地学者真中あおの取材レポート (伝説の超三毛猫)
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P1, アンジェロ岩
私の名前は真中あお。
今は―――地学者になっている。
時に天文学の論文を発表したり、時に地形図やあらゆる土地のフィールドワークをしたり……まさに正反対。でも共通点が多いし、相性は悪くない。だから地学者。
高校で地学部に入って、天文班と地学班ができた時は不安だったけど、皆がいたから―――みらがいたから、楽しかったし、
みらとは、今でも色んな話をする。ちょっと距離が離れて、会える機会が減っちゃったけど、そんなことは関係ない。例えば、こんな話を―――
*
『―――もしもし、あお?』
「みら、久しぶり」
『わ、ほんとにあおだ! 久しぶりー!! どこで何してるのさ、今!』
「みら……私も会いたい。私いまね、
『杜王町?』
「ほら、M県S市の」
『あ、あそこ? なんか変なスポットで話題の……えーと、テレビでやってたんだよね、ビヨヨンみたいな名前の―――』
「ボヨヨン岬のこと? 今日はそっちじゃあなくて、別のものを見てきたんだ。メッセに写真で送ったんだけど」
『え? えーと………あ、あった。なに、このヘンテコな岩! 面白い!』
「ふふっ、みらならそう言うと思ったよ。
それは『アンジェロ岩』って言って、町の人気スポットなんだって」
『これが?』
「うん。なんでもその………恋人…の待ち合わせ場所で有名なんだって。」
『え、なに?』
「こ、恋人……」
『あお、もう一回いい?』
「恋人!! の、待ち合わせ場所なんだって!」
『あ、わかった、恋人ね!
あおの声が小さかったから聞こえなかったよー』
「もう……あ、あと喋るんだって聞いたよ」
『え、岩が喋るの? まっさかー』
「私も信じられかったけどさ…町の人たちがみんな口を揃えて言うんだもん。試しにその……話しかけてみたの」
『…結果は?』
「喋らなかった」
『だよねー! この変な岩が喋ったら怖いもん!』
「あの後皆に慰められて恥ずかしかったんだから……」
『でもさ、私達の触ってきた石たちにも意思があって、お喋り出来たら楽しいよね!』
「それはそれでホラーな気が…」
『……行ってみたかったなぁ、あおと。そしたら、そのアンジェロ岩もなにか喋ったかもしれないのに』
「みら………」
『あはは、大丈夫だよ、あお! 私は今やりたい事を見つけられて、それに向かって一生懸命やってるから、あおはあおでやりたい事を一生懸命やろ!』
「……うん。待ってるよ、みら。
その時は、私が色んな場所を案内してあげるね」
『楽しみだなぁ……私、いま高校時代と同じくらいワクワクしてる!』
「私もだよ、みら。みらに色んなものを教えられると思うと、今からでも楽しみでしょうがない」
『楽しみだね、お互い!』
「うん……!」
「………戻ってきてしまった…『アンジェロ岩』……
い、今なら、誰も見ていないよね?」
「………………………よ、アンジェロ」
「…………。」
「…………うーん、やっぱり噂は噂だったのかな……?」
『………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………アギ』
「!?!?!?!?!?」
しゃ、喋った!? 間違いなく喋った!! 一度話しかけても返事がなかったから、喋るなんて思ってもみなかった。録音しておけば良かったかな……
☆アンジェロ岩
『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』にて、物語の舞台である杜王町のとあるバス停前に存在する奇妙な形の岩のオブジェ。
不気味な形とは裏腹に、恋人のデートスポットとして町民に親しまれ、また観光名所として脚光を浴びている。鉱物のはずなのに「……アギ」と鳴く声が聞こえるらしい。
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P2, メテオガーリック
スマホが震える。
画面を見れば、みらからの着信だと分かった。
直接電話してまで話す内容で思い当たるのは……アレしかないんだろうけど。
でも、なんて話せばいいのやら。
「……もしもし、みら? あおです」
『あお? 写真、見たんだけど……あれはなに?』
うん。まぁアレを見ちゃったらそうなるよね。リアクションに困るのも分かる。だって……
「博物館でショーケースに入れられて飾ってあるニンニク……なんだけど」
『なんだけど、じゃないよ! あんなキラキラのニンニクがなんで博物館に飾られてるの!?』
「なんでも、宇宙から隕石のように降ってきたニンニクらしいよ」
『ごめんあお……ちょっと何言ってるかわからない』
「みら………私だって、アレの説明には困ってるんだから……
博物館にあった説明には、最近見つかったニンニクの一種みたいで、降ってきた周辺の土地の栄養を吸い尽くすことが判明したって書いてあって……」
『ますます意味が分からないよ! まさか、ホントに宇宙にあるの!? にんにくが!?
やめて!! 私達が見上げてた星空の中ににんにくがあったとか考えたくない!!!』
「ほんとにごめん………でも、初めて私がコレを見た時、頭がパンクしちゃって、考えるのをやめそうになって……誰かに言わなくちゃって、私がおかしくなっちゃったのかな、コレは私が疲れたから見た幻覚じゃありませんように、って思ったの」
『あお………』
「そう考えた時に真っ先に相談しようと思ったのがみらだったんだ。でも迷惑、だったのかな?
ごめんね、みら……」
『いや、そこは気にしないで良いんだけど………寝た方が良いよ、あお。……最近、寝れてる?』
「うぅーん……寝れてると思ってたんだけど、まだ寝不足気味かもしれない」
『体に気をつけてね、あお。おやすみ』
「うん。おやすみ、みら。
―――変なコト聞かせてごめんね」
『ううん、大丈夫! それじゃ』
星空を見上げながら電話を切る。
やっぱり綺麗な星空………この時期は、南の方向にみずがめ座の
でもアレ、まさかいくつかニンニクが混じって―――
(――――――っ!!?
何を考えてるの、私!!)
もう駄目だ。確実に疲れている。
今日は可及的速やかに寝よう。そして、疲れが取れる食べ物でも調べて食べるとしよう。……ニンニク以外で。
みらとこの話をした1、2日後、隕石のように降ってきたニンニクを実食した勇者が現れたらしい。滋養強壮が強すぎて体を壊し、病院送りになったとか。そりゃそうなるでしょう。もう訳が分からない。
☆メテオガーリック
『トリコ』に出てくる特殊調理食材。
隕石が落ちた所に稀に生える不思議なニンニク。落ちた土地の栄養を吸い尽くすため、その栄養が見に詰まっており滋養強壮が強すぎる(常人がマッチョになり不眠不休で働けるようになる程)。
その生態から宇宙から降ってきたのではとか、元々は星だったのではとかの説があったりなかったりする。
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P3, 決して後ろを振り返ってはいけない小道
「もしもし、真中です」
『あおさん、杜王町に行ったって本当ですか!?』
「え、イノ先輩? えぇ、確かに行きましたが……それがどうかしましたか?」
『大丈夫でしたか!? 怖い所、行ってはいませんか!?』
「あの、落ち着いてください。
要領を得ないのですが……どうかしたのですか?」
『そ、そうですね。私も説明しないと。
実はですね、私も杜王町に行った事があるんです。その時に経験した事が……ちょっと、恐ろしくて』
「なにか、あったんですね?」
『はい。杜王町は地図的にも面白くて、探検した事がありまして。
きっかけは、地図と実際の道の違いを見つけたことでした。』
「地図と実際の道が違う?」
『そう。「未知のエリアだ」って喜んで入っていったらね……なんだか、妙に肌寒かったんです』
「肌寒い?」
『はい。そして、その小道の郵便箱を通り過ぎたあたりからでしょうか……何か、大きい人がついてきているような感覚がしたんです』
「そ、それって、警察に届け出るべきじゃあ……」
『普通じゃあないと思ったのはここからです。
私、その大きい人らしき気配が怖くて走って逃げたんです。そしたら…桜先輩の声が聞こえてですね…』
「え、桜先輩が!? イノ先輩、桜先輩と杜王町に来てたんですか?」
『ううん。杜王町には一人で行ったよ。いると思わなかった桜先輩に「イノ、こんな所でなにしてるの」って声をかけられたから振り向きそうになったの。でも……
いつの間にか真横にいた知らない女の子に「振り向いちゃあ駄目」って言われて。「魂を持っていかれる」って言ってきてね。その時は、何というかすんなりと信じちゃったんですけど』
「……不気味な話ですね」
『オーソンまで来た時に、後ろの気配も隣にいた女の子もフッと消えていたんです。まるで最初からいなかったかのように』
「え、女の子も、ですか?」
『そう、女の子も。そこでやっと振り返ってみたんですけど……そこには、あったはずの小道がなくなっていたんです。』
「……変な話ですね」
『そうだよね。後でその事をとある財団の方に話したら、「後ろを振り返ってはいけない」といった噂があるって教えてくれて…生きた心地がしませんでした』
「……怖い話にできそうな話ですが…分かりました。
イノ先輩がわざわざお電話してまで話したことです。信じてみます。念の為、目印とかを教えていただいてもよろしいですか? 間違って入らないようにしますので」
『コンビニのオーソンと「ドラッグのキサラ」の間にあった小道です。郵便箱が目立つので分かると思います。』
「ありがとうございました、イノ先輩。」
この話を聞いた後、再び杜王町に立ち寄った際に少し探してみたが……オーソンと『ドラッグのキサラ』の間には小道なんて存在しなかった。イノ先輩が嘘をついたとは思えないが、どうやらなかなかお目にかかれない不思議な小道のようだ。まぁ………見つけたところで入りたくはないけれど。
☆振り返ってはいけない小道
『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』に登場する、現れたり消えたりする不思議な小道。そこでは、一人の少女と犬に出会い、『振り返ってはいけない』事を知ることができる。
『この世』と『あの世』の境目であり、戻る時には後ろを振り返ってはいけない、とされている。しかも、戻る途中で何者かが後ろを振り向かせようとしてくるのだともいう。振り返った者がどうなったのかは……語るべきではないし、知る者も多くないだろう。
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P4, 触ったら虹色に光る星?
『あお! いま動画で送られてきた、ぴょんぴょん飛び跳ねる星、かわいいね!』
「うん。目の前で見ている私は、ちょっと戸惑ってる。目が確かに可愛いんだけど……」
今、みらに電話で話している話題は、私の目の前でぴょんぴょん跳ねている星だ。子供が書くような五芒星に、つぶらな瞳がついていて、金色に光っている。
『これ、なんなの!!? あお知ってる??』
「ううん……私も、今見つけたばっかりだし、何も分からない」
『そう……でも可愛いよ!!』
「みら? それってどういう―――」
『こんなかわいい星見たことないよ! あーあ、降ってくるお星さまがニンニクじゃあなくてこういう星だったらなー』
「……まだニンニクの事気にしてたんだ…ごめん………」
『冗談だよ。ねぇねぇあお、目の前に可愛い星があるんなら、ちょっと触ってみてよ!!』
「ええっ!? あ、危なくないかな………??」
『大丈夫だよ! だってかわいいもん!』
「理由になってる、のかな…?」
と、とにかく、触ってみよう。
『わくわく………わくわく……!』
「……なんでみらがワクワクしてるの」
『だって!! 星を触れるんだよ!! 良いなぁ!代わって代わってー!!』
「みら、やる事あるんじゃあなかったの?」
まぁ良いか。みらの言う事も間違ってないと思う。この星はほぼ間違いなく無害だ。本来、星というものは恒星だ。温度は低くても3000度はある。普通なら、人間は近づく事すら出来ないはずだ。
せわしなく飛び跳ねる星を、タイミングを見計らって捕まえてみる………
「うわぁ!!!?」
『あ、あお!?』
か、体が……虹色に光っている!?
思わずスマホを手放して、大慌てになってしまう!
「わああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
『えっ、ちょっとあお!!? もしもし?もしもーーーーしっ!!!?』
………
……
「…ご、ごめん、みら。ちょっと……取り乱した」
『もー! こっちは本当にビックリしたんだよ!?
あおが悲鳴あげたと思ったらスマホが落ちる音が聞こえて、あおからの返事も来なくなって……怪我でもしたのかと思ったんだから!!!』
いきなり全身が虹色になって、変なBGMがなり始めたからといって、スマホを放り投げたのはアレだったかもしれない。みらには音声しか伝わってないから、不安にさせちゃったな。
『それで……あお。何があったの?』
「………星に触った途端全身が虹色に光った」
『……………え、なんて?』
「全身が…虹色に……光って……」
『あお、幻覚でも見たんじゃない?』
「幻覚……じゃないと思う。
変なBGMも鳴ったし―――」
『……確かになにか電話越しにちょっと聞こえてきた』
「慌てて走ったらいつも以上に早く走れた気がするし―――」
『え…あお、それって』
「その途中で男の人をひとりはねちゃって……
まぁ謝ったら許してくれたけど」
『ねぇあお! それ絶対危ないヤツだよ!!
麻薬的な何かじゃあないの、病院行った方が良いよ!!? 変なモノでも口にしたでしょ!? 』
「してないよ……みらじゃあるまいし」
『私でも麻薬じみた星なんて食べないよ!!
