軍事国家、作ります! (たーなひ)
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原作100年前
プロローグ


思い付きやから続くかどうかも定かでは無い。先の展開すらも定かでは無い。

ギルドメンバーの上限って100人なんですね。書き換えました。



ギルド『神の国』。

構成メンバーは最大規模の100人と多く、一時期は20位にランクインしたこともある上位ギルドの一つだ。

 

もともとあった国を丸ごと奪い取って城を改築し、市民NPCなどの支配権を奪い取った事でこのギルドは設立された。

本来は平地に国を建てるよりも某PKギルドのように地下だったり高地に建てるのが良いんだが、当時は残念ながらそれほど戦力が無かったせいで人気のない平地に国を建てる事になった。

初期メンバー15人を除いたメンバーは殆どが低レベルの時から入って来た人ばかりで、初心者歓迎の上位ギルドとして評判は高く、同盟を組んでいたギルドもそこそこ多い。

 

 

__________________

 

オィィィィッス‼︎ドーモ、ギルマスのがぶりえるデース!

 

えーー、本日は、『ユグドラシル』サービス終了当日ですけども……。

 

ギルメンは………………。

 

誰一人………………………。

 

 

来ませんでした…………。

 

 

何がいけなかったんですかねぇ……(困惑)

 

 

まあ、分かってた事ではあるよね。

 

最初は管理とかめんどくさかったけど楽しかったよ。でもずっっとやってると飽きちゃって、管理を他の人に任せて……その任せた人もめんどくさくなって次……その次の人も………ってなって全員ログインすらもしなくなっていたんですよね。

俺はこうゆう風に国を作ったりするゲームが好きだから週2ぐらいではログインしてたけど、結局俺以外全員居なくなってしまった。300人近く人数居て最終日までやってるのが俺一人ってどういうことなんでしょうかね……。まあそれだけユグドラシルが衰退してしまったって話だろう。

 

 

玉座の間ーー俺は国のギルドのギルマスなので王という事になっているーーの祭壇の上を見ると、ギルド武器『神の旗』が刺さっている。特性としては、効果範囲ーー国内全域ーーにおける精神操作や即死系の魔法の無効化とステータス増加が挙げられる。

このギルド武器も、メンバーが80人を超えた辺りからみんなで協力して作り始めなんとか完成した思い出のあるギルド武器だ。流石に全員を覚えてはいないが、今でも70人ぐらいなら思い浮かぶ。

 

 

辞めて行ったメンバーの装備やらアイテムは貰ったのに殆ど使わなかった。100人もいれば金や資源の回収率も異常なので、今でも溢れ返るほどの量がある。

 

 

「……勿体無いから散財しとくか?」

 

みんなで集めた大量のユグドラシル金貨も、サービスが終了すれば完全に無くなってしまう。どうせなら、全財産でどれだけの戦力が集められるのか試してみよう。

 

 

 

この国には、二種類のNPCがいる。市民NPCと、兵隊NPCだ。

市民NPCは、食料やら住居やら政策で国として一定のレベルになるとPOPするNPCだ。普通の人間で、レベルは一律で1だ。無限湧きではなく、住居やら食料なんかの値に応じて増減する。

兵隊NPCは、金貨を使用する事で造れる戦闘用のNPCだ。ギルドとして作れるNPCとは別で、金貨の量によってレベルがピンからキリまで増減する。

 

 

というわけで、最後なので最強の兵隊NPC軍団を作ってみよう!

 

……ありったけの金貨をドーーーン!!

 

雑兵のレベルは……30ぐらいで良いかな?

30レベルを……1万いっとくか!どうせ使い切って無くなるんだから後々の事なんて考える必要無い!

指揮官は雑兵が1万だから……50人ぐらいでいいかな?指揮官がいるとバフがかかったりするから指揮官は必要だ。

後は……まだ少しあるな。

……じゃあ四天王的なのも作ろう!

80レベルを…6人が限界か。六天皇……いや、六連星とかにしうか。……うん。カッコええやん。

80レベルってカンスト勢からしたら敵にならないのにコスパ悪いんだよなぁ……。

あら、まだちょっと余ってるな……じゃあレベル5辺りを……え?2万人も造れるの?……じゃあ作っちゃお。

 

……こんだけの大軍がいれば俺の指揮官スキルバフ込みならどのギルド相手でも押し勝てるんじゃないか?

…………いや、無理だな。超位魔法とかで一掃されそう。

 

目の前に並んだ3万超える軍勢が俺に跪く様は、まさに壮観だ。

 

 

「はぁーーーすっげーーー……。誰かが見たら腰抜かすんじゃないか?」

 

 

こんな大軍を揃えたのは初めての事だ。もしこれに、市民NPCを動員すればーー市民が大勢死んだら国力がガタ落ちするのでやらないがーー実に63万人という大軍になる。俺の指揮する数が多ければ多い程バフが大きくなるスキルの効果まで考えると、全能感が溢れ出てくる。

これにギルドとして作ったNPC達ーー纏めて『将軍』と呼んでいるーーまで加わる。

 

 

これだけの大軍を一気に作成したが、本来はこの兵隊NPC達も国民に含まれるので、食料などの値もそれだけ必要になってくる。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

…まあ!サービスが終了するからこんな後先考え無い事が出来たって訳だね!!!

 

 

 

 

そんなこんなで、サービス終了まで1分を切ってしまった。

 

はぁーーー。楽しかったなぁーー……。

どうせならこの大軍でどっか侵略して見たかったなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

サービス終わった………よね?12時超えたし……とりあえず運営に確認を……………あれ?コンソール………でなくね?

 

何、バグ?

 

バグなのか?

 

 

 

 

ど、ど、ど、ど、どうゆうことだってばよ………。

 

 

 

「What the fuck………?」

 

何故か英語で出ちゃった……。まじでワッツアファックなんだが……

 

 

………いや、まじでワッツアファック(どうゆうこと)!!!???

 

 

「王よ、どうかなさいましたか?」

 

 

「……………………ヱ?」

 

 

…あれ?今声したよね?

でも誰もログインなんかしてこなかったし……空耳か?

 

 

「…何か、ございましたでしょうか?」

 

今度こそ聞こえたので、声の方を向くと、召喚した六連星の一人が顔を上げて口を開いていた。

 

 

 

 

 

 

「ゑ…………?」




「神の国……軍事国家……うっ、頭がっ!」ってなる人どれだけいるんでしょうかね?
ガチガチの主人公チートにする予定は無い(“主人公は”チートしない。多分)多分。多分。


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ま、まずは状況を…。

いやー、いつに無く筆が進む。これただの序盤元気マンか…?

プロローグだけやのにもう評価ついててふるえてます。


「何か、ございましたか?」

 

 

…まて、まずは深呼吸だ。落ち着け、とにかく落ち着くんだ。

 

スゥ―――…はぁーーー……。

 

………よし、まずは状況判断だ。

 

俺はユグドラシルのサービス終了日、最後まで残っていた。

そしてサービスが終了する12時になった。

しかし強制ログアウトさせられることはなく、運営に連絡を取ろうにもGMコールはおろかコンソールすら開けない。

かと思えば、喋る筈も無いNPCが喋り始めた。

 

駄目だ、まっっっっったく意味わからん。

 

 

「いや、何でもない」

 

間違いなくこいつは喋っている。

なぜNPCが喋っているのか分からないが、口が動いているのは確かだ。

つまり口を動かすことで発声しているということ。こんなことはただのデータであるゲームではなかったことだ。加えて言うならNPCが自発的に喋りだすはずもない。

 

何が起きてる?永劫の蛇の指輪(ウロボロス)でどうにか出来るような範囲の話ではない。

NPCの表情然り、意思然り、会話然り、どれもシステムをどうにかすれば解決するような物ではない。

それもサービス終了間近の落ち目にこんな手のかかるサプライズが用意されてる筈が無い。もしそうだとしても、コンソールが開けずログアウトが出来ないなんて言うのはおかしい。

 

 

(夢…ではないよな?)

 

そう思って頬をつねってみるが、痛みはある。

どうやら夢ではないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え?『痛い』?

 

痛みがある?

 

現実ってこと……?

 

 

 

 

「まぢでか………」

 

 

 

驚きの余り叫び声すら上がらない。

 

もうメーターを振り切りすぎて超冷静になっている。

 

 

 

どうする……。

まずすべきことを考えよう。

 

一先ず周辺の把握だ。この近くには同盟を組んでいたギルドの本拠地があるはずだから、そこにコンタクトを取れれば何かわかるかも知れない。

 

 

一刻も早く向かいたいが、今こいつらを放置しておくわけにはいかないだろう。それに、こいつらから何か聞けるかも知れない。一先ず六連星だけ残して退出させよう。

 

 

「……ろ……六連星以外は下がれ」

 

やっべ、六連星とか自分で言っててちょっと恥ずかしくなっちゃった……。

 

 

「「「「「「「は!!」」」」」」」

 

うおっ!ビビった……。声でっか!!

さすがに3万人もいると声量が桁違いだ。

 

 

3万の大軍がものの数分で退出していった。め、めっちゃキビキビうごくやん……。

 

 

 

「六連星、御身の前に」

 

跪かれると、こう…偉くなった気分になるね。

というか六連星っていう名前に確定してるのか。俺がそう思い浮かべて作ったからかな?

 

 

 

「………………」

 

な、名前がわからん。ていうかこいつらに名前なんかあるの?一応聞いといた方が良い………よな?

 

 

「お前たちの名前を教えてくれ」

 

………こ、こんな感じの聞き方でいいか?

 

 

 

しかし、彼らはお互いに顔を見合わせたりしており一向に答えない。

 

やべえ、早速失敗したか?

 

 

「申し訳ありません。われら六連星、一人一人に名前はございません」

 

あ、そうなの?

あ~良かった~。これで「え!私たちの名前知らないんですか!」とか言われたらどうしようかと………。

 

でもそうなると名前が無いというのは不便だな………。よし、名前をつけてあげよう!

 

 

えーっと、6人一組だから6にちなんだ名前がいいよね………。

6…六…ろく…六道とかいいんじゃね?確か地獄道・餓鬼道・畜生道・修羅道・人間道・天上道だったよな?ちょっと畜生とかは可哀想だけど、どうせカンスト勢にすぐ殺されるだろうからだいじょうび!

 

 

問題はだれにどの名前を付けるのか。

 

右にいる奴から考えていこう。

 

1人目は筋骨隆々な男で、厳つい顔つきをしている。

うーん…何でもいいなぁ…修羅にしとくか。

 

2人目は金髪イケメン優男だ。死ね。

お前は畜生だ。イケメンは許さない。

 

3人目は銀髪碧眼の美少女だ。胸?普通ぐらい。

問答無用に天上だ。だって可愛いもの。

 

4人目は黒髪の少年で、イケメンだが幼さが残っている。………お前はまだ子供だから許してやろう。

お前は餓鬼だ。

 

5人目は………ビッグマムだ。小さいビッグマムだ。何を言ってるかわから(ry

君は地獄だね。

 

6人目は普通の大人みたいな感じだ。眼鏡をかけており、知的な印象を受ける。

お前は残りの人間だ。

 

 

そんなわけで、こいつらの名前が決まったので伝えてあげた。

 

 

名前さえ把握出来ればまたあとでも呼び出して話が出来るので、この場は一先ず解散しよう。

 

「…じゃあ、俺は少し出てくる」

 

そう言って〈転移門(ゲート)〉で領土の外に出た。

 

 

__________________________

 

 

がぶりえるが去った玉座の間には、六連星が全員黙って涙を流していた。

 

涙の理由は悲しさなどではなく、有り余るほどのうれしさにある。

至高の方々が直々に創られた者には名前が与えられているが、彼らのように金貨で創られたものは名前をつけられることはない。それは同じく召喚された兵士たちが名前を持たないことからもわかる。しかし金貨を消費するだけで創ることができる…ようは替えの効く雑兵である彼らに直々に名前を付けるというのは、彼らにとってはこれ以上ない喜びを与えた。

 

 

 

「何と慈悲深い御方だ…」

 

そう零したのは畜生道と名付けられた男だ。

彼らにとってみれば畜生という一見バカにしているような名前だろうと関係ないのだ。たとえゴキブリだろうが和式トイレと名付けられようが彼らはその名に大いに喜ぶだろう。

 

 

「早くあのお方の役に立たねばならんな……」

 

人間道の言葉に全員が頷きを返した。

 

 

__________________________

 

 

………………あっれー…?

ここってこんな地形だったか?

 

 

外に出た俺は、今まで見たことのない地形に困惑していた。

確かに、最後に国の外に出たのは二週間は前のことだが、こんな地形ではなかった。こんな風な荒れた平野では無く、草原だったことは確かだ。アプデが来たのかと思ったがそんな知らせは無かったはずだ。

 

 

つまり国が転移したということか?

そうなると、近所のギルドを頼るという手段が取れない可能性がある。

 

 

ひとまず行ってみないことにはわからないか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無い。

 

無いぞ。

 

これは…ヤバいか?

 

完全に孤立している。完全に未知の土地で。

 

 

………………さすがにここでこんな場所で一人で突っ立ってるのは不味い。

一旦帰ろう。

 

〈転移門〉で王城まで一気に帰る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふぅ…。

 

無事に帰ってこれたので一息つく。

 

 

どうする……?

 

とにかく周りの状況を把握しなければならない。

もし周りにPKギルドでもあろうものならすぐに防御を固める必要があるからだ。

 

 

だが、俺が動き回るのはかなりリスキーだ。NPC達に意思があるとはいえ、俺を生き返らせてくれるのかはわからないし、そもそも生き返られるのかも怪しい。蘇生アイテムは持っているが、殺される可能性は極力減らすべきだ。

 

ここで、俺が最後っ屁のつもりで召喚した兵士たちが活きてくる。彼らに周りを探索させるのだ。

本気で安全を第一に探検隊を出すなら将軍達を動員するべきなんだが、彼らがこの城を空けるのは非常に危険だ。万が一襲撃があるなら、彼らがいないと対抗出来ない可能性がある。

それに、80レベルの六連星がやられるということは、おそらく100レベルクラスの敵がいるということになる。そいつがもし将軍と当たって敗北や相打ちにでもなろうものなら最悪だ。さっきも言った通り蘇生出来ない可能性がある今、一点ものの将軍達を失うわけにはいかない。

 

 

さて、そうなると、どういう風に部隊を編制するのかを考える必要がある。

それに、その間に国民達の様子も気になるので調べておきたい。

 

 

………………やることがいっぱいだな。

 

そういえば、秘書として創ったNPCがいたはずだ。彼に相談できるならやった方が良いだろう。

確か、俺の執務室に配置していたはず。

 

 

 

 

 

 

 

 

執務室の扉を開けると、こちらを向いた男が即座に跪いた。

 

「お久しぶりでございます。がぶりえる王」

 

「久しぶりだな、カルロス」

 

この男が秘書のカルロス。

死者の大魔法使い(エルダーリッチ)で、100レベルの将軍達を創った端数の71レベルで創られた。

設定上はアンデッドが故の広い知識と明晰な頭脳で優秀な秘書となっている。

戦闘面では正直大して強くはないが、アンデッドを作らせて兵隊の頭数を増やすようにしている。

 

 

ちなみに、今さらだが『がぶりえる』という名からわかるように俺の種族は天使だ。

人間よりはカッコイイこと以外に理由を挙げれば、まずステータスがそこそこ高い。そして信仰系の魔法と親和性があり、信仰系は指揮官系のスキルとも相性が良い。ついでに〈飛行(フライ)〉を使わなくても飛べる。

 

閑話休題。

 

 

「少し問題がある。知恵を貸してくれ」

 

「もちろんでございます。して、その問題というのは…?」

 

ふむ。うすうす想像は付いていたが、意思を持ったことに対する変化は何とも思わないようだ。

 

…というか、なんか俺、偉そうな喋り方板に付きすぎじゃないか?いや、別に失敗ではないしむしろこの喋り方は成功の部類なんだが、これから先この喋り方でいくのかと思うと少し憂鬱だ。

俺ってけっこう気楽な性格なんだけどなぁ…………。

 

 

「この国が、丸ごとどこか不明の地に転移している」

 

「…………そう考えた理由をお聞きしてもよろしいでしょうか」

 

外を見たようすをそのままに伝えた。

 

「…なるほど。確かに転移していると考えるのが妥当かと思われます」

 

「そこで、だ。探検隊を編成したい」

 

「この国の周りを調べる…ということですね?」

 

「そういうことだ。それと並行して、国内の様子を調べて欲しい。場所が変わったことによる問題や、暮らしについての調査と解決だ。頼めるか?」

 

「もちろんでございます!…でしたら、新たに創られた兵士を200名ほどお借りできますでしょうか。彼らと私のシモベに国内の調査をおまかせしたいと思います」

 

「構わん。好きに使え。探検隊は六連星の一人ずつをリーダーに、兵士を10人付けたいと思っているんだが問題はありそうか?」

 

「…………兵士とはどちらの…?」

 

「あー…」

 

『どちら』というのは、新たに最後っ屁で作った兵士と、もともと居た兵士、どちらなのかという質問だろう。

このふたつの差は、まず最後っ屁で創った兵士は一律30レベルの歩兵だ。しかし、もともと居た兵士たちは、考えに考え抜いた部隊編成や性能を持っている。弓兵や遊撃部隊、騎乗兵など、ギルメンでバランスよく無駄の無い軍隊になるように試行錯誤して大量の金貨をつぎ込んだ。

こんな風に、大きく分けて2種類の兵士に分類されることになる。

 

 

「新しく創った方だ」

 

「かしこまりました」

 

「せっかくだ、今のうちにそれぞれの部隊の名前を決めておいたほうが良いだろう」

 

「確かに」

 

うーん…。あんまり凝ると分からなくなるよな…。

 

「…………無難に歩兵部隊(Infantry unit)特殊部隊(Special Forces)とかでいいか」

 

「かしこまりました」

 

さすがにどっちがどっちを指してるかはわかるよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼致します」

 

カルロスが退出していった。

 

はぁ~~~~。疲れた。

 

ホント、一体どうなってんだ?

 

 




がぶりえる「うっわイケメンきっしょwww”畜生”って名前つけたろwww」

畜生道くん「あ^^~~名前貰ってうれしいんじゃ~!」


NPCからしたらただの王様じゃなくて、信仰の対象みたいになってる。

『至高の御方』ってのは全NPCの共通認識じゃないかなって思ってます。

誤字報告と感想待ってます♡


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エリカたんもえ〜

若干エロい?かも。

感想ありがとうございます。モチベ、上がります。


「期限は一週間だ。一週間で帰って来い。もし人がいた場合は友好的に接触して情報を手に入れろ。もし襲われた際は出来るだけ殺さずに無力化して連れ帰って来い」

 

「「「「「「は!!」」」」」」

 

よし。後は一週間後の調査結果を待つだけだな。

 

何か他にやることと言ったら……あぁ、将軍達の様子も確認しておいた方が良いか。…そっか。あいつらも動き出してるのか。こう、感慨深いものがあるな。

 

 

えーっと、確か玉座の間の前にいるんだったか?

 

護衛として置いてあるーー護衛として役に立つかは別としてーーヤツに呼んで来るように頼んで置いた。

 

 

 

 

将軍は、全員が100レベルで13人いる。それに秘書のカルロスを入れて神の国のNPC全員となる。

 

まず、ブラックとホワイト。

ブラックは悪魔、ホワイトは天使で、どちらも信仰系魔法詠唱者だ。役割としては天使やアンデッドや眷属を召喚して兵力を増やしたり、魔法をぶっぱする砲台や回復役の役割などがある。双子で、いつも言い争っているが本当は仲が良いという設定だ。

 

メイド騎士のエリカ。

剣の達人で、メイド兼騎士となっている黒髪ショートメイド服げき萌え巨乳エロエロ美少女だ。魔法は使えないがそれを補えるだけのスペックがある。因みに作ったのは俺だ。好きな食べ物は苺とビーフシチュー、趣味は裁縫と稽古、生真面目でお堅い感じだがその実初心でチョロい女の子である。人間だが老いない。

因みに作ったのは俺だ。だからこんなに設定覚えてるんだね!

 

そして5人の忍者部隊、通称御庭番衆。

昔の漫画から取っており、リーダーの蒼紫の下に火男、般若、式尉、癋見となっている。暗殺や撹乱なんかを想定して創られたが、その用途で使われる事はついぞ無かった。NPCは動かし難かったからね。暗殺部隊ってカッコいいから結構好き。人間だが老いない。

 

侍のムサシ。

最強のサムラァイ宜しく将軍の中で単体では一番強い。

半鬼半人で、一対一から一対多まで幅広くこなせる武人だ。

スキル構成の都合上、味方が周りにいると強さが発揮出来ない。というかむしろ一人の方が強い。

 

ケンタウロスのライオネルは主に弓と槍を使う。

戦場を駆け回りながら弓で牽制したりして戦う。両方使えるようにしているため特化した弓使いには劣る。ただ機動戦をしながら狙撃位置を変えたり出来るので完全に劣化というわけではない。

 

ロイヤルフォートレスの3人、草薙、八神、神楽だ。守護系や身代わり系のスキルに特化しており、いわゆるタンク職だ。俺が死ねば指揮官バフが解けて一気に瓦解するので、それを防ぐために俺の周りにつくことが多い。

 

 

エリカ以外の設定は殆ど覚えていないので不安しかないが、いずれ彼らに頼る必要が出てくるだろうから早いうちに顔を合わせておいたほうがいいだろう。

 

 

少しすると、玉座の間の扉が開いて将軍達が入って来た。

 

 

 

 

 

 

うおーーーー!!!!エリカたん動いてる!!!スゲェー!!!!萌えーー!!!萌えーーー!!!

 

 

……ふぅ。取り乱した。流石の俺も自分で作ったさいきょうの嫁が動き出しているのには感動を隠し得ない。

 

かわええなぁ…。そういえば18禁に触れる行為をしたらBANされるはずなんだが、今もされるんだろうか?後で確かめるしかねぇよなぁ!??(ゲス顔)

 

 

 

 

ザッと全員が跪いた。

 

さて。まずは現状の把握をしてもらおう。

もしかして、カルロスから説明されているんだろうか。

 

 

「お前達を呼んだのは他でもない、現状を把握出来ている者はいるか?」

 

そう聞いたが誰も答えないので、まだカルロスから聞いてはいないようだ。

 

というか上下関係はどうなっているんだろうか。秘書というのは側近、つまり将軍という立場よりも上ではあると思うんだが、レベル差がある。それに残りカスで作ったヤツなので優秀ではあるんだろうが将軍に比べると愛着に欠ける。

その辺についてもまたキチンと決めておいた方が良いだろう。

 

 

「も、申し訳ありません。どういう事なのか、愚かなる我々にお教え下さいますでしょうか」

 

しばらく考え込んでいたのをどう感じたのか、俺の嫁が問い掛けて来た。ふーん、(声が可愛いくて)エッチじゃん。

 

 

「うむ。カルロスには説明したんだが、どうやらこの国がどこか不明な地に転移したようでな。何か前兆などがあったりした者はいるか?」

 

「…………………我々は何もございませんでした」

 

ムサシが答えた。

 

「ふむ……そうか」

 

コイツらの中の上下関係って決めてないよな?こういうのって決めておいた方が良いのか?…まあ、これも後で聞いておこう。

 

 

「先程、探検隊を派遣した。一週間ほど周辺を調べて貰いつつ、カルロスには国内の様子を調べて貰っている。お前達には念のために厳戒態勢を敷いてもらう。ネズミ1匹逃さず捕えろ」

 

「「「「「「はっ!!!!」」」」」」

 

「…でしたら、グリフォン騎乗隊を空中に放った方がよろしいのですか?」

 

ライオネルが問いかけて来た。

 

あー…そういえばそんな設定作ったっけ?厳戒態勢時はグリフォン騎乗隊で空中を巡回する…みたいな。

グリフォンはテイムしたりして捕まえたモンスターで、20体ぐらいいる。当初は交配させまくって全兵士に騎乗させる計画を立てたりしていたが、費用がバカにならないので行われる事はなかった。

 

 

「そうだな、そうしてくれ。さて……」

 

 

一応顔合わせは済んだし後は……あぁ、将軍のリーダーか。

 

 

「お前達の中でリーダーを決めて指示を通しやすくしたいんだが、誰か希望はあるか?」

 

「「「「「「「自分がやりたいです!!!!」」」」」」」

 

えっ。

 

 

「…おい、お前達!がぶりえる王に創られた私がリーダーに適任に決まっているだろう!」

 

「何を言っているのか理解に苦しむね。リーダーというのは私のように指揮官スキルを所持している者がなるべきだろう?」

 

エリカの言葉に反応したのは草薙だ。神楽と八神も頷いて同意の意を示している。

 

「雑魚は黙っていろッ!リーダーというのは一番強い者がならねばならないッ!!」

 

暑苦しいのはムサシだ。コイツって冷静沈着な武士系キャラじゃなかったっけ?

 

「「ならば俺だな」」

 

「あ?」

 

「あ?」

 

おいブラックホワイト、お前ら喧嘩すんじゃねぇよ。

 

「蒼紫様!蒼紫様がリーダーになったら俺らも実質リーダーですよ!」

 

「そうだな。だが焦る事はない。座して待てば必ずリーダーになるチャンスはやってくる」

 

「さすが蒼紫様!」

 

お、御庭番衆は仲良いな。リーダーが決まってるからかな?

 

 

「「「「「「リーダーになればがぶりえる王ともっとお話し出来る!!!!」」」」」」

 

 

えぇ……。

 

「……お前達、がぶりえる王の御前だぞ」

 

おぉ…ライオネルはまともだったか。良かった。

 

 

「「「「「「「申し訳ありませんでした!!」」」」」」」」

 

 

「ぉ、ぉぅ」

 

パネェ。コイツらマジでパネェ。

何?『俺ともっとお話ししたい!』って。全く意味分からんのだが?ガチで俺親愛兵団じゃないか。

なんでもうこんなに気に入られてるんですかねぇ…。

 

これはリーダーを決めないのが正解か?

 

 

「よ、よし。お前達の忠義はよく分かった。と、とりあえずリーダーは保留にして、調査が終わってからまた考えよう。…では行動を開始せよ」

 

「「「「「「「「はっ!!」」」」」」」

 

 

ふぅ。思ったよりもガチだった。ガチの忠臣軍団だった。NPC達って全員あんななのか?

 

…ということは市民NPCすらもあの感じなんじゃ……いや、流石にそれは無いか!無い……よね?確かに国民の評価とかは最高を維持してたけど……え?ホントに大丈夫?

…………まあ、その辺もカルロス辺りが報告してくれるだろう。多分。

 

 

 

後は……あ、エリカたん呼ぼう。

色々確認しないといけないしね。

 

「エリ………」

 

と護衛の兵士に言いかけたが、ふと〈伝言(メッセージ)〉は使えるんだろうかと考えてしまった。今のうちにどんな感じなのか試しておいた方が良いだろう。

 

〈伝言〉を使うと、線が繋がるような感覚があり、すぐにエリカから『がぶりえる王。何か御用でしょうか?』と聞こえて来た。

どうやら伝言は問題無く使えるようだ。

 

『エリカ、俺の執務室に来てくれ』

 

『承知致しました』

 

よし。じゃあ転移門(ゲート)で先に執務室に向かおう。

 

 

 

 

 

「失礼致します」

 

「来たか」

 

あぁ…ついに来てしまったか。

 

「はっ。なんの御用でしょうか」

 

「……少し近うよれ」

 

「?…はっ」

 

ふぅー…落ち着け。俺は王だ。家臣のおっぱいを揉む程度片手でワイン飲みながら出来るんだ。落ち着け…自然に。自然にだ。

 

「触るぞ」

 

「え?」

 

エリカが何か言葉を紡ぐよりも早くエリカの胸に手を伸ばした。

 

メイド服を着ているからか少しゴワゴワするが、柔らかい。間違いなくおっぱいを揉めている。

 

「ちょっ!あの、が、がぶりえる様!?」

 

ふむ。BANされない。

 

「あの、ま、まだ心の準備が…」

 

感触しかり、エリカの真っ赤な顔しかり、どう見ても現実だ。ゲームの中ではなく、完全な現実。

 

「が、が、がぶりえる…さまぁ…」

 

よし、おーけーだ。

ここまでくれば、ここがゲームではなく現実であるということに確信が持てる。

 

 

「……私…もう……」

 

「あ"っ」

 

やっべずっと揉んでた!こ、これはまずい!セクハラだ!いやセクハラどころかもはや強姦だ!ヤバイヤバイ!!

 

「す、すまん。いや、ホントにすまん」

 

訴えられるかなぁ……人生終わりだなぁ……レイプ魔って看板を一生背負わされるんだぁ……。

 

これから先の人生に悲観していると、エリカが俺の手を握って来た。

 

そして、顔を真っ赤にしてこう言った。

 

「わ、私!初めてですけど!せ、せ、精一杯頑張らせて頂きます!」

 

 

ゑ。なにが?ナニを頑張るって?え?ナニ?ナニなの?ナニするの?

やったぜ!童貞卒業だぜ!……………じゃなくて!!

 

 

「ま、まてまてまて。そうゆうつもりじゃ無い……訳じゃなくて………え、えっと……少し確かめたい事があって……」

 

「確かめたい」って何をだよ!胸か?おっぱいを確かめたかったのか?バッカじゃねぇーの!?クッソ、どうする?どうすればおっぱいも揉みしだく言い訳が出来る?

 

 

「だ、大丈夫です!私、こう見えても体には自信があります!」

 

どう見ても自信満々だよ!どことは言わないがな!どことは!

 

 

ちょ!待て!脱ぐな!!これR15作品だから!脱いだらアウトだから!!ストリップするなって!!

 

ちょ!ほんと待って下さいお願いします!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……な、なんとか切り抜けられた。

とんだ大惨事じゃねえか。

 

 

「も、申し訳ありません!お恥ずかしい勘違いを!」

 

「いや、良い」

 

ふぅ。まあ、これはお互い無かったことにしよう。うん。何も無かった良いね?

 

 

「ゴホン!あー、エリカを呼んだのは他でも無い、俺の付き人になって貰いたくてな」

 

というのも、このままだと恐らくだが食事を取る必要が出てくる。しかしゲームの設定か反映されているなら、俺は料理ができない。上手い下手の問題ではなく、不可能なのだ。これは料理に必要な職業スキルを取っていないことが原因となっている。

その点エリカはメイドの職業を取っているので家事がある程度は出来る…という訳だ。

 

 

「頼めるか?」

 

そう聞くと、顔を赤くして上目遣いで聞いて来た。

 

「そ、それは夜のお供も……という事ですか?」

 

 

だからそれは忘れろつってんだルォォォォォ!???




はい。
エリカたん可愛い(鼻血)
因みにエリカたんはシャドバのエリカたん丸パクです。

モモンガさんとやってること変わらんけど、おっぱい揉むのが18禁の確認に最適ってそれ一番言われてるから。


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報告会

今日の午前中にも一話出してるのでそちらを見てない方は先に見てください。アレね?将軍顔合わせのヤツね?

キリが良いのでちょっと短め。


エリカたんとハプニングがあってから、一週間が経過した。

あの後は普通に付き人として付き合ってくれることになった。もう一度言う。付き合ってくれるようになった。大事なことなのでもう一度言います。()()()()()()()()()()()()()()。……………虚しくなるからやめよう。なんか惨めだ。

 

そんなわけで、この一週間エリカと色々な事を試していた。

その間にわかった事がいくつかある。

まず、基本的にはゲームと殆ど同じ仕様であること。例えば取得してない職業の武器は使えないし、装備出来ない。

物理法則的には殆どのものが現実に即しており、ゲームでは存在しえない空気抵抗だったり水圧だったりが存在する。しかし魔法は使えるし、ギルド武器を使えばギルドの設定を弄るコンソールが出てくる。物理法則が息してないんだよなぁ。

イメージとしては、現実世界にこの国が世界を超えて転移して来た…といった感じだろうか。

スキルなんかも問題無く使えることは確認済みだ。

 

 

 

現状では特に大きな緊急性のある問題が無かった事は、〈伝言(メッセージ)〉による連絡が無かったことからも分かる。

そして今日は一週間の国内外調査が終了する日だ。

 

探検隊とカルロスの報告を将軍達と共に聞くために集まっていた。

 

 

「よし。まずは国内の状況から聞かせてもらおうか」

 

「かしこまりました。率直に申し上げますと、殆ど問題はございませんでした。気候の変動や地質の変化によって農作物に影響が出る…ということはありません。しかし……」

 

「どうした?」

 

「食料、そして金が不足しております。いえ、正確にはこれから不足する可能性がある…といったところでしょうか」

 

 

……まあ、食料に関しては分かってた問題だ。だがそれは最悪国土を拡張して農地を増やせば問題無い。

しかし、金か……。そんなに貧乏では無かったはずなんだが…。

 

「食料は分かるが、金…というのは?」

 

「はい。がぶりえる王が金貨を大量に消費した影響で、国内の財力が大きく低下しております。それを補填するのに資金源が必要なのですが、現状、資本をエクスチェンジボックスに投入する以外の金策が無いのです」

 

「……カルロス貴様、がぶりえる王のせいで財政難に陥ると、そう言いたいのか?それは不敬ではないか?」

 

「い、いえ、そのようなことは……」

 

「やめろ神楽。カルロスが言った通りアレは私が後先考えずに召喚したせいだ。カルロスの言った事は正しい」

 

「はっ」

 

「よし。国内の問題としてはこれぐらいか。解決策は後で考えるとして、外の報告を聞こう」

 

「はっ!六連星を代表して、畜生道がご報告致します!まず、この周辺にはアンデッドが多数湧いておりました」

 

「ふむ。エルダーリッチとかか?」

 

「いえ、殆どがスケルトンなどの低位のアンデッドでした」

 

スケルトン…ただの雑魚モンスだな。レベルが低い地帯だったりするんだろうか。

 

「なるほど。続けてくれ」

 

「はっ。6手に分かれて捜索したところ、私の班が商人と思しき集団と接触する事が出来ました」

 

ほぉー。第一村人か。

 

「彼らから地図を買い取る事が出来ましたので、ご覧下さい」

 

地図ゲットしたの!?それはデカい。

ユグドラシルじゃ自力で埋めないといけなかったからなぁ…。

 

あれ?『買い取った』って言ったよな?

 

「買い取ったって、金なんか持っていたのか?」

 

「いえ、彼らを護衛する代わりに地図を貰いました」

 

なるほど。やるじゃん畜生。

 

「それでこちらが地図になります。」

 

 

どれどれ。

 

端っこしか載ってないな。もっと内陸部は載ってないのか…。

 

 

「こちらのカッツェ平野と呼ばれる平野が我々が転移して来た場所になります」

 

ふむ……。

 

「それでその後は?」

 

「はい、バハルス帝国なる国に入りまして、そこで情報収集をきていました」

 

帝国……国があるのか。すぐ北にある国がバハルス帝国ということか。なるほどなるほど。

 

「詳しくはまた後で聞こう、それで他の班は?」

 

「はい。修羅道の班がリ・エスティーゼ王国のエ・ランテルという都市で情報収集を行なっておりました」

 

ほう。この一番近い都市か。なるほどなるほど。

 

「そしてスレイン法国に天上道、竜王国に地獄餓鬼道が行きました。残りは都市を見つけられず、土地や周囲のモンスターなどを調査しておりました」

 

「なるほど。報告ご苦労」

 

すげぇ。こんなにスムーズに情報が集まるとは……。

360度囲まれてるとは言え、この右も左も分からない状況では美味しいな。

 

 

「で、警戒が必要な強者はいたか?」

 

「いえ、居ませんでした。最大でもレベル15程度かと思います」

 

なるほど。強者は居ない…と。

 

うーん、他にプレイヤーは居ないのか?俺だけだと少し…いや結構寂しいんだが……。

 

 

 

 

 

 

 

六連星から集めた情報を集めると、次のようになる。

 

この周辺は人間種の国で、竜王国の向こう側には獣人(ビーストマン)の国があるらしい。ちなみに獣人にとって人間は捕食対象のようだ。

人間種は劣等種なので、この端っこに追いやられている。

王国と帝国は、つい最近一つの国から分裂したらしい。

冒険者組合、冒険者なるものが存在する。

スレイン法国は人間至上主義で、亜人や異形種は駆除の対象である。

スレイン法国は宗教国家である。

過去に500年前に六大神、400年前に八欲王、100年前に魔神など、強大な存在が現れたらしい。

モンスター、人間含めレベルが低い。

魔法はユグドラシルと同じものだが、第三位階が使えれば良いと言われるぐらいレベルが低い。

 

と言った具合だろうか。

 

特に気になるのは六大神やら八欲王などの、強大と言われる存在の事だ。100年ごとに歴史に現れているのは不自然過ぎる。たまたまということもあるが、なんと今年がちょうどその100年の周期の年らしい。

こうなるとますます臭い。プレイヤーが100年ごとに転移している…なんて事もあるかとしれない。

ユグドラシルの魔法があることがその仮説を裏付けているようにも思う。

 

後、レベルが低いというのも気になる。ただのNPCなのか、この世界ではこれが普通なのか。早い話、歩兵部隊のレベルは30なので、彼らに侵攻させれば強者を炙り出すことも出来るだろう。流石にやらないが。

 

 

 

 

彼らによると、ちょうどカッツェ平野全てに被さるようにこの国は存在しているらしい。つまり、元々カッツェ平野だった部分がほぼ丸ごと神の国と入れ替わったということになる。

 

 

おそらく、この世界の人間はビビり散らかしているだろう。

ほんの一瞬、ほんの一瞬でアンデッドの巣窟だった平野に国が建っているのだから。

 

だが、これは明らかに厄介ごとだ。

こんなポッと出てきた得体の知れない国を歓迎する筈もない。

それに俺は天使だ。基本的には人間だが、スレイン法国的にそれがセーフなのかアウトなのか微妙な所だろう。

 

 

そもそも権力が俺にしか無い超超絶対王政状態だから、俺が方針を決めれば反対などなくその通りに国が動き出せる。貴族がいたりしたら大変だろうことは目に見えているからその点はラッキーだ。

 

 

 

 

直近では、食料と財政の問題が挙げられている。

だが、それは簡単に解決するのだ。

それは貿易。

六連星の情報では、ユグドラシルのアイテムは付加価値含めて漏れなく超高額で売れる。金貨などの質もユグドラシルの方が高い。それにエクスチェンジボックスがあるから最悪金貨には困らない。

他国と取引する事が出来れば、食料も輸入出来るし、財政も周り始めるだろう。国内の金貨との交換比率なんかは後で決めれば良いはずだ。

 

うん、貿易良いじゃん!

