ペルソナ3 転生したら犬(コロマル)だった件 (hastymouse)
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前編

ペルソナ4の陽介 登場です。コメディーです。
たまたまYouTubeで見た「ペルソナQ2」の宣伝番組で、雪子の声優である小清水亜美さんがヨウスケザウルスを見て、「陽介が草食べてる~」と非常にウケていました。なんだかそれを見ているうちに、急に陽介をイジってみたくなってこうなった次第です。やっぱり七転八倒してこそ陽介っていう気がしますよね。



ドアを抜けると、真っ赤な巨大ロボットが待ち構えていた。

巨大と言っても3m足らずだろうが、生身で対すると圧倒されるほどでかい。それに加えて、この圧倒の巨兵は、笑えるほどテレビアニメのヒーローロボっぽかった。ご丁寧にも両肩に『正』『義』と一文字ずつ入っているのがさらに笑える。

「またロボットかよ! しかもわざわざ『正義』とか書いてあるし・・・直斗のやつ、よっぽどこういうのにあこがれてたんだな。」

ついいつもの調子で軽口をたたいてしまう。

【強力な敵だよ。注意して!】りせ が警告してきた。

おっといけねー。

俺は気を引き締めなおした。笑っている場合ではない。

「ようし、行くぜ相棒!」

俺はそう声をかけて、足を踏み出した。

 

そこは特撮番組に出てくる秘密基地のような建物だった。

白鐘直斗の内面世界ともいうべき「秘密結社改造ラボ」。普段の大人びた言動とはほど遠い「子供っぽさ」に驚かされる。しかし、このテレビの中の世界では、人が隠していた内面がひどく歪んで誇張される。天城や完二や りせ の時もひどいもんだったから、まあこのくらいなら可愛いもんだろう。本人もきっと赤面する思いだろうから、このことについては何も言わないでおいてやろう。

「ジライヤ!」

俺はペルソナを呼び出して疾風攻撃をしかけた。しかし、さしてダメージを与えられない。

相棒が火炎攻撃、里中が物理攻撃、完二が電撃攻撃を放つ。

だが巨大ロボはびくともせず、逆に強力な物理攻撃を返してくる。

「チッ、しぶてぇ!」

俺は敵の攻撃を軽やかにかわして言った。フットワークには自信がある。そう簡単には攻撃を受けはしない。

「少しずつ削っていくしかない。やつの反撃に気を付けろ。」相棒が返してきた。

「わーってるよ。」

俺はそう応えると、再度 ペルソナを呼び出す。

敵は時折、動きを止めて力をチャージし、その後に強烈な攻撃を放ってくる。まともに食らえば一撃で再起不能になりそうな必殺攻撃だ。

こちらも有効なダメージを与えられないまま、しばらく戦闘が続いていたが、ついに敵の反撃を受けて完二が倒れこんでしまった。

さらに次の攻撃に備えて巨大ロボが力をチャージする。

「あぶねー!完二、早く起きろ。」俺は慌てて叫んだ。

敵の強烈な攻撃が襲いかかって来る。危うく完二が転がって避ける。俺も自慢のフットワークでかわそうとしたが、そこで何かに足を取られた。

「あ?」

倒れた完二の手から離れた盾が、俺の足元まで飛んできていたのだ。

「うそーん!!」

バランスを崩してよろける。そこの襲いかかってくる必殺の一撃。

「ぐああっ!」

俺は全身に強い衝撃をくらって吹っ飛んだ。目の前が真っ暗になり、そして俺は意識を失った。

 

気が付くと床に寝ていた。

体を起こそうとしたがうまく立ち上がれず、手を床についた状態で上半身を起こした。

周りを見回すと、そこは見たことの無い部屋だった。ホテルか何かのロビーのような場所だ。

しかし、何かがおかしい。目の前にソファーセットが見えているが、サイズが妙に大きいのだ。

「コロマル、大丈夫か?」

首をかしげていると、ふいに声をかけられた。

(コロマル?・・・大丈夫って何が?・・・)

振り向くと小学生くらいの男の子がいた。

しかし、やはり妙にサイズが大きい。というより、こちらの体が縮んだような感覚だ。

俺はその子に『ここはどこかな?』と聞くつもりだったが、口から出てきたのは「ワン!」という声だった。

あっけにとられていると、男の子がいきなり「ヨシヨシ」と言いながら、俺の頭をわしわしと撫でてくる。そして目の前にドッグフードの入った皿が置かれた。

(なんだこれ?)

しばらくそれを見つめた俺は、急に腹が立ってきて「犬じゃねーんだから!」と声を上げた・・・つもりだったが、口からは「ワオーン!」と声が出た。

 

えっ・・・??

 

あらためて自分の体を見回す。両手が犬の前足のようになっている。振り向いてみると、白い毛におおわれた裸の体が見える。背後に尻尾が揺れている。

 

犬・・・・????

 

・・・驚愕!!!!