とにかく! あおはもう拾い食いしちゃあダメ!!!』
「拾い食いじゃないんだけど……」
『屁理屈言わない!!』
「………………はい……」
一瞬、「アレは星の一種かもしれないから捕まえる価値はある」って言おうと思ったけど、みらにまた怒られるのが目に見えているからこれ以上は言わないでおこう……
混乱していた時にぶつかった、赤い帽子と服にオーバーオールの配管工のおじさんが詳しく教えてくれた。なんでも、触れるとしばらくの間、無敵?状態になれるという。半分近く何を言っているのか分からなかったが、またあの星を調べる事もあるだろう。その時には、無難に虫取り網でも持っていた方が良さそうだ。
☆スーパースター
『スーパーマリオブラザーズ』シリーズに登場するアイテム。黄色い星型とつぶらな瞳が特徴。
取ると一定時間、有名なあのBGMと共に全身虹色に輝く「無敵モード」になる。クリボーやノコノコはもちろん、クッパなどのボスや本来は倒せない敵まで無敵タックルで倒せるようになる。
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P5, 宇宙飛行士
その日何気なく見たテレビに、知ってる名前が出た。
『宇宙飛行士・森野真理さんが女性初の月面着陸へ』。NASAの月面探査チームに彼女が選ばれたことで、こういったテロップが流れた訳だが、それを見た私は大急ぎで課題を済ませ、先輩に連絡を取った―――
『もしもし、森野でーす』
「お久しぶりです、モンロー先輩。真中です」
『わあっ、あおちゃんまで連絡くれたの?ありがとう〜〜』
「おめでとうございます。来月くらいには月面、ですか?」
『えぇ。地学部の皆のお陰でここまで来れたわ〜!』
「みらや地学部の先輩方からお祝いは……?」
『もう祝われたわ。あおちゃんが一番最後よ?』
「そ、そうだったんですか……こちらも立て込んでましたし………
そうだ、月面着陸第一声とか決めてます?」
『ふふっ、あおちゃんって意外とせっかちね。みらちゃんにも同じコト聞かれたわ。でも、まだなーんにも考えてない!』
「良いんですか、それ………?」
『良いの。まだ1ヶ月もあるんだから。それに、私はきっと、その時に思ったことをそのまま言うだろうから。』
「……『イェーイ』だけはやめてくださいね?」
『ふふ、流石に南波さんみたいな事はしないわよ〜』
私のジョークに、モンロー先輩は笑う。
というのも、ちょっと前くらいに、日本人の男性宇宙飛行士が初めて月面に立ったのだ。その人の名こそ南波日々人氏。日本にとっての歴史的瞬間、彼が月面に降り立った際に言い放った最初の一言が………
『イェ〜〜〜〜〜〜〜〜イ!!!』
―――だったのだ。
これを受けて世界中は「さすがサムライの国は一味違うぜ、HAHAHA!!」と大笑い、日本中は「イェーイってお前wwww」ともっと大笑いし、その発言に便乗するかのような商品が多く世に出たのである。
「あの後どういう訳か『イェーイ』ブームになりましたからね。
どこもかしこも『イェーイ』ばっかりでした。牛乳にまで書かれる始末ですよ」
『星咲祭みたいじゃない。あおちゃんってそういう空気好きじゃない?』
「みらのお陰で好きになりましたけど、『イェーイ』ブームの再来だけは勘弁して欲しいです」
『ふふふ〜』
この人の事だから、ついウッカリポロッとやらかしそうなんだよなぁ。桜先輩曰く「高校の頃からあんま変わってない」らしいし。
『……あ、ちょっと待ってね―――
―――――――――――
……そろそろ行かなきゃ。それじゃあ、またね』
「え、あ、はい! 先輩も、体に気をつけてください!」
『ありがと〜〜、それじゃ』
電話が切れた。
宇宙飛行士なんだ、忙しいのだろう。そんな中で地学部の皆が電話でモンロー先輩を祝えたのは奇跡のように感じた。
さて、私は私のやる事に取り掛からなきゃ。
―――1ヶ月後のとある朝。
モンロー先輩の電話を思い出しながらテレビをつけると、やはりと言うべきか待ちかねたニュースの報道途中だった。
そしてそれは、NASAの通信記録とカメラ映像だった。
『マリ飛行士、まもなく月面着陸です』
『了解』
そして……モンロー先輩らしき宇宙服の人が月面に降り立ち―――
『ヤッホー! みんな、見てるー??』
「ンゴッフ」
―――私は口に含んだコーヒーを吹き出した。
……このちょっと抜けた「第一声」は、やはり再び世界中に笑いを巻き起こした。
桜先輩を「地球に帰ってきたら説教してやるわ……!」と言わしめ。
イノ先輩を「まぁ…モンロー先輩らしいですけど……」苦笑いさせ。
日本中に『イェーイブーム』の再来を思わせる『モンローブーム』を呼び寄せた。関連グッズを集めたみらが目を輝かせながら私に密に連絡をしてくるようになった。
―――まぁ、私としては、みらとモンロー先輩が楽しそうならそれでいいんだけどね。
日本人で初めて月面着陸を成した宇宙飛行士。着陸時の第一声は「イェ〜〜〜〜〜〜〜イ!!!」。
私達の先輩にして、初めて月面着陸を成し遂げた女性宇宙飛行士。着陸時の第一声は「ヤッホー! みんな見てるー?」。
………二人のせいでというべきかお陰でというべきか、外国の人々に日本人の民族性を色々と誤解されそうな気がしてきた……
☆南波日々人
『宇宙兄弟』に登場する、主人公の弟の方。細かいことを煩う性格。兄より先に宇宙飛行士になり、月面着陸に成功する。その後、月面での任務中にとある事故に遭うが……?
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P6, 決して削れない蒼い石
『あお〜、荷物届いたよ!』
「そっか、良かった!」
みらから電話での報告を受ける。
私は少し前に、みら宛に色々な物を送っている。まぁいつも色々送ってるんだけど、その大半がフィールドワークで行く先々で見つけたものや、現地で買ったお土産だ。
『あ、そうだ。お土産の中にさ、青い石があったんだけど……スゴく綺麗だね!!』
「ありがとう。とある洞窟を調査してた時に偶然見つけたものでね。あまりに綺麗だったからみらにも見て欲しくて………それも、写真じゃあなくてその目で」
『ありがとう〜〜あお!!! ホントに綺麗だよ!
まるで、この石の中に宇宙が詰まっているみたい!』
件のみらに送った石。
それは、蒼い石だった。
でも、ただの石じゃないと思った。
なぜなら、その色がとても澄んでいたから。
余計なモノが一切ないかのような、表面から中心にかけての青と蒼のグラデーションが綺麗だったから。
みらの言うとおり、まるで『もう一つの小さな宇宙』そのもののような色を持っていたから。
私はそれを拾って持って帰ると、迷わずみらに送るお土産の中にそれを入れた。―――その美しさを、彼女に見せたいがために。
「そうでしょ? 私ももう一つの宇宙みたいって思ったの。
でも、ソレにはちょっと不可解な点もあって」
『なに?』
「そのままみらに送るのもなって思って加工してもらおうと思ったんだけど……加工出来なかったみたいなの」
『加工、出来なかった………?』
「そうなの。なんか、ダイヤモンドの研磨機でも負けちゃうみたいで。『未知の金属だ』ってはやしたてられたわ」
『えっ!? ちょ、ちょっと待って……!?
ま、まさかそれを、私に……!!?』
「うーん……何だか、面倒な事になりそうだったからね。また後日に正式な調査を行うために石をなくしたことにして、すぐにみらに送っちゃった」
『ええ……でも、いいの?
もしかしたら、物凄い発見かもしれないよ?』
「良いの。
私がそれを見つけたのは……お金や名誉のためじゃあないからね。
ただ休日に、ロマンを求めてやって来たら本当に未知の物を見つけちゃっただけだから。形くらい整えたいなとは思ったけど、まさかそれが新発見のきっかけになるとは思わないじゃん?」
『そっか………小惑星あおの時と同じだね?』
「うん。小惑星の時は…みらとの約束はモチロン、知らなかった事を知る事が楽しかったから見つけられたようなものだよ。
みらに送ったその石も同じ。名前くらいはつけてみたいけど……権力やお金が絡むとちょっとね」
『あ〜〜、分かる!!』
「それにね……みらとの思い出、まだ作りたいんだ。
高校で再会して、色々な所に行って、あらゆるプロジェクトに参加して……小惑星を見つけて。
でも、私はもっとみらと友達でいたい、一緒にいたい…って思ったから。その石を送ったの」
『……ふふっ』
「みら?」
『大丈夫だよ、あお!
私達は、ずっと友達だから!!』
「うん、みら。
―――私達は、ずっと友達。」
『今度は、この石を見つけた場所に二人で行こうね!!』
「勿論。案内するからね、みら。」
まるで宇宙のような石。ダイヤモンドよりも硬く、見ていると引き込まれるような不思議な感覚になる。みらに送って、二人の思い出の品の一つにした。
☆オリハルコン
最早説明不要と言わんばかりに有名な、空想上の最硬金属・鉱物の一つ。登場するゲームとして最も有名なのがドラゴンクエストとファイナルファンタジーといった所か。
ドラゴンクエストでは最強格の武器の素材として登場し、ファイナルファンタジーではナンバリング毎に姿を変える。最も多いケースは「最も硬い宝石または金属」といったところである。
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P7, ワープスター
「ぽよ! ぽぉよ!」
「………なにこれ」
…それは、全身が桃色の生命体だった。円形に丸い手足が生えたような姿で、言語は通じない。でも、言葉の端々からは善意のようなものを感じた。
「…ねぇ、写真撮ってもいい?」
「ぷい?」
「……えーと」
話しかけると、よく分からないのか首をかしげ――首がないように見えるのにこんな言い方するのか分からないけど―――不思議そうな表情をする。
知能はあまり高くなさそう、と思ってると。
「ぽーよ! ぽよぽよ!」
「え! なに?」
いつの間にか手を引っ張られて、ふわふわと浮いている『それ』に乗せられた………
『はいもしもし! 木ノ幡です!』
「……あぁ、みら?」
『あれ……? あお、なんか声の調子悪くない?』
「うん……まぁ、ちょっと、ね」
『今度は何があったの?』
「色々……ありすぎちゃった。
疲れたよ……私」
『あお?』
「丸いピンクの可愛い生き物を見つけてね。話しかけたの。言葉が通じなかったのにも関わらず、宙に浮く星の元へ行った。それが間違いだった。」
『な、何言ってるの??』
「ピンクの生き物に星に乗せられたかと思えば、地面の穴に入って……マジルテとかいう洞窟に連れてかれたよ。信じられない景色をいくつも見たよ」
『………例えば?』
「密林や、水晶の畑……あと、地底とは思えない塔や空間もあった」
『あお、それ絶対気のせいか夢だよ。地下には流石に森は無いし、深く掘ろうにも地層しかないんだよ?』
「………知ってる。星に乗ったまま真っ逆さまに落ちていった時はさすがに覚悟したよ。
あの後色々あって地球に戻ってこれた―――と思うんだけど……今私が聞いてるみらの声って…幻聴とかじゃあないんだよね?」
『当たり前でしょ!? ていうかあお、無事なの!?』
「うん……無事。お土産も持って帰れたし、どこも怪我してないよ。
でも……………物凄く、眠たい」
『寝ちゃダメ!!! 起きて、あお!!』
「あっ……星が流れてる。
彗星かな? いや……彗星じゃないか。彗星はもっとこう、ぱぁーってなるよね…」
『ねぇそれ多分人工衛星じゃあないかな!!? 戻ってきてあお!!!』
「みら…ちょっと、喋るのも……っくうになってきた………おゃ……み…み…ら………」
『ちょっと、ウソ!!?あお!? 起きてってば!! あおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!?』
………
……
…
一晩明けて、目覚めた私は、真っ先にスマホを確認した。
そこには、みらの怒涛のメッセ通知と摩訶不思議な地下洞窟で取った写真集が確かに、あった。手元にも、それが事実であるかのように、宝物が転がっている。
……久しぶりにみらの家に戻ろう。そして、迷惑をかけた事を謝ろう。
その後、みらの実家に向かったところ、出てきたみらに出会い頭に3時間も説教され、三日三晩私から離れてくれなかった。
でもまぁ、仕方ないか。気分としては……なんだか、悪くない。
……冒険の内容はともかく、だけど。
ピンクの生命体の可愛さに釣られることなかれ。誘いに乗ったら最後、訳のわからない所へ連れて行かれてしまう。彼(?)は私を守ってくれたとはいえ、あんな九死に一生を得たかのような経験はもうこりごりだ。
☆ワープスター
『星のカービィ』の主人公、カービィの最も有名な乗り物。乗るとキラキラと星をまきながらカービィを次のステージまで自動で運んでいってくれる。作品によってはメタナイトやデデデ大王、バンダナワドルディやマルク、マホロアまで乗る。
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P8, マジルテのお土産
【マジルテ】最近見つかった謎の洞窟について語るスレ【お宝ザクザク】
1:名無しの洞窟オタク
このスレッドは近年発見された謎の洞窟・マジルテについて語っていきます
2:名無しの洞窟オタク
何がお宝ザックザクの洞窟だ!いくら探しても十円玉とバケツしか見つからなかったぞ!!!
3:名無しの洞窟オタク
>2
お前wwwwwwww
4:名無しの洞窟オタク
>2
ドンマイwww
5:名無しの洞窟オタク
>2
せめて小判くらい見つけようぜwwwwwww
6:名無しの洞窟オタク
10円玉とバケツというパワーワード
7:名無しの洞窟オタク
俺なんかこの前見つけたのが竹取の娘だぜ?
もう怖くてそのまま置いてきちゃったよ…
8:名無しの洞窟オタク
>7
お前はお前でなにしてんだwww
9:名無しの洞窟オタク
十円ニキも竹取ニキも強く生きて
10:名無しの洞窟オタク
>7
分かってないな……育てれば超絶美人になったものを…
好感度次第で光源氏計画もイケます
11:名無しの洞窟オタク
>10
( ゚д゚)
12:名無しの洞窟オタク
>10
おまわりさんこの人です
13:名無しの洞窟オタク
……クリスマスツリーを見つけた俺は幸運だったのか??
14:名無しの洞窟オタク
俺も探してみたんだがタイヤやタルだったな…
15:名無しの洞窟オタク
マネキン見つけた時は重くて重くて大変だった
16:名無しの洞窟オタク
>15
なんで持って帰ってきたしwwwwwwwwww
17:名無しの洞窟オタク
招き猫と狸の置物を持って帰って来た時は変な目で見られたけど、多数派で良かったわー
18:名無しの洞窟オタク
……不発弾ってどこで処分すればいいと思う?
19:名無しの洞窟オタク
>18
え、まさかお前……
20:名無しの洞窟オタク
>19
マジルテで見つけた
21:名無しの洞窟オタク
>20
wwwwwwww
22:名無しの洞窟オタク
>20
あっぶねぇwwww捨てろそんなもんwwwww
23:名無しの洞窟オタク
>18 >20
普通に警察に電話すれば対応してくれるよー
24:名無しの洞窟オタク
>23
まじか、助かる
以下、マジルテのお宝やその噂について報告や大喜利が展開される。
*
「………。」
暇つぶしにマジルテについて調べてみたものの、あまり良い噂はないようだ。
私はたまたまピンクの丸い生命体に連れて行かれた為、盛大に深部へ行ってしまい時間こそかかってしまったものの、おおよその危険から彼(?)が守ってくれた。その過程でいくつかお宝を頂戴したけど、これはその、価値のあるものだと判断して、後で調べるためだから……うん。そういう事にしておこう。
で、だ。私はその後、心配をかけたみらに謝りに行こうとしたんだけど。
「……ねぇ、みら」
「つーん」
「あの、離れてくれない? ちょっと暑いよ」
「つーん」
「…………もぅ、マジルテの件は悪かったってば〜」
「……つーん」
拗ねてしまった上に離れてくれなくなった。しかも3日前に、帰った直後に地獄のような長い説教をされてからずっとこうだ。
「いい加減、機嫌直してよ。流石に3日も理由を言わずにくっつくだけじゃちょっとさ」
「つーん」
「……離れてくれないとお土産を見せてあげられないよ」
「つ、つーん」
いま、揺れたね。
お土産はみらが好きそうなものを揃えたつもりだから、早く見せたかったんだけど……今日まではみらがつーんつーんしながらそうさせてくれなかった。
「だ、だって」
「?」
「私がこうでもしてないと、あお…どっか行っちゃうじゃん。それで、危ない目に遭うのはもうやだよ」
「みら……」
「そういう仕事なのは仕方ないって分かるけどさ……」
「…ごめんね。怖かったよね」
みらを抱きしめる。元々みらが私に抱きついている体勢だったのもあり、すっぽりと胸の中に彼女をおさめると、ぴくりと震えた。
「……お土産、何があるの」
「みら…!」
「もう一人で危ないトコ行かないって約束するなら……見るよ」
「ありがとう……!