そうと決まれば他国に使者を送らないと!

 

 

てんしょーけんおーしょーねんしせつー♪♪

 

 

_______________________

 

 

 

「神官長!神官長!!」

 

ある国のある中枢、一人の男が“神官長”の男を呼んでいた。いや、叫んでいた。

これは珍しい事で、その焦った様子から緊急性の高さが窺える。

 

「神官長!」

 

「………どうしたのだ騒々しい」

 

顔を顰めながら怪訝そうに問いかける。

 

走ってきたようで、その男は息を切らしていた。

息を整える間もなく、男は一大事は報告した。

 

 

 

「…カッツェ平野に、突然…く、国が現れました!!」

 

 

________________________

 

 

〜ある国〜

 

 

「何?それは本当か」

 

「いかがしましょうか、皇帝陛下」

 

「そもそも、それは確かな事なのか?」

 

「間違いございません。つい昨日までは間違いなく普通のカッツェ平野で、冒険者達も向かっておりました」

 

_______________________

 

〜またある国〜

 

 

「むぅ…。信じられんな」

 

「ちょ、うるさいですよ!」

 

「……私を揶揄っているのか?」

 

「いや、私だって信じられませんよ」

 

「…法国がまた何か変な事でもやっているのか?」

 

「さぁ?」

 

 

 

カッツェ平野に突如国が現れた事は、瞬く間に周辺国家に知れ渡っていた。




今のうちに、国の文明レベルとかを説明しておこうと思います。

この国は住宅地、工業地区、農業地区、商店街の4つに分けらる。
住宅地は全て高層マンション。これは少ない土地の中に出来るだけ人口を詰め込む…ということを考えた末にこうなった。
工業地区には生産系の工場が立ち並ぶ。ユグドラシルでは素材を注ぎ込めば武器やら道具なんかが出来た。
農業地区の農地は全て温室内にあり、天候に左右されない。狭い土地で人口に合うように生産力を追求したら温室という最高クラスの設備にせざるを得なかった。
商人NPCはアーケード街に集めて出店させた。イメージは銀座とか道頓堀とか。
国土の周りを20メートルほどの壁で囲っている。
見かけの文明レベルは現代レベルだが、実際は魔法やデータやツールなんかでそれっぽくしているだけなので、技術によって発展しているという訳では無い。

って感じで考えてるんですけどどうでしょう?
転移後の世界の人にとっては近未来的な感じにしたかったんやけど、こうして想像してみるとあんまりオサレじゃないんですよね。無難に中世ぐらいの方が良いんかね?
もし良ければ意見下さい。


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交渉(?)

はーい、序盤元気マンでーす。
今日だけでこれ入れて三話目なんで、まだ見てない人いたら先にそっち見て下さいねー。


国交を結ぶために周辺国家に使者を送ることは確定したが、問題はだれをどこに派遣するのかだ。

普通なら法国、王国、帝国、竜王国全てに使者を送るべきなんだが、如何せん今の状況は普通とは言えない。

 

一気に全部の国に送って全ての国と敵対するようなことになるのはさすがに不味い。他にプレイヤーがいる可能性まで考慮するなら一つずつ処理していき、できるだけ敵を作らない方が良いに決まっている。

 

一つ目の国で要領を掴み、最悪一つ目で失敗してもその反省を活かし次の国は成功させる。こうすれば一度に多くの敵を作らずに済む。

そもそも戦争というのは、基本的に互いの利益がぶつかり合って生まれるものだ。今回においては、互いに得体の知れないものを回避出来るというメリットはある。だから交渉で大失敗するようなことさえなければ、腹の中はともかく敵対せずに済むはずだ。

 

 

さて、となると最初にどの国に使者を送るのかだが、この周辺で最も力を持っているのはスレイン法国だ。

だから俺は最初は法国に使者を送ろうと考えている。

なぜなら、他の三国には、あまりいい返事を貰える気がしなかったからだ。

というのも、他の三国は法国と敵対したくないのだ。もしウチが法国に喧嘩を売った際に、その国にとって国交があるというのは非常にディスアドバンテージになる。

もし先に三国に使者を送ればこう返事をするだろう。「法国が良いって言ったら良いよ」と。

だから、最初に法国に使者を送って他国との交渉を有利にできるようにしようと考えたのだ。

逆に言えば法国に断られれば三国にも断られやすくなるということにもなるが、それに見合うだけのアドバンテージはある。ハイリスクハイリターンというやつだ。

 

 

次は使者だが…うーん。俺が行ったほうが良い………よね?さすがにこれをNPCに任せられるかといわれると………。ねぇ?

 

 

ということでカルロスに相談してみたんだが、俺が直々に出るというのは反対されてしまった。王が直々に出るというのは軽んじられるというのだ。

俺からすれば対外的な王の面子なんてどうでもいいんだが、カルロス的には断固反対らしい。

エリカにも聞いてみたが、俺が軽んじられるのは我慢ならないらしい。

お前ら俺の事大好きかよ~。

 

 

だがカルロスも誰かに任せられるとは思っていないようだ。将軍達は漏れなく脳筋戦闘狂集団だからなぁ。

カルロスに任せたいのは山々なんだが、法国は人間至上主義なので死者の大魔法使い(エルダーリッチ)のカルロスは不味い。それで言えば俺も人間ではないが、翼を隠せばほぼ人間だからバレないだろう。

カルロスも幻術で顔を隠せないこともないが、バレたときが大変だ。

 

となると俺が行くしかないんだが、カルロス達の主張も分からないでもない。

 

どうすればいいのか………。

 

 

 

 

俺とカルロスが知恵を振り絞りながら唸っていると、ふとエリカが事も無げにこう言った。

 

 

「そもそも下手に出る必要あるんですか?」と。

 

 

 

____________________________________________

 

 

スレイン法国の駐屯基地の兵士は、かつてないほどの焦りを見せていた。

 

 

「ぐ、軍がこちらに進軍しております!!」

 

「何!?どこの軍だ!」

 

「わかりません!」

 

「国旗を掲げていないのか?」

 

「いえ、見たことのない旗でして………」

 

「数は?」

 

「目測で3万程度かと………」

 

上司の男は目に見えて少し安心した。

3万程度であれば、万が一戦闘が起きても、近くの都市から兵を借りれば十分に事足りる兵力だからだ。

 

だが、報告に来た男の顔は晴れない。

 

 

「………どうした?まだなにかあるのか?」

 

怪訝そうに上司の男が尋ねた。

 

 

「いえ………その………」

 

 

なかなか言い出さない部下にしびれを切らし、少し強めに問いかけた。

 

「どうした、早く言え」

 

「………見間違いかもしれないんですが………

 

 

  威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)を従えていました」

 

 

 

 

 

「は?

 

 

 み、見間違えじゃないのかね?」

 

「いえ………あの神々しき御姿は正しく伝承の最高位天使でございました………」

 

平時であれば間違いなく一笑しただろう。だが彼の緊迫した表情、かつてないほど慌ただしい基地、そして何より自身の直感が緊急事態を示している。

 

 

 

「………今すぐ本国に連絡を取れ!!」

 

 

 

 

 

 

 

都市の外壁近くまで進軍してきた正体不明の軍だが、今のところ武力行使にでる様子は無い。

 

男は少し安堵の息を吐きだす。あそこにいる最高位天使が動き出せば、抵抗する暇なく無く蹂躙されていただろうから。

 

周りを見れば、だれもが最高位天使に目を奪われており、涙を流すものもいる。

法国の兵士はほとんどが信仰系魔法詠唱者だ。法国の兵士にしてみれば、魔神をたおすほどの存在である威光の主天使はまさしく神のごとし存在なのだ。だからそれに目を奪われ涙を流すものがいるのは当然と言えるだろう。

 

 

 

一人の兵士がこちらに近づいてきた。おそらく先触れだろう。

 

 

「我々は神の国の使者として参った!我々に戦闘の意思は無い!がぶりえる王が貴国の最高権力者との会談を願っておられる!即刻お目通り願いたい!」

 

 

「………聞いたか。すぐに本国に伝えろ」

 

「は!」

 

 

とにかく本国に伝えて指示を仰ぐ必要があるので部下に報告させた。

 

 

さて、先触れの言葉を聞くに、彼らは『神の国』なる国家?の使いのようだ。神の国とは傲慢極まりないが、最高位天使を従えるだけの力を持っているということだろうか。そういえば、昨日突然カッツェ平野に国が出現したという噂を聞いていた。所詮眉唾だと決めつけていたが、もしかして彼らが………?

 

戦闘の意思は無いと言ったが、ただの建前だろう。追い返せばすぐに蹂躙を開始していたはずだ。

 

そしてどうやら『ガブリエル』なる王が来ているらしい。一国の王がわざわざ来るものなのだろうか。しかし、一国の王を外で寝かせるというのは失礼にあたるだろう。得体が知れないとは言え、法国が軽んじられる可能性がある。本国の判断にもよるが、念のため迎え入れる準備はしておいた方が良いだろう。

 

 

「現在本国に連絡を取っている!しばし待たれよ!」

 

「…了解した」

 

先触れは戻っていった。

 

 

 

 

 

一時間も経たないうちに本国から連絡があった。

『お通ししろ』とのこと。非常に早い判断だ。あらかじめ決めていたのだろうか。

 

それを伝えると、すぐに軍をほとんど帰してしまった。あの軍はどうやら圧力をかけるために連れて来ただけらしい。

残ったのは僅か8人だ。普通よりも大きく立派なグリフォンに乗っているのが彼らの言うガブリエル王なのだろう。

 

 

「ご案内致します」

 

他国の王を案内するのだ。これ以上に緊張することは2度とないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

特に何事も無く本国に到着した。

後は他の人間にかわってもらえるそうなので一安心だと安堵の息をこぼした。

 

 

 

 

__________________________________________

 

 

 

ふう。なんとか会談まではこぎつけられそうだ。

 

グリフォンロードに揺られながら、バレないように小さく体をほぐす。

グリフォンはおろか馬すらも乗ったことが無いのでかなり疲れた。グリフォンはまだ毛皮がふさふさで座り心地が良いが、馬ならかなり痛いんだろうなぁ…。

 

 

エリカの案は非常にシンプルで、武力を見せつけて強引にでもO☆HA☆NA☆SHIすれば良いとのことだった。

確かに、脅しというのは有効なテクニックだ。

後々の関係性を考えるなら最良とは言い難いが、一時的でも法国と国交を結べば他国とも交渉しやすくなるので悪くはない手だ。

 

 

そしてその一環として威光の主天使を侍らせて進軍したんだが、効果は絶大だった。

正直こんな雑魚天使で驚いてくれるのか不安だったが杞憂だったらしい。どうやら本当に魔法ーーだけじゃないがーーのレベルは低いみたいだ。

宗教国家なだけあって天使にはビビり散らかさずにいられないらしい。

 

 

 

 

さて、改めて今回の目的を説明しておこう。

 

目的は国交を結ぶこと。その中には国家として認めてもらうというのも含まれている。

国交が結べなくても、国家として認めてもらえれば大手を振って他国と交渉出来るので最低でも国家として認可してもらう必要がある。

 

一番最悪なのは取り付く島もなく却下されることだ。

 

それで言えば、武力行使してきたり危険因子として処理しようとしてくる方が好都合だ。

というのも先行している御庭番衆の3人によれば、潜入しても気づかれた様子が無いらしい。

見逃されているという可能性も無くは無いが、そこまで釣ってくるような敵ならもう完敗だと諦めるしかない。そもそも御庭番衆が見つけられないような奴の暗殺は防ぐことも出来ないからだ。まああいつらが3人でも発見出来ない奴なんて居ないはずなんだが……。なんたって100レベルの忍者だからね。

あいつらが見落としているという可能性は切ると、強者ーーー少なくとも100レベルあるような者はいないことがわかる。

なので襲われても返り討ちに出来るだろうし、こちらが攻め込める口実も作れるのだ。

 

といっても、もちろん最良なのは友好的な関係で国交を結べることだ。

 

 

ちなみに連れて来たのはエリカと六連星、そして御庭番衆の火男、般若、癋見。

これだけの戦力があれば、ワールドチャンピオンクラスが居なければ間違い無く生きて帰還できるだろう。

 

残りは厳戒態勢で守護にあたって貰っている。向こうに戦力が多い理由は単純で、ギルド武器があるためだ。あれを失うと『神の国』が無くなるからあちらを厳重に警備する必要があるのだ。

 

 

法国が恐らく一番最初で最後の難関だろう。竜王国はともかく、王国と帝国はまだ国力が弱いので国交を結ぶ相手は欲しいはずだから法国に比べれば簡単なはずだ。

 

 

 

 

「こちらになります」

 

案内してくれた人が扉を開けてくれる。

 

そして一歩を踏み出した。

 

 

目の前には7人の老人達。

 

 

……しっかり契約勝ち取って来てやるぜ!!(社畜感)




法国民「ふえ〜〜。てんしさんすごすぎるよぉ〜〜」

がぶ「おうコラ国王だせやコラ」


今はまだ筆が踊るように進むから良いけど踊り疲れたらどうなるんやろうね?


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会談

感想高評価ありがとうございます!

口調についてご指摘があったので修正しました。内容自体には変わりはないです。


「ようこそお越し下さいました」

 

そう言ったのは上座に座っている老人。この人が最高権力者ということだろうか。

 

 

「いえいえ、本日は時間を取っていたただき感謝申し上げます。それで、あなた方が法国のトップということでよろしいんですか?」

 

「最高神官長である私、神官長、各分野のトップ、合わせて12名がこの国の最高執行機関、という事になります」

 

「…分かりました。私の自己紹介は必要ですか?」

 

「いえ、その必要は無いです」

 

転移してきた事については知っている……ということか。

 

とりあえずこちらが話を切り出さないと始まらないか。

 

 

「早速ですが、お話をさせていただいても?」

 

「いえ、その前にお聞きしたいことが」

 

…ほう。

 

「どうぞ」

 

まあ、ビジネスの話をする前に俺らの事が分からないと判断もできないからな。

もし何か聞かれたら正直に話した方が良い…というか話すしか選択肢が無い。

「どうやって現れたの?」とかは「知らん」としか答えられないが、どこから来たのかぐらいは正直に話した方が良い。

信じてもらえるかどうかは微妙な所だが、下手にボロを出すよりも信じてもらえることに賭けるのが無難だろう。

 

 

 

 

 

 

「あなた、『ぷれいやー』ではありませんか?」

 

 

 

 

「え?」

 

 

いま、なんつった?プレイヤー?

 

 

「『ぷれいやー』なんですよね?」

 

 

ど、どういう事だ?プレイヤーを知っている…こいつらプレイヤーなのか…?

いや、違うな。全然強くないから違う。

国の中枢にいるようなプレイヤーならもっと強いはずだ。

 

どうする…この場では知識においてはあちらが有利。誤魔化すのは得策では無いし、聞かれれば説明する気だったのだから、これはむしろ暁光ではないだろうか。

 

…とりあえず正直に答えた方が良いだろう。

 

 

「ふぅ……確かに私はプレイヤーですが……どうしてそれを知っているんですか?あなた方がプレイヤーということは無いと思うんですが…」

 

そう言うと、何人かが一安心がいったような表情を浮かべている。ただの当てずっぽうというわけではなさそうだ。

 

「あなたが仰るとおり、我々は『ぷれいやー』ではありません」

 

 

やっぱりか。まあそれは良い。問題なのはどうして知っているのかだ。

 

「なら何故私がプレイヤーだと?」

 

「現れるのですよ。一定の周期でこの世界のどこかに『ぷれいやー』が」

 

周期………。

 

「……六大神と八欲王ですか」

 

「その通り。およそ100年の周期で『ぷれいやー』が現れていると言われています」

 

 

はぇーーーー。ってことは俺の考察は大体合っていたということか。

 

 

「それで、突然この世界に現れた俺がプレイヤーだと当たりをつけたと言う訳ですか」

 

「そうでございます」

 

……なるほど。……なるほど。

 

これは想定外。

普通に第10位階の魔法でも見せれば国交を結んでくれると思っていたが甘かった。プレイヤーだとバレればその手の効果は半減する。プレイヤーを知っていれば、第10位階の魔法が大して珍しく無いことも知っているはずだからだ。

 

 

…とりあえず、俺がプレイヤーだと判断した理由は分かった。

もう一つ知りたいのは……

 

「プレイヤーという存在を知っているのはあなた方だけなのですか?」

 

「いえ、数百年生きるような存在であれば知っているでしょう」

 

「例えば?」

 

白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)などの竜王達ですね」

 

白金の竜王……初めて聞いたな。

ユグドラシルでもドラゴンというのは異常な強さを誇っていた。竜王というんだからさぞかし強いんだろうな。

 

「なるほど。一部の人間……生物のみが知っているということですね?」

 

「はい。…では、そちらのお話を伺っても?」

 

「……わかりました」

 

 

…プレイヤーであることがバレているのは想定外ではあるが支障は無い。目的を達成するのに大した障害は無いはずだ。

 

キッチリ契約を勝ち取れ!日本のサラリーマン魂をみせるんだ!!

 

 

「こちらはそちらと国交を結びたいと考えています。突如現れた得体の知れない国でも、周辺では国力が最も高い法国が認めれば他国も国交を結びやすいと考えるでしょう?」

 

「…なるほど。我々のお墨付きが欲しい…というわけですね」

 

さて。どうでる?

 

 

 

 

「……こちらとしては、結んでも良いと思っています」

 

おぉ!!やった!!飛び込み営業成功だ!!やったやった!!

 

「ただし」

 

 

………ただし?

 

 

「いくつか条件があります」

 

「条件?」

 

「我々の国是は知っていますか?」

 

「人間至上主義…と答えればいいんですか?」

 

「えぇ、それで構いません。我々法国は人類の守り手として活動しています。そちらに協力して欲しいのです」

 

ふむ…。確かに法国にしてみれば、強大な力を持つプレイヤーの力が借りたいというのは本音なのだろう。

 

「協力…というのは具体的に?」

 

「他種属の殲滅や他種属からの防衛などですね」

 

うーん……別に苦ではないんだが……うちの国にも人類以外のやつがいるんだよなぁ…。さほど数は多くないんだけどさ。

 

 

「それに見合うだけのメリットがこちらにあるんですか?」

 

「国交が結べるでは満足しませんか?」

 

「……いや、それはそちらにメリットが大きすぎます。商人が出入りし始めれば此方のマジックアイテムなんかがそちらに流出するんです。それだけでも十分そちらに利があるでしょう?」

 

そう言うと、数人が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 

なるほど。この世界の物の価値を理解出来ていないと今ので簡単に不利な関係を強いられていたというわけか。

もし探索隊に情報を集めさせていなければヤバかっただろう。ナイス、過去の俺!

国内に人間以外がいる都合上、『人類の守り手』なんて大層な称号は背負えないからな。

 

 

それに、なにせこの貿易、一見すれば互いに利があるように見えるが、法国からすればプレイヤーの価値を認識しているだけに利益が高く感じられる。

それぞれの国の認識で比較して見ても、他国から見れば『ただの得体の知れない国』だが、法国から見れば『この世界とは異なる発展した技術のある国』となり、明らかに付ける値段が大きくなる。

要は、他国からすればただのブラックボックスだが、法国からすればアタリが確定のブラックボックスなのだ。人類の守り手を掲げている法国は喉から手が出るほど欲しいはず。

 

 

プレイヤーの存在を知っていた事は完全に想定外だったが、思いの外良い方向に転んだと言える。

 

 

 

「……分かりました。国交を結びましょう」

 

ふむ……。もう少し粘ってくるかと思ったが、もう折れるのか。

この貿易だけでみれば確かに法国の方が利益は大きいが、こんな得体の知れない国家には首輪だったりを着けておきたいものだと思っていたが……。

 

そう言えば、つい100年前には魔神が暴れまわっていたので、その恐ろしさがまだ残っているということなんだろう。

下手に首輪を着けて反抗されないように…といったところか。

それも此方としては好都合だ。当初の予定通りデメリット無しで国交を結べたなら何の問題も無い。魔神様様だな。

 

 

「どうぞよろしくお願いします」

 

「よろしくお願いします」

 

 

最高神官長と握手を交わす。

嬉しさのあまりつい強くギュッと握ってしまいそうなるが、俺は100レベルのプレイヤーだ。少し力を入れるだけで手が血を撒き散らして爆散するだろう。

潰さないように慎重に握ってなんとか握手をする。

 

これで交渉は終了だ。

 

 

本当ならもっとこの世界やプレイヤーについて詳しく聞きたいんだが、この国は胡散臭そうだからやめておこう。宗教国家ってのはなんとなく中枢がドス黒いイメージがあるしね。偏見だけど。

 

まあ、その辺の情報は適当に王国やら帝国でも集められるだろうから問題無い。

 

 

 

「近々こちらで声明を出しておきます。正式な書状は後日そちらにお持ち致しますので、よろしくお願い致します」

 

「わかりました」

 

 

………終わったーー!!はぁー…疲れた!すごい達成感!(小並感)

飛び込み営業で成功すればこんな感じなのか?

 

ま!二度とやらないけどね!!

 

 

はー、しんど。帰ったら風呂入ってすぐ寝よう。

 

 

 

 

2日後、スレイン法国から発表された声明にはこう書いてあった。

 

【カッツェ平野にて誕生した国家『神の国』をスレイン法国は国家として正式に認め、国交を結んだ事を発表する】

 

 

__________________

 

 

【神の国の視察報告書】

 

これは、正式な書状を届けに行った際、ついでに行った視察の様子を記したものである。

 

 

○月×日

 

神の国に到着した。

都市の周りには20メートルほどの外壁が建てられており、衛士の兵士の装備も一級品だ。

神の国ーー以下神国とするーーに入ると、まず目に入ったのは商店街だ。人が多く雑多な印象を受けるが道は舗装されており、アーケード状になっている。

色々なものが売ってあるが、目につくのはやはりマジックアイテムだ。見たこともないようなマジックアイテムが置いてあり、店主にどうやって作っているのか聞いたが、知らないと答えられた。これだけのマジックアイテムだ。機密事項ということなのだろう。

 

驚くべきなのは、建造物の異様さだ。

舗装された道も去ることながら、すべての建物が木やレンガではないものでできている。一般の商人の家にしてはあまりにも大きく頑丈過ぎる。

さしづめ、ここに並んでいるのは有力商人といった所だろう。熾烈な競走を勝ち抜くことで、この商店街に出店出来るようになるに違いない。

 

 

〜以下、商店街の様子が書かれている〜

 

 

 

違う世界に来たのかと思った。

 

我々視察団全員があの時こう思ったはずだ。

 

我々は当初の予定通り、一晩泊まってから王城へ向かうことになっていた。そこで目にしたのは、異様なほどに高い建物。『ぐらんどほてる』と言っていたが、ここに泊まるということなのか。

中に入ると、これもまた驚いた。通常宿屋の一階というのは飲み屋だったり飲食店があったりするもので、どうにも雑多な印象を抱いてしまう。しかしこの『ほてる』は清潔感と高級感が溢れ出ており、待合スペースのソファーはこれまでにないほど柔らかかった。

部屋も素晴らしかった。草で編まれたような床を鼻で笑うものもいたが、この柔らかさと独特な香りは間違いなく高級なものだ。聞けば、これはどうやら『たたみ』というらしい。

そして何よりこの絶景。何メートル高さがあるのかは分からないが、先ほど通ってきた商店街を一望出来る。

驚きの連続はまだ終わらない。次は食事だ。

バイキング形式だったが、見たこともないような料理ばかりだ。最初は恐る恐る食べていたが、一口食べてからは貪るように食べていた。

最後は大浴場だ。大量の湯を文字通り溢れるほど使っており、旅の疲れが吹き飛んだように感じられる。

部屋に戻った後はベッドの柔らかさに驚いた。

こんなに柔らかいベッドで寝たのは初めてだ。すぐに眠れそうだ。

 

 

 

○月△日

 

『ほてる』で一泊した後は、いよいよ王城に向かうのだが、そこに向かうまでにも我々が泊まった『ほてる』のように高い建物がいくつもあった。こんなに宿屋があるのかと思い聞いてみれば、どうやらあそこには市民が住んでいるらしい。

信じられない。おそらく、格差をつけているのだろう。上流階級の者以外はウサギ小屋のようなものに住まわされているに違いない。

 

王城に着くと、ーー何度目か分からないがーー驚きに目を見開いた。

床が動いたのだ。

これが何か聞くと、『えれべーたー』なるものらしい。

動きが止まり『えれべーたー』を出ると、目の前には扉があった。この先が玉座の間らしい。

玉座の間に入ると、また驚いた。

高い天井とこれほど豪華絢爛な装飾は今まで見たことはなく、世界のどこを探してもこれほどの玉座の間は無いだろうと思える。

 

 

〜まだ数ページに渡って文章は続いている〜

 

 

 

 

『あれは正しく『神の国』だった。』





聞きたいんですけど、指揮官バフってどれぐらいかかってもいいんですかね?俺は30レベル1万人にバフかかると一人レベル50ぐらいになる…ってぐらいのバフをイメージしてます。指揮官系スキルを極めたらそれぐらいはいけるかなって。どうでしょう?


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脳筋更生委員会?

たくさん感想やらご指摘やらをくださってありがとうございます!
論破され次第反映させていくのでドシドシアドバイス下さい!

今日二話目です。午前中に上げたやつをまだ見てない方は先にそちらを見てくださいね。


ふう。一先ず法国についてはひと段落だな。

正式な書状も届いたし、現状は特に問題ないらしい。

 

次は王国か帝国か竜王国か……。

国力で見れば王国か帝国から行った方が簡単だが、「竜王国の方が国力高いんだからこっちに挨拶すんのが先だろうが、アァ!?」みたいなヤツがいる可能性を考えると、竜王国に行った方が無難ではある。

 

とは言え、法国さえなんとかなれば、後はそれほど難しく無いだろう。

 

ここからの会談は部下に任せても問題無いはず…。

 

 

「カルロス、次は竜王国に使者を送りたい」

 

「……今回もまた御身が行かれるのですか?」

 

「いや、行く気はないが……」

 

そう言うと、目に見えてホッとした。

そんなに俺が出るのって不味いのか?まあでも安全性まで考えれば国外には出ない方が安牌ってことか。

 

 

「となりますと……私が行きますか?」

 

「やめとけ。多分どこの国に行ってもアンデッドは受け入れられないぞ」

 

「では……六連星に?」

 

「そうなるだろうなぁ…」

 

なんで将軍達の中に頭脳派を作らなかったんだろうか……。ライオネルはギリ知的っぽいが異形種だからなぁ…。

一応蒼紫は冷静キャラのはずだが、隠密部隊だからあまり表には出したくない。

 

…現状では戦力的にも六連星が一番無難だな。

少し不安ではあるが…まあ敵対されるような事にさえならないようにしてもらおう。

 

「……じゃあ六連星から使者の選抜と仕込みを任せても良いか?」

 

「仕込み……と言いますと、こちらの目的の擦り合わせと話の持って行き方…と言ったところでしょうか?」

 

「そうゆうことだな」

 

「かしこまりました」

 

よし。これで竜王国の方はカルロスに任せられるな。

 

その間に将軍達の中から王国と帝国の使者を選べるように教育しておこう。

 

 

 

 

 

………さて、将軍達に別に腹芸を覚えろとは言わないが、何がメリットかデメリットかとかぐらいはキチンと見極められるレベルになってもらわないといけない。

 

まあ俺も教えられるほどでは無いんだが、強国の法国相手にしっかり契約を勝ち取ったんだからもう猛者と自称しても良いはずだ。

 

とりあえずは王国と帝国との国交を結べるようにするだけの、ハリボテ付け焼き刃でも良い。

国交を先に結んで、後から色々出来るようになって貰えば良いのだ。

 

 

 

 

…そうゆうわけで。

それじゃ!脳筋将軍達の脳筋更生委員会、はーじめーるよー!

 

 

「お前達の中から王国、帝国への使者を選抜する!」

 

この部屋にはエリカ、ブラック&ホワイト、ロイヤルフォートレスの3人、ムサシが集まっている。

残りのライオネルと御庭番衆だが、ライオネルはさっき言った通り異形種だから無し。御庭番衆は隠密部隊なので、出来るだけ表に出さず隠しておいた方が良いだろう…と考えた。

なのでこの7人を集めた。

 

 

「使者…ですか?」

 

そう聞いてきたのはブラックだ。

 

 

「そうだ。目的は国交を結ぶ事。ただし、変に足元を見てくるようなら無理に結ぶ必要は無い。正式な国交で無くても、商人同士のつながりは出来るだろうからな」

 

新たな市場が生まれれば商人というのは飛び込んで来るものだ。法国のお墨付きがあれば、商魂逞しい商人はすぐに飛び込んで来るだろう。

 

因みにだが既に法国との貿易は始まっており、食料品やこの世界の金が雪崩こんできている。今のところは物々交換もしくは商品の売り付けのみで、ユグドラシル金貨が流れないようしているらしい。『らしい』というのも、カルロスに任せておいたらいつの間にかこんな風にしっかりと出来上がっていたのだ。

さっすがカルロス!(白目)

 

 

国交を結ぶ事が目的とは言ったが、それはあくまでもついでだ。

というのも、“国交を結びに来た”という事実があるだけで神の国が閉鎖的な国では無い事のアピールに繋がる。周辺国家全てに使者を送れば、ある程度友好的な関係を望んでいることもアピール出来る。そうすれば、正式な国交で無くても交流がしやすくなるはずだ。

だから“国交を結びに来た”という建前をたてて使者を送るだけで、断られても問題は無いのだ。

まあ、あの二国に法国のお墨付きがある国を無碍に扱えるような国力は無いとは思うんだがな…。

 

閑話休題。

 

 

「今のお前達では難しいだろう。だから希望者には少し勉強してもらって、一番成績が良いヤツを使者として送り出すつもりだ」

 

まあ、基本は戦闘のために作られたNPCだ。こんな専門外の仕事をやるために勉強するやつなんて……

 

 

「……なるほど。つまりコレは試験ですね?」

 

 

……………え?

 

……え?八神(コイツ)何言ってんの?

 

 

「えっ?ど、どういうこと?」

 

「フフ…神楽には分からないようですね。つまり……これは将軍のリーダーを決めるための試験なのですよ」

 

そう言うと、将軍達が目に見えて殺気立ち始めた。

 

 

え?なんでそうなったの?リーダー?何それ?

 

 

「………そういうことか……がぶりえる王!是非私にお任せを!!」

 

「バーカ、使者にブラック(バカ)は向いてねぇよ。王よ、ここは自分を……」

 

「…あ?」

 

「あ?やんのか?」

 

ちょっ!待って!何がどうなってるのか分かんないけどとりあえずブラックとホワイトは喧嘩すんな。

 

 

ど、どうしてこれがリーダー?なんてものを決める試験なんて事に………そう言えば初めて顔合わせした時に「調査が終わったら考えよう」って言ったけど……。

でもちょっと飛躍しすぎじゃない?

 

 

とにかくリーダーの試験なんて……………いや、でも悪くない手だな。

リーダーなんて決めないつもりだったが、お互いに切磋琢磨しながら成長し合えるなら野心を刺激するのはかなり有効だ。

将軍達の出世欲ーー実際はただがぶりえるとお話する機会を増やしたいだけーーは凄まじいからなぁ。まあ、蹴落とし合いにはならないだろう。……ならないよね?

 

最悪、本当にリーダーを決めなくても「いやー、良い勝負だからまだ決まらんないなぁー」って逃げられる。

 

 

…よし。中々良さげだし、利用させてもらおう。

 

 

騒がしくなってしまったので、手を二つ鳴らせば一瞬で静かになった。キモチェ〜…。

 

 

「…さて。お前達の想像通り、これはリーダーを決める試験の一環だ」

 

おぉ…と感嘆の声が上がった。

ま!そんなつもりかけらも無かったんだけどね!

 

「先にリーダーの選抜方法を説明しておこう。」

 

うーん。これからも継続して試験をしていくなら、ポイント制が一番無難だよね?

 

「……ポイント制で、貢献度に応じて俺がポイントを与える。そしてポイントが一番多かったものが…………」

 

「リーダー………」

 

エリカが俺の続きを引き取ると、将軍達がゴクリと喉を鳴らした。

 

「例えば、今回で言えば10ポイントから達成度合いや失敗度合いで増減することとする」

 

まあ、最初だしこんなもんでいいだろう。

 

 

「裁定の基準はどのように致しますでしょうか?」

 

む…。痛い所を突くな。どうしようか……監査機関を作る訳にもいかないしなぁ……まあ俺の独断と偏見でいいだろう。

 

「俺の独断と偏見だ。もちろん贔屓は一切しないぞ」

 

「…答えて下さりありがとうございます」

 

「他に質問はあるか?」

 

………………どうやら無いようだ。

 

 

「……よし。行動を開始せよ!」

 

「「「「「「「はっ!!!!」」」」」」」

 

…目がやる気に満ち溢れ爛々と輝いていて怖い。

 

だ、大丈夫かなぁ?

一抹の不安を覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がぶりえる王!お茶をお入れしましょうか?」

「がぶりえる王!クッキーをお焼きしました!」

「がぶりえる王!何かお手伝いすることはございませんか?」

「がぶりえる王!」「がぶりえる王!」「がぶりえる王!」

 

……………うるさい。

 

あの後から、付き人にしているエリカの気合の入り方が尋常じゃない。

 

貢献度を稼ごうとパタパタしているのは非常に可愛いんだが………ちょっとうるさいのだ。

いつも以上にテキパキ動いてくれるから助かってはいるが、これを貢献度に含めちゃうと不公平だからなぁ……。

 

これがポイントに加算されないことを伝えた方が良いんだろうか……。

伝えたら最後、「じゃあどうやったら貢献度稼げるんですかっ!」って聞いてくるのが目に浮かんでしまった……そんなの知らねぇよ………だってそんな仕事が無いんだもん…。

 

 

他の将軍が何をしているのか聞いたら、カルロスの所で勉強しにいっているらしい。健気だなぁ…。

まあ勉強をするのはどんな理由であれ悪いことではないからな。インテリ将軍軍団になるのもそう遠くないのかも知れない。

 

エリカは勉強しないのかと聞いたら、どうやらこの使者自体に興味が無いらしい。理由を聞いたら、「少しの間とは言え、がぶりえる王のお側を離れるというのは……」とのこと。可愛い。

 

 

 

 

 

 

次の日。

 

 

「では、行ってまいります」

 

善は急げ…と言う事で、早速六連星三人ーー修羅道・地獄道・畜生道ーーを竜王国に派遣した。

目標は国交だが、最悪敵対さえしなければ問題は無い。

細かいところの指示はカルロスにさせたので、早々変な事にはならないだろう。

 

 

 

将軍の使者選抜の方だが、指導と選抜はカルロスに一任した。

カルロスあいつめちゃくちゃ優秀。もっとアイツみたいなのを作ってれば楽だったのになぁ…。

 

 

そんなわけで、特にやることがなくなって暇な現状が出来上がったという訳だ。

 

うーん。やらなければいけなかった事といえば……。

 

スレイン法国との貿易によって当面の問題である食料は解決したし、財政難もいずれ解決するだろう。

 

竜王国には使者を送ったし、王国と帝国の使者は選抜中。

 

これで周辺国家に対する顔見せはほぼ完了だ。

 

後はこの世界についても知りたいが、もう少し落ち着いてから慎重にゆっくり情報収集すれば良いだろう。下手に変な所を突っついて禁忌に触れたせいで世界が敵に回る…なんて事にならないとも限らない。

 

 

うーん、やる事ねぇな。

 

 

…………あ。

そういえば、市民NPCはどんな感じなんだろうか。

 

今のところユグドラシルの時と同じように国は運営出来ているが、工場やら農場やらに人はいるんだろうか。

そもそもゲームの時は『不思議なパワー』で素材と金を突っ込めば勝手に出来上がったが、この世界でもブラックボックスになっているのだろうか。

 

…念のために確認しておいた方が良いだろう。

 

 

「…エリカ、町へ下りるぞ」

 

「町ですか…かしこまりました。すぐに馬車を手配致します」

 

 

これまでの時間で、この城の中にいる兵士NPC達の俺に対する認識はある程度調査済みだ。本気で俺の為に体を捧げているような感じで、それはもはや狂信者の域だった。

 

 

しかし、市民NPCはどうだろう。支配者としての好感度はMAXに保っていたから嫌われてはいないはずなんだが…。

 

因みに、支配者としての好感度が最低に達すると国内で『蜂起』が起こる仕組みがある。『蜂起』した住民は不思議な力でレベルが90近くまで上昇し、支配者を片っ端から刈り取っていくらしい。動画で見た時にはカンストプレイヤー30人が15分で溶けていた。

要は「国を持ったらちゃんと統治しようねー」という運営からのメッセージらしい。

まあ、そんな事は滅多に起きない。好感度をあげようと取り組んでいれば絶対に達しないようになっているのだ。

 

 

しかしこの世界では、市民NPCにも意思がある。

ただ適当に政策を行っていれば好感度が上がっていくようなシステムではないのだ。

取り返しのつかない失敗はしないようなしなくてはならないし、とにかく評価を落とさないようにしなくてはならないのだ。

 

 

はぁぁぁ……王様は大変だなぁ……。

 

思わず憂鬱になってしまうがぶりえる王だった。




この世界の文字についてなんですけど、法国ってプレイヤーが作った国じゃないですか。だから法国語はユグドラシルと同じなんじゃね?って勝手に想像してるんですけどどうですか?王国語と帝国語はちょっと違うみたいですしね…。

他に気になる事あったらどんどんコメント下さい。いつのまにかグダグタになってる…みたいなことになったら最悪なんで。


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サンドバッグ

なんか有能雑学ニキが多すぎてにわか晒してるの恥ずかしすぎるんですけど…。
俺を辱めるのヤメロォ…(本音)いいぞもっとやれ(建前)


「「「ようこそいらっしゃいました、がぶりえる王!!」」」

 

 

町に降りた俺を出迎えたのは、あふれんばかりの民衆と歓声だった。

 

な、なんで俺こんなに歓迎されてるんだ?そんなに歓迎されるようなことした記憶ないぞ…。

この世界に来るまでは週1ぐらいで来ていたが、ここ2週間は町に降りてないので好かれる理由はないはずだ。

まさかこれが市民NPCのデフォルトなのか?これデフォルトだと流石にやばくないか?

