とりあえず、普通の手段は諦めていいですか?『完結』 (サルスベリ)
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理不尽ってどっちのこと?



 思いついたことをフワッと形にする。

 それがサルスベリでございます。 

 今回は鬼滅の刃。

 理不尽は人か、鬼か、それとも?









 

 

 

 

 

 

 

 散切り頭を叩いてみれば、文明開化の音がする。

 

「授業で習ったような」

 

 かなり昔のことだから、ちょっと思い出せないのだが、必死に思い出そうとしても出てこないもどかしさ。

 

「まあ、いきなり森の中だからなぁ」

 

 普通に帰宅していたはずだった。久しぶりの我が家に帰れる、長い長い、とても長くて三年はかかった任務の帰りだったはずなのに。

 

 自宅に帰ったら何をしよう、今まで撮りためたアニメとか見てみようか、新作をやっていないか、外部と遮断されていたから、世間の流れがよく解らないので、帰ったら情報ネットを隅から隅まで見るつもりでいたのに。

 

 なんで森の中。

 

 転移させられたか、あるいはトラップに引っかかったのか、それともまた軍のお偉いさんが『あいつ暇じゃね? 暇そうだよな、暇なら紛争地帯にぶち込もうぜ』なんて行って、強制転送したとか。

 

 最後のが一番、有力かなぁと。

 

「はぁ、まったくさぁ。ところで」

 

 チラリと彼は自分の足元、転がっているものに視線を向けた。

 

「てめぇ!! 人間が何してんだよ?! 俺の体を何処へやった?!」

 

「うわぁ~~生きてるよ。え、なにこいつ、BETAの亜種? それとも調整体? エイリアン系は勘弁してくれよな」

 

「ふざけんな! おまえこそ何者だ?! 俺は鬼だぞ!」

 

「え? いやマジで? え、マジもんの妖だったの?」

 

「知らないのかよ?!」

 

 首だけになって騒ぐ馬鹿を眺めていた彼は、ちょっと引いたように体を動かし、その場に崩れ落ちる。

 

「うわぁ、妖怪の関係者って。なんでそんなところに飛ばすんだよ。妖怪だったら、もっと対応可能な奴がいるだろうが」

 

「てめぇ食ってやるからな! 俺の体が再生したら食ってやるからなぁ!!」

 

「しかも食人種族って。危険宙域に迷い込んだ、いや待った、それなら事前報告があっていいはずなのに」

 

「てめぇいいかげんにしろよ!! あれ、なんでだよ、なんで俺の体は再生しないんだよ?!」

 

「再生しないって、あんた弱いランクだったの?」

 

「ふざけんなぁぁ!! おまえ鬼殺隊だったのか!?」

 

「鬼殺? え、いや俺の手駒にはいないけど」

 

 なんだろう、何か決定的にこの生首、自称『鬼』とは話がかみ合わない。どうしよう、誰か呼ぶか、それとも銀河連邦あたりに通信を入れて。

 

 そこまで考えて、彼こと『アベル・T・タンロッドレンド』は、深く息を吐いた。

 

 現実逃避は止めよう。もう十分に可能性を模索したではないか。

 

「あ、うん、良し。で生首殿、今の時代を聞いてもいいかな?」

 

「人を話を聞けよ人間! 今は大正だ!」

 

「ありがとう~~お礼に今の時代では発見されていないものをあげよう」

 

「な・・・・」

 

 そして光が生首を消し去った。

 

「・・・・つまりあれか、転位とか転送とかじゃなくて、ボソン・ジャンプの事故か、時空乱入に巻き込まれたってことか」

 

 アベルは結論を出して、盛大に叫んだのでした。

 

「タイムスリップなんていきなり起きるもんじゃないだろうがぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アベル・T・タンロッドレンドは、二十五歳の青年だ。黒髪に黒色の瞳、といったご先祖様の遺伝子を色濃く受け継いだ、一族でも珍しい風貌をしている。

 

 普段の職業は銀河連邦嘱託魔法師。

 

 ご先祖様が色々とやからしたり、世界中に転生者が溢れた結果、そのスキルが子孫に受け継がれた世の中において、ありふれたような職業を持っているので名前だけ聞くと、『普通だろうな』と言われることが多い。

 

 しかし、だ。彼の名前は銀河連邦か、それに反乱しているテロ集団からしてみれば、『え、あいつ』と顔をしかめたくなるくらいに、有名な人物でもあった。

 

 『歩く最終兵器』、『自重を忘れた馬鹿』、『チームワークや集団戦が壊滅的に苦手』、『追い込まれると酷いことを平然とする危険物』と言ったものがあるくらいに。

 

 身体能力的には彼は、他の軍人に遠く及ばない。一般人と比べても、劣るくらいに身体的能力値は低い。

 

 その一方で、『軍勢のアベル』と呼ばれるくらいに、彼の能力値はその一点だけは飛び抜けていて、彼自身も『そうであるなら』とそっち方面に伸ばしていった。

 

 必死に頑張った、必死に努力した、色々な道具を作成しては頑張った。一族の誰もが『大丈夫』と言った時も、頑張るといって夢中で能力を伸ばした。

 

 そして、一族の全員から『いやお前ね』と呆れた顔を向けられたアベルは、今はその能力値を持って誰からも恐れられるほどになったのだが。

 

 なったのだが。

 

「大丈夫ですか?」

 

「はい」

 

 その能力以外は、壊滅的に低いのがアベルだったりする。

 

「本当に大丈夫ですか?」

 

「はい、あの、大丈夫です」

 

 森の中、能力を使うなんてことは無理でした。しかたないので歩いてみれば、行けども行けども街はなく。人の暮らしている場所さえもなく。

 

 出会うのは人、ならば良かったのですが、出会うのは鬼ばかり。どうしてこう鬼ばかりに出会うのかと愚痴を言いながら、突き進んだ結果。

 

 どうにか辿り着いた場所で死にかけています。

 

「すみません、山歩きになれていなくて」

 

「そうですか。でも、ここは街道としては開けた方だと思いますけど」

 

「え?」

 

 アベル、そっと来た道を振り返る。舗装されていない、泥だけが視界に入る。田んぼがある、田園風景が広がる。

 

「え?」

 

「はい」

 

 声をかけてくれた女性に、冗談ですよねという意味で指差しながら顔を向けると、彼女は笑顔で頷いていた。

 

 そうか、ここは大正か。大正ということは、飛行機も自動車もないのか。

 

 アベルはそんなことを思いながら、どうにか腰を上げて立ち上がる。

 

「ありがとうございます、もう大丈夫です」

 

「そうですか、それではお気をつけて」

 

「はい」

 

 綺麗な女性だったな。アベルはそう思いながら、蝶の髪飾りをつけた黒髪の女性と別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 街らしき場所についたアベルは、とにかく資金を集めることにした。

 

 人の世は、何時の時代もまずはお金。何をするにしてもお金。

 

 バイトでも探せばと考えていたが、今の時代はほとんどが肉体労働。頭脳労働もあるにはあるが、身元が怪しいアベルを雇ってくれる場所などなく。

 

 結果、肉体的な能力値は低いアベルは今日も賃金を手に入れられず。

 

「まったくもう」

 

 宿も取れずに野宿することになったのですが。

 

「人間だぁぁ!!」

 

「美味そうだなぁ!」

 

「はいはい」

 

 鬼ってこんなに多いものだっただろうか、オーガが間違えて名乗っているだけなのでは、知りあいにオーガ使いはいなかったから、彼らが鬼と名乗っているオーガなのか解らないけど。

 

「ああ、お腹すいたなぁ」

 

 非常食は、持っていない。帰宅だけだったから、持ち歩くこともないと油断していた。

 

「おまえなんだよ?!」

 

「人間じゃないのか?!」

 

 また別の声がして、自称『鬼』が次々に飛び出してくる。

 

「人間だよ、失礼な」

 

「なんで人間が」

 

 言葉の途中で、鬼の体が細切れに『焼かれた』。

 

「何したんだよおまえ?! 俺達は首を落とされなきゃ死なないんだぞ!」

 

「え、そうなの? それにしては今まで出会った『自称鬼』は死んでるけど?」

 

「だからおかしいんだよ! 俺達は日光か、鬼殺の奴らの刀じゃなきゃ死なないはずなんだぞ!」

 

「へぇ、そうなんだ。じゃ試してみるか?」

 

 いいかげん、鬱陶しくなってきた。

 

「周辺の生命反応」

 

 アベルの声に反応して、空中にモニターが開く。

 

 『鬼』の反応多数、続々と集まってくる。人間らしい反応はなし、動物の反応もなし。範囲内に『鬼以外』は存在せず。

 

「街から頑張って離れて良かった~~」

 

「余裕ぶってんじゃねぇぞ! おまえは逃げられないんだからな!」

 

「あ、うん、そうだね。でもそれって」

 

 アベルはにっこり笑って、ゆっくりと指差した。

 

「そっちも同じでしょ?」

 

 森が揺れ、鬼が次々に姿を見せた。

 

「久しぶりだけど、上手く使えるかな。さてと」

 

 そしてアベルは『唱えた』。

 

 

 

 

 

The goal of all life is death。

  

 

 

 

 

 彼の背中に現れる時計が、ゆっくりと時を刻む。

 

 鬼達はいきなり現れた時計に怪訝な顔をして、動きを止めてしまう。

 

「いやそこで止まるか普通。本当に、『魔法』を知らないんだぁ」

 

「何言って」

 

「遅いって」

 

 アベルの背で時計の針が十二時を示した。

 

「やっぱ死ぬじゃんか。あ~~腹減った」

 

 森が消え、鬼が消え、白い砂が広がった場所の中心で、アベルは大いに嘆いたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アベルにとって、魔法は馴染み深いものであっても、常用出来るものではない。彼が使える魔法は、たった二つ。 

 

 あの魔法は威力に優れ、範囲に優れてはいるが手加減できずに使用状況が限定され過ぎている。

 

 もう一つは、はっきり言って攻撃力はない。『手駒』の一つの性質上、どうしても必要だったから学んだものだ。

 

「お腹、すいたな」

 

 砂浜を何とか抜け出して。正直、そこが最も死にそうになったのは、笑い話にしても笑えない。

 

 また街に戻ってと考えていたアベルの前に、鬼が立っていた。

 

「おまえが・・・そうか」

 

 六つの目、片手に持ったかなり巨大な刀。七支刀が確か、あんなような形ではなかっただろうか。

 

「えっとどちら様ですか?」

 

「あの方が・・・・・気にされている・・・おまえを」

 

「どちら様が?」

 

 フッとアベルの背に冷たい何かが落ちる。これは知っている、解っている。確かに何度も味わったことがある。

 

 これは、殺気だ。

 

「月の呼吸」

 

 全身が総毛立った。相手の危険性が、相手の攻撃が確実に自分を殺せると解った。

 

 だからアベルは容赦しなかった。

 

「壱の・・・」

 

「撃て!!」

 

 光が六つ目の鬼に降り注いだ。

 今の時代では開発できていないビーム兵器、プラズマを精製したとか、重金属粒子を使ったとか、色々な種類がある中で、アベルが使うのは『GN粒子』を使用したビーム兵器。

 

 つまり、『太陽炉』のエネルギーを使用したもの。

 

 オリジナルの技術が紛失した中で、アベルの一族は執念でそれを生み出した。

 

 『つまりさ、小型の太陽を入れておけば『太陽炉』じゃね?』。

 

 『おまえ頭いいな!』。

 

 なんて会話が、ご先祖様達の間であったとか。

 

「太陽が弱点なら、そのエネルギーで作ったビームは天敵だろ?」

 

「貴様・・・・何者・・・だ?」

 

「ただの迷い人だよ。今までの鬼とは違うんだな」

 

「私は」

 

「まあ、容赦しないけどね」

 

 手足に穴が開いても立っている鬼に対して、アベルは少しも油断しなかった。

 

 戦場では油断したものから死んでいくのだから、出し惜しみなんてしない。

 

「真・ゲッター」

 

 二人の上空に影が踊る。月の光を背にして浮かんだその姿は、『鬼』のように見えた。

 

「ストナーサンシャイン」

 

「お前・・・は」

 

 六つ目の鬼が何か言いかけた時、光が彼を吹き飛ばした。

 

「アベルって名乗ったろ?」

 

 彼は小さくそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『軍勢のアベル』。

 

 小さいものはナノメートルから、巨大なものは全長一万メートルにも達するほどの様々な『機動兵器』群を、たった一人で操ることからそう呼ばれるようになった。

 

 身体能力は壊滅的、子供にも負けるんじゃないかってくらいに運動音痴な反面で、彼が指揮下の機動兵器群を従えたなら、国家とも戦争できると言われている。

 

 しかし、だ。そんな彼でも手駒達を従えても、出来ないことがある。

 

 それは。

 

「こら新入り! テキパキと動けぇ!」

 

「は、はい」

 

 資金を得るための労働、つまりバイトである。

 

「おまえさん、役にたたねぇな」

 

「すみません」

 

 今日も彼は現場の親方に怒られつつ、頑張って日銭を稼ぐのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 









 フワッと思ったことを、フワッと形にしてみました。

 原作ファンの方、深くお詫びします。

 『日光が苦手って、太陽光のどの部分に反応しているのかな』とか、『細胞を焼き尽くしたら再生する細胞がないから、死ぬよね』なんて思ったのが、始まりでございます。

 太陽炉を使ったビームとか、もしかしてマクロス・キャノンとか、あるいは波動砲とか。あ、バスターランチャーでもいいのかな。

 周辺被害を考えなければ、いけるはずとか思ったりして。

 ちなみに、アベルのもう一つの呪文は『ラナルータ』。昼夜を入れ替える呪文なので、鬼が集まった時に昼夜逆転させたら面白いねって思いました。

 これともう一つ、没ネタとして『人を食らう鬼がいるなら、その鬼を食らう何かがいてもおかしくない』って、何処かの神父様みたいな発想もあったりします。

 では最後に。

 原作ファンの皆様、鬼と剣士の戦いが好きな方々、申し訳ありませんでした。








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普通の生活って難しい








 フワッとしたアイディアをフワッとして書いてみたら、堅苦しい話になってしまったようなので、緩くのんびり理不尽に行こうかと。

 そう考えた次第でございます。











 

 

 

 

 

 

 

 理不尽って何かをアベルは考えた。

 

 世の中には色々と理不尽なことがある。誰だって『そりゃないよ』と言いたいことも多々ある。

 

「なあ、山神様のたたりの話、知ってるか?」

 

「あれだろ? 山が白い砂になっちまったこと」

 

 言いたいのだが、言ってしまったら非難を受けることもあるので、グッと我慢するのがいい大人。

 

「後な、妙な集団が動いているって話もあるんだよ」

 

「聞いた聞いた、鎧を着込んだ集団だろう? 大正の世にもなって物騒だよな」

 

 いい大人なのだが、グッと我慢をするのは体に悪いのは誰もが知っていることなので。

 

「後な、あいつとか」

 

「あいつか」

 

「あいつだよ」

 

 だから偶には言ってやりたい。

 

 『俺が何をした』って。

 

「ほれ彫り師、もっと細かくな」

 

「無茶いうなよな?!」

 

 だから今日もアベルは言ってやる。我慢して話を聞いて、受け流すのも社交性かもしれないし、いい大人なのかもしれないけれど。

 

 怒鳴り返すのも男らしいと思うので。

 

「いやおまえの仕事だろ?」

 

「仕事でこんな小さな棒に桜並木を彫れって、どんないじめだよ」

 

「いや、おまえって手先が器用だからな。他の彫り師じゃ絶対にできない細工、作るからさ」

 

「いやいやいやいや、そんな理由で細かい細工を頼むなよな!」

 

「いいじゃねぇか。他の仕事、できないんだからさ」

 

 図星をさされ、アベルは怒鳴り返そうとした口を閉じて、細工に集中するのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 身体能力がとても低いアベルに、この時代のバイトは無理でした。一日でダウンならマシなほうで、一刻も持たないで潰れることがほとんど。

 

 仕事にならねぇと現場の親方とか、飲食店の方々に怒鳴られ、それでも何とか仕事を探して回ってみれば、『仕方ねぇな』と怒鳴った人たちが仕事を次々に探してきてくれて。

 

 この時代、義理人情が凄いったら。アベルは最初は涙を流して喜んで感謝していたのですが。

 

「え、それもダメ?」

 

「お~~い、誰かアベルにこの仕事、勤まる方にかけた奴いるか?」

 

「いや、いねぇだろ。また賭けは流れか?」

 

「仕方ねぇな。次は誰の推薦だ」

 

「俺だ」

 

 なんて話が、戻ってきたアベルの前で行われるわけで。

 

「え、俺って賭けの対象?」

 

「もちろんだ、おまえは面白れぇからな」

 

 固まっているアベルに、誰もがいい笑顔で答えたのでした。

 

「ちっきしょう! 今度こそやり遂げて見せるからな!」

 

 裏側に気づいたアベル君、今度こそと気合を入れて行ってはみたものの、持前の身体能力が上がるわけもなく。

 

「・・・・・」

 

「おい、誰か水持ってこいよ」

 

「飯は今日は誰の『モチ』だ?」

 

「生きてるか、坊主。丁稚でさえできる仕事なんだぞ?」

 

「もう坊主に回せる仕事がねぇぞ」

 

 ボロ雑巾のように戻ってくるアベルに、誰もが最初は笑っていたのですが、そのうちに『え、本気でまたなのか』と心の底から心配になってきてしまい。

 

「うちの長屋でいいなら住みな」

 

 と気前のいい大家さんのおかげで、住み家の確保にまでこぎつけました。

 

「いやおまえ、それはねぇ」

 

「解ってるよ! 本当に解ってるから! 仕事を見つけて賃金を稼ぐからさ!」

 

 呆れる全員を前にアベルは大声で宣言して、色々な仕事にアタックしては砕けて戻されてを繰り返し。

 

「あんた、手先が器用だね。彫り師とか向いてるんじゃないか?」

 

「それだ!!」

 

「え?」

 

 大家が見つけたアベルの手先の器用さから、あれよあれよという間に彫り師となったアベルは、今日もこうして客からの無茶な注文に答えるのでした。

 

「なあ、坊主。おまえさん、ひょっとして『箸に家紋』とか入れられるんじゃねぇか?」

 

「え、待って。源さん、待って。あんた大工だろ? なんで箸に家紋って話をしてるんだよ?」

 

「いやな、知りあいの商家がな、『売れないかな』とかいってるんだけど、誰も彫れなくてなぁ」

 

「そりゃあんな細い棒には無理でしょうが。家紋がどんなものか見たことないけど」

 

「そうかそうか」

 

 ニヤリと笑う源さんに、アベルの中で嫌な予感が膨れ上がった。

 

 最初からお世話になった人だから、できれば断りたくはないのだけれど、源さんはかなり無茶なことを言ってくることがある。

 

 普段は真面目で思いやりがあって、世話好きないい人なのだが、羽目が外れるととんでもないところから、とんでもない話を持ってくることがあるから、油断できない。

 

「試しに、桜並木を彫れ。な!」

 

「・・・・・・はい?」

 

 アベル硬直。

 

 え、何を言ったのこの人。何を試しで彫れって言ったのか理解できない。百歩譲って桜並木を彫れることは彫れるかもしれないが、それを何処に彫れと言ったのか、ひょっとしてあの箸か、あの箸に彫れと言ったのか。

 

 馬鹿なことを言うな、あんな細い棒に桜並木とか正気か。

 

「な!」

 

「源さん、あんた正気か?」

 

「大丈夫だって! おまえならできる! おまえを信じろ!」

 

「無理だって」

 

「いいや大丈夫だ! 俺が信じるおまえを信じればできる!」

 

 何処の名言ですか、それ。アベルが内心で突っ込みを入れていようとも、源さんは引き下がることはなく。

 

「やればできるじゃねぇか!!」

 

「・・・・・」

 

 やるしかないと悟ったアベルは、その後に真っ白に燃え尽き。

 

 箸に見事な桜並木を彫りあげたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彫り師、あるいは彫刻家か。まだ始めたばかりのアベルは、源さんが持ってくる依頼以外は、あまり受けたことがない。

 

 作品が出回り始めたばかりで、周りに知られていないから。アベルに頼みに来る人は全くいない。

 

 それに、名前も『アベル』で通しているので『え、外国の人』と思われてしまい、まだまだ鎖国の固定観念が残っている大正の世には、あまり受け入れられていない。

 

 そんなマイナー以下のマイナーのアベルだったが、作品を見たことある人は細かい仕上がりと丁寧な仕事っぷりに、次も頼むとお願いする人もいる。

 

 中でも。

 

「綺麗ねぇ~」

 

「はあ、どうも」

 

「本当に最初は、こんな男の人が本当にって思ったものだけれど」

 

「ありがとうございます」

 

 丁寧に礼を伝える彼女は、その中でも特に珍しいというか、本当に貴重とも言うべきか。アベルの作品を気に入って、直々にお願いに来るような稀有な人物だった。

 

 確か名前は、とアベルは思い出しながら彼女を見つめる。

 

 最初に街で会った蝶の飾りをつけた女性、『胡蝶・カナエ』のことを。

 

「簪とか作れそうね」

 

「まあ、見本と大体のイメージを言ってくれたら」

 

「いめーじ?」

 

「形とか色合いとかって意味ですよ」

 

「そうなんだ。アベル君はやっぱりハイカラね」

 

 嬉しそうに笑う彼女に釣られるように笑顔を浮かべそうになって、慌てて真顔に戻す。

 

 彼女の後ろ、般若も逃げ出しそうな顔で、妹さんが睨んでいるから。

 

「姉さん、そろそろ帰りませんか?」

 

「う~~んもうちょっと。これなんかどうかしら、しのぶ?」

 

「あ・・・・・」

 

「ほらほら、綺麗な蝶の細工よ。羽の部分、どうやって再現したのかしら?」

 

 カナエが持ち上げた細工は、アゲハ蝶をベースに羽の部分に七色の『ガラス』を入れたもので。

 

「どうやったの?」

 

「いえ、それはその」

 

 アベルは曖昧に笑顔で受け流す。

 

 言えない。まさか宇宙戦艦の工房を使った、反則技で仕上げたなんて言えない。

 

 『もっと優雅にできないのかねぇ』とか源さんに言われて、半ばやけくそになって作ったものも、『おまえさんの実力はその程度か?』なんて呆れた顔で言われ、やってやろうじゃないかと工房をフルに使って作り上げた逸品なんて、とてもじゃないが言えない。

 

「細工師の技法は、秘密ってことかしら?」

 

「まあ、それはそうですね」

 

「真似されたら困るものね」

 

 曖昧に笑顔で頷き返すと、カナエは納得してくれたようで。

 

 いやまねできるもんならしてみろ、とアベルは内心で思っていたのですが、表に出すことなく笑顔のままでいました。

 

「カー!!」

 

 カラスか。何処にいるのかとアベルが視線を動かすと、姉妹の表情が険しいものに変わった。

 

「それじゃ、また来るわね」

 

「失礼します」

 

「あ、はい、また御贔屓に」

 

 珍しいこともあるものだ。あの二人が慌てた様子で出て行った姿を見送り、アベルは礼儀正しい姉妹でもそんなこともあるのか、と思いながらも細工に取りかかったのでした。

 

『ピ!』

 

 小さく警告音が耳元で鳴った。

 

 アベルは鋭く周りを見回すも、追加情報のモニターが開くことはなく、周辺を警戒していた『近衛』が動いた様子もない。

 

 普段の生活で手駒を直接操作することは、アベルはしてない。機体はある程度の自立起動が可能であり、彼が動かさなくとも蓄積された戦闘データから『アベルがこう判断するであろう』結論を導き、オートでの対応を行う。

 

 特に何度も失敗しつつ丁寧に仕上げた近衛は、脅威目標の対応から排除まで自律戦闘が可能なほどに育成してある。

 

 ただし、戦闘時とか任務時には退避させられそうになるので、機能停止で待機させていたので、最初の鬼達との戦闘では使えなかったが。

 

 その近衛の一機からの連絡。近場に『鬼』の反応あり。

 

「またかよ」

 

 もう夕方で、夜に活動する鬼達の時間の始まりだからか。

 

 反応に追加情報、『密度』が先日の『六つ目』に近いものがある。

 

「・・・・街中で襲ってくるなよ」

 

 アベルは小さく呟き、家から外へと出たのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうダメかもしれない。

 

 胡蝶・カナエはそう思った。

 

 何時もと同じ鬼の討伐。鬼を狩って、無事に家に帰り、妹たちと楽しい食事をして一日が終わる。

 

 信じていた、疑わなかった、毎日こんな日々が続いていくなんて、漠然と思っていたのに。

 

 いや心のどこかでは解っていたこと。

 

 自分は鬼殺隊の『柱』だから。鬼を狩っていけば、いずれは何処かで終わりが来ると気づいていたのに。

 

 今まで知らないふりをして、気づかないように蓋をしていたのかもしれない。

 

「もう終わりかな? それじゃ君も救ってあげるよ。今日はね、あの方に頼まれた仕事もやらないといけないからね」

 

 鬼が笑っている。元凶が生み出した、自分達の両親を殺した鬼と同じ存在が、中身の詰まっていない笑顔を浮かべて、近づいてくる。

 

 呼吸が上手くできない、肺が凍っているから。

 

「ごめんね、しのぶ」

 

 小さく口の中で妹へ謝罪しながら、彼女は何とか立ち上がる。

 

 刀を持て、鬼を倒せ、それこそが。

 

「へぇ、君は」

 

「女の人をいたぶる趣味でもあるのか、鬼って」

 

「え?」

 

 刹那、光が目の前の鬼『上弦の弐』を細切れにした。

 

「いくら刀を持っていても女性だろ? まあ戦士に対しての矜持は解らなくもないけど、動けない女性相手にさ」

 

「え? 君は」

 

「名乗ってやらないよ。鬼のせいで、俺は散々な目にあったんだからな」

 

 再び降り注ぐ光の雨の中、鬼の姿が消えて行った。

 

「チ、逃げたか。妙な術の感触はあったけど、解析できるかな」

 

 カナエはゆっくりと振り返った。自分の後ろから歩いてくる姿に、どうしてと声をかけようとして、意識が暗くなっていく。

 

「え、ちょっと待った!」

 

 相手の声を聞き、薄れる視界の中で彼を見て。

 

 ああ、どうして貴方がここに、とカナエは思ったという。

 

「姉さん!!」

 

「え?!」

 

 再び視界が開けると、そこには涙を流した妹の姿があって。

 

「え、えええ?!」

 

「姉さん! どうしたの誰にやられたの?!」

 

「誰にって」

 

 言われて気づく。おかしい、自分は確か鬼の血鬼術で肺が凍ってしまったのではなかったか。

 

 呼吸できなくて苦しくて、体も動かせなかったのに。

 

 普通に息ができる、体が動く。

 

「姉さん! 鬼と会ったの?! どんな鬼だったの?!」

 

「大丈夫よ、しのぶ。もう大丈夫だから!」

 

「でもこんなに血が!!」

 

「本当、こんなに血が流れているのにね」

 

 体の痛みはない。そっと触れてみると、傷口に痛みはなく、それどころか傷さえなさそうだ。

 

「明日、話を聞きにいかないとね」

 

「姉さん、何があったの?」

 

 心配して問いかける妹に、姉は微笑みながら告げた。

 

「面白い人と出会ったの」

 

「・・・・・はぁ?!」

 

 笑顔全開で告げるカナエに、しのぶは思いっきり叫んだのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「危なかったな。まさか、カナエさんが死にかけているなんて思わなかった」

 

 二人の様子を『上空の航空機』から見下ろしながら、アベルは小さくため息をついた。

 

 咄嗟のこととはいえ、医療用ナノマシンを使ったのは不味かったか。

 

 前検査なく人体に適合、その後も増殖を続けて身体の負傷などを治療するナノマシンは、アベルの軍団でも滅多に精製できない貴重なものだ。

 

「でも、知り合いが目の前で死ぬよりはいいか」

 

 仲良さそうに話す姉妹を見ながら、アベルはそう思った。

 

「あれ? 一方的に妹さんがカナエさんに怒ってないかな?」

 

 怒鳴り声も聞こえるのは、気のせいにしよう。

 

 アベルはそう思い込むことにしたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 





 二話目です。正直、フワッとなので考えていたのはここまで。

 うん、ギャグが見当たらない。

 周辺被害が抑えられている。

 おかしい、最初の想定では鬼より凶悪な奴がいるぜ、皆で倒そうぜだったのに。








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正攻法なんて使えるわけないじゃん






 バーに色がついたので頑張ってみた。

 サルスベリの作品の中じゃ最速だった。

 鬼滅の刃ってすげぇって思った。

 だから、ちょっと頑張ろうとして挫けたのです。










 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相手の隠したいことを暴くのはちょっと大変なこと。相手が隠したいと考えていれば考えているほど、その事実を引き出すのはとても大変なことだ。

 

 胡蝶・しのぶは、そんなことを姉の話を聞きながら思った。

 

「つまり、その人が『上弦の弐』の鬼を細切れにしたの?」

 

「そうなの」

 

「で、姉さんの傷とか直したってこと?」

 

「ええ」

 

 正直に言って、信じられない。

 

 姉のことは信じているし、尊敬もしているが、そんなうまい話があるわけがない。

 

 百歩譲って、姉の話が真実だとすると。

 

 その人物は鬼殺隊でもないのに、鬼を殺せる力を持っていることになるのだが、この姉は解っているのだろうか。

 

 鬼は、日輪刀か日光でしか殺せない。毒で殺せることもあるが、それでもしのぶが開発している毒では、今のところ殺すまでにかなり時間がかかる。

 

 それに、姉は柱だ。身体能力も動体視力もかなり優れている。人間以上の身体能力を持つ鬼と戦うのだから、どちらも呼吸によって高められているのに。

 

 その姉が見えなかった攻撃。そんなもの、世界に存在するわけがない。

 

 信じられない話だが、その上に人体治癒なんてものまでつけられると、姉が幻を見せられていたと言われたほうが、まだ現実的ではないか。

 

 姉が鬼になった。その可能性もあるかもしれないが、昼間に外を歩いているのだからその可能性はない。

 

 何より、そんなことなったなんてしのぶは信じたくない。

 

 となると、その『アベル』が鬼の可能性があり、姉は鬼の血鬼術で幻を見せられた可能性が高い。

 

 見極めないと。

 

 あの時に会った時は鬼の気配はなかったが、それも幻を見せられているなら気づけなかったのも頷ける。

 

「姉さん、その人に会って話をしてどうするの?」

 

「う~~んそうね」

 

 前を歩く姉は嬉しそうに振り返った。

 

「貴方の力はどういったものか、教えてください、じゃダメかしら?」

 

 あまりに能天気な言い方に、しのぶは頭痛がしてきた。

 

 相手が隠しているなら、そんなこと素直に話すわけがない。もしかしたら、姉を助けた件も『何のこと』と返すかもしれない。

 

「答えないわよ、そんなの」

 

「大丈夫、姉さんに任せなさい」

 

 やけに自信のある姉の言葉に、秘策でもあるのかとしのぶは期待を向けたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カナエとしのぶが店に来た。

 

「アベルさん」

 

 真っ直ぐに見てくるカナエに、アベルは顔を向ける。

 

 しのぶはついに姉の秘策が出るかと期待を膨らませた。

 

「昨日は助けてくれてありがとう!」

 

 まさかの直球、しのぶは目まいがしてきた。相手が隠しているなら、そんな真っ直ぐな言葉に答えるはずがない。

 

 姉は何を考えているのか、呆れながらお説教でもしようかと手を伸ばしたら。

 

「いえいえ、間に合ってよかった。体に違和感ないですか?」

 

 ごく当たり前に戻ってきたホームラン。しのぶは全身の力が抜ける気がして、入口の障子に手をかけて体を支えた。

 

「どうしたの、しのぶ?」

 

「体調が悪いんですか? 昨日、かなり怒っていたから、それでですかね?」

 

「あら、見ていたの。でも、周囲に気配はなかったのに」 

 

「空の上から、ちょっと」

 

「貴方は空も飛べるのね。どうやったのか教えてくれないかしら?」

 

「いいですけど。初めての飛行は怖いですよ」

 

「あら楽しそうね」

 

 なんだか日常的な会話が目の前で行われていた。

 

 ほわほわ空気の姉に対して、アベルは特に警戒した様子もなく話していて。

 

「姉さん!」

 

 しのぶ、陥落。もう限界だから思いっきり叫ぶ。

 

「どうしたの、しのぶ?」

 

「どうしたのじゃなくて! なんでそんなに直球の質問なんてしたの?! 普通はもっと探りを入れるとかこう!」

 

「ええ~~だって答えてくれたし」

 

「あんたもあんたで隠しなさいよ!!」

 

「え、隠すもんなの?」

 

 どっちからもぽわぽわ返答が戻ってきてしまい、しのぶの怒りはさらに上がっていき。

 

「ああもう!! 私が変なの?! 私が常識がないの?!」

 

「そんなことはないわ。しのぶは普通よ、常識はきちんとあるから」

 

「常識的な令嬢だと思いますけど」

 

「そうよね! ほらアベル君もしのぶは可愛いって」

 

「いや言ってない」

 

「ム! うちのしのぶが可愛くないってことなの、どういうことかしらアベル君?」

 

「ちょ?! カナエさん、その刀は何処から出したの? 待って、それは不味いから」

 

 思わず抜刀したカナエの手元、先ほどまであった刀が消えた。

 

「え?」

 

「あ~~~ごめん、オート・ディフェンスモードだから武器は」

 

「私の日輪刀~~」

 

 泣き崩れる姉の姿に、しのぶはちょっと『スッとした』なんて思ってしまい、慌てて首を振って想いを消し飛ばす。

 

「姉さんに何をするのよ?!」

 

「いや今のは刀を向けられた俺が悪いってこと?!」

 

「男だったら刀を向けられたくらい許しなさいよ!」

 

「いや理不尽!」

 

「私の~~~」

 

 怒っているしのぶに詰め寄られ、泣き崩れたカナエの涙に攻められ。

 

 アベルはしばらくあっちを向いて、こっちを見を繰り返した後、小さく両手を上げたのでした。

 

「はい、俺が悪かったです、ごめんなさい」

 

「よろしい!」

 

 何故か、二人からそう言われ、もうため息をつくしかないアベルでした。

 

「でも私は刀を貰いにいかないと」

 

「姉さん、私も一緒に行くから」

 

「ありがとうしのぶ」

 

「刀なら売っているんじゃないの?」

 

 何故か遠くに行くような感じにアベルが口を挟むと、カナエは少し困った顔を浮かべた。

 

「鬼を倒すための特別な刀は、特別な場所で作られているから」

 

「へぇ~~そうなんだ。やっぱり鬼って特別な武器じゃないと倒せないのか」

 

「貴方の武器は違うの?」

 

「俺の武器は、刀じゃないからね」

 

 カナエの質問に素直に答えたアベルに、小さくしのぶは鋭く見つめた。

 

「貴方はどうやって鬼を倒しているんですか?」

 

「どうやってって」

 

 説明しようと考えたアベルの視界に、先ほどまで削っていた木の欠片が入る。

 

「こうやって」

 

 指先を木の欠片へと向けると、二人の視線が追いかけていき、やがて木片へとたどり着いて。

 

 顔が固まった。

 

 先ほどまであった木片が、一瞬で消えてしまったから。

 

「アベル君、その話、もっと詳しく」

 

「お願いしますね、アベルさん」

 

 何故だろう、と考えるアベル。

 

 美人さん二人に迫られたら、もっと嬉しいもののはずなのに。こんなに可愛い娘さん達が、顔が触れるくらいの距離にいるのに。

 

 どうして身の危険を感じているのだろう、とアベルは考えていたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大正時代の人たちに、銀河航海時代の技術の説明を行いました。

 

 結論、無理。

 

「TDぶらんけっと、ふぉとん」

 

「電磁波の収束における、じばふぃーるど」

 

「ぼーすりゅうし、じゅうりょくしこねくた」

 

「くらいんふぃーるど、魔法素子転換技術」

 

 先ほどから単語を繰り返す二人に、アベルは苦笑いしかない。

 

 なので簡単に。

 

「要するに人工的に太陽の光を再現して、矢のように撃ってます」

 

 途端に二人の顔に正気が戻りました。

 

「そうなのね! 解りやすいわぁ!」

 

「最初からそう言ってください! 小難しい理屈で話を煙に巻くつもりですか?!」

 

「そっかそっか。それで?」

 

 何故か、カナエが両手を差し出してきた。

 

「えっと、なんでしょう?」

 

「矢があるなら見せてほしいなぁって」

 

 可愛く首を傾げる女性に、アベルは笑顔を浮かべたまま固まった。

 

 例え話を本気にされて、可愛くおねだりをされました、こんな時どうすればいいか銀河連邦法や規範には載っていなかったので、誰か教えてください。

 

 アベルは内心でそんなことを思ったのです。

 

「待って姉さん」

 

 さすが理論派っぽい妹さん、止めてくれたか。アベルが救い主が現れたように見つめると、彼女も両手を差し出してきた。

 

「まず危なくないかどうか私が確認してからよ」

 

 こっちもでしたぁ、とアベルは思って倒れそうになったのでした。

 

「例え話ね。それに、鬼を貫通するような矢を手に持ったらどうなるか、解らないわけないよね?」

 

「え、矢先に触れなければ大丈夫よね?」 

 

「放った後が危ないんですよね?」

 

「姉妹揃ってそっちの勘違いですかぁ」

 

 盛大にアベルはため息をついた。

 

「触れられないものなのね。解ったわ」

 

「よかった」

 

「私も解りました」

 

「本当に良かった」

 

「なら弓なら触れるのよね?」

 

 カナエが『思いついた』というように両手を合わせた。なるほどと、しのぶも頷いて目線を向けてきた。 

 

「まあ、弓なら」

 

 転位ポイント確認、武器を転送。

 

 アベルが手の中に出現させたのは、銀河連邦軍でも使っている光線銃。軍人以外にも、警察官も使用されているスタン・モードが標準装備の重は、黒一色の無骨な姿をしていた。

 

「え?」

 

「なんですこの塊」

 

「・・・・・・・え、そこから」

 

 二人の反応にアベルは、銃の開発ってもっと後になってからだっけかな、と脳内の虫食い状態の歴史を思い出していくのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなバカなことをしていたら、あっという間に夜でした。

 

「ごめんなさいね」

 

 隣を歩くカナエの謝罪を、アベルは片手を振って拒否した。

 

「いや刀を駄目にしたの、俺だし」

 

「本当にごめんなさい」

 

 元々、昼間の間に戻るつもりでいた。念のため、お役目が入ってもいいように刀を持ち歩いていたが、まさかここまで遅くなるなんて思わなかったカナエだった。

 

 しのぶも、まさかそんなに熱中するなんてと少しだけ悔しそうだ。

 

「でも本当に」

 

 カナエが真っ直ぐ伸ばした先、闇の中から飛び出してきた鬼に対して、ビームが突き刺さる。

 

「これがそうなのね」

 

 彼女は手に持ったライフルをゆっくりと下ろす。

 

「ああ、俺は無理だからさ。周りの手駒にやらせているけど」

 

 周辺の闇を裂くように、時々ビームが降り注ぐ。

 

「本当に貴方がやっているんですね」

 

「俺って言うか、俺の軍勢がね」

 

 カナエと反対側にいるしのぶの視線が、周囲を油断なく警戒していた。

 

 彼女も最初は信じていなかった。だから夜に出歩くことを反対して、昼間になってからにしようと何度も提案したのだが。

 

 アベルの、『そんなに危ない道じゃない』って顔と、カナエの『試したい』って顔に折れたのでした。

 

「これがあれば」

 

 カナエは手の中のライフルを見つめている。

 

 これがあれば、誰もが鬼に怯えることなく。

 

「人も殺せるけどね」

 

 瞬間、カナエは手の中の頼もしい武器が、とても怖くなった。

 

 鬼の体を簡単に貫ける。硬質的な、ときに鉄よりも硬い鬼がまるで紙のように簡単に。

 

 それはつまり、人間ならもっと簡単に。

 

「だから俺は刀とか剣のほうがいいって思っている。持ち手がきちんと相手を見て、切りたいものだけを切れる奴をね」

 

 少しだけ震えているカナエからライフルを受取、倉庫へと戻す。

 

 霞が晴れるようにアベルの手から消えたライフルに、しのぶもカナエも何も言わなかった。

 

「なら貴方はどうして、それを選ばなかったんですか?」

 

 しのぶの質問にアベルは困ったような顔を向けた。

 

「俺は身体能力が高くない。もしかしたら子供にも負けるくらいにね」

 

 だから遠距離攻撃、あるいは手駒に頼る戦い方しかなかった。

 

「正攻法は憧れたけど、人にには向き不向きがあるからね」

 

 鬼は相変わらず騒がしい。でも、こちらに来ることはない。闇を切り裂くように、夜を否定するように、周囲には光が流れ続ける。

 

「・・・・・・・でも私は使えるから」

 

「え?」

 

「だから私用に一つ貰えないかしら」

 

 カナエの提案に、アベルは言葉に詰まったのでした。

 

「決まり! 私の刀をダメにしたお詫びは、それでお願いね」

 

「・・・・・はいぃ?!」

 

「矢に出来るなら刀にもできるはずよね?」

 

「あ、それなら私にもください」

 

 物のついでのように言ってくるしのぶ。

 

「お願い、アベル君」

 

「アベルさん、お願いします」

 

 可愛くおねだりしてくる姉妹と、周辺で蹂躙されている鬼の悲鳴と、困惑したアベルの姿は、夜空から見たらとても滑稽に見えたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 

「ありがとうアベル君!!」

 

「綺麗ですね、お礼は一応、言っておきますね」

 

「あ、うん」

 

 桜色の棒を持って踊っているカナエと、怒った顔だけどちょっと嬉しそうに棒を持っているしのぶを前にして、アベルは思う。

 

 持っているのが武器じゃなければ、とても微笑ましい光景なんだろうな、二人とも美人だから、と。

 

 

 

 

 

 

 胡蝶姉妹、太陽光エネルギーのビーム・サーベルを手に入れる。

 

 

 

 

 

 

 

 












 しのぶさん、力がなくて鬼の首が断てない。

 え、ビームなら力関係なくね?

