笹の葉の少女は幸せを願う (日々草)
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プロローグ 笹の葉の少女は一歩踏み出す
笹の葉の少女は普通に生活を送る


えー。突然ですが、皆さんに聞きたいことがあります。

 

 

 

目の前で倒れている竈門炭治郎とこちらを威嚇してくる竈門禰豆子がいたらどうすればいいのですか?

 

 

 

 

............意味が分からないと思うけど、私もよく分からないんだよねー。まあ。とりあえず、これまでのことを話しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は生野(いくの)彩花(あやか)。令和という時代の女子高校生だったという記憶を持つ少女です。

まあ、つまり転生者ということです。

 

 

前世の未練?...あるよ。いっぱいある!

 

 

だって、もうすぐで高校卒業だったんだよー!大学生活を満喫したかったよ!それに、私の高校はバイト禁止だったからバイトしたかったーーー!

......死因?.....もう忘れたよーー!だから、今世は寿命まで絶対生きるぞーーーーー!

 

 

 

...............という心意気で生きていたけど.....この世界が『鬼滅の刃』の世界だと知った時は今世も終わった...って正直思ったよ......。

 

 

 

 

 

 

ここが『鬼滅の刃』の世界だって知ったのは、私が四歳の時だ。私と父と母は三人で山の上で暮らしていた。父親は薬草とかで薬を作るのが仕事で、私達が住んでいる山はそういう薬草がたくさん採れる山だったから、両親はこの山で暮らすことにして、私が生まれたそうだ。

私は四歳になるまで山を降りたことがなく、四歳になってそろそろかと言われ、ようやく家族で山を下りることができた。初めて山の麓の町を見た時、私は興奮した。

 

 

だって、今世の私は薄い黄緑色の着物....和服を着ている。両親も同様にだ。つまり!令和ではない別の時代ということ!暮らしは前世より不自由だけど、なんか京都などに来たような感じに思えて興奮してくる!

 

 

私は町の人達に挨拶して、色々なことを聞いてまわっていた。中身は二十一歳だが見た目が四歳なので、小さな女の子が初めて見る町に好奇心旺盛に走りまわっているようにしか見えない。

だから、遠慮なくはしゃげる。私が町の人達に話しかけると、両親がすみませんとその人に謝ると、『もしかして娘さん!?』と毎回驚かれた。親しく話しているのを見て、どうやら両親は町の人達と親しくしているのが分かった。

 

 

良く効く薬を作ってくれて、色々な人に優しく接してくれる........本当にいい両親の間に生まれて良かったよ。

 

 

私が町の人達に話しかけては時々甘菓子を貰っていると、空が赤みがかっていた。もうすぐ夕焼けだ。

 

 

「おい。早く帰らねえと鬼が出るぞ」

 

 

聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がした。

えっ、鬼?そら耳であってほしいけど......。

 

 

「おじいさん。おにって?」

「鬼は夜になると現れ、人を食う。もう暗くなるから、さっさと帰った方がいい」

「はーい」

 

 

お爺さんに返事をして、私は両親の元に戻った。山を登っている間、お爺さんの言葉を何度も頭の中で繰り返す。

鬼....人喰い鬼...。

 

 

「おとうさん」

「なんだ?」

 

 

私は背負ってくれている父に話しかけた。父は優しく聞き返してくれた。

 

 

「いまって、なにじだい?」

「うん?大正だがどうしたんだ?」

「ううん。なんでもない」

 

 

不思議そうな父に私は首を横に振ると、父は納得していなさそうな様子だが、そうか?とだけ言って何も聞かなかった。

 

 

人喰い鬼.....夜に活動........大正時代......間違いない。

 

 

私は大きく息を吐いた。そうでもしないと、私の心の声が漏れてしまうからだ。

 

 

 

この世界は』『鬼滅の刃』の世界なのかーーーーーーーー!!

 

 

 

私の内心はもう発狂したかのように大騒ぎしていた。

 

 

 

 

 

あの後、どうすればこの世界で長生きできるか必死に考えた。とりあえず山の中を探索し、藤の花を見つけた。藤の花は鬼が嫌う物なので、両親に頼んで家の近くに藤の花を植えてもらった。

私の突然の我が儘を聞いてくれた両親に親孝行をしたかったから、よく両親の手伝いをしていた。町に行く時も藤の花を懐に入れて、両親の手伝いをして、その様子を見た町の人達に『本当に仲の良い家族ねー』と言われて凄く嬉しかった。

このまま幸せな時間が続いてほしいなー。そう思っていたんだけど.......

 

 

 

 

 

私が八歳の時に両親は他界した。

 

 

鬼に喰われたとかではない。町に流行った伝染病を治すために、その薬を渡しに行った両親がその病気にかかり、亡くなったそうだ。

 

 

私は鬼のことで精いっぱいだったから、この時代が前世よりも昔の時代...そして自然の脅威......そういうことで亡くなることを考えていなかった。伝染病が流行った町に子供の私を連れていけないのは分かっていたから、何日も帰ってくるのを大人しく待っていたが、来たのは町の人だった。

そこで両親の死を聞かされ、箱を二つと遺品を渡され、私は届けてくれた町の人に何て言ったか覚えていない。

その後、町の人が帰ってから二つの箱と遺品を抱えて泣いたことだけは覚えている。

 

 

 

 

 

そして、今、私は十三歳になった。

 

 

「いってきます!」

 

 

私は誰もいない家に向けて元気良く言い、箱を背負って走り出した。

 

 

両親が亡くなってからも私はこの家に住んでいる。前世より不自由だけど、この家が好きで愛着もあるからというのもあるが、親戚が誰もいないというのが一番の理由だ。

祖父母は私が生まれる前に亡くなったと聞いてたし、両親とも兄弟とかはいなかったということも聞いてた。幼い私を見かねて一緒に暮らさないかと町の人達に誘われたが、迷惑になるし、この家がいいと言って断った。

まあ、精神はもう大人だからね。ちなみに、走っているのは逃げ足と体力を鍛えるためだ。もしもの時のためにね。損はないし。

 

 

でも、いつまでも山の中に引きこもっていると、食べ物やお金とかがなくなるので、こうやって町に降りている。

 

 

「おお!彩花ちゃん!」

「おはようございます!いつものですかー?」

「ああ。いつもありがとうね」

 

 

そう言って背負ってた箱を下ろし、箱の中から紙で包んだ薬を出して渡し、お金を受け取った。

 

 

私は両親から色々なことを教えてもらっていた。母からどれが薬になるか、どれが食べれるか、どれが毒なのか等の薬草の見分け方を教えてもらい、父から薬の作り方を教わった。精神が二十歳以上だからかのみ込みが速く、父は私を褒めてはそれを自慢して、その薬を売る。親バカだったのかもしれないが、このことがあったから、薬を作ることに自信を持つことができた。

私の作った薬を使って、『よく効いたよー。ありがとう』とか言ってくれるので、私はとても嬉しかった。薬を買ってくれる人がいるので、私は両親が亡くなった後、薬を作って売ることで稼ぐことができた。

 

 

「彩花ちゃん!塗り薬ちょうだい!」

「こっちは飲み薬を!」

「はーい!あ!おばちゃん!このお魚ください!」

「はいよ!」

 

 

私は週に三回、薬を売っては町で買い物をする。この先、何が起こるか分からないので、私はあまり贅沢をせず、安い物を買っている。

着ている物も薄い黄緑色の安っぽい着物と母の形見の笹の葉が描かれた白色の布地の羽織だ。髪も父が薬を作る時に裾をたすき掛けするのに使った赤い紐で一つに結んでいるだけだ。髪が緑っぽい黒色......オリーブのような髪色なので、赤い紐は合うと思っている。ちなみに、私の瞳は黒色だ。

せっかく綺麗な色の髪をしているんだから、もう少し綺麗にしたら、年頃なんだから等と言われるが、笑って誤魔化している。

 

 

「彩花ちゃん。おにぎりだけじゃよくないって毎回言ってるでしょ?」

 

 

私がいつものように持ってきたおにぎりを食べていると、町の人達は両親を亡くして一人の私を心配して声をかけてくれる。

この町の人達は本当に優しい人達だな.......。

 

 

うん?....そういえば、鬼殺隊に入ったりしないのかって?

 

 

 

......無理。入らない!鬼殺隊でやっていけると思えない!だって、人が何人も死に行くようなところに行って、生き残れる自信がない!

それに、鬼を殺すことができるかが不安だ。平和な時代だったから、鬼とはいえ殺すことを躊躇うかもしれない...。一瞬の迷いが生死を分けることだってある.....。

 

 

「あと、今がどの時期か分からないんだよね....」

 

 

そう。今が原作のどの時期なのか全く分からない。ひょっとしたら、もう原作が始まっているのかもしれない......。

本当によく分からないから、私は関わらないようにしよう。関わって原作が色々おかしくなったら大変だし.....。

 

 

 

.........って、思ってたんだけどね。

 

 

人生色々あるって、本当なんだな....って、私はそう思ったよ。

 

 

 

 

私がいつものように薬を売って買い物をした帰りに二つの人影を見つけた。一人は気を失って倒れていて、もう一人は...たぶん女の子はその人を心配して駆け寄っていた。

 

 

誰か倒れてる!?

 

 

私は急いでその人達のところに走り出した。

 

 

「大丈夫ですか!」

 

 

私が声をかけると、女の子が私の方に振り向いた。すると、その女の子は私を見るなり威嚇してきた。私は驚いて立ち止まった。

その女の子が威嚇してくるからというのもあるが、それよりも威嚇してくる女の子にも倒れている人にも見覚えがあったからだ。

 

 

女の子は長い髪を部分的に結んで額を出していて、麻の葉模様の桃色の着物に市松柄の帯を締めている。しかも、その女の子の爪は鋭く、目はまるで猫のような縦長だ。

倒れている人は赤が混じった色をした赫灼の髪をしていて、市松模様の緑と黒の羽織りを着ていて、耳に花札のような耳飾りをしていて、額に痣がある少年だ。

 

.........うん。間違いない。

 

 

 

 

なんでここに竈門炭治郎と竈門禰豆子がいるんだよ!!

 

 

 

鬼滅の刃の主人公とヒロインだよ!!どうしてここにいるの!!?

 

 

 

本当に誰か.......一体どういうことか説明してほしい!!

 

 

 

切実に誰か教えて〜!!

 

 

 

 

 



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笹の葉の少女は何故か主人公とヒロインに出会う

ごほん。取り乱してばかりじゃ何も解決できない。一旦落ち着こう。頭の中が多少混乱しているが、冷静にならないと。......落ち着け、落ち着くんだ!

 

 

 

少し落ち着いてきたから、状況を確認しよう。まずは私に威嚇してくる禰豆子から......

 

 

 

禰豆子は鋭い爪と猫のような縦長な目から鬼になっていることは分かる。しかも、今はまだ太陽が出ているのに元気に威嚇してくることから、禰豆子は日光を克服していることが分かる。

鬼は日の光を浴びると灰になってしまうが、禰豆子は日光を克服することができた鬼だ。原作の禰豆子が日光を克服したのは刀鍛冶の里の戦いが終わった後だから、今は刀鍛冶の里の戦いより後だと考えられるが........。

一方で炭治郎の方を見ると、市松模様の羽織を着ているが、その下は鬼殺隊の隊服ではなかった。鬼殺隊に入る前の初期の時に着ていた着物だ。それに、炭治郎の痣はまだやけどのような痣だ。

 

 

さらに言うと、炭治郎も禰豆子も十三歳の私とそんなに身長が変わらない...。

 

 

これらのことを考えると、原作が始まってすぐだと思うのだが.......時期から考えて禰豆子が日光を克服するのはまだ先だけど、実際に今、日光を克服しているんだよね....。

 

 

一体、どういうことなの!?って叫びたいけど、我慢しないと。

というか、今はこんなことを考えている場合じゃない!

 

 

私はもう一度炭治郎の方を見た。顔色が悪く、見たところ熱っぽい。耳を澄ますと息も荒くて苦しそう。薬を渡したいけど、さっき全部売っちゃったから何も持ってないし、休むところだって必要だ。

原作とかの前にまずはこっちをなんとかしないと!目の前で倒れている人がいるんだから。

けど、禰豆子が看病させてくれるかな...。威嚇してくるし.....相当警戒しているよね......。でも炭治郎の様子からして、だんだん容態が悪化しているし...ああもう!声をかけるしかないでしょ!

 

 

「......あのー.......」

「ヴッー!」

 

 

声をかけただけで唸り声を上げられてしまった。

 

 

うーん....どうしよう.......。ここまで警戒されてるとは...。なんとかして警戒を解かないと....怯んでいる場合じゃない。

 

 

「あの!その倒れた人は大丈夫ですか?見たところ、全然大丈夫そうに見えないのですが....熱とかあるのでしょうか?」

 

 

私が聞くと、禰豆子は一瞬目を見開いて、さらに警戒してきた。

逆効果だったのかもしれない...けど、熱があることは分かった。熱があるならどこかに休ませないと....。

 

 

 

「これでも私は薬草を調合して薬を作るのが仕事だから。本当は今すぐ解熱剤を渡したいけど、今は町で売っちゃったから薬がないの。今から薬を持ってくるから、そこで待ってて。それと、いつまでも固い地面に寝かせていたら余計に体調が悪くなるから、柔らかい場所に運んで寝かせてあげて」

 

 

これで、どうにかなればいいんだけど...って⁉︎

 

 

私がそう言うと、禰豆子は炭治郎を背負ってどこかに行こうとした。

いや、ちょっと待て!

 

 

「何⁉︎どこに行くの⁉︎行かないといけない場所があるの⁉︎でも、その場所は近いの⁉︎遠くだったら背負っても悪化するよ⁉︎」

 

 

私は必死に禰豆子を追いかけて声をかけるが、禰豆子は何も言ってくれない。

いや、せめて唸り声でもいいから何か言ってよ!

 

 

「もう!お節介なことしているのは分かってるけど、何か言ってよ!何か言ってくれないと、どうしたらいいか分からないよ!いや、どうもしてほしくないかもしれないけど!」

 

 

私がそこまで言うと、禰豆子が突然立ち止まった。私も驚いて立ち止まった。互いに何も言わず、辺りは沈黙で包まれた。

 

 

えっ?......何?この状況?私から喋るの?

 

 

「ど、どうして?」

 

 

あ、禰豆子から話してくれた。やっと喋ってくれたよ...。私の方を見てくれないけど......。

 

 

「どうしてって?」

 

 

けど、私は禰豆子のどうしてという言葉の意味が分からず、聞き返した。

 

 

「どう、して、わた、し、たち、の、こと、を?あ、なた、に、は、かんけい、な、い。」

「へっ?」

 

 

禰豆子がたどたどしく言う言葉に、私は変な声が出た。

 

 

えっ?いやいや........。

ちょっと禰豆子にそう言われるのは予想外だったよ。

 

 

 

「いや。目の前に倒れていたら普通に心配するよ。体調の悪い人を目の前に放置して忘れることなんてできるわけないよ。私のことを怪しいって思ってるのは分かるよ。でも、私はなんとかしたいの。........って、こうしている間にますます熱が上がってない!?早く休ませて、絶対に安静にさせないと!」

 

 

私は初めは警戒を解いてくれるように笑顔で話しかけていたが、炭治郎が苦しそうにしているのを見て、めちゃくちゃ焦った。禰豆子が私の方を向いて黙って見ていたが、私は焦り過ぎて気づかなかった。しばらくして、禰豆子は後ろを向いて口を開いた。

 

 

「ど、どこ?」

「どこって?」

「い、え。」

 

 

いえ?...家....家!?家って.....まさか.......

 

 

 

「.....もしかして、私の家がどこかって聞いているの?」

 

 

私がまさかと思いながら聞くと、禰豆子は無言で頷いた。

 

 

ですよねー。一瞬、時期的に鱗滝さんの家かなと思ったけど、流れ的にやっぱり私の家かー。まあ、鱗滝さんの家は禰豆子の方が知ってるし、そもそも私の方が分かりません。

 

 

「この山の上だよ。」

 

 

私が近くの山を指差してそう言うと、禰豆子は炭治郎を背負ったまま、私が指差した山の方を向き、その山を登ろうとした。

 

 

「ま、待って!私の言う通りに休ませようとしてくれてるのはありがたいけど、山を登って体調が悪化したら大変よ!他に休める場所を探すから、そこで.........。」

 

 

私がそう言いかけるが、禰豆子の何かを訴えるかのような目を見て口を閉じた。

 

 

.......もしかして.....

 

 

 

「...他の人のことが苦手だったり関わりたくないと思ってたりとかするの?」

 

 

私の言葉に禰豆子はまた頷いた。

 

 

もうなんだかよく分からなくなってきた.....。原作の設定と全然違う....。頭の中を整理するのは後回しだ。とりあえず今は炭治郎のことを考えることにしよう。いちいち考えていたらキリがなさそうだ。

 

 

「それって....私の家も駄目じゃない?」

「でも、ほかに、いいところ、ない。」

 

 

私がふと思ったことを聞くと、禰豆子はそれを否定せずにそう言った。

 

 

うん。知っていたけど、私も駄目だって言われて結構胸に刺さったよ。でも、人が苦手な人を私の家にも他の人の家にも連れて行くのはなんか気が引けるというか......その...うーん。

 

 

「.....分かった。でも、私の家までの道は結構険しいよ。本当にいいの?」

 

 

私が確認すると、禰豆子はまた無言で頷いた。まあ、声をかけたのは私だし、引き止めたのも私だからねー.......。

 

 

「....じゃあ、案内するね。」

 

 

私は炭治郎と禰豆子を家まで案内しようとしたが、すぐに立ち止まった。あることを忘れていたからだ。

 

 

「あー...ちょっと待ってね。」

 

 

私は一旦禰豆子を待たせて自分の荷物を漁り出した。禰豆子が警戒していることには気がついていないフリをして、私は探していた物を見つけた。

 

 

「はい。これ。」

 

 

私はそれを.......手拭いを禰豆子の前に出した。

 

 

「私の家の近くに藤の花が咲いているの。気休め程度にしかならないと思うけど、少しでもマシになると思うから。」

 

 

私がそう言うと、禰豆子は目を見開いて後退った。

 

 

....うん。まあ、こうなると分かってたよ。そりゃあ、こっちは鬼だって分かってるんだからね。

 

 

「察してる通り、私は貴女が鬼だということは分かってるよ。昔、お年寄りの人達に鬼について聞いたことがあるから.....。それでも、私は貴女が鬼であっても助けると決めたら助けるよ。そんなことより、私には病人の体調の方が心配だよ。私は鬼であろうと何であろうともそんなに気にしてないから....貴女は気にするみたいだけど.....。こんな状態で悪いけど、早く行こう。」

 

 

私の言葉に禰豆子は目を見開きながらも警戒していたが、しばらく考えて頷いた。背負っている炭治郎を落とさないように背負い直そうとしたのを見て、やっぱり私がつけようかと声をかけた。

 

 

「その子を万が一に落としたら大変だからね。」

 

本当は私が代わりに炭治郎を背負って禰豆子が息苦しくないように自分で調節した方がいいのだろうけど、禰豆子は絶対警戒しているから無理だろうね。せめて、これくらいはさせてほしいな....。

 

 

禰豆子は私のことを見た後、動きを止めた。やってもいいってことなのかな?.....でも、警戒していつでも逃げれるようにしてる。あんまり刺激しないように早く終わらせよう。

 

 

私は手拭いを広げ、それを半分に折った後、禰豆子の口元を手拭いで覆って後ろに結んだ。マスクのような感じになるのをイメージしたが...まあ、いいか。

 

 

「大丈夫?きつくない?息苦しくない?」

 

 

私がそう聞くと、禰豆子は頷いてくれた。私はそれに安心した後、私の暮らしている山を指差した。

 

 

「行こう。」

 

 

 

なんか波乱が起こりそうな気がする.......あれ?何かフラグが立った気がする。気のせいかな........。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

分からない.......。

 

 

私はそう思いながら案内する女の子を見た。見て見ぬフリをすれば良かったのに、彼女は私達に声をかけた。お兄ちゃんが倒れているのを見て、心配して声をかけたみたい。彼女は変わった人ね。

 

 

私の名前は竈門禰豆子。炭焼きを家業としている六人兄弟の長女で、貧しいながらも幸せに暮らしていた...。けど、お父さんが病気で亡くなって、お兄ちゃん以外の家族は殺され、私は鬼になってしまった。鬼になった私を見て、お兄ちゃんは泣いていたけど、そうしている場合でもなかったから、私とお兄ちゃんは亡くなった家族を埋葬してその場から離れた。

 

 

どうして離れたのって?

 

それはあいつが来るから.....あいつが来る前にそこから離れたかった....。

 

 

誰かなのかって?どうして来るって分かってるのかって?

 

それはあいつ....あいつらが私を殺し、お兄ちゃんまで殺したから.....。あいつが来るのは知ってる。だって、前世では来たのだから。

 

 

私には前世の記憶というものがある。信じられない話だけど、本当のことなんです。私が前世の記憶を思い出したのは私が鬼になった時......前世と同じようにお兄ちゃん以外の家族を鬼舞辻無惨に殺され、私が鬼になった時に思い出した。お兄ちゃんも私が鬼になったのを見て、前世の記憶が戻ったみたい。......前世の記憶を思い出した私とお兄ちゃんはあいつ.......水柱の冨岡義勇に出会って鬼殺隊に入ることになることを思い出し、私とお兄ちゃんはすぐに家族を埋葬して家から離れた。あいつが来る前に......。

 

 

一刻も早く離れないとと思ってたから、私はいつの間にか日光を克服していた。私もお兄ちゃんも驚いたけど、今はそれどころじゃなかった...。

 

 

 

休まず走り続けていたから、お兄ちゃんが倒れてしまった。私は鬼だから平気だった。お兄ちゃんが急に倒れて私は困った。特に目的もなく、行く宛てもなく、ただあそこから離れるために...遠くに行きたくてここまで来た。周りは知らない場所....私もお兄ちゃんもあの件から人間が嫌い。憎くてたまらない。でも、お兄ちゃんが熱を出して倒れてる....どうしよう.....。

 

 

 

私が途方に暮れていた.......そんな時に....彼女が来た。

 

 

「大丈夫ですか!」

 

 

声が聞こえてすぐに私はお兄ちゃんを後ろに庇い、声をかけてきた人を威嚇した。

 

 

声をかけてきた彼女は少し緑が混じった黒髪に少し大きな黒色の瞳をもった、まだ幼さを思わせる顔立ちだが、私やお兄ちゃんとそんなに背丈が変わらない子だった。

 

 

彼女は戸惑っている様子だった。私が威嚇してるから困惑しているのね...。早くあっちに行ってくれないかな....。けど、私の思いとは裏腹に彼女は私達に話しかけてくる。こっちが拒絶しているのに、彼女は熱が出ている、薬を持ってくる、柔らかい場所に休ませた方がいいと色々言ってくる。貴女には関係ないんだから、さっさとあっちに行った方がいいのに....。

 

 

私は彼女の話を無視して、お兄ちゃんを背負って彼女から離れた。

 

 

(もう。関わらなくていいのに.....。)

 

 

私は心の中でそう呟いていると、彼女は私達を追いかけてきた。私が歩くスピードを上げても、彼女は追いかけてくる。彼女は私を追いかけながらお兄ちゃんの心配をしていた。

 

 

どうして来るの⁉︎

 

 

「もう!お節介なことをしているのは分かってるけど、何か言ってよ!何か言ってくれないと、どうしたらいいか分からないよ!どうもしてほしくないかもしれないけど!」

 

 

それなら....

 

 

「ど、どうして?」

 

 

彼女は私が声を出すと少し嬉しそうにしていたが、すぐに首を傾げた。

 

 

「どうしてって?」

「どう、して、わた、し、たち、の、こと、を?あ、なた、に、は、かんけい、な、い。」

「へっ?」

 

 

私が言うと、彼女から変な声が聞こえた。まるで聞かれたことがよく分からないという風に....。

 

 

「いや。目の前に倒れていたら普通に心配するよ。体調が悪い人を目の前に放置して忘れることなんてできるわけないよ。私のことを怪しいって思ってるのは分かるよ。でも、私はなんとかしたいの。」

 

 

私は気づかれないように彼女の方を見た。彼女の笑顔を見て、私は一瞬目を見開いた。あの笑顔は私を騙そうとするものじゃない。本当に優しくて.......誰かのことを心の底から思っている.......まるで、お兄ちゃんが私に向ける笑顔みたいだった....。お兄ちゃんみたいと思ったせいか...不思議と彼女に安心感がある......。お兄ちゃんの様子を見て焦る彼女を見て、私の勘は外れていないんじゃないかと思った。もしかしたら....彼女なら......。

 

 

「ど、どこ?」

「どこって?」

「い、え。」

 

 

私がそう言うと、彼女はしばらく考えてからあんぐりと口を開けた。

 

 

「....もしかして、私の家がどこかって聞いているの?」

 

 

彼女の言葉に、私は何を言ってるの?貴女以外の誰がいるの?と思いながらも頷いた。彼女は少し悩んでいる様子で近くにある山を指差した。

 

 

「この山の上だよ。」

 

 

彼女が暮らしていると言った山を見た。彼女の暮らす山は私達が住んでいた山よりも低かった。私がお兄ちゃんをしっかり背負ってその山に向かおうとしたら、彼女が止めてきた。なんで止めるの?

 

 

「ま、待って!私の言う通りに休ませようとしてくれてるのはありがたいけど、山を登って体調が悪化したら大変よ!他に休める場所を探すから、そこで.........。」

 

 

何か言ってるけど、私はお兄ちゃんを他の人に預けるのは嫌なのよ!また、お兄ちゃんを死なせたくないのよ!

 

 

「他の人のことが苦手だったり関わりたくないとか思ってたりとかするの?」

 

 

察しが良いみたいね....。彼女は私の目を見て勘づいたみたい。

 

 

「それって....私の家も駄目じゃない?」

「けど、ほかに、いいところ、ない。」

 

 

確かにそうだけど、彼女と他の人だったら彼女の方がまだ信用できる。どうしてか分からないけど、私は彼女を見ると落ち着く。昔の...裏切られる前のお兄ちゃんと似ている気がするからかな.......。

 

 

「....分かった。でも、私の家までの道は結構険しいよ。本当にいいの?」

 

 

私は無言で頷いた。ほんの少しの会話だったけど、彼女が本当に心配してくれているのは分かる。

 

 

「....じゃあ、案内するね。」

 

 

彼女がそう言って歩き始め、私もその後を追ったが.......

 

 

「あー...ちょっと待ってね。」

 

 

彼女は急に止まって私にそう言うと、背負っていた箱から何かを取り出そうとした。私はそんな彼女を警戒し、彼女が手を出した時に一歩下がった.....。

 

 

「はい。これ。」

 

 

彼女が渡してきたのは手拭いだった......。どういうこと?

 

 

「私の家の近くに藤の花が咲いているの。気休め程度にしかならないと思うけど、少しでもマシになると思うから。」

 

 

彼女の言葉に私は再び警戒した。

 

 

彼女は私のことを鬼だって気づいている。一般人の彼女が鬼のことを知っていて.....尚且つ、彼女は私のことを鬼だって分かっていながら私達を家まで連れて行こうとしている....。何か裏があるかもしれない。

 

 

「察してる通り、私は貴女が鬼だということは分かってるよ。昔、お年寄りの人達に鬼について聞いたことがあるから.....。それでも、私は貴女が鬼であっても助けると決めたら助けるよ。そんなことより、私には病人の体調の方が心配だよ。私は貴女が鬼であろうと何であろうともそんなに気にしてないから....貴女は気にするみたいだけど.....。こんな状態で悪いけど、早く行こう。」

 

 

彼女は何を思ったのかそう話し始めた。.....でも、嘘ではないみたい。まあ。彼女が怪しい行動したら私がなんとかするから....。

 

 

私は大丈夫だと考えて彼女に頷き、お兄ちゃんを背負い直して、手拭いを身につけようと考えた時...

 

 

「私がつけようか?その子を万が一に落としたら大変だからね。」

 

 

彼女は私の考えたことがお見通しみたいで、そう声をかけてきた。私がお兄ちゃんに触ってほしくないのに気づいたみたい。私もあんまり触ってほしくなかったけど、お兄ちゃんよりもまだ.......。私はそう思い、彼女も察してくれたみたいで、必要最低限に触れ、尚且つ素早く結んでくれた。しかし丁寧に調節してくれたので、丁度良く、息苦しさも感じないくらいだった。彼女が少し触れた手はとても優しく...暖かった......。

 

 

「大丈夫?きつくない?息苦しくない?」

 

 

 

彼女は私の口元に手拭いを巻いた後、そう聞いた。その姿がお兄ちゃんに本当に似ていた。

 

 

息苦しくなかったから、私は頷いた。それを見て、彼女は安心したような顔をした。

 

 

「行こう。」

 

 

彼女は笑顔でそう言って歩き出した。彼女の背中を追いながら私は確信した。

 

 

 

彼女はお人好しね。

 

 

 

 

 



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笹の葉の少女は看病をする

額の冷たい感覚で俺は目を覚ました。

 

 

「.....こ、ここは...?」

 

 

目が覚めると、見知らぬ天井が見えた。

 

 

どこなんだ、ここは?

 

俺は....あいつから逃げるために走って...視界が揺れて急に真っ暗に........そうだ!禰豆子は!?

 

 

「禰豆子!」

「ひゃあ!?」

 

 

俺が勢いよく起き上がると、後ろを向いてたらしい女の子が驚いて振り返った。

 

誰だ?

 

 

「あっ!良かったー!意識が戻ったのね!」

 

 

笹の葉の羽織を着た女の子から安堵したような匂いがした。

 

この子は誰だ?いや、それより!

 

「禰豆子は!妹は!」

「....大丈夫。今、釜戸の方に.....ほら!」

 

 

その子に聞くと、女の子は俺の後ろを見て笑った。俺が振り向いたと同時に誰かが抱きついた。禰豆子だった。禰豆子からも安堵したような匂いがした。

 

 

「禰豆子、心配かけてごめんな。」

 

 

禰豆子に心配かけてしまったようだ。長男なのに情けない。......?

 

 

「禰豆子。その口の布、どうしたんだ?」

 

 

禰豆子の口元を布で覆っていた。俺が倒れる前はこんなものをつけていなかった。

 

 

「あー。それは私がつけたの。本人の了承をもらってね。鬼にとって藤の花は毒だからね。近くに藤の花があるから、少しでもマシになるようにって思ってつけたの。」

「そ、そうなのか.....!?」

 

 

俺の話を聞いて女の子が代わりに答えてくれた。だが、俺は納得するよりも彼女の言ったことに驚き、警戒した。

 

 

「君は....禰豆子が鬼だって知っているのか!?」

「うん。知ってたけど.......私はそんなこと気にしてないから、普通に接しているよ。」

「俺達をどうするつもりだ!」

「どうするも何も看病してるだけだよ。普通に接しているって言ったのに.......。」

 

 

俺の質問に彼女は普通に答えた。彼女の答えは嘘ではなかった。だが、信用できない。

 

 

「か、看病?」

「うん。だって、倒れている人がいたら助けるに決まっているじゃない。」

「.......そばに妹が.....鬼の妹がいたんだぞ!」

「いや。居ても心配なのは変わらないし......。私には鬼だろうと、あの子が誰かを心配してる人にしか見えなかったよ。」

 

 

彼女の答えに嘘の匂いはしなかった。紛れもない本心のようだ。それに、彼女から優しい匂いがしていた。

 

 

「はいはい!目が覚めたからと言って治ったわけじゃないんだから。ちょっと、寝かせてくれないかな?」

 

 

彼女は手を叩いて話を終わらせ、禰豆子の方を見た。禰豆子は彼女の視線に気づき、分かってるというように彼女を見返した後、俺を強制的に布団に寝かせた。禰豆子は寝ているようにと言うように俺の胸をニ、三度軽く叩き、俺の額に手を当てた。

 

 

「熱はまだある?さっきより熱は下がってる?」

 

 

彼女の質問に禰豆子は頷いた。禰豆子に質問して、禰豆子の様子を見た後、今度は彼女が俺の方に少し近づき、俺の方を観察するように見ていた。

 

 

「体の調子はどう?頭が痛かったりとか吐き気がしたりとかしない?」

「あ、ああ......。大丈夫だ....。」

 

 

彼女は俺を一通り観察した後、俺に質問した。俺は正直に答えた。

 

 

「........疲れが溜まったことによる発熱ね....やっぱり......。服....着物に砂とかが結構ついていたから、余程遠くから来たのでしょ。熱が下がるまで寝てないと駄目よ。」

 

 

少し考えてから彼女は言った。医者なのか......この子は?

 

 

「君は医者なのか?」

「ううん。薬屋さんよ。けど、色々な症状の患者さんと会っているから、そういうことは大体知ってるよ。」

 

 

医者ではないが、病気とかの症状に詳しいようだ。

 

 

「....いつ頃治るのか?」

「...うーん........相当疲れが溜まっていたらしく、高熱だったからね......。何日か寝ている方がいいと思うよ。今動くとまた熱が上がるから、しっかり安静にしてね。ここは山の中で私しかいないから、ゆっくり休めると思うよ。」

 

 

まだ時間がかかるか.......。幸い、ここは山の中のようだ。鬼殺隊が来ることもないだろう......。だが、長くここにいるわけには行かない.....。彼女には悪いが、急いでここを出ないと.......。

 

 

「助けてくれてありがとう。.....えーと....君は?」

「私は彩花。生野彩花よ。貴女達の名前は?その子が禰豆子だって貴方から聞いて知ったけど、まだきちんと聞けていなかったから...。」

「.....俺は竈門炭治郎だ。こっちは妹の禰豆子。」

 

 

とりあえず助けてくれた彼女には感謝した。俺は揺さぶりをかけるつもりで言ったが、彼女は俺達のことを疑いもせずに自身の名前を言った。名前を聞かれて偽名を使おうかと思ったが、禰豆子の名前は知られているし、すぐに出ていくつもりだからと本名を名乗ることにした。

 

 

「あっ!タオルが落ちてる。.....うーん..水もすっかり緩くなってるなー。.......ちょっと水を取り換えてくるね。」

 

 

俺の近くにあったタオルを拾い、彩花はそう言って立ち上がった。目が覚めた時に感じた冷たい感触はあのタオルのものなんだろう......。きっと俺が起きた時に落ちたんだ。

 

 

「炭治郎はしっかり寝ててね。禰豆子、ちゃんと炭治郎のことを見ててよ。」

 

 

彩花はそう言うと、桶を持って外に出て行った。

 

 

「禰豆子。行こうか。」

 

 

俺が体を起こし、そばにいる禰豆子に声をかけると、禰豆子は慌てた様子で俺を布団の上に寝かせようとした。

 

 

「俺は大丈夫だ。それより早くここを出よう。」

 

 

俺が優しくそう言うが、禰豆子は納得していない様子だった。俺は布団から出て着物を整え、近くに置いてあった羽織を着た。

 

大丈夫だ。体は動く。

 

 

禰豆子はまだ納得していない様子で俺の羽織の裾を掴むが、俺は禰豆子の手を引いて外に出た。外はまだ少し暗いが、もう少しで夜が明けそうだ。俺は山を降りようとした時、近くから藤の花の匂いがした。そういえば、彩花が近くに藤の花が咲いていると言っていたなと思いながら匂いのする方を見ると、家の近くにとても綺麗な藤の花が咲いていた。

 

 

「綺麗だな...。禰豆子。」

 

 

俺が禰豆子に聞くと、禰豆子は無言で頷いた。禰豆子の方を見て、彩花が貸してくれた手拭いのことを思い出した。

 

手拭いはどうしようか.....家に置きに行ったら彩花と鉢合わせになるかもしれないからな.......。だが、見ず知らずの俺を助けて、鬼の禰豆子を怖がらずに善意で手拭いを貸してくれた彩花に申し訳ない...。

 

そんなことを考えていると、禰豆子が俺の羽織の裾を引っ張った。

 

 

「禰豆子、どうした?」

 

 

俺が禰豆子に聞くと、禰豆子は藤の花の根元を指差した。禰豆子が指差した方から何か影のようなものが見えた。

 

 

「あれが気になるのか?」

 

 

俺が再び聞くと、禰豆子はまた頷いた。俺も少し気になったから、見に行くことにした。藤の花があるから、俺は禰豆子に待っているように言ったが、禰豆子はどうしても気になるからついて行くと言って聞かなかった。俺と禰豆子が藤の花の根元に近づいてみると......

 

 

「墓?」

「お、は、か?」

 

 

そこにあったのは.......何かを埋めたように土が盛り上がり、木の棒を盛り上がった土の上に刺した簡素な墓だった....。それも二つも。

 

 

「あー!なんで起きてるの!」

 

 

声が聞こえてきたから振り返ると、桶を抱えた彩花がいた。どうやら俺達が藤の花と墓を見ている間に戻って来たようだ。

 

 

「もう!まだ熱があるのに起きたら駄目でしょ!せっかく治ってきているんだから...悪化させちゃうよ!」

 

 

彩花から怒ったような匂いがする。心配してくれるんだな.....。

 

 

「禰豆子も!ちゃんと見ていてって言ったのに....。」

「こ、の、お、はか、は?」

「お墓?」

 

 

彩花は禰豆子にも怒っていたが、禰豆子は墓のことが気になって彩花に聞いた。彩花は一瞬怪訝な表情をしたが、藤の花の根元にある墓を見て納得していた。

 

 

「あー。....その墓は私の両親の墓よ。」

 

 

彩花は少し言いにくそうにしながらも言った。

 

両親の...墓..!......まさか!

 

 

「まさか.......鬼に...「違う。」....!」

 

 

俺は鬼のせいだと思ったが、彩花はすぐに否定した。

 

 

「鬼のせいじゃないよ。私の両親は....五年前、村に流行った伝染病を治すために村に行って、伝染病にかかって亡くなったの...。」

 

 

彩花の両親は....鬼ではなく...病気で亡くなったのか......。

 

 

「か、ぞく、は?」

「いないよ。私には親戚も誰もいなくて、両親が亡くなっても身寄りがなかった。」

 

 

彩花から少し悲しい匂いがした。

 

 

「それから.....彩花は五年間ずっと一人だったのか?」

「うん......。一人で生きていくために薬屋を始めて、この家で五年間ずっと暮らしていた。」

 

 

五年間、一人で.....寂しくなかったのかな.....。俺は家族が全員亡くなったら.......それを考えただけで苦しいのに......。

 

 

 

「寂しくはなかったのか?」

「...寂しかったよ。でも、薬屋で色々な人と交流していたから.....そこまで寂しい思いはしなかったよ。」

「......そうか...。」

 

 

俺の質問に彩花は笑って答えていた。しかし、悲しみの匂いは収まっていなかった。心の奥底ではきっと寂しいんだろう.....。

 

 

「ふじの、はな、きれい、だ、ね。」

「でしょー。私が育てたんだから。」

「彩花が?」

 

 

禰豆子が藤の花のことを言うと、彩花は自慢気な顔をしてそう言った。俺が聞くと、彩花はさっきの自慢気な顔が一転して、藤の花を悲しそうに見つめた。

 

 

「うん。...鬼は藤の花を嫌うって聞いたから、お母さんとお父さんが鬼に食われないように、私がお母さんとお父さんに頼んだの。私はお母さんとお父さんといつまでも幸せに暮らしたかったの。.....だけど、お母さんとお父さんが病気で亡くなるなんて思ってもいなかった。」

 

 

彩花の言葉に俺も禰豆子も黙った。彩花の気持ちは痛いほど分かった。父さんが急に亡くなった時、俺は母さんや妹や弟達がいたから、長男として家族を支えようと思えたが、彩花には両親以外いなかった....。彩花は一人になって.....本当に寂しくて...悲しかったんだ.......。

 

 

「あの時ほど、泣いたことはなかったよ......。でも、まあ.....いつまでもくよくよしている場合じゃなかったから頑張って切り替えて、今はもう立ち直ってるよ。」

 

 

彩花は明るく笑ってるが、俺には少し無理しているように見えた。

 

 

「ふじ、のはな、すき?」

「うん。まあ、好きかなー。花が咲いたら思ったよりも綺麗で、私もお母さんもお父さんも好きだったよ。」

「だから....。」

 

 

禰豆子が俺と彩花を気遣って聞くと、彩花は懐かしむように藤の花と根元にある墓を見つめた。俺も根元にある墓を見つめて、彩花と禰豆子に気づかれないように小声で呟いた。

 

 

「うーん。....それもあるけど......藤の花のそばなら、もし鬼が来ても安心して眠っていられるかなというのもあるの。.....まあ。一番の理由はこの藤の花が綺麗だから、だね。」

 

 

だが、俺の呟いた声が聞こえたらしく、彩花は墓を見つめた後、藤の花に笑いかけた。俺も禰豆子も黙って藤の花を見つめた。

 

 

「....なんか重い空気になっちゃったね...。」

 

 

先に沈黙を破ったのは彩花だった。

 

 

「ごめんね。...って!それよりも炭治郎は熱があるんだから起きてちゃ駄目でしょ!熱、上がってない?」

 

 

彩花は俺の熱のことを思い出し、俺に寝ているように言った。俺も熱があったことを忘れていた。忘れていたくらいだから大丈夫だと思うんだが....そう言いたかったが、彩花が手を伸ばしてきたのを見て、俺は一瞬身構えた。すると、彩花は手を止め、声を上げた。

 

 

「ご、ごめん!禰豆子。炭治郎の熱を測ってくれない?」

 

 

彩花は俺に謝ると、禰豆子に俺の熱を測るように頼んだ。その時、彩花から申し訳なさそうな匂いがした。

 

 

.....そういえば、彩花は俺が起きた時から近づかずに離れていたり、何かあったら禰豆子に頼むようにしていた...。俺の容態を見る時も少しだけ近づくが、それでも距離をとってくれていたのは俺に気を遣って....山の中で俺達以外いないって教えてくれたのも俺を安心させるため......!?彩花は俺が....俺達が人が嫌いだと知っていて......俺達に何かあることも知っていて、助けてくれたんだ.....!

 

 

俺がそう考えている間に、禰豆子が俺の額に手を当て、慌てていた。

 

 

「何!?もしかして、熱が上がってるの!?」

 

 

彩花は禰豆子の様子を見ておかしいと思い、思い当たることを聞くと、禰豆子は頷いた。

 

.....いや、大丈夫だ。今もこうして立っていられるから...。

 

 

「とにかく寝なさい!禰豆子!炭治郎を布団まで運ぶのを手伝って!」

 

 

彩花は俺の考えていることが分かっているらしく、禰豆子に頼むと、禰豆子は俺を抱えて布団に寝かせた。すぐに彩花が持ってきた水でタオルを濡らして絞り、それを禰豆子に渡すと、禰豆子は俺の額にそのタオルを置いた。濡れたタオルがすごく冷たい.......。

 

 

「俺は全然大丈夫だ!」

 

 

俺がそう言うが......

 

 

「全然大丈夫じゃない!いいから寝なさい!」

「だ!め!」

 

 

彩花にも禰豆子にも止められてしまった.....。いつの間にか二人とも息ぴったりだな.......。

 

 

「...だか、俺はそんなに眠くない。むしろ体を動かしておきたい。」

 

 

俺の話を聞くと、彩花はため息を吐いて外に出た。数十秒後、彩花は戻ってきた。手に小さな葉っぱを持って....。

 

 

「その葉っぱは?」

「あー。草笛を吹こうと思って。」

「草笛?」

 

 

彩花の持っている葉っぱについて聞くと、彩花はその葉っぱを折りながらそう言った。

 

 

「幼い頃、お母さんに教わったの。音は大事よ、音で気持ちを落ち着かすことだってできるんだからって、昔、お母さんが言ってたんだ。お母さんとお父さんが亡くなってからも、この草笛はよく吹いているの。眠れないなら、一曲、聞く?」

「......うん。じゃあ、一曲だけ聞こうかな。」

「喜んで。」

 

 

彩花の話を聞き、一曲だけなら聞いてみようかなと思い、彩花に頼むと、彩花は嬉しそうな匂いをさせながら葉を口につけ、草笛を吹き始めた。彩花が吹いた草笛の曲は聞いたことのない曲だったが、とても優しい音が聞こえる曲だった。禰豆子も彩花の草笛の音に聞き惚れて、落ち着いた匂いをさせ、目を瞑って聞いていた。

 

 

曲が終わったと同時に眠気が出てきた。彩花に草笛の感想を伝えたかったが、襖の隙間から漏れる朝日の光が暖かく、心地良い夢の中へと連れて行った。

 

 

 

 

 

 

「....うん。子守り歌としてもいいかもね。」

 

炭治郎の眠っている様子を見て、私は前向きに考えてそう言った。炭治郎が起きていたら分かるだろう。彩花から少し寂しそうな匂いがすることを......。

 

感想ぐらい聞きたかったな.....。

 

 

「くさ、ぶえ、よかった。」

「ありがとう。」

「なん、て、いう、うた?」

「......うーん...。秘密かな.......。」

 

 

禰豆子は草笛のことを話し始め、私は笑ってそう返した。

 

 

草笛が良かったと褒められるのは純粋に嬉しい。この時代は娯楽も少なかったから、お母さんから教わった草笛を楽しんでいた。お母さんから教わった曲を何度も吹いていたけど、さすがに何度も吹き過ぎて飽きてきて、前世の時に聞いてた曲を記憶の底から引っ張り出して吹くようになった。だけど、禰豆子にどうして言わないのか、言ってもいいじゃんと思うかもしれませんが、さっき吹いたのはその前世の時に聞いてた曲で、しかも『竈門炭治郎のうた』だからね....。何ていう歌って聞かれても答えられないんだよ!まあ。『竈門炭治郎のうた』って草笛で吹けそうだし、ここは鬼滅の刃の世界だからという理由でいっぱい吹いていたから、良かったと言われたことは本当に嬉しい...。何度も何度も繰り返し吹いて、元吹奏楽部の力をフルに使った甲斐があったよ......。

 

 

「夜も明けちゃったし、交代しながら炭治郎の看病しようか。先に私が看病して、禰豆子は寝ている?」

「うん。」

 

 

私がそう提案すると、禰豆子は頷いて炭治郎の隣で寝た。

 

 

「いや、炭治郎の隣で寝たら熱がうつらない?.....って、そもそも鬼って風邪とかひくの?」

 

 

彩花は禰豆子に熱がうつるから止めた方がいいんじゃないって言おうとしたが、そもそも鬼は風邪とかひくのかということに気づき、一人で色々とツッコミを入れていたが、答える人が誰もいないので、黙って炭治郎と禰豆子の寝顔を見ることにした。

 

 

少しは私のことを信じてくれたかな........。炭治郎と禰豆子が安心して寝ているくらいだから、信じてもらえているよね?鬼滅の刃の主人公とヒロインというのもあるけど、久しぶりに家に誰かがいるのもあって、とても嬉しくて仲良くなりたいと思ってる....。炭治郎と禰豆子ともっと仲良くなりたいな.......。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、炭治郎が高熱を出し、禰豆子と休まず看病することになるのはまた別の話になる。

 

 

 

 

 

 



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笹の葉の少女は鬼と出会う

 

 

数日後、炭治郎の体調が安定し、すっかり熱が下がった。炭治郎の体調が良くなって、禰豆子は炭治郎に泣きながら抱きつき、私は高熱が出たのは無理に体を動かしたことが原因なので、炭治郎に注意した。

 

まあ、炭治郎も反省していたし、禰豆子とも一緒に看病した時にさらに仲良くなれたから良しと思うことにしたよ...。本当に休まず看病していたからね。あまりに緊急だったから、炭治郎も禰豆子も私が炭治郎に触っていいと許可してくれた。始めは私が触れると少し震えていたが、今では普通に額を合わせて熱を測ることができるようになった。ちなみに、禰豆子も触っても大丈夫になった。

 

 

余談だが、炭治郎と禰豆子が来てから初めの山を降りる日に、大急ぎで山を降りて、薬を配りながら倒れていた人を看病していること、その人が人嫌いだということ、今はその人の妹が看病しているけど、すぐに帰らないといけないことを話すと、村の人達は事情を知って早く帰るように言ってくれたうえに、何日か分の食料などをお金はいらないと言いながら色々くれた。

 

本当にこの村の人達は良い人達だ。後でお礼を言いたいな。あれから山を降りていないから。

 

 

 

「熱も下がったし、良いと思うんだが.......。」

「駄目よ。病み上がりが一番重要なんだから。また禰豆子を泣かせるの?」

「い、いや...。」

 

 

炭治郎は動いても大丈夫だと言い張るが、私はそれを止める。私が禰豆子の名前を言うと、炭治郎は言葉を濁しながら黙った。禰豆子にも布団を叩かれ、寝ているようにと言われ、大人しく布団の上に寝転んだ。

 

さすがに禰豆子に泣かれたことはうしろめたく思っているみたいね。

 

 

「まあ、熱も下がっているし、明日には完全に良くなっているよ。」

「本当にありがとうな。俺のために薬とかおかゆとか作らせて....。」

「いえ。私がやりたくてやったんだから。」

「そうか......。」

 

 

いよいよ明日でお別れになるということで、熱が下がったことは嬉しいが、少ししんみりした空気になっていた。

 

 

「これからどうするの?」

「そうだな....。ちょっと知り合いのところに行こうと思っている。」

「知り合いっていうことは.....炭治郎達にとって、とても信頼できる人っていうことね。」

「ああ。俺達にとって師であると同時に父のような人だと思っているんだ。天狗のお面をつけているんだが...。」

 

 

絶対鱗滝さんのことね....。

 

私は炭治郎達のこれからが心配で聞いた。炭治郎は少し考えて行き先を決めて教えてくれた。炭治郎の教えてくれた特徴から鱗滝さんじゃないかと確信した。

 

良かった......。これで少しは原作に戻っているのかな.....。

 

 

「そうなんだね。...炭治郎。また倒れないでね。一応、いくつか薬を渡しておくよ。」

「いや、そこまでしなくていいよ。」

「いいじゃない。薬はまた作ればいいんだし。それに、また炭治郎に何かあって、禰豆子を泣かすの?」

「うっ.....。」

「禰豆子を泣かしたら駄目よ。炭治郎が倒れるのも駄目だからね。」

 

 

私は念のために炭治郎に薬を渡しておこうと薬の準備をし始め、それを見て炭治郎が遠慮して止めるが、また私が禰豆子のことを口にすると黙った。

 

 

「禰豆子。炭治郎のことをよく見てね。」

「うん....。」

 

 

近くにいた禰豆子に笑いかけると、禰豆子はそれに頷いた後、下を向いてしまった。そんな禰豆子の様子を見て、私は禰豆子の頭を撫でることにした。

 

看病の時に禰豆子と仲良くなれて、今では撫でても唸り声を上げなくなったのに.....。あーあー。せっかく仲良くなれたのにな...。

 

 

「彩花。そんなに寂しがらないでくれ。」

「もう!なんで言うかなー!」

 

 

炭治郎が匂いで相手の感情が分かるのは知っているが、できれば言わないでほしかったよー!

 

「だって、せっかく仲良くなれたのに....。それに、久しぶりに家に誰かがいるのが本当に嬉しくて......。」

 

 

炭治郎の言葉に私は我慢できずにそう呟いた。

 

炭治郎と禰豆子と一緒にいて.....そして別れが近くなってきて.......分かったよ。私は強がっていて、本当は凄く寂しかったこと...家の中に誰かがいることがこんなにも嬉しいこと....別れることが嫌だということ...また一人になることへの不安......それら全てに気づいて、泣きそうになった。もう精神年齢は大人なのに.....いや、大人は関係ないね。大人でも泣きたい時はあるし....これは私が言い聞かしている言葉だ。そう言い聞かして、私は我慢していた.....。

 

 

「あやか。」

「彩花......。」

 

 

禰豆子は私を心配し、炭治郎も私に何か言おうとしたその時....

 

 

 

「「!?」」

「な、何!?」

 

 

炭治郎と禰豆子が何かに反応し、私も嫌な予感がして辺りを見渡した。

 

昔から鋭いと言われた勘を信じ、嫌な予感が感じる方向を見た。炭治郎と禰豆子の方を少し見ると、炭治郎も禰豆子も私と同じ方向に視線を向けていた。私が耳を澄ましてみると、遠くからこちらに向かってくる足音が聞こえた。聞こえてくる足音は一人のようだが、今は夜中だ。こんな夜中に一人で山に登ってくるなんておかしい。

 

 

炭治郎達のように人の感情が分かるほどではないが、私の五感は普通の人よりは優れている。

 

 

「炭治郎。おかしいよ。こんな夜中に一人で山に登ってくるのはおかしいし、なんか嫌な予感がしてくる。」

「ああ。血の匂いが....鬼の匂いがする。」

 

 

私が感じたことを全て話して臭覚が優れている炭治郎に確認として聞くと、炭治郎は静かに答えた。

 

藤の花があるし、大丈夫よね?

 

 

「彩花。血の匂いが濃い。多分あの藤の花でも耐えて、こっちに来れる。」

「そんな.....。」

 

 

それって、今までそんなに強い鬼が来なかったっていうことよね?今まで運が良かったんだな......って、現実逃避している場合じゃない!

 

 

「炭治郎。何か武器とか持ってない?」

「すまない。何もないんだ。」

 

 

だよねー。今の炭治郎はどう見ても鬼殺隊じゃないから日輪刀を持ってないし、倒れていた場所にも炭治郎自身にも斧などの武器なんて何もなかったもんねー。一様聞いたけど......仕方がない。炭治郎も寝てないといけないけど、緊急事態だからね。

 

 

「炭治郎!これを!」

 

 

私はすぐに斧を取り出して炭治郎に渡した。こんなこともあろうかと、緊急事態に身を守れるように刃物を纏めて保管していたのだ。私も草取り用の鎌を持った。禰豆子にもハサミとかを渡そうと思ったが、禰豆子は静かに首を横に振り、戦闘態勢に入っていた。

 

 

こうしている間にも足音が近づき、扉の前で止まった。何回か扉を叩き、こちらが扉を開けるつもりはないことに気づき、扉を乱暴に叩いた。乱暴に叩かれた扉は傾き始め、ついにこちら側に倒れてしまった。ちょっと、私の家を壊さないでよと場違いにも思ってしまったが、すぐに切り替えることができた。扉が倒されて、扉を壊した何者かがゆっくりと家に入ってきた。鋭い爪と猫のような縦長な目、頭から生える角に口から出る長い舌、間違いなく鬼だった。

 

 

「はあああ!」

 

 

鬼の姿を確認してすぐに炭治郎が動き出した。炭治郎が斬りかかり、鬼はそれを防いだと同時に、禰豆子が鬼を蹴り飛ばした。鬼を外に追い出し、炭治郎と禰豆子も鬼を追って外に出た。

 

 

おー!鬼を外に追い出してくれた!確かに家の中より外の方が戦いやすいし....それに、私の家を壊さないようにと配慮してくれたのだろう...。炭治郎と禰豆子の連携は凄いな.....。さすが兄妹....って、感心している場合じゃない!

 

私も気持ちを切り替えて、家の前まで来た。

 

 

鬼と戦ったことのない私は足手まといだ。私は遠くの方にいた方がいい.......。けど、まあ....これはきっと言い訳だね。私は鬼と戦うのがめちゃくちゃ怖いんだ.....。原作の善逸の気持ちが今なら分かる。本当に怖い!でも、何が起こるか分からないんだから、私も冷静に考えて......。

 

 

「ヒノカミ神楽 火車」

「.......綺麗。」

 

 

私は炭治郎のヒノカミ神楽を見て、無意識に感嘆の声を上げていた。

 

 

炭治郎のヒノカミ神楽はアニメで見るのと違って、まるで太陽のような激しい炎に、力強く舞うような動き.....それはとても綺麗だった......。

 

....って、本当に綺麗だけど見惚れている場合じゃない!もう!今はそれどころじゃないのに........。

 

 

私が炭治郎のヒノカミ神楽に見惚れている間に、炭治郎が鬼を斬り、その鬼を斧でうまく動かせないように固定した時.......森の中で何かの音が聞こえた。何の音か分からなかったが、嫌な予感がしてきた。炭治郎の息が上がって、苦しそうにしていることを気にしながらも音が聞こえた方に視線を向けた。その方向には別の鬼がいて、その鬼は炭治郎に一直線に向かっていた。炭治郎は気づいてない様子だった。炭治郎は体調がさっきまで悪かったことと、呼吸を使ったのが原因かな....?なんか苦しそう.....。禰豆子も炭治郎のことを気にして、あの鬼の存在に気づいていない。...まずい!

 

 

「炭治郎!禰豆子!」

 

 

私は走り出して炭治郎と禰豆子の後ろにいる鬼に向けて、持っていた鎌を握り締めて構えた。鬼も炭治郎と禰豆子に向けて、腕を振り上げた。

 

 

間に合え!

 

 

そう思いながら私が鎌を振ったのと、鬼が腕を振り下ろしたのは同時だった。

 

 

 

パキンッ!ヒュン!カシャンッ!

 

 

 

結論から言うと....ぎりぎり間に合った。炭治郎と禰豆子と鬼の間に滑り込み、鬼の腕を振る方向を変えることができた。

 

 

何故方向を変えたのかって?それは鬼の攻撃を私は受け止めきれないと思ったからだ。鬼の力は強いから、私と力比べをしたら確実に私が負けることは分かっているからだ。鬼の腕を斬るという選択肢もあるが、鬼の腕を斬れるくらい私の力は強くない。だから、私は鬼の攻撃の方向を変えることならできるかもしれないと思ったのだ。方向を変えるくらいの力もあるかどうか微妙だったけど、なんとか方向を変えることができた。

 

 

だが、先程何かの音が聞こえたと思います。何かが折れた音と....何かが飛ぶ音と...何か金属系の物が落ちた音が......。実は、鬼の腕を振る方向を変えた時に鎌が折れました.......。たぶん使い方がおかしかったし....明らかに力技だったから.....。それと、その反動で私が吹き飛ばされました......。折れた鎌は吹き飛ばされたと同時に手を放してしまった。

 

 

「.......うっ!...がっ!?」

「彩花!?」

 

 

吹き飛ばされた先には藤の花の木があった。私は藤の花の木の幹に思いっきり頭をぶつけ、そのまま地面に倒れ込んだ。頭を打った衝撃で視界が揺れるが、必死で意識を保った。

 

 

「餓鬼が3人か.....。おい!こんな餓鬼達に負けてんじゃねえよ!」

「うるせえ!ちっと油断しただけだあ!」

 

 

鬼同士で喧嘩を始めている...。鬼は群れないはずだけど、利害が一致したから一緒に行動しているのかな?

 

 

「他にも人間がいねえか?餓鬼だけじや、腹の足しにもならねえ!」

 

 

先程来たばかりの鬼が腕を振った。炭治郎と禰豆子は頭を下げて避け、私はもとから倒れていたから無事だったが、その攻撃で家が真っ二つに斬られた。

 

 

......えっ?

 

「い、家が...。」

「そこに隠れてたりとかしてねえよな?」

 

 

鬼は他にも誰かが隠れているんじゃないかと家をドンドンと叩きつけ、壊していく。私の目から涙が溢れてきた。

 

 

家が.......私の...お父さんとお母さんと過ごした......大切な思い出の家が.....。

 

 

私は頭を打った衝撃と家を壊されたショックで目の前が真っ暗になってきた。

 

 

お父さん.....。お母さん.....。ごめんなさい。家を....守れなかった......。

 

 

私は心の中で両親に謝罪し、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

『.......か!....や.....!あ.......!......やか!』

 

 

 

誰かの....声が聞こえる.......。

 

 

 

『あ.....か!あや......!』

 

 

 

あれ?この声........聞き覚えが..........。

 

 

 

『...彩花!彩花!』

 

 

えっ.....!?この声って.......

 

 

「お父さん.....?お母さん......?」

 

 

私が亡くなった両親を呼んだ瞬間、真っ黒だった私の目の前に亡くなった両親の姿が現れた。

 

 

『彩花。』

「お父さん...。お母さん....。」

 

 

五年ぶりに見た両親の姿に、私は目に涙が浮かべていた。

 

 

『あらあら。』

『どうしたんだ?』

「....ご、ごめんなさい!...い、家、壊れちゃった!」

 

 

そこからは私の目が限界だった.....。私の目から涙が溢れてくる。

 

 

「ごめんなさい!お父さんとお母さんと暮らしていた家、壊れちゃった!大事だって言ってた家が壊れちゃったよ!ごめんなさい!私...家を守れなかった!ごめんなさい!ごめんなさい!!」

 

 

私は大声で泣き出しながら両親に何度も謝った。両親の顔を見ると、壊れた家のことも思い出してしまい、自然と涙が出てくる。涙が止まらない。

 

本当に....ごめんなさい.......。

 

 

『まったく。彩花は.....。』

『まだ覚えていたのね...。』

 

 

両親は泣いている私を優しく抱きしめた。両親の腕の中で私は目を見開いた。

 

 

『彩花がここに一人でいるのは、あの家をずっと守ってくれているからだもんな。』

『私達が彩花にこの家を守ってね、ここは私達にとって大切な場所だからって言ってたね....。彩花はそれをちゃんと守ってくれていたわね......。』

 

 

優しく私の頭を撫でる両親に、私はまた涙を流した。

 

 

『でも.....もう大丈夫よ。』

『彩花はここに縛られなくていい。あの家をずっと守ってくれていたこと.......それだけで私は嬉しいから。』

『私達はもう充分だと思っている。だから...彩花は自由に生きなさい!....ここから離れたところに行ってもいいし、誰かと一緒に過ごすのでもいい。ただ彩花がやりたい道を選んでね!』

 

 

もう大丈夫、守ってくれて嬉しい、充分だと言ってくれる....。お父さんもお母さんも私のことを責めない........!

 

 

『彩花。お友達が危ないわよ。早く行ってあげなさい。.....忘れないでね。草笛やあれを吹く時に教えた呼吸を......息を整えて....自然を感じて.....思いのままに...自由に.......。』

『彩花。何故藤の花を欲しがっていたのか....実はお父さん達は分かっていたんだ。...今、使いなさい。何のために藤の花を育てていたのか、分かっているだろう?大丈夫だ。きっとできる.......。』

 

 

両親のその言葉を聞いた瞬間、私は白い光に包まれた。目の前が眩しくて何も見えなくなった...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彩花の匂いが途切れた。俺は彩花に近づき、息を確認した。

 

 

......大丈夫だ。息はしてる...。どうやら気絶してしまったようだ。

 

 

「あやか、は?」

「大丈夫だ。気を失っているだけだから。」

 

 

禰豆子は彩花のことを心配していた。短い間だったが、禰豆子は彩花に懐いてきていた。俺も彩花には感謝している.....。

 

 

俺は彩花をもう一度見た。彩花の頰には涙の痕があった。それに、気を失う前の彩花から深い悲しみの匂いがしていた。家が壊されたことを悲しんでいた...守れなかったと後悔していた......。もう壊れてしまっているが....これ以上彩花を悲しまないように...この鬼を止めなければ.....。

 

 

「来い!俺が相手だ!」

 

 

俺は彩花の涙を拭いた後、彩花の持っていた折れた鎌を拾って構えた。

 

斧はもう一匹の鬼の動きを止めるために使っているから、落ちていた彩花の鎌を使うしかなかった。鎌の刃の部分が半分に折られているが、戦うのにまだ使える。だが、難しい....。とにかく、鬼の注意をこちらに向けさせなければ....。これ以上、彩花の家を壊させはしない!

 

 

「おお!威勢の良い餓鬼じゃねえか!」

「禰豆子!気絶した彩花を頼んだ!もう一匹の鬼と周りの様子も見て、何かあったら知らせてくれ!」

 

 

俺は鬼の注意がこっちに向いたことを確信し、禰豆子に彩花のことと、もう一匹の鬼や周囲のことを頼んだ。

 

折れた鎌でこの鬼と戦わないといけないのに、他の鬼まで来たら大変だ。気絶した彩花のこともあるからな.....。

 

 

「ヒノカミ神楽 円舞」

 

 

俺は鬼の動きを封じる方法を探しながら鬼と戦った。鬼の攻撃を防ぎ、攻め込んでいるが、動きを止める方法を見つけられずに戦い続けることしかできなかった。だが、記憶が戻ったのはつい最近のことだったから、全然呼吸を使っていなかった。そのせいか、肺が凄く苦しい。肺を鍛えてなかったから、昔と同じくらいに戻っている。....それに、熱でずっと寝込んでいたせいもあって、体が鈍っている...。

 

 

「なんだぁ?威勢の良さの割に大したことねえじゃねえかぁ!」

「くっ!」

 

 

まずい!戦いが長引けば長引くほどこっちが不利だ!禰豆子も俺の様子に気づいて、加勢しようとしている....!

 

 

「禰豆子!来ちゃだめだ!俺のことは気にしなくて大丈夫だ!」

 

 

俺はこっちに来ようとしている禰豆子を手で制し、首を横に振った。加勢しようとした禰豆子は俺を見て何か言いたげだったが、渋々頷いた。

 

 

「禰豆子。大丈夫だから.....「お、おにい、ちゃん!う、しろ!」...えっ?うわっ!?」

 

 

俺が禰豆子がなんとか納得してくれたことにほっとした時、禰豆子が俺の後ろの方を見て慌てだした。俺は禰豆子に言われて振り向くと、鬼が目の前まで迫っていた。俺が禰豆子の方を見ている間に近づいてきたようだ。

 

 

「他のことを気にするとは......随分と余裕があるんだな?」

「うっ!....くっ!」

 

 

俺は鬼の攻撃を避けながら何か突破口がないかと考えた。相手の鬼は随分と余裕そうだ。このまま続いたら.....そう考えていると、いつの間にか壊された家の近くまで行き、逃げ場を失った。

 

 

「さて、もう逃げられねえぜ?」

「くっ!!」

 

 

余裕そうな笑みを浮かべる鬼が俺に向けて腕を振り下げ、俺は咄嗟に持っていた鎌で受け止めた。しかし、怪我はなかったが、その衝撃で鎌は完全に使えなくなり、俺は少し後ろに吹き飛び,尻もちをついた。

 

 

「はっはっはっ!どうやらここまでのようだなぁ!」

 

 

鬼は俺を怖がらすようにそう言ってゆっくり近づいてきた。

 

...鎌が折れた。今の俺は丸腰だ。それに、俺は尻もちをついてしまい、鬼を見上げる態勢になってしまった。

 

本当にまずい...!この態勢は俺にとって圧倒的に不利だ!

 

 

「!?おにいちゃ.....」

「駄目だ、禰豆子!....!?禰豆子!後ろだ!」

 

 

禰豆子は俺のところに駆けつけようとするが、俺はそれを止め、禰豆子のを見て驚愕した。俺が見たのは、斧で動きを封じていたはずの鬼がその斧を外そうとした姿だった。俺はすぐに禰豆子に知らせ、禰豆子は俺の声でその鬼のことに気づき、すぐに蹴りを入れて動けなくした。

 

 

「......余所見しているところ悪いがぁ.....お前はここまでだぁ。」

 

 

俺が禰豆子の方を見ている間に、俺の目の前まで来たようだ...。禰豆子も俺の状況に気づき、蹴りを入れられてふらふらな鬼をほっといて、俺の方に駆けつけてきた。だが、間に合いそうもない。鬼は笑みを浮かべて腕を振り上げ、無慈悲にも俺に向けて腕を振り下ろした。

 

負ける....!

 

 

 

「華ノ舞い 日ノ花 日車」

 

 

 

その声が聞こえ、目の前で俺に振り下ろされるはずだった鬼の腕が斬られた。......さっきまで気絶していたはずの彩花によって.....。鬼の腕を斬った彩花の顔を見て、俺は驚いた。彩花の左目が黒色から緋色に変わり、その左目の近くから左耳の近くにかけて葉と蔦の.......まるで都会で見た刺繍に近い形の痣があった。彩花の手には包丁が握られ、その包丁は炎を纏っていた。しかも、彩花がさっき出した型は...前方宙返りで円を描くように斬る型.....俺のヒノカミ神楽の火車にそっくりだった....。

 

 

彩花に何があったんだ?

 

 

彩花の目は両目とも黒目だった。だが、いきなり左目だけ色が変わるのはおかしい。それに、彩花に急に出てきたあの痣.....彩花の顔には痣なんてなかった。急に現れた痣....そして、彩花から聞こえるこの独特の呼吸音.....間違いなく彩花は呼吸を使っている。彩花は剣士だったのか....彩花は剣士だということを黙っていたのか.......?

 

 

いや、彩花から困惑の匂いがする。つまり、彩花もこれがどういうことか分からないんだ.....。彩花の家にも俺のヒノカミ神楽のような呼吸法や型が伝わっているのか?

 

 

俺がそんなことを考えている間に、彩花が宙に浮いた状態で着物から何かを取り出した。それを持って口につけると、彩花が腕を斬った鬼に何かが刺さり、プスっという音が聞こえた。すると、その鬼の様子が急におかしくなった。腕がなかなか再生せず...いや、再生してきているが、どう考えても再生の速さが遅い。それに、鬼は体が震えているだけで一歩も動かなかった。

 

 

「何をぉ......何をしたぁ!」

 

 

鬼は動かさないのではなく、動かせないようだ。その時、彩花の持っていた物と鬼に刺さった小さな矢で、彩花が何をしたかが分かった。

 

 

彩花が吹き矢をしたのだ。

 

彩花が昔からやっていた遊びは草笛ともう一つ...吹き矢だったそうだ。俺が熱で寝込んでいた時に、その吹き矢を見せてもらった。吹き筒は母親から木で作ってもらった手作りで、矢は普通の物もあるようだが、薬とかを注入できるように改造した、注射に近い形をした小さな矢もあるそうだ。それは彩花が自分で作ったらしい。始めは遊び感覚だったが、だんだん上達していき、ついに人食い熊を遠くから狙撃できるほどの腕前になったそうだ。しかも、眉間を打ち抜けるほどの...。彩花は最初は偶然だと思っていたそうだが、何回も成功して実感したらしい。俺達も見せてもらったが、見事に的を打ち抜いていたから、その腕前は本物だ。事実、今、彩花は鬼の眉間に見事に命中した。彩花の注射型の吹き矢は熊でも効くくらいの物で、鬼が動けないのも彩花の薬が原因だろう......。

 

 

「何をしやがったぁ!!」

 

 

鬼がそう怒鳴るが、彩花は鬼の眉間に吹き矢が命中したのを見た後、静かに目を閉じ、茂みの中に突っ込んだ。茂みに突っ込む前に手を放したらしい包丁がその近くの地面に突き刺さった。

 

 

「彩花!」

 

 

俺と禰豆子が彩花に近づいて様子を見ると、彩花は穏やかに寝息を立てていた。どうやら眠っているだけのようだ。

 

 

「よ、よかっ、た。」

「ぐっ....!しまったぁ!夜明けだぁ!!」

「チクショー!」

 

 

俺と禰豆子が彩花の無事に胸を撫で下ろしていると、鬼達が騒がしくしていた。鬼達の方を見ると、鬼達の体が焼け始めていた。朝日が登ってきたようだ。斧が刺さって動けない鬼は手で顔を覆うことができたが、彩花の薬で動けない鬼は何も抵抗できずに太陽を直視することしかできなかった。鬼達はすぐに日光で焼け死に、灰になってしまった。

 

 

「とりあえず......なんとかなったな。」

 

 

鬼をなんとかできて、俺はほっとして地面に座ってしまった。禰豆子が俺を心配し、俺は禰豆子の頭を撫でながらその間にあることを決めた。後で禰豆子にも話しておこう....。彩花が起きたら聞きたいことが色々あるが、今は寝かしておこう.....。

 

 

 

 

 

 



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笹の葉の少女は進む道を見つけた

.....うん?....ここは?

 

 

なんかまた真っ黒なところに来たけど.....。確か...あの後、お母さんとお父さんに言われて目が覚めたら炭治郎が危なかったから、咄嗟に近くにあった包丁を持って鬼のところに向かっている最中、お母さんとお父さんの言葉を思い出して、草笛を吹く時に使う息継ぎをしてみたら、炭治郎が使っていたヒノカミ神楽の火車が急に頭の中に流れてきて、包丁から突然炎が出て、体が勝手に動いて....気づけば鬼の腕を斬ってたんだよね......。口から出た『華ノ舞い 日ノ花 日車』というのも知らないし、というか口が勝手に動いた。教えてもらった草笛の時の息継ぎの仕方って何かの呼吸だったのって思ったが、私はそれらしき型を知らないし、あの時は体が勝手に動いたからよく分からない。....そういえば、あの時は妙に体が軽かったけど...一体どういうことなの?

 

 

......まあ、考えても分からないし、その時の私はそれよりもと思って、すぐに吹き矢を取り出した。家の中で鬼が来ると分かってすぐに鬼用に作った特製の薬が入った矢を入れておいた。その薬は私が育てた藤の花と他の毒草を調合して作った薬だ。といっても、あの薬は鬼にまだ未使用で使っていなかったので、鬼にちゃんと効くか分からないものだった。何故試さなかったのかって?それは鬼に全く遭遇しなかったからです!鬼に遭遇しないと、そもそも試すことができない。だけど、何故か今まで会ったことがなかったのよねー。どうなるか分からなかったから、あまり使いたくなかったけど...。まあ、あの薬が無事成功して良かったよ。....えっ?毒じゃないのかって?だって、毒だったら分解されるでしょ。強力な毒なら強い鬼以外は大丈夫だと思うが.......私はしのぶさん以上の.....いや、同等の毒を作れるとは思えないから、別の物を作ろうと思ったの。例えば、鬼を動けなくして、鬼の力をまともに使えないようにする薬とか......って考えて、あの薬ができました。何度も何度も薬の調合を変えたりして、その中でも一番自信がある薬を使うことにした。ちなみに、さすがに鬼を人間に戻す薬は無理なので、諦めました。

 

 

薬を打ち込まれ、思った通りに体を動かせない鬼を見て、ほっとして気を失ったのよね?私が気絶した後の鬼の様子はどんな感じだったのかは、後で炭治郎達に聞くことにしよう。

 

 

.......って、それよりもここはどこ?私は...確か気絶したはずだから......

 

 

 

『彩花。』

「えっ?」

 

 

私は声が聞こえた方を見た。そこにお父さんとお母さんがいた。

 

 

「お父さん!お母さん!やったよ!」

 

 

私が笑顔で報告すると、お父さんもお母さんも微笑んでいた。

 

 

『彩花。よく頑張ったね...。』

「うん!」

 

 

私が嬉しそうに答えるのを見て、お父さんもお母さんもなんか少し寂しそうな顔をしていた。私はそれに気づき、首を傾げた。

 

 

「お父さん?お母さん?」

『彩花。もう大丈夫だよ。』

「えっ?」

『彩花はもうここに留まらなくても大丈夫ということよ。』

 

 

両親の言葉に私は困惑した。

 

なんで.....?

 

 

「どうして!?私が家を守れなかったから?」

『まあ、家が壊れたからというのもあるが違う。彩花が思っていることとは違うんだ。』

『家が壊れたからこそ、彩花をここに縛るものも理由もないということよ。』

 

 

家が私を縛る....?

 

 

「私は縛られてないよ!私はここに残りたくて...。」

『そうだ。彩花が他の家で他の人達と暮らすのを断ってまで、暮らしたかった家だ。』

「....だって.......。」

『私達との約束のこともあったけど、私達がいなくなったことが寂しくて、私達と暮らした物がある場所で、私達との思い出を支えに暮らしていた。だから、彩花はここから離れようとしない。』

「うっ......。」

 

 

両親に図星をつかれ、私は何も言えなかった。

 

心の底では分かっていた.....。けど、私は離れることができなかった。

 

 

『だけど、もう立ち止まる場所はないよ。』

「でも......。」

『そもそも私達が悪いのよね...。』

 

 

私は両親に抱きしめられていた。両親の顔を見ると、両親は泣いていた。

 

 

『ごめんなさい。もとはと言えば、私達が帰って来なかったのが原因だよね。』

『すぐに帰って来るって言ったのに、帰って来なくて....ごめんな。』

 

 

謝罪をしてくる両親を見て、私の中で何かが切れたような感じがした。

 

 

「本当にそうよ!どうして帰って来なかったの!私、ずっと待っていたんだよ!まだかな、もう少しで帰って来るかな、今日は帰って来るかなって期待して......お仕事が大変なのかな、何かに巻き込まれてないかなって心配して......今日も帰って来なかったって悲しんで...でも、ずっと待っていたんだよ!それなのに.....。」

 

 

私は言いたいことを全て言い、涙が出てきた。両親も黙って私のことを見ている。....しばらくして、先に落ち着いたのは彩花だった。

 

 

「大丈夫.....。私はもう気にしてないから。」

『彩花....。』

 

 

私は涙を拭い、前を向いた。両親も涙を拭い、私のことを見ていた。

 

 

『そうね.....。それに、やりたいことを見つけたのでしょう?』

「うん。」

 

 

やっぱり両親には私の考えていることは分かるらしい。

 

 

「私、炭治郎と禰豆子と一緒に行く!」

『うん。友達の手助けをしたいのよね。』

「もちろん!禰豆子を人間に戻すという炭治郎の願いを叶えるのを手伝う!」

 

 

そう。私は決めた。炭治郎から話を聞いたの。炭治郎が禰豆子を人間に戻したいという理由で鬼狩りを始めるのは原作で知っていたが、実際に目の前で言われると、何か手伝いたいと思えない?私にこのことを話してくれるのは、私を信頼してくれているということかなと思うと、余計に何かしてあげたいと思うんだよね。それに、もう一つ、ついて行きたい理由がある。

 

 

それは、何故この世界は原作と変わってしまったのかということだ。炭治郎達からはまだ何があったのかは聞いてない。つまり、どこから原作と変わってしまったのかはまだ分かっていない。だって、その話を聞こうと思ったが、体が震えてしまうくらいのものを無理して聞くわけにはいかないからね。ただ.....そこまでになってしまうほどの何かがあるということは確かだ。だから、炭治郎達の近くにいて原因を探ろうと思う。炭治郎達の近くにいれば、何が起きたのか分かるかもしれない。原作とは全く違う......何かが.......。

 

 

「.....だから大丈夫だよ。私は平気よ。私はもうあの家には囚われないから。」

 

 

私にはやることができた。だから、壊れた家に囚われないで前を向けるよ。

 

 

私の顔を見て、両親は安心したような表情をした。

 

 

『頑張ってね、彩花。』

『楽な道ではないし、むしろ修羅のような道だ。だけど、途中で諦めては駄目だよ。前を向いてしっかり進むんだ。』

「うん!」

 

 

両親の言葉に私はしっかり頷いた。

 

 

『出口はあっちだよ。』

『早く行ってあげなさい。』

「ありがとう。お父さん。お母さん。」

 

 

両親が私に道を教え、私は両親にお礼を言い、すぐに両親に背を向けて走り出した。

 

早く行こう!炭治郎と禰豆子のところに!

 

 

 

『ごめんなさい。』

「えっ?」

 

 

私が走っていると、途中で声が聞こえた。両親の声ではなかったが、聞き覚えのある声だった。振り返ると、そこには先程いた両親は居ず、別の男の人と女の人がいた。しかも、その男の人と女の人がめっちゃ見覚えが......

 

 

(炭治郎と禰豆子の両親、炭十郎さんと癸枝さんではありませんか!?)

 

 

えっ!?なんでここに!?

 

 

『ごめんなさい。任せてしまって。』

『炭治郎と禰豆子のことをよろしく頼む。』

 

 

.......えーと...もしかして、炭治郎と禰豆子のことでわざわざ私に声をかけてくれたの!?

 

 

「はい!任せてください!」

 

 

そこまでされたら頷くしかないでしょ!もとよりそのつもりです!

 

 

私は炭十郎さんと癸枝さんが安心したような表情をしたのを見て、私は背を向けて再び走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「...うーん......。」

「彩花!」

「あやか!」

「炭治郎?禰豆子?」

 

 

私が目を開けると、炭治郎と禰豆子が目の前にいた。炭治郎と禰豆子は目を覚ました私を見て、片や安心したような表情を、片や驚いたような表情をした。

 

何に驚いているのかは後で聞こう。.......それよりも聞きたいことがある。

 

 

「あの鬼達は?」

「日光に焼かれて灰になってしまったよ。」

 

 

日光に焼かれたということは...あの薬は成功したっていうことかな?炭治郎も禰豆子も怪我してないようだし.....。

 

 

「....実は.......。」

「うん?」

 

 

炭治郎と禰豆子が言いにくそうにしているので、私はどうしたのかと首を傾げた。

 

 

「あや、かの、いえ、もっと、こわれ、ちゃっ、た.......。」

「すまない....。」

 

 

炭治郎と禰豆子が体を動かして私の家を見せてくれた。私が気絶する前より、家はさらに壊れていた。家はもうボロボロになり、このまま住むのは無理そうだ。私は家を見て少し悲しいような、寂しいような感情が込み上げてきたが、夢の中での両親の言葉を思い出し、首を横に振って気持ちを切り替えた。

 

 

それより、どうして炭治郎と禰豆子が謝っているのかな......?炭治郎と禰豆子が壊したわけじゃないし。

 

 

「別に平気よ。なんか吹っ切れたからね。それより、どうして炭治郎と禰豆子が謝るのよ。炭治郎と禰豆子は悪くない。壊したのはあの鬼達でしょ。」

「いや、それとは話が変わって....。」

 

 

私がそう言うと、炭治郎はますます言いにくそうにしていた。もしかして、あの時のこと?

 

 

「彩花。あの時、何か呼吸を使っていなかったか?」

「ううん...。困った時は草笛を吹く時に使う息継ぎをするようにって両親が言っていたことを思い出して、その息継ぎをしたよ。なんだか知らないけど、体が勝手に動いたんだよね......。」

 

 

あの時というとお父さんとお母さんに助言されて、包丁を持って草笛を吹く時に使う息継ぎをしたら、何故か包丁が炎を纏って、そのまま鬼の腕を斬っちゃった時のことだとしか思えなかった。

 

 

「体が勝手に動いた?」

「うん。炭治郎のヒノカミ神楽の火車というのが頭の中に浮かんで、その後、体が何故か勝手に動いて、鬼の腕を斬っちゃったんだよね.......。私もあれには驚いたよ。」

「あの型は両親から教えてもらってないということか!?」

「私もあれに関してはどういうことか分からないの....。」

 

 

私の話を聞き、炭治郎と禰豆子は驚いていた。

 

ごめんね......。でも、私も本当に分からないんだよね.....。普通に草笛を吹く時に使っている息継ぎが....まさか........って感じなの。こっちがどういうことか聞きたいくらいなのよね.....。

 

 

「...あの時、彩花から困惑の匂いがしたのはやっぱりそういうことか.....。本当なんだな?」

「うん。」

 

 

炭治郎は納得した様子で私に確認し、私は頷いた。

 

 

「....分かった。嘘の匂いもしないからな。」

 

 

どうやら炭治郎も禰豆子も信じてくれたみたい。

 

 

「それで、彩花はその時のことを何か覚えている?」

「うーん...。あるとしたら、なんか体が何故か軽かったということと.......そういえば、妙に体が暑くなった気がしたんだよね.....。」

 

 

炭治郎の質問に、私は必死にその時のことを思い出そうと振り返り、体が妙に暑くなったことを思い出した。私の話を聞き、炭治郎と禰豆子は顔を見合わせた後、また言いにくそうにしていた。....もしかして、まだ何かあるの?

 

 

「あやか、あざが、でてた。」

「へっ?」

 

 

禰豆子の言葉に私は首を傾げた。

 

えっ?痣?私、痣なんてなかったはずだけど.....。

 

 

「彩花が呼吸を使っていた時に痣が出ていたんだ。葉と蔦の模様の...こんな感じの。」

「ごめん。分からない。」

 

 

炭治郎は私に説明しようと絵まで描いてくれたが、その絵に描かれたものはとんでもないもので....私はその絵でますます混乱してきた。とりあえず私は炭治郎の話を頭で理解することにして、それを整理して内心驚いていた。

 

痣って...そっちの痣!?確かに体が妙に暑かったけど....そういうことなの!?というか、何でいきなりそんな痣が出るの!?

 

 

「えっ!?今、私に痣があるの!?」

「いや、今はない。彩花が気絶してから痣は消えたんだ。」

 

 

それって......私、痣者確定ですね....。

 

 

「痣ってどこにあったの?」

「左目の近くから左耳の近くまで葉と蔦の模様の痣があった。」

 

 

左目の近くから左耳の近くまである葉と蔦の模様の痣か.....。原作では出て来なかったな...。

 

 

「それと、その時に左目の色が緋色に変わったんだ。その目も気絶した後は元に戻っているんだが、心当たりはないか?」

「えっ!?......痣が出たと同時に、左目の色が変わったの?」

「ああ。」

 

 

えっ?....痣の発現と同時に左目の色が変わった!?しかも、気絶したら元に戻った!?えっ!?確かにそりゃ、私が起きた時に炭治郎も禰豆子も左目の色が戻っていたら驚きますよね!?でも、私には全く心当たりがありませんよ!?これに関しては原作でもなかったことだし!

 

私は勢い良く首を横に振った。

 

 

「そうか....。それで...そのことで彩花に話があるんだ。」

「話?」

 

 

匂いで分かってると思うけど、本当に私はそんなの全く知らないからね!...あるいは、別のことで話があるとか?

 

 

「彩花の力は俺達もよく分からないんだ。それをあの鬼達に見られたということは、彩花を狙ってここに他の鬼が来るかもしれないんだ。」

 

 

あー!確かに!他の鬼の目を覗いて鬼舞辻無惨とか童磨とか状況を確認していたよね。......うん?それって、私、危ないっていうことじゃないかな?

 

 

「ここには藤の花があるが、強い鬼に藤の花だけで勝つのは難しい。だから.......彩花。俺達と一緒に行かないか?」

「えっ?」

「ここにいるより俺達と一緒にいる方が安全だし、禰豆子も懐いているしな。彩花はここを離れたくないかもしれないが...。」

 

 

.......ううん。まあここを出て、炭治郎達と一緒に行こうって既に決めているし、一人でいるよりも炭治郎達と一緒に行動した方が安全なのは事実だからね。私には帰る家はないし、ここを出て炭治郎達と一緒に行くのはもう覚悟している。どんなに大変なことになろうと....。

 

 

「...大丈夫。家が壊れて、なんか吹っ切れちゃったから。私はここを離れるよ。炭治郎達と一緒に行くよ。」

「.....本当にいいのか?」

「うん。もう決めたから。」

 

 

私は壊れた家を見つめながらそう言った。炭治郎が確認するので、私ははっきりと頷いて答えた。

 

 

「じゃあ、ちょっと準備するね。少し時間がかかるけど.....。そういえば、炭治郎の熱は大丈夫?」

「......大丈夫だ。彩花もゆっくり準備していいからな。」

「ありがとう。」

 

 

私は準備をするために炭治郎達に声をかけ、炭治郎の熱のことも思い出してそう聞いた。炭治郎は大丈夫だと言って、彩花に荷物を纏める時間をあげた。彩花はお礼を言って壊れた家の中から無事な物を探した。

 

皿とか器とかはほとんど壊れてしまったが、薬を作る時に使う道具やできた薬を入れる専用の器、いくつかの薬は無事だった。どうやら薬とかを閉まっていた場所に物が落ちて、それがクッションのような役割になって無事だったようだ。私は無事だった物を籠の中に入れて持って行くことにして、壊れた物は地面を掘って土の中に埋めることにした。

 

 

「お父さん。お母さん。行ってくるね。」

 

 

私は藤の花の世話と藤の花を少し採った後、藤の花の根元にある墓の前で手を合わせ、両親に挨拶した。

 

 

「...終わったよー。」

「もういいのか?」

「うん。」

 

 

私は準備を終え、両親の挨拶も終えて炭治郎に話しかけると、炭治郎が確認してきたので頷いた。私達は山を下りることにした。山を下りると、ちょうど村の人達が外に出始めた時間帯だった。

 

 

「........ごめん。最後にちょっとだけ.....。」

「ああ。」

 

 

私は最後にどうしても村の人達に挨拶してたくて頼むと、炭治郎と禰豆子は待ってくれると言ってくれた。

 

 

「おばちゃん!」

「おー!彩花ちゃん!ちょうど良かった!」

 

 

私が声をかけると、ちょうど村の人達も私に用があるそうだった。

 

 

「どうしたのですか?」

「あのね。そこの家の高橋のお兄ちゃんのことを覚えている?」

「あのお兄ちゃん、医者になったらしいのよ。」

「それは凄いですね!」

 

 

高橋のお兄ちゃんのことは覚えている。よく遊んでくれた優しい人だった。そうか。医者になったのか....。

 

 

「それでね。高橋のお兄ちゃんはここで病院を始めるらしいのよ。彩花ちゃん!高橋のお兄ちゃんのところで働くのはどう?彩花ちゃんの薬なら絶対に大丈夫よ!」

 

 

そうか......。この村にも病院ができるのか.....。それなら、この村は大丈夫ね。お父さんとお母さんがここにいなくても大丈夫って言っていたのは、このことも関係あるかも....。本当に私がいなくても大丈夫そうだ。

 

 

「すみません。せっかくのお話ですが、実は私.....今日からここを出て、旅に出ようと思っているんです。......ですので、病院で働くことはできません。」

 

 

私が丁寧に断ると、村の人達から興奮した声が聞こえた。

 

 

「彩花ちゃん!今から旅に出るって!」

「それなら、何か持たせてやらないと!」

「おい!何か食べ物を!」

「わわっ!?」

 

 

村の人達が私の旅立ちを喜び、私はその様子に戸惑っていた。

 

 

「...えーと......。」

「彩花ちゃん!この服なんてどうか!生地もしっかりしていて、丈夫で軽いし、暑さにも寒さにも負けない服だ!」

「彩花ちゃん!このタラの芽、たくさんあるからあげるわ!」

「ほれ!彩花ちゃん!好物の笹団子だ!いっぱい持ってけ!」

 

 

私が戸惑っている間に、村の人達が次々と私に色々な物を渡し、気がつけば私の腕にいっぱい物がある状態だった。返そうと思ったが、村の人達の勢いに圧され、そのまま受け取ってしまった。

 

 

「村の皆さん!本当に色々ありがとうございました!」

 

 

私は最後に大声で村の人達にお礼を言い、村の人達は私に手を振ってくれた。

 

 

「...凄い荷物だね....。」

 

 

私は走って炭治郎と禰豆子のところまで来て、炭治郎と禰豆子がすぐに私の腕にいっぱいある物を見て苦笑いした。私もつられて苦笑いしてしまった。

 

 

 

鬼滅の刃に関わる気なんて.......これぽっちもなかった....。関わらずに普通に暮らしていようと思っていた.....。でも、閉じこもっているわけにはいかないし、原作とは全く違う展開になっているから、一体何があったのか調べる必要がある......。あの鬼に家を壊してくれたこと、今では感謝したいな.....。壊された時はショックだったけど....。

 

 

 

「彩花。それはタラの芽か?」

「うん。これは炭治郎にあげるよ。けど、私の笹団子は駄目よ。笹団子は私の大好物だから。」

 

 

 

.....だけど、今は炭治郎と禰豆子とこの楽しい旅路を楽しみたいな.......。まだ何が起こるか分からない....この旅路を........。

 

 

 

 

 

 



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第一章 笹の葉の少女は困惑するもやれることもやる(修行編〜吉原遊郭編)
笹の葉の少女は生きるために走る


「.....炭治郎。まだ先なの?」

 

 

私達は鱗滝さんのところを訪ねるために狭霧山に向かっていた。鬼と遭遇しないように一日で辿り着こうということで走ってきたが、私には結構きつい!荷物も重いし!炭治郎と禰豆子はまだまだ元気そうだ。さすがは主人公......。禰豆子は鬼だというのもあって疲れないし.....。

 

 

「もう少しだ。ほら、見えてきた。」

 

 

炭治郎の指差す方を見ると、数キロ先に大きな山が見えてきた。きっと、あれが狭霧山なんだろう。...でも、まだ距離がある。見えてきたから少し休みたい!....けど、もう日が沈みそう。.........もう少し....頑張ろう...。

 

 

「ここだ。ここに俺達の親代わりのような人で、俺に呼吸を教えてくれた....鱗滝さんが住んでいるんだ。」

「はあはあ......はあはあはあ...。」

 

 

炭治郎が説明してくれているけど.....ごめんね。息切れが凄くて全然頭に入ってこない!

 

 

数分後、辺りが少し暗くなってきた時に狭霧山の麓に着いた。私の暮らしていた山からこの狭霧山までの距離が遠くて、山の登り下りを走っただけでしか鍛えてない私には凄くきつかった。これから鱗滝さんの家に向かわないとと思うと、凄くつらい!今、この場に座り込みたいくらいよ!

 

 

「大丈夫か?」

「....はあはあ.......だ、大丈夫...。そ、それより、早く行こう。」

「ああ....いや、血の匂いがする!」

 

 

炭治郎と禰豆子が心配してくれているが、私は息を整えてそう言い、鱗滝さんの家まで歩こうとしたが、炭治郎の言葉で止まった。炭治郎の見ている方向には御堂があった。

 

 

........あっ!この御堂...ということは.....。

 

 

私がその御堂の方を凝視していると、その御堂に鬼らしき者が入ろうとしていた。

 

....やっぱり。

 

 

「どうするの?」

「俺が斬りかかって御堂から引き離すから、彩花は吹き矢で動きを止めてくれ。」

「分かった。」

 

 

それを見て、隣にいる炭治郎に聞くと、炭治郎はそう言って懐からナイフを出し、私は懐から吹き矢を出して、鬼用の薬が入った物を中に入れた。炭治郎がナイフで斬りかかり、鬼を前にして御堂を背に庇うように立った。その鬼が炭治郎の方を見ている隙に、私は鬼の後ろから吹き矢で狙撃した。吹き矢は見事に首元に命中し、鬼は私の薬で動けなくなった。

 

 

「禰豆子!頼む!」

「えい!」

 

 

鬼が動けなくなったのを見て、炭治郎は禰豆子を呼び、禰豆子は鬼を蹴った。蹴られた鬼は頭と胴体に分かれた。鬼の胴体は私の薬の効果で動かなかったが、頭は少しずつ再生し、動けるようになっていた。炭治郎が頭と戦い、禰豆子は動けない胴体を蹴り飛ばし、崖の下に落とした。

 

 

(相手は動けないのに容赦ないな......。)

 

 

私はそんなことを思いながらあの頭をどうしようかと考えた。あの頭にもこの薬を打ち込もうかなと考え.....

 

 

「鬼用の薬と害虫駆除用の毒薬を混ぜてみようかな.......。」

 

 

そんなことを考え、すぐに行動した。この場所だからか少し原作の場面を思い出した。判断が遅いと言われる前に動こうと思えた。鼠や害虫駆除用の毒薬は匂いと食べ物に入れるタイプのものの二種類があって、その二種類のうち、食べ物に入れるタイプのものを使ってみることにした。その毒薬と鬼用の薬、この二つの薬を混ぜ、さらに藤の花を少し足して注射器型の矢の中に入れた。それをすぐに吹き筒の中に入れ、鬼の頭に狙いを定めて眉間に当てた。さて、どんな結果が出るかな....。そう思っていると........

 

 

 

「ぎゃああああアアァァァ!!?」

 

 

鬼がものすごい声を出して、体をビクビクと震わせるだけだった。どうやら薬のせいで体を動かせず、毒でめちゃくちゃ苦しい思いをしているのに何もできずに耐えるしかない状況のようだ。いわば、地獄に落ちているような目にあっているのだろう...。

 

 

「体がああああアァァ!!?」

「ごめんなさい!まさか、そんな薬ができるなんて思ってもいなかったんです!本当に申し訳ありません!」

 

 

鬼の苦しむ声に私は土下座する勢いで頭を下げて謝った。まさかの実験感覚で試した薬でめちゃくちゃ苦しまれて...もう罪悪感が凄くて.......私の方が悪いような気がしてきた。しかも、完全に殺せるまでいかないくらいの毒.....つまり致死量に満たない毒だったようで、その鬼はただ毒で苦しみ続けている状態で申し訳ないと思っています。苦しげな声がずっと辺りに響いて....精神が折れそう......。そのうち、毒を分解できると思うけど.......本当にごめんなさい!まさか、こんな毒ができるなんて本当に思わなかった.....。

 

 

「....彩花。気にしなくても大丈夫だ。」

「でも、実験感覚で試した毒が........。」

 

 

私が罪悪感でへこんでいると、炭治郎と禰豆子が慰めてくれた。その間にも鬼の悲鳴が聞こえて、私の心を抉った。

 

 

こんなに苦しませる原因は完全に私の作った毒薬なんだよね...。この毒薬の解毒薬を作ろうかな.....。......けど、この鬼は毒がなくなったら私達を襲うかもしれないんだよね....。

 

 

「わた、し、が、とどめ、さす。」

「禰豆子...大丈夫だ。それなら俺が.....。」

「だい、じょう、ぶ。」

 

 

私がどうしようかと悩んでいる間に、炭治郎と禰豆子がどっちがドドメを刺すかとなり、話し合っていた。話し合いの結果、禰豆子がドドメを刺すことになり........ものの数秒で鬼を倒した。

 

 

「ね....禰豆子.....。」

「す、すごい......。」

 

 

私の毒の効果もあると思うが...あまりに圧倒的に禰豆子が強かったので、炭治郎は驚き、私はもはや感心していた。鬼を倒した後、禰豆子は炭治郎に褒めてというように抱きつき、炭治郎は禰豆子の頭を撫でていた。私はあの鬼の顔を思い浮かべ、目を閉じて手を合わせ、謝罪と合掌をした。

 

 

「......この匂いは.....。」

 

 

少し時間が経ち、炭治郎が何かの匂いを嗅ぎ取ったようだ。私は炭治郎の声で目を開けて炭治郎と禰豆子の方を見ると、炭治郎と禰豆子は何かを見て、目を見開いていた。炭治郎と禰豆子の視線を辿ると、そこには天狗のお面をしたおじいさん.......

 

 

「鱗滝さん.....。」

 

 

炭治郎の言葉を聞き,私はやっぱりと思った。炭治郎と禰豆子が鱗滝さんに抱きつき、泣き出した。鱗滝さんも炭治郎と禰豆子を強く抱きしめ返した。

 

 

「良かった.....無事で...。」

 

 

お面でよく分からないが、おそらく鱗滝さんも泣いているのだろう......。..........あれ?良かった、無事で...って、鱗滝さんが言っていたけど.....そういえば......炭治郎が言っていた師と思える天狗のお面をした人って....あの時は天狗のお面って間違いなく鱗滝さんだって思っていて気づかなかったけど、原作では炭治郎はまだ鱗滝さんと会ってないはずなのに、どうして、もう師と思えるんだろう.....?

 

 

「.......君は?」

「へっ!?.....え...えーと....。」

 

 

さっきまで感動の再会のような感じになっていたから、急に話しかけられて驚いた。炭治郎と禰豆子と鱗滝さんが抱き合ったところで邪魔にならないように木の影に隠れていたけど、見つかってしまった....。そういえば...鱗滝さんも鼻が利くんだっけ?

 

 

「あっ!鱗滝さん!彼女は彩花。俺が倒れてたところを助けてくれたんだ。彩花。俺の呼吸の師範の鱗滝さんだ。」

「はじめまして。生野彩花と申します!」

 

 

炭治郎の紹介で、私は自己紹介をすることができた。

 

 

「儂は鱗滝左近次だ。とりあえず....ここで話すと鬼が来るかもしれないから、うちに来なさい。」

「「はい!」」

 

 

鱗滝さんの言葉で、私達は返事をして走った。

 

 

......って、また走るの!?

 

 

 

 

 

 

「.....なるほど。草笛と吹き矢の息継ぎが呼吸法になっていたと....。その呼吸で鬼を腕を斬ったんだな。」

「はい。ですが、草笛と吹き矢の息継ぎが呼吸だとは知りませんでした。」

「俺もです。草笛や吹き矢を吹いている時は他の音も聞こえて、呼吸かどうか気づきませんでした。」

 

 

鱗滝さんの家に着き、私と炭治郎はこれまでのことを鱗滝さんに説明した。鱗滝さんは始めに炭治郎と禰豆子を助けてくれたことに感謝し頭を下げ、私はそれに戸惑いながらも頭を上げてくださるように言ったということがあったのは余談だ。その後から、私が使った呼吸と痣が出たことと左目の色が変わったことについて、私と炭治郎と鱗滝さんとで話し合った。ちなみに、禰豆子は疲れて寝ている。

 

 

「それは間違いなく呼吸だったんだな。」

「はい。独特な呼吸音でした。それに、炎を纏っていたので...。」

「......型のようなものは知らないんだな。華の舞いというのも.....。』

「はい。私が両親から教わったのは、薬のことと草笛と吹き矢のことだけです。呼吸の型らしきものは教わっていません。華の舞いのことも何故か口が勝手に動いただけで、私も何なのか分かりません。」

 

 

私自身、草笛と吹き矢の息継ぎが呼吸だったことに驚いている。私の両親は剣士だったの?....でも、昔から薬屋さんだって言っていたけど......。

 

 

「呼吸を使っていた時に左目の色が変わり、その近くに痣が出ていたんだな。」

「はい。気絶してすぐに痣は消え、左目も彩花が目を覚ました時には戻っていました。」

「痣のことも左目の色が変わったことも今までなかったんだな。」

「はい。そんなの初めてです。」

 

 

鱗滝さんが炭治郎と私に交互に確認している。私にだって意味が分からないことなんだから、こんなこと......きっと初めてよね....。左目の色が変わるなんて原作でもなかったからね...。

 

 

「.......すまない。儂にも分からん。華の舞いというのも...痣とともに左目の色が変わることも......。」

「そうですか.......。」

 

 

やっぱり鱗滝さんでも分からないよね....。他に知ってそうな人って........お館様なら知っているかも?でも、私がお館様を知っているのはおかしいから....

 

 

「すみません。他に知ってそうな人とかいますか?」

「知っているとしたら......やはりお館様だろうか.....。」

「そうですか。その人なら....。」

 

 

よし!名前が出てきた。

 

 

「駄目だ!」

「えっ!?」

 

 

私の予想通りに鱗滝さんからお館様の名前を出てきて、内心ガッツポーズをしていた時、炭治郎から大きな声で反対された。突然近くから大きな声が聞こえたことと炭治郎が反対したことに私は驚いた。

 

 

「ごめん。」

 

 

炭治郎は私を驚かせたことを謝り、真剣な顔で鱗滝さんと向き合った。

 

えっ?何?

 

 

「鱗滝さん。俺は鬼殺隊と関わるのは反対です。」

「た、炭治郎...?」

「.......そうか。仕方がない。あんなことがあったんだから....。鬼殺隊に関わることは儂も反対だしな。彩花。お館様のことは諦めなさい。」

「へっ?......は、はい。」

 

 

炭治郎が何故か鬼殺隊と関わることに反対したことに驚き、炭治郎の方を見てどういうことかと聞こうと思ったが、炭治郎の体が震えていることに気がついた。

 

 

.....鬼殺隊で何かあったの?

 

 

そう聞きたかったが、その前に鱗滝さんに話しかけられ、私は流れに流されて頷いた。鱗滝さんも反対しているっていうことは余程のことがあったのかもしれない......。

 

 

「....さて、これから彩花のことを試そうと思う。彩花。こっちに来なさい。」

「は、はい。」

 

 

鱗滝さんに呼ばれて、私は立ち上がった。

 

 

「彩花。鱗滝さんの鍛練は厳しいからな。」

 

 

立ち上がった私を見て、炭治郎がそう声をかけてくれた。しかし、私の頭には鬼殺隊の名前が出た時に体が震えていた炭治郎の姿が頭から離れず、炭治郎のことを心配しているが....

 

 

「うん。分かった。私、頑張ってくるから!炭治郎はもう寝ててね。禰豆子と仲良く隣で寝た方が良い夢を見れるんじゃない?炭治郎が熱を出して寝ていた時、禰豆子は気持ち良さそうに隣で寝ていたよ。」

「ははは。いや、まだ起きてるよ。彩花。大変だけど、頑張れ。」

「はーい。」

 

 

私はそれを感じさせないように笑顔を浮かべて、精いっぱい明るくそう言い、炭治郎と小さく笑い合った。私は炭治郎に手を振った後、外に出た。鱗滝さんは何も言わずに私を待っていてくれた。

 

 

「今から山を登る。儂の後をついて来い。」

「はい!」

 

 

私は鱗滝さんの後を追いかけ、狭霧山を登った。

 

 

「夜明けまでに山の麓まで降りて来い。」

「はい!」

 

 

目的の場所に着いてすぐに鱗滝さんはそう言った。私は原作と同じだなと思いながら返事をした。

 

 

それにしても.....狭霧山の空気は薄いって聞いていたけど、本当にそうね.......。私の暮らしていた山より比べられないほどに空気が薄い......。

 

 

「....感謝する。」

「へっ?」

「炭治郎と禰豆子が感情を表すようになったのは彩花のおかげだ。あんなことがあって、辛い思いを.....苦しい思いをしてきたはずだが.....本当に助かった。」

「い、いえ...。」

 

 

すぐに山を下りるはずの鱗滝さんに突然感謝され、私は戸惑いながらもそう返した。私を少し見た後、鱗滝さんは山を下りていった。

 

 

「.....一体、炭治郎達に何があったのだろう...。って、考えている場合じゃない!夜明けまでに山を下りないと......。」

 

 

炭治郎と禰豆子に何があったのかと考えていたが、それよりも山を下りる方が先だと考え直し、私は山を下り始めた。

 

確か.....落とし穴や投石機などの罠だらけだったよね......。炭治郎は匂いで避けていたけど...どうしよう....。いや、考えている場合じゃないよね。とにかく進まないと...って!?

 

 

私が山を下りていると、何かが来る予感がして避けると、石が飛んできた。私はそれを避けるが、避けた先が落とし穴だった。落とし穴に落ちかけたが、すぐにジャンプして回避できた。しかし、その先に丸太やら石やらが飛んできた。丸太は避けれたが、石に当たってしまい、さらに縄にも引っかかり、少しよろけたところに別の落とし穴に落ちかけ、慌てて両手を使ってなんとか回避し、近くの地面に転がり込んだ。

 

 

「....はあはあ.....ここに来るまでずっと走っていたし...ここは空気が薄いし....疲れてきている...。それに、罠も多くて、進むのが大変!...はあはあ.....でも、夜明けまでに戻らないと......。」

 

 

私はあまりの罠の多さに現実逃避したが、それでも頑張らないとと気持ちを切り替えた。私は炭治郎のように匂いで罠がどこから来るか分からないから、どうにかあの罠を避けれる方法を考えないと...。うーん、姿勢をできる限り低くして罠に当たりにくくするのはどうかな?でも、走りにくいから駄目ね。...うーん.......。他に何か....炭治郎のような鼻の代わりに、勘を信じて五感もフルに使って避けよう(代わりになるとは思えないが...。)....!気を抜かずに最後まで....当たっても立ち止まらずに走り続けよう.....。いわば、気力と根性の勝負だ!!

 

 

私は最後の方は完全にヤケになりながら走り続けた。

 

 

 

 

 

 

「....話は分かったが、本当に大丈夫か?」

「彩花は信用できると思います。」

「確かに良い子のようだが、.....優しすぎるのが問題だ。あの子は鬼に謝罪をするような子だ。お前が行く道は修羅の道だ。本当にそんな子を一緒に連れて行って、何かあったらどうするんだ?」

「....それは.......。」

「判断が遅い!」

 

 

一方、彩花が山を下りている最中、炭治郎と鱗滝さんは話し合っていた。鱗滝さんの質問に炭治郎は迷いなく答えていたが、彩花を連れて行って、何かあったらどうするんだという質問に炭治郎は迷い、鱗滝さんに頰を叩かれていた。

 

 

「....そろそろ夜明けだ。もっとも、あの子がこの試練を越えることができたらの話だが...。」

 

 

鱗滝さんが外を見ながらそう言っていると、炭治郎と鱗滝さんの鼻がある匂いを捉えた。次の瞬間、家の戸が開いた。炭治郎と鱗滝さんがその方向を見ると、着物が泥だらけで、下を向いて息切れしている彩花の姿があった。 

 

 

「はあはあ...はあはあ.....。や...山を下りました....。はあはあ........。ぎりぎり....間に合いましたよ.....。」

 

 

僅かに山から日の光が見え始めた。...ちょうど日が登る時間帯のようだ。

 

 

「......生野彩花。お前を認める。」

 

 

 

 

 

 

 




大正こそこそ話

彩花は炭治郎に負けず劣らずの天然で、無自覚なところがある。おまけに、たまに抜けているところもある。薬に関しても村の人達が認めるほどの素晴らしい薬を作れるが、本人はお世辞だと思い、薬のことはまだまだだと思っている。特に毒薬はたまにポンコツ思考が入って、エグい薬が出来上がることがある。昔、害虫駆除の毒薬を頼んだら、自分で調合を変えてみた薬だと言い、その毒薬を使った。そうしたら、その毒薬が結構広範囲で効くうえに即効性だったらしく、虫が全て地面に落ちて亡くなっている地獄絵のようなものが出来上がった。ちなみに、その地獄絵を彩花は見てない(というより、子どもには見せてはいけないもの)し、彩花は殺意など全くない(むしろお試し的な感覚の)状態でそのエグい毒薬が出来上がっている。(彩花は悪気は本当にない。むしろ自分が作った毒は弱いかもしれない、効くかなと思っているくらいだ。)

この件で彩花が作った毒薬のエグさを村の人達は知っているので、彩花に自覚してほしいらしい。病院の手伝いを勧めたのも彩花に自覚してほしかったかららしい。旅に出る時も外に出れば自覚してくれるのではと思って応援したらしい。まあ、可愛い子には旅をさせろと言うからというのも理由だ。幸い、彩花は毒薬を作る気はあんまりない。さらに、今回の鬼の件で、しばらくは毒薬を作らないようだ。




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笹の葉の少女は修行する

「疲れただろう。着替えて、ゆっくり休みなさい。」

 

 

 

その言葉に私は喜んで甘えて、すぐに着替えて眠ってしまった。本当に疲れていたからね。当たって砕けろという精神で山を下りていくうちに勘が少し鋭くなって、他の五感も罠が見えたら避けてとか、何かが来るような音が聞こえたら避けてとか、嫌な予感がしたら避けてとかができるようになった。前世の時からドッジボールとかでボールを避けるのが何故か得意だったのよね.....。勘と視覚と聴覚と触覚を上手く使って、漸く山を下りることができた。日が登るぎりぎりの時間だったけど......。

 

 

まあ、そんなこんなで疲れが溜まっていた私はぐっすり眠ることができた。そして、起きた時には禰豆子はまだ寝ていたが、炭治郎の姿はなかった。炭治郎を探して、布団から出た私は日が高く登っていることに気づいた。

 

 

....あれ?今、何時くらい?

 

 

私は家の中を歩き回っているが、誰もいない。外にいるのかなと思って、家の戸を開けたら目の前に鱗滝さんがいて驚いた。

 

 

「ひゃあ!?....って、鱗滝さん?」

「起きていたのか...。」

 

 

鱗滝さんなら知っているかもと思い、薪を持って家の中に入った鱗滝さんの後を私は追いかけた。

 

 

「鱗滝さん。炭治郎は?」

「炭治郎はもう修行しておる。それより、聞きたいことがあるんだが......。」

「何でしょうか?」

 

 

私は気になっていた炭治郎のことを聞き、鱗滝さんは私の質問に答えると、私に聞きたいことがあると言って囲炉裏の前の座布団に座り、私も座布団に座り、鱗滝さんと向かい合った。

 

 

「何故、炭治郎と禰豆子について行こうと思った。他にも道があっただろうに。」

「それは........。」

 

 

鱗滝さんの質問に私は悩みながら眠っている禰豆子の方を見た。

 

 

.....うーん....。どうしよう......。原作と何故か違うので、その原因を探りに行きましたなんて言えないよ...。でも、鱗滝さんも鼻が効くから嘘は言えないし........。原作と変わってしまった原因を知りたいからっていうのが一番の理由だけど、他にも理由はあるから.....そっちを言えばいいかな...。

 

 

「....私が使ったのが本当に呼吸なのか知るためです。私自身、当たり前のように使っていた草笛と吹き矢の息継ぎが呼吸というものだったということが.....なんというか....納得がいかないというか...不思議な感じがするのです。」

 

 

これも私が気になっていることだ。だって、当たり前のように使っていた息継ぎが突然呼吸だって言われたら驚くし、信じがたいし、何かの間違いなんじゃと思うでしょ。本当に呼吸なのか、私は確かめたいよ。

 

 

「.....それだけか?」

「他にもありますが....ちょっと待ってください。」

 

 

私は周りを見渡し、禰豆子が眠っていることも確認した。

 

 

「.....実は...夢を見たのです。」

「夢とは?」

「炭治郎と禰豆子にそっくりの顔立ちの男の人と女の人が夢の中に現れて、炭治郎と禰豆子のことを頼むって言ったのです。多分...その男の人と女の人は炭治郎と禰豆子の両親だと思うのです。」

「........。」

 

 

多分じゃなくてそうなんだけどね.....。私にとって...これももう一つの理由だ。炭治郎と禰豆子の両親との約束....私が引き受けたのだから、ちゃんと守らないと.....。

 

 

「私は任せてくださいと言いました。だからこそ、よりついて行こうと思います。それに........。」

「それに?」

「私は炭治郎と禰豆子のことを友達だと思っているから...友達なら助けになりたいのです。」

 

 

これは.....本当に私の本心だ。私は炭治郎と禰豆子と友達になりたい。炭治郎と禰豆子が私のことをどう思っているのか分からないが...少なくとも、私は炭治郎と禰豆子を友達だと思っている。

 

 

「言っておくが....彩花の行こうとしている道は修羅の道だ。」

 

 

私に対して鱗滝さんはそう言った。きっとこれは鱗滝さんからの忠告だ。でも.........

 

 

「分かっています。けど、.....それでも私はついて行きます。もう決めています。」

「.........。」

 

 

そんな私のことを鱗滝さんは無言で見ていた。

 

 

「.......一つだけ言わせてほしい。」

 

 

鱗滝さんが静かに口を開いた。

 

 

「炭治郎と禰豆子を絶対に裏切らないでほしい。炭治郎と禰豆子は信頼していた人達から裏切られた。再び誰かを信用し始めたのに....また裏切られてしまったら、炭治郎と禰豆子の心は壊れてしまう。」

 

 

鱗滝さんの悲痛の声に私は目を見開きながら言っていたことを頭の中で必死に整理していた。

 

 

....えっ?

 

ちょっと待って!?......裏切られたってどういうこと!?

 

 

私、そんな話を原作で聞いたことがなかったけど...一体どの時期に....どこで......誰が.......。というか、なんで鱗滝さんがそんなことを知っているの?もしかして、原作よりかなり前から炭治郎達と知り合っているのかな...?

 

 

「.....炭治郎達が信頼していた人って....鱗滝さんにとっても信頼できる人だったのですか?」

「.......ああ...。知らない奴がいたが....その中には儂の弟子.....つまり、お前達にとっては兄弟子もいたからな........。」

 

 

炭治郎の兄弟子で思い当たるのは一人だけ.....冨岡義勇さんだけしかいないよね......。じゃあ.......炭治郎と禰豆子を裏切ったのって鬼殺隊!?.....でも、それならあの時の炭治郎の体が震えていたことに納得がいく。鬼殺隊の中で一体誰が炭治郎と禰豆子を裏切ったのだろう?鱗滝さんの話から....まさか......柱?それとも善逸達同期組?.......あるいは、全員が裏切ったの......?私はあんまり信じたくないけどね....。だって、善逸達同期組は炭治郎と禰豆子と仲が良かったし、柱の人達も炭治郎と禰豆子のことを認めていったし......だから.....裏切ったなんて信じたくない。だってあんなに.........あんなに信頼し合っていたのに......。だからこそ、炭治郎も禰豆子も裏切られたことがショックだったのかな...。私はその時のことが分からないから、何とも言えないけど....。でも、そういうことにすると.....なんで炭治郎と禰豆子を裏切ったのだろう......?原作とはかなり変わっているし、炭治郎と禰豆子の年齢を聞いてないから.....全くもう分からないけど...裏切ったタイミングはどの時期だったのだろう....?分かれば分かるほど、謎が増えていくな.....。でも、まだ鬼殺隊の人達が裏切ったと確定したわけじゃないから...少しは希望を持っておこう....。

 

 

「.......大丈夫か?」

「....はい。大丈夫です。」

 

 

私が黙って下を向いたまま座っているのを見て、鱗滝さんが心配していたので、私は前を向いて大丈夫だと返した。

 

 

「.....そろそろ炭治郎が帰ってくる。昼飯の用意をしよう。」

「私には朝食になりますね。手伝います。」

 

 

鱗滝さんが昼飯の用意をし始め、私もそう言いながら鱗滝さんを手伝うことにした。その後、炭治郎が帰ってきてから三人で昼飯を食べたが、禰豆子は起きてこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「.......彩花。これから修行を始めよう。」

「はい!」

 

 

昼飯を食べた後、私も修行を始めた。私は今、鱗滝さんと向き合っている。炭治郎も禰豆子の様子を見た後、自分の修行に戻った。

 

 

「その前に伝えたいことがある。あれから考えたが、修行とは別に草笛と吹き矢を必ずしなさい。」

「えっ?」

「型は分からぬようだが、呼吸の可能性がある。剣術と水の呼吸の修行とは別にやっていても損はないだろう。」

「はい!」

 

 

鱗滝さんの話に私は納得しながら頷いた。確かに、草笛と吹き矢の息継ぎが呼吸かどうかは定かじゃないけど、呼吸の可能性があるものをやっても損はないよね.....。って、私は水の呼吸を習得するのは確定なのですね......。まあ水の呼吸は変幻自在だし、派生とかがよくできる呼吸だから、例え水の呼吸が合わなくてもこれも損はないし、むしろプラスになる。

 

 

「鬼に関しては知っているな。」

「はい。ある程度は知っています。」

 

 

...えーと.......始めはまだ夜明けまでやったレベルの山下りだよね....。次第に罠の難易度がどんどん高くなるんだよね.....。しかも、体力とか身体能力が上がってきたら刀が飛んでくるわ、落とし穴の中に刀がいっぱいあるわ....と殺意があるんじゃないか、恨みでもあるのという感じの罠になるんだよね...。...........。

 

 

 

私、死なないよね!!?

 

 

 

 

 

 

 

どうも。あれから結構月日が経ちました。

 

 

修行中のことをまず一言で言うと......炭治郎は凄いな...。

 

毎日毎日、始めは山を下っていたよ。私は炭治郎と違ってほぼ勘を使っていたけど、体力がついて身体能力も上がって、罠の動きを目でとらえることができるようになって、罠が発動する時の音を聞き取れるくらい耳もよくなってきて.....さらに、落とし穴を掘った時のものであろう土の匂いが嗅ぎ取れるようになっていた....。でも...その中でも一番成長したのは勘の鋭さが増したことかな.....。とにかく、修行の成果が出ていることが実感できた。......けど、だんだん避けれるようになってきたので...遂に刀が飛んできました。原作の炭治郎と同じような何か恨みをかいましたかと言いたいくらいの罠....。この修行、私はもう怖い!本当に落とし穴の中に刀が隙間なくあったのを見て、背筋が凍ったよ!.....ちなみに、このことを炭治郎に話すと、分かると言って背中を撫でてくれた。

 

 

 

 

その危険な山下りを何度もやっていると、今度は刀を持って走ることになった。原作の炭治郎の言っていた通り、刀って結構邪魔になるんだよね......。おそらく炭治郎以上に罠にかかりやすくなっていたと思う。私はすぐに罠にかかった。あと、刀を持つようになってから、素振りを毎日し始めた。本当に千回振った後に五百回追加されて....肩が壊れそうなくらい素振りをさせられる。一時期、前世で剣道を習ってたことがあったけど、やっぱり竹刀と刀じゃ重さが違う。それに、この世界では全く刀も棒も振っていなかったからね.....。剣士になる気はなかったから、やらなかったよ.......。

 

 

 

 

 

「刀は弱くて脆い。」

 

 

私は鱗滝さんに刀について教えられ、刀の使い方も教わった。特に私は女の子だから、非力をなんとかしないといけないということで努力した。あと、転がし祭りもした。受け身を取れるようにと言われて、泥だらけになることが毎日だ。鱗滝さんに斬りかかるんだけど、毎回私は投げ飛ばされる。鱗滝さん、強い.....。

 

 

 

 

刀を使い始めて、その次に呼吸法と型を習い始めた。元吹奏楽部の肺活量が今世でも残っていたことと草笛を吹き続けていたことが良かったのか、ここは多少何か言われることはあったが、原作の炭治郎のようにお腹を強く叩かれることはなかった。まあ、それよりも全集中の呼吸を覚えるのと型を習うのは大変だったけど......滝に落とされたことと滝に打たれたことはもっと大変...というよりきつかった。前世で水泳を習っていたことがあって、溺れないようにどうすればいいかも分かっていたので、滝に落とされて溺れることはなかったが....それでも滝に落とされた時と滝に打たれ続けるのは本当にきつかった。滝に落とされた時は普通に痛かったし、滝に打たれ続けるのは炭治郎のように声は出さなかったが、私は水だと心の中で叫んでいた。それくらいやらないと心が耐えきれない。そういえば.....水泳も息継ぎするから、前世の時の私って結構肺が鍛えられていたのかも.......。ちなみに、この滝の修行のことも炭治郎に話すと、炭治郎は遠く見つめていたよ.....。

 

 

 

それと、禰豆子はあれからずっと眠っている。一日の修行を終えた夜に禰豆子の近くで草笛を吹いているが、全然起きる気配すらない。ここは原作と同じなのかな?原作通りにいって、二年経ったら目覚めるかどうか分からなくて不安だ。....というか、最近はもう原作のどの時期か分からなくなってきたので、時期に関しては何も考えないことにした。ちなみに、吹き矢も草笛同様に夜に吹いている。その結果、狙撃できる距離が広がり、夜目が効くようになった。

 

 

 

 

山下りがもっと厳しくなってきた。空気の薄い頂上の近くまで行き、険しい道を下った。原作の炭治郎の言った通り、死ぬかもしれないって何度も思った。それでも毎日頑張って、刀で罠を対処できるようになってきた。

 

 

 

 

 

修行を始めて一年.....私も原作の炭治郎と同じようにもう教えることはないと言われた。そして.......原作の炭治郎の時のように岩を斬れと言われた....。思ったより大きかった.......。近くで炭治郎が修行していたので、炭治郎にあの岩って斬れるものなの、刀が折れる予感しかしないと言うと、炭治郎が......

 

 

「その気持ちは分かる。だが、頑張るしかない!彩花ならできる!」

 

 

そう励ましてくれた。...うん。分かってる....。頑張るしかないよね!

 

 

 

 

私は頑張って鍛練をしながら岩を斬ろうとした。岩がすぐに斬れるとは思えないので、まずは一回岩が斬れるかどうか試して、その後に鍛練して...夕方になってから岩を斬ろうとまた頑張る。夜になったら草笛を吹いたり、吹き矢で遠くに的を置いて矢を当てたりする。これを繰り返していたが、なかなか岩を斬ることができない。なんか心が折れそう....。死ぬほど鍛えると原作ではあったが、確かにそれくらい鍛えないと無理だね、これは.......。私の場合は力が足りないのもあるかもしれないけど、やっぱり全集中の呼吸を完璧に使えていないのかもしれない...。全集中の呼吸を炭治郎に見てもらったんだけど、炭治郎の説明は擬音語が多くてよく分からなかった。ただ...何かが違うということはなんとなく分かった。私は素振りを増やしたり、力を鍛えたり、肺を鍛えたりしてみた。その鍛練の中で、力を鍛えようと岩を持ち上げようとしたり、肺を鍛えようと水の中に顔を突っ込んで長い間息を止めたりしていたら、炭治郎に見つかって驚かせてしまった。特に顔を水の中に入れていたのは心臓に悪いと言われてしまった.....。.......ごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....やっぱり私にも何か無駄な動きがあったり癖があったり....足りないものがあるのかな.......。」

 

 

私は原作の中で炭治郎が無駄な動きとか癖を指摘されていたことを岩を見ながら思い出し、そう呟いた。でも、私には無駄な動きがあるのか癖があるのか分からない...。炭治郎に見てもらう?いや....炭治郎の説明じゃ駄目だ。最近なんとなく理解できるようになったが、なんとなくではなく、はっきりとした指摘が.....できることならもっと細かく詳しい指摘がほしい!もう!炭治郎の何を言っているか分からない説明は漫画では笑えたけど、今は笑えないよ!

 

 

「炭治郎の説明がもっと分かりやすかったら......!頑張れ、私!負けるな!弱音を吐くな!」

「うるさい。」

 

 

私が必死に頰を叩きながら喝を入れていると、突然上から声が聞こえた。その声は炭治郎の声でも鱗滝さんの声でもなかった。

 

まさか........

 

 

「......えーと.......こんにちは.....。」

 

 

私は見上げてすぐにその人が見えて、挨拶してしまった。やっぱり狐面で顔が見えない少年、錆兎がいた。原作のように木刀を手に持ち、岩の上に座った錆兎がいる。

 

 

「......挨拶をしなくてもいい。」

「あ、すみません。つい、挨拶してしまいました。」

 

 

挨拶した私に錆兎はそう言った。すみません.....。すぐに挨拶するような人...私ぐらいですよね....。

 

 

「いつまで刀を仕舞ってる。」

「あっ。」

 

 

錆兎に言われて、私は原作の炭治郎と同じことをするのかと思いながら刀を抜いた。すると、錆兎は岩から飛び降り、地面に足をつけた。

 

 

「さあ、かかって来い。」

「...失礼します!」

 

 

錆兎に原作のように言われて、私はやるしかないっていうことは分かっているが、なんか何も言わないでいきなり斬りかかるのはと思い、一言だけ言ってから斬りかかった。しかし、錆兎に何度斬りかかっても全て防がれてしまった。......やっぱり何かが足りないんだ。....でも、一体何が........。

 

 

「知識で呼吸法を覚えていても体は何も覚えていない。呼吸法を骨の髄まで叩き込まないと意味がない。刀を振っている時、お前は呼吸を使えていない。草笛や吹き矢の時の方がマシだ。」

 

 

体が覚えていないって....私だって体に覚えさせようとしているけど、どうすればいいのか分からないの!草笛と吹き矢は呼吸ができていたのだっては初耳なんだけど!

 

 

「どうすればいいの!」

「ここで草笛や吹き矢を吹く時は呼吸ができていた!体には染みついている!それと同じことをしろ!」

 

 

錆兎はそう言うと、私の首に木刀を叩き込み、私は気絶して地面に倒れてしまった。

 

 

「...後は任せたぞ。」

「錆兎。少しやり過ぎてない?」

「でも、錆兎は彩花が女の子だから、手加減してくれていたよ。」

 

 

私が気絶した後、そんな会話があったことを地面に倒れ伏せた私は知らない.....。

 

 

 

 

 

 



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笹の葉の少女は斬れた

「.....うーん.......。」

 

 

私が目を覚ました時には辺りは暗く、すっかり夜になっていた。

 

 

「大丈夫か?」

「......炭治郎?」

 

 

体を動かすと、近くに炭治郎がいた。気を失う前の記憶を辿りながら周りを見渡していると、狐面を右に被って花柄の着物を着た少女...真菰がいた。

 

 

「.......えーと....。こんばんは........。」

「ふふっ。こんばんは。」

 

 

私が挨拶すると、真菰は笑ってそう返してくれた。私、またやっちゃったよ.......。挨拶以外に言わないといけないことがあると思うのに、錆兎と真菰のことを知っているのはおかしいから言わないようにと思ったら、何故か挨拶しちゃう....。なんか顔が真っ赤になったような気がする...。

 

 

「あの女の子は真菰っていうんだ。」

「真菰.....。じゃあ、あの男の子は......。」

「錆兎だ。」

 

 

よし。上手く名前を聞くことができた。これで名前を呼んでも怪しまれない........って...あれ?

 

 

「炭治郎と錆兎と真菰は知り合いなんだ....。」

「ああ。俺も彩花のように鱗滝さんに岩を斬れと言われた時に鍛練をつけてくれたんだ。」

「へえー。」

 

 

この話は原作通りだね......。

 

 

「錆兎は強かった?」

「うん!とっても強かった!剣技も綺麗だった!私もあんな風に強くなりたいな.....。」

 

 

今の私の実力では錆兎に倒されてるけど....錆兎のように強くなって.....いつか勝てるようになりたいな...。

 

 

「........きっとなれるよ。私が見てあげるよ。」

 

 

真菰が私にそう言って微笑んでくれた。私は真菰の笑顔を見て、顔がまた赤くなったと思う。

 

真菰、可愛い!原作の時の炭治郎、分かるよ!確かに真菰の笑顔、凄く可愛い!

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、私は真菰に呼吸や型を見てもらうことになった。私は草笛や吹き矢で呼吸を使うことは身についているが、刀を振った状態で呼吸を使うのはできていなかった。だから、私は刀を振った状態でも呼吸が使えるように体に叩き込む鍛練をした。

 

 

「なるほど....。」

「分かった?」

「うん!こんなに分かりやすい指摘をしてくれてありがとう!」

「あはは...。彩花は炭治郎によく聞いていたけど.....。」

「.......できれば、もう少し擬音語が減ってくれれば....。」

「彩花は頑張って理解しようとしたよ...。」

「うん.....。」

「心外だ。」

「「ふふっ!」」

 

 

私が真菰の的確な指摘に喜びながら炭治郎の擬音語が多い説明を必死で理解しようとしていた時のことを思い出し、涙が出そうになっていると、真菰が肩をポンと軽く叩いて頷いてくれた。その様子を見て、炭治郎が心外だという顔をし、私と真菰はそれを見て笑い合った。

 

真菰が私の無駄な動きや癖を的確に指摘してくれたおかげで、だんだん改善されているが..........

 

 

 

「....やっぱり力負けしちゃうよ...。」

 

 

何十回目か分からない錆兎との鍛練に負けて、私は地面に突っ伏した。地面に突っ伏した私の近くで炭治郎と真菰が苦笑いしていた。

 

 

真菰に指摘されて、呼吸も刀を振った状態でもできるようになってきたんだけど、やはり男の子と女の子の力の差は大きかった。

 

 

「真菰はどんな戦い方をしているの?」

「私は炭治郎や錆兎よりは弱かったけど、女の子にしては力は強かったから。それに.......足の速さで錯乱させたりとかしたよ。」

「......速さか....。」

 

 

そういえば、真菰は素早かったって言われてたっけ?私も素早さを上げるために脚を鍛えようかな.....。それに、錯乱させるくらいの速さなら、それ以外にも鬼の攻撃を避けれるように反射神経を鍛えようかな...。

 

 

今世は男の子の方が良かったかも......あるいは、原作の甘露寺蜜璃さんのような特殊な体質を持ちたかった.....と今、色々思っています。それか.......しのぶさんのように別の方法を探すか....それとも、戦い方を少し変えるか.......と色々考えています。それに、もう一つの悩みが......

 

 

「...何かがおかしいのよね.....。」

「前よりは大分良くなっているよ?」

「何がおかしいんだ?」

 

 

私の言葉に真菰と炭治郎が首を傾げた。私にはもう一つの悩みがある。

 

 

「いや。......炭治郎は覚えているよね?私が何故か呼吸のようなものを使った時のこと...。」

「ああ.......。あれがどうしたんだ?」

 

 

私が炭治郎に聞き、炭治郎はあの時のことを思い出し、それがどうしたのかと聞いた。

 

 

「...実は........水の呼吸を使っていると、何か少し違和感を感じるんだよね...。」

「違和感?」

「違和感というか....何かやりにくいという感じというか......よく分からないけど、水の呼吸を使う時になんとなくだけどそんな感じがするの。でも、華ノ舞いを使った時は体が勝手に動いたんだけど....でも、違和感というのがなくて.....動きやすい...という感じがしたの......。ほとんど感覚みたいなものだから....多分気のせいかも.......。」

 

 

私も本当によく分からないけど、水の呼吸を使う時と華の舞いを使った時は何か違う感覚がしたのよね......。この感覚が何なのか分からないし、多分気のせいなのかも...と何度もそう思い直し、気のせいだと言い聞かしていた。

 

 

「.....多分、彩花にとっては華ノ舞いが一番体に合った型なんじゃないかな。」

「私の体に...一番合った型....?」

「そうかも。きっと彩花にとってはその型の方が体に合っているの。だから、彩花は水の呼吸を使うとやりにくく感じるんだよ。先に体に合った型を使ったから、何か違うと感じるようになったんだと思う。」

 

 

炭治郎と真菰の言葉に私は納得した。気のせいじゃなかったんだ....。確かにそうなのかもしれないね.....。

 

 

「水の呼吸よりもそっちの方が体に合っているんだから、そっちの方で鍛練した方がいいと思う。」

「でも、私は華ノ舞いがどんな型なのか分からないし、唯一使った型は体が勝手に動いただけで、それもどんな型か分からないんだよね....。」

 

 

華ノ舞いって口には出ていたけど、どんな動きをしていたのかは分からない。私には何も見えていなかったから、その華ノ舞いの型も再現できない。

 

 

「それなら、炭治郎が分かると思うよ。」

「ああ。.....彩花が使っていた華ノ舞いの型は......俺のヒノカミ神楽と似たような型をしていたんだ...。」

「それって......私の華ノ舞いと炭治郎のヒノカミ神楽は同じものということ?」

「いや.......。」

 

 

真菰が今度は炭治郎に聞くと、炭治郎はその時のことを思い出して少し考えながら話し始めた。私は炭治郎の話から華ノ舞いとヒノカミ神楽は同じものじゃないかと考えたが、炭治郎は首を横に振った。

 

 

「彩花の華ノ舞いの動きは確かに俺のヒノカミ神楽の火車に似ていたんだが........少し違うんだ。」

「えーと......炭治郎のヒノカミ神楽と彩花の華ノ舞いは何が違うの?」

「俺のヒノカミ神楽と彩花の華ノ舞いは炎を纏っていたけど....俺は燃やすような炎だが、彩花の炎は燃やすというより暖めるような感じの炎で.....鬼の腕を斬った時も俺はスパッという感じだったが、彩花はサーという感じで....「用は炎も斬り方も違うということね。」...そうだ。」

 

 

炭治郎の話に真菰が再び聞くと、炭治郎が説明してくれていたが、途中から擬音語が入り始めたので、私がざっくりと話をまとめて終わらせた。

 

 

「....それなら、炭治郎のヒノカミ神楽を見てみようよ。彩花も何か掴めるかもしれない。」

 

 

この話で私は何故かヒノカミ神楽も習得することになった。

 

 

 

 

 

 

あと、速くなりたいとか言ったからか....狭霧山で鬼ごっこをすることになった。蝶屋敷の機能回復訓練で鬼ごっこがあったな...と思ったけど、こっちの狭霧山の方が難易度高くない!?蝶屋敷と違って空気が薄いし、範囲が広いし、障害物も多いし!しかも私が鬼で、炭治郎と真菰を捕まえないといけないが.......全戦負けています。

 

 

 

それと、鬼ごっこの件もあって....反射神経を鍛えないとな...と常々思うようになりました.......。....何せ障害物が多くて避けるのが大変なので.....それを炭治郎と真菰に相談したら、お湯の掛け合いをすることになった。ルールは簡単。先にお湯をぶっかけたら勝ち。湯呑みを押さえることはできるが、掛けようとした湯呑みを押さえることはできない。.......いや、それも蝶屋敷の機能回復訓練の薬湯の掛け合いをお湯にしたバージョンじゃん!いつの間にか機能回復訓練が混ざってるよ!薬湯がお湯に変わったのは....俺がやった時は薬湯だったんだが、薬湯の匂いを落とすのが大変だからと炭治郎が言ってお湯になった。ちなみに、水ではなくお湯になった理由は水だと風邪をひくからだそうだ。まあ、お湯で良かったよ...。ずぶ濡れになったから.......。(これも炭治郎と真菰に全部負けました......。)

 

 

薬湯か.......。山籠もりする前以来作ってないな...。修行の時はたまに使っていたけど、その薬も持ってきた薬と一緒に全部鱗滝さんにあげたし....修行が終わったら、また薬を作りたいな.....。せめて、傷薬くらいは作っておきたい....今後のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

修行を始めて、もうすぐ二年が経つと思う......。

 

 

「.......彩花。」

「...何?」

 

 

夜になり、私が二年間ずっと続けている.....もう日課のようになっている草笛を吹いていると、炭治郎が声をかけてきた。一年も山籠もりをしているので、私も炭治郎も髪が伸び、肩くらいの長さになっている。特に炭治郎の髪はボサボサだ。まあ、私も少しボサボサだけど.......。

 

 

「明日、錆兎と戦うんだよな....。」

「うん。真菰には大分勝てるようになってきたからね。...炭治郎にはまだ勝てないけど......。炭治郎のおかげで色々掴めることもできたし。」

「ははっ。でも、華ノ舞いは一つしか使えないだろう。」

「一つでも使えるんだから、成果はあったよ。それに、他は分からないのだから、今、分かっている一つが使えるようになったのは良かったよ。ヒノカミ神楽も使えるようになったしね。」

 

 

炭治郎のヒノカミ神楽を見て、それを教えてもらったんだけど....何故かヒノカミ神楽が使えたんだよね...。私も驚いたよ!だって、ヒノカミ神楽は始まりの呼吸である日の呼吸で、しかも、日の呼吸を使えたのは緑壱さんと炭治郎達竈門家だけなんだよ!なんで私が使えるの!?適正があるの!?....って内心大騒ぎしていたんだけど.....大変申し訳ないのですが....ヒノカミ神楽も私には違和感があるのです...。本当に申し訳ないのですが、やっぱり私には華ノ舞いの方が合うようです。そして......ヒノカミ神楽と華ノ舞いは別のものだと再確認できました。本当に私の華の舞いって、何なのでしょう.......。でも、ヒノカミ神楽と水の呼吸で鍛練して、炭治郎の(擬音語がやたらと多い)説明をなんとか聞いて、草笛と吹き矢をそのまま続けて......やっと華ノ舞いの日車を使うことができたよ.....。あと、この時に知ったんだけど....華ノ舞いを使う時だけ痣が出て、左目の色が変わるらしい...。らしいと言うのは、私は見てなくて炭治郎と真菰が教えてくれたことだからだ。私もそれを見ようとしたんだけど....華の舞いを止めると、痣が消えて左目も戻るらしく.....私は見ることができず、炭治郎と真菰が教えてくれて分かる状況だ。それに、そういったことを繰り返して、漸く自分がどうすれば力の差を埋めることができるのかが分かり、それを身につけて体に合うように鍛練をした。

 

 

それと、鬼ごっことお湯の掛け合いも毎日やり、自分の戦い方を見つけてからは調子が良くなり、真菰に勝てるようになった。まあ、炭治郎にはまだ勝てませんが.........。とにかく、山籠もりを始めてから一年が経過して大分成果が出てきたと思うけど.....油断はしないようにしよう......。

 

 

「あのさ.....彩花。彩花はこれからどうするんだ?」

「どうするって?」

「.......鬼殺隊に入るかどうかだ...。」

「あー....。」

 

 

炭治郎に言われて、そういえば鍛練のことばかり考えていて、修行を終えた後のことを考えていなかったことに気づいた。鬼殺隊に入って....今、この世界で何が起こったのかを調べたいけど....なんか炭治郎と禰豆子のことが不安というか...ほっとけないというか.....そんなことを感じちゃうから...炭治郎と禰豆子と一緒にいようかな......。でも、炭治郎と禰豆子はこれからどうするつもりなんだろう?鬼殺隊に入ることを反対って言っていたし.....鬼殺隊に入らないことになりそう....。

 

 

「.....炭治郎と禰豆子はこれからどうするの?」

「俺と禰豆子は.......旅をしながら個人で鬼狩りをしようかと考えている。」

 

 

やっぱり鬼殺隊には入らないのね....。それなら.....

 

 

 

「それなら、私もついて行っていい?迷惑じゃなきゃいいけど....。」

「良いが........彩花は本当にそれでいいのか?」

「えっ?」

 

 

私は炭治郎の言葉に首を傾げた。良いのか.....って?

 

 

「俺と禰豆子の旅は本当に危険な旅だ。それでも彩花はついて行くのか?......俺は反対だが...俺達と旅するより鬼殺隊に入った方が安全だ。怪我をしてもすぐに治療してもらえるし、生活にも困らない。それか、鱗滝さんの家でこのまま暮らすならそれが一番安全だし、俺達も賛成だ。わざわざ俺達と一緒に行って、危険な目に合う必要はない。華ノ舞いのことは俺達が調べるから....。」

 

 

はあ........。炭治郎は頭が堅くて説得が大変だから.....この際、はっきり言っておかないとね...。あのね......。

 

 

「炭治郎。私はその旅が危険だって最初から分かっているの。それに...鱗滝さんの家にこのまま住むつもりなら、呼吸を習得してないし、刀も握ってないし.....そもそも始めの山下りで夜明けまでに山の麓に着いていないよ!それと、私は怪我をしても治せるよ!炭治郎が怪我しても私が治すつもりなんだから!何より、鬼殺隊だって炭治郎が反対しているのに入ろうと思えないよ!だから、私は炭治郎と禰豆子について行くよ!」

 

 

私は正直に話した。だって、本当のことだよ!炭治郎と禰豆子が大変な目に合うのは原作を読んで知っているし、それに備えて強くなろうと頑張っているのだから!鱗滝さんの家に住むなら、私は山籠もりをしてまで呼吸を習得する必要がないし、肩が壊れそうなくらい刀を振ろうともしていないし...なんなら夜明けまでに山を下ってない!怪我だって....私が怪我しても自分で治そうと思っているし、炭治郎が怪我しても治そうと考えて...薬をどのタイミングで作り始めようかと考えているのだから!それに.....なんといっても、炭治郎が反対しているし...鱗滝さんも鬼殺隊の話が出た時に渋い顔を(天狗のお面でよく分からなかったが......。)していたし、そんなところに入ろうと思えないよ!何があったのか調べやすそうだけど、原作と同じ鬼殺隊かどうか分からなくなったからね...もう分からないよ!とにかく、鬼殺隊に入る気も鱗滝さんの家に住み続ける気もないからね!

 

 

「そうか.....。.......あっ!」

「ど、どうしたの?」

 

 

私の話を聞き、炭治郎は考えていたが、何かを思い出したかのように突然大きな声を上げた。私はそれに驚きながらもそう聞いた。

 

 

「いや........。実は鬼殺隊の最終選別をやっている藤襲山という山に...少し因縁のある鬼がいて.....その鬼をどうするかと考えて....。」

「因縁?.......藤襲山.........あ、うぐっ......。」

 

 

炭治郎の話を聞き、私は原作の最終選別の話を思い出し、因縁の鬼とはどういうことか分かった。

 

あの鬼だ.....。自分を捕まえた鱗滝さんを憎んで、鱗滝さんの弟子達を殺し続けた手鬼のことだ。....いや、年号が変わっている!!と叫んだ鬼って言う方が分かりやすいか...まあ、どっちでもいいか....。

 

 

因縁の鬼が誰か分かって声を上げそうになったが、私は咄嗟に両手で口を塞いで、声を上げずに済んだ。今の私が手鬼のことを分かるのはおかしいから、叫んだら不自然だもんね......。

 

 

「...炭治郎は.....どうするの?その鬼の頸を斬りたいの?」

「そう、だな......。だが、それには鬼殺隊の最終選別を受けなければならない...。そうしたら、鬼殺隊に入らないといけなくなる....。」

 

 

ああ.....。確かにそうだね....。それにしても......鬼殺隊に入るのをここまで渋るなんて...一体鬼殺隊は何したの!?........これは考えても分からないから後回しにして......鬼殺隊に入らないで藤襲山に行って、手鬼の頸を斬る方法ね....。それなら...........

 

 

「.....炭治郎。成功するか分からないけど....その鬼の頸を斬りに行くことができるかもしれない.......。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「........随分と....顔つきが変わったじゃないか.....。」

 

 

雪が降っている日の中、私は錆兎と向かい合っていた。炭治郎と真菰は離れたところから私達の様子を見ている......。私は錆兎を見た。錆兎は私と戦う時はいつも木刀を持っていた....。しかし、今は刀を持っていた。

 

 

.....これって....原作で見たのと同じ展開じゃないかな......。ただ、錆兎と戦うのが私だということと炭治郎が真菰の隣で見ていることを除いて........。

 

 

「今日こそ勝つよ。」

 

 

私も錆兎も互いに刀を抜いて構えた。先に刀を振るのが速く、強い方が勝ちになる.......。

 

 

私と錆兎は同時に動いた。先に相手に刀が届いたのは........私だった。私が先に錆兎の狐面を斬った。錆兎の狐面が真っ二つに割れ、錆兎の顔が見えた。錆兎は笑っていた。悲しそうな.....嬉しそうな....安心したような顔だった。私が錆兎の顔を見ていると、足音が聞こえた。私が足音が聞こえた方を見ると、真菰がいた。

 

 

「...彩花。よくやったね。....今のを忘れないでね。......勝ってね....アイツに........。私達は彩花のことを信じているよ.....。」

 

 

そう言って私に近づいてきて......

 

 

「負けないでね....。.......あいつらにも...。炭治郎と禰豆子のことをお願いね。私達全員が見守っているよ.....。」

「....あいつら?」

 

 

去り際に真菰が私にだけ聞こえるくらいの声量でそう言った。私がすぐに振り返るが、真菰の姿はなかった。気づくと、目の前も錆兎の姿がなくなり.....真っ二つに斬られた大きな岩があった。私はそれを瞬きしながら見た後、炭治郎の方を見て笑った。炭治郎もそれに笑顔を浮かべて頷いた後、空を見上げた。私も空を見上げて、静かに目を閉じた。

 

 

 

錆兎の狐面を斬ることが...岩を斬ることができた.....。これもあの鍛練のおかげだ......。

 

私が水の呼吸とヒノカミ神楽の型を練習している時に気がついた。知っている型の中で一番動きがしっくり来る型はどれだろうと思い、やっているうちにそのことに気がついた。実は.....私が特にしっくり来る動きだと感じるのは、水の呼吸の拾ノ型の生生流転の回転しつつ連続で斬る動きとヒノカミ神楽の円を描くように斬る動きが一番しっくり来ることに気がついた。そこで、私は刀を回転させながら円を描くように回るような動きはどうかと考え、試してみることにした。鍛練ではバランスをとれるように不安定な場所などで素振りしてみたり(呼吸や型の練習もそこでしてみた)、目が回らないように何度も回ってみたり、刀を回してみたり、刀の回転のスピードを速くできるように鍛練したりなど......色々と...そんなことまでしなくてもいいんじゃないと真菰に言われるくらい鍛練をした。

 

その結果......無事に成功。思った通り、刀の回転が私の力不足を補ってくれた。

 

 

 

 

錆兎.....真菰...ありがとうね....。おかげで、岩を斬れたよ......。

 

 

 

 

しばらくすると...足音が聞こえてきた。私は目を開いて、足音が聞こえる方を見た。来現れたのは鱗滝さんだ。

 

 

「.......彩花。お前は凄い子だ。」

 

 

鱗滝さんは真っ二つに斬られた岩を無言で見た後、私の頭を撫でた。私はそれに照れくさくなって顔が赤くなりながらも炭治郎に視線を向けた。炭治郎も鱗滝さんの足音......というよりも匂いで分かっていたらしく、視線をこっちに向けていた。私は頷き、炭治郎も頷き返して鱗滝さんに話しかけた。

 

 

「鱗滝さん。俺と彩花は鬼殺隊に入りません。鬼殺隊に入らずに禰豆子を人間に戻しに行きます。」

「それは....とても険しいが...良いか?」

「はい!」

「構いません!」

「.....そうか。」

 

 

炭治郎も私も迷いはなかった。鱗滝さんも炭治郎と私が既に覚悟を決めていることは分かっているようだ。

 

....少し言いにくいけど......私が決めたことなんだよね.......。

 

 

「あの...鱗滝さん。少し言いにくいのですが....最終選別っていつですか?」

「何?......日輪刀なら宛がある。」

「いえ、そういうことではありません。鱗滝さんも覚えていると思います。藤襲山にあの鬼がいることを...。」

「まさか!その鬼の頸を斬るために.....。」

「はい!そうです!」

 

 

私の言葉に鱗滝さんは日輪刀を貰うためかと思ったようだが、炭治郎がそれを否定した。私と炭治郎が藤襲山に行こうとしているのは手鬼の頸を斬りに行こうと考えたからだ。

 

 

「....だが.....そのために、無理して関わろうとしなくとも.......。」

「いえ、関わる気はありませんよ。」

 

 

鱗滝さんがあの鬼の頸を斬るためだけに最終選別に行かなくてもいいと言おうとしたが、その前に私がそれを制止した。

 

まあ、炭治郎もそれで迷っていたからね....。

 

 

「それは一体.....」

「藤襲山って、普通に入れますよね?」

 

 

炭治郎に相談された時に、私は思ったの......。藤襲山って....一年中、藤の花が咲き誇っていて、その中に鬼が閉じ込められているけど.....その二つ以外は普通の山だよね.......。つまり、人の出入りは自由だ。それなら.........