 

「………これは一体…?」

 

「皆さん、寂しがっていたんですよ」

 

「え?」

 

一緒に馬車に乗っていたエリカが寂しがっていたと言った。どうゆうことだろうか。

 

 

「毎週顔を出されていたのに、ここ二週間がぶりえる王が顔をお出しにならなかったので皆さんが大層心配しておりましたよ?」

 

「………そうゆうことか」

 

毎週来ていたのに二週間音沙汰が無くて寂しがっていた、というわけか。

 

この世界に来てからは色々忙しかったからなぁ…。確かに顔を出していなかった。

 

外からは「がぶりえる様ー!!」と俺を呼ぶ声がそこかしこから聞こえてくる。

やべえ、俺こんなにチヤホヤされるの人生初めてだ…。なんか偉くなった気分………あ、実際偉くなったんだった。

手とか振った方が良いのか?王様的にはどう応えるのが正解なんだろうか………一応聞いておいた方が無難か。

 

 

「………応えたいんだがどうすればいい?」

 

「手を振って差し上げれば喜ぶかと思います」

 

 

あ、そうなの?

 

 

適当に手を振り返していくと段々歓声が大きくなっていく。

 

 

どうやら市民NPCにも俺に対するリスペクト?のようなものは存在するらしい。

 

ただ気になるのは、NPCが好感度が高いにもかかわらず『蜂起』…とまではいかなくとも、反乱を起こすという事は無いのだろうかということ。少なくとも格差は生まれないから内的要因では起きないと思うが、外的要因によって引き起こされる可能性はある。

だが、それに関しては正直どうしようもない。そもそも国民全員が一枚岩で国王大好きっ子であるほうがおかしいのだ。

外と交流を持つ以上は外から全く違う価値観の人間が入ってくるのは仕方のない事だから、俺に出来る事と言えばとにかく好感度を高く保っていく事ぐらいだ。

 

 

もはやパレードみたいになってしまったが、一応の目的は工業地区の視察だ。

馬車を進めながら手を振り返していく。

 

途中テンションが上がってしまい投げキッスをしたのだが「キャーー!!!!」と歓声が上がった。……どっちのキャーだろうか。

 

 

 

工業地区はものすごい活気に満ち溢れており、出迎えのテンションは住宅地の住民となんら変わらなかった。

例によって手を振り返していくと、男が多いせいか野太い声歓声が上がる。なんか、ちげぇんだよなぁ……女の子に黄色い歓声を貰いたいんだが?。

 

 

気になっていた製造過程だが、どうやらユグドラシルと同じようにブラックボックスになっているらしい。そもそも工場に入る事も出来ないので、どうやって作っているのかが全く謎だ。

 

これは製造技術が隠匿されているということなので、技術の流出を阻止しているという点で見れば良い事だが、ここに他国の人間が入って来ると厄介ごとを招く可能性がある。秘匿事項という次元の話ではなく、ここで働いている者ですらが製造方法を理解出来ていないというのは中々不味い事なのでは無いだろうか。

 

………よし。コレ、機密にしよう。なんかヤバイ気がする。

流出はしないだろうが、製造方法自体がよくわからないというのは問題だろう。

帰ったらすぐにここの工場を全部一カ所に纏めて囲ってしまうことにしよう。

 

 

 

 

 

工場はとりあえず秘匿に決定したから次は農業地区も確認しておこう。

 

農業に関してはユグドラシルでも肥料と水を与えることで種から成長していたから、割と現実的のはずだ。少し収穫までのスピードが早いことは否めないが…。

 

 

 

農業地区は温室に押し込まれている。温室の効果としては、収穫量増加、植物成長速度倍化、温度調節などがあげられる。

 

温室に入ると、自分にとって快適な温度に感じられる。これは気温自体が変動しているのではなく、体感温度がその生物にとって快適な温度になるよう調節されているのだ。

 

温室では、どうやらユグドラシルの時と同じように問題無く栽培出来ているらしい。

 

ただ、国内の食糧生産をこの広大な温室の中で賄っているほどの重要施設にも関わらず警備が薄いことが気になる点だ。ユグドラシルでは万が一温室が壊れたとしてもすぐに修復すれば問題無かったが、この施設が壊れることで起きる食糧問題は計り知れない。

 

ぱっと見では兵士が見当たらないが警備をしどうしているんだろうか。

 

 

「エリカ、ここの警備はどのようになっているんだ?」

 

「?他の場所と同じように攻撃された際は反撃できるシステムになっていると思いますが………」

 

ふむ。つまり後手にまわってしまうというわけか。

 

 

………一つ問題に気付いたが、それは後に考えよう。

 

一先ずここの防衛設備を整える必要がある。

将軍の誰かに防衛責任者を任せるのが安心かな?となると……騎乗兵団の指揮権も持っているライオネルなら安心して任せられるだろう。

 

 

「………ライオネルにここの防衛責任者を任せたいと思うんだが、どうだ?」

 

「御心のままに」

 

…おk。

 

これでもう町でやることは終わったな。

 

あとはさっき見つけた問題についてだ。

 

 

 

さっき見つけた問題というのは、軍事力についてのことだ。

軍事力が足りない…という話ではなくて、他国に対する牽制として軍事力を示す必要があると考えたのだ。

 

例えば、先程も言ったが温室は国の食糧事情を一手に担っており、そこが攻撃されて破壊されれば国を揺るがすほどの大損害を被る。つまり弱点なわけだ。

それに他国が気付いた時、温室が狙われる可能性は十分に考えられる。

 

だがその国が圧倒的なまでの軍事力を持っていればどうだろうか。

たとえ大損害を与えられるとしてもその報復で国が一瞬で滅ぼされるなら、メリットとデメリットを考慮してそんなバカな事をする人間はいないだろう。

 

もちろんそうさせないためにライオネルを配置するんだが、いつでも想定外の事は起こりうる。

 

軍事力を周辺国家に示すことで牽制にもなるし、国交において軍事力というのは重要なファクターの一つだ。交渉をする際にも優位に立つことが出来るだろう。

 

 

だが問題がある。軍事力を示す方法だ。

軍事演習という手段だと、たとえ強大な力を見せても証拠に弱く信じられない可能性がある。

だが『戦争に圧勝した』というのは証拠に残る。歴史としても残せて後世にも伝わりやすくなるはずだ。

 

だからサンドバッグが必要なんだが、如何せん相手がいない。

使者を送って友好関係の構築を進めているので法国、竜王国、王国、帝国は除外。少し遠くには聖王国や評議国なんかがあるが、戦争をするための理由が無い。さすがに大義名分も無しに戦争を吹っ掛けるのは印象が悪いだろう。

 

人類共通の敵でもいれば問題無くサンドバッグに出来るんだがなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

 

カルロスが将軍の中から使者の選抜を終えたと報告してきた。

どうやら、帝国にはムサシ、王国には八神を派遣するようだ。

意外だったのはムサシだ。八神は知的な喋り方をしていたから分からないでもないが、ムサシにいたってはなんとなくバカなイメージがある…………ない?

 

まあ、カルロスが選抜したんだから大丈夫だろう。

 

 

 

そしてそれぞれの国にムサシと八神を送った。

後は帰還を待つだけだな。

 

 

 

「がぶりえる王」

 

「ん?どうしたカルロス」

 

実務作業を行っていると、カルロスが執務室に入ってきた。

 

 

「はい……竜王国の件で少々問題がありまして………」

 

「問題?」

 

断られるのは別に良いと伝えていたはずだが、手間取っているということは交渉が難航しているということだろうか。

 

 

「はい。国交の条件に有事の際に軍を派遣することを提示されています」

 

ふむ………軍の派遣か………。軍事力を神の国に頼ってくれるならば、竜王国は神の国に依存せざるを得なくなるから悪くない条件に思えるんだが…。有事というのが何を指しているのか…というところが気になる。

 

 

「有事…というのは?」

 

「はい……それが……

 

 

 

  獣人(ビーストマン)の侵攻 を指しているようです。」

 

 

「………なに?」

 

獣人とは、ライオンや熊などを二足歩行にしたような亜人で、大陸の中央に国を構える種族の一つらしい。

そしてその獣人の国は竜王国と隣接しており、たまに獣人が竜王国に侵攻してくるらしい。今のところは侵攻といっても大規模なものではなく小規模なもののようだが。

 

 

「現状では周辺の4国以外の国に関わる予定はたてておりませんでしたので、獣人とは関わらない方向で話を進めようとしているのですが……」

 

「……なかなか折れてくれない…と」

 

「そういうことです」

 

 

うーん……どうなんだろう……。こちらの戦力が割かれることになるが、金貨を使えばいくらでも増やせるのでそこは問題無い。

 

 

獣人と戦争になる可能性を考えると……うん?待てよ?

 

 

 

獣人って、人を食うんだよな?

 

 

で、亜人の脅威はどの国でも共通認識のはずだ。こんな隅っこに追いやられていながら亜人を舐めているやつはさすがにいないだろう……いないよね?

 

 

さらに『人類を守るため』という大義名分も用意されている。

 

 

 

 

「サンドバッグ……みぃつけたぁ!!」

 

 

 

「……え?」

 

「……条件を呑むように伝えろ。正式な書状が届き次第軍を派遣し常駐させるんだ」

 

「よ、よろしいのですか?」

 

「あぁ」

 

兵士は文字通りいくらでもいるからなぁ。

こういうと悪役っぽく聞こえるが、金貨を少し使えば増やせる兵士なので間違いではない。まあ、捨て駒のつもりは毛頭ないんだが。

 

もし兵士を送った後に侵攻してくれば、自国の兵士が傷ついたことを理由に戦争を吹っ掛けられる。

まさに僥倖といったところだ。

 

 

「…理由をお聞きしてもよろしいですか?」

 

「今ちょうどサンドバッグが欲しかったんだよ」

 

「サンドバッグ…ですか?」

 

「あぁ。…どれだけパンチ力があっても、何かを殴らなければその威力が知られることはないだろう?」

 

「……なるほど。周辺国家に軍事力を見せつけるわけですね?」

 

「そういうことだ」

 

「かしこまりました。すぐ彼らに伝えます」

 

 

思わぬ収穫だ。

まさか竜王国がサンドバッグをわざわざ提供して下さるとは…。

まったく、竜王国様様だな。

 

 

 




帝国にムサシくん…ムサシくんは魔法を全く使えないから……?


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種撒きwktk

ちょっと短いんですけど、なかなか難産でした。


「がぶりえる王、八神とムサシが帰還致しました」

 

カルロスが使者の帰還を報告してきた。

 

 

「おぉ、そうか。で、結果は?」

 

「両国ともに成功したようです」

 

ホッ…。そうかそうか。まあ法国が認めている中で断ってくるとは思っていなかったが、成功したようで安心した。

 

 

これで周辺国家との顔合わせは済んだ。

 

 

 

後は他国との貿易についての問題だが…

 

 

 

ーーやべぇ、笑いがとまらねぇ…。

 

王の執務室で部屋の主は、顔がにやけるのを抑えられずにいた。

 

その原因は、その手に握られた一枚の紙にある。

その紙には報告書と書かれており、貿易による損益を示したものだ。

 

ユグドラシルのアイテムーーアイテムだけではないがーーは、この世界では超高額で取引される。それはガチャの外れアイテムや雑魚アイテムであっても例外ではない。

 

今、神の国はマジックアイテムを輸出している。材料に使ったのは無限にも思えるほど溜まっていた使い道のない素材ばかりだ。試算によれば、このまま素材を湯水のように使っても、使い切るのに最低でも130年はかかるとのことだ。

さらにみんなから譲ってもらった大量の外れガチャアイテムもあるので、しばらくはこのままマジックアイテムを輸出していける。

 

そしてそのマジックアイテムでぼったくってーーこの世界の人間からすれば妥当ーー、大量の通貨を得ている。

 

要はボロ儲けなのだ。ついにやけてしまうほどには。

 

 

最初はユグドラシルの金貨を使い果たしてしまったのでどうなることかと思ったが、ここまでボロ儲け出来るならばもはや何の問題も無い。

 

 

これからは、国交を結ぶことに成功した王国と帝国もアイテムを購入してくれるだろうからさらに貿易が振興していくことだろう。

 

 

 

 

さて、これでやりたいことは大体終了した。

軍事力を示すことが出来るかどうかは獣人が攻めてくるかどうかにかかってくるが、まあほぼ確実だろう。

 

 

新たにやりたいこととしては、情報収集だ。

御庭番衆の諜報活動では周辺国家で危険度のあるような人物は見つからなかった。

バレる心配が無いなら、特殊部隊のうちの一つである諜報部隊を潜入させてもいいかもしれない。レベルは50ぐらいしかないので戦闘面ではすこし不安だが、ドッペルゲンガーなので潜入捜査官としては信頼がおける。

 

本当は俺自身が適当に色んな国を回って自分の目で情報を集めたいんだが、さすがにすこし不安がある。

プレイヤーとしてみれば、俺は贔屓目に見ても下の中だ。もしプレイヤーに襲撃されたときに仲間がいなければ絶対に負ける。さすがに逃げに徹すれば逃げ切るぐらいは出来るとは思うが、転移阻害なんかを展開されると厳しくなる。

指揮官系スキルを極めた弊害として単体で見れば非常に弱いのだ。

『神の国』として見れば負ける気はしないが、プレイヤー『がぶりえる』としてはこれっぽっちも自信が無い。

 

 

とりあえず御庭番衆には帰還してもらって、獣人(ビーストマン)の方の偵察に行ってもらおう。もし戦争になるなら相手の戦力を調べておかないといけないからな。

そして御庭番衆と交代する形で諜報部隊を送る。

ただ法国はまだ少し得体のしれない感じがあるから、諜報部隊はおくらないでおく。万が一にもスパイがバレて法国と敵対するようなことは避けたい。

 

 

 

 

 

「御庭番衆、諜報部隊がいらっしゃいました」

 

「あぁ、通してくれ」

 

エリカが来客を知らせてくれたので、通すように言う。

御庭番衆を呼び戻し、諜報部隊を呼び出したのは先程のことを命令するためだ。

 

 

「まずは御庭番衆、諜報活動ご苦労だった」

 

「はっ」

 

「それで新たに仕事を任せたいんだが……問題ないか?」

 

「問題などあろうはずがございません。がぶりえる王のためにこの身を尽くすことこそが至上の喜びにございます」

 

んー…でもさすがに酷使しすぎな気がするんだよなぁ。ずっと働かせてばっかりだからどこかで休ませたいのは山々なんだが、あまりにこいつらの使い勝手が良さすぎるというのが問題だ。

…………獣人の偵察が終わったら休ませれば良いか。

 

「………そうか。それで、だ。お前たちには獣人の国に行ってもらいたい」

 

「獣人の国……と言いますと、竜王国と隣接しているところですか?」

 

「その通りだ。目的は戦争に備えて、相手方の戦力を把握することだ。ただし、誰か一人でも、一度でも発見されたら念のために帰還しろ。あ、別に一人処理すればなかった事になるなら処理しても問題ないぞ」

 

「了解いたしました」

 

「後は………100レベルと思われるほどの実力者を発見したらその時は迷わず撤退しろ。念のためにな。………それと獣人は感覚が鋭いから充分注意すること匂いを消す手段は持っているな?」

 

「はい。完全不可知化を使えば問題ございません」

 

あ、そうか。こいつら完全不可知化が使えるから問題無いのか。

 

 

「ならいい………あとは、定期連絡を忘れない事ぐらいか」

 

「かしこまりました!」

 

よし。これで御庭番衆はオーケーだな。

 

 

「…次に諜報部隊だが、お前たちには王国、帝国、竜王国に潜入してもらう。潜入のしかたはお前たちに任せるが、目立たないこと、力を隠すこと、自分に危険が迫った時以外は全力で戦うなということ。これから潜入してもらうのは人間の国だ。この世界の人間は脆弱であることを忘れるなよ。それと………あぁ、人間は年々年老いていくからな、ずっと老いなければ不信がられるということも覚えておけ」

 

「はっ」

 

「集める情報は色々だ。歴史だったり国内の財政だったり、町の様子など、昼と夜の定時連絡で全て報告してもらう。重要度の高そうなものは毎週レポートに纏めて提出してくれ。中枢に潜入出来るのが一番だが…まぁそれは可能だったらで構わない」

 

「はっ。期間はどの程度でしょうか」

 

「あぁ、そうだった。御庭番衆の方は偵察が終了し次第、諜報部隊の方だが………今のところは100年を予定している」

 

 

そういうと、この場にいた者全てが驚いた。

 

 

「100年……でございますか?」

 

「あぁ、もちろん命令があった場合や定期的には帰還してもらう。だからずっとほったらかしってわけではないぞ?」

 

「そ、それはそうなのですが………」

 

「ん?不満か?」

 

「いえ、そのようなことはございません!ただ、100年という長い時間にどういう意図があるのかと思いまして………」

 

「…そういうことか。何、単純な話だ。法国から聞いた話が本当なら100年後にもプレイヤーが転移してくるわけだろう?その時に色々な国の内部に情報網があれば見つけやすいと考えたんだ」

 

「おぉ…なるほど…」

 

「一番良いのは王の秘書や護衛の兵士や側近だな。国の動向が丸わかりになるし情報も集めやすいだろう」

 

「かしこまりました」

 

「あ、出来れば100年後にその地位についているのが望ましいと伝えておこう。もちろんそこ以上に情報が集まりやすい場所があればそこでもかまわないぞ」

 

「はっ!!」

 

 

ふぅ……よし。こんなもんか。あ。

 

 

「そうそう、御庭番衆から留意点などがあれば伝えておいてやってくれ」

 

「はっ」

 

 

上手く種が撒けるかどうかはこいつらの働き次第だが……まあ、ダメだった時はまた考えよう。

 

 

「…それでは行動を開始せよ」

 

「「はっ!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの…がぶりえる様…」

 

「ん?どうしたエリカ」

 

彼らが退出していったあと、エリカが声をかけてきた。

 

 

「がぶりえる様はいつも100年も先まで考えておられるのですか!?」

 

 

……め、目がキラキラしてる……。

 

「………いや、そういうわけではない。種撒きをしただけだし、成功するかどうかもわからんからな…要はただの保険だよ」

 

「でも凄いです!あんな作戦、私では思いつきません!」

 

「お、おう……」

 

な、なんかエリカの中で俺がものすごい謀略家にされてる気がする。

いや、確かにバカではないがそんな天才ってわけじゃないぞ?

は、はやくその認識を正さないと……

 

 

「さすが私の創造主様です!」

 

 

頬を紅潮させ、眩しい笑顔を見せる彼女を見て、俺はこう思った。

 

 

『……可愛いし、まあいいや』と。

 

 

_________________________________________

 

 

スレイン法国最奥部。

 

 

「なに!!??」

 

神官長のもとに届いたのは信じられない話だった。

 

 

「あの女が捕らえられただと!?」

 

「はい……エルフの王が出て来まして……どうすることも出来なかったそうです」

 

 

”あの女”とは、法国の切り札だ。『ぷれいやー』の血を引く神人で、普通の人間とは比べ物にならないほどの戦闘能力を持っている。

神の国が来る少し前からエルフとの戦争に出ていたのだが……。

 

 

「なんということだ……」

 

信じられない事実にがっくりとうなだれる神官長。

 

「……どういたしますか?」

 

「………どうもこうも、奪還する他あるまい」

 

「し、しかし!あのエルフの王は漆黒聖典でも歯が立ちません!」

 

「ならばどうする!そのまま放っておくというのか!!」

 

「……」

 

エルフの王は強い。神人として覚醒していようとも、ねじ伏せられるほどに。

そんな次元の違う強者には、漆黒聖典が誇る英雄級の実力者たちでも歯が立たないだろう。

 

 

 

「一体……どうすればいいのだ……」

 

 

神官長の言葉に応えられる者は誰もいなかった。




うーん。誰が法国の切り札助けるんでしょうねぇ(すっとぼけ)

ただ、番外席次とエルフの王様のパワーバランスが分からないんですよね。
なんとなく 番外>エルフ>>超えられない壁>>番外母 ってイメージなんですけどどうでしょう?


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サムラァイ1

キリが良いので短めです


執務室で雑務をしていると、ノックが響いた。

 

「法国の使者がいらっしゃっております。早急にお目通りをしたいとのことです」

 

「……法国?」

 

どうしたんだろうか。貿易では取り立てて問題は無いはずなんだが…。

 

 

「通してくれ」

 

執務室では外の人間とは会わないので、翼を隠して玉座の間で待つ。

 

 

 

「お会い出来て光栄です。がぶりえる王」

 

「御託はいい。急ぎなのだろう?用件を聞こう」

 

“早急に”と言っていたからな。

 

「はい。それでは…………」

 

 

 

 

 

 

「………という事であります」

 

「ふむ………」

 

 

話を纏めると……

法国はエルフの国と戦争をしている。

その中で、『法国の切り札』が捕われてしまい不味い状況になった。

彼女を助けたいが、法国の力だけで取り返すのは難しい。

そこで強大な力を持つ『プレイヤー』である俺の国に助力を請いに来た……と。

 

 

まず気になるのは、法国の切り札とやらだ。御庭番衆の潜入では報告されていない人物のはずだ。大したことがないのか、はたまた強者故に気配を隠されて発見出来なかったのか、あの時法国に居なかったのかわからないが、ここで恩を売って関わりを作られるのは別に悪い事ではない。

 

 

だが、問題なのは相手方の戦力だ。

スレイン法国という国の軍事力は、人間諸国の中では最高峰を誇っている。それが劣勢という時点でかなりの戦力を持っているという事がわかる。

 

さらに、頼って来たのが『俺』というのも気になる。

普通に考えれば、未だ得体の知れない神の国よりかは王国、もしくは帝国に要請した方が良いはずだ。なのに神の国を頼って来たという事はつまり、彼ら普通の人間では対処出来ないレベルということだ。

プレイヤーがいないと対処出来ないレベルの強者、戦力ということなのだろうか。

 

…何の考えもなしにプレイヤーレベルの戦力とぶつかるのは少しリスキー過ぎる。もしワールドチャンピオンクラスだと本当に全兵力を注ぎ込む必要があるからだ。

 

とりあえず、交渉次第だな。

 

「…こちらが兵を出す対価として何を出せる?」

 

「相応の金銭をお支払い致します」

 

金か……欲しくない訳ではないんだが、貿易でボロ儲け出来る以上それほど旨味があるようには感じない。

 

「他には?」

 

「…………出来る限り望む物をご用意させて頂きます」

 

「…抽象的だな」

 

望む物…というのは流石に抽象的過ぎるんじゃないか?

要は「助けて下さいなんでもしますから!(なんでもするとは言ってない)」ということだろう。

これでもし国土全部くれ…とか無理な事言ったらどうするんだろうか。

 

……………いや、言わない確信があるのか。

神の国は友好的な関係を構築している。その旗頭とも言える法国に対して無理なお願いをすれば、友好関係の構築にヒビが入ることになる……といった感じか。多分。知らんけど。

 

 

しかし、望む物か………。今、一番欲しいものは情報だ。

情報を望みたいところなんだが、「情報が欲しい」と言うのは弱みを見せる事になる。これからの関係を考えれば、情報が不足している事を知られるのは非常にディスアドバンテージだ。

だから、シンプルに情報をくれ…と頼む事は出来ないが、情報を直接知らされなくても内部に潜り込ませる事ができれば問題無い。内部に潜り込ませる事を合法的にして貰えるのが一番か。………いや、手段が無い。スパイを潜り込ませる事を認めさせられる訳がない。

 

考えるべきなのは、スパイがバレた際の被害の最小化じゃないだろうか。スパイを潜り込ませてバレたとしてもそれを国際問題にさせないような事が必要だ。

となると……………モロにスパイの合法化をさせるような法律は作れない……それを上手いこと隠した法律を作る必要がある………………領事裁判権はどうだろうか。

スパイがバレたとしてもこちらの国が罰を決められるのだから殺される事もないし、法律にのっとって罰を下せばあちらは文句が言えない。

ま!!ウチの国に法律なんて存在してないんですけどねぇ!

 

 

「領事裁判権を認めてもらおう」

 

「りょ、りょうじさいばんけん…ですか?」

 

「ふむ……知らないか。例えば、ウチの国の者がそちらの国で犯罪を犯した場合、その者の罰を決めるのはそちらの法律ではなくウチの法律になる…ということだ」

 

このままだとこれから悪い事をするみたいに思われてしまうか。

 

「ウチの国民も非常に困惑していてね。法国の法律を知らぬ間に破って罰を受けさせるのも可哀想だろう?」

 

…どうだろうか。

 

 

 

「……………………………それを呑めば、彼女を助けてくれるのでしょうか?」

 

「あぁ。もちろんだ」

 

「…………………分かりました。呑みましょう」

 

「ここで決めてしまっても良いのかな?」

 

「はい。私は今回に関しては全権を貰っておりますので…」

 

「いや、なら良いんだ」

 

ふぅぅ……これで安心して法国にスパイを送れるようになったな。もしバレても問題無いからな。

 

 

「…じゃあ、詳しい話を聞かせてくれ」

 

 

 

 

 

________________________

 

 

「ふむ……ここが此度の戦場か……」

 

エルフと法国との戦線に一人派遣されたムサシは、戦場を見て一息漏らす。

 

 

法国の話では、ゲリラ戦自体に手間取ってはいるものの戦力的には有利であるらしい。だがエルフの王が出て来れば話が変わってくる。

エルフの王を足止めしてくれればその隙に精鋭部隊が切り札とやらを助け出すので、その間エルフの王の相手をしてほしい……との事だった。

 

当て馬として使われる事に多少思う所はあったが、法国に対して恩も売れるし法国に対する牽制にもなるので引き受けた。

軍隊を派遣して蹂躙するのが手っ取り早いが、ゲリラ戦を主体とするエルフとは相性が悪い。

 

そこで白羽の矢が立ったのがムサシだ。

味方が居なければ戦闘力が上昇するスキルを持っているおかげで、ステータスだけで見ればワールドチャンピオンにも匹敵する。

 

 

「心が踊るのぉ…」

 

 

…因みに戦闘狂だ。

 

 

 

 

 

与えられた命令は、精鋭部隊が女を救出する時間を稼ぐことだ。ただし、万が一の場合には即座に撤退することが命じられている。

 

強者がいるとのことなので、テンションが上がっていたんだが……

 

 

「むぅ……手応えが無いなぁ…」

 

「ギャァ!!」

 

飛びかかって来たエルフの男を両断して、失望の声を漏らす。

主人が「強者がいる」というのだから、かなりの強者のはずだ。それが率いている軍であるならば、一兵卒だろうと多少手応えがあると思っていたのだが……。

 

 

 

「い、一斉にかかれ!」

 

全方向から飛びかかって来たエルフ達。

逃げ場はない。エルフがもつ短刀で切り裂かれるかに思われた。

 

 

「遅いのぉ。もそっと早くても構わんぞ?」

 

 

次に響いた緊張感の無い声は、失望の色を強く匂わせる。

 

しかし、その声が聞こえたエルフは誰一人としていなかった。

 

 

 

「ヒッ!ヒィィィ!!に、逃げろ!!逃げろ!!」

 

「戦場で敵に背を向けるとは……」

 

 

次の瞬間、視界が反転した。

 

「え?」

 

「ほぉ…頭を失っても走り続けるとは………見上げた根性だ」

 

逃げ出そうとした彼が最期に見た景色は、頭の無い体が走っている様だった。

 

 

 

 

「ぎゃぁ!」

 

「ンー……つまらんなぁ……」

 

「ヒッ!」

 

一人を切り捨て、次の標的を捉える。

 

「ご、ごめんなさいごめんなさい!殺さないで下さい殺さないで下さい……」

 

武器を捨て、頭を地面に擦り付けるエルフの女。

その声は、恐怖で鳴らす嗚咽のせいで途切れ途切れで震えている。

 

「……顔を上げよ」

 

その声に、エルフの女は顔を上げた。

 

しかし、目の前に立つ男は刀を振り上げている。

 

「戦場で命乞いとは……恥を知れ」

 

「ぁ」

 

刀が振られ、そのエルフの女は意識を手放した。

 

 

「む?気を失ったか……」

 

刀を首筋でピタリと止めたムサシは、気を失ったエルフの女を見て刀を離す。

 

 

「はぁー…」

 

その女を一瞥し、止めを刺すことなく背を向けた。

 

「つまらん……」

 

 

 

__________________

 

 

「お、王よ!」

 

「なんだ騒々しい…」

 

『王』と呼ばれた男は不快そうに答えた。

 

王と呼ばれた男は、国に対してなんの感情も持っていない。ただ強い子供が欲しいだけなのだ。

 

 

「も、もの凄く強い人間がこちらに向かっております!」

 

「ほう…?」

 

王と呼ばれた男は暁光だと思った。

ついこの前捕らえた法国の切り札という女に続いて、もう一人仕込める可能性がある。

だが、その前に一つ確認せねばいけない事がある。

 

「女か?」

 

女であればどうしても捕らえて孕ませたいので自ら行っても良いが、男ならば話は別だ。

 

 

「も、申し訳ありません。遠目に確認しただけですので………」

 

「チッ!使えない…」

 

「申し訳ありません!」

 

ガタガタと震え謝罪をする女エルフを見て、エルフの王である男は溜息を溢した。

 

 

ならば行く必要も…と思ったが、いや、と考え直す。

 

それがもし女ならば孕ませれば良いし、男だったとしてもその親がいるはずだ。可能ならその母親を孕ませてやっても良いかも知れない。

 

そう考えたエルフの王は、すぐさま飛び出して行った。

 

 

________________________

 

 

ムサシは森を歩く。

足取りは遅く落胆の気持ちが感じられるが、油断は無い。

 

 

「む!」

 

ギィン!と金属音が鳴る。

刀が攻撃を防いだのだ。

 

 

「ほう!防いだか!」

 

一瞬で間合いまで入り、今日初めての防御をさせたのはエルフの男だ。

 

 

「……ようやく出て来たか!待っていたぞ!!」

 

ムサシは待ちわびた強者と思しき存在の登場に、凶悪な笑みを浮かべた。




ムサシを刃牙に出てくるムサシっぽくしたいけどあんなチートにすると誰も勝てなさそう。


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サムラァイ2

短めです。
あと今日二話目です。
見てない方は先にそっち見てくださいね。あれね、エルフの国に行く奴ね。


 

一先ず陽動は成功だろう。

この攻撃の鋭さは、今までの雑兵とは次元が違う。

 

 

「なんだ、女ではないのか…」

 

ムサシと相対する両手に剣を持ったエルフの男は残念そうに口を開いた。

 

 

「む?なんだ、男だと問題があるのか?」

 

ムサシは少し好感を覚えた。

戦場に立つものとしては女だからと手を抜くなど有り得ないが、女子供だろうが容赦なく叩き斬るような人間よりも多少の悲しみや哀れみを覚える人間の方が好感が持てる。

こんなことを言うと、某メイド騎士には酷く怒られるだろうが…。

そんなつもりで言っているのならば、非常に好感が持てる戦士だ。

 

 

「いや、問題は無い。…時に、貴様の母親は生きているのか?」

 

「母…?」

 

妙な質問だが、そう言われてムサシはふと考える。

 

ムサシにとっては、親と言うのは間違い無く創造主を指す。それはどのシモベだろうと同じだろう。

だが、『母』と限定されると非常に返答に困る。至高の方々の中に女性の方も存在したが、父と母で分けられるものかと言われると少し答えづらい。自分を作ったのは『親』ではあるが、二人の関係は『親子』ではなく『主従』の関係なのだ。

それに、生きているのか…という問いに対する答えは、生憎持ち合わせていない。がぶりえる王であれば知っているのかも知れないが、誰一人としてそれを聞くものは居なかった。

至高の方が亡くなられるとは考えられないが、自分如きが至高の方々の生死を勝手に想像するなど無礼極まり無い。

 

となると、的確な答えとしては「知らない」が妥当だろう。

 

 

「………………知らないな」

 

「………そうか」

 

……何が聞きたいのだろうか。女で無いことに落胆したかと思えば、今度は母親の安否を気にしていた。

何が知りたいのか全く分からない。

 

 

「……まあいい。俺はムサシ。そちらも…」

 

名乗ると良い…と続けようとしたが、一直線に飛びかかって来た。

 

「おほっ」

 

「チッ」

 

刀で受け止めると、エルフの男が舌打ちをする。

 

すぐさま膝蹴りをしてくるが、それを片手で受け止める。

 

刀を回して相手の剣を弾き刀を振るったが、相手のもう一方の剣で止められた。

 

刀を戻して“突き”でもしようかと考えたが、刀を戻したのを見てエルフの男はすぐさま間合いを取った。

 

 

 

「ふむ………」

 

ギュッギュッとムサシは膝を受け止めた掌の調子を確かめる。

いささか重さが足りないが、防御しなければダメージを与えられる程度の攻撃ではある。

レベルとしては90程度か…と、ムサシは結論づける。

 

「名乗りもせずに攻撃とは、無礼ではないか?」

 

「……………………………」

 

ふむ……と、ムサシは考える。

こちらとしては倒す必要は無い。むしろ出来れば倒すなという指示を頂いている。救出までの時間が稼げれば充分なのだから、このままお喋りをしていても良いかも知れない。

 

 

「足癖も悪いようだし……さしづめ野蛮な浮浪児と言ったところか」

 

そんな訳が無いことは分かっている。身に付けている服は見てわかるほどの高級品だからだ。

それでもこんなことを言ったのは挑発のためだ。これだけの高級品を身に付けているなら、間違いなく王族だろう。ならばこの挑発に乗って攻撃して来てくれるだろうと考えた。

 

 

「貴様………」

 

しかし、エルフの男が発した声に怒りは感じられない。

 

挑発には失敗したということなのだろうか。

 

 

「……本当に母親が生きているかどうか知らないのか?」

 

またしてもその質問だ。全く持って意味が分からない。

自分が貶されたことよりもそんな事の方が大事なのだろうか。

 

「なぜそんな事を聞く?」

 

「ふむ……知りたいか?」

 

「教えてくれるのか?」

 

「…ならば教えてやろう」

 

まあ…良い。時間が稼げるのなら戦わなくともお喋りしていれば良い。出来れば戦いたかったんだが……。

 

 

「子を作るんだよ」

 

「………は?」

 

「この俺と貴様ほど強い人間の親で子を作れば、強い子供が出来上がるとは思わないか?」

 

「………ふむ」

 

言っていることの理解は出来る。

強い遺伝子が濃ければ濃いほど強い子が生まれると考えるのはおかしいことではない。

 

「つまり、子を作るために俺の母親を探していると?」

 

「そういうことだ。どうだ?教えてくれる気になったか?」

 

教えるも何も無い。母親でも父親でも無いのだから。

 

そういえば……。

 

「……そう言えば拐われたという人間も女だったな」

 

「…なんだ、知らずに来ていたのか?……まあいい。お前の想像通りだ。切り札とか言われていたから、捕らえて犯してやったらどうやら孕んだようでな。生まれてくる子供が楽しみだ」

 

嬉々として語るエルフの男に、申し訳なさなどは一切ない。本当に生まれてくる子供をただただ楽しみにしているようだ。

 

 

 

「……下らんな」

 

ムサシの底冷えするような声が響いた。

 

「…何?」

 

「貴様の考えを否定する気はないが……俺の創造主ーー親と子を生したいだと?……身の程を知れッ!」

 

言い終えた瞬間、一瞬で間合いを詰めて刀を振り下ろす。

 

 

「っ!」

 

エルフの男は咄嗟に飛び退くがさっきまでいた場所が地面ごと真っ二つになっており、身震いした。

 

「ふむ……躱されたか」

 

「…貴様のような人間が法国にいたのか…?…いや、そもそも貴様………本当に人間か?」

 

 

「……俺は法国の人間では無いし……」

 

その先を続けようとした時、上空に赤い煙弾が打ち上がった。

 

合図だ。

 

 

「む………時間か……」

 

「…何?時間?どういうことだ?」

 

「法国の精鋭部隊とやらが捕まった人間を救出したようだな」

 

「精鋭部隊…?……漆黒聖典か!」

 

「……これで俺の任務は達成だ。帰らせてもらうぞ」

 

刀をしまい、戦闘の意思が無いことを示す。

 

 

「待て!貴様!」

 

「…なんだ」

 

「まだ何者か聞いていなかったな」

 

捕われた女を救出したということは、恐らく王都の中心まで侵入したということのはすだ。

国家のピンチであるというのに、それよりも俺の事なんかの方が大事なのだろうか。……まぁ良い。

 

 

「……神の国」

 

「……何?」

 

「後は自分で調べよ。ほれ、さっさと行かんと家が燃えてしまうぞ」

 

「…………チッ!」

 

少し逡巡した後、舌打ちを残して去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご苦労だったな、ムサシ」

 

「はっ」

 

神の国に帰還したムサシは、がぶりえるに報告を行なっていた。

 

 

「法国によれば、無事切り札とやらは救出。お腹の子は……どうするかは不明らしい」

 

「左様でしたか…」

 

そこに特に思うところはない。

強いて言えば、敵国の王との子供なのだから、その子にはろくな運命が待っていないだろう…と憐む程度だ。

 

 

「それで、どうだった?」

 

「はっ。雑兵は取るに足らない者ばかりでしたが、エルフの王と思しき男は中々でした。推測ですが、レベル90程度かと思います」

 

「ふむ………90というのは自信を持って断言出来るものか?」

 

「いえ、一度だけ掌で攻撃を受けたのでそれで判断したまでです」

 

「なるほど……」

 

そう言うと、何かを少し考えているようだ。

 

考えているのを邪魔するのもどうかと思うが、どうしても気になってしまったことがあったので質問する。

 

 

「…質問をしてもよろしいでしょうか」

 

「ん?あぁ、構わんぞ」

 

「今回のポイントはどのようになっているのでしょうか…?」

 

「…?あ、あぁ!ポイントだな。うん。も、勿論キッチリつけておるぞ」

 

安心した。別にポイントの為に尽くしているわけでは無いが、どうしても確認しておきたかった。

 

「左様でしたか……因みに、どの程度か教えて頂くことはできますでしょうか?」

 

「ぅぇ!?あ、あーー…悪いが、それは教えられない。何故なら………ぇーー…そ、そう!ポイントが分かるようになると将軍達の中で軋轢が生まれる可能性があるだろう?無論俺がキチッとポイントを付けているから心配することはないぞ!うん」

 

どうやら、ポイントを教えてくださらないのは考えあってのことだったようだ。

 

「了解致しました。質問に答えて頂き、感謝申し上げます」

 

「う、うむ」

 

 

________________________

 

 

……っっぶねーー!!!!