 あれ、これだと毒の開発、止まらないかな。

 まあいいか!

 こんな話になりました。







 
「ふははははは!! 死になさい! 消えなさい!」

 そう笑いながら月光蝶ですべての鬼を消すしのぶさんの夢を見た。








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相手が生物ならやりようはあるな







 鬼滅の刃を調べてみる。

 太陽の光が弱点、でも克服できる可能性はある。

 首を落とす、でも再生している場合もある。

 ということは、こういうことなら大丈夫ってことですね?!












 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妙な噂がある。

 

 最近、光の刃を使う剣士がいるって。

 

「・・・・・」

 

「いや本当なんだよ、アベル。夜なのに、お天道様が出たみたいに明るくてな」

 

「え、あ、はい」

 

「廃刀令でお侍さまから刀を取り上げたのに、未だに刀をさしているお侍がいるのは知っているんだよ」

 

「へぇ~~」

 

 源さんが言っていることを聞きながら、アベルは冷や汗が止まらない。

 

 心臓がドクドク言っている。視界が少し揺れている。

 

「にしたってお日様みたいな刀なんて、あるのかねぇ」

 

「そ、そうですね」

 

 不味い、不味い。今までもビーム系の攻撃はしていたし、手駒が接近戦をしなかったなんてことはない。今までも攻撃はやっていたのに、広まることがなかったのは念入りにフィールドで覆っていたから。

 

 攻撃が外に漏れないように、誰にも見つからないように。完全に隔離した空間の中で攻撃していたから、誰にも見つからず噂にもならなかったのに。

 

 あの二人に口止め、というか注意しておくの忘れた。

 

「なあ、坊主」

 

「はい?!」

 

「おまえさん、そんな刀、作れないよな?」

 

 あたりです、ビンゴでした。なんてアベルは内心で思いながら、苦笑をうかべて首を振る。

 

「俺には無理ですね」

 

「だよなぁ~」

 

 うんうんと頷いた源さんは、『邪魔したな』と告げて背を向けた。

 

「そうだ、坊主。仕事が出来て収入が増えたって言ってもな」

 

「はい、何ですか」 

 

 誤魔化せたと安堵したアベルは、その背を見送りながら次の仕事へと手を伸ばしていた。

 

「いくらなんでも妾をもらうのは速すぎないか?」

 

「・・・・・・え?」

 

「いや美人さんで大変に結構、男ならそうじゃなくちゃな」

 

「え、いや待った!」

 

「でもなぁ、あの子らって姉妹だろ? 姉妹を食っちまうのはなぁ」

 

「待った待った! 源さんは何か勘違いしてるから!」

 

「勘違いねぇ。おまえさん、あの姉妹と夜の街に消えたって噂、知らないのか?」

 

 首だけ振り返って鋭く見てくる目線に、アベルは胸を抑えてしまった。

 

 心当たりがあり過ぎる。送っていくって夜の街を歩いたことが、何度かあったりする。

 

「美人さんに手を出して傷物にしておいて、責任とらねぇなんてこと、ないよな?」

 

「・・・・・もちろんです」

 

 あまりに鋭く殺気交じりの瞳に、アベルは頷くしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 胡蝶・しのぶは今日も上機嫌だった。

 

 久しぶりに楽しいと思える日々だ。

 

 確かに鬼の脅威はある、今の世界の何処かで鬼のために泣いている人がいるかもしれない。

 

 一刻も速く、鬼を討伐しないと。その首魁の首を落とし、人が安心して眠れる世の中にしたい。

 

「なんて建前ですね」

 

 心の中で嘘をついて、彼女は『刃』を振るった。

 

 鬼の首が飛ぶ。

 

 以前なら、どんなに力を入れても斬れなかった鬼の首が、あっさりと宙に舞って消えていく様を見つめ、薄く笑みを浮かべてしまう。

 

 自分は、とても浅はかで傲慢だ。

 

 鬼の首が切れなかったから毒を作ろうとした。姉の姿を追って、鬼を狩る道を選んだ。両親が殺されたから、仇を討とうと思った。

 

 色々な理由をつけて、自分で考えて決断して始めたことなのに、出来ないからと諦めるでもなく別の道を見つけてでも、最初に決めたことを続けようとした。

 

 逃げているようで嫌だったから。決意を否定しそうになって怖かったから。姉だけに押し付けてしまいそうだったから。

 

 いや違う、自分はそうやって逃げて迷って、できない『弱い自分』を認めたくなっただけだ。

 

「本当に私は嫌な子ですね」

 

 二度、三度と刃を振るう。血のりなんてつくわけなく、肉片や油で切れ味が落ちることなんてないのに、刀を使っていた時の癖で振るった刀は、その刀身を消して手の中に柄だけを残した。

 

「これがあれば、まだまだ続けられるなんて、喜んで。本当に私は」

 

 棒みたいな形になった刀を腰に吊り下げ、しのぶは歩き出す。

 

 また、こうなった。

 

 最初は上機嫌に鬼を狩れるのに、終わるころには嫌悪感が満ちてくる。

 

 本当に嫌になる。鬼の首を狩れるのに、鬼を倒せるって言うのに。それが自分一人の実力じゃないことが、とても嫌になって気持ち悪いくらいに嫌いで。

 

 でも、鬼を狩れることを喜んでしまう自分がいて。

 

「はぁ」

 

 小さくため息をつくしのぶの背後、森の木々が僅かに揺れる。

 

 ハッとして刀に手を伸ばすが、すぐに手を離して歩きだす。

 

「あの人はまったく」

 

 木々の上、周囲の景色に溶け込んだ『何か』が動いていた。

 

 光学迷彩と説明を受けたのだが、しのぶの頭では理解が出来なかった。要するに姿を消している、と簡単に結論を出して納得した技術を使った存在達は、しのぶが動くと同時に動きだす。

 

「私も鬼殺隊の剣士ですよ」

 

 しのぶを中心に動いている集団に向かって告げるのだが、相手からの返答はない。

 

「心配症なんだから」

 

 小さく呟くしのぶの表情は、こぼれた不満とは裏腹に少しだけ笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや心配しているわけじゃなくてね」

 

 後日、ビーム・サーベルの充電に訪れたしのぶとカナエに、どうして護衛をつけているかを尋ねられたアベルは、素直に話すことにした。

 

「噂になっているんだよ。『お天道様の刀を持つ剣士』って」

 

「そんな凄い剣士様がいるの?」

 

「日の呼吸と言ったところでしょうか?」

 

 なんだろう、そんな返答が戻ってくるとは思わなかった。

 

 カナエは天然なところがあるから、しっかり説明しないといけないと思っていたのだが、まさかしのぶまで勘違いしているなんて。

 

 日の呼吸なんて、あるのだろうか。花とか風があるのだから、お日様みたいな呼吸もあるか。炎の呼吸はあるらしいし。

 

 アベルは少しだけ現実逃避した。

 

「いや二人のことだから」

 

 はっきり伝えよう。察してとか回りくどい言い方をして、二人に不利になったら申し訳ないから。

 

「え、そうなの?」

 

「まさか、姉さん、夜に使い過ぎじゃないですか?」

 

「ええ? しのぶだって使い過ぎじゃないの?」

 

「私はそんな・・・・・・こともないって言いきれない」

 

「ほらみなさい。私は・・・・・・あ、まだ刀を貰ってない」

 

「姉さん!」

 

「だってだって! 使い易いのよ?!」

 

「それは認めますけど!」

 

 何故か、はっきりと伝えたら姉妹ケンカになりました。お互いに言い合っているのに、どうしてか微笑ましい雰囲気しかないのは、二人が美人だからだろうか。

 

 アベルはそんなことを思いながら微笑んで見守っていた。

 

「やっぱり私じゃなくてしのぶじゃないの?!」

 

「私だけじゃないはず! 姉さんだって使いっぱなしじゃないの?!」

 

「だって刀がないんだもん!」

 

「もんって何よ! もんって!」

 

「女の子なんだからそのくらい言うわよ!」

 

「私だって女の子なんですけど!」

 

「しのぶは可愛いから大丈夫!」

 

「姉さんだって可愛いんだから注意してよね!」

 

 アベルは思う、自分はいったい何を見せられているのか。姉妹ケンカが始まったはずなのに、今はお互いのいいところを大声で言い合っている。

 

 これがノロケか。

 

 アベルはもう現実逃避ではなく、現実を無視して仕事を再開することにした。そのうち、戻ってくるだろうと思いながら。

 

 結局、姉妹が正気に戻ったのは源さんが仕事を持ってきた時だった。

 

「おまえんところの嫁さんはにぎやかだな」

 

 ニヤリと笑う源さんの一言で、二人は止まった。止まったのだが、今度は別方向に感情が動いた。

 

「嫁さん?! そ、そんなこと」

 

 カナエ、顔を真赤にして首を振っている。

 

「まだ違いますから!」

 

 しのぶ、その言い方はおかしいのだが、本人は気づいてない。

 

「そうかそうか」

 

 源さんはニヤニヤと笑いながら、アベルの肩をバンバンと叩いた。

 

 そして、問題のアベルは深くため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 検証事項、二百六十回。

 

 内容、『鬼は生物であるか否か』。

 

「てめぇ何もんだ?! ここは何処なんだよ!?」

 

 ナノマテリアルと次元結晶で作られた檻の中、鬼が喚いている。

 

 目標の活動は活発にして、身体はとても強靭。人体の枠の収まらないほどの大きさを持つため、鬼の『実験台』としてはかなり有効。

 

「聞いてんのかよ?! てめぇ!!」

 

 鬼が手を伸ばすも、その手が触れることはない。

 

 目の前に浮かぶ影は檻を引きながら、ゆっくりと進んでいた。

 

 この鬼を見つけたのは、とある山の中。何やら複数の鬼が山の中をうろついていたから、その中でも特別に大きなこいつを選んで持ってきた。

 

 藤の華が咲いている山だったので、とても印象深い。もしかして、藤の華と鬼には何かの因果関係があるのか。

 

 事項の検証項目として記録する。

 

「聞いてんのかよ?! この手鬼様をどうするつもりだぁぁぁ?!」

 

 答えることなく影はゆっくりと『浮かぶように』進んでいく。

 

「ここ何処だよ!? ふわふわ浮いて気持ち悪いんだよ!」

 

 答えはなく長い筒のようなものを進んだ後、影がピタリと止まった。

 

 終着点。そう手鬼が思っていると、影がゆっくりと振り返る。

 

 今まで姿が見えなかった、本当に影のように真っ黒で見えなかった姿が、徐々に見えてきた。

 

「ヒ?!」

 

 それは、鬼から見ても異形。

 

 金属の塊で出来たような姿、両手両足もすべて金属。生物としての場所などまったくない、すべてを金属で描かれた人型。

 

 不自然に長い手足、背中の下ほどから突き出した尻尾のような突起物。

 

 『それ』は知っている人が見たら、間違いなくこう言うだろう。

 

 『ガンダム・バルバトス・ルプスレクス』と。

 

「なんだよ、なんなんだよおまえは?!」

 

 手鬼が叫ぶ。彼が視線を忙しく動かすと、影以外にも何体かの金属の人型がいるのが解った。

 

 胸に獅子の顔を持ち、右手にハンマーを持った者。

 

 青い巨体に背に円環を背負っている者。

 

 左肩に楯を持って輝く金属の刃を持つ者。

 

 それらは知っている人が見れば、こう答える者たち。

 

 『ジェネシック・ガオガイガー』。

 

 『ネオ・グランゾン』。

 

 『ダブルオークアンタ』。

 

 アベルが持つ中でも、特級戦力を持ち、殲滅戦に投入される機体は、『人間と同じ大きさ』になって、手鬼を見ていた。

 

「なんだよ、なん」

 

 言葉は途中で止まった。何かが抜ける音と同時に、檻は吸い出されるように外へ。

 

 闇の底、夜かと手鬼が思った瞬間、彼の体は破裂した。

 

『検証結果、鬼は生物と認められる。宇宙空間への耐性なし、放射線への耐性なし。現宙域における『目標』の反応消失を確認、念のため侵食魚雷と相転移砲による掃討を行う。データを保存、続いて『毒』及び『ナノマシン』への耐性、対応能力の確認に入る』

 

 淡々と声が流れ、四機はそれぞれの場所へと戻って行った。

 

『情報統括、担当『オラクル』』

 

 最後に、報告を読み上げたアンドロイドの青年の姿が浮かび、やがて何事もなかったかのように光が消えて闇となった。

 

『検証事項』

 

 そして、また次の実験が始まる。

 

 繰り返し何度も、何万回でも。相手が未知の存在だから、調べ過ぎるなんてことはない。

 

 相手の性質を調べ、相手の戦術を読み、相手の動きを把握して、そして殲滅戦に移行する。

 

 それが、『我らが軍勢』。剣士ではなく、騎士でもなく、ただ相手に勝つための軍人としての彼らの矜持だから。

 

 こうして、今日も宇宙空間に存在するアベルの母艦艦隊では、鬼を使った実験が行われているのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日も長閑な一日が終わる。

 

 襲撃とかあったけど、アベルの周辺五メートルに入られたことはなく。

 

「最近、鬼が少なくなったかなぁって」

 

「そうですね」

 

 暇なのか、暇なんだろうな、最近は二人が店にいる時間が多くなった気がする。

 

 見た目は可愛い美人姉妹がいるのは、男としては嬉しい限りなのだが、手に持った棒がそれを台無しにしている。

 

 二人の顔と手の仕草は語る、『鬼が斬りたい』って。

 

「そうだ、アベル君、私ね夢があるの」 

 

「へぇ~」

 

 唐突にカナエが手を叩き、顔を向けてきた。

 

「そう、私ね、鬼と仲良くしたいの」

 

「・・・・・・・はぁ」

 

 嬉しそうに語る彼女に、『相手の主食が人間である以上、無理じゃないかなぁ』とアベルは思った。

 

「また姉さんはそんなこと言って」

 

「えぇ~~いいじゃないしのぶ。私はいつか、鬼と仲良くできるって信じているから」

 

「そんなこと」

 

 妹でさえ否定することを、カナエは心の底から信じているのだろう。

 

 そういう考えもあるのか、とアベルはちょっとだけ感心してしまう。今までアベルは殲滅戦しかしてこなかった。

 

 相手を徹底的に調べ、相手の戦術を学び、相手の思考を誘導して、会話などせずに倒してきたのが彼であり、その結果が『軍勢のアベル』の通り名。

 

 相手を完全に理解しながら、話し合いをせずに倒してきた彼にとって、敵であっても理解して仲良くしようとするカナエは、とても眩しく見えた。

 

「アベル君もそう思わない?」

 

 眩しくて暖かい笑顔を見せるカナエに、彼は頬笑みを返すだけにした。

 

 自分にはとてもできないけど、それを否定するだけの意見も言えるけど、彼女の夢を否定できる権利を、自分は持っていない。

 

 アベルはそう思ったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 













 鬼って、あんだけいるから実験台に最適、なんてこと考えてしまったので、こんな話になりました。

 真菰、可愛い。手鬼、ちょっと殺しておこう、なんて考えてないですよ。

 鬼は人間を殺したり遊んだり、ならそんな鬼を実験につかう非道な主人公って感じで。

 いや軍人ってリアリストだから、未知の生物を捕まえたら真っ先に検証するでしょう。








 

「初めまして、私は『グランド・キャスター』、花の魔術師のカナエです」

 FGOにおいて、藤丸の隣に杖を持ったカナエがいる夢を見ました。

 いやどっちかっていうと、

「私とお友達になりましょう」

 とか言って手を差し出して蟲を手なずけるナウシカ的なカナエのほうが、あっているだろうがって起きてから一人突っ込みしました。










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いや、その理屈はおかしい

 







 この先、どうしようと考える。時間が空いた時に考える。

 行き当たりばったりなのはサルスベリのセオリー、当たり前のこと。ちなみに今回は最終回も考えてない、まさにノープラン!

 フワッとしたお話ですが、それでもよければどうぞ。










 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近、鬼が少なくなったね、なんて話を胡蝶姉妹から聞いたアベルは、ちょっと考えてしまった。

 

 ひょっとして、鬼は自分の位置を特定しており、その襲撃のために準備を始めているのではないか。だから鬼を見なくなった。鬼を集めて戦力の増強を図ることで、いっきにこちらを攻め落とそうと。 

 

 戦力の集中は戦略の基本。各個撃破なんて昔の英雄譚でしかない。現代戦において、そんなことすれば戦力を減らすだけだから。

 

「探るか」

 

 アベルはそう考えていた。軍人教育を受けているアベルはそう考えていたのですが。

 

 よく思い出してほしい。

 

 彼はじっくりと思いだすべきものがあるはずだ。

 

 大正時代、身体能力が強化されてはいるが鬼は生物。どうしても超えられない壁はある。血鬼術って異能を使っていても、相手は生物。どんなに肌を硬化したって限界はある。

 

 鉄は超える、鉄なんて脆いものさ。なんて語る鬼がいるとして、その鬼の前に強化プラスチックとか出したら、どんな顔をするでしょうか。

 

 あるいはナノマテリアルとか、超合金Zとか、ガンダリウム合金とか。

 

「相手を弱く見るのは、愚の骨頂とか言っていたし」

 

 過小評価するのは痛手の原因。味方戦力を一気に減らすことになるので、指揮官は絶対にしてはいけないこと。

 

 だからって過大評価をしては、戦闘をしないで終わってしまうことにならないだろうか。もっと言えば、殲滅戦で塵一つ残らないなんてことになったりして。

 

「よし、探ってみよう。鬼独特の反応は記録してるから、日本中を精密スキャンすれば見つかるだろ。確か、軌道上のゼネラル・レビル級かスペースノア級にあったような」

 

 人型兵器だけじゃなく母艦まで作ったアベルは、思いつくままに色々な装備を搭載していったので、何処の何があるか忘れていることがあったりする。

 

 自分のことながら忘れっぽいなと呆れたアベルは、すべてを統合するAIを作成し、それに任せっぱなしにしたので余計に忘れる忘れる。

 

 あまりに忘れるものだから、呆れた統合AIが各部門の責任者的AIを勝手に作成し、製造基地まで作って勝手に軍団の数を増やしているので、アベルが知らないものまで出てきたりして。

 

「よっし、調べよう」

 

 アベルはそう結論を出して、指示を出した。

 

 話は戻るのですが、鬼ってどの程度の強度があるのでしょうか。生物としてどのような攻撃まで耐えられるのか。

 

「最悪、BETAの試作品とか、獣神将とか投入かな」

 

 彼は知らない、鬼を過大評価していることを。

 

 彼は知らない、統合AIがその二つをすでに師団規模ではなく、国家戦力並に増強していることを。

 

 軍勢のアベル、その彼の通り名の半分は統合AIの責任だったりする。

 

「あ、デミフレア・ナパーム(試作品ため最高温度百万度にしかならない)をありったけぶちこめばなんとかなるか」

 

 もう半分は冷静な判断を下せるのに、実行時に大雑把になるアベルの性格のためだったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鬼の調査は放り投げたアベルは、何時も通りの細工の仕事に取りかかった。

 

「なあ、アベル坊主よ。俺はおまえのことを、もう坊主とは呼べないな」

 

「なんですか、源さん、唐突に」

 

 何時も通り仕事を持ってきてくれた彼は、腕組みしたまましみじみと語り出した。

 

「いや、そろそろ祝言を上げるって奴を坊主なんて呼んだら、失礼だろうが」

 

「は?」

 

 初耳な内容に、アベル固まる。

 

「そっかそうだよな。おまえさんがここに来て、もう一年にもなるんだよな。そりゃそうだよな」

 

「いや源さん、何を言ってるのか俺には解らないんですけど」

 

「隠すなって、そうだよな。あんな美人の奥さんだもんな、男なら手を出さない方がおかしいってもんだ」

 

 いやあんたの頭がおかしい、アベルは反射的にそう思ったのだが口に出さずにグッと堪えた。

 

「源さん、何を言ってるんですか?」

 

 努めて冷静に、落ち着いて。アベルは自己暗示のように内心で繰り返し、源さんを問い詰める。

 

「俺にまで隠すことねぇって。そうか、そうだよな。苦労したんだな、アベル。おまえ、あんな子供までいるなんてな」

 

 いっそのこと、頭をかち割って脳から直接データを吸いだすか。そう思うくらいにアベルは冷静でもなく、落ち着いてもいなかった。

 

「何の話、ですかぁ?」

 

「おい、俺は見ちまったんだよ、先日な、ちょっと大工の仕事で隣町まで行ったんだけどよ。カナエ嬢ちゃんとしのぶ嬢ちゃんがな、連れてたんだよ」

 

「何をです?」

 

「娘だよ。ありゃ将来、別嬪になるな。同じ蝶の髪飾りつけて、同じような着物を着てな。いい母子だったなぁ」

 

「・・・・・・は?」

 

 アベル、別の意味で固まった。

 

 え、子持ち。どっちの子なんだろう、待ったカナエはまだ二十歳になってないのでは。連れていたってことは、もう歩ける年ごろってことか。何歳の時に産んだ子供だ、カナエなら十分に可能性はあるが、しのぶの子供ってなると父親は幼いしのぶを孕ませた鬼畜だと。

 

「アベル坊主、もうそう呼べなくなるなんてな」

 

「いや俺の子供じゃないので」

 

 考え込んでいたアベルは、反射的にそう答えてしまった。

 

「あ・・・・てめぇ、あんな美人に幼い頃に手を出しておいて、認知してないってことか?」

 

「いやそうじゃなくて」

 

「だったら、何だ? 子供がいるんだぞ、父親としてしっかりとだな」

 

 そこまで言いかけた源さんは、アベルを見たまま固まる。

 

 察してくれたかとアベルが安堵していると。

 

「・・・・・・他人の子供を育てようってのか、アベル。そうかそうか、おまえさんはそこまで立派な人間だったんだなぁ」

 

「勘違いの方向性がまったく違いますね?!」

 

「隠すなよ、なんだよそういうことかよ。あの嬢ちゃん達も苦労してるんだな、父親が逃げちまったのか、そうか、そういうことなんだな?」

 

「違いますから! そうじゃなくてですね」

 

 否定しかけたアベルは再び固まった。

 

 いや、待った、そうなのか。カナエとしのぶの家族の話なんて、一度も聞いたことがない。

 

 鬼を殺す剣士をやっているのだから、普通なら親は止めるはずだ。それなのに二人は未だに剣士を続けているのは、そういう理由があるからか。

 

 例えば、両親が元々、その部隊の所属で、一族はそこに所属することが義務のようになっているとか。

 

 例えば、両親がもういなくて仇打ちのために入ったとか。

 

 一つ目はなるほどと頷けるし、二つ目もそうかと同意できる。しかし、そうなるとカナエの『鬼と友達になりたい』発言が、矛盾してこないか。

 

 代々、鬼を狩っている家系の人間が、鬼と友達になんて言うか。アベルの基準では『言わない』。鬼を残らず狩ってやるというならまだ解る、その逆を言うなんてよほどの『馬鹿』か、世間知らずくらいか。

 

 では両親が亡くなっているか、鬼に殺されるか。こっちだと余計に、『え、おまえ頭は大丈夫か?』って言いたくなる。

 

 自分の両親を殺した鬼と、別種だとはいえ同じ鬼って連中と友達になりたいなんて、そんなことを考えるほど能天気なのか。

 

 確かカナエは『花柱』とか言っていたか。

 

「頭がお花畑だからか?!」

 

「そうかそうなんだな。嬢ちゃん達、あんなに若いのに子持ちなんて。どんな酷い親なんだか」

 

「能天気そうなあいつにぴったりだ!」

 

「苦労してるんだな、あの年で子もちか」

 

 アベルが納得して頷き、源さんがうんうんと頷いていると。

 

誰が能天気でお花畑で子持ちなのかしら?

 

 鬼(頭のなか花畑で子持ちの疑いあり)が、降臨しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三時間、正坐で説教を貰いました。

 

「この子は、カナヲよ。栗花落・カナヲです」

 

「え、だからカナエの子供」

 

 アベル、思わず言ってしまい、再びの鉄拳制裁。

 

「私はまだ処女だから!」

 

「姉さん?!」

 

 思わずの発言をしてしまう姉と、慌てて止めに入る妹。二人ともそのまま何故か顔を真赤して沈黙。

 

「へぇ、そうなんだ」

 

 痛い頭をさすりながら、アベルは目線を彼女に合わせた。

 

「初めまして、アベルです」

 

 苗字を名乗ると誰も発音できないので、彼はそう自己紹介するようになっていた。

 

 彼女は答えず、ジッと見つめてくる。

 

 やがて彼女はコインを持ち出し、指で弾いてコインが宙を舞い、彼女の手に再び乗った。

 

「・・・・・・・」

 

「・・・・・・えっと」

 

 コインを見つめた彼女は、顔をあげてアベルを見つめるだけ。

 

「だから、姉さん、この子にはもっと色々と教えないと」

 

 しのぶのため息を聞き、アベルが視線を向ける。

 

「え、どういうこと?」

 

「その子、自分で動かないのよ。こっちが何か言うまで、ずっとそのままで」

 

「珍しい子だね」

 

「孤児だから」

 

 そっか、とアベルは小さく呟いた。

 

 珍しい話じゃない、戦争を知っている世代からすれば両親が健在であるほうが、とても珍しいことだから。

 

「だから、コインを投げて裏表で決めるようにって、姉さんが」

 

「え、いやそれって」

 

「いいじゃない!」

 

 呆れたしのぶと、それに呆れたアベル。二人に見られたカナエは電光石火の動きでカナヲに抱きついた。

 

「カナヲはこんなに可愛いから!」

 

「いや打開になってないから」

 

「可愛いは正義よ!」

 

 何故か力説を始めたカナエに、アベルは苦笑するしかなかった。

 

「だから、カナヲ用の刀を三つください」

 

「あ、私にも予備で二つください」

 

「当然、私にもね」

 

 予想外のおねだりが入りました。

 

「え? いや待って、なにその話の結論、いや待った待った、一本で十分じゃないの。三つもあってどうするって言うの」

 

 アベル、あまりにあまりはことに混乱した。

 

 あれ一本でどのくらいの資材を消費するのか、この目の前の二人は理解してないのだろう。

 

 アベルはその後、何度も何千回と説明したのだが。

 

「願い、ね」

 

「お願いします」

 

「・・・・・・・」

 

 上目遣いで言ってくるカナエと、ぎこちないながらも笑顔で言ってくるしのぶと、コインで決めた結果で見つめてくるカナヲ、三姉妹に見つめられて折れることになったのでした。

 

 そのことを、真っ先に逃げたのに、また戻ってきた源さんに見つかり。

 

「姉妹か、おしいね。いやアベルの奴だったら、三姉妹ごと娶りそうじゃねぇか」

 

 なんて言っていたとか、言わなかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太陽光エネルギーを使用したビーム・サーベル、万が一の時に太陽光での充電可能。非常時にエネルギーを周辺に展開し、防御フィールドとして実行可能。

 

 また発光部分から楯のようにも展開でき、三十発限定ではあるが射撃武器としても使用可能。

 

 本体にかなり貴重な鉱物とか部品を使っているため、実際に製造するとなると五百メートル級の戦艦一隻分の価格となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 














 というわけで、カナヲ参戦。彼女もビーム・サーベル装備。最終試験とやらに持って行って、山火事とか起きたりして。

 あ、まだ小さいカナヲだからビーム・サーベルが振れないからファンネル装備とか。

「行ってファンネル」

 なんてコインを手のひらに乗せたカナヲの指示で、飛びだしていくファンネル達。




 いい感じかもしれない!!









「ゆっくりゆっくり深呼吸しましょうね」

「え、待って、しのぶちゃん、その液体、何?」

「お薬ですよ」

「絶対に何かぎやぁぁぁぁぁ!!」

 なんて、笑顔の女医のしのぶに、実験体にされる童磨。なんてこと書きながら考えてしまいました。







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やり過ぎたらこうなるな、いい見本だ







 時系列が少しあやふやですが、フワッとした物語でございますので、多少はご容赦ください。

 フワッと思ったことをフワッと形にする、気楽に楽しく今日も悪鬼滅殺。

 いや、大量破壊による殲滅戦かなぁ。










 

 

 

 

 

 

 

 今日も空が青い。アベルはそんなことを思いながら、小さくため息をついた。

 

 自分はどうも、女の子に甘いらしい。

 

「ありがとうアベル君」

 

「あ、はい」

 

 嬉しそうに七本の桜色の棒を抱えるカナエに、溜息交じりに答えるくらいいいじゃないか。

 

 あれ一本で、どれだけ貴重な資源を使ったか、どのくらいの価格が消えたのか、彼女は理解してない。説明していないのだから、彼女がしっているわけがないか。

 

「これでしのぶも安心ね」

 

 アベルが顔を向けると、カナエは少しだけ悲しい顔をしていた。

 

「そんなに嫌なら『ダメ』って言えばいいのに」

 

 思わず言ってしまってから、しまったと口を抑えた。

 

「そうね、そうかもしれないわね」

 

 カナエは怒った様子もなく、やはり悲しい顔のまま笑みを浮かべた。

 

「私はしのぶに鬼殺隊から抜けてほしいの。あの子は、普通に幸せな生活をしてほしいから」

 

 だから、本当はと続けようとしたカナエの言葉を、アベルが遮った。

 

「自分だけ自由に生きて、妹は駄目って?」

 

「え?」

 

「カナエさんは自分がやりたいって思ったことをやるのに、しのぶにはやるなってこと?」

 

「そ、そうじゃなくてね」

 

「同じだよ。鬼を殺したい、鬼を狩りたい。そう願っている子に、『やるな』なんて言っておいて、自分はそれをしているなら。説得力はないさ」

 

 冷たい言い方かもしれないけれど、アベルにはカナエの言葉は自分勝手に聞こえる。

 

 彼女達に何があったかをアベルは知らない。胡蝶姉妹が、どういった思いを抱いて鬼殺隊に入ったのか、鬼を狩り続けているのかなんて知らない。

 

 鬼を使った実験をしているから、鬼を普通の人間が狩るために、どれだけの力が必要か解る。一般人では無理、特別な訓練を積んだとしても、簡単なことではない。

 

 かなり勝率の悪い賭け、もしかしたら死ぬかも知れない。そんなところに妹を置いておきたくない、死んでしまうかもしれない世界から妹を遠ざけたい。

 

 カナエの気持ちは理解はできるが、それを願っている本人が妹を遠ざけいた世界にいたら説得力なんてない。

 

 何よりだ、こんな話をしている家の入口の所に、当人の気配があるのならなおさらだろう。

 

 ショックを受けて、逃げ出そうとしたしのぶには悪いけど、そのまま固まってもらおう。

 

 近衛の一機に命令、しのぶの口をふさいで、そのまま拘束。

 

「妹を危険な目にあわせたくないのよ。姉として当たり前のことじゃないの?」

 

「そう思うように、妹も姉を危険な目にあわせたくないって思わないって、そんなこと考えてないか?」

 

「それは、そうかもしれないけど。でも」

 

「カナエさんのそれは傲慢だ。自分勝手ともいえる」

 

「アベル君」

 

 ちょっと睨むような視線に、溜息をついてしまう。

 

 とても簡単な話なのに、彼女は理解してない。言葉では解っていても、頭が理解してないなんて。

 

「君が妹を想うように、妹も君のことを想っている」

 

「解っているわよ」

 

「解ってない。君が死にかけた時、しのぶがどんな思いだったか、理解してないから、そんなこと言えるんだよ」

 

「それは」

 

 カナエが言葉に詰まり、入口の気配が微妙に揺れる。こんな距離で妹の気配が解らないほど、カナエは動揺しているのか。

 

「相手に『止めろ』っていうなら、君も止めるべきだ」

 

「出来ないわよ」

 

「鬼と仲良くなりたいから?」

 

 問いを投げた時、カナエは答えに詰まったような顔をした。

 

「復讐?」

 

 顔が驚きに染まった。

 

 鬼と仲良く、それは彼女の本心かもしれないが、それがすべてではないらしい。

 

「アベル君、今日は意地悪じゃない?」

 

「貴重な武器を七本も強請られたら、意地悪にもなるって。単純計算でそれ一本いくらになると思ってるの?」

 

「そんなに?」

 

「そんなに。そうだね、一本でこの時代の豪邸が建つだろうね」

 

 ピシリと二つの気配が固まったのでした。

 

「後は、話し合いなよ。きちんと言葉に出さないと伝わらないことがあるから、俺達は同じ言葉を話しているんだからさ」

 

「え?」

 

 まだ気づいてないか、とアベルは呆れながら指をさす。

 

 カナエは釣られるように振り返り、入口から顔を見せたしのぶを見て表情を蒼ざめさせた。

 

「姉さん」

 

「しのぶ、あの、これはね」

 

「アベルさん、ちょっと座敷を借ります」

 

 勢いのまま姉の手を取ったしのぶは、そのまま奥の座敷へと上がって行った。

 

「ちょっとしのぶ! アベル君!」

 

「はいはい、姉妹仲良くケンカして内心でも言い合いなって」

 

「あのね!」

 

 怒った顔で引っ張られていくカナエに、アベルはにっこりと微笑んだ。

 

「生きている間にしか、人間は話し合えないんだ。何も言えないまま死んだら、残されたほうは辛いだけだからさ」

 

 彼女は、それに驚いた顔で座敷の中へ消えて行った。

 

「・・・・・・文句が言えるだけ、ケンカできるだけいいことだって、あの姉妹に思い知らせたくないな」

 

 小さく指を弾くと、モニターが日本地図を映し出した。

 

「・・・・・・最終選別の鬼はいいとして、他の鬼の反応は邪魔かな」

 

 アベルが呟くと、モニターに『作戦開始?』の文字が浮かんだ。

 

 彼はそれを指で弾いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球衛星軌道上。

 

 人の目に映らない漆黒の闇の中、全体を覆うほど巨大なフィールドの中に隠れるようにしてそれらは同一方向へ艦隊を組んで進んでいた。

 

 様々な艦種と、色々な種類の船達が組み上げた、一つの生命体のような艦隊から数隻の戦艦が、ゆっくりと離脱していく。

 

『作戦開始を受諾。市街地以外の『鬼』への攻撃開始』

 

 離れた戦艦が回転、主砲が地表へ向くように姿勢を修正しながら、各自が決められた座標へと進む。

 

『目標への衛星軌道上からの砲狙撃を開始。弾頭、『GN粒子圧縮』弾頭使用。誤差修正のため情報統制艦および、偵察機の降下を開始』

 

 後方配置の空母部隊から戦闘機が飛び出してく。

 

 それらは戦艦を追い抜いて地表へと降下しながら、鬼の反応のあった地点の上空へと進む。

 

 同時に、情報を集めて戦艦への指示を出す情報統制艦が、戦艦部隊へ概念伝達を併用した情報ネットワークを構築。

 

