IS 月華の剣士 (雷狼輝刃)
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第1話 プロローグ

 2月の中旬、1つのニュースが全世界を駆け抜けた。

 

 女性しか扱えない筈のISを一人の男子中学生が起動させたのだ。 

 その結果を受けて、世界中で新たなる男性操縦者を発見するための適性検査が行われることになった。

 

 そして、3月上旬に日本のとある場所で一人の青年がISを起動させたという報告が入った。だがその青年は直後に会場から忽然と姿を消すのであった。

 

 

 

 

 3月中旬

 

 

 乳白色のレンガの塀に囲まれた豪邸とも言える屋敷の頑丈な鉄の門の前に黒いスーツ姿の女性、織斑千冬が立っていた。 門の横の柱に掲げられた表札『月村』という文字を確認すると千冬は、その下にあるインターホンを押そうとした。だが、それを押す前に背後から声をかけられた。

 

 「あら?織斑先生、この屋敷に何かご用がおありで?」

 

 その声に聞き覚えのある千冬は振り返り

 

 「それは此方のセリフだ更識? 何故お前がここにいる?」

 

 そこにはIS学園の生徒会長を務める更識楯無と従者の布仏虚がいた。

 

 「この屋敷の住人と当家は古くからの付き合いでして、幼少の頃より遊んでいた幼馴染みがいるので久方ぶりに尋ねたしだいです。」

 

 「それは初耳だな。さて私がここに来た理由だが、お前の事だ、既に知っているのだろう?」

 

 「えぇ、その事も含めての話し合いもあると言われてました。」

 

 そう言って楯無はインターホンを押す。すると直ぐに

 

 「お待ちしておりました更識様、布仏様。そして織斑千冬様でございますね。お迎えにまいります。」

 

 女性の声で返答があった。 

 

 「更識、1つ聞きたい、月村家とはどういう家なのだ?」

 

 千冬がそう尋ねるのも無理はなかった。事前に調査しようにも政府や学園上層部からストップがかかり、何もわからなかったのだから。

 

 「月村重工・月村食品・月村製薬の3社を運営する月村ホールディングスの筆頭株主兼会長。ではダメでしょか?」

 

 その3社の名前は千冬でも知る大手企業だ。そこまでは千冬も知らされていた。だが、その大手企業の筆頭株主兼会長だけでは、調査にストップをかけるだけの理由にはならないと千冬は思った。

 

 (・・・・・・・・何か、表には出せない理由があるということか)

 

 やがて門が開き、メイド服姿の銀髪の女性が3人を出迎えた。

 

 「お待たせいたしました。私は当家に仕えるメイドのノエル・綺堂・エーアリヒカイトと申しまます。ここより私がご案内いたします。」

 

 そう言ってノエルは3人に優雅にお辞儀する。

 

 「久方ぶりですねノエルさん。もしかして、みんな揃っているの?」

 

 ノエルに尋ねる楯無。

 

 「はい、お嬢様と恭也様はもとより高町家の方々もお揃いでございます。」

 

 ノエルの答えに楯無と虚は顔を見合せる。それに気づいた千冬は

 

 「更識、何か不都合でもあるのか?」

 

 その問いに楯無は

 

 「織斑先生、先に言っておきますが更識家は月村家よりも、同席している高町家と事を構えたくないと思っております。ですので、発言には十分に注意を払ってください。」

 

 その答えに千冬は唖然とする。だが、ここでその事を問いただしても答えないと思い何も告げない。

 3人はノエルの案内人で屋敷のなかに向かう。

 

 調度品が飾られた廊下をノエルを先頭に進んで行き、1つの扉の前に案内された。 その扉の近くまで千冬が近づいた瞬間だった。

 

 ゾクゥゥゥゥゥーーーーー!!!

 

 扉の向こう側の部屋から圧倒的な威圧が放たれてきた。

 

 (くっ?! 何なんだ、この威圧感は? 私が気圧されているだと!)

 

 千冬は自分が世間で言われているほど世界最強の存在ではないと思っている。 それでも自分が手も足も出ないような強敵は先ずいないだろうと思っていた。いかなる強敵であろうとも、それなりに戦えると思っていた。

 だが、今扉の向こう側から放たれている威圧感に千冬は手も足も出ないでいた。膝をつかないように耐えるのが精一杯だった。

 

 (1人、いや2人か? クソッ、限界だ)

 

 千冬が膝をつこうとした瞬間、楯無が

 

 「ノエルさん、織斑先生が限界のようですし、そろそろ止めて差し上げてください。」

 

 楯無に言われて、ノエルが扉をノックすると千冬を襲っていた威圧感が一瞬にして消えるのだった。

 威圧感が消えた事で、千冬は大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。右手で軽く額を拭うと大量の汗が付着していた。ノエルがタオルを差し出して

 

 「どうぞお使いください。」

 

 「ありがとうございます。」

 

 タオルで汗を拭きながら

 

 「随分と平気な顔をしているな更識、布仏。」

 

 「私達には直接当てられてませんから。軽く余波は受けましたけど、これくらいなら馴れてますから。」

 

 楯無は涼しげな顔でそう千冬に告げる。楯無の言葉に驚く千冬。

 

 (先程の威圧感は無造作に放たれたのでなく、私にだけ向けられていただと?! そんな芸当が出来るのか?)

 

 汗を拭いおわり、漸く息も整えた千冬はノエルに向き直り。

 

 「感謝する。」

 

 そう言ってタオルを渡す。ノエルはタオルを受けとると側に置いてあったワゴンにのせてから扉を開く。

 

 「どうぞ中へ。」

 

 そう言って室内へと誘う。 ノエルに言われて室内に入ると、そこもまた洗練された調度品が飾られた広い応接間でだった。 

 千冬は室内に入った瞬間から二人の男性から目が離せなかった。一人は少し白髪の混じる黒髪の朗らかな顔つきの壮年の男性、もう一人は黒髪の寡黙な顔つきの男性。雰囲気は違えどもどちらもよく似た顔つきをしていた。 そして何より二人からは先程感じた威圧感と同じ気配を感じた。

 

 (先程感じた威圧感はこの二人が・・・・私は自惚れていたのだな。確かにISの世界では最強と持て囃されいてた、だがそれがいつの間にか世界最強となっていた。そして私もいつの間にかそう思うようになっていた。だが、現実には違う、少なくとも目の前にいる二人には手も足も出ない、天と地程の差がある。)

 

 「お忙しいなか、時間をとって頂きありがとうございます。IS学園教諭の織斑千冬と申します。」

 

 千冬はそう言っておじぎする。千冬の挨拶を受けてソファーに座っていた女性が立ち上がり、

 

 「遠いところから、わざわざお出でいただきありがとうございます。私か当家を取り仕切っている月村忍といいます。右にいるのが私の夫で月村恭也、左にいるのが私の妹の月村すずかです。」 

 

 そう言って両隣に座っていた人物を紹介した。黒髪の寡黙な男性・・・恭也と、忍を挟んで反対側に座っていた女性・・・すずかも立ち上がりおじぎする。

 

 「そして、そちらにいますのが夫、恭也の御両親で高町士郎さんと奥様の桃子さんです。」

 

 忍の紹介に士郎と桃子も立ち上がりおじぎする。

 

 「どうぞお座りになってください。」

 

 忍の進めに千冬はソファーに座る。その隣に楯無と虚も座るのだった。全員が座ったところで忍が

 

 「さて織斑さん、本日は如何なる用件があって当家にお越しに?」

 

 忍の問いかけに千冬は

 

 「その前に、1つお伺いしたいのですが、ご子息の月村零也さんは御在宅でしょうか?」

 

 「零也なら、ここには居ません。」

 

 忍の答えに千冬は慌てる。

 

 「な?! 今どこにいるのですか?直ぐに身柄の安全をはかる為に保護しないと!」

 

 慌てる千冬に恭也が

 

 「その必要はありません。並の相手なら零也に敵うはずも無いですし、それに側には俺の妹と叔母がいますので問題ありません。それで忍が訊きましたが、本日はどういった御用件で?」

 

 恭也の言葉に千冬は楯無達の方を見るが、二人とも平然とお茶を飲んでおり慌てるそぶりもない。

 

 (二人は最初からこの事を知っていたな・・・・どうやらここには私の味方はいないようだな。)

 

 ポケットからスマホを取り出すのを諦めて

 

 「みなさんは、今から1ヶ月前に世界初の男性IS適正者が現れたのはご存じですか?」

 

 「それはもう、連日連夜ニュースやワイドショーはその話題で持ちきりでしたし。確か織斑さんの弟さんでしたよね?」

 

 忍の答えに何も言わず千冬は

 

 「それを受けて国際IS委員会は新たな男性IS適正者を見つけ出す為に全世界で一斉に男性に対しての適正検査を開始しました。最初の対象は10代前半から20代前半の男性に絞りました。そして今から1週間前に海鳴市の体育館で行われていた適正検査で、新たな男性IS適正者が見つかりました。しかし、その直後に男性はその場から忽然と姿を消してしまいました。その後の足取りは全く」

 

 そこまで言うと千冬はポケットから数枚の写真を取りだし

 

 「幸いにも会場には密かに監視カメラを設置していたことから検査直前の映像があり、こうして人物の特定に至りました。」

 

 そこには忍と恭也の息子の零也の姿が写っていた。

 写真を一瞥すると忍は

 

 「それで?」

 

 「月村零也さんにはIS学園に入学していただきます。これは国際IS委員会の決定事項です。」 

 

 「本人は元より家族の同意無しにですか?」

 

 千冬の話に士郎が聞き返す。

 

 「本人の身の安全をはかる為にも必要なことかと。」

 

 「織斑さんは零也を弟さんを護る為のスケープゴーストにするつもりでは?」

 

 恭也の言葉が千冬の心に刺さる。

 

 「いえ、結してそんなことは思っておりません。確かに最初の男性IS適正者は私の弟ですが、それは全く関係ありません。」

 

 千冬の答えを聞き、忍が

 

 「・・・・・・・・私達は零也からIS適正があることを告げられてから、このような展開になることを予測しておりました。ですので零也が不利な状況に陥れられない為にありとあらゆる手段を使わせてもらいました。」

 

 忍はそう言うと楯無の方に視線をやる。それに気づいて千冬は

 

 「更識、何か知っているのか?」

 

 「織斑先生、私達は1週間前に月村・高町の両家から零也君の処遇について相談と要求を受け取っていました。これがその全てです。」

 

 そう言うと虚が数枚の書類を千冬に手渡す。

その内容を読んでいく内に千冬は、その内容に驚くのだった。

 

 「こんな内容が受け入れられるはずがない!」

 

 「いいえ、日本・イギリス・ドイツ3国からの後押しもあり、学園長はこの条件を受け入れることに決定しました。」

 

 楯無の答えに驚く千冬。本来ならあらゆる国家・企業からの干渉を受けないという事になっているIS学園がこのような条件を受け入れる。それも日本・イギリス・ドイツの後押しがあってという事に。

 

 (日本のみならずイギリスやドイツにも強力な後ろ楯を持っているというのか?!)

 

 「・・・・・・・それでは、この条件を以て月村零也さんのIS学園への入学を認めて下さるということですね。」

 

 千冬の問い掛けに恭也と忍は顔を見合せ、そして無言のまま笑顔で千冬を見つめる・・・然れど視線は結して笑っていない・・・すずかに視線をやる。

 すずかは二人の視線に気づき、軽く頷く。

 

 「・・・・・零也のIS学園への入学を承諾します。」

 

 恭也の返事を聞き千冬は

 

 「それでは2、3日中に事前に予習してもらう為の参考書と制服を郵送いたします。なお、制服の方は多少のカスタマイズが許されております。」

 

 そう言って立ち上がり

 

 「それでは本日はこれで失礼させていただきます。」

 

 一礼して部屋を足早に出ていくのだった。そんな千冬をノエルが玄関まで送るのだった。

 

 

 

 一方、千冬が去った室内では

 

 「・・・・・・どうだった恭也?」

 

 「期待外れというか、噂程ではなかった。」

 

 士郎の問い掛けに恭也が答える。それを聞いて桃子と忍は

 

 「貴方少し大人気なかったのでは?」

 

 「そうよ恭也、いくらブリュンヒルデの称号を持っているからと言って、所詮はISあっての実力なんだから」

 

 「IS頼りという訳ではなさそうだよ。見たところ身体能力は人並み以上に優れているし、剣道もそれなりに修めているようだ。ただ残念な事に修めているだけで留まっているし、力に頼りきって技術が今一つ伴っていない。まあそれでも並の相手なら、そこそこ戦えるだろうな。」

 

 二人の言葉に士郎が独自の分析を話す。 

 

 「士郎さんの仰るそこそこレベルの方が表舞台には中々いないのが現状なのですが?」

 

 楯無が士郎の分析に呆れながら愚痴る。

 それを聞きながら恭也は先程までとは違い穏やかな笑みを浮かべるすずかに

 

 「それですずかちゃん、専用機の方はどうなっているんだい?」

 

 「アリサちゃんとなのはちゃんの協力の元、月村重工で実験用に作られた完全装甲型の第2世代型IS【レイスタ】のデータを参照にして製作してます。」

 

 「・・・・・・自重しそうに無い面子だな。」

 

 零也が関係していることですずかのブレーキが壊れていることを知っている恭也は、それに自分の妹のなのはと二人の親友のアリサが加わった事で更に拍車がかかったことを少し心配するが、止める事が事実上不可能なので何も言わないのだった。

 

 「何時までに出来そう?」

 

 すずかに忍が尋ねる。

 

 「んーと、今の進行具合からだと3月末には完成する予定だよ。」

 

 「それなら入学までに何度か訓練が出来そうね。楯無ちゃん、零也は来週には戻って来るから、それから訓練をお願いね。」

 

 「わかりました忍さん。戻りしだいISの訓練を開始します。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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主な登場人物

 

 月村零也(つきむられいや) 年齢17歳(戸籍上)

 

 家族:月村恭也(父) 月村忍(母) 月村雫(姉) 月村紫(妹)

 

 [永全不動八門一派・御神真刀流・小太刀二刀術(御神流)]の師範代。

 私立風芽丘学園高等部2年生。祖父母の高町士郎・桃子夫妻が営む[喫茶 翠屋]でパティシエとしての修行中。

 実は恭也と忍の実子ではなく養子である。 10年前に恭也が更識家との合同で行った違法研究所の摘発作戦の中で研究所で実験体として扱われていた子供の一人。ちなみに生き残って救出されたのは零也と一人の少女のみ。

 

 

  本当の名前は織斑一夏。 

 

 

 当時、6歳だった一夏は何者かによって誘拐され様々な人体実験を受けていた。その人体実験の一環として[夜の一族]の遺伝子と成長促進と身体強化を目的としたナノマシンを投与された結果、外見は一変しており更に記憶も喪って身元不明の状態だった為に恭也が一緒にいた少女と共に引き取る事に。 

 夜の一族の遺伝子とナノマシンにより常人以上の身体能力と回復力を持っている。 ただし、夜の一族の特性により定期的に血液を欲してしまう。その対策として現在は特別に精製された濃縮血液タブレットを常備している。

 

 

 

 

月村紫(つきむらゆかり)  年齢15歳(戸籍上)

 

私立風芽丘学園中等部に通う零也の妹。本来なら高等部に進学する予定だったが、零也のIS学園入学により特例としてIS学園へ入学することに。入学に際して月村重工の企業専属パイロットになる。

 零也と同じ研究所にいた実験体で千冬のクローン。零也と同じく[夜の一族]の遺伝子とナノマシンにより外見では殆どわからない。原作におけるマドカ。

 研究所にいた頃から零也になついていたが 月村家に引き取られてからは更に拍車がかかりブラコンになる。姉の雫とはある意味同志でありライバル。

 

 

 

 

月村雫(つきむらしずく)  年齢19歳 

 

海鳴大学2年生、零也と紫の姉で恭也と忍の実子。

幼い頃に突然月村家に引き取られた零也と紫に驚き、弟と妹が出来た事に戸惑うが、一人っ子で寂しかった部分が触発されたのか直ぐに二人を溺愛し、ブラコン&シスコン全開となる。御神流の腕前は零也以上。

 月村ホールディングスの後継者筆頭。

 

 

 

 

月村恭也(つきむらきょうや) 年齢40歳

 

旧姓高町恭也、忍との結婚を機に月村家に婿養子となる。ちなみにデキ婚である。 

 月村ホールディングスの筆頭株主謙会長を務める忍のボディーガードを主な仕事としているが、昔から交流のある更識家の依頼で様々な任務につくこともある(ただし、国内限定)

 その任務の中で零也と紫を保護することになったが、義母である桃子から受けた愛情の経験から実子として分け隔てなく育てていく。零也と紫の素性に関しては、更識家から知らされている。

 

 

 

 

月村忍(つきむらしのぶ)  年齢39歳

 

月村ホールディングスの筆頭株主謙会長。 実は生粋のメカオタクで純血の夜の一族。 恭也とは未だにラブラブ夫婦。

 突然恭也が連れてきた零也と紫に驚くものの、その素性と研究所で受けた実験内容から引き取る事に賛同し、更識家に戸籍の偽装を依頼する。

 

 

 

 

月村すずか       年齢28歳

 

忍の妹で未だに独身。姉譲りのメカオタク。月村重工の社長。

甥の零也の事が大好き過ぎて結婚する気なし。

 たまに零也を巡って雫と紫と火花を散らしている。

 

 

 

 

高町士郎(たかまちしろう)

 

恭也の父で喫茶翠屋のオーナー。 かつては引く手あまたの凄腕のボディーガードだったが、現在は御神流の剣士としては一線は引いているが、未だにかなりの実力を持っている。 恭也と共に雫、零也、紫に御神流の指導をしている。 その経歴から未だに各方面に顔がきく。

 

 

 

高町桃子(たかまちももこ)

 

恭也の義母で喫茶翠屋のパティシエ。彼女の作るケーキやデザートは一級品で、遠方からわざわざ買いに訪れるものも少なくない。ちなみに士郎は桃子のシュークリームを食べた事が結婚のきっかけになったとか。

高町家のヒエラルキートップである。

 

 

 

高町美由希(たかまちみゆき)

 

恭也の妹、正確には従妹にあたる。 とある事件がきっかけで幼少期に高町家に引き取られる事になった。

なお、その料理の腕前は壊滅的で作ったものは全てバイオハザードクラスの物である。

現在は海鳴図書館の司書を務める傍らで、紆余曲折をへて再会した母親の美沙斗が所属する香港国際警防隊に臨時隊員として所属している。

周囲の目下の悩みは未だに浮いた話が全く無いこと。

 

 

 

 

高町なのは       年齢28歳

 

喫茶翠屋の2代目オーナー謙パティシエの予定。

ただし、その優れた演算能力と発想力を買われて月村重工やバニングス技研でISの開発やブログラミング等のバイトをしている。 シュテルとクロエの生い立ちを知っても妹として迎えいれる。

 一説には天災との関係を噂されている。

 

 

 

 

高町クロエ      年齢16歳

 

 士郎が知人から預かり養女とした少女。 目に特殊な障害を抱えており常に色の濃い眼鏡をかけている。

 実はドイツの非合法組織によって生み出された試験管ベビーで様々な人体実験の被検体だったが、その組織が何者かによって消滅させられた時に救出されて高町家へ預けられた。

現在は私立聖祥大学付属高校の1年生。

 

 

 

 

アリサ・バニングス   年齢28歳

 

日米で様々な事業を展開するバニングスグループの後継者。現在はバニングスラボの所長を筆頭に幾つかのグループ企業の社外取締役に就任している。 

 求婚者多数おれども、未だに未婚。

 

 

 

 高町シュテル  年齢19歳(戸籍上)

 

 CATセキュリティー所属のBG。表向きはIS学園からの要請を受けて零也の護衛をするためにIS学園に特別入学したが、実際には月村家からの依頼。

 その容姿は高町なのはと似ている。実は零也達とは別の非合法組織によって生み出されたクローン。この組織もまた10年前に何者かにより消滅し、救出されて高町家へ預けられた。その後高校卒業後にBGとしてCATセキュリティーに。

 その組織が何故なのはのクローンを作ったのかは組織が既に消滅しているために不明。

 

 

 

 

 紫堂涼子  年齢16歳 (原作:少女鮫より)

 

 イタリアから織斑千春の護衛の為にIS学園に特別入学した。 幼少期より父親の紫堂貴広に連れて様々な戦場を飛び回った結果、既にこの年齢ながらも凄腕の傭兵となった。 ある事件を切っ掛けに貴広は傭兵を引退し、ラウラという女性と結婚しイタリアの小島に移り住む。 

 なお原作と違い現在、貴広とラウラの間には男の赤ん坊が誕生し、仲良く暮らしている。 今回は貴広が古い友人からの頼みで依頼を受けて涼子を送り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第2話  織斑千春

 
 
 主人公はまだ登場しません。


 

  4月某日 IS学園1年1組

 

 そこに集められた生徒達は落ち着きなく、ざわめいていた。何故ならば、本来なら女子生徒しかいない筈のクラスに男子生徒が一人いるからだ。

 その男子生徒こそ、世界初のIS男性操縦者の織斑千春だ。

 

 (・・・・・・クックックックッ! ようやく、ようやく原作が始まる! 思えば、ここまで長かったな~ だが、これからは俺の時代だ! ハーレム生活の始まりだ!)

 

 クラスの女子生徒達からの注目を集めながら、表向きは平然を装いながらも内心は、これから始まる学園生活に関して下衆な想いを抱いていた。 

 

 

 

    唐突だが、ここである事実を伝えよう。

 

 この、織斑千春という少年は転生者である。

 

 

 しかし自分が何時・何処で・どうして死んで、何故転生したのかは千春は、全く覚えていなかった。

 

 自分が転生者だと気がついたのは千春が3歳の頃。その頃には両親は既に居らず、千冬が篠ノ之家の支援を受けながら千春と一夏を育てていた。

 

 

  それは突然の事だった。

 

 

 何故か成人男性だったはずの自分がいつの間にか、子供になっており、しかもライトノベル作品・・ISの世界に転生していることに気がついたのだった。 しかし前世の記憶・・・自分の前世の名前に家族、そしてどういう人生を歩んできたか、というは殆ど残っていなかったが、どういう訳か一般常識とIS(ただし9巻まで)に関しての記憶だけが残っていた。

 しかし、そこで千春は自分が主人公である一夏ではなく双子の兄である千春という、本来なら原作には存在しない人物に転生していることに絶望した。

 

 (ま、不味い。このままだと主人公である一夏の引き立て役になってしまう)

 

 千春は自分が本来原作には存在しない人物ということで、原作が進んだ場合に主人公である一夏に光が当たることで、本来存在しない自分が全く原作に関われない、もしくはその引き立て役・・・踏み台になってしまうとどういう訳か考えてしまった。

 そこから千春はどうすれば良いのかを考えた。その時点で、不思議な事に何故か千春の中では自分はISを 動かせるという結論が出ていた。

 

 真っ先に思い付いたのは一夏を物理的に排除して自分がその位置につくことだったが、如何せん3歳児にはどうすることも出来ない方法だった。 

 そこで次に考えたのが普段の生活態度や勉強、スポーツで一夏より出来る事を周囲に見せて、自分が注目を集めることで一夏のマウントをとることだった。

 これは比較的に上手くいっていった。周囲の人達は千春の事を『天才児』『流石は千冬の弟』『優秀な方の弟』と評価していき、一夏は『凡才』『本当に千冬の弟か?』『不出来な弟』という評価が付けられていった。

 別に一夏が出来が悪い訳でも無いのだが、千春の凄さが余りにも目に付いた為に、そういうレッテルが貼られてしまったのだ。

 そして、その評価は千冬にも、少なからず影響を及ぼした。

 

 『手のかからない優秀な弟の千春』『手のかかる不出来な弟の一夏』、二人の評価が千冬の中でも位置付られた。それでも千冬は千春と一夏を別け隔てなく愛情を注いだ。 もっともその事は千春を大きく傷付けることになった。

 

 千春は、千冬が二人の弟の中で優秀な自分を優遇し一夏を冷遇すると思っていた。実際に千冬は口では

 

 「ぐずぐずするな!」

 

 「何でこんな事も出来ないんだ!」

 

 「千春を見習え!」

 

 と叱責はするものの、けっして一夏を見放す事なく寧ろ千春から見れば手のかかる弟ということで、優遇されているように写った。

 千冬の愛情を自分一人に一身に受けたかった千春は、その鬱憤を晴らす為に一夏を虐めることにした。

 だが千春は直接手をくだすことは無く、人伝に周囲を煽動して一夏を虐めた。 これにより虐めが発覚しても自分にはたどり着かないと千春は考えた。

 千春の思惑通りに虐めが幾度か発覚したものの千春がその黒幕であることがばれることはなかった。

 

 

 そして、小学校に入学する直前の事だった。突然一夏が行方不明となったのだ。 事故と誘拐の両方の線で捜査が行われ、その行方を捜索されたものの足取りは全く掴めず、捜査は難航していた。

 一夏が行方不明になってからは千冬の落ち込みようは酷いものだった。 千春は知るよしも無かったが、千冬は密かに束に一夏の捜索を頼んだものの、当時の束でも、どういう訳か行方を掴むことは出来なかった。

 兎も角、千春にとって最大の懸念事項だった一夏という存在がいなくなった事で自分が、()()()()()()()()()()()()()()()()という唯一無二の存在になった事に舞い上がった。

 もちろん、表面上は一夏が行方不明になった事を悲しんではいたが。 

 

 一夏がいなくなって暫くだった頃、千春は有ることに気づいた。

 

 (・・・・・あれ?・・・・一夏がいないってことは、本来一夏が起こさなければいけないフラグを俺がしないといけないのか?それに一夏の行動をトレースしないと原作通りの事が起きないんじゃ?)

実現するために。

 今更ながらに、その事に気づいた千春は箒と鈴とのフラグは勿論のこと、他の女性からのデートの誘いや告白も唐変木の朴念仁を通す為に(泣く泣く)ボケなければならなかった。

 更に中学進学後はしたくはなかったが、部活をせずにバイトに明け暮れた。

 自分の知る原作というシナリオ・・・アドバンテージを生かし、自分の望む未来・・・・ヒロイン達に囲まれてちやほやされるハーレム学園生活を実現するために。

 

  

 

     だが、千春は気づいていなかった。 

 

 

 

 原作通りの筋書きと自らが望む欲望が矛盾していることに

 

   

      そして知らなかった。

 

 

   その望みが永遠に叶う事が無いことを。

 

 

 

 



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第3話  それぞれのクラスにて 

 
 
 ようやく主人公が登場します。

 それと他作品からのキャラも登場します。


  

 

 チャイムが鳴り、SHRが始まった1年1組

 

 

 千春は、このあとの展開を知っている、印象に残る迷シーンだから。本心から言えば、避けたい。 

 だが、自分が知る原作の展開を変えてしまうと、その後の展開に影響が出ると考え、その通りに動くことにした。

 

 「・・・・・・・・・・・い、以上です!」

 

 千春はそう言って椅子に座った。その瞬間、クラスメイトの殆どがコントの如くずっこけて机や、椅子を倒してしまい大きな物音をたててしまう。

 

   ズバァーーン!

 

 「痛ってぇーー?!」

 

 千春の背後にいつの間にか立っていた千冬が右手に持っていた出席簿で千春の頭を叩いていた。わかっていたはずなのに、その衝撃は想像を絶するものだった。

 

 「馬鹿者!高校生にもなってまともに自己紹介も出来んのか!」

 

 「げっ?! 織田ノブナガ!!」

 

 何故か千春の口から自然と意識せずに出た台詞。それは千冬の琴線に触れるものだった。

 

   ズバァーーン!!

 

 「誰が、赤毛の戦国乙女だ!!」

 

 再び出席簿が千春の頭目掛けて振り下ろされる。

 

 「痛ってぇーー!!!」

 

 「全く、そんなふざけた事を言う暇があるなら真面目に自己紹介をしろ!」

 

 「で、でも千冬姉?!」

 

   ズバァーーン!!!

 

 再び出席簿が振り下ろされる。

 

 「〇¥£%#▽□◎☆&〒∀!!!!」

 

 「織斑先生だ! 公私混同するな!」

 

 3度振り下ろされた出席簿により声にならない叫びをあげて頭を押さえてうずくまる千春。 そんな千春を一瞥し、教壇に向かう千冬。

 

 「すいません山田先生、SHRを任せてしまって。」

 

 「いいえ、かまいません、それでは織斑先生にお任せします。」

 

 そう言って真耶は千冬に場所を譲り教室の端に移動する。

 

 「自己紹介を中断させて済まない。私がこのクラス担任を勤める織斑千冬だ。これから1年間、君達にISに関する知識と技術、そしてISに係わる者としての心構えを教えていく。確りと心して授業を受けて欲しい。」

 

 千冬がそう言った、次の瞬間だった。

 

 「きゃぁぁぁーーー!!!」

 

 「ち、千冬様よ!本物の千冬様よ!!」

 

 「千冬様の教えを直接受けれるなんて光栄ですわ。」

 

 「私は千冬様の教えを受ける為に千葉から来ました。」

 

 「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

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 「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 千冬の出現にクラスの殆どの生徒が一斉に騒ぎだす。

何人かの生徒はそれに加わらず、まるで我関せずとこの状況を予見してか耳を塞いでいた。

 そして千春は耳を塞ぐ事が出来ず大音量の歓声に苦しんでいた。

 

 「喧しい!騒ぐな!! これ以上騒げば退学にするぞ!」

 

 千冬の一喝にクラスに静寂が戻る。

 

 「全く毎年毎年、学園はこんな奴等を私のクラスに回しよって・・・・・さて、幾つか言いたい事がある。先程、私に会うために来たと言っていた生徒が3人程いたな、とりあえず立て。」

 

 千冬に言われ、その台詞を言った3人の生徒が立つ。

その3人を見て千冬が、

 

 「お前達は、()()()()()()()IS学園を受験したと言っていたな。」

 

 「「「はい!!!」」」

 

 「・・・・・・・・そうか・・・・ならばお前達3人は今すぐ荷物を纏めて出ていけ。退学だ!」

 

 突然の千冬の言葉にクラスに静寂が訪れる。そして漸く何を言われたのか理解した3人の生徒は震えだし、

 

 「ど、どうしてですか?」

 

 「私達がいったいなぜ?」

 

 「そ、そうです。」

 

 「そうだぜ千冬姉! いきなり退、グハッ!」

 

 千冬の言葉を信じられず問い返す3人の生徒と、無関係にも関わらず、自分の知らない出来事が起きた為に思わず口を挟む千春。千春には千冬投げた出席簿が顔面に命中し、ブーメランの如く手元に戻ってくる。

 

 「織斑先生だ!公私混同するなと言っただろう。全く・・・・さて、お前達3人は私に会うためにIS学園を受験したと言ったな。ここはISの事を学ぶ為の学舎(まなびや)だ。そして私は教師だ、決してタレントやアイドル何かでは無い。そんな心構えでここに居ては、真剣にISの事を学びに来た同級生は勿論の事、不合格となり道を閉ざされた者達を侮辱することになるのだ。」

 

 千冬にそう言われて何も言えなくなる3人の生徒。千春はまだ何か言いたそうだったが、肝心の台詞が思い浮かばず黙ってしまった。

 

 「厳しい事を言うが、ISの事を学ぶという事はそれだけの覚悟がいるということだ。さて、3人ともわかったのなら今から心改めて学園生活を送るように。今回は特別に口頭注意に留めておく、座れ。」

 

 3人の女子生徒は顔を青ざめながら座る。

 

 (・・・・こんな展開あったっけ? もしかして俺が覚えていないだけかな?全部覚えているわけじゃないしな)

 

 千春は自分が知らない出来事が起きた事で少し戸惑ったが、そう納得するのだった。

 

 「さて山田先生、自己紹介はどこまで進んでいますか?」

 

 「次の紫堂さんで最後になります。」

 

 真耶から告げられた女子生徒の名前に少しだけ反応する千冬。直ぐに表情を戻し

 

 「そうか。それでは紫堂、最後になるが自己紹介を頼む。」

 

 千冬に言われ、一人の同世代にしては大人びた雰囲気を持つ女子生徒が立つ。

 

 「イタリアから来た紫堂涼子。フリーランスの傭兵だ。」

 

 そう言って涼子は千春に視線をやり

 

 「そこにいる男子生徒の護衛と監視の任務を請け負っている。任務内容の変更が無い限り、3年間は在学する予定だ。よろしく頼む。」

 

 涼子の発言に教室がざわめく。何より涼子という登場人物に全く心当たりの無い千春は驚いた。

 

 (へっ?! 何言ってんだ? 護衛?監視?何それ? というか紫堂涼子なんていう名前のキャラ知らないぞ!)