 

 

マージで危なかった!

すっかりポイントの事なんて忘れてた。

 

かなり狼狽えてしまったが大丈夫だろうか……?




これで ムサシ>エルフ王 ってなっちゃったんですけど、これでエルフの王が番外とかよりも強かったらどうしたら良いんや……。


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戦争準備

今回難産でした。
何回も書き直したりしたので誤字やら変なところがあるかもしれないので、適宜教えてくれると助かります。


諜報部隊の報告を眺めていて、ふと思ったことがある。

 

この国、最高だ。

 

 

なぜそう思ったのかというと、その理由は二つある。

 

 

法国などは少し違うが王国や帝国は封建制をとっており、その影響で貴族が大きな力を持っている。

そうなると当然どろどろとした権力闘争もあるし、闇の深いような関係があったりもするだろう。

これは偏見だが、上流階級の人間にろくなやつがいない。選民思想にとらわれているやつなんかはその典型だ。人は強欲で愚かだ。権力を持てば他人を蹴落としてでもその地位にいたがるし、さらに上の地位を求める。そして偶々運よく良い家に生まれただけのくせに他人を見下す。

 

その点、ウチの国はすばらしい。

まず貴族なんていない。それどころか全員平民だ。

さらに貧富の差も無いので格差だって生まれないから争いなんて起きない。

他の国であれば貴族たちの反感を買わないように精神を払わなければいけないだろうし、政略結婚やら派閥やらに頭を悩まされていただろう。

 

 

……なんとすばらしい国だろうか。

 

俺の出す意見に正当な反論以外をするようなやつがいないという事のすばらしさを実感している。

 

 

 

そして二つ目。

闇が無い事だ。どういうことかと言うと、要は裏組織や後ろ暗い事が無いということだ。

 

例えば、王国では裏組織が存在している。すでに貴族との癒着もあるようで、出来立ての国なのに早くも腐敗がうかがえる。

裏組織だけではない。貧民街や奴隷商館、薬物に汚職など国にとって後ろ暗い物は枚挙に暇がない。

それらは人が利益を得るために行われるもので、どれだけ規制をかけても無くならないのは旨味を得る人間が多いからだ。そもそも普通は国内すべてを把握しコントロールすることなんて不可能なのだ。普通ならね。

 

その点でも、ウチの国に後ろ暗いものはない。

国中の警備網に後ろ暗い物が入る隙間はなく、全国民が豊かな暮らしをしているので危険な娯楽が入る余地も無く、そして何よりギルドマスターの権限で全てのNPCを把握出来る事が大きい。そのことだってNPCとして把握しているのだから下手な事もしないし、その気になれば国内全土を監視するような体制だって作れる。

 

 

……なんとすばらしい国だろうか。(二回目)

 

おそらくだが、裏の無い国なんてここだけなんじゃないだろうかーー御庭番衆は表に出ないが例外だ。

一番クリーンな国として大々的に宣伝してみても良いかもしれないとすら思える。

 

 

 

 

だが、こんな超スーパーハイパークリーン国家である神の国にも問題はある。

 

それは軍事力。

 

これからも付きまとう永遠の課題だろう。

 

 

俺はギルドごと転移して来たが、これから転移してくるプレイヤーもそうとは限らない。六大神や八欲王のように数人のプレイヤーが転移してくる可能性もある。

特に上位ギルドの中でもトップ10に入ってくるようなギルドにはワールドチャンピオンのプレイヤーも居たりする。ワールドチャンピオン級のプレイヤーがいた場合だと、犠牲覚悟でとにかく数で押し切るしか勝ち筋がない。いや、国土内ならムサシ一人でもギリギリ抑え切れるか。

 

それに、城以上の拠点を持つギルドばかりだからNPCの合計レベルも高い。

 

上位ギルド相手にNPCでは質で劣る以上、とにかく数で勝負するしかない。幸い国土内であればギルド武器の特性で一兵あたりの質もかなり上がるから、現状でも敵の侵攻には勝てるだろう。

 

だが、“国土内での防衛戦は勝てる”ということは受け身にならざるを得ないということでもある。

個人的には、受けというのが強いとは思えない。特に平野にあるこの国は攻める側にとって有利に運ぶ。

 

 

だから、こちらからも攻められるだけの戦力を用意する必要がある。地下のダンジョンごと持っているようなギルドなら話は変わるが、城を構えているようなギルド相手には攻められるだけの兵力を揃えておきたい。

 

それに、こうしてNPCが意思を持つようになる以上は戦いの基本もプレイヤーだけでなくNPCを動員したものになるので、規模も拡大するはずだ。

 

 

 

獣人(ビーストマン)との戦争は、その予行演習みたいなものだ。

ユグドラシルでも仲間と一緒に敵対ギルドと戦った事はあったが、せいぜいプレイヤー100人の規模だ。何千何万という単位での戦争というのは初めてなので、今のうちに経験を積んでおきたい。

 

 

 

 

 

 

 

「………以上が、御庭番衆からの最終報告になります」

 

「ご苦労。それじゃ、御庭番衆はしばらく休むと良い」

 

「かしこまりました」

 

御庭番衆が獣人の国への偵察を終えて帰ってきた。

 

 

調査によるとどうやら、獣人は大陸中央の国境線に戦線を敷いているらしい。

そちらの戦線は他の亜人種との戦線で、かなり熾烈な戦いのようだ。獣人もそちらに大幅に戦力を割いており、50レベル程の戦士も数人確認出来たとのこと。

竜王国に出て来ている獣人は比較的弱い部類の部族で、戦線への食料供給が優先されるあまり弱い部族の食料事情はかなり厳しい。そこで弱い部族達が目をつけたのが竜王国という餌場で、人間を食べる事で飢えを凌いでいるとのことだ。

 

つまり竜王国に出て来ているのは食料不足を凌ぐため。

その食料不足の原因にあるのが大陸中心側の国境付近の大規模戦線への食料供給である……と。

 

 

……これは、一見するとチャンスのように思える。

 

こちらから侵攻して攻め立てれば獣人は戦線を二つ作らなくてはならなくなるので、戦力が分散する。戦力が分散すれば中央側の戦線も維持できなくなり、死者も増える。

こちら側からも侵攻して挟み撃ちをすれば、簡単に獣人の国を落とせるのだ。

 

 

だが、そう出来ない理由がある。

 

まず領土運営だ。

そもそもウチは土地を欲していない。兵力は欲しいが、土地を持っていても使い道なんて無いのだ。

適当に町を作っても構わないが、態々亜人の大国に近い超危険都市に移住するような物好きもいないだろう。

 

そして、何よりも敵を増やしてしまう事だ。

大陸の中心では亜人種達が覇権を奪い合っている。そのうちの一つである獣人の国を奪い取れば、その覇権争いに参加せざるを得なくなる。人間を餌としか見てない亜人種にとっては格好の的だからだ。国を作ってもすぐに攻められるだろう。

そうなると此方としては不味い。プレイヤーが来ることまで考えれば、態々兵力を浪費するようなことは避けたいし、何より国が広くなるということは警備も薄くなるということだ。現状で満足しているのだから、下手に国を広くしようとする必要は無い。

 

ある程度まで押し込めば、後は防衛線だけ築いておけば問題無いだろう。ただ押し込み過ぎると獣人達を刺激して、戦力を投入してくるかもしれない。別にそれぐらいなら問題無いが、問題なのは中央側の戦力が減ることだ。

中央側の戦力が減って、万が一獣人の国が落とされると、次は人間側に侵攻してくるだろう。獣人ぐらいなら何とかなるが、戦闘に特化したような妖巨人(トロール)が攻めてくると中々に厳しい。

 

 

だから、獣人を刺激しないが防衛線として充分という絶妙なラインまで押し込む必要がある。

 

よし。戦争の目標は決めた。

後は戦後処理だ。

 

 

防衛線……砦と壁で塞げは良いか?

獣人からの侵攻を完全に防げるように防衛線を張れれば良いんだが、費用がかかり過ぎる。竜王国から費用を出してもらったとしても、完成するのに何十年とかかるだろう。その間に獣人は待ってくれないだろうし、長い間こちらのリソースをそこに割くのはごめんだ。

そうなると……そこを領土にしてしまえば良いんでは無いだろうか。占領するという意味だけではなくて、ギルドとしての領地とするという意味でだ。そうすれば、資材さえ用意すればちょちょっと弄って作る事が出来る。その資材を竜王国に出してもらえば此方に損はない。

………いいじゃないか。

 

 

線だけ決めてそこまでの獣人を全て殲滅して、そこを領土にする。

そんで竜王国に資材は出してもらって砦を築いて完全な防衛設備を整える…と。

 

 

 

よし。なら後は殲滅の方法だな。

 

例えば絨毯爆撃はどうだろうか。

 

まず、この世界の戦争は兵士や民兵などの歩兵による地上戦が基本だ。

調べた歴史の中でも銃火器などの兵器があったり、魔法詠唱者(マジックキャスター)が固定砲台としてガンガン魔法を打ったりするような事はなかったようだ。〈飛行(フライ)〉を駆使した空中戦なんかも無いようだし、科学技術が発展していないこともあってリアルに比べれば些か原始的に思える。まあ、この世界はこの世界で違う方向に発展はしているようだが。

 

 

だから絨毯爆撃の経験がないのだ。少なくとも人間の生活圏では。

 

〈飛行〉を使って飛んでいればユグドラシルでは一瞬で打ち落とされたが、この世界では打ち落とせるような魔法を使える人間は少ない。

絨毯爆撃爆撃なんて経験がなければ防ぎようも無いし、空を飛び回る人間に地上から魔法を当てるなんて不可能に近い。

 

獣人がどの程度魔法を使えるのかは知らないが、爆撃で端から焼き尽くしていけばいずれ殲滅出来るだろう。

 

 

となるとどの部隊に爆撃させるかだが、適任がいないように思える。

 

というのも、前線で爆撃しようとすると真っ先に落とされるのでユグドラシルでは何の役にも立たないからそういう用途で使える部隊を作っていないのだ。

 

 

 

そんな訳で新たに作ったのが80レベルほどのNPCを20人。機動性と殲滅力が特に高く設定されているNPCだ。通称『魔導爆撃部隊』だ。既に魔導砲撃部隊は存在するが、差別化点としては後衛からの援護射撃が砲撃部隊、爆撃で戦線を掻き乱すのが爆撃部隊だ。

 

貿易で出た利益が殆ど吹き飛んだが後悔はしていない。

下手に歩兵を増やすよりも有意義な使い方のはずだ……多分。

 

それに、80レベルもあればこの世界で死ぬことはまぁない。プレイヤーが相手だと心許ないが、なんとか頑張ってもらうしかない。とはいえ国内であれば100レベルプレイヤーと渡り合えるぐらいにはなるだろうが……。

 

……そういえば、この世界でレベルは上がるのだろうか。

ユグドラシルでは100レベルが限界だったが、この世界でも変わらないのかというのも気になる。

現状経験値を効率的に稼ぐ手段が無いから試しようが無いが、もしあるようならNPC達に試させてみたいなぁ。




次回は獣人との戦争です。
獣人にどれだけ強いやつがいるのか分からないから、強者全員戦争に行ってるってことにしとけば良いかなって。


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戦争するお^ω^

ドラウディロンネキの口調が分からんのじゃ………。


「がぶりえる王、獣人が竜王国に侵入したようです」

 

「お、ついに来たか」

 

カルロスが獣人の襲撃があったことを報告して来た。

 

同盟国が攻められたという大義名分が出来るまで待っていると思いの外時間が経ってしまったが、ようやく攻めてきてくれた。

 

これで心置きなく殲滅できる。

 

 

「兵の用意は?」

 

「魔導爆撃部隊、後詰の歩兵部隊と六連星、どれも用意は完了しているとのことです」

 

今回はこの三つの部隊を出している。

六連星は雑に戦場に送り出せるのが良いな。死んでもまた補充できるし、実力を測るのにも重宝する。

 

「…よし。竜王国へのアポはとれているな?」

 

「滞りなく」

 

「ここの警備は?」

 

「がぶりえる王に付いて行くエリカとロイヤルフォートレスの三人以外は厳戒態勢で待機しております」

 

「ふむ……ならこれで俺が出立しても問題無いな。他になにかあるか?」

 

「……念のために確認しておきますが、万が一侵入者が来た場合は即殺して問題無いですよね?」

 

「あぁ。問題無いぞ」

 

「かしこまりました」

 

……よし。んじゃ、行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

……そんなわけで、やって来ました竜王国。

 

いやー!外出なんて久しぶりだからテンション上がるなー!

それに他国の町に入るのだってスレイン法国以来だし、あの時は町を見ながら歩くような余裕無かったからな~。

 

もちろん遊びに来た訳ではない。キチンと目的があって来たんだが……もう王城についてしまったのでまた後で。

 

 

案内されて入った部屋には女王と思しき人間が居た。()()姿()()()()()()()()()()()()()が、すぐに気を持ち直した。

とりあえず挨拶しておけば良いだろう。挨拶は大事だからな。

 

 

「……お初にお目にかかります。神の国の王、がぶりえると申します」

 

「あぁ、初めまして。私は竜王国女王ドラウディロン・オーリウクルス。よくこられたなガブリエル殿、歓迎させてもらおう」

 

「ありがとうございます」

 

握手を交わす。

 

諜報部隊の情報では竜王国の女王は竜王(ドラゴンロード)の一人だと聞いていたが、竜の王であるような強さは感じられない。

実力を隠しているのか、本当に弱いのか、そもそも本物で無いという可能性もあるか。

まあ、見かけではや表面だけでは分からないから要警戒ってところだな。人を見た目で判断してはいけないというのはユグドラシルで散々学んだからな。

……そう。たとえ俺の手を握っているのが()()()()()であろうとも侮ってはいけない。

なにせユグドラシルではゴブリンやスライムですらがプレイヤーを殺せる性能を持っているのだから、幼女がそれぐらいの力を持っていても何一つおかしくない。

 

 

「なにか飲み物はいるか?」

 

「……では、紅茶を」

 

「後ろの従者達は?」

 

「私達は結構ですのでお気になさらず」

 

「…そうか」

 

そういうと、彼女は紅茶を用意させ始めた。

 

どうやら、飲み物が来てから話を始めるようだ。こういうところの基本はリアルとあまり変わらないのかな?

 

 

 

「どうぞ」

 

「ありがとう」

 

紅茶が来たので、とりあえず一口。

 

うーん……悪くはない。が、エリカが淹れた紅茶の方が美味い。別に大して紅茶の味が分かるような人間ではないが、毎日飲んでいる紅茶と比べてどうかぐらいは分かる。こういう場で飲まれていることまで考えたらおそらくこの世界では上質な茶葉なんだろうが、もしかすると茶葉ですらも大きな実力差(?)があるのかもしれない。

 

密かに何とも言えない優越感に浸っていると、向かいに座る王女がほぉ~と口を開けているのに気が付いた。

 

 

「……なにか?」

 

「…いや、ためらいなく飲むんだなと思ってな」

 

「え?なにか問題あります?」

 

「普通は毒とか警戒するもんじゃないのか?」

 

そういわれると、確かに普通はそうだよなと思う。俺は状態異常無効を取得しているので毒殺とかを警戒する必要はないんだが、他人から見れば不用心そのものだろう。

 

 

「でも、そんなことやらないでしょう?」

 

「ほう……どうしてそう思う?」

 

「だってこれで俺が死んだらこの国、二時間で滅びますよ?」

 

「…はっはっはっ!冗談……というわけでもなさそうだな」

 

女王が俺の後ろに立つエリカ達を見ながらそう言う。

 

マジな話、獣人殲滅のために集まった兵士達とここにいる将軍達が本気になれば二時間で一つの国ぐらいなら落とせそうだ。

というか、この戦力で落とせない国家とかあるんだろうか。まだ未知の聖王国や評議国は知らないが、それ以外の国なら負けるビジョンが見えない。

 

 

閑話休題。

 

 

「………それでは、まず要件を先に話しますね」

 

「それより、話し方を崩して構わんぞ?堅苦しいのは苦手でな」

 

「……そうか?ならそうさせてもらおう」

 

 

そういうタイプか。中々話しやすそうで安心した。

 

 

「…じゃあ改めて、ここに来た要件を聞こうか」

 

「それじゃ話させてもらおう…獣人が襲撃してきたらしいな」

 

「…耳が早いな…その通りだ。すでに村が数ヶ所襲われていてな、困り果てているんだ」

 

「そうかそうか」

 

 

おけおけ。これで獣人が攻めてきたことを知らなかったらそこから説明する必要があったが杞憂に終わった。

 

 

「それについての話だ。以前使者を送った際には”有事ーーつまり獣人の侵攻ーーの際に軍を派遣すること”と決めただろう?」

 

「そうだな」

 

「今回の襲撃がその”獣人の侵攻”に含まれるのかどうかは一先ず置いておくとして、これから先使うかどうかも定かではない所に戦力を回すのもナンセンスだろう?」

 

ようはリソースの問題で、限りあるリソースを無駄なことに割きたくない…という話だ。

 

 

「ふむ………」

 

そう言うと少し考えこんだ。

 

 

「つまり『今回の襲撃に軍を動かしたから、これから先は軍を貸す必要は無くなった。約束は果たした』と言いたいわけか?」

 

「いやいや違う違う。そういう話じゃない」

 

「……と、言うと?」

 

 

いや、最終的に軍を派遣する必要を無くすことに違いは無いんだけどね。

 

 

「要は、獣人が攻めて来れなければいいんだろう?」

 

「まぁ、そうだな」

 

「砦を作るんだよ」

 

「……ほう?」

 

「竜王国と獣人の国の間に砦を立てて獣人の侵入を防げば侵攻に怯える必要は無くなるだろう?」

 

「いや、それでも何匹かは抜けてくるし、そもそも獣人相手に砦を守り切れるのか?」

 

砦って言っても万里の長城みたいなのを想像してたんだが………伝わらないか。

 

 

「うーん、砦って言い方が悪いのか…もっと正確言うなら壁だな」

 

「壁?」

 

「そう。獣人でも越えられないほどの高い壁を建てるんだよ」

 

「………言ってる意味は分かるが……」

 

「完全に侵入を阻めるのなら軍を常駐させておく必要も無いだろう?」

 

 

要は『ウォールマリアを作ろう』って話だ。

 

 

「…なら聞こう。どうやってそんな壁を建てるつもりだ?石だろうが容易く砕いてくるぞ獣人(あいつら)は」

 

「材質は企業秘密。建築方法も企業秘密。ただ壊されないということは保証できる」

 

 

めちゃくちゃ胡散臭いが、他にどんな言い方があるんだろうか。材質はアダマンタイトクラスの硬度で造るつもりだが細かい材質なんて知らないし、建築方法だってちょちょいと弄るだけなんだからどうやって建てるのかもよく分からない。

そもそも魔法で塩やら香辛料を生み出せるのだから、物を生み出す仕組みなんてもう知ったこっちゃないだろう。科学が息してないんだよなぁ。

 

 

「………それを信じると思うのか?」

 

ですよねー。

 

「…いや、思わない。まぁ、それは完成してみればわかることだ」

 

「ふん…ほんとに完成すればの話だがな」

 

あ、こいつ信じてないな?まあいいや。

 

 

「そこで、だ。神の国(ウチ)がその壁を作ってやる。だから完成した後で良いから費用を出してくれないか?」

 

「費用?」

 

「まぁ、金だな」

 

「ふっ…良いぞ良いぞ。本当にそれが出来たらいくらでも払ってやる」

 

 

小馬鹿にしたように女王は言った。

 

 

 

 

…ん?今『いくらでも』って言ったよね?

 

 

 

 

「よし。言質は取ったな」

 

「へ?」

 

「エリカ、今の録れたか?」

 

「はい!ばっちりです!」

 

 

エリカがボタンを押すと、女王の声が再生される。

『ふっ…良いぞ良いぞ。本当にそれが出来たらいくらでも払ってやる』

 

………やったぜ。

これで金についてはかなり余裕が出来た。

いや、もちろん偶々だ。多少ぼったくる予定ではあったが、まさかこんなことを言ってくるとは思わなんだ。

 

『なんでもやる』系はフラグって教わらなかったのか?

 

 

「え?ど、どういう…」

 

「ま!()()()()()の話だからな!()()()()()()()()()()()()払ってもらおうって話だからな!」

 

「そ、そう…だな。完成すれば…だからな!」

 

「そうそう!アッハッハッハ!」

 

「は………はは………………」

 

 

しばらくの間、俺の勝ち誇った笑い声と女王の乾いた笑い声が響いていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

「と、ところでなんだが………」

 

話題を転換する。

さっきの話はあくまで仮定………そう、仮定だ。まさか本当に獣人の国と竜王国の間に壁を建てれる筈も無い。そう、ありえない。ただの石の壁ならともかく、獣人が壊せないともなるとオリハルコンクラスの硬度が必要になってくる。それも獣人が乗り越えられないほどの高さが必要なのだから、膨大な量の金属が必要だ。

………もしそれで本当に出来たとして、その場合はどれだけの金額を要求されるのだろうか。

あぁ………どうして私は『いくらでも』なんて言ってしまったんだ………。

 

い、いや、そもそもだ。

 

「壁を建てるのは分かったが、その内側にいる獣人はどうするんだ?まさか放置するなんてことはないよな?」

 

「もちろんだ。きちっと殲滅してから作業に移るから安心してくれ」

 

「そうか…」

 

少し安心した。獣人が内側に入ったまま壁が出来て民が食い殺されるということもなさそうだ。

 

 

「そういえば、今回来た目的はさっきの話をすることだけだったのか?」

 

「…あぁ、すっかり忘れていた。今回の襲撃が国交を結んで初めてだったからな。初陣を見届けようと思って来たんだよ」

 

「なるほどな………。ところで其方の軍とやらには期待しても良いのか?」

 

随分自信満々だが、獣人は強い。

一般人と10倍は能力に差があると言われているほどには。

 

「もちろんだ。それどころか面白いものも見れるかもしれんぞ?」

 

「面白いもの?」

 

「そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 絨毯爆撃って知ってるか?」

 




いっつも自分で線打ってた(_____←コレ)けど、ついに線が引ける機能を知りました。やったぜ。


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戦争???

オンライン授業受けながら書けるのホンマ神。


 

「ふむ………」

 

白い法衣の男…魔導爆撃部隊の男は声を漏らす。

 

今回与えられた指令は『指定の線までにいる獣人の殲滅』。それと出来る限り人間を助ける事。ただし蘇生などを行う必要は無いとのことだ。

 

人間を巻き込まないのであれば広範囲の魔法も使ってよいとも言われているので、人間を巻き込まないようには注意しなくてはならない。

 

 

探知魔法で殲滅すべき獣人と救うべき人間は区別出来ているが、問題はどのように殲滅していくかだ。

 

『ど派手に頼む』という要望をされている以上、それに応えなければならないが方法は我々に一任されている。

 

連鎖する龍雷(チェインドラゴン・ライトニング)で一掃してしまうもよし。〈神炎(ウリエル)〉で焼き尽くすもよし。

 

さて……どうしたものか…。

 

 

 


 

 

 

 

村が襲われた。

 

竜王国の村だ。

 

獣人に襲われた。

獣人は強い。身体能力は人間の十倍。冒険者ならいざ知らず、農作業しかしてこなかった農民に勝てる筈も無く…。

 

 

瞬く間に蹂躙された。

 

ある者は戦った。

自分自身や愛する者を守るために戦った。そして食われた。

当然だ。武器も無ければ防具も無い。精々が農耕用の鍬なのだから、勝てる筈も無い。あったとしても変わったとは思えないが…。

 

またある者は逃げだした。

獣人に一農民が勝てるわけがないことは、獣人の国と隣接する竜王国の民なら誰だって知っている常識だ。ならば、勝てない相手に戦わずに逃げるという判断は非常に利口だ。

だが相手は獣人。文字通り身体能力の桁が違う。どんなに村で足が速くても、獣人に比べれば何という事は無い。

すぐさま追いつかれ殺された。

 

隠れた者もいた。戸棚、地下室、森の洞。どの家にも人が隠れられるほどのスペースはあった。

だが、彼らもすぐに見つかった。

なぜなら獣人は嗅覚も鋭い。臭いを落とす間など無かっただろうし、見つかるのにそう時間はかからなかった。

 

命乞いをする者だっていた。戦っても勝てず、逃げても追いつかれ、隠れても見つかるのだからこれもまた利口な判断だ。

だが、相手は獣人。獣人は人を食う。

人間を動く餌としか思っていない獣人が、人間の命乞いに耳を貸す筈も無い。

 

 

 

さて、村が瞬く間に蹂躙されたわけであるが、なぜ私がまだ生きているのか……という疑問に答えておこう。別に逃げ切ったわけではないし、そもそも助かったわけでもない。

娯楽のためだ。私は面白おかしく殺すために生かされているのだ。私一人ではない。他に何人かいる。

 

生きたまま炙られ、焼かれ、捌かれ、齧られる。

 

私に待っているのはそんな運命だ。

 

抵抗など出来ようはずもない。

 

ただその時を待ち続けるしかないのだ。

 

 

 

 

「おら、次はお前だ」

 

どうやら私の番が来たらしい。

 

いままで何人もの人間が死ぬところを見せられた。どれもが吐き気を催すものではあったが、何人も見せられれば嫌でも慣れる。

 

生きることなどとうに諦めた。私が願うのはただすぐ死ぬこと。

出来る事なら一思いに殺してほしい。

 

 

「〈雷撃(ライトニング)〉」

 

 

そう思った時であった。

 

空から声が聞こえたかと思えば、雷が獣人を撃ち抜いたのだ。

 

 

「無事かね?」

 

 

唖然としながら焼け焦げた獣人に目を奪われていたが、空から降ってきた声にあわてて顔を上げる。

 

 

「………ぁ」

 

「む?声が出せんのか?困ったな…殲滅と人間を出来る限り助けるよう指令は頂いているが治療の指令は頂いていない…」

 

 

目に入ったのは純白の法衣だ。所々の金色の刺繍から相当な高級の衣服であることが分かる。

 

「困ったな」と言った後からは小声で聞き取れなかったが、私を案じていることは分かる。

 

…いや、その前に礼を言わねば…。

 

 

「…ぁ、ありがとうございます!」

 

「なんだ、出せるじゃないか。良かった良かった」

 

 

うんうんと頷く法衣の男。

 

彼は…この人はいったい何者なんだろうか。

 

 

「あ、あなたは…?」

 

「私か?私は神の国の部隊の一人だよ」

 

 

神の国…聞いたことがある。数か月前に突如現れたという国だ。

 

 

「それじゃ、私は仕事があるのでね」

 

そう言うと法衣の男は飛び上がって行った。

 

そして飛び上がって行った男の周りに火の玉が現れた。一つではない、三つだ。前に冒険者が火の玉を出す魔法を使うのを見たことがあるが、その時は一つしか出していなかったはずだ…。

 

そんな風に考えている間にも火の玉が撃ち出されており、撃ち出された先からは物が焼け焦げるような匂いがしてくる。

 

 

その着弾場所と思われるところに行くと、”凄惨”という言葉が相応しい光景が広がっていた。

 

地面にこびりついた血、骨、内蔵、肉、髪の毛、頭。獣人達がどれだけのことをしていたのかが一目でわかるほどの凄惨な光景だ。

 

そして焼け焦げ、いまだにプスプスと煙が上がる肉塊。おそらく獣人だろう。

 

 

「助かった……のか……?」

 

 

 


 

 

 

 

「ハッ…ハッ…」

 

一つの影が息を切らし走っていた。

 

影の正体は獣人。竜王国の村を襲っていた獣人のうちの一匹だ。

 

 

「なんでこんなことに……!」

 

 

つい30分ほど前までは捕食者だった。村を襲い、人間を殺した。そして食った。久しぶりの肉は非常に美味だった。

皆で人間の肉の味に舌鼓を打ち、泣き叫ぶ人間の様を楽しんでいた。

 

 

そんな至福のひと時は突如として終わりを迎えた。

 

炎ーーいや、炎弾が降り注いだのだ。

 

突然のことで誰もが動けない中でも関係なく、容赦なく炎弾が降り注ぎ何人かが丸焦げになった。

 

そして我を取り戻したやつから我先にと逃げ出した。炎弾の出所を確認する暇もない。

一目散に森に飛び込んだのだ。

 

 

もう誰がどこにいるのか、生きているのかどうかもわからない。

 

はぐれてしまったこともそうだが、いつもならば獣人が生まれ持っている嗅覚で仲間の方向を調べることが出来るのに、森の焼け焦げた臭いでかき消されてしまっている。

 

 

…ほら、今もすぐ後ろに落ちたように、魔法の炎弾が自分を追って降り注いでいる。

 

今のところはまだ捉えられていないが、時間の問題だろう。

 

 

 

しばらく必死に走っていると、森の切れ目が見えた。

 

森で姿を隠せないのは痛いが、ここを抜けなければ本国へと帰れない。イチかバチか駆け抜けて向こう側の森に入るしかない。

 

 

覚悟を決めて、駆け抜けようと森を抜けた…………ところで立ち止まってしまった。

 

 

 

「な、なんで………」

 

そしてがくりと膝をついた。

 

 

「なんで…()()()()()()()()んだよ………」

 

そう。駆け抜けて入ろうとしていたはずの向こう側の森からも黒煙がモクモクと立ち昇っており、炎が赤々と燃えがっていた。

 

 

 

「おい……どうなってんだよ……」

 

後方から聞こえた声に振り向くと、そこには一緒に襲撃しに来た仲間が居た。どうやら彼も()()()()()()()()()()()()()()()()()らしい。

 

周りを見渡せば、他にも何人かがここの木の無い平原にたどり着いているのが見える。

 

 

爆撃も止んでいるので、今のうちに状況確認をしなければならない。

 

 

「……この場にいないのは?」

 

彼らを指揮していたのは自分だ。自分が話さなければだれも話そうとはしないだろうから、自分が率先して聞くしかない。

 

 

「……レラグとウォルビス、ガロルグ、ハンガー兄弟がいないようだ」

 

「……そうか。……とにかく、この場にいる者だけでも帰還しなくては……」

 

竜王国がこれほどの戦力を持っているということはなんとしても本国に伝えなくてはならないのだ。

 

 

 

「ふむ………これで生き残りは全員か」

 

「っ!!??誰だ!!」

 

突然声が聞こえた。俺たちの中の声ではない。

辺りを見回すが、それらしき者は見つけられない。

 

 

「お、おいあれ!!」

 

一人の仲間が上を指さした。

 

 

「あれは……人間か?」

 

上に浮いている人影は20程。全員が白いローブのような服を着ている。

 

浮いているということは〈飛行(フライ)〉を使っているということ。つまり魔法詠唱者(マジックキャスター)ということだ。

 

不味いな…と獣人の男は思う。現状の戦力では空を飛ぶ人間に攻撃する術はない。〈飛行〉や魔力が切れるまで耐えきるしかないだろうが、人間の魔法が動き回る獣人に当たることなど殆ど無い。事実殆どの獣人は当たらずにこの場まで逃げ切っている。これだけ魔法を連発して森を焼き尽くしたのだから、魔力だってほとんだ無いはず。

ならばこちらが有利…と歯をむき出しにして笑う。

 

 

「すまんな」

 

「…なに?」

 

「君らに恨みは無いが……これも主の命」

 

「一体、何を……?」

 

「わざわざ一カ所に集めたのだ。一思いに殺してやろう」

 

先程まで喋っていた男と別の男が言うと、全員が「然り」と返した。

 

………………今、「一カ所に集めた」と言ったか?

 

 

つまり、我々は逃げていた、逃げきれていたのではなく、追い込まれていたということ。

 

 

 

 

「どうかやすらかに………………「「「「「「「〈焼夷(ナパーム)〉」」」」」」」」」

 

 

ゾワリ……と毛が逆立つ。嫌な予感だ…それもいままで感じたことがないほどの。

 

「逃げろ!!」……と叫ぼうとしたが声が発せられることもなく、消し炭となった。

 

 

 


 

 

ふむ……と遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)で火葬の様子を眺める。

 

 

彼らのとった戦法は、〈三重魔法(トリプレットマジック)火球(ファイヤーボール)〉で外側から爆撃して追い詰め、平原で一掃するというものだ。

 

爆撃部隊の名に相応しいやり方で、絨毯爆撃かと言われると少し微妙だが爆撃という目標は達成したと言えるだろう。

 

 

ただ、一つ気になることがある。

 

これ………………戦争じゃなくね?

 

だってこれただの蹂躙じゃん。いや、別にいいんだけどさ。もっと戦略をどうにかこうにかして………みたいなことを想像していたのになぁ…………。

 

まぁでも、爆撃部隊の試運用は出来たので得るものはあったと言えるだろう。

 

 

「よし。これで獣人の殲滅は完了だな」

 

「う、うむ」

 

「あとは壁を作れば万事解決だな」

 

「そうだな……」

 

「費用も頼むぞ?」

 

「はぁ……あぁ。………………なあ」

 

「ん?」

 

「……仲良くしような」

 

「…?あぁ、もちろんだ。なんたって友好国だからな」

 

「そう…だな…。ユーコーコクだものな……」

 

何を気にしているんだろうか。

別に変な事をしなければ敵対する気も無いし、領土が欲しいわけでもないのだから安心して欲しい。

 

 

 




ドラウディロン「ふぁっ!?火球三つ!?何発撃ってんのこいつら……え、なにあの魔法、知らないんですけど!?」


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影武者

もうちょっと伏線?というか種播き?みたいなんしたら原作まで時間飛びます。もしかすると次から飛んでるかも。


直近の問題も粗方解決し、さしあたっての課題も無くなった。

 

ここ数年で特に大きな問題は無く、まさしく平和な暮らしを謳歌している。

 

 

だがそれでも俺の仕事が無くなることはない。小さな問題や他国とのつながり、報告書など事欠かないが、一番大きいのは報告書だ。

国内の生産状況、出入りした人間、貿易の収支やその内容などはまだ良い。目は通すが特に問題がおこることなどないからだ。

問題なのは国外ーー他国ーーの報告書だ。最初の指令通りありとあらゆることが事細かに記載されて送られてくるのだが、それに目を通すのがきつすぎる。別に俺の仕事というわけではないんだが、ありとあらゆることに目を通しておかないと不安になってしまう。自分の目と耳で調べられないため、他国の情報源はこの報告書のみなのだ。

 

まあそのおかげで情報はかなり集まっているから止めることはないんだが。

 

 

依然仕事はあるが、落ち着いたということには変わりない。

 

…そこで新たな課題に気づいてしまった。

 

この世界、娯楽が無いのだ。

帝国には闘技場という興行があるが、あれは万人が趣味にできるような娯楽ではない。

ボードゲーム系のゲームがあるとも聞いたことが無いし、スポーツなんかも無いようだ。

娯楽というのは生活に余裕があるから楽しめるものだからというのもあるのかもしれないが、庶民が楽しめるような娯楽が無さすぎる。

それは他人事ではなく、神国民にも当てはまることだ。生活に余裕はあるが、娯楽が無い。NPCとはいえ意思を持っている以上何かしらの娯楽は必要だろう。

 

無難なボードゲームだと、オセロやチェスなどだろう。将棋はおもしろいがルールが難しいし深すぎるので取っ付きにくいと思う。五目並べなんかもわかりやすいな。

 

 

後は広げる方法だ。

スパイたちに広めさせるにしても一介の町人が頑張った所で大して広まりはしないだろう。どちらかと言うとこういうのは商人が広めていくものの筈だ。

かと言って商人に「広めろ」と言ってやらせるのもあまり良いとは思えない。

やはり一番良いのはウチの国民に広めてそこから他国に広がっていくことだろう。

 

となると………。

 

 

 

 

「がぶりえる様がおいでになられているらしいぞ!」

「え!なんで!?」

「『おせろ大会』をするんだってよ!」

「『おせろ』?なにそれ?」

「さあ?分からないけど行ってみようぜ!」

 

 

『オセロ大会』

 

別に秘密裏に広める必要なんか無いんだから、こうやってルール説明から色々とやってしまえは早く広まるだろう。

なんたってみんなが大好きな王様が直々に広めてるんだから、すごい勢いで広まってくれるはずだ。

 

 

「あー、おはよう諸君。今回は君達にゲームを教えたくて来たんだ」

 

そういうと、彼らは「ゲーム?」と口々に疑問を呈した。

 

「それがこのオセロというゲームだ。ルールを説明しよう。

まずはーーーー……」

 

ルールを説明していく。

 

「…と、こんな感じだな。…まあ、やってみないと面白いかどうかも分からないだろう。…誰か俺とやりたい者はいるか?」

 

 

そう言うと、全員が一斉に「自分が!!」と立候補してきた。

お前ら………。オセロをやってみたいのか、俺とお近づきになりたいのか……。

 

「……じゃあ………………君にしようか。上がりたまえ」

 

「はっ!ありがとうございます!!」

 

「がぶりえる王、御身と同じ高さまで上がらせるのは…」

 

「気にするな、エリカ。その程度で俺の威厳は落ちんよ」

 

知らんけどな!