『なんじゃこりゃー!犬じゃねーか!!』

俺が叫ぶ声は、そのまま犬の遠吠えになった。

いきなり頭をペシッと叩かれる。

「こら、こんなとこで吠えるんじゃない。」

男の子に叱りつけられたが、こっちはパニック状態でそれどころではない。

「僕も、もう学校に行かなきゃいけないんだから・・・大人しくしてろよ。」

彼はそう言うと、走ってドアの方に駆けていく。背中にランドセルが揺れている。

俺は慌てて追いかけようとして、バランスを崩して転倒してしまった。どうも体の感覚がおかしい。

(犬の体で人間のように立ち上がろうとするから、うまく体が動かないんだ。)と気づいた。

そこで(犬だ。俺は犬だ。)と自分に言い聞かせながら、体を起こしてみる。

何とか四つん這いで立ち上がった時には、もう誰もいなかった。

しばらく茫然としたまま立ちすくんだが、とりあえずじっくり考えてみて、頭の中を整理することにした。

(えーと、ちょっと待てよ・・・俺は花村陽介。八十稲葉高等学校の二年生。ジュネス八十稲葉店の店長の息子で、ペルソナ能力を持つ自称特別捜査隊の一員。・・・そうだよな。)

記憶が一気に戻ってくる。

俺は仲間とともに、八十稲葉で起きた殺人事件と、次々起きる誘拐事件を追っていた。

誘拐された人はテレビの中に落とされる。そこは異常な世界で、早く助け出さなければ被害者は死んでしまう。俺たちは身に着けたペルソナ能力で、テレビの中に巣くう怪物「シャドウ」と戦い、そして被害者を救出し続けた。

(あの日、探偵王子の白鐘直斗がテレビの中に入れられたんで、救出の為に「秘密結社改造ラボ」に突入したんだ。途中、真っ赤なロボットみたいな強敵と戦い、俺は相手の攻撃をかわしそこなって・・・それで・・・どうしたんだっけ?)

そこからがどうしても思い出せない。どうして犬なんかになっているのか、わけが分からない。

(・・・もしかして・・・死んだ?)

ふっと頭に浮かんでくる。

(死んで・・・転生した?)

どんどん嫌な考えになってくる。

そこから先は考えたくなかったが、思考がとまらない。

(・・・それで犬に?)

まさか、と思って自分の体を何度確認しても、犬になっているという事実は覆らなかった。

どれだけの間、茫然としていただろう。放心状態で目を泳がせていて、ふと目に入った扉を「トイレかな?」と思ったのをきっかけに、次第に周りの様子に目が行きだした。

(個人の家とも思えないし、ここはどういう場所なんだろう?)

試しに歩いてみる。最初は違和感があったが、次第に慣れてきたのか、自然に四つ足で歩けるようになってきた。

男の子が出て行ったドアの横には、お店にあるような受付カウンターがある。ドアには鍵がかかっているようで、犬が外に出られるような出口も見当たらなかった。今はこの建物から出られそうにない。

カウンターの正面の広いスペースにはソファーセットとテレビが置かれている。その向こうには食堂のような大きなテーブルにイスが並んでいる。

(お店・・・じゃないな。ホテルっぽいけど、どこにも何の案内表示も出てないし・・・何かの施設なのかもしれないな。)

奥の階段も上ってみた。

2階に上がったところには少し広いスペースがあり、イスと自販機が置いてあった。のどが渇いていたが、犬では自販機を使えない。

廊下の奥に進んでみると個室らしきドアが並んでいる。

(・・・寮・・・とかかもしれないな。)

さらに上の階に上がってみたが、同じような構造だ。まだ上もあるようだが、たぶん同じだろう。

ため息が漏れる。

(さて、どうしよう・・・まさか、このままずっと犬ってことはないよなあ。もしそうだとすると、犬の寿命ってどのくらい? 長くて20年くらいかな? ・・・となると、俺、あと数年で死んじゃうんじゃないの・・・。まあ、あの戦闘でもう死んじゃってるのかもしれないんだけど・・・。それに犬のまま長生きするのも辛そうだし・・・。)

考えれば考えるほど気が滅入ってくる。

(いかん、いかん。元に戻れないと決まったわけじゃないし・・・どんな時でもポジティブに考えないと・・・)

慌てて、気を取り直した。

(何か前向きなことを考えよう・・・そういえば腹が減ったな。)

いや、実はずっと空腹ではあったのだが、あまりの衝撃にそのことが気になっていなかったのだ。

(犬でも腹はへるんだなあ。・・・当たり前か。どれくらい食ってないんだろう。少なくとも今日はまだ何も食ってないよな・・・。)

考えているうちになんだか尿意まで、もよおしてきた。しばらくトイレにも行っていないようだ。しかし人間用のトイレには入れないし、かといってその辺の壁に片足をあげておしっこする気にもなれない。後で誰かに怒られそうだし、なにより情けない。

とりあえずそれ以上、建物の探索はあきらめて、1階に戻ることにした。

しかし階段を降りようとして、

(うわっ、こわっ!)

足がすくんだ。四つん這いの前傾姿勢で階段を降りるのはかなり怖い。

結局、カニの横歩きのような無様な姿勢で、恐る恐る降りていく。時間をかけて2階フロアまでなんとか降りて一休みした後、さらに1階への階段に挑戦した。

半ばまで下りてきて、フロアまであと少しと・・・思ったところで、いきなり足を踏み外した。

(うわっ!!!)