まずね、魚の化石を見つけたの」
「化石!!?」
「これなんだけど。あと、月の浮舟っていう物も見つけてね。お風呂に入る時に浮かべてみない?」
「すごーい!! こんなの本当にあるんだ!
……大丈夫なんだよね?色々な意味で」
「大丈夫大丈夫、世間には見つかってないから」
―――こうして、少し和解した私とみらの夜は更けていく。
マジルテで見つけたお宝その1。何の魚かちょっと調べてみた。シーラカンスに似ているような気がするが、厳密には謎である。
マジルテで見つけたお宝その2。欠けた月のようなマストが特徴的な小さな舟で、どんな水にも浮く。お風呂に浮かべたら、どういう原理か湯船が幻想的なことになった。
☆マジルテ
『星のカービィ スーパーデラックス』『星のカービィ ウルトラスーパーデラックス』に登場するゲームモード『洞窟大作戦』の舞台となる洞窟の事である。このゲームモードは、宝物を集めながら地上への脱出を目指す、というコンセプトになっており、やりこみ要素がある。宝物には価値ある物からガラクタ、果ては同じ任天堂ゲームのパロディじみたものまで存在する。
☆十円玉
☆バケツ
☆竹取りの娘
☆クリスマスツリー
☆カートのタイヤ
☆コングの樽
☆マネキン
☆招き猫
☆狸の置物
☆不発弾
☆魚の化石
☆月の浮舟
上記のゲームモードに出てくる宝物の一覧。明らかに宝じゃないだろとツッコミたくなる物が並んでいるが本当にゲームに登場する。しかも十円玉に至っては10ゴールドの価値しかない。ちなみに不発弾は『ウルトラスーパーデラックス』では携帯通信機に差し替えられた。
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P9, シヴァレル雪山の踊る宝石
私はある日、とある噂を耳にする。
『シヴァレル雪山には、おどる宝石がいる』
踊る宝石とは? それに「ある」ではなく「いる」と言った意味とは……? それを確かめるため、私はシヴァレルというロシアに近い地方に向かった……
………
……
…
『もしもし、あお?
今度の写真が信じられないものばかりなんだけど』
「みら…確かに、ちょっと現実的じゃないものだったかもしれない。でも捏造した訳でも加工したわけでもないよ」
『あおにそんな技術ないのは知ってたけどさ。
どこで撮った写真なの?』
「シヴァレルっていう街で撮った写真でね。
街の人がもれなく人間じゃなかったよ……」
『そこは可愛いから良いんだけどさ』
「良いんだ……」
『次の、金色のブロック? みたいなものの写真はコレは一体なに?』
「金塊だよ」
『……え、金塊?
金塊って……あの?』
「うん。黄金。ゴールド。メッキでもなんでもない。」
『うそ、本物!!? どれくらいの大きさ!? 持って帰ってこれる!?』
「し、質問が多いよ……シヴァレルの金塊は特定のルート以外の交易が許されてないんだ。いくら大きくても、日本に持って帰れないんじゃあ意味ないよ」
『そ、そんなー!』
「仕方ないでしょ、そういうルールなんだから。
ところで、ちょっと驚く写真を入れておいたんだけど、もう見た?」
『え? …………うわ、なにこれ。変な……宝石袋?』
「うん。実は、私がシヴァレルに行ったのはこの宝石袋の噂が目当てだったんだ。」
『え、そうだったの?』
「現地の人たちは『踊る宝石』って言ってたよ。まぁ、思ったよりも違う方向性のモノが出てきたけどね……
でね、その『踊る宝石』が……なんかこっちを見た途端に逃げだすから写真を撮るのにひと苦労したよ」
『…………このヘラヘラした顔のままで?』
「……うん、このヘラヘラした顔のままで」
『だ、大丈夫だった?
その……精神的に、さ』
「うん。近づいたタイミングで体当たりされて煽られたり、雪をかけてくる罠を仕掛けて煽られたり、小馬鹿にするような笑い声で煽られたり、とにかく煽られたりしたけど大……大丈夫だった」
『…あお、怒ってる?』
「怒ってないよ。やっとのことで捕まえた時に一発ひっぱたいたけど怒ってないよ」
『ひっぱたいた!!? というかあお、怒ってるよね!?』
「怒ってないよ。それよりも気になることができたから」
『気になること?』
「『踊る宝石』の周囲の宝石ってね、浮いてるの」
『浮いてる? それってなにかの例え?』
「ううん。本当に浮いてたの。
でも、ひっぱたいた拍子にボロボロ落とした宝石は普通の宝石だった。もちろん、浮くこともない」
『それって………』
「きっと、何らかの重力を無視する手段をアレは持ってる。調べれば何か分かるかもしれない。癪だけど」
『いま癪だけどって言ったよね? 絶対怒ってるよね?』
「怒ってないよ。少なくともみらに対しては怒ってないから安心してね」
『あお、ストレスはちゃんと発散してよ?』
「分かってる。そっちこそ体に気をつけて、みら」
見るからに人を小馬鹿にするような表情と振る舞いをする、宝石袋の生命体(?)。宝石程度なら宙に浮かす手段を持っているようだが、調査の際は寒さと煽りに耐性のない人間は行かない事をお勧めする。
☆おどるほうせき
『ドラゴンクエスト』シリーズに登場する、宝石を散りばめた宝石袋の魔物。マヌーサ・ルカナン・メダパニなど非常にウザい呪文を数多く使用してくる。『スライムもりもりドラゴンクエスト』シリーズでは、敵サイドのメタル系の役割を担う。主人公を見つけるなり逃走を始め、終いにはルーラでどこかへ行ってしまう。が、攻撃が当たる度に宝石をバラまき、撃破すると大量ゴールドをドロップする美味しい敵。
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P10, 驚くべき化石復元計画
地学者の一日は……なんというか、ムラがある。
とんでもなく忙しい日もあれば、特に何もない日もある。
私はその日、予定らしい予定もなく自室でダラ……えーと、小惑星について想いを馳せていた。
―――たった一本の電話で、全てが変わることも知らずに。
*
「もしもし、真中です」
『あお! 私、美景! いま、パソコン開いてる!?』
「えっ、さ、桜先輩? どうしたんですか、いきなり私に連絡なんて―――」
『いいから! パソコンに送った資料を開きなさい!』
「どうしたんですかいきなり…………」
私は、たまたま開いていたパソコンのメールボックスをチェックする。
そこに入っていた桜先輩のメールに添付されていた資料を見て―――驚きのあまり、絶句した。
なぜなら、それは……
「―――『化石ポケモンの復元展覧会』……!!?」
ポケモンというのは、不思議な力を持って進化した動物という考え方で良い。ただし、そのほとんどが動物とはまた違った生態を持つ。
その為、研究者達はこぞってその謎を解き明かそうとしている。ポケモン研究の第一人者であるオーキド・ユキナリ博士を筆頭として、ウツギ博士やオダマキ博士、ナナカマド博士など意外と成果を挙げる人物は多い。
……しかし、化石を復元するなんて聞いたことがない。DNAを採取し、それを元に古代生物を復元するという話はあるが、化石から復元するなんて初耳だ。
『そう! 化石よ化石!
化石を復元だなんて、ロマンがあるわ! この展覧会のチケットが二人分当ったのよ!! あおも来ない??』
「桜先輩、イノ先輩はどうしたんですか? 私よりイノ先輩に話した方が……」
『あー、だめだめ。断られちゃったの。なんでも、「杜王町の気候と地理の研究がある」って言われてね。モンローはまだ地球に帰ってきてないし、みらも当日は来れないんだって。
一人で行くのも忍びないし…行きたいのなら、付いてきても良いけど?』
「……分かりました。そういう事でしたら、お供します。」
どうせ最近は時間を持て余している。
化石について色々と学んでくるのも良さそうだ。
ポケモンにはあまり詳しくないけど、行ってみる価値はある……
*
「……そうして、桜先輩と行ってきた展覧会で実際に復元されたのがこの動画に映ってるアーケオスだよ」
『すごーい!!! 化石だったポケモンが空を飛んでる!!』
「正直言って、ポケモンの化石復元がここまで行ってるとは思わなかった。」
『だねー!』
ポケモンの復元技術については、桜先輩も舌を巻いていた。はっきり言って進み過ぎではというくらいに。
「化石っていうのは、古い時代からのメッセージだって聞いたけど、それがもっと詳しく、細かく聞けるような気がしてきたよ」
『そうだよね!』
「中には頭蓋骨だけの状態から復元したり、遺伝子だけで復元したり……あと、氷山の中で氷漬けになっていたポケモンもいたんだって。」
『未来だよねー、そういう技術!』
「私達が生きてる内に化石の復元方法が見つかるとは思わなかったよね。
ほんと……最近、地学が楽しいよ」
『―――私も!!』
「今回の経験から、ちょっと論文を書こうと思う」
『へぇぇ、そうなんだ!! 題材はどんなのにするの?』
「そうだね…例えば………
『化石ポケモンから学ぶ、生物化石の復元』……とか?」
ポケモンの研究者達の弛まぬ研鑽によって、復元技術は日々向上しているようだ。これを、他の化石に使うことはできないものか。
☆アーケオス
さいこどりポケモン。『ポケットモンスターBW』に登場。始祖鳥のような姿をしており、鳥のポケモンの先祖とされている。
☆プテラ
かせきポケモン。初代『ポケットモンスター』に登場。ひみつのコハクに残されていた遺伝子から蘇った翼竜のようなポケモン。隕石の落下で絶滅したという説が有力。
☆タテトプス
シールドポケモン。『ポケットモンスターDPt』より登場。黒い盾状の顔を持つ小型のトリケラトプスのようなポケモン。掘り出された地層から1億年前から暮らしていたとされる。
☆アマルルガ
ツンドラポケモン。『ポケットモンスターXY』より登場。全身から−150度の冷気を放つ。オーロラのように自在に変色するヒレを持つアマルガサウルスのような姿のポケモン。氷山の氷の中から発見されたという化石ポケモンの一種。
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P11, 七夜の願い星
さる研究所を訪れた時に、私は奇妙な資料を見つけた。
時系列は、1000年前。日本が平安時代だった頃の話だ。書かれた内容は―――
『星の化身のような童子が現れた。彼は願いの限りを叶えてくれるなかなかお目にかかれない者だったが、7日たつと、奇妙な石を残して忽然と消えてしまった』
―――というもの。
これを受け、私はとある場所に向かった。
……ファウンスという、数年前に「願い星伝説」が生まれた土地へ。
………
……
…
「みら、元気?」
『うん! あおは今どこにいるの?』
「ファウンスっていう森の奥だよ。少し前に『ジラーチ伝説』が確認されてからというもの、一種のパワースポットになってるの」
『じらーち伝説?』
「みらは、『ジラーチ』っていう幻のポケモンを知ってる?」
『ううん、知らない。』
「出会った人の願い事を叶えてくれるって言われてる、ねがいごとポケモンだよ」
『願い事を叶える!? それって、すごいことじゃない!? 何でも叶えられるものなの!?』
「うん。過去の文献を見る限り……何でも叶えてくれるみたいだよ。ただ……」
『ただ?』
「1000年に一度、7日間しか目覚めないんだって。しかも眠り続けている間、『眠り繭』っていう結晶になっているから結晶状態のジラーチはまず見つけられないとか」
『そんなーー!!』
「ファウンスは唯一、ジラーチの眠っている場所として有名になって、観光地になっているよ。近くの都市では、ジラーチにちなんだお土産が沢山ある程だよ」
『ねぇあお! ジラーチは!? 次にジラーチが目覚めるのはいつ!?』
「……それが、ファウンスのジラーチは数年前に目覚めていることが確認されてるから、もう1000年弱は目覚めないよ。」
『そ、そんな………生ジラーチが…生ジラーチがぁぁ………!』
「………気持ちは分かるよ。とっても羨ましい。ファウンス近くのジラーチ記念館には最新の記録が載ってたけれど、私としても生でジラーチを見てみたかった。」
『えー……見てみたかった、って言っても、次は1000年後だよ? 私達は生きてないし、子孫に託すって言っても不確定だし……』
「それがね、みら。ジラーチはファウンス以外にもいるかもしれないって考えてるんだ。」
『そ、それってつまり……』
「うん。
きっとこの世界のどこかにいると思うんだ。」
『やった!! まだチャンスがあるんだ!!』
「まぁ、本業のポケモン博士ほど真剣に探せないし、根気も必要な上に見つかるかどうか分からないけど―――」
『―――見つかるよ! 私も手伝うから……絶対、見つけよう?』
「みら……!?」
『だって、私達は……
「―――!!!」
『きっと見つかるよ! 私達が生きてるうちに、他のジラーチが!』
「そうだね。見つかりますようにって願ったら……叶うかな?」
『叶うよ!きっと……私達で、叶えよう!』
「ふふふ…また、夢が一つ増えたね?」
『うん!!』
ちなみに、私が親友との話し合いの末に見つけたこの『ジラーチ複数体説』。軽く発表したら、なんとあのオーキド博士がコンタクトを取ってきたのだ(なお、この事をみらに伝えたら、サインを貰ってきてと頼まれてしまった)。
実際に会ってみたところ、良い人だったんだけど、出会い頭に川柳を一句詠むのはちょっと気恥ずかしいから辞めてほしかった。
1000年に一度しか会える可能性がないという、幻のポケモン。根拠は何もないけれど、複数体いることを信じている。そして……私達が生きてる間に、見つけることができるといいな。
☆ジラーチ
ねがいごとポケモン。1000年に一度、7日間しか目覚めない極めて稀少なお寝坊さん。3つの短冊が付いた星のような頭部を持つ、可愛らしい姿をしている。背中に付いている「願いの羽衣」は伸縮自在で、睡眠中は羽衣に自らを包んで眠る。ただし、他のポケモンと同じように実際は年中活動する個体が存在する。また、腹部には「真実の目」と呼ばれる第三の目があり、千年の眠りで蓄えた恐ろしいまでのパワーを発動する時に開くという。しかしこの目を開く事はジラーチ自体にも相当の負担がかかるため、目が開いている時を見たものは殆どいないと言われている。
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P12, 太陽の石
『あお! 今回も綺麗な石を拾ってきたね!』
「うん。日照時間が多い山にあった、変わった石だよ。陽光山ってところに行った時に拾ってきたんだ」
『よーこーざん?』
「そういう山があるの。かつては鉄鉱石の採掘場になっていたみたい。跡地が見つかって、そこを探索してたら見つけたんだ」
『へぇ……つまりこの石は、鉄鉱石ってこと?』
「うん。そこから鉄が作られてたんだって思うと、感慨深いよね。」
『化石や星みたいな自然の産物はもちろんだけど………昔の人たちに思いを馳せるのも悪くないってこと?』
「それもそうなんだ。特にこの陽光山の石の日の光みたいな温かさを感じてると、特にね」
『?』
「陽光山って、一年を通した日照時間が多いまま変わらないんだ。」
『! なるほど、この陽光山の石は、太陽をいっぱい浴びたから、太陽の力がいっぱいあるってこと!? それで、昔の人たちがそれにあやかってたってことなんだ!!』
「たぶん、ね」
『へぇえ、面白いなぁ……!