『偵察機部隊、配置完了』

 

『戦艦部隊、主砲準備完了』

 

『情報統制艦より全準備及びデータ・リンク完了を報告』

 

『作戦開始』

 

 短い命令の後、戦艦部隊は一斉に地表へと攻撃開始。

 

 市街地や人が多い場所にいる鬼以外は、この砲撃で周辺百メートルを一緒にこの世から細胞の一欠片も残さずに消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『作戦終了。市街地の鬼以外の反応消失』

 

「空挺降下は無理か」

 

 他の反応を見ていたアベルは、小さく嘆息した。

 

 二メートル大の機械兵による歩兵師団は準備している。歩兵師団を搭載して地上へ降りる軍艦もある。もちろん航空機タイプもあるのだが。

 

「意外に周辺に人がいるんだな」

 

 鬼の主食が人間なら、食いつくして反応がないと考えていたら、鬼は食料の消費だけじゃなく生産も考えていたようで、人間の反応が鬼の近くに多い。

 

 空挺降下して鬼を殲滅、なんてことしたら人間も殺してしまう。

 

 アベルは虐殺者じゃない。敵対してきたら容赦しないが、敵対してない人間まで殺してすべて終わらせる、なんてことは考えてないし実行したくもない。

 

 鬼に対しても、最初に自分を襲わなければ放置していい、と考えるくらいに周りの人間に冷めている部分もある。

 

 ただ、顔見知りが危険に陥ったら薙ぎ払うくらい、良く解らない性格破綻はしているが。

 

 今は止めておくか。アベルがそう考え、艦隊に撤収命令。

 

「さてと」

 

 細工の仕事に戻るか、と手を動かしたアベルは、ふと思い出したように耳栓をしたのでした。

 

「しのぶはもっと普通に生きてほしいの!」

 

「姉さんは勝手じゃない! 二人で鬼を狩ろうって約束したのに!」

 

「それはそうだけど! いつか死んでしまうかもしれないのよ!」

 

「姉さんだってそうじゃない! あの時だってアベルさんが間に合わなかったら!」

 

「今は生きているから大丈夫よ!」

 

「死にかけた人間が言っても信用なんてできない!」

 

「貴方は姉が信じられないの?!」

 

「姉さんだって妹の私を信じてないじゃない!」

 

「信じてるわよ!!」

 

「じゃあなんで鬼殺隊を抜けろなんて言うの?! 姉さんは勝手よ!」

 

「勝手って何よ?!」

 

「昔から姉さんは勝手すぎる! 一人で決めて一人でしようとして! そんなに私は頼りにならないの?!」

 

「そうじゃない! そうじゃないから!」

 

「じゃあ何よ?!」

 

「貴方に何かあったら私は!!」

 

「それは私だって同じだってなんで解ってくれないの?!」

 

「貴方が生きていてくれればいいのよ!」

 

「姉さんが死んだら私はどうすればいいの?!」

 

 座敷から響いてくる怒鳴り声をアベルは聞かない。

 

 最初のきっかけを作ったのは自分だけれど、内容を聞いて口を挟む資格なんてないから。

 

 姉妹の問題は姉妹同士で解決する。そこに他人が口を挟む余地もなければ、権利もないのだから。

 

 と、かっこよく言っているのだが、アベルの体は微妙に震えている。

 

 穏やかなカナエと気が強くても何処か優しいしのぶ、あの二人があんな声で怒鳴り合うなんて。

 

「世の中、知らないことが多いなぁ」

 

「アベル君!!!」

 

「アベルさん!!」

 

「聞こえない聞こえない。俺じゃなくてお互いに納得しなさいって」

 

「聞こえてるじゃないの! もう!!」

 

「貴方はどっちの味方なんですか?!」

 

 耳元で聞こえる声に振り返ってみると、何故か二人が怒った顔で立っていて。

 

「どっちって」

 

 二人の顔を交互に見たアベルは、ゆっくりと笑顔を浮かべて。

 

「俺の味方に決まってるじゃない」

 

「最低!!」

 

「馬鹿!!」

 

「いやなにその理不尽」

 

 二人に怒鳴られ、アベルは嘆息したのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鬼が何処にいるか、何処に隠れているか、アベルは知っている。

 

 中でも特に反応の強い鬼は、常にロックをかけて現在位置を把握しているので、不意な遭遇戦はほとんどない。

 

 近寄る前に部隊を展開、最接近を許しても十メートル以内に入らせたことはない。

 

 例え相手が十二鬼月であっても、上弦であっても。

 

 以前、上弦の壱に接近を許してから、そういった警戒網と迎撃網を構築することにした『軍勢のアベル』に、隙はないように見えた。

 

 ただしこれは、鬼に対してのみ。

 

「カー! カー!!」

 

 人間や動物、ましてや普通によく見かけるカラスなんてものは、警戒網や迎撃網の対象外。

 

「今日はやけにカラスが多いな」

 

 カナエとしのぶの姉妹ケンカから数日、お互いに言い合ってお互いの想いを知った二人は仲良く帰って行った。

 

 言えないまま離れ離れになったり、仲違いをすることなく、仲のいい姉妹に戻れたようで良かった。

 

「にしても、カラス多くないか?」

 

 店先から見える屋根の上、それにびっしりとカラスが止まっていて。

 

「・・・・・・小型の偵察ロボットだったりして」

 

 まさか、とアベルは自分が考えている結論に苦笑してしまう。

 

 最近、鬼の襲撃がないから気が緩んでいたのか。それとも、鬼が襲撃してこないから退屈して、戦う思考になってしまっていたのか。

 

 どちらでもいいか。

 

 今日はカナエもしのぶも来ていない。最近はどちらかが必ず来ていたから、珍しいこともあるものだ。

 

 アベルはそんなことを思いながら、家の中へ戻って細工に取りかかろうとしていた時だった。

 

『周辺に『未確認の人間多数』』。

 

 不意に脳裏に流れた情報に、手を止めた。

 

『武装している可能性大』。

 

 続いた情報に、アベルは座ろうとしてた足をそのまま座敷へ向けた。

 

 普通に慌てることなく、座敷の中へと入っていき、後ろ手に襖を閉める。

 

「状況確認」

 

 外から見えなくなったのを確認し、小さく声を出す。

 

 脳内に周辺地図が表示され、続いて複数の人間の反応が追加、さらに外部映像も添付。

 

 確かに見たことない顔が、この家の周りを囲んで様子を窺っている。

 

 見なれない服装だ。いや見たことがあるような、ないような。それに誰もが手に刀を持っている。

 

 確か廃刀令で刀の所持には許可がいる。持っているのは警察官くらい、とか言っていなかったか。

 

 バレた、と考えるべきか。

 

 アベルは異邦人、今の日本には珍しい外国人だとバレたか。

 

 あるいは、何処からからの流れ者と勘違いされたか。最悪の場合、犯罪者だと疑われているか。

 

 どれにしても、今の状況は不味いか。

 

 捕まって事情を話せば解ってくれるか、こちらがどんな事情を話したとしても疑いを晴らすのは簡単じゃない。

 

「・・・・・・逃げるか」

 

 資金は十分ではないが、溜まった。

 

 源さん達や大家さんには悪いが、ここは逃げた方がいいかもしれない。犯罪者をかくまったなんて広まったら、あの人達に迷惑をかけてしまう。

 

 家賃分くらいは置いていくか。蓄えていたうちの半分は大家さんのところへ転送して、後の半分で何とか逃げ回ろう。

 

 細工の仕事も慣れてきたから、逃亡先でもどうにか生活できるだろう。

 

 では逃げよう。結論を抱いたアベルは、早々に動き出した。

 

 同時に、周りを囲んでいた何者かが家の方へと近付いてきた。

 

「遅いよ」

 

 小さく呟きだけ残し、アベルの姿は上空へ。

 

 転送装置なんてこの世界にないから、簡単に逃げられたな。

 

 下を見れば、多くの人間が家の中を探しているのが見えた。

 

「誰なんだろ?」

 

 しばらく様子を見ていたアベルの視界に、誰かと言い争っている胡蝶姉妹の姿が入る。

 

「・・・あれ、鬼殺隊だったのかな?」

 

 カナエとしのぶが何か言っているようだが、ここまでは聞こえない。

 

 彼女の周辺にいる剣士は、誰もが同じ服装をしているから、間違いなく鬼殺隊なのかもしれない。あれだけの人間が、鬼ではなくアベルのために集まったということは。

 

 危険だと判断されたか。

 

「よし逃げよう。面倒はごめんだ」

 

 彼はそう呟き、そのまま『個人用エア・プレーン』を動かして行方をくらました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから! アベル君なら私としのぶで話に行けば大丈夫ですから!」

 

「こんなに大勢で言ったら警戒されますよ!」

 

「しかしな」

 

「危ない子じゃないんです」

 

「唐変朴ですけど」

 

「しのぶ!!」

 

「だって姉さん!」

 

「目標発見できません!」

 

「逃したか、お館様がお会いしただけだったのだが」

 

 アベルの完全な勘違いと、ちょっと大げさなお出迎えでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

「アベル君?」

 

「あ、カナエさん、ビーム・サーベルは全部ここに置いてね。勝手に補修と修理と充電されるから」

 

「え、はい」

 

「じゃ」

 

「待って!」

 

 何故か、蝶屋敷に装置を設置して消えたアベルと、そこに思わず返事をした後に、彼が消えてから思い出したカナエがいたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にいいの? 見知らぬ人間がお邪魔するのってさ」

 

「いいんですよ、困った時はお互い様ですから」

 

「ありがとう、俺はアベル、君は?」

 

「竈門・炭治郎です」

 

 とある雪山で、二人は出会ったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 




 







 というわけで、一気に走り抜けました。

 一度はやってみたい、鬼に対しての理不尽攻撃その参です。

 いや、衛星軌道上からの砲撃ってどうやっても生物には防げないなぁって考えるわけですよ。

 時系列とかすっ飛ばしはお許しください。

 短編ですし、胡蝶姉妹との生活だけで終わってしまいそうだったので。

 というわけで、次回からは本編に合流。







「ねえ、綺麗でしょう?」

「こ、これは華?」

「ええ、それは貴方の命を吸って咲く華、とても綺麗な赤い華ね」

「ぎゃぁぁぁ」

 なんて、何処かの黄金セイントっぽい華を使った攻撃するカナエって、とっても綺麗かもしれない。

 いや怖いか。

 童磨はこうして、胸にバラの華を咲かせて死にましたとさ。





 それか。

「花の呼吸、拾の型『撫子』」

「え、いやそれって」

「重力波砲、撃てぇ!」

「ぐぁぁぁぁぁ!!」

 とか、どっかの戦艦の艦長するカナエと、砲撃されて塵になる童磨とか。

 胡蝶・カナエ艦長、いいかもしれない!









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最近の戦争は、ボスを倒しても終わらない

 




 ちょっとやりすぎて鬼殺隊に追われることになったアベル君。

 逃げようと思って逃げ出したはいいのですが、大変なことになってしまって。

 色々あって竈門家に居候しているアベル君。

 そんなフワッとした話です。










 

 

 

 

 

 

 その人に会ったのは深い雪が降り始めた頃、山道を歩くのにも苦労しそうな場所で、何故か木の上に座って『お腹すいた』なんて言っていた。

 

 迷子ですかと声をかけると、あの人は驚いた顔をしてこちらを見た。

 

 その人からは不思議とお日様のような匂いと、かなり濃い血の匂いと、それと鉄の匂いがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思わず怖い人たちに囲まれたアベル君。

 

 怖い人たち、鬼殺隊の方々と戦うなんてことできないので、思わず逃げることを選びました。

 

 お世話になった人に迷惑をかけたくないから、そんな短絡的な考えで逃げ出したのですが、考えてみればアベル君が逃げたほうが残されたお世話になった人たちが困ることになるのです。

 

 隠したとか逃がしたなんて言われて、逃亡補助なんて罪になったりするのですが、アベル君はそこまで頭が回りません。

 

 ご迷惑をおかけしたなんて思ったら、逃げるなんて考えずに身の潔白を立てた方がいいのに。

 

 けれど、アベル君は大正時代の日本人じゃなくて、銀河航海時代の魔導師なので『逃げる』だけを選んで即決断・即実行。

 

 手持ちのお金の半分を大家さんに転送、この時に彼は致命的なミスを犯したのですが、気づくことなく。

 

 逃げだして何処へ行こうか迷っていたら、カナエさんがいたので『あ、そういえばビーム・サーベルの整備が必要だよな』なんて思ったので、カナエさんの家に設備を設置。ついでに本人に見つかったので、世間話のように説明して相手の返答を待たずに逃げ出して。

 

 山を抜けて森を抜けて、さてお腹がすいたなと思った時に、自分の失敗を知るのでした。

 

 『あ、御金を全部、大家さんにあげちゃった』。

 

 転送システムは同一物体は一つとして考え、同時転送してくれる優れた技術です。

 

 人間同士なら『別の物体』と考えるのですが、無機物はきちんと選ばないと大変なことになります。

 

 この時代のお金は、大体が同じつくりの物体なので、転送システムは考えました。

 

 『あれ、これ全部をやればいいんじゃね?』と。

 

 転送システムは悪くない、悪いのはアベル君。自分が扱っているシステムなのだから、その特性を把握してないのは駄目ですね。

 

 というわけで手持ちのお金がなくて、困っていたところを炭治郎少年に発見され。

 

 『家で食べていきなよ』なんて、自分の半分以下の少年にご飯をおごってもらうことになって。

 

 子供にご飯を恵んでもらうなんて、そんなこと悪いと断ろうにも意外に頑固な炭治郎少年に連れられて、竈門家に来ました。

 

 父と母と子だくさんの家庭にお邪魔して、ご飯を貰って。それでさよならなんてできないアベル君は、竈門家のお仕事を手伝うことにしました。

 

 そのついでに、父親の炭十郎さんの病気も治しましたとさ。

 

 ナノマシン、バンザイ。

 

 そして、冬を越して春を祝い、夏をなんとか乗り越えて、秋になって涼み、やがてまた冬になってを二度ほど繰り返した。

 

 今ここです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?!」

 

「どうしたんですか、アベルさん?」

 

「いやいやいや、二年も経ったんだなぁってさ」

 

「そうですね」

 

 隣で炭を縛っている炭治郎に話しかけたアベルは、深々と頷いてしまう。

 

「二年かぁ、二年だよなぁ」

 

「はい、二年ですね」

 

「居候で二年って。そろそろお暇しようかな?」

 

「ええ!? アベルさん、家が嫌いなんですか?」

 

「いや嫌いじゃないけど、そんなにお世話になるって迷惑じゃないかな?」

 

「父も母も『息子が増えた』って喜んでいますよ」

 

 何処までも懐の深い両親だなぁとアベルは思う。

 

 いきなり長男が連れてきた、身元不明の人物を夕食にご招待。普通は疑うか、やんわりと拒否するのに、そのまま一泊の寝床まで用意してくれて、そのまま居候しても嫌な顔一つしないなんて。

 

「恩義がたまるな」

 

 本当に優しくて暖かい人たちだ。

 

「もう家族みたいなものですから、気にしないでください」

 

「いや、そこまで甘えられないって」

 

「でもアベルさんの細工、評判で注文が来てますよ」

 

「ありがたい限りだね」

 

 炭十郎が気に入って、葵枝が気に入った細工はかなり自信作だ。こっそりと木を切ったり、岩を砕いたり、宇宙戦艦の工作室を使ったりした細工は、二人が気に入って身につけてくれて。

 

 そのまま街に炭を売りに行って、目にとまった人たちから注文を受けて、アベルが作ってまた売れてを繰り返し、それなりに有名になって行った。

 

 有名になった、というかなってしまった。凝り性ではないが、仕事に対しては真面目に取り組むアベルは、妥協って言葉が嫌いだから頑張って作ってしまい、有名になってしまった。

 

 彼は思う、できれば胡蝶姉妹にバレないように、と。

 

「よっと、アベルさん、こっちは準備できましたよ」

 

「じゃ俺も・・・・俺も」

 

 炭を背負う炭治郎に習い、アベルも背負ってみるのだが。

 

 彼の半分の炭しかないのに、しかもこっそり竈門家に伝わる『ヒノカミ神楽』の呼吸を使って筋力を上げているのに。

 

「上がらない」

 

「アベルさんって、意外に不器用ですよね。『ヒノカミ神楽』は一晩中でも踊れるのに」

 

「うううう」

 

「父さんも驚いていたのに。『あんなに見事に踊れる者は初めて』だって」

 

「炭治郎君、そこで止めて」

 

 明らかに妬みや厭味ではなく、純粋に尊敬しか向けてこない炭治郎の眼差しに、アベルは全身が悲鳴を上げているように感じていた。

 

 彼にはマイナスの感情が一切ない。常に人に優しく、誰かの嫌な部分を探すよりは、いいところを見つけようとする、まさに『いい子』だ。

 

 そんな彼だから、アベルが荷物を持てなくても『どうしてなんだろう』と疑問に感じるだけで、『サボっている』なんて考えない。

 

 原因を調べて、どうやったらできるか一緒に頑張りましょう、なんて笑顔で言われたら。

 

 もう、世界の裏側の冷たいもの汚いものを、『仕方ない』って割り切ってきたアベルにしてみれば、まさに鬼が太陽を受けたように溶けてしまいそうだ。

 

「よっし!」

 

 尊敬を向けてくれる炭治郎のためにも。

 

 お世話になっている竈門家の皆さまのためにも。

 

 アベルは気合を入れて、さらに呼吸も全集中で行って。

 

「いざぁぁぁ!!」

 

 グッと腰に力を入れて立ち上がり、そして。

 

「やりましたねアベルさん!」

 

 自分のことのように喜ぶ炭治郎に、アベルはニヤリと笑い。

 

 グギって音がして崩れ落ちました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、今日の炭売りは炭治郎一人で行くことになりました。

 

「はははは」

 

「そんなに笑わないでくださいよ、炭十郎さん」

 

「いやすまない」

 

 豪快に笑う彼は、少しだけ顔色が悪い。

 

 元々、体の弱かった人だ。不治の病さえ患って体力が落ちて、今にも死にそうなところにアベルが来た。

 

 最初に会ったとき、アベルにはどうして生きているのか、とても不思議だった。精密にスキャンしなくても、見ただけでもう末期だと解る顔色と体の動き。正直に言ってアベル達の世界の人たちなら、もう死んでいるかもしれない。

 

「今日の調子は?」

 

「とてもいいよ。大丈夫さ」

 

 話を変えるようにアベルが真顔になると、炭十郎は小さく微笑する。

 

「もともと、もう諦めていたことだからね。今も自分が生きていることが、奇跡のようだよ」

 

「奇跡じゃないですよ。炭治郎君が引き寄せた、必然です」

 

 苦笑するように告げる炭十郎に、アベルは真っ直ぐに告げた。

 

 あの時、自分を見つけなければ、家に呼ばなければ。優しく迎えてくれなければ、きっとこの人はもうこの世にいないから。

 

 今の幸せを、家族全員が揃っている現実を、悲しみを増やさなかったのは間違いなく炭治郎のお手柄だから。

 

「そうだね。私はいい息子を持ったよ」

 

「ええ、自慢に出来ますよ」

 

「そろそろ、もう一人くらい息子が増えてもいいのだけれどね」

 

 優しい瞳を向けてくる炭十郎に、アベルは小さく顔を背けた。

 

「いや俺は、その」

 

「何時でもいいさ。君が我が家に来てくれたら、私達はとても嬉しいよ」

 

 嘘でも打算でもなく、心の底からの願いを受けて、アベルは少し照れくさくて困ってしまう。

 

 障子を挟んだ向こうで、炭治郎以外の竈門家の全員がいることは、アベルにはすぐに解ったけれど、それを指摘して場の空気を壊して逃げることはできなかった。

 

 誰もが心の底からそれを望んでいることが、この二年の共同生活で解っているから。

 

「診察しますよ」

 

「フフフ、この分なら来年の春には落とせそうだね」

 

「まったくさ、本当に」

 

 悪態のように告げながら、アベルの表情は少しだけ笑顔だった。

 

 まんざらでもない、そう心の何処かで思っているのを、彼自身も知っているから。

 

 炭十郎の診察が終わった彼は、その後に穪豆子達に襲撃を受けて、日が暮れるまで遊ぶことになるのですが、この時の彼は医療用システムを使って必死になっていたので、気づくことはありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昔、雪はゆっくりと降り積もるから、『深々と降る』なんて言われていることを教えられた。

 

 深く、何処までもゆっくりと、それなのにすべてを覆い隠すように降り積もる雪は、まるで世界のすべてを塗りつぶすようにどこまでも白く綺麗で。

 

 アベルはそんな雪を夜半に眺めながら、小さくため息をついた。

 

「本当に鬼ってのは、暇なのか?」

 

 炭治郎が戻ってこない日の夜、街で遅くなったから一泊してくることは知っていたから、アベルは安心していた。

 

 もし急いで帰ってくるつもりなら、止めていた。戻らずに街にいろと伝えるつもりだった。

 

 急いで帰ってしまったら、この鬼と鉢合わせになっていたから。

 

「貴様は何者だ?」

 

 雪の中を、鬼が歩いてくる。

 

 何処までも冷たい瞳と、何処までも深い闇のような血の気配。今まで会った軍人や、大量殺戮を起こした殺人鬼でも、ここまで濃い血の気配を纏っている相手はいなかった。

 

「何者って言われてもな、この家の居候で異邦人だよ」

 

「ならば、おまえも死ぬがいい。その家に関わったことを後悔しながらな」

 

「後悔ね」

 

 鬼の背後から何かが出てきた。それは一瞬で距離を詰めて、アベルの首へ拳を突きつけようとして。

 

 空を飛んだ。

 

「いきなり始めるって、やっぱり鬼だな」

 

「貴様、何をした?」

 

「何をって。見えない?」

 

 嘲笑うように鬼を見つめる。そうか、見えないか、あの程度の速度で見えなくなるとは、やはり鬼はまだ生物の範疇だ。

 

「私を笑うか、貴様」

 

「怒るなよ。たかが、速度を上げただけだろ?」

 

 アベルの指が鳴る。

 

 音が響き渡り、その音に導かれるように白い影が降り立った。

 

 白い鎧をまとい、左手に楯を持ち、右手に光輝く剣を持つ。

 

 アベルの手駒の中でも、最大級の近接戦闘を行える機体。この機体を出した戦闘で負けたことはない、この機体が立った戦場で一度でも敵の接近を許したことはない。

 

 最強の幻影。

 

「レッド・ミラージュだ。よろしくな」

 

「なんだそれは? 貴様は何者だ?」

 

「アベルだ。『軍勢のアベル』そう呼ばれている」

 

「そうか」

 

 鬼の視線が少し動く。

 

 恐らく伏兵、アベルを正面に固定したまま、迂回して誰かを侵入させるつもりでいるのか。

 

 鬼の表情が微妙に動いた。勝ったとでも思っているのか、鬼を倒せるのがアベルと手駒だけだと思って。

 

「残念だったな」

 

「何?」

 

 一瞬の静寂、そして影が走った。

 

「『ヒノカミ神楽』、炎舞」

 

 短い声に反比例するような圧倒的な熱量。まるで太陽が生まれたような焔が踊り、鬼が跡形もなく燃え尽きた。

 

「炭十郎さん、張り切り過ぎてません?」

 

 あまりにあまりな一撃に、アベルは小さく顔を覆ってため息をついた。

 

「家族に手を出されてまで、温和な男ではないよ、私はね」 

 

 右手に刀を握った男、炭十郎は温和な笑顔を浮かべ、瞳に鋭い殺気を滲ませてアベルの横に立った。 

 

「見事な刀だけれど、これは?」

 

「もらいものですよ」

 

 誰と炭十郎は聞かなかったので、アベルは答えなかった。

 

 言えない、『天照』なんていいたくない。普通に、カフェでお茶している神様の知り合いがいるなんて、とても言いたくないから。

 

「その姿、その技、やはり貴様は」

 

 鬼が何か言いかけたが、アベルは待ってやるつもりは微塵もなかった。

 

「消えろ」

 

 アベルの前、一つの影が躍った。

 

「ガイバー・ギガンティック」

 

 名前を呼ばれたそれは、胸部装甲を開いた。

 

「ギガ・スマッシャー」

 

 鬼は、いや鬼舞辻・無惨はその瞬間に悟った。 

 

 あれは自分を消し飛ばす、細胞の一遍も残さないほどに膨大な『太陽だ』と。

 

「鳴女!!」

 

 無惨が叫び、音が一つ鳴った。

 

 彼の姿が消える間際、膨大な熱量を持ったエネルギーが山の一角を薙ぎ払った。

 

「・・・・・なあ、鬼ってのはそんなに」

 

 アベルの瞳が動く。

 

「偉いのか? まさか空間転移程度で逃げられるなんて、思ってないよな。妨害もジャミングもない、ただの空間転移でさ」

 

 舐められたものだ、とアベルは内心で吐き捨てる。

 

 たかが空間を隔てたくらいで、まったく別の場所へ転移した程度で、『軍勢』から逃げられるなんて思うなんて。

 

「思いしらせてやるよ」

 

 アベルの手が動く。

 

 レッド・ミラージュが巨大な大砲を構えた。

 

 同時に、その横に別の影が浮かび上がった。

 

 細い脚先、細い手足を持った機体は空中に浮かんでいたが、その両足を突き刺すように地面に降りた。

 

「ジェフティ、ベクター・キャノン」

 

 名を呼ばれた機体が両手を上げる、そこへ異空間からパーツが装着され、やがて巨大な砲門を出現させる。

 

 二機が構えた巨大な武器が、エネルギーを満たしてく。

 

 その光景を無惨は見詰めていた。遠目の力で見つめながら、愚かなと小さく呟いた。

 

「愚かなのはお前だ」

 

 アベルの言葉を引き金に、最初にベクター・キャノンが放たれた。通常時でさえ別次元、あるいは位相空間を貫通する攻撃は、鳴女が開いた転移空間を貫通した。

 

 続いて、レッド・ミラージュのバスター・ランチャーが炸裂。開いた空間の隙間に巨大なエネルギーを叩きつけ、それはやがて無惨の城の半分を消し飛ばす。

 

 通常時でさえ、撃てば半日は空間を歪ませる攻撃は、容赦なく鬼の根城をかき乱していく。

 

 アベルはしばらく空間の亀裂を睨んでいたが、小さく舌打ちした。

 

「チ、逃がした。クッソ、チャンスだったのに。あれが鬼の首魁か」

 

「なるほど、あれが。しかし、君も容赦ないね」

 

「俺は元々、こんな戦い方をしていたので。どうです、息子にしたいなんて、思わない方がいいでしょう?」

 

 諦めてと願ってアベルが告げると、炭十郎は刀を鞘に収めながらニヤリと告げた。

 

「教育をやる気が出来てきたよ」

 

「え、まって、なんでそっちに?」

 

「はッはッはッは、是非とも家の子になりなさい。きちんと体を鍛えてあげよう」

 

「待って、炭十郎さん、なんでそこに行きついたんですか?」

 

 笑顔で家に戻っていく背中をアベルは追いかけながら思う、この時代の人たちって逞しすぎませんか、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、なんでここの雪は消えてるんだろう?」

 

 翌日、家に戻る炭治郎はそんなことを思ったのでした。

 

 

 

 

 

 




 





 無惨、撃ちとれず!

 空間と空間を繋げるなら、ベクター・キャノンでまず空間を隔てているところを狙って穴を開けて、バスター・ランチャーを打ち込めばなんとかなる、って考えてやってみました。

 結果、逃げられました。

 やっぱりそう簡単に討てたら苦労しないね。

 炭治郎が『ヒノカミ神楽』を使わずに、父親の炭十郎が使って鬼を撃退。

 やっぱり息子の前に父親がやらないとって感じで、フワッと書いてみました。






「炭治郎、ヒノカミ様になりきれないなら、私がやってあげよう」

「え?」

「いざ、『ヒノカミ神楽』円舞」

 父親最強伝説とかやってみたい今日この頃です!









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数の暴力って本当に酷いよね





 さてと、無惨様が撃ちとれなかったし、竈門家も生存したので。

 フワッとした理不尽な鬼退治の始まりです。









 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アベルが胡蝶姉妹の前から姿を消してから、四年が経った。

 

 力も必要なく、簡単に鬼の首が切れるビーム・サーベルの存在は、鬼殺隊だけではなく鍛冶師達にも驚愕を与えた。

 

 今まで警官などを気にして、隠すようにしていた刀。それが袖口に隠せるほどに小さくなり、威力もかなり高くなった。

 

 鬼に当てればいい。首を斬ることなく、体のどこかに当てればそこから崩れていく鬼を前にして、誰もがことの重大性に気づく。

 

 『これがあれば、鬼など恐れることない』。そんな考えが浮かんでしまうほど、ビーム・サーベルの存在は鬼殺隊を揺さぶっていた。

 

 しかし、だ。その一方で製造や複製は不可能との結論も出ていた。

 

 分解しようと近づいたら、警告音が鳴る。持主の胡蝶カナエ、胡蝶しのぶ、栗花落カナヲの三名以外が持っても作動しない。

 

 鍛冶師達は早々に諦めるしかなく、鬼殺隊のトップ『お館様』からも『触れないように』との話もあり、その武器は四年もの間、鬼殺隊の中で禁忌とされていた。

 

 『触れるな危険、分解したら爆発します』。

 

「アベル君」

 

 充電器か修理機のような機械の裏側から、カナエが発見した説明書に手書きでそんなことが書いてあったとか。

 

 強力な武器がある、なのに誰もが扱えない。ジレンマのような感情が鬼殺隊の中に流れている中で、事態に動きがあった。

 

 噂が流れた。

 

 ある山に『神様』が下りた、と。

 

 噂を詳しく調べたら、眩しいくらいの光が山の周囲を削ったとか、百鬼夜行が行われたとか。

 

「アベルさん」

 

 その話を聞いて、しのぶは思った。『あいつ、またやったな』と。

 

 魑魅魍魎が溢れる。この世のものとは思えないほどの、悪鬼羅刹がそこをうろついている。

 

 人間ではない、人間に見えない何かが山の中を徘徊していた。獣が蠢いている、子供が巨大な筒を抱えていた、そんな話が流れる山。

 

 いつしか、その山は最初の名前を誰も呼ぶことなく、新しい名前で呼ばれるようになった。

 

 『軍勢の山』と。

 

「・・・・・・」

 

 栗花落カナヲは、その話に珍しく怒った顔をしたとか。

 

 そして、胡蝶姉妹はその山の調査のために、ここに来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの山かい? まあ、近くに住んでいる分には、恐ろしくはないね」

 

 山の近くの町に立ち寄ったカナエとしのぶは、まずは情報を集めることにした。茶屋に入り、何気なく話を振ったら、店主は山を見つめながらそう答えた。

 

「奇妙な鬼みたいな奴がいたって話や、鎧武者が歩いていたなんて話も聞くけどな」

 

 山を見る店主の目は、とても穏やかなもの。怖いとか恐れている様子はまったくない、どちらかといえば。

 

 護ってくれる存在に対する尊敬が見えていた。

 

「そうですか」

 

「お嬢さんたち、もし山に入ろうって考えているなら、丁度いい子がいるよ」

 

「丁度いい子?」

 

「丁度、炭を売りに来た。ほら、あの子だよ」

 

 店主が指さす先には、大きな籠を背負った少年と少女が立っていた。

 

「おーい、炭治郎、穪豆子。この二人が山に入りたいんだとさ」

 

「あ、おじさん! この人たちが、ですか?」

 

 少年のほうは、人懐っこそうな笑顔を浮かべていた。何処にでもいるようあ純朴な少年、という見た目。

 

 一歩、彼が歩きだした瞬間にカナエとしのぶの顔が鋭くなった。

 

 明らかに何か『剣術』をたしなんでいるような動き。普通の和装をしているようだが、服の材質に違和感があった。

 

 一瞬、彼の右手が後ろ腰に向いた。

 

 同時に少女の両手も後ろ腰に。こちらは隠そうとせずに今も後ろ腰に、両手を向けたままだ。

 

「初めまして、竈門炭治郎です。あの山の中に家があります」

 

 穏やかに話しながらも、一部の隙が見えない。

 

「妹の穪豆子です」

 

 挨拶しながら彼女の目線は、カナエとしのぶから外れない。その両手を捕えて、見落とさないと顔が語っていた。

 

「初めまして、胡蝶カナエです」

 

「妹のしのぶといいます」

 

 自己紹介に合わせて笑顔で答えながらも、二人の両手は袖の中でそっとビーム・サーベルを握っていた。

 

 お互いがお互いを、『普通じゃない』と感じていた。何処か今の時代にはない、何かを身につけているような。

 

「山に用事って、何があるんですか?」

 

 炭治郎が笑顔のまま、世間話のように語りかける。その目線が、一瞬だけ鋭くなったのをカナエとしのぶは見落とさない。

 

「探している人がいるの」

 

 世間話を続けるように気楽にカナエは答え、しのぶは笑顔を浮かべながら視線を妹へと向けていた。

 

 穪豆子も気さくな雰囲気を纏いながらも、しのぶへと注意を向けている。

 

「どんな人ですか?」

 

「アベル君って言うんだけどね」

 

 空気が変わったのが、カナエとしのぶには解った。

 

「アベルさんに、何か用事ですか?」

 

 炭治郎の笑顔は変わっていない。ただ纏う雰囲気が、とても険しくなっていた。

 

「あの人とどういう関係?」

 

 穪豆子のほうは、後ろ腰にまわした手に力が入っている。あれは隠した何かを握っているではないか、としのぶは感じた。

 

「ちょっと、知り合いかな」

 

 カナエも少しだけ気配を鋭くしながら、そっとそで口からあるものを取り出した。

 

「私たちは、これをアベル君から貰っているの」

 

 彼女がとり出したものに、炭治郎と穪豆子の雰囲気が和らいだ。

 

 カナエが持ち出したのは、ビーム・サーベルの柄。

 

「あ、同業者だったんですね」

 

 ほっと安堵する炭治郎。

 

「な~~んだ、また鬼が化けてきたんじゃ、って緊張した」

 

 穪豆子も安堵のため息をついて、両手を戻した。

 

「またって?」

 

 カナエが疑問を口にするが、炭治郎と穪豆子は答えることなく周囲を見回した。

 

「この二人はアベルさんの関係者みたいなので」

 

「警戒態勢解除でお願いしまーす」

 

 二人の声に、周囲の人たちが一斉に袖口に入れていた手を出した。

 

「撤収か、良かったな」

 

「また街中に入られたのかと思ったぜ」

 

「何言ってんだい! 外周の結界は入れ直したばっかりじゃないのさ」

 

「配線工事、遅れたって話もあったじぇねぇか」

 

「おーい、誰か外で警戒している奴らに大丈夫だって連絡しろ」

 

 良かったと口にしながら離れていく町民たちに、カナエとしのぶは唖然として固まったのでした。

 

「改めて!」

 

 そんな二人に炭治郎は笑顔で告げる。

 

「俺達の対鬼用城塞都市『鬼滅』へようこそ!」

 

「はい?」

 

 その日、カナエは思った。

 

 『アベル君には自重が必要だ』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 城塞都市とは、ある目的のために防備を固めた都市構造の一種、とアベルの世界では言われている。

 

 銀河戦争が当たり前で、惑星の中だけの戦闘が稀な時代に生きているアベルにとって、町一つ分を護るなんてことはやったことがないし、非効率的だとも思っている。

 

 この時代の町くらいの大きさの場所に防御陣地を構築するくらいなら、大型戦艦を一隻、作った方がやりやすい。都市は動けないが、艦艇ならば動けるのだから、侵略者に対しての対処のしやすさ、攻撃された時の対応の多さを考えたら、絶対に大型艦艇のほうがやり易い。

 

 あの時、鬼舞辻無惨の襲撃の後、何度も鬼の襲撃があった。

 

 狂ったように、何度も何十回も。まるで竈門家を目的にしたように、何度となく迫りくる鬼に、炭十郎と炭治郎は弱音一つ吐くことなく迎撃し、同時にアベルも軍勢を使って退けていた。

 

 毎回、危なげなく勝てる。家族に被害はなく、周辺の被害も抑えられるようになってきた頃、近くの町の町長から相談を受けた。

 

 『もう限界だ』と。

 

 毎夜、鬼が迫りくる。人の手に余る、人を超えた、人を食う鬼が来るのに、夜の間に眠れる人間はいるわけがない。

 

 何度も襲撃されて街の人達は疲弊し切っていた。どうしてこんなことに、何で自分達が。そう思って竈門家の人たちに怒りを向けるのは、当たり前のこと。

 

 迫害、憎悪、そんな眼を向けられることを覚悟していた竈門・炭十郎の前で、町長は深く頭を下げた。

 

 『どうか、私たちにも戦える力をください』と。

 

 現代ではなく、今は大正。人の意識は暗い、ドロドロとしたものがあるのは時代が違っても同じ。

 

 あいつが悪いと責任転嫁すれば、あいつが憎いと思ってしまえば楽なのに、この街の人達はまったく違う想いを抱いた。

 

 『鬼が悪い、鬼がいるから駄目だ、なら倒そう』。

 

 いやそこは逃げるって選択肢があるでしょうが、なんて誰かが遠くで叫んでいたようですが、この街の人達の耳には入ってこず。

 

「鬼は絶対に許せん、平穏を返せ」

 

「あいつらは俺達から穏やかな日常を奪いやがった」

 

「家族を食う? 許せるかそんなこと」

 

「やっちまないよ」

 

「むしろ殺ろうぜ」

 

 そんなことを言い合った街の人達は、最後に一致団結してこう告げた。

 

「鬼は死すべし、滅ぶべし、慈悲はない」

 

 全員が一丸となって出した決意に、炭十郎は心を打たれ、そしてアベルに顔を向けたのでした。

 

「どうにかしよう」

 

「え?」

 

「アベル君、どうにかするべきだ」

 

「え、待って、え?」

 

「ここは立ち上がるべきだ!」

 

「炭十郎さん?!」

 

「鬼は討伐されるべきものだ!」

 

 何故か、熱血がかかったように握りこぶしを作った炭十郎に押されるように、アベルは城塞都市計画を行うことになって。

 

 街の人たちの前に出され、全員の期待のこもった目を向けられ。

 

「・・・・・・はい、解りました」

 

 折れたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こうして、俺達の対鬼用城塞都市『鬼滅』が完成したんです」

 

 話は戻って現在。

 

 アスファルトで舗装された山道を歩く炭治郎の話に、カナエとしのぶは頭を抱えそうになっていた。

 

 何をしているのか、あの人は。普通は断るだろう、いくら街の人達の期待を向けられたとはいえ、そんなことで都市開発なんてやる。

 

 いや、やる、と二人は思い直す。あのアベルなら、そのくらいはやりかねないと思い至る。

 

 自重を忘れた馬鹿だから、やると決めたら徹底的にやりそうだ。

 

「そうなの」

 

 気を取り直して、カナエは前を歩く炭治郎に話を振った。

 

 もうアベル関連では驚かないぞと思いながら。

 

「それで、炭治郎君はこれと同じものを?」

 

 きっとそうなのだろう、と彼女は思ったのですが。

 

「いえ、僕のはこれですね」

 

 炭治郎が取りだしたのは一本の刀。何処にでも有るような刀には、カナエとしのぶを震えさせるほどの圧力が込められていた。

 

「古い知り合いが持っていた刀を貰ったって言っていました、アベルさんは『屈伏』させられなかったって話で」

 

「そうなの」 

 

「はい、でも僕は何とか『仕方ないな』って付き合ってくれるようです」

 

 嬉しそうに刀を脇にさす炭治郎。

 

 彼は知らない、その刀の名前はある世界では最古とか最強とか呼ばれていることを。 

 

「銘はあるんですか?」

 

 しのぶの問いかけに、炭治郎は自信を込めて答える。

 

「はい! 『流刃若火』だそうです!」

 

 何故か、カナエとしのぶの脳裏に、『全力なら鬼周囲が蒸発しそうです』なんて言葉が流れたとか。

 

「そ、それで、穪豆子さんは?」

 

「私も特別ですよ」

 

 フフンとか鼻を鳴らして取り出したのは、ごく普通の剣。ただ柄と刀身の間に宝玉が一つと、飾りに小さな宝玉がついていることを除けば。 

 

「『覇王剣』です!」

 

「あ、そう」

 

 本気になったら星ごと砕けます、なんて言葉が二人の脳裏を走り抜けていった。

 

「炎とか氷とか出せる改造版なんですよ!」

 

 もう止めて、ライフはゼロよ。なんてことを、何故かカナエは思ったのでした。

 

 そしてどうにか辿り着いた炭治郎の家の前、一人の女性が立っていた。 

 

「母さん! お客さんを連れてきたよ」

 

 穪豆子が走っていく先、女性は穏やかに微笑んでいた。

 

「お帰りなさい。ようこそ、我が家に」

 

 優しそうな女性だ、とてもいい母親なのだろう。しのぶはそんなことを思いながら、視線を彼女だけに固定していた。

 

 カナエもそうしたかった。他は見ないようにしたかったのだが、見てしまった。

 

 彼女がさっきまで持っていた、巨大な鉄の棒のようなもの。家の壁に立てかけてあったそれに、じっくりと見てしまった。

 

 それはたぶん、対物ライフルとか呼ばれているもの、じゃないといいなぁという武器です。

 

「狙ってたんだ、母さん」

 

「当たり前じゃないの炭治郎、母さんの狙撃の腕は知っているでしょう?」

 

「この前の鬼、粉々だったのも覚えているから」

 

「破片掃除が大変だったって、怒られたわね」

 

 穏やかな家族の団らんなのに、どうして内容が生々しいのだろう。鬼が死んだ話なので、喜ぶような話なのに喜べない胡蝶姉妹だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ついに運命の時。

 

「アベル君!」

 

「アベルさん!!」

 

「あれ、カナエさんにしのぶ。久しぶりぃ?!」

 

「君は少し自重しようか!」

 

「何してんですか?! あれですか私たち鬼殺隊への当てつけですか?!」

 

「ちょ待って!」

 

「待てないわよ! 何よ対鬼用城塞都市『鬼滅』って!」

 

「ふざけないでください! 何を考えているんですか?!」

 

「待って! 本当に待って!」

 

 アベル、胡蝶姉妹に締め上げられる。

 

「母さん、あれって」

 

「痴情のもつれかしら?」

 

「アベルさんを助けないと!」

 

「穪豆子! ここで使ったら都市の中央区が吹き飛ぶから!」

 

「止めないでお兄ちゃん!」

 

「止めろ穪豆子!!」

 

「炭治郎も、流刃若火を『解放』しないのよ」

 

 何故か、その傍で兄妹のケンカが始まって。ちょっと困った顔の母がいて。

 

「ならば私が止めよう」

 

 最終的に、父の偉大さを誰もが実感したのでした。

 

 あんた死にかけじゃなかったのか、と誰もがツッコミをいれたとか、入れなかったとかって話です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









 鬼を倒すのに、アベルとか竈門家だけで何とかなりそう。でも、そうなったら近場の街の人たちも大変だよな。

 いいや、巻き込んじゃえ!

