」

「むぅ! おかあさんの、邪魔っ!」

 

 エドモンとジャックが一蹴した監守達を傍目に、立香達は禁忌区画を仕切る扉の中へと入っていく。

 ここが出口への近道だということは、立香達はネビロスから聞いていた。だが、ここにはいない当のネビロス達は、

 

 

『残念ながら、我々はついていけません』

 

『これ以上は流石にマズイんですよぉ……』

 

 

 と共に来ることを断っていた。申し訳程度の情報からここへと向かうことになった立香達。

 そんな彼らに対して、なおも懐疑的なBBや沖田ら。

 

「彼らは本当に信用できるんですかねぇ、悪魔ですし」

「大丈夫、少将なら、ウソはつかない」

 

 まるで確信を持っているかのように言うベルフェゴールに、「ならいいんですケド」と鼻を鳴らすBB。

 なおも止まることなく禁忌区画の中を走り続ける立香達。うめき声が聞こえる中、立香はある牢の前で立ち止まってしまう。

 

「──────……何者だ」

 

 牢の中から問いかけられる。その中にいたのは年若い、美男子であっただろう擦れた姿の"天使"がいた。

 立香はその男を呆然として見つめていると、男がまたしても口を開く。

 

「人間…………? なぜ…………そうか、お前達が…………」

 

 一人納得したかのような雰囲気を見せると、その鋭い眼光を立香に向け、一方的に語りかける。

 

「……人間、忠告しておこう…………。"道化師"に気を付けろ。奴は、世界すら(・・・・)騙してくるぞ」

「君は…………」

 

 立香が男に、何者か問いかけようとした時、

 

「マスターさん! なにやってるんですか! 早く!」

 

 沖田の急かすような声が聞こえ、立香は後ろ髪を引かれる思いで仲間の元へと走っていく。

 そんな立香の後ろから、遠退く男の声が自らの耳へと聞こえてくる。

 

「己を忘れるな……自らが居た場所を忘れるな……奴は、すぐそこにいる…………。あぁ……私の、名は……────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────私は、『シェムハザ』だ……」

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

 

 何度か監守に遭遇したものの、誰も欠けることなく無事に脱出した立香らは、すぐさまシャドウ・ボーダーへと乗り込む。

 

『おかえりー、なーんて呑気にも言ってられないみたいだね』

「シャドウ・ボーダー緊急発進っ!」

「「「アイ、アイ、キャプテン!」」」

 

 すぐさまキャプテンがエンジンをフルにかけてシャドウ・ボーダーを緊急発進させる。

 みるみるうちに遠くなっていく監獄は、サーチライトの光が空高く昇っていた。一先ずは安全を知った立香らが、深いため息と共にその場に崩れ落ちる。

 

「ご、ごめんね…………でも、ありがとう」

「うん……どういたしまして」

 

 申し訳なさそうにするベルフェゴールに、立香は疲れながらもはにかむような笑顔で返す。それにつられたベルフェゴールもまた照れたようにはにかむ。

 つかの間の休息。ふと立香は、先程禁忌区画で会った男の言葉を思い出す。

 

 

『"道化師"に気を付けろ。奴は、世界すら(・・・・)騙してくるぞ』

 

『己を忘れるな……自らが居た場所を忘れるな……奴は、すぐそこにいる…………』

 

 

 どういう意味か、立香はさっぱりとわからなかった。だが、どこか聞き逃してはいけないものだと、心のどこかでそう直感する。

「ねぇ」と立香が全員に声をかけやうとしたその時、

 

「「「うわぁぁっ!?」」」

 

 シャドウ・ボーダーが急停止し、中にいた全員が驚き、転げ回る。

 一体どうしたのか────。そう思い、立香はコックピットのモニターを見る。するとそこには────。

 

『全く、二人も甘いものだね……とは言え、ボクもこういうことはしたくないけど』

『おじさん、荒事得意じゃァないんですがねぇ。"宰相"?』

 

 二人の男性の姿をした悪魔が立ち塞がっていた。

 




ネ タ バ レ 確 定
勘のいい人やある程度知ってる人なら解ってしまう黒幕。はてさて一体誰なのだろうか。

延長延長ッ、9/3の朝で締め切るデス!


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3-7 赤竜一派

ビッグネーム多杉ィ!

私としたことがアイサツをすっかり忘れていたでござる。
1話の方に改めてご挨拶とエピックシンボルを載せてありますので、よろしければご覧下さいな。





 急停止したがために煙を上げるシャドウ・ボーダー。その目前には、腰に二振りの剣を備える、絢爛な純白だが動きやすさを重視したかのような軍服の青年。

 隣には、軍服ではなくゆとりのある服装で、それはさも現代の探偵のような姿でタバコを吸う気だるげな壮年の男がいた。

 

「痛ったぁ……何事じゃ?」

「っ………ッ!? そ、そんな………」

 

 信長の能天気な声とは裏腹に、さも恐ろしげなものをみるかのように、二人を見て息を飲むベルフェゴール。

 

「知ってる相手?」

 

 と、立香が聞く。その質問に、ベルフェゴールが苦い顔をしながら答える。

 

「彼は、彼らは………『赤竜一派』、そのトップと、同じNo.3の"司令長官"だよ……」

『やぁベルフェゴール様、そこにいるんでしょう? 出て来てくれませんか?』

 

 ベルフェゴールのうめくような答えと共に、"宰相"と呼ばれた青年がシャドウ・ボーダーに向かって話しかける。

 彼らの狙いはどうやらベルフェゴールであり、当の本人は顔を青くしていた。

 

「む、無理だ………もう無理なんだ………」

 

 怯えて震え出すベルフェゴール。そんな姿を見て、立香は決心をする。

 

「皆、いけそう?」

「「「「おう!(はい!)」」」」

 

「え?」と呆けた声を出すベルフェゴールを置いて、立香らは外へと向かっていく。

 

「む、無理だよ! 勝てっこないよ! 彼らは大罪魔王に並ぶくらいに強いんだよ!?」

「問題ありません。先輩となら、勝ちます」

 

 慌てて止めようとする声に、毅然とした声で返すマシュの声。その顔は負けるとは微塵も思っておらず、決意に満ち溢れた表情をしていた。

 唖然として彼らが出ていく様を見ていたベルフェゴール。ふと、視線を自らの両手へと下げる。その手は男としてはあまりにも細く華奢であった。

 

「僕、は……………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや?」

 

 立香が外に出て、最初にかけられたのは疑問の声だった。

 声の方を見ると、不思議そうな顔をして首をかしげる"宰相"がいた。

 

「おかしいですね?こちらにいるぱずでは?アガリアレプト司令」

「いやいや、多分中に居るんでしょうよ。てか、そんな簡単に出てくるわけないですって」

 

 小首をかしげる"宰相"に、仕草でも違うといってけだるげに答える、アガリアレプトと呼ばれた男性。

 対して立香らはすでに全員が相手をよく観察して、どう行動するかを探っていた。

 

「ふむ………では貴殿方が"カルデア"というわけですか。では単刀直入に。──────ベルフェゴール様をお渡し頂けますか?」

 

 笑顔を見せる"宰相"。だが、その笑顔には相当の凄みがのっており、立香らの中には冷や汗を流すものもいた。

 

「断る、と言ったら?」

「殺しますね。その後で回収しましょうか」

 

 立香の質問に、なんでもないかと言うように、笑顔のままさらりと答える"宰相"。

 そのあまりの歪さに、立香の背筋が底冷えする。だが、立香はそれでも面と向き合って、

 

「それでも、渡さない」

 

 そう答える。すると、"宰相"は残念そうに首を振って、腰に挿す剣に手をかける。

 

「そうですか……。では……………死んで下さい」

 

 刹那。一瞬で立香との距離を詰める"宰相"に驚く立香。瞬き。ほんの一瞬のうちに剣を抜き、立香を切り伏せようとする。

 しかし、その剣は寸前で別方向から現れた刀によって防がれる。

 

「おや、これは中々」

「マスターに手出しはさせません」

 

 競り合い、互いに弾く。距離が空き、二人は構え直す。

 立香はあまりに突然のことで腰が抜け、フラフラとしりもちをつく。

 そんな立香に、沖田は振り返らず相手を見つめたまま、立香へと告げる。

 

「マスター下がって。今のままでは振れない」

「………わかった。沖田さんも、死なないで」

 

 マシュに手伝ってもらいながら去っていく立香の背に、沖田はボソッと「もう死にませんよ」と呟く。

 そして沖田は、左手に剣を構える青年を見る。それが自分を舐めているということを瞬時に悟るが、あえて何も言わず口を開く。

 

「我が名、新撰組一番隊隊長、沖田総司。いざ参る」

 

 名乗りを上げた沖田に対し、最初はにこやかに反応する。

 

「あぁ、名乗るのを忘れていたね。ボクは"宰相"こと、『ルキフグス・ロフォカレ』だよ。よろしくね」

 

 そう言う彼の雰囲気は、まさしく悪魔というべきものであり、沖田は知らず知らずのうちに、自らの額に汗を流していた。




ルキフグス戦は案外『♪~The Battle is to the Strong~』が似合うかも。


ルキフグス(1)→ギルと似たタイプのセイバー。唯一違う点は射出しないこと。既存の宝具であり、なおかつ自身が"知った"宝具を取り出せる『宝物殿』がある。
見た目はイケメン。中身は無情なカリスマ。


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3-8 立ち塞がる脅威

山を越えたので随時投稿予約してあります。

ちなみにアンケートの結果は
『MCバトルの全容:別途で見たい』になりました。
……山越えたと思ったんですがねぇ(遠い目)



「おぉう、始まっちゃってるねぇ。怖い怖い」

 

 遠くで響く剣撃の音を聞きながら、BB達はアガリアレプトと向き合っていた。

 飄々としていて、一見何の脅威も感じられないように見れるが、BBは知っていた。そういう相手ほど厄介で強いのだと。

 

「怖いならそこ退いてくれませんかねぇ?オ・ジ・サ・ン?☆」

「んー、退きたいのは山々なんだけどねぇ……? ほら、これもお仕事ってヤツだからさ」

 

 BBの凄みを含んだ呼び方に、ぬらりくらりとかわして返すアガリアレプト。軽い苛立ちを覚えながらも、頭の冷静な部分でどうするかを考えていく。

 不意に、アガリアレプトが短くなっていたタバコを捨て、懐から新しいものを出し、火をつける。そして一服すると唐突に口を開く。

 

「ふぅー……。あー……後ろから回りこむのは得策じゃァないぜ(ニィ)ちゃん」

「ッ!?…………なんで気付いてんですかねぇ」

 

 アガリアレプトの後ろから『顔のない王(ノーフェイス・メイキング)』を取り現れるロビンフッド。

 その振り替えってすらいないのに察知していた目の前の悪魔に対し、戦慄に近いものを覚えていた。

 

「なァに、簡単なことだ。(あに)さんらは多人数で"救出"に来てる。なら姿隠せるやつなり出すのは当然。そこから考えてソイツならオレみたいなのの後ろに来るだろうなってな」

 

 燻るタバコをロビンに向けて、ニヒルな笑みを浮かべるアガリアレプト。

 確かに、アガリアレプトの言うことは考えてみれば当たり前に近いことだった。しかし、だからと言ってその当たり前がすぐ思い付くかと言えばそうでもない。

 柔軟な発想と、早い頭の回転。エセ探偵じみた格好は伊達ではないのだとBBは悟る。

 

「さてっと、動かないならオジサンからいっちゃうぜ?」

 

 そう言って(おもむろ)に、腰に挿していた二丁のリボルバーを、片方ずつ二人に向ける。

 それをなぜ?と訝しげに思ったBBだったが、銃口を向けられた瞬間、背筋が震え立つかのような寒気に襲われる。

 

「ロビンさん回避っ!」

Bang bang(バァン バァン)

 

 茶化すようなアガリアレプトの声。それと共に引き金が引かれる。銃口からはまるで拳銃のものだとは思えないほどの高密度な魔力弾が放たれる

 間一髪回避に成功した二人は自身の背後を見る。そこには、今まで自分たちがいた場所に巨大な爆発跡ができていた。

 

「お?外しちまったか」

「…………どこが荒事苦手なんだよ、このペテン師」

 

 額に冷や汗を流すロビン。

 やれやれと言わんばかりに肩をすくめるアガリアレプト。リボルバーの引き金カバーに指をかけて、クルクルと回しながら喋っていく。

 

「いやいや、オジサンそもそも探し物当てるだけの(モン)だからね?こういうのはあくまで自衛できる程度しか──────うぉあっぶねっ!?」

 

 ペラペラと喋るアガリアレプトの首筋に、二振りの凶刃が迫るも取り逃がしてしまう。

 慌てて伏せて回避したアガリアレプトは、そのまま軽く前に転がって距離を取る。

 

「むぅ、うごかないで!」

「いや無理でしょ!?何このおっかない幼女!サッキーちゃんかよ!?」

 

 ゼーハーゼーハーと息を切らすアガリアレプトと、自身の刃が当たらなかったことにむくれるジャックちゃん。

 肝が冷えたと言わんばかりに肩で息するアガリアレプトに向けてBBが仕掛ける。

 

「食らいなさい!サクラビーム!」

「どぅえぇっ!?」

 

 BBが放つビームを、不恰好ながらすんでのところで回避する。

 さらに追い討ちをかけるかのようにロビンの矢が飛んでくる。

 

「おっ、ひぇっ、ふァッ!?」

 

 なんとかしてロビンの矢を避けきったアガリアレプトだったが、さらにそこからジャックの追い討ちがかかっていく。

 

「解体するねー」

「ちょっ、うぇぁっ!?」

 

 高速の凶刃を危なげに避けつつなんとか離れて距離を取る。

 これ以上ないほどに息を切らして、心の声を叫ぶ。

 

「君たちオジサンに手加減無さすぎじゃないの!?」

「「「だって敵ですし(だもん)」」」

「そうだったよチクショゥッ!!」

 

 空しく響く絶叫を皮切りに、こちらでも死闘 (?)が始まるのであった。

 




アガリアレプト(3)→オジサン系アーチャーな"司令長官"。「働きたくねぇー」と毎日ぼやいてる。探偵業としてはホームズに並ぶほどの腕前。しかしこのだらけ癖と、そも言えば悪魔なため、実入りは全くない。


キャラ濃いなぁ……


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3-9 純真なる悪魔

 激闘の音がする。金属と金属をぶつけ合わせたような金鳴り音。その端々に聞こえる爆発音。目の前で戦う彼らは、何よりも怪しいであろう自分を守るために戦っている。

 対して、僕はどうなのだろうか。彼らになにか恩を返せているのだろうか。否、恩をつくるばかりで自分は何もしていない。

 そんなのは嫌だ。歯を食い縛り、叫ぶ代わりにすくんでいた足を前に出す。向かう先は己を守らんと戦う"友"の元に────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「放てぃ!」

「おっとと、危ない危ない」

 

 信長の周囲に現れた火縄銃の銃撃を、手にもった剣で弾き返しながら避けていくルキフグス。

 その死角から沖田が迫り、その刃を突き立てようとする。

 

「覚悟!」

「甘い」

 

 死角からの一撃になるはずだった剣閃は、剣を軽く払われるだけで無情にも弾かれてしまう。

 その空いた胴体に鋭い回し蹴りが打ち込まれ、沖田は遠く離されてしまう。

 

「ぐはっ……ッ!」

「沖田!? ぬぅ!」

 

 蹴り飛ばされた沖田の心配をしようとした信長だったが、そんな猶予も許さないとばかりにルキフグスが迫る。

 自身の逸話も相増して吐血する沖田。そんな沖田に気を取られた信長もまた薙ぎ払われる。

 

「ぬぐぁっ!っ……マスターッ!」

 

 俯瞰して戦場を見るために離れていた立香に狙いを定め、一気に駆けるルキフグス。

 信長の叫び声に気づいた立香だったが、その時にはもうすでに敵は目の前にまで迫っていた。

 だが、

 

「っ!」

「そう易々と手を下せると思うなよ」

 

 立香の影からエドモンが現れ、ルキフグスを吹き飛ばす。

 身軽な姿勢で着地するルキフグス。互いににらみ合い、間合いをとる。

 

「ふふ、いいね…………。でもごめんね?こっちも仕事だから」

 

 そう言うと、おもむろに両手の剣に魔力を流しはじめる。すると、片方の剣は不可思議な光を放ちはじめ、もう片方の剣には幾何学模様が浮かぶ。

 

「じゃあ、まぁ…………死んで」

 

 先程までの優男じみた雰囲気とは比べ物にならない速度と威圧感を受ける立香。あまりの威圧感に立香の足がすくんで動けなくなる。

 そんな立香を護らんと前に立ち塞がるエドモン。その顔には焦りが見えていた。そして──────

 

「『絶凍監獄(コキュートス)』ッ!!」

「ごはっ!?」

 

 巨大な氷山がルキフグスを穿たんと登り、その胴体に命中する。

 そのまま吹き飛ばされ、受け身が取り切れず地面を転がながら倒れ伏す。

 立香が、先程聞こえた声の出所を振り返り見る。そこには、魔術を発動したであろう、手を伸ばして決心が決まった顔をするベルフェゴールの姿があった。

 

「ベルフェゴール!」

「遅れてごめん、話は後!僕が皆のフォローする!!」

 

 そう言うなりや否や、おもむろに腕をかかげ、それを勢いよく地面へと振り下げる。

 

「『限界突破(オーバーリミット)』!!」

 

 すると、ベルフェゴールの手の先から波紋のようなものが広がっていく。それが立香らの元までくると、立香達は自身の体の内からなにかしら沸き上がるのを感じとる。

 それまで軽く押されぎみだったBBたちにもすぐさまその効果が現れ、アガリアレプトを押し込んでいく。

 

「たぁっ!」

「うぉぁっ!?オイオイオイッ、これじゃオジサンジリ貧じゃないの!?」

 

 ジャックの短剣が自身の頬をかすり、冷や汗が流れるアガリアレプト。

 バックステップをとりながら倒れ伏すルキフグスの元へと近付き、肩を貸してルキフグスを立たせる。

 

「流石に退いた方がいいぜ"宰相"」

「ふふふ……そうですね……。久々にいいものをもらいました……」

 

 アガリアレプトのタバコの煙がルキフグス達を隠していく。

 

「逃がさないっ!『刻む命脈(アルデバラン)』!!」

 

 ベルフェゴールの魔術による追撃がかかり、その煙を晴らす。だが、二人はすでに撤退した後だった。

 肩を息をするベルフェゴール。そして、気が抜けたかと思えばその場にへたりこんでしまう。

 

「大丈夫!?」

 

 慌てて立香がベルフェゴールの元へと駆け寄り、その肩に手を置く。

 それを手で制して、至って平気そうな顔をしながら、しかし流れる汗をごまかせていない状態で答える。

 

「あはは……大丈夫。ちょっと、久々に無理しちゃっただけ」

 

 気の抜けた笑顔を浮かばせてへたりこむベルフェゴール。その側へロビンがやってきてベルフェゴールの腕を自身の肩へと回し、そのまま立たせる

 

「まったく、世話がやける脱獄者なこって」

「ははは……ごめん……」

 

 申し訳なさげにしょんぼりとするベルフェゴール。ロビンはため息をはきながらもまんざらでもないかのようにシャドウ・ボーダーへと連れていく。

 他の者達も、憔悴した表情はしているものの冗談を言い合えるくらいにはなっていた。

 

「先輩?」

「今いくよー」

 

 マシュにせかされ、小走りでシャドウ・ボーダーへと駆けていく立香。一抹の不安はあるものの、まずは拠点へと帰ることを優先するのであった。

 




ついつい長くなってしもうたぜ…


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3-10 許されぬ怠惰

はい、お察しの通り、やる気が切れる前に書き貯めしてます。


 〈カルデア内 食堂〉

 

「やぁやぁさっきの見てたよー。随分とやるみたいだねぇ」

「うぇっ? あ、う、うん……そ、そうかな?」

 

 ダヴィンチの褒めに照れるベルフェゴール。

 食堂内ではベルフェゴールの歓迎会のようなものが開かれていた。そこでは様々なサーヴァント、特にキャスター系のサーヴァント達から質問攻めになっていた。

 

「ちょっと、戦闘記録見たわよ。何あれ、何で無詠唱であんなのできるのよ」

「ふむ、確かに。見たところルーンも使っていないようだが?」

 

 メディア、スカディと、どんどん多くの魔術師達に囲まれるベルフェゴール。

 あたふたとしながらも質問に対して一つずつ丁寧に答えていく。

 

「え、えっとね……、まず、僕が使うのは、『原始魔術』って言う、魔法と魔術が別れる前のものなんだ」

「ほう」

 

 スカディが前のめりになって聞く。

 ベルフェゴールは説明しながら氷の彫像を形作っていく。それはまるで水晶でできたスカディであった。

 

「こんな風に、細かいこともできるんだ。あっ、僕に合うのは氷と、あと軽い時空系、です……」

「具体的に何が出来るんだい?」

 

 そんな光景を立香は微笑ましく見ていた。そこへマシュがお茶を運んでくる。

 

「先輩、お茶をどうぞ」

「ん、ありがとうマシュ」

 

 ズズズとお茶をすする立香。落ち着きながら監獄で会った男のことを考えていた。

 一体、彼は何を伝えたかったのか。ボーッとしながら考えにふけっていた。

 

「先輩?」

 

 そんな立香の様子をみかねたマシュが声をかける。半分ボーッとしていた立香はその声で我に帰る。

 

「え? あ、ごめんマシュ。ちょっと、考え事してた」

「考え事、ですか?」

 

 首をかしげていぶかしげな仕草をとる。どう説明したものかと首をひねるが、なかなかいい言葉が思い浮かばず、とりあえず流すことにした立香。

 そこへ丁度グレイを連れたエルメロイⅡ世が通りかかる。

 

「あっ、エルメロイ先生」

「……Ⅱ世をつけてくれマスター。それで、何用かね」

 

 立香に呼び止められたエルメロイⅡ世が苦言を言いながら立香の元へと来る。

 グレイと一緒に席につき、立香の話を聞く態度をとる。

「お茶持ってきますね」とマシュは席を外していく。

 

「で?呼んだからには何かあるのだろう?」

「はい、実は──────」

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

「ふむ……"道化師"、か……それに『シェムハザ』か……」

「わかるんですか?」

 

 一通りの話を聞いたエルメロイⅡ世が、立香の話に出てきた重要語句であろう言葉を繰り返して呟く。

 グレイは頭に? マークを浮かべているが、エルメロイⅡ世はそれよりも立香の質問に答えることを優先した。

 

「あぁ……そうだな。まずは"道化師"については何もわからない」

 

 わからないと言われたことに、残念そうに肩を落とす立香。しかし、

 

「だが『己を見失うな』という言葉や『今いる場所を見失うな』というのは興味深い。なにかしらを示唆しているのだろう。マスターも気を付けたまえ」

「……はい」

 

 そう、ここは悪魔達の本拠地であり、本来ならなにが起こってもおかしくはないのだ。立香はそれを再確認し、真剣な表情となる。

 それを見たエルメロイⅡ世は軽く頷くと、話を続けようとする。

 

「さて……では肝心の『シェムハザ』という者についてだが──────」

 

 何者かということを話そうとしていたエルメロイⅡ世。

 だがその次の瞬間、カルデア中に強烈な衝撃が走る。

 

「うわぁ!?」「なによぉ!?」「「なんじゃぁぁ!?」」

 

 皆それぞれの反応を見せる中、ベルフェゴールが何かに気づいたかのような反応を見せる。

 

「この反応……まさか!?」

 

 そういうと廊下へと駆け出していく。それを見かけた立香や他の面々もベルフェゴールにつらってついていく。

 

 

 

 

 

 

 立香が廊下へ出ると、呆然と、しかし驚きに染まった顔をするベルフェゴールが窓の外を見ていた。

 不思議に思った立香は、ベルフェゴールが見ている場所と同じ方向を見る。するとそこには────

 

「ベルゼ……ビュート……」

 

 遥か先にてバイクにまたがりながらこちらを見るベルゼビュートの姿があった。

 ふと、ベルゼビュートが片手を上げるとどこからともなく槍が手元に飛んで来て、回しながら穂先を下げる。

 

「なんで、ここに……」

「……槍を、投げたんだ……」

 

 ベルフェゴールの絞り出すかのような声の内容に、驚愕の反応をする面々。

 不意に立香がベルゼビュートを見直すと、ニッと笑みを浮かべ、来いと言わんばかりに手でクイッと招き、そのまま走り去っていく。

 

「…………宣戦布告……」

 

 その声に反応できるものは、今はこの場にはいなかった。




はい、次章はお楽しみベルゼビュート編となります!
ヤー!楽しみだなぁ!(自らハードルを上げていく)


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3-幕外 何ゆえの『怠惰』なのか

 ナマケモノ、ロクデナシ、ゴクツブシ、使えないやつ。

 そんな風に罵倒されるようなイメージを抱かれやすい『怠惰』という言葉。『怠惰』という罪名。

 でも、『怠惰』というのは本当はそんなのじゃない。少なくとも、僕はそう思ってる。

 

 

 

 僕は遥か昔から、生来の悪魔として生まれてきた。年齢は大罪悪魔の中でも僕がダントツで歳上だし、実力も本来の力が出せるなら『憤怒(ラース)』よりも強いって言われてる。

 でも、僕はそんなに荒事は好きじゃないんだ。ただ、毎日ゆっくり過ごせられるならそれでよかったんだ。

 

 

 争いは好きじゃない。

 そんな毎日競って争って一体何が楽しいの? それは本当に君したいことなの? 

 どうしようもないならそれはしょうがないよ。だってやらなくちゃいけないんだから。でも、やらなくてもいいのにやるのはおかしいよ。嫌なら嫌って言わなきゃいけないよ。

 

 何かに追われるのは好きじゃない。

 自分のやりたいことは自分のやりたいようにやればいい。自分がこうだと思ったなら、正直に言えばいい。他人がどう言おうと自分は自分なんだから。

 

 僕らは機械じゃないんだ。

 僕らに何の義務もないし、何の強制力もない。あるのはただ『自分は自分』、ただそれだけ。

 なのになんで皆見下したり、忙しなくしているんだろう。苦しいならやめればいい。自分を見失うよりかは何倍もいい。

 

 

 僕が原始魔術を使えるのは、単なる気まぐれだった。時間だけはいくらでもあったから、何度もトライ&エラーをして徐々に上達していった。

 DJ業だって、ほんとはただの暇潰しで、気付いたらいつの間にかハマってただけ。

 

 

 引きこもってたのも、だらしなくしてたのも、無駄に疲れることを避けてただけ。無駄に無駄を重ねて頑張ったところで、それは何の積み重ねにもならないんだから、無理したっていいことなんてないんだから。

 

 

 毎日だらしなくたっていいじゃない。僕らは機械じゃないんだから、息抜きだっているんだよ、休みだって欲しいんだよ。

 働けなくてもいいじゃない。僕らは無理して働く必要なんてないんだよ。必要なものは昔から自分たちが賄ってきたんだから、またゼロから始めればいいからね。

 

 苦しんで、悲しんで、辛い思いしてどうして無理をしなきゃいけないの? 

 僕はそんな生き方はしたくない。そんなのは多分ら「どうしてこうなっちゃったんだろう」って後悔するから。

 そんなことなら、僕は後悔してでも毎日だらしなく生きていく。自分のやりたいことをやって、自分を明け透けに出して生きていく。

 

 

『怠惰』の定義は、皆人それぞれなんだろうけど、でも、出来れば悪いイメージは持たないで。

『怠惰』になるっていうことは、誰かしら必要なことなんだよ、絶対、絶対そういうところがなきゃ辛くなっちゃうんだよ。

 

 

 だから、さ? もう無理しないで。僕らは僕らで生きていこう。さぁ、一緒に、もうなんでもいいやってなっちゃうぐらいにだらけよう。

 そうして未来に生きていくんだ。そうして僕らの人生は繋がっていくんだよ。

 泣かないで、苦しまないで、もういいんだ。たまには立ち止まったって、誰も文句は言わないよ。なんたって──────

 

 

 

 

 僕らは仲間なんだから

 




根が悪魔とは思えないぐらいに優しいベルフェゴール。
あれ?悪魔ってこんなんだっけ?


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3-Status 〈キャスター〉

こちらベルフェゴールのステータス表記となります。

蛇足ですが、イベントだとベルフェゴールは配布鯖です。
繰り返します。配布鯖なんです。



CLASS適正:1,Caster(キャスター)/2,Barserker(バーサーカー)/3,Avenger(アヴェンジャー)

 

 

真名:ベルフェゴール

マスター:藤丸立香

性別:男性

身長/体重:162,7cm/52,6kg

属性:混沌/中立

 

 

筋力:E-

耐久:C-

敏捷:C~B

魔力:EX

幸運:C

宝具:A+

 

 

〈クラス別スキル〉

 

・道具作成:A+

→魔術師における特性スキルで、魔力を帯びた器具をつくることができる。近代器機~準聖遺物クラスまでのものが作れる。魔道具に限らず、小物・備品についても一級品のものとなる。

 

・陣地作成:A

→魔術師としてのクラス特性で、自身に有利に働く「工房」を作成可能。ベルフェゴールのランクだとワンランク上の「神殿」を作成することができる。だが本人はそれよりも「要塞」を作ることを好む。

そもそも本人曰く、「讃えられるより身を護るものが欲しい」とのこと。

 

・大罪魔王:C~A++

→悪魔達の王に与えられる神性の変異スキル。あらゆる"異常"に対してどのスキルよりもとても高い耐性を与える。ランクが低いのは本人のポテンシャルも含んでいるためである。

ベルフェゴールはこれに更に一定の範囲における探知能力が付与される。

 

 

〈固有スキル〉

 

・魔導:EX

→あらゆる魔術を識ることができるスキル。一度見たものでも術式を完全に理解することができ、再現・改良も可能。

更には一部ではあるが魔法さえも扱うことができる。ただし本人の力量によるところが大きい。

 

・至る者:A+++

→魔導の深淵に至り、真髄を知った者に与えられるスキル。これにより無詠唱、多重術式の起動、発動コストの削減などが可能となる。

このスキルは持つだけで魔術に関する膨大な知識が与えられるが故に、所持者次第では即座に廃人と化してしまうスキル。しかし、まともに使える者が現れた時、その恩恵は凄まじいものとなる。

 

・大罪『怠惰』:A~EX

→ベルフェゴールの『七大罪の悪魔』としての権能。敵対者の気力を奪って無気力化することができる。更には自身が定めた範囲内において、平時の倍の強さを発揮できるようになる。

ただし、このスキルを持って召喚された際には『怠惰』らしい名称のスキルが付与されることになる。

(例:『引きこもり』→自身の定めた領域内にて無敵化する。ただし代わりにそこから出ると超絶弱体化する)

 

 

〈宝具〉

 

・『金剛不壊の麗城』

→キャッスル・オブ・ルーヴル。ベルフェゴールの逸話の一つに、「夜のルーヴル宮殿を徘徊する者」というのがある。

用途としては避難・防衛を専制としており、外部迎撃もできなくはないが必要最低限である。その代わり内部のトラップはこれでもかというほどにあり、侵入者はことごとく返り討ちに合うだろう。

A+ランク相当の城塞宝具であり、同程度以下の宝具であれば、ものにもよるがほぼ無効化する。さらに収用人数によってその効果は増減する。

余談だが、この城の地下にはベルフェゴールの経営するクラブハウスが存在する。

 

・『聖者反信』

種別:対軍宝具 ランク:A

レンジ:~1万 最大捕捉:24,000人前後

→モアブ・ペオル・ディスベリヴ。ベルフェゴールの逸話の一つにモーセとの関わりが語られている。

自身を含める自らの神々を信仰する娘たちが誘った礼拝にて、神ヤハウェの怒りを買ってしまうイスラエルの民。怒りによって与えられた疫病によって病死していく様を再現した宝具。

防御・抵抗不可の疫病を流し、知らず知らずのうちに殺していく恐ろしい宝具。抗体を作ることもできず、感染力に関しても神様の太鼓判があるほどに強力である。

ただ逸話に関して、自身は神ではないのにと未だに否定している。

 

・権能解放『怠惰なる忘我』

ランク:EX 種別:対軍宝具

→スロウス・レクイエム。アヴェンジャー時のみ使用可能となる『大罪魔王』としての最大宝具。

ベルフェゴールを中心として円状の効果範囲圏を広げていく。何の予兆もなく、何の脈絡もなくいきなり範囲内にとらわれるため、どれ程の察知能力を持ってしても回避は不可能。さらには対魔力がAランク以上ないと即座にやられてしまう。

範囲内に囚われた者は自らが望む世界を見始めるようになり、ついには夢と現実の境がなくなり、最後には植物状態に成り下がっていく。そこからやがて衰弱死していく微睡みの宝具である。

 




ながったらしくてすみませんね。
ベルフェゴール……思ったよりヤヴァイのでは…

これが配布っておま………


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第四章 『暴食』よ、疾駆せよ
4-1 強襲!『暴食』の宣戦布告



祝!UA:5,000人越えありがとうございます!
皆さんのご愛読に感謝あるのみですな。あっ、感想も待ってますよ(見れるかわかりませんが)。

ベルゼビュート編です。作者が一番好きなオリキャラなんで一番力入れます。
ちゃんと終章にも力いれるのでご安心をば。



 風を切る、空を切る、音さえも置き去りにして裾をはためかす。

 来る。確信を持って走る。奴らなら必ず来る。宣戦布告してやったんだから必ず来る。むしろ来てくれないと困る。

 バイクを走らせる、ただひたすらに。そして──────来た。

 

 自身のものとは違う、別の疾走音。その数、一つ二つに非ず、思わず笑みは浮かべる。

 

「ハッ……ハハハハハ!やァっぱそうこねぇとなァ!!」

 

 クラッチをかけ、エンジンを噴かし、さらに加速する。

 その後ろには、自身が発破をかけたカルデアの面々が追随していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は遡り──────

 〈カルデア内 食堂〉

 

 唐突なベルゼビュートの襲撃に驚いていたカルデアの面々だったが、すぐさま我に帰り、慌てて状況の確認を取る。

 

「被害状況!」

「本館に損傷なし!しかし直近10時の方向の山が崩壊しているため、そこに命中したと思われます!」

「シバ、及びカルデアス健在!ですが衝撃により諸機能の半数が停止しました!」

 

 次々と挙がる報告に、ダヴィンチら中枢の者達は渋い顔をする。

 だが、ベルフェゴールだけは、今の報告を聞いて、否、このカルデアを見てまるで何かを思い悩んでいるようだった。

 

「一撃でこれか……槍で出す威力じゃねぇだろ……」

 

 クー・フーリンがうめくかのような声を出す。知らず知らずのうちに、手元の槍に力を込めてしまう。

 そんな中、モードレッドがベルフェゴールの元へと足早に寄ってきて肩を掴む。

 

「おい! アイツのこと知らねぇのか!目的とか!どこにいるかとか!」

「うぇっ!?ぅえっと……多分、『果ての荒野』に行ったと思う。も、目的はわかんない……かなぁ?」

 

 モードレッドのあまりの勢いに、しどろもどろになりながらも答えるベルフェゴール。途中モードレッドにメンチを切られて(本人は普段通り)涙目になるベルフェゴール。

 その様子を見ていたガウェインが、モードレッドを引き剥がしながらベルフェゴールに問いかける。

 

「卿もそこまでに……。それで、そこへはどう行くのですか? お教え願いたい」

 

 ガウェインの、襲撃があったため多少の緊張感はあるが優しげな問いかけるに、ベルフェゴールはおずおずと答える。

 

「た、多分、さっき乗ってたアレで走ってるはずだから、今から追いかければすぐだと思う……というか、追いかけた方が速い、かな。あそこ、広いから……」

「ふむ……そうですか」

 

 ガウェインはそう言うと、立香に向かって振り返り、

 

「とのことですが、如何致しますか? マスター」

 

 と、問う。立香は少し悩む仕草をとるが、すぐさま決断していく。

 

「速さに自信がある人達で追おう。今ならまだ追い付けるかも知れない」

「そういうことならオレの出番だな」

 

 立香の言葉を聞いていたサーヴァント達の中から、一人の青年が出てくる。アキレウスであった。

 その後ろにも何人か、速さに自信を持つ者、ベルゼビュートを追いかけたい者、はてには山をも吹き飛ばす相手との闘いを楽しみにする者など三々五々に集まっていた。

 

「まぁ待ちたまえ。そんなにゾロゾロと行っても悪手になるだろう。まずは選抜を──────」

 

 丁度居合わせたシグルドら頭の冴えるサーヴァント達が、集まった者達をまとめあげ、選抜していく。

 そんな中、ベルフェゴールはただ一人、その中から外れて物思いにふける。

 

「ここ…………本当に、あの〈カルデア(・・・・)〉なのかな……?それとも、まさか…………」

 

 その誰にとも言わずな呟き声は、喧騒にまみれて消えていく。その背を見るエルメロイⅡ世と、彼らを俯瞰しているただ一人の気配に気づかずに──────。

 





超重大な伏線。
さてここは『どの』カルデアなんでしょうかねぇ。


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4-2 追え!疾風のイリーガルライダー


fate/ZEROのチェイスBGM(セルフで)聞きながらをオススメ




 選抜で決まった面々と共に、アキレウスの戦車に乗りながらベルゼビュートの行方を追う立香。流れる景色は、ほぼ全て黒みを帯びた赤褐色の大地。

 世界が、死んでいる──────。そんな風に、虚しさを覚えながら、立香は風を感じていた。

 

「────見つけたぞマスター!」

 

 アキレウスが声を上げる。それにつられて立香が前を見ると、黒いコートをたなびかせて遥か先を駆ける者がいた。

 遠く離れていても聞こえてくるその爆音は、まさしく自らの居場所をあからさまに示しているかのようだった。

 

「────ゥゥグゥルルル」

「随分と舐めてくれてんジャン?」

 

 隣から、獣のようなうなり声と、陽気な声が聞こえる。アキレウスと並走していた金時とロボは、自身の敵たるものを前に見据えていた。

 

「それよりも、だ」

 

 立香の後ろに、バイクで走りながらも控えるようにしていたアルトリア・オルタが、遠く前を走るベルゼビュートを睨む。

 

「マスターの部屋を掃除し終わった瞬間に散らかしてきたアイツを私は許せん。とりあえずぶっ飛ばす」

 

 地味に殺意を高めながら、手元のハンドルにかける力が増していく。その姿に、ロボ以外が苦笑いをしていた。

 ふと、上空から一騎のサーヴァントが降りてくる。

 

「ねぇ、いつまでこうしているのかしら。私としては早く仕掛けた方がいいと思うわ。あれ、気づかれてるわよ」

 

 低空飛行しながら立香に告げるサーヴァント────メカエリチャンが追跡しているベルゼビュートを指さす。

 確かに、距離はだいぶ近づき、いつ気付かれてもおかしくはなかった。だが、まだ何の動きもなかったがために立香達も動かなかったのだ。

 だが、不意に先を走るベルゼビュートが、それこそ何の脈絡もなく唐突にドリフトを切り始めた。

 

「!?回避だっ!」

 

 アキレウスが慌てて叫び、進路を帰る。それと同時にベルゼビュートがどこからともなく大槍を取り出して地面に叩きつける。

 すると、大地が砕け、凹凸のあるメチャクチャなフィールドが広がっていく。それは、上空から見たならば、まるでサーキットのように見えただろう。

 

「くそっ、仕掛けてきやがった!マスター!」

「各自散開っ!」

「「「了解!」」」「ゥゥガゥッ!」

 

 全員が一度バラバラになって隆起してくる大地を避けながらも追いかけていく。

 そんな中、メカエリチャンがついに仕掛ける。

 

「スカートフレア、発射!」

 

 メカエリチャンのスカートから無数のフレアが飛び出していく。その行き先はベルゼビュートの元。

 ベルゼビュートは一度チラリと見たかと思うと、巧みなテクニックで着弾していくフレアを次々と避けていく。

 その横から、いつの間にかベルゼビュートと、崖のように隆起した場所の上から並走していたヘシアンが襲いかかる。

 

「オォゥガァァルルッ!!」

「おぉっとォ、甘ェんだよ犬っころ!」

 

 機体をスライディングさせ、ロボの攻撃を避けるベルゼビュート。だが、ロボの上に跨がっていたヘシアンからの追撃がかかる。

 

緩い(ぬるい)ッ!」

 

 だがその追撃でさえも、槍を一回しするだけで全て弾いてしまう。

 体勢を戻したベルゼビュートは、さらにアクセルをかけて立香らを引き離さんとばかりに加速する。しかし、それでもなお追随する一つの戦車────アキレウスはなおも離れずにいた。

 

「クサントス!バリオス!ペーダソス!まだ行けるな!」

 

 アキレウスの呼び掛けに三頭の愛馬がいなないて答える。時に段差を飛び越え、疾駆するバイクを追いかけていく。

 しかし、追随するのはアキレウスだけではなかった。その頭一つ抜き出た先、ベルゼビュートのほぼ背後にしっかりと一騎、赤い閃光の尾を曳く漆黒がいた。

 

「へぇ…………やるじゃねぇか。なら──────」

 

 ベルゼビュートが姿勢を前に倒す。すると、ハンドルもまた可動し、先程までの寄りかかるような体勢から前倒しになる。

 それに伴ってバイクの形状も変化し、向かい風すら切り裂いていく。

 

「纏え、『暴風の大公(バアル・ゼブル)』。────さぁ、死ぬ気で付いてこいッ!!」

 

 ベルゼビュートが風を帯びると同時にバイクの後部に取り付けられているブースターが火を吹く。

 更なる加速を得たバイクは、ソニックブームを鳴らして更に先へと走っていく。

 

「おぉう、バイクでソニックブームとかマジかよ!?」

 

 想像を絶するスピードで、それでいて超高度な運転技術で障害物にぶつかることなく差を開いていく。

 それに触発されたオルトリアとアキレウス。各々の目にそれぞれの闘志を宿らせる。

 

「あまり私を────舐めるなよ!」

「負けちゃいらんねぇなぁ!」

 

 メイドオルタは『風王結界』を張って風の抵抗を無くし、アキレウスは更にスピードを上げ、光の軌跡を描いていく。

 だが、それよりも早くベルゼビュートに追い付いたのは────、

 

「そぉら!」

「ッ、ハッ!やるじゃねぇか!」

 

 ベルゼビュートの横からいつの間にか立香らを抜かしていた金時が並走する。

 並ぶ横一線。背後からはオルトリアとアキレウスが迫り、上空にはメカエリチャンが隙を伺っていた。

 かつてないほど沸き上がる高揚に、ベルゼビュートは思わず笑みを浮かべてしまう。それほどにまで彼らは白熱していた。

 




ベルゼビュートのバイクはイメージとしては、
キバの『ブロンブースター』×アルトリアの『風王結界』(完全上位互換ver)だと思って下さい。

ぶっちゃけマッハ行ってます。
アルトリア・オルタは水着(コートver)のやつです。以後メイドオルタと表記しますが、基本同名のは霊基替えできるものとお考え下さい。


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4-3 駆けろ!荒野のハイウェイ

 以前までの平坦で静寂な荒野は、たった一人が振るった槍の衝撃で、サーキットコースのように起伏や湾曲に富んだフィールドとなっていた。

 その荒れた大地で造られた高速道路(ハイウェイ)の上を五つの影が駆けていた。爆音を轟かせ、戦闘のバイクを追う。

 

「クッソ、なんつぅ速さだ……っ!このオレが追い付けねぇなんて──っ!!」

 

 縮まぬ差に毒吐(どくつ)くアキレウス。このハイウェイに登ってからというもの、皆先頭を逝く緑髪の黒コート────ベルゼビュートに追い付けずにいた。

 途中、メカエリチャンからの上空攻撃があったものの、悠々と、そして縦横無尽に独走するベルゼビュート。

 

「ハハハハハッ!甘ェ甘ェ!」

「ッ、頭にきたわ」

 

 半ばムキになりながらも的確な狙いをつけ、武装を放つ。だが圧倒的なスピードとテクニックによりその全てを回避されていく。

 そんな中、並走しながら追いかけていた金時とアルトリア・オルタは一瞬視線を合わせると、二手に別れて一気にベルゼビュートを追う。

 

「逃がすとでも思ったか──────エンジン、フルスロットルだ!」

「さぁて、かっ飛ばすぜ────ベアハウリング!『夜狼死九(ゴールデンドライブ)』!!」

 

 メイドオルタは自身の騎乗するバイクのエンジンを全開にし、ギアを最大にまで上げていく。

 一方の金時は宝具を完全に解放し、雷電をまとって雷の如き速度で追随する。

 黒紅と黄金の閃光を牽きながら、ついにベルゼビュートの後ろへと張り付く二人。チラリと振り替えった顔には、驚愕と喜色の表情を浮かべていた。

 

「フッハハハハ!熱いねぇ……やっぱそうじゃねェなぁ!」

 

 魅せるかのような巧みな運転技術で駆ける。それはまるで自らの身体の一部であるかのごとく自由自在に走り抜けていく。

 それを追う二人もまた取り逃がすまいと猛追していく。その二人の間を、光の軌跡を残しながら猛スピードで駆け抜ける一騎の戦車────アキレウスであった。

 

「アキレウス大丈夫っ!?」

「あぁ、問題ねぇ!」

 

 立香の礼装魔術によって強化されたアキレウスは、すぐさま先頭の真後ろに付く。

 

「ん? ──おォ!?マジかよ!?」

 

 今の今まで気にも留めなかった相手が自身のすぐ背後にいるということに、ベルゼビュートはこれまで以上の驚愕を見せる。

 

「オレばっかりに気ぃとられてんじゃねえぞ!」

 

 手綱を握るアキレウス。確かにその目線、その威は目前の相手に向けられていた。だが、その意識だけは別の場所へと向いていた。

 突然、ベルゼビュートの死角から飛び出る影。それは、今まさにその牙を突き立て、噛み砕かんとばかりに口を開いたロボであった。

 

「ガァァルッ!」

「ッ!?しゃらくせぇッ!」

 

 またしてもどこからともなく槍を出現させて横凪ぎに払う。その見た目と軽々しく扱うその様からは予想だにできない超重級の一撃がロボを襲う。

 

「キャィンッ!?」

「っ────!」

 

 だが、ロボの牙は届かずとも、ヘシアンの一撃はベルゼビュートに届く。薙ぎとばされる寸前に振った刃は、その頬に一筋の線を刻んだ。

 そこに生まれた不意を突き、アキレウスが追撃を仕掛ける。

 

「油断してんじゃねぇぞ!!」

「なワケねぇだろゥがァ!!」

 

 アキレウスの槍をベルゼビュートの槍が迎え撃つ。鈍い金属音が鳴り響き、互いに互いが弾かれる。

 弾かれた勢いを、機体を滑らせるように回転させながら横向きに急停止させる。それに合わせて他の面々もまた、自身が騎乗しているものを、相手と大きく距離をあけながら停める。

 

「──……やるじゃねぇか、流石はサーヴァントってとこだな」

「お前こそ、その速さ、その強さ共に比類ないものだろうさ」

 

 頬の傷から染み出る血を、そっと触るように確認している。その鋭い眼光は立香を捉え、ついにベルゼビュートは自身の愛機から降りる。

 気づくとそこは、おあつらえむきに整えられた古戦場(アリーナ)のような場所だった。

 

「追いかけっこは終わりな感じか?」

「ふん、年貢の納め時というやつだな」

 

 霊基を変え、いつでも戦闘に入れるよう態勢をとるオルトリアと金時の二人。さらにはメカエリチャンも空から降り、ロボも駆け降りてくる。

 風切り音を鳴らしながら槍を振り、圧倒的な威圧感を放ちながら、愛機から離れて歩み寄るベルゼビュート。それはまさしく、"魔王"と呼ぶに相応しい風格が漂っていた。

 

「うっし。────さて、ンじゃまぁ、ラウンド2ってことで……。闘ろうぜ、カルデア」

 

 薄らとした余裕をかます笑みを浮かべ、王者との戦いが始まる────。





もしかしたら更新遅くなるかも………なんて。


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4-4 奮え!暴嵐のコロシアム


ニンジン君の活躍にこうご期待



「はぁっ!」「でぇいっ!」

「遅いッ!!」

 

 片方は禍ツの聖剣、もう片方は雷を纏う鉞。二方向からの同時攻撃を、その大槍を目にも留まらぬスピードで振るい、弾き返す。

 弾き飛ばされた二人の背後から、その胸を目指して槍の穂先が突かれる。さらには挟み討つかのようにロボが襲いかかる。

 

「ハッ!当たるとでも思ったか!」

 

 挟み討ちに対して槍を回すことでロボの顎をかちあげ、その穂先でアキレウスの刺突を止める。

 

「グキュゥ!?」

「なにっ!?」

 

 そのあまりの超絶技巧に思わず驚くアキレウス。穂先は寸分違わずアキレウスの槍の穂先とミリ単位0で止められており、力を入れて押しても微動だにしなかった。

 ふと、ベルゼビュートが顔を上げる。その怖気に、アキレウスは背筋に寒気を感じる。

 

「ふん。────ぜェりあァ!!」

「ぐぬぉぉぁぁっ!?」

 

 アキレウスが押してもビクともしなかった槍の交差を、ベルゼビュートは手首で穂先を跳ねらせるだけですぐに弾き、そこから振りかぶってアキレウスを薙ぎ飛ばす。

 驚くべきはその技巧。彼は、一連の行動を、ただ地面に刺すだけでそこが陥没するほどの重さの槍を、片手ど行っているということであろう。

 

「アキレウス!?」

「ぐっ……平気だ、マスター。だが、思ったよりヤベェな……」

 

 いかに不死身と言えど、その超重級の一撃は体内にまで響いている。外傷は問題なくとも、その内部まで癒すことはできない、ケイローンの経験から知っていたものの、その鈍痛は自らの不注意を物語っていた。

 

「はン、そんなモンかよ。まだ足りねぇなァ」

「ぐっ……」

 

 メカエリチャンの放った兵装によって巻き起こった砂煙の中、槍を肩に担ぎながら悠々と歩むベルゼビュート。

 黒いコートのはためくその姿には傷一つなく、ヘシアンによって傷つけられたはずの頬の傷もいつの間にか消えていた。

 

「なんだ?まさかこの程度だなんて言わねぇよな?あのディルムッドとかいう騎士サマはまだやれてたぜ?」

「────はっ、舐められたもんだぜ」

 

 そう言って立ち上がるアキレウス。その手に握られた槍に力を入れる。

 訝しげに、見下すかのようにアキレウスを見るベルゼビュート。槍を地面に刺し、ベルゼビュートに向かって指名するかのように指を指す。

 

「『暴食』の魔王ベルゼビュート……、おれは、あんたに一騎討ちを申し込む!」

 

 高らかな宣言が響く。それを聞いたベルゼビュートは、一瞬呆けるも、頭を支えるかのように片手をあてる。だが、次第に肩を揺らしながら堪えるような笑いを上げる。

 

「クックック……クハハハ……ハーッハハハハ!オレと!一騎討ち!ハハハ、面白いじゃァねぇか!」

 

 もはや堪えきれずといった風に高笑いをする。

 一頻り笑いきって一息つくと、一変して真剣な顔をする。

 

「いいだろう、その勝負受けて立とう」

「そうか、ならお誂え向きの場所を出してやるよ──『宙駆ける星の穂先(ディアトレコーン・アステール・ロンケーイ)』!」

 

 アキレウスが突き立てた槍の穂先から、特殊な空間が広がっていく。それに対して微動だにせず迎え撃つベルゼビュート。

 二人が空間の中へと取り込まれ、互いに向き合う形になる。

 

「ここはおれの宝具で出来た、小手先の技なしの地力勝負の空間。詳しい説明はいるか?」

「はッ、いらねェよ。要は卑怯臭いことなしに殴り合う場所だろ?」

 

 コートに手を突っ込みながら、アキレウスの正面まで歩くベルゼビュート。その途中でコートを剥ぐように脱ぎ捨て、互いに面と向き合う。

 

「オレの名はベルゼビュート、七大罪の魔王にして『暴食』の徒。来るがいい英雄、テメェの全部をぶっ飛ばしてやる」

「我が名はアキレウス、英雄ペイレウスが一子。そっちこそ、受けて後悔すんじゃねぇぞ大罪魔王」

 

 にらみ合い、無言の空気が流れる。見上げる形のベルゼビュートと、見下す形のアキレウス。両者の闘志がせめぎあい、瞬間──────

 

「「いざ尋常に、勝負ッ!!」」

 

 互いの拳が交差する。





バイクにタイマン、そして族と懐かしい90年代をぶちこみまくってますね。あ、作者若者な方です。
ちなみに湘爆とBad boy´sが好みですぞ。



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4-5 激闘!星と嵐のタイマンファイト


アキレウス回。
なんでこんな活躍してるのか知らないけど……。



 

 ジャブ、ジャブ、そしてストレート。よろめく足に踏ん張り、重い右ストレートで返す。殴られた勢いを利用して円運動からの腹部へのアッパー。腹の空気が勢いよく戻り、声とともに吐き出す。

 

「ごはっ!」

「ふんッ!!」

 

 追撃は止まず、頭部に相手からのアームハンマーをモロに食らう。なんとかして脚に力を入れて踏ん張りきる。

 お返しにとばかりに左の拳で、腹部に力一杯の拳を殴り込む。

 

「ぐぉっ」

「せらぁ!」

 

 そのままアッパーカットで吹き飛ばす。綺麗な海老反りで跳ぶも、バックステップの要領で威力を殺していたからか、綺麗な回転と共に着地し、駆ける勢いで顔面にストレートを決める。

 

「ぬぐぁっ」

「はっ、はァ……やるじゃねぇか、まさかここまで楽しめるたァな」

 

 口の中に溜まる唾を吐き捨てながら、そう賛辞を送るベルゼビュート。殴られた勢いで転がっていたアキレウスはなんとかして起き上がり、未だ闘志潰えぬ眼を向けている。

 

「はぁ、はぁ……人間でも、やるときはやるもんだぜ……?」

 

 息切れしながらも言葉を返す。一見すれば互いに消耗しているかのように見える二人。だがしかし、ダメージの総量としては残念ながらアキレウスの方が大きかった。

 いくら"先生(ケイローン)"から教わったパンクラチオンを応用していたとは言え、向こうの一撃は地力だけで自身の中身をボロボロにしてくる。

 

「はぁ、はぁ……ったく、なんつぅ力だよ……」

 

 思わず毒を一人ごちる。立ち上がったはいいものの、こちらは脚に限界が近い。対して向こうはまだまだ健在。

 圧倒的不利なのは目に見えてわかること。しかし、それでもアキレウスには諦めるという選択はなかった。

 

「スゥー…………」

「────オォルァ!」

 

 目を閉じ、すっと深呼吸するアキレウス。そこへベルゼビュートの軽い助走を付けた拳が迫る。

 しかし、当たる寸前その腕を掴み、相手の勢いを利用して投げ飛ばす。

 

「ごはっ!?」

 

 突然ひっくり返った上に、背中に重い衝撃が走り声を吐くベルゼビュート。そこへさらに猛追するために拳を振り下ろさんとするアキレウス。

 だが、バウンドしたところで素早く地面に手を着き、落ちる反動を利用して飛び上がる。そのままアキレウスの頭を両足で挟みながら投げる。

 

「んにっ────ぐぁっ!?」

「オレ式ヘッドシザース、なんつってな」

 

 鈍い音が鳴るほどの勢いで投げ飛ばされたアキレウス。軽くうめき声を上げながらも、なんとかかといった風に立ち上がる。

 

「チッ、流石は英雄ってとこか。生半可なやつじゃァ決めらンねぇな」

「おうともよ……。こちとら先生仕込みだぞ、簡単にやられるか──よッ!」

 

 吐き捨てるように言うと、鋭く息を吐くように相手に逼迫する。そのまま目の前で跳び、連続して蹴りを入れる。

 しかし最後の一蹴りを捕まれ、そのまま投げ飛ばされる。

 

「ぐはッ!」

「────オォルァッ!」

 

 ヤクザキックのような蹴り方でアキレウスに向かって蹴り入れるベルゼビュート。

 間一髪でよけるが、その後ろの客席部には巨大なヒビが入っていく。その威力の大きさに冷や汗が出るが、己を奮起させ、空いた隙に殴り込む。

 

「ぬん!」

「ぐっ────!?」

 

 モロに食らうもすぐさま反撃に転じる。左右交互にジャブをかまし、右ストレートを放つも、アキレウスは全てを見切りかわしていく。

 右ストレートをかわされた勢いのまま倒立をするかのように地面に手をついて倒れ、柔らかな股関節をもって回転蹴りをくらわせる。

 

「おらよォ!」

 

 全て防ぎきったかのように見えたが、相手が体勢を元に戻した瞬間に残った勢いで放った回し蹴りを防ぎきれず、蹴り飛ばされてしまう。

 とは言えただでやられるはずもなく、体の軸を戻しながら腹部に強烈なパンチを入れる。

 

「ぐほァッ」

「まだまだァッ!!」

 

 そのまま数度パンチを入れるが、放った拳を捕まれるアキレウス。

 そして捕まれた腕を引き、顔面に強烈な拳を決め込む。それだけに留まらず、拳を手放しかかと落としを肩に決める。更にはダメ押しとばかりに右回し蹴りで蹴り飛ばす。

 

「────ほぉ?これでもまだ立てンのかよ」

「────ったりめぇだ……」

 

 しかし、すでにその身体は悲鳴を上げており、脚にもダメージが色濃く出ていた。しかし、それでもなお負けじと立ち上がる姿は、まさしく英雄の姿であった。

 

「こんな……とこで……負けらんねぇ、よなぁ……」

「……そうか。なら手向けとして一撃で沈めてやるよ」

 

 腰を低く落とし、腕を腰元に水平に構える。それはまるで正拳突きを放つ構えのようだった。

 たとえ脚がふらつこうとも、ベルゼビュートへ向かって駆け出し、気合いの込めた一撃を放たんとする。

 

「──おぉぉぉォォォッ!!」

「────墜とせ、『吼嵐(こらん)』」

 

 ────決着。ズルリと体を落とすアキレウス。その拳は、ベルゼビュートの顔面に紙一重で届かなかった。

 

「──寝てろ英雄、誰も殺しゃしねェよ。だから……寝てろ、起きれば全部終わってる」

 

 ベルゼビュートの足をあのも掴んでいたその手は、彼の言葉を聞いてようやくその力を抜く。

 アキレウスの張った宝具の結界が解け、向こう側が明らかになっていく。ベルゼビュートは、マスターである立香に、何を言おうかと考えていたその時────、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────ッ!!テメェ……アンリィィッ!!」

「うげっ、ベルゼビュートじゃん!?」

 

 立香の近くでだらしなく座っていたアンリ・マユに、驚きと喜びと不機嫌さを混ぜ合わせた声を上げた。

 





超つっよいベルゼビュートさん。
実はこれでも軽度の潔癖症。
回転蹴りはワンピースのサンジのアレを参考に。

下手すると更新ちょくちょく遅れるかも知れませんので、どうか気長にお待ち下さい。
終わるまで失踪する気はないので(ケツイガンギマリ)


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4-6 弛緩、刹那の休憩


お待たせしました最新話。
ちょっとリアル事情忙しくて、ね?
許してくだちい……




 

 アキレウスが発動させた宝具によって、闘技場(コロシアム)のような広場の中心に結界が張られる。

 立香達はアキレウスの突然の行動に驚きつつも、一旦態勢を整えるために休憩していた。

 

「しっかしまぁ、アイツも突然だったな」

「うん……大丈夫かな、アキレウス」

 

 腰に手を置いて結界を眺める金時と、不安げな返事を返す立香。

 その後ろから機械が動く音にも似たものを鳴らしながら近寄るメカエリチャン。

 

「問題ないでしょう。彼は仮にも英雄、それも不死性を持つ英雄です。そう簡単には倒されないはず」

 

 冷静に、といった風に分析結果を告げる。

 立香はそれを聞いても自身の内にある不安感を払うことはできなかった──────。

 

 

 

 

「いんやぁ?そいつぁわかんねぇかもなぁ」

 

 メカエリチャンの分析に対して、立香達ではない別の誰かの声が返事を返す。

 その声の方向へと警戒態勢を取りながら振り向く。そこには────、

 

「よっ、さっきぶり少年」

「アガリアレプト!?」

 

 少し前に、ベルフェゴールを連れ戻さんと立香らの前に立ちふさがったアガリアレプトが、広場と観客席のようにせりあがった大地の縁に座っていた。

 立香の驚く声と共に一気に戦闘準備に入るサーヴァント達。その様子に慌てて弁明し始める。

 

「おぉい待て待て待て待てっ!もう何にもしねぇって!」

「どうだろうな、寝首を掻く程度はできるのではないか?」

 

 アルトリア・オルタが剣を構える。すると、アガリアレプトはすぐさま縁から降り、両手を上げながら近寄ってくる。

 

「ほんとだっての!オジサン戦う気ないし!てか戦いたくないし!?」

 

 もはや必死とも言える勢いでまくしたてる。よく見れば額には軽く冷や汗が流れており、態度から見ても"戦いたくない"という雰囲気がありありと伝わってくる。

 立香はそんなアガリアレプトを見て、全員に警戒を解くように伝える。

 

「……皆、下げていいよ」

「……了解した、マスター」

 

 いまだアガリアレプトへの警戒の視線は飛ばしているものの、各々手元の武器を下げていく。

 その様子にホッと一息吐くかのように息を吐き出し、両手を上げたまま中座するアガリアレプト。立香はそんなアガリアレプトに問う。

 

「何しにきたんだ?」

「え?あ、いや、オジサン、上の人の気配追ってきたんだけど。…………そういやどこいったんだ?あのお方は……」

 

 立香の質問にキョトンとして答えたアガリアレプトは、思い出したかのように辺りを見渡す。キョロキョロとしている様は、まるで誰かを探しているかのようである。

 

「あなたの上司が誰か知らないけど……、ベルゼビュートとか言うやつならあそこの中よ」

 

 半ば呆れたような反応を見せるメカエリチャンは、「あそこ」と言うところで半球形の結界を指差す。

 それを見たアガリアレプトは、「マァジかぁ……」と先程よりも大きなため息をこぼしながら頭をガシガシと掻く。

 

「まぁた後先考えずに動いて……、もうどーなっても知ーらね……」

 

 自棄になったかのような言葉をはいて、地面にしりもちをつくように座り、思いっきり足を伸ばして空を仰ぐアガリアレプト。

 そこには「疲れた」「もう動きたくない」とぐうたら精神がまるっと現れていた。

 そんなアガリアレプトに苦笑いをこぼす立香。ほんな立香の影が、急に脈絡なく不規則に蠢くのを、アガリアレプトは見逃さなかった。

 

「……はぁ…………アンタもアンタですよ、"悪神"サマ」

「あれー?なぁんでバレちまうかなぁ……」

 

 アガリアレプトにとがめられたことで立香の影からひょっこりと顔を出す青年。それはアンリ・マユであった。

 驚く立香をよそに、さも風呂から上がってくるかのような動きで這い出てくるアンリ。

 

「いやそんなあからさまじゃバレるってもんですわ。もうちと巧くやりやしょうぜ」

「うぇぇー?マスターは気付かなかったぜ?」

 

 億劫そうな語調のアガリアレプトと、ケラケラと愉快そうに笑うアンリ。どうやら他のサーヴァント達は気付いていたらしく、興味なさげにしている。

 だが、そんな緩慢とした空気は、突如として消失し始めたアキレウスの結界によって再び引き締まる。この中から現れるのは一騎討ちに勝った者。はたして────

 

「ふぅー…………ってて、思ったよりも根性あったなァ……」

 

 肩に手を置き、ストレッチのように回すベルゼビュートの姿があった。空気は一瞬にして張り詰める。

 そんなことを素知らぬ顔で歩み寄ってきていたベルゼビュート。だが立香を、正確にはその後ろにいたアンリを視認した瞬間に血相が変わる。

 

「んなっ、テメェ…………────

 

 

 

 

 

 

 ──ア"ァンリ・マユゥゥゥッ!!