俺は階段をコロコロと転がり落ち、床に体を打ち付けて「キャイン!」と悲鳴を上げた。

しばらく痛みにもだえ苦しむ。

泣きたい気持ちで起き上がろうとしていると

「コロマルさん、大丈夫ですか?」と声をかけられた。

声のした方を見ると、そこには金髪の美少女がいた。

(そういえばさっきも「大丈夫か」って聞かれたな。)と思いながらも、少女の姿に目を奪われる。

白いレオタードのような服、首元に大きなリボン、両肩に金属の肩パット。何かのコスプレなのだろうか・・・?。

(ここが何かの寮だとして・・・いるのが小学生と金髪のコスプレ美少女って、なんの寮だかさっぱりわかんねえよ。)

普段なら、軽い調子で話しかけたくなるような女の子だったが・・・こちらは犬。

(犬のナンパはありえねーよな。)

再びため息をつき、すごすごと痛む体をひきずって歩きだした。

元いた場所に戻ると、目の前にドックフードの入った皿と、水の入った器が置いてある。それを見つめているうちに、さらに情けなくなってきた。いくら空腹でも、これに手をつける気にはなれない。

『ああ、はらへったなー。』思わず声が漏れる。

「食べないのですか?」

後をついてきた金髪美少女が、不思議そうに聞いてきた。

『さすがにドッグフードは食えねえよ。』と嘆く。

「なぜ食べられないのですか? 昨日は普通に食べていたようでしたが?」

少女が重ねて聞いてきた。

『昨日は食べていた? ・・・ってことは昨日は犬だったんだ。』と俺は返した。

(俺がこの体に入る前からこの犬はいた。・・・ってことは、もともと犬だった体に、死んだ俺の魂が入り込んだんだろうか?)

こちらが考え込んでいる間、少女は沈黙したまま、まじまじと俺のことを観察している。

そして「今も犬であります。」と結論を出すように言った。

『いや、まあ、そりゃそうだけど・・・そういうことじゃなくて・・・』

俺はそこまで言って、ふいに違和感を感じた。

『あれ? もしかして・・・俺達、今、会話してない?』

「会話はコミュニケーションの基本であります。」

俺の問いかけに少女が答えた。

答えは的外れなものの、やはり会話が成り立っている。

『それはそうだけど・・・俺、犬だよね。』

「犬であります。」

『普通、人間は犬と会話できないよね。』

「人間にはできないであります。」

『それ・・・おかしいよね。君は人間でしょ。』

俺はたたみかけた。

「私は特別制圧兵装であります。そして、オプションとして動物と意思疎通する機能も備わっているであります。」

 

???????

 

『機能?・・・なんだか全然わかんないんだけど・・・俺の言葉が理解できるわけだよね?』

「言葉・・・というか、正確に言うと、意思をくみ取ることができるであります。」

まあ、なんでもいいが、とりあえずこちらの意思が伝えられるだけで充分だ。

『実は、俺は犬じゃなくて人間なんだよ。』

俺はわらをもつかむ気持ちで必死に訴えた。

「もうしわけありませんが、私の認識では犬にしか見えません。」

『体は犬だけど、心は人間なの! 』

「見た目は子供、頭脳は大人・・・みたいなものでしょうか?」

『そう、それ! 俺の名前はコロマルとかじゃなくて花村陽介っていうの。わかる?』

「すみません。相手の意思をくみ取っているだけなので、さすがに固有名詞は伝わらないであります。」

ええと・・・つまり人間という概念は伝わっても、花村陽介という名前は伝わらないということか。まあ、意思が伝わるだけでもすごいけどね。それって、どういう力だろう。・・・超能力か?

さっき「機能」って言ってたから、もっと何か機械的な物なのかもしれない。

『そっかー。まあ、いろいろ言いたいことあるし、聞きたいことも山ほどあるんだけど・・・』

俺はそこで少しためらった。

しかし、どうせこっちは犬だ。おまけにそろそろ限界。非常事態だ。いくら金髪美少女相手でも、言わないわけにはいかない。

『あー、それで・・・その・・・実はトイレに行きたくて・・・どこに行ったらいいのかな?』

「コロマルさんのトイレはあそこです。」

俺の問いかけに、すかさず少女が指さす。

示された犬用トイレをしばらく見つめて・・・俺は泣きたくなった。

『あのさー・・・しばらくこっちを見ないでいてくれるかな?』

 




ペルソナQではうやむやにごまかしちゃってるんですけど、P3とP4キャラの競演の場合、2年の時間のズレがあるので、お互いの事情をどの程度ぼかすかが難しいところですね。あまりネタバレしちゃうと本編の物語に影響してしまうので・・・。今回は陽介が犬でしゃべれないのと、通訳のアイギスがポンコツなことで何とかしのいでます。
(私の書いたペルソナ3の小説の8作目です。陽介が主人公でもやっぱりペルソナ3なんです。)


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中編

犬になったガッカリ王子の続きです。
ひたすら陽介が可哀そうな話なのですが、ひどい目に合う程、陽介の人の良さが際立つ気がするのは不思議なもんですね。いい奴なんで幸せになって欲しいです。
中編ではP3メンバーが揃ってきますが、ともかく詳細な情報交換を避けるため、直接会話は避けてます。



彼女はアイギスと名乗った。

どうもかなり独特な性格のようで、会話が微妙にズレている。外国人だからだろうか?

