艦こレーン ~オーブ鎮守府の異世界戦記~ (しきん)
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プロローグ 転移

どうも、しきんです。
拙作『アズールレーン 蒼き航路に昇る太陽』を書いてたらこんなの思いついたので出してみました。
なお、今作の艦これ世界の歴史は上記の拙作の西暦世界の2020年以降のものを改変したものです。


西暦2021年、第二次世界大戦から70年余りの時が流れ、人類にはもう大きな戦争は起こらないと誰もが平和を謳歌していた。だが、そんな人類に未曾有の災厄が降りかかった。

突如、海に現れたそれらは漁船や客船を襲い、人類はそれらを討伐する為、国連軍艦隊を設立した。

だが、それらには従来の兵器では歯が立たず、人類は次第に制海権を失い、やがて人類はそれらをこう呼ぶようになった。

 

『深海棲艦』と。

 

そして、それから2年以上もの月日が流れたある日、日本で少女達のある力が目覚めた。

その力・・・かつて太平洋戦争に身を投じた艦船の力を持つ少女達は世界で初めて深海棲艦を倒した。

そして、彼女達は『艦娘』と呼ばれるようになった。

艦娘という深海棲艦に対抗出来る切り札を得た人類は、反撃に打って出た。

日本近海を始め、ウェーク島、ポートモレスビー、サモアを奪還した国連軍は、ソロモン諸島攻略作戦の要として前線基地ともいえる鎮守府を設立した。

その名も『オーブ鎮守府』。

この鎮守府は、ヤラファス島、オノゴロ島、アカツキ島、カグヤ島の4つの島からなり、国連軍が建設した事もあって、他の鎮守府と比べると非常に大規模なものであった。

提督を始めとした、日米英のトップクラスの実力を持つ艦娘等といった優秀な人員がこのオーブ鎮守府に集結し、激しい戦いになるであろうソロモン諸島攻略作戦は幕を開ける

 

 

 

 

・・・・・・筈だった。

 

 

????年 6月2日 午前0時0分 オーブ鎮守府 司令室

 

「提督、緊急事態です!衛星が突然消滅しました!」

 

眼鏡をかけた黒髪ロングの女性がこの部屋で一番上の席に座っている1人の男性の方に振り返る。

 

「こちら国連軍オーブ鎮守府!日本国海上自衛隊第4護衛艦群、応答してください!」

 

更に突然の事態に慌てているオペレーター達の中で茶髪の若い男性オペレーターが自身が身に着けているインカムのマイクに向かって叫んでいる。

オーブ鎮守府の司令室は階段状で、3段に分けてコンソールとデスクがセットで設置されており、真正面には巨大なモニターが埋め込まれている感じのものである。

 

眼鏡をかけた黒髪ロングの女性の言葉に驚きながら、提督と呼ばれた10代後半の男性が答える。

 

「何、衛星が!?深海棲艦が衛星を攻撃した事は今まで無かったはずだが・・・」

 

黒髪で戦艦娘の春名に似たショートヘア、そしてイケメン特有の顔立ちと、高校に居たら間違いなくモテるだろう。180㎝近くはある身長もその要素に当てはまりそうだ。

男性の名は三河勇(みかわ ゆう)。国連軍の日本人士官で、階級は中佐である。

 

「とにかく、まずは周辺の状況を把握しなければならないか・・・!」

 

勇はそう言うと、アナウンスを流し始めた。

 

「空母達は直ちに担当の区域を決め、索敵機を飛ばして周辺の状況を把握しろ!数が足りないなら、艦攻を索敵に回しても構わない!だが、不測の事態に備えて艦爆は爆装して待機、艦戦も武装したまま待機しろ!何か見つけたら大淀に通信を送れ。何が起きたかは全く不明だが、とてつもない事が起きたと見て間違いないだろうから、十二分に注意してくれ。それ以外の者は緊急出撃体制のまま自室で待機せよ!鳳翔さん、区域の割り振りは任せる」

「了解しました、提督」

 

アナウンスを終えると、矢継ぎ早に鳳翔に指示する。

 

 

5分後、他の部隊に待機命令を出した勇の許に鳳翔がやって来た。

 

「提督、割り振りが決まりました。こちらの書類に記しておきましたので、ご覧ください」

「ああ、すまない。ありがとう」

 

鳳翔は勇に書類を渡し、「お茶を淹れてきます」と言って一旦、司令室から出た。それを見送ると、勇は命令を出す。

 

「索敵航空隊、全機発進!幸運を祈る!」

 

勇の命令と共に、索敵機達が発艦した。

 

「まだ敵は来ていないか・・・それにしても、オーブ鎮守府初の作戦が始まると思いきや、まさかこうなるとはな・・・・・・大淀、大本営には通信はつながったか?」

「いえ、駄目です。依然として通信が繋がりません」

「こちらも付近の基地に通信を行っているのですが、全く繋がりません!」

「こちらは海上自衛隊の第4護衛艦群と通信していましたが、日付が変わった途端に繋がらなくなりました」

「くっ・・・」

 

黒髪ロングの女性--大淀が通信が繋がらないと報告する。オペレーター達からも同じような報告が上がる。

 

(頼む・・・何か見つけてくれ・・・・・・!)

 

勇はそう願う他無かった。




勇君の見た目は千早群像っぽい感じと思っていただけると幸いです。
てかオーブってソロモン諸島にあったんだな。転移してなかったら間違いなくエリア88のように地獄の最前線になってたぞ・・・。


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第1話 驚きの報告

どうも、しきんです。
梅雨入りシーズン間近でございます。
ネトフリで艦これアニメ見れないかな・・・。


午前0時9分 オーブ鎮守府 司令室

 

索敵機が発艦してから4分経った頃、報告が次々と入ってきた。大淀がすらすらとメモにその内容を書き留め、勇に報告する。だが、いつもとは違い、通信内容を伝えるスピードが若干遅く感じる。

 

「提督、南西方向を担当している二航戦の索敵機からの報告が入っているのですが・・・全機とも同じ内容を言っています」

「・・・?具体的には何て?」

 

 

 

「パプアニューギニアとオーストラリアがいつまで経っても見えてこない・・・だそうです」

 

「・・・はっ?」

 

勇は、飛び込んできたまさかの報告に一瞬固まった。無理もない、「パプアニューギニアとオーストラリアがいつまで経っても見えてこない」という報告に驚かない人などいる筈もないのだ。

本来、オーブ鎮守府が存在する場所は激戦区の一つであるオセアニア州である。しかも、その中でも確実に地獄の最前線となるであろうソロモン諸島の西端にあるのだ。西に行けば奪還したポートモレスビーのあるパプアニューギニアはおろか、オセアニア州で一番大きな国であるオーストラリアが見えてこないなんていう事態は方向音痴でもない限り、決して有り得ないだろう。

ならば、これは一体、どういうことなのか。

 

(そんなバカな・・・1機だけならともかく、南西方向を担当している全ての機が同じ報告をするとは・・・これは幻覚でも超常現象でもない、という事か・・・。いや、まさか・・・ここは地球ではないのか!?・・・だが、呼吸も問題なく出来ているし、それは俺以外の者も同じだった筈。それに・・・・・・)

 

勇は自分の机に置いていた万年筆を手に取り、試しに床に落としてみたが、落下のスピードは以前とほぼ全く変わっていなかった。ジャンプもしようかと思ったが・・・変な目で見られるのは明らかだった為、ここではやらない事にした。

 

(重力も変わってはいない、か・・・)

 

20分後、大淀が報告する。報告するスピードもいつもの調子に戻ったようだ。

 

「提督、赤城の索敵2号機から入電。『我、ハワイニ酷似シタ諸島見ユ!オーブヨリ1時ノ方向、距離約178㎞』」

「北北東178㎞だと?おい、地図を縮小してくれ」

「了解しました」

 

勇はその報告を聞くと、茶髪の若い男性オペレーターにモニターに映されているオーブ鎮守府を中心とした地図を縮小するよう指示する。そして、縮小されて範囲が広がった地図をまじまじと見つめる。

北といえば、オーブから北北西に真っ直ぐ進むと日本に行き着く筈だが、軽く見積もっても5000㎞以上もの距離があり、彩雲でも燃料を満載して片道で飛んでも着けるかどうかすら怪しい。それに、ここからその方向に200㎞以内で着ける島があったなんて話は誰一人とて聞いた事は無い。

 

(嘘だと言ってくれ、と言いたいが・・・俺達は、オーブ鎮守府ごとハワイの近くに転移したのか?まさか・・・だが、そうとしか説明が・・・・・・ん?待てよ、転移・・・?まさか、異世界転移とでも言うのか!?)

 

異世界転移という可能性に気付いた勇に、大淀がさらに報告を続ける。

 

「同諸島のうちのある島は、多少違いはあるもののオアフ島に酷似しており、複数の建造物を確認。建設中のものや軍艦も確認されている事から・・・ッ!?て、提督!!」

「どうした!?」

「赤城2号機より緊急報告!『我、航空機見ユ!シーファイアト思ワレル機体ガ迎撃ニ上ガッタ可能性有リ!』」

 

「「「「な、何だってーーーーーーーーーーーーーーッ!?」」」」

 

勇とオペレーター達は素っ頓狂な声を上げて驚いた。建造物や軍艦がある以上、人間かそれに匹敵する知的生命体が相当な文明を築いているのは間違いないと誰もがそう思っていたのだが、それに飛び込んできたのはまさかのイギリス海軍の艦上戦闘機シーファイア発見の報告である。それも、迎撃の可能性があるときた。

 

「一体、どうなっている!?例えこの世界が平行世界だったとしても、仮にもハワイはアメリカの領地の筈だぞ!まさか、本当に異世界に来てしまったのか、俺達は・・・・・・!!」

 

この時、勇のこの疑問に答えられる者は誰一人いなかった。




本作における勇君は、『蒼き航路に昇る太陽』よりも戦闘経験を積んでおり、提督とよぶに相応しい風格となっていると思います。
走り出した以上、止まる訳にはいかねえ・・・!この作品も、そして『蒼き航路に昇る太陽』も・・・・・・!

次回予告

何の前触れもなく、転移してしまったオーブ鎮守府。勇が状況を把握する為に飛ばした索敵機のうち、赤城の2号機である彩雲が見たものとは!?