 

 千春の混乱を他所に千冬が

 

 「みんなも知っての通り、今年は例年と違い男子生徒が学園に在学する。それに不安を覚える者も少なからずおり、また男子生徒に対して様々な事を仕掛ける可能性も有ることから護衛と監視を任務とする人物をクラスに配置することになった。」

 

 本来ならこういうことは公にはしないのだが、あえて公にしたのは、簡単に言えばIS学園に娘を通わせている保護者の中に千春が娘にちょっかいをかけないか心配する者、逆に親や国からの指示でハニートラップを仕掛ける女子生徒がいる可能性もあり、それぞれの抑止力として涼子の存在を公言することにしたのだ。

 

 「織斑、色々と混乱しているかも知れないが学園の外に外出する際は学園への届け出と同時に紫堂へも報告しておくように。いいな。」

 

 「は、はい。」

 

 千冬に言われて慌てて返事する千春。 千冬はそのままSHRを進めようとしたのだが、一人の女子生徒が

 

 「あの織斑先生、もう一人の男子生徒はこのクラスじゃ無いのでしょうか?」

 

 その女子生徒の質問に千春は驚く。

 

 「へっ?!もう一人の?」

 

 「ん? なんだ織斑、テレビやネットのニュースや新聞をみていないのか?」

 

 「は、はい。」

 

 「全く、少しはニュースとかも見ろ。 織斑、お前がISを起動させた後に全世界一斉に男性適正者検査が行われたのは知っているな。そんな中、先月一人の日本人男性が第2の適正者として発見された。」

 

 「えっ?!」

 

 千冬の口から自分以外にも男性適正者がいることを告げられて驚く千春。

 

 「その男性もお前と同じようにIS学園への入学が決まった。ただ、様々な観点から同じクラスに配置されるのは避けることになった。もう一人の男子生徒は3組に配置された。仲良くしろとは言わん。ただ暫くの間は周囲に色々と混乱を招くので接触は控えるように。お前達も押し掛けるなよ!」

 

 「は、はい!」

 

 千冬の言葉に全員が返事を返す。

 

 

 

 

 

 

 同時刻 1年3組

 

 此方でもSHRが行われており、生徒の自己紹介がされていた。 

 3組のクラス担任であるスコール・ミューゼルが見守る中、此方は粛々と自己紹介が進みある生徒の番がまわってきた。

 

 「月村零也と言います。全世界一斉適正検査でISの適正が有ることが判明して、この学園に入学することになりました。皆さんより年上になりますが、この後に自己紹介をする妹共々よろしくお願いします。」

 

 そう言って零也が頭を下げて挨拶をする。それをクラスメイト達は静かに見守る。そして零也が終わると次に

 

 「月村紫と言います。IS学園への入学に辺り月村重工の企業専属操縦者になりました。兄の零也共々よろしくお願いします。」

 

 紫が挨拶を終えて座ると最後の生徒が立ち

 

 「CATセキュリティー所属の高町シュテルと言います。 IS学園からの要請を受けて今回、このクラスの男性操縦者の護衛の為に特別に入学させていただきました。皆さんより年上になりますが、どうぞ畏まらずにお付き合いください。」

 

 シュテルが挨拶を終えたところで全員の自己紹介が終わりスコールが

 

 「皆さんの自己紹介はたいへん素晴らしいものでした。さて、今年は例年と違い2名の男子生徒がいます。検討を重ねた結果、それぞれ1組とこの3組に別れてもらいました。暫くの間は周囲に迷惑をかけない為にも押し掛けるのは控えてください。」

 

 そう言ってスコールはクラスの生徒達の顔を見回し

 

 「このIS学園では、ISに関しての技術や知識、そして一般教養は勿論の事、それを使う為の必要な心構えやを学んでいきます。そこであなた達に1つ大切な事を言います、ISは兵器です。」

 

 その瞬間、クラスに緊張感がはしる。

 

 「誰がどんなに取り繕うとも、ISは紛れもなく現段階で世界トップクラスの兵器です。 決してスポーツ競技の道具(ツール)でも女性の権威を示す勲章でもありません。その事を決して忘れずに3年間学んでください。」

 

 そう言ってスコールがクラスの生徒達の顔を見ると先程までとは違い、その表情は決意に満ち溢れていた。

それに満足したスコールは

 

 「さてSHRも、そろそろ時間になるので最後に私から皆さんにこの言葉を贈りましょう。」

 

 スコールは両手を大きく広げ

 

 「ようこそ、IS学園へ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第4話  クラス代表

 
 
  ヒロインについて
 
 この作品の主人公にもヒロインはいます。ただヒロイン候補(現在のところ5名)の中から正ヒロインを決めかねているところです。 場合によってはハーレム(全員か1部のみ)も視野にいれております。
 ちなみに楯無と紫とすずかはヒロイン候補です。
    あと二人は秘密。

 千春のヒロイン? そんなのいるわけ無い。

 


 

 

 1年3組

 

 SHRが終わり、授業前の休憩時間。

 零也と紫の側にシュテルが近づいていく。

 

 「久しぶりですね零也、紫。元気でしたか?」

 

 「「お久しぶりですシュテルさん。」」

 

 零也と紫がシュテルに声を揃えて挨拶をかえす。 

 高町シュテル・・・自分達の叔母である高町なのはに似ている女性とは付き合いは長い。彼女もまた零也達と同じく複雑な生い立ちをしている、そして自分達の叔母なのだ。

 

 「それにしてもシュテルさんが俺の護衛に就く事が認められるなんて意外でした。てっきり却下されてもう一人の方に回されるかと。」

 

 「これも貴方が入学するための条件の1つでしたから。」

 

 零也の疑問に答えるシュテル。そして

 

 「ちなみにもう一人の方には紫堂涼子が就きました。」

 

 「「紫堂涼子?」」

 

 シュテルの告げた名前に何処かで聞いたような気もするのだが、思い出せずにいる零也と紫。

 

 「アル・ザ・シャークと言えば解るかしら?」

 

 その名前を聞いて流石に零也達も解った。

 

 「アル・ザ・シャーク!! 彼女が来てるの!」

 

 「そうか、紫堂涼子・・・・あの死神部隊の異名を持つ傭兵部隊をひきいていた紫堂貴広の娘か。どちらかと言えば、アルという愛称の方がメジャーなんで紫堂涼子と言われてもピンと来なかったよ。」

 

 シュテルが告げた名前で涼子の素性を理解した零也達。 一般ではあまり知られていないものの、その筋の人間達にはその名前は知られていた。零也達もその名前だけは耳にしていたのだ。

 

 仲良さそうに話をする3人を見て驚くクラスメイト達。てっきり初対面だと思っていたら実は顔見知りという展開についていけないのだった。

 そうこうしているうちに始業を告げるチャイムが鳴りクラスメイト達は零也に話掛ける事が出来ないまま授業が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

  同時刻 1年1組

 

 

 千春は休憩時間になったものの、自分の知る原作の流れと違う事が起きたという事に混乱していた。

 そんな千春のもとに幼馴染みの篠ノ之箒が近づく。

 

 「久しぶりだな千春。それにしても先程の自己紹介は何だ情けない。」

 

 箒は開口一番、再会の挨拶もそこそこに千春にダメ出しをする。

 

 「いや、その、だってよ、この状況で緊張しちゃってさ。そ、それよりも元気そうだな箒。そ、そうだここだと落ち着いて話も出来ないし場所を変えないか?」

 

 「そうしたいのは山々だが、始業まで時間があまりないし昼休みにでもゆっくり話そう。」

 

 箒がそう言うと、千春は少し驚きながらも

 

 「あ、あぁ、そうだな(あれっ? こんな展開じゃ無いんだけど? まぁ千冬姉の制裁を受けないですむのはありがたいけど・・・何か、原作の通りにいかない・・・大丈夫かな?)」

 

 千春は不安を抱きながらも箒と近況報告をしようとするが、そこに涼子が近づき。

 

 「少しいいですか?」

 

 涼子に声をかけられたことで千春と箒は涼子に視線をやる。

 

 「こんにちは、紫堂涼子です。貴方の護衛任務を請け負っています。何か問題が起きた時や困った時、そして外出する際には教えて下さい。」

 

 「えーと、相談は兎も角として護衛は要らないんだけど?」

 

 「残念ですが、護衛に関しては貴方の意見は通りませんので。これは貴方に課せられた義務です。」

 

 そう言って涼子は席に戻るのだった。

 そんな涼子の背中を見ながら千春は考えた。

 

 (美人なんだけど、取り繕い隙も無いな。それにしても、原作に無い展開・・・・どうなっているんだ?それとも単に原作には書かれていないだけで、実際には起きていたのかな?)

 

 「おっと、そろそろ授業が始まるな。それでは千春、昼休みにゆっくりと話そう。」

 

 そう言って箒も自分の席に戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 1年3組  3時間目

 

 1時間目と2時間目の授業は何事もなく終わりむかえた3時間目。教壇にたつスコールが

 

 「さて3時間目の授業のIS法規の授業を始める前に今月末に行われる学年別クラス対抗代表戦のクラス代表兼クラスの委員長をする人物を決めたいと思うわ。」

 

 スコールがそう言うと生徒達は少しざわめく。

 

 「IS学園では学期毎に様々なイベントが行われます。その1つが学年別クラス対抗代表戦です。これは各クラスの代表者が総当たりで戦うイベントです。ちなみに優勝したクラスには半年間の学食のデザートフリーパスがクラス全員に渡されます。」

 

 それを聞き女子生徒達は騒ぎ出す。

 

 「ほら、静かに! 先ず最初に選ぶ参考として、このクラスには国家代表候補生はおりません。企業専属操縦者の月村紫さんがいます。そして専用機所持者が月村零也くん、月村紫さん、高町シュテルさんがいます。ただし、高町シュテルさんは護衛任務の関係上、クラス代表にはなれませんので除外してください。 それでは、とりあえず自薦他薦は問いませんのでどうぞ。」

 

 「スコール先生。私、月村紫はクラス代表に自薦します。その上で代表補佐役に兄の月村零也を据えたいと思います。自薦理由として、私は月村工業の企業専属操縦者としてIS操縦者として代表者候補生に引けを取らないと自負しております。このクラスに確実な勝利をもたらすには最善の選択だと思います。みなさんいかがでしょうか?」

 

 紫は零也の名前が真っ先に挙がる事を予想し先手を打った。 零也の名前を挙げようとしていた生徒達も紫の説明を聞き、実力未知数の零也ではなく紫を選ぶことでデザートフリーパスが手に入る確率が上がるという方に心が傾いてゆく。

 

 「他に自薦他薦が無いのなら月村紫さんにクラス代表を任せたいと思います。異論はありませんか?」

 

 スコールの問い掛けにクラスの生徒達は拍手で応じる。 それを見てスコールは満足そうに頷き

 

 「それでは1年3組のクラス代表者は月村紫さんに、そして代表補佐役に月村零也くんにお願いします。」

 

 その決定にクラス全員が拍手を贈るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

   昼休み  

 

 学食に向かう零也と紫とシュテル。そこに背後から声がかけられる

 

 「零也、紫!」

 

 零也達が振り返ると、そこには零也達の幼馴染みである更識簪と布仏本音がいた、

 

 「簪、本音!」

 

 二人とハイタッチを交わす紫。

 

 「久し振りだね簪、本音。元気にしてたか?」

 

 「酷いよれいれい、春休みに遊べると思ってかんちゃんと一緒に待ってたのに。」

 

 「本音! しょうがないでしょ、こんな事態になったんだから。零也さん、私は気にしてませんし。」

 

 「ゴメンね簪、本音。 色々あって自由に使える時間が殆ど無かったんだよ・・・・」

 

 「そうだね・・・・ハハハハハッ~・・・・ハァ~」

 

 何処か遠い目をしながら答える零也。 同じく遠い目をして乾いた笑いをする紫。 何があったか知っているシュテルは苦笑する。

 

 「詳しい話は学食でしましょうか。あっ、初めましてだね、更識簪さんに布仏本音さん。私は高町シュテル、零也くんの護衛任務の為に特別入学をした者よ。」

 

 シュテルの姓を聞き、直ぐにその素性に気づいた簪と本音は慌てて頭を下げる。

 

 「は、初めまして。よろしくお願いします。」

 

 「そんなに畏まらなくて良いわよ。年上だけど同級生だし。何より身内に近い存在だし。 さあさあ学食に急ぎましょう、混んじゃうわよ。」

 

 5人は学食へ足を速めた。

 

 

 

 

 

 「・・・・・・・・・という感じかな。」

 

 学食の一画を陣取り、それぞれ目の前の料理(零也と紫は大盛り炒飯に焼豚麺に焼売に唐揚げ、シュテルは大盛りカルボナーラに海老ピラフにコーンスープ、簪は天ぷらそばにレタス巻き、本音は親子丼)入学までの出来事を大まかに語った零也。 その内容に声を失う簪と本音。

 

 「美沙斗さんも美由希さんも容赦無かったのよね。」

 

 「というか、戻って直ぐの虚さんの参考書の叩き込みに楯無さんのISトレーニングのダブルスパルタもキツかった。」

 

 再び遠い目をする零也と紫。カルボナーラを食べながらシュテルが

 

 「それにしても美由希姉さんは、二人の事に構うのは良いのですが、いい加減自分の事も考えて欲しいものです。」

 

 「シュテルさん、美由希さんの場合は自分だけの問題では済まないと思いますよ。考えてください、お祖父さんとうちの父に美沙斗さんという3人の難関を乗り越えないといけないんですよ。」

 

 零也の指摘にシュテルは思わず納得してしまった。口では美由希の結婚の事を気にしていながらも、実際に相手を連れてくれば間違いなく不機嫌になり、相手をとことん観察し、重箱の隅をつつくように粗を探して、難癖をつけるのが目に見えた。子離れ妹離れ出来ない面々であった。

 

 「ところで簪と本音のクラスの代表は誰になったんだ。うちは紫に決まったんだけど。」

 

 これ以上考えると気が重くなると思い話題を変えようと炒飯を食べながら零也が聞く。

 

 「4組は私がクラス代表者になりました。」

 

 そう簪が答える。そして本音が

 

 「うちのクラスは来週の月曜にクラス代表決定戦をして決める事になったよ。」

 

 そう言った。 

 

 「えっと、何が起きたの?」

 

 紫が本音に聞く。

 

 「えっとねぇ~・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 ◆◆◆◆  回想  ◆◆◆◆

 

 

 1年1組 3時間目

 

 

 「さて、授業を始める前にクラス代表を決めなければならない。これは今月末に行われる学年別クラス対抗代表戦のクラス代表者と共にクラス委員を兼任してもらう。ちなみに選ばれたら特殊な事情が無い限り1年間勤めてもらう事になる。ちなみに自薦他薦問わない。」

 

 千冬がそう言うとクラスの姓達は

 

 「織斑君がいいと思います。」

 

 「私も織斑君!」

 

 「私も!」

 

 と千春の名前だけをあげていく。そんな中、当の千春といえば

 

 (・・・・・とりあえず、ここは原作通りの流れなんだけど・・・)

 

 自分の名前が上がるのだが、不安要素があった。

というのも、

 

 

 時は遡り、1時間目の授業

 

 「織斑君、何処かわからない場所はありますか?」

 

 原作通りに真耶が聞いてきたので千春は

 

 「全部わかりません!」

 

 「ぜ、全部ですか?!」

 

 驚いて手にしていた参考書を床に落とす真耶。教室の後ろにいた千冬が千春に近づき

 

 「織斑、幾つか尋ねるぞ。入学前に制服と一緒に事前に予習してもらう為に参考書が渡されたはずだが受け取っているな。」 

 

 「は、はい(えっ?!こんな質問されたっけ?)」

 

 「そうか、受け取っているか。ならば、それを開いて予習はしたか?」

 

 「(一応したんだけど、ここは知らない振りをしないといかないから・・・)・・・してません。」

 

 「・・・・・そうか、してないか・・・・・・・さて、最後から質問だが、その参考書はどうした?見たところ机の上に無いようだが?」

 

 千冬の問い掛けに千春は、自分を襲う衝撃に備えながら用意していた台詞を口にするのだった。

 

 「・・・・・・電話帳と間違えて捨ててしまいました!」

 

 次の瞬間だった

 

  ズバァァァァーーーーン!!!

 

 

 「グッべっ&β%☆〒#¥∀!!!!」

 

 身構えていたにもかかわらず、想像を絶する衝撃が千春を襲った。

 

 「こ、この愚か者!!! 山田先生、直ぐに手配を!」

 

 千冬は千春に一撃を加えた直後、慌てて真耶に命じる。真耶も千冬の言わんとすることを直ぐに理解して教室を出て行くのだった。

 

 千冬の出席簿の一撃を脳天で受けて、床に踞り悶絶する千春を一瞥すると千冬は、千春を無理矢理起こして座らせると

 

 「さて織斑、お前には色々と言いたい事があるが、これ以上お前の事で時間を取る訳にはいかないので放課後に生徒指導室でゆっくりと話をすることにするが、その前にお前を始めクラス全員に言っておくことがある。まず、お前が捨てたという参考書には外部には漏らしてはならない機密事項が幾つも掲載されている。だからこそ、参考書は卒業並びに退学時に必ず回収するようなものだ。」

 

 そこまで言うとクラス全員は驚いた。まさかそこまで重要な物だとは思っていなかったのである。

 

 「つまりまかり間違って捨てていいものではない。それを心しておけ。それから替わりの参考書を今日中に渡す。3日で覚えろ!」

 

 「えっ?! ちょっ、ちょっと待ってくれ千冬姉、いくら何でも3日じゃ、グベッ!!」

 

 「織斑先生だ!公私混同するなと言っただろうが!」

 

 再び千春に振り下ろされた出席簿。

 

 「全く、それでは授業の続きは私が行う!」

 

 

  ◆◆◆◆◆◆◆

 

 

  (・・・・・あんな展開無かったはずなんだけど。それに・・・)

 

 千春は離れた席に座る少女、セシリア・オルコットを見る。

 

 (休み時間にセシリアが絡んで来なかったな? 何でだ?)

 

 自分の知る原作とは違う事が幾つか起きた事で不安になる千春。それでも今は原作通りの流れなので、直ぐにセシリアが声を挙げると待ち構えていた。すると

 

 「先生、及ばすながら私、日本代表候補生序列10位篠ノ之箒はクラス代表に自薦させていただきます。そしてイギリス代表候補生序列5位のセシリア・オルコットを他薦させていただきます。」

 

 箒の突然の宣言に驚き声を失う千春

 

 (へっ? 何で箒が・・・・というか日本代表候補生?!何で! それに何で箒がセシリアを??)

 

 「ほう・・・・時に篠ノ之、理由を聞いてもいいか?」

 

 千冬の問い掛けに

 

 「クラスの者が物珍しさだけを理由に千、織斑を他薦するのが、あまりにも愚かしかったので。キチンとクラスの事を考えれば経験者を挙げるのが正しいかと。故に日本代表候補生である私が自薦で名乗りあげ、さらにイギリス代表候補生のオルコットの名前を挙げさせてもらいました。」

 

 そう答えた箒の正論に千春を挙げたクラスの生徒達は気まずい顔をする。

 

 「タイミングが遅くなりましたが私セシリア・オルコットも改めて自薦させていただきます。そして同じ理由から篠ノ之さんを他薦いたします。」

 

 セシリアが席をたち名乗り挙げる。 それを見て千冬は

 

 「そうだな、ならば来週の月曜日の放課後に代表決定戦を行う。その結果をクラス代表の判断材料としよう。」

 

 またまた自分の知る原作とは違う展開に困惑する千春、そんな千春に追い討ちをかけるかのように

 

 「そうだ織斑、お前に伝えておくことがあった。日本政府よりお前に専用機が与えられる事になった。既に完成しており明日搬入される。明日の放課後は専用機の受取りと起動試験を行うので時間を空けておくように。」

 

 千冬の言葉は千春を更なる混乱へと導いた。

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆ 回想終了 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 「・・・・・・という事があったんだよ。」

 

 「なんというか、その織斑だっけ? バカなの?」

 

 紫が辛辣な評価を口にする。口にはしないものの全員が同じ事を感じた。

 

 「それにしても専用機か、確か倉持技研が作ったんだよな。」

 

 倉持技研が男性操縦者用の機体を作っているのは、既にこの場にいる全員は知っていた。 ただし、どんな機体かは知らない。

 

 「そういや、楯無が言っていたけど簪にも倉持から専用機の話が来ていたらしいな?」

 

 「そうだよ、更識ISラボがかんちゃんの専用機を開発すると決めたら話が来てね、でもかんちゃんは更識ISラボの方が先に決まったからと言って断ったんだよね。」

 

 「その後聞いたんだけど、篠ノ之さんにその話がいったみたい。」

 

 本音の後を簪が引き継いで話す。

 

 「その篠ノ之さんの実力は?」

 

 シュテルが尋ねる。

 

 「接近戦・・・特に刀の腕前はピカイチ、私では勝てない。でも銃火器はイマイチ、総合力では私が上。」

 

 簪がそう箒の事を評価する。ちなみに簪は日本代表候補生序列5位だ。

 

 「ふーん、でも何で篠ノ之さん何だろう?専用機を持っていない代表候補生は他にもいるのに。」

 

 紫の疑問に簪が答える。

 

 「倉持が持ってきた機体のコンセプトが近接戦闘がメインの機体だった。おそらくある程度の近接戦闘の腕が欲しかったんだと思う。」

 

 「という事は1組の代表決定戦は全員が専用機持ちという訳か。・・・・本命がイギリス代表候補生に対抗馬で篠ノ之さん。大穴というかほぼ外れで織斑か。」

 

 零也の評価は全員共通のものだった。

 

 

 

 



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第5話  放課後の一幕

 

 

  1年3組 放課後

 

 初日の授業も無事に終わり、クラスの生徒達は部活に向かう準備をする者、自主連に向かう準備をする者、帰寮する準備をする者と様々だ。 

 そんな中、零也は部活に入らないので帰宅する準備をしていた。 IS学園は全寮制だが男性である零也の部屋は入学までには、準備が間に合わないという話だったので暫くは自宅からの通学となっていた。

 勿論、紫も自宅からの通学でその間はシュテルが護衛につくのだ。  そんな3人に3組の副担任であるオータム・シーズンが声をかけた。

 

 「月村兄妹、それに高町、少し待て。本来ならもう少しかかる筈だった寮の準備が何とか間に合った。そこで本日から入寮してくれ。これが鍵だ。」

 

 そう言って3人にカードキーを渡す。 カードキーを見れば、そこに印字されている部屋番号は3人とも同じ【00000】となっていた。 その意味するのは、つまり

 

 「「「オータム先生、これって・・・」」」

 

 「お前たち3人は同室だ。今回特別に用意された部屋でな。ちなみに荷物は、家族の方に用意してもらい届けてある。もう部屋にある筈だ。」

 

  紫とシュテルは納得したものの、零也は

 

 「いやいや、流石に妹や護衛とはいえ、男女同室は不味く無いですか?」

 

  てっきり一人部屋と思っていたので慌てて訴える。

 

 「残念だが今更変更は出来ねえ。3年間は同室だから頑張れよ青少年!」

 

 そう言って零也の背中を叩いて教室を後にするオータム。 教室を出て暫くしたところで

 

 「私は何も3人部屋とは断言して無いぜ。」

 

 やや意地の悪い笑顔を見せて呟き立ち去るのだった。

 

 一方、残された3人はカードキーをポケットに仕舞う

 するとまるでタイミングを測ったかのように零也のスマホにメールが届くのだった。 そこには楯無から生徒会室に来るように書かれていた。

 

 「楯無が生徒会室に来て、だってさ。」

 

 そう零也が告げると紫が

 

 「兄さん、悪い予感しかしないんだけど。」

 

 「・・・・・・・だからといって無視すると後で何が起きるか解らんしな・・・・・はぁ~、仕方ない行くとするか。」

 

 そう言って零也達は生徒会室に向かうのだった。

 

 

 

 

 

   

 

   同時刻  1年1組 

 

  此方も全ての授業が終わり、生徒達はそれぞれ目的の場所へと向かう準備をしていた。 千春も一応帰宅するための準備をしていたのだが、そこに千冬と真耶が来て

 

 「織斑くん、突然で申し訳ありませんが急遽本日から学園の寮に入寮して貰う事になりました。」

 

 「とりあえず荷物は私が最低限の物を揃えて持ってきた。他に必要な物が有れば、休日に外出届けを出して取りに行け。」

 

 真耶と千冬がそう言ってきたので千春は

 

 「は、はいわかりました。」

 

 「ところで織斑、お前に再確認したい事がある。参考書の事だ。」

 

 その瞬間、千春の顔は青ざめていく。千冬は持ってきたバックから一冊の分厚い参考書を取り出す。

 

 (な、何で参考書が!)

 

 「さて、織斑。確かお前は授業の時に参考書は間違って捨てた、と言っていたな? だが家を警護していたSPに確認した所、ゴミとして参考書が捨てられた形跡はなかったと言っていた。 そして私が着替えを取りに帰り、お前の部屋に入ったところ参考書がマンガ雑誌の下敷きとなってベッドの横にあった。」

 

 千春に参考書を見つけた時の状況を淡々と告げる千冬。千春は次に帰宅した時に、読まなくなった漫画雑誌と一緒に捨てようと思っていた。一応念のために漫画雑誌の一番下に分からないように重ねていたのだが、それを千冬が荷物を取りに行った時に見つけてしまったのだ。 

 そして今の千冬は無表情な顔とは引き換えに見ているだけで確りとわかる怒気は感じとれた。 それは千春にも十分伝わっていた。

 

 「山田先生、申し訳ありませんが織斑の同室の者に本日は織斑は部屋に戻らないと伝えて貰えますか?」

 

 「は、はいわかりました。織斑先生の仕事の方は私が出来る範囲の物は処理しておきます。」

 

 「ありがとうございます山田先生、それから夕食の手配もお願いしてよろしいでしょうか?」

 

 「はいわかりました。え~と、寮監室でよろしいでしょうか?」

 

 「そうですね・・・・はい、お願いします。さて織斑、お前には色々と話したい事が山のようにある。今日は私がマンツーマンでじっくりと話をし、更に勉強の方も時間が許す限り指導してやる、有難いだろう。」

 

 そう言って千冬は千春の制服の襟を掴み引き摺りながら教室を後にするのだった。

 

 余談だが、この日寮監室からは夜遅くまで千冬の怒鳴り声と千春の悲鳴が聞こえたとか。

 

 

 

   生徒会室

 

 

 生徒会室の重厚な扉の前に零也達はいた。扉をノックすると、扉が開かれて

 

 「お待ちしておりました。」

 

 そう言って虚が迎え入れてくれた。 そのまま零也達が室内に入ると、そこには楯無と本音の姿があった。

 

 「いらっしゃい、待ってたわよ。」

 

 机の上に重ねられた書類の山と格闘しながら出迎える楯無。

 

 「・・・・・えらく仕事が溜まっているな。さてはサボったな。」

 

 零也の指摘に楯無のペンの動きが止まる。

 

 「毎度の事です。本気になって毎日やっていれば、こんなに溜まる事は無いのです。なのに毎回毎回、目を離した隙にサボったり、エスケープしたりして、こんな事になるんです。」

 

 虚の背後に般若の面影が見える。 それを感じ取ったのか、何も言わずにひたすら書類に目を通していく楯無。

 

 「そ、それで俺達を呼び出した用件は何なんだ?」

 

 「それなんだけど、まず最初にIS学園に所属する生徒には何かしらの部活動に参加する義務があるの。そこで零也と紫に生徒会への所属をお願いしたいの。ちなみにシュテルさんにはその任務上、部活動への参加義務は無いわよ。」

 

 「なんで生徒会?」

 

 「生徒会に所属しておけば、よほどの事が無い限り他の部活からの勧誘は無いわ。それに生徒会に所属しておけば週に2回、特別にアリーナの特別使用許可が与えられるのよ。お得でしょ?」

 

 笑みを浮かべて、そう言ってくる楯無。

 

 「まあ俺の場合はマスコットや雑用係にされるのがオチだからいいけど。」

 

 「私も特に入りたい部活が無いからいいよ。」

 

 二人の答えを聞き笑みを浮かべる楯無。

 

 「「ただし、自分の仕事は自分でしてね!」」

 

 その瞬間、机に額を打ち付けて落ち込む楯無。どうやら二人に仕事の手伝いをしてもらう算段をしていたようだ。

 

 「やはりそんな事を考えておられたのですね。残念ながら私がそんな事はさせません。自分の仕事は自分で処理なさってください。」

 

 追い討ちをかける虚。

 

 「それで用件はそれだけ?」

 

 「あ~と、実はあと2つほど面倒な用件があるの。」

 

 零也の問いかけに答える楯無。

 

 「最初に、日本政府というか、一部の議員達から零也に石動重工が作る専用機に変更しろという話がきたの。こっちの方は色々と手をまわして白紙にしたわ。ただ、それを逆恨みしてちょっかいをかけてくる可能性があるから気をつけてね。」

 

 「めんどくさいな。」

 

 「次に、来週1年1組がクラス代表を決める為の模擬戦があるのは聞いてる?」

 

 「あぁ、本音から聞いたけど、それがどうかしたのか?」

 

 「実は国際IS委員会の方から、その時に零也も一緒に公開模擬戦をするように命令がきたの。対戦相手は織斑君よ。」

 

 「なんで?」

 

 「表向きの名目は早い段階で男性操縦者の実力を把握しておきたいという事。でも実際には色々と思惑が絡んでいるの。」

 

 「国際IS委員会と言っても組織です。様々な人間の集まり、派閥というものが出来ます。女性権利団体の関係者が集まった【女権派】、男性の権利を向上を目指す【男権派】、ISの技術を民間にフィードバックして治安維持や災害救助や復興に関する物の発展を目指す【革新派】と、現状を維持して急激な変革を求めず、緩やかな発展もしくは衰退を望む【穏健派】これら以外にも派閥が幾つもあります。」

 

 楯無の話を虚が補足する。

 

 「そして派閥も決して1枚岩じゃないわ。例えば【女権派】内では、男性操縦者の存在その物を無くしたいと思っている者達もいれば、自分達の象徴である織斑千冬の弟の存在だけは例外にしようと思う者達もいるわ。」

 

 「なるほど、そういった思惑が絡み合った結果が入学早々に俺と織斑との模擬戦という訳か、迷惑な話だ。」

 

 「ということで、来週月曜日の模擬戦までの間にアリーナが訓練で3回使用できるわ。火曜木曜は一般アリーナでの訓練、土曜の午前は教員専用アリーナでの訓練よ。教員専用アリーナは特例として使用許可がおりたわ。」

 

 「了解、それじゃあ今日は帰るわ。荷物を整理しないといけないしな。」

 

 そう言って零也達は部屋を出ようとする。そこに楯無が

 

 「そうそう、最後に私も零也達と同じ部屋だからよろしくね♥」

 

 そう言ってウインクする楯無。それを聞いて手で顔を覆い溜め息をつく零也であった。

 

 

 

 

 

  



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第6話  青い雫VS赤鋼

 
 
 短めです。


 

 

 1週間後 1年1組のクラス代表決定戦当日

 

 IS学園の第1アリーナには、試合開始を待ちわびる生徒達が詰めかけて満席となっていた。

 本来なら1年1組の生徒のみが観戦する予定だったのだが、決定戦後に関係者のみの立合いで非公開で行われるはずだった月村零也と織斑千春の男性操縦者同士のエキシビション戦の話がどういう訳か学園内にあっという間に広がり、観戦希望者が殺到してしまったのだ。

 もっとも観戦に来た生徒達はクラス代表決定戦が終了後に退場を命じられるのだが、その事に未だに気づいた者はいない。

 公開模擬戦とはなっているものの、それはあくまで国際IS委員会と各国のトップと学園の関係者に公開されるものであり、一般の生徒は除外されているのだ。

 

 

 そんな中、零也はアリーナのBピットで待機していた。側には紫とシュテルがおり、零也を見守っていた。

 ピット内には内部を区切るように、パーテーションが設置してあり零也達のいる場所と同じピットを使用するセシリアのいる場所は仕切られており、互いのプライバシーが保たれるようになっている。

 

 そのセシリアも試合開始時間がきたのでアリーナに出ていったようだ。 今回は試合の公平性を期すために、他の試合を観戦出来ないように、ピット内に設置してあるアリーナを映し出すモニターとスピーカーは切られており、アリーナの様子を伺う事は出来なかった。

 

 「確か最初はオルコットさんと篠ノ之さんの試合だったね?」

 

 「そうだよ兄さん、その後がオルコットさんと織斑の試合、その次が織斑と篠ノ之さん。」

 

 「零也はどちらが勝つと思う?」

 

 「専用機の性能と二人の実力が両方ともはっきりしていないから断言は出来ないけど、遠距離射撃型のオルコットさん、近接格闘戦型の篠ノ之さん、この相性だとオルコットさん有利かな。もっとも銃撃の中を掻い潜り懐に潜り込めれば篠ノ之さんにも勝機はあるけどね。」

 

 

 

 

 

  

  一方アリーナでは

 

 専用機【ブルーティアーズ】を纏ったセシリアと完全装甲型の鎧武者を彷彿とさせる専用機【赤鋼(アカガネ)】を纏った箒が対峙していた。

 セシリアは右手にレーザーライフル【スターライトmKⅢ】を構え、箒も右手にマシンガン【火岸華(ヒガンバナ)】を構え、試合開始の合図を待っていた。

 

 (今の私の実力では真正面から戦ったら到底及ばないだろう。悪いが策を労させてもらうぞ)

 

 箒はマシンガンのグリップを握りしめて待つ。箒は代表決定戦が決まってからというもの、ずっと戦い方を模索していた。近接格闘にほぼ特化している自分が格上のセシリアに勝つ為には正面から挑む正攻法では無理と判断した。

 そのための策を色々と考え、様々な準備をしてきた。

 

 そして今、それを実行しようとしている。

 

 

 

 対するセシリアは、本人は油断も慢心もしていないつもりだった。そして自分の勝利を1ミリたりとも疑っていなかった。

 

 (篠ノ之さんには悪いのですが、この勝負は貰いました。いくら近接格闘戦に長けているとはいえ、私との相性は最悪です。近づくことすらさせずに勝たせてもらいます)

 

 

       やがて

 

 

 『1年1組クラス代表決定戦、第1試合セシリア・オルコット対篠ノ之箒。』

 

     ブーーーーー

 

  アナウンスと共に試合開始を告げるブザーが鳴る。

 

 箒とセシリアが銃器を同時に相手に向ける。そしてセシリアのスターライトmKⅢからはレーザーが、箒の火岸華からは銃弾ではなく、火岸華に取り付けられたアタッチメントから砲弾らしきものが放たれる。

 レーザーと砲弾がぶつかりあった瞬間だった、凄まじい閃光がアリーナを覆い尽くす。

 そう、箒が撃ったのは閃光弾だったのだ。競技用の閃光弾故に威力は抑えられているが、その凄まじい閃光はアリーナの観客は勿論のこと、管制室の職員、そして対戦相手のセシリアの視力を奪うには十分な威力だった。

 

 無論、箒は自分が閃光弾を使う以上は対策はしていた。フェイスガードの目の部分にはいつの間にか遮光グラスが装着されており閃光から目を護っていた。

 

 そして箒はまだ光が満ちている間に、セシリアに向かって行きながら火岸華を射つ。 

 

 「きゃあぁぁぁぁーー!!」

 

 未だに閃光により視界を奪われたままのセシリアに銃弾を避ける事は出来ずに食らい続ける。 

 箒は火岸華を収納すると、今度は両手に手榴弾を取り出して、セシリアに向けて放り投げるとそのまま上昇する。 手榴弾はセシリアの側で爆発する。

 

 「きゃあぁぁぁぁーー!!、何ですの?何が?」

 

 漸く光が消えたものの、セシリアは未だに閃光の影響で視力が戻らず、周囲で何が起きているのかが確認出来ないでいた。ハイパーセンサーも視力が戻らなければ使う事も出来ないので、セシリアには視力が戻るのを待つしかなかった。

 一方、アリーナの観客席の生徒達や管制室の職員達は閃光弾が爆発した瞬間の最初の光に一瞬目が眩んだものの、すぐに視力は回復して何事もなかったかのように試合を見ている。

 

 アリーナを保護するシールドバリアには熱や光を緩和する役目もあり、またアリーナを管理するコンピューターが瞬時にアリーナ内部の状況を判断してシールドバリアの強度を部分的に上げたり、熱や光をより遮断するようにしている。

 

 

  アリーナの天井近くまで上昇した箒は背中に装着されている大太刀【天海(テンカイ)】を抜いた。

 これこそ赤鋼の第3世代型兵装なのだ。そしてその能力とは

 

 「いくぞ!」

 

 箒は八相の型で天海を構えセシリアに瞬時加速で向かっていく。 

 未だに視力が戻らないセシリアは頭上から迫る箒に気づかない。 そして

 

 「天海、疑似零落白夜起動! 篠ノ之流剣技、胡蝶双刃!」

 

 箒が天海に搭載されている第3世代兵装【疑似零落白夜】を起動させると天海の刀身が青白い光に覆われる。

 そして箒は天海をセシリアの右腕とライフル目掛けて振りおろすのであった。

 

 「きゃあ?! い、いつの間に!」

 

 箒の振るった天海はセシリアのライフルを寸断し、更に絶対防御を切り裂き右腕の装甲を斬る。

 箒は更にそこから、刃を返して横一文字に振るい、右脚部の装甲を斬る。そこで刀身の青白い光が消えた。

 

 篠ノ之流剣技【胡蝶双刃】

 篠ノ之流には2つの剣がある。1つは千冬が得意とする一撃必殺を主体とする剛の剣、もう1つが箒が修めている返し技や連撃を主体とする柔の剣。

 胡蝶双刃は箒が得意とする連撃の1つで、上段から振り下ろした刀の刃を返して横一文字薙ぐ技である。

 

 見事に決まった胡蝶双刃は、ライフルを爆発させ右腕と右脚の装甲も破損箇所から放電をはじめる。

 

 

 

 

     そして

 

 『ブルー・ティアーズ、SEエンプティー。1年1組クラス代表決定戦第1試合、試合終了。 勝者、篠ノ之箒!』

 

 

 

 

 

 

 




 
 
 


 第3世代型IS【赤鋼】(外見:FAマガツキ)


 倉持技研が開発した完全装甲型の第3世代型IS
 千冬の代名詞ともいえる零落白夜野再現を目標として作られた機体。試行錯誤の末に擬似的な再現に留まり、完全再現には至らなかった。
 また搭載する武器が武器だけに操縦者の安全を考慮して完全装甲型になった。だからといって、決して鈍重ではなく、装甲の素材やスラスターの出力upにより打鉄より機動性能は良い。
 紆余曲折を経て、箒の専用機となる。


 武装

 戦術迫撃刀【天海】
 倉持技研が技術の推移を集めて、何とか再現した疑似零落白夜を搭載した第3世代兵装の大太刀。
 自機のSEを消費して攻撃力に変えるという零落白夜のデメリットを無くすために試行錯誤した末に、太刀本体にエネルギーパックを内蔵し、そのエネルギーで発動する使用にした。ただし、エネルギーの消耗が激しく15秒しか発動出来ず、エネルギーの再チャージには専用の補給機を使用して30分掛かる。
 当初は簡単に交換可能なカートリッジ方式にしようとしていたが、肝心のカートリッジが意外と大型となり、鐔や柄の部分に装着するとバランスが悪くなることが判明。 
 現在、発動時間を伸ばす為にエネルギー消費量の効率化と、交換式にするためにカートリッジの小型軽量化を研究中。 
  

 戦術要撃刀【刹牙(さつが)】
 天海の予備の刀として装備されている。特段の能力は備えていない。


 小型機関銃【火岸華】
 射撃があまり得意としていない箒でも使いやすいように作られた機関銃。射撃補正システムにより更に使いやすくなっている。アタッチメントを装備することで閃光弾や煙幕弾を撃つことが出来る。


 大型散弾銃【砲閃華(ほうせんか)】
 同じ箒でも使いやすく作られた散弾銃。射程は短いが威力はある。


 手榴弾
 手投げ爆弾

 
 
 

 篠ノ之箒について
 
 原作とは違い姉束の事を多少なりとも理解している。
そのために、何時の日か束の夢の力になりたいと思いISの勉強を始めた結果、代表候補生となった。
 ちなみに千春に関しては、別れる前までは好きだったが心身の成長と共に徐々に薄れていき、今は恋心は抱いておらず単なる友人という認識。
 その為に束縛的な言動や暴力行為はみられる事はない(初日の出来事で好感度は更に絶賛降下中)




 セシリア・オルコットについて

 原作とは違い両親は存命で夫婦中は円満。その為に女尊男卑の思想に染まる事もなく育つ。
 ただ生来のお嬢様気質の性か、本人は意図していないものの、発言や態度が高飛車・傲慢に見られてしまうところがある。


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第7話  インターミッション

 

 

 

