ウォーキング・ハートを強化して護衛チームにぶっ込む (ウォーキング・ハート)
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お小水
一番最後にプロフィール載っけときました。
「おい、なんのマネだこりゃあ〜〜!?」
「何って、イチゴケーキじゃあないの。デザートが食べたきゃ選べば?」
「そうじゃあねぇっ! ケーキが4つなんだ! このおれに死ねっ! つーのか!!」
キアラには、ミスタがなぜそんなに騒いでいるのか理解できなかった。ナランチャはフーゴに勉強を教わっているし、アバッキオはヘッドフォンで音楽を聴いている。特に何もしていないのはミスタとキアラの2人だけなので必然的に彼の話し相手はキアラになるわけなのだが、如何せんこのケーキのなにが気に入らないのか分かりかねる。
「なに? 4切れじゃあ足りないの?」
「知らねーのかよマヌケッ! 4つのものから1つ選ぶのは縁起が悪いんだよ! ガキの頃近所で──」
「はあ……そんなの迷信ですよ! 冷静に考えて、1個ずつケーキが減っていったら客の中の誰かはいずれ4つの中から選ぶはめになるんですよ!」
「そこなんだッ! こーゆー時はリストランテが気を利かせて3個にすべきなんだ! この店サービスがなってねえぜッ」
見かねたフーゴが助け舟を出してくれたが、あまり効果はなかったようだ。じゃあ食べなきゃいいでしょ、というキアラの心の声をフーゴが見事に代弁してくれた。それでもなお子供のようにイチゴケーキが食べたいと騒ぐ18歳の男には、もはや呆れるしか無い。
「ほんとにも〜、子供みたいに騒ぐのはやめてよね……」
そう言って、キアラはアバッキオとミスタの間の席を立った。
「どっか行くのかよ? もうすぐブチャラティが来るぜ」
「……何処って、タバコ吸いに行くだけよ。ご飯食べたら吸いたくなってきちゃったから」
「あんまり吸いすぎると良くないですよ。この間もブチャラティに注意されたばっかりじゃないですか」
フーゴの忠告に適当な返事をして振り返ることなく、ヒラヒラと手を振りながらリストランテの出口へと歩を進めるのだった。
☆
「……ん? あれは……」
キアラがリストランテのすぐ前でタバコを吸っていると、少し遠くに見覚えのあるツヤツヤの黒髪が見えた──ブチャラティだ。そして少し後ろには、見たことの無い金髪の少年が連れ立ってこちらに向かって歩いてくる。……もしかして、あれが昨日話していた新入りなのかもしれない。
キアラは昨日新入りの話をされたあと、ブチャラティにタバコのことを注意されていたことを思い出した。だから慌てて火を消し、なにもしてませんよ〜という笑顔を貼り付けて2人に話しかけた。
「チ、チャオ、ブチャラティ! 後ろの金髪くんが昨日言ってた新入り〜?」
「ああ、そうだ。ところでキアラ、おれは昨日お前にタバコは控えろと言ったばかりだが──」
「あ、ほら、みんな待ちくたびれちゃってるから早く行かないと〜! 急いで急いで!」
やはりブチャラティが相手だ、誤魔化しきれてはいなかった。とりあえずこれ以上なにか言われないうちに彼の背中を押してリストランテに入るように促すしかない。キアラはブチャラティの背中を押したくり、呆れた笑い声を聞きながらも新入りの顔をチラッと確認した。
──美男子だ。それもとびきりの……まるでダヴィデ像のように神々しい容姿をしている少年だった。年下は趣味ではないとはいえ一応女の端くれであるキアラは思わずじっと彼を見つめてしまったが、リストランテの中から騒ぐ声が聞こえてきて我に返った。
☆
「てめーら何やってんだ! 昨日話した新しい仲間を連れてきたッジョルノ・ジョバァーナだ!!」
