昔渡し編※お試し版 (赤いUFO)
しおりを挟む
雛見沢大災害
それは、江戸川コナンが所用で実家に戻り、父である工藤優作の部屋に入った時の事だった。
「なんだ? このファイル?」
見たことのないファイルを見てコナンが本棚から引き抜く。
「雛見沢大災害?」
それは、昭和58年に起こった日本の大災害。有毒ガスが発生し、雛見沢村に住んでいた住民2000人以上が死亡した災害事故に関する新聞や週刊誌の記事を纏めた物だった。
「何で父さんはこんなものを……」
これは事件ではなく自然災害の事故だ。優作が大事そうにしまっている理由が思い付かない。
首を捻っていると、携帯に連絡が来る。相手は、阿笠博士からだった。
「どうした、博士?」
『おう、コナンくん! 今、歩美ちゃん達が遊びに来てての。おやつも用意しとるからどうかと思ってのぉ』
普段は新一呼びだが、少年探偵団の面々が居るため、コナン呼びなのだろう。
「あぁ。今、俺んちにいるから、すぐに行くよ」
それだけ答えて、コナンは手にしているファイルを見る。
「雛見沢大災害。父さんがどうしてこれを自室に仕舞っていたのか、博士なら知ってるかもしれねぇな」
それは、いつもの好奇心からの興味で、特に強い関心があるわけではなかった。
ちょっとした暇潰し。その程度の認識だったのだ。
これが、雛見沢大災害の大きな真実に知ることになるとは、この時は予期していなかった。
「おおっ! 懐かしいのぉ。これは優作君が熱心に調べておった件じゃよ」
「父さんが? どうして?」
探偵団の3人を灰原に任せて阿笠博士にファイルを見せると、懐かしそうにパラパラと捲り始める。
「うむ。この雛見沢村では大災害前にも5年連続で不可解な事件が起こっておる。大災害が起こった年にも確かその学校の生徒が籠城事件を起こしておったか……」
ページを捲り、籠城事件について書かれた記事を開いた。
それは、当時14歳の少女が生徒達を人質に取り立て籠った事が書かれている。
ただ、その少女は最終的に自首し、警察に保護されたらしい。
当時未成年だったからか顔写真等は載せられていない。
「その事件のすぐ後に、そのガス災害が起こって村人は全滅。数年前にようやく村への立ち入りが許可されたくらいじゃよ。もっとも、今でも誰が住み着く訳でもないんじゃが。それに問題はそれだけでなくての」
飲んでいたコーヒーをテーブルに置いて、博士が重く息を吐く。
「その大災害後に、各地に散らばっていた元雛見沢の住民が奇行に走る事件が多発してたわい」
「奇行?」
「うむ。怪しげな呪いやらなにやらを自宅や老人ホームで行ったり。確か女子高生が両親と祖母を殺害する事件もあったの。それを機に、雛見沢出身者は一時、全国で魔女狩りのように酷い扱いを受け取った」
事件当時の事を思い出して阿笠博士は苦い表情になる。
「優作君が作家として人気が出た頃にその雛見沢を調べてたんじゃよ。あれは、自然災害などではないと言ってな」
「え?」
阿笠博士の言葉にコナンが目を丸くする。
「実際、科学検証で有毒ガスが村へと届くことを疑問視する声があっての。優作君も調べようとしたが、村への出入りが禁止されとって断念せざる得んかった」
「へぇ」
相槌を打ちながらもコナンの表情はどこかの楽しげな様子だった。
自分より上の推理力を持つ父が解けなかった謎。
それはコナンの探偵としての興味を持たせるには充分な理由だった。
「なぁ、博士! その雛見沢って、今はもう立ち入り出来るんだよな?」
「なんじゃ? 行きたいのか?」
目を輝かせるコナンが頷こうとすると、探偵団の面々が近付く。
「なぁに、これ?」
「何て読むんだ?」
「雛見沢大災害、ですよ。元太君」
ファイルを手に取って難しそうに眺める純粋な小学生3人。
最後に手に取ったファイルを灰原が流し読みしている。
そんな中で歩美がコナンに質問した。
「これって、すごく昔の事件?」
「あ、あぁ。偶々見つけたから、当時の事を知ってる博士に聞いてたんだよ」
「でも、この村の人はすでに皆亡くなってるんですよね?」
光彦の言葉に灰原が淡々と話す。
「そうみたいね。でも、当時の事はかなり疑問視されていて、未だに色々な臆測が飛び交ってるみたい」
「臆測?」