次回『暁と優雅のファーストコンタクト 勇&赤城索敵2号機篇』


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第2話 暁と優雅のファーストコンタクト 勇&赤城索敵2号機篇

おはこんばんちわ、しきんです。
もうすぐ梅雨入りシーズン突入でございます・・・。
それでも夏は大好きなので、家でアイスクリームとかかき氷とか食べて過ごそうかと考えております。

これからも暑くなりそうですが、何卒宜しくお願い致します。


「索敵機、発艦始め!」

 

勇の命令が下った直後、一航戦と呼ばれる日本最強の空母艦娘の1人である赤城は、艦上偵察機『彩雲』を空に放った。

彩雲とは、旧日本軍が開発・生産した艦上偵察機である。小型で高性能の誉エンジンを搭載し、直線的な胴体と大型のプロペラを有した、まさに傑作とも呼べる機体である。

ちなみにこの機体を見た赤城は、「アイスキャンディーっぽいですね」とよだれを垂らしながらそう言っていたとか。

 

今回の区域担当は以下のようになっていた。

 

・赤城&加賀 北方向担当

・蒼龍&飛龍 南西方向担当

・翔鶴&瑞鶴 南東方向担当

・隼鷹&飛鷹 東方向担当

・祥鳳&瑞鳳 南方向担当

・その他空母 待機

 

これに基づき、赤城の索敵2号機は北北東を担当する事となり、索敵線に沿って飛んでいた。だがしかし、飛んだはいいものの、辺りは一面蒼い海。それに加えて、どこか平和な感じもする。

 

「周囲なんて言われても、この辺りって西にはパプアニューギニア、南にはオーストラリア、それ以外は海ですよね?なんで、わざわざこんな辺りを索敵しないといけないんですか?」

 

偵察員を務める新米妖精が、操縦員のベテラン妖精にそう尋ねる。

 

「俺にも分からねえが・・・提督は言ってたろ?とてつもない事が起きたってな。だから、こうやって鎮守府の周りに異常がないかを確かめているんだ。わかるか?」

「は、はあ・・・」

 

そうは言ったが、操縦員妖精は、新米に分かるような話じゃなかったかな、と心の中でそう呟いた。

そのままただただ一直線に飛び続けること、実に27分程。

 

「・・・ん?」

 

操縦員があるものに気付く。そして、その正体に気付くと、

 

「おい、正面に陸だ!いくつかあるみたいだぞ!」

 

そう叫んだ。

よく見ると、確かに水平線の一部が黒く、そして低く盛り上がっている。だんだん近づくうちに、若干ではあるが、緑が見えてきた。

 

「ありゃ・・・ハワイか?おい、今の位置は?」

 

操縦員妖精が電信員妖精に問う。そして、電信員妖精はこう答えた。

 

「現在位置、オーブより1時の方向。距離178㎞と見られま・・・」

「「「・・・え?」」」

 

見事にトリオでハモった。

 

「いやいやいやいや、おかしいでしょ?オーブからハワイまでの距離って5858㎞もありますよね?なのにこの距離にあるなんて、絶対何かありますよ」

「だよな・・・。地図がおかしくなったのか、それとも俺達が幻覚か何かを見てんのか・・・・・・。とにかく、オーブに打電しろ!『我、ハワイに酷似した諸島見ゆ!オーブより1時の方向、距離約178㎞』とな!」

「了解!」

 

操縦員がそう言っている間に、諸島はどんどん近くなってきた。

モールス信号特有の甲高い電子音が機内に響く。電信員が打鍵機を叩いているのだ。

 

「海軍か何かの基地なのか、これは・・・?建設途中のがいくつかあるとすれば、まだ完成していないのか?」

 

操縦員が陸地を見ながらそう呟いていた、その時だった。

 

「前方、飛行物体発見!レシプロ機です!」

 

偵察員が声を上げた。

 

「ん・・・!?あれは・・・イギリスのシーファイアか!?」

 

操縦員もそれを見て驚きの声を上げる。

前方から、レシプロ機のような何かが接近してくる。しかも、今の彩雲の飛行高度である500mを飛んでいるのだ。操縦員と偵察員がそのレシプロ機を気にしていたその時である。

 

パシャリ

 

その機械音が機内に響いた。電文を撃ち終わった電信員が、支給されている高解度カメラで写真を撮ったのだ。

 

「地上にある建造物と軍艦を撮影しました。これはどう考えても、人間と同等のレベルにある知的生命体が社会生活を営んでいるとみて間違いありません!しかも技術レベルは第二次世界大戦真っ盛りだった1940年代前半です!」

 

そう、操縦員と偵察員がレシプロ機に注意している間、電信員は地上に目を向けていたのだ。そして、港に軍艦らしきものがあるのに気が付き、しばらく観察してみたところ、第二次世界大戦のイギリスの軍艦とそっくりだという事に気付いて撮影したのだ。

 

「おい、あのレシプロ機も撮ってくれ」

「分かりました。偵察員に撮らせます」

 

電信員はすぐカメラを偵察員に渡し、今見たものをオーブ鎮守府に大急ぎで打電する。

 

『同諸島のうちのある島は、多少違いあれどオアフ島に酷似しており複数の建造物あり。建設中の建物や軍艦もあり海軍基地の可能性大』

 

この内容の文章はモールス信号に変換され、オーブ鎮守府で待機している軽巡艦娘の大淀に贈られるのだ。

 

「ん・・・!?お、おい!あれ、なんかヒヨコが乗ってないか!?」

 

突然、電子音を遮るように偵察員が大声を上げた。驚きのあまり、敬語を使う事さえ忘れてしまっているようだ。

 

「は?何言ってんだ?そんな事ある訳―――」

 

そう言いかけたまま、操縦員は絶句する。

丁度、そのレシプロ機・・・シーファイアと彩雲はすれ違うところだった。そして、彩雲のコックピットのすぐ左を行ったシーファイアのコックピットにヒヨコが乗っているのを、操縦員は確かに見た。偵察員も、カメラのフレーム越しでそのヒヨコを見た。

その時、操縦員はシーファイアに乗っているヒヨコと目が合った。

 

当然、「ウホッ、いい男・・・」みたいな事になる訳もなく・・・

 

「お、オーブに打電急げ!『我、航空機見ゆ!シーファイアと思われる機体が迎撃に上がった可能性有り!』!」

 

操縦員は怒鳴り声を上げた。

偵察員は大急ぎでシャッターを切り、電信員は返事代わりに高速で打鍵機を叩き始める。

一旦すれ違ったと思ったのもつかの間、シーファイアは反転して追いかけ、距離を縮めていく。

 

「こ、こっちに追いついてきます!」

「流石、スーパーマリンの最高傑作だ!速度の伸びが良い!」

 

シーファイアが近づいてくるのを確認した操縦員は、機体を左右に振り始める。

これはバンクというもので、太平洋戦争では味方である事を示す為に用いられた方法である。国連軍でもこの方法をとる事は度々あるとか。

 

「あちらさんには上がったところで悪いが、こちとら鎮守府周辺の索敵の為に飛んで来たんでな。偵察はここまで!ここらで帰投するぞ!」

 

この合図と共に、彩雲はそのボディを翻す。

 

「にしても・・・あれってどこかの国家に所属しているものだよな?」

「でしょうね。主翼にイギリス海軍の国籍マークらしきものもありましたし」

 

偵察員が操縦員に同意する。

 

「そして、それは多分、あの海軍基地を保有する国家でしょうね」

 

電信員が後を引き継いでそう言った。

 

「つまり・・・俺達はどこかの国の領空を侵犯しちまった訳だ」

 

操縦員はのこの結論に、2人とも異論を唱える事は無かった。

こうして赤城2号機は、元来た進路を辿って鎮守府に帰投した。

 

 

午前2時36分 オーブ鎮守府 執務室

 

それから2時間程経ち、勇は自分の執務室へと戻り、各索敵機のパイロット達の報告書を読んでいた。

 

「ふむ・・・来たを担当した赤城の索敵2号機はハワイに似た諸島の上を飛び、更に海軍基地らしきものを見つけた、か・・・・・・」

 

そして例の赤城2号機の報告も読んだ。

 

「恐らく、あんな諸島だけの小国じゃないと見た方がいいな。もしこれが正しければ、食糧確保も出来そうかもしれない。艦娘だけでなく、他の人間もここには大勢いるからな」

 

勇がそう呟いたその時、バタンッ!と大きな音が響き、ノックもなしに勢いよく扉が開かれた。

 

「て、提督!大変ですっ!!」

 

飛び込んできたのは、セーラー服を着た桃色の髪の工作艦娘の明石である。

 

「どうした?まさかこんな時にまた変なヤツ造って爆発したのか!?」

「ち、違うんです!パイプが・・・当鎮守府とアタカ油田を結ぶオイルパイプが切断されていました。原油が全く来てません!それどころか、アタカ油田とも交信が途絶えています!!」

「そっちか!?異世界転移という可能性を考えた時は、覚悟はしていたが・・・・・・!」

 

こんな時にまさかのアクシデントである。

艦娘は、艤装を纏った状態で海に出て、作戦行動をする時は、燃料と弾薬を消費する。しかし、それらを簡単に補給する事は難しいのもまた事実。

オーブ鎮守府は国連軍主導で建設された事もあって、アタカ油田という後ろ盾を有する事となったのだが、異世界転移という事態のせいで、その後ろ盾もパイプ途絶という形で無に還ってしまったのだ。

 

「ソロモン諸島攻略作戦の為に用意された大量の石油があるが、このままではジリ貧だ・・・!だが、これでまずすべき事は決まった。食糧、水、そして原油の供給先の確保。これを最優先だ」

 

勇は冷静さを取り戻すと、素早く判断した。

 

「オーブ鎮守府全体で見れば、食糧の消費量は嗜好品を含めて年間で30万t以上と予想されます。もし転移が事実だとすれば、現在のオーブ鎮守府には食糧を入手する手段がありません。魚の生態系すら変わっている可能性もありますし、仮に獲っても食べられる保証はありません。どこかの国から手に入れられるかどうかを検討するほうが賢明と思われます」

 

大淀も賛成する。

 

「石油に関しては、手に入る見込みが立つまで備蓄で何とかしないとな。あと、国交開設の準備を頼む。今日、赤城の索敵隊の連中に簡単なものでいいから地図を描くよう伝えてくれ。明日、俺がすさのおに乗艦して、直接交渉に行く。特に赤城2号機が見つけた海軍基地・・・あれは当てになる筈だ。夜明けの始めぐらいにオーブを出れば、向こうの行政機関が本格的に動き始めた頃には付ける筈だ。大淀、頼んだ」

「了解しました、提督」

 

斯くして、方針は決まった。

 

 

午前8時26分 ハワイ近海

 

艦娘母艦『すさのお』で4時間もかけて、赤城2号機が発見した海軍基地・・・アズールレーン・ハワイ基地の近海に何とか辿り着いた勇は、ロイヤルと名乗る国の戦艦--プリンス・オブ・ウェールズから臨検を受ける事となり、そこで勇は、以下の内容を伝えた。

 

・自分は、国連軍オーブ鎮守府の総司令官、三河勇という。国連の特使だと思っていただけるとありがたい。

・我々は、どうやら元居た世界から転移してしまったようで、国連軍総司令部であるアラスカを含め、各国との通信が一切途切れてしまった。そこで、周囲の状況を確認すべく航空機を飛ばし、周囲を哨戒していた。

・その際、誤って貴国の領空を侵犯してしまった事について、深くお詫び申し上げる。

・ここに来た目的は、貴国との国交を開設する事にある。

・国交開設の手続きは、可能であればお早めにお願いしたい。

 

この後、ユニオンなる国の海上の騎士と名乗る女性から重桜がどうのこうのと詰め寄ってきたが、プリンス・オブ・ウェールズが落ち着かせたので大きな騒ぎにはならなかったのでこれに関しては割愛する。