キアラ達のテーブルは、キアラが数分離れている間に酷い有様になっていた。ナランチャは顔から出血しているし、フーゴの首筋にナイフを突き立てている。そしてそれを止めようとする素振りもなく音楽を聴くアバッキオに、呑気にイチゴケーキを食べるミスタ──だがそれはいつもの事で、キアラにとってはどーせまたナランチャがフーゴを怒らせたのだろう、という程度にしか感じない。
ジョルノの無表情だった顔には少し驚きの色が見えたが、彼は礼儀正しくチームのメンバーにキチンと頭を下げて名を名乗った。この状況でキチンと挨拶できるとは、大したものだと感心する。
「ジョルノ・ジョバァーナです。よろしくお願いします」
──感心はするが、それは歓迎することとは無関係だった。キアラは頭を下げた体制のジョルノの横を平気で通過して元の席に座り、ミスタとの会話を再開した。アバッキオはキアラの横で依然ヘッドフォンをつけたままであるし、ナランチャとフーゴはジョルノを無視して仲直りをし始める。
……要するに、キアラたちは新入りに対してあまりいい感情をもってはいないのだ。
「おいお前ら! このブチャラティが連れてきたんだ、愛想良くしろよッ証明のバッチも持ってる!」
いくらブチャラティが連れてきたと言っても、そう簡単に仲間と認めることはできない。仲間になるということは、一緒に仕事をするということ──そして、キアラ達の仕事は命の危険を伴うものなのだ。来たばかりの新人に、はいそうですか、仲良くしましょうとはならない。
ジョルノはキアラ達の態度にも表情を崩すことはなかった。ただの強がりなのか、それともどう自分たちを陥れてやろうかと考えているのか……
「──キアラ、おい、キアラ……」
「……? なあに、ミスタ」
キアラがジョルノの様子を(目の保養も含めて)伺っていると、突然隣のミスタがコソコソ声で話しかけてきた。しかもキアラの顎をわしずかみにしてミスタから目を離さないように固定して、だ。どういう意図があるのかは知らないが、彼の顔がよからぬ事を企んでいる時のものだということは経験で分かった。
ミスタはキアラにイタズラを仕掛けてくる時もあるがそれはほんの稀なことで、キアラを誘ってナランチャやフーゴにイタズラすることの方が圧倒的に多い。そして大抵バレた後にキレたフーゴに痛い目に合わされるか、ブチャラティやアバッキオに呆れられて叱られるというお決まりのパターンだ。今回はきっとあの新入りに何か仕掛けるのだろうということは、簡単に予想出来た。
「今アバッキオの方を見るんじゃあねーぞ。何してるかは後で教えてやっからよ」
「へぇ〜、アバッキオが仕掛けるなんて、珍しいわね。絶対教えてよね」
当たり前だぜ、と悪どい笑みを浮かべる同い年の青年に同じ表情で返してからしばらくして、ミスタが掴んでいたキアラの顎を離した。
「ジョルノ君だっけ? 立ってるのもなんだから、ここ座んなよ。お茶でも飲んで……話でもしようや」
アバッキオはティーカップにお茶を注ぎ、ジョルノに差し出す。ナランチャもフーゴも平静を装ってはいるが、少しニヤついた表情をしているからブチャラティ以外の全員がグルなのだと察することが出来た。
「さあ、飲みなよ。あんた年幾つ?」
「15です」
「15〜? なぁ〜〜んだ、おれより2個も下だぜ!」
ナランチャが自分の方が年上だということをアピールしているのを少し微笑ましい気持ちで見ていると、隣のミスタが不意に耳元で囁いてきた。
「実はあれよォ、アバッキオの小便なんだぜ」
「ブッ」
思わず飲んでいた紅茶を噴き出して、アバッキオの方を勢いよく見るというかなり不自然な行動をしてしまった。アバッキオはキアラの方をちらりとも見ずに、ジョルノが自分の排泄物を飲もうとするところをじっと見ている──一体彼は今、どんな気持ちなのだろうか?