 

 

 

「最終選別が始まる前に、藤襲山に行ってその鬼の頸を斬りに行こうと私達は考えています。」

 

 

 

 

 

 



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笹の葉の少女は藤襲山に行く

「....あれが...藤襲山ね.....。」

「......ああ....。」

 

 

私達は遠くから藤襲山を眺めていた。

 

私と炭治郎は鱗滝さんから最終選別のことを聞き、最終選別の日が近いことを知った。最終選別が始まる前に藤襲山に行きたい私達は渋る鱗滝さんをなんとか説得して、それから急いで走ってきた。ぎりぎり最終選別が始まる前日になんとか着くことができた。しかし、チャンスは今日だけなので、一晩で手鬼を見つけなければならない。次の日から最終選別が始まり、七日間は入ることができない。最終選別を受けている人達と鉢合わせになるからね...。私達もそろそろ旅に出ようと考えているし......。

 

 

「行こう。」

「うん!」

 

 

私達は鱗滝さんから貰った狐面をつけ、藤襲山に向かって走り出した。鱗滝さんが最終選別を受けるわけではないがお守りとしてと厄徐の面を作ってくれたのだ。ちなみに、炭治郎は原作通りの面で、私は左目の近くに葉の模様がある狐面だ。そして、藤襲山に着いたら....

 

 

「わあ...!」

 

 

私は辺りの.....一面に満開に咲いた藤の花の美しさに目を奪われた。アニメで見た時も綺麗だな...って思っていたけど.....実物はそれ以上に綺麗ね......!

 

 

「彩花....。気持ちは分かるが、今はそれどころじゃない。」

「...あっ!そうだった。」

 

 

炭治郎に話しかけてもらうまで、私は藤の花に見惚れていた。それから、私と炭治郎は藤襲山の中に入って手鬼を探していた。炭治郎と一緒に東に向かいながら襲いかかってくる鬼を斬っていった。明日には最終選別があるから、鬼をいっぱい斬るとバレてしまうので、バレない程度に....必要最低限に鬼を斬っていた。

 

 

「.....確か...この辺りのはずだ。」

 

 

確かに原作の炭治郎達が東に向かっていたら、男の人の悲鳴が聞こえて.....そこで手鬼に会ったんだっけ?....あれ?なんか炭治郎が場所とか色々と詳しいような......って!?また別の鬼が来た!今はそれより、鬼のことに集中しよう!

 

 

私と炭治郎が襲ってくる鬼の腕や脚などを斬り.....仕方がない時は鬼の頸を斬っていると........

 

 

「!....この匂いは!」

「炭治郎!」

 

 

前を走っていた炭治郎が何かを感知したようで、一気に走るスピードを上げた。私は炭治郎を追いかけようとしたが、とてつもない嫌な予感がして立ち止まってしまった。

 

 

.....何!?この気配!?....体中が逃げろって言っている!?さっきまで襲いかかってきた鬼達とは全然気配が違う!.......確か手鬼は五十人以上を食べていて、とんでもない匂いがしたんだよね.....。ということは....この気配が手鬼の気配!だから、炭治郎が走っていったのね...!炭治郎は大丈夫かな?怖いけど、追いかけないと!足、動け!

 

 

私は足をなんとか動かして、漸く炭治郎の姿が見えるところまで来れた。炭治郎は手鬼と戦っていた。私は炭治郎の加勢をしたいけど、どのタイミングで戦いに入ればと考えていると、炭治郎が手鬼の攻撃を受けて吹き飛ばされてしまった。

 

 

「炭治郎!」

「ん?もう一匹いたのか。しかも、俺の可愛い狐だ。お前も鱗滝の弟子だな。」

 

 

私が炭治郎の名前を呼び、そのせいで手鬼に私のことがバレてしまった。私はバレたならと体の震えを抑えようとしながら刀を構えた。

 

...怖い!今までの鬼より気配が禍々しくて.....体の震えが止まらない....。でも、動け!動かないと助からないよ!

 

 

私は恐怖で震える体に言い聞かせ、体を動かした。私は手鬼の腕を斬りながら手鬼の周りを駆け回る。理由は体の震えが止まらない状態じゃ手鬼の頸を斬ることは無理だから、慣れて体の震えを止めるためにと...吹き飛ばされた炭治郎の様子を見るためだ。

 

 

錆兎も真菰もこの鬼に殺された!恐怖で震えている場合じゃない!錆兎や真菰....犠牲になった人達......そして、もう犠牲者を増やさないためにも...!

 

 

私は体に何度も言い聞かせ、漸く体の震えが止まった。炭治郎も大丈夫そうだ。狐面があってどんな表情をしているか分からないが、大きな怪我はなさそうだ。よし、今から攻撃に転じよう。

 

私はそう考えると、すぐに刀を使って手鬼が伸ばしてくる手を斬りながら手鬼に向かった。

 

 

「華ノ舞い 日ノ花 日車」

 

 

私は日車で横に斬るような姿勢で手鬼の腕を斬った。

 

鬼と戦っていた時に、水車で炭治郎が横で斬ることができたのだから、日車も横で斬ることができるんじゃないかと思って試したらできたんだよね....。それと、鬼と戦った時に分かったんだけど、日車で斬られると痛みがないそうだ。鬼がそう困惑していたのだから、間違いないだろう...。まるで、水の呼吸の干天の慈雨みたいだ....。

 

 

私は刀を振りながら原作の内容を思い出していた。

 

確か、手鬼の頸って硬いんだよね......。頸を確実に斬れるように華ノ舞いの日車にしようかな.....。体に一番合っているから、そっちの方がいいかも.......。

 

私はそう考えて、また華ノ舞いの日車を使おうとした。けど........

 

 

「水の呼吸 弐ノ型 水車」

 

 

途中で思い返して、華ノ舞いの日車と似たような型の水車に変更して、手鬼の腕を斬った。

 

 

何故って?それは...錆兎と真菰の顔が頭の中に浮かんだからだ。.....それがどういうことかというと、錆兎や真菰....水の呼吸を使った兄弟子や姉弟子達がこの鬼と戦って負けたのに...私は体に合っている別の呼吸のようなものを使っていいのかと思ったのだ。変なプライドのようなものなのかもしれないが、私は手鬼を水の呼吸で倒した方がいいんじゃないかと思った。水の呼吸でも鬼の腕を斬ることはできるし、原作の場面も水の呼吸だからこそという感じがするし....。私は水の呼吸の型を全て思い出しながら何を使おうかと考えて、前に進んでいった。

 

 

「水の呼吸.....!?」

 

 

私が再び水の呼吸を使おうとすると、今いるところの地面からとても嫌な予感がして高く跳んだ。すると、先程までいた場所の地面から手鬼の手がたくさん現れた。

 

 

「空中なら逃げられまい!」

 

 

そう言って手鬼が手を伸ばしてくる。私はどうすればいいのかと考えながら刀を構えた。しかし、その前に私に向かって伸びてくる手鬼の腕が斬られて吹き飛んだ。炭治郎が戻ってきて手鬼の腕を斬ったのだ。私は炭治郎に助けられたことを知り、炭治郎への感謝と自分への悔しさが湧いてきた。

 

 

私は頑張って修行したのに、手鬼に負けそうになった.....。錆兎に勝ったことで少し慢心があったかもしれない......。油断しないようにしようと思ってたのに....。水の呼吸だけで勝とうだなんて、私には無理だ...。私は生きることと手鬼の頸を斬ることに専念しよう。華ノ舞いもヒノカミ神楽も使って.....。ごめんね.....。でも、絶対に勝つから!見ててね!錆兎!真菰!

 

 

「炭治郎!ありがとう! ヒノカミ神楽 円舞」

 

 

私は炭治郎が斬った手鬼の腕を踏み台にして前に進み、ヒノカミ神楽で手鬼の腕を次々に斬った。そんな私に向かって真っ直ぐに伸びてくる手を私が防ぐ前に炭治郎が頭突きで防いでくれた。

 

 

「炭治郎!そこ、通るよ!」

「ああ!」

 

 

私は炭治郎が弾いた手鬼の腕に跳び乗った。跳び乗ろうとした時に手鬼の手が伸びてきて、それを斬ったり弾いたりしていたが、一つだけ手鬼の手が掠って狐面の紐が切れ、狐面がとれた。狐面が落ちる音を聞きながらもそれよりもと思って前に進む。本来なら手鬼の頸を斬るはずの炭治郎には悪いけど、私がこの鬼の頸を斬ろうと思う。この鬼の頸を斬らないと、これからもっと強い鬼と戦う炭治郎と禰豆子の旅にはついて行けないし、修行をつけてくれた錆兎と真菰にも失礼だ。何より、錆兎と真菰との修行は無駄じゃなかったと証明したい!

 

 

「全集中!」

 

 

もう原作崩壊していると思うし、私が手鬼の頸を斬ってもいいよね?

 

私は手鬼の腕に乗って走りながら呼吸を使った。乗っていた手鬼の腕から複数の手が出てきて、私に向かって伸びてくる。

 

 

錆兎!真菰!大丈夫だから!絶対に手鬼の頸を斬るからね!

 

 

私がきっと見ているだろう錆兎と真菰に心の中でそう言った時、体の中が暑くなり、頭の中に水の呼吸の参ノ型の流流舞いと肆の型の打ち潮と玖ノ型の水流飛沫・乱が流れてきた。

 

 

「彩花!?左目の色が.....!?」

 

 

炭治郎が左目とか言っているが、今は聞いている暇がない。というより、立ち止まることすらできない!体が暑くて....軽くて.....!あの時のような感じだ!

 

私の体は伸ばしてくる手鬼の手を斬って進む。まるで水流の流れに乗っている感じがした。その流れに乗って、私はあっという間に手鬼の頸の近くまで来ていた。

 

 

「間合いに入られた!?だが、俺の頸は硬い。」

 

 

手鬼は自身の頸の硬さを信じ、私の頭に向けて手を伸ばした。

 

慢心だよ。私は貴方の頸の硬さに負けない!

 

 

 

「華ノ舞い 水ノ花 水仙流舞」

 

 

 

私の口が勝手に動いてそう言い、刀は水を纏い、体は縦横無尽に飛び回り、水流のような流れで舞いながら手鬼の腕を斬っていき、波のように手鬼の頸を斬った。

 

 

や、やったー!

 

 

「き、斬れた!」

 

 

私は手鬼の頸を斬れたことを喜びながら地面に着地した。

 

 

「炭治郎!斬れた!頸を斬ることができた!」

「ああ。....良かったな。」

 

 

私は炭治郎にそう言って炭治郎と合流した。そういえば、炭治郎の狐面が割れてないな。原作では割れてたけど.....。

 

 

「...悲しそうな匂い......。」

 

 

炭治郎がそう呟いて手鬼の手を握り、私も手鬼の手を握った。

 

 

お兄さんとあの世で仲良くね....。

 

私がそう思っている間に手鬼はだんだん灰になっていき、跡形もなく消えてしまった。

 

 

錆兎...。真菰....。みんな....。終わったよ.....。

 

私は空を見上げながら錆兎と真菰の顔を思い浮かべてそう伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「....彩花。ほら、厄徐の面。」

「ありがとう。」

 

 

私が落としてしまった面は炭治郎が拾ってくれていたみたいだ。あ、そうだった。炭治郎に聞きたいことがあるんだった。

 

 

「炭治郎。あの時、私は華ノ舞いって言っていたけど、どんな感じだった?私、刀が水を纏っていたことしか分からなかったから...。」

「ああ....。彩花は確か.....「あっ!擬音語はなしで。」....うーん。......なんというか.....水の呼吸の流流舞いと水流飛沫・乱に似た動きをしていたな...。けど、頸を斬る時の動きは打ち潮に似ていたな....。」

 

 

水の呼吸の流流舞い.....水流飛沫・乱......打ち潮.....どれも私の頭の中に流れてきた型だ...。日車の時と同じね......。

 

私は炭治郎にそう聞いて、炭治郎が説明しようとした時、私は炭治郎の擬音語の説明が分かりにくかったことを思い出し、すぐに言った。すると、炭治郎は少し考えてから似たような動きをしていた型について話した。私はそれを聞いて、日車の時と同じだと思った。

 

 

「......私の頭の中でもその三つの型が流れてきたよ。それも、その時に体が急に暑くなって、勝手に動き出したよ....。華ノ舞いもまた口が勝手に...。二年前の日車の時と同じね.....。あっ!炭治郎。あの時、左目の色とか言っていたけど、また痣が出て左目の色が変わったということでしょ?」

「あ、ああ....。」

 

 

私は体が勝手に動き始めた時に聞こえた炭治郎の言葉を思い出して聞くと、炭治郎から歯切れの悪い返事がきたので、私は首を傾げた。

 

 

「どうしたの?」

「いや...確かに彩花の左目の近くから左耳の近くのところに痣が出てたし、左目の色も変わったんだが....少し違うんだ。」

「違う?」

「ああ。左目の色が青色に変わったんだ。」

「えっ!?」

 

 

炭治郎の言葉に私は驚愕した。

 

えっ?青色.....?日車の時は緋色だったはずじゃ......。

 

 

「日車の時は緋色に変わっていたんでしょ。緋色じゃなかったの?」

「ああ。だから、俺も驚いたよ。彩花の左目が別の色に変わったから。何度も見たけど、あれは間違いなく青色だった。」

 

 

炭治郎の話を聞いて、私は左目の瞼に触れながら困惑した。

 

左目の色が違う.....?どういうこと?この左目は何なの?原作でも左目の色が変わるなんて話がないから、どういうことか分からないよ......。日車の時と今回は何が違うの?.............あっ!

 

 

私はあることに気づいた。日車と今回の違いが何かを.....。

 

日車は刀が炎を纏っていた......日ノ花と口に出していた.....。今回は刀が水を纏っていた....水ノ花と口に出していた......。炎と日で緋色...水で青色.....。つまり.......

 

 

「使う型によって、左目の色が変わるということなの......?」

 

 

私の呟き声が辺りに響いた時、空が少し明るくなってきた。まずい....。夜明けだ...。

 

 

「彩花!そのことは後で考えよう!今はここから出るんだ!」

「うん!」

 

 

私達は考えるのを後回しにして藤襲山から出ることを優先した。藤襲山の中を走っているが、鬼達の姿は見当たらない。もう夜明けが近いから、鬼も活動していないだろう......。私と炭治郎は藤襲山を抜け、狭霧山に帰るために走った。藤襲山を抜ける際に、私は藤の花をいくつか手に持って.....。だって、鬼用の薬を作るのに藤の花は必要だし、たくさんあったから、多いところを少しだけ......目立たないように採った。藤の花を勝手に採ってしまって申し訳ないけど.......手に持てる限りのものだし、この藤の花を無駄にしないので....どうか使わせてください.....。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「........狭霧山に着いたね...。」

「ああ....。そうだな。」

 

 

日が沈み始めた頃、私と炭治郎は狭霧山の麓に着いた。一晩寝ていなかったから眠いけど、もうすぐで着く......。

 

 

「彩花。これなんだけど...。」

「えっ?藤の花!?」

 

 

ここまでずっと走り続けていた炭治郎がいきなり立ち止まって、私に何かを差し出したと思ったら、炭治郎の手の中には藤の花があった。

 

えっ!?なんで炭治郎が藤の花を持っているの!?

 

 

「炭治郎、どうして藤の花を?」

「彩花が言っていただろう。薬を作る気だって言っていたから、藤の花があった方が良いんじゃないかなって思ったんだ。」

「...ありがとう。」

 

 

私が炭治郎に聞くと、炭治郎はそう言った。私の言っていたこと.....覚えてくれていたんだね......。私はお礼を言って炭治郎から藤の花を受け取った。....嬉しいな.......。材料が増えたのもそうだけど、炭治郎から何か貰えるなんて嬉しいよ。

 

 

「鱗滝さん!」

 

 

私と炭治郎は鱗滝さんの家に着いて戸を開けたが、鱗滝さんの姿はなかった。

 

 

「薪を取りに行ったのかな?.........炭治郎?」

 

 

私は家の中を見た後、いつの間にか日が暮れて夜になった外を見渡しながら炭治郎に聞いたが、炭治郎から一向に返事がないので、炭治郎の方を見ると、炭治郎が目を見開いて何かを見つめていた。私はそれに首を傾げ、炭治郎の視線を辿って炭治郎が見ていたものを見た。驚いて口を大きく開けてしまった。だって...本当に驚いたんだよ!ちょうど禰豆子が目を覚まして、体を起こしていたのだから!

 

 

えっ!?禰豆子が起きてる!?禰豆子が目を覚ますのは最終選別を終えた日の夜だよね!今は最終選別の一日目の夜だし.......って、私と炭治郎が一応藤襲山から帰ってきたから、禰豆子は目を覚ましたのかな?...うーん......。よく分からないけど....禰豆子が目を覚まして良かった!目を覚まさなかったらどうしようって少し不安だったから.....。

 

 

「禰豆子!」

「おにい、ちゃん!」

 

 

私がそんなことを考えている間に、炭治郎と禰豆子が互いを呼び合い、抱きしめ合っている。感動の再会だね!

 

 

「禰豆子...。良かった.....。また二年も眠っていたんだぞ...。心配してたんだぞ......。」

「そうね....。炭治郎、毎日不安そうだったから労ってあげてよ。禰豆子。」

「......そう言う彩花だって....禰豆子のことを心配して、禰豆子の横で草笛を吹いていたじゃないか。禰豆子の横にいる時の彩花は心配している匂いがした。」

「うっ.....言わないでよ...。恥ずかしいから.......。」

 

 

炭治郎が涙を流しながら禰豆子にそう言った。私もその様子を見て、炭治郎が禰豆子を心配していた様子を思い出して禰豆子に言うと、匂いで私が禰豆子を心配して、もしかしたら起きるんじゃないかと思って草笛を吹いていたことを炭治郎に話され、私の顔が真っ赤になった気がして下を向いた。禰豆子はそんな私の様子に気がついたのか、右腕は炭治郎を抱きしめたまま私に左手を伸ばし、私の頭を撫でた。私はそれに少し照れくさい感じがしたが、されるがままにしていた。すると、誰かに炭治郎と禰豆子ごと一緒に抱きしめられた感覚がした。顔を上げると、そこにいたのは鱗滝さんだった。

 

 

「....よくぞ......生きて戻った.....。」

 

 

鱗滝さんが天狗の面の下では泣いていることに気づき、大人しく何も言わずに抱きしめ返し、鱗滝さんの気持ちが治まるのを待った。

 

 

 

...ただいま....鱗滝さん.......。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、互いに落ち着き、家に入ることができた私達は手鬼の頸を斬ったことと私の華ノ舞いと左目のことを話した。鱗滝さんは私の華ノ舞いと左目の話に驚き、華ノ舞いと左目の色が変わることは何か関係があるかもしれないということ....今後、私の左目にまた何か変化があるかもしれないこと.....華ノ舞いもこれから型を思い出すようなことがあるしれないこと......それらのことで何か進展があったら知らせることなどを色々話し合い、私と炭治郎はとりあえずは一晩中走り続けたので、ゆっくり休むように言われた。

 

 

「.......彩花。」

「どうしたの?」

 

 

布団に入ってしばらくすると、炭治郎が声をかけてきた。私は少し眠くなってきたところだったが、返事をした。

 

......眠いから....早く話が終わると良いな.......。

 

 

「...前世って......信じるか?」

「....えっ!?」

 

 

炭治郎の言葉に私はドキッとし、驚きのあまり布団から飛び起きてしまった。本当に寝耳に水で、眠気なんて吹き飛んでしまった。

 

 

.....今、何て言った?

 

 

「ど、どうしたの?急に.......。」

「彩花。...彩花は俺のことも禰豆子のことも何かがおかしいと気づいていたけど、俺達に遠慮して聞かなかった.....。」

「う、うん....。幾ら何でもそんな様子になる原因を話したいとは思えないから.......。それに、話したくないことを私は無理に話させたくないから......。」

 

 

私は前世という言葉が出たことに動揺して心臓がドキドキしながらも炭治郎にそう聞いた。炭治郎と私が話している間に禰豆子が部屋に入り、話してあったかのように炭治郎の隣に座った。炭治郎も禰豆子も真剣な顔をしていた。一体何を....何を話そうとしているのだろう?

 

 

「彩花。ずっと気を遣って、俺達のおかしな様子に気づかないフリをしてくれてありがとう。だが、彩花もこれから俺達と一緒に行くからには話しておこうと思う。......俺と禰豆子が前世で何があったかを....。」

 

 

 

 

.......えっ?

 

 

 

 

 

 






華ノ舞い


日ノ花 日車

ヒノカミ神楽の火車のように刀身に炎を纏わせ、前方宙返りで背後に回り、その勢いで円を描くように斬る斬撃。火車と違って暖めるような炎で、この型で斬られると鬼は痛みを感じないらしい....。


水ノ花 水仙流舞

縦横無尽に飛び回って移動をおこない、水流のごとく流れるような動きから波を打つような斬撃を繰り出す。




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笹の葉の少女は前を知る

始まりは何だったんだろう........。

 

 

 

「ち、違う!」

 

 

 

信じていたのに.......。

 

 

 

「な、んで....。」

 

 

 

一体何が起こったのだろうか...。

 

 

 

「ど、どう、して.....。」

 

 

 

俺は.........

 

 

 

「どう.......して........!どう、して、ね、ずこを.....!」

 

 

 

何を間違ったのだろうか.......。

 

 

 

 

 

 

 

....俺は鬼舞辻無惨に家族を殺され、残された妹の禰豆子は鬼になってしまった...。俺は禰豆子を人間に戻すために鬼殺隊に入った。その中で同期の善逸と伊之助とカナヲと玄弥と友達になり、始めは鬼の禰豆子のこともその禰豆子を連れた俺のことも反対していた柱の皆さんにも認められ、親しくなっていた。俺も禰豆子も仲間達と協力し合い、強い鬼と戦って劣勢になっても諦めず.....色んな鬼達と戦って生き残ることができた。そして、禰豆子が日光を克服し、最後の戦いが始まった。鬼と鬼殺隊の全勢力をぶつけて戦い......

 

 

「これで終わりだ!鬼舞辻無惨!!」

「くっ....!おのれ!竈門炭治郎!!」

 

 

ついに鬼舞辻無惨を倒すことができた。俺が鬼舞辻無惨の封じることができ、鬼舞辻無惨は太陽の光を浴び、焼けて灰になっていった。

 

 

「や...やっと......無惨を倒した!!」

 

 

俺は無惨を倒したことを喜んだ。そして、無惨を倒したことを仲間のみんなに知らせようとした。仲間で力を合わせ、朝日が昇るまで無惨と戦って時間を稼いだ。無惨を倒したことで戦いは終わり、普通の生活に戻れる........はずだった.....。

 

 

「....お前は...誰だ?」

「.....えっ?」

 

 

仲間達が向けてきたのは俺に対する疑いの目と殺気だった。俺は困惑した。どうして仲間達が俺に疑いの目や殺気を向けてくるのか分からなかったからだ。

 

 

「....どう、したんだ...みんな.....?俺は炭治郎だ!」

「知らねえよ!」

 

 

俺が名乗っても仲間達は知らないと言い、俺を取り押さえた。どうやら俺から鬼の気配を感じるそうだ。俺が...違う!俺は鬼じゃない!人間だ!と叫んで抵抗すると...殴られたり蹴られたりされた。それでも、俺は何度も仲間達に話しかけるが、向けられるのは疑いの目だけで俺の話を聞いてくれない。俺はなんで、どうしてと訴えているが、仲間達からは罵られ、さらに殴られたり蹴られたりされた。そうしている間に、俺を殺す準備が整ったようだ。俺の敬愛していた兄弟子が刀を抜き、俺の首に刃を向ける。俺が義勇さんと名前を呼ぶと、義勇さんは黙れ、お前に呼ばれたくないと言い、刀を振り上げた。一緒に戦った親友も尊敬していた人も誰も助けてくれなかった。俺はそのショックで涙を流しながら刀を振り下げた義勇さんを見て、目を瞑った。

 

 

ザシュッ!

 

 

誰かが斬られる音がした。俺は斬られたんだと思った。....しかし、幾ら待っても体に痛みを感じなかった。周りからは仲間達の驚愕の匂いと...知っている人の.....大切な人の匂いと血の匂いがした。俺はその匂いに驚いて目を開けた。そこにいたのは........

 

 

「ね...ず.....こ......?」

 

 

俺の妹の禰豆子が....体中を真っ赤にして倒れた。それを見ただけで俺は分かった。禰豆子が俺を庇って斬られたということに........。

 

 

「お....にぃ...ちゃん.....。」

「禰豆子!」

 

 

弱々しく息をしている禰豆子が俺に話しかけてきた。右肩から斜めに斬られて...そこから血がたくさん流れている....。このままじゃ.....禰豆子が........せっかく....人間に戻れたのに........。

 

 

「ご...めん、ね.....。お、にぃ....ちゃん........。わた、しが、忘れてたから.....つらい、こと...ばかり、させて......。つら、かった、よね....。くる、しい...よ、ね.......。私...悔しいよ......。お、兄ちゃん...ばかり.....どうして....こんな目に、あうんだろう.......。」

 

 

禰豆子.....。謝りたいのはこっちだ。ごめんな....。兄ちゃんが駄目なばかりに大怪我を負わせてしまって.....。俺も悔しいよ....。こんな兄ちゃんで...本当にごめんな.......。

 

 

仲間達は禰豆子が俺を庇ったのを血鬼術のせいだと思ったようだ。俺と禰豆子を引き離し、俺を殴ったり蹴ったり.....刀で刺してきたりしてきた...。俺は腕や肩や脚を刺されながら再び仲間達に殺されそうになっているこの状況に絶望しかなかった。

 

 

同期や親友には疑いの目や殺気を向けられ.....尊敬していた人には罵られ......敬愛していた兄弟子には妹を斬られた。.........今も俺をすぐに殺さずに痛ぶっている.....まるで拷問じゃないか......。俺は....俺が...何をしたんだ.......。信じていた仲間にこんなことをされなければならないことを......俺はしたのか...?......俺は.......禰豆子を人間に戻して.....家に帰りたかったのにな...。なんでこんなことになったんだ......?禰豆子は大丈夫なのか?....血の匂いが濃いが.....まさか........。

 

 

 

しばらくして......拷問じみた時間が終わり、俺は再び刀を突きつけられた感覚がした。誰なのかは分からない....。俺は見ようともしなかった。誰が俺に刀を向けているかなんて見たくもなかった。悲しさで...何も見たくなかった。....何も受け入れたくなかった.....。目を開けても見えるのは残酷な現実ばかりだ。親友だと思っていた者達から疑いの目を向けられたこと.....尊敬していた者達から殺気を向けられたこと.......敬愛していた者に刀を向けられ、最愛の妹を斬られたこと......たった一人の家族である妹が死んだのではという予感.......そんな現実を頭の中に思い浮かんだ時、俺の中で何かが切れた音がした。妹の禰豆子のこと以外....もうどうでも良くなったのだ.....。そして、抵抗も動くこともできない俺は仲間の誰かに首を斬られ.......命を絶った......。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「....お...にぃちゃ........。」

 

 

私は首を斬られて亡くなっていったお兄ちゃんを見て、目の前が真っ暗になった。....お兄ちゃんが......鬼になった私を人間に戻すために頑張ってきたお兄ちゃんが亡くなった...。....殺された.......。目の前の.....信じていた......仲間だったはずの....あいつらによって!

 

 

「!...炭治郎!」

「起きて!......」

 

 

あいつらがお兄ちゃんに向かって何か叫んでいる.......。お兄ちゃんを殺した人達が....どうしてお兄ちゃんに近づいているの!一体何を叫んでいるの!これ以上、お兄ちゃんを傷つけないで!

 

 

「....うっ........!」

 

 

私はお兄ちゃんの隣に行きたかったが......体を上手く動かすことができない。私も肩の部分を斬られたから.......きっと....もう.....。

 

 

「禰豆子ちゃん!」

 

 

私の声が聞こえたみたい...。あいつらは私が危ない状態だということに気がついたらしい.....。あいつらが私に向けて伸ばす手を....私は叩き落とした。伸ばした手を叩き落とされて、あいつらは驚いたみたい。目を見開きながら私を見た。そんなあいつらに私は最後の力を振り絞ってこう言った。

 

 

「......このままで.....いい....。私は...お兄ちゃんを......お兄ちゃんを殺した人達に...治されたくない!」

 

 

私の最後の力を振り絞ってまで出した声......それがあいつらに届いたかどうかは知らないけど....あいつらは私にそれ以上手を伸ばさず、茫然と立ち尽くすだけだった。そうしている間に、私が最後に出した大声がきっかけなのか.....私の目の前が真っ暗になってきた。

 

 

お兄ちゃん...。せめて、たった一人の家族で....ずっと私を守ってきてくれたお兄ちゃんと.......最後まで一緒にいたかったな....。あいつらに最後.....引き離されちゃったから、ね...。でも......お兄ちゃんがいない...家族が誰もいない世界....そんな世界で一人になるのは.....私にはとても耐えられない.....。ごめんね......お兄ちゃん.....。...すぐにそっちに行くから.....ね.........。

 

 

私はお兄ちゃんのことを思いながら....静かに命を絶った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「........ということが....あったんだ.....。これが俺と禰豆子の前世の話だ。前世で俺と禰豆子は鬼殺隊の仲間達に何故か裏切られ......あいつらに殺されたんだ...。」

「........ぐすっ.....。」

 

 

炭治郎と禰豆子の話を聞き、私は思わず涙が流した。私は涙を拭いながら頭の中で炭治郎と禰豆子の話を整理していた。

 

 

....色々と思うところがあるけど.....まずは...炭治郎と禰豆子って、逆行者だったんだ......。でも、これで色々と納得した。鱗滝さんとの会話も....手鬼のことも...藤襲山で場所を把握していたことも.....。考えてみたら、ヒノカミ神楽が使えたことも.......錆兎と真菰ととても親しそうな様子も....機能回復訓練に近い鍛練も...他にも気になることがあった.....。あの時の話からして、鱗滝さんも逆行者なのだろう...。そして、炭治郎と禰豆子の過去が.....前世が重かった....思ったよりも重かった......。最後の鬼舞辻無惨との戦いが終わった後、まさか鬼殺隊とそんなことがあったなんて........。それは炭治郎が鬼殺隊に関わりたくないと言うのも分かるし、炭治郎と禰豆子が人間嫌いになるのも分かる.......。殴られたり蹴られたりされたら、鬼殺隊ではない私や他の誰かでもあの時のことを思い出してしまって、またやられるんじゃないかと思って怖いよね...。禰豆子もそれで炭治郎に私を近づかせないようにしていたんだと思う.....。真菰が言っていたあいつらは鬼殺隊のことだったということね.......。信じていた仲間に突然刀を向けられた時に感じた悲しみや苦しみ.....恐怖と絶望......その時の炭治郎の心中を考えると....私も心が苦しくなってきて、涙が出てきたよ.....。....うん?それって...真菰も逆行者だったりとかするのかな?....もしかしたら、錆兎も.......。

 

 

「炭治郎.....。もしかして、鱗滝さんも...真菰も錆兎も前世のことを知っているの?」

「ああ....。鱗滝さんも錆兎も真菰も二年前の.....俺達がここに来る何日か前に記憶が戻ったらしい...。」

 

 

あー。......つまり、錆兎と真菰が前世の記憶を思い出したのは亡くなった後のことだったのね....。

 

 

「.....彩花は俺達の話を信じてくれるのか?」

 

 

うん?....そうか。普通は前世の記憶のことを話しても...それを信じると言うとね.......。

 

 

「炭治郎が嘘をつけないのは分かっているし、前世の記憶が存在するのは分かっているからね。」

「えっ?」

 

 

炭治郎と禰豆子は私を信じて話してくれた...。それなら、私も炭治郎と禰豆子を信じて話しておかないとね......。

 

 

「炭治郎...。禰豆子....。実は、私も前世の記憶を持っているの.....。でも、炭治郎と禰豆子とは少し違うの。」

「!?前世の記憶を!!?」

「ちがうって?」

「私は令和という時代の....今から百年以上先の時代で生きた記憶があるの。」

「令和?....百年後!?」

 

 

私は自分にも前世の記憶があることを話した。炭治郎達が前世のことを話したのに、私は話さないなんて不公平でしょ!まあ。でも...漫画で知ったということは話さないでおこう.......。自分の人生が誰かによって作られたものだというのは嫌だし...腹立だしいよね........。今は私の話に困惑しているから、それどころの話ではなさそうだしね。

 

 

「私にとっては御伽話のようなものだったから...実際にこの世界に転生して、初めは本当にびっくりしたよ。」

 

 

私は生まれた時とここが鬼滅の刃の世界だと分かった時のことを思い出しながら笑ってそう話した。

 

嘘は言ってない。御伽話=漫画だからね。

 

 

「......彩花は未来から転生してきたのか.....?」

「....うん...。そうなるね.....。私のいた世界には過去に大正という時代があったから...。」

 

 

これも嘘ではない。実際に大正時代はあった。

 

 

「鬼のことも確かに村でお年寄りから聞いた話で知ったのもあるけど.....御伽話を読んでいたから、ある程度知っているのもあるよ。......黙っててごめんね。話しても信じられない話だし、未来のことを話して歴史を変えたくなかったから話せなかったの。でも、炭治郎達が話してくれたのだから、私も話しておこうと思ってね....。だけど、私のいた未来のことは聞かないでね。未来のことを話して歴史やその未来が変わってしまうのはちょっとね.....。」

 

 

私の話を区切りに、...炭治郎も禰豆子も黙ってしまった.....。

 

....どうしよう...。この際にと思い切って話したけど.......やっぱりまずかったかな......。

 

 

「...彩花。一つだけ未来の話を聞いていいか?」

「えっ!?.......いいよ。」

「ありがとう。....彩花のいた未来では...鬼はいないのか?」

 

 

あっ。....そうだよね......。炭治郎達にとって、未来では鬼がいないのかどうかというのが.....一番気になることだよね.......。

 

 

「.....私の知った限りでは鬼はいないよ。鬼はもういないって書いてあったからね....。」

「.......そうか...。」

 

 

私の話に炭治郎は少し嬉しそうな様子だ。

 

私の話は嘘ということではない。私のいた世界では鬼はいないからね。それに、私の知る限りだと....最後の戦いが終わってからの話が鬼のいない世界っていうタイトルだったはずだから、鬼はいなくなったはずだ。.........と言っても、私は最終話を見ていないから、もう鬼がいないっていうことが確定していないのよね......。...なんで私は最終話を見ていなかったのだろう.....。いや、最終話を見る前に亡くなっちゃったからね.......。

 

 

「彩花....。話してくれてありがとう......。」

「ううん。こっちこそ、私に話してくれてありがとうね。」

 

 

炭治郎の言葉に私はそう言った。

 

私はともかく.....炭治郎と禰豆子は仲間に裏切られた辛い記憶なのに私に話してくれた。話してくれた炭治郎と禰豆子に感謝したいくらいだよ....。私は少し誤魔化しているところがあるから罪悪感が.......。それに、その話を聞いてやっと分かったよ...。明らかに原作と変わっているっていうことがね....はっきりと分かったよ!

 

 

「持っている記憶は違うけど、同じ前世の記憶を持つ者同士、一緒に頑張ろうね。」

「ああ。.....それと....彩花。草笛を吹いてくれないか?なんかまた見そうなんだ......。」

「うん。いいよ。」

 

 

私は炭治郎の頼みを快く引き受けた。実は、炭治郎は初めて会った時から時々悪夢見ていた。最初は熱が出ていたから、高熱の影響かなと思っていたのだけど、修行中も悪夢を見るので、これは別に原因があるなあと思っていた。何故炭治郎の寝る前に草笛を吹いているのかというと、初めて会った時に眠れないのなら気分転換にと私が草笛を吹いたことがあったんだけど......その時は悪夢を見なかったらしいの。それで、もしかしたらと思った炭治郎に悪夢を見て苦しんでいる時に草笛を吹いてくれと頼まれて草笛を吹いてみたら、炭治郎は落ち着いた寝ていたの。それ以来、炭治郎は私の草笛を積極的に聞きたがるようになった。本当に音って凄いよね...。

 

 

あと、悪夢の件はおそらく前世の時の亡くなる前のことを見ているのではないかと私は思っている。悪夢を見る時に、炭治郎はどうしてと言いながら涙を流して苦しんでいるので、先程聞いた前世の話と一致しているところがある。

 

 

「今日は......紅蓮華にしようかな....?」

「うん。その曲が、いい!」

「はいはい。」

 

 

私は戸からちょうど取れる場所にある葉っぱを取って、葉っぱを折りながら紅蓮華を吹こうかと言うと、禰豆子は楽しそうにそう言った。紅蓮華も何度も吹いていたんだよね......。結構難しかったけど.....。まあ。それは置いといて、炭治郎から聞いた前世の話に戻すのだけど..........

 

 

 

明らかに原作崩壊しているよね!本当にこの世界で一体何が起きているの!!前世の記憶とか....私、原作の皆さんが逆行した世界に来ちゃったの!もう!私は完全な部外者だし、鬼滅の刃の世界に転生したと分かった時は何でって思ったけど...原作の皆さんが逆行した世界って.....もはや私、転生する世界を間違っていませんか!って思うくらいだよ!

 

 

 

思った以上に原作崩壊し過ぎているこの世界に、私はどうしてこの世界に転生しているのかなと思った。でも、早く吹いてと言っているみたいに目を輝かす禰豆子とそれを笑って見ている炭治郎を見て、叫び出したいほどの気持ちもだんだん落ち着いてきた。

 

 

 

 

........たとえ、どんな世界でもこの世界で私は生きると決めた。それに、嫌だとか間違っていませんかとか言っても変わるわけない。どんな世界でも、私はしっかり生きて行くよ。

 

 

 

私はそう心に誓い、草笛を吹き始めた。

 

 

 

 

 

 



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笹の葉の少女はこの先を知らない

 

 

 

前世のことを話してから、私と炭治郎は日輪刀が来るまでの間、鍛練をした。この鍛練は素振りなどの基礎だけではなく、私の華ノ舞いの水仙流舞をものにするためなのと全集中の呼吸・常中を習得するための鍛錬を主にした。華ノ舞いの水仙流舞を習得するのはともかく、全集中の呼吸・常中は早いんじゃないかと思ったのだけど、炭治郎が、もしかしたらできるかもしれないし、使える方が良いからと言われて、習得することになった。

 

 

 

まあ。炭治郎には勝てないけど、機能回復訓練に近いものはしているからね......。鬼ごっこで炭治郎と禰豆子を相手に鬼と逃げる方をやったり(禰豆子は体力が全然消耗しないので、前よりもかなり厳しい鬼ごっこになった...)、大岩を二つ縄で括って持ち上げる鍛練をしたり(そのうち、私が岩に押し潰されそう.....)、寝る時に全集中の呼吸を止めてしまったら、禰豆子に蹴り起こされたりなど......色々あり過ぎたよ.....。でも、その鍛練の成果もあって、思ったよりも早く習得することができた。ついでに言うと、華ノ舞いの水仙流舞も使えることができた。鱗滝さんが言うには、私は元々呼吸を使うのが上手いから早く習得できたのだろうとのことだそうです。

 

 

あと、炭治郎と刀の打ち合い稽古もしているんだけど......お察しの通り、私は全戦負けています....。というか.....二周目の炭治郎に私が勝てるわけないでしょ!

 

 

 

 

 

 

そんなことがありつつ....十数日が経った。

 

 

 

チリーン!

 

 

 

私と炭治郎がいつものように鍛練していると、風鈴の音が聞こえた。

 

 

「うん?この音は......風鈴?」

「.....この匂いは!?」

 

 

私と炭治郎は風鈴の音が聞こえ、音のする方を見ていた。私は姿が見えなくて誰なのか分からなかったが、炭治郎には鼻で誰なのか分かったらしく、その人物に驚いた様子だった。

 

 

「......漸く来たか。」

「鱗滝さん?」

「鱗滝さん、あの........。」

「あやつは信頼できる。あやつしか日輪刀を頼めないだろう......。」

「はい!」

 

 

その人を呼んだのは鱗滝さんだった。炭治郎は鱗滝さんにどうして呼んだのかと聞こうとしたが、その前に鱗滝さんに先を言われ、鱗滝さんの言葉に炭治郎は笑って返事をした。私は鱗滝さんと炭治郎の会話と見えてきた人の姿を見て、やっと誰を呼んだのか分かった。

 

 

「鋼鐡塚さん!」

 

 

鋼鐡塚さん.....炭治郎の日輪刀を何度も作った人だ。...確かに、炭治郎の刀は鋼鐡塚さんにしか頼めないよね......。

 

私は炭治郎が鋼鐡塚さんに駆け寄っていく姿を眺めながらそんなことを考えていると.......

 

 

「貴様ぁ!」

 

 

鋼鐡塚さんが叫声を上げて炭治郎にプロレス技をかけていた。......いや、なんで!?

 

 

「鋼鐡塚さん!」

「貴様ぁ!どういうことだぁ!」

「炭治郎!ちょ、ちょっと!鋼鐡塚さん!?止めましょうよ!」

 

 

鋼鐡塚さんは炭治郎に叫びながら力をさらに込め、私は炭治郎から骨が折れそうな音が聞こえ始めたので、さすがに止めに入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鋼鐡塚さん!心配してくださっていたのは嬉しいことなのですが、もう少し落ち着いてください。」

「うるせぇ!」

 

 

あの後、鱗滝さんも一緒に間に入ったので、漸く鋼鐡塚さんも落ち着いてくれた。鋼鐡塚さんも前世の記憶を持っているようで、今世では炭治郎と禰豆子のことを凄く心配していたそうだ。そして、私達が最終選別が始まる前に藤襲山に行った時に、鱗滝さんが鋼鐡塚さんに炭治郎が鬼殺隊に入らずに個人で鬼狩りをすることを伝え、そのために炭治郎とその旅について行く私に日輪刀を作ってほしいと頼んだそうだ。......そういえば....鱗滝さんと鋼鐡塚さんは仲が良かったっていう話だったよね...。....それで、本当ならもう少し早く届けられるはずだったが、炭治郎のために満足できるまで刀を作ったせいで遅くなって、十数日が経ってしまったそうだ。鋼鐡塚さん、炭治郎の刀を作るのに凄くはりきったのですね.....。

 

 

 

......と、私は炭治郎の骨が無事なのか確認し、炭治郎の手伝いでみたらし団子を作りながら聞いていた。結果、炭治郎の骨は無事でした。ちなみに、炭治郎がみたらし団子を作った後、材料が少し余っていたので、炭治郎と鱗滝さんにお願いして笹団子を作ることができました!やったー!久しぶりに笹団子を作ることができた!

 

 

「...これがお前の日輪刀だ。」

「ありがとうございます!」

 

 

鋼鐡塚さんがみたらし団子を受け取ってから炭治郎に日輪刀を渡し、炭治郎は頭を深く下げて受け取った。炭治郎は受け取った刀をすぐに鞘から抜いた。すると、炭治郎の日輪刀は黒色に染まっていった。日輪刀は日光が蓄えられた鋼、猩々緋砂鉄と猩々緋鉱石を原料に作られた刀で、持ち主によって色が変わり、刀としての特性も変わる。別名も色変わりの刀と呼ばれている。

 

 

「綺麗....!」

「フン。」

 

 

私は炭治郎の刀が漆黒に染まる様子に感嘆の声を上げ、それに対して、鋼鐡塚さんは不機嫌そうにみたらし団子を頬張っていた。

 

鋼鐡塚さんは赤色の刃が見たかったらしいけど.......これはこれで良いと思うのにな....。黒色に染まっていくのも綺麗だと思うよ.....。

 

 

「おい!お前の日輪刀だ。真っ赤な刃になるとは思えないが、早く抜け。」

「まあ.....。」

 

 

そんなことを言われなくても分かってますよ。.....絶対に赤くならないと思う...。いや、炎を纏っていたし....でも、あれはどちらかと言うと炭治郎のヒノカミ神楽の方が近いから...黒色になるのかな.......。けど、水も纏ってたから......青色?.....というか...それよりも日輪刀の色を変えられるかな?........変わらなかったらどうしよう.....。赤色と違う色になったよりもそっちの方が怒りそう....。.......一度考えたら、だんだん不安になってきた......。一旦落ち着こう。大丈夫。大丈夫だ.......。

 

 

私は鋼鐡塚さんから受け取った日輪刀を手に持ち、気持ちを落ち着かせるために深呼吸をしてから刀を抜いた。しかし、抜いた日輪刀の色がなかなか変わらず、私が駄目なのかとショックを受けていると、日輪刀の色が変わり始めた。私の持っていた日輪刀はガラスのような無色透明に変わり、薄らと葉の模様が刀に浮かび上がった。

 

 

「.....透明...?」

「まるでガラスみたいだ.......。」

「綺麗だね...。」

「初めて見る色だ.....。」

「.........。」

 

 

私は目を見開いて無色透明に変わった日輪刀を凝視し、炭治郎も禰豆子も鱗滝さんも鋼鐡塚さんも私の日輪刀を見つめている。

 

 

....うん。初めて見る色だっていうのは分かりますよ...。私だって無色透明な日輪刀、初めて見ましたよ!えっ!?無色透明な日輪刀なんて、原作ではなかったよね....。無色透明って.....何の呼吸が適正なの?......あっ!もしかして、華ノ舞いと何か関係があったりして.....。....まあ...確かに無色透明な日輪刀は綺麗だし、葉の模様も合わさってやっぱりガラスのように見えるよね......。

 

 

 

私は日輪刀を見つめ、気持ちを落ち着かせるために大きく深呼吸をしようとした。しかし、少し混乱していたのか間違えて水の呼吸を使ってしまった。すると、私の持っていた日輪刀が青色に変化した。

 

 

「えっ!?」

「「「「!?」」」」

 

 

それを見た私も周りにいた炭治郎達も驚いて私の日輪刀を凝視した。私が驚きのあまり水の呼吸を止めると、刀は元の無色透明に戻った。

 

 

.......無色透明だったはずなのに...水の呼吸を使った途端.....もしかしたら....!

 

 

「ヒノカミ神楽.....!」

 

 

私は試しにヒノカミ神楽を使ってみた。すると、今度は炭治郎のような黒色に変化した。私がまた呼吸を止めると、日輪刀の色は元の無色透明に戻った......。

 

.....やっぱり....呼吸によって、日輪刀の色が変わるのね...。

 

 

「....如何やら呼吸によって日輪刀の色が変わるみたいですね.....。」

「ああ....。儂も使う呼吸によって色が変化する日輪刀のことは...見たことも聞いたこともなかった.....。」

「...華ノ舞いだと....色はどうなるんだ?」

 

 

私が日輪刀の色の変化のことを呟き、鱗滝さんが私の日輪刀を凝視しながらそう言った。隣にいた炭治郎の言葉を聞き、私は確かにと思い、華ノ舞いを使ってみることにした。水仙流舞は習得したばかりだし、ここは家の中なので、何かに当たらずに動けそうな日車で試すことにした。すると、日輪刀はヒノカミ神楽の時のような黒色に染まり、ヒノカミ神楽と同じなんだな......と私は思っていたのだが.....

 

 

「日輪刀、模様、違う!」

「...えっ?」

 

 

よく見ると......葉の模様まで変わっていた。無色透明だった時は普通であまり特徴もない葉だったが、今は葉の形が変わり、葉と葉の間に向日葵の花があった。私が驚いてまた呼吸を止めると、さっきまであった模様の向日葵の花は無くなって葉の形も戻り、色も無色透明に戻った。もう一度ヒノカミ神楽を使うと、日輪刀の色は黒色に変わるが、葉の形はそのままで向日葵の花もなかった。ちなみに、外に出て水仙流舞の方も試すと、日輪刀の色は青色に変わり、日輪刀の模様も葉の形が変わって葉と葉の間に水仙があった。その後、水の呼吸を使ってみたが、水の呼吸も色は青色に変わるが、ヒノカミ神楽の時と同様に模様は変わらなかった。

 

 

「.......華ノ舞いを使った時は日輪刀の色も模様も変わり...水の呼吸やヒノカミ神楽は色だけ変わるのね....。」

「.......儂もこんな事例は初めてだ.....。」

「俺も聞いたことがありません。」

 

 

一通り試した後、私達は話し合い、頭を悩ませた。

 

呼吸によって刀の色が変わるのは幾ら何でも分からないよね....。だって、こっちが聞きたいくらいだよ!原作でもこんな設定はなかったし、どういうことか私も分からないよ!なんで私の日輪刀は無色透明で、呼吸に反応して色が変わるの!なんで華ノ舞いを使う時は模様も一緒に変わるの!もう!意味が分からなくなってきたよ!原作とは明らかに話が変わっているし、ここまで原作崩壊していると、意味が分からなくなってくる......。

 

 

「.......。」

「え、えーと...鋼鐡塚さん.....?」

 

 

一方、鋼鐡塚さんは私達と違って黙ったまま私の日輪刀を見つめていた。

 

....私、刀を折ってないし、刃こぼれとかもしてない。......そうなると.........やっぱり、私の日輪刀の色が原因かな......。鋼鐡塚さんは赤色の刀が見たかったわけだし....。

 

 

「おい!」

「は、はい!」

 

 

鋼鐡塚さんに突然声をかけられ、私は姿勢を正して返事をした。

 

 

なんか鋼鐡塚さん........興奮していませんか.....?

 

鋼鐡塚さんの興奮している様子を見て、私は首を傾げた。

 

 

「お前!刀の色を変えられるなら、赤い刃にしろ!」

「ええっ!?」

 

 

いや、無茶だよ!呼吸によって日輪刀の色が変わるのだから、私が使えるのは水の呼吸とヒノカミ神楽なので、青と黒色以外無理です!赤色ということは炎の呼吸を使えないと!...というより、私に炎の呼吸の適正があるかどうか分からないし、他の呼吸を使っても刀の色が変わるかどうかも分からないから!

 

 

「いや.....無理ですよ....。」

「さっさと赤く染まった刃......赤い刃を見せろ!」

「ひっ!?」

「わわっ!止めてください!鋼鐡塚さん!」

 

 

私が無理だと答えると、鋼鐡塚さんは私に飛びかかり、私は悲鳴をあげながらもすぐに後ろに下がって避け、炭治郎が私と鋼鐡塚さんの間に入ってくれた。その後、さらにヒートアップした鋼鐡塚さんを炭治郎と禰豆子と鱗滝さんが宥め、漸く鋼鐡塚さんが少し落ち着き、珍しいものが見れた、次は赤い刃を見せろと言って、まだまだ興奮した様子のまま帰っていった。

 

 

......なんか...凄く疲れた....。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鋼鐡塚さんが帰った後、いよいよ出発ということで準備をすることにした。私は二年前に村の人達に貰ったものの中で着れる大きさの着物を着ることにした。上が若菜色の明るい黄緑色の着物を深緑色の袴の中にインして着た。村の人達が言ってた通り、軽いが丈夫な布でできているようだ。その上に笹の葉の羽織を着て、着替える前に肩くらいの長さに揃えた髪を赤い紐で一つに結んだ。

 

 

「....どうかな?」

「良い、と思う!」

 

 

私が着替えた着物を禰豆子に見せると、禰豆子には好評だった。

 

.....似合っているなら...良かった......。次は.......

 

 

「禰豆子。この袴、禰豆子に似合うと思うよ。」

「いい!」

「でも、禰豆子の蹴りを見ていると.......心配になるのよね........。いつか......って....。」

「だい、じょうぶ!」

「.....そう...。」

 

 

私は村の人達に貰った袴の中から禰豆子に一つあげようと思ったが、禰豆子に拒否された。

 

その袴をあげようとしたのは禰豆子に似合いそうというのも一つ目の理由だが.......他にも理由がある。それは....心配というか...不安というか......禰豆子が脚を大きく振り上げているから...原作では描かれていなかったけど......現実だとあり得そうだからこそ........心配なのですよね...。敢えて何かは言いませんが!

 

 

私は禰豆子を説得しようとするが、禰豆子は大丈夫だと言って聞かなかった。

 

 

.....まあ。原作で描かれていなかったから大丈夫だと信じることにしたよ....。それにしても、禰豆子も炭治郎の妹だからか頭が堅いね......。

 

 

「...うーん.......。薬を持って行きたいのだけど......どうしようかな.....?」

 

 

それと、今、私の目の前にある問題はこれだ。薬をどうやって持っていくかだ。薬の量も薬を作るための道具も合わせると結構多い....。何か籠や箱のようなものに入れておかないと......絶対持ち運べない!少量ならなんとかなるが...薬も道具も全部だとね........。

 

 

「.....どうやって薬を持ち運ぼうか.......。...うーん....。」

「彩花。」

「はい。」

 

 

私が薬の持ち運びに悩んでいると、鱗滝さんに呼ばれた。私は一旦考えるのを止めて鱗滝さんの方を向いた。

 

 

「旅の準備はどうだ?」

「着替えも済み、後は荷物を纏めるだけなのですが.....薬や薬を作る道具が多くて....どう持っていこうかと悩んでいたところです。」

「.......あれほど多いと、どこに持っていっても戦いの邪魔になる。.....そう思ってこれを用意しておいた。」

「へっ?」

 

 

私が首を傾げていると、鱗滝さんが私の目の前に何かを出した。それは........

 

 

「....せ、背負い箱?」

 

 

私は鱗滝さんに渡された背負い箱を見て、表情には出せないようにしたが、心の中では凄く驚いた。なぜなら、その背負い箱は....原作で炭治郎が禰豆子を連れて行く時に使っていた背負い箱と同じ物だったからだ。

 

 

.....えっ!?なんで!?なんであの背負い箱がここに......!?炭治郎に渡すはずの物じゃ....あっ!禰豆子が日光を克服しているから、炭治郎が背負い箱を持つ必要ないじゃん!.....それで、私が作った薬やその道具を収納するための箱として使うことになったと。....まあ。この背負い箱は軽いうえに丈夫だから、薬の持ち運びが少しは楽になるし、鬼との戦いで薬やその道具が壊れる可能性も少なくできるということね.......。

 

 

「...ありがとうございます!」

 

 

私はお礼を言ってありがたく背負い箱を受け取った。ちなみに、その背負い箱に私の薬や薬を作る道具も全部綺麗に入れることができました。やったー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「....では、行きます!」

「ちょっと待ちなさい。」

 

 

私達は準備を整え、これから出発しようとした時、鱗滝さんに待つように言われ、立ち止まった。私達が止まっている間に鱗滝さんが炭治郎の着物や私の着物を整えた。炭治郎と私の着物を整えると、炭治郎の肩を軽くニ、三回叩き、私と禰豆子の頭を撫でた。鱗滝さんが無言で頷き、私も炭治郎も禰豆子も頷き返した。私達は鱗滝さんに一通り手を振った後、狭霧山を出て行った。

 

 

「彩花。さっき作っていた笹団子....。」

「あっ!駄目!」

「......本当に彩花は笹団子が好きなんだな。」

「うん。前世の頃からの私の大好物だからね」

 

 

私は炭治郎が笹団子の話をするだけで拒否し、炭治郎はそんな私の様子に苦笑いを浮かべていた。

 

....ごめんね。私、他の食べ物ならあげれるけど、大好物の笹団子をあげるのはちょっと......

 

 

「...うーん.......。凄く良い匂いがしたんだが......今度、俺が笹団子を作るから、俺達も少し食べて良いだろうか?」

「.....それなら.......。」

 

 

私は炭治郎にそう言われ、渋々頷いた。

 

だって、炭治郎は料理が美味いから.....。炭治郎の作った美味しい笹団子を食べてみたいからね......。

 

 

私は炭治郎と禰豆子と話したり笹団子を渡したりして歩いていた。

 

 

.....そういえば...私達、旅に出るのが少し早いよね....。原作では最終選別が終わってから十五日後に日輪刀が来て、任務も来たから.....私達は最終選別の一日目から十数日後に旅に出ている。つまり、原作よりも早いということね....。もしかしたら、里子さんは間に合うかもしれない.......。というか.....和己さんは前世の記憶とか持っているのかな?鬼は覚えていないみたいだったけど、炭治郎や禰豆子、鱗滝さんと錆兎と真菰と鋼鐡塚さんは覚えていたから、人間は覚えているのかな......って思ったのだけど............うん?

 

 

私はそこまで考えて、あることに気がついた。

 

.....これはあくまで仮定なんだけど....鬼殺隊の皆さんも...もしかしたら前世の記憶を持っているのかもしれない....。確証はないけど、炭治郎、禰豆子、鱗滝さん、錆兎、真菰、鋼鐡塚さんと会った原作の人達みんなが覚えているのだから...あり得るのかもしれないけど.......まさか...ね........。

 

 

「....彩花?大丈夫か?」

「あっ。...うん。大丈夫だよ。」

 

 

私のその様子が匂いで分かったのか、炭治郎は心配そうに私を見ていた。私は炭治郎の声で現実に戻り、炭治郎にそう返事をした。

 

 

旅がこれからどうなるかなんて、今考えても何も分からないからね.....。前世の記憶があろうと無かろうとも...大変な旅になるのは変わらない。....でも、前世の記憶を持っている人が他にもいたら...色々ややこしいことになりそうだな.......。まあ、それに関しては....私にはどうにかできそうにないけど...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......行ってしまったか...。」

 

 

一方、鱗滝さんは炭治郎達の姿が見えなくなってもその方向を見つめていた。

 

 

「カァー!」

 

 

その時、一羽の鴉が鱗滝さんのところに飛んできた。その鴉は鱗滝さんの腕に止まり、一通の手紙を渡した。鱗滝さんはその手紙を読み、少し経ってため息を吐いた。

 

 

「.......見ての通り、ここには儂以外に誰もおらん。そう伝えておくれ。」

 

 

鱗滝さんはそう言うと、鴉の頭を撫でた。鱗滝さんの話を聞くと、鴉は鱗滝さんの腕から離れ、家の周辺を一周飛び回り、どこかへ飛び去っていった。鱗滝さんはそれを見た後、再びため息を吐き、炭治郎達が行った方向を見た。

 

 

「...義勇から手紙が届いた。儂の家に誰かいないかと......。誰もいないとは伝えたが、これは一時的な時間稼ぎにしかならん。いつか会うことになるだろう....。炭治郎と禰豆子はあの様子ではまともに話もできぬだろう...。すまぬが、彩花.....炭治郎と禰豆子を頼んだ。」

 

 

鱗滝さんはそう呟いた後、家に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「御館様の御成です。」」

「やあ。私の可愛い子ども達。」

 

 

二人の少女の声と同時に一人の男性が部屋の中に入ってきた。男性の前には九人の男女と四人の少年少女達がひざまづいていた。御館様と呼ばれた男性、鬼殺隊の当主であり、父でもある産屋敷耀哉はその場にいる全員に声をかけた。

 

 

「今回は炭治郎と禰豆子の件で集まったのだけど、前とは違うんだよね。義勇。」

「はい。二年前、俺は竈門家に向かいましたが、俺が来た時には炭治郎と禰豆子の姿はなく、他の家族は既に埋葬されていました。おそらく、今回もまた鬼舞辻が竈門家を襲い、炭治郎と禰豆子が亡くなった他の家族を埋葬したかと。」

 

 

会議が始まり、御館様が端の方にいる義勇に話しかけると、義勇は淡々とその時のことを報告し、目を閉じて二年前のことを思い出していた。二年前のあの時、冨岡義勇はその日の朝に前世の記憶を思い出した。その後すぐに竈門家に向かったが、既に竈門家は鬼舞辻に襲撃され、炭治郎と禰豆子の家族は殺されていた。それだけではなく、炭治郎と禰豆子の姿も周囲にはなく、すぐにその周辺を探したが、炭治郎と禰豆子を見つけることはできなかった。

 

 

「....最終選別にも炭治郎の姿はないと聞き、俺はすぐに俺と炭治郎の師である鱗滝さんに連絡を取りましたが、誰も来ていないとのことです。鎹鴉も確認したそうですが、鱗滝さん以外誰もいなかったそうです。」

 

 

義勇の話を聞き、御館様は何かを考えている様子だった。他の者達は顔を曇らせていた。何故、炭治郎と禰豆子を捜しているのか?...それは炭治郎と禰豆子に謝るためだ。かつて.....前世で犯してしまった自分達の罪を謝罪するために......。

 

 

「.......実は今回集まってもらったのは炭治郎と禰豆子の件とは別に他の件でも呼んだ。....この件はみんなにも聞いてほしい。」

「御館様。失礼ながらその別件とは何でしょうか?」

 

 

御館様の言葉にその場にいた者達は話の先が気になった。御館様が話したいということはそれだけ重要なことだからだ。

 

 

「最終選別の前の日に、藤襲山に何者かが侵入したらしいんだ。」

「藤襲山に!?」

「だが、あの山には鬼が閉じ込められている。一般人が入れば鬼の餌になる。見張りの奴らは何をしていた。」

 

 

藤襲山に侵入した者がいたことに全員が驚いた。最終選別を行う場所である藤襲山には鬼がいる。しかも最終選別の前日なので、鬼はたくさんいたはずだ。一般人がその中に入れば藤襲山にいる鬼達に食われてしまう。しかし、御館様の話はその場にいた全員の予想とは全く別のものだった。

 

 

「それがね。......その侵入した者は見張りの子達の隙をつき、藤襲山の中に入り、戻ってきたそうだ。」

『!?』

 

 

御館様の言葉に全員はまた驚いた。藤襲山に入り、戻ってくるとは一般人ができることではないからだ。

 

 

「どういうことですか?」

「.....気づいたのは最終選別が始まる日の朝だったそうだ。藤襲山の中に入っていく足跡を隠が見つけたみたいなんだ。見つけた隠が慌てて中を確認したが、侵入した者の姿もその遺品らしき物もなかったそうだ。足跡を辿っていくと、藤襲山の外に着いたところで足跡が途切れたそうだ。それに、侵入した者の血痕らしきものもなかったそうだ。このことから私は最後選別の前日に藤襲山に入った者は生きていると考えている。」

 

 

御館様の話に全員が納得したと同時にある疑問が出てきた。藤襲山に侵入した者は一体何をしにきたのだろう?と。

 

 

「藤襲山に侵入した者は何を.......。」

「侵入した者達の目的は私も分からないよ。ただ、出ていく時に藤の花がいくつか採られたような形跡があった。一見、分からないようにしていたが、明らかに人の手によるものだったそうだ。」

「侵入した奴の目的は藤の花か?....いや、それじゃ中に入る意味はないよな.......。」

 

 

全員が侵入した者の目的について考えていると、突然猪の被り物を持った少年があることを聞いた。

 

 

「.....達と言っていたが、一人じゃねえのか?」

『!?』

「その通りだよ。足跡は二種類あったんだ。しかも、二人の足跡は両方とも大人より小さいことから子どもだと思うんだ。」

 

 

その話に九人は絶句し、四人の少年少女は互いに顔を見合わせた。

 

 

「何か気になることがあるのかな?」

 

 

その四人の様子に気づき、御館様が声をかけると、四人は互いを見合わせた後、頷き合った。

 

 

「実はその二人らしき話を聞きました。その二人が最終選別の前日に侵入したことは知らなかったので、特に何も言いませんでした.......。」

「鬼から話を聞きましたから嘘かもしれませんが、俺の耳と伊之助の勘とカナヲちゃんの目で確認したので、嘘は言っていないと思います。」

「それは誠か!」

 

 

黄色い髪の少年と顔に傷がある少年がそのことを話すと、他の九人も話に喰いついてきた。

 

 

「一体どんな話だったのかな?」

「その鬼の話によると、侵入した二人は藤襲山の中に突然入ってきたみたいなんです。藤襲山に入るや否や何かを探すように走り回っていたそうです。侵入した二人のうち一人がどこにいるのかとか言っていたそうなので、何かを探していたのではないかと思っています。」

「それで、一体何を探していたのかな?」

「それは.....その鬼も分からないそうです。侵入した二人は探しもの以外のことに興味はなく、呼吸が使って立ち塞がった鬼を斬ることはしたが、何もしなければ普通に通り過ぎて行ったそうで、その鬼は二人と関わらないようにしたようです。呼吸も何の呼吸だったのか分からないそうです。」

「そうか....。」

「ですが、その鬼は侵入した二人の姿を見ていました。」

『!?』

 

 

侵入した二人の目的は分からないが、特徴が分かれば侵入した二人が何者なのか分かるかもしれないと聞いていた九人は期待した。

 

 

「それはどんな特徴だったのかな?」

「......それは........。」

 

 

御館様が聞くが、四人は答えずに再び互いを見て、何か言いづらそうにしていた。

 

 

「みんな。どうしたの?」

「.....その特徴は二人とも背丈は俺と伊之助とカナヲちゃんと同じくらいで、体格からして一人は男で、もう一人は女の子だったそうです。そのうち、男の方の髪は赤みがかっていたそうです。」

『!?』

 

 

黄色い髪の少年の言葉に御館様も他の九人も驚いた。

 

 

「それはつまり....。」

「侵入した二人のうち一人は.......炭治郎の可能性があります。」

 

 

侵入した一人が炭治郎の可能性があると聞き、他の九人は動揺した。この場にいた全員、行方不明だった炭治郎の行方がまさかここで出てくるとは思わなかったのだ。

 

 

「....他にその侵入者の特徴はあったのか?」

「いえ、侵入した二人は手彫りの狐面を顔につけていたらしく、顔までは分からなかったそうです。」

「それでは、その侵入者が竈門少年だと確定していない!赫灼の髪を持つ少年は竈門少年以外にもいる!竈門少年とは別の人物の可能性がある!」

「.....いや.......。」

 

 

赫灼の髪以外に決定的な特徴がなく、藤襲山に侵入したのは炭治郎じゃないのではと周りが思い始めてた時、冨岡義勇が突然口を開いた。

 

 

「おそらく、炭治郎だと思います。」

「それはどういうことかな?」

「侵入者のつけていた手彫りの狐面は鱗滝さんが彫ってくれる厄徐の面なんだと思います。同門ならその狐面を持っています。」

「.....その話だと、炭治郎の可能性が高くなってきたね......。しかし、炭治郎が何故藤襲山に侵入したのか...その目的も分からないね。」

「.....炭治郎が侵入したなら....藤襲山に侵入した目的になりそうなことを聞いたことがあります。藤襲山に鱗滝さんの弟子を狙って殺していた鬼がいたと言っていました。おそらく、炭治郎はその鬼の頸を斬りに藤襲山に来たのではないかと。」

「......俺もその話は知っています。俺の兄弟子も姉弟子も錆兎も皆......その鬼に........。」

「.....なるほど.......。それなら炭治郎が藤襲山に侵入しに来てもおかしくないね.....。」

 

 

義勇と黄色い髪の少年の話からその場にいる全員の中では侵入した一人が炭治郎の可能性が高くなってきた。

 

 

「冨岡の手紙の話も含めると、竈門兄妹は既に師に会っていて、冨岡が手紙を送った時にはもう出て行っていたということか......。」

「となると...藤襲山に侵入したもう一人の女の子は禰豆子さんの可能性が高いですね.....。」

 

 

話が藤襲山に侵入したのは炭治郎と禰豆子ということで纏まりかけたが、四人の少年少女はどこか納得していない様子だった。

 

 

「みんな、どうしたの?」

「実は....侵入したもう一人は禰豆子ではない可能性があります。」

 

 

蝶の髪飾りをつけた少女の言葉に全員が驚愕した。

 

 

「......どういうことですか?」

「侵入したもう一人も狐面をつけていて顔は分からないのですが、髪の色が緑色のような色だったそうです。」

『!』

 

 

女性の質問に顔に傷がある少年が答えた。その話で御館様も他の九人も四人がどうして納得していなかったのか分かった。禰豆子の髪色とは違うからだ。

 

 

「ねず公の髪とは全然違げえだろう?」

「....確かにそうですね。禰豆子さんの髪は黒色で毛先が橙色でしたから...。」

「そうなると......そいつは竈門禰豆子ではないということだな.....。」

「でも....それなら、炭治郎と一緒にいた緑色の髪の女の子は誰なんだろう.....。」

 

 

侵入したもう一人が禰豆子ではなくて別の誰かだということが分かり、それが誰なのかと話し合ったが、結局何も分からなかった。現状で分かる特徴は髪色と炭治郎達と同じくらいの背丈の少女だということしか分からないので、それだけでは誰なのか判明できなかった。とりあえず義勇が鱗滝さんのところに行って、炭治郎と禰豆子、緑色の髪の少女のことを聞き出すことになり、他は任務の合間に炭治郎と禰豆子の情報収集や捜索と緑色の髪の少女の情報を調べることが決まり、会議は終わりとなった。

 

 

 

 

前世で罪を犯した者達....自分達が傷つけた者達に会って、どうするつもりなのだろうか?.......それぞれが何も思い、どう行動するか....それがどんな結果を呼ぶか.....。それはまだ...誰も知らない......。分からない....。

再びやり直した者達の人生に.......関係のなかったはずの一人の転生者がこの先も深く関わっていくことを.....そして....その転生者も彼女が知る原作と明らかに違う展開になることを........この時は誰も知らなかった...............。

 

 

 

 

 

 

 

 







オリ主は笹団子と両親の形見(笹の葉の羽織と赤色の紐と吹き矢と薬を作る道具セット)は誰にも渡したくない。それ以外は何をあげてもいいが....。ただ、時と場合によっては考える。誰かが落ち込んでいたり緊急事態の時だったりなどそういう時には.....。あと、笹団子に関しては代わりの物があると分かればあげる。例えばもう一つ笹団子があるとか....今度笹団子を作ると約束してくれた時など...色々ある。




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笹の葉の少女は鬼舞辻無惨を見つけた

結論から言うと.....間に合いました...。何が間に合ったのかって?....それは、原作の話では炭治郎と禰豆子が鬼殺隊に入って初めての任務で斬った鬼である沼の鬼のことだ。旅立ちがやっぱり早まっていたらしく、里子さんが襲われる数日前に着いた。そして、その日のうちに沼の鬼を退治しました。まあ、鬼の特徴は既に分かっていたし、沼の鬼は三人いたけど、こっちも三人だからね.....。もう圧勝でしたよ....。ちなみに沼の鬼の頸を斬った後、すっかり辺りが暗くなっていたので、私達はそのまま朝まで町にいた。朝になって私達が町を出る時、ちょうど里子さんと和己さんが仲良く町を歩いていた。私はそれを見て、これであの二人は鬼に襲われないで幸せに暮らせるとそのことに安心しながら二人の後ろ姿を見つめていた。.....さて、沼の鬼の件が終わったということは..........

 

 

「やってきましたよ...浅草!」

 

 

私は浅草の街並みを見て、感嘆の声が漏れた。......前世の感覚で言うと、都会というよりは縁日に近いような感じ街だが、今世の中では間違いなくここは都会なのだろう....。

 

 

「......やっぱり都会の街は発展している...。夜なのにこんなに明るい....。」

「大丈夫?」

 

 

炭治郎が今まで見た町よりも発展しているこの街の姿を見て、もう疲れてしまった様子だ。私はそれを見て少し心配になったが、ここは通らないといけない場所なので、炭治郎と禰豆子の手を引きながら街の中を歩いた。

 

 

「......彩花は平気なんだな...。」

「うん。私のいた前世の世界ではこれくらい明るいのが普通だったからね....。今世ではこういう街に来たことがなかったけど.......なんだか....夏祭りみたい.....。」

「....未来では夜がこんなに明るいのが当たり前なのか...。」

「今と比べると、発展しているからね。」

 

 

私が普通に先導して歩いているのを見て、炭治郎がそう聞いてきた。私が正直に前世のことを話すと、炭治郎は驚いた様子で周りを見た。

 

 

「.....人の匂いが多くて.......もう...。」

「大丈夫?どこかで休む?」

「あ、ああ.....。あそこに座ろう....。」

 

 

もう体調が悪くてふらふらの状態の炭治郎と禰豆子を連れて、とりあえず近くのうどん屋さんの屋台に来た。原作でもたくさんの人の匂いで酔っていたけど、人嫌いも重なって体調が悪そう......。禰豆子も人混みで少し疲れているな.......。今、元気なのは私だけだし、私がしっかりしないとね!

 

私は体調の悪そうな炭治郎の背中を摩り、疲れている禰豆子に背中を貸しながらその頭を撫でていた。ちなみに、背負い箱は前にかけています。

 

 

「いらっしゃい!」

「あっ!すみません!少し席を貸してくれませんか?二人が落ち着いたら、注文しますので....。」

「なんだ?お前達、ここには馴れていないようだな。」

「はい。ここに来るのは初めてです。」

 

 

私は炭治郎と禰豆子の体調を見ながらうどん屋の店主と話をしていた。

 

 

....うん?ここって...なんか見覚えがあるなと思っていたけど.......このうどん屋さんは確か....原作で........

 

 

「....この匂いは!」

「ちょ、ちょっと!炭治郎!」

 

 

突然走り出した炭治郎を私は慌てて呼び止めようとしたが、炭治郎は聞く耳を持たずに走り去っていった。

 

 

「もう!すみません。この子のことを見ててください!すぐに連れて戻ってきますので......。禰豆子!少しの間、そこで待ってて!」

 

 

私はうどん屋さんの店主と禰豆子にそう言った後、慌てて炭治郎を追いかけた。

 

 

まさか、ここで鬼の始祖である鬼舞辻無惨と対面する展開になるなんて!確か、原作では....炭治郎が家から匂った血の匂いと同じ匂いを嗅ぎ取り、炭治郎はその匂いを辿って匂いの元となる鬼を追いかけ、鬼舞辻無惨と接触する。炭治郎は鬼舞辻無惨に接触してすぐに刀で頸を斬りつけたかったが、そこで鬼舞辻無惨が人間のフリをして生活していることを知った。そのことに怒りを覚えた炭治郎と違って一方で、鬼舞辻無惨は自身が鬼であることに気づいた炭治郎から離れようと近くにいた人を鬼にして、炭治郎から離れたのよね.....。一刻も早く向かわないと!

 

 

私が原作での浅草の出来事を思い出しながら人混みの中から炭治郎を探した。炭治郎があっという間に行ってしまったので、私はすぐに見失ってしまった。私はそれに少し動揺したが、原作で炭治郎と鬼舞辻無惨が接触した場所を思い出し、その場所に向かった。

 

 

......確か、炭治郎は大通りのようなところで無惨の肩を掴んだんだよね...。人が多くて周りがよく見えないけど.....あっ!いた!丁度無惨の肩を掴んでる........って、これはまずい!この後の展開って、近くにいた男の人が無惨に鬼にされるんだよね!ほら、無惨が片手をゆっくり上げて....って、絶対に鬼にする気だよ!急がないと.....もう!人が多過ぎて全然進めないよ!すみません!通してください!お願いしますから!

 

 

炭治郎達に追いついた時には既に無惨がその人を鬼にし終えた後のようで、近くで男の人が首を抑えて苦しそうにしていた。側にいた女の人が心配そうにその人に近づいていく。これもまずいって!この後、鬼になった男の人が近くにいた女の人に襲いかかる展開だよ!

 

 

「その人から離れてください!」

 

 

私はすぐにその二人のところに向かって走り出し、そう大声で言ったが、女の人は離れず、男の人は俯いたまま体を女の人の方に向け、顔を上げた。男の人は鬼になっていた。男の人は女の人の肩に噛みつき、女の人は悲鳴を上げた。それと同時に私がその場所に着き、男の人と女の人を引き離した。私は引き離したと同時に男の人の口に丸めた手拭いを詰め、体重を全てかけて男の人の体を抑えつけ、女の人に向けて止血と傷薬の効果がある薬を浸した布を投げた。もしもの時に、即座に治療できるように用意した物だけど、こんなに早く使うことになるなんて.....。

 

 

「貴方!」

「奥さん!早くその布で傷口を押さえてください!早く!」

 

 

私は男の人のことを心配する女の人に向けてそう言った後、鬼になってしまった男の人を抑える方に専念した。私が全体重をかけているのに力負けしそう....。やっぱり...私は炭治郎に比べて力が弱いみたいね.....。それよりも....ただ、ここを.....たまたま炭治郎と鬼舞辻無惨がいるこの場所を通っただけで、無関係な人が鬼になるなんて........こんなことが本当にあるなんて....。女の人の怪我は少し浅いものになっていると思うけど......間に合わなかった...。ごめんなさい。鬼になるのを止められなくて.......。

 

 

「彩花!」

 

 

炭治郎も男の人とその人を必死に抑えている私のことが心配で無惨から離れたようだ。それを機に、無惨は隠れ蓑としている家族を連れてその場を立ち去ろうとしていた。

 

 

「鬼舞辻無惨.....!」

「炭治郎!今は落ち着いて!」

「でも......。」

 

 

無惨がその場から離れようとしていることに気がついた炭治郎が追いかけようとするが、私がすぐにそれを止めた。炭治郎は何か言いたげだけど.....ごめんね...耐えて......。

 

 

「炭治郎の気持ちは分かるけど、ここで戦ったら周りの人達も巻き込んじゃうよ!.....むやみに刺激したらこの人と同じような人を増えちゃう!これ以上、この人と同じような人を増やさないように....ここは...。」

「.............。」

 

 

私の話を聞き、炭治郎は悔しそうにしながらも無言で鬼舞辻無惨を睨んでいた。

 

本当にごめんね、炭治郎......。下手に刺激し過ぎると、無惨がまた近くにいただけの人を鬼にしたりとか、攻撃してきたりとか........何かしてきそうだから、最終決戦まで待って....。

 

私がそう考えている隙に、抑えていた男の人が私を押し退けようと暴れ出した。私が必死に力を込めるが、逆に吹き飛ばされそう.....。....このままだと......力の差で押し負ける...!

 

 

そんなことを思っていた時、私の肩に誰かが手を乗せ、男の人の腕を掴んでいた手を誰かが一緒に掴んだ。振り向くと、炭治郎が私と一緒に力を込めて、男の人を抑えつけるのを手伝ってくれていた。

 

 

「炭治郎。」

「今は.......この人の方が優先だ。それに、ほっとくことはできない。」

「!...うん!」

 

 

炭治郎の言葉に私は笑ってしっかりと頷いた。その時、炭治郎が男の人を抑えつけながらも鬼舞辻無惨から視線を外していないことに気がついた。.....まあ。簡単に諦め切れないよね....。それなら........

 

 

「炭治郎。今、叫びたいことがあるのなら、ちゃんと言っておいた方がいいよ。」

「.........。」

 

 

私は男の人を見ながらそう言った。炭治郎の顔はここから見えないが、聞こえてくる息の音からして驚いているのはなんとなく分かった。しばらくして、炭治郎から大きく息を吸った音が聞こえてきた。

 

 

「鬼舞辻無惨!俺はお前を逃がさない!どこへ行こうと!絶対に!地獄の果てまで追いかけて、必ずお前の頸に刃を振るう!絶対にお前を許さない!何度でも!絶対に!」

 

 

...うん。やっぱりこれだよね。これしかないよね、今のこの場面には。少し原作と変わっているけど、炭治郎が背を向けて去っていく無惨に言うこの台詞は良いよね......。.....ごめんなさい。こんな時に考えてしまって....。

 

 

「おい!何をしている!」

 

 

......大騒ぎしていたら、警察官の人達が来た....。.....あれ?これは少しまずいのではないでしょうか?だって、警察官の人達って、炭治郎を男性から引き離すために警棒を使おうとしてなかった?原作では当たらなかったけど......でも、当たらなくたって....これがきっかけで炭治郎が前世のあの時の出来事がフラッシュバックしたら...まずい!何としてもそれは阻止しないと!やっと落ち着いてきたんだから!

 

 

「炭治郎!私、あの警察官の人達を止めてくるから、炭治郎はこの人を抑えててほしいの!」

「あ.....ああ...。」

 

 

私が警察官の人達を止めに行こうと体を起こした時.....

 

 

 

「惑血 視覚夢幻の香」

 

 

私と炭治郎と男の人を包むかのように花のようなものが現れた。

 

 

「な、なんだ!?」

「周りがよく見えない!!」

 

 

丁度近くまで着いていたらしい警察官達が困惑の声を上げていた。この力って........

 

 

「貴女も鬼になった者を人と呼んでくれるのですね。」

「珠世さん!兪史郎さん!」

 

 

声が聞こえたと同時に顔を上げると、炭治郎が目の前にいる人達の名前を呼んだ。やっぱり目の前にいるとても美しい美貌の女性とその横にいる男の人は珠世さんと兪史郎さんなんだ......。それにしても.....本当に珠世さんは綺麗ですね!漫画やアニメ以上です!兪史郎さんがああなるのも分かるくらい!美し過ぎます!

 

 

「お久しぶりですね、炭治郎さん。....いえ、今世では初めましてですね。禰豆子さんはお元気ですか?」

「はい!禰豆子はまた鬼になってしまいましたが、元気です!」

「そうですか....。禰豆子さんもまた鬼に......。」

 

 

.....おや?これは....珠世さんと兪史郎さんにも前世の記憶があるのでは......。

 

 

「え、えーと.......。」

「あっ!ごめん、彩花。この人達は前世の時からお世話になっている人達なんだ。珠世さん。兪史郎さん。この子は彩花。今世で俺と禰豆子と一緒に旅をしているんだ。」

「は、初めまして!い、生野彩花です!」

 

 

私が戸惑っていると、炭治郎がいきなり私を珠世さん達に紹介し、私は緊張して声が裏返りそうになるのを抑えながら挨拶した。

 

 

「気づいていると思いますが、今世も私達は鬼です。ですが.....医者でもあり、あの男...鬼舞辻無惨を抹殺したいと思っています。」

 

 

珠世さんの言葉を聞きながら私は、鬼舞辻無惨さん、二度目でも恨まれていますよと遠くにいるであろう無惨に訴えるかのように心の中でそう言った。いや。それよりも、これで珠世さんと兪史郎さんが前世の記憶を持っているのは確定ね。

 

 

 

 

 

 

 

「禰豆子!ごめんな、置いて行ってしまって。」

「私も....。ごめんね、禰豆子。」

「だい、じょうぶ。」

 

 

私と炭治郎は鬼になってしまった男の人と怪我した女の人のことを珠世さんと兪史郎さんに任せ、禰豆子を迎えに行って、それから珠世さんの屋敷に向かうことになり、禰豆子が待っているうどん屋さんの屋台に戻ってきた。私と炭治郎は戻ってすぐに禰豆子に置いて行ったことを謝り、禰豆子は気にしていないと言っていた。

 

 

「それじゃあ、珠世さん達のところに.....。」

「あっ!ちょっと待って!」

 

 

炭治郎が珠世さん達のところに行こうかと話していた時、私はあることを思い出して待ってくれるように言った。

 

 

「すみません!約束は守りますので!山かけうどんを一杯お願いします!」

「はいよ!」

 

 

そう。席を貸してくれる代わりに後でうどんを頼むという約束をしていたことを思い出したのだ。鬼舞辻無惨とか色々あって忘れかけていたけど、うどん屋さんの店主との約束を思い出せて良かった。私がうどんを一杯頼むと、店主はすぐにうどんを出してくれた。うどんの上に卵が乗っていて.....美味しそう....。

 

 

「ありがとうございます!美味しいです!」

「おう!それより、あそこにいる二人は食わないのか?」

「あっ!いえ...私が勝手に一人で決めたことなので、私だけが食べます!」

 

 

私はうどんを食べて店主に感想を言うと、店主が炭治郎と禰豆子を指差して聞くので、私はそう答えた。

 

だって、あの時は炭治郎と禰豆子が人混みでバテて、早く二人を休ませるためとはいえ、私が二人に相談しないで決めちゃったから、炭治郎と禰豆子を巻き込む気はないよ。私一人がうどんを食べればなんとかなると思っていたし。

 

 

「すみません!山かけうどんを二杯お願いします!」

「えっ!?炭治郎!?」

 

 

私がそんなことを思っている間に炭治郎がいつの間にかお店の近くまで来て、店主に向かって注文を言っていた。

 

 

「食うのか!」

「はい!」

 

 

店主の声に炭治郎が元気良く答えると、炭治郎の目の前にうどんが二杯置かれた。....あれ?確か、禰豆子は鬼だからうどんを食べられないよね?...ということは.........

 

 

「いただきます!」

 

 

そう言って炭治郎はうどんを勢いよく食べ始めた。

 

これが.....原作でも出ていた炭治郎がうどんを一気に啜って二杯も食べるシーン...。現実で見ると、よくあんな感じで食べれるなと感心するよ.....。......あっ。私も早く食べないと、炭治郎と禰豆子を待たせちゃう...。

 

 

「ご馳走様でした!」

「ご馳走様でした。」

 

 

私がうどんを一杯食べ終わるのと炭治郎がうどんを二杯食べ終わるのは同時だった。流石は炭治郎.....食べるのがとても速い!....けど、私も少し褒めてほしいです。量は違うけど、炭治郎のあのスピードに追い着いたことは褒めてほしい。ここで頑張るのはおかしいかもしれないが、私、頑張りましたよ!

 

 

「美味しかったです!」

「ありがとうございます。」

「分かればいいんだ。」

 

 

炭治郎と私はうどん屋さんの店主にそう言って去り、うどん屋さんの店主は炭治郎と私に手を振っていた。

 

 

「.....そういえば、後で珠世さんの屋敷に行くという話だけど.......どうやって行くの?」

「ああ。それなら......。」

 

 

私が炭治郎の方を向いて聞くと、炭治郎がどこかを指差して言った。私が指差した方を見ると、街灯の下に兪史郎さんが立っていた。まあ、確かに向かいに来てもらわないと...どこなのか分からないもんね.....。術で隠されているのだから。

 

 

「兪史郎さん!待たせてすみません!」

「ああ。それは大丈夫だが.......。」

 

 

炭治郎が兪史郎さんに挨拶すると、兪史郎さんは炭治郎にそう返した後、私を睨みつけた。兪史郎さんは炭治郎と禰豆子のことは気にしていないようだが、私のことは警戒している様子だった。

 

 

「おい!本当にこいつも連れて行く気か?人間の女だろう!お前達二人、前世のことを忘れたのか!」

「大丈夫です!鬼殺隊には入っていませんし、怪しい匂いは一切していません!」

「平気!」

 

 

兪史郎さんの言葉に炭治郎と禰豆子は私を庇ってくれた。

 

....でも、兪史郎さんの気持ちは分かる。原作では兪史郎さんは最終決戦で鬼殺隊の格好をして紛れ込んでいたから、きっと炭治郎と禰豆子が亡くなっていくところを見たのだろう......。その後、兪史郎さんがどうなったかは分からないけど.....逆行しているから、何かあったのだろう...。それで、今世で人間にあんな目に合わされたのに、鬼殺隊ではないが前世ではいなかった人間の私と行動しているのはどういうつもりかとなるよね.......。

 

 

「しかも...そいつ、醜女ではないか。」

 

 

兪史郎さんの言葉に周囲の空気が凍った。

 

 

....まあ、珠世さんと禰豆子と比べられたら私は醜女だと分かっているよ。私も普通の顔立ちだな.....というより、明らかにモブという立場だなと思うくらいだからね......。だけど、はっきりと言われてしまうと....少し胸に刺さりますね。できれば...普通と言われたかった.....。

 

 

「めっ!」

「そうですよ、兪史郎さん。また女の子にそんなことを言って...。彩花も可愛いですよ。」

「ははっ。....ありがとう。でも、気持ちだけもらっておくね。」

 

 

しばらくして、禰豆子が兪史郎さんにめっをして、炭治郎がそう言ってくれた。

 

.....二人ともお気遣いありがとうね。炭治郎の言う可愛いも童顔だからだもんね........。前世も今世も私は子どもみたいって言われるんだよね......。事実だけど...少し気にしているんだよ.....。

 

 

「彩花!言う!」

「そうだぞ!しっかり否定しなきゃ駄目だぞ!」

 

 

禰豆子が私から兪史郎さんを何回か指して何か伝えようとしていた。おそらく炭治郎の言っていることと同じなのだろう。炭治郎...禰豆子....本当にありがとうね.......。慰めてくれて、凄く嬉しいよ....。

 

 

「行くぞ。」

「行くけども!」

 

 

先を進む兪史郎さんに炭治郎はまだ何か言いたそうにしていたが、そのままついて行った。

 

 

「.......私達も行こうか?」

「うん!」

 

 

私と禰豆子も互いに顔を見合わせてから二人の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 



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笹の葉の少女は協力者を見つけた

「ここだ。」

 

 

私達は兪史郎さんに言われた行き止まりの場所の壁を通って、珠世さんと兪史郎さんの屋敷に着いた。

 

.....正直に言うと、壁を擦り抜けるって変な感じがした。でも....何か壁を擦り抜けたら違う場所にいるって、御伽話のようで少し心が躍った。

 

 

「いいか!あの方の失礼にならないようにしろ!特に、お前はな!炭治郎達はともかく、お前のことはどうでもいいんだ。それをあの方がどうしてもと言うから。」

「ははは.....。はい。」

 

 

兪史郎さんは私に対しては凄く厳しい。まあ、炭治郎と禰豆子は前世の時から仲は悪くなかったけど、前世の鬼殺隊でのことで炭治郎達以外の人間に関しては信頼できなくなっているよね...。お陰様で.....私に対する信頼は底辺レベルになっているよね.......。

 

私は内心嘆きながらも苦笑いして返事することしかできなく、私達は兪史郎さんに案内されて屋敷の中に入り、珠世さんがいる部屋の前まで来た。兪史郎さんが扉の前で止まり、扉をノックした。

 

 

「どうぞ。」

「只今戻りました。」

「お帰りなさい。」

 

 

珠世さんの声が聞こえ、兪史郎さんは扉を開けて挨拶した。その様子を見た後、珠世さんは微笑んでそう言った。

 

 

「お任せしてすみません。」

「この方は無事ですよ。貴女の的確な処置のおかげで大事にはなりませんでした。」

「い、いえ...。滅相もありません。私は薬を染み込ませた布を渡しただけです。」

 

 

珠世さんの言葉に私は首を勢いよく横に振って否定した。

 

 

「そんなことはありませんよ。怪我の処置が的確だったこともありますが、それよりも....その薬が良かったのだと思います。」

「い、いえいえ。そんな......。」

「本当です。こんなに効能の良い薬ができるなんて.....これを貴女が?」

「はい。私が調合した物です。これでも、二年前までは薬屋をしていたので...。」

 

 

珠世さんの言葉に私はまた首を横に振るが、珠世さんにはっきりと言われ、私は薬のことを話し始めた。

 

まさか私の薬を褒められるとは思わなかったよ.....。それにしても、珠世さんに褒められるなんて.......凄く嬉しい!嬉し過ぎます!

 

 

「以前されていた薬屋さんは...。」

「二年前に鬼に家を壊されたから、炭治郎達について行くことにしたのです。それに、私が暮らしていた近くの村から医者になった人がいて、その人が村に病院を建てると聞き、私はもう薬屋をする必要がないと思って止めることにしたというのもあります。」

「ご家族は....鬼に...。」

「いえ、違います!私の両親は七年前に病気で亡くなっていますので、鬼の仕業ではありません。親戚はいないので、私一人で患者を診て薬を売りながら生活していました。ですので、私以外に住んでいる人はいず、ただ鬼に家を壊されただけです。あっ!その時、炭治郎も禰豆子もいましたけど、私も炭治郎も禰豆子も外にいたから無事でした。」

「はい。そうです。」

 

 

珠世さんの質問に答えていくうちに、何故か自身の過去の話になり始め、炭治郎と禰豆子が話に出てきたところで炭治郎も話に参加して......結果、これまでのことを全て話すこととなった。

 

 

「.....そうですか......。炭治郎さんも...禰豆子さんも....大変だったのですね...。」

 

 

私と炭治郎から話を聞いた珠世さんはそう言って禰豆子を抱きしめていた。

 

....結局、全て話すことになってしまった。.....私が前世の記憶を持っていて...それも未来の記憶だということも....。えっ?炭治郎に頼んで誤魔化せばいいんじゃないかって?.......無理ですね。炭治郎は嘘をつくと変顔になるし....そう言う私も嘘がバレやすい。私も何故バレるかよく分からないけど.....前世の友達と嘘つきゲームをしても、私はすぐにバレる。何で分かるのかと聞くと、出ているから分かりやすいと言われた...。何が出ているのかは今も分からない........。

 

 

「彩花さんも....八歳で一人になるなんて大変でしたでしょう...。」

「い、いえ。精神が二十六歳だったので、八歳の身体で働くは大変でしたが、暮らしてはいけました。」

「たとえ精神が大人であったとしても、凄いことですよ。」

 

 

私の中身が大人だと知っても、珠世さんはそう言ってくれた。

 

 

「彩花さんは幼い頃から薬を作っていたのですよね?その薬の作り方はご両親に教わったのですか?」

「はい。薬の作り方や薬草について教わり、その知識を使って薬屋を始めました。それからしばらくして、私は少し調合を変えてみたり、効果を良くするために色々してみたり.....とにかくアレンジを加えていました。」

「....アレンジ?」

「あー。......未来にはある言葉です。新しく構成し直すという意味を持っています。」

 

 

珠世さんの質問に答えるために私がそう言うと、私のアレンジという言葉が分からず、炭治郎も禰豆子も珠世さんも首を傾げていたが、私が意味を伝えると理解してくれた。ちなみに、兪史郎さんは珠世さんのことを先程からずっと見ていた。その心の中の声は珠世さんを絶賛しているのだと大体予想できるので、無視することにした。

 

 

「貴女の才能は素晴らしいと思いますよ。周りの皆さんは何と言っていましたか?」

「......うーん....。...両親は天才だって褒めていたし、周りの皆さんも良く効くと褒めてくれるので、私は嬉しかったです.....。ただ....村の人達に毒を作る時は気をつけろってよく言われていました。」

「.......村の皆さんは気づいていたようですね...。」

 

 

えっ?.....何か気づいたの?珠世さんが苦笑いしていて、兪史郎さんは......何か呆れられたような目でこっちを見てくるのですが.....?...お父さんもお母さんも村の人達も何故か大袈裟なだけであって、そこまでの効力はありませんから.....。

 

 

「....ところで、あの男性はどうなさいましたか?」

「......気の毒ですが...拘束して地下牢に入れています。」

「.....そうですか......。」

 

 

私は話題を変えるためにそう質問し、珠世さんの話を聞いて思った。

 

そういえばこれは原作通りだけど...前世の記憶を持っているのなら、すぐに人間に戻せるのでは.....?

 

 

「それでは、話の続きを始めましょうか?」

「はい。」

 

 

珠世さんの言葉で話は元に戻った。珠世さんが話してくれたのは、原作で炭治郎に話したものと同じような話だった。珠世さん達のことを話しているなか、私はあれ?と思った。それは兪史郎さんが静かだったからだ。原作では炭治郎を殴ったり叩いたりしてはずだが....ああ!炭治郎があまり喋らないからか!.....まあ、炭治郎もこの話は二度目だから、何も言わないよね.....。私も原作で話の内容は既に知っているし、あんまり動揺としないと思うから兪史郎さんに何もされなくて済みそう....。

 

 

「二百年間で鬼にできたのは、兪史郎ただ一人です。」

「いえ。充分凄いことだと思います。」

 

 

私はこの話には思わずそう言った。

 

珠世さんに長生きしているのですねとは言わず....というより、下手にして兪史郎さんの怒りをかいたくないので...。あと、私のこの言葉は紛れもなく前世の時から思った言葉だ。本当に充分過ぎるくらい凄いと思うよ!だって、人を鬼に変えるなんて.....本来は普通にできないことだ。それを一回でも...長い時間がかかっても凄いと思うよ。

 

 

「鬼を人間に戻す方法はあります。」

 

 

珠世さんの話が鬼を人間に戻す方法についての話になり、私はその話に無言で頷いた。遂に来た.....。

 

 

「それで、炭治郎さんと彩花さんにお願いしたいことがあります。鬼を人間に戻す薬を作るにはたくさんの鬼の血を調べる必要があります。前世の記憶があるとはいえ、前世と今世が同じ物で人間に戻すことができるかどうかは確信もありませんので、もう一度調べ直した方が良いと思ってます。お願いしたいことは二つ。一つ、禰豆子さんの血を調べさせてほしい。二つ、できる限り鬼舞辻の血が濃い鬼からも血を採取してほしい。炭治郎さんには二度目ですが....。」

 

 

珠世さんの頼みを聞き、私は二周目でも鬼の血を集める必要があるのねと呑気に考えていた。

 

 

「彩花さん。どんな傷にも病にも必ず治療法があるのです。鬼を人に戻す薬は今はありませんが......必ずできます。」

「......私もそれは確信しています。...私はあまり関わったことがないのですが、未来でも新たな病気が発見されると、治療法を見つけようと頑張っている人達がいます。その人達は時間をかけていますが、必ず治療法を見つけているので、鬼を人間に戻す方法は必ずあると思います。」

 

 

珠世さんの言葉を聞き、私は自身の前世の世界のことを思い出していた。それと同時に、私自身に対しての悔しさがあった。

 

 

「....彩花、どうしたんだ?」

 

 

炭治郎の鼻はそのことをすぐに嗅ぎ取ったようだ。流石ですね.....。

 

 

「いや......。珠世さんは凄いな.....と思っただけです。私は鬼を人間に戻す薬があったことを知っていたのに...私に作るのは無理だと何もしていないのに.....諦めちゃった......。それで、その薬を作ろうとしている珠世さんを見て、私は...私自身のことが凄く情けないって思って.......。」

 

 

私はそう言いながら後悔していた。あんまり変なことを言わないようにしていて...少し途切れ途切れのようになりながらの説明だったが......。.....鬼を人間に戻す薬を作るのは私には無理だと思っていた。それで私は勝手に諦めた。まだ何もやってもいないのに.....珠世さんにしか作ることができないんだと思って、珠世さんに任せていた。でも....そんなの自分が勝手に無理だと決めて、勝手に諦めて勝手に任せてしまった。......そんな私自身が凄く情けなく感じる......。

 

 

「.....彩花は鬼を人間に戻すことについてどう思うんだ?」

「どうって....人間を鬼にすることができるのなら、鬼を人間に戻すことだってできるはずだと読み始めた時から思っていたの。それなのに.......。私なんかより他の人がやってくれるって思って....。」

 

 

炭治郎の質問に私はそう答えた後、また自分が情けなく感じた。

 

珠世さんと話して、やっと気づけたなんて...遅すぎるな.....私は。

 

 

「それなら良かった。」

「.....えっ?」

 

 

炭治郎のその言葉に私は驚いて炭治郎を見た。

 

良かったって?

 

 

「鬼を人間に戻すことができるって思っているんだろう?他の人ならできると思っていたなら、彩花も作れるように一緒に頑張ろう。」

 

 

炭治郎の真っ直ぐな視線に私は少しほっとした。

 

人間不信になった炭治郎を見て、私は心のどこかで原作とは別の人物になったのではと思うことがあった。......でも....それでもこの旅に付き合おうと思ってたけど、炭治郎が変わってしまったということは悲しかった.....。だけど、炭治郎の真っ直ぐな視線を見て、...原作の炭治郎と重なって....炭治郎は変わってないんだと感じられて、ほっとしたのだ。それと、炭治郎に責められずに一緒に頑張ろうと言われて、少し嬉しさもあった。

 

 

「.........うん。」

 

 

私は色々な感情が混じりながらも炭治郎の言葉にしっかり頷いた。

 

 

「......炭治郎さんはもう分かっていると思いますが、もう一つの願いは過酷なものになる。鬼舞辻の血が濃い鬼とは....鬼舞辻により近い強さを持つということです。そのような鬼から血を採取するということはとても容易ではありません。それでも、この願いを聞いてくれますか?」

 

 

珠世さんがそう聞いてきた。私も...おそらく炭治郎もその答えは決まっている。

 

 

「やります!」

「私もです!協力させてください!」

 

 

炭治郎と私の答えに珠世さんは笑った。それを見て、私は見惚れそうになったが、兪史郎さんに睨まれて姿勢を正した。

 

 

珠世さん....失礼ですけど、その笑顔を普通に向けないでください!私は兪史郎さんではないけど...美しすぎます!......って、叫びそうになったよ...。

 

 

「伏せろ!」

 

 

そんなことを考えている間に、どうやら兪史郎さんの術が破られたらしく、兪史郎さんが大声で叫んだ。すると、鞠が壁を突き破って現れ、屋敷を壊していく。兪史郎さんは珠世さんを、炭治郎は禰豆子と私を庇った。

 

 

......なんか....二年前の家を壊された時のことを思いますな...って、あの時のことはもう吹っ切れているし、今はそれどころじゃないよね.....。

 

 

壁が音を立てて崩れ、崩れた壁から屋敷の外が見えた。

 

 

「ふはっはっはっ!矢琶羽の言う通りじゃ!何もなかった場所に建物が現れた。」

「巧妙に物を隠す血鬼術を使われていたようだ。」

 

 

外に二人の鬼がいた。珠世さんと兪史郎さんの屋敷を襲ってきたということは......手鞠を使う鬼と矢印を使う鬼.....朱紗丸と矢巴羽ね.......。

 

 

「それにしても、朱紗丸........お前はやることが幼いというか....短絡というか.....汚れたぞ!お前の鞠で舞った散りで汚れた。ちっ!」

「うるさいのう。鞠のおかげですぐに見つかったのだからいいだろう。たくさん遊べるしのう!」

「ちっ!またしても汚れたぞ。」

「神経質めが。着物は汚れてなどおらぬわ。」

 

 

........仲良さそうですね.....。

 

 

「彩花!さっきの奥さんを地下に連れて行ってくれないか?」

「分かった!」

「禰豆子!あの矢印の鬼を頼む!」

「任せて!」

 

 

炭治郎の言葉を聞き、禰豆子は炭治郎と一緒に外に出て、私は眠っている奥さんを連れて地下に向かった。

 

炭治郎と禰豆子......あと、珠世さんも兪史郎さんも二周目だからか....何をすればいいか分かっているな...。私も早く戻って加勢しないと......って、あれ?

 

 

私は奥さんを背負って走りながらある事に気づいた。

 

炭治郎と禰豆子は二周目だから、原作と違って苦戦しないよね.....。鬼の戦い方も分かっていると思うし....。.........私が来なくてもすぐに倒せるんじゃない......?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

案の定.......私が戻ってきた時には全てが終わっていた。...いや。正確に言うと、炭治郎は矢琶羽の頸を斬っていて、禰豆子は朱紗丸をボコボコにしていたところだった.....。もう一度...今度は禰豆子のところを詳しく話します。禰豆子が朱紗丸をボコボコにして泣かせていたところでした....。.....本当に朱紗丸が可哀想だと思うくらいだったよ...。だから......私がそろそろ頸を斬るねと言って、私が朱紗丸の頸を斬りました....。本当に可哀想だったので、華ノ舞いの日車を使いましたよ。そしたら、朱紗丸は頸を斬られた時、まるで解放されたかのように涙を流していた。なんかごめんね....。

 

 

「お前、容赦なくなったな......。」

 

 

禰豆子にそう言って引く兪史郎さんを見て、私は心の中で同意した。ちなみに、珠世さんは朱紗丸の体に注射器を打ち、血を採取していた。

 

禰豆子の行動に関しては兪史郎さんの言葉に同意します...。私もたまに....あれ?禰豆子ってこんなに容赦なく戦ったっけ?って思ったもん。禰豆子、二周目から妙に鬼に対して容赦がなくなったのよね.....。いや、人にもか....。もしかしたら、炭治郎を守るために敵には容赦なく攻撃するようになったのかな?

 

 

そんなことを考えていたが、矢巴羽を倒し終えて戻ってきた炭治郎に抱きつく禰豆子の姿を見て、唯一、炭治郎が見ていなかったことが幸いだったかな?とそんなことを思うことにした。

 

 

「......ま....り......。あそ...ぼ....。」

 

 

その声が聞こえ、私は頸を斬られた朱紗丸を見た。少し遠くに鞠が転がっていることに気がついて、私はその鞠を近くに持っていった。

 

 

「はい。鞠だよ。あの世でたくさん遊んでもらってね.....。」

 

 

私はそう声をかけて立ち上がった。

 

 

「......お前は甘いな....。」

「わっ!?」

 

 

いつの間にか兪史郎さんが隣にいた。全然気がつかなかった....。

 

 

「この鬼は人をたくさん食った。それでも、同情するのか?」

 

 

兪史郎さんの質問を聞き、私は納得した。兪史郎さんには不思議としか思えないのだろう...。鬼にそんな感情を抱く私のことが....。

 

 

「......私はそれが同情しなくていいと言う理由だと思えないよ。確かにこの鬼はたくさん罪を犯したよ。.....でも、死ぬ最期くらいはいいじゃない。幸せになれる来世を願ってもいいじゃない。罪を犯しても次はそうならないようにと私は願うよ。踏みつけていいものじゃないから。...私は鬼も人間も.......罪を犯しても....それでも救われてほしい.....。たとえ、今が駄目でも....未来か来世で.....いつか必ず....。...甘いと言われても.....偽善者だと言われても...それが私だから。」

 

 

私の言葉に兪史郎さんは何も言わなかった。今の私の話は嘘ではない。前世の時から....私が鬼滅の刃を読んだ時から思っていた。死んでいく登場人物にも頸を斬られて亡くなる鬼にも私は同情していた。甘いのかもしれないけど......これが私だから....私は自分の意志を貫きたい!

 

 

「....そろそろ日が昇るから戻ろう。」

 

 

空が少し明るくなってきたのを見て、私は兪史郎さんにそう言った。兪史郎さんは鬼だから、日の光を浴びちゃ駄目だもんね。

 

 

「おい!」

 

 

私が珠世さんの屋敷に戻ろうとすると、兪史郎さんが声をかけてきた。私は何だろうと思いながら振り向いた。しかし、兪史郎さんは私の方を見ないで横を向いたままだった。どうしたのだろう.......?

 

 

「...お前は....醜女じゃないよ......。」

 

 

横を向いたまま言う兪史郎さんに私は思わず顔をほこらばせた。

 

 

「...ありがとうね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

兪史郎さんと話した後、私達は日の光が当たらないように地下室に入った。

 

 

「.....それでは、俺達はそろそろ行きますね。」

「こちらも屋敷が見つかってしまったので、また新たな拠点を探します。」

 

 

私達も珠世さんもそれぞれにここを旅立つ準備をしていた。

 

 

「....あの。炭治郎さん。彩花さん。私達と一緒に行動しませんか?」

「「えっ?」」

「炭治郎さんも彩花さんも鬼殺隊に所属していないようですので、これからのことを考えると、私達と行動した方がいいと思うのです。」

 

 

珠世さんの申し出に私は確かに一理あると思った。これから先、大怪我を負ったとして、しばらくの間はどこかで休まないといけない。だが...そうなると、人がいっぱいいる宿に泊まらないといけなくなるので、炭治郎と禰豆子がそこでしっかり休むことができるか心配なんだよね....。だから、休憩できる時にしっかり休憩できる場所がほしいよね.......。

 

 

....まあ。私からすると、珠世さんと行動することには賛成かな。私達に利点はあるし......。....ただ、問題は炭治郎と禰豆子がどう思っているからかな...?いや.....そもそも兪史郎さんが許可するかな?

 

私がそう思って兪史郎さんの方を見た。すると、兪史郎さんは私の視線に気づいたらしく....

 

 

「.....別に構わない。」

 

 

予想外にも兪史郎さんは反対しなかった。私は声に出さずにありがとうと口だけを動かした。そして、私が勇気を振り絞って炭治郎と禰豆子に聞こうとしたのと....炭治郎が振り向くのは同時だった。どうやら同じことを考えたようだ。

 

 

「.....彩花はどう思う?」

「...私は一緒に行動した方がいいかな.....。三人でこのまま宛もなく、ただ鬼の頸を斬り続ける旅を....いつまでも続けられるとは思えないよ。だから、珠世さん達と協力し合った方がいいと思う。」

「俺もそう思うよ。珠世さんと兪史郎さんは信じられる人だから。」

「一緒!」

 

 

互いに同じタイミングだったことに困惑したが、言いたいことを言えたことは...聞きたいことを聞けたことは良かったと思う。珠世さんと兪史郎さんと一緒に行動するのは私も炭治郎も禰豆子も賛成のようだ。

 

 

「よろしくお願いします!」

「私達も頑張りますので!」

「がんばる!」

 

 

私達の言葉を聞いて、珠世さんは笑っていた。話も終わり、私達は先にここを出ることにし、禰豆子は私達の前を走り、炭治郎が禰豆子の後を追いかける。私も炭治郎の後を追おうとした時......

 

 

「...少し待ってくれませんか?」

 

 

珠世さんに声をかけられ、私は立ち止まった。

 

 

「彩花さんは鬼である私達のことをどう思っていますか?人であろうとも鬼であろうとも罪を犯そうとも同情すると貴女は言いました。貴女は私達に同情していますか?」

 

 

珠世さんの言葉に私は驚いた。珠世さんがあの時の私の話を聞いていたなんて....思ってもみなかったからだ...。

 

 

「....言っておきますけど.....私は人であろうとも鬼であろうとも罪を犯そうとも同情すると言いましたが、私が同情するのは人が罪を犯してそれを嘆いている時とその人が犯した罪の罰を受けた時とその人が死ぬ時の三つだけですよ。鬼であること自体に同情しませんよ。」

 

 

....しかし、訂正はしておこう...。私は鬼であること自体に同情しているわけではない.....。それに....

 

 

「私は珠世さん達に同情はしているとは思っていませんよ。...何より、私は禰豆子のことを普通の可愛い女の子だと思っています。それは偽りもない本心です。勿論、私は珠世さんも兪史郎さんも普通の女性と男性だと思っています。」

 

 

私は禰豆子や珠世さんや兪史郎さんを同情や哀れなどとは思ってない。むしろ、私には禰豆子も珠世さんも兪史郎さんも普通の人間に見える。これは私が原作を読んだ時から思っていることだ。

 

 

「.........。」

「...あの。そろそろ行きますね。炭治郎と禰豆子を待たせてしまうので......。」

「彩花さん。」

 

 

私は炭治郎と禰豆子の後を追うために珠世さんと兪史郎さんに声をかけて行こうとするが、再び珠世さんに声をかけられ、また足を止めた。

 

 

「何でしょうか?」

「.....住む場所が見つかったらお教えします。どうかお気をつけて。」

 

 

私が聞くと、珠世さんはそう言った。その時、私は珠世さんの目に涙の痕があることに気づき、泣かせてしまったのかと慌てたが、原作で見た珠世さんの過去のことを思い出して納得した。

 

私は普通の女性と男性に見えると言った....人間に見えると私に言われたことがとても嬉しかったのかもしれない。

 

 

「はい!」

 

 

私は珠世さんの言葉にそうはっきり返事をして炭治郎と禰豆子に追いつくために走っていった。

 

 

 

 

 

 

 



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笹の葉の少女は原作主要キャラと出会う(求婚される)

「.....次は...あの屋敷か....。」

「お兄ちゃん.....。」

「炭治郎......。」

 

 

私達は珠世さんと別れ、狐面をつけた状態で次の目的地に向かった。炭治郎は目的の屋敷が見えてくると切なそうに遠くに見えるあの屋敷を見ていた。禰豆子も私もそんな炭治郎の様子を心配そうに見ていた。何故あの屋敷を切なそうに見ているのか.......それはこの後の原作の話の流れとあの屋敷を見たらすぐに分かる。鬼舞辻無惨との接触と珠世さんと兪史郎さんとの出会い(いや、再会かな....?)も終わり、次は鼓屋敷に行く話だ。

 

この話は.....炭治郎の同期である我妻善逸と嘴平伊之助との最初の合同任務の場所...つまり、炭治郎と禰豆子にとっては思い出の場所の一つなのだが....今はあまり思い出したくないのかもしれない.......。善逸と伊之助がしたことを考えると、あの時は楽しかった.....それなのになんで....というのが炭治郎の心情かな......。実際に炭治郎がどう思っているのかは分からないが、明るい気持ちにはならないよね...。

 

 

「この屋敷だよ。」

「....そう。」

 

 

しばらく歩いて、私達は屋敷の前に着いた。原作では分からなかったけど......思ったよりも大きくて良い屋敷ね.....。

 

 

「炭治郎。この屋敷の中に鬼は何人くらいいる?」

「大体....四、五人かな...。」

 

 

私の質問に炭治郎は答えてくれた。私は炭治郎の言葉を聞いて考えた。

 

原作では鼓屋敷にいるのは三人だったはず.....。....そういえば.....伊之助は屋敷から出られなくて屋敷の中にいたんだよね.....。それなら....原作では伊之助が何人か鬼を斬っていて......それで最後にあの三人が残ったのかもね..。とりあえず、伊之助と善逸がいない今、増えた鬼の人数分をどう動くか考えようかな.....。......ってあれ?確か...この時、この屋敷の近くには........。

 

 

「「ひっ!?」」

 

 

私が辺りを見渡すと、木の影に隠れていた男の子と女の子と目が合った。その二人は私と目が合い、悲鳴のような声をあげた。

 

....二人の状況を考えると当たり前だが.....地味に傷つくな....。

 

 

「こんにちは。」

「「..........。」」

 

 

私が二人に近づき、視線を二人に合わして優しく挨拶するが、二人は警戒して黙ったままだった。まあ......この反応は予想していたので、別に気にしてない...。ただ、原作と話が違うのかもしれないし、確認はしておかないとね.....。そのために、二人を落ち着かせないと.......。

 

 

私は近くの葉を取り、狐のお面を外して葉を口につけた。そして、私は草笛を....アニメの鬼滅の刃のエンディング曲の『from the edge』を吹いた。吹き終わると、二人は吹く前よりも落ち着いていた。落ち着いたところを見計って、私は二人に屋敷のことを聞いた。二人のお兄さんが鬼を捕まって、この屋敷に連れて行かれたこと.....お兄さんは清という名で柿色の着物を着ていること....二人の名前が正一とてる子だということ...この屋敷まで来たのはいいけど、どうすればいいか分からずここにいたことなど.....原作と同じようなことを言っていた。私はここの話が原作とあまり変わってないことを知り、二人にここで待つように言って作っておいた藤の花のお守りを渡した。何かあっても、鬼の場合は藤の花でなんとかできるからね...。

 

 

「話はある程度聞いたから....そろそろ行こうかな......?」

「ああ....。」

「うん!」

 

 

私達はそうして鼓屋敷の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

........それで...私達が鼓屋敷の中に入って、禰豆子の箱がないから原作とは違って正一とてる子が屋敷に入って来なかったまでは良かったけど.....すっかり、そのことに気を取られていて.......私は屋敷に入ってすぐに炭治郎と禰豆子とはぐれました.....。...いや、ちゃんと気を配っていなかった私が悪いけど......タイミングが悪すぎるでしょ!だって、私が先に一歩前に出た瞬間に変わったんだよ!すぐ後ろには炭治郎と禰豆子がいたのに!確か、清が場所を入れ替える鼓を持っているんだよね?鬼が近づいてきたらそれで逃げてっていうことは鬼が近づいてきたから逃げたのだろうけど....タイミングが悪過ぎるよ!...ううっ.......仕方がないよね....。運が悪かったとしか言いようがないよね......。

 

 

私は落ち着くまで心の中で騒いだ後、気持ちを切り替えた。早く鬼の頸を斬って、炭治郎達と合流しないと!

 

 

「キシシシ!獲物が来たなあ!」

 

 

そう思っていたら、すぐに鬼が出てきた。.....この鬼は原作で出てきた三人の鬼とも全然違うな...。何をしてくるか分からないし、充分に気をつけないとね....。

 

 

「水の呼吸 参ノ型 流流舞い」

 

 

私はそう言って鬼の攻撃を避けて、鬼の頸を斬った。この鬼は異能の鬼ではなかったみたいなので、あまり苦戦することはなかった。

 

 

「おっと、いけない。忘れるところだった......。」

 

 

私はあることを思い出して懐から吹き矢を取り出した。薬を打ち込むのかというと違う。私は薬用の矢とは別の矢を吹き筒の中に入れて、鬼に向けて吹いた。すると、鬼の体に刺さった吹き矢は血を吸い上げ、中の透明だった部分が真っ赤に染まった。そう。この矢は兪史郎さんが私が吹き矢が得意と聞き、私用に吹き矢で血の採取ができるように改造し、吹き矢型の物を作ってくれた。

 

 

「.....これくらいかな?」

 

 

私は吹き矢の中がいっぱいになったのを確認して吹き矢を鬼の体から抜いた。十二鬼月じゃないし、異能の鬼でもないけど、たくさんの鬼の血が必要だからね....。私が周りを見渡していると、目の前に四角い箱を背負った猫が現れた。原作で見たから分かる。この三毛猫が珠世さんと兪史郎さんの遣いの茶々丸だ。私は茶々丸の背中にある四角い箱の中にさっき採取したばかりの鬼の血を入れた。私が鬼の血を入れると、茶々丸は歩き出してどこかに消えた。......本当に見えなくなったな....。さてと......

 

 

「美味そうな餓鬼がいるじゃないかぁ!」

 

 

私が立ち上がってすぐに別の鬼が現れた。次から次に.....。

 

 

「はあ...。まあ....ここは敵地の中なのだから、仕方ないけどね...。」

 

 

私はそう覚悟を決めて刀を抜き、鬼と対峙した。......うん?...この鬼って....原作で善逸が戦った舌の長い鬼じゃないかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は原作で善逸が戦った鬼の頸を斬って血を採取した後、すぐにまた別の鬼と遭遇することになった。しかも、今度は原作で伊之助が戦った体の大きい鬼とだ。炭治郎が屋敷の中に四、五人くらいいると言っていたけど、そのうち三人と出会っている.....つまり、ほとんど遭遇しているということになるよね!もう!私、鬼との遭遇率高過ぎない!....まあ、どちらの鬼も華ノ舞いの水仙流舞でなんとかなったからね.......。舌の長い鬼は舌を斬ってから頸を斬り、体の大きい鬼は伸ばしてきた腕を避け、頸のところまで跳んで斬ったのだから、怪我一つなく終わった。水仙流舞は連続で斬れて回避もできるから使いやすいのよね....。

 

 

「餓鬼だがぁ、腹の足しにはなるなぁ......!」

「華ノ舞い 水ノ花 水仙流舞」

 

 

そして、私はまたもや鬼と遭遇してしまった。四人目の鬼が現れた時は、私はすぐに華ノ舞いを使って鬼の頸を斬った。私も四回目で流石に慣れた様子で動じずにその鬼の頸を斬って血を採取した。ちなみに、この鬼は原作では出て来なかった鬼だ。

 

 

「....茶々丸。ごめんね.....。また来てもらって......。」

「にゃあ。」

 

 

私は採取した鬼の血を再び茶々丸の背中にある箱に入れながら茶々丸に声をかけた。茶々丸は気にしないでと言うように鳴き声を上げた。二回目も三回目も勿論血を採取した。...それにしても、あの体の鬼は割と戦いやすかったな......。原作での伊之助の的が大きいから斬り甲斐があるとか言っていたのは、少し同意できたな....。吹き矢を当てるにはとても良い的だと私も思ったよ.....。

 

 

「......ここまで鬼しか会ってないよー。会いたいのは炭治郎と禰豆子なのに....なんで鬼に四回も遭遇しないといけないのよ.....。本当に鬼との遭遇率が高すぎではないですか...。」

 

 

私がそう言いながら歩いていると、どこからか音が聞こえてきた。誰かが戦っている音だ。....この屋敷には四、五人の鬼がいて......私がそのうちの四人の鬼と遭遇したから、残りは一人...。その中で原作の話と合わせると.....残る鬼は鼓を体中に生やした鬼の響凱ね......。....つまり、炭治郎が戦っているのかな?...このまま行くと、炭治郎と響凱の戦いのど真ん中に出るよね.......。首を突っ込んでいいのかな.........あっ!騒がしかった音が聞こえなくなっている!戦いが終わったのかも.....。

 

 

私はそう考えて炭治郎達がいると思われる部屋の襖を開けることにした。襖を開けると、私が思った通りに炭治郎が響凱に小型の注射器を投げ、血を採取していた。響凱は元とはいえ下弦の陸だったわけだから、他の普通の鬼よりも血は濃いと思う。

 

 

「炭治郎!やっと会えた!」

「彩花!?無事だったか?」

「大丈夫。怪我もしてないよ。鬼との遭遇率が高くて、もう四回も会ったよ...。とりあえず襲ってきた鬼の頸を斬って血を採取したから、多分ここはもう鬼がいないと思う。」

「そうか。.......確かにもう鬼はいないようだな。」

 

 

私と炭治郎は互いに無事を確認し合った。私がこの屋敷にいるはずの鬼の頸をほとんど斬ったことを話し、炭治郎が匂いで鬼の気配を探し、鬼を全員倒したことを確信した。私はそれにほっとした時、近くに禰豆子がいなかったことに気づいた。

 

 

「.....禰豆子は?」

「禰豆子は家の前にいた二人のお兄さんの清を見つけて、禰豆子に清を任せてから俺が鬼と戦ったんだ。どこにいるかは分からないが、無事だと思う。」

 

 

炭治郎の話を聞いて、響凱の血鬼術で離れたところにいるのね....。まあ、あれはどこに行ったのか分からないし、禰豆子も清も無事なら良かったよ。早く合流しないとね.......。

 

私はそう思いながら炭治郎が茶々丸に鬼の血を渡す様子を見たり、辺りを見渡したりしていたその時、ふと畳の上に落ちている原稿用紙に気づいた。

 

 

......確か、響凱は小説を書いていたのよね...。そういえば、原作ではそこまで詳しく書かれていなかったから分からなかったけど、一体どんな話が書かれているのかな?

 

 

「....最初は.......これかな。」

 

 

私は好奇心に負けて畳の上に散らばる原稿用紙を集め、その内容を読み始めた。

 

 

「......い。おい。」

「.....うん?」

 

 

私が何枚か読み終えた時、響凱から声をかけられた。....どうしたのかな?

 

 

「...小生の書いたものは.....面白いか?」

 

 

感想を聞かれて、私は困った。何て言えばいいのかが分からないからだ。だって........

 

 

「......うーん...。まだ全部読み終えてないから、はっきりとは言えないけど.....話の設定は面白そうだと思ったよ。これから先の話を読むのが楽しみだよ。」

 

 

まだ読み終えてなかった私はそう言った。だって、私が今読んでいるところは話の序盤だから、これから先の話がどうなるか分からないもん。だから、どうなるか楽しみなのよね。

 

 

「......小僧....。答えろ...。小生の血鬼術は凄いか?」

 

 

私の話を聞いた後、響凱は今度は炭治郎に血鬼術のことを聞いた。

 

 

「.....凄かった...。....でも、人を殺したことは許さない。」

「....そうか........。」

 

 

炭治郎の話も聞いた後、私と炭治郎を交互に見るように視線を動かした。

 

 

「......彩花。禰豆子達が待っている。」

「うん。分かってる。ただ....ちょっと待っててね。」

 

 

早く禰豆子の元に向かおうとする炭治郎に少し待つように言い、私は周りを見渡しながら響凱が書いたであろう小説が他にもないか探した。どこか話が抜けているのは嫌だからね...。私は小説の書いてある原稿用紙を集めて順番通りに重ね、全部あるかを確認した後、背中にある背負い箱の中に入れた。薬の匂いがつきそうだけど....まあ、いいか。

 

 

「成仏してください。」

「あの世でもっとたくさんのお話を書いてくださいね。この小説は私が最後まで読みますから。」

 

 

炭治郎と私は部屋を出る前に響凱にそう声をかけ、廊下を走った。私は響凱に背を向ける時に響凱が泣いていたように見えたが、炭治郎が先を行ってしまいそうなので、炭治郎を追いかけることにした。また迷子になるのは嫌だからね。最後の方にいきなり出てきて.....消えるところを最後まで見届けられなくて申し訳ないが、あの世でも小説を書いて楽しんでください。

 

 

「禰豆子!」

「お兄ちゃん!」

 

 

私と炭治郎はしばらく走り続けた後、炭治郎がどこかの部屋の襖を開けると、禰豆子が炭治郎に抱きついた。.......炭治郎のおかげで、禰豆子に無事会うことができたよ。炭治郎の鼻....凄すぎだよ......。私もその鼻のようなものがあったら、もっと早く炭治郎と禰豆子と合流できたのかな...?

 

 

「.....こ、こんにちは....。」

「........あっ。こんにちは。足を怪我しているね........。」

 

 

清がおそるおそる挨拶して、私はその声で清のことを思い出し、清に声をかけて、清が足を怪我していることに気づいた。私はすぐに傷の手当てをするために薬を塗り、包帯を巻いた。清の足の怪我の処置を終えたその時、呻き声が聞こえた気がして、その声が聞こえた方の襖を開けると、血だらけの男性が倒れていた。私は慌ててその男性に近づいた。耳を澄ますと、心臓は動いているし、息も僅かにだがしていた。私は急いで止血剤や傷薬で傷の手当てをした。幸いなことに怪我をしてから時間がそこまで経っていなかったのか、処置が早かったのかどうかは分からないが、心臓の音も息も安定した。とりあえず応急処置はしたから、早く近くの病院に運ばないと.....。

 

 

「彩花....。その人は大丈夫か?」

 

 

気がつくと、いつの間にか炭治郎と禰豆子が抱きつくのを止めて、心配そうにこっちを見ていた。清も足を引きずりながらこっちに近づいていた。集中していて全く気がつかなかった...。

 

 

「応急処置はしたよ。今は大丈夫だけど......いつ容態が急変するか分からないから、早く病院に運ばないと.......。」

 

 

私はそこまで言った後、あることに悩んだ。

 

どうやって運ぼう.......?足を怪我している清も運ばないといけないし、炭治郎は他の人に触れられないから....私と禰豆子で運ばないといけないよね...。禰豆子はともかく....問題は私が運べるかどうかなのよね.....。頑張って体を鍛えたけど、人を運べるくらいの力がついたかどうかが微妙なんですよね....。それに、この男性は重傷だから丁寧に運びたいし、どうすれば.........あっ!

 

 

私はどうやって男性を運ぶかを考えて、前世の知識の中からあることを思いついた。

 

 

「炭治郎。棒が二本ある?この屋敷の何処かにあるといいんだけど....。」

「棒?」

「この部屋の中ならあるかもしれません。」

 

 

私が炭治郎に聞くと、清の言葉で炭治郎達が部屋の中で棒を探してくれた。私はその間に背負い箱から大きな布を出して確認した。村の人達から貰った物の中に何故かあった大きな布を持ってきていて良かった.....。あとは..........。

 

 

「彩花!あったよ。」

「ありがとう。」

 

 

炭治郎は棒を二本持ってきてくれた。私はそれを受け取ってすぐに長さを確認した。

 

......このくらいの長さなら使えるね。よし。

 

 

私は大きな布を横向きに敷いて、布の左から三分の一に棒を一本置いて折り返した。その後に折り返した辺の端に十分な余裕をとって、棒をもう一本置いて右側も折り返し、右側から折り返した布を左の棒にかけて折り返した。.....うん!これで担架の完成。

 

 

「禰豆子。この人をこれに乗せるから手伝ってくれる?私が上半身を持つから、禰豆子は足を持ってくれる?」

「うん、いいよ。」

 

 

私が禰豆子に頼むと、禰豆子は快く引き受けてくれた。

 

 

「せーの。」

 

 

私と禰豆子は私の掛け声に合わせ、男性を持ち上げて担架に乗せた。その時に私は男性の顔を見て気がついた。

 

...あれ?この人.....原作で炭治郎と善逸が鼓屋敷に入る前に、血だらけで屋敷から放り出され、地面に落ちて外に出れたのに亡くなってしまった男性じゃないかな....?

 

 

「私と炭治郎は担架でこの男性を運んで、禰豆子は清を背負ってあげて。」

「分かった。」

「うん。」

 

 

私と炭治郎は担架を持ち上げ、禰豆子は清を背負った。これなら、炭治郎も運ぶことができるし、担架で運んだ方が安定して運ぶことができるからね。

 

 

「炭治郎。なるべく水平に。それと、足の方向から進んだ方がいいから、炭治郎から進んで。」

 

 

私は炭治郎にそう言い、炭治郎はその通りに動いてくれた。何かあっても禰豆子が足技でどうにかしてしまうので、私は大丈夫そうだと思い、運んでいる男性の方を見て、容態が悪化しないかどうか見ていた。男性の容態も悪化せず、もうそろそろ外に出られるかなと思った時、突然炭治郎が止まってしまい、私は慌てて立ち止まった。どうしたのかと思って前を見ると、炭治郎の体が震えていた。隣では禰豆子が警戒している.....いや、殺気を放っている様子だったので、何か起きたのかなと思った。

 

 

「.......炭治郎。一旦、担架を下ろそう?禰豆子も落ち着いてから清を背中から下ろして。」

「.....ああ...。」

 

 

私は周りの様子から何かが起きると思った私は炭治郎に担架を下ろすように言った。炭治郎も私の言葉に反応し、タイミングを合わせて下ろした。禰豆子も清を背中からゆっくり下ろした。

 

 

「......炭治郎。どうしたの?」

 

 

私は男性の容態を確認した後、炭治郎に近づいて聞いた。炭治郎は体を震わせたまま口を開いた。

 

 

「....あいつらが.....あの二人が......来る....!」

「あの二人......?....あっ!」

 

 

炭治郎のあの二人という言葉に私は誰だろうと一瞬思ったが、原作の鼓屋敷の話を思い出してはっとした。

 

原作では炭治郎は鼓屋敷での任務で二人と出会った。それがおそらく、炭治郎の言う二人なんだと思う。それにしても.....あの二人は厄介だな......。炭治郎の鼻のように聴覚や触覚で相手のことが分かるからね...。

 

 

「炭治郎。その二人は私達のことに気がついた?」

「あ、ああ....。俺のことに気がついて、今、こっちに向かってくる...。」

 

 

あー、やっぱり来たか。でも.....今、炭治郎と禰豆子と会うのはまずいよね....。炭治郎は体が震えているし、禰豆子は今にも唸り声を上げそうだし、すぐにここから離れたい......。けど、こっちには重傷の人がいるし、清も怪我しているからほっとけないよね....。こうなったら........。

 

 

「...炭治郎。禰豆子。二人に会わないように迂回して遠くへ行って。」

「彩花は?」

「私は大丈夫よ。あの二人は私のことを知らないし、時間稼ぎもできる。それに、怪我をしている人達をこのまま放置しておけないよ。」

「.....分かった。気をつけてな。」

「うん。そっちもね。」

 

 

炭治郎と禰豆子は私の言葉に頷き、鼓屋敷の奥に走っていった。もう移動してしまう原因の鼓はないから、屋敷から出られなくなることはない。原作では表の玄関からの出入りと二階の部屋から落ちることでしか外に出れなかったけど、こんなに大きな屋敷なのだから、何処か別の場所からも出られるはず。

 

私は狐面を外しながら玄関の方を真っ直ぐ見た。もう数メートルくらいまで来たけど、一人で運べそうもないな......。....うーん......。背負い箱を下ろせば、清だけなら背負うことができるかも....。せめて、清を外に連れて行こう。外で正一とてる子が待っているからね...。早く安心させておきたい.....。

 

 

「とりあえず、先に清を外に連れて行くね。外で正一とてる子が待っているから、早く二人を安心させないとね....。ほら、乗って。」

「は、はい...。ありがとうございます.......。」

 

 

私が背負い箱を下ろしてからそう言って屈むと、清はおそるおそる私の背中に乗った。

 

....なんとか背負えたけど.....長時間は無理ね...。玄関までならぎりぎり大丈夫かも....。

 

 

私は少し足元がふらふらになりそうにながらもなんとか玄関まで辿り着いた。ほんの数メートルのはずだが......遠く感じたよ....。

 

 

「.....ごめんね。扉を開けるから、少し体勢が....。」

「い、いえ...。大丈夫です。」

 

 

扉を開けるのも苦労したよ......。清に悪くて謝ったけど....気遣ってくれて優しいよ...。

 

あれこれしてやっと扉を開けることができた私は外の光景を見て、固まった。清からもえっ!?という声が聞こえた。だって、目の前の光景が........。

 

 

「おい!」

「きゃあああ!!」

「伊之助!怖がらせちゃ駄目だろっ!あー!もう!正一君!俺を助けてくれよぉぉ!」

「な、何ですか!?」

「何してるの!」

 

 

猪の被り物をしている少年がてる子を驚かし、黄色い髪の少年が猪の被り物の少年を注意しながら正一に抱きついて助けを求め、正一は突然のことに困惑していた。私はその状況を見て、大声で叫んでしまった。

 

 

猪の被り物の少年...嘴平伊之助。黄色い髪の少年.....我妻善逸。この二人のことは原作を見ているから知っていたけど...女の子を驚かす猪の被り物の少年と年下に助けを求めて縋る黄色い髪の少年として改めて見ると...凄く衝撃的だな....。

 

 

「お兄ちゃん!」

「正一!てる子!」

 

 

私の声で正一とてる子の二人が私達に気づいて近づいてくる。私は清を背中から下ろし、正一とてる子は清に抱きついた。互いに無事を確認して涙が出ている。そうだよね...。凄く心配していたからね......。

 

 

「足を怪我しているけど、すぐに良くなるから。」

「お姉ちゃん!ありがとう。」

「ありがとうございます。」

 

 

私が三人に近づくと、三人からお礼を何度も言われた。

 

....うーん.....。と言っても...清を見つけたのも根本的な原因の響凱を倒したのも、炭治郎と禰豆子なんだよね....。私は清と男性の怪我の治療とその他の鬼の頸を斬ることぐらいしかやってないのよね...。

 

 

「おい!」

「はい?」

 

 

私が三人の方を見ていると、突然後ろから声をかけられて振り向いた。すると、いきなりの猪の被り物が目の前にあって内心凄く驚いたが、叫ぶのは踏み止まり、顔が少しひきつるくらいで止まった。

 

 

「お前!俺と勝負しろ!」

「......丁寧にお断りします!」

「なんだと!」

 

 

私は伊之助に勝負を仕掛けられたが、戦う気は一切ないことと伊之助に勝てると思えないということで断った。伊之助は誘いにのらなかった私に文句を言い、私はそれを笑って誤魔化していた。まあ、伊之助は原作で見たのと同じ態度だね....。なんか安心した...けど..........。

 

 

「.........。」

「あの.....。」

 

 

私は騒いでいる伊之助とは正反対に黙ったままこっちを見ている善逸に声をかけた。

 

....だって...私は善逸がよく騒いでいるイメージがあるのだけど......今は本当に何も喋らないから、凄く心配なんだよね...。まさか....炭治郎と禰豆子のことがバレたとか......。

 

 

「どうしましたか?」

「あの!」

「はい!?」

 

 

私が善逸に近づいて手を伸ばすと、善逸が突然私の伸ばしていた手を掴み、私は驚きながら反射的に返事をしてしまった。

 

....いきなり、何!?

 

 

「あの!」

「うん.....。」

「結婚してくれ!」

「....へっ?」

 

 

善逸の唯ならない様子に私はどうなるか分からなかったので、様子を見ていたが、善逸の言葉に私は変な声を出した後、固まってしまった。

 

 

......あー。そういえば、善逸って女の子が大好きだから、女の子に出会うと求婚してくるんだよね...。すっかり忘れてたよ.....。

 

 

 

 



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笹の葉の少女は原作キャラのことで困る

「結婚してくれよおおぉぉぉ!」

「..........。」

 

 

いつまでも返事をしない私の手を握りながら喚き散らす善逸を見て、私はこの状況をどうしようかと考えていた。

 

 

善逸は原作でも声をかけてきた一般の女の子に求婚するくらいの女の子が大好きな少年だ。原作の中では炭治郎と同期で雷の呼吸を使える剣士。だが、自分のことを卑下にして任務を泣いて拒否する人だ。まあ、女の子と任務以外のことでは常識人なんだよね.....。......とまあ...善逸に関してはこれくらいだよね.......簡潔にまとめると.....。....それより、どう返事をしたらいいのかな?こんな騒がしい状況でも炭治郎達が離れるまでの時間稼ぎにはなるから、私はそのままにしておこうかと思っていたのだけど.....うーん...。このまま善逸に気を取られていたら、伊之助が炭治郎と禰豆子に気づくかもしれないからね。それに私も一緒に行動していることが分かったら面倒なことになりそうだ。今だって、善逸にも気づかれるんじゃないかとヒヤヒヤしているんだね...。

 

 

 

原作では炭治郎の同期は五感が優れている。善逸は聴覚が、伊之助は触覚が鋭く、炭治郎の鼻と同様に人の感情や嘘が分かるくらいだ。そういう人を欺こうというのは難しいのよ....。鬼との戦いとかには便利だが、こっちは誤魔化すのだって大変なのだからね。二人の音が聞き取られていないか、二人の場所が感知されていないかって凄く心配なんだよね.....。まあ、幸いなのは善逸は聞こえる範囲にいた人の音を聞き、伊之助は感知できる範囲の気配で分かるから、炭治郎とは違って私がさっきまで誰といたかというのが分からないことよね...。音と気配が正確に分かるくらいの距離だったらバレていたけど、それぐらい近かったら炭治郎と禰豆子を追いかけるために回り込んだり分かれたりしそうだもん。二人が真っ直ぐにここに来たっていうことなのだから、あまり近い場所ではないはず.....。それなら、私が炭治郎と禰豆子と一緒にいたことも分からないはずだ。炭治郎なら匂いで誰といたか分かるけど、音と気配ならそれは分からない。手狐面も念のために外していたから、これで炭治郎との繋がりが分からないんじゃないかな....と私は思っている。後は私がバレないように動揺せずに動けば........。

 

 

「おい!いつまでやってやがるんだ!弱味噌!」

「いてっ!?何すんだよぉぉ!伊之助!俺は善逸だよ!」

 

 

私にずっと縋る善逸にしびれを切らしたのかどうかは分からないが、伊之助が善逸の頭を殴り、善逸が殴られた頭を抑えながら伊之助を睨んだ。

 

 

「んなことをやっている場合か!ここに来た目的を忘れるなあ!」

「分かってるよ!でも、炭治郎の音も鬼の音も聞こえないから、もうここにはいないかもしれない。」

「うるせー!とにかく、行くぞ!猪突猛進!猪突猛進!」

「えっ!?ま、待ってよぉぉ!伊之助ぇぇ!」

 

 

私は屋敷へと入っていった伊之助と善逸を見ていた。

 

やっぱり目的は炭治郎と禰豆子ね。ということは.....ここに来たのは十中八九は炭治郎と禰豆子の手がかり...と任務かな....。まあ、その任務も響凱は炭治郎が倒したし、残りは私が全部片付けちゃったみたいだから、鬼はもういなくなっているよ。善逸も鬼の音はないとか言っていたし、炭治郎も言っていたのだから間違いない。......そういえば、伊之助が中に入っていったのは炭治郎と禰豆子がまだ屋敷にいるからなのかな?.....いや、善逸が炭治郎の音はないって言っていたし、伊之助が暴れたいだけなのかも...。なんか物が壊れていく音が聞こえるし....。...というより、炭治郎と禰豆子はどこまで行ったのかな?合流できるといいのだけど........。今、善逸と伊之助がいない間にここから離れようかな.....あっ。背負い箱を置いていたんだっ....あっ!大怪我をしたあの人!!善逸達のことが衝撃的過ぎて、すっかり忘れていた......。ごめんなさい...。....背負い箱と大怪我した人のこともあるし、私も屋敷の中にもう一度入ろう。

 

 

 

私はそう思って清達に背負い箱と大怪我をした男性のことを話し、待っているようにと最後に言ってから屋敷の中に再び入った。私が入った時には何故か屋敷の中が静かだったので、あれ?と不思議に思ったが、とりあえずは背負い箱と男性を放置してしまったあの場所に向かった。男性と背負い箱が見えた時、近くに善逸と伊之助もいた。善逸と伊之助は私の背負い箱を凝視していた。私は一瞬どうしてだか分からなかったが、すぐに背負い箱を見ている理由が分かった。私の背負い箱は炭治郎が使っていたものと同じものだ。鱗滝さんが作ったのだから当たり前なんだけど.....。......まあ、私も初め見た時は驚いたよ...。.......うん?....って、伊之助が背負い箱を思いっきり上下に揺らしているんだけど!?それは禰豆子が入っていないし、入っているのは薬とその道具だから止めて!!

 

 

「止めて!それは私のだから!薬と調合道具が入っているから止めて!」

 

 

薬と調合道具が割れちゃうから!いや、禰豆子が入っていてもそんなに勢いよく振っちゃ駄目だし!お願いだから、もう揺らさないで!

 

 

私は伊之助のところに全力で走って向かいながら叫んだ。

 

 

「あっ?」

「伊之助!あの子の言っていることは本当だと思うよ!その箱からは瓶やガラスとかが当たる音か紙が擦れる音しか聞こえないから、禰豆子ちゃんはいないよ!それ以上振ったら割れちゃうよ!」

「チッ!」

「わわっ!?」

 

 

善逸の説得で伊之助は舌打ちしながら乱暴に背負い箱から手を放し、背負い箱は重力に任せて下に落ちていく。私は慌てて背負い箱と床の間に滑り込み、ぎりぎり背負い箱を受け止めることができた。私はそれにほっとしてすぐに背負い箱の中を確認した。薬が少し溢れていたが、薬を入れていた瓶と調合道具はどこも割れてたり壊れてたりはしていなかった。

 

 

「.....よ....良かった......。」

「ごめんね。大丈夫だった?」

「あっ、うん。大丈夫だよ。」

 

 

私は何も壊れていなかったことにほっとして安堵していると、善逸が後ろから声をかけてくれた。どうやら心配してくれているようだ。私はとりあえず返事はしておいた。隣では伊之助が背負い箱の中を見ながらねず公はいねえのかと呟き、少し残念そうにしていた。ごめんね....。入っているのが禰豆子じゃなくて.......。

 

 

「...その箱はどうしたの?薬とかがいっぱい入っていたけど.....。」

「....私、これでも薬屋と医師のようなことをしているの。」

「ああっ?お前、刀を持っていたじゃねえか?」

「あー。まあ、個人で鬼狩りのようなこともしているよ。だけど、薬屋や医師の方が主な仕事なの。薬を持って鬼と戦う時に大変だからってこの箱を貰ったのよね。鬼と戦いやすいようにって軽い素材で作ってもらったの。とても軽いから、動きやすくて気に入っているの。」

 

 

善逸が背負い箱のことがやはり気になったらしく私に聞いてきたので、私は正直に答えた。善逸と伊之助は嘘をついてもすぐにバレちゃうから、ここは正直に言った方が怪しまれないし良いよね.......。

 

 

「そうなんだね.....。ごめんね、こいつのせいで。」

「ううん。特に何も壊れてなかったから大丈夫だよ。」

「ああっ?勝手に謝るじゃねえよ、紋逸!」

「善逸だよ!伊之助!なんでお前はそう何度も人の名前を間違えるんだよ!」

「うるせー!」

 

 

善逸と伊之助がぎゃあぎゃあと騒ぎ始め、私はその様子を苦笑いしながら見ていた。

 

原作で見ていたから知っていたけど...炭治郎は大変だったんだな.....。....それよりも善逸と伊之助が一緒に来たっていうことはこの二人も前世の記憶があるっていうことよね.....。禰豆子の名前を言っていたし、さっき炭治郎の名前も出ていたし......。それと....気になることがある。会ってみてすぐに分かった。善逸も伊之助も原作とは同じ性格だ。同期であり、長く苦楽を共にした炭治郎を裏切るような人達とは思えない.....。それに炭治郎での話でも.......お前は誰だって言っていた...。おそらく、他の人達も善逸や伊之助と同じだろう。.....つまり...鬼殺隊の人達は.........。でも、炭治郎と禰豆子と会わすことはできない。炭治郎と禰豆子の様子からして、顔を合わすのは今は得策ではないだろう.....。何より、事情がどうであれ....鬼殺隊の人達が炭治郎を裏切って殺したのは事実だ。炭治郎も禰豆子も会いたくないだろう....。特に禰豆子に関しては襲いかかるのは間違いない。殺気だって凄かったからね...。

 

 

「....どうしたの?」

 

 

私が深く考えている間に善逸と伊之助との言い合いは終わったらしく、善逸が私に声をかけてきた。

 

.......あっ。すっかり考え込んでしまった......。

 

 

「大丈夫。ごめんね。...ちょっと考え事しちゃって......ああっ!」

 

 

私はとりあえずそう答えながら周りを見渡し、何か善逸達の注意を引けるものがないか探した。善逸達に何を考えていたかなんて聞かれたら、誤魔化せるかどうか分からないからだ。仮に誤魔化せてもさらに追求されても、どこかでボロが出そうだしね.....。ここは話題を変えた方がいい。

 

 

私はそう考えて周りを見渡し、足元も見渡した時、大怪我をしている男性が目に入り、私は声を上げた。そもそも私はこの男性のことで屋敷にもう一度戻ってきたのだか....またまたすっかり忘れてました......。

 

 

いや、私はなんで肝心の目的を忘れていたのよ...!善逸と伊之助がいるからといって、大怪我をしている人のことを忘れるなんて.....。

 

 

「ごめんなさい!大丈夫ですか!」

「....ううっ......。」

 

 

私が男性の元に駆け寄って息を確認すると、男性から小さいけど声が聞こえ、心臓も耳を当てて聞いてみたが、安定していた。.....息があったから良かったけど、早く病院まで運ばないと危険ね...。....こうなったら.........。

 

 

「二人とも、初対面で悪いけど.....手伝ってくれる?」

「う、うん....いいけど......。...その人は知り合い?」

「違うよ。この屋敷で倒れていた人。大怪我をしているけど、応急処置は済んでいるからとりあえずは大丈夫。でも、すぐに病院に連れて行かないといけないの。私一人では無理だから、この人を運ぶのを手伝ってほしいの。」

 

 

私は善逸と伊之助に大怪我をした男性のことを頼んだ。私だけでは病院まで男性一人を運ぶことはできない。だから、善逸と伊之助が運んでくれる方が良いと思う。それに、善逸と伊之助が協力して運んでくれた方が速いと思う。安全面は保証できないけど.....。

 

 

「...分かった。この屋敷には俺達以外はいないみたいだし、俺もこの男性をほっとけないよ。」

「おい!紋逸....」

「鬼の気配がないのは伊之助も分かっているだろう。この屋敷には本当に俺達四人しかいないんだ。この男性は大怪我をしているから、今すぐ運ばないと.....。」

「だー!ったく!仕方ねえな!」

 

 

善逸が快く承諾してくれたが、伊之助は不満そうな様子だったが、善逸の説得を聞き、伊之助は渋々ながらも男性を運ぶのを手伝ってくれることになった。

 

 

あっ!四人って言ってたから、炭治郎と禰豆子は無事にここを離れられたんだ。良かった....。鉢合わせするのではと思って心配したよ。.....あと、善逸も伊之助もなんだかんだ優しいよね...。そうなると、やっぱり.......。

 

 

「これでこいつを運べばいいのか?」

「そうね....。この人がどれくらい耐えられるか分からないから、できるだけ早くこの人を病院に運んでほしいの。でも、安全に運んでね。安全に速くだよ。」

「俺に命令すんじゃねえよ!」

「....そういえば、君の名前を聞いてなかったよね?」

「あー。お前、一体なんだ?」

「なんだと聞かれても.....。」

 

 

伊之助の質問を聞き、私が説明していると、善逸が聞いてきた。

 

......まあ。気になるよね...。どう答えた方が良いのかな?偽名だとすぐにバレるし、名乗らないと怪しまれるよね......。それなら.......いっそのこと....。

 

 

「私は生野彩花。」

「彩花ちゃんね...。俺は我妻善逸だよ。それで、この猪頭が........。」

「嘴平伊之助!山の神だ!」

「彩花ちゃんはこの後どうするの?」

 

 

私は正直に名乗ることにし、善逸と伊之助も名乗った。互いに自己紹介を終え、善逸がそう聞いてきた。

 

 

.....うーん....。私も男性のことが心配だからついて行きたいけど、善逸と伊之助と一緒にいたら炭治郎と禰豆子と合流するのが難しいからね.....。それに、この屋敷で亡くなった人がいないか確認しないとね....。いるなら埋葬した方がその人も成仏してくれるよね...。

 

 

「私はこの屋敷の中で亡くなった人がいるか確認したいの。もし、いたとしたら埋葬しないといけない......。埋葬が終わったら外にいた清達を家まで送って、その後仲間と合流しないといけないから、私は用事が終わったらすぐにこの屋敷を出るね。....その人のことをお願いね。」

「.......分かった。この屋敷のことは任せるよ。」

「おい!紋逸、さっさと行くぞ!」

「分かってるよ!それと、俺は善逸だからな!」

「二人とも気をつけてね!」

 

 

私はそう話し、善逸も納得してくれたらしくそう言ってくれた。一方、伊之助の方は早く終わらせたいようで善逸を急かし、善逸はそれに答えながら自分の名前を訂正する。そんなやり取りをしながら善逸と伊之助は屋敷の外に出て行った。その様子を見た後、私はそのまま屋敷の中を歩き回り、亡くなった人達を見つけた。原作ではどのくらいの人が亡くなったのか知らないけど、私達が原作より少し早い時期に来たといっても数人もいた。あの男性は助けられたが....助けられなかった命が数人いたのは悲しいな.....。でも、一人の命は助けられたのだから...原作よりも亡くなった人が減ったことを喜ぼう。

 

 

私はなんとか亡くなった人を一人だけ外に出すことができた。外に出た時に埋葬するための穴を掘るのを清達に頼んだら頷いて地面を掘り始めてくれた。私はそれを確認した後、再び屋敷に戻った。私は一人しか持ち上げることができなかったので、屋敷を数回往復した。私は亡くなった人達を全員運び出し、穴を掘るのを手伝った。そして、穴を掘り終えてすぐに亡くなった人達をその中に埋め、私と清達は黙祷を捧げた。

 

私は数分黙祷を捧げた後、清達を村まで送ろうとしたら大丈夫だと断られてしまった。仕方なく私は傷薬ともう一つ藤の花の匂袋を渡し、清達が山を下りていくのを見送った後、私は炭治郎と禰豆子と合流しようとして気がついた。

 

 

「.......炭治郎と禰豆子とどこで合流しようとか決めてなかった.....。...どうしよう.....。私には炭治郎のような鼻のようなものを持ってないから炭治郎と禰豆子を探せないし.....この時代にはスマホがないから連絡もできない.....。どうやって炭治郎と禰豆子と合流しよう....。」

 

 

私は後先を考えずに行動したことが裏目に出てしまい、途方に暮れてしまった。その後、炭治郎と禰豆子が通ったであろう鼓屋敷の裏に行き、その道から山を下りたが、なかなか炭治郎と禰豆子に会えずに不安で泣きそうになった時、炭治郎と禰豆子が私を迎いに来てくれた。私は炭治郎と禰豆子を見た瞬間、力が抜けて地面に座り込んでしまった。二人が心配してくれているが、私はそれどころじゃない。

 

 

 

...だって、合流できないんじゃないかって凄く不安だったのよ.....。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「........彩花。落ち着いたか?ごめんな。置いて行ってしまって......。」

「....うん、大丈夫。気にしないで。私も後先のことを考えていなかったから、お互い様だよ....。」

 

 

私が地面に座り込んで炭治郎と禰豆子に心配をかけてしまったが、私はその後すぐに立ち上がり、大丈夫だからと言って次の場所に向かっていた。炭治郎と禰豆子が申し訳なさそうにしているので、私はそう言った。

 

 

...このことに関しては私も悪い。後先も考えないで別行動にしたからね.....。前世の影響で後で連絡すればいいって考えるようになっているよね...連絡手段もないのに........。今度からその後のことも考えるようにしないとね......前世のそういった感覚もなしに.....。

 

 

「......あの怪我をした人は大丈夫だったか?」

「....たぶんね...。私一人だと運びなかったから......あの二人に預けちゃった.....。あの二人が安全に病院まで連れて行ってくれたら、きっと大丈夫だと思う....。」

「あ、ああ.......。」

 

 

炭治郎があの大怪我をした男性のことを聞いてきたので、私は正直に答えた。それにしても....あの二人に任せて大丈夫だったかな......。あの人にも悪いことをしちゃったな...。口実のように使ってしまったから....。あと、あの毛布も担架として一緒に持って行かれちゃったけど.....まあ、いいか。その毛布のおかげで一人の命が救われたのだから、村の人も文句はないよね。

 

 

「...彩花は大丈夫だったか?何もなかったか?」

「大丈夫だよ。ごめんね、やっぱり言わない方がよかったね....。」

「いや、大丈夫だ。」

 

 

炭治郎に善逸と伊之助の話をしたら少し表情が堅くなった......。やっぱり話さなきゃ良かったな.....。

 

 

そんな後悔をしていると、炭治郎がそう声をかけてくれたが、炭治郎の様子からして全然駄目だ。禰豆子は......禰豆子の出す殺気?.....そんなの知らない!見えてない!見てないから!