 

「うげっ、ベルゼビュート!?」

 

 アンリを視認したベルゼビュートは瞬時に槍を召喚し、アンリへと投げつける。それを見越してかロボが立香を加えてアンリから離れていく。

 アンリは即座に右歯噛咬(ザリチェ)左歯噛咬(タルウィ)を具現化・交差させて豪速の槍を防ぐ。しかし、風を纏ったベルゼビュートが疾駆し、投げた槍を掴む。

 

「待ってたぜェ……この時をよォ!」

「オレは待ってないんだけど、な!」

 

 交差させた二つの歪な短剣で弾き返す。

 距離を空けた二人。片方はしかめっ面ながら笑みを深め、片方は汗を流しながらも茶化すような余裕さを見せていた。

 





やぁ、私だよ。
ラップバトルはまだ書けていないんだ。しばらく待っていてくれ……。
次話もしばらくかかるかもしれないです。


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4-7 激突!悪と悪のクロスカラー

「オラオラオラァッ!!」

 

身の丈もある巨大な槍を、さも自らの腕であるかのように自在に扱い、目前の敵に向かって振り回す。

 

「よっ、ほっ、ぉうぇっ!?」

 

対する相手はその手に持つ歪な(ふた)つの短剣で、時に弾き、時に身を反らしてその猛攻を避けていく。

重く空を切る音を鳴らしながら振るわれる豪槍を、危なげながらも避けていくアンリマユ。

とは言え、流石の立香も見ているだけではなく、ベルゼビュートへと立ち向かうべく戦ってはいるものの、その矛先はアンリマユへと固定されたまま変わらない。

 

「オレは忘れねぇぞクソヤロォォ……」

「うへぇっ!?なに!?」

 

槍を振り回しながら呪詛のような呟きを放つベルゼビュートに、アンリマユは避けながら何事かと聞き返す。

うつむきがちになっていた顔を上げるベルゼビュート。そこには――――――これ以上ないというほどの憤怒の表情がはりつけられていた。

 

「テメェ!忘れたとは言わせねぇぞ!?今までオレに散々してきたことをよォ!!」

 

その怒りのまま、恐らくは今の今まで溜めてきたであろう鬱憤を吐き出していく。

 

「あれは忘れもしねぇ………。初めて会った日、いきなり『あー、ハエの王サマかぁ~』なんて言いやがったことをォ……」

「えぇ……だって事実じゃん……」

 

アンリマユが面倒臭そうに返すも、それにキッとにらみつけるようにしてまくしたて始めるベルゼビュート。

 

「それだけじゃねぇ!その後も何の嫌味か、オレの家の前に◯ンコ置いていきやがったり、さらにはハエの集る腐った食い物(くいもん)置いていきやがったり、果てには『おーす糞山の王ー』だぞ!?お陰様でオレの風評被害たまったもんじゃねぇッ!!」

「「「「えぇ……」」」」

 

絶叫するかのようにアンリマユの所業を明かしていくベルゼビュートに、立香達は同情の念が耐えず、アンリマユには軽蔑の目を向けていた。

ちなみに当のアンリマユは口笛を吹きながら素知らぬ顔をしている。

 

 

「まだあるぞ!?テメェが他のやつに散々ちょっかいかけてきやがるせいで、オレのとこに知らねぇやつが乗り込んでくる始末ときた!それもこれもあって遂にはオレは『最低最悪の魔王』だなんて言われた!もうやってらんねぇんだよコンチクショオォアァァァッ!!」

 

 

あまりあまった怒りのままに槍を地面に叩きつける。その勢いが強すぎるがためにバウンドして宙に舞う巨槍。

こだまする声に怒りと虚しさとなんとも言えない哀しさがあったために、立香達は閉口するしかなかった。

自由落下で回転しながら落ちてくる槍を片腕を伸ばして掴み取り、その矛先をアンリマユへと向ける。

 

「だから……殺す

 

底冷えするような声音と共に、膨大な殺意をぶつけるベルゼビュート。

 行き先はアンリマユだったが、その膨大さに立香らにも殺意がわずかばかりとは言え、身の毛もよだつ程の圧を受ける。

 

「い、いやぁ……オレってば最弱だからすぐ死んじゃ────」

「ウソ()け、煉獄(ここ)じゃ死なねぇだろゥがテメェはよ」

「おぉう即バレしちまったぜ……」

 

 とぼけるアンリマユに、淡々とした口調で返すベルゼビュート。冷や水をかけるような台詞の中に聞き捨てならない言葉があり、思わず立香は聞き直す。

 

「ちょ、ちょっと待って。アンリが煉獄じゃ死なないってどういうこと?」

「あァ?……あー、コイツが元は人だげ"そうあれ"と殺されたっつーのは知ってンだろ?」

 

 危うく殺意を向けかけたベルゼビュートだったが、寸手のところで収めつつ、頭を掻きながら困ったように説明していく。

 立香はそれを固唾をのんで聞き耳を立てる。

 

「コイツはな、死んでここで存在が定着した(・・・・・・・・・・)からここじゃ死なねぇんだよ」

「んー、まぁつまり場所限定の無限ライフ持ちなんだわー」

 

 ベルゼビュートから告げられたものに、アンリマユが降参といった風に補足する。

 アンリマユは煉獄に存在が定着している。それはつまり、ここで消えるということはありえないということ、そう立香は理解する。

 

「よォし、理解が早くて助かるぜ。

 ──────ってとこでシネ」

「どひぇっ!?脈絡なさすぎじゃね!?」

 

 立香の理解に良かったと言わんばかりの笑みを浮かべるも、次の瞬間アンリマユに向かってその槍で一閃する。

 完全に油断していたアンリマユは、慌ててその一撃を避け、すぐさま距離を取る。

 

「うるせぇ!テメェのせいでこっちは大迷惑だコラ!いっぺん死んで詫びろクズ!──────あ、お前らちと離れとけ。おいオッサン!」

「うえっ!?そこでオジサン呼ぶ!?────あー、立香君、だっけ?危ないからこっちこっち」

 

 手で払うようにして退かすベルゼビュートと、呼ばれて慌てて安全圏へと立香らを連れていくアガリアレプト。

 立香達が安全圏へと待避したのを見届けると、向きはそのままで同じく逃げようとしているアンリマユに忠告を下す。

 

「オイコラ逃げんな」

「あ、バレた?」

 

 イタズラがバレた子供のような顔で誤魔化そうとするアンリマユ。それに笑顔を浮かべながら振り返るベルゼビュート。

 その笑顔に嫌なものを感じたアンリマユは思った。──あっ、オレ終わったわ──。

 

「千切れて吹き飛べ────、穿て!『荒れ狂う暴風の魔槍(タイラント)』ォッ!!」

 

 ベルゼビュートが逆手に持った槍を、アンリマユに向かって投擲する。それは黒き風をまといながら豪速で飛び────、直後、途方もない破壊力を持つ巨大な竜巻が起こる。

 





解説:
ベルゼビュートにとって『ハエの王』と呼ばれることは侮辱にも等しく、なおかつ『糞山の王』というのは最大級にバカにした呼び方となります。

バウンドする槍
→言わずもがなこのすばの超角度石鹸。風呂場で日頃の鬱憤と共に投げてみよう!同情されて話を聞いてくれる人が来るゾ!


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4-8 鎮静、暴食との会談


お、待、た、せ、しましたぁーー!
すいまっせんっ!伸びましたっ!
やっとの更新ですっ!




 地より天へと昇る巨大な竜巻。外でもかなりの強風が荒れ狂っているが、その内部は言うまでもなく、何もかもを喰らい尽くし破壊し尽くす嵐流となっていた。

 渦巻く暴風の隙間から見える内部では大地が細切れとなり、欠片が浮き上がり、それらが中で鋭利な礫と化していく。

 

「うわぁぁっ!?」

「うっへぇぇっ、やっぱとんでもねぇぇぇっ!」

 

 その強風に吹き飛ばされそうになる立香と、近くの飛び出た小岩にしがみつくアガリアレプト。

 立香はメカエリチャンやロボら、サーヴァント達に押さえられ辛くも飛ばされずに済んでいた。

 やがて風が止み、視界が晴れていく。そこにはえぐれた大地のみが残っていた。いくら探してもアンリマユの姿は見当たらない────と思ったその時、

 

「────ぁぁぁああああぁぁぁあああああ!!?」

 

 轟音と共に巨大な土埃を上げて、巻き上げられたアンリマユが落下してくる。

 大の字になって倒れていたが、次の瞬間勢いよく起き上がり、文句をあげる。

 

「おいこら(あっぶ)ねぇよ! 死ぬっつぅの!」

「殺す気でやってんだから当たり前だろうがバカ野郎」

 

 吠えるような剣幕で怒鳴るアンリマユと、さも当然のことのようにさらりと答えるベルゼビュート。

 それを呆然と見る立香達。先程までの剣呑な空気から一気に親しげになっているのを見て、どうすればいいのかわからず佇む。

 

「えーっと……」

 

 視線をさ迷わせる立香に、苦笑したアガリアレプトが助け舟を出す。

 

「ほれほれお二方、主役が困ってますぜ」

「──んァ? おっと、すまねぇな。怪我ないか?」

 

 アガリアレプトにたしなめられたことで立香に振り返り、怪我がないか確認しながら立香の体についていた埃を払っていくベルゼビュート。

 無事なことを確認すると、快活な笑みを浮かべて立香の肩を叩く。

 

「よしよし! 無事ならいいんだぜ。未来ある若者にゃァ怪我は大事だからな!」

「は、はぁ……」

 

 笑って親しげに接してくるベルゼビュート。それに立香はどう返していいのかわからず、気の抜けた返事をする。

 ひときしり笑ったあと、振り返ってアンリマユの元まで歩み、その首根っこを掴んで立香のそばに放り投げる。

 

「邪魔やボケ」

「うべっ、扱い雑ーい」

 

 エセ関西弁のような罵倒がアンリマユにかかり、短い抗議の声をあげる。

 そのまま槍を地面に突き刺すと、テコの原理で軽々と槍を持ち上げる。それと共に硬い土の塊が浮き上がり、重い音を響かせる。

 

「よいせっと……さて、何から話すかね?」

 

 浮き上げた塊に腰掛けて顎を押さえながら、明後日の方向を見ながら何事かを考えはじめる。

 そんなベルゼビュートに、立香はかねてから思っていたことを問う。

 

「じゃあ……なんで僕らと戦おうとするの?」

「んー……」

 

 少し困ったような表情をして首を捻るベルゼビュート。それから顎を乗せていた手を膝上に置き直して立香を見つめる。その眼には真摯に答えようという気概が表れていた。

 

「まずオレ達七大罪も一枚岩じゃァねぇんだわ」

 

 そんな切り出しで語り始めていく。それを立香は黙って聞こうとした出鼻に、

 

「っとと、まずはテメェの信頼できるやつらと話せるように────こんなもんか」

『うおっ!? いきなり通信を入れるなんてどうしたのさ?』

 

 ベルゼビュートが宙に指先で何かしらを描いた途端、突然に繋がった通信回線機(デバイス)からダヴィンチの驚く声が鳴る。

 それに立香は驚くが、ベルゼビュートはすぐさま顔をしかめた。

 

「……そうと来やがったか……」

 

 そう呟くと、またしても何かを描く。すると立香には半透明の結界のよえなものが、自身とベルゼビュートを包み込む。

 結界の向こう側の全員は微動だにしておらず、またデバイスも繋がらなくなっていた。

 

「一体……」

「流石にアレはダメだったな…今はテメェにだけ話すことがある」

 

 真剣な顔で立香に話すベルゼビュート。その真剣さに唾を飲み込み、思わずその場で身構える。

 

「今回の件、主導してるのはオレ達七大罪じゃァねぇ。表向きはオレ達になってるけど、な」

 

 少し瞑目して間を空ける。そして、ついにといった風に宣言する。

 

「今回のテメェらへの襲撃、そして、漂白された(・・・・・)世界を塗り潰す(・・・・・・・)ために人界へと侵攻せんとしているやつがいる」

「それは………?」

 

 深呼吸。その口から黒幕の名が告げられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そいつは『虚飾』の悪魔。堕天し、地の果てに封印された裏切り者。名を────────

『アザゼル』と言う」

 

 

 





リアル事情忙しくてすっかり手付かずでした……。
ついに黒幕の真名バレでございます。勘のいい人ならわかっていたのでは?

さて、ここからどう展開して……いけばいいんでしょうか……(汗
あとついでに非ログインの方も評価できるようにしておきますね!
今後もどうぞよしなに!


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4-9 暴露、明かされる真実


ぐぬぬぬ……書けるうちに書いておかねば……



「名を、『アザゼル』と言う」

「アザ、ゼル……って、誰?」

 

 立香の気の抜けた聞き返しに、ベルゼビュートはズルッと座ったままよろける。

 真面目な空気を返せと言わんばかりに大きなため息を吐きながら首を振る。気を取り直したかのように向き直って改めて口を開く。

 

「まぁ……知らねェだろうとは思ってたけどよ。とりあえず最初っから説明してくぞ?」

 

 一呼吸ついてからまた話し始めていく。

 

「長くなるが……まず、前提的な話として、奴の権能の話だ。奴の権能は『虚飾』、つまり他者を騙すことに特化してる」

 

 そう言いながらベルゼビュートが宙にまたしても何かを描く。すると今度は、不思議な仮面をつけた男の姿が浮かびあがってくる。

 

「こいつがアザゼルだ。見た目はキテレツだが中身はもっとヤベェ。こいつは他人に化けることができる上に、対象にそいつの記憶にある別の場所を違和感なく拡げることができる。そこの人ごとな」

「記憶にある別の場所………、……まさか」

 

 ベルゼビュートが告げたアザゼルの権能の効力から、立香はある一つの結論を見つける。

 だがそれは、本当にそうなのだとすれば、今まで自分は、自分たちは一体どこにいたのかという話になってしまうというようなものだった。

 

「そうだ坊主。テメェのいた"カルデア"はそこであって"そこ"じゃねぇ。よく思い出せ、テメェが居た場所はどこだ」

「僕の居た場所(カルデア)は………そうだ、僕がいたのは彷徨海にある『ノウム(・・・)・カルデア』…。でもあそこは、僕達の始まりの『フィニス(・・・・)・カルデア』だった!」

 

 立香の驚愕を含んだ理解に、ベルゼビュートは頷き返す。

 今の今までずっと"自分たちのカルデア"だと思っていた場所がまやかしであったことに、立香は愕然となる。

 そしてそれが意味すること、それ即ち────、

 

「そうだ。そして今、テメェは現在進行形でヤツに騙されてるってことになる。だからオレはこの話を聴かせなかったのさ」

 

 不敵な笑みを浮かべながら、この結界を張った理由を告げるベルゼビュート。

 しかし、立香の頭の中では困惑と疑問で一杯になっていた。

 

「で、でもサーヴァントの皆とはちゃんとパスが繋がってたし……」

サーヴァントは(・・・・・・・)本物だろうさ。けどな、あの場合はまるっきり偽物だ、そしてテメェはまだ惑わされている」

 

 立香を指差した後、おもむろに懐からコルクの蓋がされた小さなガラスのビンを取り出すと、その蓋を空ける。そこから一匹の小さな濃い紫の蝶が現れる。更に二匹に別れ、そのうち片方はどこかへと飛んでいき、片方は留まっていた。

 

「今中立を保ってるやつらに連絡した。ほんとならオレが全部話しちまいてぇんだが、生憎と時間が無ぇ」

 

 そして、ひらひらと自身の周囲を舞う残った一匹の蝶を指差す。

 

「だから、これを追って『中立派』のやつらのとこにいけ。そうすりゃオレが言えなかったことがわかる。あとその幻惑も解いてくれらァ」

「………なんで、そこまでしてくれるの?」

 

 ベルゼビュートの優しさに、立香は思わずといった風に聞く。

 しばらく困ったような顔をしてから、うなり声を上げながら髪をガシガシとかきむしり、渋い顔をして答える。

 

「まぁ、なんつゥか………オレ達の勝手なエゴでテメェに迷惑かけてるからな。ほんとはオレ達でやらにゃならんのだが………それの義理みてェなもんだ」

 

 今度は自嘲するような笑みになって返答するベルゼビュートに、立香は言いつのろうとした言葉を飲み込む。

 ──あぁ、この人はほんとにいい人なんだ──そう感じた立香は、薄く微笑みを浮かべてしまう。悪魔なのに悪魔らしからぬその姿に、優しさを感じるその姿に。

 

「──ありがとう、ベルゼビュート。その蝶を追えばいいんだね」

「おう。あと、テメェンとこの探偵もつれてけ。ただしそっちの人間とさっきの女の声した男はやめとけ。ありゃダメだ」

 

 ダヴィンチを男だと初見で、しかも声だけで判断できたことに驚く立香だったが、一瞬の間に我に返って「わかった」と答えた。

 それに満足そうにしたベルゼビュートは、手を叩き、空気を変える。

 

「さて、んじゃまぁ外の奴らにも説明しないとな。とはいえ、話せるのは黒幕と次の目的地ぐらい、か」

「そうだね……下手に話すと危ないんでしょ?」

 

 立香の問いに黙って頷くベルゼビュート。

 お互いの反応を確かめた後に、ベルゼビュートは結界を戻していく。その最中に、ベルゼビュートから"この結界は外と中を切り離しているから、この中でどれだけ話してても一瞬にしかならない"と立香に言っていた。

 そうして結界が縮む中、ベルゼビュートは立香の目をしっかりとミツメテ忠告をする。

 

「いいか、例えなにがあろうと、自分を揺らがすンじゃァねぇぞ。アザゼルの野郎もだが、『憤怒(ラース)』も忘れるな。あいつらは────手強いぞ」

「忘れない、気を付けるよ。必ず」

 

 強く頷き、その忠言を胸に納める。

 やがて結界は解け、先程ベルゼビュートから受けたものからアザゼルについての話題のみを割いた話を皆にしていく。それを皆は黙って聞いていた。

 





現在彼らの姿絵も同時進行で描いてるので、描き上がり次第それぞれのステータスページに載せようと思っている次第です。
ガンバル。


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4-幕間-α 一方そのころ by異界神組


ちょっとした裏話程度に書いてみたものですはい。
今回は異界の神に仕えるサーヴァント+αで。


 

 不思議、不可思議、摩訶不思議。拙僧は今しがた役目を見届け、次なるインド異聞帯へと向かっていたはず。

 しかして如何なる異常か、違和感を感じてから目を開け申してみればこそ、この燃えゆる大地へと降りたっておりました。

 

「────ンンンン、これはまた……如何なる事でしょうか?」

 

 流石の拙僧でもこの事態は把握しかねます。時空の捻れならざるならばこそ、我が行く先の歪みにもあらず。はてさて如何したものか……────と、考えておりますれば、

 

「ンンンンン……おやおや奇遇ですねぇ」

「────む……この様な場所で会うとは」

 

 サーヴァント、ラスプーチン。拙僧の仲間(同僚)にして仲間(他人)。彼もこちらに来ているとはいよいよもって怪しき案件とお見受け致する。

 さらにしばらく待ちぼうけると、

 

「──うげげ、なんですかここ。タマモドン引きですわ~…」

 

 タマモヴィッチなる化生畜生めも来る始末。これはどうやら意図されて呼ばれているとみて相違ないと思われる。

 さてさて、辺りを改めて見渡してみれば、荒れ果てた大地に灼ヶと燃えゆる紅蓮。空は亡く、風もまた死したるものなれば。些か気味が悪く存じ上げる。

 

「はてさてここは──「ここはどうするべきなのでしょう、かい?」っ!?」

 

 唐突なる声に振り向きざまに跳び、距離を空ける。ふと見れば、いかでか近代市政の若者であるかのような服を着ている者が居た。

 なぜ斯様な地に斯様な者が──と思うまでもなく答はそこに現れる。

 

「うわぁ、なんなんですかそれ……礎体は人間と見れますけれど、流石の私もドン引き案件ですわ…」

「……成る程、"悪魔"か」

 

 現れるは、まともな者なればこそ吐き気を催す歪なる紫肉の塊。ふと塊に幾つかの亀裂が入るのを見ると、裂けて口となり、口腔覗き見ゆれば単眼輝く化物(ケモノ)であった。

 それは知る人が見れば、その元が『人』であることなぞすぐなわかろう代物であり、なおかつ元が『人』であることをほのめかすかのような醜悪なるもの。あぁ、なんと────

 

「──なんと醜きものなるか」

 

 流石の拙僧でもこれは度し難い。拙僧、人の悪性を宿し放つことはあろうにも、ここまで人を狂わせ、堕とし、かき混ぜたもの、此れはあまりにも美しく無い。

 

「えー?でもさでもさ?彼らは自業自得なんだぜ?」

 

 ニタニタと薄ら笑いを浮かべているこの男。しかし考えても見れば此奴は一体何者か。否、悪魔なのは判った。だが此の名は? 名が判らねば何ともすることはできぬ。

 

「だってこいつら────自分からこうなりに来たんだしさぁ」

 

 傍らの塊一体掴み、手のうちでもてあそぶ。自らの半身ほどもある大きさの塊を、まるで手玉のように遊ぶ姿に、かの畜生めもまた顔をしかめておる。

 

「それで……君は何者かな」

 

 黒鍵を抜き、その鋭き目で射抜くラスプーチンなれば琴峰殿。拙僧もまた陰形符(おんぎょうふ)を取り出し見定める。

 手玉を止めた男は、ニタリと嗤うと、

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだね、初めまして愚かなり魔の王を騙る者達よ。ボクは()八大枢要罪の『憂鬱(メランコリア)』、真名を『マステマ』と申し上げる。以後お見知りおきを、ね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マステマ。異邦の地の言葉にて『敵意』なる意味を持つ者。そして────

 

「──ほう、"神への忠誠心を問う者"だとは……そんな者がなぜここに?」

 

 琴峰殿の問う言葉に、マステマと名乗りし悪魔は笑みを持つ。それは笑うというよりも、嗤うという方が正しかろう。

 さて、『神への忠誠心を問う者』とは。皮肉にも我らに適する者が現れ至ったものだ。我らが異星の神はの忠誠を問うか否か、どうするのであろうか。

 

「よく知ってるねぇ神父サン。そ、ボクは神サマに忠誠が誓えるか見定めるもの。そしてなおかつあまねく者達に天国へと向かってほしいと願うものさ」

 

 演説を説くかのように両腕を広げ、靴音を響かせながらにて歩み回る怪物(悪魔)。それは自らのことをさも選定者であるかのような振る舞いであり、こちらの方が吐き気を催した。

 だが、その愉悦じみた顔は次の瞬間にて一変する。

 

「けど、救いようのない愚か者もまた存在する」

 

 そう言うや否や、マステマなる者は自身の周りにいる、半身ほどもある塊を呼んで捕まえる。

 愛でるように、遊ぶように、それでいて嘲笑うように目の前の塊をいじくりまわす。

 

「こいつらは『ウィボス』って言ってねぇ……自ら救われることを放棄した奴らの末路さ。バカだよねぇ?こんなにも醜くなっても堕落したいだなんてさぁ」

 

 そしてネットリとした、そしてハイライトのない目を拙僧らを見つめてくる────否、見定めてくる。

 それはまるで品定めのようで、否応なく強い忌避感に駆られた。それは他の方々も同じようで、琴峰殿は黒鍵を揃え、畜生めは既に尾を出して警戒し始めている。

 

「あらら、もっと話したかったんだけど……まぁ、いっか。それじゃあ君達が君達の神サマに忠誠が誓えてるかどうか……────」

 

 拙僧らに向き直り、両腕を広げ、羽のようにゆっくりとはばたからせると、無数の塊共がこれでもかと現れてくる。

 それらは拙僧らを鳥肌立たせるに相応しい、まさしく異形と言わざるを得ない光景でありました。

 

「さて……貴方は(Do you)神を信じますか(believe in god)?」

 

 彼奴がそう問うと共に、圧倒的な質量の暴力が、我ら三騎を襲いに来たる──────。

 





『マステマ』
→ヘブライ語で「敵意」を意味し、神への忠誠心を問うとされている悪魔。
本作では非常にねじくれた性格をしており、『リンボとマーリンとBBを等分して掛け合わた』性格をしている。はっきり言ってクズ。
当人は『全ての清らかなる魂を天の国へと送る』という傍目から見れば崇高な理念があるが、その実それに見合わない所謂『堕ちた者』は「ウィボス」と呼ばれる悪霊紛いに変化する。
アザゼルと仲が良いでお察し。


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4-幕間-β 『憂鬱』vs異界の神´s


前回→リンボ視点
今回→言峰視点




 はっきりと言おう、戦況は絶望的だと。こちらは『ウィボス』と呼ばれた元人間の醜悪な塊を幾度も撃破してきたのに反比例し、気づけばマステマと名乗った悪魔から遠く引き離されている。

 更には無尽蔵と言ってもいいほどに現れ続けるカタマリに、我々は押し込められていく始末であった。

 

「いい加減うっとおしいです────ねっ!!」

 

 押し込められていくにつれて、我々は三方を壁に囲まれた地へと追いやられていった。

 ここから出るには今来た道を引き返せねばならない。な、カタマリ共がその退路を阻み、当のマステマは上から覗きこむように嘲笑っていた。

 

「あははは、無駄無駄。そこはボクが喚んだ何百万もの人間(・・)達がいるんだもの」

 

 せせら笑う声。流す目でリンボを見てみれば、今にも苛立ちが振り切れそうになっている。

 無数のカタマリ共に追われ、我らは互いに背中合わせとなる。切れる息を整えつつ、状況を確認していく────。

 

 ──キャハ

 

 ────キャハハ

 

「────キャハハハハハ!」「キャハハハハハハハハ!!」「ヒャハハハハ!」「ヒャーハハハハハハハ!!」「キャヒャーハハハハハハハ!!」

 

「な、なんなんですか──ッ!!」

「ぐぅっ……不協和音極まりない…ッ!」

 

 唐突に脳を貫き犯すような嬌声を上げ始めるカタマリ共。気が狂ったかのようなその声は谷中に響き渡り、それが更に嬌声の強さを増していく。

 耳を押さえても聴こえる甲高い笑い声。老若男女様々な音程の騒音となって我々の脳をかきむしる。

 

「くっ、これは……っ、"精神汚染"か!」

 

 今の己の状態を瞬時に看破し、すぐさま黒鍵を取り出して周囲に投げつける。今までと同様、避けるのか避けないのかよくわからない緩やかな動きでその身を逸らすカタマリ共。

 無論、大半が当たり一撃で溶け消えていくが、所詮は焼け石に水。即座に新しいものが現れる。

 

「はぁーい、時間(じっかんっ)切れー」

 

 真上から彼の悪魔の声がする。上を見上げれば、我らの真上に彼の悪魔がニタリ笑いをしながら宙に立っていた。

 

「君達は神に対する忠が足りないようだ。そんな(ザマ)では足元掬われて全部おじゃん、やることなすこと全て無駄」

 

 先程までの慈愛と嘲笑に溢れた目から、ひどく冷えた冷徹な目をもって我らに語りかける。

 直感した、このままでは不味い────。即座にリンボとタマモヴィッチへと目配せを行う。

 

「さぁ憐れで愚かなる信者達よ、その無為で無価値な徒花を、私は最上の慈悲を持って尊ぼう────。

 

我らは地に伏し(ラ・キリエ・スティルム)()主は我らを従え給う(プリス・マジェスティーレ)』」

 

 

 悪魔(マステマ)の宝具と思われる極光が放たれる。その中で彼は灰色の羽を広げ、その威光はまさしく神の如き畏敬を持たざるを得なかった。

 マステマ。悪魔でありながら神への忠誠心と信仰心を問う者。そして────神に帰属する(・・・・・・)存在。それを遅まきながらに思い出す。つまり──────

 

「これは────"神聖宝具"、だと!?」

 

 神聖宝具。正式には分類されないものの、神にまつわる絶対的なまでの効力を持つ、神に許された者のみが扱える宝具。例を上げるならばジャンヌ・ダルクであろう。

 神聖的な光に満ち溢れ────と思えば世界が崩れていく。それはまるでガラスが割れるようで──、

 

「ぐぅ…っ!」

 

 リンボ殿が突貫工事で呼び出したアサシンの霊基を使った大霊を身代わりで出してくれたが、突然現れた巨大な腕によって一撃で沈められる。

 稼げた時間は一瞬。だが、それだけあれば充分だ。故に、私は聖句を唱える。

 

「────"私が殺す。私が生かす。私が傷付け私が癒す。我が手を逃れうる者は一人もいない。我が目の届かぬ者は一人もいない"

 

 黒鍵を構え、未だ翼を広げ続けるマステマへと駆ける。

 

"打ち砕かれよ。敗れた者、老いた者を私が招く。私に委ね、私に学び、私に従え"

 

 襲い来るカタマリ共を、黒鍵を投げることで退けていく。

 

"休息を。唄を忘れず、祈りを忘れず、私を忘れず。私は軽く、あらゆる重みを忘れさせる"

 

 またしても、漂白されたかのような真っ白で、それでいておぞましいほどの恐怖に満ち満ちた腕が襲いくる。

 その猛攻をかいくぐり、段々と近付いていく。

 

"装うなかれ。許しには報復を、信頼には裏切りを、希望には絶望を、光あるものには闇を、生あるものには暗い死を"

 

 近くにいたカタマリ共を足場に踏みつけ、宙に漂うマステマへと跳ぶ。

 

"休息は私の手に。貴方の罪に油を注ぎ印を記そう。永遠の命は、死の中でこそ与えられる"

 

 足場を使い、漂うマステマの正面へと躍り出る。その顔には────笑みがはりついていた。

 

"────許しはここに。受肉した私が誓う"

 

 その笑みに僅かな懐疑を抱きながらも、私は黒鍵を(マステマ)へと振る。

 

"────この魂に憐れみを(キリエ・エレイソン)"

 

 交差された黒鍵を以てマステマを切り裂く。その瞬間に周囲の割れた世界は消え去る。それと共に、無数にいたカタマリ共も苦悶の声に上げながら次々に消えていく。

 墜落するマステマを傍目に、私は落ちていく────。

 

 





イエース。
解る人はわかったであろう、ちょいとヘルシングから聖句調べて応用しました。
エレイソンに至ってはわざわざメモしましたw


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4-10 平穏、そして混沌

幕間は一回置いといて……



『うーん、成る程……、まぁ事情はわかったよ』

 

 ダヴィンチのうなる声が聞こえる。このダヴィンチが偽物だと思うと、立香は複雑な気分になる。

 そう思っていると、ベルゼビュートがコッソリ耳打ちしに来る。

 

(おう坊主、さっきは信用できねぇとは言ったが、この男女については多分本物だから気兼ねすんな)

(え?あ、そうなの?)

 

 困ったようにうなり続けるダヴィンチを他所に、立香は思わず安堵する。

 何しろ今まで頼りにしてきたダヴィンチが偽物だとしたら、恐らく立香は本格的に疑心暗鬼に陥っていただろう。

 

 ────とは言え、まだ確証はできねぇんだがな──。誰にとも言わず、ただ一人ベルゼビュートはダヴィンチを改めて考察する。

 イマイチ掴み所のない言動、はっきりするところははだきりしているが、性別などあやふやなものを残し続ける不可思議さ。そういった点で、ベルゼビュートはダヴィンチを観察していた。

 

『ま、とりあえずはそっちにシャドウ・ボーダーを送らせるよ。でも付いてったサーヴァント達は一回休みね』

 

 サーヴァント達から不満の声が上がる。

 無理もない。いざ大罪悪魔を討伐せんと赴いたはいいものの、当のベルゼビュート戦においてはアキレウスとアンリマユの独壇場。やったことと言えばバイクチェイスをしたぐらいだ。

 

「あー、横から失礼、っと」

 

 立香がダヴィンチに返答しようとすると、横からひょっこりとアガリアレプトが顔を出す。

「あやっべ忘れてた」と小声で気まずそうに呟くベルゼビュート。それに泣きそうな顔をしながらも、アガリアレプトは通信に割り込む。

 

「とりあえずそっちはお迎えさんだけでいいぜ。行きは(やっこ)さんから来るそうだ」

『その相手が信頼できる可能性は?』

 

 今度はダヴィンチではなくホームズが返答する。

 それに関して、アガリアレプトは前もって用意していたかのような返事をする。

 

「そんなに心配ならアンタさんが見に来りゃいいだろ?ってぇのはともかく信頼できる筋なのは違ぇねぇぜ」

 

 手をひらひらと振りながら、気だるそうに言うアガリアレプト。"これ以上は疲れるからご免だ"とども言いたげな態度に、ホームズは考えて込んでしまう。

 

『んーじゃあこっちは迎えだけでいいのかな?』

「そういうことだねぇ」

 

 ダヴィンチが代わり、アガリアレプトはのほほんと返す。

 

『それじゃあそこのサーヴァント達の迎えと、追加の護衛達とプラスしてホームズ君も連れていくってことでいいのかな?』

「うん、お願いします」

 

 話の内容を再確認する声に、立香は理解を示す返答をする。

『おっけー』という声と共に通信が切れ、立香は緊張の糸を解く。

 

「おいおい……オレが近くに居ンのに、そんな油断してていいのかよ?」

「?でも、もう戦うつもりはないんでしょ?」

 

 そんな気の抜けた立香の言葉に、ベルゼビュートは思わずと言った風に絶句する。

 そこに休んでいたアキレウスが歩み寄り、ベルゼビュートの肩に手をかけながら、同情を含んだ声をかける

 

「懸念はわかるんだけどよ…これがうちのマスターなんだわ…」

「……なんつゥか…心配になるな、これは……」

 

 肩と目線を落として大きなため息をこぼすベルゼビュート。その様子を、立香は理解できず首をかしげる。

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 ────やがてしばらく経ち、遠くから走行音が聞こえてくる。恐らくはダヴィンチらシャドウ・ボーダーの音だろう。

 ちなみにベルゼビュートは手元の蝶と戯れていた。

 

『おっまたせ~!迎えと、中々濃いメンツだけど代わりの護衛を連れてきたよー』

 

 停車したシャドウ・ボーダーからダヴィンチの声が鳴り、中からホームズを先頭として交代の面々が現れる。が────、

 

「ふふふ、恐らく次は情欲の悪魔だろうと踏んで参りました。もちろん、護衛はしっかりと務めさせて頂きますとも、えぇ」

「はっ、どうだかな。貴様のことだ、情欲に溺れきって護衛のことなぞ頭から抜けるのではないか?兎も角、俺が呼ばれたことには悪意を感じるぞ」

 

 異様にソワソワしているキアラと、不貞腐れて機嫌が悪そうにしているアンデルセン。

 

「いまいち私が呼ばれる理由がわかってないんですが……この女と一緒にするってことは同じ情欲のくくりで見られてます?」

「煩いわね、私だってこんな簡素で粉っぽいところに来たくなかったわよ。こんなところじゃ、私の"魔剣(ヒール)"も上手く滑らないもの」

 

 同じく機嫌悪く文句をいい続けるカーマと、さらに不機嫌そうにしているメルトリリス。

 そして──────、

 

「なぜ朕が呼ばれたのかは知らんが、完璧に人選ミスを感じるぞ」

 

 始皇帝が遠い目をしながら腕を組んでいた。

 その時、立香とベルゼビュートは同時に思ったことを口にする。

 

「「いやなんで?(だよ……)」」

 

 




キアラ、カーマ、メルトリリス、アンデルセンは確定でした。「あと一人だれがいっかなー」と考えて、「んー……始皇帝でいっか!面白そうだし!」とぶっこみました。
反省も後悔もしていない。むしろ面白そうだ!


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4-11 『暴食』と『嫉妬』


結構四苦八苦してます。
衝動で書いてる節があるので読みづらいかも知れませぬ……

感想とか評価とか、ほんとなんでもいいのよ?
|ω゜)チラッ


 まだ足元がおぼつかず、よろけかけているアキレウスに肩を貸しながら、シャドウ・ボーダーに最後に金時達が入っていく。

 そのシャドウ・ボーダーを、何の気なしに見つめていたベルゼビュート。そこへホームズが近寄っていく。

 

「失礼、Mr.ベルゼビュート」

「ん?おう、どうした」

 

 話しかけられたベルゼビュートは、大した気負いもしていないことを察して軽い返事をする。

 

「いやなに、君は大罪悪魔達の中でどれほどの強さなのかと思ってね」

「あー……あー、なるほどな。まぁさっきのは完璧オレのワガママ優先したからなァ……」

 

 頭をかきながら申し訳なさそうにする。ベルゼビュートとアンリマユの確執 (といえるまでのものではないが)の深さには幾分か呆気にとられたが、そこは二人の話だとホームズは切り捨てる。

 

「どのぐらい、とは言うが、実際オレ達はその時の状況や感情によって出力が段違いになってくンだよな」

「ふむ…続けて」

 

 ベルゼビュートが親切に教えてくれようとする姿勢に、少しばかり驚くも続けさせる。

 気づけば、近くで立香達も聞き耳を立てていた。

 

「でまぁ同じ状況でフェアな状態なら……、オレは上から二番目だな」

「えっ、そんなに強いの!?」

 

 立香の驚いたような台詞は、実際ホームズの中にもあった。

 上から二番目に強い、ということは即ち実質的なNo.2であるということだ。そんな彼がこんなところで、しかものんな早く遭遇するものなのかと、ホームズは疑問に思う。

 

「そんな実質No.2の君が、なぜこんなところに?」

「んー、そうだな……一つ目はそこの坊主────立香坊がどんだけの(モン)か見定めるため」

 

 指を一本立てて理由を言う。その理由はホームズも納得できるものであった。自分たちを討ち倒す者がどのようなものなのかを知りたいと思うのは至極当然のことだ。

 とは言えそれは、実のところ前のロンドン擬きで彼に邂逅しているので果たされているのでは?と内心思う。

 

「2つ目は連れてるヤツらがどれだけ強いのか試したかったのさ。それを知らねぇと、ある意味オレもどうしようもねぇからな」

 

 2つ目もわからなくはなかった。ただどうして困るのかは不明だったが。

 

「んで、3つ目だが………これは向こうに着いたときにわからァ」

 

 そう言ってベルゼビュートが振り返る。その視線に釣られて立香達もその方向を見ると────、

 

「!!ウソ……アレ、『リヴァイアサン』!?本物なの!?」

 

 メルトリリスが驚きの声を上げる。それも無理はない、向こうから波飛沫を上げながらやってくる巨大な姿。それは魚のようで蛇のようであった。

 その姿はまごうことなき『リヴァイアサン』だった。────心なしか速度が一気に増したようにも見えるが。

 

バールーッ!」

「んぅぇっ、この声はまさか……」

 

 段々と近付き、ついに立香達がその顔を目視できる距離まで来ると、竜の頭に乗ってる女性らしきものが勢いよく手を振り、大声で呼び掛ける。

 次いで竜の方を見ると────、なぜか憤怒の表情で迫っていた。

 

『誰よ!今"リヴァイアサン"って言ったの!』

「もう、落ち着きなさいよレヴィ」

 

 立香達の側まで来ると急停止し、噛みつく勢いで怒りを露にする竜。そしてそれを嗜める女性。

 心なしかベルゼビュートの顔が疲れたようになっている、

 

「お疲れ様、バル」

「まだ昔の名で呼ぶのはお前(オメェ)くらいだわな、『リリス』」

「「「「えっ!?」」」」

 

 ベルゼビュートが口にした名前に、その場にいた者達は驚き、女性を見る。見られた女性はキョトンとしていた。

 

「リリスと言えば、創世記で有名なアダムの──」

「あの能無しの話はしないで」

 

 ホームズの話を途中で、毅然とした空気をまといながら否定するリリスと呼ばれた女性。その眼からは徹底した嫌悪感がにじみでていた。

 だが、嘆息して顔を彼方へと向ける。その目は遠く、どこか別の場所を見ているようだった。

 

「あの能無しと私は解り合えなかったの。それは神様だって同じ、私は誰にも理解されなかったの。ただ、皆と同じようにしてほしかっただけなのに、ね……」

 

 物悲しそうな顔をするリリス。それはまるで遠い思い出を懐かしんでいるようで、もう叶わないものを見ているようでもあった。

 なんとも言えない空気が広がる中、リリスは手を軽く叩いて雰囲気を変える。

 

「さっ、こんな話は置いときましょ。改めまして、私は貴方達を迎えに来た者。七大罪の一角、『嫉妬(エンヴィー)』ことリリスよ」

『で、私がレヴィアタンね。間違ってもリヴァイアサンだなんて呼んだら海に沈めるわよ』

 

 竜が笑顔 (恐らくでしかないが)で凄むのに、立香らは黙って頷いた。下手なことを言うと不味い、とすぐに察してしまうほどの威圧感であった。

 

『じゃあ細かいことは行きながら説明するから、さっさと私の背に乗って頂戴?』

 

 そう言って背を向けるレヴィアタンに、立香はおっかなびっくりながらも乗っていく。

 まだ停車していたシャドウ・ボーダーでは、「海だ!海へ行かせろ!」と叫び暴れるキャプテンを、金時らが抑えていた。

 

「おう、何サラッと帰ろうとしてんだ。テメェも行くんだよ」

「げぅっ、もうちょっと優しくしてくんない?てかアレに乗るのオレ勘弁なんだけど……」

 

 こそこそとシャドウ・ボーダーに乗り込もうとするアンリマユを、その首根っこを掴んだベルゼビュートが引きずって連れてくる。

 文句を垂れるアンリマユに、レヴィアタンはいい笑顔で、

 

『あら、別に嫌ならいいのよ?乗らなくても。その代わり口の中に入れてくけれど。うっかり飲んじゃっても責任取らないわよ?』

「いえ、ダイジョブです……」

 

 観念したようにぐったりとするアンリマユを放り投げるベルゼビュート。

 レヴィアタンの頭に乗っていたリリスはベルゼビュートに振り返り、

 

「バルも、後でちゃんと来てよ?」

「おう、行けたら行くわ」

 

 そんな当たり障りのない返し文句を言ってから、リリスはレヴィアタンに行ってよしの合図をする。

 離れていくベルゼビュートに立香は振り返って声を上げる。

 

「ありがとう!また会おうね!」

 

 ただ黙って手を振り返すベルゼビュートは、一人ごちるように、

 

「悪魔に"また会おう"なんて言うんじゃねぇっての…」

 

 と、どこか寂しげながらも呆れているのであった。

 

 





更新ペース報告。
平日→2、3日に1話ぐらい、21時更新予定。
休日・祝日→なるべく1日1話を目指します…。22~23時更新予定。

で、よろしくお願いします。



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4-幕間-γ 余所者は帰ってネ☆

前回→言峰視点
今回→マステマ視点



 素晴らしい、ボクはほんとにそう思うよ。よくぞあの逆境から、よくぞあの不利な状態から、ボクを討ち取れるところまできたものだ。ここが劇場ならスタンディング・オベーションしていただろう。

 神父じみた格好の男が、黒鍵をもってボクに迫る。その口には聖句が語られ、まごうことなく信仰心の表れとボクにはわかる。あぁわかるとも。

 

「――――"この魂に憐れみを(キリエ・エレイソン)"」

 

 躰が切り裂かれる。素晴らしい、素晴らしい。やはりこうでなくては。信じるものこと救われるのだ。そうだ、その通りだとも。あぁ、だから――――、

 

「――『信じる者こそ救われる(アライブ リベレイション)』」

「何っ」

 

 聞こえるよ、聴こえているよ。君の、君たちの驚く声が。やはり面白い、君たちのその信仰は面白い。

 けれども残念、今度こそ本当に――――時間切れだ。

 

「ぐぉっ!?」

「な、なんですかっ!?」

「なんだ、これは……っ!」

 

 何かに吸い込まれるように、彼らの姿が歪んでいく。必死に耐えているけれど、無駄な足掻きというやつだろう。

 あぁ残念だ。こういうことがあるから憂鬱(・・)になってしまう。全くもって本当に――――――面倒だ。

 

「ごめんねぇ……もう少し遊んであげたかったけど、こっちもこっちで計画進めてるんだよね」

「計画……ですと……ッ!?」

 

 歯を食い縛りながら耐える道化師みたいな格好の男。うーんなんだろう、きっと彼は『虚飾(アザゼル)』君と気が合う気がする。

 まぁいいや、もう終わることだし。それに計画を知られたところでもう彼らは"彼"の術中で、どうすることもできやしない。

 

「そうだよぅ? ――――存在する空想樹全てを"厄災の大樹(クリフォト)"に塗り替えるっていう計画がね」

「「「!?」」」

 

 どんどん次元の修正点に吸い込まれていく。どうせなら冥土の土産的な感じで教えてあげよう。どうせなにもできやしないし、戻ったら忘れてるだろうしね。

 

「空想樹を"厄災の大樹"に塗り替えることで、あらゆる時空の世界を書き換え、統一し、そこに住む全人類を排して新たな"楽園"を創る。そうすることによって"人類を救済する"のさ」

 

 そう、これこそが『憤怒(ラース)』が主体となり、『虚飾』が裏から場を整え、そして『憂鬱(ボク)』が余所者を排除する布陣を作った理由。

『憤怒』が望む世界、彼が行う一大救済活動――――――、

 

「そう、これこそがボクらが今行ってる計画、その名も『人理帰葬』さ」

「人理、帰葬………だと!?」

 

 そう、その顔さ! そのおぞましいような、信じられないものを見るかのようなその活動がボクは大好きなんだよ。

 でも、絶望しなくていいのさ。何せ君たちが今知ったことは、どうせすぐにでも忘れてしまうのだから。

 

「さて、じゃあ異分子達はここでお別れだ。さぁ! 君たちの道行きに幸在らんことを!」

「ま、待て…ッ、貴様…ッ、――――――マステマァァァァッ!!!」

 

 道化師の咆哮が響き渡るも、彼らは無情にも元の世界線へと引き戻されていく。

 やれやれ、『色欲』達が設定した排除設定のせいで、楽しみがなくなってしまったよ。

 

「んー……そろそろかな?」

 

 背伸びストレッチをしながらどこか遠く、『色欲』達が住まう館があるであろう方へと振り替える。そちらには、彼の『カルデア』なる者達が向かっているはず。いや、もう既に着いた頃だろうか? まぁ、自分には関係ないのだが。

 

「さてさて……ここがなくなったら、あっちにでも行ってみようかねぇ?」

 

 ボクは新たな愉しみを想いはせながら、心のままにランラン気分で帰り道につく。

 と、思っていたけれど、

 

「ややや、珍しいね『憤怒(ラース)』。様子見にきたのかい?」

「…………遊びすぎだ、たわけ」

 

 少し離れたところで、腕を組みながら厳つい顔で佇む『憤怒』がいた。珍しいこともあったものだ。まさか彼直々にこっちを見に来るとはね。

 ふと、ひょっこりとその後ろから『虚飾』も顔を出してくる。これには流石のボクも驚いた。

 

「やっほー、計画が順調に進んできたから、次にいこっかなーって」

「あぁ成る程、もうそこまできたんだねぇ」

 

 ようやくボクの仕事が終わるみたい。はぁ全く、愉しみも物語も途中でお預けだなんて、今日は散々だよ。

 そうしてボクらは、本当のこの世界(・・・・・・・)へと戻る。彼らがみていたものは、そういう想像の中での"煉獄"で、そして彼らは最後までこれに気付かなかった。

 

「ふふふ、この盗ってきた"空想樹"も、あの"魔神柱"も、そしてこの"厄災の枝木"も、だいぶいい具合だねぇ」

 

 そうしてボクらの眼前に広がる世界には――――黒く変色し、より樹木のように生々しくそびえ立つ"空想樹モドキ"があった。

 これからやってくる物語に、ボクは本当にワクワクが隠せないよ。ただ残念なのは――――最後まで見切れないっていうことかなぁ……。

 

 

 

 





重大案件の発覚。
・この世界には『空想樹』があり、しかも『黒く変色している』。
・『色欲』と何か通じていた……?
・彼らが目指す『人理帰葬』とは一体!?


改めて一言。
ヤベェコイツら。


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4-幕外 『暴食』の追憶

Q,挿絵は?
A,時間の合間ぬって必死こいて描いてます。間に合うかは知らぬ。

Q,話飛びすぎでは?
A,まだ前座ですし、おすし。

Q,ラップ回まだー?
A,ラップ難しいんです許してつかぁさい……。下手したら完結後かもです……。




 影は遠く離れ、あの賑やかな坊主(マスター)共は遥か彼方へと消えていった。その仲間達の乗っていたデカイのも、元来る道へと帰っていった。

 

「しっかしまぁ……アイツもメチャクチャするもんだわ……」

 

 こんな事態を起こしたあのクソ道化(ピエロ)を思い出す。他人を嘲笑うかのように笑うアイツは、どうにもこうにも毛嫌いしていた。

 それに対してあの坊主は、本当に、小気味がいいぐらいに純粋で気持ちのいいやつだった。将来仕えるマスターがいるなら、あいつでもいいかもしれないと思うほどに。

 

「……スゥー…………ふぅ…」

 

 懐からタバコを取り出し、一服する。今改めて思うと、あいつほど気分のいいやつは、昔以来かもしれない。そう感じたオレは何の気なしに昔を思い出していた──────────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠い昔、オレは神の一柱──それも豊穣神として崇められていた。とは言え、崇めるっつっても、オレは普通に下界に降りてよく手伝いとかしてたし、今みたいに粗野な口調でもなかった。

 そこのやつらは本当に気のいいやつらで、オレが何か手伝う度に、

 

「あ、ありがとうごさいます!"バアル"様!」「"バアル"様これなんて如何でしょう!」「"バアル"様働きすぎです!あとは我らにお任せ下さい」

 

 ……あー、まぁお察しかも知れねぇが、オレのの名が『バアル』なんだわ。たまーに、ほんとたまーに"魔神柱"とかいうのと間違われるが全くの別物だということを知ってほしい。

 というか、オレが何かしようとする度に止めてくるのはやめてほしい。オレだって手伝いてェんだが……。

 

「バアル様!こんなに一杯獲れましたよ!」「バアルさまバアルさま!見て見て!これきれいでしょー!」

 

「うんうんそうだね、ありがとう。(みな)大切にしなさい」

 

 あ?言葉使いが違う?そりゃそうだ、何せ今と昔じゃ180゜違いすぎるしな。

 とまぁそんなこんなで平和で暢気で、それでいて微笑ましい日々を過ごしていたんだわ。

 

 

 

 ────けど、その日は違った。

 

「見よ!この者共は異教徒である!」

「異教徒は殺し、排するべきなのだ!」

「奴らを殺せ!」

 

 虐殺にも程があった。何のいわれもない罪のない子供達ですら、年老いて抗うことさえできぬ老人達にすら容赦なく剣を振り上げ、斬り裂いていく。

 ────やめろ、やめてくれ。もうそれ以上命を奪わないでくれ。何度願い、幾度となく手を伸ばして助けようとした。けれど、伸ばした腕はすれ違いに迸る血潮を浴び、救おうとした命は目の前で消えていく。

 

「あれなるは悪神。否、異教徒共の崇める悪魔なり!」

「悪魔を討て!悪を伐て!」

 

 なぜだ、私が何をした。ただ、人々の平穏を願っただけなのに。もはやすでに問答は意味を成さず、愛した人々は奪われ、蔑まれて殺され、手元に残るはその者達の血潮のみ。

 私は怒り狂った。なぜ手を取り合わない。無情なまでに続く、血で血を洗う醜いケダモノ達のぶつかり合い。私は体に深い傷を負いながらも、次々に敵を屠っていく。

 

 

 

 

 

 

「──もう、いいんです……。貴方だけでも…、いきて、ください……我らの優しい、神…さま………」

 

 最後に生き残った巫女だった者が死に、周りに残るは屍のみ。敵ははらわたから引き裂かれ、食い破られたかのような姿であった。

 そこは、私がかつて愛した豊穣と笑顔の地ではなく、殺伐とした死と荒れ果てた大地と、悪魔が独り佇む世界。嘆く声も、もはや誰にも聴かれることはなく、虚空に空しく響くのみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────それからしばらくして、おれは神の座を即座に放棄し、この"煉獄"へと堕ちてきた。もはや地上にオレの知る地はなく、オレの愛した人々はいない、と。

 殺意と悪意に満ちていたが、この程度はもう慣れた。だが、まだ昔のオレの善さが抜けきっていなかったらしい。

 

「アニキ、一生ついていきやす!」「自分もっス!」「この恩は、必ず返すんです!」

 

 ある堕天して悪魔になっていたやつを、何の気の迷いか助けたことにより、次々と舎弟になるやつが増えていき、気づけばこの煉獄の三大勢力として数えられるほどのデカさになった。

 けど、これも悪くねぇとは思ってる。おれ達は今まで以上に自由で、そして──────オレ自身も楽しいんだよ。

 

「アニキ!こんなのやってみたっス!」

「へぇ、やるじゃねェか。いいデザインだ、やっぱりお前の腕は本物だな」

 

 毎日仲間達とバカやって、笑いやって、時には悪ふざけして。そんな能天気な毎日が、今はとても楽しい。

 もう、かつて抱いていた吐き戻しそうで満たされない餓えはない。だがそれでも、おれの背に乗った罪は未だ多い。だからこそ"私"は"オレ"として生きていく。

 

 ────これは懐古であり、訣別。オレの全てはアイツらに託した。アイツらならきっと、悪魔でさえも受け入れる。あとはオレ達の度胸次第────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────昔のことでも思い出してました?」

「……あァ、坊主(立香)をみてたら思い出しちまったよ」

 

 いつの間にか隣に来て、共にタバコを吸うアガリアレプト。思えばこいつとも長い付き合いだった。

 元々は精霊であった六人の変生悪魔達。オレと『傲慢』と、あともう一人の問題児の三人で面倒を見てやった息子のような奴ら。そこまで思い返してふと思う。

 

「……お前、アイツらと一緒に行ったんじゃねェのか?」

「ギクッ………いやぁ、自分にはなんのことだか……」

 

 やれやれ、仕方のねぇやつだ。思わず失笑してしまうほどのものだったが、やっぱりこいつはこいつのままでいいと思い、また遠くをみる。

 オレは悪魔だ、それは変わりようがねぇ。けど、もしあいつらがオレでも受け入れてくれるのなら、いつか────、

 

「────いつか、勒を並べて笑いてぇなァ……」

 

 おれの自嘲じみたこの台詞は、あの時と同じように虚空へと消えていく。

 あの時は『空虚』だったこの感覚。けれど今度は、いつか叶う、叶ってほしい『願い』であると、黒い空に幻視する人々の笑顔が告げていた────。

 




設定上大罪悪魔の中ではかなり悲痛な運命を辿ってきたやつの一人。
他?察しのいい人なら自ずとわかる、かも?


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4-States 〈ランサー〉

実はベルゼビュートが一番初めにうちが考えたオリジナルサーヴァントだったりする。



CLASS適正:Lanser/Rider/Avenger

 

真名:ベルゼビュート

マスター:―

性別:男性

身長/体重:172,0cm/54,6kg

属性:混沌/悪

 

 

筋力:B+~A

耐久:B

敏捷:A+~A++

魔力:D-~B

幸運:D-~C

宝具:B+~EX

(最大値はアヴェンジャークラス時)

 

〈クラス別スキル〉

 

・対魔力:C+~A

→魔術に対する抵抗力。最低値に『C+』とあるが、これは悪魔からすればという意味合いであり、一般的な英霊に換算すると『B++』あたりである。更には催眠、精神操作及び精神汚染を含める精神的な攻撃を防ぐことができる。

 

・騎乗:C~A+

→「乗り物」という概念に対して発揮されるスキル。ただし残念なことに、生物に関してはベルゼビュートの放つ威圧感で逃げてしまうため、余程度胸の据わったものでなくては乗れない。そして大抵そういうのは強者である。

 

・大罪魔王:A~A++

→悪魔達の王に与えられる神性の変異スキル。あらゆる"異常"に対してどのスキルよりもとても高い耐性を与える。実はこのスキルの中に「単独行動」が含まれているため、ランサーなのにアーチャーと同じことができる。

 

 

 

〈固有スキル〉

 

・カリスマ:A

→軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。煉獄において三大勢力に数えられるベルゼビュートの軍勢。無法者の集まりに見えてキッチリとした規律があるのは一重にベルゼビュートのカリスマ性あってのこと。

いわゆる、「河川敷で腹割ってケンカしたならもう友達」理論。

 

・豊穣の波動:A++→〈反転〉餓枯の呪い:B+

→ベルゼビュートの伝承に由来したスキル。豊穣神であった頃は、その場にいるだけであらゆる作物が育つ実りの波動を放つものであった。

しかし、それが悪魔となったことにより反転し、真逆の性質を持つようになった。寒気のする波動を放ち、敵対者の消費魔力を通常の倍にさせる。加えて敵が「バーサーカー」クラスだと問答無用で制御不可能な暴走を引き起こさせる。

 

・大罪『暴食』:A-~EX

→ベルゼビュートの『七大罪』の悪魔としての権能。その能力は、放出系であれば有形無形、物理魔も術も問わず吸収できるというもの。吸収したものは自身の魔力として蓄積し、時には自らのケガを治すこともできる。

アヴェンジャークラス時になるとEXランクへと変貌し、生物非生物問わずあらゆるものを食らい尽くす。それらは全てベルゼビュートの糧となる。

 

 

〈宝具〉

 

・『暴風の大公』

ランク:B+ 種別:対人宝具

→バアル・ゼブル。"気高き主"とも訳されるベルゼビュートの第一宝具。どこからともなく風を呼び出し、自らにまとわせる。それは自身を中心とした擬似的な竜巻となっている。

攻防両立でき、防御に転じれば遠距離攻撃を無効化し、近付くだけでも、吹き飛ばされる。逆に攻撃に転じれば風を銃弾や斬撃として飛ばすことができる。隠蔽性はないが、『風王結界』の完全上位互換である。

 

・『荒れ狂う暴風の魔槍』

ランク:B+ 種別:対城宝具 レンジ:1~500 最大捕捉:2,000人

→タイラント。"暴君"の名を冠するベルゼビュートの愛槍。形状は三叉槍で、一見折れやすそうに見えるが、真のエクスカリバー以上の強度を誇る。

とはいうが、とにかく非常に硬く重いのがこの槍の特徴。並みのサーヴァント(筋力A以下)であれば持ち上げることすら敵わない。筋力が一定以上あっても振り回すのはほぼ不可能。それをベルゼビュートが振り回せているのはこの槍に認められたからこそである。

普通に槍としてもかなり強力な代物だが、その真髄は「投擲」にある。これを投げることで如何に強固な城塞であっても粉砕し、あらゆる守りを穿つ暴力の塊と化す。

 

・『権能解放「呑み喰らう暴食」』

ランク:EX 種別:対国宝具 レンジ:~2,000 最大捕捉:10万人

→リミッターオフ・"グレイヴ グラトニー"。アヴェンジャークラス時のみ使用可能となる、『大罪魔王』としてのベルゼビュートの最大宝具。

自身を中心として擬似的なブラックホールを創り出す。一度発動されると、ベルゼビュートの知覚範囲内(本人曰く、最大約20km前後)にいる全てのものが消滅・吸収されていく。擬似的とは言えほぼブラックホールのようなものなので、たとえ遠く離れていても少しでも捕らえられると抜け出すことは不可能。

この宝具は敵と判断したものが消え去るか、自身が消えるかのどちらかとなるまで決して止まることはない。ちなみに彼のマスターとなった者でもベルゼビュートに密着していないと真っ先に取り込まれることとなる。

 

 




『暴食』さんに聞く!Q&A

Q,ベルゼビュートってどれだけ強いの?
A,んァー、そうだなァ……。正直な話、この霊基でも『獣』に成った「魔導書野郎」には負けねぇな。「原初の母」ァ?アヴェンジャーの時なら負けはしねェけど勝ちもねェな。「情欲コンビ」?そもオレに色仕掛けは効かねぇみてェだぞ?