 

 

30分後 アズールレーン・ハワイ基地 司令室

 

勇はこの基地の指揮官の代理を務めているプリンス・オブ・ウェールズとまるで羊を擬人化したようなつば広帽子を被った白髪の女性に連れられた。国交開設の申請書や食糧・石油等の物資支援の要請書類については、オーブ鎮守府で特に秘書官としても優秀な艦娘である大淀と大和の2人によって既に作られていた。勇はすさのおの艦長を務めている戸高二佐、補給主任参謀のウィリアム・ムハンマド少佐、情報参謀のアンドリュー・マックスウェル大尉の3人を引き連れ、交渉に臨んだ。

 

数時間に渡って続いた交渉は、最終的に勇がほぼ望んでいた形で成立した。

具体的な内容としては、

 

・ロイヤルとオーブ鎮守府は国交を締結し、以下の条約を結ぶものとする。

・双方は互いの法に基づき、互いの国民の生命と財産、人権を保障するものである。

・オーブ鎮守府はアズールレーンに加盟する。ただし、オーブ鎮守府の部隊とロイヤルとは、装備も戦術思想も多少なりとも異なっているので、アズールレーンにおいてのオーブ鎮守府の全戦力は事実上の独立遊撃部隊となる。

・オーブ鎮守府はハワイ基地に対して技術供与及び軍事支援を行う。なお、軍事支援の内容は、海軍に対する装備の提供と訓練指導である。

・その見返りとしてロイヤルはオーブ鎮守府に対し、食糧・石油の支援を行う。

 

というものである。

これに勇は物資の入手先の確保という一番優先すべき問題を解決した事に安堵した。

 

国交を開設し、少しだけでもこの世界についての情報が知りたいなと思った勇は、プリンス・オブ・ウェールズにこの世界の事について聞いてみた。

なんでもこの世界は、1901年にセイレーンなる存在が登場し、なんと人類の91%が死に絶えたのだ。それに対抗する為アズールレーンが結成され、それとほぼ同じ時期に人類の切り札として造られたのが、ウェールズ達KAN-SENなのだとか。KAN-SENはメンタルキューブからなっており、そのメンタルキューブは人類のイメージを投影し、具現化する代物で、これだけでKAN-SENを建造できてしまうので資源をあまり食わない。これは艦娘にはないメリットと言えるだろう。

そんなこんなでセイレーンを撃退する事に成功したアズールレーンであったが、おかしなことにその後の方針を巡って「人類の力のみで脅威に立ち向かっていく」か「毒を以て毒を制す」かで内ゲバが起こり、鉄血がアズールレーンから離反してレッドアクシズを結成し、世界大戦が勃発するに至ったのだそうだ。この世界は、この大戦が勃発するまで、元居た世界であったような世界大戦どころか、近代的な戦争を経験は無かった事から、日露戦争が勃発しなかった時点でこの世界の歴史は分岐したのだろう。そして、重桜がアズールレーンからレッドアクシズへと鞍替えするのも時間の問題と言われている。

この中で勇が特に疑問に思ったのが内ゲバに関する事だった。

 

(国連軍の方は紆余曲折こそあるが、深海棲艦が出現して以降は人類同士で争ったことなど全くない。それどころか、一致団結して立ち向かっていた。なのに今聞いたアズールレーンの有様は何なんだ?確かにかつての国際連盟は、全会一致制を原則としていた事や国連軍のような軍事組織が無かった事が第二次世界大戦の勃発を止められなかった原因となって、この教訓が今の国際連合に活かされているが、意見対立だけで世界大戦が勃発するなんて、資本主義と共産主義でもないのに有り得るのか?)

 

勇は声には出さなかったが、意見対立以外にもあるだろうと断定し、ついでに四大陣営についても聞いてみた。

ウェールズが所属するロイヤルは四大陣営の中で最も造船技術に秀でた王政国家で、かの国の海軍であるロイヤルネイビーは優雅を重んじる習慣があり、実力も半端ではないと本人は誇らしげに言っていた。イギリスでもこういう者達が多そうだ。ユニオンは科学と自由を重んじる連邦国家・・・言わばアメリカと瓜二つの国で、主に航空技術を中心に発展しているそうだ。ハワイ基地も元々ユニオンの領土なのだが、重桜との戦争において、ここを前線基地とする為に絶賛建設中だったらしく、その最中に襲撃を受けた時に備えてウェールズ達が先行してこの基地に配属されたのだとか。鉄血は強大な軍事力とそれによる高度な科学技術を有し、「戦場で散った者達の魂はヴァルハラへ赴く」というなんか仏教関連のものに似てなくもないような教えが慣習化している、どこか第二帝国時代のドイツを思わせる国で、この世界で初めてセイレーンの技術を軍事転用したとか。ちなみに勇は鉄血についての話を聞いている間、過去に会ったドイツ人のお嬢様の事を思い出したのだが、これはまた別の話である。そして重桜・・・この国に似ている国は島国という地理的特徴からしても数百年間鎖国をしていたという歴史からしても勇の祖国である日本しかない。これは真珠湾攻撃への対策が出来るのではと勇は考えた。

 

(いずれにせよ、消去法で選べばロイヤルとコンタクトを取ったのはベストだっただろうな。ユニオンは恐らく自分達のいた世界でいう反日思想が蔓延っている可能性がある。これは良くない方向へ向かうのは間違いなかっただろう。鉄血だと、距離で考えて論外だ。重桜は・・・この国がかつての大日本帝国に似たものだとすれば、ユニオンのように出来る人の大半が人種差別をするようなヤツで占めているなんて事はないと思うが・・・それでも、交渉で戦争に参加するよう要請されるかもしれないと思うとな・・・・・・)

 

そう考えると勇は、自分達は物凄く運が良かったなと実感するのだった。

 

こうして、オーブ鎮守府は転移してから約1週間という疾風の如きスピードで食糧と資源という二大問題を一気に解決する事が出来たのだった。




作者の(周りからすればどうでもよさそうな)自問自答

Q:かき氷にかけるヤツで一番好きな味は?
A:イ チ ゴ で す

次回予告

どうにかファーストコンタクトを果たした勇達。では、ロイヤルないしアズールレーンの方に視点を変えると、この邂逅は一体どのようなものだったのだろうか。

次回『暁と優雅のファーストコンタクト ロイヤル篇』


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第3話 暁と優雅のファーストコンタクト ロイヤル篇

どうも、しきんです。
遂に梅雨シーズン突入でございます。
何か感想全く来ないなと思っていたら非ログインでも書けるようにするのを忘れていたのに気づいたので急遽解禁致しました。

今回はロイヤルないしアズールレーンsideでのファーストコンタクトを描きました。

それでは、行ってみよー!(魔王風)


海暦1941年 6月2日 午前0時29分 アズールレーン・ハワイ基地

 

その日は潮風に加え、何かが起きそうな予感を感じた日だった。

太平洋の真ん中に浮かぶこのハワイ諸島、まだこの基地は建設途中で、そこを突かれないようにプリンス・オブ・ウェールズ達ロイヤルネイビー第2艦隊は先立ってこの基地に配属され、この周辺の哨戒にあたっていた。

何故彼女達ロイヤルネイビーがユニオンの領土であるこの基地の周りを哨戒しているのか、それはここ最近の世界情勢にあった。

 

先のセイレーン大戦で、アズールレーンはKAN-SENという新たな兵器を生み出し、セイレーンを撃退する事に成功した。だが・・・その後にある問題が表面化した。

 

「人類の力のみで脅威に立ち向かっていく」か「毒を以て毒を制す」か・・・。

 

方針を巡るこの意見対立は、鉄血がアズールレーンを離反してレッドアクシズを結成するという結果をもたらし、あまつさえ人類同士の戦いが勃発するという看過しかねる事態を招いてしまった。

これを受けてユニオンは、重桜との戦争に備えるべくハワイ諸島に基地を建設する事を決定、ロイヤルも複数のKAN-SENを同基地に転属させる予定を示した。

 

そして、先立って配属されたロイヤルネイビー第2艦隊の唯一の空母KAN-SENであるイラストリアスは戦闘機隊を飛ばして南西方向を中心に哨戒していた時、それは突然やって来た。

 

「未確認機・・・?南南西からハワイ基地に向かって・・・!?」

 

イラストリアスは、哨戒の為に飛ばした戦闘機隊のうち、南南西に向かった1機が未確認機を発見したという報せを聞いて戦慄した。

幾ら重桜でもハワイから南南西の方向に基地がある筈は無いし、この方向から襲撃する意味が分からないのだ。それに加え・・・

 

「・・・未確認機は1機だけ?これは一体、どういう事・・・・・・?」

 

1機だけで大した被害を与える事は限りなく難しいのである。

未確認機が基地の上空を通過し、自分の戦闘機--シーファイアとすれ違った時、とんでもない事に気付いた。

 

「あの未確認機・・・饅頭じゃない小人みたいなのが乗っている!?」

 

そう、なんと未確認機に乗っていたのが饅頭ではなく他の何かだという事に気付いたのだ。

普通、KAN-SEN達が繰り出す艦載機にはヒヨコ型ロボット『饅頭』が乗って操縦する。その為、海軍に所属する者の中で男性がほんの一握りしかいなくなったとさえ言われるほどの軍縮でも人的資源に困る事は無い。

だが、今飛んでいる未確認機にはその饅頭ではなく、2頭身の小人のようなものが乗っていたのだ。

 

「大変・・・!早く知らせないと!」

 

急いで報告しようとしていたその時、未確認機はバンクを振ると、進路を反転して元来た方向へと帰って行った。この謎の行動にイラストリアスは呆然と立ち尽くしていたのだった。

 

「一体・・・何だったの、あれは・・・・・・」

 

 

8時23分 同基地近海

 

夜が明けて太陽が昇った頃、プリンス・オブ・ウェールズはロイヤルネイビー第2艦隊の巡洋艦2隻と『海上の騎士』とよく呼ばれるユニオンのKAN-SENクリーブランドと共に南南西の哨戒を行っていた。理由はもちろん先の未確認機の件である。

夕べ現れたその未確認機は、濃緑色で左右の翼端に赤い円が描かれていた。それだけなら重桜が何らかのアクションを取っただけに過ぎないだろう。だが、ここから報告の内容はおかしなものになっていった。なんと、その未確認機は1機だけで飛んで来たらしく、基地の上を飛んだ後に元来た方向へと帰って行ったのだ。そして、極め付きには饅頭ではない小人のようなものが乗っていたというのだ。

ウェールズはそんな荒唐無稽としか思えないような事が信じられなかったが、念のためこの方向の警備を強め、自分も哨戒にあたっているのだ。

 

「あれは・・・」

 

ウェールズは何かを見つけた。その何かは、こちらに近付いてくるようだ。

 

「ッ!!全艦、警戒態勢を取れ!!」

 

ウェールズは他のKAN-SENに檄を飛ばす。少なくとも、最初に何かを捉えたウェールズは今南南西を哨戒しているKAN-SENの中で一番視認距離が長いだろう。

 

(あれは空母か・・・だが1隻しかいない・・・艦隊ではないのか・・・・・・?)