昔の人たちって、この太陽の石を何に使ってたんだろう?』
「太陽の石?」
『太陽をいっぱい浴びた陽光山で採れた鉄鉱石なんでしょ? だから太陽の石』
「な、名前がなんだか大袈裟なような……」
『良いじゃん!! カッコ良くて!!』
「か、格好いい……まぁ良いか。
で、昔の人達の使い道なんだけど……」
『わくわく…!』
「…………分からないの」
『へ? 分からない?
あおが知らないだけなんじゃあないの?』
「これでもリサーチはする方なんだよ…?
調べたんだけど、本当に何も分からなかったの」
『……どういうこと?』
「記録がなかったんだよ。陽光山が鉱山として使われてたっていう記録すらもなかった。見つからなかったわけないし。
でも発掘調査チームの報告で平安から大正前期くらいまで掘られた事が分かっているから―――」
『分かった!! あお、それきっと証拠隠滅されたんだよ!!!』
「しょ、証拠隠滅?」
『そうだよ!! きっと私達に知られたらマズい事でもあったんじゃあないかな!?』
「み…みら、何を根拠に――」
『根拠なんてなくても、きっとそうなんだよ!
例えば、とんでもない兵器を作っていた〜とか、知られてはいけない化け物がいた〜とか、そういう事情があったんじゃない!!?』
「み、みら………いくらなんでも、話が飛躍しすぎてるよ…」
『そうかな? でも、それっぽくない?』
「だいたい、何で『トンでもない化け物』を隠滅するために鉄鉱山の記録を消したのよ……」
『え? う〜〜〜ん………あ!
その化け物と戦うための刀を造ってたとか!』
「みら……大正はもう銃の時代だよ………」
『む〜〜、じゃああおは何だと思うの?』
「え?
え〜〜と………この前の蒼い石みたいな、希少価値のあるナニカ、とか…?」
『ふふふ、あおは意外とロマンチストだね』
「ちょ、からかわないでよ!」
大袈裟な名前だけど、それに恥じないような輝きと温かさがある(みら談)。陽光山の鉱脈にて発見されているが、ほぼ掘り尽くされている。使用用途については謎につつまれている。
☆猩々緋鉱石
『鬼滅の刃』にて登場する、鬼殺隊の武器・日輪刀の主材料の鉱石。陽光山より採れ、日の光を吸収する特性を持つ。コレで作り鍛え上げた刀は、持ち主によって色を変えるという。
ちなみに、『猩々緋』というのは室町後期に流行った、赤みがかった紫色のことであり、かの織田信長もこの色のビロードを好んだという話もある。
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P13, 賢者の石
全部まとめた結果世界観がカオスになってるけど笑って許してネ。
ある日、私は妙な論文を見つけたのだ。
『世界各地の伝承における賢者の石の正体について』そう題されていたそれは、最近暇を持てあましていた私の情熱を再燃させるには十分だった。
賢者の石。
一般的には「卑金属を金に変える、錬金術の至上命題の鉱物」とされている。この為にヨーロッパを中心に錬金術が発達したが……誰もソレの創造には至らなかった。まぁ、これが後の薬学・化学実験の基礎になるらしいけど。
で、そのいささか眉唾ものの「賢者の石」についての論文だが……そこに、あまりに事細かに記録が載っていたのだ。
ある伝承には、多くの人々の傷を癒やし、時に永遠の命を与えるとあった。
ある地域では、あらゆる金属を金に変え、無限機関の動力源となりうると噂されていた。
ある書物には、数多の人命を材料に作った許されざる魔石と書かれていた。
それらを論文に書いてあった情報を元に、世界各地を飛び回って調べてみることにした。
まず、『人々を癒やし、永遠の命を与える』とする面。私は伝承の出どころであったイギリスを中心に探し回った。そこで出会った役人を自称する壮年ハリー・ポッター氏によると、偉大なる魔法使いが作った、永遠の命と金を齎す魔法の石だという。なお、現在は砕かれていて現存していないのだそう。
続いて、某国のとあるアトリエにて、『賢者の石』の情報を手に入れる事ができた。それは、「優秀な動力源」という正の一面と「人の魂を大量に使って錬成する非道の結晶」という負の一面だった。
かつてアメストリスという国があった頃。隣国であるイシュヴァールを征服する為に使われたのだとか。その際に、多くのイシュヴァール人が賢者の石の材料にされたともいう。最終的にはアメストリスとイシュヴァールは和平を結んだそうだが………あまりにも恐ろしすぎて、ゾッとする話だ。
現在における賢者の石は、ほぼ架空の存在と認識されている。しかし、現存していた賢者の石を元に、おぞましい方法を使わない賢者の石の製作に力を注ぐ人もどうやらいるようだった。
例えば私が出会ったとある旅人の一行は、錬金釜なる道具を使って作り出したという。金塊とオリハルコンに、世界樹の雫なるものを入れて作るという。はっきり言って錬金釜とか世界樹の雫とか私の常識を軽く超越したモノとしか言いようがないが、確かに完成品のソレは賢者の石の特徴である『人々を癒やす効果』があった。
歴史の闇に葬られた伝説の道具・賢者の石。
もし眉唾ものの論文を信じなかったら、私はここまでこれについて知ることはなかっただろう。
だが、かつて賢者の石に渦巻く欲望のために多くの人々が犠牲になった事実を忘れてはいけない。人命を使わない錬成方法ができつつあるとはいえ………私は、もう少しこの『禁忌の石』については、人々にとっての眉唾ものにしておこうと思う。
だから……この件については、胸にしまっておこうと思う。
もう一度、過ちを歩む必要など、どこにもないから。
………
……
…
「ねぇ、みら。もし……誰も信じられないようなものが真実だったら。それが、誰にも話せないようなものだったら………どうする?」
『………???? 何言ってるの?』
「……ふふ。何でもない。忘れて」
『??????? ………変なあお。』
まだ、人類の多くが知るべきじゃあないこと。
アメストリスとイシュヴァールの戦いの悲劇は、きっともう起こらない方がいい。
☆賢者の石
錬金術における至高の物質。卑金属を金に変え、癒すことのできない病や傷をも瞬く間に治す神の物質とされる。無数の名前を持ち、形状についても諸説ある。
『ドラゴンクエスト』シリーズでは、何度も使える全体回復アイテムとして重宝されている。『8』や『9』では錬金釜で作ることが可能。
『アトリエ』シリーズでは、賢者の赤水晶とも呼ばれ、ホムンクルスやアゾット剣の動力源として使われる。「ドルケンハイト」なる花と竜の素材を必要とする場合が多い。
『ハリー・ポッター』シリーズでは、ダンブルドアとニコラス・フラメルが作った永遠の命を与える強力なマジックアイテムとして登場。第一作『ハリー・ポッターと賢者の石』に登場し、最終的に悪用防止のため砕かれた。
『鋼の錬金術師』シリーズでは、強力な術法増幅器で、ホムンクルスの核になるキーアイテムとして登場。その製造方法のあまりのおぞましさに、トラウマになった人も少なくないはず。
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P14, スペースデブリ
「みら、送った動画、見てくれた?」
『うん! スペースデブリ、ってあれだよね?
宇宙ごみって呼ばれる…。』
「うん。絵の具の破片サイズのスペースデブリが宇宙船の窓にヒビを入れるレベルの事故も多々起きてて、問題になってるんだけど……」
『動画タイトルには、「妙な形の宇宙ごみ」ってあったね』
「そうなんだ。地球に接近しつつある宇宙ごみをある天文学者が見つけたらしいんだけど……」
『ちょっと信じられないよね……
コンパスが地球の引力に引っかかる。
天文好きにとっては果てしなく理解しがたいパワーワードである。
これは決して、コンパス座が日本から見えたとかそういう比喩などではない。
そう―――
「文字通り、製図道具のコンパスが地球から観測されるなんて私もフェイクニュースかエイプリルフールを疑ったよ」
『でも、エイプリルフールにしては遅くない?』
「遅すぎるよ。
肝心な情報源も、NASAやJAXAを中心に信頼できるところからばっかだし。」
『地球から観測できるコンパスって、物凄く大きいんじゃない?』
「計算によると、月よりもちょっぴり大きいかもしれないんだって」
『月より!!? う、嘘でしょ…!』
「みらも私みたいなリアクションするんだね……」
私も、このニュースがJAXAから流れてきたのを知った時、私自身の目を疑った。そして色々調べてみて、
「……一応、空から眺めることができるよ」
『え、ほ、ほ、ほんと!!?
どこ!? どこを見ればいいの!!?』
「えっと、待ってね……
みら、日本にいるよね?」
『え? うん』
「南西の空に、いびつな星が見えない? それだよ。
望遠鏡を使えば、よりハッキリ見える。」
『南西? えーーと――――――
―――あーーーーーー!!!!!!!!』
「!!!?」
『あった! あったよ、あお!』
「良かった。でも、耳元で叫ぶと、その……」
『あっ、ゴメン!
でも…本当に不思議だね。見れば見るほどコンパスだ……』
「うん。本当に―――飽きないよね。」
『そうだね―――面白いよね、こういうの。』
みらとまた心が通じる。
例え私の名前の小惑星を見つけた後だとしても、天文への想いは変わらない……みらも私も。
ましてや、こんな不可思議な現象……心惹かれないはずがない。
しばらく、私は空に浮くコンパスを観察し続ける日々になりそうだ。
明らかに人工物よりも大きい製図用具らしき衛星。軌道・材質・周期・どこから来たのか すべてが謎に包まれており―――私、その謎を現在みらと一緒に鋭意探求中だ。
☆ギャラクティック・ノヴァ
『星のカービィ』シリーズ(特に『スーパーデラックス』『ウルトラスーパーデラックス』)に登場する、幻の大彗星。顔の付いた懐中時計に風見鶏や地球儀、コンパスや鍵盤などの小物がくっ付いたような姿をしている。ポップスターの銀河の果てにひっそりと存在し、星の力でミルキーロードを作り、繋ぐとその姿を現してはどんな願いも叶えてくれる星。本当にどんな願いも叶えようとする為、「惑星一つを支配したい」などという野望に満ちた邪な願いすらも『OK>』と承諾してしまう。
拙作ではパーツの一部であるコンパスのみ登場。どうして地球にまで流れ着いたのか……それは謎に包まれている。
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P15, 夢の泉と星の杖
「ここは……?」
気がつけば私は噴水の前に立っていた。
噴水の真ん中には星がデザインされた杖が突き刺さっていて、それが噴水と合わさり不思議な感覚を覚える。綺麗なのに暗い水も合わさり、ミステリアスな感覚に陥っていた。
「あの杖は一体……?」
濡れないように近づいて、杖に触れてみる。
その次の瞬間―――ブツリ!!と
「!?!?!?」
突然、泉の光り輝く水や装飾品の数々が光を失った!! まるで、ブレーカーが落ちて電気が消えたかのように―――!
「っ!?
ど…どういうこと……??」
当然、私は硬直する。
これまでの冒険で、私も学んだことはある。
流石にこれ以上みらを悲しませるわけにはいかないし、何が起きても良いように全集中力をかきたてる。
しかし。
「………………。
……………??」
―――何も起きない。
何かが飛び出てくるわけでもなければ、危険なトラップのようなものが発動した気配もない。少しの間その場に留まってみるが……やはり、何も起きない。
「…………一体、どういうことだったんだろう?」
何もかもが良くわからないまま、この場を立ち去ろうとして―――
………
……
…
目が覚める。
「…………夢?」
それにしては、噴水の綺麗な光景も、杖の感触も、光を失った時のほんのりとした暗闇も、全てがリアルだった。
ここ最近はいつもこうだ。綺麗な噴水の前に立つ夢。星の杖が真ん中に立っていて、それに目がずーっといっていた。今回見た夢では、ちょっと触っちゃったな………
いつものように電話が鳴る。私は、スマホを手にとって……いつも私にかけてきてくれる親友の名前を見て、ふうと一息ついた。
『あお〜〜〜〜〜、聞いてよ、最近悪夢ばっかり見るんだよ〜!!』
「そうなの? たとえば、どんなの?」
『丸い星デザインのナニかが空から追っかけてくるんだよ〜〜!! ずっと追いかけてきてさ…今日の目覚め最悪だよ〜!』
「……えーと」
『この前はいくら食べてもみかんやグレープフルーツがなくならない夢を見たし……
その前は私も含めて皆が晴れてる隣であおだけが雨に降られる夢をみたんだよ〜!!』
「……聞いてる分には面白そうな夢だけどね」
『あおは実際にみてないからそう言えるんだよ!』
「でも…そんなに立て続けに悪夢を見ると心配だね。神棚にあった石は欠けてなかった?」
『もう確認したけど欠けてなかったよ。もう、どうしてこんなのばっか見るんだろう……』
………こ、心当たりがあるかもなんて言えない…!!
あの後、再び夢を見た。仮面をつけた一頭身の生き物に「もうスターロッドをいじるなよ」と怒られる夢だった。それ以降、あの星の杖が立つ綺麗な噴水の夢を見ることもなくなったのでまるっきり意味が分からない。もしかしたら、ただの夢だったのかもしれない。
☆夢の泉
星のカービィシリーズ『夢の泉の物語』と『夢の泉デラックス』に登場する、夢を見せるパワースポットのひとつ。全ての生き物の夢と希望が集まり、眠りに付いたものに夢と安らぎを与える。『大乱闘スマッシュブラザーズDX』の「フィギュア名鑑」には、「スターロッドの力によって夢が作り出されて泉の水に溶け込み、水が蒸発することで眠りについた生き物に良い夢を届ける仕組みになっている」と記されている。
☆スターロッド
上記の夢の泉に設置されている、夢の源となっている杖。本家では、カービィがこれを武器として悪夢の化身・ナイトメアと戦うことになる。
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P16, 空島伝説
その代わり、あの後輩が登場DA!!!!!