Q,貴方もよく食べるのですか?
A,オメェと一緒にすんなコラ。一般的な定食ぐれェで満足だわ。


Q,てめぇの槍は独学なのか?
A,おうそうだぜ。剣とか弓とか色んな物持ってみたんだが、やっぱコイツが一番しっくりくるンだわ。……だからって「早く闘ろう」って顔してんじゃねぇぞケルト戦士。


Q,みこーん!ズバリ恋愛経験は!?
A,あるわけねェだろ、お帰り下さりやがれ。


―完―







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4-States(幕間) 〈アルターエゴ〉


需要あるか知らんけど、幕間のアイツのステータスだお。



適正CLASS:Alterego/Caster/Avenger

 

 

真名:マステマ

マスター:―

性別:男

身長/体重:172,5cm/56,2kg

属性:秩序/善→混沌/善

 

 

筋力:C

耐久:A

敏捷:B

魔力:B+~A+

幸運:C~A(接触する対象に依存)

宝具:A

 

 

〈クラス別スキル〉

 

・陣地作成:C

→魔術師として自身に有利な陣地「工房」が作成可能となる。ランクが低いのは当人があっちこっちと一所に留まらないため、基本的にはすぐつくれてすぐなくせるものとなっている。

 

・道具作成:C

→魔力を帯びた器具が作成可能となるスキル。専らその変の石や草を貴金属や金銭に変えている(しばらくすると元に戻る)ため、そこまで高ランクではない。

 

・単独行動:B

→マスターとの繋がりや魔力供給源の不在による「世界からの強制力」を緩和させるスキル。マステマはこれの超画期的節約術を発見したことにより、向こう5年は顕現し続けられるため、地味に『単独顕現』予備軍となっている。

 

・神性:D-

→その体に神霊・神性属性の有無を判断するスキル。マステマは悪魔でありながら「神に帰属する者」であるため、ランクは低いが神性を宿している。

宝具を発動すると、発動中に限りAランクにまで底上げされる。

 

 

〈固有スキル〉

 

・善意故の悪意:B+

→マステマ自身を体現したかのようなスキル。自身が"深く関わった"と判断した者に対して『堕落』の効果を付与する。『対魔力』がB以上ない者はこのスキルによって依存・無気力化していき、終には『嗤う人魔(ウィボス)』と呼ばれる人の肉塊で出来た醜悪な存在となる。それは某深淵の神々を彷彿とさせる、SAN値チェックです。

 

・冤罪『憂鬱』:A

→マステマの元大罪悪魔としての権能。「元」とあるように、今は大罪悪魔ではないものの、権能が変質したことにより『大罪』から『冤罪』へと変わった。

元々の能力は「"依存"と"減衰"」、いわゆる『病み』である。あまねく者達に対して無差別に発動し、その精神を破壊する。ただし効く者と効かない者の差が激しく、サーヴァントには滅多に効きにくい。また、同じ悪魔や高い神性持ちなど特殊な者にも効きにくい。

しかしそれでも、その対象が望む「最も幸せなこと」が叶っていると必中で堕とす。

 

 

〈宝具〉

 

『我らは地に伏し、主は我らを従え給う』

ランク:A 種別:対界宝具 レンジ:1~100 最大捕捉:100人

→ラ・キリエ・スティルム・プリス・マジェスティーレ。

マステマの存在意義たる『聖者の選定』を具象宝具化したもの。神の後光のような極光を放ち、自らの背に三対六翼の灰色の翼を顕現させる。行動としてはそれだけだが、その効果は、『自身の周囲にいるウィボスの強化と増殖』、そして『禍ッ神の腕を召喚する』というもの。これらは完成された心清いものでなければ突破することはできず、大半の者は発狂し、身を守ることすら許されぬ神を模したモノの腕に握り潰されることとなる。

 

・『信じる者こそ救われる』

→アライブ リベレイション。前述の宝具に付属して発動される宝具。正確には宝具ではなく、『宝具に付属する効果』のうちの一つ。宝具発動中、聖者以外に殺された際に自らの"死"を無効化する。

 

・『権能解放『憂鬱な鼻唄』』

ランク:EX 種別:対国家宝具 レンジ:不明 最大捕捉:不明

→リミッターオフ・"メランコリア ブギウギ"。マステマの大罪悪魔としての権能を解放した宝具。

残念ながら今では使用することはできず、本人も語る気がないのかのらりくらりと流すため、詳細は一切不明。

 

 

 




主「ステータスきっつ…」

立&マシュ「なんだ(なんですか)これ……(絶句」

マス「あはは、びっくりだよねぇ」

立「主さんのサーヴァント強すぎません…?」

主「え?これでもまだ『神殺しの少女兵器』とか『某深淵を覗いた作家』出してないだけマシよ?」

立&マシュ「「え゛っ゛?」」

『憤怒』&『傲慢』「…………」


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第五章 『嫉妬』に狂い、『色欲』に溺れ
5-1 向かうは淫らな館〈前〉



『嫉妬』&『色欲』編

そしてほんへ。



 不気味なまでな静けさと赤々と燃える大地の上を、波を裂くような音と海を走るかのような軽快さで進むレヴィアタン。

 そのレヴィアタンの上で、視線を目的地があるであろう場所へと向け続けるリリス。表情を見せないリリスに、立香はその内に思ったことを問う。

 

「……なんで、手助けしてくれるの?」

「? ……あぁ、突然何言うのかと思ったら……」

 

 キョトンとした顔で振り返ってから、無知な相手を見るかのような呆れた笑みを浮かばせるリリス。

 その背にたなびく髪を払いながら、リリスは立香の問いに答える。

 

「別に、手助けしてるわけじゃないわ。ただ、気に入らない相手がいるっていうだけよ」

「気に入らない相手……」

 

 反芻する立香。後ろではまだアンデルセンが文句を言っていたり、カーマとキアラがにらみ合いをしていたりと騒がしいものであったが、考え込む立香には聞こえていなかった。

 そんな立香の横から始皇帝が口を出す。

 

「大方、元凶足り得る『虚飾』なる者であろ? 正直、朕も彼奴のやり口は気に食わん」

「あら、どうしてかしら?」

 

 リリスが悪戯っぽい微笑みを浮かべながら始皇帝に聞き返す。そんなリリスに、始皇帝は真剣な顔で、しかし少し悩むようにして自身の考えを述べていく。

 

「うむ……実のところ、些かトントン拍子に進みすぎではないかと思うてな。どこか作為的なものを感じるのだ」

「そう、かな……?」

 

 立香は始皇帝に言われて、今までのことを振り替える。

 まず、ロンドンのような場所で『強欲』──マモンと『暴食』──ベルゼビュートと相対した。その後、マモンの手によってこの煉獄はと皆と一緒に連れてこられ、マモン率いる軍勢とぶつかり──────、

 

「そう、そこである。朕が思うに、"わざわざこの世界に引き込んで、そして即座に叩き潰す"などという手間は必要なのであろうか?朕が思うに、既にこの世界に引き込んでいる手前、後の事などどうとでもなろうに」

「…………つまり、僕らを引き込んだのは"別のマモン"?」

 

 立香がたどり着いた結論に、始皇帝は静かに頷く。もし、そうだとするならば、あの時自分達を呼んだマモンは、その後に軍勢を引き連れてきたマモンと別人であり、別の存在であるということ。

 全くもって別の別、それが意味することそれすなわち────

 

「引き込んだマモンは『虚飾』だった……?」

「あら、自力で正解に辿り着くなんて、なかなか見込みのあるボウヤね」

 

 微笑みを携えるリリスの答え合わせに、立香は驚きのあまり固まる。

 じゃああの時、ロンドンで偽物の聖杯を渡してきたマモンは? そしてどうやってカルデア内に入ってきたんだ? そんな疑問が立香の中で渦巻いていく。

 

「落ち着きなさいバカ」

 

 頭が叩かれる。振り返ると、メルトリリスが呆れた顔をしている。実際には袖ではたかれただけだが、立香の気を紛らわすのには充分だった。

 

「今考えても仕方ないでしょう? そもそも、その答えを聞くために乗せてもらってるもの、ね?」

「ええそうよ? というより、こんなとこでうだうだ悩んでいたら、レヴィアタンが怒っちゃうわよ?」

 

 リリスの、立香への茶化すような発言に、レヴィアタンがこっそり『そんなことで怒らないわよ……』と呟くのが聞こえる。

 気の抜けた顔をする立香だったが、ふと我に帰り、自分の頬を叩いて喝を入れる。その様子を遠い目で眺めるリリスに、気付く者は"親友"以外にはいなかった。

 

『無駄話は終わった? もうそろそろ着くわよ』

 

 そのレヴィアタンの声に、立香らは前を向く。

 そこには、巨大な洋館のようなものが、堂々と、しかし怪しい雰囲気をかもし出しながら建っていた。

 あそこに『色欲』がいて、そして────この世界の真実が語られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〈??? 庭園〉

 

「もうそろそろかしら? おもてなしは大丈夫?」

「もうそろそろだな。何、抜かりないだろう」

 

 二人の男女が、庭園にあるテラスチェアに腰掛けながら語らう。そのそばには、幼くも年季の高さを示すかのような空気を放つ少女と、ぴっちりとした燕尾服を着て執事然としたメガネの青年が控えていた。

 

「さぁ、早くいらっしゃい。カルデア」

「さぁ、早く着たまえ。カルデア」

 

「「間もなくこの世界は真の姿を現すぞ(わ)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〈??? 魔王の円卓〉

 

「……行くぞ」

「「「「イエス、ボス!!」」」」

 

 整然と並ぶ、黒光りする機銃を持ったスーツの男達。その先頭に立つは、二丁の長銃をその手に持ち、激情を瞳の奥に燻らせる男。

 向かう先には黒白の六翼を持つ端正な青年と、白黒(モノクロ)の道化師のような仮面をつけた怪しげな青年。

 

「……"方舟"は問題ない」

「向こうは僕が行こうかい? "分身"もそろそろ引き上げないとだしね~♪」

 

 一言告げれば問題ないとばかりに口を閉ざす翼の男と、ケラケラ笑う仮面の男。

 そんな二人に対して、『ボス』と呼ばれた者は、静かに、冷徹に指示を下す。

 

「……『虚飾(ヴァニティ)』は奴らを襲え、部隊は貸す。『傲慢(プライド)』は俺と共に来い」

「へーい」「……あぁ」

 

 互いに了承し、二人は長銃を持つ男の隣に歩む。男の名は『憤怒』────真名を、『サタン』。

 神へ人への怒りをその身に纏い、終局の幕が開く。

 

 





『憤怒』の真名バレ。もうここまでくれば嫌でもわかるヤバいやつら。
ここからが本編です。さぁ、メチャクチャやっちゃいましょう(ニタァ)


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5-2 向かうは淫らな館〈後〉


どちゃくそ際どいです。
まぁ『色欲』とキアラがいる時点でお察しですけれど。

ってかいつの間にかUA6,000越えてるじゃぁないか!?しかももうすぐ7,000じゃないか!?
自己満足で書いてる分、ここまで読んで頂けるとうれいしな……(ホッコリ



 

『さ、着いたわよ。早く降りて頂戴』

 

 立香らを乗せたレヴィアタンは館の前で止まり、彼らをその背から降ろす。全員が降りると、レヴィアタンが伸びをするかのように体を反らす。すると、みるみるうちに小さくなり、リリスの頭一つ分ほどの大きさにまで縮まる。

 小さくなったレヴィアタンは、その背から黒いコウモリの羽のようなものを現し、羽ばたかせるように動かしてリリスの近くを飛ぶ。

 

「何驚いてるのよ。ほら、さっさと行くわよ。アタシもリズィも暇じゃないの」

「そういうこと。ほら、ついてらっしゃい」

 

 そう言って一人と一匹は立香らの先頭を歩む。彼女らに着いていくように、多少の警戒はしつつ皆館へと入っていく。

 ふと、立香はホームズが動かないことに気付いて、彼に声をかける。

 

「ホームズ?どうしたの?」

「あぁすまない、少し考え事を、ね。本来ならすぐに言うべきなのだろうが、何分確証がないのでね。今は言えない」

 

 いつものように言い残すと、立香を連れて館へと入っていく。この先に待ち受けるものに対して、不安と警戒心を持ちながら。

 館はただ静かに、彼らをその口腔へと受け入れるのみであった────。

 

 

 

 ・

 

 

 

 ・

 

 

 

 ・

 

 

 

 

「『色欲(ラスト)』様万歳!」

「「「「「『色欲』様万歳!!」」」」」

 

「『嫉妬(エンヴィ)』様ぁ……おれを、おれを愛してぇぇ……」

「愛がぁ……あぁ……あぁ……キモヂイイィ……」

 

「……魔窟、ですね……」

 

 あのカーマですらドン引くほどの混沌が、立香らの眼前に広がっていた。廊下には服を裂かれて半裸になっている男性や、恍惚な表情で倒れる女性、その果てには目が完全にイってしまっている者達がこれでもかと散乱している。

 さらに廊下のあちこちにある扉の隙間からは、女淫魔(サキュバス)らしき者が覗く姿や、時折聞こえる嬌声が響き渡っていた。

 

「あぁ……あぁ……!なんて淫らなのでしょう!私、昂ってしまいますわ」

「おいマスターよ、オレはやはりこの牛女を連れてきたのは間違いだと思うぞ。今すぐクーリングオフしろ」

 

 その様子に、身をよじらせて顔を赤らめるキアラと、吐き気がすると言わんばかりの真顔で、立香にキアラの返却を勧めるアンデルセン。

 当の立香はそれどころではなく、始皇帝によってその光景を見えず聞こえずにされているものの、感じる空気は抑えられず、常軌を逸したような周りの雰囲気を敏感に感じ取っていた。

 

「ムダ話してると拐われて食われるわよ。黙ってついてらっしゃい」

 

 そっけない態度なレヴィアタンと、時々女淫魔達からアイドルを見るかのような眼差しを受け、微笑みを浮かべて手を振るリリス。

 よくよく見れば、立香らが歩いている──というよりも、リリスが歩くであろう道の部分のみが新品のごとく綺麗にされており、もし立香らが走って先を見れば、淫魔達が死に物狂いで綺麗にしている場面を見たことだろう。

 

「ここよ。その先の庭園に『色欲(ラスト)』がいるわ」

 

 レヴィアタンとリリスの案内の元、立香らは大きな扉の前へと着く。始皇帝からの保護を解かれ、立香は前を見る。

 立香はその扉を、一種の覚悟をもって見つめていた。ふと、よくよく見ると、扉のそばに誰かいるのを見つける立香。その人物はこちらを見ると綺麗な歩き方で近寄ってくる。

 

「お早いお帰りでしたね、『嫉妬(エンヴィ)』様方」

「あら、『フルーレティ』じゃない。お迎えご苦労様」

 

 執事然としたその人物は丁寧なお辞儀をして、リリスの言葉に態度で返す。

 その様子を見ながらホームズが少し驚いたように口を開く。

 

「フルーレティ……なるほど、君は『赤竜一派』だね?」

「ご存知のようで何よりでございます。いかにも、(わたくし)は『フルーレティ』。『赤竜一派』が第四席にてございます」

 

 慇懃無礼な態度のまま自己紹介を行うフルーレティ。質素ながらもどことなく気品漂う燕尾服という姿に、立香は今まで会ってきた誰とも違う印象を抱いた。

 そんなフルーレティは礼をする姿から直ると、扉に手をかけて両のドアノブをひねる。

 

「では『嫉妬』様、カルデアよりいらっしゃった皆様。この先にて『色欲』様がお待ちになられております」

 

 と言って扉を開く。外は太陽の光がないとは言え、室内の暗さから外からでは光の量が違う。光量に目を細める立香。だが他の皆と連れ合い、外へと赴く。そこには────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、待っていたわよ。カルデアのマスターさん?」

「ふっ、待っていたぞ。カルデアのマスターよ」

 

 二人の男女がアフタヌーンティーを楽しんでいる姿が、真っ先に目に入った。

 

 





書けるうちにかいておかねば損なりぃ。
バリバリィ


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5-3 館の主

ふふふ、念のために予め投稿予約してあったのだよ、キミィ。



 フルーレティが扉に開け、立香はそれをくぐる。その先には、ガーデンチェアに座り、優雅そうに紅茶を飲む二人の男女がいた。

 片方は立香と同年代程に見えるが、よく育った肢体に薫る大人の色気を放つ女性。もう片方は、青年のようでありながら壮年であるかのような雰囲気を持つ男性。

 

「自己紹介が遅れたわね。私たちは『色欲』の『アスモデウス』。私はその片割れ、"アシュリー"とでも呼んで頂戴?」

「ふむ……では、私のことは"デール"とでも呼んでくれ」

 

 優しい笑みを浮かべる二人。その姿だけ見ればとても悪魔には見えず、物腰柔らかで優しげな印象を抱くことだろう。

 だが立香は、正確には立香のサーヴァント達は、ここに来るまでの惨状から、この二人がそんな存在ではないということを少なからず察していた。故に、ひっそりと、しかしてしっかりと立香を守れる態勢を整えていた。

 

「おーい、おれにもお茶くれよー。さっにから喉かわいて仕方ねぇよぉ」

「……あら、生きてたのねアンリマユ(ロクデナシ)。てっきり『暴食(グラトニー)』──ベルゼビュートにボコボコにされて消えてるんじゃないかと思ってたわ?」

 

 アンリマユが暢気な声を上げると共に、先ほどまでの柔和な雰囲気から、その手に持つカップにヒビが入りかねないほどの不機嫌さを露にする。

 それでも笑顔であることには変わりないために、余計に威圧感を増すが、アンリマユは気にした風もなく話続ける。

 

「いやされたよ?ボコボコに。そりゃあもうボロ雑巾にされるかってぐらいに」

ならそのまま消えなさいよ……

 

 小声でリリスが毒吐く。立香は改めて思う。──アンリマユって、悪魔(こっち)からも嫌われてるんだ──と。

 なおも食い下がろうとするアンリマユの後ろから、幼い少女が駆けながらアンリマユに飛び蹴りをかます。

 

「いい加減しつこいのッ!!」

「グホァッ!?」

 

 くの字に体を折り曲がらせて飛んで行くアンリマユ。そこからきりもみ三回半回転を決めるあたり、その強さが窺える。

 立香はその蹴り飛ばした少女を見ると、怒ったように頬を膨らませて、腰に手を宛ながら「フンス!」と鼻息を荒くしていた。

 

「ありがとう『サタナキア』。ほら、あんなすすゴミは放っておいて自己紹介なさい?」

「はい!皆様はじめまして、私は『サタナキア』なの。これでも『赤竜一派』の第二席、"大将"なの!」

「「「えぇ!?|君 (貴女)が!?」」」

 

 あまりの幼さ故に一部を除き、立香らは驚愕の声を上げる。

 見た目はまだ小学生ほどであろう少女が、あの『赤竜一派』の第二席ということに、立香らは愕然とする他なかった。

 開いた口が塞がらず、しばらくそのままになっていた立香らだったが、その内女性陣が何かに気付く者素振りを見せ、立香の前に警戒態勢で立つ。

 

「えっ、えっ、どうしたの皆」

「マスター、この者にお気をつけを」

「えぇ……有り得ないわ。この私が彼女を"可愛い"と思うだなんて」

 

 睨み付けるようにサタナキアを見る女性陣。当の本人はどうしたのかわからないと言った顔をしているが、その奥でアスモデウス──女性側であるアシュリーが笑みをもらす。

 

「ふふっ……敏いわねぇ。でも安心して?貴女達に何かするつもりはないわ?むしろ、それは彼女の"体質"なの」

「……?あっ、そうなの!私は『あらゆる女性を魅了する』っていうたいしつなの!」

 

 アシュリーの発言によって思い出したかのように声を上げるサタナキア。そこからすぐさま頭を下げて「ごめんなさいなの!」と謝る。

 その様子に毒気を抜かれた面々は、どうするべきかと顔を見合わせる。

 

「……レディ、君のそれは本当に体質なのかい?」

「そうなの!くわしくいうと、私のまりょくと合わさって体質みたいになってる、らしいの!」

「始めに言うけれど、私が教えたから彼女自身に自覚はないわよ?」

 

 微笑ましそうなものを見る目でサタナキアを見つめていたアシュリーが、サタナキアの答えに補足する。

 そこからまたしてもホームズが考えてはじめてしまう。と、"デール"と名乗った方のアスモデウスが立香らに歩み寄ってくる。その姿を見た立香は、どこかで会ったような気がしていた。

 

「久しいな、と言った方がよいかな、カルデアのマスター。────いや、人類最後のマスター、藤丸立香よ」

「っ!なぜそれを……っ」

 

 まだ自己紹介すらしていないのに、自らの名前と、自らにつけられた称号を言い当てられ、このえも言われぬ違和感と相増していつになく警戒する立香。

 デールは挑戦的な笑みを浮かべると、片手で何かに浮き上がるような合図を出す。すると──デールの周りから、かつて立香の前に立ち塞がった最大の敵、『魔神柱』が小さいながらもいくつか湧いて出る。

 

「魔神柱!?」

「そうだとも。改めて……元魔神柱、『観測所』の端末、アスモデウスである」

 

 静かにのたまうデール。そんな彼は、"魔神柱"と聞き一気に警戒した立香達に苦笑いしながら、

 

「今は最早、関わりの無いものであるがね」

 

 と肩をすくめるのであった。

 




主「他の魔神柱についてどうなん?」

デール「バルバトスとハーゲンティの扱いが酷いと思う。流石にあれは哀れだろう……」

アシュリー「興味ないわ~。あぁでも、ゼパルとか言うのの最後はなんとも言えないわね……」

デール&主「ゼパルゥ……(憐憫)」


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5-4 偽物暴露


アスモデウスの立ち絵はデュオスクロイタイプです。



「なん、で……」

「その問は、『なんで倒したはずの魔神柱が』か、もしくは『落ち延びた魔神柱は全て倒したはず』……か?」

 

 ニヤリと笑みを浮かべ、立香の内心を表情から読み取るデール。その様子に立香はまたさらに警戒心を露にする。

 

「何興奮してるのよ、アナタ。早く座りなさいな、話ができないじゃない」

 

 そんな険悪な空気の中、もう一人の"アスモデウス"────アシュリーの声によって意識を外され、立香の警戒心は多少落ち着く。

 デールのことを警戒しながらも、立香はフルーレティが用意してくれていたイスに座り、同じくガーデンテーブルの周りに座るアスモデウスらを、当初よりも気を張りながら対面する。

 

「さてと、まずお話する前に────アナタにかけられたその悪質な偽装を剥がすことから始めましょ」

 

 アシュリーはそう言うと、おもむろに指を拳銃のように立香に構えながら、爪先ど何かを引き裂くように振り下ろす。

 すると何か紙のようなものが破られる音がなり、途端に言い様のない大きな力の風圧が立香に襲いかかる。

 思わず顔をそむけた立香だったが、すぐにそれは止み、慎重に顔を上げていく。

 

「──なっ」

「おぇ!?立香君!?」

 

 目の前には、確かに偽のカルデアへと戻ったはずのシャドウ・ボーダーとダヴィンチちゃん、更にはサーヴァントの皆が庭園であるこの場所に集合していた。

 さらに周りの景色をよく見ると、空は真っ黒な穴のようなものから、暗雲と燃えるように、かつ血のように紅い空が広がっていた。

 加えて、空を突くような、それでいて今にも崩れ落ちそうな高層ビルのような建造物があちこちに建っており、180度も変わった景色に、立香は唖然とする他なかった。

 

「改めてようこそ。地の果て、絶望の底、全ての終わりの世界。"堕落魔界都市『ソドム』"へ。歓迎するわ、カルデアの皆様」

 

 ・

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

「──つまり、我々はその『虚飾』────『アザゼル』という悪魔に偽りの世界を見せられていたというわけだね?」

「そういうことよ。こんなのに引っ掛かるなんて甘い──なんて言えないのよね。実際、アイツのコレ(・・)は私達でも騙されるもの」

 

 立香やサーヴァント達は、ホームズとアシュリーとの会話を静かに聞いていた。

 曰く────自分たちが今まで見ていたのは、『虚飾』が本来の目的を隠蔽するための布石であった。

 曰く────『虚飾』及び『憤怒』の目的は、漂白された地上へと進出し、世界を塗り替え、その上であらゆる可能性の世界を滅ぼして統一し、新たな楽園を築くこと。

 曰く────カルデアはその目的、『人理帰葬』の妨げとなる為、この煉獄へと引き込み、閉じ込めるつもりであったとのこと。

 

「『人理帰葬』。即ち人理に対する攻撃、か…………。つまり、相手は『人類悪』と見ていいのかい?」

「「「ッ!!」」」

 

 ダヴィンチの驚きと真剣みを帯びた問い掛けに、立香ら全員が毛が逆立つ。

 人類悪。それは、今この場にいるキアラとカーマを含めた人理に対する攻撃者。現在立香達が立ち向かっている異聞帯を作り出した者、『クリプター』達の首魁たる者もまた人類悪である。

 その一体が半ば直接的に立香らに攻撃を、より言うなれば妨害工作をしてくるということに、立香らは驚きを隠せないでいた。

 

「……目的は判った。しかし、一つ聞きたいことがある、Ms.アシュリー」

「あら、何かしら?」

 

 深刻な顔をしていたホームズは、その閉じていた瞼をあけて、アシュリーに質問をする。

 

「君たちは七つの大罪の悪魔達。ベルゼビュート、マモン、ベルフェゴール、レヴィアタン、アスモデウス。……もし私の推理が正しいのであれば、『憤怒』の真名は────」

「──それは僕から言うよ」

 

 どこからともなく声がかかり、シャドウ・ボーダーの裏手から人影が現れる。それは────

 

「ベルフェゴール……」

「……うん、ごめんね。皆を戻すのに、時間かかっちゃった」

 

 愛想笑いとも苦笑いとも言えるような顔をして、ベルフェゴールが立香の前に立つ。

 その姿は、以前会った時と同じようにも見える。だが、ボサボサでクセっ毛が目立っていた長髪は綺麗に整えられ、やつれかけていた顔も見る影なくスッキリしていた。

 

「アザゼルの張った世界はかなり強力だったから、結構、頑張った。──あと、偽物退治も」

「!それって……──」

 

 立香がワケを聞こうとすると、どこかからか甲高く、そして胡散臭さ満載の笑い声が聴こえてくる。

 その声の主はベルフェゴールの後ろに居た。ド派手で怪しさだらけの格好に、張り付いたような笑みを浮かべ続けながら、ベルフェゴールの魔術によって縛られたメフィストフィレスが連行されてくる。

 

「メッフィが偽物だったの?」

「うん。成り代わって、本物は現実(向こう)でもこれは端末」

 

 伝えようとしていることはわかるものの、どこか断片的なベルフェゴール。だが、言いたいことはわかるため、立香は内容を理解していた。

 

「いーやいやいやいやぁ?ワタクシこーんな扱いされる覚えないのですがぁ?」

「ウソ。そろそろもう解るよアザゼル。本物なら今頃もう抜けてる」

 

 ベルフェゴールがそう宣言すると、「……ちぇっ」と言い残してメフィストだったものへと変わっていく。それはパズルピースが砕けるようにバラバラになり、どこかへと消えていく。

 立香がその様子に目を見開いていると、ベルフェゴールから声がかかる。

 

「じゃあ、これからのこと、これまでのこと、話していくよ」

 

 

 




主、卑弥呼課金するってよ


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5-5 『怠惰』の合流


今回は説明回なので少し、てかかなり長いかもしれない回。

余談。
ゴルドルフ所長は煉獄へ引きずり込まれたことにまずビビってる上に、魔王の集いが目の前で始まっているので下手なこというとヤバいと感じている。
↑なまじ悪魔の知識があるため、下手な口出しは命取りになると思っている。



 

 改めて、ベルフェゴールが席につき、以前とは違う真剣な顔つきで前を向く。

 立香を始めとして、カルデアの面々はこれから話されることに生唾を飲み込む。

 

「んしょ……じゃあ、まず僕が、何をしていたのから言うね」

 

 以前までのベルフェゴールと違い、しっかりと話す姿が見られる。ただ、その顔にはどこか自嘲気味な笑みが付いていた。

 

「始め、僕があのカルデアに行った時、変な違和感があったんだ──────

 

 

 

 

 ──ほんとは、それこそ勘違いかなって思ってたんだ。でもね、エルメロイⅡ世さんや金色の王様から、ここはおかしい、って言われて、改めて調べてみたんだ。

 そうしたら、あのカルデアは立香君の記憶を元にして産み出された、『立香君にとって捨てられない場所』だったんだ。あそこに留まらせるようにしていれば、立香君は遠回りになる。でも、僕らにとってそれは困るんだ。

 だから、僕は立香君を助けるため、立香君に助けてもらうため、あそこを砕いたんだ。立香君の『捨てられない場所』を破壊することで、立香君はあそこには戻らない。戻らないなら、あそこの意味はない。皆もそれが立香君のためになるならって協力してくれたんだ。

 

 

 

 

 だから、ね?えっと……うんと……なんていうかな……、夢を砕いて現実を見る、かな?『憤怒』を止めるためにも、立香君には正気に戻ってほしかったんだ」

「そう、だったんだ……ありがとう、ベルフェゴール」

 

 一部たどたどしく、一部説明が抜けていたりと、やはりどこかベルフェゴールらしい説明に、立香は安堵し嬉しく思う。

 だがベルフェゴールの説明を聞き、どうしてもわからないことがいくつもあった。自分を助けるため、それはわかった。だが、なぜ助けてほしいのか、立香は疑問に思っていた。

 

「ま、とりあえず状況はいいかしら?じゃあ私から、この世界についてと、私について。手取り足取り教えてアゲルわ」

 

 妖艶な笑みを浮かべるアシュリーに、シャドウ・ボーダーから出てきていたカルデアスタッフの内から、生唾を飲む音が聴こえてくる。

 アシュリーはそれに満足そうな笑みを浮かべると、ティーカップを片手に、少し色っぽい仕草を含みながら語りはじめる。

 

「これはとても長くなるわ、なんでもいいから忘れないよう記録しておきなさい?

 

 

 

 まず、私達悪魔というのは、過去において、神にも人にも認められない自由を求めた者達の末路。そしてこの煉獄──ゲヘナは、私達悪魔だけしか生きられない牢獄にして処刑場。この街にだって、もう生きてる人間なんていないわ。皆焼け死ぬか、飢え渇いてやっぱり死ぬだけよ。

 そして自分で言うのもどうかと思うけれど、その悪魔の中でも一際隔絶した力を持つのが私達『七大罪』──別称『大罪悪魔』よ。まぁ、例外もいるのだけれど。具体的な力の差は、普通の悪魔がアリだとしたら、私達は山ほどあるわね。

 

 

 そして、その中でも一層格の違う三人の悪魔──『暴食』、『傲慢』、そして『憤怒』の三人。これがこの煉獄における三大勢力よ。あぁ、『暴食』──ベルゼビュートにはもう会っていたわね。彼が率いるのはならず者として爪弾きにされた者達、『心の自由』を認められなかった者達よ。皆気が良くて、最も悪魔らしくない悪魔達の集まりね。

 

 

 次は『傲慢』。元は天使長だった彼の真名を『ルシファー』。彼は彼と共に付き添った堕天使達を引き連れた、下手な軍隊よりも強大で強固な組織力を持つ軍勢の長よ。さらに彼自身結構な強さの上に、堕天してもまだ自分の主への信仰を捨ててないのだから驚きよね。最近はなんだか変なものを造ってるみたいだけれど……。何を考えているのかイマイチわからないやつね。

 

 

 

 ここまでで何か質問はあるかしら?」

 

 一度話を区切るアシュリー。神妙に聞いていた立香やカルデアスタッフ、サーヴァント達は異様なまでの静けさを保っていた。

 ふと、そこへ声を上げる者が現れる。

 

「おう、あるもないも何も、質問だらけだクソ魔神柱」

 

 それは真紅の鎧を身にまとい、鋭い眼光をアシュリーとデールに向け続ける者──モードレッドであった。

 アシュリーは、予測していたかのような余裕の微笑みを携えて問い直す。

 

「あら、何がわからないのかしら?」

「テメェらは今自由を求めたつったな。じゃああの"樹"はなんなんだよ!」

 

 そうな言ってモードレッドが指を指す先を立香は振り返る。そして、そこにある予想外のものに、立香は驚きのあまり固まってしまう。

 

「何でテメェらのとこに────『空想樹』があるんだよ!説明してみろや!」

 

 怒鳴り散らすモードレッドの声に、困ったように、しかしわざとらしい仕草をしながら、アシュリーはのんびりと答える。

 

「そうねぇ……端的に言えば奪った(・・・)のよ」

「「「う、奪ったぁ!?」」」

 

 奇想天外すぎる答えに、今度は立香を含めるその場にいた全員がすっとんきょうな声を上げてしまう。

 空想樹の簒奪──それはつまり、『異星の神』に対する挑戦とも取れる行動であり、間違いなくあの者達が黙っていないはず────

 

「あぁ、ちなみに。『異星の神』とか言うやつの手下は皆、『憂鬱』に蹴散らされて強制返還されたわよ」

「な!?」

 

 あの『異星の神』の従者達を蹴散らしたという、またしても聞いたことのない、恐らくは大罪悪魔であろう存在の、そして彼らの規格外さに、一堂は声をなくすのであった。

 




もうちょい長くしてもいいのかね?良さげだったらボチボチ伸ばしていこうかな。


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5-6 空の樹と魔の柱


オレの説明会part,2



 立香は気付くのが遅れていたが、大半の者達、そのさらに一部の者達はこの空想樹の異常に気がついていた。

 幹はいくつか紺や紫が混じった鈍黒に変色し、今までの空想樹と違っていっそ禍々しく感じられる空気が流れていた。そして考え付く。これは、ただ奪っただけではないな──と。

 

「それを含めて説明しよう。故に、落ち着きたまえ」

「元とは言え君達は魔神柱なんだから、それは無理は話じゃないかな?」

 

 ダヴィンチがデールの発言に返すも、その声音には明らかに警戒心が入っていた。

 皮肉げな、そして自嘲するかのような笑みを浮かべながら、デールは肩をすくめる。

 

「尤もだな。では、まずは私について教えるとしよう。

 

 

 

 

 

 まず知っておいて欲しいのだが、私と彼女──アシュリーは元々は別個体であるのだよ。私が諸君らに敗北し、虚空を放浪していたところ、『ゲーティア』の中ではなく、人々の概念的思想によって確立された彼女(アスモデウス)と出会ってね。

 その時の私の中には、バエルのような憎悪でもなく、フラウロスのような粘着質な悪意でもなく、人々への希望を視ていたのだよ。それ故、私自身改めて己の狭量さ、そして視野の狭さに気づき、私は無念に打ちひしかれていたのだ。

 言い得て妙な話だが、私は彼女と同一化することによって一命をとりとめ、今はこうして真性悪魔として顕界できているのだよ。

 

 

 さて、当の空想樹だが。実のところ、あれは奪ったというより、どこぞで撒き散らしていた種子の一つを拝借して、汚染させられながら育てられたのだよ。無論、主犯は『虚飾』だとも。

 あれは今や空想樹ではなく"厄災の樹"──俗称で"クリフォト"と呼ばれる悪魔の樹と化している。『憤怒』らはあれを起点として各世界に根付く空想樹を侵食し、世界を破壊していく。そうして新たな世界のための礎となるためにあれは育てられているのだ。

 

 とは言え、流石に『憤怒』は我らを無視し過ぎたのでな。意趣返しと言うべきか、私の魔神柱としての力を使って塗り替えてある。故に、我らが倒されぬ限りあれが『憤怒』らに渡ることはないのだよ。

 

 

 と、まぁそういうわけだ」

 

 スケールが大きく難しい話なために、立香を始めとして頭の弱い者達は頭上にハテナマークを浮かばせていた。

 だが、一部の賢い者は察していた。それがどれほどの恐ろしさとスケールの大きさなのかということを。

 

「……ふっ、さて、では話を戻そうか。無論、残りの悪魔と今後についてだが。

 

 

 

 残りの『憤怒』と、例外たる『虚飾』、『憂鬱』について語ろうか。

 とは言え、『憂鬱』──『マステマ』については無視していいだろう。何せ、奴は諸君ら以外の侵入者、つまり異星の神と呼ばれるマヌケ側の手下を退けるためだけに徘徊しており、諸君らと遭遇しても特になにもしないであろうな。

 

 だが、最後の二人は別だ。奴らは言うなれば犯罪における主犯格。あの二人を倒さずしてこの世界から出ることは叶わぬ。

 諸君らは既知かはこちらは知らんが、『虚飾』はかつて大天使らによる人々の監視部隊、"エグリゴリ"副長だったにも関わらず彼らを裏切った悪魔『アザゼル』。全てを欺き、全てを騙し、全てを偽る狂った道化師。奴を知らぬ悪魔はおらんだろうな。

 

 

 

 そして────」

 

 一呼吸置くデール。立香らは生唾を飲み込む。

 なぜならば、その顔には、先程とは比べ物にならないほどの真剣な顔かみあるからだ。

 

「甚だ不服ではあるが……我ら大罪悪魔の頂点『憤怒』。奴の真名を────『サタン』と言う」

「やはり、か…………」

 

 ホームズがデールの発した者について、苦い顔をしながら、さながら当たってほしくなかったと言わんばかりの表情で呟く。

 事態の重さについていけていない立香は呆然としていたが、その横からシャドウ・ボーダーから降りてきたばかりのマシュが手を挙げる。

 

「あの!その『サ──……」

「その名を語るな。憑き殺されても知らんぞ」

 

 今までにない眼光の鋭さでマシュの質問は抑えられ、あまりの気迫に圧し黙る。

 

「奴は、始まりにして終わりの魔王。我らの中で唯一『魔皇』とかたることを許された存在。諸君ら人間社会において最も狂信的な絶対視観を宿らせる者。だがそれは、一般人、魔術師問わず市井の中でのこと。奴を知り、奴の本当の姿を識る者は皆、奴をこう呼ぶ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────其は終わりにして究極の『平等』、

ビースト7=サタナエル────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────と」

 

「ビースト…………7……」

「なっ……彼の大悪魔がビースト7、なのか……っ!?」

 

 告げられたその異名に、立香はおろか、あのホームズでさえも愕然とする。

 全ての『獣』の終わりにして始まり、下位番を無視して顕れた『平等の獣』──ビースト7。

 そして、その『獣』と従える『道化師』は、間違いなく立香へと、その魔手を伸ばしつつあるのであった──。

 

 





キーパーソンを出していくゥ。
設定諸々気になっているだろうなので、ボチボチ設定話を出そうかなと考えております。

話はたまにめっちゃ長くなったり、前話より短くなってたりとするので、長い方がいいならいいと言ってくだちい(露骨なコメ稼ぎ乙)。


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5-7 泡沫の慟哭


た、大変遅れて申し訳ねぇでござらぁですァ………

最新話、どうぞご照覧くだしあ……グフッ()



 ビースト7=サタナエル。それが今回の事件の黒幕であると知った立香らの驚きは、まさしく言葉にできないほどであった。

 それをさもありなんと澄まし顔で紅茶を口に運ぶデール。一息ついてから、またしても彼は爆弾を落とす。

 

「とは言え、彼奴は本物の『ビーストVII』ではないのだがね」

「それは、どういうことかね。Mr.デール」

 

 剣呑さをにじませたホームズの問いかけに、デールはただ肩をすくめて返す。

 

「どうもなにも、彼奴は『獣』の紛い物。『異星の神』とやらから簒奪した『権能』を取り込んだだけにすぎん」

 

 それは、当たり前だと言わんばかりの口調で、そしてそれしきもわからないのかと嘲るかのような雰囲気を持っていた。

 そんな反応にカルデア側の多くの者達は、そんなデールの態度に苛立ちを感じてはいたが、立香がそこにいるがために堪え忍んでいた。

 

「どれ、長話でお疲れだろう。こちらで資料を用意しておいたので目通ししておくといい。──フルーレティ?」

「はっ。では皆様、こちらの資料をどうぞ」

 

 優雅なお辞儀をして、いつの間にやら背後に控えていたフルーレティが立香やホームズらに次々と資料を渡していく。

 

「あぁそれと、サーヴァントに関してだが。こちらで魔界に溢れている純粋な魔力を逐次そちらのその車両に供給している故、今まで通りで問題ないぞ」

 

 さらりとなんでもないかのようにのたまうデール。

 その手腕と口調から改めて、本当にあの時、時間神殿にて決着を着けた魔神柱なのか困惑する立香ら。

 そんな彼らをよそに、デールとアシュリーは続けていく。

 

「ほら、貴方達も疲れているでしょう?屋敷の西館、その2階から上であれば自由に使っていいわよ。一応忠告するけれど、1階や西館以外で休んで何かあっても、私達は知らないわよ?」

 

 蠱惑的で、何か裏がありそうな微笑みを浮かばせながら、カルデアの皆に忠告するアシュリー。

 しかし、立香が見えたのは一瞬のことであり、瞬きをして改めて見ると、穏やかな笑みとなっていた。

 

「……では、お言葉に甘えようか。とは言え念のため、Ms.マシュと他数名で、立香君の周りにいるとしよう」

「ふふふ、それがいいわねぇ」

 

 今の今まで傍観に徹していたリリスが、ホームズの指示に賛同を示し、何人かが立香の共につく。

 そこから立香はサタナキアに「こっちなの!」と、テラスと庭園を繋げる階段へと向かっていく。

 

「フルーレティ、館の防備についてだが──」

「えぇ、それにつきましては────」

 

 デールとフルーレティが、小声で何かを話しはじめるのを他所に、立香は与えられた部屋へと向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────夢を見た。悲痛で、孤独で、どうしようもないほどに虚しい声を聴いた。

 

 

『なぜだ!なぜ見向きもしない!これはお前達にとって大切なもののはずだ!!』

『やめろ……やめてくれ……もう殺し合わないでくれ…………』

 

『どうして……?どうしてなの……?そんなに私は赦されないの?』

『ふざけないでよ!私は……私は、そんなことのために"愛"を与えたわけじゃないのよ!』

 

『ぼ、くは…………一体、何を……したいんだ……』

『えぇ、主よ……良いのです。これが、これが私に与えられし使命。例え、憎まれることとなろうと、私は……』

 

 

 嘆きを見た、悲しみを見た、届かぬ想いを、夢を、希望を、遥かな天を──────そして、死を。

 見て、聞いて、知って、理解して。そこに憐れみと哀しみを持って、再び視て、聴いて、識って、足掻いて、苦しんで、もがいて、そして────絶望を視た。

 

 とめどない悲痛な世界の中、立香は、その2つの声が頭に何度でも、明瞭に響いていた。

 

 

『なぜだ!!なぜ、なぜ人間に"心"を与えた!こんな……こんな結末を与える為なのか!?ふざけるなよ……ッ。許さん……許さんぞ、(オレ)はこんな世界(理不尽)、許さんぞ"神"よォッ!!』

 

『主への信仰?尊き御身への忠誠?下らないね……。そんなものを持ったところで、帰らないものは帰ってこない。アンタらに消されたもんは還らない……ッ!キミもそう思うだろ?"座天使"サマ。アンタの主に言っといてくれ……"テメェの思惑にはウンザリだよ"ってねェ!!』

 

 

 怒り、嘆き、そして後悔の渦が立香を襲う。頭が割れんばかりの慟哭に、あえぐように苦しみを現す立香。

 そんな怨嗟の嵐の中『──い』、立香は自身の『──んはい』、最も信頼する者のの声を幻聴する。

 

「『先輩!!』」

 

 

「────はッ!?はっ、はっ……」

「先輩、大丈夫ですか!?」

 

 過呼吸になり、震える体を抑えながら、立香は辺りを見渡す。

 目の前には、自身が最も信頼する"後輩"──マシュの姿があり、周りには自らを心配するかのような目線を送るサーヴァント達がいた。

 

「大丈夫ですか?ご主人様(マスター)

「怖い夢を見ていたのかしら?汗が酷いのよ」

「そんな過呼吸にならず落ち着きなさいな。貴方は私達のマスターでしょう?」

 

 皆の気遣う声に、立香は深く息を吐いて落ち着かせる。

「よし!」と元気な声が自分の腹からでてきたことに、自分でも驚く立香ではあったが、すぐに気持ちを切り替えてマシュ達に向き直る。

 

「ありがとうマシュ。それとごめん、心配かけて」

「い、いえ、マスターが無事ならそれで────」

 

 その時、唐突として爆発音が連鎖的に鳴り響く。それと共に館内にまで振動が襲い、立香らは軽くよろめく。

 その後すぐに、外から悲鳴と怒号と、そして銃声が聞こえてくる。

 

「ッ、マシュ!皆!」

「はい!」

 

 立香は布団から飛び降り、マシュ達を連れて外へと、銃声と怒号が聞こえる方向へと駆けていく────。

 

 




リアル事情忙しくて全く書けてなかったで御座候。

あっ、やめてっ、植木鉢投げないでっ!がんばって書くからぁ!!アヒュン


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5-8 襲撃の黒服〈前〉


UA)<主ィッ!テメェ何してたァ!(ドア蹴破り

主)<ヒェッ!?ネタ集めしてたよ!?

UA)<ウルセェ!遅いんだよぉ!『軍神の剣』ンンン!!

主)<グワァァァァッ!? 【最新話】
ノノ

死ぬかと思いました。



 

 立香達が大慌てで一階へと降りていく。そこから更に玄関へと向かっていくと、それに合わせて銃声も大きくなっていく。

 曲がり角を曲がり、玄関へと直通している廊下へ出る。と、その時──、

 

「ッ!先輩、危ないっ!!」

 

 マシュが立香の前に躍り出て、盾を現出させる。立香を守るように現れた盾には、無数の銃弾が軽い金属音を響かせながら弾かれていた。

 あまりの弾幕に下がった方が良いと判断した立香らは、すぐに角の奥に引っ込む。

 

「マシュ、大丈夫!?一体、何が……」

「『憤怒(ラース)』のとこの狂信者(デモニスト)共よ……」

 

 立香の背後より女性の声。振り替えると、血の滲む肩を抑え、デールに支えられたアシュリーが廊下の奥から現れる。

 

「アシュリー!?どうしたの!?」

「油断したわ……、予想以上に行動が早かった……」

「防備が間に合わず襲撃を許してしまった。面目ない」

 

 苦虫を噛み潰したかのような渋面のアシュリーと、同じく己の失態を恥じるかのような顔をするデール。

 曲がり角から放たれる弾幕は収まりを見せようとはせず、立香らは立ち往生する他なかった。

 

『立香君、大丈夫かい!?』

「ダヴィンチちゃん!?今大変なんだけど!」

 

 唐突にデバイスからダヴィンチの通信がかかる。そんな中でも、明らかに立香を狙うかのように弾幕が集中し始め、次第に壁が削れていく。

 

『判ってる!今援軍を送るから場所を!』

「中央玄関エントランス前!一番大きな玄関の前よ!」

 

 通信の奥にいるダヴィンチに向かって、銃声にかき消されないほどの声を上げて現在位置を告げるアシュリー。流石に傷口が開いたのか、すぐに苦ヶしい顔になって軽くうずくまる。

 そんなアシュリーに声をかけようとする立香。だが、遠くから自信の知る気配が近付くのを感じとる。

 

『オラオラオラオラオラ!!前回の失敗を取り返さねぇとなぁ!!』

 

 通信の奥から、廊下の奥から、誰かが檄を飛ばす声が聞こえる。

 更に、何か車輪のようなものが、とてつもない速さで動いているかのような音が聞こえてくる。

 

『振り落とされるなよ!さぁ突き進め!(そら)の彼方まで!!『疾風怒濤の不死戦車(トロイアス・トラゴーイディア)』!!」

 

 立香が潜む角を、翠の閃光が駆け抜ける。そして、玄関のその先へと走っていく。

 その閃光から、一人が舞い降りる。

 

「本当はこんな前線に出るのはアラフィフな私のやることではないのだが……、マスターが窮地だからネ」

 

 立香にウィンクを飛ばして、構えた棺桶から負けず劣らずの弾幕を張るモリアーティ。

 さらに奥から立香のサーヴァント達が駆け寄り、応戦していく。

 

「やっと応援?遅すぎるよ~」

 

 立香達がなんとか玄関エントランスまで戦線を押し上げてくると、上からくたびれたような声が聞こえる。見上げると、ぐったりするように手すりにもたれ掛かるビリーとロビンの二人がいた。

 

「なーんでオレこんな出番あるんですかねぇ……」

「うーん、貧乏クジ引いちゃったからじゃない?」

 

 だいぶ余裕が戻ってきたのか、もたれ掛かりつつも愚痴を言い合う二人。そんな空気の中でも、外ではまだ銃声が響いていた。

 ふと立香は、割れたガラスの近くまで、屈みながら駆け寄り、外を見る。

 

「せ、先輩っ?危ないですよっ。────あれは、スーツ姿の悪魔、でしょうか?」

「いいえ。あれは元は人間でありながら、悪魔を、いえ『憤怒』を信奉し続けた先の狂信者よ」

 

 いつの間にか後ろに居たアシュリーとフルーレティ。立香は驚くも、デールの姿が見えないことに不思議がる。

 そんな立香に、アシュリーが外を指差す。その方向を見ると、魔神柱としての姿を、キアラが使うようにして突き刺し、薙ぎ払っているデールの姿があった。

 

「己の不注意で侵入を許してしまった。ならば後始末を任せきりにするわけにもいかん。だって」

「そんな……、それは私達にも、悪魔という存在の本拠地で油断した私達にも責任が────」

 

 マシュの捲し立てるような台詞を遮るように、何かが壁を破壊して中へと飛ばされてくる。

 思わず身を屈めた立香が、晴れていく塵煙を見ていると、そこにはボロボロになったデールがいた。

 

「デール!?」

「来るな!そこから下がれ!!」

 

 血にも似た何かを吐き捨てながら、血相を変えて立香らに激を飛ばす。

 ふと、影がさす。立香が振り替えると、そこには、武器を振り上げる何者かの姿が────、

 

「いよっと──危ねッ!?」

 

 一瞬を縫ってロビンが駆け、立香を紙一重で助け出す。その質量の大きさ故にか、轟音と共に埃を撒き散らす。そこには、陥没したかのようになった床。

 立香がその相手を仰ぎ見る。

 

「え?ベルゼ、ビュート……?」

「違うッ!ソイツは奴の姿をマネた真っ赤な偽物っ!────『虚飾(ヴァニティ)』だッ!!」

 

 復帰したデールが鋭い蹴りをベルゼビュートの偽物の土手っ腹に入れる。だが、当たる直前にガードを取られ、更にはバックステップで威力も割かれてたために大してダメージは入れられなかった。

 身軽そうに空中で回転し、勢いをゆるめさせて着地する。肩に担ぐように持っていた槍が、パズルピースのように砕け、更には姿が溶け落ちるように変わっていく。

 

「ん~、なーんでバレるかなぁ~。やっぱ知り合いに化けると分かりやすい的な?ンフフフ、いいねぇ」

 

 嘲笑うかのような口調と、揺れるような動きでその正体を現していく。

 その後には、白黒の道化師のような仮面をつけた青年らしき者が残っていた。

 

「君が、『虚飾』……」

「そ!改めてましてぇー。僕の名前は『アザゼル』。『虚飾』のアザゼルさ。よろしくねー」

 

 薄気味の悪い笑みを浮かべるのを幻視する立香。溶けきった偽装は泥のように、その手には双振りの凶悪さを見せつける短剣。

 今、カルデアと黒幕たる悪魔が相対する。

 

 





アザゼルはまごうことなき強キャラです。二転三転して一貫性がないけど、その実めちゃめちゃ計算高いのが彼です。
あ、素顔は見せませんよ。再臨しても仮面取りませんから。


……期待してもダメですよ。取りませんよ。簡易霊装でもでませんからね!!


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5-9 襲撃の黒服〈後〉


不味い、かなり不味い傾向だ……。

ネタ不足とモチベ不足のダブルクロスは不味い……。そしてそこに多忙が加わるトリニティクロスは不味いぞ……。

もしかすると投稿頻度下がるかもです、申し訳ない……。



「さてさてさてさてさてぇー?自己紹介はよろしい?いらない?あそう、ならいいや。じゃあご存知、ボクがアザゼルです。改めてよろしくぅ」

 

 口調は極めて友好的、しかしそれとは裏腹ににじみでる不信感と狂気。

 立香はここに来て初めて、悪魔という存在に"恐怖"した。相反する性質を、こうも見事に、こうも歪に表現する彼という存在を怖れた。

 

「その感覚は正しい。故に下がれ、藤丸立香」

「デー、ル……?」

 

 ロビンに支えられながら立ち尽くす立香の側を、ダメージが目立ちながらも殺気を放ちながら『虚飾』──アザゼルへと向かっていくデール。

 デールの周りにはドス黒い炎がいくつも現れ、いつでも

 放てるように漂っている。

 

「なぜ貴様がいる、『虚飾(ヴァニティ)』ッ!」

「ンフフフ、そうカッカしなくてもいいじゃん?ま、有り体に言うなら露払い的な?」

 

 両方に持つ短剣を、ジャグリングのように玩びはじめるアザゼル。だが、立香には二つあるはずのそれが三つ、四つといくつにも見えるようであった。

 

「あれを直視するな、惑わされ気付けば死んでいる」

 

 デールが小声で立香に忠告を促す。

 そうして立香を下がらせるように前に立つと、

 

「奴の相手は私がする。お前達は自らの本拠地へと向かうがいい」

「……無事でいてね」

 

 立香はそう言い残すと、すぐさまマシュ達を連れて中庭へと向かって走っていく。

 遠退く気配を感じるデール。そんな彼の近く、アザゼルを方位するかのようにサーヴァント達が立つ。

 

「やァ。悪いが、私達も頭数に入れて欲しいネ。中々に厄介そうな相手だ」

「なんだ?別人かよ。リベンジしようと思ってたんだが……。まぁ、テメェの方がヤバそうだな」

 

 デールの隣にモリアーティが並び、アキレウス、ビリーと言った幾人かの面々がアザゼルを睨む。

 当のアザゼルは飄々としていたが、デールは油断なく、だが注視しすぎることなくアザゼルと相対する。

 

「ねーねー、仲良くしよーよー。ボクそこまで怖くな────」

 

 言い切らないうちにデールの炎が襲いかかる。さらに援護射撃が入り、追撃が仕掛けられていく。

 土煙で姿が見えなくなるが、兎にも角にもデールはアザゼルの気配を探ろうとして────

 

「──だからそこが甘いんだって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 立香らは館内の廊下を、身体を引きずるアシュリーを気にかけながら走っていた。

 慌ただしく玄関へと向かっていく者や、負傷し、うめき声を上げる者、壁にもたれかかって動かない者など、その様子はまさしく阿鼻叫喚であった。

 

「────!先輩、もうすぐです!」

 

 マシュが中庭へと続く扉を見つける。その扉の前には様々な者に指示を飛ばすフルーレティの姿があった。

 やがて扉へと近付き、フルーレティが立香らに気付く。

 

「アシュリー様!そのお怪我は!?」

「話は後!早く開けて頂戴!」

 

 驚き目を見開くフルーレティを余所に、周りの喧騒に負けない程度で声を上げるアシュリー。それに対してフルーレティはすぐさま中庭への扉を開く。

 駆け込むように立香らが中庭へと入ると、そこでは先程のフルーレティと同じく指示を下すダヴィンチらの姿があった。

 

「──だからだな、ここは逃げるのが一番だと「立香クン!無事かい!?」

 

 ゴルドルフ所長が冷や汗らしきものを流して話す主張の途中で、近付く立香らに気付いたダヴィンチが慌てて立香達を出迎える。

 

「僕はなんとか。でもアシュリーが」

「どれどれ……?」

 

 ダヴィンチがアシュリーの怪我を看る。

 すると、えげつないものを見たかのように顔をしかめる。

 

「うへぇ、なんだこれ。傷の見た目はただの斬り傷なのに、不治の呪いがかけられてるぞ」

「えぇ……、治したいのだけれど、このままじゃ無理ね。誰か、呪術と医療に詳しい人を────」

 

 アシュリーが言い切らないうちに、中庭に屋根を飛び越えて何かが落ちてくる。

 重い音と土煙を立ち上らせながら、中から咳き込みながら現れたのは、棺桶を杖代わりに立ち上がるモリアーティであった。

 

「アイタタタタ……、年寄りにはもう少し優しくしてもらいたいものだネ…。しかしこれ程までとは…」

「教授!?大丈夫!?」

 

 フラフラと立ち上がるモリアーティに駆け寄ろうとする立香であったが、それを本人に片手で制される。

 次の瞬間、本館へと続く扉が破壊され、それと共にデールや他のサーヴァント達が転げ出てくる。

 

「ぐぅっ!!貴様、どこでその"皮"を……ッ」

「『フッ。何、戯れにさる地底の国へと赴いた際、偶然手に入れただけのことだ』」

 

 地を響かせ、破壊された入り口から現れたのは、いつしかの亜種特異点『アガルタ』にて戦った英雄、『ヘラクレス・メガロス』であった。

 

「『中々に使い勝手がよくて助かる。』とは言え、使いすぎると疲れるんだよね、コレ」

 

 またしてもピースが砕け散るようなエフェクトが弾ける。中からは凝った肩をほぐすように、腕を回しなかみらアザゼルが現れる。

 心底楽しそうな笑みを浮かべ、アザゼルは立香とシャドウ・ボーダーを眺める。

 

「さてさてさてと、お次はどうしましょっかねぇ」

 

 せせら嗤うかのように、そして子供が遊びに悩むかのように無邪気に、邪悪に笑みわ深めるアザゼル。立香らは次に何を出してくるのかと身構えていた。

 だが、そこに一筋の極光が降りかかり、中から声が響く。

 

「────ふん。時間のかけずぎだ、愚か者」

 

 極光の中には、三対六翼の、左右黒白に分かれた翼を広げる青年がいた。その姿を視認したデールとアシュリーは、驚きのあまり目を見開いていた。

 

「バカな……」「ウソよ……」

「「よりにもよってお前(貴方)がそちら側だと言うの(か)、『傲慢(プライド)』!!」」

 

 その青年は、ただ静かに、そして見下すかのように、空に悠然と漂うのみであった。

 





とにもかくにもがんばって書いていきます。

目指せ!年中完結!自己満足の塊だけど!


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5-10 其は狂乱の兆し


最近更新遅れまくって本当に申し訳ない……。

色々と立て込むと後々に回しすぎて、ね…?



 

 然したる反応を示すわけでもなく、ただ悠然と漂う『傲慢』と呼ばれた堕天使。静かに、しかし圧倒するほどの威風を放つ。

 慌てたように資料を読みあさり、あるページでその手を止めるダヴィンチ。

 

「『傲慢』の大罪悪魔──、つまり、君の真名は『ルシファー』なのか!」

 

 そんなダヴィンチの驚く声にすら反応を返すことなく、ルシファーはアザゼルを、上から見下しながらに佇んでいた。

 

「『憤怒』が呼んでいる。陽動(・・)は充分だ」

「あそうなの?もうちょっと時間かかっても良かったのになぁ~」

 

 ルシファーの台詞に、アザゼルは腕を頭の後ろで組むようにしてゆらゆらと揺れながら、さも膨れっ面を見せる子供のような反応をする、

 

「ちょっと待て、陽動だって?一体どういうことなんだい?」

「貴様ら無能共に言う義理はない。指を咥えて黙っていろ」

 

 にべもなくバッサリと切られるダヴィンチの質問。さらにはこちらを見向きもせず、まるで吐き捨てるかのように言うルシファー。

 そんな中、二階テラスより今まで迎撃に向かっていたリリスらが身を乗り出して現れる。

 

「ちょっと貴方達!私達の海になんてもの沈めてくれてたのよ!?」

『あんなもの入れておくなんて頭可笑しいんじゃないの!?』

 

 かなり憤慨した様子を見せる二人に、ルシファーは憮然としたまま、アザゼルは「言われてやんの」とばかりに笑っていた。

 

「ほらぁもー、言われてんじゃないのさ~」

「……ふん、たかだか"方舟"程度で喚くな」

 

 ルシファーの発っした"方舟"という言葉に、それまで何か考えているかのように静観していたホームズが、そして同じくしてボロボロになっている身体を休めて気をうかがっていたモリアーティが、まさかといった顔をする。

 

「"方舟"……いや、まさか。だが、そうなのだとすれば……っ」

「これは度肝を抜かれたネ……。"それ"がここにあったとは……ッ」

 

 戦慄するかのように汗を一筋。それを、今の今まで無視していたルシファーが、ようやく立香らをその目に映す。

 

「……ほう、少しは頭が回るネズミのようだ。そうだ、その"方舟"だ」

 

 薄らと笑みを浮かべて、ホームズ達の驚嘆に肯定の意を示すルシファー。

 立香はなんのことだかわからずに、ただホームズとルシファーの間を、視線を交互に向けるだけであった。

 

「ホームズ、"方舟"って……?」

 

 立香が問うことに対し、ホームズはただ瞑目するのみ。

 代わりに立香の問いに答えたのはモリアーティであった。

 

「……創世の時代、かつて世界が、神の怒りによって海に飲まれた頃。あらゆる生物を護るために造られたことで有名な"方舟"。────『ノアの方舟』、だネ?」

「あぁそうだ」

 

 モリアーティの答え合わせをするかのような答えに、ルシファーは依然として変わらない態度で肯定する。

『ノアの方舟』。その言葉を聞いたマシュやサーヴァント達は、驚きのあまり目を見開くものが多かった。

 

「聞いたことがあります!創世記に記される、大洪水を逃れるために造られた舟だとか。でも、それは創世記だけじゃなく……」

 

 マシュはそこで一旦句切ると、シャドウ・ボーダーの上で腕を組ながら仁王立ちし続けるギルガメッシュの方を向く。

 その顔には、まさしく「気に食わない」と言わんばかりの、不機嫌気味な仏頂面が張り付いていた。

 

「戯け、方舟ならば我の宝物庫にある。貴様のソレは紛い物だ」

「…………ふん、そこの無能に毒されたか、半端者の王よ」

 

 そう返してくるルシファーに、ギルガメッシュはさらに険を寄らせて不快感と怒りを顕にする。放つ威圧感は、それこそ戦闘中もかくやというほどであった。

 だが、それを涼しい顔で流すルシファーは、そこからさらに話を続けていく。

 

「確かに、方舟は世界各地にて逸話は散乱した。だが、真なる"方舟"──『ノアの方舟』はすでに神々により廃棄された。故に、それを我らが再利用しただけのことよ」

 

 そこまで言うと、それまで一言も発しなかったアザゼルが、宙に浮きながら胡座をかいて、ルシファーの台詞に続けていく。

 

「つ、ま、り。キミのとこの『方舟』は確かに原典だけど唯一じゃない。ケド、ボクらのとこの『方舟』はノアというただ一人が造り出した唯一のものってワケ」

 

 おちゃらけるような話し方と態度を、またしてもギルガメッシュの眉間が険しくなっていく。

 それを気にもせず、アザゼルはルシファーの近くまで飛んでいく。

 

「さてー、そんじゃま、様子見も済んだことですしー?そろそろ行きます、か」

「……そうだな。こうも無能が揃うと虫酸が走る」

 

 そう言って上を見上げるルシファー。

 それと同じくして影が差し上を見上げると、いつの間にやら純白かつ巨大極まりない"舟"のようなものが、重厚なかぜ鳴りを響かせながら現れた。

 

「なっ!?」「でかっ!?」「ぬぅっ!?」

 

 恐らくはあのティアマト以上もある大きさの舟へと翔び発つルシファーとアザゼル。その二人に向かって、デールが声を上げる。

 

「待てッ!!一体はお前達は『憤怒』と────あのビースト7とどこへ向かうつもりだッ!!」

 

 その発言に、一瞬驚きくような様子を見せたアザゼルだったが、次の瞬間、まるで面白可笑しくてたまらないと言った風に笑い出す。そして、彼は告げた。

 

「バッカだなぁ。まだ『ビースト7』だなんて誤情報信じてんの?あんなのウソウソ」

「なっ!?」

 

 アザゼルの発言に、よもや自分達が誤情報を掴まされていたということに驚くデール。

 だが、それ以上に驚かねばならないことが彼から発せられる。

 

「あれは最早『平等』に非ず。我らは"黙示の獣"を捕らえ、彼はそれを取り込んだ。故に、ビースト7なぞただのまやかし。其は全ての『憤慨』を代弁せし者。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『BEAST Ⅵ:忿怒』、なのサ」

 

 

 





―マテリアル更新―
真名:サタナエル
クラス:ビースト7→『BEAST Ⅵ』
原罪:『平等』→『忿怒』
推定スキル:ネガ・メサイア


ということで、ビースト7などただの飾りよ
(`・ω・´)ドヤァ。
「ビースト7ってなんか表記おかしくね?」と思ったそこの貴方、大正解(わざと)です(ニチャァ)。



ついでになりますが、皆様からのご感想と評価お待ちしております。まだまだ手習いですので、暖かい目とわずかばかりのご親切をわけて頂けると幸いです。

……何か忘れてることがままあるので、大事なことも教えて頂けると嬉しいです、はい。


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5-11 真なる敵


散々待たせたので二連続!

本章最後でござるよー!!



 

 怪我人の治療のために、いまだ船影の見える方舟を遠くに、立香達は館を走る。メガロスに変化していたとは言え、アザゼルの手によってダメージを負ったサーヴァント達を介抱していく。

 アシュリーは呪術に詳しい者達と協力し、呪を解いてけがを治しており、デールに至っては多少の残りは見られるものの、ほぼ完治していた。

 

「……よもや、この私が誤情報を掴まされていたとは……元魔神柱としては情けない限りだ」

「いやいや、あれは君だけのせいじゃないさ。アザゼルが変化していたメガロス。あれは霊基も同一になっていたからねぇ……」

 

 沈痛な表情でのたまうデールに、せめてもの慰めと言うばかりのフォローを入れるダヴィンチ。そしてそのダヴィンチの発言にホームズもまた頷いていた。

 そんな嵐が過ぎ去った後のような空気の中、未だ余力のある者達が立香を中心として集まっていた。

 

「それで、ここからどうしますか、マスター」

「追っかけるなら追っかけるで、あの図体ならすぐ追い付けると思うぜ?」

 

 アルトリアやアキレウスなど、立香に付き従う様々な面々が、あーでもないこーでもないと論議していた。

 そんな中、ふと転移してくる気配がして、全員がすぐさま警戒体制をとる。

 

「わぁっ!?ぼ、僕だよ!ベルフェゴールだよぅ!?」

 

 あまりの威圧感に、慌てるかのように声を上げる紺色のもっさり髪──ベルフェゴールが、その傍らに縛り上げられたメフィストを連れて現れた。

 

「テメェ!今の今までどこにいやがった!こっちは大変だったんだぞ!?」

「ひぃっ!?か、彼を探してたんだよ!?アザゼルに連れてかれてたみたいだし……」

 

 そう言って傍らのメフィストに、全員の視線が集まる。

 だがやはりというべきか、メフィストはいつも通り飄々として、

 

「いやぁ、ワタクシとしたことが、旧知の仲ということですっかり油断しておりましたぁー!このメフィスト、一生の不覚!!」

 

 と宣う始末。いつも通りすぎるその様子に、全員が呆れ返る。

 だが、ホームズやエルメロイⅡ世など、頭の冴える者達はメフィストに問いかける。

 

「彼らのとこにいたということは、それなりに情報も掴んでいるはずだね?」

「もっっちろんでございますよー!彼らの行き先は地上!漂白された地上でございます!!」

 

 縛り上げられたままハイなテンションで語っていくメフィスト。

 

「まず彼の御方々はワタクシ共が初めにおりましたでしょう、偽のカルデア跡地へ向かっておりますねぇ。なにやら、その上空は地上とこちらを隔てる境目が大変薄いそうでして。それを方舟で突き破って地上へと進行、かーらーのー、異聞帯侵略!だそうで!!」

 

 しまいにはアヒャヒャヒャと笑いはじめるメフィストを他所に、今聞いた情報から作戦をまとめていく。

 

「聞いた通りだ。ここで一番の問題点がどうやってあの方舟に追い付き、乗り込むかだが……」

「それについては私から」

 

 ホームズの前にエルメロイⅡ世が出てくる。

 一旦咳払いをすると、立香をはじめとしたサーヴァント達に向かって説明していく。

 

「実はベルフェゴール殿に、あの偽のカルデアの座標を記録、いわゆるマーキングをしておいてもらった。それ故、最終防衛ラインとしてあそこまで跳ぶことはできる。そうだね?」

「う、うん。言われた通り、座標は記憶してる、よ?」

 

 おどおどとしたながらも、エルメロイⅡ世の発言を肯定するベルフェゴール。

 それにエルメロイⅡ世は頷き、再び全員を眺める。

 

「作戦としては、始めにあの場所へと転移し、向かってくるであろう方舟の迎撃。然る後に乗り込み、方舟を墜とす。次点で『傲慢』の討伐、もしくは撃破と言ったところだ」

「おう坊主、空を飛べんやつはどうするのだ?」

 

 エルメロイⅡ世が提示する作戦内容に、イスカンダルが当然の疑問を聞く。

 エルメロイⅡ世は「ふむ」と呟くと、メガネをかけ直して答える。

 

「飛行できない者に関しては、飛行できるものがライダークラスであれば追従して乗せてもらう。定員割れした者に関しては地上にて船底部を攻撃、ないしは遊撃隊に回ってもらう。それでいいか?ライダー」

「応とも!我らに任せておけ!」

 

 イスカンダルは胸を張り、他のライダークラス含めサーヴァント達が任せろと言った風に気合いを入れる。

 それを一通り見て、エルメロイⅡ世は立香を見る。

 

「マスターである君は、自ずと激戦区である迫兵戦に入ることとなる。覚悟はいいかね?我らがマスター」

「もちろん!絶対に止めてみせる!」

 

 周りのサーヴァント達と同じく、立香の気合いも充分であった。そうして、立香達はどんどんと作戦を詰めていく。

 その様子を、アシュリーとデールら悪魔達が眺めていた。

 

「…………ふっ、やはり私の目に狂いはなかった。ゲーティアを打倒した彼らならば、必ず彼奴も討ち果たすだろう」

「……えぇ、そうね。光り輝いてるわ、彼。……妬けちゃいそうね、リーちゃんじゃないけれど」

 

 自重気味に笑みを溢すアシュリー。

 やがて、立香達が別れの挨拶を告げにくる。何も協力できないが、せめて武運を祈るくらいは許してもらおう。

 

「さて、では我らも今は体を休めるとしよう」

「そうね、いつか、そう遅くないうちに始まる決戦のためにも、ね」

 

 であれば我らは待とう。カルデアよ、必ず勝ちたまえ。我ら悪魔に、今度こそ平穏を────。

 




数が多いと書くの大変だよね。うp主は海底二万マイル持ってるのでネモ君紹介余裕ですね(フラグ)。

次はリリスとアスモデウス達の幕外とステータス用意しようかなと。
次の章は『傲慢』編。それ含め残り三章の予定です。


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5-幕外-A 『色欲』の命題


アスモデウスの追想。

実は追想話が一番書くのが難しいって話する?