「うっ」
「どうした? お前はわざわざオレが注いでやったそれをいただきますって言ったんだぜ。そう言ったからには飲んでもらおうか……それともヌルいから飲むのはいやか?」
アバッキオのとんでもない新人いびりを目の前にして若干引いていたキアラだったが、普段は厳格な彼のちょっとしたジョークに思わず笑ってしまった。普段真面目な人がこういうことをすると面白さが倍増するのだ。あのアバッキオが……と言った具合に。
「仲間になりたくねーから飲みたくねーんじゃねーの?」
「……やだミスタ、そんなこと言っちゃ可哀想だわ」
なにが起きているのか分かっていない様子のブチャラティ以外のメンバーと一緒になってクスクスと笑っていたキアラだったが、上がっていた口角はすぐに元の位置に戻ることとなる。
「「「「「えっ!!?」」」」」
──飲んだのだ、それも、かなり勢いよく……
「うわお! バッチい! 飲みやがったこいつッ」
「違うッ飲んでるわけはない! どこに隠したんだ!?」
「わはは! お、おまえ面白いな! ほんとに飲んだのか!? 教えてくれよオレにだけ! な?」
どうやったのかは分からないが、あの新入りは最大のピンチを回避したのだ! カップを覗いてみるとちゃんと空になっているが、本当に飲んだ訳ではないだろう。
ミスタ、ナランチャ、フーゴの3人はジョルノの周りに集まって面白がっている。あんなにいじめてやろうという気満々だったのに、この数分でジョルノは3人の心を掴んでしまったようだ……だが、それよりもキアラは隣で放心状態のアバッキオの方が気になった。
「コホン、Mr.アバッキオ。ご自分のお小水を飲まれたことに対する感想をお聞きしてもよろしいですか?」
こんな機会は滅多にない……あの冷静で、頼りになって、任務には情熱的だがいつもクールなアバッキオが、こんなことになるなんて。叱られるのが怖くて普段はあまりイタズラを仕掛けられないが、これはなにも言い返せないだろうからここぞとばかりに攻めることにした。
「聞いていますか? アバッキオさん。ご自分のお小水を──」
「……」
「いただだだだッご、ごめんなさぁ〜い」
結果として、無言で頭を握り潰そうとしてくる大きな手に、白旗を上げることとなったのだ。
キアラ・クオーレ(18)
(10センチ以上あるピンヒールを履いた状態で)身長165cm、ふわふわとした茶髪で肩ぐらいの長さ。かなりのヘビースモーカー。
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ペラペラ、からの魚
ラグーン号での出来事
風が心地よく、青い海が一面に広がってけしきもいい。最高のロケーションだ。
カシャカシャカシャカシャ……
「ナランチャ、もうちよっと音量下げてよ」
「〜〜〜♪♪」
──この音さえなければ。
キアラは読んでいたファッション誌から目を離し、ナランチャに喋りかけた。彼の聴いている音楽が音漏れして気がちってしまうので音量を下げるように言うのだが、音漏れするほどの大音量で聴いているせいでキアラの声はかき消されているようだ。
肩をすくめてしょうがないな、ともう一度ファッション誌に目を落とそうとした時、不意に視線を感じた──ミスタだ。あくどい笑みを浮かべたミスタの顔が目に飛び込んできた瞬間、キアラも同じ表情を浮かべた。ミスタは今からナランチャに
「おい、ナランチャ! お〜い!」
「あ?」
「お前さぁ、確か飲み物持ってたよなぁ〜〜、一本売ってくんない?」
「え? 売ってくれってさぁ、そう言っていつもカネ払わないじゃないかよ」
ごねるナランチャを何とか説得したミスタは、ナランチャからコーラを受け取る直前にこちらをチラッと見てから言った。
「あ〜、やっぱりスプライトに変えるわ……透明だからよ」
その一言で、キアラは全てを察した。
ミスタはナランチャのラジカセをショートさせる気でいるのだ……それが分かれば、あとは彼に協力するまで。
「ナランチャ、見てみて、このピンクと水色、どっちのヒールがいいと思う?」
「ええ〜? おれよく分かんねぇよ。自分の好きな色にすればいいんじゃねーのぉ?」
ナランチャの顔の前に雑誌を持ってきて見えないようにしているうちに、ミスタはスプライトのフタを開けてジョボジョボとラジカセにかけている。
「もう、どっちも綺麗な色だから迷ってるのよ! 深く考えないで、あたしにどっちが似合うかで答えてよ」