 

そう考えると、ウェールズは指示を出す。

 

「全艦、まだ撃つな!あの空母は艦載機を1機も出していない。とりあえず臨検を行う!分かったな?」

『『了解!』』

『ま、待ってよウェールズ!相手は重桜なんだろ!?』

 

ウェールズの指示に、クリーブランドが異議を唱える。

 

「落ち着けクリーブランド。仮にあれが重桜艦だとしても、戦闘態勢を取っているように見えるか?この距離では相手も視認出来ている筈だ。それなのに艦載機を上げているような動きを取っていないとすれば、交渉する為に来たかもしれないんだぞ。だから臨検を行う必要がある、話はそれからだ」

『わ、分かったよ』

 

クリーブランドは渋々了承した。

 

 

3分後

 

先程と比べると、指示を出すウェールズの顔色が悪くなりつつあった。だが、それは彼女に限った事ではない。

 

「サフォーク・・・臨検は私が先陣を切る。万が一の事があったら君に指揮を任せる・・・いいな?」

『わ、分かりました・・・』

 

サフォークにそう告げると、通信を切る。すると、クリーブランドから通信が入って来た。

 

『ウェールズ!やっぱりコイツは重桜艦だ!早いとこ制圧しないと・・・』

「待てクリーブランド、あの旗・・・見た事あるか?」

『えっ?』

 

ウェールズはクリーブランドに旗をよく見るよう促した。

 

『なんだあれ?見た事無い奴だ・・・』

「そうだ。あの旗の国はどこにもない。もしかすると、どこかで独立した国かもしれない」

 

ウェールズ達がその空母のような大型艦に戸惑っていると、甲高い音が鳴り響いた。ウェールズが見たその音の主は、こちらに近付いてくる装載艇であった。だが、多く使われているのはオールを漕いで進むものであるが、その装載艇はエンジンが付いたタイプの、しかも洗練されたデザインのゴムボートであった。

そしてある程度距離を置いて旋回し、乗っている人間がこちらに手を振ってきた。どうやら敵意が無い事を示しているらしい。

 

「よし・・・行くぞ!」

 

この後、クリーブランドが「侵攻する気があったクセに!」と問い詰めるのを抑え、アズールレーン(と言っても今回はロイヤル中心であるが)とオーブ鎮守府は穏便にコンタクトを取り、ウェールズのクイーン・エリザベスとのコネがあった事が幸いし、ロイヤルとオーブ鎮守府は約1週間で国交開設を果たしたのだった。

 

・・・そして3日後、ロイヤルから視察団が派遣されるのだった。




艦娘は軍艦の力を持つ超能力者であって兵器ではありませんッ!!KAN-SENとて人間と同じような生活が出来るのですッ!!

あっ、艦娘母艦の形状はいずも型護衛艦とおおすみ型輸送艦を混ぜたものです。

次回予告

ファーストコンタクトを終え、ロイヤル視察団が派遣されることとなった。そして彼女達の鎮守府見学が幕を開ける・・・!

次回『INVOKE』

アズレンにアーマードトルーパーが出るなら、艦これにはアレが登場します。


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第4話 INVOKE

おはこんばんちわ、しきんです。

もうサブタイトルでネタバレとなっておりますが・・・気にせずご覧ください!


海暦1941年 6月5日 午前10時30分 オーブ鎮守府 アカツキ島演習場

 

オーブ鎮守府の中で最も自然豊かなこの島に設営されたオリーブドラブ一色のテントの中でイラストリアス達ロイヤル視察団・・・特にケントはテーブルに置かれているプラモデルのようなサイズの航空機に興味津々な様子である。

 

何?重巡洋艦が航空機に興味があるのか?知らんな。

 

それはともかく・・・それらよりも彼女達の興味を引くあるものがあった。

それは、18mはあろうかという頭にゴーグルのような目とアンテナらしきものが付いた巨人のような兵器・・・いわゆる人型兵器なのだ。

視察団がその人型兵器を気にしていると、勇が口を開く。

 

「では、皆様。これらの兵器の解説を始めていきたいと思います。これらは、ハワイ基地に軍事支援の一環として提供するものなのですが・・・」

 

勇はテントの横に立つ人型兵器をチラッと見た後、話を続ける。

 

「あれも提供予定のものですが、あれについての解説は最後に致しますので、是非とも楽しみにして頂ければと」

 

そう言って、傍らに立っている弓道着を着た長髪の女性の方を見る。

 

「紹介します。彼女は赤城。日本出身のエリート艦娘の1人で、我がオーブ鎮守府航空機動艦娘部隊では最強の実力を持っています」

「ご紹介に預かりました。航空母艦、赤城です。僭越ながら、私がロイヤルの皆様にこれらの艦載機の実演を行います」

 

視察団一同は赤城の自己紹介に驚いた。それもその筈、髪が黒くて長いところ以外では、彼女達の知る赤城とは全くの別物であったのだ。

 

「・・・はッ!!わ、私はイラストリアスと申します。私達は貴国の兵器に強い関心を持ってはいるのですが・・・全く見た事のないものがたくさんありますので、何度も質問するかもしれませんが、お許しください」

 

我に返って一瞬慌てるも、何とか落ち着きを取り戻したイラストリアスはそう言った。

 

「いえいえ、私とて一介の艦娘に過ぎません。今ここで私に出来る事は、皆様にこれらの艦載機がどのようなものであるかというのをお見せする事くらいしかありません」

 

赤城はイラストリアスの言葉に返答すると、テーブルに置かれた艦載機の中で赤城から見て一番左にある艦上戦闘機を手に取った。

 

「こちらは日本で開発された艦上戦闘機『烈風改二』です。零式艦上戦闘機の後継機として開発された烈風を何度も熟成して生まれた完成形です。それでは、実際の性能がどれほどのものなのかを実演してみましょう」

 

赤城がそう言うと、妖精達が演習用のラジコン戦闘機を飛ばし始めた。そして準備が整ったのを確認した赤城は天に向かって長弓を引き、矢を放った。すると、放たれた矢から炎が上がり、矢は複数の烈風改二に姿を変えた。

 

「それでは、模擬空戦を始めます」

 

赤城のこの言葉と共に、烈風改二とラジコンの模擬空戦が始まった。演習用に使われるこのラジコンは零戦と同じ性能を持ち、形も零戦と全く同じだが、度重なる熟成の末に生まれた烈風改二の敵ではなく、ラジコンはあっという間に全滅した。

 

「毎回思うんだが、あのラジコンって演習に使う意味あるのか?」

「はい。アメリカやイギリスではこういう演習が主流なんですよ」

 

勇と赤城が何気ない会話を交わしている間にも、実演は次のフェイズへと進んでいく。

さっきの模擬空戦を見ていたイラストリアス達は戦慄した。これほどの運動性とユニオンのF4Fワイルドキャットに迫る火力を併せ持つ戦闘機は、どこをあたってもオーブ鎮守府以外では見つからないだろう。その事を何とか理解する事が出来たイラストリアスは、オーブ鎮守府が持つ艦載機(最も烈風改二程度はまだまだ序の口なのだが)の性能に身震いしながらも、自国に・・・そしてアズールレーンが幸運に恵まれていたという事にホッとした。

 

(オーブが友好的で本当に良かった・・・あそこまで性能の高い戦闘機を相手にしていたら、私達はどうなっていた事か・・・。何としても、彼らの支援を取り付けなければなりません・・・・・・!)

 

覚悟を決めたイラストリアスは、より真剣に艦載機の話を聞いた。

先程の烈風改二と同じ時期に開発された艦上爆撃機『彗星改』と一航戦が前に運用していた艦上攻撃機『流星改』、そして後ろに主翼とプロペラが付いている珍しい形状の艦上戦闘機『震電改』の前期型と、いろいろな艦載機の解説が行われた。途中、昼食を兼ねた日本製軍用レーションの試食会が行われ、ケントがメロンソーダの虜になるという事もあった。そして、遂に人型兵器の解説となった。

赤城が下がり、オレンジ髪の男性が前に出る。

 

「彼はハイネ・ヴェステンフルス大尉。国連軍エース部隊『オレンジショルダー隊』の隊長を務めています」

「お初にお目にかかります。ハイネ・ヴェステンフルス大尉と言います。私の方から、この兵器の説明をさせて頂きます」

 

乙女のハートを射抜くような美しい顔立ちのハイネに、視察団一同はズキューンとなっている。

 

「では、この兵器の説明を始めます」

 

ハイネが人型兵器の前に立ってイラストリアス達に説明を始める。

 

「これはモビルスーツという兵器の、ストライクダガーと呼ばれる機体です。全高約18m、重量約55t。我が軍が保有するモビルスーツの中では操縦性と整備性に秀でており、汎用性にも優れています」

「操縦・・・となると、この兵器は人間が動かすものですか?」

「ええ、今から実演しますので少々お待ちを」

 

ハイネがストライクダガーのコックピットに入って操作すると、ハッチが閉まる。それに驚いたイラストリアス達であったが、それを後目にストライクダガーを起動させる。

ゴーグルのような目・・・カメラアイが光り、その直後にストライクダガーが歩き始めた。

 

「あっ、動きました!」

「うわあっ、すごい!動いた!」

「すごいですね!どんな構造なんでしょうか?」

 

視察団の驚愕の声を受けながら、ストライクダガーは走ったりスラスターを吹かして跳んだり等してしばらく動いた後、歩行でテントの近くに戻って機能停止、ハイネが降りてきた。

 

「このように、モビルスーツは人型機動兵器としては完成度が高く、優れた拡張性を備えています。更に重機を必要とする作業にも使われており、オーブでは建設にも・・・」

 

その後も、勇の補足を挟んだハイネの説明が10分以上も続いたが、イラストリアス達がポカンと口を開けたまま放心状態となっていたのは言うまでもない。

兎にも角にも、この5日後にハワイ基地にオーブ鎮守府からの物資がモビルスーツ込みで送られたのだった。




はい、今回はなんと『機動戦士ガンダムSEED』からストライクダガーが登場しました!
ストライクガンダムを出そうかとも思ったのですが、あれをそのまま量産するにはさすがに無理があると判断しました。だが、安心なされよ!私はガンダムをエース専用機として出す予定であります!楽しみに待っていて下され!

そして種運命ではザフトのFAITHだったハイネが何故、連合系であるストライクダガーに乗っているのかというと、オーブ基地に配備されているモビルスーツは主に連合系で、ザフト系を運用しているMS隊はオレンジショルダー隊のみとなっており、割合が連合系重視だったからです。出す予定のオリジナルMSを出す為に仕組みました。後悔は無い。

次回予告

アズールレーンとの条約締結も無事に終えたオーブ鎮守府。そんなオーブの日常を覗いてみよう!