出身国をきいたら「屋久島」という答えが返ってきたが、「屋久島」って日本だよな。少なくとも金髪ではないはず。

困ったことに、こちらの言っていることをどこまで理解できているのかがよくわからない。

しかし彼女の説明で、ここが高校の学生寮だということだけはわかった。

それはともかく、空腹で辛い。のども乾いた。しかし、それでもドッグフードを口にすることは、まだプライドが邪魔していてできなかった。

(なんで俺がこんなことに・・・)

本当に泣きたくなってくる。

アイギスさんに頼むと、犬用の器とは別にキッチンからボールに水を入れてきてくれたので、とりあえずのどの渇きはうるおすことができた。

『しかし、腹へったなあ。何か人間の食べるものを食べたいんだけど・・・』

俺が泣きつくと、

「冷蔵庫を確認して来るであります。」

と言って彼女は再びキッチンに向かい、やがて何やら皿にのせて戻ってきた。

「残り物があったようなので、分けてもらってきたであります。」

『ありがてー。』

うれしくなり、自然にしっぽがパタパタと動いた。

しかし、目の前に置かれた皿を見て、俺は硬直してしまった。

その紫色のスライム状の物体は本当に食べ物なのだろうか?

肉や野菜らしきものは入っているようなので食べ物なのだろうが、犬の鋭い嗅覚は料理の芳しい香りではなく、もっと刺激的で危険なものを嗅ぎつけていた。

天城や里中のとてつもない料理を口にした経験があるだけに、頭の片隅でアラートが鳴り響いているのを感じる。

「食べないので有りますか?」

アイギスさんが聞いて来る。

『えーと・・・これ誰が作ったの?』

俺はためらいながら訊いた。

「山岸・・・とメモがついていたので、風花さんだと思われます。」

いや、名前を言われてもわかんないから・・・

『その人、料理できる人? その人の料理、食べたことある?』

俺はしつこいくらいに訊き返す。

「私はありませんが、ときどきキッチンで料理の研究をしているようであります。」

料理の研究・・・という言葉が気になるが、日頃から料理している人なら大丈夫か?

もしかしたら、どこか知らない異国の料理なのかもしれない。まあ、天城や里中みたいな破滅的な奴はそうそういないだろう。

俺は自分を納得させ、覚悟を決めて軽く一口食べてみた。口に入れた途端、得も言われぬ味が脳天を直撃し、俺は卒倒した。

「どうしたでありますか?」とアイギスさんに聞かれても声も出ない。

全身を震わせながら這いずると、ボールに鼻づらを突っ込み、水で口の中を洗い流すように飲んだ。そして息も絶え絶えに倒れこむ。

ここにも破滅的な料理を作る奴がいる。どうして、俺の周りはそんな奴ばっかりなんだ。

「何やってんだ?」

ふいに背後で男の声がした。

「コロマルさんが人間の食べ物を食べたいと言ったので、冷蔵庫にあった作り置きをあげたら、倒れました。」

「おいおい、やたらなものを食わせるんじゃねーぞ。人間と同じ食べものは、犬には体に毒ってこともあるんだからな。」

男が慌てた口調で注意した。

(冗談じゃない。アレは犬だけではなくて、人間も含めた全ての生き物にとって毒だ!)

俺は心の中でツッコミを入れた。

長身の男がしゃがんでのぞき込んでくる。

「大丈夫か? コロ・・・」

強面の顔だが、心配そうな表情を浮かべている。。

(また大丈夫か聞かれた・・・。全然大丈夫じゃねーよ。くそっ!)

あらためて悲しくなってきた。

俺はぐったりしたまま『はらへったなあ・・・愛屋の肉丼が食いてえ・・・』と洩らしたが、その声は情けないクゥーンという鳴き声にしかならなかった。

「空腹でたまらないと言っているであります。」

アイギスが律儀に俺の言葉を伝える。

「ここにエサが出てるじゃないか。」男が言った。

「コロマルさんは昨夜まで人間だったけど、目がさめたら犬だったので、ドッグフードは食べられないそうです。」

いや、アイギスさん、その言い方じゃ、わけわかんないよ。

「ああ? 何言ってんだ? 昨日も今日も犬だろうが。しかも犬なのにドッグフードが食えないってのはどういうこった。」

案の定、男が理解できないと言った様子で聞き返す。

「元人間としてのプライドがあるそうです。」

「なんだそりゃ、昨日やられてからおかしくなっちまったんじゃねえか?」

男が呆れたような声を出した。

「ええと・・・私にもよくわかりません。ただ肉丼というものが食べたいそうであります。真田さんがよく『うみうし』という店で買ってくる、あれのことでしょうか?」

男はため息をつくと、「ちょっと待ってろ」と言ってキッチンに入っていった。

『昨日やられてから・・・っていうのはどういう意味だい?』

俺は男が言っていたことが気になって、アイギスさんに聞いてみた。

「昨日、コロマルさんはシャドウの攻撃を受けて気を失いました。怪我はなかったようですし、気が付いてからは何とか歩いてきたようなので、大丈夫かと判断したのですが・・・もしかすると脳に障害が残ったのかもしれません。」

『それで、みんな「大丈夫か・・」って聞いてくるのか・・・って、あれ?・・・今シャドウにやられたって言った?』

俺は急に体を起こすと、アイギスさんに向き直った。

「はい。コロマルさんは、シャドウとの戦闘で奇妙な精神攻撃を受けたであります。」

『えっ・・・シャドウってあれだよな。テレビの中にいる怪物。』

「テレビ番組ではありません。」

『テレビの中っていうのはそういう意味じゃなくて・・・っていうかテレビの中じゃなかったらどこにいるんだよ。』

聞けば聞くほどわからなくなる。

「タルタロスにいるであります。」

『何それ』

「影時間だけに現れる塔であります。」

『わけわかんねーよ。』

それから繰り返し質問して聞き取ったアイギスさんの説明をまとめると、夜中12時から1時間、普通の人間には感知できない時間があって、その時間にタルタロスという謎の塔が出現するらしい。