 普通の手段じゃない極致って、そのためだけの城塞都市を構築するだとサルスベリは思うわけです。

 はい!







 炭治郎の刀が流刃若火だった理由。

「がんばる!」

「よかろう!」

「死ぬ気で頑張る!!」

「見事じゃ!」

 とか、炭治郎の後ろで褒める山本総隊長が見えた気がしたので。







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理路整然と考えていくと、こうなるわけですよ、マジで





 よっし、ノッてきた。

 鬼を狩る物語に、生存戦争と数の暴力を放り込んだ結果、城塞都市に行きついたわけです。

 身体能力が高い個人技能の集団に対応するためには、大量の武器と大兵力でしょう、やっぱり。


 誤字報告、ありがとうございます。

 感謝感激です。











 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしてこうなった。

 

 彼は必死に走る。

 

 何が悪かったのか。

 

 逃げるように、怯えるように、必死に足を動かして山を駆け抜けていく。

 

 調子に乗っていたのか、相手が弱いと思っていたのか、それとも別の原因があったのか。

 

 彼は解らない。必死に考えようとも、脳が拒否したように考えがまとまらない。

 

 闇をかき分けるように、夜を避けるように逃げる。後ろを振り返ることなどなく、必死に前に前に。

 

 捕食者に追われる弱者のように。

 

 そんなバカなこと。自分が何者か思い出そうとして、思い出すのを拒否してしまう。

 

 森を抜け、丘を飛び越え、やがて辿り着いた大岩に駆け寄って背中を預ける。誰も来ていない、気配は近くにはない。逃げ切った、ようやく逃げ切れた。

 

 安心が心に満ちた、もう大丈夫だ。そう思う自分に、与えられた位が『情けない』と言っているような気がするが、頭を振って忘れる。

 

「あ、あいつら、何者だ」

 

 与えられた使命を果たすために、簡単に終わると考えてここに来たはずなのに、今では自分だけしかいない。

 

 大勢がいた、強さだけで選んだ味方は一人一人と消えて行って、最後に残ったのは自分だけ。

 

 深く息を吸って、怯えと共に吐き出す。

 

 こんなことあっていいはずが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見ぃつけたぁ

 

 

「ヒ?!」

 

 思わず悲鳴を出した彼の視界に、巨大な拳と杭のような先端を向けた少女の姿が映った。

 

 そして、彼は。

 

 下弦の弐と呼ばれていた鬼は、巨大な杭に撃ち抜かれて消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山を揺さぶるような衝撃の跡、炭治郎の耳につけた通信機が感激の声を流す。

 

『南側の最後の鬼は! 竈門・花子が撃ち取ったぁ!!』

 

「花子、頑張ってるな。兄ちゃんも頑張らないとな」

 

 右手に持った刀を握り直し、振り下ろす。

 

「なんだよ、おまえ、なんなんだよ?!」

 

「竈門・炭治郎、君の最後に立ち会った者だ!」

 

 刀が描く奇跡に沿って、焔が周り中の糸を燃やしつくす。円を描き、途切れることなく振られる刀は、やがて一つの太陽を生み出す。

 

「万象一切、灰塵となせ、『流刃若火』!!」

 

 炭治郎の声にこたえるように、焔は周囲を燃やし尽くして下弦の伍を跡形もなく灰へと還した。

 

 最後の言葉も、最後の想いもすべて、燃え尽きた灰の中へ消えるように。

 

「あ、やり過ぎたかな。大丈夫だよな」

 

 気づいて周りを確認した炭治郎は、雪が溶けて水となって流れた大地や、木々が燃えて中身の機械が露出した周辺を見て、固まってしまう。

 

「お兄ちゃん、これどうするの?」

 

「穪豆子! 丁度、良かった! おまえの覇王剣、回復できたよな?!」

 

 呆れた顔で背後に降り立った妹に、迷わずに炭治郎は縋りついた。

 

「え? できないことはないけど」

 

「なら頼む!」

 

「私が適正ないから無理」

 

「・・・・・・・い、今から茂を呼べば!」

 

 ダメかと諦めかけた炭治郎の脳裏に、竈門家の三男坊が浮かんだ。確か、ナノマシン特化型の武装を持っていたから、周りの機械を再生できたはずだ。

 

「無理じゃないかな」

 

「諦めるな穪豆子! 諦めたらダメだ! 人間は諦めなければ何でもできる!」

 

 どっかの熱血教師のように語る兄に対して、妹は無情にも指をさした。

 

「あれ」

 

 指をゆっくりとたどった炭治郎の視界に、巨大な動く山が入ってきた。

 

『ごめんなさい! こちら竈門・茂です! 増殖させすぎました!』

 

『こら茂! 最大出力で使うなって言われてるだろうが!』

 

『だって竹雄兄ちゃん! 改修したばかりだから最大威力は試さないと!』

 

『二人とも、それよりも止めなくていいの? あれ、ナノマテリアルも使っているんじゃないの?』

 

 六太の指摘に通信が静かになって、そして茂の慌てた声が響いた。

 

『うわぁぁぁぉ!!! 超重力砲発射になっている?!』

 

『止めろ茂! そこでぶっ放したら、西の城壁が消えるぞ!』

 

『止まらないから!』

 

 漆黒の球体が生まれ、次第に大きくなっていく。

 

 通信回線は悲鳴と怒声と、混乱ばかりが流れていて、その中で冷静になっている声は二つだけ。

 

『まだ重力は斬ったことないな。やれるかもしれない』

 

『お父さん、いってみますか?』

 

『葵枝、ちょっとやってみたいんだけど、いいかな?』

 

『では私は重力弾丸で後詰になりますね』

 

『なら安心だね』

 

 そんな気楽な夫婦の日常的な会話の跡、一つの影が重力球の前に飛び上がり。

 

『ヒノカミ神楽、円舞』

 

 あっさりとお日様の刃が、夜のような闇を斬りはらった。

 

『斬れるものだね』

 

 炭十郎の気楽な声が通信で流れた。

 

「父さんって人間なのかな?」

 

 炭治郎、あまりのことに唖然。

 

「家の家系って人間じゃないのかも」

 

 穪豆子、ちょっと頭痛がしてきた。

 

『すっげぇぇぇぇ!! さすが父ちゃん!』

 

『負けられない! 私もやってみたい!』

 

『いやちょっと落ち着いて』

 

『誰か、鬼を打ち漏らしてない?』

 

 竹雄、花子、茂、六太の声がする。

 

 炭治郎はそれを聞きながら、ゆっくりと通信機に触れた。

 

「こちら炭治郎、補修部隊って手が空いていますか?」

 

 諦めよう、素直に怒られよう。それも長男の役目だ。ちょっと被害が大きくて、広範囲になっていて、確実に激怒させるとしても。

 

 長男だから。

 

『こちら、補修部隊。おまえら竈門家は揃いも揃って被害を拡大しないと生きていけないのか? あ? 毎回毎回、何でそんなに物騒なんだよ』

 

「すみません」

 

『いいか、俺達は城塞都市計画で、他のところを直したり修正したりしないといけないんだよ、解ってるのか?』

 

「ごめんなさい」

 

『・・・・・・まあ、いい』

 

 意外にあっさりと終わった。もっと怒られると考えていた炭治郎は、ホッと安堵した。

 

『アベルに比べたら被害は少ないな』

 

 今度は何した、あの人。

 

 炭治郎と穪豆子は同時に思ったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、重力砲弾と重力砲弾はぶつかり合うと、散弾のように広がるわけだ」

 

 アベルはうんうんと頷きながら告げた。

 

「へぇ」

 

 カナエは冷たい目で、彼を見下ろしていた。

 

「このことから、同じ性質のエネルギー同士は反発し合う性質を持っている、という結論になるんだよね」

 

 今度は腕を組んでみるアベル。

 

「だから?」

 

 しのぶは冷笑をうかべて彼を見下ろしていた。

 

「つまり、重力兵器同士をぶつけると、周辺にマイクロ・ブラックホールが飛び散って、重力ショットガンになるってこと」

 

 ポンっと手を叩いて答えるアベルに、胡蝶姉妹はとても綺麗な笑顔を浮かべてビーム・サーベルを持ち上げた。

 

「いいかげんにしなさいアベル君!」

 

「鬼が来たから手伝わせた相手に対して、攻撃したことへの謝罪はないんですか?!」

 

「説明もなしにいきなり最前線とか私達を殺したいの?!」

 

「馬鹿なんですか?! アホなんですか?!」

 

 刃物を片手に激怒している美人さんに、アベルは乾いた笑みを浮かべた後、素直に土下座したのでした。

 

「ごめんなさい」

 

 人間、素直に謝ったほうがいいと悟ったアベルでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 胡蝶姉妹がアベルに折檻している間に鬼の集団が、襲撃を仕掛けてきた。

 

 いち早く、それを察知したのは城塞都市の周辺に展開していた警戒網。鬼にだけ反応するセンサーが、かなりの数の集団が迫っていることを都市の中枢に報告。

 

 逃げたとか、何で行方をくらませたなんて怒っていた胡蝶姉妹に、アベルは終わってから話を聞くと伝え、手伝ってくれと頼む込んだ。

 

 感情的になっても根は優しい胡蝶姉妹、鬼の集団が来たならと同意して防衛戦に参加したのですが。

 

 ここでアベルがやらかした。

 

「あれ、そういえば、重力兵器って散弾にすれば周辺を薙ぎ払える。あ、やってみるか」

 

 実験もしたことないことを、実戦でやろうと考えるアベル君。

 

 結果、人的被害が出なかったことが信じられないくらい、周辺被害が拡大したのでした。

 

「つうわけで、二か月、待ってくれ、統領」

 

 場所は変わって、竈門家の近くの小屋。見た目は木組みの小屋なのだが、内部には超合金Zとか使っている、城塞都市の指揮所みたいな場所で、補修部隊からの報告を受けていた。

 

「急がなくていいから、しっかりと頼むよ」

 

 彼は頷き、補修部隊隊長も任せておけと答えて退出していく。その時、床に転がっていた物体を睨み、『次やったら殺す』なんて言っていたのは、聞かないことにしよう。

 

「さて、お客人」

 

 彼は同じように転がっている物体に、『仕方ない子だね』と小さく呟いてから顔を胡蝶姉妹へ向けた。

 

「改めて、ようこそ我が城塞都市『鬼滅』へ。統領を務めさせてもらっている竈門・炭十郎だ」

 

 彼はそう告げて微笑んだ。

 

「初めまして、私は胡蝶・カナエと言います」

 

 優雅に一礼して答える彼女に、炭十郎は大きく頷いた。

 

「鬼殺隊の花柱、だったかな?」

 

 カナエの表情が僅かに揺れる。どうして知っている、と目線に浮かんでしまって慌てて振り払う。

 

「私達も無駄に時間を過ごしているわけではない。情報とは一国の武力に匹敵する価値がある、集めるだけ集めるのは当然のことだろう?」

 

 世間話でもするように、炭十郎は話を続けた。

 

「そうですか。鬼殺隊のことも?」

 

「話は聞いている。鬼の首魁、『鬼舞辻・無惨』を倒すための政府非公認の組織だとか。呼吸と呼ばれる特殊な技術を使うといったものも」

 

 こちらの情報はすべて筒抜けか。カナエはそう察して、再び笑顔を取り繕う。

 

「では、私が探しているのがアベル君だってことも?」

 

「知っている。しかし、彼は今やこの城塞都市になくてはならない存在だ」

 

「そう、ですか?」

 

 チラリとカナエが視線を床の物体に向けた。

 

 『私はやらかしました』と張り紙されて、簀巻きにされて転がってるアベルに。

 

「必要だからね」

 

「そうですか」

 

「ああ、もちろんだ。貴重な人員だよ。時々、本当に自重を忘れて馬鹿をやるけどね」

 

 カナエは思った。納得した、と。

 

「それに、この都市構造はアベル君を抜きにしては作動しないからね」

 

 炭十郎の言葉は本当だろう、とカナエは察していた。

 

 街の人たちは全員がビーム・サーベルのような武器を持っていた。見た目がかなり違うが、動力源は同じ。同時に銃のような武器を持っている人も見受けられる。

 

 都市の間にある情報網は、アベルが作ったものだろう。今では街の人たち全員が通信機を当たり前のように使い、空中に投影される地図を確認して鬼の位置を把握、追撃している。

 

 効率的に、迅速に。一対一で戦うのではなく、一対多数になるように。鬼を包囲してジワリジワリと削っていき、最後にとどめの一撃を叩きつけて倒す。

 

 人海戦術と一撃必殺の武器。

 

 中でも竈門家の人たちが使う武器は、かなり凶悪な威力を持っていた。

 

 花子のような少女が、巨大な杭打ち機を使っているのは、衝撃だったとカナエは内心で冷や汗を流す。

 

「君たちがどういった思いで彼を探していたのか、おおよそは理解できる。けれど、彼を連れていくなら」

 

 炭十郎の瞳に、鋭い光が宿る。同時に廊下の二つの気配が、殺気を隠さなくなった。

 

「申し訳がないが、一戦は覚悟してもらう」

 

 カナエは言葉に詰まった。

 

 自分は花柱、鬼殺隊の中でも最強の剣士だ。倒した鬼の数やくぐった修羅場の数は、他に人間に負けるものではない。

 

 それなのに、目の前の人に勝てる自信がない。隙だらけ、病気もしているのか顔色が少し悪い、明かに力では勝っているだろうに。

 

 この人と戦ったら、自分は一刀で斬り捨てられる。本能がそう告げてくる。

 

「解りました。けれど、私達も退けない理由があります」

 

「だろうね、少しは譲歩するつもりでいるよ」

 

 空気が少しゆるみ、炭十郎は温和な笑みを浮かべた。

 

「では、私達のお館様にアベル君を会わせることを、許してください」

 

 ホッと緊張を抜いたカナエは、素早くこちらの要望を伝える。

 

 炭十郎はそれに対して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もっと威力が欲しい!」

 

「いや、衝撃吸収できないからさ」

 

「粉砕できないのは杭打ち機じゃないから!!」

 

 都市の訓練場で、『リボルディング・ステーク』を振り回す花子に、炭治郎はうちの妹が何処を目指しているのか、不安になったという。

 

「・・・・・威力、いいな」

 

「穪豆子!! おまえはもっと落ち着け!」

 

 ポツリと呟いた長女に、慌てて突っ込む長男だった。

 

 

 

 

 

 

 

 












 情報を集め、敵の数と侵攻方向を把握、敵の侵攻ルートを固定、次第に敵を分散させていき、一に対して十人以上で取り囲んで、相手の戦力を削いで行って、最後に一撃必殺の武器をた叩きこみ、殲滅。

 それが城塞都市『鬼滅』の基本戦術。

 ちなみに、竈門家がその一撃必殺の役割なことが多い。

 竹雄、斬艦刀使用。斬るというより、叩き潰す。

 茂、ナノマシンの群体制御により侵食・すり潰すを行う。

 六太、転位による砲弾を振らせる、どこぞの英雄王の爆撃バージョン。

 それで、花子。自身の倍はある特殊鉄鋼の拳と、三倍はありそうな巨大な杭打ち機を使用。

 貫くなんて優しいことはせず、粉砕します。






 さて、そろそろ胡蝶姉妹を強化しないと。







 皆さんは、蟲と花っていうと何を連想しますか?







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機械関係だけが軍勢じゃないって、知ってた?

 






 なんだかフワッと思いつくことが多い今日この頃、何気なく書いたことにお答えいただき、ありがとうございます。

 ちなみに、サルスベリは仮面ライダーと時代劇にどっぷりとはまって、特撮もちょっと片足を突っ込んだタイプですので。

 では今回も滅茶苦茶、理不尽、鬼狩りで行きましょう。
 








 バッタって蟲だよね?

 見た目が華なら、それは花だよね?

 という建前を、前もって言い訳とさせてください。







 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アベル君、鬼殺隊のトップに会うことになりました。

 

「人間同士で戦うのは、おかしいからね、相手側が刀ではなく言葉を向けてきたなら、こちら側も言葉で答えないといけないよ」

 

 着物の裾に手を入れて、ゆっくりと語る炭十郎に、アベルはそれもそうかと頷いていた。

 

「私たちには言葉がある、ただ殴り合うだけでは畜生と変わらない。ならば、語りあってみようと思ってね」

 

 うんうんと頷いた炭十郎は、ふと気がついたように首をかしげた後、小さく手を打った。

 

「あちらさんは御病気のようで外を歩けないようだから、私が出向くのが筋か」

 

「いやおかしいだろ、そんなの」

 

 補修部隊と建設部隊を纏めている、実質的にはこの都市の副統領みたいな田島のじい様の突っ込みに、炭十郎は首を傾げた。

 

「別々の組織が同じ目的のために動くなら、意見のすり合わせをしておかないと危ないだろう?」

 

「まあ、当然だな」

 

「それなら、動けないあちらさんに会うためには私が出向くのがいいと思わないか?」

 

 田島のじい様は、そこで言葉に詰まって考え込んでしまう。

 

 確かにそうかもしれない。御屋形様と呼ばれる人は目が不自由で、屋敷の中を動くのにも手を引かれることが多いという。

 

 ならば、と答えを出そうとして田島のじい様は首を振った。

 

「いや待った。あっちとこっちじゃ組織の『やり方』が違うだろ?」

 

「鬼を狩っているじゃないか」

 

「あっちは能動的、云わば攻めるやり方だ。俺達は受動的、つまり守りだ。その点で違うから、同じ目的を持っていても共同戦線にならないだろ?」

 

 確かにと炭十郎は頷く。

 

 基本的に『鬼滅』は、鬼を都市の中へ呼び込んで戦っている。こちらから相手に攻めることは全くない。

 

 そのため、外から見えている街並みはすべてが偽造、嘘の街並みを構築しており、ほとんどの住民は山の内部、動力炉の近くに設置された最重要防御区画に住んでいる。

 

 天井に太陽のエネルギーを取り込んでいるので、地下と言われないと気づかないほど快適です。

 

 空気、外から取り入れていると街の人達は思っているが、アベルがそんなことをするわけがない。

 

 簡単に言うと山の内部に、銀河連邦首脳部が自信を持って『大丈夫』といえるコロニーを作ったようなもの。

 

 ゴジラの熱線砲でも壊れない、超重力砲の直撃でもビクともしない、頑丈で堅牢な鉄壁要塞型コロニーです。

 

 ただ、値段が馬鹿高い。一基の建造で、銀河連邦の軍事費が半年は飛ぶ。

 

 アベル、指示した後に消費した材料を見て、しばらく固まりました。

 

「そうなると、アベル君にだけ行ってもらう形になるね」

 

「だろうな」

 

 グッと腕組みする田島のじい様を見て、アベルは思う。

 

 ヨボヨボで今にも倒れそうだった町長が、こんな筋肉お化けみたいなおじいちゃんになるなんて。

 

 ナノマシンって偉大だなぁ、と。

 

「しかし、彼だけとなると」

 

「ああ、一応、護衛は必要だな」

 

「家から出すとしよう」

 

「そうなるな。じゃあ」

 

 そこで炭十郎と田島のじい様は、お互いを見合った後に、迷わずに一名の名前を出した。

 

「一番、甚大な被害を出しやすい炭治郎で」

 

 その話を聞いて、当人は崩れ落ちるように嘆いたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、久し振りの旅です。

 

 アベルはちょっとだけ嬉しそうに旅支度を整えていました。旅が好きで放浪者みたいな生活を送っていたわけではないが、四年以上も同じ場所にいるなんて人生で初めて。

 

 最初は新鮮だったけれど、次第に一か所にとどまっていることに、ちょっと違和感があって。本当にいいのか不安を感じるようになったのは、内緒の話。

 

「炭治郎、よろしくな」

 

「はい、こちらこそ」

 

「え、なんでそんなに顔色が悪いの?」

 

「俺ってそんなに被害を出していたかなって」

 

 胃のあたりを抑えている彼に、アベルは過去のデータを表示させてみた。

 

 『流刃若火の初出撃、二キロが焼け野原』。

 

 『初めての解放、三キロが更地』。

 

 『訓練中の事故、訓練場五キロがマグマ化』。

 

 『卍解しちゃった、ごめんなさい。建設予定地が消滅、建設計画の見直し』。

 

 『思わず薙ぎ払った結果、建設中の城壁が炎上』。

 

「すみませんでした!!」

 

「これでもまだ二割」

 

「本当にごめんなさい!!」

 

 土下座する炭治郎に、アベルは次をと手を動かして止められた。

 

「アベル君」

 

「あれ、カナエさん、どうしたのて?! 痛いんですけど?!」

 

 何故か、右手を握られてミシミシなんて音がしてくる。

 

「これは何かなぁ?」

 

 さっと出されたのは、アベルが取っていたメモ帳のデータ端末。

 

「え、これ・・・・これ?!」

 

「うんそう、これ。私のこと、書いてあるみたいだけど?」

 

 ニッコリ笑顔のカナエに、全身を寒気が襲った。

 

 不味い、これは本当に不味い。思いついたことを、思いついたままに書いたメモ帳だから、かなり失礼なことが書いてある。

 

 本気で不味い、どうにか誤魔化さないと。アベルの脳は、すべてのポテンシャルを持って思考を開始した。

 

 銀河連邦最強の軍勢のアベルの本気の思考。打開策を模索する彼の演算能力は、速やかに一つの結論を導き出した。

 

「カナエさん!」

 

「何かしら?」

 

「貴方は綺麗です、まさに華!」

 

 瞬間、カナエの顔が真っ赤になった。湯沸かし器ってこんなものを言うのでしょうね。

 

「な、ななななな何を言っているの?!」

 

「綺麗な華だからこそ、棘が必要なんですよ!」

 

 強引に説得。腕を放したカナエに対して、今度はアベルがカナエを捕まえる。両手をグッと握りしめ、抱き寄せる勢いで力説。

 

「は、え、あのね!!」

 

「だから俺は考えました。ビーム・サーベルだけじゃダメだと!」

 

「だからね!!」

 

「華のように可憐なカナエさんのために俺は考えたんです!」

 

 秘儀、勢いに任せて相手を説き伏せる。まさに悪徳業者です、アベル君。

 

「きっとカナエさんには似合います! この『ラフレシア』装備!」

 

 バッとモニターに素早く表示させたのは、ガンダム世代でも悪名高いMA。しかもバグ付き。

 

「生体認識機能もついていますから、起動させたら鬼だけを虐殺できる装備です」

 

「え、は、え?」

 

「今ならこのラフレシアに!」

 

 続いて別のデータを表示。軍勢のアベルの中でも、数少ない『生体兵器』として製造できた、奇跡の個体。

 

「この『ビオランテ』も付けます!」

 

「・・・・・・・・」

 

「きっちりG細胞も増加させてあるので、熱線砲もはけるし花粉を飛ばしての広範囲ダメージも可能です」

 

「・・・・・・」

 

「だからカナエさん! あれ?」

 

 気づくとカナエは目を回していました。

 

 軍勢のアベル、知らず知らずのうちに花柱撃破。

 

「アベルさん」

 

「しのぶ?」

 

「ちょぉぉぉぉとお話しませんか?」

 

 グッと肩を掴まれました。

 

 振り返ると鬼がそこにいました。あれ、おかしいな、鬼がここまで入って来れるわけがないのに。

 

 アベル君は知らない、事態の回避のために必死になっていて、今の自分が周りからどう見えるか知らないのです。

 

 簡単に言うと、カナエに迫るアベル、必死に口説き落とした図。

 

「それと、この私のこと、説明してくださいね」

 

「あ・・・・・・・・」

 

「蟲ですか? ええ、私は蟲の呼吸を完成させましたよ。でも、蟲にしては鎧っぽいといいますか」

 

「あ、はい」

 

「ベルトをこんなにたくさん用意して、私に何をさせたいんでしょうね? ひょっとして縛りたいとか? いい御趣味をしてますね?」

 

 冷たい声と冷笑を浮かべたしのぶに、アベルは素直に両手を上げたのでした。

 

「ごめんなさい」

 

「言い訳、楽しみですね、聞かせてくださいね」

 

「はい」

 

 その後、アベルは必死になってしのぶに説明してカナエに謝罪したのでした。

 

 胡蝶・しのぶは知らない。そのベルトは、とある世界の人たちには命をかけても手に入れたいものだということを。

 

 何度も世界を救った仮面の戦士たちのものだということを。

 

 胡蝶・カナエは知らない。メモ帳の奥の方、もっと危ないデータがあったことを。

 

 ELSって最後に花になったから、花だよな、なんて書かれたデータとか。花の名前の戦艦を一つのネットワークにしてカナエに上げたら、花の呼吸じゃないかって推察して会ったりとか。

 

 胡蝶姉妹には、世界を終わらせた某ナノマシンを使った蝶みたいなガンダム兄弟機が似合うとか。

 

 そんなことが書いてあったことを、二人は知らないのでした。

 

 二人の詳しい身体データもあったことを、二人はしらないのでした。

 

 本当にバレなくて良かったよ、アベル君。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大量破壊兵器はいらない、なんてことを二人から怒られました。

 

「じゃあ、行ってきます」

 

「気をつけて」

 

 旅の支度は整いました。準備も終わりました。

 

 こうしてアベル君は御屋形様に会うために、炭治郎を護衛につけて、胡蝶姉妹の案内で『鬼滅』を後にしたのでした。

 

「カナエさん、それってどう?」

 

「調子いいわよ。アベル君もこれを最初に出してくれたら、怒らなかったのに」

 

 鼻唄交じりに前を歩くカナエの周囲には、華のような物体が幾つも浮かんでいた。

 

「アベルさん、あれって」

 

 炭治郎、ちょっと引きつった顔でそれらを指差した。

 

「ナノマシンの群体だよ」

 

「いや絶対に違いますよね、あれって」

 

「炭治郎!」

 

 答えを言いそうになった炭治郎の両肩を掴み、アベルはとてもいい笑顔で答えた。

 

「華だよね?」

 

「ソウデシタ」

 

 炭治郎、察して目を反らしながら答える。

 

 例えカナエの足元に動く小さな物体がいて、華を運んでいても気にしてはいけない。

 

 『ガメラが来ないことを祈ってください、レギオン一同より』と書いてあっても気にしてはいけない。

 

 きっと華が咲いたら鬼もろとも半径十キロを吹き飛ばすはずだから。

 

「アベルさん、これって本当に蟲ですか?」

 

「うん、蟲だよ」

 

「ならいいですけど」

 

 しのぶが不審な顔を向けてくるので、アベルはグッと親指を突き出した。

 

「アベルさん、本気ですか?」

 

「炭治郎君、世の中には知らない方がいいこともある」

 

「いやだってあれ」

 

 彼が指さす先、しのぶの足元を二足歩行のロボットが歩いてく。

 

「きっと大きくなったら、オーラを放つから」

 

「そっちはいいですけど」

 

 何体かのロボットに遅れて、小さなサソリみたいな機体も付いていく。

 

「あれって、ゾイドのデス」

 

「大丈夫、いいね、大丈夫、はい繰り返して」

 

「ダイジョウブ」

 

 もう色々と察した、聡明な炭治郎君は無表情で繰り返すのでした。

 

「それじゃ! 頑張って歩こうね!」

 

 カナエの号令に、小さな花に偽造した何かたちが答えた。

 

「姉さんに遅れないように」

 

 しのぶの声かけに、虫型ロボットと頑張っているサソリは、ビシッと敬礼した。

 

「・・・・・・レギオンとビオランテとELSが自分で主を選ぶなんてなぁ」

 

「アベルさん、もう止めてください」

 

「オーラバトラーって意思があるのか、デススティンガーって強化版なんだよな」

 

「アベルさん、もう俺は限界ですから」

 

「は、ははは、俺、二人が敵になるくらいなら、世界を敵にするね」

 

「アベルさん」

 

 がっつりと崩れ落ちそうなアベルに、炭治郎は冷たい目を向けたのでした。

 

 しかし、彼は知らない。

 

 本当に二人になついている機体が、アップを始めていることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いつか姉妹の元で兄弟で仲良くやりたいものだな』

 

『はい兄さん!』

 

『そのためにもナノマシンを使って改造だ、弟よ』

 

『がんばります! では手始めに』

 

『ああ、そのあたりから行こう。いずれ共にあれをやる為に』

 

『もちろんです兄さん!』

 

 二機は人知れず格納庫の中で頷き合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いずれあの胡蝶姉妹の元

 

 

 

 

 

 

 

 

月光蝶するために!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 










 言い訳をさせてください。

 最初、鬼滅の刃を詳しく知らない頃、『呼吸を使うんだぜ』とか『花の呼吸』とか『蟲の呼吸』なんだぜ、とか教えられた時。

 え、それってビオランテ? ELSを使役するの、あ、レギオンかな。

 蟲ってバッタのこと? 仮面ライダーを使うってディケイドみたいなものかな。まさか、ナウシカ的な? いやまったゾイドってこともありえるか。

 なんて、二次創作だって思ったサルスベリは悪くないと思います。

 というフワッとした思いつきの、胡蝶姉妹強化話でした。






 あれ、これって二人が全力で戦ったら地球が消えるんじゃね?