「宇宙人説や地底人説みたいなSFじみた仮説から、どこかの特殊な組織が住民を有毒ガスで皆殺しにした、とか。本来、数年で解禁されるガス災害の立ち入り禁止も、20年もの間解かれなかったこともそれらの仮説の後押しになってるみたい」
灰原の説明に少年探偵団の子供達が目を輝かせる。
「ならよ! オレ達少年探偵団がその謎を解いてやろうぜ!」
「良いですね! 今度連休もありますし、調べるならその時に!」
「ねぇ、博士! この村に連れて行ってもらっちゃダメ?」
「それは構わんが……」
阿笠博士が了承すると、歩美、光彦、元太の3人が万歳と手を上げる。
「おい。良いのかよ、博士。雛見沢って危ない所なんじゃねぇのか?」
「ま、まぁ、もう何十年も前の話じゃし、今は誰も住んどらん土地で変な事も起きんじゃろうて」
楽観視する阿笠博士にコナンはやれやれと視線を向けていると、灰原が話しかけてくる。
「あら。どうせ1人で調べようとしてたあなたにどうこう言える?」
それを言われると痛いのか、コナンは黙りこんでしまう。
「何にも起きなきゃいいけどな……」
子供達を連れていくことに一抹の不安を覚えながらも、コナンは父が解けなかった謎に挑めることに沸き上がる感情を押し込める事が出来なかった。
高台から雛見沢村を見渡せる丘で見下ろしながら1人の少女が佇んでいた。
前髪を切り揃えられた長い黒髪。
白いYシャツに紺のスカートを履いた子供
小学校高学年くらいの少女はその誰もいない村の景色に愕然としていた。
「これ、が────の結果だというの?」
その年齢に似つかわしくない口調でまるで罪に怯える罪人のように体を震わせている。
「あなた達の無念は、必ず私が────」
それだけを呟くと、少女はその丘から姿を消した。
個人的に昭和58年の時間ならオリ主も他作品のキャラも入れない方が書きやすいけど、それ以降ならこういうのが書きやすい気がする。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
到着、雛見沢村
「なぁ博士ぇ、まだ着かねぇのかよぉ……」
「仕方ないじゃろ。ここら辺は道が整備されとらんし、この山道はのぉ」
日がくれて夕焼けの空になった頃、小型のキャンピングカーを運転する阿笠博士の後ろで元太が文句を言っている。
あまり人通りのない道な為、車が通れる道もろくに整備もされておらず、視界も悪いことから速度を落として移動していた。
そこで歩美が本を読んでいるコナンに話しかける。
「何読んでるの? コナンくん」
「雛見沢の事件を調べてた刑事さんが出版した告発本だよ」
父である工藤優作の部屋で見つけた雛見沢の資料本。
個人出版だったらしく、発行数は少なかったようだが、優作の書斎に置いてあった。
題名は"ひぐらしのなく頃に"。
雛見沢で起きた事件が風化しないように纏められた一冊は、著者が刑事ということもあってコナンにとっては解りやすかった。
大災害以前から1年置きに続いている謎の怪死事件。
(これだけの事件が毎年同じ時期に起きるわけがねぇ。絶対に何かある筈だ)
好奇心で口元が緩んでいると、光彦がこの近くにある興宮の住民の反応を思い出す。
「それにしても、あそこの人達は良い顔しませんでしたね」
「ま、興宮には元々雛見沢に住んでいた人も多かったみたいだし。当時の記憶がある人達には余所者に触れてほしくないのは当然でしょうね」
「だからってよー。怒鳴られたりもしたんだぜ?」
「それだけ、当時は混乱は相当だったんじゃろうな。元住民も近づきたくなくなるほど」
阿笠博士の言葉に元太が不満そうに唇を尖らせる。
そこで窓の外を見ていた歩美があれ? と呟いた。
「どうしたの?」
「今、向こうに誰か居た気がして」
「歩美ちゃん、本当ですか?」
「一瞬だったから、自信はないけど……」
自信無さげに言う歩美に阿笠博士が車を止める。
「もしかしたら、何かトラブルかもしれんのぉ。そうだったら大変じゃ。少し見てこよう」
少し車を後ろに移動させてから降りる。
歩美が見た方角に移動しようとしたが、その前に向こうから人がやって来た。
「あ~、よかった~! 気付いてくれて!」
現れたのは茶髪のショートカットの髪型の20代半ばくらいの女性だった。