次回『オーブ鎮守府の日常』


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第5話 オーブ鎮守府の日常

どうも、しきんです。
日常篇を描いたのですが、もう少し盛りたいと思ってもう1場面付け足してみました。
(勇の愛車どれにしようか迷ってアンケートやら活動報告で意見募集やらして不発に終わって結局自分で苦労して選んだなんて事言えない・・・)

それでは、どうぞ!


突然だが、ここでオーブ鎮守府の地理を説明しよう。

まず、このオーブ鎮守府は4つの主要となる島--ヤラファス島、オノゴロ島、アカツキ島、カグヤ島といくつもの小島からなっている。

ヤラファス島はオーブ鎮守府で一番大きな島ではあるが、火山があり、有効活用出来るスペースの割合がが他の島よりかなり小さかった為、中央に地熱発電所と温泉、北側に航空機やモビルスーツが配備されている基地、西側に輸送船専用の港、そして東側に司令部等の中枢施設が存在する。

オノゴロ島には、各国の軍需企業等の工場や研究施設が集約されており、パーツや弾薬の供給や研究開発は主にこの島で日々行われている。

アカツキ島はモビルスーツ専用の演習場となっており、オーブ鎮守府のMS部隊はここで訓練を行っている。

カグヤ島は戦後にリゾート開発を行う為、この島の軍事基地はそれに支障をきたさない程度の規模となっている為、オーブ鎮守府ではこの基地が一番戦力が少ないのである。

この他の数多く存在する小島には、レーダーやらSAM等が設置されており、厳重な防空網が敷かれている。

 

 

海暦1941年 6月7日 午後0時12分 オーブ鎮守府 ヤラファス島ポートシティ

 

オーブ鎮守府の中枢とも言えるこの島の西側には、輸送船専用の港を中心に鎮守府の一部とは思えないような沿岸都市が出来ており、それなりに活気もある。

コンビニだけでなく、レストランやカフェ、そしてバーまであり、ここで暮らすには十分といえるだろう。

そんな事情はさておき、美しい風景が見えると評判のとあるカフェのテラス席に座っている男女4人組が何やら話し込んでいた。

 

「つまり、提督は私達にMSパイロットの育成をお願いしたい・・・という訳ですね?」

「はい。三佐と一尉にこれを任せたいと思いまして。どうですか?」

「それは、まあ構わないけど・・・ゴホン。隊長は良いとして、何故俺なんですか?教官を2人派遣するなら、もう1人はヴェステンフルス大尉に頼むべきでは?彼の方が、俺より腕は良い」

「まあ、そうですけど・・・やっぱり、やるなら徹底的にやった方が良いと俺は思います、飛鳥先輩。日本最強で、世界トップクラスの実力を持つホワイトキメラ隊なら、素人でもそれなりに出来るようにしてくれる。三佐の許で育ったパイロットは、今も誰一人欠けていない」

 

黒の半袖Tシャツを着た男は勇だ。彼の隣には、ライトグレーのワンピースを着た茶髪ポニーテールの女性--大和が座っている。そして同じテーブルの、彼らと向かい合う席に男女2人組も座っている。女性の方は青いノースリーブを着てサングラスをかけた茶髪ロングで、狐耳が印象的であり、男の方はグレーのTシャツと白くて薄いジャケットを着こなし、黒髪ショートと赤い瞳がとても印象に残る者である。

狐耳の女性の名は新沢天城(にいざわ あまぎ)。日本国航空自衛隊最強のエースで、MSパイロットになる前は戦闘機のパイロットであった。そして赤目の男性の名は飛鳥真(あすか しん)。彼も元・戦闘機パイロットで、その時からの天城の部下でもある。実は真は勇の中学校時代の先輩で、勇のMSパイロットの知り合いの中では最も親しい仲である。

 

「勇、ヒヨッコ達はどれくらいまで育てればいいんだ?」

「先輩・・・飛鳥一尉や新沢三佐がヒヨッコと言っている俺の友人達と同じレベル・・・というところですかね?」

「はぁ・・・勇、お前そりゃ酷な話だろ?確かに和樹とサイは、入隊してからまだそんなに経ってない未熟な奴らだ。だけどな・・・」

「ええ、提督。あの2人も中々の努力家です。確かにまだ未熟ですが、優れた才能はあるかと」

 

真と、それに続いて天城が勇の言葉にそう答える。

実際、勇が提督になってからまだ間もない頃からの友人である相沢和樹(あいざわ かずき)とサイ・アーガイルは、訓練学校を卒業してすぐに実戦を経験する事になったが、運が良かったとはいえ無事に生還し、その後も非撃墜数ゼロのまま今日まで生き延びている。

 

その言葉を聞いて勇は満足そうに笑みを浮かべると、他のテラス席に向かって・・・

 

「だってさ。おーい!」

 

勇のこの言葉に何かを察して顔を伏せて笑う天城と、勇の突然のこの行動に驚く真。

真が勇の視線と同じ方向を見ると、そこには2人の男性の姿があった。

 

「ブフッ!?」

「ハハハ、バレちゃったな」

 

噂をすれば影、勇の視線の先にいたのは思わずコーヒーを噴いてしまった茶髪セクシーコンマが特徴の和樹と少し気不味そうに苦笑いする金髪ショートでいつもサングラスをかけているサイだった。

 

「・・・嵌めましたね?こんな事していたら嫌われますよ、提督」

「フフフ・・・和樹達には、三佐の口から褒めて頂いた方が結構効くと思いましてね」

 

呆れた天城の指摘を受け流して勇と大和は席を立ち、この時点での自分を含む4人の料金をテーブルの上に置く。そして路肩に停めてあった日産・スカイラインGT-R(R34)に乗り込む。

 

「では、ハワイ基地のパイロット候補生の教育、宜しくお願いします」

 

勇はエンジンを掛けると、天城に念押しする。するとその時、真がフリーズから立ち直った。

 

「あー!お、おい勇!お前、何かっこつけてんだー!」

「追加で注文したのまでは払いませんよ、先輩」

 

顔を真っ赤にして怒る真に言い訳無しでそう言うと、勇はアクセルを踏んで車を発進させた。

 

「あ、ちょ!人の話は最後まで聞けーーーッ!!」」

 

車で去って行く勇に、真が叫び声を上げる。

 

「あっ・・・じゃあ、俺達も失礼します」

「新沢三佐、飛鳥一尉、失礼します」

「ああは言ったけど、訓練を怠らないようにね」

 

勇が去ったのを見届けた天城は、その場から離れていく和樹とサイに釘を刺す。

 

「はい!これからも精進します!」

 

離れていく和樹の返事を聞き、天城は会計で代金を支払う。4人のコーヒーは既に空であった。

 

「領収書は提督に押し付けておく必要がありますね・・・」

 

もちろん、この混乱(?)を生み出した勇への報復も忘れずに・・・。

 

 

同時刻(オーブ時間) ユニオン NYシティ アズールレーン総司令部

 

勇達がこんなやり取りをしていた頃、NYシティにあるアズールレーン総司令の会議室で、2人の男が話していた。

1人は20代前半の茶髪碧眼のイケメン士官、もう1人は50代後半の金髪緑眼で典型的な口髭が似合う将官だ。

 

「それで、話とはどういったものでありますか?」

 

イケメン士官の名はアレックス・グレイ。バージニア州出身で、軍人家系の影響でアズールレーンの士官となる道を選んだのである。

アレックスは目の前にいる将官に質問する。

 

「君も聞いているかもしれないが、この前・・・オーブ鎮守府と名乗る者達が現れたのは知っているかね?」

 

アレックスの質問に答えた将官の名はセドリック・ギンズバーグ。オハイオ州出身で階級は少将という地位から、エリート将官と呼ばれているが、反重桜主義者なのではとも言われている。そして先の軍縮の影響もあって、現地での指揮を執った事は殆ど無い。

 

「彼らは人類の艦船にもセイレーンの量産型にも似た艦船でロイヤル艦隊と接触し、なんと国交を締結してアズールレーンに加盟したのだ。それは良かったのだがね・・・」

 

ギンズバーグは少し間をおいて話を続ける。

 

「その彼ら・・・オーブ鎮守府のリーダーは重桜人なのだよ。しかも生意気な事に、我がユニオンの最新鋭機『F4F(ワイルドキャット)』の性能を上回る航空機に留まらず、18m程はあると言われるモビルスーツなる人型兵器を有しているとの事だ。このような生意気な連中は我々の手で管理しなければならんのだよ。そこで、だ」

 

ギンズバーグの意図がどうにも分からないアレックスにこう言った。

 

「ハワイ基地着任にあたり、本日を以て君を二階級特進とする」

 

ギンズバーグのこの発言にアレックスは驚愕した。それもその筈、戦死する訳でもないのに二階級特進するというのだ。驚かない訳が無い。

 

「二階級特進、ですか・・・!?」

「うむ。独立遊撃艦隊とはいえ、上層部には敬意を払わなければならんからな。これで彼らの行動を制限出来るだろう」

「しかし、彼らはアズールレーンの加盟国、しかもロイヤル公認の独立遊撃艦隊ですよ!?そんな事をすれば、鉄血が離反した時と同じ轍を踏む事になります!」

 

アレックスは反論する。仮にもオーブ鎮守府はアズールレーンの加盟国であるのだ。その友と言うべき彼らを管理しよう等と、アレックスにとっては許せないものであった。

これに対して、ギンズバーグはこう問うた。

 

「グレイ大佐・・・我がユニオンの誇りは何だね?」

「・・・?『自由』と『正義』ですが・・・」

 

いきなり何を言い出すのかと言いそうな表情でそう答えるアレックスを笑いながら、ギンズバーグはこう言った。

 

「その通り。我がユニオンは正義を以て彼らを管理しなければならん。そして来るべき重桜との戦争に備える為にもだ。分かるかね?」

「・・・ですが!」

「それでは頼んだよ、グレイ大佐。君の活躍に期待しているよ」

 

アレックスの反論を聞く事無く、ギンズバーグは会議室を後にした。

 

「全く・・・こんな事、馬鹿げている!」

 

アレックスは、傲慢な上官に対する怒りを募らせていた。




なんか陰謀めいたラストになっちゃいましたね・・・。
何はともあれ、遂にアズールレーン側の指揮官が登場しました!
勇達オーブ鎮守府とアレックス達ハワイ基地の今後の活躍にご期待ください!

次回予告

ファーストコンタクトから2ヶ月が経ち、ハワイ基地はいよいよ本格的に機能し始める。勇とアレックスは出会い、太平洋を舞台とした物語が動き始める。

次回『提督と指揮官の邂逅、迫り来る戦い』


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第6話 提督と指揮官の邂逅、迫り来る戦い

どうも、しきんです。
昨日、七夕で短冊を書くのを忘れてしまったので今日書こうかと思っております。

もうすぐ勇達の転移後初のドンパチ回がやって来るのでお楽しみに。
それでは、どうぞ!