『はい、七海です』
「久しぶり、ナナちゃん。元気してた?」
『あお先輩? 珍しいですね。どうしたんですか?』
「“空飛ぶ島”のニュース、見た?」
『勿論です。気象を専攻している身として、研究対象に関するニュースは見逃せません。でも、みら先輩には言わなくて良いんですか?』
「ええと……みらにはもう教えた後なんだ。物凄くテンション上がってたよ」
『…容易に想像できます。相変わらず仲が良いですね。
それで、私に電話したってことは………空飛ぶ島―――通称「空島」について詳しく聞きに来た……ってことで良いんですか、真中博士?』
「もう…やめてよ、博士なんて。確かに空島について聞こうとしたのは確かだけどさ。
それに、さっき研究対象って言ってなかった?」
『まぁ、研究対象といえば研究対象ですね。空に島が現れたって聞いたら皆こぞって調べようとしますよ。
……強硬派の殆どが原住民に返り討ちに遭って、現在慎重に事を進めています』
「いま凄まじい話が聞こえた気がするけど、気のせいだよね。
…それで、何か分かったことはある?」
『そうですね……まず、空島には「土」がありません。私達が触れない普通の雲――海雲というそうです――と、人が乗る事のできる「島雲」で出来ています』
「く、雲で出来ている!?」
『はい。島雲は大地の性質を持った雲、といった感じです。何気に大発見なんですよ? なにせ…今までの雲の構造と180度違うんですから。
あとは……鉄やゴムがない代わりに島雲を加工した道具や
「だいある?」
『貝の殻頂を押すことで、それまで溜めたエネルギーを放出できる品種なんだそうで。』
「どういうことなの……?」
『私達の生活で言うところの録音機や照明、カメラ代わりになる貝から、衝撃エネルギーを放出する貝もあるようです。現在手元にいくつかサンプルがありますよ』
「なるほど。でもそれ、大丈夫なの?」
『危険なものは
「気をつけてね、ナナちゃん」
『常に色んな所を飛び回っている先輩に言われたくないです。聞きましたよ、マジルテに行った事』
「うっ……」
『……まぁ、私も気をつけますよ。穏健派による、貿易交渉も始まる頃合いですけど、まだ観光とか現地調査とかは厳しいかと思われます。しばらくは
「分かった。ありがとう。それじゃあね」
数日後、ナナちゃんから私に貝が届いた。拾った音を貝の殻頂を押すことで再生する、録音機みたいな貝だった。海の音以外の音が流れる貝は、聞いてて新鮮だった。
正式な国名が発表された。現在、地上の人間とスカイピアで、親睦の協定が前向きに進められているんだそうだ。もし入国できるようになったら―――みらを連れて、行ってみようかな? でも、落ちたら大変そう……
☆スカイピア
『ONE PIECE』に登場する空高く積み上げられた雲「積帝雲」の表面にある、空に浮かぶ島(スカイピアとは、厳密にはそこにある神の国の名前である)。地上から行くには険しい道のりを行く必要があるため、あまり知られていなかった。ここでの神とは、スカイピアを治める首長のことである。
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P17, 星の体内
地上に現れた大きな空洞への道。
入口付近の調査から、天井が高く、どんな危険があるかわからないと判断した。
今回は奥まで調査するにあたり、無線カメラを搭載したドローンを用意してある。プロペラがしっかり保護されていて、万が一洞窟の壁にぶつかってもある程度は大丈夫な、頑丈性が保証されているものだ。
……よし。今回は、コレで行ってみよう。
私の操作に従って、大きな空洞に吸い込まれていくように潜行するドローン。私は、無線カメラで撮った映像を見ながら、ドローンを奥へ奥へと進めていく。
はじめは、思った通りの雨水の侵食でできた洞窟であって、いくらドローンで進んでも変わり映えはしなかった。
ここを通った先に、何かがあるとは思えない。でも、何かあるかもしれない。ここまで大きな空洞が発見された以上、地学者としては調べずにはいられない。
だが、ドローンを奥へ奥へと進んでいくと、無線カメラから見える光景に変化が表れた。
「これは…光源?でも、どこから……」
…それは、奥からだった。
洞窟を抜け、出口から光が差しているとかそんなレベルではない。
ほんのり緑色で、淡い光が下側………つまり、地球からみてマントル側から放っているようなのだ。
まさか、もうマントルに行ってしまった? …いや、そんなわけがない。
こんな短時間でマントルに辿り着いてしまったとでも言うのなら、地球の生命体はほとんど滅びている。だったら、どうして―――
「!!?」
何かが見えた。
もう一度、ドローンを操作して一瞬見えたものを再度映そうとする。
ゆっくり操作して見えてきたものは、女性のような上半身とタコのような触手、そして……顔の部分が、人間とは思えないような―――
「うわっ!!?」
ザーーーーーーーーー………
「………………」
……突然何らかの機械音が響くが最後、モニターに砂嵐が舞い、何も映さなくなった。
何が起こったのかは、だいたい察しがつく。でも、信じたくはなかった。何がどうしてあんなに地中が鮮やかなのか。何故あんな、見たら正気度が減りそうなタコと人の合体があそこにいたのか。なぜ、攻撃してきたのか。
既に分からないことだらけだけど……
ドローンの撮影映像は記録に残っている。
その映像を見ていると、中に入って調査する事など恐ろしくてできない。
「……ここまで、かな」
残念だが、引き際だろう。
記録媒体を回収して、私は空洞付近から撤退することにした。
―――完全に余談だが、後日向かった調査チームによると、淡く光るスポットは発見されたようだけど、私が発見した『女性とタコが合体したような生物』は発見されなかったらしい。お陰でオカルト否定派の人あたりから「合成した」「捏造だ」と散々言われてしまった。
……私は、知らぬ間に都市伝説をまた一つ作っちゃったのかなぁ?
でも、映像にはしっかり映ってるし………まぁ、いいけど。
ヤブヘビだったとしても、突く必要はないよね?
淡く緑色に光る空間を発見。しかし、真中博士(つまり私)によって生命体のいる可能性が浮上。捏造の可能性も低く、必然的に未確認生命体がいる可能性も踏まえて、今後は慎重に調べていくんだって。
☆星の体内
『ファイナルファンタジーⅦ』に登場する、「大空洞」の奥にあるいわばラストダンジョン。淡い緑の光に包まれており、浮遊する岩の足場が特徴的。ここには鉄巨人やドラゴンゾンビの他、ジェノバという生命体の一種「ジェノバ・
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P18, 惑星ベジータ調査録
「いらっしゃいませ~、スズヤベーカリーに……わ、あお!」
「お久しぶりです、すずさん」
「ほんとよ~! 一体何年うちに来てくれなかったことか…!
高校時代のバイトが懐かしいわ~!」
久しぶりに来たパン屋・スズヤベーカリー。みらのお友達のすずさんがやっているパン屋さんだ。相変わらず大人気でなによりだ。
ここに来たのはまぁ…時間が取れたっていうのもあるけど、ちょっと…疲れちゃったから、ここのパンを食べたいっていうのもあるかな。
「ねぇあお、今日はなに買う~? おすすめは野菜パンだよ~!」
「や、野菜……やさい…サイヤ……うっ、頭が…」
「何があったの!!?」
「ちょっとした取材の帰りで……サイヤ人と惑星ベジータについて調べてたの……」
「なにその野菜みたいな名前の人と惑星は」
きっかけは、とある企画の雑誌用の取材でご一緒した武道家のミスター・サタンのひとことだった。
惑星や星、宇宙関連が好きな私は、そこでサタンさんがサイヤ人の知り合いがいることを教えてくれた。そして、その知り合いがいる会社―――なんと、あのカプセル・コーポレーションだったのだ―――に連絡をとってアポを取ってくれた。
そこまでは良いんだけど……
「サイヤ人の方々は、クセが強すぎる……」
「ほんとに何があったのさ」
「まず悟空さんは……自由すぎる。
約束の時間に遅れるどころかすっぽかすし……」
「うーわ。それは災難だね…」
「食べるご飯の量がおかしい。」
「山盛りなの?」
「ううん。それ以上。大人の男の人の数十倍は食べてたかな」
「は? えっちょ、数十倍って言った? それ、人間の食べる量じゃなくない?」
「目の前で見てた私が一番信じられないよ。思い出すだけで吐きそう……」
「お腹一杯を通り越して!!?」
「ベジータさんは…話すのがすっっっごく大変だった……
最初の一言が『なんだ貴様は?とっとと失せろ』だよ?」
「うわぁ……どっちもどっちってレベルでヒドいわね……」
「正直、ブルマさんがいなければどうなってたことか…」
「ブルマ?」
「ベジータさんの奥さん。カプセルコーポレーションの社長さんでもあるの」
「…ベジータさんって男の人よね? まさか、ヒ―――」
「言わない方が良いよ。殺されるから」
「こっ―――!? う、嘘よね?」
「…分からない。空飛んでたし、エネルギー波を撃てるみたいだから。悟空さんとベジータさんの修業で見ました」
「空を飛ぶ!? エネルギー波!!?
ねぇその人達大丈夫!? 実は物凄く悪い人でしたとかない!!?」
「あ、それはないよ。ブルマさん曰くベジータさんは家族想いらしいし、悟空さんも基本的に大らかで人当たりの良い人だから。……ただ、自由さとご飯の量が尋常じゃないだけで。
……ちなみにすずさん、ブルマさんからお裾分けもらったんですけど要ります?」
「この流れで貰うと思うの!!?」
ちなみに、お裾分けを実際に見てもらったら引かれた。
さ、サイヤ人の奥さんってとんでもなく逞しいんだね………
情報的な収穫はたくさんあったけど食糧的な収穫(お裾分け)がそれ以上にあったとか聞いてない。ちなみに、この取材の後……体重が…………おのれサイヤ人。
☆惑星ベジータ
『ドラゴンボール』に登場する、サイヤ人の住んでいた惑星。もともと「惑星プラント」という名前でツフル人が住んでいたが、惑星サダラが崩壊したことで侵略してきたサイヤ人によって改名され、サイヤ人に住む惑星となった。ベジータ王がフリーザ軍と同盟を組み惑星強奪業の下請けを行った際には拠点としてにぎわったものの、超サイヤ人の存在を危惧したフリーザ(後にもっと上からの示唆があったことが判明するが)により破壊され、消滅した。
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P19, 真中あお、たま市に行く
『きららファンタジア』の2部が追加されることにちなんで、『きらファン2部』でオーダーされるあの作品からあそこが登場です。
当たり前かもしれないけど、魔法と言うものは、科学技術が発達していく過程で名前すら聞かなくなる程に否定されていった。
…まぁ、「十分に発達した科学は、魔法と見分けがつかない」とも言うし、私はあまり詳しくそこら辺に言及するつもりはない。私は地学者なのだから。
そんな私が記すのは、この前経験した不思議な経験のこと。
本命の調査中に起こったあのことをここに書き記しておこうと思う。
それは、日本のとある県に所在する街・たま市に行った日のことだった。
この街の地脈・地理・構造……それを、地学的な観点から観察するということでやってきて数日たった時期の、とある喫茶店に寄った時の事だった。
「いらっしゃい〜、1名?」
「はい。空いてますか?」
「カウンター席でええんなら」
「お願いします」
そこには、レトロチックな空間が広がっており、私にはどこか奇妙な懐かしさを感じた。かつてのインテリアがあった時代に生まれてなかった私ですら懐かしく思うのだから、徹底したインテリアが伺える。
「ご注文は?」
「このお店のオススメをひとつ」
「まいど~」
そう言って、ほんのり青い髪の、何故か寝ぐせのスゴイ女の子は引っ込んでいった。
まもなくして、私の前に『Aランチ』なるものが運ばれてきた。
やや小さめのお皿には、ビーフシチューと、サラダと、パスタと目玉焼きが一緒に盛り付けられていた。女性にも気を遣ったボリュームだ。
デザートであろうパフェにも、様々なフルーツが色とりどりに飾り付けられている。正直、食べるのが勿体ないくらいだ。
「………美味しい」
そして、そのごはんはやはりと言うべきか、絶品だった。
一緒に食べることを想定され、素材の味を活かしきり、絶妙に味付けされている。
まるで、脳に翼が生え、天に昇ってしまいそうな感覚だ。
生まれて初めて味わう感覚に、時間さえも忘れて、ただひたすらに手を、動かす―――
「……はっ!」
……気が付けば、注文したはずのランチもパフェもなくなっていた。
危なかった。もし、これらがなくなっていなければ、私の人生はランチとパフェを食べるだけで終わっていたかもしれない………
…という冗談はナシにしても、ウッカリ夢中になれば、周りが見えなくなるレベルで危ないかもしれない。
そうだ! 食べ終わったことだし、調査調査!!
「すみません……あの、お会計をお願いしたいんですが………!」
「わかったわ~」
「えーと、財布財―――!?」
「お客はん、どないしはったん?」
「………いえ、なんでも……」
「そ。これがレシートな。ほな、また来てや」
……いま、店員さんの跳ねた寝ぐせが動物の耳っぽく見えた気がするけど、気のせいだよ、ね……??
某県多魔市内の商店街に点在する純喫茶。レトロな雰囲気のインテリアとなっており、SNS映えすることは間違いなし。
料理も絶品で、一口食べたら忘れられなくなるほどである。………って、なんで私は食レポを!!?
この街の地脈関係を調べにきたつもりだったのに………
☆喫茶店「あすら」
『まちカドまぞく』の舞台であるたま商店街にある、レトロな風格と個性的な店員が特徴の純喫茶店。料理が絶品らしく、リピーターも多い。また、店員は京都弁を使って話す女の子がいるのだとか。彼女はとても美しいのだが、敬語等は一切使わず人を食ったような態度も取るため客によっては怒ることも。また、店内で二足歩行しているバクを見かけた、なんてうわさ話もある。
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P20, 金色のパズルピース
さて、新年一発目の今回登場するのは、あの人です。
「あお先輩、突然押しかけてすみません」
「チカちゃん? ど、どうしたの、急に……?」
「急用ができまして」
そう言うチカちゃん――ホントは
「実は、少しお願いしたい事ができまして」
「な、なに…?」
「こういう、金色のジグソーピースを拾いませんでしたか?」
彼女が取り出したのは掌よりも明らかに大きなパズルピース。明らかに一般的にイメージされてるピースの何倍も大きく、何にはめるのかがまったく想像できない。
「えっと……これは?」
「パズルのピースです。もしこれを持っていて、なおかつ先輩の元にクマとトリの二人組がやってきたら、彼らに譲ってあげてくれませんか」
………なんのパズルピースかが聞きたかったけど、まぁいい。正直、私も困っていたんだ。このパズルピースのようなものには。
実は、私もチカちゃんが見せてくれたものと同じものを持っている。数日前、たま市の調査を終えて帰る途中に乗り継ぎの駅の隅で拾ったのだ。駅に落ちているにはミスマッチで珍しいもので、誰かの落とし物とも思えない、ホントに隅っこに落ちていたので、調べようともした。
しかし……材質が謎なのだ。はじめ、金製なのかとも思ったが、パズルピースに金の重さや延性・展性がない。かと思えば簡単には錆びないし、ことごとく金の特性と似たりしている。
これはいったい、何で出来ているのか……?