「すみません。乗ってきた車がトラブっちゃって。少し、手を貸してくれませんか?」
阿笠博士に申し訳無さそうに頼む女性。
その頼みを断れずに少し女性の車を見てみる。
「こりゃタイヤが完全にパンクしとるのぉ。何か、鋭くて硬い金属でも刺さってしまったようじゃ」
「あ~、やっぱり。事故らなかったのは不幸中の幸いだけど。前回といい、ついてないなぁ……」
トホホと肩を落とす女性。
そんな女性に阿笠が提案した。
「もしよければ、わしらの車に乗るかね? わしらはこれから雛見沢村という廃村に行く予定なんじゃが……」
雛見沢と聞いて、女性が身を乗り出した。
「本当ですか? わー! 助かります! 実は、私も雛見沢を目指してたので!」
子供のようにはしゃいでいる女性は車から最低限の荷物を取り出した。
「あ、申し遅れました。私、反町美雪と言います。雛見沢まで、よろしくお願いします」
深々と頭を下げる美雪にコナンが質問する。
「ねーねー、お姉さん」
「ん? どうしたの? えーと……」
コナンの背丈に合わせて膝を曲げる美雪。名前を訊かれる前にコナンが自分で名乗る。
「僕、江戸川コナン! それで、訊きたい事があるんだけど。さっき、前回って言ってたでしょ? もしかして前に雛見沢に来たことがあるの?」
「うん。あるわよ。2年くらい前かな? ただ、その時は色々あって、ゆっくり村を見ている余裕がなかったから。今回は時間をかけてちゃんと回りたいと思って」
「女性が1人、こんな廃村に何の用かしら?」
少し警戒した様子で質問する灰原に気分を害した様子もなく美雪は答えた。
しかしそれはやや歯切れがわるい。
「うーん。強いて言うなら、約束、かなぁ……」
どこか遠いところを見つめる美雪。
そこで阿笠が車に乗るように促した。
「とにかく、今は雛見沢村へ急ごう。ここで立ち止まっていたら、夜中になってしまうわい」
「あ、そうですね。お願いします。車は、帰りに興宮で業者に来てもらうしかないかなぁ」
そんな事を言いながら子供達の後に車に乗る。
道中で他の面々も自己紹介し、美雪は子供達の話を聞いていた。
しばらくすると最早荒れ果てた田んぼが見えてくる。
雛見沢に到着したのだ。
既に暗くなっていることもあり、人の居ない廃村は薄気味悪い雰囲気を醸し出していた。
「本当にだれもいねぇんだな……」
「この村がガス災害に遭ったのは、20年以上前の話ですからね」
「ちょっと、怖いね……」
元太、光彦、歩美がそれぞれ感想を述べていると、辺りを見渡していた光彦が、ん? と視線を細める。
「どうした、光彦?」
「いえ。今、僕達より少し歳上の女の子が見えたような気がして」
「こんな廃村に? どんな子だったの?」
灰原の質問に光彦は腕を組んで答える。
「髪の長い女の子です。ワンピースを着た……」
しかし、自信なさげの光彦に美雪が首をかしげた。
「ここには子供は住んでない筈だけどなぁ」
そこで思い出したように美雪が阿笠に告げる。
「すみません。先ずはここから真っ直ぐ進んだところにある。園崎という大きな屋敷に向かってもらえませんか? そこなら、最低限電気や水道が通ってるらしいので」
「本当かの?」
「えぇ。あ、家の関係者には許可は取ってあるので。今は雇い入れた人が管理しているらしいです」
雛見沢大災害で誰も居なくなった土地で、まだ電気や水道が通っている場所があるのはありがたい。
再び車に乗り、美雪の案内で移動していると、大きな日本屋敷が見えてきた。
呼び鈴を鳴らすと、中から50代くらいの女性が現れる。
「反町さん、ですね。話は聞いてます。そちらの方々は?」
「道中で車がトラブルに遭ってしまって。この人達が連れてきてくれたんです。その、この人誰もお世話になっても構いませんか?」
美雪が申し訳無さそうに訊くと、女性は上品な笑みを浮かべる。
「構いませんよ。むしろ、そうした人達を招き入れる為にこの屋敷があるような物ですから」
「子供の大人数で押し掛けて申し訳ない」
阿笠が頭を下げると女性はいえいえと気にしないで良いと言う。
そして女性は頭をお辞儀をした。
「私、半年程前からこの園崎邸の管理を任されております、田無美代子です。どうぞよろしくお願いします」
笑みを浮かべたまま自己紹介をした。
目次 感想へのリンク しおりを挟む