 『ブルー・ティアーズ、SEエンプティー。 1年1組クラス代表決定戦第1試合、試合終了。勝者、篠ノ之箒!』

 

 アリーナに箒の勝利を告げるアナウンスがされた瞬間、観客席が大きく沸いた。

 下馬評ではセシリアの勝利が予想されていただけに箒の勝利は予想外すぎて、会場は興奮の坩堝と化していた。

 

 一方、アリーナのフィールドに降り立った箒は大きく息を吐くと、自分が勝った事を実感し始めた。

 

 (かなり分の悪い賭けだったが、何とかなったな)

 

 奇襲による短期決戦、自分が勝つにはそれしかなかった。

 

 (もっと訓練を重ねて強くならないと。このままじゃ姉さんの力にはなれない)

 

 箒はそのままピットへと戻っていく。

 

 

 セシリアは右腕と右脚の装甲が破損している為に、バランスを取りながらフィールドに降り立つ。

 視力は既に回復している。

 

 (油断も慢心もしていないつもりでした・・・・ですが、私は何も出来ずに負けてしまいました。)

 

 俯いたまま唇を噛みしめピットに向かっていく。

 

 (どこかで篠ノ之さんを侮っていた、それが今回の結果を招いた。全ては私の不徳の致すところ。これを教訓として、心を引き締めて2度と慢心も油断もしません。)

 

 そう誓いをたてながら戻るセシリア。

 

 

 

  

 アリーナ管制室

 

 試合を観戦していた真耶は隣にいる千冬に

 

 「何と言うか、随分と思いきった手段を使いましたね篠ノ之さんは。」

 

 「あいつなりに考えたのだろう。自分の今の実力ではオルコットに勝てないと。もっとも、一回しか使えない奇策だがな。」

 

 「それにしても、あの閃光弾の使用は良かったのでしょうか?」

 

 「レギュレーションには違反してませんし、閃光弾の威力も競技使用規程の範囲内のものですから問題はないです。それでも文句を言ってくる輩は現実を知らない、ISに幻想を抱く連中かブリュンヒルデ信仰の女尊男卑の連中だけです。相手にするだけ無駄。」

 

 千冬はそう言ってバッサリと切り捨てる。

 

 

 

 アリーナに通じるゲートを潜り、Bピットに戻ってきたセシリアはISを解除して待機形態に戻して隣の整備室に待機している整備士に渡した。 次の試合までの間に破損したブルー・ティアーズをチェックしてもらい修理や補給をしてもらう必要があるからだ。 すると、

 

 「お疲れ様、オルコットさん」

 

 いつの間にかパーテーションで仕切られたブライベートルームから出て来ていた零也達が労いの声をかけてスポーツドリンクを渡す。

 

 「ありがとうございます。」

 

 「こうして面と向かって話すのは初めてだよね。1年3組所属の月村零也だ。」

 

 「同じく、月村紫です。」

 

 「月村君の警護を努める高町シュテルです。」

 

 「1年1組所属のセシリア・オルコットです。月村零也さんと紫さんは昨年の夏にロンドンで行われたクリステラソングスクールのワールドツアーのロンドンコンサートの警護でお目にかかっておりますわ。」

 

 「もしかして、会場の外を警護していたISの操縦者?」

 

 「はい、あの時はまだブルー・ティアーズを授かっていなかったので、他の方々と一緒に第2世代型のメイルシュトロームを装着していたので、解らなかったとは思います。」

 

 零也と紫は昨年の夏にロンドンで行われたクリステラソングスクールのワールドツアー、ロンドンコンサートに恭也と共に護衛として参加していたのだ。

 恭也の幼馴染みのフィアッセ・クリステラが校長を勤めるクリステラソングスクールは毎年チャリティーコンサート行い世界中のツアーで回っている。

 その収益は必要経費(出演者はボランティアなのでギャラは発生しない)を除いて全て寄付されるのだが、その金額はかなりのものになる。

 それを巡って色々とちょっかいをかけてくる者達が少なからずおり、毎年では無いものの物騒な事が起きる可能性がある。

 昨年も、ある女性権利団体がそのお金を狙って脅迫してきたのだ。

 

 曰く、そのお金は虐げられた女性の為に使うべきだ。

 

 曰く、自分達がその為の出先機関となってやる。

 

 曰く、貧困に喘ぐ子供や発展途上国に使うのは無駄だから辞めろ。

 

 曰く、チャリティーコンサートなんて止めて、自分達の利益の為にコンサートをしろ。

 

 曰く、男性排斥の為の歌を作って広めろ。

 

 

 と無理難題を押し受けてきた。拒否すれば、コンサートの開催を妨害したり、出演者を襲撃するとまで言ってきたのである。

 元々、色々とやらかしていた危険な団体だっただけに実行される可能性が高かった。

 

 普段は日和見主義の政府は元より国際IS委員会も今回の事態は重く受け止めて、コンサートが開かれる都市や会場での警護に警察や軍隊は勿論のこと、IS操縦者を派遣することになった。 会場だけでなく、出演者やスタッフ達にも警護をつけることに。

 そんな中、フィアッセは自分が一番信頼できる人物である恭也に護衛を頼んだのだった。 恭也は勿論断る事をしなかった。勿論恭也一人ではなく、美由希と雫も一緒になって護衛についた。

 ただロンドンコンサートの時、二人はどうしても外すことに出来ない予定が入っており、その代役として特別に零也と紫が参加したのだった。

 そしてセシリアも代表候補生として警護に参加していた。 セシリアはその時に主要人物の警護に自分と歳の変わらない少年少女が参加していたのを不思議に思っていた。しかも銃ではなく刀を持っていたので、余計に印象に残っていた。

 

 

 そして、そのロンドンコンサートで事件は起きた。

 

 

 今回の一件を受けてテログループに指定され、次々と自分達の犯罪行為が暴かれ始め、逮捕されることが確実となり後が無くなってきた女性権利団体が暴発したのだ。

 銃火器で武装したメンバーと、何処からか盗んできたISを装着したリーダーがコンサート当日に襲ってきたのだ。

 幸いな事にISを装着したリーダーは殆ど素人だった為にすぐに取り押さえられ、他のメンバーも瞬く間に制圧されていった。

 その場にいたセシリアも武装したメンバーの制圧や、一般人の避難誘導にあたっていたのだが、そこで彼女は目を疑うような光景を目にしたのだった。

 

 女性権利団体は自分達の襲撃を成功させる為に傭兵と暗殺者を3人雇っていたのだった。

 そしてセシリアは、自分の近くで二本の小太刀を構えた零也と自動小銃を持った女性傭兵の戦いを目撃したのだった。 

 女性傭兵の持っていた自動小銃から放たれた弾丸を零也が避けたり小太刀で打ち落とし、そして目にも留まらぬ早業で、瞬く間に倒したのを。

 ISでのハイパーセンサーですら捉える事の出来なかった早業はセシリアの心に深く刻まれた。

 

 

 

 「あの時の月村さんの剣の凄さは今でも脳裏に焼き付いて離れません・・・・・ですが、私はその事をいつの間にか忘れてしまい油断し、慢心していましたわ。」

 

 セシリアはそう言って俯いた。

 

 「オルコットさん。こう言っては何だけど、あんなの出来るのはお兄ちゃんを含めてそんなに居ないからね。むしろ出来る方が可笑しいんだから。」

 

 「おい紫、そう言うお前も出来るだろうが?」

 

 「そうだけど、お兄ちゃん達は異常だよ。」

 

 「それはつまり、自分が未熟者だと言っているようなものだぞ。」

 

 「違う!未熟者じゃなくて、お兄ちゃん達が人外なの!」

 

 突然始めた零也と紫の口喧嘩に目を白黒させるセシリア。

 

 「二人共、その辺にしておいてください。私からすればどっちもどっちです。それにオルコットさんが呆れてますよ。」

 

 この口喧嘩はシュテルが止めに入ったのだが、セシリアはいつの間にか自分が箒に負けた事で気負っていたのに気づいた。体には余計な力が入り、気持ちに余裕を無くしていた事に。

 意図した訳では無いのだろう。だが、零也達のやり取りは何故か自分をリラックスさせてくれた。

 日常の何気無い一齣がもたらしたものだった。

 

 

 「ありがとうございます月村さん」

 

 「別に俺たちは何もしてないぜオルコットさん。」

 

 「いいえ、そんな事はありません。それからこれからは私の事をどうぞセシリアと呼んで下さい。」

 

 「そうか、それなら俺の事も零也でいいぜ。」

 

 「私も紫って呼んでね。」

 

 「私の事もシュテルで良いですよ。」

 

 そう言ってセシリアは零也達と握手を交わすのだった。

 セシリアは零也達と別れて整備室に向かおうとした時だった。ピットのモニターが点き、千冬の姿が映し出された。

 

 『オルコット、それに月村兄、丁度良かった。トラブル発生だ。』

 

 「トラブル? 何があったのですか織斑先生?」

 

 『先ず最初に聞いておきたいのだがオルコット、ISの状態はどうだ?』

 

 「今から整備室に持って行って見てもらう予定ですが?」  

 

 『自分の目から判断してどうだ?』

 

 「ライフルは予備の物があるので大丈夫ですが。右腕と右脚の部分の修理は少し時間がかかると思います。見た感じ、何処か重要な配線を破損しているように感じます。」

 

 『そうか・・・・・・』

 

 「どうかなさったのですか織斑先生? いったいどういったトラブルですか?」

 

 『・・・・・・・織斑が、禁止されているオルコットと篠ノ之の試合を観戦していた事が判明した。』

 

  「「「「えっ?!」」」」

 

 

 

 

 

 

 時間は少し遡る。

 

 箒はアリーナからAピットに通じる通路を通りゲートの前に来ると、赤鋼を解除する。

 その瞬間、全身から汗が滝のように流れて、凄まじい疲労を感じた。

 体力的にはあまり消耗していないのだが、精神的な消耗が激しく、それが疲労となって襲ってきたのだ。

 軽く汗を拭い何とかゲートを開けて、ピットの中に入ると千春が駆け寄ってきた。

 

 「箒!すげえな、あのセシリアに勝つなんて!」

 

 その千春の言葉に箒は違和感を感じていた。

 

 (セシリア? 千春は何故、親しくもないクラスメイトの事を名前で呼ぶんだ?それも呼び捨てで・・・)

 

 だがその違和感も、次の千春の言葉で吹き飛んでしまった。

 

 「ところで何で、箒の専用機に零落白夜が搭載されているんだ? 見た感じ雪片じゃ無かったようだけど?」

 

 (何故千春が私の赤鋼に零落白夜が在ることを?私は千春には話していないし、専用機も見せた事も無いぞ?)

 

 そもそも、箒の赤鋼を受領したのはIS学園への入学直前であり情報は殆ど出回っていない。

 だからこその疑問に箒は自分の中で答えを探し始め、ある結論を出した。

 

 「ち、千春、まさかと思うが試合を見ていたのか?」

 

 「あぁ、モニターで見ていたぜ。待機中が暇でさ、テレビでも見ようとモニターつけたら試合を映していてさ、そのまま見てたんだけど? 」

 

 千春から語られた事実に驚く箒。 

 

 「ち、千春は試合前の千冬さんの説明をちゃんと聞いていたか?」

 

 「説明? そういや色々言っていたな。試合の順番とかとルールとか。あと、クラス代表決定戦の後に俺ともう一人の男性操縦者と試合をするって。」

 

 「そのルールの部分だ! ちゃんと聞いていたか?」

 

 「え~と・・・・・なんか色々言っていたけど、まあ試合に勝てばいいんだし」

 

 その一言で千春が今回の試合のルールを殆どまともに聞いておらず理解していない事を知った箒は愕然とした。 

 そしてまるでタイミングを計ったかのようにピットの扉が開き千冬が入ってきた。

 

 「織斑、次はお前の試合だが・・・・どうした?」

 

 千冬はピットに入ってすぐに千春と箒の様子に違和感を感じて訊ねた。

 

 「ちふ、 織斑先生。千春が私とオルコットの試合をモニターで観戦していたようです。」

 

 箒の話を聞いて、すぐに険しい顔になる千冬。その顔を見て自分が何か不味い事をしたのかと思う千春。

 

 「・・・・・・・・織斑、篠ノ之の言うことに間違いはないか?」

 

 「ああぁ。その試合中、暇だったんでテレビでも見ようとモニターをつけたら試合が映っていて、そのまま見たけど、何か不味いの?」

 

 「・・・・・・・・・・・お前は試合前の私と山田先生の説明をちゃんと聞いていたか?」

 

 「織斑先生。千春は先程私に言いましたが、ルールの部分をまともに聞いていなかったようで殆ど理解しておりません。」

 

 千春が答える前に箒が告げる。

 

 「・・・・・織斑、篠ノ之の言うことに間違いはないか?」

 

 「・・・・・・・あぁ、その、間違いない。」

 

 この時点になって自分が箒達の試合を観戦したのが、どうやら問題だったということに、ようやく気遣い千春は顔を青ざめた。

 

 「織斑、山田先生が試合のルールを説明した際に試合の公平性を保つ為に他者の試合観戦を禁止するという事を説明した。それをお前はちゃんと聞いておらず理解していなかったようだな。」

 

 そこまで聞いてようやく千春は自分が試合の為に設けられたルールを破っていた事に気づいた。

 

 「そ、その千冬姉、おグベッ?!」

 

 「織斑先生だ!馬鹿者!」

 

 千春の頭に拳骨がとぶ。 そのまま顔をしかめて思案する千冬。 本来なら次は千春と箒の試合なのだが、千春が試合を観戦した事で状況がかわってしまった。

 

 (箒は今の試合で手の内を千春に幾つか見せてしまった事になる。いくら千春がIS初心者とはいえ・・・・)

 

 しばし思案した後に千冬はピットに設置してある通信機に向かい

 

 「織斑、とりあえずお前は割当てられた待機室に戻っておけ。篠ノ之はISのチェックと補給を!」

 

 「「わかりました。」」

 

 二人は返事をすると箒は整備室に、千春はパーテーション仕切られた待機室に戻る。

 それを見届けてインカムを付けて千冬は管制室に連絡するのだった。

 

 

 

 

 

 

 『・・・・・・・・という訳だ。』

 

 千冬の説明を聞き、零也たちは呆れるのだった。

 

 「それで織斑先生はどうなさるおつもりですか?」

 

 零也の問い掛けに千冬は

 

 『こう言っては何だが、先程の試合ではオルコットは手の内を殆ど明かしていない。本来なら篠ノ之と織斑との試合なのだが、順番を入れ換えてオルコットと織斑の試合をして、それを篠ノ之に観戦させて条件を同じにしようかと考えたのだが、とりあえずオルコットの機体の状態しだいだと考えている。今は機体のチェックを急いでくれ。 アリーナ設備の緊急点検ということで時間を稼ぐ。』

 

 「わかりました。」

 

 そう言ってセシリアは整備室に急いでいくのだった。

 

 「それで織斑先生、セシリアの機体の状態が良くない場合はどうなさるおつもりですか?」

 

 『・・・・その場合はクラス代表決定戦は一旦中止にして月村と織斑の模擬戦を繰り上げで開始する。』

 

 「なるほど、その試合を二人に見せ尚且つ二人の機体の整備と補給の時間を稼ぐのですね。」

 

 『済まないが、そうなる。本来ならクラス代表決定戦とは無関係なお前を巻き込むことになるが。』

 

 「俺は別に構いませんよ。」

 

 『そうか、済まないな。』 



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第8話  出撃前

 
 




 

 

 

 

 

 

  

 

 

 『つまりオルコットの機体の損傷は思ったよりも酷いという事か・・・・』

 

 「はい、ライフルは予備の物を使用し、右腕の損傷は軽微なので装甲と内部パーツの交換で済むのですが、右脚部の方が思ったより損傷が酷く、修理には少なくとも数時間はかかるとの事です。」

 

 『となるとオルコットは織斑との試合は棄権となる訳だな。』

 

 「申し訳ありません。」

 

 『いや、オルコットが謝罪することではない。』

 

 暫し沈黙した後に千冬は

 

 『よし、1年1組クラス代表決定戦はこれにて終了とする。そしてこの後は月村と織斑の特別模擬戦に移行する。月村、済まないが準備をしてくれ。観客席の生徒達を退席させた後に試合を開始する。恐らく10分から15分殆どかかると思う。』

 

 「わかりました。」

 

 零也はそう返事をすると自分の待機室に向かう。

 

 『それからオルコット、本来ならこの試合は関係者以外は見学禁止なのだが、今回はお前と篠ノ之には特別に見学を許可するから管制室に来い。』

 

 「は、はい。わかりました。」

 

 そう言ってセシリアも一旦着替える為に自分の待機室に向かう。

 

 

 

 

 

 

 Aピット

 

 「・・・・・という事で山田先生、すぐに観客席の生徒達を退席させるように。従わない場合は謹慎処分を申し渡すと伝えるように。」

 

 『わかりました。』

 

 そう言って真耶との通信が終わる。

 

 「さて篠ノ之、今言った通りにお前にも特別に見学を許す。準備をして管制室に向かえ。」

 

 「はい、わかりました織斑先生。」

 

 そう言って箒は待機室に向かう。千冬はそれを見て千春の待機室に向かう。 

 

 「織斑、恐らく聞いていただろう。クラス代表決定戦は今の時点を持って終了する。お前には3組の月村との特別模擬戦に挑んでもらう、すぐに準備をしろ。」

 

 「は、はい。」

 

 「それから、先に言っておく。」

 

 「な、何ですか?」

 

 「今回お前は重大なレギュレーション違反を犯した。例えそれがクラス内での模擬戦であっても許されないものだ。そこでお前には反省文5枚と明日から1週間の間、奉仕作業を命ずる。」

 

 千冬が告げた事に顔を青ざめる千春。

 

 「本来なら懲罰委員会にかけて処罰を決めないといけないのだ。そしてもっと重い処罰が下されるのだが、今回はモニターとアリーナのカメラの接続が切れていないのを確りと確認していなかった此方のミスもある。しかし、事前に説明したレギュレーションをちゃんと聞いていなかったお前には問題がある。それを差し引きして今回は私の独断で処罰を決めさせて貰った。」

 

 「は、はい・・・・」

 

 千春は項垂れて返事をした。 

 そこまで言うと、千冬は待機室を出て管制室に向かうのだった。

 それを見送り、千春は深く溜め息をつくのだった。そしてISスーツに着替えはじめた。

 

 千春にとってはクラス代表決定戦の内容が自分の知る原作知識とは違っている上に、自分以外の男性操縦者との試合なんて思ってもいなかった出来事である。

 そもそも、IS学園に入学してからというもの自分の知る原作知識とはかけ離れた出来事ばかり起こってしまい、千春はずっと混乱し続けていた。

 何より自分の右腕に装着された白銀のガントレットに視線をやり

 

 (・・・・・・そもそも、何で専用機が・・・・・)

 

 千春の脳裏には、入学翌日に渡された専用機の姿が浮かんだ。 

 

 

 

    ◆◆◆◆回想◆◆◆◆

 

 入学して2日目の放課後。

 

 第8アリーナのピットに千春と千冬の姿があった。

 外部搬入口のゲートが開きコンテナを積んだターレットトラックが入ってくる。

 側には白衣を纏った一組の男女がいた。

 

 「初めまして。倉持技研IS開発研究室第1班所属の佐崎進主任研究員です。」

 

 「同じく佐崎薫子研究員です。この度、織斑千春さんの専用機の専従担当者になりました。よろしくお願いします。」

 

 「「此方こそ、よろしくお願いします」」

 

 千冬と千春が二人に挨拶をかえす。

 

 「それでは早速ですが、倉持技研が開発した織斑君の専用機がこちらになります。」

 

 そう言って薫子がタブレットを捜査すると、コンテナが展開していき、内部に鎮座するグレーの機体が姿を洗わした。

 

 「第3世代型IS【白鋼(しろがね)】です。」

 

 進がそう言って機体を紹介する。 倉持技研から渡された白鋼は、箒の赤鋼と同じく完全装甲型のISは、武者を想わせる赤鋼とは違い、此方は甲冑姿の騎士を想わせる姿をしていた。

 

 「完全装甲型か。何故、完全装甲型なのだ?」

 

 この時点で赤鋼の事を知らない千春は兎も角、千冬はこの理由を知っているのだが、あえて質問するのだった。

 

 「日本の主力ISメーカーでは絶対防御に依存しすぎている現行機に対して装着者の安全性に懸念を持っていました。そこでより装着者の安全性を高める手段として完全装甲型への移行を決定しました。その為に白鋼も完全装甲型となっているのです。」

 

 「なるほど。」

 

 千冬は答えを聞き頷く。それを聞いても唖然としている千春

 

 (白式じゃないのか?! どうなっているんだ?)

 

  千春の混乱を余所に進が

 

 「早速ですが最適化をしますので白鋼に乗ってください。ある程度の情報は入力されているので時間はかからないとは思います。」

 

 千春に進める。薫子がタブレットを操作すると白鋼の装甲が開いていき人が乗る部分が出来る。

 

 「は、はい。」

 

 千春はそのまま白鋼に乗ると、装甲が閉じていく。

 

 「息苦しかったり、気分が悪かったりしますか?」

 

 「いえ大丈夫です。」

 

 「それでは最適化を開始します。そのまま待っていてください。」

 

 そう言ってタブレットを操作する薫子。

 

 それから15分ほどして白鋼が輝きはじめて姿を変えていく。

 

 「これが白鋼の本当の姿か。」

 

 千冬達の前には両肩に円形の盾を装着し、腰の左右に鞘付きの刀を装着した白銀の騎士が現れた。

 

 「それでは織斑君、アリーナに出てください。これより機動テストに入ります。」

 

 薫子に促されて千春はヨタヨタ歩きでアリーナに出ていくのだった

 

それを見送り千冬もアリーナに出ていこうとするのだが、ピットの入り口に涼子がいるのに気づくと

 

 「紫堂。そう言えば、お前には特例として3年間の間、学園警備部隊が所持している予備のISを専用機として貸し与える事になった。幾つか機種があるから搭載する武装と一緒に選んでおいてくれ。あと多少のカスタマイズも許可されている。カスタマイズする場合は整備科に企画書を提出して依頼しろ。」

 

 「わかりました。」

 

 「それからもう1つ、今日だけでも構わないから織斑の訓練に付き合ってくれ。」

 

 「今日だけですか?」

 

 「そうだ、今日だけでいい。後は織斑がお前に頼み込んできたら、お前の都合で引き受けるか判断してくれ。お前の任務内容に織斑への訓練や指導は含まれていない。引き受けるのは任務以外の依頼になってしまうからな。」

 

 「わかりました。それでは今日だけは織斑先生の頼みを聞いて織斑君と訓練します。そこのハンガーにあるラファールをお借りします。」

 

 その後、千春は千冬の指導の元、涼子と一緒にみっちりとISの基本動作を繰り返し訓練することになった。

 

 ちなみに千春は結局涼子に訓練の依頼をすることはなかった。

 

 

 

 

 

 (確かに使いやすい機体かも知れない・・・でもこの機体には恐らく束さんが関わっていない・・・・白式じゃないのに、俺は本当に原作通りの活躍が出来るのか?)

 

 原作乖離という耐え難い不安の中で千春は出撃準備を行う。

 そこに真耶から

 

 『織斑君、まもなく試合開始の準備が終わります アリーナへの出撃をお願いします。』

 

 「わかりました。」

 

 そう返事を返すと千春は待機室を出てピットのカタパルト前に立つ。

 

 「出撃するぞ白鋼!」

 

 

 白鋼を展開して装着した千春はカタパルト乗ってアリーナに出撃するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

  Bピット

 

 

 ウェットスーツやドライスーツを想わせる藍色のISスーツに着替えた零也が出撃の合図を待っている。

  零也は目を閉じて、両手を臍の上の辺りで法界定印を結んで精神統一をしており、紫とシュテルはそれを静かに見守っていた。

 

 『月村君、まもなく試合開始しますのでアリーナに出撃してください。』

 

 真耶からの呼び掛けに零也は目を開き、静かに息を吐くと

 

 「わかりました。」

 

 「兄さん頑張ってね。」

 

 「どうかお気をつけて。」

 

 紫とシュテルからエールを貰い零也は左手を挙げて答える。  

 

    そして

 

 「いくぞ、【十六夜(いざよい)】」

 

 左手首の藍色のチェーンブレスレットが輝く。

 

 

 

 




 
 
  第3世代型IS【白鋼】(外見Rギャギャ)


  倉持技研が開発した完全装甲型の第3世代型IS
 『防御こそ最大の攻撃』という持論を持つ佐崎進&薫子兄妹により開発された機体で、性能の大半を防御に割り振った。 その為に第3世代型ISの現行機では初の防御型第3世代兵装【白鋼甲殻(びゃくこうこうがい)】を装備している。 完全装甲型の防御タイプだが機動性能は低い訳でもない。


 武装

 可動式円形盾【防守(さきもり)】
 白鋼の両肩に装着されている1対の倉持技研が開発した可動式の円形盾。両肩のサブアームに接続されておりフレキシブルに可動し、また両肩から外して両腕に装着できる。またブレードが内蔵されており、展開して回転させてチェーンソーとしてや、フリスビーのように投げたり、2つを合体させてワイヤーと接続してヨーヨーのような武器としても使える。 そして白鋼の第3世代型兵装【白鋼甲殻】の発生装置でもある。

 
 第3世代型兵装【白鋼甲殻(しろがねこうかく)】
 倉持技研が開発した世界初の防御型の第3世代型兵装。 防守を両肩に装着した状態で防守が高速回転することで発動する。発動させると機体を覆うように球体状のバリアフィールドが展開される。この状態になると大半の攻撃(零落白夜は除く)を防ぐ事が出来る。
 ただし、発動している間は防守を両肩から外すことが出来ず、武器として使う事が出来ない。 また60秒たつとバリアフィールドを発生させる装置を冷却しなければならず、自動的に停止する。冷却時間は180秒。
 専用のエネルギーパックを使用して発動するのだが、現段階では3回しか発動出来ない。また本体のエネルギーを使用しても発動可能だが、その分エネルギーの消費量が莫大である。


 高周波振動刀【夾竹刀(きょうちくとう)】
 白鋼の腰の左右に鞘に収められて装着されている刀。
高周波振動により切れ味が増している。 


 大型機関砲【落火星(らっかせい)】
両肩の後部に装着されているバリアブルシールド内に装備されているガトリング砲。威力はある反面、反動も凄く扱いが難しい。


 小型機関銃【火岸華】
 赤鋼に装備してあるものと同型。

 


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第9話  十六夜VS白鋼 前編

 
 
 零也VS千春の話ですが前後編に分けました。



 追記
 申し訳ありません。予約投稿の設定を忘れて第11話が間違って公開されてしまいました。

 取り下げました。


 

 

 「いくぞ十六夜!」

 

 零也がそう呟くとチェーンブレスレットが輝き、零也の体を覆っていく。

 光が収まると、そこには完全装甲型でありながらもスタイリッシュな姿をした藍色のIS【十六夜】を纏った零也がいた。

 零也はピットにあるカタパルトに進み乗りこむ。すると、まるでカタパルトに乗ったことに連動するかのようにディスプレイにメールが届くのだった。

 

 「メール? 誰からだろう?」

 

 メールを開くと、そこにはなのはとすずかからの音声データが流れてきた。この試合の事を聞き付けて試合開始前にメールを送るように設定していたようだ。

 

 

 『ヤッホー。零也君、元気~! 試合頑張ってね!』

 

 『零也、ムチャしないでね。怪我しないでね。』

 

 短いメッセージだけど、それは零也の力となった。

 

 「頑張るよ。なのは姉、すずか姉。」

 

 

 

 さてここで、1つ説明することがある。すずかとなのは、二人は零也と紫、そして雫にとっては叔母にあたる。しかしは二人のことを叔母とは呼ばずに姉と呼んでいる。  それにはちゃんと理由があるのだ。

 雫の場合は生まれた時はまだ二人は若く叔母と呼ぶのは可哀想と忍と恭也が姉と呼ぶように教育していた。

 しかし、零也と紫が引き取られた時に忍が悪ふざけで

 

 「この娘はすずか、私の妹で貴方達から見れば、そうね・・・・・叔母さんになるのかしら。」

 

 そう言われて二人がすずかのことを叔母さんと呼ぼうとした瞬間、恭也に目を塞がれた二人。

 その態度を不審に思った忍がすずかの顔を見た瞬間に絶句して固まり顔を青くした。

 

 「お姉ちゃん、少しO☆HA☆NA☆SHI☆しようかしら?」

 

 そう言って能面のような笑みを浮かべて忍を引きずって行ったすずか。 何が起きたのか分からない二人に恭也はすずかのことを姉と呼ぶように勧めた。

 ちなみに忍がこの時どうなったのかは恭也の口から語られる事は無かった。   すずかはこの時零也達にお姉ちゃんと呼ばれた事で、メロメロとなったのだ。

 そしてその流れでなのはの事も姉と呼ぶようになった。 

 もっとも美由希に関しては何故か姉と呼ばれる事は1度たりともなかった。

 

 

 

 やがて真耶から連絡がくる。

 

 『カタパルトとの接続を確認しました。発進のタイミングは月村君にお任せします。』

 

 「わかりました。月村零也、十六夜出ます!」

 

 掛け声と共にカタパルトから勢いよくアリーナに向かって飛び出す十六夜。

 

 アリーナに出ると、そこには白鋼を纏った千春が少し覚束ない感じの、不安定な姿勢で浮いている。

 

 千春は白鋼を受け取った日は千冬指導の元、涼子と訓練していたが、それ以降は一人で訓練していた。というのも、最初は箒に一緒に訓練しようと誘ったのだが、

 

 「馬鹿者、決定戦で戦う者同士が一緒に訓練してどうする? 八百長を疑われる可能性があるだろ!」

 

 そう叱責されて断られた。 箒以外の誰かに頼むという選択肢を自分で出せなかった千春は、結局一人で最初に教わった基本的動作の復習と、竹刀を使った素振りをするだけだった。

 その基本的動作も、動作の要点を教えたり、悪い箇所を指摘したりする人がいないので、どんどん我流となっていった。 

 その結果が、空中での待機姿勢が安定しない千春の姿だった。  ちなみにこの事を見守っていた涼子から報告を受けた千冬は盛大な溜め息をつき、頭を抱えたのだった。

 

 

 一方、千春とは対称的にお手本のような待機姿勢で空中にとどまる零也。 既に両腰に鞘に納められた小太刀を装着し、右手には複雑な形状をした銃らしき物を握っている。

 そんな中、千春は

 

 (えっ?!相手も完全装甲型? しかもなんか俺のと違ってシンプルというかスタイリッシュだな・・・・そういや俺、対戦相手の月村とかいう男の顔見たことないな。千冬姉から落ち着くまで接触するなと言われだけど・・・・コイツの存在が俺のハーレム生活に影響を及ぼす可能性もあるしな。よし、この試合で俺がぶちのめして見せ場を無くしてやる!)

 

 そんな事を考えながら千春は試合開始の合図を待つ。

 

 

 

       そして

 

 『これより1年1組織斑千春対1年3組月村零也の特別模擬戦を開始します。』

 

 開始のアナウンスと同時にブザーが鳴り、試合が始まる。

 

 「よし、先手必勝!」

 

 そう言って千春は腰から夾竹刀を抜いて零也に向かっていく。 ただし、その速度はお世辞にも速いとは言えない。 本人は全速で真っ直ぐ向かっているつもりなのだろうが、姿勢は上下左右にぶれていた。

 対する零也は千春の動きを見極めて、右手に持っている十六夜の第3世代兵装の1つである【カレトヴルッフ】の銃口を向けてトリガーを引く。

 そこから放たれたのは銃弾ではなく、無数の細長い針のような物だった。 

 

 十六夜の第3世代兵装の1つ、マルチウェポンツール【カレトヴルッフ】。 複数の機能を1つに纏めた特殊武装である・・・・もっとハッキリと言えばなのはの暴走の結果出来た武装でもある。 十六夜に搭載する武装の候補が多すぎて絞り込めなかった時になのはが

 

 「それなら全部1つにしてしまえば良いのよ。」

 

 と言い出して作り始めた結果がこれである。 高周波ブレードにネイルガン、プラズマカッターにビームガンと他にも幾つかの機能が1つとなった武装である。

 無論、多機能兵装が特長というだけでは第3世代兵装と言えないだろう。 カレトヴルッフは隠された機能があるのだ。

 

 

 千春は突然自分に向かって放たれた針のような物に驚く。 回避運動をとれる訳もなく、針はそのまま白鋼の装甲に次々と刺さっていく。 

 

 (カレトヴルッフのネイルガン、速射性能と反動の少なさは聞いた通りだね。威力もまあまあかな、ただ飛針とちがって微妙なコントロールは難しいな。)

 

 カレトヴルッフのネイルガンモードの性能評価をする零也。

 

 「クソッ! えっと、さ、防守!」

 

 次々と針が刺さることに慌てた千春は左肩を前に出して防守で防御する。 防守が回転することによって、針は刺さらず弾かれていく。 

 防守の裏側に身を潜めてひたすら攻撃に耐える千春。

防守に当たる針の音が途絶えた事で千春は弾切れと判断し、先程まで零也がいた場所に向かって飛び出して行った、しかし

 

 「今度は俺の・・・へ?! いない?」

 

 だがそこに零也の姿はなかった。 もしこの時千春がハイパーセンサーを確りと使えたのなら或いは気づく事が出来たのかもしれない。 だがこの時の千春には、まだそこまで出来ていなかった。 だからこそ

 

 「グベッ!!!」

 

 千春は背後から、息が止まる程のとてつもない衝撃を受けた。 千春には見えていないが、そこには零也がおり二本の小太刀位の大きさのブレードに分割したカレトヴルッフで斬りつけていたのだ。

 

 (カレトヴルッフのツインブレードモード・・・入学直前まで調整してもらったけど、全体のバランスがまだ少し悪いな。振り・打点にズレが出てる。やはり、こいつで奥義を使うのは難しいな。)

 

 カレトヴルッフ・ツインブレードモード・・・零也がなのはに頼み追加して貰った機能で、愛用の二刀一対の小太刀【朱月】と同じ刃渡りの小太刀してもらったのだ。

 

 しかし、入学前迄に行われた訓練の中で幾度か刃の重心・グリップの形状・全体のバランス等を調整してもらったのだが、入学前で時間がなかったのも去ることながら、あくまで機能の1つである為に小太刀そのものを再現することは出来ず、多少不満の残る形となった。

 

 「クソッ、いつの間に後ろに卑怯だぞ! へ?! グベッ!!」

 

 千春が振り向くが、そこには零也の姿はなく再び背後から衝撃が襲う。 

 零也は古流剣術【永全不動八門一派 御神真刀流 小太刀二刀術】通称【小太刀二刀御神流(もしくは御神流)】を修めている。

 その中には相手の相手の死角に潜む技もあるのだ。

 

 

 

 

 

 

 管制室

 

 「小太刀か・・・・しかも二刀か、珍しい物を使うな。しかも中条流や富田流とは違うようだな。」

 

 千春の死角に移動しながら斬りつけている零也の姿を見ながら千冬は自分の知る小太刀の流派の名前を呟く。

 そんな中、箒は考えていた。

 

 (小太刀、二刀、何処かで聞いたような・・・・・)

 

 「それにしても、何故ああまで織斑さんは零也さんに翻弄されているのでしょうか?」

 

 セシリアの疑問に答えたのは管制室で観戦していた楯無だった。

 

 「零也は織斑君が振り向く方向を誘導しているのよ。方法は秘密だけどね♥」

 

 「そんなことが出来るのですか?」

 

 箒の疑問に楯無は

 

 「零也は出来るの。というか彼の流派の人間なら容易い事よ。」

 

 (もっとも、カレトヴルッフのツインブレードモードが納得いくもので無いから扱いに苦労しているみたいだけど。其処は訓練を重ねて馴れていくしかないとは思うな。)

 

 零也の動きを見ながらそう評価する楯無。生身での実力ならば圧倒的に零也が上回っているのだが、ISに関してはまだ楯無の方に分がある。もっとも、そのリーチもそう遠く無い日に埋るどころか追い越されると感じてはいる。

 

 「更識、月村は何流の使い手なのだ?」

 

 「恐らく、ご存知無いとは思います。あまりメジャーな流派ではないので。」

 

 「お前と旧知という事はやはり、そういった流派なのかだろう。まあ詳しく語る事は出来んと思うから聞かんが、流派名だけでも聞かせてくれんか?」

 

 更識家の事を其なりに知っている千冬は箒や、セシリア達の手前もあり詳しく聞くことを避けた。

 

 「・・・・・そうですね、流派名なら。永全不動八門一派 御神真刀流 小太刀二刀術、通称御神流。それが彼の修めている流派です。」

 

 それを聞いた瞬間、箒の脳裏に自分が幼い頃に父親が言っていた事を思い出した。

 

 (御神流・・・・・何処かで・・・・?!。そうだ、父さまが昔言っていた!)