 

 

「そういえば、清やてる子達はどうだったか?」

「私と鼓屋敷で亡くなった人達の埋葬をした後、私が家まで送ろうと思ったのだけど、自分達で帰れるかって言っていたから、とりあえず私は清の傷薬と、不安だったからもう一つ藤の花の匂袋を渡して三人を見送って........あっ!」

「...彩花!どうした!?」

 

 

突然大きな声を出した私を炭治郎と禰豆子が心配しているが、今の私はそれどころじゃない。....ど、どうしよう......。

 

 

「炭治郎.....。禰豆子...。どうしよう....。私、清達に私達のことを内緒にしてくれるように口止めするのを忘れちゃった......。」

 

 

私の言葉に炭治郎と禰豆子は一瞬何のことかと思った様子だったが、少し考えてからどういうことか分かったようだ。

 

 

「気に、しないで。」

「うん。彩花が気にしなくていいことだ。清達は俺達もいることを知っているけど、それは大したことはないと思うよ。」

「でも......。」

「大丈夫だ。」

 

 

炭治郎と禰豆子はそう言ってくれているが、私にはどうにも気がかりだよ...。もし藤襲山の件で私と炭治郎のことがバレていたら、私と炭治郎が狐面をつけているのはバレているってことよね。禰豆子も狐面をつけてないから特徴を話したらすぐにバレるし....。清達が私達のことを話したら......。...私も.....完全に炭治郎と禰豆子と一緒にいたことがバレますね...。私は正一とてる子の前でも清の前でも狐面を外していましたからね!念のために、善逸と伊之助と会う前に狐面を外して炭治郎達と一緒にいるのがバレないようにしていたのに.......。全然意味がなかった......。

 

 

「...早く次の場所に行こう。」

 

 

とりあえず、私はここから早く離れることを選んだ。

 

 

バレてもバレてなくても.......おそらく遠くにはいないだろう善逸と伊之助から少し距離をとった方がいい。次の用事が済んだら、しばらくは鬼殺隊に原作キャラ達と会うことはない。今はその場を凌ぐことだけを考えよう...。炭治郎はあんな様子だったし、禰豆子も......ある意味で危ないからね....。こんな状態で鉢合わせになったら...........想像もしたくないな....。...主に....周りに対する被害が.........。

 

 

 

「そうだな.....。次の場所は匂いがキツいからな....。」

「うん.....。次は那田蜘蛛山でしょ。早く終わらせよう。」

 

 

 

 



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笹の葉の少女は現実逃避する

.....えー。皆さん、本日は夜なのにとても明るいですね...。

 

 

 

いや。何を言っているんだと思っている人もいるでしょうね.....。私は今、現実逃避をしているのですよ....目の前の惨状に対して......。目の前で何が起きているかって?.......それは...那田蜘蛛山が......目の前で今.....燃えています。

 

 

.....燃えているって?と疑問符を浮かべる人も受け入れられない人もいると思いますが....これは事実です。本当に今、まさに私の目の前で起きていることです。.......何が起きたのかって?...それは..........その....それが........那田蜘蛛山を燃やしたのは.....禰豆子なのですよ。....どういうことか全く分からないと思いますが、説明します。.....事の始まりは那田蜘蛛山に着いた時だ。私達は那田蜘蛛山に着いてすぐにどう動くか話し合っていた。

 

 

 

 

「那田蜘蛛山の鬼は五人だよね?」

「ああ...。そのうちの一人は十二鬼月だ。」

「今のところ、鬼殺隊の人達はあまり多くはないけど....このままだと増援を呼ばれそうだね......。」

「....前世でもたくさんの人達がここに来ていた。強い人達もこれから来る.....!」

「........そうね...。」

 

 

私は炭治郎の話を聞きながら考えていた。

 

 

....炭治郎の言う通りなんだよね.....。原作では....那田蜘蛛山編では色々な人が出てきた。村田さん(に失礼だが.......。)とかの他の鬼殺隊の人達のことは置いておくとして...まず、善逸と伊之助は厄介だからね.....。原作のように怪我をしていないから、すぐにここに来そうだよね...。あと、カナヲね。原作では炭治郎達と同期で、視覚が炭治郎の鼻並みに優れているのよね....。善逸と伊之助が前世の記憶を持っていたのだから、カナヲも前世の記憶を持っている可能性がある。...そして.......中でも一番厄介なのは.....あの二人よね....。鬼殺隊の幹部のような立場であり、柱の冨岡義勇と胡蝶しのぶ......。この五人に囲まれたら完全に逃げられないし....というか、柱一人でも逃げられるか分からないのに......二人もは厳しいよね.......。私のことも情報が回っているかもしれないし.....。

 

 

「......うーん...。これは....時間との勝負ですね.....。」

「確かに.......。あまり長居はできないと思う。」

 

 

私と炭治郎がどう動くかと頭を悩ませていると、禰豆子がゆっくりと那田蜘蛛山に近づいていった。

 

 

「........禰豆子?どうしたんだ?」

「禰豆子?」

「......任せ、て。」

 

 

炭治郎と私はそれに気づいて禰豆子に声をかけると、禰豆子は私達に振り向いてそう言うと、再び山の方を向き、自身の血を撒いて手を握り締めた。すると、血を撒いたところから炎が出て、その炎は大きくなって広がっていった。

 

 

...............。

 

 

 

「「えっ?」」

 

 

私と炭治郎が我に返った時は炎が大きくなって広がっていき、山を呑み込んだ。

 

 

「禰豆子!?」

「も、燃えている!?火事!?山火事!?」

 

 

炭治郎は禰豆子に近づき、私は山を呑み込んでいく炎を見て、慌てるが、何もできずにおろおろとしていた。私がそうしているうちに、那田蜘蛛山は完全に炎に包まれ、激しく燃えていた。....まるで、前世の時にやったキャンプファイヤーみたいだな.....。...って、そんな現実逃避をしている場合じゃない!なんとかしないと......。うん?.....あれ?

 

 

「炭治郎、見て。....山は燃えているけど......あれは.....。」

 

 

私は炭治郎に話しかけ、私が見つけたものを指差した。炭治郎もその方向を真っ直ぐに見つめた。

 

そこで見たのは....炎に包まれてはいるが、それでも動いたり話したりする鬼殺隊の人達だった。この人達は本当に炎に包まれても平気そうな様子だった。......善逸達原作キャラがいないようだ。いや。それよりも....どうして...普通の人達だよね.....?....鬼殺隊の人達もそのことに困惑している様子だ.....。こんな不可思議なこと........あっ!

 

 

私はあることを思い出した。禰豆子の使う血鬼術、爆血のことを。

 

 

禰豆子の使う爆血は自らの血を任意で爆炎化させる血鬼術。血で燃やせるものと言ったら、それしか方法はないよね.....。爆血は高熱で対象物を燃やしたり、爆破力で剣撃を加速したり、血鬼術の効力を焼け切ったりすることも可能なほどだ。また、爆血は燃やしたい物だけを燃やすという特殊性がある。おそらく、禰豆子が燃やしたいのは那田蜘蛛山にいる鬼だけなんだと思う。だから、鬼殺隊の人達は燃えていない....それに...よく見ると、山は一切燃えていないし、焦げた匂いも全然していない。....とりあえず人体には問題ないということは分かったけど.....これからどうしようか?禰豆子の血鬼術で山が燃えているから、中にいる鬼は全員燃やされているのは分かっているが、本当に鬼全員が燃えているかは確信がないんだよね......。

 

 

「....炭治郎。どうする?」

「そうだな。.......山の中に入ってみよう。山の中の様子を見ておきたい。」

「...うん。分かった。」

 

 

私が炭治郎に聞くと、炭治郎は悩みながらそう言ったので、私達は山の中に入ることにした。山の中に入ってすぐ、私達は別々に行動して様子を見ることにした。

 

人体は燃えないと分かっていたけど、燃える山の中に飛び込むのは心臓に悪かった.....。

 

 

「...うっ......。」

「....大丈夫...かな.....?」

 

 

私が燃える山の中を走り、倒れている鬼殺隊の人を見つけた。私は心配になってその人の容態を見ていた。その人は鬼の毒にやられていて、すぐに治療しようと私が背負い箱を下ろそうとした時、その人が突然禰豆子の血鬼術の炎に包まれた。私はそれに驚いたが、もしかしたらと思ってしばらく様子を見ると、勢い良く燃えていた炎が突然何かを燃やし終わったかのように消えた。炎が消えた後、私がすぐにその人の容態を見てみると、毒は消えていた。そのことから、私は鬼の毒を浄化していることに気づいた。

 

 

禰豆子の血鬼術は自らが燃やしたいと思っているものを燃やす....ということは...禰豆子も色々あったけど、鬼殺隊の人達に死んでほしいとは本気で思っていないみたいだ。

 

 

私はそのことにほっとしながら鬼殺隊の人を地面に寝かせ、先に進んだ。

 

あの人には悪いけど.....私は大人を一人抱えて歩くことは無理です。すみませんが、そこで横になっていてください。山を包む炎が消えれば、きっと隠の人達が迎えに来てくれると思います。

 

 

私が内心その人に謝りながら山の中を走っていると、女の人の叫び声が聞こえた。その叫び声はとても苦痛のように聞こえた。私はその叫び声が聞こえた方に向かうと、そこにいたのはやはり鬼だった。それも累の母役をしている鬼だ。その鬼は爆炎で体が燃えたようで、体中に火傷が多く、その痛みで立っていられない様子だった。私は苦しそうにしている姿を見て、楽にした方がいいと思って鬼に近づいた。

 

 

「!?」

「....ごめんなさい。」

 

 

鬼は私に気づき、私は謝りながら刀を抜いた。鬼は抵抗しようとしたが、体中の火傷で血鬼術も使えず、ただどうにかしようと考えている様子だったが、やがて手を上げて目を瞑り、死を受け入れることにしたようだ。

 

 

「華ノ舞い 日ノ花 日車」

 

 

私はそれに気づき、斬られても痛くない日車を使った。日車を使った時に少しバランスを崩したが、鬼の頸を斬ることができた。鬼は頸を斬られても痛くないことに驚いて目を見開きながら涙を流していた。

 

 

「......あ....りが.....とう........。」

 

 

鬼はそう笑ってお礼を言うと、灰になって消えてしまった。

 

 

「...どうか成仏してください....。......今度は幸せになってください.....。」

 

 

私は手を合わせてそう言い、別の方向に走り出した。私は走りながらあることを考えていた。

 

 

狐面で誰も私の表情が分からなかったと思うが....あの時、私は目を見開いた。炭治郎と禰豆子が見たらと分かったと思うが.....あの時.......日車の炎が僅かに大きかった。そのせいで、炎の勢いが変わってバランスを崩してしまった。一瞬、日車とは別の型かと思ったが....鬼は痛そうにしていなかったし、あれは日車だって、私の勘が言っているのだから間違いないだろう.......。.....ひょっとして........気のせいだったり...するのかな.....。

 

 

それから少し走っていると、二回ほどまた叫び声が聞こえたのでその方向に向かって頸を斬りました。確か...累の兄役の鬼と姉役の鬼だったと思う....。その二人の鬼も禰豆子の血鬼術の炎で火傷が酷かったので、日車で頸を斬った。頸を斬って灰になったので、特に問題はなかったが、やはり炎の勢いが違う。気のせいではなかった。ただ周りが炎で包まれているのだから、それに反応して日車の炎も一緒に大きくなるのかもと私も思った。しかし、私の心のどこかが....何かを感じている。何かを感じるというより...何かを掴めそうな気がする.....。

 

 

「......うーん.....。」

 

 

私は燃える山の中を歩きながら何も思いつかずに唸っていた。燃える山の中で考え事をしながら普通に歩いているというのは....図的に見ると、色々おかしいような気がするけど...別にいいよね?人体に害はないし。

 

 

「......えっ!?大丈夫ですか!?」

「おい!どうなってんだ!」

 

 

私が深く考えていると、遠くから声がかけた。私が考え事をしている間に誰かが近くまで来たようだ。私はすぐに木の影に隠れ、様子を見ることにした。その人達はこの燃える山の中を入ってきたようだ。私達が言うのはなんですか...燃えた山の中に入るなんて.....凄いですね....。度胸があるとか......そういうような.......。

 

 

「もう!なんで山が燃えているんだよおおぉぉぉ!」

「知るかぁ!俺もよく分からねぇが....鬼の気配も一匹を除いていなくなってるぜ!しかも、その一匹が......。」

「「ねず公(禰豆子ちゃん)だということが!」」

「やっぱりこの山にいるぜぇ!」

「そうだけど...この状況はなんなんだよおおぉぉぉ!」

 

 

山火事状態の那田蜘蛛山に入ったのは善逸と伊之助だった。私は善逸と伊之助の姿を見ながら感心した。特に善逸に関しては頑張って入ったのだろうなということが分かった。だって、今も足が震えているし....無理をして来たというのが分かりやすいな...。

 

 

私がそう思いながら二人の様子を見ていると、二人と視線があった。

 

しまった!今は狐面をしているけど、早く隠れないと......。

 

 

「逃げなくていいよ、彩花ちゃん。」

 

 

善逸の言葉に私は止まった。清達の話から知ったのか...または音と気配で気づかれたのか.....どっちかは知らないけど、もうバレているのだから、今さら隠れていなくてもいいよね?

 

 

私は息を大きく吐いた後、ゆっくりと二人の前に姿を現した。二人の前に立った後、狐面も外した。これも意味はないよね....。さてと.....こっちも聞きたいことがある。

 

 

「.......いつ...私のことを知ったのですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はあいつに最低なことをしてしまった。あいつだけでなく、あいつの妹の禰豆子ちゃんにも...。二人に心の傷を残してしまった....。兄貴は俺のことをカスとかクズとか言っていたが......今はその通りだと思う。どうして、俺はあいつにあんなことを言ったんだろう.....。何故、あいつから聞こえる、泣きたくなるくらい優しい音が傷ついた絶望のような音にしてしまうほどのことをやったんだ....。滅多と泣かないあいつが泣いているのに、俺はどうして手を差し伸べなかった......?あいつは誰にだって手を差し伸べていたのに....。禰豆子ちゃんも.....あんなに恨めしい音をさせて俺達のことを睨んでいた......。俺が気がついた時には、二人はもう亡くなっていった。きっと....俺達に恨みとか怒りとか荒んだ音をさせたまま亡くなっていたのだろう.......。あの時から...俺にその後の記憶はない。心を許してきた人達が次々と亡くなっていき、二人も失って、ついに俺の心が壊れ、死んだのだろう.....。だが、俺は今から二年前に前世の記憶が戻った。俺はやり直せるチャンスなのではないかと考えて必死に鍛練した。そして、最終選別の日を向えたが.....そこには炭治郎の姿はなかった。伊之助達はいたが、炭治郎の姿だけはなかった。伊之助達も俺と同じように前の記憶を持っているらしく、前の記憶の擦り合わせをしたくて四人で行動した。その時に、たまたま遭遇した鬼から炭治郎の情報が出て、さすがに驚いたよ。炭治郎の側にいた緑色の髪の女の子の話を気になったし、もしかしたら炭治郎が何処かにいるんじゃないかって四人で探したけど、結局見つからず、俺達は最終選別が終わって柱合会議に呼ばれた。その会議で藤襲山に炭治郎と緑色の髪の女の子が侵入した話を初めて知って、それから任務の合間に炭治郎とその女の子の情報を調べることになった。....正直、炭治郎は俺達に会う気はないと思うし、何より炭治郎と禰豆子ちゃんにどの面下げて会いに行けと言うんだって.....俺は思うよ。でも.......伊之助も俺も....もう無理なんだと思っても...炭治郎と禰豆子ちゃんと一緒に任務に行ったあの頃に戻りたいと思ってしまうんだ....。せめて、二人の元気な姿くらい見たい.....。

 

 

そんな気持ちのまま、俺と伊之助は合同任務である場所に向かった。その場所は俺達と炭治郎が初めて会ったところだった...。俺も伊之助も暗い表情のままその場所に向かっていた。その時、向かっている場所からあの泣きたくなるくらい優しい音が聞こえてきた。伊之助も何かを感じたらしく、俺も伊之助も走り出した。屋敷の前に来てすぐ、俺は近くの木陰に隠れている二人に話しかけようとしたが、その前に伊之助のせいで大騒ぎになってしまった。あ〜!もうヤダヤダ!ホントにあの猪頭野郎.....!

 

 

「何してるの!」

 

 

俺が助けを求めて正一君に縋っていると、女の子の声が聞こえた。俺が声の聞こえた方を見ると、幼さが残る顔立ちだがとても可愛いらしく、肩くらいの長さの緑が混じった黒色の髪を一つに結んだ女の子が立っていた。俺は目を見開いた。その女の子が可愛いかったのもそうだが、俺はその女の子から聞こえる音に驚いた。彼女から聞こえる音はとても優しくて....炭治郎の音に似ていた.....いや、似ていたと言っても、炭治郎の音と全く一緒ではない。炭治郎は泣きたくなるくらい優しい音だが、彼女から聞こえる音はまるで聞いている人を励ますかのような真っ直ぐで綺麗な優しい音だった。

 

 

「あの!結婚してくれ!」

「....へっ?」

 

 

気がつくと、俺は彼女の手を握ってそう言っていた。俺の言葉を聞いて、彼女は音も表情もとても困っていると分かりやすく出ていた。喚き散らし始めた俺に彼女は戸惑っていたし、正一君達にはドン引きされた。伊之助に引き離された時に伊之助にも彼女のことを聞くと、伊之助も炭治郎に似た気配を感じたらしい。もしかしたら俺も伊之助も彼女と勘違いしたのではないかと考えていたが、屋敷の中に入って背負い箱を見つけた。その時、炭治郎と禰豆子ちゃんがやっぱりいるんじゃないかと思ったけど、彼女の背負い箱だった.....。炭治郎に似ている彼女が気になったから、大怪我をしている人を運ぶのに彼女が困っていたし、それを引き受けたと同時に名前も聞いた。彼女の名前は彩花ちゃんだそうだ。彩花ちゃんと別れて、大怪我の人を運んだ後、俺と伊之助は屋敷の近くに戻ってきた。そこで、俺達は正一君達に再会した。

 

 

「貴方達は...確か......善逸さんと伊之助さん....。」

「ちょっと聞きたいことがあってね.....。」

 

 

俺達は正一君達に聞きたいことがあったからね....。本当は彩花ちゃんにも聞きたかったけど、彩花ちゃんはもう場所が分からないくらい離れているみたいだね.....。でも、この三人も知っているはずだ...。聞いた音が彩花ちゃんの可能性もあるけど....それでも......。それに、任務のことを報告しないといけないから話を聞かないと.....。彩花ちゃんがあの屋敷の鬼を全部倒したのかもしれないけどね......。彩花ちゃんから聞こえた音からして、あの屋敷の鬼達に負けないくらい強いし....。

 

 

「あの屋敷に行って、鬼を倒したのは彩花ちゃんだけだった?」

「.......いえ、あのお姉さんともう二人いました。」

「えっ?他にもいたわけ?」

「は、はい....。男の人と女の子でした。あの大怪我をした人をお姉さんと男の人が......僕のことを女の子が運んでくれていました。」

 

 

俺は二人の話を聞きながら屋敷の時のことを思い出していた。あの時、炭治郎の物と似た背負い箱に気を取られずに良く考えていれば、分かることだったと思う。あの担架を見れば、二人でじゃないと運ぶことができない。あと、足を怪我した子もいるんだから、女の子一人で運ぶのは無理だ。あれ?それなら、その二人はどうしていなくなったんだろう?彩花ちゃんを一人残して........。

 

 

「...彩花ちゃんと一緒にいたその二人はどんな感じの人だった?」

「それは.....赤い髪に花札のような耳飾りと狐面をつけた男の人と......毛先がオレンジ色の長い髪に桃色の目と着物の女の子で....「「その話、詳しく聞かせて(聞かせろ)!」」...!?」

 

 

その二人のことを何気なく聞いたら思わぬ言葉が聞こえ、俺も伊之助もそう強く言ってしまった。

 

赤い髪に花札の耳飾りと狐面......毛先がオレンジ色の髪で桃色の目と桃色の着物を着た女の子....それに、俺が聞いた泣きたくなるくらい優しい音.......。

 

 

詳しく話を聞くほど、炭治郎と禰豆子ちゃんだ。それに、彩花ちゃんが二人のことをそう呼んでいたらしいから、間違いなくそうだと思う。...それと....藤襲山に侵入した、炭治郎と一緒にいた女の子......その女の子はおそらく、彩花ちゃんのことだと思う。緑色の髪の女の子っていう話だからね....。彩花ちゃんの髪は黒色に見えるけど、よく見てみたら緑色が混ざっているから。

 

 

「そういえば、なんであのお兄ちゃんもお姉ちゃんも狐面を顔につけていたのかな?」

「彩花ちゃんも狐面をつけていたの?」

「はい。何故か善逸さん達と会う前に外していましたけど.....。」

「僕達も草笛を吹いてもらった時に見ました。」

「あのお姉ちゃんの草笛、とても凄かったんだよ。」

 

 

狐面もつけていたということは...藤襲山に炭治郎と一緒に侵入したのは彩花ちゃんで決まりだね。狐面を外したのも、俺達にバレないようにするためだね。

 

 

「ありがとうね。聞きたかったことは全部聞けたから、もう帰っても大丈夫だよ。」

「はい。」

「それでは、さようなら。」

「あのお姉ちゃん達にもよろしくね!」

 

 

正一君達が村に帰って行ったのを見送った後、俺はすぐに報告書を書き始めた。伊之助は字があんまり上手く書けないから、俺が書くしかない。それに、この報告は鬼殺隊全員に伝えないといけない...。

 

 

「頼んだよ、チュン太郎。」

「チュン!チュン!」

 

 

俺はチュン太郎の足にその報告書を括り付け、鬼殺隊本部に届けてくれるように頼んだ。

 

 

「.....これで、この情報は他の人達にも伝わるはずだ。」

「おー。それなら、俺達も行くぞ!」

「....行くって?」

 

 

チュン太郎が飛んでいくのを見た後、伊之助がそう言った。俺は首を傾げた。次の任務はまだ決まっていないはずだ。

 

 

「次はあそこだろう?」

「あそこ?.....あっ!」

 

 

伊之助の指差す方を見て、何処のことを言っているのか分かった。

 

確かに...ここの次はあそこのはずだ....。それに、もしかしたら炭治郎達がいるかもしれない。それなら、あそこに行ってみるのもいいかもしれない......。前世で俺達が次に向かった任務の場所....那田蜘蛛山に行けば.......。

 

 

 

そう期待した俺はその後、那田蜘蛛山が燃えていることに絶叫を上げることになるとは.....俺も予想していなかった........。

 

 

 

 

 



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笹の葉の少女は原作キャラに出会いすぎて驚く

 

 

 

「....やっぱり清達に聞いたのですか?」

「うん。正一君達に聞いてみたんだけど、彩花ちゃんの他にも誰かがいたという話を聞いたのは驚いたよ。俺達、炭治郎と禰豆子ちゃんの知り合いなんだ。炭治郎と禰豆子ちゃんはどこかな?俺達、二人と会いたいんだけど......。」

「ごめんね。私達、今はこの山の中を二手で分かれて行動しているから、炭治郎と禰豆子がどこにいるのか分からないの。」

 

 

善逸に炭治郎と禰豆子と会わせてくれと頼まれるが、私はそう言った。

 

すみませんけど.....炭治郎と禰豆子が今、この山の何処かにいるかは私も分からない。それに、頼まれても流石に....炭治郎と禰豆子に会わすのは.....まだかな?......今はまだ落ち着いた様子ではない。特に、禰豆子と会うのは絶対に無理だな....。善逸と伊之助が来たら、禰豆子がすぐに攻撃してきそう。結構敵意丸出しだからね.......。

 

 

「今更ですが、確認してもいい?貴方二人にも前世の記憶というものがあるの?」

「ああ。」

「うん.....。」

 

 

一応、確認はしたけど、やっぱりね.......。予想はしていたから驚きはしないが....。

 

 

「...こんなことを言うのは申し訳ないけど......炭治郎と禰豆子と会うのはまだ少し早いと思うよ。」

「ああ?何でだ?」

「二人の様子を見る限り、まだ話ができる状態だと思えないの。」

 

 

私は正直に言った。私の言葉に伊之助は疑問に思ったようだが、すぐに納得したようだ。それは隣にいる善逸も同じで、私の方を黙って見ていた。

 

 

「炭治郎と禰豆子ちゃんの様子は?」

「....貴方達二人にとっては、ショックを受けるような話だと思いますが、本当に聞くのですか?」

「...うん。俺達は今の炭治郎と禰豆子ちゃんの様子が気になるんだ。」

 

 

善逸の質問に私は確認することにした。気になるから聞きたいと言っても、あんまり聞いていて気分の良い話じゃない。特に、当事者である善逸と伊之助はね......。私が確認すると、善逸は覚悟を決めた目でそう言い、伊之助も黙って私のことを見つめていた。私はそれを見て、仕方がなく話すことにした。

 

後悔すると思うけど....聞くと言ったなら、ちゃんと聞いてよね。

 

 

「.....炭治郎は前世の時のことで人が苦手になったの...。.......いや、人が苦手になったというより.....心的外傷に近いものね。」

「心的外傷ってなんだ?」

 

 

私は言葉を選びながら炭治郎のことを話し始めていると、伊之助が質問してきた。善逸も心的外傷に関してはよく分からないみたいだ。

 

.....確か、心的外傷は大正でも起きていたはずだけど...医学関係に精通している人しか知らないのかもしれないね。それかこの時代は言葉が違うのかも.......。猪に育てられた山の中に住んでいた伊之助はともかく....善逸が知らないとなるとね...。善逸は常識人ではあるからね.....。

 

 

「心的外傷というのは.....簡潔に言うと、精神の病気のことなの。」

「ええ〜!?」

「権八郎、病気なのか!?」

「うん。強い恐怖や無力感、戦慄を感じたり、悪夢を見たり人に心を許せなくなったりするなど様々な精神的な症状が現れ、それが原因で精神的に機能障害を起こし、日常生活に大きな支障が出ているの。」

 

 

私が心的外傷のことを話すと、二人とも驚いた。私達だとトラウマと言った方が分かりやすいけど、大正でも通じるか分からないからね。二人の知っている病気とは違うと思うので、症状についても話しておいた。

 

 

「心的外傷になる原因は個人的な体質や気質、社会的な要因、あるいは、通常範囲を超えた極端な体験したことが発症の原因と今はされているの。炭治郎と禰豆子の話を聞く限り、個人的な体質や気質、社会的な要因が原因ではない。というより、前世ではそんなことがなかったのだから、それらは絶対に違うと思う。.....となると残ったのは.......ここまで話せば二人も分かっているよね...。」

「なんだ?その原因って?」

「....分かるよ。」

 

 

私の話を聞き、伊之助はどう繋がるか分からなかったそうだが、善逸は察しているようだ。

 

 

「俺達が原因なんだね。」

「うん。前世のあの時のことが原因だと私は思っているよ。話の中で心的外傷になりそうなのはそれしか........。」

「..........。」

 

 

善逸の言葉に私は嘘をつけることはできないので、正直に話した。伊之助も納得したみたいで無言だった。善逸も何も喋らず無言で、重い空気が漂っていた。私は少し悩みながらも今度は禰豆子のことを話すことにした。

 

 

「禰豆子は......あまり人間のことが好きではないね....。というか、恨みがあるように思えるくらい。心的外傷になってしまった炭治郎を守るように、人も鬼も警戒するようになった...。いや、攻撃的になったと言ってもいいかな....。」

「ねず広は大丈夫なのか?」

「禰豆子は心的外傷ではないよ。症状らしきものは出ていない。どっちかというと......あれは人間嫌いね。私も炭治郎達と初めて出会った時は禰豆子に唸り声を上げられて大変だったよ。」

 

 

私が禰豆子のことを話すと、善逸も伊之助も微妙な表情をしていた。心的外傷ではないことに安心するべきか、禰豆子が攻撃的になるほど警戒するようになったことを嘆くべきか.....かなり微妙な心情でしょうね...。

 

 

「....炭治郎の心的外傷って治るのかな?」

「治すことはできると言えばできるよ。でも...炭治郎の心が問題だから....。」

「その話、詳しく聞かせてもらえませんか?」

「....えっ?」

 

 

善逸の質問に私が答えていると、別の方から声が聞こえた。女性の声で明らかに善逸と伊之助の声とは違う。それに、声は聞いたことがある...。

 

 

「しのぶさん!カナヲちゃん!」

「しのぶ!ハナヲ!」

 

 

声の聞こえた方を見ると、そこには鬼殺隊の幹部である柱、蟲柱の胡蝶しのぶと炭治郎の同期である栗花落カナヲがいた。

 

....あれ?一名、いませんが.......。

 

 

「半々羽織はどうした?」

「冨岡さんは育手のところに行っているので、ここにはいませんよ。炭治郎君や禰豆子さんのことと貴女のことを聞きに。」

 

 

伊之助がここにはいない人のことを聞くと、しのぶさんが答えながら私の方を向いた。

 

義勇さん....私達のことを聞きに行ってていないのね.....。

 

 

「初めまして、生野彩花さん。私は蟲柱 胡蝶しのぶです。隣にいるのは私の継子 栗花落カナヲです。」

「初めまして。名前は知っているみたいですが、生野彩花と申します。」

 

 

挨拶をしてきたしのぶさんに私は頭を下げて挨拶した。

 

この後、どうすればいいのかな....。善逸と伊之助に会っただけでなく、しのぶさんとカナヲにも会うなんて.......。....というか、しのぶさんとカナヲはいつここに来たの?鬼殺隊って、燃える山でも中に入るのが普通なの!?...まあ、そういう私達もその山の中にいるんだけどね.....。

 

 

「続きを話してもらえませんか?」

「...はい。心的外傷はその原因となった出来事を思い出されるきっかけに触れると、つらい記憶が突然鮮明によみがえるフラッシュバックというものが起きる。さらに、記憶がよみがえるだけではなく、実際にその出来事を体験しているような感覚に陥り、周囲の状況を認識できなくなってしまう。治すにはその原因となってしまった出来事を克服しないといけない。炭治郎が前世で起きたあの出来事で感じた恐怖を乗り越えないと治すことができないの。けど、炭治郎が心的外傷になってしまった原因の出来事は命を奪われた体験...その出来事で負った心の傷の深さは計り知れない。炭治郎はかなり重症だから、治るのは容易ではないよ。」

 

 

しのぶさんに続きを求められ、私は悩みながらも続きを話した。

 

 

「心的外傷.....ですか....。」

「外傷神経症や災害神経症などと呼ばれているかもしれませんが、こっちの方が私は合っていると思っています。」

 

 

しのぶさんの呟いた言葉を聞き、私は慌ててそう言った。

 

心的外傷は過去に外傷神経症や災害神経症などと呼ばれていたので、大正時代には心的外傷と呼ばれたかどうか分からない.......。私の世界では心的外傷と呼ばれたものがこっちでは違うのかもしれないと思ったけど、私はそのまま話してしまった。医学を知らない善逸と伊之助には心的外傷と言っても大丈夫だが、しのぶさんにはそうはいかない。なんとか誤魔化せたかな......。....話を変えたことが良いかも。炭治郎について話さないといけないことはまだあるからね.........。

 

 

「それと.....炭治郎に対人恐怖症らしき症状が出ています。」

「!!...対人恐怖症ですか....!」

 

 

私の言葉にしのぶさんは驚いた様子だった。

 

.....まあ。心的外傷と対人恐怖症に炭治郎がなっていると聞いたら、動揺しますよね....。

 

 

「対人恐怖症って......それも病気なのですか?」

「はい...。心的外傷と似たようなものです.....。」

「対人恐怖症は心的外傷と同じ...他人との交流に強い不安や緊張、恐怖や不快感を感じるなどの精神的な症状に加え、手足・声の震えや動悸、発汗や息苦しさなどの身体症状が表れ、生活に支障が出ているの。対人恐怖症は発症の原因は明確には判明されていないけど、遺伝的な要因や環境要因が影響を与えていたり、過去に経験したことがきっかけとなったりとかが今は原因とされているの。......さっきの話を振り返すようで悪いが、遺伝的な要因と環境要因は絶対に違う。それなら....後者の方が高いということです......。」

「..............。」

 

 

善逸の質問にしのぶさんは暗い顔をして答え、私はそれの補足説明をした。善逸達がその話を聞いて驚いたり黙ったりなど後悔していた。

 

 

善逸達には悪いけど.....これはいつか知ることになると思うから、早く全てを伝えておいた方が良い....。炭治郎が心的外傷という精神の病気になっているだけでなく、対人恐怖症という精神の病気も発症していることには頭の整理ができないと思う.....。ただでさえ、炭治郎が心的外傷になったことだけでも困惑しているのだから...。.....それでも、炭治郎のことを知りたいと言っていたのだから、善逸達はしっかり話を整理して聞かないとね....。

 

 

「......炭治郎君の体調は大丈夫ですか?」

「....私と初めて会った時よりはこの二年で少し落ち着くことができたと思います。私や鱗滝さんなどのあの時の場所にいなかった人は大丈夫そうになったのですが......鬼殺隊の人達はまだ駄目そうです。鬼殺隊と聞いただけで手が震えてしまうので、まだ会わない方がいいと思います。」

「...........。」

 

 

皆さんには本当に悪いと思うけど、下手に鉢合わせさせる方がまずいからね....。.....残酷ですが、それが現実なんですよ....。

 

 

「彩花さんは知っているのですか...あの時のことを?」

「知っているというよりは炭治郎や禰豆子から話を聞いたからですね。........聞きましたよ、前世でのことを.....。」

「............。」

 

 

私が炭治郎からあの時の出来事の話を聞いていると知り、私から視線を外した。....まあ。私の予想が合っていたら、そうしたいのだろうけど...。

 

 

「......あの。こっちも聞きたいことがあります。」

 

 

私は善逸達にそう聞いた。

 

善逸達が私と話をしようと思ったように、私もちょうど善逸達と話がしたいと思っていた。炭治郎と禰豆子からあの話を聞いた時に感じた違和感.......それがどうにも引っかかっていた。善逸達と会った時もその違和感を感じた。善逸達と会って...同期であり、仲間であり、友達である炭治郎を裏切るような人達だと思わなかった。そして、何よりも.....善逸達は炭治郎と禰豆子を探していたし、しのぶさんは炭治郎の体調を心配していた。......義勇さんは炭治郎と禰豆子、一緒にいた私のことを聞きに鱗滝さんのところに訪ねている....。おそらく、他の人達も炭治郎や禰豆子のことを探しているのだろう.....。自分達が前世で殺した炭治郎と禰豆子をわざわざ探すということは...何か目的があるということか.......もしくは........。

 

 

「.....何でしょうか?」

「いえ....。炭治郎と禰豆子から話を聞いた時から...もしかしたらと思っていたのですが....前世のあの時、しのぶさん達は血鬼術とかにかかっていたのではないでしょうか?」

「...!」

 

 

私の言葉に善逸達が反応した。

 

....これは本当に確信はなかった...。でも....それなら、炭治郎に向かって誰?と聞いたことには納得できる。炭治郎に誰?と聞いたのは...きっと炭治郎のことが本当に分からなかったのだと思う......。....血鬼術のようなものを起こせるとしたら......炭治郎のことが分からなくてしまうのは可能なことだと思うよ。おそらく、炭治郎との記憶が消え、炭治郎を鬼と認識する血鬼術...のようなものが使われたんじゃないかな。やたらと炭治郎を鬼と言っていたそうだし....。

 

 

「......血鬼術....ですか.....。」

「どうしました?」

「いえ...。あの時、鬼は消滅してしまいましたから....そんなことを考えたこともなかったので.....。」

「あー....。」

 

 

しのぶさんの言葉を聞いて、私は納得した。

 

確かに、あの時は鬼舞辻無惨が倒されたのだから、鬼は消滅していたはずだ。でも......血鬼術じゃないとすると、他の原因というのも思い浮かばないし.......。それに......死んでも残っているものとかあると思う。というか、血鬼術って何でもありそうだよね。

 

 

「...血鬼術には色々種類がありませんか?それなら....仮に血鬼術をかけた鬼が消滅しても、消滅する前に血鬼術をかければそのまま効果が続くものがあるのではないでしょうか?あるいは、条件が達成されるまで血鬼術の効果が残っているものもあるかもしれません。......血鬼術に関しては分からないことがまだまだあると思いますし。」

 

 

血鬼術って、結構未知というか.....不思議というか...そのようなところが多いからね.......。

 

 

「血鬼術の範囲とかも違いはありますし.....。禰豆子は山を炎で全部包んでしまうほどだったし....。」

「おい!この山はねず公がやったのか!」

「...あ、うん....。何故か禰豆子がいきなり燃やし始めまして.......。」

 

 

私が血鬼術のことを話していると、禰豆子の名前を口に出してしまい、伊之助に思いっきり反応された。善逸達も目を見開いている。

 

 

....うん。私だって信じられないよ!禰豆子のことを前世で知っている伊之助達も分かっていると思うけど......私も禰豆子がいきなり燃やすのだから驚いたし、実際に目の前で禰豆子が燃やしていなかったならば、本当に信じていなかったよ!

 

 

「ね、禰豆子さんが.....ですか.......。」

「おそらく、これも前世の影響なのか.....今の禰豆子は容赦がないです。容赦なく蹴りが来ると思いますよ...。炭治郎のことを一番に考えているので、炭治郎を害があると思った者はかなり殺気があります。特に....前世で炭治郎を殺してしまった鬼殺隊の皆さんへの殺気が...もう......名前が出てくるだけでも凄い殺気が...........。」

「..........。」

 

 

禰豆子のことに皆が驚いていたが、私が腕を摩りながら話す禰豆子の話に.....禰豆子がかなりの殺気が出ることに善逸達は青褪め、しのぶさんは少し口角が引きつっていた。

 

 

「炭治郎も....鬼殺隊のことは名前が出るだけでも体が震えるくらい駄目だったから.....。だから、今はあまり会わないことをオススメします。」

「そ、そうですね......。炭治郎君のことも....禰豆子さんのことも考えると.....。」

 

 

私の言葉にしのぶさんは悩んでいる様子でそう言った。

 

切実にお願いしますから、本当に今は会うのを止めていただきたいです...。

 

 

「....話が少々ズレてしまいましたので、戻しますね。しのぶさん達は血鬼術の可能性を考えたことはなさそうですね.....。まあ、私の話も確信は一切ないので、あまり本気にしないでください。ですが....これだけは覚えててください。どんな理由があろうとも、どんな原因があろうとも...自分達が炭治郎と禰豆子を殺してしまったのは事実だと....覚えててくださいね。」

 

 

私はそう言った後、懐から手拭いで包まれた物を出し、手拭いを解いて中身を取り出した。中から出てきたのは何か液体が入ったカプセルのようなものだった。

 

 

...既に鬼は全員倒れているみたいだし、もうここの用事は済んだのだから、そろそろ炭治郎と禰豆子と合流しないとね......。待たせ過ぎると、炭治郎と禰豆子の方からこっちに来そうだ。...それにしても....まさか.....これを今、使うことになるなんてね......。

 

 

「これ以上話していると、炭治郎と禰豆子を待たせてしまいますので....そろそろ失礼します!」

「あっ!...待っ........。」

 

 

私はそう言って手拭いで口と鼻を塞いだ後、善逸達が制止する前にカプセルを投げた。カプセルが地面に落ちてカチリッという音が聞こえた瞬間、すぐに山の外へと走り出した。善逸達が追いかけようとしたのが一瞬見えたが、すぐにカプセルから煙が出てきた。

 

 

....実は、この煙は私の薬を気体にしたものなのです。何故気体のものがあるかって.....それは....鬼殺隊への対策専用です。どうしてそんな薬を作ったのかって?鬼殺隊の対策専用を作ったのは...こういった鬼殺隊にバレてしまった時のために作った物だ。さすがに柱とかに見つかったら、逃げ切るのは難しいからね.....。けど、鬼殺隊は呼吸で薬がまわらないように遅くできてしまうし、いくら何でも吹き矢を当てるのは難しいと思うからね...。何より、伊之助は毒や薬が効きにくい体質だから、薬の調合も考えないとね......。呼吸がとても厄介だから、どうにか薬が効くようにしないと....そう思って、私は呼吸を使われても薬を効く方法について考えた。

 

薬の調合を変えて伊之助にも効くようになっても、全集中の呼吸・常中を柱や善逸達が使えるからどうしても遅くできてしまう。そこまで考えて、私は原作の話を思い出していると、あることを思いついた。そのきっかけとなったのが...上弦の弍 童磨の戦い方だ。童磨の戦い方の中に自身の血を凍らせて霧状にしたものを散布するというもので、それを吸い込めば肺が壊死するという呼吸を使う鬼殺隊の人達にはとても戦いづらい鬼だ。その戦い方から私は気体型の薬を作ってみた。気体になった薬なら、呼吸で吸ってしまうので、体の隅々まで薬がまわる。

ちなみに、気体型の薬を入れていたカプセルは気体型の薬を入れられる入れ物のことを兪史郎さんに相談したら作ってくれました。

 

 

「えっ!?何これ!?」

「体が動けねえ!なんなんだ!」

「師範!これは......。」

「落ち着いてください!....おそらく.......この煙には.....。」

 

 

気体型の薬の効果?体を痺れさせる薬だよ。睡眠薬じゃないのかって?...いや、駄目でしょ。だって、向こうには善逸がいるんだから、逆効果でしょう。善逸が眠ると、めちゃくちゃ強いうえに速いんだから、私はすぐに捕まって負けるよ!.....それにしても、伊之助にも効いてよかった。あの薬、まだ試作段階だったのよね......。一か八か賭けてよかった....。

 

 

私は気体型の薬のおかげで無事にしのぶさんや善逸達を振り切り、山を出ることができた。炭治郎と禰豆子とも合流できた。ちょうど山から出た場所に炭治郎達がいて良かった...。しのぶさん達から逃げるために色々なところを通って行ったから、また炭治郎達と合流できずに一人で途方に暮れるのかと思ったよ.....。

ちなみに、炭治郎と禰豆子には前世のあの時のことが血鬼術の仕業なのではないかという話はしていない。まだ確定した話ではないし...そうだと聞かしても、かえって二人を悩ませるだけだからね。

理由がどうであれ、鬼殺隊の人達が炭治郎と禰豆子を殺めてしまったことには変わりはないのだから.......。

 

 

 

 

 

 

 



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笹の葉の少女は雷兄に教わる

「....彩花。また薬を作っているのか?」

「うん...。薬がもう少し良く効くように調合を少し変えてみたの。」

 

 

那田蜘蛛山での戦いというか山火事事件も終わった後、原作と炭治郎と禰豆子の記憶ではあるはずの次の任務が来るまで時間があるので、私達は色々なところに行ったり、珠世さん達のところに戻ったりと旅をしていた。主にやっていることは、鬼の頸を斬ったり鍛練をしたり、薬を調合したりだ。

 

 

「.....さてと、後はこれを入れて混ぜれば完成ね。」

「....おい。またやっているのか?」

 

 

私が最後の仕上げに取り掛かろうとした時、後ろから声が聞こえた。声から誰なのかは察しているが、私はとりあえず振り返り、立ったまま不機嫌そうにしているその人物を見た。

 

 

「別に良いじゃない。薬の効能が上がれば治りが早くなったりとか良いことは多いよ。薬の調合を変えるのも新しく作ることも無駄なことじゃなくて良い方に転がるんだから、そんな顔をしなくていいじゃない。剣技も鍛えておかないといけないけど、私はこっちの技術も磨きたいんだよ、獪岳。」

 

 

私は不機嫌そうな顔をしている獪岳にそう言った。すると、獪岳は私の話を聞いて舌打ちをした。

 

 

「薬を作ることは別に構わねえが、問題はそっちじゃねぇよ!」

 

 

獪岳が私を指差して不満そうにそう言った。

 

どうして獪岳が一緒にいるのかって?それはね.......那田蜘蛛山が終わり、私達が他の鬼の頸を斬りに色々な場所を旅をし始めたばかりの時だ...。

 

 

 

 

 

 

 

 

私達はとある小さな町に着いた時、鬼の匂いがすると炭治郎が言った。それで炭治郎にその匂いを辿ってもらい、その鬼の頸を斬ることができた。そこは問題なかったけど、問題はその後のことだ。鬼殺隊の人とばったり鉢合わせしてしまった。その鬼殺隊の人は任務でこの町に来たみたいだった。(その任務の鬼は私達が先に倒してしまったが.........。)それで、その鬼殺隊の人は鬼の禰豆子を任務の鬼だと勘違いして禰豆子を斬ろうと刀を抜き、それを見た炭治郎が前世のあの時のことを思い出してトラウマを発症し、禰豆子は鬼殺隊の人が刀を抜いた姿と炭治郎の様子を見てキレてしまったようで、攻撃態勢をとった。それらを全て見た私は心の中で半分キレながら炭治郎を落ち着かせるために背中を摩り、鬼殺隊の人と禰豆子を宥めようとした。しかし、鬼殺隊の人は聞く耳を持たずに刀を構えたままで、禰豆子も鬼殺隊の人がそんな様子なので、警戒している様子だった。私は仕方がないから、鬼殺隊の人を眠らせようと懐から吹き矢を取り出そうとした時、突然鬼殺隊の人が呻き声を上げて地面に倒れていった。そして、後ろには地面に倒れている鬼殺隊の人とは別の人がいた。どうやらその鬼殺隊の人を気絶させたのはこの人のようだ。炭治郎と禰豆子はその人の行動に驚き、私も目を見開いた。しかし、私はその人の行動にも驚いたが、一番驚いたのはその人のことだ。どうして、この人は私達を助けてくれたの?だって......

 

 

「...貴女、名前は?」

「ああ?獪岳だ。」

 

 

やっぱり獪岳だよね....。黒い髪に勾玉の首飾りをした男の人...原作で見た獪岳の姿と同じだ。獪岳の行動も驚いたけど、そもそもどうしてここに獪岳がいるんだろう?

 

私は炭治郎に精神安定の薬を渡しながら獪岳に話しかけることにした。

 

 

「獪岳さんはどうしてここに?」

「こいつとの合同任務だったんだよ。俺は後からここにい着いただけだ。」

 

 

獪岳が気絶した人を指差しながら話し、私は納得した。獪岳はその人との合同任務でここに来たが、任務で聞いていた鬼は私達が先に倒してしまったということですね...。でも、まだ疑問が残る。獪岳が仲間であるはずの鬼殺隊の人を気絶させた理由は分からない。......もう一回聞いてみよう。

 

 

「....鬼殺隊の人を気絶させたのは.....。」

「それはこいつを気絶させた方がいいだろう。それに、俺には話したいことがあるからな。」

「話したいこと?それは一体...。」

「お前じゃなくて、そいつらとだ。」

 

 

私が理由を聞くと、獪岳がそう言った。私は獪岳が何を聞きたいのか分からず身構えたが、獪岳が指差したのは私ではなく、炭治郎と禰豆子だった。

 

なんで炭治郎と禰豆子?......もしかして、獪岳にも記憶が...でも、原作では獪岳は炭治郎と禰豆子と会うことはなかったはず......。

 

 

「....お、俺にですか?」

「.....炭治郎、知り合い?」

「.......いや、会ったことがない。前世でも...。」

 

 

飲ませた精神安定の薬が効いているのか、炭治郎はさっきよりも落ち着いている。呼吸も安定しているようだ。炭治郎も獪岳の指名を聞き、戸惑っている様子だった。確認のために聞くと、やはり炭治郎と獪岳は前世でも会ったことはないようだ。.....禰豆子は.......獪岳にずっと威嚇している時点で察せるよ...。

 

 

「ああ?そいつに前世のことを話すということはそいつにもあるのか?鬼殺隊では見なかった顔だが.....。」

「鬼殺隊には入っていませんからね....。獪岳さんはどうして炭治郎達のことを?会ったことがないということは...前世のあの時にはいなかったということですよね......?」

 

 

獪岳の話からして、獪岳にも前世の記憶があることは間違いない。でも、どうして炭治郎と禰豆子に話したいことがあるのだろう?....というか、どうやって二人のことを知ったのだろうか?.....あっ!善逸の手紙か!.......まあ、それは置いといて...前世のあの時にいなかったということなら......獪岳は原作通りに鬼になったということかな?最後決戦は鬼殺隊と鬼の全勢力での戦いだったから、獪岳が鬼殺隊側に姿がなかったのなら、原作と同じように鬼になって善逸に頸を斬られたのだろう....。

 

 

炭治郎に視線を向けると、炭治郎は頷いた。.....となると、前世では獪岳は原作通りに進んだということね...。けど....それなら、なおさら獪岳が炭治郎と禰豆子に話したいことがあるというのはおかしいような.....。

 

 

「......前世のあの時....俺はもう死んでいて、あの世から様子を見ていたんだ。お前らも.....あの時は辛かったな....。」

「.......はい...。」

「...........。」

 

 

獪岳の言葉に炭治郎は納得しながらも未だに獪岳を警戒していた。禰豆子は何か気になる様子で獪岳のことをじーっと見ていた。そんな中、私は獪岳の言葉から場違いなことを考えていた。

 

 

....あの世で見ていたから分かると言っていたけど.......あの世から見るって、どんな感じで見ているのかな?上から見下ろす感じなのかな...?.....それとも、何か映像のように映し出されて見えるのかな......?

 

自分でも場違いだなと思いながらも、ついそんなことを考えてしまった.....。

 

 

「....それで、お前らは何をしているんだぁ?何か知らねえけど、カスや柱達がお前らのことを探しているし、前とは状況が全然違くて今の状況が分からねえ。」

「カス?」

「....黄色い髪の隊士がいただろう。そいつだ。一応、あのカスとは...同門なんだ。」

「同門.....。」

「俺はあのカスの兄弟子だ。前世では鬼になって、あのカスに頸を斬られた。....だが、今は違えからな。今度は前世のような失敗はしねぇ。」

 

 

獪岳のカスといく言葉に炭治郎は誰を指しているのか分からなかったが、獪岳から特徴を聞き、誰なのかすぐに分かった。獪岳は前世の経験から今世はどうするかとしっかりと決めているようで、原作とは少し違う雰囲気を感じる...。

 

 

......獪岳も前世の経験から学ぶことはあったのね....。もう始めから原作の内容が変わっているけど.....また原作での話は変わりそうね...。獪岳が鬼にならないのなら、最終決戦は少し有利になりそう......。

 

 

「...状況と言われましても.....私達よりも獪岳さんの方が詳しいと思いますよ。私達は鬼殺隊に入っていませんので、鬼殺隊の今の状況は分かりません。........それで、他には聞きたいことがありますか?炭治郎と禰豆子にそれを聞きに来ただけということではないですよね?」

 

 

私は獪岳にそう聞いた。

 

こんなこと.....少し考えれば分かることだ....。こんなことを聞くためだけに、わざわざ炭治郎達と話そうとは考えられない......。他にも何か用があるはず...。

 

 

「.....お前らに協力してやろうと思ってなぁ。困ったら、何か言えよ。協力してやる...。」

「.....へっ?」

「えっ?」

「うっ?」

 

 

獪岳の言葉に私は変な声が出た。炭治郎と禰豆子は予想外の言葉に固まっている様子だ。

 

.......えっ?何?どういうこと!?

 

 

「....協力するとは......どういうことですか?」

 

 

私はとりあえず獪岳がどうしてそう言ったか分からずにそう聞いた。

 

ごめんなさい.....。獪岳が真剣に言ってくれているのは分かるけど...どうして協力すると言ったのか.....よく分からなくて....。

 

 

「......ああ。そうだな.....。俺は死んだ時は次は誰にも負けねえように強くなってやる、鍛えてやると思ってた。.......だが、その後のそいつらの様子を見て、考えが変わった。そいつらが死んだ時もすぐにそいつらのところに会いに行きたかったが...気がついたと時には俺は戻っていた。思い出したのは二年前の時だ....。いつも通りに鍛練をしていた時にいきなり前世の記憶が戻った.......。おそらくあのカスも同じだ。あのカスもその日はいつものように大騒ぎしていたが.....あのカスの様子を見れば、前世の記憶が戻っているのは間違いなかった...。」

「....二年前...ですか.......。」

 

 

獪岳の話を聞き、私は考え込んだ。

 

獪岳も二年前に前世の記憶が戻った?.....それも、善逸も...ということは........。炭治郎も禰豆子も鱗滝さんも二年前に前世の記憶が戻ったと言っていたし.....これは鱗滝さんに後から聞いた話だけど.....鋼鐡塚さんも前世の記憶が戻ったのは二年前だって言っていたのよね......。珠世さんと兪史郎さんには聞いていなかったな...。今度聞いてみようかな....。でも、炭治郎と禰豆子、鱗滝さんに鋼鐡塚さん、そして、獪岳と善逸......今、分かっている時点で六人も二年前に前世の記憶が戻ったということは....他の人達も二年前に前世の記憶が戻った可能性が高いよね.....。...二年前ということは......原作が始まった時だよね....。原作が始まったと同時に前世の記憶が戻った...。同時期に炭治郎達が前世の記憶を思い出したということは......間違いなく何かあるよね.....。

 

 

「.......炭治郎と禰豆子はどうする?」

「俺は....獪岳さんのことを何も知らないから......どうするか悩むな....。」

「反対!」

 

 

とりあえず、炭治郎と禰豆子に意見を聞くと、炭治郎は獪岳のことを警戒しながらも悩んでいる様子で、禰豆子ははっきりと嫌がった。

 

 

...うーん....。炭治郎は少し悩んでいて...禰豆子は反対.....。まあ、予想はしていたけど....獪岳と協力することになっても、互いを信じていないと意味がないのよね......。協力関係を築くにしても、互いを信用しないと築くことはできない。禰豆子は獪岳のことを全然信用していないし、炭治郎は悩んではいるが、獪岳のことを信用はしていないのよね.....。.......どうしようか...。

 

 

「そう言う彩花はどうなんだ?」

「うーん.....。私は.......。」

 

 

...どうしよう......。.....炭治郎と禰豆子のことを考えると、あんまり精神的なストレスを与えたくない...。....でも、獪岳と協力関係が結べたなら、何かと好都合なことがあるんだよね......。.......よし。

 

 

「....私は......協力関係を結ぶことには...賛成かな.....。」

「!...彩花........。」

「但し、条件があります。」

「条件だ?」

「そう。いくつか条件を出させてほしいのです。」

 

 

私の言葉に炭治郎と禰豆子が何か言いたそうにしていたが、私はその前にそう言った。

 

いきなり獪岳を信じろと言われて、流石に炭治郎も禰豆子も信頼するのは無理だ。...それなら、いくつかの条件を出して、それを獪岳が守っていれば、少しは信用できるようになるんじゃないかなと思ったの.....。後は、獪岳次第であるのと時間の問題かな....。

 

 

「一つ目は私達と協力関係を結んでいることを他の人にバレないようにすること。協力関係を結んでいることが誰かにバレたら、獪岳さんを監視して鬼殺隊の人達が来るかもしれませんからね。獪岳さんも色々な人達に付き纏われたり、監視されたりするのは嫌でしょうし。」

「...まあ、確かにな。」

 

 

この協力関係がバレたら、互いに面倒なことになるのは確実だからね......。

 

 

「二つ目の条件は鬼殺隊の情報を教えてくれること。」

「.....それは、つまり...鬼殺隊の情報を漏らせ.....ということか。」

「まあ、そうですね。私の知りたい情報は二つ。一つは鬼殺隊全体の現状、もう一つは善逸達や柱の行動...この二つを教えてほしいのです。」

 

 

鬼殺隊の情報は欲しい。相手の行動範囲が分かれば、こっちは鉢合わせにならないように動ける。何よりも、ここから先は柱が大きく関わる。柱の行動が分かれば原作の次の話が始まる時期が分かるはずだ。そうすれば、その時期に間に合うか、もしくはそれよりも先に動くことができるかもしれない。

 

 

「...俺は別に構わねえ....。あのカス達や柱達の行動が分かればいいんだな?」

「はい。鬼殺隊の動きが分かった方が動きやすいので。」

「......できる限り、その情報を集めておく。」

 

 

よし。これで、鬼殺隊の情報は得られそうね。さてと、あと個人的なことを頼みたいけど.......これは承諾してくれるかな...?

 

 

「....それと........これは私の個人的なお願いだから.....断ってもいいです。獪岳さんは水の呼吸とは違う呼吸を使っているんですよね?」

「あ、ああ...。俺は雷の呼吸を使う。それがどうした?」

「私に雷の呼吸を教えてほしいのです。」

「はあ?」

「えっ?」

 

 

私の質問に何を聞きたいのかという顔をしながら答えていた獪岳は、次の私の言葉を聞いて何を言っているんだ、こいつという顔をして私を見ていた。炭治郎と禰豆子も私の言葉に驚いている様子だった。

 

 

「お前、雷の呼吸を教えてくれとはどういうことだ?」

「私には華ノ舞いという呼吸の型のようなものを使っているのですが、その型を私は知らないのです。」

「はあ?知らねえ?」

「はい...。私は型を知らないのです。しかし.....何がきっかけなのか分からないのですが....今まで見たり教えてもらったりしたものが頭の中に流れて、それが型になるのです。何故、それらが型となるのかは分かりませんが.......。」

「....つまり、手がかりも何も分からねえ呼吸か。」

「まあ、そう捉えてもいいです。私は華ノ舞いのことが気になるのですけど、まだ二つしか分かっていないので、情報もまだ少ないのです。それで、知っていたり使えたりする呼吸が増えれば何か掴めるのではないかと考えたのですが....。」

 

 

そう。華ノ舞いが分かった時は、二年前に初めて鬼と会った時と藤襲山で手鬼と戦った時...きっかけは私も分からない。突然頭の中に呼吸の型が流れ、体が勝手にその型と似た動きをする......。ここ最近、鬼と戦っているが、その現象は全く起きない。鬼は関係なく、他に原因があるということだ。...それなら、何が原因なのか......外部とかが原因ではなく....私自身が原因...。私はそう考え、頭の中に流れる型が関係しているのではないかという考えに辿り着いた。頭の中に流れる......私が実際に見たり使ったりした型.....その型が足りないのかもしれない....華ノ舞いの型に必要な型が......。そう考えたからこそ、私はこうして獪岳に頼んでいる。

 

 

「.....それで、他の呼吸の型を知りたいのか...。」

「はい....。引き受けてもらえませんか?」

 

 

私は獪岳の華ノ舞いや頭の中に流れてくる型の話を獪岳に話した。炭治郎と禰豆子も私の話を聞いて、納得した様子で静観していた。私は獪岳の様子を見て、あと一押しだなと思って口を開いた。

 

 

「これは獪岳さんにも利点がありますよ。」

「ああ?なんだ?その利点というのは?」

「教えることができるということはそれをしっかり理解しているということになります。それに、教えることで新たに何かが分かったりすることだってありますよ。」

「..........。」

 

 

私の話に獪岳は真剣に考えている様子だった。

 

..さてと.......引き受けてくれるかな....。

 

 

「....言っておくが......俺は壱ノ型は使えない....それでもいいか?」

「構いませんよ。使えなくても、その知識だけでも教えてもらえれば大丈夫ですから。私は今、強くなりたいのです!」

 

 

まあ.......壱ノ型が使えないことは最初から知っていたし....知っていたうえで獪岳に頼んでいますからね。これから先のことを考えると不安だから、私は少しでも強くならないと......。

 

 

「.....後悔しても知らねえからな。」

 

 

!!.....それは....つまり........!

 

 

「...つまり、教えてくださるということですか?」

「......ああ...。」

「ありがとうございます!」

 

 

獪岳の返事に私は大喜びしながら礼を言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから、私達と獪岳の協力関係が始まった.....。週に一、二回はこうして獪岳と会っている。獪岳に雷の呼吸を教わり、その休憩時間に鬼殺隊の情報を教えてくれるという感じだ。相変わらず、鬼殺隊の方は私達のことを探して、色々なところで情報を集めているみたい。....まあ、獪岳から情報をもらっているから、今のところは鉢合わせすることはないけどね.......。雷の呼吸も獪岳に教わって順調に習得してきているし、獪岳との交流を重ねていたから、炭治郎も禰豆子も少しずつだけど獪岳のことを信用してきているし...。

 

 

「獪岳、もう少し待ってね。あとちょっとで薬が完成するから.....。」

 

 

私も、今ではさん付けをしないで獪岳と呼んでいるからね...。初めの時よりも良い信頼関係を築けていると思うよ。

 

 

「....その完成した薬をどうするんだ?」

「うん?この薬は瓶に入れるだけだよ?」

「いや。お前のことだから、どうせ碌なことを考えてねえだろうが。」

「........何のことですか?」

「.....お前、声は冷静だが....顔は引きつっているし、目は泳いでいるし、分かりやす過ぎるよな.....。その薬の効果を試すためにまたやる気だろう?」

「!!うぐっ!」

 

 

獪岳の話に私は図星を突かれて変な声が出た。

 

......獪岳にはもうあの時、あれを見つかってしまってから私の行動はお見通しみたいね....。

 

 

実は私は薬を作る時に決まってあることをする。幼い頃から私は自分の薬がちゃんと効くか心配だった。だから、私はその薬が効くかどうか自分で確かめていたのだ。と言っても、風邪をひいていないのに風邪薬を飲んでも意味がないからね。実験として使ったのは睡眠薬や麻痺薬、あとは.....毒薬かな?..........あっ。毒薬と言っても、害がないように薄めているから大丈夫だよ.....た、多分......。解毒薬も実験として飲んでいるし....。検査しても命に別状はなかったから.....。ただ.....試作品の毒薬を飲んでいるところを獪岳に見つかったのは迂闊だったと...私は今でも思う.....。

 

 

「....薄めていたし、解毒薬を飲んでいたし、体の検査もしていたのだから...別に良いじゃない。」

「体に明らかに耐性ができるくらい長い間、頻繁にやってんだからよぉ。あの二人にもしっかり見張るように言ったんだが.....その様子だと、全く反省してないようだな。」

 

 

私はそう言いながら木刀を手に持ち、獪岳も木刀を構えた。そして、同時に互いに距離を詰めて木刀を振った。木刀が強く打ち合う音が聞こえる。

 

そう。薬の濃さがだんだん濃くなっていても大丈夫なほど、薬や毒に対して耐性ができているのだ。もうすぐで獪岳が来ると思って慌てていたため、薬がそこまで薄くなっていなかったんだよね....。その後、獪岳にバレて色々と質問されたり、確認されたりして薬や毒の耐性ができていたことが分かったんだよね。獪岳達はそれくらい長い間、頻繁に実験していたことがバレたのよね.....。お陰様で炭治郎と禰豆子にもバレて見張られてしまい、前のように実験するのが難しくなったのだ。まあ、この件で炭治郎と禰豆子と獪岳の距離が少し縮まったのは良かったけど....私は納得がいかない。こっちは実験するのが難しくて、こっそりとやるしかないんだからね。やっちゃいけないことなのは分かっているけど.....。

 

 

「だって...実験のために動物を使って、その動物を死んじゃったら嫌なんだし、それに....自身の体で試した方が効果が良く分かるし........。」

「お前はなぁ.....。...そもそも薬をそんなに作らなくても良くないか?」

「ううん。薬はたくさん作っておいた方が良いのよ。薬には人それぞれで効くものと効かないものがあるからね。」

 

 

私と獪岳はそんなことを話しながら打ち合い稽古をしていた。獪岳との鍛練は得られるものが多かった。雷の呼吸を教えてくれるし、こうして打ち合い稽古もしてくれる。打ち合い稽古も雷の呼吸が速さを誇る呼吸なのだからか、始めは獪岳の速さに追いつけずに苦戦したが、今では獪岳の速さに大分追いつけるようになった。

 

 

「......作るのは構わねえが、実験は止めろ。いいな?」

「....それは保証できません。」

 

 

その言葉と同時に私と獪岳は後ろに退いた。

 

 

「彩花!獪岳!鍛練か?」

「うん。炭治郎も一緒にやる?」

「ああ。勿論だ。」

 

 

炭治郎に話しかけられ、私がそれに返事をして一緒に鍛練しようと誘うと、炭治郎も木刀を持った。獪岳を少しずつ信じられるようになって、こんな感じで炭治郎も鍛練に加わるようになった。

 

 

「獪岳も良いよね?」

「それはいいが......そいつを納得させてからにしろよな。」

「はいはい。」

 

 

私が獪岳に確認すると、獪岳は溜め息を吐きながらそう言って炭治郎の後ろの方を指差した。私はもうどういうことなのか分かっているので、獪岳にそう返事をしてその方向にいる人物を見た。案の定.....。

 

 

「...........。」

「禰豆子。そう獪岳を睨まなくても大丈夫だからね。」

「でも.....。」

 

 

私が炭治郎の後ろにいた禰豆子に話しかけて説得しようとするが、禰豆子は納得できない様子だった。

 

 

禰豆子は少しは獪岳のことを信用し始めているが、炭治郎と比べるとそこまでは信頼していない。というより、自分と話すのはいいが、兄である炭治郎に近づけることに関しては警戒している。だから、まだ炭治郎と一緒にいることを心配して、毎回こうなっている。

 

 

「大丈夫だ。怪我はしないよ。」

「鍛練が終わったら、次は鬼ごっこしよう。ね?」

「......うん。」

 

 

炭治郎と私がそう言うと、禰豆子は渋々納得してくれた。

 

禰豆子はそんなに獪岳のことを信用してはいないが、一緒に稽古に付き合うことに抵抗はないみたい。まあ、禰豆子は剣術を使うことも呼吸を使うこともできないので、脚を鍛えるためにやっている鬼ごっこだけは参加している。

 

 

...というのが、毎回の鍛練の流れです。なんだかんだ言っても獪岳は鍛練や鬼ごっこにも付き合ってくれるし、私はこの鍛練がとても楽しいし、炭治郎も楽しそうだ。禰豆子も鬼ごっこは楽しんでいるからね...。だんだん笑うようになってきたし、獪岳との鍛練は色々と正解だったみたい。これは良い傾向だよ。

 

 

「今日はここまでだ。」

「いつもありがとうね、獪岳。」

 

 

楽しい時間はあっという間に過ぎる。今日の獪岳との鍛練は終わった。......で、その後はと言うと....

 

 

「獪岳。今日の情報は?」

「鬼殺隊で目立った動きはまだねえよ。」

 

 

そう。獪岳から情報を聞くのだ。鬼殺隊の情報は私達が鉢合わせしないためにはとても役立つものだ。獪岳もそれとなく噂話を聞いたり鎹鴉に情報を集めさせたりなどしているから、鬼殺隊にはバレていないようだ。

 

 

「ただ.....炎柱がカス達を連れて任務に行くそうだ。」

「!?」

 

 

獪岳の話に私の体は少しピクリと反応した。

 

炎柱...煉獄さんが.....善逸達を連れて任務...........まさか.......

 

 

「....場所は?」

「確か、列車だとか言っていたな。」

 

 

獪岳の言葉に私はやっぱりと思った。

 

原作の流れからして、次はそれだと思ったし...そろそろ始まる頃だと思っていた。時期的にもね.......。...とうとう始まるのね....無限列車編が......。

 

 

「他の鬼殺隊の奴らの動きは前と変わらねえ。.....んじゃあ、俺はもう行く。これから任務だからな。」

「いつもありがとうね。その情報は本当に助かったよ。」

 

 

獪岳は持っている情報を全て話し終えると、すぐにその場を去った。今回は急いでいるようだ。毎回ぎりぎりの時間まで鍛練をつけてくれるからね...。獪岳って....なんだかんだ面倒見が良いんだよね......。ただ、獪岳についている鎹鴉に私達と会っていることを誰にも話さないようにと頼んでいた時、バラしたらこいつが実験体にするからなと獪岳が私を指差して言ったことは許さない。私が生き物を実験体にしたくないのは、獪岳も知っているのに...。....まあ。その結果、獪岳の鎹鴉は鬼殺隊に私達のことを漏らさなかったんだけど.....そのせいで、獪岳の鎹鴉に怖がられてしまって仲良くなるのが大変だったんだよ......。まあ、今は仲良くなって、その上で黙ってくれているけどね.....。

 

 

「...炭治郎と禰豆子も聞いたよね?」

「ああ....。」

「うん.......。」

 

 

獪岳が去っていく様子を見届けた後、私は近くにいた炭治郎と禰豆子に声をかけた。さっきの獪岳の話も聞き耳を立てて聞いていたからね.......。炭治郎も禰豆子もどうするかはもう決めているみたいね...。勿論、私も炭治郎と禰豆子と同じ考えだと思う....。何せ十二鬼月とも遭遇するし、炭治郎と禰豆子がいないと善逸達や一般の人達がどうなるか分からないからね...。これは関わられずにはいられないよ。見て見ぬふりなんてできない。

 

 

「.........鬼殺隊の方は色々と進んでいるみたいだし、私達も行こうか。」

 

 

原作の話も始まっているみたいだから、私達も早く行かないとね.......無限列車に。

 

 

 

 

 



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笹の葉の少女は混乱する

もう日が暮れる時間帯の駅のホーム...人の出入りが結構あり、少々周りが賑やかな中.....

 

 

「また会いにきてやったぞ!この土地の主!!」

「馬鹿!止めろ!あれは列車だって何度も言っているだろ!二回目なんだから落ち着けよ!」

 

 

猪の被り物をつけた少年と黄色い髪の少年が騒いでいる。ただでさえ容姿で目立つのに、そんな二人の少年が騒いでいるから....ほら.......。

 

 

「おい!何をしている!」

「!?ヤバッ!今回も見つかったじゃん!伊之助!逃げるぞ!」

「言われなくても分かってら!」

「それなら、大人しくしてろよおおぉぉぉ!」

 

 

駅員さんに見つかり、二人の少年は駅員さんから離れるために全力で走って逃げている。

 

逃げることで精いっぱいだった二人の少年.....善逸と伊之助は気づかなかった。近くで善逸達のところを見ている一人に......。

 

 

「原作と同じように、あの二人は賑やかですね.....。」

「彩花!」

「あっ!炭治郎!切符はしっかり買えたし、そろそろ列車に乗ろうか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私達は今、無限列車に乗っている。

 

....はあ...。上手くいって良かった.....。ここまで来る間に色々と考えた甲斐があったよ。善逸達の姿が見えた時はヒヤヒヤしたけど......。

 

 

えっ?あの駅のホームにいたの?何処にいたの?よく善逸と伊之助にバレなかったねって?.......まあ、分からないのも無理はないと思う....。私達の姿は他の人には見えないようになっていたからね。.......一体何を言っているんだと思う人がいると思いますので、説明しましょう。実は、兪史郎さんから貰った札を使っているのです。兪史郎さんの札は視界に関わる血鬼術が使われている。だから、その札をつけた私達は周りからは姿が見えないようになっているのです。

 

善逸の耳や伊之助の勘ならそんなの関係ないかもしれないが、人が多過ぎて私達を特定するのは難しかったのだろう。切符を買う時も周りを確認して、物陰で札を外して姿を現し、切符を買った後もまた物陰に隠れてから札をつけて姿を消したから、誰にも見られていないだろう....。

 

 

「炭治郎。はい、切符だよ。さてと列車に乗れたし、後はしっかり行動しないと。炭治郎も禰豆子も打ち合わせ通りにお願いね。」

「うん、分かってる。ありがとうな。」

 

 

私と炭治郎は無限列車に乗って人目がつかないところで札を外し、姿を見せた。私が隣にいた炭治郎に切符を渡して席に座り、姿が見えない禰豆子に頼むと、私達が座っている席の対面の席の下から物音が聞こえた。私はそれを確認した後、背中から下ろした背負い箱に札を貼り、他人から見られないようにした。

 

 

どうして私と炭治郎が札を外して、禰豆子だけは札をつけたまま隠れているのかというと.........

 

無限列車では、下弦の壱の魘夢が手駒とした人間と協力し、仕込みの切符を渡して血鬼術をかけ、対象と特殊な縄を繋ぎ、その精神核を壊させようとする。原作では仕込みの切符を持っていなかった禰豆子のおかげで血鬼術は解けたので、今回も禰豆子の切符は買わず、禰豆子には隠れて様子を見てもらうようにした。...うん?それなら、何故私達の分の切符を買ったのかって?禰豆子のように買わない方が良かったんじゃないかって?......うん。それは私も考えたよ。でも、それだと相手を刺激してしまいそうだからね....。

 

下手に刺激すれば、一般の人達を危険な目に合わせてしまいそうだから.....ここは刺激せずに私達も血鬼術に引っかかっておいた方がいいということになった。

 

ただ......あそこに善逸と伊之助がいたのは予想外だった。兪史郎さんの札があるとはいえ、鉢合わせしないように時間も結構ぎりぎりの時間にここに着くようにしていたんだけどね....。.兪史郎さんの札と周りに結構人がいたおかげでバレなくて良かった.....。煉獄さんとも鉢合わせしなかったし、ぎりぎりの時間に来たことが幸いしたよ......。

 

 

「列車も出発したし、いよいよだね.....。」

「ああ...。下弦の壱が相手であろうとも大丈夫だ。」

 

 

私は過ぎていく外の景色を見ながらそう言うと、炭治郎からそう返事が返ってきた。

 

うん。でも....不安はあるんだよね......。下弦の壱の対策はしっかりしたけど、その後のことはまだ何も.....。

 

 

「......炭治郎。その後のことはどうする?」

「.....そう、だな....。確か...下弦の壱を倒した後、電車が横転するから、その隙に鬼の血をとって、すぐに離れよう。」

「えっ?下弦の壱だけでいいの?」

「ん?無限列車には下弦の壱しかいなかったんだが....彩花?」

 

 

私が炭治郎とその後の行動について話していると、炭治郎の言葉に疑問に思って聞くと、思わぬ返事がきた。

 

.........えっ?.....ちょっと待って!何!?どういうこと?つまり....

 

 

「......あー。えーと....その後、他の鬼とか来たりしなかったかな?」

「...ああ。無限列車で戦ったのは下弦の壱だけだが.......。.......さっきからどうしたんだ?」

 

 

私がもう一度確認のために聞くと、炭治郎からはやっぱり同じ言葉が出てきた。私はそれを聞いて考え込み、炭治郎がその様子を見て心配そうにしていた。

 

 

.......どうなっているの?炭治郎の前世が原作の話と違う!?無限列車編で下弦の壱の魘夢が出るのは変わってないし、魘夢を倒した後に列車が横転するのも同じだ。......でも、その後の展開が変わっている。

 

原作では電車が横転した後、上弦の参の猗窩座が現れ、炎柱の煉獄さんと戦う。煉獄さんは炭治郎達や一般の人達も全員を守るために朝日が昇るまで猗窩座と戦った。その結果、猗窩座は日光を恐れて逃げ、煉獄さんは猗窩座との戦いでの負傷でその後亡くなった...。....あれ?猗窩座が襲来して来なかったということは.....煉獄さんはそのまま生きていた....ということになるような......。

 

 

「...いや、ちょっと未来で知っていた話と違っていてね.....。....炭治郎。ちなみに、この無限列車での戦いで死者とか出なかった?」

「......ああ。確か列車は横転したが、死者はいなかったはずだ。俺達も列車に乗っていた人達も全員無事だった。....彩花の知っている話とは違うのか?」

「うん...。結構変わっているよ.....。」

 

 

私は心配そうな炭治郎にそう話して聞くと、炭治郎は前世の無限列車でのことを思い出し、その時のことを話して私に尋ねた。私は炭治郎の質問に返事をしながら考え込んでいた。

 

 

....やっぱり......。原作と全然違う。乗客全員と炭治郎達が無事だったのは原作通りだけど、炭治郎達の前世では無限列車で猗窩座は来なかったから、煉獄さんは死なずに済んだようだ。それにしても、原作で出てきた猗窩座さんはどこに行ったのでしょうか?....これは炭治郎達の前世は最終決戦のかなり前から原作と話が違っていた可能性が出てきたな...。もしかしたら、この後の話も原作と全然違うのかもしれない.....。

 

後で、炭治郎達と確認し合う必要があるね。今回は炭治郎と列車に乗るタイミングしか話してなかったから、こんな直前に知ることになってしまった......。話し合いは大事だね。話題に出なかった時点で気づくべきだった.....。

 

 

「...切符を拝見します。」

「あっ。はい。」

 

 

そんなことを考え込んでいる間に車掌さんが来たよ。私は炭治郎からもう一度切符を受け取って、二枚まとめて車掌さんに渡した。この後のことは予め知っているけど......ここは大人しく....。切符を切られたらすぐに夢の中だから、早く夢であることを自覚して、自分の首を斬らないと.....。でも....夢の中とはいえ...自分の首を斬るのは怖いな....。でも、できるだけ早く夢から覚めないと.......。

 

 

パチンッ!

 

 

私がそう思ったのと同時に切符が切られる音が周りに響き、意識が途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......か。あや...。」

 

 

 

........あれ?...どこからか、声が聞こえる......よね...。

 

 

「.....やか!彩花!」

 

 

 

...えっ?......この声は.....。

 

 

 

「彩花!起きなさい!」

「....お母さん...?.....お父さん......。」

 

 

目が開けると、私はどこかに横になっていて、目の前には亡くなったはずの両親がいた。体を起こすと、私は袴じゃなく着物を着ていた。背丈も縮んでいる。私は自分の姿を見てとても懐かしかった。間違いなく、これは昔の.....八歳の時の私だ。

 

 

「....ここは?確か...私は......。」

 

 

私は突然のことに困惑しながらも気持ちを落ち着かせた。

 

私は.....さっきまで無限列車にいて....炭治郎と話していたら、車掌さんが来たから切符を渡して.............あっ。.....そうだった.....。今、私は魘夢の血鬼術にかかって...夢を見ているんだ......。ここは夢の中.....だから、もう亡くなったはずの両親が目の前にいる....。......炭治郎の気持ちが良く分かる....。確かにこれは....夢から覚めたくなくなるね...。......でも...これは夢なんだ....。現実に戻らないと......炭治郎と禰豆子が待っているから.....。

 

 

「...なんだ。ちゃんと分かっているじゃないか。」

「ふふっ。あの子達のことがやっぱり大事なのね。」

「えっ?どういう......。」

 

 

そんな私を見て、両親が笑い合いながらそう話していた。私は両親の話を聞き、困惑した。

 

 

「やらなきゃいけないことがちゃんと分かっているなら、しっかりと前に進むなさい。」

「大丈夫。彩花ならきっと.......。」

「お父さん.....?お母さん......?」

 

 

両親の言葉に私はさらに困惑し、両親にどういうことかと聞こうとして前のめりになって立ち上がった次の瞬間、目の前にいたはずの両親の姿が消えた。それだけじゃなく、私の体は元の大きさに戻り、着物も深緑色の袴を着ていた。ただ、日輪刀だけが腰になかった。それに、私は何故か色々な種類の花が咲いている花畑のような場所に立っていた。しかも空は青く、なんだかぽかぽかと暖かかった。私は一瞬、目の前の状況を理解できなくてパニックになりかけたが、ゆっくり呼吸をして落ち着かせた。

 

 

「....あれ?お父さん!お母さん!」

 

 

気持ちを落ち着かすことに成功した私は周りを見渡しながら両親を呼ぶが、誰も返事がない。

 

 

「...いつの間にかいなくなっている......。.....というか...ここはどこ?」

「ここはね。貴女の無意識領域よ。」

「....えっ?」

 

 

私がどこなんだろうかと思っていると、突然どこからか声が聞こえてきた。私が声が聞こえた方を見ると、一人の女性が私の方に顔を向けて微笑んだ。その女の人には見覚えがあった。左右に蝶の髪飾りをつけ、蝶の羽のような模様の羽織を着た美しい人....間違いなく、しのぶさんの姉である胡蝶カナエさんだ。でも.......カナエさんがどうしてここに?それに、無意識領域って.........。

 

 

「.....あの......。貴女は...?」

「私は胡蝶カナエよ。でも....聞かなくても本当は彩花も分かっているでしょう?」

「!?」

 

 

私が声をかけると、カナエさんは笑って答えた。私はそんなカナエさんの言葉に驚いた。

 

 

このカナエさんは.....私のことを知っている?...というか、どうして.......カナエさんが私の精神世界にいるの?

 

 

「....どうしてカナエさんが私の無意識領域にいるのですか?というか、何故私も無意識領域に?」

「それはね。彩花に見せたいものがあるの。」

「...見せたいもの?」

「花の呼吸よ。今の彩花には必要なものでしょう?」

「えっ!?」

 

 

私がカナエさんのことを警戒しながら聞くと、カナエさんはまた笑って答えていた。私がカナエさんの言っていることに疑問を感じていると、カナエさんが桃色の刀を構えてそう言った。私はカナエさんの言葉に再び驚愕した。

 

 

私が華ノ舞いのことが分かるかもしれないと考えて、他の呼吸について学びたいと思っていることを.......カナエさんは知っているの...!?.....もしかしたら......華ノ舞いについて....何か知っているかもしれない...。華ノ舞いと花の呼吸って.......華と花は漢字が違うが、似ているし....。

 

 

「あの......。」

「それじゃあ、ちゃんと見ててね。」

 

 

私が声をかけようとするが、カナエさんはその前に花の呼吸を使い始めた。私は、いや、話を聞いてくださいよと思いながらもカナエさんの花の呼吸を見た。花の呼吸を何一つ見過ごさないように、瞬きもせずにしっかりと見た。花の呼吸と華ノ舞いは何か関係があるかもしれないと思ったが、呼吸の型の方はあんまり関係性はなさそうだ。どっちかというと、水の呼吸の方が近い気がする。まあ、水の呼吸から派生したものだからね...。

 

 

「.....これが花の呼吸よ。見過ごしちゃったものとかはない?もう一回見る?」

「.......いえ。大丈夫です。」

 

 

花の呼吸を全てやり終え、カナエさんがそう声をかけてきたので、私は大丈夫だと答えた。花の呼吸は水の呼吸の派生なのか少し分かりやすかった。

 

....いや、それよりも私には聞きたいことが.......。

 

 

「あの!聞きたいことがあるのですが、よろしいですか?」

「あら、何かしら?」

 

 

私は今度こそと思い、カナエさんにそう聞いた。カナエさんは笑顔で私の言葉を待っている。

 

 

「華ノ舞いについて、カナエさんは何か知っているのですか?」

「そうね...。.........知っているわ。」

「!?」

 

 

私がそう聞くと、カナエさんは少し悩んだ様子でそう答えた。私はそれに驚きながらも期待した。カナエさんが何故悩んだのかは少し気になるが....華ノ舞いについて色々と分かるかもしれない.....。

 

 

「それなら、教えてくれませんか!」

「...うーん....。そうね......。」

 

 

私がそう言うと、カナエさんは困ったような顔をした。私は何を困っているのか分からず首を傾げた。

 

何か不都合なことでもあるのかな?

 

 

「.....焦らなくてもまだ大丈夫よ。」

「えっ?」

「ゆっくりと自分の速さで分かっていけばいいの。今はちょっと......早すぎるかな。」

「えっ?....これは...私の刀?」

 

 

カナエさんがそう言うが、私はどういうことか分からないので、もう一度聞こうとした時、カナエさんが刀を差し出した。その刀はさっきまで使っていた桃色の刀ではなく、無色透明な刀だった。それは間違いなく私の刀だった。私はカナエさんに聞かないといけないことがあるのは頭で分かっていたが、それよりもこの刀を受け取らないといけないような気がした。私はあれこれと考える前に直感で刀に手を伸ばした。その時、カナエさんが口を開いて言った。

 

 

「.....あの子達をお願いね。」

 

 

そして、私の手が刀をしっかりと掴んだ次の瞬間........

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は列車の中にいて、炭治郎の肩にもたれて寝ていた。

 

 

「....えっ?」

「あや、か?」

 

 

私は突然の出来事に呆然とし、椅子の下から禰豆子の困惑した声が聞こえた。まだ血鬼術を解いてもいないのに起きたからね.....。私はしばらくの間、周囲を見たり自分の手を握ったり開いたりして、漸く脳が今の状況を理解することができた。何故か知らないけど、血鬼術が解けて夢から覚めたことに。

 

 

......大体の状況は分かった。....でも、頭の中がまだ少し混乱している.....。...いや、理解できたと言っても受け入れるのは難しいからね!私も何がなんだか良く分からないんだよ!だって、私は夢の中で自分の首を斬っていないんだよ!刀には触れたけど、それだけじゃ夢から覚めることはできないはずなのに.....。....それに、カナエさんがどうして私の夢の中に?華ノ舞いのことを何か知っているみたいだったけど、カナエさんと実際に会ったのはこの夢の中が始めてだし......何より、原作にはなかった華ノ舞いをどうしてカナエさんが知っているの.......?....華ノ舞いと花の呼吸は呼吸の型は違うし、名前が少し似ていること以外の共通点がないし......一体.......。

 

 

「あ、やか...。だい、じょうぶ?」

「....あっ。ごめん。大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。」

 

 

私がそう考え込んでいると、禰豆子が大丈夫かと心配してくれた。ガタッという音が聞こえたことから、きっと椅子の下から出てきてくれたのだろう。私はその音と声で現実に戻り、禰豆子がいるであろう場所に向けて大丈夫だと言って立ち上がった。私は立ち上がってからも自分の体に特に何も異常がないことを確認して、それからもう一度周りを見渡した。炭治郎も周りの乗客もまだ眠っている様子だ。

 

 

.........うん?....そういえば、私が眠ってからどれくらいの時間が経ったのかな...。まあ、善逸達は原作と同じだったら無事だと思うが......というより、精神の核を壊そうとしたあの子達の方が危なかったような........。それに、魘夢のことが気になる。原作では魘夢は炭治郎達が眠っている間に、列車と融合して乗客二百人を食べようとした。今、魘夢がどれくらい列車と融合できているのかが分からない.....。

 

 

「禰豆子。私達が眠ってからどのくらいの時間が経った?」

「えーと....。」

 

 

私が禰豆子がいるであろう場所の近くに膝を下ろし、どのくらいの時間が経ったのかを聞き、禰豆子が答えようとした時、突然列車の扉が勢いよく開いた。私と禰豆子がその音に驚いている間に、切符を切っていたはずの車掌さんが転がり込むかのように私達の横を通り過ぎて別の車両の方に入っていった。どうやらあっちは急ぎ過ぎて私達に気づかなかったみたいね.....。私は何度か瞬きしながら原作の話と今の状況を比較した。

 

 

....あれ?あの車掌さんのあの様子からして.......おそらくこの後、言われた通りに切符を切ったからということで魘夢に眠らせられるんだよね...。.....それって....かなり序盤の方の話だったよね...。.......えっ!?私、そんなに早く夢から覚めちゃったの!まだ眠りが深くなっていない段階だよね!?

 

 

 

どうやら....私は夢の中で自分の首を斬らないで目を覚ましただけでなく、血鬼術にかかってすぐのタイミングで目が覚めてしまったようだ。

 

.......いや、できる限り早く目を覚ました方がいいかなと思っていたけど...これは流石に早すぎる!さすがにここまで早く目が覚めるとは思わなかったよ.....。夢の中では結構時間が経ったと思っていたんだけどね......。何故か私の夢の中にカナエさんが出てきたことも含め、当初の計画とは全然違うよ....。

 

 

カナエさん、華ノ舞いについて知っていた様子だったけど.......なんで私に教えてくれないの.......?自分で分からないといけないと言われても.....どうすればいいの?どうしてカナエさんは原作にはない華ノ舞いのことを知っているのですか....?

 

 

 

 

 

 

 



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笹の葉の少女は眠れないし、全力で止める

「.....禰豆子。とりあえず、私の切符を血鬼術で燃やしてくれる?」

「わかった。」

 

 

色々と予定が変わったが、とりあえず私は禰豆子に自分の分の切符を血鬼術で燃やしてくれるように頼んだ。目が覚めているとはいえ、血鬼術がかかっている切符をそのままに持っておくことはできないからね...。念には念を入れておかないと......。

 

 

「さてと...。これは....まずは少し状況を確認した方がいいね.....。」

「まだ行かないの?」

「うん。予定よりも私が早く目を覚ましてしちゃったからね....。先がもう読めなくなってきたから、列車が今、どうなっているか確認しようと思う。下手に手を出して相手を刺激したら、一般の人達に被害が出る。状況を確認してから対策を練り直そう。」

 

 

禰豆子にそう言いながら私は周りを見た。冷静に言っているように見えるが、実は内心では凄く焦っています。

 

早く魘夢を倒した方がいいのは分かっているが、今の段階はおそらく魘夢が列車と融合しようとしている状態だ。まだ完全には融合していないのなら、今のうちに斬った方がいいんじゃないかとは考えたけど......不安要素がある。今の魘夢が列車と完全に融合していないとしても、列車は体の一部のようになっているかもしれないので、完全に融合できていない状態でも乗客を襲うことはできるかもしれない。

 

....でも、完全に列車と融合するのを待つのは駄目だ。それに、もう一つ問題がある。魘夢は幸せな夢を見て死にたいと思っている人達に協力させているため、その協力させている人達が危険な目に合うか、もしくは人質としてとられてしまう可能性もある。魘夢に協力しているとはいえ、あの人達は誘惑に負けただけの被害者のような人達だからね。見殺しにしたいなんて思えない。だが、この人達は禰豆子の爆血によって炭治郎達の夢から追い出され、そこで躍起になって炭治郎を殺そうとするのだけど、今のところは私達に誰も送ってないのを見ると、魘夢は隊服を着ていない私達が鬼狩りではないと踏んで脅威に感じてないのだろう。

となると、あの人達と話をするには善逸達を起こすのが良いのだけど、禰豆子が善逸達にやってくれるかなんだよね。.....起こしてくれなさそうだな....。それと、あの人達を起こしたら魘夢にバレてしまうからね。まあ、私が起きたことで完全にバレているよね...。なら、いつ私達に攻撃してくるか分からないな。.......となると、やっぱり.....。

 

 

しばらくの間、私は周りをよく見て考えて...そして、動くことを決めた。今、魘夢を刺激して何が起こるか分からないが、完全に列車と融合されるのはまずいし、あっちに私達のことがバレているなら先手を打たれるのもまずい。こっちが先に仕掛けられれば列車と融合する時間を遅らせられるのかもしれない。それなら、先に仕掛けた方がいいのかも。

幸い私と炭治郎は鬼殺隊に入っていないから、対象外として誰も縄を結びに来ないし、精神の核を壊しに来ない。魘夢もまだ融合の最中でこっちに来れない。

つまり、今なら誰にも邪魔されずに動くことができる。よし。

 

 

「禰豆子、この箱をお願いね。それと、炭治郎の切符を血鬼術で燃やしておいて!私は他の車両を少し見た後、上にいるはずの鬼のところに行ってくる!だから、炭治郎に私が早く目が覚めてしまったことを話しておいて!」

「うん。わかった。気をつけて。」

 

 

私は禰豆子に背負い箱を任せ、炭治郎の血鬼術を解くことと炭治郎が起きたら状況の説明をするように頼み、他の車両に向かった。他の車両に来たのは列車全体の状況を確認したいというのもあるが、乗客や善逸達の様子を確認したかったからだ。乗客の人達は今のところ無事そうだし.....善逸達は原作通りに腕を縄で縛られ、その縄の先が別の男の子や女の子の腕に縛られていた。夢の中に堕ち始めている段階なんだと思う。となると、この段階だからあの子達もまだ精神の核を探している最中かな....。

 

ただ......ずっと眠っていたくなるような夢を見せられているから、善逸達が望むものを見ているのだろう.......。その場で善逸と伊之助の様子を見つめていると、善逸と伊之助が寝ながら炭治郎と禰豆子の名前を呼んでいた。それを見て、私の心が凄く痛む。きっと炭治郎と禰豆子が出てくる夢を見ているのだろう.....。....今の関係になる前の.....。

 

 

...夢の中では......善逸達はとても幸せなのだろう....。血鬼術のせいかどうかは分からないが......炭治郎への裏切りの件は善逸達にとって不本意なことだったのかもしれない。.....だからこそ、その夢...前の関係に戻れたその夢は善逸達には目が覚めたくなくなるほど幸せな夢なのだろう......。....でも........。

 

 

「幸せな夢だろうと....目覚めたくなくなるような夢だろうと......現実は変わらないんだよ...。厳しいことを言うかもしれないけど....今見ているものは幻だからね。...現実逃避をしても....現実はその夢の通りになってくれないから......。その魘夢が作った仮初の幻ではなく、現実を見た方がいいよ。」

 

 

私は小声でそう呟き、しばらくの間は善逸と伊之助のことを見ていた。その時に善逸と伊之助の目から涙が流れていることに気がつき、手拭いでそっと拭いてあげた。私はとても切ない気持ちになったが、今はそれよりも行かないといけない場所があると思い、後ろ髪を引かれる思いで善逸達から視線を外して目を瞑り、その場から離れた。

 

 

.....ごめんね。この件に関して....私も何も分からないし......何もできないよ...。....炭治郎と禰豆子のことをよく見ているから、二人が善逸達鬼殺隊に会いたくないのは分かる...。.......けど、あの善逸と伊之助達を見ると....なんとかしたいと思ってしまう...。どうしてこうなったのかは分からないのだけど.....被害者は炭治郎と禰豆子、加害者は善逸達鬼殺隊....それが事実だというのに.....。...それなのに、なんか...ほっとくことができないんだよね......。........善逸達のことは気になるけど、早く魘夢をなんとかしないと....。しっかりしないと.....。

 

 

「うーん.....あっ。ここなら行けそう。」

 

 

私は列車の中を走り、扉を開けて上に出れそうな足場をありそうな場所を見つけた。原作では扉から外に出て炭治郎は列車の上に乗っていたけど....これは凄く怖いです。列車が走っている状態で扉から列車の上に登る度胸なんて普通はありませんが、今はとにかく体を動かさないと。風も強いし、万が一にも足を滑らしたら......そんなことを考えるだけでもう無理です!気にしては駄目!気にしては!

 

 

「....それにしても.....思ったよりも風が強いな。よく炭治郎はこの風であの扉から列車の上に登ることができたよね...わっと!?....ふう。危ない......。」

 

 

私は風で足が滑りそうになりながらもなんとか列車の上に登ることができた。列車の上に登れたことに少し安堵したが、すぐに気を引き締めた。列車の上に登ることができても風は強いし、それにこの場所には鬼がいる。油断しないようにしないと....。.....そういえば、列車内でつけていたら怪しまられるからと思って狐面を外していたけど、そのまま狐面をつけていなかったな...。でも、ここでつけるのは止めておこう。風に飛ばされてほしくないし。

 

 

「.....あれ?もう夢から覚めちゃったの?」

 

 

私がそんなことを考えていると声が聞こえた。この場所と声ですぐに誰か分かった....。私は声が聞こえた方に振り向いた。そこには、原作で見た魘夢という鬼が列車の上に立っていた。

 

 

「幸せな夢だったはずなのに...どうして目が覚めちゃったの?.」

「それは私の方が気になるかな。なんで何もしないで目を覚ますことができたのかは私も分からないよ。それに.....現実に戻りたくなくなるほどの幸せな夢だったかというと......そうでもありませんでしたね。」

 

 

魘夢は心底不思議そうな顔をしてそう聞き、私は魘夢の質問に答えながら改めて自分の夢に関して疑問に思った。

 

 

確かに...。夢から覚めたあの時は夢の中で自分の首を斬らないで目が覚めたことと、カナエさんが夢の中に出てきたうえに華ノ舞いを何故か知っていたことに対して動揺し過ぎていたからそこまで頭が回らなかったが、私が見た夢は色々とおかしかった。夢の中で昔の自分に戻っている....亡くなったはずの家族と再会する.....これらは炭治郎と同じような夢だ。きっと...私も炭治郎のように家族と普通に暮らしていた時の夢を見たいと思っていたのだろう....。.......でも、少し違った。炭治郎の夢は鬼舞辻無惨に襲われずにいつも通りに家族と暮らしている夢だったので、炭治郎の家族は皆日常のような会話をしていた....。......しかし、私の両親は少し違った。私の両親は日常会話というより.....私を起こしに来たという感じに近かった。それに、原作の知識があるからというのもありそうだが、私はすぐにこれは夢だと......列車にいたと最初から気づいていた。これらの特徴は炭治郎が見た夢と違う......いや、炭治郎の夢の中でも最初は少し意識を保っていたし、炭治郎のお父さん、炭十郎さんが夢の中で炭治郎に助言を言っていたから、ここも炭治郎と同じなのか?...でも、私の場合は何故かカナエさんが出てきたよね......。何より、カナエさんと会った場所が可笑しい。無意識領域って.....私がなんで入れるの!?カナエさんもなんで私の無意識領域にいるの!?無意識領域って...魘夢が言うには、魘夢の見せる夢は無限には続いてはおらず、夢を見ている者を中心に円形になっている。そして、その夢の外側で無意識の中の領域であり、その領域には精神の核があるんだよね....。本来、夢を見ている張本人も自我が強い人ではなければ入れない場所なのに.....。ひょっとして、私って自我が強い?いや、そもそもそれとも何か少し違うような気がする....。

 

 

私はそこまで考えて首を横に振った。

 

今は考え込むのを止めた方がいい。目の前の魘夢がいつ攻撃してくるか分からない。

 

 

「それにしても...君は鬼狩りじゃないよね?なんで君は刀を持っているの?夢からこんなに早く目覚めるなんて、今も眠っている鬼狩りとは違うみたいだね。」

「まあ。.....私には少々事情があるのでしてね...。.......時間稼ぎはそこまでにしてください。」

 

 

魘夢は呑気に私に話しかけ、私はそう言いながら刀を構えた。

 

魘夢がこう何度も私に話しかけるのは私を警戒していないことと時間稼ぎというのがあるのだろう。血鬼術が破られたとはいえ、鬼殺隊に入っていない刀を持った一般人の私はそこまでの脅威ではないと思っているのだろう。だが、私が善逸達を起こしたらまずいし、列車との融合が終わってないから相手をしたくないとは思っているのだろう。だから、善逸達の精神の核を壊して列車と融合するために時間稼ぎが必要なのだろう.....。

 

 

「君は鬼狩りでもないのに俺と戦う気かい?」

「うん。貴方をこのまま放置することは無理ですから。」

 

 

魘夢は特に私のことを警戒せず、私は魘夢が油断している隙に先手を取ることにした。

 

 

「華ノ舞い 水ノ花 水仙流舞」

「強制昏倒催眠の囁き。眠れ。」

 

 

私が刀を振った同時に魘夢は血鬼術を仕掛けてきた。私は血鬼術を使ったことに気づき、すぐに夢の中に入ったら首を斬ろうと思って身構えた。しかし.......

 

 

「うん?」

「.....へっ?」

 

 

私は眠らずにそのまま刀を魘夢の頸に向け、魘夢はそのことに驚きながらもすぐに頸が斬られると気づき、後ろに退いた。私も眠らずにそのまま頸まで刃を向けれていたことに困惑してしまったので、刀を振るスピードが遅くなり、避けられた後も少し動揺していた。互いに何が起きているか分からず、とりあえず私は自分の頰をつねった。でも、寝てはいないようだ。

 

 

......えーと.....。...これはまた....予想外のことが起きたな。さっきは何故か早く魘夢の血鬼術が解けたのだが、今度は魘夢の血鬼術が効かない。これもさっきのことと何か関係がありそうですね......。魘夢の血鬼術が私に効かないことは私にとって好都合なのだけど、私も困惑してしまってそう考えることができなくなっていた。

 

 

「眠れ。」

「華ノ舞い 水ノ花 水仙流舞」

 

 

魘夢がもう一度血鬼術をかけてくる中、私はまた華ノ舞いを使い、今度は迷いなく刀を振った。しかし、これも魘夢に避けられてしまった。右肩から斜めに斬ることはできたが、すぐにその傷も癒えてしまう。

 

 

「眠れ。眠れ!眠れ!眠れ!」

 

 

魘夢は私のことを鬼狩りではないからという理由で油断していたが、予想外のことに動揺して血鬼術をかけようと必死になっていた。私も魘夢が何度も血鬼術をかけているのは分かっているので、何故か眠らないことに疑問に思いながらも魘夢との距離を縮める。魘夢も私も血鬼術が効かないという予想外の事態に困惑していた。

 

 

......駄目。魘夢の体の一部を斬ることができても頸を斬ることはできない。...血鬼術が効かないことはこっちにとっては好都合だが.....効かないと分かっても、どうしても身構えてしまう。なんとかしないと....。.....身構える暇がない速さで斬れればもしかしたら.......実戦で使うのは初めてだけど....やるしかない!

 

 

「どうして血鬼術が効かないのかは私にも分かりませんが、貴方の頸は斬らせてもらいますよ!」

 

 

私はそう言って立ち止まり、左足を後ろに下げて姿勢を低くし、刀を鞘に戻して居合の態勢に入った。刀を少し抜くと、刀からビリッという音が聞こえ、少ししか見えてなかった刀は黄色く染まっていた。おそらく刀全体が黄色く染まっているだろう。私はゆっくりと呼吸をした。

 

 

「雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃」

 

 

そう言うと、雷の音と同時に私の姿は魘夢の前から消え、気がついた時には魘夢の頸は斬られていた。頸を斬られた魘夢の体は列車の上に倒れる。

 

 

うん。上手くいった。獪岳にはああ言ったけど、本当に説明されていただけだったから少し不安だったんだよね。他の型はしっかり見せてもらったし、説明は(炭治郎と比べて)凄く分かりやすかったから無事に成功できた。速さは善逸には及ばないけど、成功して良かったよ。.......でも.....まだ終わってないんだよね.....。

 

 

「いつまで死んだフリをしているのですか。貴方が頸を斬られても大丈夫だということは、とっくに分かっていますよ。」

「.......本当に君って、むかつくよね...。」

 

 

私は後ろを振り向き、全く動かない魘夢に声をかけた。すると、全く動かなかった魘夢の頸が動き出した。列車から出てくる何かと魘夢の頸が繋がれ、まるでろくろ首のようだ。

 

 

「俺は人が苦しんだり絶望したりした顔を見るのが好きなのに、君はどうして頸を斬られても生きているのかっていう顔をしていない。まるで全てを知っていたかのような顔をしている。それに、俺の血鬼術は効かないし、凄く苛つく。」

「まあ、血鬼術の件以外のことを知っているのは事実だね。列車と融合しようとしていたのでしょう?」

 

 

魘夢は私のことにイライラしている様子だったが、私はそれよりも気になることがあったので、そう言った。

 

 

原作よりも早く戦ってしまったから、列車の融合がどこまで進んでいるのか分からない。斬った時に手応えは少しあったけど......何かがおかしいと感じた。絶対に何かある。

 

 

「そうだよ。俺は列車と融合した。まだ完全というわけではないけど、この列車は俺の身体の一部だ。元の身体の頸がこんなにも早く斬られてしまったのは想定外だったが、列車の方が無事だから俺はまだ生きている。」

 

 

魘夢の話を聞き、私は列車の様子を見た。

 

やっぱり完全には列車と融合できていないらしいけど、身体の一部になっているのならこの状況が危険なことには変わりない。身体の一部である状態でも、原作と同じようなことができるのかもしれないね.....。

 

 

「君の察しが良くて助かるよ。つまり、この列車に乗っている乗客全員が人質。まだ完全に融合できていないとはいえ、俺は乗客全員を襲うことも喰べることもできる。」

 

 

やはり....できればこれは外れてほしかったが、完全に融合できていない状態でも油断はできないということね...。

 

 

「ねえ。守りきれる?君は一人で、この列車の端から端までうじゃうじゃとしている人間達全てを俺に"おあずけ"させられるかな?」

 

 

魘夢はそう言うと、頸も体も列車の中へと吸収されて消えた。

 

....原作に近い流れになってきたな。魘夢の列車の融合を止められなかったのは残念だったが、私達の負けにはしませんし、乗客も全員守ります。ところで、魘夢は私一人と言っていたけど、残念ながら一人じゃないんだよね。.....そろそろ目覚めた頃かな?

 

 

「炭治郎!禰豆子!」

 

 

私はすぐに列車の上に登った場所から登る時とは逆の手順で降りて、二人のいる車両に行き、大声で炭治郎と禰豆子の名前を呼んだ。

 

あれから時間が経っているし、炭治郎も起きているだろう。

 

 

「彩花!」

「炭治郎!禰豆子も!良かった。目が覚めたんだね。...ごめんね。計画とは全然違う行動を勝手にしちゃって.......。」

 

 

私の声に気づき、炭治郎と禰豆子が私のところに来てくれた。私は炭治郎が目が覚めたことに安堵しながらも謝った。

 

 

当初の予定では、列車に乗って血鬼術にかかった私と炭治郎を禰豆子が少し時間が経ってから血鬼術で起こし、炭治郎が列車の上で魘夢と戦ってそのまま操縦室に行き、そこにある魘夢の頸を斬る、私と禰豆子は炭治郎が魘夢の頸を斬るまで乗客達を守る...という感じだった。だけど、私が計画よりも早く目が覚めてしまったため、魘夢がそれに気づいて何かしてくるかもしれないし、炭治郎が起きるのを待っている時間はないから今のうちに戦った方が良いと思ったのだけど、結果は何も変わらなかった。むしろ私は元々あった話をさらにややこしくしただけだと思う。

 

 

「いや、俺が遅かったんだ。それに、列車と完全に融合していない今ならと思って行動したのだろう。」

「でも、列車と完全には融合していないけど、体の一部となってしまったから乗客全員を人質にされたし、私達にとって不利な状況になってしまったことには変わらないよ。」

「ど、どうする?」

 

 

炭治郎から慰めの言葉を聞き、私はこんな状況になってしまったことを後悔して少し落ち込んだが、すぐに切り替えた。

 

 

今は落ち込んでいる場合じゃない。私の判断ミスでこうなってしまったのなら、すぐに挽回しないと....。でも、私達三人だけじゃ乗客全員を守るのは無理だし、乗客全員を守れたとしても、肝心の魘夢の頸を斬らないとね.....。明らかに人数が足りない。何か考えないと......いや、方法はあるが....炭治郎と禰豆子が納得してくれるかな...?

 

 

「....彩花?...何か考えがあるのか?何やら悩んでいる匂いが.......。」

「さすがは炭治郎の鼻。もうバレているのね.....。....考えはあるけど...炭治郎と禰豆子が納得してくれるかどうか分からない。でも、これは上手く行けば.......。炭治郎と禰豆子に負担はかけるし、少し話し合いや説得が必要だけど....成功すれば一気にこっちが有利になるの。」

「......分かった。」

「ありがとう。それで頼みがあるの。禰豆子を少し借りてもいい?どうしても禰豆子の力が必要なの。」

 

 

私が悩んでいることはすぐに炭治郎の鼻によってバレ、私は考えていたことは詳しく話さないでそう伝えた。

 

 

やっぱり...炭治郎にはバレるんじゃないかと思っていたけど、思ったよりも早かった。私は炭治郎の鼻に感心しながら詳しく話さずにそう言った。だって、私が今考えていることを話したら反対されるのは目に見えて分かるからね....。........まあ、多分すぐにバレると思うけど.......。狡い私でごめんね....。

 

 

「禰豆子の?...彩花。まさか.....。」

「....炭治郎、ごめんね。でも、この状況で乗客全員を守るためには...やっぱり.......。」

「...........そうか....そうだよな...。」

「本当にごめんね。説得も話し合いも私がなんとかするから、とりあえず...炭治郎達には近づかせない方針でお願いできるかな.....。」

「ああ...。.......そうしてくれるとありがたい。」

 

 

私が何をするつもりなのかが分かったらしく顔色を変える炭治郎に、私はとても申し訳ない気持ちになりながら謝り、頭を下げながら頼んだ。炭治郎はあまり乗り気ではなかったが、状況を考えてそう言っている場合じゃないと分かっているらしく頷いてくれた。....ただ、そんな炭治郎の様子を見ていると、私の罪悪感が半端ないんだよね......。...まあ、炭治郎がこういう反応がをするのを分かって覚悟して言ったのは、他でもない私なんだけどね.....。

 

 

「じゃあ、私は禰豆子を連れてあの車両に行くね。終わったらすぐに戻ってくるから。」

「.......分かった....。気をつけてくれ。」

「うん。話し合いをするだけだから...そっちに来ようとしてもしっかり止めるから、安心して。」

「....ああ。」

「そろそろ行こうか。あっちがいつ攻撃してくるか分からない。......ごめんね、先に行ってくる。」

 

 

炭治郎と私は向かい合って話し合ったが、炭治郎はまだ不安そうにしていたので、私は少しでも安心させようとそう言った。まだ少し炭治郎の様子が心配だったが、私は禰豆子の手を引いて後ろの車両に向かった。私は少し焦っていた。今は魘夢が完全に列車と融合していないから大丈夫だけど、いつ攻撃してくるか分からない。それなら、今のうちにさっさと行動しておかないと.......。

 

 

「.....いた。」

「うん、いたね。いたけど....禰豆子。あまり興奮しないで。」

 

 

私達は目的の車両に着き、ある人達の近くに立った。その人達は善逸と伊之助、煉獄杏寿朗だ。どう考えても私達三人では乗客全員を守ることはできないし、そうしていたらいつまでも魘夢の頸を斬ることができない。それなら、戦える善逸達にも手伝ってもらおうと考えた。戦える人は多い方がいいからね.....。炭治郎があんな状態になっているから、あまり使いたくなかった手だったが...人数が多い方が有利なのは私も炭治郎も分かっている。だから、私も炭治郎も善逸達の手を借りることにしたのだけど.........。

 

 

「ヴーッ!」

「...気持ちは分かるけど、駄目だよ。」

 

 

私は善逸達に怒って唸り声を上げる禰豆子を落ち着かせようとした。

 

 

禰豆子もそういうことは分かっているのだけど......どうしても許すことはできないようだ。

 

私は何度も禰豆子に話しかけながら少し冷静になるまで隣で押さえていた。

 

 

「.....禰豆子。私達だけじゃ、八両もある列車の中に乗客全員を守りきるのは難しい。何より、そんな状況で鬼の頸を斬るのは無理でしょ。だから、血鬼術を解いて協力してもらわないと。納得はいかないかもしれないけど、人数が増えた方が良いから。」

「..........。」

 

 

私が必死に説得し、禰豆子も少し冷静に考えることができたようで善逸達に血鬼術を使った。ただし、渋々といた感じで善逸達の方を見ずに。私はそれを見て苦笑いした。

 

......そこまで嫌なのか.....。

 

 

「.......彩花。終わった。」

「えっ?もう終わったの!?早いね!?」

「うん。だから、お兄ちゃんのところ、行っていい?」

「あっ.....うん。血鬼術がもう解けたのなら、炭治郎のところに行ってもいいよ。禰豆子。」

 

 

私はもう少し時間がかかると思っていたので、禰豆子の終わったという言葉に驚いた。禰豆子は早くここから離れたいという様子で言い、私はそれならと思って頷いた。

 

 

どれだけ鬼殺隊のことが嫌いなのよ....。まあ、血鬼術が早く解けるのは良いんだけどね。.....それにさっきの様子を見て分かったが、今の禰豆子と善逸達を会わせるのは駄目だね、これは。善逸達が目を覚ます前に禰豆子は炭治郎のところに.......。

 

 

「......うっ....。.....た...炭治郎......?ね...禰豆子、ちゃん....?」

 

 

その時、善逸の声が聞こえ、私が慌てて善逸の方を見ると、善逸が目を開けようとしていた。伊之助も体を起こしていた。

 

 

......いや!このタイミングで!?...って、禰豆子は.....。

 

私は内心大声で叫んだ後、おそるおそる禰豆子の方を見ると、禰豆子の青筋を立てていて....そこまで確認して、視線を逸らした。

 

 

......うん。禰豆子さん、めっちゃ怒ってますね!えっ!?どうしよう?この状況で禰豆子と善逸達が戦うことになるの!?まずいよ、それは!

 

 

「禰豆子、とりあえず.....いったん落ち着こう。」

「ね、禰豆子ちゃん!?」

「ねず公!」

「ヴーッ!」

 

 

私は禰豆子を落ち着かせようとするが、完全に目を覚ました善逸と伊之助の声を聞き、禰豆子は唸り声を上げた。

 

 

炭治郎と禰豆子のことを気にしていた善逸と伊之助の気持ちは分かるけど、今の禰豆子に声を掛けないで!今、私が禰豆子の前に手を出して制しているから大丈夫だけど、この手がなかったら禰豆子が二人に襲いかかっちゃうから!

 

 

「ね...禰豆子ちゃん?」

「ど、どうした?」

「善逸!伊之助!気持ちは分かるけど、今の禰豆子に話しかけない方がいいから!」

「えっ!?彩花ちゃん!?」

「ヴーッ!ヴーッ!!」

「禰豆子も今は落ち着いて!」

 

 

私は禰豆子に威嚇されて困惑する善逸と伊之助に声を掛けたり、今にも襲いかかろうとしている禰豆子を落ち着かせようとしたりと....なんとか戦いにならないように動いた。善逸と伊之助は私もいることに驚きながらも何も言わずに大人しくしていたが、禰豆子は興奮状態のままだった。けど、頭の中ではこんなことをしている場合じゃないと分かっているのだろう。だからこそ、禰豆子は威嚇するくらいでそれ以上は耐えている。

 

 

.....よし!禰豆子は耐えてくれているが、流石に話し合いまで耐えられないだろう。やっぱり炭治郎のところに戻ってもらおう......。

 

 

「うむ!よもやよもやだ!」

 

 

私がそんなことを考えている間にまた別の声が聞こえた。

 

次から次へと!ちょっと待ってくださいよ!状況がややこしくなるから!

 

 

「うむ!君は竈門少女だな!それで、君が........。」

「生野彩花です。」

「うむ!水町少女だな!」

「いえ、生野彩花です。どこから水町という名前が出たのですか?」

「話は聞いている!水町少女も鬼狩りをしていると!」

「いや、人の話を聞いてください!」

 

 

私は先程目覚めた人に自己紹介をするが、全くの別の名前を言う。この人は原作と同じだな.....。そう思いながらその人を見上げた。赤と金色の派手な髪に大きな声で話す男性...炎柱の煉獄杏寿朗だ。

 

 

原作で知っていたけど、声が大き過ぎて煉獄さんが話す度に窓が揺れていませんか?......気のせいかな?....まあ、これで鬼殺隊の人達全員が目を覚ましたということだよね...。

 

 

「それよりも!竈門少女と一緒に行動していた水町少女がいるということは竈門少年もこの列車に乗っているということだな!」

「.........。」

 

 

.....それは言っちゃ駄目だよ!善逸と伊之助が煉獄さんの言葉を聞いて顔色を変えた。さっきのことがあったので、どうやら次の展開を察したようだ。何が駄目なのか、私も良く分かるよ!だって.......。

 

 

「ヴヴーッ!!ヴーッ!!!」

「禰豆子!それは止めて!」

 

 

先程まで落ち着いていたはずだった禰豆子が爪を伸ばし、額に青筋を立てていたので、私は慌てて禰豆子に抱きついた。ちょうど禰豆子が飛びかかろうとしたタイミングだったようで、私の体が一瞬浮いたが、私は必死に禰豆子が暴れないように全体重をかけて抑えた。

 

 

「うむ!竈門少女!鬼化が進んでいるぞ!どうした!」

 

 

貴方が原因だよ!!今の禰豆子は鬼殺隊への怒りで我を忘れているの!どうして分からないの!というか、禰豆子の鬼化が進んでしまうほど怒らすなんて、鬼殺隊はよっぽど炭治郎に酷いことをしたんだね....。それと.....煉獄さん。禰豆子の鬼化が急に進んだ時点で気づいて!前世の件が原因って、自分達が炭治郎のことを呼んだのが原因だって察してよ!

 

 

煉獄さんの言葉に私は内心色々と大声で叫んでしまった。口に出していないか心配だったが、周りは私より禰豆子の方を見ているので、口には出していないようだ。......いや、そんなことを考えている場合じゃないね。こうしているうちに禰豆子の体が大きくなってきているのだから!本当にこのままだと禰豆子の体がさらに大きくなって、原作の吉原遊郭編の時の姿にならない!?まずい!それはなんとしても止めないと!私も禰豆子を抑えきれない!今も煉獄さんに飛びかかるために暴れようとしているから、手を離しそうになるよ!

 

 

「禰豆子!今は落ち着こう!ねえ!落ち着いて!炭治郎のことが心配なのは分かるから!禰豆子は炭治郎のところに行って!なんか前の方から嫌な予感がしてくるし!こっちは大丈夫!私がしっかり説得して炭治朗のところに行かないようにしておくから!」

 

 

私は大きくなっていく禰豆子に必死に掴まりながら落ち着かすように背中を撫で、そう大声で言った。すると、禰豆子はぴたりと動きが止め、同時に鬼化も止まった。

 

 

「.........。」

「.....禰豆子?......うわあ!?」

 

 

動きも鬼化も止まってからずっと黙っている禰豆子を心配し、禰豆子の顔を覗こうとした時、禰豆子の体が縮み、元の大きさに戻った。私は突然のことに反応できず、バランスを崩して尻もちをついてしまった。

 

 

「いたた.....。」

「ごめん、ね。だ、大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ。」

 

 

私が床に座っていると、禰豆子が心配そうに私に近づいてきた。私は禰豆子に大丈夫だと言って立ち上がり、禰豆子の様子を見た。

 

 

鬼化は治っているようだし、落ち着いているね。また興奮されたら困るし、炭治郎のところに戻ってもらおう。それに、さっき言っていた嫌な予感も気になる。なんとなくという感じではあったが。気のせいだったらいいのだけど....少々不安だ。

 

 

「禰豆子。炭治郎のところに戻ってて。本当に何か起きているかもしれないし、ここからは私一人でも大丈夫だから。」

「......うん。でも、彩花....気をつけて。」

「うん。分かっているよ。禰豆子達も気をつけてね。そっちの方が何が起こるか分からないから。」

 

 

とりあえず、私は禰豆子に炭治郎のところへ戻っているように言い、禰豆子は少し考えて頷いたが、心配そうな顔をしていた。私は大丈夫だからと何度も言ったので、禰豆子はまだ不安そうな顔をしながらも炭治郎のところに行った。

 

 

...うーん......。....これは...私への信頼が低いのか、鬼殺隊の人達への警戒がひどいのか........後者の可能性の方が高いと個人的には思いたいけど....。それよりも最近の禰豆子は前よりも気を張りすぎているんだよね.....。周りを気にするのは良いことだと思うが......私は炭治郎のことも心配だけど、禰豆子のことも心配なんだよね...。さっきの鬼化が急激に進んだ現象も含めて、禰豆子が人食い鬼にならないか不安なんだよね。禰豆子が人を食べるなんてこと、炭治郎も私も嫌だからね。

 

 

「さてと。それでは話を.......「うむ!俺も竈門少年のところに向かう!」....いや、駄目です!ストップ!待ってください!」

 

 

私は禰豆子の姿が見えなくなったのを確認してから善逸達と話をしようとした。しかし、煉獄さんは私の話を聞いていなかったのかそう言って炭治郎達の方に向かおうとした。私は一瞬煉獄さんの言葉で固まったが、すぐに煉獄さんの腕を左手で掴み、近くの座席の背の部分を右手で掴んで止めた。

 

 

煉獄さん、力が強過ぎる!いや!駄目ですって!何のために距離を離したと思っているの!二人とも今のままだと話せないというより、話になるとは思えないくらいなんだから!会っても炭治郎は発作を起こすと思うし、禰豆子はまた鬼化しそうだし.....というか、禰豆子の様子を見てまだ話すのは無理だって察してよ!....って、煉獄さんに言っても難しいことか...。それより、これは......まともに話ができるのかな?話しても今の煉獄さんが聞いてくれるか分からないし.....。...禰豆子にはちゃんと説得すると言ったけど....結構難しいかも.....。

 

 

 

 

....あっ。善逸と伊之助も行っちゃダメだからね。私が鬼殺隊の人達に用があるのだから。それに、現実を言ってしまうけど、善逸と伊之助が行ってもさっきの反応をされるだけだからね。お願いだから、大人しくしてよ。

 

 

 

 

 

 



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笹の葉の少女は眠れないし、休めない

「とにかく!話をしたいので、落ち着いて話をしましょう!煉獄さんも善逸も伊之助も大人しくしてください!」

「だが.......!」

「大人しくしてください!!さっきから何度もこのやり取りをして先が進みませんので!このやり取りをしてから結構時間が経っていますよ!」

「煉獄さん!とりあえず、今は話を聞きましょう。」

「...うむ....。」

 

 

禰豆子が炭治郎のところに行ってから、私は煉獄さん達と話をしようと思ったが、煉獄さんが二人のところに行こうとするので、それを止めていてまだ何も話せないでいた。私が必死に煉獄さんの腕を掴んだ状態で二人のところに行かないように説得していたけど、煉獄さんはなかなか聞き入れず、善逸にもせめて話を聞いてからの方がいいと言われ、納得はいっていない様子だが、渋々話を聞いてくれるそうだ。

 

 

「.....はあ...。やっと話ができる。じゃあ、今の状況とこうなってしまった経緯を説明しますね。」

 

 

私は善逸達に説明し始めた。善逸達が血鬼術にかかっていたこと....前世で鬼の血鬼術のことは知っていたが、血鬼術にかからなかったことで鬼が何をしてくるか分からなかったので、私達も血鬼術にかかっていたこと.....しかし、予想外なこと(私がすぐに目覚めてしまったことは私にも分からないし、話さないことにして言葉を濁した)が色々と起きてしまい、計画を変更させてまだ列車との融合が不完全な状態の鬼と戦ったのだが、鬼は列車との融合が不完全の状態で乗客全員を攻撃すると言ったこと.....乗客を守るためには私達だけでは無理なので、禰豆子の血鬼術で善逸達を起こしたことなど、状況をなるべく早く理解してもらうためにできる限り手短に話した。

 

 

「.....うむ。状況は理解した。」

 

 

煉獄さんは私の話を聞いてそう言った。

 

良かった....。煉獄さんは状況把握力が高いことは原作で知っていたけど、私の説明をいち早く理解するのは流石ですね.....。おかげ様で早く動けそうだ。

 

 

「それでは...。」

「この列車の乗客は皆助けるが、その前に竈門少年に一言謝罪したい!」

 

 

........はい?....煉獄さんは何を言っているのですか?......いや、煉獄さんならそうなるか....。煉獄さんだもんね.....。というか、煉獄さんが謝罪したいということは...やっぱり前世のあの時のことだよね....。ということは煉獄さんもあの時、あそこにいたんだね...。あの話を聞いた時、その場にいた人物の名前とかそういうのは詳しく聞かされていなかったから、誰がその場にいたのかは分からないんだよね......。炭治郎の知っている前世が原作と違うのは確かだから、煉獄さんのように本来死んでいた人が生きていることはありそう.....いや、確実にあるね。しのぶさんもそれらしき動作があったわ....。那田蜘蛛山で会った時は色々ありすぎて動揺していたから気づかなかったけど.....よくよく思い出してみたらそうだったよ....。今のところ分かる、前世の件でいた鬼殺隊の人達の中で確実にそこにいたのは善逸と伊之助、カナヲ、しのぶさん、煉獄さん、あと冨岡さんもかな。

 

 

「煉獄さん...。すみませんが、それはまだやめていただきたいです。炭治郎も禰豆子もまだ感情の整理がつかないので。......善逸と伊之助は禰豆子の様子を見て分かっているよね、どういうことなのか。」

「.....うん...。....禰豆子ちゃんは俺達のことを許せないんだよね。きっと炭治郎も......。」

「うん.....。」

 

 

私は煉獄さんの頼みを断り、納得していない様子の煉獄さんを見て、どう言えば煉獄さんが納得してくれるのかと考えていると、暗い表情をしている善逸と伊之助に気づき、聞くのが申し訳ないと思いながらも話しかけた。善逸は下を向いたままそう言い、私は本当に申し訳ない気持ちになりながらも頷いた。

 

 

善逸も伊之助も禰豆子に威嚇されて、痛いほど現実を実感したんだと思う。炭治郎と禰豆子にしたことから考えて許してもらえるとは思っていなかっただろうが、実際に見てみると、結構ショックが大きかったらしい。

 

 

「分かっていたよ、俺達も....。俺達が炭治郎と禰豆子ちゃんにしたことを考えれば...けど.....。」

「だからこそ、俺は竈門少年に謝りたい!」

「謝りたいのは分かりますが、今は止めてください!」

 

 

善逸と伊之助が落ち込むなか、煉獄さんが再び炭治郎と禰豆子のところに向かおうとして、私は必死に止める。

 

 

もう!伊之助だって大人しくしているのに、どうして煉獄さんは何度も炭治郎達のところに行こうとするの!今、鬼が乗客の人達を襲おうとしていることを話したよね!自分の責務を全うしてくださいよ!こうなったら...もう正直に.....。

 

 

「あのですね!この際、はっきりと申し上げますね!謝りたいというお気持ちは分かりますが、炭治郎は対人恐怖症と心的外傷という精神の病気にかかっています。人との交流で強い不安や緊張を感じてしまったり、手足や声が震えたり、息苦しさを感じたりなどの生活に支障が出る等のさまざまな症状が表れる状態の炭治郎に、その原因となった貴方達が真正面で会ったら、確実に炭治郎が倒れてしまいます!以前、鬼殺隊の人と会った時に息ができなくなって、抑制剤を飲むまで落ち着かなかったことがあります。ですので、今は炭治郎に会わすことはできません!謝りたいからと言っても、肝心の炭治郎に倒れられたら意味がないでしょう!貴方達もそれは望んでいないでしょう。」

 

 

私は善逸と伊之助に悪いなと思いながら正直にはっきりと言った。

 

この話を聞いたら善逸と伊之助がまた自身のことを責めるのは分かっていたが、煉獄さんが炭治郎達に会って謝りたいと私達と離れてすぐに炭治郎達のところに真っ直ぐに行きそうなので、ここは止めないと。今の炭治郎に煉獄さんは刺激が強すぎる。炭治郎に倒れられることは煉獄さんも善逸達も誰もそんなことを望んでいないよね。私だって炭治郎も煉獄さん達も両方が苦しむところを見たくない。

 

 

私の言葉に善逸と伊之助がまたつらそうな顔をした。煉獄さんも言い返す言葉もないのか無言だった。

 

やっぱり善逸と伊之助は自身のことを責めているよね....ずっと......。鼓屋敷であった時にもしかしたらと思ってはいたけど、ずっと後悔しているよね.....。善逸も...伊之助も....ずっと前世のことを引きずっている.....。....それはカナヲやしのぶさんに冨岡さんも...煉獄さんも同じ。.....だからこそ皆、炭治郎と禰豆子に謝りたいと思っている。謝罪の言葉では許されないようなことをしたと分かっていても....。それでも、煉獄さんは謝るために行動しているし、善逸も伊之助も主だって行動していないが、二人のことを気にしているし、心の中では今すぐにでも二人のところに行って頭を下げたいはずだ。しかし、善逸と伊之助は...特に伊之助に関しては煉獄さんのように行動に出そうだが、それらしき素振りを見せない。それはきっと....私の話や禰豆子の様子......それらから感じる音や気配で分かってしまうのだろう。となると、善逸や伊之助は煉獄さんよりもつらいのかもしれない。今のところは私が引き止めていたこともあって、炭治郎には直接会ったことはなかったけど、さっきの禰豆子の様子や私が話したことが嘘ではないということがはっきりと分かってしまっているから、煉獄さんのように行動できない.....。........そのショックは私の想像よりも大きいのかもしれない。でも、今は後悔したり自分を責めていたりしている暇はないんだよね...。そろそろ鬼の方も動いてきそうだよね....というか、嫌な予感が......。

 

 

私がそんなことを考えていた時、列車が少し揺れた。私が嫌な予感がして周りを見渡すと、列車の壁や床から触手のようなものが出ていた。

 

やっぱり!もう時間が!ゆっくり話している場合じゃなかった!

 

 

「とにかく!今はショックを受けたり自分を責めたりするのは後にしてください!私情を優先している場合じゃありません!今は眠っている乗客の人達を守る方を優先してください!」

「うむ。それは分かっている.......。」

「もう!分かっているなら、すぐに行動してくださいよ!貴方達、鬼殺隊なんでしょう!それなら今、まずは何をするべきなのか分かっているはずです!今、この列車の乗客全員が鬼に襲われています!私情で行動するよりも自分の責務の方を先に全うしてください!」

「うむ.....。」

 

 

私はもう時間がないと焦り、煉獄さん達にそう大声で言った。いや、そこまで大声で言う気はなかった。突然大声で言ったことか、または私の言葉に驚いたのかは知らないが、煉獄さんは先程よりも目を開けたまま固まり、善逸と伊之助は無言で互いや周りを見たり、動かない煉獄さんを心配して見ていたりしていた。

 

 

「....あの......。...煉獄さん?」

「うむ!承知した!」

「ひゃあっ!?」

 

 

私も少し心配になって煉獄さんに一歩近づくと、煉獄さんが急に首だけ私の方を向いて大声を出し、私は突然のことに驚いてしまった。

 

 

「水野少女!」

「少し近くなりましたが違います。生野です。」

「確かに!君の言う通り、今はそれどころではなさそうだ!鬼殺隊隊の柱たるもの、乗客全員の安全を優先する!俺は後ろの五つの車両を守る!黄色い少年と猪頭少年は一両ずつ、水野少女は竈門少年達と一緒に残りの一両を守りつつ鬼の頸を斬ってくれ!本当ならあの鬼と戦った経験のある竈門少年と猪頭少年を行かせたいのだが....君の話によると、今の竈門少年は猪頭少年と会うことはできないようだな!なら、代わりに竈門少年と連携がとれそうな君に動いてもらおうと思っている!」

「......分かりました。但し、勝手に別の行動をするのだけは止めてくださいね。うっかり炭治郎と禰豆子と鉢合わせしたら、二人とも鬼どころじゃなくなりますから。」

「....承知した!」

 

 

煉獄さんが私のことを呼ぶが、私は名前が違うのですぐに訂正する。しかし、煉獄さんは聞こえていなかったのかどうかは知らないがそのまま話を続ける。まあ、その話の内容は今後の動きだった。私達の方もその動きは都合が良いので問題はない。私はもう名前を間違えていることは無視し、伝えたいことを話した。煉獄さんは少し悩んでいたが、承諾してくれた。こんな状況だからこそ、それは控えてくださいね。

 

 

「では...私は行きますので、煉獄さん達は先程話し合った通りに動いてください。」

「ああ!」

 

 

私は煉獄さん達に一言かけた後、炭治郎達のいる車両に向かった。前から三列目の車両に着くと、ちょうど禰豆子が乗客を守っていて、その前の車両でも炭治郎が刀を振って乗客を守っていた。

 

 

「炭治郎!禰豆子!ごめんね!説得するのに思ったよりも遅くなっちゃって!」

 

 

私も周辺に出ていた鬼の触手を粗方斬った後、炭治郎と禰豆子に声をかけた。

 

 

「彩花!無事か!何ともないのか!」

「大丈夫?怪我は、ない?」

「う、うん。大丈夫だよ。初めから話をつけるだけって言ってたでしょ。何も起きないよ。」

 

 

私を見て、炭治郎と禰豆子が近づいて肩を揺さぶったり、大丈夫なのか、怪我はしていないかと声をかけたりなど、心配してくれた。

 

 

ただ話をするだけなのだから、そこまで心配しなくても大丈夫だと思うけど....。.....でも、ここまで警戒されているとなると、炭治郎と禰豆子を鬼殺隊の人達を会わせるのはまだ早いね。禰豆子の威嚇行動から察していたが...やっぱり......もう少し落ち着くまで待ってもらわないと.....。

 

 

「それよりも、しっかり話はつけておいたから大丈夫だよ。乗客は一番前の車両以外は煉獄さん達が守ってくれるらしいから、私達は一番前の車両を守りながら鬼の頸を斬ろう。あっちも今は乗客を守る方が優先だと分かっているから、決められたことは守ってくれると思う。」

「........本当に信じても大丈夫なのか?」

「.......どっちにしろ...今は早く鬼の頸を斬って、この状況をなんとかした方がいいと思う。だから、今は信じるか信じないかよりも鬼の頸を斬ってこの危機を乗り越えることだけを意識しよう。」

「.....そうだな。」

 

 

私は本題に入ろうと炭治郎と禰豆子にそう話すが、炭治郎が煉獄さん達を疑ってしまい、本当に鬼の頸を斬りに行っていいか悩んでいるので、私はそれに本当に全く信用されてないなと思いながら苦笑いを浮かべたままそう言い、炭治郎も禰豆子も乗客の安全のためなら仕方ないと渋々納得してくれた。こういうのを見ると、私は複雑なんだよね...。

 

 

「あんまり時間をかけず、尚且つ早く終わるように二手に分かれよう。鬼の頸を斬るのは前回その鬼の頸を斬ったことがある炭治郎と何故か血鬼術が効かない私、乗客の人達を守るのは禰豆子。この二つに分かれようと思うけど.....いいかな?」

「うん。大丈夫。早く終わらせて、ここから離れたい。」

「彩花と禰豆子がいいなら。それに、俺もこの列車から早く離れたい。」

「あー。うん。そう....だよね...。」

 

 

私はこの後の行動について話し、炭治郎と禰豆子に異論がないか聞くと、禰豆子も炭治郎も早く終わらせたいからと了承してくれた。

 

 

炭治郎も禰豆子もそんなに煉獄さん達と離れたいのか.....。....煉獄さん達、今は絶対に会わない方が良いと思いますよ......。

 

 

「それなら、これで決定ね。炭治郎、先を急ごう。禰豆子、乗客の人達をお願いね。」

「分かった。禰豆子、頼んだぞ!」

「任せて!」

 

 

私達は話した通りに二手に分かれて、一番前にある列車を操縦している場所に向かった。魘夢の血鬼術が効かなかった私が前に出て操縦室の扉を開く。

 

 

「き、君達...。一体、なんだ....!」

 

 

列車を動かしているであろう機械の前に立つ運転手さんが震えながら突然入ってきた私達にそう言った。

 

 

......あっ。この人、確か原作では.....魘夢の命令で乗客の人達を眠らす手伝いをして....この場所で伊之助を刺そうとして、それを庇って炭治郎が刺されたんだ。.....この運転手さん、すぐに眠らせて別の場所に逃した方が良さそうだな...。後々攻撃してくる相手もそのまま放置していたら原作のようになりそうだし、すぐに眠らせてそのままにするのも気になって戦いの方に集中できないから、魘夢の攻撃が届かないところに避難させないと....。

 

 

「...すみません。」

「ゔっ!?」

 

 

私は謝りながら懐から吹き矢を取り出し、睡眠薬の入った注射型の矢を中に詰め、運転手さんの首元にそれを吹いて当てた。運転手さんは薬の効果ですぐに眠り、床に倒れた。私は運転手さんが眠ったのを確認して、さっさと隣の車両まで運び(私は大人を持ち上げられる力はないが、炭治郎に手伝ってもらうと炭治郎が過呼吸を起こしそうになるので駄目だし、禰豆子は乗客を守っていて手伝えないので、引きずって運んだ)、座席に座らせた。これで、この運転手さんは原作のように人を刺すことは無くなったね。

 

 

「禰豆子。この運転手さんもお願いね。」

「うん。分かった。」

 

 

私は運転手さんを運び終えた後、禰豆子に一言かけ、禰豆子が頷いたのを確認し、炭治郎のところに戻った。炭治郎は狐面をつけて刀を構えていた。前世の経験から判断したのだろう。原作では伊之助が猪の被り物をいたおかげで、伊之助は魘夢の強制昏倒睡眠・眼にかからないで済んだのだ。それはどういうことかというと、魘夢の強制昏倒睡眠・眼という血鬼術は鬼の眼と対象者の眼が合った時、眠りに落とすというもので、伊之助は猪の被り物をしていたことで視線が読みにくく、伊之助と眼と合わすことができなかったのだ。それで血鬼術にもかからなかった。それなら、狐面でも伊之助の猪の被り物と同じような効果が見られるだろう。とにかく、これで炭治郎が夢の中で何度も自分自身の首を斬って死ぬことはなくなるだろう。それは良かった。何故か効かなかったけど、私も狐面をつけよう。ここなら狐面が飛ばされる心配はないし、次は効いてしまうかもしれないし。

 

 

「炭治郎。運転手さんは隣の車両に移したから、これで心配しないで心置きなく戦えるよ。」

「...そうだな。ありがとう。」

 

 

私も刀を抜きながら炭治郎の隣に立ち、炭治郎は前に集中していてこっちを見なかったが、お礼を言ってくれた。

 

いや。こっちも安心したよ。炭治郎にまた苦しい思いをさせなくて。ただでさえ、今の炭治郎は前世の記憶で対人恐怖症と心的外傷で精神的に色々とヤバいのに、さらに精神的苦痛を増やしたら......。....それはなんとしてでも避けないと!せっかく少しずつ回復してきたのだから。

 

 

「それで、確かこの辺りなんだよね?」

「ああ。この下が鬼の頸だ。ただ、列車と同化しているから頸は大きいし硬い。それに、鬼の肉の部分が大きくなって広がっていくから厄介だ。だから、一人が肉を斬り、もう一人が骨を斬らないといけない。」

「それなら、私が肉の部分を斬るから、炭治郎は骨を斬って。狐面をしているからといって、もしかしたら血鬼術にかかってしまうかもしれないからね。私は何故かあの血鬼術は効かないみたいだし、目を合わしても大丈夫だから、私が先陣を切るよ。」

「分かった。それじゃあ、頼むよ。」

 

 

私は目の前のことに集中することにし、原作の知識があるとはいえ、一応炭治郎に確認すると、炭治郎は頷きながら説明してくれた。炭治郎の説明を聞いて原作と同じだなと思いながら、私は自分が肉の部分を斬って炭治郎に骨の部分を斬らせることにした。狐面をしていても炭治郎が絶対に血鬼術にかからないとは言えないからね。私は何度も血鬼術を使われても効かなかったので。炭治郎も納得してくれたので、私と炭治郎は同時に前に出た。

 

 

「水の呼吸 捌ノ型 滝壺」

 

 

まず初めに私が車両の床の部分を斬り、そこから鬼の肉体が見えた。鬼は頸の部分が顕になったことに焦り、肉体がどんどん大きくなって広がり、触手のような形になって襲いかかってきた。

 

 

「華ノ舞い 水ノ花 水仙流舞」

 

 

それを見て、私はすぐにその触手の部分を斬り、そのまま盛り上がってきた肉体の部分も斬った。斬る直前に肉体の部分から複数の眼が現れ、私はそれを見てしまったが、やはり血鬼術にはかからなかった。私はそれにやっぱり効かないんだね、.....けど、なんで?と疑問に思いながらも今は目の前のことに集中することにして、上に盛り上がって私達に襲いかかってくる触手を斬り続ける。しかし、途中から血鬼術を使うのを止めて触手を増やし始めた。私に血鬼術が効かないので、こっちを優先したようだ。触手の数がますます多くなり、私と炭治郎に襲いかかってきた。私はそれをなんとか斬ったり防いだりしているが、次から次に再生していくので、なかなか前に進めない。

 

 

「炭治郎!一点に集中して進むから、私の後ろについて来て!」

「分かった!」

 

 

私はこのままだとキリがないと思い、炭治郎の前に出て触手を斬りながら進んだ。

 

 

「華ノ舞い 日ノ花 日車」

 

 

私は触手の根元に辿り着き、日車で触手を根元から斬った。何故日車を使ったのかって?日車で斬られたものは痛みがない。それなら、今、この触手が根元から斬られてもすぐには気づかない。その隙に....。

 

 

「水の呼吸 捌ノ型 滝壺」

 

 

私は再び水の呼吸に切り替えて鬼の肉体の部分を斬った。すると、斬った場所から骨が見えた。どうやら先程の一撃で骨を守っていた肉の部分を全部斬ることができたようだ。

 

 

「炭治郎!」

 

 

私は骨が見えたのを確認してすぐに後ろを振り向き、炭治郎に声をかけた。炭治郎は私の言葉に頷くと、刀を大きく振り上げた。その時、横からまた触手が生え、炭治郎に襲いかかろうとしている。

 

 

「悪いけど、炭治郎の邪魔をしないでね。」

 

「華ノ舞い 水ノ花 水仙流舞」

「ヒノカミ神楽 碧羅の天」

 

 

私は炭治郎に襲いかかろうとする触手をすぐに斬り、炭治郎は原作で見たものと同じ型で鬼の骨を斬った。それと同時に、乗っていた車両が半分に分かれた。

 

 

「お、終わったの?」

「あ、ああ。終わった...が.......。」

「ギャ、ギャアアアアアアアアアアっ!!?」

 

 

私は列車の様子を見ながら炭治郎に聞いてみると、炭治郎は頷いて何かを教えようとしたが、魘夢の悲鳴で掻き消された。

 

 

まあ、大体の話は私も原作で知ってはいるけど、やっぱりこれは........。

 

私は耳を塞ぎながら後ろの車両を見た。鬼の肉の部分が膨れ上がり、列車を呑み込んでいく。そして、列車がその重みに耐えられず、横に傾いていく。私は咄嗟に近くのものにしがみついた。炭治郎も手すりのようなものを掴み、衝撃に備えた。列車はだんだん横になり、重力が横にかかっていき、横転して地面を真横になった状態で滑っていく。私と炭治郎は横転した衝撃で掴んでいたものから手を離してしまったらしく、私と炭治郎の体は宙に浮いた。

 

 

....いや、これはまずい!結構高く上がっちゃったから、着地するのが難しい!というより、衝撃でバランスが崩れちゃって.....ああ!ぶつかる!!