 

 私はアシュリー。『アスモデウス』の女性的性欲の現れとして女型の姿を採っている悪魔。そして、あらゆる悪魔の原典である、『人々の記憶上の存在』。そして、名だたる聖書の悪魔。

 とは言っても本当の私はゾロアスター ──言うところの、『この世全ての悪(アンリ・マユ)』の原典と同じくする者。あんなのと一緒にされるのも腹が立つ話だけれども。

 

 それらを踏まえて改めて名乗るとするなら、私は聖書の悪魔、真名を"アエーシュモー・ダエーワ"かしらね。でも、そんな御託はどうだっていいの。

 今でこそ『色欲』の悪魔だなんだと言われているけれど、ほんとの私は、純愛と純情を愛する恋の徒だったよよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────私は始めは滅びの悪魔として生まれた。人間が生まれる以前の魔界で、あらゆる者に滅びを与えるための、そういう装置として活動していた。

 けれど人間が、アダムとイヴが地上におとされてしばらく、私は人間に、恋に興味を持つようになった。純愛、敬愛、悲恋、失恋、歪恋、──そして愛欲。

 数多の恋愛のカタチを見て私は、それをとても尊く、美しいものだと感じるようになった。それと共に、人の心はなんと賛美に満ち溢れているのだろうと、私の心は撃ち抜かれてしまった。

 

 強いていうのなら、『人間の心という宝石に恋をした』とでもいいのかしらね。

 

 けれど、それはあの日、からくも崩れさってしまった。

 とある何でもない日、私は悪魔として喚ばれることになった。それはいい、今までもあったことだから。

 けれど、そこで見たのは、醜いほどの差別、肉欲、そして吐き気を催すほどの淫蕩な臭い。そんなものをまじまじと見せられて頭に来ない者はいないでしょう。

 だから私は、喚びだした者含めてそのまま淫蕩な世界に溺れてしまえと呪いをかけた。それが"ソドムの街"。

 だから、破滅しても私には関係ないと思っていた。

 

 ────けれど、神の裁きが下ることがわかって、私はなんとも言えない気持ちになった。"神がなぜ人の業に手を出すの?"、"なぜ人は変わらず愚かさを繰り返すというの?"。言ってみれば、人間のことに、神が手をだすことが許せなかっただけなのだけれど。

 だから私は天使を装って、せめてあの中でまともなままであった人々のみは助けたいと、私はとある家族を逃がした。けれど、やはり許されないことだったのか、私と一番親しくしてくれた婦人は────そのまま塩の塊となって元に戻ることはなかった。

 

 

 それから悠久にも似た時を、己の無力さに打ちひしかれながれ過ごしていた。そんな中でも勝負を吹っ掛けてくる相手には事欠かず、私は次第に悪魔の中でも恐れられる存在へとなっていった。

 そんな中、私はふと思い付いたかのように外の世界へと出てみた。そこで私は、第二の運命の出会いをすることとなった。

 

 私が入り込んだ人間──サラ、という名前の人間は、とても奇特だった。私にまるで友人の様に接し、手を取り、微笑んでくれた。私もつい、彼女に釣られて笑みを浮かべることも少なくなかった。

 けれど、そんな心優しいサラを利用するような輩もまた居た。彼女の優しさを利用しようとする下衆、彼女の身体のみを求めようとするクズ。幸か不幸か私は人の心、よくに愛に関することなら判る。

 

 だから、殺した。一人目は身体目当ての遊び人。ほぼ政略結婚に近かったけれど、私が彼女に成り済まして初夜を迎える日、男の首を締めた。

 二人目は遺産目当ての愛のない男。これもサラを不幸にさせるだけとみて締めた。次も、次も、その次も。ろくでもないやつらばかりだった。

 

 それが変わったのは八人目──トビアという男だった。気弱で、根性なしのもやしっ子。けれど、人一倍優しくて、人一倍誰かのために動ける男だった。そして、サラの本当の初恋の相手。

 私は聞いたわ、「本当に彼でいいの?」って。彼女は答えたわ、「ええ、彼でいいの」って。というより、私自身もう彼以外いないだろうとみていたから、聞くまでもないことだったのだけれども。

 

 そして私は、たまたま近くにいた"とある天使"に頼んで、『魚の内臓を香炉に入れて焚く』なんてバカげた払い方だったけれど、それでサラから出ていったわ。

 

「さようなら、幸せになって、親友(サラ)

 

 そして私は天使に連れられて、サハーラ──今じゃエジプトと言うのかしら?そこの奥地でしばらく身を隠しながらサラの様子を見て、彼女の最期を見届けてから魔界に戻っていったの。

 あぁ、サラ。幸せになってくれてありがとう。そして、この世界のどこかで生きているサラの子孫たちを、私は決して喪わせない。そう誓ったのよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初めまして諸君。いや、『久しぶり』だと言うべきだろうか。

 我──否、私はデール。先のと同じく『アスモデウス』の男性としての片割れ。そして、元魔神柱こと、ソロモン72柱の一柱、『アスモダイ』である。

 とは言え、私はもはや敗残兵に過ぎず、すでに72柱としての権限は放棄されている。つまるところ、私はもう魔神柱にはなれんということだ。

 

 時間神殿にて我らと貴様ら、互いにしのぎを削り、そして貴様らが勝ち、我らは敗北した。

 後に、私とは違う方法で落ち延び、特使五柱と呼ばれるようになった彼らとは違い、私はすでに、魔神柱としては顕現できなくなっていた。虚数空間にて、このまま消え去るのだろう。と、半ば諦めかけていた。

 

 ────生きていたい。もっと、もっとあの人間が魅せた人の心を視たい──。虚空で不覚にもそう思ってしまい、私は誰とも知れぬ自嘲を浮かべた。

 

「──なら、一緒に視てみないかしら?」

 

 "彼女"と出会ったのはその時であった。私と同じ存在名でありながら、その在り方、そしてその姿に、私は惹かれたのだろう。にべもなく、私はその手を取った。

 それから私達は、この魔界でさらに実力を上げ、『七大罪』の悪魔とまで言われるようになった。

 とは言えやっていることなぞ、人々の恋愛を覗いてはあれこれと意見を出し、一喜一憂し、そして喜び合う。まぁ、下世話なことだとは判っているのだがな。

 

 まぁら前述の彼女と比べると、私は新参であるが故にそこまでの話はできないが、今の私は魔神柱であったころよりも生き生きしているのだろう。

 

 人類の救済は我々"魔神柱"では不可能であった。そして我は力を失い、魔神柱ではなくなった。

 ならば、いっそ己な思うままに生きてもいいのではないだろうか。そこに縛るものがないのなら、自由に生きてもかまわないだろう。それが人であり、そして私なのだ。

 

 ふふふ、私も随分と人間くさくなったものだ。あぁ、自由とはこれほどまでに甘美であり、優雅であり、そして人間とは、これほどまでに物語に富んでいたのか。

 私はそう感じずにはいられない。そして、それと同じくして、人間という種を滅ぼすことで救おうなどと、全くもっておこがましいのだと、改めて思い知ったよ。

 

 

 





色々長くなって申し訳ない。

もし内容についてなにかしらの要望があれば、逐次感想欄にてご提案頂けるとありがたいです。



ちょびっと大罪コラム

アスモデウスの二人は互いにベストパートナーとして認めあっているせいかよく恋人と間違われる。
けど間違っても本人たちの前で言ってはいけないぞ!彼らは兄弟みたいな関係であって、恋人というと魂の髄までスライムのように融かされるゾ!!




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5-幕外-B 『嫉妬』の過去


リリスの回想話。

バイトの時間と眠気と闘いながらだったので、支離滅裂でもどうかご愛敬をば。



 

『其は傲慢也』『其は無謀也』『其は嫉妬也』

『故に、其は不認也』

 

 どうして?どうして?私は、ただ愛した人と同じように扱って欲しかっただけなのに。私は、ただ『人』として扱って欲しかっただけなのに。どうして────。

 

 

 私は、『はじまりの人』の片割れ、『女性の人間』として神によって創られた。目が覚めて、神は私にこう言った。

 

『是。汝、はじまりの者。彼の者と共に居よ』

 

 次に現れたのは年若い、容姿の整った男性だった。

 

「よろしく、僕はアダムだ」

 

 そこから、私の『人生』が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇアダム」

「なんだい?リリス」

 

 私は、この自我を持ってから思ったことを、愛しい彼に告げる。

 

「私って、必要とされてないのかしら……」

「……どうしたんだい?」

 

 悲しい表情だったものだから、彼は心配してくれた。私は、そんな彼の優しさに耐えきれず、話すつもりのないことを正直に話してしまう。惚れた弱みというやつかしらね。

 

「私、あなたより杜撰に扱われている気がするの。貴方と私で、ようやく対等なのだと思っていたの……」

「そう…………」

 

 彼は悲しい顔をする。今思い返せば、これは私を憐れんだのかもしれないし、私が真実にたどり着く可能性を見て残念に思っていたのかもしれない。

 もう今となっては聞くことはできないのだけれども。

 

「……ねぇアダム。貴方は私を愛してる?」

「……あぁ、愛してるよ。リリス」

 

 ただその言葉だけが嬉しくて、ただその言葉の甘美さに酔いしれたくて、私は彼に甘えていたくて、彼といられるならば、どんなことでも乗り越えられると信じて。

 

 

 

 でも、そんな甘い夢はいつまでも続かなかった。

 私が抱いた疑念をどこから知ったのか、神が私をその御前に引っ張り出してきて、そこからはもうさっきのように否定され、そして糾弾された。

 

「ね、ねぇ……アダム?助けてよ……助けて……」

 

 愛しい彼の名を呼ぶ。でも、彼は来てくれなかった。

 

「アダム…………アダム……、助けて!助けに来てよ……"愛しい貴方(アダム)"ゥ……!!」

 

 

 その時、私は全てを察した。あぁ、救いなど、ひたすらな純愛など、存在しないのだと。私という存在は、認められないのだと。

 だから私は、愛しい貴方への愛と、寂寥と、そして目の前にいる、このわからず屋な"神様(クソッタレ)"に向かってありったけの怒りと呪詛を込めながら、その忌々しい名前を叫んだ。

 

「おのれ……おのれ……■■■■ェェェッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから私は、当時はまだ緑のあった紅海のほとりで一人で過ごしていた。

 愛しい彼も居らず、ただ一人、呆然と海を見て過ごす毎日だった。その時の私は、まるで脱け殻のようであっぢろう。

 そんな折に、あの愛しいアダムからの遣いでもきたという三人の天使達と出会う。上にいたころから、私を支えて色々な手助けをしてくれた三人が。彼らは口々にこう言った。

 

「■■■■様にアダム殿が直談判なされました」

「アダム殿は貴方の帰りを求めたのです。■■■■様はこれを不承不承ながらですが承ったのです」

「早く戻りましょう。じゃないと────私達はこの地上に産まれた子供達から100人、殺さなければならないのです……っ」

 

 思わず鼻で笑ってしまう。なにが早く戻れ、だ。どうせ戻ったところで今以上にひどい目に会うのが関の山。だから、戻るつもりなんてさらさらない。

 あぁでも、彼は納得しないだろうから、適当な理由でも立てておこう。そして、もう"ここ(地上)"には、二度と帰らないようにしよう。

 

「お断りよ。私は、これから生まれるであろう子供達を苦しめる者。殺すなら好きにしなさいな」

 

 毅然とするように見せて背を向ける。そして私は、自ら煉獄や魔界と繋がっている冥府の門へと足をすすめていく。

 その姿に、三人の天使達が驚く様子を浮かべているのがよくわかる。それはまるで、よもや自分から死への道を歩むとは思ってもいなかったからだと言わんばかりに。

 ふと、私は、さっきのだけではアダムが辛い顔をするだけだろうから、せめてもの置き土産を残す。

 

「──けど、ある三人の天使達の名前を記した護符付きの子は、見逃してあげましょうかしら」

 

 そう言い残して私は下へと降りた。振り返ることもせず、降りていく。下へ、下へ、もう二度と会うことのない愛しい彼を想いながれながら、降りていく────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから私は、あまねくサキュバス達からいつの間にか羨望を集めるようになっていき、それでも私は、胸に空いた空虚を埋めるなにかを探すため、魔界の方々をうろついていた。

 そんなある日のことだった。唯一無二の親友とも呼べる、"彼女"との出会いは。

 

『なによアンタ、そんな何か抜け落ちたみたいな顔して。辛気臭いわねぇ』

 

 かつていた場所を思い出すかのような海から、一匹の巨大な海蛇が顔を覗かせてきた。当時を思い返せば、あれはびっくりしてもおかしくなかったと思う。

 でも、愛しい彼を失ったことの喪失感から、私はただ彼女に愚痴を言っていた。そして黙って聞いていた彼女といつの間にか意気投合し、お互い愚痴を言い合う仲となった。

 

 いつしか魔界でも屈指の実力者と言われるようになっていき、『大罪悪魔』とさえ揶揄されるようになっていった。

 

「……ねぇレヴィ?」

『……なによリリン』

 

 こちらのたくらみ顔にいぶかしげに、それでいてまた何か考えてるのかと呆れた感じで返してくる、レヴィこと親友のレヴィアタン。

 そんな彼女の、いつもの冷たい視線をうけながらも私は続ける。

 

「貴方、私の代わりに大罪悪魔の席に座ってくれないかしら?」

『……一応聞くけど、理由は?』

「だって……彼に私が悪魔になった、なんて知られたくないもの……」

 

 彼に知られると思うと恥ずかしさと申し訳なさでもじもじしてしまう。そんな私を白い目で見ながら、レヴィは『あー、はいはいゴチソウサマ』と呆れ半分で返してくる。

 やがて嘆息して彼女な答える。

 

『いいわよ、やってあげる』

「い、いいのかし『ただし』ふぇ?」

 

 そこで一区切りつけると、レヴィアタンは真面目な顔つきになってこう言った。

 

『いい加減、その彼のことは忘れなさいよ。もう奥さんいるんでしょ?イヴ、だったかしら?』

「…………えぇ、そうね」

 

 その事実を再確認して、私はまたしても喪失感に襲われる。その様子をみたレヴィは、またため息をはいてから、『あと、会合には一緒に参加ね』と言って私をあたふたさせたのはいいお話。

 

 まぁ、それから紆余曲折あって、レヴィには苦笑いされたけど私も新しく好きな人ができて、今は楽しい悪魔ライフを送っているわ。

 全く、悪魔がいやしいだなんて、一体だれがいいはじめたのかしらねぇ。

 

 





※大罪コラム※
→悪魔である『レヴィアタン』と、龍である『リヴァイアサン』は全くの別物であり、呼び方を間違えると侮辱になるので注意しよう!!

→リリスの好きな人は言わずもがなベルゼビュートだゾ!!でもベルゼビュートは鈍感どころかむしろ"付き合いのいい異性の友人"としかみてないから、恋愛の進展はほとんどないゾ!!
でもたまに魅せる漢らしさや少女マンガじみたシチュエーションでリリスの好感度ばかり上がってるぞ!!どこの恋愛ゲーだろうな!!(なおそこから様々な女性達からも本人は気づいてないがモテてる。無自覚系イケメソチネ)



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5-states(1) 〈アサシン〉


アスモデウスのステータス。

まさしく男の天敵にして男性の夢の権化。
だが夢を叶えたら死ぬと思え。



CLASS適正:Assassin/Caster/Avenger

 

真名:アスモデウス(女性:アエーシュモ・ダエーワ、男性:"元"魔神柱アスモダイ)

マスター:―

性別:男女両立

身長/体重:※頻繁に変わる為、測定不可

属性:混沌/悪

 

 

筋力:C+

耐久:B

敏捷:B-

魔力:A~A+

幸運:C

宝具:C+~EX

 

 

〈クラス別スキル〉

 

・気配遮断:D

→自身の気配を消すスキル。基本的に攻撃に移ると大きくダウンしてしまうが、アスモデウスの場合そもそも攻撃するのではなく、誘惑することを主にするため、あくまで自身の正体を秘匿するためだけに使われているスキル。

 

 

・自己回復(魔力):B+

→顕現している限り魔力が延々と湧き続けるスキル。本来はアヴェンジャークラスのみに与えられるものだが、元であっても魔神柱の名残故に、炉心さえあれば魔力の永久補填が可能なために発現した。

 

 

・大罪魔王:C+~AA++

→悪魔達の王に与えられる神性の変異スキル。あらゆる"異常"に対してどのスキルよりもとても高い耐性を与える。本来、ゾロアスター教に置ける悪神の一体だったのだが、真性悪魔化や魔神柱との融合によっていくらかランクダウンしている。

 

 

〈固有スキル〉

 

・暴走情欲:A-

→他者の、主に性欲に関して男女も人か否かも問わず、"性欲がある"のならば問答無用で強く作用するスキル。対象の性欲を刺激し、理性を生殖本能で塗り潰すことにより、一種の『狂化』付与と『洗脳』効果を持つ。また、付与された対象はアスモデウスに対し麻薬の中毒症状にも似た盲目的に忠誠を誓う。

似たものに『傾国』があるが、こちらはその上位互換である。

 

・黄金律(体):B

→決して変わらない美しさを保つ、ただそれだけのスキル。アスモデウスの場合、ロリショタから熟女老紳士までありとあらゆるものに変化するのだが、これによって相手が最も望む姿への変貌の一助となっている。

 

・大罪『色欲』:B+~EX

→アスモデウスの『七大罪』の悪魔としての権能。相手の望む姿、望む仕草を叶え、愛欲を刺激する抗いようのないフェロモンを放つ。最低値であるB+でも対魔力がA以上なければ即座に昏倒する程。さらに相手の生命力を奪い、自身の魔力を回復する『搾精』も含まれているため、擬似的な『単独行動』状態となる。

 

 

〈宝具〉

 

・『渇望叶える淫欲の伴侶』

ランク:C+ 種別:対人(精神)宝具

レンジ:1~10 最大捕捉:10人

→ファム・ファタール・メルター。多少の持つ淫欲、俗に言う"性癖"を望むままに叶え、なおかつ相手の性欲をこの上なく刺激させる。

より具体的に言うと、対象の性癖をそっくりそのまま再現した存在に肉体及び精神を変化させ、追い討ちをかけるように相手の性欲を強く刺激するフェロモンを放ち、理性な揺さぶりをかけて『獣(ケダモノ)』とする。

これによって陥落した者は種族問わずアスモデウスに陶酔することとなり、もう二度と離れることができない、一種の麻薬中毒にも似た状態となる。それ故に、アスモデウスと交われるのであれば如何なる手段も問わない従順な配下が生み出されていく。

 

 

・"権能解放"『色欲に溺れよ妄者』

ランク:EX 種別:対理性宝具

レンジ:アスモデウス周囲1.5km圏内 最大捕捉:同100m圏内

→リミッターオフ"ラスト シンドローム"。アヴェンジャークラス時のみ使用可能となる宝具。ただしマスター自体にも作用してしまうため、本当の『切り札』。

仕組みは至って簡単、アスモデウスを中心として強烈にして特殊なフェロモンを周囲に放つだけ。ただし、そのフェロモンは性欲がある存在であれば、例えどれ程の対魔力や耐性があろうとも一瞬で昏倒し、その性欲の赴くままに行動するケダモノと化す。

範囲外から逃げてもフェロモンに感染したものと交われば、そこから更に感染していく負の連鎖を巻き起こすいわゆる『感染終末期(パンデミック)』を引き起こす。

 

 





正直今さらだが……、


大罪悪魔ってfateサーヴァントの中でもズバ抜けてインフレし過ぎじゃね?
割りと最近そう思うけれど、真性悪魔だからこれぐらい許されるよね。

まっ、是非もないよネ!(クギュゥゥゥ)


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5-states(2) 〈ライダー〉


実は純情、リリス&レヴィアタン編

リヴァイアサン?あれは別人です。



適正CLASS:Rider/Barserker/Avenger

 

真名:リリス&レヴィアタン

マスター:―

性別:女性

身長/体重:161.6cm/■■kg ※乙女の秘密よ?

属性:混沌/中立

 

 

筋力:E+(B)

耐久:C(B+)

敏捷:C+(A)

魔力:B(A+)

幸運:C

宝具:A~EX

※(内)はレヴィアタンのステータス値

 

 

〈クラス別スキル〉

 

・騎乗:EX

→乗り物に対する適応力を表すスキル。EXランクともなると、如何なる乗騎とも同化・融合できるが、自身の親友たる『レヴィアタン』どだとそれがさらに真価を発揮するようになる。具体的にはリリスのステータスがレヴィアタンと全く同じ状態となる。

 

・大罪魔王:C~A+

→悪魔達の王に与えられる神性の変異スキル。あらゆる"異常"に対してどのスキルよりもとても高い耐性を与える。リリスとレヴィアタンはその権威を折半している(3:7でレヴィアタンに比率が大きい)とは言え、その力は衰えることがない。

 

 

〈固有スキル〉

 

・魅男嫌女の美:B

→リリスの存在的逸話より発現したスキル。元々のリリスにはこの様な逸話は存在しなかったのだが、悪魔として語られていくうちにその様な価値観を持たれるようになったことで発現した。

男性からすればとても魅力的に見え、女性からは卑しいものと見られるが故に、一種の意識集約のような効果を持つ、常時発動型スキル。

 

・魔渦竜の加護:B+

→レヴィアタンが親友たるリリスに付与した加護。レヴィアタンと共にいる場合、ないしは1日五回まで任意による使用ができる。

効果としては「自身に向けられるあらゆる攻撃を無効化する」というもの。ただし無意識的な攻撃までは無効化できないという欠点を持つ。

 

・大罪『嫉妬』:A~EX

→リリスとレヴィアタンの『七大罪』の悪魔としての権能。精神操作系の権能であり、男性ならば従順な下僕に、女性ならば嫉妬と敵意による一時的な狂化状態にさせる。ただし『色欲』と違い、男女共に効かないものには効かないものの、性欲の有無で作用はしない。ただし性別のないものには効かない。

 

 

〈宝具〉

 

・『召喚・唯一無二の親友』

→サモン・レヴィアタン。読んで字の如くレヴィアタンを召喚する。レヴィアタンかリリス、二人のうちどちらかが生き残っていれば、お互いがお互いを召喚することができる。

 

・『大海嘯』

ランク:A 種別:対軍宝具

レンジ:~500 最大捕捉:15万人

→メイール・シュットローム。これはリリスではなくレヴィアタンの宝具。『リヴァイアサン』と似た宝具ではあるが、『リヴァイアサン』の場合は表記が"タイダルウェイヴ"となる。

リヴァイアサンのものと違い、レヴィアタンのは周囲に海水を、なければ湧き出させて自身にまとわせる。そして球体のようにまとわせた海水を自動追尾する槍のように放ち、動けなくなったところに、残った海水をその巨体でドリルのように渦巻かせながら突撃する。

場合によっては神造兵器にすら匹敵する、いわゆる海の槍。とは言え、本家本元のリヴァイアサンはこれ以上だという。

 

 

・"権能解放"『狂気に惑う嫉妬』

ランク:EX 種別:対城宝具

レンジ:不明 最大捕捉:不明

→リミッターオフ "エンヴィー マスカレイド"。リリスとレヴィアタンが共に権能を解放したときのみ発動可能となる『大罪魔王』としての二人の最大の宝具。

固有結界の一つであり、自身の周囲に妖しい雰囲気の漂う大広間を展開する。そこでは様々な仮面を着けた男女が踊っており、さも仮面舞踏会の様を表している。

だが、その真価はそれだけではなく、そこに囚われた者は仮装した者達の中に楽しそうにしている自身の想い人や大切な相手を錯覚するようになっていき、次第に嫉妬の炎に駈られることとなる。だが、踊ることを強要されていくうちに荒み、精神を崩壊させていく。

これは、嫉妬に狂わせ、その心を手折り、自らの力の一部とする宝具である。

 

 





リヴァイアサンとレヴィアタンはよく混同されがち、というか、出典的には同一なのですが、当方では別人ということにさせて頂きました。

何せ当方は竜と龍の違いには個人的にこだわりがあるので、えぇ。


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第六章 『傲慢』の翼
6-1 方舟襲撃



ついにここまできたか……

第六章、ルシファー編です。

いきなり艦隊戦っていうね



 吹き荒ぶ乾いた風、水も命も枯れ果てた世界。崩壊したビル群の地平線から、遥か彼方からもよく見える純白にして巨大な浮遊物──ノアの方舟。

 その進行方向に、幾百もの人影が並び立つ。各々の武器を持ち、いざ対峙せんとばかりに闘志を沸かす。

 

「準備、整いました。いつでもいけます、マスター!」

「うん……──さぁ、行こう!!」

 

 関の声。数多のサーヴァント達が空を翔び、地を駆け、宙を進む方舟を墜とさんと立ち向かう。

 その中でも、先制を撃ったのは、禍々しい黒さの近代的な戦闘機だった。

 

「Arrrrrrrroooooooooooo!!」

 

 戦闘機から発射されるミサイル。潤沢な魔力のバックアップによって逐次弾が生成され、発射していく。

 方舟から響き渡る警告音のような重低音。次の瞬間、無数のレーザーが方舟から発射され、ミサイルを次々と撃ち落としていく。

 それだけでなく、終わりなく発射し続けているレーザーは、今度は戦闘機を撃ち墜とさんとばかりに濃密な弾幕を展開する。

 

「おっとォ、そっちばかりに気ぃ取られてんじゃないよ!砲撃用ォ意!!」

「デュフフ、拙者活躍の時!気合い入れていくでござるよー!!」

 

 戦闘機ばかりに気を取られていた方舟に、弾幕の間隙を抜けていくつかの砲弾が命中していく。とは言え、あまりの巨体故に然程損傷は目立たない。

 だが、その攻撃によって一瞬だけ攻撃が止む。しかしすぐさま、今度は全方位にレーザー砲を発射する。しかし、サーヴァント達もまたその並々ならぬ技量で光線を避けていく。

 

「まだまだたんまり食らいな!!」

「「敵艦捕捉、スカートフレア展開!」」

 

 数えきれないほどの弾幕が方舟へと殺到する。だが、方舟からも同じくらいの光線砲撃が放たれ、大半が撃ち落とされていく。

 そんな最中、不意に方舟の甲板から極光が瞬きはじめる。

 

『────ッ!!マズいぞっ、方舟の甲板上に膨大な魔力反応確認!』

『ちらちらと集る羽虫共め…………身の程を知れ』

 

 ルシファーの苛立ちが乗った言葉と共に、膨大の魔力が圧縮された、恐らくは主砲級の砲撃が放たれる。それはまさしく一撃必死の破壊光線であった。

 

「『梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)』!!」

 

 だが、その光線に、一筋の熱線が対抗する。互いに衝突し、無力化し合うことで限界凝縮されたがために、宙で大爆発を巻き起こす。

 

「悪いな。生憎だが、オレがいる限りその攻撃は当てさせん。そして──」

「────漲れ、『炎神の咆哮(アグニ・ガーンディーヴァ)』!!」

 

 そこから砲撃の間隙をぬっていくつもの炎のような矢が甲板に当たり、さらなる爆発を上げる。

 カルナとアルジュナ──二人のコンビネーションによってもろにダメージを負い、ほんの少し、だが少しながらも飛行高度が下がる。しかしそれに比例するように、方舟からの砲撃も激化していく。

 

「ちょっとティーチ!ちゃんと避けてよ!?アンタと心中だなんてこっちは御免だからね!!」

「■■■■ー!!」

「余裕のよっちゃん、問題ナッシング!!俺様の船はこの程度じゃ沈まねぇのサァ!!だから暴れるのはやめてくだちいヘラクレス殿!?」

 

 空中で未だ砲撃を繰り広げる船団。その内黒を基調にした船と、赤を基調にした船が方舟の周りを縦横無尽に駆けていく──のだが、黒い船はどこか不安定に見える。

 それもそのはず、黒い船──そのまんま黒ひげが駆る船にはアンとメアリーやヘラクレスなどの数騎ものサーヴァント達が乗り込み、思い思いの攻撃を繰り広げているのである。

 

「あらよっと!……うーん、光線を槍で弾くたぁ本格的に人間止めてんだなぁオレは!」

「それは今さらではないかネ?ほい、発射。からの射撃!」

 

 黒ひげの船の甲板にて、飛来する光線をその槍で弾くヘクトールと、背負った多機能型棺桶(ライヘンバッハ)からミサイルを放つモリアーティなど、強力なサーヴァント達が揃い踏みであった。

 

「ではではー、拙者も本気出すでござるよー!行くでござる行くでござるぅ!『アン王女の復讐(クイーンアンズ・リベンジ)』!!」

 

 黒ひげが宝具を展開すると共に、その背後に多段に積まれた大砲群が現れる。そして、黒ひげが方舟を指差すとともに大砲群が逐次砲撃していく。

 いくつかは撃ち落とされてはいるが、大半は方舟にどんどん命中している。

 

「んん~ww一方的ですぞぉー!……とは言え乗り込めねぇのはつらいがn 「あおっとしくった」 熱っづぁッケツがぁ!?なんでぇ!?」

「「ほんとしまらないな(しまりませんわね)!!」」

 

 宝具を放ち油断した黒ひげの尻に、ヘクトールが弾き損じた光線がかすり着火する。突然のことに驚いた黒ひげは、甲板を走り回りながら急いで火を消す。その姿に、既視感を抱きつつも呆れ返るアンとメアリー。

 そんな中でも砲撃の雨は止まず、敵味方共に撃ち合っていた。だが、そこに一筋の黄金が駆け抜ける。光速を越える勢いで飛ぶ黄金の上には、数人の姿が影立っていた。

 

「──ふん、この我の舟に乗せること自体光栄と思えよ、雑種共」

「ははは、ギルは相変わらず素直じゃないなぁ」

「わ、私達お空を飛んでるわマスター!すごく速く飛んでるわ!」

 

 黄金の舟──ギルガメッシュのヴィマーナで方舟の上を取る。ヴィマーナの上には、立香やベルフェゴールをはじめとした数騎のサーヴァント達が揃っていた。

 

「皆、いくよ!!」

 

 その掛け声で、立香とサーヴァント達はヴィマーナから方舟の甲板へと飛び降りる。風を切り、撃ち蒔かれる光線を避けて、立香達はついに方舟の甲板へと降り立つ。

 

 





ノアの方舟はイメージとしては、

・外見:ワンピースの『方舟マキシム』(余計なもの全部取っ払ってガチに船体だけにしたver)×ヤマト2199の『ドメラーズ』(艦橋のみ)×新・パルテナの鏡の『星賊船』(武装、装飾など)。

・能力:巡航速度:エヴァ作中の『ラミエル』と同じぐらい
最大速度:不明 ※ヴィマーナ以上なのは確定
火力:主砲→『波動砲』(ヤマト2199より)並み
副砲→一発一発が山に風穴開ける程
※それらが某弾幕ゲーにおけるルナティック級の密度かつ光速で飛んで来る。


新・パルテナの鏡の星賊船をみれば大体分かるのですが、方舟が星賊船ぐらいと仮定したら、ホエーラ(クジラのやつ)がティアマト、ピット君がヴィマーナだと思ってください。




バカでけぇぞ…………。(なおこの方舟は宝具ではありません)


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6-2 白兵戦 開始


七大罪達のセリフ聞きたいという方がいらっしゃって、なんか、何とも言えない嬉しさがありましたねw

方舟がでかすぎるって?神話からもうでかいのに今さらですよ。えぇ。


 

 それは開戦前まで遡る────。

 

 

 

「さてと、それじゃあどうやってあの船を墜とすかから考えようか」

 

 フィニス・カルデアに見せられていた岩山まで、ベルフェゴールの転移によって戻ってきた一行。そこからダヴィンチちゃんの声によって作戦会議が始まった。

 とは言え、かのティアマトを優に越える大きさの方舟を、如何にして墜とすかなどすぐさま思い付くわけもなく、論議は始めから難航していた。

 

「あれを墜とすだけの火力は……用意できねぇわなぁ」

「「私(僕)の聖剣でもあれは厳しいですね(かな)」」

 

 各々の意見を述べるサーヴァント達。ふと気づいたかのように、イスカンダル大王がギルガメッシュに問う。

 

「ふんむ……なぁ英雄王よ。確かお主、ワシの固有結界を破壊する程の宝具を持っておらなんだか?」

「……戯け、"乖離剣(アレ)"は相応の相手にしか抜かんわ。そもそも、あの贋作を墜とす程ともなると、この世界自体破壊してしまいかねんぞ。死にたいならばそれでもかまわんがな」

「ボクのも、残念ながら墜とすには足りないと思うね。動きは止めれるだろうけど、多分墜とすことはできないと思う」

 

 半ば落胆したような反応のイスカンダルに、議論そっちのけで不機嫌さをあらわにするギルガメッシュ。

 そんな光景を傍目に、まだまだ議論は続いていた。

 ──だが、とある者の発現で、その議論は止まることとなる。

 

 

 

「ん~、船なら突っ込んで乗り込めばいいのでは?拙者"海賊"でござるし」

 

 

 

 

 静寂。全員がその声の主を見る。気だるそうにしていた声の主────黒ひげは、全員に一斉に見られたことで動揺していた。

 

「な、なんでござるか……。そんなに見られると拙者恥ずかちいでごz「それだ!!」……最後まで言わせて欲しいなー……」

 

 多少いじけてはいるが、まさしく的を射た発言であったことにダヴィンチは食いついた。

 そこからさらに作戦が組上がっていく。

 

「よし、よし……!組上がってきたぞ……!まず彼ら船を持つサーヴァント達で方舟に波状攻撃を加えていく」

「──そうか!その波状攻撃に気を取られているところでマスター達突撃隊を投入、というわけだな。……成る程、だがこれは賭けではないか?」

 

 エルメロイⅡ世の疑問に、ダヴィンチは指振りに合わせて舌を鳴らす。人によっては小馬鹿にしているようにも見えるが、ダヴィンチはそれで終わりではないとばかりに説明を加えていく。

 

「確かに賭けかもしれない。けれどね、これは成功する。なぜなら────────」

 

 

 

 

 

 

 

 

「グハッ!!」

「────なぜなら、敵は『傲慢』だから。まさしく的を射た指摘でした」

 

 立香のそばに、護衛のように立ち、向かってくる堕天使達を退けたワルキューレ三姉妹の一人、ヒルドがそう言う。

 さらに立香の前には、旗を持って薙ぎ払う二人──ジャンヌとジャンヌ・オルタが、片方は神妙な顔つきで、もう片方は狂喜として堕天使達を倒していた。

 

「ジャンヌ、大丈夫?」

「えぇ、ですが堕天したとはいえ天使を倒すのは幾らか気が引けますね……」

「はッ、聖女サマは大変ねぇ?まぁ?私は貴女と違って余裕で倒せるので、えぇ」

 

 気疲れしたようなジャンヌに、勝ち誇った笑みを見せつけるジャンヌ・オルタ。そこにもう一人人影──天草四郎が降り立つ。

 

「堕天したとしても、主の威光が衰えたというわけではありません。彼らにも、彼らなりの矜持があるのでしょう」

「当方もそう思う。彼らには、一種の覚悟を決めた者の気迫が感じられる」

 

 周囲の敵を片付けたシグルドも合流し、立香達は広い甲板の上を、艦橋(ブリッジ)に向かっていく。他にもサーヴァント達はいるが、甲板に降り立った際に甲板側と船内側の二手に別れている。

 とは言え、時折飛んで来る砲撃などを避けつつではあるので、あまり悠長にもしていられないのは事実であった。

 

「ブリュンヒルデさんやアビー達は大丈夫かなぁ……」

「案ずるな。当方の愛ならば問題ない。それよりも素早く艦橋を目指し、この舟を止めねばならん」

 

 ブリュンヒルデ、アビゲイル、ベディヴィエール、ロビンフッドなど、シグルド達の他に着いてきてくれたサーヴァント達は艦内の動力炉など要所を目指すために内部へと侵入していった。

 内部へと向かったサーヴァント達のことを心配しつつも、向かってくる堕天使達を蹴散らしていく立香達。と、そこに一人の堕天使が立ちふさがる。

 

「おのれ小癪な!!だがこの先へは行かせんぞ!そう!このバラキエ──「うおおおおお!!遅刻厳禁んんん!!とうっ!」ぐへぇ!?」

 

 颯爽と登場して名乗ろうとしていた堕天使を蹴り飛ばして、スタイリッシュな着地を決めたのは、謎のヒロインXX。しかも重装備バージョン。

 質量保存の法則でかなりの大打撃を受けたであろう堕天使と、それを全く気にせず額の汗を拭って駆け寄るXX。

 

「「「「バ、バラキエル様ぁぁぁぁぁ!!?」」」」

「ん?あれ?なんか私やっちゃいました?」

 

 周りの堕天使達が愕然とする中、渦中のXXは自分が何をしたかわからず、ただ何かしてしまったということだけはわかっていた。

 そんななんともいえない状況を、立香はただ──カオスだなぁ──と思いながら愛想笑いを浮かべるのみであった。

 

 





出落ちキャラと化したバラキエルパイセン!!

颯爽と登場したのにぞんざいな扱いされて、なお脚光を浴びる!そこにしびれる憧れるゥ!!


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6-3 白兵戦 雷の堕天使


ご報告

・作者平安京到達のためRTA並のスピードで4日前から0から巻き上げ中故、投稿がかなり遅れます(現在オルジュナ最終戦)

・作者の人生の師匠から「お前これダメ書き直し」とかなりダメ出しされたのと、ストーリー見直して「あかんわこれ」ってなったのでプロット書き直しています。
※こちらは長編版として以前更新・保存しますので大丈夫です。

リンボ、アテル、チンキュウ、デ、ウツッ!!



「おのれ!よくもバラキエル様を!」

「いつもちょっと抜けててギザったらしいバラキエル様を、よくも!」

「バカっぽいからと言って蹴り飛ばすとは!許さん!ありがとう!!」

「お前達……さては、私のこと嫌いだな?嫌いなんだな?」

 

 少し違うベクトルで怒る堕天使達と、部下の一人に支えられながら立ち上がるバラキエル。が、部下達の顔には憤慨とともにどこか喜色が浮かんでおり、当のバラキエルは虚しそうな顔をしていた。

 そんな様子をまざまざと見せられている立香達の中にはは、とても反応に困った空気が流れていた。

 

「えーっと…………大丈夫?」

「う、む……問題ないとも……うむ……」

 

 多少げっそりとした雰囲気を漂わすバラキエルに、立香は思わず声をかける。

 げんなりとした返事ではあったが、頭を振って気持ちを切り替えたように、再び立香達な目前に立つ。

 

「んんッ!改めて名乗ろう!我が名はバラキエル!ルシファー様の忠実なる僕!!故に、この先を通すわけにはいかん!!」

「あ、ギザっぽいのはご愛敬でお願いしますね」

「「「「…………」」」」

 

 戦闘中、それも今現在も攻撃されているというのに、この空間ではコミカルでぐだぐたな空気がながれていた。

 自身の出し直した空気を部下に再び崩され、構えていた槍の穂先を力無く下げるバラキエル。一条の涙を流して天を仰いだその目には、こころなしか諦念が入っているかのようにも見える。

 

「え、えっと…………よ、よぅし!その勝負、私が請け負いましたぁ!!元はと言えば私のせいみたいなので……

「そ、そうか!一騎討ちだな!?いいとも、いいともよ!!」

 

 なんとも言えない空気感を紛らわすため、XXが前に進み出る。それに対しバラキエルは喜色と助かったと言わんばかりの笑みと汗を浮かべて迎える。

 対面した二人は、互いに互いの武器を構えて空気を締め直す。

 

「元天界近衛一等兵、現ルシファー様旗下第一陸槍大隊長バラキエル」

「エーテル宇宙保安局刑事、コードネームXX(ダブルエックス)

「「いざ!!」」

 

 稲妻を纏う長槍が、宇宙の技術で造られた双槍剣(ツインミニアド)が、同時に前へと駆け、激突する。

 雷があちこちに走り、衝撃の余波が周囲に撒き散らされる。ふざけた空気で薄れていたものの、当のバラキエルは名乗ったように大隊長を任ぜられる程の強さがあり、巧みな槍術を魅せる。

 対するXXはその双槍剣で鋭く突かれる槍を弾き、宇宙技術的なレーザーブレードで切りつけていく。

 

「ぬぅっ、当方からしてもかなりの手練れと見受けられる」

「元とは言え、流石は北欧にまで名高い天界の大天使……これ程とは」

 

 シグルドとヒルドのうめきにもにた感嘆の声。立香はただその一進一退を繰り返す戦闘の凄まじさに、声もなく見守ることしかできなかった。

 

「フハハハハ!身体は充分暖まったな!ではそろそろ本気を出そう────祝福せよ我が槍、『舞い踊る薔薇の雷槍(バラクィエル)』!!」

 

 バラキエルが長槍の真名を解放する──と共に、今までただ雷を纏うだけであった純白の長槍がその姿を変え、各所に施された真っ赤な薔薇と、穂先からまるで稲妻が走ったかのような意匠が目立つ朱槍へと変貌する。

 

「むむっ!パワーアップですか。ですが負けません!!」

「当然!まだまだやれるだろう!?」

 

 さらに攻撃の速度を増すバラキエル。その速度はまるで稲妻のように、その強さは先程よりも遥かに上昇していた。

 徐々に追い詰められていくXX。そんな攻撃の中でつばぜり合った間隙をぬって、バラキエルを思いっきり弾き飛ばして距離を空ける。

 

「くっ、私も出し惜しみは出来ませんか……では!来い、アーヴァロン!!」

「出し惜しみなぞさせんs────

ゴブェッ!!?

「「「あっ……」」」

 

 ゴキリ。そんな鳴ってはいけない音が綺麗に鳴り響く。バラキエルの背後からXXの自立稼働アーマーこと"アーヴァロン"が高速で突撃し、見事バラキエルの背中に直撃していた。

 仰向けに、くの字に身体が折れるバラキエル。その顔には戦闘の興奮からの笑顔があったが、薄らと涙が流れていた。

 

「「「「バラキエル様ぁぁぁぁっ!!?」」」」

「XX……」

「すみません……わざとじゃないんですごめんなさい…………」

 

 目が飛び出さんほどの驚きを込めた部下達の叫び声が響く中、立香は、申し訳なさそうに両手で顔を隠すXXを言外に非難していた。

 だが、バラキエルもただでやられたわけではなく、うめきながらも顔だけは立香達に向ける。

 

「グフッ……や、やるではない、か……この私を一撃、とは……」

「す、すごい根性です……ッ。これが大天使……ッ」

 

 検討違いな驚き方をしているヒルドを他所に、バラキエルはやりきった感を無理矢理に出しながら言葉を紡ぐ。

 

「ゆ、行くがいい……ルシファー様はこの先だ……。ねぇちょっと腰やられたから誰かタスケテ……

 

 それっぽい空気を流して立香達を先に行かせようとするも、残念で悲痛な助けを求める小声が立香達の元に届き、またしてもさめざめとしているXXを見る立香達なのであった。

 

「ごめんなさい……そんなつもりじゃなかったんですごめんなさい…………」

 

 





最後の最後までネタキャラになってしまったバラキエル氏。

こんなネタキャラだけど実力的には☆4サーヴァントに抜てきします。こんなネタキャラだけどね。

どうしてこうなった(笑)。


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6-4 白兵戦 艦内


リアル事情忙しくて全っ然更新できてませぬでした。
すまぬ、すまぬ……。

年内は無理だとわかってしまった上に書き直しのプロットが全然進まない……。おぉうふ、マズイでござる……。



 

 立香らが甲板上を突き進む一方で、ブリュンヒルデらは艦内を突き進んでいた。時折廊下の角から現れる伏兵や、甲板への増援を屠っていた。

 揺れる艦内、引っかかることなく振るわれる巨槍と、どこからともなく現れる名状し難き触手。姿を隠し、背後から不意を突く森の賢者など。彼らはその力を遺憾なく発揮していた。

 

「先行してきましたぜ、この先は牢屋みたいでさぁ」

「迂回の可能性は?」

 

 ベディヴィエールが問うも、ロビンは苦笑いしながら首を振る。それにベディヴィエールは悩ましげな顔をした。

 

「いや他の道もないことはないんですがね?牢屋通った方が監視が抜けやすいのなんの」

「戦闘は少ない方がよろしいですね。牢屋区を通る方針で参りましょう」

 

 ブリュンヒルデの一声で、仲間達は頷き合う。

 一向は牢屋区へと、立ちふさがってくる敵を薙ぎ倒しながら進んでいく。

 ふと、道中通路のわきから叫び声が聞こえてくる。

 

「──急ぎ探しだすんだ!このままではルシファー様に示しがつかない!!」

 

 ブリュンヒルデらが走る通路の右側から、大急ぎな様子で現れる堕天使の一団。

 両者の姿を確認して、先を走っていた堕天使の一人が叫ぶ。

 

「────っ!!侵にゅ──」

「っ、こなクソッ!」

 

 叫ばせまいとしたが、既に現れた通路の奥から異常を感づかれた堕天使達が駆けつけてきている。

 その集団の中でも、隊長格であろう人影が、群を抜いてブリュンヒルデらに襲いかかる。

 

「うおおおお!!我が名はリクス・テトラクス!!ルシファー様の御名において誅罰するッ!!」

「させません!!」

 

 前に躍り出るベディヴィエール。銀の腕と振り下げられた光の剣が交差し、一際甲高い音を放つ。

 競り合う二人であったが、リクスの横から巨大な触手が飛び出し、リクスを横薙ぎに払う。それによってリクスは壁に思い切り背を打ち付け気絶する。

 もう少しで押し負けかけていたベディヴィエールは腕を降ろし、攻撃の主である少女を見やる。

 

「助かりました、ありがとうございます。レディ」

「大丈夫?間に合ってよかったわ」

 

 ほっと胸を撫で下ろすアビゲイル。残りの堕天使達もブリュンヒルデ達が一掃しており、周りには堕天使達が倒れ伏していた。

 

「あまりもたもたしてっと仲間が来きまいやすぜ。ほれ、さっさと行く」

「わわわ、ごめんなさいロビンさんっ」

 

 体勢を整え直し、牢屋区へと走っていく一向。

 

 

 

 

 目的の場所へとたどり着き、重厚な扉を開くと、そこには、鉄格子ではなく、近未来的かつ最低限の生活ができるガラスケースのような部屋が多くある空間が広がっていた。

 

「これは……ミス・プラヴァツキーがおられたならば喜びそうですね」

「えぇ、同時に憤慨もしそうですが……。今は先へ進みましょう」

 

 そうして、無人の牢屋区を駆けていく一向。牢屋とはいえ、未だに使ったことがないのか綺麗なままの部屋が多く、果たして牢屋と言えるのかは疑問であった。

 そうして奥へ奥へと進んでいくと、またしても重厚な扉があり、一向はそれを開け、またさらに同じくあり、同じく開ける。

 すると、大きく拓けた空間が広がっており、奥には淡く光る液体で満たせられた、まさしく動力部だと言わんばかりの設備が置かれていた。

 

「あれが、動力部ですね」

「んじゃま、さっさと破壊工作でも────ッ!?」

 

 ロビンがサッと動力部に近づき、その距離が丁度半ばまで来た時、ロビンの眼前に巨大な炎が吹き付けられる。

 間一髪で避けたロビン。冷や汗をかけながらその炎が吹かれた方を見ると、ふいごを持ち、立派なひげを生やした筋骨隆々な男が、鼻息を荒くしていた。

 

「ワシの仕事道具に手は出させんぞ若造共!」

「うげぇ、なんなんだあの天使らしくねぇやつ」

 

 ロビンの呟くような悪態がその老人に聞こえていたのか、さらに血管を浮かせながら声を上げる。

 

「悪いか!ワシは他人呼んで"ふいご吹き"のグザファン!!ワシの仕事場を荒らさせはせんぞ痴れ者共め!!あとそこの失礼な若造はもっと許さん!!」

 

 そう荒く吐き捨てながら、グザファンと名乗った老人の堕天使はふいごの口をブリュンヒルデらに向ける。

 それに何かを感じたブリュンヒルデは、すぐさま全員に指示を下す。

 

「!!回避を!」

「焼け炭になれィッ!!」

 

 ふいごが吹かれる。と同時にふいごの口から燃え盛る炎が吐き出される。

 ブリュンヒルデ達はなんとか回避は間に合ったものの、仕切りなしに炎を吹き出すそのふいごは、言い得てみれば火炎放射機のようであった。

 とそんな時、あまりの炎の勢いにアビゲイルが悲鳴を上げる。

 

「きゃぁっ!!熱いわ!やめておじ様!」

「おじ様!?ワシが!?そうかのぅ」

 

 すっとんきょうな声を挙げて驚いたと思えば、アビゲイルの方を向き、孫のようにでも感じたのか戦闘中にも関わらずほんわかとした笑みを浮かべる。

 その一瞬の不意を突き、ロビンが後ろに回り込んでふいごを狙い撃ち、ブリュンヒルデがその巨槍で吹き飛ばす。

 

「ごほぉっ!?お、おぉぉ……無体な……」

 

 唸り声を絞り出しながら倒れ伏すグザファン。動かないことを確認してから、ブリュンヒルデらは改めて動力機関に目を向ける。

 

「では、これをどうにかして止めましょうか──」

「──あぁ、これ止めない方がいいですよ。今止めると墜ちるので」

 

 ブリュンヒルデ達しかいない、正確にはブリュンヒルデ達と気絶したグザファンしかいないはずの空間に、誰かの声が響く。

 新手かと思い至ったブリュンヒルデらはその声の方向へと武器を構える。だが、そこにいた者にロビンは、驚き目を見張る。

 

「──っ!アンタは……あのトンデモロックンローラーもどきから話は聞いてるよ」

「おや、それは重畳。……聞いただけだ判るものですかね?私」

 

 疑問を浮かべるスーツ姿の男に、ロビンは苦笑いして答える。

 

「そりゃあもう、あのお嬢さん方から飽きるほど聞いたものでね」

 

 





悪魔つながりで彼を出したいなぁと。

一体何ックスウェルなんだろうか……(ほぼ答え)



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6-5 艦橋 vs傲慢


道満当たった!ヤッタ!

クリイベ進まん!ちくせう!

プロットも進まん!ヤヴァーイ!(某ボトル野郎風)
※ルシファーの宝具名の一部を修正(2021 1/14)


 バラキエルを討ち果たし、甲板を突き進んでいく立香達。目指す先には方舟の艦橋があった。閃光と爆音、そして爆発が鳴り散らされる甲板を走り抜け、ようやく艦橋が見えてくる。

 だが、その艦橋の中から一つの影が現れる。それは自らの背丈ほどもある巨大な翼を生やした銀髪の青年──ルシファーであった。

 

「……ここまで来たことは感嘆に値する。よく来た、人の子らよ」

「ルシファー!」

 

 立香がルシファーの名を叫ぶと、眉間にしわを寄せて立香を睨み付ける。

 睨み付ける。ただそれだけ。そのはずなのに全くもって身体が動かなくなるかのような錯覚に囚われる立香。そんな立香に対し、見下すかのように冷視するルシファー。

 

「……我が名を呼び捨てるか。不遜なり、只人よ」

 

 そう吐き捨てると、ルシファーは人差し指の指先を立香に向け、ただ一言。

 

「不敬。故に死ね」

「!!マスター!」

 

 閃光。不可避の光が一条放たれる。それはかの第七特異点におけるティアマトの光線を幻視させた。だがその時と比べれば、これは立香でもわかるほどに神聖さに満ちており、立香でもわかるほどに死に直結していた。

 サーヴァント達が駆け寄ってくる、だがこれでは間に合わない。スローモーションになる視界のかたすみでそんなことを考え、死を覚悟する立香。だが────

 

「────遅くなってごめん!!」

 

 そんな叫び声と共に立香の目の前の空間に亀裂が入り、砕ける。その虚無の空間へとルシファーの光線が吸い込まれていき、そして立香に届くことなく吸い込まれていった。

 立香は声が聞こえた背後へと振り替える。そこには、息を切らせて肩で息継ぎをしているベルフェゴールの姿があった。

 

「ベルフェゴール!」

「間に合って……はぁ、良かった……はぁ」

 

 フラフラになりながらも立香の隣へと歩みを進めるベルフェゴール。そして、隣に立つや一呼吸して息を整え、ルシファーをにらむ。

 対するルシファーは、未だ超然とした風格を持って相対していた。だが、その顔にはいくらか訝しげにしている雰囲気が漂っていた。

 

「……ベルフェゴール、か。何故(なにゆえ)其の方らに付く?」

「恩を、返すためだよ……ルシファー。悪いけど、退いてもらうよ」

 

 白衣をはためかせ、キッとしてルシファーを見るベルフェゴール。そんな彼に対し、ルシファーはただ「……そうか」と返すだけであった。

 そして瞑目し、何かを飲み込むように一呼吸つくと、その背に生やした黒白の翼を開いて再び立香らの前に歩み出る。

 

「我が名はルシファー。七大罪の魔王が一人、『傲慢』を宿す者。汝の名を問おう、只人よ」

「……藤丸立香」

 

 相手から注意を外さず、しっかりと見つめながら名を告げる立香。目を伏せ、立香の名を反復するルシファー。

 やがて、その銀髪をはためかせながらルシファーが顔を上げて、その手の中に光の弓を創り出す。

 

「……よかろう。ならば藤丸立香よ、見事我を討ち果たし、この方舟を止めてみせるがいい」

 

 その言葉をもって、カルデアとルシファーとの戦いの火蓋が切って落とされるのであった────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆伏せてっ!」

「見事防いでみせよ、『総ての栄光は我に(ジ オール グローリン)有りけり(フォア ワン)』」

 

 ルシファーが光の弓を引き絞り、放つ。その弓からは無数の光矢が尾を引いて立香達に降り注がんとしていた。

 ベルフェゴールの掛け声によって慌てて甲板に伏せる立香達。次の瞬間、ベルフェゴールによって巨大な氷の盾が形成され、ルシファーの矢を防いでいく。

 しかし、それも長く保つわけではなく、次第に亀裂が入っていく。そんな中で、天草がルシファーに向かって一本の黒鍵を投げつける。

 

「…………ふん」

「甘いですよ──セット!」

 

 天草の叫びと共に、最初の黒鍵を避けたルシファーの背後に魔方陣が現れ、いくつか黒鍵が放たれる。

 結局見向きもされず全て撃ち落とされたが、天草としてはそれでよかった。なぜならば────、

 

「ハッ!!」

「てやぁっ!!」

 

 黒鍵を撃ち落とした際の粉塵を利用し、シグルドとスルーズがルシファーを挟むようにして己が武器を振りかぶる。

 しかしそれすらも見据えていたかのように、光の弓を二分割したと思えば、両腕に光の剣ができており、二人の挟撃をその光剣で受け止めていた。

 

「……北欧の竜殺しに…………ほう?オーディン殿の所の戦乙女か」

「えぇ、お久しゅうルシファー様。ですが今は敵同士ですの、でッ!!」

 

 スルーズが、丁度シグルドが力を入れたタイミングでルシファーを薙ぎ飛ばし、距離を空けさせる。当のルシファーは平然と、宙を滑るように勢いを受け流していた。

 盾を構えて槍を向けるスルーズと、スカサハ=スカディ直伝の飛行のルーンを使って宙に立つシグルド。そんな緊張感の中、ほこりを払っていたルシファーが一言発する。

 

「……ふむ…………飽いた」

 

 瞬間、ルシファーが転移する。

 姿を見失った立香達は、どこにいったのかと周囲を見渡す。スルーズは、何かに思い至ったかのように空を見上げる。そこには、いくつもの輝きを背に翼を広げるルシファーがいた。

 

「最早語る言の葉無し。主の怒り、確と刮目せよ────────

 

 

 

 

 

 

主よ、憤りて断罪し給え(トゥルー・メギド)

 

 

 極光が、立香達を埋め尽くしていく──────。

 

 





100前後で終わりそうだぜ!多分な!

保証はしないぜ!!


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6-6 神裁の極光


はい遅くなってすみません……。少し多忙ぎみで中々更新できませんでした。

皆さんクリスマスはどうでした?私?お仕事ですよ?(ニィッコリ)簡単に人生夢見れると思うな。

なるべくマメに更新はするつもりですが、恐らく遅れることが多いと思われますので、どうか暖かい目で見て下さい。けど生温かい目では見ないで下さい………。



 

 それは目がくらむほどの光だった。鮮やかで、神々しく、そして今まで体験してきたいかなる"攻撃"の中でも最も恐ろしく感じたと言えるものだった。

 それは慈悲に溢れ、慈愛に溢れ、憐憫に溢れ、それでありながら人智を越えた無感情さを想わせるものであった。

 無数の光が降り注いでくる。避けようがなく、最早恐怖すら感じることなく、不可避の"光"が届こうと────

 

「させないわ!」「させないよ!」

 

 耳に聴こえる少女の声と気弱そうな声。それに気づいた瞬間、周囲に屋敷だと思わせるかのような"要塞"が現れ、立香達を守る。

 それと同じくして、空中に突如として形容し難い触手が現れ、降り注ぐ無数の光を打ち払っていく。

 

「ここはボクの城だ!誰にも、何人にも侵されはしない、不壊の城。"顕現せよ(エピファシー)"、『金剛不壊の麗城(キャッスル・オブ・ルーヴル)』!!」

 

 ベルフェゴールの、精一杯張り上げたであろう声が、立香の耳にはやけに明瞭に聞こえた。と、同時に。要塞城が一際輝き、その真上に幾何学的な魔方陣が出現し、ルシファーの放った光を受け止めていく。

 豪雨の如く降り注ぐ光に、魔法陣が砕けたかのように視えた。だが、一枚に見えた陣は何層にも重なっており、すぐには壊れなかった。とは言え、受け止める度にベルフェゴールの顔は険しくなっていた。

 

「ごめんなさい、マスター。私、悪い子になるわ──」

 

 そんな声が耳元でしたと思えば、隣には、先程までの臆病そうな少女ではなく、怪しい気配を蔓延させ、おぞましさを携えた少女になっていた。

 

「──イグナ……イグナ・トゥフルトゥ・クンガ。我が手に銀の鍵あり。虚無より顕れ、その指先で触れ給う……」

 

 寒気のする空気が、アビゲイルを中心に広がっていき、そこから何かしらのおぞましい気配を漂わせていく。

 それを見たルシファーは、その眉間にしわを寄せ、アビゲイルに狙いを集中する。だが、一点集中には一点集中と言わんばかりに魔法陣の強度が集中し、簡単には通さなかった。

 

「我が父なる神よ。我、その神髄を宿す現身とならん。薔薇の眠りを越え、いざ窮極の門へと至らん!────『光殻湛えし虚樹(クリフォー・ライゾォム)』」

 

 アビゲイルの周囲から名状し難き触腕が現れ、ルシファー目掛けて一気に殺到していく。

 それに対してルシファーは、焦ることなく冷静に、光の弓矢を放ち、時折剣や槍に形状を変えさせながら打ち払っていく。

 

「絶技用意。太陽の魔剣よ、その身で破壊を巻き起こせ────」

 

 そんなルシファーに向かって、雷のような短剣が数本向かっていく。避けきれず、ルシファーは腕を交差させながら甘んじて受ける。

 そして、目の前に一瞬にしてシグルドが現れ、その長剣を拳で突き放つ。

 

「『壊却の天輪(ベルヴェルク・グラム)』!!」

「ぐぅッ!?小癪な……ッ!」

 

 対竜特攻の宝具とは言え、その威力は人であろうと悪魔であろうと絶大なるもの。シグルドの宝具によってルシファーはその肩に深い傷口を負うこととなった。

 さらに追い討ちをかけるかのように、ルシファーのさらに上から、神々しい光が降り注ぐ。

 

「同位体、接続及び顕現開始──行きますよ、オルトリンデ、ヒルデ」

「待ってました!」

「お待たせしました、行きましょう」

 

 空中に羽ばたいたスルーズ。次の瞬間、オルトリンデとヒルデがすぐそばに現れる。それだけでなく、何人ものワルキューレ達が現れ、その穂先をルシファーへと向ける。

 

「「「同期開始」」」「照準固定」「真名解放」「みんな、いくよ!」

「「「『終末幻想(ラグナログ)少女降臨(リーヴスラシル)』!!!」」」

 

 ルシファーの放った光に負けず劣らずの光の奔流がルシファーへと殺到していく。

 シグルドによだてまともな防御体勢が取れず、その奔流をモロに受けていくルシファー。苦悶の顔をしながらも甲板へと落とされる。

 しかし、追撃はそれだけで終わらなかった。

 

「はぁっ!!」

「くっ!?図に乗るなよ人間風情が!!」

 

 輝く銀の腕を振るいながらベディヴィエールがルシファーへと向かっていく。

 ルシファーもまた、光の剣を生み出して応戦する。いくつもの剣激を合わせ、受けた傷によってルシファーは競り負けた瞬間、ベディヴィエールは必殺を決めにいく

 

「隙あり!──我が魂食らいて奔れ、銀の流星!!『剣を摂れ、銀色の腕(スイッチオン・アガートラム)』」

 

 光を迸らせる右腕が、ついにルシファーを捕らえる。逆袈裟に切り裂かれた胴体、そのまま仰向けになって倒れ伏すルシファー。

 サーヴァント達による猛攻によって、ついに堕天使の長たるルシファーを地に墜とし、背に土をつけることができた──────。

 

 

 

 

 

「────へぇ?いいじゃん、面白いじゃん?」

 

 

 

 悪夢が始まる。

 





今回は少し短め、というより区切りが良かっただけですので、はい。

次回、獣の日(ウソ予告?)