 

 「さ、更識先輩!御神流とは、もしかしてあの御神流ですか!」

 

 「ん? 篠ノ之は知っているのか?」

 

 千冬は箒が御神流の事を知っている事に驚き聞こうとしたのだが、

 

 「あっ?! 織斑君が!」

 

 真耶の声にアリーナの方に意識が向く。そこでは

 

 

 

 

 

 アリーナ

 

 千春はずっと零也の攻撃に翻弄されている。背後から攻撃されて、視界の端に零也らしき姿を目撃し慌ててそちらを向くが、そこには零也の姿はなく再び背後から攻撃を受ける。 その繰り返しだった。

 既にSEは4割を切っていた。

 

 (クソッ、何なんだよ! アイツ、俺と同じ初心者かよ? 何で俺が一方的にやられてんだよ!何か卑怯な手段でも使っているのか? オリ主で、千冬姉の弟である織斑千春(おれ)が、こんな展開にされるはずがない!」

 

 一方的な展開にイラつき、自問自答する。

 

 「あぁぁーークソッ!こうなりゃ奥の手だ!」

 

 しびれを切らした千春は、白鋼の切り札を使う事にした。 そう、白鋼の第3世代兵装を。

 

 

 「いくぞ! 白鋼甲殻、発動!!」




 
 
 第3.5世代型IS【十六夜(いざよい)】(外見:シビリアンアストレイ)


  月村重工が作り上げた完全装甲型の第3.5世代型のIS。 
 御神流の技をISを装着した状態でも完璧に扱えるような機体を目指しすずかとなのは、そして外部協力者の技術が集結して完成した。
 思考同調型特殊AI【ダンピール】と部分展開装甲により御神流を完全に扱えるようになっている。


 武装
小太刀【紅月】:零也の愛刀である二刀一対の小太刀【朱月】をベースとして刀鍛冶によってIS用として打たれ鍛え上げられた小太刀。特殊な能力は無いものの、零也と御神流の技によりISの装甲を断ち切る事が容易である。

飛針:御神流で普段から使われている投擲武器のIS版。ニードルのような細長い形状のものからクナイのような形状のものまである。また飛針のなかには爆薬が仕込まれているものもある。

ワイヤー:これも御神流で普段から使われている物で、拘束を目的とした太い物から切断を目的とした細い物と多種多様のワイヤーが装備されている。

格闘戦用補助装甲【紅玉】:格闘戦用の補助装甲。両手両足に装着されており、これを用いて格闘戦をしても自機のSEが減ることは無い。

多機能型突撃銃【紅炎(こうえん)】:グレネード・スモーク弾・小型ミサイル等の複数の機能を搭載した突撃銃。また通常弾以外にも炸裂弾・徹甲弾が装填されている。
 
第3世代型兵装【カレトヴルッフ】:1つで複数の形態に変型するマルチウェポンツール。 高周波大剣・ネイルガン・ツインブレード・プラズマカッター・ビームガン・インパクトハンマー(ドリル)が現在搭載されている。ちなみにこれ以外にも機能が追加される予定となっている。

第3世代型兵装【万雷(ばんらい)】:正式名称はビームエネルギー放電装置。左右の掌にある放出口よりビームエネルギーを放出してビームブレード・ビーム砲・ビーム光球・ビームグローブ等に形態を変化させる武装。ただし、エネルギー消費量が多いため多用できない。
 余談になるが、なのは曰くビーム砲を使用する際には『ディバインバスター』というトリガーキーが必要とのこと。



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第10話  十六夜VS白鋼 後編

 
 
 感想と誤字の報告、ありがとうございます。

 この場をお借りしてお礼申し上げます。




  

 

 

 

 「いくぞ! 白鋼甲殻、発動!!」

 

 

 千春の掛け声と同時に両肩の防守が高速回転をはじめ、白鋼を被うように白い球体のバリアフィールドを形成した。 

 突然形成された白鋼甲殻に驚く零也。しかし

 

 (機体全体を被う球体状のフィールド・・・恐らく防御系の機能だろう。とりあえず確かめてみるか。)

 

 零也はカレトヴルッフをツインブレードモードからネイルガンモードに変型させてニードルを連射する。

 ニードルは全て白鋼甲殻に弾かれていく。 

 

 (ニードルは弾くか・・・やはりある程度で強度・・・レーザー迄は耐えれるようにしてあるだろう。)

 

 背後で白鋼甲殻がニードルを弾くのに気づいた千春は

 

  「そこか! 喰らえ落火星!」

 

 この時になって漸く背後にいる敵に対しての攻撃手段があったことを思い出した千春は両肩後部ヴァリアブルシールド内に装備されているガトリング砲【落火星】を使用した。 だが、千春は失念していた… 落火星は威力がある反面扱いが難しく反動も大きい事に。

 

 落火星を零也に向かって放ったものの、背後に向かって撃つなんて事をまともにしたことが無い上に、反動もあって撃った瞬間に砲身の向きはズレてあらぬ方向に弾丸が飛んでいく。 

 

 「何処を狙っているんだ?」

 

 「へっ?! うわっ!! 」

 

 千春は落火星を正面に向かって射った事はあった、しかしそれは地面に着地した状態であった。 その時でさえ射撃の反動で射撃補正システムの補助があっても狙いがまともに定められなかった上に、射撃反動に耐えきれずに後ろ向きに倒れてしまったのだった。

 

 そんな千春が背後にいる零也に向かって落火星を射ったところでまともに当たる筈もなかったのだ。

 それどころか反動で体勢を崩して、そのまま地面に向かって飛ばされて激突した。

 

 「ぐべっ!!」

 

 

 

 余談だが、その姿を見て管制室の千冬が手で顔を覆い盛大なため息をついていた。 その場にいた者達は同情の視線を送っていた。

 

 

   

 何とか起き上がった千春は飛び立つ事をせずにアリーナの壁まで移動し、そして壁に背を向けて零也の方を見るのだった。

 

 (これで背後から襲われる事はない、後は白鋼甲殻が切れる前に奴を倒せばいいんだ)

 

 千春は右手に火岸華を構えて零也に向けて射った。 しかし、 零也はそれを簡単にかわしていくのだった。

 

 (さて、どうする? あれをどうにかしないとな・・・・あれを使えば、破れるかも)

 

 零也は火岸華の射程外まで距離をとると、右手の万雷を起動させる。 右手から光が溢れ出してくる。

 それを見ていた千春は

 

 (な、何だ?! 何を始めるんだ? で、でも大丈夫さ。この白鋼甲殻を破れるはずは無いからな。それに今なら無防備だ、落火星で狙える!)

 

 千春は両肩の落火星を零也に向けて狙いをつける。それだけでなく体を壁に預けて反動に備えた。

 

 一方、零也は

 

 (よし、万雷のビーム砲モードのチャージ完了だ。 あと、なのは姉がビーム砲モードを射つ時にはトリガーキーが必要だって言っていたな。確か・・・・)

 

 零也はなのはに言われたトリガーキーを思いだし、右手を突き出して

 

 「いくぞ!ディバイン・・・・バスターーーーッ!!」

 

 「いけ、落火星!!」

 

 同時に射たれた攻撃は、二人の中間点でぶつかる。

 

        そして 

 

 「うわぁぁぁぁぁぁぁーーー?!」

 

 白鋼の落火星の銃弾は十六夜のビーム砲の光に飲み込まれ蒸発し、そのまま白鋼甲殻に命中する。

 白鋼甲殻とビーム砲の光がせめぎあう。だが、徐々に白鋼甲殻の白いバリアフィールドが赤くなっていく。そして

 

 『ビー、ビー、白鋼甲殻、耐久値限界。間も無く消失します。』

 

 「えっ? う、嘘だろ! まだ発動限界まで20秒はあるのに!」

 

 まさか白鋼甲殻が制限時間前に消えるとは思っていなかった千春は慌てる。 そして白鋼甲殻が消失する寸前で横へとジャンプして万雷の直撃を避けるのだった。

 直撃こそしなかったものの万雷に触れた右肩の防守が1/3程融解していた。 

 

    そしてSEも減っていた。

 

 (何なんだよ!何なんだよ!俺はオリ主なんだ!何で負けそうになってんだよ! こんな筈じゃ無い! ここから俺が逆転勝ちするんだ! 俺はオリ主なんだよ!見せ場はこれからだ!)

 

 自分が追い詰められている現状を何処かで認識しながらも、その事実を認められない千春。

 千春は右肩の防守を取り外すと零也に向かって投げつける。 そして夾竹刀を抜いて零也に向かっていく。

 

 ガタガタに揺れながらも零也に向かっていく防守、それを零也は腰に装着されている紅月を抜いて断ち斬る。

 そして、向かってくる千春に対して

 

     御神流 虎乱

 

  両手に持つ二刀一対の小太刀【紅月】で流れるような連撃を浴びせる。 それこそ目にも留まらぬ斬撃は夾竹刀を寸断した。

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 突然、目の前で夾竹刀が寸断された事に驚き声も出せない千春。 何が起きたか理解出来ていなかった。 ただ気がつけば夾竹刀が寸断されて跡形もなかったのだ。

 

 その時になって初めて小太刀を構える零也の姿をまともに目にした千春は何とも言い表せないものを感じた。

 

 (な、何なんだ・・・これ? 体の芯から、全身が冷めていくような感覚・・・・・手が・・・・・足が・・・・・・・震える。)

 

 零也の剣気を正面から浴びる千春。初めて剣気を浴びた千春は、今まで感じた事の無い感情・・・・恐怖を理解する事が出来ない千春は戸惑う。

 

 二刀の小太刀を構えたことで、御神の剣士としてのスイッチが無意識の内にはいり、剣気を出したのだ。その辺りは、恭也や士郎から、まだ零也が未熟と言われても仕方の無い部分でもあった。

 

 零也の目の前で無防備な姿をさらけ出している千春。 零也は躊躇う事なく、勝負を決める為に動く。

 

   両手の小太刀を鞘に納め、瞬時加速を使い一気に千春に向かって突進していく。 

  そこから繰り出されるのは

 父であり師匠でもある恭也が最も得意とする技であり

 

 零也が今の段階で最も信頼の置ける技であり

 

 ISの技である瞬時加速との融合が最も成功している技

 

 

   御神流奥義  薙旋

 

 瞬時加速の突進、抜刀からの斬りつけ2つ、更に瞬時加速の威力をそのまま利用した高速旋回・・・楯無命名【瞬旋】で背後に回って2つ、同時かと見まごうばかりの一瞬で刃は4度閃く。

 

  「グハッ!!」

 

 高速の四連撃は千春の体・・・白鋼を斬り裂く。

 

       

 そして

 

 『白鋼、SEエンプティー。 特別模擬戦、試合試合終了。 勝者、月村零也。』

 

 

 千春には何が起きたか理解出来なかった。突然、凄まじい衝撃を受け激しい痛みを感じた。絶対防御が働き、怪我はしていないものの一瞬だけ意識を失っていたのか、気がつけば試合は終了しており自分が負けた事を知らされた。

 

 (お、俺は負けたのか? オリ主の俺が・・・・嘘だろ・・・何でだよ・・オリ主の俺が活躍しないなんて可笑しいだろ!)

 

 未だに自分が負けた事に納得出来ない千春。 

 

 (アイツが・・・・アイツがいるから・・・・・原作にはいないアイツがいるから・・・・・俺が・・・俺が・・・活躍出来ないんだ!)

 

 千春の視線はピットに戻る為に自分に背を向けている零也の姿があった。

 

 

  しかし千春は忘れている。そもそも自分という存在こそ原作には登場しないイレギュラーな存在だということを。

 

 

 そして千春はこの世界が自分の為に用意された物であり、この世界では、全ての物事はオリ主である自分の都合の良いように進むと思い込んでいる。

 

 

 自分という存在がこの世界では唯一無二の絶対的存在だと考えている。

 

 

 その全てが過ちだと気づいて・・・・いや知ろうとしない。 

 

 

 自分の都合の悪い事は、見たくない、聞きたくない、知りたくない、考えたくない。

 

 

 我が儘な子供のような存在・・・・それが織斑千春である。

 

 

 まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 (ここでアイツを・・・アイツを始末すれば・・・俺が・・・)

 

 千春は無意識の内に刃の無い夾竹刀を強く握りしめ、零也の姿を睨んだ瞬間だった。 

 

       ゾクッ!!!

 

 (な?! 何でだよ・・・・・か、体が震える?!)

 

 先程までの異常な興奮が一転して冷めて、今度は凍えるような寒気と震えを感じた。

 

 御神の剣士である零也にとって、自分や他者に向かって放たれる気配・・・それが負の感情が籠められた物なら察知するのは容易な事だった。

 

 試合終了後に千春の異常で異質な殺気を感じた零也から、警告の意味を込めた剣気が千春に向けて放たれたのだ。

 零也は、過去にストーカーから狙われていた女性のボディーガードをしていた時にも同じような歪んだ異質な殺気を感じた事があった。

 

 (何なんだ?アイツから発せられたストーカーみたいな異質な殺気は? 模擬戦に負けたくらいで、あんな殺気を出すか? それとも他に理由があるのか? 一応、警告の意味を込めて剣気を飛ばしたけど、何か起きてからじゃ遅いし紫達にも注意するように言っておくか)

 

 零也は、背後を振り向く事なくピットに戻るのだった。

 

 

 

  一方、未だにアリーナにとどまる千春。

 

 『何をしている織斑? 試合は終了した、早くピットに戻れ!』

 

 そんな千春に千冬からの連絡が入る

 

 「ち、千冬姉『織斑先生だ。』あっ!」

 

 『色々と想うところ、考える事があると思うが、まずはピットに戻ってこい。』

 

 「・・・・・・・・わかりました。」

 

 そう言って千春はピットに戻るのだった。

 

 

 




 
 
 パワードスーツについて

 この作品において、IS以外にも完全装甲型の人型強化装甲【パワードスーツ】が登場します(名前のみの時もあり)
 パワードスーツはISが登場する前から日本で開発されて、防衛・警備・災害救助・建築のそれぞれの分野で活躍を始めていました。そして海外でも、その有効性に着目されて研究・開発が始まるところでしたが、その矢先にISが登場しました。
 IS登場後は日本では建築・災害救助以外の分野での活躍や開発が衰退していき、海外でも研究・開発は中断されました。
 しかし、ISコアの絶対数というデメリットを埋める為にパワードスーツの存在が着目され、日本では再び研究・開発・配備が活発化していき、それに追従する形で海外でも研究・開発が再開されました。

 性能についてはISには及ばないものの、原作に登場したEOSを上回る性能である。 SE・絶対防御・拡張領域は無いものの、パワーシリンダー・パワーアシストにより操縦者への負荷はかなり軽減されている。
 また、機種によっては短時間・短距離の飛行能力や潜水能力を持つ。
 

 


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第11話  大人達の事情

 

 

 管制室

 

 「さて模擬戦は終了した。私はこれから織斑の元に向かう。オルコットと篠ノ之、試合結果は兎も角として試合内容に関してはあまり口外しないように。それからクラス代表に関してはこの後、私と山田先生で協議して判断する。」

 

 「「わかりました。」」

 

 「それでは解散と言いたいところだが、その前に篠ノ之、御神流について何か知っているようだな? よければ教えてくれないか。」

 

 千冬は楯無と虚に視線をやりながら箒に問う。 視線を受けても無言を貫く二人の態度に、聞かれても問題の無い事なのだと千冬は判断した。

 

 「父から聞いた話なのですが、父が若い頃に篠ノ之道場を訪れた【不破】と名乗る一組の父子がいたそうで。父親の方が、その時はまだ存命だった、亡くなった祖父の知り合いで旅の途中で立ち寄ったと。」

 

 箒は父から聞いた話を思いだしながら話す。

 

 「祖父と父親が親しく話をしている流れの中で父と男の子が手合わせをすることになったそうです。」

 

 「先生が?」

 

 「はい、父はその時二十歳で、対する男の子は小学生のようで10歳くらいに見えたそうです。」

 

 「いくら何でも、体格差は勿論の事年齢差がありすぎでは?」

 

 「話を聞いた時に私もそう思いましたし、父も話を持ち掛けられた時に同じ理由で断ろうとしたそうです。その当時の父は幾つかの大会を制覇しており全国でも屈指の剣士と自負していたそうです。ですが、祖父が問題無いと手合わせを始めさせたそうです。」

 

 話を聞いていた千冬は有り得ないという顔をしており、側にいたセシリアと真耶も信じられないという顔をしていた。 だが、楯無と虚は話を聞いても平然としている。

 

 「手合わせを始めて、父は愕然としたそうです。二十歳の父が小学生相手に手も足も出ずに負けたそうです。それも一度や二度ならず十番手合わせして、一度たりとも勝てなかったそうです。」

 

 箒の話を聞き千冬のみならず、セシリアも真耶も驚きを隠せなかった。 二十歳の成年男子と十歳の子供の試合で成年男子が1度たりとも勝てなかったという事実に。

 

 「手合わせを終えて祖父は父に『どれだけ自分が天狗になっていたか理解したか?確かにお前の同世代には今まで、お前勝てる者はあまりいなかった。だが、世間は広い。見ろ、お前より年若い者にお前は勝つことが出来なかった。』そう言って父を諫めたそうです。」

 

 その話を聞いた時に箒は、まるで父が力に溺れないように教訓として、その話をしているかのように感じた。

 

 「あとで父を諌める為にその父子に道場に寄るように頼んだと、祖父が教えてくれたそうです。」

 

 「その子が使っていた流派が御神流だと?」

 

 「はい、父からそう教わりました。祖父がその後、直ぐに死去したことで、不破父子との連絡手段を知らなかった父はそれから会えることはなかったそうです。祖父の遺品の中にも不破父子の連絡先を知らしめる物が何も無かったと。」

 

 (・・・・・・・・その時の男の子というのが年齢から月村の父親の可能性が高いと思ったが・・・月村の父親とは姓が違う・・・・それにあのとき室内にいた祖父と紹介された男性は高町と名乗っていた・・・・となると親族ということか?)

 

 千冬の脳裏には月村家で面会した恭也と士郎の姿が浮かんだ。 だが、姓が違うことで別人だと考えた。

 

 「わかった。それでは解散。」

 

 そう言って千冬は管制室を出て行った。

 

 「それじゃあ私達も行きましょうか虚ちゃん。」

 

 「かしこまりましたお嬢様。」

 

 そう言って楯無と虚も管制室を出ていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第1アリーナ 特別貴賓室

 

 

 「さて、試合を観戦して頂きましたが、如何でしたか?」

 

 IS学園理事長の轡木十蔵の問いかけに室内にいる人物達からは溜め息が一斉に漏れた。

 

 「・・・・・・改めて聴きますが、彼は本当に織斑千冬の弟さんで間違い無いのですね?」

 

 国際IS委員会日本支部委員の神崎すみれが十蔵に聞き返す。

 

 「はい、彼は間違いなく織斑千冬の弟ですよ。」

 

 「試合結果は予想通りだったが、試合内容は予想より遥かに悪かった。 確かに1週間という短い時間でISの操縦を完全にマスターするのは不可能だが、基本動作すら未だに危ういというのは・・・・・」

 

 十蔵の答えを聞き、国際IS委員会日本支部長の大神一郎が述べる。

 

 「確かに相手は御神流の継承者である月村零也、いくらISの試合とは言え勝負にならないのはわかってましたが・・・ そう言えば、織斑君は入学前に訓練や学習はしていないのですか?」

 

 日本の防衛大臣を務める藤枝あやめが尋ねる。

 

 「織斑君の場合は発覚後に起きたゴタゴタで所属先があやふやだったので、日本支部で訓練や学習が出来なかったのです。」

 

 大神はそう答えて、国際IS委員会の委員長の小野寺徹也に視線を送る。

 

 「それについては申し訳ない。織斑君は後ろ楯が後ろ楯だけに逆に揉めてしまってね。結局、自由国籍にして本人が所属国家を決める為の決断までは日本預かりというのを決定するのに時間が掛かり、それで彼を日本支部や企業に預けての訓練や学習が出来なかったのだ。」

 

 「一応、参考書は送付していたのだが・・・・先程聞いたのだが彼はどういう訳か予習を行っていなかったようなんです。」

 

 小野寺の話を引き継いで大神が答える。

 

 「・・・・・・・・馬鹿なんですか彼は?」

 

 すみれが飽きれながら言う。 

 

 「自分の置かれている立場をキチンと認識していないのもあるのでしょう。 まあまだ15歳、子供と言ってもいい歳ですし、いきなり環境が変わり自分の立場も周囲に流されてしまう状況下だったのですし、あまり責めるのも酷というものです。」

 

 日本代表候補生管理官の相羽アキが一応、擁護する。

 

 「さて、今後の事なんですが・・・・月村零也君に関しては入学前の取り決めもありますが、本人の実力も確かなものなので現状維持で良いと思いますが、問題は織斑千春君の方ですね。」

 

 十蔵がそう言うと

 

 「確かに今のままでは色々と不味いな。身の危険も去ることながら、色々と利用される可能性が高い。」

 

 大神の言葉に

 

 「既に女性権利団体の1つ【百合の会】が男性操縦者の排斥の為にIS学園からの追放の要望書を提出してきました。同じく女性権利団体の1つ【女神の使徒】が織斑君を団体の象徴の1つにしようと画策しているようです。そして幾つかの男性復権団体が月村君と織斑君を象徴にしようと画策しているのが判明してます。」

 

 あやめの報告に全員が渋い表情になる。

 

 「それで、月村君は兎も角として織斑君の方が急務ですわ。せめて代表候補訓練生になるための試験の受験資格が得られる程度の実力は身に付けて貰わないと。」

 

 すみれの言葉に

 

 「代表候補訓練生ですか・・・・・今の技量からそこに短期間で持っていくとなると、授業以外にも補習や訓練を詰め込んでいかないと無理ですね。ですが補習は兎も角として訓練は場所の確保が難しいですね。学園のアリーナを彼だけ特別に毎日使用させるわけにもいきませんし・・・・それに指導するコーチをどうするのかも問題です。」

 

 アキがそう言って問題点を指摘する。

 

 「確かに、IS学園教員にコーチをお願いした場合は教員の負担が増します、だからと言って代表候補生の生徒にお願いするのも、今の段階だと色々と問題が起きそうですね。」

 

 そうあやめが述べると

 

 「それについて私から提案があるのですが?」

 

 小野寺がそう言う。 全員の視線が小野寺に集中する。

 

 「織斑君、それに月村君もですが一旦二人を国際IS委員会代表候補生に任命し足場を固めて、その危うい立場をとりあえず保護します。月村君に関しては月村重工企業代表候補生との兼務になりますが、企業代表候補生の立場を優先してもらうことになります。」

 

 「国際IS委員会代表候補生に任命するメリットは?」

 

 すみれが質問する。

 

 「まず国際IS委員会代表候補生にすることで、国際IS委員会の施設を利用しても何の問題も起きません。つまり日本支部のアリーナや合宿所を使っても規約上は文句は言われません。これで連休や日曜祭日の時の訓練場所が確保できます。 次に指導に関しては代表候補生を二人一組で指導に充てます。この時、別々の国の代表候補生をペアにすることにより互いに監視役を担ってもらいます。」

 

 「なるほど、別々の国の代表候補生がペアになり、相互監視をすることで、下手にちょっかいはかけられないわね。」

 

 小野寺の答えを聞き納得するあやめ。

 

 「それに代表候補生達も男性操縦者への接触を大手をふって出来る。もっとも監視付きだけど、それでもデータを得る機会が得られるのだから文句は言えない。」

 

 大神の答えを聞き小野寺が更に

 

 「そしてもう1つ、月村君は兎も角として織斑君には訓練はもとより試合を多く経験させる必要があると思います。単なる模擬戦ではなく正式な試合を。その為に1年1組のクラス代表に就任させたいと思います。」

 

 「いくらなんでも、それは! 今行われたクラス代表決定戦の内容評価をせずに一方的に上からの決定というのは、問題がおきます。」

 

 すみれが反対する。

 

 「既に国際IS委員会の代表者会議で採決されている事案だ。」

 

 小野寺の言葉を肯定するように大神が頷く。

 

 「・・・・・・もしかして、試合結果に関わらず織斑君のクラス代表就任は決定事項だったのですか?」

 

 アキの質問に小野寺は

 

 「・・・・・・実は織斑君の場合、織斑千冬という後ろ楯は大きい。だがその反面、その後ろ楯を利用しようと画策するもの達も少なからず存在する。正攻法のみならず搦め手で攻めてくる者もいるだろう。 姉弟という関係は切り離す事は出来ない以上は、織斑君には自立というか、織斑千冬という後ろ楯無しでもやっていけるように成長してもらわなければならないのだ。」

 

 「この一件に関しての泥を全部貴方が被るおつもりですか?」

 

 あやめが厳しく問いかける。

 

 「それに、今回の決定は実情を知らないもの達からすれば、あまりにも織斑君贔と言われて月村君を冷遇していると取られ兼ねません。それこそ織斑千冬の弟故に優遇されていると。」

 

 すみれも厳しく問いかける。

 

 「それも覚悟の上での判断だ。それに織斑君を多少優遇したところで、こう言っては何だが月村君との実力の差は埋められないと考えているが。」

 

 小野寺の言葉に全員返す言葉がなかった。 ここにいる全員が零也=御神流の力を少なからず理解しているからだ。

 

 「それにこう言っては何だが、寧ろ織斑君への注目を集める事で月村君へ集める注目を少しでも反らしたい。そもそも月村君・・・御神流はあまり表で注目を集める存在ではないのだから。」

 

 小野寺の説明に全員は納得せざるおえない。

 

 「・・・・・それでは、来月までの施設の運用調整をして日曜祭日に訓練施設のアリーナで織斑君が使用できる時間帯をもうけます。」

 

 すみれがそう言うと

 

 「各国への協力要請は防衛省と外務省が行います。」

 

 あやめも続いて言う。

 

 「短期間集中養成の訓練内容を作成します。」

 

 アキがそう言うと

 

 「作成した内容を元にスケジュールを組んで織斑君には訓練してもらいます。日本代表候補生への通達は私が。」

 

 大神がそう告げると

 

 「理事長。各国からこの学園に通う代表候補生への連絡があると思うので、全員に通達されたところで集めてスケジュール調整をしたいと思うので、通達がきた際には連絡をお願いします。」

 

 小野寺の要請に十蔵が

 

 「わかりました。それでは本日のところはここでお開きといたしましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 
 更識楯無について

 原作では日本直轄の暗部組織の当主でありながら、自由国籍を取得してロシアの国家代表となっております。

 しかし、今作品に置いては日本国籍のまま日本の国家代表に就任しております。

 ただ、この国家代表就任も前任者の女性が結婚直後に妊娠が判明し急遽、現役引退した為で代表候補生序列1位にいた楯無が暫定的に繰り上げで国家代表に就任したものです。
 
 正式な国家代表者を決める為の選抜試験を行う予定になっていますが、実力からいって楯無が選ばれる可能性が高い。
 

 

 第3世代型IS【此花咲夜(このはなさくや】 
  外見:ゾーリンソール(※注 機体色は水色)
  出典:ガイアギア


 
 更識ISラボが作り上げた完全装甲型の第3世代型IS。
第2.5世代型IS【櫛灘(くしなだ)】の稼働データを元に開発された物。 楯無のトリッキーな戦術に対応出来るようになっている。 第3世代型兵装を使う為に思念増幅装置【サイコミュシステム】を搭載している。
 (*注:サイコミュシステムの設定に関しては本作品独自の物ですので御注意ください)


 武装
【蛟(みずち)】:細身の長剣で蛇腹剣に変型する。蛇腹状態では、拘束のみならず切断も可能で更に高速回転することで、抉ったり・鋭い刺突も可能となっている。また、放電機能もある。


【天沼矛(あめのぬぼこ)】:ガンブレードランス。刃の部分は高周波刃となっている。ビームガンも内蔵されている。柄の部分は伸縮するようになっており、短くすれば取り回し易い剣としても使える。


【九頭竜(くずりゅう)】:小型の盾が装着されたガトリングガン。


第3世代型兵装【天璽(あまつしるし)】:ナノマシンを利用した特殊兵装。ナノマシンに幾つかの属性変化の能力が付与されており操縦者の意思により変化していく。
 例えば、水蒸気に変化させて水蒸気爆発や、スクリーンの代わりにして自分の姿を映したり、電気に変化させて雷を落としたりレールガンに利用したり出来る。
 

第3世代型兵装【天羽々斬(あめのはばきり】:思念誘導で遠隔操作出来るファンネルと呼ばれる種類のビーム兵器。
特に天羽々斬は攻防一体のフィンファンネルと言うボード状の物で、通常サイズの物が背中のバックパック上部に3機、下部に2機、両肘に各1機の合計7機と小型の物が腰の左右に各3機装備されている。
 ビーム兵器以外にもビームシールドや、連結してビームソードやビームカッター、更に天璽を利用したの特殊攻撃が可能。


 



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第12話  試合後の出来事

 

すいません短いです。


 

 

 

 第1アリーナ Aピット

 

 ピットに戻ってきた千春は苛ついていた。

 自分が物語の主人公だと思っている千春は、今の試合で自分が活躍する処か無惨な姿を晒して負けた事が納得出来なかったのだ。

 

 (クソッ、クソッ、クソッ! 何でアイツが勝つんだよ! 主人公である俺が、どんなに不利な状況でも華麗な逆転劇を見せて、勝つのが本当だろ! 何で俺が負けるんだよ!! )

 

 千春は手に持っていた水の入ったペットボトルを苛つきに任せて床に叩きつける。 

 ペットボトルは鈍い音をたてて、床で跳ね返り、そのまま入り口まで転がっていく。

 ペットボトルが入り口の扉にぶつかると同時に扉が開き千冬が入ってくる。 一歩踏み出した時、足がペットボトルがぶつかる。

 

 「フン、どうやら負けたのが納得いかずに荒れているようだな。」

 

 千冬はペットボトルを拾うと、そのまま進み近くのテーブルにペットボトルを置く。その眼光は冷たくそして鋭く、千春の状態を一目で見抜き指摘する。

 

 「ち、千冬姉・・・・・」

 

 千春はそんな千冬の視線に耐えきれず、顔を背けて黙り混む。

 

 「図星か。 言っておくがお前は負けるべくして負けたのだ。決して月村の勝利はまぐれでも何でもない。」

 

 自分の擁護をしてくれる、慰めてくれると思っていた千春は、全く正反対の言葉を告げる千冬に唖然とした。

 

 「お前はこの1週間の間いったい何をしていた。 ISを受領した初日以降、何をしていた。ISの訓練はどうやってしていた? 誰かに指導してもらうように頼んだか?」

 

 千冬の問いかけに

 

 「剣道の練習と、ISの自主訓練・・・・一人で初日に習った事を繰り返していた。 箒に頼んだんだけど、対戦相手と訓練したら八百長を疑われるから断られた。」

 

 千春の答えに顔をしかめながら

 

 「篠ノ之の言うことは正しい。」

 

 そう言うと千冬は今の試合の中での千春の問題点を幾つも指摘していった。

 

 「・・・・といった具合に、問題点を挙げればきりがないが、少なくとも初日に教えた基本的動作を自己流で反復練習せずに誰かにコーチを頼んで、やっていれば少しはマシになっていただろう。 何故、篠ノ之に断られた段階で私や山田先生に相談しなかった?」

 

 千春は千冬に言われて、千冬や真耶に相談という手段に初めて気がついた。 

 千冬はこの時あえて試合までの間に、千春が涼子に頼ってきたらコーチをしてもらうように、頼んだ事は口にしなかった。 

 そもそも涼子に頼んだのは、あくまでもクラス代表決定戦までの間の期間限定のコーチなのだから。

 

 「今日のところは機体を整備室に持っていきチェックしてもらえ。破損はそこまで酷く無いと思うが、倉持に運んでパーツの交換と整備、それから試合のデータを元にした調整をしてもらう事になるだろう。」

 

 千春は千冬の話を聞いて驚く

 

 「えっ? ここで修理とかしないの?」

 

 「まず、お前の機体の予備パーツが届いていない。倉持もまさかこんなに早く破損させるとは考えていなかったようで細かい部品しかない。それにお前の機体はデータ収集が急務だ。何かあればすぐにメーカーに戻して修理や調整をしなくてはならない。整備室には倉持の担当者である佐崎研究員が来ている。見てもらえ。」

 

 「は、はい。」

 

 「それからクラス代表に関しては私と山田先生が協議して決める。それからISを使った訓練に関してだが、学園上層部に、暫くの間誰かをコーチにつけてもらえないか掛け合ってみる。私がコーチをするのが1番早いのだが、如何せん一人の生徒にマンツーマンで私がコーチするとなると色々と面倒になるのでな。」

 

 千春のコーチの事が上層部の会議で決まる事になるとは、この時点で千冬は知るよしも無かった。

 

 「アリーナの使用期限時間も迫っている。織斑は早く整備室に向かえ。」

 

 「・・・・・・・わかりました。」

 

 千春は千冬に促されて整備室に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 Bピット 

 

 既に着替えを終えて、整備室で虚に十六夜のチェックをしてもらっている零也達。

 

 虚は在学生では珍しく、国際資格である第1級IS整備技師の資格を持っている。通常、整備科の生徒達は卒業までに第2級IS整備技師又は準2級IS整備技師の資格試験を受けて合格できればよいほうで、殆どの生徒が第3級IS整備技師の資格取得にとどまっている。

 だが虚は3年進級と同時に準1級、第1級の資格試験を受けて合格したのだ。

 

 妹の本音も第3級IS整備技師の資格を持っているが試験資格を満たしていない(年齢16歳以上等)だけで第2級IS整備技師と同等の技術を持っている。

 

 「目立つような大きな損傷はありませんし、パーツの磨耗も少ないです。 ただ各関節部への負荷が想定されている数値を若干上回っています。おそらく零也さんの御神流の技の威力が最初の設定値を上回っていた事が原因だと思います。ですが、ダンピールが今回の試合で学習したので、次からは修正されていくと思います。 とりあえずチェックデータを纏めて機体ごと月村重工に渡して、調整してもらう事になります。」

 

 虚が零也に告げる。

 

 「もう少し抑えようと思っていたけど、小太刀を握ったらスイッチが入ってしまってね。」

 

 零也は御神流の剣士として自分がまだ未熟だと恥じた。

 

 「兎も角、月村重工の方に連絡して機体を取りに来てもらう必要があると思います。」

 

 虚がそう言うと同時に、まるでタイミングを計ったかのように扉が開き、オータムが一人の女性を伴って入ってきた。

 

 「月村、お前に客だ。」

 

 オータムの隣にいたのは零也達のよく知る人物だった。

その人物を見て零也と紫は咄嗟に身構えるが、

 

 「零也~♥ 紫~♥ 会いたかったよ~~~♥」

 

 二人に向かって突進したきた女性は二人をあっさりと抱き込むと過剰といえるまでのスキンシップを始める。

 

 「ん~~~~♥♥♥♥、二人に1ヶ月以上も会えなくて寂しかったよ~♥」

 

 女性は二人を抱き締めたままスキンシップを続ける。

 

 「ーーーー! ちょっとーーし、雫姉さん、少し落ち着いて! い、息が、」

 

 「ん~~~~ー!」

 

 女性・・・・零也達の姉である月村雫の抱擁から逃れようともがく零也と紫、二人は雫の胸に顔を押さえつけられて苦しむ。

 たった一人で二人を押さえ込む雫。これだけでも雫の技量が二人を上回っているのが解る。

 

 「雫、その辺りにしておいてください。二人が本当に落ちますよ。」

 

 シュテルが雫に声をかける。

 

 「不足していたレイヤニウムとユカリニウムの補給が終わって無いんだけど。」

 

 「「「「「何それ?」」」」」

 

 雫の言い分に全員がツッコミを入れるのだった。

 

 「と、兎も角、雫姉さんがここに来たという事は雫姉さんが十六夜を回収に?」

 

 「ん、二人に逢いにくるついでにね。」

 

 「「「「「回収がついでになの?!」」」」」

 

 再びツッコミがはいる。

 

 「という訳で零也、十六夜を渡して。」

 

 雫に言われて零也は十六夜の待機形態であるチェーンブレスレットを渡す。受け取った雫はジャケットの中に着ているベストのボタンを外して、ベストの内ポケットからスチールケースを取り出して蓋を開き、その中に収める。

 ケースを閉じると無数のロック音が響く。そしてそれを内ポケットに戻しボタンを留めると、そこからもロック音がする。 更にベストのボタンを留めるとまたロック音がする。

 

 「もしかして雫姉さん自体が金庫に?」

 

 「そうよ、ケース・ポケット・ベストそれぞれに複数のロックが掛けられて簡単には解除できないわ。何より私が運ぶんだから。それに移動に使う車は母さん特製のワゴン車に運転手はノエルに、護衛として父さんがついているの。」