 

 

「うぐっ!?痛っ!?」

 

 

私は上手く着地できそうもなかったので咄嗟に受け身を取ったが、地面に思いっきり打ってメチャクチャ痛かったうえに、勢いが結構あったのかそのまま数十メートルくらい転がった。そのせいで体の節々を打って少し痛い。漸く私の体が止まり、辺りが静かになったことに気づき、横になったまま列車に視線を向けた。見えたのは、私が原作で見た光景と同じものだった。列車は派手に横転しているが、乗客は全員無事そうだ。鬼の肉体のぶよぶよとしたものが良い感じにクッションになったのと煉獄さんのおかげだろう。原作でも煉獄さんが技をいっぱい使っていたと書いてあったからね。煉獄さんを起こしておいて良かった。

 

 

「...あっ。あの運転手さんも無事みたい。良かった。原作では列車に足が挟まっていたけど、怪我はなさそうね。」

 

 

私は車両から出てくる人達を見ていると、その中から運転手さんの姿を見つけた。運転手さんは怪我をしている様子がなかったので、私はそれに安堵した。

 

 

原作では炭治郎の腹を刺して、列車が横転した後は列車に足が挟まった。でも、こっちは私が早く眠らせて隣の車両に運んだから、炭治郎を刺していないし、運転手さんは列車に足が挟まってない。まあ、運転手さんが殺人未遂と大怪我をしなくてよかったよ。あの後、武器になりそうなものもこっそり抜いて隠しておいたし。

 

 

「彩花!大丈夫か?怪我をしているのか?」

「痛い痛い?」

 

 

私が乗客達の様子を見ている間に、炭治郎と禰豆子が私の近くまで来ていた。きっと、いつまでも倒れている私のことを心配してくれたのだろう。というか、炭治郎は全然大丈夫そう。無事に着地できたのか、このくらいの痛みが全然平気なのかは分からないけど、ただ一つ分かることは私はまだまだ鍛える必要があるということだね。禰豆子は私があの時置いていった背負い箱を持ってきてくれていた。

 

 

「大丈夫だよ。ただ、着地の時にバランスを崩して咄嗟に受け身をとったのだけど、地面に体を思いっきり打ったみたいで体が少し痛いだけ。大した怪我はしてないから、あと少し休んだら大丈夫。あと、背負い箱を持ってきてくれてありがとうね。禰豆子。」

 

 

私は炭治郎と禰豆子にそう言った。実を言うと、途中から背負い箱を禰豆子に預けていたことを忘れていたよ。禰豆子、預けたままでごめんね。持ってきてくれて本当に助かりました。体の方は思いっきり打ったけど、骨は折れていない。せいぜい打撲ができたかどうかくらいだろう。だから、少し休めば動けそうだと思ったので、もう少しだけ休みたかったんだけど......そう思ったのはどうやら失敗だったみたいね....。

 

 

「炭治郎!」

「健八郎!」

「「「!?」」」

 

 

二つの聞き覚えのある声が聞こえ、炭治郎の体が震え始め、禰豆子の額から青筋が立ち、勢いよく後ろを振り向いた。地面に寝っ転がっている今の私には炭治郎と禰豆子で隠れて見えない。だが、あの聞き覚えのある二つの声と炭治郎と禰豆子の様子でその二つの声が誰なのかすぐに分かった。

 

 

私はなんとか両腕を動かし、上半身を少し起き上がらせた。そして、息切れしながらもこっちを見ている善逸と伊之助の姿を見つけた。

 

やっぱり善逸と伊之助だったか.....。まあ、いつかはこの日が来るとは思っていたよ。私がやっていたのはその時を先延ばしにすることだったのは分かっていた。でも、だからこそ炭治郎の心傷が癒えるまでなんとか少しまでその時を延ばそうと思っていた。...だけど、遂に会ってしまった....。まだ炭治郎の心傷も癒えてないというのに...。....ゆっくりしている場合じゃなかった。

 

 

私は炭治郎と禰豆子の様子を見た。炭治郎の体は震えているし、息を荒くなっているし、汗も凄く地面に何滴か垂れている。対人恐怖症と心的外傷の両方が出ているね、これは。禰豆子は鬼の血相で善逸と伊之助の方を睨み、一歩ずつ歩いている。けど、私の体はこんな状況なのに動くことができない。動こうとすると、先程の着地の失敗での痛みが原因で体中が痛い。早く炭治郎を落ち着かせて精神安定剤を飲まさないと.....そして、一刻も早く禰豆子を止めないと!だから、お願いだから動いてよ、私の体!善逸も伊之助も動いていない今のうちに.......。

 

 

「竈門少年!大丈夫か!凄い汗だぞ!」

 

 

私がそんなことを考えていると、煉獄さんがこっちに来た。

 

いや、貴方達のせいだよ!どうして来たの!できれば空気を読んでよ!...って、煉獄さんに言っても無理か.....。だけど、この状況をどうしよう?炭治郎はさらに顔を真っ青にしているし、禰豆子は善逸と伊之助から視線を逸らして煉獄さんの方を睨んでいるし.......そんな状況で普通に近づいてくる煉獄さんはもはや流石としか言いようがない。あー!本当なら今すぐにでも近づいてくる煉獄さんを止めに行きたい!

 

 

「ヴヴッ!!」

「禰豆子!駄目!!」

 

 

炭治郎との距離があと数メートルとなったところで、とうとう禰豆子が我慢できなかったらしく、煉獄さんに飛びかかろうとした。私が大声で禰豆子を止めようとするが、禰豆子の方が早く行動し、上に高く飛び、煉獄さんに向けて攻撃しようと爪を伸ばしたその時、

 

 

 

ドオーン!!!

 

 

 

突然地面に勢いよく何かが落ちたような音が聞こえた。私達はその音が聞こえた方を向き、警戒した。煉獄さんに飛びかかろうとした禰豆子も今はそれを止め、いつでも攻撃できるように構えていた。煙で何も見えないので何者なのかは分からないが、私には分かった。いや、見覚えがあった。横転した列車、その後の展開.....間違いない。

 

 

「上弦の...参?」

 

 

煙が晴れ、何かが....いや、その鬼の姿がはっきりと見えた。紅梅色の短髪に細身な筋肉質な少年や青年くらいの背丈で、顔を含めた全身に蒼色の線状の文様が入っていて、足と手の指先は同じ色で染まっている、右目に上弦、左目に参と刻まれている鬼、猗窩座の姿があった。

 

 

........えっ!?やはり原作通りに来るのですか!?今のところ、私の存在と互いの関係が複雑し過ぎることを除くと原作とはあんまり変わっていない気がするが、それよりも気になることがある。炭治郎達の言う前世では猗窩座は現れていなかったみたいだけど、今回は現れた。もう原作とは全く違うものになっているのに、猗窩座は現れた。....一体何が違うのかな?炭治郎達の前世と今回で.....何が.......。...今考えても仕方ないか.....。それよりもまずはこの状況をなんとかしないと....。

 

......だけど、一つ感謝しないといけないことはあるね.....。猗窩座さん....。できれば来てほしくなかったけれども、タイミング的には最高でした。お陰様で今にも煉獄さんに襲いかかろうとしていた禰豆子を止めてくれたのですから助かりました。

 

 

私は禰豆子の暴走が止まったので、ありがとうございますと敵とはいえ猗窩座に心の中で感謝した。この後、猗窩座が襲ってくる可能性は高いが、助かったのは事実ですからね。心の中でお礼くらいはして良いですよね?

 

 

 

 

 



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笹の葉の少女はやれることをやる

「...炭治郎。大丈夫?」

「あ、ああ。大丈夫だ。」

 

 

私は猗窩座の登場の衝撃で遥か上の強さによる威圧で体が震えそうになりながらもなんとか体を動かせるようになり、すぐに炭治郎に声をかけて背中を摩った。それと同時に、炭治郎に精神安定剤(緊急事態なので、水がなくても飲めるタイプのもの)を渡した。炭治郎はそれを飲み込み、すぐに立ち上がった。炭治郎は大丈夫だと言っているが、声が少し震えている。けど、呼吸がだんだんと一定のリズムに落ち着き出している。猗窩座の登場で煉獄さん達の気がこっちに逸れたのと精神安定剤が効き始めているのだろう。このまま戦っても大丈夫そうだ。

 

 

「あんまり無理はしないでね。」

「分かっているよ。そう言う彩花こそ大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。私は軽く着地に失敗しただけだから。」

 

 

私が炭治郎の心配をしていると、炭治郎は大丈夫だと答えた後、私の心配をした。私も猗窩座が現れた衝撃のせいか痛みが治まって体を動かせるようになったので、全然大丈夫ですよ。時間が結構経っていて自然に回復したのか、あるいは命の危機を感じたか(もしかしたら病は気からということなのかもしれないが......。)、それ以外に何があったのかは分からない。少し背中辺りが痛いけど、普通に体を動かして起き上がることができた。

 

 

「お前、鬼にならないか?なかなかの闘気だ。」

 

 

猗窩座はそう言って炭治郎を誘った。

 

 

「いや、俺は鬼にならない。」

「そうか....。お前も素晴らしい闘気だな。鬼狩りの柱か?お前は鬼にならないか?」

 

 

炭治郎はきっぱりと断った。炭治郎に断られた猗窩座は次に煉獄さんに声をかけ、勧誘し始めた。

 

本来ならこんなことを言うべきではないが.....今は猗窩座さんに本当に感謝しますよ。炭治郎も私も....煉獄さん達も助かりました。

 

私は煉獄さんにも勧誘を断られている猗窩座の様子を見て、そんな場違いなことを思いながら背負い箱を背負った。

 

 

「炭治郎は戦って。私は炭治郎の手助けしながら乗客の人達がここから離れられるようにする。禰豆子も乗客の人達を誘導するのを手伝って。」

「分かった。」

「うん。」

 

 

私は煉獄さんと猗窩座が話しているのを見計らって、炭治郎と禰豆子に声をかけた。乗客の人達がここから見えるところにいるのを寝っ転がっていた時に確認していたので、そこからすぐに離れさせることを私は優先することにした。ただ、炭治郎が乗客の人達を誘導できるかどうか...。炭治郎は鬼殺隊の人達が主なトラウマの対象で、一般の人達は少し話ができるくらいなら大丈夫なのだが、大勢と話をすることになると駄目だ。特に囲まれる状況になると、その瞬間に過呼吸が起こり始める。でも、炭治郎が猗窩座と戦うことになるとその戦いに入ってきそうな人達がいるけど、乗客の人達の誘導よりもその方がまだマシかな.....。とりあえず炭治郎は猗窩座と戦い、私と禰豆子は乗客の人達を猗窩座から離れるように誘導することにした。

 

本当なら煉獄さん達の話も聞いて話し合いたいところだけど、今はそれどころじゃないんだよね。

 

 

今の私が上弦の参である猗窩座に勝てるわけ.....いや、そもそも戦いになるかどうかすら分からない。私があの戦いに入っても足手まといなだけだ。炭治郎には精神的につらいだろうが、今は少し耐えてもらおう。原作の無限城編で炭治郎が猗窩座に勝っていたことを知っているのもあるから、猗窩座と戦って死ぬことはないと思っている。煉獄さん達と連携できれば生存率も上がると思うが.....今の炭治郎達に連携を求めることは無理だと思う。けど、一人で戦うよりはマシだからね。

 

私はそう思いながら乗客の人達を誘導している状態のまま炭治郎達に視線を向けた。

 

 

「ヒノカミ神楽 円舞」

「破壊殺 脚式 冠先割」

「炎の呼吸 壱ノ型 不知火」

 

 

炭治郎が刀を振り、猗窩座が脚で相殺したところを煉獄さんが猗窩座の右手を斬る。一見、炭治郎達が猗窩座を追い詰めているように見えるが、それは全く違う。

 

 

「雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃」

「獣の呼吸 弍ノ牙 切り裂き」

「!?....ヒノカミ神楽 幻日紅」

「...炎の呼吸 弍ノ型 昇り炎天」

 

 

......ほら。炭治郎は善逸達の攻撃が猗窩座に向けられているにも関わらず、善逸達が近づくとすぐに離れ、煉獄さん達もそんな炭治郎に遠慮しながら戦っているような感じだ。そのせいで炭治郎も煉獄さん達も戦いに集中できていない。今のところは二度目の記憶のおかげか互角に戦えているが、それがどこまで続くか分からない。鬼とは違って、人間には体力に限界があるから。

 

 

「破壊殺 乱式 鬼芯八重芯」

「炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり」

 

 

それに、そんなギスギスとした状況で乗客の人達を守るのは難しいというか.....無理だと思う。だって、猗窩座の攻撃を煉獄さんが防いでくれているけど...あっ、こっちに一発来ましたよ。普段の煉獄さんならこんなミスはしないと思うが、やっぱり炭治郎のことを気にしてしまうみたい。気にしないように動こうとしているけど....これは無意識ね。炭治郎も煉獄さん達も猗窩座と戦っているこの状況でも互いを警戒して意識してしまっている。それが原因でだんだんと.......。さっきの言葉は訂正しておこう。互角じゃなくて、こっちが不利だ。ちなみに、こっちに飛んできた一発は私が防いでおきました。乗客の人達に当たってしまいそうだったので。...ただ、流石は上弦の参の攻撃。防いだ時にこっちが吹き飛ばされそうになった。

 

 

「これで、全員。避難、した。」

「分かった。乗客の人達を全員避難させることができたし、藤の花のお守りは持たせておいたし....そろそろあっちに加勢しよう。」

「うん。」

 

 

私が炭治郎達の様子を見ている間に乗客の人達の避難が終わったらしく、禰豆子が報告してきた。私はそれを聞いて頷いた後、炭治郎達に加勢しようと言い、禰豆子と一緒に炭治郎達が戦っている方に向かった。ちなみに、乗客の人達に藤の花のお守りを渡したのは他の鬼が襲って来ないようにするためだ。ここはもう原作と話が全く違うので、念には念を入れておいた方がいいだろうからね。

 

そういえば、どうして禰豆子を乗客の人達の避難の手伝いをさせたのかって?だって、猗窩座が来るまで煉獄さん達に威嚇していたんだよ。まあ、流石に戦いに私情は持ち込まないとは思うけど、煉獄さん達を巻き込んだ攻撃とかしそうなんだもん。だから、放置する方が色々と不安だったので、乗客の人達の避難の方を任せたんだよね。

 

 

「破壊殺 脚式 流閃群光」

「華ノ舞い 水ノ花 水仙流舞」

「えい。」

 

 

私は猗窩座の攻撃をすぐに刀で防ぎ、禰豆子は猗窩座に向かって脚を振り上げるも避けられてしまった。

 

 

「彩花!禰豆子!」

「乗客の人達全員、安全なところに避難させたよ。ここからは私も禰豆子も手助けするから、みんなでこの状況をなんとかしよう!」

「......ああ。」

 

 

私と禰豆子が来たのを見て、炭治郎が驚いた声を上げ、私は乗客の人達を全員避難させたことを報告した。炭治郎はそれに頷きながらも少しほっとしたような表情をした。上弦の参である猗窩座との戦いで気を張っているのもあると思うが、煉獄さん達のことも気にしてしまっているのも原因だね。私と禰豆子が来て、少し肩の力が抜けたからね。

 

...うーん。やっぱり今、仲直りは無理かな。炭治郎もそうだけど、禰豆子も煉獄さん達ごと猗窩座を蹴り飛ばそうとしているし....今は猗窩座をなんとかすることだけに集中しよう。......でも....。

 

 

「炎の呼吸 参ノ型 気炎万象」

「破壊殺 空式」

 

 

煉獄さんと猗窩座の戦いが激しくて入るのが難しいんだよね。原作はこれをかなりゆっくりにしたものだったんだね。今の私にはあの動きについて行けるか微妙だから、飛んできた攻撃を受け止めるか弾くかするしかできない。ただ、刀で受け止めたり弾いたりしているので、刀からカタカタという音が聞こえて、刀が折れそうだと心配になる。刀もその後.....刀を折った私自身の末路も......。....私も原作の炭治郎のように鋼鐡塚さんに追いかけられることになるのかな......。いや、これについて考えるのは止めよう。

 

 

「ヒノカミ神楽 烈日紅鏡」

「雷の呼吸 漆ノ型 火雷神」

「獣の呼吸 伍ノ牙 狂い裂き」

「炎の呼吸 伍ノ型 炎虎」

「破壊殺 滅式」

 

 

二度目の炭治郎達は煉獄さんと猗窩座の動きについて行けるようで、型を出して戦っている。.....なんだか悔しいな...。炭治郎や獪岳にあんなに鍛えてもらったのに、私はまだ炭治郎達と同じ土俵に立てていない。原作の炭治郎もこんな気持ちだったのかな.......。

 

 

「お兄ちゃん!」

「!?」

 

 

突然目の前が砂埃で何も見えなくなり、それと同時に炭治郎や善逸、伊之助が吹き飛ばされてきた。禰豆子はいち早くそれに反応して炭治郎を受け止めた。突然のことで動けなかった私も急いで炭治郎と禰豆子のところに駆け寄った。途中で善逸と伊之助が地面に勢いよく顔から落下して、ぎゃあっ!?とかうおっ!?とかそういう音が聞こえてきたが、心の中で謝って無視した。ごめんね、善逸。伊之助。

 

 

「炭治郎!大丈夫?」

「あ、ああ。大丈夫だ。それよりも......。」

 

 

私は炭治郎に声をかけた。炭治郎は私に返事をしながらも前から視線を逸らさなかった。この砂埃の中、まだ猗窩座はあの中にいるだろうし、油断しては駄目だ。それに、煉獄さんも出てきてない。まだ中にいるはずだ。

 

私達が警戒しているなか、砂埃が晴れていった。そこから見えたのは二人の姿。一人は先程から受けていただろう攻撃の再生をしてピンピンしている猗窩座。もう一人は.....。

 

 

「れ、煉獄さん....!」

 

 

左目が潰れて血を流していながらも立っている煉獄さんの姿だった。私はその姿を見て、原作の場面と重なり焦った。

 

どうしよう。このままだと...煉獄さん、原作のように......。

 

 

私の頭の中でこの先に起こるだろう原作の場面が流れてきた。そして、煉獄さんが原作で見たものと同じ構えをした。

 

そんなの.....駄目!

 

 

「彩花!」

 

 

私は煉獄さんのあの構えを見て、思わず駆け出してしまった。

 

実力の差なんて分かっているのに...。.....でも.........それでも!煉獄さんがこのまま猗窩座に内臓を貫かれるところを黙って見過ごすことなんてできない!炭治郎の聞いた前世のことがあろうと.....原作で知っている煉獄さんではなかろうと....死ぬと分かっててほっとくことなんてできない!たとえ、この人が私の知らない煉獄さんだろうと、私はこの煉獄さんを原作で見たあの場面と同じことになんてさせない!させたくない!

 

 

私がそう思ったと同時に原作で見たあの場面が頭の中に流れてきた。私はそれに驚きながら体に力が湧き上がってくるのを感じた。まるで体が熱を持ち始めたようだった。

 

 

(....!これは.....もしかしたら........!)

 

 

私は頭の中に煉獄さんが先程からずっと使っていた炎の呼吸を思い浮かべた。すると、それに反応するかのように体が勝手に動き始め、頭の中には炎の呼吸の肆ノ型の盛炎のうねりと水の呼吸の陸ノ型のねじれ渦と花の呼吸の肆ノ型の紅花衣が流れてきた。私の刀は真っ赤に染まり、刀に描かれている葉の模様は形を変えて枝のようになり、枝の間から梅の花の模様が出てきて炎を纏った。

 

今は狐面をしているから分からないけど、きっと刀の色からして私の左目は赤色になっているだろう。それに、痣も一緒に出ている。まだ二回しか起きていなかったが、私には分かる。これから使う型は華ノ舞いの三つ目の型だ。

 

 

「華ノ舞い 炎ノ花 紅梅うねり渦」

 

 

私の体は持っていた刀を回転させ、身体を唸りながら渦を描いた。すると、そこから炎の渦が発生し、猗窩座を呑み込んだ。

 

 

「なっ!?」

「こ、これは!」

 

 

突然発生した炎の渦に猗窩座は驚き、煉獄さんも驚きながらその炎の渦と私を見比べていた。

 

きっと......煉獄さんは私の刀とこの型に驚いているのだろう。何せ私はあまり鬼殺隊の前で刀を抜いたことがないし、煉獄さんの目の前では華ノ舞いの水仙流舞(水の呼吸に似たようなもの)しか使っていなかったからね。刀も青色だったところしか見ていなかったのだから、いきなり赤色に変わったら驚きますよね。....さてと、これは面倒なことになりそう。後で色々と聞かれますよね.....。水仙流舞に関しては狐面から考えて鱗滝さんに教わったと納得できるけど、炎の呼吸に似たこの型は誰から教わったのかとなるよね......。...でも、聞かれても私にも分からないし、その型も水の呼吸や炎の呼吸などの型が頭の中に流れてきて、体が勝手に動き出してから型が分かるとしか言えないんだけど、納得してくれないよね....。本当なんだけど......信じられないよね...。煉獄さんが聞きたそうにしているが、これは答えられません。いや、今は口を動かすことさえできません。どういうことかというと、今の私はまだ体の自由が何故か効かないのです。いつもなら型を出し終わったらすぐに体の自由が戻ってくるはずなんだけど、今は動かそうとしてもピクリとも動かず刀を構えたままの状態だった。おそらくまだ型の続きがあるのだろう.....。先が見えないが、体の自由が効かないので流れに身を任せよう。

 

 

「破壊殺 砕式 万葉閃柳」

 

 

猗窩座が私の作った炎の渦を血鬼術で消し去った瞬間、私の体は勝手に前に飛び出し、炎の衣のような軌跡の斬撃で猗窩座の右腕を斬り、髪の部分を少し掠った。猗窩座は羅針で私の闘気を感じたらしく私に拳を向けたが、私の体は猗窩座の右腕を斬った勢いのまま刀を振り、その斬撃がまるで炎の衣のように私を包んで守り、後ろに下がった。私は無傷で猗窩座から距離を取ることができた。その時、私の体が急に重くなった。これはつまり体の自由が戻ってきたのだ。しかし、私はこのタイミングで体の自由が戻ってきたことに焦った。

 

 

このタイミングで!?体の自由が戻ってきたことは嬉しいが、できれば猗窩座がここから去ってくれるまで保っていてほしかった....。...どうしてかって?それは体の自由が戻ってきた後は体がいつもより重く感じるのだ。少し時間が経てば元に戻るんだけどね.....。....だから.....できれば、この戦いが終わったタイミングの方が良かった。今までは戦いが終わった後のことだったから特に問題はなかったけど...今は上弦の参という凄く強い鬼である猗窩座が目の前にいる(しかも、先程斬った右腕がもうすぐ再生しそうな)状況で体が上手く動かせないのはまずい!非常にヤバい!

 

 

「おい!狐面の女!」

「.....私のことですか?一体、何ですか?」

 

 

私が心の中で焦っていると、猗窩座(まだ再生している途中)から声をかけられた。私はそれに困惑しながらも気持ちを落ち着かせ、冷静に対応しようと返事をした。

 

 

「お前、闘気がよく変わるな。先程の一撃を俺に当てる前はそこまで強い闘気を感じなかった。しかし、あの一撃の時だけは凄まじい闘気だったが、今は再び元の闘気に戻っている。何者だ?」

「それは、私にも分かりませんよ。むしろ、あれに関しては私が聞きたいくらい。」

「そうか...。......それなら.....。」

 

 

いや、私と戦う気なの!?私の言ったことは嘘ではないのですよ!!待ってって!今の私はさっきの反動で体が重いのですけど....!

 

猗窩座の質問に私は正直に答えた。分からないと答えた私に猗窩座は拳を握った。私は相手が敵でも聞き入れてくれるかなと思ったが、やはり聞き入れてくれないようだ。...だけど、それよりも気になることが.....。体の自由が効かない時の私って....やっぱり普段の私より強いのですね!華ノ舞いのこともあって良く動きを観察していたが、普段の私なんかより凄い速くて力強く、そして流れるような動きをしている。だから、体の自由が効かない時が凄く強いのだとは理解していたけど、闘気の変化にも関係してしまうほどだったとは......。

 

 

「破壊殺........。」

「体がまだ重いけど....やるしかない.......。」

 

 

腕を再生し終えた猗窩座が私に向かって拳を握って構え、私も覚悟を決めて刀を構え、猗窩座の攻撃に備えた。その時、

 

 

「!?......朝日か!」

「えっ?....あっ。」

「彩花!」

 

 

猗窩座の左腕が燃え始め、猗窩座も私もそこで初めて朝日が昇ってきたことに気がついた。猗窩座はすぐに森の方に逃げ出し、私も反射的に猗窩座を追おうと必死に体を動かそうとした時、後ろから炭治郎が呼び止めた。

 

 

「深追いは駄目だ!追いかけても反動で体を動かしずらい彩花は追いつけられない。」

「.....分かった。」

 

 

炭治郎の言葉に私はこのまま逃がすことを少し悔みながらも炭治郎達のところに戻ることにした。

 

まあ、今の私では猗窩座と互角に戦えるとは思えないんですけどね...。

 

 

「そろそろここから離れないと.....。...でも、どうするの?このままだと他の鬼殺隊の人達が来ちゃうよ。それに、日が昇ってきたから、兪史郎さんの術も使えないよ。」

「ああ。.....本当なら列車が横転した時に戻る予定だったが、まさかここに猗窩座が来るとは思わなかった。すまない。前世では来なかったはずなんだが....。」

 

 

私は気を取り直して炭治郎にこれからどうやって逃げるかと聞くと、炭治郎は前世では来なかった猗窩座のことを疑問に思いながら悩んでいた。

 

.....ごめん、炭治郎。私、知ってた....。

 

 

私は炭治郎の話を聞いて心の中で謝った。

 

まあ、猗窩座がいきなり来たことはしょうがないよ。原作でも読者としてその話を読んでいた当時の私も予想できなかったのだから。それに、私は原作で知っていたのに、炭治郎の前世の話を聞いて警戒していなかったからね.....。私が炭治郎の前世の話の中で猗窩座がいなくても、原作ではいたのだからと考えていれば.......。

 

 

「兪史郎さんの術は日陰なら使えるはずだ。とりあえず日陰に入ろう。」

「う、うん。」

 

 

炭治郎の言葉で私達は日陰に入ることにした。その時、負傷した煉獄さんの姿が目に入った。煉獄さんは原作のように左目から血を流しているが、私が戦いに介入したことで内臓に腕が刺さっていない。だから、死ぬことはない。左目を怪我させてしまったのは悔やむが、ちゃんと目の前で生きている。......ただ...原作の煉獄さんの姿が重なって、このままで大丈夫なのか、突然死んでしまうということは無いよねと不安になってくる。.....だから.........。

 

 

「炭治郎、先に行ってて。私、まだやり残したことがあるので。後ですぐに追いつくから。」

「彩花!?」

「ごめん。こっちの仕事があるの。」

 

 

私は炭治郎と禰豆子に声をかけて別の方に向かって走り出した。炭治郎の声が聞こえて追いかけてきそうだったので、私は背負い箱を指差しながらそう言うと、炭治郎は納得していない様子だったが、渋々引いてくれたようだった。炭治郎と禰豆子は日陰に着くと、兪史郎さんの札を使って姿を消した。姿を消しただけだから善逸と伊之助なら音と気配で分かってしまうけど、大丈夫だろう。

 

 

「...では、さっさと手当てをしましょう。」

 

 

私はそう言って背負い箱を下ろし、箱の中から薬や布などを取り出した。

 

 

「....何故?」

「......旅を始めるまで薬屋さんをしていたので、怪我した人や体調が悪い人をほっとくことができないのですよ。.....少し染みるかもしれませんが、よろしいですか?」

「うむ!構わん!」

 

 

私は煉獄さんの質問に答えながらも液体の薬を出し、その薬の中に白い小さな布をピンセットで挟んで浸し、布に染み込んだのを確認して取り出した。それを持ったまま煉獄さんに話しかけると、煉獄さんは頷いて開いていた右目を閉じた。私はそれを確認した後、おそるおそる液体の薬が染み込んだ布をゆっくりと血塗れの左目に近づけた。そして、その布で薬を塗っているうちにあることに気づき、手を止めた。

 

 

「...煉獄さん。少し左目を開けてくれませんか?」

「うむ?だが、左目は上弦の参に....「いえ、左目の眼球そのものは潰れていません。確かに血は出ていますが......おそらく直撃は避けられ、掠ったに近いような感じでしょうか。」...なんと!」

「とりあえず左目を少しでも良いから開けてみてください。ただ、視力の方は分かりませんが....。」

 

 

私が煉獄さんに左目を開けてくれるように頼むと、煉獄さんは不思議そうな顔をしたので、今の目の状態を説明した。すると、煉獄さんは驚いたような顔をした。

 

.....まあ、私も血を拭き取って近くで診るまで気がつかなかったけどね...。布から伝わる感触から眼球そのものが潰れていないのは分かった。おそらく原作とは違って炭治郎と善逸と伊之助もいたから、攻撃が掠ったような奇跡の状態で済んだのだろう。だけど、猗窩座の蹴りは掠っただけでも凄い威力だった。その威力だからこそ、目が潰れたと思ったのだろう。でも、それくらいの衝撃ということは掠った状態だとしても.....煉獄さんの左目は.........。

 

 

「うむ....。...何も見えないのだが.......。」

「やはり急性縁内障ですか。あまりに強い衝撃を受けて、眼球の中で内出血が起きてしまったのでしょう。それと同時に、視力低下や対光反射の消失、瞳孔不同などの症状が出て視力を.....「いや、微かだが見える!ボヤけているが見えないことはない!」...ということは、視力が低下しただけということね.....。その程度で済んだのは奇跡だと思いますよ。」

 

 

煉獄さんの何も見えないという声に私はやっぱりと思った。猗窩座の攻撃は掠っても威力は凄くて出血の量も多いから、もしかしたら運が良ければ視力低下になる可能性があるが、確実に何も見えない状態になるのは分かっていた。私が目の症状について説明していると、どうやらボヤけてはいるが、微妙に何か見えることが分かったらしい煉獄さんの声に私は少し驚きながら運が良かったのねと思った。ひょっとしたら、呼吸が何か良い影響を及ぼしたかもね。本当ならもっと酷い出血だったはずなんだけど、呼吸で止血していたので内出血も最低限に抑えることができたのかもしれないね。....それにしても、煉獄さんはこんな状態でもよく顔色が変わらずに大きな声で喋れますね...。

 

 

「そうなのか.....。ところで、視力を元に戻す方法はないのか!」

「そうですね....。私は医者ではないので詳しいことはよく分かりません。ですが、おそらく手術とかが必要になるかもしれません。一応私は薬屋さんなので目薬くらいなら処方できますが、それでよろしいですか?効くかどうかは分かりませんが......。」

 

 

煉獄さんの質問に私は悩みながら答えた。煉獄さんの左目が今、どうなっているのかは私もはっきり分かっていない。前世で興味があって調べたりテレビで見たりしたその話の内容をぼんやりと思い出しているだけなのであって、私には専門的なことはあまりよく分からない。ですので、しのぶさんやちゃんとした医者である人に診てもらって、手術が必要なら受けた方がいいよね。

 

 

「それを頼めるか!」

「分かりました。すぐに用意しますね。..........。」

 

 

煉獄さんの言葉に私は返事をしながら箱から目薬を見つけようと探した。その間に、煉獄さんに他に痛いところがないかと聞いたり、善逸と伊之助にも怪我をしていないかと聞いたりした。幸い、煉獄さんは左目以外に負傷はなく、善逸も伊之助も目立った怪我はなかった。

 

 

「はい。これが目薬です。一日にニ、三回はこれを一滴左目に垂らしてください。もう一度言いますよ。一日にニ、三回ですよ。」

「うむ!承知した!」

 

 

私は目薬を渡して薬についてた説明した。回数が間違えないように念押ししておいた。煉獄さんの元気な返事を聞きながら私は薬や道具等を片づけて背負い箱の中に仕舞い始めた。

 

 

「......生野少女。」

 

 

煉獄さんが突然私の名前を、しかも間違わずに言ったので、私は驚いて手を止めて煉獄さんの方を見た。

 

 

「生野少女は何故俺達のことを気にする?君は竈門少年から話を聞いているのだろう。俺達のやったことを知っていて何故....。」

「.....そうですね。確かに貴方達のやったことはどんな事情であれ許されることとは言えません。ですが、そんな人だからといって、たとえその人が怪我をしていても、それをほっとく理由にならないと私は思いますよ。」

 

 

煉獄さんの話に私は残りの片付けを済ますために手を動かし、真っ直ぐ煉獄さんを見つめて答えた。そんなことを話しているうちに、片付けも終わって箱を閉じた。

 

 

「それに、私は血を見るのがあまり好きではないので、どんな人でも血を流さないでほしいのです。血を流している人がいるなら、見て見ぬふりをしないでそれ以上の血を流させないようにしたい。私はそう思っています。......それでは。」

 

 

私は立ち上がってそう言った後、箱を背負ってからカプセルを投げた。カプセルから煙が出てきた瞬間、私はすぐに回れ右のような感じに向きを変え、手拭いで口と鼻を塞いで森に向かって走り出した。煉獄さんや善逸達の声が聞こえたが、私は無視して走り続ける。

 

 

気づいている人もいると思いますが、私が投げたあのカプセルは鬼殺隊対策専用の気体の薬だ。呼吸を扱う鬼殺隊には相性が良いだろうし、前の試作品が那田蜘蛛山で善逸達やしのぶさんにも通じたので、時間稼ぎができることは分かっていた。あの薬がどれくらいの効果があったのかは分からないが....。そこで、今回はその薬を改良した試作品したものを作った。前よりも薬の効力を上げてすぐに体中に回るようにし、他にも逃げやすくなるように煙の濃さや広がる範囲などもパワーアップしておいた。煙は前よりもしっかりと濃くなっているし、範囲も列車から森までの場所に広がっている。おかげで、私は日陰まで着くことができた。しかし、私は油断しないようにすぐに札をつけ、善逸達から離れようとそのまま走る。善逸と伊之助の耳と勘には私の薬の煙と兪史郎さんの札だけではすぐにバレてしまうだろう。だから、急いで善逸達の耳や感じる気配でも分からないくらい遠くに逃げないと。次回への反省点としてあの薬も善逸達に効果があるかどうかが分かれば良いのだが......今回はどうだったのか全く聞こえなかったので、善逸達の反応が分からない。いや、走る方に集中し過ぎて私が聞いていなかったのかな。.......まあ、今は逃げ切ることだけを考えよう....。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「炎柱様、ご無事ですか?」

「うむ!問題がないと言ったらないわけではないが、元気だ!」

「そうですか.....。まあ、特に目立った外傷も無さそうですし、ご無事で何よりです。他の隊士の二人も一般人もどこも怪我してなさそうで良かったです。」

 

 

彩花達がここから去ってすぐ、煉獄達のところに隠の人達が来たようだ。隠の人は煉獄や善逸達、列車に乗っていた乗客の人達全員が無事なのを確認し、一安心していた。

 

 

「うむ!ところで、俺の鎹鴉はどこにいるか知っているか!」

「炎柱様の鎹鴉ですか?それなら、もうそろそろ......「カアカア!」....あっ!いらっしゃいました。」

 

 

煉獄は隠と話してすぐに自身の鎹鴉に探して隠にも聞いた。隠が周りを見渡しながら答えていると、此方に向かって飛んでくる鎹鴉の姿を見つけ、その方を見上げる。

 

 

「うむ!ご苦労だった!早速だが、胡蝶のところで治療を受けた後、すぐに御館様のところに向かうと伝えてほしい!竈門少年や今回会った上弦の鬼についての情報もあるが、生野少女のことも情報共有する必要がある!黄色い少年も猪頭少年も分かるな!」

「は、はい!あの時、彩花ちゃんの音が少し変わったり、刀の色が急に変わったりしたのは気づきました。」

「俺様もあいつの気配が変わったのを感じたぜ!あいつの気配、強くなったり弱くなったり変な奴だったぞ!」

「確かに......水の呼吸を使い、炎の呼吸も使っていた。だが、あの二つの型は俺も見たことがなかった。刀も青色から赤色に変わり、模様まで変わるという事例はなかったはずだ!驚いたな!日輪刀の色や模様を変化させる呼吸とは!今まで見たことも聞いたこともなかった!」

 

 

煉獄は鎹鴉が腕に止まって労った後、すぐに御館様への伝言を伝えた。鎹鴉は煉獄の頼みを聞き、すぐに御館様のところに向かって飛び立った。煉獄は鎹鴉が飛び去っていくのを見届けながら善逸と伊之助に彩花の呼吸や刀のことを聞いた。善逸も伊之助も彩花の刀の色の変化には何かを思うところがあったらしく、煉獄の話に同意した。煉獄は彩花が使っていた呼吸と刀を頭の中に思い浮かべながら今まで一度もなかったそれらについて考えていた。

 

 

御館様なら何か知っていらっしゃるのだろうか...。これは父上にも聞いてみた方が良いな!過去に生野少女のような事例があったかもしれない!他の柱にも話してみるか!生野少女に関して何か情報を得ている可能性がある!それに.......。

 

 

「生野少女のことを調べていたのは、竈門少年達と行動を共にしている人物が誰なのかを知るために情報を集めていたが、今回のことで詳しく調べることになるだろう!...だが、あの少女は悪人ではないだろう!どんな人間でも助けたい、血を流してほしくないという少女だからな!」

 

 

煉獄は今回の件で彩花のことをより詳しく調べることになるのを察していた。そして、彩花が悪い人間ではないということを強く確信していた。善逸も伊之助も彩花のことを音や気配で悪い人間ではないと気づいていたので、煉獄の話に頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「炭治郎!禰豆子!.....はあはあ。やっと追いついたよ。」

 

 

私は珠世さんの家の前に建っている炭治郎と禰豆子の姿を見つけ、兪史郎さんの術の中に入った後、札を取って話しかけた。

 

 

「彩花!何かされなかったか?」

「うん。ただ煉獄さん達の治療をしただけだよ。私はいざという時にあの薬があるから安心して。それよりも、炭治郎は大丈夫なの?やっぱりまだ薬が必要みたいだったけど。」

「...あ、ああ.......。まだ話すことも顔を見ることもできない。声を聞くだけで体が勝手に震えて、息をするのが難しくなる。彩花の薬で落ち着かせられなかったら、俺は猗窩座と戦うことができなかった....。」

「.........まだ早かったということね......。私が言っていることは炭治郎にとってつらくて嫌なことは分かる.....。...それに、凄く難しいことだと思うけど、少しずつ克服できるように頑張ろう。これから先にああいった状況が起きるかもしれないからね。」

 

 

匂いで私が来ていることが分かっていた炭治郎はすぐに姿を見せた私に話しかけた。私はそれに大丈夫だと言いながら炭治郎のことを心配した。炭治郎はそれに少し視線を下に向けながらその時のことを正直に伝えた。私は炭治郎の話とその様子を見て炭治郎のことを心配し、同時に心の中で炭治郎に謝罪しながらそう言った。

 

 

.....やっぱり、善逸達と再会するのはまだ早かったみたいね....。これは...もう少し時間が必要だよね。.........でも、そんなことを待っている場合じゃないかも....。今回のことで分かった。猗窩座と対決するのに、炭治郎だけでは駄目だった。禰豆子や私がいても、単なる時間稼ぎにしかならない。いや、私の場合は完全なお荷物なんだけどね。私の方もなんとかしないとだけど、こっちの件も重要だ。次から本格的な戦いが始まる。その時は必ず鬼殺隊がそこにいるし、強い鬼との戦いで鬼殺隊の人達と共闘せざるを得ない状況になるかもしれない。炭治郎の前世でのことを考えると滅茶苦茶難しいことを言っているのは分かっているが、これから先のことを考えるとね...。......大変だけど、炭治郎には頑張ってもらわないと。私もできる限りサポートするが、克服するのは炭治郎自身だからね。このまま戦いを続けるとなると、私はもっと実力を上げないとだし、炭治郎は鬼との戦いの最中に鬼殺隊と遭遇しても平然でいる必要がある。

 

 

「私も頑張ってもっと強くなるから、炭治郎も一緒にコツコツと頑張ろう!前向きに!」

「.....そうだな。鬼と戦っている最中に鬼殺隊と遭遇して戦えなくなるのはまずいからな。俺も前向きに頑張ってみるよ!」

 

 

私の言葉に炭治郎も少しは前向きに考えることができたらしく、クスリと笑ってそう言った。

 

私も炭治郎もやらないといけないことが多いからね。....それと.........。

 

 

「禰豆子も鬼殺隊の人達を勝手に襲わないように頑張ろうね。今回の件でそれは止めた方がいいと分かったでしょう。鬼殺隊のことは許せないとしても、鬼との戦いの最中に鬼殺隊と争うのは得策ではないよ。」

「......うん...。」

 

 

私は禰豆子に小声でそう言うと、禰豆子は渋々頷いてくれた。禰豆子も猗窩座との戦いの件で私の言っていることに納得はしてくれているらしい。

 

 

「それぞれやることは多いけど、頑張って乗り越えないとね。私から見ても炭治郎達から見ても、知っている記憶と今まで起きたことに違いがあるでしょう?これから先も前とは何か変わったところがあるかもしれないからね。」

 

 

 

今回は私が色々とやってしまったが、無限列車の件は私の知っている原作の話の方が近かっただろう。今から炭治郎と禰豆子と記憶の擦り合わせをしないとね。炭治郎達の前世との違いが他にもあるか確認しないといけない。これから先、私の知っている原作のようになるか、または炭治郎達の前世のような原作とは違うことになるのか、それとも私も炭治郎達も知らないものになるのかは分からないけど、私達はどんなことが起きても大丈夫なようにしないと。原作の強制力なんてものは発動しないと思うから、誰が生き残るのか誰が亡くなってしまうのかは確定していない。もしそんなものが発動しているなら、炭治郎達の前世は私の知っている原作と同じ結果になるから、炭治郎が死んでしまうこともないはずだ。煉獄さんは今はまだ生きている。今はもう原作とは滅茶苦茶なほど変わっている。炭治郎の前世とも全く違ったものなのは、炭治郎達の様子からしてすぐに分かる。まあ、そもそも私の存在のことを入れるとどっちとも違う話になっているけどね。原作や炭治郎達の前世とは全く違うものになっているからこそ、私達はどんなことが起きようとも大丈夫なように強くならないとね!

 

 

 

 

これから先、全く知らないことが起きようとも、あり得ないと思うことが起きようともね。

 

 

 

 

 

 




華ノ舞い


炎ノ花 紅梅うねり渦

炎を纏いながら刀の回転を速め、身体を捻りながら渦を描き、渦を発生させる。発生させた渦は炎を纏った鋭い刃となって前方にあるものを切り裂いたり、炎を纏った衣のような軌跡で周囲を包むような斬撃にできる。防御などに向いている。



次回の遊郭編は少し時間がかかると思います。気長にお待ちいただければありがたいです。



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笹の葉の少女は子ども扱いに不満を感じる

お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。今回から遊郭編に突入です。楽しんでもらえるとありがたいです。それではどうぞ、お楽しみに。





無限列車の件から数ヶ月が経った。私達は相変わらず朝と昼は鍛練をし、夜は鬼を見つけては頸を斬って、血を採取する日々を送っている。(まあ、私はその合間に薬の調合もしているけどね....)今のところ、鬼殺隊の人達とは会っていない。獪岳と上手く連絡を取っているから、私と獪岳とで炭治郎達と鬼殺隊を遭遇させないようにしている。でも、警戒しておいた方がいいと考え、毎日の周辺の警戒は怠ってない。

 

獪岳との協力関係はかなり良好だ。獪岳は時々私の鍛練に付き合ってくれる。足りないところはきちんと教えてくれるし、忙しいのに来てくれる獪岳には感謝しています。ちなみに、無限列車の時に使った華ノ舞いの紅梅うねり渦は時間がかなりかかったが、獪岳と炭治郎のおかげでなんとか習得することができた。だけど、炭治郎の説明があって時間がかなりかかってしまったとも言えるのだよね。私はなんとなく理解はできるようになったけど、そこまでに結構時間がかかるし、獪岳は炭治郎が何を説明しているかすら分からなかった。炭治郎の説明の下手さには獪岳も呆れていたよ。

 

 

炭治郎も禰豆子も初めの頃と比べて獪岳と話すことが多くなった。獪岳と出会ったことは私にとっても、炭治郎達にとっても良いことだったな。このまま炭治郎のトラウマが回復すると良いのだけど.....。それと、獪岳の鎹鴉との仲も良好である。たまに仲間の鎹鴉達を連れて来てくれるくらい。初めて獪岳の鎹鴉が他の鎹鴉を連れてきたのは驚いたけど、その鎹鴉とも仲良くできて良かったよ。その鎹鴉は遠藤という如何にも人の名字っぽい名前の鎹鴉だが、私達のことを鬼殺隊に黙ってくれると言ってくれるので、感謝の意を込めて団子をあげた。鎹鴉のことで鬼殺隊に何か勘づかれないかと思っているが、鎹鴉達が仲間を連れてきてくれるほどの信頼はあるらしいと実感できて凄く嬉しい。

 

 

そんな感じでほのぼのとした時間も過ごしたけど、内心で少し....いや、滅茶苦茶ヒヤヒヤする事件もありました。それは......上弦の壱、黒死牟との遭遇です。上弦の壱である黒死牟は原作での詳しい描写は無限城とほんの少し獪岳が鬼になったきっかけとして上弦の壱が出るくらいだった。おそらく今回私達が出会ったのは獪岳が鬼になるきっかけとなる方の時期なのだと思う。獪岳と黒死牟の遭遇の回避については私も思い出してすぐに行動したかったのだが、具体的な時期が分からなくてあやふやだったから対策が練りづらかった。獪岳が鬼になった具体的なところは私も分からないからね。

 

それに、獪岳は前世の記憶を持っているから大丈夫かなと思ったので、黒死牟との件は獪岳に任せてしまった。まさか私がそれに巻き込まれるとも知らずにね...。

 

 

 

黒死牟と遭遇してしまった時、ちょうど炭治郎と禰豆子は珠世さんのところに、私と獪岳はたまたま特訓の一環として一緒に行動していた時に、鬼殺隊と黒死牟との戦いに巻き込まれてしまったのだ。私がこれって獪岳が黒死牟と戦って命乞いをして鬼になった時じゃないの!今日だったの!と内心混乱して叫びながら獪岳を見た時、獪岳が冷や汗をかきながら『そういえば今日だったな』と呟いていたのを今でも忘れない。こんな重要なことを忘れないでいただきたい!

 

 

本当にあの時が一番焦ったよ。戦いが始まってすぐに獪岳に首根っこ掴まれ、獪岳に引っ張られるようにその場から離れた。すると、先程までいた場所の地面が切り裂かれるように割れ、その光景を見て、私は血の気が引いた。助けてもらえなかったら私はここで終わっていた。どんな斬撃が来るかは分かっていても、動きが速すぎるうえに斬撃を多すぎて私には見えなかった。獪岳が黒死牟と一度戦っているので、ある程度動きを読めるから避けることはできるけど、こっちは攻撃ができない。流石は十二鬼月の中で一番強い鬼、上弦の壱だ。幾らどんな攻撃が来るか分かる獪岳でも黒死牟の斬撃がどんなものかは分かってはいるが、全くその斬撃が見えない私を引っ張って逃げているので、こっちが殺されるのも時間の問題だった。

 

 

私は完全にお荷物になっているので、何かしないとと考えて気体型の毒やら薬やらが入った複数のカプセルを出した時、ちょうど黒死牟の斬撃が来たらしく獪岳が思いっきり私を引っ張り、私はそれに反応できずに手を滑らせ、持っていたカプセルを全て地面に落としてしまった。一緒に液体の薬品が落ちたようで、パリンッという音が聞こえた。確か、あの容器に入っていた液体の薬品は失敗作だったような....。.....カプセルは何かに当たれば開くような構造だったので、地面に落としたカプセルは全て中にある気体の毒や薬を放出していた。おまけに失敗作の液体の薬品も入れ物が割れて中身が流れている。それらにより状況はさらにヤバくなった。

 

『か、獪岳!早くあのカプセルや失敗作から離れて!!』

『はっ!?どういうことだ!?あの中にヤバい毒や薬があるのか!?しかも、失敗作って、どんな物を作った!?いや、アホ!テメェ、何で失敗作を持ち歩いてるんだ!!』

『確かにどの毒や薬もちょっと厄介なものだけど、そういうものじゃなくて、それにその失敗作は後で色々分析したくて持ったままなだけで....とにかく今すぐ逃げて!!』

 

 

私はカプセルから出てくる煙を見てすぐに獪岳に逃げるように言った。獪岳は私の首根っこを掴んで走りながら私に聞き、私は説明しようと思っていたが、煙の様子を見て急いで逃げるように言った。

 

 

私が見た時に複数のカプセルから出た煙は重なり合い、色がだんだん変わり始めていた。私はそれを見てとてつもなく焦った。私が落としたカプセルは全て種類が違うのだ。どの毒や薬が効くのかと多くの種類を作って、一つの毒を使ってその毒が駄目だったら他の毒を使うために必ず多種多様な毒や薬を持ち歩いていた。ちなみに、失敗作の液体の方もカプセルの毒や薬とは別物だ。

 

 

しかも、あれは炭治郎や獪岳の目を盗んで自分で試そうと思って水で薄めていたものだ。同じ種類がないそれらの毒や薬が混ざり合い、おまけに水を多く含んだ液体の薬品も流れている。気体の毒や薬品同士が最初に混ざり合って液体.....水や化学物質とも混ざって化学反応が起きると.......

 

 

 

ドッガーーーーーン!!!!

 

 

 

『ひゃああああああぁぁぁぁ!!?』

『おい、アホ!!何を作った!!?』

 

 

.....と、このような爆発が起きる。私達は全力で走って距離を取っていて直撃はしなかったし、私は何が起こるのかは知っていてすぐに受け身を取っていたのだけど、爆風と衝撃で遠くまで吹き飛ばされたんだよね....。私の落としたカプセルは中に入っている毒や薬の種類は違うが、全部広範囲まで煙を出せるタイプだったから中に入っている煙の量は多くて、それで爆発が.......。

 

 

しかし、私達があまりにも遠くに飛ばされたのか、あの爆発が黒死牟にも当たって再生するのに時間がかかったのか、黒死牟は私達とは逆方向に飛ばされることになったのかは分からないが、その後は黒死牟に遭うことはなく、夜明けを迎えることができた。だが、私と獪岳はあの爆発のせいで骨折してしまいました...。炭治郎には上弦の壱と出会って生きているだけでも良かったと安堵されたけど、この骨折は上弦の壱との戦いではなく、私の作った毒や薬の化学反応で起きた爆発によるものだから、私は少し複雑だったし、獪岳が私に向ける視線はかなり痛かった。

 

この爆発が起きたのは私が薬の入ったカプセルを落としたのが悪かったし、爆発の原因も私の薬なんだけど、あの爆発は私が意図して起こったものではないよ!!

 

 

 

 

........まあ、そんな感じで少しほのぼの時々ハードな時間を過ごしていたのだけど、そろそろ動かないといけないと思う。何故かって?もう数ヶ月経ったからね....。...まもなく吉原遊郭編が始まる頃だと思うんだよね。.....だから、どのタイミングであの人と善逸達が動くか、他の柱がどう動くのかを獪岳にそれとなく探ってもらえるようにお願いとしようと考えていた矢先、

 

 

『情報を集めるために他の奴等に話を聞いていたら、音柱様とばったり会い、数合わせだとそのまま強引に連れてかれた。行き先は遊郭だとさ。潜入捜査であのカスと猪もいる』

 

 

という急いで書いたような殴り書きの獪岳の手紙が届いた。

 

 

「「「.............」」」

 

 

私達は無言でその手紙を読んだ後、互いの顔を見た。きっと同じ考えが頭の中に浮かんでいるのだろう。

 

 

「炭治郎。これはやっぱり.....」

「...ああ。上弦の鬼がいる遊郭だ。前世では俺と善逸、伊之助の三人でその遊郭に潜入したんだが....」

「炭治郎がいないので、その空いた穴に獪岳が入ったということだね...」

 

 

私が炭治郎に確認すると、炭治郎はゆっくりだけど頷いた。炭治郎の前世では、ここは原作と同じように炭治郎達三人が遊郭に潜入したが、今回は炭治郎がいないので、人数が足りなかったところをたまたま獪岳が通った。そして、丁度良いからと言われ、獪岳はそのまま捕まって遊郭に連れて行かれたということだね.....。私も炭治郎がいないなら、誰が炭治郎の代わりに空いた残りの場所に行くのかが気になっていたけど...まさか獪岳が変わりになるなんて思わなかったよ....。

 

 

.....って、今はそんなことを考えている場合じゃない。確かに獪岳が遊郭に潜入捜査することになるのは想定外だったが、善逸達が動き出したということは吉原遊郭編が始まるということだ。もう原作が始まっているのだとしたら、私達も遊郭に向かわないといけないということだね。

 

 

「炭治郎達に聞くのはとても申し訳ないんだけど、音柱って前世ではどうだったの?」

 

 

私は前回の無限列車での反省を活かし、私は原作と違うところがないかを確認するために炭治郎達に聞いた。

 

「どうって?」

「例えば、何処か怪我をしたとか、引退されたとか...」

「怪我?引退?いや、そんなことはなかったぞ。柱として最終決戦まで戦っていたからな」

「......そう。ありがとうね」

 

 

私が具体的なことを言うと、炭治郎は首を傾げながらそう答えた。私は炭治郎にお礼を言い、考え始めた。

 

 

どうやら宇髄さんも原作とは違う流れのようだ。原作では宇髄さんは遊郭での上弦の陸との戦いで左手と左目を失い、鬼殺隊を引退した。最終決戦でも宇髄さんは引退しているので、御館様の護衛となっていた。だが、炭治郎達の前世では宇髄さんは左手と左目を失わずにそのまま鬼殺隊の柱として戦い続けていた。.......炭治郎や禰豆子が亡くなったことや無限列車の時だけでなく、遊郭や最終決戦も原作と違う。一体何が原因でここまで変わってしまったのか....。

 

......うん。今、あれこれ考えても分からないよね。原作との違いが色々と分かってきたが、分からないことが多すぎる。というか、増えてきている気がする。とりあえず今は宇髄さんが原作と違う流れだったことを知れて良かったと思っておこう。そうしよう。

 

 

「.....次はもう始まっているみたいだし、そろそろ行こうか。遊郭に潜入している獪岳のことも気になるからね」

「そうだな。鬼が前と同じ時に出てくるとは限らないからな。少し早めに着くようにしよう」

 

 

私は色々と考えてからそう言い、炭治郎は私の話に頷いて準備を進めた。炭治郎が少しずつだけど立ち直ってきていて、本当に良かったよ。前の炭治郎は鬼殺隊がいると聞くと顔を真っ青にしていたが、今も動き出したんだ。顔色が少し悪くなるけど、前よりは大分マシだ。まだ鬼殺隊の人達へのトラウマを克服してないが、最初の頃よりはマシになったと思う。

 

私も獪岳にそっちに行くと手紙を書いて...うん?....そういえば........。

 

 

「一つだけ聞いていい?獪岳が遊郭に潜入しているということは......つまり、今の獪岳は女装しているということなの?」

「カァー!ソノ通リダ!」

「あっ。やっぱり......。獪岳、眉間に皺を寄せていそうだね」

 

 

私が鎹鴉に尋ねてみると、鎹鴉は大声で肯定した。私が獪岳の女装した姿を想像しながらそう呟くと、鎹鴉は静かに頷いた。

 

 

それにしても.......獪岳が女装か....。獪岳の女装姿、ちょっと見てみたいかも.....。まあ、どっちみち獪岳と合流したいし、その時に見れるかな?

 

私はそんなことを考えながら手紙を書き、それを鎹鴉の脚に括り付けて空に飛ばした。私は鎹鴉の姿が見えなくなったのを確認した後、薬の確認などの準備をし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「....遊郭って、賑やかなんだね...。未来では遊郭なんてなかったから、....本とかそういうのでしか見たことがなかったよ.....。けど、本当に本で見たもの以上に人の出入りが多いね。浅草と良い勝負だと思う」

「確かに...俺達が初めて来た時も遊郭のなんだか甘い匂いに凄い戸惑ったな。遊郭があんな場所だとは思わなかったから、本当に驚いたよ」

「となると、炭治郎の鼻も今回はあまり期待できないね。これは地道に探すことになりそうね」

 

 

私は周辺の遊郭の建物や光景を見て、前世では見覚えがなく漫画とかでしか見たことがない景観に感嘆の声を上げた。原作で見たとはいえ、実物を見ると違う感じがした。珍しい物を見るような目で周りを見渡す私に炭治郎が懐かしそうに周りを見ながら言った。私も確かに炭治郎の鼻には刺激が強いよねと納得しながらそう呟き、原作の話を思い出すことにした。

 

 

今回の吉原遊郭編は確か.....本来は音柱である宇髄天元の嫁が潜入捜査中に行方不明になり、炭治郎達は女装をして潜入することになる。そこで、炭治郎は上弦の陸の堕姫と遭遇し、潜入捜査は一転して討伐任務となり、禰豆子の鬼化が進んだり炭治郎に痣が出たりと色々とあったが、炭治郎や善逸達鬼殺隊が協力し、上弦の陸の頸を斬ることができたという内容だったはずだ。上弦の陸を倒せたのだから大丈夫なんじゃないか、何が心配なのかと疑問に思うが、困ったことがある。

 

それは炭治郎が堕姫の居場所を知らないことだ。私は原作を見ているから、堕姫が「京極屋」にいることは知っている。それなら、「京極屋」に行けばいいんじゃないかと思うかもしれないが、今は駄目だ。何故なら、堕姫は分身体として帯を別の場所に置いてあるのだ。その帯には攫われた花魁の人達が閉じ込められていて、宇髄さんのお嫁さん達もその中にいる。下手したら、戦っている最中にその帯の中に閉じ込められている人達を回復などのために食べてしまう...。

 

 

だから、先に帯に閉じ込められている人を助けたいのだけど、こっちの方も微妙なんだよね...。帯の場所を見つけたのは伊之助で、炭治郎はずっと堕姫と戦っていたから、どこなのか知らない。私も正確な場所は分からない。原作ではそんなに詳しく書かれていなかったから。炭治郎も私も遊郭の地下だということは知っていても、その入り口が何処か知らないのだ。伊之助はあちこちで暴れたことによって入り口を見つけたらしいが、私と炭治郎は見つかったら困るから、暴れることはできない。.....となると、獪岳に聞こうかな?獪岳ならこの任務のことで何か知っているかもしれない....。

 

 

「とりあえず獪岳のところに行ってみよう。獪岳の方で何か起きているかもしれないからね」

「確かに。獪岳の様子も気になるし、獪岳に会いに行くか」

 

 

とりあえず私は炭治郎と禰豆子と一緒に獪岳がいるであろう「ときと屋」に向かった。ちなみに、遊郭をうろうろしていたら町を監視しているであろう宇髄さんにバレると思ったので、今の私達は頭巾をかぶっている。これなら、獪岳のところに行っても大丈夫だよね?それと、何故「ときと屋」に向かっているのかと言うと、原作で「ときと屋」に潜入していた炭治郎がいないのなら、代わりとして獪岳はそこにいるかな.....と私の勘が告げているのよね。でも、どうやって獪岳に会えばいいのかな?名前も変えていると思うから、誰かに聞くことはできないし....。.....まあ、行ってみれば、なんとかなるかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、良かったよ。獪岳の鎹鴉が「ときと屋」の周辺にいてくれて。おかげで獪岳の名前が分かったから、中に入れてもらえたよ」

「ったく。手紙が来てすぐにアイツを外に出しておいたが、正解だったみてぇだな」

「うん。ありがとう。それにしても...獪岳。その格好、凄く似合っている。というか綺麗な美人にしか見えない」

「うるせえ!」

 

 

私達の目の前には今、獪岳がいます。私の勘の通り、獪岳は原作の炭治郎が潜入していた「ときと屋」にいた。私達が「ときと屋」の近くまで来ていた時、突然獪岳の鎹鴉が目の前に現れ、獪岳が何処にいるのかとか、潜入している時の名前とか色々と聞くことができた。そのおかげで、「ときと屋」の人達に獪岳のことを話してここに来れた。獪岳はずっと女装しないといけないから不機嫌だったけどね。

 

 

お姉ちゃんのことが心配で、思わずここに来てしまいましたと言うと、あっさり案内してくれました。それにしても、原作で少ししか出ていなかった人達だったけど、このお店の人達は良い人達だね。炭治郎と禰豆子を人見知りの弟と妹なんですと言うと、炭治郎達から少し離れてくれたし、あまり話しかけても来なかったからね。ちなみに、この件で弟と呼んだことに炭治郎が俺は長男だぞ!と納得がいっていなかったらしくてそう言っていた。....ごめんね。前世のことがあって、炭治郎のことを弟のように見えてしまうの。炭治郎達も前世の記憶があるみたいだけど......私は前世では十八歳、今世では十五歳。炭治郎は前世も今世も十五歳。計算すると、私は現在三十三歳、炭治郎は三十歳なので、精神年齢的には私の方が年上なのです。いや、炭治郎は逆行したのは二年前だから、十七歳の方が正解かな。.....まあ、大丈夫だよ。どっちにしろ、炭治郎が長男なのは変わらないから。

 

それよりも、私は獪岳が凄く美人になっていたことに驚いたよ。一瞬、誰ですかと思って固まったくらいだもの。しかし、獪岳は遠くから離れて見ても分かるほど不機嫌だけどね。私が美人だと言うと、獪岳はさらに機嫌を悪くするし、おそらく今回の件は獪岳にとって黒歴史になるだろう。

 

 

「........それより、お前の手に持っているその袋はなんだ?」

「あっ、これ?お店の人達がくれた飴。この部屋に来る間に貰ったの」

「お前ら、完全に餓鬼扱いされてんな。」

「...うん。一応、十五歳だから子どもなんだけど、多分十五歳とは思われていないと思う」

「お前らはその顔だからな。そのせいでもっと幼く見えるんじゃないか?」

「......言い返したいけど、実際にこの飴を貰っちゃっているからね」

 

 

会った時から気になっていたのだろうか、獪岳が私達が手に持っている袋について聞いた。私はここに来るまでのことを思い出し、苦笑いしながら答えた。私達が案内してもらいながら普通に歩いていたら、突然話しかけてきたから、最初はバレたのかと警戒していたが、飴の袋を渡してきて、一瞬頭の中に?マークが浮かんだけど、すぐにどういうことか分かった。私は苦笑いしながらそれを受け取った。ちなみに、炭治郎は少し震えていたし、禰豆子はその人のことを警戒し過ぎていたので、代わりに私が三人分貰ったら、お姉ちゃんはしっかりしているねと言われて、さらに炭治郎がショックを受けていた。

 

私は獪岳に童顔のことを指摘されて何か言い返したかったが、獪岳の言う通りだからこそ、この飴を貰ってしまったということは分かっているので、全くその通りなのだろうなと思った。おまけに、飴を貰った時にお礼を言ったら、偉いねと頭を撫でられた。この時は流石に十五歳の扱いと違う感じがした。あと、炭治郎と禰豆子も頭を撫でられそうになって、私がごめんなさい。この二人は人見知りなのでごめんなさいと謝ったら、止めてくれたから助かりましたよ、炭治郎の精神的にも.....禰豆子による物理的な暴走に対する被害にも.........。

 

 

「......それよりも、聞きたいことがあるの。まずはそっちの潜入調査をすることになった原因って、音柱の宇髄天元さんのお嫁さん三人からの連絡が途絶えたからだった?」

「ああ.....。連絡がねえと言っていた」

「それじゃあ、前世の記憶はないということか......」

「いや、前世の記憶はあると思うな。音柱が前回と同じことになっちまったと呟いていたのを聞いた」

「.....前世の記憶を持っていそうな発言ね....。まだ決定打が欠けているから、確証はないけど...」

 

 

私は自分達の子ども扱いのことは後回しにして確認しようと思っていたことを聞いた。色々言いたいことや聞きたいことはあるが、まずは原作とどこまで同じなのか気になったので、そこから確認することにした。獪岳がそれに頷いたので、原作通りに進んだことが分かり、それなら宇髄さんは前世の記憶がないのかと思った。原作では自分の命よりもお嫁さん三人を大切にしているからね。だが、獪岳は私の言葉に首を横に振り、そう言った。前世のことを言っているのかもしれないが、前回という言葉だと前の潜入調査のことを指している可能性もあるから、確定するのはまだ早い。とりあえず様子を見ておこう。

 

 

「それと、今のところは何か動きらしいことはあった?」

「ああ。特に目立った情報だと、何やらあのカスが捕まったという報告が来たくらいだ」

「善逸が捕まった?....ということは....炭治郎、善逸が捕まった後って.......」

「確か.....鯉夏さんが襲われる!」

 

 

もう一つ、今はどの時期まで来ているのか知るために獪岳に質問した。獪岳から善逸が捕まったことを聞き、原作と同じ流れになっているよねと思いながら炭治郎に聞いた。原作の流れは大体覚えているけど、随分と時間が経っているから、もしかしたら記憶違いしているかもしれない。本人達に確認しておいた方が良い。炭治郎は少し考えた後、そう言って横の方を向いた。おそらくその方向に鯉夏さんがいるのだろう。

 

 

鯉夏さんが襲われる原因は確か....身請け先が決まったからだったような...。堕姫は美しい人間しか食べない鬼で、鯉夏さんは花魁となっているくらい綺麗な人だからね。そんな鯉夏さんが身請け先が決まってここを去ることが分かり、その前に食べようとして襲ってきたところを炭治郎が助けたんだよね。それが上弦の陸討伐の戦いのきっかけとなって。.....ということは、もうすぐ上弦の陸との戦いが始まるということだよね。どうしよう。思ったよりも早くてまだ心構えができていない。いや、あんまり長居し過ぎると宇髄さん達にバレてしまうから、来て早々に上弦の陸との戦いを終わらせて戻ればいいものね。早く終わらせることに何のデメリットもない。よし。

 

 

「それなら、私達も早く備えないと。炭治郎、鯉夏さんが襲われるのって、今夜だと思う?」

「ああ。今夜辺りだと思う」

「じゃあ、尚のこと急がないとね」

「だが、今回は前の時とは明らかに色々と流れが違う。無限列車でも前とは違うことが起きたから、ここでも前とは違うことが起きるんじゃ....」

 

 

確かに、炭治郎の言っている可能性もある。そもそも獪岳と私が介入している時点で前と全然違うのだが、それはこの際置いといて......上弦の陸との戦いで何か原作とは全く違うことが起こるかもしれない。となると、原作のように堕姫がここに本当に来るかも分からないし、人質をしっかり助けられるかどうかも分からない。....これは確認する必要があるね。まあ、あっちも前世の記憶があるから最悪の事態は避けられると思うが......一応、ね。鬼殺隊の様子も気になるし。

 

 

「もしもが起きても対応ができるように、二手に分かれることにしない。鯉夏さんの方はここで働いている獪岳は確定。ただ獪岳だけで上弦の陸を一人で相手できるかどうか不安だから、経験のある炭治郎と禰豆子が近くで待機して戦いになったら獪岳の援護をする」

「彩花は?別行動するって言っていたが、一体何処に......?」

「ちょっと「萩本屋」の方に。鬼殺隊の方の動きとか気になるからね」

「確かに。俺とお前らが一緒にいるところを見られたら、怪しまれるからな。鎹鴉は何とかできても、柱に見られたら言い逃れはできねえな」

 

 

私が二手に分かれることを提案すると、炭治郎に私が二手に分かれて何処に行くのか聞かれた。私が「萩本屋」に行って鬼殺隊の様子を見てくると言うと、獪岳も炭治郎達も納得した。

 

獪岳の言っていたことも鬼殺隊の動向を気にする理由の一つだ。私達と獪岳が一緒に、しかも普通に会話しているところを見られたら、獪岳と何かしら関係があると疑われる。鎹鴉は団子とかで買収.....じゃなくて話し合うことができるが、善逸達に見られたら言い逃れなんてできない。特に柱の宇髄さんと聴覚や触覚の鋭い善逸達の証言となると、隊士である獪岳では誤魔化すのは無理だ。今、獪岳との関係がバレてしまうと、この後の鬼殺隊の動きが分からなくなるからまだバレたくない。鬼殺隊と鉢合わせると......炭治郎の方は問題だが、それよりもさらに問題なのが禰豆子だ。煉獄さんを前にして突然鬼化することをお忘れですか?あの時は禰豆子の鬼化を止めるのに必死だったが、視界の端で煉獄さん達の夢の中に入っていたのだろう人達が禰豆子の方を見て、動けなくなっていたのだ。原作では炭治郎に襲いかかっていた人達が禰豆子の前では動けなくなるくらい怖がっていた。....これでもう分かりますよね。むしろ分かってください。私もあまり詳しくは知らないので。えっ?何で知らないのかって?あの時の私は禰豆子を止めようと必死になって抱きついていたので、詳しくは分かっていないのだけど、周りの様子から分かったんだよね。...というわけで察してください。とにかく鉢合わせるのは避けないといけないということなんだよ。それに、ここから先は刀鍛冶の里とか無限城とか鬼殺隊の動きが分からないと介入できなくなる。二つとも鬼殺隊関係の場所だからね。それに、その二箇所は鬼殺隊によって隠されているから、獪岳にはなんとかしてここに残ってほしいの。

 

 

「じゃあ、私は鬼殺隊の方に行って、問題が無さそうならすぐに戻ってくるから」

「ああ」

「彩花。無理はするな」

「気を、つけて、ね」

「うん。分かっているよ」

 

 

私は襖を開けて獪岳達に声をかけ、獪岳は普通に返事をするだけだったが、炭治郎と禰豆子は凄く心配そうにしていた。私はそれを見て苦笑いしながらそう答え、襖を閉めて「ときと屋」を出た。

 

 

.......あっ!?私、「萩本屋」の場所を知らない!どうしよう!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

....道が分からなくて困っていた私を獪岳の鎹鴉が見つけてくれたおかげで、漸く京極屋に着いたけど......どうやら一足遅かったみたい。私が来た時にはもう「萩本屋」は大騒ぎ。今、「萩本屋」の目の前に立っているけど、ここからでも誰か!猪のお化けが!?とかそんな声が聞こえてくる。それに、微かにバタバタという足音が聞こえる。これは伊之助が大暴れしているみたいね。まあ、原作通りに行動しているようだし、ここは大丈夫かな。.....とりあえず、一応ちゃんと人質達が解放されるところを見ておこうかな。

 

私はそう考え、塀を使って屋根に登り、少し中の様子を伺いながら屋根の上を歩いていると、何かの気配を感じてすぐにその場から横に移った。しかし、

 

 

「なかなか良い動きをしているが、まだまだだな」

 

 

何の物音もなく、いつの間にか私の首元に小刀が押し当てられた感覚がした。私は驚きながらも隣に音もなく現れた人物に視線だけを向けた。

先程見た何の物音もせずに私の隣に現れる技術と声からして誰なのかはすぐに分かった。横に視線だけを動かして見てみると、体系が背が高くて大柄でとても筋肉質で、頭には宝石が散りばめられた額当てをつけ、化粧もしている派手な男性だった。だから、すぐに分かった。私に刃を向けているのは元忍であり、現鬼殺隊の音柱である宇髄天元だということが。

 

 

「初めてまして。貴方は鬼殺隊の音柱、宇髄天元さんですね」

「なんだ、俺のことを知っているんだな」

「それはそうですよ。直接会ったことはなくとも、宇髄さんの特徴は聞いた話だけでとても分かりやすいのですから」

「まあな」

 

 

私は表面上は和やかに挨拶をしているが、内心ではパニックになっていた。ここで宇髄さんと会ったのは想定外だったからだ。確かに、宇髄さんは原作では捕まったお嫁さん達の情報を集めて「京極屋」に向かっていたけど、宇髄さんなら自分の命よりも大事なお嫁さん達の元にさっさと行くはずなのに...。

 

 

「それにしても.....貴方が今、ここにいるのは予想外ですね。貴方なら一目散に鬼のところに向かうと思っていたのですが....」

「ああ。こっちには頼りになる継子がいるんでね。あいつらに安心して任せられるから、俺はここに来れたというわけだ。」

「なるほど...」

 

 

私は緊張しながらも宇髄さんに聞いてみると、宇髄さんは自信満々にそう言った。私は宇髄さんの言葉で善逸達のことを信頼していることが分かり、納得した。

 

 

「それで、私に何か用ですか?ここには鬼がいるのに、それよりも貴方がこっちを優先したのはどうしてですか?」

「まあ、こっちの都合でな。テメェのことを少し調べさせてもらった」

「.....そうですか。それで、どうしたのですか?」

 

 

私は宇髄さんに本題を聞いた。わざわざ私のところに来たのは何か理由があるはずだ。大体は宇髄さんの性格とこの行動から予想できるけど..........やっぱり私のことを調べているよね。しかし、私は何を聞きに来たのか予想ができず、宇髄さんの様子を伺った。

 

 

「単刀直入に聞くが......テメェは何者だ?」

 

 

 

 

 



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笹の葉の少女は元忍と話し、戦いが始まる

「テメェのことは俺様が個人で調べたが.....特に目立った不自然な点はない。生野彩花、十五歳。山の中で暮らす薬屋夫婦の娘。昔から物分かりが良くて、親の手伝いを良くしていた見た感じ普通の子ども。だが、八歳の時に夫婦が近くの村で流行り病にかかって死亡。子どもの方は両親が山に置いていったため無事だった。

その後、親戚もいなかったためにその子どもを引き取られず、引き取り手のいない八歳の子どもを村の人達が気にしていたが、子どもは両親と共に暮らした家から離れようとせず、そのまま一人でその家に暮らし続け、両親がやっていた薬屋を始めた。村の人達はその子どもを気にかけながらも薬の効力の素晴らしさもあって、その薬屋を頼ることにし、その子どもは薬屋として暮らしていけてた」

「私のことをよく調べましたね」

「いや。前職が忍びという特殊な職種だったんでな。このことに鬼殺隊は関係ない。俺が個人で調べたことだから、文句は俺に言いな。勝手に調べて悪かったな」

「いえ。むしろ感心しますよ」

 

 

私は宇髄さんから私についての情報を聞き、感心してしまった。この世界は私達の世界と違ってはいるけど、大正時代でこれほど詳しい情報を集めたことは凄いと思う。この時代にはインターネットがないからね。調べるのは大変だったと思う。忍びという職種だったとしても、本当に良く調べたものだと感心しますよ。忍びって凄いな。こっちが油断できないくらい。

 

 

「そんな生活を送っていたが、今から二年前、テメェが二人組の旅人を助けて家で看病しているから、しばらく村に来れないと村の人達に話して、数日間村に降りてこない時があった。その後、村に降りてきて早々、突然助けた旅人達と一緒に旅に出ると言って村を出た。......この二人組の旅人は竈門兄妹のことだろう」

「そうですよ。それにしても、村の人達の話を聞いているということはわざわざその村まで出向いたのですね。私に直接会わずに他の人から私のことを聞いただけでその村を調べ上げたことも、その村に自ら足を運んだことも含めて本当に凄いですよ」

「まあな。だが、俺様にとっては気がかりなことがある。何故テメェは村から出ることにした?何故竈門達と共に行動している?どうやって出会った?何故だか分からねえが、テメェは竈門達と普通に会話できるようだしな」

 

 

私の過去は村の人達から聞いたのだろうけど、私に直接会ったこともないのに、どうやって私のいた村の場所を知ることができたのだろうか?やっぱり忍び独自の情報網があるのかな。

 

.....まあ、それは置いといて...宇髄さんが聞いてくる質問は当然だ。突然薬屋を止めて旅に出ると言い出すのは明らかに怪しい。それに、炭治郎達と行動している私は前世の記憶を持っている人達にとってイレギュラーな存在だ。宇髄さんの話を聞いてみても、私が炭治郎達と一緒にいることがおかしいという口振りだ。つまり宇髄さんが前世の記憶を持っていることは確定だね。....でも、この質問は私の前世の記憶について話さなくても良さそうな内容ね。内容次第によっては私の前世の記憶のことを話さないといけないと思ったけど、その必要はなさそうだ。だって、私が炭治郎達と出会ったのは偶然だったし、他も本当のことを大体話せば良さそう.....。

 

 

「炭治郎達と会ったのは偶然ですよ。村に薬を売った帰りに遠くで人が倒れ、その人の周りをもう一人がうろうろしていたところが見えたので、どうしたのかなと思って声をかけました。そして、疲労で倒れた炭治郎とその炭治郎を心配している禰豆子に出会ったのです。声をかけた時、禰豆子に威嚇されていたのですが、体調のことが心配だから、薬屋をしているから薬を作れるなどと説得して、なんとか炭治郎達を家に招いて看病することができました。もちろん、心的外傷を持った炭治郎と人間嫌いの禰豆子には初めはものすごく警戒されましたけど、色々と話をしているうちに少しずつ警戒を解いて目を合わせて話せるようになりました」

「....そうか。だが、テメェがあの兄妹と行動する理由はねえ。看病するだけならともかく、そのまま旅に出る必要はねえはずだ」

 

 

私はその時のことをありのままに説明すると、宇髄さんは顎に手を当ててしばらく考えた後、とりあえず納得した様子で次の質問を聞いた。

 

この質問も前世の記憶のことは少し隠しながら話せば問題ないね。ただ........。

 

 

「それは...実は、炭治郎達の看病していた時、鬼が私の家を襲ってきたのです。私と炭治郎達は家の外で戦ったのですが、襲ってきた鬼はなかなか強く、家は壊されて病み上がりの炭治郎は追いつめられてしまいました。その時、私は無意識だったのですけど、炭治郎が言うには私が呼吸を使って鬼を斬ったそうです」

「.....何?....それは確かなのか」

「はい。炭治郎が見た限り、見たことも聞いたこともない呼吸を使っていて、しかも痣が出ていたそうです」

「ほう。テメェの家は剣術や呼吸法が受け継がれているのか?一体どんな呼吸だ?」

「いえ、そんな物は一切受け継がれていません。なので、私にもなんで使えるのか、それが何なのかは分かりません。炭治郎が言うには、華ノ舞いと言っていたそうです」

「華ノ舞いね......聞いたことがねえな」

「.....そうですか...。私も両親からそのような言葉を聞いたことがなかったので、華ノ舞いがどういうものなのか分かりません。どうして使えるのかも分かりません。だから、華ノ舞いが一体どういうものなのか、どうして私がそれを使うことができるのかを知りたくて、炭治郎達と一緒に旅に出ることを決めました」

 

 

私は少し悩みながらも華ノ舞いのことを宇髄さんに話すことにした。この質問は華ノ舞いのことを話さないと納得してもらえないし、もしかしたら華ノ舞いについて何か知っている可能性はあると考えて話してみたけど、宇髄さんも知らない様子だ。どうやら私のことを調べている中で、華ノ舞いという言葉は出て来なかったようだ。

 

 

「........なるほどな。それなら煉獄の言っていた炎を纏った呼吸にも説明がつくし、テメェの家がぶっ壊れていたのも納得だ」

「私の家にもわざわざ行ったのですか?」

「おう。念には念を入れないとな。ところで......」

 

 

しばらくの間、宇髄さんは顎に手を当てて考え、とりあえず納得した様子でそう言った。どうやら私の家まで調べ上げて行ったようだ。煉獄さんからもちゃんと話を聞いているみたい。もしかしたら、煉獄さんの話に出た呼吸のことや私の家が壊れていたことも怪しませる要因になったのかもしれない。流石、忍びはそこまで念入りに自身の足で調べ上げるんだな。本当に凄いよ。

 

 

私が宇髄さんの情報収集能力に感心していると、宇髄さんが何か別の質問を言おうとした時、何かが崩れる音が聞こえた気がして、その音が聞こえた方を見た。宇髄さんも何か聞こえたらしく、私と同じ方向に視線を向けていた。そこには地下まで見れるほどの大きな穴が空き、さらに、穴が空いた衝撃で上に飛んだであろう瓦礫がこちらに向かって降ってくる。

 

 

「宇髄さん!今すぐ私の首元にある刃物を下ろしてくれませんか?この状態では私が逃げられません!」

「お、おう」

 

 

私は瓦礫が降ってくる様子を見てすぐに宇髄さんに小刀を退けてほしいと頼み、宇髄さんは少し躊躇ったが、瓦礫を見てこの状態のままでいるのは危険と判断し、渋々小刀を下ろした。

その瞬間、私は前に動き、宇髄さんは後ろに退いて瓦礫から避けることができた。私はそれを見ながら大きな穴の隣にあるお店の屋根に移り、そこから穴の中を覗いた。穴の中では善逸と伊之助が何かを言い合っていて、動きやすそうな着物の女性二人が善逸と伊之助から離れたところに立っていた。どうやら原作通りに堕姫の分身である帯を斬り、善逸や宇髄さんのお嫁さん達を解放することができたようだ。善逸と伊之助がどうして言い合いをしているのかは分からないけど......。

 

 

まあ、原作通りに進んでいることが分かったのだから、私の目的は完了ね。今なら宇髄さんとも離れているし、ここから逃げられそう。それに、堕姫の分身である帯が倒したということは、次に宇髄さんや善逸達が向かうのは.......急ごう。

 

私はお店の屋根の上を移りながら炭治郎達が戦っているであろう「ときと屋」に向かった。

 

 

宇髄さんと話していたこともあって、結構時間がかかっちゃったな。もう堕姫と戦い始めているよね。というか話のペースが速いような....やっぱり私達や鬼殺隊全員が先のことを分かっているから、色々と変わっているみたいだね。もしかすると、既に堕姫の頸を一回斬っているかもしれないね。もしそうなら、いくら炭治郎達でも苦戦する可能性はあるな。とにかく急がないと。

 

 

「あっ!いた。...けど、やっぱりね」

 

 

遠目で炭治郎達の姿が見え、私はそう呟いた。私が向かっている方向では炭治郎達と対峙する二人の鬼の姿が見えた。そのうちの一人は禰豆子と獪岳、もう一人を炭治郎が相手になって戦っていた。禰豆子と獪岳が戦っているのは帯で攻撃してくる鬼の堕姫で、炭治郎が戦っているのは鎌を使う鬼、妓夫太郎だ。妓夫太郎と堕姫は兄妹であり、二人で上弦の陸となっているので、両方の頸を斬らないと倒れない鬼だ。しかも、今は妓夫太郎の目を堕姫に渡した状態だ。連携も良い。

 

 

これは....炭治郎が妓夫太郎の相手をしている間に禰豆子と獪岳で堕姫の頸を先に斬って、その後、堕姫の頸を持った状態で一斉に妓夫太郎と戦う作戦かな。

 

 

「炭治郎!禰豆子!獪岳!戻ってきたよ!」

「おい、バカ!遅えよ!」

「何か、あった?」

「ちょっと宇髄さんに絡まれたけど、特には何もされてないよ。あと、獪岳。名前で呼んでほしい」

「お前はアホかバカでいい。それで十分だ」

「私は嫌!」

 

 

私は刀を抜き、獪岳の隣に来て声をかけた。すると、獪岳からすぐに怒られ、禰豆子には心配された。私は何もされてないから大丈夫だと報告した後、獪岳に名前で呼んでほしいと頼んだ。しかし、獪岳はその呼び方のままのつもりでいるらしくそう言い、私はいや、呼んでよと思いながら言った。

 

 

「で、お前がここに来たってことは、今のところはあいつらの方は問題ないってことか」

「うん。さっき、善逸と伊之助が鬼の分身である帯を倒し終えていたよ。」

「......つまり、音柱とあのカス達がやってくるってことか」

「多分....もうすぐなんじゃないかな」

 

 

獪岳が本題を聞き、私は頷きながら答えると、禰豆子が宇髄さん達が来ると聞くと、露骨に嫌な顔をした。それを見て、獪岳は溜息を吐き、私は苦笑いを浮かべた。禰豆子は本当に宇髄さんや善逸達が嫌いらしい。

 

 

「そりゃあ、さっさと終わらせてお前達は帰った方がいいな」

「そうだね。このままだと上弦の陸と私達と鬼殺隊の三つに分かれて戦うことになりそう」

「ったく、長く続いたら厄介なことになるな。その前に一気に肩をつけるぞ。お前はあっちの鎌を使う鬼のところに行け。俺はそいつとすぐにこの鬼の頸を斬る。お前達も早く鬼の頸を斬れ」

「わ、分かったけど...獪岳は大丈夫なの?私達に協力して.......」

「当たり前だろ。お前達と共闘したのはお前達と争うよりも上弦の陸と戦う方が優先だと判断したからって伝えればいいだろう。筋は通るし、他にも誤魔化しようはある。それに、鬼殺隊にバレたって問題ねえ。鬼殺隊に未練なんてねえからな」

「........分かった。でも、獪岳も禰豆子も気をつけてね」

「ああ」

「うん!」

 

 

獪岳が頭をかきながら言い、私もそれに頷いた。獪岳は面倒くさそうな顔をしてそう言うので、私は大丈夫なのかと聞くと、獪岳は鬼殺隊の方は誤魔化せるし、仮に私達の協力関係がバレても問題はないと言って、目の前の鬼の方に集中した。私はその様子を見て獪岳と禰豆子のことを信じることにし、炭治郎の方に向かった。

 

 

「炭治郎!大丈夫?怪我とかしていない?毒も浴びていない?」

「大丈夫だ。俺は何処も怪我していない。それよりも彩花の方は大丈夫か?」

「大丈夫だよ。それと、状況の方も問題はなさそうだったよ」

「そうか.....。良かった」

 

 

私は炭治郎のところに来てすぐに炭治郎が怪我していないか毒を浴びていないかを確認した。炭治郎はその質問に答え、私の心配をした。私は大丈夫だと答え、続けて言葉を濁しながらも状況の方の報告もした。だが、私が言っている話が何を指しているのか分かったらしく、炭治郎は一瞬だけ表情が引き攣った。しかし、それはほんの一瞬だけで、炭治郎はすぐに気持ちを切り替えてそう言った。

 

 

前よりはマシになったが、やっぱり無理ね....。今はまだ、炭治郎と善逸達を会わせるのは駄目そうだ。このまま長く戦いが続けば鬼殺隊と交戦の可能性が高くなる。炭治郎が戦おうとはしないけど、禰豆子が確実に暴れる。うん。早く終わらせないといけない。

 

 

「炭治郎。私も加勢するよ。それと、これを持ってて」

「これはなんだ?」

「解毒薬だよ。もし妓夫太郎の毒を浴びたらそれを飲んでね。どのくらいの強さの毒かは分からないけど、少しは和らぐと思うから」

「分かった。ありがとう」

「獪岳も念のために持っておいて」

 

 

私は炭治郎に加勢すると言った後、解毒薬を渡した。もしもの場合に備えて獪岳にも投げて渡した。私は炭治郎と獪岳がしっかりと受け取ったことを確認してから、刀を構えた。私の分の解毒薬はとりあえず取り出せるようにしておいている。もし毒がかかっても私は毒に耐性を持っているから、ある程度なら動けるはずだ。炭治郎達と行動すると決めた時からこの日のために、毒耐性を強くつけようとしていたからね。

 

 

「炭治郎、準備はできたよ」

「分かった。俺が先に行くから、彩花は俺に続いてくれ」

「了解」

 

 

私は炭治郎に準備ができたことを伝え、炭治郎が妓夫太郎の様子を見ながらそう言い、私は頷いた。それを合図に炭治郎は妓夫太郎に向かって走り出し、私も少し遅れて前に進んだ。

 

 

「ヒノカミ神楽 烈日紅鏡」

「華ノ舞い 水ノ花 水仙流舞」

 

 

炭治郎が妓夫太郎の毒鎌を弾き、私はその隙に右腕を斬り落とす。そして、すぐに懐から吹き矢を出して吹いた。その吹き矢は見事に背中に命中した。私が吹き矢が当たったのを確認して少し距離を取ろうとした時、真横から鎌が心臓を目掛けてきた。私は咄嗟に刀で鎌の狙いを晒そうとした。だが、その前に炭治郎が妓夫太郎の腕を斬り、私は後ろに下がって新たな矢を詰めた後、刀をしっかりと握って前に出た。

 

 

「血鎌 跋扈跳梁」

「ヒノカミ神楽 幻日紅」

「華ノ舞い 炎ノ花 紅梅うねり渦」

 

 

妓夫太郎が血の斬撃を放ち、炭治郎はその斬撃を避け、私は華ノ舞いで防いだ。刀からカタカタという音が聞こえたが、なんとか上手く防ぎきることができた。妓夫太郎の血の斬撃が治まってすぐに炭治郎が妓夫太郎の懐まで迫り、頸を斬ろうとした。妓夫太郎がそれに気づいて咄嗟に鎌を振るが、その前に私が妓夫太郎の腕に吹き矢を命中させ、少し動きが鈍くなったところで炭治郎が妓夫太郎の頸を斬った。

 

 

「よし、思った以上に上手くいったね」

「ああ。彩花の作った毒が良く効いたおかげだ」

「本当にそれなぁ〜。テメェの毒が厄介過ぎて、毒の分解に手間取っちまった。一体どうやってそんな滅茶苦茶なヤツができるんだぁ〜」

「えーと、私があれこれと改良を施したものです」

「...どうやったらあんな物ができるんだ」

 

 

私は上手くいったことを喜び、炭治郎も私の言葉に同意した。そんな会話をしていると、妓夫太郎が頸だけの状態で話しかけてきた。

 

 

どうやら妓夫太郎によると、私の作った麻痺毒は分解するのが難しかったようだ。実はあの毒は前に使った麻痺薬を改良したものだ。普通の鬼に効いたからと言っても、それよりも強い鬼に効かないと意味がない。ましてや、これから戦いがさらに激しくなり、上弦の鬼との戦いが増えてしまう。そのためにも今から改良しておいて、いざという時のために使えるようにしたい。全員で生き残れるようにというのもあるけど、私が介入したことや炭治郎と禰豆子が鬼殺隊に入っていないことなどで原作とは違う話になっているし、何が起こるかも分からなくなってきているから、私が何もしなくても鬼は倒せる、生き残れるとは思えない。だから、私自身の身に何か起きても対処できるようになりたいし、その時に足を引っ張らないようにしておきたい。

 

 

それにしても、私は確かに麻痺毒にあれやこれや色々と試行錯誤して改良したのだが、上弦の陸が分解させるのが難しいと言わせるほどの毒になったのは予想外だった。どうやったらあんな物ができると言われても....普通に藤の花に麻痺させる効果がある毒草を入れたり、藤の花や麻痺の効果を強くするために毒草の量を多くしたり種類を増やしてみたりなど、そういったことをしたぐらいだ。改めて思い出してみても、そこまで特殊なことをした覚えはない。だから、妓夫太郎に化け物を見るような目をされるのはおかしいの!私は普通に調合しただけだから!

 

 

「しかも、テメェらの連携は隙がねえしなぁ〜。鬼狩りではないが、異様に鬼との戦いに慣れてやがるし」

「まあ、主に炭治郎との一対一の試合方式を訓練で良くやっているし、禰豆子と獪岳も入れて、二対二のチームでの訓練も結構やっているからね」

「ああ。それなりに互いがどう動けるか、連携の方でもどうすれば良いのかも分かっているからな」

 

 

妓夫太郎は私と炭治郎を交互で見ながら言い、私は炭治郎達との訓練のことを思い出して苦笑いをして、炭治郎はそう言った。

 

 

何故苦笑いするのかって?それはとても厳しいからである。確かに私自身が強くなれるし、上弦の陸との戦いで役には立っているけど、とても大変なんですよ。二週目である炭治郎達と私の一対一で対決するだけでも本当に疲れる。私が必死に刀を振っても炭治郎達には全く歯が立たないくらい、炭治郎達が圧倒的に強すぎる。そんな炭治郎達と毎回打ち合い稽古や実戦方式の訓練をしている。ざっくりと一言で言うと、ハード過ぎるのである。だって、炭治郎達は鬼狩り二周目であるのに対し、こっちは前世で女子高校生だったんだよ。そのおかげ様で、剣術の腕は上がっていきますがね........。まあ、まだまだ私はみんなをサポートできるのがやっとという感じなのですけど........。

 

 

「あれ?まだ消えていない。ということは....」

「禰豆子と獪岳がまだ堕姫の頸を斬っていないのか?だが、幾ら何でも遅すぎる.....」

「そうだよね。獪岳と禰豆子ならもっと早く...「おい」」

 

 

 

私は炭治郎達との訓練を思い出していたが、しばらく妓夫太郎の頸を見ていても消える気配がないことに気がついた。炭治郎もそれに気づき、禰豆子と獪岳の心配をした時、後ろから声が聞こえてきた。振り返ると、獪岳が視線を別の方向に向けて警戒しながらこっちに向かってきた。しかし、近くに禰豆子はいないようだ。

 

 

「獪岳!?どうしたの?禰豆子は?堕姫の頸は斬れたの?何かあったの?」

「.....落ち着いて聞け。....まずいことになった」

「まずいことって......?」

「............」

 

 

私は獪岳が来たことに驚きながらも獪岳に聞きたいことを質問すると、獪岳は溜息を吐きながらそう言った。心無しか顔色が少し悪くなっているような気がする。私は獪岳のまずいことになったという意味を聞き返すと、獪岳は無言で自身の背後を指差した。私と炭治郎がその先に視線を向けると、

 

 

「おい!竈門妹の鬼化が始まってねえか!?」

「いや、禰豆子ちゃんはただ俺達にだけ殺気を向けているので、一般の人達は襲わないと思います!禰豆子ちゃんはただ俺達だけに怒っているんだよ!」

「おい!ねず「ヴヴッ!ヴーッ!!」」

 

 

 

お互いの敵であるはずの上弦の陸の堕姫を置いておいて、鬼殺隊VS禰豆子の対決が始まっていた。

 

 

私はその光景を見て、声にもならない叫びを上げかけた。なんとか一歩踏み止まったけど、内心では叫び散らして頭を滅茶苦茶振っていた。

 

何!?どういうこと!?

 

 

...どうして起きたかというのは一旦置いておいて、目の前のことから確認しよう。......うん。ついに恐れていたことが起きてしまったのか.....。上弦の鬼との戦いの最中で始まる鬼殺隊との戦闘。私が出来れば避けたいと思っていた戦いだ。しかも、まだ上弦の陸との戦いは終わっていない。これは困ったことになった...。

 

 

「獪岳、一体何があったのかを詳しく説明してくれない?」

「ああ。ただ、そんな時間もあまりねえからざっくり言う。俺達があの帯の鬼を追い込み、俺が頸を斬ろうとしたタイミングであのカス達が来ちまったんだ。あいつも初めは鬼の相手が先だと抑えていたが、カス達が話しかけた時点で耐えられなかったようで、ああなった」

「.....いや、充分だよ。ありがとう。大体の状況は分かったよ。それで、獪岳の手には追えないくらいに事態が悪化していって、堕姫の頸を斬れる状況じゃなくなったということね」

「その通りだ。しかも、俺も隊服を着ているから襲われかけた。俺には無理だ。お前は止められるか、あれを」

「.......怪我はしていないみたいで良かったよ....。ああなる前ならまだ止められる可能性があったのだけど、あの状況にまで陥ってしまうと私も無理だよ。今の状態で私が間に入っても、話し合える状況になりそうもないね」

「だよな」

 

 

 

 

私はとりあえず事態をしている獪岳に話を聞くことにし、獪岳は簡潔に説明してくれた。簡潔な説明だったけど、流れが分かりやすかった。私は大体の状況の流れをまとめて聞くと、獪岳はそれに頷き、禰豆子達の戦いを指差して止められるかどうかを聞いてきた。私は獪岳が怪我していないかを確認した後、禰豆子達の戦いを見て、話すらできないような状況だから止められないと判断してそう言った。獪岳もそれに同意した。

 

 

もしかしたら、炭治郎の言葉なら聞いてくれるかもしれないが、炭治郎が善逸達を前にして話せるかどうかは分からないから、それ以外の方法を考えないとね。

 

今の炭治郎はなんとか冷静になろうとしている様子だ。善逸達を見た時は過呼吸になりかけていたり手足が少し震えたりしたけど、深呼吸をしたり体の震えを必死に抑えようとしたりなどの落ち着こうという意思はある。以前より症状は悪くはないが、顔は少し真っ白になっているし、抑制剤を渡しておこう。まだ戦いは終わっていないからね。

 

 

「そういえば、お前達の方はどうだ?もう一匹の鬼と戦っていたが、そいつはどうした?」

 

 

私が炭治郎に抑制剤を渡して飲ませていると、獪岳が声をかけてきた。

 

 

「えっ?こっちは炭治郎が頸を斬ったから、もう.....「彩花!危ない!」...へっ!?」

 

 

私が獪岳と話していると、炭治郎が大声でそう言った。私は炭治郎が突然大声を上げたことに変な声を上げたが、すぐに私達に向けられる殺気に気がつき、慌ててその場から離れた。炭治郎と獪岳も反射的に距離を離した。次の瞬間、先程まで私達がいた地面に鎌が刺さっていた。

 

 

「なんか仲間割れしているなぁ。まあ、運は俺達に向いているようだなぁ。その仲間割れで俺から注意を逸らしてくれたから、あの毒を分解する時間を稼げたし、俺の頸を取り戻すことができたしなぁ」

 

 

鎌を使って攻撃してきたのは妓夫太郎の頸がない身体だった。しかし、その身体の手に妓夫太郎の頸があった。妓夫太郎は自身の頸を身体にくっつけて戻しながら私達に不適な笑みを浮かべてそう言った。禰豆子達の方を見ていたから、妓夫太郎の方への注意が疎かになってしまったようだ。迂闊だった。堕姫の頸が斬れていないということは妓夫太郎はまだ動けるということだというのに....。反省は後にしないと。今の状況はまずい。妓夫太郎の頸が戻ったので、振り出しに戻ってしまった。それと、あの毒がどうとか言っていたけど、私の麻痺毒に手間取ったということかな?......まさかね....。麻痺薬と言っていたのを麻痺毒にした方が良いと判断するくらい効き目を強くしたけど、流石にそこまで効かないと思う...。いや、今はそんなことを考えている暇はない。この状況をなんとかしないと!

 

 

「お兄ちゃん!あいつらがアタシのことを無視するんだけど!!」

「そうだなぁ〜。悔しいよなぁ〜。だが、あいつらはどうせ自滅するだろう。そっちは後回しだぁ。先にこっちを片付けるぞ」

 

 

堕姫が妓夫太郎にところに来て禰豆子達に怒っていた。なんか心なしか涙目になっている気がする。まあ、あっちは上弦の陸の堕姫のこと関係なしに戦っているからね.....なんか、すみません。妓夫太郎はそんな堕姫を慰めながら私達の方を向いた。私達に向けるその目には殺意があった。

 

 

...あれ?これって........上弦の陸の妓夫太郎と堕姫対私と炭治郎と獪岳になるってこと!?

 

 

「この展開はつまり....私達だけで上弦の陸を二人同時に倒さないといけないってことだよね.......」

「ああ、そうだ。ったく、滅茶苦茶だ」

 

 

私が確認すると、獪岳が額に手を当てながらそう言った。

 

 

本当にそうですね.....。運があっちに味方してしまったみたい....。この状況はもうカオスだよ...。事前に話し合った通りなら、戦いはもう終わっているはずだったんだけどね....。全くどうしてここまでややこしくなっちゃったのかな...。

 

 

 

 

 

 




この後の続きは少し添削してから投稿しようと思います。少しお待ちしてもらえるとありがたいです。




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笹の葉の少女は喧嘩を止めて戦う

「.....どうするんだ?」

「どうもこうもこの状況をなんとかする方法を探すしかねえだろ」

「二対三だけど、あの二人の連携に勝てるかどうかは微妙だからね」

 

 

私達は妓夫太郎と堕姫の猛攻を避けながらこの状況を抜け出す方法を考えていた。妓夫太郎が堕姫に片目を貸しているのもあって、こちらが攻撃する隙を与えずに話し合える時間さえ与えてくれない。こっちは不利な状況を陥っているというのに、あっちはあっちで...........

 

 

「ヴヴーッ!!」

「ちっ。こうなったら、ねずみをなんとかしねえと...!」

「はあ!?おい、猪!禰豆子ちゃんに何しようとしてんだあ!!」

「ああん!?じゃあ、どうしろと言うんだ!俺達の話、全く聞かねぇんだぞ!」

「確かにな。今回は嘴平に賛成だ」

「ちょっと!?いとしの禰豆子ちゃんに何すんの!?この筋肉ダルマ!」

「気絶させるだけだ。安心しろ。ド派手にはやらずに地味にしてやる!」

 

 

貴方達は何をやっているのですか!!?なんかヒートアップしてませんか!?上弦の陸が敵なのは共通なのに揉めないでくださいよ!?気絶させるのに、派手も地味もありますか!?まあ、宇髄さんならそういうのがあるかもしれないけど、止めてください!!こっちは上弦の陸を二人とも相手にしているのですよ!早く手伝いに来てください!いや、善逸達が来たら来たで揉めそうね。今のところ、こちらと鬼殺隊の仲は複雑な関係だ。そんな状態でまともに連携がとれるのか....。

 

......うん、無理ですね。いきなり協力し合えるとか、そういう光景が想像できない。それに、炭治郎が耐えられるかが心配だ。戦いの途中で心的外傷を発症する可能性があるので、炭治郎と連携をとるとしたら、禰豆子や私、獪岳の方が良いのだろう。まあ、そもそも止めないと話にならない。でも、どうやって止めようか。先程聞こえた善逸達の会話から考えるに、善逸達は禰豆子を斬ろうと思っていないから、禰豆子を止められればあの戦いは終わると思う。ただ、問題は今の禰豆子が誰の言葉も耳を貸さないので、禰豆子を落ち着かせるのは難しい。炭治郎なら可能性があるかもしれないけど、炭治郎を善逸達と会わせて何かあったら大変だ。だけど、炭治郎をそのまま戦うことにして私か獪岳のどちらかが行くにしても、二対二ではさらにこっちが不利になるし、あれを止められるかどうかも微妙だし......どうしよう....何か..........。

 

 

「血鎌 円斬旋回」

「ヒノカミ神楽 円舞」

「チッ!この状況が続けば、流石にヤバいな」

 

 

妓夫太郎の鎌や堕姫の帯による攻撃を受け流したり弾いたり斬ったりしていたが、着々と追いつめられていた。頸を斬れる隙がなく、こっちの体力の問題もあった。夜明けまで時間を稼ぐにしても、朝日が昇る時間はまだ先だ。このまま戦い続けると、私達が負ける。なんとかしないと.......。

 

 

「そろそろケリを着けようぜー。堕姫、お前はあの女の餓鬼を先に殺れ。毒を使うし、俺の鎌の毒のことを知って解毒薬を渡すし、少々厄介だからなー。先に殺しておけ」

「えー。あの女の餓鬼、美しくないから食べたくない」

「そう言うな。あの女の餓鬼の左目は色が変わるんだぞ」

 

 

すみませんね、普通の顔で。私は貴女に絶対に負けますから。堕姫の美貌が美しいのはもう分かってますので。

 

妓夫太郎と堕姫の会話を聞いて、私は溜息を吐きそうになった。分かってはいるけど、そんなにはっきり言われると、少しへこみます。...まあ、今はそんな場合じゃないので、気を取り直そう。....うん?確か、妓夫太郎は堕姫に私をさっさと殺すように諭しているのよね.....。妓夫太郎の方は私....正確に言えば私の作った毒や薬を警戒しているみたい。これって、私が優先的に狙われるということだよね。それなら..........

 

 

「獪岳、炭治郎のことをよろしくね」

「ああ?どういうことだ」

「ちょっと成功するかどうかは微妙なんだけど、上手く行けばこの状況をなんとかできる」

「......大丈夫なのか」

「...うん。一か八かなんだけど、上手く行けたら全部なんとかできる可能性がある。お願いね」

「........チッ。...分かった」

 

 

私は丁度近くにいた獪岳に声をかけた。獪岳は突然の私の言葉に驚いて聞き、私はなんとかできそうだからとか大丈夫だからとか言って獪岳を説得しようとしたが、獪岳は不安そうにした。言葉を間違えたかな。私は獪岳の肩に左手を置き、目をしっかりと見て頼んだ。しばらくの間その状態が続くと、獪岳が根負けしたらしく、とりあえず納得してくれた。舌打ち付きだが。

 

 

まあ、獪岳を不安にさせるほど私も不安なんだろう。正直に言うと、私も自分が考えたことに不安を感じているからね。上手くいくかどうかも上手くいっても勝てるかどうかも分からない、行き当たりばったりだってはっきり言えるほど、無理矢理で一か八かなんだよね。できればこの状況で炭治郎達と一緒にすることが良かったのだけど、()()()()()私達の方が混乱するからね.....。でも、妓夫太郎と堕姫が話している、このタイミングが最大のチャンスだ。

 

 

「それで、お前はこの状況をどうする気だ」

「相手は私の作った毒を警戒して私を先に殺そうとしているみたいだから、私がここから離れればどっちかが必ず私を追いかけてくる。そうすればまた二手に分かれられる」

「おい。お前一人で大丈夫か」

「大丈夫だよ。一人でなんとかできるとは思っていないからね。それをなんとかできる考えがあるの。一か八かだけど、これしか思いつかなかったから。それじゃあ、よろしくね」

「お、おい!」

 

 

私は獪岳にざっくりともう一度二手に分かれて戦うことを話し、獪岳はそれに関して怒ったような顔で私に聞いた。確かに私の話を要約すると、私を囮にしてと言っているようなものだからね。獪岳は不満そうな顔をしているけど、妓夫太郎と堕姫がいつまで話しているかは分からないから、もう説得しないで強制的に行こうと考え、私は文句を言われる前に獪岳によろしくと言って走り出した。案の定、獪岳が叫んでいるが、無視する。

 

 

「おい。あの女の餓鬼が逃げたぞ。こっちの鬼狩り達は俺が殺しておくから、女の餓鬼を追え」

「もう!分かったわよ、お兄ちゃん」

 

 

走り出した私を見て、妓夫太郎が堕姫にそう言うと、堕姫は渋々私を追いかけた。

 

追いかけてきたのは堕姫か.....。無事に行けるかは分からないが、妓夫太郎が来るよりはまだマシだ。なんとしても()()()まで行かないと。

 

 

「華ノ舞い 水ノ花 水仙流舞」

「あんたは美しくないけど、その左目の色が変わるのは本当だったみたいね。なかなか美しいじゃない。その左目だけはくり抜いて食べてあげるわ」

「それは丁寧にお断りします!」

 

 

私は回避に向いている水仙流舞で捕まえようとしてくる堕姫の帯を斬りながら避けていた。堕姫は華ノ舞いを使って色が変わった私の左目を見て、気に入ってしまったようだ。私の左目をくり抜いて食べると言われ、私は内心悲鳴を上げながら断り、全速力で走った。

 

 

絶対に嫌です!なんか目をくり抜くという言葉を原作で炭治郎に言っていませんでした!?確かに炭治郎の目は綺麗だったし、私の左目も色が変わるからとても珍しいけど、こっちだって目をくり抜かれるわけにはいかないのですよ!さっきまで美しくないから食べたくないって言っていましたよね!食べなくて大丈夫です!

 

 

「もういい加減に大人しくしなさいよ!」

「お断りいたします!」

「八重帯斬り」

 

 

堕姫は走りながらも帯を避けたり刀で帯を斬ったりして必死に抵抗する私にしびれを切らし、八本の帯を使って退路を塞がれてしまった。私は八本の帯を同時になんとかしないといけないことに気づき、すぐに八本の帯を同時に斬る方法を考えた。

 

 

相手は上弦の鬼だから、一番体に合っている華ノ舞いが効果的だと思うが、日車は八本を同時に斬るのは向いていないし、水仙流舞は流れるような動きで回避と攻撃を同時に行える型だから、同時に何かを斬る時に使うとしたら微妙かな....。紅梅うねり渦は八本の帯を防ぐことはできるが、守りに向いている型なので、水仙流舞と比べて流暢には動くことができない。今は少しでも前に進まないといけないから、守りに徹していたらまた帯で退路を塞がれそうだ。そうなってしまうと、体力はそこでかなり消費しそうだし、八本の帯を斬れるような連撃ができる型を使えればなんとかできそうかな。華ノ舞いの方が体に合っていて使いやすいけど、今使える華ノ舞いの型の中で連撃が使えるのはないので、他の呼吸を使おう。

 

 

「花の呼吸......!?」

 

 

私が花の呼吸を使おうとした時、口が動かなくなった。次の瞬間、頭の中にヒノカミ神楽の烈日紅鏡と雷の呼吸の弐ノ型の稲魂と花の呼吸の伍ノ型の徒の芍薬が流れ、体の中から熱くなり、別の動きをし出した。刀の色は真っ黒に変わり、模様の葉も紅葉に変わった。

 

 

「華ノ舞い 紅ノ葉 陽日紅葉」

 

 

私の口が動いてそう言い、私の体は炎を纏った刀を振った。すると、一瞬で八本の帯が斬れ、私は足を止めずに真っ直ぐに走った。私は新たな型に内心驚いていた。

 

あの八本の帯を一瞬で!?私には刀を一振りしただけで多数の斬撃を放ったように見えた。しかも、あの多数の斬撃の軌跡が紅葉のように見えるなんて...。

 

 

あの時、一振りしただけで多数の斬撃を放ったように見えた(少なくとも私には)が、実は八回も刀を振っているのだ。私の目には一振りしか刀を振っていないように見えているのだけど、私の腕からの感覚では刀を八回振ったように感じられた。一瞬にしか見えなかったが、振った感覚は確かに感じられたから間違いはないだろう。華ノ舞いでああなる時、体の自由は毎回奪われているけど、感覚は感じられるのだ。

 

 

「キャア!!ちょっと何よ!?炎!?」

 

 

私は後ろで堕姫が混乱している間に走り出した。そのまま頸を斬った方が良いかもしれないが、それは止めておこう。

 

確かに堕姫の頸を斬るチャンスではあるけど、上弦の陸である堕姫と妓夫太郎は堕姫と妓夫太郎の両方の頸を斬っておかないといけない。つまり、堕姫の頸が斬れても妓夫太郎の頸が斬れてないと駄目なのだ。そのため、妓夫太郎の頸が斬れるまでの間は堕姫の頸が戻らないようにしないといけない。しかし、今の私は新たに華ノ舞いを使った。覚えている方が居れば分かるはずだと思います。すなわち、私の体はその反動で動けなくなるのです。今はかろうじて走れるけど、だんだん体が重たくなってきているからそろそろ動けなくなる......。急がないと!

 

 

私は歩く度にだんだんと重たくなっていく体に焦りを感じながらも必死に走っていた。しかし体が動かしづらくなり始め、足も今にも動かなくなりそうだった。そろそろもう限界だと思い始めていたその時、目的の場所が見えた。

 

 

「あっ!見えてきた!」

 

 

私はそれを見て、今にも倒れそうな体に鞭を打ってその場所に向かって真っ直ぐに走り続けた。だが、気持ちとは裏腹に体はよろめき始め、今にも倒れそうになっていた。なんとか必死にバランスを取って走れていたけど、目的地までまだ距離がある。このままだと目的地に辿り着けなさそうだ。それに、後ろから堕姫が追いかけている。こうなったら.........一か八かだが、やらないよりは可能性がある。やってみるしかない。

 

 

「追いついたわ!あんた、一体何なのよ!?アタシは.....」

「華ノ舞い 日ノ花 日車」

 

 

堕姫の声が聞こえて振り返ると、堕姫が私に向かって帯を伸ばしていた。私は前方宙返りができる日車を使い、自分を中心に球を書くようにして縦や横などの向きに回りながら自身の近くまで迫っていた帯を斬った。それと同時に、今は自身の周囲に堕姫の帯がないことを確信し、私は最後の力を足に込め、思いっきり地面を蹴り、私は高く跳んだ。いや、飛んだという表現が合うのかもしれない。自惚れているように聞こえると思われるが、本当にそれくらい高く跳んだのだ。まあ、雷の呼吸の壱ノ型の踏み込みを使ったのだから当然なんだと思うけどね。高く跳んだ私は堕姫の攻撃を避け、堕姫との距離を広げることができた。しかし高く跳んだ反動のせいなのか、それとも重力のせいなのか体が重くなっていき、動かすこともできずにそのまま徐々に下に向かって落ちていく。私はそこで着地のことを考えていなかったことに気づき、なんとか着地する方法をと考えながら下の方を見てぎょっとした。

 

 

「あ、えっと、どうしよう!このままだと!ぶ、ぶつかる.......!?」

 

 

私は焦ってなんとか体を動かそうとするが、体は全く動かず、重力に任せて落ちていくことしかできなかった。

 

 

「わわっ!?....落下している私が一番大怪我すると思うけど、今は.....とにかく避けて!!」

 

 

体を動かせない状態で私が声を張り上げていると、だんだん地面に近づいていることに気がついた。私は目を瞑り、落下の衝撃が来るのを待った。しかし幾ら待っても衝撃は来ず、何故かちょっと何か固いものに絞められて宙に浮くような感覚がしたので、私は思わず目を開いた。すると、近くに善逸と伊之助が、二人から離れたところに禰豆子の姿が見えた。

 

 

そう。あの時、私が慌てていたのは着地のことを考えていなかったからではなく、丁度私の落下地点だと思われる場所に善逸達がいたからである。善逸達は禰豆子に、禰豆子は善逸達に集中していたので、上から降ってくる私のことに気づいていなかった。このままだと善逸達とぶつかるが、私は動くことができないので、声を張り上げて気づいてもらおうとしたのだ。今は私が上から落ちてきたことに驚き、禰豆子も善逸達も戦いを止めて私の方を見ている。当初の予定では禰豆子と宇髄さん達の間に滑り込み、そうすることで禰豆子と宇髄さん達の戦いを強制的に止めさせるはずだったのだけどね。堕姫を戦いの間に連れてくれば、禰豆子も本来の目的を思い出して止まるんじゃないかと思って、元からここを目指していた。まあ。色々と想定外だったが、今は互いに戦いを止めているから結果オーライだね。

 

 

「えっ!?彩花ちゃん!?なんで上から降ってきたの!?」

「あはは。話せば色々あるけど...えっと.......あれ?」

 

 

善逸が私が上から突然現れたことに困惑していた。まあ、いきなり上から見知った人が落ちてきたら、そりゃあ驚くよね。とりあえず事情はしないと。私は状況を説明することにして何から話そうかと考え、ある事に気がついた。

 

 

善逸と伊之助、禰豆子の姿は見えるけど、宇髄さんは何処に行ったのかな...。それに、目を開けて様子を見たのはちょっと固いものに締めつけられて宙に浮くような感覚がするから、可笑しいなと思って確認しようとして......。.........うん?そもそもお店とかの建物より高い位置から落下して衝撃がないのから明らかに可笑しいし、何より私が今感じているちょっと固いものが地面なわけないし、地面は締めつけることなんてできない。しかもよくよく考えて見ると、私の視線ってこんなに高かったっけ?体が動かせなくて立つことはできないからこんなに高いのは絶対に可笑しいし、今の私は寝そべっている状態でもないし、なんか担がれている感じに近いというか....まさか.........。

 

私はおそるおそる隣を見た。そこには........

 

 

「よお。また会ったな。しかも、上からド派手に登場とはな。一体何が降ってきたかと思って受け止めちまったが、テメェだったとはな」

 

 

宇髄さんがいた。どうやら今の私は宇髄さんに担がれている状態らしい。

 

 

「いえ、私も好きで上から降ってきたわけではありませんよ。受け止めてくれたことには感謝します。しかし、今はそれよりも.....うわっ!?」

「よっ、と」

「彩花、放せ!」

 

 

私が宇髄さんに受け止めてくれたことに感謝し、堕姫と今の事情を説明しようとした時、突然宇髄さんが動き出して私は驚いた。慌てて前の方を見ると、禰豆子が怒っていた。その近くで、先程まで宇髄さんがいたであろう場所に大きなクレーターみたいなものができていた。それは多分禰豆子の蹴りが原因だろう。

 

 

おそらく宇髄さんに担がれた私を助けようと禰豆子が宇髄さんに蹴りを入れ、宇髄さんはその禰豆子の攻撃を避けたということだろう。...いや、駄目でしょう!宇髄さんは私を助けてくれたのだから、宇髄さんを攻撃するのはおかしいって!前世のことで宇髄さん達の信用がマイナスにまで落ちているのは分かっているけど、今回は何も悪いことをしていないよ!それに、今は本当にそれどころじゃ.......そろそろ堕姫がここに来るし。

 

 

「禰豆子!今の相手はこっちじゃなくてあっちだよ!もう、すぐそこまで来ているから!」

「もうすぐそこというか、今目の前まで来てるぜ」

「えっ?」

 

 

私はなんとか腕を動かし、禰豆子が本来の目的を思い出してくれるように私が降ってきた方を指差した。すると、宇髄さんからそんな言葉が聞こえ、私は宇髄さんの言葉で先程私が指差した方向の状況を確認しようと体を動かそうとしたら、その前に宇髄さんが私の思ったことを察したらしく、宇髄さんが体をその方向に向けてくれた。私は心の中で宇髄さんに感謝して前を見ると、堕姫が不機嫌そうな顔で立っていた。どうやら追いついたようだ。そこまで距離を広げたわけではないから、堕姫がすぐに追いつくのは当たり前なのだろうが。

 

 

「はあ。まったく、逃げ足の速い餓鬼ね。やっと追いついたわって、鬼狩りと裏切り者の女の鬼じゃない。あんた、こいつらの仲間なわけ?」

 

 

あっ、訂正。堕姫は不機嫌そうなではなく、本当に不機嫌らしい。私がなかなか捕まらないことで完全に腹を立ててしまっているようだ。それと、禰豆子や宇髄さん達を見ても怒っている様子からして、勝手に堕姫のことを無視して互いに争っているのが気に入らなかったのだろう。これで、堕姫を禰豆子達の間に割り込ませることができたから、禰豆子と宇髄さん達の戦いは終わりになると思うけど、宇髄さん達は目の前の堕姫を倒すのを優先するだろうし、禰豆子も流石にこの状況で宇髄さん達を攻撃しないよね....。

 

 

そう思って私が禰豆子の方を見ると、禰豆子が堕姫を見て怒っている様子だった。

 

.....えっ!?どうしたの!?何があったの!?

 

 

「お兄ちゃんを、醜いって言ってた!許さない!」

「ふん。何よ!醜いのを醜いって言って何が悪いのよ!」

「許さない!!」

 

 

禰豆子と堕姫の言い合いをした後、禰豆子は額に青筋を立てて、堕姫に突っ込むように蹴りを入れた。堕姫もそれに対応し、反撃する。....なんか先程の戦いよりも激しい戦いのような気がするけど、気のせいだと思おう。とりあえず禰豆子と宇髄さん達の戦いを止められて良かった。うんうん。

 

 

「いや。頷いているところ悪いが、状況を説明しろ。こっちは竈門妹と戦っていてそっちの状況が分からねえんだ」

「あっ。そういえばそうでしたね」

 

 

私が禰豆子と堕姫の戦いの様子を見た後、視線を遠くの方に向けて現実逃避していると、宇髄さんが声をかけてきた。

 

禰豆子と堕姫のことですっかり忘れていたよ。炭治郎と獪岳も妓夫太郎の相手をして待っててくれているのだから、早くその負担を減らさないと。そのためにも宇髄さん達の協力が必要なのだから、状況をしっかり伝えないと。

 

 

私は宇髄さん達に手短に状況を説明した。禰豆子と宇髄さん達が戦ってから状況が悪化したこと、私と炭治郎と獪岳の三人で上弦の陸二人と戦っていたけど、徐々にこっちが不利になってしまったこと、妓夫太郎と堕姫を引き離すことを考えて私が堕姫を惹きつけ、ついでに禰豆子と宇髄さん達の戦いを止めようとしたこと、今は炭治郎と獪岳が妓夫太郎と戦っていることを大雑把だが理解はできるように説明した。

 

 

「.......なるほどな。まあ、大体の状況は分かった。竈門妹のことはこっちも苦戦していたから助かった」

「いえ、こちらも禰豆子をなんとかしないといけませんでしたので」

「...ところでだ」

「何でしょうか?」

 

 

宇髄さんは私の話を聞いて納得した様子を見せた後、お礼を言った。どうやら禰豆子に関しては結構困っていたそうだ。私はそれに苦笑いしながら答えていると、宇髄さんが言葉を区切って今度は真剣な顔で言った。私は宇髄さんが真剣な顔をしたことに驚いたけど、すぐに返事をして続きを促した。

 

 

「テメェの日輪刀のことだ」

「私の日輪刀?」

 

 

宇髄さんが私の日輪刀を指差して言い、私はそれに一瞬何のことか疑問に思ったが、その時に初めて自分が堕姫と戦った時からずっと刀を鞘に仕舞ってしまっていなかったことに気づいた。

 

.....あっ。まずい....。

 

 

「ん?彩芽の刀、色が無くなってんぞ」

「本当だ。彩花ちゃんの刀って青や赤に色が変わっていたり模様も変わったりしていたけど、これも同じかな。今は......白かな?」

「いや、白ではねえな。白は霞の呼吸が適正の色だが、青や赤に色が変わるなんていう話は聞いたことねえ。それと、時透の刀で見ているからな。俺の目は誤魔化せねえよ。色は確かに時透の刀と少し似ているが、これは白というより....無色の方が近いな。しかも、良く見ると透明だな」

 

 

私は慌てて日輪刀を隠したが、もう遅かった。私の日輪刀は宇髄さんにも善逸達にもしっかり見られてしまった。

 

私の日輪刀は華ノ舞いや日の呼吸などを使う時は色が変わるが、全集中の呼吸では無色透明の状態なのだ。つまり、今の私は全集中の呼吸はしていても華ノ舞いなどの呼吸は使っていないので、刀の色は無色透明のままだ。確か無色透明の刀なんて初めてだと鱗滝さんが言っていたよね。今まで鬼殺隊に会った時は鬼と戦う時しか刀を抜かなかったから知らなかったことだけど、知ってしまったからにはどういうことかと色々と聞かれそうだな。でも、これに関しては私も良く分からないことだし、色々と聞かれても私は答えられないのだけど、宇髄さん達は納得できないと思うからしつこく聞いてきそうだな。刀の色に関しては私もよく分からないし、何故刀の色が変わるのかも分からないと言っても質問攻めになりそうな気をする。丁度堕姫がそこにいるし、私も動けるようになったし、回復したから戦いに行ってくることを理由に炭治郎や禰豆子達の手伝いをしてくると言って逃げよう。そうしましょう。

 

 

私は宇髄さんから離れるために体を動かそうとしたら、その前に宇髄さんに首の後ろの方を掴まれ、そのまま持ち上げられた。なんか猫扱いされている気がする。

 

 

「おっと。逃げようとすんじゃねえぞ」

「いや、私もこの刀の色に関しては良く分かっていないのです。詳しく説明しろと言われても説明できません」

「それなら、テメェが今使っている呼吸は何だ?これなら答えられるだろう」

「私が使っている呼吸は水の呼吸とヒノカミ神楽と、先程宇髄さんに言った華ノ舞いです。何故かは知りませんが、水の呼吸やヒノカミ神楽を使うと刀の色が変わりますし、華ノ舞いを使うと刀の色も模様も変わるので、聞きたいのは私もです。どうしてそういうことが起こるのかは私にも分かりません。特に華ノ舞いについては私も調べていますが、全く進展がありません」

 

 

宇髄さんが私を逃がさないように目の前まで持ってきて言うので、私は正直に刀の色のことは何も知りませんと言った。すると、宇髄さんは言い方を変えてそう聞いてきたので、私は質問攻めされたそうだと思いながら半端ヤケクソに華ノ舞いのことを話した。まあ、この話をしても疑いの念は持たれるだろう。何せ華ノ舞いは使っている私でも使える型以外で他にどんな型なのかは分からないし、しかも体が勝手に動くことでやっと分かるという嘘っぽい話だ。嘘はついていないから善逸と伊之助は分かってくれると思うけど....宇髄さんは少し疑うよね.....。ちなみに、私が雷の呼吸と花の呼吸について言わなかったのは、雷の呼吸の話をすると誰に教わったのかと思われ、獪岳に教わったことがバレる可能性があるし、花の呼吸は夢の中でカナエさんに教わったと言うしかないし、言っても疑われるから話さない方が面倒事を回避できる。

 

私が色々考えていた時、突然上から殺気を感じた。宇髄さんも殺気を感じてすぐに放してくれて、私は後ろに跳んだ。宇髄さんも善逸も伊之助もその場から離れた瞬間、先程私達がいたところを斬撃が通った。その斬撃は地面を深く抉り、私と宇髄さん達のいたところを両断させた。私はそれに驚きながらも辺りを見渡した。

 

 

さっきは宇髄さんと離れるきっかけになったからとてもありがたかったけど、この状況はまずいかもね....。あの斬撃には間違いなく殺意があった。つまりあれは鬼によるものだ。となると...........

 

 

「ったく。あいつ、目的をすっかり忘れてねえか。帰りが遅くて心配して来てみりゃあ、何遊んでるんだ」

 

 

私が抉れた地面の切り口を見ていると、上から声が聞こえた。私はまさかと思いながら上を見ると、屋根の上に炭治郎と獪岳が戦っていたはずの妓夫太郎がいた。

 

 

「どうしてここに!?炭治郎と獪岳は!?どうしたの!?」

 

 

私は妓夫太郎がそこにいることに驚いたが、それよりも炭治郎と獪岳の無事の方が心配でそう聞いた。妓夫太郎が私の言葉に何か言おうと口を開いた時、

 

 

「ヒノカミ神楽 円舞」

「雷の呼吸 弐ノ型 稲魂」

 

 

二つの影が妓夫太郎に近寄って刀を振り上げ、妓夫太郎はそれらを持っている二つの鎌を駆使して受け流し、後ろに下がった。二つの影、炭治郎と獪岳は深追いはせずに妓夫太郎を警戒している。

 

 

「彩花、すまない!一瞬の隙をつかれてここまで逃げられてしまったんだ」

「上弦の陸ってヤツは逃げ足が速いんだな」

「炭治郎!獪岳!無事だったのね!良かった」

 

 

炭治郎が私に気づいて、視線を妓夫太郎に向けた状態のまま声をかけ、獪岳は妓夫太郎を煽っていた。私は炭治郎と獪岳の無事な様子を見てほっとした。本当に良かった。

 

 

「彩花の方こそ大丈夫か?それに禰豆子も!」

「大丈夫。怪我はないから安心してね。禰豆子は元気に堕姫と戦っているから大丈夫だと思うよ」

 

 

炭治郎は私と禰豆子のことを心配して聞いてくるので、私は大丈夫だと答えた。ただ、禰豆子のことを答える時に苦笑いしてしまったのは仕方がないよね....。炭治郎のことで暴走して大暴れしていますなんて.......言える?炭治郎の前で。

 

 

「おい」

「か、獪岳!?どうしたの?えっ、わっ!?」

「詳しくはそいつに聞け」

 

 

私が禰豆子の様子を思い浮かべていると、獪岳に突然声をかけられた。私はそれに驚いてしまったが、それでも獪岳に声をかけられたので、用件を聞こうとした時、上から気配がしてきたから上を見た。ちょうどタイミング的にも悪くかったのか、目の前に鴉のドアップが見え、羽音が聞こえるくらい近かったタイミングで見てしまい、私はまた驚いてしまった。獪岳は私のその驚いた声を聞いた後、そう言い残して妓夫太郎に向かって走り出してしまった。

 

 

「な、何なの....?獪岳はどうして鎹鴉を置いていったのかな...。この鎹鴉、獪岳の鎹鴉だよね。詳しくは鎹鴉に聞けっていうことは何か伝言とか残しているのかな」

「カァー!ソノ通リ!」

「やっぱり......。それで、獪岳は何のメッセージを残しているのかな」

 

 

私は獪岳が鎹鴉を私のところに送ったことに困惑しながらも鎹鴉に尋ねた。鎹鴉はそれを肯定し、私は鎹鴉に獪岳は伝言を話してくれるように促した。鎹鴉は一鳴きして私の右腕に止まると、獪岳の伝言を語り始めた。

 

 

「言イカ。聞キ逃スナヨ。『手短に説明するぞ。俺との協力関係が音柱にバレた。お前達が俺と「ときと屋」で会ったことを音柱のネズミ達が伝えたらしい』」

「あー、バレちゃったのね。まあ、確かに宇髄さんのことは警戒していたけど、ネズミ達のことは抜けていたからね」

 

 

獪岳のメッセージを聞いてすぐに私は額に手を当ててそう言った。

 

獪岳と会うようになってから、私はよく辺りを警戒するようにしていた。鬼殺隊の中でも、特に善逸達や鎹鴉、宇髄さんのことを一番警戒していた。善逸達は炭治郎と同様に感覚が鋭いのでバレやすいし、鎹鴉は飛べるので、空からの追跡には気づきづらい。炭治郎も空からでは匂いが分かりづらく気づけないのだ。宇髄さんは元忍なので、神出鬼没で自分では気づかないうちに尾行されているかもしれない。というか、私はもう既に背後をとられて首元に小刀を突きつけられたんだよね。それで、獪岳に会う時も宇髄さんに見つからないようにしていたんだけど...ネズミ達のことは想定外だった。原作では刀を持って来させて炭治郎や伊之助達に渡すことをしていたが、見張りとかもしていたのと驚いたよ。私はてっきり宇髄さんとずっと一緒に行動していると思っていたんだけど......。ネズミ達をあちこちに派遣したのは、前世でこの後の展開が分かっているから少し余裕を持ててその配慮をしていたのか、あるいは獪岳のことを最初から獪岳のことを怪しいと思っていたのか。.....それとも、ただ刀をすぐに運べるように近くにいただけなのか、原作でも裏でネズミ達が見張っていたとかなのかな.......。もし最後のだったら、そんな裏設定をあったのかと初めて知ることになるな....。って、今はそれよりも獪岳の伝言を全部聞かないと...。まだ続きがありそうだからね。

 

 

「ごめんね。続きを.....あれ?そういえば、獪岳はどうしてそれに気づいたの?」

「アア。ココニ来ル途中デ、音柱ノ鎹鴉ガポーズヲ決メナガラ言ッテタカラナ。聞イテスグニ獪岳ニ頼マレタ」

「なるほど、そういうことね。では、続きをお願いします」

 

 

私は宇髄さんのネズミ達のことを答えるのを止めて、獪岳の伝言を全部聞くことにした。その時、獪岳がどうやってそれを知ったのかが気になって尋ねてみると、そう返事が返ってきた。宇髄さんの鎹鴉は確か派手で着飾るのが好きなんだよね。獪岳に話したのは私達に後できっちり話してもらうからなという意味か、それとも鎹鴉が勝手に喋っただけなのか.......。..........どっちもありえそうかな。もしかしたら別の意図があるかもしれないけど、宇髄さんの鎹鴉のことも置いておこう。先に獪岳の伝言を全部聞いておかないと。

 

私は獪岳の鎹鴉の言葉に納得して先を促した。

 

 

「オウ。『どうやら音柱達に俺達のことはもう分かっているようだ。この戦いが終わったら俺を捕まえる気らしいから、とりあえず俺は鬼殺隊を抜けてお前達のところに行くぞ』」

「....えっ。確定ですか」

 

 

決定事項のように言う獪岳の伝言に私はツッコミを入れてしまった。

 

まあ。なんか獪岳らしいですし、鬼殺隊にバレてしまったのなら仕方がない。獪岳は元々私達と行動する気だったところを私が獪岳に頼んだからね。危ない橋を獪岳に渡らせたのは私が原因だ。獪岳は情報を私達に漏らしたことで何かしらの処罰があるかもしれないし、何処かに匿った方が良さそうよね.......。

 

 

「まあ、仕方がないですよね。それで、この戦いが終わったら獪岳と貴方も一緒に来るということね」

「流石。話ガ分カル。『それと、他の柱も向かってるようだ。あの姿を消せる術の紙を持っているが、柱が何人も来たら逃げるのは困難だ。だから、他の柱がここに来る前に終わらせるぞ』」

「あ、うん。....って、それはつまり........」

「『俺達が鎌の鬼の頸を斬るから、お前達もさっさとあの帯を使う鬼の頸を斬れ』」

「や、やっぱり.....。そういうことだよね....。今はそれが効率的には良いんだよね.......。でも..........」

 

 

私はとりあえず獪岳と鎹鴉がそのまま一緒に行動することを承諾し、鎹鴉はそれに頷いて獪岳の伝言の続きを話し始めた。私は獪岳の伝言の前半部分で何を言いたいかを察し、その続きが予想通りのことをだったで苦笑いしてしまった。

 

 

まあ、確かにそれができればすぐにこの戦いは終わる。さっきの妓夫太郎の斬撃で両断されてしまったから、その方が良いだろう。獪岳と炭治郎なら大丈夫だろう。だけど.............

 

 

 

 

こっちはどうしよう......。禰豆子は堕姫と白熱した戦いをしているし、両断された時に宇髄さんとは離れたけど、少し離れたところに善逸と伊之助がいるし、この状況でどうすればいいのだろう.....。先が思いやられるよ....。

 

 

 

 

 

 




華ノ舞い

紅の葉 陽日紅葉

炎を纏った刀で円を描くように振る連続斬撃。一息で瞬きの間に前方多斬撃ができる。その斬撃の軌跡はまるで紅葉が舞うように見える。



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笹の葉の少女は賭けに出る

私は妓夫太郎の斬撃によってできた地面の裂け目を見た。

 

妓夫太郎の斬撃で抉られてできたこの地面の裂け目。幅はそんなに大きくはないから私でも高く跳べば飛び越えられる。しかし、ここを飛び越えようとしたら、空中に少しの間だけどいることになる。空中だと避けるのは難しいし、避けれても着地の場所がズレて裂け目の中に落ちてしまうこともあり得る。そうなると、やっぱり両断されてこっちにいる人達で戦うしかない。

 

 

私はこの両断された状況をなんとかできないかと考えたが、それは難しいそうなので諦め、戦いの現状を確認することにした。

 

 

今の状況は妓夫太郎の方に炭治郎、獪岳、宇髄さんがいて、堕姫の方に禰豆子、私、善逸、伊之助がいる。炭治郎達の方を見てみると、炭治郎と獪岳が主に動いて、宇髄さんがさりげなく援護している。それに、宇髄さんは炭治郎のことを気にして、できるだけ視線に入らずに声をかけるにしても獪岳を経由している。流石は宇髄さん、煉獄さんみたいに真正面から行かずに配慮してくれている。炭治郎も特に息切れなどの症状はなくて大丈夫そうだ。だが、心配なのはこっちの方だ。

 

 

私は炭治郎達の方を見て少しほっとした後、禰豆子や善逸達の様子を見て頭を悩ませた。

 

 

禰豆子は未だに堕姫と単独で戦っている。禰豆子と堕姫の戦いは五分五分....いや、堕姫が妓夫太郎の目の力を使い始めたから堕姫の方が優勢ね。だが、私も善逸も伊之助もこっち側にいるから、加勢に入れば形勢逆転できる。特に、善逸と伊之助は二周目だし、戦った経験もあるからとても心強い。しかし、問題は禰豆子が善逸と伊之助と連携をとってくれるかなんだよね...。禰豆子が少しでも冷静になれたら連携をとれるかもしれないが、今の禰豆子は完全に暴走状態なので無理だと思う。善逸と伊之助もそれを察して加勢をしようにも躊躇ってしまっているようだから、禰豆子を落ち着かせて私の説得を聞ける状態にできれば良いんだけど、私の話を聞いてくれるかどうか分からない。

 

あと、個人的にあの禰豆子と堕姫の戦いに入りたくないな....。.....入らないといけないのだけど。それに、私の体の方も限界に近い。やはり華ノ舞いの陽日紅葉を使ったのが原因だと思う。華ノ舞いのあの現象は体がしばらく動かすことができなくなると同時に体力も奪われてしまう。妓夫太郎と戦い、その次に妓夫太郎と堕姫二体とも戦い、二手に分かれた時に堕姫と戦った。そして華ノ舞いの陽日紅葉を使い、宇髄さん達のところに着くまでも合わせて、かなりの体力を消費してしまっている。今の私に長期戦は無理だし、体力的に考えても少ししか戦えない。禰豆子と善逸達なら私がいなくても堕姫の頸を斬れるけど、戦いの途中に禰豆子と善逸達で喧嘩(禰豆子の一方的な)が始まったら仲裁することができない。いくら禰豆子でも戦いの最中はそんなことしないと思いたいが、はっきりと言えないんだよね。実際に堕姫との戦いでお構いなしに宇髄さん達に蹴りを入れているし。

 

 

「ううっ。今すぐに獪岳が二人になってくれないかな」

「無理ダロウ」

「ですよね。そんなことは分かっていますよ」

 

 

私はこの状況を一緒に止めてくれそうな獪岳が来てくれないかなと少しだけ現実逃避し、遠くを見てしまった。私のその言葉に鎹鴉は空気を読まずに現実を言い、私は不貞腐れたようにそう言った。

 

 

何故獪岳なのかって?炭治郎が来たら互いに微妙な空気になると思うし、宇髄さんが来たら禰豆子がますます怒るのは目に見えているからね。消去法で大丈夫なのは獪岳なんだよね。

 

 

「オイ、獪岳の伝言ハマダ終ワッテナイゾ」

「えっ?続き?」

「アア。『あの過保護な番犬とカス達がいるから、お前にとっては最悪な状況になっているだろうが、俺達にも迷惑をかけないようにしろよ』ト言ッテタゾ」

「いや、かなりの無茶ぶりですよ!」

 

 

もう獪岳の伝言は終わったのだろうと思っていた私に鎹鴉がそう言った。私はそのことに驚きながらも鎹鴉が話す獪岳の伝言の続きに耳を傾けた。だけど、獪岳の伝言を聞いてすぐに私は大声で言ってしまった。

 

 

「『無茶ぶりとかなんか言っている暇があったら、さっさと体を動かせ。あいつらが何かやる前に主導権ぐらいは握っておけ』」

「まったく。獪岳は獪岳で大変なのでしょうけど、こっちもこっちで色々と大変なのですよ...」

 

 

しかし、私の声なんて獪岳の伝言は聞いておらず、鎹鴉は獪岳の伝言を私に伝えていた。私はこっちの状況も知らない獪岳の伝言に文句を言っていた。まあ、私が今言っていることは獪岳に伝わってないのだろうが....。

 

 

「『俺にはお前達の状況は分からねえが、文句を言っている暇もねえぞ。そんなに悪い状況なら、お前がなんとかしろ』」

「うっ。そんななんとかしろと言われても.....」

「『俺達を相手に打ち合い稽古や鬼ごっこで必死に抗い続けるだろう。最悪な状況もそれでなんとかしろ』」

「うっ、....うん...」

 

 

私の考えていることを察したかのように言う獪岳の伝言に私は図星を突かれたて頷いてしまった。なんだかんだで獪岳は私に色々と教えてくれていたし、一応師弟関係のようなものだから、私の考えていることは大体分かるのかもしれない。

 

 

「『それと、お前は全員で協力とか考えているなら、その考えは今は無しだ』」

「.....えっ?」

 

 

私は獪岳の伝言を聞いて驚いた。獪岳がそこまで気づいていたことも驚いたが、それよりも獪岳が突然善逸達と協力するのを諦めるように言われたことの方が驚いた。

 

 

「『お前も分かっていると思うが、そいつらの関係からして、今からすぐにそいつらが協力し合える関係になれると思ってねえだろう。そんなに上手く関係が修繕できるとは流石のお前も思っていないだろ。無理だと分かってたから、上弦の陸を使って強引に巻き込ませたんだろ』」

「で、でも........」

「『いいか。俺達はあの鎌の鬼の頸をさっさと斬る。だから、お前も早くその帯の鬼の頸を斬れ。それに集中しろ』」

「鬼の頸を斬る.....それだけに集中する.........」

「『それでもお前が止めないなら勝手にしていろ。だが、俺達の目的は上弦の陸の鬼の頸を斬ることだ。どんな方法でもいいから、終わらせろよ』」

 

 

獪岳に私の心の中を当たられて私は思わず動揺してしまったが、獪岳の言ったことが正論なのは分かる。体力を消耗している私は堕姫との戦いで足手まといになるのは確実だ。だから、禰豆子と善逸達に協力して戦ってほしかった....。しかし、善逸達は喜んでそうしてくれそうだが、禰豆子は違う。禰豆子の善逸達に対する怒りは私が想像するよりも強いのだろう。そんな禰豆子も状況によっては渋々善逸達の手助けをしてくれるが、本当はやりたくないのだろう。禰豆子にそれを曲げてもらうように頼んでいる私が酷いのは分かっている.....。...でも........。それに、そんな禰豆子があの興奮状態のまま善逸達と協力することは無理だということは分かっている...。だけど........。

 

 

「『まあ、お前が他に打つ手がないのかは分からねえが、一つだけ言うぞ。俺の速さには負けるだろうが、お前は俺から教わった雷の呼吸が使えるし、他の呼吸も使えるんだ。やろうと思えばやれるだろ。なんなら、さっきみたいに強引にあの番犬とあのカス達も利用してな。それら全部を使えばお前も速く鬼の頸を斬れるだろう』」

「速さ.....雷の呼吸....華ノ舞い.........他の呼吸も合わせて......。....そうだね。一度やってみるしかないよね...」

 

 

獪岳の伝言を聞き、私はそれを復唱していると、ある考えを思いつき、実行することを決意した。

 

いや、実はずっと考えていた。しかし、それを実行しなかった。これはとても可能性として低い....もしかしたらという思いつきのようなものであり、決定打は堕姫に追いかけられた時に発動したあの華ノ舞いだから。でも、これが上手く行けば.......この仮説が正しければ......。

 

 

「禰豆子ちゃん!?」

「おい!ねず公!」

 

 

善逸と伊之助の声が聞こえ、私は鎹鴉から視線を外してその方を見た。そこでは禰豆子が堕姫の帯によって両手両足を絡みとられ、動きを止められてしまっていた。堕姫は禰豆子の両手両足を引きちぎろうと帯がさらに巻きつかせ、善逸と伊之助が禰豆子を助けようとしていた。

 

時間もなさそうね....。

 

 

「『もしあのカス達と協力とか甘いことではなく、何か別の作戦があるなら、さっさと実行して終わらせろよ、アホ』」

「......分かっていますよ。...ありがとう、獪岳」

 

 

獪岳の伝言の続きを鎹鴉が言い、私は少し口角を上げてそれに答え、獪岳にお礼を言った。

 

どう転ぶかは分からないけど、こっちもしっかりやりますよ。

 

 

「伝言はこれで終わりかな」

「アア。ソウダ」

「それじゃあ、お願いがあるのだけど良い?私の背負い箱を持って戦いが終わるまでここから離れていてね。くれぐれも巻き込まれないように」

「分カッタ。ソッチモ気ヲツケロ」

「うん。ありがとうね」

 

 

私は鎹鴉に獪岳の伝言が終わりなのかを確認し、鎹鴉に自分の背負い箱を渡し、それを持って戦いに巻き込まれないように離れているように頼んだ。鎹鴉はそれに従いながらも私に気をつけるように言った。私はその気遣いに感謝した後、真っ直ぐに前を見た。一度手足を動かせない状態になったせいか、禰豆子も冷静になれたようだ。無闇矢鱈に暴れようとせずに手足に巻きついている帯をなんとかしようとしている。

 

とりあえずやってみようと思うが、これは本当にまだ仮定の段階だ。できれば事前に確かめておきたかったのだけど、今は時間がない。少しでも勝てる可能性を上げないと。背負い箱を預けたのだって勝てる可能性を上げるためだ。とにかく、この戦いをすぐに終わらせないと。

 

 

「善逸!伊之助!禰豆子の手足に巻きついている帯をすぐに斬れる?」

「あ?んなこと簡単だぁ!」

「彩花ちゃん?できるけど、何をする気なの?」

「まあ、内緒かな。できるだけ速く斬ってほしいの。禰豆子!手足が自由になったら、すぐにその場から離れて!もう冷静になれたでしょ!今はこの戦いをさっさと終わらせる方を優先するよ!」

「う、うん!」

 

 

私が善逸と伊之助に呼びかけると、伊之助は怒りながらも言い、善逸が何をする気かと聞いてくるので、とりあえずは内緒と言って誤魔化し、禰豆子に声をかけた。禰豆子は私の声がしっかり聞こえたらしく頷いていた。その後、善逸から『内緒って何!?それはそれで怖いんですけどおぉぉ!?』という声が聞こえた気がしたが、気のせいなのだろう。私は善逸と伊之助、禰豆子の全員が話を聞いてくれたことで次の行動に移れることに安心し、左手に持っていた刀を強く握って目を瞑った。

 

 

チャンスは一度だ。私の体力は殆ど消耗してしまっているため、やるとしたらチャンスはこの一度しかないだろう。失敗したら動けなくなってしまう。しかし、長時間も私は戦えない。どっちにしろ、ここで決めておかないと。

 

()()()()()()刀を抜く音が聞こえ、私は目を開けた。

 

 

そのためにも、しっかりと目に焼き付けておかないと!

 

 

「獣の呼吸 伍ノ牙 狂い裂き」

「雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃 神速」

 

 

伊之助と善逸が禰豆子に巻きついている帯を含めて全ての帯を斬り、禰豆子は帯が斬れた瞬間、地面を蹴って跳んだ。そこを善逸が受け止め、禰豆子を連れてそこから離れた。

 

流石に善逸の霹靂一閃 神速は目に追えなかった。私が目で追えないことは予想していたけど、目の前で見てみると圧倒されかけた。しかし、今は圧倒されている場合ではなかったので、なんとか踏み止まって集中した。

 

 

 

目にも追えない速さ......私にできるかどうかは分からないけど.....あれと同じくらい...いや、あれよりも速くできたら......。....刀を構えた場所から堕姫のところまで一瞬で移動した速さを.........。

 

 

 

私が善逸の霹靂一閃 神速と自分が霹靂一閃を使った時の感覚を思い出していたその時、熱が体中に巡ってくるような感覚がした。刀からパチパチという音が聞こえてくる。

 

 

「あ、彩花ちゃん!?音が....それに、刀が...いや、目も.......」

「おい!気配が雷のようにって....彩芽!なんか黄色くなっているぞ!変なもんでも食ったのか!」

 

 

善逸と伊之助が私の変化に驚いていた。

 

今はお面をしていないから、今回ははっきりこれを見られたな。まあ、華ノ舞いのことは言ったし、既に無色透明の刀も見られたのだから、もう隠さなくてもいいか。逆に、後で説明しやすくなったと思っておこう。それに、善逸と伊之助の言葉で私の今の状況を大体理解できたし。

 

 

私がそう思っていると、先程の善逸の霹靂一閃 神速が頭の中で繰り返された。しかも、繰り返される度に善逸の動きがだんだん遅くなり、私でも動きを認識できるくらいの速さになった。すると、私の体が勝手に動き出した。私はその時にやっと自身の刀を見ることができた。私の日輪刀は善逸と伊之助の言った黄色になっていた。模様も葉と形が変わって梔子の花が出てきた。時々刀に雷が走ることがあるので、私はこれがどういう型なのかすぐに確信できた。そんなことを頭の中で考えている私を他所に体の方は刀を構えていた。

 

 

「華ノ舞い 雷ノ花 梔子(しし)一閃」

 

 

私はそう言いながら一回その場で回り、ステップを踏んだ。次の瞬間、私の体は堕姫の前にいて回りながら頸を斬っていた。斬り終わった後、私は同じステップを踏んで元の場所に戻り、また一回その場で回った。

 

 

私は華ノ舞いを使えたことと堕姫の頸を斬ったことに喜ぶと同時に驚いた。

 

禰豆子を無事に救出して堕姫の頸を斬れたことは嬉しいが、成功したことに驚いた。華ノ舞いに関しては本当に確信なんてなかった。これを思いついたのはこれまで起きたあの変化のことを思い出してみて、ある事に気がついたからだ。それは私のあの変化が起こる前に、私が呼吸の型と原作の場面を思い出している時にあの変化が起きていることがあった。何回かはその状況の場合があったが、勿論そうじゃない場合があったために違う可能性もあった。しかし、バラバラなあの変化の発動条件の中で数少ない手がかりのようなものだったので、それに賭けてみることにした。結果、予想以上に上手く行ったうえに新しい型が使えるようになったのだから、無事に成功できたと言えるのだけど、何か引っかかるんだよね...。この方法で確かに使うことができたが、何かが違う気がしてならないのよね.....。何か一つでも分かったと思ったら、また別の謎が増えていったような....。華ノ舞いに関してはまだ分からないことだらけね.......。

 

 

「彩花!危ない!!」

「彩花ちゃん!早くそこから離れて!」

「えっ?」

 

 

私が華ノ舞いについて色々と思案していると、禰豆子と善逸の慌てた声が聞こえてきたので、私は考えるのを止めて顔を上げた。次の瞬間、目の前から強い衝撃を感じ、私はその衝撃によって吹き飛ばされた。

 

 

どうやら炭治郎達の方も終わったみたいね....。これは多分.....原作で炭治郎が妓夫太郎の頸を斬った時に起きた爆風だろう。こんな形で勝ったことを知るなんてね....。まあ、勝てたことは良かったのだけど、炭治郎と獪岳は無事かな......宇髄さんも.....。

 

 

「うぐっ!?」

 

 

私は自分が吹き飛ばされていることを忘れて炭治郎達のことを考えていた時、何かにぶつかったような衝撃を感じた後、そのまま意識を手放してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイ、彩花!何処ダ!」

「うっ...うーん......」

 

 

遠くから誰かの声が聞こえた気がした。私の意識が浮上してその声が誰なのかを知ろうと目を開けた。目の前に広がったのは星がとても綺麗に見える夜空だった。

 

.........あれ?私、どうして倒れているのだろう.....?