 そんなことないか、まさかねぇ。








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戦力だけが理不尽なんて、そんなわけない

 





 さてさて、『鬼滅』を旅立って鬼殺隊の本部に向かうアベル君。

 御供は頑張れ負けるな、でも手加減必要な炭治郎君。

 道案内は自覚ないし気づかないけど、一番の理不尽になりそうな鬼狩りの胡蝶姉妹。

 特にカナエさん、ELSが増殖中。ビオランテも頑張って成長しているぞ。

 しのぶさんのために、デススティンガーが成長中。荷電粒子砲が使えるようになるまでもうまもなく。

 あ、前回のあとがきで入れ忘れた話を一つ。










「童磨、貴方は地球の敵です」

「え、待って、カナエちゃん」

「貴方は地球にとって、有害だと判断されました」

「しのぶちゃんまで! 俺はそんな壮大な鬼じゃないから!」

「ですから」

「そうです」

 そして胡蝶姉妹の後ろに巨大な影が。

「え、待って、その大きな蛾みたいなのって」

「モスラです」

「地球の守護神に襲われるほどなの?!」

 こうして童磨は、モスラによって討伐されましたとか。

 いや胡蝶姉妹って、小美人じゃないかなぁって。












 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世の中って色々あるよね。

 

「鬼殺隊の本部って、どんな場所なんですか?」

 

 旅路を急ぐ中、炭治郎が胡蝶姉妹に問いかけた。

 

「そうね、私達は具体的な場所を知らないの」

 

「え、カナエさんって確か柱ですよね?」

 

「炭治郎君まで知っているなんて。本当に『鬼滅』の情報収集は怖いわね」

 

 あっさりと自分の位を言い当てられ、カナエはちょっと冷や汗をかいた。

 

「鬼に情報が筒抜けになった場合、襲撃される危険性が高いので、本部の場所は知られていないんです」

 

 しのぶの説明に、炭治郎は頷いた後に悩みだした。

 

「向こうから来るなら、退治し放題じゃないんですか?」

 

 なんでそうしないのか、炭治郎は少し理解できなかった。

 

 こっちから向かって行って鬼退治なんて、そんなのは危ない。鬼の身体能力は確実に人間を超えている、未知の場所や知らない場所で遭遇したら、とてもじゃないが勝負にならない。

 

「鬼が攻めてきたら、護りきれません」

 

 しのぶ、解ってないなと呆れ顔。

 

「炭治郎君のところと違うから」

 

 カナエ、ちょっと『鬼滅』の常識を忘れた武装を思い出して、『そう考えるわよね』なんて納得してしまう。

 

「そうなんですか。あ、本部に入られたら無理ですよね」

 

 炭治郎は思い出す。自分の家の、竈門家の面々が扱う武装が『鬼滅』の中枢区画で振るわれた時の被害は、とてもじゃないが直視できない。

 

 特に自分の流刃若火が暴れた時は、凄惨な現場の出来上がり。いや流刃若火が暴れるなら、凄惨なんて言葉が出てこないほど何も残らない現場だろうか。

 

「・・・・・・・最大出力ってどうなんだろう」

 

 思わず手に持った刀を見つめた炭治郎に、刀は答える。

 

 『マグマ余裕、頑張れ太陽、目指せ宇宙創造の爆発』。

 

 流刃若火、長い年月の間にハッチャケタご様子。

 

「ところでアベル君」

 

 カナエは振り返る。とても申し訳なさそうな顔で。

 

「アベルさん」

 

 しのぶは呆れた顔で溜息をついた。振り返らない、振り返ってやるものかと思いながら。

 

「本当にアベルさんって、体力ないですよね」

 

 炭治郎、何時も通りだなぁと笑顔。

 

 それで問題の当人は、山道の途中で倒れていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや考えてくれよ、現代人が、それも科学が発展して宇宙を飛び回る人類がさ、山道を歩くことなんてあると思いますか。自分の足で歩くとか、機械を使わないなんて、そんなことあっていいと考えますか。

 

 答え否です。絶対にない、そんな非効率的な手段を使うくらいなら転送を使う、目標座標が解らない、なんてこと絶対にありえなかったから。

 

 敵の基地への侵入とか、敵国への侵攻作戦だと妨害されるけど、それだって妨害している手段を排除しての強制揚陸とか可能だし。

 

 第一さ、歩くって何、徒歩ってなんだよ。

 

 人間の身体能力に期待して、歩いていこうなんて馬鹿げている。

 

 非効率的な極みだ。呆れてものも言えないね。なんでそんな、馬鹿なことを考えたのか、提案した人を問い詰めたい。

 

 本当にバカにしているのか、一日だって説教できる。

 

 馬鹿なんじゃないの。

 

 以上、復活したアベル君の言い訳でした。

 

「普通よね」

 

「普通ですね」

 

 対して胡蝶姉妹の反論。

 

「時代が違うのかぁ。いや待った、炭治郎!」

 

 アベルは閃いた。いや、自分と同じような立場の人間が、ここににはいる。『鬼滅』はアベルの時代の設備で作られているから、移動手段も同じようなものが使われている。

 

 空中を進む自動車とか、個人用のリフティング・ボードとか。

 

 大正時代に、何を持ち込んでいるだろう、この子。

 

「え? 一日千里は余裕ですよね?」

 

 反論撃破。

 

 アベルは気づかなかった。彼は流刃若火を持っていても、ヒノカミ神楽を本気で学び、全力で身体を鍛え、常に万全の状態でヒノカミ神楽出来ることを。

 

 炭十郎には負けるが、それ以外なら単純な剣術と体術で圧倒できる実力を持っていることを。

 

 竈門家の長男、なめ過ぎだ『軍勢』。

 

「え?」

 

「え?」

 

 これには胡蝶姉妹、固まる。

 

「千里、頑張れば二千里は行けるかもしれないけど、その後の戦闘が行えないから、千里で止まって休みますね。一分も休めば、体力は回復しますから」

 

「待って、待って炭治郎君、ちょっと待ってね」

 

 笑顔で語る彼を、慌ててカナエは止めた。

 

 鬼殺隊でも、そんなことできる剣士はいない。

 

 柱の中でも千里を駆け抜けた後に、戦闘できるって言える剣士はいないと思う。詳しく調べたことはないが、確実にいないだろう。

 

「どうしました、カナエさん?」

 

 花柱が凄く悩んで困っている中、原因となった少年は首を傾げていた。

 

「千里かぁ、そういえば炭治郎は武者修行してたなぁ」

 

「はい! あの時はもう大変でした。父さんからは、『まっすぐに進め』って言われてたから、真っ直ぐに進んだら湖があって」

 

「あ、そうなんだ」

 

「迂回したら父さんの言いつけに背くから、仕方なく」

 

 ちょっと苦笑する炭治郎。きっと泳いだのかなと誰もが思っていると、彼はとんでもないことを言い出した。

 

「がんばって歩きました」

 

「・・・・・・・え?」

 

「はい?」

 

 胡蝶姉妹、硬直。この少年は何を言っているのかと、疑問を浮かべる間もなく固まってしまう。

 

「いや、走ったって言った方がいいのかな」

 

「そうなんだぁ」

 

 アベルは思い出す。

 

 そういえば、『鬼滅』の一角に池と沼の区画を作ったとき、そこに迷い込んだ鬼を相手したのは炭治郎だったな、と。

 

 後、後詰で『面白そうだから、私も試してみるよ』と炭十郎が行ったな、と。

 

「はい!! つまり、右足が沈む前に左足を出して、左足が沈む前に右足を出せば、水の上も歩けるって気づいたんです!」

 

 満開の笑顔で言った炭治郎に、三人は思った。

 

 『なにその人外理論』。

 

「きっと鬼殺隊の剣士の人達も、こういうことができるんですよね」

 

「待って! 待って炭治郎君! その期待は重すぎるから!」

 

 憧れを真っ直ぐにぶつけられた花柱は、慌てて否定しました。情けなくも泣きそうなくらいに慌てて。

 

「鬼に対して攻めていく人たちですから。きっと水の上でも、谷の中でも、鬼を追い詰めるくらいに身体能力の高い人たちのはずです」

 

「本当に待って! しのぶも何か言って!」

 

 止められないと悟った姉は、妹に応援を求めた。

 

「姉さん、頑張って。姉さんは柱だから」

 

 まさかの裏切り。姉は凄い、尊敬できるって目を向けながら、口元が少し歪んでいた。

 

「しのぶ、そこに直れ」

 

 ピシッと何に亀裂が入ったカナエは、ビーム・サーベルを手にした。

 

「私を斬るって言うの、姉さん」

 

 しのぶも笑顔のままビーム・サーベルを抜いた。

 

「妹の私を斬るの?!」

 

「私には姉を売るような妹なんていません!」

 

「酷い! 鬼を狩って行くとこんな酷い人になるのね?!」

 

「貴方だって鬼殺隊の剣士でしょうが!!」

 

「さすが柱になった女性は違うわ! 人間を止めている」

 

「しのぶぅぅぅ!!」

 

「姉さん!!」

 

 いきなりの姉妹ケンカ勃発。残像を残して斬り合うカナエとしのぶに、アベルは思った。

 

 うん、本音を言い合える姉妹になったんだ。この間に休もう。

 

「凄い! これが鬼殺隊の剣士なんだ。ここがこう動いて、そうやって斬り返して」

 

 純粋な眼差しで見つめる炭治郎。君はそのまま素直に育ってほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 胡蝶姉妹、あまりに本気のケンカをするものだから、全力で潰れました。

 

「腕を上げたわね、しのぶ」

 

「姉さんにはまだ勝てないけど」

 

「いいえ、貴方ならそのうち私を超えるわ」

 

「姉さん。ありがとう、もっと頑張るから」

 

「いい妹を持って姉は幸せよ」

 

 微笑みあう姉妹、それを横で見つめる純粋な少年。

 

 まるで舞台劇の一場面のようなシーンを、月の光と星の瞬きが祝福していた。

 

「いや、いい話に持って行ってるけどさ」

 

 アベルは立ち上がって二人を見下ろしていた。

 

 疲れて立てない胡蝶姉妹を。

 

「夜なんだけど。まだ『鬼滅』から二キロしか離れてないんだけど、夜なんだけど」

 

 遠くに見える灯りは故郷のもの。見た目は変わってないが、中身はかなり変わった生まれた街に、炭治郎はそっと手を合わせた。

 

「父さん、俺は今日、剣士の高見を見られたよ。また次に会ったとき、もっと強い剣士になっているからね」

 

「止めて炭治郎君! 私が悪かったから!」

 

「ごめんなさい! 本当にごめんなさい!!」

 

「え、どうしたんですか、カナエさん、しのぶさん。いい勝負だったじゃないですか?」

 

 悪気なし、悪意なし、純粋な尊敬に眼差しを向けられ、胡蝶姉妹は地面に座り込んだまま顔を背けた。

 

「あの憧れが今は辛い」

 

「姉さん、私はもう溶けて消えそう」

 

「きっと日の光で消える鬼もこんな気持ちなのね」

 

「私、少しだけ鬼に優しくできそう」

 

「私はもっとお話しできそうよ」

 

 などと、姉妹が鬼の気持ちを体験しているらしい中、アベルは周囲を見回した。

 

 夜だ、いくら『鬼滅』の近くとはいえ、鬼の時間に森の中は危ない。いや近くだからこそ余計に危ない。

 

 誘い込んで迎え撃つ『鬼滅』の性質上、鬼を呼び込むからその周辺にいる自分達は誘い込まれる途中の鬼と遭遇する危険が高い。

 

 軍勢を出すか。

 

 ちょっと考えたアベルは、手駒に指示を出そうとして止めた。

 

 『邪魔すんな』、胡蝶姉妹や炭治郎から見えない位置に置かれたプラカードにそう書いてあった。

 

 アベルは察して、地面に座り込んだ。

 

「ここで一夜かな」

 

「そうですね」

 

 炭治郎が刀を抜くと、地面に焔が躍った。

 

「焚き火代わりはこれでいいですか?」

 

「え、ええ? 炭治郎君ってそんなこともできるの?」

 

「どんな技術なんですか?」

 

 一瞬で炎が生まれたことに胡蝶姉妹が驚いて炭治郎を見つめると、彼はそっと刀を差しだす。

 

「この刀は」

 

 彼は静かに自分の刀のことを語る。それに胡蝶姉妹は驚いたり、質問したりを繰り返した。

 

 一方、アベルはというと。

 

「やり過ぎるなよ」

 

 炎の明かりが届かない暗闇にそっと呟くのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよあれは?!」

 

「小人だ!」

 

「俺達は鬼だぞ! 逃げる・・・・・」

 

「何かが飛んで来やがった!」

 

 闇の中、蠢く鬼を襲う集団がいた。

 

 経験値を貰います、成長するためです、カナエ様のために成長しないと。

 

 そんなことをレギオンとビオランテは思いながら、鬼を狩って行く。

 

「止めろ!」

 

「なんだこいつらは?!」

 

「蟲? 甲冑か? 俺達は鬼」

 

 鬼は滅びろ、慈悲はない。しのぶ様のために成長する我らの糧となれ。

 

 いいから首、おいてけ。

 

 ひたすら鬼を狩り続けるオーラバトラーの集団と。

 

 どっかの薩摩の武士みたいなことを言い出すデススティンガーがいて。

 

「俺達は何を相手にしてたんだ?」

 

「最後の一匹、ごちそうさまです」

 

「え?」

 

 銀色の塊が、最後の鬼を飲み込んで。

 

 夜の闇に、静寂が戻ったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、鬼に会わないわね」

 

「どうしたんでしょうね?」

 

 首をかしげて疑問を口にする胡蝶姉妹に、アベルはそっと呟いた。

 

「知らぬが仏って、こう言うことなんだ」

 

 違うと信じたいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 








 あれ、鬼殺隊の本部は?

 隠の人たちとの合流は?

 あ、まだ『鬼滅』の近場だった。

 そうだよね、アベルの体力でそんな遠くに行けないからね。これは隠の人たちが来たほうが、速く本部につけるのでは?

 というわけで、移動中で話が一つ、終わりました。












「そうか、つまりそういうことか」

「はい父さん!」

「では行くぞ炭治郎!」

「お供します!」

 なんてことを言いながら、湖を走り抜ける親子がいたとか。

「お兄ちゃんもお父さんも非効率的」

「穪豆子姉ちゃん、『覇王剣』に乗るのはずるい」

「花子だって、杭打ち機の衝撃で空を飛んでるじゃない」

 なんてことをいう姉妹がいたりして。

「竹雄兄ちゃん」

「言うな、茂。俺達はもっとまともでいような」

「うんうん」

 なんていう三兄弟の後ろで、母は思う。

「私だけ飛べないのだけれど、アベル君に相談した方がいいかしら?」

 今日も平和な竈門家を想像してしまったサルスベリでした。










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そのものがそうであることを証明するための、理由を論じよ








 さてさて、胡蝶姉妹の周りも完璧になってきました。華の武装集団と蟲の特攻隊を突破できる鬼はいるのか。

 それとも、鬼舞辻・無惨が突撃してくるのか。

 ちなみに、普通じゃない手段による、理不尽な鬼舞辻・無惨の終わり方は三パターン考えていたりします。

 どれにしようかな~~。











 

 

 

 

 

 

 今日も日が昇り、日が沈み、やがて夜になる。

 

 人は夜の闇を恐れて文明を手に入れて、やがて日の光を持って夜の闇を克服していったという。

 

 次第に謎と神秘に満ちていた時間は失われて、夜の闇は宇宙空間にのみ残された時代に生きたアベルにとって、この世界での夜はとても不思議な感じがした。

 

「夜に墜ちる、か」

 

 銀河連邦による敵基地への衛星軌道上からの降下作戦を、誰かがそんな風に呼んでいた。

 

 まるで深淵の底に落下していくような恐怖を、笑い飛ばすことで忘れようとしていたのかも知れない。

 

「そういった意味じゃ、鬼も同じか」

 

 太陽の元を歩けずに夜に動くしかない、日の光に嫌われた鬼になったことを『墜ちる』と言ったのは誰だったか。

 

 昔から人が『墜ちた』先は人外、妖怪の類を連想する人は多い。あるいは悪魔か、それとも化け物か。

 

「俺も同じかな」

 

 小さく呟いたアベルは、辛うじて夜の闇を裂くように広がった街並みから視線を反らし、()()()()()()()()を気にしながら、部屋の中へと戻って行った。

 

「で、アベルさん、言い訳は思い浮かびましたか?」

 

 とてもいい笑顔の炭治郎が、出迎えてくれました。

 

「俺が悪いわけじゃないって結論が出た」

 

「へぇ~~~じゃ」

 

「待った炭治郎、さすがにこんな街中の木造の宿泊施設の二階で、流刃若火の解放は駄目だと思う」

 

「そうですか。なら、刀だけでも」

 

「待った、なんでそうなったのか、俺にきちんと教えてくれ」

 

「教えるまでもないですよね?」

 

 声は別の方向から。先ほどからいたのは解っていた、視界には入っていないが冷たい気配がしていたから、見ないようにしていただけで、いたのは知っていたのですが。

 

「腹を切って詫びる、しかないでしょう?」

 

「待った、しのぶ。なんで俺が切腹?」

 

 冷たくて殺気がこもった声に、思わずアベルはしのぶを見てしまった。

 

 赤面したカナエが、膝を抱えて壁を見ていたりするが、今は放っておこう。そのうち、戻ってくるだろうから。

 

 ビーム・サーベルを抜いたしのぶのほうが、今は恐ろしい。危ない、触れたら殺される。でも放っておくと間違いなく、穴が開く。具体的に何処なんて言えないが、確実にアベルの体のどこかに穴が開くだろう。

 

 風通しが良くなって、涼しくなるな、なんて考えるアベル君はまだまだ余裕がありそうです。

 

「言わないとだめですか?」

 

 綺麗な笑顔だとアベルは思った。とても素敵な女性に成長しているようで、ちょっとだけ嬉しくなってきた。

 

 貴方が育てたんじゃないでしょう、なんて多方面からツッコミが入りそうですが、これはアベルの逃避です、現実を見たくないだけです。

 

「・・・・・・ああ、このたびは私の不始末で、御金を持って来なくてすみません?」

 

「そっちじゃない」

 

 炭治郎としのぶから否定されてしまった。誠心誠意、土下座して謝ったのに。

 

「え、他って何?」

 

「本当に解らないんですか?」

 

 炭治郎の目が冷たい、まるでゴミを見るような眼だ。そっちの趣味はないのでやめてほしい、なんてアベルは考えていた。

 

「最低ですね」

 

 しのぶの侮蔑がとても痛い。美人に罵られるって、一部の人たちにはご褒美らしいけれど、アベルにはそっちの趣向はない。

 

「え、他って?」

 

 本気で解らないアベルに、さすがに炭治郎としのぶの怒りが増した時だった。

 

「私の裸」

 

「へ?」

 

 地獄の底から響いたような、カナエの声が静かに室内を揺らした。

 

「見たわよね?」

 

 壁を向いていたカナエがゆっくりと立ち上がり、その両手にビーム・サーベルが握られる。

 

「え?」

 

 アベル、固まる。そんなことない、着替えを除くとかお風呂に乱入したなんて、ラッキースケベが発動したことはない。

 

 ないと、思いたい。

 

「・・・・そういえば、後頭部が痛い」

 

「見たでしょう?!」

 

 カナエ、泣きながら絶叫。

 

「私もいたんですから!!」

 

 同じく顔を真っ赤にしたしのぶ、叫ぶ。恥ずかしくて赤いのか、それとも怒りで赤いのか解らない。

 

「嫁入り前の女性の裸体を見るなんて、切腹して責任を取りましょう、アベルさん。介錯します」

 

 炭治郎、すでに白装束に着替えている。何処にあったのか、とても不思議ですね。

 

「え、待って、え、俺が見たの? 何時?」

 

 アベル、本気で解らない顔で三人を見回して。

 

「・・・・・・ああ!! だから後頭部が痛いのか」

 

「思い出さないで!!!」

 

「忘れなさい!!」

 

「介錯します!!」

 

「理不尽過ぎるだろうがぁぁぁ!!」

 

 三人同時攻撃に、さすがの軍勢も抵抗できませんでした。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話の発端は、この宿に入った時のこと。

 

 何とかどうにか頑張ったアベル君のおかげで、三日後に宿場町にどうにか辿り着けました。

 

「・・・・・・なんだか大きくなってない?」

 

 カナエの足首くらいしかなかったビオランテと小型レギオンが、カナエの膝くらいの大きさになっていたり。

 

「・・・・・・・」

 

 しのぶの掌くらいだったオーラバトラーが、子供くらいに大きさで彼女の後ろに整列していたり。

 

 デススティンガーが、すでに全員を乗せられるくらいの大きさだったり。

 

 ELSが空を覆うほどの数だったりとか。

 

 そんな小さな出来事があった三日間ですが。

 

「アベルさん、アベルさん、本当にいいんですか?」

 

 炭治郎、この先の成長を知っているから焦ったり混乱したり。

 

「いいんだよ、ほら、大丈夫さ。カナエさんとしのぶに懐いているから、人間は襲わないから」

 

「いやそれにしたって」

 

「大丈夫。本当に、人間は、襲わないから」

 

 本当かと炭治郎がアベルを見ると、彼は無表情で何度も呟いていた。

 

 人間は襲わないけど、人間以外は容赦なく捕食する集団が出来上がったりしたのですが、宿場町に入ったので問題なし。

 

 では泊まろうって考えていた一同は気づきました。

 

 路銀、宿代は誰が出すの。

 

「私が」

 

「いいえ、姉さんより私の方が」

 

「いやこの場合、年長者の俺が」

 

「俺も言った方がいいですか?」

 

 そんなことを四人で言い合った後、アベルがふと思いついたように手を叩いた。

 

「あ、俺は無一文だった」

 

「え? あれ、父さんから受け取ってないんですか?」

 

「え? 受け取るもんなの?」

 

「え? いや遠征費用って貰えますよね? アベルさんが真っ先に決めたことじゃないですか」

 

「あれ、これって遠征だったっけ?」

 

 本気で疑問を投げるアベルに、炭治郎は片手で顔を抑えて盛大に溜息をついた。

 

 これが遠征じゃなければ、何が遠征というのか、この人は色々と知っていたり教えてくれたりしても、常識というか自分のことに関して無頓着なことがあるなぁと呆れてしまう。

 

「じゃ私が出すから」

 

「私もです」

 

 優しい胡蝶姉妹によって、宿の代金は何とかなったのですが。

 

 その後、この宿は温泉が自慢ということで、入ろうということになったわけですが。

 

 そこでアベル君が、やらかしました。

 

「あ、手拭いを忘れました。先に行っていてください」

 

 炭治郎が、途中で部屋に引き返したのも不味かったかもしれない。

 

 こうしてカナエ、しのぶ、アベルの三人だけでお風呂へと向かったまでは良かったのですが。

 

 男女に別れて脱衣所に入り、さて入浴というところで。

 

「あれ、このドアってなんだろう?」

 

 アベル君、二つのお風呂を仕切っている壁に備え付けられたドアを、開けてしまいました。

 

 カギがかかっていたドアだったのに、何故かこの時はカギが開いていて。

 

 そして、女性の悲鳴と炭治郎の怒声と、後頭部への衝撃によってアベル君、ダウン。

 

 見事、胡蝶姉妹は軍勢のアベルを打ち取った、というわけです。

 

 その後、アベルは土下座して二人に謝罪して許してもらったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 許してくれたけど、甘いものが飲みたいとか食べたいとか言われて、アベルは買い出しに、ついでに炭治郎も買い出しに。

 

 アベルがお金を持ってないから、炭治郎が出すことになるのですが、年下にお金を恵んでもらう『軍勢』、これでも銀河連邦では切り札的な存在でした。

 

「湯気で見えなかった。ラッキースケベってあるんだな」

 

「・・・・・・俺、アベルさんが信じられなくなったかもしれない」

 

「いやマジで不可抗力だって」

 

「普通に考えたらドアを開けたら女湯でしょうが!」

 

「え、ドアがあったら開けたくなるじゃん」

 

「そんな山があったら昇りたいみたいに言わないでくださいよ。本当にまったく、二人が許してくれなかったらどうするつもりだったんですか?」

 

 呆れてため息をつく炭治郎に、アベルは当たり前のように答えた。

 

「え、そりゃ当然。責任を取って、結婚するつもりだったけど」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

 炭治郎、絶句。

 

 この人はどうしてこう、ヘタレとか馬鹿げた言動が多いのに、こういった場面においては男前で絶対に退かないのか。

 

 それでも、と炭治郎はちょっと笑った。

 

 この人らしいと、安心できたから。

 

「アベルさんはアベルさんでしたね」

 

「何を当たり前のことを言っているんだよ、炭治郎」

 

「いえ、ちょっと安心できました」

 

 なんだよ、とアベルが小さくため息交じりに告げて。

 

 炭治郎はいいんですと返して隣を歩く。

 

 穏やかな空気と、何気ない日常。そんな何処にでも有る雰囲気の中、二人はゆっくりと人の流れの中を歩いていく。

 

 宿場町だからか、それとも灯りが珍しいの中、夜だというのに街を歩く人の姿があった。多くはないが、少なくもない人の流れの中、二人は笑いながら話をして道を進み、人とすれ違い、女性と青年とすれ違い、やがて路地を曲がったところで。

 

 素早く壁に張り付いた。

 

「・・・・・鬼だったよな?」

 

「はい、鬼でした。何かの術式で隠していたようですけど」

 

「こんな街中でなんて」

 

 そっと路地から、先ほどまで歩いていた道を見つめる。

 

 行き交う人の中に、明かに『血の匂い』がする男女がいた。

 

「レギオン達の警戒網を抜けたってことは、かなり厄介な鬼だよな?」

 

「成長途中とはいえ、あの探査能力をすり抜けるって、信じられませんね」

 

 炭治郎は、成長しきったレギオン、ビオランテ、オーラバトラーにELSと戦ったことがある。

 

 隠密領域、つまりステルス・フィールドを展開していたとしても、十秒で発見されたのは、ちょっとした恐怖だった。

 

 あれをすり抜ける鬼、噂の血鬼術の類だろうか。

 

「女性のほうが年長か?」

 

「男性は年若い気がしますね。どうしますか?」

 

 炭治郎の問いに、アベルは思考を巡らせる。

 

 不味い、といえる状況だ。

 

 ここは街の中、本当に宿場町のど真ん中で、周囲の建物には人がいる。人質にされたら、あるいは楯に使われたら、こちらはまともに動けない。

 

 武器の性質のこともある。アベルは近接武器なんて扱えないから、軍勢を動かすしかないが、その武装の数々は街中で使うことを想定していない。

 

 炭治郎は刀だけなら、と言いたいところだが。流刃若火の炎は凝縮したとしても、余波が出る。こんな木造の街並みの中で使ったら、間違いなく火事になってしまう。

 

 カナエとしのぶに応援を頼むしかないか、いやあの二人も刀は持っていなかった。どちらもビーム・サーベル装備。今の廃刀令の後の時代では刀を持っていれば警察がうるさいので、見た目は棒にしか見えないビーム・サーベルを選んだのだろうが。

 

 裏目に出たか、アベルは鬼の二人を追いながら小さく舌打ちした。

 

 ビーム・サーベルも熱装備。流刃若火を振るうことと、あまり変わりはない。

 

 見逃して、鬼が街の外へ出たところを。いや、こんなに人が多い街で誰も襲わずに鬼が街を離れるなんて、あるわけがない。

 

「・・・・・・俺の卍解なら行けます」

 

「速攻で行こう」

 

「はい」

 

 炭治郎が刀に手をかけた。

 

 意識を集中し研ぎ澄まし、刀を持つ右手に力を込める。

 

「・・・・・行きます」

 

 そして飛び出す。

 

 相手がこちらを見た、女性が驚いた顔で、男性が何故と疑問を浮かべていた。

 

 炭治郎が刀を引き抜く。炎が一瞬だけあたりを染め上げ、すぐに消えて凝縮されていった。

 

「卍解・残火の太刀」

 

 小さく炭治郎が呟くと、刀の形が変わる。まるで燃え尽きた後の隅のような、真っ黒な色の刀のようなものを見て、二人の表情が変わる。

 

 アベルからはそれがどんな感情かは見えなかった。

 

「東・旭日刃」

 

 回避しようとしない二人に、アベルは鬼はやっぱり馬鹿だと思った。

 

 日輪刀でなければ鬼を倒せない、そんなことをずっと信じているなんて、とても愚かだ。

 

 世の中には、絶対なんてものは存在しない。

 

 例え見た目が木炭のように見えても、脅威を感じないとしても、武器であるなら回避か防御をするべきだ。

 

 その小さな刃は、鬼二人を確実に焼却するものだから。

 

 炭治郎は振りかぶる。小さく彼の息の音が聞こえた。卍解だけじゃなく、確実に相手を倒すために、ヒノカミ神楽も使って刃を振り抜く。

 

「ヒノカミ神楽、炎舞!!」

 

「・・・・・・!!」

 

 焔が踊る中、女性が何かを叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








 炭治郎の性格、かなり変わっています。

 家族が死んでないこと、妹が鬼になっていないこと。それと、鬼は必ず倒してきた経験から、鬼であっても救いたいとか、救う方法がと考えない炭治郎です。

 竈門家の人たち全員がそう考えていて、対鬼用要塞都市『鬼滅』ではそれが当たり前になっています。

 鬼が元人間だと知っていても、今は鬼だから倒す。これ以上、同族殺しなんてさせないために、細胞一つこぼすことなく。

 なので、鬼がいるから倒すのが普通のことなので。

 猫を連れた女性と男性が、ここで出会ったのが不運としか。







 これは、世界一優しい鬼退治のお話。

 原作がそう言っているならば。

 これは、世界一、理不尽な鬼狩りの話、となります。









 ちなみに、死んでないですよ、殺してないので。いや、あんなに綺麗な珠世さんを殺すなんてねぇ。


 

 アオイさんは、鬼から逃げ出したって聞いて。

「私は鬼の前に立てない半端者ですから」

「え、別に鬼の前に立つ必要ないいよね?」

「戦場に立てないのにどうやって?!」

「こうやって」

 アベルにコントローラーを手渡されるアオイさん。

「え? え?」

「はい、狙いを定めて」

「え?」

「ロックオンしたら、ボタンを押して。そしたら、衛星軌道から砲撃されて終わり。ね、簡単でしょう?」

 とてもいい笑顔のアベルと、少し怯えながらも次第に笑っていくアオイさん、そしてこの世界での『軍勢』の誕生であった。

 『軍勢』のアオイ、昼間は蝶屋敷で治療などを取り仕切って、夜には軍勢に指示を出して鬼を狩って行く。

 そんな話を考えてしまって、慌てて消しました。






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鬼のち氷、ところにより豪炎です





 難しかったです、大変でした、この話を考えるのが、とても大変でした。

 最大の敵は、『ユシロー』君、おまえだ!

 漢字が出てこないよぉ(泣)







 

 

 

 

 

 

 

 

 とった、炭治郎は刃を振るう中で、確信ができた。今までも見えた相手を確実に倒せる時に見える、『糸』がはっきりと見えている。

 

 刃はいつも以上に、自分の考えた通りの軌跡を描いて、鬼へと走る。

 

 間違いなく倒した、炭治郎の確信していた。

 

 しかし。

 

「え?」

 

 炭治郎、『あれ、おかしいな』なんて思って変な声が出た。

 

「はい?」

 

 後ろで見ていたアベル、刃の軌跡がすっ飛んで行ったように見えて、呆けてしまう。

 

「・・・・・・・・・・」

 

 そして燃える、板の壁。

 

「・・・・消火ぁぁぁ!!!」

 

「なんでぇぇぇ?!」

 

 燃える燃える、まるで祭りのように燃える壁に、アベルと炭治郎は慌てて消火したのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小火騒ぎを放置すると、放火になるそうです。罪に問われるので、必ず消火作業には従事しましょう。

 

「危なかった、まさか放火で捕まるところだった」

 

「ナノマシン万歳、ナノマシンって凄いですね、アベルさん」

 

「ああ、ナノマシンは万能だ。消火から再生までしてくれるからな」

 

 路地裏の奥の方、地面に座って空を見上げる二人は、薄く笑っていた。

 

「おいおまえら! いいから離せ!」

 

 なんだか後ろで男の声がするが、放っておこう。今はこの小火になりかけた事件のほうが先だ。

 

「無視するな!」

 

「『軍勢』のアベルって呼ばれた俺だけど、色々と犯罪スレスレのこともしたけど。いや、犯罪だったのかな」

 

「俺、前科なんてついたら、父さんになんて言われるか」

 

「刀を持っている時点で、法律違反で犯罪者じゃ?」

 

「言わないでくださいよ、アベルさん」

 

「こいつはなんだ?!」

 

 黄昏る二人の向こう側で、なんだか怒ったような声がしているが、無視しておこう。

 

「後ろ向きはここまで。炭治郎、なんで外した?」

 

「いや俺も解らなくて。確実に殺せたはずなんですよ。でも、流刃若火が」

 

「え、そいつが原因? なんて言った?」

 

 思わず二人して刀を見つめてしまう。

 

 斬魄刀には魂が籠っている、持ち主の魂はもちろん、『以前の持ち主』の魂も。

 

 アベルは思い返す、あの人が敵を前にして容赦なんてこと、しないはずじゃないか。敵と定めたら、絶対に倒す人だったはずなのに。

 

「・・・・・・」

 

 流刃若火の声を聞いた炭治郎、一瞬で蒼白になった。

 

「え、何? なんて言ったのそいつ」

 

「・・・・・」

 

 炭治郎、首を振る。答えたくないではなく、本当にそんなことをこの刀が言ったなんて信じられないから。

 

「炭治郎!」

 

「はい!! 『美人の損失は世界の危機』って」

 

 瞬間、アベルは信じられないものを見たような気がした。

 

 あの最古の斬魄刀が、厳格な主人を持った斬魄刀が、規則に厳しいおじいちゃんの魂を持っているはずの斬魄刀が。

 

 まさかの美人理由で刃を外すなんて。

 

「炭治郎」

 

 信じられないアベルは、別の可能性を思いついた。

 

「え、待って、待ってください、アベルさん」

 

 急に生暖かい目を向けてきたので、炭治郎は慌てて相手の肩を掴んだ。

 

「いいって。いいから。そうだよな、おまえも思春期だもんな」

 

「何を言っているんですか?! いいから俺を見てください!」

 

「解っているから、そうだよな、美人だもんなぁ。仕方ないよなぁ」

 

「一人で納得してないで! 俺を! 見てください!!」

 

「いいからいいから」

 

「俺の話を聞けぇぇぇぇ!!」

 

 そして、焔の柱が天を焦がしたのでした。

 

「解った炭治郎! 俺が悪かったから!」

 

「解ってくれました?」

 

 ニッコリ笑顔で告げる炭治郎に、アベルは思う。『こいつって、こんなに危ない性格だったっけ?』と。

 

「じゃ美人じゃないってことで」

 

「おまえら殺すぞ! 珠世様が美人じゃないってなんだ? こんなに綺麗な人は世界にいない!!」

 

「確かに、美人さんですけど」

 

「炭治郎、おまえはそうか。照れてるのか」

 

「貴様! 珠世様に邪な顔を向けてんじゃない!」

 

「違いますって! 綺麗だなって言っただけじゃないですか!」

 

「そっかそっか! ついに炭治郎にも春が来たか!」

 

「おまえ殺すぞ! 珠世様にいかがわしいことでもするつもりか!?」

 

「なんでそうなる?! おまえはどっちの味方だ?!」

 

「いいっていいって思春期は異性に対して、そうだよな。そうなんだよなぁ」

 

「こんなに清らかで美しい珠世様になんてことを!」

 

「だからぁ!! なんで俺が言ったように解釈してるんだよ?!」

 

「炭治郎にもついにかぁ、これは炭十郎さんと葵枝さんにも教えないと」

 

「汚らわしい! これだから鬼殺隊は!」

 

「アベルさん! 煽るのは止めてください! 俺はそんなつもりまったくないですから!!」

 

「え? 無いの? あんなに美人さんに反応しないって、おまえまさか」

 

「貴様! 珠世様が美しくないって言うのか?! 世界で最も美しく可憐な女性だぞ!!」

 

「どっちにしろ俺が悪く言われるのかよ?! 解った! 解ったよ! 美人で綺麗な女性だ! これでいいか?!」

 

「そっかそっか、ようやく炭治郎も認めたってわけか。確かに綺麗なだよな」

 

「ようやく解ったか、珠世様の美しさを今になって認めるなんて、貴様は女性を見る目がないな」

 

「おまえが怒ったから否定したのに、なんだよそれ? あれ?」

 

 ようやく落ち着いた男に、炭治郎が深くため息をついていると。

 

「・・・・・・すみません、そのあたりで許してください」

 

 顔を真っ赤にして深々と頭を下げている当人がいましたとさ。

 

何しているのかな?

 

不潔です

 

 そして、鬼以上に怖い二人が降臨。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 和服美人さんが、光の縄で縛られて、地面に膝をついて土下座しています。許してくださいなんて言っています。

 

 その傍には男が三人、喚いていました。

 

 貴方はこれを見たらどうしますか。

 

 もちろん通報します

 

 はい、そうですね。気をつけましょうね。

 

「アベル君!」

 

「アベルさん!!」

 

「え? 俺だけ? なんで俺だけ?!」

 

「そんな趣味を持っているなんて」

 

「女性に対してなんてことしてるんですか?」

 

「待った、なんで俺。ほら、炭治郎もいるし」

 

「自分の趣味に年下の男の子を巻き込むなんて」

 

「最低ですね。女性を縛って楽しんでいるなんて、男してどうなんですか?」

 

「ちょっと待って! なんでしのぶはそんなに冷たい顔しているのさ?!」

 

 ゴミを見るような彼女に、思わずアベルは駆け寄りかけて。

 

「当たり前じゃないですか! 女性の敵!」

 

 一蹴されました。

 

 ショックを受けて地面に倒れるアベルに、しのぶは隣に目を向けた。

 

「さあ姉さんからも」

 

「ええ。アベル君!!」

 

 強い口調のカナエに、アベルは思わずその場に正坐しました。

 

「はっきり言っておきます。私は怒っています」

 

「はい、ごめんなさい」

 

 もうダメだ。この場合は、謝った方がいい。長年の経験からアベルは結論を出して土下座しそうになって。

 

「なんで最初に私に相談しないの!」

 

「え、あ、あれ?」

 

「私なら縛られるくらい! いいえむしろ! 他の女性を縛るくらいなら私で我慢しなさい!」

 

「姉さん?!」

 

 まさかの姉の裏切り、そんな性癖をしていたのかと妹が驚いた顔で見つめる。

 

「違うのよしのぶ! これはそう、そうね、これは対処方法よ!」

 

「え、何の対処方法? 待って姉さん、なんで対処方法なの?」

 

「アベル君が女性を縛ることに興奮を覚える人で、他の人に迷惑をかけるくらいなら、私が犠牲になったほうが身内で終わるじゃない」

 

「身内? 身内って」

 

 思わず姉が言った言葉に、しのぶは軽くめまいがしてきた。

 

 まさかまさかの姉は、そういった気持ちがあるのか、と。今までの言動に、アベルが好き的なものはなかったはずなのに。

 

 いやあったかもしれない。

 

 気づいたしのぶは思う、『あれ、なんかモヤってする』と。

 

「そう身内! もうアベル君は私達の『弟』みたいなものじゃない」

 

「え? そっち? そっちの意味で?」

 

「そうよ! 弟みたいに可愛いじゃない」

 

 興奮なのか、それとも別の理由か、カナエは何故か顔が真っ赤でした。

 

「俺、カナエさんより年上」

 

「・・・・・・え?」

 

「え?」

 

「二十歳は超えましたよ」

 

「えええええ?! アベル君って二十歳を超えているの?!」

 

「嘘でしょう?! そんな顔で?!」

 

 驚愕の事実に胡蝶姉妹は、思わずアベルに詰め寄るのでした。

 

「あれ、そうなると。なんで『カナエさん』なのかしら?」

 

 そして冷たい顔の般若降臨。

 

「え、だって」

 

「だって何かな? アベル君のほうが年上なのに、私は『さん』づけなのかしら? どうして? ねえ、どうして?」

 

 まさか老けているから、なんてことを言ったら殺される。

 

 その前に『アベル君』と年上を呼んでいる、花柱がいるのだが、気づいていないのでしょう。

 

「理由を説明してくれないかしら?」

 

 今にも凍り付きそうなほどの殺意の前に、アベルは小さく視線を反らした。これは不味い、本気で命の危機だ。貴方は花柱で、花の呼吸を使うのに、そんなに冷たい顔ができたのか、なんてよく解らないことを考えてしまうくらいに、現実逃避したい。

 

「さあ、説明しなさい」

 

「あ、はい」

 

 これは逃げられない。そうなると、どうにか助けを。アベルが視線を向けた先、しのぶは同じように冷たい顔をしていた。こっちは無理だ。

 

 炭治郎に、と顔を向けようとして無理だと悟る。

 

「おまえ苦労しているんだな」

 

「うん、そうなんだよ。アベルさんって、どうしてこう」

 

「苦労してるんだな。大丈夫だ、おまえはいい奴だからな」

 

「解ってくれてありがとう」

 

「珠世様の美しさを理解できる奴に悪い奴はいない」

 

「そっか、綺麗だもんなぁ」

 

「ああ、美しい方だ」

 

 なんかあっちで鬼の青年と意気投合しているから、むしろ慰められているから。その美しいとか綺麗って言われている女性が、もう赤面を通り越して全身が赤いようになっているのに、気づいていないのか。

 

 気づいてないよなぁなんてアベルは思って、閃いた。

 

「解った、カナエ」

 

「へ?」

 

「これでいいんだろ、カナエ。悪かったな、包容力がありすぎて、つい年上みたいに扱った。年下だからな、呼び捨てでいいんだろ?」

 

 秘儀、敬語を止めて有無を言わさずに呼び捨て作戦。思いっきり決め顔でやるといいと、昔に戦い方を習った軍人に教わったアベル君、ここは全力で実践して回避を狙う。

 

 ちなみにその軍人さん、仲間内から『狙ったものは外さないスナイパー』って呼ばれているのを、アベル君は知らないのです。

 

「美人さんであんなに落ち着いた雰囲気だ。年上みたいだって思った俺が悪かった。そうだよな、花も恥じらう乙女だからな、年には敏感だったな」

 

「・・・・・・」

 

「悪かったよ、カナエ。こんなに可憐な少女を、大人扱いは酷いよな」

 

「・・・・・はう」

 

 真冬の極寒から、一気に春になりました。胡蝶・カナエは、その名の通りに春らしく蝶のように、花柱の名に相応しいくらいに愛らしい赤い顔を咲かせたのでした。

 

「アベルさん、口説いてます?」

 

「え、何で?」

 

 炭治郎、思わず背後からアベルの肩を掴んでしまうくらいに、今のアベルは女性を口説き落とす顔をしていました。

 

「これで回避すれば、後はイチコロって教わった」

 

「・・・・・・・・はぁ」

 

 ビシッと親指を立てるアベルに、炭治郎は思う。

 

 この人はなんでこう、無駄にカッコイイ顔を、無駄に怒りをあおるような場所で使うのだろう、と。

 

「アベルさぁん」

 

「なんだよ、しのぶ?」

 

「それじゃ最初に私を呼び捨てだったのってなんですかぁ?」

 

「もちろん、妹みたいに小さいし」

 

「へぇ」

 

 瞬間、花のような雰囲気の空間に、刃のように冷たい何かが差し込まれ。

 

「そのまま可愛い奥様になりそうだから」

 

「・・・・・・・この人は、本当にもう」

 

 一瞬で冷たいものが蒸発し、しのぶは顔を真っ赤にして俯いたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? これって俺がまとめないとだめかな?」

 

 炭治郎、そんなこをと思って夜空に浮かぶ月を見上げたのです。

 

 

 

 

 

 

 

 










 文字を書く、作品を仕上げる、話を考える。色々と文章表現とか、難しい表現とか、あるいは人物目線の時はその人らしい、話し方とか考えていく中で、最大の敵って何かって言うと。

 原作あるキャラの漢字!