その塔はシャドウの巣で、この寮の住人はシャドウと戦いながらタルタロスの探索を行っているということだ。

突拍子の無い話だが、俺たちの事件も突拍子の無さでは負けていない。シャドウが絡んでいるというだけで、常識では判断できない事態であることは間違いないのだ。

彼らの言うシャドウが、俺の知っているシャドウと同じなのかは分からないが、聞いた話ではかなり似た雰囲気の怪物のようだ。

俺たち以外にシャドウと戦っているやつらがいたとは驚きだ。しかし、テレビの中で戦っているわけではないらしい。もしかすると、俺がこんなことになったのも、そのタルタロスが関係しているのではないか?

同じようにシャドウが徘徊する別の場所で、シャドウの攻撃で気を失った俺とコロマル。

共通点といえば共通点と言える。この事態解決の糸口はタルタロスにあるのかもしれない。

『君らは何の目的でタルタロスの探索を?』

「目的はシャドウを殲滅し、人類を脅威から救うことであります。」

『なんだって?』俺は驚きの声を上げた。

「こら、吠えるな。」

叱る声とともに、先ほどの男が戻ってきた。

ものすごくいい匂いをさせている。俺は思わず口から舌を出してよだれを垂らした。

「ほらよ。これなら犬でも食えるだろ。」

目の前に皿が置かれる。

(おおっ!)

皿に盛られていたのは、肉と野菜の「まぜごはん」的なものだった。空腹に耐えきれず、いきなりかぶりつく。

うまーい!!!

とてつもなく旨かった。何で味付けしたのかはよくわからなかったが上品な味だ。ともかく俺は空腹を満たすため、がつがつと食いまくった。

俺のがっつく姿を見ながら「どう見ても犬じゃねーか。」と男が言う。

反論したいが、食べるのをやめられない。こんな見事な料理をこの男が作るなんて、ホントに世の中はわからない。

ようやくひとごこちついてから、『ごちそうさん。めちゃくちゃ旨かったよ。』と礼を言う。

「大変おいしかったそうです。」アイギスさんが通訳した。

「そりゃー良かった。まあ、犬だっていつもおんなじドッグフードじゃあきるよな。」

男が口元に嬉しそうな笑みを浮かべた。

どう説明すれば自分が人間・・・元人間だと信じてもらえるだろう。固有名詞は伝わらない上に、アイギスさんの若干的外れな通訳では何を言っても理解してもらえないような気がする。

『俺もそのタルタロスっていうのに行けないかな。』

俺はアイギスさんに言ってみた。ともかくそのタルタロスを確認してみたい。

元の俺の体が死んでいなければ、もしかすると元の体に戻るヒントがあるかもしれない。

「コロマルさんがタルタロスへ行きたいそうです。」

アイギスさんが律儀に通訳してくれる。

「昨日の今日でか? やめといた方が良くねーか?」

男が心配そうに言った。強面でぶっきらぼうだが、結構優しい性格なのかもしれない。

料理ができたりする意外性とか、完二を連想させるところがある。

『どうしても行きたい。確かめたいことがあるんだ。』と俺は重ねて言った。

「まあ、美鶴やリーダーさんに言ってみるか。」

頭をかきながら、男がそう答えた。

 

「昨夜のリターンマッチということか。コロマル、男だな!」

短髪でスポーツマンタイプの男が熱い口調で言う。真田という高校3年生らしい、闘志満々で指を鳴らしている

「まあ、コロマルが大丈夫だというのなら、構わないが・・・」

ロングヘアの美女が少し考えながら言った。桐条さんという3年生だ。

アイギスさんに、先ほどの料理の男 荒垣、小学生の男の子 天田、を含めたこの寮の住人全員がロビーに集まっていた。

「それにしても、コロマルが・・・その、自分は人間だって言ってる、っていうのは何なんですか?」

ピンクのカーディガンを着た岳羽さんという女の子が言った。

俺と同い年くらいだろう。アイドルの りせ に引けを取らない可愛らしさだ。ちょっと気の強そうなツンとした感じがたまらない。

俺は彼女を振り向いて、ドキリとして目を見開いた。

俺の位置からだと、すらっとした形のいい足を下から見上げた格好になる。しかもかなりのミニスカートで、太腿からあわやその奥まで覗けてしまいそうだ。

「なんだかわかんねーんだが、コロがアイギスに『自分は人間だ』と言っているらしい。」荒垣がぼやくように言う。

「俺たちと一緒にいるうちに、自分も人間みたいな気がしてきた、ってことなんじゃないっすかねー。」帽子をかぶってあごひげを生やした男 伊織が言った。

「そうではなくて、昨日までは別の人間だったのに、気が付いたらコロマルさんになっていたそうであります。『見た目は犬、頭脳は人間』であります。」

アイギスさんが俺から聞いた話を伝える。

一同が顔を見合わせた。

「なんだそれは・・・。」真田が声を洩らした。

「えっ・・・それじゃあ、犬のコロマルはどうなっちゃったんでしょう。」

天田が心配そうに言った。

「まあ、コロマルがまだ混乱状態にあって、おかしな勘違いをしている可能性もある。」

桐条さんが冷静に言う。

「その原因がタルタロスにあるかもしれないので、行って確認をしてみたいのだそうです。なんでもこうなる前には、自分も仲間と一緒にシャドウと戦っていたとのことであります。」