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6-7 絶望、降臨


なるはやで更新していきます。
だって休みだもの!やれることやらなくちゃ!!
ヒャッハー!(発狂)



 

「へぇ?いいじゃん、面白いじゃん?」

 

 突如として聞こえたその声に、立香達はより一層の警戒をする。

 周囲にはルシファーとの決戦を観戦していた堕天使達か、立香のサーヴァント達しかおらず、声の主は一向に見つからない。

 

「一体、どこに────」

「ッ!!危ない立香っ!」

 

 背中に来る重い衝撃と共に、立香は何かに突き飛ばされたかのように甲板を転げる。

 しかしすぐさま起き上がり顔を見上げると、堕天使兵の一人が、その手に持つ草刈り鎌に似た短剣でベルフェゴールの腹を突き刺していた。

 

「ベルフェゴール!?」

「大丈夫……ッ。まさかここで仕掛けてくるなんてね、アザゼル……!!」

 

 睨み付けるように、兜で目元を隠した堕天使兵の一人見る。

 だが、その兵士はまるで面白いものを見たかのように口元を吊り上げ、せせら笑うかのような笑みを見せる。

 

「ンフフフ。いやぁ、守られちゃあバレるよねぇ、っと」

「ぐぁっ!」

 

 ベルフェゴールを蹴り飛ばして短剣を引き抜く。刺された腹を抑えながら甲板に転がされるベルフェゴール。

 次第に堕天使兵の姿が、以前見たパズルピースが砕けるように崩れていき、白黒の道化師に似た仮面を着けている悪魔──アザゼルの姿へと変貌する。

 

「まさかルシるし君が、こんなあっさりと倒されるなんて思ってもみなかったなぁ~。しかも暗殺に失敗とかボクびぃっくり~」

 

 ケラケラと笑うアザゼル。本来ならば、その口から発せられたことはかなりの大事のはずだが、当のアザゼルはまるで何の焦りも痛様も見せることはない。

 そう、なぜならば────、

 

「ま、全部時間稼ぎの為だったしねぇ。あ、オフレコだヨ?」

 

 全て、時間稼ぎ。アザゼルはそうのたまう。

 では、一体何のために。その場にいる立香を始めとした全員と、立香のデバイスから全て聞いているダヴィンチ達はそう思っていた。

 

「あー、今何のために?とかって思ったでしょ~?」

 

 愉快そうな声で立香達の内心を当ててくるアザゼル。どことなく苛立ちを感じさせるような口調で、既に一部の者達の血管が浮き出始めていた。

 そんな様子にアザゼルは、まるで頭の足りない者の相手をするかのように嘆息する。

 

「確かに?ボクらの目的は地上の支配サ。でもそれは二の次なワケ。そもそも本当にそれだけなら、空想樹だとか煉獄だとか、そういうの必要ないワケ」

 

 まるで風船のように翔び、艦橋の出っ張りに腰かけるアザゼル。そこから、侮蔑的な態度で説明を続けていく。

 

「ボクらの本当の目的は『全人類史の神代からのリセット』。つまるところ、全ての歴史をまっさらに描き直すのさ」

『なっ!?だ、だがそれでは、異星の神やクリプター共と同じではないか!?』

 

 アザゼルの発言に、通信を挟んではあるが、驚きながらに噛みつくゴルドルフ所長。

 そんなゴルドルフ所長に対して、またしてもどうしようもない相手を見るかのような憐憫を込めた目で見返す。

 

「あれはさァ~、ただ自分のエゴで自分好みにしようとしてるだけだし~。ボクらはこの世界を、元から(・・・)神も魔術も(・・・・・)存在しない世界(・・・・・・・)にしようとしてるだけだよ?」

「「『はぁっ!?』」」

 

 今度こそ全員が驚きの声を挙げる。神も魔術も元から存在しない世界。それは、ある意味ではまさしく人理の崩壊であり、ある意味では神や魔術による被害を無くすということでもある。

 そして何よりも、神も魔術も存在しないのでは、自ら消えるも同等であり、本末転倒なのではと誰もが思い至っていた。

 

『そんなことをすれば君たちも────』

「消えるね。でもさ~?────それがどうしたってハナシよ?」

 

 無関心。ホームズの問いたことに対して、アザゼルが返したのは、自他共に無関心と言わざるを得ない答えだった。

 あまりに常軌を逸した答えに、ホームズは絶句したかのように黙りこくってしまう。そんなことを気にした風もなく、アザゼルは語り続ける。

 

「大体さぁ~、この世界がここまでグッチャグチャになってるのも、全部神サマだとか魔術だとかが存在してるからこうなるんジャン?」

 

 そう言われては誰も反論することができない。異星の神、人類悪、サーヴァント。そう言った者達が存在しているのは、神や魔術が存在するという"証明された神秘"があるからである。

 では、それがなければ?もし魔術といったものが始めから存在していなければ?全ての魔術は確率された方法でなく、妄言にも等しき空想のおとぎ話だと言うのなら?

 

「だからボクらは、この"魔術世界という人理"をぶっ壊すのサ。彼と、ボクとでネ」

「……彼?」

 

 しぼり出すような立香の質問。仮面越しではあるが、アザゼルの笑みが深くなっているのを、立香は感じとっていた。

 だが次の瞬間、立香を含めたこの場の、より正確にはこの世界が恐怖するかのような重圧が襲いかかってくる。悲鳴、恐怖、畏怖、悲壮、絶望。汗が止まらなくなるほどの威圧感が、アザゼルの隣に開いた渦より現れる。

 

 

 

 

 ────それは、今までに出会ったあらゆる存在よりも、最も恐怖を感じた存在であった。

 

 

「──遅い。遅すぎるぞ、『虚飾(ヴァニティ)』」

「ごめんごめん、ちょちょいっと長話しすぎたみたいだわ~。"サァタン"」

 

 紅蓮の焔のような、圧倒的絶望が顕現した。

 

 





真打、登場。

これより佳境に入っていきます。



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6-8 終わりの始まり


黒幕が現れるとかいう終わりに近い展開。

そらそうだ、だって他のやつらみーんなカルデア側だもん。まっ、是非もないヨネ!



 燃えるような眼、長身ながらにがっしりとした体つき、かつての亜種特異点・新宿にて傍目で見たマフィアの重鎮のような格好。その手には二丁の、刃と回転弾倉(ロールシリンダー)がついた長銃が持たれていた。

 だが、そんな見た目よりもその人物が放つ強烈なまでの絶望の波動は、その場にいる誰もが勝てないと思わせるに充分だった。

 

「……あれが人類最後となり、人理の修復を担う存在か」

「そだよ~。キミから見てどうなのサ?」

 

 サタン。そう呼ばれた男性の双眸が、立香を睨む。その瞬間立香は、蛇に睨まれた蛙のように、滝のような汗が流れるばかりでどうすることもできなくなってしまった。

 焔のように燃え、氷のように冷たいその目線に見つめられること数瞬。興味をなくしたかのように視線を外す。

 

「ふん…………期待外れ、だ。足元にも及ばん虫ケラだな」

「アッハハ~!酷評~」

 

 吐き捨てるかのようなサタンの判定と、嘲笑うかのようなアザゼルの茶々。

 そして周りなぞどうでもいいと言わんばかりに、その場で語らい始めていく二人。

 

「アレはどうだ、すぐに動かせるか」

「んー、問題ナシ!もうやっちゃう?やっちゃう?」

 

 アザゼルは愉しそうな声でサタンに可否を問う。それに対しサタンはただ一言のみ。

 

「やれ」

「あいっさー!」

 

 元気の良い返事と共に、虚空に手を伸ばすアザゼル。だが、次第に周囲にいくつもの魔法陣が現れ、その全て、一部分ずつが何かの機能を模しているかのごとく動いていく。

 

 

 

「煉獄内魔力充填開始、及び補填器偽装解除。充填回路終着点、バベル天空搭内部。魔力充填率、規定値第一段階突破。これにより、以下を以て告げる。────

 

 

 

 

 ──空想樹『パンドラ』、起動」

 

 

 煉獄が、揺れる。地の底からの叫び声のような地鳴り音を鳴らして、世界が揺れていく。ふと、立香が甲板から地上を見ると、遠目に見えていたソドムがあるであろう地点にあった空想樹が、破片となって崩れていた。

 それと共に、さらに遠くに巨大な搭のようなものが見え、その頂からおぞましい色合いの空想樹の根が伸びているのが見えた。

 

「なっ……!空想樹は、ソドムにあったはずなのに……ッ」

「ソドムにあるは紛い物。あれこそが、我らが手掛けし魔の空想樹、『パンドラ』である」

 

 胎動するかのような瘴気の脈動を打ち鳴らし、ついに現れた煉獄の空想樹。それは、見るもの全てに絶望を与えるかのようなおざましさに満ちていた。

 異星の神やクリプター達が手掛ける空想樹と違い、寒気がするほどに生物じみた脈動は、例え搭の壁越しであったとしても恐怖を掻き立てるには充分であった。

 

「びっくりした?びっくりした?実はねぇ、あれねぇ?ボクらの魔力で造った『魔の聖杯』を埋め込んであるのサ~!」

『魔の、聖杯だって……?』

 

 絞り出すかのようなダヴィンチの声。遠く離れていても、その異様さは目に見えているらしく、声は震え、恐ろしささえにじみでていた。

 

「そそ。普通の聖杯だと~、手にした人間の願いを叶える願望機で~。反転しても悪意ある叶え方でしょ?でも、ボクらが造った『魔の聖杯』は違うのだー!」

 

 クルクルと軽業師のように宙を舞いながら説明していくアザゼル。

 

「な、な、なんと!『魔の聖杯』は所有者が破滅、絶望、恐怖といった負の結末を願えば願うほどに力を増す"終末装置(パンデミックマシーン)"なのです!!ドンドンパフパフ~!」

「そん、な……聖杯が、終末、装置……」

 

 あまりのことに膝から崩れおちるマシュ。ルシファーとの戦闘での疲れもあっただろうが、オルテナウスのゴーグルが独りでにずり落ち、重い音を鳴らす。

 甲板にいる者達が各々の絶望を感じる中、サタンはつまらなさげに口を開く。

 

「もうよかろう、よく足掻いた。だが、総て終わりである。故に────」

 

 片方の長銃が立香に向けられる。その銃口は重く輝き、まさしく死を幻視させた。

 

「ただ、去ね」

 

 轟く射撃音。流れる時間がスローモーションに見える。マシュが駆け寄ってくる姿が見える。だが、届かない。空気を裂きながら、立香目掛けて一直線に向かってくる、魔力を帯びた必死の弾丸。

 もう、これまでなのか──立香は歯を食い縛り、無念を抱く。

 

「────させませんッ!!」

 

 金属がぶつかり合うような反響音が、無我の意識へと飛んでいた立香の頭を叩く。目の前にはワルキューレの一人であるスルーズが、強い力で弾かれたかのように胴を見せていた。

 そして、立香の脇から二人の影が躍り出る。それは同じくしてワルキューレのヒルデとオルトリンデであった。

 

「魔力回路、複合接続。もう手出しはさせません」

「ごめん、マスター。もう油断なんてしないから」

 

 二人の覚悟の決まった視線は、訝しげに目を細めるサタンへと向けられていた。

 だが立香は、今自分が死にそうであったことよりも、まず気になったことを二人に問いかける。

 

「な、なんで三人ともいるの?魔力の消費激しいって言ってたはずなのに、なんともないし……」

「──それは私から説明しましょう」

 

 そう言って、立香の背後に現れるスーツ姿の男性。サングラスをかけ、周りにはなぜか巨大な計器類が現れているその人物を、立香は帝都(・・)で知っていた。

 それは────

 

「マックスウェル!?」

「正確にはマクスウェルの悪魔ですよ。お久しぶりですね、お元気でした?」

 

 サングラスをかけ直し、気さくそうに語りかけるマックスウェルの悪魔が、ついに盤上に姿を表すのであった。

 

 





マクスウェルキター(゚∀゚*)

悪魔だし出そうかなぁと考えていたので出しました。
やったね立香!これで魔力量の心配いらないよ!ブラックだね!!


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6-9 励起せよ勇者


うおっ、いつの間にかUAが一万行きそう。すげぇ(語彙力壊滅)。
ご愛読ありがとうございます!なんかお気に入りも増えててびっくり私ですよ、えぇ………。

駄文ですが、気に入って頂蹴ると幸いですねぇ。




 サタンとアザゼルの目の前に、背後のマクスウェルの悪魔から流れる魔力が立香に流れてくる。その逸話故にほぼ無尽蔵の魔力を生み出せるマクスウェルの悪魔。それを裏打ちされた魔力量は、平時ならば万能感すら感じられただろう。

 だが、今は目の前に、それこそ本物の『魔王』とも呼ぶべき圧倒的な存在がいる。あのゲーティアやティアマトが小さくみえるほど、恐ろしいほどの壁が。

 

「……何かと思えば。戦奴隷の神の下僕共に、貧弱極まる魔力タンクか」

「訂正して頂きます。オーディン様はそのようなものでは断じてありません!」

 

 下がっていたスルーズが、立香を守るように立っていた二人と並び、光でできた槍を主神への批判を憤慨するかのようにサタンへと向ける。

 だが、まるで虚仮威しだと言わんばかりに鼻で嗤うサタン。片方の長銃を肩に担ぎ、冷ややかな目で見下す。

 

「ではなんだと言う?神なぞそんなものであろう。主も──あのクソッタレも同じくして、神なぞ皆ゲスの塊よ」

「────その発言は看過できんぞ『憤怒(ラース)』」

 

 サタンの真下から何条かの閃光が煌めき、射抜かんと迸る。

 しかし当のサタンは無駄を削ぎきったかのような最小限の動きで避け切ってしまい、側にいたアザゼルでさえお茶らけるように避け切っていた。

 だがそれよりも、立香とサタンの間に立ち塞がるかのようにして黒白の翼を広げる一つの影──ルシファーが、傷など初めから無かったかのように飛んでいた。

 

「生きていたか。だろうとは思っていたぞ?至高の大天使」

「何か裏はあるだろうとは見ていたぞ『憤怒』。私をそう簡単に欺けるとは思わんことだ」

 

 先程までの威圧感たっぷりな言動から、無表情じみた顔は変わらないものの、心無しか饒舌になっているルシファー。

 あまりの展開に立香達が目を白黒させていると、ルシファーが視線と意識はサタンに向けたまま、立香に話しかけてくる。

 

「呆けているな、人間。さっさと脚を立たせろ。絶望なぞ、いくつも乗り越えてきたのだろう?それにな──」

 

 そこで区切り、ニヒルな笑みを浮かべるルシファー。

 一迅の風が吹く。強くもなく、弱くもなく、ただ"あぁ風が吹いたな"と思わせる程度の柔風。

 

「──援軍が私だけだと思うなよ?」

「オォルァァッ!!」「セェラァッ!!」

 

 サタンの背後より、交差される赤と紫の斬影。風を受けて揺れる緑髪と、ランランと輝く異彩眼(オッドアイ)

 背を屈められて斬擊を避けられるものの、避けたサタンへ向かって、空中ながらヤクザキックのように蹴り飛ばす二人。それは、今まで出会った悪魔の中でも見知った顔であった。

 

「マモン!?ベルゼビュート!!」

「おう兄弟!元気してたか?」

 

 昂りがありありと見える笑みを浮かべて、立香に親しく答えるベルゼビュートと、大鎌を肩に担いでベルゼビュートの側に付くマモン。

 だが、そこからさらにアザゼルの方へ激流を想起させる水のブレスと、無数の怪光線が降り注いでいく。

 

「おわっととと!?」

「「『アンタよくも屋敷ぶっ壊してくれたわね!?絶ッ対許さない!!』」」

「確かにあれ程入れ込んでいたのは知ってるが、むやみやたらと撃ちまくるでない。バテるぞ……」

 

 激怒の形相でアザゼルを睨む女性二人と一匹。それと呆れたように宥める男性が一人。

 それは、少し前にソドムの街で会合した、リリスとレヴィアタン、そしてアスモデウスの二人であった。

 

「皆!どうして!?」

「どうしても何も、皆バカにされたまま終わりにはされたくないのでな。かく言う私も、我が王を愚弄されたままでは示しがつかんのでな」

 

 そう言ってサタンとアザゼルを睨む元魔神柱アスモダイのデール。

 立香の周りにはルシファーを初めとして、ベルゼビュート、マモン、リリス、レヴィアタン、アシュリーとデール。

 そして、自己治療を負え、多少よろめきながらも立香の元へと寄るベルフェゴールと、ここに『憂鬱』を除く全ての主要悪魔が揃い踏みとなった。

 

「元々空想樹を(あんなもん)こっちに入れた時点で、こちとらテメェにゃ不信感しかなかったンだぜ?え?『憤怒』サマよゥ」

「貴様らの横暴、眼に余る。今になって何がそう突き動かすのかは知らんが、我らは貴様らには付いていく気はないぞ」

「………………」

 

 立香を取り囲み、全員がサタン達を対峙するようにして並び立つ。全員が既に臨戦体勢に入っており、何時、どんな動きをしようともすぐに動ける状態であった。

 だが、当のサタンは黙っていた。しかし、突如として、堪えきれなくなったかのように笑い出す。

 

「フフフフフ……フフフハハハ、フッフハハハハハハハッ!!

 

 

 

 

 

 

 ──────愚かしいわ、マヌケ」

 

 高笑いを消し、酷薄な、そして怒りに染まったかのような表情と共に、サタン達の背後に無数の"渦"が現れる。

 そこからはゲイザーや、銃火器を持った黒服の魔皇信奉者(サタニスト)達が次々に現れてくる。それだけでなく、かつてバビロニアで遭遇した"ラフム"にも似た悪魔達も数多く出て来ていた。

 

「もういい、行くぞアザゼル。殺す価値すら無い」

「あいよぅ。という訳で~、生き残ってたらまた会おうねぃ~」

「ま、待て!」

 

 立香の叫びも空しく、サタン達は渦へ入り、だこかへ転移してしまう。

 そして残されたのは、きりがみえないほどの大軍という、サタンの手先達であった。

 

 





後書きサタン軍陣営モブ

・魔皇信奉者
→大体が『ファミリアー』と呼ばれる。固有名は悪魔化した際に剥奪された。サタンを信奉し、服従し、死んでも戦い続ける死兵。
見た目はマフィアの一般構成員のような黒服に、サブマシンガンなどの銃火器を持っている。ゲーム上でのクラスは統一して「アーチャー」。

・ゲイザー
→そのまんま。目玉のクソ硬いアイツ。クラスは大抵「アーチャー」だが、より上位で赤黒い色をしているのは「アヴェンジャー」クラスになっている。

・ラフムみたいな奴
→正式名称は『デモゴルゴン』。サタン軍の構成員のうち、破壊工作や鏖殺作戦時に投下されるヤベー奴ら。
見た目としてはどちらかというと「ベル・ラフム」に近い。体色は赤黒いものに統一されている。
ゲーム上のクラスは量産型が「セイバー」、「アサシン」、「ランサー」のどれか。リーダー格は一回り大きくなり、「アヴェンジャー」になっている。


サタン陣営えげつねぇ……
ムーンキャンサー大活躍じゃないかたまげたなぁ……



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6-10 共闘と黒幕


皆様、あけましておめでとうございます。


なんて言ってる場合じゃねぇ。とっとと更新しろやと言う声が聞こえるぜ!フッフフフ……(遠い目)



 

「全軍、敵を撃滅せよ!!」

「いくぞボンクラ共ォォォッ!!」

 

 先陣を切るベルゼビュートと、全ての堕天使兵に指示を下すルシファー。そんな二人につられるようにして、彼らが率いる者達は一斉に奮起する。

 雄叫びを挙げ、眼前に立ち塞がる敵たるサタンの眷族達を屠っていく。だが、その眷族もまた一筋縄で倒せるはずもなく、一進一退を繰り返している。

 

「ほらそこ!ボサッとしてないの!」

「おうおう!楽しくなってきたじゃねぇか!!」

 

 更にはいつの間にか自然と共闘するように、堕天使軍、『独露悪星(ゾロアスター)』の構成員、そして立香のサーヴァントらが船上ながらも戦線を築いていた。

 それらに圧されるように、どんどんと数を減らすサタンの眷族。そしてどんどんと包囲網が形成されていき、ついには立香ら混成軍が優位に立つ。

 

「私の舟から失せよ!神光、装填────『主よ、憤りて断罪せよ(トゥルー・メギド)』!!」

「ハッハァッ!いいねェ熱いねェ!!オレァそういうの大好きだァ!!出番だぜ相棒────『暴乱上等 風神単車(ブレイクスルー・ヴェンデッタ)』ァ!!」

 

 一塊となった敵の集団の頭上から、神の裁きたる極光が降り注ぎ、その間を掻い潜るどころかまるで真っ正面から打ち砕くかのように、駆動音をかき鳴らす一台の改造バイクが駆け抜ける。

 光に撃ち抜かれ、バイクに轢かれ、総崩れとなった敵の集団に、ダメ押しの宝具が放たれる。

 

「二大神に願い奉る────『訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)』!!」

 

 ドレイクの船から二本の弓が空高く放たれ、次の瞬間無数の矢が降り注ぐ。それはルシファーの、未だ降り注ぐ極光と掛け合わされ、避けようのない死の雨となる。

 これによって全ての眷族が葬られ、混成軍は鬨の声を挙げた。そんな中、ルシファーやベルゼビュート、リリスなどといった大罪魔王達が立香の前まで歩みよってくる。

 

「では、今後の話を詰めるとしようか。人の子のマスター、藤丸立香よ」

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

 

 

「えーと、つまり?君たちはビーストⅥことサタンの尻尾が出るまで、協力を装うかのように活動していた、と?」

「概ねその通りだ。が、些か自由すぎる奴らばかりだったがな」

 

 ルシファーの侵攻防衛から一転し、サタンの眷族との戦いになったことで、待機していた岩山から大急ぎで駆けつけたシャドウ・ボーダーの前。航行を停止して定着している方舟を背にしているルシファーと話すダヴィンチら。

 当のダヴィンチは訝しげにしており、ゴルドルフ所長はほぼ内容を理解できていなかった。肝心のホームズは、何か考えるようにしていたが、ふと口を開く。

 

「成る程、それなら色々と辻褄の合う部分はある。だが、ならばなぜこのような暴挙を?」

「こうでもせねば気付かぬまいてよ。事実、奴の拠点たるバベルには来ようとする気配すらなかったではないか」

 

 鼻を鳴らして肩を竦めるルシファーに、何も言い返せなくなるダヴィンチ達。

 その横から、クー・フーリンや他のサーヴァント達と交流ついでに手合わせしていたベルゼビュートが入ってくる。

 

「しゃーねェってだろィ。ありゃ気づける方がおかしいってもンだぜ?」

「そうね。私達もまんまと騙されていたみたいだし。このアスモデウス=アシュリーを騙すなんて……いい度胸だわ」

 

 搭乗していたカルデア職員の一人からもらっつタオルで汗を拭きながら、風で作り出したイスに勢いよく座り込むベルゼビュート。

 そして、幻の空想樹をつかまされたことによってプライドを貶されたことに憤るアシュリー。他の大罪魔王達も集まり、特急ながら会談の場が創られる。

 

「さ、て、と。ま、手っ取り早い話しようや?兄弟」

「ほんと、突然なんだね。ベルゼビュート」

「ハハハッ、まぁな」

 

 立香の苦笑いじみた返答に、快活な笑い声を上げて気さくに答えるベルゼビュート。

 立香や大罪魔王達は円形に並んで座り、その後ろにそれぞれの眷族や仲間達が並び立っていた。

 一通り和やかになった空気から、真剣な表情になるベルゼビュート。

 

「まず、奴らの目的は知っての通りで、オレ達にゃそれが迷惑なンだわ。だがオレ達にゃそもそも力が足りねぇ。だからよ、立香」

 

 そこで区切ったベルゼビュートは、両膝に手を置き、頭を深く下げる。それに倣うように、マモンやその仲間達もまた頭を下げる。

 

「ふてぶてしいのは承知の上。その上で、どうか力を貸して欲しい。藤丸立香」

「いいよ」

 

 あまりの即答具合に、ベルゼビュート含め頭を下げていた全員がガクッとよろける。重ねて願うために口を開こうとしていたルシファー含め他の大罪魔王達も、唖然としてしまう。

 肝心の立香はまるでなんでもないかのようにしており、目を開けてキョトンとしていた。その様子に頭を抱えるカルデア職員の面々

 

「おまっ……即答かよ……いいのかよそれで」

「いやだって、困ってるなら助けなきゃ。お互い様ょ?」

 

 さも当然と言わんばかりの顔の立香に、ベルゼビュートはまたしても呆気にとられる。だが、すぐにそれは笑みに変わり、仕方がないと言うような目を送る。

 屈託なけ、裏表もなく、本当に善意の笑顔に、大罪魔王達は少しの呆れと信頼を寄せるのであった。

 

 





話がトントン拍子だって?

強者あるあるじゃないか、もちつけよ(―ω―


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6-幕外 〈事後〉魔王教室 by『傲慢』


大雪による交通麻痺でやることもなく自宅待機でござったので暇つぶしな更新。

今回は趣向を変えて事後談です。
(やっべ編集し忘れてた……)


 ノウム・カルデアの廊下を走る人影。それはただ一つの部屋を目指していた。そこは誰もが集まる食堂兼談話室。走る人影──立香はそこである約束のために走っていた。

 

 

 

 ・

 

 ・

 

 

「──む。随分と遅い到着だな、人の子(マスター)よ」

「こ、これでも走ってきたんだけど……」

 

 息も絶え絶えな立香の目の前に、腕を組みながら無慈悲な言葉を投げ掛ける、黒白の翼を背に持つ青年──立香のサーヴァントたるルシファーが立っていた

 しかしそこにはルシファーだけでなく、立香のサーヴァント達を始めとして、ベルゼビュート、ベルフェゴール

 等といった、煉獄にて共に戦ったサーヴァント達。

 更にはサタン、アザゼルといった当時の敵もまた出席していた。

 

「では、事静かに傾聴せよ。これより講義を行う。議題は──ふむ……"真性悪魔と大罪魔王について"といこう」

「「よろしくお願いします!」」

 

 先に着いていたマシュと立香の声が重なる。それにルシファーは薄く微笑みを浮かべて解説を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まず、人の子よ。お前は悪魔についてどれほど理解している?」

 

 唐突に聞かれた質問に、うなりながら考える立香。

 うんうんとうなり、出た答えを口にする。

 

「えっと……ごめん、わかんないや」

「まぁ、仕方あるまい。では一から説明しよう。聞き逃すなよ?」

 

 そういうとルシファーは、ホワイトボードをどこからともなく出現させて、なにやら書き込んでいく。

 

「では始めに、真性悪魔について語ろう。

 

 ──真性悪魔の定義とは、人の世では"荒唐無稽にして人知無能"、"人の願いに執り憑き、破滅させるもの"といったものが通例だな。だが、魔界では少し違うのだよ」

「と、言うのは?」

 

 マシュの理解を示すような頷きから、ルシファーの反論にキョトンとした顔をする。

 ルシファーはそれに構わず、ホワイトボードに色々と書き込んでいく。

 

「うむ、我々魔界に住まう者からすれば真性悪魔とは、極論を言えば"自由を求めた者"だ」

「自由を、求めた?」

 

 立香の復唱に軽く頷き、話を続けていく。

 

「本来の真性悪魔とは、己が心にのみ従い、己が目的の為にのみ動く利己主義者よ。ただ己の求めるもののためにのみ、全ての行動を行う。それだけが目的の者だ」

 

 ルシファーの結論に、他の大罪魔王達がその通りだと言わんばかりに頷く。

 

「そして俗世でいうところの真性悪魔だが、これは言ってしまえば、『気ままに過ごしていたところを無理矢理に喚ばれたからぶちギレた』状態故に、自己破滅を招いてしまうのだ。人の喚び方は不完全でな、我らの機嫌の酔いしれときならば問題はないが、不機嫌であるときは最も危険であるということをよく覚えておけ」

 

 生唾を飲む音が響く。アザゼルのジャグリングによる風切り音が鳴る。

 

「……話を戻すぞ。つまるところ真性悪魔とは、"自由過ぎるが故に、残忍で融通が効かない存在"なのだ。とは言え、一部例外はいるがな」

「そうなんだ。知らなかった」

「はい、新しい発見でした」

 

 驚いた顔で納得する立香とマシュ。二人は単純に新たな知識による発見に驚くばかりであった。

 真性悪魔についての、今までとは全く違うかのような価値観に嘆息する二人。一呼吸置いてから、ルシファーは再び話し始める。

 

「では次に我ら『大罪魔王』ないしは『大罪悪魔』について語るとしよう」

「「お願いします!!」」

 

 

 

 

「──『大罪悪魔』というのは、真性悪魔にとって爵位という強さ以上に畏れ、敬われる存在だ。有名なものであるならば我ら『七大罪』、そこのふざけているアザゼルのような『八大枢要罪』のようなものだな」

「ん~?呼んだ~?」

 

 先程までの一般的なジャグリングから、前後から背後まで、自由自在な投げ方をしていたアザゼルが、気の抜けたような反応をする。

 ジト目を向けながら嘆息し、無視を決め込むことにしたルシファーだった。

 

「はぁ……。まぁ、なんだ。あんな奴ではあるが、その実力は折り紙付きだということは、一度でも敵対していたお前達ならばわかることだろう」

「うん、ビックリするぐらい強かった」

 

 煉獄で味わったアザゼルの強さを思い出しながら、立香はルシファーの問いに同意する。

 

「そして『大罪魔王』だが、これは先程の『大罪悪魔』から何百年と年月を経て強さを得てして成った、総ての魔を統べる存在だな。その中でも、そこにいる『憤怒(ラース)』ことサタンは、癪ではあるが別格であろうな」

 

 名指しされたサタンは、鼻を鳴らして興味なさげにまた目を瞑る。

 そんなサタンを置いて、話は続けられる。

 

「『大罪魔王』は私やそこのベルゼビュートのように、俗世においても名だたる名持ちが成っていることが多い。とは言え、『大罪悪魔』から魔王になれるのは、そこにいるアザゼルともう一人の下衆以外には居らんだろうな」

 

 そう言って話を区切るようにすると、ホワイトボード『総評』と書き込む。

 

「さて、ではまとめよう。まず『真性悪魔』とは、"自由なる暴虐の化身"であり、『大罪悪魔』とはそれらの中でも遥かに高い力を持つ者である。最後に、『大罪魔王』とは、それらを束ねる魔界最大にして最強の存在である。と、いうことだな」

「す、すごいお話でしたね……」

「う、うん。覚えきれるかな……」

 

 あまりの情報量に唖然としつつも、その膨大さに不安がる二人。

 そんな二人に、堕天したとはいえ天使らしい柔らかな微笑みを浮かべて肩を叩く。

 

「何、案ずるな。我らはお前のサーヴァント。わからな事があれば再び聞くが良い。だが、まともに答えるものがいるかどうかは保証しかねるがな」

 

 フッと頬を軽く釣り上げるような笑みを浮かべ、立香達を激励する。それを受けて、立香は志を新たにする。

 

 

 

 

 

「そうだ、それで良い。総ては主の思し召し故に、な」

 

 

 







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6-States 〈アーチャー〉


ルシファーのステータスでございます。

ここで裏話を少し。
ルシファーは神が創り生み出した天使の最高傑作という存在であり、そんな神を今現在もなお崇拝し、信仰しているのが本作品のルシファーです。
端的にいうとジャンヌより信仰心がずば抜けているやつです。




適正CLASS:Archer/Saber/Ruler

※Avengerは本作品の境遇から除外。

 

真名:ルシファー/ルシフェル(どちらでも可)

マスター:―

性別:男性

身長/体重:178.6cm/54.8kg(翼含めず)

属性:秩序/中立

 

 

〈ステータス〉

 

筋力:B-

耐久:A

敏捷:A+

魔力:C~A

幸運:B

宝具:EX

 

 

 

 

〈クラス別スキル〉

 

・単独行動:A

→マスターとの繋がりや魔力供給源の不在による「世界からの強制力」を緩和させるスキル。ルシファーは元より神の最高傑作として産み出されたが為に、マスターなしでもほぼ完全に顕界できる。

ただし、『単独顕現』未満であるので自ら地上へ現れることはできない。

 

 

・対魔力:B

→魔術に対する抵抗力。ルシファーは堕天したとは言え敬遠な神の信徒であるがために、加護にも似た防衛力がある。その為、一部の強力な神ヶから与えられるようなものは、本人が受け取らない限りほぼ全て跳ね返す。

 

 

神性:A+++ → 大罪魔王:A~A+

→悪魔達の王に与えられる神性の変異スキル。あらゆる"異常"に対してどのスキルよりもとても高い耐性を与える。

神の最高傑作としての神性を宿していたルシファーだが、とある事情を持って堕天した為に変貌してしまった。だが、元々高いランクであったが故に相当の格を有している。

 

 

 

〈固有スキル〉

 

・カリスマ:A++

→軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。ルシファーはその逸話から、ある種の絶対的指導者のようなカリスマ性を持つ。同族、同志、あるいは自身に憧れや尊敬といったものを持つ者には、それこそ救いの神であり、信仰してしまうほどの圧倒的な威厳を放つ。

 

 

・真名看破:A

→ルーラークラス時のみ使用可能となるスキル。直接遭遇したサーヴァントの真名、スキル、宝具といったあらゆる情報を即座に読み取り、把握する。

多少の制限やランクダウンといったデメリットはつくもののルシファーならば、その気になればどのクラスでも使用できる。

 

 

・至天の加護:A→B-

→『信仰の加護』が昇華され、神が直々に認めたことによって変性したスキル。これにより、自身が信仰する教義ないしは神より敵と断ざれた者に対する絶対的優位性を得る。

堕天したことによりランクダウンしているものの、その絶対なる信仰は衰えることがなかったが為に、スキルとして保有し続けることができた。

 

 

・大罪「傲慢」:B+~EX

→ルシファーの『七大罪』の悪魔としての権能。他者の無意識に強く作用し、心の内に抱える自尊心や傲慢さを膨れ上がらせ、最終的に自滅させる。

本来はルシファーが大天使として司った『人間への試練』。己に溺れる者を篩にかけることにより、真に強き者のみを選定していた。

現在はこのスキルによって、『対魔力』の効力を度外視した強力な催眠、もしくはその催眠による味方の鼓舞や敵の弱体化などに専ら使われる。

 

 

 

〈宝具〉

 

・『総ての栄光は我に有りけり』 ランク:B+

→ジ オール グローリン フォア ワン。

ルシファーが最もよく使う宝具であり、その正体はいわゆる『神威の後光』。

ルシファーの意思に応じてその姿形を変え、弓、槍、剣といったあらゆる武器に変えられる。ただし、モーニングスターやジャマダハルなどと言った特殊な形状やマニアックなものには変えられない。

〈魔性〉や〈冒涜者〉、ないしは〈外なる神〉などと言った『神の敵対者』に対する圧倒的優位性を宿し、絶対に壊れることのない武器である。

 

 

・『明けの明星』 ランク:A

→ルシフェル・ウェヌス。

『光』という概念そのものを司る、ルシファーの別名から来る常時発動型の宝具。

効果としては、〈善性〉を持つ者の善意を削がせ、〈悪性〉を持つ者には特攻が入るという断罪機構。また、光の屈折・反射や、凝縮・放射を前述の宝具と連動させることによって他方向及び多目的な使用が可能。これによって、例え視界外であろうと当たる必中の攻撃を放つことができる。

 

 

・『主よ、憤りて断罪し給え』

ランク:EX 種別:対軍/対界宝具

レンジ:~150(※km換算) 最大補足:10万人

→トゥルー・メギド。

ルシファーが神より与えられし権能にして権限の極致。天空より降り注がれる神の怒りそのもの。

かつて『ソドムとゴモラ』を焼き払い沈めた神の裁光。生半可な防御では容易く貫かれ、逃げようが隠れようが絶対不可避なる極光の雨。唯一地下へ潜れば掻い潜れるが、それにはルシファーが宝具を発動する兆しを感じた瞬間に地下5階分の穴を、出口を埋めながら掘り下げなければいけない。

故に不可避、故に絶対。神の裁きから逃れることは、何人たりとも許されることはない。

 

 

・権能解放『傲慢なる軍勢』 ランク:EX

→リミッターオフ"プライド レギオン"。

ルシファーの大罪魔王としての権能を解放した宝具。本来ならばアヴェンジャークラスを保有することが条件なのだが、特定の条件を満たすことにより発動可能。

その条件とは、『自身の部下をいつでも喚べる状態であること』、『ルシファーは発動後、一切動くことができないこと』。そして何よりこの宝具のデメリットは、『発動終了後、消滅する』ということである。

だがそれらを抜きにしても、ルシファーに付き従う堕天使達全員を呼び出すという能力から考えれば足りないとも言える。どこぞの征服王すら凌駕し、固有結界ではなくそのままで喚び出すことを踏まえるならば、これは奥の手としては最大のものであるといえる。

 

 



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第七章 『憤怒』の獣、『虚飾』の杯
7-1 The Outrage



サタン&アザゼル編。

つまり最終決戦ですな!!



 

 遥か先に禍々しくそびえたつ、空を突く塔へ向けて、純白にして壮大なる"方舟"が舵を切る。その甲板に乗せるは神災より逃れる人々ではなく、各々が一騎当千の英霊達。

 その塔を守るように陣をひく無数の黒い影。翼を広げるは異形の悪魔達。目前の空を埋め尽くさんばかりの軍勢であったが、英霊達には恐れはおろか奮い立つものばかりであった。

 

「────行くぞ」

「「「おう!!」」」

 

 静かな号令と、赤熱しきった戦士達の轟声。方舟から数多の戦士達が飛び出していき、黒き悪魔達の塊へと衝突する。

 始めに仕掛けたのは、鮮やかな紅と黒々とした二隻の船。それらを先頭にして無数の船団が虚空より現れる。

 

「野郎共!大盤振る舞いさぁ!!」

「さぁさぁ、どんどん撃っちゃうでござるよー!」

 

 船団から砲撃が次々と放たれ、悪魔達を撃墜していく。大雑把な弾幕ではあるが、当たれば大打撃を与える砲撃にどんどん撃ち落とされていく。

 だが、悪魔達も黙ってやられているだけではない。サタンの力を染み込まされたゲイザーによる熱視線や、デモゴルゴンらの魔術によって、船団にもダメージが入っていく。

 

「うっはっはっ!!盛り上がってきたのう!!」

 

 地上でも同じく蹂躙が始まる中、光線砲撃を放ちながらも高速で進む方舟の船頭で、高笑いする一人の姿。

 

「わしも暴れたくなるものよ!!────天魔轟臨!とくと見よ、これが魔王の三千世界(さんだんうち)じゃあ!!」

 

 自身を中心として火縄銃が輪を描いて現れ、その銃口を上げる。そして、軍服の少女──織田信長が刀を振り下ろすと共に銃口が火を吹いていく。

 だが、攻撃を放とうとしていたのは彼女だけではなかった。戦域全体が見渡せる艦橋の頂きにて、巫女風のセーラー服を着た少女が剣を高く上げる。

 

草子、枕を紐解けば、音に聞こえし大通連。いらかの如く八雲立ち、群がる悪鬼を雀刺し────」

 

 少女──鈴鹿御前の持つ刀が空へと舞い、大量の剣へと変わる。

 閉じていた目を見開き、悪魔の軍勢へと手を振り下ろす。

 

文殊智剣大神通────『恋愛発破・天鬼雨』!!」

 

 鈴鹿御前の号と共に剣の雨が降り注いでいく。その宝剣は悪魔達の身体を刺し貫くばかりか、風穴を開けて後ろの敵にも当たっていく。

 次々と殲滅されていく悪魔達だが、それでもきりがないかのように無数に現れる。

 

「あぁんもうっ!全っ然減らないし!!なんなのあのキモいの!チョー迷惑なんですけど!」

「向こうからすれば下級悪魔ですからね。量産体勢が整っているのでしょう」

 

 地団駄を踏む鈴鹿御前の隣で、柔和な笑みを浮かべるケイローン。だが、そんな彼の頭の中では、今でも戦況分析が行われていた。

 例え今のマスターに、マックスウェルの悪魔の補助によるほぼ無尽蔵の魔力が供給されるとは言え、膨大な数の悪魔を捌くには無理がある。

 どうしたものかと思考を巡らせていたそのとき、甲板にて蹄鉄の音が鳴るのを、ケイローンは耳にした。

 

「ここはお任せを。塔までの道のり、開けてみせましょう」

「鬱陶しいな。一掃する」

 

 黒と白の巨馬にまたがる二人の獅子王。その手には"最果ての槍"が掲げられており、何をする気なのかは明白であった。

 そんな二人の背後に、フードを深くかぶった一人の少女が、あたふたと畏まりながらも佇んでいた。

 

「え、えとっ、どうして拙が……」

「あなたも、この"最果ての槍"を持つのでしょう?」

「いい機会だからな。どれ程のものか見せてもらおう」

 

 もはやどう言っても、この二人の前で宝具を見せると確定していることに、グレイは静かに項垂れるのであった。

 

「さぁ、行きましょう。──最果てより光を放て……

「聖槍、抜錨────」

 

 二人が槍を解放しようとしていることで我に帰ったグレイも、また同じくして聖槍(アッド)を掲げる。

 

「アッド!」

『疑似人格停止。魔力の収集率、規定値を突破。第二段階、限定解除』

 

 

「其は空を裂き、地を繋ぐ!!」

「突き立て、喰らえ、十三の牙!!」

「聖槍……抜錨────」

 

 

 

「「「『最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)』!!!」」」

 

 

 三重に重なる3つの聖槍の光が、風を纏い、極光となりて天空塔までを阻む悪魔達を屠っていく。その神聖さ故に、触れるまでもなく蒸発していき、遂には塔にまで届く。

 だが、塔へと直撃する直前、それを阻むかのように禍々しい炎が吹き上がる。そして遂にはその炎もろとも爆散してしまう。

 しかしそれでも、今は塔までの道のりができたことが重要であった。

 

「マスター!」

「────ルシファー!今なら!」

「任せよ!」

 

 方舟が光を帯び、揺れを感じさせることなく、しかして光速にも等しい勢いで群れにできた穴を通貨し、塔の目前にまで迫る。

 もうすでに塔は目の鼻の先────そんな矢先であった。突如、方舟が何かに巻き付けられる。と思った瞬間、強い重力がかかり、地面へと撃墜されてしまう。

 

「──っ……い、一体なにが──」

 

 立香は、その先から声が出なかった。

 立香の目線が向くそこには────巨大な、それこそティアマトにすら匹敵しかねないほどの巨大な蛇の胴体を持った女性が、憤怒の形相で立香達を見下ろしていた。

 

「Aaaaaaaaarrrrrrrr──────!!!」

「そ、んな……『エキドナ』……どうして……」

 

 狂ったような叫び声を上げる巨体の存在に、リリスが呆然と、そして悲しみを堪えるかのような声を絞り出す。

 





ついに物語はクライマックス。やっとここまで来ましたよ……。


クライマックスにあたり、皆様にアンケートをば。現在、マルチエンディングを考えておりまする。以下厳選したサーヴァント達から、『この人のエンディングを!!』というものをお選び下さい。
募集期間は vsサタン回 までです!




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7-2 The crazing friend


『エキドナ』
ギリシャ神話におけるティアマト的存在。ただしこちらは魔獣の母であり、向こうは神々の母。
ネメアの獅子、ケルベロス、ヒュドラといった有名な怪物達の母。蛇の胴体を持ち、翼を生やした美女。ラミアとは似て非なるものであり、どちらかと言うと〈竜〉の分類。
神話における死後、煉獄にて過ごす。ゲーム上でのクラスは〈ライダー〉。




 

 血走った、まるで自我がないかのような目をする巨大な蛇の女性に、リリスの目は愕然と見開かれていた。

 この巨大な敵の正体を知ってるであろう反応をするリリス。だが、ここは戦地であり、茫然としているリリスを、立香は我に返すことを含めて大声を上げる。

 

「リリス!」

「──ッ!」

 

 立香の上げた大声に、体を小さく跳ねさせて我に返るリリス。

 だが、そんな彼女を撥ね飛ばすかのように、その巨体から放たれる薙ぎ払う尾が迫り来る。

 

「■■■■■■ー!!」

 

 当たる寸前、ヘラクレスがリリスの前に立ち、その尾を石斧で受け止める。多少下がりはしたものの、その場に留まり攻撃を防ぎきる。

 唖然とするリリスに、ヘラクレスは顔を少し向けると、小さく頷く。ハッとするリリスは、すぐさまその目を鋭くし、かつての狂える友を見据える。

 

「エキドナ、ですか……。その名、久々に耳にしましたね」

「■■■■……」

 

 いつもの優しげな顔を引っ込め、真剣に、そして完全に臨戦体勢に入っているケイローン。そして眉を寄せながら、その巨体を見上げるヘラクレス。

 

『Aaaaaaaaarrrrrrrr────―!!』

 

「これが、あのエキドナですか……。当時より随分とヒステリックになっていますね」

「おかしい……。私が居た頃よりも随分と狂化している」

 

 同じく怪物として恐れられたメデューサとゴルゴーンが、エキドナの違和感に気付く。彼女達の認識では、エキドナは確かにヒステリックを起こしやすくはあったが、それも子を殺され続ければを考えれば妥当なところ。

 しかし、今目の前にいるエキドナは、まるで復讐に狂っているかのようで、何かに恐れているようにも見てとれる。

 

「────おっ?そこに気付く辺り、流石はギリシャ神話の怪物さん達だネェ?」

「「ッ!?」」

 

 この混沌とした場に似つかわしくない、朗らかな声が背後より聞こえる。咄嗟に手に持つ鎌と蠢く蛇をもってして背後を裂く。

 しかしヒラリと避けられ、曲芸師のような見事な空中捻り回転を決めたのは、白黒のピエロのような仮面の男────アザゼルであった。

 

「ひゃぁー、怖い怖い。もうちょっと穏便に行こうよー」

「どの口がいいますか外道」

 

 油断なく鎖鎌を構えるメデューサと、蛇の鎌首をアザゼルに向け続けて威嚇させているゴルゴーン。更にはアザゼルの登場に気付いた面々が、警戒態勢を限にまで上げていた。

 それでもなおおどけるようにフラフラとするアザゼル。それはまるで挑発しているようであり、ふざけているようでもあり、嘲笑っているかのようでもあった。

 

「ンッフフー、やだねぇヤダヤダ。怖い人ばーっか。せっかくイイコト教えてあげようと思ったのに~」

「……何の用だ」

 

 鋭い目線でアザゼルを睨む立香。今まで出会ったいかなる敵よりも悪辣で、猟奇的で、快楽主義者であるということを、立香は今まだの行動から解っていた。

 アザゼルは、その仮面の中の口角を、笑みを浮かべるかのように引き吊り上がらせ、その濁った瞳孔に恍惚を滲ませながらに口を開く。

 

「彼女にはネェ~……キミ達への憎悪をたぁーっぷり入れ込んだのサ。それこそ、魂が崩壊するほどに、ネ」

「なっ!?そんなことをしたらエキドナは!!」

 

 驚き、そして何とおぞましいものを見るかのように、声を上げて叫ぶリリス。その声を聞いたアザゼルは、愉悦感たっぶりにクスクスと嗤う。

 まるでそれは、他人の魂を、存在を、オモチャであるかのように容易く弄り、壊し、いらなくなれば棄てる。まさしく外道の如き所業であった。

 

「アハァ♪ま、せいぜい楽しんで殺し合って(遊んでいって)ネ~。こっちはこっちで用事あるから。ほーんじゃ」

 

 言うだけ言って転移して去っていくアザゼル。残されたのは未だ気が狂ったように暴れ続けるエキドナと、何かすることもなく、去るのを見つめていた立香達のみ。

 遠方では、未だに悪魔の軍勢とぶつかり合う仲間達。立香はただ俯いて、歯を食い縛るだけしかできなった。

 

「先輩……」

 

 心配そうに声をかけてくるマシュの声。どうにか声を上げようとする立香。

 そんな立香の肩に手がのせられる。それにつられて顔を向けると、立香を落ち着かせるような穏やかな表情のケイローンがいた。

 

「あっ、先生……」

「マスター、彼のことは後回しです。そして、エキドナのことは我々にお任せを」

 

 そう言うケイローンの後ろには、ヘラクレスを始めとして、アキレウス、アタランテ、メデューサ、ゴルゴーンなどと言った、ギリシャに謂れのあるサーヴァント達が集っていた。

 

「我々ならばエキドナのことを知っていますので、幾ばくかの対処はできます。なので、その間にマスターは元凶の元へと向かって下さい」

「でも……っ」

 

 立香は思うように言葉が出ず、詰まらせてしまう。

 それに優しく微笑み、立香の目を見てケイローンは語る。

 

「いいですかマスター。エキドナは本来我々ギリシャの者達が生んだもの。であれば、我々がその相手をすることは道理に敵っているのです。何より、同郷のものがこうなっているというのに、それに何もしないのは我々としても心苦しいのです。ですからお願いです、マスター」

「…………解った。ここを、エキドナをお願いします。ケイローン先生、皆」

 

 その立香の返答に、ケイローン達はただ静かに、しかし力強く頷き返す。

 そして、立香はマシュや同行する者達を連れてバベルの街へと入っていく。リリスはそれに追随し、ケイローンとすれ違う瞬間、目線で意思を伝え、対して黙って頷くケイローン。

 

「さて、では行きますよ、皆さん」

「「「おう(はい)!」」」

 

 





アザゼルは愉悦部。


Q,アザゼル君は何したのー?
A,煉獄内に渦巻く怨念やら憎悪やらを、エキドナの魂に入☆魂し続けたのー。さらに耳元でエキドナさんのトラウマを刺激し続けて精神も破☆壊したのー。
正直言ってゲスいやり方なのー☆



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7-3 The forever life


小説進めながら……

ワイ「よぅし、うちの悪魔達でクロスオーバーしちゃうぞぅ!」

悪魔´s「ヤッター」

ワイ「あれ?でもこの設定だと他作品のとこオーバーキルにn「黙って書け(殺気)」イェッサーッ」

割とどの作品でもシャレにならん強さだと思われる悪魔達……やはり魔王は魔王だったか……(戦慄)。
おっと?誰か来たようだ………(以後ノイズのみ)



 まるで壁のように迫り来る、巨大な鱗が付いたの尾。それを真っ正面から受け止める、漆黒の巨人。押されつつも、相手の勢いを利用して投げ飛ばす。

 女性の姿の上半身には、無数に矢を放つ賢者と、一矢一矢が鋭く的確な狩人によって、いくつもの矢傷ができていた。

 

『Aaaaaaaaarrrrrrrr────―!!?Aaaaaaaaa────!!』

「くっ!?」「ぐぁっ!!」

 

 その猛攻の最中、予期せぬ方向から攻撃を受け、ケイローンとアタランテの二人は弾きとばされる。地を滑りながら顔を見上げると、今までは二対でしかなかったはずの腕が、四つ増え、六対十二本の腕となっていた。

 うねる尾は大地を荒らし、崩れていた姿勢などもうすでになかった。ヘラクレスの腕力をもってしても倒すには至らず、その絶叫と巨体による質量の攻撃は続いていた。

 

「ヘラクレスのやつめ……。昔、エキドナと言う者に会っていたなどと聞いていたが……とんだ者と会っていたようだな!」

「■■■!!■■■■■■■■■■!!」

 

 狂化によって会話は成り立たぬとも、長らくの付き合いでニュアンスは理解できるアタランテ。顔を見上げれば、メディアやアキレウスらが頭部付近に攻撃を放っており、それを鬱陶しそうにしているエキドナ。

 

「えうりゅあれ、つかまってて!!」

「えぇ!……酷い姿になったものね、エキドナ」

 

 エキドナの尾を避け、その肩にエウリュアレを乗せながら走るアステリオス。時にはその手に持つ両の斧で弾きながら猛進する。

 

体躯、増大────墜ちよ!!」

『Aaaaa──ッ!?』

 

 魔力を使い、いつぞやのバビロニアの時ほどにまで巨大化したゴルゴーンが、エキドナを叩き倒す。

 耐えきれずエキドナは地に沈むが、同時に魔力が四散し、元の大きさにまで戻ってしまうゴルゴーン。小さく舌打ちもするも、すぐさま自らに揺蕩う蛇から邪光線を放っていく。

 巨体故に目立たないが、エキドナの身体には次第に数多くもの傷がつけられていた。

 

『Aaaa──────a……ァ……ァァァァアアアアッ!!』

「ッ、そうときましたか!!」

 

 重体にまで追い詰められたエキドナ。だが、突如として今までとは違う、体を丸めうずくまるという行動に出たエキドナに、ケイローンは歯噛みする。

 次の瞬間、うずくまるエキドナから溢れるように、ケルベロスやヒュドラを象ったであろう、泥のようなものが現れる。奇しくもそれらは、かつてのエキドナの子供らのカタチを取っていた。

 

「んだありゃあ!?奴さんから何か出てきてんぞ!?」

「エキドナの子達です!紛い物でしょうが、相当に強いはずですね────ですが」

 

 メデューサが一呼吸置いて、眼科の巨人を見る。その巨人は石斧を静かに持ち、襲い来る怪物へと歩んでいく。

 

「────"■■■■■"!!」

「こちらには、"怪物殺しの英雄"がいますからね」

 

 狂化していながらも、その巧みな技量を持って怪物達を次々と仕留めていくヘラクレス。

 石斧を振るい、薙ぎ払い、吹き飛ばし、時に蹴りあげ、時に殴り付け。『射殺す百頭(ナインライブズ)』と呼ばれるヘラクレスの武術によって、なす術もなくどんどんその数を減らしていく怪物達。

 

『ァァァァアアアア……ヘ、ラkkreスゥゥゥuuuu────!!』

「■■■■────!!」

 

 血走った目を向けるエキドナ。地面をかきむしるようにヘラクレスに向かうその姿は、ある種の恐怖をかきたてる。

 しかし"狂化せし大英雄(ヘラクレス)"は動じることなくエキドナを見据える。その距離が近付き、エキドナの口が大きく開かれる。

 それを見据えたかのように、ヘラクレスは力任せに石斧でかちあげ、エキドナを仰け反らせる。

 

「──そこッ!!」

 

 さらには横からトゲのついた鉄球(モーニングスター)が飛来し、エキドナの頬をを撲り飛ばす。それに終わらず、鉄球は跳ね返ったところから制止し、振り下ろされてエキドナの顔を地に付ける。

 駆けながら鉄球を引き、さらに追撃をかけんと鋭くその目を吊らせるアマゾネスの女王──ペンテシレイア。絶叫をあげ、怒りに燃える目を爛々と輝かせながらエキドナは起き上がる。

 

「──"これこそは、星の蠍を穿つ一撃。なれど此度は、魔性に堕ちたる者を穿つ粛清の一撃────」

 

 黒洞であるはずの空が輝き、射手座の星が合間見える。

 一筋煌めき、その下にいるのはエキドナに狙いを定めて指先を振り下ろすケイローン。

 

「我が矢はすでに放たれた!『天蠍一射(アンタレス・スナイプ)』!!」

 

 射手座の弓から一つの光がエキドナに向かって落ちてくる。それは、まさしく流星の如き閃光。

 今、その閃光はエキドナの右肩を貫き、そのダメージの大きさ故に悲鳴を上げる。

 

『ァァァァアアアアAAaaaaaaa────ッ!!?』

 

 縫い付けるかのように肩を撃ち抜き、大量の血が溢れる。その痛みによって、エキドナの攻撃が止まる。

 その絶好の機会を逃すほど甘いものなど、この場にいることはなかった。

 

「一方はおられるのだが……ええいままよ!"二大神に願い奉る──『訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)』!」

「クサントス!バリオス!ペーダソス!今度こそいいとこ見せてかっこつけるぞ!!『疾風怒濤の不死戦車(トロイアス・トラゴーイディア)』!!」

「あぁ……ぁァァ……ァァァアアア、アキレウスゥゥッ!!殺す……殺す殺す殺すッ!!『我が瞋恚にて(アウトレイジ)()てよ英雄(アマゾーン)』ッ!!」

 

 ダメージが深く残っていたエキドナの身体に、さらに宝具が叩きつけられていく。

 傷口は増え、苦悶の声を上げるエキドナに、これで終わりではないとばかりに追撃が加わっていく。

 

「昔馴染みのよしみです。優しく葬って差し上げましょう。────『騎英の手綱(ベルレフォーン)』!!」

「千魔眼、解放────貴様の呪い、今融き落としてやろう──『強制封印・万魔神殿(パンデモニウム・ケトゥス)』!!」

 

 メデューサとゴルゴーンの宝具が、エキドナの魂に渦巻く怨念を穿つ。

 そして、トドメとばかりにヘラクレスの乱舞が始まる。雄叫びを上げ、切り裂き、殴り、蹴り、また切り裂き、殴り。斬って、殴って、斬って、蹴って、斬って、斬って、斬って斬って斬って──────。

 

「■■■■──────ッ!!」

 

 そして、ついにエキドナの胴体を袈裟に斬り裂き、致命傷を負わせることとなる。もはや治ることも治すこともできぬ傷を負った大蛇の美女は、無言の悲鳴を上げる。

 そうして、その巨体を地を鳴らしながら横倒しにしていくエキドナ。まもなく命潰えるというその間際、エキドナの口が言葉を紡ぐ。

 

『────あり……がとう……英雄、さん……』

 

 ニコリと微笑みを浮かべ、砂のように砕け散っていく。ゆっくりと消えるのではなく、今までそのカタチを保っていたのが奇跡と言えるぐらいに、粉々に。

 それをヘラクレスはただ静かに、しかし黙祷するかのように佇んで見守るのみであった。

 

 





ヘラクレス超活躍回。
そして超長くなっちまった回、すまぬす。

興が乗ったので筆を進めた。後悔も反省もしていない、むしろ清々しい気分だッ!!(割と本気で)


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7-4 In the Migdal Babel


書かねば……あぁ、かかなければ………
まぁゴッホちゃんはうちにはいないんですけど((

鎌倉始まりましたねぇ……カゲキヨェ……

今現在書いてるオリサバ含めると、我が家はアヴェンジャー大杉なんですよねぇ……(なお筆頭はサタン)

アヴェンジャー大好きっ子じゃダメですか?ダメですか。そ↑ぅで↑すか(道満風)……




サタンの眷族たるファミリアー達の銃撃を掻い潜り、立香達は街の中を駆けていく。

 避けきれないものはマシュの盾で防ぎ、時には迎撃し、街の中央になる天空塔まで一直線に走っていく。

 

『──急いだ方がいい!向こうは既に、空想樹に何かしらしているはずだ!』

「空想樹"パンドラ"……──名前からして、あまり良いものではなさそうだ、な!」

 

 飛来してきた銃弾を、その手に持つ二対の中華剣ど弾き、それらを投げ当てて反撃しているエミヤ。

 街中には既にハサンらが侵入し、ある程度の"掃除"がなされていたが、それでもファミリアー達は次から次へと現れ、立香らを先に行かせまいと妨害してくる。

 

「……おかしい」

「アーサー?」

 

 立香の先陣を切り、状況をよく見ていたアーサーは、ふとした疑問をこぼす。

 

「彼ら、先程からずっと僕らが進むのを足止めしているような感じがする」

「足止めだぁ?んなもん、なぁんでまた……」

 

 ひぃひぃと肩で息をしながら、アーサーの持った疑問に対してくたびれた様子も隠しもせずに問うアンリマユ。

 そんな会話の中でも銃弾は止まず、退避した路地裏の角が銃弾によって削れていく。それを見て、角の外を警戒しつつ話を進めていく。

 

「本当に世界を破壊することだけなら、時間稼ぎなんていらないはずだよ。何せ、ビーストの霊基を持っているんだからね」

「つまり……塔の内部で何かしているってこと?」

 

 立香の推測に、アーサーは黙って頷く。そうしていると、外のファミリアー達が、先に侵入していたハサン達によって落とされていく。

 外の敵が落とされていくのを見ながら、立香はまた塔へと走る。

 

「中で何をしているかは知らんが……急いだ方が良さそうだな」

「魔神さんもそう思うぞ。なんだか嫌な予感がピンピンだ」

 

 走る速度をほんのりと上げて、立香達は銃弾の雨の中を走り抜けていく。

 そうして走っていくことしばらく。ついに塔が見える大通りへと出た立香達。遠くではあるが、塔内部への入り口を自認できた。

 

「あそこだ──────」

「──ッ!?待てマスターッ!!」

 

 エミヤに首根っこを掴まれ、塔の入り口へと走りだそうとしていた立香を引き止める。いきなり首根っこを掴まれたことで、危うく転びかける立香。

 だが、転びそうになったということよりも、突如としてバベルの街全体に地震が起き始める。それはどうやら、天空塔、強いては塔内部の空想樹から起こっているようであった。

 

「これは────」

「遅かったか……ッ」

 

 エミヤが歯噛みする。その次の瞬間、地震も収まっていないのに塔の外壁に亀裂が走る。それも、一つではなく、無数に、次々とひび割れていく。

 不吉な音を鳴らしながら、亀裂を増やしていく外壁。とその時、亀裂が一際深く刻まれ、それを突き破って巨大な蛇のような竜の頭が現れる。それは一つだけではなく、二つ、三つと増えていき、ついには計六つの蛇頭竜が現れてくる。

 

「なんっ……」

 

 皆が絶句している中ただ一人、アンリマユだけはそれをどこか見たことがあるかのような風体でならみつけていた。

 

「『黙示録の獣』じゃねぇか……ッ!!」

 

 一際大きく外壁が砕かれ、中から禍々しい紅蓮の身体を持つ、巨大な二本の"角"を持った竜が現れる。四対八本の腕を砕けた外壁の穴の淵に置き、身体を乗り出す。

 その異様さは語るべくもなく、その振り撒く瘴気はそれほど近くではないにしろ怖気(おぞけ)を沸き立たせるには充分だった。

 

『ォォォォォオオオオオオオ────────!!』

 

 雄叫びを上げる。地が震え、空に木霊し、勇気あるものの心を砕くかのような寒気が襲い来る。

 まるでそれは、『終焉』という言葉そのものがカタチをとったかのようなものであり、『絶望』という存在そのものであるかのように感じとれた。

 

──"其は、終焉をもたらし得る存在である。赤き竜にして『獣』の王。究極の終末であり、神が遺した呪いであり、神を喰らう厄災である"ってネ」

 

 後ろから詩を読むかのような声がし、すぐさま後ろを振り替える。そこには、『獣』を見上げながら佇む、道化師のようなモノクロの仮面をつけた者──アザゼルが立っていた。

 

「遅かったじゃなぁい、カルデアの皆サン?♪物語はもうクライマックスだヨ?」

「あ、アザゼル……!!」

 

 アザゼルに気付き、すぐさま立香の前で盾を構えるマシュ。他の面々もまたここにきてのアザゼルの登場に、警戒度を極限にまで上げていた。

 そんな中、いつになく真面目な空気を出し、アザゼルを鋭く見つめるアンリマユが口を開く。

 

「おいアザゼル……なんであれが"生きて(・・・)"やがる。あれの元になったのはなんだ!!」

「──『サタン』さ、アンリマユ。彼は遂に本当の『獣』の力を手にいれたのさ」

 

 地を鳴らして、未だ戦闘を続けている方舟の方へと進む『獣』。足元の建物は踏み締められる度に塵に変じていき、地面は死した不毛の土へと変わっていく。

 それを背景にするかのようにアザゼルが宙へ浮き、高らかにその声を上げる。

 

「これこそが本来の『終焉』の竜!!『終末』を体現せし存在!!『忿怒』の"獣"のあるべき姿!!彼は遂に成ったんだ!!このクソッタレた世界を終わらせる存在に!!さぁ高らかに名を挙げよう!!彼の名は、そう──────

 

 

 

 

 

 

 

Satanael(サタナエル)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さぁ、終わらせよう。全て、全て、ボクらの手で──」

 

 

 





空想樹パンドラ
→クラスは『アヴェンジャー』。
これまで(二部三章まで)において最大規模の空想樹。カルデアが観測したのは北欧、ないしは秦国ほどだが、その実態は既に地球全土を覆い尽くせるほど。
だが、根が煉獄(正確には樹の先端が煉獄)にあるため、実情としては、『地球全土を覆えるが、実質地下なため不可能な状態』である。
これを利用し、サタンとアザゼルが手を加え、ゼルレッチよろしく平行世界の観測・干渉を可能にした。なお、現在は集めた魔力の大半を『サタナエル』に持っていかれた為、一時的な休眠状態。



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7-5 The crazy Clown/Dirty


サタナエル(BEAST)〈設定スペック〉

体長:125,645.86cm(約126m)
体重:1.56t

〈見た目〉
・首関節の脊椎から三つの蛇竜のような触手頭
・ボルメテウスに似てるけどもっと禍々しい赤
・翼が四対八翼
・頭が計7つ。触手頭に目はないが、本体の頭は目が三対六個ある
・それぞれの頭に王冠に似たカタマりがある
・角はナバルのを後ろに伸ばした感じ


………(゜Д゜)




 

 山のような巨大な存在が、見るものを恐れさせる威圧感を発しながら歩む。爛々と輝くその六つの眼は、なお戦場を見続ける。

 闇夜のようなコートをはためかせながら、空に佇むアザゼル。その目はどこか狂気をも思わせ、どこか儚ささえも見出だせた。

 

「……させないよ、そんなこと」

 

 訝しげに、視線だけで立香の反意に反応するアザゼル。

 例え如何なる理由があったとしても、立香は世界が壊されることを黙ってみているわけにはいかない。なぜならば────、

 

「例え魔術があるから世界が狂っているとしても、俺達が出会ったこの絆は、絶対だ」

「…………へぇ?ふぅん……そう。キミはそういう奴なんだネェ……」

 

 幽愧のように、ゆらりと揺れて振り替えるアザゼル。それに対して立香は、自分の言葉に間違いはないとばかりに強い目で見据え続ける。

 ふと、アザゼルの姿がかき消える。そして背後に、よく言えば自分の首筋に、細く鋭い殺意を感じた。

 

「させん!!」

「バッカ!?」

 

 立香の真後ろで金属音が鳴り響く。驚き振り替えると、腕を伸ばして、互いの武器を交差させている状態のエミヤとアンリマユ。そして、綺麗な宙返りをしながら距離を取るアザゼルがいた。

 着地し、のらりくらりとした動きで立つアザゼル。仮面の隙間から見える口元には、嘲笑の形が見てとれた。

 

「ンフフ~やるもんだネェ。────でもさァ、もう手遅れなんだよ、人間共」

 

 瞬間、今までのアザゼルの胡乱で飄々とした態度から、凄まじい怒気と憎悪が滲むオーラを放ち始める。

 突然の豹変に、思わず顔が強張り、冷や汗スライム流れ落ちてくる。それは今までにないほどの、ただただ凄まじいとしか言えない怒りだった。

 

「ボクらは神を殺す。摂理を壊し、神を殺し、遊戯版のように弄ばれるこの世界さえも殺す。好きなように生きることを許さないこの世界は、死ぬべきなのさ」

 

 溢れ出る怒気と、高らかになっていく語調そのままに、アザゼルは口を開く。

 

「そもそも、キミ達がいてくれるお陰で、抑止力とかいうのも動けないようになってるからサァ?」

「……どういうことだ」

 

 聞き捨てならないことを口にしたアザゼルを、エミヤが鋭く睨み付ける。

 当の本人は、そんなことどこふく風のまま、より嘲笑を深めてのたまう。

 

「ンフフフ。そりゃあ抑止力はもちろん気付いているさ?けどネ?そもそもこの煉獄には抑止の力は届かない。仮に届くとしても、キミ達カルデアがいることで抑止の人員は皆出払っている。つまり世界の霊基箱はもぬけの殻」

 

 つらつらと、自らの見解による抑止の動きを述べていく。

 抑止は動けない、そして今アザゼルが言った『キミ達カルデアがいることで』という言葉。そこから頭の回転が早い者は結論を察していく。

 

「──つまり、"藤丸立香(キミ)"という存在が消えない限り、抑止はこの世界に誰も送れないのサ」

「…………」

 

 告げられた結論に、立香はただ押し黙る。

 自分が消えないと抑止は誰も送れない、という事実をまざまざと教えられた立香。だが、その目はまだ諦めていなかった。

 その魂に、陰りは見えなかった。

 

「──例え、そうだとしても」

「……?」

 

 見下すかのように顔を上げながらも首を傾げるアザゼル。

 立香は、そんなアザゼルに強い意思を見せつける。

 

「それでも俺は、止めてみせる」

「……そう。キミなら、そういうだろうネ。……ほんと、羨ましいね……

 

 放っていた怒気と威圧感を静め、淡く笑みを浮かべるアザゼル。小声で何か言ったような気がしたが、立香達に聞こえることはなかった。

 そして、その笑みを淡いものからまた嘲りが滲むものに変えると、前屈みになって相対する。

 

「じゃあ止めてみせなよ!その心で!その想いで!ボクらの狂騒をサァ!!」

 

 屈みから地面を滑るように駆け抜けて迫るアザゼル。それに対抗するのは、

 

「おおっと、させねぇってなぁ!!」

「ッ!!」

 

 その手に持つ歪な短剣で受け止めたアンリマユ。交差する、爪のようなアンリマユの刃と、草刈り鎌のようなアザゼルの短剣。

 跳ね返し、身軽な動きで間合いを取る。

 

「まさかキミがボクに向かってくるなんてネェ……アンリ?」

「だぁかぁらぁ、オレはモノホンじゃねぇって何回言えばいいんだよ。……まぁ?テメェはオレが相手すんのが丁度いいだろ?」

 

 せせら笑うアンリマユ。スッと目を細めるアザゼル。獲物を見据えた獣のような空気を待とう二人。

 

「へいへいマスター?超貧弱なオレがどうにか抑えとくから、さっさと置いて行ってくれよ?」

「ほう?最弱だと普段から宣う君が抑えるというとは珍しいものだな」

 

 意外そうな顔をすると、すぐさま元に戻るエミヤ。アンリマユのふざけるような空気は変わっていないが、普段よりも真剣味を増していた。

 

「……まぁいい、ここは任せた。行くぞマスター」

「えっ、でも……解った、生きてまた会おう、アンリ」

 

 アンリマユの意を汲んだエミヤが立香を急かし、立香はアンリを一目見て、サタナエルの元へと走っていく。

 去り際に一声掛けられたアンリは苦笑いを一つ溢すと、気合いの入った目でアザゼルと向き合う。

 

「あー……ほんっと、お互い辛いねぇ、都合のいい悪役はさ。…………ま!とっとと逃げ帰りたいんで?さっさと済ませますかねぇ!!」

 

 短剣を牙のように逆手で構え、疾駆する。

 激突する"悪魔の道化"と"道化な悪役"。似ているようで反する二人が交差する。

 

 





抑止「ん?ビースト反応?よっしゃ誰か送ったったろ!」
→英霊がほぼ全員カルデアに行ってて対抗できそうなのがいない
抑止「アレレェ~?……ヤッベェ……」


抑止力は動けません。だって使えるの誰もいないんだもの。
(´・ω・`)
あとアンケートちょっと一旦締め切るというか、訂正させてもらんます。アンリがここで抜けるのすっぽ抜けてたんで………。




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閑話 宇津見エリセの『あくまといっしょ』


リンボ出た!(宝具2) じっちゃん来ない!(爆死) 景清キターーー(゚∀゚*)ーーーー! アイェェェ!?カレン!?カレンナンデ!?