 

 

私が夜空を見上げながらもまだ目覚めたばかりの頭で思い出そうとしていると、誰かがこっちに向かっていることを気配で感じた。私は誰が来たのかを確認するために体を動かそうとしたが、体が重くて動かしづらかった。それで、無理に体を起き上がらせてみたら、肋の部分がとても痛くてまた倒れてしまった。その動きで木や板が何かに当たって折れていく音が聞こえた。その音で私が現在瓦礫の上にいることに気づくと同時に、爆風で吹き飛ばされたことを思い出した。

 

 

なんとか思い出せたのは良いけど、それよりも肋が痛い!体が重いのは華ノ舞いの反動なんだと思うが、肋は戦いの中で折っていなかった。おそらく...いや、絶対に気を失う直前に感じたあの衝撃が原因だと思う。まだ凄く痛いし、きっと折れているだろうね....。

 

私が痛みに悶え苦しんでいると、上から羽音が聞こえてきた。私はその音が聞こえる方を見て安堵した。

 

 

「ここだよ。.....あの爆風に巻き込まれなかったみたいね。無事で良かった」

「カアーッ!言ウ通リニ離レタカラナ。ホレ」

 

 

羽音の正体は獪岳の鎹鴉だった。鎹鴉は私の背負い箱を足で掴んだまま私の真上まで飛び、私の近くに背負い箱を下ろした。

 

 

「背負い箱を持っててくれてありがとう。ところで、炭治郎達はどう?無事?」

「炭治郎ト獪岳ハスグニ見ツカッタ。爆風カラ距離ヲトレテイタヨウデ怪我ハナカッタゾ。爆風ガ修マッタ後、二人トモ禰豆子ト彩花ヲ探スコトニシタ。アノ爆風ノ混乱ノ隙ニ善逸達ト離レタラシイ禰豆子トハ既ニ合流シテタ。禰豆子モ知ッテタカラ元気ソウダッタゾ。残ルハ爆風デ飛バサレタ彩花ノ行方ダケガ掴メテナカッタカラ、コウヤッテ皆デ探シ回ッテタ」

「ということは、私は炭治郎達とかなり離れてしまったのね」

「アア。カナリ見ツケルノガ大変ダッタゾ」

 

 

私は背負い箱を持ってきてくれたことにお礼を言い、気になっていた炭治郎達の様子を聞いてみた。鎹鴉は一度炭治郎達と会っていたらしく、炭治郎達の現状を知っていたので、色々話してくれた。私はとりあえず炭治郎達が無事だったことに安堵した後、炭治郎達とどうやって合流するか考えた。話からして炭治郎達と離れてしまっているようだし、鎹鴉もそう言って頷いている。

 

 

できれば鎹鴉に案内してもらいながら私が自分の足で歩いて向かえればいいのだけど、今の私はあの反動で体を上手く動かせなくて、しかも肋骨がおそらく折れている状態だ。そんな状態で一人で歩いていくのは難しい。肋骨が折れているだけなら、なんとか何かを支えにしながら歩くことができたと思うが、華ノ舞いの反動が想像より大きく、ここから起き上がることもできるかどうか....。

 

 

「.....そういえば、あの爆風が起きたということは、炭治郎達は無事に妓夫太郎の頸を斬れたということで良いね」

「アア。獪岳ガアノ毒ヲ使ッテ、隙ヲ作ッタカラナ」

「あら、獪岳が私の作った麻痺毒を使ってくれたの。まだ試作品段階だったけど、上弦の陸に一瞬の隙を作れるほどの効果はあったのね。うんうん」

「......少シハ自覚シテヤレ。効果ハ絶大ダッタソウダゾ」

「えっ?それって、私が妓夫太郎と戦った時に使った麻痺毒よりも効果は上だったということだよね。やったー!大成功!」

「マア、ソウナンダガ........」

 

 

私はあの爆風で分かってはいるが、鎹鴉に炭治郎達が妓夫太郎の頸を斬れたことを確認すると、鎹鴉から獪岳が私の麻痺毒を使用して隙を作ったことを聞き、内心とても驚いた。獪岳なら私の毒を使わなくても自分の力でと考えそうだけど、妓夫太郎が強すぎて使ったのかな...。まあ、何にせよ、獪岳が少しでも成長しているということが分かったから良かったのかな。それと、私のあの試作品の麻痺毒の効果も分かったし。

 

.....えっ?いつ獪岳に麻痺毒の試作品を渡したのかって?私が再び堕姫と妓夫太郎を分割するために動く前、納得していない獪岳の肩に左手を置いて頼んだ時にこっそりその試作品を渡して、『きっと何かの役に立つから』と耳打ちしたの。試作品の麻痺毒の入った注射器でそのまま投げて当たれば自動で毒を注入できるので、もしピンチに陥った等の緊急事態になった時に、この試作品でも何かしらの役には立つと思うからね。

 

 

私は試作品が炭治郎達の役に立ったことを喜んでいると、鎹鴉が呆れた目でこちらを見ている。私は首を傾げながらも試作品の麻痺毒の効果が前よりも上がったことを言っていると気づき、少しでも調合の技量が上がったことを喜んだ。しかし、鎹鴉はそんな私の様子を呆れたような目で見ていた。どうしたのかな?

 

 

「.....そういえば宇髄さん達は?炭治郎達は宇髄さん達と会っていない?それは大丈夫?」

「大丈夫ダ。音柱ハトモカク他ノ二人ガ彩花ヲ助ケヨウトシテアノ爆風デ少々巻キ込マレテシマッタヨウデ、音柱ハソノ二人ヲ探シニ行ッタゾ。炭治郎達ハ上弦ノ陸ト何ヤラ話ヲシテイタ」

「そうね....。それなら大丈夫そうかな.......」

 

 

私は鎹鴉と話をしながら炭治郎達が宇髄さん達と鉢合わせしないかが心配になった。鎹鴉に宇髄さん達について聞いてみると、どうやら宇髄さんはあの爆風に巻き込まれなかったが、動けない状態の私を助けようとした善逸と伊之助は私と一緒に巻き込まれてしまったようだ。善逸、伊之助、助けようとしてくれてありがとう。巻き込んでごめんね。

 

炭治郎達は妓夫太郎と堕姫の頸に用があるみたいだ。おそらく原作の時のように、炭治郎と禰豆子が言い合っている妓夫太郎と堕姫と話をして、妓夫太郎と堕姫は仲直りして仲良く地獄に向かう.....という流れになるのかな。

 

 

まあ、鎹鴉が炭治郎達と宇髄さん達との距離が離れているから会えないだろうと言うのなら、それは確かなのだろう。とりあえずは一安心。

 

 

「炭治郎達と合流したいけど、私の体が全く動かないんだよね。炭治郎達が来るのを待つしかないか....あるいは......「無理ダ」.....ですよね....」

 

 

私は炭治郎達と合流しようと思っているのだが、体が全く動かないので、炭治郎達が来るのを待つか、それとも他の方法をと考えて鎹鴉を見て、ある事を思いついたが、鎹鴉はそれを察してすぐに拒否した。私も自分が思いついたことを実行するのは無理だなと冷静になってそう思った。

 

ちなみに、何を考えていたのかというと....あの背負い箱のように鎹鴉に少しでもいいから私を引っ張って、無理矢理に動かすことができるのではというものだ。......改めて思うと、私は何を考えているのだろう...。疲れているのかな....。上弦の陸との戦いと新たに二回の華ノ舞いを使ったことで思ったよりも疲れが溜まっているのだろうか.....。

 

 

「......はあ。仕方がない。炭治郎達がここに来るのを待つしかないのかな....。今のところ、炭治郎達と宇髄さん達が出会う可能性は低いようだし、このまま炭治郎達が宇髄さん達と会わないように祈って待っていよう......」

 

 

私は大きく息を吐いて寝っ転がったまま炭治郎達を待つことにした。私の頭の中は炭治郎達のことばかりで、炭治郎達が宇髄さん達に会わないように、炭治郎が無事でいるように、別の戦いが始まらないようにと祈っていた。...それらで頭がいっぱいだったのだろう。だからか、私は気づけなかった。

 

 

「よお。俺達が何だって?」

「........えっ?」

「エッ!?」

 

 

突然私達の近くから聞き覚えのある声が聞こえた。私達の近くに誰かがいる。私はこの聞き覚えのある声にまさかと思って目を見開き、鎹鴉は驚きながら忙しなく羽ばたかせ、辺りを見渡してきた。すると、上からその声の主、宇髄さんが降りてきた。

 

 

「えっ!?宇髄さん!?どうしてここに!?」

「あいつらが吹き飛ばされたから、探しに来ただけだ。そしたらテメェらを見つけて、そこから様子を見てた」

 

 

私は宇髄さんの登場に驚きながら聞き、宇髄さんが後ろにある壁のような大きな瓦礫を指差しながらそう言った。宇髄さんの話を聞いて、私は何で気がつかなかったのだろうと思った。

 

 

善逸と伊之助は私を助けようとしていた.....つまり、それは善逸と伊之助が私の近くにいたということだ。そして、近くにいた善逸と伊之助も吹き飛ばされたのなら、この近くにいるのも当然だ。

 

 

「......スマナイ。ソコマデ確認シテナカッタ」

「いや、私もそのことに関しては気づかなかったからお互い様だよ。それに、相手は宇髄さんだし、仕方がないよ」

「本当ニスマナイ....」

「だから、大丈夫だって!気にしてないよ」

 

 

鎹鴉は宇髄さんに気がつかなかったことにショックを受けて私に謝っている。だが、私はお互い様だから大丈夫だよ、気づかなくても仕方がないことだと言った。だって、私は鎹鴉が悪いとは思っていないし、そもそも獪岳の鎹鴉は働き過ぎだと思っている。私達との連絡や近状報告などをしてくれて凄く助かっているけど、本当にあれこれ動いてくれるから過労死しないか不安になる。しかし、獪岳の鎹鴉はとても真面目で仕事熱心な性格なので、こういった失敗があると後悔して落ち込むし、どんな仕事でも真剣に取り組んでいる。そういう性格なので、私達が休んでいるようにと言っても仕事をしている。

 

私が励まそうとしても鎹鴉は謝り続け、私は大丈夫だから、気にしないでとか言って鎹鴉を落ち着かせようとする。数分が経って鎹鴉が立ち直り、私はそれに安堵した後に宇髄さんの方を見た。宇髄さんは私達が落ち着くまで何も言わずに見ているだけだった。

 

 

...一体何が目的なのかな?

 

 

「......先程からこっちを見ていますけど、何か御用がありますか?」

「そうだな....。まあ、聞きたいことは色々あるが、簡単に言うとテメェらを御館様のところに連れてくるよう伝令が来たから、テメェらは大人しく俺達と来てもらう。特に、御館様はテメェに用があるみたいだからな」

「御館様が?」

「ああ」

 

 

私が宇髄さんに聞いてみると、宇髄さんから驚くべきことを言った。私は叫びそうになるのを耐えて普通の声でそう聞くと、宇髄さんに頷かれた。

 

 

御館様が私に用って何!?何があるの!?何か聞きたいことでも.......華ノ舞いのことかな?見たこともない呼吸について聞きたいのか、それとも華ノ舞いについて何か知っていて、そのことで何か話したいことがあるのか.....。私的には後者の方が華ノ舞いについての情報が少しでも分かるかもしれないから良いな。もしかしたら、炭治郎達のことを聞きたいとか他のことで用があるかもしれないけどね。ちょっと気になるが、今の炭治郎達を連れて行くのは駄目ね。鬼殺隊の考えは分かるけど、今の状態だと炭治郎はまだ駄目そうだし、禰豆子は大暴れしそうだからね....。.....でも、それはあっちも分かっているのに...。

 

 

「分かっていても、気がかりなんですね」

「ああ?何がだ?」

 

 

私の言葉に宇髄さんは反応した。私はそれを見て、やっぱりなのねと思いながら続きを話した。

 

 

「炭治郎と禰豆子の今の状態は分かっている。そっとしておいた方がいいというのも分かっている。だけど、炭治郎は鬼舞辻無惨に狙われていたし、禰豆子は太陽を克服した鬼だから、ほっとくことができない。何よりも、貴方達に起きた状況や前とは違うこと......これらがあるから、炭治郎達を見逃すことができない。知っていても、分かっていても、何かあってからでは遅いから....。あまり気乗りはしないけど、それでもやらなければならないことなのですね......」

「.....テメェ、ホントに何者だ?」

「ただ、話を聞いていて、その変化を知っているだけ......。炭治郎や禰豆子、鬼殺隊を知っているだけの人だよ...」

 

私は、ただ原作を読んでいたから....少し違いがあっても、炭治郎と禰豆子のことを、鬼殺隊のことを知っているから、どんな思いを抱いているかなんとなく分かっているだけなんだ.....。

 

 

私は心の中でその続きを言った。原作の知識でなんとなくだけど、炭治郎達のことを考えると鬼殺隊側の気持ちは理解できる。例え、炭治郎達が会いたくないと思っているのが分かっていても、炭治郎達が鬼舞辻無惨に狙われる状況を見過ごすわけにはいかない。前回と違って、今回の炭治郎達は鬼殺隊に入っていない。私や鱗滝さん、珠世さん、兪史郎さん、獪岳がいるけど、少人数なので限りがある。こんなどう転ぶか分からない状況であるから、ほっとくことができない。......複雑な気持ちだな...。いや、複雑なのは私よりも.....。

 

 

「分かっていてもやらないといけない、そういう立場だと、とても複雑な気持ちなのでしょうね」

「うるせぇ....」

 

 

私が宇髄さんを見ながら言うと、宇髄さんはそう言った。ただその声からでも、炭治郎達を捕まえるのは乗り気ではないことが分かる。

 

 

.....こういった意味でも捕まりたくないな...。でも、反動で動くことができない私が宇髄さんを撒いて逃げることはできないし........。.......ここで炭治郎達が来るのを待っていたら...宇髄さんを相手に、お荷物の私を抱えて逃げるとなると.......。....炭治郎達に後であれこれと言われると思うけど...今はじっくり話し合って決める時間がないからね。.....よし。

 

 

「...ねえ、鎹鴉。ちょっと、いい?」

「......何ダ?」

 

 

私は意を決して鎹鴉に声をかけた。鎹鴉は私が動けないことを考慮して近づいてきてくれた。

 

 

「今からすぐに炭治郎達のところに行って、このことを伝えに行ってくれる?そして、すぐにここから離れてって伝えて」

「ソ、ソレハ......!?」

「炭治郎達だって上弦の陸との戦いで疲れているでしょう。今から宇髄さんと鬼ごっこしながら追っ手含めた鬼殺隊の人達を撒くとなると大変なのは目に見えているからね。その上、反動で動けない私も連れて行くとなると、すぐに捕まってしまうと思う。今なら宇髄さんは私の近くにいるし、善逸も伊之助もおそらく近くにいるだろうから、ここから逃げやすいと思う。しかしそうなると、私を置いていくことになるのだけど、その方が炭治郎達も逃げやすいだろう。.......後で色々と言われると思うけど。それに、私もさっきの話を聞いて鬼殺隊に少し用ができたから、いい機会だと思う。炭治郎達には私にも考えがあるから、行ってくると伝えて」

 

 

私は手短に鎹鴉に伝言を頼んだ。鎹鴉は私が何を考えているのかが分かって驚いていたが、私は鎹鴉の動揺を無視して説得した。

 

 

鎹鴉は反対するだろうし、この場に炭治郎と禰豆子がいたら絶対に駄目だと言うし、獪岳にも勝手に何無茶しているんだと頭を抱えて言いそうだが、これが一番良いと思っている。今の私は動けない状態だ。そんな私は走るどころか歩くことすらできない。そして、私の近くには宇髄さん達鬼殺隊がいて私も連れて行こうとすると、宇髄さん達に見つかるのは確実だ。さらに、動けない私を抱えてそのまま逃げるとなると、私達が逃げきれる可能性よりも捕まってしまう可能性の方が高い。それなら.........。それに、どうせなら捕まるというより別の視点で考えようと思う。

 

御館様が聞きたいことが華ノ舞いのことかどうかは分からないけど、御館様と話ができるのなら、その時に華ノ舞いのことも聞こう。華ノ舞いのことを知らない可能性があるが、聞かないよりも一度聞いてみた方がいいし、もしかしたら何か情報があるかもしれないし......まあ、他にも色々理由があるけど、せっかくの機会だと思って行こうかな。

 

 

「.....大丈夫ナノカ」

「大丈夫よ。御館様直々にそう伝令が来たのだから、鬼殺隊の人達が私を殺すことはないよ。御館様は私と何か話をしたいと言っていたからね」

 

 

鎹鴉はまだ心配している様子だが、私はそう言いきった。

 

鬼殺隊の人達が私に疑いの目を向けても私を害そうとは考えないと思っている。特に御館様が話をしたいと言っているのだから、それは絶対にない。何故そう言いきれるのかと疑問に持つ方がいると思う。これは私の勝手な想像だが、おそらく御館様は前世の炭治郎の件には関わっていないと考えている。少し前、炭治郎達と前世のことを詳しく聞いた時に私はそう感じた。私はとりあえず自分が感じたことを信じようと思う。

 

 

「........分カッタ。気ヲツケテナ」

「そっちもね。あと、ついでに私の懐から色々取ってくれないかな?」

「.....ウン?アア、構ワナイゾ」

 

 

私が折れる気がないことを察して鎹鴉は私を説得するのは諦めたようで私に気をつけるように言い、私はそれに笑って返事をした後、鎹鴉が炭治郎達のところに行く前に頼み事をした。鎹鴉は私の頼みに何をするか分からずに疑問符を浮かべていたが、私に近づいて懐にある物を出した。私はそれを確認して鎹鴉に小声で話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい。何をする気だ」

 

 

宇髄さんは私達の謎の行動を疑問に思い、私達に声をかけて近づいてくる。宇髄さんがすぐそこまで近づいてきた時、鎹鴉がバサッという音がはっきり聞こえるくらい翼を羽ばたかせ、それによって鎹鴉が上に飛び、視界に宇髄さんの姿が見えた私は咥えている吹き矢を吹き、矢を飛ばした。宇髄さんはそれに驚きながらもその矢を避け、私の方を見て鎹鴉の方を見ようとした瞬間、宇髄さんの後ろからシューッという音が聞こえ、辺りが煙に包まれた。

 

 

「...チッ。こいつが胡蝶と煉獄が言っていたものか」

 

 

宇髄は煙を見て舌打ちした後、すぐに口と鼻を塞いで彩花と鎹鴉の居場所を探ろうと耳を澄ました。しかし、シューッという煙の音が大きく居場所を上手く特定できなかった。宇髄は彩花達の居場所を特定するのを諦め、煙の外に出る方を優先した。この煙には何らかの薬やら毒が使われているらしいから、この中に長くいるのは危険だと判断したからだ。だが、煙は広範囲まで広がっていて、なかなか煙の外には出られなかった。あっちこっち走ったり屋根の上に登ったりして漸く外に出れた後、宇髄は煙が充満している場所の周りを見た。

 

 

胡蝶と煉獄の話によると、あいつらはこの煙の混乱に乗じて逃げるらしいからな。煙が広範囲にまで広がってるということは、逃げるとしたらあいつらも俺と同時かそれより遅く外に出るしな。あいつは爆風に巻き込まれてボロボロだったし、鎹鴉は飛んでたらここから見えるしな。

 

 

 

宇髄が辺りを見渡して彩花と鎹鴉が外に出るのを待ったが、彩花も鎹鴉も姿を見せなかった。しばらくして煙が晴れ、煙の中の様子が見れるようになった。煙の中から見えたのは横たわっている彩花の姿と近くに置いてある背負い箱だけで鎹鴉の姿は既になかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、さっきまでテメェの近くにいた鎹鴉はどうした?」

「もういませんよ」

「そういうことじゃねぇよ」

 

 

そう私に尋ねる宇髄さんに私は笑みを浮かべて答えた。宇髄さんはそんな私の様子を見て聞き出すのを諦めて辺りを見渡した。

 

 

「......チッ。なるほどな。これから煙が出たんだな」

「流石ですね。気づくのが早い」

「そこから音が聞こえれば、すぐに察せられるぜ」

 

 

宇髄さんはある一点を見た後、舌打ちしてから私の方に視線を向け、私は予想通りに宇髄さんが気づいたので、特に動じずに答えた。そんな私に宇髄さんはそれを指差してそう言った。宇髄さんが指差したのは木屑に刺さった吹き矢だった。実はあの吹き矢は他のとは違う構造をしている。あの吹き矢は刺さった瞬間に液体を注入するタイプの物ではなく、刺さった瞬間に気体や煙を放出するタイプだ。上弦の壱の時のことがあってから気体を放出する投げる球のようなタイプの物だけでなく、吹き矢でもできるタイプの物を作った方がいいと考え、兪史郎さんに相談して作ってもらったのだ。狙ったところに吹き矢が当たれば、その衝撃で吹き矢の側面が開き、そこから凝縮された気体を放出できるようになっている。兪史郎さん、本当に手先が器用だよね。それにしても、兪史郎さんに作ってもらったばかりのこれがこんなに早く使うことになるなんてね。体を動かすことはできなくても吹くことはできそうだったので、鎹鴉に懐から出してもらったのだ。それが上手く使えて想像通りに無事成功することができた。

 

 

「テメェはその様子だと動けねえようだな。だから、テメェはここに残ったということか」

「私を連れて行くとなると、炭治郎達と鬼殺隊が鉢合わせするのは避けられませんからね。貴方達も上弦の陸の次に禰豆子と戦うことになるよりはマシでしょう」

「.....テメェはどっちについているんだ?」

「それは勿論炭治郎達の方ですよ。ただ、争い事はあまり好きではないので、避けられるものはできる限り避けれるように動いているのです」

 

 

宇髄さんが少しも動かない私を見て、私の状態を察した様子で言うので、私は正直に思っていることを答えた。すると、宇髄さんからどっちの味方だと聞かれたので、私は苦笑しながらもまた正直に答えた。

 

まあ、宇髄さんにそう言われても仕方がない。私は立ち位置的に言うと炭治郎達側なのだけど、なんだかんだで炭治郎達と鬼殺隊との仲を取りなしてもいるのよね...。そうなると、どっちの味方なのかと聞きたくなる気持ちは分かる。

 

 

「そういえば、テメェと一緒にいた鎹鴉はどうした?」

「鎹鴉なら煙の時の混乱に乗じて逃がしましたよ。それは宇髄さんも分かっているでしょう」

「いや....そうだがよ........」

 

 

宇髄さんが次に鎹鴉のことを聞いてきたので、私は具体的なことは特に何も喋らずにそう言うと、宇髄さんが納得していないような目で何か言いたげだった。.....まあ、何を聞きたいかは分かっているけどね。

 

種明かしをすると、鎹鴉に吹き矢を取ってもらった時に兪史郎さんの札も一緒に出してもらったのだ。私は吹き矢と兪史郎さんの札を出してもらってからすぐに鎹鴉に言った。

 

 

『いい?宇髄さんが近づいてきたら羽音で私に知らせて。そうしたら私はそれを合図に吹き矢を吹いて宇髄さんの注意を逸らすから、そのまま真っ直ぐに炭治郎達のところに飛んで私のメッセージを伝えてね。煙が突然出てくるけど、それに動揺しないで逆にそれを利用して誰にもバレないように札を使って姿を消して。煙のことは無視して炭治郎達のところに行くことだけを考えてね』

 

 

私は鎹鴉に小声でそう言って吹き矢を咥え、鎹鴉に兪史郎さんの札を持たせた。鎹鴉は少し迷った様子を見せたが、私の言葉にしっかり頷いた。

 

 

兪史郎さんの札は身につけた者を見えなくすることができる。宇髄さんや他の鬼殺隊の人達が鎹鴉を見つけてしまったら炭治郎達の居場所がバレてしまうので、鎹鴉の姿を煙や兪史郎さんの札で隠してしまえば鬼殺隊には見つからない。宇髄さんも煙の音で鎹鴉の羽音を上手く聞き取れないと思う。しかも、この煙の中では気配を感じづらくなっているの。なんか煙が絡みついてくるような感じがしてね......。.......これ、本当は善逸と伊之助対策に色々改造したものだったのだけど、こんなすぐに役に立つことになるなんてね....。

 

 

 

「にしても、随分とド派手なことをしたな。テメェごとあの煙をぶっ放すとは無謀だろ。よく無事だったな。動けねえテメェはあの煙をモロに喰らって普通なら無事ではないだろ。テメェはそういうのに耐性でもあるのか?」

 

 

宇髄さんが体を動かすことができない私に向けてそう言った。観察するように私を見ている。私が毒や薬に対しての耐性があると知ったら、元忍の宇髄さんが怪しむだろうな。忍とかならそういった耐性があってもおかしくないけど.....私は自分で毒や薬の実験をしていたら、いつの間にか耐性がついていましたからね。本当のことなんだけど、嘘だと疑われる可能性があるし、耐性については誤魔化して別のことを話そう。

 

 

「.......流石の宇髄さんもこれには気づかなかったようですね...。私が使ったのは、果たして薬の入った煙なのでしょうか?」

「...........はあっ?」

「少なくとも今回、私はそれを使ったとは一度も言っていませんよ」

 

 

私の放った言葉に宇髄さんは少し間が空いたが、やがて私に視線を向けて声を出した。私は宇髄さんの視線を気にせずにそのまま話を続けた。

 

 

私が毒や薬に対しての耐性を持っていることは誤魔化すが、しかしさっき話したこともまた事実なのだ。那田蜘蛛山で最初に薬の入った煙を使い、無限列車ではそれを改良した物を使用した。二度もその煙を使ったのなら、三度目も同じと思ってしまうのは当然だ。一応あの煙は二度使った薬の気体よりも範囲が広く、煙の色も濃いものだったし、気体の薬は全部無臭だから、そう勘違いしてしまうのも無理はないと思う。ちなみに、この煙を作ったのは一般人が多くいる場所で鬼殺隊と鉢合わせした時のための煙幕として作ったのだ。私達が鬼殺隊を撒くために薬の入った煙を使って、一般人に何か被害があったら大変だからね。煙幕でも迷惑なのは分かっているけど、できる限り一般人が巻き込まれないようにしたい。

 

 

「テメェ....」

「那田蜘蛛山では薬が入った煙は使いましたし、無限列車でも使いました。しかし、同じ煙を今回も使うとは確定していませんから。現に今回の煙は誰もこの中にいて体調が悪くなった人はいませんし、鎹鴉にだって影響はなかったでしょう」

 

 

宇髄さんが私の方をじっと見ていたが、私はまたそれに動じずに言った。

 

まあ、私が今回は薬の入った煙を使わなかったのは一度目と二度目がそうなら三度目もという心理を利用して宇髄さん達を出し抜くことを考えたから、鎹鴉の安全を考えたから、宇髄さんにバレずに鎹鴉を逃がせるのはこの煙を使うしかなかったからの三つの理由があったからだ。私はともかく鎹鴉のことを考えると、薬の入った煙を使うわけにはいかなかった。それに、煙を広範囲に撒くものは煙幕として使う普通の煙しかなく、今持っている毒や薬の入った煙はこれから改造しようとした段階だったので、この煙幕用の煙を使うしかなかったのだ。

 

 

「........テメェ、やるじゃねぇか!」

 

 

私の話を聞いてしばらく黙っていた宇髄さんがそう言った。私が宇髄さんの方を見ると、宇髄さんはとても面白いものを見つけたかのように笑っていた。私はそれに驚いた。それくらい宇髄さんは心底愉快そうに笑っていた。

 

 

「.....どうかしたのですか?」

「面白いじゃねぇか!俺を出し抜くなんてなぁ!こんな面白れぇもん、笑うしかねぇよ!テメェ、確か生野だったよな?」

「えっ、はい。そうですけど....」

 

 

私が宇髄さんに尋ねてみると、宇髄さんはニヤニヤしたまま私の頭を強引に撫でてそう言った。私はそれに戸惑いながら宇髄さんを見ていた。

 

 

宇髄さんが何でこんなに笑っているのかはよく分からないけど、このまま私は鬼殺隊本部のところに連れて行かれることになるのかな。......少し不安だな。原作を見ているから知っているとはいえ、少ししか話していない人や全く話したことも会ったこともない人達のところに一人だけ連れて行かれるのだから、少し心細いよ....。でも、知りたいことも気になることもあるし、何よりも私自身が行くと決めたのだから、ここは腹を括らないとね!逆に連れて行かれると考えるのではなく、こっちから乗り込むという心境で行こう!よし!.........うん?でも、御館様と私の二人きりで話すのはできないよね....それってつまり......。

 

 

「よし!生野!テメェを鬼殺隊本部に連行するぜ!これからテメェらのことで話し合わなきゃいけねぇからな!」

 

 

宇髄さんの言葉を聞いて、私は血の気が引いた。

 

話し合うということは柱が全員集まるんだよね。つまり、それって柱合会議ということだよね!えっ!?私、村田さんが震え上がるあのプレッシャーに耐えないといけないの!?さっきまで乗り込むという心境で行こうと気合を入れていたけど、なんだか凄く不安になってきた。.....だけど、行くしかないのだから、腹を括ると決めたからにはもう行くしか選択肢がない!滅茶苦茶不安しかないのだけど......。炭治郎達のことを考えて気分を紛らわそうかな.....。炭治郎達、無事にここから逃げれたかな....。あっちは大丈夫そうだと思うし、逃げられているよね...。

 

 

 

 

 




華ノ舞い

雷ノ花 梔子一閃

雷を纏った刀を持ったまま、一度回転をつけ、ステップを踏むようにして神速の踏み込みをし、鬼の懐まで飛び込む。鬼の懐に踏み込み、円を描くように回転して刀を振り、またステップを踏むようにして神速の踏み込みで元の場所に戻る。ちなみに、その場に戻った時にも回るのはもう一度同じことを繰り返せるように準備をしているからだ。




次回は「刀鍛冶の里編」ではなく、「鬼殺隊編」です。投稿まで少し時間がかかると思いますが、楽しみにしてもらえるとありがたいです。




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第二章 笹の葉の少女は努力する(鬼殺隊編〜最終決戦編まで)
笹の葉の少女は柱合会議に参加する


えー。今日はなんという綺麗な青い空なのでしょう。雲が一つもない。空には雲は一つもないというのに.....私の心は憂鬱という名の雲で覆われています。何なのでしょう、これは。

 

 

....まあ、この挨拶は置いておきましょう。ちょっとした現実逃避で空を眺めていただけなので。数日前、私達は獪岳の手紙を受け取って吉原に行き、上弦の陸の討伐に成功した。しかし、戦いの中で華ノ舞いを何度も使った反動が大きくて動けなくなった私は宇髄さん達に捕まって鬼殺隊に連行されることになった。と言っても、途中からは私の意志で選んだものだったのだけど.....。しかし、御館様と柱が集まる柱合会議がすることが確定されて、今まさに鬼殺隊本部に着いたところなんですよ。

 

 

....それで、何で数日も時間が経ってから会議をするのかと疑問に思っている方は多分いると思う。一応、私は爆風に巻き込まれた影響で怪我をしてしまった上に一度気絶していたので、私は蝶屋敷で診察を受け、治療してもらった。折れたような感覚がしたから分かってはいたけど、やはり肋骨が折れていたそうで目を覚ました時には包帯がしっかり巻かれていた。数日間、私はあの戦いが終わって緊張の糸が切れたのか眠り続け、目覚めた後もベッドから動かずに蝶屋敷で大人しくしていた。

 

いや、私が逃げないようにずっとしのぶさんや隠の人達に見張られていて、ほぼ監禁状態に近い形だったので、大人しくするしかなかったのだ。その甲斐があってか、私の回復は早く、柱合会議に参加できるくらいには回復したので、トントン拍子に今日の柱合会議が決まった。私は大分回復してきたとはいえ、まだ完治していない怪我人なのに、次から次に予定が決まって本当に忙しい日々だったよ......。

 

 

「...ここが鬼殺隊本部です。中には御館様や他の柱の皆様が既にお待ちしています。それと、ここから先では貴女は刀を持つことはできませんので、刀をお持ちなら私達に預けてください」

「いえ、私は....「あっ、大丈夫ですよ。この子は武器なんて持っていませんから」.....は、はい...。そうです」

 

 

私を背中から下ろした隠が私に言い、私がそれについて話そうとした時、私の見張りや体調が悪化した時の対応をするためとして一緒にいるしのぶさんが先に言い、私はしのぶさんの言葉に頷いた。私がしのぶさんのところに連れて行かれる時に宇髄に刀や吹き矢、薬や毒類が入った背負い箱などの物を全て没収されてしまったのだ。そのため、今の私は丸腰になっているのです。しのぶさんの話を聞いて私が頷くのを確認すると、隠はそうですかとだけ言って、そのまま去っていった。

 

おそらく他の仕事があるのだろうね....。...ああ、私もできれば参加せずにここから去りたい.....。だけど、柱合会議をする原因である私が欠席することはできないんだよね.......。

 

 

「それでは、私達は御館様のところに向かいましょう」

「は、はい!?」

 

 

しのぶさんに声をかけられ、私はさっきまで別のことを考えていたことや緊張していたせいもあり、上擦った声で返事をしてしまった。

 

 

仕方がないじゃない。だって......これから柱合会議が始まるんだよ!御館様や柱全員勢揃いと話すことになるんだよ!これは凄く緊張するし、色々な気持ちになるでしょ!

 

今の私は御館様や柱全員勢揃いと会えることへの期待と柱全員からの視線というプレッシャーへの不安で心がいっぱいなのである。なんとか落ち着かせようとしているのだが、緊張や不安の方が強くて声が上擦ってしまうくらい緊張しているのだ。

 

 

声が上擦ってしまい、両手で口を塞いで俯いている私を見て、しのぶさんがくすくすと笑っていた。私はそれに顔が真っ赤になったのを感じた。

 

 

「そう緊張しなくても大丈夫ですよ。少しお話をするだけなのですから」

「は、はい......」

 

 

しのぶさんは歩きながら私にそう言い、私はしのぶさんの後を追いかけながら返事をした。私はため息を吐きそうになっていたが、ぎりぎり踏み止まった。

 

しのぶさんはそう言っているけど、私は全くそんな感じがしません!お話するだけと言ってますが、お話という名の尋問だと思います!

しかも、私達を連れて来た隠は御館様と他の柱の皆様と言っていたのだから、目の前には御館様で私の周囲を柱全員が囲んでいる図がすぐに頭に浮かびますよ!足が重いな....。こんなに足取りが重くなるのは初めての経験だよ...。

 

 

「ふふふ。それにしても、初めてお会いした時は私達が目の前にいても落ち着いた様子でしたので、あまり動揺しない方だと私は思ったのですが.....」

「いえ、そうでもありませんよ。正直に言いますと、内心ではかなり動揺していましたよ」

 

 

しのぶさんの言葉に私は正直に答えながらしのぶさんや煉獄さん、宇髄さんと会った時のことを思い出していた。

 

 

しのぶさんから見て、私は落ち着いていたように見えていたらしい。だけど、しのぶさんや宇髄さんが突然現れた時はあと一歩で叫ぶところだったし、煉獄さんの時は動揺する前に煉獄さんが炭治郎のところに行こうとするので、慌ててそれを止めるのに精一杯で........うん?煉獄さんの場合は炭治郎と禰豆子のことで頭の中がいっぱいだったから、早く説得することしか考えていなかったな.....。

 

改めて考えてみると、しのぶさんや宇髄さんの時も炭治郎と禰豆子と鉢合わせしたらとか、炭治郎と禰豆子の様子はどうだろうとか炭治郎と禰豆子のことを考えていたような.......。...つまり、私が色々な場面で冷静でいられたのって炭治郎と禰豆子のことで頭の中がいっぱいだったからだね....。.....それは....なんだか少し恥ずかしい...。

 

 

「....ぼーとしているところ悪いのですが、もうすぐ着きますよ」

「へっ?そ、そうですか...」

 

 

私が過去のことを思い出して恥ずかしがっていると、しのぶさんが声をかけてきた。私はそれに変な声が出ながらも驚き、目の前を見た。私としのぶさんは襖の前に立っていた。おそらくこの襖を開けたら御館様と柱全員がいるのだろう。行かないといけないのだけど....緊張しすぎて...まだ心の準備が.......。

 

 

「......入る前に少し深呼吸をしてきてもいいですか?」

「どうぞ」

 

 

私は少しでもいいから気持ちを整理する時間が欲しくてしのぶさんに聞いてみると、しのぶさんはにこやかに承諾してくれた。私は気持ちを落ち着かせる時間をくれたことに感謝と安堵を覚えて縁側に立ち、深呼吸をしながら心を落ち着かせることに集中した。それと同時に、さっきまで考えていたことを思い出し、気が紛れるならと思ってそのまま考え込むことにした。

 

 

今まで炭治郎と禰豆子を理由にして冷静でいたことに気づいたのだけど、他にもしのぶさんや煉獄さん、宇髄さんと出会った時って、大体はその場から離れることを中心に考えていたような.....いや、真っ先にそっちを考えていたよ。....臆病者だと言いたい人がいるなら言っても構いません。でも、考えてみてください。二年修行して数ヶ月間鬼と戦った経験しかない人が鬼を五十体以上も狩った柱プラス二周目に勝てると思いますか!時透無一郎さんのような才能がある人ならともかく、私は凡人ですよ!何か華ノ舞いや痣、左目の変化とか色々なおかしなところがありますが、それ以外は普通ですよ!

 

ただ、指導者が二周目の炭治郎や獪岳であり、しかも二人ともかなりのスパルタな訓練であるうえに禰豆子も嬉々として参加するので、成長速度は通常よりも速いと思いますが........。挫けそうになりながらもこの世界で生きるためにはこの訓練を熟せるようにならないとと前向きに考えていたから、なんとか頑張って熟せていた。

 

 

 

炭治郎達との鍛練のことを思い出し、私は苦労したけど楽しかったことを思い浮かべ、肩の力が抜けて少し前向きな気持ちになってきた。私はは肩の力が抜けて自分の考えが前向きになってきたことに気づき、それならこの状態のままポジティブに考えてみようと思い、そのままの思考で考えてみることにした。

 

 

そうやって来たのだから、これも何かの試練だと思って前向きに望んでいこう。ここまで来たからには逃げることはできない。というか、そもそも刀や薬類が入った背負い箱がなければすぐに捕まるからね。今回は逃げるという選択肢すらない。逃げるという選択肢がないのだから、今は目の前にあることからなんとかしないとね.....。

 

 

「......はあ」

 

 

私は縁側から見える青空を見て、大きく息を吐いた。

 

 

最初に言っていたけど、今日に限って雲なんて一つもない澄んだ青空なんだよね。いつもなら、今頃は炭治郎と禰豆子と一緒に鬼ごっこしたり何処かの野原に腰掛けて空を見上げながら刀の手入れをしたり薬を調合していたりしていたのにな....。...今はそんなことはできないけどね.....。

 

...だけど、今はこの状況を受け止めて、前向きに考えて乗り越えないとね。それに、私は御館様や柱を前にしても()()()()()()()いけないのだからね、絶対に....。

 

 

「......よし」

 

 

私は両手で頬を軽く叩いて気合を入れた。正直に言うと、この先にあることに対しての不安はまだある。これから待ち受けるのは柱全員に囲まれて尋問するようなものだと思うけど、うじうじとしていても時間が延びてしまうだけだからね。ここで覚悟を決めないと。()()()()()()()()()のだから。

 

 

「もう大丈夫です」

「分かりました。それでは入りますよ」

「はい」

 

 

私は振り返って大丈夫だと言ってしのぶさんの隣に立った。しのぶさんの言葉に今度はちゃんと返事することができた。しのぶさんが襖に手をかけて私の方を一喝して開けると、部屋の中では既に御館様としのぶさん以外の柱全員が座ってこちらに視線を向けていた。私はその視線に一瞬固まったが、すぐに一礼して柱全員が座っているところの真ん中に座った。

 

 

どうして真ん中って?しのぶさんに座るように促された場所が真ん中だったからだよ!今の私、たくさんの人達に視線を向けられている上にその視線の圧が凄すぎて、感覚が鋭く敏感になってきているような気がするよ!囲まれているせいなのか、向けられている視線が強いせいなのか隣の部屋にも誰かいるような気もしてくるんだけど!入って早々、この部屋から早く出たくなってきた。

 

....だけど、怖気付いちゃダメ......ポジティブ.....ポジティブ思考.........。

 

 

「...君が生野彩花だね」

「はい、御館様ですね。お初にお目にかかります。生野彩花と申します」

 

 

私が自分に言い聞かせていると、御館様が私に話しかけた。私はそれに動揺せずに一礼して御館様に挨拶した。

 

 

とりあえず失礼がないように振る舞っているつもりだけど、ちゃんと礼儀正しくできているかな.....。それにしても...アニメとかで見ていたから知ってはいたけど、本当に御館様の声は聞く相手を安らぎを与え、さらに心が落ち着くと共に高揚させるんだね....。

 

アニメで聞いた時は落ち着いた声だな、確かにこの声だとそんな効果があるかもしれないねとしか思っていなかったけど、実際に聞くのとは全然違う!正直、今の私は色々な気持ちがこみ上がってくるのを抑えるのに精一杯だ。生で聞いた声は予想以上の威力だった....。....すみません!なめていました!

 

 

「それで、今回は何か私に尋ねたいことがあるとお聞きしてこちらに伺ったのですが、どのようなことなのでしょうか?」

「まあ、...色々かな」

 

 

私は気持ちを引き締めて御館様に聞いた。御館様は私を見て曖昧にそう言った。間を空けて御館様に色々と言われ、私はとても不安になった。

 

 

えっ?御館様、私に聞くことがもしかして山ほどあるの!?それとも、私達が何かやっちゃったの!?任務に関しては知っていたため、割り込むように参加したけど、電車とかは切符を買ったのだから不法侵入はしていないと.....いや、した!藤襲山に無断で入った!あれ、バレているのかな?バレてなければいいのだけど....。

 

それに、考えてみると那田蜘蛛山の件もあるし、隊士を怪我させたり、獪岳をこっちに巻き込ませたりと色々やっているね、私達!...もうこの際、何を聞かれても動揺しないようにしよう!

 

 

私は内心では叫んでいながらも表面では「そうですか......」と言うだけで止めた。本当に叫んだら、周りから殺気が飛んでくるとも思うからね....。...これは御館様に失礼なことをしないようにするのを優先した方がいいよね.......。

 

 

「彩花、君が私達のことを警戒しているのは分かるよ。善逸や伊之助、しのぶ、杏寿朗達の話は聞いているよ。炭治郎達から私達鬼殺隊のことは話を聞いているんだね」

「.......はい」

 

 

私があれこれと考えていたことが分かっているらしく、御館様は私にそう言った。私は御館様の確認に緊張しながらも頷いた。

 

 

やっぱり善逸やしのぶさん達から私についての報告は全員に伝達されていると見て間違いないね。.......それと...すみません、御館様。私が周りの様子に注意を払っているのは確かにそうなのですが、私が最も警戒しているのは御館様に失礼なことをしていないかどうかなのですよね.....。

 

勿論、鬼殺隊の人達が原作とかなり色々と違うのではと思い、特にまだ会ったことがない柱六名を警戒はしているのですが、それ以上に私が注意を払わないといけないのは御館様に何か粗相をしてしまい、柱全員に睨まれたくないからです。私が自分勝手なことを言っているのは分かるが、考えてみてくださいよ!この柱全員に囲まれた状況の中で、柱全員の視線が私に向いている今の状況で、私が何かして柱全員の怒らせてしまうとなると、柱が私に向ける視線に殺気が加わってしまうことになり.......考えただけで意識が飛びかけた。これ以上は想像するのを止めよう。....ただ、この状態の中で何が一番柱全員の怒りを買うのかというのを考えると.....御館様に何か粗相してしまえば確実に全員がキレる。

 

 

.......そういうわけで、私が一番警戒しないといけないのです。今のところは柱全員が私のことで誰も怒ってはいないようだ。

 

 

「私は彩花に色々聞きたいことがあるんだ。だから、彩花と正直に話をしたいんだ」

「正直に....ですか?」

「私は本当のことが知りたいんだ。今、私達にとって予想外のことが起きている。それはきっと彩花達も同じなんだと思う。彩花達の方もこの状況に困惑していた。だからこそ、彩花も情報が欲しかったんじゃないかな」

「えっ!?」

 

 

御館様の言葉に私は正直にとわざわざ言ったことに首を傾げながら聞いた。御館様は私の反応に気にした様子もなく、そのまま話を続けた。御館様の話の中に私の考えていたことを言い当てられ、私は声を上げてしまった。心臓がバクバクしている。しかし、御館様はそんな私の様子を気にせずに話を進める。その話に私の心臓がさらにバクバクした。

 

 

「彩花も思ったんじゃないかな。この状況を放っておけないと。状況はかなり複雑になってきているからね......。それに、おそらくこの後のことも知っていて、なんとか対策を練りたかった。だが、情報が少なく判断するのが難しいから、情報を集めるために私達に会いに行きたかったが、炭治郎と禰豆子のことがあり、私達のことも警戒していたから、会いに行けなかったということだと思うんだけど」

「せ...正解です.....」

「獪岳と連絡を取っていたことを考えて、私達の動きを知りたかったのは炭治郎と鉢合わせしないようにするためなのと、私達のことを知るためだったんじゃないかなと思っただけだから、そう警戒しないで」

 

 

いや、警戒しますって!獪岳と連絡していたことで私が情報を欲しがっていることはバレても、鬼殺隊の動きを知りたいことがバレるということは予想していましたけれど......。...流石は御館様ですね。油断なりませんよ....。

 

 

実は、私が獪岳に頼んだ情報は鬼殺隊の動きだけではないのだ。獪岳には鬼殺隊の中で何か怪しい動きがあるのか、前世と何か違いがあるのか、柱の反応の方はどうかなどのことを聞いていた。獪岳はそういったことは全て手紙に書いているし、読んだら獪岳はすぐに処分するみたいだし、鎹鴉もその手紙を運ぶだけで中身は見ないから、あまり知らないと思う。別に鎹鴉のことを信じてないわけではない。

 

ただ、私達の協力関係がバレないように私達のことは口に出さずに手紙のやり取りをしているだけだ。何処で誰が聞いているかも分からないからね。用心しておかないと。

 

 

「大丈夫。私達は彩花に何もしないよ。炭治郎達のことで警戒していると思うけど、今は私達のことを信じてほしい。それに、私は感謝しているんだ」

「感謝?私に?」

「炭治郎と禰豆子と一緒にいてくれたことだよ。炭治郎と禰豆子のことは私達の責任だけど、二人のことは心配だった。鬼舞辻に狙われていることもそうだが、一番は心が問題だったからね。しかし、私達が手を出すことはできなくて、どうしようかと困った時に彩花が来たんだ。多分だけど、彩花のおかげで二人の心も救われているんだと思う。二人の側にいてくれてありがとう」

 

 

御館様に感謝していると言われ、私は首を傾げていたが、御館様の話を聞いて納得した。私が一人で納得していると、御館様が突然私に頭を下げてきた。それを見て、私は一瞬思考が固まって呆気に取られたが、すぐに正気を取り戻ることができた。そして、今の状況を客観的に考え、叫びそうになるくらい驚愕した。あまりに予想外だった。

 

 

だって、いきなり御館様に頭を下げられるなんて驚くでしょう!!?えっ!?何なの!?叫び声を上げかけたけど、ぎりぎり口を両手で抑えたから声は少ししか漏れてないはずだ。周りには口に手を当てて驚いているようにしか見えないからね。それに、目が限界まで見開いていると思うし。

 

それにしても、もう突然のこと過ぎて、頭の中が混乱してもう爆発寸前だよ!!でも、今はなんとか冷静にならないと!御館様が頭を下げている相手は私なんだから、私がなんとかしないと!だけど、そのことを考えると、私の頭の中がグチャグチャになる!なんという悪循環なの!!?って、頭を抱えたいけど、この状況を終わらせるには私が何か言わないと終わらない!なんとか声を出さないと!

 

 

「お、おおお、おお御館様!?わ、私なんかのために、ああ、あ頭を下げないでくださいませ!?た、炭治郎と禰豆子のことは当然のことをしただけですし、しょ、しょ、正直に話し合いしますので、ですから、頭を上げてくださいまし!?それで.....お願いします!!!」

 

 

私は突然のことで焦りや驚愕、困惑などで混乱したままそう言った。何を言っているのかも自分では分からないくらい言葉が滅茶苦茶になったうえに何を言ったかの記憶もすぐに忘れてしまい、どうすればいいか分からなくなった私はお願いしますとはっきり言って土下座してしまった。

 

もはや、私の行動は色々滅茶苦茶過ぎると思っているし、そもそも自分でもどんな行動をしているかも分かっていない。とにかくこの状況をなんとかすることだけを考えていた。

 

 

「....分かった。私が頭を上げるから彩花も頭を上げて。この状態では話ができそうもないからね」

「......はい。分かりました。すみません....」

 

 

御館様は私の言葉や気配で察してくれたらしく、私にそう言ってくれたおかげで私も安堵して漸く落ち着くことができた。私が顔を上げると、御館様は既に顔を上げてこちらを見ていた。どうやら私は御館様が顔を上げたことすら分からないくらい動揺していたようだ。

 

 

「そんなに動揺しなくても良かったんだよ」

「いえ、動揺しますよ。わざわざ私なんかに土下座しなくても良いですから。それに、貴方様が頭を下げなくても私は正直に話してます」

「本当かな?」

「はい、本当です」

 

 

御館様は私に笑いかけたが、私はそれに頷かずにそう言った。御館様に頭を下げられて動揺しない人がいますか!!とそう叫びそうになるのを必死に耐えた。状況がなんとかなったことに少し安堵したこともあってまた叫びそうになったが、ぎりぎり踏ん張ることができた。でも、次は耐えられるか分からないから、少し深呼吸して息を整えよう。

 

私は少し深呼吸をして、御館様に聞かれたことに動揺することなく答えることができた。

 

 

さっきの私の話は本当だ。私が御館様に嘘をついてもすぐに見破られるからね。御館様に嘘をついて騙し通せるなんて想像もできない。炭治郎にも滅茶苦茶分かりやすいと言われているくらいだから、私が御館様を騙せるわけがない。まあ、言葉を濁すつもりではある。言葉を濁すのなら大丈夫だし、嘘をついたわけではない。それに、私は鬼殺隊に関しては警戒しているが、御館様にはそこまで警戒していない。

 

いや正確に言うと、御館様に先を読まれたり嘘を言って見破られたりすることに関しては警戒しているが、御館様は信頼できる方の人だと思っている。確信はあったのだけど、まだ炭治郎達に直接聞いていないから憶測の段階だけど、私はそう思っている。炭治郎に聞くべきかを悩んで結局聞いていなかったが、この際だから御館様に直接聞いてみようかな。

 

 

「それは何故かな?」

「....これは勝手な憶測なのですが、御館様はあの場...前世の炭治郎の件が起きた場所にはいなかったのではないでしょうか」

「炭治郎から詳しいことは聞いていないんだね」

「話すのが辛そうなのです。その時のことを思い出してしまうようで。ですから、あの件のことは一回大雑把に聞いたくらいです」

「.......それなら、どうしてそう思うのかな。炭治郎達からはそんなに詳しく聞いていないのだろう」

「あの件のことは確かに一度しか聞いておりません。ですが、炭治郎の様子から御館様はあの件と無関係なのではないかと考えました」

 

 

御館様に理由を聞かれ、私は炭治郎に聞こうと考えていたことをここで言えば納得されるのではないと思って言った。だが、私の言葉に反応した御館様に追及され、私は聞いた後に誤魔化すことができないことに気づき、安易に聞こうとしたことを後悔しながらも正直に答えた。その後も御館様を誤魔化すことは無理だからと考えて、御館様の質問にはなるべく正直に答え続けた。

 

 

原作とどこまで違いがあるのかを確かめるために炭治郎には悪いと思ったけど、時々前世でどんなことがあったのかを少しずつ聞いていた。その時に炭治郎の様子を何回か見て気づいたのだ。炭治郎の様子を見ると、鬼殺隊に対してはあまり詳しく話そうとしないのだが、御館様個人に対しては特に嫌悪感も何もなさそうに普通に話していたので、御館様は前世のあの事件の時はいなかったのではないかと考え始めた。

 

でも、これは私がそう感じただけなので、この段階では確信がなかった。鬼殺隊のことを少しでも話題になれば即座に反応する禰豆子が御館様のことが話題になった時、特に何もしないで話を聞いていたのを見るまでは.....。いや、禰豆子がただ御館様に対しては無関心だった可能性もあるかもしれないが....。どっちの可能性が高いのかと聞かれると、やっぱり........と思っても、誰にも肯定されていないからまだ憶測の段階であるが.....。

 

 

「それで判断したのかな」

「そう思いますよね。ですが、私はそう感じましたので、この勘を信じてみようと思います。......それに、鬼殺隊の行動に私は怒りを感じていません。これまでの鬼殺隊の動きも納得できるところはありますし、仕方がないとも思っていますので」

 

 

御館様の言葉に私は正直にはっきりそう言った。

 

 

御館様があの事件にいないことには確信がある。禰豆子の態度もそうだが、原作のことを思い出すと有り得そうだなと思ってしまうのですよね。はあ....。今は原作と違うことが起こるから、何か原作と似たものがほしかったけど、御館様達が自爆して亡くなったのはやっぱり嫌だな。でも、炭治郎の反応からして可能性は高いんだよね。なんとなくなんだけど......。

それに、鬼殺隊の行動には納得できるところがある。炭治郎と禰豆子は前世でも鬼舞辻無惨に狙われていたみたいだから、...できれば保護したいが、それは無理だし、だからといってほっとくことはできないし、上弦の鬼と戦いを見過ごすことだってできないし、炭治郎達に任せるのも申し訳ないし.....。

 

....まあ、その気持ちは分かるし、私にとってはありがたいことだけどね...。今までのことを考えると、原作や炭治郎達の情報でも知らないことが起きる可能性がある。炭治郎達なら対処できるかもしれないけど、念には念を入れておかないと.....。...私が足を引っ張る可能性もあるし、鬼殺隊も一緒に戦ってくれた方が心強い。

 

 

「....分かった。とりあえずそれで納得するね」

 

 

御館様はしばらく私を見た後、これ以上聞いても仕方がないと思ったそうで、とりあえず納得はしてくれるそうだ。

 

 

ううっ.....。ごめんなさい。本当に炭治郎と禰豆子の様子と原作の知識と繋げてそう感じただけなので、あまり深い理由はないのです。

 

 

「じゃあ、他のことを聞いてもいいかな」

「はい、大丈夫です」

 

 

御館様の言葉に私はしっかり頷いた。

 

ここからが本番だからね。何を聞かれても動揺しないように気を引き締めないと!

 

 

「彩花はどうして炭治郎と禰豆子の話を信じたのかな?この先のことや前世のことを聞いても普通は信じないよね?」

 

 

御館様の質問を聞いて、私はやっぱりその質問からだよねと思った。

 

 

ベッドの上で考えていた。何を質問されるかを......その質問にどう答えるかを柱合会議が開かれると聞いた時から今日までずっと考えていた。いくつかのパターンを考えて何度も脳内でシミュレーションした。何を言うかは分かっている。

 

大丈夫だ。私は考えていた答えを動じずに正直に(・・・)答える。それだけなのだから。この場で話すとなると難しく感じると思うことだが、簡単なことなんだよ。だから、口を動かして。何を言うかはもう決めているのだから、後は言うだけなんだ。

 

 

私は心の中で自分にそう言い聞かせながら口を開いた。

 

 

 

「...それは信じますよ。だって.....私も前世の記憶を持っているのですから」

 

 

 

 




次回は彩花とは別の視点で書こうと思っているのですが、言葉使いのことで悩んでいるため、次の投稿に時間がかかると思います。首を長くして待っていただけるとありがたいです。次回をお楽しみに。




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笹の葉の少女と水柱

「それは信じますよ。だって、私も前世の記憶を持っているのですから」

 

 

俺達の真ん中で正座している()()()()()()少女、生野(いくの)彩花(あやか)は背筋を伸ばしたまま堂々とそう言った。俺、冨岡義勇を含め柱全員がその言葉に驚愕した。おそらく部屋の外でも同じ状況だろう。

 

生野彩花が前世の記憶を持ってるだと...!だが、それは炭治郎や俺達鬼殺隊だけに起きてることではなかったのか!?

 

 

「....君には前世の記憶があるんだね?」

「はい。そうですが...皆さんの持っている記憶とは違うものですけど」

 

 

御館様も一瞬驚いていたが、すぐに生野彩花に質問した。流石は御館様だ。生野彩花は御館様に返事をしながら周りを見渡していた。

 

俺達とは違う記憶?それは一体なんだ?俺には生野彩花が何を言いたいのか分からない。

 

 

「そうですね....。分かりやすく説明しますと、私の持っている記憶は未来のものなのです」

 

 

その言葉に俺は一瞬思考が停止したが、すぐに正気に戻り、生野彩花が言った言葉の意味を理解した。

 

未来だと?そんなこと.......。

 

 

「テメェ、何言ってやがる!」

「確かに、私の言っていることが信じられないと思います。.....しかし、私の言っていることは事実です」

「....ンなこと信じられるわけ...「信じられるわけがないと思いますし、そんな信じられないことは起きると貴方達は身を持って分かっているはずです。貴方達も炭治郎達と同じで二年前の時に戻ったのではありませんか。それなら、分かりますよね。普通では起こり得ないことが今、実際に起きているこの状況を。私が言ったようなことも起きている。そうとは考えられませんか?」....!?だが.....「証拠とか聞かれても出すことはできませんよ。それと、その証拠に関しては貴方達も私と同じですよ。逆に貴方達がその証明をするようにと言われた時、どうやってその証拠を見せますか?」........それは.....」

 

 

俺と同じことを考えたらしい不死川は生野彩花に言うが、生野彩花は不死川の言葉を遮り、俺達に起きている現象のことや証拠がどちらもないことなどを挙げてそう言った。不死川はそれを聞いて黙ってしまった。

 

確かに俺達に今起きていることを考えると、そのようなことが起きても不思議はない。

 

 

「....それは、本当なんだね?君に未来の記憶があると言うのは」

「はい、本当です。私には百年以上先の未来の記憶を持っています。先程も言いましたが、証拠はありません。これから先に昭和、平成、令和と年号が変わると言っても証明するには時間がかかり過ぎますし、他のことを言ってもすぐに証明できるわけないですから。私の言っていることが信じられないと思いますが、これだけは覚えておいてください。私は前世では未来にいた人間であり、その記憶を持ったまま百年前のこの世界に転生したということです」

「.....前世....転生か.....。....それは.......私達の身に起こっていることと何か関係があるのか.........」

「転生ということは、彩花さんは一度亡くなっているということですよね。ですが........」

 

 

御館様の質問に生野彩花は頷いて答えた。御館様の反応からして、流石にこれは御館様も予想外だったようだ。生野彩花の話を聞いて、悲鳴嶼と胡蝶が何か呟いて思案しているが、どうしたのだろうか。生野彩花も悲鳴嶼と胡蝶の声が聞こえたのか、首を傾げて二人を見ていた。

 

 

「...もしかして、貴方達は前回の時に亡くならず逆行したのですか?」

「逆行?」

「逆行が何を?」

「....あっ!この時代では...別のように捉えられてしまうのですね。.....えっと.......この時代では逆行とは順序や流れに逆らって進む、逆に方向に行くことなどの意味を持っていますよね。それを時間に当てはめてみますと、時間の流れが逆さになって過去に戻ることを指すことになるのです。つまり、皆さんの身に起きていることですね。私達の時代ではこのような現象を逆行と呼んでいます」

 

 

生野彩花の言った言葉の意味を俺は分からなかった。何人かの柱はその言葉が何なのか分かったようだが、何人かの柱は生野彩花が何故その言葉を言ったのかは分からないらしい。生野彩花はそんな周りの声を聞いて何やら理解したらしく声を上げ、俺達に説明した。

 

 

確かに今の俺達に起きている状況をそう言えるだろう。むしろぴったりな言葉だろう。ギャッコウ、とりあえず覚えておくか。

 

 

「彩花はその逆行について詳しいのかな?」

「詳しいというより...........小説などの本とかで読んだからなんとなく分かると言った方がいいかもしれません。私達の世界では、小説としての設定で逆行や転生などがよく使われますので。逆行や転生は普通に考えたら有り得ないことですし、始めの方の話の流れとして設定に使いやすく、私の世界にそういう現実的ではない話は結構多いです。私もそういった小説とかを読んでいたので、逆行や転生のことになんとなく知っているのです。...まあ。実際に起きた時は凄く驚いたのですが......鬼の存在を含めて....」

「.....もしかして、私達や鬼のことも...」

「....はい。物語として世に出ていて、私はそれを読んでいました。初めの私の認識は、鬼は物語の敵役として出る架空の生き物であり、現実世界では鬼がいないものだと鬼の存在を信じていませんでした。しかし、老人から話を聞いて大正時代.....百年前の時代ならまさか...と考え、鬼が出た時の対策をしました。備えあれば憂いなしと言うので、そして、炭治郎と禰豆子に会った時、鬼の存在は本当なのだと確信しました」

「.....そう、なんだね........」

 

 

御館様の質問に生野彩花は何故か俺達の方をチラチラ見て大きく息を吐いた後、何やら覚悟を決めたような顔をした。生野彩花は基本笑顔を浮かべているが、たまに動揺したり緊張したりすると、それが分かりやすく表情に出る。表情をあんなにころころ変えられて凄いな。ただ、今回は明らかに挙動不審な様子だ。御館様も俺も他の柱もそんな生野彩花の様子を疑問に思いながらも生野彩花の話に耳を傾ける。俺は生野彩花の話をまとめて生野彩花は一通り話を聞いた後、御館様は生野彩花に鬼殺隊や鬼のこともそうなのか聞いた。

 

すると、生野彩花は少し言いにくそうにしながらも未来でのことを話した。生野彩花の話を聞き、御館様は少し複雑そうな、残念そうな顔をしている。それは俺も他の柱も同じだった。特に不死川は我慢ならなかったのか生野彩花に詰め寄ろうとしていたが、周りがすぐにそれを止めた。

 

 

無理もない。俺達鬼殺隊の行動が作り物として書かれている、未来では俺達のことは伝わってもそれは作り物だと思われている。俺達鬼殺隊のことも鬼のことも架空のものだと思われ、俺達鬼殺隊は存在していないということになっている。それは少し残念だし、悔しい気持ちもあるが、生野彩花に詰め寄るのは見当違いだ。生野彩花はそのことには一切関係がない。

 

それに、生野彩花のいた前世は今から百年後の未来だ。この時代でも鬼に対して作り話や架空の生き物だと思う人はいる。今でもそうなのだから、百年後でも鬼のことを作り話だと考える人は多いのは当たり前だ。だから、俺達の感じた気持ちを生野彩花にぶつけるのは流石に可哀想だ。このことで生野彩花を責めることはできない。仕方がないことだ。

 

生野彩花に詰め寄ろうとした不死川もそのことを頭では理解しているのだろう。しかし、頭では分かっていても体が先に動いてしまった。そのことを理解していることや周りの柱達が抑えていたおかげもあり、今の不死川は落ち着くことができた様子で座り直していた。

 

 

「.....そういえば、彩花はさっきから逆行や転生と言った言葉を使っていたけど、それについて詳しく話してくれないかな?私達の中でもあまりよく分かってない子達がいるから」

「...そうですね....分かりました。物語とかで出てくる先程言った転生などで人生をやり直すような話の設定には色々種類があるのです。その数ある転生のうちの一つが異世界転生。過去や異世界という私達の今いる世界とは異なる世界に転生することを異世界転生と言います。これは私に当てはまりますね。もう一つは逆行。過去に戻りたいと願った人がその時までの精神や記憶のまま過去の自分に戻ることを逆行と呼ばれています。これは炭治郎や皆さんに当てはまることですね。他にも色々な設定がありますが、私や皆さんの今の状況と関係するこの二つの説明だけをいたします」

 

 

御館様が生野彩花が先程から言っている逆行や転生のことを聞くと、生野彩花は下を向いて少し悩んだ様子を見せた後、顔を上げて説明し始めた。

 

テンセイというものの設定だけでも多いのだな。確かに話を聞く限りテンセイというのは生野彩花に起きたことと確かに同じだ。それに、ギャッコウというのも炭治郎や禰豆子に起きていることと似ているな。......未来での物語はそういう話が多いのか?生野彩花の世界は不思議だな。

 

 

「それじゃあ、彩花は私達に起きているのはその逆行だと思っているのかい?」

「はい、少なくとも私はそう思っています。炭治郎達も皆さんも前の記憶を持っているようだし、過去に戻りたいと願うようなことも全員にありますし....」

 

 

御館様の質問に生野彩花は頷いて俺達の方に視線を向けた。

 

 

人生をやり直したい.....か。それはあの時に何度も思ったことだ。他の柱達もそう思っているのだろう。俺は....過去に戻った時、初めは何が起きたのか分からずに困惑していたが、炭治郎と禰豆子に出会う前に戻れたということに気づき、俺はやり直せるのではないかと思っていた。

 

しかし、俺が困惑している間に炭治郎達はもういなくなっていた。俺は炭治郎達の家に行った時、炭治郎達の家族は既に埋葬されていた。それを見て、炭治郎達が俺と同様に前の記憶を持っているのだと気がついた。そして、それと同時に絶望した。炭治郎と禰豆子はここにいないのは俺を避けたからだ。つまり、それは俺と関わりたくないということだ。炭治郎と禰豆子は謝っても俺達を許さない。いや、会うことすらできないのだから、謝ることもできない。

 

 

「質問を変えていいかな?鬼殺隊に対してはどの程度知っているのかな?」

「そうですね......。鬼殺隊についての情報は大体知っていると思います。鬼殺隊は鬼の撲滅を目的とする政府非公認の組織であり、鬼殺隊の他に鬼狩りとも呼ばれる。構成員は日輪刀という日光を蓄えられた刀を持った数百人の剣士がいて、その剣士達は十干の階級が割り当てられている。さらに、その上に御館様と呼ばれる長、及び柱と呼ばれる幹部のような隊士がいて、他にも隊士達をサポートする隠と呼ばれる人達がいる。あと知っていることは.....鎹鴉が隊士に伝令を伝えていること、隊士は鬼を倒すための全集中の呼吸と呼ばれる呼吸法を使っていること、剣士を育てる育手のことなどですね」

「....それほどの情報が残っているんだね。...しかし、そこまで情報が残っていて.......。.....鬼についての情報も残っているのかな?」

「はい。鬼は人を食べる存在であること、鬼舞辻無惨という始祖がいて、その血によって人が鬼に変貌すること、血鬼術という術が使える鬼がいること、鬼の弱点は日光と日輪刀で、藤の花を嫌う習性があること、十二鬼月と呼ばれる強い鬼がいること...大体まとめるとそれぐらいですね」

「....そうなんだね」

 

 

御館様が質問を変えて生野彩花に何かを質問し、生野彩花がその質問に答えているようだが、俺の頭には入って来ない。炭治郎と禰豆子のことを考えると、ついぼーとしてしまいそれ以外のことは考えられなくなる。炭治郎と禰豆子のことも大事だが今は会議中だ。真剣に話を聞かねばならない...。

 

 

「御館様、話を遮ってしまい申し訳ありません。しかし生野彩花という者に一つ聞きたいことがあります。よろしいでしょうか」

「私は別に構わないが、彩花はいいかな?」

「大丈夫です。どうぞ」

 

 

俺が御館様と生野彩花のことを見て集中していると、不死川が御館様に聞いた。御館様はそれを許可して生野彩花に聞き、生野彩花もそれに頷いた後、不死川の方に体を向けた。すると、生野彩花が不死川の方を向いた瞬間、不死川は先程の落ち着いた様子から一転し、不死川の顔には青筋が立てていた。

 

 

「テメェ、その話を聞く限り、鬼について色々知ってんだよなァ。それなら、何故竈門炭治郎と竈門禰豆子に近づいたァ!鬼が人を食うのを知っていたなら、テメェは何故逃げなかったァ!」

 

不死川の突然の怒鳴り声に俺達も生野彩花も驚いた。だが、不死川の言うことは分かる。鬼のことを知っているはずの生野彩花が鬼である禰豆子に近づいたなのは危険な行動だ。鬼だと分かった段階で、普通ならすぐに逃げるはずだ。それなのに、何故逃げなかったのかと不死川が怒るのは当然だ。鬼のことを知らないならまだしも、鬼のことを知っていて一緒にいる生野彩花の行動は自殺行為に等しい。

 

 

「....それはですね。私は禰豆子を鬼とは思えなかったのです。........あの時、私はいつものように薬を売った帰りでした。そこで誰かが倒れているのを見つけました。その倒れた人の側にも一人いて、倒れているその人のことを心配そうにしていました。私はそれを見て、すぐにその二人のところに駆け寄りました。そして、それが炭治郎と禰豆子との出会いでした。

その時の私も今の皆さんのように禰豆子に警戒されていましたし、威嚇とかもされていました。ですが、その時の私には例え威嚇されていても禰豆子が炭治郎のことを必死に助けようとしている、妹がただ兄を心配して必死に守ろうとしているようにしか見えませんでした。私には例え禰豆子が鬼だったとしても炭治郎を、兄を守ろうと必死になっている妹としか思えなかったのです。ですから、その時の私には威嚇された戸惑いはあれど恐怖なんてなく、助けたいということしか思えませんでした。二人の様子から何かあるのは分かっていましたが、それでも禰豆子が鬼であろうとなかろうと、炭治郎に何があろうとなかろうとも私はこの二人を助けたいと確かにそう思いました。

...以上です。感情的なように感じる人もいるかもしれませんが、私はあの時の自分が感じたことを信じているのです。....それが私にとっては十分な理由なのですよ.....」

 

 

生野彩花は不死川の質問に少し迷った様子を見せたが、すぐに不死川の目を見て口を開いた。初めは何の話だろうかと思ったが、どうやら生野彩花と炭治郎達が会った時のことのようだ。話を聞き、生野彩花のした行動は命の危険があると思いながらも俺は生野彩花の感じたことに共感した。

 

 

俺も前回炭治郎と禰豆子に出会った時、禰豆子が炭治郎を守ろうとこちらを威嚇する姿を見て、こいつらは他とは違うと思った。生野彩花も炭治郎と禰豆子を見て、きっと似たようなことを感じたのだろう。二人の強い絆を、俺が禰豆子を他の鬼とは違うと感じたように、生野彩花もまた禰豆子は身体が鬼であろうと、心は人間のままだと感じ取ったのだろう。

 

不死川は生野彩花の話を聞いて何か言いたそうにしていたが、生野彩花が笑顔ではっきり言い切ってしまったので、おそらく言うに言えないのだろう。それにしても.......。

 

 

「.....羨ましい限りだ」

「えっ?」

 

 

俺は気づいていたら生野彩花にそう言っていた。生野彩花は困惑した表情で俺の方を見た。

 

俺は炭治郎を裏切り、禰豆子を斬ってしまった。あの時のことは俺達が完全に悪いのだから許されないとは分かっているし、炭治郎達が俺達と会う気はないことは十分承知だが、それでも謝りに行きたい。そんな気持ちが残っているからこそ、俺は今回炭治郎達と出会った生野彩花に嫉妬しているのだろう。生野彩花はあの時にいなかったから、炭治郎と禰豆子は最初こそ警戒しても、俺達と違って嫌悪までしていない。また報告で出た獪岳という隊士も炭治郎達と連絡を取っていることから、炭治郎と禰豆子は二人に心を許している。

 

だが、俺が生野彩花に嫉妬しているのはそれだけではない。俺は前回で最初に炭治郎と禰豆子と出会い、二人の様子を見て気づいた、生野彩花も最初に炭治郎と禰豆子と出会い、二人の様子を見て分かった.....俺も生野彩花も最初に炭治郎と禰豆子と出会ったが、前回のあの時に俺は守るべきであった炭治郎を裏切り、殺してしまった。一方で、生野彩花はあの時のことで精神的に苦しむ炭治郎達を助けた。この違いだ。

 

 

.......俺が生野彩花に嫉妬するのは筋違いだというのは分かっている。俺は炭治郎達が苦しんでいた時、手を差し伸べず逆に苦しませた。そして生野彩花は前回では鬼殺隊にいないどころか、おそらくこの時代には存在しなかった人間だ。さらに、生野彩花は二年前から炭治郎達と行動していたのだから、そのまま鱗滝さんのところに行ったのだろう。水の呼吸も使っていたそうだから、それは間違いない。つまり、生野彩花は俺の妹弟子だ。その妹弟子を俺は負の感情を抱いている。....情けない...。

 

 

「えっと.....それは....炭治郎と禰豆子のことを言っているのですよね...?」

「ん?.....ああ、そうだ。それがどうした?」

「いえ、主語が色々と抜けていて....」

 

 

生野彩花は悩みながら俺に聞いてきた。俺は何故そんなことを聞いてきたのかと思いながらも返事し、今度は俺が聞いた。すると、生野彩花は苦笑いしながら答えた。

 

......どうしたんだ?

 

 

俺が疑問に思っていると、胡蝶が生野彩花に小声で何かを話しかけ、生野彩花は胡蝶に体を近づけて何かを話していた。耳を澄ましてみると、『良く分かりましたね』とか『なんとなくですが。修行の時の炭治郎の説明を解読するために色々と聞いていたらそういったことがなんとなく分かるようになってきましたよ』や『なるほど。お疲れ様です』とかそんな話が聞こえた気がしたが、よく分からない。

 

 

何の話をしているのだろう?炭治郎のことと何か関係があるのか?それにしても、胡蝶は生野彩花と仲が良さそうだな。確か、療養中は蝶屋敷にいたはずだから、話すことが多かったのだろう。

 

生野彩花は胡蝶と少し何かを話した後、姿勢を戻して俺の方を見た。

 

 

「すみません。....続きを話してくださいませんか?まだ炭治郎と禰豆子のことで何やら羨ましいということしか伝わっていませんので、用件やその理由をはっきり話してください。いや、せめて主語は言ってください。主語があれば何とか理解できます」

「あ、ああ...」

 

 

生野彩花が謝った後に真剣な様子でそう言い、俺は少し戸惑ったが頷いた。生野彩花と胡蝶が何を話していたのかは知らないが、今はそれよりも話すことにした。

 

用件やその理由だったか?主語を言うようにと言っているが.......。

 

 

「.....俺はあの時のことを謝罪したい。あの時のことを謝罪して、また一緒に過ごしたいと思っている。だが、炭治郎も禰豆子も俺を許さないし、俺に会いたくもないだろう。今の俺は炭治郎達を探しているが、とても複雑な気持ちだ。会いたくもない相手に謝罪されても許すわけがない。しかも、あの時のことが起きた理由が何であれ悪いのは俺なのは分かっているが、あの時と関係のない、ただ炭治郎達といるだけでそれを羨んでしまっている。......そんな俺では炭治郎と禰豆子は絶対に許さない」

「........それで、一体どうするつもりなのですか?」

 

 

俺の話を生野彩花は相槌を打ちながら俺が嫉妬していることを非難せずに続きを促した。

 

 

「どうすれば炭治郎と禰豆子に許してもらえるか分からなかった。会うことが無理なら、せめて炭治郎と禰豆子の居場所が分かり次第に手紙を送りたいと思っていた。だが、手紙を送っても許されない。それをしても炭治郎と禰豆子に不快な思いをさせるだけだ。だから、俺は俺のしたことにけじめをつけることにした。俺はあの時に炭治郎を裏切り、禰豆子を斬ったことへのけじめとして切腹するつもりだ。そして、そのことを炭治郎と禰豆子に知らせたい。それで、頼みが........!?」

 

 

 

パシッ!!

 

 

 

俺が切腹のことを話すと、生野彩花や周りが動揺したのが分かった。御館様だけは特に表情を変えていなかった。おそらく御館様は俺の考えに気がつかれていたのだろう。俺はそのまま話を続け、炭治郎と禰豆子に切腹のことを知らせたいと口にした時、それまで黙って座っていた生野彩花が立ち上がった。俺も他の柱達も御館様もその行動に驚いていたが、生野彩花は俺達の様子を気にせずにそのまま歩いて俺の前で立ち止まった。俺がどうしたのかと聞こうとした次の瞬間、俺の左頬から痛みを感じた。乾いた音が辺りに響いた。俺は少し遅れて左頬を触り、目の前を見た。そこには生野彩花が無言で立っていた。目がどこか潤んでいるように感じる。もしや....泣いているのか......?それに、この状況はどう見ても、生野彩花が俺の頬を叩いたようにしか見えない。だが何故叩いたのかも、何故泣いているのかも見当がつかない.....。

 

 

「.........どうした?」

「......................」

 

 

俺が目の前にいる生野彩花に聞くが、生野彩花は無言のままだった。辺りが沈黙に包まれた。少し時間が経つと、生野彩花は大きく深呼吸をして目を擦り、俺や御館様、周りに視線を向けた。そして.........

 

 

「....すみません。色々な感情が込み上げてきて、少し混乱してしまいました。突然立ち上がり、そして叩いてしまい...申し訳ありませんでした。......少し落ち着くことはできました。ですが、本当に申し訳ありません..........」

 

 

生野彩花は俺達に対しての謝罪を口にして頭を下げた。俺達は少し困惑した。どうやら冷静さを無くしていたようだ。まだ少し混乱している様子だが、大丈夫そうだ。.....しかし、何故そこまで動揺したのか....?

 

 

「先程の言葉は........頬を叩いたことを指していますか?」

「それもあるが..........泣いていたことも気になる」

「あれは先程説明した通りですよ。ただ、色々な感情が込み上げただけです」

 

 

生野彩花は俺が聞いたことについて確認した。俺は頬を叩かれたこともそうだが、泣いていたのも気になっていたため、そのまま思ったことを口にした。しかし、生野彩花は先程と同じことを話していた。もしかしたら生野彩花が何か隠しているのか、本当に知らないのかもしれないな.....。....これ以上聞いても仕方がなさそうだから、もう一つの方を聞くとしよう。

 

 

「もう一つの方も頼む......」

「えっと....何故頬を叩いたのか、ですね。それでは駄目だと私が思ったからです」

 

 

俺が続きを話してくれるよう頼むと、生野彩花は俺に一度確認してそう言った。俺は一瞬呆気に取られた。

 

.....駄目だと思ったから?また生野彩花のいう勘なのか?

 

 

「...また勘か」

「まあ、勘に近いものですかね」

「何が駄目だと思った」

「そうですね。...........はっきり申し上げますと、切腹しても炭治郎と禰豆子は許さないと思います」

 

 

俺が少しムッとして言うが、生野彩花は動じずに頷いた。俺がまた新たに質問すると、生野彩花は少し悩んだ様子を見せた後、はっきりとした声でそう言った。

 

 

....そうだな。しかし、それは俺も分かっている。分かっていてやるつもりだ。ただけじめをつける...それだけだ。

 

 

「......分かっている」

「けじめをつけるために切腹する....少し違うのではないでしょうか。確かに、けじめをつけたいと思っているのでしょうね。でも、炭治郎と禰豆子に許してほしいとも心の何処かで思っているのでしょう」

 

 

俺の言葉に生野彩花は俺の目を真っ直ぐ見たままそう言った。俺は生野彩花の言葉に動揺した。何故?

 

 

「謝っても許されないというのは頭の中では分かっているけど、もし切腹したら炭治郎と禰豆子は許してくれるんじゃないかって、心の何処かで思っている!だけど、炭治郎と禰豆子は切腹なんかしても許さないよ!」

「けじめをつけるだけだ。それ以外に「じゃあ、炭治郎と禰豆子が切腹のことを聞いて心が晴れると思っているの!けじめをつければ、本当に炭治郎と禰豆子が喜ぶと!」.....それは...!?」

 

 

生野彩花は俺の様子を見て、どこか泣きそうな顔をしながら怒ったように言い、俺はそれに反論して本当にけじめをつけるだけなのだと言おうとしたが、生野彩花に炭治郎と禰豆子は俺が切腹したことを喜ぶのかと聞かれ、言葉に詰まった。

 

 

炭治郎と禰豆子は俺が切腹したことを喜ぶのか.....それは....喜ぶだろう。自分達を死に追いやったんだから。...だが、炭治郎と禰豆子は本当に喜ぶ?あの炭治郎が?前回二年後に再会した時、鬼に同情していた炭治郎が.....?....しかし............。

 

 

「炭治郎と禰豆子は切腹したことを喜ばない。例え相手が心に深い傷を負わされた人間であろうと、強い怒りや恨みを抱いていても、あの二人が人の死に喜びを感じるわけがない。それに、切腹でけじめをつけるの意味は自身の命をもってして、その過ちの責任を取って償うと言っていることですよね。覚悟をしていようと、そんな形で償おうとしても許さないと思う。......少なくとも、私は切腹のことを聞いてそう思ったよ」

 

 

生野彩花は悲しそうにしていたが、俺から視線を逸らさずに断言していた。それと同時に気になることを言った。

 

.....少なくとも私は?どういうことだ?生野彩花が切腹のことを許さないと?何故?

 

 

「........どういうことだ」

「....そのどういうには色々な意味がありそうですね。私はけじめをつけるために切腹することに反対しています。私が言うことはとても失礼だと思っていますが、はっきり言わせてもらいます。もしかしたら時代による考え方の違いなのかは分かりませんが、私には切腹することがまるで逃げるようなものに感じたのです」

「逃げる.....だと?」

 

 

俺が生野彩花に聞くと、生野彩花は先程から乱れ始めていた呼吸を整えてから話し出した。口調が丁寧になったので、落ち着くことができたのだろうか。......だが、俺はさらに生野彩花の言っていることが良く分からない。逃げるだと.....何故そう言うのか、さっぱり分からない。

 

 

「俺は逃げていない。俺はただ...」

「けじめをつけるだけと言うつもりですね....」

「.....そうだ」

「確かにけじめをつけようとしているのだと思います。しかし、私にはけじめをつけると言って、自己満足すると同時に自分のやったことから逃げているように思えるのです」

「自己満足?やったことから....逃げる?それは一体、どういうことだ.....」

「自分は命をもって償えたと満足することはできるけど、相手がそれで喜ぶなんて確証はないように思います。それに自分の命で償う.....言いかえれば、これから歩むであろう人生を捨てるということです。それでいいのですか?これからの人生を捨てるということは大きく受け止めている、覚悟を決めていると捉えられますが、これからも感じ続けるであろう苦しみや罪悪感を終わらせ、自分が犯した罪からも逃げるということにもなるのですよ。償いたい、許されたいと思っているのに、自分だけが満足して逃げることで本当に許されると思っていますか?」

「それは......!?」

 

 

俺が反論しようとするが、生野彩花は俺が何を言うのか分かるらしく言い当てられてしまい、俺は生野彩花の言葉に頷いた後、何も言えずに黙ってしまった。生野彩花のはっきりとした声とその勢いに、俺は口惜しくも押されていたが、生野彩花の話の中で疑問に思ったことは聞くことができた。生野彩花は俺の目を見て、語りかけるようにそう言った。俺は生野彩花の話を聞き、驚きのあまり言葉にできなかった。

 

そんなこと....俺は考えもしなかった...。.....いや、もしくは心の何処かで......。

 

 

「切腹しようとするのは償い意味だけではないですよね。冨岡さん自身が自分のやったことを、罪を犯した自分を消したいとも思っているからでしょう。ですが、自分の命を絶つことで自分の罪をなかったことにしないでください。それに、どうして一人で背負おうとしているのですか。前回のあの時の件は冨岡さんだけでなく、他の柱や善逸達もやったことですよ。冨岡さんは炭治郎の兄弟子だからと言うかもしれませんが、その流れだと善逸達は炭治郎の同期だからと言って切腹するということが成立してしまいますよ。炭治郎の兄弟子だからと言って、冨岡さん一人が切腹する理由にはなりません。あの時の件は鬼殺隊全体での責任ですから、一人で背負う必要はありません。炭治郎の件は皆さんも苦しんでいるのです。切腹のことを考えるまで一人で抱え込まないでください」

「..............」

 

 

俺は無言で聞いていることしかできない。生野彩花は先程まで俺が考えていたことも分かるらしい。俺が言う前に先に言われてしまった。それと、生野彩花が一人で背負うつもりなのかとも言われてしまった。炭治郎のことは俺だけではなく、他の柱もやったから俺だけの責任ではない。炭治郎の兄弟子だからと言っても、俺一人の責任にならない。そう言われたことに俺はまた驚きのあまり言葉が出て来なかった。

 

それは....確かにその通りなのかもしれない。...だが、俺は水柱に相応しくない.....俺は未熟だ......。

 

 

「....兄弟子だからという言い訳は使えないなら、今度は水柱に相応しくないからとか未熟だからとかいう他の言い訳を考えていませんか。悪いですけど、今の貴方は紛れもない鬼殺隊の水柱です!資格がないと言っていても、資格があると認められているから水柱に任命されているのです!しかも、何年も柱として仕事をしているのですよね!もう何年も経っているのですから、今更水柱に相応しいか相応しくないか悩まないでください!いや、そもそも炭治郎のことで切腹するのに、水柱に相応しいかどうかも資格があるかどうかも関係ありません!それと、未熟だというのは当たり前ですよ!誰しも未熟だと私は思っています!人間は日々成長していく生き物なのです。子供も大人も何かを知って成長していきます。ですから、大人であろうと人間は完全に熟しているわけではないのです。貴方も私もこの場にいる人達もまだまだ成長できる未熟な人間なのです。未熟だからというのもまた切腹する理由に全くなりません」

「.....怒っているのか?」

「...少しだけですが怒ってますよ。自分はこういう人間だからと一人で背負って切腹しようとしているのですから。あの時の件は冨岡さんを含めて柱全員と善逸達が悪いです。それなのに、冨岡さんだけが罪の意識で切腹するのは可笑しいです。本当に一人で背負い込むのではなく、あの場にいた全員であの時の責任を背負ってください!死を正当化しないでください!」

 

 

生野彩花は何故俺の考えていることを何度も当てるんだ。それと、何故か少し怒ったような顔をしている。俺が聞くと、生野彩花は小さく溜息を吐いてから先程よりも大きな声で俺にそう言った。俺は生野彩花のその勢いに負けて黙った。

 

 

......生野彩花の勢いに負けてしまい、俺はこれ以上何も言うことができなかった。....もし生野彩花の言う通りだとしたら.....それなら.............

 

 

「......それなら...俺はどうすればいいんだ....」

「.........それを私が断言することはできませんよ。私は炭治郎ではないので、どうすれば許してもらえるかなんて分かりませんし、私はあの時、その場所にいませんでした。私が先程から言ったことは冨岡さんの話から私が思ったこと、感じたことを言っただけです。無責任だと思われるかもしれませんが、あくまで私は思ったことをそのまま正直に言っただけなので、私の言ったことを鵜呑みにするかどうかは自分達で判断して決めてください。私の意見は聞くにしても参考程度で良いです。ですが、これだけは言います。それを参考にするかしないか関係なく、自身も他の人達も炭治郎も禰豆子も全員が納得できる償い方を見つけてください。おそらくそれを必死で考えたのが切腹だったのだと思いますが、個人的には他の方法を改めて考えてくださるとありがたいです」

 

 

俺は切腹することが一番の償いだと思っていた。しかし、生野彩花に言われ、何をしたらいいのか分からなくなってきた。それが無意識に口に出てしまった。俺はそれに驚いたが、同時に随分頼りない声が出たなと自分で思った。

 

生野彩花は俺の声に一瞬目を見開きながらもすぐに俺に向けて安心させるような微笑みを浮かべた。すると、生野彩花はずっと立ち続けていた状態から急に俺と向き合うようにして正座して優しい声で話し始めた。

 

 

「それに...お恥ずかしながら....色々なことを言って、冨岡さんの切腹を止めていましたが、一番の理由は私の我儘からなのです。私が冨岡さんに死んでほしくないと思ったからです。今まで罪悪感に耐えて頑張ってきたのだと思います。それなのに、私の身勝手な思いで切腹を止めてしまっているのは申し訳ありませんが、私は切腹して未来を諦めてほしくないのです。私が冨岡さんにとって、とても残酷で勝手なことを言っているのは分かっています。それでも、私は例え今がどんなに苦しくても、罪悪感に押し潰されそうになっていても耐えてほしいと思ってしまうのです。その苦しみや罪悪感に耐え、炭治郎と禰豆子に謝って、あの時のことを償い続けてほしいのです」

「謝る?」

「まあタイミングや場所は必ず考えてほしいのですが、まずは謝らないといけないと思います。炭治郎は匂いで分かりますが、言葉にしないと正確に伝わらないことだってあります。そんなことをしても不愉快になるだけだと言って謝らないより、誠実で率直に謝る方が良いと思っています。必ず何処かで謝罪しないといけなくなるのですから、心が折れることを恐れないで当たって砕けろの精神でぶつかっていってください。向き合ってください。ただ今はまだ難しいと思いますので、互いに相手の話をしっかり聞き合い、タイミングと場所を絶対に考えて話し合ってください」

 

 

生野彩花は少し申し訳なさそうな様子でそう言った。しかし、俺は謝るという言葉に驚いた。謝らないといけないということは俺も分かっていた。だが、謝っても炭治郎と禰豆子を不快にさせるだけだというのは分かっているのに、それでも謝るべきだ、分かっていてもそれに向き合えという生野彩花の言葉には驚くと同時に目から鱗が落ちるような衝撃を受けた。

 

 

「.....これは私の願望ですよ。今は無理でも...もし炭治郎に謝ることができたなら、また元の関係に戻ることができるならという希望を少し持っているのです。人生山あり谷ありですから、良いこともあれば悪いこともあります。....人生山あり谷ありにはトラブルの連続という意味もありますけど.......。まあ、そういう言葉があるくらい人生は良いこともあれば悪いこともあるし、トラブルだっていっぱい起きます。ですが考え方を変えてみれば、今は悪いことが起きてトラブルが多くても、いつかはきっと良いことが起きるとも考えられます。何が起こるか予想できず、明日のことは明日にならないと分からない、それが人生なのですから。悪いことだけを見て人生に絶望し、その先が分からないままで終わらせるのではなく、良いことも悪いことも両方を見据え、希望を持って前に進んで明るい未来へ繋げていってほしいのです」

「....繋げていく...?」

「そうです。明日は何が起こるのかが分からないなら、私は進みたいと思います。進んでその明日をこの目で見た方が良いと思っています。死んではそこで終わってしまいます。その先を全く見ないで終わらせてしまうよりも私は何か行動してほしいのです。何か行動をすることで変わる可能性があります。行動することで、生き続けることで何か分かり、何かに繋げていくかもしれません。そして、それらは巡り巡って未来へと繋がっていきます。繋げてきたものは何も無駄にはなりません。だから、今までの人生で繋げてきたものもこれから先の人生で繋がっていくはずのものも全て無駄にしないでください」

 

 

生野彩花は微笑みながらそう言った。その話の中に出た繋げるという言葉に、気づけば俺の体は反応していた。いや、体が反応したというよりは衝撃と痛みを感じた。左頬に......かつて錆兎に張り飛ばされた時の衝撃と痛みが蘇ってくる....。

 

 

 

『自分が死ねば良かったなんて二度と言うなよ。もし言ったらお前とはそれまでだ。友達を止める』

 

 

『お前は絶対死ぬんじゃない。姉が命をかけて繋いでくれた命を、託された未来をお前も繋ぐんだ、義勇』

 

 

 

......また、俺は忘れていたのか...蔦子姉さんが鬼に襲われて亡くなり、自分が死ねば良かったと言った時の錆兎とのあのやり取りを。大事なことだろう、何故また....。俺は炭治郎と禰豆子に酷いことをした。その罪はこの命をもって償わなければいけない。それほどの罪を犯したと俺は自覚している。しかし、かつて俺に死ぬなと錆兎が言ったあのやり取りを思い出すと、切腹はできない。蔦子姉さんと錆兎が命をかけて繋いでくれた命を、託された未来に繋ぐことを俺はできていない。例え炭治郎と禰豆子にしてしまった罪を償うために切腹したとしても、命を絶ったことを錆兎は怒るだろう。いや、そもそも炭治郎と禰豆子にしたことから錆兎に許されないだろう。炭治郎と禰豆子は俺が切腹することを喜ばないし、望んでもいない。錆兎は繋いだ命をそんな形で絶ったことを怒るだろうし、男なら自分のやったことの後始末をしろ、途中で投げ出すなと言いそうだ。蔦子姉さんも悲しむ。.......すまない、炭治郎、禰豆子、錆兎、蔦子姉さん。....俺はまた間違った行動をしようとしていた...。

 

 

「自分の罪を背負い続けることで苦しいこともあると思いますが、いつかは良いことがあると希望を持ってほしいのです。諦めて死を選ぶのではなく、諦めずに生きて自分の罪もその背負い続ける苦しみにも逃げず向き合い、自分の責任を全うできる行動をしていってほしいのです。今のままだと、炭治郎も禰豆子も冨岡さんも全員が後悔する結末を迎えると私は思っています。私はその後悔する結末にしたくない、明るい結末にしたいのです。これは本当に私の勝手な考えなのですけどね........」

 

 

生野彩花は周りを見ながら俺達に自分の罪とその罪悪感を背負いながらも希望を持って耐えてほしいと言い励ましている。生野彩花は自分勝手な考えだと言っているが、後悔のない行動をしてほしいという俺達のことを思っての言葉なんだと思う。

 

 

「私はこんな我儘や偉そうなことしか言えませんが、許してもらえるかどうかは本当に冨岡さん達の行動次第だと思っています。炭治郎達からの話しか聞いていない私よりも、実際にそこにいた貴方達の方がどう行動した方がいいのかは分かっていると思います。それでも、私は暗い方へ行くのではなくて明るい方に行ってほしいのです。ですから、ゆっくりで良いのです。焦らずに無理もせずに前回で起きたことを互いに背負い合い、これからを生きていってください。何かありましたら、また相談に乗ります」

 

 

生野彩花はそう微笑んで言う。俺はそんな生野彩花の様子を見て、疑問に思った。

 

 

生野彩花は何故俺達を気にして、こんなことを言ってくれるのだろうか。俺達が炭治郎達にしたことを知っているはずなのに俺達を励ましてくれている。俺には生野彩花の行動が分からない。

 

 

「......そうか。よくそんなことを言えるんだな」

「...私は純粋に思ったことを言っただけですよ。それに、私は見た目が十五歳なのですが、中身は前世と今世を合わせると冨岡さん達よりは年上なので、少し視野が広いのですよ。....というよりも、こういうことを言えるのは年上だからというよりよおそらく前世の影響が強いのだと思いますけど」

 

 

俺の言葉に生野彩花は苦笑いしながらもそう答えた。前世、未来の世界で一体何があったのだろうか?未来は平和だと言ってるが.....。

 

その後、数分だけ沈黙が続いた。生野彩花は周りを見渡し、俺と向き合っていた状態から体の向きを御館様のいる方に変え、少し前に移動して座った。座った後に姿勢を整え、御館様や俺達の方を見た。

 

 

「....それでは、続きを話し合いましょうか。そちらはまだまだ聞きたいことがあるのだと思いますし」

 

 

しばらく周りの様子を見た後、生野彩花は沈黙を破って御館様に声をかけた。

 

俺が切腹すると言ったことで話が脱線してしまったが、今は柱合会議を行っている。炭治郎と禰豆子の件で色々と思うことはあるが、今は柱合会議に集中しよう。生野彩花と炭治郎と禰豆子のことを話してから、少し気持ちが軽くなった気がする...。

 

 

「.....うん、そうだね。続きを話し合おうか」

 

 

生野彩花の言葉を聞き、御館様が頷いた。御館様が頷くのを合図に柱合会議は再開し、御館様と生野彩花の話し合いは続いていった.........。

 

 

 

 

.......それにしても.....十五歳....。.....炭治郎と同い年だったのか...。年下だと思っていたのだが........。

 

 

 

 

 

 

 




.....そういうところですよ、冨岡さん。






次回は彩花の視点に戻ります。


コソコソ話

彩花は前世から嘘が大の苦手で、嘘をついたらすぐにバレてしまう。何度も一瞬で嘘がバレるため、嘘をつくことは諦めているそうだ。その代わり、この経験から嘘はつかない話をすることができるようになった。



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笹の葉の少女は疲れています

「....お前、凄えな。御館様や柱と対等に話したと聞いたぞ」

「...いえ、内心では凄く緊張したのですよ。それに私自身、動揺しないで話せた自分を褒めたくなるくらいです」

「自画自賛かよ」

「ははは.....。そうかもしれませんね。ただ、本当に緊張しすぎて疲れたので....」

 

 

柱合会議が終わり、私だけが先に部屋を出て蝶屋敷に戻ることになった。私はまだ怪我が完治していないからね。まあ、柱の皆さんは私のこと以外にも話し合うことがあるらしいし、どっちにしろ追い出されていたと思うけど...。

 

 

私が隠に背負われ蝶屋敷まで運ばれていると、隠が声をかけてきた。何度も隠が交代していたし、多分この人で最後だと思う。交代の回数からして、そろそろだろうし。この人がその時の行きと同じ人なのか違う人なのか分からない。隠は顔がよく分からないから声で判断するしかないんだよね。それで、その声が行きに運んでくれた人と似ているような気がするけど、似たような声の人なのかもしれないし、行きは緊張しすぎて気にしていられなかったし....。

 

.......そういえば...隠というと、後藤さんは今頃どうしているのかな。私が原作で名前を知っている隠は後藤さんと前田さんくらいだからね。前田さんは御裁縫係の仕事場にいると思うけど、後藤さんは何処かで仕事している真っ最中なのかな。まだ会ったことがないから、少し気になるなあ。原作では遊郭での戦いを終えた炭治郎のお見舞いをしてくれていたけど、今は炭治郎がいないから何処にいるか分からないなあ......。

 

 

私は隠との話に微笑みながら答え、原作にいた隠のことを少し考えた。そして、隠との会話で柱合会議でのことを思い出していた。

 

 

 

御館様も他の柱も前世の記憶を持っているみたい。いや厳密に言うと、御館様は前世の記憶という表現で良さそうだが、他は表現すると少し違うみたい。まあ、それは予想外だったけど...それよりも色々あった。本当に色々あったよ....。

 

 

.....それで、言いたいことは色々とありますが......まずは感想。...柱の威圧がハンパなかった!!確かに、私は前回にはいない存在だったから怪しむのは当然だけど、警戒されすぎて心臓が飛び出るかと思ったよ!不死川さんが私に近づいた時、心の中で叫んでいたからね。あと一歩で大きな叫び声を上げそうになったけど、そこはぐっと堪えて話せたのだから、あの時の自分を褒めたい。まあ、不死川さんの怒鳴り声を何度も聞いたら悲鳴が出そうだと考えて、失礼だということは理解していたが、不死川さんが何かを言う前にさっさと話していたところもあり、あまり怒鳴られないで終わった....。良かった......。

 

....ただ、不死川さんに叱られたのは予想外だったなあ。.....あっ、話した内容は全部私の本心だからね。柱合会議の最初に言ったので嘘は言えないし、そもそもバレるから言えない。まあ、一つ嘘はついたけどね。私の前世の世界ではある人によって作られた漫画の話だったということだ。それを話せないが、嘘をつく気はないと言ったので、そのことを隠して現実にあったことが御伽話のようになっていると思うように誘導した。御伽話になっている方が人に作られた話だと言うよりはマシだと思ったのだけど...どっちでもショックだよね....。

 

 

次に、冨岡さんの突然の切腹発言。あれは驚いた。柱合会議というから、自分が聞かれるであろう質問を予想して、どう答えるかというのは考えていたけど、冨岡さんのカミングアウトは本当に予想外すぎて悲鳴を上げなかったのは奇跡だったと思う。ただ、その時に私の中で何かが切れたような感覚がして、気がついたら立ち上がって冨岡さんの方へ向かい、頬を叩いていた。.....自分がしたことなのだけど、あの場で一番驚いたのは多分私だったと思う。冨岡さんの切腹発言に驚愕と同時に怒りを感じていたのは確かだし、止めたいと思っていたけど....まさか行動に移すとは...もっと耐えてよ、私!

 

 

それにしても.....最初のあの時の冨岡さんの言葉からして、冨岡さんが口下手なことが凄く実感した。原作で見てて知っていたけど、冨岡さんのあれは口下手というレベルを超えていると思う。主語とか色々抜けているものが多いし、最初の方は何を言っているのかが分からなかったので、原作での冨岡さんの会話を思い出して予想してから、冨岡さんにそれで正しいのかと確認を取っていた。まあ、次第に冨岡さんの言っていることがだんだん分かってきたので、確認を取らなくなってきたけど。おそらく、原作での冨岡さんの会話がどういうものなのかを分かっていたことと炭治郎の説明を必死に理解しようとしたことで、そういった会話の翻訳が上手くなったのだろうと私は予想している。

 

しのぶさんにどうして分かったのかと聞かれて、炭治郎の説明で苦労したことを話すとしのぶさんに納得され、「お疲れ様です」と労ってもらった。呼吸や薬と毒作りの次に苦労したことだから、労ってもらったことは嬉しかった。......いやいや、私は何を言っているの。柱合会議で色々ありすぎて、疲れているのかな?

 

 

「はあ......」

「おい。俺の背中で溜め息を吐くな」

「あっ、すみません。少し疲れているみたいで...」

 

 

私が柱合会議での出来事を思い出して溜め息を吐くと、隠にそう言われて私はすぐに謝った。

 

 

人の背中で溜め息を吐かれるのは嫌だもんね。これは背負われている私が間違いなく失礼だ。

 

 

「まあ。御館様や柱全員に囲まれていたら、そりゃあ疲れるよな」

「はい、()()()()()()()()()()()()緊張しましたよ」

「あぁ?柱が九人いるっていうことを知らなかったのか?竈門に聞かなかったのか?」

「いえ、そういうことではありませんが....。......うん?もしかして炭治郎のことを知っているのですか?....えっ?ひょっとして、貴方も........」

「ああ。前回では竈門達とちょっと縁があってな。あいつらが俺達鬼殺隊の話をしないと思うが...俺は後藤という名前なんだがあいつらから聞いているか?」

「.....後藤さん....」

 

 

私が隠、後藤さんと話をしていた時、私を背負ってくれているのが後藤さんだと分かった上に、後藤さんも前回の記憶を持っていることを知らされ、私はそれに驚いて固まってしまった。

 

 

まさかの後藤さん本人だった!!後藤さんは原作と違うようになっているから、今頃どんな行動しているのかなと思っていた矢先に、その本人に背負われていたのは想定外だったよ。

 

 

「.....い。おい。おい!どうした?もう蝶屋敷に着いているぞ」

「えっ?あっ、はい。ありがとうございます」

「ああ。お大事にな」

 

 

後藤さんに何度も呼びかけられ、私は目を開いた。いつの間にか目隠しがとられいて、目の前には大きな屋敷が見えた。しかも、その周りを飛んでいる蝶が飛んでいるなあ。...うん。どうやら私が考え込んでいる間に蝶屋敷に着いていたようだ。

 

 

私は返事をしてすぐに後藤さんの背中から降り、運んできてくれたことに感謝した。後藤さんは私を送り届けた後、用事があるみたいですぐに別の場所に向かった。私は後藤さんの背中が遠くなっていくのを見送ってから蝶屋敷の中に入っていった。体は大分良くなっているから、本当なら今日から機能回復訓練をしても大丈夫の予定だったのだけど、柱合会議に参加することになって明日に延期されたことにより、この後の予定はない。蝶屋敷にいる皆も仕事をしている様子なので、私は一言かけてからそのまま部屋に戻って休むことにした。

 

部屋に戻ってすぐ、私は最近よくお世話になっているベッドに横になった。しかし、柱合会議で少し疲れていても眠気はなく、なかなか寝付けられなかった。なので、ベッドに横になった状態のまま柱合会議のことをもう一度振り返ることにした。

 

 

 

....柱合会議で冨岡さんを叩いてしまったのは流石にやり過ぎだとは私も思っているけど、後悔はあまりしていない。だって、冨岡さんが切腹することには個人的にどうしても納得がいかなかったんだよね。私は炭治郎と禰豆子の様子を見ているから分かる。確かに炭治郎も禰豆子も冨岡さんや善逸達に会いたくないと思っているけど、死んでくれとは思っていない。謝っても許されないことをしたという自覚は冨岡さんや善逸達もある。私がまだ無理だと思って止めたけど、善逸や伊之助、煉獄さん達は謝りに行こうとはしていた。だけど、冨岡さんは会うのも手紙を送るのも不快な思いをさせるだけだと思っていた。だから、炭治郎と禰豆子に会うのは駄目ではないかと考え始め、会わずに手紙を出すことをしないで炭治郎と禰豆子に謝る方法として切腹することを選んだのだろう。

 

でも、私はその決断に断固反対です!本当に私の我儘なんだけど、私はどうしても納得することができなかった。だから、冨岡さんを説得しようと色々考えて話した。.....途中からカウンセリングに近いことをしているようなと思ったけど、前世の時に何時かに見た心理学の番組や本などを思い出して、なんとか答えていた。

 

 

切腹は自殺とも捉えることができるので、私は何処かで見た番組の内容を思い出しながら話すことにした。その番組によると、最初は相手の訴えに耳を傾ける。自分から何かしら自殺をとどませるような一言を言う前に聞き手となることで、相手の話やその話の背景にある感情を一生懸命に理解し、共感することが大事だそうで、私は冨岡さんの話をしっかり聞いた。足りないところもある可能性はあるので、そうした意味でも一言一句聞き逃さず、私なりに翻訳していた。原作で知っている冨岡さんの性格から色々予想してあれこれと言ったけど、あれは当たっていたのかな?

 

 

.......まあ、考えてみても分からないものは分からないし、私も途中で我慢ができなくなって話を途中で遮ってしまったから、あれは私が悪い。話を聞いていくうちになんだか言い訳のように感じて、ついやってしまった。何か言いたいという気持ちが強まりますが、そこは我慢してくださいと書いてあったのに、途中で色々と熱くなってその注意のことをすっかり忘れていたよ。論破はしない方がいいとも書いてあったのに、完全にやらかしたし。まあ、自尊心が強い人とかに悪いと書かれていたから、冨岡さんはセーフかな.....。冨岡さんの場合は押す時に押さないと抱え込みそうだとその時は思ったのだけど...。

 

一通り言った後には頭が少し冷えて注意のことを思い出し、そこからは聞き手にずっと回るように努めた。他の注意する点としては誠実な態度をとり、相手が黙り込んでしまっても話さないようにすることを守るようにというのをなるべく意識した。ただ一度、言い訳らしきものを考えているなあというのが分かった時はそれについて指摘しましたが、それ以外は冨岡さん本人が自分の気持ちを話すようになるのを待ちました。

 

 

それと、何と声をかけるべきなのかというのも凄く考えたよ。自殺を考える人に何を言ってあげたらいいのかというと、注意点は相手の気持ちを否定しない、安易で無責任な励ましはしないことである。そこが心配だ。色々と言っていたからね。切腹でけじめをつけようという気持ちを否定してしまったけど、今否定しないと切腹を止めてくれないと私は思ってそう言った。もしかしたら他に別の言い方があったかもしれないけど、あの時はそうとしか思えなかった。あと、安易に無責任なことを言わないようにして、全員で相談して決めてほしいと言ったけど、あれは大丈夫かな?変な方向に行っていなければいいのだけど......。

 

 

自殺しようとする人の励まし方の他にも、冨岡さんが切腹する理由は前回のことが原因であるから、過去の悲しみと向き合わせる方法、そしてその罪悪感で苦しんでいるから、罪悪感の解消方法も思い出して、それらを踏まえていたんだけどね。少し心配だなあ。根本的なものはこれだからね。

 

 

 

過去と向き合うためには本人が過去を受け入れることが大切だ。過去を受け入れるには過去の出来事から縛られている心を解放して、自分の気持ちを素直に感じられるようにする。

 

 

罪悪感の解消には、一つ目はその問題が自分だけの所為だと考えないこと。事実、炭治郎の件は冨岡さんだけでなくて他の柱や善逸達も原因だったから、私は一人の責任ではない、ちゃんと相談するようにと言ったけど、また抱え込まないか不安なんだよね...。

 

二つ目は罪悪感を抱いた人に謝ること。自分に非があると感じたなら、基本的に謝った方が良いと本では書いてあった。それに対しては私も同意見だったので、私も償うにはどうするかの前に謝る方を勧めた。償い方は私に聞かれてもどうしたらいいかなんて分からないけど、最初に謝っておかないと関係を修復することはできないと思ったので、それだけは言っておいた。心の中でどんなに罪悪感を抱いても、口にしないと本人には伝わらない。だから、許されるかどうかはともかく、一度はしっかり謝らないときっと後悔していくと思う。

ちなみに、謝る時に抑えておく重要なことはタイミングや場所を考える、誠実に素直に謝る、相手の話に耳を傾けるだそうだ。お互いに落ち着いて話せる時と場所を選び、誤魔化さないで謝罪の気持ちを真っ直ぐに伝え、自分の気持ちを伝えるだけでなく、相手の気持ちもしっかり受け止めないといけないと載っていた。さりげなく言っていたのだけど、伝わっているかな?

 

三つ目は過ちを糧にすること。過ちを糧にすることで、自分の中での過ちの意味が変わっていくのだそうだ。そして、前を向くことができるようにとも書かれていたし、私もこの意見に共感したので、前回で犯した罪を背負いながらこれからを生きてほしいと言った。

 

 

......ただ、私は前世の時に何処かで見た番組や本、インターネットのサイトから共感していたものを思い出して、それらを参考にして言っていたのだけど、これで少しは切腹する気持ちが和らいだかな?というか、色々なものを参考にしたから、滅茶苦茶なことを言ってないかな。

 

.....そういえば、自殺を止めるために一番効果的な言葉は生きてほしいという素直な言葉だと書いてあったような...。柱合会議での私の言葉は紛れもない本心で言ったけど.....。でも、頑張ってきたことを労ってもらい、頑張っていることを相手が共感していると分かってもらった後で生きてほしい、死んだら悲しいと言うことで、相手も自分は生きてもいい、自分の死で悲しむ人がいるという自殺を踏み止めるような気持ちにさせるらしいけど、初対面の私が言ってもあまり効果はないよね。それでも、切腹しないでほしい、死なないでほしいというのは紛れもない私の本心なのだけど......。

 

 

 

まあ。私は絶対に冨岡さんの切腹を阻止しようと思っているから、わざと錆兎のあの繋ぐという言葉を思い出させるような言い回しをしたわけだしね。原作の中で冨岡さんの琴線にふれるあの場面を思い出させた方が一番効果的だもの。ここで命を捨てるのは止めて未来を生きてほしいという要約するとそうなる言葉を、錆兎とのやり取りを思い出すような繋ぐを使った言い回しにした。錆兎には悪いけど....。

それと、冨岡さんの頬を叩く前、私は冨岡さんから切腹の話を聞いた時に錆兎のあのやり取りを思い出したんだよね......。....錆兎のあのやり取りと同じような感じだな、これは同じようにしないと止まらないのではと思ってはいたのだけど......行動に移してしまったんだよね、私。しかも、錆兎と同じ左頬を.....。

 

....錆兎、ごめんね......本当にごめんね、勝手に同じ行動しちゃって...。......でも、私の言葉よりも錆兎とのやり取りの方が冨岡さんの心に響いたと思う....。

 

 

.....それでも、私も自分なりに色々考えて言ったんだけどね...。冨岡さんの場合だと何度も悩んで抱え込むから、抱え込まないようにその悩みを口に出せるようにした方がいいと思って、また相談に乗ると言った。他の自殺を止める方法として、次の約束をした方がいいと書いてあったこともそうだけど.......その時まで生きようと思えるようにしたのは本当だ。原作で知っているからというのもあるかもしれないが、私は本心から冨岡さんに生きてほしいと思った。

 

いや、冨岡さんだけでなく、他の柱や善逸達にも前回の炭治郎の件での罪を背負いながらも諦めずにその罪を償って生き続けてほしいと思った。冨岡さん達がそう思えるようにするためにも、私は自分の言葉に気を配った。

 

 

言葉は口に出したり書いたりしたらできる簡単なものだけど、時に刃物のように人を傷つけてしまう上に口に出したら仕舞うことができない。それに、自分の気持ちを思い通りに相手に伝えられないことがある。だから、使うのは難しいし、使い方を間違えればとても恐ろしい。違う意味で捉えられてしまうことがあるから、本当に重要な時に伝えたいことがあるなら、それが相手に伝わるようにするために、言葉には気をつけないといけない。中でも、今回のような事態には...ね。

 

 

....本当にそういう風に色々考えて、冨岡さんの自殺を止めようとしたのだけど、これで思い止まってくれるかなという不安がある。そのために、駄目押しとして全員と話し合うことを言っておいたのだけどね...。三人寄れば文殊の知恵という言葉があるように、三人、いやたくさんの人達が集まって相談すればきっと納得できる答えを見つけることができると思うし、自殺しようとする意志がまだあることが分かれば周りがそれに気づきやすくなる。そうすれば、しのぶさんが診てくれるだろう。

 

しのぶさんが精神面の方も診れる医者なのかは分からないけど、そうでなかった場合は知り合いの精神科医を呼んでくれると思う。最終的には専門家の治療を受けた方がいいらしいから、ちゃんとしたところで相談してもらえれば切腹は止めてくれるだろう。

 

 

どんな方法を使っても、冨岡さんの切腹を止められるならと私の思い出せること全てを思い出して言ったけど....それで止まるかは分からないし、しばらくはここにいることになると思うから、様子を見ていようかな。.......あっちが私の話をどう判断するのかは分からないけど、少しは思い止まってくれると嬉しいな.....。あと、これで冨岡さんのコミュニケーション能力もできれば上がってくれると良いな....。

 

 

 

 

 

 

今、冨岡さんとの話は考えても結果が出るわけではないし、この話は一旦置いておこう。次はあの後のことを考えてみようかな。こっちも色々とあったし......。というか、私が特に衝撃を受けたことなんだよね。御館様と色々話してみた時に華ノ舞いについて聞いてみたのだけど.........

 

 

 

『ごめんね。私も華ノ舞いという呼吸のことは知らないんだ』

 

 

 

...そう答えられてしまったんだよね。御館様なら知っているかもしれないと期待していたんだけど、華ノ舞いについての情報が何もなかったのは残念だな。僅かな情報ならあると思ったのだけどね....。......まあ、なかったものはないのだから仕方ないか。ただ、これで華ノ舞いについての謎が深まってきたな...。原作にもない、御館様も知らないなんて華ノ舞いって一体何なのかな......。華ノ舞いについて唯一知っているのって、現時点ではカナエさんだけなんだよね.....。

 

.......ここなら、蝶屋敷なら何か華ノ舞いについて分かるかな....?でも、しのぶさんは知らない様子だったし、カナエさんの遺品とかに残っているということなのかな?.....そもそもカナエさんの遺品がまだ残っているのかな........探してみるしかないよね.....。明日から機能回復訓練が始まるけど、その合間に調べてみるしかないね....。時間はまだあると思うし、ゆっくり調べていこう.....。せっかくここに来たのだから、やっぱり何か情報は欲しいよね....。

 

 

..........なんだか眠たくなってきたな...。何となく次の方針がまとまったからかな....。......疲れてきたし、もう寝よう...。.....明日から起きる時間が少し早まると思うし........。

 

 

 

私は柱合会議や華ノ舞いのことを考えているうちに眠気が来て、その眠気に流されるような形で眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「....うん。御館様が華ノ舞いについて何も知らないって言うくらいだから、そんな簡単に分かるわけがないと思っていたのだけど、本当に何一つ情報がない!」

 

 

私は縁側に座って本を一通り読んだ後、そう言って溜め息を吐いた。本を閉じると、横に置いてある積み上げている本の山の上に置いた。私はその何冊も積み上げた本の山を見ながら悩んでいた。

 

 

何故って?それは華ノ舞いの情報が何もなかったのだ。しのぶさんに頼んで色々見せてもらったのだけど、華ノ舞いの情報らしきものがなさ過ぎて困った。カナエさんから何か聞かされていないかなどをしのぶさんにも聞いてみたけど、心当たりはなさそうだった。ちなみに、無限列車でカナエさんが夢の中に現れて、華ノ舞いについて知っている様子だったことは柱合会議の時に話しているため、しのぶさんも大体の事情は知っているので、協力はしてくれる。

 

 

「調べていても何も情報がないし、また後で調べることにしよう。カナエさん、華ノ舞いのことは口伝で知っていたのかな。......そもそもカナエさんは何処で華ノ舞いを知ったのだろう?」

 

 

私は縁側から立って積み上げた本を両手で持って返しに行くことにした。歩いている最中に私はカナエさんと華ノ舞いのことを考えていた時、ふと疑問が沸いてきた。御館様ですら知らない華ノ舞いのことを、どうしてカナエさんが知っているのだろうと。

 

 

柱合会議から帰った後は疲れていたから気づかなかったけど、御館様が知らないことをカナエさんが知っているのは幾ら何でも可笑しい。御館様が知らないことをカナエさんは何処で知ることができたのか。.......いや、それよりもカナエさんは何故華ノ舞いのことを誰にも話さなかったの?少なくとも、御館様には何かしらの報告はすると思うのだけど....。

 

......御館様は本当に知らないのかな?....華ノ舞いについて御館様が嘘をついているのか、それともカナエさんが御館様にも黙っていないといけない事情があるのか.....。.......ああ!考えれば考えるほど分からなくなっていく...!

 

 

......というか、御館様が嘘をついているにしても、それは華ノ舞いのことを話さない方がいいと判断されたということだよね....。華ノ舞いってそんな他言無用の呼吸なの!?

 

 

私は本を元の場所に戻した後、そのまま歩いたまま考え続けていた。

 

 

「華ノ舞いってそんなに秘匿されているものなのかな?でも、原作にない華ノ舞いがそんな重要な筈が.......」

「.....あ、あの....」

「いや、どうして私は華ノ舞いという呼吸を使えているのかな?両親が使っていたわけでもないし、初めて華ノ舞いを使った時にだって、それらしき鍛練すらしてなかったんだよ。そもそも........」

「あの!」

「うん?誰かの声が聞こえたような.....」

「あの、ね...」

「はい.....?」

 

 

私は華ノ舞いについて考え込んでいると、声が聞こえたような気がした。その声を聞き、私が周りを見渡していると、先程聞こえた声と同じだが少し震えていることが伝わる声が後ろから聞こえた。私が後ろを振り返った瞬間、固まってしまった。勇気を出して私に声をかけたであろう栗花落カナヲの姿があった。

 

 

.......えっ?何で?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「..........」

「...........」

 

 

私とカナヲは縁側に座っていた。互いに特に話さずに黙っている様子だった。

 

 

「.....スゥ...........バンッッ!!...........」

「.............」

 

 

いや正確に言うと、私だけは機能回復訓練の一環として瓢箪を吹いている。原作の物と同じくらいの大きさの瓢箪だ。炭治郎と獪岳との鍛練のおかげで最初からこの瓢箪を吹いて割ることができるようになるまでに成長していた。何故瓢箪を吹いているのかは簡単だ。カナヲに勝てないからだ。アオイさんには勝てたけど、カナヲには勝てなかった。

 

カナヲは前回の記憶を持っているので、原作よりも強くなっている。そのため、全集中の呼吸・常中が使えるだけでは絶対に勝てない。ちなみに、アオイさんなどの他の蝶屋敷の子達は前回の記憶を持っていないらしい。

 

 

それで、今の私はこの瓢箪を吹いて呼吸器を鍛え、カナヲに勝つのを目指して体を鍛えているのだが.....今はそれよりもカナヲとのこの微妙な空気をなんとかしたい!

 

 

 

あの後、カナヲに呼び止められた時に何か用があるのかと思って声をかけたのだけど、カナヲはまごまごしている様子で何も話してくれなかった。私はそれに少しほっこりしながらもカナヲが話すのを待っていたのだけど、しばらく経ってもカナヲは話す気配がないため、流石に困ったんだよね。ずっと互いに無言なので、なんだか気まずい空気が流れ始めていたからね。

それで、私が『縁側で瓢箪を吹いているから、落ち着いて話せるようになったらまた話そう』と言い、とりあえずカナヲが落ち着いて話せるようになるまで時間が必要だなあと考えていたのだけど、何故かカナヲは無言のままついて来て、そのまま縁側で私の隣にそわそわした様子で座っていた。

 

私が瓢箪を吹くと言ったからかどうかは知らないけど、カナヲはずっと無言だった。私もなんだか気まずくて、瓢箪を吹いて割っても互いに何も言わず、さらに重く気まずい空気が流れる。その空気があまりに重くて瓢箪を吹くことにも躊躇してしまう。しかし、この空気で話すのもまたやりづらい。これは困った。....でも、ずっとこの空気でいる方が嫌だし、頑張って話しかけよう。

 

 

「あの......」

「あっ、う、うん....」

 

 

私は少し躊躇しながらもカナヲに声をかけてみると、カナヲは戸惑いながらも返事をした。

 

さて、ここからが問題だ。カナヲに声をかけることができたのは良いけど、私がカナヲに何か話題を振ってもまた無言に戻ってしまう可能性がある。個人的にもこの気まずい空気が長続きするのは嫌だしらカナヲになんとか話してもらいたい。ただ、このままだとカナヲはまた無言になってしまいそうだと思うから、普通に話してもらえるように誘導しないと。よくは分からないけど、カナヲが聞きたいことは大体見当がついているからね。

 

 

「カナヲが聞きたいのって、柱合会議でのことが関係しているのかな?」

「う、うん!?どうして分かったの?」

「隣の部屋から何人かの気配があるのは分かっていたし、たまに部屋から声が漏れていたからね」

 

主に善逸と伊之助の声でね...。

 

 

私が柱合会議のことを出すと、カナヲは驚いた様子で聞くので、私は柱合会議での隣の部屋のことを思い出しながら言った。

 

 

初めは隠が隣の部屋で控えているのかなと思っていたのだけど、会議が始まって数分経ってから、隣の部屋から誰かの話し声が聞こえ始めた。柱の誰かが気づくと、さりげなく知らせていたけど、私は御館様や冨岡さんなどの話を聞いたり話したりしながらも耳を澄まして聞いていた。

 

正確な話の内容は分からないけど、聞き覚えがある声だったからすぐに分かった。それに、大体の隣の部屋の様子はなんとなくだけど勘づいた。善逸が何か叫ぼうとしていたり伊之助が何かを聞いたりしているのを玄弥が止め、カナヲも静かにするようにと声をかけていたという感じなことが起きているのかなと思って、私が指摘した方がいいのか困った。声の感じからなんとなくそう思ったのだけど......。

 

 

「す、凄い....」

 

 

私がカナヲに隣の部屋での様子の予想を言ってみると、カナヲにそう言われた。

 

どうやら当たっているみたいだ。嬉しい。

 

 

「カナヲはあの柱合会議で私の話を聞いたんだよね。それで、その時のことで私に何か言いたい、もしくは聞きたいことがあると思ったのだけど......「彩花って、やっぱり心の中が読めるの?」...えっ?やっぱり?」

 

 

私は予想が当たっていたことに少し得意気になりながら話し続けていると、カナヲに突然そう言われて固まってしまった。しかし、すぐに冷静になって柱合会議から今までの自身の言動を振り返った。

 

 

カナヲに何が原因でそう思われたのかなと振り返ってみて、すぐにこの勘違いの原因に気がついた。柱合会議の時、私はカナヲとは話していなかったけど、冨岡さんとの会話を聞いていた。

 

 

まあ、あの時は原作の知識から冨岡さんがおそらく省略している箇所を予想して、こう言っているのではないかと思って聞いてみたり、冨岡さんの性格や過去からこう考えているんじゃないか、こう言えば思い止まってくれるんじゃないかと予想したりして、内心ドギマギしながら話していたんだけど、カナヲは隣の部屋で私達の会話を聞くだけで見ていたわけではないからね.....。

 

私達の様子を見ていなかったし、勘違いしているということだよね....。それで、心が読めているように思えてしまったと......。

 

 

.....断じて、私には心を読むような悟りの力を持っていないし、あの時の柱合会議って、原作の知識や冨岡さんの性格と過去を上手く利用したようなものであり、私がそういう超能力を持っているというわけではない!...これは個人的にも絶対に誤解を解きたい....。解かないと、後でプレッシャーになる気がする。

 

 

「ははは、そんな力は私にないよ。私は本当にただ知っていることを思い出して、それらを基に予想しているだけだから。カナヲが聞こうとしていることを当てたのは最近起きたこととその心当たりからそうじゃないかと思ったの」

「そ、そうなんだ.....」

 

 

私が心を読む力はなくて予想しているだけと言うと、カナヲは少し恥ずかしそうにしていた。私はその様子を見て、なんとなくまた互いに沈黙する流れになるのを察した。

 

 

また互いに無言になると、日が沈むまで話し合うことになりそう。柱合会議関連で話したいことがあるというのは分かったから、こっちがカナヲに柱合会議でのことで何か言いたいことや聞きたいことがあるのかと質問してみよう。勿論、カナヲに答えやすくするために簡潔な質問をしないとね....。

 

 

「カナヲは私に柱合会議でのことで何か言いたいことがあるの?それとも、何か聞きたいことがあるの?」

「き、聞きたいことがあるの」

「そうなんだね。.....カナヲが聞きたいことは柱合会議での私の話のことで何か質問があるということなのね」

 

 

私はカナヲが答えやすいようにと質問を二択方式にして聞いてみた。カナヲがそれに答えてくれれば、私もなんとなく何を聞きたいのか予想しながら会話を進めることができる。カナヲの答えを聞いて、私は柱合会議での私が話したことの中で何か聞きたいことがあるのだと考えた。

 

 

私の話したことに納得する人がいれば、納得しない人だっているからね。その時は相手が納得するまで話そうと思っていたし。....さてと、何を聞きたいのかな...?

 

しかし、カナヲは私の言葉に首を横に振って否定した。

 

 

「ううん、違う」

「えっ?違うの?」

 

 

カナヲの反応に私は驚いた。

 

えっ!?それじゃあ.....カナヲは私に何を聞きたいのかな?柱合会議に関係していることって言っていたけど........。うーん....。

 

 

「.....じゃあ、質問ではなくて、柱合会議で関係していることで何か聞きたいのかな...?」

 

 

私はカナヲが何を聞きたいのかと考えていたが、少しでも間を空けたらまた気まずい空気になるため、そこまで長く考えることができず、とりあえずカナヲに聞くことにした。もしこの質問でカナヲがまた無言になったら、もっと答えやすいような他の質問をしようと思っている。

 

 

「.......私は...あの時の.....水柱様と同じことをしてくれるのか聞きたくて....」

「......へっ?」

 

 

....今、なんて言ったの...?

 

私はおそるおそる言ったカナヲの言葉に思考が停止したが、すぐに正気に戻り、カナヲの言葉の意味を理解すると同時に柱合会議での記憶を辿った。

 

水柱様と言うと、確実に冨岡さんのことだよね.....。柱合会議での冨岡さんにしたことね....心当たりしかない。というか、色々とやらかしていますからね。

 

 

「...冨岡さんに......柱合会議でしたこと....ですか....」

「うん。あの時、水柱様に言っていた。何かあったら、また相談に乗るって言っていたから、私も相談に乗ってもらいたいと思って.........」

 

 

私が確認すると、カナヲは頷きながらそう言った。私は頭を抱えそうになった。

 

 

確かに心の中で抱え込むようならと思って、冨岡さんにそう言ったから、冨岡さんがもしかしたら来るかもしれないとは思っていたけど......カナヲに相談してもいいかと聞きに来るのは予想外だったよ.....。

 

うーん...。どうしよう....。

 

 

「だ、駄目かな......」

「うっ....」

 

 

私はカナヲに少し泣きそうな顔で見られて、とても困った。凄く断りづらい.........。

 

 

「.....うん、分かったよ。相談に乗るから......だから、そんな顔をしないで」

 

 

私はカナヲにそう言って頷くしかなかった。そんな顔をされたら断ることなんてできないよ....。

 

 

 

...こうなったら、誰の相談でも乗ろうじゃない!何処からでもかかってきなさい!

 

 

 



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笹の葉の少女は宣言した

「....それで、カナヲの相談というのは主に炭治郎達関連の話だよね?」

「うん......」

 

 

カナヲの相談に乗ることを決めた私は単刀直入にそう聞くと、カナヲは暗い顔をして頷いた。

 

 

やっぱり今のカナヲが悩むとしたら炭治郎達のことだろうとは思っていたけど.....どう助言すればいいのかな?カナヲが炭治郎達のことをどう思っているか具体的には分からない。冨岡さんは自分の思っていることをほとんど話してくれたから、私も話しやすかったんだよね....。...カナヲが今、どう思っているのかをもう少し知ることができたら、私も意見を出しやすいのだけど.........。

 

 

「カナヲ。とりあえず今の気持ちを頑張って口に出してくれる?まずはそこからだね」

「.....え、えーと...」

「少し難しいかな。例えば自分はあの時のことをどう思ったとか、自分はどうしたかったかとか、自分自身が今、思っていることを率直に言えばいいよ」

 

 

私はカナヲの思いを詳しく知るためにそう聞くと、カナヲは少し困っていた。私はすぐに何を聞いているのか分かりにくいのだろうか、それとも言葉に出しにくいのだろうかと思って、いくつかの例を挙げてみた。これでカナヲも少し話しやすくなったのかな。

 

 

「......私は....戦いが終わって、怪我をしていても戦ってくれた炭治郎に何をしなかった」

「うん......」

「私は見ていた。水柱様達みたいに炭治郎を殴ったり刀で斬ったりはしていなかったけど、何も言わないで見ていた。戦いで既に怪我をしていた炭治郎がさらにボロボロになっていくところを冷たい目で見ていた」

「..........うん....」

「炭治郎を庇った禰豆子にもどうして庇っているのって聞くだけだった。終わった時、私は後悔した。あの時、どうしてあんなことをしたのか私も分からない」

 

 

カナヲは私の例えを聞いて何を言えばいいのか分かったらしく、静かに話し始めた。おそらく自身の気持ちを言葉にしようとするのが難しいのか、あの時のことを思い出して話していた。私はそれに何も言わず、相槌を打ちながらカナヲの話に耳を傾けていた。

 

 

「炭治郎は私に言ってくれた。私は炭治郎のおかげで心のままに生きれるようになったのに...私は.....」

「.........」

 

 

カナヲの声が少し震えてきている。私はそれに気づいて何かを言おうと思ったが、カナヲが必死に言葉にしようとしている様子を見て、今は遮ってはいけない、邪魔しちゃダメだなと思い、何も言わずにカナヲが話すのを待った。ただ何も言わないが、放っておくことはできなかったので、励ますように背中を優しく撫でた。

 

 

「.......私は、炭治郎にも禰豆子にも色々なものをもらったのに....私は...何もしないで......助けようともしないで.....」

「....そんなに焦らなくていいよ。無理やり気持ちを吐き出そうとしなくていいから、一旦落ち着こう」

「私は.....私は...どうして.......あの時、炭治郎を忘れたの......」

「..........そう、だね...」

 

 

話を続ければ続くほどカナヲの声が震え、目からは涙が溢れて手に落ちる。私はカナヲの泣いている姿を見て、このまま気持ちを無理に吐き出させてもカナヲが辛くなるだけだから落ち着かせようと思い、優しく声をかけたが、カナヲはそれどころではないらしく、泣きながら後悔の言葉を呟いていた。私はそれを聞いて、どう対応すればいいのか悩んだ。

 

 

ここまでの話を聞くと、カナヲは炭治郎と禰豆子のことをずっと後悔しているのが良く分かる。あの時のことを忘れないで....忘れた日なんて一度もないくらいに......。

 

...話をまとめるとこうだろう。あの時、カナヲは何もしなかった。炭治郎を傷つけることはしなかったが、助けることすらしなかった。炭治郎が死んでいく姿を黙って見ているだけだった。自分の心を開花させてくれた炭治郎に、自分は炭治郎が大変な時に何もしてあげられなかった。カナヲはそれがとても辛いことなのだろう。カナヲはあの時のことを強く後悔している。そして、カナヲはあの時の自分を許せないと思うと同時に疑問を抱いているのだろう。

 

疑問を抱いているのはあの時の自分に起きたことなのは分かっている。あの時の自分に起きたことを私や炭治郎も含めて誰もが何故なのかと思っている。炭治郎のことをカナヲ達が忘れたこと、あれの謎が解けていない。どうして炭治郎のことを忘れるというようなことが起きたのか、誰もはっきり分かっていない。

 

 

私もそれに関して可笑しいと思っているが、それに捉われすぎて......いや、カナヲがあの時のことに疑問を抱いているのは私が原因か。そもそも私があの時の炭治郎を忘れたことに血鬼術が何か関係しているのではないかと言ってしまったのが原因だよね。きっと元からあの時に起きたことを気にしていたうえに、私もそう言ったことでさらに気にしてしまい、カナヲはあの時に何が起きたのかを考え、悩み苦しんでしまったのだろう。

 

.....しのぶさんに出会った時、善逸達が炭治郎のことを忘れた原因についてどう思っているのか、血鬼術の可能性はあるのかを知りたかったのだけど、いらない言葉だったみたいね...。私が余計なことを言ったせいで、さらに悩ませてしまったね....。これは責任を持って、この悩みが少しでも解決できるように手助けしないと........。

 

 

「....カナヲ、これで涙を拭いて。落ち着いたら少し深呼吸しようか」

「..........うん」

 

 

私はカナヲを落ち着かせることを優先した。このまま話しても話の内容が頭の中に入ってこないだろうから、きちんと話し合う前に互いに落ち着いていないとね。私は常備していた手拭いをカナヲに渡し、落ち着くまでの間、カナヲの背中を優しく撫で摩っていた。しばらく経ち、カナヲは落ち着いてきたらしく、私の言った通り深く息を吸って吐くを繰り返した。

 

....うん。少し乱れていた呼吸が大分安定してきたね。

 

 

「落ち着いた?」

「.....うん」

「そう。良かった」

 

 

私が確認するとカナヲは頷いたので、本当に落ち着くことができたようだ。私はそれに安堵しながら次は何を話すべきかを考えた。いや、何を話そうかの前に、質問の仕方を変えてみようかな。

 

 

「カナヲは炭治郎と禰豆子に会えたら、まずは何をしたいの?」

「....何をって.....会ったらすぐに謝りたい」

「...うん、分かっているね。それで良いと思うよ」

 

 

私は色々考えながらも会った時に炭治郎達に何をしたいのかと聞き、カナヲはそれに戸惑いながらもそう言った。私はそれを聞いて、分かっているなら良かったと思った。

 

カナヲは最初に何をするべきなのかを分かっている。ちゃんと理解している。何が原因でもどんなことをしても、最初に相手に謝ることからやらないと何も始まらないからね。

 

 

「でも!.....彩花はそう言うけど、良くないと思うよ。だって、私がやったことは....炭治郎に許されないよ...」

「一番最初に謝らないといけないのは分かっているのでしょ。謝罪は許されるためにする行動だけど、必ず許されるからするという行動ではない。そもそも自分の過ちを認めなければそれは形だけの謝罪で、本当の謝罪ではないと思っているよ。最初の一歩が大事なのだから自分のした過ちを認めて、一番始めにしなければならないことが何かしっかり理解している。それが分かっているのなら、その通りに動いていいんじゃない」

「いや、私がそんなことを言っても.....」

 

 

否定するカナヲに私は最初に何をしないといけないのか分かっているのだから、その行動をした方がいいと自分の意見を言った。しかし、カナヲは自分がそんなことをして、本当に良いのかと思って否定する。

 

まあ。私も同じようなことが起きたら、謝るべきなのは分かっているけど、私に会って謝られても迷惑なだけなんじゃないかと思うよ。でも.....