 

「…かしこまりました」

 

 

「……ではやろうか。ルールは大丈夫か?」

 

「はい!」

 

「じゃあ先行は…ジャンケンで勝った方だな」

 

正式な決め方はあったはずなんだが流石に忘れた。チェスなんかはあったと思うんだが…。

 

 

 

 

「…負けました」

 

まあ、相手はオセロやるのなんて初めてだしね。流石に負けない。

 

「うむ。どうだ?楽しかったか?」

 

「はい!」

 

「それは良かった。それじゃあ次は誰にしようか……」

 

 

この後滅茶苦茶オセロした。

 

 

「皆もここに来てない人にも伝えてやって楽しんでくれたまえ。また暫くしたら来るよ」

 

 

ふむ。感触は上々だな。

ある程度定着して来たら次のゲームを紹介してみよう。

 

 

 

 

 

「がぶりえる王…」

 

王城に帰ると、すぐにエリカが話しかけて来た。

 

「ん?どうした、エリカ」

 

「やはり、御身が城の外に出るというのは危険かと思われます。今日だってあの者が暗殺者だった場合も考えられました」

 

「……ふむ」

 

もしかすると、あの時の進言も威厳がどうとかの話じゃなくて安全性の話だったのかも知れないと今更ながらに気付いた。

 

影には御庭番衆だって潜ませているし、エリカ達将軍も近くにいるから万全の警備体制ではあったんだが、確かに俺自身の意識としてはザルだったかもしれない。

 

そもそも、俺が城の出るということ自体が不用心だ。

完全に裏に潜んで誰ともコンタクトを取っていないプレイヤーがいるかもしれないという事まで考えれば、俺はこの城から出るべきでは無いのだろう。

 

ただ、それだと神国民が心配だ。俺がこんな風に国民とコンタクトを取ることによって好感度はうなぎ登りで、それが無くなると好感度が下がるかもしれない。

 

確かに俺はこの城から出ない方が安全だが、他国との付き合いもあるし国民の好感度も心配だから出ない訳には行かない。

 

 

「影武者…というのはどうだ?」

 

「影武者…ですか?」

 

「そうだ。俺の外向きの仕事を全て任せられるから俺は外に出る必要が無くなるだろう?」

 

「それは名案ですね!」

 

俺が暇になるという一点を除けば完璧な手だろう。

まあ、背に腹は変えられない。暇が出来てしまうのは仕方がないとしよう。

 

「…となると、影武者に誰を立てるのかを決めないといけないな」

 

「御庭番衆でしょうか?」

 

「確かに御庭番衆なら影武者として文句無いんが、あいつらは沢山仕事を任せる事になるだろうからな……」

 

色んな所に潜入させられるし便利なんだよなぁ…。

 

「となると……他の将軍の中の誰かから……?」

 

「うーん……」

 

「わ、私にお任せ下さい!がぶりえる王の事なら誰にも負けない自信がありますので!完璧に影武者をこなして見せます!」

 

「いや、お前どうやって俺に化けるんだよ」

 

「……………魔法で」

 

「…………………」

 

魔法て……。お前そんな魔法使えないだろうが。

人にかけてもらうにしても手間がかかりすぎるし、すぐにボロとか出しそう。なんで俺はちょっとポンコツ設定をつけたんだろうか……可愛いからいいんだけどさ。

 

 

「……将軍達には任せられないな。ライオネルとムサシは魔法が使えないし、ロイヤルフォートレスは俺の警護、ブラックとホワイトは……どっちかを立てるとホラ、喧嘩するだろ……な?」

 

一番良さげなのはロイヤルフォートレスの中から誰か選ぶことなんだが、アイツらは3人揃っていないと力が出せない。一人が外向きの仕事で出て行ってしまうと万が一の時に不味いのでロイヤルフォートレスから選ぶことは出来ない。

 

 

「……では、カルロスに?」

 

「そこなんだよなぁ……」

 

カルロスが一番信頼厚いんだが、いかんせんレベルが低い。

敵対勢力が現れた際の保険のようなものなのに、簡単に殺されてしまっては敵対勢力の情報を集めることも出来ない。この世界の水準で言えば充分強者なんだがカンストプレイヤー相手では歯が立たない。

それに、アンデッドだからというのもある。

普通にやっていればバレなさそうだがこの世界には“タレント”なるものもあるそうで、どんなタレント持ちがいるか分からない状態で生者の敵であるアンデッドを送り込むことは避けたい。

 

ならば誰を……と言われても他には思いつかないんだが。

 

俺に化けるということから考えれば幻術を使えるカルロス、ブラックとホワイト。スキルで化けられる御庭番衆5人、諜報部隊のドッペルゲンガー軍団。

諜報部隊は現在仕事中だから呼び戻したくない。それにカルロス同様レベルが低過ぎる。

最悪御庭番衆一人ぐらいなら影武者に回しても大丈夫かも知れないが……うーん。

 

 

「……作るか」

 

「え?」

 

「ちょっと値は張るが、90レベルのドッペルゲンガーを作ろう」

 

このデータが入った本はたった一つしか無いので一体しか作れないが、現状これ以上に適当な使い方が思いつかない。

因みにガチャの当たり枠だ。本当は違う当たりを狙っていたが、それが出るまでにこの当たりが二体も出てしまったという背景がある。

閑話休題。

 

 

「そんなにポンポンお金使って大丈夫なんですか?」

 

……中々痛い所を突くじゃないか。

 

「俺とお金どっちが大事なんだ?」

 

「がぶりえる王です!」

 

「なら問題無いな」

 

とは言え、確かに湯水のように使っている自覚はある。

爆撃部隊に大陸中心側に築いた壁。竜王国から費用をぼったくってはいるが流石に一気にポンとは渡せないようで、現状それほど金は無い。もちろん国の運営費用は問題無いぞ。

まあ、俺はどんなゴミアイテムだろうととりあえず拾っておくタイプだから、それを金貨に変えればドッペルゲンガー作成分の費用ぐらいは賄える。

 

まだ何人かの仲間達が遺した遺産にも手をつけてないから余裕はあるのだ。

 

 

そんな訳で、作るぜドッペルゲンガー!

 

 

 

 

「……よし」

 

成功だ。賢者タイムがやってきていて後悔していないでも無いが………まぁ良いだろう。

 

「お初にお目にかかります。がぶりえる様」

 

「うむ。先にお前の役割を説明しておこう」

 

「はっ」

 

「お前には俺の影武者になってもらう」

 

「……と、言いますと?」

 

「俺は王だから城の外に出る機会は多い。しかしそれは危険が伴う。外向きの仕事はお前にやってもらいたいんだ」

 

「了解致しました」

 

「知識やらの擦り合わせはまた明日やろう。今日はもう寝る」

 

「「お休みなさいませ」」

 

がぶりえるは「んー」と手をプラプラして自室に入って行った。

 

 

 

「エリカ様……」

 

「なんですか?」

 

「私如きにがぶりえる様の影武者が務まるのでしょうか……」

 

「………誰がやってもあのお方の代わり……影武者なんて務まらないわ。だから、とにかく精一杯取り組みなさい。あの方のご期待に沿えるように」

 

「…はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

その次の日から、ゲンガーくんを影武者にするための勉強会(のようなもの)が始まった。

 

物凄いやる気に満ち溢れており、ものの3日で影武者として送り出せるようになった。




前書きにも書いたんですけど、そろそろ原作まで飛んでいきます。ただ書き方が定まってなくて、ナザリック視点と神の国視点どっちも書こうかなって思ってるんですけどどうでしょう?


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冒険者 & 間話 エリカの1日

もう書く事絞り出せなくなったんで次から原作まで飛ばします。


「冒険者ねぇ………」

 

冒険者。

 

冒険者組合に来た依頼を受けて、達成する事で報酬を得る者達だ。

依頼の内容はモンスターの討伐や採集、護衛などがあり、組合が事前に精査して難易度毎に振り分けてあるので安心安全だ。

 

冒険者はモンスターと戦う事が多いので強い人間も多い。中でも最高位であるアダマンタイト級冒険者は人類の切り札と呼ばれる。冒険者に強い人間が多いのは経験値的なものが多く得られるからだと思っているが、実際どうなんだろうか。

 

因みに、冒険者には国家間の争いなどには参加しないという決まりがある。

これが無いと冒険者同士による戦争になってしまい相互の被害は拡大し、その戦争の後にモンスターなどを倒せる人間が減る事にもなるからだ。

 

一見オーソドックスなファンタジーの夢のある職業に思えるかもしれないが、実際はそんな事はない。

本当の意味で命の危険が付き纏うし、稼ぎも悪いからそれほど夢のある仕事でも無い。ミスリルを超えるような上級冒険者であれば余裕も出来てくるが、冒険者もピンキリだ。実際最下級である銅の冒険者は殆どただの荒くれ者だ。

 

 

そんな冒険者だが、冒険者組合が無ければ存在し得ない。

つまり、冒険者組合の無いウチには冒険者が居ないという事だ。

 

冒険者組合が無いのには理由がある。

 

それは『冒険者の仕事が無いから』だ。

 

まず、都市部は全て壁で囲っているのでモンスターによる被害が出ることもない。だからモンスター討伐の依頼が来ることはない。

育てられる植物は基本的に温室で育てているので採集が必要なものもほぼ無い。

護衛にしても、ウチの兵士がやれば事足りる。なんならウチの兵士の方が強いまである。

 

そんな訳で、この国では仕事が少な過ぎるのだ。

 

 

だが、もちろん冒険者組合を作るメリットはある。

 

まず単純に人の出入りが増える事で交易の促進が期待出来る。

そしてもう一つ、冒険者のアンダーグラウンドを作り出せる。適当に30レベルの兵士数人でチームを組めば、あっという間に英雄級のアダマンタイト冒険者が作り出せる。ウチでアンダーグラウンドが出来れば他国に行ってもアダマンタイト級冒険者として活動出来るようになるという訳だ。

 

 

後々の事も考えれば作った方がメリットは大きいんだが、仕事が無いというのは死活問題だ。討伐すべきモンスターが居なければ、冒険者なんて無職と変わらないのだ。

 

視点を変える必要があるかもしれない。

 

何も国内での依頼である必要は無いのだから、ここから行った方が早い依頼についてはこちらに回すように言っておけば良い。そうすれば、ここに近い色々な都市の冒険者組合から依頼が集まって冒険者も集まるだろう。

加えて言えば、ウチのマジックアイテムは超高額だ。他国で売られている値段はここでの価格の数倍以上。つまりここなら安く高品質なマジックアイテムが手に入るので、より冒険者も集まりやすいだろう。

 

 

……よし。少し手間がかかってしまうが、冒険者組合は作れるな。

まあ、冒険者組合は国からほぼ独立している機関なのでノータッチでも大丈夫だろう。最初はある程度補助するけどね。

 

お、エリカが帰ってきた。

 

 


 

間話(のようなもの) エリカの1日

 

 

メイドであるエリカの朝は早い。

 

 

起床後、身嗜みを整えてすぐに部屋を出る。

 

 

主人であるがぶりえるが出てくる前に紅茶とコーヒーを熱々で用意しておき、猫舌の主人が口にする時にはちょうどいい温度になるように調整する。因みに、主人が猫舌というのはこの世界に来てから分かった事だ。

 

 

主人の起床時間になった。

主人に挨拶をした後、紅茶かコーヒーかを聞く。今のところは全て紅茶と答えられているが、念のためだ。どちらを選んでも良いように用意している。残った方が自分用だ。

 

 

そして朝食。

オーダーがあればそれを作るし、オーダーが無ければランダムで作る。

 

初めは至高の御方が召し上がるものを自分が作るのは恐れ多いと断ったのだが“エリカに作ってもらいたい理由”を力説されて、渋々了承してしまった。「エリカは実質娘。娘にご飯を作って貰いたいと思うのは親心として当然」と言われてしまっては反論など出来ようはずもない。

 

因みに今日のメインはフレンチトーストだ。

 

そういえば以前初めてホットドッグを作った時に、「次作るときはマスタード抜きで頼む」と言われたのをふと思い出した。コーヒーよりも紅茶を好むようだし、(こう思うのも不敬かもしれないが)意外と子供舌なのかもしれない。なんでも完璧にこなす方だと思っていたから、そういう面があるというのは少し意外だった。

 

 

朝食が終われば、主人は仕事を始める。

特に外からの報告書を読んでいる事が多い。

 

いつもなら私は作業を手伝ったり、お茶やお菓子を用意している。

 

しかし今日は少し違った。

 

チェスを主人とやることになったのだ。

どういう意図か聞いてみると、次はコレを広めようと考えているそうなのだ。折角だしエリカとやってみようという感じらしい。

チェスがどういうものかは知識として知ってはいるが、実際にやってみた事はない。

がぶりえる様に勝てるだろうか………。

 

 

 

 

……勝ってしまった。

やった!とついつい小躍りしてしまった。

 

冷静になって考えてみれば、私如きが勝てるはずがないのに……と思っていたが、主人が「…戦闘脳め」と悪態をついていたので本当に本気に勝ったということなのかもしれない。

 

この後は、影武者のゲンガーを呼んで3人で交代しながらチェスを楽しんだ。

 

因みに私は全勝だ。…いぇい。

 

 

 

今日はチェス大会が始まってしまったが、いつもなら仕事は一旦休憩し、昼食の時間だ。

 

昼食はガッツリ食べたいとの事なので、今日はハンバーグだ。

少し時間がかかるが、その了承は頂いているので問題無い。

 

 

 

昼食を終えると午後の仕事だ。

 

午後の予定を伺うと、どうやらチェスを広めに向かうそうだ。と言っても、実際に行くのはゲンガーなんだが…。

 

 

…………え?私もゲンガーについて行け?

 

ど、どうしてですか?

 

た、確かに私はがぶりえる様のお付きですが……。

 

お付きが付いていないと怪しまれるというのは分かりますが、御身のお側を離れるというのは……。

 

……何のために影武者を立てた?って……それは……。

 

分かりました………。

 

 

こちらは単純にがぶりえる様の近くにいたいだけだったので、論理的に説得されてしまえばなす術はない。

 

不承不承ではあるがゲンガーについていくことになった。

 

 

 

町に降りると、すぐに人が集まってきた。

前々回のオセロ、前回の五目並べと回数を重ねる毎に人は増えていき、一大イベントとなっている。

ここまで人が集まるのも、主人である王の人徳の賜物だろう。

 

心の中で自らの主人を自慢していると、チェス大会が始まった。

 

ルールの説明をして、一度では覚えられない人間にはその都度指摘してチェスをしていく。

 

何人か後になってくると、少しずつ良い手が増え始める。前の人やゲンガーを見て学んだのだろう。最後の方の人は良い勝負になることもあった。

 

 

こうして笑顔で楽しむ市民達を見ていると、王の素晴らしさを実感する。

娯楽が必要だと言われた時は半信半疑だったが、こんな風に楽しそうな顔が見られるのは素晴らしいことだと思う。

何度か他の国に行ったこともあるが、ここまで人々の顔が明るくはなかった。

 

 

 

 

王城に戻ると、主人が「おかえり」と迎えてくれた。

 

「ただいま戻りました」と返して、今日の報告をする。

今日自分が思った事を伝えると、とても嬉しそうな顔をした事が印象的だった。

 

午後は何をしていたのか聞くと、冒険者について考えていたそうだ。冒険者なんて必要無いと思っていたが、主人がこう言うんだから必要なのだろう。きっと私には想像もつかないような計画などがあったりするに違いない。

 

 

今日の夕飯はクリームシチューだ。

ここ最近はパスタが食いたいと言っていたが、今日はなんでも良いとのことなのでシチューを作らせて貰った。そろそろ寒くなってきましたし、暖かくてちょうど良いでしょう?

 

 

夕飯を終えると、今日は後はゆっくりだ。

まだ仕事があれば仕事をしていることもある。

 

仕事が無ければ、至高の方々の話を聞いたり、がぶりえる様自身の話を聞いたり、何かしらのゲームをしたりして過ごす。ゲームなら最近だとオセロや五目並べが多いが、今日はチェスをやった。因みに全勝だ。…ブイ。

 

 

しばらくすると就寝の時間がやってきた。

 

この世界に来て最初の日、あれ以来体を求められるような事はない。夜伽の心の用意は出来ているのに……。

 

娘のように思っていると言っていたが、女としては見られていないということなのだろうか。

もちろん娘と言われて嬉しい事には変わりない。しかし、女としては少し思うところはある。偉大な方の夜伽の相手になりたいなど不敬なのかもしれないが、思わずにはいられない。

 

 

そんな事をじっくり考えていると、主人に心配されてしまった。

 

もう1日の終わりだ。最後まで気を引き締めていかないと!

 

 

「では、おやすみなさいませ」

 

「あぁ、おやすみ」

 

 

これが、将軍兼メイドであるエリカの1日である。

 




原作時間軸まで飛ばすって言ったけど未だに展開決まってないのヤバい……。まあ、書きながら考えますわ。


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原作開始
物語、動きます(プロローグ的な)


前回から言ってるけど原作の時間軸までぶっ飛ばしまーす。


……100年後……

 

 

「……陽光聖典が全滅した?」

 

『はい』

 

スレイン法国に潜入させているスパイから、陽光聖典が全滅したとの知らせが入った。

陽光聖典とはスレイン法国にある特殊部隊『六色聖典』の一つで、殲滅などを得意としている。漆黒聖典ほどでは無いが、この世界に於いては強力な部隊の一つだ。

切り札とやらも渡したみたいだからそんじょそこらのヤツには負けるはずはないんだが……

 

「…確か、ガゼフ・ストロノーフの抹殺が目的だったな?」

 

『はい』

 

ガゼフ・ストロノーフ。

リ・エスティーゼ王国の戦士長で、周辺国家最強を謳われる人物だ。王国のスパイの情報によれば、かなりの人徳者とも言われている。

 

そのガゼフを殺そうと言うのが法国の目的だ。

 

 

「……まさか、ガゼフに負けたのか?」

 

とてもではないが、ガゼフが陽光聖典の魔法詠唱者軍団に勝てるとは思えない。何せ陽光聖典隊長のニグンには切り札を託しているし、ガゼフの装備だって万全では無い。

負けるはずは無いと思っていたんだが……。

 

 

『いえ、ガゼフ・ストロノーフではありません』

 

「ほう…なら誰に?」

 

 

 

 

 

『アインズ・ウール・ゴウンと名乗る魔法詠唱者です』

 

 

 

 

 

「……………今、なんと言った?」

 

『アインズ・ウール・ゴウンと言いました』

 

「……………殺されたのか?」

 

『不明ですが、帰還していないのでおそらくは…』

 

「…………………………」

 

『いかが致しますか?』

 

「……とりあえずは情報収集だ。アインズ・ウール・ゴウンを調べる方向に誘導して貰えば助かる。後、報告も逐一頼む」

 

『了解しました』

 

ブツっと〈伝言(メッセージ)〉が途切れる感覚があった。

 

 

“アインズ・ウール・ゴウン”

 

8位にランクインしたこともある超上位ギルドだ。

世界級(ワールド)アイテムの所持数は全ギルド中最高の11個。構成人数は41人と少ない。

特筆すべきなのはその特性だ。PKをたくさんしており、敵対していた敵も多い。その報復として組まれた1500人の討伐隊を退けたという驚くべき記録を持っている。

そしてあのギルドはワールドチャンピオンを一人有している。

問題なのは、PKギルドという点だ。

ゲームといえど、人を殺すことは良いことでは無い。別に規制されてる訳でも無いが、良い印象は無いだろう。

果たして、そんなギルドの人間がまともな人間なのだろうか。

偏見を持つのは良くないが、元々PKを好んでいるようなヤツはあまり好きでは無い。

 

それに、これはギルド名であって個人名では無い。騙っている可能性も考えられる。

 

「……カルロス」

 

「はっ」

 

「王国のカルネ村付近を捜索させろ。ただし足がつくものは使うな。切り捨てられる者だけにしておけ」

 

「かしこまりました」

 

カルネ村とは、王国領にある村の一つだ。陽光聖典が全滅したのもその辺りらしい。転移系魔法を使えば距離なんて殆ど当てにならないが、手掛かりが一つしか無い以上はそれを当てにするしかないだろう。

 

 

……さて、スタンスを決める必要がある。

ゴリゴリの悪のPKギルドは想定外だ。数あるギルドからまさかあのギルドを引くとは思わなんだ。

 

最良なのは全滅させることだろう。あらゆるリスクを考慮すれば全滅させてしまうのが手っ取り早い。

だが、それは不可能だ。

まず、相手の戦力が不明であること。転移してきたプレイヤーの数が不明なので下手な事はできない。

そして、1500人の討伐隊を撃退したという実績を持つ点。とてもではないが、それだけの戦力相手に攻める気にはなれない。

 

となると、融和政策か。

互いに信用さえ出来るのなら一番これが望ましい。信用出来るのならの話だが。

 

もしくは完全不可侵というのも手だ。

互いに不利益を避けられるという意味では悪い話ではないはずだ。

 

 

………やはりとにかく情報を集めなければどうしようもないか。

 

この世界に来たばかりならばまだ右も左も分からないはずだ。出来れば早いうちに接触しておきたいが……。

 

 


 

 

アインズは、カルネ村の村長から聞いた話を改めて整理する。

 

まず、周辺国家だ。

リ・エスティーゼ王国、バハルス帝国、スレイン法国。

そして神の国。他にも国はあるらしいが、村長が知っているのはこれぐらいらしい。

先に挙げた三国については、ユグドラシルやその元ネタである北欧神話でも聞いたことがない。

しかし神の国に関しては知っている。

 

“神の国”

上位ギルドの一つで、国を丸ごとギルドの本拠地にしている。

特筆すべきなのはその戦力だ。

神の国は初心者を囲い、育てる。その初心者がギルドを作り、そのギルドと同盟を組んで戦力を増強する。

俺達のようにPKを好んでやったりもしないから他ギルドとの関係も良好。

神の国単体ではそれほど力は無いが、それら同盟国の戦力と合わせればユグドラシルにおいては最大級の戦力を誇っていた。

 

この神の国がユグドラシルの神の国と同一なのかは分からないが、警戒するに越した事はないだろう。

 

それに、神の国の構成人数は100人。俺は一人だったが、100人全員来ているとなるとこちらが攻め落とす事は難しくなる。俺のように一人であれば簡単に落とせるか………いや、俺と同じプレイヤーならば協力関係を築きたい。もし一人ならお互いに共感できる所もあるだろうし、友好的な関係も築けるかも知れない。

 

とにかく、向こうの戦力が分からない現状では敵対するような事は避ける必要がある。一先ず情報を集めないことにはな。

 

 

 




今回はプロローグ的な感じで。
こっからどうやって書いていこうかな……


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漆黒のモモン

とりあえず、最初の方はある程度原作沿いに進めていくんでちょっとつまらないかもです。所々で他国から見た神の国について書いていきたいと思います。


エ・ランテル。

リ・エスティーゼ王国の都市で、三重の壁に囲まれた城塞都市だ。

 

そこを歩く漆黒の全身鎧(フルプレート)を着た大柄な男(多分)と黒髪をポニーテールにしたキツいような顔立ちをした女。

つい昨日冒険者登録したばかりの『モモン』と『ナーベ』である。

その正体がギルド“アインズ・ウール・ゴウン”の有する本拠地ナザリック地下大墳墓が主人、アインズ・ウール・ゴウンとその配下である戦闘メイド“六連星(プレアデス)”の一人、ナーベラル・ガンマという事はこの街の人間が知る由もない。

 

彼らがここに来たのは、冒険者としてのアンダーカバーを作り情報を集めるためだ。名を売ることでより質の良い情報を得られると考えたのだ。

 

 

そんなアインズ……いやモモンであるが、昨日が登録初日、今日が冒険者としての初仕事である。

 

冒険者組合に着くと、好奇の視線に晒されながらもボードを眺めて依頼を選ぶ。

 

この世界の文字が読めないという事が判明したが、機転を利かせて何とか切り抜け………る直前で、彼らに声をかけた一団があった。

 

「それなら私達の仕事を手伝いません?」

 

「仕事というのは…やりがいがあるもの…でしょうか?」

 

「うーん。まぁ、あると言えばあると思いますね」

 

モモンの質問に答えたのはリーダーと思しき男。金髪碧眼のこの世界では一般的な見た目で、帯鎧(バンデッド・アーマー)を着た戦士風の男だ。

 

一先ず仕事の話をするために部屋を貸してもらい、話を聞いてもらうことにした。

 

彼らは4人チームの銀級冒険者の『漆黒の剣』というらしい。

 

一通り自己紹介をした後、仕事の話に移る。

 

 

「……実のところ仕事というわけでもないんです」

 

リーダーのペテル・モークがそう切り出した。

 

モモンが訝しげな声を上げると、ペテルは続きの言葉を紡いだ。

 

「この街周辺に出没するモンスターを狩るのが今回の目的です」

 

「モンスター討伐ですか…?」

 

普通に仕事に思えるが、それが仕事ではないというのはどういう意味なのだろうか。

無知を曝け出すわけにはいかないモモンは、当たり障りの無い質問から答えを得ようと疑問を投げかける。

 

「なんというモンスターですか?」

 

「あ、いえ。そっちじゃなくて、モモンさんの国ではなんと言うんでしょう?モンスターを狩るとそのモンスターの強さに応じた報奨金が街から組合を通して出ますよね、それです」

 

なるほど…とモモンは納得する。モンスターを狩って素材なんかを得るのと同じ要領だ。

 

「糊口を凌ぐのに必要な仕事である」

 

重々しく大柄な男、森司祭(ドルイド)ーーダイン・ウッドワンダーが横から口を挟むと、野伏(レンジャー)のルクルット・ボルブも口を開く。

 

「俺達は飯の糧になる。周囲の人間は危険が減る。商人は安全に移動が出来る。国は税がしっかり取れる。損する人間は誰もいないって寸法だよな」

 

「今じゃ組合のある国ならどこでもやってることですけど、5年前は()()()国じゃそんなことなかったんですから驚きですよね」

 

中性的な顔立ちと声のこのチーム最後の一人、魔法詠唱者(マジック・キャスター)のニニャの発言にチーム全員がしみじみと首を縦に振る。

この国の事を何も知らないモモンは会話に加わらず、黙って聞いておくことにする。

 

 

「『神の国』なぁ……一度で良いから行ってみてぇー」

 

「あそこは今でも冒険者に対する待遇が一番良いからな…」

 

「…神の国……ですか?」

 

黙って聞いておこうと思っていたが、今一番知りたいと言っても過言では無い神の国についての情報だ。なんとしても聞いておきたいと思い話に加わる。

 

「あれ?モモンさんは知らないですか?」

 

「えぇ…ここの周辺国家もあまり知らないですしね」

 

「あー…そういえばあの国って100年ぐらい前に突如現れたって言われてるから遠くまで情報が届いてないのかも知れませんね…」

 

「まぁ、眉唾だと思うけどなー」

 

ニニャの言葉にルクルットが返す。

 

モモンは頭をフル回転させる。

プレイヤーがいるかも知れない神の国の情報はなんとしても手に入れておきたい。今はこのチームが唯一のコネだからだ。

 

「……どんな国なんですか?」

 

とりあえず当たり障りの無い事を聞いておく。

 

「一言で言えば、すっっっっごい国ですね」

 

「はぁ……」

 

気の抜けた声が出てしまった。

すっっっっごいってどんなだよ。抽象的過ぎるだろ。

 

「食いもんは美味いし、宿も豪華だし、治安も良いしマジックアイテムも安い。…あの国のマジックアイテムって王国や帝国で買うと倍以上するんだぜ?いくら希少だからって商人もぼったくりすぎだよなぁ…」

 

「そうそう…」とチーム全員が頷いている。

これだけ聞くと、普通に良い国のようだ。

 

 

「先程突然現れたって言ってましたが……」

 

「あー、それな……どう考えても嘘なのに当時はみんな信じてたらしいぜ?まあ、100年も前の話だから信じる人間はみんな死んでるんだけどな」

 

「そうなんですか……」

 

やはり、自分達と同じようにギルドごと転移して来たという可能性が一番高いか……。

 

 

「……話が逸れてしまいましたね。仕事の話に戻りましょうか」

 

「…………そうですね」

 

まだまだ情報を集めたいが、彼らにしてみれば仕事の話以上に神の国の話を優先するのは怪しまれるので一旦話を終わらせる。

まだまだ移動中なんかにも話す時間はあるのだし、焦る必要は無い。

 

 

彼らによると、スレイン法国国境の森林から出たモンスターを狩るのがメインらしい。小鬼(ゴブリン)やそれに飼われている狼、人喰い大鬼(オーガ)なんかが中心だそうだ。

 

 

仕事を受ける事に決めて、質問を受け付けた時にルクルットがナーベに告白してあえなく玉砕(毒舌罵倒)したというハプニングはあったがそれ以外に特に問題は無かったので、準備を始めようと部屋を出る。

 

 

受付まで戻ってくると何やら妙な雰囲気になっており、一人の金髪の少年に視線が集まっている。

その金髪の少年と話していた受付嬢がこちらの姿を見とめると、立ち上がり向かって来ると口を開いた。

 

 

「ご指名の依頼が入っております」

 

その受付嬢の視線の先にいるのは漆黒の剣のメンバーではない。つい昨日登録したばかりの新人であるモモンだった。

 

モモンはナーベが戦闘態勢に入りかけたのをおそろしく速い手刀(チョップ)で諫めて、半ば例の少年と確信していながらも問いかける。

 

「一体、どなたが?」

 

「はい。ンフィーレア・バレアレさんです」

 

「初めまして。僕が依頼させていただきました」

 

ンフィーレア・バレアレ。

エ・ランテルで名の知れた薬師、リイジー・バレアレの孫で、彼の持つタレントである、“ありとあらゆるマジックアイテムが使用可能”はかなり有名だそうだ。

 

いくつか不審な点はあるが、この場でそれを話すのは得策では無いと結論付ける。

 

 

モモンは先に受けた依頼があるので断ろうとしたが、ペテルは一歩引いたような姿勢を見せる。名声を持つ指名の依頼と自分達の依頼では明らかに価値が違うと考えているのだろう。

そう判断したモモンは、とりあえずンフィーレアの依頼の内容を聞いてから判断しようと提案して、また先ほどの部屋に戻って話をする事となった。

 

依頼の内容は、ンフィーレアの薬草採集の警護とその手伝い。

警護や採集というのはモモンもナーベも不得手ではあるので、漆黒の剣の面々にも同行してもらう事になった。

カルネ村まで赴いたら、そこに潜在拠点を設けて森に向かうという予定とのこと。

 

漆黒の剣の面々がンフィーレアに準備について色々と聞いたりしている中で、モモンもンフィーレアに最初から持っていた疑問を投げかける。

 

 

「なぜ、私なのでしょう?つい最近、私はこの街に馬車に乗ってやってきました。ですのでこの街に親しい友人もおりませんし、知名度だってありません。にも関わらずなぜ、私を?」

 

そう。名指しをされる謂れが全く無いのに自分に依頼してきたというのが疑問だった。

 

「…実はですね、うちのお店に来た方から宿屋の件を聞いたんです」

 

「宿屋の件?」

 

「はい。あっという間に一つ上のランクの冒険者を吹っ飛ばしたって」

 

「なるほど……」

 

宿屋の件…というのは、登録を済ませた昨日の事だ。

宿屋で部屋を借りた時に上の冒険者がちょっかいをかけてきたので、吹っ飛ばしたという出来事があった。嫌がらせの側面もあるが、駆け出し冒険者の洗礼的な意味もあったのだろう。

その時に投げ飛ばした先にいた冒険者のポーションを割ってしまい、自分の持っていたユグドラシルポーションで弁償したのだった。

 

「それに、銅のプレートの方でしたらお安いでしょ?長くお付き合いが出来ればなと思いまして」

 

「はは、確かに」

 

若干不安が残っているが、理由としては十分に納得出来た。

 

その後もいくつか質問が飛び交った後、質問が出尽くしたとみなしたンフィーレアが声を上げて、出発と相成った。

 

 


 

 

エ・ランテルでも有名である巨大墓地を歩く女性の影。

 

漆黒のフード付きマントを被っており、その隙間からは短めの金髪が見える。

 

やがて一つの霊廟の前にたどり着くと、フードを外す。

20歳前後の瑞々しい若さで、顔立ちは整っているが可愛いらしくもどこか獰猛そうな雰囲気を醸し出している。

 

霊廟の石扉を開けると死体を安置するための石の台座が目に入るが、そこには何も載っていない。

 

どこか場違いな鼻歌を歌いながら台座にある細かな彫刻の一つを押し込むと、ガチンという何かが噛み合うような音がした後ゴリゴリと音を立てながらゆっくりと台座が動き出し、地下へと続く階段が姿を見せた。隠し扉である。

 

「はいるよー」

 

下に向かって気楽そうな声をかけ、女は階段をおりていく。

 

降りた先には広い空洞が広がっている。だが、そこは墓場の一部では無い。

 

 

「ちわー、カジッちゃんに会いに来たんだけどいるー?」

 

そう暗闇に声を掛けると、一人の男が現れた。

目は落ち窪み、顔色は土気色で髪の毛などの体毛は見当たらないその様はアンデッドさながらだ。

 

「その挨拶は止めないか。誇りあるズーラーノーンの名が泣くわ」

 

ズーラーノーン。

強大な力を持つことで名の知れた盟主を頭に抱く、死を隣人とする魔法詠唱者達からなる邪悪な秘密結社で、幾つもの悲劇を生み出して来た結社であるので周辺国家は敵とみなしている。

 

「そおー?」

 

「……それで?おぬしがここに来たのは一体どんな理由があってのことだ?ここで儂が死の宝珠に力を注いでいることは知っておろう。荒らしに来たのならばそれなりの対処はさせてもらうぞ」

 

「いやだなーカジッちゃん。これ持って来たあげたんだよー」

 

女はマントの下でごそごそと手を動かし、目当ての物を見つけると手を出した。

 

その手に握られているのはサークレットだ。

蜘蛛の糸のような金属糸の所々に細やかな無数の宝石がつけられており、蜘蛛の巣のように繊細な作りをしている。

 

「それは!巫女姫の証、叡者の額冠!スレイン法国の最秘法の一つではないか!」

 

男は大きく目を見開き、サークレットの正体を言い当てた。

 

「そうだよー、可愛い女の子がこんな変なものしてたからさぁ。似合わないから奪ってあげたんだよねー。そしたらこれがびっくり!発狂しちゃったんだよねー。糞尿たらしまくりー」

 

女はケラケラと笑う。

叡者の額冠を奪えば着用者ーースレイン法国での魔法的儀式の中心である巫女姫がどうなるかを、かつて漆黒聖典に所属していたこの女が知らないはずがない。

 

「ふん。漆黒聖典を裏切ってまで手に入れたのがそんなガラクタとはな」

 

「ガラクタとはひどいなー」

 

「ガラクタで間違いなかろう?そのアイテムに適合する女の確率は100万人に1人という割合だ。スレイン法国のような国家でなければ、使用者を探すことすら出来んだろうよ」

 

スレイン法国は住民台帳を作成している唯一の国である。だからこそそのアイテムの使用者ーー生贄を見つける事ができる。

 

 

「……でさぁ、カジット・デイル・バダンテール。同じ十二幹部として協力しない?」

 

突然、女の口調が変わる。

 

「ほう。素顔を見せたな?クインティアの片割れ。しかしデイルは止せ。既に捨てた洗礼名だ」

 

「……こっちもクインティアの片割れはやめてくれないかな?クレマンティーヌって呼んでよ」

 

「……クレマンティーヌ。それで協力とは?」

 

「この街には素晴らしいタレントを持つ人物がいるんでしょ?そいつならこのアイテムも使えるんじゃないかなー」

 

「……なるほど。噂に聞くあれか。しかし人一人攫うくらいおぬしだけで片がつくだろう」

 

「うん。その通りだねー。ただ、行きがけの駄賃にでっかいイベントを起こしたいんだよねー」

 

「そのどさくさに紛れて逃げるということか……。なるほど……」

 

逃げる…というのは、漆黒聖典を裏切ったクレマンティーヌを追って来ている六色聖典のうちの一つである風火聖典の者達から逃げるということを指している。風火聖典は追跡などを得意とした部隊だ。

 

「それめカジットの儀式に協力すると言ったらどうー?悪くないんじゃないー?」

 

男ーーカジットの目が鋭くなり、邪悪極まり無い笑みを浮かべた。

 

「素晴らしいな、クレマンティーヌ。それであれば死の祭典を前倒しで行えよう。良いとも、この儂の全力をもって協力させてもらうぞ。…………ところで、逃げると言っても何処は逃げる気だ?王国や帝国にも法国の手のものがいるだろう?」

 

「んー、神の国かなー」

 

「……あの国は法国が建てた国だと思っていたが?」

 

というのも、裏の世界の人間であれば法国の()()()は知っている。“神の国は法国の手によって作られた国”というのが裏の世界での定説となっているのだ。

 

「あー、なんかそーゆー噂あるけど全然違うよ、それ。むしろ上の方は潜在的な敵対国家としてるらしいよ?」

 

「ほう、そうだったのか」

 

「警戒して全然手を出してないみたいだしね。私にとっては好都合ってわけ」

 

「なるほどな……土産を期待しているぞ?あの国のマジックアイテムは上質だからな」

 

「はいはーい」

 




ホントはもう一個話入れたかったけどちょっと多くなっちゃったから次に入れますわ。

ポケモンしてたらちょっと投稿遅くなっちゃってごめんね。


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あだまんてぇと

オリキャラ()が登場します。


「…何も手がかりは見つからなかったと?」

 

「…はい。申し訳ありません」

 

神の国のある場所。

話しているのはその国の王であるがぶりえるとカルロスだ。

 

 

「いや、構わん。となると、完全に別の場所という可能性もあるか………。幻術の可能性は?」

 

「申し訳ありません。私めのシモベでは幻術を見破る事は出来ませんので……」

 

「ふむ……特殊部隊を動かして構わん。幻術の可能性まで考えてまた捜索してくれ。何度も言うが絶対に手を出すなよ」

 

「御意に」

 

そう言って転移していったカルロスを見送り、溜息を吐き出す。

 

 

「ふー……ナザリック地下大墳墓ねぇ……」

 

ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のダンジョン型拠点だが、見つけられるかは運次第だ。この広大な世界で一つの建造物を見つけるのは至難の技だし、唯一の手がかりはカルネ村だ。

カルネ村に接触するのも考えたが、それほど利があるようには思えない。そこに人員を割くぐらいなら各街で情報収集してもらった方が有意義だろう。

 

 

考えろ……。この世界に来たらまず何をするのかと言えば情報収集だ。まともな思考をしていて俺と同じように転移して来たならば絶対に情報収集から手をつける。

となると、何処で情報収集をする……カルネ村近辺から考えるなら近くにある都市はエ・ランテルぐらい……ウチの国はネズミ1匹逃さず人の出入りは把握しているから除外するとして、帝国や王国の王都や法国の可能性はあるか……?