 サルスベリの今回の最大の敵は、『ユシロー』!!

 おまえだおまえ! 漢字が出てこないんだよ! 

 ユが出てこなかった時の絶望感ったらもう!

 癒ってでてきた時はもう! IMEパットで書いても出てこなかった時はもう!

 それでよく考えて、何とか漢字を使わない方向で行こうと決意して。

 出来上がった話を見て、『あれぇ』とか思ったのが今回です。







 ユシローって変換した時に思ったこと。

「いらっしゃいませ」

 伝説の職人がいる。彼の腕は天下一品。

「まさか、そんな」

 彼の振るう包丁さばきは、月さえ隠れるほどに美しく。

「凄まじい」

 彼の熱意は太陽さえ超えるもの。

「さあ、お召し上がりください」

 多くの人は語る、彼こそが伝説の料理人。

「貴方のための一品です」

 そう彼こそが『ユシロー』!!

 後に一大お寿司メーカーを創立する者!!

 なんて思ったサルスベリは、ちょっと土下座してきますね。









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『あ、それなら持ってる』っていう奴が一人

 








 フワッと思いつく話を並べていくと、フワッとした話になるんじゃないかって思ったら、暴走特急のように走りだしていた。

 追いかけても追いつけなかった。

 世の中は大変です、色々な苦労が皆さまにはあるでしょうから。

 こんな駄文でも『フフ』とか笑ってくれるよう、頑張ります。

 さて、今回は真面目に、真面目?

 皆さん、大変です、真面目が迷子です、誰か捜索願をお願いします!











 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 炭治郎は思う。

 

 一番の年下はひょっとして自分ではないか、と。

 

 炭治郎は考える。

 

 この状況をどうにかするのが自分だなんて、世の中が間違っていないだろうか、と。

 

 炭治郎は思考する。

 

 アベルが原因だなんて、どうしようか、と。

 

 炭治郎は推察する。

 

 現在の状況を考慮して最もいい打開策を見つけない、と。

 

 炭治郎は気づいた。

 

 つまり、『鬼滅』にいたころと変わらない、と。

 

「アベルさん」

 

「え? 俺が悪いの?」

 

「がんばりましょう! 男ですから!」

 

 謎の応援を受けて、アベルは思った。

 

 『え、それって俺がどうにかするってことか』なんて。

 

 竈門・炭治郎は責任転嫁を覚えた。純粋な少年になんてことを覚えさせるのか、この『軍勢』は畜生である。

 

「何の騒ぎだ?!」

 

「やべぇサツだ!」

 

 何故か、アベルがそんなことを言って背中を向けた。

 

 サツってなんだろう、誰もが顔を見合わせている中で、彼は素早く動いて。

 

「秘儀! ストナーサンシャイン目潰し!!」

 

 そして、巨大な太陽が警察官達の目を眩ませたのでした。

 

 後に真・ゲッターは語る。

 

 『俺の主、あんなことで呼び出して。マジでハンパねぇな』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鬼にとって、弱点ってなんですか。

 

 日輪刀で首を斬ること。

 

 それだけですか。

 

 後は太陽とか。

 

「殺す気か?!」

 

「申し訳ありません」

 

 青年というか少年というか、男の鬼の言葉にアベルは土下座中。

 

「なんだあれは?! あんな太陽がどうして出てきた?! あのでっかい赤鬼はなんだ?!」

 

 激昂する彼の背中を炭治郎が『まあまあ』とか宥めている。鬼と見たら即滅してきた少年が、鬼を気遣うなんて。明日は槍が降るかもしれない、なんてアベルは思っているが、土下座は止めない。

 

「女性の敵」

 

「鬼畜」

 

 カナエとしのぶのゴミを見るような目線が止まらない。いくら相手が鬼とはいえ、女性を縛って放置してそのまま焼き殺そうとするなんて。

 

 理由を言われたアベルは反論しようとして、言葉を飲み込むしかなかった。待ってほしい、あれは光だけで熱量はない、攻撃力はないんだ。

 

 ちょっとアレンジしてミッドチルダ式の術式が入って、魔力ダメージでノックアウトとかできるけれど、今回は当てるつもりはなかったから、セーフなのに。

 

「ユシロー落ち着けって」

 

「止めるな炭治郎! こいつは珠世様を殺そうとしたんだぞ」

 

「え、俺もだけど」

 

 思わず口に出してしまう炭治郎。

 

 ピタリと止まり、一瞬で顔を向けてきたユシロー。もう漢字を諦めて、ユシローでいいやと考える誰かがいますが、それは今は関係ありませんので。

 

「・・・・・・・おまえ、まさか、『日の呼吸』の」

 

「いや俺のはヒノカミ神楽だけど」

 

「その耳飾りは?!」

 

「あ、これは」

 

「まさかおまえは!!」

 

 驚愕に染まった顔をするユシローに、炭治郎はニヤリと似合わない笑みを浮かべて耳飾りを持った。

 

「やっぱり鬼なら解るんだな。これはな」

 

「それは!!」

 

外して放り投げると、太陽爆弾になる

 

 自信を持って胸を張って、盛大に答える炭治郎。

 

「・・・・・・・・・」

 

 ユシロー、指をさしたまま硬直。いやそうじゃない、なんて言葉が彼の顔に書いてあったが、誰もが読み取ろうとしない。

 

「威力が高めだから使いどころが難しくて。前に使った時は五メートル範囲が消えちゃってさ。大変だったんだ」

 

「いや、あれはおまえが悪い」

 

「アベルさんがやれって言ったんじゃないですか」

 

「何処の世界に流刃若火の炎を込める馬鹿がいるんだよ」

 

「ここにいます」

 

 胸を張って自分を指差す炭治郎に、アベルはため息をつきたくなった。普段はとても優しく穏やかな少年なのに、鬼関係になるとどうしてこう常識を投げ捨てるようなことをするのか。

 

 鬼が常識の範疇にないから、相手をすると常識を投げ捨てたくなるのかもしれない。アベルは不意に世界の真理に辿り着いた、このままなら知り合いの魔術師が言っていた『根源』を理解できるかもしれない。

 

「そ、その耳飾りの文様は何処から?」

 

 どうにか場をシリアスに持っていこうと、ダメージが抜けきれない珠世が動いた。

 

「これは竈門家に代々、伝わったものです」

 

「では貴方は」

 

 彼女は何かを言い掛け、口を閉じる。その瞳に映るのは、羨望かあるいはようやく見つけた光明か。

 

「皆さまにお話があります」

 

 決意を秘めた顔で、珠世は全員を見回した。

 

「鬼の首魁、鬼舞辻・無惨の目的についてです」

 

 彼女の言葉に、誰もが息を飲むように黙った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 路地で話すものではないから、と宿まで戻ってきた一同は重い沈黙が支配していた。

 

 カナエとしのぶからしてみたら、長い間、鬼殺隊が追い求めてきた元凶、その目的を知ることができる。けれど、相手は鬼だ。無惨の手の者が、本当に真実を話すかどうか、疑問が残る。

 

 炭治郎にしてみたら、鬼とはいえ、こう慣れ合った仲。言葉に嘘は感じられないが、鬼を問答無用で斬ってきた彼からしたら、同じ場所にいて話を聞くなんてことは、何処かむず痒い。

 

 そしてアベルにとっては。

 

「鬼舞辻・無惨の目的は『青い彼岸花』、そして太陽の克服です」

 

 鬼の最大の弱点の無力化。思ったよりも大きな話だとカナエとしのぶは感じて、考え込む。

 

 今まで鬼を倒す時は日輪刀を使うか、あるいは日の出まで粘れば勝てた。それが太陽の光でも死なない、滅びなくなったらどうなるか。

 

 夜の間の警戒では終わらない、一日中の警戒しなければならない。何時、何処で、どんな形で襲ってくるか。今まで日の光が差さない場所に注意していれば良かったのが、それを鬼が手にすることで警戒する場所が跳ね上がる。

 

 それに戦闘時間も増加する。今までは短期決戦だった。どちらにとっても、制限時間があって、それを過ぎたら倒せなくても回避できたのに。

 

 ギュッと知らず知らずのうちに、カナエは拳を握っていた。

 

 鬼殺隊の基本的な戦術が崩れる。日輪刀を持って鬼に対応し、日の光を利用してきた戦い方ができなくなる。

 

 しのぶはひたすら考え込む。太陽の光を克服したなら、自分が使っている毒への耐性は。どのような毒が効いて、どのような毒が無効化されるのか。また一から情報を仕入れないと。

 

 鬼殺隊の二人が考え込んでいる中。

 

 炭治郎は『そうなんだ』と考えていた。

 

 今までは夜だけ。日中もわざと影を作って誘い込んでいたのに、もし鬼の首魁がそれを手に入れて太陽の光を克服したら。

 

 昼間も攻めてくる。あの鬼達は、夜も昼も関係なく。

 

「好都合、かな」

 

 ポツリと炭治郎は呟いた。

 

「今、なんて?」

 

 珠世の問いかけは、驚きと共に告げられた。まさか、そんなはずはない、と。絶望的な状況ではないか、鬼が太陽の光を克服したら、どれだけの犠牲が出るか。

 

「好都合かなって。俺達にとっては鬼が来てくれたほうが、やりやすい」

 

「貴方は、これがどんな状況になるか解っているのですか?」

 

「解っています。鬼がそれを目的としているなら、それを確保できたら、鬼の目的を一本化できる。それなら、後は迎え撃てばいいだけ」

 

「鬼を迎え撃つ? 貴方は鬼殺隊ではないのですか?」

 

 信じられないものを見るような珠世に対して、炭治郎は小さく首を振って答えた。

 

「俺達は違います」

 

 『鬼滅』の名前は出さない。何処で鬼が聞いているか解らないから。情報の秘匿の重要性はアベルから嫌というほど叩きこまれた。

 

 敵の情報を残らず集める。味方の情報は一ミリも与えない。それが、戦場で戦う時に味方の損害を減らすことになる。

 

 だから、炭治郎は珠世とユシローに自分の所属を告げずにいる。

 

「鬼を迎え撃つなんて、そんなことをは・・・・まさか」

 

 珠世には思い当たる場所があった。

 

 鬼舞辻・無惨の手勢が攻めても、一匹も戻ってこなかった場所。幾つもの鬼が向かい、一人も戻らなかった街。

 

 人間にとって天敵が鬼としたら、鬼にとっての天敵はその場所。鬼達にとっての『死地』。

 

「貴方は、貴方達は」

 

 珠世はそう問いかけ、それ以上は言葉にしなかった。

 

 ただ真っ直ぐに見詰めて微笑む炭治郎に、かつての『剣士』の姿を重ねていいた。

 

 唯一、鬼舞辻・無惨を追い詰めたあの方の幻影を。

 

「どうか、お願いします」

 

 彼女は静かに腰を折った。自然と頭を下げ、願うように言葉を紡ぐ。

 

「鬼舞辻・無惨を倒すため、助力を。どうかお願いします」

 

 今にも泣きそうな声だなと、炭治郎は感じた。彼はそう思いながら、辛いとか苦しいって匂いを嗅ぎ取っていた。

 

 悲しみと苦しみと、辛さと苦痛。そんなものが彼女から流れていることに、少年らしい心が憤りを叫んでいる。

 

 こんな人が、鬼になっても傲慢にならず、人間相手でも頭を下げられる人が、苦しんで生きていることのないように、悲しんで毎日を過ごすことがないように。

 

 できれば助力したい。今すぐに『はい』と答えたいが。

 

「俺には、貴方に答えることができません」

 

 彼の中の『鬼滅』としての責任感が、即答を止めさせた。

 

 この身が一人であれば、組織の人間でなかったら、すぐに答えられたのだろうけれど、自分は『鬼滅』の竈門・炭治郎。

 

 自分がはいと答えることは即ち、『鬼滅』全体を巻き込んでしまう結果になる。

 

 鬼は滅ぼす、残らず消す。その誓いで出来上がった都市だから、鬼舞辻・無惨を葬ることを否定する人はいない。

 

 でも、それが鬼からの情報で動けるかというと、半分くらいは否定してくるだろう。鬼に身内を殺された人はいなくとも、鬼による悲劇を多くの人が知っているから。

 

「そう、ですか」

 

 頭を上げた珠世に、表情の変化はない。ただ少しだけ瞳が揺れて、悲しそうな匂いがした。

 

 隣からは強烈な怒りの匂いがしてきたが、無視しよう。 

 

「俺には無理です。でも、俺の父なら、あるいは」

 

 炭治郎ができるのはここまで。珠世の真摯な態度に答えなかった不義理に対しての、謝罪のようなものはここまでしか出せなかった。

 

「解りました」

 

「父には知らせておきます。御二人が来たら、丁重に出迎えてくれるはずです」

 

「御配慮、ありがとうございます」

 

 再び一礼する珠世に、炭治郎も頭を下げた。

 

 そして人知れず、ギュッと拳を握った。自分は、こんなことしかできないのか、と。強くなったつもりでいたわけじゃない、まだまだ未熟であっても誰かの手助けくらいはできるつもりでいたのに。

 

 珠世とユシローは、そのまま宿を去って行った。きっとこれから『鬼滅』へと向かうのだろう。

 

「もっと強くなりたいな」

 

 その姿を見送った炭治郎は、ポツリと呟いた。

 

 剣士としても、人間としても、そしてなにより公人としても、強くなりたいと炭治郎はこの時、心の底から強く願ったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人を見送った炭治郎が部屋に戻ったとき、カナエとしのぶはジッとアベルを見ていた。

 

 そういえば、先ほどの会話はアベルが加わっていなかったな、と炭治郎は思い出してゆっくりと座りながら口を開いた。

 

「アベルさん、どうしたんですか?」

 

「何かあったの?」

 

「珍しく無口でしたね」

 

 三人から心配され、彼は俯いて唸って、そして顔をあげて唸って。

 

「いや、彼岸花って『青いもの』もあるよな。そんなに珍しいものじゃないのに、どうして探してるんだろって思ってさ」

 

 アベルの答えに、三人は顔を見合わせた。

 

「え、なに、どうしたの?」

 

「あのね、そんなわけないじゃない。青い彼岸花なんて見たことないわよ」

 

 カナエが呆れた顔で告げる。

 

「そうですよ、アベルさんは何を言っているんですか?」

 

 しのぶが溜息交じりに伝えた。

 

「俺も見たことないですよ」

 

 炭治郎まで否定してきて。

 

「え? じゃ、これは?」

 

 不意に、アベルの右手が上がり。

 

 そして、室内の空気が止まった。

 

 誰も声を出さず、誰もが無言でお互いを見回している中。

 

 彼の手の中の彼岸花は、『怪しいほどに青く輝いていた』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千里を超えるほどでもなく、歩いてすぐに辿り着いた場所。

 

 今までの長い旅路はなんだったのか、と珠世は思わずにいられなかった。

 

 希望さえなかった、絶望もあった。倒せないのではと諦めかけた時もあったのに、僅かな光明が生まれたときにもすがったはずなのに。

 

「ようこそ、我が都市へ。歓迎するよ」

 

 出迎えたのは病人のような剣士。いや纏う気配が剣士というのは鋭すぎた。これは大正の世の中にはいない、気配が刃を纏うような鋭い覇気。

 

 昔は大勢いた、特に戦国時代にはごろごろと。そんな記憶の中でも、彼が纏う空気は、見た覚えがない。

 

「対鬼用城塞都市『鬼滅』の統領を務めている、竈門・炭十郎だ」

 

 穏やかに微笑む、何処にでもいる父親。誰にでもそう映る彼の姿は、珠世とユシローにはまったく別に見えた。

 

 抜き身の刀、今にも首が落とされるような錯覚さえ覚える。

 

 戦国乱世を戦い抜いた、歴戦の古強者。

 

「初めまして、どうかよろしくお願いします」

 

 あるいは、昔にいた刀を持った者達。

 

 サムライ

 

「話は炭治郎から聞いているよ、どうぞ」

 

 無防備に背中を向ける炭十郎と、その周囲に笑顔でいる子供たち。その誰もが同じ気配を纏っていた。

 

 あの時、炭治郎はかなり抑えていてくれたと、珠世は今になって気づく。

 

 この都市は確かに対鬼用の場所だ。街を行き交う人々、小さな子供でさえも、同じような気配を纏っていた。

 

 量や質の違いはあっても、誰もが同じ。刃のように鋭い気配と、それを押しこめる意思を持った人々ばかり。

 

「これが『鬼滅』」

 

 小さくユシローが告げた言葉に、珠世は頷いた。

 

 こうして二人の鬼は、大正の世に残った『侍達の都市』に入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 










 最後の最後で真面目が見つかりました。これも皆様のおかげでございます。

 あれ、もっと笑える話にしたかったのに。

 今回の理不尽、『鬼滅』は六歳児が侍みたいな顔している、その一点につきますなぁ。










 

 かつて戦争があった。

 戦争なら昔から何度もあった。

 ベルカ戦争。小国が世界を相手に戦ったその戦争において、とある空域で伝説を残したパイロットがいた。

 B7R、通称『円卓』。そこは上座も下座もない、語るべきは実力のみ。誰もが平等に、階級も生まれも関係なく実力を示せる場所。

「なあ、おまえ、黒髪のお前だよ」

 その空域において、唯一の例外があった。

「なんだ? 私に用事か?」

 彼は強く、何処までも鋭く飛んでいた。

「赤い目? 日系人じゃないのかよ?」

 彼のことを知るパイロットは誰もが口をそろえて言う。

「日本人だが、同じようなものか。何か用事か?」

 彼は『鬼神』。

「俺はピクシーだ。次の作戦でおまえの二番機になる、よろしくな」

 彼は誰よりも強く、誰よりも速く、そして誰よりも太陽の近くを舞っていた。

「そうか、俺はサイファーだ」

 そして平等であったはずの円卓に君臨したことから。

「TACネームだけじゃ味気ないから、俺はラリー・フォルク。お前は?」

 『円卓の鬼神』と呼ばれるようになった。

「俺か? 俺は鬼舞辻・無惨、いやムザン・キブツジというべきだな」

 彼は何処までも強く太陽に近いところを飛ぶ、『円卓の鬼神』と呼ばれて表舞台に現れ、そして消えて行った。

 私はそんな彼を追っている。






 なんて話、誰でも考えますよね。








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刃におく心を答えよ

 





 理不尽について考える。

 普通の手段について考える。

 そろそろ、前に進もうぜと自分に突っ込み入れたお話です。










 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見なれた街並みを通り、見慣れたような家屋に入り、そして見慣れない場所に連れてこられた。

 

 木造ではなく、金属っぽい壁を進んだ奥に、その部屋はあった。

 

 四方を金属で囲まれた部屋には、見事な畳が敷かれていた。中央には木造っぽいテーブルが置いてあったが、明かに手触りは木造ではない。

 

 一方に席を勧められ、珠世とユシローが座る。テーブルを挟んだ反対側に炭十郎が座り、その左右には幼い娘が二人、座った。

 

「さて、お話というのは、これのことかな?」

 

 自己紹介もなく、炭十郎が無造作に取り出したものを見て、珠世は自分の目を疑ってしまった。

 

「そ、それは」

 

「そちらがお探しの『青い彼岸花』。間違いありませんか?」

 

 探るような視線を向けられても、珠世には気にしている余裕なんてなかった。長い間、探していたものが目の前にある。貴重品のように手厚くしまわれたのでもなく、厳重な金庫に入れられたものでもなく。

 

 そこら辺に咲いている花のように、あっさりと出されたそれが無惨が探している彼岸花かどうか、珠世には解らない。

 

 今まで誰も見たことがない、探している無惨でさえも。

 

「具体的には解りません。私も見たことがないのです」

 

「そう、ですか。なるほど。では、鬼の首魁も?」

 

「恐らくは」

 

 そして珠世は無惨が鬼になった経緯を話す。

 

 平安時代に死を待つばかりだった彼に、医師が処方した薬によって延命できたが、彼は鬼となってしまった。

 

「なるほど」

 

 小さく頷いた炭十郎の視線の先、珠世達の後ろの壁に光が走る。

 

 この部屋にいるのは珠世とユシロー、それに炭十郎と穪豆子に花子の五人だけ。他にはいないが、部屋の外側では多くの人が話を聞いている。

 

 『鬼滅』の住人全員が息を潜めるように、この話を聞いている。同時にアベルが保有している『軍勢』の統合AIと戦術AIと情報部門のAIも。

 

 情報部門からデータあり、『青い彼岸花』の主成分ならば人体を鬼に『近いもの』に変革可能。しかし、原液及び果実、花弁のみでは不可能。

 

「となると、これを使った薬品の製造方法が解れば、本物かどうか解ると」

 

「それも、恐らくとしか。申し訳ありません」

 

「いえいえ。我々としても有益な情報を得られて、とても助かっています。貴方は鬼とはいえ、人間に対して誠実な方のようだ」

 

 丁寧に頭を下げる珠世に対して、炭十郎は温和に微笑みながら、テーブルの下で手を開く。

 

 合図を受けて、隣の部屋に控えていた葵枝がそっとライフルを下ろす。

 

 相手の態度や雰囲気は、とても炭十郎に襲いかかる雰囲気ではないから、狙撃しなくても大丈夫だろう。

 

 後は、穪豆子と花子の近接最強の二人がいる。その上で、炭十郎の実力ならば鬼の二人は瞬殺できる。

 

「・・・・・・鬼はすべて無惨に繋がっている、というのは本当ですか?」

 

「え、ええ。その通りです。無惨の呪が残っている鬼は。私は呪が外れていますので」

 

「なるほど。では、確かめる手段はあるようですね」

 

 炭十郎が深く頷くのを、珠世は不思議そうに見ていた。

 

 誰も見たことがない、誰も知らないものを、どうやって確かめるというのか。

 

「当人に聞くのが最も手っ取り早い」

 

 ニヤリと笑う炭十郎の瞳は、珠世には鋭い日本刀のように見えて、全身を寒気が襲った。

 

 彼はつまり、鬼に見せて無惨に知らせるというのか。あの恐ろしい鬼の首魁に、ここにおまえの目的のものがある、と。

 

 逃げ回ってないで、今すぐにここに襲撃に来い、そう言っているような炭十郎の雰囲気に珠世もユシローも飲まれてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 野を越え山を越え、谷を超えて。

 

 やっと辿り着きました、お館様のお屋敷。

 

「長かった、本当に長かったなぁ」

 

「おいおまえ! 本当におまえ!!」

 

「いや長い道のりだった」

 

「最初から居場所を教えておけよ! なんだよ!!」

 

 感慨深く屋敷を見つめ、額の汗を拭うアベル。そしてその後ろで大騒ぎしている隠の男の人たち。

 

「ふぅぅ、長い道のりだった。俺はやりきった」

 

「おまえぇぇぇ!!」

 

「すみません、本当にごめんなさい、すみません」

 

 爽やかな汗と笑顔を浮かべるアベルの隣、炭治郎は必死に土下座中であった。

 

 体力最低、身体能力も子供に劣る、そんなアベル君が自分の足でお館様の屋敷に着くなんて無理なんですよ。

 

 そもそも鬼対策でお館様の屋敷の場所は、極一部の鬼殺隊の隠しか知らないのに、どうやって辿り着くって言うんですか。

 

 ならば、さっさと隠の人に運んでもらったほうが手っ取り早い。そう結論を出した胡蝶姉妹は、やはり素晴らしい頭脳を持っているようです。

 

「ふぅ」

 

 しかし、そんな原因を作った本人がやりきった顔をしているので、いくら裏方の隠の人たちとはいえ、人間なので。感情があるので、言ってやりたいことはかなり溜まってしまって。

 

 今にも握り拳を作って殴りかかりそうになっているのを、我らの最後の良心の炭治郎君が必死に止めているわけで。

 

 胡蝶姉妹はしのぶはお館様の屋敷には、まだ柱ではないので招かれていませんので蝶屋敷に戻りました。

 

 『後でカナヲが用事があるようですよ』とか、去り際にアベルに言っていたのですが。『逃げたら解っているな』なんて、背後に言葉が浮かんでいたような気がしますが、アベル君はすっぱり忘れることにしました。

 

 そして、アベル達が隠の人たちと合流したということは。

 

「・・・・・・なんか、怖い顔した人たちがいるんだけど」

 

「あら~~」

 

 隣でカナエが可愛く言っているが、それ以上に目の前に立つ剣士たちの凄味ある顔が多いこと多いこと。

 

 女性はあっち向いたりこっち向いたりで、ちょっと可愛い仕草していたり。

 

 炭治郎と同じか、もう少し年下っぽい少年はボーと空を見ていたり。

 

「胡蝶、そいつがそうなんだな?」

 

「おい、さっさと出すものを出したらどうだ? 何をモタモタしている、聞こえる耳がないのか? この鈍間、おまえが出せばすべてが終わるのが解らないのか、わざわざお館様の御前に立たせるほどのものじゃないだろうが、その程度のことも解らないのか、相変わらず脳内がお花畑のようだな、花柱とは言い得て妙だ。本当に愚図だ、言っているのに解らないのか。どうした? 何を立っている、傅くのが当たり前だろう? おまえが逃げたために、時間を浪費したんだからな」

 

 なんだか傷だらけの男と、木の上にいる男が、とてつもなく敵意が高いのだが、これはひょっとしてケンカを売られているのか。もしかして、戦いましょうと遠回しに言われているのか。

 

「ひぃ!? すみません、風柱様、蛇柱様」

 

 何故か先ほどまで怒っていた隠の人たちが一斉に頭を下げて、何処かへ行ってしまった。

 

「え、そんなに怖い顔している?」

 

「アベルさん、ここ一応、他所の組織のトップの屋敷ですから」

 

「え? だからってあんなこと言われるの? え、俺が常識がないの?」

 

 真顔で聞き返すアベルに、炭治郎も『まあ』と答えるしかない。

 

「質問に答えろよ、おい」

 

 傷だらけの男が距離を詰めてきた。

 

「おまえが、あの光る刃の製造者かって聞いてんだよ? あ?」

 

「・・・・・・・・ケンカ、売ってる?」

 

「ああ?!」

 

 何故か凄まれました。どういうことだろうか。

 

「不死川、黙れ。おまえが黙らねば、そいつから聞き出せない。聞き出せなければお館様に申し訳がない。おまえが相手を脅えさせなければ言うことをきかせられないというなら、とっとと下がれ。そんなことをしても時間の無駄だ、俺がそいつから目的のものを奪い取ればすべてが終わる」

 

「なんだとてめぇ!」

 

「うるさいと言ってやろうか、黙れと何度も言わせるな。お前なんぞに」

 

 何故か味方同士で言い合いを始めました。

 

「炭治郎、俺はひょっとして場所を間違えたのかな?」

 

「え、その、あれ」

 

 話を振られた炭治郎も、心配になってカナエを見ると。彼女は即座に視線を反らした。

 

 まさかのカナエの放置に、炭治郎も言葉を失ってもう一度と周りを見回して。

 

「お館様のおなりです」

 

 その一言に、騒ぎは幻だったように収まって、誰もが頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 匂いが炭治郎にまで届く。一人、二人、三人。けれど、三人目の匂いが妙に薄くなっている。これは人が死ぬ時とか、寿命が尽きる寸前のような。

 

「久しぶりだね、私の子供たち」

 

 凛とした声がした。炭治郎は慌てて頭を下げようとして。

 

 『従うな!!』。

 

 脳裏に焔が炸裂した。ハッとして顔を上げると、屋敷の中から現れた男が見えた。

 

 顔の半分がやけどのように爛れた男の人。子供に手を引かれてやってきたこの男こそが。

 

 鬼殺隊のトップ、お館様。『産屋敷耀哉』。

 

「貴様ら、お館様の御前だぞ。頭を下げろ」

 

「どうして?」

 

「てめぇ」

 

 激昂する不死川と呼ばれた男。それ以外の剣士たちも怒りを浮かべている中、アベルはまともな反論理由を口にした。

 

「俺と炭治郎は鬼殺隊じゃない。なんで、別組織の人間が、その組織のトップ以外に頭を下げる必要があるのさ?」

 

「いい度胸だ、てめぇ」

 

「お館様を前にして、そのような口を聞くなど許されない」

 

「派手に死ぬかお前ら」

 

「可哀そうに世の理を知らぬか」

 

「なるほど! 威勢はいいものだな!」

 

 次々に文句が出てくる中、アベルは真っ直ぐに産屋敷を見つめた。

 

「初めまして、アベルといいます。俺に会いたいってお話だったのできました」

 

 ブワッと気配が上がった。

 

 炭治郎はそれを感じ取り、反射的に腰に刀へ手を伸ばしかけて、その手が空を掴んだ。

 

 迂闊だった。運んでもらうからと刀を預けていたことを、すっかり忘れていた。いや、刀の気配はある。手元になくとも、身近にあるように感じられる独特の気配のために、近場にあるように錯覚していた。

 

 不味いと炭治郎の目線が動く。相手は柱だろう。先ほどの隠の人の発言から、ここにいる人達は確実に柱。鬼殺隊の上位に位置する人たち。今の丸腰の自分で太刀打ちできるか、いや無理だ。

 

「アベルさん」

 

 ここは、下がるべきか。相手を刺激しないように。

 

「なんだよ、炭治郎、俺は産屋敷さんと話をしているんだからさ」

 

「相手を刺激しないほうが」

 

「はぁ? 弱気になってんなよ、炭治郎。俺達は、何だ?」

 

 呆れた顔のアベルに、炭治郎は今はという言葉を思わず飲み込んだ。

 

 自分達は、ケンカをしに来たわけじゃない、話し合いをしに来た。だから相手を刺激しないように、丁寧に話すべきだ。

 

 そう告げようとした考えに、愕然とした。

 

 馬鹿なと内心で叱咤し、ふざけるなと内心で鼓舞する。今の自分は『鬼滅』の代表として来ている。いくら他の組織のトップであっても、無条件で頭を下げるなんてこと、していいはずがない。

 

 そんなことをしたら、鬼殺隊の下に『鬼滅』が入ったと言っているようなものだ。

 

「組織を背負っているなら、毅然とした態度で立て。俺達は、皆の代表としてここにいるんだぞ?」

 

「すみません、アベルさん。俺は間違っていました」

 

 大きく息を吸い、深く吐き出して、炭治郎は全身に力を巡らせた。

 

「初めまして。俺達は対鬼用城塞都市『鬼滅』所属の侍です」

 

 真っ直ぐに産屋敷を見つめ、彼ははっきりと言い切った。

 

「てめぇら、いい度胸だ」

 

 ブチリと不死川の何かが切れた。

 

「待って!」

 

「止めるな胡蝶!」

 

 慌てて止めに入るカナエを片腕で押しのけ、不死川が二人に向かう。

 

 炭治郎は咄嗟にアベルをと不死川の間に入り、腰に手をやった。

 

「丸腰はどけ!」

 

「あんたこそ解ってるのか?!」

 

「ああ!?」

 

 怒りのまま不死川が刀に手をかけ、引き抜く。

 

「我が主の命が聞こえなかったか?」

 

 不意にそんな声と同時に、不死川の視界が反転した。

 

「は?」

 

「え?」

 

「・・・・・・・おぅ」

 

「アベルさん、だからいいんですかって言ったじゃないですか」

 

 誰もが唖然としている中、炭治郎は小さく嘆息した。

 

「なんだこりゃぁぁぁぁ!!」

 

 逆さ釣りになった不死川が見たのは、巨大なバラのお化けと、銀色の物体の集団、それに見事な甲虫っぽいものたち。

 

「聞こえなかったのか? カナエ様は『待て』といったはずだが?」

 

 レギオン、がんばって人間の言葉を発声中。

 

『カナエ様と話したい人』

 

『もちろん全員です!』

 

『この中で話せそうなのって誰よ?』

 

『ビオランテは無理です!』

 

『ELS同化すればなんとか!』

 

『じゃレギオンで!!』

 

『不条理なぁぁ!! が、がんばりましゅ!』

 

 とか、集団の会議の結果、レギオンは頑張った。鬼を食らって発声器官を取り込んで、周りのみんなの協力、融合とか捕食とかでの協力で頑張って。

 

 声が出せるようになったのだった。

 

「・・・・・かっこいい」

 

「おい不死川! 目を覚ませ不死川! そいつらは化け物だろうが!」

 

「うるせぇ! 伊黒には解んぇねのかよ! この光沢! この角! すげぇかっこいいカブトムシじゃねぇか!!」

 

「馬鹿をいうな! そんな一つ目のカブトムシがいるわけがないだろうが! 何を世迷言を言っているのか解らんがさっさと!」

 

「かっこいいわぁ!!」

 

「そうだな、かっこいい」

 

 想い人の一言により、蛇柱はすぐさま方向転換。

 

「おいおいおいおいおい派手だな!!」

 

 音柱、ビオランテの巨大な華に歓喜。

 

「何やら凄まじい執念と努力を感じる。ああ、世界にはこんなにも素晴らしい生物がいたのか」

 

 岩柱、レギオンの必死な努力を感じ取り涙を流す。

 

「うむ!! 見事な忠義だ!」

 

 炎柱、何故か大きく頷き称える。

 

「綺麗」

 

 霞柱、ELSの輝きに魅せられる。

 

 そして、遅れて到着した水柱はというと。

 

「・・・・・・・」

 

「帰ろうとするな義勇!」

 

「しかし錆兎、あれは鬼ではない」

 

「鬼じゃないけど人間でもないよ」

 

「確かにそうかもしれないが、真菰は俺にあれに混ざれというのか」

 

 対人関係が絶望的なためにつけられた補佐役二人によって、無理やりに場所に突撃させられたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・うわぁ、カオス」

 

「アベル君! アベル君!! 説明して! あれは何?!」

 

「アベルさん! どうしましょう! 本当に成長し切ってますよ?!」

 

「うわぁ、頑張ったなぁ。変異種か、レギオン達もすげぇ努力したんだなぁ」

 

「アベル君!!」

 

「アベルさん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 混乱してカオスな庭となってしまった、屋敷の主はというと。

 

「今日はいい日になりそうだね」

 

「え、マジですかお父様?」

 

「正気ですか、父上?」

 

「とてもいい日になりそうだね。勘だけど」

 

 呑気にそんなことを言って笑っていましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 




 






 先に進もうとして、一歩目で転んだお話でした。 

 あれ、おかしいな。フワッと考えた話を書いたはずなのに。

 産屋敷で怪獣総進撃になってしまった。

 あれぇ。








「俺はカブトムシが好きなんだ。大好きなんだよ」

「そうか、おまえはそっちに行くのか」

「伊黒、今日こそ白黒決着をつけようぜ」

「いいだろう」

 どちらが最強の鬼殺隊のライダーなのかを!