アイギスさんがさらに説明を続ける。

「タルタロスでか?」桐条さんが訊き返す。

「いえ、テレビの中だそうです。」

再び沈黙。

「なんだあ、それ?」伊織が声を上げた。

「正気の沙汰じゃないな。意味がさっぱり分からない。とても正常とは思えない。」

あきれたように真田も言った。

「おいおい、大丈夫か?コロマル、昨日のショックでおかしくなっちまってねーか?」

伊織が軽い調子で声をかけてきた。

しかし実はその会話の間、俺は岳羽さんの太腿に釘付けになっていた。足を組み替えるしぐさにもドキドキする。もう少し姿勢を低くすれば、スカートの中が・・・

「ちょっ!」

突然、岳羽さんがスカートを押さえて叫んだ。

「どした、ゆかりっち?」

「なんかコロマルがスカートの中を覗き込んでて・・・気持ち悪い。」

やべっ、気づかれた。

俺は焦って視線をはずした。じっと睨みつけてくる岳羽さんの視線に冷や汗を浮かべる。犬だから言い訳もをすることもできない。

しょうがねーだろ。年頃の男子高校生がこのアングルで太腿見せられたら、誰だって釘付けになるだろ。そうだろ、相棒!

「ほ、ほう。犬という立場を利用してスカートの覗き見とは・・・。なかなかやるじゃないの。うらやましいなーこのこの。」

伊織が能天気に茶化してきた。うるせー、だまってろ!

「ばっかじゃないの」岳羽さんが冷たく毒づく。「・・・てか、ばっかじゃないの。」

「2回言うな!」伊織が声を張り上げた。

岳羽さんは叫ぶ伊織の相手をせずに、桐条さんに向き直った。

「せんぱーい、これ、ほんとにコロマルじゃないんじゃないですかねー。なんだかいつもの可愛いコロマルに比べて、ガッカリ感が強いんですけど・・・」

うわあ、またガッカリって言われた。俺ってやつは犬と比べてもガッカリされちまうのか。

さすがにヘコんでしゅんとなる。

「ま、まあ、落ち着け。とりあえず今夜はタルタロスに行ってみようじゃないか。そこで何かわかるかもしれないし、だめならもう少し詳しく調べる方法を考えるとしよう。」

桐条さんが取りなしてくれる。

「そうですね。犬の足ではパソコンのキーボードを使ってもらうのとかは無理かもしれないけど、ひらがなとかローマ字のカードを使えば、どこの誰なのか、名前とか確認することもできるかもしれません。私、少し考えてみます。」

山岸という大人しそうな女の子がそう提案する。こんなおしとやかで真面目そうな感じの子が、あんな破滅的な料理を作るんだからなー。本当に見た目だけでは何も信じられない。

しかし、それにしてもここの女性陣は美人揃いだ。まあ、俺らの仲間の女子も顔だけなら負けてないけど・・・

「それじゃあ、そういうことで、今夜は全員でタルタロスに行きましょう。」

リーダーの男が話をまとめた。




今回、荒垣にごちそうして欲しかったので、時期的に9月になりました。時期を合わせて、P4メンバーは「秘密結社改造ラボ」の探索です。実は同じ9月にP4メンバーは修学旅行で月光館学園を訪れているのですよね。まあ時間的には2年ずれているんですが・・・。この話を書くとき「月光館」の名前を出すか迷ったのですが、話の展開がややこしくなるのであきらめました。
さて、いよいよ次回で完結です。


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後編

さて後編です。
P3の世界観の維持の為には、お互いがあまり情報交換し過ぎないうちに、陽介に帰りいただく必要があり、一気にお開きとすることしました。ひたすらガッカリの連続ですが、ちょっとだけカッコいいところも入れました。
ガッカリのダメ押しも含めて、ラストスパートです。


その夜、俺はみんなと一緒に、タルタロスと呼ばれている塔へ向かった。

寮を出るとき、俺は首輪にリードを付けられてしまった。

俺は嫌がったのだが、

「お前は今、どう見ても犬なんだから、散歩のときにリードをつけるのはマナーなわけよ。誰に見られるかもわからないんだから我慢しろ。」

と伊織に言われて、あきらめて紐で繋がれるしかなかった。

しかし、小学生の天田に引かれて歩いていると、情けなさが半端じゃない。

しかも追い打ちをかけるように、伊織が「リードで引かれて歩かされてるってどんな感じだ?」とか「桐条先輩とかに引いて欲しいんじゃないか?」とかひたすら茶々を入れてくる。

悔しいが犬だから言い返すこともできない。でもまあ、そのあと伊織は岳羽さんに「馬鹿なこと言ってんじゃない!」ときつく怒られてたから、いいんだけどね。そのガッカリっぷりには俺も負けるよ。