海暦1941年 8月2日 午前10時28分 アズールレーン・ハワイ基地

 

あれから2ヶ月が経ち、ハワイ基地は遂に完成した。

当初の設計には無かったレーダーやらMS用格納庫やらを追加建設する事となり、途中ペースが少し遅くなった時期があったが、妖精さん達が手伝ってくれたおかげで完成予定日より5日早く基地が完成したのである。

 

今日、指揮官の着任式が行われる。そして基地には勇と大和の姿もあった。

 

「提督はここに来るのは2ヶ月ぶりですね」

「ああ、着任式に招待されるなんてな・・・」

 

何故ここにいるのかというと、勇もこの着任式に招待されたのですさのおでまたハワイ基地にやって来たのである。大和は勇の秘書艦として勇と行動を共にしているのだ。ちなみに、勇と共にやって来た赤城以下、護衛艦隊は基地周辺の警備に参加している。

 

「そういえば、指揮官っていうのは俺達の世界でいう提督のようなヤツだったな。着任する指揮官ってのはどんな人なんだ?」

「ウェールズさんの話では、その指揮官は軍人家系生まれだそうです」

「そうか・・・俺に似た性格なのかな・・・・・・」

 

2人がこんなやり取りをしていた時だった。

 

「ユウ・ミカワ中佐ですね?」

 

軍服をちゃっかり着込んだ男性が声をかけてきた。20代前半の茶髪碧眼と、勇とはまた違うような大人な印象のイケメンである。

 

「はい、そうですが?」

「初めまして、今日からこの基地に着任するアレックス・グレイ大佐だ。以後よろしく頼む」

 

勇は驚いた。無理もない、普通この年で大佐なんてどこぞの紅い彗星でもない限りはあり得ないのだ。

 

「三河勇中佐です。よろしくお願いします」

 

そして2人は握手した。

 

 

同時刻 同基地 広場

 

一方その頃、天城と真は広場にいた。

さっきまでMS用格納庫で作業をし、一息ついたところでここに立ち寄っているのである。

 

「良い場所ですね。桜も綺麗ですよ」

「そうね。公園なんて、何ヶ月ぶりくらいかしら?」

 

天城達が話していると、天城達の来た方向とは逆の方から中学生ぐらいの伸長の少女3人組がやって来た。

そして、淡い紫色のロングヘアーの少女が天城達の許に走ってきてこう言った。

 

「あ・・・あの、ちょっといい・・・・・・??」

 

その声に天城が気付いた。

 

「・・・?どうしたの?」

「えっと・・・」

「あれ?ユニコーンちゃん、その人達誰?KAN-SENじゃなさそうだけど・・・」

「・・・・・・zzz・・・眠い・・・・・・」

 

遅れて紫髪緑眼のポニーテールが印象的な少女と白髪ポニーテールの眠たそうな少女が近づいてきた。

 

「フフフ・・・自己紹介しないとね。私はオーブ鎮守府から出向してきた新沢天城っていうの。よろしくね」

「同じくオーブ鎮守府から来た飛鳥真。よろしくな、3人共!」

「ええッ!?貴方達が今噂の人型兵器のパイロットさんですか!?お、お会いできて光栄です!私、ジャベリンと言います!よろしくお願いします!」

「ラフィー・・・終わり・・・zzz・・・・・・」

((ええ・・・))

 

それぞれ軽く自己紹介する。最もユニコーンは照れくさそうに無言で笑い、ラフィーのは終わるのが早すぎて2人がドン引き(?)してしまったのだが。

 

「そういえば・・・ユニコーンちゃんは私達に何か用があるんじゃないの?」

「あっ、そうだ!えっと・・・お姉ちゃん達、ゆーちゃん知らない?この子なんだけど・・・・・・」

 

そう言ってユニコーンは1枚の絵を天城達に見せる。

その絵は見事なまでに上手に描かれており、色を付けてコンテストに出せば入賞出来そうな代物である。

 

「ユニコーンのゆーちゃん、私の友達なの。何処かにいって、捜してるの。お姉ちゃん達、知らないかな?」

「(上手ね・・・)ごめんね。私達も今日ここに来たばかりで、見ていないわ」

「(上手いな・・・)俺も、隊長と一緒にここに来たから見てないな」

 

2人の返答に、ユニコーンはしょんぼりと頭を下げる。そりゃあ誰だって大好きな友達が行方不明になったら心配するものだ。世界が違ってもそれは変わらないだろう。

 

「まあまあユニコーンちゃん、次だよ次!」

「頑張ればきっと見つかる・・・zzz・・・・・・」

 

ジャベリンとラフィーがユニコーンを慰める。それを見ていた天城は決断した。

 

「・・・分かった。私達も手伝うわ。丁度、時間が余っているし」

「へっ!?」

「何が『へっ!?』よ。こういう時はフォローしてあげないとモテないわよ」

「は、はい・・・」

「ええッ!?良いんですか!?」

「こういう時は助け合いでしょう?一緒に友達を見つけるわよ」

 

それを聞くや否や、ユニコーンの表情は泣きじゃくんだ笑顔となった。

 

「ありがとう、お姉ちゃん達・・・!」

 

斯くして、天城達はゆーちゃんを捜す事にした。

 

 

ゆーちゃん捜索開始から十数分後 近くの丘

 

あちこち捜して天城達はこの丘にやって来た。

 

「ゆーちゃんどこー!」

「ゆーちゃんどこですかー!」

「ゆーちゃん、一体どこにいっちゃったんでしょうか・・・」

「ゆーちゃんどこだー!?」

「ゆーちゃん・・・どこ・・・・・・」

 

全員声を上げるが、一向に見つからない。

 

(あまり長い事捜す訳にはいきませんね・・・11時半に始まるから、30分程前には戻らなければ・・・)

 

天城がそう思っていると、ラフィーがある人影を見つけた。

 

「じゃあ、あそこにいる人に聞いてみる」

 

その言葉を聞いた一同はその人・・・ローブ姿の少女に近付いた。

すると、その少女の足にぬいぐるみのような何かが当たった。

 

「ん?あのぬいぐるみ・・・」

「ゆーちゃん!」

「えっ!?あれがゆーちゃん!?」

「うん!」

 

ぬいぐるみの正体がゆーちゃんだという事に真が驚く。そして、ユニコーンはゆーちゃんを抱きしめた。

 

「ゆーちゃん見つけた!良かった・・・!ありがとう!」

「いえ・・・お礼を言われるような事はしていないので」

 

少女はユニコーンにそう言った。すると、ジャベリンが一同の前に出てこう言った。

 

「それにしても、ここは綺麗な場所ですね!」

 

ジャベリンのこの言葉に、少女は辺りを見渡す。

確かに、ここならいい景色が見る事が出来る。カメラマンや画家にここを教えたら大喜びするだろう。

 

「風が気持ちいい・・・」

「確かに、ここでランチするにはいいわね」

「片桐さんにここ教えたら1枚だけも写真撮りに行きそうですよね」

「こんないい場所を知っているなんて、あなたなかなかやりますね!」

「え・・・あ、どうも・・・・・・」

 

ジャベリンからの称賛の声に、少女はぎこちない様子で言う。

 

「私、ジャベリンと言います!」

「ラフィー」

「ユニコーン」

「私は新沢天城。階級は三佐、一般的に言えば少佐よ」

「俺は飛鳥真。階級は一尉で、新沢三佐の部下なんだ」

 

一同はそれぞれ軽い自己紹介をする。そしてジャベリンが、少女にこう聞いた。

 

「名前、何ていうんですか?」

 

その言葉に少女は動揺した。

 

「え・・・わ、私は・・・」

(・・・!?この子、もしかして―――ッ!?)

 

天城が少女が何者かという事を見抜いた直後、何かが近づいて来るのに気づき、

 

「皆、伏せて!」

 

そう叫び、一同がその言葉通りに伏せた刹那、鳥のような謎の物体が時速400㎞以上は出てそうなハイスピードで一同をニアミスするように通り過ぎて行った。

 

「きゃっ!」

「うぅん・・・」

「キャー!」

「な、何だぁ!?」

 

強烈な風圧が襲い掛かってきたが、一瞬だったので大事には至らなかった。

 

「何?鳥かな?」

「いえ、違うわ・・・。あの風圧は鳥が出せるレベルではないわ・・・!」

「だ、だったら何なんですか今の・・・!?」

「・・・?あれ、あの子がいない」

 

ジャベリンが今さっきまでいた少女の姿が無い事に気付く。天城はそれを聞くと、何かを悟ったかのような様子で真の肩に手を置いた。

 

「真・・・そろそろ戻るわよ」

「え?あっ!そんじゃ、また会おうな!」

 

真を連れて持ち場に戻る途中、天城は・・・

 

(・・・やっぱり、そういう事だったのね・・・・・・)

 

そう思っていた。

 

 

「こちら綾波・・・」

『作戦行動中だぞ。コードネームを使え』

「あっ・・・こちらユズ。基地の構造は大体把握した、です」

『よし・・・こちらもそろそろ仕掛ける』

「それともう一つ・・・」

『なんだ?』

「基地に少佐の階級の軍人と、その部下がいました。恐らく、この基地に指揮官だと思われます」

『ほう?佐官クラスの指揮官とはな・・・我らもそこそこ指揮は出来るが、我らを凌駕する才能を持っている達人かもしれんな。その者達の顔は?』

「はい。すぐに送る、です」

『・・・ご苦労。では、状況を見て合流しろ』

「了解」

 

 

同時刻 とある海域

 

ハワイ基地から西に150㎞程離れたこの海域で、2人の・・・いや、2隻のKAN-SENが話していた。最も、会話が弾んでいたのはある人物の写真を見るまでだったのだが・・・。

 

「・・・は?」

「加賀ぁ~?そんな顔して、一体どうしたのかしら?」

「ね・・・姉様・・・」

「どうしたの?そんなに改まって―――」

「こ・・・これを!!」

「さっき言ってた指揮官と思しき人の・・・」

 

その写真を見た2隻のKAN-SENは絶句した。何故なら、その写真に写っている人物は・・・

 

「天城、姉様・・・・・・!?」

「嘘だ・・・!何故、天城さんが・・・!!」

 

彼女達―――一航戦にとってかけがえのない存在なのだから。




≪超絶速報≫重桜の一航戦、遂に我らが天城姉様の生存を知る。
ところで、東京を舞台にした暴走カーアクション小説っていけますかね?

次回予告

開戦の時を悟った天城、天城の生存を知った一航戦、双方の想いが揺らぐなか、勇達は転移してから初めての戦闘が幕を開ける。

次回『初陣!アズールレーンVS一航戦&セイレーン艦隊』


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第7話 初陣!アズールレーンVS一航戦&セイレーン

どうも、しきんです。
読者の皆様、暑中お見舞い申し上げます。
遂に勇達の転移後初のドンパチ回がやってまいりました。
果たしてどうなりますことやら。

・・・今回はコマンドーネタをぶち込んでみました。
それでは、どうぞ!