すんません……最近話をどう繋いでいこうかとスランプ気味なんでさぁ………。あでも『未完』で終わらせる気も、ましてや凍結する気もないのでご安心を!!


ほんとはこれ、全部終わってからにしようと思ってたんだよなぁ……
基本エリセ視点でいきます。出来ます(白目)。



 

 私は『宇津見エリセ』。最近、この人理保障機関『カルデア』に呼ばれたばかりのサーヴァント……なんだけど、私自身、自分がサーヴァントになってるっていうことにはイマイチピンときていない。

 あんまり長く話すのもあれだから、今の状況を話すね。

 

 なんでも、私がカルデアに来る以前に、煉獄だか魔界だとかいうところの、正真正銘の大悪魔達との戦争があったとか。

 その時に私も居たかったとは思うけど、やっぱり本物の悪魔だから、きっとかなり怖いはず。色々と複雑だけれど、いかなかくてよかったかもと思ってた。

 

「あぅっ!?」

「うぉっ!?」

 

 やってしまった。色々と回想してたら、廊下の角で恐らく英霊だろう人とぶつかってしまった。

 しりもちをついてしまったけだ、私は慌てて立ち上がって頭を勢いよく下げた。

 

「ご、ごごごっごめんなさいっ!!」

「お、おぉう、気にすンなって。嬢ちゃんケガァねぇか?」

 

 そう言って、私の頭をわしゃわしゃと撫でてくる。すごく、優しい。

 でも聞き覚えのない声で、誰だろうと思って顔を上げる。真っ黒なコートに、どういう原理で跳ねてるのかわからない緑の髪をした男の人。

 

「む?何事であるか?」

「んぉ、征服王」

 

 角からひょっこりと顔を出してきた征服王──大王イスカンダルにびっくりして声が出なくなる。

 どうにもなんにも言えなくて、私が口をパクパクさせていると、緑髪のお兄さんが気さくそうに話す。

 

「いやよゥ、オレがうっかりこの嬢ちゃんとぶつかっちまってな。ケガァねぇかとよ」

「ほう、お主程の者でもそういううっかりはあるのだな」

 

「そりゃあな」と呵呵大笑して和ませてくれるお兄さん。すごい、やっばり英霊になる人ってこういう人なのかな。

 そう思ってポカンとしていると、通路の奥から、紅くて長い髪の男の人が走ってきた。その人は緑髪のお兄さんを見るとすぐさま駆け寄ってくる。

 

「ちょっ、兄貴ィ!探したッスよ!?マスターが呼んでるッス」

「おゥ、悪ィ悪ィすぐいくわ」

 

 笑顔を絶やさず、気さくそうなその人は、少しだけ汗をにじませる紅髪の──オッドアイだ、珍しい──人に笑い返す。

 それを見ていた大王様が残念そうにして見送ろうとしていた。

 

「ふむん、そうか。折角だから酒でも飲み交わそうかと思ったのだが……。うむ!では戻ってきた時にでも飲もうぞ!────『暴食(グラトニー)』よ!」

 

 グラトニー。それを聞いた私は思わず固まってしまった。だって、その名前を持っているのは、それを持つ存在は────

 

「"ベルゼビュート"でいいって何回言えばいいンだよ。ま、ちっと行ってくるわ」

 

 どこからか大きな槍を取り出して、様になってる動きで手首でクルクルと回しながら肩に乗せるお兄さん──ベルゼビュート。

 私はまだ、思っていた姿と現実との乖離に意識が戻らないままだった。そんな私に振り返ってニッカリ笑う。

 

「前には気ィつけとけよ、嬢ちゃん。じゃあな~」

 

 そう言って、翻るコートの背中を、私はただ呆然と見つめることしかできなかった。

 だって、だって。あの人はそんな気配も、空気も、見た目もしていなかった。本当に、気のいいお兄さんみたいな、爽快な人だった。あのお兄さんは────悪魔には見えない、カッコいい人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、また会ったな嬢ちゃん」

「あっ」

 

 突然だった。いつものようにマスター君に呼ばれて、いつも通り素材集めや情報収集のお手伝いをした帰り道。たまたま食堂に行く道で鉢合わせたお兄さん。

 突然のことで脳がフリーズしてしまって、なんて声を掛けたらいいのかわからない。そんな私の隣で、ボイジャーが彼に近寄る。

 

「こんにちは、かぜのおにいさん。きもちいい、かぜだね」

「おン?おゥよ。坊主も、立派に楽しい"旅"してんじゃねェか」

 

 また眩しいぐらいに清々しい笑顔で、今度はボイジャーの頭を撫でている。

 わしゃわしゃと、ちょっと乱暴だけど、優しい撫で方。なんだ、そんなに緊張しなくてもいいのかも。

 

「あの……は、初めまして、ベルゼビュート、さん。わ、わわ私、う、宇津見エリセって、言います」

「おォう、嬢ちゃんは嬢ちゃんでガチガチだなオイ……ま、気楽に行こうや。ベルゼビュート。魔王なんてチンケなもんやってらァ。宜しくな!」

 

 それから食堂に行く途中で、彼とは沢山の話をした。その中で驚いたのは、私達が人類史の中で呼んだのは、大半が低級で、そうであるからこそよく自滅するのだとか。

 私が継ぎ早に質問しても、彼は爽々しく返してくれる。面白いことには一緒に笑ってくれたり、すごく優しい人だ。やっばりこの人が悪魔だなんて────

 

「────っ!?」

 

 殺気!?もしかして敵!?うそ、なんで!?カルデアの中に敵は来ないはずじゃ!?

 突然の殺気に驚く私に、お兄さんは頭に手を置いて落ち着かせてくれる。

 

「おうおう、落ち着きな嬢ちゃん。それと────その辺にしとけよな、『リリス』」

「────…………むぅ」

 

 なんか物凄くジト目で見られてくるんですけど!?しかもなんか膨れっ面されてるし……私、何かしたかな?

 と言うより待って欲しい。今、明らかに『リリス』って……。それってもしかして……。

 

『ちょっとリリスー?勝手にどっか行ってどう────あー、そういうこと?』

 

 私を睨み続けるリリスの後ろから、ニマニマした感じがするちっちゃい竜。

 さらにその横から新たに人影が2つ出てくる。

 

「あら?あらあらあら、なんだか面白い状況ねぇ?」

「嗤う趣味は最早ないが……これは日常としてはなかなかに面白いな」

 

 さらに背後からの声。

 

「アーニキィー!うっへぇ!?『嫉妬(エンヴィー)』に『色欲(ラスト)』ォ!?」

「何よ、いたら悪いのかしら?」

 

 どんどんと集まってくる人達──悪魔なんだけども──に囲まれつつある私は、どうにもこうにも動けない状態になっていった。

 

「なになに~?なんか面白いことしてる的な~?」

「うひゃぁ!?」

 

 耳元のすぐ近くで、ものすごく胡散臭くておどけた声が聞こえたさいで変な声が出る。正直、ものすごく恥ずかしい。

 

「イエーイ、ナイスリアクショ~ン♪」

「だァァッ!!お前らうるせぇ!嬢ちゃん困ってンだろが!あとアザゼル!テメェはすっこンでろッ!!」

 

 蜘蛛の子を散らすかのように腕を降って、私達の周りを開けさせてくれるお兄さん。

 その後解散して、とは言っても皆食堂に行くから同じ道なんだけど。でも、その直前にアザゼルさんとか言う人が、

 

「あの世の力に飲まれちゃダメだヨ?巧く使いな~」

 

 って小声で言われたのにはビックリした。私のこの力は、私ですらこのカルデアに来るまでよくわかっていなかったのに。あの人は一発で看破してきた。

 この件で、私の中でアザゼルさんに対する警戒度は上がったのだ。だって胡散臭い上に怖いんだもの……。

 

 

【宇津見エリセのレポート】

 ベルゼビュートさんはかっこいいお兄さん。マモンさんはチャラそう……。リリスさんは、なんか、怖い。アスモデウスのお二人さんは終始ニコニコでもどかしかったなぁ。アザゼルさんは……なんか……怖い…………。

 

 





アザゼルは結局警戒される。ま、是非もないヨネ!!
彼も色々あってあんなのになってますけど、実際問題、悪魔の中でも一、二を争うほど頭いいですからね、彼。


本編も筆が進み次第即座に書き足していきます。できる限り気長に待って頂けると幸いです、はい……。
(*´・ω・`)


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7-6 The Murder Beast


大ッ変遅くなりましてございッ!!

いやまぁ、バレンタインイベントとか、忙しいリア事情とか色々ありまして、なかなか更新できず申し訳ない……。

こちら最新話です。圧倒的、真なる『獣』のサタン様のお力、とくとご覧下さい。



 

 無数に湧いてくる悪魔達を、それを上回る勢いで殲滅していく英霊達。次第に悪魔の雑兵は数を減らしていく。

 とは言え、それでも相当の数がいるのは確かであり、苦戦にして連戦を強いられるのは当然であった。

 

「あーもーっ!全っ然減らないじゃないですかぁ!」

「無駄口叩いてねぇで斬れ沖田ァ!!」

 

 猪突猛進の勢いで大群を蹴散らし、さも撥ね飛ばすかのように突っ込む男──土方を余所目に、沖田は溜息を吐く。

 その間も沖田の腕は止まることも鈍ることもなく敵を斬り伏していた。

 

「はぁーあ……マスターは無事なんでしょうか────」

伏せろ沖田ァ!!

 

 半ば殴り飛ばされるようにして土方に体当たりを食らわされ、突然のことに文句を言おうとする沖田。

 だがそれは、今まで自分が立っていたところを通過した極太の光線を見たことによって閉じられる。

 

 そこには、ついさっき自身に襲い掛かろうとしていた悪魔達の成れの果て──灰すら残らない黒い線状の焼け跡のみが、なお地面を焼く音を響かせていた。

 

「ッ……た、助かりました土方さん」

「浮わついてんじゃねぇぞ沖田。ここは戦場だ」

 

 毅然として言い放つ土方。そんな彼が黙して見つめ続ける方向を、沖田は釣られて見る。

 

「なっ────で……でっっかぁ!?」

「あぁ……富士の山も霞んで見えそうだな」

 

 バベルの街、天空塔が見えたであろうそこには、見上げるほどの巨大な、龍人のような怪物。うなじ元の蛇頭の口元には、白い煙が吐かれていた。

 さらに他の蛇頭からもあちこちに熱線が吐かれており、味方であろうはずの悪魔ごと、見境なしに攻撃を放っていた。

 

 ふと、怪物が歩みを止める。そして前屈みになり、多腕のうちいくつかで地面を掴み、残った腕を口元で構える。

 すると次第に、怪物の口元に高密度のナニカが溜まっていくのが、発光しているかのように可視化して見える。

 

「不味い──ッ」

 

 土方がそう言うと共に、二人は射線外へと走って待避していく。他の英霊達も危険を察したのか、慌てて射線外へ待避する。

 世界を裂くかのような、黒く禍々しい光の奔流。それと共に襲いくる圧倒的熱量。知るものならばわかるであろう、かの『獣』の一角──ゲーティアの宝具さえ直撃してしまえば上回りかねないほどの熱量。

 

 その奔流は一直線に駆け抜け、方舟の外舷をかする。しかしかすっただけでも側面が溶け落ち、大爆発を起こす。

 船内が見えてしまうほどの風穴を空けられた方舟は、急激に高度を落としていき、ついには地面を削りながら墜落する。

 

「なん……て、バカげた、威力……なんですか……」

 

 ドレイク船長らの宝具であっても、外面の傷程度しかつかなかった方舟が、たった熱線一つで撃沈される。その法外なまでの威力に絶句する。

 当の『獣』は深く息を吐くと、また何事もなかったかのように進撃する。街並みを悠々と破壊し、部下さえもアリのように踏み潰し、先へ先へと歩いていく。

 

「──そこ!ボンヤリしている場合ではないぞッ!!」

 

 茫然としていた沖田の前に、普段とは違い切羽詰まったかのようなスカサハが駆け寄る。気のせいか、その額には汗がちらほらと見える。

 

「彼奴の進撃を少しでも止めねばならん。あれは、アレだけは地上に出してはならん」

「ッ……はい。でも、どうやって……」

 

 スカサハの意見には概ね賛成であった。しかし、あのようにして巨大で、あのようにして圧倒的な暴力を振るう存在をどうやって止めるのいうのか。

 いつになく沈痛な面持ちになるスカサハ。まるで苦虫を噛んだかのような声を出しながら答える。

 

「……わからぬ。だがしかし、執拗なほどに攻撃を加えれば少しは止まるはずだ」

 

 そう言うや否や、スカサハは二振りの朱槍を持ち直し、鋭く『獣』を睨む。

 沖田も同じ結論へと至り、互いに『獣』へと疾駆する。既に『獣』の周りには何人もの英霊達が攻撃を加えていたものの、なんら痛揺さえ感じていないようであった。

 

「ッ──おのれぇ……ケダモノ風情が図に乗りおって……っ」

「ギル落ち着いて──なんて、僕も言えないんだけど。……でも、これは不味いと思う」

 

 シュメルの神々、地を鳴らすグガランナ、そして原初の母たるティアマトさえ打ち倒してきた金色と緑髪の二人。

 自慢の宝具郡は、金色の尾を描くも『獣』に痛みさえ与えられず、神の兵器たる者の一撃は、傷と言える程の傷さえ負わせられずにいた。

 

「あ、あぁ……そん、な……これは、コレは……」

「っ……意識をしっかりしなさいスルーズ!心を折らしてはいけません……!」

「しかし我が愛よ、これはかなりマズイ状態だぞ……っ」

 

 竜殺しの英雄の額には汗が流れ、戦乙女達の顔には恐怖がありありと浮かび、恋を知った戦乙女は恐怖に震える姉妹を叱咤して、なんとか正気を保たせていた。

 

「オォォ─────────ッ!!!」

 

 地の底から震えるが如き、おぞましい雄叫びを上げる。腕を一つ凪ぎ払うだけで、一騎当千の英霊達は紙のように吹き飛ばされる。熱線一つギリギリに避けるだけで深手に近い状態となる。

 最早圧倒的とまで言えるその存在は、それでもなお立ち上がる英雄達を見下し、炉端の石を持ってでも足掻く羽虫を見るかのような目を向けていた。

 

 

 





強い(迫真)

ちなみにうちの七大罪は全員、あくまで本気を出せる環境にいれば、ゲーティアなんて片手間に潰せます。
ただし個々人とも本気を出せる環境はかなり限られる上に、サーヴァント化するとどうしても弱体化するもんですから……ね?


更新は……なるべく早くやっていくつもりです、はい。
気長にお待ちくだしあ……(白目)。



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7-7 The sealeding kaiser´s


大変長らくお待たせしましたァ!!(ドゲザァ)

前回、『ゲーティア舐めすぎ』っていう反響がすごかったので、その説明をしつつ話を進めていきます。

作者ゲーティア大好きなんだけどなぁ……いかんせん、真性悪魔のチートさを考えると、ね……(遠い目)



 

 バベルの街から抜け出して、自らのサーヴァント達が足止めするサタンの元へと駆ける。

 六つの頭からは怪光線が連続して放たれ、それに伴って響き渡る激戦の音が、立香達の耳に入る。

 

「もう始まってる……っ!」

「ペースを上げるぞ。マスター、行けるか」

 

 先導するエミヤの問いかけに、立香は走りながらも頷いて答える。

 そんな中、遠くから何かが走ってくるかのような爆音が鳴り響く。

 

「────イィッヤッハァッ!!」

 

 砂埃を巻き上げ、立香達の前に停まる一台のバイク。たなびく緑のトサカ髪を揺らすベルゼビュート。

 向かう途中で二手に別れたはずの大罪魔王達が、ようやく合流した形となった。

 

「よう兄弟、元気してたか?」

「ベルゼビュート!どこ行ってたの?」

 

 思わず足を止めた立香達。よくよく見ると、ベルゼビュートのバイクの最後部に、グッタリとしている者がいた。

 

「私こういうの厳しいと思うんですけどね……」

「うぅっぷ……同意するよ……」

 

 二つのバイクに二つの伸びた影。いわずもがなマクスウェルの悪魔とベルフェゴールの二名である。片や疲れきったかのように体を沈ませ、片や酔ったようにうずくまる。

 かぶりを振ってなんとか立ち上がるベルフェゴールが、立香の放った質問に答える。

 

「ふぅ……うんと、ね?実はこっそり、塔の中で、色々と資料を探してたんだよ」

 

 マクスウェルの悪魔が、懐からいくつかの資料の束を取り出す。

 

「これによるとどうやら、大罪魔王の皆さんの力を一部吸収し、その本領を発揮できない状態にされているそうで。その力が流れた先が、あの竜頭みたいですね」

 

 醜態から取り直すべく、饒舌な説明で現状を話すマクスウェルの悪魔。

 その資料の束にはかなりの量が書かれているはずだが、それらをかみくだき、簡単な説明に落とし込めた解説であった。

 

「気にならねェレベルで抜かれてたみてェでな、いつの間に弱体化してたってワケよ」

「俺から奪うとか許せねぇぜ……兄貴ィ、久々にカチキレそうでさァ」

 

 外見は平然としていたり、普段通りにしていたりするが、実際内面は怒りで煮えくり返っているのである。

 実際に、彼らの怒りはオーラとなりプレッシャーとなって放たれていた。

 

「──ので、取り返します」

 

 乾いた音が響いて我に帰る。ベルフェゴールが手を叩いて、しかしあまりにも無理難題に近いことをさらっと言いのける。

 唖然とする立香のサーヴァント達を余所に、魔王達はさも当然が如くサタナエルへと身体を向けていく。

 

「なっ、君たちだけでアレと相対する気か!?」

「それしかないでしょう?」

 

 なんでもないかのようにさらりと返す。何も言い返せず閉口するエミヤ。

 目だけを立香に向けて背を向けるベルゼビュートが、立香に話しかける。

 

「おう兄弟、指示をくれ。今はテメェが大将だぜ」

「ッ!!」

 

 はっとしたようになる立香。たなびくコート、それはまさしく背中で語ると言わんばかりの風格を放つ。

 彼らと令呪による繋がりは無けれど、それでも立香は意を決した風に声を上げる。

 

「魔王全員に告げる!本来の力を取り戻し、そして──俺達と戦ってくれ!」

「「「任せろ、契約者(マスター)!!」」」

 

 一瞬にして魔王達が跳んでいく。その姿は気付けば遠くになっており、残ったのはベルフェゴールだけであった。

 

「──僕達悪魔はね、先天的に"固有結界"が使えるんだよ」

「えっ」

 

 ベルフェゴールが一人ごちるように語り出す。だが、その内容は驚くべきものであった。

 

「それに加えて、大罪魔王ぐらいになると、世界そのものを塗り替える"侵食固有結界"が使えるんだよ」

 

 

 ──ベルゼビュートは、雷と暴風による竜巻と嵐が一帯を埋め尽くす破壊の世界。

 リリスとレヴィアタンは、入れば決して抜け出せない渦巻きだらけの魔の海。

 ルシファーは、神界にも近い神聖さと浄化の鐘が鳴り響く霊廟。

 アスモデウスは、もう見ただろうけど、愛欲の衝動に溺れさせる都市国家。

 マモンは、溢れんばかりの、触れば死の呪いがかけられる金銀財宝の山。

 僕のは、方舟で見せたあの塞城かな。

 

 出会ったときの挙動不審はどこにやら、朗々と遠くを見ながらに語るベルフェゴール。

 とはいえ、語られる内容はあまりにも突飛なもので、以前ついていけてないものが多かった。

 

「あっ、あぁごめんね。えっと、何がいいたいかって言うとね」

 

 その様子に気づいて、うなりはじめる。考えをしぼっているのか、シワを寄せて困ったような反応をする。

 

「少なくとも、本気を出せるなら──」

 

 そうして立香を見据えると、こう言い放つ。

 

「同じ土俵に立った瞬間に、どんな相手でも僕らに負けてるよ」

 

 さもありなんと平然に言うベルフェゴール。あっけに取られる立香らに、苦笑いを浮かべながら続けていく。

 

「だって、知恵あるもの如きが、僕ら知識の具現体に、勝てるわけないでしょ?」

 

 いつものベルフェゴールには見られない、圧倒的下に見た発言。

 しかし、それには不快感よりも、隔絶された実力差が如実に現れているかのような、強者の余裕があった。

 





説明になってねぇよバカヤロー(殴)

次回更新に合わせてなるべく早く更新して辻褄あわせていくのでどうか平にご容赦下さいお願いしますなんでもしますから(なんでもするとは言っていない)。


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7-8 The Rebellion kaiser's


大っ変お待たせしましたぁぁぁぁ!!!

リアル事実忙しくなったりそうじゃなくなったりでてんやわんやになってスランプってました……。
前回を見直して書きつつ終局へ進めていきます!
イクゾーイクイク(白目)



 一歩一歩、あらゆる妨害を物ともせずに進撃する巨獣。周囲の些事を竜頭が片付けて、見据えるは一点。

 それは、誰からみても止められることがない存在であった。────暴力の化身達が来なければの話だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〈side 【強欲】〉

 

 

「邪魔だ、邪魔だ、邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔ァ!!うッッぜぇんだよクソがよォ!!」

 

 振り下ろされる紫の大鎌、相対するは黄土の竜。全てを灰塵にせんと轟く雷を吐くも、全て打ち返されてあらぬ方向へ飛ばされていく。

 さらに噛みつきなど様々な手で目の前の存在を叩き落とさんとするも、全て避けられ弾かれ、逆に無数の傷痕をつけられていく。

 

「デカブツがァ……その首ッ、さっさと落ち────やがれッ!!」

 

 ダメージを与えつつも首周りに切れ込みを入れ続け、赤髪のオッドアイ──マモンによってついにその首を切り落とされる。

 断面を滑らかにずり落ちていく。──間違えてはいけないが、この竜は決して弱くはない。『獣』の化身として異聞帯一つは優に蹂躙できるほどの実力を持っているのだ。

 

「おぉ?おぉ!!戻ってきたぜェ!!ハッハッハァッ!!」

 

 その強大な竜を大して苦労せずに屠ったマモン。その身に甦る膨大な力を、己の衝動のままに解き放つ。

 それ即ち────己が"領域"である。

 

「ヨッシャ出て来いやァ!!『万魔宝物殿』ンンッ!!」

 

 

 マモンがそう叫ぶと同時に、ゲヘナの一角から黄金が溢れ出てくる。それは辺りを侵食しながら、マモンの方へと向かっていく。

 

 

 

 だが、それよりも驚くべきは────戦闘中の大罪悪魔の中でも、マモンが一番遅いということであった。

 

 

 〈side 【嫉妬】〉

 

 

 高水圧ブレスと巨大水球を交互に放ち、絶え間ない攻撃を加える紺藍の竜。

 だが、対面したまま佇み続ける"海竜"に一切の傷も、ましてやダメージもなく、それに守られている女性もまた同じ。

 

「──はぁ、そろそろ飽きてきたわ」

『そうねぇ…──じゃあ、殺しましょうか』

 

 そう言うや否や尾を一薙ぎする海竜ことレヴィアタン。一瞬にして水で出来た斬擊を構成し、竜の首を裂く。

 切断された首は徐々に粒子となり、リリスらの体内へ流れるようにして入っていく。

 

「さてそれじゃあ──」

『ええ、そうねぇ』

 

「『飲み込みなさい、『大魔嘯海』』」

 

 ゲヘナの端の一角より、荒ぶる海が溢れ出す。数多の大渦巻を生み出しながら、それはなおも進撃する『獣』へと迫っていく。

 

 

 

 〈side 【色欲】〉

 

 

 毒々しい紫の竜が全てを朽ち果てさせるブレスを溜め込む──が、それはたった一筋の光線によって喉奥ごと貫かれ、あっという間に生気を無くし、粒子へと変わっていく。

 

「邪魔である。疾く失せよ」

「んもう、私にも遊ばせて欲しかったのに」

 

 消えていく竜を侮蔑と無価値であるかのような目で見下す美青年と、遊び道具を目の前で取り上げられた子供のように拗ねる妖艶な美女。

 

「はぁ……いいわ。もう皆やっちゃってるし、私達も始めましょ」

「うむ、では────」

 

「「来なさい(来たまえ)、『蠱惑の叛律都市』」」

 

 そう告げるとともに、遠く離れたソドムの街に大きな変化が訪れる。そびえる街壁は霧散し、代わりに妖しい霧を爆発的に広げていく。

 霧の広がる後には次々と都市群が現れ、理性を吹き飛ばす混泥の大都市が出来上がっていく。

 

 

 

 〈side 【傲慢】〉

 

 

 本来ならば、禍々しくも美しかったであろう白亜の竜は、見るも無惨に穴だらけとなって消滅していた。

 

「醜い」

 

 その一言を持って無数の光に射し貫かれ、為す術もなく竜は砕け散った。

 あるべき力を取り戻したルシファーは、ただ粛々と"敵"を滅ぼすために動く。

 

「招来せよ、『聖王殿』」

 

 天空より神聖なる波動を放つ鐘楼が、ゲヘナに光を差し込ませながら現れる。

 鐘が鳴る。その音色が聞こえただろう『獣』は進撃を止める──否、止まらされた。その音色が放つ波動により、ピンポイントで弱体化をかけれらたが為に。

 

「無様」

 

 堕天使は『獣』を蔑み、『獣』は堕天使を睨む。

 そして『獣』は、今ようやく、自身が徐々に追い込まれていることに気づくのであった。

 

 

 

 〈side 【暴食】〉

 

 吠える新緑の竜。暴風を纏うその竜は、顎門を開いて目の前の獲物に食らいつかんとし──勢いよく閉じる。

 

「──遅ェよ」

 

 自身の背後からの声と同時に、竜は何が起こったかすら解らずに細切れとなって消え失せる。

 荒れ狂う小さな嵐を身に纏うベルゼビュートは、己の力を確認ふると、一気にその力を解放する。

 

「さぁ、暴れようぜ!!『鏖嵐絶界』ッ!!」

 

 ゲヘナの奥より、竜巻がいくつもまきおこる暴風帯が接近してくる。

 それは各々の領域を飲み込み、混ざり、いかなる者であってもただでは済まされない絶対的な暴力の領域。

 

 

『獣』を囲うように、暴風帯、聖域、魔海、大都市、宝物殿の五つが現れる。つまり、『獣』に宿っていた膨大な力は今、ほぼなくなったにも等しい。

 勝機は今。勝てない戦は、勝てる"かもしれない"戦へと変貌していった────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ンぁ?最後のは誰のだ?」

「あ、それは【虚飾】のだから放っといていいよ」

 





クライマックス突入でござい。
ここで少々ご紹介。

・悪魔の使う固有結界
当方の作品では、悪魔達は"悪魔"という存在になった時点で何かしらの固有結界が使えます。とは言え、下級では発動すら出来ませんし、上級でもたかが知れています。
しかし長い刻を経た者は強大なまでの固有結界を創造でき、さらにそれを高めたのが大罪悪魔達の使う"侵食固有結界"になります(なお現状悪魔以外では『ORT』のみ使用)。

・大罪悪魔の固有結界
【暴食】『鏖嵐絶界』
効果:自身の攻撃の絶対必中、平衡感覚の喪失(※そもそも"地上"がない)、周囲の竜巻による攻撃、嵐流風を利用した多方向攻撃、放出的魔術の強制霧散、内出的魔術の強制解除、飛空系能力の使用不可

【傲慢】『聖王殿』
効果:敵対する〈魔性〉の系譜の大幅弱体、味方の〈神聖なる者〉の系譜の能力倍増、ダメージの超高速回復、放出的魔術の無力化、内出的魔術の無効化、弱体付与系統の無効化、〈魔性〉に連なる者の能力封印

【色欲】『蠱惑の叛律都市』
効果:〈性欲を持つ者〉に対する絶対的有利、〈同〉の情欲の強制暴走、暴走した者の絶対服従化&使役化、使役した存在の格納・放出、自身の扱う全ての魔術の作用超強化 ※全て中心にいくにつれ効果増大

【嫉妬】『大魔嘯海』
効果:平衡感覚の喪失(※そも地上が無い)、大渦巻による吸引・粉砕、暴風雨による飛行不可化、海水による相手の行動制限、海水を使った半不可視の多方向攻撃、放出的魔術の使用不可化、内出的魔術の強制解除

【強欲】『万魔宝物殿』
効果:自身の持つ宝具の強化(2ランクほど上昇)、敵対者の宝具の簒奪・収用、内部の宝物に微弱な即死呪詛が付与、相手の使用魔術の簒奪、敵対者の能力の簒奪、簒奪した者の一切を蓄積(※ただし結界起動中に気絶等すると取り返せる)、収用宝具の遠距離操作



ぶっちゃけ呆れる程にドチートすぎて、そら抜き取られるわなと思います。
なお、彼らの固有結界はあくまで『身体能力』の部類であって『宝具』としては登録されません。あとサーヴァント化した場合は特定の条件を満たさないと発動は不可となっています。
そうでもしないと、強すぎるじゃん……?


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7-9 Wake up BEAST


ごめんなさい……投稿遅れまくってごめんなさい……ちゃんと書いたから許して…ユルシテ……。

ここからどんどんヒートアップさせていきます。
久々の投稿ですが、改めて、どうぞ。




 ──あぁ、煩わしい。煩わしい、腹立たしい、この上なく虫酸が走る。

 醜い。愚かだ、下らない。何の意味も価値もない。

 微睡もう。今は()だ、微睡もう。だが、目覚めたのならば、今度こそ、必ず──────

 

 

 

 ──悲鳴、恐怖、狂気、絶望、憎悪、悪意。敵わぬ者に対する怒り、(いか)り、忿(いか)り。挫折し、簒奪され、復讐を求める。

 ならば、その怒りをオレが叶えてやろう。そして、その業火に灼かれ続けよ。人間は、皆等しく無価値なのだから──────

 

 

 

 ──痛み、傷み、これは痛みである。おぉ……時は来た。ならば目覚める刻。愚鈍にして蒙昧なる星の膿を灼き尽くす合図。

 故に、オレは拒絶しよう。この腐り切った世界を、『獣』という存在を生み出す人間も、全て、総て、何もかもを消し去ろう。それが、今のオレの、成さねばならぬこと──────

 

 

 

 ────第九宝具(・・・・)、開帳。────

獣冠授けし七角十冠の焉龍(アポカリプス オブ トライヘキサ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空気が震える。圧倒的な気配が凝縮し、脈動する。突如として完全に動きと止めた『獣』の龍は、微動だにしないままでありながら、異様な空気を放ち出した。

 脈動する、脈動する、脈動する。その度におぞましい気配が放たれ、誰も彼もが動けずにいた。

 

 魔神の様か?確かに恐ろしいだろう。だが、ここまでの嫌悪感と恐怖を両立し得はしない。これは生物が抱く原始的な恐怖であり、身体が警告する悲鳴である。

 外なる神。確かにおぞましいだろう。だがそれでも、これほどまで理性に強く作用するような畏怖は与えないだろう。

 

「あれ……ひび割れて……」

 

 まるで繭であるかのように、石灰色となってひび割れていく。粉々に砕けるような音が木霊し────

 その瞬間、中央の裂け目から腕が二つ、続いて二つ、さらに二つと計六つの腕が飛び出し、裂け目を押し開いていく。

 

『──!!ボーダーより連絡!なんだこれ!?存在係数が有り得ない数値で上昇してるぞ!!何が起こってるんだよ!?』

 

 

 

 ──オオォォォォォォ…………──

 

 

 

 地獄からの呼び声のような、地の底から現れるかのような、重い『聲』が裂け目から響く。嫌な音を轟かせ、どんどん開かれていく。

 そうして見えてきたのは────爛々と淀んで輝く六つの龍の眼であった。

 

 

オオオオォォォォォォォォォォォォッ!!!

 

 雄叫びような産声を挙げ、そこに現れたるは一体の、西洋風の龍だった。それはどことなく、繭と化した『獣』に似ていて、しかしソレよりも遥かにスリムで一回りも二回りも小さい。

 だが、ソレから発せられる魔の波動は、『獣』であった時よりも遥かに凌駕していた。

 

「ンな隠し玉あったッてのかよ……ッ!!」

「これは…ッ!『黙示録』のッ!!」

 

 魔界の大公爵は降って沸いたかのようなソレの姿に絶句し、始まりの堕天使は最も忌まわしい魔獣を思い出していた。

 再び龍が咆哮する。世界を揺らし、理性と本能の両方から来る恐怖を呼び起こす。

 

 ──かつて、立香達が巡ったうちの一つ、バビロニアにて遭遇した第二の『獣』──ティアマト。あれもまさしく強大で挫折しそうにはなった。だが、仲間達と共に決して諦めることなく、辛くも勝利を勝ち取った。

 だが、目の前の龍はどうだ。ゲームによく出てくるであろうその姿は、あのティアマトとは似ても似つかない。だがそれでも、立香は"勝てない"と、はっきり思ってしまう。

 

──我、獣の頂、六つ目の冠を仰ぎし者。我が真名は、"サタン"である。汝ら、終焉に抗う愚者よ

 

 ゆっくりと、六つの翼を広げ、天を仰ぐ。空気が冷え、何かしてくるのを察しながらも、誰も何もすることができなかった。

 ボーダーの計測器が膨大な魔力反応を無数に検知し、つんざくほどの警報を鳴らす。

 

その死を以て、罪を購え

 

 大きく広げた翼を羽ばたかせる。豪風が巻き起こり、立香は思わず顔を背ける。だが、頭上が急激に明るくなり、見上げて目を見開く。

 空からは、どこからともなく無数の隕石が降ってきていた。それだけではない。周囲の隕石と同じ大きさの火炎弾や、どこから墜ちてきたのか、倒壊したビルや、岩でできた住居のようなものまで降ってきていた。

 

「くっ、マズイ……ッ!!オオォォォォォォ!!」

 

 立香の近くにいた一人の英霊──エミヤは、サタンへの恐怖ですくんでいた身体を奮い立たせ、墜ちてくる隕石群へと弓を向ける。

 

「"I am the bone my sword(我が骨子は捻れ狂う)"………ッ、『偽・螺旋剣(カラドボルグ・Ⅱ)』!!」

 

 エミヤの放った"矢"が、立香へと墜ちんとしていた隕石に直撃し、木っ端微塵に破壊する。

 それを皮切りにして他のサーヴァントらも次々に撃ち落としていく。だが、いくつもいくつも破壊してなお落ち続けるそれは、無限にも等しかった。

 

 予想だにしていなかった事態に、呆気にとられていたベルゼビュートらも、サーヴァント達の行動で我に帰り、同じくして迎撃に移る。

 しかし、彼らもまた、己の領域を展開していてなお減ることもなく、状況が好転するわけでもなかった。

 

「ハッ!クソッタレ、切りがねぇ。おい『傲慢(プライド)』!一掃できねぇのか!?」

「この量は無理に決まっているだろう!抑えるので精一杯だ!」

 

 なおも降り注ぐ隕石群。決して止むことなく、地上の全てを無に帰さんと降り注ぐ。

 端からみたその光景はまさしく、この世界の終わりというに相応しい光景であった。

 

 





サタン:第九宝具
『獣冠授けし七角十冠の焉龍』
→アポカリプス オブ トライヘキサ。
サタンの"終わりを告げる者"として後天的に得た宝具。『黙示録』に語られる7つの角を持ち、十の王冠を持つ二体の獣。こちらはその一体目、つまり、二体目に戴冠した龍の方である。元々サタンは様々ものと類似されがちなため、口伝や伝聞によって宝具化したものの一つ。
発動すると、サタンの姿が強大無比なる龍の姿へと変貌する。第一段階の『繭形態』時は、描かれているような多頭の龍だが、第二形態へ羽化すると西洋風の龍になる。

『イラスト(下書き):
【挿絵表示】


全てに終わりをもたらす存在とした活動し、あらゆる魔術的攻撃(サーヴァントの攻撃含める)、妨害、拘束を無効化する。また、隕石群の召喚や魔力の暴走解放による大被害など、通常攻撃が全体攻撃となる。
この状態に唯一妥当できるのは、剣や槍を使った人間による原始的攻撃のみである。重火器は微妙な効きなのでオススメしない。


第二形態の『獣』サタンはスカイツリーより一回りでかいです。

投稿が遅れて本当に申し訳ない……。これでも楽しみにしてくれる人がいるなら有難い。
近々私の考えたオリジナルサーヴァント達の小話やらも息抜き代わりに投稿しようか考えているので、投稿したときはよろしくお願いします。

なるべく早く投稿できるようがんばりまする……。




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7-8・裏 Dimension crown


今日はちょっと趣向を変えてお昼に投稿してみました。

今話では、やったことある人なら懐かしいと思うかもしれない、もうちょい書けやと思うかもしれないfate作品を混ぜたお話。

アンリマユ VS アザゼル

開闘。



 黒と紫が交差する。互いに短剣なれども、片や歪さを極めた漆黒の刃。片や凶悪さを微塵も隠さない凶刃。

 遠くの戦闘音を背景に、ただ二人だけのこの場所で剣撃の音が鳴り響き、互角の戦いを繰り広げているかのように見えた。

 

「ン~、だいぶ無理してるんじゃない?」

「あ、やっぱバレる?まぁオレ一人じゃ結構キツイって話ですわ」

 

 軽薄な態度で言葉を返すアンリマユ。その間も剣撃が止むことはなく、油断のならない攻防が続いていた。

 消えては現れる敵の群れ(・・)に、内心辟易しながら攻撃を避け続け、決定打にならないながらも反撃していく。

 

「最弱ってのも考えようだけど、舐めてたら痛い目見るぜ?」

「ンフフッ、別に舐めてなんかないさ。ただ──キミだけは、ここで潰さないとってネ?」

 

 雰囲気が変わる。先程までの楽天的なものから、殺意まじりの真剣な空気がひしひしと伝わる。

 

「そりゃキミの宝具は危険だよ。瀕死でも生きてるなら倍返しされちゃうんだからサ。でも────一発で死ぬなら関係ないよネ?」

「は?──うげっ、マジかよそういうことか!?大人げねぇ!!」

 

 敵──アザゼルの分身に気を取られ過ぎて、彼が何をしていたかを今確認したアンリマユは、顔をしかめて罵る。

 しかしアザゼルの行動は素早く、腕を広げると共にアザゼルを中心として、赤いカーテンのようなものが二人を覆っていく。

 完全に覆われきったそれは、外から見れば、まるでサーカステントのようどもあった。

 

「サァ、とっとと終わらせようか──────宝具解放、欺心闇疑、死神遊戯(デストリック・フェスティバル)

 

 そして、死神の遊び場が今、開かれる────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンリマユが目を覚ますと、自分は高い屋根の上で寝転がっていた。空には()が出ており、静かな風が吹いていた。

 慌てて飛び上がり、辺りを見回す。見慣れた形の尖塔、懐かしいと言える町並み、空気、そして────小高い丘の上の教会(・・・・・・・・・)

 そう、彼が今見ている景色はまさしく、かつて喚ばれた地、『冬木市』であった。

 

「どう、なってんだ、こりゃ……夢?」

「────いつまで寝惚けているつもりですかこの駄犬(アヴェンジャー)

 

 背後から掛けられた、遠い思い出の声に振り向く。

 そこにいたのは────

 

「──────」

「なんです?私の身体に欲情しているのですか?駄犬がケダモノにでもなりましたか?」

 

 あの頃の、あの時の姿のままのドS修──「あいて!?」

 

「ふしだらな考えを感知しました」

「お前さん心読める能力あったか!?」

 

 痛みがある、まぎれもない現実。唖然としたいが、それはそれでまた向こうの機嫌を損ねる。

 カレン・オルテンシア。あの偽物の聖杯戦争で、監督役を勤め、何より最も苦手としていた相手でもある。

 

「……ま、いいか」

 

 そう小さく呟き、また横にな────ろうとしたところを、カレンの持つ礼装、『マグダラの聖骸布』によって絡め取られる。

 

「私の前で二度寝とは、いい度胸をしていますね」

「えー、あのー、カレンさん?カレンさーん?」

 

 抵抗すらできないまま、どこへともなく引きずられていくアンリマユ。

 それからしばらく、あちらこちらへと連れていかれ、遠い記憶が甦っていく。とは言え、時折しばかれてはいるが。

 

「アヴェンジャー」

「いっててて……はいはい?なんです────なんですかね」

 

 しばかれた所を擦りながらカレンの呼び掛けに振り向く。相変わらず軽薄な態度を取ろうとして、止める。

 いつになく真剣な顔をしている彼女に、そんな態度で返すのは、何か違う。とは言え、いつもと変わらないような口調で返事を返す。

 

いつまで寝ているのですか(・・・・・・・・・・・・)アヴェンジャー、起きて早く敵を倒してきなさい」

「は?待て待てそりゃどういう──────あ?」

 

 突如告げられたおかしな言葉。それを問い質す間もなく、意識がブラックアウトしていく。

 最後に見たのは、薄い微笑みを浮かべて自身を眺める彼女であった。

 

 

 

 

 

 意識が覚醒し、はっと起き上がって彼女を探す。

 しかし、そこに彼女の姿はなく、代わりに────

 

「どうかしましたか?アヴェンジャー」

 

 毅然とした表情の、かつて戯れに命を救ってやったマスタ──バゼット・マクレミッツが、そこに立っていた。

 

「バゼット──?」

「聖杯戦争中ですよ、アヴェンジャー。寝惚けている場合ではありません」

 

 めぐるめく変わる現状に、アンリマユは先程までのが夢だったのかと思う。それとも、今が夢なのかと錯覚に陥る。

 呆然としつつも、遠い記憶を必死に思い出し、今があの四日間を繰り返しているのだと理解する。

 

「さぁ、次はセイバーが相手なのですから、油断してある暇はありませんよ」

「お、おう……──なぁあんた、ホントにバゼットか?」

 

 そう問い掛けるアンリマユに、バゼットは怪訝な顔をして首を傾げる。

 

「何をわけのわからないことを言っているのですか?」

「いや、なんでもねーよ。ほんじゃま、とっとといきますかねっと」

 

 そしてまたあの四日間が繰り返される。バゼットと共に歩む、再演される四日間の聖杯戦争。アンリマユの記憶は徐々に、カルデアに喚ばれたことをほとんど忘れかけていた。

 

 そうして同じ軌跡を辿って天の逆月を拝み、バゼットの慟哭を嗤い、在るべき場所へと帰る。その物語をもって終わろうとしていたところで、バゼットから声をかけられる。

 

「アヴェンジャー、最後に一つだけいいですか」

「珍しいな、あんたからそんなこと言うなんて。いいぜ」

 

 懐かしい軌跡、自分にしては珍しい行動の数々、虚無に還る前のいい思い出で、アンリマユはバゼットの声に耳を傾ける。

 

「では────アヴェンジャー、またいつか星を観ましょう(・・・・・・・)

「────。あぁいいぜ、今度はあんたと観てみたいもんだ。きっと、楽しいぜ?」

「えぇ、楽しみにしています。アヴェンジャー」

 

 そう言って二人は去る。片や、光の差す道へ。片や、永遠に続く虚無の道────ではなく、星々が瞬く希望の地へと。

 闇呑の幕に亀裂が走っていく。懐かしい記憶は遠く、新しい思い出は、今なお走り続ける。

 ならば立ち向かおう。あの勇者(愚者)が走るのならば、この世全ての悪を以て立ちふさがる悪を討ち果たそう。なにせオレは──────

 

「さぁて!いっちょやりますか!最低最弱のサーヴァント、ぱぱっと駆けつけるとしますかねぇ!」

 

 





アンリマユと言えばホロウアタラクシア。
駆け足気味なのは否定しない。あの二人から激励されるアンリマユ、これが書きたかった(真顔)

言うてほら、カレンさん実装するとは思わないじゃん……?ダメットさんも、待ってます。


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7-9・裏 Angra Mainyu


とっとと二人を決着させてサタナエル戦をかかなければ、と少し焦っている私であった、丸。

7/1
・サタン/サタナエルの真名確認と共に、設定集2のサタン/サタナエルの説明文を追加しました。
・『7-9』のサタンの宝具を『第三』から『第九』に変更しました。



 

 真っ暗な空間、静寂な時間。そんな中にスポットライトが射し、一人の『道化師』が芝居掛かったお辞儀をする。

 やがて全体を照らし出すと、そこは観客の影すら見えないサーカステント。立っているのは道化師一人。そして────舞台の中央にて横たわる一人の計二名。

 

「さてさて~、懐かしい記憶に囚われて寝息すやすや。仕込みは上々、後は仕上げを御覧じろってネ?」

 

 バレエのように器用に回りながら、舞台に横たわるアンリマユへと近づいていくアザゼル。

 それは無邪気な狂気を携えた恐怖。静かに近寄り、掌でその凶刃を大道芸が如く回しながら、切っ先を心臓のある場所へと向ける。

 

Adieu(サヨウナラ)、アンリマユ」

 

 そして、遂に凶刃が振り下ろされ、その皮膚を抉って心臓を突き刺し────

 

「────勝手に殺すなっての」

「ッ」

 

 直前で目を開いたアンリマユが、アザゼルを蹴り飛ばして仰け反らせる。

 その勢いのまま跳ね起きて自身の武器──右歯噛咬(ザリチェ)左歯噛咬(タルウィ)を呼び出して気だるげに構える。

 

「──ふぅん?驚いたヨ~♪まさかあれから抜け出すなんてサ」

「おう。まぁお陰様で?なかなかいい思いできたからな。ケケケ」

 

 皮肉を返すアンリマユに、アザゼルは普段のお調子者な雰囲気を落として目を細める。

 

(これで仕留めきれなかったのはイタイねぇ……)

 

 仮面の下の人を小馬鹿にしたような笑みは引きつっており、状況を冷静に分析する。

 現状、宝具を持った一撃で即死させれなかったのはかなりの痛手である。アンリマユの宝具は『報復』、つまりはカウンター系。下手に時間をかけてしまえばこちらが不利。つまりは────

 

「先手必勝、ってネ!」

「だろう、なッ!」

 

 舞台の上で再び切り結ばれる剣撃。今度は反撃を恐れるアザゼルが加減していることもあってか、完全に互角の状態が続く。

 決定打がないまま、何度も、何度も、何度も剣撃を繰り返し、濃縮された時間が続いていた。

 

「シャァッ──!」

「こっち──「──ぁんてなァ!!」ッッ」

 

 幻影を使って撹乱するも、違いがわかるようになってきたアンリマユは、背後に回り込んだアザゼルの本体に急転身する。

 空中に跳ねていたアザゼルは、転身してきたアンリマユの突進を受け止め切れずにはね飛ばされる。勢いを身体を回転させることによって流して着地する。

 

「へへっ、こんなもんよ」

「ンフフ、やるねぇ……──でも」

 

 着地した時のしゃがんだ体勢のまま、身体を沈めていく────と、次の瞬間。バネのように鋭く跳び、アンリマユへと一直線に向かっていく。

 迎撃の体勢をとるも、あと少しというところでアザゼルの姿がかき消える。訝しげに思ったアンリマユ。瞬きをしたその刹那。

 

「────獲った」

「甘ェ!!」

 

 間近に来たアザゼルの攻撃を、急所を避ける形で受け身をとるアンリマユ。とは言え、それは致命的なものである──────お互いにとって。

 

「ッ、しまっ────」

「ッ、遅ぇ──!逆しまに死ね、偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)』ッ!!

 

 アンリマユに幾何学的な紋様が青く浮かび上がり、一際強く、そして鈍く輝く。

 それと同時に、アザゼルの身体に、アンリマユに付けた傷と同じ深さの『報復』が跳ね返ってくる。それだけでなく、それ以前につけた傷の一切が刻まれていく。

 

「ガッ──────アアアアアアアアアッ!!?」

「ゴフッ……あ゛ぁ゛……きっつい……」

 

 絶叫を上げるアザゼルとは対照的に、疲れた顔で力なく倒れるアンリマユ。自身の宝具を撃つためとはいえ、ほぼ致命傷に近いダメージを追ってしまっている。

 膝から崩れ落ち、片手を付きながらにもなんとかして耐えるアザゼル。しかし、最早虫の息といえるほどに呼吸が絶え絶えであり、これ以上の戦闘続行は難しいと言える。

 

「はぁ、はぁ……ぐっ、クッソォ……アンリマユゥゥゥ」

「おぉおぉ…おっかねぇの…。ゴフッ……あんまり無理すんじゃねぇぞーっと……ッ」

 

 怨めしげな声を上げるアザゼル。それは先程までの飄々な態度はどこへやら、張り付けたような笑みのまま歯噛みしていた。

 血と皮肉を吐きながら、嘲笑うように告げる。もはや膝を付くことすらできない悪魔は、顔だけでもアンリマユに向けながら、鬼の形相で睨み続ける。

 

 

 

 

────オオオオオオォォォォォォォォ!!

 

 

 

 地の底から響き渡るかのような叫び声。驚くアンリマユを余所に、先程まで怨めしげにしていたアザゼルは、高らかに狂笑を上げる。

 

「──フ、フフ、フフアハハハハハハハハ!残念、もう手遅れ!これでもう誰も、誰にも、止められない!ボクらの宿願は叶う!アハハハハハハ!!」

「宿願、だと……ッ?」

 

 アンリマユの問い掛けに、狂喜に満ちた眼を、仮面の奥からこれでもかと見開いて、傷口が開くのも知ったことかと声を張り上げる。

 

「そうさ!これでボクらの、ボクの宿願が叶う!この煉獄で生まれた聖杯(・・・・・・・・・)にそう願ったのさ!

 

 

 

 

 

 

 ────"あの子"を見殺しにした、世界を壊してってネェ!!

 

「ッ────!ってことは、お前…ッ」

 

 隕石群を落とす禍々しい龍を目にして、なお止まることのない笑い声を上げ続けるアザゼル。

 

 ──そう、このアザゼルこそが、この煉獄に生まれ落ちた『聖杯(イレギュラー)』を使って彼の悪魔達を呼び出した張本人であり、今なお生きる本物の悪魔。

 最果ての荒野にて封印されたエグリゴリの堕天使にして、最低・最凶・最悪の悪魔、『虚飾の悪魔・アザゼル』そのものである。

 

 

 

 





はい、というわけで、案の定な黒幕であるアザゼルさわは、今なお生きていたガチガチの悪魔でした。
そして他の皆はサーヴァントっていうね。

さぁさ、ここからどんどん巻き上げていきますよぅ!


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7―10 The fallen doragon


やーやー、どーもどーも。
前回、『獣』のサタンがチートすぎると意見を頂いたので、お話の中にもありますが弱点についてまとめをば。

・第九宝具は常時『無敵』と『粛清防御』が発動している状態の代わりに大きな動きしか出来なくなる。
・発動中は他の宝具の使用不可。
・そもそも魔力消費がバカみたいに激しい。
※例えるとカルナさんの宝具全てを真名解放しながら数十回以上連発するようなもん。
・空想樹の内包する魔力と聖杯のバックアップがあってようやく現状になってるので、どっちかが欠けると途端に保てなくなる。

という形になっています。

……わかりにくかった、んですよねぇ……サーセン…。





 

 止むことなく降り注ぐ隕石群、それらを迎撃する英霊達。まるで豪雨のように墜ちるそれは、なおもサーヴァントの体力を削っていく。

 

『抗うな────贖え。その罪を』

 

 さらに激しさを増さんと、片側の多腕を持ち上げ────ようとした瞬間、無数の光の矢が隕石群に負けじと降り注いでくる。

 よくよく聞けば、遠くより響く鐘楼の音と共に無数に降る矢の雨。驚き固まる立香の元に、舞い落ちる羽と共に降りてくる堕天使────ルシファー。

 

「立香よ、大事ないな」

「ル、シファー…?」

 

 続いて、更に他の大罪魔王達が立香の側に降りてくる。サタンの方は、ルシファーが放った嵐によって張り付けにされており、どうやら身動きが出来ないようであった。

 それを細めた目で見ていたルシファーは、翼を一つ、唸りと共にはためかせる。

 

「どうやらあれは、強大になる代わりに大雑把にしか動けんらしいな」

「そうなの?」

 

 ルシファーの落とした結論に、立香がそう問う。

 その問いに、横からひょっこりと顔を出したベルゼビュートが答える。

 

「おう、それはなー」

「うわっ!?ベルゼビュート!?」

 

 突然真横に現れた彼に驚く立香。泡を食ったかのような反応に、愉快そうに笑う。

 だが、よくよく見れば、ベルゼビュートの額には汗の流れた跡があり、相当に振り絞っていたのだと察する。

 

『すまない、ミスターベルゼビュート。心当たりがあるなら教えてほしい』

「おうよ。アイツはな、いわゆる"動けない完全無敵状態"ってやつだ。反撃やら隕石落としやら大雑把な攻撃はできる。けどな、元々のあいつの全力が全く使えねぇンだわな」

 

 つらつらと、未だ張り付けにされているサタンを見ながら、今までの軽い雰囲気を隠して真面目になって語る。

 

「今のアイツァ確かに何にも効かねぇ。けどな、所詮ありゃ"後付け"だ。ンなもんバカみてぇに魔力使うに決まってらァ。ンじゃァどっからそんな魔力持ってきてるっつったらよゥ──────」

『────そうか!その為の空想樹か!』

 

 通信機にカルデアスタッフであるムニエルが反応する。サタンが現れたその時から、うんともすんとも言わずに、バベルの街に佇む空想樹────"パンドラ"。

 サタンのその異様に気を取られすぎていて今の今まで忘れていたものの、指摘されたことでようやく思い出す。

 

『つまり、"空想樹(アレ)"があり続ける限り、BEASTⅥことサタンはあのままだと?』

「そーゆーこと。一応アガリア共に見させに行かせたけどよ、だいぶ警備増えてらァな。だがやるなら今しかねェ。────────どうするよ、兄弟」

 

 半ば答えが判っているだろうベルゼビュートは、不敵な笑みを浮かべて立香に目線を向ける。

 その立香は、既に自分の意見を決めていたかのように、しっかりとした目を以て答える。

 

「もちろん────あの空想樹を"伐採"する!」

「そうこなくっちゃァなァ!!」

 

 呵々大笑して立香の背を勢いよく叩く。とは言え、人相手に加減はされており、多少よろけたものの、大した痛みはない。

 そうして降り立っていた他の魔王達もまた、皆一様に仕方がないと言わんばかりの反応を見せる。

 

「奴の相手は任せよ。立香よ、貴様は疾くあの"樹"の元へ行くがいい」

『サーヴァント達には私達の方から何人か声を掛けておくよ』

「ありがとう、皆!」

 

 そう言うや否や駆け出す立香。後ろではルシファーの光の雨にしびれを切らしたサタンが咆哮し、降り掛からんとしていた光を破壊していく。

 それと皮切りに、大罪魔王達を含めたサーヴァント達の攻撃が再開され、サタンを足止めする。

 

「マスター、無事か」

「中々に面倒臭いことになったものだな、マスター」

「エミヤ!魔神さん!」

 

 駆ける立香の側に寄るエミヤと魔神沖田の二人。更にアーサー、エドモンを初めとした者達も立香の元へと集まる。

 そんな中、立香達の上空に影が差す。上を見上げれば、一隻の船が空中に浮かんでいた。

 

「余の、活躍の時である!!」

「ネ、ネロ!?」

 

 よくよく見ると、船首には特徴的な真っ赤な服装である薔薇の皇帝──ネロ・クラウディウスが、胸を張って立っていた。

 混沌としたこの場の空気にはそぐわないほどに底なしな明るさを持つ彼女の船に、誘われるままに乗り込む立香達。

 

「この船どうしたの?」

「うむ!ドレイクの船団からちょちょいっと一隻ほど、『皇帝特権』で拝借させてもらった!」

 

 自慢気になりながら更に胸を張るネロ。そんな彼女に対し、後ろの戦闘を返り見ながら、エミヤが問い掛ける。

 

「……ちなみにだが、許可は取ってあるのかね?」

「もちろん────ない!!

 

 威張るかのように宣う彼女に対し、まさしく"頭痛が痛い"状態になるエミヤ。他の者達もまた、往々にして何とも言えない顔をしていた。

 そんな彼らの内心なぞ知ったことかとばかりに、全員乗ったのを確認して船を動かす皇帝ネロ。

 

「さぁゆくぞ我がマスターよ!あのでっかい樹っぽいのに突撃であーる!!」

「えちょ──待ってぇぇぇぁぁぁぁぁ!!?」

 

 我が道を逝く、これに極まり。他の者達のことなぞ全く考えていないかのように、高速で船を空想樹へと突撃させる。

 遠くなっていく戦闘音と、近付いていくバベルの街。それを見ながら立香達は思った。

 

 

 ────早く降ろしてくれ、と。

 

 





これで伝わりましたかね……?