「どっちが似合うかって言ってもなぁ……よく分かんねぇけど、今履いてんのが赤だから、今度は水色にすれば?」
「なるほどね。ま、考えてみるわ〜」
ミスタが目で合図を送って来たので、会話を切り上げて再び元の位置に座り直して雑誌をめくる。ナランチャは女って分かんねぇ〜と言いながら、また音楽を聴き始めた。
カシャカシャ……バチッ
「あれーッおかしいな、音が止まったぞッどうして止まったんだ!? 買ったばかりなのに……あの電気屋ただじゃあおかねーッ」
ナランチャが慌てふためく姿を見て2人でこっそりと拳を合わせた。
ナランチャはイタズラされても気付きにくいから仕返しが来ないし、反応がいちいち面白いのだ。
それからしばらく、静かにファッション誌に集中することができた訳だが……
「おい、ブチャラティ! いい加減よォ〜、いい加減この船どこに向かってるのか教えてくんねーかよーッ」
キアラもちょうど、ミスタと同じことを考えていた。ジョルノを紹介されてすぐ、なんの説明もなしにブチャラティに言われてこの船に乗っているのだ。全員が気になっていた、当然の疑問だった。
「……いいだろう、陸も遠くなったしな。ポルポが自殺した! だからやつの遺産をこれから回収に行く!」
「なんだって!? ポルポが自殺……?」
「遺産ー!?」
「回収って……なんのことです!?」
「なぜブチャラティがあのデブの遺産の場所を知ってるの!」
「なぜポルポが死んだのかはどうでもいい……ポルポは死んで当然のことをやってた幹部だからな」
それにはキアラも同感だった。
ポルポは無関係の人間を巻き込むことに対してなんの罪悪感もなく、自分はいつも安全な刑務所の中でぬくぬくと過ごして、汚れ仕事は全て部下を顎で使ってやらせた。ポルポのことを心から慕っていて言うことを聞いている者は誰一人として居ない、そんな男だったのだ。
「だが、ポルポが自殺したのは幸運だッポルポには隠し財産がある! 6億円だ! オレだけがその場所を知っている……隠したのはオレだからな。6億はおれたちのものだ! そのカネを手に入れ、幹部の座を手に入れるッ」
ブチャラティが幹部──それを聞いて、キアラたちの心は踊った。これはチームの全員が常々感じていたことだったが、ブチャラティはポルポの様な下衆の部下で終わっていい男ではない。もっと信頼され、そしてもっと上の立場に立つにふさわしい男なのだ。
「カプリ島のどこに6億ものカネを隠したんだよ! ブチャラティ──ッ」
「それはまだ言えない! ウワサが組織の一部で流れている……カネを確保するまで安心はできないからな」
(それもそうね……にしても、ブチャラティが幹部かぁ〜)
キアラは1人て妄想を始めた。
ブチャラティが幹部になれば、ネアポリスはもっと素晴らしい町になるだろう。麻薬の犯罪はもちろん、町中のほんの些細な小競り合いですら減るのではないだろうか。当然、ブチャラティの直属の部下である自分も過ごしやすく──
「おいッ何かおかしいぞ! どうかしたかナランチャ!」
そんな楽しい考えは、ブチャラティの焦った声でかき消された。
ブチャラティが指さす方を見ると、さっきまですぐ近くで楽しそうにしていたナランチャの姿がとこにもないのだ。
「ナランチャ? 何してるのッ!?」
一番近くにいたキアラがくぼみの中を覗くが、ナランチャの靴の片方だけが残っているだけで、ナランチャ本人はどこにも見当たらない。
「ば、馬鹿な……」
「ナランチャのやつ、一体どこに行ったんです!?」
「オレには……ナランチャがこのボックスの中に
ブチャラティの事はもちろん信頼しているが、今の発言を信じることは難しかった。このボックスの中に、人間が引きずり込まれる? 敵の姿もナランチャの姿も今は見えないが、この中に引きずり込まれたというならこの狭い空間に一瞬でも二人の人間がいた事になる。それは不可能だった。
「まさかあいつ、屋根のあっち側にひっくり返って海の中にドボンしたんじゃあねーだろうなぁー!」
「ナランチャ〜? さっきからかったから仕返ししてるの!? そうだったらさっさと返事を──」
そこでキアラの意識は途切れた。
☆
「ンン……」
「キアラさん、起きてください……大丈夫ですか?」
眩しくて、目が開けられない。誰かが自分の体を揺すっているのを感じて起きなければという気持ちはあるが、目が開こうとしてくれないのだ。