 

 零也の問いに答える雫。 ある意味最強の布陣だ。

 

 「さて名残惜しいけど、早く戻らないと仕事もあるし、これを片付けないとGWに休みを貰えないのよね。」

 

 そう言って雫は肩をすくめる。

 

 「それから紫、なのはさんが【天満月】のレポートの追加ヨロシクだって。」

 

 「えぇ~~~~ー!この間提出したばかりだよ。」

 

 「あれだけじゃ足りないんだって。」

 

 雫に言われて落ち込む紫。 【天満月】紫に渡された十六夜の同型機となる専用機だ。 

 零也と同時に渡されたものの、零也の十六夜のデータ収集と調整の方が優先された為に、2~3割程データ収集に差が生じてしまった。

 それを少しでも埋めるために紫には天満月を使用した時には可動データとレポートの提出が求められていたのだ。

 どうやら、それでも足りないらしく追加の提出を求められたようだ。

 

 

 

 

 




 
 

 第3.5世代型IS【天満月】 (外見:シビリアンアストレイ)


 月村重工が作り上げた完全装甲型のISで零也の同型機(機体カラー:紅桔梗)。 コンセプトはほぼ同じだが、武装に若干の違いがある。


 武装
小太刀【紅鏡(こうきょう)】:紫の愛刀である二刀一対の小太刀【飛輪(ひりん)】をベースとして刀鍛冶によって打たれたIS用の小太刀。

飛針:十六夜に装備されているものと同じ。

ワイヤー:十六夜に装備されているものと同じ。

格闘戦用補助装甲【紅玉】:十六夜に装備されているものと同じ。

ビームライフル【彩雲】:零也よりも射撃の才能もある紫の為に装備された突撃銃型のビーム兵器。

第3世代型兵装【シェキナー】:ジャイアントガトリング・ビームランチャー・ミサイルランチャー・パイルバンカー・インパクトドリルを1つに纏めた複合型特殊武装。

第3世代型兵装【七剣星(しちけんぼし)】:両腕に装着されている多機能型小型盾。右腕の盾には高周波ブレード・マシンガン・グレネードが、左腕の盾にはスタッグビートルアーム・ショットガン・思念誘導ナイフが内蔵されている。


第3世代型兵装【万雷】:十六夜に装備されているもと同じ。



 

 第3世代型IS【鈴鹿姫】(外見:30㎜シリーズ アルト colorパープル )


 更識ISラボが作り上げた完全装甲型の第3世代型IS。簪の専用機。 
 様々な局面に対応できる万能型を目指して作られた機体で最大の特徴は、局面に応じた装備に瞬時に変更できるシステム、第3世代型兵装【十二単】である。 またそれに対応できる為にラファールの5倍以上ある新型拡張領域【七色】がある。


 武装
第3世代型兵装【十二単】:局面に応じて外装・武装・パッケージを瞬時変えることの出来るシステム。 ただ全部変えるだけでなく部分限定での変更も可能。 現在実装されているのは通常形態の【ノーマルモード】近接戦闘モードの【フェンサーモード】長距離戦闘型の【スナイプモード】高機動型の【インパルスモード】重火器戦闘型の【バスターモード】

高周波薙刀【夢現】:刀身が高周波ブレードになっている薙刀。

ビームランチャー【春雷】:大型のビーム砲

多弾頭ミサイルポッド【山嵐】:多弾頭ミサイルを8発装填されているミサイルポッド。同時に6機装着できる。

三連機関砲【星屑】:3機のガトリング砲を1つにした大型火器。

炸裂式槍【破竹】:槍の先端部分が刺さると爆発する。先端部分は爆発すると新しい物が装着される。

ビームガン【晴嵐】:小型のビームピストル。

放電端子内蔵手甲【雷電】:格闘戦用の手甲で放電端子が内蔵されており相手に接触する放電する。

大型狙撃銃【烏】:ビームと徹甲弾を切り換えて射つ事のできる狙撃銃。

可変盾【夜叉】:複数のパーツで構成された盾。通常は小型盾のバックラー形態だが、パーツの組み替えによりカイトシールド形態、カタール形態、チョッパー形態、アームボウ形態になる。

射出式有線鉄拳【金剛】:サブアームとして両肩に装着される鉄拳。右腕はスパイク鉄球、左腕はシザーアームとなっている。射出して離れた敵に命中させる。特殊ワイヤーで接続されており巻き戻す事が出来る。ちなみにこの武装は簪発案の物。





【ノーマルモード】:鈴鹿姫の基本形態。背中に可動式ブースターを装着した状態。 専用の装備は特に無し。


【フェンサーモード】:近接戦闘に特化した形態。両腕と両脚、胸部、肩部に追加装甲が装着され、更にキャタピラブレード(ローラーブレードのキャタピラ版)が装着される。 基本的に金剛はこの形態の時に使用する。


【スナイプモード】:長距離戦闘に特化した形態。胸部にリアクティブアーマーが装着され、頭部にセンサーと望遠カメラが追加される。更にAI制御されている2機の小型シールドが浮遊している。また可動式ブースターユニットが脚部に装着され背中に小型ウイングブースターが装着される。


【インパルスモード】:高機動に特化した形態。背中にウイングブースターユニットが装着され、可動式ブースターユニットが両肩に。更に両脚に小型ブースターが装着される。


【バスターモード】:重火器戦闘に特化した形態。全身に装甲が追加され、2門のガトリングキャノンが装着された専用バックパックを装着。両肩に同じく専用の可動式の盾を装着。加重した分、落ちた機動性を補う為に両脚にキャタピラブレードと小型ブースター、バックパックに可動式ブースターユニットが装着される。











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第13話  from 中国

 
 短めです。

 それからお知らせですが、12月と1月ですが、仕事の方が多忙になるため更新ができない場合がありますので、何卒御容赦くださいませ。


 何分、このコロナの影響で例年とは全く違う体制となっており、仕事の方も中々思うように進まない状況になっております。スケジュールもまともにたてられない状況で悪戦苦闘しております。
 なるべく、余裕をみつけてはアップしていこうとは思っております。

 しばしの御猶予をお願いいたします。
 


 

 

 中国   ISトレーニングセンター

 

 建物の入口から事務所へと通じる通路を渋い顔をしながら歩く女性・・・中国代表候補生管理官の楊麗々。

 そんな楊の正面に一人の女性が姿を現した。中国IS国家代表の李走影だ。

 

 「楊!ちょうどよかったわ。凰代表候補生が訓練の時間になっても来ないのよ。彼女が何処にいるか知らないかしら?」

 

 李が楊に尋ねると楊が苦虫を噛み潰したような顔になる。 その顔を見て李が訊ねた。

 

 「何かあったの?」

 

 「・・・・・・凰代表候補生は今朝、日本に向けて旅立ったわIS学園に入学するために。」

  

 「?! ちょっと待って!凰代表候補生はIS学園の入学試験を受けていないわよ!それなのに入学なんて・・・・まさか特別枠で?!」

 

 「そうよ上層部のジジイ達が特別入学枠を使用して入学させたのよ。」

 

 

 特別入学枠・・・・本来なら国際IS委員会特別推薦枠というもので、各国(特に発展途上国)から推薦された代表候補生や才能がある少女に審査の上で、学費並びに渡航費と生活費を支援してIS学園に入学させるという制度だ。

 

 

 しかし中国はチャイナマネーを背景にして、独自にIS委員会の事務方と内々に交渉し、かなりの金額と引き換えに中国優先枠というのを秘密裏に用意させた。 

 

 そこに自国又は親しい国、若しくは頼ってきた国の代表候補生にその枠を与えさせるというものだ(代わりに本来なら国際IS委員会からの負担する費用を中国が秘密裏に支払っている)

 

 過去に自国の為に2度利用されており(2度とも金で代表候補生の地位を手に入れた政府高官の娘の入学のために)、その為に楊と李は特別入学枠の事を知っていた。 二人は上層部のその恥知らずな行動を何時も苦々しく思っていた。

 

 「なんて事を・・・・・いったい何でそんな事を・・・もしかして男性操縦者の?」

 

 「そうみたいよ。今のIS学園には中国の代表候補生は一人も在学していない。だからこそ焦って、こんな馬鹿な行動に走った。」

 

 入学試験が行われた時点では中国と親交の深い国の代表候補生の為に使用される予定だったが男性操縦者の出現により急遽予定を変更して自国の代表候補生に使用することになったのだ。

 

 

 「でも何で凰代表候補生なの?確かに彼女は日本での生活経験があるから語学面では問題ないけど、ただ性格・性質、そして何より彼女の体形は・・・・こういっては何だけど、その手の任務には向かないわよ。」

 

 鈴のスレンダーすぎる体形を思い浮かべて告げる李。

 

 「実は凰代表候補生は一人目の男性操縦者である織斑千春と面識があるようなの。それが彼女が選ばれた最大の理由よ。」

 

 楊の答えに漸く納得する。

 

 「なるほど、知らない誰かより知人の方が接触しやすく打ち解け易いと判断した訳ね。」

 

 そう言いながらも李は不安を口にする。

 

 

 「ただ・・・・・彼女、IS学園で問題を起こさなきゃいいけど・・・・・楊も知っての通り、彼女はIS操縦者としての資質はかなりのものよ。もっともまだまだそれを開花させるまでには至っていないわ。 それに彼女には欠点がある、精神面という。 彼女は自らの感情をコントロールして自ら律するという事が出来ていないわ。」

 

 その事は楊も承知の上だ。これまで二人は鈴のその欠点を克服するために、ここ2ヶ月はISの操縦や肉体トレーニングではなく精神修養を中心に行っていた。 

 ただ、その成果は未だに表れていない。

 

 「・・・・・・・彼女の始末書を書くなんて真っ平よ。」

 

 「その辺りは大丈夫だ。今回の一件で何か彼女が問題を起こした場合は上層部のジジイ達の責任になるように確約を貰っている。しかも口頭での確約ではなく書面でな。」

 

 それを聞いて少し安心する李。

 

 「それにしても、何でタイミングが遅れ・・・・・そう言えばあの娘、甲龍を壊したんだったわね。」

 

 「そうなのよ。無茶な使い方して衝撃砲を壊したのよ。」

 

 李が鈴の入学が遅れた理由に気づき楊が補足する。

 

 「確かにあの娘の衝撃砲の使い方がなっていなかったわね。 衝撃砲の使い方が遠距離攻撃の手段に限定していてワンパターン。他にも利用方法が色々とあるのに、その事に気づかないし、気づこうとしない。それからあの娘、遠距離攻撃の手段を衝撃砲に頼りきって、それ以外の選択肢を持たない・・・持とうとしない。だから甲龍には銃火器の類いを搭載してないのよ。」

 

 李の言葉に呆れる楊。 

 

 「それでも序列3位なのよね・・・・潜在能力の高さと適応力がそれをなし得ているのだけれど・・・・・・それを許している他の代表候補生達の質の低さが問題を大きくしているのよね。頭が痛いわ。」

 

 楊が額を押さえながら言う。 二人にとって頭痛の種は鈴だけではなかったのだ。 それでも一番の問題児が自分達の手から離れたことで少しは楽になると思っていた。

 

 しかし、彼女達の予想はあっさりと裏切られるのだった。 

 

 IS学園に行った鈴が幾つかの問題を起こし、その後始末が回り回って自分達の元にくるとは。

 そう、責任はとらなくてもいいが、後始末はしなくてはならないということに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  IS学園  クラス代表決定戦の翌日

 

 1年1組 

 

 「ということで、1組のクラス代表は織斑千春君になりました。」

 

 朝のSHRが始まるなり突然、真耶が言い出す。 その言葉にクラスの生徒達は呆気にとられる。

 

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 説明が無いままに、結論だけを告げられて全員が戸惑い何も言えないでいた。  そんな真耶に呆れながら千冬が補足するために口を開く

 

 「当初は、昨日のクラス代表決定戦での篠ノ之とオルコットの試合と、その後に非公開で行われた男性操縦者同士の模擬戦での内容を踏まえてクラス代表を決定する予定だったのだが、国際IS委員会からの指示で織斑千春のクラス代表就任が決定された。無論これには幾つかの理由があるが、最大の理由が織斑が私の弟であるということだ。」

 

 千冬は千春をクラス代表に就任させる本当の理由を知らされていたが、あえてここでは語らず、千春が自分の弟であるために注目を集めており、どうしても千春の立場を確立する必要があり、その為には存在を強く内外にアピールする必要を考慮した故の処遇だと話す。

 

 「だが、織斑の操縦者としての腕前はまだまだ未熟だ。そこで学園上層部との協議の結果、IS学園に在学している各国の代表候補生達の指導を交代で受けてもらうことになった。日程は追って知らせるので準備だけは怠らぬように。」

 

 そこまで千冬が話すと、一人の女子生徒が挙手をして千冬に質問する。

 

 「織斑先生。それだと3組に在席している月村君も、同じような処遇になるのでしょうか?」

 

 「3組の月村に関しては、この処遇の対象にはならなかった。元々彼は実家である月村重工の企業専属操縦者という立場にあり、無所属の織斑と違い様々な形で表に出る機会も多く、態々クラス代表にする必要もないと判断された。それからコーチの件も既に彼にはコーチがいるために学園側が用意する必要なしと判断された。」

 

 そう千冬に言われ女子生徒は納得する。

 

 一方、クラス代表を指名された千春は、クラス代表に任命されたものの、原作とは違う流れに又々混乱していた。

 

 (どうなっているんだ本当に? クラス代表になれたのはいいけど、こんな展開じゃないだろ! )

 

 そんな千春の混乱をよそにSHRは進むのであった。

 

 

 

 

 

 

 同日放課後  

 

 アリーナでの訓練を終えて、寮に戻ろうとする零也達。

この日は零也と紫とシュテルと簪の四人での訓練となった。 コーチ役の楯無と虚は生徒会の仕事が立て込んでおり不在だったが、確りとトレーニングメニューを課していた。

 

 「今日もハードなトレーニングだったな。」

 

 零也の言葉に紫は

 

 「もうおなかぺこぺこだよ。今日は何を食べようかな?」

 

 そう紫が言った瞬間だった。

 

 

 グル、グル、キュルル~~~!

 

 盛大な腹の音が鳴り響く。

 

 「・・・・・・紫、少しはしたない。」

 

 簪が指摘する。慌てて否定する紫。

 

 「ち、違う! 私じゃないよ!」

 

 「でもタイミング的には紫かと。」

 

 シュテルも紫の音だと指摘する。

 

 グルグルキュルルーーー!!

 

  更に大きい音が鳴り響く。 今度は発生源がハッキリとわかった。

 しかもそれは、紫の後ろにある垣根の裏側からだった。

 

 零也達がそこを覗くと、そこにはボストンバッグを地面に置き、背中にリュックを背負いキャリーケースに座り込むツインテールの少女の姿があった。

 

 「もう歩けない、ここ何処よ? 学生課って何処にあるの? おなかすいた~~。」

 

 道に迷って力尽きたらしい少女が弱々しく呟いていた。

 



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第14話 凰鈴音


 
 お久しぶりです。短いのですが更新しました。


 

 

  IS学園のに制服を着て幾つもの荷物を持ったその少女を見た零也達が思った事はただ1つ

 

 (・・・・・迷子?)

 

その少女·····鳳鈴音は、とてもついていなかった。

 

 そもそもIS学園への入学も3日前に突然知らされて、慌てて荷造りしたのだ.。鈴には中国政府が何を思って自分を突然、IS学園に無理矢理入学させたのかは不本意ながらも理解してしまっていた。

 

 

ただ、鈴自身は納得はしていなかった。そもそもIS学園に入学するには正式な手順を踏んで、尚且つ自らの手で掴んでこそ資格があると鈴は思っている。それをねじ曲げての入学、鈴の中には確りとした蟠りを残した。

しかしながら、政府の強引な命令に鈴も逆らう事は出来ずに従ってしまうしかなかった。

 

何より今の鈴に日本にはいた頃と違い、千春に対しての恋心は殆ど失っており、単なる友人になっていた。

 日本にいた頃は、あれだけ恋い焦がれていたはずなのに、中国でISに触れて代表候補生になってからはIS一筋となり、今では恋よりもIS操縦者として一流に······国家代表になることにしか頭になかった。

それ程までに鈴はISというものに、()()()()()()()()()()()の虜になってしまっていた。

 

 

そんな蟠りを持ったまま中国から日本に来たのだが、到着早々に空港で、バスターミナルの場所が分からず迷ってしまい、やっと見つけて発車直前のバスに飛び乗れば1つ手前の乗り場だった為に行き先が違い、到着した場所から調べて、バスを乗り継いで漸くIS学園に到着したのだ。

 

しかし、いざIS学園に到着したものの既に辺りは既に暗く、生徒の姿もなかった為に肝心の学生課の場所が分からずに彷徨い続けた結果、朝から殆ど何も食べてなかったのも災いし精魂尽き果てて現在に至っている。

 

 

 

「ここ何処? ······お腹空いたよ·····」

 

力なく呟く鈴に零也が

 

「おい大丈夫か?」

 

声をかけると、鈴は力なく顔を上げて零也を見ると

 

「男? ·······あぁでも、それよりも、何か食べさせて·····」

「とりあえず、これを。」

 

簪がポケットからエナジーバーを取り出して袋を開けて鈴に渡す。 チョコの甘い香りに鈴は反応し、手元にあるエナジーバーを見ると齧り付き2口で食べ終える。

 

糖分を補給した成果か、多少力と思考能力を取り戻した鈴。 ようやくそこで自分の周りにいる紫達と零也に気づくのだった。

 

「ほぇっ?! ········あ、ありがとう。おかげで少し力が戻ったわ。私は凰鈴音、中国代表候補生よ。え~と、たぶん間違っていなかったら2人目の男性操縦者の月村零也さんですよね?」

「あぁそうだ。で、こんなところで何してんだ?」

 

「えっと、IS学園に遅くなったけど入学することになったんで、今日中国から来たんだけど、色々あって遅くなって学園についたんだけど、暗くて学生課の場所がわかんなくなった途方にくれてたの。」

 

鈴の話に何とも言えない顔をする零也達。 それを見て不思議そうな表情になる鈴。

簪が代表して鈴の左後の壁を指差す。 簪の指差す方向を見て唖然とする鈴。 そこには

 

〔 学生課 → 〕

 

と書かれた看板と矢印の先には扉があるのだった。そう、鈴の探していた学生課は目と鼻の先にあったのだ。

 

「ちなみに学生課の業務は19:00まで。そして現在の時刻は18:55、急がないと受付終わるよ。」

簪の指摘に鈴は慌てて荷物を抱えて学生課に向かって行く。だが扉を開けて中に入る前に零也達に

 

「今日はありがとう、このお礼は必ずするから。」

 

そう言って手を振って中に入って行った。

 

「·········なかなか、面白い娘だね。」

 

「中国代表候補生序列第3位鳳鈴音、訓練生になって僅か半年で代表候補生になり、瞬く間に序列第3位にまで駆け上がった麒麟児の異名を持つ娘よ。」

 

鈴の事をそう評価した零也に簪が鈴の事を更に詳しく教える。

 

「へ~、それは凄いね。それにしても、遅れて入学という事は、元々4月に入学する予定がトラブルがあって遅れたという事か。専用機関連かな?」

 

「兄さん、とりあえず学食に行ってから続きを話そうよ。学生課じゃないけど、急がないと学食も閉まっちゃうよ。」

 

紫に急かされて学食に急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   翌日 朝 

  

  1年1組

 

 

 「織斑くん、クラス対抗戦頑張ってね!」

 

 「デザートフリーパスがかかっているだから!」

 

 

 SHR前に、周囲のクラスメイト達と学年別クラス対抗戦の事を話しながら、千春は気持ちが落ち着かず少しそわそわしていた。色々と自分の知る原作とは違いが出ているものの、予定では今日辺りに、セカンド幼なじみである凰鈴音が転入してくるはずだからだ。

 

 鈴との再会を今か今かと、心待ちにしていた。

 

 その一方でここまで彼の知る原作とは色々と違いが生まれ困惑していた。

 

 ファースト幼なじみである箒はもとより、自分に惚れてくるはずのセシリアも、自分に対して距離をおいており積極的に関わってこないのである。

 原作なら自分に対して様々なアピールをしてくるはずなのに、その素振りがない。かといって、自分から接触してアピールするのも何か違うと思い、行動をおこせないでいた。

 

 千春は鈴の存在が、それらの状況を変える何かしらの切欠になればと願っていた。

 

 「ちょっと悪いけど、織斑千春はいる?」

 

 クラスの入り口で聴こえてきた声に千春は即座に反応する。

 

 「その声は鈴、鈴じゃないか!久しぶりだな!」

 

 待ってましたとばかりに立ち上がり、鈴に近づいてい。

 

 「久しぶりね千春、元気みたいね。」

 

 「あぁ、それにしても鈴がIS学園に来るなんて驚いたよ。」

 

 「色々あってね、それよりこのクラスには日本とイギリスの代表候補生がいるって聞いたけど?」

 

 「箒とオルコットの事かい?今、ちょうど教室に入ってきたよ。」

 

 自分との会話もそこそこに、箒とセシリアの事を聞いてきた鈴に違和感を感じる千春。

 タイミングよく反対側の入り口から2人が入ってきたので教えるのだった。

 

 「そう、ありがとう千春。もうSHRが始まるから。」

 

 そう言って鈴はそそくさと千春の前髪元を立ち去るのだった。

そんなあっさりとした鈴の態度を不思議に思いながら、後ろ姿を見送った。

 

 (えらくあっさりだな? まあ昼休みや放課後もあるし、その時にゆっくり話せるか)

 

 そう思っていた千春だったが、昼休みは千冬から呼び出しを受けて一緒に食事を取ることは勿論、話す事も出来なかった。

 更に、千冬から放課後は修理と改修に出されていた白鋼が戻って来るのでアリーナを貸し切りにして稼働試験をすると言われてします放課後の予定も埋まってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後

  

 零也達は、ISを使った訓練をするためにアリーナに向かっていた。 しかも今日は一行の中に楯無と虚の姿があった。

 普段は生徒会の仕事で忙しいのだが、やはりIS学園に属する以上はISを使った訓練を怠る事は出来ない。 

 そこで週に2回、生徒会は優先的にアリーナを貸し切り訓練することが出来るのだ。 

 もっとも使用出来るのは、IS学園にある10面のアリーナの中でも小さい第8アリーナだが、観客席がなくフィールドが競技正式規格より少し狭いだけで、模擬戦や訓練は十分に出来るスペースはある。

 

 零也達がアリーナ事務所に近づくとそこには、箒・セシリア・鈴の三人が何やら困り顔でいた。

 

 「珍しい組み合わせだね、どうしたの?」

 

 声をかけられた事で零也達に気づいたセシリア達、

 

 「あ、月村さん! 昨日はありがとうございました、お陰で受付に間に合い助かりました。」

 

 「間に合ったのならよかったよ。」

 

 鈴がいち早く、零也達に近づき昨夜の礼をのべるのだった。

 それを見てセシリアが鈴に質問する。

 

 「あら?鈴さんは零也さんと既にお知り合いだったのですか?」

 

 「昨日、学園にきて道に迷っていたのを助けてくれたのよ。」

 

 「なるほど、確かにこの学園は無駄に広いからな、初めてきたら案内なしには迷うな。」

 

 鈴の答えに入学した当初、剣道部の部室や道場の場所がわからずに苦労した事のある箒は激しく同意する。

 

 「それで1組のセシリアと箒、2組の凰さんが一緒にいるのは?」

 

 まだ合同授業もないのに、今日入学したばかりの鈴と顔見知りになっているのを疑問に思い零也は尋ねるのだった。

 

 3人が一緒にいるのは、鈴が同学年の代表候補生の実力が気になり、昼休みにクラス代表になっていない2人に学食で声をかけて手合わせをすることになったそうだ。

 

 「ですが、肝心のアリーナが第1アリーナと第2アリーナは改修工事中、第8アリーナは生徒会が、第9アリーナは織斑先生が、第10アリーナは教員訓練で貸し切りで使用出来ないそうで、本日は空いておりませんでしたので…」

 

 そうセシリアがこれまでの経緯と現状を説明するのだった。

 

 「今から生徒会の貸し切りのアリーナで私達は訓練するだけど、良ければ一緒にどう? まあ模擬戦もちゃんとしたものじゃなくて短時間でフィールド限定のものだけど、手合わせには十分じゃない?」

 

 楯無の提案にセシリア・箒・鈴は顔を見合わせて

 

 「「「よろしくお願いします。」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 何と言いますか、コロナの影響で仕事や生活の流れが大きく変わり、思った以上に心身に負担をかけていたようで、思うようにアイデアが纏まらず苦戦しておりました。
また、年末に追突事故にあい右手に右肩を痛めてしまい、ようやく仕事に復帰出来るようになりました。
 こういった事情があり、なかなか更新出来ずに申し訳ありませんでした。
 
 


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第15話  学年別クラス対抗代表戦・開幕


 
 タイトルを少し変更しました


 

 

  1週間後  学年別クラス対抗代表戦当日

 

 改修工事の終わった第1アリーナで1年生のクラス対抗代表戦が行われる事になった。

 

 第1アリーナのAピットの待合室、前回のクラス代表決定戦の時と違い室内が確りとした造りの壁で区切られていた。

 アリーナに出る為のゲートやカタパルトの手前の待合室が壁で区切られ2部屋に分けられ、それぞれにモニターと更衣室等が設置されている。

 

 そこにISスーツに着替えた千春と制服姿の涼子の姿があった。

クラス代表対抗戦には出場選手以外に1名、ピットへの同行が認められていた。そして涼子が警護の為に同行者に選ばれた。

 千春にとって涼子はどうにも馴染みにくい人物だった。

別に涼子に社交性がないかと言われれば、そうではない。クラスメイトとは普通に談笑するし、食事もとっている。 千春とも雑談する事もある。 

 だが、千春は自分の警護役という立場の涼子に対して、どうしても身構えてしまっていた。 千春が涼子と馴染めないのは千春自身の問題なのだ。

 

 さてこの1週間、千春にとっては予想外の1週間だった。 初日での鈴との短い再会以来、鈴とはまともに話す時間がなかった、というか出来なかったのである。 

 

 千春はこの1週間、ISの訓練に基礎トレーニングがびっしりと組まれていたのである。

 というのも、当初は学園に在籍する代表候補生達に千春のコーチを依頼する予定だったのだが、進級して間もない事、そして1学期には学年別トーナメントが控えていることを考慮してトーナメント終了までは依頼しない事にしたのだ。

 

 その代案として、GWまでの間の平日に日本支部からコーチを特別に派遣して貰ったのだ。期間限定という事もあり、その内容は量より質、最低限必要な技術の習得と基礎身体能力の向上を目的としたもので濃密な訓練となっていた。

 その為、訓練を終えると千春はへとへとになっていた。

 

  

 トレーニングを抜きにしても、千春にとっての誤算というか予想外の展開が、鈴からの千春への接触が全く無かったのだ。 

 

 (どうなってんだ? 鈴があれ以来何も言ってこないなんて?酢豚の件や一緒に訓練しようという誘いも無いし)

 

 あまりにも自分が知っている原作とは違う展開が動揺させていた。幾つか起こる筈のイベントが全く起きないのが千春を不安にさせていた。更に

 

 (しかも箒とのルームメイト生活が、何でこんなに早く終わるんだ?)

 

  入学した当初からルームメイトだった箒が、先週末に部屋の調整がついたという事で、同室が解消されたのだった。

 箒・セシリア・鈴と一夏がいない今、主人公の立場にいる自分が、3人と仲良く····いや、惚れられている筈なのに、全くその素振りが無い状況が千春を悩ませている。

 

 『それでは只今より、学年別クラス対抗代表戦1年生の部の組合せを発表いたします。』

 

 アナウンスと共に千春の待合室にあるモニターに組合せが表示された。

 

  

第1試合

  1組代表 織斑千春 VS 2組代表 凰鈴音

 

   第2試合

  3組代表 月村紫 VS 5組代表 十条紫苑

 

  第3試合

  4組代表 更識簪  VS 第1試合の勝者

 

   第4試合

  6組代表 カルタ・イシュー VS 第2試合の勝者

 

 

 『なお、5組代表の十条紫苑さんは体調不良により棄権する事になりました。これにより3組代表の月村紫さんの不戦勝となります。それに伴いまして、第3試合と第4試合の順番も入れ替えまして、第1試合の次に第4試合を実行いたします。 それでは第1試合を5分後に開始します。出場選手並びに関係者は準備をしてください。』

 

 アナウンスの声に千春は

 

 (原作通りに鈴との対戦なんだけど、これってやっばりゴーレムが来るのかな? そうなると少しセーブして戦わないと)

 

 そう考えながら、千春は待合室を出るのだった。

 

 

 

 

 Bピット待合室

 

 Aピットと同じように区切られ待合室に鈴と同行者を努めるのティナ・ハミルトンの姿があった。

 

 「ありゃ~、いきなり織斑君とか。注目されるよね。」

 

 「別にかまわないわよ。それに勝つのが目に見えているし。」

 

 「どうして?だって織斑君は、あの織斑先生の弟で専用機も持っているのよ!」

 

 「いいティナ、弟だからといって織斑先生と同じように強いとは限らないのよ。それに専用機というけど、誰でも扱える訓練機ではなく、乗り手を選ぶ専用機を早々に使いこなせるとは思わないわ。」

 

 「でも噂じゃ、国際IS委員会日本支部からコーチが派遣されて、この1週間すごい訓練をしていたって。」

 

 「ゲームや漫画じゃあるまいし、いくら濃密な訓練をしたからと言って1週間位で、代表候補生に勝てるほど甘い世界じゃないのよ。」

 

 「織斑君でも、その評価って事はもう1人の男性操縦者もたいした事ないのかな。」

 

 ティナのその言葉を耳にして鈴の眉がピクリと動く。

 

 「ティナ、悪いけどあいつと零也さんを一緒にしたら駄目よ。」

 

 「どういうこと?」

 

 「この1週間の間に零也さんと2度程、模擬戦というか手合わせをしたんだけど、手も足も出なかったの。」

 

 「へっ?!」

 

 「さっきティナに言った事を少し修正するわ。仮に戦闘のプロが訓練してISの基本動作をマスターしたら、おそらく代表候補生でも簡単に勝つ事はできないわ。」

 

 鈴の脳裏には手合わせした時の記憶が甦る。2度の手合わせは僅か3分の短い時間で近接戦闘縛りの事だったが、なにも出来ずに終わった。

 

 両手の双天牙月で攻め立てるものの尽く捌かれ、合間をつかれて小太刀で斬られた。 3分の手合わせが終わった時、鈴は息疲労困憊だったが零也は息も切らせておらず余裕だった。

 無論、正式な試合となれば違う戦い方も出来て、違う展開もあったかも知れないが、それでも勝ち筋は見えて来ない気がした。

 

 そして手合わせをしている中で鈴は零也が戦いに関して素人ではないのに気づいた。戦いのプロフェッショナルだと。

 

 「そんなに凄いの?」

 

 「えぇ。今の私では手も足も出ないわ。でもお陰で明確な目標が出来て燃えてるの。この学園には零也さんを含めて越えるべき目標が何人もいるわ。そして、このトーナメントにも。だからこそあいつに何てかまってられない。」

 

 鈴は拳を握りしめてゲートに向かって行く。

 

 「頑張ってね鈴!」

 

 ティナの声援に応えるように右腕を高く上げる。

 

 

 

 

 

 

 鈴のいる反対側の待合室の一室に零也・紫・シュテルの姿があった。 本来なら同行者は1人なのだが、零也が同行者という事で警護のシュテルも特別に同行が認められたのだった。

 

 「いきなり不戦勝だなんて、拍子抜けしちゃった。」

 

 「だが直ぐに次の試合だぞ、それに試合開始時間の変更が無いからか、そこまで影響は無いだろ?」

 

 いきなり出鼻を挫かれた感じの紫に告げる零也。それを見ていたシュテルが零也に声をかける。

 

 「ところで零也は次の試合はどちらが勝つと思いますか?」

 

 「鈴の圧勝だな。」

 

 鈴、千春と戦った事もある零也はそう断言する。

 

 「確かに、私は直接戦ってないけど兄さんとの手合わせやセシリアと箒との模擬戦を見てそう思うわ。」

 

 鈴とセシリア、箒の模擬戦はそれぞれ違う展開を見せていた。

セシリアとの一戦は長距離・中距離・近距離戦闘と色々な展開を見せた。 その一方で鈴と箒の一戦はガチガチの近接戦闘だった。

 実力はそれぞれ拮抗しており一進一退の攻防を見せた。

 2組のクラス代表になった鈴の戦いだけを見るのは不公平なので紫は零也や楯無との模擬戦を見せたのだった。

 

 「2人がフィールドに出てきましたよ。」

 

 モニターを見ればフィールドにISを纏った2人が姿を現した。

そしてフィールドに現れた千春を見て3人は気づいた。

 

 「ISが少し改修されているな。脚部のブースターが増設されてるな。」

 

 「両腕に小型の盾が装着されてるね。」

 

 「肩の後部に装着されているガトリング砲が小型になっているわ。」

 

 それぞれ変わった部分を指摘する。

 

 「おそらく、零也との模擬戦のデータから姿勢制御や加速を安定させる為にブースターを増設したと思われます。そして両手に盾を追加して防御をより強固に、そして反動が大きかったガトリング砲を小型の物に変えて反動を減らし使い易くしたのでしょう。」

 

 「でも、機体を改修したからといって鈴の勝ちは変わらないかな。」

 

 シュテルが改修された理由を推測する。それを聞いても零也は鈴の勝ちを断言した。

 

 

 

 

 

 

 『これより学年別クラス対抗代表戦、1年生の部を開催します。 第1試合は1年1組代表、織斑千春VS1年2組代表、凰鈴音。』

 

 アナウンスと共にそれぞれのゲートから千春と鈴が飛び出してくる。

 

 フィールドに現れた鈴の姿を見て千春は驚くのだった。鈴の纏った甲龍が自分の知っているものと少し違っていたのだ。

 

 顔には口元まで覆い隠すスモークのかかったバイザー、胸部も装甲に覆われている。そして何より右手には矛・・・方天雷牙を持っていた。

 

 「鈴なのか?」

 

 思わず、そう口にする千春。

 

 「そうよ、これが中国が誇る第3世代型IS甲龍よ! その力を得と見せてあげるわ。」

 

 そう言って鈴は右半身を少し後ろに引き、腰を落とし左手を前に付きだして構えをとる。

 それを見て千春も腰から夾竹刀を抜き両手で握り、中段に構える。

 

 2人が構えを取ったところで

 

 『これより、学年別クラス対抗代表戦、第1試合を開始します。』

 

 アナウンスと同時を開始を告げるブザーが鳴り響く。

 

 「いくぞ鈴! ウォォォォーーー グベッ?!」

 

 基本的に待ちが苦手な千春は掛け声と共に鈴に向かっていこうとしたのだが、一歩踏み出した瞬間が顔面に衝撃を受けて仰け反るのだった。 だが、それだけでは終わらなかった。

 

 「ウグッ!! ギャァァァァーーーー!!!」

 

 そのまま腹部に凄まじい衝撃を受けたと同時に、衝撃を受けた腹部から全身に感電したかのような、途轍もない痺れる痛みが走る。

 いや実際に感電したのだが、千春には何が起きたのか全く判らなかった。

 

 鈴が試合開始の合図と共につき出した左手に内蔵されている小型衝撃砲〔龍咆・崩拳〕を千春の顔面目掛けて放ったのだ。 カウンター気味に無防備にそれを受けた千春はまともにそれを喰らい仰け反るのだった。

 

 さらに鈴は瞬時加速を使い、一気に千春との間合いを詰め、その勢いを利用して方天雷牙で腹部を突くのだった。

 瞬時加速の勢いも加わり、その衝撃はこれまた凄まじいものだった。それに加えて、方天雷牙に仕込まれた放電端子が作動し千春を感電させるのだった。

 

 「ハァァァァーーー!!」

 

 鈴の攻撃はこれに止まらず、方天雷牙を拡張領域に戻すと代わりに両手に大型のトンファー・・・黒龍を取り出して構えると、千春目掛けて振り下ろす。

 

 「クソッ、 白鋼甲殻!」

 

 だが間一髪で千春が白鋼甲殻を発動させて黒龍の一撃を防ぐのだった。 そして鈴から距離を取ると白鋼甲殻を解除する。

 流石の千春も白鋼甲殻の使い方を少しは学んだ。発動しっぱなしではなく、必要無い時には止めるということを。

 

 だが依然として千春が不利な状況には代わり無い。試合開始前のセーブして戦うというのが、不可能だという事にまだ気づいていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 




 
 
 甲龍について

 原作の物と違い中国を出る前にオーバーホールと同時に少し改修を受けてます。
外見の変更点としては、頭部にヘッドギア・顔に口元まで覆うスモークのかかったバイザー、胸部に装甲が装着されてます。
 また以下の武装が装備されてます。


 放電端子内蔵戟【方天雷牙】
 先端部分に放電端子が内蔵された方天画戟。


 超振動大型錐【剛撃錘】
 相手に命中した際により衝撃を与える為に錘の部分が超振動している金瓜錘(ようはメイス)。これにより内部にダメージを与えるようになっている。


 多機能型棍【黒龍】
 マシンガンと流星錘が組み込まれた大型トンファー。先端部分が開き鉤爪のようになり刀剣を挟む事が出来る。


 

 




 
 
 

 


 
  




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第16話  千春の根幹

短いです。

 注)原作とは違う流れになってますのでご注意ください。


  

 

 千春は試合開始直後から一方的に鈴に攻め立てられた。白鋼甲殻を発動して急場を凌いだものの、彼には打開策が無かった。

 

 (どうする?白鋼甲殻で凌いだけど、攻め手が見つからない。)

 

 白鋼甲殻を解除して夾竹刀を構えながら千春は、ふと自分の両腕に新たに装着されている【防守・小月】に気づく。

 

 (そうだ、それがあった! よし!!)