午前11時26分 アズールレーン・ハワイ基地

 

天城達が大急ぎで持ち場に戻り、着任式がもうすぐ始まるという時にそれらは来た。

 

『レーダー室よりグレイ大佐!西方よりセイレーン接近!』

「なっ!?」

「セイレーン、だと・・・!?」

 

この放送と共に基地中に警報が響く。勇とアレックスはこの報告に戦慄した。勇の方はまだ見ぬ敵に対する警戒から、アレックスの方は着任早々セイレーン戦を体験するとは思わなかった事からによるものである。

 

「グレイ大佐、こちらは我が艦隊の指揮を執ります」

「はっ?あ、ああ!着任早々こんな事になるとは思わなんだ。すまないが、援護を頼む!」

 

アレックスの言葉を聞き、勇は大和と共にすさのおに向かって猛ダッシュした。

道中、勇は無線機を取り出して赤城達に通信を入れた。

 

「聞こえるか!?西からセイレーンがやって来る!至急、迎撃にあたってくれ!」

 

そう言うと、勇は無線をしまった。

 

「大和、すさのおに着いたらすぐに迎撃してくれ!」

「分かりました!」

 

そうやり取りすると、2人は急いですさのおに戻って行った。

 

 

1分後

 

遂に、基地防衛戦が始まった。

ここで、双方の戦力を比較してみよう。

 

・アズールレーン

駆逐KAN-SEN(+駆逐艦娘):34隻(+3人)

軽巡KAN-SEN(+軽巡艦娘):13隻(+0人)

重巡KAN-SEN(+重巡艦娘):10隻(+2人)

戦艦KAN-SEN(+戦艦娘):プリンス・オブ・ウェールズ(+大和)

空母KAN-SEN(+空母艦娘):2隻(+一航戦)

戦闘機:烈風改二、震電二一型(震電改前期生産型)、翔電改、F4F、シーファイア

爆撃機:彗星改、木星改、スクア

攻撃機:流星改、TBF、ソードフィッシュ

モビルスーツ:GAT-01 ストライクダガー、他2機

 

・セイレーン

駆逐艦:5隻

軽巡洋艦:3隻

重巡洋艦:2隻

空母:2隻

 

アニメ版を観た事のある読者の方々にはお分かりであろう。セイレーンの戦力がアニメ版そのまんま(多分)に対し、アズールレーン側の戦力がかなり強化されている。

・・・何、他2機とは何だ?それは後々分かる事である。

 

それはともかく、戦局はアズールレーンが有利に立っていた。

 

 

同基地 司令室

 

「すごいな、オーブ鎮守府がハワイに輸出した艦載機は・・・やはり戦闘機は機動性が命か」

 

司令室で指揮を執っていたアレックスは、烈風改二と、震電二一型がそれぞれ繰り広げているドッグファイトに感心していた。

するとその時、レーダー室からとんでもない報告が舞い込んできた。

 

『た、大変です!突如、レーダーがジャミングを受けました!』

「何!?」

 

 

同時刻 すさのお CIC

 

ここで、勇は艦隊の指揮を執っていた。

 

「戦況はこちらが有利か」

 

勇はそう言いつつも、険しい表情を変えなかった。というのも、セイレーンが何か隠し球を持っていると踏んだからなのだ。そして、モニターに映し出されているセイレーンを見ながら考え始めた。

 

 

(さて・・・セイレーンと戦うのは今回が初めてだが、問題は深海棲艦とセイレーンはどう違うのか、というところか。・・・ん?いや、待てよ・・・)

 

勇はある事を思い出す。それは、プリンス・オブ・ウェールズがセイレーンについて説明していた事である。

 

(セイレーンには未だ詳細が不明な点が多くある。実弾兵器で量産型セイレーンにわずかながらダメージを与えられるという噂もあるが、それが本当なのかも不明なのであまり信じない方がいいだろう)

 

そう、それはセイレーンに実弾兵器が効くかもしれないという噂であった。

 

(そうだ!深海棲艦には艦娘以外からの攻撃では効かなかった実弾兵器が効くかもしれない。やってみる価値はありそうだ)

 

勇はとりあえず機会があれば実戦でこの噂を実証してみようと考えていた、まさにその時だった。オーブ鎮守府から報告が舞い込んできたのは・・・。

 

『提督!緊急事態だ!』

「どうした、長門?」

『こっちにも敵が来ている!敵機は・・・』

「・・・何だって!?」

 

 

更に1分後

 

セイレーン艦隊はもう重巡と空母の計2隻しか残っていなかった。

しかし―――突如として戦況は変えられる事となる。

 

『セイレーンと戦う為、人類は私達を造った』

「ッ!?」

「なんだ、この声?」

 

何の前触れもなく桜が散り、辺り一帯に謎の声が木霊する。

 

『だけど、やがて理念の違いにより四大陣営は二つの勢力に分かれる』

『一つはお前達。あくまで人類の力だけでセイレーンと戦うユニオンとロイヤル』

『そしてもう一つは・・・』

 

その直後、桜吹雪の中から2隻の()が姿を現す。

 

「その紋章は・・・」

『セイレーンを倒す為ならセイレーンの技術をも利用する。鉄血と私達、重桜』

 

そして、その艦・・・否、空母の甲板の上で片方の空母の艦載機は赤の、もう片方の空母の艦載機は青の炎を纏い、次々と発艦していく。

 

「ね、ねえ・・・これって・・・」

「嘘、だろ・・・!?」

 

その2隻のKAN-SENはこう言った。

 

「一航戦、赤城」

「一航戦、加賀」

 

「「推して参る!!」」

 

そう、その2隻のKAN-SENは重桜の一航戦なのだ。

しかし、彼女達以外の全員は知る由も無かった。見る者を魅了させるその表情の裏で、彼女達は内心焦っていた事を・・・。

 

 

同時刻 すさのお CIC

 

重桜の一航戦のこの宣言は、すさのおとハワイ基地にも伝わっていた。

 

(そんなバカな・・・真珠湾攻撃は12月にあったはず・・・!)

 

勇はモニターで重桜の一航戦を見ながら動揺する。が、勇はすぐに落ち着きを取り戻すと、口を開いた。

 

「一航戦は艦戦隊を重桜の一航戦から発艦した艦載機への迎撃に充てろ!大和は三式弾を装填して対空迎撃!駆逐艦の3人と軽巡の2人は対空迎撃に入れ!だが、全員対水上警戒は怠るな!異世界で多少の違いがあるとはいえ、敵の巡洋艦や駆逐艦がいる可能性がある!」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

勇の命令を受け、艦娘達は即座に行動に入る。日頃の訓練と勇のずば抜けた指揮能力の賜物である。

 

 

そして、遂にアズールレーンと重桜の初の海戦が始まった。

 

「各機、残らず迎撃して!例え、相手が零戦や九九艦爆、九七艦攻でも構わず撃ち落として!」

 

艦娘の一航戦と空母KAN-SEN達は残りの艦戦を重桜の一航戦に差し向け、迎撃態勢を取る。

 

「主砲副砲、三式弾装填!」

 

大和も三式弾や対空砲を用いて対空迎撃を行う。ただし、プリンス・オブ・ウェールズが艤装の換装に手間取っている為、今のところ対空迎撃を行っている戦艦は大和ただ1人という状況である。

 

「こりゃまるで上級演習だな!」

「摩耶、これ実戦ですよ?」

 

相変わらずテンションが高い摩耶の言葉を鳥海が優しく咎める。そんなやり取りをしながらも、2人は対空砲火で次々と敵機を墜としていく。

 

「お友達を・・・いじめないで!」

 

更に一航戦に続いて、ユニコーンが巨大化したゆーちゃんに乗って迎撃する。

 

 

一方、ジャベリンとラフィーも迎撃に参加していた。

2人は初陣とは思えないような連携で敵艦載機を次々と撃墜していく。

 

そんな時だった。

 

「「!?」」

 

突然、どこからともなく砲弾が2人の目の前に着弾し、その直後に水しぶきがあがった。

2人はこれは一体何事かと砲弾が飛んで来た方向を見る。すると、そこにはある駆逐艦の姿があった。

 

「行きます!」

「あ、あなたは・・・!」

 

そう、今2人と対峙しているのは、戦闘が始まる前のあの時に会ったあの少女、否、KAN-SEN・・・

 

「重桜、吹雪型駆逐艦特型『綾波』!」

 

重桜の綾波であった。

 

だがしかし、重桜勢はこの時まだ知る由も無かった。

迎撃に出たのは、艦娘とKAN-SENだけではなかったという事を・・・。

 

 

同時刻 アズールレーン・ハワイ基地 MS用格納庫周辺

 

ここに向かっていた一部の零戦と九九艦爆の編隊に青を基調とした色の金属製の巨人のゴーグルに覆われた奇妙な二つ目(ツインアイカメラ)が向けられていた。

 

「何だ、あの巨人は・・・まあいい、やれ!」

 

加賀がそう言うと、1機の九九艦爆が先行して巨人を爆撃しようと急降下を始める。だが、その九九艦爆は金属製の巨人―――GAT-01『ストライクダガー』の頭部バルカン砲『イーゲルシュテルン』によって、爆弾も落とせぬまま空中で粉砕された。

 

これを見た加賀は思わず目を見開いた。

 

「な―――なんだあれは!?頭に機関砲があるのか!?」

 

だが、加賀は飽和攻撃で殺ればいいかと複数のストライクダガーに先程の編隊を差し向けた。

 

一方的な展開であった。

20㎜弾を弾き、ギリギリまで降下して爆撃しようとしてもストライクダガーの頭部に内蔵されているイーゲルシュテルンが火を噴き、零戦や九九艦爆を無残な鉄屑に変えていく。

ある零戦は、辛くも爆弾をストライクダガーに当てる事に成功したものの、その爆弾はシールドでやすやすと弾かれ、そのまま反撃を受けて撃墜されたり、またある九九艦爆は75㎜弾が掠めただけで片翼が折れ、錐揉みしながら墜落した。

あまり近づかなければいいだろうと判断した零戦が距離を取ろうと高度を上げようとするが、ストライクダガーの右手に持つビームライフルから放たれた粒子の弾によって塵に還った。

 

ビギューン!ビギューン!ビギューン!