「全く、そんなんじゃあこいつは起きねーぜジョルノ。こうやって、ほら……」
「……ッ、きゃははははははっ! ちょ、ちょっと、誰がくすぐってるの!? や、やめてったらぁ」
「ほ〜ら、起きた! オレたち敵に襲われたんだよ! さっさと起きろ!」
「ちょっと、蹴らないでよッ」
つま先でミスタに背中をつつかれながら立ち上がろうとすると、ジョルノが手を貸してくれた。ありがとうと言いながら彼の手を取ると、思ったより皮膚が固く分厚い……見た目の優雅さとは裏腹に、この少年もやはり色んな苦労をしてきたのだろうか。
ナランチャ、フーゴ、アバッキオが敵の本体であろう男の体をリンチしているのを無感情に眺めていると、ミスタに手招きされた。
「おい、これお前のヒールだろ? 襲われた時に脱げたんだろうな。ポッキリ折れてるぜ」
「あ〜〜!! チキショウ、お気に入りのやつだったのにぃ〜〜ッ」
ナランチャ達に混ざって男の体を蹴りに行こうとするが、それはミスタによって止められた。手には、いつの間に見つけたのか敵スタンド使いの頭を持っている。
「まあまあ、待てよ。ここに釣り針とメガネがあるんだが……キアラはこいつはどっちが好きだと思う?」
「…………どっちも好きなんじゃないかなぁ? あたしはどっちも好きなんじゃないかと思う」
「オレもそう思ってたぜッ!」
ミスタはそう言って男のまぶたに釣り針を引っ掛け吊るしあげた。キアラはミスタから渡されたメガネを、集まった太陽光がキチンと黒目の中心にいくようにかけてあげた。
「ギャハハハハ〜っこいつ、名前占いで大地獄行きだぜ〜!」
音楽をかけて踊り始めたナランチャ、フーゴ、ミスタを視界の端に入れながら、キアラはズッケェロの耳元で囁いた。
「もう1人の居場所を吐かないって言うなら、もう片方の目の心配もした方がいいかもしれないわよ……マリオ・ズッケェロさん」
☆
非常にまずい事態になった。
ポルポの遺産を狙ってキアラたちを襲ったローマのチンピラ、マリオ・ズッケェロ……ムーディー・ブルースのリプレイで見たところ、彼は既に仲間に隠し財産がカプリ島にあることを船の無線で伝えていたのだ。しかもご丁寧に到着予定時間まで伝えていたものだから、その時間までにこのラグーン号が港に到着しなかったならどうなるか分からない。少なくとも、ネアポリスまで安全に帰れはしないだろう。
「どうするんだ? ブチャラティ!」
「──この船が入港する
凛とした声が響き渡り、辺りに静寂が広がった。ジョルノ・ジョバァーナ……不思議と、彼の声を聞くと心が落ち着くような、安心するような、そんな気持ちになる。
「何言ってんだ、こいつはよォ〜、話についてけねーぜ! お前頭悪いんじゃあないか? この船より先に上陸だって!? 泳いででも行くのかよォ〜」
「はい! ぼくはこの浮き輪を魚に変えられます……こいつに引っ張ってもらえば、船より先に島に着けます。もちろん、ぼくのスタンドだから行くのはぼくです」
ジョルノが足で蹴りあげた浮き輪が本物の生きた魚になって、甲板でピチピチと跳ねる音だけが響いた。誰一人、呼吸までも止まっているのではないかと言うほどの静寂だ。
「このジョルノ・ジョバァーナには夢がある! ぼくは6億円が欲しい……そしてブチャラティに幹部になってもらいたい。ぼくらはのし上がって行かなくっちゃあいけないんです!」
「フフ……フハハハッお前が行く? それはいいだろう。なかなかいいアイディアを出すボーヤだ」
一番最初にこの静寂を破ったのは、アバッキオだった。
「だがおしいことにそいつの顔も名前も、お前は分からないッカプリの港は観光客だらけだぜ! その中からどうやってそいつを見つけるつもりだ!」
「──おれはジョルノの意見に賛成だぜ」
「奇遇ね、あたしもよ。いいアイディアを出すボーヤに賛成!」
ジョルノはまさかキアラとミスタが賛成してくれるとは思っていなかったようだ。表情には確かに驚きの色が見て取れる。まあ、驚くのも無理はないだろう……作戦に賛成する、つまりは、一緒に戦ってもいいということだ。それはジョルノを認めたということとイコールである。
「その魚、あと二人も引っ張れるのかー? ジョルノ、おれらもいくぜ……おれのスタンドは
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