 

 千春はすぐさま、防守・小月を起動させる。 高速回転をする防守・小月、それを見て警戒する鈴。

 「いけ! 小月」

 

 白鋼の右腕に装着されている小月が鈴目掛けて放たれる。

鈴は自分に向かってくる小月を黒龍で弾こうとしたが、

 

 (!! 違う、避けなきゃダメ!)

 

 直感で、弾くのではなく回避することを選んだ鈴。 第6感ともいうべき直感に従う鈴、今までもこの直感に助けられた事もあり鈴はこの感覚を疑っていなかった。

 

 小月を避けた鈴を見て、笑みを浮かべる千春。

 

 (避けたってダメなんだぜ鈴!)

 

 鈴の後方で大きく弧を描き背後から再び迫る小月。自動追尾機能のある小月は鈴をロックオンしていたのだ。

 だがハイパーセンサーでその動きを捕らえていた鈴は慌てずに背後を振り返る事なく、黒龍を向けてトリガーを引くと黒龍から弾丸が絶え間なく放たれて、小月を弾き飛ばす。

 無数の弾丸を浴びた小月は破損したようで、そのままアリーナの地面に落ちる。 

 小月に隠されていた機能があったのだが、どうやら弾丸の当たった場所が悪かったのか発動しなかった。 それを見て千春は舌打ちして

 

 「くそっ! だがまだだ!」

 

 拡張領域から右腕に予備の小月を呼び出して装置すると、今度は左右両方の小月を放つ。

 自動追尾機能のある小月で牽制して、あわよくば隠された機能でダメージを与え、更にその隙に接近して夾竹刀で斬りつける。 千春が自分なりに考え出した必勝パターンだ。

 しかし

 

 「そんな見え透いた手には乗らないわよ。」

 

 鈴は千春から距離を取り、ハイパーセンサーで小月の位置を把握しながら黒龍で弾丸を連射する。 

 弾丸が命中した小月は爆発して木っ端微塵となる。

 

 (なるほど、私の勘は当たっていたのね。シールドブーメランと見せて実はミサイルなのね。)

 

 そう鈴は判断したのだが、実は少し違った。

 

 【防守・小月】白鋼に新しく装備されたバックラータイプの小型シールドだ。

 両肩に装着されている防守は白鋼甲殼を発動するための重要な装置であるために、攻撃にあまり使えないという欠点があった。

 そこで両腕に新たな攻撃にも使える盾、防守・小月が装備されたのだ。 

 しかし、これも当初は隠し刃を仕込んだ格闘武器、そした自動追尾装置を持つ単なるシールドブーメランの機能を持たせる予定だったのだが、千春がミサイルのように命中したら爆発する機能の追加を求めたのだ。

 

 しかし、盾に火薬を仕込めば防御した時に誘爆する可能性もあり、また小月も消耗品として扱うには少し費用が高額となる事、盾を使い捨てする事に薫子が難色を示した。

 

 その後、色々試し協議を重ねた結果、取り敢えず試験運用という事で、ミサイルとして使用する際には信管をセットし、ミサイル機能のスイッチを入れるという仕様にし、更にミサイルとして使用出来る小月の数も取り敢えず、3機迄と制限を設けた。

 

 

 ミサイルとして使える小月を使い切った千春は

 

 (クソッ! )

 

 自分の思い通りにならない状況に苛ついていた。

 

 転生している事には気づいてからIS学園に入学するまではある程度自分の思った通りに事が進んでいたのに、IS学園に入学してからというもの、思い通りに進まない事にかなりのストレスを感じていた。

 

 何より自分の知る原作通りに事が進まない事に怒りを覚えていた。 自身が原作にいないイレギュラーな存在であるにもかかわらず。

 

 

 

 (何なんだよ! 何で原作通りに進まないんだよ!)

 

 

 

 

 

    彼は間違いを犯していた。

 

 

 

 自分が今、生きているこの世界を、原作小説という作品の中での出来事で、現実世界だとキチンと捉えていない。

 

 

 つまり、まるで仮想空間での出来事で、ゲームと同じで主人公である自分以外は全てNPCで、どうなろうとも構わない。

 

 

 ヒロイン達も自分のヒロインになるという役割を与えられたキャラクターだと。

 

 

 それ以外は全てモブ、自分を引き立てる為の役割を与えられたキャラクター達だと。

 

 

 この世界は全て自分を中心に回っている、自分の為の都合の良い世界だと。

 

 

 

 

 

  傲慢で不遜で歪んだ考えの持ち主、それが織斑千春という人間なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、IS限らず格闘系の試合というのは余計な考え事、雑念を持ちながら戦えるようなものではない。

 

 並列思考でもない限りは、そんな状態で戦えばどうなるかと言えば

 

 

 「グフッ?! な、何が? ガァフ!」

 

 腹部に衝撃を受けたかと思えば、今度は顎に衝撃を受けた。千春は何が起きたかわからなかった。

 考え事をしていた千春は隙だらけだった、そこに鈴は瞬時加速を使い接近。

 黒龍で腹部を殴打し、次は顎を殴打したのだ。

 

 顎を殴打された事で、その衝撃で意識が飛びそうになった。

 そして千春は鈴に無防備な姿を晒している。

 

 (悪いけど、これ以上手の内を明かしたくないから)

 

 鈴は黒龍の銃口を千春の腹部に向けるとトリガーを引く。

 

 「ガァァァァァァァ!!!!」

 

 千春の絶叫が響き渡る。黒龍から放たれた銃弾は全て外れることなく命中し続ける。

 

 「これで終わりね!」

 

 黒龍が弾切れを起こしたので、鈴はとどめとばかりに体を大きく回転させて勢いをつけた黒龍を頭部に叩きつけるのだった。

 

 「···········」

 

 叫ぶ気力すら失っていたのか千春は何も言わずにそれを受けて、その衝撃でアリーナの地面に叩きつけられるのだった。

 

      その瞬間

 

 『白鋼、SEエンプティー。 学年別クラス対抗代表戦第1試合、試合終了。 勝者、1年2組代表鳳鈴音!』

 

 

 

 

  試合終了と勝者を告げるアナウンスがアリーナにこだました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 
 
 日本で運用されているパワードスーツ
 
 以下の物が作品内で登場予定(名前のみの場合もあり)第1世代はIS登場前に作られた物で、第2世代はIS登場後に作られた物。 なお第1世代型に関しては海外への輸出は認められているが、第2世代型は機体数と技術流出の関係から現状国内のみの流通となっている。
 


 オールオバー 第1世代型パワードスーツ(出典:銀河漂流バイファム)

 磐梯社が開発した多目的型パワードスーツ。 現在は既に生産を中止している。 EOSより性能は上だが、単体で使われる事を想定して作られた為か、アタッチメントのバリエーションが少なく、レコンに競べて見劣りしてしまい第2世代型の登場と共に日本国内では姿を消す。



 アスカ 第2世代型パワードスーツ(出典:パトレイバー)

 磐梯社が満を持して送り出した多目的型パワードスーツ。しかし、万能型を目指した結果として短所も無ければ特筆すべき長所も無い機体となった。警察の機体性能比較テストに出したが書類審査で落ちる。



 レコン  第1世代型パワードスーツ (出典:特装機兵ドルバック)

 グンゼ産業が開発した多目的型パワードスーツ。 第2世代型パワードスーツが出回っている現在、既に生産は中止されているが、それでもEOSを上回る性能を持っており、さらにアタッチメントが豊富な為に、今も建築現場では活躍している。 その性能故に中古品としても海外では人気があり、広く流通している。
 


 ハーク  第2世代型パワードスーツ (出典:特装機兵ドルバック)
 
 グンゼ産業が開発したレコンの後継機。 様々なアタッチメントユニットを装着することで、主に建設現場や災害救助に使用されている。グラスキャノピーからカメラアイに変更して装着者の安全性を高めてある。


 
 バイソン 第2世代型パワードスーツ (出典:パトレイバー)
 
 篠原重工が開発した警備用パワードスーツ。 日本警察が新型パワードスーツを採用する為に行われた、機体性能比較テストを隔て正式採用され配備されている。 ハークやレコンに競べてスマートなフォルムをしている。 だが警備を目的としているので防御能力は確りしてる。
 
 
 
 ヘルダイバー 第2世代型パワードスーツ (出典:パトレイバー)
 
 篠原重工が開発した軍用パワードスーツ。 此方はバイソンの性能を知った自衛隊から開発を以来されて作られた物で、その為にバイソンと競べてもかなりの高性能を誇る。 また、アタッチメントユニットを装着することで長距離飛行や長時間潜水も可能となっている。


 
 ヘラクレス 第2世代型パワードスーツ (出典:パトレイバー)

 菱井インダストリーが日本警察の機体性能比較テストに出した機体。パワーと重装甲を全面に押し出した機体。機動性が低いのがネックとなり採用が見送られた。 その後、一部の民間警備会社や建築土木会社に採用された。




 アデル 第2世代型パワードスーツ(出典:ガンダムAGE)

 月村重工が開発した第2世代型パワードスーツ。月村ホールディング傘下の警備会社の為に開発された機体で一般には出回っていない。 他社の第2世代型と競べて一線を画す程の高性能を誇る。
 仮に警察の性能比較テストに出していたら、此方が採用され自衛隊からの専用機体の開発も月村重工になっていただろう。 
 








 海外のパワードスーツ
 
 日本と比べ開発が遅かった事とIS登場により、その開発が一度停止した事もあり開発と配備が遅れている。 現状、市場に出回っているのは、日本から輸出された第1世代型がほとんど(中古もあり)。
 現在アメリカ・ドイツ・中国が独自に開発した物を軍で使用(試験運用)している。



 
 ファッティー (出典:ボトムズ)

 ドイツがバララント社と開発した警備用(軍用)パワードスーツ。性能面ではハークと同等。ただし操作性という部分ではレコン以下(某IS部隊隊長評価)。




 ゲバイ (出典:ドラグナー)

 アメリカのギガノス社が開発した軍用パワードスーツ。こちらは性能面・操作性はハークと同等。陸軍に試験配備されている。



 リーオー  (出典:ガンダムW)

 アメリカのOZ社が開発した軍用パワードスーツ。性能面ではゲバイと同等。 こちらは気密性能の高さから空軍と海軍に試験配備されている。




 マッケレル  (出典:ダグラム)

 中国の新華社が開発した軍用パワードスーツ。性能面ではレコン以上ハーク以下だが、ハーク以上と公表している。



 

 
 
 


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第17話  乱入者

 
 ひさびさに主人公登場。

 
 何時も誤字脱字の修正ありがとう御座います。 
 この場を借りて御礼申しあげます。


 

 

 中国 ISトレーニングセンター

 

 2人の女性が大型モニターの映像を見ている。

IS学園で行われている学年別クラス対抗代表戦の中継を見ているのだった。 そう自国の代表候補生の鳳鈴音と織斑千春の試合だ。

 本来なら他の代表候補生や訓練生も集めて見る予定だったのだが、2人が万が一の事を考えて、この事を内密にして代表候補生や訓練生には見せずに政府役人と1部関係者のみにしたのだ。

 

 しかも1箇所に集まらずに複数の場所で。

 

 色々と理由付けもした。もっとも最大の理由は鈴が無様に負ける姿をあまり多くの人の目に晒さない為だったのだが、その予想は大きく裏切られた。

 これは2人に取っては良い意味での予想外の出来事だった。

 

 「驚いたわね、あれが鳳代表候補生なの?」

 

 楊の言葉に隣で見ていた李は

 

 「乗っていたISは間違いなく甲龍だから、間違いないわ。でも、あの娘があれだけ多彩な武器を使いこなす何て。」

 

 「確かに直前のオーバーホールの時に改修すると同時に鈴本人には内密に幾つかの武器を拡張領域に入れて置いたけど···」

 

 2人が驚くのも無理はなかった。中国を出るまでの鈴は衝撃砲に絶対の自信を持っておりそれ以外の火器は勿論の事、お気に入りの双天牙月以外の武器には見向きもしなかったのである。

 

 「衝撃砲も開始直後に崩拳を使っただけ、後は方天雷牙と黒龍を使って相手を圧倒したわ。勿論、対戦相手の技量を差し引いても驚くべき成長だわ。」

 

 李は自分が指導していた時の問題児の驚くべき変化に戸惑っていた。

 

 「そうね、相手が専用機持ちとはいえ初心者同然の素人、それを差し引いたとしてもあそこまで完封して勝つことが出来るなんて、日本に行って1週間。何があったのかしら?」

 

 楊も同様に考えていたようで鈴の変わりように戸惑っていた。 だがそれは嬉しい誤算でもあった。もともと才能を秘めていた鈴。

 だからこそ、短期間で代表候補生になり専用機持ちにもなった。

 だが、そこで鈴は慢心してしまい、その後の成長は著しく落ちていった。 周囲の心配を他所に鈴本人は気づかず気にすることなく時は流れていった。

 楊や李からすれば伸び代がまだまだあるのに、歩みを止めてしまっている鈴の事が歯痒く、幾度となく注意し指導したのだが、届く事がなかった。

 なのに日本に行って1週間で、この変わりように本当に驚くしかなかった。

 

 「日本に行って、何を体験したのかはわからないけど、僅か1週間でここまで成長するなんて、これなら本当に私の後を任せられるかも知れないわね。」

 

 李は勝者のコールを受ける鈴の姿を笑みを浮かべて見ていた。

 

    だが次の瞬間、異変が起きた。

 中継を映していたモニターが急に眩ばかりの真っ白い光を放ったかとおもえば、映像が途切れて何も映さなくなった。

 突然の事態に驚く2人。だが楊は直ぐにスマホを取り出すと何処かに電話をかけ始め、李はモニターに接続されているPCを操作する。

 

 「他の会場でも同じように映像が途切れたそうよ。」

 

 「色々操作したけど、駄目だわ。こちらの機器の問題ではなく、中継している機器か、送信元の方のトラブルみたいね。」

 

 受信している中国側ではなく、途中で中継している衛星やアンテナの問題、もしくは送信しているIS学園側の問題だと。李は判断した。

 

 「いったい何が?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  日本  IS学園

 

 

 その異変は、鈴の勝利を告げるアナウンスが流れた直後にも起きたのだった。

 

 管制室で試合を観戦していた千冬は、千春が負けたのを見てため息をつき

 

 「やはり負けたか。たかだか1週間で代表候補生との実力と経験の差が埋まるとは思っていなかったが、こうまでも完封負けするとは。これは実力云々の前に本人の心構えにも問題があったようだな。」

 

 「この結果を受けて国際IS委員会は、どう対応してきますかね?」

 

 真耶の言葉に千冬は

 

 「連中とて、短期間で成果がでるとは思ってないさ。次の学年別トーナメントにそれなりの成果を出せば問題無い。ただ」

 

 千冬は最後に言おうとした言葉を飲んだ。それを口にするのは本人も少々不味いと感じていたからだ。

 

 アリーナでは、千春が担架で運ばれて行ったところだった

 

 (月村零也と比較された時が大きな問題になるだろうな)

 

 そう千冬が考えていた時だった。

 

  ピー ピー ピー ピー

 

 管制室の警報機がけたたましく鳴り響く。その警報音に真耶が慌てて計器を操作すると

 

 「学園のレーダーに反応あり、IS学園の上空5000mに未確認の機影を探知。これより対象に警告を与えます。」

 

 「何?! 教員部隊は出撃し非常事態に備えよ。万が一に備えてアリーナの外部防御シールドの出力を最大に!」

 

 真耶は千冬と管制室にいる他の教員達に報告すると、直ぐに所属不明機に警告を出す。

 千冬は万が一に備えて待機していた教員部隊に出撃を命じ、殆どの生徒が集まっているアリーナの外部防御シールドの出力を上げて万が一に備えるように指示を出す。

 

 4方を海に囲まれた人工島の上に建てられたIS学園。

その特殊さ故に、IS学園島を中心として周辺2kmは船舶の航行は勿論の事、その上空も飛行禁止空域に指定されているのである。

 なのに事前の通知もなく探知されたという事は、少なくとも友好的な相手ではないという事だ。

 

 「駄目です。こちらの警告に答えま?! 機影より高エネルギー反応、並びにレーザーサイトの照射を確認、目標は第1アリーナ、ここです!!」

 

 「第1アリーナの防御シールドの出力最大に! アリーナ内部に警告を! 教員部隊は直ぐに第1アリーナに!」

 

 千冬が次々に指示を出すが、

 

 「機影から熱源を感知!来ます!!」

 

  少し間に合わなかった。 真耶の声と同時に轟音と共にアリーナが激しく揺れ、アリーナの天井が爆発するのだった。

 

 

 

 

 アリーナでは、勝利コールを受けた鈴が観客の声援に答えていた。 一方千春は気を失っているのかISは解除されて動く気配がない。 救護班が出て来て千春を担架に乗せて運んでいく。

 

 それを見送り、自分もピットには戻ろうとした時だった。

 

 

  ビー ビー ビー ビー ビー

 

 

 アリーナ内部に、けたたましく警報音が鳴り響く。

 

 突然の警報音に驚く観客席の生徒達。 一方鈴は警報音に驚きながらも、直ぐに管制室に連絡を取ろうとした。

 たが、その前に轟音と共にアリーナ全体が大きく揺れるのだった。 そして天井部分が爆発した。

  直前に鈴はアリーナの観客席間際の壁まで退避してした。

 

 アリーナに煙がたちこめる。 だが異変はそこで終わりではなかった。

 

    ズゥゥゥゥーーン

 

 

 低く響くような音と振動で、何か重量があるものがアリーナのフィールドに落ちてきたのがわかった。

 

  やがて煙がはれてくるとフィールドの中央にコンテナのような金属製の箱があり、その箱の上に1対の羽のような物を付けたラファールを纏った女性がいた。

 そして左手にはフラッグを手にしていた。

 

 そのフラッグを見て鈴は顔をしかめる。何故ならそのフラッグに描かれているエンブレムは、あまりにも悪名高い女性権利団体のシンボルマークだったのだ。

 

 

 「私は、虐げられしか弱き女性達を救う救世の組織【リリーエンジェル】より遣わされし天使騎士!」

 

 そう告げる女性は顔に銀色の仮面を被っており顔をわからないようにしていた。

 

 「我々リリーエンジェルはIS学園に対して再三にISを穢せし罪人たる2人の男性の引き渡しを求めていたにも関わらず、それを無視してきた。故に今回実力行使に出る事にした。」

 

 女性がそう言うとコンテナの扉が開き、2体のロボットのような物が出て来る。 両手が3本爪で1つ目のロボット(外見ズゴック)と両手が鋭い5本爪で1つ目のロボット(外見ゴッグvarサンダーボルト)だ。

 

 「今引き渡せば他の者には危害を加えません。ですが、逆らえば?!」

 

 女性がそう言っている最中にフィールドと観客席を遮るように10m程の鋼鉄の壁が現れるのだった。

 そこに千冬から鈴に通信が入る。

 

 『鳳、よく聞け。先程のアリーナへの攻撃でシステムの1部に障害が発生して観客席の出入り口の隔壁がおりた。そこで専用機持ち達に隔壁の破壊を命じた。更にアリーナの外にもそこにいるようなロボットが数台現れた。そちらの対処に教員部隊と2年生と3年生の専用機持ちを向かわせた。』

 

 千冬から早口で伝えられる情報を素早く認識する鈴。

 

 「つまりは隔壁が開放されて生徒たちが避難するまで時間を稼げばいいんですね?」

 

 『同じ生徒であるお前に頼むのは心苦しいがすまん。』

 

 「心配御無用です。私は中国の代表候補生です。このような任務も代表候補生の役目です!」

 

 鈴はそう答えながら自分が今からすることを素早く確認する。

 

 (最優先事項は時間を稼ぐ事。外にも外敵がいる以上は避難先はアリーナ地下シェルター、おそらく5分から10分。)

 

 鈴は残弾のない黒龍を拡張領域に戻すと、1番使い慣れている双天牙月を取り出して構える。

 

 「どうやら私達の慈悲を無駄にするようですね。ならば遠慮はしません。その命を持って罪を償いなさい。」

 

 女性の言葉と同時に2体のロボットが動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Bピット待合室

 

 零也、紫、シュテルはモニターでアリーナでの出来事を見ていた。

 

 「どうしますか零也。」

 

 「鈴1人では危ない、援護に行かないと。」

 

 「でも、相手の目標に兄さんがいるのよ?」

 

 「だからこそ行くんだ。俺が行くことで避難するための時間稼ぎにもなるしな。」

 

 「ですが零也、織斑教諭からは隔壁の破壊を命じられましたが?」

 

 「ここからだと、隔壁の反対側から破壊しないといけないから逆に危ない。」

 

 「観客席にはセシリアと箒と簪の3人がいるから、何とかなるか。」

 

 「よし、管制室に連絡しよう。」

 

 そう言って零也は管制室に連絡をとる。

 

 『どうしたの月村君? 何かあったの。』

 

 通信用のモニターにスコールが出た。そこで零也は自分達が鈴の援護に向かう事を説明する。

 

 『······確かに、反対側からの隔壁の破壊は危険だし、時間稼ぎも出来るわね。ちょっと待ってね。』

 

 スコールは零也の提案を聞いて、音声だけ遮断して千冬と相談をはじめる。

 やがて

 

 『わかったわ。でも決して無理はしないで時間稼ぎに徹してちょうだい。』

 

 スコールがそう言うと零也達は

 

 「「「わかりました。」」」

 

 通信を終えると零也は紫とシュテルと打ち合わせをする。

 

 「俺と紫が前衛で、シュテルは後衛。避難の為の時間稼ぎが優先事項だけど、可能なら対象の無力化。」

 

 「「わかった。」」

 

 「よし、行こう!」

 

 3人はISを装着してアリーナに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 第2,5世代型IS レイスタ改・星光
 (外見:レイスタ)


 高町シュテルの専用機。 零也の護衛任務を請負ったシュテル用に学園が手配した機体。当初はラファールの予定だったが月村重工から零也の護衛役の為ならと、特別に零也達の機体のベースとなったレイスタを提供し、シュテル用にカスタマイズした。 
 
 武装
 
 多機能突撃銃【紅炎】:十六夜に装備されている物と同じ。

 ハンドガン【闇鴉】:銃身に追加装甲を施した大型拳銃。打撃にも使える。

 コンバットナイフ【夕星】:IS用に作られたコンバットナイフ。スカートアーマー内部に収納されている。

 ガンブレード【千本桜】:高周波ブレードとレーザーガンを一体化した武器。

 ルガーランス【飛燕】:荷電粒子砲を内蔵したランス。エネルギーカードリッジを採用しており、機体のエネルギーを消費することが無い。

 試作型ビームランチャー【星彩】:高出力ビーム兵器の試作型として作られた。ただし、その威力故に競技での使用は禁止している。










 第2世代型IS ジムカスタム・シャークマウス
 (外見:ジムコマンド)


 紫堂涼子の専用機。 数ある学園の訓練機の中でも、IS発展初期の頃から完全装甲型にこだわっていたアナハイム社の第2世代型ジムを選んだ。 完全装甲型という事で、これまで学園の訓練機の中では不人気で倉庫で埃を被っている状態だった。 どういう訳か涼子はこれを選び、カスタマイズしてもらい、更に肩にシャークマウスを描く。
 
 武装

 ジムマシンガン:プルパップ式のマシンガン。

 ジムライフル:アサルトライフル、単発・セミオート・フルオートに切り替えが出来る。また銃弾も徹甲弾・炸裂弾・通常弾と使い分けが出来る。銃口部分に銃剣を取り付ける事が出来る。

 多連装ロケットランチャー:4連装のロケットランチャー。

 ビームスプレーガン:ハンドガンタイプのビーム兵器。
アナハイム社ではビームの収束率を上げる事が難航していた。その中で作られ、射程距離は短いものの、最低限の威力を出したので採用された。 なお、この銃口にもシャークマウスが描かれている。

 ショートシールド:左腕に装着されている小型の盾。パイルバンカーを内蔵している。

 コンバットナイフ:高周波ブレードのコンバットナイフ、腰のスカートアーマー内部に収納されている。

 手榴弾:スカートアーマー内部に収納されている。

 


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第18話  制圧

 
 2回にわたる、コロナのワクチン接種の副反応での体調不良で更新が遅くなりました。
 
 


  

 

 試合終了後に突如として現れた乱入者。観客席の生徒達が避難するまで時間を稼ぐ事になった鈴。

 その鈴は目の前の2体のロボット相手に苦戦していた。

 

 3本爪のロボット(今後、ズゴックと表記)が鈴に左腕を向けると、3本爪の中央の穴からレーザーが放たれる。

 

 「クソッ!」

 

 鈴がレーザーを躱すと、いつの間にか5本爪のロボット(ゴッグと表記)が接近して、振り上げた右腕を鈴目掛けて振り下ろす。それも紙一重で躱す。

 先程から2体の絶妙なコンビネーションに苦戦する鈴。

 

 再び、同じような攻撃を仕掛けてくるズゴックとゴッグ。 ゴッグの爪を上空に飛び上がり躱した鈴は、ゴッグ目掛けて衝撃砲を撃とうとした。 だが、

 

 「?! えっ? キャァァァーーー!!!」

 

 右脚に2本の紐状のものが巻き付いていた。そしてそのまま鈴はアリーナの地面に叩きつけられる。

 

 「一体何で?」

 

 鈴が右脚に巻き付いていている紐状のものの元を見れば、コンテナから大きな1つ目が特徴の3体目のロボット(アッグガイ)が姿を現していたのだ。その右腕から伸びるワイヤーロープが右脚に巻き付いていたのだ。

 

 「ウソ、もう1体いたの?」

 

 アッグガイは左腕のワイヤーロープを射出すると鈴の首に巻きつけて締め上げる。

 

 (クッ····まさか3体目がいたなんて、油断したわ。)

 

 首に巻き付いていたワイヤーロープを解こうとするも、締め上げるパワーが強く、上手く解けない。

 しかもズゴックが左腕のレーザーを鈴に向けて撃とうとしていた。

 

 「グッ、な、何とか····しないと·····」

 

 流石にこの状態でレーザーをまともに受けると不味いと、鈴は必死になって抜け出そうとするが、ワイヤーロープの締め上げるパワーが強く抜け出せない。

 

 そしてズゴックがレーザーを放とうとした

 

 

   

        その瞬間だった。

 

 

 

 ズゴックの左腕が突然爆発し、更に鈴の首を締め上げていたワイヤーロープが力を失い解ける。

 

 「悪い、少し遅くなった。」

 

 2本の小太刀でアッグガイのワイヤーロープを断ち切った零也が鈴の前に立ち、秘匿通信で問い掛けてきた。

 

 「ゲッホ、ゲッホゲッホ、た、助かったわ。」

 

 鈴の横には右手に小太刀、左手に飛針を持った紫が、立っていた。 

 ズゴックの左腕が爆発したのは紫が投げた飛針がレーザーの発射口に刺さり暴発したからだ。

 

 それだけに留まらず、ゴッグも零也がピットから飛び出した時に放った、飛針に結ばれたワイヤーによりアリーナの地面に縫い付けられていた。

 

 「援軍か、しかし無駄な事。下僕はそれだけでは無いのですから。」

 

 そう言って女性はフラッグの柄でコンテナを叩くと

 

 コンテナの中からゴッグが3体現れた。 そしてワイヤーロープを切断されたアッグガイは、ワイヤーロープの変わりにズゴックと同じような3本爪を出現させた。

 

 「さぁ行きなさい下僕達よ!」

 

 女性が指示するとアッグガイは瞬時加速のような爆発的加速で紫に近付き爪を閉じた状態の右腕を突きだす。

 

 3体のゴッグは零也に向かって爪を振り上げて迫る。

 

 左腕を失ったズゴックはワイヤーで拘束されているゴッグに向かって行く。

 

  女性には下僕のロボット達が、自分達に逆らう愚か者達を殲滅するという自信があった。

 

 

  

 

 

 

   だが、その自信も直ぐに打ち砕かれるのだった。

 

 

 

  

 紫に向かって突進するアッグガイ。その加速による攻撃を避ける事は出来ないと思われた。 

 しかし、アッグガイの右腕の爪は紫を貫く事は無かった。 紫が右手の紅鏡でアッグガイの右肘部分を斬り飛ばしたのだ。  

 クルクルと回りながら宙を舞うアッグガイの右腕。

     

       御神流 貫

 

  紫は、そのままアッグガイ頭部の1つ目をまるで豆腐に突き刺すように、音も無く紅鏡で容易く貫いていた。 それと同時に動かなくなるアッグガイ。

 

 

 

 

 ゴッグを拘束しているワイヤーを切ろうと右腕の爪を振るおうとしていたズゴック。 だが、その右腕は突然爆発する。

 

 「やらせないわよ!」

  

 体勢を立て直した鈴が衝撃砲で右腕を吹き飛ばしたのだ。更に方天雷牙を投擲し、そのままズゴックの頭部に突き刺さる。

 

   ズゴックはそのまま後方に音をたてて倒れ動かなくなる。

 

 鈴は方天雷牙を投げて直ぐに剛撃錘を呼び出して両手で握り、瞬時加速で一気に拘束されているゴッグに近づくと

 

 「ぶっ飛んでいけ!」

 

 剛撃錘を野球バットのようにフルスイングでゴッグに撃ち込む。

 剛撃錘が命中したインパクトと共に超振動がゴッグに伝わり、ひしゃげた音と共に命中した部分は陥没。

 ゴッグを拘束していたワイヤーは剛撃錘によって与えられた衝撃に耐えきれずに引き千切れ、ゴッグはそのままアリーナの壁まで飛ばされめり込み動かなくなのだった。

 

 「やられたら、やり返す、倍返しよ!」

 

 

  

  

  零也と対峙する3体のゴッグ。 3体のゴッグは爪を振り上げて零也の3方向から襲いかかる。

 

 

 だが、爪が零也を切り裂こうとした瞬間、零也の姿がぶれて消える。

 

 見ればいつの間にか零也は襲いかかってきた3体のゴッグの内、正面にいたゴッグの背後に立っていた。

 

 

   小太刀二刀御神流  虎乱 三連撃

 

  

 零也が両手の紅月を軽く振ると、3体のゴッグの両腕は肩から切断されて地面に落ち、同時に両足も膝から切断されて、胴体が滑り地面に倒れる。

 落ちた衝撃を受けると、今度は胴体は頭部から真っ二つに割れるのだった。

 零也は一瞬にして3体のゴッグの両肩・両膝を断ち斬り、胴体も頭部から真っ二つに斬り裂いたのだった。

  

   

 

 

   瞬く間に5体のロボットは鎮圧された。 

 

 

 

 その光景を見ていた人達の殆どが何が起きたのか理解、いや認識出来なかった。 

 特に零也と紫のした事は、本当に目にも止まらぬ早技で気がつけば敵対していたロボットが倒されていたのだから。

 

  

 

 だからこそ、コンテナの上に立つ女性は信じられ無かった。

 ほんの僅かな時間で、自分が自信満々に送り出した下僕のロボットが無効化された事実に。

 

 「ば、馬鹿な。あの組織から密かに手に入れた兵器が、一瞬で·····あ、ありえない。」

 

 だからこそ、自分の背後にいつの間にか零也がいる事に気がついていなかった。

 

    小太刀二刀御神流  徹 

 

 零也が女性の背中に放った紅月の斬撃、その衝撃はISの装甲、絶対防御に阻まれる事なく女性の肺に届いた。

 

 「ガフッ!!」

 

 その衝撃に肺に溜め込んであった酸素は一気に吐き出され、呼吸困難に陥る。 そして酸素不足により貧血が起り意識が遠退いていく。

 

 

 

 零也達は小太刀二刀御神流の技の1つ[徹]とその類型の技をIS競技の試合では使わない[禁じ手]にしていた。

 

 それはこの[徹]という技の特異性にあった。内部に衝撃を徹すという性質を持つ技。

 

 入学前に楯無達と行った訓練の中で、ISの装甲を傷つける事なく、絶対防御を発動させる事なく、その衝撃を操縦者に与える事を確認したのだった。

 零也達は試合でこの技を使うと色々と面倒な事になる場合があることを考えて、IS競技の試合では使わない事に決めたのだった。

 

 だが、今回の相手はテロリスト。 無傷で捕らえる事が出来れば、その後の段取りがスムーズに進むと考えて零也は使用する事にしたのだ。

 

 

 女性は何が起きたのかわからないままに、コンテナの上に倒れ込み意識を失うのだった。

 

 

 

 零也は倒れた女性から視線を外さないまま構えを解かず

 

 「管制室聞こえますか?此方、月村です。対象の無力化に成功しました。」

 

 『聞えてるわ、月村君。ご苦労様。外のロボット達も無力化したと連絡が入っていたわ。間もなく教員が数名来るから、それまでにその女性が暴れたり逃げたりしないように注意していてください。』

 

 管制室のスコールが零也に答える。

 

 「わかりました。」

 

 女性は意識を失った事でISが自動解除されていた。

 

 「お見事です。おかげで私の出番がありませんでした。」

 

 零也の隣にレイスタ改・星光を装着し紅炎を構えたシュテルが近づいてきた。

 

 「悪いねシュテル。」

 

 シュテルはイレギュラーな事態が起きても直ぐに対応出来るように、あえてアリーナには出ずにゲートの側に身を潜めていたのだ。

 

 「出番が無いに越したことはありませんし。」

 

 そう言ってシュテルは紅炎を収納すると、しゃがみ込み女性からラファールの待機形態である指輪を外して零也に投げ渡すと、今度は指枷・手枷・足枷を取り出して女性を拘束していく。

 

 「この手の人達は、自分が負けて捕まるなんて考えて無いから、自殺用の毒薬を口内に仕込んだり、爆薬を隠し持ったりしてないから、これで良いわ。」

 

 シュテルが拘束を終えたところに打鉄を装着した数名の教員がアリーナに入ってきた。

 零也達は女性を教員達に引き渡すとスコールから通信が入る。

 

 『月村君、月村さん、高町さん、凰さんはこれより事情聴取がありますのでピットに戻り着替えてから学園長室に集合してください。』

 

 「「「「わかりました。」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     

   

      

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 ここで少しだけ補足を

 作中にて、小太刀二刀御神流の[徹]という技がISの装甲のみならず、絶対防御を発動させる事なく装着者にダメージを与えるというシーンがあります。
 
 他の2次作品等においても攻撃された時に絶対防御が発動して怪我はしないけど、衝撃は装着者を襲うという表現はよくあります。
 徹という技は、それをより特化した技故に絶対防御を発動させる事なく、装着者にダメージを与えるという設定にさせていただきました。

 ちなみに、アルミ袴さんが書かれている『魔法青年リリカル恭也Joker』においても、恭也がバリアジャケットを纏っているヴィータ相手に、[雷徹]や徹を使用した[射抜]でダメージを与え、圧倒し倒すシーンとフェイトと模擬戦した際もダメージを与え、気絶シーンがあります。

 何方も恭也はデバイスすら持たずに生身で戦い圧倒しております。


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第19話  事後処理

 
 予約投稿の設定を間違ってまして、1年後の11月1日になってました。 ごめんなさい。

 という事で1日遅れで投稿します。


 

  

 IS学園 学園長室

 

 そこに集まったのはアリーナで対応した零也達4人。

観客席で生徒達を避難させていた簪・箒・セシリアの3人。

アリーナ外部でロボット相手に戦った2、3年生の専用機持ち······楯無にアメリカ代表候補生の3年生レイン・ミューゼル、ギリシャ代表候補生の2年生フォルテ・サファイア、イギリス代表候補生の2年生サラ・ウェルキンの4人。

 更に管制室にいた千冬・麻耶・スコールの3人、そして学園長席に並んで座る初老夫婦がいる。

 