 

 

「冨岡さんにも言ったけど、許されるか許されないかはともかく、自分が後悔しない方を選んだらいいと思うよ」

「後悔しない方を.......」

「今のままだと、きっと後悔すると思うよ。カナヲも....炭治郎も.....」

「えっ!?た、炭治郎も!?」

 

 

私は正直に自分の思ったことを伝えた。カナヲが私の言葉に少し反応したのを見て、私は少し悩んだが、炭治郎の名前を出した。カナヲは炭治郎の名前が出てきたことに驚いていた。

 

 

これは個人的な意見なのだけど、私が同じ立場で謝らなかったら、ずっと後悔して引きずると思う。相手には悪いと思うけど、本当に会いたくないかどうかはその相手本人じゃないと分からないし、それなら相手がどう思っているのか怖くても、行動した方もいいと思う。

 

....それと、私が炭治郎もと言っているのには驚きだよね。だけど、こっちにもちょっと理由があるんだよね。

 

 

「うん......。.....前に話したでしょ、炭治郎のこと。対人恐怖症と心的外傷のこと、覚えている?」

「う、うん。覚えているよ」

「その治療法は話していなかったよね。実はその治療法が関係しているの」

「えっ!?どうして....」

 

 

私は炭治郎もと先に言いながらもそのことを詳しく話すかどうか少し迷ったが、カナヲに話すことにした。私は話す前にカナヲに那田蜘蛛山で話したことを覚えているか確認し、カナヲはそれに頷いた。

炭治郎のことを聞いて衝撃的な様子だったので、覚えているとは思うけど、これから話す内容に重要だから確認はしておかないとね。私はカナヲが頷いたのを見た後、あの時の会話を思い出しながら最初に何を話すべきか考えて言った。カナヲは私の話に驚いた。

 

 

まあ、その反応は最もだよね。このことが治療法と関係しているといきなり言われても、困惑するのが当然の反応だと私も思うから。

 

私はそう思いながら説明しようと口を開いた。

 

 

「対人恐怖症と心的外傷は薬とかで抑えてもその効果は一時的なもので、完全に治ったことにはならないの。対人恐怖症と心的外傷は心の病気。だから、その治療法は病気の原因である出来事を乗り越えないといけないの」

「それって......!」

「そう。カナヲの想像通り、治療法は炭治郎があの時のことを克服することなの。だから、私は炭治郎にそのことを話したんだ。と言っても、話したのはこの前。無限列車の....煉獄さん達と会った後のことなんだけどね....」

 

 

私が対人恐怖症と心的外傷の治療法について話すと、カナヲはその治療法が何なのか気づいたようだ。それで、カナヲは悟った様子で私の方を見た。私はカナヲの様子を見て頷き、続きを話し始めた。そして、炭治郎に話したその時のことを思い出しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、炭治郎」

「彩花、どうしたんだ?」

 

あれは無限列車の戦いが終わってからのこと。私達が珠世さんの家にお邪魔していた時だった。私と炭治郎は珠世さんの家の中の居間のようなところで禰豆子達を待っていた。禰豆子は鬼を人間に戻す薬のために珠世さんに血の検査をしてもらっているので、今はいない。珠世さんは検査でいないし、兪史郎さんも珠世さんについて行っているのからいない。ちなみに、獪岳は鬼殺隊の任務があるため、この時は別行動をしている。

 

つまり、ここには私と炭治郎の二人しかいない状態だった。座布団の上に座っている私は向かい側に座って出されたお茶を飲んでいる炭治郎に声をかけた。炭治郎は私に声をかけられ、湯呑みを持った状態で私の方を見た。

 

 

「少し聞きたいことがあるんだけど、いいかな?炭治郎にとって辛いことなのは分かっているんだけど、き、気になっていることがあって....」

「俺にとって辛いことって.......まさか...!」

「......そのまさかなんだよね....」

 

 

私は言いにくそうにしながらも聞いた。少し緊張していたこともあってか、何度も言い間違えてしまう。そんな私の様子で、炭治郎は私が何を聞こうとしているのか分かったようで、湯呑みを持つ手が一瞬震えた後にそう言った。その様子を見て、私はきまりが悪い様子で静かに頷いた。

 

 

炭治郎には悪いと思っている.....。でも、聞いておかないといけないことだ。本当ならもっと早く行動しておかないといけなかったのだけど、炭治郎の様子からまだ駄目だと思って止めていた。私が知っている原作と炭治郎の経験した前世がどのくらい違うのか確認したいということで少し話を聞いていて、最初は時間をかけて少しずつ話していた炭治郎も普通に話せるくらいまでになったので、タイミング的にはそろそろ良いんじゃないかと思い、ずっと引き延ばしたことを聞いてみることにしたんだけど....。

 

 

「.......彩花、聞きたいことって何だ?」

「えっ!?話しても大丈夫なの!?」

「大丈夫なのって、彩花に何度も色々聞いてきたし、俺も少しだけど慣れてきたからな」

「.....色々とすみません...」

 

 

少し間を空けて、炭治郎が言った言葉に私は驚いた。私の様子を見て、炭治郎が苦笑いしてそう言うので、私は申し訳ない気持ちになって謝った。

 

先も自分で言っていたけど、炭治郎の言う通り何度も聞いていたからね、私。炭治郎の様子を見ながら行き過ぎたと思ったら話を変える、その後に禰豆子に怒られるというのを繰り返して....。......それらに関しては大変申し訳ありませんでした...。

 

 

「いや、彩花が聞くことは俺達にも必要なことだったんだから、今回もそうなんだろう」

「.....うん、まあ....そうだと言えばそうなんだけどね...」

 

 

炭治郎がそう言ってくれているが、私はこれから聞こうとしていることを思うと、言うのを躊躇してしまう。炭治郎にとって大事なことであるのは間違いないのだけどね.....。話しかけたのだから、もう言うしかない。

 

 

「ごめんね、炭治郎。どうしても聞いておきたいの。炭治郎は鬼殺隊のことをどう思うの?」

「...どうって....?」

「あっ、ごめん。言い方が悪かったね。どう思うというよりも......炭治郎は鬼殺隊との関係をどうしたい?」

 

 

私は炭治郎に話そうと思って言ってみたが、尋ね方があまりに省略しすぎて炭治郎に上手く伝わらなかったみたいで、炭治郎は首を傾げた。私はその様子を見て、謝りながら言い方を変えて改めて聞いてみた。すると、炭治郎は私の質問に戸惑った様子を見せた。

 

それが正しい反応だよね.....。うん、分かるよ。そういう反応されるのは想像通りだもんね。炭治郎と禰豆子の気持ちが分かっている私はそれも含めて話すのを止めていたからね。

 

 

「炭治郎の気持ちは分かっているよ。炭治郎にとって鬼殺隊は自分を殺した人達であり、禰豆子を斬った人達であり、もう会いたくないと思っている人達でもある」

「....それが分かっているなら...「ただ.....」......ただ?」

 

 

私は炭治郎に起きた前世のことからどうしようと思っているのかは分かっていることを伝えた。炭治郎がそれを聞いて、何か言おうとしていたが、続きがあるために悪いと思いながらもその言葉を遮った。

 

 

「炭治郎はきっとこのまま鬼殺隊とは会わないようにしようと思っているのは分かっているよ。でも、そのままではいけないと思うの。個人的にはとても複雑な気持ちだよ。炭治郎にされたことやその気持ちからして、会わない方が良いのは分かっているけど、炭治郎の体調などを考えると、このままじゃ駄目だと思っているの」

「俺の体調........もしかして戦いでのことか?それなら、彩花が渡してくれた薬があるから大丈夫じゃないか」

「それでは駄目なの」

 

 

私は自分の悩みをそのまま言葉にして話した。炭治郎は私の話を聞き、薬を飲んでいれば大丈夫だと言っているが、私はその言葉に首を横に振って否定する。

 

 

「炭治郎に渡している薬は抑制剤や気分安定剤などで発作を抑えるための薬なの。ただ、そういった薬には眠気や頭痛などの副作用があるし、中毒になられたら発熱や発疹、嘔吐、失神などの症状まで出てくるから、あまり薬を使ってほしくないの。私があまり副作用のない薬を作って、今もそれらを色々改良しているけど、それでも少しは副作用があるから、薬物の乱用には気をつけるようにと言っているの」

「彩花が薬はできる限り使うなって何度も言うのは、そういうことだからな」

 

 

そう。私と炭治郎の会話の通り、私は最初に炭治郎に薬を渡す時にあまり使わないように、薬は私の言った量を使うように、多く使うのは駄目だと言っていた。薬に頼り過ぎないようにするためなのと飲む薬の量が多くないようにするためである。頼り過ぎて薬を飲み過ぎれば中毒になってしまうし、体調が悪くなる。それに、炭治郎が対人恐怖症や心的外傷を治したいのなら、薬に頼り過ぎる状況は逆効果である。

 

と言っても、鬼殺隊に会えば発作が起きてしまうので、薬を何度も飲まないといけない状況が起きるかもしれない。そう考えて珠世さんと協力して、なるべく薬の副作用が弱くなるように改良してはいるが、それでも副作用はあるから、薬を使ってほしくないというのが私の願いだ。

 

 

「それに、私が作っているのは抑制剤だから、症状を和らげるだけで病気そのものを治す薬ではないの」

「.......治せる薬はないのか?」

「ごめんね。それはないの。炭治郎の対人恐怖症と心的外傷は心の病気だから、心そのものを治すことはできないの。抑制剤なら神経や血質を良くする効果で落ち着かせることができるけど、それは一時的に抑える効果があるだけで、元をなんとかしないと治すことはできない。炭治郎の病気の元は心の傷だから」

 

 

私は付け加える形で炭治郎に薬のことを話した。炭治郎に治せる薬はないのかと聞かれ、謝りながら首を横に振り、私は心臓の部分を指しながら説明を続けた。

 

 

「癌や胃腸炎とかの病気もその病原体を絶たないと治すことはできない。それはどんな病気でも同じなの。炭治郎の場合、その病気となった原因は......」

「前世での、あの時のことというわけか.....」

 

 

私は最後の言葉が言いにくく、口に出そうかと悩んでいると、炭治郎がその続きを言った。私と炭治郎の間に重い空気が流れている。

 

 

薬は頭痛や腹痛、嘔吐、発疹などの見えるものや痛みを神経や血管の流れ、器官の動きを良くすることで治すか和らげることはできるが、心を治すことはできない。まあ、心を治す薬はない方が良いと私は個人的に思っているのだけど。何故かと言うと....分かりやすく説明してみると、次のようなことである。

 

 

例えばの話だ。心的外傷はトラウマなどが原因だから、治すとしたら手っ取り早く言うと、そのトラウマとなった原因を克服するか取り除く、或いは変える方が早い。確か、何かの授業でやった記憶についての実験の話で、野菜嫌いの子どもに野菜が好きになるということがあったらしい。つまり、これを利用して、トラウマの原因となった記憶を別の記憶に変えることで、トラウマをなくすことができるようになる。

ただ、それは偽物の記憶を植え付けることによるものだということだ。それによって助かる人はいると思うが、それが小さな薬でできてしまうということになると、それが必要な人はいるだろうに、私はそのことに恐ろしさを感じてしまう....。

 

.......まあ、今の時代...大正時代ではそんな技術はまだないと思うから、そもそも無理なんだけどね.....。私もそんな専門的なことは流石に分からないし.......。

 

 

とにかく、そういう訳で炭治郎の対人恐怖症や心的外傷は薬では治せない。一時的に抑えることはできても治すことはできない。原因となった記憶を消すことも変えることもできないのだから、治療法は炭治郎がトラウマを克服するしかない。ただ、そのトラウマとなった原因が問題なんだよね...。

 

 

「......炭治郎が対人恐怖症や心的外傷を治そうとしているのは、これからの戦いを気にしてだよね....」

「......これから、もっと強い鬼が出てくるからな。その戦いの最中、俺が動けなくなったら、禰豆子や彩花に迷惑をかけるだろう。足を引っ張るようなことはしたくないんだ」

 

 

私が炭治郎の治したい理由について確認すると、炭治郎はそう言って拳を強く握った。

 

ここからの戦いは上弦の月の鬼との対決が怒涛の勢いで来るからね....。炭治郎が倒れた時、私達が対応できないことがあると思うし......。

 

 

「.....炭治郎はそれがなかったら治そうと思わなかった?」

「.......えっ?」

 

 

炭治郎の言葉を聞き、私は炭治郎にそんな質問をした。それを聞いた炭治郎は驚いていた。

 

 

まあ、私も炭治郎と同じことを思うよ。でも、絶対にこれは聞きたい。これからの治療のためにも確認しておきたいこと。ただ、炭治郎に人と関わる意志があって治したいのか、この戦いのためだけに治したいのか......これは今後のために必要なことだから....。

 

 

「意地悪なことを聞いているのは分かっているよ。でも、私は確認しておきたいの。炭治郎が対人恐怖症や心的外傷を治したいと思っているのは鬼との戦いが理由なのか、それとも他にも理由があるのかを、私は知りたいの。他の人のことを気にせずに正直に炭治郎の気持ちを知りたい.....。炭治郎はどうしたいの?戦い以外で対人恐怖症や心的外傷を治したいと思うことがあるの?」

「...俺は......治したいかというと.....治したいな...。....彩花には迷惑をかけ「私は言ったよ、他の人のことは気にしないでって。炭治郎自身の気持ちでどう思っているのかが知りたいの」......俺は........」

 

 

私は炭治郎に頼み込むような感じでもう一度聞いた。炭治郎は少し悩みながらも私の答えようとしていたが、私に迷惑をかけると言いそうだったために私が炭治郎の言葉を遮ってしまった。私に遮られ、炭治郎は何と答えようかと悩み、黙ってしまった。

 

まあ、こんなすぐに結論を出せると思っていなかったからね。できればいっぱい悩んで、答えを見つけてほしいな。.....だけど、いきなり私がそんなことを言ったから答えは出ないし、私のこの質問にも疑問を抱いているし、困惑しているな....。

 

 

「...少し話を変えるね。突然こんなことを聞かれれば戸惑うことは分かっていたから。そもそもこの話は私が意図的に隠していたようなものだしね」

「そうなのか?」

「本当ならもっと早く話すべきだったのだけど、炭治郎がそれを受け入れることができなさそうだったから話していなかったの。いつか受け入れる時が来たら、話すことにしようと思ってね。炭治郎の様子を見て、もうそろそろ話してもいいかなと思っていたんだけど.....決定打は煉獄さん達に会った時かな....」

「.....煉獄さん達に...会った時......?」

 

 

私は炭治郎が悩んでいるというより、困惑してきている炭治郎の様子を見て、話を変えてみることにした。

 

 

私から見たら感じたことだけど....炭治郎は私と別のように感じているかもしれないと思うけど.....聞いてみた方がいいよね。

 

 

「...炭治郎はどう思ったの?煉獄さんや善逸達を見て、どんなことを考えたの?」

「....俺は.........」

 

 

私が炭治郎に煉獄さん達のことをどう思ったのかを聞くと、炭治郎は一瞬悩みながらも話し始めた。

 

 

「......なんで俺達のところに来るんだと思った。俺を殺したのも、禰豆子を殺したのも、お前達の仕業なのに....!なんで俺達に!俺達に会って、どうするんだ!!今更謝りたいだって...!!」

 

 

炭治郎の叫びを私は何も言わずに聞いた。炭治郎が拳を強く握っている様子を見て、私は罪悪感を感じていた。だが、どんなに罪悪感を感じても、この話を炭治郎にさせているのは、こんな質問をした私が原因だ。

 

炭治郎もそれは分かっているらしく、私の方に身を乗り出して言った。

 

 

「彩花はどうしてこんなことを聞くんだ!あいつらが俺達にしてきたことを彩花も知っているだろう!それなのに......」

 

 

炭治郎の言葉を聞き、私は内心それに同意していた。

 

炭治郎の気持ちは本当に分かる!信じていた人達に裏切られ、殺された。そんなことがしたのに、謝ろうとしてくる。炭治郎からしてみたら、裏切ったのに何で謝るのかという気持ちを鬼殺隊に抱くのは全く不思議はない。そして、それを知っている私が炭治郎に鬼殺隊に対してどう思っているのかを聞くことを可笑しいと思っている。それでも....。

 

 

「.....炭治郎。私は....炭治郎に過去...あの時のことに囚われてほしくない、受け入れてほしいと思ったの」

「過去に......囚われる...?」

「今の炭治郎はあの時のことで心が揺れている。それじゃあ、炭治郎は対人恐怖症や心的外傷を治すことができないし、きっと前にも進めない」

 

 

私は炭治郎に静かに話しかけた。炭治郎は私の言葉に疑問に思っているようだが、私は気にせずに自分の思ったことをそのまま伝えることにした。

 

表面上は大丈夫に見えても内側は誤魔化せない、今の炭治郎の様子からして、間違いなくそうなんだなと私は感じた。

 

 

「今もあの時に負った炭治郎の心の傷は消えていないし、同時に鬼殺隊が裏切ったことを受け入れようともしていない。....炭治郎は鬼殺隊を許せないと思っているけど、鬼殺隊のしたことを自分自身も認めたくないとも思っているのでしょ。また、その確認をしたくないとも思っている」

「..........!!」

 

 

私は今までに見聞きして感じたことを炭治郎に率直に言った。

 

話を何度も聞き続けたのは前回の状況を詳しく知るためにという意味があったが、他にも意味があった。それは炭治郎が鬼殺隊に対して何を思っているのかを確認することだった。炭治郎は前回で鬼殺隊とあんなことがあったのだから、鬼殺隊を恨んでいるし、殺したいと思うほどに憎んでいるだろうというのは私の勝手な妄想だ。何かが起きたから、こう思うのが当たり前だと考えるのは駄目だ。それは本人の思っていることとは違って私の偏見になるから、本人から聞かないといけないと思った。実際に聞いてみて、炭治郎は憎しみを抱いたり恨んでいたりしていないんだということが分かった。というより、恨みや憎しみではなく、恐怖に近いものを抱いていると私は感じた。認めることへの恐怖を....。

 

 

...だけど、それは認めないといけない。それが辛いことであろうと、どれだけ大切なことなのは分かっている。.....だって........。

 

 

「今の炭治郎は過去の.....炭治郎と禰豆子に会う前の私に少し似ていると思うから、どうもそう話してしまうんだよね」

「...彩花にもそんな経験があったのか?」

「それは違うよ。ただ、今の炭治郎と前の私の様子が少し似ていたような気がしたの。あの時の私はこの世界には鬼がいること、鬼が人を食べて、それを防ぐために戦う人達がいるこの世界を受け入れられなかった。私はこの世界の現状を知っていても何もしなかった。どれほど過酷な戦いをしているのかを知っていても、私は自分の周りを守るだけで、炭治郎達のような鬼と戦う人達と関わる気なんてなかった」

 

 

私が似ていると言うと、炭治郎が頭に疑問符を浮かべながら私を見てきた。私は昔のことを思い出しながら話し、外の様子を見ていた。

 

位置的にはあっちが私の家があった方向かな。まあ、それはいいかな。.......あの時の私はここが鬼滅の刃の世界だと知り、まず考えたのはこれからの方針だった。いくつか考えてみたけど、真っ先に候補の中で消したのは鬼殺隊に入って鬼と戦うことだ。

 

 

私は怖かった。平和な世界で生きていたことで、鬼という人を食う未知の生き物と戦うのが怖くてしょうがなかった。だからこそ、私は鬼殺隊として鬼と戦う道を選ばなかった。

 

....戦ったり殺し合ったりすることを拒んだ。

 

 

「....あの時の私は知っている自分が関わることで変わってしまう可能性があるからという理由で、私はあの家で一人で暮らしていた。だけど、それだけじゃなかったの。私が未来を変えてしまう恐怖の他に、本当にこの世界に鬼がいるという事実を確認したくなかった。鬼のことは村の人達から聞いただけで、私は実際に見たことはなかった。だから、私は鬼への対策を用意したけど、鬼なんていないんじゃないか、もしかしたら村の人が子どもに良く聞かせるようなものなのではないかと言い聞かせていた。鬼を実際に探した時もあったけど、私は探しておきながら存在しないことを祈っていた。私には鬼がいるこの世界が怖くて仕方がなかった......」

 

 

私はあの時の自分が時々思っていたことを、関わってしまうことで原作を改変させないようにするためだけでなく、ここにいることが現実逃避なのではないかと考えていたことを話した。

鬼滅の刃の世界だと気づいた時から思っていたが、一人暮らしになってからはそう思うことが多くなっていった。

 

 

「...私が前世にいた世界は平和だった。だから、私は人食い鬼がいるという現実がとても怖くて目を逸らし、私のいないところで起きている悲劇を本当は知っていても、知らないふりをしていた。当たり前のように平凡な毎日を過ごして行けると思い込み、あの家から動こうとしなかった。....今に思うと、あの家は私にとって自分の世界ようなものだった.....。....私はここが鬼のいる世界だと認めたくなかった。認めたくなくて、私は自分の世界に閉じ籠っていた。自分の世界の外に出ることを拒絶していた。関わることすらも.....」

「......それでも、彩花は俺と禰豆子に声をかけてくれたし、俺を助けてくれた。だから、関わる気はなかったのは違うと思う」

「あれは...私がほっとくことができなかっただけだよ。目の前で倒れているのを見たら、見て見ぬふりなんてしたくなかった。だけど、私は炭治郎達がこれから起きることを知っていても、何もする気はなかったんだよ。私はいない存在だからと、私が関わらない方が知っている通りに進むと思ってね」

 

 

私が転生したことを受け入れられなかった、現実逃避をしていたと言うと、炭治郎が私にそんなことはないと言ってくれたが、私は首を振って話を続けた。

 

 

......本当に、私はなんで気づかなかったのかな。獪岳にバカと呼ばないでと言っていたが、私は大馬鹿だ。ここは現実だと自分で言っていたのに、原作通りに進むと思っていた。ここが鬼滅の刃の世界だからと.....。炭治郎達が原作通りに動き、原作に出ない私はそれに関係ないのだと.......。

 

 

「まあ、....それは違ったんだけどね。炭治郎と禰豆子に会った時、やっとそのことに気づいた。知っている通りに事が進むなんて絶対に決まっているわけじゃない。ここは私が読んだような物語の世界じゃない。ここは現実なんだと、私は関係ないからと言って、現実から逃げてはいけないのだということが分かったの。どんなに受け入れたくないと思うことでも、ちゃんと向き合わないといけないんだって気づいた...。.......遅すぎだったけどね.....」

「彩花....」

 

 

私は自分を嘲笑いながらそう言った。そんな私を見て、炭治郎が何か話をしようと言いたそうにしていたが、私はそれに気づかないふりをした。

 

 

向き合っていなかったのは事実だからね。私も苦しかったんじゃないかと聞かれたら頷くが、それはこの世界がどういう世界なのかというのが何度も頭に思い浮かぶからだ。頭に思い浮かんで現実を思い出し、そのことで悩んで苦しんでいた。今はその現実を受け入れてこの状況をなんとかしようと悩むことはあれど、苦しむことは無くなった。あの家に引き籠っていたのをきっかけに、私は受け入れることの大切さに気づくことができた。これは私の我儘だ。炭治郎にこのまま苦しみ続けてほしくないと思い、下手すれば心の傷を広げてしまうことをしているのは分かっている。

 

だけど...あの時のことをずっと気にしている炭治郎が苦しみ続けるならと、後でそのことによって塞ぎ込まないようにと思って、今日話しかけてみることにした。

 

 

「......それに、私がこのことを言い出したのはそれだけじゃないの。....炭治郎。少し現実的なことを聞いていい?」

「現実的なことを?それは一体.....」

「炭治郎は今のこの状況のままで鬼舞辻無惨や上弦の鬼と対決して勝てると思う?」

「........えっ?」

 

 

私は自分の願いから止めているだけではなく、他の理由で聞くことにした。炭治郎は困惑していたが、私は単刀直入に聞いてみることにした。

 

 

鬼殺隊に入らずに鬼舞辻無惨とその他の上弦の鬼に勝つことができるのか。これは私が旅に出てすぐに考えたことだ。私の知る原作や炭治郎達の知る前回は鬼舞辻無惨を討ち取ることができた。しかし、それは炭治郎だけの力で勝ったというわけではない。炭治郎達の知る前回は私が実際に見てないから分からないが、今までに聞いた話の流れからしておそらく炭治郎だけが頑張ったというわけではなさそうだし、私の知る原作もたった一人の力で勝ったという話ではなかった。原作も炭治郎達の前回も個人の力ではなく、全員が戦って得た勝利なのだと私は思っている。鬼殺隊全員が隊士や柱、隠など関係なく協力したからこそ、原作で鬼舞辻無惨を討伐できたと思っている。

 

......だけど....この状況では.........。

 

 

「相手は鬼舞辻無惨や上弦の鬼などの強い鬼が多い。逆にこっちは味方として、手で数えられるくらいの人数しかいない」

 

 

私は自分の思っていたことを話しながら炭治郎の様子を見ていた。炭治郎は私の言葉に驚いたような顔をしていた。その顔を見て、炭治郎も同じことを考えていたんだなと思った。

 

異世界転生とかの話で一人や少人数が敵軍相手に無双して勝つ話があるけど、これに関しては無理だと思う。いくら今の炭治郎達が二周目でも大勢の鬼には敵わないし、おまけに圧倒的に実力不足の私がいるからね...。

 

 

「.....だから、鬼殺隊と和解しようと...」

「いや炭治郎達の気持ちからして、すぐに和解することは私も流石にできないと思っているよ。だから、協力関係を結べるくらいでいいよ。私も滅茶苦茶酷いことを言っているのは自覚しているよ。でも、このまま状態を続けられるほど現実はそんなにあまくないからね」

 

 

私は炭治郎の言おうとしていることを先に理解し、それを否定した。

 

さっきも言った通り、ここは現実なんだ。だから、思い通りにすることなんてできない。かつての私がそうだったように......藤の花を植えて、念のために他の対策をしておけば私の家族は大丈夫なんだと信じ、両親が流行り病で亡くなった時のように....。

 

.......ここは漫画の世界なんかじゃなくて現実だ。現実的に考えればこっちが不利なのは間違いない。そして、それは炭治郎も分かっている。ただ、全てを水に流すことなんてできない。だけど、そんなことを言っている場合でもない。許すことが無理でも、せめて受け入れることができればと私は思っている。敵の敵は味方だと言うしね。少なくとも協力関係くらいにはなれると思う。

 

 

「確かに...。......だが....」

「炭治郎。言っておくけど、私は炭治郎に鬼殺隊を許すようにと言っているわけではないの。ただ、今のままだといずれは私達で対処できなくなるし、鬼殺隊もこの状況には多分混乱しているところがあると思うの。鬼殺隊は炭治郎と禰豆子に負い目があるから、それを上手く利用すれば協力してほしいと言えばできるんじゃないかなと思ったの。煉獄さんとかは謝りたいって言っていたし」

「.............」

 

 

炭治郎は反論しようとしたが、私はそれを遮って言った。

 

割と厳しいことを言っているのは私も分かっているよ。でも正直に言うと、私だって本当は説教したいくらいにあの時の鬼殺隊のこと、怒ってますからね。禰豆子の怒りが凄すぎて、逆に冷静になるから止める側にいるのですけど。私の気持ちからして、償いの意味を兼ねて協力しろという考えの方が強いような気もするけどね。

 

今のままの方が炭治郎の心は無事。だけど、その代わりに現状が悪くなっていく。......選択しないとね。と言っても、炭治郎達の心境的に鬼殺隊との和解が難しいのは分かっているから、妥協案としてこの案を考えてみた。.....不安要素は多いけど。私も酷いことを言っている自覚はあるけど。

 

 

「鬼殺隊がどのような行動をするのかは私も分からないよ。でも、炭治郎と禰豆子が許すかどうかは分からなくても、あちらから何かしらの行動を起こすと思うの。それを見て許すかどうかはともかく、そんな鬼殺隊を受け入れてみるのはどうかな?私がさっき言った乗り越えるとは許すとかの意味ではなくて、受け入れることだから。一度受け入れてみて、鬼殺隊がどのような行動をするのかを見て、炭治郎と禰豆子が鬼殺隊を許すのか許さないのかを決めた方が良いんじゃないかな....」

「......だが、俺は...」

 

 

私の話に炭治郎は不満そうな顔をしている。炭治郎の気持ちは分かるけどね....。

 

 

私は炭治郎達の気持ちを尊重したいが、どうしても鬼殺隊のことも気がかりになっている。私も炭治郎も鬼殺隊もあの時の真実を知らないし、鬼殺隊のこれからの行動も分からない。炭治郎は今世では善逸達の誰とも話していないから、今の善逸達が何を考えているのか知らないし、私の方も善逸達の考えていることは知っていても、次の行動はどうなるかはっきり分かっていない。その行動が炭治郎のことを傷つけると私が判断したら止める気ではあるが、精いっぱいの誠意を見せると言うのならばそれを止めるかどうかは悩む。

 

まあ、このことに関しては私が勝手に決めるわけにはいかないし、そもそも炭治郎達の問題に私が口を挟む方がおかしいと思うけど......でも、私はあの時の件をはっきりさせておかなければならないと考えている。お互いにやきもきしていると思うし。

 

 

「そうだよね。とても複雑な気持ちだろうし、もう信じたくない、受け入れられないと思うよね。それは.....心的外傷や対人恐怖症の症状を見ているから分かるよ。心的外傷はとんでもない恐怖や命の危険を感じる経験などが原因だし、対人恐怖症は自分が他人を不快にさせていないかというような不安、自信の欠如が原因なのだからね。炭治郎は受け入れることに恐怖を感じているし、またあの時と同じことが起きたらという不安も感じているよね」

「.......!」

 

 

私の言葉を聞き、炭治郎はまた拳に力を込めた。

 

炭治郎はおそらく無意識なのだろう。あんなことが起きて恐怖を感じていてもまだ善逸達を信じたい、あの時のことは間違いだったのではないかと思いたいのだろう。

 

だけど、いつかは受け入れないといけないのだろう。私的には最終決戦の前くらいに決めてもらえたらすっきりできると思うけど、これはそんな簡単に決められる問題ではないからね。あんまり急かす気はないが、もうすっきりさせておいた方が良いよね。難しいことだけど.....。

 

 

「炭治郎。...もうそろそろ言ってもいいかなと思っていたから言うね。あの時のことは、炭治郎と禰豆子でもなくて....鬼殺隊でもない、別の原因があると私は思うの」

「別の原因...?」

「うん。炭治郎達から聞いた話だと、まるで炭治郎を鬼だという認識をしていたようだし、善逸達の反応からして、自分がどうして炭治郎にあの時のことをしたのかも分かっていなかった。だから、これらのことを考えると、何かしらの力が働いているように思うんだよね。鬼殺隊の人達を庇うような言い方だと思うけど、私はそのことが気になっているの。....ごめんね。炭治郎達に黙っていて」

 

 

私は炭治郎にあの時のことを聞いてからずっと思っていたことを話した。炭治郎は私の言葉に不思議そうにしていたが、とりあえず私の話を聞いてくれるらしくて黙って聞いていた。私はもしあの時のことが鬼殺隊自身の意志で行動したのか、そうではなくて他の原因があったのかどうかという風に考えていたこと、実際に善逸達と会ってその可能性が高まり、私の知っている話と炭治郎達が前回で体験したことや今回のこととの違い以外にあの時のことを少しでも多く知ろうとしていたことを話し、可能性とはいえこのことを炭治郎達に黙っていたことに対する謝罪もした。

 

炭治郎に淡い期待を持たせたくなかった、それが本当なのか確信してから伝えようと思っていたと言っても、炭治郎にずっと黙っていたことには変わらないから謝らないと。

 

 

「まあ、どんな事情があっても鬼殺隊が炭治郎を殺したことは変わらない。殺された側の気持ちは炭治郎だから分かることで、私が語ることなんてできないよね。それに、その時の恐怖を覚えているのなら、また善逸達を信頼して裏切られたらと、次も信頼している人達に裏切られたらと思って怖くなるのも当然だよね。炭治郎はそういう意味もあって、受け入れることができない」

「............」

「炭治郎がそう思っているなら、私は炭治郎がそのことについて考える必要がないようにあの時の真相を突き止めるよ」

「......!?」

 

 

私はこれまでに見聞きして思ったことを話した。炭治郎はそれを聞いて無言だったが、次の私の宣言には驚いた様子だった。

 

 

私の宣言に炭治郎も驚いているみたい。炭治郎に話す前に一度この話を獪岳に話してみたら、『何を言ってるんだ、こいつ』と言いたげな呆れた顔をしていた。というか、実際に言っていた。しかも、『バカか、テメェは』が後ろに追加された。

 

....でも、私は本当にあの時に何があったのか知りたいし、真実をはっきりさせたい。あの時のことは原作とは違う流れになったのにも関係していると思うし、あの時のことをはっきりさせたいのは炭治郎達も同じなんだと思う。そういう意味でも、あの時の真相をはっきりさせておきたい。

 

 

「私ね、個人的にあの時のことが気になっていたから真相を知りたいと思っていたのだけど、それと同時に、あの時の真相を知れば炭治郎の心が少しでも軽くなるかもしれないという期待もあったの。勿論、逆に炭治郎を苦しめてしまったり、悩ませてしまったりする可能性もあるけど....それでも、炭治郎が苦しみ続けることになるのなら、その時は知る方が良いと考えていたの。対人恐怖症や心的外傷が悪化する可能性はあるけど、真実を知って吹っ切れる可能性もあったからね。どっちに転ぶかは分からないけど、炭治郎があの時のことに囚われずに前を向く可能性があるなら、それに賭けてみようかなと思ったの」

 

 

初めはそんな淡い期待のような気持ちであの時のことを知りたいと思った。そして炭治郎達から色々話を聞いたり、鬼殺隊の様子を見たりして、その思いが強くなった。この先がどうなるかは分からないけど、今の状況がこのまま続けば、炭治郎も鬼殺隊も互いに苦しみ合うことは分かった。炭治郎がこれを聞いてさらに苦しむうえに鬼殺隊との溝が深まる可能性はあったけど、それでも炭治郎達の心が少しでも軽くなる可能性もまたあった。

 

真実を知れば苦しむ可能性があるが、このまま放っておいても苦しみ続けるのならと思い、この真実を知ることに賭けてみることにした。

 

 

「炭治郎は知らなかったと思うけど、私はもう行動に移しているの。少しでも早く炭治郎が立ち直るようにね。対人恐怖症や心的外傷の治療法を思い出せる限り試していたんだよ」

 

 

私はもう何もかも話すような勢いで、そのまま治療法を試していたことを話した。

 

対人恐怖症の治療法として環境を整え、相手に対して目を合わせられるようにしたり、自分から話しかけたり、受け答えをしたりという訓練をしていた。ちなみに、獪岳を相手に試していました。獪岳なら練習相手にぴったりだと考えていたら、獪岳に他意はないだろうなと思いっきり睨まれた時はかなりビビってしまった。いや、何で分かったのだろう?

 

 

「.....前から気になっていたんだが、寝る前やあの時のことを話す前....それとさっき、よくお香を焚くのは........」

「......やっぱりバレていたのね...。.....炭治郎の想像通りだよ」

 

 

私はそう言い、話しかける前に火をつけて隣に置いていた小さなお香を机の上に出した。

 

 

炭治郎を落ち着かす方法として、薬以外でも色々なものを考えてきたが、最も効果的なものは匂い関係のものじゃないかなと考えた。そう思った理由は、炭治郎は鼻が良いからという何とも単純な理由なんだけどね。でも、リラックス効果の香りなら、何かしらの良い効果があるんじゃないかと期待したんだよね。この時代でアロマを作ることは難しくても、お香ならできるのではないかと思って、色々な花や薬草などで作ってみたのだ。

 

ちなみに、お香の作り方は昔学校で作ったことがあったので、その時の作り方を思い出しながら作った。

 

 

「彩花は何故かよくお香を焚いていたからな。理由はよく分からなかったが、その匂いを嗅ぐと、妙に肩の力が抜けて安心できたんだ」

「まあ、リラックスできるようにと思って作ったからね」

 

 

炭治郎の感想を聞きながら私はお香を作った時のことを思い出した。

 

 

いやー、薬とは違うから苦労したよ。リラックスの効果があるものを何度も何度も試行錯誤したものか....。

 

ラベンダーとかリラックス効果のあるものとしてすぐに思い浮かびそうなものはこの時代で手に入れるのが無理だった。それで代わりになりそうなものはないのかと思って、他のリラックス効果がある薬草とかと良い匂いのする花を何パターンも組み合わせて、試しに自分で使ってみるという作業を繰り返して漸く完成したんだよね。

 

 

「あの時のことや今ならともかく、寝る前に焚くのは何でだ?」

「寝る前に焚くのは夢の中であの時のことを思い出させないようにしているからなの。それに、夢の中ぐらいは炭治郎に安心して休んでほしいからね」

 

 

炭治郎に質問され、私はそう答えた。

 

 

夢はその人の体験だ。睡眠中の脳はその人が今まで見聞きした情報を整理するため、その過程で自分が見聞きしたことや体験したことが断片的に表れ、脳の中でストーリーとして作られていったものが夢なのである。そんな夢の中でも、悪夢を見ることがある。悪夢は何らかのストレスを感じた時に見たり、心的外傷で睡眠中に見たりすることがある。起きる時はフラッシュバックで発作を起こし、睡眠中は悪夢として見るようなことになれば、炭治郎も精神的に耐えられない。こういう場合は夢と現実の区別がつかなくなったり、不満状態や抑鬱状態、自殺の原因になったりする可能性がある。

 

だから、夢の中であの時の出来事を再び思い出してしまうことで、心の傷がさらに深くなるうえに眠れなくなってしまうと考え、私は毎晩お香を焚いて寝ていた。匂いの強いお香ではないが、炭治郎の鼻だとお香が近すぎればそう感じるのではと思って、お香を置く位置にも注意した。

 

 

「炭治郎。対人恐怖症や心的外傷は炭治郎の意志とその努力次第で治すことはできるの。でも、炭治郎の事情は分かっているから、私は強制しないよ。私は炭治郎が受け入れないと決めたのならその意志を尊重するし、別の方法を考える。受け入れると決めたのなら全力でサポートするよ」

 

 

私は自分の考えをそのまま伝えた。

 

これは紛れもない私の本心だ。対人恐怖症や心的外傷は炭治郎の心の問題だから、私ができるのは向き合えるようにサポートすることだ。私が勝手に決めるわけにはいかないし、私自身で炭治郎本人の意志を尊重すると心に決めているからね。もう既に先走って行動したけど。

 

 

「....もし、鬼殺隊が俺や禰豆子にしたことに何も思っていなかったら、俺達を敵だと認識したら、どうするんだ?」

「......その時は私がなんとかするよ。このことを提案したのは私だし、私が問い詰めるよ。あの時の鬼殺隊が炭治郎達にしたことは私も許せないことだと思っているし、私が納得するまで色々と話そうと思っているよ。それに、どんな人が相手でも私は言いたいことははっきり言いたいし、気になることは分かるまで聞きたい。だから、鬼殺隊の誰が目の前に現れても、私は怯まずに立ち向かうから安心して。言い出したのは私だし、私が言い出したことで何かが起きたなら私がその責任を背負う気でいるから」

「...彩花は何で鬼殺隊とも話をしようと思っているんだ?鬼殺隊との仲を取り持ちたいのか?」

 

 

炭治郎の質問に私は想定していたが、少し悩みながら答えた。

 

炭治郎にとって、私の行動は不可思議過ぎるように見えるだろうね。炭治郎達の意志を尊重すると言っていて味方であるが、その一方で鬼殺隊の方も気にしている。私が一体何をしたいのかと思うのは当然よね......。だけどね...。

 

 

「片方の意見だけでは真相が掴めないことだってあるからね。双方の意見を聞いて、判断したいの。.....それに、仲を取り持ちたいという思いもあるかもしれないけど、あの時にもし....というような思いをして互いに後悔するよりも、互いに言いたいことを言った方がいいと思ったの。そのためにも、今回の真相はきちんと突き止めておかないと。また同じことが起きる可能性だってあるから、その対策をしないといけないし、何よりも意味の分からないままだと後味が悪いでしょ。炭治郎も鬼殺隊もあの時のことを互いに気がかりに思っているのは同じなのだから。.....まあ。あの時、その場にいなかった私ができることはそのくらいだと思うけど。......それと....」

 

 

私は今回の真相をどうしても知りたい。その為に片方の意見だけで判断するのは危険だし、何か他の情報を知っている可能性もあるから、鬼殺隊とも話をしたい。個人的に鬼殺隊に対して思うことはある。けど私があの時の件に口出しするのは烏滸がましくても、私はできることをする。それは変わらない。だから、私は決めた。

 

 

「それと、あの時と同じことは起こさせないよ、絶対に。私があの時の真相を突き止めるから。だから、あの時と同じことが起きたらと恐ろしく思う必要はないよ。何もかも疑心暗鬼になって苦しむ必要もない。私は炭治郎がこれからを真っ直ぐに進んでほしい。鬼殺隊とどうするのかを決めれるように。周りはきちんと見ているから、炭治郎は自分の意志でやりたいことをしてね」

 

 

私は炭治郎の目を真っ直ぐ見てそう言った。炭治郎に苦しんでほしくない、前を歩んでほしいという私の気持ちは本音だ。あの時と同じことを繰り返したくないというのもそうだ。あの時のことを知らないと、また同じことが起きるかもしれない。炭治郎はもう二度とあの時と同じことが起きてほしくないと思っている。私も同じ気持ちだ。信じていた仲間に裏切られることもその気持ちも、想像するだけでどんなに辛いことなのか分かる。炭治郎から話を聞いているなら尚更だ。あの時と同じことを繰り返してはいけない。繰り返すわけにはいかないんだ。

 

炭治郎達も鬼殺隊もお互いのことで精一杯だ。それなら私がやらないと。それに......。

 

 

「...彩花は何でそこまで信じられるんだ、鬼殺隊のことを。彩花は知っていても、あまり話したことはないんだろう?」

「......私はね。動物も人間も、生き物なら守り守られながら生きていっているのだと思っているの。親が子を守るような、子が親を守ろうとするような与え合い、支え合っている関係。....でも、全ての関係がそういう関係ではなく、傷つけ合うこともある。だけど、時に傷つけ合うことがあってもそれを許し合い、色々なことが起きてもそれを助け合いながら乗り越え、成長していく.....それが生き物なんだと私は思っているの。そういう考え方だから、私は誰かを信じてみたいと思っているのかもしれないかな....」

 

 

まあ......私はそういう考え方と価値観なんだよね、前世から。炭治郎に何でと聞かれても、私はこの考え方だからとしか言えない。例え甘い考えだと言われても。一応その考え方を分かりやすそうな例えを使って言ってみたけど、逆に分かりにくくなってしまったかも。でも、私の言いたいことはちゃんと言えたと思っているのだけど。

 

 

「まあ、鬼殺隊があの時の責任を取る気はないと考えているなら、流石に諦めるかな。過去のことでも自分のやったことなのに、その責任を取らないで相手や別の誰かに押しつけようとするのは駄目だし、それには私も弁護できない。自分が背負わないといけない責任から逃げるのはね。まだまともに善逸達と顔を合わせられないのに、こんな話をしてごめんね。でも、そろそろ話しても大丈夫そうかなと思って話してみたの。...これを言い出したのは私。私は私のしたことへの責任を取る覚悟はしているよ。だから、私のこの身勝手な行動に付き合ってくれるかな」

 

 

私は炭治郎に向けてそう宣言した。

 

 

私が炭治郎にその宣言したのは私の本心を伝えるためであり、私自身を追いつめるためでもある。この提案が私のエゴだということは分かっている。私が鬼殺隊のことを信じたいが故に、まだ気持ちの整理がついていない炭治郎にこんな話をしてしまったのは申し訳ない。ここは現実だと分かっていても、私はまだ原作を信じているらしい。でも、時間もそう長くない。早い段階でやらないといけない。それに私が知りたいと思った、やりたいと思ったことだから、それで失敗したら悪いのは私だ。

 

だからこそ、私はこの行動に責任を持つ。炭治郎達は巻き込まない。私がしたことだから、何か起きても私の自業自得だ。こんな話をしてしまったので、できるだけ炭治郎に長く考える時間を与えたいと思って、今話したのだけど....これが吉と出るか凶と出るか私も分からない。一種の賭けだ。

 

.....さてと、炭治郎には話せた。...残る問題は.......

 

 

「あっ、禰豆子。........ちょっといい?」

「何?」

「えーと、いやお願いというか色々話したいことがあるのだけど.....」

 

 

私は禰豆子の姿が見えたので、『来たー!?』と内心叫びながら恐る恐る声をかけた。

 

どうしてそんなにびくびくしているのかって?それは禰豆子にこの話をするのが怖いのです。だって、これを言えば禰豆子にキレられるのは分かっていること。キレられる側もそれを止める側も嫌だ。もう充分に理解していますから。だけど、話さないといけないんだよね、話したらどうなるか分かっても!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「........ということを炭治郎に話したの」

 

 

私は炭治郎に言ったことをカナヲにも話すことにした。

 

結局炭治郎はまだ悩んでいる最中で、私も炭治郎がどうしたいのかは分からない。だけど、炭治郎も私の意見に何か思うところがあったらしく、何やら考えている様子だ。おそらくカナヲ達とどう向き合うのかを考えているのだと思う。ちなみに、あの後の禰豆子とのことは....あまり触れないでね....。

 

 

「......彩花は私達のことを信じているの?」

「うん...。.....いや、信じているというよりも納得がいかないの方が近いかな。カナヲ達が私達を敵に回すという判断をする人達ではないことは、なんとなくだけど分かっているからね。信頼関係とかと言うと、少し微妙な関係になっているのだと思う」

 

 

カナヲにも炭治郎の時と同じことを聞かれ、私は苦笑いした。

 

カナヲの方からしても、私の行動はあまり理解できないものだろうね。あの時のことを知っているはずの私がどうしてこうも気にかけてくれるのかって。まあ分かるけど、流石に原作で知っているからとは言えないなあ。

 

 

「それに私からしてみたら、後はカナヲ達の対応に丸投げしたという感じに近いかな」

「丸投げ?」

「あの時のことに関して、炭治郎には炭治郎の思っていることが、カナヲもカナヲで思っていることがあるでしょ。私はあの時にいなかったし、炭治郎でもカナヲでもその場にいた人ですらない。そんな私が断言なんてできないし、よく分かっていない私が言って傷つく場合もあるだろうから、あの時のことを話でしか知らない私はあまり余計なことをしない方がいいと思っているの。....て、結構口出しているけど......」

 

 

私は苦笑いしながら話を続けた。私が言っていることって、訳せば丸投げします、投げやりしますと言っているものなんだよね。相談にのると言いながらとても申し訳ないのですけど。

 

 

「...さっきの話でも言っていたけど、あの時のことはお互いに一度話し合わないと後悔すると思っているよ。だから、カナヲは自分の思っていることを正直に言った方がいいよ。もう何度も言っているけど、謝罪は自らの非、罪を認めて相手に許しを願うという意味を持っている。自分の罪を認めているカナヲならできるよ。相手の気持ちを思いながらも自分の心から思っていることをそのまま伝えることができる。最初は二択からという感じでもいいから、それでも考えたり答えを導き出せたりできる力があるのだから、ゆっくりで良いから何を話すのかを決めて」

「彩花....」

 

 

私はあの時の件を丸投げしてしまったこともあり、困ったことがあれば相談にのると言った。炭治郎だけがどうするのか決めるのはなんだか違うし、カナヲ達も決断しないとね。

 

そう考えていたのに、冨岡さんが切腹すると言ったからそれには驚くと同時に怒ってしまったのだろう。今炭治郎が向き合おうとしてくれているのに切腹すると言い、おまけにその知らせを私に届けさせようとしているから、全く何をしようとしているのですかと思ったよ。だけど、流石に冨岡さんの頬を叩いたのは駄目だよね。反省しないと。

 

 

「炭治郎にも言った通り、私はあの時の真相を突き止める。あの時と同じことは繰り返させないから安心して。私ができるとしたら手伝うぐらいしかできないけど.....他にも何か相談したいことがあるなら、良ければ相談くらいは乗るよ」

「うん.......」

 

 

私はカナヲにも宣言した。なんだか自分にプレッシャーを与えるためにこの宣言をしているけど、やり過ぎて調子に乗ってしまいそうだ。だけど、こうやって頼られていることに少し喜んでもいいよね。....さてと......。

 

 

「それと、そのまま知らないフリをしていましたけど、盗み聞きは駄目ですよ」

「えっ......?」

 

 

私は後ろで私達の話を聞いていた人達に向けてそう言った。カナヲを含めた人達が驚いていたが、私はそれを無視して立ち上がった。

 

 

いや、だって視界の端に小さくても影が見えれば気づきますよ。...気がつかなかったのかな?

 

 

「気配を上手く消せても、影が少しだけ見えていたのですよね。次に来る時はちゃんと声をかけてくださいよ。話しかけさえしてくれれば入れますから。はははっ」

 

 

私はそう言いながら笑ってカナヲの手を引き、後ろから誰かの声を耳にしながらその場を去った。カナヲも私が手を引いた時は驚いた顔をしていたが、私の笑っている様子を見て不思議と笑みがこぼれてた。

 

 

 

炭治郎達のことも大切だけど、こっちも何とかしないといけないことだよね。気がかりだと思うのもあるけど......仲直りができるならできた方が良いと私は思う。

 

 

 

だって.....モヤモヤしたものがない、すっきりしたハッピーエンドの方が互いに良いでしょう。

 

 

私はそう思うのだけど、お節介かな? 申し訳ないけど....それでも私の我儘に付き合ってくれると嬉しいな。

 

 

 

 

 




体調の関係で次回まで少し時間がかかります。楽しみに待ってもらえるとありがたいです。




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笹の葉の少女は刀鍛冶の里に来た

柱合会議の時から、しばらく経った。カナヲとは機能回復訓練で薬湯をかけられたり、鬼ごっこしたり、相談に乗ったりと色々あった。最近では頑張った甲斐もあり、カナヲと良い感じの勝負になってきた。まだ勝てたことはないんだけどね...。

 

 

まあ、それは他にも私の周りが色々と騒がしくなってもきたのも原因だろうけど....鍛練と私の怪我が治ったから、強くなれたのは間違いない。もうすっかり元気になって、健康な状態なのだけど、私はまだ蝶屋敷に滞在していた。私は鬼殺隊に入っているわけではないから、任務をするという選択肢はないし、一応捕まっている人なので、むやみに外に出すこともできない。でも鍛練ができるし、蝶屋敷の手伝いもできる(しかし、おつかいはできない)ので、暇ではない。それに、善逸達と普通に交流はできているし、割と快適な生活を送れているので、特に不満はない。

 

 

 

それと、あまり外に出ることはできないが、義勇さんに会いに行くことだけは特例で許されている。義勇さんが不安定になっているのは御館様も柱も知っているため、見張り付きで水屋敷に行くことは許されている。

 

 

まあ、蝶屋敷に留められる理由は分かるので、私は特に文句はない。だけど、流石に外で体を動かさないと健康に悪いし、これからのことを考えて鍛練はしておきたいから、何処までなら外に出ていいのかは聞いて、その範囲内でできる鍛練をしていた。たまに伊之助やカナヲ、柱達と鍛練することになるが、学ぶことが多くていいと思っている。義勇さん同様に何で柱と普通に交流があるのかって?....そんなの決まっているでしょ。本当に一応私は監視対象であるから、見張っておかないといけないんだよね。前世の記憶のことを話しても、私が怪しいのは変わらないからね。

 

 

ただ、流石に柱が頻繁に来るのは予想外だったけど...。なんか来る度に苦笑いを浮かべて出迎え始めてきた。

 

.......もう柱が普通に来ても、動じなくなってきたんだよね....。....ああ、慣れって怖い.....。

 

 

 

まあ、そんなこんなで色々あったが、割と充実な日々を過ごしていた。...だが、現在.....。

 

 

「彩花ちゃん!こっちに温泉があるよ!」

「おい、生野彩花。甘露寺が呼んでいるんだ。もたもたするな」

「ははは......。分かっていますよ....」

 

 

現在、私は恋柱の甘露寺さんと蛇柱の伊黒さんと一緒に刀鍛冶の里に来ていた。私を呼ぶ甘露寺さんとさっさと甘露寺さんのところに行くように言い私を睨む伊黒さん。私はそれに苦笑いしながら二人の後ろを追いかけた。

 

何故蝶屋敷にいた私が刀鍛冶の里にいるのか......事は数日前に遡る....。

 

 

 

 

 

 

 

数日前、私は突然しのぶさんに呼び出された。私がどうしてかと聞くと、しのぶさんが個人的な話ですよと言い、蝶屋敷の和室に連れて行かれ、そこで話を聞いた。

 

 

「...御館様からのお願いですか?」

「そうです」

 

 

どうやら御館様から私に何か伝えることがあり、しのぶさんが代わりにその伝言を伝えてくれるらしい。だけど、御館様が私に何の用があるのか皆目見当もつかない。

 

 

「どうして私に、ですか.....?」

「彩花さんはこの後の戦いについて知っていますよね?」

「まあ、大体の流れは......」

 

 

しのぶさんの質問に、私は答えた。この質問って、御館様からの伝言なのか、しのぶさん個人の質問なのかどっちなのかな?.....でも、答えておかないとね。

もうかなり時間が経っているけど、原作の流れは大体覚えている。細かいところは所々抜けているけど、問題はないと思っている。それに、そういう抜けているところは炭治郎達や他の人達に聞けば分かるからね。鬼の特徴と大方の流れを覚えていれば対策は練れるし。

 

 

「彩花さんの話と私達の報告から、炭治郎君達が前回の十二鬼月などの強い鬼との戦いの場所に行くことは分かっています。那田蜘蛛山、無限列車、吉原遊郭という順で現れていますので、その次は.......」

「....刀鍛冶の里...です」

「その通りです」

 

 

話の流れから刀鍛冶の里のことを話すのではないかと思っていたので、刀鍛冶の里のことが話題に出てもあまり動じなかった。もうそろそろだと思って、私もどう行動する方がいいかと悩んでいたからね......。

 

 

「御館様は刀鍛冶の里にも炭治郎君達が現れると考えています」

「うっ....!」

 

 

しのぶさんから聞いた御館様の予想に、私は図星をつかれて反応してしまった。炭治郎達と今後の方針について何度も話し合っていたので、私は炭治郎達が次に刀鍛冶の里に行くことを事前に知っていたのだ。炭治郎達は鬼が、特に十二鬼月が出てくるところには向かうことを確定している。禰豆子を人間に戻すためにも、鬼舞辻無惨に近い血を持つ鬼の血を調べる必要があるから、十二鬼月に接触してその血を採取しないといけない。

 

それにしても...大当たり。大正解です.....。流石は御館様。

 

 

「刀鍛冶の里に炭治郎君達が行くにしても、私達もそれを知っていてほっとくことはできません。ですが、隊士が多いと炭治郎君と禰豆子さんの負担になりますし、なるべく人数は少なくしておこうと思っています」

「....賢明なご判断、感謝します」

 

 

鬼殺隊側の動きを聞き、私は御館様の判断に感謝した。

 

鬼が出るのが分かっていて動かないのは炭治郎達のことを考えるとラッキーとは思うけど、鬼殺隊ととしてどうかと言うと動けと思う。......矛盾した考えと思うけど、鬼殺隊は鬼を斬るのが仕事なのだから行くのは当然だものね。むしろ行かない方がサボりみたいなものになるでしょ。....それに、私達が動くからと言っても鬼殺隊は動かなくて大丈夫だという話にはならないのは分かっている。そこら辺は炭治郎達も理解している。

 

ただその派遣された人数が多いと、炭治郎達の負担になるんだよね。しばらく会っていないけど、まだ炭治郎の精神的には良くないことは分かっているし、禰豆子はその隊士達にキレて上弦の鬼との戦いどころではなくなりそうだもんね。あと...獪岳も......。

 

 

何故私が獪岳もと言ったのかというと.....これは私の推測なのですが、獪岳はあまり団体戦に慣れていないのですよね。獪岳の話や私の勝手なイメージからしてなのですけど....獪岳は一匹狼みたいな雰囲気を感じるのです。それに、原作の獪岳は基本である壱ノ型が使えないということで周りとの距離があったようだ。だから、あまり周りと連携することがなさそうなんだよね。

 

ちなみに、私も多分難しいですね。四、五人くらいなら連携を取れますが、それ以上の人数での戦いの経験はゼロなのですよ。つまり経験不足です。

.....まあそういうわけで、私や炭治郎達が大勢と一緒に戦うのは無理なのです。相手は上弦の鬼二体だから、人数は多い方がいいのですが、肝心の連携がバラバラでは足の引っ張り合いになるだけだものね。

 

 

「ただ、それでも炭治郎君と禰豆子さんのことを考えますと、吉原遊郭のようなトラブルが起こるかもしれませんので、彩花さんにも参加してもらうことになりました」

「へっ!?私もですか!?」

「はい。こちらも勝手にいなくなられるのは困りますので」

 

 

しのぶさんから出た次の言葉に、私は驚いてしまった。確かに刀鍛冶の里の襲撃がそろそろだなとか、早く炭治郎達と合流したいなあとか思っていたけど、まさかのあちらから行ってもらいますと言われるとは思わなかった。

 

 

つまり、行きたい場所に連れて行くから逃げないでねと言っているようなものだよね。色々バレているみたいだけど、行ってもいいのなら行きたい。ううん、行こう。

 

 

「........分かりました。確かに炭治郎と禰豆子の身に何かあるのは私も嫌ですし、刀鍛冶の里の戦いのことも気がかりでしたし、参加させていただきます」

「勿論、承諾されると思っていました。それでは、彩花さんは迎えが到着次第、出発していただきます」

「...迎えはやっぱりいますよね.....。....分かりました。......それと、戦いに出るなら...日輪刀や吹き矢などを返していただけるとありがたいのですが........」

 

 

私は許可を貰えているようなものだと考え、頷くことにいた。私が頷くことは予想済みだったらしく、その後の行動は早かった。私は迎えという言葉に苦笑いしたが、それよりも私の持ち物を返してほしくて頼んだ。戦いの時に日輪刀は当然だが、もう一つの武器ともいえる鬼の動きを鈍くするための毒を注入する吹き矢とその毒を作るのに必要な道具は欲しい。

 

 

「はい、流石に一人では刀鍛冶の里に行くことはできませんから、付き添いの人と一緒に行ってください。それと、日輪刀と吹き矢、道具の入った箱は隠の人達が先に刀鍛冶の里に運んでくれるそうです」

「それなら、大丈夫そうですね。ありがとうございます」

 

 

できれば監視されたくないとは思ったが、誰かと一緒に行くのはどうやら決定事項らしい。当然だけど....。...まあ、私の持ち物は全て戻ってくるみたいだし、それだけでもいい方か。それ以上の贅沢はしないでおこう。そう思っていたのだけど.......

 

 

「はじめまして。彩花ちゃんだよね。私は甘露寺蜜璃よ。よろしくね」

「.....俺は伊黒小芭内だ」

 

 

しのぶさんと話してすぐに、目の前に甘露寺さんと伊黒さんの二人が現れた。

 

 

恋柱、甘露寺蜜璃は桜餅の食べすぎで桜色と緑色の長髪を三つ編みにした女性で、常人の八倍の密度の筋肉を備えているという特異体質を持っていて、容姿にそぐわぬ怪力を持っている。

蛇柱、伊黒小芭内は左目が青緑と右目が黄色のオッドアイを持っている。いつも鏑丸という雄の白蛇を連れており、右目がほとんど見えていない伊黒の補助の役目を果たしている。

 

 

 

甘露寺さんはにこにこと笑っているが、逆に伊黒さんは不機嫌そうな顔で私を睨んでいる。私はそれに戸惑った。甘露寺さんはまだ良い。炭治郎に刀鍛冶の里の襲撃の話は既に聞いている。刀鍛冶の里では前回も原作も甘露寺さんが上弦の肆と戦ったから、前回での経験を活かして今回の戦いで勝つためにだろう。

....問題は伊黒さんの方なのだよね。伊黒さんは前回も原作も刀鍛冶の里にはいなかった。...まあ、伊黒さんの心境を考えると納得がいくのだけどね......。前回では勝てたとはいえ、甘露寺さんが上弦の肆と戦うことを知っていても、それを見て見ぬフリなんてできないもんね。自分の好きな人が戦っているのに、自分は何もしないのは嫌だろうし。それを御館様は知っていて、このメンバーに入れたのだろう。それに万が一のことを考えて、柱を一人追加する方が被害を最小限にできる....。

 

 

「.....は、はじめまして。生野彩花と申します。よろしくお願いします」

 

 

私は甘露寺さんと伊黒さんを見て、すぐにそのことを察したが、戸惑った。予想外のことが起きたことで内心凄く驚いたが、それでも挨拶はした。

 

全員が逆行していることから原作崩壊が起きても可笑しくないのは分かっている。ただ....これだけは言っていいかな...。どうしてこうも簡単にポンポンッとそれが起きるの!?

 

 

 

 

 

 

 

 

刀鍛冶の里に着き、持ち物も返ってきたので、久しぶりにのんびりと薬の調合をしようと思っていたのだけど.........

 

 

「彩花ちゃん!今日は山の幸の混ぜごはんだって!」

「そうなのですね。私も楽しみです。...ただ、そんなに急がなくてもご飯は逃げませんので、もう少しゆっくりしましょう。せっかく温泉に入りましたのに、またすぐに汗をかいてしまいますよ」

 

 

甘露寺さんによく誘われて、薬の調合の時間を短くすることになってしまいました。

.....いえ、甘露寺さんが悪いわけではないのです。私も甘露寺さんとの時間は楽しいですし、嫌ではないのです。個人的に想像以上に薬の調合時間を削ったなぁと少し残念に思っただけです。とにかく、甘露寺さんとの時間はこちらも癒されていますので、全く問題ありません。だが........

 

 

「おい、何を作っているんだ。怪しい真似はするなよ。特に、ここには甘露寺がいるんだ。妙なことをしたら......分かっているな」

「は、はい。分かっています」

 

 

やっぱりこっちなのです。私が薬などを作っていると、伊黒さんに鋭い視線を向けられてやりにくい。というより、毎回作るのに問い詰められるから、一つ一つを作る時間が長くなるうえに精神的に結構なダメージを受ける。特に毒を作った時は...。

 

 

「貴様、何故毒なんか作っている」

「す、すみません。遊郭の時の戦いで毒類もかなり使ってしまったので、次の戦いのために補給しておきたいのです」

「そんなことを言っ「彩花ちゃん。何をしているの?」....!?甘露寺!」

「え、えっと、次の戦いに向けて、毒の調合をしています」

「凄いわ!しのぶちゃんもよく調合とかをしていて、難しいことができていて凄いなあと思っていたけど、彩花ちゃんもできるのね!ホントに凄いわ!ねえ、伊黒さん!」

「.....そうだな」

 

 

こういう感じで伊黒さんに問い詰められ、私はそれに戸惑いながらも理由を説明しているのだが、伊黒さんは私の言っていることを全く信用してくれないので、何度もこのやり取りをしないといけない。というか、多分話を聞いてくれていない。毒を調合しているから、警戒されるのは分かるけどね...。......少しは私の話を聞いてほしい....。

ただそれも何回か答えていれば、甘露寺さんが来て乗り越えることができる。伊黒さんは甘露寺さんの話には賛成してくれるからね。伊黒さんと甘露寺がこうも頻繁に私のところにいるのは、私は一応監視対象ではあるので、見張り役の甘露寺さんと伊黒さんは私を見張らないといけないからだ。

 

だから、数分ぐらい待てば甘露寺さんが来てくれるので、伊黒さんはその時だけ私にネチネチ言わないで、甘露寺さんの話を聞いている。その時に私が何を作っているのかを話し、甘露寺さんが私の話に賛成や共感などをすれば、伊黒さんも頷いて私のやっていることに口を挟まなくなるという流れが続いている。おかげで薬や毒の調合がやりやすくなる。

ですので、甘露寺さんの存在にとても助かっている。甘露寺さんがいなければ伊黒さんに疑われて、一々色んなことを言われ、薬の調合すらできなくなりそうだった。本当に甘露寺さんには感謝しかありません。

 

 

 

 

まあ色々なことが起きていたけど(主に伊黒さんとのトラブルだが)、薬や毒の調合はそれなりに進んでいたし、上弦の肆と伍の戦いも迫っているから、鍛練も欠かさずにやった。ただ、相手が甘露寺さんと伊黒さんなので厳しく(これも主に伊黒さんが原因)、どんなことをしたのか、何が起きたのかは察してください....。

 

 

 

 

 

 

 

「.....よし、と。それで.......」

「彩花ちゃん!温泉に入りに行きましょう」

「分かりました。すぐに準備します」

 

 

私がいつも通り今日のことを紙に書き記していると、甘露寺さんが私に声をかけてきた。私はそれに返事をしながらすぐに文章を書き上げた後、一枚の紙を取り出した。そして、温泉に入るための準備をし、その紙を折って小さくしたら、温泉のために持っていくタオルの中に挟んで部屋を出た。廊下をしばらく歩いていると、甘露寺さんの姿が見えた。

 

 

「ここの温泉って、とっても気持ち良いよね!」

「そうですね。私も温泉は前世から好きな方でしたよ」

「特に汗をかいた後の温泉も気分が良くて!」

「確かに鍛練がきつくて、私なんて毎回汗をいっぱいかきますからね」

 

 

私と甘露寺さんは温泉のある場所まで歩いていた。歩いている間、私達は何気ない雑談をしていた。大抵の内容は今日の出来事(今は温泉の話をしているが、主に食べ物関連の話が多い)を話している。

 

 

「あっ!大変!忘れ物をしちゃったわ!」

「今回はタオルとかですか?それなら、確か......」

「ううん。大丈夫!取りに戻るから、彩花ちゃんは先に入ってて!」

「あっ、分かりました」

 

 

私達が温泉に入ろうとしていると、甘露寺さんが突然声を上げた。私は何か忘れ物をしたのかなと思って話しかけるが、甘露寺さんは部屋に戻ってしまった。甘露寺さんはたまに何か忘れ物をすることがあり、戻っていくことがあった。甘露寺さんが私の言葉を途中で遮って行ってしまい、私はそれに少し呆気に取られたが、早く温泉に入るために準備することにした。

 

それに、さっさと早く終わらせた方が良さそうだからね。

 

 

私はタオルを持って温泉の周りを歩き回った。隊士や隠の姿だけでなく、誰もはいなさそうだ。

 

 

「....今日は私が先だから、今のうちにお願いできる?」

 

 

私が周りに隊士や隠などの人間の気配があるかを確かめた後、周りにだけ聞こえるくらいの声でそう言った。

 

「ニャーおー」

 

 

すると、何処からともなく猫の鳴き声が聞こえた。私はその鳴き声が聞こえる方に近寄り、その場所で屈むと、何もないところから茶々丸が現れた。

 

流石は兪史郎さんの術だ。毎回こんなところまで来ているのだから、身を隠せる兪史郎の術やどんなところでも行ける茶々丸の存在が凄いのがよく分かる。鬼殺隊も兪史郎さんの術を見破ることはできないみたいだし、監視されている今はこの方法でしか連絡を取り合うことができない。そもそも連絡手段は元からこれだけしかないんだけどね。

 

 

「茶々丸、お願いね」

「ニャー」

 

 

私がタオルに挟んでいた紙を出し、茶々丸の後ろにある茶色い箱みたいなものの中に入れた。それと同時に、茶色い箱に入っていた紙を取り出し、それを広げて読んでみた。

 

 

 

『拝啓

 

生野彩花様

 

彩花、何もされてないよな?俺達の方は大丈夫だ。今のところ、鬼殺隊とは誰も会っていない。この前はすれ違ったと書いていたが、相手は気づいていない様子だったし、それ以来隊士も誰も見ていない。何も起きていない。

だが、いつ会うかも分からないから、今は珠世達さんのところにいる。しかし、そろそろ準備をしなければならないと皆動き始めている。刀鍛冶の里の襲撃にはまだ少し早いが、俺達は予定の時期よりも少し早めに出発しようと思う。理由は前に俺や彩花の知っている時よりも時期が早いことがあっただろう。またその可能性があるから、俺達は早めにそっちに向かう。刀鍛冶の里には鎹鴉と茶々丸に案内してもらうから大丈夫だ。

 

 

それと、薬のことも大丈夫だからな。最近は薬を全く飲まなくても平気になったし、そもそも薬を飲むような状況にもなっていない。だから、俺の方は大丈夫だ。禰豆子も元気だ。彩花のことを心配しているが、刀鍛冶の里の襲撃に向けて張り切っているぞ。獪岳は......時々兪史郎さんと言い合いになることはあるが、その時は珠世さんが間に入るし、少し時間が経てば仲直りしている。

珠世さんのところで生活はできているが、これからのことを考えてみると、悩むところはある。.....とにかく、今は俺達も準備ができ次第にそっちに向かう。たぶん、まだ上弦の鬼の襲撃までの時間はたっぷり残っていると思うが、気をつけてくれ。

 

敬具

 

竈門炭治郎』

 

 

 

私は手紙を読み、ため息を吐いてしまった。最初の言葉から私の心配をしている時点で、鬼殺隊の信頼は全くないと言っているからね。まあ多分、信用も何もこれ以上その信頼が下がることはないだろうというくらいなのは分かっていたけど、実際にこの目で見ると、呆れとかを通り越して笑えてしまう。

 

ここまで信用がないとは...。なんだか可哀想な気がするな....。......でも、やってしまったことが問題なんだよね.....。

 

何故手紙を読んでから返事を書かず、こういう風なやり取りをしているのかというと、普通の手紙のやり取りをするのが危険だからということだ。私が監視されているから、普通に会うことができない状況である。勿論連絡を取り合うこともできない筈で、茶々丸がいるからこそできることなのだ。

警戒を怠らないようにしないと...。そろそろ甘露寺さんも戻ってくるだろうし。

 

 

 

 

「彩花ちゃん!お待たせ!」

「いえ、大丈夫です。それよりも、温泉の湯加減はちょうど良さそうですよ。早く入りましょう」

 

 

私が手紙を閉じて持っていたタオルに挟んだちょうどその時、甘露寺さんが戻ってきた。私は危機一髪だったなと思いながら甘露寺さんに話しかけた。

 

 

「はあ〜。極楽です〜」

「そうよねー!気持ちいいよね!」

 

 

私が温泉に入ってくつろぐと、甘露寺さんは私の言葉に同意していた。連絡も取ることができたし、一先ず今回は安心だ。今はのんびり温泉に浸かっていてもバチは当たらないだろう。

 

 

しかし、毎回ヒヤヒヤするな.....。炭治郎達と連絡を取り合い、それを鬼殺隊にバレないようにしていたが、本当に毎回手紙を書いてそれを送り、炭治郎達からの手紙も受け取って読まないといけないのだから、僅かな時間でそれらをしないといけない。

 

 

まあ、その中でも手紙を書くことに関してはよく紙に薬の調合をメモしているから、それで誤魔化しているので大丈夫だろう。手紙を読むのもなんとかできる。問題は手紙を送る方法なんだよね。私の周りには伊黒さんや甘露寺さんがいるから、出し抜くのは容易ではない。

 

そのため、この温泉を入る時が一番手紙を送るタイミングとしてはもってこいの場所だ。ここなら男性は確実に入ってこないから、伊黒さんや他の見張りは絶対にここに入って来ないし、覗かれたとしても悪いのはあっちですし。残った監視は甘露寺さんだけど、なんとか誤魔化せるのではないかと思っている。

 

 

それに、これ以上監視を減らせられる場所はここしかないとも思っている。だから、この温泉に入る前後の時間に行っている。今回の分はもう渡して、読むこともできたから、今日はゆっくり温泉に浸かろう。

 

こういう時ばかりは良いよね......。もう少し温泉でリラックスしていても....。...朝から鋼鐡塚さんとか色々と大変だったからね.....。

 

 

 

 

 

 

 

 

「....鋼鐡塚さん?どうしてここにいるのですか?」

 

 

私がいつものように朝から薬を作ろうと準備していると、いつの間にか鋼鐡塚さんが私の泊まっている部屋に来ていた。

 

いや、何でここにいるの?鋼鐡塚さんは確か.....あっ!そうか。この時期って、原作では炭治郎が刀を何度も折ったり無くしたりしたから、それで鋼鐡塚さんは怒って炭治郎の刀を作らず、失踪してしまった。そこで、炭治郎が鋼鐡塚さんに刀を作ってもらいに来たのが原作の流れだものね。

でも、今回の炭治郎は日輪刀を折っていないから作る必要はないし、鋼鐡塚さんも刀を折っても『お前にやる刀はない』という手紙を書かないと思うしね。

 

 

「別に構わねえだろう。それより、みたらし団子はないのか」

 

 

鋼鐡塚さんは私の質問に答えずに、みたらし団子がないか聞いてきた。

 

急に現れて、みたらし団子って......。

 

 

「連絡がなかったので、作っていませんよ。ですが、少し待ってくださればいくつか用意できると思います」

「そうか。...それなら刀だ。刀を出せ」

「あっ、はい」

 

 

鋼鐡塚さんの言葉に、私はみたらし団子がそんなに欲しいのと思いながらみたらし団子を作る準備をし始めた。その時、鋼鐡塚さんが私に日輪刀を出すように言ったので、私は素直に自分の日輪刀を鋼鐡塚さんの前に置いた。

 

きっと刃こぼれしていないかの確認みたいなのだろう。ちなみに、みたらし団子は私も作れる。炭治郎に作り方を教わっているので、炭治郎と比べればまだまだだと思うが、それでも美味しい物を作れると思う。

 

 

「おい」

「今度は何ですか?」

 

 

私は日輪刀を置いてすぐにみたらし団子を作り始めていると、また鋼鐡塚さんが私を呼んだ。

 

今度は何だろう。

 

 

「赤い刃を出せ」

「えっ?」

「前回は見れなかったんだ。さっさと見せろ」

「ええー....」

 

 

鋼鐡塚さんの言葉に私は一瞬固まったが、すぐに日輪刀を貰った時のことを思い出し、納得した。鋼鐡塚さんは早く赤い刃を見たいのかイライラしている様子なので、私は日輪刀を手に持ち、華ノ舞いの紅梅うねり渦を使った。そして、それによって赤色に変わった日輪刀を鋼鐡塚さんの前に出すと、鋼鐡塚さんは私の刀に顔を近づけ、そのまま頬擦りしそうなくらいの勢いで喜んでいた。私はその様子を見て、少し顔が引き攣ったが、鋼鐡塚さんはそれに気づいていない様子だった。

 

まあ鋼鐡塚さんが喜んでいるしいいや。

 

 

しばらくすると鋼鐡塚さんは落ち着いた様子で、刃こぼれや何か異常がないかを調べるために私の日輪刀を見始めた。私はそれを見て、そろそろみたらし団子を作りに行ってもいいかなと考えて戻った。

 

 

「.....刀の手入れはしっかりやっているようだな」

「はい、折れては困りますからね」

 

 

私の日輪刀を一通り見た後、鋼鐡塚さんはそう言った。私は鋼鐡塚さんの言葉を聞いて、安堵した。

 

原作の炭治郎や最終選別の時の錆兎、最終決戦の時の冨岡さん達の戦いを見れば、日輪刀が折れていないどうかでどう戦いに影響するか分かっているからね。

それに、原作では鱗滝さんが刀を折ったらお前の骨を折ると言ったり、刀を折った後の鋼鐡塚さんが襲撃したり、とんでもない手紙を送りつけてきたりなどを知れば、日輪刀が折れないようにと手入れをきちんとするなど色々注意するのは当然である。

 

 

....どうやらその甲斐もあって、日輪刀は大丈夫なようだ。良かったけど、今後の戦いは激しくなるのは確実だ。そこで日輪刀が折れるという事態が起きるかもしれない。改めて気をつけておかないとね。

 

 

「.......あいつの刀はどうだ」

「炭治郎の刀のことですね。今のところ折れていないので、大丈夫だと思いますけど....」

「そうか.......。もうすぐあいつらはここに来るなら、あの刀をさっさと研ぎ上げてやろうと思ったんだが......」

「あの刀って.....」

 

 

鋼鐡塚さんの声に炭治郎の刀のことだなと思った私は遊郭での戦いの時のことを思い出して答えた。それを聞いて、鋼鐡塚さんは何か頭を悩ましている様子で、私は疑問に思っていた。しかし、鋼鐡塚さんの言葉ですぐに察した。

 

おそらく鋼鐡塚さんが言っているのは、原作では縁壱零式から出てきた古びた刀で、その日輪刀は戦国時代に呼吸と痣の始祖で日の呼吸の使い手であり、最強の剣士である継国縁壱が使っていたものだった。縁壱零式を壊したことでそれを発見した炭治郎はその日輪刀を使おうとしたが、あまりに錆びついていて使えないために困ってしまった。そこで鋼鐡塚さんがその日輪刀のを研ぎ上げることで、使えるようになったからね。

あの日輪刀がもし必要なら、これからの戦いのことを考えて先に研ぎ上げた方が良さそうだし。きっと鋼鐡塚さんも同じことを考えたから、炭治郎の刀のことを聞いたんだね。

 

 

「だが、あいつは刀を折っていないようだし、あの刀を取るためにアイツのからくり人形を壊さなくっちゃならなかったから、面倒な事が増えなくて助かった」

「そうですね.......」

 

 

鋼鐡塚さんの話に、私は素直に頷いた。

 

確かに縁壱さんがかつて使い、炭治郎も最終決戦で使った刀とはいえ、そのためには縁壱零式を壊して手に入れる必要がある。

おそらく炭治郎の刀の状態を聞いて、刀が必要ならあの日輪刀を研ぎ上げるつもりだった。だがその必要はなさそうなので、縁壱零式を壊してあの日輪刀を取り出すのは無しということにした。

 

 

......て、そうだった。鋼鐡塚さんに会ったら聞こうと思っていたことがあるんだった。

 

 

「そういえば、刀鍛冶の中で前回の記憶を持っているのは鋼鐡塚さんだけなのですか?」

「さぁな、知らねぇな」

「.......そうですか......」

 

 

私は鋼鐡塚さんに聞きたかったことを聞いた。私の質問に鋼鐡塚さんは興味なさそうに答えた。私はそれに苦笑いしながら困っていた。

 

 

鋼鐡塚さん、刀以外に興味なさすぎでしょ。せめてこの逆行という現象には興味を持っていてほしかったな。鋼鐡塚さんの答えで後藤さんの予想は正しかったかどうか確信に迫れるのだけど、鋼鐡塚さんに知らないと答えられたのは予定外だった。

 

ところで、何故鋼鐡塚さんにそんな質問をするのか疑問に思う人はいるでしょうし、後藤さんの名前が出たのも気になる人がいるでしょう。.....それは....刀鍛冶の里のことで御館様に呼び出される前のこと.......。

 

 

 

 

 

 

 

 

『うーん...。何かないかな....』

『おい、どうした?そんな難しそうな顔をして』

『あっ!後藤さん!こんにちは』

 

 

あれは刀鍛冶の里に行く前、私はある事について悩んでいた時だ。その時、私は柱合会議の縁から見舞いに来てくれる後藤さんと話をしていた。

 

 

あの時の私は華ノ舞いやら炭治郎達と鬼殺隊の関係やらその相談やらと多くのことに悩んでいた。華ノ舞いは結局情報はなかったし、炭治郎達と鬼殺隊の関係問題はもう私が手を出しまくったし、相談も聞いて私が思ったことや考えたことを言った。私は鬼殺隊のところに来て、色々なことをしてその目的も果たすことができた。

しかし、私にはそれら以外にも目的があった。だが、それについての情報があっても納得がいかず、逆に疑問が湧いてきた。それで、悩んでしまっているのだ。

 

 

『一体何を悩んでんだ?』

『この現象について考えていて、少し行き詰まってしまっただけです』

『ああ、柱合会議で言っていた逆行のことか』

『そうです』

 

 

そう、その通り。今、私が悩んでいるのは炭治郎達の身に起きた逆行のことだ。逆行についても御館様や柱の話を聞けば色々分かると思っていたのだ。そして、確かに情報を得ることができた。しかし、それと同時に気になることもできたのだ。

 

 

『逆行のことはお前がよく知っているだろう。それに、柱合会議の時に原因まで言ってたじゃあねぇか』

『確かに言いましたよ。と言っても、私が話したのは原因というよりきっかけについてのようなものですけど...。......まあ、それは一旦置いておくとして....私が考えているのはその範囲です』

『は、範囲?』

『逆行には、一人だけが逆行するパターンと複数人が逆行するパターンがあります。その中で、今回のは確実に複数人が逆行するパターンです。複数人が逆行するパターンとして、何かしらの共通点が必ずあることが多いのです。ですから、その共通点が何かを探しているのですけど.....なかなか思いつかなくて...』

 

 

後藤さんの言葉に私は頷きながらも話してみることにした。後藤さんには逆行に関しての知識が何もないから、分かりやすいように説明しているけど、これで伝わるかな....。

 

 

実はかなり悩んでいるんだよね。これについて知っておきたいし、今後の動きのためにも役に立つと思うんだよね。私自身が気になっているのもあるのだけど.....。

 

 

『ところで、お前は何で逆行について調べているんだ?』

『今回の逆行者の特徴が分かれば、今分かっている人達以外の逆行者が誰なのか把握できますし、その逆行した人が何か情報を持っている可能性もあるからと思って調べてみまして』

『それで、その結果....』

『いくつか考えてみましたけど、決定的なものがなくて行き詰まってしまったのです。逆行した人達と逆行していない人達を分けてみても、その違いを考えると微妙なものが多くて......』

 

 

私が後藤さんの質問に答えながら頭を悩ませていた。

 

 

本当に逆行者が思った以上にいっぱいいて、逆行者は全員で何人いるのか分からないんだよね。とりあえず御館様と柱全員と炭治郎達五感組プラス禰豆子、あと鱗滝さんに鋼鐡塚さん、後藤さんは記憶持ちなのは確定。錆兎と真菰、カナエさんは微妙かな?

正直に言うと、後藤さんも前回の記憶を持っていたのは予想外だった。

 

でも、これで記憶持ちが多いのは分かるよね。これだけ多いと、他にもまだいるんじゃないかと思うよね。私もそう考えて、他に記憶を持っていそうな人を探すことにしたの。

 

 

『.....難しいことはよく分からないが、俺はあの鬼舞辻無惨との最後決戦が関係してると思うぞ。逆行している人は隠の中にも何人かいたが、そいつらは全員最後の戦いに関係している奴等だった』

『...私も同じことを思いましたよ。でも、最終決戦に関わっている人が逆行しているなら、前回の記憶は全員が持っていることになる。だけど、そういう感じではないのでしょ。だから、最終決戦で関わっている人では....『いや、少し違うぞ』......違う?』

『お前は詳しく知らないから分からねえと思うが、鬼舞辻無惨との最終決戦は鬼殺隊の関係者含めた全員が関わった。だが、お前の言った通りに全員が前回の記憶を持ってるわけじゃなかった。これでと逆行が関係ないと思ったようだが、あの最終決戦に関わった奴等の中でも違いがある』

『最終決戦で戦っていた人達の、違い........!....まさか.........』

『そのまさかだ。俺は隠で色々なところに行くし、隊士達とも関わっていたから、前回の記憶を持っている奴等ともよく会うし、そいつらのことも分かった。....その時に気づいちまったんだ。前回の記憶を持っている奴等は全員、鬼舞辻無惨と戦った、最終決戦のあの場に居合わせた奴等だってな』

 

 

後藤さんの言葉に私は否定しようとしたが、後藤さんの次の言葉を聞いて、私は復唱してから思い出した。私がそれに動揺していると、後藤さんがその続きを言った。

 

 

私は逆行についての原因をずっと考えていたが、どれもこれには当てはまるけど...あの展開ではこうじゃない、そこはああだったというように、完全に一致するものがなくて困っていた。御館様や柱、炭治郎達以外にもいることで、共通点を探すのに少し諦め気味になっていた。

でも、後藤さんの言ったことなら辻褄が合う。亡くなった御館様や獪岳が前回の記憶を持っていても可笑しくない。私が悩んだ時間は何だったのかと言いたいくらい、あっさり答えが出そうだな.....。

 

 

けど、冷静に考えてみれば他の人に聞いた方が早かったよね。前回の記憶を持っている人達はある程度知っていると思うし、実際にその場にいたし。私よりも何倍も知っている筈だ。

張りきり過ぎて、こんな当たり前のことに気づけなくなっていたとは....もっと周りを見ないと。

 

 

『......確かに、それが共通点だと辻褄が合いますね.....。ただ、聞きたいことがあるので、少し聞いてもいいですか?あの時、最終決戦には柱全員がいましたか?それと、最終決戦の場にいた人達の中に刀鍛冶の職人がいませんでしたか?』

『...うーん.......。......あっ!そういえば、戦いが終わった後、なんかうるせえ奴が来ていたな。炭治郎と禰豆子のことがあって、忘れかけていたが.....。ひょっとこの面はしていたから刀鍛冶の人間だったと思うが、何やら筋肉質な男だったような....』

『そうですか......』

 

 

私は後藤さんの言ったことを基にして考えてみれば、点と点が繋がるような感じがした。ただ、まだ何かピースが足りないように思えた。しかし、これが一番近いようにも感じるために、その仮説で考えることにした。その仮説をさらに確信に繋げるためにある質問をした。

 

 

この仮説で考えると、納得がいかない人が一人いる。それは鋼鐡塚さんだ。刀鍛冶の職人である鋼鐡塚さんが戦場にいるのは可笑しいと思って、私も一度はそう考えて外した気が....。

......でも、それは私が何も知らずに除外しただけで、今ならそれがはっきり分かると思う。実際にその場にいた上に、事後処理やら仕事やらであちこち行き、色々な人と交流している隠の後藤さんなら分かる筈だ。

 

 

鋼鐡塚さんがそこにいたのかを知るために後藤さんに質問すると、後藤さんはしばらく考えてからそう言った。

 

筋肉質の...ひょっとこ面の男.....間違いなく刀鍛冶の里の後の鋼鐡塚さんだ。つまり、鋼鐡塚さんはあの場にいたということだよね....。

 

 

『情報ありがとうございます。また何かあったら、聞いてもよろしいでしょうか?』

『おう。別に構わねえよ』

 

 

私は後藤さんにお礼を言い、また質問があったら聞いてもいいかと聞いた。後藤さんはすぐに構わないと返してくれた。口元にある布でよく分からなかったが、後藤さんが笑っていたような気がした。

 

どうして笑ってくれるのだろう?私なんて炭治郎達と一緒にいたとはいえ、不審な人物であることは間違いないのに.....。

 

 

 

 

 

「........おい」

「はい?....えっ?」

 

 

私が考え込んでいた時、突然鋼鐡塚さんが声をかけてきた。私はまた何か用があるのかと思い鋼鐡塚さんの方を見ると、私に向かって何かが飛んでくるのに気づき、私はそれを受け止め、掴んだ物を見た。それは日輪刀だった。私の使っている物と同じくらいの長さと重さの刀だ。

 

.......でも、何で...私の日輪刀は折れてもいないのだから、新しい刀は必要ないのに....。

 

 

「えっと......」

「それをやる。これから鬼と戦うんだろ。いざという時、それを使え」

 

 

私がいきなり渡された刀に困惑していると、鋼鐡塚さんはそれだけ言ってそっぽを向いた。

 

どうやら上弦との戦いのためにこの刀を渡してくれたらしい。この刀を持ってきてくれたということは、私の日輪刀が折れていても折れていなくてもこの刀を渡すつもりでいたということかな。

.....嬉しいな、気にかけてくれて...。

 

 

「はい!ありがとうございます!」

「だから、早くみたらし団子をくれ」

「ははは......。はいはい。分かりました」

 

 

私がお礼を言うが、鋼鐡塚さんは私の方を見ずにみたらし団子を求めた。私は鋼鐡塚さんの様子に苦笑いしながら茹でた後に水で冷やした団子に串を刺し、茹でている間にできたみたらし団子のタレをつけた。

 

完成したみたらし団子は鋼鐡塚さんが美味しくいただきました。ちなみに、その時の鋼鐡塚さんの感想は『まあまあだった』だそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

「....久しぶりだな」

「あっ、玄弥。久しぶりだね」

「玄弥君!久しぶり!」

「........お久しぶりです」

 

 

私と甘露寺さんが温泉を出て部屋に戻ろうとした帰りに、玄弥とばったり出会った。

 

 

不死川玄弥は善逸やカナヲ同様の炭治郎の同期である。玄弥は呼吸が使えないが、その代わりに銃を使っている。また、鬼喰いという体質である。

 

鬼喰いとは異常なまでの咬合力と消化器官があり、それによって鬼を食うことが可能になっている。鬼を食うことで再生能力が高くなったり血鬼術を使うことができたりするが、鬼を食えば食うほど鬼化が進み、鬼になってしまう。

 

 

今回はまだ鬼喰いをしていないようで、一度呼吸が使えるか確認してから、それからは銃で戦うことになったそうだ。やはり今回も呼吸は使えなかったが、玄弥の鬼殺隊を辞めたくないという意志が強く、多少揉め事はあるも鬼殺隊として戦うことを認められた。

 

何で私がそんなことを知っているのかって?

 

 

私、蝶屋敷にいる間は善逸達との交流が本当に多かったのですよね。確かに柱も頻繁に来ていたけど、善逸達の方が圧倒的に多いの。それで、善逸や伊之助、カナヲと交流があれば、同期の玄弥とも交流があっても可笑しくはないよね。玄弥達と何度も交流していればそういう話題が出てくるのですよ。

 

私は流石に二度目だと色々関係も変わるよねとそんなことを思いながら玄弥の話を聞いていた。おかげで、今回では玄弥や善逸達がどんな行動をしていたのか知ることができた。

 

 

「ずっと揉めていたみたいだけど、いつ来たの?」

「ついさっきだ。漸く兄貴が納得してくれたんだ」

「確かに....あれは大変そうだったよね。よく不死川さんを納得させることができたね」

「ああ。苦労はしたが、悲鳴嶼さん達の協力と御館様の言葉もあって、なんとか兄貴を説得することができた」

「......お疲れ様。その疲れた様子からして、相当苦労したのが分かるよ」

 

 

私の質問に答える玄弥はとても疲れた顔をしていた。私はその顔を見て、お疲れ様と言って玄弥を労わることにした。

 

 

玄弥の兄、不死川実弥は風柱である。既に分かっている人はいると思うが、柱合会議で私を睨んだり怒鳴ったりしたあの不死川さんです。

不死川さんと玄弥は過去の件で複雑な関係なんだよね。鬼になった母に弟妹達を殺され、不死川さんは生き残った玄弥を守るために母と戦い続け、母は日光を浴びて亡くなった。玄弥は母が死んだことに混乱し、『人殺し』と不死川さんを罵倒してしまう。

 

それから、不死川さんは玄弥から離れ、鬼を殺しながら放浪し続け、鬼殺隊に入隊した。玄弥も不死川さんに謝るために鬼殺隊に入隊したが、不死川さんは弟に普通の人生を送ってほしいがために、玄弥に向けて『弟なんていない』と冷たく突き放し、鬼殺隊を辞めるように迫る。だが、玄弥も玄弥で兄である不死川さんに『人殺し』と言ってしまったことを謝るために鬼殺隊を辞める気なんてなく、関係を拗らせていくことになるんだよね。

 

 

私の個人的な感想からすると、不死川さんの気持ちは分かるし、玄弥の謝りたいという気持ちも分かるんだよね.....。ただ、それならさっさと腹を割って話せばと思うけど、玄弥がいつ命を落とすか分からない鬼殺隊に兄がいることを知りながら、謝ったからと言って辞めるかといえば辞めない気がする。

それに、確かその時の不死川さんは未だに玄弥が母のことを殺した自分を恨んでいると思っていたから、話し合うことはできなかったんだし.......。

 

 

今はその誤解は解けて、原作よりも良好な関係になっている。ただし毎回会話の終わりに、不死川さんは玄弥に鬼殺隊を辞めるようにと言い、玄弥が辞めないと反発し、不死川さんがそれに舌打ちしながら帰っていくというのが恒例である。不死川さんはやはり弟の玄弥には普通の幸せを得てほしいようだ。

 

 

そんな不死川さんが前回の記憶から鬼が、それも上弦の肆・伍が襲撃してくる刀鍛冶の里に玄弥が行くと知れば.....どうなるか察している人もいますよね...。

 

 

結果、不死川さんが代わりに自分が行くから玄弥に行くのを止めるように言い、玄弥も絶対に行くと言った。そして、不死川さんも玄弥も互いに譲らなくて、最終的に殴り合いの喧嘩になった。

 

 

....本当に凄かったのですよ。不死川さんの怒声や玄弥の悲鳴、殴って倒れたり何かが壊れたりする音が聞こえ、善逸が顔を真っ青にして叫んでいた。私は縋りついてくる善逸を宥めるのに精一杯で詳しくことは知らないが、悲鳴嶼さんが仲裁に入ってくれたおかげでその場は治ったそうだ。その後も色々揉めていたらしく、本来私達と一緒に刀鍛冶の里に行く予定だったのだが、行けなくなってしまったのだ。.....でも、どうやら説得はなんとかできたようだ。

 

 

あの状態の不死川さんを止めるのにどれほどの苦労があったのかは察せられますし、同時にどうやって不死川さんを納得させたのか気になるな。....まあ、一応解決できたから良いかな......。

 

 

...だけど、原作でも今回の件でも玄弥の目を潰そうとしたのはやり過ぎだと思っている。いくら玄弥が鬼喰いをしたことを聞いても、あれは流石に......。今回の大喧嘩も悲鳴嶼さんが直前で止めなければ.....。....本当に悲鳴嶼さんが玄弥の保護者的な立ち位置になってくれて良かった...。......それに、原作でも....。

 

 

私が甘露寺さんと玄弥のことを見ていた。玄弥は真っ赤になりながら甘露寺さんと話している。ちなみに、私の場合はそんなことよりも炭治郎達の知りたかったらしく、普通に話しかけてきた。

 

 

「それと、時透さんも俺と同じタイミングでここに来ました。今は伊黒さんと話しています」

「あら、時透君も来ているの!それなら、早く戻らなくっちゃ!」

「そうですね」

 

 

玄弥と甘露寺さんの会話を聞き、私は遂に揃ったかと思った。

 

原作での刀鍛冶の里に起きた襲撃では炭治郎と禰豆子、玄弥、甘露寺さん、時透さんの五人が上弦の肆と伍と戦った。今、ここに玄弥と甘露寺さん、時透さんの三人がいて、炭治郎と禰豆子も刀鍛冶の里に向かっている。原作通りに事は進んでいる。.....ただ、ここに私と伊黒さんがいて、さらには獪岳を来ることになっているので、原作と完全一致ではないけどね。......だから、原作よりもオーバーキルのような状況にはなりそうだ。

 

 

私達は時透さんも来ているということもあり、伊黒さんと時透さんのいる部屋に向かうことにした。部屋に入ると、既に伊黒さんと時透さんが畳の上で正座していた。

 

 

「時透君!いらっしゃい!」

「...こんにちは。任務がちょっと遠かったから、少し遅くなった」

「いいのよ!まだ時間はあるんだから」

「甘露寺の言う通りだ。それより、これで全員が揃ったから、これからのことを話し合う。お前達もさっさと座れ」

「は、はい!」

「分かりました.....」

 

 

時透さんの姿を確認し、甘露寺さんが挨拶をしてきた。時透さんは挨拶を返し、遅れてきたことを謝った。甘露寺さんは気にしていない様子でそう言い、伊黒さんはそれを肯定し、私達に座るように指示した。玄弥はすぐに返事をして座り、私も返事をしながらここに自分がいても大丈夫なのかと一度考えたが、とりあえず玄弥の隣に座ることにした。

 

 

話の内容は刀鍛冶の里の警備やその巡回、配置についてだった。刀鍛冶の里では上弦の肆の半天狗と上弦の伍の玉壺が現れる。何処でどの鬼が襲いにくるのかは事前に知っているため、対策を練ることができた。

また刀鍛冶の里への被害を最小限にするため、前回よりも早く襲撃が起きた時の動きや刀鍛冶の職人の避難誘導などの話をした。私がどう動けばいいのかという話もあったので、私も会議に参加して良かったようだ。

 

 

 

「....ねえ、君は会議で冨岡さんの頬を叩いた人だよね?」

「.....はい。確かにやりましたけど、その覚え方は止めてほしいです。私は生野彩花と申します。....それで、何でしょうか?」

 

 

会議が終わり、甘露寺さんや玄弥が部屋を出て、私も続いて退出しようとした時、私は何故だか時透さんに声をかけられた。覚えられ方には不満ですが......それをやったのは事実なんですよね....。

それにしても、時透さんにもこう言われるということはそれほど衝撃的だったのだろう。....自分のやったことだけど、やっぱり恥ずかしい...。

 

 

「君さ、炭治郎達と一緒だったんだよね?」

「そうですけど....。あの、それで何を......」

「炭治郎達は元気だった?」

「えっ?」

 

 

時透さんの質問に私は少し戸惑いながらも答えた。柱合会議の話をしていたこともあり、それについて何か聞きたいことがあるのかと身構えていたが、炭治郎達が元気だったかと聞かれて、一瞬呆気に取られた。だが、おそらくこれは....と思ってすぐに切り替え、話を聞く体勢にした。

 

 

やっぱり柱合会議の時の前世の話を少し誤魔化しながら話していたことで、それの後ろめたさから真っ先に警戒してしまうな...。でも、そっちの方が警戒されるし、動揺しないように気をつけないと.....。

 

 

「僕は炭治郎達と今回まだ会ってないから、炭治郎達の様子が分からない。炭治郎達が僕達と会いたくないのは分かっているけど、元気なのかどうかは気になるから知りたい」

「........元気ですよ。風邪とかはひいていませんから、健康だと思いますよ」

「そうなんだ...」

「..........」

 

 

時透さんの話を聞き、確かに時透さんはまだ炭治郎達に会っていないし、人伝てにしか聞いたことがないものね....。それは気になるかもしれない。私は炭治郎が一応健康ではあることを話したが、時透さんの返答からまだ何かあるのだなと思い、話をしてくれるまで待った。

 

 

「......君は僕達のことをどう思っているの?」

「どう、思っているとは?」

「僕達が炭治郎達にしたことを知っているんだよね。いくら御館様が信頼できる人だと思っても、周りが敵だらけのようなものなんだよ。その中に飛び込んできたうえに、その相手には相談にのるとか言い出す。.....正直に言うと、君が何を考えているのか分からない」

 

 

しばらく待つと、時透さんがやはり質問してきた。質問の意図が一瞬掴めていなかったが、すぐにどういうことなのか気がついた。

 

この質問を聞く度に、私のしていることがどれだけ時透さん達にとって理解不能なことなのかというのが分かって、なんだか少し悲しい気持ちになるんだよね。でも私はそう決断したし、この決断に後悔はしていない。

 

 

「色々な人に言いましたが....私が何を考えているのかと言うと、間違ったことをしたくない、後悔をしたくないというのが大体の行動の理由みたいなものです。炭治郎達の話を聞いた限り、とても複雑な状況であることはすぐに分かりました。そして、今は何が起こるのか分からないことも.....。でも、私はそれなら尚更行動していかないといけないと、分からないからこそ自分の足で動かなければならないと思ったのです。それで、行動を起こしました」

「だけど、危険かもしれない僕達の中に一人で入っていくのは自殺行為だと思うよ。死にたいの?」

「それについては私も同じことを思いますよ。どんな状況であっても、流石にあの行動は危険だということは分かっていましたし......。

 

ですが、それ以上に何が起きたのか分からないままにする方が後悔するような気がしたのです。危険承知で行動して怪我をしたり後悔したりするよりも、何も分からないまま間違った行動をして後悔する方が私は辛かったのです。それで私の身に何かが起きても自業自得であろうと思っています。

まあ、私に何かあったら炭治郎と獪岳達に色々言われると思い、危険だった場合はどうするのか考えてはいましたので、死にたいとは思っていませんよ.....」

 

 

私は何度も聞かれて答えた質問なので、苦笑いしながら答えた。色々な人に聞かれているので、答え慣れてしまったな...。まあ、何度も話したことにせよ、私は自分の思っていることを正直に伝えないといけないのだけど....。

 

 

「何も行動しない方が良いということもあるでしょう。それでも未来は不特定だから、行動次第で変わっていく。未来が良い方向に進んでいるのか、悪い方向に進んでいるのかなんて分からないけど、何か行動すれば未来は変わる。その何気ない行動が今は分からなくても、きっとその先で何かを変えるきっかけになれると、その行動が自分にも他の人達にも良い未来へと変わることができるのならと勝手に期待をしているだけです。

まあ期待なので、絶対にそうなるという確証はありません。ですが、それで後悔するのは私がどう決めるかですから、まずは一歩進まないと何も起きないと思っているのです」

「............」

「それと、私が相談にのるとか言ったのは.....本当に私のただの我儘とかお節介とかであって、他意はないのです。私の世界とこの世界の価値観や考え方に違いがあるのか、私が変わり者なのかどうかは分かりませんが、目の前で自殺すると言われると、どんな人でも流石にその人の心のことが心配ですし、炭治郎達のことも鬼殺隊の皆さんのことも知っていますから、見て見ぬフリをすることもできません。相談の件は第三者に思っていたことを口に出せば少しでも心が軽くなるならと考え、そう言っただけです。馬鹿だと言われても仕方がありませんが、単に私が気がかりに思って、お節介で手を出しているのです」

 

 

私が我儘なことを言っているのは分かっている。相手には相手でその人の事情やらプライドやら思うところがあるだろう。それでも、私は自分の意見を貫き通そうと心に決めた。だから、私はここにいる。

 

 

「私は炭治郎達も鬼殺隊の皆さんも前回のことで互いに人間不信やら負い目やら色々拗らせているところがあると思います。ですが今はまだそれができなくても、互いに過去のことを受け止め、鬼殺隊の皆さんはそのことを償い、炭治郎達はこれからをどうするのかを決める。...あの時のことは互いに避けてはいけない、いずれ決着を着けないといけないことだと私は考えています。

この件に関して全く関わりのない私が決めることはできませんが、炭治郎達が過去に囚われ過ぎずに前を向いてほしいのです。過去をあまりに気にし過ぎているのは、炭治郎の心身に良くありませんから。今、大事なのはこれからですから」

 

 

私は今自分のできることを考え、どう行動するか決めた。みんなには悪いけど、我儘を通してもらったからにはそれを貫いて、堂々としていないと。そして、はっきり言わないと。

 

 

「先程も言いましたが、私は何も行動しないよりも後であの時にこうすれば良かった、ああすれば何か分かったのではないかと後悔する方が嫌なのです。それに、私はどっちに転ぶか分からないこの状況だからこそ後悔する選択はしたくない、考えるだけではなくて自ら行動しようと思っています。ですから、私は私自身が決めたことを貫くつもりです」

 

 

どう思われても、私の考えはこれなのは間違いない。ここは私の知っている原作の世界ではない。何が起きるか分からないから、だからこそ私は後悔しない道を選びたいと思っている。この意志は曲げない。

 

 

「....ふふふっ...」

「えっ.....?」

 

 

私が話し終えると、いきなり時透さんが笑い始めた。私はそれに困惑した。

 

...どうして?笑える要素が何処かにあったのかな?それとも.....。

 

 

「.......おい」

「....何?」

「伊黒さん、どうしたのです......あっ!」

 

 

伊黒さんに呼びかけられ、時透さんと私は伊黒さんの方を見た。その時、私はこの部屋が伊黒さんの部屋だったことを思い出した。時透さんも私と同じ結論に至ったらしく、あっと声を上げた。そんな私達の様子を見て、伊黒さんはため息を吐いた。

 

 

「オマエらは.....」

「すみません!すぐに出て行きます!」

 

伊黒さんが何か言う前に私は謝り、急いで部屋を出ようと立ち上がり、襖を開けた。

 

 

「本当にごめんなさい!伊黒さんの部屋だということを忘れてしまって....」

「それは別に構わん。貴様がただの馬鹿だということが分かっただけだ」

 

 

部屋を出る前に私はもう一度伊黒さんに頭を下げると、伊黒さんは呆れたような顔をしてそう言った。

 

 

すみません。本当にすっかり忘れていました。伊黒さんも私と時透さんが話し込んでいて、話しかけづらかったですよね。本当に申し訳ありません。

 

 

「その代わり、明日の稽古は前よりも厳しいものにする。さっさと戻れ」

「はい。分かりました」

 

 

伊黒さんの言葉を聞き、私は素直に頷いて襖を閉めた。

 

明日の鍛練が厳しくなったが、伊黒さんに迷惑をかけてしまったのだし、仕方がない。

.........鍛練が厳しくなるのは確定らしいし、今日は早めに寝よう。

 

 

 

 

 

 

 

「......少し変わっているけど、普通の子だったよね....」

「あいつはただの馬鹿だ。それもお人好しの大馬鹿だ」

「そう言っているってことは、伊黒さんもあの子は敵じゃないって思っているんだね」

「あのお人好しには俺達を騙そうという考えを持たないだろう。あれはあまりにお人好しで...甘すぎる考えをしている」

 

 

彩花が離れたことを確認し、時透と伊黒は互いに彩花について話していた。

 

前世の記憶を持っていると本人は言っていたが、怪しい人物であることには変わりなかった(彩花もそう思っているが故に、割と親しそうに話しかけてくる人達が多くて、最初は凄く戸惑っていた)。

 

 

「.....ねえ、伊黒さん。明日の稽古、僕がつけてもいい?」

「お前がか?珍しいな」

「うん。ちょうど良い物があるからね」

 

 

時透が伊黒にそう聞くと、伊黒は驚いた。時透がこう積極的に稽古をつけたがるのはそれくらい珍しいことだからだ。...ただ、何か企んでいるようだが.....。

 

 

「別に構わないが、何をする気なんだ?」

「それはね......」

 

 

伊黒の質問に時透はニンマリと笑って話し始めた。話を聞き終わり、伊黒はそっと彩花に同情した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「....何だろう。何故か、明日になってほしくない.....」

 

 

その日の夜、私は嫌な予感がしてなかなか眠ることができなかった。

 

 








ここで大正コソコソ話

彩花が義勇さん呼びになったのは、あまりに頻繁に水屋敷に行き過ぎて、いつの間にか冨岡さんから義勇さん呼びをしていた。彩花本人は無意識にそう呼んでいて気づいていないし、義勇も気にしていない様子なので、周りは誰も指摘していないらしい。ちなみに、何時からそうなったのかも誰も知らない。



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笹の葉の少女はボコボコにされる

「..........」

「......おい、大丈夫か?」

「....頭と体の節々が痛いです」

 

 

えー。私は今、満身創痍で地面に突っ伏しています。そんな私に玄弥が声をかけてくれるが、今の私には答える気力だけは少し残っているが、それ以外の元気はない。...ただ、それでも私を休ませてくれる人がここにはいないんでよね....。

 

 

「まだ動きが甘いよ。足腰の動きをしっかり連動させて」

「は、はい!」

 

 

突っ伏している私に対して、時透君は容赦なく駄目出しをして立ち上がるように言った。私はそれに返事をしながら手足に力を込め、なんとか立ち上がった。そして、目の前の六つの手を持つからくり人形に向けて木刀を構えた。

 

 

 

 

 

一体何が起きているのか分からない人がいると思いますので、状況を説明します。と言っても、私も突然のことで少し混乱しているのですけど、実際に起きたことを順に説明していきますよ。

 

 

玄弥と時透君が刀鍛冶の里に来た次の日、私はここに来てからずっとやっていた伊黒さんとの稽古をするのだと思っていたのだけど、突然時透君に呼び出されて、今日は時透君と稽古することを初めて聞かされたの。それに驚いている間に、時透君が別の場所でやるからと言われ、とりあえず時透君の後をついて来たら、そこがこのからくり人形、縁壱零式のある場所だったんだよね。

 

 

縁壱零式というのは、鬼殺隊の歴代最強の剣士であり、呼吸の祖である継国縁壱をモデルにして作ったからくり人形である。このからくり人形が戦国時代に製造されたものであり、縁壱も戦国時代の人物であることから、縁壱零式は継国縁壱をモデルにしてできたものであることは間違いない。鋼鐡塚さんと話し合った刀の件もこの縁壱零式の中に継国縁壱が使ったと思われる日輪刀があるのだ。縁壱零式が何故腕を六本もあったのかは縁壱の動きを再現するのに、腕を六本にしないとできなかったらしい。まあ、それくらい最強の剣士と呼ばれる継国縁壱が強かったのは間違いない。

 

 

それで、この縁壱零式を使って鍛練をすることになったの。ちなみに、この縁壱零式を使えたのは、朝早くに時透君が現在の縁壱零式の所有者である小鉄君に頼んだそうだ。原作と違って、時透君は小鉄君と言い争うことにはならなかったが、時透君と小鉄君の間で一波乱はあったそうだ。しかし、時透君が説得した甲斐もあり、小鉄君も渋々貸してくれる上に、もしも壊れたら自分が直すと言ってくれた。

 

......ただ...。

 

 

「全く何をしているのですか?もう少し粘ってくださいよ。急に鍛練のために使うと言って、縁壱零式を貸して付き合っているんですよ。それなのに、貴女は頭を打たれて何度倒れるのですか?いい加減、学習してくださいよ」

「うぐっ.....」

 

 

小鉄君も私にかなり駄目出しをしてくる。この駄目出しが容赦なく私の心に突き刺さる。

 

この毒舌がきつい......。原作で読んでいたから、分かってはいたけどね...。

 

 

何故小鉄君がここにいるのかというと、縁壱零式が貸すから自分もそれを見たいと小鉄君が言ったからだ。小鉄君は最初大人しく見ているだけだったのだけど、途中から私の問題点を指摘し始め、今では容赦なく駄目出しをしてくるようになった。

 

おかげで、肉体的にも精神的にも辛い....。

 

 

「...............」

「......うん。今日はここまでにしようか」

「今日はって、明日もやるのですか?」

「そのつもりなんだけど、また使っても良いかな?」

「そうですか.......。.....ですが、この調子だと時間がかかると思いますよ」

「ううっ......」

 

 

もはや屍のように動かなくなった私は時透君と小鉄君の会話を聞いても、まともな返事もできなくなっていた。時透君はこの縁壱零式を使っての修行をする気満々だが、小鉄君はまだまだ時間がかかると言って、不安そうな顔をして私を見る。私はそれにすいませんと心の中で謝った。

 

私、本当に何度も同じようなミスばかりしてますからね。

 

 

「生きているか」

「大丈夫です。生きてはいます」

「....本当に大丈夫か?何度か脳震盪を起こして倒れていたが.....」

「あはは.......」

 

 

地面に寝転がっている私に玄弥がまた心配してくれて、私は起き上がることができず、その体勢のまま話していた。

 

 

玄弥の言葉に私は苦笑いを浮かべた。脳震盪が起こしているというのは、私がよく頭に木刀を当たるのです。私が遅いからというのもありそうですが、あまりにも頭に当たり過ぎているんだよね。

 

おそらく私の身長だと縁壱零式の腕の高さがちょうど頭に当たる位置にあったのだろう。炭治郎がどうだったのかは知らないけど、私よりも背が高いし、そもそも頭が石頭だから、当たったとしても全然大丈夫なんじゃないかと思った。.......うん。ピンピンしている様子しか思い浮かばない。

 

 

「......うん?」

 

 

そんなことを考えていた時、誰かがこっちに向かってくる気配を感じた。

 

誰だろう....。この気配は伊黒さんでも甘露寺さんでもないし、鋼鐡塚さんでもない...。

 

 

「.....誰かこっちに来ていますね」

「ん?....確かに、こっちに向かっているな。まだ日が昇っている時間だから鬼ではないのは間違いないが、こんな山に来るなんて珍しいな...」

 

 

私が気配を感じる方を見ながら言うと、玄弥も私に言われて、誰かが来ることに気がついた。私と玄弥はその気配がする草むらをじっと見つめた。

 

 

「.....おっ、餓鬼がこんなところで集まって、何かしてやがる」

「...どなたですか?」

 

 

近くの草むらから現れたのは男性の隊士だった。

 

....誰だろう?メインキャラクターではないのは間違いないが、なんか...何処かで見たような気が........。

 

 

「何だ、この人形。しかも何やら木刀を持っているし....ちょうど良い。俺が使ってやる」

「ちょっ!?何勝手なことを言ってんだ!」

「勝手に使うのは駄目ですって!」

 

 

私が記憶を辿っている間に、突然男の隊士が縁壱零式を見てそんなことを言い出した。それを聞き、玄弥と私は男の隊士を止めようと声をかけた。話し合っていた時透君と小鉄君も玄弥と私の声で気づいたのかこちらを見ていた。

 

 

「何、勝手に使おうとしてるのですか!そんな人に使わせるわけないでしょう!」

「邪魔すんじゃあねぇ!俺らが日々命懸けで鬼を狩ってるから、お前らは平和に生きてるんだろ!守られてる分際で俺の邪魔をするなぁ!」

 

 

縁壱零式を使おうとしていることに一早く気づいたらしい小鉄君が男の隊士に向けて怒るが、男の隊士は悪びれず逆に偉そうにそう言った。

 

私もなんだかイラッとしてきた。刀鍛冶の職人達を馬鹿にする態度にも何故だか偉そうにしている態度も....。

 

 

「......あの。さっきから気になりますけど、貴方は何をしたいのですか?突然現れて、あれこれ言ってから勝手に使おうとして....一体何なのですか?」

「うるせぇ!俺はなぁ!安全に出世したいんだよ!!そのために使えるもんは使うんだ!そのやたら多く木刀を持ってる人形も修行に使えるんだろ!だから、使ってやろうとしてるんだ!」

 

 

私の言葉に男の隊士はまた偉そうな態度でそう言った。その態度を見て、私は男の隊士に対してさらにイライラしてきた。

 

 

いや、勝手に使おうとするのは流石にまずいでしょ。他の人がまだ使っているものを許可なく使おうとして...。しかも子どもの小鉄君が言っていることの方が正しいのに、それを悪びれずに勝手に使おうとしているなんて.....大人として恥ずかしくないのかと言いたい....。

人の物を勝手に使おうとするのは良くないことでしょ!どんな理由があっても、何も言わずに使うのは駄目!使いたいなら、せめて許可くらいもらう!

 

 

.......一度落ち着こう....。感情のまま下手に刺激して、揉める展開にならないように...なるべく穏便に済ませないと......。

 

 

「...出世欲があるのもその為に努力しようとすることも悪いことではないですけど、そんなに強引に使おうとするのは駄目ですよ。刀鍛冶の職人さん達は確かに直接的に戦うことはしないけど、鬼殺隊のために必要な日輪刀を作ってくれている。その日輪刀を使って、私達は鬼と戦うことができる。

私達は刀鍛冶の職人さん達が作ってくれた日輪刀があるから戦うことができるし、刀鍛冶の職人さん達は戦える私達がいるから身を守ることができる。いわば私達と刀鍛冶の職人さん達は協力関係です。協力関係の相手にそんな言い方は駄目ですよ。使いたいのなら、しっかり誠意を示して頼むべきだと思います!」

 

 

私は自分の怒りを落ち着かせながらも、言葉を選んで男の隊士にそう言った。

 

別に出世したいと思うのは個人の自由だし、それを否定しようとは思わないけど......それと勝手に人の物を使おうとすることは違う。せめて貸してくださいと言ってほしい。

それに、刀鍛冶の人達をあんなに悪く言ったことも見過ごせない....。刀鍛冶の人達は刀鍛冶の人達で、隊士は隊士でお互いにやるべきことがある。それに優劣なんて付けられない。どっちも大切なことで、どっちも欠けてはいけないことなのだから、刀鍛冶の人達は守ってくれている隊士に感謝し、隊士は自分の命のように大事な日輪刀を作ってくれた刀鍛冶の人達に感謝しないといけない。私達は鬼と戦っているが、刀鍛冶の人達にも自分達なりの戦いがある。

だから、隊士と刀鍛冶は平等な関係なのだ。一方がそんな偉そうにするのは違う。

 

 

「はっ、さっきからそこで座り込んでる奴にそんなことを言われてもなぁ。とりあえず俺はこの人形の相手をそこそこしてから下山するぜ」

 

 

男の隊士は私の言葉を聞いても、鼻で笑うだけだった。しかし、私は怒りを感じなかった。

私は自分に対して言われた言葉に怒りを覚えるよりも『そこそこ』や『下山するぜ』という言葉の方に驚いた。それと、その前の『俺は安全に出世したい』という言葉も合わせて気がついた。

 

 

よくよく考えてみれば、確かにこんな容姿だったかもしれない。刀鍛冶の里と関わらないから気づけなかった......。

原作とあまりに変わってしまったし、炭治郎達の逆行や前回での原作崩壊という不可思議な事態の方に気を取られていたから、炭治郎達や柱というメインキャラクターの方を気にしてばかりで、他にはあまり目を向けていなかったな...。あの言葉を聞くまで、本当に気づくことができなかった。

 

 

うん。あの人、やっぱりサイコロステーキ先輩だ。

 

 

「さ、さい、ころすて?なんだそれは?」

「えっ!?もしかして私、声に出していたの?」

「あ、ああ....。意味の分かんない言葉だったが、確かに言っていたぞ」

「こっちも何を言ってるのか分からなかったんだけど、そのさいころすてーきって何なんですか?」

「あー.........」

 

 

玄弥に聞かれて、私はめちゃくちゃ驚いてしまった。口には出していないつもりだったから...。

 

玄弥は私の反応に少し戸惑っていたが、そう教えてくれた。近くにいた小鉄君も私の言葉が気になるらしく、玄弥と同じ質問をした。時透君も話を聞く態勢にしているところ、気になっているようだ。

 

 

いつの間にか心の声が漏れていたことには驚いたし、少しヒヤッとしたが、サイコロステーキ先輩とは何かの説明で大丈夫そうだ。まずい情報を漏らさなくて良かったよ.....。

 

 

「サイコロステーキとかいうのは呼称というか....フラグ乱立士と言った方がいいのか.......」

「........それって、彩花の世界にある言葉のことか?」

「そうなんだよね......。.....ただ、説明するのがとても難しくて...。.....フラグとかそういう細かい説明は後回しにして、簡単に説明すると....先程あの人が言ったようなことを言い、その行動をして......」

「はっ、こんなの楽勝だろ」

「そうそう。ああいうことを言った後....」

 

 

私はサイコロステーキ先輩という言葉について説明しようとするが、どう説明すれば分かりやすいかと考え、凄く悩んだ。そんな私の様子を見て、玄弥が察してそう言ってくれた。私はそれに頷き、悩みながらもなんとか説明しようとした。その時、ちょうどサイコロステーキ先輩が縁壱零式に刀を構えながらそう言っているのを見て、分かりやすい例になりそうだと考え、私がサイコロステーキ先輩を例にしながら説明し始めた。そして、

 

 

 

バキッ!!!...ドサッ.....。

 

 

 

私の話を聞いて玄弥達がその方を見た時、縁壱零式がサイコロステーキ先輩の刀を弾き飛ばし、その勢いのままサイコロステーキ先輩の顎に直撃した。返り討ちにあったサイコロステーキ先輩は吹っ飛ばされ、私達の前に落下した。

 

 

「「「..............」」」

「.......あのように音速でボコボコにやられる人のことを指すのです...」

「「「ああ.....」」」

 

 

その様子を見て、私も玄弥達もどう反応すればいいのか分からなかったが、とりあえず私は続きを説明することにした。玄弥達もあれを見て、どういうことなのか納得したらしい。

 

 

まあ、これで理解してもらえただけ良かったかな....。サイコロステーキ先輩のあれは自業自得だし.....。

 

 

「......気絶しているだけですね」

「向かってきたのはあっちだし、放置しておきましょうよ。この人、起きたら起きたで面倒そうですし」

「まあまあ....」

 

 

失神しているのを確認し、私が玄弥達にそう伝えると、かなり苛ついていたらしい小鉄君がすぐに放置しようと言ってきた。私はそんな小鉄君を宥めていた。

自業自得とはいえ、ほっとくのは可哀想ですからね。できれば何処かに寝かせておきたい......。

 

 

その時、またもや誰かが来る気配を感じた。

 

今度は誰だろう......?また知らない気配だな。そう思いながら草むらから姿を現したのは...。

 

 

「.......おっ、ここにも人がいたんだ」

 

今度は村田さんですか!

 

 

サイコロステーキ先輩の次に現れたのは村田さんだった。私は次から次に原作で見知った人達が現れることに内心驚いていた。

 

えっ!?今日って、何かの記念日ですか!それくらい今日の遭遇率が高いのですけど!

 

 

「なあ、この辺に男が来なかったか?」

「男?...もしかして、その人は隊士ですか?」

「ああ、そうだな....特徴はこんな「それって、この人のことなんじゃないかな」あっ、どうもありが.....か、かか霞柱様!!?」

 

 

村田さんが私と玄弥と小鉄君に尋ねた。私達はなんだか村田さんが探している人が誰なのか薄々気づいていたが、念のために確認しようとした。だが、既に誰のことか気づいた時透君が村田さんの話を遮って聞いた。村田さんはお礼を言おうとして振り返り、時透君を見て驚いた。

 

 

「ど、どうしてこちらに!?」

「ちょっとここで稽古をつけていたんだ。それより、この人は君の探している人なのかな?」

「えっ?は、はい。そうですが...何故倒れているのですか?」

 

 

村田さんはガチガチに緊張しながら時透君に聞いた。時透君はそんな村田さんの様子を気にせず、サイコロステーキ先輩を指差しながら気になったことを質問した。村田さんはそれに答えながらも倒れていることが気になったそうで、時透君に質問していた。

 

まあ、流石に倒れているのを見たら驚いて聞くよね。ただ、こうなったのはサイコロステーキ先輩の自業自得だから......。

 

 

「稽古の時に急に現れたと思ったら、勝手にその人形を使い始めて、その人形にボコボコにやられて気絶してるんだよ」

「そ、そうですか....。...すみません!」

 

 

時透君の話を聞き、村田さんは勢いよく頭を下げた。

 

 

いや、村田さんは悪くないよ。さっきも言ったけど、サイコロステーキ先輩が勝手にしたことだから、村田さんに責任はない。

 

 

「あ、あの......。そういえば、サイ....あの人とはどのような関係なのですか?親しい方なのですか?」

「いや親しいというか、ちょっと縁があったというか.....。...任務でたまたま同じところだったんだ。その時の任務で突然周りが炎に包まれて、俺も一緒にいた仲間も気絶しちまったんだ。そいつも炎から逃げてた時に会って、俺達が気がついた時にはそいつの姿が見えなかったから少し気にしてたが、偶然ここで再会してな。

ちょっと会話してそいつは宿を出たんだけど、いくら何でも遅いから様子を見にきたんだ」

「なるほど。そういうことですか....」

 

 

私は村田さんとサイコロステーキ先輩の関係が気になり、村田さんに聞いてみた。村田さんとサイコロステーキ先輩の仲が良いという話は聞いたこともなかったから。

 

 

村田さんは私の質問に苦笑いしながら答えてくれた。私は村田さん、サイコロステーキ先輩、炎という単語で何処かの山のことが頭に浮かんだが、知らないフリをすることにした。

 

 

まあ、もう原作の面影があまり残っていないし、サイコロステーキ先輩が生き残っても可笑しくないよね!というか、何が起きても可笑しくない状態なんだよね!だから、仕方がない!

 

 

「それで、この人のことなんだけど.....」

「お、俺が宿に運びますので、お気になさらずに......」

「はっ!」

「わっ!?」

 

 

サイコロステーキ先輩のことは村田さんが運んでくれると言ってくれたので、私達はその言葉に甘えることにした。その時、サイコロステーキ先輩が目を覚まして飛び起きた。私はそれに驚き、声を上げてしまった。

 

だって、いきなり目の前で飛び起きられたら驚くでしょ。

 

 

「何だあぁぁ!この人形、巫山戯やがって!!化け物だろっ!この人形を作った奴、頭可笑しいだろうがッ!!!」

「何、逆ギレしてるんですか!勝手に使った上にボロ負けしたからって酷過ぎじゃないですか!!この人形は俺の先祖が作った最強の人形なんですから、強いのは当然ですよ!」

「ハッ!こんなオンボロの人形、どうせ欠陥品か何かだろっ!」

 

 

目を覚ましたサイコロステーキ先輩は縁壱零式に逆ギレしていた。ご先祖様の作った縁壱零式を馬鹿にされた小鉄君は怒って、そう言い返した。しかし、サイコロステーキ先輩は反省した様子を見せず、さらに暴言を吐いた。

 

 

 

ブチッ!!

 

 

 

その時、小鉄君の堪忍袋の緒が切れた音がした。私は嫌な予感がして、すぐに小鉄君を落ち着かせようと肩に手を置き、サイコロステーキ先輩に掴みかかろうとする小鉄君を止めた。

 

 

 

「巫山戯てんのはそっちだろ!!縁壱零式にやられるくらい力ねえのに、何でテメェが威張ってんだ!腹立ちたいのはこっちの方だ!!」

「こ、小鉄くん!御先祖様の作った人形を馬鹿にされて怒りたいのは分かるよ。でも、一旦落ち着こう?ねっ」

「二人とも少し頭を冷やせ!」

 

 

サイコロステーキ先輩の言葉に小鉄君は完全にキレていた。私と玄弥は二人に落ち着くように言った。

 

このままだと殴り合いの喧嘩になる。できるだけ穏便に済ませないと。

 

 

「ハッ。興が冷めたし、俺はもう下山するぜ。じゃあ「ガシッ!」....アァ?何だ、この手?」

「お、おい、相手は霞柱様だぞ!」

「ハァ〜!?この餓鬼が柱だと?ンな冗談...「ねえ」ゲッ!?」

「ヒッ!」

 

 

サイコロステーキ先輩がその場を去ろうとしたその時、時透君がサイコロステーキ先輩の肩を掴んで止めた。サイコロステーキ先輩は時透君を睨み、村田さんは慌ててそう言って止まさせようとした。サイコロステーキ先輩はそれを鼻で笑おうとしたが、時透君の声の冷たさに動きを止めた。声をかけられていない村田さんも時透君の声を聞き、顔が真っ青になっていた。

私も玄弥も小鉄君も時透君の冷たい声で空気が一気に冷えたことを感じ、村田さん同様に顔を真っ青にし、息を潜めながら時透君とサイコロステーキ先輩の様子を見ていた。

 

いや、もしかしてサイコロステーキ先輩、柱の顔を覚えてないの?

 

 

「ねえ。君、確か強くなりたいんだよね?それなら、ちょうど良かったよ。僕の日輪刀は今、預けている最中だったから、しばらくの間は暇だったんだ。僕が特別に稽古をつけてあげるよ」

「お、おお、おい。や、止めろ.......」

 

 

時透君が冷たすぎる声でそうサイコロステーキ先輩に詰め寄り、サイコロステーキ先輩は逃げようとするが、その前に時透君によって気絶させられた。

 

 

これは.....柱の顔を覚えていないサイコロステーキ先輩が悪いよね。柱とは滅多に会わなかったのかもしれないけど、サイコロステーキ先輩って結構長い間いるだろうし...。......私の勝手な予想ですが.....。

 

 

「それじゃあ、僕は行ってくるよ!」

「お、おう。そうか....」

「ど、どうぞ.....」

「い、いってらっしゃい...」

「お気をつけて........」

 

 

時透君はいい笑顔でそう言ってサイコロステーキ先輩を引き摺っていき、私達はそれを見送りながら手を合わせた。

 

自業自得とはいえ、死なないことを祈ります.....。

 

 

 

 

 

「ま、まあ。今回のことはあいつが悪いし、仕方がないよな」

「そ、そうですね....。自業自得ですからね。しばらくの間、あの人は戻ってこないと思いますけど、どうするのですか?」

「流石に霞柱様が相手だと俺も何もできないし、ここでやることもなさそうだから、一晩宿に泊まったら任務に行こうと思ってる」

「そうですか。それでは、またお会いできる機会がありましたら会いましょう」

 

 

時透君とサイコロステーキ先輩の姿が見えなくなった後、村田さんがそう言い、私もそれに頷き、話題を変えるためにこれからどうするのか聞いてみた。

 

村田さんもここで戦うことになると、更なる原作崩壊が起きるな...。いや既に起きているのだし、これ以上原作崩壊しても問題ないか.....?

 

 

そう思っていたが、どうやら明日にはここを出るらしく、その心配はなさそうだ。

 

 

「......前回は刀鍛冶の里が襲撃されることがあったから様子を見に来たけど、宿で恋柱様と蛇柱様がいたのを見たし、霞柱様にも会ったし、柱が三人いるなら大丈夫だな.....」

 

 

村田さんの一人言が聞こえ、私は思わず村田さんのことを見た。村田さんは私の視線に気づかず、そのまま山を下りていった。

 

 

.......えっ?村田さんも逆行していたの!

ああ....それで村田さんがここに来ていたのか。そういえば、村田さんもあの条件に当てはまりそうな人物だものね。よくよく考えてみれば。それなら、逆行者であっても可笑しくないな。

あと、また後藤さんの言ったことが合っていたから、これで一応確定にしておこうかな。

 

 

「........おい、どうした?」

「あっ。ううん、何でもないよ。それより、時透君がいなくなっちゃったけど、私達はどうする?」

「あの様子だと当分は戻ってこないと思うし、とりあえず宿に戻るか」

「そうだよね。それが良さそ「何を言ってるんですか?これから修行を続けるに決まってますよ」.....えっ?」

「はっ?」

 

 

玄弥が私に声をかけてきたので、私は村田さんについて考えるのを止め、これからどうしようかと話し合い、時透君がここまでと言っていたから宿に戻ろうという話になったが、小鉄君に止められてしまった。私は突然止めた小鉄君に困惑した。玄弥も隣で困惑していた。

 

 

「あの。どうして修行を?もう日が沈みますよ?」

「何を言ってるんですか?まだ緑壱零式を使う気ですよね?緑壱零式を馬鹿したあいつよりも強くなって、あいつをギャフンと言わせてください!」

「いや、それは時透さんがやってくれてるんじゃ....」

「時透さんはあいつの勝手な行動への固めの説教で、これは緑壱零式を馬鹿にしたことへの俺の復讐です!!」

「え、ええー.....」

 

 

私は嫌な予感を感じ、なんとか止めようとするが、小鉄君はサイコロステーキ先輩への怒りですっかり熱くなっていた。玄弥が時透君が懲らしめるからと言うが、小鉄君の怒りはそれでも収まらないらしい。

 

 

「ですから、緑壱零式での修行の成果を見せて、あいつが土下座して謝らせましょう!!あいつが上司なのかなんて知りませんが、強くなればあのムカつく奴を扱き使うことができますよ!!」

「いえ、そもそも私は鬼殺隊には入って「緑壱零式に一撃を喰らわすことができるまで飯抜きですからね!!寝るのも駄目です!!!」...あの「ほら、やりますよ!!!」......は、はい....」

 

 

熱く語る小鉄君には悪いが、私は小鉄君の特訓がどんなものなのか原作で知っているため、時透君の冷たい声を聞いた時よりも顔を真っ青にしながら断ろうとしたが、小鉄君の勢いに負けてこっちが折れてしまった。

 

しかも、話の中で縁壱零式に一撃喰らわすまで食事も寝るのも禁止にすると言っているため、原作の炭治郎と同じことになるのは確定だ。いや、下手すれば炭治郎以上に大変なことになるかもしれない.......。

 

 

 

サイコロステーキ先輩!今回のことは恨みますよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.................」

「.....おい!これ、大丈夫か!?生きてるか?」

「あっ、大丈夫です。一応動いているので、息はしていますよ」

 

 

そして、あの日から何も食べれない飲めない、寝れない日々を過ごし、私は地面と仲良くすることになった。そんな私の様子を見て、玄弥が声をかけるが、小鉄君は大丈夫だと言った。それでも、玄弥は私を心配そうに見ていて、私も玄弥に助けてもらいたかった。

 

 

原作で知っていたのだけど....小鉄君は分析能力が非常に高く、その指摘は的確だ。しかし、小鉄君は人間の限界を知らないため、気絶しようが倒れようが関係なく続けられる。だから、小鉄君の修行だけは避けたかった.....。

 

...もう、無理.......。

 

 

「ほら、早く動いてください。まだ一撃も喰らわしていないのですから、休むのは早いですよ」

「....さ、三途の川が見えた.......」

「そうですか。それなら、次はその反省を活かして当ててください!」

「...............」

 

 

急かす小鉄君に私は少し休めてほしいという願いからそう言うが、小鉄君は全く気にせずに続行される。

 

本当に三途の川が見えたのに....。......というか、実際にいた!渡りかけた!

 

 

強くならないといけないのは確かだけど、もう限界!少し休ませて!せめてゆっくり寝る時間だけでも!!気絶した少しの時間しか休めないから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、やっと当てられた!!」

「あまりに弱い一撃でしたが、確かに当たりましたね。はい、おにぎりです」

 

 

それからしばらくして、私は遂に縁壱零式に一撃当たることができた。

 

ここまでに長い時間が経過した。縁壱零式によって三途の川を渡りかけたのは何回だったか....。

まあそれによって、前よりも五感が鋭くなったし、動作を見たり音を聞いたりして、相手の次の動きを予測するのが早くできるようになったし、一手先のその先も予測できるようになった。おかげで、前のように縁壱零式に頭を叩かれることはなくなった。

 

 

私が縁壱零式に一撃を当てたところを見た小鉄君は私におにぎりを渡してくれた。私は迷わずそれを受け取って食べ始めた。

 

 

「おおっ。遂に一撃入れることができたのか?」

「玄弥...。.....うん。やっとです!やっとご飯に辿り着けました!!」

 

 

私がおにぎりを食べていると、毎回様子を見に来てくれる玄弥が安堵した様子で近寄ってきた。

 

来る度にボロボロの私を心配そうに見ていたからね。私が気絶したら小鉄君に容赦なく水をかけられて目を覚ますのを見ると、手拭いを渡してくれたり、私の体が少しふらふら揺れてきたら小鉄君に話しかけて、その間に水筒を貰って水分補給をさせてくれたため、なんとか生きながられた。

....原作の炭治郎と違って、少し早く来たのが原因なのか雨が降らなかったから、玄弥がいてくれて助かったよ。

 

 

「.......そういえば甘露寺さんと伊黒さん、時透君はどうしていますか?」

「ああ.....。あの時の奴、覚えてるだろ?時透さんは俺達に言った通り、あいつの修行をつけているそうだ。だがあいつ、その厳しさに嫌気を差して逃げ出し、そこで甘露寺さんと伊黒さんとも鉢合わせしたらしい。時透さんから話を聞いた二人は時透さんに協力し、三人であいつの修行をつけてるそうだ。伊黒さんと時透さんが心を折り、甘露寺さんが骨を折ってるらしく、あいつはもう心身共にボロボロらしい」

「そ、そうなんだ........」

 

 

私はあの日から一度も見かけない甘露寺さんや伊黒さん、時透君のことを聞いた。あの三人はこの後の上弦の鬼との戦いでここに来たが、同時に私の見張りも兼任している。

それなのに、私をこのまま放置しているのは少し不自然に感じられた。だけど、私は小鉄君の修行で休む時間すら一切ないから、宿まで様子を見ることができない。だから、修行を始める前に玄弥に事情を説明するように頼んだ。

 

 

今まではゆっくり話す時間がなかったから聞けなかったけど、この時間に漸く聞けそうだと思い、聞いてみることにした。すると、時透君がつけているあのサイコロステーキ先輩の稽古に甘露寺さんと伊黒さんも加わっているということだそうだ。つまり、サイコロステーキ先輩は現在柱三人に指導されているということだ。

 

 

甘露寺さんと伊黒さんと鉢合わせたということは、おそらく甘露寺さんと伊黒さんがデートしているところを邪魔したのかな?

それなら納得がいくかな。甘露寺さんは張り切っているだけだと思うけど、伊黒さんは邪魔されて八つ当たりのような形でサイコロステーキ先輩に毒舌を浴びせながら稽古をつけているのではないかな。

まあ、それが正解かどうかはともかく、サイコロステーキ先輩は大変なことになったな...。これも自業自得だけど....。

 

 

「ところで、私の方は放置で大丈夫なの?」

「修行は別の奴がつけてるし、俺や鎹鴉が時々様子を見に行ってるから、それで問題ないということになってる」

「も、問題ないんだ.....」

 

 

それと、私は放置が確定したそうだ。まあ、この修行をしていたら逃げ出す暇なんてないものね。気絶した時しか休めないのだから、そんな隙があるわけない。

 

 

「あいつが酷い目にあっていると聞けて、良い気分になりますね。さて、彩花さん!続きを始めますよ!」

「えっ!?もう少しだけ......せめて普通に仮眠をとるくらい...「さあ、行きますよ!!」....わっ!わわっ!?」

「うおっ!?あ、危な!!」

 

 

小鉄君はサイコロステーキ先輩がどうなっているのかを聞き、とても上機嫌になり、鍛練を再開させようとする。ゆっくり仮眠もしたかった私はもう少し休憩時間を欲しいと頼もうとしたが、小鉄君は私の頼みを聞こうとせずに縁壱零式を動かせ、私はすぐにその場から離れた。

ちなみに、玄弥も巻き込まれそうになったが、上手く避けることができて無事だった。

 

 

 

 

そして、遂に......

 

 

「彩花さん!力の足りなさを補うために回転していると言ってましたが、もう少し動きを最低限にしてください!それに、癖にもなってますので、なるべく小さく!しかし、勢いよく振ってください!」

「分かってますよ。......それ!!」

 

 

今日も縁壱零式を相手に打ち合いをして、小鉄君に容赦ない指摘を受けながらも縁壱零式の攻撃を避けたり受け流したりしていた。そうして縁壱零式に近づき、胴に目がけて刀を振って当てた。

 

何度も使っているので、縁壱零式がもう限界なのは分かっていた。しかし、小鉄君が壊れても直すと言っていたので、私は思いっきり刀を振っていた。

 

 

 

パキッ!!

 

 

すると、壊れかけていた縁壱零式はその衝撃によって胴の部分が一部割れた。割れたところからヒビもできていた。

 

 

 

「....えっ...?.....わ、わっ!?」

 

 

私は驚きながらもその様子に既視感を感じた。それと同時に、中途半端な体勢で動きを止めたことからバランスを崩してしまい、私は尻もちをついて座り込んだ。

 

 

「大丈夫か?彩花」

「う、うん。平気だよ。だけど........」

 

 

座り込んでいる私に玄弥が声をかけてくれた。私は玄弥に平気だと言い、縁壱零式の方を見た。私の視線を追い、玄弥も縁壱零式を見ていた。

 

 

 

ピキッ!....ピキパキッ!!.......パキンッ!!!

 

 

私達が見ている間に縁壱零式のヒビがどんどん広がり、最後には大きな音を立てて真っ二つに割れた。そして、その中から柄の部分がボロボロになっている漆黒の日輪刀が現れた。

 

 

 

「あっ!?」

「えっ!?これは!!?」

「.......ああ....」

 

 

玄弥と小鉄君は縁壱零式の中から出てきた刀に驚いたが、原作で知っていた私は感嘆の声を上げながらその日輪刀を見た。

 

 

これが呼吸の祖である縁壱零式の使っていた日輪刀なんだね......。炭治郎の日輪刀よりも濃い黒色だったそうだが、漫画でしか見たことがなかったから少し違いがあるなと思うくらいだったので、実際に呼吸の祖が使った日輪刀をこの目で見られたのは嬉しいと思っている。これが見れて良かったな....。

 

 

「刀ですね...」

「ああ、刀だな.....」

「これは間違いなく日輪刀ですね....」

 

 

小鉄君と玄弥と私は互いに頷き合いながら日輪刀をじっと見ていた。

その後、小鉄君が世紀の大発見だと言って興奮していたが、玄弥と私は冷静にその日輪刀から視線を外さずに見ていた。

 

 

私は原作で知っていたし、玄弥も炭治郎から話を聞いていたから、それと当てはめているんだね。小鉄君ほど興奮することはない。だけど、知らなかった小鉄君からしたらその反応になるのは当然だろうね。

 

 

「これって、前回の時に炭治郎から聞いたあの刀か?」

「私もマン.....絵でしか見たことはなかったけど、多分そうだと思う」

「これは......凄い発見ですよ!早く確認しましょうよ!!」

「あっ、うん....。...だけど......」

 

 

玄弥は古びた刀を見てそう呟き、私はそれに頷きながら答えた。これは原作で見たあの日輪刀と同じだから、間違いないと思う。

 

小鉄君は早く縁壱零式の中から見つかった刀を確認したいらしく、日輪刀の鞘を抜いた。日輪刀がどういう状態か知っていた私はそれを止めようとしたが、既に遅かった。

 

 

「....やっぱり錆びてますよね」

「だよな......」

「これじゃ、使えませんね」

 

 

やはり原作通りに錆びていて使えないみたいだ。私達全員が見て、すぐに使えないと判断するくらい錆びている。

 

 

小鉄君は凄く落ち込んでいたが、知っていた私と玄弥は苦笑いしながら小鉄君を励まし、この日輪刀をどうするのか考えた。このまま日輪刀を放っておくわけにはいかないからね。この日輪刀は錆びていても、最強の剣士である継国縁壱が使ったものであり、最終決戦で炭治郎が使ったものだ。炭治郎が使わない可能性があっても、この日輪刀が重要なものであるのは確かだ。

 

さて、これをどうするか.....。

 

 

ガサガサ!

 

 

私達が困っていたその時、草むらが激しく揺れた。誰かが近づいてくる気配も感じる。どうやら誰かがこちら向かってきているようだ。

 

いやここに来てから、草むらから誰か出てくるのが多くなっていない?

 

 

そんなツッコミを心の中でしながら誰が来るのかと思い、その草むらを見た。すると、草むらから現れたのは鋼鐡塚さんだった。

 

 

「......鋼鐡塚さん!?」

「俺に任せろ」

 

 

私が鋼鐡塚さんが現れたことに驚いていると、鋼鐡塚さんはそう言って錆びている日輪刀を私から奪っていってしまった。日輪刀を持って走り去っていく鋼鐡塚さんの姿を見ながら、私達はこの後をどうするのか話し合った。

 

 

縁壱零式は壊れちゃったし、分からないことが起きているからね....。まあ、私は鋼鐡塚さんがあの日輪刀を研いでくれるんだということが分かっているのだけど、小鉄君と玄弥は分からないものね。いや、玄弥は気づくかも...。.....とりあえず説明はしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.......それで?」

「その後、小鉄君と鋼鐡塚さんと話し合うことになって、とりあえず鋼鐡塚さんにその日輪刀を研いでもらうことになりました」

「そうなんだー!....でも、その日輪刀って、前回の時に炭治郎君が使っていたものなんだよね?」

「はい。そのため、誰が使うのかはまだ決まっていませんが.......」

 

 

現在、私達は甘露寺さん達に事情を説明していた。

 

 

鋼鐡塚さんがいなくなった後、私達は一度宿に戻ることにした。縁壱零式が壊れたので、このまま続けることはできないし、もう既に日も暮れてきたということもあり、一旦宿に戻ることにした。宿に戻った私は用意された夕食をいっぱい食べ、ゆっくり温泉に浸かることができた。

 

だって、やっとのんびりできるんだよ。凄く嬉しいの!

 

 

温泉から戻ってくると、ちょうど甘露寺さん達がいたため、そのまま互いに何をしていたのか話すことになった。途中から伊黒さんと時透君のサイコロステーキ先輩への愚痴になっていたが.....。

 

 

「......炭治郎君はここにも来るのかな?」

「それは分からない。ここは鬼殺隊の隠れ里だ。普通なら見つけられない。だが、元鬼殺隊の隊士のあいつらなら場所を把握することが可能かもしれないし、そいつが手引きすればさらに簡単なことだ」

「あはは......」

 

 

甘露寺さんの質問に伊黒さんが首を横に振って答えた後、私の方を見た。私はその視線に笑うことしかできなかった。

 

うん、その通りです。炭治郎達の鼻と私の情報でここに来ますよ。もしかしたら既に来ている可能性もあるけど....。

 

 

「そ、そうよね!炭治郎君達が来るかもしれないし、ここが襲われるから戦わないといけないし、とにかく頑張らないとね!」

「そうですね。....色々と言いたいことなどがあると思いますが、まずは戦いの方に集中しないといけませんからね。話したいことがあっても、やるべきことを優先しましょう」

 

 

甘露寺さんがそう明るく取り繕っていたが、何処か不安そうであった。

 

まあ、無理もない。ここにいる人達は全員まだ炭治郎に会っていない。報告でどんな状態か聞いたこともあり、会って前回のことを思い出させ、炭治郎を苦しませてしまうのではないかと不安に感じてしまうのは可笑しくない。だけど、これから上弦の鬼との戦いがあるのに、その気持ちのままでいるのは駄目だと思うので、少し口を出させてもらうことにした。

 

 

「.....複雑な思いでしょうが、これだけは言ってもよろしいですか。重要なのは謝ることもそうですが、自分のやったことをしっかり受け止め、その責任を背負うことも大切なことです。謝るだけでなく、一方的に行動するのでもない、自分と相手の両方の気持ちを尊重するようにした方がいいと思います」

「わ、私の気持ちも?」

「はい。自分のことを気にせずに苦しみ続けるのを見るのは私も炭治郎も辛いですから。ですが謝らないといけないし、炭治郎の心の方も心配なので、炭治郎のことを気遣ってほしいというのが私の素直な気持ちです」

 

 

私は炭治郎のことを尊重してほしいが、自分のことも大切にしてほしい。自分を顧みずに炭治郎のことを尊重し過ぎて、それが原因で体を壊されても困る。それに、炭治郎も自分だけが圧倒的に有利に尊重されるのを心地良く思わない(まあ、鬼殺隊はそれくらいしないといけないことをしているけど)。

 

 

「それでは、私は部屋に戻ります。小鉄君との修行が終わって、久々にぐっすり眠りたいのです。もう既にご飯を思いっきり食べたり温泉でゆっくりしたりしたので、そろそろ寝ます。おやすみなさい」

「まあ、あの修行の後だからな。ちゃんと休憩はとれ」

「あっ、おやすみなさい!」

 

 

かなり疲れが溜まっていたので、そろそろ休みたかった。タイミング的にも話を終わらせるにはちょうど良いと思い、退出することにした。伊黒さんに何か文句を言われるかと思ったが、あっさり退出させてくれた。

やっぱり修行内容を知ったいたみたいね...。できれば止めてほしかった。

 

 

先程よりも表情が柔らかくなった甘露寺さんを見て、私はそれに安堵しながら部屋に戻った。部屋に戻ると、茶々丸が机の上にいた。

 

 

「えっ?茶々丸!どうして......」

 

 

私は茶々丸がいることに驚きながらもすぐに襖を閉め、茶々丸に駆け寄った。すると、茶々丸は私に手紙を渡し、私はそれを開いて読んだ。

 

 

 

『拝啓

 

生野彩花様

 

彩花、そっちは大丈夫か?こっちは刀鍛冶の里に着けた。後は鬼の襲撃を待つだけだ。その間、何もなかったか?何もない方が良いのだが、俺達がここに着いた連絡を送っても、彩花からの返事が来ないからこっちは不安だ。もし今、身の危険を感じているのなら、すぐに俺達と合流しよう。

 

敬具

 

竈門炭治郎』

 

 

 

手紙を読み終え、私は頭を抱えた。そのまま大声を上げそうになったが、そこは必死に耐えた。

 

 

小鉄君の修行ですっかり忘れてた。いや、そもそもそんな時間もなかったのだけど....。...とにかく弁解しないと。私が原因で炭治郎達と鬼殺隊の関係を悪化させるわけにはいかない。

 

 

「小鉄君の修行をしている間に炭治郎達はここに着いたみたいなんだね。だけど、私からの連絡が来ないから凄く心配していると.....。........炭治郎達がここに着いてからどれくらい経っているのかな....。この手紙は最近の物だと思うけど...私に届く手紙はこれ以外にもある?」

「ニャおー」

 

 

私は炭治郎達がどのくらい前にここに着いたのか気になり、茶々丸に私が修行している間に届いた手紙を全部確認することにした。茶々丸はそれに返事をして、持っていた手紙を全て出してくれた。私の目の前には先程貰った手紙以外にも三、四枚が置かれた。

 

あっ.....ヤバい。これ、しばらく音信不通になっていると認識されているな。

 

 

「複数もあるということは、結構前にここに着いていたんだね....。まあ、これくらい連絡が来なかったら心配するよね。.....実際にあの修行で身の危険は感じていたけど...」

 

 

私は手紙の量に苦笑いしながら心の中で謝罪していた。修行で死にかけてはいたけど、危害は一応加えられていないから、全然大丈夫ですよ。

 

 

「すぐに返事を書くね。あっちが何時私の様子を見に来るのかは分からないし、手短に分かりやすく書こう。.....炭治郎には小鉄君の修行と書けば察してくれるかもしれないけど、念のために不眠不休で食べたり飲んだりすることのできない小鉄君の修行をしたと書いておこうかな。

だから、連絡を取れなくなったのは鬼殺隊と関係ない...いや、関係ないのかな?きっかけはサイコロステーキ先輩だし、小鉄君も一応鬼殺隊の関係者だし......」

 

 

私は他の人達に見つかる前に短い文章で返事を書いた。なるべく分かりやすく書いておいたが、一度伝わるかどうか読んでみて確認し、なんとなく分かるのではないかと納得し、それで筆を置いた。

 

 

「はい、これを炭治郎達に渡してね」

「ニャおニャあ」

 

 

私は茶々丸に手紙を背中の箱の中に入れ、茶々丸が姿を消したのを確認した後、布団の上に横になった。

 

 

「後は上弦の肆と伍の襲撃を待つだけ、か....。前回での記憶を私達も鬼殺隊側も持っているから被害は最小限に抑えられると思うし、さらに伊黒さんと獪岳がこの戦いに加わるし、こっちが有利なのは確かだ。......だけど、原作は既に崩壊しているから何が起きるか分からなくて不安だな....」

 

 

私は布団に包まった状態でそう呟き、ため息を吐いた。

 

原作では予想もつかない展開を楽しんでいたが、実際にそこで生きてみると、そのことで頭を悩ませないといけないし、凄く疲れるな。

 

 

「......まあ、何が起きても大丈夫なように心構えはしておこう。とにかく、今は上弦の肆と伍を倒すことに集中しないとね....。炭治郎のことも合流した時に大丈夫そうかどうか確認しておかないと......」

 

 

戦いに予想外なことが起きるのは当然として考えないとね。原作崩壊の影響がどう出るか、炭治郎が甘露寺さん達と会って大丈夫なのかで変わっていくからね。心構えが必要だ。どっちにしろ、私達の共通の目標は上弦の鬼撃破だから。

 

 

 

 

 

「そういえば、サイコロステーキ先輩はどうなるのかな?このままだとサイコロステーキ先輩も巻き込まれるよね?サイコロステーキ先輩も巻き込まれるとなると、サイコロステーキ先輩は真っ先にやられてしまう気がしてならないのだけど.....大丈夫かな...」

 

 

次の日、サイコロステーキ先輩が刀鍛冶の里から逃げていったという話を聞いた。

 

どうやら相当嫌だったらしい。

 

 

 




大正コソコソ話

彩花の時透君呼びも義勇さんの時同様にいつの間にかしていたそうだよ。彩花も時透君もあまり気にしていなかったが、それに気づいた玄弥にツッコミをもらっていたよ。




悩みましたが、今年中にもう一話を投稿するのは難しそうだと判断しました。来年になったらその一話を投稿しようと思っています。
それでは、良いお年を。






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笹の葉の少女はその道を行く 前編

 

 

 

「少し見なかった間に随分成長したね」

「うん....。そりゃあ、三途の川を渡りかけるくらいでしたからね。........まあ、しばらく何も食べたり飲んだりできずに何度も死にかけたのだから、成長していなかったら困りますけど......」

 

 

時透君の言葉に私は苦笑いを浮かべながらそう答えた。

 

本当に死ぬほど鍛えるを実践したから、その成果が出ないとね。というか、出てくれないと私が泣きます。三途の川を何度も渡りかけたのに、強くなれなかったら本当に困るよ。

 

 

「この調子なら、今夜の戦いは大丈夫だと思う」

「そうですよね...。.....今夜なのですね....」

 

 

小鉄君の修行を終えてから三日経った。この三日間、私は時透君や伊黒さん達に稽古をつけられながら着々と準備を進めていた。何度も話し合ったし、連携をとれるように打ち合いもした。

 

 

「今日はここまでにして、夜に備えた方がいいよ。上弦の鬼が二体襲ってくるから、万全の状態でね」

「分かっています」

 

 

時透君の言葉に私は素直に頷いて部屋に戻ることにした。私も体力を消耗させた状態で上弦の鬼と戦うのは得策でないと思っているし、休める時に休まないと。

 

 

「........いよいよ始まるのね」

 

 

部屋に戻り、私はそう呟きながら薬や毒の入った箱に手を伸ばした。

 

 

その前に、私には先にやらないといけないことがあるからね。何が起こるか分からないし、これとあれを出しておこう...。

 

 

 

 

 

 

「いいか。ここに来る鬼は上弦の肆だ。目視するまで気配は感じられないし、四体に分裂する。だが、そいつらは本体じゃないから、そいつらを全部倒しても駄目だ。

本体はネズミくらいの大きさだが、頸は硬いから油断するな。本体なのかは舌に書かれている文字で分かるから、しっかり見ておけよ」

「分かっているよ。大体のことは私も読んでいて知っているからね。打ち合わせ通りに動こう。

今回の私達は本体の鬼の頸を斬るというより、主に分裂した四人の鬼を足止めする方。まあ、本体がこちらに来た場合は私達が本体の頸を斬らないといけないのだけど、私達がすることは本体を探す伊黒さん達を信じて、その手助けをすること」

「ああ」

 

 

私と玄弥は宿で上弦の肆の半天狗が来るまで待機していた。その間に私と玄弥は作戦を確認していた。

 

 

「.....玄弥。時間的にはもうすぐなの?」

「ああ、その筈だ........!?来たぞ!」

 

 

原作で見て知っているが、正確な時間は分からない私が玄弥に聞くと、玄弥は硬い表情で襖を見ながらそう答えていた。その時、襖がゆっくり開いていくのを見て、私も玄弥も息を潜めて様子を伺った。すると、襖の中からゆっくり上弦の肆である半天狗が現れた。

 

 

「水の呼吸 弐ノ型 水車」

 

 

半天狗の姿を確認してすぐ、私が縦に半天狗を斬ると、その半天狗の心臓から鼠くらいの大きさの半天狗が出てきた。あれが半天狗の本体だ。原作ではこの鬼の本体を探して、色々苦心していたが、今回は半天狗の本体がこの小さな鬼だということが分かっているため、最初にとる行動は決まっていた。できれば、さっきので倒すことができたら良かったのだけど.....。

 

 

「ヒィィィィィ!!恐ろしい!恐ろしい!もう嫌じゃ!!」

「待て」

「玄弥!追いかけたいのは分かるけど、後ろに下がって!」

 

 

出てきた本体は小さな体で隙間を通り抜け、悲鳴を上げながら逃げていった。玄弥はそれを追いかけようとしたが、私がそれを止めた。半天狗を斬ったことでできた分身が攻撃してきたからだ。本体を斬ることに失敗しても、私達にはやることがある。今はこの分裂体をなんとかしないと。

 

 

「玄弥。今は深追いしない方が良いと思う。それよりも分身をなんとかするのを優先しよう」

「.......そうだな....」

 

 

私がもう一度下がるように言うと、玄弥は渋々従ってくれた。本体を斬れば勝つことができるが、それよりも分裂体の方をなんとかしないといけなかった。

 

 

半天狗の血鬼術はその時の感情を具現化し、分裂体を生み出すというもので、その分裂体は一人一人強敵だ。本体は鼠くらいの大きさしかないので、探し出すのは至難の業だし、探している間に分裂体が襲ってくる。それに、分裂体は本体の頸を斬らなければ消えることはない。本体を見つけようとするだけでは私達が負けると分かる。

原作では甘露寺さんが分裂体の相手をしたので、炭治郎達は本体の方に集中できた。だから、半天狗と戦うには本体と分裂体で分かれて戦う必要があり、私達はここで分裂体を足止めしなければならない。

 

 

私は真っ二つに斬られた半天狗の身体からできた二人の分裂体の方を向いた。

 

 

「なかなか骨のありそうな奴じゃないか。これは楽しめそうだ」

「カカカッ!確かに!どうやら此奴らは儂らを倒す気らしいなァ!」

 

 

分裂して生まれた積怒と可楽は私達を見て、それぞれそう言ってきた。

 

 

「あの錫杖を持った鬼の雷は危険だから触れるんじゃねぇぞ!いや、どっちかというと団扇を持つ鬼の方が厄介かもしれねぇ。団扇を持つ鬼は突風を吹かすし、打撃の威力も強いからな。近づき過ぎて雷の範囲内に入らないように気をつけろ」

「うん、分かったよ。とりあえず、玄弥はあの場所に行ってて。次に備えられるように」

 

 

玄弥が積怒と可楽のことを私に伝え、私は頷きながら作戦通りに行動することにした。私は積怒と可楽に近づいた。

 

 

「華ノ舞い 炎ノ花 紅梅うねり渦」

 

 

私が間合いにまで近づくと、すぐに可楽が持っている団扇で風を起こしてきたので、私は華ノ舞いでそれを防いだ。強風の所為で吹き飛ばされかけたが、それを利用して少し距離をとることができた。

分裂体二人の血鬼術がどんなものなのか知っているが、他にも何かあるかもしれないと考え、警戒するために少し距離をとった。

 

 

「ほほう。なかなか良いと思うぞ。間合いに入られたから団扇を振ったが......それを防御しよって。これは遊びがいがあるな」

「遊んでいる暇はない。さっさとこの餓鬼を消して、目的を果たすぞ!」

 

 

可楽が何やら面白そうに私のことを見ているが、積怒は全く興味なさそうな様子だった。

 

うん、原作の通りに正反対の反応だね。まあ、喜怒哀楽の怒と楽の感情から生まれた分裂体だから、違うのは当然だけど。

それと、相手は私をすぐに殺す気でいるみたいだね。まあ、あちらからしたら私は邪魔者なのだから、早く消したいのだろう。でも、こちらも殺されるわけにはいかないよ。

 

 

「華ノ舞い 水ノ花 水仙流舞」

 

 

私を殺そうと雷が降ってきたり突風が吹いてきたりしたが、私はそれを全て避けたり受け流したりした。時々頸を斬ろうと近寄るが、積怒も可楽も広範囲の血鬼術であるため、間合いに入ることが難しく、遠すぎない程度の距離をとって戦っていた。

 

 

「少々すばしっこいな....。しかし、このまま逃げれると思うのか?」

「...........」

「何だ、黙りか?」

 

 

可楽が私に話しかけてくるが、私は無視をしていた。

 

とても可楽とゆっくり話している時間はない。血鬼術の雷が擦り、髪の毛の毛先が少し焦げていた。少しでも気を抜けばあの雷に直撃する。それに、注目さえ向けてくれればいいのだから。

 

 

「はあ、その程度か。少しはやるかと思ったが、思い違いのようだったな」

「だから、儂は言っただろう。さっさと消すと!こんな小娘一人に儂らの相手は務まらん!!」

 

 

私が回避に専念しているのを見て、可楽が今度はがっかりした顔をしてそう言っ。そして、消せという積怒の指示に従い、私に大きな雷を落とそうとする。私はそれを見て、笑みを浮かべた。

 

油断しているね。あんな大きな雷を落とそうとすれば電気を貯めるのに、少なからず時間がかかる。それでも、大きな雷を落とすということはそれで私が殺せる、この雷を止める術がないという慢心からだろう。

 

まあ、私はそう油断するのを待っていたのだけど...。

 

 

「悪いですけど、私はそれを待っていたのですよ」

「伏せろ!!」

 

 

私はその声が聞こえると同時に頭を下げ、姿勢を低くした。

 

 

 

パンッ!パンッ!!!