そして深夜0時。

話に聞いた通り、全ての照明が消え、人間は皆、棺に姿を変える。

ここのメンバーは全員が影時間に適性がある希少な能力者だということだ。俺も棺に変化するようなことはなかったが、影時間に適性があるのか、それともコロマルの体にいるせいだろうか。

やがてその異常な光景をの中、タルタロスにたどり着いた。天まで届くその塔を見上げて俺は驚愕した。尋常ではない非現実感だった。こんなものが影時間にだけ存在するなんて、とても信じることができない。

一同に連れられて、塔のエントランスホールに入る。

俺の知っているテレビの中の世界が、現実にあふれ出したような奇妙な光景の場所。

俺は絶句したまま、周りを見回した。

「昨夜、コロマルが攻撃を受けて気を失ったフロアから再度探索してみましょう。」

リーダーと呼ばれている、前髪を長く垂らした男が言った。

探索メンバーはそのリーダーと、犬語通訳のできるアイギス、そして荒垣と俺だ。

他はバックアップとして、いざというときに備えて待機するのがルールらしい。

俺はアイギスさんから短剣を渡された。普段、俺が戦闘で使っている武器に似ていたが、コロマルはこれを口にくわえて戦っていたのだという。

『忍犬かよ!』

俺はツッコミを入れたが、誰も理解してくれる人がいなくて寂しい空気が流れた。

正直、犬として初心者の俺が、これを咥えて戦うなどというそんな器用なことはとてもできそうにない。

俺がそれをアイギスさんに伝えると、

「それなら俺も一緒に行こう。コロマルは戦わずに後からついて来ればいいさ。」と真田が名乗りを上げた。

メンバーが決まった後、転送ポイントを利用して迷宮に入る。

攻略済みの迷宮のポイントに飛べる仕組みらしい。いよいよ探索の開始だ。

それはテレビの中で探索する俺たちの雰囲気によく似ていた。

山岸さんのナビに従い、徘徊するシャドウをかわしながら慎重に進んでいく。

しかしついにかわし切れず、シャドウとの戦闘となった。

リーダーの男が銃を抜く。射撃するのかと思ったら、そのまま自分の頭に向けた。『正気か!』思った瞬間、「ペルソナ!」という声とともに男の背後に分身が現れた。

こいつら、俺たちと同じ、ペルソナ使いか!

考えて見ればシャドウと戦っているという時点で、当然予想できたことだ。あんな怪物を相手に、普通の武器だけで戦うというのは不自然だ。

だが驚きはそれだけでは止まらなかった。

「掃射!」というかけ声とともに、アイギスさんが両手から機銃を発射したのだ。

(なんだあれ・・・人間離れしてる・・・っていうか人間じゃない?)

俺は度肝を抜かれて、ポカンと口をあけたまま彼らの戦いぶりを眺めていた。

真田のペルソナが電撃を放ち、荒垣がバス停を振り回す。

なぜバス停なのか、という疑問も湧いたが、もう驚きすぎていてツッコミが追い付かない。

瞬く間に4体のシャドウが殲滅された。

(こいつら、強ええ・・・)

あっけにとられている俺に、「行くぞ、コロマル」と真田が声をかけてきた。

俺は慌ててアイギスさんに並ぶと声をかけた。

『あのー、アイギスさん? アイギスさんって人間じゃないの?』

「さきほど申し上げました通り、私は対シャドウ特別制圧兵装 七式。シャドウ殲滅の為に作られた兵器であります。」

『ええー!! それってつまり、ロボットっていうこと?』

確かに話をしていて少し様子がおかしいとは思ったが、それでも人間にしか見えなかったこの美少女が、実はロボットだったとは・・・。現代の日本って、こんなロボットを作れる技術があるのか?

それにしても、最先端技術で両手にマシンガンを備えた金髪美少女ロボットを作るって、果てしなくテクノロジーの使い方を間違えている気がする。

どうにも理解が追い付かない。まあ、うちにも理解不能な着ぐるみがいるけど・・・

(それにしても直斗の秘密結社改造ラボといい、なんだか最近はロボットづいてるなあ。)

 

その後は、数回の戦闘があったものの、順調に迷宮の攻略を進めていった。

「次のフロアに進みましょう。」

しばらく探索し、階段を見つけたリーダーがそう言ったときだった。その階段の上り口をふさぐようにして、奇妙な針金細工のようなシャドウが数体現れた。線で構成された奇妙な体をうねらせながら、こちらに迫って来る。

「あいつは・・・!」真田が叫ぶ。

「どうした、アキ」荒垣が問いかける。

「昨夜、戦ったやつだ。気をつけろ。おかしな精神攻撃を仕掛けてくる。昨夜はとうとう倒せずに逃がしてしまった。コロマルもあいつにやられたんだ。」

「なに?」荒垣の視線が鋭くなる。

これが問題の敵か。俺も緊張して身構える。

「行きます。」アイギスさんの銃撃で戦闘開始となった。

残る3人も銃型の召喚器を手にする。

その時、シャドウを中心に奇妙な波動が広がった。

(なんだ?)