質の良い情報を求めるなら何かしらで名を売り始めるはずだ。そうなれば各国に忍ばせた諜報員からもいずれ情報は得られるだろう。出来る事なら先手を打っておきたいんだが…。

 

…エ・ランテルが一番可能性としては高いか?賭けだが分の良い勝負のはずだ。

 

 

「……般若」

 

『…は』

 

伝言(メッセージ)〉で御庭番衆の一人である般若に連絡を取る。

 

「これからエ・ランテルに行って、突然現れたり有名になった人物を片っ端から探ってくれ。どの部下を使っても構わん」

 

『かしこまりました』

 

プレイヤーならば冒険者になるのが無難だろうか……。腕を売れば情報も自然と集まるというのは既に分かっている事だ。

商人や生産職としてもやっていけるな。リアルの知識もあるし、ユグドラシルならではのマジックアイテムもある。そして何より商人にも情報はかなり集まる。もちろんその分根も歯もない噂レベルもあるから精査する必要は出てくるんだが。

 

王国領で最もウチに近い都市だから何かあっても分かるだろうと放置していたのが裏目に出てしまったか……?

 

 


 

 

エ・ランテルを出発した依頼主のンフィーレア一行は、日が沈む少し前から野営の準備を開始していた。

一頭の馬で荷車を引きながら歩くので、それほど速度は出ない。

 

途中小鬼(ゴブリン)人喰い大鬼(オーガ)に遭遇し戦闘することになったが、それ以外には何事も無くこうして野営の準備をしている。

 

 

野営の準備を終えると、みんなで焚き火を囲みながら食事を取る。アンデッドであるために食事を取れないモモンは、宗教的な理由をこじつけて何とか凌いでいた。

 

そうして雑談をしているうちに漆黒の剣の由来、その剣のありかへと話題が移り、アダマンタイト級冒険者の話になった。

 

 

「アダマンタイトかぁ…なぁ、知ってるか?『白銀』が霜の巨人(フロスト・ジャイアント)を討伐したって話」

 

「霜の巨人!?ホントなのか!?」

 

「あ、それは僕も聞いたことあります」

 

モモンは「ほぅ…」と感心の息を漏らす。ユグドラシルにおいては霜の巨人はそれほど強い訳でもなかったが、この世界においてはかなりの強さを誇っているはずだ。

 

 

「いや、さ、流石に眉唾じゃないか?噂でしか聞いたことがないが霜の巨人なんて一冒険者が何とか出来る話じゃないだろ?」

 

「同意である」

 

「…まぁそうだわなぁ。俺だって信じらんねぇよ」

 

「………『白銀』というのは?」

 

冒険者ならばこれから何かしらで関わる機会があるかも知れない。情報はあって損は無いだろうから聞いておこう。

 

「あ、モモンさんは知らないですか?王国にある三つのアダマンタイト級冒険者の一つで、中でもリーダーは人類最強って言われてるらしいですよ?」

 

「具体的にどのくらいの強さなのか分かったりしますか?」

 

そう聞くと、先程答えてくれたペテル含めた全員が唸りながら考え始める。最初に口を開いたのはルクルットだ。

 

 

「人類最強談議は白銀のリーダー“ロゼル・ラジリア”と王国戦士長の“ガゼフ・ストロノーフ”で持ちきりだな。大穴で王国兵士長の“ジルケット・メロリアル”ってヤツも結構いるが…ま、どいつも互いに戦ったことなんか無いから分からないんだけどな!」

 

ガゼフ・ストロノーフというのは知った名だ。つい先日スレイン法国の手から救った男である。

 

しかし、ガゼフと比べられる程度ならそれ程警戒する必要は無いか?

……いや、ガゼフが霜の巨人を倒せるかと聞かれると答えは否だ。逆立ちしても霜の巨人に勝てるようには思えない。もちろん、この世界の霜の巨人が弱いという可能性もなくは無いが。

 

「…って言っても、白銀の強さを示すものって討伐の成果だけなんですよね。だから直接一対一で戦えば戦士長が勝つって考えの人が多いみたいですよ?」

 

ニニャが捕捉でそう教えてくれる。

 

なるほど…。チームで霜の巨人を倒すとしても、ある程度の個人の力量は必要になってくる。それで推察すれば大体がガゼフ・ストロノーフとほぼ同等になるんじゃないか…と言った感じか。

やはり直接見てみないことにははっきり分からないな…。

 

 

「ちなみに、モモンさんは霜の巨人には勝てたりするんですか?」

 

ンフィーレアが聞いてくる。

どうやら漆黒の剣の面々も気になるようで、食事の手を止めてこちらの答えを待っている。

 

「そうですね……。霜の巨人にはまだ会った事がないので分かりませんが、問題無く勝てると思いますよ?」

 

「おー…」と彼らは感心の声を漏らす。

あれだけの強さを見せられれば、それだけの大言も信じてしまうというものだ。

 

それからも話すうちに話題は移り、モモンの仲間の話に移った。

過去を懐かしみながら話すモモンだったが、ニニャの「いつの日か、またその方がたに匹敵する仲間が出来ますよ」という発言によって気分を悪くし、そのままその日は就寝することとなった。

 

 

そんな重い空気も翌日にはなんとか良い空気を取り戻すことが出来て、気を楽にしながらカルネ村に向かう事ができた。

 

 

カルネ村に到着するとゴブリンが居た。が、別に襲われていたり占領していたりするわけではない。

と言うのも、彼らは『小鬼将軍の角笛』によって召喚されたゴブリン達なのだ。

この村を帝国の鎧を着た者達から救った際に一番初めに会った少女にこの角笛をあげたのだが、それを使ってゴブリンを使役しているようだ。

因みに後で分かったことだが、その少女ーーエンリはンフィーレアの好きな人らしい。

 

ンフィーレアにモモンがアインズと同一人物である事がバレてしまうというハプニングはあったが、広めたりしないとの事なので口封じはせずに放置しておくことになった。

 

 

村で少しの間休憩した後、当初の目的通り森に入って採集する。

 

どうやら、このトブの大森林には『森の賢王』と呼ばれる強大な魔獣が居るそうだ。コレクターでもあるアインズとしては中々に興味のそそられるモンスターであるので、折角なので捕獲してみる事にした。モモンの名声を高めるために使えそうならペットにしても良い。

 

アウラに森の賢王とやらを此方まで来るように誘導させてどの様なモンスターか確かめようと思っていたのだが、現れたのは超巨大なハムスターだった。

確かにこの世界ではそこそこの強さを持っているようだし、本人もそう言っているので森の賢王に間違い無いのだろう。

ただ…そう、ハムスターというド愛玩動物を従えていたところで宣伝になるのかという点だ。こんなモンスターが森の賢王だと誰が信じるのだろう。

 

 

……なんて思っていたのだが、漆黒の剣の面々に見せると漏れなく「すごい魔獣だ!」「強大な叡智を感じる」などと宣うので正気か疑ってしまったが、どうやら正真正銘本気で本音で言っているらしい。

このハムスターのどこに強さを感じるのか全く理解出来ないが。

 

 

 

そのままカルネ村で一泊した後早朝に出発して、エ・ランテルに到着したのは夜になってからだった。

 

漆黒の剣や森の賢王ーーハムスケと名付けたーー自身が騎乗して凱旋しよう!と言うので乗ってみたのだが、ハムスターに乗る大の大人というメリーゴーランドばりの羞恥プレイで気分を重くしてしまった。

道行く人のひそひそ話に侮蔑や嘲笑を幻聴してしまうが、実際には称賛の言葉しか聞こえない。どうやら漆黒の剣の美的センスが狂っているわけではなかったらしい。

 

 

漆黒の剣はそのままンフィーレアについて行って荷物を下ろすなどの雑務、モモンは組合に行って魔獣を登録してからンフィーレア達と合流という流れになった。

魔獣の登録というのは、都市に魔獣を連れ込む以上責任者を立てる必要があるというものだ。まぁ当然の事と言えるだろう。

 

 

モモンは巨大ハムスターのハムスケに乗りながら組合の方へと進んで行った。

 

 


 

 

モモンと別れたンフィーレア一行は、家の裏手に馬車を入れて裏口の前に止めて荷物を運び込んで行く。

 

どの荷物を何処に置くかを指示しながら、ンフィーレアは疑念を抱く。

 

「おばぁちゃんはいないのかな?」

 

祖母はいい歳だがしっかりしている。体も動くし不調も無くボケも無い。

音を聞きつけて出て来ても良いはずなんだが、もしかすると出掛けているのかも知れない。そうじゃなくても作業をする際には集中するので周りの音が聞こえなくなるということもあり得る。もし作業をしているのなら邪魔をしたら悪いので大声で呼んだりはしない。

 

 

 

「はーい。お帰りなさーい」

 

突然だった。

扉が開き、中から短い金髪の女性が出て来たのだ。

 

「いやー心配しちゃったんだよ?いなくなっちゃったからさ。すっごいタイミング悪いよねー。何時帰ってくるんだろうって、ずっと待ってたんだよ?」

 

「……あ、あの。どなたなんでしょうか?」

 

「え!お知り合いでは無いんですか!?」

 

ペテルが驚くが、誰だってこんな風に親しげに話していれば知り合いだと思うだろう。

 

「ん?えへへへー。私はね、君を攫いに来たんだー」

 

その言葉を聞いた瞬間、不穏な空気を感じ取った漆黒の剣の面々が武器を取り出し戦闘態勢に入る。

 

「第七位階魔法〈不死の軍団(アンデス・アーミー)〉。普通の人じゃ行使は困難だけど、叡者の額冠を使えばそれも可能。さらに召喚されたアンデッドを全部支配することは無理だけど、誘導することは可能!完璧なけーかくだよねー!凄いよねぇー」

 

「……ンフィーレアさん。下がって!ここから逃げてください」

 

武器を構えたペテルが女を警戒しながら硬い声を出す。

 

「あの女がぺらぺら喋っているのは確実に私たちを殺せる自信があるからです。なら、あなたが向こうの狙いである以上、現状を変えうるのはあなたが逃げるという一手のみです」

 

「ニニャ!お前も下がるのである!」

 

「ガキ連れて逃げろや!連れてかれた姉貴助けんだろ!」

 

「そうです。あなたはしなくてはいけないことがあります。私たちは最後まで協力出来そうもないですが……時間ぐらいは稼ぎます」

 

「みんな……」

 

「んー、お涙ちょうだいだねー。もらい泣きしちゃうよ、うん。でも、逃げられると困っちゃうから。遊ぶのは一人ぐらいかなぁー」

 

そう言うと女はローブの下からスティレットを取り出す。

 

その瞬間、後ろの扉が開きアンデッドのような青白い男が姿を見せた。

 

 

「……遊びすぎだ」

 

「んー。何言ってるのカジッちゃん。取り敢えず悲鳴が漏れないように準備はしてくれてるんでしょ?一人ぐらいならゆっくりと遊んでもいいんじゃない?」

 

ニンマリと獰猛な笑みを見せる女。

 

「うんじゃ、逃げる場所はなくなったし、やりましょうかねー」

 

 




原作には居なかったキャラだけどどーゆー立ち位置なんだろーねー(棒)
霜の巨人って多分40レベルぐらいっしょ?それぐらいならアダマンタイトならギリ勝てそうよね。


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…これは、プレイヤーの匂い!

前半はマジで原作沿ってるだけなんでつまらんかもです。


ンフィーレアが攫われた。

 

ハムスケの登録に1時間以上もかかってしまい、途中から合流したリイジー・バレアレと共にンフィーレアと合流する予定だったが、店に到着すると三体の動死体(ゾンビ)ーーペテル、ルクルット、ダインであったーーが襲って来た。

残りのニニャは見るも無惨な姿で殺されており、遊び半分で殺されたのは明確だ。

彼らの冒険者プレートが無いことから、狩猟戦利品(ハンティング・トロフィー)として持ち去ったと思われるので〈物体発見(ロケート・オブジェクト)〉で居場所を割り出す。

 

〈物体発見〉が示したのは墓地のようだ。

千里眼(クレアボヤンス)〉を使って様子を覗いてみたが、数千はゆうに超えるアンデッドの大軍がおり、その中心にはンフィーレアが居た。下手人も墓地に居るというのは確定だ。

 

 

ピンチに陥っていた衛兵達をカッコよく助けて、アンデッドをなぎ倒しながら進んで行く。

 

最奥の霊廟に到着すると、数人の男と思しき人影が円陣を組んでおり、近づいて来たモモンを見やると一人の男が中心の男に「カジット様、来ました」と話しかけた。

馬鹿確定……と心の中で溢しながら、彼らに話しかける。

 

 

「やぁ、良い夜だな。つまらない儀式をするには勿体なくないか?」

 

「ふん……儀式に適した夜か否かは儂が決めるのよ。それより、おぬしは一体何者だ。どうやってあのアンデッドの群れを突破してきた」

 

カジットとやらがモモンに問いかける。

 

「依頼を受けた冒険者でね。ある少年を捜しているんだ……名前は言わないでも、分かるだろう?」

 

「…おぬしたちだけか?他には?」

 

「私たちだけだよ。飛行の魔法で一気にね」

 

「偽りだな。そんな筈がない」

 

「信じる信じないはそちらの判断に任せるさ。それよりも少年を無事に帰せば、死なずに済むぞ?カジット」

 

自らの名前を呼んだ愚かな弟子を見て、こちらに問いかける。

 

「ーーおぬしの名は?」

 

「その前に聞かせてもらおうか。そちらにはお前達以外にも刺突武器を持った奴もいるはずだが……伏せておくつもりということか?それとも私たちが怖くて隠れているのか?」

 

「ふふーん、あの死体を調べたんだー。やるねー」

 

突如、霊廟から女の声が響いた。

 

「おぬし……」

 

「いやー、バレバレみたいだしさー。隠れててもしょうがないじゃん、大体さぁー、〈生命隠し(コンシール・ライフ)の魔法が使えないから隠れていただけじゃーん。……それでそちらさんのお名前を聞いても良いかな?あ、私はクレマンティーヌ。よろしくね」

 

「……聞いてもしょうがないとは思うが、モモンという」

 

「儂は聞いたことがないが……おぬしは?」

 

「私も知んなーい。一応、この都市の中の高位冒険者の情報は集めたんだけど、その中にモモンって名は無かったよ?しかしどうやってここが分かったのさー。地下下水道ってダイイングメッセージを残したのにー」

 

「そのマントの下に答えがある。それを見せてもらおう」

 

「うわー変態ー。えろすけべー……なーんてね。これのこと?」

 

クレマンティーヌがマントを捲ると、鱗のように貼り付けられている数々の冒険者プレートがじゃらりと音を立てる。

 

「それが……お前の場所を教えてくれたんだ」

 

何を言っているのか理解出来ないという顔をするクレマンティーヌだが、こちらも丁寧に説明する気は無い。

 

「……ナーベ。お前はカジットを含めたそっちの男たちを相手にしろ。私はあの女を相手にする」

 

「畏まりました」

 

カジットが怪しい笑みを浮かべ、ナーベは冷たい視線を送る。

 

「……クレマンティーヌ。私たちはあちらで殺し合わないか」

 

それだけ言って歩き出すと遅れて足跡も付いてきており、クレマンティーヌは付いて来てくれたようだ。

 

 

少し歩いたところで、ナーベ達がいる辺りで雷光が弾けた。

それを合図にしたかのように二人は向かい合う。

 

 

「そーいや、あのお店で殺したのはお仲間?もしかして仲間を殺されて怒っちゃったー?」

 

嘲るように笑みを浮かべるクレマンティーヌは続ける。

 

「うぷぷぷ、大爆笑だったよ、あの魔法詠唱者(マジック・キャスター)。最後まで助けが来るって信じてたみたいよー。あの程度の体力で、助けがくるまで私の攻撃受けて生きてられる筈がないじゃない。……もしかして助けってあなた?ごめんねー、殺しちゃって」

 

「……いや別に謝る必要は無い。しかし、あいつらは私の名声を高める道具であった。宿屋に帰れば私の活躍を幾人もの冒険者に聞かせたはずだ。そんな私の計画を妨げたお前の存在は非常に不愉快だ」

 

「そうなんだー。嫌われた私、可哀想ー。ちなみにこっちに来たのは間違いだよー。あの美人さん、魔法詠唱者でしょ?それじゃカジッちゃんに勝てない訳よー。もし逆だったら運がよければ勝ったかもしれないけどね。まぁ、私に勝つのはあの女じゃ、無理でしょうけどねー」

 

「ナーベでもお前程度には勝てるだろうよ」

 

「ばっかだなー。魔法詠唱者ごときが私に勝てるはずがないじゃん。スッといってドス!これで終わりだよー。いつもねー」

 

「なるほどな。お前はそこまで戦士としての自分に自信を持ってるわけか……」

 

「ええ、もっちろん。この国で私に勝てる戦士なんて殆どいないわねー。この国で私とまともに戦えるのは7人。ガゼフ・ストロノーフ。蒼の薔薇のガガーラン。朱の雫のルイセンベルグ・アルベリオン。白銀のロゼル・ラジリア。兵士長のジルケット・メロリアル。そして引退したヴェスチャー・クロフ・ディ・ローファン。でもさぁ、本気で私に勝てる筈がないじゃん。たとえ私が国から与えられたマジックアイテムを捨てた後でもねぇ」

 

 

結構多いな…とモモンは思ってしまったが、口には出さない。

気持ちが悪いほど釣り上がった笑みでクレマンティーヌは続ける。

 

 

「てめーのヘルムの下にどんな糞ったれな顔があるかしれねぇが、この!人外ーー英雄の領域に足を踏み込んだクレマンティーヌ様が負けるはずがねぇんだよ!」

 

 


 

 

「モモン?」

 

「はい。最初の仕事で森の賢王を従え、エ・ランテルの墓地騒ぎを瞬く間に解決したそうです」

 

森の賢王については前々から把握してはいた。エ・ランテルの冒険者の間ではそこそこ有名な魔獣のようなので探らせたのだが、レベルは30前後で大した事が無かったので放置しておいた。

エ・ランテルの墓地騒ぎというのは、エ・ランテルで有名な薬師であるリイジー・バレアレの孫ンフィーレアが攫われて、アンデッドが墓地に大量発生したというものだ。主犯はズーラーノーンの幹部二人だが、内一人が元漆黒聖典であることは調べがついている。

 

漆黒聖典はこの世界ではまさに人類最強の部隊だ。元とは言え、第九席次だった彼女に勝てる存在などそうはいない。

モモン……そしてアインズ・ウール・ゴウン……。

別のギルドの可能性……いや、仲間の可能性もあり得るか?同一人物の可能性も考えられる。モモンに仕事を依頼していたンフィーレアに接触してみる……いや、それほど大した情報をただ一度仕事をしただけの人間に渡すはずも無いか。もし渡ったとしたら口封じをしてしまうはずだ。

 

アインズ・ウール・ゴウンの足取りが掴めない以上は、モモンから辿っていくしかないか。

 

 

「…モモンについて調べろ。ただし絶対に勘付かれるな。最大限の警戒で事に当たれ。バレさえしなければ構わないからそれだけは絶対に無いようにしろ」

 

「はっ!」

 

「それと、確か主犯二人の死体も兵士達が確保していたはずだな?」

 

「はい」

 

「ならそれらも回収して来てくれ。尋問出来そうならかなり有益な情報が手に入るはずだ」

 

「畏まりました」

 

般若と共にエ・ランテルに潜入していた火男が捜査に戻っていく。

 

 

グレートソードを持った超級の黒鎧の戦士……か。

あのギルドのワールドチャンピオンは、確か純白の鎧の聖騎士だったはずだ。

対照的な黒というのは安直だが、プレイヤーの目を欺くという意味では意味のある手だ。

ワールドチャンピオンの可能性……いや、その時はその時だな。

 

 

 

『がぶりえる王』

 

耽っていると、突然〈伝言(メッセージ)〉が届いた。

この声は、法国に潜入させている者の声だ。

 

「どうした?」

 

『強大なヴァンパイアが出現し、漆黒聖典の“巨盾万壁”と“神領縛鎖”が死に、“ケイ・セケ・コゥク”を使ったカイレが重症だそうです』

 

「……何?」

 

また漆黒聖典が死んだのか?どうなってる…インフレし始めたのか…?それともこれもアインズ・ウール・ゴウンのメンバーか?はたまたNPCか……?

 

「…それでどうなった?支配には成功したのか?」

 

『いえ、魅了状態で命令がなされないまま放置されているようなので、恐らくは自衛状態に入っているのかと思われます。そこで神領縛鎖が捕縛を試みて殺されたようです』

 

「なるほど。……確か、アインズ・ウール・ゴウンを災厄の竜王の復活だと判断して送り込んでいた部隊だったな?」

 

『左様でございます』

 

「ふむ……第一席次も居たはずだが彼が撤退を判断したということか?」

 

『そのようです』

 

神人である第一席次がそう判断せざるを得ないということは、間違いなく100レベルはあるヴァンパイアということになる。

 

 

アインズ・ウール・ゴウン、モモンに続く第三の手掛かりだ。

 

ワールドアイテム『傾城傾国』を使用したのであれば、それを解除するのはワールドアイテムを使うか一度殺して復活させるかの二択しかない。

ワールドアイテム全部を把握しているわけではないが、二十のアイテムがどこのギルドにあるのかぐらいは把握している。ワールドアイテムを使用するのであれば、その瞬間を観察していればギルドの正体も掴めるかも知れない。

一度殺すという手段を取るにしても、戦闘データが取れるのは非常に大きい。

 

モモンについても調べたいが、こちらの方が魚は大きそうだ。

釣り上げるまではいかなくとも姿だけでも確認しておきたい。

 

 

「法国の方針はどうなった?」

 

『手を出さなければ動かないので、現状は放置だそうです』

 

「なるほど…」

 

ならば監視をつけておけば問題無いか。

警戒して御庭番衆を使わなければならないのが面倒ではあるが仕方が無いだろう。これほど大きな手掛かりだ。なんとしても情報を掴んでおきたい。

 

 

「一応聞いておくが、アインズ・ウール・ゴウンについて俺に聞く流れにはならなかったのか?」

 

『はい、彼らも我々を警戒しているようです。……誘導しましょうか?」

 

「いや、必要無い。聞いてくるなら答えは用意してあったが、聞かないなら別に構わんよ」

 

『畏まりました』

 

「知らん」と答えて、俺が覚えてないということは大した事がない…っていう風に誘導して当て馬にする予定だったんだが…まぁそれは良いだろう。

 

 

「報告は以上か?」

 

『はい』

 

「よし。なら仕事を再開してくれ。頼むぞ、()()()()()

 

『はっ!お任せ下さい』

 




法国のスパイって行政機関長だったんですねぇ…。
神官長じゃない理由は、六色聖典として所属していたり信仰系魔法を使えないといけなかったりしないといけなかったので諦めたという感じです。
法国(だけじゃないけど)の情報筒抜けなのヤバすぎファンタスティックエブリデイ。


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ハグは愛情表現では無い。

初めて予約投稿機能使うんですけどちゃんと出来てる?8時に上がってる?

今回ちょっとグロイ?かも。

後、誤字報告ありがとうございます。



ーーー目が覚めた。

 

目が覚めると、ベッドの上にいた。非常に柔らかいベッドだ。きっと高級なベッドなのだろう。

窓は無く、木製の扉が一つ。〈永続光(コンティニュアル・ライト)〉の魔法が付与されていると思われるランプが置いてあり、後は花瓶ぐらいのものだ。

 

さて、どうして私ーークレマンティーヌーーはこんな所にいるのだろうと考える。

 

風火聖典の者撒くために、同じ十二幹部であるカジットと協力してエ・ランテルをアンデッドが跳梁跋扈する地獄に変えようと動いていたはずだ。

 

そして叡者の額冠を使うために強力なタレントを持つンフィーレア・バレアレを攫い、その力でアンデッドを召喚して……それで………そう、あのモモンとかいう糞ったれな冒険者…いや、アンデッドに捕まって…それで………

 

 

「……死んだ……うぷっ…」

 

 

思い出すと吐きそうになってしまった。もう二度と会いたくないし、あんな目にあいたくもない。

 

つい腹をさすってしまい嫌な思い出が蘇るが、そこには何の傷痕も無い。どうやら何かしらで治されているようだ。

 

……いや、そもそも生きているのだろうか。こんなフカフカのベッドは記憶にも数えるほどしか無い。その中でも寝心地は最高の部類だった。

むしろ、もう死んでいてここは死後の世界だと言われても納得してしまうぐらいだ。

 

まぁ、今現状生きているという可能性が一番高いが、あのアンデッドが慈悲をかけて自分を生かすようには思えないので、生き返ったということだろう。

蘇生魔法を使える人間がいるんだとすれば法国か?……いや、裏切り者である私を生き返らせてこんな所に置いておくはずが無い。

蒼の薔薇のリーダーが使えると聞いた事があるが、その線も有り得ないだろう。

となると……まさか、あのアンデッドが?

 

 

瞬間、一気に血の気が引いた。

 

 

まずい。あのアンデッドに捕まっているのなら非常にまずい。

なぜ生き返らせたのか…そんなものは拷問と相場が決まっている。

 

確かに、法国でも拷問の訓練などはあった。それを乗り越えて漆黒聖典になったのだから。

しかし、アンデッドの拷問なんて経験が無い。アンデッドに拷問されることを想定していなかった法国の上層部を殴りたい。

文字通り魂を削り取っていくような拷問なんかが目に浮かんでしまう。

 

 

どうやってそれを回避するのか………逃げるしか無い!

 

 

そう決断してからの行動は早かった。

 

まずは武器の確保だが、愛用の武器や鎧なんかは手元に無い。武器になりそうな物といえばせいぜいが花瓶ぐらいだが、花瓶よりは自分自身の五体の方が信用出来る。

 

出た先にあのアンデッドが居たら諦めよう。諦めて死のう。

 

あんな化け物に勝てる訳がない……あんな化け物に勝てる筈がない。あんな化け物に勝てる存在がいるはずがない。……そうだ、あんな化け物など他には居ないだろう!

そう考えると希望がわいてくる。

あれに比べれば、兄だろうがドラゴンだろうが可愛いものに思えてしまう。何せ正しく次元の違う存在と対峙したのだから、他の全てが低次元に見えてしまうのもしょうがないだろう。

 

妙な自信が出たクレマンティーヌは、気配を感じとれるように警戒しながらゆっくりと扉を開けた。

 

 

 

「……ん、起きたか」

 

…男の声!だがあのアンデッドでは無い。

咄嗟にクレマンティーヌは声のした方向から一番遠い空間に飛び込み、声の主を見やる。

 

その声の主は紙の束を片手にこちらを見て口を開く。

 

 

「調子はどうだ?」

 

「…ガ、ガブリエル……」

 

神の国の王、ガブリエル。法国が竜王と並べて警戒する国の王。

 

 

「…ほう。他国の王を呼び捨てとは、随分と傲慢なお嬢さんだな」

 

「……………」

 

法国が警戒するほどの国……ならばあのアンデッドが居たとしてもおかしくはない……のか?いや、いくらなんでもあのアンデッドを飼えるようや国があるとは思えない。あのアンデッドは別物と考えても良いだろう。というか、そう考えなければこの状況で自我を保てない。

あのアンデッドを使役するほどの国なんて、存在してはいけないのだから。

 

 

ただ、それでもこの国は法国が警戒するほどの国であることに変わりはない。

 

……いや、待てよとクレマンティーヌは思い直す。

 

確かに国としては警戒するに値するだろう。

文化レベルや国力で見れば強力なのは疑いようも無い。

 

しかし、たった一人。

そう、この国のトップがたった一人で自分の前に立っている。

この元漆黒聖典、英雄の領域の人間の前で。

 

些か無防備としか思えない。

 

罠の可能性も考えなくてはならないが………。

とは言え、あんな化け物を相手した後だと、どんな化け物でも勝てる気がしてくる。

 

………また妙な自信が出てきた。

 

この状況はチャンスだ。

ここが神の国であるならば、当初の目的である神の国への亡命は成功している。後はコイツを脅すなんかしてここから出なければ法国にバレる事もない。

 

……よし、ヤろう。

 

クレマンティーヌはそう決断した。

 

 

「……まあ良い。さ、一先ず座りたま…」

 

最後まで言わせず、英雄の身体能力を使って最速で間合いを詰めて拳を振るう。

もちろん、殺さないようにすこぅし手加減してだ。

 

 

 

 

 

「………ふむ。これはアレか?漆黒聖典は拳で挨拶するように躾けられているのか?」

 

「ウ、ウソ…」

 

平然としている。

死なない程度に手加減したとは言え、顔面に1発。昏倒は免れないほどの一撃のはずだ。

 

 

「紙が飛ぶからあまり暴れないでほしいんだが……」

 

呆けてしまっていたが、そう言って私が突き出した腕を掴もうとしていたので咄嗟に距離を取る。

 

これは全力でいかなければ不味い…と直感が警報を鳴らす。

 

何の武器もないが、武技を持ってすればオリハルコン級だろうが余裕で屠れるのだ。

今度は武技を使ってやろう。

 

目の前の相手は椅子から立ち上がってはいるものの、片手には紙の束が握られており、ペラペラとめくっている。

 

 

武技〈能力向上〉〈能力超向上〉〈疾風走破〉〈超回避〉を発動させて突っ込む。

 

 

「…っ舐めるなぁぁぁぁ!!!」

 

 

先程とは比べ物にならないほどの速度。速度だけではない。能力向上によって筋力も上昇しており、威力も何十倍に引き上げられている。

 

 

 

 

 

 

「……なるほどなるほど。武技とは凄いな。こうして相手するのは初めてだから勉強になるよ」

 

渾身の一撃だった。申し分無く。武器が無いとは言え、どんな戦士だろうとダメージを負うはずだった。片手で止められるはずはない。そんな人間などいないはずなのに……。

 

「……………な、なんで」

 

どうにか言葉を絞り出す。

 

「紅茶を飲みながら話そうと思っていたんだが、その気がないなら仕方がないな」

 

 

私が絞り出した声には応えない。

 

その代わりに、固まってしまった私の腰に手を回してくる。

 

 

「あまり経験は無いんだが……拷問開始だ」

 

 

「ヒッ……!」

 

あの時の光景がフラッシュバックする。

 

あのアンデッドに全力で突撃し、ヘルムの隙間にスティレットを突き刺す。そこに付与された魔法を使い、中身までぐちゃぐちゃになるはずだった。

腰に手を回され、抱き寄せられる。力づくで剥がそうにも剥がせず、そのまま押しつぶされたあの時がーーー。

 

 

「い、いやっ!は、放せ!!」

 

あの時と同じく外そうと試みる………が、外せない。

 

 

「確か拷問ってのはまず心を折るんだったか…?」

 

 

徐々に圧力が強まっていく。

 

 

「カルロスが言うにはこんな風にバキバキにされたって話だが……」

 

 

 

 

「カルロスは検死までしてくれてホント有能だな……。ん?ちょっとペースが早いか?もう少しゆっくりにするか…」

 

 

 

 

 

「お、折れたな………また折れた………またまた折れた。全く惨い殺し方をするんだなあのモモンという冒険者は」

 

 

 

 

 

「……一先ずこんなもんか。おーい、生きてるかー?………っておかしいな。死なない程度にはしているはずなんだが………ん?気絶してんのか?はぁー、全く漆黒聖典が聞いて呆れるな。ほら、大治癒(ヒール)

 

 

 

 

ーーーー目が覚めた。

 

 

えーっと、確か…………。

 

「うぶっ……!」

 

…また吐きそうになってしまった。

慌てて腹を確認するが、何ともなっていない。

 

 

どうやら夢だったようだ。

一安心…………。

 

 

 

「やっと起きたか。ほら、二回戦いくぞ」

 

 

夢じゃ無かった。

 

また先程のように抱き上げられて抱き寄せられる。

 

「ヒッ……!」

 

あの時の光景がフラッシュバックす(ry

 

 

 

「い……いやっ!いやっ!放して!!ねぇ!放してってば!ねぇ!お願いだから!お願いだからぁっ!!」

 

必死に泣き喚いて懇願する。股間から熱いものが垂れているが、そんな事を気にしてはいられない。

 

 

「ぉおいバッカ!漏らすんじゃねぇよきったねぇなぁ!」

 

「お願いしますお願いしますお願いしますお願いしますしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますしますお願いします……………」

 

嫌だ…潰されるのは嫌だ……もう潰されるのは嫌だ……。

 

 

我を忘れて小さい子供のように泣き喚いて何度も何度も、何度も何度も“お願い”をする。

 

「………なんだ、もう折れたのか。いやでもそりゃあそうか。文字通り死ぬ体験を二度もしてりゃトラウマにもなるわな…………………ん?何?分かった。」

 

「お"願い……じま"ず……」

 

 

手をこめかみに当てたかと思うと、私を地面にゆっくりと下ろした。

先程までとは違った、優しい手つきでだ。

 

「…安心しろ。クレマンティーヌ。お前が俺の言うことを聞いていれば二度としない」

 

「……本当に?」

 

「あぁ、本当だ。ほら、疲れただろう?今はゆっくりと休むと良い」

 

そう言うと、私を抱き上げてフカフカのベッドへと連れて行ってくれた。

 

 


 

 

ふぅー…と眠りについたクレマンティーヌを見届けて溜息を零した。

上下関係も教えられたし、トラウマも植え付けたからこれから尋問もしやすくなるだろう。

それに、なんだかんだで『英雄級』と呼ばれる人間を手に入れるのは初めてだったりするから、後々にも利用出来るようにしておきたかった。

 

 

ギィ…と、音を立てて扉が開く。

 

「俺の拷問はどうだった?エリカ」

 

「そうですね……がぶりえる王と密着しており羨ましゅうございました」

 

「……あれは密着というか、鯖折りだけどな?」

 

「しかし、わざわざ御身がこの役割をなさる必要はなかったのでは無いですか?」

 

「それもそうなんだが……仕事が無くて非常につまらんのだよ。ただただ書類を眺めるだけで何の達成感も無い。まぁ、7、8年前みたくバカみたいな量の資料が送られても困るんだがな………」

 

あの時は資料が山のように送られてきてしまい大変だった。

別にあの皇帝が悪い訳ではなく、むしろ思い切りと手際の良さには感服すらしたのだが、そのせいで各方面の貴族やら何やらの影響やその後の動向などの資料が山積みになってしまったのだ。

 

 

「…ま、それはさておき。エ・ランテルの冒険者組合が吸血鬼討伐に動き出したそうだな?」

 

「はい。それで例のモモンが依頼を引き受けたようです」

 

「…モモンが?」

 

なぜモモンは引き受けたんだ?

冒険者として名を売りたいとしても、その吸血鬼の力も分からない状態で依頼を受けるなど正気では無い。

 

まさか慢心しているのか…?誰だってこの世界のレベルを知れば、それに対するプレイヤーのレベルの高さに驚く。

神人として覚醒している第一席次が撤退を判断するのだから間違い無く100レベルはあるだろうに…。油断しているのだとすればそれは慢心に他ならない。

そうなると、モモンがただの世間知らずの強者という可能性も出てきたな。己の力に慢心したただの英雄級なのかもしれない。そもそも、ポッと出の強者だからと言ってプレイヤーだと断定してしまったのも早計だったかもしれない。

 

アインズ・ウール・ゴウンに関してはこの世界の者が知る由もないので本人(本ギルメン)かどうかは置いておいて、ユグドラシルのプレイヤーだと断定出来るんだがな。

 

それに例の吸血鬼の出所も気になる。

100レベルはある事からプレイヤーかNPCであることは確かなんだが、アインズ・ウール・ゴウンとやらが出張って来る様子は無い。自分の仲間が精神操作されているのに放っておくような奴はいないだろうから、それとは無関係の魔神の生き残りという可能性も浮上して来た。

 

 

まぁ、どれも重要な手掛かりだ。

出来る限り情報は集めて行きたい。




落ちるの早くない?って思う方がいたらもっとそれっぽく描き直していくんで言ってくれたら嬉しいです。


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復讐者(暫定)

〜前回のあらすじ〜
キュートでチャーミングなクレマンティーヌちゃんは、モモンとかゆうアンデッドに殺されちゃったゾ!でもがぶりえる様が生き返らせてくれたんだ!

……そして抱き合う二人、縮まる距離。横たわるクレマンティーヌ。そこに襲いかかるがぶりえる。あまりの激しさに眠りに落ちたクレマンティーヌ。
そして明くる日、目を覚ますと…………。


 

「おはよう」

 

「……………………」

 

 

これほど寝覚めの悪い日は無かった。

 

前日の醜態によって誇りやプライドがズタズタにされたこともそうだが、その張本人がこうして起き抜けに挨拶をしてくることに吐き気を覚えてしまう。

 

 

「…なんだ、そんなに睨んで」

 

「……自分の胸に聞いてみたらー?」

 

あんな事をしておいて、普通に話が出来るとは思わないで欲しい。はっきり言って印象は最悪だ。

 

 

「へぇ…俺にそんな態度が取れるのか…」

 

そう言って、私の方に手を伸ばしてくる。

 

 

ーもうあの時のような醜態は晒さない。

 

 

あの手が近づいてくる。

 

 

ー大丈夫だ、怖くない。

 

 

私をぐちゃぐちゃに潰した、あの手が近づいてくる。

 

 

ーだい…じょうぶ、こ、怖く……な……い。

 

 

あの手が私に触れる。

 

 

ーやだ、怖い……いや、怖くない。こわく……ない……。

 

 

手が回される。

 

 

ーや、やだ……怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!