 

 

 

そして、何処からともなく銃声が鳴り響き、それが可楽の頸と積怒の頭を貫いた。

 

 

 

「なっ!?」

「何だと....!?」

 

 

可楽の頸は地面に落ち、積怒はその奇襲に驚きながらも奇襲した相手を見つけようと銃声が聞こえた方を見た。

 

 

可楽も積怒も私から視線を外した。これを狙ったのだ。玄弥には狙撃を主にして動いてもらい、私はその囮をするという作戦だった。だから、私が前に出て注意をこちらに向け、玄弥には確実に分裂体の鬼の頸を銃で撃ってもらうことにしたのだ。

 

上手くいって良かった。特にあの大きな雷はチャンスだった。積怒の頸は斬れてないが、それも問題なかった。

 

 

「華ノ舞い 雷ノ花 梔子一閃」

 

 

積怒が動揺した隙をつき、私は積怒の間合いに入って頸を斬った。

 

もし玄弥が鬼の頸を上手く撃てなくても、可楽と積怒が玄弥の方に意識が逸れるため、鬼の注意が逸れればその隙で私が頸を斬ることができるということだ。分裂体とはいえ上弦の肆だ。その分裂体を私と玄弥の二人で相手するということで、何手か予想して作戦を考えた。

本当に上手くいって良かったよ...。

 

 

 

「どうやらこの不意打ちは成功だったな.....」

「タイミングがばっちりだったおかげで助かったよ」

 

 

上から玄弥の声が聞こえたため、私は玄弥に感謝した。

 

正直に言うと、囮が上手くいくかどうか凄く緊張したんだよね。誰かを騙すのって本当に心臓に悪すぎるもの。どう転んでもいいように対策したとはいえ、緊張するものは緊張する。

 

 

「だが、まだ安心するのは早いぞ」

「そうね。第一段階を突破はできたけど、ここからが問題なんだよね...」

 

 

少し気が緩みかけたが、ここからが本番である。私も玄弥も半天狗の方を見ると、可楽と積怒から別の鬼が出てきた。また分裂しようとしているようだ。

 

 

「.....相手をする順番は分かっているよね?」

「ああ。俺が最初に槍を持った鬼で、彩花は残りの鬼だったな。その後の動きも覚えてる」

「それなら、大丈夫そうね。.....気をつけてね」

 

 

順番的には玄弥がさらに分裂した鬼である哀絶、私が残りの鬼と戦うことは決まっていた。私は玄弥に覚えているか尋ね、玄弥がしっかり覚えていることを確認してから、私は分裂し終わった半天狗に向けて刀を振り、注意をこちらに向けた。玄弥も銃声が聞こえたことから、煽動しているのだと思う。

 

 

分裂体の一人である哀絶は槍で戦う鬼で、近接戦を主に得意としているため、遠距離から戦う玄弥なら哀絶と有利に戦うことができるだろう。

 

 

「カカカッ、喜ばしいのう。小娘よ、儂は非常に機嫌が良い。久しぶりに分かれて外に出ることができたからのう」

「そうですか...」

 

 

可楽と積怒から分裂した鬼のもう一人である空喜は外に出ることを喜び、空を飛び回っていた。私はそれに返事をしながら空喜の攻撃を避けた。空喜の超音波が地面に当たり、その辺りが大きく凹んでいた。

 

 

「....思ったよりも威力が凄いな...」

 

 

私は空喜によってできた抉れた地面を見て、一人言を呟いた。

 

漫画で見て知っていたのだが、実物で見たら怖気付きそうになった。しかし、私が戦うと言ったのだから、ここはなんとかしないといけないと自分に強く言い聞かせて、必死に体を動かして避けていた。

 

 

大丈夫。鍛練のおかげで動きが見える。死にかけるほど鍛えたのだから、回避できる。戦うことができる。自分のできることをやらないと。

 

 

「避けるか。だが、儂の速さに追いつけるかな」

「確かに速いですが.....当てることならできそうですね」

「何、じゃ!?」

 

 

空喜の攻撃を避け続けていると、空喜が私を見て愉快そうに言った。それに対して、私も笑みを浮かべてそう返した。空喜は私の言葉に怪訝そうにしていたが、その瞬間に空喜の様子が可笑しくなり始めた。空喜の翼の動きがぎこちなくなり、手足が痙攣している。

 

よし、上手く効いているみたい。

 

 

「....これか......原因は...!」

 

 

空喜は自身に起きた異常の正体を調べ、その原因に気がついた。空喜の足に刺さっている注射器型の吹き矢、これが原因なのである。注射器型の吹き矢には私の作った麻痺毒(上弦の鬼専用の試作品)が入っていた。遊廓での戦いで妓夫太郎が解毒するのに苦戦していたことから、上弦の鬼との戦闘で私の薬も時間稼ぎくらいにはなるということが分かった。

 

そこで、私は襲撃されるまで妓夫太郎に効いた麻痺毒をさらに改良したり、あるいはそれらをもとに新しい組み合わせを試したりというように、対上弦の鬼用のものを鍛練の合間に作り、前よりも強い毒が完成した。半天狗は妓夫太郎よりも強い鬼であるため、遊廓で使用したものよりも強力な毒を注射器型の吹き矢に入れて使ったのだ。

 

 

私は空喜の攻撃を避けながらも動きを見て、気づかれないタイミングを狙って吹き矢で刺した。使ったのは即効性の毒だ。体の何処かに上手く刺されば数分で毒がまわるようになっている。現に吹き矢が脚に刺さってから数分くらいで手が痙攣し始め、翼にもその毒の影響が見られている。おそらく、もう体全体に麻痺毒がまわっているのだろう。

 

 

「私を翻弄しようとあちこち飛び回っていたようですが、同じような場所をぐるぐる回っているだけでしたので、次がどの辺りなのかが予想できれば吹き矢で狙えますよ。ただ問題は風向きや貴方の速さが変わるかによって身体のどの辺りに当たるのか想像できなかったため、もう少し高い位置に当たっていればと思ってしまうのですが、ねっ」

 

 

私は持っていた縄を見せた。その縄は空喜に刺さっている吹き矢に繋げられている。

 

吹き矢は刺さっているだけなのだから、すぐに取れるのではないかと思われる方がいるでしょう。しかし、そう簡単に抜けないようになっているのだ。

 

 

この注射器型の吹き矢は日々鬼との戦闘に役立つように薬の方も吹き矢の方も改良している。鬼との戦闘では色々なことが起きる。中身を全部注入できずに吹き矢が外れてしまうということが起きるのではないか。そう思って、私は兪史郎さんに相談して吹き矢が抜けないように固定する仕掛けがあるものを作ってもらった。

 

 

「なっ!?は、放せ!!」

「放しても構いませんよ。ですが、私が持っているわけではありませんので、放したところで解放されるわけではありませんよ」

「なっ!?」

 

 

空喜は注射器型の吹き矢やそれに繋がる縄に気づき、それを外そうと脚を動かすが、なかなか吹き矢を抜くことができなかった。吹き矢が深く刺さったからなのか、毒で弱っているからなのか、それとも外れないように固定する仕掛けが上手く作用したのかは知らないが、注射器型の吹き矢は空喜の脚から外れずに麻痺毒を注入し終えても抜けなかった。

 

まあ、そうなるように仕掛けを弄ったのだけどね.....。小鉄君にも手伝ってもらったけど、時間がなくて試していなかったから....成功して良かったよ......。縄も特別製の物を用意した。ゴムのように伸縮するとても丈夫な物にして、その上でバレないように兪史郎さんの血鬼術を使って隠した(兪史郎さんの血鬼術のお札は私が縄を持って見える前に外した)。私が手を離した時にもう一度お札をつけたので、今は縄が見えなくなっている。

 

 

それに、縄を持っているのは私だけど、引っ張っているのは私じゃないからね。

 

そういう意味を兼ねて私が指を指すと、空喜はさらに驚いた。空喜の脚に刺さっている注射器にある縄の繋がれている先は可楽に刺さっている注射器型の吹き矢であった。実は攻撃を避けながら他の鬼のことも吹き矢で狙っていたからね。ちなみに、積怒の方も吹き矢は刺さっている。どっちも背中に刺さっているため、その原因に気づくのが空喜よりも遅れた。空喜に刺さる吹き矢を見て、二人も気づいたようだ。可楽と積怒が吹き矢を外そうが、その前に私が動いた。

 

 

「華ノ舞い 雷ノ花 梔子一閃 六重」

 

 

私はその間に自身の使える型の中で最も速く動くことができる型を使い、可楽と空喜の頸を斬った。毒や混乱で動けなくなっているうちにね。

 

 

『梔子一閃』は雷のエフェクトがあることから、雷の呼吸を基にしたものだと考えられる。だからこそ、私の使える型の中で最速を誇っている。

 

それと、『梔子一閃 六重』について予想できる人はいるでしょうけど、説明はしておきます。『梔子一閃 六重』は『梔子一閃』を六回連発で使ったものである。

雷の呼吸を基にしているのだから、善逸の霹靂一閃のように連続で動くことができるのではないかと思い、善逸の動きを見ながら実践してみた。

 

 

まあ、すぐに善逸と同じ動きは合っていない(というか、脚に負担をかけすぎて、これでは何度もやったら骨折する)ことに気づき、自分に合うものを考えることにして、何度も鍛練を重ねた。そして、漸く自分の体に合うステップを見つけることができ、連発も可能になった。

 

この型は善逸のように木や糸を足場にすることができるから、結構使い勝手が良いのですよね。今回も縄を足場にして空喜の頸を斬ることができたし。

 

 

「小癪な....」

 

 

 

パンッ!!!

 

 

積怒が悔しそうな顔をして、雷を落とそうとしたが、その直前に銃弾が積怒を撃ち抜いた。それにより、積怒の落とした雷は弱くなり、私はその雷を回避できた。

 

この銃弾も玄弥の物だ。私が分裂体を三体相手するのは流石に無理があるので、玄弥は哀絶を倒したら私に加勢することは決まっていた。それでも当てにし過ぎるのは駄目だからと思い、玄弥が加勢できなかった場合を考慮して行動していた。まあ結局、助けられたちゃっけど......。

 

 

 

「そっちは大丈夫?倒したの?」

「ああ、無事に頸を斬れた。この後の戦いのために鬼喰いは残しておきたいからな」

「できれば使ってほしくないのだけど...」

「大丈夫だ。胡蝶さんの抑制剤はあるから、彩花の言ったことは起きないよ」

「...........」

 

 

私は玄弥に残った哀絶を倒せたか聞くと、玄弥は問題なかったと言った。私はそれを聞いて安堵したが、玄弥の言葉から鬼喰いを使う気でいることを知り、不満そうな表情を浮かべた。それを見て、玄弥は大丈夫だと言った。しかし、私はその言葉を信用できなかった。

 

 

原作では鬼喰いの体質を持つ玄弥が鬼を食い過ぎたことで完全に鬼となり、最期には体が塵になって消えてしまったのだ。しかし、前回の方では黒死牟との戦いで斬られて、髪を食べて回復したところは原作と同じだが、黒死牟の刀の刃は喰べなかったらしいし、玄弥は黒死牟に脳天から斬られていないので、致命傷はなかったそうだ。

 

 

そのため、玄弥は鬼喰いをやり過ぎれば完全に鬼となることを知らなくて、逆行した後でも鬼喰いを続けていたらしい。私の話を聞いてからは周りに止めてくれとか、控えてくれとか言われ(不死川さんは物理的に止めに来て、さらに大騒ぎになった)、非常時以外は使わないようになっているそうだ。

 

.......でも、玄弥なら使ってしまいそうなんだよね....。特に不死川さんが危ない時とかで使って...原作の再現みたいになるんじゃないかって......。....不安だ。また不死川さんと喧嘩することになってもしょうがないよ...。玄弥、銃だけじゃなくて補助に刀身の短い日輪刀を持っているのだから、できるだけそっちを頑張って使おう。

 

 

「さて、問題は.....」

「ここからだな」

 

 

私は玄弥の鬼喰いの問題よりもやらなければならないことがあるということを思い出し、思考を切り替えることにした。玄弥も私の雰囲気から察したのか先程斬った空喜や積怒達の方を見た。ちょうど銃で撃たれた積怒が頸を斬られた空喜と可楽と哀絶を吸収しているところだった。次の瞬間、一体化して積怒達の姿は消え、憎珀天となっていた。

 

 

憎泊天は積怒が空喜達を吸収して誕生する「憎」の鬼である。雷様の太鼓を持ち、積怒達の血鬼術と新たに樹木を操る血鬼術を使う。積怒達よりも厄介な相手だ。攻撃力が高く、痣の発現をした甘露寺さんが防戦一方に追い込まれたくらいだ。今まで以上に気を引き締めないと。

 

 

「アア、不快だ。実に不愉快だ」

「あいつをどうにかしないとな」

「そうだね。一人になったけど、あの憎珀天は頑張っても足止めがやっとだからね。どう時間を稼ぐか.......」

「とか言う前に、あいつは既に俺らを殺す気だぜ」

「.....じゃあ、その攻撃をなんとかしながら憎珀天がここから動かないようにしよう」

 

 

憎珀天が私と玄弥に殺気を向けていた。私と玄弥は憎珀天の動きを警戒しながらも囲むような形で少しずつ距離を縮めた。 

 

 

できれば一気に間合いまで近づくことができたら良かったが、憎珀天の使う血鬼術は広範囲のものが多いので、避けるのが大変だし、周りの被害も甚大だ。だが、遠過ぎれば本体を守ろうと行くだろうから、程々の距離を保つことにしよう。

 

 

「狂鳴雷殺」

「華ノ舞い 炎ノ花 紅梅うねり渦」

 

 

憎珀天の雷と超音波に対し、私は防御にも特化している型を使った。炎を纏った渦がそれらの攻撃を防ぎ切り、私は憎泊天の血鬼術のことを考えて前に進むことにした。

 

ぎりぎりだった......。....威力が積怒の時よりも上がっていたし、範囲もかなり広かった...。さっきの雷で刀が刃こぼれしてないといいけど.....。

 

 

「狂圧鳴波」

「華ノ舞い 水ノ花 水仙流舞」

 

 

続いての憎珀天の超音波に、私は刀の負担を考えて受け流すことにした。超音波だけなので、先程よりも刀の負担を少なくするために受け流すことにした。

 

 

「石竜子」

「華ノ舞い 紅ノ葉 陽日紅葉」

 

 

その次に憎珀天が私の様子を見て、樹木でできた五つの竜を召喚してきたので、私は連続で攻撃できる型で五つの竜を斬った。

 

 

細かく斬ってみたから動かないと思うが、状況は一切変わっていない。相手は石竜子を無限に生み出すことができる。この五つの竜を斬っただけでは安心できない。

 

 

「無間業樹」

「........流石に私達のことが邪魔になってきたみたいね」

「ここ一帯を一気に消し飛ばす気か!」

 

 

私が考え込んでいた時、憎珀天は石竜子を生み出し、射程の範囲を広げていた。その様子を見て、私も玄弥も憎珀天がさっさと決着をつける気だということに気がついた。

 

すぐに石竜子をなんとかしないと....。

 

 

「.....この広範囲を一気に対処するのは普通の型では難しい...。.....それなら.......」

 

 

私は増え続けている石竜子を見て、あまりの数の多さに広範囲を斬れる型でないと難しいと判断し、私は新しい型を使うことにした。

 

この型は広範囲のものだから、ちょうど良さそうだからね。

 

 

 

「華ノ舞い 花ノ束 桜花しぐれ」

 

 

私は葉の模様を枝に変え、その枝から桜の花を咲かせた桃色の刀を高速回転させながらも、縦横無尽に広範囲を跳び回った。回転させた状態での円を描く斬撃で石竜子を次々と斬り、周りにいた石竜子は崩れていった。

 

 

「....よし、成功した。何度も練習していたから、大丈夫なのは知っていたけど...。でも、実戦ではまだ使ったことがなかったから不安だったけど、上手くいって良かった」

 

 

私は周りを見渡し、石竜子を全て斬れたことを確認した。

 

この型は刀鍛冶の里で完成させたものだ。遊廓での戦いで華ノ舞いの型を知る方法が分かったので、その方法で他の型も知ろうとした。そして、この型が刀鍛冶の里で新たに分かった型だ。

 

 

「広範囲にいた竜は全部斬ったけど、あっちはまだ諦めていないみたいね」

「だな。彩花がさっき斬ったのに、また竜を出してきやがった」

 

 

私は石竜子がまた増えていくのを見て、警戒を強めた。玄弥も銃に弾を込め、生み出された石竜子に狙いを定めた。

 

 

「木竜の共鳴」

「......!?一旦、ここから離れるよ!」

「ああ!」

 

 

再び現れた石竜子が口を開けたのを見て、私はすぐにここから離れるように言った。私と玄弥がその場から離れた瞬間、石竜子が超音波を放った。石竜子の超音波により、近くの木が折れたり地面が抉れたりというような地形が変わるほどの被害が起きた。

 

 

「なんとか避けることができたけど........やっぱり炭治郎と禰豆子、甘露寺さんがいないと少し不利ね...」

 

 

憎珀天の超音波の威力を見て、二人だけでは無理があったなと思いながらも次の手を考えていた。

 

このまま戦い続けたら、そのうち憎泊天に追い込まれる。仮に憎泊天の頸を斬れても憎珀天は分裂体だから、頸を斬っても終わらない。だから、私達がやることは憎珀天などの分裂体をここで足止めするしかない。けど、私達がどれだけ時間を稼げるか....そこが問題だ。

 

 

「華ノ舞い 雷ノ花 梔子一閃 八重」

 

 

私はなんとか戦況を変えようと石竜子を斬るが、すぐに新しい石竜子が生み出されるので、数は一向に減らなかった。

 

 

「何度竜を斬っても、すぐに別の竜を生み出してくるからキリがない」

「おい、大丈夫か?」

「大丈夫。まだ体力はあるから」

「そうか.....。....だが、こいつとの戦いはまだ続きそうだ。少しでも体力を温存してくれ」

 

 

私が減ることのない数に飽き飽きしていると、玄弥が私の体力を心配してきた。呼吸を使ってずっと斬り続けているので、少し心配してくれたようだ。私はそれに平気だと答え、再び石竜子を斬り始めた。玄弥も体力を消耗させ過ぎないようにと注意しながらも銃で石竜子を撃ち壊していった。しかし、石竜子の数が減ることはなかった。

 

 

「甘露寺さんと伊黒さんはまだなのか?」

「きっと、あっちでもトラブルがあったのかもしれないね。戦いでは予想外のことが起きやすいのだから、そう簡単に作戦通りにいくわけがないよ」

「そうだが、作戦通りに行ってくれた方が良いじゃねえか」

「.....それには同意しますね」

 

 

それからしばらくして、玄弥が全く終わる気配のないこの状況に焦りを見せ始めた。

 

 

元からの作戦では、私と玄弥が半天狗の分裂体の足止め、時透君が上弦の伍の玉壺の討伐、甘露寺さんと伊黒さんが刀鍛冶の職人を玉壺の血鬼術から守りながらも半天狗の本体の頸を斬るという話だった。玉壺は時透君が一人で前回戦って勝ったことから、前回と同じということになった。しかし、半天狗の方は色々と揉めた。

 

 

改めて言うが、半天狗は分裂する鬼である。戦闘時には分裂体が戦い、本体は隠れている。なので、半天狗を倒すには誰かが分裂体を足止めをし、誰かが本体を斬るという作戦にするのはすぐに決まった。だけど、問題は誰がそれらの役割をするのかという話だった。

 

炭治郎と禰豆子はいない(来るのは知っているけど、連携をとることが難しいから、とりあえず除外するという形になった)ので、前回と同じということはできない。それに、半天狗は喜怒哀楽の分裂体やそれらを合体して生まれる憎泊天以外にも「恨」の鬼という鬼がいる。その鬼と戦うこともあると考え、柱である甘露寺さんと伊黒さんが半天狗の本体の頸を斬ることになった。

 

 

私達はそのためにもここで憎泊天の動きを止めて、甘露寺さんと伊黒さんの負担を減らさないと....。二人が早く本体の頸を斬ってくれることを信じて.....。

 

 

「華ノ舞い 水ノ花 水仙りゅう....」

 

 

私は憎珀天に近づくことにした。少しでも時間を稼ぐためにも憎珀天をここに留めるためにも、注意をこちらに向けようと考え、刀を握った。

 

 

その時、誰かが物凄い速さでこちらに来る気配を感じ、一歩下がった。その瞬間、目の前を何かが凄いスピードで横切った。その横切ったものは緑と黒の市松模様だったような、桃色だったような........。

 

...いや、まさかね。そんなこと.....。

 

 

 

「今の....炭治郎と、禰豆子か......?」

 

 

うん、知ってた。

 

玄弥は私がまさかと思っていたことを口にした。私は口に出さずに心の中で返事した。

 

 

.....うん...。はっきりとは見えていなかったのだけど....やっぱり炭治郎と禰豆子だよね.....。まさか、そんな.......とは思っていたけど.....。....でも、なんで.........。

 

 

「おい!!」

「か、獪岳!」

「伊黒さん!甘露寺さん!時透さんも!」

 

 

私と玄弥が顔を見合わせていると、誰かが私達に呼びかけてきた。振り返ると、獪岳に伊黒さんと甘露寺さん、時透君が来た。

 

えっ!?今、何が起きているの?なんで炭治郎達だけでなく、伊黒さん達も!?....というか、時透君の手にあるのは上弦の伍の玉壺の頸だよね!本当に何が起きているの!?

 

 

「どうしたのですか!今、何が起きているのですか?」

 

 

私は困惑しながらも伊黒さんに説明を求めた。最初の方に動揺し過ぎてしまったけど、途中でそのことに気づいて冷静になろうとした。

 

まずは落ち着かないと。落ち着いて、今の状況を整理しないと.....。

 

 

「状況が変わった。それも最悪の方向にな」

「い、一体何が......」

「あれ、まだ鬼狩りがいたんだ?」

「....っ!?」

 

 

その声が聞こえると同時に、上から強い殺気を感じた。その殺気は半天狗や堕姫達よりも遥かに強いものだった。その殺気がする方を向くと、屋根の上に誰かがいた。私はその姿を見て息を呑んだ。

 

 

遠くからでもその鬼の特徴はよく見えた。鉄扇を手に持ち、頭から血を被ったような文様の長髪に虹色の瞳を持った鬼だ。

 

こんな特徴的な鬼が誰なのか見ただけですぐに分かった。

 

 

「わあ〜。女の子が一人増えたね。君も救ってあげるよ」

 

 

さらに、女に反応して『救う』という言葉を使う......。

うん。間違いなく、この鬼は上弦の弐の童磨だ。

 

 

「これは.....どういう状況ですか?」

「見ての通りだ。上弦の伍と応戦しながら上弦の肆の本体を探していた時、いきなり上弦の弐が何もないところから現れ、戦闘になった」

「なるほど...。.....最悪ですね!」

「うん。さっさと上弦の伍の頸は斬ったのは良かったけど、状況は悪いまま。....前回はここまで悪くなかったのに...」

 

 

私は童磨がここにいることに困惑しながらも詳しい説明を求めると、伊黒さんは手短に説明してくれた。その説明を聞いて、私はこの状況を理解できた。

理解したと同時に叫んでしまったけど....それは許してください。流石にこれには平静を保つことができなかった。心の中でもう一度言いたい。最悪です!

....時透君の言葉にも同意したい...。原作崩壊の影響がこんなにも大きくなるなんて.....。

 

 

 

唯一の救いは時透君が上弦の伍の玉壺の頸を斬ってくれたことだ。現れた時から持っていたことには気になっていたのだが、聞きたいことが色々あって、漸くその話に触れられた。時透君は無傷で玉壺の頸を斬れたようだ。

ちなみに、時透君がどうして玉壺の頸を持っていたのかは上弦の壱と参の話から、他の上弦の鬼も同じことが起きるのではないかと考えて、ちゃんと死んだのかを確認するためだそうだ。

 

 

まだ生きているなら喋るし、身体も崩れないからね。......でも、その頸がもう消えているのなら、頸の弱点は克服されていないということだね。生きているならすぐに襲ってくるだろうけど、玉壺の血鬼術らしき鯉の化け物の姿もいないし。....でも、良かった...。上弦の鬼を同時に三人も相手にしないといけない状態で、そのうちの一人が朝まで戦わないといけないとなったら、こっちは絶望的だったよ。だけど.....。

 

 

「....これは少しまずいかもしれませんね.......」

「....ああ。上弦の伍は倒せたが、まだ上弦の弐と肆が残っている。上弦の鬼二体を相手にこの人数で勝てるか、微妙なところだ」

「でも、なんとかしなくちゃ!」

「そうだね。とりあえず上弦の肆からにした方がいいと思う」

 

 

私の言葉に伊黒さんは同意した。甘露寺さんと時透君も切り替えて前向きに考えているようだ。

 

上弦の伍を倒しても、まだ上弦の鬼が二人いる状況は間違いなくこっちが不利だ。しかも、そのうちの一人が上弦の弐という鬼の中でも三番目に強い鬼だ。上弦の肆と伍を相手にするのとは全く違う。その上、私達は上弦の肆と伍の対策はしていたが、他の上弦の鬼と戦う準備はしていなかった。上弦の弐と対決するのに、策も何もない状態で戦うのは無謀だ。私達だけで勝てるかどうか.....。

 

....それでも、甘露寺さんの言った通り、なんとかするしかないのだ。どんな相手が強くても私達は戦うしかない。どんなに不利な状況でも、そこから突破口を見つけるしかない。

 

 

...とりあえず、時透君の言った半天狗の頸を斬ることを優先しようという意見に賛成かな。童磨は厄介だから、確実に対策を練った半天狗を優先した方がいい。童磨も半天狗も両方を倒そうと欲張れば、こっちが不利になる。逆に、このまま両方を逃がしても最終決戦が厳しくなるだろうから、せめて片方はここで確実に頸を斬っておかないと...。

 

 

「.......えーと......炭治郎達は....」

「.............」

「................」

 

 

私は炭治郎と禰豆子の方を見た後、獪岳を見た。獪岳なら何か知っているのではないかと思ったが、獪岳に睨まれてしまった。おそらくアホは黙ってろということだろう。なので、炭治郎が話すのを待った。

 

 

ただ、私の胸には不安が残っている。今、炭治郎が何を考えているのか、どうしたいのか分からない。私が手紙を受け取った段階ではまだどうするか悩んでいる様子だった。そう簡単に決められる筈はないと思って、私はじっくり考えてもらうことにしていた。しかし、こうも早くその決断をしなければいけなくなるとは.....。

 

 

もう一度言うが、状況的にこちらが絶望的だ。上弦の鬼は一人に複数の隊士と戦うのが普通だ。一部例外(時透君と玉壺の戦い、善逸と獪岳の戦い)はあるけど....。...それでも圧倒的に不利な状況であるのは間違いない。

この状況で、私達までも争っていたら絶対に負ける。ただ、前回での炭治郎達の身に起きたことを考えると、強制的に協力し合うことなんてできない。だけど.......このままだと....本当に......。手紙では悩んでいる様子だったし....。

 

 

今の私にどうにかすることはできない。炭治郎が何と答えるのか、見ていることしかできない。.....正直、歯痒い....。

 

 

 

「.......俺と禰豆子が.....本体を倒します。だから、甘露寺さんは分裂体を足止めしてほしい、です。...玄弥もよろしく頼む....」

 

 

しばらくして、炭治郎がそう言った。私が炭治郎の言葉に目を見開いた。そして、その言葉に笑みを浮かべた。

 

炭治郎は漸く決められた。決断したのだ。ずっと苦しんで、思い悩んでいたけど、やっと向き合うことができるようになったんだ。これはもう喜ぶでしょ。

 

 

「それなら、私と獪岳、時透君、伊黒さんが上弦の弐の童磨を足止めするということでいいよね?」

「まあ......お前がそれでいいなら、俺はそれで構わねえよ」

 

 

私は炭治郎の言葉を聞いてすぐに自分がどうするべきかを考え、そう言った。炭治郎は既に協力して戦うことを決めた。その決断に答えられるように、私達も動くしかない。

 

 

「貴方達もそれで構いませんよね」

「....あ、ああ。別に構わない」

「では、ちゃんと動いてください。私達も炭治郎もその気ではありますので」

「.......くれぐれも足を引っ張るなよ」

 

 

私は炭治郎のことを考えながら提案していたけど、伊黒さん達鬼殺隊側に相談なく決めたので、とりあえず伊黒さん達に確認をとる。伊黒さんは少し驚いた様子だったが、少し戸惑いながらも頷いてくれた。

 

 

最も反対するのなら、私が話し合って押し切るつもりだったけどね...。だって、あちらの炭治郎達にした行動が仲違いの原因だからね。それに、私は本当に炭治郎のこの決断を喜んでいるので、伊黒さん達よりも炭治郎達を優先するし、全力で応える気なのですよ。

 

 

 

 






華ノ舞い


花ノ束

桜花しぐれ

体を唸らせながら広範囲を跳び回り、刀を回転させたまま円を描くような斬撃。




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笹の葉の少女はその道を行く 後編

 

「「雷の呼吸 肆ノ型 遠雷」」

 

 

私と獪岳は同時に雷の呼吸を使い、童磨の注意をこちらに向けた。

 

かなり距離があるので、ここは遠距離での攻撃が可能の遠雷を使うことにした。獪岳と一緒だし、威嚇射撃のようなものだから、雷の呼吸を使うことにした。

 

 

「へえ、君達は雷の呼吸の使い手かな。男の方はなかなか速いけど、女の子の方はそれほどじゃないね」

 

 

私と獪岳の遠雷を避けた童磨はその雷の呼吸について冷静に分析した。

 

 

ええ、そんなの分かっていますよ。でも、華ノ舞いをここで使うのはリスクが高すぎる。童磨は分析力が高く、情報を集めるような戦い方をする。そのため、色々な型を使うのは危険だ。こちらの手を相手に見せるのはその後を不利にさせる。だから、童磨と遭遇した時はこの二択の選択をする必要があるだろう。

 

一つは童磨をここで倒すという方法だ。ここで童磨を倒してしまえば自身の手札を全て使っても、その後に対策を取られるという心配はない。もう一つは私達が自分の手札を見せないように戦うということである。そうすれば対策を取られず、次に戦った時に全力で戦うことができる。

 

 

ここで童磨の頸を斬るのは難しいため、後者の自分の手札を見せないようにして戦う方を選んだ方がいいと私は考えている。ただそれは口の言うのは簡単だが、実行するのはめちゃくちゃ難しいことなのだけどね......。でも、後々のことを考えると.....。

 

 

童磨は冷気の血鬼術を使う異能の鬼である。中でも特に厄介なのは粉凍りという血鬼術だ。粉凍りは自身の血を凍らせて霧状にしたものを扇で散布するというもので、もしその霧を吸い込んでしまえば肺が壊死するのだ。つまり、呼吸を使う私達と相性が悪い。しかも、よく目を凝らさないとその霧があるのかも分からないから、初見殺しの戦法である。

 

そのため、霧の範囲外から攻撃できる遠距離での型を使うか、息をあまり吸わないようにして戦うか、霧のない場所を見極めながら戦っていくかのどれかだ。

 

 

それで、遠雷を使ったのだ。威嚇射撃だからというのは理由の一つだったが、童磨の血の霧を警戒してというのもあった。

 

 

「そりゃまあ、上弦の弐にこの程度の攻撃が当たる筈ねえもんな。だが、上弦の壱と出会った時の絶望よりマシだ」

「いや、上弦の壱と比べればそうでしょ」

 

 

童磨の言葉を気にせず、獪岳と私はそんなことを話していた。この緊迫とした状況をどうするのかという時でも、こんな会話ができるくらいは落ち着いていた。

 

 

流石に何度も上弦の鬼と相対したから、変な耐性がついたんだよね。いや、耐性というより肝が据わってきたのかな。もう色々なところで強い人や鬼と出会うので、慣れてきたんだろうね。...あまり慣れたくなかったと思ったけど、最近ではこんなことを何回も経験したのだから、如何なることが起きても何をすればいいのかと気持ちを切り替え、開き直ってきたな....。

 

実際に上弦の弐が目の前にいても普通に会話しているからね。それくらいの度胸がついてきているのはもう分かる。.......勝てるかどうかは別として...。

 

 

「今はあっちが手加減しているからまだ平気だが、本気を出されたら困るな」

「そうですね。とにかく、相手を怒らせ過ぎないようにしないと」

「....その心配はしなくていい。あいつは「いや、するべきです!」」

 

 

獪岳は前回で上弦の鬼になったから、童磨の特徴や戦い方をある程度知っているのだろう。童磨は最初に全力を出さず相手に全力を出させてから仕留めようとする。だから、私達が手札を見せなければ童磨も全力を出さないままだ。

遊ばれているのは癪だが、ここで全力を出して童磨を取り逃がすよりはマシだと思うし、今の優先事項は炭治郎達が半天狗を討伐することであり、私達は時間稼ぎのようなものだ。

 

そのため、童磨が全力を出すという事態は避けておきたい。そう思って獪岳に声をかけると、早速獪岳が相手を怒らせそうなことを言いそうだったので、それを遮るように大声で言った。

 

 

獪岳の言おうとした言葉は大体察しがついている。上弦の弐の童磨は常に笑みを浮かべているが、それは表面上だけで、心の中では非常に無機質で快と不快以外の感情を持たない虚無的な性格である。それはある程度関われば分かることであり、原作で読んでいた私は知っていたし、獪岳も実際に鬼として関わっていたから分かっている。

 

だからこそ、獪岳は大丈夫だろうと言おうとしたのだろう。童磨には感情がないからと。

 

 

...だけど、獪岳は知らないだろうね。童磨がその言葉を聞いたらどんな反応をするのか。原作でカナヲが感情のないことを指摘し、童磨はその言葉を聞いて、常に浮かべていた笑みを消したんだよ。

感情がないと言えば絶対に私達を殺しに来る。『君みたいな意地の悪い子、初めてだよ。何でそんな酷いこと、言うのかな?』って。断言できる。

 

 

.....まあ、そんなわけで童磨を怒らせず、ただ興味だけは持ってもらうように煽っていこうと考えているのだが、今更ながら人選に失敗したかもしれない。

 

私はもう二人の方を見ながら少し後悔した。

 

 

伊黒さんと時透君。伊黒さんはネチ柱と言われるくらいネチネチしたしつこく、責めるような話し方をし、時透君はその....辛辣な言葉遣いで容赦なく相手の心に言葉の刃を突き刺すからね。.......童磨の地雷を踏まないか凄く不安だ。だから、あまり話さないように.....いや、童磨は戦いの最中でも話しかけてくる鬼だ。そうやって相手を怒らせる。絶対に舐めプして怒らせる。その時に伊黒さんと時透君が感情のことを言えば童磨も怒る。

 

....何、その流れ。それは勘弁してくださいよ。

 

 

 

まあ、人選も何も炭治郎が禰豆子と玄弥と甘露寺さんに頼んだのだから、残った人達を選ぶしかないのだけど......。....村田さんに残っていてほしかったな...。サイコロステーキ先輩は.....煽って言いそうだから駄目ね...。

 

 

「とにかく!相手の血鬼術に気をつけながら重要な手札は見せずに戦うよ!あまり煽り過ぎないでね!」

「お、おう」

 

 

私は無理矢理思考を切り替え、獪岳にも周りにも私自身にも言い聞かすようにそう言った。獪岳は少し戸惑っていたが、とりあえず頷いてくれた。

 

うんうん、素直に頷いてくれたのはよろしい。ここで口に出せないことだし、その情報は何処からと思われるからね。

えっ?鬼殺隊に転生のことは話しているだろうって?いや獪岳と鬼殺隊の方ではなく、鬼側のことだよ。

 

 

鬼は私の転生のことも炭治郎達の逆行のことも知らない。それは童磨以外の鬼が原作の通りに現れていることから間違いない。知っていたら、流石に同じことをする筈がないからね。原作も炭治郎達の前回もその手順で負けているから、覚えているならあっちは別の行動をする。

猗窩座と童磨の件以外で前回と今回にそれほどの違いがないことから、あっちが前回の記憶を持っていないのは確かだ。

 

 

そのため、私達が出会ってもいないのに色々知っていたら、明らかに不自然に思われるし、さっさと殺そうとするだろう。特に、目の前にいる上弦の弐の童磨と上弦の壱の黒死牟の血鬼術は初見殺しだからね。相手が油断しているなら隙があるし、今後の戦いを有利にするためにも鬼の戦い方を知っていると悟らせないようにしておかないと。情報は鬼殺隊も鬼側も重要ですから。

若干一名そういうのを無視してパワハラをしそうなのがいますが.......。

 

 

「もう!これじゃあ、キリがない!」

「落ち着け。夜明けまではまだ時間がかかる。あっちも苦戦しているから、しばらく耐えろ」

 

 

私達は血鬼術の霧を吸わないように動きながらも童磨の頸を斬ろうと刀を握った。だが、童磨の頸を斬ることはやはり難しく、その場に止めるのが精一杯だ。私はそのことに苛立っていると、獪岳がそれに気づき、童磨に視線を向けながら私にそう言った。私は獪岳の言葉通りに落ち着かせることにした。

 

いや、分かっていますよ。今、焦ってもしょうがないということを。というか、私が慎重に行動しようと言っていたのに、その言った張本人の私が焦っては元も子もない。...だけど........。

 

 

「ねえねえ」

「............」

「ねえ、また無視するの。君、鬼狩りなの?なんか鬼狩りと服装は違うけど、持っているのは刀だよね。他の鬼の討伐の時も隊服じゃなくて着物を着ているから一般人かと思ったけど、日輪刀を持っているよね。

それなら鬼狩りなのかなと思ったけど、猗窩座殿や堕姫と妓夫太郎と戦った時もその格好だったから、君は鬼狩りではないよね」

「...............」

「鬼狩りじゃないのに、どうして戦うの?あっ、分かった。何か嫌なことか辛いことがあったのかな。

大丈夫。俺が救ってあげるよ。頼まれたからというのもあるけど、俺は優しいからね」

 

 

全然大丈夫じゃない!丁寧にお断りさせていただきます!

 

.....こんな感じで童磨にいっぱい話しかけられるため、そろそろ限界なんだよね。声を出してしまいそうで。....でも、私は血鬼術のことがあるのでずっと無視し続けるけど。

 

 

獪岳と伊黒さん、時透君もいるけど、童磨がよく話しかけるのは私だ。理由は分かる。女好きの童磨だからこそ、この中で唯一の女の子である私に話しかけるのは当然だ。ちなみに、一度時透君に男の子だよねと聞いて、時透君をキレさせるという事態が起きたが、それは置いておくことにしよう(時透君を宥めるのにとても苦労したが...)......。

 

 

童磨は他人の痛みや感情に無頓着で、無意識に相手の感情を逆撫ですることが多いということは分かっていたが、私の想像よりもかなりしつこくて、相手をイライラさせるのが上手みたいだ。

 

....いや、イライラしている場合じゃない。落ち着かないと。

それよりもこのままだと私達が負ける。現状は互角のように見えるが、少しずつこちらが押されている。童磨と戦う前からこちらは戦っていたからというのもあるが、今私が戦っている氷でできた童磨の人形が原因である。

 

 

童磨の血鬼術は粉凍り以外も厄介なものが多い。その一つが目の前にあるこの小さな童磨人形である。これは結晶ノ御子というものであり、大きさは本体の童磨よりも小さいのだが、童磨と同じ強さの血鬼術を使用し、自動で戦闘を行うのである。

しかも、この結晶ノ御子がどんなにダメージを負っても本体には全く影響がないため、童磨はただでさえ回復できて疲れない身体でありながら自分から手を下す必要すらないのだ。さらに、童磨は結晶ノ御子を複数生み出せるので、こっちは上弦の弐を何体も相手することになり、体力が消耗しやすいのだ。

 

 

現在結晶ノ御子は三体出されていて、私達は本体の童磨自身に傷一つつけられず、ボロボロの状態だ(童磨に傷をつけることができても、すぐに回復されるのだけどね!)。獪岳や伊黒さん、時透君はまだまだ大丈夫そうだけど、いずれ限界が来る。一番最初に体力が尽きるのは確実に私だろうけどね。

いや、それよりも....このままでは全員ここで殺される!しかも、私も獪岳達も童磨の血鬼術を少し吸ってしまったから、あまり長く保たない。なんとかしないと.......。

 

 

「考え事かな?」

「...!雷の呼吸 弐ノ型 稲魂」

 

 

そんな考え事をしている私の目の前に童磨が現れた。どうやら私を標的と定めたようだ。時間的にも夜明けが近くなっているし、早く終わらせたいのだろう。

弱い人から倒していった方が良いものね。そりゃあ、この中だと真っ先に私を狙いますよ。

 

 

私は童磨の接近に気づいてすぐに雷の呼吸を使い、童磨に向けて攻撃して後ろに飛んだ。童磨は両手に鉄の扇を持っている。鉄の扇、普通に人を斬れる品物だ。それで切り裂かれたら一溜りもないから、先に攻撃した方が良いと考えた。だが、上弦の弐だから反射速度も半端ないというのは知っているので、速度の速い雷の呼吸であり、少しでも長く距離をとる時間が欲しく、瞬きの間に五連撃できる弐ノ型を選んだ。五連撃なら反撃でも対応でき、童磨の動きをなんとか止められるのではという可能性に賭けて....。

 

 

...だが、流石に速さで童磨に勝てるわけはなく、一撃当たりそうになった。うん、まともに戦ったら駄目だ。

 

危なかった。本能で体勢を低くしたおかげで髪が少し短くなったくらいで済んだ。あの攻撃から掠っただけなのは奇跡だ。

ただ、童磨に近づく時に少し吸ってしまったかも.....。呼吸が使えないというのは本当にキツい。何回か血鬼術の霧を吸いそうになるのだけど、今回は吸ってしまったのかもしれない...。いきなり童磨が近づいてきたことに動揺して焦っていたから、血鬼術の霧がないかしっかり確認できなかった。こんな時に肺を駄目にするわけには....。

 

 

ここは華ノ舞いを使って、早くこの状況をなんとかするしかなさそうね。華ノ舞いは誰も知らない型だから、その詳細を知られていない。十二鬼月との戦い以外の時は華ノ舞いをなるべく使わないようにしていたので、情報もそんなになく、不意打ちをするのに良かった。どんな戦いでも情報は鍵となる。これは私の数少ないアドバンテージだ。

 

私が二回目である炭治郎達と肩を並べて戦うのなんて普通ではできないことだ。だけど、あちら側に情報があまりない華ノ舞いで不意をつくことで、なんとか一緒に戦える。華ノ舞いがなければ私は途中でリタイアしていた。なので、華ノ舞いのことで対策を練られることは避けたかった。

 

 

「でも、そんなことを言っている場合ではないよね」

 

 

無限列車や遊廓での戦いで華ノ舞いのことを知っていると思うが、詳しいことが分からないように、念には念を入れて隠しておきたかった。でも、そんな出し惜しみができる余裕はない。命がないと次も何もないのだから。

 

......ただ、それでも悔しいな....。私には華ノ舞いを使わずに上弦の弐と戦うのは無理だと、まだまだ弱いのだということを痛感する。

でも、今ここで使わないと.....。

 

 

「華ノ舞い 炎ノ花 紅梅うねり渦」

 

 

私は氷と相性の良い炎の型で童磨の攻撃から身を守り、距離を取ることにした。それに、この型は防御にも優れているため、童磨の血鬼術も防げると思った。予想通り、童磨の血鬼術を防ぐことはできた。まあ、童磨に本気を出されても耐えられるかというと、それは難し過ぎるとしか....。

 

 

「見たことない呼吸だねー。その目、堕姫と妓夫太郎の時に使っていたものだね。もしかして、他にもあるのかな。しかも、さっきまで使っていた雷の呼吸とは全然違うね」

 

 

しかし、これもやはり童磨に避けられてしまった。今の私に童磨の頸を斬ることはできない。それは分かっている。それでも、童磨の攻撃を防げるのなら遠慮なく使おう。

 

予想した通り、童磨は私の華ノ舞いを分析している。ただ、先程の童磨の言葉で狐面を外していた(遊廓で狐面をしたままだと怪しまれるからと思って)時のことを見られているのが分かった。華ノ舞いのことは鬼側で興味がなくても、瞳の色が変わるのは珍しかったようだ。

 

 

なんだか凄く複雑なのですが、遊廓での戦いは見られていたという情報が手に入っただけでも良かったと思おう。あちらに何かがバレてもこちらが情報を得ることができたのなら、それは痛み分けと考えることにしよう。

 

 

て、今はそんなことよりもこの状況をなんとかしないと。狙われているのに、離れて避けて防ぐだけでは何も変わらない。獪岳も伊黒さん達も氷人形の相手をしていて、こちらに加勢できない状態だ。この状況を突破するには私が自力でなんとかしないと。

 

.....童磨の血鬼術や反射速度を考えて、私の使える型の中で一番速いものを...。

 

 

「華ノ舞い 雷ノ花 梔子一閃 六重」

 

 

私は自身の使える型の中で最も速く、なおかつ童磨の血鬼術を防げるように連続でできる型で童磨の間合いに入り刀を振った。しかし、この攻撃も童磨に受け止められ、私はすぐに童磨から離れた。

 

何もないかと自身の体を見ると、黄緑色の着物が斬られていた。血は出ていないことから皮膚までは届いていないようだ。あともう少し離れるのが遅かったら、鉄の翁で着物どころか真っ二つになっていただろう。やはり受け止められたことに気づいた時にその場から離れたのは良かったみたいだ。お陰様で掠っただけで済んだ。

なんとか血鬼術の霧も吸わなかったけど、童磨の近づいた時に呼吸が使えないのはやっぱりキツい。童磨の血鬼術って、本当に呼吸を使う鬼殺隊にとって相性最悪なんだよね。

 

 

でも、これは一時凌ぎだ。今が危険な状況であることは変わらない。

だが、私の使える範囲の華ノ舞いを使っても、この状況は変わらない。生き延びるために少しでも可能性が高い方をと思い、華ノ舞いを使ったが、それは少しだけ確率を上げるのであって、確実だというわけではない。何か他に私ができることとしたら.......。.....あまり良い手ではないし、ほとんど賭けだ。

成功する確率が低いのは分かっているし、仮に成功してもリスクしかない。....それでも、試してみるしかない。このまま戦い続けても負けそうなのだから、せめて何かしらの抵抗はしたい。持てる手段は全て使わないと。

 

 

私は一か八か自身の知っている呼吸を思い浮かべながら強く念じることにした。

 

もしかしたら新しい型を使えば、この状況をなんとかできるのではないかと思ったのだ。華ノ舞いの新しい型を初めて使った時は明らかに動きのキレが違うからね。できるだけ再現はしていたけど、無限列車で猗窩座に闘気が変わったと言われるくらいに、私の普段の動きとは全然違う。それに任せてしまうような感じだけど、それくらいの動きでないとこの流れをなんとかできない。そう思った。

 

 

 

.....ザザッ...ザザッー.......プツンッ!

 

 

 

だが、頭の中で雑音のような音が聞こえ、思い浮かべていた呼吸の動きが鈍くなり出した。そして、その動きがゆっくりになった瞬間、何かが途切れるような音がして完全に動きが止まり、思い浮かべていたものが見えなくなった。

 

 

「.......やっぱり駄目か...」

 

 

その音が聞こえて私は少し気を落とすが、今はそんな暇がないので、切り替えて童磨の血鬼術を避けることに集中した。

 

ある程度覚悟していたが、実際に起こると結構落ち込む。何回もやっていたので、分かってはいたが....。

 

 

実は華ノ舞いの他の型を知るためにあれこれしていたので、随分前には分かっていた。華ノ舞いは私がどうしたいのかと強く願うのと同時に見知っている呼吸の型を全て思い浮かべると、新しい型が分かる。その法則で試して、分かったのが桜花しぐれなのだが、それだけしか分からなかった。

 

桜花しぐれが完成した後、他の型も思って試してみたが、どれだけ強く願おうと型を思い浮かべようと、型を知ることができなかった。色々考えてみた結果、私の願った型がないのか、見知っている型を足りないのではないかと思った。

 

 

発動条件から考えて、この二つのどちらかが足りないからと見て間違いないだろう。呼吸それぞれで特徴があるのだから、華ノ舞いに遠距離の型とかがなくてもおかしくない。それに、私は呼吸を全て見ていないのである。原作の知識で呼吸は全部知っているのだが、それは知識として知っているだけで、実物をこの目で見ていない。しっかりとした動きを見ないといけないのだろう。.....普通は体に叩き込めと言うが、それだと無限列車での時の件の説明がつかないため、体に叩き込まないといけないということではないと思う。

柱合会議の前に水の呼吸やヒノカミ神楽、雷の呼吸はきちんと教わり、花の呼吸と炎の呼吸は見た。蝶屋敷にいた時は獣の呼吸と音の呼吸を見たし、ここでは恋の呼吸と蛇の呼吸と霞の呼吸を見た。

 

 

確信はないが、桜花しぐれができた時は基本となった恋の呼吸を甘露寺さんに見せてもらった後のことなので、法則としては間違いないだろう。ちなみに、蝶屋敷では遊廓での戦いで華ノ舞いが二つ分かったので、そちらに集中していて、華ノ舞いの新しい型が分かるか試せなかったのだ。そのため、試し始めたのは刀鍛冶の里に来てからだった。まあ、カナヲや義勇さん、伊之助などのことで色々あり、そういう時間があまりとれなかったというのもあるけど....。

 

 

この中でまだ見ていないのは風の呼吸と岩の呼吸だ。見知っている型の中で足りなかったと考えると、この二つの中で新しい華ノ舞いの型に繋がるものがあるのだろう。と言っても、日の呼吸は拾参の型があり、水の呼吸には拾壱の型があるというように、呼吸によって型の数はバラバラである。

そのため、華ノ舞いが現在分かっている型しかないのか、他にもあるのか分からない。型があの六つしかない可能性はあるが、他にも型がある可能性もあるので、できることは全部試そうと思っている。

 

とりあえず最初に呼吸を全て.......あれ?...日の呼吸が最初で、そこから派生して基本の呼吸である水と炎と雷と風と岩と.....あっ!

 

忘れてた!まだあの呼吸があったんだ!

 

 

私はそのことに気づき、もう一度強く念じながら頭の中に知っている呼吸とその型を思い浮かべた。すると、私の意志とは関係なく体が勝手に動き始めた。

 

間違いない。体の主導権が移った。

 

 

私は成功したことに安堵した。いや、自分の体を乗っ取られることを喜んでは駄目だと思うけど...。

 

そんなことを考えながらも、私の頭の中では月の呼吸の陸ノ型の常闇孤月・無間、音の呼吸の肆ノ型の響斬無間、霞の呼吸の伍ノ型の霞雲の海などが形となって浮かび上がり、何かが歯車のように噛み合うのを感じた。その時、私の日輪刀は紫色に変わり、刃の模様が月見草の形になっていた。

 

 

「華ノ舞い 月ノ花 月光華・草奏」

 

 

私は刀を高速回転させ、葉が(その葉の形が三日月に似ているように)舞っているかのような斬撃を描く。それを大量に舞っているように見せるため、私の体は何度も刀を振るう。その大量の葉の形をした斬撃はササーっという音が聞こえ、童磨の体を何度も斬りつけた。

 

 

私は覚えている限りの呼吸を全部思い浮かべたと思っていたが、まだ一つ忘れていたものがあった。

それはは月の呼吸だ。盲点だった。黒死牟が使った呼吸であるため、無意識に除外していた。呼吸の派生を図として改めて考えてそれに気づき、月の呼吸を追加してもう一度試してみた。そうしたら、先程の通りのことが起きた。ちなみに、月の呼吸は黒死牟と遭遇した時に一度だけ使っていて、私はそれを獪岳に引っ張られながら見ていた。

 

 

だが、このことからあの現象は条件を満たさないと発動しないのだと確信できた。

 

とにかく華ノ舞いの型を知るためにも全ての呼吸を見る必要がある。これが分かったのは良かった。次に活かせ......て、いやいや。次も何も生き残らないと意味がない!あの現象のおかげで華ノ舞いの新しい型が分かったし、漸く童磨に反撃できた。.....だけど、私の状況は良い方向に変わらず、危機的な状況のままだ。

 

 

どうしてまだ危険なのか?皆さん、お忘れですか。この現象が起きると、私はしばらく動けなくなるということを。それを防ぐために、先に華ノ舞いの型を知ろうとしていたということを。それを覚悟してこの賭けをした。行き当たりばったりなことだと思うが、童磨に追い詰められて、

 

 

 

私は懐に何かないかと思い探してみた。その時、焦り過ぎた所為か何かを押したような感触を感じた。それと同時に嫌な予感がした。

私はおそるおそる手にした物を懐から出した。それは一つのカプセルのようなものであり、その中から何かが流れて混ざる音が聞こえてきた。

カプセルを見て、さらにその音を聞いた私はこう思った。

 

あっ、これはマズイ。

 

 

私は咄嗟にカプセルを投げ、脱兎の如く離れた。動けなくなる前に少しでも遠くに行こうとした。私はその場から離れることに精一杯で、そのカプセルをちょうど童磨の前に投げたことに気づいていなかった。

 

 

「あれ?何かな、これ?」

 

 

しかも、童磨はそう言って鉄の翁を振り、そのカプセルを真っ二つに斬ろうとした。だが、童磨の鉄の翁がカプセルに当たる瞬間、

 

 

 

ズドーーーン!!

 

 

 

爆発が起き、辺りはに包まれた。あの距離だと童磨は確実に巻き込まれているだろう。

 

私?爆発で少し吹き飛ばされたけど、受け身をとったので大きな怪我はしていない。地面に転がっているくらいだったから。いや、それよりもその爆発が問題だ。爆発により、近くにあった木がいくつか折れたり燃えて黒くなったりしていた。

 

 

吹き飛ばされて受け身はとれたが、あの現象の影響で動けなくなり、しばらくその場に座り込んだ。顔を上げた時、私はその惨状を見て絶句した。

 

あれのことは知っていたが、こんなことになるとは思ってもいなかったのだ。だから、別解させてほしい。私もこれは予想外。

 

 

「.........」

「............」

「......えっ。何あれ」

 

 

気配を感じて振り向くと、獪岳達がいた。獪岳と伊黒さんは爆発の方を見て無言だった。その反応が一番怖い。時透君の反応の方がまだ良い。

 

それと、時透君の言っていたことは私も同意する。というか言いたい!作った本人だけど、あれは何って私が聞きたい!

 

 

「.......おい」

「はい...」

 

 

しばらくすると、獪岳が私を呼んだ。獪岳の低い声を聞き、私は素直に返事をして獪岳の方に体を向けた。獪岳を見ることが怖いために視線は別の方に向けたけどね。

だが、それもすぐに後悔した。視線を逸らしたところに伊黒さんがいて、目が合ってしまった。伊黒さんもあの爆発に言いたいことがあるみたいだ。

 

 

まあ、無理もない。この爆発については誰も知らないからね。いつの間にこんなものを作っていたのかと聞きたくなるのは当然だ。

まあ、獪岳は爆薬をいつ作ったのかということを、伊黒さんは私が作る薬品や毒のことを柱合会議で聞いていたが、これに関して何も言っていなかったことを、それぞれ言及したいのだと思う。

 

何を言われるのか大体察しがつくけど、大人しく聞きましょう。

 

 

「これはどういうことだ?前とは違って、あの丸いのから爆発が起きてるが。複数の薬品が混じった爆発じゃねぇよな?」

「あははは.....。確かに前とは違いますけど...一応薬品が混ざったものではありますよ.....」

「しかも、爆発の威力が上がってねぇか!」

「それはそうですよ。だって、あれは爆薬ですから」

「はあ?お前、前までそんなの作ってなかっただろう。大体爆薬は専門外で、作っていたのは薬や毒くらいなもんだって言ってただろう」

 

 

獪岳の尋問に私は正直に答えた。私が間違えてボタンを押してしまったカプセルに入っていたのは爆薬だったのだ。

 

前にも爆発させたことはあったけど、あの時は複数の化学物質や液体、気体などが混ざってしまったことで起きたものであり、今回は正真正銘の爆薬だ。爆発させるために作られたものだ。偶然のものとは違うので、爆発の威力が上がるのは当たり前だ。

 

 

「...それなら、あの爆薬はいつ作った?」

「....蝶屋敷で.....。...蝶屋敷での病養中に訪ねてきた宇髄さんに.......。色々話をして、その中で薬関連で爆薬のことを教えてもらって.....。私も少しその話があったので、詳しく聞いてみまして...。....その流れで爆薬を作る機会がありまして「いや、ねえよ!」あったのですよ!それでできたのがこれです」

「宇髄.......」

 

 

伊黒さんは私と獪岳のやり取りを聞き、私が爆薬を作ったのは最近の可能性、つまり鬼殺隊に来てからだということに気づき、そう尋ねてきた。私は正直に爆薬を作った経緯なども全て話した。途中で獪岳からツッコミがあったけど、これ以上そのツッコミに答えていると、色々根掘り葉掘り聞かれると思うし、話も脱線しそうなので無理に話を通した。

 

見張られている状態で爆薬を作っていたのなら、いつ何処で作ったのかというのは気になるだろう。特に伊黒さんは刀鍛冶の里で私のことを監視していたので、その期間に爆薬を作っていたことで私が嘘をついていたのかとか自分の責任とか考えているだろう。

 

 

でも、大丈夫です。この爆薬を作ったのは蝶屋敷にいた時であって、伊黒さんは心配しなくてもいいです。爆薬なんて作れなかったし、作る予定もありませんでしたよ。

 

ただ宇髄さんが見張りとして来た時に色々話していて、その会話から薬や毒の調合の話題になりまして.....。

 

 

『お前、よくあんなの作ってるな。俺は藤の毒を苦無に塗ってたことがあったが、最近ではあまり使わないな。爆発なら派手に使うが』

『でも、爆薬と言っても薬のように色々あるのでしょう。作り方とか火薬の扱い方とか....』

『おう。と言っても、俺は派手なら別に構わないから何種類もと作っていないんだが...なんだ。聞きたいか?』

『はい!聞かせてください!気になります』

『よし!そんじゃ.....』

 

 

という流れで、宇髄さんが爆薬に関して教えてくれた上に、頭だけじゃなくて体にも叩き込まないといけないと言われ、爆薬作りを実践することになった。それから作り方を覚え、その調合や機能で私があれこれ実験してみて、投げたあの爆薬が完成したというわけだ。

でも、爆薬が危険だというのは分かっているので、投げたあの爆薬しか持っていないし(練習用と実験用の爆薬は宇髄さんに渡していたが、完成した爆薬は宇髄さんに自衛で使えるかもしれないからと言われ、そのまま持たされた)、その爆薬が背負い箱の揺れで発動しないように懐に入れていた。あの時、指に当たって起動してしまうのは想定外だったが....。

 

 

ちなみに、完成した爆薬はカプセルの中で二つに分け、ボタン一つでそれが合わさって調合するタイプのものだ。時間差があるようにしているのは、爆薬を投げたりその場から自身が離れたりする時間が必要だからである。

 

 

「......お前、あの爆発の威力は何だ。普通がどれくらいか知らねぇが、まさかこの爆薬も改良とかしてねぇか」

「....えーと.....」

「おい、視線逸らすな!やったんだな!」

「好奇心であれを多く入れるとどうなるか、別の物を代用したり入れたりしてみたらどうなるか試してみたくて.......。...宇髄さんもノリノリで色々助言してくれるから、だんだん楽しくなっちゃって」

「宇髄!」

 

 

獪岳は私の行動からなんとなく何をしていたのか分かっていたが、確認のために聞いた。それで、私が別の方向を見ているので、獪岳は私のしたことを確信したようだ。私は怒られるなら全部言っておこうと思い、爆薬作りでのことを何もかも話した。獪岳はそれを聞き、呆れたような溜息を吐いていた。

一方で、伊黒さんは同僚が積極的に関わっていたことに頭を抱えていた。

 

 

「全く何やってんだ!教える奴も馬鹿だが、お前はもっと馬鹿だ。教えられたからって実践するか!」

「先程も言った通り、好奇心が刺激されまして.....」

「おい!」

 

 

獪岳の説教に私は好奇心でやったとしか言えなかった。私の言葉を聞き、獪岳は低い声を出してさらに威圧してくるので、私は萎縮した。

 

はい、分かっています。好奇心のままやった私が悪いです。

 

 

「....あっ。逃げた」

「えっ!?」

 

 

時透君の言葉で私達は一斉に童磨のいた方に視線を向けた。そこはもう爆発の黒い煙は無くなり、童磨の姿も消えていた。

 

 

私はそのことに困惑しながらも童磨が油断させるために逃げたフリをしていないかと思い、辺りを見渡した。だが、すぐにその警戒を解いた。冷静に周りを見れば気づけたことだ。

 

 

「朝日か......」

「きっと日が昇るから逃げたのでしょうね」

 

 

空を見上げると、太陽が顔を出していた。日が昇る時間になり、童磨も逃げたのだろう。

 

私は朝日を見ながら肩の力を抜いた。この世界に転生してから太陽が空に昇っていることに凄い安心感を抱くようになったな。起きた時にある太陽へのありがたみは昔から感じていたけど、鬼と戦うようになってからはその思いがさらに強くなったんだよね。

 

 

とりあえず戦いはこれで終わった。全員、大きな怪我はしていない。肺の方は少し心配だが、五体満足で生きている。この戦いで童磨の頸を斬ることができなかったのは残念だが、ここで誰も欠けずに生き残っただけでも幸いだ。

 

 

とにかく戦いは終わった。これで、一息つくことができる。

 

 

「うん?日が昇っているのなら、炭治郎達は.....」

「みんな!やったわよー!」

「....あっちは大丈夫そうだな」

「ですね...」

 

 

戦いが終わったということで一安心したが、炭治郎達のことを思い出した。それで、私はそちらの戦いがどうなったのか気になり、炭治郎達の様子を見に行こうとした時、甘露寺さんの声が聞こえた。その声を聞き、獪岳も私も無事だということが分かって安堵した。

だが、炭治郎達の方を見た時に一瞬でその気持ちは消え去った。炭治郎の表情が暗かったのだ。

 

一体何があったの?まさか半天狗にも逃げられたの?それとも玄弥達と何かトラブルが.......。

 

 

「炭治郎。半天狗、上弦の肆の頸は斬れたの?」

「ああ、それは大丈夫だ。ただ.....」

「...ただ?」

 

 

私がおそるおそる炭治郎に聞いてみた。半天狗の頸は斬れたと言っていた。それなら、玄弥達との間で何かトラブルが起きたのか.....。...私はそのように考えて不安になった。

だが、話の続きを聞き、その心配は杞憂だったとすぐに分かった。

 

 

「上弦の肆の頸を斬ることはできたんだが、その時にちょうど日が昇ってきて....禰豆子の姿を見られてしまったんだ」

「あっ...」

 

 

私は炭治郎の話を聞き、どうして炭治郎の表情が暗いのか察した。

 

 

鬼舞辻無惨は太陽を克服しようと鬼を増やし続けている。原作では禰豆子が太陽の光を浴びても体が焼けないところを半天狗の目から見て、禰豆子が太陽を克服していると知り、禰豆子を巡って最終決戦が始まった。

そして、禰豆子は今回も太陽を克服していて、前回と同様に最終決戦のような戦いが勃発するのは分かっていた。鬼舞辻無惨は全ての鬼を使ってでも禰豆子を手に入れようとする筈だ。幾ら何でも全ての鬼と戦うのは私達少人数で勝つのは難しい。なので、禰豆子は昼に外で出てもらわないように背負い箱に入っていた。

 

だが、半天狗に禰豆子のことを見られた。つまり、原作や前回と同じように禰豆子を巡る戦いが近いうちに始まるということだ。

最終決戦までのカウントダウンが始まってしまった今、鬼との総力戦に色々備える必要があるのだ。しかし、その準備できる期間は限られているし、何より禰豆子に何処かに隠れてもらうかという問題が起きる。禰豆子を見つけて吸収されるという事態になれば、弱点のない敵に私達が勝てるわけがないからだ。そのため、禰豆子を絶対に誰にも見つからない場所にいてもらわなければならない。

 

 

でも、その場所を見つけるのは容易ではない。何故なら長い黒髪と単眼に琵琶を持つ鬼、鳴女の存在があるからだ。

新上弦の肆である鳴女は眼球の形をした鬼を外に放ち、それが見たものを通して居場所を特定することができる。だから、禰豆子にはその血鬼術でも分からない場所にいないといけない。だが、鳴女の血鬼術の範囲は広い。兪史郎さんの血鬼術を使うということも考えたが、兪史郎さんの血鬼術は万能ではない。万能ならば鬼の襲撃なんて起きるはずがない。それに、私達は常に移動している。そんな状態で禰豆子を守りきれないだろう。

 

......あー...。何でこんなにも問題ばかり起きるの!

 

 

炭治郎達と鬼殺隊の間で問題が起きなかったことを喜ぶべきか、それとも新たな問題が起こったと頭を悩ませるべきか....。

 

 

「それで、考えてみたんだが.....」

「うん?」

「彩花の言う通り、今後の無惨との戦いを考えると、禰豆子を守りきれない。俺がどうしたいかというのはまだ分からないが、それでも禰豆子を守れるなら鬼殺隊と協力してもいいと思う...」

「炭治郎....」

 

 

私は頭を悩ませたが、一度そのことについて考えるのを止め、炭治郎の話を聞いた。私はその話に喜びと心配で頭の中がいっぱいだった。

 

禰豆子を隠す場所として最適なのは原作や前回と同じところが良いと思うし、鬼殺隊と協力することでできることも増える。私としては禰豆子を守れるし、鬼舞辻無惨への勝率も上げられるので、鬼殺隊と協力することには賛成であるし、こちらに利点がある。

 

 

ただ、問題があった。問題というのは炭治郎達と鬼殺隊のことだ。

炭治郎は前回のことで心に深い傷を負った。その原因は鬼殺隊にある。その原因の鬼殺隊と協力関係になるのだから、今までのように関わらないという選択は取れない。

特に最終決戦で共に戦うことになるから、連携のために積極的に手合わせをした方がいい。会う機会が多くなるので、炭治郎が精神的に大丈夫なのか不安だ。今はまだ平気であっても、何処かで発作が起きるかもしれない。

 

 

「ありがとう。.....でも、無理はしないでね。提案した私が言うのも可笑しな話だけど......」

「分かった」

 

 

そのため、私は炭治郎の判断に感謝しながらも炭治郎のことを心配した。

 

私が鬼殺隊との協力を受け入れることを勧めたけど、炭治郎の気持ちを無視してまでとは思っていない。鬼と全面戦争するのに、少人数では心許なくても、炭治郎が辛い思いをするのなら別の方法を考えようと思っていた。

私が優先しているのは最終決戦への備えと炭治郎と禰豆子の安全だ。鬼殺隊との関係を改善することも大事だが、それよりもこれは大切なことだ。炭治郎達が肉体的にも精神的にも無事じゃないよね。炭治郎達のことを無視した和解は意味がないもの。無理をして倒れられるなんて以ての外。

 

 

私は炭治郎の方を見た。少し表情がこわばっていたが、それでも歩み寄ろうとしている。前進しようとしている炭治郎を見て、私は心配があるけど、サポートしていこうと思った。

 

 

まだまだ不安なことは多いけど、一歩進めていることが重要だ。とりあえず様子を見ながら無理だと思ったら、距離を離すようにしようかな。距離感を見誤らないように....慎重に........。

 

 

 

 

 

「おい」

「どうしたの?」

「お前....何をしたか分からねぇが、柱と爆薬を作れるんなら仲が良いんだよな」

 

 

獪岳に声をかけられ、私は獪岳の方を向いた。すると、獪岳は悪そうな笑みを浮かべて私の肩を掴んだ。私はすぐに逃げ道を塞がれたということを察した。

 

なんだか嫌な予感がする.....。

 

 

「俺はそういうの無理だから、お前がやれ」

「やっぱり!」

 

 

獪岳の言葉に私は頭を抱えた。

 

つまり、私が炭治郎達と鬼殺隊との仲を取り持てということだよね。まあ、炭治郎達と鬼殺隊の前回のことを考えると、いきなり話し合うことは難しい。誰かが間に入った方が大きなトラブルに発展しないし、揉めることがあっても仲裁できる。それができるのは....私ぐらいか。

 

 

炭治郎は鬼殺隊の人達とまともに話せるか微妙だし、禰豆子は威嚇していて話になるかと思うし、獪岳は前回で鬼側につき、今回では私達の味方をするというように二回も鬼殺隊を裏切っているし、悲鳴嶼さんの件の問題もあるので、鬼殺隊と関わるのに苦労するだろう。私も怪しいと思われているが、この中でマシなのはおそらく私だと思う。

それは分かっている。...だけど......だけど!

 

 

獪岳、私が何かした?爆薬は作ったけどさ......。

 

 

なんだか順調だと喜ぶべきなのか、それとも新たに問題が増えたと頭を抱えるべきなのか....。.......最終決戦が近いのに、どうして問題は減らずに増え続けていくのかな...。いや、最後の戦いだからこそ、問題が次々と起きていくのかな.....。.....どっちにしろ、最終決戦が終わるまでは安心することなんてできなさそうだ。

 

 

 

.........仕方がない。できる限りのことはしよう。

 

 

 




華ノ舞い


月ノ花

月光華・草奏

刀を高速回転させた状態で葉のような形の斬撃を放ち、何度も振ることで大量の葉が舞っているかのような斬撃になる。多重範囲攻撃である。




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笹の葉の少女は柱稽古に参加する 前編



漸くスランプから脱出したため、投稿を再開することにしました。
毎週金曜日には投稿できることを目安にしていこうと思っています。
今回は久しぶりの投稿ということで、話が長くなりました。
楽しみに読んでくださるとありがたいです。




 

 

あはは....。.....どうしよう、これ...。

 

 

現在、私は苦笑いをしていた。何故苦笑いを浮かべているのか。.....それは目の前の光景が原因だった。私の前で隊服を着た人達が床に伏せ、気絶している。

 

私はそれを見ながら倒れている人達のことを考えつつ、自身も同じ目に合うことへの緊張や不安を感じていた。私はその緊張や不安に押し潰されないようにしながらも、これから目の前の人と同じことが起こるということを認めたくなくて、現実逃避でここまでのことを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

刀鍛冶の里での戦いが終わり、私達は蝶屋敷に行って診察することになった。上弦の弐である童磨と戦い、私は肺のことが心配だったが、肺は壊死していなかった。獪岳や伊黒さん達も無事だったそうだ。その他にも凍傷があったが、治るのにそれほどの時間はかからなかった。

上弦の肆である半天狗と戦った炭治郎達はかすり傷などの軽い傷が幾つかあるくらいで、数日寝たらピンピンしていた(上弦の伍の玉壺とも戦っていたが、そちらはほとんど無傷であるため、その辺りは省略する)。

 

まあ、そういうことで誰も欠けておらず大きな怪我をしていなかったので、全員が一週間程度で全快することができた。

 

 

その後、伊黒さんや甘露寺さん達は刀鍛冶で起きたことを報告し、会議になった。前回とは違い、上弦の弐である童磨が刀鍛冶の里に現れたことで、今後の動きについて少し見直すことになった。

童磨の件は前回だけでなく、私の記憶(原作)の中でもなかった出来事であるため、また前とは違うことが起きるかもしれないと考え、警戒を怠らないようにと巡回する人が必ずいることになった。ちなみに、無限列車の時の猗窩座の件は前回の方ではなかった出来事だが、私の記憶(原作)の方ではあったということを報告している。

 

それと、柱稽古に関しても話し合ったようだ。柱稽古の順番は煉獄さんが一番最初で、呼吸法と全集中の呼吸・常中を見ることになっていて、その次が宇髄さんによる基礎体力向上の訓練、時透君による高速移動の稽古、甘露寺さんによる地獄の柔軟、伊黒さんによる太刀筋矯正の訓練、不死川さんによる無限打ち込み、悲鳴嶼さんによる筋肉強化訓練、義勇さんが個別で鍛練をつけるということになった。

柱稽古の最中の巡回は、最初の方では順番の遅い義勇さんがすることになり、隊士達が全員突破したら煉獄さんや宇髄さんと交代することになっているらしい。

 

 

痣の話は前回でも出ていたそうで、今回も柱全員が挑戦しているらしい。本当ならもっと早く痣の習得を始めたかったようだが、今回は寿命までに決着がつけられるかどうか分からないということで、痣を出している人はいない。痣とは体に浮かび上がる紋様であり、痣を発現した剣士は身体能力が大幅に向上する。

ただし、痣の発現は命の前借りにあたるため、基本的に二十五歳で死ぬらしい。

一応例外な人はいたが、その例外が継国縁壱という特殊な事例だからね.....。

縁壱さん自身が特殊な故に寿命を延ばす方法なんて期待できないだろう。仮に方法があったとしてもあの人のように二十五歳を超えても生きるという保証はない。早い段階で痣を出すのは時間尚早というわけだ。

何せ、悲鳴嶼さんとか痣を出したらその日に亡くなってしまう人がいるから、鬼舞辻無惨を倒すためにも温存しないといけない。原作でも悲鳴嶼さんは無惨を倒した後、痣の寿命で亡くなっていたからね。

 

 

前回の記憶持ちだというのが分かって、痣のことを気にしていた。というより、前回の記憶持ちなのかどうかの判断基準の一つにしていた。一番分かりやすいからね。このタイミングで痣が出るというのなら、間違いなく前回の記憶を持っていると確信できる。鬼殺隊の人達と深く関わるまではそうやって記憶の有無を知ろうと考えていた。だが、その前に善逸やしのぶさん達に出会ったので、その必要がなくなったけど....。

 

無惨と戦わないで死ぬことを後悔する人達だから、仕方がない時は痣を使用するだろう。

.......まあ、鬼殺隊は本当にその覚悟が凄いんだよね...。柱の人達は痣によって寿命が制限されることを恐れずに強くなって無惨を倒す方を選ぶくらいに悪鬼滅殺を掲げているのを知ると、本当に迷いなんてないんだなと実感するよ。

 

 

 

 

 

全部聞いた話と個人的な予想だから本当なのかどうか分からないけど、私の記憶にある原作とはそこまで流れは変わっていなさそうだ。原作と変わらない方が私的にはありがたい。私もこれ以上流れが変わらないでほしいと思っていたから、そうしてほしいんだよね。

流れが変わってしまうと、私がどう対処していいのか分からないし、それによって鬼舞辻無惨を倒せずに鬼はいなくならないで、戦いはまだまだ続くという展開になる可能性がある。いや、最悪な場合は鬼殺隊が全滅という展開も......いやいや、そんなの考えては駄目。鬼殺隊が全滅、それは私達にとってもバッドエンドだ。逆に鬼をパワーアップさせてしまう結果にもなるからね。

 

 

 

それで、戦いの後や肝心の私や炭治郎達の待遇のことなんだけど....向かう時から大変だったよ......。まず、炭治郎達が蝶屋敷に向かうところからが問題だった。炭治郎は鬼殺隊の人を見ると、拒否反応を起こしていた。前までは見るだけで発作が起きていたが、今ではそういうことは少なくなっていった。だが、誰かに触れられたり背負われたりされるのはどうなのか分からない。私は不安だったし、周りも黙っていた。今までのことから和気藹々とした空気にするのは無理だし、気楽に話すことも難しい。

 

 

私が何か流れを変えられたら良かったが、炭治郎の発作はどうなっているのか詳しく知らないし(手紙では書いてあったけど、実際にどんな様子だったか見ていないから)、炭治郎達と鬼殺隊の間で起きた出来事は聞いていても実際に見ていないからどう踏み込んでいいのか分からない。そのため、何を話題にしたらいいのかとか、どういうことを言わない方が良いのかなどで悩み、結局炭治郎達に声を掛けられず、隠が早く来ることを祈った。

ただ隠のことを考えると、そちらもそちらで問題があった。

 

 

 

理由は炭治郎と禰豆子が鬼殺隊に対して怒りや憎しみなどの感情を抱いているのは隊士だけではないからである。だが、炭治郎は鬼殺隊全員に対して発作が起きるわけではない。鬼殺隊といっても、隊士や隠、刀鍛冶の職人達などがいる。前は鬼殺隊関係者ではなくても、発作が起きることはあったが、今では一般人なら大丈夫なようになっている。ただ、その一般人の範囲が分からない。炭治郎の思っている一般人に隠や藤の家の人達などが入っているのかを私は知らない(禰豆子がどう思っているのかも分からないけど)。

今までの様子から、隊士は発作を起こしていたから範囲外だろう。育手は鱗滝さんが大丈夫だったから、その範囲内に入っているのだろう。...刀鍛冶の職人も.....鋼鐡塚さんが平気だったから大丈夫なのかな?そっちの情報は少ないんだよね。鬼殺隊関係者と遭遇しないようにしていたから。

 

 

どうやら私と離れている間に鋼鐡塚さんと再会したようだ。再会したのは上弦の肆と伍が襲撃した時らしい。その時、ちょうど炭治郎の刀が戦いで刃こぼれしていて、それを見た鋼鐡塚さんから刀を受け取ったそうだ。その刀は縁壱零式を壊したことで出てきた日輪刀である。しかも、その日輪刀は研ぎ直し終えた後のものである。つまり、ここも原作と変わった状況であるということだ。....まあ、その原因は私なのだけど...。

 

 

原作では鋼鐡塚さんは刀鍛冶の里の襲撃の最中、ずっと日輪刀を研ぎ直していた。上弦の伍の玉壺が現れても、その攻撃を受けて目を怪我しても、鋼鐡塚さんは意を介さずに刀を研ぎ続けていたのだ。玉壺との戦いの後に時透君がその研ぎ途中の刀を持ち出されて一度中断し(その結果、炭治郎はその刀を使って半天狗の頸を斬れたのだが...)、後日再び刀を研ぎ直して炭治郎に渡されるのだが、今回はそれが無くなった。

まあ、その理由は簡単だ。私が原作よりも前に(今回の刀鍛冶の里の襲撃よりも随分前に)縁壱零式を壊してしまったことで、襲撃の前に鋼鐡塚さんが日輪刀を研ぎ直す時間があり、刀の研ぎ直しが間に合ったのだ。

だから、私は蝶屋敷でその話を聞いた時、また原作と展開が変わったなと思った。

 

 

 

.......話が逸れたけど、私が気にしたのは炭治郎が隠に背負われても大丈夫かどうかということだ。

 

鬼殺隊関係者に会わないようにしていたから仕方がないけど、隠に対して発作が起きないか心配だ。刀鍛冶の里での移動は隠に背負われないといけないからね(炭治郎達の行きは自分の足で行ったけど)....。もし発作が起きてしまったら、炭治郎は自身の足で蝶屋敷に向かわないといけなくなる。でも、流石に上弦の鬼と夜明けまで戦い続けた炭治郎に自力で行かせるのはね...。疲労が蓄積しているだろうし....。

珠世さんのところなら治療ができるし、鬼殺隊と協力することに関して話し合いたかったから、一度珠世さん達のところに行って話し合うことも考えたが、それだと珠世さん達の拠点やその途中の道で無惨やその配下の鬼に襲われる可能性があるので、それは止めることにした。珠世さん達との話し合いは落ち着ける場所に行ってから考えることにした。

 

 

...珠世さんのところ以外に落ち着ける場所の候補となると、私達は蝶屋敷に滞在するのが良いと考えた。治療ができるし、部屋も幾つかある。炭治郎達に安心して蝶屋敷に滞在できるようにするため、その中の一つを貸してもらえるように頼んで、そこを炭治郎と禰豆子が使うのはどうかと私は隠が来るまでそんなことを考えていた。....まあ分かると思うが、現実逃避である。

 

 

そうしているうちに隠が刀鍛冶の里に着いた。やってきた隠は後藤さんだった。後藤さんが来たと知り、私は安堵すると同時に不安になった。顔見知りがいると分かって私は安心しているのだが、それでも炭治郎と禰豆子がどんな反応をするのか分からなかった。後藤さんは隠だから前線に出ないし、刀を持っていないので炭治郎と禰豆子を傷つけるということは起きないと思うけど.....そのために何が起こるか分からず心配だった。物理的に傷つけないとしても、精神的に傷つける可能性があるからとても不安だった。

だが、その心配はいらなかったようだ。

 

 

来た隠が後藤さんだと知り、炭治郎と禰豆子は警戒するでも威嚇するでもなく、ものすごく安堵していたのだ。

予想外の反応に私は驚き、炭治郎と禰豆子に後藤さんと何かあったのかとその場で聞いてしまった。炭治郎達も後藤さんも私の反応を見た後、そういえば言ってなかったなと呟いてから、私に説明してくれた。

 

 

後藤さんは前回のあの時の件で炭治郎を庇おうとしてくれたのだ。後藤さんも柱や善逸達同様に炭治郎のことが分からなかったそうだが、禰豆子の必死に守ろうとする様子を見て、何か可笑しいんじゃないか、少し話を聞いた方がいいんじゃないかと思い、話を聞いた方がいいんじゃないかと止めに入ってくれたそうだ。

しかし、柱や善逸達はその話を聞いてくれなかったそうだ。

鬼殺隊のほとんどは鬼に対して強い怒りや憎しみを抱いている。一部には鬼と関係ない目的で鬼殺隊に入った人間もいるが、その人達も鬼を無条件に許すような人間ではない。そういう人達であるため、不審な人物...ましてや鬼と関係がありそうな人が目の前にいるとなると、冷静さを失ってしまうのだろう。

それに、後藤さんは隠であるため、柱や継子などの立場の人達に強く言えない立場の人である。だから、後藤さんは柱を止めることができなかった。でも、それは立場の問題だから仕方がないことであり、責めることもできない。それよりも上の立場の人である柱に意見したことが凄いと思う。

 

 

もう感謝しかなかった。こんなに後藤さんに感謝した日はないと思う。

 

原作を読んだ時にこの人は良い人だなとは思っていたけど、止めようとしてくれたことを知って、やっぱり良い人なのだと確信した。おそらく隠という後処理などをしないといけない職業から、周りの状況とかをよく見ているのだろう。それは柱や善逸達もそうだと思うが、隠は非戦闘員であるため、柱や善逸達とは違った目線で物事を見ることができる。それが前回のあの時のことに違和感を覚えさせたのだろう。

 

 

前回の件でのことを聞き、私の後藤さんへの好感度は大幅に上昇した。

 

 

 

後藤さんに運ばれ、無事に炭治郎達は蝶屋敷に着いた。しかし、炭治郎達が蝶屋敷に来た時は落ち着かない様子だった。やはり鬼殺隊に戻ってきたことに不安を感じているようだ。

だが、同時に懐かしさも感じているようで、発作が起きなかったのもそれが大きいだろう。

 

私が蝶屋敷に来る前に考えていた蝶屋敷の一部屋を使うことは、御館様もしのぶさんも同じことを考えていたようで、その後あっさり許可をもらえた。

 

 

アニメでは確か.....禰豆子が眠っていた部屋があったと思う。日当たりが悪く、ベッドが一つだけある部屋があるでしょう。

あの部屋を炭治郎達が使うことになった。

 

 

私もあの部屋なら炭治郎達が使っても大丈夫そうだと思っていた。普通の病室はベッドが幾つもあって、何人もの人達と一緒に過ごすとなると、炭治郎の精神に負担がかかる。なので、炭治郎と禰豆子の二人だけで過ごせる場所の方が良いと思った。

また、あの部屋は突き当たりのところにあって、人があまり通らない場所だ。人の出入りが多い場所では炭治郎達も落ち着かないだろうから、人通りの少ない部屋の方が良い。

アニメのシーンからこういう位置にある部屋なのかなとは思っていた。だが、はっきりと描かれていたわけではなかったため、私も分からなかったが、あの部屋はどうやら私の想像通りに端の方にある部屋だったらしくて良かった。

 

 

炭治郎達は最初の頃は緊張している様子だったが、次第に緊張が解けてきて、今はアオイさんやなほちゃん達の手伝いをするようになっている。どうやらアオイさん達は全然大丈夫みたいだ。

特に、禰豆子はなほちゃん達三人と遊んでいる。まあ、誰かが来る足音が聞こえると、なほちゃん達を守ろうとしているので、警戒対象ではなく保護対象として認識しているのかも.....。まあ、アオイさんやなほちゃん達は前回のあの時に関係がないからね。関係者じゃないアオイさん達を怖がる必要も怒る必要もないし、これで少しは炭治郎達も安心して体を休めるでしょ。

 

 

 

.......その後、色々問題が起きましたけどね。

 

まず、最初に起きたのは煉獄さん襲撃事件だね。一体何が起きたのかというと、単純に煉獄さんが炭治郎達に謝りに来たというだけです。こう言葉にすると、それの何処が事件なのか聞かれるだろうが、これが凄いことになっていたのよ。

無限列車の時に煉獄さんは炭治郎達に謝ろうとしていたのでしょう。炭治郎達が蝶屋敷にいると聞いて、真っ先に蝶屋敷に来られましたの。その時、私は一瞬嵐が来たのかと思ったよ。まあ、実際に嵐のようなものだったけど....。

煉獄さんは蝶屋敷に着いて早々、炭治郎のいる場所を聞き、その部屋に突撃しようとした。その時の炭治郎はまだ蝶屋敷に来たばかりで、まだ落ち着かない様子だったので、まだ落ち着いていない状態で会うのはマズイと思い、慌てて煉獄さんの前に立ってそれを止めた。

 

いや止まったのだけど、それは一時的なものでして...煉獄さんの勢いの所為か、それとも私と煉獄さんの体格差の所為か分からないが、煉獄さんに押し切られそうになった。もう、あの時は必死にこれ以上進ませるかと思って、手を伸ばして壁につき、足が後ろに下がらないように踏ん張り、説得していた。だが、それでも押し切られそうだったので、獪岳に助けを求め、二人掛りでなんとか煉獄さんを止めた。

 

 

その後、

 

『発作を起こさせる気ですか!違いますよね!それなら、少し待ってください!煉獄さんは煉獄さんのペース、進み具合があるように、炭治郎も炭治郎で歩み寄ろうとしているので、勝手に進ませないでください!

そういう行動力があるのは良いことですが、すぐに行動するのは我慢してください!

行動するなら、もう少し時間を置いてからでお願いします!ですので、いきなり突撃するのは止めてください!』

 

 

ということを言ったら、流石に煉獄さんも今は炭治郎に会うのを止めた方がいいと思ったらしく、突撃は止まった。

まあ、この後で煉獄さんといつなら大丈夫なのかというのを話し合うことになるのだけどね.....。

 

 

 

その次に起きたのは伊之助襲撃事件かな。これは煉獄さんの時のことがあったから、すぐに解決できた。説得も上手くいき、続いて来た善逸も諭して止めてもらった。

 

ちなみに、他の同期組であるカナヲは私に炭治郎と会って大丈夫なのか聞いてくれたし、玄弥は炭治郎達の様子をこの目で見たことでなんとなく気づいているらしく、落ち着いたら教えてほしいと言われた。

一緒にいた時透君は炭治郎の様子を見たし、私から説明を聞いたけど、

伊黒さんと甘露寺さんも玄弥達同様に察しているので、特に何も言ってこなかった。いや何日か経った後、甘露寺さんに良かったらこれをみんなで食べてと言い、パンケーキを渡されたことはあった。せっかく作ってもらったのだし、食べ物に罪はないからと思い、炭治郎に渡した。渡す前に私が一切れ食べて、美味しいよと言った後、普通になほちゃん達と食べていたので、私はほっとした。

 

しのぶさんや宇髄さん、不死川さん、悲鳴嶼さんは前回のあの時の気まずさから炭治郎達と距離を置いているので、そっちも問題はなかった。

 

 

だけど、この後の義勇さんの行動がちょっと大変なことに......。....いや、ちょっとどころではないのかもしれないけど.....。

 

義勇さんの件はいきなり起きた。突然のことだったというのもあるが、それに気づけたのが奇跡だと今も思っている。

 

 

どういうことかというと...話が急に変わりますが、原作では最初の頃の時透君は記憶障害を患っていて、何かあってもすぐに忘れてしまっていた。そんな時透君は柱を何かに例えて、どんな印象を持っていたのかという話になります。

義勇さんが時透君にどう覚えられていたのか知っていますか。置物みたいだという印象を持っていたそうです。他の柱は動物の印象を覚えているなか、義勇さんだけが無機物のものであることから、それくらい気配がないのだということが察せますよね。

 

 

そういうことで、炭治郎達に会いに来た義勇さんを止めるのがぎりぎりになるのですよね。たまたま私が炭治郎達の様子を見に行こうと来たら、義勇さんがちょうど炭治郎達の部屋の扉をノックしようとした時で、私が慌ててそれを止めて、義勇さんにちょっと庭の方に来てほしいと言ってそこから離れさせた。

その後で義勇さんを説得したんだけど、なんだか義勇さんは納得していない様子だった。だが、流石に正面で話し合うのは早いので、今はまだ我慢してほしい、順序というのがあるから少し耐えてくださいと言い、とりあえず帰ってもらいました。

 

 

ただ、その後も義勇さんが何度も蝶屋敷を尋ねて来るようになったのです。これは予想外です。

 

その度に何か問題でも起きたのかって?

問題はあるのですけど、それ以上に私が疲れるのですよ。扉を開けたら義勇さんがいたり、気づけば背後に義勇さんがいたりと私の心臓が持ちませんの。いつ何処で話しかけてくるのか分からないから、こちらはそれを気にしながら稀に起きる柱同士のトラブルを対処し、色々予定を組むことになったのですよ。

 

 

これが三日も続き、私の胃が大変なことになりかけた。獪岳に胃薬を作った方が良いと言われ、胃薬を作ることを考えた。まあ、私の胃はまだ大丈夫そうなので、調合を考えている段階であり、行動には移していない。それよりもやることが多いのだ。

 

 

 

柱や善逸達のトラブルは大変であったが、そちらをどうにか説得できても、その後の交渉を上手くやらないといけなくて本当に疲れましたよ。

その場をどうにかできても、根本的に大勢で来るようなことを減らしてもらわないといけないのですよね。

 

トラブルが現在進行で行われているのはここ、蝶屋敷なのですよ。蝶屋敷は病院であるため、隊士達がここで療養しているわけです。隊士達は怪我や体調を治すためにここで休息しています。

そんな時に柱や善逸達が突撃して大騒ぎしていたら困りますよね。しかも、柱は最も位の高い剣士達であり、隊士達にとっては雲の上のような存在ですよ。その人達が頻繁に蝶屋敷に出入りされて、ゆっくり休めるわけがないと思いませんか。

 

 

そういうわけで、私は緊張して顔を真っ青にしている隊士達に毎回謝りに行くようになった。一応私も柱が蝶屋敷に来る件について関係がありますからね。

頭を下げたり、お詫びの品を渡したりした。そして、柱には隊士達が緊張して休めないからもう少し控えてほしいと頼んだ。まあ、この注意は全く効果がなく、隊士達に何度も心の中で謝ったよ。

なんだか今回のことで頭を下げるのが上手くなってきたんじゃないかと思っているよ、正直。ちなみに、謝りに行く時はアオイさんも一緒に頭を下げてくれました。

 

ありがとうございます、本当に。

 

 

炭治郎達が蝶屋敷に慣れてからは皆さん手紙やお見舞いの品を頻繁に届けるようになりました。まあ、その配達は全部私がしていますし、お見舞いの品が食べ物の場合は私が一口食べることになっていますが(炭治郎ではなく、禰豆子の方が警戒していて)......。

...ま、まあ、炭治郎が大丈夫ならそれで良いんだよ。炭治郎も柱や善逸達の手紙を読んでも、特に発作みたいなものは起きていない。大丈夫かどうか確認したけど、平気だと答えていた。炭治郎達のように鋭くないが、それに嘘はないと思った。.....さりげなく、異常がないか確認するために脈を測ったから、大丈夫だろう(無理をしていたら体調が悪くなると思うので、それを確認すると言っていた。でも、嘘ではない)。

 

 

勝手に手紙を読むことは悪いと思ったけど、何かが原因で発作を起こし、距離が広がってしまう可能性があったので、心の中で謝りながら読み、大丈夫そうだと判断したものを渡していた(まあ、流石に私が何度も何度も注意点を言っていたから、手紙の内容に関しては全然大丈夫だった)。

ただ、あまりにその手紙の数が多かったため、次から次に来たら炭治郎が読むのが大変だから、もう少し時間が経ってから手紙を送ってほしいと言った。それに、手紙がたくさん来ても、それはそれで威圧みたいなものをかけられているような感じだからというようなことも言えば、手紙の数も制限してくれた。

 

 

その手紙の内容や炭治郎の様子から、私は次の段階の衝立や扉越しでの面会をすることに始めた。これは炭治郎と話し合って決めたことだ。まだ目を合わせて話せるかどうか難しいけど、声だけを聞いて話すことはできそうだと。それで、時間を設定して誰となら話すのかというのも考え、大丈夫かどうか確認しながら決まった。念のため、何かが起きた時に駆けつけられるように私は近くに待機していた。

まあ、今のところはそんなことがなくて順調だ。

 

ちなみに、そのお見舞いの品には村田さんや後藤さんからのものもある。この二人とはすぐに面会した。この二人はあの時の件で炭治郎達を傷つけていない人達であるため、柱や善逸達以上に何度も面会をしている(一、二回の手紙の反応で柱や善逸達よりも大丈夫だと判断したから)。

 

 

それ以外でも私にはやることがあった。療養している最中(もうこれを療養と言っていいのか怪しいが)、炭治郎達との問題の他に私はしのぶさんと珠世さんの手伝いをすることになった。......と言っても、私が怪我をしている期間中だけどね...。一応私も薬作りはできるので、鬼舞辻無惨に使う薬の開発を手伝うことになった。

どうやら前回よりももっと効力のある薬を作りたいそうで、人手を増やしたかったらしい。さらに、薬の種類も増やしたいということもあり、私に声をかけたらしい。

 

 

私の作った薬の中で何か良いものがないかと聞かれたが、私は良さそうなものが思いつかなくて、とりあえず今までに作った薬や毒を全部出して、その効果の説明をしたところ、珠世さんとしのぶさんが私の薬を手に取りながら何か話し合っていた。

ちなみに、その時の珠世さんとしのぶさんの顔はなんだか生き生きしていた。

 

いや、どうして?

 

 

私が兪史郎さんに珠世さん達はどうしたのかと聞くと、兪史郎さんは珠世様が喜んでくださるならとだけ言っていた。私は一体どうなるのか分からなかったが、とりあえず無惨に黙祷を捧げておいた。

 

 

だけど、ここまで恨まれている無惨が悪いんだよ....。

 

 

 

 

 

 

そして、怪我が完治して退院した後.......何故だか知らないけど、私は柱稽古に参加しています。

 

どうしてそうなっているのかって?

それは分からないよ。怪我が治って、しのぶさんに診てもらったんですよ。

その後、何故か柱稽古に行くことになっていたんだよ。もう驚いたよ。

しのぶさんに隊士じゃないのにどうしてかと聞いてみたら、機能回復訓練として柔軟や反射訓練はしているけど、療養している間に体力が落ちているし、柱から稽古をつけてもらうことは良い経験になるというようなことを言われ、柱稽古に参加することになった。

 

 

柱稽古には何故か獪岳も一緒だった。どうして獪岳も柱稽古に参加するのかは知らないが、柱稽古自体は隊士の能力の底上げであるため、参加することには確かに利点がある。しのぶさんが言った通り、私達にも良いことがあるため、断る理由がない。唯一の心配事は炭治郎と禰豆子のことなのだが、そこはアオイさん達がなんとかしてくれるだろう。

アオイさん達も慣れてきて、任せてくださいと言っていたし、炭治郎達も行ってもいいと言ってくれたので、少し不安が残るが行くことにした。

 

 

それで柱稽古に参加することにしたのだけど、私はすぐに蝶屋敷に戻りたくなった。

何故かというと、私の格好が想像以上に目立ったからだ。

鬼殺隊の柱稽古なのだから、参加するのは隊士だ。隊士は隊服を着ている。その中で私だけが着物と袴で、しかも色が緑色である。そのため、周りが黒色の隊服の中に緑色の着物と袴というのはかなり目立った。

でも、それは獪岳も同じなのではと言われそうだが、残念ながら獪岳は全く目立っていなかった。何故なら獪岳は鬼殺隊から離れても隊服のまま行動していたので、着物ではないのだ。なので、獪岳は私と違って浮いてしまうことはなかったが、おかげで私だけが居心地が凄く悪かった。

 

まあ、そもそも色の云々よりもあの学生服のような隊服の中に着物があれば、目立つのは当然なんだけどね。

 

 

予想外のことで目立ってしまい、私は蝶屋敷に戻りたいなと何度も考えたけど、これからの最終決戦のために少しでも強くなりたいので、周りの視線に耐えながら稽古をしていた。

 

 

 

最初の煉獄さんの呼吸法と全集中の呼吸・常中のことであったため、それができている私と獪岳はすぐに次へ行くことができた。

ただ、私は個人的にもう少し煉獄さんのところにいたかったな。煉獄さんの弟の千寿郎君の作る料理は美味しいし、煉獄さんのお父さんは隊士達を厳しく指導しているしね。家族の仲も悪くなく、和気藹々としていて、最初に見た時は感極まって泣きそうになったし、もうちょっとその姿を見たかったなと私は今でも思っている。

 

 

次の宇髄さんの訓練は初日に体力が前よりも低下していることや動きが遅くなっていることを実感したが、十日くらいで次に行く許可をもらえた。

獪岳は蝶屋敷でしばらく治療してもらうほどの怪我はしていないので、すぐにこの訓練も突破していた。

それにしても、獪岳は次の稽古に進むのが早いよね。その次の時透君の訓練も私が着いた後にはもう次に進む許可をもらっていたし。

 

 

その次の時透君の訓練では私は刀鍛冶の里で時透君に似たような稽古をつけてもらっていたので、あまり苦戦はしなかった。

ただ、その所為か周りにいる隊士より少し厳しくなっていなかったかなと思ったのだけど、それは気のせいだよね.....。...うん。きっと私の思い込みね。何か呟いたと思ったら、それから速くなったような気がしたのは....。

 

 

八つ当たりじゃないよね?義勇さんが頻繁に来すぎていた結果、面会をした数が柱の中で一番多くなったのは義勇さんになり、時透君がそれを不満そうにしていたのは知っていたよ。

けど、...まさかそれに嫉妬したんじゃないよね!面会を提案したのは私だし、それらを用意したのも私だけど、義勇さんに会うと決めたのは炭治郎だから!あと、タイミング的に義勇さんが先だったことが多いだけだから!......でも、少しそのバランスを取るようにしようかな...。

 

 

 

その次の甘露寺さんの訓練は原作と同じようにレオタードを着ての柔軟だった。レオタードは前世でも着たことがなかったから、着るのは少し恥ずかしかった。

ちなみに、獪岳は私がいた時にはもう既に突破していた。甘露寺さんが無表情だったけど、真面目にやってくれたと言っていた。私はその話を聞いて苦笑いをした。その時の様子が目に浮かんだからだ。

おそらく獪岳は死んだ目をしながらも、踊ったり体を柔らかくしたりと真剣に取り組んでいたのだろう。獪岳がさっさと突破しようとするのは察しがつくので、もうこれには納得すると同時に笑っちゃったよ。

 

 

....まあ、すぐに私も笑っていられる場合じゃないということに気づき、早くこの訓練を突破しようと思った。

私からしてパンケーキは蝶屋敷で(前世を含めて)久々に食べたので、またパンケーキを食べられるというのは嬉しいことだけど、それでも早く次の稽古に向かいたいという思いが強い。

 

私もレオタードを着るのが恥ずかしいというのもあるが、他にも理由がある。.....言い方が悪いけど、甘露寺さんの柔軟が少し怖いのである。別に厳しいというわけではない。ただ、甘露寺さんの柔軟は力技なのである。

踊るのはまだいいが、骨が折れることを覚悟するあのほぐしはできればされたくない。

蝶屋敷で柔軟をしたとはいえ、先に進んでもいいと言われるくらい体が柔らかくなっているのではないからだ。甘露寺さんの手で骨折になるなら自分で痛い思いをした方がいいと考え、無理やり体を倒したり足を上げたりした。その結果、甘露寺さんには凄いと褒められたけど、それを喜んだ方が良いのかと悩んでしまい、少し複雑な顔をしてしまった。

 

 

 

その次の伊黒さんの訓練もまた原作通りで、人が縄で括り付けられている障害物があった。刀鍛冶の里での伊黒さんの訓練も似たようなことをしていたのだが、その時の障害物は木や箱などの物だけで、それに人が括り付けられてはいなかった。

そのため、柱稽古の時の方が緊張した。人に当たってしまうのではないかと思うと、木刀を持つ手が震えた。障害物が人であるかどうかでこんなに緊張感が違うのだと実感した。

この訓練を突破するのに、まずはこの緊張感に慣れることから始め、その後は慣れたと判断されてから、前よりも複雑なものに挑戦することになった。

まあ、無事に次に進めたから良いけど。

 

 

ここも獪岳は先に突破したようで、伊黒さんの屋敷に獪岳の姿はなかった。次に進むのが早かったというのもあるだろうけど、甘露寺さんの柔軟を突破したのが私の想像以上に早かったのかもしれない...。

 

 

 

 

 

 

 

.........それで、現在いるのが風柱である不死川実弥さんの訓練であり、目の前で倒れているのがその不死川さんの稽古によって気絶した隊士達である。

 

 

不死川さんの稽古の内容は木刀での斬り合いなのだが、失神するまでが一区切りなのである。

突破するには不死川さんに一発当てないといけない。目の前の隊士達は不死川さんに斬りかかり、逆に返り討ちに遭った人達である。

 

原作で知っていたけど、想像以上に地獄図だった。屋敷の中では隊士があちこちに倒れていて、その隊士達は顔や体に大きなタンコブや痣ができていた。

それを見ながら、私もこれからああなるんだなと思った。

 

 

「....やっと来たか。今、風柱様は休憩中だ」

「あっ、獪岳」

 

 

私が気絶した隊士達を凝視していると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。その声を聞き、私は後ろを振り向いた。そこには獪岳が立っていた。近くには何やら物があり、それを閉まっている最中のようだ。

その様子を見て、私は獪岳が次の稽古に向かおうと準備しているのだということに気づいた。

それと、獪岳の言葉から不死川さんがこの場にいないことにも気がついた。

 

.....いや、目の前の地獄図を見たらそういうのが吹き飛んでしまって...。

 

 

そう心の中で言い訳をしながら、私は獪岳と話をすることにした。獪岳は荷物をまとめていたが、次の稽古でまた会えるかどうか分からないので、そのまま話をすることにした。

 

 

「だが、遅かったな。俺は風柱様に一発当てたから、次に行くように言われた」

「そうなんだね。......追いついたかなと思ったけど、追いつくまではまだまだなのね....。不死川さんの稽古が終わるとなると、残りは悲鳴嶼さんと義勇さんの稽古だけだから、それまでに追いつけるかな...」

「.......だといいな.....」

 

 

獪岳の話を聞き、私は少し残念に思いながら何気なくそう言った。だが、獪岳は私の言葉を聞き、何だか様子が少し可笑しくなった。

私は獪岳の様子に気づき、どうしたのだろうと疑問に思いながら先程の自分の言ったことを思い出して気づいた。

獪岳が何に反応したのかを。

 

私が先程の話の中に出てきた悲鳴嶼さんは岩柱の悲鳴嶼行冥のことである。

 

 

悲鳴嶼さんと獪岳には過去に関係があったのだ。

鬼殺隊に入る前の悲鳴嶼さんはある寺で子ども達と一緒に暮らしていた。その子どもの中の一人が獪岳だったのだ。そして、獪岳は鬼と遭遇し、自分が助かるために寺にいる8人の子供と悲鳴嶼行冥を食べさせるという約束を鬼と交わし、獪岳は鬼を寺に招き入れてしまった。

それにより、生き残ったのは悲鳴嶼さんと一番年下の少女のみであり、さらにその少女は事件のショックでまともに話せず、真相を上手く伝えることができなかった。

少女はあの人が皆殺したと言ったが、あの人は鬼のことだったのに、悲鳴嶼さんだと誤解され、悲鳴嶼さんは牢獄に閉じ込められることになった。この事件がきっかけで、裏切られたと思った悲鳴嶼さんは子ども嫌いになった。

 

 

獪岳が鬼が寺に訪れた後のことを知っているのか分からなかった。

でも、この反応からして、獪岳は悲鳴嶼さんが昔鬼に売った寺の人であることや鬼を招き入れてしまったことで起こってしまった惨劇を知っているのかもしれない。

 

 

私は獪岳のことを見た。獪岳は荷物をまとめる手を止め、何かを考えている様子だった。その顔は居心地が悪いというか、ばつが悪そうな顔をしていた。

 

まあ、そうだろうね。この過去のことを考えると、悲鳴嶼さんに顔を合わせるのは気まずいよね...。

 

 

「.......獪岳....。...獪岳が今、どう思っているのかは分からない。どうしようとしているのかも.....」

 

 

私は気づけば獪岳に声をかけていた。私が何か言っても変わらないかもしれない。というか、私が口を出すのは駄目な気がする。

....でも、なんとかしたいと思ってしまう。獪岳は炭治郎達と一緒にあれこれ教えてくれている、私にとって先生や師範というような立ち位置の人だ。お世話になっているし、頼りにもしている。だから、何かしたいと思ってしまう。

 

 

どうやら私は獪岳に絆されているみたいで、想像以上にお節介な性格らしい。

 

私は原作を読んでいるから獪岳と悲鳴嶼さんとの間に何が起きたのかを知っている。だけど、あの時のことを獪岳がどう思っているのか、何を考えてあんな行動をしたのかは知らない。

だからあまり踏み込まない方が良さそうだけど、もう口を出してしまった。この件は私が言っても何も変わらないと思うけど、私の思っていることを話そう。少し気持ちが軽くなる可能性があるし。

 

 

 

「でもね...。私は獪岳がそれを悪いことだと思っているのなら謝った方が良いよ。それを良いことだと思っているなら謝らなくてもいいけど」

「....は?」

「おそらくなんだけど.....獪岳は生き残りたいと思ったのでしょう。生き残りたくてやってしまった。......その時の行動を獪岳が後悔しているのかどうかはともかく、気にはしているんだよね。....忘れてはいないんだよね」

「...何処で知った」

「.......まあ、色々ね....。鬼になった時の話とか...そういう話を知っているからかな......」

 

 

私の言葉に獪岳は口をあんぐりさせていた。そんな驚いているみたいだけど、どれに驚いたのかな?

私が問い詰めてこないことなのか、獪岳の過去を知っていることなのか、謝らなくていいと言ったことなのか。

 

.....よく分からないけど、私はそのまま話し続けた。話を聞いているうちに獪岳は冷静になったらしく私に質問してきたが、私は言葉を濁しながらそれに答えた。

 

 

一応獪岳にも前世や原作という物語の本のことを話していたが、ここには隊士達がいるので、そのことをはっきり言えない。私の前世や原作のことは鬼殺隊の中で柱や善逸達という少数しか知らないようになっている。

こんなことが鬼殺隊全体に広がっても、混乱するだけだからね。大騒ぎになられると困るし、私もそのことで目立ちたくないし。だから、この情報をあまり言いたくない。

 

 

獪岳も私が言葉を濁したのがそのことだからだということに気づき、あまり深く聞かなかった。

 

ありがとう。

 

 

「獪岳の行動に関して、私は私で思うところがある。けど、生きたいと思うことは悪いことじゃないからね。それに、そこで死んだ方が良いとも思わない。やり方はどうであれ、生き残りたいという思いは間違いじゃないし、そこで死んでとも言いたくない。だから、私は攻める気はない。

私は獪岳がそのことで気にしていないなら、その行動に不満を感じても掘り返さないつもりだったし、普通に接しようとは思っていたけど、獪岳は自分のしたその行動のことを気にしているんだよね。私の勘だけど」

「............」

「別に私は謝るようにとは言わないよ。その時の行動について獪岳が良いことだと思っているなら、そう思っているのに謝ることは謝られる側にも失礼だからね。

 

謝るというのは自分の悪い行いを認め、それによって相手を傷つけたことへの後悔の念を示すことなのだから、そうではないとその謝罪は相手に失礼なこと。だから、私は謝れとは言わない。相手を不愉快にする謝罪をするくらいなら、そんな謝罪をしない方がいいからね。

......まあ、獪岳が悪いと思っている場合も自分の言葉で謝罪しないと。

強制ではなく、作られた言葉でもない方が誠意がこもっているからね。そうじゃなければ自分がどう思っていても、上っ面だけの言葉や用意された言葉では受け取ってくれない。その言葉を信じてくれない。

.....獪岳のしたことから、何を言っても信じてくれない可能性はあるけど、それでも獪岳の言葉で言った方がいいと思う。と言っても、どっちに転んだ場合でも獪岳が精神的に色々なことが起きていそうだけどね....。

...やったことは問題なのだけど、私は起きてしまったことを今更責める気もないよ。

 

 

.....ただ...まあ、何があっても当たって砕けろの精神だよ」

「うるせぇ」

 

 

私は獪岳に原作で読んで思ったことを、その事実を知って今の私が思ったことを正直に話した。獪岳は私の話を黙って聞いてくれた。

 

ただ、最後の言葉には反応したけどね。まあ、確かに砕けたら駄目だろうけど、それくらいの心意気ではないと謝ることはできないからね。かえって傷つくのが目に見えているし、許してもらえるかどうかというのは難しいことだと思う。

 

 

だって、獪岳がやったことってそう簡単に許せるようなものではないからね。やったことを否定しないと言ったけど、それとこれとは別だからね。

 

 

さっきも言ったけど、原作で獪岳がやったことを私は否定しない。あの時の獪岳はただ生きたかった。死にたくないと思ったから、獪岳は生き残るために悲鳴嶼さん達を鬼に売った。生き残ろうとすることは悪いことではないし、そう思うのは仕方がないと思う。ましてや、いきなり未知の生き物と出会い、その生き物に食べられそうになったのだから、死にたくないと思うのは当たり前。そして、死なないために何か行動しようとするのも当然だと思う。

だけど、問題はその手段なんだよね。

 

....他にも何か理由があったのかもしれないが、根本的なのは生きたいという思いからの行動だったのだと私は考えている。生きたいと思うのは悪いことではない。そう思ったことを否定してはいけない。謝れとも強制しない。謝ることが必ずしも良いことであるとは限らないから。謝罪をすることで事態が悪化するなんてこともある。

 

 

柱合会議の時は義勇さんの切腹を止めるために、その方向へ思考がいくように口を出した。しかし、それはその方向に持っていったのであって、私は強制していない。選択肢を与えたのだから、それを選んだのが義勇さんであり、義勇さんの意思で決めたことだ。

言い訳のように思えるが、あくまで私は別の選択肢を与えただけであって、それを強制したつもりなんてない。まあ、生きるという選択肢は私が強制的に決めたけどね...。

 

 

それよりも獪岳の様子を見ていると、悲鳴嶼さんのことでまだ何か揺れているような感じがした。これは私もどうしたらいいのか分からないから、こうすればいいなんて断定でできない。私が言えるのは提案くらいだ。

 

獪岳が明確にどうするのかをはっきり決めているのなら何も言わないつもりだったけど、今の獪岳の様子を見るとまだ迷いがあるみたい。かえって悩ます可能性があるし、お節介であることは間違いないが、それが少しでも獪岳の悩みを解決することができたら.....。せめて、悲鳴嶼さんのところに行く獪岳の気を少しでも軽くすることができるように....。

 

 

「だから、私は責めるつもりなんてないよ。けど、これだけは聞いていい?」

「......なんだ」

「獪岳はどうしたいの?かつてのことで悲鳴嶼さんに対して、獪岳はどうする気でいるの?」

 

 

私は獪岳に聞きたいことを尋ねることにした。獪岳はその質問に少し身構えていたが、私の質問には答える気ではいるらしく続きを言うように促してくる。

なので、私はそのまま直球に聞くことにした。その言葉を聞き、獪岳は私があまりに直球で聞いてきたことに驚いた様子だった。

 

 

「私は実際に獪岳がどうだったとか想像することしかできない。だから、私に獪岳のことで何か言うなんてできない。でも、これだけは言わせてほしい。私や周りの意見よりも重要なのは、獪岳がどうしたいかなんだと思うよ。

相手のことを考えて何もしない方がいいとか、避けておいた方がいいとかそんなことを考えていたとしても、獪岳が本当は何をしたいと思ったの?もしあれこれ考えることがなかったら、獪岳が何か行動するつもりだった?」

「.........」

「....どっちか分からないけど、これだけは言っておきたいから言うね。

獪岳。自分の気持ちは口に出さないと、行動で示さないと伝わらないことがあるんだよ。例えどんなに長い時間一緒にいても、自分から手を差し伸べないとそれを分かってもらえないことだってある。その人がどんなに大切に思っていたとしても、全てを分かっているわけではないから。

獪岳だって、相手の考えていることを全て分かっているのかと聞かれると、はっきり頷けないでしょう?

例え言わなくても気づいてほしいとか思っていたら申し訳ないけど、それは簡単なことではないの。分かるよね?

だから、互いに手を差し伸べる必要がある。そうではないと、その関係は一方通行になるからね。

 

許されたいと思っているのか、許されなくてもいいと思っているのか、謝りたいと思っているのか、許されないとしても謝罪するだけでいいと思っているのかは分からないけど、もしも何か心残りとか気にしていたことがあるならそれを解消しておいた方がいいよ。

まあ、解消してもまた別の心残りができる可能性はあるけど、それでも獪岳が心残りのない、後悔がないように行動した方がいいよ。後先のことを考えるのは大事だけど、時には自分の気持ちに正直になるのも大切だよ。

自分から行動してね。周りのことは後回しでいいから。

....ただ願望を言うなら、あまり被害とかが出ないくらいにしてほしいのだけどね...」

 

 

 

私は自分の考えていたこと、思っていたことを話し続けていた。というか、私はずっと自分の見解しか話していないと思う。けど、私の話せることはこれくらいなんだよね。炭治郎達はある程度私に色々話してくれたけど、獪岳は話したくなさそうだし。あまり無理に聞きたくないから、こうして情報が原作と獪岳の反応だけで話しているわけだし.....。

...と言っても、獪岳から話を聞いても所詮は私の想像なのだから、見当違いだってあるし、確実に当たるわけじゃない。

 

 

それに、私は元々獪岳と悲鳴嶼さんのどちらかが相談したり問題が起きたりするまではこの件に関わる気なんて一切なかった。

 

炭治郎と鬼殺隊の問題は互いに歩み寄りたいと思っていることを知っていた。だから、炭治郎と鬼殺隊の仲を取り持とうとした。だけど、悲鳴嶼さんと獪岳は違う。互いに互いをどう思っているのか分からない。 どうしたいのかを分かっていないのに、二人の仲を取り持とうとすればただの迷惑なことをしただけだし、逆に悪化する可能性だってある。

 

 

なので、私は悲鳴嶼さんと獪岳の問題に手を出そうとはしない。意志が決まっていないなら、無理に強制なんてさせないし、逃げることも一つの手段だから、私がどうこう言うのはおかしい。それは分かっている。 

でも、獪岳が私達のことで何か行動を止めてしまうのは駄目だと思う。

別の理由で止めておこうとするのは違う。私達の所為で獪岳の行動を止めてしまうのは駄目。.....まあ、これも一応獪岳が決めたことではあるから、私がとやかく言う必要はないだろうけどね。

 

つまり私の我儘ですね。知っています。というより、ほとんど私が好き勝手に言っているだけです。

そんなことは自分でも分かっていますよ。

 

 

獪岳は根が真面目であることは知っている。原作での善逸の言葉から、稽古に対する真剣さがある。善逸に冷たく当たったり、お金を盗んだりしたことはあったけど、獪岳は基本修行や仕事をきちんとする人であるから、あまり悪い人ではないと思う。

盗みとかは悪いことだろうけど、それが生きるために必要だった、そうしないと生きていけないという人もいる。

 

私は現代での...未来の価値観を持っているから、盗みという行為は悪いことだし、それをどんな理由があろうとやってほしくないと思う。だけど、それをこの時代に当てはめてしまうのは少し酷だ。今と現代では色々違いがありすぎる。

 

 

獪岳にだってプライドがあったのだろうけど、もしもあの時に自分の気持ちを誰かに伝えようとすれば、何か変わったのではないかと私は思うんだよね。

この世界で獪岳と一緒に行動していると、獪岳と話をしたりその様子を見たりしていると、その思いは強くなった。

というか、そもそも『鬼滅の刃』を読んでいて、コミュニケーションをしっかり取ってと思ったところが結構あるんだよね。おかげで、私はこの世界で何度きちんと話し合うようにと言ったことか....。

 

 

「.....お前、俺のしたことを知ってる癖によくそんなことを言えるな」

「だって、獪岳と悲鳴嶼さんなら私は一緒にいた時間の長い獪岳の方を優先するに決まっているでしょう」

「.............」

「獪岳?」

 

 

今まで無言だった獪岳が真剣な表情で私にそう聞いてきたので、私は獪岳の言葉にあっけらかんと答えた。すると、獪岳は何故かまた黙ってしまった。私が不思議に思って声をかけたが、獪岳は返事をしてくれなかった。

 

 

獪岳にそんなことを言われても、獪岳と悲鳴嶼さんなら獪岳の方が知っていると思っている。

だが、それなら悲鳴嶼さんの方が原作で過去とかその時の心情とか色々出ているから、獪岳より知っているのではないかと思われるでしょう?

 

 

....まあ、確かに獪岳は悲鳴嶼さんと比べたら原作での情報が少ない。でも、一緒にいた時間は獪岳の方が長い。原作で知っているとしても、その情報が全て合っているとは限らない。

 

前回から原作と流れが変わっているのは分かっているんだから、私は原作通りなのか全く別なのかというのを知るために警戒していた。

実際に情報とは全く違ったということがあるでしょう。情報は必要なものではあるが、全てを鵜呑みにしてはいけない。幾つもの情報を集めても、それはその情報が正確なのだという可能性を高めるのであって、絶対に正しいということにはならない。情報や噂よりも自分の目で見ないと分からないことだってあるし、その方が信頼ができる。

会って話すだけでその人が噂と違ったり知らない一面を知ったりすることだってあるから、情報や噂だけでは判断できないと私は思っている。

 

 

原作で知識として詳しく知っているのは多分悲鳴嶼さんの方だと思うが、実際に話した時間はそんなにない。獪岳は何度も話したり稽古をしたりした。原作で知っている悲鳴嶼さんよりも、雷の呼吸を教えてくれたり稽古をつけてくれたりする獪岳の方が私は信頼できると考えている。

 

原作で色々な人達を裏切ったとしても、私はこの世界にいる獪岳のことを信じたいと思っている。

 

 

 

「私達のことは気にしなくていいから、獪岳は自分のしたかったことをやってみて。どうなるのか分からなくても、一度やってみることに意味があると思うから」

「.........そうかよ」

 

 

私の言葉に獪岳はそれだけを言って屋敷から出ていった。いつの間にか荷物をまとめ終えていたようだ。獪岳は屋敷から出る時に私の顔を見なかった。

だが、獪岳とすれ違った時、一瞬だけ見えた獪岳の表情は心なしか和らいでいたし、少し口元が緩んだような気がした。

 

....少し気が楽になったのかな...。

 

 

「.....獪岳は大丈夫かな。でも、私は私でやることがあるし....頑張らないと!」

 

 

私は屋敷から出ていった獪岳の背中を見て心配しながらそう呟いた。だがこの後のことを考え、気持ちを切り替えることにして、私は最後の言葉で自分を鼓舞し、行動することにした。

 

 

とりあえず、目の前の隊士達の手当てからかな。こんな時のために、傷薬や塗り薬を大量に用意していたから、全員の手当てはできる。不死川さんが戻ってくるまでに終わらせておかないとね。

 

 

 

 

 

 

 

 



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笹の葉の少女は柱稽古に参加する 後編

 

 

 

それから、私は気絶している隊士達の手当てをした。目を覚ました隊士達からお礼を言われたし、私の作った薬、名づけて湿布薬もどきが大評判だった。

 

 

この湿布薬もどきは私の手作りである。この時代ではまだ令和にあるような湿布はない。一応患部に直接塗ったり貼ったりする薬や治療法はあったけど、それらの薬は植物を細かくしたものを患部につけ、割った竹蘭で覆い縛ったり、薬を和紙に塗って患部に当てたりするという治療法だった。さらに、薬も独特の匂いがした。

令和の記憶がある私は自分が使うなら湿布薬の方が良いと思い、試行錯誤してどうにか湿布薬に近いものを作った。

私の知っている、爽快感や爽やかな香りがあり、ひんやりして気持ちが良いという心地良さもある湿布薬が生まれたのは確か...昭和時代くらいだったと思うから、作るのに苦労したよ。

 

 

前世でハーブについて調べた時に偶然見つけたハーブ湿布やアロマ湿布のことが書かれていたブログを見ていなかったら、糸口すら見つけられなかったんだよね。

 

 

ハーブ湿布はハーブティーを飲む時よりも三〜五倍濃いめに入れる要領でポットなどにハーブを入れて熱湯を注ぎ、十〜十五分程度置いて、できた抽出液を冷ました後(冷湿布を作る場合は冷蔵庫で冷やすこと)、タオルを浸して軽く絞ったものであり、アロマ湿布は熱めのお湯の中にアロマの精油を一、二滴落としてよくかき混ぜ、すぐにタオルを浸して軽く絞ったものである。

 

精油は原料となるハーブを蒸留釜に入れて水蒸気を当て、ハーブの精油を蒸発させた後にその水蒸気を冷却管に通して冷やし、水面に浮いた精油だけを集める水蒸気蒸留法(水溶性の芳香成分が含まれていて良い香りがする残った水の芳香蒸留水も色々なことに使用)や果皮などを圧搾した後に遠心法[粒子のサイズ、形状、密度に基づいて分離する技術]で分離させ、それをスポンジで吸収して精油を得る圧搾法がある。その方法を使って精油を作ることが可能だった。

ちなみに、他にも油脂吸着法や有機溶剤抽出法、超臨界流体抽出法という方法があったが、これらは難しくて分からなかったり、この時代ではそれが可能の機械がないということもあって使わなかった。

 

 

これらが湿布薬作りのヒントになった。

 

でも、ハーブを用意するのは難しいので他の薬草や花、根などで代用したり、ハーブ湿布やアロマ湿布はタオルで浸して絞るというものを塗り薬にできるように色々変えたりと、本当に作るのに苦労したんだよね....。

まだ問題はあるから、今もこれは日々改良しているのだけど。

 

 

 

大量に作っていたから塗り薬はまだまだ残っているけど、少し使う量を減らしておかないとすぐに無くなりそうだ。村で薬を売っていた時もこの湿布薬もどきが大活躍していたからね。効果覿面だと村の人達は言っていたし、何度も使いたいという人は多かった。

まあ、私も自身の知る湿布薬の方が良いというのを知っていて、だからこそ作ろうと思ったのだけどね。

 

.....ただ、想像以上に人気だったんだよね。私、原作ではなくて歴史を変えていないかと考えたことがあったけど、まさかこんなに使われることになるなんてね。それくらい、私は色々な人に頼まれてこの湿布薬を作っていた。

 

 

あっ、そうそう。柱稽古中での原作との違いは煉獄さんの稽古の他にもあった。それは不死川さんの稽古で気絶していた隊士達の中には善逸の姿がなかったというところだ。

原作では善逸は炭治郎とここで再会していたのだが、流石に二度目となると次に進むのが速くなるみたいだ。

あと、玄弥も原作では兄である不死川実弥さんと話をしようとここに来ていたが、今回は既に和解が済んでいるので、ここにはいないようだ。

...それなら、何処にいるのかな。

 

 

 

 

その後、隊員の治療が終わった時に不死川さんが戻ってきたので、私の稽古の方も始まった。

 

 

「オイ、どうしたァ! 逃げてばかりじゃァ、いつまで経っても俺の稽古を突破できねぇぞォ!」

「....分かってますよ。分かっていますけどね」

 

 

それは私も気づいていたのですよね...。

 

 

私は不死川さんの振る木刀を避け続けていた。木刀を振らずに受け止めようという素振りも見せず、ただ不死川さんの木刀を躱していた。たまに避けきれないと思ったものは木刀で受け流したけど。

 

 

何故、不死川さんの言うように一回も攻撃しないのかって?

それは不死川さんの振る木刀があまりに速くて威力も凄いからです!

不死川さんの柱稽古の厳しさは原作を読んでいて大変そうだなと思っていたけど、本当に大変で辛い!

 

初日に何発か当たったし....湿布薬もどきがなかったら打ち身がいくつかできていたと思う。本当に湿布薬もどきを作っていて良かったと思ったよ。湿布薬もどきがなかったら、今頃は体のあちこちが痛くなったと思うし、湿布を作っていて良かった。

まあ、それでも不死川さんのあの木刀に当たれば痛いことには変わらないので、まずは不死川さんの木刀を全て避けるところから始まった。

というより、獪岳や炭治郎達と鍛練をする時に最初にやったことも攻撃を全て避けるところからだったので、いつものような感じかな。

まずは不死川さんの動きに慣れるところから。

 

 

しばらくして、私は不死川さんの木刀を避けられるようになった。だが、私から攻撃することはなかった。

理由は簡単だ。例え避けられるようになっても木刀同士をぶつけ合ったら確実に私が押し負けるというのは分かっているからだ。

 

 

そんなのやってみないと分からないと言われると思うが、私と不死川さんでは純粋な力の勝負でどちらが負けるのかは歴然だ。

そもそも私は岩を斬る時ですら力が足りていないので、勢いや回転を合わせて戦っている。

さらに、色々なことを試したり調べたりしてみた結果、私は筋肉がつきにくい体質だということが分かった。虚弱とかそういうのではない。

私は健康だ。それなりに鍛えているから脂肪とかそういうのは少なく、筋肉も少しはついている。

ただ、そんなムキムキになるというくらいにはつかないのだ。主に上半身が。

 

 

それと、私の戦い方は防御しながら状況を見て隙を突こうとしたり、錯乱させようとしたりというものであり、真っ先に飛びかかって斬りに行くような戦い方ではないのだ。

 

まあ、これは私の考え方が原因かな。私が隙を突こうとしたり錯乱させようとしたりする戦い方なのは、力で勝てるわけがないという考えだからだと思う。

私は普通に刀を振れば、岩を斬る時でさえ苦戦するほどに力がない。刀を回転させたり、円を描くようにして勢いをつけたりすることで、鬼と戦うことができている。たまに華ノ舞いのあの現象に頼ることもあるが、できるだけ直接対決をしないようにと考えてきた。

 

 

けど、それがいつでも通じるとは限らない。『鬼滅の刃』での戦いって力技でゴリ押して勝つという展開があるんだよね。

 

力でゴリ押すのって私に一番難しいことだから、そういう戦い方になったら不利になる。炭治郎や獪岳との打ち合いでも力の押し合いをしたら弾かれていたから、鬼と力比べなんてした瞬間に負ける。そのため、私はできるだけそうならないようにしていた。

でも、それがいつまでも続くとは思ってなかった。

今までは運が良く、最終決戦ともなるとそれを避けるのが難しくなる。そんなのは分かっている。.....だから.........。

 

 

「ン?なんだァ?そんな壁を使ったって、さっきから言ってるがァ、刀を振らねえと次に進めねえぞォ。....いや、テメェ!」

 

 

私が近くの壁を蹴った様子を見て、不死川さんはそれを怪訝な顔をしたが、すぐに何をする気なのか悟り、距離を詰めてきた。

だが、私はそれを回転やバランスを使って上手く避け、そこからすぐに離れた後にまた壁を蹴り...というのを繰り返し、不死川さんの木刀に自身の木刀を当てて、その後に来る攻撃を避け続けた。

 

 

この一連の動きを詳しく説明すると.....壁を強く蹴ることで勢いもつき、その勢いを使いながら不死川さんに向けて木刀を振った。

それは不死川さんの木刀で受け止められたが、受け止められた瞬間に勢いを落とさずに振った木刀と前に出た脚を軸に一回転し、押されるような形で後ろに大きく跳んで壁を蹴り、先程よりも勢いが出たら間合いに入り、木刀を振った。

この流れを私は繰り返しているのだ。

 

 

「こんな勢いで俺に一発当てられると思ってるのかァ?軽い攻撃じゃねェかァ」

「.........」

 

 

不死川さんの言葉に返事をせず、私は壁を何度も蹴り、錯乱させようと動いていた。初めての試みなので、これを一発本番で成功できるのかが分からなくて、返事をする余裕がないのだ。

 

これまでの打ち合いは全て受け流すか、受け止めてから受け流すかして、単純な力での押し合いにならないようにしていた。それは避けなければならないと思っていた。鬼との戦いもそうだ。

私が力に力で対抗するのは難しい。

 

 

基本的に私は毒などを使って、相手を不意打ちするようにして戦っていた。

私は主に相手を不利な状態にして、こちらが有利な状況にするというのが得意だ。力に力で対抗するのが難しかったり無理だと判断したりした場合、その力を少しでも削ぐことにしていた。

でも、それだけでは負けてしまう。

 

 

私はこういう力と力での戦いになった時に、そのような戦い方をしても気合いとかでごり押しされたら確実に負けそうだと思い、圧倒的な力に対抗できる他の方法を考えることにした。

 

そこで考えてみた結果、他の隊士達との戦いや木刀の動きを見て、力のはたらきや作用反作用の法則を上手く利用して計算し、弾性力を使う方法を考えた。

 

 

 

私の言っていることが何なのか分かりませんよね?

知っています。私もこれはどうかと思っていますよ。でも、そっくりそのままなんだよね。

あっ。勿論、しっかり説明しますよ。

だが、そのためにどういった方法なのかを説明するためにも力のはたらきや弾性と塑性のことから見直した方が良さそう。

 

 

まあ、どれも理科の授業で習ったことだけどね。

力を加えることで物体の形を変えたり、動いている物体の様子(速さや向き)を変えたり、物体を支えたりすることができる。力には三要素があり、それが「大きさ」と「向き」と「作用点」である。

物を押した時にその向きの方向に力が加わる力を作用といい、また物を押した時に反対に押される力を反作用という。

力のつり合いは私達が壁とかを押した時に反対向きに同じくらいの力で壁から受けることである。つまり、私達が壁を押すと同時に壁も私達を押しているということだ。

 

分かりやすく説明するとしたらローラースケートに乗った時かな。

ローラースケートに乗って壁を押した時、私達は押し返されて後ろ向きに下がる(自分が押した方向から正反対の方向の力に押される)。この時に作用反作用の法則が働いているのだ。

 

 

次に弾性と塑性のことを話そうか。

弾性とは、ばねや物質に荷重をかけたのちにひずみが少しずつ発生し、その荷重があまり大きくない時に荷重から解放すると、ひずみが無くなる現象のことである。

塑性とは、ばねや物質に荷重をかけて解放した時に、元に戻らずひずみが残ることである。

そして、塑性によって元の形に戻ろうとする力が弾性力なのである。

 

 

.....それぞれのことを整理できたと思うので、ここから本題に入ろうと思う。

 

木刀はその名前の通りに木でできているものである。なので、ゴムのように柔らかいものではない。だけど、弾力のないものでも弾性と塑性は起きる。木刀が同じ木刀に当たろうと人に当たろうと、木刀は少し曲がったり折れたりする。

 

まあ、この稽古では塑性の方が起こる可能性は低いだろう。柱同士の戦いならともかく、隊士の中でそれができる人間は限られていると考えている。

だけど、弾性の方は柱稽古でも起きる。というか、何か物に当たれば起こると思う。

さらに、力の働きでは力の釣り合いに作用と反作用の力が同じくらいの力だからこそできることであり、どっちかの力が上ならその方向へ力が働く。なので、私は木刀を受け止められた瞬間に気づかないように力を少し緩め、不死川さんの木刀を振る力の方が強くなるようにしている。

 

 

こうすることで、木刀が元に戻ろうとする力と不死川さん自身の力により、私は勢いよく後ろに下がることができるのだ。

それを何度か繰り返すことで壁まで戻るくらいの力で不死川さんが木刀を振るようになり、そのくらいになっても不死川さんに木刀を振って受け止められたら力を緩めて弾かれ、壁まで戻されては蹴って、不死川さんにまた木刀を振るというようになった。

 

 

でも、これを不死川さんに気づかれて止められるわけにはいかないから、私はこれらに働く力を上手く使い、木刀を振る力をわざと緩ませていることに気づかないくらいの強さを調整し、力の働く向きを変えてあちこちの壁に行くようにして、錯乱を狙いながら攻撃しているように見せた。

と言っても、これは時間稼ぎくらいにしかならないので、あまり長くは続けられないし、不死川さんも何か別の目的があるのではないかと勘づいていそうだ。ただ、きっかけができるまではなんとか気づかれないようにしないと....。

 

 

...何か言い回しが回りくどいと感じるかもしれないので、簡潔に言うと周りのものを色々使ったごり押しですね。要はごり押しにはこちらなりのごり押しで対抗した方がいいという結論になったというわけです。

 

うん、分かりやすい。

 

 

 

私は壁を何度も蹴り、不死川さんに向かって木刀を振った。壁を蹴ってから木刀を振る度にその勢いが増しているが、不死川さんはまだ余裕そうだった。だが、私は焦らずに不死川さんの様子を見ながらタイミングを計っていた。

 

 

このくらいで不死川さんに一発を当てるのは難しいことに気づいていた。なので、私はある作戦を考えていた。そのため、私はある機会を見逃さないようにして、その時に備えているのだけど.......その機会が早く来てほしい...。

いつバレるのではないかと思って、こっちは内心ハラハラしているのだ。顔には出さないようにしているけど、気づかれそうなんだよね。何を言われても動揺しないようにしているけど。

 

 

そんなことを考えながら壁を蹴って木刀を振った時、不死川さんの体勢が少し崩れた気がした。

 

やっと、かな。ほんの少しだけど、バランスが崩れたということはそれくらいの勢いがあるということね。コントロールは....大体できている。少なくとも木刀を振る方向や場所を定めて振ることはできているから、狙い通りに木刀を振るのは問題ない。不死川さんに何度か木刀を振ったのは絶好の機会を作るためであったが、これを確認するためでもあった。

 

 

私は戻ってから壁を強く蹴り、今までよりも勢いをつけて不死川さんの間合いに入り、木刀を振った。いきなり威力が上がったことで押し切りそうだったが.......流石は柱だ。

すぐに両手に力を入れてそれを受け止め、私は少し力を緩めて勢いよく壁まで戻された。だが、私は一回転して脚に力を入れ、また思いっきり壁を蹴って不死川さんに向かい、また木刀を振った。振る勢いが上がった所為で前より押している感じがするが、不死川さんは私の攻撃に対応できている。同じ手はもう効かないらしい。

 

まあ、私もその適応力を知っているから、この方法が不死川さんに通じるのは一度だけであり、失敗すれば使えない戦法であるということも分かっている。

なので、そろそろ次の段階に移行しようと思う。

 

 

 

そう思いながら私は壁を蹴り、不死川さんが木刀を振った。

 

あれ?さっきと同じ流れではないかと思われるだろう。

そうですね。ここまでは先程までと同じ流れで、この後で木刀を振ることになるはずですよね。

 

 

だが、私は木刀を振らずに不死川さんの木刀を空中で一回転して避け、不死川さんの横を通り過ぎ、逆の面の壁に足をつけ、その壁を強く蹴って木刀を振った。だが、不死川さんはすぐに対応し、その攻撃を受け止めてきた。不死川さんが木刀を横に振った所為で、私は力を抜いた瞬間に勢いよく隣の壁まで戻された。

 

 

これも不死川さんに対応されたけど、こうなることは想定内だ。勢いが結構ついているけど、まだ不死川さんが反応できるくらいの速度と威力みたいだ。このまま続けても不死川さんを追い詰めるのは難しく、まだまだ時間がかかりそうだ。だけど、それは力だけの勝負になったらという話だ。

 

....えっ?さっきごり押しで行くって言ってなかったかって?

うん、ごり押しではあるよ。でも、ごり押しはごり押しでもそれは最終的なと付くものであり、少し違うのだよね。

 

 

私は勢いをそのまま保った状態で、壁に足をつけてから一回転して方向を定めて蹴り、不死川さんに木刀を振った。不死川さんは真横から向かって来る私を見て、こちらも木刀を振り下ろしてきた。

私は不死川さんの木刀に自分の木刀を当てると同時に、その接触で木刀を振る向きを変えさせた。畳み掛けようというこの場面で方向転換するのは流石にあちらも予想外だろう。

私が木刀を振った時には既にこれを狙っていた。不死川さんの木刀を振る方向が変わるようにするため、私はあえてそうなる場所に当てたので、不死川さんの木刀は私の飛ばしてほしかった方向に動き、その方向に私の体が飛ばされていく。

 

 

飛ばされる先は天井だ。私が勢いをつけていたのは速さを上げるためではなく、天井に辿り着けるくらいの勢いになるのを待っていた。

 

私は一回転して天井に足の裏がついた瞬間、すぐに木刀を構え、今まで以上に脚に力を込めてから思いっきり蹴飛ばした。不死川さんは天井に向けて木刀を振ったが、蹴った時に少し回転をかけていたことと木刀を振った動作から、その攻撃を避けることができた。

そして、重力に従いながら、木刀をある一箇所に当たるように意識して振った。ある一点、刀でいう鍔の辺りに当たるように狙いを定め、全力で木刀を振った。それは刀でいう背の近くに当たり、それが予想外の場所であったことから押し返せなかったため、不死川さんの体勢が少し崩れた。私はその隙を見逃さず、木刀を強く握りながら体の向きを変え、木刀を振った。

 

 

不死川さんは私が何をしようとしているのかに気づき、すぐに体勢を整え直し、振り向いて木刀を振ろうとしたが、その前に不死川さんの動きを止まった。何故止まったのかというと、私が不死川さんの背中に乗り、そこから木刀を首元に突きつけたからだ。

 

不死川さんも背中に乗られたのは予想外だったらしく、一瞬動きが止まった。その一瞬がこの打ち合いの明暗を分け、私は不死川さんに木刀を向けることができた。

 

 

「不死川さんの言う通り、私の力では純粋な力勝負になってしまえば勝つことなんてできません。

ですが、例えどんなに力の差があっても、私は精いっぱいできることをやり尽くして、自身の使う戦法が通用しないなら別の方法で勝ち筋を見つけますよ。何度も何度も挑戦して、失敗を繰り返そうとも私は耐え続けてその機会を掴もうとしますし、諦めずに抗い続けていきますから。

....ところで、これは勝ちでよろしいですか?」

「.....テメェ、生意気な性格だと言われねェか?負けん気が強ェようだしなァ」

「知りませんでしたか。私、割と諦めが悪いのですよ」

「........あァ。次に行っていいぜェ」

 

 

私は不死川さんにそう言って木刀を離し、背中から降りた。

 

危ない、危ない。まさか不死川さんの背中に乗ることになるとは。

実は本来なら不死川さんの背後かその近くに着地するはずが背中に着地してしまい、一着地してしまった時は頭の中が疑問符でいっぱいになった。

だが、それと同時に隙のできた瞬間であることも理解していたので、振り上げていた木刀を咄嗟に突きつけることができた。

 

 

....あっ。突きつけたと言っても、ちょんっと軽く触れたような感じだからね。首元に叩きつけるのは流石に駄目だと思ったから.....。

...一応。一発当てるだけでいいならこれで良いのかなと思ったけど、不死川さんがどう思うのか分からないので、とりあえず聞いてみたら大丈夫だった。

良かった....。ここまでしても駄目だったら、どうしようかとも思っていたからね...。

 

 

あと、不死川さんの背中に乗った時は本当に生きた心地がしなかったよ。ちょうど「殺」という文字が書かれたところに着地したことに気づいた時はヒヤヒヤしたけど.....。

....まあ、終わり良ければ全て良し、かな...。でも、今回はたまたまだったから、次はもっとしっかりしないと.....。

 

 

 

それにしても、今までの鍛練がこうも身を結ぶと嬉しくなる。

私は力勝負があまり期待できないと気づいた時、別のものをもっと鍛えてそれで補おうと思い、行動することにした。

そこで、私が最初に鍛えたのは反射神経とバランス感覚だ。反射神経は既に蝶屋敷の機能回復訓練で鍛えているでしょうと言われそうだが、そのくらいでは駄目だ。もっと素早く動けるように鍛えておく必要があると考えた。

 

 

どうしてこの二つを最初に鍛えることにしたのか?

まず反射神経を鍛えれば咄嗟の回避ができるからだ。すぐに受け身を取れるようにした方があまり時間をかけずに行動できる。その方が有利に動けると思ったのだ。

 

 

次にバランス感覚を鍛えたのはそれが鬼殺隊との戦いで地味に重要なことだからだ。鬼との戦いで列車の上で戦ったり、遊廓の瓦の屋根の上で戦ったりするし、鬼の血鬼術で位置を変えられたり宙に浮いてしまったりすることもあるのを原作で知っている。

原作を見ていた当時の私はバランスを崩さないかとか、よく着地できるなとか他人事としてそう思っていた。

だが、それを実践しないといけなくなったので、受け身を取れずに変な体勢で着地することになったり、バランスを崩して落ちてしまったりすることがないようにと思い、平衡感覚を高めることに力を入れた。

鬼との戦いで足場がしっかりしていない場所なんてあまりに多いから、戦いが終わった後に思い返して、もしあそこで落ちていたら危なかったと顔が真っ青になったことだって幾つもある。

 

 

......本当に鍛えておいて良かったと何度も思うよ。

どんな場所でも平気でいられるようにするためにも、何が起きてもバランス感覚を保っていられるようにするためにも、それらを華ノ舞い同様にかなり重視して鍛えていたからね。

その結果、このような動きができるようになったのだから、色々鍛えておいて損はなかったと思っているよ。

 

 

「....宇髄の言う通り、テメェはただの餓鬼じゃねェなァ。結構鼻っ柱が強ェし、鉄砲玉みてェな行動力はあるし、度胸もあるようだァ」

「それは一体どういうことですか!私は宇髄さんに何と言われているのですか?」

 

 

私が安堵していると、不死川さんが急にそんなことを言ってきた。不死川さんの言葉を聞き、私は不死川さんの方を向いて反論した。何故そんな風に言われているのか分からない。

 

宇髄さんは一体何と言ったの?それとも、そのような子どもだと報告したの?是が非でも問い詰めたい。

一応この世界に転生しているけど、私は普通なのだと思っている。

それと...見た目は子どもだけど、精神年齢は貴方達より年上だよ。餓鬼とか呼んでいるみたいですけどね。

 

 

「....にしても、テメェが現れてから妙なことが起こるなァ。前は鬼の目撃情報がいくつかあったが、今回は何一つ情報がねぇもんなァ」

「......えっ?」

 

 

私が心の中で文句を言いながら片付けと準備をしていると、不死川さんがそう呟いた。不死川さんの一人言を聞き、私は一度思考が止まったが、すぐにその話がどういうことなのかに気づき、頭の中が疑問符でいっぱいになった。

 

 

それは可笑しい。

 

だって、柱稽古をしているこの時期は鬼が全く出ない筈なのだ。原作ではこれから先の大きな戦いのため、鬼がいない今に備えようとして、柱稽古を始めた。原作ではそうなっていたのだ。

.....それなのに、前回はどうして鬼がいたの?

 

 

「不死川さん。それについて、もう少し詳しく聞かせてもらっても....」

「あァ?別に構わねェがァ.......」

 

 

私は不死川さんの言ったことが気になり、詳しく聞くことにした。不死川さんは私の様子に少し疑問に思っているようだが、今の私はそれを気にすることができなかった。

もうそれどころではなかったのだ。

 

 

私の気のせいであってほしいと願った。だが、不死川さんの話は私の想像を遥かに超えたものであった。そしてその話を聞いて、私の頭の中にある仮説が浮かんだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

不死川さんの稽古を終えた後、私は悲鳴嶼さんの稽古に行った。だけど、私はそのことに喜びを感じていなかった。悲鳴嶼さんの稽古が一番辛いものであるからというわけではなく、別の理由があった。

それが原因で、私は悲鳴嶼さんの稽古の説明すら頭に入らなくなっていた。

 

 

まあ、悲鳴嶼さんの稽古は原作と同じものだったし、その稽古の内容は最初に滝に打たれ、次に丸太を三つ担ぎ、最後に岩を一町先まで運ぶというシンプルな修行だったため、あまり詳しい説明がなくても大丈夫だった。

 

 

ただ人の話を全然聞いていないというのは失礼だから、そこは反省しないと。

 

そう思っていたが、どうしても気がかりなことがあり、何度も言い聞かせてもどこか上の空になってしまう。

 

 

それでもずっとそうしている訳にはいかなかったので、最初の滝に打たれる修行を始めることにした。

それに、滝に打たれたら、少しはこの頭を覚ますことができるのではないかとも考えていた。

一応、滝に打たれて頭がすっきりした。ただ、かなり長い時間滝に打たれていたため、周りの隊士達に心配された。定められた時間を過ぎても全く滝から出て来なかったので、何かあったのかと思われていたが、頭の中のモヤモヤがなくなった後、色々考えがまとまり、隊士達の心配に気づかずにそのまま集中してしまっただけである。

 

 

なので、私は滝から出てきた後、周りの隊士達の様子を疑問に思っていた。

私がなかなか滝から出てこないことで、心肺停止になっていないかと不安になっていたからと聞いた時にはとても申し訳ない気持ちになった。

 

...皆さん、お騒がせいたしました。

 

 

 

 

それにしても、ここの隊士達は優し過ぎませんか。

 

不死川さんのところでは隊士達の怪我の治療をしていたということで仲良くなっていたが、ここでも初日でこんなに良くしてくれるなんて...。

 

 

そんな感動を抱きながら私は昼ご飯をさっさと食べ終えた。休憩時間ということで、少し周りを見てみたら玄弥がいた。どうやらここで個別に鍛練をしているようだ。

ちなみに、善逸達も自主練をしているそうだ。

 

そこで少し話して玄弥が修行に戻った後、まだ休憩中だということもあり、ある人を探して話しかけた。

 

 

 

「.....獪岳。少し聞きたいことがあるけど、いいかな?」

 

 

私が声をかけたのは獪岳だ。滝修行をする前に獪岳がまだここにいるかは確認していた。それを知って、獪岳は岩を押していたが、私が声をかけたらこっちを向いてくれた。

獪岳は稽古の途中に声をかけられたことで不満そうにしていたが、私の質問には答えてくれる気ではあるようだ。

 

ごめんね、獪岳。でも、どうしても聞きたいことがあるの。

 

 

私が前回関係のことを聞きたいのだと察したらしく、獪岳は溜息を吐いた。

 

 

「...何か聞きたいことがあるのか。だが、俺は前回鬼になっていたから、この時期の鬼殺隊のことなんて知らねぇよ」

「いえ、私が聞きたいのは鬼殺隊のことではないよ。今、私が知りたいのは鬼側の情報なの」

「はっ?」

 

 

獪岳は鬼殺隊のことで何か聞きたいのかと思っていたようだが、私が鬼側のことを聞いてきたことは予想外だったらしく、驚いた様子でこちらを見てきた。

 

 

うん、そういう反応になるよね。今までの私は鬼殺隊の様子とかをよく聞いていたけど、鬼のことはあまり聞くことはなかったからね。前回の炭治郎達のことで鬼殺隊の動きに変わったところがないのかと思って、私はその時の鬼殺隊がどんな動きをしていたのかとか何か不自然なことがなかったかとか、そういうことばかり聞いていた。

鬼に関しては戦いの前に前回と原作で何か違いがないのかを確認するくらいだったから、今更鬼の動きを詳しく知ろうとしたら驚くし、不審に思うよね。

 

 

鬼のことを聞かないといけない状況になり、私は急いでそれを聞いているが、今更ながらこんなことを聞く私に何か質問してくるのは間違いない。

だが、私はその質問に答える気がないのに、こうも率直に聞いた。答える気なんてないのに、自分の聞きたいことを知ろうとしているのだ。

厚かましいことをしているのは理解しているけど、そうも言っていられないのだ。

 

 

「獪岳は覚えているのでしょ。鬼だった時の記憶を」

「....ああ、まあな」

「それなら、教えてほしいの。前回のあの時、............」

 

 

私が獪岳に確認するとやはり覚えていたそうなので、私は獪岳にあることを聞いた。それは仮定の話であり、確証を得るために鬼側の動きをよく知っている獪岳から話を聞くことにした。

そして、その内容は私の予想通りのもので、私はそれを聞いて無言で拳を強く握り締めた。

 

 

「......そうなんだね。分かった。ありがとう」

「おい、どうした。.....お前、何かに気づいたか」

 

 

私は獪岳に話を聞き終えてから何事もなかったように振る舞い、お礼を言ってその場から去ろうとした。

だが、獪岳は私を引き止めた。顔に出しやすいのは知っているから、さっさとここから離れようと思ったけど、やはりすぐにバレてしまった。

不死川さんにはバレなかったけど、鬼殺隊より付き合いの長い獪岳の目は誤魔化せなかったみたいだ。

 

 

獪岳は私が何かを隠していることに気づき、それを問い詰める気なのは察している。その視線からも逃がす気はないと言っているのが分かる。

...さて、どうしようか。とりあえず惚けておこう。

 

 

「....どうしてそんなことを聞くの?」

「俺にそれを聞く前から少し変だと思ったが、話を聞いてから明らかにおかしくなった。...嘘つけばバレバレな癖に何を隠していやがる」

「......誤魔化せなかったみたいね。やっぱりバレバレなんだ...。

....でも、言えない。これは私が解決したいの。私が...絶対に......」

 

 

私は動揺を顔に出さないようにしながら聞くと、獪岳はまた溜息を吐いてそう言った。私はその言葉にドキリとした。

気づいているようなので私は隠すのを止めたが、それを答えることはできないと言い、獪岳の質問には何も答えなかった。

そのことを申し訳なく思いながらも、私は丸太を担ぎに行くことにした。獪岳に内心何度も謝りながら。

 

 

ごめんね、獪岳。これについては言えないの。

いや、言いたくない。炭治郎達のことも鬼殺隊のことも、獪岳のことだって話を聞きたいと思って尋ねたり、口を出したりしてきたけど、これは私が解決しようと思っている。たぶん気づいているのは私だけなのだから。

自分勝手な行動であることは分かっているけど、私はこの問題を自分の力でなんとかしたいの。

 

 

 

 

 

「ったく、バレバレなんだよ。お前は動揺することはあったが、そんな険しい顔はしたことねぇんだ。しかも、余裕はねぇようだな。....なら、俺の知らねぇところで何かあったんだろうな。

......何を黙ってるか知らねぇが、お前が一人でやりたいならこっちも黙ってやる」

 

 

獪岳は丸太を担ぎに行く彩花の姿を見ながらそう呟いていたが、彩花の耳には届いていなかった。

 

 

「しかし、あのバカは確か...百年後の未来から転生したとか言っていたが、百年後の未来の奴等は結構図太い性格の奴が多いのか?あいつ、戦いとか無縁の世界の人間だと言っていたが、妙に逞しいんだよな」

 

 

だが、獪岳のその言葉だけは丸太を持ち上げようとしている彩花に聞こえていた。

 

 

 

 

 

 

 

図太い....のかな?どうやらそう見えるみたいね。でも、私は内心かなり動揺していましたし、ただ自身のやりたいことをしているだけですし、ここまで強い意志を持てたのは炭治郎達と関わってきたからでもあるかな。

 

それに、逞しいとも言われたけど、前世の私はそんな逞しいと言われる人ではなかったはずだし、むしろ大人しいとかそう言われていたよ。

転生してからも慎ましく暮らしていこうと思っていたけど.....炭治郎達と出会ってからは色々あり過ぎて、もう慎ましい生活を遅れなくなったからね。

......思い返してみると....私、どうしてこんなに巻き込まれているのだろう...。

 

 

そう考え込んでいる間に、三つの丸太が私の身長より上に上がった。どうやら丸太を持ち上げられたようだ。これで丸太の試練も終わりだ。

だが、私は考え事をしていたため、丸太を担げたことに全く気づかなかった。数分後、丸太を担いでいることに気づき、それに驚いて丸太を投げてしまい、その丸太が村田さんに当たりそうになった。

 

 

 

 

勿論、村田さんにはきちんと謝りました。

 

 

ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした、と。

 

 

 

 

 



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笹の葉の少女は答え合わせをする 前編

 

 

 

獪岳が次の稽古に行ってから、私は岩を一町先まで押して運ぶという最後の修行を始めた。

この修行は反復動作を使わないといけない。反復動作のことは原作で既に知っているし、悲鳴嶼さんが教えるのが苦手なのも分かっているため(あと、私の立ち位置的なものから色々気まずい)、私は原作を思い出しながら反復動作の習得に挑戦してみることにした。

でも、反復動作に挑戦する前に考えることがあり、そこから始めた。

 

 

何を考えたのかというと、自分の集中力を高めるためには何をするべきかについてだ。

 

 

反復動作とは、集中力を極限に高めるために予め決めておいた動作を行うことである。

 

原作ではこの修行で炭治郎達が反復動作を習得していた。その具体的な方法はというと......玄弥の場合は念仏を唱えることで高い集中状態にする。炭治郎の場合は大切な人の顔を思い浮かべ、煉獄さんの「心を燃やせ」という言葉を思い出すことで、頑張ろうという気持ちを奮い立たせ、その気持ちが集中力に変わらせる。伊之助の場合は単純明快に大好物の天ぷらのことをイメージして集中力を高めるという精神面に寄った行動である。以上が三人の反復動作だ。

 

 

私はこの三人の例を思い出して、どの方法が集中力を高めやすいのか考えることにした。

 

玄弥の念仏を唱えるのは効果がありそうだが、念仏を唱えるよりも良い方法があるかもしれないから、一度保留にしておこう。

食べ物を思い浮かべるという伊之助の方法も集中力を高められるのは間違いない。勉強する時とかでこの問題を解いたらご褒美が待っていると思い、やる気と集中力を上げるというのに近いものだろう。

炭治郎の方法も伊之助と似たようなものだ。どっちも頑張ろうとする気持ちによって集中力を高める。玄弥も念仏がその気持ちを引き出すのだろう。

ただ、その気持ちを引き出せる対象が人や言葉、好物だという違いだ。

 

 

私は......念仏で集中できてもやる気を引き出せるかどうか微妙だし、伊之助のように好物を想像するとお腹が空きそうだな。

....笹団子...鬼殺隊に来てから全然食べていないな....。ほとんど屋敷に缶詰め状態だったし......。

だけど、もし好物を教えると、それを使われて何かを頼まれたらちょっと辛い(駄目だと思ったものの場合は断るけど、それでは生殺しになるので、個人的にそれが辛い)ので、言わないことにした。

普通にお八つとして食べられる可能性もあったが、念には念を入れた。

 

どうして笹団子のことでそうなっているのかって?