「……その、クマとトリの二人組ってなに?」
「何でも、妹を助けるために旅をしているらしくて。」
「い、妹? クマとトリの?」
「クマの妹です。悪い人に攫われたそうでして」
「えっ!!? さ、攫われたって……」
「詳しくはコレで」
人差し指を口元に立てられる。
内緒、って事? でも、どうしてそんな……
「巻き込まれたら大変ってこと?」
「そういう事です。クマさんとトリさんを信じてあげてください」
「う〜〜ん、事情は今知ったばかりで分からないことだらけだけど……つまり、そのパズルピースを持ってたら、そのクマさんとトリさんに譲ればいいってこと?」
「はい。」
「そういうことなら……分かった。もし来たら、譲っておくね」
「ありがとうございます。」
「あ、そうそう……お姉さんに連絡してる? 桜先輩、心配してたよ」
「……そういえば、最近は姉と連絡取ってませんね…覚えておきます。では、失礼します」
チカちゃんが訪問してきた次の日、本当にクマさんとトリさんがやってきた。腰を抜かすかと思ったが、パズルピースを譲ったところ、大喜びしてくれた。しかもお礼を言ってきたから更にビックリした。……動揺しすぎて彼らの名前を聞きそびれた事に気づくのに1時間はかかった。
☆ジグソーピース
『バンジョーとカズーイの大冒険』に登場する、金色に光り輝くパズルピース。各ステージに10こ存在し、集めて魔女グランチルダの砦にあるパネルに合わせて埋めていけば、ステージの入り口が解放されるキーアイテム。
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P21, メメントス
それは、いつものレポート編纂の作業中の事だった。
スマホが震え、親友からの電話を画面が知らせる。
「みら?」
『あお! さっき私ね、すごい人?もの?を見つけちゃった!!』
「すごい………? 何を見つけたの?」
『あのね、地下鉄を使おうとしたら、なんかすっごい広い駅に迷い込んでね、そこで怪盗団に出会ったんだよ!!』
「広い駅………怪盗???」
この親友は何を言っているんだろう?……最初にこのことを聞いた感想はこうだった。
しかし、話を詳しく聞いてみると、どうも本当に体験したっぽいと察した。
『線路がばぁーーーーーーーーっと続いていく感じで、なんだか、不安になるようなデザインでさ。
そこで怖い化け物?に見つからないように移動してたら、仮面をつけたカッコいい服の人達に出会ってね! その人達が「怪盗団」らしくって……』
……というか、みらはここまで具体的に生き生きとウソをつけない。
『写真は断られちゃったんだけど、色々と教えてもらったんだ!
広い駅がメメントスっていうたいしゅーのいしきのパレスだってこととか』
「待って、みら。パレス………っていうのは?」
『その人が見てるもう一つの現実……みたいだよ。』
「私やみらのその…パレスもあるってこと?」
『ほとんどの人のパレスになっているのがメメントスなんだって。個人のパレスを持ってるのはほんの一部だけらしいよ?』
「それにしても、みら……よくそのめめんとす?とやらから帰ってこれたね」
『入口まで送ってくれたんだよ! みんな優しかったし、猫のモナちゃんはもふもふだったんだ~!』
「猫………? か、怪盗団に猫がいたの!?」
『うん! まさか猫と会話できる日が来るなんてね〜!』
そう嬉しそうに語るみらに嘘はない。
『また会えるかな〜、モナちゃん!』
「分かった、みら。ちなみに、その広い駅で何か拾ったりした?」
『うん!! 銅貨やら銀貨やら、あと宝石っぽい石と綺麗な石をいっぱい!後であおに送るね!』
「う、うん……ありがと」
―――ちなみに、届いた銅貨銀貨は薄っぺらかったりギザギザだったり、果ては穴が空いてたりして価値は高くならなそうだった。
拾ったのだという石も殆どがただのアスファルトやコンクリート、堆積岩だった。数粒ほど、オニキスやパールといった本物の宝石があった事には驚きだったけど……。
余談だが、この出来事があってからというもの、みらは黒猫を見かける度に「モナちゃ〜ん」と呼びかけるようになった。余程、件の『怪盗団』とやらに再び会いたいようだ。……結果は空振りだけど。今の所は。
現段階では証拠はみらの証言だけで、持ち帰った物にも一見不自然なものはないように見える。詳しくはイノ先輩や桜先輩に聞くとしても、(みらのことは一番信用できる事を置いても)にわかに信じがたいと言わざるを得ない。みらの言ってた「モナちゃん」なる喋るネコが見つかれば話は別だけど、もしそんなのがあったら見てみたいような、ちょっと怖いような。
☆メメントス
『ペルソナ5』及び『ペルソナ5 ザ・ロイヤル』に登場する、大衆意識のパレス。パレスとは個々人が歪んだ心で見ているもう一つの世界である異世界。大衆のパレスだけあってその規模も果てしなく、大衆の心によって姿形を変化させる。
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P22, 土星人?
さて、今回は………あのフォントが見つかりませんでした。アレがない土星人さんはヒゲをそってしまったマリオみたいなものだというのに……!
『もしもし、みらです』
「みら、落ち着いて聞いてね。
………私、いま宇宙人の村にお邪魔してる」
『ふぁっっっっっ!?!?!?』
あ、みらから聞いたことのない変な声がした。
『う、ううううう宇宙人!!?
あお、ちょっと!!ズルい!!写真おくって!!!』
「写真は後でね。いま、映像繋げるから」
スマホのカメラをオンにする。
画面いっぱいにみらが映った。
みらは、私と一緒に写っている存在を見るなり、目を輝かせる。
『へぇぇぇぇ!!? あお、それは…その人?生き物?なに!?』
私の隣にいる生き物。
丸みを帯びた体型に、猫のようなひげ、太い眉毛、二本の足がついていて。
頭に伸びた一本の毛には、赤いリボンが結びついている。
「みら、この方々は『どせいさん』だよ。
どせいさん、この人は、みら。私の友達。」
「みら、いいなまえ。あお、いいなまえ」
「ともだちは いいですのだ。」
「ぽえ~ん」
『わぁあああああ!! しゃべった!! かわいい!』
……そして、この独特な言葉遣い。
彼らは、自分たちのことを「どせいさん」と言った。
私は、探検中にたまたまこの『サターンバレー』を見つけた。
そこには、この「どせいさん」が、まったり平和に暮らしていた。
「どせいさん」………最初「土星さん」と名乗っているのかと思った私は、彼らの謎を解明すべく、彼らのもてなされるままサターンバレーに滞在していた。
そのことをみらに伝える、けど。
『…でもさ、土星ってガス惑星じゃなかったっけ』
「…そうだよね。私も土星の人とは思ってなかった」
土星は、地球とは違って殆どがガスでできている惑星だ。
太陽系の中では木星に次いで2番目に巨大な割には、質量が地球の95倍程度しかない。
中心にこそ鉄やニッケル、岩石等の固体成分があるが主要部分は水素やヘリウムなどの気体だ。地球のように人間が住める環境であるわけがない。普通に考えれば、生命体がいるわけがないのだ。
「……でも、どせいさんが土星から来た可能性は否定できなかった。」
『どうして?』
「どせいさんの技術力。話によると、時空瞬間移動装置…みたいなのも作ったことがあるみたい」
『時空瞬間移動!!!? わ、私ソッチ方面は詳しくないけど……すごいものなんじゃないの!?』
「瞬間移動でさえ今の人類にはできないんだよ。時空を瞬間移動って…まるでSFの話だよ」
『な、なんか壮大な話になってるけど……どせいさん、どうなの?』
「せかいひろい いいです。」
『「…………」』
みらの質問へのどせいさんの答えは……やっぱりというべきか、よくわからない。
どせいさんの言葉は日本語ではあるんだけど、なんだか………意図?意味?が読み切れないんだよね………私もここに来てから彼らの言葉を読み取ろうとはしてきたけど、やはり今一つ自信がない。
『……質問の仕方が悪かったのかな?
どせいさんどせいさん、ちょっといい?』
「いいですよ」
「なにです?」
「どんなよう?」
『どせいさんはどうしてどせいさんなの?』
「え? みら、さっきより質問が曖昧になってない?」
「ここにいるです」
「いきてて よかった。よーーかったーー。」
「かんがえるからいるです。」
『…………………あお…』
「………なに?」
『わ、わかった?』
「こればっかりはさっぱり……」
どせいさんを理解する道のりは長そうだった。
かなりの技術力を持っているのは間違いないけど、言語を始めとして一般の人間とはまったく異なる感性を持っている(他にも、テーブルの上にイスがあったり、高いところに黒電話があったり、温泉でコーヒーを飲む習慣があったりした)。誠に不甲斐ないことに、私が調査した結果、判明したのは温泉とアイスコーヒーの意外な相性とブタようかんの美味しさでどせいさんと分かりあえることだけだった。
☆どせいさん
『MOTHER2』『MOTHER3』に登場する種族。丸い体型・大きな鼻・猫みたいなヒゲ・太めの眉毛・2本足といった可愛い姿をしているが、使用する言語「どせいさん語」がかなりシュール。文字は日本語のひらがなに近いが、発音も文法もどの言語とも共通性がなく、翻訳は難関を極める。他にもインテリアの価値観が地球人とまるで違い、温泉とブタようかんなる菓子をこよなく愛するといった、温厚な種族である。
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P23, 赤い月
「もしもし、みら。今、大丈夫?」
『もちろん! 今日は、スーパームーンだよね!』
「そう。今回は皆既月食も同時に起こるんだって」
『生まれて初めてだね!! 月食とスーパームーンが同時だなんて!!』
「24年ぶりなんだって。次は10年以上かかるとも言ってたよ」
『うっ……10年後かぁ…私達もいい年になっちゃうよ』
本日、晴天。空を見上げれば、綺麗な星々が見える夜。
お月さまも、バッチリ見える。雨の予報もないから、今夜は安心して夜空を観察できそうだ。
私は夕飯を早めに済ませて、ベランダに出ながらみらに電話をかけた。
『ふわぁ………、赤いね……!』
「皆既月食はブラッドムーンとも呼ばれているんだ。太陽と地球と月が一直線に重なった時に地球の大気圏を通った光屈折して届くからたいていくすんだ赤色になるの。そこから、ブラッドムーンって呼ばれてるんだよ」
『た…確かに、言われてみればちょっと血っぽいかも………
で、でも、怖いことだけじゃあないもん!!
例えば……そう! すずちゃんのパンが今日はより美味しかったの!!』
「……え? それ、関係ないんじゃ……」
『すずちゃん本人も言ってたよ~? 「今日のアップルパイ大成功した」って。分けてもらったんだけど、物凄く美味しかったの!! パンもいつもよりいっぱい売れたんだって』
「大成功って何……? いやでも、今日のごはんはなんだか美味しかった気がする…」
『あお、今日の夕飯はなんだったの?』
「……シーフードカレー」
そうだったんだ!って声を受話器越しに聞きながら考える。
そういえば今日、絶滅種を発見したって人達のネットニュースがあったっけ。目撃した人も多く、川辺や林、更には住宅街でも見かけた人がいたんだって。映像も鮮明で、複数のメディアで流れてたニュースだった。
たぶん…ただの偶然、のはずなんだけど。考えすぎかな。このご時世、その気になれば映像だって作れちゃうから。
『……あ!ちょっと欠けてきたかな?』
「…うん。そろそろだね」
とりあえず、今は見上げた空にある―――あの欠け始めた月。
あれを、大好きな親友と一緒に見ることにしよう。
「綺麗、だね」
『うん。キレイ………!』
月が欠けていき、やがて完全に欠けた頃。
真っ暗な夜、真ん中に浮かぶほんのり赤い満月が、私達を静かに照らしていた。
翌日。
みらのあの発言がどうしても気になった私は。
「あの…すずさん。昨日のアップルパイとか、残ってます…?」
「なになに、どうしたの…??」
ブラッドムーンが浮かぶ日のパンを買いにスズヤベーカリーに行きました。
………食べ比べた結果、信じられないことに、今日の焼きたてよりも美味しかった。どういうことなんだろう……?
ブラッドムーンとも呼ばれている。あの日はスーパームーンと皆既月食が同時に発生する日だったためか、絶滅種の目撃情報が増えたり、料理が格段に美味しくなったり……いやいやいや、それはない。いくらなんでも、因果関係がなさすぎる。でも、あの味は本物だったし……いや、ただの偶然だ、偶然。今回の希少な天体観測は親友と有意義に行えました。はい終わり!
☆赤い月(ブラッディムーン)
『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』に登場する天文現象。リアルの
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P24, 私と旅人と欠けたメダル
それは、戦火がまだ燻ぶっている地方にたまたま寄った時の出来事でした。
私は、まっぷたつに割れたようなメダルを拾った。
そして、その後……それを探しているらしき男の人とも、出会ったのである。「メダルがない〜」って呟いていたから、すぐわかった。
「おかしいなぁ〜…ここら辺に来るまでは持ってたはずなんだけどなぁ…」
「あの、すみません。これ……落としましたか?」
「…! そ、そうです!俺が落としたものだ!!
ありがとうございます! 大切なものだったんです!!」
鉄道の駅近くでうろうろしていたその人に渡せば、予想以上の喜びようだ。
「そんなに大切なものだったんですか?」
「はい。俺の大切な、相棒のものだったので」
「そうでしたか…」
…相棒、か。
私にとっての、みらみたいなものかな。
確かに、みらを思い出すくじら座のキーホルダーは、今も大切に肌身離さずつけている。
手荷物を確認すればほら、そこについて……………
「…あれ? ない……!」
「ど、どうしました?」
「キーホルダーがない! ど、どこに落としちゃったんだろ………」
まずいよ……みらとの思い出が詰まったものなのに……!!