とりあえずは次回に空想樹伐採をもっていきます。

ラストサーヴァントが同数ってこれどうなのさ…?一票でも多かったらそれにします。


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7-11 Phantasm tree of Pandora


前座は不要。真の小説は字で魅せる。
……全然できてないケド

人物紹介を更新・訂正しました。
前回ほどに指摘された、サタナエルの『愛』と『獣性』を書いておいたけれど、ちゃんと伝わってほしい……はい、下手くそでごペンなさい((殴





 〈空想樹"パンドラ"前〉

 

 ──我らが崇高にして偉大なるサタン様の出陣の後、我らはサタン様の最大の魔力源たるこの『空想樹』などというものを護っていた。

 接ぎ木させたかのように歪で、生気の欠片も感じられなくなった"コレ"は、彼の方曰く、

 

『種だけじゃ足りなそうだったから、他のとこの樹皮っぼいのも拝借させてもらったのヨ~』

 

 と言っていた。なるほど、道理でこんなに歪な形になるわけだ。──穢らわしい。

 だが、全ては我らがサタン様の為。"コレ"は全霊をかけて御守りせねば。

 しかし……出陣されるサタン様に踏み潰された者達は──────羨ましいものだな。

 

 

 

 

 サタン配下の眷族として、人間から悪魔となって転生した彼らが護る空想樹。なおも続々と警備が集まり続けている。

 そんな中、なにか大きなものが風を切る音を捉える。訝しげにその音の方向へと振り返えったその直後、頭上を巨大なものが通り抜け────空想樹へと激突する。

 

「──────はッ!!て、敵襲!敵襲ーッ!!」

 

 あまりに唐突なことで唖然としていたものの、すぐさま我に返り警報を鳴らす。

 駆け付けて激突したものを取り囲む眷族達。しかし、土煙の中から現れた何者か達によって、次々と薙ぎ倒されていく──────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「余は大満足である!!」

「おのれ、薔薇の皇帝め……。加減というものを知らんのか……ッ」

「し、死ぬかと思った………」

 

 空想樹に衝突した船の船尾で、高らかに、爽快であるかのように声を張るネロと、巌窟王ことエドモンに抱えられながら、冷や汗を流している立香。

 既にアーサーやエミヤ達が衝突から立ち直り、外のサタンの眷族達と交戦していた。

 

「ありがとう、エドモン…」

「……礼はいらん、共犯者よ。元凶を言うなればあの皇帝が悪い。────それで、俺を使うか?」

 

 なおも船尾で高笑いしているネロに呆れつつも、立香に鋭利な目線を向ける。

 そのエドモンの意図を汲んだ立香は、顔を上げ、巌窟王と向き合って応える。

 

「お願い、エドモン(アヴェンジャー)!」

「クハハハハ!いいだろう!ならばこの恩讐の灯火を以て、彼の胡乱なる大樹を我らが復讐の篝火としよう!」

 

 そう叫ぶや否や飛び出し、周囲に集まってきていた眷族の胴を次々と貫き、屠っていく。高速で動き回る巌窟王に、銃口を向けても当たることなく倒されていくのが見える。

 そんな光景に、今の今までこれといって暴れられなかったネロも気付き、焦りつつも参戦していく。

 

「ぬかった!余が一番出遅れておるではないか!?えぇい、往くぞマスター!他の者よりも先に辿り着くのだ!!」

「えっ、ちょまってネロ────うわあぁぁあぁぁ!?」

 

 立香の手を掴んで崩れた船から飛び降りるネロ。そのまま猪突猛進の勢いで敵陣を突き進み、眷族達を撥ねながら進みに進んでいく。

 端からみれば最早ただの暴走機関車であり、エミヤを初めとした付いてきたサーヴァント達はドン引きしていたが、引き摺られている立香を見るや否や血相を変えて追いかける。

 

「なっ!?マスターをこんな危険地帯に連れていくとはどういう了見をしているのだ!?」

「えぇい、あの薔薇の皇帝め。理性の花弁ですら吹き散らされているのか!!」

 

 周囲の敵を殲滅しながら、空想樹本体の元へと急ぐ。サタンの眷族達はそれわ誰も止めることができず、次々と倒されていく。

 そんな中、ようやく空想樹の麓まで辿り着いた立香達。彼らが目にしたのは──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歪に継ぎ足された、生気の無い空想樹だった。

 

 

 

 

「こ、れは……?」

「……辛うじてだが、生きてはいるな」

 

 赤黒く変色し、それでいて死にかけのような雰囲気を放つ空想樹"パンドラ"。

 その異様に茫然としていた立香の通信機から、状況を見ていたホームズの声がする。

 

『ふむ……成る程、状態は想定と違うが、概ねやはりといったところか』

「何かわかったのかい?」

 

 真剣みを帯びていたホームズの声に、なおも空想樹から注意を外さないアーサーが問う。

 

『そもそもの話だが、"パンドラ"というのは単独の銀河の名ではなく、複数の銀河の集合体である銀河団の名前なのだよ。

 今までの空想樹は全て、差違はあれどほぼ単独の銀河を指していた。それが急に、銀河の集合体である銀河団の名称になったということは────』

「複数の空想樹が、寄せ集まっている──?」

 

 立香の溢したような答えに、ホームズが肯定する。アザゼルは、確かに『種子を掠め取った』と言った。しかし、それ以外何もしていないとは、彼は全く言っていなかった。

 告げられた事実に、一同驚き固まる。さながら『魔神柱』にも似た気味の悪い姿の空想樹"パンドラ"。それはいくつもの空想樹──オロチ、ソンブレロ、メイオール、その他残りの空想樹──の集まった姿だという。

 

『だが朗報だよ。現状のパンドラ空想樹は、どうやら大幅に弱体化しているようだ。恐らくは、サタンがリソースの大半を吸収し、持っていったためだろうね』

「ならば問題あるまい!余のマスターは既に三つも伐採しておるというではないか!然らば、何も案ずることなど、ないッ!!」

 

 高らかに宣言すると共に、勢いよく剣を構えるネロ。いつもと変わらぬ自信に溢れた風格は、その場にいた者達を奮い立たせる。

 ある者は仕方がないとばかりに武器を構え、ある者は気合いを入れ直し、ある者は……うたた寝から頭を降っていた。

 

「……おい、そこのアルターエゴ」

「寝てない、全く寝てないぞ。魔神さんちょーげんき、だぞ」

 

 一部*1いつも通りではあるが、皆ネロによって気合いを入れ直す。

 そんな中、突如空想樹が蠢きだし、奇怪な声を挙げ始める。

 

『…──………────…………─────────!!!』

 

「くっ!なんて"声"だッ!!」

「狼狽えるな!最早枯れ欠けの大木。早急に伐採し、彼の大悪魔を止めるぞ!!」

 

 幹にヒビが入り、大半は奪い去られたとは言え、未だ内部に孕んだ強大な魔力を放ち、自らを"伐採(殺害)"せんとする者達を迎えうつ。

 局面は、次第に終局まで進んでいく──────。

 

 

 

*1
正しくは一名





空想樹を伐採すると言ったな。

あれはウソだ
(すみません都合的に次回に回すことになりました本当にごめんなさい許して下さいなんでも(ry)ただしなんでもするとは言わない)。

次は空想樹パンドラとの戦闘を書いて終章に移っていこうかなぁと思っています。
終わりが近くなってきたぞぅ!!


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7-12 breaker Phantasm


祝・100話達成!!……長くない?大丈夫?

とりあえず色々とお知らせ。
・改定版は今のところ2部6章のイギリス異聞帯が終わってからにしようかなと考えております(要望が多ければ早めに出します)。
・オリジナルタグについては活動報告欄で要望があれば逐次認可します。無断転載は許しません(ダメ、絶対)。

・活動報告にも書きますが、基本的に私の作品は魔皇サタンを始めとしたオリキャラを登場させるので、それ含めのオリタグになります。





報告はこの辺にして、一方その頃な人達。

抑止力=サン「ビースト出たのに世界隔離されてて冠位送れないオワタ\(^o^)/そこに居る鯖でガンバ」
某・神モドキ「空想樹あるけど実質隔離状態だから手出せないンゴ^~」
使徒's「下っ端的なのにボコされて何もできずに帰ってきました………orz」







 

 

 紅く、鈍色の極光があちらこちらに迸る。遠目から見れば、イルミネーションのなされた塔から、カラー付きスポットライトを照らしているかな様である。

 だがしかし、その実情は、人間相手ならば即座に蒸発してしまうであろう魔力密度の攻撃であり、そもこの煉獄自体が神代並みの魔力が満ち充ちている。

 

「くっ、キリがないっ」

 

 轟音が響く中、誰かがそう毒吐いた。

 実際、今までの空想樹とは比にならないほどの攻防であり、記憶に新しい中国異聞帯にてクリプターの芥ヒナコ────虞美人と融合した彼の空想樹メイオールでさえも、ここまでの猛攻は無かった。

 錆びた金属と金属が擦れるような、言葉に出来ない叫び声が、幾つもに重なって響いてくる。

 

 

『──────!!!』

 

「ぬぅ!?なんと耳障りな絶叫であるか!」

「貴様の聞くに耐えん歌声よりかはマシだが────な!」

 

 不快感を催す金属質な絶叫に耳を押さえるネロに、巌窟王がそう毒吐きながら漆黒の魔力波を叩き込む。

 金切り声のような悲鳴を挙げる空想樹に、攻撃の間隙を縫って着実にダメージを与えていく。

 

 しかしここで、空想樹に新たな動きが見られた。

 

「ぬ、新手か────ッ!いや違う、シャドウサーヴァントか!!」

「しかもどうやらあの姿、向こうで戦っている"アレ"みたいだね……っ」

 

 まさしく"影"としか言い表せれないほどの淀んだ黒塊。徐々にカタチを成していき、現れたのはコートを翻らせる双銃の存在────つまるところ、彼の魔皇サタンの"影"であった。

 その"影"は、尚も空想樹へと攻撃し続けるネロ達を見るなり、その銃を向ける。

 

「「「「「「ッ!!?」」」」」」

 

 瞬時に放たれた何発も(・・・)の銃弾。通常の長銃(ライフル)ならば到底不可能な連射音。その凶弾の群れがサーヴァント達へと向かっていく。

 ある者は寸前で避け、ある者は己が武器で迎撃し、その攻撃を凌ぎきる。それを"影"は意思無き双眸で確認し、近場のサーヴァントへと駆けていく。

 

「くっ!?」

「アーサー!?」

 

 長銃の下部に付けられた凶刃を、聖剣にて防ぐアーサー。無機質な色に塗られたその(かお)に冷や汗が流れる。

 初めは互角に見えた鍔迫り合い。しかし、徐々にアーサーが押されていく。シャドウサーヴァントとして劣化しているとは言え、本来のサタンに負けず劣らずの力を見せる。

 

「そこ、今すぐ右に避けろ!────偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)!!」

「────ッ」

 

 エミヤの放った"壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)"によって吹き飛ばされ、距離を取る"影"のサタン。

 爆風の勢いを利用して後ろへと飛び下がるアーサーと、残心を解くエミヤ。物言わぬ人形のような敵に、思わず眉を寄せてしまう。

 

「アーサー!大丈夫!?」

「ありがとう、マスター。けど────どうか、ここは僕に任せてもらいたい。皆は、空想樹の方へ」

 

 駆け寄った立香が更に何か言おうとしたが、アーサーはそれを片手で制し、"影"のサタンへと向かっていく。

 そうこうしている間にも、空想樹にはダメージがどんどんと入り続けていく。時折、サタンの眷族達もこちらへの攻撃に混ざってはくるものの、空想樹からの攻撃に巻き込まれたり、複数同時になぎ倒されたりと、危惧するほどのものではなかった。

 

『先輩!こちらもまもなく到着します!ベルゼビュートさん達が抑えてくれているお陰で、援軍を呼ぶこともできました!』

「ありがとう、マシュ!」

 

 マシュからの通信により、先程よりも士気が上がる一同。おそいかかる軍勢と、なおも止まぬ空想樹からの攻撃に対応していく。

 

 ・ ・ ・

 

 それからしばらく持ちこたえ、遅れて到着したシャドウ・ボーダーより何人もの仲間のサーヴァント達が参戦し、戦況を有利に進めていく。

 

『空想樹パンドラの解析完了!うん、やっぱり魔力量は初期予測値よりだいぶ低いよ!相当クラスは──────は?アヴェンジャー!?』

「──アヴェンジャー、だと?」

 

 巌窟王の動きが止まる。ダヴィンチの解析では、本来複合空想樹であるパンドラは、莫大な量の魔力が込められている計算だった。だが、それもサタンに奪われ、今ではこうして迎撃するので精一杯な状態。

 そんな中、解析によって判明したパンドラの適正クラスに、巌窟王が真顔になり、次いで炎とも雷とも視えるオーラを纏う。

 

「このような……この物言わぬ傀儡が復讐者を騙るだと?────ふざけるな。この様な復讐者など認めぬ。真なる恩讐がどういうものか、その空虚な身で思い知るがいいッ!!」

 

 そう叫ぶや否や、先程よりも激しい攻撃を仕掛けていく。瞬間移動、分身、間隙の少ない波状攻撃。増援によって余裕の出た分、これまで以上の猛攻を見せる。

 やがて空想樹に亀裂が走り始め、まもなく限界であろうことが目に見えてわかりはじめる。自らを守っていたシャドウサーヴァントはすでに騎士王によって討ち果たされており、放つ魔力砲は巌窟王にかすることすらなかった。

 

『弱点を見つけた!正面にあるデカイ亀裂だ!そこをぶっ叩けば伝播して崩壊する!!』

巌窟王(アヴェンジャー)!!」

「真の恩讐とはどういうものか、その身にしかと焼き付けろ!!──────虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)』!!

 

 巌窟王の宝具による分身、その集中攻撃が、向こう側で未だなお暴れるサタン────サタナエルの産まれた大空洞へと殺到する。

 その集中攻撃を受けた空想樹は、これまで以上の悲鳴となる断末魔を挙げる。

 

『──────────!!?!?』

 

 ──死にたくない、死にたくない。許さない、許さない。やだ、助けて、クルシイ、生きていたい、ナニモナイ、どうして?まだ、何も────

 

「もういい、眠れ。お前の居るべきところは此処ではない。悪魔より、悪夢より、その空虚な生より解き放たれるがいい」

 

 巌窟王がそう告げると共に、空想樹パンドラが崩壊していく。ポロポロと崩れて、塵となっていく。

 内部に内包していた魔力も霧散し、サタンと繋がっていたパスも途切れることとなる。それはつまり────

 

 

『Gyaaaaaaaaaaaaァァァアアアァァァッ!!?!?』

 

 

 遠方より響き渡る絶叫。それに驚き振り替えると──────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 およそ人のものとは思えない色をした血液を、内部から破裂したかの様に、これでもかと吹き出すサタナエルの姿があった。

 

 

 





次は本編ラストの章でござ。

アンケートもそろそろ締め切りかな?
ついでに言っておくと、皆内容は違うけど、一応行き着くとこは同じ、かな?ただ内容の差が激しいからどうなるかはわからん。


このままやと二人タッグになるんかァ……たまげたなァ……。


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7-『獣』 BEAST・Ⅵ R


こちらはクラスビーストとしてのサタンのステータス表になります。
サーヴァントとしてのサタンのステータスは後々書きますのでご了承下さいまし。



CLASS:BEAST・Ⅵ/R

(現在は『IRA(忿怒)』だが、元は『Revelation(黙示)』)

 

真名:"魔皇"サタン→"叛逆の使徒"サタナエル

マスター:必要無し(強いて挙げるならば、空想樹パンドラ)

性別:廃棄済み(元は男性)

身長/体重:666.9m/計測不可

属性:混沌/悪/『獣』

 

〈ステータス〉

 

筋力:EX

耐久:A+++~EX

敏捷:A+++

魔力:EX

幸運:C+

宝具:EX

 

〈保有スキル〉

 

・単独顕現:EX

→単体で現世に顕れるスキル。"どの時空にも存在する在り方"を示すため、時間旅行を用いたタイムパラドクス等の時間操作系の攻撃を無効化にするばかりか、あらゆる即死系攻撃をキャンセルする。

悪魔としての"自由行動能力"、"自由顕現能力"、そしてクラスビーストとしての"単独顕現:A"の相乗効果により、例え異なる世界線上*1であっても己を知覚できる。がしかし、干渉はできない。

餓え、渇き、怒り、怨み、嘆き、悲しみ、ありとあらゆる『負の感情』をエサとして認識し、喰らうためならばいかなる場所であっても顕現できる。ただし、その後の維持については以下詳細。

 

 

・獣の権能:A++

→"対人類"とも呼べるスキル。基本的には皆似たようなものだが、サタナエルの場合は『黙示録の獣』を吸収したことにより若干変質している。

人間、あるいは人類ないしはそれに相当する知的生命存在、及び神霊、半神など神性を宿す者に対して特攻効果を持つ。

 

 

・大罪魔王:EX

→サタナエルが本来持っていた『神性』の変異スキル。その真価とは、煉獄より蘇りし魔界の王としての格を示し、魔に属する者を従える、サタナエルのみが持つ絶対者としてのオーラ。

これに対抗できるのは、同じ『大罪魔王』のスキル持ちないしは『大罪・冤罪』系のスキル持ちのみとなっている。ただし、レジストできるスキルを持つものからの庇護を受けている場合は、同じくしてレジストできる。

 

 

・拒絶世界:A

→何もかもを『拒絶』する人間達の独り善がりな無意識的行動原理をスキルとして具現化させたもの。これにより、サタナエルが"視認"した存在の削除が可能

ただし、あくまで"視認"する必要があり、死角からの攻撃は防げず、更には現世、ないしは広大な"異世界"などの『既に存在がピン止めされている世界』内だと効果がさらに激減してしまう。

このスキルの最大のメリットは、"敵の固有結界系統の強制キャンセル"という点である。これにより、固有結界、ないしは侵食固有結界などの"テクスチャとしての世界"の展開が出来なくなる。

 

 

・ネガ・メサイヤ:EX

→サタナエルが元来持っていた、"世界の『救世主』"としての役割が変異し、反転したスキル。

"対『救世主』特攻"とも言えるこのスキルは、『救世主』としての資格を有する者に対し、絶対的有利性を自身に付与する。さらに『創造神』系統の場合は"必殺・必勝効果"が付与される、

 

 

・大罪『憤怒』:EX

→魔皇サタンである時より宿す"原罪"、その最も罪深いとされるもの。感情の高ぶりによってステータス補正がかかる。

しかし、多用しすぎると『狂化』し、最悪の場合は自我を無くして自滅してしまうため、見極めが必要。また、所有するだけでも幸運値にマイナス補正がかかる。

その代わりに、各ステータスへのプラス補正や炎熱支配、焔化身体、魔力の爆発的増加などの利点が生まれる。

 

 

 

〈宝具〉

 

・『獣冠授けし七角十冠の焉龍』

ランク:EX 種別:対界宝具/対文明宝具

→アポカリプス オブ トライヘキサ。

サタナエルの『獣』としての姿の真なる名称。元々は『黙示録の獣』のもの。しかし、魔皇サタンが『黙示録の獣』を吸収・支配したことによってサタナエルの宝具となった。

効果としては、"英霊の攻撃含むあらゆる魔術的攻撃の無効化"、"崩壊世界の召喚"、"人類・神性に対する絶対的優位と特攻効果"である。

一つ目は、一般的にサーヴァントは、魔術的な召喚によって現れるため、それを魔術的存在として認識することにより、通常攻撃や宝具を含む一切の攻撃を無効化する。ただし、ランスロット(狂)の宝具『騎士は徒手にて死せず(ナイト オブ オーナー)』のような物理的存在を利用する宝具はどうしてか効く。

二つ目は、"世界は一度崩壊している"という仮定的前提理論に基づいて、その崩壊した世界の瓦礫や要因を現在に召喚するというもの。これにより、倒壊した家屋や隕石を降らすことや、近くに自然物があれば、噴火や大津波などの災害を自動的に引き起こす。

最後に至っては、『黙示録の獣』が元来持っていたとされる効果であり、どちらかというとオマケ的意味合いが強い。

 

以上の3つの効果により、fate世界史上最大最強を誇る無双具合となっている………が、実際のところは魔力の消費量が比べ物にならないほど高い。その高さは、本来ならば一発放つだけで霊基の軋みが生まれる"神造宝具"を、通常攻撃にして永続的に放ち続けるようなもの。そのため、この宝具は他に大量の魔力を宿す媒体が必要不可欠であり、それがなくては魔皇サタンとしても、サタナエルとしても最大でも3分以内の活動が限度となる。

 

 

 

 

・『虚ろなる煉獄の聖杯』

→ホロウ グレイブ オブ ゲヘナ。

サタナエルの体内に存在する禍々しい"聖杯"。本来の聖杯とも聖杯戦争で使われるものとも違い、こちらは『望む者の願いを最悪のカタチで叶える』というものである。

しかし、これはサタナエル以外の者が使うことによる効果であり、サタナエルの使用時は『願望を叶えるための力を授ける』ものである。これによってサタナエルは『黙示録の獣』を召喚・吸収し、その身に余る強靭な存在を手に入れることができた。

一応礼装としての使用もできるが、その場合は"魔力消費量をある程度抑える"というものであり、実際のところ、サタナエルの状態ではあまり意味を成していないのである。

余談だが、サタナエル以外にこれをまともに使えるのはアザゼルぐらいである。

 

 

・『蘇るは黙示録の獣』

→リヴァース・アポカリプス。

サタナエルが持つ、自身に作用する唯一の回復宝具。これもまた、元々は『黙示録の獣』が持っていたものであり、一度倒され死んだとしても、再誕することによって全てを一からやり直す。『仕切り直し』に酷似した宝具。

ただし"三度まで"と決まっており、なおかつ再誕する度に徐々に体格が小さくなり、弱体化していく。三回目にはほぼ『魔王サタン』の状態にまで霊基が弱っていく。

しかし、この宝具は"復活"が主なのではなく、あくまで"召喚のための前座"である。一度死ぬ度に『ビーストⅥ:L』こと、『バビロンの大淫婦』召喚のための基盤が完成していく。そして、サタナエルが完全に倒される直前にそれは召喚され、サタナエルは自らを『獣の冠』へと変貌させる。

 

当作品では場所が場所のため、召喚が不可な上に歪なカタチでこの再誕が行われているため、召喚は不可能となっている。

 

 

 

 

〈原罪〉

 

『黙示(Revelation)』→『忿怒(IRA)』

 

 

本性・所業:『理不尽に苦しむ世界を救済(粛清)する為、神という概念を殺し、魔術という存在を抹消し、世界を一から創り直す』

→『人理帰葬』

 

 

愛:『元来より自然を愛し、隣人を愛し、美しい心を持っていた人間達が理不尽に奪われたものを取り返したい』

 

 

 

 

*1
異世界、平行世界含む





スーパーガチートビーストかと思いきや、実は弱点だらけの虫食いガバガバ性能という。お前ほんとにビーストか?

本来の性能さえ引き出せれば、今までのどのビーストよりも強いサタナエル。出せないならウドの大木という割かしピーキーな感じになっちゃったなぁ……ま、いいか(漫画太郎顔)


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第八章 黙示失墜
8-1 怒り、駆ける



サーセン、誤投稿しちゃいました……。

さて、ここからエピローグを除けば最後の章となります。

vsサタナエル、改め魔皇サタン、最終決戦となります。
さぁ、飛ばしていくぞぉー!!




 

 "それ"からすれば、周りにたかる有象無象はそれこそただただ目障りなだけであった。潰そうと思えばいつでも潰せるハエのようなもの、と。

 だがそれこそが、己が最も戒めたはずの慢心であり、己が最も軽蔑する"傲慢"であったのだ。実際、"それ"は今、己の慢心によって苦悶の声を挙げているのだから。

 

 

 ────痛い、痛いッ!!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイッ!!!!

 

 

 空想樹(魔力源)が、切られた、伐採(きら)れた、殺さ(きら)れた、砕か(きら)れた、壊さ(きら)れた、失っ(きられ)た!!

 

 おのれ、おのれカルデア。おのれ英霊。おのれサーヴァント。────おのれ人間。

 

 

 ふざけるな。ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザフザフザフザフザフザフザフザフザフザフザフザフザフザフザフザ──────

 

 

 ────許さぬ。赦してなるものか。その身体、その血肉、その存在。貴様のありとあらゆるもの全て、全て全て全て全て、断じて赦してなるものか。許せるはずがあるものか!!────────

 

 

 

『オオォォォォォ!!藤丸立香ァァァァァァァッ!!!』

 

 "霊基(身体)"が崩壊していく。受ける傷が増えていく。受けた傷は治らない。徐々に、徐々に、己の身体が朽ち落ちてゆく。

 

 

 ──第一再誕、修了。

 

 

 ──第二再誕、不完全。

 

 

 ──第三再誕、不可能。

 

 

 持って5分にも満たぬ僅かな時間。だがそれでも、『獣』は限界を迎えようとしている身体を反転させて、バベルの街へと半ば己を引きずるように飛翔する。

 否、もはやそれは飛翔とは呼べず、醜く地を這いながら、翼を必死に羽ばたかせ、今までとはうって変わって物凄い速度で向かっていく。

 

 その眼は、憤怒と憎悪にまみれ、目指すは白紙となった地上──ではなく、その怨恨の矛先たる人間のいる己が街。

 並み居る英霊達ですらその勢いを止めることはできず、暴走機関車のように、遠く離れていたはずの街へと、1分もかからず走破する。

 

 建ち並ぶ街並みを破壊し尽くしながら、見据える存在はただ一人。人類最後のマスターにして、己の野望を打ち砕かんと、あらゆる妨害をものともしなかった人間。

 

 ──必ず、貴様を、殺すぞ。藤丸立香────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空想樹を伐採し、シンと静まりかえるバベルの塔の前。それを逃すはずもなく、サーヴァント達は残る眷族達を打ち倒していく。

 立香が一息つき、マシュやサーヴァント達が駆け寄ろうとしたその時、

 

 

 

 

 

『藤丸立香ァァァァァァァッ!!』

 

 

 

 

 

 突如として響きながら近付いてくる地鳴り。その方向へと顔を向けた立香の目前には────巨大な、竜の顎が迫っていた。

 

『先輩ッ!!』

 

 マシュが悲痛な声をあげる。暗吞とした、迫りくる口腔。その巨大さに、最早避けることすらできないと本能で解り、固まってしまう立香。

 世界がスローモーションとなり、"死"を目の前に待つ。走馬灯がよぎり始める立香。そして────

 

『グアァッ!!?』

「うわっ!?」

 

『獣』は金色に輝る無数の鎖に絡めとられ、その動きを止めて地に伏せる。その瞬間を狙って、厳窟王が立香の側へと転移し、『獣』の進行方向から飛び去る。

 唐突な浮遊感に意識が舞い戻るも、上手く状況が判らず混乱する立香。やがてシャドウ・ボーダーの側へと降り立ち、立香は降ろされる。

 

「先輩っ!怪我は!?大丈夫でしたか!?」

「ま、マシュ、落ち着いて……」

 

 よろける立香に、不安げなマシュ。慌てて立香のことを支え、大事ないことを確認してほっと一息つく。

 だが、そんな安息も長くはなかった。次々と響く破砕音。立香が振り向くと、今まさに、無数に繋がれていた鎖を破壊し尽くして自由にならんとしている『獣』がいた。

 

 

『Aaaaaaaaァァアアアァァァァッ!!!』

 

「ぐっ、ごめんマスター。抑えきれなかったみたいだ」

「小癪な…っ、これでも止まらんか、ケダモノめ!!」

 

 エルキドゥとギルガメッシュの毒吐く声が聞こえる。しかし立香は、目の前の『獣』────サタナエルから目を外すことができなかった。

 その姿はまさしく"竜"。他人事であればカッコイイなどという感想を抱けたかもしれない。だが、実際に目にすれば、その恐ろしさ、覇気、威圧感、存在感、そしてなりよりも────向けられる憎悪に、背筋が凍りつく思いであった。

 

『赦さぬ……赦さぬぞ藤丸立香ァァァッ!!我が野望を砕き、そして人理を取り戻すなどという蒙昧な理想に取りつかれた愚者めが……ッ!』

 

 よくよく見れば、サタナエルの身体は既に限界であるのか、ところどころ砕けて粒子に還り始めていた。それでもなお気にした風もなく、ただ立香一人を視ている。

 再びその顎を開き、息も絶え絶えでありながらなお狂ったように怒りと憎悪を吐き続ける。

 

『貴様だけは……貴様だけはッ!!必ずここで──────殺すッ!!

 

 サタナエルが、身体からその存在が軋むかのような悲鳴を挙げる。だが、それを上回る怒りの波動を、立香ただ一人にぶつける。

 その圧倒的なまでの力に、立香の身体は恐れに震える、しかし、ここに集うは万夫不倒にして一騎当千の英雄達。そんな彼らから伝わる闘志によって自らを奮い立たせる。

 

「俺達だって、負けられない!────行くぞ、皆!!」

「「「「「おう!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

煉獄魔境大罪記 ゲヘナ

虚ろなる煉獄の聖杯

 

 

 

 

 

 

 

 

 





スカイツリーレベルの巨体のドラゴンが、一直線にがむしゃらに追い掛けてきたらめっちゃ怖いよね。
普通に自分も怖い……。

ちなみに余談ですが、サタナエルとバベルの街は数十キロ以上離れていました。それをあっという間に走破してくるビーストさんマヂパネェ………。






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8-2 嘆き、吼える


昨日投稿のはずが、途中で寝落ちしてもうた……ちくせう……

アンケートは好みが顕著だなぁ。取り敢えず、間もなく締め切りまする。
ちな、答えは上から、
エミヤ、魔神沖田、プロトアーサー、ネロちゃま、厳窟王となってます。
基本終わりは同じだけどENDが違いますねぇ。
というか、同数票になってるんだけどどないしよ……








 

 吹き飛ばされる建物、崩れ去る天の塔。暴虐の嵐の中心には、巨獣にして忌まわしき魔竜。周囲に飛びかかってくる英霊なぞ気にした風もなく、ただ一人の人間のみを執拗に追い掛ける。

 最早その"霊基(肉体)"は崩壊寸前であり、まもなく砕け散るというのは眼に見えて明らかである。だが、それでもなお、ただ一人を殺すためだけに、殺し尽くすためだけに、僅かな力を奮わせている。

 

 

『死ねェッ!!』

 

「ぐっ!なんという執念!」

 

 連発される魔術や"壊れた幻想"、さらには宝具といったあらゆる攻撃を加えるも、効いていないかのように暴れるサタナエル。

 否、効いてはいるのだが、それよりもなお、己が身を焦がす憤怒の衝動のままに動いているのだ。それは、悪質なドーピングよりもなお質の悪い、まさしく『執念』なのである。

 

『貴様さえ……貴様さえいなければッ!!我が計画も、我が野望も!そして何よりも、この世界が、あのように狂うこともなかったッ!!』

 

 時に強烈なまでの熱線ブレスを放ち、時にその崩れかかった六腕の爪で切り裂きにかかり、己の慟哭を叫びながら立香だけを狙い続ける。

 その慟哭は嘆きであり、怨嗟であり、無念であり、だがそのなによりも、怒りが込められていた。

 

『全て!貴様の存在こそが原因なのだ、藤丸立香ァッ!!』

「っ────それでも!俺達は未来へと進むため、お前を超える!!」

 

 立香の決意を新たに、しかしてサタナエルの猛攻からなんとか避け続ける。サーヴァント達の協力で、ギリギリではあるがなんとか無事ではある。

 しかし、持久戦とは言え、向こうはこちらを優に越えるどころか、その口内に小魚のように入れてしまうほどの差がある。

 その物理的な差さえ理解していながらも、未だ諦めない立香の目に、サタナエルの怒りは、魔力源を強制的に失ったことでの激痛と共に募るばかりであった。

 

『がッアァッ、ハァ……ッ!!まだだ、まだ終われぬッ!!貴様を殺す、その時まではァァッ!!』

 

 六腕あった腕のいくつかは粉々になって消えていき、そな大口からはおびただしい量の血を吐き出し、挙げ句の果てには眼から血涙をながしてさえいる。

 魔力源たる空想樹を伐採されたことで、サタナエルの霊基を保つ力はもうなく、今はもはや根性で動かしているにも等しいものであった。

 更にそこに、サーヴァント達からの猛攻も加わっていき、とっくのとうに限界を迎えているはずなのだ。

 

 ──────だから、忘れてはならなかった。手負いの獣ほど恐ろしいものはないことを。

 

『わず、わら────────────―

 

 

 

 

 

 

 

 

──しいわァァァァッ!!』

 

 サタナエルを中心として、突如急激な魔力の高まりを検知するシャドウ・ボーダー。あちこちの計器類からは警報音がかき鳴らされ、非常事態だと言わんばかりである。

 

『これは────マズイ!!立香君、早くそこから離れて──────────』

「あ────────」

 

 瞬間、蒼い閃光が迸る。

 ダヴィンチの警告もむなしく、立香はその光景に一歩も身動きできず茫然とするのみであった。輝く光は、立香ですらわかるほどに当たってはいけないと思わざるをいけないものであった。

 おぞましいほどに煌めく閃光が立香に迫り、死を覚悟していながらも茫然としたままに佇む。

 

 

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』!!

 

 立香の正面に立つようにして、光り輝く大きな花弁が花開く。その丁度発生点のあたり、赤い外套をはためかせる一人のサーヴァント────

 

「っ、エミヤ──?」

「ボサッとするなマスター!!魔力を回せ!このままでは防ぎきれん!!」

 

 ハッと我に返った立香が、礼装を起動して魔術回路を走らせる。礼装に付与されている強化魔術が発動し、エミヤに魔術支援が行われる。

 だがそれでも、蒼き極光の勢いは留まることなく、一枚、二枚と次々に割られていく。そして、残りあと少しというところで光が収縮し、一気に炸裂する。

 

 

『消えろォォォォッ!!!』

 

 遠く離れた場所からでもよく見えるほど、ドーム状の爆発が巻き起こる。それこそ、離れていても勢いの強い爆風が吹き荒んでいることから、近場ならば語るまでもなく。

 核爆発(・・・)にも等しい魔力の奔流が、エミヤ達に襲いかかる。目の前が真っ白に塗り潰されていく。

 

『マスター、聞こえますか!今私の方から魔力を送ります!それでどうにか持ちこたえて下さい!!』

 

 通信から、シャドウ・ボーダーに引っ込んでいたマックスウェルの悪魔の声が鳴る。それと同時に、立香の中に溢れんばかりの魔力が流され、エミヤへと伝わっていく。

 その魔力は、薄皮一枚だった花弁の盾(アイアス)を復活させる。それら全てが一瞬のことながらも、かなりギリギリに近しい状態であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、全ては純白へと消えていく────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





アンケート締め切りは7/24の18:00までにしたいと思いまーす。
さぁさぁ、決着は誰になるのでしょうかねぇ。
同数が多い場合は一番上のキャラにします。

0時にはもう一話投稿するはずなので、更新までお待ち下さいなー。



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8-3 巨獣、語る


二話連続投稿!わりとギリギリ!!きつぅ!?

ちょっとグダッたかもしれないけれど、投票が決まる時間稼ぎとしてはいい、かなぁ……?





 

 

 

 視界一面に広がっていた眩いほどの光が晴れる。未だ閃光に目を瞬かせながら、立香は辺りを見回す。

 立香の正面から、放射状に無傷の舗装された地面のままであったが、それ以外────エミヤのアイアスによって護られていた場所以外は、クレーター状に焼け抉れていた。

 

「無事か、マスター…」

「っ、エミ──────ヤ?」

 

 その荒唐無稽な光景に呆然としていると、脇から声を掛けられる。立香がそちらへ振り向くと──────

 

 

 ────片腕を押さえて、よろけながらこちらへ視線を向けるエミヤの姿。

 エミヤだけではなかった。よくよく見れば、クレーターの外縁部には、相当なダメージを負ったサーヴァント達がちらほらと倒れ伏していた。

 

『まだ、生きていたとはな』

「ッ!」

 

 立香の頭上に影が差す。仰ぎ見れば、こちらを睥睨するサタナエル。その霊基は既に崩壊を止めきれず、今もなおボロボロと崩れて去っている。

 しかし、それでも以前としてその強大なまでの存在感を発しており、立香を圧する。その前に立ち塞がるのは、片腕をやられたエミヤ────だけでなく、サタナエルの攻撃から耐え残った数名の者達であった。

 

「マスター、は……やらせない…っ」

『……ふん、手負いの獣風情が。──────いや、オレも、か』

 

 自嘲するかのような反応を見せるも、衰えることのない覇気をもった目を彼らに向ける。崩れ落ちる身体に意識を向けることなく、ただ敵のみを見つめる。

 

『抑止の守護者共……叶わぬ夢想を追う偽善者共め。この期に及んで、なおその無能な人間を護るか』

「当然、だとも……生憎、サーヴァントはマスターを護る役割を持つもの、だからな」

 

 それは嫌悪と憐憫と、なによりも侮蔑を込めて発せられた言葉であった。

 だが、その言葉に皮肉を交えて返したのは、誰でもないエミヤであった。手負いになりながらも、その覇気に圧されながらも、立香の周りに集う英霊達は臆さない。

 

『下らぬ。どれだけ此方が期待を寄せても、その全てを拒絶するのが人間だ。そうであろう──────正義の守護者とやら』

 

 眼孔を収縮し、エミヤを睨む巨竜。否、エミヤのみならず、その場に立っている全員を、その複数の眼で捕捉していた。

 何も言わずに佇むエミヤ。彼が考えているのははたして、己の過去か、歩んで来た今(殺してきた人)か、何も語らず黙している。

 

「……正義とは、蒙昧なる定義だ。人間は、それ無くしては生きられん。そして、必然的に拒絶するだろう。だがな──────それを語るのは貴様ではない」

『────なに?』

 

 サタナエルの眼が一人に向けられる。

 他の者よりかはいくらか傷は少なくみえるものの、それでもところどころ傷が見えるコートの厳窟王。サタナエルからの視線を正面に受けてなお毅然とする。

 

 

「人の正義と拒絶を語るのは貴様ではないと言ったのだ、大悪魔よ。貴様が語るそれは、まさしく幼子の癇癪であり、貴様が憂うそれは、道半ばで挫折した者の狂言に過ぎん」

『言うな?復讐者。ならば貴様はどうなのだ。そうあれと望まれ、歪められ、元あるべき姿を亡くした貴様は』

 

 竜の小指が落ちて砕け、粒子となって消えていく。徐々に崩壊が進んでいくのも気にせず、サタナエルはその"存在(サーヴァント)"を見る。

 と、そこで前に出たのは、頭から一筋の血を流しながらも、屹立とする魔神沖田である。

 

「そうだとして、歪められたとしても、守りたいもの、やりたいことがあるならば、私達はそれな向かって進むだけだ。そこに何の違いもない」

『……粋がるなよ半端者。兵器モドキが、知ったような口を聞くな。存在すら許されなかったモノ風情が、夢を語るなぞ反吐が出る』

 

 そう吐き捨てると、今度はネロを見てその目を細める。

 それはどこか懐疑的で、どこか納得したようで、それでいて────どこか、寂しそうであった。

 

『──貴様もそちらに付くというのか、"ネロ・クラウディウス"。己が愛を理解しなかった民に責め立てられ、裏切られ、あまつさえ見棄てられた貴様が』

「……無論だとも、余がマスターに付く。当然のことであろう」

「…(あれ……?ネロだけ名前で……)」

 

 毅然として答えるネロを見ながら、立香はふと疑問に思う。もしも今、立香に余裕があったならば、そな疑問を問いただすことが出来たのだろう。

 しかし、その疑問を解消することも、その真偽を問い質すことも、それを行う前に、サタナエルの言葉に返す者がいた。

 

「例え愛した者に裏切られ、その果てに非業の最期を迎えたとしても、僕らはそれを恨まない。なぜならば、その過程にこそ僕らが生きた証があるのだから」

『ほとほと見上げた心意気よな、騎士王。だが、無駄だ。貴様らが残してきたものは既に全て消え去っている。無意味なのだよ、貴様らは』

 

 嘲笑うかのような口調でアーサーに答える。余裕を見せるかのようではあるが、その顔には、未だ冷めやらぬ想いが見え隠れしていた。

 そんな中、サタナエルと問答するサーヴァント達よりも前に出て、固い意思を持った目を向ける者────藤丸立香が、サタナエルと正面からにらみ会う。

 

「確かに、お前の言うとおり、俺は無力だ。けれど、皆の力を借りてるからこそ!俺は世界を取り戻す!そのためにも、お前を倒す!!」

 

 若すぎると言わざるを得ない、無謀な宣言。故に、その言葉にサタナエルは顔をしかめるどころか怒りに歪ませる。

 己を顧みず、意味のないものに尽くし、そして喪う。結局は無意味に帰すような、人々から廃棄される願い。それに再び怒りが吹き出していく。

 

『────ならば、構わん。委細合切討ち滅びよ。二度目の再誕────地上への現出を絶たれたとは言え、一度目の再誕────存在の現出は既に済まされた。たからこそ、だ。──ただでは死なんと思えッ!!』

 

 サタナエルが残った巨腕を振り上げる。サーヴァント達が立香と並び、自身に各々が構える。

 決着は近付く気配を感じながら、崩壊するまでの力を振り絞らんと、『獣』の抵抗が始まる──────。

 

 

 





次で『獣』としては決着します。させます。

とりあえず、投稿でどこか誰か抜きん出てくれると楽……(漏れる本音)。






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8-4 黙示、墜ちる。


グワーッ、時間に間に合わないっ、グワーッ!

お仕事あったの忘れてた上に、暑さでバテてて時間までに書けなかったでござる……。

だがしかし!これにて『獣』決着!最終局面、どうぞ!



 

 大地に激震が走る。高々と舞う土煙、その中から山ほどもある拳が地上へと振り落とされる。

 その拳の上を駆け登る、真紅と白銀の二つの姿。煩わしいものを手で払うように、別の腕を払いのけようとする。しかし、顔面へと飛来する一筋に、顔を仰け反らせる。

 

「隙あり!!」「てやぁっ!!」

『ぐぬぁッ!!──図に、乗るなッ!!』

 

 サタナエルの胴体に、二筋の剣閃が袈裟状の切れ込みとなる。すぐさま襲いかかる反撃を辛うじて避け、地上へと着地する。

 そのサタナエルのすぐ背後より、黒き閃光がサタナエルを貫く。厳窟王の放った光線は、モロにサタナエルに直撃────したわけではなく、肩甲骨部から少しずれた辺りに当たっていた。

 

『小賢しいわ!!』

 

 ラリアットの要領で厳窟王へと襲いかかる巨腕。回避が間に合わず、そのまま吹き飛ばされてしまう。

 だが、その不意をついて斬擊一閃。それはサタナエルの翼の一つを切り落とすのみならず、その背から伸びる巨大な背角の一つを真っ二つにした。

 

『ゴァァァァァァァッ!!!』

「くっ、これでも倒れんのか……っ!」

 

 霊基は限界に近く、身体は既に崩壊しかかっており、その肉体は最早動けること自体が奇跡に等しい状態であるサタナエル。だが、エミヤの苦々しい思いが語るように、これでもなおサタナエルは倒れなかった。

 その爛々と輝く眼は、なおも執念に燃えており、その活力を失っていなかった。問答から既にいくらか経ち、その身にいくつもの傷を与えたとは言え、未だ衰えないサタナエルの勢いに戦慄する。

 

『この、程度で……ッ、倒れてなるものかァ…ッ!!』

「一か八か、か…。──────マスター!!」

 

 エミヤが立香を呼ぶ。なおも立ち上がり続け、残ったサーヴァント達からの猛攻を、耐えては飽きぬ反撃を繰り返す。

 埒が明かないと察したエミヤは、一か八かの勝負に出ることにした。

 

「どうしたのエミヤ!」

「皆で"宝具"を使う!それで一気にケリをつける!!不足分の魔力はそこの悪魔が補うはずだ!」

『便利屋扱いですねぇ!?まぁいいのですけれども!』

 

 エミヤの声に、通信からマックスウェルの悪魔からの悲鳴が聴こえる。彼の力のお陰で、立香もサーヴァントらもは魔力を切らすことなく、極限まで動き続けられている。

 だがしかし、問題は宝具発動までの時間稼ぎ。だれかがサタナエルの注意を引きつつ、他の全員でサタナエルに攻撃をぶちこむしかないのだが、現状そこまで持ちこたえられるものがいない────────

 

「──────どォらァッ!!」

『ぐぉぁァッ!!貴様ァ────ベルゼビュートォォッ!!』

 

 遠方より高速で飛来する深紅の三叉槍と、飛んできた方向から、渾身の飛び蹴りをかましてサタナエルの身体を穿つ緑髪の悪魔────ベルゼビュート。

 彼だけではない。遠い戦場から駆けつけた七大罪の悪魔達が続々と参戦してくる。

 

「遅くなってごめん、立香!」

『時間稼ぎは我らに任せよ!だが長くはもたんと思え!!』

 

 一瞬でサタナエルの足元が凍りつき、かと思えば、サタナエルの身体を突如として現れた魔神柱ががんじ絡めにする。

 ベルフェゴール、アスモデウスた言った大罪悪魔達がサタナエルの気を逸らしている間に、サーヴァント達は宝具展開の準備に入る。

 

「"I am the born my sword……"────」

「春の兆し、華の乱舞────」

「我が往くは、恩讐の彼方────」

 

 

 

 ────この"煉獄という世界"は、サタナエルが作り上げた広大な固有結界でもあるんだ。だから、他の固有結界が干渉すると、一部だけの展開になってしまうんだよ──────

 

 ベルフェゴールを牢獄から救出して暫く、エルメロイⅡ世を交えた会議で、彼はそう告げた。ならば、ただでさえ莫大な魔力を消費する固有結界に加え、さらに莫大に魔力を費やす宝具が重なればどうなるか。

 それはつまり、防御が手薄になるということ。

 

 

 エミヤの周りには、剣が降り注いでは地面に突き刺さっていき、宙には大小様々な歯車が浮き出始める。

 ネロの背後には巨大な黄金の劇場が広がり、そこから無数の薔薇の花びらが、ネロの行く手を指し示すかのように舞い散る。

 厳窟王はサタナエルへと駆けていき、次第に目で追いきれぬほど高速に動き始め、必殺の一撃を溜めていく。

 

十三拘束解放(シール・サーティーン)────円卓議決(ディシジョン・スタート)!!」

 

 

 ──ベディヴィエール

 

 

 

 ──ガレス

 

 

 

 ──ケイ

 

 

 

 ──ランスロット

 

 

 

 ──モードレッド

 

 

 

 ──ギャラハッド

 

 

「──これは、世界を救う戦いである!!」

 

 

 ──アーサー

 

 過半数が可決したことにより、聖剣の力が紐解かれる。本来ならば光の奔流が剣から溢れ、極光となるところが、湖面に煌めく月明かりのように、ただ静かに脈動する光となって剣に纏う。

 地上で発動すれば、間違いなくいくつもの大地が砕け散るその光は、地上ならばまだしも、ここは煉獄という隔絶された世界。ならば、振るうに不足も遠慮も不要というもの。

 

「令呪を以て命ずる!!──────サタナエルを、討て!!」

 

 そして、マスターたる立香からの令呪使用によって、全員の魔力に更なるブーストがかかる。

 その令呪に、ありったけの気合いを入れるサーヴァント達。サタナエルへと狙いを定め、一気に解き放つ。

 

 

無限の剣製(Unlimited Blade works)』!!

童女謳う華の帝政(ラウス・セント・クラウディウス)』!!

虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)』!!

 

 

 宝具の発動を悟った大罪悪魔達が一斉に離れる。サタナエルが遅れて気づくも、時既に遅し。

 無数の剣がサタナエルの元へと殺到し、その巨体に何本も刺さっていく。そして、その全てが一斉に魔力爆発を起こし、体内外両方に深刻なダメージを与える。

 さらに追い討ちで、ネロと厳窟王の宝具が、サタナエルを挟み撃ちに穿ち貫く。

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)』!!

 

 

 星の力を帯びた、神聖にして真なる力を解放した光の奔流がサタナエルを真正面から襲う。その光は、悪魔にとっては猛毒に等しいソレであり、何よりも、サタナエルが遥か昔より"弱点"とする『星の輝き』そのものである。

 防御する暇もなく、あっという間に光に飲み込まれたサタナエルは、苦悶の絶叫を挙げる。それはまさしく、断末魔というに相応しいほどであった。

 

 

『おのれ、おのれ──おのれェェェッ!!貴様ら、如きに、このオレがァァ──────────ッ』

 

 サタナエルの霊基(肉体)が光によって浄化・消滅させられていき、ここまで保っていた限界故か、抵抗することもできず討ち滅ばされていく。

 

 

 ────そして、閃光が天を貫き、決着を示す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────まだだ、まだ終われるものか」

 

 

 





大悪魔は、ただでは転ばぬ。

知っているか?真の魔王は三回変身できるということを。


言葉なぞ無粋。真の決着はこれにて決まる。





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8-5 憤怒、再起せん


うわやっべ、連休ボケして日曜だと思ってた。あっぶなー……。

長らく続いたこの作品も、もう十話足らずほどで終わりとなります。
いやはや、感慨深いですねぇ……。







 

 塵となって崩れ去っていくサタナエル。それはまるで、石造りの神殿が崩壊していくかのような、硬いものが砕けていくようであった。

 サタナエルを討伐したことで、宝具解放や、これまでのダメージにより疲弊しきったサーヴァント達。大半は肩で息をするかのように憔悴していた。

 

「終わった……の?」

「おそらくは、ね。………まさか、僕の宿願が、ここで叶うなんてね……」

 

 "王"を喪ってもなお燃え盛る荒野。七大罪達もかなり体力を消耗していたらしく、もう動けないとばかりに休息を取り始める。

 ふと、そんな立香達の元に、車輪が走る音が向かってくる。振り向くと、決着を感じたらしいシャドウ・ボーダーが走ってきていた。

 

「先輩、お疲れ様です。……結局、私だけ間に合いませんでした……」

「仕方ないよ。最初にあんな戦闘があったからね」

「ギクゥ………スマセーン…」

 

 駆けつけたシャドウ・ボーダーから出てきたマシュが、いざというときのために"霊基外骨骼(オルテナウス)"を装備して出てきた。

 マシュを慰める立香の台詞に、気まずそうに視線を逸らして謝るマモン。そんな空気に、皆気が緩んでいた。

 

 ────二人を除いて。

 

「──────ッ!小娘!護れっ!!」

「!?ッ──―っきゃぁっ!」

「マシュ!?」

 

 重い発砲音。その直前にルシファーがマシュを叫び、驚きつつも咄嗟に立香の前で盾を構えたマシュ。幸い、マシュの盾によってその凶弾は弾かれたものの、マシュは鉄球を投げつけられたかのように弾き飛ばす。

 立香がマシュの身を案じて支えつつ、その攻撃された方向を見ると、そこには──────

 

「ハァ、ハァ………これしきで、このオレを倒せたと思い上がるなよ小僧…ッ」

「っ────サタナエル!」

 

 石化したかのようになっていた自らの亡骸を破壊して現れるサタナエル────否、魔皇サタン。息も切れ切れながら、その目はまだ生きていた。

 サーヴァント達は立香の前に集おうとしたが、既に魔力を使い切ってしまっており、動くことすらままならなかった。

 

「ハァ……フン、虎の子の英霊も、そのザマでは形無しよな」

「……なんで、まだ生きているんだ」

 

 立香は、その背中に走る戦慄を、出来る限り隠しながらサタンに問う。ビーストであった時、ましてや先程の決戦のときも、最早魔力は枯渇しているといっても過言ではなかった。

 皮肉げな笑みを浮かべると、サタンは自身の胸元に掌を向ける。すると、サタンの体内から赤黒く禍々しい"聖杯"が現れる。

 

「これこそは、我が身に宿されし魔の聖杯(・・)。『虚ろなる煉獄の聖杯(ホロウ・グレイヴ・オブ・ゲヘナ)』よ。────まぁ、オレに言わせれば、質の悪い延命装置だが、な」

 

 妖しく輝く聖杯。否、それは最早、聖剣と呼んでいい代物なのか疑わしくなるほど禍々しくあった。見た目は今まで見てきた聖杯となんら遜色ない。が、問題はその赤黒い色と滲み出ている魔力にあった。

 早速とばかりにスキャンにかけていたダヴィンチを始めとするボーダー乗員一堂は検出されたソレに目を剥く。

 

『なんだアレ!?叩き出す結果が全部"虚数属性"だって!?』

「当然よ。……フン、態々説明する義理はないがな」

 

 そう言うと、サタンはその聖杯を体内に戻す。だが、少しでも体外に出していた影響か、空にいくつか亀裂が走る。

 

『や、ヤバいぞ!"この世界"自体が崩壊しかかっている!!』

「あぁ、そうだな。この世界はじき砕け散るだろうよ。だがな──────オレの前から逃がすつもりなぞ、到底持ち合わせておらんぞ」

 

 スキル『魔皇のオーラ』────溢れんばかりの、圧迫感を与える覇気(オーラ)が、立香達に向かって放たれる。それは逃がさないという意思表示であり、なによりも、サタン自身の覚悟を示すものだった。

 瀕死であろうはずなのに、なおも衰えを見せないその姿にたじろぐ立香やサーヴァント達。

 だが、そんな彼らの前に立ち、立ち塞がるように現れる影。

 

「悪いが、私のマスターは殺させない」

「沖田オルタ………?」

 

 彼女だけではない。立香を守るようにして、武器を構えるベルゼビュートとルシファー。

 

「……おい、俺達はこれ以上激しい動きはできねぇからな」

「無念だが、貴様がやれ。貴様の主ぐらいは護ってみせよう」

「あぁ、感謝する」

 

 腰を沈め、沖田さんと同じ構えをしてサタンと相対する魔神沖田。そのサタンの両手に炎が迸り、二丁の長銃(ライフル)を形作る。

 魔神沖田の闘気が膨れ上がり、オーラを相殺する。舌打ちを一つすると、次第にサタンの身体に炎が吹き出し、そして纏っていく。

 

 

「来るがいい!抑止に造られた偽善者よ!!我が怒り、我が復讐、持ちうる全ての力を以て、貴様らのその希望を絶望に変えてやる!!」

 

「私達はお前を倒し、未来を取り戻す!──────魔神・沖田総司、参る!!」

 

 

 魔神沖田が突貫し、サタンは長銃を構える。二つの影はその距離を詰めていき──────放たれた銃弾を真っ二つにする。

 忌々しそうに顔をしかめ、すぐさま下部の剣刃で迎え撃つ。その鍔競り合う音を皮切りに、今、最後の決戦が始まる──────。

 

 

 

 

 







―所詮人間なぞ、期待するだけ無駄なのだ。自然であれ、同族であれ、搾取し切っては廃棄し、軽蔑し、足蹴にする。自らを救済する光さえも拒絶しては貪り尽くす、醜いケダモノよ。

………だがもし、それでもなお己を克己せんと、失ったものを取り戻さんと生き足掻くのならば。見せてみろ、貴様ら人間の価値というものを―


~魔皇目録:訣別の刻より~







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8-6 魔皇vs魔神


言い忘れちゃってたけど、最終決戦のサーヴァントは『魔神沖田』さんに決定しましたー。ドンドンパフパフ、ドンパフドンパフ。

決着のつけかたはもう決まってるので、あいとは最後まで書ききるのみ!
ラストスパート、どうぞお楽しみに下さい!!




ちなみに作者に夏休みは一切有りません。
夏、辛い。




 連発される、砲撃のような銃声が荒野に鳴り響く。時折甲高い金属音が衝突し、その余波だけで土煙が舞う。

 緋い閃光となって飛翔する一つの影────魔皇サタンの『魔力放出』による高速飛行。それに向かって、地上からいくつもの剣閃が放たれる。サタンもまた、ただ受けるだけではなく、その長銃による銃撃を何度も放ち返す。

 

「はぁァァッ!!」

「ぐぅっ────!」

 

 戦闘機のように飛行していた空から、魔神沖田へ向かって突撃を慣行する。それを真正面から受け止める魔神沖田だったが、僅かにおされ気味であった。

 そのまま、撥ね飛ばした反動で宙を返りながら、通常の長銃ではあり得ないような連射速度で弾を撃つ。撥ね飛ばされた魔神沖田は、すぐさま体勢を立て直し、飛来する弾丸を"縮地"を以て回避しきる。

 

「手負いだと思ったか。戯け、この程度の修羅場なぞ、乗り越えずして何が"魔皇"か!!侮るなよ小兵風情がァ!!」

「侮りなど、無い。私は、全霊を以て──────お前を倒す!!」

 

 今度は互いに駆け、先程は比べ物にならないほどの応酬を繰り広げる。サタンの持つ長銃は、銃とは言えど下部には剣刃が付いているため、実質二刀流でもある。

 対する魔神沖田は長刀一本。しかし、それでありながら、互いに拮抗した剣擊を見せる。

 

 だがここで、サタンが長銃に魔力を流し込む。すると、剣刃から炎が吹き出し、サタンが切り裂いた軌跡をなぞる。それを避けんとして仰け反る魔神沖田。

 その隙を突いて、もう片方の銃口を心臓に向けて────放つ。なんとか身を捻らせることでその凶弾を避けるが、無理な体勢になってしまったが為によろける。

 

「どうした、その程度か!貴様の持つ信念はその程度の軟弱なものなのか!!」

「────いいや、違う。私は、まだ────戦える!!」

 

 互いに既に満身創痍。しかし、魔神沖田はそこからさらに"縮地"を使い、一気にサタンとの距離を詰める。その勢いのまま、鋭い一太刀を振るうも、眼前で交差させた刃の前に阻まれる。

 

「あぁそうだろうな……ッ。貴様らはそういう生き物だ。だが、だからこそ────オレは貴様らを赦さんッ!!」

「っ!!」

 

 鍔競りをはね除け、またしても激しい応酬を繰り広げる二人。その余波でありながら、近付けば容易に切り裂かれるであろう、剣擊の嵐が吹き荒れる。

 

「貴様らは!自らが世界の癌になっていることすらいざ知らず!自らの利のみを見続けては、真なる救済を拒絶し続ける!!」

 

 サタンの慟哭が、嵐とともに周囲へと拡散する。その慟哭は重く、積年の想いが積み重なったかのようである。

 否、積み重なっているのだ。何千年も続く人類史を、神代の、あるいは世界の始まりから、この地獄の底から見続けてきたのだ。

 

「何故だ!!何故同じ過ちを繰り返す!!生きているが故に滅びるのならば!それならばいっそ、抵抗せずに死んでおけば良いものをッ!!」

「それは違う!!」

 

 魔神沖田の放った重い一撃が、サタンを弾き飛ばす。距離を取り、互いの顔を見合せる。

 その顔は怒りに染められ、同時にそれは、嘆きでもあった。

 

「何が違う、何も違わない。人は、人類とは!永遠に過ちを犯し続けては、自ら己の滅びを招く愚者でしかない!!そんな犯した過ちを学びもせん愚図は、消え去った方が世界の為だ!!」

「違う!!例え過ちを繰り返そうとも、それでも未来へ向かって足掻き、歩み続ける。それが人間だ。それが間違いで、ましてや消え去ることが救いなはずがない!!」

 

 サタンの身体から、禍々しい焔が噴き上がる。それはまさしく、サタンの怒りを、『憤怒』を表していると言っても過言ではなかった。

 

「──下らぬ、あぁ下らぬ。貴様らのその夢見事で、この世界が、あの二人(・・・・)が築き上げたこの世界が凌辱されるなぞ、度し難いにも程があるッ!!」

 

 そう吐き捨てるや否や、サタンが持っていた二つの長銃が炎の塊となって消えていき──── 一丁の長銃(ライフル)となって構えられる。

 それは、まさしくサタンの『宝具』と言えるだろう。神代の真エーテルにも匹敵する魔力密度と、かつて相対したゲーティアの宝具──────『誕生の刻きたれり、其は全てを修めるもの(アルス・アルマデス・サロモニス)』と同等以上の反応が放たれていた。

 

「これで終わりだ。生き残れるものならば生き残ってみるがいい。此なるは、黙示録の具現……"終焉"をカタチにせし我が極致にして、正真正銘────オレだけの『宝具』だ!!」

 

 銃口に周囲の魔力が集う。おぞましいほどの魔力が充ちており、当たればまず消滅は免れない代物だと全員が察する。

 それでも魔神沖田は、怯むことなくサタンと向かい合い、受けてたつという意思を見せる。

 

「刮目せよ、これこそが、滅亡を宿せし我が(かいな)。その終末を以て、この穢れた世界を焼き尽くす──────────────

 

 

 

 

 

 

 

命星穿つ黙示の魔銃(ブラキウム・アポカリュプシス)』!!

 

 

 

 

 

 引き金が引かれる。放たれるはたった一発の銃弾。しかしそれは、『終末』という概念そのもの。凝縮された魔力は、ゲーティアの第三宝具をも越える、まさしく終わりの一撃。

 禍々しい深紅の軌跡を落としながら、それは魔神沖田へと迫る。刀を引き絞り、腰を低く構える。そしてそのまま────迫り来る弾丸へと駆けていく。

 

 

「はぁ──────ッ!!!」

 

 剣術・武術の奥義の一つ、使い手によっては瞬間移動にも匹敵する"縮地"によって、スローモーションになる世界の中、魔神沖田は、その刀を切っ先を弾丸へと向け、突きを放つ。

 

 弾丸と切っ先はその差を縮め、ついには衝突し、そして──────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一際強い閃光の後、天地爆発(ビッグバン)にも等しい、炸裂する極大の魔力ドームが一帯を包み込む。

 

 





宝具『命星穿つ黙示の魔銃』
→ブラキウム・アポカリュプシス。
サタンの持つ究極にして最大、最強の宝具。サーヴァント化していることで幾らか弱体化や制限がかかってはいるものの、それでも星の命を穿つほどの医療を秘めている。
煉獄という、魔性に侵されてはいるものの、神代の真エーテルが残っている空間にて、サタンの魔力が混ざりあったことにより"自然発生"した、回転弾層付きのライフル銃。実弾だと6×2個の弾丸が装填できる。



飛んでる時の勢いは、どこぞの天彗龍よりどちからかというとACネ○スト機の方が近しいと思って下しぁ。

次回、vs魔皇、決着。




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8-7 絶釼、断罪


ぐぅ、本来ならば昨日投稿できてた予定なんですけどねぇ……ままならぬ。


アヴァロン・ル・フェの感想。
もうね、なんていうかね、すごいよ。うん。しんどいね、色んな意味で。
あそこまで長いシナリオもそうだけど、あれだけ深い内容になるのうちほんとすごいと思う。しんどい。


とりあえず、新クラスの『プリテンダー』は該当しそう、ってかするのが二人ほどいるんだよなぁ……七大罪じゃない大罪悪魔で。

改稿版のゲヘナは今のところ、2部6章後という設定にしようかなと。その方が都合良さげ……じゃない?
こちらも、もうあと数話で終わりそうだから、クライマックス大事にしなきゃなぁ……

と、本編どうぞ(唐突)。




 

 極大な魔力爆発によって、その視界を失くす立香達。襲い来る余波は、ベルゼビュートとルシファーの二人によって防がれ、受け流されては周囲を削っていく。

 周りのサーヴァント達もまた、サタンの宝具による破壊を迎撃し、受け流し、そして避けている。だが、皆それだけで一杯一杯な状態だった。

 

「だァァッ!クソが!?いつまで続くンだよこれ!!」

「知るものか!おのれ、深傷を負っても"原初の悪魔"というわけか!!」

 

 弾いても弾いても、なお収まることのない暴虐。それは滅亡の具現であり、終末の化身、その中にいるものが消え去るその時まで、決して止むことのない終焉。

 やがて──────その暴虐は、徐々に徐々に鎮まっていき、ついには霧散する。そこに彼女の姿はなく、そこに、彼の姿は在った。

 

「…………勝負有り、だ。絶望せよ、貴様らの敗北だ、カルデア。いや────藤丸立香」

 

 帽子の中、額から一筋の血を流すまでにボロボロとなりながらも、なおその威を見せつけるサタン。最後まで立っていたのは、彼だけであった。

 抑止の守護者、魔神沖田が負けた。それは即ち、人理の敗北を意味していた。そんな敗戦の気が濃厚と立ち込める中、立香だけは諦めていなかった。

 

「……まだ、希望を語るのか、貴様は。諦めろ、全て終ったのだ」

「いいや、まだだ」

 

 立香は断言する。真正面からサタンをとらえ、そして視る。

 顔を訝しげに、そして理解し難いと言わんばかりに歪める。それは理解できないものへの冷徹な怒りであり、同時に呆れでもあった。

 

「何を期待しているかは知らんが、もう既に奴は消え去った。ここに奴が甦る、などという下らん奇跡なぞ起こるはずが────────」

 

「いいや、私は滅びてなどいない!」

 

 背後から聞こえたその声に、とっさに振り向きつつ直感でその場から避ける。その直後、鋭い剣閃が真正面を通り抜けていく。

 

「バカな……ッ。なぜだ、なぜ生きている!!"改造英霊(つくりもの)"如きが、なぜオレの宝具を受けて生きているのだッ!!」

「ふっ、簡単なことだ。

 

 

 

 

 

避けただけだ!!