 

そんな中、明らかに姿も動きも異なるモビルスーツが空を飛び回っていた。

胴体こそストライクダガーに似ているが、頭部にはV字アンテナとゴーグルの無いツインアイカメラが、背部には大型のフライトユニットが備え付けられていた。

それは、GAT-01D1『デュエルダガー』をベースに日本とアメリカが共同開発した日本の主力MS・・・MTF-02『月光』である。

その月光は、低空を飛んでいたかと思えばいきなり上昇し、必死に逃げる零戦2機をビームライフルでそれぞれ一発ずつ当てて撃墜、素早く回れ右してさっきの零戦より近くを飛んでいた九九艦爆3機を2挺のイーゲルシュテルンで掃射して撃墜、そして至近距離にある零戦を背部に装備されているビームサーベルを抜いてそのままその零戦を袈裟斬りにして撃墜。この一連の動作で一気に5機もの敵機を海面に叩き落した。

 

『すごい・・・!新沢教官、あんなのが出来るなんて・・・!』

『ファング4、モタモタするな!他の機もだ!動き止めたら殺られるぞ!』

『『『『『り、了解!』』』』』

 

ストライクダガーに乗っているパイロットの1人がその隊長機である月光のパイロット・・・天城のテクニックに見とれているのを同じく月光に乗っているファング2こと真が注意する。

天城はというと、真とストライクダガーのパイロット達とのやり取りを聞きながら航空甲板がいくつか付いた幻獣を召喚した加賀と対峙していた。

 

「加賀・・・随分成長したわね。こんなもの召喚するなんて・・・そうだ」

 

何かを思いついた天城は、月光を動かす。そして幻獣から放たれる攻撃を躱してある程度近づくと、イーゲルシュテルンを2~3発撃った。

すると、一見大したものではなかったが、わずかながらダメージを与える事が出来た。

 

(なるほど、深海棲艦には艦娘以外からの実弾攻撃が効かなかったけど、KAN-SENや今の幻獣、セイレーンには多少軽減されてもダメージを与える事が出来るかもしれないわね。今度、提督にMS用の対艦バズーカの開発を提案しようかしら・・・)

 

天城は天城で、今後のセイレーン対策を考えていた。

 

 

重桜の一航戦は目の前の光景に戦慄していた。

それもその筈、自分達も予想を上回る数と質、そして未知の人型機動兵器という相手の想定外の戦力を前にして冷静でいられるような者などそうそういないのだ。

 

(不味いわね・・・もうそろそろ退いた方がいいかしら?エネルギーは十分集まった筈だから、これ以上の戦闘は無意味・・・とにかく、このまま戦闘を継続しては、本当にただじゃ済まないわ!)

 

重桜の赤城がそう思っていた時だった。

どこからか1羽の鳥が飛んできて―――そのまま加賀の幻獣を貫いた。

その直後、鳥は青い航空機へと姿を変えた。

 

「今度はなに!?」

 

重桜の赤城は、鳥が飛んで来た方向を見る。そして、その方向にいる者の正体に気付くと、絶望のあまり倒れそうになったがなんとか耐えた。

そう、そこにはある空母がいた。

 

「ああ・・・なんて最悪なタイミングで来るのよ・・・・・・」

 

白と黒のツートンの軍服、長く美しい銀髪、その姿はまさに今まで多くの戦いを生き抜いてきた勇敢な戦士のようである。

 

もちろん、重桜の一航戦以外の者もその姿を見ていた。

 

 

艦娘の一航戦

 

「あの娘は・・・」

「・・・彼女もいるんですね」

 

 

大和

 

「あの娘は・・・もしかして」

 

 

摩耶&鳥海

 

「お、おい。あれは・・・」

「ええ・・・あの第二次世界大戦最大の武勲艦・・・」

 

 

吹雪&睦月&夕立

 

「あれは・・・」

「あの人は!?」

「まさか、来たっぽい!?」

 

 

アズールレーン・第01MS中隊

 

『あれは・・・!』

『あれはもしかして・・・』

『なんだ、今のは!?』

「あの娘が・・・ユニオンの英雄・・・・・・」

 

 

すさのお CIC

 

「あの空母・・・もしや」

 

 

アズールレーン・ハワイ基地 司令室

 

「東北東より味方艦が接近!これは・・・!」

「ああ、間違いない・・・ユニオン最強のKAN-SEN・・・

 

エンタープライズだ!」

 

 

一周回って

 

「エンタープライズ、エンゲージ!」

 

その言葉と共に、彼女―――エンタープライズは艦船形態から艤装形態に移行し、自身が召喚した実寸大(1/1スケール)の戦闘機に飛び乗って重桜の加賀へと飛んで行き、そのまま交戦する。

 

「え―――ええーい!こうなったら貴様だけでもぶちのめしてやる!!」

 

重桜の加賀はやけくそで幻獣から艦載機を放ち、容赦なくエンタープライズを攻撃するが、エンタープライズは大型の弓を引いて重桜の加賀が放った艦載機を邪魔だと言わんばかりに撃墜していく。

 

その光景、まさにカカシ達をドンパチぶちのめしていく元コマンドー、ジョン・メイトリックスの如し!!

 

・・・流石に筋肉は普通の女性と同じくらいの量なのだろうが。

 

運良く撃墜されずに済んだ艦載機達も、エンタープライズの体術で絡め取られて先程エンタープライズに撃墜された艦載機達の後を追った。

 

KAN-SEN達はともかく、艦娘達は驚きっぱなしで開いた口が塞がらない。

本来、艦船というものは遠距離戦が基本であり、接近戦などかつての大航海時代の海賊でもないのでほとんどやる事はない。

それは艦娘とて大体同じであり、艦娘は基本訓練を受けている為、近接戦闘も可能であり、一部の艦娘も実践こそしているが、それでも遠距離戦は基本中の基本である。

ましてや、戦闘の殆どが艦載機に委ねられるであろう空母が目の前で殴り合いに持ち込むなど全くないが故に、ここまで驚くのも無理はない。

 

 

すさのお CIC

 

そして、それは勇も同じであった。

 

「なんだあれ・・・空母がこんな戦い方をするなんて、一体何の冗談だ!?」

「嘘だろ・・・KAN-SENはこんな戦い方もするのか!?」

 

勇と戸高はエンタープライズと重桜の加賀の戦闘が映し出されているモニターに見入っていた。

 

(おいおい・・・KAN-SENって確か艦娘に似た存在で、ヒトの形をした艦とかプリンス・オブ・ウェールズが言っていたよな。なんか概念がズレてないか!?)

 

モニターに映る信じられない光景に勇はそう思う他無かった。

 

 

そして、当のエンタープライズの方はというと、

 

「いけっ!」

「ッ!?」

 

幻獣に弓を引き、爆弾を投下して幻獣の頭部辺りを吹き飛ばしていた。

そして幻獣の上に飛び移ると、重桜の加賀めがけて一直線に走り出した。

 

「ぶっ殺してやる!誰が貴様なんか!貴様なんか怖かねええええッ!!

 

野 郎 ぶ っ 殺 し て ヤ ア ア ル!!!

 

加賀はそう叫ぶと、蒼いオーラを纏い、目をも光らせる。だが、エンタープライズはその気迫に臆することなく走る。

 

「ま、待ちなさい!加賀!」

 

重桜の赤城は加賀を抑えようとするが、時既に遅し。重桜の加賀は目の前にいるエンタープライズをぶちのめす事で頭がいっぱいで、聞く耳など持っていない。

 

「ゔあッ!!」

 

重桜の加賀は攻撃するが、エンタープライズは弓を振り回して弾いていき、遂にエンタープライズと重桜の加賀は互いの息が顔に当たるか否かという距離まで近づいた。そして・・・

 

「貴様・・・ッ!!」

「取ったぞ・・・!」

 

エンタープライズがゼロ距離で放った矢は、重桜の加賀の胸に突き刺さった。

 

「ぐわああああああああああああッ!!」

 

胸に矢が刺さった事によって加賀はもだえ苦しみ、幻獣も大きなうめき声を上げながら消滅した。

その直後、エンタープライズは華麗に着水した。

 

「すごいわね・・・流石、ビッグE・・・」

「あちらの私は・・・まだ倒れてはいないみたいだけど・・・・・・」

 

一部始終を見ていた艦娘の一航戦は複雑な気分であった。

 

「ぐっ・・・私の体に傷を!この体は姉様の!!」

 

重桜の加賀は意味深な発言を言い放ち、反撃に転じようとする。だが、ここで赤城が加賀を制した。

 

「そこまでよ、加賀」

「姉様、私はまだ戦えます!」

「分かっているわ。でも、そろそろ潮時よ」

 

ここでようやくプリンス・オブ・ウェールズとイラストリアスが出てきたが、この場にいた量産型セイレーンは既に撃破されていたので、今回は戦果無しで終わった。

 

「お姉ちゃん!」

「遅いよ全く・・・」

「すまない、艤装の換装作業が予想以上に手間取ってしまってな・・・」

 

そして、重桜の一航戦も・・・

 

「目標は・・・まあ、何とか上々の戦果は出せたわね・・・ここでお暇しましょう」

「は、はい・・・」

「待て、逃がすと思うか?」

「あ、あ~ら怖い怖い。そんな目で睨まれたら私どうにかなってしまいそう・・・いいえ・・・もうどうにかなっているのかしら。ねぇ、加賀もそうでしょう?」

「そうですね、姉様。多分あの空を飛び回っていた巨人兵器に乗っているのではないでしょうか?引き際もあの人に似ています」

 

加賀の考えを聞いた赤城は、1枚の写真を出した。その写真には、赤城と加賀、そしてもう1隻のKAN-SENが写されていた。

 

「フフフ・・・もうすぐ・・・もうすぐ会えますわ。だから、待っていてください・・・」

 

赤城は顔を赤らめて笑う。

 

「ん!?」

 

その時、別の方向から鳥のような紙・・・あの時、綾波を木の上に移動させたものに似たものであった。

そして、その方向にいたのは五航戦の片割れ、瑞鶴である。

 

「先輩方、お怪我は!?」

「私は大丈夫!加賀がケガをしているわ!」

 

赤城はそう言うと、加賀と瑞鶴と共に現地を去って行った。

 

『これは宣戦布告よ・・・アズールレーン』

『これより重桜は鉄血と共にお前達の欺瞞を打ち砕く』

『未来とは、強者に委ねられるもの・・・天命はこの力で大洋を制する我々にある』

『我らは赤き血の同盟、レッドアクシズなり』

 

 

すさのお CIC

 

「とりあえず方は付いた、か・・・」

 

勇はそう呟くと、顎を手に乗せて考える。

 

(まさか史実より4ヶ月早く宣戦布告するとは・・・確かに、異世界ならば多少の違いはあってもおかしくはないと思ってはいたが・・・まあ、VRで真珠湾攻撃の米軍側の視点でのシミュレーター訓練で対策した甲斐はあったから、結果オーライといったところか。というか、一体どうしたらああも開き直って未来は強者に委ねられるとか天命はこの力で大洋を制するとか言えるんだ・・・?)

「・・・それは後で考えるとして」

 

勇はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、こう呟いた。

 

長門達(アイツら)を相手にした奴らの方が、あちらさんの一航戦よりも痛い目に遭っているんだよな、かわいそうに」

 

 

「あの子達・・・とうとうやってくれましたね・・・・・・」

 

勇が不敵な笑みを浮かべるのとほぼ同じタイミングで、天城がこめかみに青筋を立てていたのは言うまでもない。




初めて有名なネタを投入出来たお・・・。
最初はなんかネタを盛るかどうか悩んだけど、ニコ動でコマンドーと最近のアニメのMADを観て決心がついたのでやった。後悔は無い。(多分)
なお、MTFとは主力戦術戦闘機(Main Tactical Fighter)の略である。ガンダムSEEDのモビルスーツの形式番号でありそうなのはないものかと頭をひねりまくって思いついたんDA☆

次回予告

ハワイ基地で攻防が繰り広げられていた頃、オーブ鎮守府にも敵が訪れていた。果たして、敵はオーブで何を見るのか。

次回『オーブ鎮守府防衛戦』


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