「……良ければ、手伝おうか? そのキーホルダーを探すの」
「で、でも…貴方の予定とか、大丈夫なんですか…?」
「いいのいいの。人間、助け合いが大切なんだから。
…それで、落としちゃったのはどんなキーホルダーなの?」
爽やかにそう言った男の人は、火野映司と名乗りました。
*
結論から言うと、くじら座のキーホルダーはちゃんと見つかりました。荒れた道路の茂みの中に紛れていたんです。きっと、木の枝か何かにキーホルダーが引っかかっちゃったんだろう。
ただ……時間がかかりすぎて、見つけた頃には日が暮れちゃったけど。
「…見つかって良かったね」
「ありがとうございます火野さん。これは…友達との思い出の品なんです」
「友達かぁ…」
「みらって言うんですけど…名前が、くじら座の変光星と同じだから、それにちなんで買ったんです。みらと、一緒にいられる気がするから」
「なるほどね。俺にとってのコレみたいなモノだったんだ。」
「火野さんのその欠けたメダルは何なんですか?」
最初に拾った時、不思議な感じがした。
メダルの材質は、金属でもなければ、石とかでもない。なんだか、どんな鉱物で出来てるんだろうって思って、調べようと思ったんだ。
まぁ、火野さんのものって分かったからすぐに返したけどね。
「さっきも言ったけど、俺の相棒……アンクのものなんだ。今はちょっと、会えないけど……いつかまた会うために旅をしてる。世界を回ってね」
「さっきみたいに、人助けをしながら、ですか?」
「ははは、おかしいかな?」
火野さんにとっては、その、あんくさんのものだという欠けたメダルが大切なものなんだ、と分かり。みらの言葉を思い出す。
『皆それぞれ好きなものや得意なもの…その人の「世界」を持ってる。ひとりでいたら世界はひとつだけど、それがもしたくさん繋がったら……可能性がどんどん広がって…大きくて未知数で―――宇宙みたい』
だから、それは火野さんにとっての世界なんだ。
「…おかしくありませんよ。ひとりでいたら世界はひとつですけど、たくさん繋がれば、可能性はどんどん広がります―――それも、宇宙みたいに。
私も、ある夢が叶ってからは、もっとたくさんのものを知りたくなって、世界を回ってますので」
「……そっか。たくさん繋がれば、世界は宇宙みたいに広がる、か。俺とちょっと似てるね」
「火野さんと?」
「俺の夢はね、自分と他人とが繋がって紡がれていって、どこまでも広がっていって、誰にでも届く腕になっていくことなんだ。」
「………!」
確かに…ちょっと似てるかも。
人の手は一人だと限りがあるけど、皆と繋がれば広がっていくみたいに……それは、たくさん繋がれば広がっていく「世界」みたいだった。
「素晴らしい夢ですね。応援しても、良いですか?」
「もちろん! ありがとう、真中さん!」
こうして、不思議だけど、楽しい出会いの夜は更けていった。日が変わる前に別れちゃったけど、きっとこの日の出来事は忘れないだろう。
私の「小惑星を見つける」夢も「もっと広い地球と宇宙を知りたい」夢も彼は気持ちよく肯定してくれた。ただ、欠けたメダルが何かは結局は分からずじまいだったけど。まぁ、また火野さんと出会った時にでも聞いてみよう。見知らぬ人の落とし物を一緒に探していくれるほどお人好しなあの人なら、快く教えてくれるはずだから。
☆コアメダル
『仮面ライダーOOO/オーズ』に登場するキーアイテムにして、仮面ライダーオーズの変身アイテム。800年以上前に当時の錬金術士たちが人工の生命を作るため、地球に生息する様々な生物種のパワーを凝縮して作った神秘のメダル「オーメダル」のうち、生物のパワーがより大きく封じられたもの。同作品に登場する敵「グリード」の核となっていて、基本的に増殖したり消滅することはないが、とある方法で破壊する事が可能である。
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P25, 月の石
「自分もリクエストしなくっちゃあな」と思った方は、活動報告から「真中博士へメッセージを送ろう!」という記事へアクセスし、調査依頼を送ってください。
「月の石でポケモンが進化した!?」
『そう。私この前、オーキド博士と会ってきたんだけどね』
「い、いつの間に、桜先輩……」
アメリカの某博物館で新たに展示された月の石を見たことをみらに報告した数日後。
私は、桜先輩(桜井美景)から電話がかかってきた。なんでも、「月の石について新たに分かった事がある」らしいんだけど……まさかポケモンに関係するなんて。
『オーキド博士って知ってる? ポケモン研究の第一人者の』
「……ジラーチ調査の際に会いました。複数いるかもしれないって言ったら呼ばれたので」
『な、なにそれ!? ジラーチ複数説の発信源あんただったの!?』
「まぁ……説っていうほどのものじゃないですよ。証拠も乏しいですし」
『…まぁいいわ。最近ね、その人が月の石で進化するポケモンを発見したそうよ』
「色々見つけてますね、オーキド博士……」
流石はポケモン研究の第一人者だ。桜先輩との化石ポケモン展覧会に参加したことがきっかけで書いた『化石ポケモンから学ぶ、生物化石の復元』だって、オーキド博士の許可を貰った。まぁ、発表するまでまだ時間はかかるけどね。
「それで、ポケモンが進化した月の石って……あの、月の石なんですよね?」
『えぇ、そうよ。アメリカの月面探査機で拾ってきたものだったらしいわ』
「地球の石とは何か違うんでしょうか?」
『まぁ……色々違うわね。まず月の石って地球の岩石よりも古いの』
「具体的には?」
『放射年代測定で30~40億歳ってデータがでてるわ。
それと、カリウムやナトリウムが地球の石よりも乏しいのよ』
「う~ん………つまり、地球の石よりも古いから、ポケモンが進化したのでしょうか?」
『いちおう、このことはオーキド博士に言ってみたんだけどね。
博士曰く、間違ってないかもしれないけどもっと違う観点からの理由があるんじゃないかって』
「違う観点?」
『ヨーロッパでは、昔から月は神秘学や西洋占星術の対象だったんだって。狂気の象徴だったこともあるんですって』
「あぁ…言われてみれば、日本でも月の海が『うさぎが餅をついている』ように見えるって言いますよね。そういう事も関係しているんですか?」
『可能性はゼロじゃないって。』
「なるほど…………」
成分とか年代とかだけじゃなくって、伝承とかも進化に関係しているのかな?
「ちなみに、桜先輩はこの後どうするんですか?」
『もうちょっとポケモン研究してるっていう博士の研究を見ていくつもりよ。それが終わったら、ダイヤモンド関係を調べるつもりだわ。あおはどうするの?』
「そう、ですね……月の研究でもしようかなと。」
『なるほど、月ね……』
「あ、そうだ先輩。ブラッドムーンの時、料理の出来がとてつもなく良くなるの知ってますか?」
『……え? 何言ってんの?』
「まぁ……そういう反応になりますよね……」
『ど、どういう事!? 気になるんだけど!!』
桜先輩にどう説明しようかな……すずさんのアップルパイもあの日のシーフードカレーも全部食べちゃったし、証明のしようがないぞ…
桜先輩経由で進化したポケモンのデータを見てみたが、ふうせんポケモンという月とはあんまり関係なさそうなデータだった。歌を聞けば眠らない者はいないとか、20倍に膨らむとかも月と関係あるのだろうか………?
☆つきのいし
『ポケットモンスター』シリーズに登場する、進化アイテム。様々な形が確認されており、マーブル模様の角ばった石だったり、夜空のように黒く透き通った黒曜石のような見た目だったり、白い三日月状だったり、隕石をモデルにした黒っぽい石だったりする。初代から進化アイテムとして描かれており、元ネタはアポロ11号が持ち帰って来た「月の石」。他の進化石に比べて若干仲間はずれっぽいネーミングなのはそれが理由である。
現在はたいようのいしと対になる関係になっており、仲間はずれからは脱した。
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P26, 金剛石生命体
これを読んでいる皆へ。
もし、ダイヤの指輪と呼ぶには大きすぎるダイヤモンドの指輪・しかも顔付き(オマケにちょっとかわいい)を見つけてしまったら、どうしますか?
「…………」
「…………」
―――私は、思いっきり固まりました。全身が急にダイヤモンドにでもなったかのように。
かつて隕石が落下したと思われる採掘場所。私は、たまたまそこで謎の生命体と出くわしたのだ。
つぶらな瞳ににやけたような口元。姿かたちは、先述したようにダイヤモンドの指輪がそのまま大きくなったよう。
「………!」
「あっ…!」
少しだけ私と目があったそれは、一瞬だけ止まると、目にも止まらぬスピードで、一目散に逃げ出してしまった。
それからというもの、私はあの生き物の正体を探るべく、色んな手を使ってみた。
まず、相手は逃げ足がとてつもなく早いと分かっていたため、追いかけるという線はなし。数秒で引き離されておしまいだ。
そこで私は、あらゆるものを餌に、あの生命体が何に食いつくかを検証してみた。
用意したのは、パン、お肉、キャベツ、リンゴ、そして……ダイヤモンドの指輪。費用は…大体15万円ほど。ほぼダイヤモンドが割合を占めているのは言うまでもない。
買ってきたそれらを、目撃現場に並べて、捕獲用の罠を仕掛ける。落とし穴とか、害獣捕獲用の網とかだ。本命のダイヤモンドには重点的に仕掛ける。10万円もかけたんだ。簡単に取られるわけにはいかない!
そして、現場にカメラをしかけて、私は距離を取って別の場所で待機する。
簡単に現れるとは思っていないから、何日かキャンプする覚悟で用意しておいた。
さて、また現れてくれるかな、あの生き物は。
―――1日目。
ダイヤモンドのあの生命体、姿を現さず。
―――2日目。
日中に姿を現すことはなかった。しかし…夕陽が暮れ始めた時間帯、変化が現れた!
「……!! 映像に映っている!!」
そう。例の生き物がカメラに映っていた!
私は、途中の食事をほっぽって、食い入るように映像の先の生き物を見つめる。
それは、現場に置かれた様々なモノを物珍し気に、遠目から見つめている。
「……結構、警戒心が高いんだな…」
生き物の専門家でも呼んだ方が良かったかと思ってしまう。
でも見た目からダイヤモンドの指輪を大きくしたようなものだし…信じてくれるかどうか。
もっと証拠を集める意味でも、もっと観察する必要がある。
……そう考えた時だ。
「なっ!!?」
ダイヤモンドの生命体が動き出した。
まるで罠の位置を知っているかのようにジグザクと罠のない場所を突き進み、まっすぐダイヤモンドの指輪へ向かっていく!
「いや、でもカゴの中に入らないと指輪は取れない……!」
映像を持って現場へ急行しながら映像越しの様子を見る。
この時の為に用意した罠の中に、タヌキやら何やらを捕らえる用の、入ったら扉が閉まる仕掛けのカゴがある。ダイヤモンドの生命体の目的がダイヤの指輪ならば、それを取るためにカゴの中に入らないといけない。
すると、映像に異変が起こった。
「うわっ、見えない、これ…光!!?」
カゴの外側に近づいた生命体が発光したのか、映像では見えなくなってしまったのだ。
映像から目を離して遠目に見れば、罠たちを置いた場所から光が放っているのが見えた。
「なに、あれ……!?」
現場に到着した時、目にしたものは、一部が溶接でもされたかのようにこじ開けられたカゴだった。
中にあったダイヤモンドの指輪は、影も形もなくなっていた。
「やられた………!」
それ以降、夜が明けるまで、あの生き物が現れる事はなかった。
―――こうして、最初の私とダイヤモンド生命体のファーストコンタクトは、私の財布に大打撃を与える形で終わりを告げたのであった。
「―――ってことがあってさ……」
『うわぁ……あお、何円くらい損したの?』
「15万くらいかな……大損だよ…」
『あ、あお…大丈夫?帰ってきたらなにか奢ろうか?』
「…………」
みらの親切心ながらのその台詞になんて答えたらいいか、ものすごく迷ったのは想像に難くないだろう。
私の財布に大打撃を与えた宿敵。いつか再び見つけた時は、必ず捕まえるなり証拠をこれでもかと掴んでその生態を暴いてやる。……まぁそれはそれとして、お金どうしよう。この生命体の為に15万近くのダイヤの指輪を買った私は、今になって思うと正気とは思えない。
☆ダイヤモンドスライム
『ドラゴンクエストモンスターズジョーカー2プロフェッショナル』『テリーのワンダーランドSP』『イルとルカの大冒険SP』に登場する、メタル系スライムの新種で、黄金のリングにはめ込まれたダイヤモンドの指輪の姿をしたスライム。常にキラキラと輝きを放っている何ともゴージャスなモンスター。スライム界の宝石とも称され、こいつを恋人に贈ると必ず結ばれると言われている。
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P27, 週に一度の扉
今回は、アニメを見た回数やオタクの練度によって、脳内で再生される声が変わると思います。
今更になるが、私は広く調査依頼を募集している。……宣伝方法が悪いのか、それとも『小惑星あお』の発見以来大きな発見がないからか……ほぼみら達のメールボックスと化しているけど。
今回は珍しいことにその中に調査依頼が入っていた。
『一週間に一度現れる扉の調査』……これだ。
その名の通り一週間に一度、明らかに変な場所に扉が現れるのだという。依頼主に詳細を聞いたところ、具体的な場所まで示してくれたため、調査に踏み切った。
で、どうやって調べるかというと……やはり、毎日扉が現れるという場所まで行って調べるしかないだろう。一週間に一回現れるのであれば、ほぼ確実にいつか扉は現れるからだ。
場所は、某県某市の、遺跡発掘現場の跡地。依頼主によると、こういう場所に見合わない木製の扉が現れるみたいだけど………
*
調査開始3日目。
「あれか……」
私は、発掘現場の最奥に、ぽつんと佇む扉を発見した。近づいて見てみると、古い感じの木製のドアに、猫のエンブレムがかかっている。
「『洋食のねこや』……?」
私は、エンブレムの猫がくわえていた看板?に書かれている文字を目で追った。昨日までは影も形もなかった木製の扉が、いま目の前に立っている。
どうして、こんなところに扉があるのか。『洋食のねこや』って何?これを開いたらその先に何が待っているのか。言葉には表しがたい緊張と高揚が全身を駆け巡る。
意を決して、私は扉を開いた―――
「いらっしゃいませ!」
「……………え?????」
…今、目の前でありのまま起こったことを表すならば……
『私が発掘現場に不自然にあった扉を開けてみたら、そこには洋食屋の内装があった上に、ウェイトレスさんに出迎えられた』。
何を言っているのか分からないと思うけど、私自身も何が起こっているのか分からない。
マジックかと思い、扉の反対側を見て、手を伸ばしてみる……が、なにも手ごたえがない。
まさか、これって……
「ここ、洋食屋……ですか?」
「はい! お好きな席へどうぞ」
いや、お好きな席へって言われても……さっきの衝撃がぜんぜん抜けてないんだけど。
まるで夢に入り込んだかのような足取りで、テーブル席のひとつへつく。そうして間もなく、角の飾りがついたウェイトレスさんが、レモン水が入ったビンとメニューを持ってきた。
「東大陸語は読めますか?」
「東大陸語って何ですか?」
「えっ…」
聞いたことのない言語について尋ねたら、「少々おまちください」とウェイトレスさんが引っ込んでいった。ちょっと話し声が聞こえたかと思ったら、今度はシェフの格好をした男の人が出てきた。この人が店長さんのようだ。
「お客さん、何の言語なら読めますかね?」
「え? えーと、日本語と英語、あと、中国語とフランス語を少々…」
「日本語?…わかりました。 …珍しい。今日は土曜の日の筈なんだが」
日本語のメニューを渡され、何か注文する流れになった。まぁ、ここが洋食店だと分かった時から薄々分かっていた事だし…ちょうど、お腹がすいていたところだ。
「お待たせしました! 海老ドリアになります!」
私が注文したのは海老ドリアだった。あと、食後に抹茶アイスも頼んでいる。
早速海老ドリアを食べてみた……のだが、普通の洋食店とは思えないくらいに美味しい。濃厚なチーズとクリームソース、香ばしい焦げまでもが、プリプリの海老とほかほかのご飯と絡み合う……!
「おや。今日は先客がおるのか」
「いらっしゃい。いつものですね」
「あぁ」
ドリアを半分ほど食べた頃、おじいさんが扉から入ってきて、カウンター席に座った……んだけど、真っ白なひげが物凄いのびてるし、服も日本では見ない格好だ。どこから来たんだろう?
「ここへ来るのは初めてかい?」
「! は、はい」
おじいさんに話しかけられた!
「あの…扉、凄いですね。おじいさんもあの発掘現場から?」
「いいや。あの扉は土曜の日だけにわしらの世界に繋がるんじゃよ。色んなところに扉が現れる。だから、他の者達も来る。あんな風にな」
『わしらの世界』……『色んなところに』……? この人、もしかしてあの扉のことを知っているのかな?