 『変身』。

「仮面ライダーカブト、行くぜ」

「仮面ライダー王蛇、おまえを叩き潰す」

 なんて妄想が炸裂しましたが、本編にはまったく関係ありませんので、ご了承ください。












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知らない間の出来事だと、当人は申しております

 






 フワッとわき上がることを、そのまま文章に出来るようになった。

 気がつくと文章が出来上がっているようになりました。

 でも読み返すと自分の思考回路を疑うことが多いです。

 そんな話になります。











 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蝶屋敷は、鬼殺隊にとって治療の場所らしい。傷ついた隊員達がここで傷を癒し、衰えた身体機能を回復させ、次の任務へと赴いていく。

 

 産屋敷邸が鬼殺隊にとって心の支えなら、体を支えているのはこの蝶屋敷なのですが。

 

「しのぶ様!!」

 

「はぁ~~い」

 

 名を呼ばれ彼女は振り返る。その顔は何処か、姉を失った後の蟲柱をしていた、原作の彼女のように。

 

「あれを止めてください!」

 

 アオイがビシッと指差した先には、隊員を徹底的に鍛えている昆虫の戦士たちがいた。

 

「・・・・・・」

 

 しのぶはしばらくそれを見つめた後、ゆっくりと座った。

 

「がんばれ~~」

 

 まるで彼女の姉のように穏やかに微笑み、声をかける女性の姿に、隊員達は信じられないものを見たような顔をしていた。

 

 あのキツイ性格の胡蝶しのぶに、いったい何があったのか。

 

 隊員達が唖然としている中で、昆虫のオーラを使う戦士たちは剣を掲げて気合を入れ直した。

 

 声は出ていない、空気を震わせる何かが発生したわけではないが、誰もがその音なき声が聞こえた気がした。

 

『おら、さっさと立て』

 

『気合だ、根性だ、死ぬ気でやれ』

 

『昔の人間は鉄の刀で山割ったぞ? てめぇ、いいからやれ』

 

『海を裂いた者もいる。なんでできない? 気合と決意と必死が足りない』

 

『魂を燃やせ、気合いをこめろ。いいからオーラ出せ』

 

『オーラ出せ! オーラ出せぇぇ!! オーラを使うんだよ!!』

 

『言い訳はいい! できないのは言い訳だ! いいからやってみせろぉぉ!!』

 

『熱くなれよ! もっと燃えろよ! いいからやれよぉぉぉ!!』

 

 なんだかどっかのテニスプレイヤーみたいなオーラなバトラーがいるようですが、誰にも声は聞こえません。ただ、なんだか太陽みたいな輝きを放つ鉄の剣を掲げる彼らに、隊員達は全員が蒼白になっています。

 

「しのぶ様!! 何処から見つけてきたんですか?!」

 

「アオイ」

 

 名を呼ばれ、激昂していた彼女はピタリと動きを止めた。

 

「世の中には知らない方がいいこともあるのよ」

 

「ア、ハイ」

 

 笑っているのに目が笑っていないしのぶに、神崎アオイはそう返すしかなかったのでした。

 

 決して、彼女の背後。蝶屋敷を超える大きさになったサソリの機械がいたとか、なんでかしのぶさえ見たことない、全身が筋肉で覆われた真っ黒な戦士たちがいたとか。

 

 いや、Gとか何時の間に、火星に戻れよおまえら、とか言いたいけといえない。

 

「ち、治療はこちらを」

 

「ジー」

 

「おおおおお薬です」

 

「ジー」

 

「洗濯物はこっちで洗ってください!」

 

「ジー」

 

 オリジナルは人間相手に無双していたのに、小さな女の子三人に言われるまま、仕事をこなしている姿なんて、Gじゃない気がしますが。

 

 そこらの看護師よりも優秀な動きを見せる、黒光りするG達の集団に、アオイの中で何かが崩壊したとしてもおかしくありません。

 

「いたずらしたら駄目ですからねぇ~~」

 

「ジー!!」

 

 全員、一斉にしのぶの命令に敬礼するのですが、やり方が某悪の組織の全身黒タイツの隊員にそっくりでした。

 

「優秀だから、見た目はとにかく優秀だから、そこら辺の馬鹿よりも話をきちんと聞いて指示を聞いてくれるから」

 

 まるで暗示のようにアオイが呟いている姿を、しのぶは見守った後に空を見上げた。

 

 『アベルさん、後できっちりお話があります』とか内心で思って、逃避しているだけだったりしますが。

 

 一方でカナヲは。

 

「ダネダネ」

 

「・・・・・」

 

 何故か、見知らぬカメみたいな生物に懐かれていましたとさ。

 

 そして。

 

『ぐぬぅぅぅぅ!!』

 

 そんな彼女達の様子を、木の影から嫉妬のこもった眼で見つめる、緑色の機械の巨人がいたとか。

 

『しのぶ様のあんな近くでお仕えできるなど! クゥ!! 何故呼んでくださらぬのか! ハ?! 鍛練か?! 実力が足りぬのか?! 星一つなど簡単に滅ぼせと! 太陽系を覆えるほどに威力を見せれば! よし鍛練と技術の吸収だ!!』

 

 おい、月光蝶とかすんなよって誰か突っ込んでください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 産屋敷邸にて、誰もが凄い寒気を感じた。一瞬、鬼の襲撃かと柱達が身構える中で、一人だけ呆けてしまった柱がいた。

 

 風柱である。

 

「かっこいいな、おまえ」

 

「え、あのね、実弥君?」

 

 地面に下ろされた風柱は、ただレギオンたちを見ていた。何時もなら真っ先に動くはずの彼が、まるで岩柱のように直立不動である。

 

 風だろうおまえ、なんて言えるような突っ込み役は不在です。

 

「かっこいいな。胡蝶、俺はこいつが欲しいんだが」

 

 ゆっくりと振り返る不死川実弥っていう風柱の顔は、今まで誰も見たことないほど高揚していた。

 

「え、でもね」

 

『我々はカナエ様直轄、貴様に従うことなどない』

 

「・・・・・・・・」

 

 その瞬間、彼は崩れ落ちた。

 

 燃え尽きるように両膝をつき、両手を地面についた彼は、呻くように声を絞り出す。

 

「なんでだ、なんでだよ、こんなにかっこいカブトムシが、そこにいるのに。俺はなんで」

 

「し、不死川?」

 

 あまりの出来事に、伊黒が近寄りその肩に手を置く。まさか、あの不死川実弥がこんな醜態を晒すなんて。彼自身、信じられない。いや信じたくはなかった。常に荒々しく風のように動き回っていた彼が、まるで幼い子供のように嘆くなんてことが。

 

「伊黒、俺は」

 

 顔を上げた実弥を見た伊黒は、感情のすべてが凍結したように固まってしまう。

 

 ガチで泣いていた。マジ泣きである、風柱様。

 

「俺は、俺はな!!」

 

「わ、解った! 解ったから落ち着け!」

 

「俺は欲しいって思ったんだ。こんなにかっこいんだぜ、強そうだんだ。だから欲しかったのに」

 

「あ、ああ、しかしな、今は」

 

「それが悪いことだって言うのかよ?!」

 

「落ち着けぇぇ!」

 

 思わず実弥に首を絞められ、困惑して叫び出す伊黒。

 

「・・・・・・・」

 

「義勇、おまえの出番だ」

 

「?」

 

「行くべきだよ、義勇」

 

「?!」

 

 遠くで見守っていた水柱様、何故か補佐の二人から肩を叩かれ、困惑して周りを見回し、やがて気づいた。

 

 この場にいる全員、炭治郎とアベルも含めて、お館様のご息女と御子息までこっちを見ていることに。

 

 水柱富岡義勇、この場にいる鬼殺隊の中核というか、頂点というか、そういった人たちの期待を一身に背負う。

 

 普段、人づきあいとか人との接し方とか問題がある彼に、こんなカオスな空間をどうにかできるだけの技量などない。 

 

 もういっそ、凪で払うかなんて考えさえ頭をよぎるのだが、それは人としてどうかと理性が止めてきた。

 

 しかし、彼の第六感は凪するしかないなんて、結論を出してくる。そうじゃないと理性が全部の考えを却下し、自分よりももっと社交性のある炎柱はどうかとか、音柱は派手が好きなんだから気づいて。

 

「そうか! 水柱はそこまで成長していたか! ならばここは譲ろう!」

 

「派手に頼むぜ。もう派手すぎて終わりにしたいからな」

 

 まさかの先制攻撃。あの二人から念を押されるように頼まれ、義勇は全身が固まるのを感じた。

 

 逃げ場はない。

 

 退路は皆無。

 

 いや唯一の打開策はある。自分よりも年数が上で、柱最強と呼ばれる人がいるではないか。

 

 ハッと気づいた水柱が、縋るように目線を向けた先では。

 

「ああ、こんなに素晴らしい忠誠心を持った生物がいるとは」

 

 花の怪物に、涙を流しながら祈りを捧げている岩柱がいた。

 

 詰んだ、富岡義勇はそう悟った。後はもう無理だ、自分が動くしかない。やるしかないんだ。

 

 次第に沸々と、彼の中で使命感が膨れ上がった。責任感が後から慌てて追いかけてきた。決意でさえ真っ直ぐに手を伸ばしたので、もう後ろに下がるとか誰かに押し付けるなんて考えは頭から消えた。

 

 さあ行くぞ、義勇は心の中で気合を入れて。

 

「すまない、話が進まない」

 

 迷わずに土下座したのでした。

 

 彼の中で、世界共通のどんな状況も覆す手段なんて、これしかないなんて思ったのですが。

 

「・・・・・・柱が簡単に頭なんて下げないでください!!!」

 

 思わず炭治郎は叫んでいた。

 

「しかし、だな」

 

「言い訳なんてしないでください! 貴方は柱でしょうが! こんな状況でカオスな場面で! 解決策を他人に預けるなんて! そんなの命の生殺与奪を他人に与えるようなもんじゃないですか?!」

 

「すまない」

 

「謝らないでください!」

 

 炭治郎は思う、なんで自分はこんなにも怒っているのかと。彼とは初対面のはずなのに、彼が頭を下げたことに憤りを感じる。怒りがわき上がる、なんかもしかしたら、自分が言われたかもしれないなんて第六感が叫んでいるが、今は無視して怒ってやる。

 

 その背後に、別の世界の炭治郎がいたとか、そんなことはないので気にしないでください。

 

「フフフ、今日もにぎやかだね」

 

 思わず笑ってしまった産屋敷耀哉に、この場の全員が、ビオランテやELS、レギオン達も含めて、誰もが思ったことは一つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや、あんたが止めろよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時、人や生物は立場や考え、種族を超えて解り合えることを知ったのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実弥にはもっとかっこいいカブトムシをアベルが贈ることで、話がつきました。

 

 『てめぇの頼みなら俺の命さえ差し出してやるぜ!』とか、柱としてどうかって発言した彼は、とてもいい笑顔をしていました。 

 

 場所は変わって、産屋敷邸の中。座敷の中には産屋敷耀哉とアベル、炭治郎の三人のみ。他はお館様の一言で人払いとなった。

 

 どうしてこんなことになっているかというと、『鬼滅』の代表としてきた炭治郎とアベルだが、本来はビーム・サーベルを作ったアベルに産屋敷が会いたかったために来たことを、今になって思い出したからだ。

 

「話というのは、君の武器のことだよ」

 

 言われてアベルが真っ先に思いついたのは、ビーム・サーベルではなく『軍勢』のこと。

 

 どの機体だ、どれのことだと考えるアベルに対して、産屋敷は見えない目を向けて告げる。

 

「私の子供たちに、鬼殺隊にあの輝く刃を与えてくれないか?」

 

「え? そっち?」

 

 思わず素で聞き返したアベルと、大きく頷いた産屋敷耀哉。

 

 二人を交互に見つめた炭治郎は、そういえばその話があったなと思いだす。父から言われたことだけ考えて、最初にアベルがここに来ることになった話を忘れていた。

 

「えっとあれは」

 

 アベルが思い出し、材料があったかどうか考えていると、炭治郎の耳元で小さく音がした。

 

 通信の着信。誰からと考える視界に、モニターが浮かぶ。炭治郎以外に見えないモニターに表示された文字は、『竈門炭十郎』と示していた。

 

「あの」

 

 どういえばいいか、どう話せば解ってくれるかと考えていた炭治郎に、耀哉は笑顔を向けた。 

 

「君のしたいようにしなさい。私は驚かないよ」

 

「え、はい」

 

 まさか許しが出るなんて。これが長い間、鬼と戦ってきた鬼殺隊のトップかと、少しだけ見直した炭治郎だった。

 

 モニターを耀哉に向けて、通信を開く。 

 

『このような形で最初の会談の場を設けることをお許しください』

 

「不思議だね、そこに誰もいないのに、こうして声が聞こえる」

 

 最初、炭十郎は耀哉の顔を見て驚いた様子だったが、すぐに姿勢を正して礼を通した。

 

『初めまして、対鬼用城塞都市『鬼滅』の統領を任されている、竈門炭十郎です』

 

「初めまして、鬼殺隊の産屋敷耀哉です。ご用件は?」

 

『私達は鬼の首魁、鬼舞辻無惨の望みのものを見つけました』

 

 唐突な話題に、アベルと炭治郎が驚いてモニターを見つめたが、耀哉の表情に変化はない。

 

 まるで最初から知っていたように。

 

「今日は本当にいい日になったね。産屋敷の歴史の中でも、一番に素晴らしい話を聞いた気がする。申し訳ない、あまりの嬉しさに失礼しました」

 

『いいえ、そちらの話を聞く限り、長い間の鬼との戦闘、お疲れ様でした。話を続けてもよろしいですか?』

 

「御配慮、ありがとうござます。どうぞ」

 

 お互いに組織のトップ、お互いを敬うように敬語で話を続ける二人だったが、決して雰囲気が穏やかではない。

 

 相手を下すとか、相手を取り込むではない。共通の敵に対して、お互いに牙を隠しくれずに出てしまっていた。

 

『はい、私たち『鬼滅』はこれを使って我が都市に鬼舞辻無惨を誘い込み、これを滅します』

 

 その言葉に、炭治郎とアベルは息をのみ。

 

 産屋敷耀哉は盛大に笑ったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして開幕の鐘が鳴る。

 

 終幕へ向かうための、鬼と人間の、お互いの生存をかけての決戦の火蓋は切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 










 フワッとした話も、もうすぐ終わりの予定です。

 あくまで予定ですので、フワッとした感覚でお待ちください。

 さてと、鬼舞辻無惨を倒す方法、どれが一番、普通じゃないになるかなって考え直ししょう。
 









「カナヲ、それは駄目よ」

「・・・・・」

「止めなさいカナヲ」

 胡蝶カナエ、胡蝶しのぶに言われても、彼女は首を振る。

「やっと手にした私の心」

「それは違うわ! そんなもの貴方の心じゃない!」

「止めなさいカナヲ! それは貴方を利用しているだけ!」

「違う! これが私の心だから!」

 叫ぶ彼女の背後で、巨大な影が踊る。

「イリス、お願い」

「カナヲ! もう手遅れなの」

「姉さん、殴ってでも連れ戻すから」

「ええそうね!」

 そして胡蝶姉妹の背後にも巨大な影が。

「私は炭治郎が好きだから押しかける!」

「相手の気持ちも考えなさい!」

「押し倒すなんてはしたないことしないの!!」

 こうして、栗花落カナヲの嫁入りを巡って、胡蝶姉妹との大ゲンカが始まったのでした。

「だからって! 蝶屋敷でビオランテとかデススティンガーとかの大怪獣戦をしないでくさい!!」

「ごめんなさい」

「なんでモスラまで呼んでるんですか?!」

「だって、ねぇ」

「ここはガメラでしょう! 違う! そうじゃなくて! そこ!! ターン兄弟はアップしない!」

『すみません』

「もう本当に!! 周りの迷惑を考えなさい!」

 全員、巨大な怪獣も含めて正坐させてお説教するアオイが、史上最強に見えたすみ、なほ、きよの三人娘でした。

 なんてことになったら、楽しそうだなぁって話ですが、本編とはまったく関係ありません。










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初期目標の設定を間違えました






 フワッと思いつくは多くないのですが、この話はヒノカミ神楽を知った時に思いついたものです。

 鬼舞辻無惨を逃さないためにどうするかってことより、どうやって誘い込むかなんて考えた結果。

 軍人なら敵陣地への強襲とか、任務ならやるでしょうけど。

 できれば熟知した場所で戦いたいじゃない。

 そんなお話です。









  

 

 

 

 

 

 

 

 

 対鬼用城塞都市『鬼滅』。

 

 鬼の襲撃に耐えかねた村人たちの決意と、感銘を受けた炭十郎の願いを受けてアベルが設計した都市は、当初の建造目的は今とはまったく違うものだった。

 

 本来、城塞都市とは敵の侵攻を防ぐために、あらゆる防御を外側に向けたもので、できるだけ固く、できるだけ長い間、敵の侵攻を食い止めることを目的として都市設計から建造まで行われる。

 

 『鬼滅』も最初はそう考えていたが。

 

「隠れて終わるものなんだろうか?」

 

 炭十郎が不意にそんなことを言ったため、誰もが考えてしまった。

 

 鬼は許せない、鬼が来たら家族が怯える、永遠に明けない夜に怯えて震えて眠るなんてことあっていいはずがない。

 

「ではどうする?」

 

「人は困難に立ち向かっていくものではないか?」

 

 当たり前のように問いかけてきた炭十郎に、誰もが反論せず、むしろ納得してしまった。

 

 こうして『鬼滅』は当初の建造目的を一転。

 

 重要保護区画は要塞らしい防御を外側へ向けて、多くの人を護るために建造されたのだが、大半の都市部分は防御を『内側へ向けた』設計になった。

 

 鬼を誘いれ、鬼を逃さず、鬼を分断して、各個撃破するために。

 

 こうして世界でも、あるいは歴史でも類を見ないほどの内側に入った何かを外に出さないために、絶対に逃がさないための城塞都市。

 

 『鬼は絶対の滅ぼす侍達』の都市、『鬼滅』は完成した。

 

 鬼を誘い込み、多くのビーム・サーベル装備の侍達、都市の修復を担う補修部隊、戦闘時に侍達に鬼の位置を知らせる情報網の構築、戦闘時でも確実に物資や食糧を補充できる補給部隊など。

 

 村人たち、あるいは近隣から流れてきた人々を訓練して、その人にあった部隊に振り分けて、再度の訓練を行いながら鬼の襲撃に備えた。

 

 一方で、戦闘集団の基地に見えないように、普段は何処にでも有るような街に見えるように営みも行ってもらった。

 

 人の流れ、物流、外からの商人や旅行者、警察や軍、役人といった政府の関係者が入っても、不審に思われないように徹底的に隠し通して。

 

「すべてが終わったら、日本のために動いてもらえないか?」

 

 そんなことを、とある国家のトップが言ってきたそうだが、炭十郎は笑って否定したという。

 

 我々はただ、鬼を滅ぼすための存在でしかなく、それ以外の力は持ち合わせていない、とだけ。

 

 都合のいい話だが、何故か政府はそれを了承したという。

 

「・・・・彼を敵に回すよりはマシだろうな」

 

 そんなことを、何処かの首相が言ったというが、嘘か真かは解らないまま。

 

 こうして『鬼滅』は現在の姿となった。

 

 対鬼用城塞都市、そして鬼の首魁を滅ぼすための都市型の罠は、今も動き続ける。多くの人の願いと恨みと怒りを糧として、いずれ来る鬼との決戦のための牙を研いで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 炭十郎は、珠世との会談を終えた後、ジッと目的のものを見ていた。

 

 『鬼滅』が始まったときから覚悟はしていた。いずれ来ると考えてはいた。鍛練を怠っていない、誰もが装備を手にして訓練して、今では昔に使っていた道具よりも手になじんだ武器となった。

 

 直接の戦闘部隊ではない者も、最初の頃は疑問を口にして信じられないといっていた道具を、今では自分の体の一部のように使っている。

 

 誰もが、いずれ鬼の首魁を討つ、完全に滅ぼすことを目的に動いていた。

 

 その瞬間が来たのだろう。

 

「アベル君の予想も外れるものだね」

 

 少し炭十郎は苦笑してしまう。

 

 後二年。そう彼は言っていた。都市はできた、人の配置もできた、けれど鬼の首魁を、鬼舞辻無惨をどうやって誘い出すか、その方法は見つからない。

 

 鬼を分析し解析し、解剖して把握しているアベルが見つからないのだから、炭十郎達には見当もつかなかった。

 

「あの坊主の予想なんぞ、最初から外れっぱなしだろうが」

 

 田島のじい様の悪態に、炭十郎は思わず頷いてしまった。

 

 最初は自分だけが戦うといって、村人たちに押されて折れて。次に攻撃は自分がといって、炭治郎達に押し切られて。

 

「そういえばそうだった」

 

「まったく。それで、どうするんだ?」

 

「もちろんやるさ。鬼舞辻無惨を討つのに、ためらう必要はない」

 

 はっきりという炭十郎に、田島のじい様は小さくため息をついた。

 

「呼び戻すのか?」

 

「いいや、炭治郎達にはそのまま鬼殺隊のお館様にあってもらおう。そこで通信を繋ぎ、相手に話をしてみようと思う。相手も、鬼を滅するのは悲願だろうからね」

 

「他の部隊との共同か、上手くいくのかね」

 

「うまくいくかいかないかは解らないけど、どちらも目的は一緒だからね」

 

 鬼を滅ぼし、鬼舞辻無惨を討つ。そのための組織ならば、協力はできるはずだから。炭十郎はそう確信していた。

 

「なら俺は最終確認に行ってくる」

 

「頼むよ。決戦の場所は、ここになりそうだからね」

 

「・・・・・・来るか、あいつが?」

 

 田島のじい様には懸念があった。

 

 『鬼滅』は確かに鬼との戦いには、十分すぎるほどの性能を持っている。人が人のままで、あの化け物と戦えるように設備を整えた場所だから、どんな状況になっても勝てる要因は、これでもかってほど盛り込まれていた。

 

 しかしだ、今まで鬼を散々に葬ってきた。ここで滅ぼした鬼の数が、かなりの数になっている。

 

「そうだね」

 

 鬼舞辻無惨は臆病で慎重、一度目の失敗さえないように徹底的に調べて考えて、調査して、その上で石橋を叩くごとく狡猾に物事を進める。

 

 あの時、夜に遭遇した鬼舞辻無惨と戦った後、アベルが統合AI達に命じてプロファイリングしてもらった結果に、誰もが異論は挟まなかった。

 

 鬼と戦ってきた中、相手の情報は一切、出てこなかったから。どんなに追い込まれても、どれほどに圧倒されても、鬼達は首魁の名を口にしなかった。

 

 珠世からは呪があると教えられた。名を言った鬼は、鬼舞辻無惨によって殺されている。そこまで徹底して自分の名を伏せ、存在を隠している相手が、今まで攻め入った鬼がすべて消えている場所に、目的のものがあるからと襲撃してくるだろうか。

 

 答えは否だ。絶対にここに来ない。

 

「それにあいつの背後には空間転移の術者がいるんだろ?」

 

 誘い込んで囲んでも、それで逃げられたら終わりだ。

 

「さて、どうするか」

 

 炭十郎は昔にアベルが言っていたことを思い出す。

 

 空間転移には大きく分けて三つの種類がある。

 

 一つ目、座標点の同一化による移動。

 

 二つ目、座標点に対して、A地点とB地点を重ね合わせる移動。

 

 三つ目、座標点ではなく、移動する出入り口を形成することによる移動。

 

 よく意味が解らないが、一つ目と二つ目は防ぐのは簡単らしい。相手側に座標点を誤認させるか、あるいは座標点事態に空間凍結をかければすぐに終わる。

 

 問題は三つ目、座標点を狂わせても出入り口が開いている以上、移動する当人が出入り口に入ってしまえば、移動は完了する。

 

 防ぐ手段はあまりないとアベルは言っていた。

 

 『まあ、何とかしますけど』と、彼はその後に当たり前のように告げていたが。

 

「そのあたりも詰めようか」

 

「左様か。じゃアベル達にも知らせてから」

 

「え? 何故だい?」

 

 考えてもいなかったかのような炭十郎の答えに、田島のじい様はえっという顔を向けた。

 

「いやいやいや、決戦の話をするんだろ?」

 

「炭治郎達はお館様のところにいるのだから、一緒にすればいいじゃないか」

 

「その前に知らせておけよ」

 

「手間が増えるからね。それに」

 

「それに?」

 

 何故か、田島のじい様は嫌な予感がした。どうしてだろう、こんな気持ちは初めてだ。鬼がいるなんて知った時も、こんな感情は抱かなかったのに。

 

「さぷらいずというものだからね」

 

「・・・・・・・・」

 

 田島のじい様は何も告げずに、背中を向けて歩きだした。

 

 内心で、『そうじゃない』なんて叫んでいても、悪い顔で笑っている炭十郎には言わなかった。

 

 こうして、炭治郎とアベルはお館様と一緒に鬼との最終決戦を知るのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「解りました。その時はお願いします」

 

『こちらこそ、よろしくお願いします』

 

 目の前でのやり取りを、アベルは何処か遠い目で見ていた。

 

 そっと目線を反らすと、隣の炭治郎も同じ目をしていた。

 

「え、知っていた?」

 

「アベルさんこそ、知っていたんですか?」

 

「いや俺は聞いてない」

 

「俺もですよ。え、父さん、マジで?」

 

「最終決戦だよな? 鬼の首魁を討つって話だよな?」

 

「え、待って、なんで俺は話から外されていたの? どうしてここでその話を聞くことになったの」

 

 二人して大混乱中。普通、もっと前もって話があるべきじゃないか、少なくとも他の組織のトップに会いに行って、自分達の組織の最終目標への攻撃の話を聞くことになるなんて。

 

 いや予想は少ししていた。鬼殺隊と一緒に鬼舞辻無惨を討つことになるのは解っていたが、こんなにいきなり来る話じゃないはずだ。

 

 まずは合同訓練とか、戦い方をお互いに知ってからとか。

 

『そうそう、炭治郎、アベル君』

 

 炭十郎の声に二人は顔を上げた。

 

 そうか、これは前振りというやつだ。ここから話を纏めるか、準備を進めて行動開始となるはずだ。

 

 気を引き締めた二人の前で、炭十郎は笑顔で。

 

『さぷら~いず』

 

 ブイサインとかしやがったよ、この野郎。

 

 そして通信終了。

 

「ちょっと待ったぁぁ!!!」

 

 炭治郎が慌てて再コール。通信を繋ぐように焦った彼の耳に、信じられない言葉が飛び込んできた。

 

『お客様のお使いになった番号は、電波の届かない場所にあるか、電源が入ってないためかかりません。こちらは、『鬼滅』通信サービスです』

 

「・・・・・・・・何処の世界の通信サービスだこの野郎!」

 

 炭治郎ガチキレ。しかも音声が人工音声じゃなく、炭十郎のものだから怒りのボルテージが上がる上がる。

 

 思わず腰に手を伸ばした炭治郎を、アベルは慌てて取り押さえた。 

 

「待った! 待った炭治郎!」

 

「離してくださいアベルさん! この人は斬ります!」

 

「あれはおまえの父親! あの炭十郎さんなんだぞ!」

 

「離せぇぇぇ!!」

 

「お前が卍解しても笑顔で斬り捨てる炭十郎さんだぞ!」

 

「今ならコロナくらい出せる気がします! 今なら!」

 

「止めておけって! 『できそうだね』で重力の塊を斬る人だぞ! 竈門家最強じゃなくて『鬼滅』最強の剣士なんだぞ!」

 

「離せぇぇ! 俺がそれを奪ってやるから!」

 

「炭治郎ぉぉぉ!!」

 

「離せぇぇぇ!」

 

 必死に抑えるアベルを炭治郎は一蹴。アベル君の身体能力で炭治郎が抑えられるわけないよね、身の程を知りなさい。

 

「・・・・・・いい日だね」

 

 産屋敷耀哉はにっこり笑顔で告げた。 

 

「マジですかお館様?!」

 

 転がりながらアベルは、懸命なツッコミ。

 

「とてもいい日だよ」

 

 耀哉はそう告げて大きく頷いた。

 

 その後、騒ぎを聞きつけて突撃してきたカナエによって、二人は強制的に土下座したのでした。

 

「あのカナエさん?」

 

「反省していますから」

 

「さあ、戻りましょうね」

 

 笑顔なのに怖いカナエと、その背後に銀色の物体に首だけ出して取りこまれた二人が、産屋敷邸を後にしたのでした。

 

 ELSは思う、『こいつら別の組織のトップの家で何してんの』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アベルさ~~ん」

 

「え、あれしのぶ? え、何そいつら?!」

 

「アベルさん、お話がありますからね」

 

 G、襲来。

 

「私が知らない間に何してるの?」

 

「カナエ、誤解だから、あれは俺も持ってないから」

 

「嘘つかないの」

 

「そうですよ、アベルさん」

 

 何故か、カナエとしのぶから疑われたのですが、アベル君でもさすがに火星のG達を持っているわけがなく、どうしてここにいるのか理解できずに悩むのでした。

 

「ダネダネ」

 

「・・・・・・」

 

「カナヲ、俺は知らないから、俺は知らないって」

 

 無言で見つめてくるカナヲと、その足元で背中に花を咲かせたカメみたいな生物に、アベルの精神はさらに追い詰められることになりました。

 

「・・・・・・あれ、カナエさんの背中に浮かんでいるあれって」

 

 炭治郎、何かに気づく。

 

「え、まさか、そんなはずない」

 

 彼女とはまったく関係ないはずだ。花ともまったく関係ないはずだ。

 

『最終進化できました兄さん!』

 

『よくやったぞ弟よ! では手筈通り、私はしのぶ様に。妹を護るは兄の役目よ!』

 

『私はカナエ様に。姉とはすばらしい存在ですね!』

 

『さあ行くぞ!』

 

『もちろんです!!』

 

 『『無限力と縮退炉を搭載した我らに勝てるものなどない!』』

 

 どっかの馬鹿なターン兄弟が、最終進化しました。

 

「俺は何も見なかった、だよな流刃若火」

 

 炭治郎、乾いた笑みを浮かべて自分の刀を握るのでした。

 

 『今なら宇宙創造ヨユー!』なんて刀が言った気がするのですが、気のせいだと信じましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、始めよう。

 

「てめぇ!! 人間が人間風情が!」

 

「うっさい鬼だなぁ」

 

「今まで人を殺してきたのに、今更じゃないの?」

 

 左右から抑え込まれた鬼はわめきながら威嚇するものの、その体は自由になることなく。

 

「見ているな、鬼舞辻無惨」

 

 正面に立つ男はゆっくりと刀を抜く。

 

「これが欲しいなら、ここに来い」

 

 男は右手に刀を持ち、左手に『青い彼岸花』を持っていた。

 

 

 

 

「待っているぞ」

 

 

 

 

 そして刀は、太陽の輝きで鬼を滅ぼした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 










 ついに最終決戦です。短編なんで、短いですが最終決戦です。

 頑張れればいいな。

 さて、本当にどれで無惨様に普通じゃない手段を味わってもらおうか決めないと。










 

「童磨、なんだよ、こいつ、嫌いだな」

 そんなことを言っていた人がいまして。

「あれ?」

 起きたら童磨になっていました。

「え、マジ? え、あれ」

 しかも、カナエとの決戦中に憑依。

「嘘ぉぉぉ?!」

 足元には倒れているカナエがいて。

 手の中には手紙があって。

 『ごめんね~~転生事故しちゃった。ごめんごめん。色々と転生特典つけて上げるから、許して。特別に神様の能力もあげるからさ』。

 とか、偉く気楽な神様からの手紙。

 『天照大御神』、『アグニ』、『ラー』、『ソール』。とか書いてある転生特典の説明書。

「俺は鬼なのに転生特典が太陽神だけって何の虐めだぁぁ?!」

 男は絶叫したのでした。

 こうして転生して童磨に憑依した男の苦悩が始まるのでした。

 あ、鬼舞辻無惨の呪と人を食わないといけないってのは外してあるからね。

 気休めにもなりません。

 能力を使えば全身が焼ける、でも使わないと血鬼術のみ。氷だから転生特典と相性が悪言ったらありゃしない。

 とりあえずカナエの傷を癒して、全身を大火傷。

「姉さんの仇!」

「殺してないから!!」

 しのぶに追われて全身に猛毒を貰い、でも太陽神の力で死ねずに。

「貴様は」

「上弦の壱が来るんじゃねぇぇぇぇ!」

 鬼からも追われて。

「どうして私を助けたの?」

 結構、好きだったキャラナンバーワンのカナエに睨まれて。

「なんだろ、俺って何か悪いことしちゃったかな?」

 『気がついたら童磨で転生特典が太陽神ばっかりなんですが、どうしたらいいですかね?』。

 そんな彼の明日はどっちだ?!






 なんて話を妄想して、書けるかって放り投げました。










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高度に発達した科学技術は、魔法と大差ない






 さて、前話の最後からどうやって無惨様を誘い出すか。

 悩みに悩んで天啓を得た。

 『B3雪風』。

 戦闘妖精様、ありがとうございます。

 そんな元ネタのある話です。








 

 

 

 

 

 

 

 

 

 渇望があった、熱望があった。

 

 遠い昔から探し求めたものが、そこに見えた。

 

 あったではないか。

 

 何故、見つけられなかった。

 

 誰一人として役に立たない。

 

 どうしょうもない奴らばかりだ。

 

 自分の血を得ていながら、役立たずばかりではないか。

 

 見つけた、向こうから持ってきた。

 

 何としても手に入れたい。だが、相手は罠を張っている。確実に待ち構えている、人間程度がいくら束になったところで、自分に勝てるとは思えないが、相手は鬼を狩っている組織。

 

 鬼殺隊とは別に、鬼が狩れる力のある者達だ。油断して、長年の望みがかなう瞬間に斬られては、折角に願いに泥が付いてしまう。

 

 自分は完璧な存在になる、誰にも触れられない崇高な生物だ。

 

 歴史の上で、誰もなしえなかった偉業を成すのに、その前にケチがついては面白くない。

 

 どうするべきか。

 

 彼は悩み考え、そして別の視界に面白いものが映った。

 

「お前たちとの因縁もそろそろ終わりにしよう」

 

 ニヤリと笑う彼の視界の中、別の鬼の前で『青い彼岸花』が産屋敷邸に運び込まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蝶屋敷でお説教されているアベル君ですが、まったく身に覚えのないことはどう説明していいか解りません。

 

「なあ、何でいるんだ?」

 

「ダネダネ」

 

 解らないって顔されても。

 

「え? 本当にアベル君じゃないの?」

 

「俺じゃないって。そもそもポケモンって銀河連邦条約で、生息惑星から出しちゃいけないって」

 

 待った、とアベルは思い至る。こんなことをしそうな存在がいた、確かに気ままにテレポートとかして他の惑星に観光しそうな、そんな無茶苦茶な存在がいたはずだが。

 

 いや彼は、そんなことしないはずだ。

 

「皇帝陛下、まさかですよね」

 

 アベルは思う。銀河連邦と敵対、殴り合い、あるいはじゃれあいしては喧嘩友達みたいなことをする、異常なほどの馬鹿がいたことを。

 

 ジョーカー銀河帝国皇帝、『神帝』と呼ばれたテラ・エーテルならば、まさかまさかでやらかさないか。

 

「おまえ、陛下の友達?」

 

「ダネ?」

 

 知らないって顔をしているから、セーフ。

 

 あの人が関わったら、ほぼ間違いなく厄介事になる。自分の一族にも関わりがあるので、ポケモンくらいは持っていそうだ。

 

 忘れよう。彼に関わって碌なことになったことがないから。

 

「カナヲ! 頑張って育てれば大きな花になるから」

 

 思わず親指を突き出すアベルに、カナヲは釣られてそんな仕草をしたのでした。

 

 まったく根本的に解決になっていないのですが、アベル君はこの一件をすべてすっかりと記憶から消去することにしました。ナノマシンを使って、マジで記憶消去をしようとするくらいに、忘れたいことのようです。

 

「解ったわ、このお話は終わりね。それで、鬼舞辻無惨を倒すっていう話ですけど」 

 

「え? 姉さん、その話って」

 

 カナエが言ったことに、蝶屋敷の人たちに緊張が走る。

 

 今まで姿も形も見たことがない、捕らえられたことがない鬼の首魁。鬼殺隊の本懐とでもいうべき、鬼の元凶を倒す話なんて今まで一度もなかったのに。

 

「炭治郎君の組織とお館様が話をされてね。しのぶ、気合いを入れましょう」 

 

「姉さん、解ったわ。私も特別製の毒を」

 

「私も今のうちに鍛えておかないと」

 

 気合を入れる胡蝶姉妹と、それを見て動き出すカナヲ。そしてつき従う異形の集団。

 

 決戦の時は近い。今より我らは修羅に入る。仏にあっては仏を斬り、鬼にあったらもちろん殲滅なり。

 

 そんな言葉が彼女達の背中に従う集団に浮かんでいたのですが。

 

「今日もいい天気だなぁ」

 

 炭治郎、空を見上げて微笑む。

 

 自分はどうして、こんな状況に冷静でいられるのか。もっと驚いて慌てて冷静を失っていたら、ひょっとしたら気楽に生きられたのかもしれない。 

 

 しかし今の彼は唯一の冷静で常識的。

 

「ああいい天気だよな」

 

「アベルさん、あれってどうするんですか?」

 

 笑顔で空を見上げたままの炭治郎が指さす先、胡蝶姉妹の後ろに半透明で浮かぶ機械の巨人が二つ。  

 

『腕が鳴るな、兄弟!』

 

『はい兄さん!』

 

『鬼舞辻無惨か、どれほどの脅威か。フフフフ、ふぅ』 

 

『兄さんと一緒ならばどんなものも脅威ではありません!』

 

『言うではないか、弟よ』

 

『はい、兄さん!!』

 

 なんだか元気で仲のいい兄弟が、気合いをみなぎらせています。

 

 おまえら、昔に殺し合った仲じゃないか、とかアベル君は突っ込みを入れかけて、グッと堪えます。

 

「炭治郎、世の中には、突っ込んだら負けっていう言葉があってな」 

 

「そうですか、なるほど。で?」 

 

「ごめんなさい、俺が悪かったです。なんであいつら、あんなに魔改造されてるんだよ」

 

「アベルさん」 

 

 泣きそうな顔で項垂れる彼の背を、炭治郎はそっと撫でてやったのでした。

 

「おい、アベル!! おまえの持つ『青い彼岸花』を持ってくるように言われたぞ」

 

「へ?」

 

 隠の人がそう言ってきたので、アベルは呆けながらも彼岸花を手渡した。

 

 あれ、そんな話があったかな、とかちょっと疑問を感じたのだが、炭十郎が何かお館様に言ったのかな、と勝手に納得してしまった。

 

 カオスな空間にいて、冷静な判断力が落ちたとか、もう投げやりになったからなんて言い訳は、後でいくらでもできる。

 

 けれど、彼は迂闊にそれを人目にさらして、さらに無防備に渡してしまった。

 

「確かに受け取った」

 

 隠の人がそう告げて走り去った背中を見送ったアベルは、いいのかなと疑問に思った時だった、懐で通信機が鳴った。

 

「あれ、炭十郎さん、え?」

 

 アベルは最初、彼が言っている意味が理解できなかった。どうしてそんなことをするのか、何故そういった話になったのか。

 

 けれど、彼の冷静な部分が『出来る』と判断を下していた。

 

『可能かな?』

 

「いやできますけど、それって」

 

 思わずちょっと呆れた顔になってしまったのは、仕方ないことだろうか。

 

『昔から言うじゃないか』

 

 画像の中で、炭十郎はニヤリと笑っていた。

 

 隣で炭治郎が何とも言えない顔で、『うわぁ』なんて言っていたりする。

 

『『虎穴に入らずんば虎児を得ず』とね』

 

 いや、それ意味が違う、アベルは内心で叫んだ言葉を飲み込むのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その命令は最初は意味不明だった。

 

『出来るだけ、目につくように、つけられるように』

 

 意味が解らなかった。

 

 今まで秘匿し、誰にも知らせずにいたはずなのに。鬼に見つからないように、仲間達にも情報を隠してきたはずなのに。

 

 次々に隠の手で箱場得っる彼岸花は、手に持ったままで運ばれて行った。何処で鬼が見ているか解らないのに、どうしてこんなことをするのか。

 

 理解も納得もできないが、隠達は逆らうことなく運んで行き。

 

「御苦労さま」

 

 やがて、彼の元へと彼岸花は届けられた。

 

「よ、よろしいのですか?」

 

「いいんだよ。後はこの手紙を鬼殺隊全員に知らせてくれないか?」

 

 隠は大きく頷いて、その場を離れた。

 

 後に残ったのは、産屋敷耀哉のみ。

 

 広い室内にいるのは彼だけで、他に誰もいない。いや、多くの気配が走ってくるのが解る。

 

 鬼ではない、鬼殺隊の気配。見事なものだと耀哉は微笑む。目が見えなくなってから、気配には敏感になった。

 

 誰がそこにいるか、ぼんやりと解るようになっていた自分の感覚に、ここまで鮮明に見せるなんて。

 

「君は本当に凄い人だね」

 

 薄く見える瞳に、彼は青い彼岸花を映しながら、小さく頷いた。

 