 

 

 信じられないものを見るかのように、驚き見開くサタン。そこには、多少傷が目立つようになってはいるものの、五体満足で構えている魔神沖田の姿があった。

 魔神沖田が現れたことで、士気が舞い戻る。それだけではなく、十二分以上に高まり、気運が高まってくる。

 

「避けた────避けただと……このオレの、黙示録に標された"滅亡"を、避けただと……!?有り得ん、有り得ん、はずだ。何だ、何なのだ貴様は────ッ!!」

「それは、お前も言っただろう。抑止によって造られし、人理の守護者。だが、私は人理のためだけで戦っているわけではない」

 

 そう言うと、魔神沖田は立香を見る。その顔は決意に溢れ、希望に満ち、未来へた突き進む覚悟を示していた。

 だからこそ、彼女は剣を構える。護るべきものが、共に在るべき相手が今、巨悪を前に立っている。ならば、やることなどただ一つ。

 

「いざ、魔皇────覚悟!!」

「おのれ……おのれ!ならば、やってみせるがいい──────カルデアァァァァッ!!」

 

 魔皇が焔を纏う。それはまさしく、悪魔と言うべき形相で、魔皇と言うべきオーラをもって、疾駆する"魔神"と相対する。

 だが、忘れてはならない──────相手は、『魔神』であると。

 

無量、無碍、無辺──────三光束ねて無穹と為す

 

 魔神沖田の姿がかき消える。と、次の瞬間には、サタンの身体を無数に切り刻んでいく。さしもの魔皇も受け止めきれず、数多の斬撃が刻まれていく。

 防御も効かず、避けることもできず、さらには今までの戦闘で受けた傷によって無防備な身体に刻まれていく。

 

「ぐぬぉぉぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 だがしかし、サタンも為されるがままではなく、『魔力放出』を応用し、焔を吹き上がらせてその攻撃を中断させようとする。

 しかしそれは、あと一歩遅かった。たった一瞬の差をもって魔神は遠く離れる。

 

 

 ──世界が、彼方まで白く染まる。それは比喩ではなく、炎が燃え盛っていたはずの大地は消え失せ、地平線の向こうまで空白の世界。

 魔神は構える、討ち伏せるべき敵に向けて。魔神は見据える、消えぬ怒りを燻らせるその存在を。

 

 魔神の心は凪ぎ、奇しくも彼の敵が本拠地にて決戦の場となった『煉獄』という名の剣に魔力が込められていく。

 

 

──────『絶釼・無穹三段』!!

 

 全ての因果を超え、目の前に立つ『邪悪』を葬り去る穹極の閃光が放たれる。それは次元を越え、サタンの身に宿る魔の聖杯の護りすら貫き、サタンを飲み込んでいく。

 

「オオオオオオオオオッ!!?まだだッ!これしきっ──────ぬぅぅぉぉぉッ!!おのれ──おのれ、"魔神・沖田総司"ィィィッ!!」

 

 咄嗟に魔力で造り上げた障壁を展開するも、ほんの一瞬防ぐ程度で精一杯。障壁は破壊され、閃光へと呑まれていく。

 闇を払い、因果を断ち、その全てを無穹へと還していく。その肉体は崩壊し、その霊核は粉砕される。そして、その"存在"は、これ以上ないほどにまで穿ち抜かれた。

 

 

 

 

 それは、今度こその勝利を示す兆し。

 この戦いを制したのは間違いなく──────カルデアであった。

 

 

 






状況的に、あと2,3話ほど書いたら終わりそうです。

とにもかくにもアヴァロンの衝撃がヤバすぎるんだって………。
これだからfateはたまんねぇぜ。



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8-8 煉獄、崩壊


実質、最終話でござい。

実は六周年のファンメイドfateに次作登場させる予定のサーヴァントが何人が被ってて、「えっ、公式!?」と思ったらファンメイドでホッとしていたり。


2部6章で思ったけど、あっちと比べてこっちまだインフレレベルマシなのでは……?そうじゃない?(確認)そうじゃない?(反芻)
あ、そう……(´・ω・`)




 

 辛くも魔皇に勝利をおさめたカルデア。とは言え、大半が重症の状態であり、何か一つでも欠けていれば負けていたと言える。

 だが、勝利の余韻に浸って悠長にしている暇はない。空はひび割れ、大地は端から徐々に砕け散っていく。まもなく、一時間もしないうちにこの煉獄は消え去るだろう。

 

『皆ー!早く撤退するよー!』

「って言っても、これ皆入りきるの!?」

 

 駆けつけたシャドウ・ボーダーに、続々と集うサーヴァント達。だが、その人数も人数であり、中に入りきれるか不安になる立香。

 元々サーヴァント達含め、全員が大罪魔王達に半強制的に呼ばれて煉獄へと来たがために、カルデアに所属する全サーヴァントが集まっているのだ。

 そして何よりも──────

 

「あ、あの!ここからはどうやって"帰る"のでしょうか!?」

 

 マシュの悲鳴にも似た質問もその通り、この煉獄からの"帰り道"を立香達は知らないのだ。来た道はおろか、この煉獄についてもよく知らないのに、帰り道などわかるはずもない。

 そんな風に、煉獄の縮小に焦りながら、シャドウ・ボーダーの中であれこれと策を立てては無理だと却下されていく────────

 

「────おい」

「え?──────うわっ!?」

「「「『なっ!?』」」」

 

 突然の浮遊感に襲われる立香。勢いよく持ち上げられ、それが誰かと全員の視線が集まる。

 そこには片腕を失くし、みるからに致命傷を負っていると言わんばかりに血塗れの男──────"魔王"サタンが立っていた。

 

『な、なんで!?霊核は、もう砕けていてもおかしくないんだぞ!?』

「知るか。それよりも──────」

 

 そう言うと、顔を虚空へと向ける。するとそこに、禍々しい意匠をした、漆黒の巨扉が現れる。

 重々しい雰囲気を放つソレ。サタンが顎を引く。すると、その扉がゆっくりと奥へ開いていき、空気が流れていく。

 その開いていく扉の中を見ると、風の吹きすさぶ白紙化された世界が広がっていた。そして、開いていくと共に、サーヴァント達を次々に引き込んでいく。

 

「おい、そこの人間共」

『うわ!?な、なんだよ!?』

 

 突然シャドウ・ボーダーへと視線を向けられ、車内に緊張が走る。

 だが、放たれた言葉は予想の斜め上をいっていた。

 

「邪魔だ、徒く失せろ。そこで踏ん張っている貴様らもだ。"煉獄(ここ)"には必要ない、さっさと出ていけ」

 

 ──つまり、"さっさと帰れ"と言っているのだろう。そんな予想外の言葉を投げ掛けられ、その場にいる全員が唖然とする。

 それに顔をしかめて舌打ちを一つするサタン。

 

「おい────アザゼル!マステマ!」

「ほいさっと~」

「初めまして。そして、さよなら~」

 

 死角からひょっこりと現れた二人が、単純かつ強力な魔力派を発して皆を吹き飛ばす。その津波のような波動に耐えきれず、次々に外へと投げ出されていく。

 そんな最中で、アザゼルは抱えていたアンリマユを放り投げ、マステマは石灰色の巨腕を喚び出してシャドウ・ボーダーを掴み、同じく放り投げる。

 

「おい、小僧」

 

 じろりと、睨みつけるように立香を視線を落とすサタン。深手を負い、致命傷となり、死ぬ寸前とまで言える状態となってもなお依然として佇んでいる。

 蛇に睨まれたカエルのように、見下ろしてくるサタンを見る立香。鼻を鳴らし、目を細めて口が開かれる。

 

「貴様も出ていけ。ここに、貴様のような他人想いという反吐が出そうな奴はいらん。この煉獄には不釣り合いだ。二度と来るな」

「わっ、ちょっ──────」

 

 片腕ながらも、思い切り振り絞って投げられたために、吸い込まれる空気に巻き込まれ、そのまま外へと追い出されていく立香。

 

「精々生き延びてみせろ、人間。己の世界を取り戻す為、世界を破壊する大間抜けよ。貴様にはこの煉獄ではなく、天国だろうと何だろうと、何処へなりとも行ってしまえ、この戯けめ」

 

 そう吐き捨てるサタンの声が尾を引いて、立香は扉を通り抜け、白紙化された世界の空中へと放り出される。

 やがて、堂々とそびえ立っていた扉は、開いていた時と同様にゆっくりと閉じていき、そして亀裂がいくつも入っていく。

 

『悪ィな兄弟!また会えたら、暇潰し代わりに助けてやらァよ!』

『ごめんねー立香くーん!でも、楽しかったよー!』

 

 ベルゼビュート、ベルフェゴール、そして他の七大罪の面々からの別れの言葉が一方的に告げられ──────扉は粉々の塵となって消え去っていく。

 消えていく扉に、立香は手を伸ばすも、それが届くことはなく空を落ちていく。オケアノス以来の落下を感じながら、立香は声を上げる。

 

「ありがとう!!皆────!!」

 

 落下していた立香は、途中でサーヴァント達に保護され、ゆっくりと白亜の地上に降り立つ。そこにシャドウ・ボーダーも駆けつけ、皆、お互いの無事を祝う。

 

 

 これにて、異聞特異点『ゲヘナ』の空想切除。そして、修正が完了したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ふん、全く………これだから人間というのは。………度し難い、な……」

 

 





ここまで読んで下さって本当にありがとうございました!! これにて、煉獄魔境大罪記『ゲヘナ』、完結となります!

とは言え、まだサタンとアザゼルの過去が残っていますので、それが終わって初めて完結になりますねぇ。

まぁ、まだやらないといけないのも一個だけあるので、「あれ、なんか完結してるのに更新されてる」とかいうのもあったり無かったり………。

兎にも角にも、ここまで飽きずに読み進めて下さった読者様方、加えて、駄文だらけなのにお気に入りにまで入れて下さった方々、ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございました!


改稿版の投稿は未定ですが、作者のオリ主人公によるFGO物語は考案中です(唐突な宣伝)。



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8-幕末 彼は、何故に怒るのか。


サタンの過去語り兼煉獄の最後by悪魔側となります。

ちょっと、というより、かなり長いと思われるので、気長にお読み下さい。

<ユックリデイイヨー





 

 目の前で、己が召喚した『煉獄の門』が閉じていく。その最中で、他の悪魔共が奴らに別れを告げている。

 やがて、門は閉じ切り、消える。そして悪魔共は、崩壊する煉獄の中ででも己の住処へと戻っていく。

 

 灰塵と帰した己が街のガレキの一つに背中を預け、残った片腕でタバコを取り出す。普段使っていたライターを探すも、消し飛ばされた半身にあったことを悟り、舌打ちをしてから炎を出して火をつける。

 火のついたタバコを吹かしながら、魔皇は空洞の空を見上げる。最早身体は終わりを待つばかりの身となり、次いで、何も成し遂げられなかった自身に、呆れを含んだため息が出た。

 

「ふぅ──────……強かったぞ、お前達の"子"は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サタンがまだ、悪魔になる前の頃。彼は唯一無二の創造主■■■■に仕えし大天使にして、全ての天使達を統制する最強最高の存在だった。

 しかし、そんな彼に課せられたのは『楽園の守護』という、まさしく無駄遣いの極みだった。

 それでも彼は、それが主命ならばと守護者に徹し続けた。やがて、地上に命が生まれ、生命の流れが生まれ、死が生まれた。

 

 死した獣・植物は天へ召し上げられ、楽園に住まうことを許された。次第に、楽園には清らかなる命が溢れ、美しい景色を造り上げるようになった。

 

「ヨゥ、サタンの旦那ァ~」

「……サマエルか。貴様がここに来るのは許されておらん。徒く失せよ」

 

 

 大蛇の下半身に、張り付けたような気味の悪い笑みを浮かべる、これまた蛇面の天使────サマエル。

 主からでさえもあまり信用されていない彼は、この楽園に入ることを禁じられていた。しかし、それを彼は一度破り、楽園に"果実"を植えてしまった。それによって、このような醜い見た目となっている。

 

 そんなサマエルが、このような不信極まりない笑みを張り付けていること自体が怪しい他ならない。サタン────サタナエルは、警戒度を上げていく。

 

「旦那ァ、知ってますかい?最近、神サマはお新しい生命(いのち)を創り出したとかなんとか」

「…………」

 

 サマエルの飄々とした態度を、右から左へと聞き流していく。それでもなおベラベラと話すサマエル。

 最近、主は新しい生命を生み出そうとしていることは知っている。というよりも、聞いている。その"名"は、『人間』。神に等しい、所謂主の子分身のようなもの。

 

「煩いぞ、サマエル。いい加減、失せろ。さもなくば、今すぐ貴様を消し飛ばしてやってもいいのだぞ」

「うへェ、そら勘弁勘弁。んじゃまぁ、あっしはここでサヨナラさせてもらいますわ」

 

 そのままスルスルと下がっていくサマエル。サタナエルはその背を、消えるそのときまで油断なく見つめ、いなくなったのを確認してため息を吐くのであった。

 

 

『楽園』にはある二つの生命が居た。その名は、『アダム』と『イヴ』。昔には『リリス』というものがいたそうだが、サタナエルが守護者に就任する前に追放されたという。

 その"人間"と定義された生命達は、サタナエルのことを兄と呼び慕い、無愛想ながら、よき相談者として、よき教育者として二人と共に居た。

 

「兄さん、あれは?」

 

 アダムが指を指して聞いたのは、遠くになっているとある"果実"であった。それは、かつてあのサマエルが植えた忌々しい果実。

 

「あれには近寄るな。あれは、お前達が触れてはならないものだ」

 

 そう忠告し、彼らは去る。だが、彼らは知らなかった。その後ろ姿を見つめる蛇がいたことを──────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故です!彼らが何をしたというのです、主よ!!」

『彼らは食してはならぬものを食した。故に、罪である』

 

 頭に血が昇るのを感じるサタナエル。イヴが神の果実を食したという密告を聞いた彼は、そんなことは有り得ないと直談判するも、聞く耳すら持たれない。

 その最中、ふと主の背後を見たサタナエル。そこには、これでもかとほくそ笑んでいるサマエルの姿を見つける。

 

「サマエル──────貴様かぁぁぁぁっ!!」

 

 サマエルの元へと勢いよく駆け出すサタナエル。だが、主の周囲に控えていた天使達がサタナエルを捕らえて床に張り付ける。

 歯を食い縛りながら、サマエルを睨み続ける。一方相手は、サタナエルの眼光に怯みつつも、嘲笑うかのような笑みを絶やさなかった。

 

『……理由を問おう、サタナエル』

「主よ!そこにいる其奴が二人を嵌めたのです!」

 

 噛みつかんばかりにもがくが、天使達の拘束は続く。元より名無しの天使とは、これといった人格のない完全なる神の下僕。

 だからこそ、その拘束は主の命あるまで解かれることはなく、サタナエルもまた、離されるはずもなかった。

 

『最早既定のこと。アダムとイヴは地上に堕とす』

「な!?彼らは悪くないはずだ!!」

『故意であれ、他意であれ、禁忌を犯した。故に堕とす』

 

 サタナエルは絶望の顔に染まる。無感情に告げられるそれに、納得がいかない。彼らは何も悪くないと言うのに、理不尽にまど貶められる。

 ふざけるな────サタナエルはそう叫びたかった。否、最早我慢の限界。だからこそ、サタナエルは力ずくで拘束を振りほどく。

 

「そんな────そんな理不尽が、貴様の選択なのか、■■■■──────ッ!!」

『堕ちよ』

 

 憤怒の相を一杯にし、主と仰いでいた神へと牙を向ける。しかし、たった一言で一蹴され、それどころかこれまで体験したことのないほどの重圧によって、天界から突き落とされる。

 だが、その一瞬の不意を突いて反撃し、神の片腕を吹き飛ばし、サマエルへと強烈な一撃を与えた────居場所を必ず把握するという呪い付きで。

 

 

 だが、これによって、サタナエルは大天使長としての地位と力の全てを剥奪され、地上のさらに下の下、永遠の罰を背負う煉獄の底へと叩き落とされるのであった。

 

 

 

 

 

 

 煉獄の底に堕とされたサタナエル────サタンに、まず最初に訪れたのは、身を焦がすほどの業火であった。次いで耐え難い障気、挙げ句の果てには原型すら留められないほどの苦痛。

 何日、何ヵ月、まして何年経ったのか判らなくなるほどに彷徨い、自我がなくなってしまいかけるほどにもがいた。

 

 

 その果てに、見つけたのだ。彼の聖杯を────。

 

 

 そして、彼は願った。──神に死を、悪徳に死を、理不尽を破壊し尽くせる力を────と。

 

 

 そうした彼は得た、得てしまった。あまねく全ての命を焼き付くす煉獄の魔銃と、神聖を極める神を呑み込み喰らうための存在────すなわち、『悪魔』へと。

 その後は、さらに地獄に堕ちてきた者を時に討ち、時に配下とし、時に消し炭にしてきた。

 その最中であった。『虚飾(アザゼル)』との出会いは。きっかけは、煉獄の果てにある不毛の荒野。その地平の彼方に、ただ一つだけ"ナニカ"があるのを見つけ、気紛れに訪れたのだ。

 

 そうしてアザゼルを解放し、それを起点として、サタンは煉獄、ひいては魔界の中枢を支配した。だが、そんな彼と同等の力を持つ六人の悪魔達のみ、自らと対等となす存在と認めた。

 それこそが『七大罪の悪魔』。悪魔達から、羨望と、崇敬と、畏怖を以て恭順される魔王達である。

 

 それから、その七大罪達の力を借りることによって、地上な観測に成功したサタン。彼は思っていた。『あのアダムとイヴの子ならば、さぞ清らかに、健やかに生きているのだろう』と。

 ──だが、そのサタンの思いは、またしても踏みにじられることとなった。

 

 地上では、神がアダムとイヴにしたように、理不尽な責め苦や、詭弁、さらには暴行といった悪徳が蔓延し、かつて愛した二人の輝きを失った、醜い者共の巣窟となっていた。

 

 故に、サタンは決心したのだ。神が、人が、人々が、理不尽と暴虐を持つ獣になるならば、ならばいっそ、絶望によってそれらを一掃し、理不尽なき『楽園』を創世してみせる、と──────。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ──────結局は……叶わぬ夢、か……」

 

 遠くを見つめ、ぼやくサタン。すで煉獄の半分は虚空へと消え、もう十分程度で自分ごと消え去るだろうと予測する。

 最期とばかりに、懐古の念に囚われながら、かつて愛した二人と、その子である人間達の営みを思い出す。

 

 人の営みは、確かに理不尽だらけだった。しかし、それでもなお逞しく生きる彼らに、心の底では、安堵と羨望を覚えていたのだ。それを、カルデアへの敗北で悟ることとなった。

 

「やほー、隣いいかい?」

「──ふっ、勝手にしろ」

 

 そうしていると、隣にひょっこりとアザゼルが現れ、己の隣に腰かける。カルデアに見せた無傷な姿はどこへやら、とっくのとうに限界を迎えた状態の姿がそこにあった。

 仮面はひび割れ、身体中から血をながし、自身と同じく満身創痍であった。それどころか、お互いに残存魔力が微々たるものとなっており、消滅を待つばかりの身となっていた。

 

「強かったねぇ、カルデア。君はどうだった」

「────、あぁ、良かった、そう思ったな」

「よく言うねェ。アソコ行く気ない癖に」

「当然よ。オレは人理の敵対者。ならばこそ、おいそれと彼処にいくわけにもいくまいて」

 

 崩壊する世界を肴にしながら、カルデアと相対した感想で団欒する二人。その姿は悪魔と言うよりも、古くからの知己が語り合う、平和で、穏やかで、そして哀しい姿であった。

 

 

 





『■■■■』の中は皆様自身の中でご想像下さい。ただし、名前を出すとややこしいことになりかねないので、答えは胸の内にしまっちゃいましょう。
オニィサンとのお約束だゾ。byマーリン風


アダムとイヴは人類史上最も有名かつ偉大な存在だけど、英霊ではないんだわな。もし英霊だったら、ザビ子ザビ男の身体借りてそう(小並感)。

0時にはサタンのサーヴァント情報載せる予定なので、しばしお待ちを。
明後日にはアザゼルの過去を書きますねぃ。



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8-states:① 〈Avenger〉


サタンのステータスはかなり多すぎた上に、一回データぶっ飛んで書き直してたら時間過ぎてました………ほんとにすません………。

以下、サタンのステータスとなります。






 

適正Class:Avenger/Archer(/Assassin/Caster/Saber)

※()内は特別な事例でのみの適正

 

 

 

真名:"魔皇"サタン

マスター:■ ■■

性別:男性

※本来悪魔に性別は無いため、男女どちらにも成れる

身長/体重:181,2cm/70,2kg

属性:混沌/悪

 

 

 

〈ステータス〉

 

・筋力:A~EX

・耐久:B-

・敏捷:B

・魔力:A++

・幸運:D

・宝具:EX

 

 

〈クラス別スキル〉

 

・復讐者:EX

→復讐者として、人の怨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。怨み・怨念が貯まりやすい。周囲から敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情はただちにアヴェンジャーの力へと変わる。

サタンの持つ極限までの神への怒り、怨み、そして『人間』という種に対する憤怒が積み重なって形成されている為、人理に登録されているいかなるアヴェンジャーでも及ぶことがない程にまでなっている。

 

・忘却補正:A+

→人は忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。時がどれほど流れようとも、その憎悪は決して晴れない。たとえ、憎悪より素晴らしいものを知ったとしても。

サタンはその有名度故に忘れられることはないが、それはサブカルチャー的な意味である。真に神と人に対する怒りを知る者は居らず、それ故に、その怒りをサタンが忘れることはない。

 

・自己回復(魔力):C

→復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。

サタンの場合、自身の宝具によってこれの補助が行われており、本来のランクは『D-』。

 

・単独顕現:A

→単体で現世に現れるスキル。単独行動のウルトラ上位版。本来はビーストしか持ち得ぬ特性。サタンの場合、悪魔の種としての特性である『時空間移動能力』が重複・統合されているため、ビーストを止めた今なお発生している。

“既にどの時空にも存在する”在り方を示しているため、時間旅行を用いたタイムパラドクス等の時間操作系の攻撃を無効にするばかりか、あらゆる即死系攻撃をキャンセルする。

また、このスキルを持つ者は特異点による人理焼却も、■■■■■による人理編纂にも影響を受けず、条件がそろってさえいれば顕現する。

 

・ネガ・メサイア:A

→ビーストⅥが持つスキル。言語の意味としてはビーストⅢ:Rの『ネガ・セイヴァー』と同じだが、その効果としてはビーストⅡの『ネガ・ジェネシス』に近い。

こちらはビーストⅡのものと違い、"進化論の改変"ではなく、"進化論の否定"、つまるところ、『人類は今を以て死滅する』という付与概念。

これにより、〈人〉・〈救世主(セイヴァー)〉・〈星の開拓者〉の各特性を持つものに対し、全スキルの無効化、全能力 及び各種宝具の封印など、圧倒的優位性を放つ自動発動形の概念結界となる。

 

・大罪魔王:A++

→悪魔達の王に与えられる『神性』の変異スキル。あらゆる"異常"に対してどのスキルよりもとても高い耐性を与える。

魅了、混乱、恐怖といった精神的攻撃を無効化し、スタンや石化といった行動不能系の効果を大幅に軽減させる。また、〈悪魔〉・〈魔性〉属性の存在に対し、上位者としての存在感を示す。

 

 

〈固有スキル〉

 

・魔皇のオーラ:A+

→『カリスマ』の変異スキル。カリスマスキルの軍勢の鼓舞や指揮へのプラス補正のみならず、敵対者に対し、自身への本能的な恐怖を湧き立たせる。

これを防ぐには最低でも、一例とさては『対魔力』が『A』以上必要であり、加えてある程度修羅場を越えてきた強者でなければ防ぎ切れない。

 

・魔力放出(焔):A

→武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。いわば魔力によるジェット噴射。絶大な能力向上を得られる反面、魔力消費は通常の比ではないため、非常に燃費が悪くなる。

サタンは翼から放出させることによって立体機動を可能としており、なおかつクラススキルと宝具によるバックアップにやって長時間の高速飛行をも可能としている。

 

・大罪『憤怒』:A++

→サタンが悪魔へと堕ちた際に定められた"原罪"。感情操作系ではあるが、どちらかというと自己暗示に類する。また、副次効果として炎系の魔術全てを網羅し、最低燃費で使用することができる。

ただし、このスキルを多用しすぎると、擬似的な『狂化』状態になり、その後もなお使用していると、完全に自我を失い、自身の怒りの対象が完全に滅びるまで破壊し続ける兵器と化す。

 

 

〈宝具〉

※サタンは使用不可なものを含めて、全サーヴァントトップの宝具数を誇るが、その分制約等が存在する。

 

・『十二輝の天翼』

→セイグリッド・トゥーエルブ。

サタンが大天使として有していた宝具。

ただし、悪魔へと堕天した際に没収された為、使用不可。

 

・『其の魂に憐みを』

ランク:C 種別:洗礼詠唱

→キリエ・エレイソン。

サタンが本来ならば持つはずのない、洗礼詠唱による洗礼宝具。元が天の使いであったが為に、洗礼術式に対する抵抗力があり、その象徴でもある。

詠唱の際、一部の台詞が変更されていたり、地味ではあるが、意味が若干変わるようになっている。〈魔性〉特攻が付与されており、ただ言葉を放つだけでも、魔に属する者に強烈なダメージ判定が入る。

 

発動条件:特になし

 

 

・『大悪魔との絶対契約』

→コンタラクト・デモンズ・ギアス。

悪魔達が有する『悪魔の契約(デモンズ・ギアス)』の大元であり、セルフ・ギアス・スクロールの原型とされている宝具。

この宝具による契約によって、擬似的に他者のサーヴァントとして活動したり、擬似令呪の作成、さらには超人的な能力の付与など、できることは多岐に渡る。

ただし、悪魔はその存在が強大であればあるほど頭が回るため、契約の穴をついて、"裏切りにならない裏切り"を行うことがしばしばあるため、これを結ぶ場合は細心の注意が必要である。

 

発動条件:特になし

 

 

・『拐かす欺瞞毒蛇』

→サマエル・シャイターン

変化系・変装系スキル系統の最上位に位置する宝具。常時発動と任意発動の両立ができ、一度発動すると、ルーラークラスの『真名看破』でさえ無効化する。

かつて、アダムとイヴを貶めたサマエルは、別件で神によって堕とされ、その直後にサタンがサマエルを殺して吸収したことにより発現した宝具。

猛毒・麻痺毒などの毒系を無効化し、なおかつ自身の真名や正体を完全に隠し、別の存在へと変化することができる。

 

発動条件:『長子(カウント)』以上の魔力量を有する

 

 

・『七滅の魔弾』

→フライシュッツ・デア・フィーネ。

サタンの持つ宝具の一つ。この宝具一つで七種類の宝具を総括しており、それぞれを『煉獄の魔銃』(※後述)に装填することによって、異なる効果を持つ攻撃となる。

それぞれに封印が施されており、番号が大きくなっていくにつれて、消費される魔力も増える。最後の七発目に至ってはかのゼルレッチの魔力量でようやく一発撃てる程である。

 

 

①『地獄の弾丸』:B+

→バレット・オブ・ヘル

装填時、対人宝具となる。着弾時、相手の霊核に干渉して、霊核に直接苦痛を与える。一瞬のうちに、約500年近くのこの世の苦しみを全て詰め込んだような苦痛が与えられるため、精神破壊用として使われることが多い。

 

②『終末の弾丸』:A

→バレット・オブ・ラグナログ。

装填時、対軍~対界宝具となる。発射時、アーサー王の『約束された勝利の剣』と同等以上の質量による物理的破壊を行う。基本的にサタンが多用する弾丸。

 

③『黄昏の弾丸』:B+

→バレット・オブ・トワイライト

装填時、対軍宝具となる。発射時、装填された弾丸が無数に別れ、幾千もの弾頭となって敵に襲いかかる。広範囲殲滅用によく使われる。

 

④『焔界の弾丸』:B+

→バレット・オブ・ムスペル。

装填時、対心宝具となる。一発目と同じく精神攻撃系だが、似て非なるものである。一発目は苦痛を与えるが、こちらは"完全なる破壊"である。それは精神だけでなく、魂はおろか肉体も全て燃やしつくす葬却の一撃となる。

 

⑤『廻天の弾丸』:A

→バレット・オブ・カリュガ。

装填時、対界宝具となる。その効果は"命中した対象が『悪性』のものならば一切消滅、『善性』のものならば浄化させて転生させる"というもの。ただし、心の底から改心したものであれば転生は可能となる慈悲の弾丸。

 

⑥『崩壊の弾丸』:A++

→バレット・オブ・ハルマゲドン。

装填時、対『原初の一』宝具となる。これは他の宝具と違い、対『原初の一』、そして対『外宇宙の神』といった、"こちらの世界の理が通用しないもの"に特化したもの。

着弾時、『死』ではなく、『崩壊』の概念によって、内側から自滅させるための特殊な弾丸となっている。ただし、対『原初の一』特化型なため、理に則っているものに対しては効果がない。

 

⑦『黙示の弾丸』:A+++

→バレット・オブ・アポカリプス。

装填時、対星/対理宝具となる。詳細後述。

 

 

・『煉獄の魔銃』

→ブラキウム。

サタンが持つ完全オリジナルの宝具。煉獄の奥底によって鍛えられた魔銃であり、六連装×二層のリボルバーがついた長銃型の武器。

実弾と魔力弾の両立ができ、本体下部―銃口部先端から引き金カバー手前―と、本体上部―銃口部先端―に剣刃がついており、近接攻撃も可能とした、万能といっても過言ではない武器。

普段は1/2に割って、付与効果なども含めて分裂させることで二丁銃のようにしているが、それでも威力は一発一発が対物狙撃銃並みにあるという、恐ろしい性能をしている。

 

→『命星穿つ黙示の魔銃』

ランク:A+++ 種別:対星/対理宝具

→ブラキウム・アポカリュプシス。

前述の『黙示の弾丸』を装填することによって発動可能となる、サタンの誇張なしの究極にして必殺の一撃。

『黙示録』に描かれた世界の終わりを、たった一発の弾丸に込めて放つことによって、その対象を空間ごとえぐり取るようにして消滅させる。

その真髄では、本気状態の『乖離剣エア』の一撃でさえ対等に渡り合うことができる。それゆえに、避けることはおろか、防ぐことさえできないとされる。

 

発動条件:魔術師数千人分以上の魔力量の保有

 

 

・『失楽園』

ランク:A+ 種別:侵食固有結界

→リバースエデン・ディア・ゲヘナ

サタンの持つ固有結界。本来は花が咲き乱れ、緑豊かな野原なのだが、サタンが堕天したことにより、炎が常に燃え盛る不毛の荒野と化した心象世界。

固有結界の最上位に位置する『侵食固有結界』であり、一度発動すると、最大一日でオーストラリア大陸ほどに広がる。

この中では、サタンの力が十二分に発揮される上に、敵対者の魔術やスキル、宝具といった一切の行動の全てがかき消されてしまう。さらに、神性を持つものが入り込むと、問答無用で即死させる恐ろしい効果を持つ。

 

発動条件:『大悪魔の絶対契約』に契約の上、発動を充たす持続性魔力量の保持

 

 

・『虚ろなる煉獄の聖杯』

→ホロウグレイヴ・オブ・ゲヘナ。

煉獄で発生した悪魔の聖杯が、サタンの体内へと入りこんだことで獲得した宝具。

通常の使い方だと、『その願いを真反対かつ最も最悪な形で叶える』という性格の曲がった力をもっており、聖杯戦争時にこれが紛れ込むと大惨事になってしまう。最も、これが紛れ込むことなど有り得ないことだが。

だが、これがサタンの体内へと統合されたことにより、その真価を発揮する。より具体的には、"魔力の持続回復"、"莫大な魔力量"、"自身のスキル・宝具の効果にプラス判定"といった効果を見せる。

常時発動型なため、特に条件は必要ないが、サタンは召喚時にはこの宝具をオフ状態にしているため、これをオンにするかオフのままかによって、彼のマスターのその後が決まる。

 

 

・『七角十冠の焉龍』

→アポカリプス・オブ・トライヘキサ。

黙示録に語られる『666の獣』、そして、fate世界では『黙示の獣』として語られるソレそのもの。サタンは『黙示の獣』を吸収・合併することにより、この宝具を扱えるようになる。

二回の脱皮によって羽化を完了し、完全な獣となることができる。ただ、その脱皮の内容がいかなるものか定かではないため、サタン自身も手探りで行う他ない。

だが、一度発動すれば、どれほど微弱な魔力量のマスターであっても、その魔力を吸い付くした上で、最低限の三日間内には、ユーラシア大陸の約半分を焼き付くすことができる。

なお、現在のサタンはビーストクラスを棄てているため、使用不可の状態。

 

 

・『魔皇の軍勢』

ランク:B+ 種別:対軍宝具

→サタン・レギオン・ファミリアー。

サタン配下の悪魔信奉者達や改造悪魔を呼び出す召喚宝具。巨大な大扉を召喚し、煉獄と現世を繋げ、自身の保有する大隊を現世へと侵攻させる。

構成員のほぼ全てがサタンという悪魔へ心酔しきった狂信者達によって構成されているため、簒奪も支配も効かない不屈の侵略者達である。

ただし、彼らを現世に喚び留められるのは持って十分前後であり、それ以上は自動的に煉獄へと帰還させられる。クールタイムに三日間を要する。

 

発動条件:真夜中であること、『色位』級(目安)の魔力量を有すること、など。

 

 

・"権能"『我が憤怒にて、神を喰らわん』

ランク:EX 種別:対神宝具

→"リミッターオフ" イラ・ヴェンデット・イグニエデン。

サタンの権能たる大罪の制限を完全に解き放ったもの。一度発動すると霊基が延焼・崩壊し、消え去ってしまうが、その分効果は強力極まりない。

具体的には、『宝具の使用制限撤廃』、『消費魔力量の極限低下』、『自身のステータスを二段階上昇』というところである。

かつて、その怒りで神を殺すため、たとえ己が死のうとも必ず殺すという覚悟の現れ。それによって、たとえ致命傷を受けても、ましてや即死技を受けたとしても、発動中ならば命尽き果てるそのときまで強制的に生き長らえさせる。

それ故に、反動によって霊基は崩壊し、復活することさえ叶わなくなってしまう。ただ、再召喚は不可能だが、十年近くの長い年月をかければ『座』に復活はする。とは言え、完全復活にはもう数十年を要してしまうが。

 

 

・『遥か遠き願いの結び花』

→やくそくのはなびら。

サタン唯一の回復宝具。かつて、アダムとイヴから貰った二輪の花。心からの友愛・親愛によってでしか発動しない限定的な宝具。

その親愛度によって効果が増減し、最低だと軽いケガを治す程度、最高だと死者蘇生から任意転生など、生命の理を超えた力を発揮する。

普段は首からかけている逆十字のペンダントの中に入っており、決して枯れることなく納まり続けている。簒奪などは不可能であり、仮にもの自体盗れたとしても、中を開けることも宝具を使うこともできず、むしろサタンの逆鱗に触れることとなるため、触らないことをオススメする。

 

 

 





総評としては、
召喚して馬が合えば第一段階クリア、魔力量が充分ならば第二段階クリア、さらにサタンと相性がよければ第三第三段階クリアで、チート並みにクソ強いサーヴァント。

ただし、どれか一つでもダメだとまともな運用すらできなくなる上に、アゾられる確率が8~9割前後というクソゲー状態。


なお、マスターの■ ■■は、私が現在考案中の次回作の主人公です。
そちらは投稿までお待ち下さい。



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8-幕末・裏 いつか君と見た夕陽


すみませんねぇ、また長くなっちゃいましたよコンチクショウ!
このアザゼルとサタンは、とりわけ自分が好きなのと、何かと過去がつらい二人なのでつい長めになっちゃうんですよねぇ。


BGMで『消えない想い』聞きながら読むと、書いてる自分も泣きそうになっちゃいましたよ………。だまされたと思って聞いてみてください。













 

 

 

 ──かつて、神■■■■は人の営みを管理するため、人類監視機関『エグリゴリ』を造った。総勢200人程の天使達によって組織されたそれは、創設以来何年間も人々を監視していた。

 だが、その内に人間達に恋をしてしまい、今は中東地方に聳えるヘルモン山にて長達が集い、互いに誓いを立ててその恋を叶えていった。だが、その恋は成就することなく、彼らは地上に厄災を招いた反逆者──堕天使として、地の底のさらに奥地へと追放されていった。

 

 

 そして──────アザゼルもまた、その堕天使の内の一人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁーぁ………」

 

 まだ大地が緑に地の溢れていたころ、アザゼルは近場の丁度いい木の上で昼寝をしていた。彼はエグリゴリの中でも、人間の監視という役目に関心を持てない異端児でもあった。

 そうして、またいつも通りの昼寝(サボタージュ)をしていると、不意に、下から声をかけられる。

 

「ねぇ!そこの貴方!」

「ん?誰だい?」

 

 微睡みから覚めて下を見る。そこには、一人の人間の女性がいた。まだ年若く、少女のようなあどけなさを残していた、まさしく花のような乙女。

 とは言え、アザゼルは人間自体にさほど興味がなく、面倒臭いと思いながら視線だけ向ける。そんなアザゼルに対し、目を輝かせる乙女。

 

「貴方、天使様でしょう?お名前は?」

「教えないよ。というより、なんでそんな事を君に教えないといけないんだい?」

 

 普段なら無視を決め込むか、さっさと追い払うアザゼル。だが、今回ばかりは、なぜか会話を望んでいた。本人はそのことに気付いていないが、例え気付いていたとしても解らなかっただろう。

 乙女は、茶目っ気のある笑みを浮かべて、アザゼルへと話しかけ続ける。それは、来る日も、来る日も。太陽が天長に至った後の、麗らかな光が訪れる時だった。

 

 呆れたような態度で返事をするアザゼルと、朗らかな表情で語り合う乙女。それは次第に、互いに柔らかな笑顔を浮かべて語り合う仲へと進展していった。

 しょうがないとばかりに付き合い、天然の混じった彼女にあれこれと教えるアザゼル。そんなアザゼルの優しさを受け取り、天然なところを指摘されて照れる乙女。

 春の陽気な空気のように、暖かく、そして心地の良い、何の他愛もない話で、二人は談笑するようになっていった。それは、アザゼルが感じたこのない『幸せ』であり、いつしか彼女に惹かれるようになっていった。

 

 

 

 

 そんなある日、アザゼルは自身を含め、20人近くいる長達の会議へと呼ばれる。やや面倒臭がりながらも、会議の場所と指定されたヘルモン山の頂上へと降りる。

 そこには、エグリゴリのリーダーである『シュミハザ』を始めとして、アラキバやラメエル、ラムエルと言った天使長達が一堂に集っていた。しかも、その空気は重く、皆なにかしらを抱えているかのような、悩ましい顔つきであった。

 

「んで?どうしたのさリーダー。急に僕らを集めるなんて、何かあったのかい?」

「我々は、人間に恋をした」

 

 重い沈黙。アザゼルも、この唐突かつ衝撃的な告白には流石に閉口してしまう。人間を監視するための組織であるエグリゴリの構成員が、人間に恋をする。へたをすればそれは、重罪どころか反逆者となってしまう案件だった。

 驚き閉口していたアザゼルは、すぐさま視線を鋭くして追及する。

 

「それは……どういうつもりか、解っているのか」

「解っている。だが、我々は愛してしまった。だからこそ、ここに我らで誓いを立てる」

 

 よくよく見れば、天使長達の全員がシュミハザと同じなのか、皆覚悟の決まった顔つきだった。

 アザゼルは、確かに惹かれはしていたが、どちらかと言うと、他の人間とは違うからという程度であり、まだ恋というほどではなかった。だがしかし、自身もまた、人間に入れ込んでいるという事実に変わりない。

 

 彼らは誓いを立てた。それがどんな内容だだかは、文献はおろか、アザゼルの記憶にすら残っていないことだが、それを契機として、彼らが人間と交際するようになっていったのは確かである。

 

 

 

 

 

 

 

「ねね、知ってる?天使様達と一緒に居れるんだって」

「知ってるよ。というか、当事者にそれを言うってどうなんだい」

 

 いつもと同じ場所で、いつもと同じ他愛のない会話。けれどその距離(・・)は今までよりも近く、お互いに気を許している証左であった。

 ここは誰もこないような郊外にあり、さらには海が近く、静かなさざなみが聴ける場所でもある。そして、その地平線に沈む夕陽は、何よりも美しかった。

 

「あたし、やっぱりここ好き。静かで、きれいで、あの綺麗な夕陽が、すっごく好き。それに────貴方とも、アザゼルとも居れるから」

「……はいはい、ノロケをどうもありがと。でもま、この場所が好きっていうのは同感かな」

 

 アザゼルは呆れたような顔をするものの、夕陽を背に照らされる彼女の柔らかな笑顔は、とても美しいと思った。そして、いつまでもこの夕陽を見つめていたいと、二人は思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エグリゴリの面々が付き合いはじめてしばらく、天使達は、自らが神に教わった技術を人々に授けていた。あるものは化粧の仕方、ある者は呪いのかけ方など、と。

 そしてアザゼルは、時折エグリゴリの仲間から鍛冶場に呼ばれることがあり、そこで武器の加工の仕方や盾の工夫などを教えた。ただ、ある程度鍛冶場を貸してくれることの代金代わりであり、本人は億劫そうにしていたが。

 鍛冶場を借りてアザゼルが作っていたのは、小さな指輪。綺麗に輝く宝石を嵌め込んだそれを、アザゼルは満足そうに眺める。これを、いつも何の理由もなく会いに来る彼女に、今度感謝代わりにでも渡そうと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、その日がやってくることはなかった。

 

 

 

 エグリゴリの面々と人間との間に産まれた、『巨人(ネフェリム)』と呼ばれる、およそ人とは思えない存在が世界を焼き付くし、数多の命を奪っていった。

 ──────その災火に、彼女も巻き込まれたのだ

 

 

 

 

 燃え盛る平原。命の気配はなく、遠くではいくつもの巨人が暴れまわっている。そんな死の平原を、アザゼルはただ一人走る。

 街のどこにも彼女の姿はなかった。なら、居るとすればただ一つ、あの場所だけ。そう思い、ただ"生きててほしい"と願いながら走り続ける。

 

 そして、ようやくそこにたどり着いたアザゼルが見たのは──────血塗れで、周りが焼ける中、ただ一本だけ無事な、いつも寝ている木の下に横たわる彼女の姿。

 

「おい!おい、死ぬな!まだ、まだ渡してないものも、伝えてないこともあるのに!死ぬな!死なないでくれ!頼むから!!」

 

 涙をこらえて、アザゼルはか細い息をする彼女に声をかける。やがて、彼女は薄く目を開いて、淡い笑みを浮かべる。

 

「あ………来て、くれたんだ……嬉しい、な……。貴方に、会いたくて……来ちゃった……」

「バカか君は……ッ、どうして来たんだ!早く逃げれば良かったものを……ッ」

 

 アザゼルは知っている。逃げたとしても、神が裁きを下して、この地上を浄化するだろうと。だが、逃げてほしいと思ったのは本当のこと。

 今になって気づいた。────────好きだった、愛していた。彼女だから、ずっと手を取り合って生きていたかった。彼女と一緒なら、堕天しても、人間になっても構わなかった。

 

「────好きなの、貴方が。ずっと、出会ったときから、好きでした」

「──────」

 

 息を飲む。もう長くはない彼女の口から、自分のことを好きだと言ってくれた。嬉しかった。そして、喪いたくなかった。

 

「それを、言いたくて、来たの……でも、ごめんね……あたし……もう、ダメみたい………」

「やめろ……嫌だ、やめてくれ。頼むから……ッ」

 

 涙が溢れる。もう、我慢なんて出来なかった。ただ一人、つまらない世界に明るい色をもたらしてくれた、愛しい『人』。それを喪うなど、アザゼルには耐えきれなかった。

 必死に傷口を塞ぎ、自身の天使としての力で治そうとした。だが、次第に彼女の命の灯火は消えていく。

 

「行かないでくれ!まだ、まだ言えてないことがあるんだ!!僕は、オレは!君のことが──────」

「あり、が……とう………アザゼル………」

 

 アザゼルが、それを最後まで言い切らぬ内に、彼女は感謝を伝え、そして──────死んだ。

 

 

「────君が、好きだったんだ……『アリシア』……………」

 

 彼女の亡骸を抱え、燃え盛る大地の中、静かに涙を流していく。もう叶わない想い、そして、永遠に再開することのない愛する人。

 アザゼルは、遺体となったアリシアを、風に揺れる木の根元に横たえて、その手元に、手作りの指輪を置く。不意に立ち上がり、彼は彼女の遺体に背を向けて、未だ暴れる巨人と、同胞だった者達のもとへと歩みを進めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『被告人、元エグリゴリ天使長2番、アザゼル。登壇せよ!!』

「…………」

 

 天界の裁判所にて、アザゼルは壇上に現れる。手も力も封印され、神の御前へと。

 アザゼルが犯した内容と、神からの裁きをそらんじるのは、かつて後輩として、天界でのあれこれを教えていたラファエル。

 

『被告アザゼルは、自らの役目を放棄し、監視するべき人間に対して恋慕の情を抱き、あまつさえその人間を殺した!さらには、同胞であった仲間達80人あまりを騙し討ちするという非道!最早許されざる!!

 

 

 

 よって!その者を極刑────"ダドエルの穴"に封印するものとする!!』

 

 天使達からの非難が飛び交う。彼は、アリシアを看取った後、あの様な惨劇を引き起こしたエグリゴリのメンバーの内、アラキバを含め、約半数を殺戮して回っていた。

 その途中、下界の惨状を収めるために降りてきたラファエルら四大天使に捕らえられ、今に至る。そらんじられた判決に、何も言わず沈黙し続けるアザゼル。

 

『被告、なにか言うことはないのか』

 

 かつての後輩に、厳しい目を向けられる。だが、アザゼルはそのようなことを気にした風もなく、顔をあげる。

 その顔は、かつて優しさと気だるさが合わさった柔和な天使長のものではなく、狂気と死の気配が合わさった死神のソレだった。

 

「言うこと?それボクに聞く?そんなの、あるわけないジャン。アンタらはボクらが疎ましかった、違う?そんなアンタらに語ることなんてないヨ」

『……そうか。では、連れていけ』

 

 そしてアザゼルは連行され、天界から地上、そして地獄の奥底まで続く大穴────"ダドエルの穴"へと、四肢を大岩に張り付けられて落とされる。

 落ちていく最中、彼は、アリシアと共に過ごしてきた日々を思い出していた。楽しかった毎日、二度と戻らぬ日々を夢想し、そして──────彼も、思い出すことはなかった。

 

サヨウナラ(さようなら)。楽しかったよ………アリシア………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





辛い………書いてて一番辛いよアンタ………。

本当に、自分の命かけれるほど好きな人がいる人ならわかるだろうけど、自分の大切な相手を喪ったときって、結構人間は狂気に呑まれるんだと思う。


ステータス、今度は遅刻しない………と、思いたい………



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8-states:② 〈Assassin/Pretender〉


こちら、アザゼルのステータスとなります。

まぁだろうなと思う、新クラスの詐欺師ことプリテンダーの該当者ですね。
もう能力からして明らかそれなんだよなぁ……。なんというか、まさにそれ、と言わんばかりのクラスというか………うん……。





 

適正CLASS:Assassin/Pretender/Avenger/Caster

 

 

真名:アザゼル

マスター:―

性別:男性

身長/体重:168,5cm/56,6kg※標準(デフォルト)

属性:混沌/悪

 

 

 

〈ステータス〉

・筋力:B-

・耐久:B

・敏捷:A++

・魔力:B+~A

・幸運:C~B

・宝具:B+

 

 

 

〈クラス別スキル〉

 

・気配遮断:A+

→自身の気配を消すスキル。隠密行動に適している。完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。

アザゼルはこれに自身の権能による変身の相乗効果で、完璧な隠密行動が可能となる。また、行動時における気配の漏れを限り無く軽減させることができる。

 

 

・単独顕現:C

→単体で現世に現れるスキル。単独行動のウルトラ上位版。本来はビーストしか持ち得ぬ特性。アザゼルは外界の様子を確認するため、封印されながらも自力で会得した。召喚されたアザゼルはあくまで"子機"であり、本体はなおも封印されている。

“既にどの時空にも存在する”在り方を示しているため、時間旅行を用いたタイムパラドクス等の時間操作系の攻撃を無効にするばかりか、あらゆる即死系攻撃をキャンセルする。

また、このスキルを持つ者は特異点による人理焼却も、■■■■■による人理編纂にも影響を受けず、条件がそろってさえいれば顕現する。

 

 

・大罪魔王:B+

→悪魔達の王に与えられる『神性』の変異スキル。あらゆる"異常"に対してどのスキルよりもとても高い耐性を与える。

本来は『七大罪』を宿す悪魔にのみ与えられるものだが、アザゼルはそれと同類にして派生型のものを宿しているため、会得している。

 

 

〈固有スキル〉

 

・身代わりの贄羊:A

→スケープゴート。戦場を生き抜く狡猾なテクニックの集合。と、いうのは派生型であり、本来の効果は『他者を犠牲にして自身を強化する』というもの。

"他者を身代わりに"する際は、その対象に触れることで、敵の集中をそちらへ向かわせ、対象が攻撃を受ければ受けるほど自身の能力が強化されていく。

ただし、対象が死んだ場合や、自身が再度捕捉された場合にはその効果が解けてしまう。

 

・グランギニョルの道化師:B+

→別称、『虐殺道化師』。本性を現すまでは友好的、かつ疑惑すら抱かれず接触でき、友好関係を築ける。その友好度の高さによって不意をついた際の判定にプラス補正がかかる。

名前の元である『グランギニョル』とは、フランス・パリにある劇場。ないしは、それを元として、『荒唐無稽な、血生臭い』といった意味を指す。

このスキルは、かつて仲間であったエグリゴリのメンバーを次々に後ろから殺していったことに起因する。

 

・荒野の果てにて:B

→かつてアザゼルが経験した、愛しい人との別れを元にしたスキル。アザゼルが窮地に陥った際、自身の全てをかなぐり棄てることによって発動する。

最後の力。それは、例え神であっても必ず殺してみせるという覚悟の現れ。敵対者に自身の本体にかけられた封印の一部を与えるとともに、自身のステータスを二段階上昇させる。

ただし、このスキルの使用後は、自動的かつ半強制的に本体へと帰還させられるため、使うのはギリギリの場面に限られる。

カルデアでは状況が状況なため、一時的に帰還できないよう調整されている。

 

 

・大罪『虚飾』:A+

→アザゼルの持つ"原罪"。他人を、自らをも偽り、騙し、演じる姿。それこそが『虚飾』、それこそが人の持つ"原罪"の一つ。

このスキルにより、アザゼルは生死を問わず接触した相手に完璧に変化でき、筆跡や動きの癖、思考、魔力の量や魂そのものまでその人物そのものとして活動できる。

サーヴァントもまた例外ではなく、倒した相手に限定されるが、そのサーヴァント自体に存在ごと変化できる。もちらん宝具も使えるが、一部の特殊な宝具は使用できない。

 

 

 

〈宝具〉

 

・『裂夜せし堕天使の鎌刃』

→ナイトメア・リッパー。

アザゼルの持つ二対一体の鎌状の短剣。持ち主のところへ自動的に戻る特性を持ち、あらぬところへ投げても、持ち主の元へ勝手に戻ってくる。

魔力を通すことによって、物理的な攻撃と共に、精神、及び生命活動の核である『魂』にまで干渉できる。これにより、魂を抜き取って肉体だけを残し、そこに憑依するという形も取れる。

サーヴァントの場合は、存在自体が『魂』という概念そのものでもあるため、急所に刺されれば即死する。そうでなくとも致命傷に成りうる代物である。

 

 

・『疑真闇欺・死神遊戯』

ランク:B+ 種別:対衆宝具

→デストリック・フェスティバル。

アザゼルの持つ固有結界。侵食固有結界としての特性も有しており、アザゼルを中心として半径500m圏内にいる対象者達を回収・隔離する。

それだけならばなんでもないが、その真骨頂は『内部』にある。取り込まれた者達は、アザゼルのアナウンスによって、一人だけ『裏切り者』としてアザゼルが化けていると知らされ、互いに疑心暗鬼にさせ、殺し合わせる。言うなれば、『人狼ゲーム』のソレに近しい。

さらにアザゼルの任意によって、『人狼ゲーム』か、もしくは過去に別れた知己との再開かに分けられる。どちらにしろ、相手の精神を削るものであることに変わりなく、精神の破壊を以て殺す宝具である。

 

 

・『世界の果ての封穴』

ランク:A+ 種族:封印宝具

→ダドエル・ブラックホール。

アザゼルが今なお封印されている、この世界上には存在しないとされる大穴。それを自身を起点として呼び出すことによって、対象と共に墜ちる一種の自滅宝具。似ているものに『涙の星、軍神の剣(ティアードロップ・フォトンレイ)』がある。

スキルである『虚飾』の力で位置を誤魔化すことにより、対象のみを墜とすことができるが、一つ間違えると自滅ものになってしまう。

大穴では、ありとあらゆる封印効果が嵐のように吹き荒んでおり、スキル、宝具、能力、技術、記憶、ありとあらゆる概念そのものを封印してくるため、一度呑まれると脱出は不可能となる。

 

・"権能解放"『虚飾世界』

→"リミッターオフ"ヴァニタス・ヴィジョン。

アザゼルの持つ権能、『虚飾』に掛けられた制限を全解放したもの。

全てが偽り、全てがまやかし、何もかもが違う世界を見せる、対象付与型かつ精神侵食型の固有結界 改め、固有世界。

いわゆる『ifの世界』を対象の精神に直接見せるものであり、彼のアフロディーテ神のそれを超える精神汚染。こうありたかった世界を見せ、こうであったという世界を叶え、その精神も肉体も無防備にさせるもの。

現実世界では、その対象の肉体は無防備にさらけ出され、魂もまた無防備な状態となる。そのため、アザゼルの小さな攻撃一つでも即死する状態となってしまう。

これを解除するためには、強く自我を保ち、現実と夢想を絶対的に区別できる者でなければ防ぐことすらできない。

 

 

 






割かしえげつないアザゼル氏。まぁ、あんだけ悲劇がありゃあな……。


この後はエピローグを書いて〆とさせてもらいます。皆さま、大変長らくお付き合い頂きありがとうございました。



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終章 エピローグ


このお話をもって、『煉獄魔境大罪記 ゲヘナ』は完結致します。

何度も何度もですが、ここまでお付き合い頂いた皆様には感謝しかありません。
こんな素人作品を気に入って頂けて、本当にありがとうございました。
正直、途中でやめたくないとは絶対に思っていたので、ちゃんと続けられて本当に良かったです。


それではエピローグ、どうぞ












 煉獄での大戦闘からしばらく経ち、カルデア一行はついに彷徨海へと辿り着く。

 その後、協力者の案内の元、立香達は次なるインド異聞帯へと向かうため、様々な準備をしていた。"ビーストⅢ:L"に続き、"ビーストⅥ:R"との連戦にて疲労しているだろう中でも、気丈に振る舞う立香。

 さて、そうこうしているうちに、不意にカルデアの霊基グラフに異変が起こる。

 

「ん?なんだこれ!?召喚グラフに強制介入してきてる!?」

「は!?す、すぐ止めるのだカルパッチョ君!!」

「だからムニエルですって!ダメだ!介入が強力すぎて止められない!」

 

 死に物狂いでコンソールをたたくも、召喚式が稼働し、勝手に何者かが召喚される。それは一人ではなく、複数人もの反応が起こっていた。

 固唾を飲んで見守る職員一堂。そこに慌てて駆けつけるダヴィンチとホームズ。ついに召喚が完了し、その姿が現れる。

 

「お、お前達は──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彷徨海にできた新しいカルデア。そこのマイルームにてマシュと共に休んでいた立香。重くなる空気を吹き飛ばすかのように、他愛ない話を語り合う二人。

 そんな中、通信機からの呼び出しがかかる。

 

『あーもしもーし、立香くーん?悪いんだけど、中央管制室まで来てくれるー?』

「ダヴィンチちゃんからの呼び出しですか……一体どうしたんでしょうか」

「わかんないけど、行ってみよう」

 

 疑問に思いながらも、ダヴィンチちゃんからの呼び出しに応えて向かう二人。こころなしか、通信機越しではあったが、ダヴィンチちゃんが苦笑しているような雰囲気が漂っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 立香達が中央管制室へと到着すると、記憶に新しいものの、聞きなれた笑い声が聞こえてくる。それに続いて、あの場所(・・・・)で聞いた彼らに似た声。

 立香とマシュは互いに顔を見合わせると、すぐさま室内へと駆け込んでいく。するとそこには──────

 

「────おゥ!久しぶりだな!兄弟!!」

「ベルゼビュート!皆!」

 

 愉快愉快と呵ヶ大笑するベルゼビュート。その後ろには、縮こまって顔を覗きこませるベルフェゴールや、物珍しそうに眺めるリリスやレヴィアタンなど、かつて煉獄にて共に戦った悪魔達がそこに居た。

 ふと、立香は何か足りないような違和感を覚える。辺りを見回すが、立香は何が足りないのかが解らなかった。

 

「おう兄弟。探してンのアイツら────『憤怒(ラース)』と『虚飾(ヴァニティ)』だろ」

「それだ!」

 

 ベルゼビュートからの指摘にはっとする立香。そう、今現在ここに立っている悪魔達の中でも、サタンとアザゼルの二人だけがここにはいなかった。

 悪魔達と縁を結んだ、というのならば、彼らとも縁を結んでいたとしてもおかしくはないはず。しかし、彼らの姿はどこを探しても見当たらない。

 

「やぁやぁ、キミの疑問にはボクが答えよう」

「うわっ!?だ、誰…?」

 

 立香の横からひょっこりと現れる、割と現代風な軽装に身を包んだ青年。彼は、人当たりの良さげな顔を浮かべて言う。

 

「まず初めまして。ボクは『マステマ』。元大罪悪魔『憂鬱』のマステマさ。煉獄での元凶の一人と考えてくれたまえ」

 

 朗々と語るも、カルデアの面々は、彼自ら元凶な一人と明かしたのと同時に、色々と予想外すぎる展開に、まさしく鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔になる。

 悪魔達は『また始まったよ』と言わんばかりの反応で、肩をすくめるなど呆れた反応をしている。

 

「あの二人が来ない理由だけどね?結論から言うと、彼らは君達には手を貸さないのさ。その理由の一つが、"『獣の権能』の放棄"にあるからだね」

 

 そんな呆気に取られる立香達を余所に、マステマはなおも語っていく。

 曰く────

 

 

『獣の権能』を放棄したことで獣としての機能を喪った。その上、実質的に彼らはアラヤよりガイア寄りの存在となった。だから彼らがこちらのカルデア(・・・・・・・・)へ来るには、色々と特殊な条件が必要になる。

 

 ────とのことだった。

 

「うーん、あの二人の力を借りれれば百人力どころか、億人力だったんだけどなぁ」

「と言うがね、ダヴィンチ。あの二人の気質を考えると、むしろこちらに牙を剥きかねない。というのが私の推論だが、どうかね?ミスター・ベルゼビュート」

 

 どこから持ち込んだのか、感想したスルメを咥えて味わっていたベルゼビュートに、ホームズが問いかける。

 ベルゼビュートを含め、悪魔達全員から「その通り」と言わんばかりのサムズアップが返される。だが、立香だけは違った。

 

「────いや、違うと思う」

「ふむ?」「おん?」

 

 立香は、最後にサタンに捕まれたとき、彼の目を見ていた。そこには、人間に対する落胆と怒りは確かにあった。あったが、それよりも────

 

「多分、期待しているからだと思う。俺達に、何より、人間達のこれからに期待しているから、彼は、手を貸さないんじゃないかな」

「──────、そうだね。君はどうやら、ただの"子"ではないらしい」

 

 立香の推論から、慈愛に満ちた目で見つめるマステマ。それは労りであり、それは同情であり、なによりそれは、感心でもあった。

 立香の答えによって、またもや考え込むホームズ。そんな彼にあきれたり、あちらこちらとまた賑やかになっていく。

 

「ま!こっからはオレ達全員で力貸してやっから、ドーンと構えとけや、兄弟(マスター)!」

「ありがとう、ベルゼビュート!皆!」

 

 輝くような笑みを浮かべて、立香の感謝に応えるベルゼビュート。他の悪魔達も、皆様々だったが、一様に立香に強力する態度を見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この物語はここでオシマイ。彼らがどうやって人理を取り戻していくのか、どんなドラマを作り上げていくのか、その全ては貴方達次第です。

 

 けれど、けれども──────

 

 この嘘つきで、悪知恵が働き、凶悪と伝えられてきた私達悪魔を信じてくれるなら、ならば私達は、貴方の信頼に応えましょう。

 

 悪魔の契約は絶対です。する側も、される側も、中身はきちんと守るのです。だからこそ、その契約に反しない限り、貴方を助ける(騙す)のです。それが、私達悪魔の、存在意義なのだから──────。

 

 

 

 

 

 





ここまでのご愛読、お疲れ様でした。


後書きを利用して、最後に足りなかった疑問点をいくつか上げて答えさせて頂きます。


Q,ぶっちゃけ、『バビロンの大淫婦』出んの?
A,出ません。あちらはあちらで、おそらくアーケードの方で出ると予想されているので、あくまでそうだろうなという関係性だけ示唆しただけです。


Q,サタンの宝具ってEXじゃないの?
A,まず、サタンの宝具はサーヴァントになったことで弱体化しているので、ランクが本来よりもガクンと下がっているんです。『獣』の時なら『EX』になるのですが、サーヴァントになると『A+++』になります。
それがどのくらい下がったかと言うと、熱湯がちょっと温かいぬるま湯になった感じです。絶妙に何とも言えないぬるさ。これには魔皇も渋面。


Q,なんでカミサマあんななのさ?
A,大体神様ってこんなもんよ……。有名な話(かどうかはわかりませんが、)で『神は救いはすれど、導きはしない』と言われるらしいです(ソースは不明)。
実際のとこ、大体その通りなのでは?と思います。私の方では、基本的に神様というのは、『世界をただしく運営するための管理機構』という認識で書かせてもらっています。それは今後の作品でもそうなるかなと思います。
宗教に詳しい方には、「それ失礼では?」と言われるかも知れませんね…。


Q,度々ラテン語混じってるの作者の趣味?
A,趣味と代換です。ほんとは原典通りヘブライ語で通したかったのですが、いかんせん翻訳と解読が難しすぎて断念しました………。
ヘブライ語、ムズカシイ………。


Q,結局クロスオーバーのタグとかって何だったのさ。
A,作者の超不安症的性格が発動した究極的保険です。割とどのラインがクロスオーバーになるんだ……?と、処女作なのもあって不安になりまくった結果、「ならもう保険ついでにつけてしまえ」と付けました。つけないよりかは良いかと………ゴメンネ。


まだまだ疑問点はあるかも知れませんが、ぶっちゃけ処女作だから許してほしいと言われればそれまでだし、できるなら伝えきりたいところもあったのですが、流れ的に厳しいなぁと四苦八苦してしまい………(笑)。

ですが、皆様が楽しんで読んで下さったならなによりです。ここまでの長い月日、非才に付き合って頂き、ありがとうございました!

『煉獄魔境大罪記 ゲヘナ』、これにて完結です!!





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