 

 

 「さて、よく集まっていただきました。初めて顔を合わせる人達が多いので、自己紹介させていただきます。私がIS学園の理事長を務める轡木十蔵と言います。隣に座るのが妻でIS学園の学園長を務める百合です。このご時勢、男性である私が出ると色々と面倒がおきるので、普段は百合が面に立ち、学園の行事や国際会議等に出席したりしてもらっております。」

 

 

 そう言って十蔵は集まった面々に自分の事を紹介した。

そして零也達を見て

 

 「さて、先ずは月村君、月村さん、高町さん、凰さん、良くぞ被害を最小限に止め、侵入者を制圧してくださいました。」

 

 十蔵と百合は零也達に頭を下げる。次に簪達を見て

 

 「次に更識簪さん、篠ノ之さん、オルコットさん、生徒達ので避難誘導、お疲れ様でした。怪我人を1人として出すことなくすみました。」

 

 今度は簪達に頭を下げる。 そして次は楯無達に

 

 「更識生徒会長、ミューゼルさん、サファイアさん、ウェルキンさん、アリーナ外部の外敵を教員達と協力し制圧した事、大変お見事でした。皆さんの協力により短時間で制圧出来、その後の対応が迅速に進みました。」

 

 そう言って楯無達に頭を下げる。

 

 「さて今更状況説明は不要と考えますので、今後の対応等に関して説明させていただきます。先ず今回の事件については学園外部に情報を漏らす事は一切禁止させていただきます。これに関しては生徒全員に誓約書を書いてもらい、厳守してもらいます。これは国際IS委員会の決定です。」

 

 十蔵は苦虫を噛み潰したよう顔で全員に告げる。

 

 本来なら特殊独立機関であるIS学園は、あらゆる国家・組織といった権力の干渉を受けないという国際規約があるのだが、国際IS委員会は今回それを無視して事件の情報隠蔽を要請、いや強制してきたのだ。

 

 国際規約をたてに拒否してもよかったのだが、国際IS委員会は搦め手を使いIS学園に情報隠蔽を認めさせたのだ。 

 事件の事を公にすれば、安全の為に2人の男性操縦者を入学させたのに、その方針そのものが揺らぐと。

 今回の事件でIS学園には、今のところは何の落ち度も無い。

 だが、事件を公表する事でIS学園側の落ち度を粗探しして、難癖を付け、零也と千春をIS学園から引き離し、研究機関や大国に取り込む輩が出てくると言ってきたのだ。

 零也と千春の安全の為にと言われてしまえば、十蔵達も無下には出来ない。 もっとも、タダで受け入れた訳でもなく、それ相応の対価を引き出したのは、他者には秘密なのだが。

 

 今回の事件を受けて、さらなる安全性の向上と警備体制の強化を構築する時間を作る為にも。

 

 そこにシュテルが質問してくる。

 

 「申し訳ありませんが、私は任務の関係上、報告の義務が生じているのですが?」

 

 「そちらに関しては私が直接説明いたしますので安心してください。」

 

 十蔵はシュテルにそう告げる。

 

 「それから、学年別クラス代表対抗戦ですが残念ながら中止とさせていただきます。」

 

 これだけの事件が起きた以上は続けるのは不可能というのは、この場にいる全員が理解した。

 

 「そして優勝した際の副賞の方なのですが、今回は特例として全生徒に対して、デザートフリーパス3回分として配布することにします。更に今回の事件解決に助力してくださった皆さんには追加で7回分のフリーパスをお渡しします。」

 

 更に十蔵は懐から11枚の茶封筒を机に広げた。

 

 「そしてこれは事件解決に助力してくださった対価となる特別報奨金となります。」

 

 十蔵の話に零也達生徒だけでなく、千冬達教員も言葉を失う。

 

 「IS学園が創設して以来、事件という事件が起きなかったので殆どの教員も知らない事なのですが、事件や事故が起きた際に助力してくださった生徒には、その対価として特別報奨金を渡す決まりがあるのです。」

 

 十蔵の後をつぎ百合が説明する。千冬達教員も知らなかった制度に驚きを隠せない。

 

 決して薄くは無い茶封筒。 そんな中、先陣をきるように楯無が

 

 「そういう事なら遠慮なく。」

 

 そう言って机の上の茶封筒を受け取るとついでとばかりに他のも取って、全員に手渡していく。

 

 楯無に手渡された事で、踏ん切りがついたのか全員が十蔵達に一礼してポケットにしまっていく。

 

 「さて、これで必要事項は終わりです。皆さんお疲れ様でした。後片付けは教員や保安部隊がします。それから明日は臨時休校となりますので今日、明日とゆっくり休んでください。」

 

 十蔵がそう言って、その場は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

   医務室

 

 試合後、気を失った千春は医務室に運ばれていた。

 

 そして、学園長室での説明が終わって暫くした頃に意識を取り戻した。 

 

 「えっと、ここは?」

 

 意識が取り戻した千春は、医務室のベッドの上で上半身を起こして周囲を見回す。

 

  室内の独特の雰囲気から医務室だろうと予測した千春。 そこで自分が何故、医務室のベッドで寝ていたのかを必死に思いだそうとする。

 

 「確か、鈴と戦っていて、それから鈴がトンファーみたいなので攻撃してきて、それから········もしかして、俺·····負けたのか?」

 

 「そうだ、お前は凰に負けた。それも完封負けだ。」

 

 仕切りのカーテンを開けながら千冬が千春にそう言うのだった。

 

 「お、俺が負けた?! しかも完封負け?!」

 

 千冬の言葉に俄然とする千春。

 

 (原作通りの展開なら、鈴との試合中にゴーレムが乱入してきて中断。そして俺と鈴でゴーレムを倒すはずなのに?)

 

 千春は原作との展開の違いに驚きながらも、千冬に尋ねる。

 

 「俺が負けた後の試合は? 誰が優勝したの?」

  

 千冬は千春の問いかけに

 

 「学年別クラス代表対抗戦は、諸事情により中止となった。」

 

 「えっ?! な、何で中止に? 何があったの!」

 

 「今から話す事は、他言無用。学園外に漏らす事は絶対に許されない。後で誓約書にもサインをしてもらう、いいな!」

 

 千冬の有無を言わせぬ圧力に千春は頷くしか無かった。

 

 「お前が凰の最後の一撃で気絶して試合終了となり、お前が医務室に運ばれた直後のことだ。アリーナのシールドを破壊して女性権利団体のテロリストが乱入してきた。」

 

 そう言って千冬は千春が気を失ってからの出来事を説明した。テロリストの目的、その後の展開、そして鈴と零也達の活躍を。

 それを聞いた千春は、またしても愕然とした。

 

 (ゴ、ゴーレムじゃない?! 何で女性権利団体のテロリストが? それにロボット?)

 

 「凰、月村兄妹、高町によりテロリストは鎮圧され、アリーナ外部での襲撃は教員と2、3年生の専用機持ちにより鎮圧された。ただ、IS学園への襲撃という重大な事案であることから国際IS委員会は事件の秘匿を決め、更に生徒全員に対して情報漏洩を防ぐ為に誓約書へのサインを義務づけた。」

 

 千冬は一旦言葉をきり、千春の顔を見て

 

 「色々起き過ぎてパニックになっているだろうが、現実と受け止めてくれ。今日は念の為にこのまま医務室で安静にしてるように。夕食は後で届ける。それから明日は臨時休校となったので、ゆっくりと休むように。」

 

 そう言って千冬は医務室を出るのだった。

 千冬としては、千春の側について居たかったのだが、事件の事後処理がある為に出来ないのであった。

 それに本来なら千春への報告も麻耶がする予定だったのだが、その麻耶が気をきかせて千冬に譲ったのだった。

 

 千冬が医務室で出ていった後も、千春は混乱していた。

 

 「何で原作通りに進まないんだ? 本当なら鈴と戦っている最中にゴーレムが来て、俺と鈴で倒すはずなのに?」

 

 IS学園に入学してからというもの、千春が記憶している原作通りに物事は進まず、混乱するばかりだ。

 

 (こんなに俺の見せ場が無いなんて、どうなっているんだ!)

 

 千春はなんとか自分の見せ場を作らなければと考え、この後の展開を思いだそうとするのだが

 

 (クラス代表対抗戦の後は、確か········あれっ? 何があるんだっけ?)

 

 どういう訳か、原作の内容が思い出す事が出来ない。

 

 (えっと、GWが終わってから·····何かあったはずなのに?)

 

 どうしても思い出す事が出来ない千春。だがそこで

 

 (そうか、時期が近づかないと思い出さないのか。まだGW前だしな。変に早く原作の内容を思い出して、先回りしすぎるのも不味いな。)

 

 千春の思考が変な方向に向っていった。 まるで、そう考えるように決められていたかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          某所

 

 

  全面ガラス張りドーム型の温室。 色とりどり様々な草花が咲き誇っている。

 その室内にいる3人の女性はそれぞれの場所でくつろいでいる。

 

 野点傘の下、着物姿の女性が毛氈が敷かれた畳の上で優雅にお茶を嗜む。 

 

 その女性の近くでは天然石の椅子に座り、ウイスキーをボトルごとラッパ飲みする赤いジャケット姿の女性がいる。

 

 2人から少し離れた場所ではロッキングチェアーに座り紅茶を優雅に飲む純白のドレスを着た女性。

 

 着物姿の女性が

 

 「あの愚か者は勝手に出撃した挙句に負けて捕まったようですわ。」

 

 そう告げると赤いジャケットの女性が

 

 「あれだけ大口叩いて、しかも勝手に奴らと取引して、妙な兵器を持たされた挙句にか、笑えるね。」

 

 可笑しそうに笑みを浮かべ、ウイスキーを煽る。

 

 「クピードー、そう言わないで上げてください。彼女は追い詰められていたのですから。」

 

 赤いジャケットの女性···クピードーにそう言うドレス姿の女性。 着物姿の女性がドレス姿の女性に

 

 「ですがイオス、貴女が彼女を追い詰めたのでは?」

 

 「あら失礼ね雅、私は事実を教えたまでよ。」

 

 そう言ってドレス姿の女性···イオスは紅茶を飲むのだった。 

 

 「幾ら足掻いても、ISに乗れる程度の才能だけでは、私達の地位には辿り着け無いと、事実を親切丁寧に教えて差し上げたのよ。身の程を知ってもらう為に。」

 

 そうイオスが言うのだが、どう考えても親切というより追い詰めたというのが間違いないといえるのだが。

 

 「ところでよ雅、アイツが捕まるのは構わねえんだがよ、アイツが知っている拠点や連絡網は大丈夫なのか?」

 

 「そちらは既に手を打っていますわ。拠点は殆どの物は撤去して撹乱の為のダミーを設置してます。連絡網も同様に。私達に繋がる痕跡は一切ありませんわ。」

 

 「ところで雅、あの兵器は使えそうですか??」

 

 「見た目はともかく、性能はまぁまぁのようですわ。数さえ揃えればIS相手でも十分に戦えるかと。」

 

 イオスの問いかけに雅は答えた。

 

 「確かに、あの不格好な姿は駄目だな。何て言うか、不細工というか無骨というか、ともかく、もっとスマートな外見がいいな。」

 

 クピードーもそれに同意する。

 

 「外見に関しては、装甲を変更すれば問題無いですわ。 ところで、ここ暫く姿を見せてませんが、ウラヌスば何処に行っているのですか? お茶会にも顔を出さないなんて。」

 

 雅の視線の先にはアンティークソファとテーブルがあった。 

 

 「彼女なら、例の会社の買収が最終段階に入っていて忙しいみたいですよ。」 

 

 「買収? どう見ても乗っ取りゃじゃねえか、しかも悪どい手法を使って、買い叩いた。」

 

 イオスの言葉に茶々をいれるクピードー。 クピードーの茶々に苦笑する雅とイオス。 どうやら同じ事を思ったようだ。

 

 「幾ら斜陽の一途を辿っていたとはいえ、ヨーロッパでも屈指のISメーカーが格安で手に入るのですから、良いでは無いですか。」

 

 イオスがそう言って擁護するが

 

 「相手は知らないとはいえ、その斜陽のきっかけを作ったのもウラヌス、加速させたのもウラヌス、追い込んだのもウラヌス、出来レースだな。」 

 

 クピードーが揶揄する。

 

 「ですがクピードー、そのおかげで念願の専用機の開発が進むのですよ。量産機カスタムは飽きたと散々ごねていたではありませんか?」

 

 イオスがそう言うとクピードーは罰の悪そうな顔になる。

 

「だってよ、量産第2世代型のカスタムだぜ。今や第3世代型に移行しようとしているのによ。」 

 

 「ですから、あの会社が必要なのです。技術や設計図があっても、うちの施設の機材では修理や改修が関の山です。あの会社が手に入れば機材はもとより資材もあります。これまで以上に自由に機体の開発・改修が可能になるですよ。」

 

 クピードーに言い聞かせる雅。

 

 「雅、クピードーはその技量故に量産機では、本気を出せば直に機体がついて行かずにオーバーヒートを起してしまいます。カスタム化しても同じ事、多少マシになるだけです。となれば早々に専用機を開発するのが得策というもの。」

 

 イオスがクピードーを擁護する。

 

 「知ってますわよ。ですが、機体状態を把握してながらも無茶な使い方をして壊すのです、愚痴の1つくらいは言いたいですわ。」

 

 罰の悪い表情で顔を逸らすクピードー。

 

 「さて、そろそろお茶会の時間も終わりですね。次のお茶会にはウラヌスが参加出来ると良いですね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第20話  ゴールデンウィーク

 
 誤字脱字の指摘等、何時もありがとうございます。

 この話をお借りして御礼申し上げます


 

 ゴールデンウィーク

 

 それは日本独自の大型連休であり、4月末から5月始めの間に祝日が集中する事で出来る休みの事である。

 

 一応、日本に所在地があるIS学園も日本のカレンダーを基準に行事や休みを決めている。 その為、ゴールデンウィークも勿論ある。 

 

 今年は、最初の祝日の4月29日が金曜日という事で29日・30日・1日で3連休、2日の月曜日の平日を挟んで3日・4日・5日の3連休となっている。

 

 しかし、海外からの留学生も在学しているIS学園では、連休の機会に帰国する生徒もいる事を考慮して、4月29日〜5月8日の10日間を特別休業として対応している。

 

 殆どの生徒は帰省するが、反対にこの時期ならアリーナを使える時間は増えるといって、学園に残り訓練する生徒もいる。

 

 

 

 零也達はといえば

 

 

 「ようこそ、喫茶翠屋へ!」

 

 「お待たせしました。シュークリームと紅茶セット3つです。」

 

 「オーダー入ります。シュークリームとコーヒーセット6つ、シュークリームと紅茶セット4つ、パスタランチセット2つです。」

 

 「シュー皮、焼き上がりました。」

 

 「ショートケーキ完成しました。」

 

 「シュークリーム出来上がりました。」

 

 「お待たせしました。お持ち帰り用シュークリームです。」

 

 

 喫茶翠屋。海鳴市の住宅地に立つケーキ屋を兼業する小さな喫茶店だが、大人気のシュークリームを筆頭に絶品のスイーツと香り高いコーヒーが楽しめるお店という事で地元はもとより、遠方から泊まりがけで通うお客ものいるという知る人ぞ知る有名店である。

 

 店長桃子の方針で雑誌はもとよりテレビの取材は一切受けておらず、お客のクチコミで知名度が広がったのである。

 

 普段は近くの学校の生徒や主婦、サラリーマンで賑わうお店なのだが、連休中は遠方からのお客で賑わうのである。 

 その為、連休中は親族のみならず、知り合いにバイトを頼み総動員で対応するのだった。

 

 普段からお店に立つ、高町士郎・桃子夫妻に娘のなのはとクロエに加えて、零也と紫、零也の護衛任務中のシュテル。 更に零也が頼んでバイトにきた楯無・簪・虚・本音、また零也が翠屋の応援任務入っているという事で急遽駆けつけたすずかと雫の2人。 

 それ以外にも高町家の元居候が集まる予定となっていた。

 

 ちなみに零也とシュテルは厨房に入って桃子となのはのサポートをしている。

 

 他の面々はホールスタッフや裏方として駆け回っている。

 

 

 GW前半三連休の3日目のランチタイム、翠屋には多くの客が詰めかけていた。 

 この事を見越して商品や材料を用意していたのだが、それを上回る勢いで客が詰めかけ、商品が出ていくので遂には

 

 「おばあちゃん、仕込んでいたカスタードが切れました。」

 

 零也の報告に驚く桃子。翠屋の看板商品のシュークリーム、それ故に大量に仕込んでいたのだが、それが底をつくとは思ってもいなかった。

 

 「お母さん、仕込んでいたスポンジ生地も無くなっちゃった。」

 

 なのはの報告に再び驚く桃子。この時点でシュークリームも元よりケーキ類も店に並べる事が出来ない。今からスポンジやカスタードを作っても少なくとも1時間以上はかかる。時計を見れば、ランチタイムは、もうすぐ終わる。

 何より例年以上の忙しさに全員疲労がたまっており、まだGW後半もあるので桃子は直ぐに決断した。

 

 「シュテル、士郎さんに伝えて。予定変更よ、今の時点でランチはオーダーストップ。ショーケースにある商品在庫で今日は品切れにして閉店。明日・明後日は予定を変更して臨時休業。」

 

 「わかったわお母さん。」

 

 そう言ってシュテルは表に向かう。

 

 「という事で、今あるのを仕上げたら片付けて終わりよ。明日は1日休んで、明後日は連休後半に向けての買い出しと仕込み、いいわね?」

 

 「「はい。」」

 

 桃子の言葉に返事を返す2人。 

 

 余談だが、高町夫妻は既に50歳を越えているのだが外見はどう見ても30歳前半に見えてしまい、子供や孫達と並んでいると兄弟姉妹に間違われるのだった。

 

 

 

 

 

 

 それから30分後、全てのケーキを売り切り閉店した翠屋。片付けや掃除も終わり店舗裏の自宅に零也達は引き上げていた。

 

 「しかし今年は例年以上に客が多かったな。」

 

 「そうですね、久々にお店を手伝いましたが以前より多かったですね。」

 

 ソファーで寛ぐ零也にシュテルが答える。高町家のリビングにいるのは零也とシュテルと紫とクロエのすずかと雫の6人だ。 

 

 士郎と桃子となのはは、未だ店舗におり、今日の売り上げの集計と材料の在庫チェックをしていた。

 楯無達4人は高町家自慢の檜造りの風呂に先に入ってもらった。4人とも体力には自信があったのだが、慣れない接客業は予想以上に疲れたらしくヘトヘトになっていた。

 

 「ところで、桃子さんは予定通りにバイトは5日までって?」

 

 すずかの問い掛けに紫が

 

 「うん。少し予定は変わったけど、私達は、せっかくのゴールデンウィークを翠屋のバイトだけで潰すのはダメだって。学生なら少しは遊びなさいって言って。」

 

 そう桃子は零也達のバイト期間は5日までとして、残りの3日間は学生らしく遊びなさいと決めていたのだ。 明日、明後日と急遽臨時休業にしたものの、零也達の予定は変えるつもりはないようだ。

 

 「と言う事は予定通りに5日の夜から出掛けて6日、7日までの2泊3日の旅行は出来る訳ね。」

 

 そう言って喜ぶ雫。 零也達( 楯無達も含む )はバイト明けから2泊3日の旅行に行く予定を立てていたのだ。行き先は海鳴市近郊に昨年オープンしたばかりの大型テーマパーク ❲ テクノスタジオジャパン・海鳴 ❳。

 

 ここは映画やアニメを舞台にしたテーマパークで、それぞれのエリア毎にアニメや映画の世界を体感したり、登場するキャラと触れあったり、グルメを楽しんだり出来るのだ。

 

 テーマパーク内にはホテルもあり、予約は常に埋まっているのだが、実はこのテーマパークには月村ホールディングも出資をしており、大株主優待として部屋を取る事が出来たのだった。

 

 「でも、零也達は7日の日は夕方にはIS学園に戻るんでしょ?」

 

 表情には出さないものの若干不満そうなすずか。 そう零也達IS学園組は7日の夕方にはIS学園に戻る予定にしているのだった。

 すずかと雫からすれば最終日まで一緒に居たかったのだが、叶わなかった。ブラコン・甥コンの極み足る2人故にその心情を図る事は出来ない。

 

 ちなみに2人は既に夏休みに向けて、零也達とすごす為の予定を組んでおり、ゴールデンウィーク明けから雫は授業を、すずかは仕事を詰め込んでいるのだった。

 

 「そ、そう言えばおじいちゃんが今日は予定より早く店を閉めたし、夕食はみんなで外に食べに行こうだって。」

 

 すずかの様子に気がついた零也は慌てて話題を変えるのだった。

 それに気づいたすずかは、零也の話にのるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、千春の姿は倉持技研にあった。

 

 と言うのも、千春は白鋼の改修後にレポートの提出をしなければ成らなかったのだが、クラス代表戦前という事でISの訓練に集中するあまり、レポートを纏めて提出するのを怠ってしまったのだ。

 その為にゴールデンウィーク返上で倉持でのデータ取りとレポートの提出、更に白鋼の調整をする事になったのだ。 予定はゴールデンウィーク最終日までびっしりと組まれている。

 

 そして今、千春は倉持技研のテスト用のアリーナで射撃訓練を行っている。 休憩を挟みながらではあるが、既に始めてから2時間はたっている。 

 

 『それでは、再びドローンを射出しますので全機撃墜してください。制限時間は3分です。スタート!』 

 

 管制室の薫子からの指示が出され、アリーナに10機のドローンが射出される。

 ドローンは不規則な軌道でアリーナを自由に飛び回る。 それに向かって千春は銃弾を撃つ。

 だが、ドローンには掠りもしない。

既に幾度となく繰り返されている光景だ。この前には固定された的に向かって射撃訓練をしていたのだが、これまた成績は良くなかった。

 

 「くそっ!何で当たらないんだよ!」

 

 それを管制室から見ながら解析をしていた薫子に進が声をかける。

 

 「どんな感じだ?」

 

 「ぜんぜんダメね。織斑君には射撃の才能が皆無ね。仮に適正値で表すならE-(マイナス)と言うところかな。」

 

 E- 即ち適正無しと言うところだ。

 

 「こうなると、射撃補正システムのプログラムを強化して精度をかなり上げないと無理か。」

 

 「あと、火岸華から反動が少なく扱い易いハンドガンタイプの物に変更した方が良いわね。それに落火星も外して、ホーミングミサイルポッドを搭載した方がいいかもね。」

 

 「それに小月もミサイル機能外して、シールドブーメランのみにしよう。」

 

 「他にも色々手を加えたいけど、今の段階ではこれ位にしとかないとね。」

 

 白鋼をより強化したいものの、1度にしてしまうと作業がより複雑且つ時間がかかってしまう上に、何より操縦者である千春の技量が追い付かない事を考慮したのである。

 

 

 

 一方その頃、同じ倉持技研の別のテスト用アリーナでは箒が赤鋼のテストをしていた。

 千春とは違ってレポートを提出していた箒。それにより箒により適した赤鋼の調整がなされたのだ。予定では今日が最終日となっている。

 

 『篠ノ之さん、赤鋼の調子はどうだい?』

 

 管制室から箒に問いかけたのは、紺色のロングコートにゴーグルタイプのサングラスをつけた赤鋼の開発責任者である川口メイジンだ。

 

 「今の段階では問題はありません。」

 

 『それなら、今から天海の最終テストに入るよ。』

 

 

 機体の調整だけでなく、赤鋼の主力武装である天海の改修もおこなわれたのである。

 

 エネルギー消費の効率化により零落白夜の発動時間が延び、更に赤鋼に天海用の非常用エネルギーパックを装備して、専用ケーブルと天海を繋ぐ事で短時間ではあるが暮桜と同規模の零落白夜を発動する事が出来るようになったのだ。

 

 「お願いします。」

 

 箒の返答と同時にアリーナの各所からドローンが射出され不規則な軌道で飛び回る。

 天海を構えた箒は、ドローンに向かっていく。

 

 「疑似零落白夜、発動!」

 

 天海の刀身を蒼白い光が覆う。そのままドローンを斬りつけていく。

 真っ二つに断ち斬られるドローン、箒は零落白夜を発動させたまま、次々とドローンを斬り裂いていく。

 本来なら直前に発動させて、斬ったらオフにするのだが、今回は零落白夜の発動限界時間の最終確認という事で、発動させ続ける。

 

 やがてアリーナのタイマーが20秒に達した時、零落白夜の発動限界に達した。

 

 『よし、続いて天海を赤鋼に内蔵されているエネルギーパックとケーブルを接続して。』

 

 「はい!」

 

 箒は力強く返答すると、赤鋼のスカートアーマー部分からケーブルを伸ばして天海の鵐目に接続する。

 

  「疑似零落白夜、非常発動!」

 

 再び刀身は蒼白い光に覆われる。そして箒はドローンを斬りつけていく。

 

 そして発動して、アリーナのタイマーが5秒に達した時、零落白夜の光は消える。

 

 『お疲れ様、篠ノ之さん。これで天海のテストは終わります。』

 

 「はい!」

 

 メイジンはモニターに表示されたデータをと手元のタブレットのデータと比較し

 

 『今回の改修により天海の疑似零落白夜の発動時間は延びました。ただこれからも此方では引き続き改修を続けていくので、篠ノ之さんは学園でのデータ収集とレポートの制作をお願いします。』

 

 「わかりました。」

 

 『それから、今回新たに装備した試作型ビーム砲の事ですが、ビームの収束率がまだ甘いので威力は不十分な上に1度撃つと砲身が高温になるので、連続で撃つ事が出来ません。セットされているエネルギーパックで2発しか撃てません。』

 

 そう倉持技研では、ビーム砲を開発していたのだ。 といっても試作段階であり、安全性は確認されているものの威力とエネルギー消費の部分ではまだまだ完全な実用化には至っていないのだ。

 

 

 その為に倉持技研はメイジンを通じて、箒に実戦でのデータ収集を依頼したのだ。

 

 メイジンとしては、箒と自分の手掛けた機体にそんな事をさせたくなかったのだが、倉持技研の上層部の命令とあっては、拒否する事も出来なかった。

 精々、事前に入念にチェックして安全性を高める為の補修をする事しか出来なかった。

 

 倉持技研がビーム兵器の開発に躍起になるのには訳があった。

 既に月村重工と更識ISラボが世界に先駆けて、ビーム兵器の開発・実装に成功していた。

 それに伴い日本いや、世界でも有数のIS開発先進企業として躍進したのだ。

 

 もともと、第3世代型ISの開発でも遅れを取っていた倉持技研だが、ビーム兵器の開発・実装という実績により、日本でトップのISメーカーという立場であったはずの倉持技研が、いつの間にかトップという立場から落ちていたのだ。

 

 長年にわたり日本のIS開発を引っ張ってきたというプライドを大きく傷つけられた倉持技研は躍起になってビーム兵器の開発を推し進めていたのだ。

 果たして、それが吉となるのか凶となるかはわからない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 ちなみに、この話に出てきたテクノスタジオというのは大阪のアレと千葉のアレと京都のアレを合わせた物のオリジナルテーマパークです。


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第21話  ゴールデンウィークⅡ

 
 あけましておめでとうございます。
 今年もよろしくお願いいたします。


 

 

 ゴールデンウィーク後半

 

 翠屋でのバイトも一段落し、予定通りに零也達はテクノスタジオジャパン・海鳴に来ていた。

 

   テクノスタジオジャパン・海鳴

 

 海鳴市郊外に昨年オープンした超大型テーマパークで、総面積4㎢にも及ぶ広大な敷地の中に、映画にアニメ、特撮、時代劇のセットを再現した施設に、関連した物を展示しているミュージアム、ショーを行う野外ホール、アトラクション施設、オフィシャルショップ、レストラン、ホテル等の施設がある。

 

 テクノスタジオジャパン・海鳴は四方を高さ25mの城壁で囲われている。 ちなみに、この城壁には幾つかのオフィシャルホテルと結婚式場、レストラン、会議室、事務所が併設されているのだ。

 

 

 

 

 「「「「「「うわ~、凄いね!」」」」」

 

 開園と同時に、城門を模した入場ゲートを潜って施設に入った零也達は、目の前にそびえ立つ物に歓声を上げた。

 

 地球を模した金属球を両手で持ち上げている、ネズミを模した巨大なマスコットキャラのブロンズ像があったのだ。

 

 昨夜のうちにテクノスタジオジャパンの入口側の城壁にあるオフィシャルホテルに宿泊していた零也達は、開園と同時に入園する事が出来た。

 既に零也達は遊ぶ為のスケジュールをたてていた。

 全員それぞれ行きたい場所があり、メインのパレードも見たい、マスコットキャラともあそびたい、アトラクションで遊びたい、ショッピングしたいと、やりたい事が沢山あり、また全員が同時に同じ場所に向かうと、時間がかかり回りきれない可能性もあるので、取りあえずグループに別れて回り、パレードや食事の時に集まる事にしたのだ。

 

 零也・雫・すずか・楯無はショッピングをしながら再現された映画のセット施設やミュージアムの見学。

 

 本音・虚・シュテルはマスコットキャラを探しながらアトラクションで遊ぶ予定。

 

 簪・紫・クロエは特撮ヒーローとアニメのミュージアムと特撮ヒーローショーを見学。

 

 それぞれ行く事になっていた。

 

 「それじゃあ、1時にレストラン〔アグリ〕に集合ね。アグリの特別テラス席の予約をすずか姉がしてくれたからランチを取りながら昼のパレードが見学出来るよ。」

 

 そう言って、それぞれグループに別れて行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、その頃の翠屋は

 

 ゴールデンウィーク後半ということで、忙しいはずなのだが、この日はどういう訳か臨時休業の看板が掛けられており、店には誰一人としていなかった。 

 

 では何処に? その答えは高町家の居間にあった。

 

  高町家の居間、そこに集まっていたのは、高町士郎・桃子・なのは、ドイツから急遽帰国した月村恭也・忍、そして香港から帰国してきた御神美沙斗、高町美由希の7名。

 

 「それで美沙斗、態々日本に帰国してきて、僕達に店を休ませてしないといけない話というのは?」

 

 士郎が美沙斗に尋ねる。

 

 「これは私だけでなく兄さんや恭也にも関係する話だからだ············龍(ロン)の事を覚えてるか?」

 

 美沙斗の話に士郎と恭也が反応する。

 

 「「龍だと?!」」

 

 龍·······それは美沙斗・士郎・恭也にとって深い因縁のある名だ。 

 かつて、龍の起こした爆弾テロによって御神の一族は士郎・恭也・美沙斗・美由希の4人を残して全員死亡したのだ。

 

 当時、士郎は前妻と離婚した直後であり、少なからず心に傷をおった恭也を癒す為に全国修行の旅に出ている最中で恭也共々、難を逃れたのであった(但し、修行の旅が果たして恭也の癒しとして最適であったかは疑問だが)

 

 そして美沙斗は、幼い美由希が体調を崩し病院に入院し付き添っていた事で美由希共々、難を逃れたのだった。

 

 龍が御神一族を狙ったのは龍のトップにいた男の私怨だった。 自らの私怨を晴らす為にテロを起こしたのだった。

 

 その後、紆余曲折を隔て龍を倒し、御神一族の無念を晴らしたのだが、

 

 「以前から龍について気になる事があって、独自に追跡調査をしていたのだ。実は私達が倒した龍は四龍(スーロン)という組織の一端なのだ。」

 

 「四龍?」

 

 「そうだ四龍、アジアを中心に世界規模で暗躍する犯罪結社だ。武器・麻薬・臓器・希少&保護動植物・人身売買等の非合法商品を扱う闇商人の異名をもつ白龍(パイロン)、紙幣&証券偽造・窃盗・強盗・詐欺等の金品を目的とした犯罪を担当する黒龍(ヘイロン)、テロや暗殺等の武力行使を担当する紅龍(ホアンロン)、それぞれの部署の候補生を集めて、後継者として育成する事を目的とした青龍(ティンロン)の4つから成り立っている。」

 

 士郎の問いに答える美沙斗。

 

 「もしかして以前、俺達が倒したのは四龍の1つ、紅龍なのですか?」

 

 「そうだ恭也くん。私達が龍だと思っていたのは四龍の1つである紅龍。確かに私達は紅龍のトップと幹部達を倒した。だが組織その物を壊滅させた訳ではなかったのだ。私達はあれで、組織も壊滅したと思っていた。だが実際には先程言った青龍から紅龍の後継者が生まれ、組織は立て直されたようだ。」

 

 「美沙斗、俺達に四龍の話を持ち出してきたという事は何か重大な出来事があるんだな?」

 

 「そうよ兄さん。先ずは白龍がテロ組織指定になっている女性権利団体と武器売買をしたという情報を得たの。」

 

 「なるほど、女性権利団体と武器。目的は男性操縦者か。」

 

 「たぶん、その推察は合っていると思うわ恭也くん。それと幾つかの国でISコアの盗難が起きているようなの。此方は残念だけど未確認情報よ。まあ盗難された国からすれば、絶対に隠したい情報だから確認するのは事実上不可能だと思うわ。」

 

 「盗まれたISコアの行き先も女性権利団体か。益々零也の身に危険が迫っているという訳か。」

 

 「そうなの兄さん。日本の警察と更識家、そしてIS学園に、この情報を持っていく予定なんだけど、先にみんなにも聞かせておいた方が良いと判断したの。」

 

 「美沙斗さん、その四龍がかつての因縁を晴らす為に動いてくる可能性は?」

 

 恭也は四龍が、いくら当時の紅龍のトップの私怨による暴走とはいえ、トップと幹部達を倒し、組織を一時的とはいえ機能不全に陥れた自分達に何かしら仕掛けてくる可能性について尋ねる。

 

 「私もそれが一番気になっていて調べているんだが、そういった動きが全くない。警戒しておくに越した事はないが。」

 

 そう、美沙斗も四龍の事を知って直ぐに懸念を持ち調べていたのだが、いくら調べても自分達に対して、何かしらの動きを全く見せていなかったのだ。

 過去の事は水に流し、まるで自分達に何もしないという意思表示かのように。

 

「香港国際警防でも四龍の動きに関しては細心の注意を払っている。何かしらの動きがあれば直ぐに連絡が入るようにはしてある。」

 

 高町家での話し合いは続いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗い部屋の中、円卓を囲むように5人の男女が座っている。

 そのうちの1人、純白のビジネススーツ姿の女性の後方の壁には絡み合う四頭の色違いの龍が描かれていた。

 

 「さて定例会議をはじめましょう。」

 

 女性がそう告げると、右隣に座っていたノースリーブの紅いチャイナドレス姿の女性が

 

 「その前にひとつ聞きたいけどカテジナ、何故貴女がそこに座っているのかしら?」

 

 「確かに、王(ワン)の言う通りだ。その席は姿を隠された四龍の長であるマダム・ベラドンナが座る場所。勝手に座っていい場所ではない。」

 

 王の右隣に座る黒コートに丸眼鏡をかけた男が同意する。

 

 「マダム・ベラドンナが姿を隠されて数年、何時までも、この席を空席にしておく訳にはいきません。ですので妹である私が仮に座らせていただいたのです。ですが姉が戻られるか、新たな長が決まれば、何時でも明け渡しますわ、よろしいでしょうか王、ヴァーミリオン。」

 

 そうカテジナが言うと口を閉ざす王とヴァーミリオン。

 

 「それでは定例会議をはじめます。先ずはカラス、青龍の育成状況をお願いします。」

 

 カテジナの左隣に座るスーツ姿の初老の男性[カラス]が

 

 「今期のノービスクラスは全滅です。こう言ってはなんですが、あまりにも素質無しばかりで鍛えようがありませんでした。エキスパートクラスの方は、白候補生が2名、黒候補生が2名、紅候補生が1名残っております。この5名に関しては卒業試験に進めそうです。」

 

 カラスの報告にカテジナが

 

 「年々、エキスパートクラスに昇格出来る者が減ってますね。やはり質の低下が否めませんね。その辺りの対応策は?」

 

 「それに関してですが、ドイツで研究されていたデザインベイビーのデータを入手出来れば。」

 

 「なるほど、最初からそういうタイプの人間を生み出すというのですね。」

 

 「それともうひとつ、日本にプロジェクトモザイカという研究をしていた所があったそうなのですが、ただ此方は既に研究していた施設・研究員・データが殆ど失われており、入手するのが困難となっております。」

 

 「王、これらのデータの入手を頼みます。」

 

 「わかったわ。ドイツはともかく、日本の方はかなり困難だと思うから時間がかかるわよ。」

 

 「それでは、次にサイレーン、黒龍の報告を。」

 

 カラスの隣に座る胸元が大きく開いたブラウスをきた女性[サイレーン]が

 