「あの、扉の事、知ってるんですか?」
「いかんよ。ここでそういう事を考えると、食事が冷めてしまう」
「あっ!」
おじいさんに指摘されて、まだドリアが食べてる途中だったし、この後抹茶アイスが控えてることを思い出した。
ドリアとアイスを食べ終えて、勘定を払ってから(千円札を出したらウェイトレスさんに驚かれた。日本円をあまり見ないのかな?)
「ありがとうございました、おじいさん……えっと、」
「ロースカツで良い。ここの常連は、頼むメニューで呼び合う」
「なるほど」
そして、一言ロースカツのおじいさんにお礼を言った。
ロースカツを肴にお酒を飲むおじいさんを背に、扉を開けて店を出ると、そこはすっかり日が暮れた遺跡発掘現場だった。
振り返ったら、もう「ねこや」の扉はなくなっていた。
洋食屋「ねこや」では、土曜の日に不思議な営業が行われている。
そこでは、様々な人が、至高の料理を求めて通っており、特に常連と呼ばれる人たちは、自分のあだ名となる大好物の料理がメニューの中で一番美味しいと確信していて、時に「どっちが美味しいか」などという話題になろうものなら、言い争いになるともいう。
「フン!そんなもの海老カツサンドに決まっておろう?」
「何を言ってるの!朝までじっくりソースが染み込んだメンチカツとパンの味も知らないくせに!」
「それは此方の台詞だ!サクサクに揚がった
「ふふ…程々にしてください、エビフライさんにメンチカツさん。食事が冷めちゃいますよ。
それに…確かにサンドウィッチも良いですけど、持ち帰りはサンドウィッチだけじゃあないんですから」
土曜日の「ねこや」に新たに加わった常連は、異世界から来たと思われるにも関わらず会計は日本円を使い、他の常連から「ドリア」と呼ばれる少女だったという。
扉の正体は、異世界の洋食屋「ねこや」の入口だった。
…と、報告するのは簡単だけど、あんまり知れ渡りすぎるともどうかと思う。みら達を誘うか迷ったけど、あそこの人達のキャラの濃さに間違いなく驚くだろうなぁ…私もカツ丼頼むライオンさんとかオムライス頼むトカゲの人見たときはそうだったし。
☆洋食のねこや
『異世界食堂』の物語の舞台となっている洋食屋。一見普通の洋食店であるが、一週間に一度だけ、異世界へと繋がる扉が開くという。その日は、異世界の住人達がこぞってねこやの洋食を食べに来たり、テイクアウトしたりする。
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P28, 雨雲が一気に
某県某市、朧塚。
私がここに来たのには訳がある。
「ドラゴンの目撃情報ね……」
依頼に書いてあったドラゴンがいるという話。それを調査しようと思ったきっかけは、私がナナちゃんの元に向かった時に、興味深い話を聞いたことだ。
『雨雲が一気に晴れた?』
『はい。こちらでは有名な話なんですが……雨の予報だった地方があったんですが……突如、その地方の雲一帯が瞬時に蒸発しまして』
『じょ、蒸発??』
『気象庁にもアメ○スにも載っている話です』
『雲って蒸発するの?』
『雲はもともと大気中の水蒸気が冷却・凝結して集まったものですから、蒸発する可能性はゼロではありませんが………それでも、広域に渡って一斉に、しかも一瞬で蒸発などありえません』
『確かに……』
雲の広範囲に渡る一斉蒸発。信じられない現象が現実に起こった直後、雲が消えた空は、その日の予報に反して晴れ渡っていたという。で、その信じがたい晴れの中心に位置していた街こそが………
『朧塚……』
『はい。ここを中心に突発的な快晴が起きたんです。誰もが機械の故障を疑いましたよその頃でしたかね。ドラゴンの炎だなんてホラ話が出回ったのも』
『ドラゴンの炎?』
『そういうのを見たって情報があったんですよ。まぁ、ほぼ自己顕示欲の高い人が流したデマかと』
『いや、分からないよ。喋る石もメテオガーリックも金のパズルピースもダイヤモンドスライムもいたんだから、ドラゴンくらいいてもおかしくない』
『ちょっと何言ってるかわかりませんよ、あお先輩』
―――というわけで。
調査に来たわけですけども……まぁ、簡単には見つからない。この朧塚という土地……以外と、広い。流石に県中や市中ほどの広さではないけれど、それでも下手な町村よりは広く思えてくる。
でも、まったく手がかりが無いわけでもなかった。
近所の話から、依頼書にもあった「頭部に角を生やしている人がいる」という情報を得たのだ。
最近は、メイド喫茶でバイトを始めたみたいだけれど……
「おかえりなさいませ、お嬢様!」
「えと…一人で」
「はい!ご案内いたします!」
「あの、すみません」
「なんですか?」
「頭に角が生えてる人がいるって聞いたんですけど……」
「あぁ、料理長はちょっと前に辞めちゃいまして…」
「あらら…」
どうやら、間が悪かったみたいだ。
もう少し日を早めていれば会えたかもしれなかったのに……まぁ、こればっかりは仕方がない。
このまま何も頼まず帰る訳にもいかないから、ここでご飯にでもしよう。
「お待たせしましたー、オムライスです!
それでは、美味しくなる魔法をかけさせていただきますね!」
「―――夜を統べる影の王に奉らん、外法を以ってこれを最上とすべし。
我が魔は泥として広がり穢れを、我が理は浸食し反乱を―――」
「!?!?!?!?!?!?」
……………私の知るものとは全くベクトルの違う「美味しくなる魔法」でした。
*
不思議すぎる魔法とソースのオムライスの、遅めの昼食を終える。
さて、午後からまた調査といきますか。
「小林さーん!荷物持ちますよー!」
「あぁ…ありがと、トール。…早めに帰ろっか。」
「ですねー。カンナが待ってます!」
「……」
その時、私は目撃した。
角が生え、鱗のある尻尾が生えていて、メイド服を着た少女が、眼鏡をかけた大人の女性と歩いていくのが見えた。
あれがドラゴンなのか―――と思い、話しかけようとした、けど。
あのドラゴンと思われる少女の嬉しそうな顔を、眼鏡の女の人に向けている様子。
そして………『カンナが待ってます』……この言葉。待っている人がいるのかな。
「………………帰ろう」
二人は、幸せそうだった。
部外者が、余計なことを調べる必要もないかな。
【日本に住まうドラゴンの調査結果】
調査の結果、ドラゴンが住むという決定的な証拠は見つからなかった。
不可思議な天候のデータも、ドラゴンとの因果関係はない。
☆トール
『小林さんちのメイドラゴン』に登場する、中心人物にしてドラゴンの一匹。ドラゴンのうちの混沌勢という派閥のトップである終焉帝の娘であり、対立する調和勢との戦いで傷ついたことがきっかけで小林の世界に避難。泥酔していた小林と話したことがきっかけで、彼女のアパートにメイドとして住むことになる。
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P29, スライムの精霊
「……ものすごい辺境の村だな…」
私は今、日本を飛び出したとある国の超・超・超辺境に位置する村にいた。飛行機や鉄道どころか車さえ走っていないのは当たり前、移動手段はもっぱら徒歩だというのだから驚きだ。
この地が自然保護区で、鉄道や道路を敷く事が禁止されていると知らなければ、別の世界と勘違いしてしまうくらいだ。
このような所に来たのには訳がある。
調査依頼の中に……『スライムの精霊』の調査をしてほしい、というものがあったからだ。
そもそもファンタジーの定番であるスライムの…しかも精霊とはどういう事か?
正直、異世界にでも行っているんじゃあないかっていうほど変わった場所に赴いたが、これも依頼の為だ。
思い切って、行ってみよう!
⋆
『……ふーーーん…それで?どうだったの?結果は』
「うぅ……ごめんなさい、みら…」
『クリスマスのこの時期に日本にいないと思ったらそんなことしてたなんて!』
「スケジュール通りいきませんでした……」
『クリスマスに帰れないってブラック企業の社員じゃないんだから!』
「ほんとにごめんなさい…」
調査が終わった後、ちょっとした事故でクリスマス前に日本に帰ってこれなくなったことをみらに話さざるをえなくなり、こっぴどく叱られました……。
『それで、今度はどんな子と浮気したんですか?』
「う、浮気って言い方やめてよ!
えっとね、スライムの精霊のファルファちゃんとシャルシャちゃんなんだけど…」
『スライム? スライムって、あの?』
「うん。今私のいる地方はスライムみたいな希少生物がいっぱいいるから、車も通っていない自然保護区なんだよ」
『車も通ってないのっ!? どんな辺境まで行ってるのあお…?』
「で、その地方の高原のおっきな一軒家に住む人たちに会ってきたんだけどね」
『たち? 何人か住んでたの?』
「えーっと、まず魔女さんでしょ、ドラゴンでしょ、スライムの精霊って名乗ってたファルファちゃんとシャルシャちゃんも住んでたし、耳が尖ったおっぱいお姉さんもいたし……あと、ゴーストもいたよ」
『……あお、大丈夫? とうとう頭か目がおかしくなった?』
「とうとうって何!!? どこもおかしくなってないよっ!
あ、写真! あとで写真送るから信じてもらえる?」
『……分かっ、た、信じるよ…』
「みら、本当に信じる?」
『……………動画送られても信じられそうにない……』
「やっぱりー!!」
『ところでさ。いつ頃帰ってこれる予定なの?』
「…年明けまでには、何とか?」
『ほんとに頼むよ、あお。年末年始は一緒に過ごそうって約束したじゃん!!』
「ご、ごめんって……それじゃあ、身体に気を付けてね?」
『そっちこそ……ちゃんと帰ってこないと許さないんだから』
その後、フラタ村のクリスマスの祭りに参加して、写真はいっぱい撮った。
また、高原の魔女さんの動画も撮ってみらに送ったことも忘れていない。
帰ってきた後、みらに魔女さんの家族写真を指差しながら「誰と浮気してたの」なんて言われ続けるとは思わなかったけど。
一見、普通の人間と大差がない。説明されてもまったくそれだと分からず、変化されて初めて分かるレベルである。魔女のアズサさん曰く生まれて50年はたっているのだそう。知りたくなかった。
☆スライムの精霊・ファルファ&シャルシャ
『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになっていました』に登場する、高原の魔女・アズサが倒し続けたスライムの怨念が生んだ精霊。アズサは毎日25匹を365日300年間欠かさず討伐したため、本編開始の50年前に姉妹で誕生した。姉・ファルファと妹・シャルシャがおり、シャルシャは当初スライムを倒し続けたアズサを恨み、「破邪の魔法〈高原の魔女〉」を生み出すまでに力を蓄えたが、高原の魔女・アズサ以外には恐ろしく弱く、あっけなく倒された上にマナを使いすぎて数十年間使えなくなってしまい事実上復讐が出来なくなってしまう。その後、アズサの提案で娘として迎え入れられた。
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P30,
キュィィィィィィ(吸い込む音)
ゴクッ(飲み込む音)
………(しかし なにもおこらなかった)
「わにゃわにゃ」
「わにゃ!」
「わにゃにゃ」
「…………」
―――皆さん、こんにちわ。真中あおです。
さて、地誌学や天文学、地学のレポートに忙殺されてはや数か月。今年も早いもので梅雨入りの季節になってしまいました。
そんな中、私は………
「「「わにゃ!!」」」
「……あ、えっと。ありがとう…?」
オレンジのまんまるい生き物に、住んでる家を占拠?されかかっています。
⋆
きっかけは、大学からの帰り道の隅にひっそりと捨てられていた謎の生き物を見つけたことでした。
オレンジの体表に、鏡餅の形の肌。まるで子猿のような球体生物が、段ボール箱に入れられて捨てられていた。
行きは晴れだったのに雨に降られた私は、コンビニで激安ビニール傘を買って帰っていたときにそれと出会った。傘の処分に困ってたので丁度いいと、雨に当たってたその生き物に傘をさし、その日はそのまま濡れて帰りました。
それから数日後に、私の家にどこからともなく、この丸っこい生き物が上がりこんで、ありとあらゆる家事をやりだした。
例えば、掃除。小さな体を生かして隅から隅まで行い、プロ顔負けのピッカピカな仕上がりにしてくれた。
例えば、料理。レポートやら大学の課題やらで食事の時間をすっぽかしがちな私を引き止め、食卓に呼んでくれる。手のかかるであろう料理をいくつも作ってくれる上に味も美味しかった。
最初の頃はよく分かんなくってちょっと怖かったけど、彼らの見た目が愛らしいのと…………なんか、その他諸々が相まって、慣れてしまった。
でも…私は、まだ彼らの事が何一つ分からない。その理由が―――
「ねぇ…どうして、こんなことしてくれるの?」
「わにゃわにゃ」
「わにゃわにゃ」
「えーっと、あなたたちは誰?」
「わにゃにゃにゃにゃ」
「……ど、どんなお名前なのかな?」
「わにゃ?」
「わにゃ…」
「わにゃにゃ…」
「………」
この、圧倒的な言語の壁だ。
彼らは家事をしてくれたりのんびりしてたり遊んでたりしてるんだけど、言葉が全然分からない。
何を尋ねても「わにゃわにゃ」と言うだけで、情報が一切伝わってこないのだ。英語やフランス語、中国語みたいに文法さえ分かればなんとなく意味が分かるのかもしれないが、いかんせん語彙が「わ」と「にゃ」しかない(ように聞こえる)ため手がかりすら掴めない。
どせいさん達の言葉とは別ベクトルで厄介だ。かろうじてボディランゲージや表情で感情はなんとなくわかるけど……それでも、具体的な事はさっぱりだ。
一応、みら達にも相談はしたけど…
『…見たことないわね、こんな生き物』
『そうですね。空島でも確認出来ませんでした』
『新しい宇宙人なのかしら〜?』
『私も初めて見ました。こんなかわいい生き物見たら、忘れませんよ』
『うわぁぁ〜〜!!かわいい! ねぇ、そっちに遊びに行ってもいい!? 触りたい!!!』
…みんな『知らない』とのことだった。
ちなみにだけど、みらは本当に遊びに来た。ワドルディをいじって揉みまくった挙げ句、追いかけっこしてただけだけど。
「…ねぇ、君たちはどこから来たんだい?」
「わにゃ?」
「君たちのふるさとはどの国なのかな? ひょっとして、地球じゃないとか? まさか、モンロー先輩の言う通り、宇宙人だったりして?」
「わにゃ!」
「わにゃわにゃ!」
「わにゃにゃ」
「……ふふっ」
相変わらず、何を言っているのかは分からないけど。
彼らのおかげか、最近ちょっとだけ、生活にゆとりが持てている気がする。
☆ワドルディ
『星のカービィ』シリーズに登場する、いわゆるザコキャラ。
カービィのような一頭身の丸く赤い(もしくはオレンジに近い赤)身体に黄褐色の鏡餅のような輪郭の顔、カービィと同じ縦長の目をした愛らしい外見をしている。『星のカービィ』シリーズではカービィを除いて皆勤賞を取っている。最新作『ディスカバリー』では、カービィが救出する味方キャラに選ばれている。
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