 小さな音がする。

 

 今までこの屋敷で聞いたことない、妙な音。

 

「襲撃! 鬼の襲撃です!!」

 

 その声は、今まで聞いたことある声だった。だからこそ、耀哉は思った。

 

 見事、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 凶兆は、速やかに鬼殺隊を駆け巡った。

 

「カー! カー!! 産屋敷邸に鬼の襲撃! 産屋敷邸に鬼が襲撃!」

 

 鬼殺隊の剣士たちは、騒然となった。

 

 最も敬愛する、お館様の屋敷が襲撃されているなんて。誰もが顔を見合わせ、まさかと口にする中で、剣士たちは次々に動き出す。

 

 守らなければと動き出し、急げと駆け足で走り抜ける。

 

 誰もが先ほどの手紙に目を通し、誰もがお館様の指示を護るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっけないものだな」

 

 鬼舞辻無惨は野を歩く。

 

 喧騒もなく、すれ違う人の気配もない、無人の野を歩くように足を進めていく。

 

 鬼を使った、手当たり次第に近場の鬼を集めて襲撃させた結果は、手こずるや時間がかかるなどといったものはなく。

 

 今まで敵対していた組織とは、鬼殺隊とは思えぬほどあっさりと終わってしまった。

 

 血だまりが大地を染める。

 

 見なれぬ道を歩き、血に沈み、大地に転がっている虫けらを見ることもなく、ゆっくりと歩を進めていった。

 

 見たことがないが、見慣れたような屋敷のところ、門のところに貼り付けのように剣士が刀で縫い付けられていた。

 

 最後まで抵抗した、柱達か。

 

 無惨は彼らは見ることもせずに、門をくぐり、玄関からではなく庭から目的の場所へと入って行った。

 

「初めましてだな」

 

「お前がそうか?」

 

 相手は布団の上に寝転がっていた。

 

 火傷のような顔の上半分、もう目も見えていないだろうが、僅かに視線が動いたのが解った。

 

「おまえが、そうなのか?」

 

「おまえとはずいぶんないいようだな、産屋敷。私は、おまえの先祖でもあるぞ?」

 

「おまえがいたからこそ、我らが産屋敷は呪われた」

 

「フン、解らぬ奴だなお前も。いやお前達は解らないようだったな、私という存在を生み出したことを、光栄と思うべきだ」

 

「何を世迷言を。人の世を乱し、人を殺しておいて何を」

 

 血を吐きながらも、なおも失われない気合には、確かに自分の一族のものだと思うこともあるが、所詮は敗者の遠吠えでしかないか。

 

「これか」

 

「まて、貴様に渡すものか」

 

「何ができる」

 

 必死に手を伸ばして妨害してくる産屋敷を見ることなく、無惨は畳の上においてあった彼岸花を手にした。

 

「長い間、探し求めていたものだが、こうして手にするとあっけないものだな」

 

 フッと笑ってしまう。

 

 あんなにも探していたものが、やっと手に入ったというのに。

 

 自分はこんなにも、無感動なものだっただろうか。感動に震え、完璧な生命体になれる喜びを実感できると思っていたのに。

 

「待て待てぇぇ!!!」

 

「邪魔だ」

 

 引きずって、上半身だけとなった産屋敷が迫ってくるが、無惨の一蹴りで姿が消えた。

 

 こんなにも脆い人間が、自分を邪魔していたのか。僅かな憤りを感じた無惨だったが、もう終わったことと背を向けた。

 

「お館様を」

 

 小さなうめき声に視線を向けると、柱の一人が顔をあげていた。

 

 確か、稀血の柱だったかと思いだすも、もう必要ないものだと無惨は視線を戻した。

 

「ほう、遅かったな」

 

 戻した視線の先、アベルと炭治郎がいた。

 

 二人とも顔色に変化がない、仲間がやれたというのにあまりに薄情なものだと、無惨は感じていた。

 

 もっと怒りを浮かべ、もっと悲壮感を漂わせないものか。

 

 所詮、人は自分のことが可愛い生き物か。

 

「もうここに用事はない、貴様たちは私が完璧な存在になったら、存分に教えてやろう」

 

「・・・完璧ね」

 

 アベルがそこで嘲るような顔をした。

 

「何がおかしい?」

 

「完璧な存在になるな、これは俺がよく言われたことだ」

 

「フン、つまらぬな。完璧でないならば、無価値ではないか」

 

 まったく話にならない。無惨は首を振った。

 

「完璧じゃなくていい、不完全で十分だ。十全になってもいいけど、完璧になるな。それは、自分を弱くする」

 

「負け犬の遠吠えだな」

 

「そうかな? 俺はそう思うぜ、不完全だからこそ必死に足掻く。充ち足りないから、もっと欲しいと強請る。完璧じゃないからこそ、人間は必死に努力して周りの人を頼って、もっと前に進みたいって思うんじゃないか?」

 

「くだらん、そんなものは弱者の言い訳でしかない」

 

「俺から見たら、完璧な存在こそ弱く見えるぜ」

 

「なんだと貴様」

 

「だって完璧な存在はさ、そこで終わりだ。もう何処にも行けない、どんな存在にも慣れない。だって完璧なんだからさ」

 

 ふざけた言い回しだ、不快でしかない。

 

 無惨はもうこれ以上、相手をするだけ無駄だと感じた。

 

「鳴女」

 

 無残の背後に襖が開く。後ほどこいつらは、思う存分、知らせてやろう。自分が完全な生命体になったら。

 

「ああ、そうそう無惨様」

 

「なんだ?」

 

 思わず振り返る。

 

 襖がしまる前、アベルが笑顔を浮かべてこちらを見ていた。

 

「こんな言葉を知っているか?」

 

 彼の言葉は、無惨には聞こえなかった。

 

 襖は閉まり彼の姿は見えなくなった。

 

 誰の存在もない、自分だけの城の中で。

 

 彼は盛大に笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アベルより統合AIへ。

 

 

 

 

 

状況終了、戦術プランをフェイズ2へ。

 

 

 

 

 

 

了解。

 

 

 

 

 

 

全ハッキング・ユニット及び欺瞞情報を停止。ホログラム・ユニットを停止し、通常モードへ移行します。

 

 

 

「は?」

 

 彼は目を見開く。

 

 ここは何処だ。何故、こんなところにいる。

 

 無惨はゆっくりと顔を下ろした。手の中には何もない、手にしたはずのものはなくなっていた。

 

「無惨様、こんな言葉を知っているか?」

 

「貴様」

 

 ゆっくりと顔を向けた先、そこにあったのは屋敷でも野原でもなく。

 

「『戦争において情報こそが最大の攻撃であり防御だ』ってな」

 

「貴様ら」

 

 無機質な壁と、無限に散らばった鬼だったものが消える灰と。

 

「おまえは鬼を通じて周りを見ていたし、呪も送っていた。それはさ、情報ネットワークと変わりない。ネットワークならば」

 

 アベルはそこで小さくウィンクして見せた。

 

「『軍勢のアベル』がハッキングできないわけないんだよ」

 

「貴様らぁぁぁ!!」

 

 鬼舞辻無惨の周囲には、鬼殺隊の剣士が並んでいた。

 

 死体ではない、亡霊でもない。生きた剣士たちが、日輪刀を手にして睨みつけるように。

 

「後はお前だけだ。覚悟はいいか?」

 

「貴様らぁぁぁぁぁ!!」

 

 ニヤリと笑うアベルと、絶叫する無惨を合図に、鬼殺隊の剣士は走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 







 鬼の脳を調べる、ネットワークみたいなものを見つける。

 呪の話を知った統合AIが、『ネットワークならハッキングできるよね』なんて情報AIに言って、『無茶な上司が無茶を言うよ、今日も残業だバーロ』とか情報AIが頑張った結果。

 ハッキングしてホログラムをかぶせて、さらに相手の神経に欺瞞情報まで流した結果。

 本来なら逃亡手段だった転移を、逆に使われて罠の中へご案内。

 はい、これが普通じゃない手段による、無惨様の囲い込みでございます。

 さて次は最終決戦になればいいなぁ。












 今日もこのコートには、熱気が宿る。

「ア!」

 必死に追う彼女の前を、ボールはバウンドしてコートの外へ。

「だらしないわよ、カナヲ! そんなことでどうするの?!」

「姉さん」

「違うわ!」

 倒れて見上げてくるカナヲに対して、しのぶは言い放つ。

「お蝶夫人と呼びなさい!」

 ラケットを持ったしのぶは、毅然と言い放ったのでした。

「・・・・・・アベル君、あれってどうしたの?」

「いやテニスを知らないから教えてたらああなった」

「お蝶夫人?」

「有名なテニス・プレイヤーなんだよ。婦人だったかな?」

「へぇ~~~私もやるわよ!」

「え?」

 さっそうとテニスウェアに着替えたカナエ参戦。

 この日より、胡蝶姉妹は一部の人から、胡蝶婦人たちと呼ばれるようになったとかならなかったとか。

「私もコートに立ちたいのよ!!」

「無惨様」

「うわぁ~~ないわないわ」

 女の姿になった鬼の首魁参戦。

 火花を散らすコートの中で、女達の負けられないテニスが始まった。

「・・・・・・・呼吸ってテニスに使えるな」

「止めろ義勇! 落ち着くんだ!」

「そうだよ!! 私が先だから!」

「真菰?! おまえも落ち着け!!」

 水柱の暴走を止めようと思った補佐役二人、片方が暴走したためもう片方が胃潰瘍になったとか、ならなかったとか。

 『鬼滅のテニス』、『鬼滅の王子様』とか、『エースの鬼滅』か『鬼滅をねらえ』とかって面白そう、なんてことを考えていたため、遅れました。

 申し訳ありませんでした。









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振り返ればそこに、自分が歩いてきた道があった





 ついに無惨を追い詰めた、追い込んだ?

 そんな雰囲気のお話です。






 

 

 

 

 

 鬼と人間との差は何か。

 

 無惨の血を入れられて人は鬼となる。

 

 元は誰もが人間だ。誰かの隣で笑っていたり、誰かと話し合ったり、誰かと楽しんだり。あるいは誰かと恋をして、愛して、家族を持って。

 

 そのすべては、鬼となると失われてしまう。

 

 大切だと思った誰かを殺し、奪い、命を食いつくす。

 

 人間として同族を食うことに嫌悪し、誰かを殺すことを駄目だと思うこともなく、ただの餌として人間を見るようになった鬼となった人たちは、そんな大切な人たちの記憶を失ってしまうのか。

 

 人間だったことも忘れ、鬼という別の種族となって、他の種族を食って強さを得て、長い時間を生き残る。

 

 強い生命力、高い戦闘能力、血鬼術という異能。すべてが人間違う、元が人間であってもこれはまったく別種の生き物なのだろう。

 

 人間も呼吸を使って鬼を倒すために努力を重ねた、最初の始まりの剣士が生み出したと言われる呼吸、その派生の呼吸を持って。

 

 けれど、だ。

 

 鬼に抗うために、呼吸を使った剣士たち。その努力を否定するつもりはないが、人間が最も人間らしい戦い方とは別にあるのではないか。

 

 人間は弱い、人間は脆い。人間は他者を欺き、騙し、嘘を並べて傷つける。

 

 そも確かに人間だ。

 

 でも、他者を慈しみ、他者を支えて、誰かのために命をかけられるのも人間だから。

 

 だから、彼らは集団で鬼に向かう。

 

 『鬼滅』の侍達は、集団戦を得意としている。誰よりも人間らしく、誰よりも泥臭くて人らしい。

 

 個人技ではなく集団でこそ、その威力を発揮できる。群れなければ何もできないと、言いたい奴には言わせておけばいい。

 

 これこそが人だから。

 

 一人では無理なことも、二人ならできる。二人で無理なら三人で。そうやって最弱の存在は、地球で最強の地位を手に入れてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおおおお!!」

 

「貴様らなんぞに!!」

 

 刃が振り下ろされる。一つの刃なら、鬼舞辻無惨に届くことはないだろう。彼は鬼の始祖、鬼達の元凶である首魁なのだから、基本能力もそこらへんの鬼より高い。

 

 一つの刃を避けて、相手の剣士の命を奪おうと動かした手は、他からの刃によって止められた。

 

「貴様らぁ!!」

 

 怒気を持って振り返った先、幾つもの刃が無惨の視界をふさいだ。

 

 集団戦。個人技などいらない、強さなどいらない。たった一人が戦場を支配するなんてことは、遠い昔にもあり得なかった。

 

 一騎当千。確かに強い個人は昔からいただろうが、それが最後まで強かった戦場は過去に一度たりとも存在しない。

 

 強い個人がいたなら、もっと強い集団で立ち向かえばいい。数の暴力の前に、最後まで最強を張れる個人なんていないのだから。

 

「調子に乗るな!!」

 

「血鬼術なんてさせると思うの?」

 

 幼子の声がして、周りを囲んでいた剣士たちが一斉に下がった。

 

 何がと無惨が顔を向ける中、小さな男の子が手のひらを打ちおろした。

 

 瞬間、閃光が周囲を揺らした。

 

 無残は知らない、鬼殺隊は知らない。けれど、『鬼滅』の侍なら見慣れた光景がそこにある。

 

 上下左右に斜め。目標を囲むように全方位から放たれる爆弾の結界、逃がさない、回避なんて許さない。

 

 六太の空間転移による爆撃。射出口を悟らせず、一発を放ったら位置を変えるため、爆撃を受けている本人からは視認できず。

 

「きさま」

 

 爆撃が止まり、無惨が大勢を立て直す前に、再びの刃の雨。

 

 一撃で首を落とす必要なんてない。

 

 一撃で一つの肉片を、二撃でさらに傷を広げて。

 

「おまえは、ここで削りきる」

 

 遠くの声に無惨が顔を向けた、人がまるで壁のように重なり、次々に刃を振るっていた。

 

 馬鹿なと無惨は思った。これだけの集団の中で刃を振るえば、味方に当たることだってあるはずだ。どれほど狙っても、自分が回避していれば、反対側の味方に当たる危険はあるはずなのに。

 

 それにだ、体を棘のようにして放った攻撃も、相手に届く前に阻まれた。まるで硬い鉄のような感触の後、細胞が焼かれる痛みで棘が灰となった。

 

「タネあかししてあげようか?」

 

 幼子の声、また男の子の声に無惨が顔を向けても、そこには刃しか見えない。

 

 答えは簡単。この室内に薄く満たされたナノマシンの幕、ナノミストとも呼ばれるそれらが、無惨の攻撃を瞬時に察知して固まって防御、味方への攻撃は薄く反らして当てないように細工する。

 

「僕のナノマシン、凄いでしょう?」

 

 額にうっすらと冷や汗を流しながら、茂は自慢げに笑っていた。

 

 集団戦において敵味方の攻撃すべてを対処するのは、彼にとってはとても辛いこと。頭が焼けるような痛みの中、彼は少しも手を抜かず、油断せずにすべての制御を行っていた。

 

「ならばぁ!!」

 

 無惨が飛ぶ。いくら剣士たちとはいえ、いくら侍達とはいえ、空を飛べるわけじゃない。剣の結界も上空はない、刃の届かない場所へ行けば、誰も追って来れない。

 

「そんなこと」

 

 ハッとした。声に顔を向ければ、光の幕を纏った少女が剣を振りかぶっていた。

 

「させるわけないじゃん」

 

 反対側からの声に顔を向ければ、そこには巨大な両腕に、巨大な杭のようなものを構えた少女が。

 

 覇王剣の穪豆子と、パイルバンカーの花子。上空に上がった無惨は、地球のエネルギーを乗せた刃と、惑星基地の装甲を貫通できるほどになったパイルバンカーの一撃で、あっけなく地面に叩きつけられた。

 

 悲鳴も悪態も出ず、地面から立ち上がりかけた無惨に、刃の嵐が降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を開けると見知らぬ場所で。

 

「あれぇ~~」

 

 童磨はそう呟いて、周りを見回した。

 

 知らない場所だ。また鳴女が命令されて、何処かへ移動させられたか。

 

「やっと会えましたね」

 

「あれ、カナエちゃん! そっかそっか! やっぱり君も救われたいんだね!」

 

 童磨は嬉しそうに笑って彼女を見つめた。

 

 周りが暗い、彼女以外の気配はするが、誰がいるか解らない。

 

「この人が姉さんを苦しめた鬼?」

 

 別の方向からの声に顔を向けると、顔立ちの似た少女がいた。

 

「君は誰だい? カナエちゃんの妹?」

 

「ええ」

 

「じゃあいっしょに救ってあげるよ!」

 

 嬉しそうに笑う童磨に、胡蝶姉妹は笑顔のままで。

 

「救ってくれるそうよ」

 

「楽しそうですね」

 

 クスクスと笑う二人に、童磨は同じように笑って。

 

「皆はどう思うかな?」

 

「え?」

 

「皆さん、この人は私たちを殺して救ってくれるそうですよ」

 

「え?」

 

 一気に周りが明るくなって。

 

 そして、童磨を殺気が囲った。

 

 ビオランテが、ELSが、レギオン(花もいます、親もありです)が、オーラバトラーが、デススティンガーが。

 

『我がカナエ様を殺すだとぉ?』

 

『いい度胸だ、しのぶ様に危害を加えるなんて』

 

 アップ済みのターン兄弟が。

 

「え?」

 

 童磨は思う、なんだろうこの集団は。

 

「上弦の弐、童磨」

 

 カナエがビーム・サーベルを抜いた。

 

「貴方はここで討ちます」

 

 しのぶがビーム・サーベルを構えた。

 

「え? はい?」

 

 童磨は訳が解らない顔のまま、胡蝶姉妹の攻撃に。

 

 いや、胡蝶姉妹親衛隊によって圧殺されたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鳴女と無惨のネットワークを使うことで、アベル達は残りの鬼をすべて『鬼滅』の中へと呼びこむことができた。

 

 十二鬼月と呼ばれる鬼達は、下弦はこの間の戦闘ですべて消えていたが、上弦の何人かは残っていた。

 

 それらすべてが集められ。

 

「な、なんだ貴様らはぁぁぁ?!」

 

 漆黒の集団によってすり潰されていった。

 

「ジー」

 

「ジー」

 

「ジー」

 

「お兄ちゃん!」

 

「おまえら妹を!」

 

 中には兄妹の鬼もいたようだが、無表情に潰していくG達。身体能力が人間より高い鬼とはいえ、Gに勝るほどではなかった。

 

 次々に潰れていく鬼を、遠くの場所からアオイは、何とも言えない顔で見つめていた。

 

 怖かったはずなのに、前に立てないなんて思っていたのに。

 

 今では可愛そうとさえ思えるから不思議だ。

 

「ジージージー」

 

 彼女の左右に片膝をついたGが同時に告げる。

 

 側近らしい二匹と、彼女の周りを囲む親衛隊の精鋭三十匹。

 

 『アオイ様に怖い思いをさせる愚か者など、潰れて当然』。なんて、彼らの言葉が解るようになった自分に、アオイは遠いところに来たなぁなんて思っていたり。

 

 ただ前だけを見つめ、横を絶対に見ないようにしているアオイ。

 

 その彼女の隣の戦場では。

 

 見事な大輪の花を背負ったカメのようなものと、その背の花弁に腰かけたカナヲ。

 

 そんな彼女の周りに、入り乱れる数々のモンスター。

 

 『あのカメ野郎だけ美少女の護衛なんて、許せるか』とか、背中が語る、ポケットに入るだろうモンスターたちの集団だった。

 

「ひぃぃぃぃ!?」

 

「ピ●チュウ」

 

 こうして十二鬼月は全滅したのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鬼舞辻無惨を倒すことは、日輪刀をもってしても難しい。昔、そう悟った剣士がいたかもしれない。

 

 ヒノカミ神楽が、鬼殺隊の剣士の呼吸と同じものならば、一つ目の技と最後の技が同じ名前なのは、永遠に相手に技を叩きつけて、逃がさずに無惨を削りながら、最後は太陽の光で滅ぼそうと考えていたのだろう。

 

 問題はその呼吸を使える剣士がいなかったこと、恐らく発案者以外に扱える者がいなかったのだろう、とアベルと統合AIは結論を出した。

 

 現在の多種多様な呼吸は、始まりの呼吸に適正できる剣士がいなかったから、呼吸を使うこと、その呼吸に沿った技が発達したり磨かれたりしたのだろう。

 

 その人は、恐らくとても強かったのかもしれない。剣士としては最高だったかもしれないが、きっと馬鹿だったんだろうな、とアベルは思った。

 

 一人で全部やることはない。

 

 個人が背負うことなんてない。

 

 きっと目の前にその人がいたなら、アベルはこう言っただろう。

 

 『任せろって、俺達がいるからさ』と。

 

 アベルは軍人だ、魔導師だ。エースと呼ばれる人や、化け物って言える人を多く知っているし、実際に戦ったこともある。

 

 その人達は誰もが強かった。でも、個人ですべてを行おうなんて考えていなかった。強者であり、絶対であり、一度の敗北もなかった人でさえ、自分一人で全部を行おうなんて考えていなかった。

 

 人間はどんな能力を持ち、どんな強さを手にしても、人間だから。

 

 他種族の血が入ろうとも、魔族とか妖怪とかって種族でも。

 

 どんな存在であっても、孤独には勝てないのだから。

 

「おまえはさ、無惨」

 

 アベルは肉片をそがれ、いくつかの心臓を潰され、いつくかの脳を潰されていく鬼の首魁を見つめ。

 

「最初っから間違っていたんだよ」

 

 もしかしたら、彼の最初は不幸だったのかもしれない。

 

 最初に会った時に、彼が鬼舞辻無惨になった時に、隣に誰かがいたなら。

 

 もしかしたら結末は違っていたのかもしれない。

 

 始まりの呼吸の剣士。

 

 始まりの鬼の彼。

 

 どちらも、人並み以上の強さを持っていても、誰かを信じることができない最弱の人たち。

 

 もしも、彼らの隣に誰かいたなら、彼らの強さじゃなくて、彼らの中の人間らしい何かを見つめられた誰かがいたなら。

 

 きっとこんな悲しい出来事の連鎖は、なかったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逃げれない、何処にも行けない。

 

「これはおまえがしたことだよ」

 

 男の声が聞こえる、無惨は怒りの目線を向けようとして、視界が消えた。

 

 姉を鬼に殺された刃。

 

「お前がやってきたことだ」

 

 右手を貫くは、親を鬼にされた刃。

 

 父を、母を、姉を、兄を、妹を、弟を、家族を、知り合いを。

 

「おまえがしてしまったこと、それが今のおまえを殺す。因果応報なんて言いたくないけどさ」

 

 誰かを失った怒りが、誰かを殺してしまった苦しみが、延々と列をなして鬼舞辻無惨の体に刃を突き立てる。

 

 怒りを忘れるな、悲しみを忘れるな。

 

 刃はそう語る。おまえがしたことだ、おまえが与えた苦しみだ。

 

「ふざけるなぁぁ!」

 

 無惨の叫びと同時に、彼の体が破裂した。前にも、この手段を使って逃げ延びたから、今度もこれでと考えた彼の肉片に対して。

 

 炎の呼吸。

 

 岩の呼吸。

 

 風の呼吸。

 

 蛇の呼吸。

 

 恋の呼吸。

 

 霞の呼吸。

 

 音の呼吸。

 

 水の呼吸。

 

 鬼殺隊最高の柱の攻撃が、肉片すべてを消していった。

 

「馬鹿な、そんなバカなことを」

 

 無事な肉片が、自然と集まって人の姿をなす。自分はこんなことしていない、こんなバカなことを。

 

 いい目標だと無惨は悔しく思い、さらに飛ぼうと足に力を込めて。

 

「逃げんじゃねぇ!」

 

 巨大な刃が彼の体を叩き落とす。

 

 斬艦刀、軍艦さえ斬るような巨大な刃を振るったのは、竹雄。穪豆子と花子が飛ぶより前に刃を振るい。

 

「もう観念しなよ」

 

 穪豆子の再びの覇王剣のエネルギーの一撃。

 

「そこに縫い付けられてろ!!」

 

 上空からの一撃は花子のパイルバンカー。真っ直ぐ上から突き刺さった杭が、無惨の背骨を貫通し地面に縫い付けた。

 

「私が」 

 

「終わりだ」

 

 ヒノカミ神楽。

 

 まだと手を伸ばす無惨に、左右からの一撃。すで体の大半が灰となり、形を保てずに消えていく。

 

「まだ、まだだ」

 

 体が崩れ、力も入らないのに、無惨はゆっくりゆっくりと床を進み。

 

「やあ」

 

「産屋敷、貴様」

 

 やがて彼の前に辿り着き。

 

「さよならだ、鬼舞辻無惨」

 

「あ」

 

 誰よりも熱く、誰よりも明るい、太陽そのものの刃が彼に振り下ろされた。

 

「鬼舞辻無惨、討ち取ったりぃぃ!!!」 

 

「おおおおおおお!!!」

 

 誰かの勝鬨と、大勢の歓声が、長い鬼との闘争の終止符を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズルリズルリと蠢く。

 

 誰にも見つからないように。

 

 誰にも悟られないように。

 

 やがてそれはようやく辿り着いた。

 

 青い彼岸花、そこに辿りついた彼は笑う。 

 

「これで私の勝ち」

 

 瞬間、景色が一変した。

 

 周り中が闇、星もない、月もない完全な静寂。 

 

 鬼の自分には好都合だ、いや太陽も克服できる自分には今更だ。彼がそんなことを考えていると、何故か体が凍り始めた。

 

 何がと思考する彼に、急激な息苦しさを感じた。やがて息苦しさと、体中が沸騰しそうなほど熱くなり、それでも体は凍りついていく。

 

「何が」

 

 声がしない、音も響かない。この闇はなんだ、これは何なんだ。

 

「おまえに何かをいう資格は俺にはないんだけどな」

 

 声にハッと振り返ると、光の膜に覆われた男がいた。 

 

 『軍勢のアベル』。そう名乗った男が、金色の巨大な人型の手の上に乗っていた。

 

「あの状況の中、生きようとするのは立派だよ。でもな、おまえをここで終わらせないと、また同じようになるだろ?」

 

 声は出せないのに、相手の声は届く。

 

 憎らしく睨む無惨に対して、アベルは少しだけ悲しそうに笑った。

 

「グッドラック。これは俺達の間での最高の礼儀の挨拶だ」

 

 彼の言葉を最後に、無惨は凍りついた。

 

 生物とはいえ、鬼とは言っても。

 

 宇宙空間で生きられるほど、強くはないのだろう。

 

 人は宇宙に出て、今まで住んでいた星が、いかに自分達を守ってくれていたかを、痛いほど感じることがあるという。 

 

 だからアベルはここに無惨を連れてきた。

 

 作戦は剣士たちによる集団戦で終わらせる、最後に産屋敷が止めを刺したのは偶然だったけど、あれで終わりとしては良かったかもしれない。

 

 無残の肉片が残り、青い彼岸花に辿り着いたのは、きっと彼の最後の執念だろうか。

 

 生きることへの執念、それを持っていた鬼舞辻無惨には、教えておきたかった。生きていることの意味、自分達を護ってくれる星の存在。

 

 何よりも。

 

「帰ろうか、KOG」

 

 そう言ってアベルと金色の騎士は姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 鬼舞辻無惨に何よりも教えたかったこと。

 

 

 

 

 

 

 凍り付き宇宙を漂った彼は、千年後に光の中へと消えて行った。

 

 

 

 

 

 大いなる太陽のコロナ(偉大なる母の腕の中)へと。

 

 









 鬼舞辻無惨の終わりとしては、三つのパターンを考えていました。

 今回は、その内の二つのパターンを組み合わせました。

 集団戦によるすり潰し。

 青い彼岸花を得て、太陽を克服した後に、宇宙空間へ放り出して最後は太陽の中へ。

 最後一つは、ナノマシンによる細胞崩壊です。

 いくら強くても生物なら、細胞が壊死していけば死ぬだろうな、なんて考えた結末です。

 では、次はエピローグです。







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理不尽でも普通じゃなくても世界は廻る

 





 エピローグ、というよりは終幕の方がいいでしょうか。

 とにかく、始まりがあれば終わりがある、そういった最終話になります。








 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山から昇る朝日を、彼女は感慨深く眺めていた。

 

 もう二度と見れないと思っていた、自分がもう一度、朝日を見る時はすべてが終わった後だと。

 

 確かにすべてが終わった、元凶が消えたのだから、終わったのだろう。

 

「もう旅立たれますか?」

 

 声に振り返ると、お世話になった侍が立っていた。

 

「はい、ありがとうございます。ようやく、積年の望みが叶いました」

 

「こちらこそ、貴方のおかげで鬼舞辻無惨を倒す手段が見つかりました」

 

 御世辞でもない感謝に、珠世は無言で小さく頭を下げた。

 

 元凶を倒せば鬼は滅びるというが、もしかしたら自分のように生き残った鬼が、呪を外した鬼がいるかもしれないから。

 

「鬼を人間に戻す、それはある意味で拷問以上に辛いことなのでは?」

 

「確かにそうかもしれません」

 

 彼女は手の中にある薬品を見つめていた。

 

 青い彼岸花と鬼のデータから、アベルの軍勢が生成に成功した薬品は、確かに鬼を人間に戻せる。

 

 でも、それは戻せるだけで記憶までは消すことはない。

 

 鬼から人間に戻った人たちは、確実に覚えていることだろう。自分達が同族を、親しい人達を、愛する者を手にかけたことを。

 

「それでも」

 

 珠世は、真っ直ぐに見詰めて言葉を紡いだ。

 

 彼女が何を語ったか、最後に見送った炭十郎は語ることはなかった。

 

「貴方の道行に幸いあれ」

 

 遠ざかる二つの背中を見送り、彼はそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鬼舞辻無惨を倒したとはいえ、鬼のすべてを集めて討伐したとはいえ、鬼を知っている人々から不安が消えることはない。

 

 本当にいないのか、あるいは見逃しがあったのでは。

 

 疑いの心は誰の心にもあり、否定できるだけの何かを示すことは、人には不可能だった。

 

「『鬼滅』はしばらく存続することとする」

 

 深いため息とともに炭十郎が吐き出した言葉に、聞いていた人達は半分が納得し、半分が残念そうな顔をしていた。

 

 鬼殺隊は討伐後に解散、とても長い間、存在していた組織とは思えないほど、あっさりと終わったあの組織に対して、こちらは揉めに揉めた。

 

 鬼はすべて集めた、確かに討伐した。本当にそうなのかと、内部から不安と疑問の声がわきあがり、それは決して無視できない大きさとなってしまった。

 

 アベルは確実と答えても、一度でも芽生えた不安は消えることはない。

 

「確実に、鬼が消えたと確信したい。皆の気持ちはよく解った。しかし、忘れないでほしい。我らは鬼を倒すための刃を持っているだけで、普通の人なのだから」

 

 困った顔をしながらも、鋭く決意を秘めた瞳を持って、『鬼滅』の統領はしっかりと全員に告げた。

 

 鬼を、人々に不安を与える何かを倒すための組織だから、そのための武器だから。決して、人間同士の争いに使っていい武器ではない。

 

「もし約束をたがえるならば」

 

 炭十郎は無言で刀を手に取った。

 

 対して、誰もがそれぞれの武器を手に持ち、真剣な顔で頷いた。

 

 解っている、誰もが理解していた。理不尽な力で奪われる不条理さを、普通じゃない手段を持って立ち向かうしかない存在が、どういった結末を迎えるかを解っていたから。

 

「ならば、良かろう」

 

 炭十郎はそう告げて、微笑んだ。

 

 鬼に襲われ、日常を奪われる怖さを知っている人々なら、道をたがえることなどないだろう、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にいいのか?」

 

「はい、家族全員で話し合った結果です」

 

 アベルの問いかけに、炭治郎は笑顔で腰の刀を抜いて差し出していた。

 

 すでに、穪豆子、竹雄、花子、茂、六太から、それぞれの武器は返却され、最後に炭治郎の『流刃若火』が戻された。

 

「持っていてもいいんだぞ」

 

 この先、何があるか解らないから、念のためにとアベルが心配する中、炭治郎は笑顔で首を振った。

 

「大丈夫です、俺達は、俺達の『力』で生きていきます」

 

「不条理なことがあるかもしれない」

 

「その時は」

 

 彼は振り返り、笑顔で待っている家族を見つめた。

 

「また皆で力を合わせて、どうにかしますよ」

 

 後悔なんてない、すっきりした顔で答えた炭治郎に、アベルはそうかとだけ答えた。

 

 念のため、『鬼滅』はまだ続くから葵枝と炭十郎の武器はそのままだが、『鬼滅』が終わったら、海にでも投げ込むと言っていた。

 

「アベルさん、本当に行くんですか?」

 

「まあ、俺は元々、連邦の所属だからな」

 

「このまま俺達の家族になっても」

 

「悪いな、炭治郎。俺は」

 

 アベルは残念そうな炭治郎の顔に、ゆっくりと微笑みを向けた。

 

「俺は、『軍勢』だからな」

 

 平穏とは無縁の、平和とは程遠い、戦争の中でこそ生きていけるそういった特殊な人間だから、と彼は口外に告げた。

 

「解りました。お世話になりました」

 

「こっちこそ助かった」

 

「またこっちに来たら、寄ってください」

 

「その時は必ずな」

 

 お互いに手を差し出し、握手を交わして。

 

 お互いに背を向けて歩きだした。

 

 遠ざかっていく背中を、穪豆子は目を細めて見ていた。

 

「追いかけてもいいんじゃないか?」

 

 彼女の隣まできた炭治郎の言葉に、彼女は首を振った。

 

「まだ女が磨き切れてないから」

 

「追いつけないぞ」

 

「大丈夫、絶対に追いかけるから」

 

 グッと拳を握って宣言する妹に、兄は『たくましくなったな』と思うのでした。

 

「貸しておくだけだから、追い付いたら覚悟しろ」

 

 ついでに、宣戦布告ともとれる言葉に、本当にたくましくなったと泣きたくなった家族一同だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、一つの惑星は鬼の脅威が消え去った。その後の歴史において、時々、日本に未知の集団が出現して、各国の理不尽な要求を突っぱねたとか、暴走した内部の人たちを叩き潰したとか、そんな話が流れることもあったが、それ以外は何処にでも有る平和な国のままだった。

 

 鬼の伝承は各地で流れる。

 

 欲望の化身として。

 

 願望を大きくし過ぎた愚か者として。

 

 噂話程度に流れるどれもが、最後には光の刃と不思議な呼吸を使った、剣士と侍に討伐される終わり方となっていたのは、多くの歴史学者を悩ませる結果となっていたが。

 

「一生懸命に生きて、仲間を信じて、一人で頑張らないのよ」

 

 そんな言葉と共に鬼の話は、今日も語り継がれているという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、アベル」

 

 某所のとある時間。

 

「はい、なんでしょう、中将?」

 

 彼は隣に立つ、銀河連邦軍の中将に向かって、敬礼してみた。

 

「おまえ、正式に連邦軍に入らないか?」

 

「え、嫌ですけど」

 

「っつってもなぁ」

 

 中将は深くため息をついて、目の前に広がる光景を眺めた。

 

「おまえの『嫁さん』の配下、あれ一つで連邦軍が潰れるんじゃないか?」

 

「え? 嫁? 誰が?」

 

「・・・・・・・おい小僧」

 

 思わず中将は相手の胸倉を掴んだ。

 

「カナエとしのぶは嫁だろ?」

 

「え? え?」

 

「婚姻届、出てんだよ」

 

「・・・・・はい?」

 

 まったく身に覚えのないアベル君。何時の間にと驚愕に顔を染めていたので、中将は察したように手を離して、肩を叩いてやった。

 

「がんばれ、男だろう?」

 

「・・・・・・はい」

 

 項垂れて答えるアベルに、中将は深く頷いた。

 

「さあ今日も!」

 

「人助けに頑張りましょう!」

 

 元気に号令するカナエとしのぶ。

 

「行こう」

 

「やりますよ!」

 

 穏やかに微笑むカナヲと、腕組みして仁王立ちするアオイ。

 

「がんばれー」

 

 可愛い声援のなほ、きよ、すみの三人娘。

 

「おまえんところは今日もにぎやかだなぁ」

 

 溜息交じりの中将の言葉に、アベルは思う。

 

 どうしてこうなった、と。

 

 後に、銀河連邦に一つの軍団が誕生した。

 

 『蝶屋敷軍団』と提出された書類は、その後に紆余曲折を経て、『超軍団』とか呼ばれることになったとか、ならなかったとか。

 

 

 

 

 

とりあえず、普通の手段は諦めていいですか?

 

 

 

 

普通じゃないだろ、こんなの。

 

 

 

終幕。

 

 




 




 このたびは、サルスベリの突発的でどうしょうもない、なんてふわっとした話をよく解らない具合に繋いだ、原作の影も形もない『鬼滅の刃』を呼んでいただき、ありがとうございます。

 これにて完結とさせていただきます。

 本当に最初は、鬼を倒したいけど、バトル的なものは無理だから、ロボット投入しようぜ、なんて軽い気持ちで始まったお話です。

 サルスベリのお話は、何時も最終話から書いてから、第一話といった具合に進むのですが、このお話に限っては本当に第一話から書き始めて、その都度に考えて話を進めて、最終話に辿り着いた形になっています。

 チートとバグの主人公が戦うって素敵なのでしょうが、その主人公がチートとかバグを、主人公自身の戦闘能力として持っていない、身体能力最低なんだけど、周りが圧倒的戦闘集団、そんな考えを経て生まれたのがアベル君でした。

 他の話でも、同じように回りが絶対強者って主人公もいましたが、彼とは同じ方向を向きながらも、まったくベクトルの違う軍団を率いることなったのは、ノリと勢いです。

 ここまで読んでいただき、ありがとうございます。皆様の日常の小さな楽しみの一つとなっていたなら、サルスベリにとっては幸いです。

 では、これにて。

 お付き合いいただき、ありがとうございました。






 
 最後におまけです。


 不死川実弥、約束のカブトムシを貰う。

「おおおおっっしゃぁぁぁぁ!!」

 鋼鉄のカブトムシに彼は大絶叫。

「乗れる、触れる、移動できる」

「あ、タイムマシン機能もあるんだった」

「へ?」

 その後、実弥が持っているカブトムシを巡って、女リーダーと、細い男と、太めの男の三人組の怪盗達と、時空を股にかけた大騒動となるのだが。

「爆発もするから気をつけてね」

「・・・・あ、はい」

 この時の実弥は、知らないことでした。













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