次の瞬間、リーダーの男が手に持った片手剣でいきなりアイギスさんに切りつけた。咄嗟に受け止めるアイギスさん。一方、荒垣がいきなり真田に頭突きを食らわせた。突然に始まった同士討ち。

みんな「混乱」している。これはシャドウの精神攻撃か。

このままじゃヤバイ! 下手をすれば全滅だ。俺も黙って見ているわけにはいかなくなった。

俺は短剣を咥え、シャドウに向けて走った。

一か八か飛びかかるが、やはり慣れない態勢ではうまく相手に切りつけることができず、逆に叩き伏せられてしまった。

殴り合う真田と荒垣。アイギスは混乱していないようだが、リーダーからの攻撃をかわすのに手いっぱいだ。完全に手詰まりだ。

なんとか起き上がったものの、シャドウが全て俺に向かってくる。

『ちくしょう。ペルソナー!』

切羽詰まった俺の叫び声は遠吠えとなった。そして・・・

その声に応えるかのように、俺の体からペルソナが浮き上がる。

俺が犬になったとしても、ペルソナの姿は変わらなかった。ペルソナは心の力。体が犬でも心が俺なら、俺のペルソナはジライヤだ。

疾風攻撃がシャドウに襲い掛かり、衝撃で後退するシャドウ。

『行っけぇ、ジライヤ!』

連続でペルソナを呼び出して、さらに疾風攻撃で追撃する。

「セイリュウ!」

声がして振り向くと、リーダーの男が正気に返ったらしく、ペルソナを呼び出していた。

「パラディオン!」

さらにアイギスさんがペルソナを呼び出す。

『ロボットがペルソナ?』

俺は声を上げた。しかし驚くことが多すぎてさすがにマヒしてきた。いちいち驚いていてはきりがない。ともかく今はこいつらを倒すことが先決だ。

ここからが反撃だ!

俺たちの連携攻撃で、シャドウが次々消滅する。

やがて、荒垣と真田も正気に戻って参戦してきた。

敵は残り一体。

俺が再度ペルソナを呼び出そうとしたとき、シャドウから得体のしれない波紋が広がり、突然に目の前がぐるぐる回り出した。

あっ、これ精神攻撃だ。やばい。

俺は必死に意識をつなぎ留め、敵に飛びかかろうとして・・・そして

 

「しっかりしろ。」

という怒声とともに、激しく頬を張られた。

「いへえ!」

はっとして目を見開くと、目の前に相棒がいた。周りには見慣れた八十稲葉の仲間たちがいる。

「はえ? はいほぉう・・・。」

俺は気の抜けた声を洩らし、そこで短刀を口にくわえていることに気づいて、慌てて吐き出した。

両手をみる。人間の手だ。俺は自分の体を見回し、顔をなでまわした。

「やった、人間に戻ってる。やったぜ!。」

喜びのあまり、俺は歓声をあげる。

(やっと自分の体に戻ることができた・・・いや、それとも犬になっていたってのは夢だったのか?)

そう考えながらふと気づくと、みんなが複雑な表情を浮かべ、距離を置いてこっちを見ている。

俺は笑顔を硬直させた。

「えっ? あれ? ・・・な、何があったのかな・・・」

目の前の誰一人、返事をしない。俺は急に不安になってきた。

「なんだよー。なんか言ってくれよ。俺、どうしてたんだ?」

気になって、俺は大げさに身振りをしながらみんなに訴えた。

「どうやら正気にもどったようだな。」

軽くため息をつくと相棒がそう言った。

【先輩は、赤いロボットみたいなシャドウの攻撃を受けて、その後しばらくおかしくなってたの。】

りせ の声がした。

「え・・・おかしくって、どういうこと?」

俺は状況を理解できずに重ねて聞く。

「急に短刀を口にくわえて、四つん這いで敵と戦い始めたんすよ。」と完二が説明する。

「いや、その動きの素早いこと。ほんとに凄かったんすけっどね。ちょっと人間離れしてたっつーか。・・・はっきり言って引いたっす。」

「しかも、その後、花村君が呼び出したペルソナは頭が3つある犬だったの。」

天城がさらに後を続ける。

「あれはケルベロスだな。」と相棒が言った。「しかし陽介に、なぜあんなペルソナが出たんだろう。」

えーと、それってもしかして・・・コロマル?

俺がコロマルの体に入ってたのが夢じゃなかったとしたら、もしかしてその間、コロマルが俺の体に入ってたの?

【花村先輩の大活躍で、見事に巨大ロボットは倒せたんだけど・・・その後も先輩、四つん這いで『わんわん』言ってて、すっかり犬だった。】

りせ が言いにくそうに続けた。

「四つん這いで、舌出してハアハア言ってって・・・やたらじゃれついて来るし・・・見ててホントに情けなかったんだけどね。」

その後、里中が厳しい表情で語る。

「挙句の果てに、つい今しがた・・・みんなの見ている前で・・・そこの柱のところで・・・四つん這いのまま片足を上げて・・・」

えっ・・・なにそれ・・・まさか・・・

里中の指さす柱を見ると、その根本がびっしょり濡れている。

俺は血の気が引いて、頭を抱えた。

相棒が俺の肩にポンと手を載せた。

「うっそーん」

俺は無性に遠吠えをしたくなった。




実は、「月光館学園」の名前を陽介が聞いていて、修学旅行の時に寮を確認に行くエンディングも考えました。
寮はもうすでに取り壊されていて、2年前に寮生が一人亡くなったという話を聞くというエンディング。ちょっと暗すぎて後味が悪いので没となりました。コメディなんだから「うっそーん」くらいで丁度いいですよね。
ということで、今回はこれで完結です。ありがとうございました。


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