 

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」

 

 

 

 

「ゆるして……ゆるして………ゆるして……」

 

歯はガチガチと震え、涙が溢れる。

 

「……『許して下さい』だろ?」

 

「ゆるしてくださいゆるしてくださいゆるしてくださいくださいゆるしてください………」

 

「俺の質問に偽りなく答えれば許してやろう」

 

「答えるからぁ!放して!放して!お願いだからぁ!!」

 

「……ふむ」

 

抱き上げられていたのを無造作に下ろされる。

 

少しずつ落ち着いてきた。

 

 

「大丈夫か?」

 

お前のせいだろうが…と、口には出さないが睨み付ける。

 

 

「…随分と反骨精神旺盛だが……。まぁいい、何があったのか聞かせてもらおうか」

 

「…は?」

 

「だから、何をどうしてああやってくたばったのか教えろって言ったんだよ」

 

「………………負けたんだよ」

 

「そんぐらい知ってるわバーカ。モモンとどう戦ってどう負けたのか聞いてんだよ」

 

バカと言われてカチンときたが、殴って黙らせる事が出来ないのだから口で言い返すしかない。

 

 

 

「……………あんたさぁ、調子乗らない方が良いんじゃない?」

 

「あ?」

 

「あんたもそこそこ強いみたいだけど、あんたでもあの化け物には敵わない。あんまり調子乗らない方が良いんじゃないのー?」

 

「ふむ……それはあれか?どちらとも拳を交えたから分かるってやつか?」

 

「ま、そんな感じだねー」

 

確かに、強い。どちらも。拳を交えたから分かるなんて嘘だ。実力があまりにも離れ過ぎていて、まっっったくもって天井なんて見えない。

だが、アレは魔法詠唱者なのだ。あれだけの力を持っておきながら魔法詠唱者なんてバカげてる。不得手なはずの肉体能力があれだけあるのなら、魔法詠唱者としての実力はどの程度なのか想像もつかない。

 

 

「……となると、やはりプレイヤーなのか?しかしそうなると吸血鬼の依頼を受けた不用意さが気になるな。……そこまで言うなら、モモンがどれだけ強いのか俺に教えてくれよ」

 

「別に良いけど、ちびらないようにねー」

 

あれだけの強さがありながら魔法詠唱者だったなんて知れば、コイツも度肝抜かれるに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

「魔法詠唱者でアンデッドか……」

 

「そうだよ?どう?あんたにあの化け物を倒せるのー?」

 

コイツの話だと死者の大魔法使い(エルダーリッチ)って話だったが上位種の死の支配者(オーバーロード)の可能性の方が高いか…?それに、異形種ならあのギルドのメンバーという可能性も出てきたか?

 

「ちょっとーぶつぶつ言ってないで答えてよー」

 

「ん?おぉ、無視してスマンな。何の話だったか……あぁ、俺がモモンに勝てるのかって話だったか?そうだな……俺は勝てないかも知れないな、うん」

 

 

ほら見ろ。あんな化け物に勝てる筈がないんだ。

 

 

「その話は置いておくとして、だ。モモンにはナーベってパートナーがいるはずだが、そいつについては?」

 

「知らないよ。魔法詠唱者みたいだし、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)が二体いたみたいだから死んじゃったのかもねー」

 

口ではそう言うが、実際のところは全く違うと思っている。

何せあんな化け物の仲間なのだ。あれがアダマンタイト級の戦士だったとしても驚きはしない。

 

 

「そうか……。なら、そっちはもう一人から聞き出すしかないな。それで?他に何か言ってたりしなかったか?変な事でも気になったことでも何でも良い」

 

元々アンデッドなんて変なヤツなんだから言ってること全部変なんじゃないの…と思ったが、口には出さない。

 

別に答える義理は無いのだが、答えるために真剣に考える。

そう、答える義理は無い。別に、またアレをされるのが嫌で頭を振り絞り記憶を掘り返しているわけではない。

 

 

「………あ、そういえば、変なこと言ってた」

 

「ほう?どんなことだ?」

 

「なんだったかなー。『ナーベラル・ガンマよ、ナザリックが威を示せ』……だったかな?」

 

そう言うと、途端にガブリエルの顔が引き締まる。

 

「………ナザリック?ナザリックと言ったのか?」

 

「うん、そうだよー」

 

それがどうしたと言うのだろうか。

 

 

 

 

 

「…………………きた」

 

「え?」

 

「来たぞ!キタキタキタキタ!!」

 

「え、な、なに?」

 

「良くやったぞクレマンティーヌ!!」

 

凄い勢いで肩を掴んで揺さぶられる。

コイツに触れられた事で多少トラウマが蘇ってしまうが、それを何とか振り払う。

…というか、力強!

 

「え、ど、どうも…?」

 

「よしよしよしよしよし!!」

 

今度は頭をワシャワシャと撫でられる。

 

「ちょ、やめてよ!」

 

「ホンッッットにナイスだぞクレマンティーヌ!!よく覚えていた!!素晴らしい!まさかこんな早く線が繋がるとは!!」

 

…何の話をしているのか全く分からないが、どうやら今の私の言葉が相当に有益な情報だったということは分かる。

 

 

 

「……ふぅー」

 

一通り落ち着いたようだ。何をこんなに喜んでいたのかはついぞわからなかったが。

 

 

「えー、ゴホン。クレマンティーヌよ、俺は今非常に、非常に、ヒッジョーーーに気分が良い。よって、君に三つ選択肢を与えよう」

 

わざとらしい咳払いをしてから私にそう告げた。

 

「選択肢?」

 

「そう。まず一つ目は俺の糧となること……まぁ、平たく言えば人体実験の材料だな。元漆黒聖典なんてレアな被験体を手に入れたのは初めてだから、元々はこうするつもりだったんだぞ?」

 

そう言われて、背筋が凍った。

ある程度得体の知れない国だとは思っていたが、こんなに軽々しく人体実験をしようとするような国だとは思わなかった。表面に見える民達の平和な暮らしの裏にはこんな闇の部分が隠されていたなんて……。

 

「……『元々は』ってことは?」

 

「そうだ。それから逃れる選択肢が生まれた。二つ目、死ぬ」

 

「…………は?」

 

耳を疑った。

一つ目に人体実験。そこから逃れる選択肢が生まれるというのだから、好待遇とまではいかなくとも生かされる選択肢かと思っていたのだが、まさかの『死』である。

 

「も、もう一回言ってくれない?」

 

念のために、聞き間違いでないかを確認する。

 

 

「だから、死ぬ」

 

 

どうやら聞き間違いでは無かったようだ。

 

「人体実験に比べればマシだろう?死にたいと言うのなら今この場で楽に殺してやる」

 

「な、なんで………」

 

「言っただろう?俺は気分が良いと。非常に有益な、それこそ現状で最も欲しかった情報をくれたお前を不憫に思ってな。『あぁ、せっかく良い情報をくれたのに人体実験コースか…』と」

 

 

「ーーそこでだ。俺はお前にヒッジョーーーに感謝している。そのお前に慈悲を、選択権を与えてやっているのは不自然なことではないだろう?」

 

 

いや、そういうことが聞きたいんじゃなくて、なんでそんなに選択肢が絶望的なのかを聞きたかったんだけど……。

 

 

「最後に三つ目」

 

 

ヤバイ、終わった。

人体実験、死と来て、最後の選択肢が希望に満ち溢れているわけがない。

 

だが……そう。当初の懸念のようにあのアンデッドに捕まっていなくて良かった。

あのアンデッドに捕まっていれば、こんな風に物事を考えることすら出来なかったかもしれない。もっと精神を痛みつけられていたかもしれない。

 

それに、さっきコイツが言った通り問答無用で人体実験に回されないだけマシかも知れない。こんな化け物が支配する国だし、人体実験も楽なモンじゃないだろう。

 

死のう。死にたいわけではないが、どうせ死ぬなら楽に…そう楽に死にたい。

 

 

 

「三つ目は、ウチの軍門に降るという選択肢だ」

 

 

 

「…………え?」

 

また、耳を疑った。

 

 

「も、もう一回言ってくれない?」

 

「ウチの軍門に降るという選択肢だ」

 

これも聞き間違いでは無いようだ。

 

 

「……どういうこと?」

 

「もちろん、監視はつくし制限もあるだろうが、個室付きで三食食えて毎日風呂にも入れる。それにきっと今よりも強くなれるぞ?」

 

それは魅力的だ。特に風呂に毎日入れるというのは素晴らしい……。

 

いや、そうじゃなくて。

 

 

「……どういうつもり?」

 

「実は国外の英雄級の人物を手に入れるのは初めてでな。そこそこレベルは高いみたいだし、どのぐらい強くなれるのか試してみるのも良いだろう?」

 

「……私を強くしてくれるってこと?」

 

「まぁ、結果的にはそうなるだろうな」

 

 

強くなれる………勝てるようになるのか?あの化け物に……?

 

 

「……あの糞ったれなアンデッドに勝てるようになれるの?」

 

「……努力次第だな。だが、不可能では無い。とにかくレベリングをしまくれば100レベルまでいける可能性は十分にある」

 

100レベルというのが何かは分からないが、高い次元の話をしているということは分かる。

 

 

「…なんだお前、あのモモンに勝ちたいのか?」

 

「…………………悪い?」

 

そう言うと、少し驚いた様子を見せた後ニヒルな笑みを浮かべて言った。

 

 

「それなら、地獄のような訓練になるかも知れないぞ?法国や今まで潜り抜けた修羅場なんか目じゃ無いほどの」

 

何を今更。

絶望して、二度も死ぬ思いをして……というか実際一度死んで、トラウマを植え付けられて……これ以上何が辛いというのだろうか。

 

 

「…………それでアンタより私の方が強くなっちゃったらどーすんの?」

 

「愚問だな。その為のトラウマだ」

 

そう言って抱き寄せるような仕草をして見せる。

 

 

「チッ……クソ野郎が……」

 

「口だけは達者だな」

 

 

……絶対復讐してやる。

モモン(アイツ)も、ガブリエル(コイツ)も、(アイツ)も、番外席次(アイツ)も、みんな復讐してやる。

絶対に地べたに這いつくばらせてやる!目にもの見せてやる!!

 

 

 

 

「あ、そうそう、死んでも生き返らせてやるから安心して死ぬまでやれ」

 

「………へ?」

 

「ほら、連れてけ」

 

パンパンと手を二度鳴らすと、何処からともなく3人の人影が現れ、私を捕らえた。

 

 

 

 

 

 

 

気がつくと、私は見知らぬ場所に立っていた。

 

下は石畳のようだが、それ以上の硬さがあるようにも感じる。

 

周りを見渡せばどこか闘技場のような作りになっているが、観客は誰一人いない。

 

居るのは、目の前に立つ全身黒一色の服を着た青年だけだ。

 

 

「がぶりえる様の命令により、お前を半殺しにするように言われたブラックだ。お前の武器は後ろの方に置いてあるからそれを使え。

 

……………じゃあ、始めるぞ」

 

 

え、何を?と問う間もなく、正面の扉が開いた。

そして見たこともないようなアンデッド。

刺々しくもおぞましく、その肌は黒い。重厚な盾と波打つフランベルジュはその巨大な体躯に似合うほど大きい。

 

 

「初めはデスナイトからだが……どんどん強くしていくから頑張れよ」

 

 

 

ー拝啓ー

 おとおさん。おかあさん。わたしはもうダメかもしれません。

 




話が自然に進んでるかどうかちょっと不安。無理矢理感あったら教えてね。


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偵察

今回なんか微妙?
話のもって行き方は悪くないはずなんやけど、文章力の問題で内容が薄っぺらく感じるかもしれん。


御庭番衆。

五人で1組だが、全員が同じステータスというわけではない。

戦闘、隠密、暗殺、潜入などそれぞれに得意分野がある。もちろん、ある程度のステータスがある上で突出している部分という話だが。

 

中でも癋見は隠密に優れており、今回のように戦いを観察する役目を任せる事もある。

 

 

 

 

『動きました』

 

「来たか」

 

 

癋見の〈伝言(メッセージ)〉が届いた。

 

何が…とは聞くまでもない。例の吸血鬼の話だ。

 

 

癋見のスキルで、癋見が見ている光景が鮮明に映し出される。

映っているのは、例の吸血鬼とスケルトンのような見た目の奴が対峙している様子だ。

超位魔法を発動させようとしている所から見るに、恐らくはプレイヤーだ。となると、ただのスケルトンでは無く死の支配者(オーバーロード)などの上位種という可能性が高い。

 

クレマンティーヌの話から考えれば、モモンは骸骨のアンデッドで魔法詠唱者だそうなので、十中八九同一人物だろう。

 

洗脳の解除には一度殺すという手段を取るようだ。あのギルドのワールドアイテムを使えば洗脳の解除も可能な筈だが……まぁ、勿体ないと考えたんだろう。

 

そして、例の吸血鬼はNPCかプレイヤーと言った感じか。

 

 

ただ不自然な点がある。

 

それは対峙しているのが一人である点だ。

普通に考えて一人で戦うよりも数人でかかったほうが効率も勝率も高い。

考えられる可能性としては、単に自分に自信がある、第三者の介入を誘っている、戦力不足で自分が戦う他に選択肢が無かった……といった具合か。

第三者の…いや、この場合は洗脳の犯人を誘っているのか。周りに伏兵を忍ばせて警戒していると思った方が良いだろう。

戦力不足というのは流石に考えにくいな。何人プレイヤーが来ているのかは知らないが、難攻不落のダンジョン型拠点を持っているのだからNPCですらも相当なレベルのはずだ。

 

プレイヤーがモモン一人だと楽なんだが………。

 

 

そんな事を考えている内に超位魔法が発動。

戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 


 

 

癋見は戦闘の様子を観察する。

 

今回の指令は、戦闘データを取るために彼らの戦いを視覚を共有するスキルで送り届けることだ。

 

 

序盤は魔法の撃ち合い。

 

ここ100年では殆ど見ることのなかった第9位階以上の魔法の応酬による命の削り合いは、非常に見応えのあるものだった。

 

 

 

ある程度撃ち合った後で何やら話し始めた。

生憎読唇術は会得していないので何を喋っているのか分からない。

 

 

「がぶりえる王、何やら喋っているようですが……」

 

『聞くことは出来るか?』

 

「…いえ、申し訳ありません。何分この距離ですので…。もっと近づきましょうか?」

 

『……万が一の時にすぐ撤退出来る用意は出来ているのか?』

 

「はい。スキルを使用するつもりでございます」

 

『なら少し接近してくれ。もっと近い距離からの戦闘データが欲しい』

 

「声が聞こえる距離まで近づきましょうか?」

 

『…いや、それは少しリスクが高すぎる。万が一巻き添えにでもなれば目も当てられんからな。』

 

「…かしこまりました」

 

自分の力の無さが憎い。

もし聴覚を強化する術を持っていればより良い情報をお渡し出来たはずだ。

 

 

「…お力が足りず、申し訳ありません」

 

『気にするな。お前は…お前達はいつでも俺の役に立っているぞ』

 

「……はっ」

 

 

 

 

距離を詰めると、かなり精密なデータが取れるようになった。

魔法によっては余波が飛んでくることもある。

 

だが、やはり声を聞き取る事が出来ない。

 

 

 

時々挟む会話を聞き取る事が出来れば、かなり大きな情報が手に入る可能性がある。

 

そうすれば……がぶりえる王に褒めて頂ける……。

 

 

 

近寄る。

 

 

「ーーーーーーーーー」

 

 

一歩近寄る。

 

 

「ーーーーーーーーー」

 

 

また一歩近寄る。

 

 

「ーーーーーーーーー」

 

 

さらに近寄る。

 

 

「ーーーーーーーぁー」

 

 

…………聞こえた。

微かだが……ほんの微かだが、隠密部隊故の優れた感覚器官がようやく声を捉えた。

 

もっと……もっと近寄らないと………。

 

 

「ーーぅーーーーーぁ」

 

「ーぁーーーーーぁ」

 

 

まだ聞き取れない。

 

もっと、もっとだ。

 

 

「ぁーーずーまーー」

 

 

………まだ聞こえない。

もっと……もっと近寄ってーーーーー

 

 

 

 

「ーーねぇ、そこで何やってるの?」

 

 

「っっっ!!!」

 

 

振り返ると、そこに居たのは闇妖精(ダークエルフ)だ。

青と碧の瞳に、肩口で切られている金髪。服装はスーツのようでボーイッシュな印象を与える少女だ。

 

 

………不味い。不味い不味い不味い不味い不味い!!

 

 

「ねぇ、聞いてるの?」

 

「………………………」

 

 

失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した。

 

余計な事をしたせいでこんな状況になってしまった。

 

隠密部隊が隠密に失敗するなどあってはならない。

 

…どうする……どうすれば良い……?

 

 

「……何も喋らない気?なら力づくで……」

 

 

周りからも目の前のダークエルフのモノと思われるモンスター達が現れる。

 

クソッ!どうすれば良い!?

殺すか…?いや、周りを囲まれたこの状況で殺すのは不可能

に近い……。

 

 

 

『両手を挙げろ。即座に撤退出来るように準備はしておけ』

 

がぶりえる王だ。

 

 

「がぶ『答えるな。俺の言葉を続けて復唱しろ』……」

 

その声に怒気が含まれているのは容易に分かる。

だが、今はとにかく指示に従うべきだ。

これ以上失態を犯すわけにはいかない。

少しでも役に立って見せねば、例え死ねと言われても死に切れない。

 

 

 

「待て。戦闘の意思はない」

 

「………」

 

「俺は神の国の者だ。君達の主人の戦いを覗いていた事は謝罪する。我々神の国も君達を図りかねているんだ。どうか許して欲しい」

 

「……………………ふうん?」

 

「君達の主人にも伝えてくれ。君達と敵対する気はない。今回の謝礼金代わりと言ってはなんだが、そちらに有益な情報を与えよう。吸血鬼を洗脳したのはワールドアイテム“傾城傾国”。スレイン法国の六大神が残したとされるアイテムだ」

 

そう言うと、目の前の少女の表情に変化が見えた。動揺だろか…はたまた驚愕か…。

 

 

「………………」

 

「どうだ?有益な情報だろう?」

 

長い沈黙の後、少女が口を開いた。

 

 

「……その情報を信じると思うの?」

 

「……それはそちらの勝手だ。ただ、すぐにでも法国を攻め落とせば真実はすぐに分かる……と言っておこう」

 

 

「なるほどね………………」

 

 

そう言って、考えこむような素振りを見せる。

 

 

「…マーレ!」

 

突然笑顔を浮かべて声を上げたかと思うと、植物のツタのようなものが俺の体に絡みついてきた。

 

「これは…!」

 

「だ、大丈夫?おねぇちゃん」

 

「早かったね、マーレ」

 

 

“マーレ”と呼ばれた少女………いや、少年か?

目は“姉”と逆の色をしており、髪は姉に比べて少し短い。

特徴的なのは少女のようなミニスカートだ。

 

なるほど。俺とのお喋りに付き合っていたのは時間稼ぎのためか。正面から戦うよりも不意を打って拘束した方が楽だと判断したんだろう。

 

 

「こ、この人は?」

 

「さぁ?でもなんか色んな事知ってるみたいだよ?」

 

「そうなんだ…」

 

「…さてと。じゃあ、ナザリックに連れて帰ろっか!」

 

「う、うん」

 

 

 

『……逃げられるな?』

 

「はい。問題無く」

 

『……撤退だ。すぐ帰って来い』

 

「了解」

 

撤退の指示だ。

 

即座にスキル〈変わり身の術〉を使い、拘束から抜け出し全速力で駆ける。

 

 


 

 

「うーん……速いなぁ……もう見失っちゃった……」

 

「…逃しちゃったね」

 

「うん……」

 

ほんの少しの会話だったが、かなりの情報を持っていることは分かった。アレを捕らえれば良い情報源になると思っていたのだが……。

 

「今の人って、シャルティアさんを洗脳した人達とおんなじなのかな?」

 

「どうなんだろ……。本人は違うってゆう風に言ってたけど……」

 

神の国だと言っていたがそれすらも怪しいだろう。

 

「そ、そっかぁ……あ、おねぇちゃん。アインズ様が勝ったみたいだよ!」

 

「………知ってる」

 

当然だ。アインズ様が負けるわけないじゃない……。

 

 


 

 

申し訳ありませんでした!!!

 

ガン……いや、ドゴンと床に頭を打ち付ける音が響いた。

 

「……顔を上げよ、癋見」

 

「……はっ」

 

「…先に言っておくが、今回の失態を強く責めるつもりは毛頭ない」

 

俺がそう言うと、将軍達が少し騒つく。

 

「独断先行は確かに責められるべきかも知れないが、俺も癋見から共有される景色が少しずつ近づいて行くのを分かっていながら見逃していた……つい欲張ってしまってな。ついでに言えば、伏兵がいる可能性まで考えていながらも警戒していなかったのも俺だ。……つまり、今回に関しては俺にも責任がある。だから癋見が強く責任を負う必要は無い」

 

「……ありがたきお言葉でございます」

 

 

実際、あの時は本当についつい欲張ってしまった。

 

それに、慢心もあった。

何せ今まで御庭番衆はおろか諜報部隊自体が誰一人バレていないから、「どうせバレないだろう」と考えていた節がある。

 

相手は100レベル。これまでとは次元が違う相手だということを身をもって実感した一日だった。

 

 

あと、見つかった後の会話だ。

 

あのまま癋見にやらせるよりはマシだったと思うが、良い持って行き方だったとは思えない。

何も言わずに去った方が良かったのだろうか……?いや、それだと勝手に当たりをつけられて完全に敵対する可能性もあるから正体を隠さなかったのは悪くない判断のはずだ。

だが、もっと上手く敵対を避けるような言い回しもあったんじゃないだろうか。

本当に敵対を避けたいなら、俺が直々に話すべきだったのかも知れない………。

 

 

 

……………いや、過去を振り返ってもしょうがない。

考えるべきなのはこれからの事だ。

 

 

下手に受けに回るよりも、先手を取ってイニシアチブを取った方が良いはず。

アインズ・ウール・ゴウンのメンバーで居場所が割れているのはモモンだけ。モモンに接触して、会談を取り付けるというのが接触の方法としては一番やりやすい手段だ。

 

なら……まずはモモンから攻略していこう。




流れはともかく、書き方のせいで間とかが伝わりにくくなってないか不安です。
文章力無くてすんません……。


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王国スパイズ

良い感じの話題が思い浮かんだんで、ちょっと間話を書いてみたいなと思います。
本編とどっちが先になるかは筆の進み次第。


白い鎧を着た少年、クライムはリ・エスティーゼ王国の宮殿を歩く。

 

クライムは第三王女であるラナーに仕える兵士だ。

 

誰もが羨むような立場にいるのだから妬み嫉みも……あるにはあるが、それは立場だけが原因ではない。

 

クライムは平民なのだ。それも、どこの誰とも知らない浮浪児だった。

本来、王国における兵士は貴族の推薦が必要だ。

王城を警護する立場の者には、貴族が身元を保証していなくてはならないのだ。

ただのド平民では兵士になれない…つまり、兵士というのはある程度上流階級の者に搾られる。

そうなると、ド平民であるクライムに対する風当たりが強くなるのは必然だろう。

 

さらにそれに拍車をかけるのが、クライムが並の兵士よりも強く優秀な点だ。平民に負けているというのは兵士達のプライドが許すはずもなく、推薦した貴族からしても自分が推薦した兵士よりも強いというのは許されざることだ。

 

結果として、兵士達から疎まれ、孤立する状況が生まれるというわけだ。

 

もちろん、全員がそうというわけではない。

精鋭である騎士や、戦士長や戦士長が選抜した兵士である戦士や、兵士長なんかは普通に接してくれている。

 

とは言え、王城内を歩けば自分を疎む人間の方が多いというのは事実のために精神をすり減らしながら歩かなければならないことに変わりは無い。

 

 

メイド達の敵意の篭った視線を受け流しながら歩いていると、正面から二人の男が歩いてくるのが見えてクライムは通路の端に寄って背筋を張り、胸に手を当て敬礼する。

 

一人はレエブン侯爵。王国七大……いや、六大貴族の一人だ。

そしてもう一人の小太りの男は第二王子、ザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフ。王位継承権第二位で、ラナーの腹違いの兄だ。

 

 

「おや、クライムあの化け物のところに顔を出しに行くのか?」

 

ザナックが“化け物”と呼ぶのは、自分が仕えている主人でもあるラナーの事だ。

 

「殿下。恐れながらラナー様は決して化け物などではありません。心優しく美しい、王国の宝とも言えるお方です」

 

平民のためになる政策を提案し、平民の暮らしがよりよくなるような心優しい提案をする彼女を、宝と言わず何と言うのか。

確かに、大半の提案が神の国が先んじている事を後追いしているだけかも知れないが、だからと言って貴族達のくだらない体面のせいで潰されて良いような提案では無い。

 

 

「俺は何もラナーの事を化け物と呼んだわけじゃないぞ。お前が心の中ではそう思って……なんてベタな事を言うのはやめておくか。しかし、宝ねぇ。あいつは本当に自分の提案が受け入れられるって思って持ち出しているのかねぇ?俺にはあいつは無理だと承知のうえで行動しているような気がしてねぇ」

 

「そのようなことは決してないと」

 

そんな筈がないだろう。提案が却下される度に涙を流すあの少女が、無理だと承知で提案しているなんてある筈が無い。

 

「ふふふふふ。やはりお前にはあいつが化け物には見えないのか。お前の目が節穴なのか、それともあれが巧妙なのか。……少しは疑ってもいいんじゃないか?」

 

「疑うなど。ラナー様は王国の宝。それは決して私の中では揺るぎません」

 

「そうか。そうか。非常に面白い。ではあの化け物に言ってくれないか?……兄はお前を政略の道具に考えてはいるが、俺に協力するなら廃嫡してーーー」

 

 

 

「ーーーこれはこれは、ザナック王子にレエブン侯。それにクライムまで。こんなところでどうされたのですか?」

 

「兵士長!」

 

兵士長ジルケット・メロリアル。

先代の領主になってから、その手腕と人徳で七大貴族と呼ばれるほどにまでなったシスヴェル侯爵の推薦によって兵士となった人物だ。御前試合の出場時には決勝まで勝ち上がったが、相手方の準決勝でのガゼフ・ストロノーフとブレイン・アングラウスの名勝負を受けて、決勝戦を辞退したらしい。

 

“兵士長”という立場は元々無かったのだが、周辺最強である戦士長にも匹敵するとされるような人物が一兵卒では格好が付かないという事で、新たに作られた役職だ。

 

 

「……いやいや、大したこと話じゃないとも。…行こうか。レエブン侯」

 

そう言って、ザナックはレエブン侯を連れて歩いて行く。

 

 

 

「ありがとうございました。兵士長」

 

ザナック達が離れた所で、まずは感謝を告げた。

あの後に続く言葉はある程度予想がつく。自らの主人を貶される所を助けて下さったのだろう。

 

「気にするな。これからラナー王女のところか?」

 

「はい。そうです」

 

「残念だな……今日は時間があるし稽古をつけてやろうと思ったんだが」

 

そう言われて少しドキッとした後、安心する。

何せ、彼の稽古は厳しいのだ。

確かに身になっているのは分かるが、内心どうしてもナーバスになってしまうのは避けられない。

つい先程戦士長であるガゼフと稽古をした事で満身創痍なこの体であの稽古を出来るかと言われれば答えは否だ。

だから、これから用事があるので稽古ができないというのに少しだけ安心してしまった。

 

 

「…まぁ、用事があるなら仕方ない。また今度時間がある時にやろう」

 

「はい!」

 

 

そう言って、ジルケットはクライムが歩いて来た方向に歩いて行く。

おそらくは訓練所の方へ行くのだろう。

 

ふと、クライムは考える。

今日初めてガゼフに稽古を受けた。ジルケットにも稽古を受けている。二人に稽古をつけてもらったが、どちらも自分なんかとは次元の違う強さを持つ存在だ。

 

ならば、あの二人ならどちらが強いのだろう。

戦士長ガゼフ・ストロノーフは、御前試合の優勝者という箔があるために最強と呼ばれている。

兵士長ジルケット・メロリアルは、御前試合での決勝までの戦闘の様子からガゼフに匹敵すると考えられている。そこは賛否両論で、『決勝を辞退したのはガゼフに勝てる気がしなかったから』という人も居れば、『あれだけの名勝負に心を打たれ、戦士として敬意を表すために辞退した』という人もいる。

二人と剣を交えた事のある自分としても、どちらも甲乙つけ難い。

ただ、強いて言うなら…強いて言うなら、感じる力量は兵士長に軍配が上がる。もちろん、戦士長が手心を加えるのが上手いという可能性もあるので、一概に実力もそうだとは言えないが……。

 

 


 

 

 

「では揃ったことだ。定例会を始めよう」

 

円卓に座った9人の男女の内の一人の男が口を開く。

 

彼らは“八本指”と呼ばれる、王国を裏で牛耳る犯罪組織ーーその各部門の長達だ。

 

八本指はその名の通り八つの部門に分かれており、奴隷売買、暗殺、密輸、窃盗、麻薬取引、警備、金融、賭博とすみ分けている。と言っても、互いの利益が食い合う事も多々あるために部門間の仲は非常に悪い。敵対することはなくとも、足の引っ張り合いは日常茶飯事だ。

そんな彼らがこうして顔を突き合わせているのは、この会議に出席しない者は裏切りの可能性があるとして粛清されるためだ。

 

絶大な影響力を持っており、貴族だけでなく王宮とですらパイプを持っている。そのため法に裁かれることもほとんど無く、裁かれたとしても裏で根回しして釈放なんてことはザラにある。

 

 

「幾つかの議題があるが、最初に片づけるべきものはーーーヒルマ」

 

「はいよ」

 

まとめ役である男が名を呼ぶと一人の女が答えた。

彼女はヒルマ・シュグネウス。

麻薬取引部門の長で、肌は病的なほどに白い。

 

ヒルマはわざとらしくあくびをしてから続ける。

 

「もっと早い時間になんないのかね?」

 

「……お前の麻薬栽培施設が何者かの手によって襲われたという話だが?」

 

「そうだね、襲われたね。生産施設にしていた村が。とんだ出費だよ」

 

そう言ってヒルマが目を向けたのは一人の男だ。

 

 

「何か?」

 

金融部門の長、テリー・モーデス。

 

今回の襲撃によって得をしたのは金融部門だ。

八本指では、同じ組織であっても傭兵を雇うには金が必要だし、金を借りるのにも利子がつく。

足りない損害を利子付きで貸すことで大きな利益を得ることができるという点において、今回の襲撃によって得をした部門と言える。

 

 

「……まさかとは思うけど、ウチの情報を売ったんじゃないだろうね?」

 

本来なら、自分の部門の重要拠点は他の部門にはバラさないため、知っているはずがない。足の引っ張り合いが日常茶飯事なこの組織では、機密情報は毒になりうるからだ。

 

しかしこのテリーは、どうやってかは知らないがあらゆる機密情報を手にしている。そしてそれを脅しに金を借りた際に利子をぼったくるのだ。

 

ある意味では、八本指の中で最も力が強いとも言えるだろう。

 

 

「やめないか」

 

険悪な雰囲気が流れるが、進行役の男が口を挟む。

 

「「…………………」」

 

互いに黙ったが険悪な雰囲気が途切れることはない。

進行役の男は、会議を進めようと口を開く。

 

「その相手の情報は何か持っていないのか?」

 

「……無いね。完璧だよ。……だからこそ想像出来なくも無いけどね」

 

「どの色だ?」

 

その問いかけだけで、この場にいる者は理解出来る。

 

「知らないよ。判明したのはさっきだよ。そこまで手が回るもんかね」

 

「そうか。では各員、そういうことだ。何か情報を持っている者は手を挙げよ」

 

返答はない。知らないのか、知っていても答える気がないのかのどちらかだ。

 

 

「では次のーー」

 

「ーーおい」

 

進行役の言葉を、低い男の声が遮る。

声の主は警備部門の長、闘鬼ゼロ。筋骨隆々と言うにふさわしい体格で、顔の半分に入れ墨を彫り込んである禿げた男だ。

その戦闘力は八本指最強。アダマンタイトに勝るとも言われている。

 

そんな男がヒルマを見据える。

 

「俺たちを雇わないか?お前の集めている雑魚では碌に守れまい?」

 

「いらないよ。あんた達にまで重要拠点を知られるわけにはいかないしね」

 

ヒルマがゼロの提案を一蹴すると、ゼロは興味を無くしたように目を閉じる。

 

警備部門は用心棒から護衛までこなす部門だが、その分機密に触れる機会も多い。それがテリーの情報源になっているのでは…とヒルマは考えているのだ。

警備部門自体には機密事項が無いため、テリーが握る弱みすらも無い。そのため、警備部門と金融部門との仲はそれほど悪くないという事もある。

 

 

「じゃぁ、その話、私が代わりに受けたいわん」

 

口を開いたのはなよっとした感じの男だ。

 

「ゼロ、あなたのところの者を雇いたいのよ」

 

「なんだ、コッコドール。払えるのか?」

 

ヒルマの麻薬取引は“黒粉”により隆盛傾向にあるが、対照的にコッコドールの奴隷売買は斜陽傾向にある。

“黄金の姫”ラナー第三王女によって奴隷売買が違法となったことによって、かなり落ち目になってしまっているのだ。

 

「大丈夫よ、ゼロ。それも出来れば六腕クラス、精鋭中の精鋭を一人は雇いたいのよ」

 

「ほう……それほどの厄介事ということか。よかろう。大船に乗った気持ちでいるといい。俺の最強の部下たちがお前の財産の安全を保障しよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がぶりえる王」

 

会議を終えた男ーー“テリー」ーーが〈伝言(メッセージ)〉を発する。

 

 

『…どうした?』

 

「一人、隠密部隊をお借りしてもよろしいでしょうか?」

 

『構わんが……厄介事か?』

 

「いえ。まだわかりませんが、どうやら何事かあったようです」

 

この場合の『厄介事』とは、任務に差し支える異常事態というのを指している。支障は無いが、何かしらの問題あったということだ。

 

『ほう?…一応詳しく聞いておこうか』

 

「はい。奴隷売買のコッコドールの処分する予定だった女に問題が生じたようです。六腕を雇うぐらいなので、調べた方がよろしいかと思いまして」

 

『ふむ………よかろう。好きに使ってくれ』

 

「はっ!ありがとうございます!」




テリーくんはどうやって他の部門の情報を得たんだろうねー。

前回モモン攻略する言うてたけど、まだもうちょっと回収しないんでそこんとこヨロシク。


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冒険者スパイ&接触

クライムは現在、王都の冒険者が多く泊まる宿に向かっている。

 

兵士長と別れた後、ラナーの部屋でアダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』のリーダーであるラキュース、ティナとの話し合いに同席させて貰っていた。

 

彼女ら蒼の薔薇は、ラナーからの個人的な依頼ーー本来なら組合を通さない依頼を受ける事は許されていないーーを受けて八本指を撲滅するために動いていた。

その一環として、先日黒粉を栽培していた生産拠点を焼き払ったのだ。

その生産拠点には暗号化された指令書が残されていたが、ラナーの天才的な頭脳によって解読に成功。内容は7つの部門の情報だった。ラナーが言うには、他の部門に目を向けさせる事で一時的に逸らす狙いがあるそうだ。

 

続いて、王国に今現在も残っている唯一の悪質な娼館な話だ。ラナーの働きによって奴隷売買が違法となったが、八本指の息のかかった娼館はそう易々と潰れない。そうして唯一残っている裏の娼館がその娼館というわけだ。

 

そんなわけで、これから動く事になるということを他の蒼の薔薇のメンバーに伝える役割を仰せつかったというわけだ。

 

 

蒼の薔薇のメンバーは5人。ラキュース、ティナの他にはティナの双子のティア、戦士ガガーラン、そして魔法詠唱者であるイビルアイだ。ティアは任務があるとのことなので、これから会うのはガガーランとイビルアイということになる。

 

今向かっている宿屋は王国でも最高級の宿屋なので、それだけ高位の冒険者は多い。もしかすると、今まで会ったことがない『白銀』にも会えたりするかもしれない……と少しだけ気分が高揚する。

 

 

宿屋に入ると、屈強な冒険者が何人もいた。

目当ての人物は……と姿を見つけると、あちらもこちらに気付いたようで、手を挙げてハスキーな大声を上げる。

 

「よう、童貞!」

 

そんな声をかけてきたのは女とは思えないほど太い体を持つ戦士、ガガーランだ。

 

「お久しぶりです、ガガーラン様ーーさん。それにイビルアイ様」

 

「おう、久しぶりだな、なんだ?俺に抱かれたくて来たのか?」

 

クライムは無表情に首を横に振る。

どう考えてもセクハラだが、これはいつもどおりの挨拶のようなものだ。まぁ、もし首を縦に振れば即座に食われるのは間違いないが。

 

「いえ、違います。アインドラ様に頼まれまして」

 

アインドラ…とは、ラキュースの事だ。本名はラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ。因みに貴族である。

 

「ん?リーダーに?」

 

「はい。伝言です。大至急動くことになりそうだ。詳細は戻ってから。ただ、即座に戦闘に入れるよう準備を整えておいて欲しいとのことです」

 

「おいよ。ふーん、それっぽっちのためにご苦労なことだな」

 

 

「おや、蒼薔薇か。久しぶりだな」

 

「ん?おぉ、白銀じゃねぇか」

 

白銀!?と、クライムは後ろから聞こえてきた声に振り向く。

 

白い髪に銀色に輝くプレートアーマー。そして胸にぶら下がるアダマンタイトの印は、彼らが本物の白銀であることを示している。

 

 

「聞いたぜ?霜の巨人(フロスト・ジャイアント)を倒したんだってな?」

 

「ま、成り行きでな」

 

「霜の巨人を倒したことを誇る様子もない。さっすがアダマンタイト冒険者だねぇ」

 

「アンタらも同じだろうが……。ところで、そっちの坊ちゃんは?」

 

本物の英雄を前に固まっていたクライムだったが、自分の話だと分かり咄嗟に我を取り戻す。

 

 

「初めまして!自分はクライムと言います!白銀の方々のお噂はかねがね伺っておりまして…」

 

「ほぉー、俺達の事を知ってくれてんのか」

 

「当然です!」

 

この王国で、白銀を知らぬ者などいないだろう。それは朱の雫にも蒼の薔薇にも言えることだが。

 

 

「……で、少年は蒼薔薇とはどうゆう関係で?」

 

そう聞かれて、クライムは咄嗟に詰まる。

蒼の薔薇がラナーの個人的な依頼を受けているのは秘密だ。今回来たのはラキュースからの伝言を伝えるためであるが、それを一介の兵士である自分が行なっているというのは不自然だ。

 

どうにか言葉を探していると、ガガーランが代わりに答える。

 

「あぁ、たまにコイツに稽古つけてやってんだ」

 

普通に良い機転だと思った。嘘はついていないし、それほど怪しくもないだろう。

 

 

 

「稽古…………え、()()()()感じの?」

 

 

()()()()というのはどういうことだろうか?