 「とりあえず、組織への上納金に関しては昨年を大きく上回るわ。それと白龍からの依頼で行っているIS関係の物の入手に関してはコア以外はほぼ入手して引き渡しも終わりました。ただISコアに関しては、もう少し猶予が欲しいですね。」

 

 「わかりました。それで王、白龍の報告を。」

 

 「此方も今の所は問題無いわ。特に女性権利団体への武器等の販売が好調よ。それと最近では、各国のIS関連事業のデータが高値で売れているわね。」

 

 「白龍も問題無いようですね。それでは最後にヴァーミリオン、紅龍の報告を。」

 

 「漸く面子が揃って動けるようになるってとこだ。夏には本格的に動けそうだ。依頼に関してはまだ受け付けていないが、問い合わせがきてるようだぜ。」

 

 ヴァーミリオンの報告を聞き満足そうに頷くカテジナ。

 

 「ところでよ。紅龍を壊滅手前まで追いやった奴等に対する報復は無しって、本当か?確かに、ホーファイ爺の暴走による組織の私的利用は不味かったけどよ。」

 

 「ヴァーミリオン、それに関してはマダム・ベラドンナと私達が話し合い決めた事です。ですので、相手に関する調査も許可しておりません。ホーファイの暴走は四龍にとっても汚点なのです。寧ろ、裏切り者のホーファイと支持一派を始末してくれたと感謝しなればなりません。」

 

 「わかったよ。」

 

 四龍の話し合いも続いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テクノスタジオジャパン

 

 レストラン アグリ

 

 4階建てのレストランで、1階はお土産物やケーキや洋菓子等を販売、2階では手軽に食べれるパンにサンドイッチ、ハンバーガー等の販売、3階は和洋中が楽しめるビッフェ形式のレストラン、5階は個室やテラス席となっており、ビッフェのメニューをそれぞれの場所に配膳してくれるようになっている。

 

 その5階の特別テラス席。元々、テラススタジオジャパンが高台に作られていることもあり、園内のみならず、海鳴市の街並みや海を一望出来るようになっている。

 

 また、屋根もあり四方がガラス張りになっているので天候に左右されず景色と料理を楽しむ事が出来るのだ。

 

  その特別テラス席に零也達は集まっている。先ほどまでは、テクノスタジオジャパンのメインイベントのひとつ、マスコットキャラクターたちます総出のパレードが行われていた。

 

 それも見終わり、今はそれぞれの席に座り運ばれてきた料理に舌鼓をうっていた。

 

  ちなみにだが、集合したメンバーの一部はその格好が変わっている者がいた。

 

 虚・シュテルは頭にマスコットキャラの頭の形をしたカチューシャをつけ、そして本音はネズミがモチーフのマスコットキャラのなりきり着ぐるみスーツ姿になっていた。

 

 そして簪、彼女もまた服装が変わっていた。背中には[GSPO]のロゴ、要所には金色のライン、左胸はエンブレムのワッペン、右腕にはXとかかれたワッペンのついた白地のジャケットを羽織っていた。更に頭には、金色のお面を乗せていた。

 一緒に回った紫とクロエの服装は変わっていないものの、三人は食事もそこそこに回った先で買い集めたグッズを見せあっている。

 

  「食事が終わったら、また園内を回って、6時にここに集合して夕食。それからナイトパレード見学だ。」

 

 零也が今日の後半の予定を話す。

 

 「クロエ、紫、確か次のステージは3時からだったよね?」

 

 早速、ヒーローショーの事を話し合う簪達。

 

 「お姉ちゃん、シュテルン、次はこれとこれに乗ろうよ。」

 

 此方も次に乗るアトラクションの相談をはじめる本音達。

 

 「それで零也、私達は何処に行こうかしら?」

 

 楯無の問い掛けに

 

 「ウェストエリアに行こうよ。あの魔法使いの映画のセットとかを見てみたいし。」

 

 「確かあそこには、日本初出店のフランスのマカロン専門店とベルギーのチョコ専門店があったわよね。」

 

 雫も興味を持ち同意する。  すずかは口を挟まないが、零也達の行き先に不満はないようだ。

 というよりも零也と一緒に行動しているだけでかなりご満悦のようだ。 むろん、それは雫と楯無も同様のようだ。

 

 3人の様子を見ながら、零也は自分の置かれている状況を考えていた。

 

 (やっぱり、はっきりと答えなきゃ駄目だな。ずっと待たせているし。)

 

 

 直接的な血のつながりは無い姉、雫

 

 

 直接的には血のつながりは無い伯母、すずか

 

 

 幼馴染みである、楯無

 

 

 遺伝的には繋がりのある、紫

 

 

 4人の女性から好意を向けられているのは零也も理解している。

 だからこそ悩んでいた、誰か1人を選らばなければいけない事に。

 だが答えを出せずに、問題を先延ばしにしていた。

 

 

 すずかに関しては、間違いなく異性として好意を向けられているのはわかっている、自分も肉親以上の想いを持っているのも理解している。

 

 

 楯無は物心ついた時から過ごし、互いに異性として認識し、お互いに好意を寄せあっているのはわかっている。

 

 ただ、雫と紫に関しては肉親としての好意なのか異性としての好意なのか判断がつかなかった。

 

  因みに両親と祖父母には零也の悩みはばれており、色々とアドバイスをもらっていた。

 

 そんな中、雫と紫は自分達なりに、両親や祖父母からアドバイスを貰い、自分の気持ちを整理したようで、零也に対して

 

 「零也、私は貴方の事が好きよ。でも多分それは肉親としての親愛であり、異性としての恋愛では無いと思うの。もっともその親愛感情は、他の人より異常な位強いみたいだけどね。」

 

 「兄さん、私は兄さんの事が好きだ。だってこの世に唯一同じ境遇で生まれた存在だから。でもそれは、ずっと側に居続けたいという依存から来るものだと思う。だから私の事は気にしなくていいよ兄さん。」

 

 と雫と紫は、ブラコン宣言をして零也の気持ちの後押しをしてきた。

 

 

 そして、ゴールデンウィーク直前に理事長を通じて国際IS委員会で、男性操縦者特別保護法の成立がなされそうだという話を聞かされた。

 

 保護法には特例として一夫多妻を容認するというのがあると聞かされ、零也はある決断を下すことにした。

 

 (確かウェストエリアにはあれがあったはず。)

 

 事前に調べていた情報を脳裏に浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
という事で、色々考えた結果すずかと楯無がヒロインに決定しました。


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 閑話  GW  ~裏~

 
 主人公達が、ゴールデンウィークをすごしている間におきた出来事です。

 注)かなりの原作剥離がありますので、ご注意を。


 

 日本で零也達がGWを満喫している頃

 

 

 

 

 ドイツ某所、IS配備特殊部隊[シュヴァルツェア・ハーゼ]の駐屯地のある軍事施設。

 

 その基地の一室、椅子に座った男性が机を挟んで対面する少女に

 

 「よく来てくれたラウラ・ボーデウィッヒ少佐。先ずは、ライン川流域で起きた洪水における被災者の救出活動並びに災害復旧活動の従事ご苦労だった。それによりIS学園への入学が延期になってしまった事、誠に申し訳ない。」

 

 「いえ、国民を救う為に力の限りを尽くすのは軍人として、ドイツ代表候補生として当たり前の事ですブランシュタイン中将。」

 

 そう言って目の前に座る男性、ドイツ陸軍の高官であるマイヤー・V・ブランシュタイン中将に返すラウラ。

 

 「それともう1つ。先日、軍の開発部が起こした不祥事、誠に申し訳ない。」

 

 実は洪水現場での災害復旧活動の最中にラウラの専用機[シュヴァルツェア・レーゲン]に突如異常が起き、暴走しかけたのだ。 

 

 幸いにも咄嗟にラウラが、機体を緊急停止してことなきを得た。その後機体を調査した結果、VTシステムのプログラムが組み込まれているのが判明したのだ。

 そして禁断のプログラムが密かにインストールされていた事を重く見た軍部は調査チームを編成し、捜査を開始した。

 

 その結果、ドイツ軍のIS技術開発室の数名の研究者が禁止されているVTシステムの研究を秘密裏に続行し、独断でレーゲンにインストールした事が判明したのだ。 

 IS学園への入学前にレーゲンの改修が決まっていたので、その事前チェックの際にプログラムをインストールしたそうだ。

 

 ただ研究者達にとって誤算だったのは、ライン川流域で大洪水が発生し、ラウラが被災者救出と災害復旧に従事して入学が延期された事と、作業中にレーゲンが暴走しかけた事でVTシステムの事が露見した事だった。

 

 関係した研究者達は既に全員拘束されて、厳しい取り調べを受けている。

 

 実は表向きの発表としては、レーゲンにインストールされたVTシステムのプログラムが不完全なものであり、それによりシステムが異常を起こし暴走しかけたという事になっているが、真相は少し違っていた。

 

 VTシステムは今まで確認されていたものとは違い、モデルとなった人物を更に成長させたデータを組み上げて再現していた。

 更に再現したデータでも対応出来ない相手が現れた場合は、相手の動きを学習して組み込む学習進化プログラムもあった。

 そして一番の問題点は外部からの遠隔操作発動プログラムも組み込まれていたのだ。

 

 もっとも、あまりにもプログラムを詰め込み過ぎた結果としては不具合を起こし暴走しかけたのだが。 それにより、ラウラ本人も怪我もなく助かる事が出来たのだ。 

 

 「いえ、ブランシュタイン中将が謝罪する事ではなく、悪いのは秘密裏にVTシステムを研究し搭載した研究者達ですので。」

 

 「そう言ってもらえると助かる。さて、色々あって延期になっていたIS学園への入学というか、編入になってしまったが、それに向けて日本に行ってもらう。君の専用機〔シュヴァルツェア・レーゲン・パンツァー〕も仕上がった。」

 

 「わかりました。ラウラ・ボーデウィッヒ、IS学園に向かいます。」

 

 そう言って敬礼し、部屋をあとにするラウラ。

 

 (どうやら、あの様子だとブリュンヒルデの呪縛は解けたようだな。)

 

 マイヤーは以前までのラウラの姿を思いだした。  

 

 ラウラ・ボーデウィッヒは遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)と呼ばれる生体兵器として人工的に産み出された。

 もっとも、その計画は既に過去の物で今は一切行っておらず、研究施設はおろか関わった人間、研究データも全て処分されている。

 

 というのも、この計画を行っていたのは古きドイツを復活させようと目論んでいた一部の政治家と活動家で構成された組織で、最強の兵士となる尖兵を作り出す為に非人道的な実験が繰り返されていたのだ。

 秘密裏に行われていた行為は、長期間に渡り表に出る事はなかったのだが、それも遂に綻びが生まれ露見する事になったのだ。

 

 この事を知った政府は余りの事の重大性に、事件は公にすること無く、秘密裏に処理した。

 関係者と研究資料は全て施設ごと跡形も無く消し去った。

 

 保護された被験者である、殆どの少年少女達には罪は無いものとして、戸籍を与え新たな居場所を提供した。

そんな中、ラウラをはじめとした一部の少女達に関しては、ISの適正とその身体能力の特異性故に軍部で引き取る事になった。

 

 そして軍に入った当初のラウラは、あまりにも見ていられない状態だった。

 というのも、ラウラは組織が作り出した遺伝子強化試験体の中でもトップクラスの身体能力を有しており将来を期待されていた。

 

 そこで組織は、ラウラをはじめ一部の身体能力の優れた少女達に、ISとの適合性を上げる為に越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)と喚ばれる特殊なナノマシンを肉眼に移植したのだ。

 だが、この手術はラウラに思わぬ結果をもたらした。 ラウラは完全適合出来ずに、優れた身体能力が著しく低下してしまったのだ。

 

 これは研究者達にとって計算外の出来事だった。遺伝子強化試験体の中でもトップクラスの能力を持っていたラウラの落ちぶれように研究者達はラウラを廃棄する事に決定した。それはラウラに絶望をもたらした。

 だが、その決定直後に組織は摘発されラウラは難を逃れる事になったのだ。

 

 さて、保護されてドイツ軍預かりとなったラウラは、そこで千冬と出会い立ち直っていった。

 だが立ち直っていく反面、千冬への依存というか盲信が強まり、更にかつての能力を取り戻した反動か他者、特に力を持たないもの達への差別が生まれていた。

 

 特に千冬がドイツを去って以降は、よりその態度が顕著となった。 千冬はラウラの能力と自信は取り戻したものの、人として大事な心の部分を指導して、成長させる事が出来なかったのだ。

 

 それを危惧したマイヤーはドイツのIS前国家代表夫妻の元に3ヶ月ホームステイさせる事にした。

 命令に従い渋々ながら夫妻の元に行ったラウラ。 当初は夫妻に反発していたものの、日を追う毎に態度は軟化していった。

 そしてホームステイを終える頃には夫妻を本当の両親のように慕っていた。

 

 こうしてラウラは精神的に成長し、シュヴァルツェ・ハーゼの隊長に相応しい、思い遣りと使命感と責任感を持つ人物となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本 成田国際空港、特別室。

 

 ソファーに座り、コーヒーを飲む1人の女性。その姿はとても優雅で洗練されており、服も古きフランス貴族が着ていたような、細かい刺繍の入った青いコートに白のウエストコート、白の長ズボン。 それがまた一層、貴族のような雰囲気を出していた。

 

 それもそのはず、この女性はノルマンディー公爵家の血を受け継ぐフランス貴族の末裔であり、フランスのIS国家代表のグリシーヌ・ブルーメールなのだから。

 そしてもう1つ、フランスでも有数の企業ブルーメール社の会長なのだ。

 

 真向いに座る紺色のスーツ姿の少年?は逆に落ち着かない様子でソワソワしている。

 

 「少しは落ち着きなさいシャロン。今の君はわたしの従姉妹のシャロン・ブルーアイなのだから。」

 

 「ですが、ブルーメール様。」

 

 シャロンと呼ばれた少年······ではなく少女はそうグリシーヌの事を呼ぼうとしたが、

 

 「シャロン、私の事はグリシーヌと呼ぶようにしなさいと言ったはずです。いくら今は私達2人しかいないとはいえ油断してはなりません。」

 

 「わ、わかりましたブル、いえグリシーヌさん。」

 

 そう言って自分もコーヒーを飲み始めるシャロン。

 

   コン

 

 ドアが1回ノックされると開かれ、1人のメイド服姿の女性が入ってきた。

 

 「お嬢様、入国手続きが無事に終わりました。」

 

 「ありがとうエリカ。」

 

 「それと、もう1つ。」

 

 そう言ってエリカはシャロンに視線をやる。

 

 「シャロンさん、落ち着いて聞いてください。 先ほどニュースで速報が入ってました。フランス郊外でデュノア夫妻の乗った車が事故を起こして崖から転落。2人の死亡が確認されたと。」

 

 そのニュースを聞き、シャロンの目は見開かれ、体が震え出す。唇を噛みしめ必死に涙を堪えている。

 

 「夫妻の最悪の予測が当たってしまったか。すまないシャロン、私が事態を把握するのが遅くなった上に、対応が後手後手に回ってしまった為に、結果的にお前しか助ける事が出来なかった…。」

 

 グリシーヌはそう言ってシャロンに頭を下げて謝罪する。

 グリシーヌの謝罪にシャロンは、それでも涙を流さないように堪えている。ズボンの膝を手で握り絞め耐え続けている。

 

 「この部屋に盗聴器や監視カメラはありません。それに今、この部屋は特殊な電磁波で囲ってあるので、外部からの干渉もありません。」

 

 そう言ってエリカが窓の側に行き、カーテンを閉め、そして室内の照明を暗くする。更に何処から取り出したのか、鈍い鉛色の布を取り出すとカーテンに貼り付けていく。

 

 それを確認したグリシーヌは立ち上がってシャロンの隣に座り抱き締める。

 

 「シャロン······いやシャルロット・デュノア、今は泣いていいんだ。」

 

 グリシーヌの言葉にシャロン·····シャルロットはタガが外れグリシーヌの胸に顔を埋めて泣き出す。

 

 

 

 (ヴィオレ社、いや女権団体め。この借りは絶対に返してやる。)

 

 シャロン・ブルーアイ·······シャルロット・デュノアを抱き締めながらグリシーヌは自分の不甲斐なさに怒りを感じていた。

 

 事の発端は、デュノア社の経営不振から始まった。 設立当初から技術・情報力不足という問題点があったのだが、それでも量産第2世代型ISラファール・リヴァイヴが世界シェア第3位になった事で一躍大企業となった。

 だが、それが後々デュノア社を苦しめる事になったのだ。 

 量産型ISとして人気が出れば出るほど、会社のリソースが其方の生産に回ってしまい、第3世代型ISの開発になかなか力を注ぐ事が出来なくなってしまったのだ。

 そうしているうちに各国で第3世代型ISが発表され出してきた。

 

 そうなると、第3世代型ISの開発が行き詰まっているデュノア社に対する評価は下がっていってしまった。

 

 それは株価や銀行の融資、取引先にも影響していき、デュノア社の経営を圧迫してきた。

 更に追い討ちをかけるように部品メーカーの倒産、技術者の引き抜き、工場機械の破損による生産停止、ハッキングによる顧客リストの流出、とトラブルが続いた。

 

 そんなデュノア社にフランス有数のIT企業ヴィオレ社が手を差し伸べてきて、トラブルが起きた当初から様々な形で支援してくれた。

 

 それでも焼け石に水という状態で経営危機に陥ったデュノア社。 遂にヴィオレ社に経営統合される事になった。

 そんな中、当初からヴィオレ社の行動に不信感を抱いていたデュノア社の社長アルベール・デュノアと夫人のロゼンダ。

 大多数の経営陣によりヴィオレ社の支援を受けざる終えなかったが、どうしても不信感が拭えず、密かにヴィオレ社の調査を始めたのだった。

 

 それはグリシーヌも同じであった。国家代表、ブルーメル社の会長という立場からデュノア社の状況が耳に入っていた。

 当初は、さほど気にしてはいなかったのだが、ヴィオレ社の行動とデュノア社のトラブルに違和感を覚え調査を始めた。 

 そしておなじようにデュノア夫妻が調査をしているのを知った。

 

 互いに情報交換をしながら調査を進めるうちにヴィオレ社の裏には悪名高い女性権利団体がいるのが、わかったのだ。

 

 しかし時既に遅く、既にヴィオレ社の魔の手はデュノア社の奥深くまで食い込んでおり、デュノア夫妻の力だけでは、どうすることも出来ない状態になっていた。

 

 夫妻はヴィオレ社がデュノア社を手に入れた後、自分達の存在が不要となり消される可能に気づいた。

 そこで万が一に備え、せめてシャルロットだけでも助けたいとグリシーヌに協力を頼み、シャルロット・デュノアが病死したことにして、グリシーヌの元に託した。

 

 そしてグリシーヌはシャルロットを自分の従姉妹シャロン・ブルーアイに生まれ変わらせたのだった。 ノルマンディー公爵家の力があってこそなし得た力技だった。

 

 

 

 (お父さん、お義母さん、ごめんなさい。私がもっと歩み寄る事が出来ていたら。)

 

 一方こうして、グリシーヌに保護されたシャルロット。

 

 実母アンナが亡くなった後、アンナの遺言によりデュノア夫妻に引き取られたが、夫妻の対応は冷たくシャルロットは、自分という存在が歓迎されていないと感じた。

 それ故にシャルロットは2人に対して上手く接する事が出来ず、常に他人行儀の対応となっていた。

 

 だが、実際には父であるアルベールも義母であるロゼンダも、本心ではシャルロットの事を大切に思っており、何より病により子供を産む事の出来ないロゼンダにとって、愛する夫アルベールの血を引くシャルロットは我が子同然の存在であった。 無論、シャルロットの存在を知らされた当初は蟠りもあったがシャルロットの写真を見るや否や、一目でシャルロットの事が気に入り、愛してしまったのだ。

 

 しかし、既にデュノア社の状態が不安定だった為に、万が一の事態が起きた時にシャルロットの身に危険が及ぶと考えて、あえて冷たい対応をしていたのだ。

 

 グリシーヌに引き取られたた直後に、この事を知らされたシャルロットは、アルベールとロゼンダに歓迎されていた、愛されていた事を知り、もっと仲良く出来なかったのかと後悔していた。

 

 もし、また一緒にいられるようになったら、ちゃんと向き合って『お父さん、お義母さん』と呼んであげようと思っていたのだが、その願いを叶える事はもう出来ない。

 彼女に残されたのは、夫妻からグリシーヌを通じて渡されたペンダントだけとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ゴールデンウィーク明けに、波乱が近付いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 
 シュヴァルツァ・レーゲン・パンツァー

 ドイツ製第3世代型IS(外見:デュエルダガーフォルテストラ)

 ドイツが作り上げた第3世代型ISシュヴァルツァ・レーゲンを完全装甲型に改修したもの。
 ただ完全装甲型にしたのではなく、フォルテストラとよばれる着脱式の強化追加装甲ユニットを装着し、攻撃力・防御力・機動性をUPさせた。
 
 武装は元から装備されていたワイヤーブレード、プラズマカッター、レールカノンに加えてミサイルポッド・小型レーザーガン・ヒートダガー・マシンガンがある。
 


 


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第22話  編入生

 

 

 IS学園  職員室

 

 「「ハァ〜〜〜〜」」

 

 ゴールデンウィークも終わり、今日から授業が再開される。

 そんな中、職員会議が始まる前の職員室の一角にあるミーティング用のテーブルでスコールと千冬はため息をついた。

 先程まで、今日から編入してくる2名の生徒を、どのクラスに入れるのかをギリギリまで話し合っていたのだ。

 

 2名の編入生、ラウラとシャロン。

 

ラウラはドイツ代表候補生序列第2位であり。ドイツ軍に所属する現役軍人であり専用機持ち。今回はドイツで起きた洪水の救援復旧作業に従事し、入学が遅れてしまい編入という形でのIS学園入り。

 

 

 シャロンはISフランス国家代表グリシーヌ・ブルーメールの従妹であり、ブルーメール社が出資しているISメーカー、アナハイム社のテストパイロットでテスト用のISを与えられている。 今回はIS学園へ特別指導員として来日したグリシーヌが、自身が特別指導員の依頼を受ける引き換えとして、特別留学生という形で編入させてきたのだ。

 

 本来なら代表候補生やテストパイロットの在席数が少なく、専用機持ちのいない5組と6組に入れるのが妥当なのだが、5組担当教員と6組担当教員が2人をクラスに入れるのに難色を示したのだ。

 入学当初からなら兎も角、1か月近くたってからの編入となると色々とトラブルの元になるのでは、という懸念を2人が示してきたのだ。

 

 というのも、代表候補生とはいえ生粋の軍人であるラウラが、果たして学生達と交わって大人しく交流出来るのかという不安。

 

 

 

 IS学園の教員の殆どが元代表候補生(一部は元国家代表)である。だが、元に代表候補生といってピンキリ。

 序列に在席したものから序列に上がれなかった者もいる。 そして基本的に序列に在席した事のある教員は2・3年生を担当する。

 そして5組と6組の担当教員は元序列外の代表候補生だった。

 現役代表候補生とテストパイロット、しかも専用機持ち。となれば万が一の事態が起きた際、教員とはいえ元序列外の代表候補生では抑える事が出来ないという事を2人が訴えたのだ。

 結果として男性操縦者に対応する為に元国家代表がクラス担当教員を務める1組と3組に所属させる事が協議に協議を重ねた結果、ようやく昨夜決まったのだった。

 

 ラウラは過去に指導経験のある千冬が受け持つ1組に、そしてシャロンを3組に。

 

 無論、負担が増えるであろう2人にただ押し付けるだけでなく、それをサポートする為に1組と3組には副担当教員をもう1名追加することが決まった。

 

 1組には千冬の同期である、元日本代表候補生最終序列3位の藤枝かえで、3組には元ロシア代表候補生最終序列4位のマリア・タチバナ、がそれぞれ付いた。

 

 2人とも学園の治安維持部隊に所属、更に普段は2・3年生の担当教員の交代教員も努めている実力者なのだ。

 

 決まった事は仕方ないと千冬とスコールは顔を見合わせ、再びため息をつくのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 1年1組

 

 ゴールデンウィークが倉持技研でのデータ収集で完全に潰れてしまった千春は、未だ疲労感が抜けきらないまま机にふしていた。

 

 (せ、せっかくのゴールデンウィークが、何も出来なかった……)

 

 自分がレポート提出を怠った結果で自業自得なのだが、それでも愚痴らずにはいれなかった。

 

 (そういや、ゴールデンウィークが終わったら何かあったと思ってたけど?)

 

 疲労感の抜けきらない中、千春は何かが起きるはずの出来事の事を考えていた。

 

 (·············誰かが来るような、えっと··········) 

 

 必死になって思い出そうとしていた。 ゴールデンウィーク前までは、そんな事を思いだすという事すら考えつかなかったのに。

 

 (えっと、確か、何処かの代表候補生が········)

 

 その瞬間、千春の脳裏に2人の少女の姿が浮かび上がってきた。

 

 (そうだ、シャルとラウラだ! あの2人が転入してくるだ。 そして·····あれっ?!)

 

 だが、2人の事を思い出したところで再び悩む。その後、何が起きるのかが全く思い出そうとしても、思い出せない。まるで、2人が転入してくる事しか思い出す事しか出来ないかのように。

 

 (何が起きるんだっけ? 2人が転入してきてから何が起きるはず何だけど、思い出せない。)

 

 そこから先は、霧がかって全く思い出すことが出来ないのだ。 

 千春が思い出そうと頭を撚るうちにSHRの時間がきた。

 

 教室の扉が開き千冬達が入ってきた。その瞬間、教室がざわめく。 何時もなら千冬と真那の2人だけのはずが、スーツ姿の女性がもう1人入ってきたからだ。

 千冬が教壇に立ったところで日直の生徒が号令をかけて挨拶する。

 

 「おはようございます。」

 

 「おはよう。さて早速だが今日は幾つかの連絡事項があるから確りと聞いてくれ。まず最初にこのクラスに新たに副担当教員がつくことになった。今まで2・3年生の実技の指導交代教員を務めていた藤枝かえで先生だ。」

 

 「今日からこのクラスの副担当教員になりました、藤枝かえでです。」

 

 そう言ってかえでは一礼する。 かえでの事を知り、かえでの経歴を知っていた何人かの生徒は驚いた顔をする。

 

 「次に、毎年の事なのだがIS学園には特別指導講師として短期間ではあるが、現役の国家代表が指導に来てくださる事になっている。そして今年はフランス国家代表のグリシーヌ・ブルーメール選手が今日から6月末まで担当してくださる。主に2・3年生の指導が主体となるが。1年にも僅かだが授業時間が割り振られている。心して指導を受けるように。」

 

 そこまで千冬は言うと、教壇を降りて真那と代わる。

 

 「それでは最後の連絡事項になります。本日より、このクラスに新たに生徒が加わる事になりました。」

 

 そう真那が言うと、千冬が扉を開けて、廊下で待っていた生徒を中に入れる。

 

 「自己紹介をお願いします。」

 

 「ドイツIS配備特殊部隊[シュヴァルツェア・ハーゼ]所属、ドイツ代表候補生序列第2位、ラウラ・ボーデウィッヒ少佐。本日付けを持ってIS学園に入学することになった。学校という場所には初めて入るのでわからない事が多数あるが、どうかよろしく頼む。」

 

 そう言ってラウラは敬礼する。

 

 「ボーデウィッヒ、ここは軍ではなく学校だ、敬礼は止めろ。」

 

 「わかりました織斑教官」

 

 「ボーデウィッヒ、ここは軍隊ではなく学校だ。教官ではなく先生だ。」

 

 「わかりました、織斑先生。」

 

 「それではボーディウィヒ、後ろの空いている席に座ってくれ。」

 

 千冬にそう言われて、ラウラは空いている席に向かう。

 SHRが始まってからラウラが席に向かう一連の流れに千秋は混乱していた。

 

 

 (な、何が起きてるんだ? 副担当教員がもう1人? 国家代表の指導? ラウラの自己紹介がまとも? 俺の存在をスルー?)

 

 ラウラの姿を見た瞬間に、本来なら起きるはずの出来事と、本来なら無いはずの出来事の事を唐突に思い出した千春は、混乱した。

 

 千春の混乱をよそにSHRは終わるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 1年3組

 

 和気あいあいとゴールデンウィーク期間中の事を会話していた生徒達も、SHRが始まると静かになる。

 

 「おはようございます。今日は幾つかの重要な連絡事項がありますので、しっかりと聞いてください。」

 

 スコールがそう告げると、扉の側にオータムと一緒にいた女性がスコールの側に進み

 

 「本日より、このクラスの副担当教員になりましたマリア・タチバナです。 元ロシア代表候補生で先日まで2・3年生の実技指導の交代教員をしておりました。」

 

 マリアはそう自己紹介をして一礼する。

 

 「次に、IS学園には特別指導講師を招いて短期間ですが、特別授業が行われています。本年はフランス国家代表のグリシーヌ・ブルーメール選手が今日から来月末まで指導してくださいます。2・3年生が中心となっての指導ですが1年にも授業時間が少しですが設けてありますので心しておいてください。そして最後に」

 

 スコールがそう告げると、オータムが扉を開けて廊下にもいた少女を招き入れる。

 

 「グリシーヌ選手の滞在にあわせて、今日からIS学園に特別留学してきたシャロン・ブルーアイさんです。アナハイム社のテストパイロットをしています。1学期だけの短期留学になりますが、仲良くしてやってください。」

 

 スコールの紹介にシャロンは一礼して

 

 「シャロン・ブルーアイです。特別留学生としてIS学園に編入しました。1学期だけの予定ですが、よろしくお願いいたします。」

 

 クラスの生徒達は拍手でシャロンを歓迎するのだった。

 

 「それではみなさん、SHRは終わります。午前中の授業は5組との合同実技授業です。準備して第2アリーナに集合してください。」

 

 スコールがそう締めくくる。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

  

 昼休み   生徒会室

 

 零也達は昼食を取るために生徒会室に集まっていた。

というのも、6月に行われるイベント[学年別トーナメント戦]の事で急遽話し合う必要が出来たからだ。

 しかし、話し合いを始めたいのだが

 

 「づ、づがれだ〜、グ、グリシーヌさん容赦ないんだよ〜」

 

 楯無が午前中の授業でグリシーヌとの模範試合をしたのだが、途中から楯無との試合で熱が入り、模範試合という事を忘れスイッチの入ったグリシーヌが本気を出してきて、予定時間を過ぎても試合を続けたのだ。

 

 もっともすぐに担当教員が止めに入ったので実害はなく、授業も滞ることなく終わったのだが、グリシーヌの相手をした楯無はそうはいかなかった。

 

 同じ国家代表とはいえ、繰り上げで暫定的に国家代表になり未だに国際試合の経験の無い楯無と、前回のモンド・グロッソを含めて国際試合を経験している百戦錬磨のグリシーヌでは、駆け引きという部分で差が出た。

 

 短い時間の模範試合とはいえ、グリシーヌの本気を引き出した楯無も凄いのだが、模範試合とはいえ楯無をここまで疲弊させ本人は笑顔で息一つ切らせていないグリシーヌも凄い。

 

 ヘトヘトになりながらも授業は乗り切った楯無。だが昼休みとなり生徒会室についた瞬間にダウンしたのだ。

 

 今の楯無はソファで横になっている、零也の膝枕付で。

 

 「軽い模範試合って言ってたのに〜、ハルバードは使わないって言ってたのに〜、いきなりハルバードを出して振り回しながら迫って来るんだよ〜、詐欺だよ〜!」

 

 カロリーチャージゼリーを飲んだ事で、少しは回復しグリシーヌに対しての愚痴を言う楯無。

 他の面々は苦笑しながら見ているのだった。

 

 「お嬢様の愚痴はさておきまして、そろそろ学年別トーナメント、の事を話し合いましょうか?」

 

 虚が、そう言ってモニターに昨年までの学年別トーナメント戦の流れやレギュレーションを表示する。

 

 「此方が昨年まで学年別トーナメント戦に関する資料です。これまでに上がってきた問題点に関してですが、ひとつは試合期間の長期化。」

 

 試合期間の長期化、それは1対1の試合を参加者全員で行う以上、試合数が多くなっていた。

 試合時間、入れ替え時間の短縮等を行なっていたのだが、焼け石に水といったところだった。

 

 また試合で機体が破損した場合の修理も逼迫し、学園の整備員では手が回らず、2・3年生の整備課の生徒、更に企業から整備員を派遣してもらい、何とか対応出来ていたが、修理が間に合わずに試合時間がずれ込む場合も少なからずあったのだ。

 

 「2つめは、訓練時間の不平等ですね。」

 

 一般生徒と代表候補生、そして専用機持ちでは、訓練時間の不平等が生じていた。

 訓練機の空き、アリーナの空きの両方が揃わないと訓練出来ない一般生徒、訓練機の空きさえあれば優先的にアリーナが使える代表候補生、更にアリーナの空きさえあれば何時でも訓練出来る専用機持ち、普段も然ることながら、こうしたイベントの時にはいっそう不満が上がるのだった。

 

 「3つめは、これは組み合わせの運が悪かったとして言いようがありませんが、1回戦で負けた一般生徒が代表候補生や専用機持ちは別枠にしてくれという物ですね。」

 

 これに関しては虚の言う通り、組み合わせの運が悪かったとしか言いようが無いのだが、負けた生徒からすれば、1回戦で負けたから見せ場がなかった、成績評価されないといった不満は出てくる。

 

 「今回、これらを踏まえた対応策を学園側から一緒になって考えて欲しいという要望がありました。更に今回の学年別トーナメント戦に関してタッグマッチ戦にしてはどうかという提案がなされています。」 

 

 「タッグマッチ戦ね。それなら一試合でニ試合分消化できますね。」

 

 零也の言葉に楯無が

 

 「ただ、代表候補生や専用機持ち同士でタッグを組まれると、それはそれで問題が起きるわよ。」

 

 「一般生徒はタッグマッチ、代表候補生と専用機持ちは個人戦として別々に開催する?」

 

 楯無の言葉に簪が提案する。

 

 「それだと、逆に代表候補生や、専用機持ちとの対戦の機会を奪うって批判が起きそうね。」

 

 簪の提案を楯無が斬り捨てる。

 

 「それなら代表候補生と専用機持ち同士でペアを組むことを原則禁止にしてみては?」

 

 「それが妥当なところかしら? あと問題があるとすれば。」

 

 零也の提案に楯無は同意しながら、零也の顔を見る。

 

 「兄さんと織斑の存在ね。ペア申し込みが殺到しそうだね。」

 

 「それなら男性操縦者に関しては、相手の指名権を与えて、相手からの申し込みを禁止すれば。」

 

 「それが1番かもね。」

 

 簪の提案に同意する楯無。

 

 ひとつめの問題に対しての案が出たところで昼休みが終わる時間が迫っていた。





 第2.5世代型IS パワードジムカーディガン 


 シャロンに渡されたデータ採取の為のテスト用の専用機。
 アナハイム社が開発中の第3世代型ISのデータを採取する為に第2世代型ISジムに様々な改良を加えたパワードジムに追加装甲にブースター増設、武装追加した機体。 
 この機体で採取されたデータは現在開発中の第3世代型ISジーラインにフィードバックされる。



 武装


 ガトリングガン:右腕部コンテナに内蔵されているガトリングガン。 連射性が高い反面精密射撃は行えないものの、近距離戦ではその手数の多さから重宝される。

 ジムマシンガン:プルパップ式のマシンガン。

 ジムライフル:アサルトライフル。

 パイルバンカー改:左腕部コンテナに内蔵されているパイルバンカー。使用する際にはコンテナ外装がパージされる。 6連装のリボルバー式弾倉を採用した事により連射が可能に。

 大型レーザーランチャー:バックパックに接続されている大型レーザーランチャー。接続したままでも外しても使用可能。

 シールド:バックパックから伸びたフレキシブルサブアームに接続されているシールド。内側にミサイルランチャーとガトリングガンが装備されている。

 コンバットナイフ:高周波刃のナイフ。

 バスターコンバットランス:先端部分が射出爆裂するランス。




  



 第2.5世代型IS パワードジムストライカー (外見:ジムストライカー)


 アナハイム社の第2世代型ISジムをベースとして改良されたパワードジムを更にグリシーヌの専用機としてカスタムした機体。
 グリシーヌの要望により強化装甲にブースター増設と、近接戦闘に重きをおいた機体になっている。
 
 


 武装

 ハルバード:刃の部分が高周波刃となっている大型斧。グリシーヌの代名詞とも言える武器の1つ。

 バトルアックス:刃の部分に放電端子が内蔵されている片手斧。此方もグリシーヌを代名詞とも言える武器。

 グラップシールド:先端部分がクローアームとなっているシールド。 

 ジムマシンガン:プルパップ式のマシンガン。

 ジムバズーカ:ロケットバズーカ。

 ジャイアント·ガトリング:大型ガトリングガン


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