不思議に思ってガガーランの方に目を向けると、ガガーランの方も少しキョトンとしていたが、意味を理解したのか猛獣のような笑みを浮かべた。

 

「あぁ、()()()()稽古だ。な!クライム?」

 

「え?え?え?」

 

「………………………小僧、とにかく否定しておけ」

 

今まで話さなかった仮面をつけた小柄な少女、イビルアイがようやく口を開いた。

全くどうゆうことなのか分からないが、他ならぬイビルアイの言うことだ。聞いておいた方が賢明だろう。

 

「ち、違います!」

 

「なんだよクライム、照れなくても良いんだぜ?」

 

照れる…?

そこまで言われて、ようやく意味を理解した。

 

「ちが…!ほんとに違いますから!ただ剣の稽古を受けただけです!」

 

顔が赤くなるのを感じるが、それはしょうがないことだろう。

 

 

「………中々純粋な少年のようだな。しかしガガーラン程の戦士が稽古をするほどの…………いや、良い。分かっていてやっているのだろうからな」

 

彼が言っているのは才能の話だろう。

クライムには才能が無い。確固たる事実として。

どれだけ剣を振るおうとも、どれだけの時間をトレーニングに費やそうとも、技能の上達は亀のように遅く、そこらの兵士には勝てても高位の冒険者には及ばない。

 

それでもクライムは諦めない。ラナーの為に、ラナーを守るために、ひたすら己を鍛え続けるのだ。

 

 

「折角だ。少年よ、アドバイスをしておこう」

 

「は、はい!」

 

 

「強くなりたければ戦え。剣を振るうよりも、一度斬られて学べ。1万回の素振りより、たった一度の死線の方が得るものは多い」

 

 

一度言葉を切った後、こちらに背を向けながらこう続けた。

 

 

「もし本当に……本当にどうしても、どうしても強くなりたくなったなら、文字通り死ぬほど強くしてやる」

 

 

そう言って白銀のリーダー、ロゼル・ラジリアは去っていく。

 

その背中を、クライムは憧憬のこもった眼差しで見つめていた。

 

 

 

「へっ。さすがは白銀だな。良いこと言うぜ」

 

ガガーランは素直に称賛の言葉を口にする。

 

「なぁ?イビルアイ」

 

「……まぁ、やつの言うことは真理の一つではあるな」

 

「どうよクライム、憧れの白銀に会えた気分は?」

 

クライムは密かに英雄譚を集めるという趣味を持っている。

当然アダマンタイト級冒険者である白銀の英雄譚などの話も集めており、それはファンの領域にある。

隠しているつもりかもしれないが、白銀を気にする素振りの多さからガガーランにはバレバレだったのだ。

 

「……まだ、信じられない気分です」

 

一介のファンである自分が話せたというだけでなく、名前まで覚えてもらったのだ。

……嬉しくない筈がない。ついつい広角が上がってしまう。

 

未だ興奮冷めあらぬクライムの様子を、二人は微笑ましそうに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

「あのクライムって…確かラナー王女の側仕えだったよな?」

 

そう口火を切ったのはロゼルだ。

ある部屋で、白銀と呼ばれる冒険者チームの3人が集まっていた。

 

「あぁ。ジルケットによればな」

 

次に口を開いたのは、シルクと名乗っている男だ。

白い法衣を着ており、信仰系の魔法詠唱者ということになっている。

 

「少し不自然だな……」

 

「八本指の畑を襲撃したのは青薔薇なんだろう?」

 

自分達はやっておらず、朱の雫は今王都にはいない。

ならば答えは自ずとアダマンタイトの残り一つに絞られる。

 

「ラナー王女が青薔薇と繋がっているということじゃないのか?」

 

「ラナー王女とラキュースは友人関係だったな…」

 

「そうだ。因みに今日も何やら会っているみたいだぞ?」

 

それに答えたのはソリットと名乗っている男だ。比較的軽装で、盗賊ということになっている。

 

「無関係とは考えにくいな」

 

「監視をつけるか?」

 

「………青薔薇の方はリスキーだな。イビルアイが気付く可能性がある」

 

「隠密部隊がそう簡単に気付かれるか?」

 

「御庭番衆の方々ならいざ知らず、50レベル前後では少し不安だろう?」

 

ま、それもそうかとソリットは納得する。

 

「となるとあのクライムという少年の方か?」

 

「……まぁ、念のためにな」

 

そう言うと、ロゼルは〈伝言〉を飛ばした。

 

 

 


 

 

 

ナザリック地下大墳墓にて、主人であるアインズ・ウール・ゴウンに忠義を尽くしているセバスは、一仕事終えて道を歩いていた。

 

成り行きで、例の八本指の娼館を襲撃することになってしまい、その帰りだ。

 

大きな失敗をしたセバスだったが、なんとかこれで少しの間時間を稼げるだろうと一息吐く。

 

あのクライムという少年は非常に好感が持てる。人柄もそうだが、絶対の忠誠をあるお方に捧げているという意味での親近感を持たずにはいられない。

 

 

そんな風に考えながら、自分達が借りた家の方への近道を通る。人通りは少なく暗い。安全とは言い難いが、セバス程の力があれば闇討ちなど早々される事はない。

 

 

一瞬。

直感が危険を察知。直感に従い咄嗟に防御すると、腕に一筋の切り傷が刻まれた。

 

尾行されていることすら気づかなかった……それほどの敵!

 

咄嗟に戦闘態勢に移行するセバス。

 

それを見届けたからか、下手人は姿を見せる。

 

 

「……………何者ですか」

 

「やはり貴様……」

 

セバスは問うが、それに答える様子は無い。

ならば戦闘か…?最悪の場合は、万が一の場合にと渡された〈転移〉のスクロールを使う必要があるかもしれない。

 

 

「仕方ないですね……」

 

ザリッと、土を踏み締める音が鳴った。

完全な踏み込みの態勢だ。

 

だがその態勢は次の瞬間に崩れることとなる。

 

「……知っているか?アインズ・ウール・ゴウンを」

 

 

それを聞いた瞬間、顔が驚愕に彩られる。

そしてその次に自らの失態を自覚する。これだけ顔に出せば、答えを言っているようなものだ。

 

さらに次には、この失態をどう取り返すかを考えるが、殺して口止めを図る以外の選択肢が思いつかない。

 

ここで一番最悪なのは、情報を持ち帰られることだろう。

自分が死んだとしても、この者だけは殺さなくてはならない。

 

実際、あの不意打ちの初撃さえ躱したのだから、正面からの戦いなら負けはしないはずだ。

 

そう戦闘の意思を固めていると、敵が新たに二人増えた。

 

新手である。

1対3は流石に不利だ。

これは転移を使うしかないか……と思ったところで、セバスに初撃を仕掛けた男が頭を下げた。

 

 

「試すような真似をして済まなかった」

 

思わず呆気に取られてしまいそうになるが、隙を作らないように細心の注意を目の前の敵に払う。

 

男は頭を上げて続ける。

 

「こちらから仕掛けておいてなんだが、戦闘の意思は無い。君達の主人に手紙を届けてもらいたくてね」

 

「…………手紙、ですか?」

 

「そうだ。我々は神の国。君達が中々尻尾を見せないものだから、多少強引に掴ませてもらった」

 

もう何度目かはわからないが、セバスは己の失態を自覚した。やはり目立ち過ぎたか…と。

 

 

「コレがその手紙だ」

 

そう言って、セバスの足元に落として来た。

これはバカにしている訳ではなく、此方が罠を警戒すると見越してのことだろう。手渡しになるとどうしても距離が近くなってしまうからだ。

 

だが、セバスはまだ手紙を拾わない。

 

「念のために言っておくが、その手紙を届けなかったとしたら何度でも君達に接触を図る。それだけ重要な手紙ということだけは分かっておいてくれ。好きなように鑑定してくれて構わないから」

 

 

新たに現れた二人は去って行ったが、仕掛けて来た男はまだ立ち去らない。

 

 

「最初に接触することになった子達にも言ったが、我々は敵対する気はない。それも伝えておいてくれ」

 

そう言って、残った男も去って行った。

 

 

そしてセバスは安全を確認した後、手紙を懐にしまい、また家の方へと歩き出した。




クライムに50レベルぐらいの隠密部隊の監視をつける→セバスを発見する(隠密特化なのでセバスにも気づかれはしない)→流石にセバスがヤバい事を察した隠密部隊は王に報告→御庭番衆派遣
って流れになってます。

コレ、厄介事引き起こして、さらに正体までバレたセバスは生き残れるんですかね?
俺は原作通り殆どお咎め無しにする気やったんですけど無理っぽかったりします?


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ナザリック劇場開演のお知らせ

セバスの判決考察ニキが多くて助かります。
非常に助かるんですが、みんなセバス死ぬ説推しすぎじゃない?誰かセバス無罪放免説唱えるやつおらんのか?異議ありぃ!

多分描写せずにぼかす感じになりそうです。好きに想像してね♡


 

「接触に成功した?……良くやった!!」

 

 

「……一仕事終えたところで済まないんだが、どうやら王国で大きな動きがありそうだ」

 

 

「冒険者達が八本指の拠点を襲撃するらしい。ジルケットやシスヴェル達には手を貸すように伝えてあるが、万が一に備えて徘徊しておいてくれ」

 

 

「いや、助ける必要は無い。ウチのモンだけ回収してくれれば良い。……あ、そうそう。1人はテリーに付いてやってくれ。………そうだ。回収出来るようにな」

 

 

「任せたぞ」

 

 


 

 

クライム達が娼館を強襲した次の日、青の薔薇の面々がラナーの部屋に勢揃いしていた。

 

部屋の主であるラナーが口を開く。

 

「ラキュース。実は準備が整い次第、早急に例の件に当たってほしいの」

 

例の件…というのは、八本指の拠点を襲撃するという話だ。

 

「なんでだ?確か昨日聞いた話では、一箇所ずつ極秘裏に襲撃していくという計画ではなかったか?」

 

イビルアイが問いかけた。

 

「実は昨晩、想定外の出来事が起こって、計画を一部変更する必要があると考えているんです。というのもーー」

 

ラナーは昨晩の娼館強襲の件を話す。

昨晩、クライムはかの有名なブレイン・アングラウス、謎の老人セバスと共に八本指の息のかかった娼館を強襲し、見事成功させたのだ。

その成果として奴隷売買部門の長であるコッコドール、六腕の1人である“幻魔”サキュロントを捕らえることが出来た。

 

 

「やんじゃねぇか、童貞」

 

「ああ、ガガーランの言う通りだ。六腕の1人を捕らえるとは大金星だな」

 

 

口々に褒めてくれるが、正直クライムはいたたまれない気持ちになっていた。というのも、彼は殆ど何も出来ていなかった。おそらく自分が居なくても、ブレインとセバスだけでなんの問題もなく解決出来ていただろう。

 

「すごいわね、クライム。しかしブレイン・アングラウスとと出会って、共に行動するなんて、どういう運よ」

 

「サキュロントを一撃で倒したってことは、王国最強の戦士と互角の勝負をしたというアングラウスの実力は本物ってことだ。だったらよう、俺としてはそのアングラウスですら勝てないと言い切ったそのセバスってじいさんの方に興味があるんだけどな」

 

「…まぁ、その辺は置いておきましょう。ラナー、計画の一部を変更ってことは、襲撃する場所を選定し直すってこと?」

 

「はい。今日中に同時に襲撃をかけて、一気に落とすべきだと考えています。時間が経てば経つほど相手にとって有利になるだけでこちらには不利ですから」

 

この部屋にいる全員が絶句した。

昨日の話では、手が足りないから一箇所ずつ襲撃するしかないという話だったはずだ。

 

「い、いや、王女さんよぉ。手が足りないという話じゃなかったのかよ?夜中の内に協力してくれるところが出てきたのか?冒険者を雇うというわけにもいかないだろ?」

 

そもそもとして、冒険者がこんな風に組織の襲撃をしたりするような人間同士の争いには首を突っ込んではいけないという決まりがある。

アダマンタイトである最高位冒険者に限り、組合が追放など出来る訳がないので黙認という形が取られている。

 

「白銀なら戦力としては申し分無いけど、それでも合わせて8人。1人がアダマンタイト級と言われる六腕を1人で相手にするには不安が残る」

 

「かと言って衛士や兵士を巻き込むのは愚の骨頂。どの貴族に八本指の息がかかっているのか明確ではない以上、声をかけるのは不味い」

 

貴族と癒着しているのだから、貴族が推薦する兵士の中に八本指のスパイがいたとしても全くおかしくない。むしろその可能性が高い。

 

「ふん。信頼できるのはガゼフ・ストロノーフとその直轄の兵士ーー戦士たちぐらいだろうが……いや、直轄の者たちもどれぐらい信じていいことやら」

 

「本当にそうね。結局のところ、相手の勢力がどれぐらいか分からないために対策が打てない。しかし、このまま調査をしているだけでは王国が完全に腐敗してしまう。八方塞がりの結果のもぐら叩きだものね」

 

「おっしゃる通りです。ですから、信頼出来る貴族の力を借りようと思っております」

 

「そんな貴族を知っているのか?王女よ」

 

「はい。イビルアイさん。多くを知っているわけではないのですが、たった2人だけ信頼できる貴族を存じております」

 

「へぇ、ラナー。それは誰なの?貴女が見落とすわけがないとは思うけど、信頼はできてもそれなりの力がなければ意味がないわ」

 

「恐らくその辺は大丈夫でしょうね。それと王国戦士長をお呼びします」

 

「それは納得できる」

 

「それと、兵士長も」

 

「兵士長……って事はその信頼出来る貴族ってシスヴェル侯爵?」

 

「確かにあの人なら信頼出来そう」

 

「というか、この2人に息がかかっていたら、もはやどうしようもない」

 

「シスヴェル侯は今日は城に来ていないはずなので…。クライム。レエブン侯を呼んでください」

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

 

結局集まった主戦力は蒼の薔薇、白銀、レエブン侯お抱えの元オリハルコン級冒険者達、クライム、ブレイン・アングラウス、ガゼフ・ストロノーフ、ジルケット・メロリアル。これらを8つに分け、それぞれが拠点を襲撃することになる。

基本的には2人で1組だが、白銀に限ってはそのまま3人チームで動くことになっている。他チームが混ざるよりも連携が取れることと、チーム自体の安全を考えてのことだ。

 

 

ラキュースから作戦内容の説明を受ける。

内容は、八本指の所有する八箇所の建物を襲撃し、制圧するというもの。

 

 

「よう、童貞」

 

説明を聞き終え、一種の使命感に燃えていたクライムに声がかかる。

そんな呼び方をする人間は1人しかいない。

 

「ガガーラン様、どうされたのですか?」

 

「なーに、緊張してるかもしれない童貞の尻でも叩いてやろうかな、と思ってな」

 

そんな気遣いが出来るなら呼び方も変えてほしい……なんて思っていると、また新たに声がかかる。

 

 

「また会ったな、少年」

 

「ラジリア様」

 

「ロゼルで良いよ、ロゼルで。そんでそっちは初めましてだな、かの有名なブレイン・アングラウスに会えて嬉しい限りだ」

 

「こちらこそ、名高い白銀に会えて光栄だ。なるほど……どちらも強いな。確かにアダマンタイト級冒険者の戦士に相応しい」

 

「そりゃどうも」

 

感覚が麻痺していたが、ガガーランもブレインも知らぬ者なし、白銀と並ぶ程の有名人なのだ。クライムは、そんな人間達と知り合いということを改めて実感した。

 

さらにさらに、新たな声がかかる。

 

 

「なんだなんだ、有名人ばかりじゃないか」

 

ジルケット・メロリアル。

 

まさに王国の有名人オールスターズ。それもクライムは全員と知り合いである。

 

ふと、今自分達がいる場所だけぽっかりスペースが空いており、自分達を遠巻きに見ていることに気付いた。

当然だろう。これほどの超級の戦士達が一堂に会すことなど無いので尻込みしてしまうのも無理はない。というかクライム自身も出来たら早く立ち去りたいぐらいだ。

 

 

「ジルケット・メロリアルか。()()()()()だな」

 

「こちらこそ()()()()()()()()()。よろしく、白銀」

 

ジルケットとロゼルが握手を交わした。

 

 

「ブレイン・アングラウス、御前試合では良いものを見せてもらった」

 

「止せよ。俺は負けたんだぜ?それに……あんたならガゼフにも勝てたんじゃないか?」

 

その言葉にクライムは驚くが、冗談を言っているような雰囲気では無い。

自分ではどちらが強いのか分からないが、ブレイン程の戦士なら分かるのかも知れない。

 

「ま、戦士としては『勝てなかった』とは言えんわな」

 

「それもそうだ」

 

「オイオイ、こんだけ英雄級の戦士が居たんじゃ俺の影が薄れちまうじゃねぇか」

 

「何を言ってるんだ蒼の薔薇のガガーラン。お前も十分強いだろうに」

 

「ハッハッハ、お褒めに預かり光栄だよ。じゃあな、童貞」

 

そう言ってガガーランはのっしのっしと歩いていく。

 

 

それに続くように、それぞれの班が続々と出発して行った。

 

 

 


 

 

「…で、俺達が襲撃するのは金融部門の拠点で間違い無いんだな?」

 

「間違い無いな。本当に大事なものは別の場所に移してあるそうだから全部燃やしても大丈夫らしいぞ」

 

「それなら安心だ」

 

白銀は後ろを続くレエブン侯の兵達に聞こえないように小声で話す。

 

これは本当に偶然だ。

偶々割り当てられたのが金融部門の拠点だったのだ。

八本指の金融部門に潜入しているテリーにも情報は入っているはずだから心配する必要は無かったんだが、念のために確認を取っておいた。

 

 

襲撃する建物の前に到着すると、一先ず息を潜める。

 

 

「じゃあ、まず俺達が先に侵入する。しばらくしたら来てくれ」

 

兵士達が了解の意を示したので、さっさと侵入する。

 

六腕は一箇所に集まっているらしいし、警備も置いていないそうなのですぐに終わるだろう。

 

 

 

 

何人かの見張りを倒したら、もう人の気配は無くなってしまった。

後は適当に資料でもかっぱらって任務は完了となる。

 

 

 

「…………おい」

 

「どうした?」

 

建物内を探索していると、シルクと呼ばれる男がロゼルを呼ぶ。

 

「聞いてた話と違うぞ」

 

「……何がだ?」

 

「この部屋に資料が大量に置いてあるはずなんだが、一枚も無い」

 

「……………テリーに確認を取るぞ」

 

 

 

 

「ーーーロゼル」

 

「どうだった?」

 

「間違い無い。この部屋には大量の資料があるはずだ…と」

 

「第三者か」

 

「どうする?」

 

「…………一先ず指示を仰ぐか」

 

 


 

 

 

「ーー資料が消えた?」

 

『はい』

 

「間違い無いのか?」

 

『はい。テリーにも確認をとりました』

 

「……テリーに付いてる1人を除いて、後2人御庭番衆がそっちにいるはずだ。そっちからの報告があってから連絡するから一先ず待機で頼む」

 

『了解致しました』

 

資料が消えた……別に資料が奪われることは全く問題無い。

ただ消えるという事態自体が問題だ。

テリーが何かをしたわけではないので、第三者であることは確実。

となると……プレイヤーか?

例の『セバス』という執事がいることからこの国に手を出しているのは確実だ。例えば、その目的が八本指の乗っ取りだとするなら資料を奪う事自体に疑問はないし、その手段も持っているだろう。

裏組織というのが非常に便利な事はこの100年で学んだ事の一つだから、そういう目的なら分からなくは無い。

 

なら、乗っ取り時に運が良ければテリーを介して間接的に接触出来るか…?………いや、必要無いな。手紙を渡した以上そちらの返事を待った方が誠実だろう。

 

 

『がぶりえる王』

 

「おぉ、式尉か。どうした?」

 

王都で八本指の拠点を徘徊して情報収集をするように伝えてある御庭番衆の1人だ。

 

 

『推定50レベル程のメイド服を着たモンスターが蒼の薔薇のガガーラン、ティナ、イビルアイと交戦中です』

 

……意味がわからん。

 

「………戦況は?」

 

『蒼薔薇が優勢です。もうすぐ決着がつくかと思います』

 

……分からん。なんだよメイド服のモンスターって。

50レベルぐらいならプレイヤー関連とは断言しにくいしな。

 

一先ずどんなのか見てみるか。

 

「視覚を共有してくれ」

 

『はっ』

 

そうして映ったのは、確かに言った通りのメイド服を着たモンスターだ。容姿を見るに恐らくは虫系……いや、蜘蛛人(アラクノイド)か?

 

だが、もうほぼ決着がついたようだ。

 

 

『回収致しますか?』

 

そう聞かれて迷う。

確かにプレイヤー関連だと断言は出来ないが、逆に無関係だと断言することもできない。

回収して尋問をするのが一番良い手なんだが、もしアインズ・ウール・ゴウン関係だった場合には非常に不味い。

 

 

「そうだな………お?」

 

 

突然人影が現れた。

赤いスーツを着ており、中々センスの良い仮面を着けている。そして鋼鉄を思わすような尻尾が、それは人間では無く、悪魔である事を知らせてくれる。

 

例の蜘蛛人を起こすと、蜘蛛人は虫に連れられて去って行った。

 

 

『追跡しますか?』

 

「いや、それは少しリスクが大きい。それより、奴らの会話を聞くことは出来るか?」

 

『………イビルアイが2人に逃げるように指示を出しました』

 

まぁ、それはそうだろう。

明らかにレベル100近い強者だ。イビルアイなら強さの片鱗を感じとれるだろうからな。

 

これもプレイヤー関連か?……いや、そう考えるべきだな。

八本指の拠点に現れたということは、資料を奪ったのもコイツらという可能性が高くなった。

 

冷静に分析しているとイビルアイが魔法を撃ち出すが、無効化能力で無効化されてしまった。

 

そして例の悪魔が手を横に振ると、黒炎が逃げた2人を焼き尽くした。

 

 

「何の魔法だ?」

 

『恐らく〈獄炎の壁(ヘルファイヤーウォール)〉かと』

 

「ふーん」

 

アレだけでアダマンタイトでも死ぬのか……あんなにすぐ死ぬものだからもうちょっと高位の魔法を使ったんだと思ってたんだが…。

 

 

悪魔の煽りに激昂したイビルアイが突っ込むか、突如膨れ上がった巨大な腕がイビルアイを殴り飛ばす。

 

あらあら…。逃げた方が良いと思うんだが………いや、無理か。〈次元封鎖(ディメンジョナル・ロック)〉で転移も出来ないし、素で逃げ切れるはずも無い。

あーあ、イビルアイも死んじゃうのか……。ウチの戦力にしてやっても良かったんだがなぁ……。

 

またイビルアイが魔法を撃つが無傷で終わる。

 

そして悪魔の爪が伸び、「あっコレ死んだな」と察しがついた。

 

 

『助けますか?』

 

「いや、良い。死体でも回収出来たら良いんだがな」

 

 

ここからどう頑張ってもイビルアイが生き残るルートは無い。

いや、確かにウチが介入すれば問題無く救出出来るが、その場合アインズ・ウール・ゴウンと敵対する恐れがある。

野良悪魔だと確定しているならともかく、この状況でイビルアイを助けるのはリスクが大きすぎるのだ。

 

 

 

さらばだイビルアイ……グスッ。別に会ったこともないから愛着無いけど……。

 

 

 

イビルアイに心の中で別れを告げた瞬間の事だった。

 

 

悪魔とイビルアイの間に何かが落ちて来たのだ。

 

 

土煙が晴れると、そこに立っていたのは黒い全身鎧(フルプレート)と二本のバスターソードを見に纏い、胸に最高位冒険者の証をぶら下げた男。

 

 

漆黒の英雄、モモンであった。




モモンさまぁ♡


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事件収束(予定調和)

〜前回のあらすじ〜
やめて!ヤルダバオトがちょっと殺す気になったら、クソ雑魚ナメクジのイビルアイが消し炭になっちゃう!
お願い、死なないでイビルアイ!あんたが今ここでここで倒れたら、ラキュース達はどうなっちゃうの?ライフ(HP)はまだ残ってる。ここを耐えれば、きっと王子様が助けてくれるんだから!


それで……私の敵はどちらなのかな?と、イビルアイと悪魔の間に降り立ったモモンが声を発した。

 

 

どうやら、そのままイビルアイを助けるためにその悪魔と対峙するらしい。

 

どうなってる?悪魔もプレイヤー側じゃないのか?

まさか、二つ目のギルドがあるということか?それはあり得ない事ではない。今回来た訳では無くとも、前回前々回にこの世界に来ている可能性はなくも無い。

ただ、完全にこの2人が敵対しているわけではない可能性もある。

目的は分からないが、コレが自作自演という可能性がある。というのも、俺もそれは何度か考えたからだ。仮想の敵を作って軍事力を示したり評判を上げるというものだが、敵を作るのも金が必要になるので諦めた。それに当てはめて考えれば、王都でのモモンの評判を上げる為の自作自演という線もある。

 

 

俺がロゼルに指示を出している間に、モモンと悪魔の間で情報交換があったらしい。

悪魔の名前はヤルダバオト。目的は強大なアイテムの回収。

式尉は、2人の会話は互いの情報の確認のように感じたらしいが、それだけでは判断がつかない。五分と言ったところだろう。

 

 

そして、戦闘が始まった。

先程までの一方的な蹂躙とは違い、ちゃんとした戦いになっている。なってはいるが、些か攻撃が軽いように思える。

互いに様子見をしているのか、そもそも互いに戦う気がないのか……。

式尉から見ても、命のやり取りをしているような戦いではないとのことだ。

 

…やはり自作自演という可能性の方が高いか?

 

 

しばらく攻防が続くが、ヤルダバオトは去って行った。

目的はモモンを殺すことではないので、アイテムを探す為に王都の一部を炎で包むそうだ。

 

 

本当に目的がアイテムだけなのかは知らないが、わざわざこちらから接触する必要は無いだろう。

 

 

「蒼紫」

 

『はっ』

 

「3人いるな?」

 

『はっ』

 

「なら蒼紫はモモンに付いて、2人は炎の結界の内側を探索だ」

 

『はっ』

 

「ただ、結界内に侵入する者達を認識出来るスキルを持っていればやっかいだから冒険者達に紛れて侵入するようにしろ」

 

『了解致しました』

 

「これまでとは次元の違う相手だ。最大限警戒するように」

 

『はっ!』

 

ある程度の戦力分析が出来れば良いな。

いや、敵対する気は無いんだけどさ。

 

 


 

 

王都の一部を炎の壁が包んだという事件を受けて、王城の一角に王都中の冒険者が集められていた。

 

初めに、組合長である女性が口を開く。

 

「皆さん、まずは非常事態時に集まってくれたことに感謝をいたします。本来であれば冒険者組合は、国家の問題への介入は認めておりません。しかし、今回の件は別です。冒険者組合は王国を全面的にバックアップし、早急に問題を解決するべきだと判断しました。詳しい作戦内容については王女からお話があります。皆さん、御清聴願います」

 

「ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフと申します。今回の非常事態に集まっていただきありがとうございます。本来ならもう少し感謝の言葉を述べるべきなのでしょうが、時間がないのでただちに説明に入ります」

 

王女の説明で、事件の概要が伝えられる。

一部を包んでいる炎は幻のようであり、触れても何ら害は無く、行動を阻害されることもないということ。

敵の首魁はヤルダバオトと言う強大な悪魔ということ。

その悪魔によって一瞬でガガーランとティアが殺されたということ。

さらにそのヤルダバオトと対等に戦える戦士、漆黒のモモンが居るということ。

 

 

そして、作戦の説明に移る。

 

 

「まず、皆さんにしてほしいことは弓の役割です」

 

「弓?」「盾ではないのか?」と訝しげな声が上がる。

 

「盾では勝てません。まず、冒険者の皆さんにはラインを形成していただきます」

 

要は、ラインを作り、ある程度まで押し込んだら後退することで敵を引きつけ、敵の守りが薄くなったところにモモンという矢を放つ。故に盾ではなく弓なのだ。

 

作戦については概ね納得したところで、1人の冒険者が問いかける。

 

「では蒼の薔薇と白銀の面々はどうされるんだ?モモンさんに同行するのか?」

 

「……二人を失った私たち蒼の薔薇は戦力的に大幅ダウンしています。私とティナはラインを構成するための戦いに参加します。イビルアイはちょっと違ってーー」

 

「ーー私はモモンさ……殿に同行するために、今から魔力の回復に入る」

 

白銀は?…と視線が集まると、リーダーであるロゼルが答えた。

 

「俺達はまだ未定だな。後で決まることになる」

 

「ならば別の質問だ。そちらにいる、かの戦士長殿にお聞きしたい。貴族たちの私兵や戦士たちはどうなさるんだ?」

 

「答えよう」

 

ガゼフが一歩前に出る。

 

「貴族の私兵は主人の館を守り、兵士は王城の守りに入っている。私直轄の戦士たちは王族の守りだ」

 

兵士も守りに入る…つまり、兵士長も前線に出ないということを指す。

 

当然、非難の声が上がる。

国に所属するというのは、詰まるところ庇護下に入るということである。安全を保障する代わりに税を寄越せという関係によって成り立つ。

なのに民を守らないというのは……となっているわけだ。

もちろん、理性では仕方のないことだと分かっている。貴族はともかく、王族の守りであれば仕方の無いことだ。だが、命を懸けて戦う彼らは感情では理解出来ない。

 

それをどうにか抑えようと、ラキュースか口を開く。

 

「皆の不満は分かるわ。でもその前にこれだけは覚えておいて。今回、皆を集めた費用は王家から出ているのではなく、ラナーの個人的資産からよ。それにモモン殿をお連れ出来たのは貴族であるレエブン侯のおかげ。確かに私も皆と同じ感情を貴族や王族に対して抱いている。でもそんな者ばかりてはないということも知っておいてほしいの」

 

そんなラキュースの言葉に空気が沈静化した。

 

 

 

 

作戦の説明を終えると、リーダー格が集まって作戦の最終確認を行う。

 

 

「………で、俺達はどうするんだ?」

 

ロゼルが問いかける。

 

「そこなのよね……ライルの構成に戦力も欲しいところだけど、露払いの戦力もある程度は欲しいのよね……」

 

「なぁ、イビルアイ。俺達ならその蟲メイドと戦えばどうなんだ?」

 

「……勝てるだろうな」

 

イビルアイは少し考えてから答えた。

イビルアイにとって、彼ら白銀の評価は非常に高い。全員が高い水準で纏まっており、蒼薔薇全員と白銀が戦えば白銀が勝つだろうと予測している。

実際には白銀の1人対蒼薔薇全員でトントンぐらいなのだが、イビルアイはそれを知る由もない。

 

 

「でも蟲メイドはイビルアイでも対応出来るんでしょう?ナーベさんだって居るし、あまり必要無いと思うんだけど……」

 

「それもそうだが、そもそもその蟲メイド級の敵が一人だと決まっているのか?」

 

「それは……そうね。じゃあ、イビルアイ達と露払いをお願いして良いかしら?」

 

「心得た」

 

「イビルアイも、それで良いわよね?」

 

「……………あぁ」

 

イビルアイにとって同行者(邪魔者)が増えるというのは好ましくは無いが、背に腹は変えられない。

 

「じゃあモモン殿と同じタイミングで鏃として突撃すれば良いのか?」

 

「できれば少しの間でもラインの構成に入って欲しいんだけど……」

 

「鬼リーダー、流石にそれは無理がある」

 

「そ、そうよね」

 

仲間を失って弱気になってしまったのを、ティナが咎める。

悪魔一体一体は大した問題ではない。しかし、数の力の偉大さはよく分かっている。戦力が欠けている今、少しでも戦力が欲しいと思ってしまうのは仕方のないことではある。

しかし、イビルアイ達が苦戦した蟲メイド級の敵と戦うのだから、少しでも体力や魔力を温存しておかなければならない。だからラインの構成には参加できないだろう……。

 

「いや、構わないぞ。じゃあ、俺達が3人でラインの構成に入りながらモモン殿が突撃するタイミングで俺達が合流すれば良いんだな?」

 

「……良いの?」

 

渡りに船と言ったところだ。同じアダマンタイトとは言え、白銀が自分達よりも上であるということはわかりきっている。その彼らが自分から『やる』と言ってくれたんだから、乗らない手はないだろう。

 

「もちろんだ」

 

「じゃあ……お願いして良いかしら?」

 

 

 

 

 

そんな訳で、白銀はラインの構成に入っているのである。

 

 

アダマンタイト級冒険者である彼らがいるからか、彼らが率いる班の士気は非常に高い。

 

さらに、目の前から現れる悪魔を切り捨てる度に士気はうなぎ登りになっていく。

 

 

ボロい商売とは良く言ったもので、こんな風に冒険者としてそこそこの敵を倒して行けば金も名声も湯水のように得られる。

60レベル近い彼らにとって見れば、この程度の悪魔は文字通り屁でもない。何の危険も冒さずに金を受け取り名声も得られる…これほど素晴らしい仕事は無いだろう。

 

 

 

しばらくラインをキープしながら戦っていると、後方から合図が上がった。モモン突入の合図だ。

 

今からモモンが突入するところへと向かう必要がある。

 

 

「…よし。それじゃあ、俺達はモモン殿と合流する。此処は任せたぞ」

 

「はい!!!」

 

アダマンタイトからの激励のお陰か、非常に大きな返事が返って来た。

 

 

 

モモン達と合流してから中心部へと進んで行くと、首魁であるヤルダバオトが堂々と待ち構えていた。

 

そして例の蟲メイドの他に、四人のメイド服を来た敵が現れた。

 

 

「ではそちらの五人は任せる」

 

そう言ってモモンはヤルダバオトに斬りかかって行き、互いに攻撃をしながら徐々にここから遠ざかっていく。

 

 

……さて。敵は五人で、こちらも五人。普通に考えれば一人一殺なんだが、どう割り振るのか。

正直、白銀にとってこの戦いはどうでも良いことだ。誰も見ていないのならずっとお喋りをしていたって良いとすら言われている。

 

とは言え、このまま睨めっこをしているわけにはいかないのでロゼルが問いかける。

 

「で、どうする?」

 

「私が二人です」

 

ナーベが素っ気なく答えた。

 

「じゃあ俺達3人で二人を相手しよう」

 

「なら私は一人だな。とっとと倒して、お前達の支援に向かってやるから死なない程度に押さえ込んでおけ」

 

「………では、二人は私の相手をしてほしいのだけど、誰が来るかはそちらに任せます」

 

ナーベが歩き出すと、ロングヘアのメイドと蟲メイドがナーベについていった。

 

 

「それじゃ、俺らもよろしく」

 

白銀の三人が歩き出すと、三つ編みをしているメイドとロールヘアのメイドがついて来た。

残っていた髪を結い上げたメイドとはイビルアイが戦うことになる。

 

 

 

 

 

少し歩くとさっきまでいた場所から戦闘音が響き始め、ちょうどそのあたりで、二人のメイドも歩みを止めた。

 

 

「私はベータって言うっす」

 

「…イプシロン」

 

「へぇ…自己紹介してくれるとは思わなかった」

 

「じゃ、そろそろ始めるっすかねー」

 

白銀達の戦闘が始まった。

 

 


 

 

『ロゼル達が戦闘を開始しました』

 

「了解。イビルアイの方は?」

 

『五分……といったところですね』

 

「…ナーベの方は?」

 

『あの女は……見失いました。探しますか?すぐ見つかるとは思いますが…』

 

「いや、必要無い。万が一ロゼル達が殺されそうになったら割って入れよ」

 

『かしこまりました』

 

 

癋見との〈伝言(メッセージ)〉を切って、新たに蒼紫と〈伝言〉を繋ぐ。

 

 

「俺だ。モモンの方はどうなっている?」

 

『民家に転がり込んでからは、動きがありません』

 

「物音も無しか?」

 

『特別なマジックアイテムやスキルを使っていなければ…ですが』

 

じゃあ戦闘は行っていないということだろう。やっぱりグルだったな。

後は成り行きに身を任せれば大丈夫だろう。

 

「よし。じゃあ引き続き監視だけしておいてくれ」

 

 


 

 

イビルアイの激しい戦闘とナーベ達の雑談が行われている中、白銀とベータ、イプシロンはそこそこ真面目風に戦っていた。

 

 

「〈雷撃(ライトニング)〉」

 

シルクは魔法を放つが命中させず。

 

 

「ふっ……ほっ……」

 

ロゼルは剣で受けるだけで何も攻撃せず。

 

 

「ほいっ」

 

ソリットは明後日の方向にナイフを投げる。

 

 

そこそこのスピードで行われているために、側からみれば真面目に戦っているようには見えるのだ。

 

白銀は、とにかく殺さないように言われているだけに攻撃をする気もない。対するルプスレギナとソリャシャンもモモンとしての名声を高める為に殺してはならないと言われているので、互いにのらりくらりと戦っているこの状況は互いが望んでいる状況ではある。

 

が、そんな事を知る由もない者からすれば不気味に写るのは当然のことだ。

 

一度互いに距離を取り、呼吸を整える(フリをする)。

 

 

「どういうつもりだ?」

 

白銀からすればある程度情報があるために、推察を立てることが出来るので本気で戦闘しない理由は思いつく。

 

「それはこっちのセリフっすよ」

 

しかしメイド達からすれば全く見当もつかない。アダマンタイト級冒険者が自分達を殺そうとしない理由なんて知り得ないのだ。加えて言えば、レベル的に判断しても彼らの方が上なことは間違い無いので、殺そうと思えば殺せるのは間違い無いのだ(もちろん抵抗するし殺される気はないが)。

 

「俺達の目的は時間稼ぎだ。殺す事は命令に含まれていない」

 

「はぁ…?」

 

ベータは間の抜けたような声を上げる。

 

 

「………………」

 

「………………」

 

そのまま睨めっこが続く。

 

先程も言ったように、これでも時間稼ぎという互いの目標は達成出来ているのだ。メイド側が不審がっているということを除けば。

 

 

睨めっこを続けていると、地震が起こった。

 

 

メイド側が何やら二人で話しているが、邪魔をする気は無い。ただただこうして睨めっこを続けているつもりだ。

 

 

どれだけの時間睨めっこを続けていただろうか。

 

 

炎の壁が消えると同時にメイド二人も去って行った。

 

続けて雄叫びが上がり、王都を襲った未曾有の大事件は幕を閉じたのだった。




これ前書きのやつ前回の後書きに入れたら良かったね。思いつかんかったわ。


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