疲れていると、甘いものが欲しくなるでしょう。そういうことです。特に、その食べ物が大好物となると、効果はさらに倍増します。なので、念のためにやっておく必要があるのです。

 

 

お陰様で、遊郭での戦いの後から笹団子を全く口にしない状況になったけどね....。

...こんな状態で笹団子のことを考えると.....。....駄目だ。集中力を高めるどころではなくなる。逆に食欲の方が刺激されて、笹団子を食べたいとしか思えなくなりそう。

.......これは一度滝に打たれて、この煩悩を打ち消した方が良いかな...?

 

 

て、そんなことを考えている場合ではない。今は何を想像したら集中力を高められるのかを考えないと。

 

....他の食べ物は......同じような結果になりそうだから、無しにしよう。

でも...笹団子などの好物が駄目だとすると....炭治郎のように人や言葉を思い出す方が私に合っていると思う。その方が私もお腹が空くことはなく、集中力を高めることができるから。

よし。この方法で行こう。次は.....誰をイメージするのか....今までどんな言葉でやる気や元気が湧いてきたのか.......。

 

 

そんなことを考え続けながら岩を押すだけで、結局岩をその場から動かせずにその日は終了した。

 

改めて考えると難しかった。単純に食欲を我慢して好物をイメージすることでやる気を引き出した方が良かったのではないかと思ったが、もう少し考えることにした。こういうのは意欲が大切だからね。

あと、このことから課題も分かったから、そっちを解決しておかないと反復動作は習得できなさそう....。

 

 

 

 

それから数日後、何を想像するのか考えながら、筋トレとかをしているうちに反復動作で岩を押せるようになった。

今回のことで分かったことがある。それはイメージするものも大切だが、これは筋肉が大事だということである。

不死川さんの時から言っていたが、私は前世から筋肉がつきにくい体質だ。これまではある程度鍛えていたおかげで鬼の頸を斬れるくらいの筋力はあるのだが、柱や炭治郎達と比べると、私の筋肉の量は少ないだろう。

 

私は何をイメージするのかに夢中で、筋肉の方を意識していなかった。

悲鳴嶼さんの稽古は強靭な足腰を作るのが目的なのに、どうしてこんな大事なことを忘れていたのだろう...。

 

 

ただ、それだけではない。足腰を鍛えるのがこの稽古の主旨であるが、腕の力もしっかり鍛えておかないと駄目だ。

最初に足腰の力で岩を押していた時に岩を押す腕がプルプル震え出し、私の方が押し負けて腕を曲げてしまったからね。

でも、足腰にどれほどの力があるか確認したかったので、そのまま岩を押し続けたら体を岩にくっつくみたいになり、なんだか体当たりしているような体勢になった。

でも、その状態で岩を動かすことができた。だから、足腰にそれができる力があるということは判明した。

 

ただ、岩が動いたことに喜ぶべきか、こんな体勢じゃないと岩を動かせないことを悲しむべきかで悩んだよ。

 

 

まあ。一町先まで岩を押して運べなかったから、この修行は続くのだけど。岩を押せるようになってから今日まで二日くらい時間がかかったけどね....。あの体勢だと通常よりかなり体力を使うから。

 

それに、一町先って令和だと約百十メートルくらいはあるんだよね。百十メートルって、前世では百メートルなら体力測定や運動会で十秒内であっという間に感じたけど、走るだけならともかく、大きな岩を押して運ばないといけないとなると、想像以上に距離があるのだなと感じたよ。当たり前なんだけどね。

 

でも、時間はかかったけど、その間に何度も滝に打たれたり丸太を担いたりしていくうちに腕の筋力が上がったらしく、一町先まで運べた時には漸く体当たりのような体勢でなくても岩を押せるようになった...。

 

 

「.......よし!....うっ。汗をいっぱいかいたから、脱水症状が...。水、水」

 

 

私は一町先まで岩を運べたことを喜びたかったが、その前に眩暈がして座り込んでしまった。私はあの眩暈から脱水症状が起きていることに気づき、すぐに竹筒を取り出してその中の水を飲んだ。

 

 

原作では炭治郎が岩を運べ終えた後に脱水症状を起こしていたことから、脱水症状を警戒し、そのための対策を予めしていた。その対策というのは、岩を運ぶ修行の最中は水を入れた竹筒を持っておくという至ってシンプルなものだが....。

まあ、予想した通りに脱水症状が起きたので、水を用意しておいて良かった。

 

 

そんなことを思いながら、私は念のためにもう少し水を飲もうと竹筒に口をつけ、もう一度中にある水を飲んだ。

 

どうやら想像以上に喉が渇いていたのだろう。気がつけば竹筒の中は空になった。

竹筒の中の水をあっという間に飲み干してしまったようだ。

 

 

「悲鳴嶼さん、一町先まで岩を運び終えました」

「......そうか。よくこの修行を終えた。では、冨岡のところへ向かっても大丈夫だ」

「ありがとうございます」

 

 

水分補給が済み、私は悲鳴嶼さんに修行を全て終えたことを報告しに行った。報告した後、悲鳴嶼さんはそう言い、次のところに向かってもいいという許可をくれた。

私は悲鳴嶼さんに頭を下げ、義勇さんのところへ行く準備をしようと背を向けた時、悲鳴嶼さんが声をかけてきた。

 

 

「....生野彩花。一つ、聞いてもいいか。未来には鬼がいないのだな。それなのに、何故鬼と戦った?鬼と無縁の生活を送り、作り物だと思っていた存在に何故立ち向かえたのだ?」

 

 

私は悲鳴嶼さんの質問を聞き、私はこの質問に驚いた。だが、私にこれを聞くきっかけはなんとなく理解しているので、動揺していることをあまり顔に出さないようにしながら何と答えるかと考えた。

 

 

「.....まあ、怖いものは怖いですよ。先程言われた通り、私のいた世界には鬼なんていませんでしたから。鬼がいないので、夜道を普通に歩いていても命の危機は感じません。と言っても不審な人が襲ってくることはあるので、完全な平和とは言えませんでしたが。ですが、それは相手が人間であることを知り、そういったことが起こらないようにして、なおかつ防犯グッズという対抗策があり、警察という守ってくれる人がいるために対処することはできました。

私達は自分が知っていて、自身を守ることができるのなら、余裕を持てるでしょう。ただ、未知のものに対しては誰もが立ち向かえるというわけではありません。

貴方が鬼に立ち向かったことはとても凄いことだと思います。その行動をできる人が必ずしもいるとは限りませんから」

 

 

そして、悩みながらも私は額面通りに受け取った方の答えから言うことにした。

おそらくこの言葉は悲鳴嶼さんが求める答えではないかもしれないが、私はそれでも続けた。

 

 

「緊急時の対応は人によってそれぞれあり、思うこともまたそれぞれです。十人十色ということですよ。その時に誰が何を思い、どう行動するのかは必ず同じというわけではありません。人によってはその行動を理解し合えないものがあると思います。

ですが、その全ての行動に共通するのは自分の身のためにしたことなのです」

 

 

こう言った時、悲鳴嶼さんが大きく反応した。私はそれに気づかないふりをして、次の言葉を言った。

 

 

「危機的な状況に陥れば本性が出るという話がありますが、それが本性だとしても、それを責める必要があるかどうかは受け取る人によって違うと思います。貴方は複雑に思うかもしれませんが、未来では立ち向かうことと見捨てて逃げることに賛否両論があります。立ち向かうことに私は凄いことだと思っていますが、ある人によってはそれを無謀な行動だと非難する人だっています。また、見捨てて逃げた人は非難し、ある人はそれに共感する人だっています。

これは状況によって意見が色々分かれると思いますけど....それでも、一番大切なのは自分自身がどうありたいと思っているのかです。

賞賛も非難もそれは他人の感情です。その賞賛や非難でどうするのか決める人はいますが、それはただ自分の決めた理由の一つになるだけです。背中を押すきっかけになりますが、一歩を踏み出すことを決断するのは自分自身なのですよ。

誰かに言われてもこうしようと思ったというのも、周りに流されようと自分が決めたということですから、大事なのは自分がどう決めたのかということなのは間違いないと私は思っています」

 

 

私は悲鳴嶼さんと獪岳の過去を思い出しながら、それについて思ったことを話した。

本当に私は最近思ったことしか話さないな...。

.....だけど、自分が撒いた種みたいなものだし、獪岳の時と同じように自分の考えを話そう。もしかしたら何か答えを見つかるかもしれないから......。

 

 

悲鳴嶼さんのあの質問に関しては心当たりがある。きっと獪岳のことだろう。悲鳴嶼さんと獪岳が何を話したのかは分からないが、その話で悲鳴嶼さんに何か思うところがあったのだろう。それで、私に声をかけてきたのかな。

というか、何でそれを私で試そうとするのかな?私は確かに獪岳の背中を思いっきり押したけど、それが原因で悲鳴嶼さんに何か別の思惑があって聞き終えたのかな....。

私はいつの間にか誰でも聞くお悩み相談室みたいなのを始めていたのかな?でも、流石に悲鳴嶼さんの相談相手になるのは緊張する。

まあ、私は悲鳴嶼さんに答えを提示するつもりがないけどね。あくまで手伝いくらいかな。

 

 

「それに、先程の話と似たようなことを言っていますが.....人間は必ずしも、いつも善良であるとは言えません。魔が差すことだってあります。それはきっと些細なものから大きなものというように色々あります。些細なことで魔が差したものが大きくなってしまい、取り返しがつかなくなってしまう、そんなこともあると思います。

どんな人間でも時に魔が差すことはありますし、その後に踏み止まれず、それから時間が経ってそのことで後悔するということになる人もいるかもしれません。そういった人達の中には後戻りができないという人もいます。...それは当然ですけど、本来過去に戻るなんてことはできる筈がないのですから。そのことで理解できないものもあるでしょう。

ですが、例えそれを理解し合うことはできなくても、分かち合うことはできる....ですから、勝手に決めつけて視野を狭めるのではなく、どんなに辛いものであっても、それを鵜呑みにせずに自分で判断しないといけません。それだけが真実だとは限りませんから」

 

 

私はもう遠慮なく鬼殺隊最強の人に堂々と自分の思ったことを言った。

というより、最早無礼なのかと考えるのを止めた。色々やっているから全部言ってしまおうという思いがあった。なので、思いっきり吐露することにした。

 

 

「それが事実であってもそうでなくても、人は見聞きして感じたことを信じます。でも、それらの情報の中から何を信じるのかを決めるのは自分自身であり、その上で自分が何を思い、どうしたいのかは人それぞれです。

....だから、私は最初に知るところから始めています。何があるのかを知らないと、この情報は信じるかどうかを決められません。そして、色々調べて知り、そこから何が正しいのかを考え、自分でその答えを見つけていくのです。

信じるものもまた人それぞれであり、一つの出来事に対してバラバラの意見があります。それは見方や考え方に違いがあり、それらの意味や理由などを知った上で、自分はそれらから結論を見つけた方が良いと思いますよ」

 

 

私はこの際にと思い、この作品を読んでから直してほしいと思っていたことを指摘した。

 

 

原作の柱合会議の時からもう少し視野を広くして、冷静になって考えた方が良いのではないかと思っていた。

柱は炭治郎達と比べて、様々な鬼と戦っていたから、人を食わない鬼と聞くと今までの認識から否定した。これは仕方がないことだと思うけど、もう少し冷静になってほしかったなとも思う。今までの自分達の常識からあり得ないこととはいえ、実際に義勇さんがその存在を見ている。

それに、鱗滝さんも元柱であり、長い間鬼と戦ってきた人だ。その人達がこの鬼は違うのだと言っているのだから、何かがあると考える。

だからこそ、御館様もその存在を認めている。今までの認識から頭ごなしに否定するのではなく、理由をしっかり聞いてその真意を汲み取り、どうする方が良いのかと決断する。

まあ、その決断には自分の経験が関わるのは間違いないが、それでもその意味を考えた上で判断しないといけない。意味が分からない、あり得ないで終わらせるのではなくてね。

 

 

柱のほとんどが鬼に恨みがあるため、感情的になってしまうのは仕方がない。だけど、感情に身を任せずに行動した方が良い。特に不死川さんは突っ走り過ぎだ。

 

 

人の数だけ色々な意見が溢れている。意見や情報もそれぞれだ。その中には誤ったものはある。でも、その中で知らなかったことや新たな発見だってあり、私達はそれを信じるのかと考え、信じる人と信じない人に分かれるだろう。

 

一応二択に分けたが、二択で済むわけではないと思っている。この意見のここが正しくてあの部分は違うと言う人がいたり、こっちの意見が正しそうだが、そこは少し違うのではないかと考える人がいたり、両方とも正しい、正しくないと思う人がいたりする。

一つのことで意見が幾つも分かれ、事実だと思うものも人それぞれ違いがある。

全員が同じ意見を持っているわけではなく、違う考え方をしていて、それには必ず意味がある。それらに気づき、知ることで自分の感じていたものを見直すきっかけになり、一度整理してどれを信じるのか判断し、考えを纏めるきっかけにもなる。自分の考えは何度も変わっていくことになるが、それでもその時に納得できる答えを見つけられれば良いと思っている。

 

 

まあ、これは本当に私の個人的な考えなんだけどね。

 

 

「しかし、分かち合うことは理解し合うことよりも簡単ではありますが、人によっては自身の自尊心でそのことを言えない、素直になれない人もいるのです。これはその人の性格が原因なので仕方がない部分もあると思いますが、そういう人達にこれは難しいことです。ですが、あまり難しいように考えない方がいいと思います。複雑に考えず、自分の心から思い浮かんだ答えを見つける。それが一番納得できる答えではありませんか」

 

 

私は悲鳴嶼さんにこの言葉を送った。本当は目を合わせたかったけど、悲鳴嶼さんは目が見えてないから、目を合わせられても気づかれないよね。

 

これは私なりの助言である。獪岳の性格からして、これに当てはまると思うし、そういう人が少なくないのは確かだ。獪岳と本当に和解したいのなら、獪岳の性格を考える必要があるからね。

 

 

「まあ、これは私の考えというだけですから。参考にしておくくらいで良いと思います。あまり盲目的に信じ過ぎず、自分の意思でこうしたいと思ったことをした方が悲鳴嶼さんのためになると、私は思いますよ。結局、その決断ができるのは悲鳴嶼さん自身なのですから。答えを持っているのは私ではなく、悲鳴嶼さんですよ」

 

 

私は最後にそう締め括って会話を終わらせ、悲鳴嶼さんから離れて準備をすることにした。あまりここで長時間も話をしていると、稽古をしている他の隊士達に迷惑をかけることになるかもしれないからね。

 

 

それに、後は悲鳴嶼さんが自力で答えを見つけた方がいい。悲鳴嶼さんは信じたものをとことん信じ込んでしまう性格なので、答えは自分で見つけて、それを信じるかどうかを決めてほしい。

...できることなら、これで少しは宗教のように、盲目的に信じるのが直るといいけど.....。...悲鳴嶼さんは寺に住んでいたことから仏教を信仰していたし、目が見えないことからも盲目なのだけどね......。

 

 

その盲目的な信頼は良いところになることがあるけど、悪いところもあるからね。まあ、それはどんな性格でも共通するのだけど、そういったところを少し改善した方が良さそうなので、お節介だが意見させてもらった。

 

これからは頑固なのも程々にしておいてください。

 

 

「それではまた」

 

 

 

 

 

私は悲鳴嶼さんにもう一度頭を下げ、準備をし終えた後に義勇さんの屋敷に向かった。義勇さんの屋敷には何度か行ったことがあるので、特に迷うこともなく着いた。

 

 

「こんにちは。義勇さん、いらっしゃいますか?」

「...ああ」

 

 

私は義勇さんの屋敷に着き、門の前で一声かけてから返事が来るのを待ち、返事が聞こえてから屋敷に入った。

屋敷に入ると、義勇さんが玄関で立って待っていた。気配なんて全く感じていなかったが、私は特に動揺しなかった。蝶屋敷で慣れてしまったからだ。

 

だって、あんなに何度も経験したのだから慣れない方がおかしい。

 

 

「......あれから炭治郎達とどうですか?」

「何故かタラの芽を買ったことを怒られた」

「...それはそうですよ。ですので、他の方法を考えた方がいいと思いますよ」

「....最初は喜んでくれた」

「限度というものを考えましょうね」

 

 

私が義勇さんに炭治郎のことを聞くと、義勇さんはなんだか納得していない様子でそう言った。私は義勇さんの言葉に苦笑いしながら助言すると、義勇さんは不満そうな顔をした。私はその様子を見て、またやりそうだなと思い、義勇さんの行動を別方向に誘導することにした。

 

 

あの会話だけでは分からない方がいると思いますが、私には理解できるので、問題はありません。

 

義勇さんの口下手に関しては義勇さんにもっと口数を増やしてもらうよりも、こちらが義勇さんの言葉やその意味を理解するようになった方が早いと思う。現に私がそうだ。義勇さんと大分意思疎通できるようになった。

あと、義勇さんの行動を知っているのも何の話をしているのか分かる理由の一つだ。

 

 

原作で義勇さんがおはぎを懐に入れて持ち歩くことがあった。義勇さんがおはぎをいつも持ち歩いていたのは、仲の悪い不死川さんと仲良くなるために不死川さんの好物のおはぎを渡そうとしているのだ。

不死川さんの性格を知っている人からすると、そんなことをしたら不死川さんが怒って喧嘩になると分かるんだけどね。でも義勇さんは天然で、好物を渡してくれる人は良い人だと思っているところがあるから、どうして怒っているのか分からずにそれを何度も繰り返す。

 

 

......原作の知識があるとはいえ、まるで見てきたかのように言うなあと思う人はいますか?

いますよね。当たり前ですよ。蝶屋敷で何度もその様子を見ていたのですから。

 

 

義勇さんが懐からおはぎを出して不死川さんに渡そうとし、不死川さんはそれに激怒して喧嘩になる。義勇さんは何故怒るのか分かっていないし、口を開けば口数が少なくて別の意味で捉えられ、さらに激化するという流れを。

 

この流れをどうにかするには誰かが二人の間に入るか、不死川さんが義勇さんの言いたいことを理解するかだ。

義勇さんがちゃんと説明できるようになるというのは.....既に諦めているよ。というより、不死川さんが頑張った方がすぐに解決すると思う。

 

 

まあ、不死川さんはそんなことに力を入れるはずがなく、それに時間を割くよりも鬼の頸を斬る方が優先度が高いし、不死川さんの義勇さんへの認識が自分は貴方達と違いますという感じで鼻につくだそうなので、理解しようともしない。

そういうわけで、この二人の原作の柱稽古の時のままなのだ。いや、私が参加したあの柱合会議のことで少し印象が変わったそうだが、どうしてもこの喧嘩は起こってしまうようだ。

 

 

で、その喧嘩を何故か私が止めに行くことになるんだよね。どうしてか私は義勇さんと不死川さんがばったり出会ったり、不死川さんが義勇さんに怒鳴ったり掴みかかったりした瞬間に遭遇するんだよね....。

 

 

無視すればいいのにと思うかもしれませんが、その喧嘩が起こる場所が蝶屋敷なのは駄目だ。いや、自分達の屋敷以外は何処でも駄目であるが(だって、義勇さんと不死川さんの屋敷なら、周りの人が巻き込まれることなんてないし、迷惑をかけることもなく、何か壊れてもそれは自分達の物であり、自己責任という形で済む)......。

 

蝶屋敷は患者がいて、そこで言い争いや喧嘩が起きたら大変迷惑である。休まないといけない人が全然休めなくなるのだから、流石に無視できずに止めるしかないのだよ。

できればそれですぐに止まってほしいのだけど、この二人の喧嘩はなかなか止まらない。義勇さんは喧嘩をしたくないのだろうけど、その言葉が足りなくて煽ってしまうことで、喧嘩が長引いてしまうのだ。

 

 

それでも、周りの人に迷惑だから静かにするようにと言うと、二人とも黙って外に出るので、そういう常識があるのだよね。それなら、やらないでほしいと思うのだけど.....。

あまりにその喧嘩が過激になってくると、獪岳やアオイさんも止めにくるし、最終的にしのぶさんが出てくるので、周囲に被害はそこまでない。

 

 

 

まあ話が大分ズレていたので、一度話を戻そう。義勇さんは仲良くなるためには好物をあげようと考えている。そして、義勇さんが炭治郎と仲良くしたいと思っている。

 

そのために義勇さんがやることといえば.........もうお分かりですよね。

義勇さんは炭治郎と仲直りしたいと思い、炭治郎の好物のタラの芽を毎回持ってくるようになりました。これを見て、私は義勇さんらしいと思っていた。炭治郎も同じことを思ったらしく、そんな義勇さんの様子を見て少し笑っていた。

義勇さんはタラの芽を喜んでくれていると思っているそうだが、本当は前と変わらない義勇さんの様子になんだか安心感やらを感じるのだよね。柱稽古の時のことを思い出して、懐かしさのようなものも感じているのもあるだろうけど...。

 

 

....ただ正直に言うと、少し控えてほしい。

いや、義勇さんが炭治郎のためにタラの芽を買うのはいい。それが義勇さんなりの誠意と親切なのだということは分かっている。だけど、タラの芽を見つけたら全て買い占めるのは止めてほしい。

 

それは義勇さんの後にタラの芽を買おうとした人達にもお店の人達にも迷惑ですし、あれだけの量のタラの芽を渡されたらこちらも困ってしまいます。

それに、そろそろアオイさんの雷が落ちると思いますよ。幾ら何でも多すぎだと。

 

 

「まったく。何かをするにしても、やり過ぎるのは駄目ですよ。今のところは大丈夫だとしても、後で何かが起こることもあり得るので、相手を気遣うことを忘れず、本当にその行動が相手に迷惑をかけないかというのも考えてください。そういうことを繰り返していると、色々大変なことになると思いますよ」

「.....考えておく」

 

 

私は義勇さんに何か問題を起こす前に注意しておいた。義勇さんは少し不満そうな顔をしていたが、納得してくれているようだ。頷くだけでなく、ちゃんと返事をしているので、理解はしていると思う。とりあえず信じよう。

 

 

「最近炭治郎と顔を合わせて話ができる。少し警戒されるが、それでも俺は炭治郎と話せて嬉しい」

 

 

義勇さんのその言葉を聞いて、私は少し安堵した。

 

炭治郎は鬼殺隊の人達と交流していって、少しずつあの時の恐怖が薄れてきているようだし、義勇さん達と一定の距離を保って接しているが、心の方の距離は少しずつ縮まってきているようだ。

 

 

なるべく、自分の思いを言葉にして伝えるようにと言っていて良かったよ。

 

 

炭治郎も義勇さん達鬼殺隊もなんだかんだ全員が前を向き始めているようだ。こんな感じで少しずつ良い方に向かってくれることを祈りたいのだけどね...。少なくとも切腹をするという考えが消えて良かった....。

 

 

「それと、禰豆子のために金平糖を買ったんだが、禰豆子は受け取ってくれない。何故だか知らないが怒る。代わりに炭治郎が貰ってくれるが...」

「....そういうところですよ、義勇さん」

 

 

安堵していた私だが、義勇さんのこの言葉にはそう言うことしかできなかった。

 

義勇さんは禰豆子とも仲直りしたいと思っている。それで、禰豆子の好物の金平糖を渡そうとしているのだ。だが、禰豆子はそれを受け取ってくれないので、どう仲直りをすればいいのか分からず、困っているようだ。

できれば好物以外での方法を思いついてほしいのですけどね...。

 

 

金平糖に関しては禰豆子の分だけでなく、なほちゃん達のでもあるので、金平糖のことは問題ない。割と日持ちするし、いざという時は他の患者にも渡せるので、すぐに消費できる。なので、金平糖の件は大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

義勇さんに個別の稽古をつけられてから数日後、私はしのぶさんと珠世さんに呼ばれて蝶屋敷に行った。どうやら前回での最終決戦の日が近いから、薬の最終調整として呼ばれたらしい。一応私も手伝っていたので.....。

もうそんな日かと驚きながらも原作の話を思い出して納得した。

 

原作の炭治郎と比べてみると、私は遠からずも近からずというな感じで柱稽古を進んでいったため、原作の炭治郎の位置に私がいるのだと思えば納得できる。

 

 

だが、それならどうして義勇さんの稽古を受ける時間が数日もあったのかと思う人がいるでしょう。原作では義勇さんが稽古をつけるというような描写はなかった。

だから、これは私の勝手な予想だが....義勇さんが炭治郎に稽古をつける時間はほんの僅かで、数日もなかったと私は考えている。

だが、私には数日もあった。それは原作改変のことも関係していると思うが、原作の出来事が一つ無くなっているのが原因だと思う。

 

 

原作では炭治郎が柱稽古に参加する前にある事が起きていた。それは御館様に頼まれて、炭治郎が義勇さんと話をするために四日間話しかけ続けるという追いかけっこである。これは義勇さんが柱稽古に参加しないということが起きたのだが、今回は義勇さんが最初から参加しているため、それは無くなっているようだ。

というより、私が既に似たようなことをしていたので、その必要がなかったのかな...。

 

とにかく、その追いかけっこの四日間が無くなり、それが義勇さんの稽古を受ける時間になったのではないかと思っている。

まあ、おかげで華ノ舞いの方に集中することができたけど....。

 

 

 

 

 

まだ戦いは終わっていないけど、本番に向けて少し休憩するという意味でもしのぶさんのところに行ってみたら、目に飛び込んできたのは禍々しい色の液体だった。

どうやら戦いがもう近いということもあり、仕上げにかかっているそうだ。

 

扉を開けた瞬間、私もその手伝いをした。部屋には禍々しい液体以外にも色々あったが、私は何も考えずに動いたので覚えていない。

ただ、完成した時にめちゃくちゃ疲れていたのは確かだ。

 

 

「炭治郎。禰豆子。いる?」

 

 

しのぶさんと珠世さんの手伝いを終えた後、私は炭治郎達の使っている部屋を尋ねてみた。だが、部屋の中には誰もいなかった。

 

蝶屋敷に来たのは用事があったからというのもあるが、とりあえず一周したことだし、その間に炭治郎達に何もなかったのかどうかの確認のためにも一度戻ることにしたのだ。

それで外に出て探してみると、炭治郎達の声が聞こえてきた。どうやら蝶屋敷の子達と一緒にいるようだ。

 

 

庭を覗くと、禰豆子がなほちゃん達三人と花の冠を作っていて、炭治郎はそれを温かい眼差しで見ていた。炭治郎達を中心に周りでは穏やかな空気が流れていて、微笑ましい気持ちになる。

 

 

それを遠くから眺めているカナヲが見えなければ...ね....。

......あっ。カナヲの後ろから猪の被り物が出てきた。伊之助もいるのね。それと、一瞬だけ黄色い髪が見えたけど.....善逸もいるのかな...。

.....カナヲ、伊之助、善逸がいるのなら玄弥もいたりして.....。

 

 

やっぱり今でも炭治郎と禰豆子はしのぶさんとカナヲを少し避けていて、アオイさんやなほちゃん達とは話しているという状況が続いているようだ。大分改善されているようだが、そう簡単に元通りになるものではないからね。たまに会話することはできるみたいだけど。

 

 

まあ炭治郎達の話を聞く限り、炭治郎はみんなと直接顔を合わせることにまだ怖いと思っているところがあるから、カナヲ達も面会の時以外に炭治郎と顔を合わせないようにしている。

 

 

だけど、気になるんだろうね。一応炭治郎に気づかれないように遠目で見ている。バレないようにと細心の注意を払いながら。

 

炭治郎はカナヲ達に恐怖を感じているけど、少し話したいという気持ちもある。そのため、話せる機会と心構えがある時ぐらいにしか、カナヲ達も姿を見せないようにしているが、あまり顔を合わせない方がいいと思いながらも炭治郎達の様子を見に来てしまうようだ。

でも、直接会わないように気をつけてはいるらしい。今のところ、それで問題は起きていないみたいだし、もっと近くに行きたいのを我慢しているみたい....。伊之助もよく我慢できているよね...。

 

 

何というか鬼殺隊は炭治郎に対して全体的に過保護?のような感じであるから、心配があるけど物理的な怪我をさせることはないと思っている。ただ、禰豆子はあの時のことをまだ怒っている感じで、そういった面でも何も起こらないといいなと思いながら、念のために警戒している。

 

 

善逸達も炭治郎と禰豆子がどう思っているのかを知っていて、しかもそれを現在もその鋭い器官で感じ取っている(玄弥以外)ので、ますます落ち込んでいるのだけどよね。

 

 

カナヲ達は炭治郎達の中に入りたいと思っていても、入る資格も顔を合わす資格もないと思っているため、炭治郎達を遠目に見るだけである。と言っても、見える範囲にいたら炭治郎が匂いで分かってしまうために、様子を見ていてもバレないように匂いを隠そうと色々工夫していた。その努力を知った時はなんだか泣きそうになった。

 

それは今もだ。あの四人の様子を見て、私は悲しい気持ちになるんだよね....。...今もカナヲ達が寂しそうな顔をして炭治郎達の様子を見ていて.......でも、前回の件を考えると安易に手を出せないというか.......。

 

 

 

「炭治郎はもう平気なの?」

「あっ。おかえり、彩花。...平気かどうかは分からないが....今は大丈夫だ。それより、良かったら食べるか。好きなんだけど、食べ切れなくてな....」

「いや、何この大量のタラの芽の天ぷらは!これは流石に多すぎるから、食べ切れなくて当然だよ!それにしてもよくこの量を揚げたね。大変じゃなかった?」

 

 

私がカナヲ達のことを心苦しながらも見ないふりをして、炭治郎に声をかけた。すると、炭治郎は私におかえりと言った後、何やら困ったような表情をしていた。何かあったのかと思って炭治郎達に近づき、見せられたのは山盛りのタラの芽の天ぷらが大きな皿に乗せられている光景だった。これを見て、私が口を開けて固まってしまった。

義勇さんから聞いた話で、義勇さんがタラの芽をいっぱい買っていることは知っていたが、この量は流石に予想外だった。しかも、まだあるみたいだし、私が柱稽古に行く前よりもタラの芽が増えている。

 

 

私はさらにアオイさんが持ってきた皿にもタラの芽の天ぷらがあるのを見て、思いっきりツッコミを入れながらなんだか別の関心が湧いてきた。あまりの量によくこれを天ぷらにできたと思い、炭治郎達の方を見ると、全員が苦笑いしていた。どうやらタラの芽を全部天ぷらにする作業は大変だったみたいだ。

 

 

 

もうすぐ昼ご飯の時間だったこともあり、私は食べるのを手伝うことをした。天ぷらを食べるために、なほちゃん達に天つゆと塩を用意してくれるように頼んだ。多くて腹八分目くらいの量は食べようと思っている。この後は鍛練をしたいので、ほどほどの量で済ませておきたいのだ。

ちなみに、私は天ぷらを食べる時に天つゆや塩で食べるのが好みだ(前世から)。シンプルで良いでしょう。

 

 

いくら伊之助が天ぷらを好物だと言っても、天ぷらがタラの芽だけでは飽きる。というか、伊之助が好きな天ぷらは多分海老の天ぷらとかそういうのだと思う。

 

原作で海老の天ぷらがよく出ていたし......いや、海老の天ぷらが一番天ぷらだと見て分かるので、海老の天ぷらを描いていたのかな...?

....どっちか分からないけど、伊之助だけに任せるのも可哀想なので、タラの芽の天ぷらを食べるのは手伝おうと思う。

 

 

なほちゃん達が準備をしている間、私は縁側に腰掛けて待つことにした。炭治郎は私の隣に座り、禰豆子はなほちゃん達の手伝いに行った。

 

 

こうやって、いつも炭治郎から離れない禰豆子が、私が炭治郎の近くにいるのを許容しているのを見ると、私は禰豆子に信頼されているのだなと感じる。本当に信頼をしてくれているのかどうかはともかく、私は炭治郎を傷つけないとは思っているのだろう。少なくとも禰豆子はそう感じているだろうし。

 

禰豆子は私にそういう信頼をしているようで、私と禰豆子の間には特に問題がない。炭治郎を傷つける気がないのは確かだけど、こう信頼されるとなんだか気恥ずかしいな......。

 

 

 

「.....彩花。大丈夫か?」

「...えっ?」

 

 

禰豆子の背中を見ながらそんなことを思っていると、炭治郎がいきなりそう声をかけてきた。私は炭治郎の言葉に驚いた。

 

何か不安にさせるようなことをしたかな?もしくはあった?

それとも....疲れているように見えているとか.....?

 

 

「急にどうしたの?私は元気だよ。それとも、何か心配なことがあったの?」

「それはこっちの質問だ。獪岳から彩花のことを聞いたんだ。様子がおかしいって。彩花の方こそ、何かあったのか?」

 

 

私の質問に炭治郎は逆に質問で返した。私はその言葉を聞き、頭を抱えたくなった。

 

獪岳、炭治郎に話したんだ....。そういえば獪岳に口止めしていなかったね...。

 

 

あの質問をした時は私も動揺していたから、そこまで頭が回らなかった。

あの後、獪岳はその時の私の様子を炭治郎達に話した。おそらく炭治郎達には何か話すかもしれないと考えたのだろう。

....心的外傷や前世で色々あったことなどで、炭治郎に甘い自覚はありますけど。

 

炭治郎もその時の獪岳の態度や匂いから、私の様子がおかしいのは本当なのかもしれないと思っていたのだろう。

さらに、私が獪岳のことを言って動揺したことで、やはり何かあるのだと確信させてしまったようだ。

 

 

「......ねえ。炭治郎」

「うん?」

「炭治郎は.....私が...前回のことで何か分かったことがあると言ったら......どうする?」

「....えっ?」

 

 

私は炭治郎に話すかどうか悩んでいた。獪岳には話さなかったけど、当事者である炭治郎には話した方がいいと考えたからだ。

と言っても、私は自分の頭に浮かんだことを全て話す気にはならなかった。まだ分からないところは色々あるし、私の考えが何処まで合っているかも分からない。全部違う可能性だってある。

まあ、私の考えが合っていても、間違っていても問題だからね...。

 

なので、私は最初に前回のことを出し、炭治郎の反応を見ることにした。炭治郎の反応次第で話そうと思っている。でも、私はこの判断で本当に良かったのか分からないため、申し訳ない気持ちで炭治郎の言葉を待った。

 

 

炭治郎は私の話を聞いて、下を向いて無言になってしまったが、しばらく経った後、顔を上げた。

 

 

「......俺は前世のことを、あの時のことを忘れたことなんてない。されたことも、悲しかったことも、辛かったことも何一つ忘れたりしてない。全部覚えてる。

だけど、いつまでもそのことを意識するのはもう止めておく。

あの時は裏切られたことが辛くて、また同じことを繰り返すのが怖くて、何を信じればいいのか分からなかった。

だけど、あの時が起きる前のまま変わってない良い人で、それでもあんなことが起こったけど.........俺は前のように話したり、教わったりしたいと思ったんだ。

 

それに、前に彩花が言ってただろう。その先を考えてみようって。

俺は終わった後、善逸達とどうするかを考えたことがなかったから、彩花に言われてから少し考えてみたんだ。

その時、前に善逸達と話したことを思い出したんだ。

前世で戦いが終わった後、善逸達と何をしたいか話し合ったことがあった。今世でそれができるか分からないけど、俺は終わった時に善逸達もいてほしいと思ったんだ。今度は叶えたいと。

それがきっと俺の答えなんだと思った。だから、もう何が原因だとかは関係ない。前世で起きたことは気になるけど、それより大切なことに気づけたから。

前回の何かを知っても、それは揺るがないと思う」

 

 

炭治郎はぽつりぽつりとそう話してくれた。炭治郎の話を聞いて、私はなんだかやっと一息ついたように感じた。

 

これまでに何度か炭治郎達の様子を見て、ハラハラしていたけど、今回の言葉で肩の荷が下りたようにも感じた。

 

 

私は炭治郎と鬼殺隊が仲直りするかどうか確信もなかったが、炭治郎達の様子を見て賭けに出ることにした。私が見たところ、炭治郎達は互いに複雑な思いを抱いている。禰豆子に関しては嫌悪感を抱いているけど、それでも関係修復は無理だというわけではない。

 

 

どうしてかというと、好きの反対は嫌いではなく、無関心だからだ。

関心も持たれなかったら、その人のことは無視になる。でも、何か関心があれば...例え負の感情であろうとも、気にされていることになる。

 

炭治郎は彼らに恐怖を感じていたが、無関心というわけではなく、嫌悪感も抱いていなかった。それに、炭治郎の感じている恐怖は裏切られることへの恐怖である。

つまり、炭治郎は善逸達を、鬼殺隊をまだ信じたいと思っていることでもある。だけど、本当に信じていいのかとか、相手の何を信じたらいいのかとかそういう疑念があった。

 

 

誰かを信じたいと望んでいても、前回であんなことが起きたら疑念を抱いてしまうだろう。信じられないことは苦しみにもなるし、ますます視野が狭まり、疑心暗鬼になっていく。それもまた炭治郎の対人恐怖症と心的外傷の根幹の一つでもあると思っている。

 

だから、私は面会で炭治郎と鬼殺隊が話し合うきっかけを作り、自分の気持ちを確認できるようにした。そうすればその後の関係をどうしたいのかもはっきりして、裏切られることへの恐怖や苦しみを解消し、前向きに考えられるのではと。

 

 

実際に面会を始めてから、炭治郎の体調が悪くなることは今のところ一度もない。むしろ少しずつ良くなっていき、前世のあの時の悪夢を見ることがなく、発作も治ってきているようだ。これは良い傾向だ。

 

これを知った時、私は最大の賭けに成功したことに安堵した。

本当に原作で知っている情報から、もうこれ以上のことはしないだろうというその人の善意に賭けたようなものだからね。

 

 

禰豆子の方も怒りや嫌いという感情を抱いているが、無関心ではないのでなんとか間に合うのではないかと思っている。まあ、これは本人同士の問題なので、ゆっくり時間をかけて解決してほしいと思っている。

 

 

それに、炭治郎が言わなくいいと言ったことに私は正直安堵している。

でも、もし私の考えが正しければ前回の件は........。

 

 

.....このことを話せなくてごめんね...。....これからどうなるか分からないけど、私は行きたいと思っている.....。多分このことに気づけているのは私だけなんじゃないかと思うから...。....そして、その話ができるのも私だけなんだと........。.....自惚れているかもしれないけど、どうしてもこれは....ね......。

 

 

そんなことを考えている間に昼ご飯の準備ができたらしく、なほちゃん達が私達を呼んだので、そちらに向かった。

どう転ぶことになろうと、私は自分で確認したい。あの時、何が起きたのか知りたい。

 

さて、食べ終わったらここから出ようかな。準備も終えているし、聞きたかったことは既に聞いたと思うし、もうそろそろだと思うからね。

あちらも私に用があるだろうし.....。

 

 

 

 

 

「....やはりここに来るようになっていたのですね」

 

 

突然私の足元から地面が無くなった。私はそれを見て、最終決戦に突入したのだと確信した。さっきまで私の近くに後藤さんがいたけど、引き離されたみたいだ。

 

後藤さん、大丈夫かな...。

 

 

「私を待っていたということでよろしいでしょうか。.....正直に言うと、私も半信半疑でしたので、こうなるのは予想できても驚きましたよ。まさかとは思っていましたけど...」

 

 

私は襖を開け、部屋の中に入った。部屋の中は教科書で見たような日本のお城の広間くらい広さがあり、床は畳一面に広がっているが、部屋の一番奥に台があり、その上にある座布団に誰かが座っている。

 

なんか大名のような感じの部屋だけど、あれがそうなのかな。

 

 

「....まあ、貴女がここに連れて来なくても、私は会いに行くつもりでしたよ。聞きたいことが色々ありましたし、貴女にどんな対応をすればいいのか分からないため、とにかく会いたいと思っていました」

 

 

私はそう話しかけながら相手に近づいた。相手は無言のまま私を見ているだけだった。

 

これは様子見のようだね。まあ、こちらとしても好都合だけど。

 

 

「前回起きたこと、前回と原作の違い、今回と前回の違い.....それらを全部聞いて、やっと分かりましたよ」

 

 

『炭治郎を庇った禰豆子にもどうして庇っているのって聞くだけだった。終わった時、私は後悔した。あの時、どうしてあんなことをしたのか私も分からない』

 

 

カナヲ達、鬼殺隊側はあの時のことを今でも疑問に思っているようだった。

 

その時の様子を詳しく聞いてみると、御伽話の時間が過ぎて魔法が解けたようで、まるで血鬼術みたいだなと感じた。前世で読んだ二次創作みたいな、ご都合主義の血鬼術だと。

 

 

『鬼狩りじゃないのに、どうして戦うの?あっ、分かった。何か嫌なことか辛いことがあったのかな。

大丈夫。俺が救ってあげるよ。頼まれたからというのもあるけど、俺は優しいからね』

 

 

童磨は頼まれたと言っていた。あの時は上弦の弐の童磨という強敵と戦っていたから、あの言葉に疑問があっても深くは考えていなかった。だけど、分かることは童磨が誰かに頼まれたということだ。それもあの話からして、私を始末するようにと誰かが言っていた。

 

 

一瞬、鬼舞辻無惨が私を始末するようにと言ったのかと思ったが、それなら真っ先に炭治郎を狙う筈だ。無惨が最も恐れている相手は日の呼吸の使い手であり、無惨を後一歩のところまで追い詰めた継国縁壱だ。なので、その継国縁壱と同じ日の呼吸の使い手であり、耳飾りを身につけている炭治郎に対して、原作では刺客を送り込むほどだ。

 

 

だが、私に対してはそれをする理由がない。日の呼吸は使えるには使えるが、私はそこまで使いこなせていないため、あまり実戦で使わないのだ。そのため、無惨は私が日の呼吸を使えることを知らないし、知っていても、炭治郎よりも弱いためにそこまで意識はされていない筈だ。

それに、例え意識されていても、童磨の始末する相手に炭治郎や禰豆子も入れていないとおかしい。あの言葉からして、あれは私だけを狙ったものだった。誰なのか知らないけど、私を優先的に殺したいという存在がいるのはこのことから確かだ。

 

 

鬼殺隊から私の存在が怪しまれたことはあったけど、それは前回のことを知っているからだ。鬼舞辻無惨などの鬼側は前回のことを知らない。なので、鬼側が私を狙う理由は本当にないのだ。

 

 

でも、可能性が増すきっかけとなったのは...........

 

 

『この時期、俺達のことを誰かが見てたんだァ。その視線に俺達が気づくと、奴はすぐに姿を消したァ。だが、俺は一瞬だが奴の姿を見たんだァ。そいつの口に牙が生えていたから、鬼だと思って報告したし、他からも似たような報告が相次いで届いたからなァ。そいつは間違いなく鬼だろうという結論になったが、そいつは俺達の前に現れず襲っても来ないから、結局そいつの頸は斬れなかった。今回はそいつを見かけた瞬間、すぐに捕まえてその頸を斬ろうと思ってたんだがァ、前回と違って全く情報がねェんだァ』

 

 

『それなら、教えてほしいの。前回のあの時、単独で行動する鬼とかいなかった?...例えば、禰豆子と珠世さん達以外の逃れ鬼とか....』

『...ああ。ちょうど柱稽古をしてた時、無惨様が探すように命じていた。それで、俺は産屋敷家と禰豆子とある逃れ鬼を探していた。その逃れ鬼の特徴なんだが、それはあの珠世さんや兪史郎さんとも一致しなかったんだ。あの二人に聞いたが、他に逃れ鬼がいるかも知らなかったし、その鬼に心当たりもなかったみたいだ。.....気になるなら、そいつの特徴を話すぞ』

 

 

原作にはなかった二つの情報。これらから察するに、原作にはいない人物がいるのだと分かる。鬼殺隊側にも、鬼側にも属していない存在がいる。その存在はどちらからも探されていた。でも、その存在は前回でどちらからも捕まることがなかった。そのため、その存在は鬼殺隊側からも鬼側からも捕まるわけにはいかない存在であり、逃げ続けたことから、逃れ鬼の可能性が高い。

 

 

そして、その逃れ鬼の情報が今回はない。それなら、今回はその逃れ鬼の存在が消えてしまったのだと考えられるが....。刀鍛冶の里に童磨が現れた件を思うと、誰かが童磨に頼んだ存在がいるとして、それは鬼舞辻無惨や他の上弦達とは違う。無惨にも他の上弦達にも私を狙う理由がない。つまり、その存在は明らかに周りとは違い、柱や炭治郎達という主要人物よりも目立たない私を怪しみ、危険視している。

 

 

このことからも前回のことを知っているのだと分かる。それは前回で確実に関わっている。さらに、前回が原作とあまりに違うことを考え、張本人がそうなのかは知らないが、おそらくその違いを起こすために干渉していたことから、私同様に異質な存在であることも分かる。

 

まあ、本人に出会うまでは断言ができなかったけどね。

 

 

 

「.......前回と今回、貴女が何を考えてこんなことをしているのか分かりません。ですので、教えてくれませんか。

 

 

 

転生者さん」

 

 

そう言って、私は目の前の鬼と向き合った。

その鬼は私と同じくらいの背丈で、年齢も同い年くらいだったであろう少女の姿をしていた。水色の髪は腰に届くくらい長く、紫陽花の模様がある紺色の着物を着ていて、顔には黒百合の痣が額や目の近くまで広がっていた。その目は大きく、目尻の位置が目頭よりも少し下にある。抜け目がなさそうで、その目でこちらを探るように見ている。

さらに、明るい青めの緑色の瞳をしていて、その鬼の目には上弦の伍と書かれていた。

 

 

間違いなく、その鬼は獪岳に聞かされた特徴通りの鬼だった。上弦の伍であること以外は。

でも、上弦の鬼であることは予想していたので、そこまで動揺していない。

 

そんな私を見て、上弦の伍は笑った。

 

 

 

さて、答え合わせをしましょうか。

 

 

 

 



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笹の葉の少女は答え合わせをする 後編

 

 

 

「聞きたいんだけど.....何で分かったの?アタシは貴女の前には一度も出ていないし、彼等にも会ったことがなかったのよ?」

「そうですね...。.....同じ前世の記憶を持つ貴女なら、ラノベのことを知っていますよね?」

「ラノベ?ライトノベルのことよね、小説の。....それが何なの?」

 

 

転生者であり、新上弦の伍となった彼女は私に質問してきた。私は刀に手を添えながらも刃を抜かず、その質問に答えることにした。私も聞きたいことがあるし、この話の流れならそれを聞き出すことも可能だと考え、私はそのまま話をすることにした。

 

この最終決戦の時に呑気に話すのかと言われそうだが、これは私の目的の一つだからね。

 

 

「転生ということが起きたら、ラノベと関連させてしまいませんか。私は転生してすぐにラノベのことを思い浮かびましたけど.....。

ラノベでよくあるテンプレの中に転生者が他にもいたという展開がありましたよね?転生したと気づいた時に、私はここが何処なのかとかどういう世界なのかとか状況を確認すると同時に、転生者が他にもいるのではないかと考えていました。

まあ、それを確認する方法なんてないので、それを調べようとは思いませんでしたけど....。

ですが、原作と変わっていることを知り、私は転生者が他にいるのかを調べようと思いました。私は原作が変わった原因に何の心当たりがありませんでしたから。その時、私はまだ何もしていませんでした。それなのに、原作と違うことが起きている。炭治郎達の行動が原作と変わったのは何かが既に起きたと考えましたよ。

私は明らかに原作とは関係のない場所にいたのに、炭治郎達と出会ったので、何者かの介入を疑いました。私という転生者がいるのですから、原作にはいない存在が他にいてもおかしくありませんし、可能性の一つとして挙げていました」

「...つまり、二年前にはアタシの存在に気づいていたのね」

「いえ、その時はまだ確証がありませんでした。ですが、炭治郎達から前回の話を聞けば聞くほど、その疑念が増していきました」

 

 

私は現実だと言い聞かせていたが、たまにラノベだとこういう展開とかありそうだと思うことがあった。それを今の状況に当てはめてみると、不思議と納得できたのだ。

とはいえ、本当に他の転生者がいるとは限らないので、本人に会うかその目撃情報があるかで判断しようと思っていた。

 

何故すぐに行動しなかったのかと言われるかもしれないが、あの時は本当に何がなんだかさっぱりだったので、慎重になっていた。大きく動くことも難しかったし。

 

 

「....お見事。アタシの存在に気づけるのは貴女くらいだと思っていたわ」

「貴女の存在に気づくには前回と今回のことだけでは辿り着けません。原作のことも知らなければいけませんからね。前回で貴女に何が起きたのかを知る術は貴女に直接聞くしかありませんが、貴女が関わっているのではないかと気づくことはできます。

そして、それは貴女も同じでしょう。貴女も私が転生者だと気づくことができた。

それでも、貴女が転生者なのか、それともこの世界の住人であり、周りに転生者のような原因がいたのかすら分かりませんでしたけど、貴女が私を排除しようとしたことから確信しました。

鬼殺隊は私を怪しむことがあっても、異物だからと私を排除しなかった。理由は全く知らない存在であるが、調べても普通の人間であったからです。二回目の鬼殺隊には前回にいなかった存在だと気づいても、私が転生者だというのは分かりません。だから、鬼殺隊は...この世界の住人は転生者だという結論にはいきませんでした。

だけど、貴女は同じ転生者なのですぐに分かりますよね」

 

 

彼女はまるで褒めるかのように手を叩いた。私はそれを無視して話を戻した。

 

なんだか楽しんでいるような感じがするな.....。...でも、それよりも話さないといけないことがある。

 

 

「貴女は私の存在を知った。だから、貴女は自分の存在に気づきそうな私を始末する気だった。童磨をわざわざ刀鍛冶の里に行かせ、私を殺そうとしたのですよね」

「あらあら。刀鍛冶の里に童磨も襲撃させたことにも気づいっちゃったのね」

「....何せ、刀鍛冶の里以外で鬼の動きが変わったことなんてありませんでしたからね。それによって、貴女が上弦の鬼になった時期も大体予想がつきました」

 

 

私は刀鍛冶の里の件について言及した。すると、彼女は何処か面白そうに私を見ていた。彼女の余裕な様子を見て、何か間違っていないかと一瞬思ったが、すぐに気を引き締めて話を続けた。

 

話をすると言いながら、彼女は本当のことを話してくれない気がする。それなら、こちらが問い詰める!

 

 

「貴女が上弦の鬼になったのはきっと遊廓で妓夫太郎と堕姫が倒されてからだよね。私は那田蜘蛛山や無限列車などでも姿を現していたのに、貴女は私に気づいていなかった。鬼舞辻無惨や十二鬼月などの上位の鬼なら目から情報を共有することは可能だったが、それができなかった。

....それは、その当時は情報を得る手段がなかった。上弦の鬼ではなかったということでしょう」

 

 

私は童磨の件で彼女の存在に気づいたと同時に、鬼舞辻側にいる可能性にも気づいた。そこから、敵対することは容易に想像できた。なので、戦うことになるのなら、彼女の情報を集めようとした。

 

 

ただ彼女に会ったことはないので、どんな特徴の鬼とかで調べることはできない。だが、童磨に頼めることからそれなりの地位がある鬼だと考え、何かしらの情報があるのではないかと思って調べてみた。

しかしそれらしき情報はなく、それなら新たな上弦の鬼になったのではないかと考えた。原作で新しい上弦の陸になる獪岳は私達と一緒に行動していて、人間のままだ。つまり上弦の陸が空席になり、そこに別の鬼が代わりになる可能性はあった。

それに、刀鍛冶の里の戦いが今回で最も変化したところだ。時期的にも遊廓の戦いの後に上弦の鬼になったとしたら当てはまる。

だが、それでも彼女の情報はあまりなかった。姿形すらなく、何も見つからなかった。

 

後に不死川さんと獪岳の情報から、前回から目立った動きをしなかったし、今回もまたあまり大きな行動をしていないということが分かった。

どうやら彼女は大きな行動をすることがないようだ。おかげで、彼女の存在は実際に会わないと私の空想で終わるくらいのものだった。

 

 

「貴女なら私を見つけたらすぐに何かした筈。だけど、遊廓の戦いまでずっと何もしてこなかったということは、それまで私の存在を知らなかったというだと考えました。

......それで、遊廓の戦いの後に私の存在を知り、すぐに刀鍛冶の里に童磨を行かせ、私を排除しようとした」

「フフッ。でも、それじゃあアタシは遊廓の戦いを見ることができないのだから、アタシは気づけないんじゃないの?」

「いえ、その時は上弦の鬼になっているのですから、他の上弦の鬼からその情報を聞くことができます。

特に、原作を知る貴女は現状を知りたくなるでしょう。私のことは炭治郎達のことを聞けば話に出てくるので、炭治郎達と一緒にいる私を貴女は転生者だと怪しむ筈。そして、転生者の疑いがある私を貴女は放置できなかったのではないでしょうか」

 

 

私の話に彼女は笑いながらそう言うが、私はそれを否定し、自分の予想を話した。

 

彼女はきっと驚いただろう。前回のことを知る彼女なら、おそらく前回で他の転生者がいるかどうか探した筈だ。それなのに、今回は前回にはいなかった他の転生者がいた。

そして、同時に彼女は焦ったのだろう。鬼殺隊から前回のことを聞けば、原作を知る私がそれを怪しむのは確実だ。邪魔をされる可能性が高く、そんな不安要素であった私を彼女が放置するとは思えない。

 

 

「....なんか前世で見た推理小説を思い出すわ。まるで、犯人を追い詰めようとしているみたい」

「犯人を追い詰めようとしていませんよ。ただ、そろそろ教えてほしいので、問い詰めてはいますけど」

「.....そう。なら、推理小説のようにこう言っておくわ。...証拠はあるの?」

「....証拠ですか...。.........そうですね。童磨が私にこんなことを言っていましたよ」

 

 

私の話を聞き、彼女は推理小説みたいだと言った。私は推理しているつもりがないので否定したが、彼女はそれを面白そうにしていて、その話が本当だという証拠があるのかと聞いてきた。私は証拠と聞き、それを考えながらも証拠になりそうな童磨の言葉について話した。

 

私にとって、この言葉は疑念を確信に変えるには充分だったからね。これが証拠になるかは分からないけど.....。

 

 

『大丈夫。俺が救ってあげるよ。頼まれたからというのもあるけど、俺は優しいからね』

 

 

 

「童磨は頼まれたと言っていました。でも、それでは誰に頼まれたのか?無惨なら童磨は頼まれたではなく、命令されたと言う筈。他の上弦はそもそも童磨に頼もうとしないと思います。たった一人を殺すだけなら、自分でやればいいのですから。事実、原作では上弦の鬼が助けを求めたり、助けに来たりすることはありませんでした」

 

 

私はそう言いながら原作で見た上弦の鬼の姿を思い浮かべた。

 

黒死牟はそんなことを頼まないだろうし、猗窩座は童磨を嫌っているから話しかけることすらしなさそうだし、半天狗と玉壺もあの性格から頼ろうと思わないだろう。そもそも鬼同士が助け合うところなんて滅多になかった。唯一堕姫が妓夫太郎に助けを求めたことはあったが、堕姫と妓夫太郎の場合は兄妹であり、二人で一つの鬼なのでそれは例外だ。

 

 

そもそも上弦の鬼って、直前になるまで自分が負けるというのを全然想像していないからね。多分、自分達が捕食する側であり、優位に立っているという考えからだと思う。まあ、上弦の鬼は百年以上も変わっていなかったのだから、異次元の強さを持っているのは確かである。なので、私を始末するくらい一人で楽勝なのでしょう。

 

でもそうなると、その鬼に挑んで勝てている鬼殺隊は一体何者なのかということになるのだが、それは一先ず置いておくとして....。

 

 

ごほん。それで、鬼舞辻無惨や上弦の鬼の可能性がないなら、他の鬼ではないかと思う人がいるかもしれないが、その可能性も低いと考えている。何故なら........。

 

 

「鬼はそもそも共食いする性質を持っているので群れないようになっています。

一部例外があるとしても、童磨が普通の鬼達の頼みを引き受けるとは思えません。無惨は確実に一方的な命令なので除外して、可能性として高いのはやはり上弦の鬼ですけど...私の知っている上弦は頼むなんてしないと思います。むしろ、童磨に頼まず自分の力でやるでしょう。私を始末するくらい容易いと思う筈。....それなら、誰が頼んだのでしょうか」

「......鳴女の可能性は考えなかったの?」

「いえ、鳴女も簡単に私を始末できると考える筈です。鳴女なら血鬼術で私を高い場所から落とせばいいのですから、わざわざ童磨に頼む必要はありません。

鳴女の血鬼術はそれだけ神出鬼没で厄介なのは貴女も知っているでしょう」

 

私が鬼の習性のことを言うと、彼女は鳴女の名前を出してきた。だが、私はそれも否定した。

 

鳴女も強さがどうとかではなく、血鬼術で不意をつけるので童磨に頼まず、自らの手でやった方が早い。実際に、あれはやられる側からしたら死を覚悟するものだと思う。だって、神出鬼没なのだから。

 

 

「そもそも無惨も上弦の鬼達も私を誰かに頼んでまで殺す動機がありません。先程も言った通り、鬼殺隊に怪しまれたことはありましたけど、それは前回の記憶があったからです。鬼側には記憶がないのですから、私が炭治郎達といても何も不思議に思いません。

それなのに、私を狙うということは原作や前回を知っている者ということになります。まあ、原作を知っているかはともかく、前回のことを知っているからこその行動なら、確実に鬼舞辻無惨や上弦の鬼ではありません。

私が個人的に調べた結果、前回の最終決戦で鬼舞辻無惨が亡くなった後、あの場所にいたというのが前回の記憶を持つ人達の共通点です。鬼舞辻無惨も上弦の鬼もその時は既にいないから、鬼側には前回の記憶がないのです」

「....それなら、アタシも除外されるんじゃないの。鬼はあの方が死んだら全て消えるの、忘れてない?」

「いえ。鬼舞辻無惨が倒されても、消えるまでに時間がかかる筈だと私は考えています。流石に一瞬で消えるわけではないと思いますから、条件に当てはまるのではないでしょうか?

特に、貴女は逃れ鬼。貴女は無惨に従っていないのだから、上弦の鬼のように鬼殺隊と戦うことなんてないし、呪いを解いているのなら無惨に命令されることも殺されることもありません。他の上弦の鬼は鬼殺隊に倒されたり、無惨に殺されたりするけど、貴女なら最終決戦の終わりまで生き残ると思います。...いや、生き残りましたよね。

まあ、条件を満たすためにはあの場所にいた関係者でないといけないのですけど、前回の記憶を持っていることから、どうやらその場にいたようですね」

 

 

私は鬼側が私を狙う理由がないことを指摘すると、彼女は別のことを出して反論したが、それも否定した。

 

これは私が原作を読んでいた時に思ったことだ。鬼舞辻無惨を倒したら、鬼は全部消えると言っていたけど、どうやって消えていくのだろうと。どうなるのだろうと思っていたが、原作では鬼舞辻無惨を倒し、鬼も兪史郎さん以外はいなくなりましたという感じで、そういったところは描写されていなかった。

でも、鬼が消えるまでに時間はかかると思ったのだよね。原作でも矢琶羽や鬼舞辻無惨が血鬼術を使ったりなどして抵抗し続けていたから、消えるまでなら血鬼術を使えるのではないかと考えた。それで、あの時の鬼殺隊に血鬼術がかかっていた可能性が出てきたのだ。

 

 

「.....最も貴女が今回もいるのかどうかと悩みましたけど、童磨の言葉からいる可能性が高まりましたよ。貴女が今回いることを、そして鬼舞辻側にいるのだということを」

「...へえ。それまではアタシの存在は半信半疑だったのね」

「そうですね。前回いたからといって、今回もいるとも限りませんでしたから」

 

 

私の言葉を聞き、彼女は目を細めてそう言い、私はそれに頷きながら言った。

 

 

それからしばらく、辺りを沈黙が支配した。私はじっと見ながら彼女の反応を伺っていた。そして、この沈黙を破ったのは彼女だった。

 

 

「......あーあ」

 

 

先程まで色々指摘していた彼女から諦めたような声を出した。どうやら話してくれる気になったようだ。

 

 

「確認するわ。貴女は前回では見かけなかったけど....本当に前回にはいなかったのよね?」

「そうですよ。前回では私はいませんでした」

「そうよね...。だって、アタシも前回で原作と変わっているところがないかちゃんと調べていたわ。で、転生者らしき人物は見つからなかった。.....だからこそ、油断したわね。貴女の存在は想定外だったわ」

 

 

彼女が確認するように聞いてきたので、私は正直に答えた。何せ、黙っておく必要はないからね。それを聞き、彼女はため息を吐き、私を睨みつけた。

 

もう惚ける気も推理ごっこを楽しむ気もないみたいだ。

 

 

「察しの通り、アタシは転生者よ。そして、前回の件の黒幕であり、貴女を殺そうとした元凶でもあるわ」

「....認めるのですね、貴女が関与していることを」

「ええ。もう驚いたわよ。前回でアタシ以外に転生者らしき人はいなかったのに、今回は貴女という転生者がいたのだから。逆行したのが原因かしら?前回では目覚めなかった前世の記憶が今回で思い出したのかもね」

「....それはないと思いますよ。逆行したのは二年前だと聞いております。ですが、私はそれよりも前に前世の記憶を思い出したので、逆行は関係ないと思いますよ」

「あら、そうなの?それじゃあ、アタシも何がなんだかさっぱりだわ。貴女の存在が原因で原作はメチャクチャになっちゃったし」

「いや、炭治郎達と出会ったのは偶然なのですけど。前回の記憶を思い出した炭治郎達が原作と違う行動を取り、私はたまたまそんな炭治郎達と出会って、一緒に行くことになったので。

.....まあ、原作よりも早く行動したことで色々変わりましたし、無限列車の件は私も深く関わりましたけど........」

 

 

彼女の言葉を私は色々な意味で否定した。

 

私は物心ついた時には前世の記憶を持っていたため、逆行が起きた二年前よりも前であり、逆行とは関係がないと考えた。私は前世の記憶を思い出した時期と逆行が起きた時期が重なれば関係がありそうだったが、そうではないので可能性は低いと思う。

それと、原作でメチャクチャにしたことは一部以外を否定した。炭治郎達の件は不可抗力であるため。まあ、私が無限列車の原作改変に関わっているのは確かなので、私は素直にそこを原作改変したことを認めた。

ただ私がいなくても、炭治郎達が前回の記憶を持っている時点でメチャクチャになっていると思いますよ。

 

 

「理由や原因が何せよ、貴女は原作に関わった。そして、原作もどんどんアタシの知っている話と変わっていった。このまま行けば原作のような展開にならなくなる。だから、少しでも元の形に戻すために貴女を消そうと思ったわ。けど、アタシが貴女の存在を知った時には既に遊廓の戦いが終わった後だった。

 

その後は...全て貴女が先程話した通りよ。その時のアタシは妓夫太郎と堕姫が倒されたことで欠けた上弦の陸になり、童磨から邪魔をしている人間の話を聞いた。その人間の中に原作にはいない子がいて、アタシは驚いたし、焦ったわ。

既に吉原遊廓編まで終わっていたため、時間はもう残り少なかった。アタシはすぐに貴女を消さないといけないと思い、貴女の話をした童磨に頼み、刀鍛冶の里に行って貴女を殺すようにしたのよ。刀鍛冶の里編は主要キャラが誰も亡くならずに上弦の鬼二体の頸を斬ったという展開だったから、あの二体では駄目だもの。このままだと貴女は生き残る。遊廓の戦いを実際に見ていないけど、あの戦いから生き残っているくらいなんだから、そう簡単には死なないと分かっていたわ。

 

 

でも、それなら他の...いや、もっと強い敵をぶつければいいと思ったのよ。童磨は上弦の弐だから、並大抵のことでやられる心配はない。しかも、女しか食べない童磨なら貴女に喰いつくと思ったわ。猗窩座だと女を殺すことはできないし、黒死牟は強い相手なら戦ってくれると思うけど、貴女がどれほどの強さか分からないし、刀鍛冶の里には無一郎がいるから、そっちを優先する可能性があったんだもの。それを考えると、あの二体には頼めなかったわ」

 

 

彼女の言葉は予想したものも納得したところもあったので、特に何も疑問を持たなかった。

まあ、彼女の人選....いや、鬼選?は間違いない。あの童磨だから、刀鍛冶の里に来たのだと思うし、原作でも情報を教えたら行きそうだった感じもするからね。そう考えると、童磨はかなり適任だったのだろう。

 

 

「本当はアタシがあの時に出ることができたら良かったわ。ただ、アタシはまだ上弦になったばかりの鬼で実戦経験も少ない。そんなアタシが刀鍛冶の里に来ても、貴女を殺す前にアタシが柱に殺されるだけ。だから、アタシは柱と戦ってもそう簡単に死ぬことがなく、貴女を確実に殺せそうな童磨に頼んだのに、貴女は生き延びたわ。

本当に貴女の存在は予想外なことしか起こさないわね。目を通して戦いの様子を見たけど、色々な手を使ってくるんだもの。獪岳のことも童磨の話で知っていたけど、何故か柱が一人増えているし」

「それは.....私もいきなり来て驚きましたよ。でも、甘露寺さんがいるなら伊黒さんも来ると思うのは予想できませんか?」

「...そう言われると、想像できるわ」

 

 

伊黒さんがついて来るかの話は甘露寺さんと一緒に来るとは思えないかと聞くと、彼女は同意して頷いた。

どうやら伊黒さんが甘露寺さんを心配して参加したと聞き、すぐにその様子が思い浮かんだらしい。

 

 

「.......刀鍛冶の里編が終わり、残るは柱稽古編と無限城編のみ。けど、柱稽古編は互いの準備期間のようなもの。鬼は無限城に全員集められ、鬼殺隊も柱稽古で柱の屋敷に集まっているわ。鬼殺隊も鬼もそれぞれ集まっているけど、一つだけ違うところがあるのは分かっているわよね?」

「....鬼殺隊は柱の屋敷に集まり幾つかの集団になっているが、鎹鴉で連絡を取り合うことでいざという時に助け合えるようになっている。一方で、鬼は無限城に集まっているが、鳴女や無惨の意思がないと外に出ることができない。なので、鬼が誰もいない状態で一人で戦うことになったら、貴女は増援のないまま多くの隊士達と戦うことになる。

 

 

.......これが違いですかね。こうなってしまうと、下手すれば柱全員と戦うことになるかもしれません。鬼は貴女以外いないのだから、誰も途中で鬼と戦わずにここへ来られます。どんなに遠くにいても足止めになる者がいないのなら、長い時間その場所にいればいるほど人は集まりますからね。

また、鬼舞辻無惨が命令すれば増援が来る可能性はありますが、あの鬼舞辻無惨がそのようなことをするとは思いませんので、望みは薄いです。

それに、鬼は集団になって無惨に歯向かおうとするのを防ぐために、共喰いをする習性がありますから、そもそも助け合うことができるかというと、私は難しいと思いますね」

 

 

上弦の伍の彼女の質問に私は鬼の習性と原作での状況を思い返しながら、頭に浮かんだことを正直に言った。

 

私も彼女も鬼の習性を知っているため、鬼同士が協力するというのは想像できない。那田蜘蛛山の件や二人で一つの鬼である妓夫太郎と堕姫は例外だが、大抵の鬼は互いに殺し合う。特に、強い鬼はその傾向が強い。だから、彼女のとれる手段は限られてしまった。

 

 

私もそういったところが複数人で連携をとって戦う鬼殺隊との違いであり、敗因のようなものだとも思っている。

そうやって自分一人でも大丈夫だと慢心したから、負けてしまうのですよ。

 

 

まあ、私はそれを容赦なく突く気ですし、ただでさえ強く、一人を相手に大勢の死人が出る上弦の鬼が連携をとったら鬼殺隊が負けるので、それは止めてほしいのですが....。

 

 

「その通りよ。鬼殺隊はあちこちで集まっているけど、鬼が襲ってきたとなればすぐに駆けつけることができる。

一方、鬼は無限城にいて、鳴女が神出鬼没に鬼を出したり無限城に落としたりすることはできるけど、あの方の命令がなければアタシの助けにはならない。そんな状況でアタシだけで襲うのは自殺行為としか言いようがないわ。アタシが貴女を殺そうとしても、応援を呼ばれてしまえばそれはできない。

鬼は皆無限城にいて、仮に来ても助けなんて期待できない。だから、アタシは柱稽古の最中に貴女を殺すのを諦め、この最終決戦で無限城に落ちてきた時にアタシのところへ呼び、確実に貴女を殺すことにした」

「......随分と私を警戒していますね。原作では上弦の鬼は上から三人が残っていたから、順番はそのままでした。そこに鳴女と獪岳を新たな上弦の鬼として加えていましたが、獪岳が鬼になっていないので、貴女がその代わりになっているということでしょう。

ただ、予想外のことはありましたよ。原作では鳴女が上弦の肆に、獪岳が上弦の陸になってましたので、貴女は上弦の陸として現れると思っていました。しかし、貴女は上弦の伍としてここに現れた。......それは上弦の伍になり得る力を持っているということですよね。

これは私が今、ここで思っていることなのですが....貴女は私を殺すために上弦の陸から上弦の伍に上がったのでしょうか?」

 

 

彼女は私の言葉に同意し、そう言い放った。その様子は切羽詰まっているように見えて、私は彼女のことが敵対関係でありながら心配になった。それと同時に、確認せざるを得なくなった。

 

 

と言っても、私にそんな余裕はないのだけどね。

もしもその鬼が転生者なら私と戦うことになるだろうとは予想していたけど、それは上弦の陸なのだと思っていた。だが、彼女は上弦の陸ではなく、上弦の伍だった。あの鬼舞辻無惨がすぐに上弦の陸を上弦の伍に繰り上げるとは思わなかったが、どうやら想像以上に彼女は強いようだ。

 

 

「だって、貴女は遊廓でも刀鍛冶の里でも死なず、童磨と戦っても生き残っているから、そりゃあ警戒するわよ。貴女を殺すためにはもっと強くなる必要があるわ。鬼は強いほどあの方の血が濃いのは知っているわよね?つまり、あの方の血が濃いほど強くなるのよ。

.....アタシは完結まで読んでいないけど、原作では上弦の伍が空席だった筈。だから、アタシはその上弦の伍になることにしたのよ。空席なら入れ替わりの血戦をする必要がないから、上の階級に入れ替わられる可能性が高くなるわ」

「なるほど。それで、貴女は刀鍛冶の里の襲撃の後、確実に上弦の陸よりも上の階級になることを目指したのですね」

「その通りよ。アタシが入れ替わりの血戦を申し込んでも、黒死牟達に勝てるわけがない。時間はあまりなかったし、黒死牟達よりも上になるというイメージも浮かばなかったから、既にいる場所になろうとは思わなかったわ。

それに、入れ替わりの血戦のことはよく知らないし、戦う相手がいない方を選べば負けることを考えなくていいもの。

本当なら鳴女が十二鬼月になる前に階級の昇進を頼んで、上弦の肆になりたかったんだけど、それはできなかった。それなら、鳴女に血戦を申し込むかとも考えたけど....鳴女が相手だとね......」

「あー...うん....。そうですね。鳴女はね.....強いかどうかとかそういう問題じゃなくて、血鬼術が厄介過ぎますからね...」

 

 

彼女は私の質問に笑みを浮かべながら答えた。彼女の話を聞き、私は納得すると同時に少し同情してしまったし、戸惑いも感じた。

 

彼女が想像以上に私を殺すことに力を入れているのだ。ここまで力を入れられると、なんだか動揺してしまうというか.....。....いや、それだけの覚悟を決めているのは分かるのだけどね...。

入れ替わりの血戦のことも分かりますし、彼女も色々考えて行動しているのね。

 

 

入れ替わりの血戦とは鬼舞辻無惨の許可制のもと、下の階級の鬼が上の階級の鬼に血戦を申し込みシステムのようなものだ。この血戦に関しては彼女同様に私も詳しく知らない。

 

確かに少しでも前より強くなるためには、飛び級するためによく分からない血戦をするよりも、無惨に認めてもらえて誰もいない階級になる方が確実だ。

それも少ない時間で強くなるとかして、無惨に認めてもらう必要がある。一気に上弦の壱のような無惨に近い階級になろうとするよりも一つ上を目指した方が成功する確率は高い。

一気に頂上に近い階級になるために、上弦の壱の黒死牟や上弦の参の猗窩座などの強い鬼と戦うことになっても、あの三人は強さもそうだが、百年以上も鬼として生きていたので、経験の差から勝つのは難しいだろう。

上弦の肆となった鳴女もおそらくかなりの古株だろう。無限城という空間を作れているのだから、上弦の鬼と同じくらい前に鬼になっている。ただでさえ血鬼術が神出鬼没で厄介過ぎるのに、経験の差からしても勝率は低い。

 

まあそれを知っているから、鳴女が上弦の肆になる前に彼女が上弦の肆になろうとしたみたいだけど、それは駄目だったらしいからね....。

 

 

それらのことから、上弦の壱から上弦の肆になることはできないというのが分かる。上弦の壱から上弦の肆までが無理となると、空いている上弦の伍になった方が良いと私でもそう考える。最も、私は上弦の伍が本当にいないのかという確証がなかったので、ここまで想像できなかった。

 

というか、彼女も私と同じように原作の最後を知ることができなかったんだね...。

 

 

「..........柱稽古の時は貴女達を強くする時間だった。だけど、それはアタシ達も同じことよ。このために、アタシは上弦の伍になった。このために、アタシは鳴女に頼んで貴女をここに連れてきた。......だから、悪く思わないでよ。ここで貴女を殺すことを」

 

 

そう言った彼女の目には殺気が迸っていた。威圧も凄い。その殺気と威圧を浴びて、私の心臓がバクバク音を立てている。

 

勝つためには少しでも強くなる...その気持ちは分かるけど、そうまでしないといけない相手が私だということには納得できない。どうしてそんなに私にこだわるのかもよく分かっていない。

...でも、これだけは言わせてほしい。

 

 

「私は.......貴女に殺されるためにここへ来たわけではありませんよ。貴女が上弦の伍になるのは想定外でしたが、私は貴女に勝つ気でいます」

「何を言ってるの?現に貴女はここに一人でいるじゃないのよ。アタシは上弦の伍よ。まだ鬼になってから長い年月が経っていないけど、少なくとも上から六番目の鬼なのは間違いないわ。そんなアタシに貴女が勝てるの?

上弦の鬼は普通複数人が戦って、漸く勝てる鬼なのよ。一人で上弦の鬼に勝てた例なんて、二つしかなかったじゃない。一つは今のアタシと同じ上弦の伍で、戦ったのは霞柱の時透無一郎。もう一つは成り立ての上弦の陸の獪岳で、戦ったのは善逸だよね。一つ目の例では上弦の伍に単体で勝てたと言っているけど、それは柱だからだもの。だけど、貴女は柱じゃない。もう一つの例では一般隊士である善逸が単体で勝ったけど、その鬼は上弦の陸よ。しかも、上弦になったばかりのね」

 

 

私は正直に答えた。その答えを彼女はお気に召さなかったようで、原作の知識を交えて私にそう言い放った。

 

この戦いが私にとって厳しい戦いであるのは間違いない。それは覚悟している。だけど......。

 

 

「確かに、上弦の鬼に単体で勝つことなんて難しい。特にそれを私にできるかと聞かれると、できないと思ってしまいますよ。貴女が上弦の陸から上弦の伍になったことから、相当強いのだということは察しています。....ですが、私はここで死ぬ気はありませんよ。何を言われても、私は決着を着けるためにここに来ることにしたのですから」

「全く...馬鹿なことを......」

「それと、貴女は獪岳が上弦になったばかりだから、一般隊士の善逸でも勝てたと言いたいそうですけど、貴女もまだ新人ですよね。さらに、この前まで上弦の陸だったのでしょう?」

 

 

私は彼女の言葉に同意しながらも殺される気がないとはっきり伝えた。

 

何回も倒せないとか無理とか言われたら、なんだか少しムッとするので、私は彼女を煽ることにした。そして、私の煽りに彼女もカチンときたようだ。

彼女は強く拳を握っていた。爪がさっきよりも伸びている。

本気でいくことは間違いなさそうだ。

 

 

「....それは貴女も同じよね?幾らここまで生き残ってきたからといっても、貴女は柱じゃないし、そもそも鬼殺隊の隊士でもない。調子に乗らないでくれる?」

「調子に乗っているつもりはありませんよ。ただ私は負ける気なんてないので、そう簡単に死にません。例え、これまでの戦いよりも厳しいものになるとしても、私にはまだやることがあるので、絶対に生き延びます」

 

 

最後の方はもう言い合いのような雰囲気になりながら、彼女は立ち上がり、私は刀を握り締めた。

 

この世界が原作と変わったのは私達転生者が原因だ。私達が干渉したことによって流れが変わり、ここまで変わってしまった。そのことを知っているのは私達(転生者)だけ。

だから、私達のことは私達でけじめをつけないと。

 

 

私は転生して炭治郎達と出会う前、この世界に他の転生者がいるのかなと考えていた。もしいたら嬉しいなと思ったこともあった。

....だけど、その時の私は知らなかった。もう一人の転生者の存在が本当にいると、転生者同士で戦うことになるとも考えてもいなかった.....。

 

 

 

同じ転生者でありながら何処で道を違えてしまったのか...そんなの私も分からない。それでも、私達は戦わないといけない。決着を着けないといけない。まだまだ気になることはあるけど、今はそれよりもやらなければならないことがある。

 

 

 

さあ、始めよう。この転生者同士の戦いを。終止符を打つために...。

 

 

 

 

.........それがきっと貴女の望みなのだろうから。

 

 

 



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笹の葉の少女はけじめをつけたい 前編

 

 

 

「水の呼吸 肆ノ型 打ち潮」

 

 

私は刀を構えて相手に近づき、水の呼吸を使った。私が使っているのが華ノ舞いではなく、水の呼吸を使っている時点で察していると思うが、これは小手調べである。

 

まずはこれをしておかないと.....。こんな時だからこそ、感情のままに行動するわけにはいかないからね....。

 

 

「あらあら。威勢は良かったけど、大したことはなさそうね」

「先程の煽りの返しですか。大丈夫ですよ。これは本当に当てる気なんてないので、安心してください」

 

 

上弦の伍である彼女はそれを容易く避けた。

これは予想していた。上弦の伍を相手に適正である華ノ舞いではなく、別の呼吸を使って勝てるとは流石に思っていない。

でも、今は華ノ舞いをいきなり使わずに他の呼吸を使って戦わないといけない。

 

 

前みたいに自分の手札を見せないようにしていると思っていませんか?

.....まあ正解ですが、前と理由は少し違う。

童磨の時は華ノ舞いを使わないようにしていたが、それは童磨の分析能力が優れている上に、その童磨を倒せずに次へ持ち越してしまうという可能性があったからだ。それで、次に持ち越してしまう場合を考え、華ノ舞いを使わないようにしていたのだ。

...まあ、それは全然できなかったのだけどね.....。

 

 

いや、それよりもどうして華ノ舞いを使わなかったのかだよね....。

それは単純に相手の出方を見ているだけである。だって、彼女の情報はあまりないのだから。

 

 

今までは原作の情報で事前にどんな血鬼術を使うとかどんな戦いをするのかというのを知っていた。

だが、今回はそれができない。上弦の伍である彼女は転生者であり、原作には登場していないからその知識は使えない。

また、彼女は上弦の鬼になったばかりで現在の情報が何もない。

いや、おそらく彼女の存在に気づいているのが本当に私だけなんだと思う。

そのため、今までの上弦の鬼とは別の意味で難しい相手だということだ。他の上弦の鬼は原作や前回で情報があり、事前に対策ができたが、彼女相手にはそれが不可能だということだ。

 

 

唯一、情報となりそうなのは炭治郎達の記憶やその認識を変えたという血鬼術と思われるものだ。それを考えると、戦闘向きではない血鬼術かなと思う。

だが、その血鬼術だけで上弦の鬼になれるかと言われると、それは難しいのではないかとも思っている。彼女の使う血鬼術はおそらく記憶や認識する力を操る以外のこともできるのではないかと考えているのだ。

あるいは、記憶などを操れるのは副産物であり、本来の血鬼術とはまた別のものではないかとも考えている。

 

どちらなのか、それともどちらも外れなのかは分からないが、彼女の血鬼術に関してはこの場で情報を集める必要がある。それが分かるまで、相手に自分の手札を全て見せるわけにはいかない。

 

 

情報は力になる。この世界に来てから、そういった情報や知識がどれだけ重要なのかを実感した。この戦いは今までのようにはいかない。

彼女の動きを一瞬でも見過ごさないようによく見て、彼女と戦わないと......。

 

 

上弦の伍の彼女がどのくらい強いのかということも血鬼術についても知らないのだから、何の情報もなしに戦わないといけないということだ。彼女は上弦の伍になれる実力を持っている。普通に戦って勝てる相手ではない。

彼女の動きをしっかり見て、その動きを予測しないと、勝つことは難しいだろう。

 

 

私は彼女の間合いに入った後すぐに距離をとり、彼女の動きを見た。彼女がすぐ反撃してくるのではないかと思い、彼女から少し離れて様子を見ようとした。

しかし、彼女は何も攻撃せずに避けただけだった。私はそんな彼女の様子を怪訝に思ったが、気持ちを切り替えてもう一度仕掛けることにした。

 

 

「雷の呼吸 参ノ型 聚蚊成雷」

 

 

私は水の呼吸で駄目ならと思い、次は先程よりも速く動ける雷の呼吸を使ってみた。だが、彼女はこれも避けただけで何もしてこなかった。

 

 

....おかしい。まさか.....彼女の使う血鬼術は本当に戦闘向きではないのかもしれないのかな...。

.....いや、まだそう判断するのは早い。もう少し様子を見ておかないと....。.......雷の呼吸の速さでも普通に避けられていた...。.....となると、今度はさっきよりも威力を上げれば........。

 

 

「ヒノカミ神楽 灼骨炎陽」

 

 

私はヒノカミ神楽で先程よりも早く、力強く刀を振った。しかし、この攻撃も彼女に避けられてしまった。私は再び彼女から距離をとり、彼女を警戒した。

 

 

私は少し焦った。一番体に合っている華ノ舞いじゃなくても、使っているのは呼吸だ。これまでの鍛練で私は華ノ舞い以外の呼吸も特訓していた。

それなのに、擦ることもなく、その攻撃はあっさり避けられた。そのことに危機感を感じた。全く攻撃を当てることができないとなると、何の策も浮かばない。

 

前にも言ったけど、私の戦い方は力に力でぶつかるような戦い方ではない。状況をこちら側へ優位に持っていき、さらに有利になるように考えて戦う。それが私の戦い方だ。

 

 

だけど、そういう戦い方でも自分にそれなりの力が必要だ。どんなに力が強くても、相手の攻撃する動きが見えなければ、相手が何処にいるのかも次にどう動くかも分からない。

相手の動きを予測できても、動きが速くなければ逆に殺されてしまう。有利な状況にするためにはその最低限のことができなければならない。

 

 

なので、これは非常にまずいことなのだ。彼女に何度刀を振っても当たらないというのは有利な状況に持っていけず、そうしているうちにこっちが殺されてしまうということだ。

何せ、何度も呼吸を使って戦い続けていれば体力が無くなる。さらに、鬼は疲れることがないため、疲労していくのは私だけだ。

 

 

相手が転生者かもしれないと思って、つい一人で来ちゃったけど、上弦の伍と戦うのは流石に無謀だったのかもしれない....。

 

それに、華ノ舞いや反復動作の習得には成功したけど、他は駄目だ。一応、透き通る世界に少し入ることはできたが、できる確率が低いので、あまり頼らない方がいいと考えている。赫刀の方はできなかった。

つまり、痣と呼吸のみで戦うということになる。

上弦の壱などを相手にするわけではないから、無理というわけではないと思っていたが.........やはり奥の手として、透き通る世界と赫刀が使えないのは痛手だった。

 

 

私は一人で来たことを少し後悔したが、それでも勝つと決めてここに来たのだから、負けるわけにはいかない。

例え力の差があり過ぎだとしても、どんな些細なことでも見過ごさないようにしないと.....。

 

ゲームや漫画とかだったら、これは諦めるしかないだろうなと思うが、実際にそれが自分の身に起きてしまうとなると、そう簡単に諦めようとは思わない。

いや、思えない。だって自分の命がかかっているし、貴女に殺される気はないと言っておきながら、結局負けるのは流石に嫌だからね。

とにかく、諦めるつもりは一切ない。絶対にここを生き延びないと....。

 

 

私は気を引き締めて刀を握り直した。他の呼吸が駄目なら、もう華ノ舞いを使うしかない。

一番体に合っている華ノ舞いも当たるかどうかは分からないけど...何もしないよりはマシだ。やってみるしかない。

 

 

「華ノ舞い 雷ノ花 梔子一閃 六重」

 

 

私は華ノ舞いを使って彼女の懐に入り、角度を変えながら連続で刀を振ってみることにした。水の呼吸などの呼吸を使った時は全く当たらなくても、一番体に合っている華ノ舞いをそれも連続で使った方が当たる確率は高くなるだろう。

 

それに、下手な鉄砲も数撃てば当たるとも言うからね。

下手でも数多く試みれば紛れ当たりで成功することもあるだろうということで、例えどんなに実力不足であっても、連続で攻撃し続けていればどれかが当たるのではないかと思い、そう行動してみることにした。

 

 

しかし、この華ノ舞いも彼女に避けられてしまった。だが、その時の彼女の様子に何か違和感を感じた。何だか少し彼女の姿がブレたというかなんというか......。....それと、刀を振った時に刃先に何かが僅かに当たったような気もしたような.....。

 

 

そう思いながら、私は一瞬だけ持っている日輪刀の刃先に視線を動かした。そして、それを見た時に少し驚きそうになったが、彼女の動きに警戒しないといけないので、すぐに彼女の方へ視線を戻し、先程見たものについて考えた。

 

 

.....もしかして、彼女の血鬼術って......。

....やってみようかな...。まだ見せるのは早いかもしれないけど、ちょうど良いものであるし、少し試すことにもなりそうだ。

 

 

「華ノ舞い 岩ノ花 野蘭咲き」

 

 

私は灰色に変わった刀を下に向けて振った。その刃の模様が鈴蘭になっている刀を高速で回転させた状態で、前に出て力強く踏み込み、上半身を捻りながら円を描く。それにより床が抉れ、私は空中に飛んだ。

 

 

この型は岩の呼吸が主とした呼吸が頭の中に浮かんだので、岩の呼吸を中心に他の呼吸が色々混ざっている呼吸なのかなと思う。

しかも、岩の呼吸が威力が凄そうな感じだった所為なのか、この型は私の使う型の中で最も威力が高いのだ。ただし、回転を重ねて力強く踏み込むなどの勢いを利用して威力を強いものにしている所為か、刀を振った後に何故か体が逆方向に自然と引っ張られ、反動の強さによっては吹き飛ばされることもある。

 

今回は下に向けて刀を振ったので、私の体は上に引っ張られ、そのまま上に跳ぶことになった。

 

 

この型もまた彼女に当たらなかった。いや、地面に向けて刀を振っている地点で察している人はいると思うが、私は当てるつもりなんてなかった。

私は元から彼女に当てる気なんてなく、ただ私の想像が合っているかを確かめたくてやったのだ。上に跳ぶことになったのも今は好都合だ。

 

 

宙に浮かんだ状態で私は下を見た。そこから見えたものは私の予想した通りのものだった。

 

 

「それが貴女の血鬼術ですか。

....まあ正確にいうと、その現象は貴女の使う血鬼術の一種なのでしょうけど」

「.....驚いたわ。まさかこれに気づくなんて....」

 

 

それを見た私は確信し、彼女に声をかけた。彼女は私の視線の先を確認し、何を察したのかに気づいたらしい。

 

 

彼女の想像通り、それは目の前にある抉れた地面がそれを証明してくれた。地面に向けて振ったその斬撃が地面を割り、その亀裂は彼女の方へ行くが、途中で何回か曲がり、彼女の横を通り過ぎているように見えるのだろう。

だが、上からだと最初から彼女のいる方とは別の方向へ真っ直ぐに亀裂が走っている。そして、この現象を.....私は知っている。

 

 

「これは...光の屈折ですね。まさか大正時代で科学の勉強をすることになるとは思いませんでしたよ」

 

 

そう。彼女に攻撃が全く当たらなかった原因はこの光の屈折を利用とした血鬼術なのだろう。

 

光の屈折とは、斜めに置かれたガラスを通して、物を見ると実際に置かれている位置からズレて見える現象である。

彼女はこの現象を上手い具合に利用した血鬼術を持ち、その血鬼術を使って相手の視覚などの感覚を惑わせていたのだと考えている。

 

 

私の時もおそらく光の屈折を上手く使い、私が彼女をいると認識した場所と本来いる場所に誤差が出るように見せ、私の攻撃が空振りになるように仕向けたのだろう。しかも、私が動き回っても分からないように広範囲に仕掛けていたようだ。

だが、真上はその範囲外だったらしく、こうして見ることができた。

それに、それでもがむしゃらに攻撃すれば当たるので、その場から少し動いて避けていたのだろう。それで、ますます攻撃を当てるのが難しかったのだと思う。私も刀に二、三本の髪の毛や糸くずがついていなかったら、気づけなかった。

 

 

彼女は私が光の屈折のことを話している間、何やら焦っているような、困惑したような顔をしていた。私は光の屈折のことをバレたのが予想外だったのかなと思ったが、それとはまた違った様子だった。私の言葉ではなく、別のものに反応している。

 

私は首を傾げ、どうしたのかなと思いながら彼女が何か言うのを待った。しばらくして、彼女は私に質問してきた。

 

 

「.......ねえ。貴女は何者なの?」

「何者かと言われましても、私は鬼殺隊に入っていない転生者ですよ」

「....なら、転生特典なのかしら?さっきから貴女に血鬼術をかけているのに、貴女は全く何も反応がなく、ピンピンしているじゃない!」

「えっ?」

 

 

私は彼女の質問にまた首を傾げながら答えると、彼女はそんなことを呟いた。私のその言葉に驚き、その場で固まってしまった。

少し経って正気に戻ったけど......それよりも気になることがいっぱいあった。一度整理しておかないと.....。

 

 

光の屈折と似たような効果がある血鬼術、これは当たっている筈だ。光の屈折を利用していることを否定していないので、この血鬼術に関しては私の予想通りだと思う。問題は彼女が言ったことだ。

 

転生特典。彼女はそう言っていた。

 

 

転生特典とは、転生とかの際にチートのような凄い能力を貰うことだ。こういうのって、大体は神様から貰っていたと思う。

少なくとも、私が読んでいたライトノベルではほとんどがそうだった。

 

 

私は動揺した。転生特典のことなんて忘れていたから。

そもそもあまり縁がなかったというか、私は自身の死因も覚えていないし、亡くなった時に神様と会ったのかすら分からない。ただ高校三年生の受験後からの記憶がないから、多分そのくらいの時に亡くなっているのだと思うけど......。

 

.....それよりも、彼女が転生特典って言ったのだから、彼女はその転生特典を持っている可能性がある。そうなると....少し厄介なことになるかもしれない。彼女が血鬼術の他に転生特典を持っていたら、私の想像以上に激しい戦いになりそうだ。何をしてくるのか分からないけど、気を抜かずに警戒していないと......。

 

 

次の問題は彼女が私に血鬼術をかけていたということだ。これにはやはり彼女の血鬼術が精神的な攻撃をするものなのかと思うと同時にこう思ってしまう。

 

 

『いつから血鬼術をかけていたのかな。私は全然平気ですけど』と。

 

 

嫌味ではないのですよ。本当に私は血鬼術をかけられていたという自覚が一切なかったのです。いや、前回のあの時の善逸達の様子から血鬼術の影響だという自覚がなさそうだったから、血鬼術に気がつくことができなかったということかもしれないけど...。......そんなことをされているなんて、全く気づけなかった。体に特に異常はなかったし。

 

それと、さっきの言葉は口に出していない。火に油を注ぐ結果にしかならないからね。

 

 

あと、彼女とその血鬼術のことをもう少し考えてみよう。何も変化がないから大丈夫だし、本当に血鬼術がかかったのかと疑問に思うけど、彼女の困惑した様子から嘘ではなさそうだ。

また、これによって彼女の血鬼術が精神的な攻撃をするものであることは確定した。そして、おそらくそれは記憶や五感などをおかしくしたり、認識にズレを出したりすることができるのだと思う。

 

前回のあの時の件や今回の光の屈折から、この可能性が高いと私は考えている。もしかしたら違うのかもしれないが、今はこれを仮定にして行動していこう。違っていたらまた考え直せばいいから......。

 

 

まあ、彼女の血鬼術に関してはこのくらいにしよう。

少し考えておかないといけないのは私のこともだよね。血鬼術が効かなかったのは良いことではあるが、その原因が分かっていないと次も効かないとは限らない。だって、私が血鬼術のことに気づかなかったのは効かなかったからというのもあるが、それ以上に彼女は血鬼術を誰にも気づかれずにそれを行うことができるのだ。つまり、私は血鬼術に効いていたら危なかったということだ。

 

 

彼女は前回で誰にも気づかれず、行動できたうえに鬼殺隊へ血鬼術をかけることができた。そのことからも分かるが、彼女の血鬼術は非常に厄介すぎる。それはなんとなく分かっていたが、ここまでとは思わなかった。目の前にいたのに、その行動をしたことに気づけなかった。

 

目の前の敵があまりに想像以上に強敵すぎて、心が折れそうになるが、とにかくできることをしよう。また次の血鬼術が襲ってきてもそれをもう一度防げるかどうか分からない。何も見過ごさないようにしながら自分の身を守らないと。

 

 

....でも、彼女の使う血鬼術は本当に対策しづらいし、精神的な攻撃をするような血鬼術なのではないかとは思っても確証はないから、手探りでいかなければならなかった。

そんな私がどうやって彼女の血鬼術を防ぐというのだろう。...いや、何故か防げちゃっているけど......。

 

 

......そういえば、前にもこれと似たようなことがあった気が.....。

....確か、無限列車の時にも切符を使った血鬼術で眠ったは眠ったけど、すぐに解けていたし、その後も列車の上で魘夢と戦った時も何度も血鬼術をかけられていたけど、私は眠らずに平気だったし...。

.....これって、何か関係があるのかな?まさか、これが彼女の言う転生特典だったりして......。

....いや、まだ決まったわけではないし、私が転生特典を持っているのかどうかも微妙だ。確信がないのに、あると思い込む方が危険だ。

 

 

それに、もし転生特典だとしたら言いたいことがある。だって、それが転生特典なら鬼と遭遇することが前提だよね。血鬼術が効かないのって、鬼と戦うことが目的なのと言いたい。鬼と遭遇した場合を考えてとか、もしもの時の自衛とかの可能性もあるけど、それなら鬼と全く出会わないという転生特典の方が良い。

 

 

.....まあ、転生特典に関してはあまり深く考えない方が良いのかもしれない。彼女の転生特典のことは考える必要があるけど、私はそもそも転生特典があるか分からないからね。気になるけど、それは後で考えた方が良さそうだ。

 

今はこれを深く考えてしまうと、しばらくは戻って来れないような気がする....。戦いはまだ終わってないから...彼女の転生特典のことはこのまま探りつつ、気をつけて戦おう。

 

 

転生特典のことは少し不安だけど、何があってもこの戦いに勝たないといけない。何度も言っているが、そう言い聞かせておかないとね。自分に何度も言い聞かせて、それを忘れずに立ち上がれるように......。

 

 

「転生特典のことはまだよく分かりませんが、光の屈折のことは分かりましたので、今度はこちらから行きますよ」

「...フフッ。幾らこの仕掛けが分かったからと言っても、アタシに勝てるわけがないわよ。.....さて、楽しい理科の実験でもしましょうね」

「そうですね。受けて立ちます!」

 

 

私は気合いを入れるように大きな声を出した。ここからが本番なのだから、気を引き締めないといけないからね。

 

光の屈折を利用したことが分かっても、彼女に勝てるかどうかは分からないし、私の転生特典のことはともかく、彼女の転生特典のことは考えておかないとね。

彼女はまだ余裕があるみたいだし、ここで逃げるという選択肢はないのだから、受けて立たないと!

 

 

「華ノ舞い 花ノ束 桜花しぐれ」

 

 

私は光の屈折の対策のため、広範囲に移動しながら刀を振った。しかし、それが彼女に当たることはなかった。それでも、私は刀を振りながら彼女に近づき、彼女の行動を観察していて気がついた。

 

光の屈折の時とは動きが違うのだ。私が広範囲で動き回り、光の屈折のことを考えながらも刀を振るので、彼女もあちこち動き回り、跳び回ることで回避している。それに、私が嫌な予感や殺気を感じた方に刀を振ると、何かに当たったような音と感覚がした。これにより、彼女の血鬼術は認識を誤魔化すだけでなく、攻撃手段にも使えるというのが分かった。

 

 

ただ攻撃手段が分かったのは良かったが、一つ問題があった。それは彼女の血鬼術でどう攻撃しているのかというのが分からないのだ。

 

どういうことかというと、彼女が攻撃してきた血鬼術の形が見えていないのだ。音と感覚があるが、その血鬼術は見えていない。

まるで幽霊や怪奇現象のようだと思うが、私にはなんとなく分かった。光の屈折を利用していたのだから、おそらく他の現象も利用しているのだろう。

彼女の血鬼術の仮定から可能であり、何も見えなくなるものというと、私は全反射を利用しているのではと考えている。

 

全反射とは、光の入射角がある角度になると、全ての光が反射される現象のことである。全反射したものはその角度から動かない限り見ることはできない。

それなら見える位置に動いた方が良いのではとも思ったが、光の屈折の時はあちこち動いていて、真上から見るまで分からなかったし、今もどんなに動いてもそれが見えないとなると、そこは血鬼術で何かをしていると考えてもいい。先程見えた真上も既に対策されているだろう。

それに、何でもありな鬼の血鬼術なら何が起きてもおかしくない。

 

 

「華ノ舞い 水ノ花 水仙流舞」

 

 

私は華ノ舞いで彼女の血鬼術を受け流しつつ、刀を振っていた。彼女の見えない血鬼術は勘や殺気を感じ取ることで避けていくしかない。

 

でも、このままだと体力が危ないと思って、状況を変えるために彼女へ近づこうとするが、彼女の警戒心が強くてすぐに距離をとられる。そもそもこの型は攻撃や防御、スピードとかに特化しているとかではない。この型の特徴は主に回避や変幻自在な動きなのだ。

彼女の血鬼術を警戒してこの型を使ったのだが、どうやらその選択は正しかったようだ。

彼女の見えない血鬼術に対して、受け流せるこの型は相性が良い。

 

 

彼女の血鬼術を受け流しながら、私は彼女の行動を見た。

 

 

.....やっぱり彼女の使う血鬼術は遠距離での攻撃が得意なのだろう。そうでなければここまで距離を取ろうとはしないはずだ。頸を斬られるのを恐れて、私から離れているという可能性もなくはないけど、それは低いと考えている。

 

何故そんな風に考えたのかって?...それは........。

 

 

そこまで考えた時、私はとんでもなく嫌な予感がした。それと同時に、強い殺気も感じた。だが、振り向いてもそこには何もなかった。いや、見えなかった。

 

私はただ殺気の感じる方に向けて刀を振った。

 

 

「華ノ舞い 炎ノ花 紅梅うねり渦」

 

 

殺気の強さから私は防御に徹することにし、彼女の見えない血鬼術が止むまで刀を振り続けた。彼女の血鬼術は何度も私を襲ってきた。

 

このまま防ぎ続けるのは駄目ね。いつか押し切られる。それならその前にこちらが押し返さないと。

その手立ては.....一応それができそうな型はある。ただ、成功するかどうかは微妙だ。まだ実戦に使っていないから、押し返すことができる程度の勢いがあるかは不明だが、この状況をなんとかするためにもやってみないと。

 

 

「華ノ舞い 風ノ花 衝羽根旋風」

 

 

私は刀全体の色が緑色に変わった日輪刀を振った。刃の模様が衝羽根朝顔に変わった刀を高速で回転させて旋風を巻き起こした状態で、正面に渦巻くような円を描きながら広範囲を弾き飛ばし、突進していった。

ちなみに、刃の模様の衝羽根朝顔はペチュニアとも言うそうだ。

 

 

これも野蘭咲きの時と同様に風ノ花と緑色で分かると思うが、この型は風の呼吸を基本としている型である。風の呼吸は不死川さんの柱稽古で見ていたので、それを見て覚えたのである。

さらにこの型は霞の呼吸や獣の呼吸も合わさっている。風の呼吸とその派生で相性が良かったのか知らないが、その組み合わせでできた型は全身を強い風が包んでいるようなエフェクトであり、相手に近づいて弾き飛ばすような感じだ。

この型も義勇さんの稽古の時に完成させた型である。今回の場合にはとても便利な型だ。

 

 

この型を使った瞬間、刀に何か当たり、それを弾き飛ばしたような感覚がした。私はそれが血鬼術だと思い、その隙に彼女との距離を詰めた。

 

 

彼女がまた血鬼術を使う前に、懐に入ることができれば、状況は好転できる。最も血鬼術を弾いてもすぐに元に戻ったり、例え見えている彼女が偽者であったりしても大丈夫だ。

 

連続でやれば押し返せるでしょう。

 

 

「華ノ舞い 紅ノ葉 陽日紅葉」

 

 

私は連撃で彼女を追い詰めようとする。彼女は焦ったような顔をしながら腕を振った。刀はまた見えない何かに当たったが、それでも勢いをつけた状態で彼女との距離を一気に詰める。彼女は手を大きく振り上げた。

 

 

その時、

 

 

「お、丁度いいくらいの鬼がいるじゃねえか。こんな女の餓鬼の鬼なら俺でも殺れるぜ」

「えっ?」

「はっ?」

 

 

突然襖が開いてそんな声が聞こえた。私と彼女はそれに驚き、その声が聞こえた方を見た。襖を開けて部屋に入ってきたのはサイコロステーキ先輩だった。

 

 

いや、何で!?何でここにサイコロステーキ先輩が来ているの!

しかも、このタイミングで現れるなんて....。......他のところに行っても、サイコロステーキ先輩は殺されていそうなので、ここだったのはある意味救いなのかな?上弦の壱から肆のところに行ったら即殺されそうだし...。

....一方で、彼女の方は.........。

 

 

「えっ?えっ!えっ!?サイコロステーキ先輩!!?嘘!こんなところで会えるなんて!」

 

 

なんか上弦の伍である彼女は凄く嬉しそうにしている。サイコロステーキ先輩に丁度いいくらいの鬼とか俺でも殺れるとか言われている張本人なのに.....全く気にしていないな。

それより、サイコロステーキ先輩に会えて、少し喜んでいない?

 

 

先程まで緊迫した雰囲気だったので、この変化に少し戸惑う。というか、サイコロステーキ先輩って最終決戦に参加していたのですね。柱稽古で見かけなかったから、最終決戦に出ないのかと思っていたけど、しっかり参加しているのですね。

ただ単にタイミングが合わなかっただけなのかな?

 

 

「お前はひっこんでろ、俺は安全に出世したいんだよ。 出世すりゃあ上から支給される金も多くなるからな」

 

 

私と彼女がサイコロステーキ先輩の登場に驚いている間に、サイコロステーキ先輩はそんなことを言い出した。私は戦いの最中であろうが、頭を抱えたくなった。

 

 

いや、この人の出世欲は一体何なの!?それともお金がそんなに好きなの!?

失礼かもしれないけど、この最終決戦でもその目的がブレていないって凄いよ!

 

それと、サイコロステーキ先輩!確かに上弦の伍の頸を斬れたら出世すると思うけど、止めた方がいいですよ!彼女、サイコロステーキ先輩が勝てる相手とはとても思えませんよ!本当に失礼かもしれませんが!

 

 

「他の隊がいなくなっちまって、どうするかと思ってたが、まあいい。とりあえず俺はそこの鬼一匹を倒してここから出るぜ」

 

 

つまり、サイコロステーキ先輩は仲間の隊士達と逸れたのね。

まあ、この無限城は鳴女によって管理されていて、原作でも鳴女の血鬼術で炭治郎達を分断しようとしていたから、何人かの隊士が仲間の隊士達と離れることになっても可笑しくない。

 

ただ、なんでサイコロステーキ先輩がその逸れた隊士になって、私と彼女のところに来るのかな!

本当にどうして!!

 

 

もうサイコロステーキ先輩の言葉にツッコミしか思い浮かばなかった。でも、このままサイコロステーキ先輩が普通に彼女の方へ向かっても返り討ちに合うだけだよね。

とにかく止めないと....。

 

 

「すみませんが、相手は上弦の伍ですよ!いくら成り立ての上弦の鬼だからとはいえ、そんな...「うるせえ!邪魔するな!」ちょっと!」

 

 

私がサイコロステーキ先輩に止めようと声をかけたが、サイコロステーキ先輩は私の忠告を聞かずに彼女の方へ行ってしまった。

 

少しは人の言うことを聞いてくださいよ!全く!

 

 

私は心の中でそう叫びながらもサイコロステーキ先輩のことをほっとけなかったので、私はサイコロステーキ先輩を追いかけた。

 

サイコロステーキ先輩が彼女に近づいた瞬間、周りから殺気を感じた。私はそれが彼女の血鬼術であることを気づき、すぐにサイコロステーキ先輩の襟を掴んで引っ張り、呼吸を使いながら刀を振った。

何かに当たった感覚が刀から伝わったので、とりあえず血鬼術を防ぎ切ったと思いたい。

 

 

「何しやがる!」

「貴方こそ何をしているのですか!そんな目の前に出たら危ないですよ!血鬼術を警戒しないで不用心に近づいたら....」

「だから、うるせえぞ!そんなに手柄が欲しいなら...「私はそもそも鬼殺隊に入っていないので、手柄も何も関係ありませんし、興味すらないですよ!いい加減、話を聞いてください!」」

 

 

サイコロステーキ先輩が暴れ出し、私はサイコロステーキ先輩に忠告しようとしたが、サイコロステーキ先輩は全く聞く耳を持たず、自分と同じかと思っているようで、私は強く言い返した。

 

というか、そんなことを考えている場合じゃないでしょう!

 

 

それよりも、サイコロステーキ先輩にむやみに鬼へ近づかないようにと言わないと。

サイコロステーキ先輩がこの忠告を聞いてくれないと、また同じことをしそうだからね。他の場所に行けば突っ込んで瞬殺されるだろうから、なんとかここで鬼を見つけたら、見た目だけで判断して飛び出そうとするのを自重させないと.....。

 

私はそんなことを考えて口を開いたのだが........。

 

 

 

 

ブスッ

 

 

鈍い音は突然聞こえてきた。

 

本当に急で、ブスッという音がはっきり聞こえて......それが私の腹から聞こえてきて.....えっ。

 

私はおそるおそる自分の腹に視線を向けた。そんな筈はないと思いたかった。だって、腹に違和感があるだけで.......。

 

 

そんなことを考えて現実逃避していたが、現実はそう甘くなかった。私の視線には自分の腹を尖った氷が貫いていた。

 

いつの間に血鬼術が.....。....さっき防ぎ切ったと思ったのに.......。

 

 

そう思いながら貫いた氷が伸びてきた方向を見て、すぐにこの血鬼術が何処から来たか察した。

 

 

血鬼術の氷は斜め下から私を貫いている。つまり、この血鬼術は下からゆっくり私に近づき、私の隙をついて氷が勢いよく突出するようになっていたのだ。私は刀を振りながら周りを警戒していたが、サイコロステーキ先輩への説得に意識を向けていて、下への注意を怠った。刀を振っても、下なら射程圏内にはぎりぎり入らない。

 

やられたね....。

 

 

「........うゔっ」

 

 

ボタッ...

 

 

 

私が貫いた氷を確認しながらその思った瞬間、私の腹から鋭い痛みを感じた。それと同時に、腹から血が流れ、それは床に零れ落ち、畳に染み込んでいった。その様子を見ているうちに、足に力が入らなくなってきた。

しばらくすると、私の腹に刺さっていた氷は私から抜かれ、塞いでいたものがなくなった腹からさらに血が流れてきた。

私は立っていられなくなり、膝をついて倒れてしまった。

 

ああ、このままだとマズいなと思いながら呼吸で止血を試みるが、流石に貫かれた腹から流れる血を止めることができない。持っていた手拭いで圧迫しても駄目だ。それでも血は止まらない。

 

 

だが、私はこんな危険な状態でも頭の中は冷静だった。血が広がって畳に染み込む様を見ながら、彼女の血鬼術のことを考えた。

 

彼女の使ったあの血鬼術。あれは間違いなく氷だった。だが、それではあの認識阻害が何なのかという話になる。あれを血鬼術だと仮定して、私はあれこれ予測しながら行動していた。こっちが本当の血鬼術だとなると、その前提が崩れる。それなら考え方を変えて、彼女の話をもう一度思い返そう。

 

 

....血鬼術.....光の屈折...全反射......認識阻害と転生特典.....見えない血鬼術..........!?

 

 

そこで私はある推測に辿り着き、無理やり顔を上げて彼女のことを見た。そんな私の様子を見て、彼女は笑った。まるで正解だと言っているかのような、もう遅いよとでも言っているかのような顔をしていた。

 

 

「まさか....これって......」

「ヒッ!」

 

 

彼女の血鬼術によって腹を貫かれて倒れた私を見て、動けなかったサイコロステーキ先輩は私が顔を上げたことで我に返った様子で顔を真っ青にしたまま部屋から出ていった。私を置き去りにして.....。

 

...別にいいけどね。彼女は私だけに用があるみたいだし、私を連れて逃げることになるのは大変だろうから。

私を抱えた状態でサイコロステーキ先輩が逃げ切れるかどうかというと、それは無理だろうし。彼女、新米とはいえ上弦の伍だから。

 

 

.......でもできれば、もっと早くここから逃げてほしかったよ。それと、今度から鬼の瞳を確認してほしい。相手は上弦の鬼なのに、見た目だけで弱いと判断していたらすぐに死ぬからね。というか、気配とかであの鬼は強いと気づいてほしい。炭治郎達みたいな鋭い五感がなくても、鬼狩りをしているなら強い鬼の気配は分かるでしょう。

 

だから、原作で累にサイコロステーキにされるのですよ!柱稽古で強くなったからと言って、調子に乗らないでほしかったです!それから...もうここまで来たのだから、絶対に生き残ってくださいよ!!

 

 

「あらあら。置いていかれちゃったわね。それにしても...まさか彼も生きていたなんて.....。....まあ、彼のあのセリフを生で聞けたのは嬉しかったわ」

「言っておきますけど...私は助けてませんからね。禰豆子が山を丸ごと焼いてしまったので、あの人は今も生きているのです」

 

 

彼女は逃げていくサイコロステーキ先輩の背中を眺めた後、私の方に視線を向けた。その目は間違いなく救済したのかと聞いているかのようだった。だが、サイコロステーキ先輩の生存は私も予想外で驚いたし、私は何もやっていないので、そこは訂正した。

 

 

本当に私はサイコロステーキ先輩を救済していない。救済したのは禰豆子。頑張って山を燃やしたのも禰豆子だ。

....まあ、できれば山を燃やすのは頑張ってほしくなかったけど.....。

 

 

 

「そうなんだ....。...でも、それで貴女はピンチになってるじゃない。まあ、アタシはサイコロステーキ先輩のあのセリフが聞けて良かったわ」

「この怪我に関しては......私も悪いと思っていますよ。光の屈折や全反射とかが出てきて、勝手にそう思い込んでいたのだから、そこは私が悪いと思っているよ」

「フフッ。何?強がりなの?」

 

 

彼女の言葉に対して、私はそう言った。私の言葉を聞いて彼女は笑った。強がりのように聞こえるが、これは私の正直な気持ちだ。

 

まあ、強がりと言ったら強がりなのは確かなんだよね...。

....でも、私の思い込みがこの怪我を招いたのは事実だから、サイコロステーキ先輩の所為にしてはならない。

彼女の血鬼術のことがそれだと確定したわけではないのだから、完全にこうなると思って行動しちゃ駄目だった。今までの大きな戦いでは事前に知っていたし、その情報が間違いなく当たっているというのを確信していたため、対策が取りやすかった。

しかし、今回は確実に正しいという情報なんてなく、これまでの戦いと同じように考えてはいけなかった。

 

 

考えが甘かった.....。...でも、あの血鬼術を受けて、彼女の血鬼術やら転生特典やらの正体がうっすら見えてきたと思う.....。

 

 

「....貴女の血鬼術は認識を操作するだけではない。他にもあった。貴女には直接的に攻撃できる血鬼術も使えた。

だけど、その血鬼術は習得したばかりのものであり、まだ調整中という段階だったのでしょう。そうでなければ刀鍛冶の里の時に貴女が童磨に頼む必要はありませんからね。

あの氷を突出させるような血鬼術は上弦の鬼になってからできるようになったことで、今もまだ完全には使いこなしていない。

それが使えるなら、もっと前にこの血鬼術を使う機会があったはず。あのタイミングでこの血鬼術を使うということは、その氷の血鬼術を使うのには時間がかかるということ...かな.....」

 

 

私は自分を刺した血鬼術を含めて今までの彼女の行動からその予想を話した。

 

呼吸で止血をしていても、話していることで腹から血が流れてきている。だが、私は話すのを止めることができなかった。止血に集中したくても、彼女が血鬼術で攻撃してきたらそれどころではなくなる。彼女の血鬼術は全反射の所為か見えない。この怪我でその攻撃を避けられるかというと難しいだろう。

それなら、少しでも体を休めておいた方がいい。

 

 

「アタシはね。この世界に来て、鬼になったすぐの時にはもう血鬼術が使えたのよ。鬼が血鬼術を使えるようになるには人間を食べる必要があるし、人を食べない場合は禰豆子や兪史郎のように血鬼術が使えるまで時間がかかるはずなのよ。

それなのに、アタシは鬼になって間もない頃に既に血鬼術が使えていたわ。アタシはそれを疑問に思っていたけど、すぐにどういうことか分かったわ。アタシのこの血鬼術は転生特典なんだって。それが人の認識を変えたり、光の屈折や全反射のように視覚を惑わせたりすることができるあの血鬼術よ。

せっかくだから、見せてあげるわ」

 

 

彼女は自身の血鬼術、いや転生特典のことを話しながら手を横に出した。彼女が見せると言った瞬間、彼女の周りを囲むように水が出てきた。しかも、その水は彼女が腕を動かすと、身に纏う衣のような感じに思いのままに動かしていた。

 

 

それを見て、私は色々察した。光の屈折や全反射はあの水の衣でできたことだったのだろう。光の屈折や全反射はガラスや水中で可能だ。彼女はきっと自身を守る盾のように周りにあったため、彼女は戦っている最中にずっと光の屈折を起こすことができていたのだ。全反射に関しても攻撃をあの水に包むようにすれば見えなくなる。血鬼術の水も彼女の認識阻害の力があればそれを隠すことは可能だ。

あの氷の血鬼術も水の温度を操れるというのなら、水を氷に変えることは可能だ。

 

 

「.....腹を貫かれているし、貴女はもう助からないわね。でも、同じ転生者のよしみとして、特別に教えてあげる。アタシの血鬼術はこういう水を操るものよ。一度目の時は血鬼術を使えなかったけど、今回は血鬼術を使えるように頑張ったから、この通りに使えるのよ」

「....やっぱり、認識を操作できた方は転生特典であって、私の腹を刺して攻撃してきた方が血鬼術だったということ、だね。...そして、光の屈折や全反射はこの二つを合わせてできたもの....」

「ご明察。その通りよ」

 

 

血鬼術なら炭治郎達が分からない筈がない。あの時、私に言われるまで炭治郎達が血鬼術の所為だと考えなかったのは鬼が全員消えたからではない。おそらく血鬼術の匂いも音も気配も感じなかったから、血鬼術のことを考えていなかった。

前回のあの時の件があまりに衝撃だったのか、それとも思い出さないようにしていたのかは分からないが、あの時に起こったことは血鬼術ではなかったという判断を無意識にしていたのかもしれない。

 

 

前回のあの時に彼女が炭治郎達に使った力、それが転生特典だったんだ。だから、炭治郎達はあの時に起きたことを血鬼術と思わなかったし、外部からやられたことだとも思わなかった。私は少し勘違いをしていた。彼女の転生特典は血鬼術だったのだ。私は無意識に血鬼術とは別のものだと思っていた。彼女は元々持っていた転生特典に加え、その後に鬼になり、血鬼術を使えるようになったと。

 

 

だけど、それは間違いだった。一度目の時の彼女はずっと転生特典しか使えなかったのだ。私はここが漫画とかそういう風に考えないようにしようと思っていたが、転生系の小説の中には自分が特別というようなことが起きた。だから、私は彼女が転生特典を持った状態で血鬼術も使えていたと思い込んでいた。特に、転生特典という言葉を彼女から聞いてから、そう強く思うようになった。

 

それが今回の油断に繋がった。サイコロステーキ先輩を責める理由にならない。まさかここでまた会えるとは思ってもみなかったから....。

 

 

「貴女を貫いたのは何だと思う?て、もうそろそろ限界よね。貴女がこれを知ってるかどうか、アタシには分からないけど......御神渡りって知っている?」

 

 

彼女は私に質問しておきながら答えることはできないだろうと確信していた。実際に私はもう話せそうもない状況だったけどね。体の感覚がどんどん感じられなくなっていき、意識が遠のいていく。口もまともに動かせそうにないので、彼女の言う通り話すことはできないだろう。

でも、彼女の言ったことが何なのか聞き取れたし、内容も理解できた。よし、耳と脳は正常なようだ。

 

 

御神渡り......ああ、あれか。

 

御神渡りとは、確か湖の上に不思議と盛り上がった氷の山脈が発生する自然現象のことだったはず。湖が全面凍結し、昼と夜の温度変化により氷が収縮したり膨張したりして、湖面に収まらなくなった氷が表面を割って突出するために、山脈のように盛り上がると何かのテレビ番組でやっていた。

条件によっては御神渡りを見れない年があるとか言っていたような....。

...いや、あの神秘的な光景からよくこの血鬼術に辿り着きましたね。

私はそこに驚きますよ。

 

 

まあ、それはさておき彼女の血鬼術は水を操る。氷もあることから、おそらく彼女は血鬼術の水の温度を変え、収縮させたり膨張させたりして突出する氷の大きさを調整し、それが私の体に届くように操作していたのだろう。ご丁寧にその氷の先を鋭利にしているし.....。

...つまり、彼女は水の温度も自由に操作できるということみたい。

....でもね........。

 

 

私は手の平に視線を向けた。目の前が少しボヤけていたが、かろうじて赤色が見えた。きっと、止血しようと傷口を押さえていた手は真っ赤になっているのだろう。もうかなりの量の血が流れた。体も視線を動かすのがやっとで、もう痛みも何も感じなくなった。意識もぼんやりし始めてきた。

 

ああ、このままだと死んじゃうかもな...。

 

 

私は他人事のようにそう思った。けど、まだやらないといけないことがあると思い出し、なんとか必死に目を開けて呼吸でもう一度止血を試みる。

 

例え止血ができても、血が流れすぎているから貧血になるだろう。しかし、それでも何かしないといけないと.....。少しでも生きられる可能性にかけないと....。

 

 

私がそんな風に少しでも時間を延ばそうと色々していると.......突然体が浮いたような感覚がした。

 

 

「........へ.....え....?」

 

 

私はそれに驚いたが、体は全然動かず状況が全く分からなかった。私は最初大量出血による浮遊感のある眩暈なのかなと思ったが、彼女の声が聞こえて違うのだということに気づいた。

 

 

「このタイミングで鳴女が殺られたのね....。...運がないわ」

 

 

彼女のその言葉で私はこの状況が眩暈ではなく、鳴女や鬼舞辻無惨、鬼殺隊の行動によるものだということを察した。

 

 

原作では無限城で鳴女は兪史郎さんに脳を乗っ取られ、鬼舞辻無惨と兪史郎さんは鳴女の支配権を取り合う。だが、無惨は鳴女の支配権を奪われて無限城を乗っ取られるよりも鳴女を殺した方がいいと考え、鳴女の頭部を破壊してしまう。

それにより、無限城は崩壊して兪史郎さんが鳴女の細胞を操って鬼殺隊を全員無限城の外に出し、鬼舞辻無惨も一緒に出たことから戦いの舞台は地上へと移る。

 

 

そういう感じだったかな....。つまり、今は鳴女が無惨の手によって殺され、無限城が崩壊するので全員外に出されたというところかな。

......うん。確かに運が悪い。

 

 

どういうことかって?外に出されたということは、今の私は空中にいるのです。浮遊感どころではなく、実際に宙に浮いているのですよ!

つまり、しっかり着地しないと怪我をするということである。

 

だが、私は腹から血を出して体が上手く動かせない状況だ。そんな状態で着地することができるかというと、できるわけがないのですね。

というか、下に瓦礫やら何かがないと墜落死するかも....。

いや、それ以前に出血多量で亡くなるのが先なのかな.....。...さっきまでわざと明るく考えていたけど、あれは現実逃避だし....もう意識が持たないし.......。

 

 

 

..........ああ。でも.......

 

 

まだ死にたくない...。....こんなところで諦めたくない.....なあ.......。

 

 

 

 

 






華ノ舞い 

岩ノ花 野蘭咲き

刀を高速で回転させた状態で足を前に出し、力強く踏み込み、上半身を捻りながら円を描くように振る。
ただし、その反動がある。



風ノ花 衝羽根旋風

刀を高速で回転させて旋風を巻き起こし、その状態で正面に渦巻くような円を描きながら広範囲を弾き飛ばし、突進していく斬撃である。野蘭咲きと比べたら威力が小さいが、全体的に高い威力ではある。



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笹の葉の少女はけじめをつけたい 後編

『.......彩花』

 

 

その声が聞こえたと同時に、私は目を覚ました。だけど、頭がぼーっとする。私はぼんやりとしたまま辺りを見渡したが、何処も彼処も真っ白で、人らしき姿すら見当たらない。

そんな場所に私は一人で立っていた。

 

 

......ここは?何処なの?何か声が聞こえた気がする。暖かくて、優しくて、なんだか包み込んでくれるような....。

.....それに、この声は...何処かで聞いたことがある気がする.......。

...でも、何処で......。

 

 

『彩花。彩花』

 

 

その声がはっきり聞こえた時、私の頭の中にあったモヤが消え、それまでのことを思い出した。

 

そうだ。思い出した!私、確か腹を氷の塊で貫かれて.....。....いやそれも大事だけど、この声は......!

 

 

思い出したその瞬間、まるで霧が晴れるかのように、一面真っ白だった空間が消え、たくさんの草木に囲まれていたところに私はいた。

だが、この場所は道らしき道がなく、何処かの山奥にいるようだった。

 

 

ここって、もしかして....!

 

 

でも、なんとなくここが何処なのかは分かった。それと同時に、私は無意識に走り出していた。草をかき分けて真っ直ぐに進んでいき、やがてある家の前に辿り着いた。

 

 

「やっぱり。ここ、私の家だ」

 

 

目の前の家を見て、私はそう呟いた。

そう。見覚えのあるこの場所は私が昔住んでいた山だ。となると.......。

 

 

「ここは夢の中なのかな?でも、私は腹を貫かれていたし.......。....それなら死後の世界とかになるのかな.....」

 

 

私はその場で夢を見ているだけなのか死んでしまっているのかを考え込んでしまい、しばらく家の前で立ち続けていた。

すると、家の扉がゆっくり動き出し、私は考えるのを一度止めて警戒した。私が生きているのか死んでいるのか分からないけど、ここに私以外に誰かがいるとしたら、何者なのか分からない。

 

 

私は開こうとする扉に視線を向けた。無意識に肩へ力が入っていた。...だが、

 

 

「....えっ?

 

 

 

                ......お母さん?」

 

 

扉を開けた人物を見て、私はその場で固まってしまった。目の前にいるのは既に亡くなったはずの私の母親だった。

 

もう何年も前に亡くなったお母さんが私の目の前で笑っている。生きていた頃のように微笑んでいる。

...なんだか視界が少しボヤけているような....。

 

 

『彩花』

「...ぁ.....っあ....お、お母さん........」

『おかあさーん!』

 

 

私の名前を呼ぶ母親を見て、私は泣きそうになりながらも不安定な足元でお母さんに近づこうとした時、後ろから幼い声が聞こえてきた。その声を聞き、私は立ち止まってその声が聞こえた方を向いて目を見開いた。

聞き覚えのある声だと思っていたが、誰なのか全く心当たりがなかった。だが、その声の人物を見て驚いた。それと同時に色々と察した。

 

 

その声の人物は幼い頃の私だ。桃色の着物を着ていて、まだ赤色の紐で髪を結んでないので、肩につきそうなくらいの長さの髪が下ろされた状態で、風に吹かれて揺れていた。笹の葉の羽織も身につけていない。いや、身につけていないのは当たり前だ。だって、その羽織は目の前の母親が着ているのだから。

 

 

『彩花。もうそろそろお昼ごはんの時間なのに、なかなか帰らないから心配したのよ』

『ごめんなさい。でも、こんなにたくさん薬草を見つけたんだよ。凄いでしょ?』

『あらあら。こんなにいっぱいも...何処で見つけたの?』

『うーんとねー.....』

 

 

私をすり抜け、小さい私はお母さんに抱きついていた。どうやら小さい私とお母さんには私の姿は見えていないようだ。それと、おそらく声も聞こえていない。つまり、これは私の幻想か夢の中の出来事なのだろう。

母親は昼ご飯だと言いながら小さい私を家の中に入れた。小さい私は母親に今日の出来事を話していた。母親は小さい私の話に相槌を打ち、小さい私は嬉しそうに薬草を見つけた時のことを思い出しながら話していた。そこに父親も加わり、家族三人でご飯を食べ始めた。

 

 

私は目の前で行われている親子のやり取りを見て、これは過去の出来事の記憶だということに気がついた。昔の......まだ両親が生きていた時の記憶...。....両親が薬を作り、私がその手伝いで薬草を摘んで...両親の仕事を見ていた日々.....。

 

 

あの時の私はこの日々が永遠に続くように感じていた。鬼にさえ気をつければ大丈夫なんだと思っていた。だけど、それは間違いだった。

ここが「鬼滅の刃」の世界だと思っていた私はそれ以外が原因で亡くなると考えていなかった。現実では事故死や病死とかで人は突然亡くなる。特にここは大正時代であり、前世と比べて医療が発達していない。鬼に襲われる以外にも気をつけないといけないことがたくさんあったのに、私はそれを忘れていた。これは私の油断である。今でも深く反省している。

両親の死は私の考えの甘さを教えてくれた。

....こんな方法で教わりたくなかったけどね...。.....でも、気づくのが遅かった私が悪い....。

 

 

小さい私が目を輝かせながら両親の薬作りの様子を見ていて、私もその後ろから両親の姿を眺めていた。

両親の姿を見るのは久しぶりだからね。この時代は一応写真が存在しているのだが、身近な物ではないので、写真を撮ることはなく、両親の姿をもう一度見ることができない。両親の姿はもう記憶の中にしかいない。

私は両親の姿を目に焼きつけるように見ていた。

 

 

 

『......今日はここまでにしようか。彩花が薬草をいっぱい採ってきてくれたし、手伝ってもくれたからね。たくさん薬ができたよ』

『そうね。彩花、お疲れ様』

『うん!お疲れ様でした!』

 

 

しばらくして、両親が薬作りの仕事を終えた。小さい私は無邪気に喜び、座布団に座る父親に近寄った。幼い頃の私はほとんど見ているだけで、たまにこれは私がしていいと聞いて、仕事の手伝いをしていた。

だけど....小さい私が手伝いをしている時、両親は小さい私の様子を見て、心配そうな顔をしているので、こうして見ると逆に迷惑だったのではないかと思う。当時の私は両親が見ていることに気づいても、目が合えばにこっと笑っていて、喜んでいると思ってはりきっていたような......。

 

...今見てみると、本当に恥ずかしい.....。一番疲れているのは両親の方なのに....これからお母さんが料理するのだから手伝ったら......。

....いやいや、当時の私に刃物を持たせたり火のある場所に近づけたりする方が駄目か。

 

 

 

記憶に曖昧な部分があるけど、たぶんそれでお父さんの方に行ったのだった。

これからお母さんはご飯を作らないといけないので、構っていられないくらい忙しくなるのは分かっていた。だから、お父さんと話をしようと思った。疲れているところを悪いと思っていたけど、仕事をしているからとずっと待っていたので、少しの間でもいいから構ってほしくて仕方がなかったのだ。

.....それにしても....。

 

 

昔の私って、あんなに喜んでいたのか。まあ確かに、近所に同い年の子がいなくて、遊ぶ相手もいなかった私は両親が構ってくれることに喜んでいたからね。俯瞰的に見たことがなかったから、当時の私がどんな表情をしていたのか分からなかったけど...なんだか純粋な子どもみたいに見える.....。

 

 

『....彩花。よく手伝ってくれるけど、もしかして大きくなったらこの仕事を受け継いでくれるのかな?』

『うん。そうだよ。私もお父さんとお母さんみたいにお薬を作って、色々な人達を助けたいの』

 

 

お父さんが不意に小さい私に聞いた。小さい私はその質問に頷きながらにこにこ笑っていた。

 

 

......ああ...。....このやり取りを私は知っている。

 

お父さんは私が薬屋を受け継ぐ道を選んだことに何か心配そうな顔をしていた。その時の私は...確か私って頼りないのかなと思っていたけど、お父さんの真剣な顔を見て、黙ってお父さんが話すのを待っていた。

 

今、目の前で小さい私が同じ行動をしている。自分がやったこととはいえ、こうやって成長して見ると、色々恥ずかしい。きっと私の顔は真っ赤になっているんだと思う...。

 

 

『.....彩花。この仕事をするなら約束しようか』

『約束?』

『そうだ。大切な約束だよ』

 

 

父親の言葉に小さい私は首を傾げたが、しっかり頷いた。

 

 

お父さんが薬屋について話そうとしてくれているようだ。当時の私は鬼殺隊に入って鬼狩りになる気がなく、この時代で生きていくためにも稼がないといけないと思い、両親の薬屋を引き継ぐ気だった。

だから、すぐに薬作りのやり方を両親に教えてもらおうとした。

 

まあ、この世界で生きていくために働こうと思ったからというのもあったが、一番の理由は両親と同じ薬屋になれたら、両親が喜んでくれるかなとか、両親の仕事を手伝うことができるし、負担を減らせるのではないかとか.......当時の私は恥ずかしながら親孝行をしたかったのだよね...。

....たぶん、前世でおそらく両親より早くに亡くなってしまった負い目があったのだと思う。

 

 

両親と同じ仕事をして、色々教わって、同じ時間を過ごして....両親が働けなくなっても、私が後を継いだら安心すると思うし、もっと良い薬を作れたら喜んでくれるとも思っていた.....。

 

 

幼い頃の私は両親の役に立てると思い、早く一人前になろうとしていた。両親はそんな私の様子を見て、興味を持ってくれているならと色々教えてくれたり、実際に自分達の道具を貸して、私が練習できるようにしたりと、私の行動を止めることはなかった。もし危険なものがあったら私から離すし、注意してくれていた。

 

 

今回も薬作りに興味を持つ私が本当に薬屋として働くのかという確認をして、そのための心構えのようなものを教えておこうと思ったのだろう。

当時の私は両親の仕事を受け継ごうという思いがあっても、助かった人達のみを見ていたし、成功しか知らなかったので、割と甘い考えを持っていた。

だからこそ、お父さんはそれを見抜いて、子どもの私に忠告してくれていた。

後で痛い目に合わないように....。

 

 

『いいか。薬屋は薬を作り、それを体調の悪い人達に渡して怪我や病気を治したり軽減させたりするのが仕事だ。だけど、この仕事は逆に間違えてしまえば人の命を奪うことにもなるんだよ。薬は少なければ効き目がなく、多過ぎれば死に至ることがある。適切な量でないといけない危険な品物だ。

それに、薬は万能ではない。どんなに強い効き目を持つ薬でも助かる時と助からない時があるし、もう手遅れの時だってある』

『..........』

『この仕事は人の命を預かる仕事だ。目の前にいる人を助けることができるけど、判断を間違えてしまえば殺してしまうことにもなるし、死んでいくところを見ることもある。この仕事が命に関わるから、どうしても人の生死の近くに行くことになる。

お医者さんや身内じゃなければ見なかった死を、この仕事ではいっぱい見ることになるんだ。病気の人や怪我をしている人にも色々な状況があって、もしかしたら助けられたかもしれない命が消えていくところや殺してしまうところを目の前で見ることだってある』

 

 

小さい私はお父さんの話に何も言わず、黙って耳を傾けていた。大切な話をしようとしていることが分かり、自分もと思って真剣な顔をした。そんな小さい私を見て、お父さんは微笑み、小さい私の頭を優しく撫でた。

 

あの時、子ども扱いはしないでほしいと思っていた....。

でも、実際に子どもであるのは間違いなく、ちょっと照れくさく感じていたんだよね.....。

なんだか....もっと甘えたいとかそう感じて...体が子どもだった所為か、精神が少し子どもの方に引っ張られて、たまに幼くなる時があったんだよ。

 

 

『それは苦しいし、辛いことだ。だけど、それでも人間は生き続けないといけない。助けられなかった命があっても、それを忘れずに手を動かし、頑張り続けていくしかないんだ。自分に助けられなかった命のことを記憶に残し、同じことで助けられないということにならないように、今度はしっかり助けられるようにする。新しい薬を作ったり治療法を変えたりなどの技術を上げることで、助けられる命を増やす。それが亡くなった人を生かすことにもなるから』

『亡くなった人を生かす?』

『そうだ。お医者さんも薬屋も共通点は人を生かすために行動していることだ。亡くなった人はもう生き返らない。だけど、その人はまだ生きている』

『どういうことなの?お父さん』

 

 

お父さんの言葉に小さい私は首を傾げていた。私は小さい私の姿を見て、こんな反応をしていたかなと思いながら、ある疑問が湧いてきた。

 

あれ?この言葉.....私、知っている。...でも.......。

 

 

『例えば、彩花は昨日食べたご飯を覚えているかな?そのご飯はお腹の中に無くなっちゃったけど、頭の中にはそのご飯のことがあるだろう?それって、彩花の頭の中にはそのご飯がいる。目の前になかったとしても、まだこの世界で記憶として残っているということなんだよ。

そして、それは人間も同じなんだ。

人が亡くなって肉体が消えてしまっても、頭の中にはその人のことが残っているだろう。その時、その人はこの世界から消えていない。つまり、生きているということにならないかな?

それに...彩花には難しいかもしれないけど、亡くなった人の思いも消えない。その人が生きていて残したものは必ずある。それが目に見えない形であっても、まだ痕跡が残っているから、その人はこの世に存在し続けていることになる。

亡くなった人を覚えていたいなら、その人の思いを継ぎたいなら、私達はその人のことを忘れてはいけない。その人が存在していたことを、その人がどう亡くなったのかを覚えてなければならない。そして、その亡くなった人の命や思いを無駄にしてはいけないんだ』

 

 

お父さんは微笑みながら例を挙げて話し、まだ幼い私が少しでも分かりやすく伝わるように説明した。話の内容が難しいため、想像しやすいように食べ物を連想させるような例だ。

 

 

例えでご飯のことを出したのは私が幼稚園児くらいの子どもだったからかな。まあ、子どもには難しい話だったし、途中から飽きてしまう可能性もあるため、子どもにとって分かりやすく、身近にあるものや興味のあるものを話題にした方が集中して考えやすいと思ったのだろう。

 

 

なんだか食い意地のある子どものように聞こえるが、私はそんなによく食べる子ではなかったと思う。ただ、山菜の天ぷらや山菜と猪肉が入った鍋(ぼたん鍋)、甘味などを食べる時、目を輝かしているとか本当に美味しそうに食べるねとか言われるけど....それは違うからね。絶対に違うと思う。

 

この例を挙げたおかげで、小さい私はすぐにどういうものかを想像でき、内容もちゃんと理解できたようで、父親の言葉に何度も頷き、同じ言葉を繰り返し呟いていた。

 

 

私も父親のこの話を聞き、ある言葉を思い出した。それは『人間は二度死ぬ』という言葉だ。

 

人間は二度死ぬ。一度目の死は肉体が滅びた時、二度目の死は記憶から忘れ去られた時...という意味の言葉だ。私はこの言葉を初めて聞いた時、お父さんの話は当たっていると思った。この時代にこの言葉があるか分からないけど、お父さんはこの言葉をたぶん知らない.....。

 

 

人間は死んだらそれまでの人生だ。でも、その人の命が無くなっても、その人の人生が終わってもまだ本当の意味で終わったわけではない。その人の言葉や思い、その人との記憶とそれに関係する物が残っている限り、その人はまだこの世にいる。今も生き続けている。誰かが受け継ぐことでその人の記憶も思いも次の世代へ繋いでいける。

 

 

例を挙げるとしたら、歴史の偉人がそうだろう。歴史の偉人が亡くなってからもずっと覚えられているのはその人のしてきたことを、その人の人生を忘れてはいけないと思い、学校の先生達が子ども達に教え続け、その人について研究する教授が何度も論文を書いているから、現代でも偉人のことが残っている。

 

 

他にも本や銅像という実物が残っているからというのもあると思うが、それらも管理したり新しくしたりする人がいるから、それらはずっとそこにあるのだ。管理する人がいなくて、それを無くそうと言う人がいれば、どんな凄いことをしていても残していたものが消え、その人は忘れられて亡くなってしまう。これを後世に遺そうという意志があるからこそ、現代もそれらがしっかり残っているのだ。

 

最もその本や論文を読む人や銅像を見る人、教えてくれる人達がいても、それらのことを覚えて次に受け継ごうとする人達もいることで成り立つのであって、それがなかったら現在にその人の名前は消えているだろう。

 

 

そのため、ちゃんとその人のことを未来へ残そうとする人達がいなければ成立しないのだ。どんなに凄いものだろうと、どんなに珍しいものであろうと、それを残したいと思う人や知ろうとする人がいなければ誰にも受け継がれず、知られることも広まることもなく、その存在はやがて消えてゆくことになるから。

 

 

『彩花。亡くなった人を生かし続け、思いを受け継ぐのは想像以上に大変なことなんだ。だけど、私達は辛くても忘れてはいけないんだよ。止めることも駄目だ。薬屋は医者のように人に頼られ、助けるのが仕事だから、私達はたくさんの人の死を見ながらも前を向いて、新しい薬を作るしかない。その人達が亡くなったことを無駄にしないためにも、また犠牲者に出さないためにも、私達は次に向けて動かなければならないんだよ』

 

 

お父さんは小さい私を心配そうな顔で見ている。小さい私はそんな父親の顔に気づいて、大丈夫だというように笑顔を浮かべたが、お父さんはそれでも不安そうにしていた。

 

 

おそらく口ではそう言えても、実際に体験してみないとその通りに行動できるとは思えない。まだ幼い私が大丈夫だと言っていても、例えその言葉を信用はしても、その後で本当にできるのかは別問題だからね。

不安に思っても仕方がない。

 

 

『彩花には忘れるなと言っておきながらこんなことを話すのは悪いけど.....。

....記憶というのは永遠に残るものではないんだ。亡くなった人のことは時間が経てば薄くなってしまうし、何処か欠けてしまう。その人を知っている私達も忘れないように意識しても、その記憶は気持ちとは裏腹に消えていく。私達はそれに抗うことができない。

だから、私達は何かを残そうとする。それが私達の仕事でいうと、その人が亡くなった原因を解消できる薬を作ったり治療を早くしたりすることだ。

亡くなった人もその家族も悲しいと思っているが、それと同時に原因の解明と次の犠牲者が出ないことを望んでいる。助けられなかったことに恨みを抱く人達だっているけど、それでも私達はそのことを謝罪しながらもやるべきことを、薬を作り続けて自分の仕事を全うしないといけない。非難されても手を動かし続け、その死からきちんと学ぶ。

それがその人を救えなかった私達なりの償いであり、その人の死を無駄にしないための方法だと、私は思っているんだ』

 

 

お父さんは私に強く言い聞かせるようにそう言った。

その時、私は薬屋の仕事に対する父親の思いを初めて知ったのだ。

 

 

思えば私はその時まで父親が薬屋を始めた理由やこの仕事をどう思っているのかを知らなかった。

まあ、前世でも両親の仕事について聞いたり調べたりするきっかけになるのはほとんど学校の授業や宿題だったことが多いし、私もそうだった。今世の私にはそのようなきっかけがなく、聞いてみようとも思っていなかったのだ。

 

......お父さん、そっちに興味を持たなくて申し訳ありません...。

 

 

『だから、どんなことがあろうとも私達は諦めてはいけない。その人の死から何も学ばず、何もできなかったら、その人はそこまでだ。

亡くなった人を二度も死なせたらいけないし、その人の死を無駄にしてはいけない。そうして、私達はその命を守り、思いを受け継いでいく。そして、私達の仕事でその原因を解明し、次の人の命を救うことで受け継いでいけるんだ。その人の死を後悔しかないものとせず、胸を張って貴方と同じ人を今度は救えましたと、その人に言えるようにする。

.....少し難しかったかな。まあ簡単に言うと、彩花は何があってもずっと頑張っていくしかないということだね。どんなに辛くても足を止めてはいけない。その瞬間が人を救うことになるかもしれないし、運命を変えることにもなるかもしれないから』

 

 

そう言ったお父さんの目はとても強い光がある。その目から強い意志を宿しているのだと感じ取れた。お父さんはこの仕事と真剣に向き合っているのだということがよく伝わった。

 

 

幼い頃の私も今の私もこの話を聞くと、両親のように真剣に取り込もうと、ちゃんと命と向き合おうと思った。この言葉は私の心に深く刻み込まれているのだ。

 

だから、私は.........。

.....あれ?私、何を考えたの...?

 

 

『....一つ、間違った考えをしないように訂正しておこうかな。薬屋は辛いことがあると言っていたけど、それは薬屋以外も同じなんだ。どんな人でも、どんな仕事をしていても、辛いことや悲しいことは起こる。理不尽なことだって、彩花の想像以上にあるんだ。

だけど、どんな理不尽なことがあろうとも、私達はそれを許し合って生きている。すれ違うことがあっても、憎しみをぶつけられても、暴言を吐かれても、それでも私達は前を向いて、自分の道を進むんだ。褒められなくても、誰かに肯定されなくても、本当に自分の道が正しいのかと疑問に思っても、悩みながらも少しずつ進んでいくんだ。

どんな道でも多少の後悔があると思うけど、その後悔を少しでも減らしていけるように頑張ってほしい。後悔でいっぱいの人生を送らないようにしてほしい。転んでも立ち上がってほしいんだ。

七転八起という言葉があるけど、彩花は知らないかな?』

『うん。知らないよ』

『七転八起とは、何回失敗してもその場に座り込まず、何度も立ち上がり、力の限りその困難に立ち上がるという意味なんだ。

私は彩花に何処かで挫けずに諦めないでほしい。諦めてその場で座り込んだらそこから一歩も進まないだろう。諦めたらそこで止まることになる。足を動かさないと進めないのは知っているな』

『でも、座ったままでも動けるよ』

 

 

お父さんは間違ったように捉えさせないためにと言い、人生やそれについての父親としての願いのことを話した。小さい私は『七転八起』という言葉を知らなそうにしていて、お父さんがそれを説明している。私はそれに首を傾げた。

 

 

あれ?あの時、私はお父さんに知らないって聞いたの?私、七転八起の意味を知っているけど.....。

....本当は前世で知っていたが、何故知っているのかと追求されても前世の記憶のことを言えないので、黙っていたのかな...。

なんだかこの辺の記憶が少し曖昧なんだよね.....。

 

 

小さい私は座っていても動けると思ってそう言うと、お父さんはその言葉に苦笑いを浮かべた後、少し考えてから話し出した。

 

 

『.......まあ、確かに前に進むことはできるね。だけど、それだと手を使ったりするから大変だろう。それに、座ったまま前に進む方と立ち上がってから進む方だと、どっちが速いかな?』

『...立ち上がった方が歩きやすいと思う』

『そうだろう。だから、私は彩花が何度転んでも立ち上がり、どんなに重い物を背負っていても、どんなに険しい道であろうとも進むことができるようになってほしいと思っているんだ。でも、無理に立ち上がろうとしなくてもいいから。座っていることも大事なんだよ。さっきも彩花が言っていたけど、座っていても前に進むことができる。

....いつまでも立ち続けていたら彩花も辛いだろう。座っている時は進むのに大変だけど、それは一種の休憩だよ。立ち上がった時に座った分も取り戻せるくらい速く進むための。

座り続けることを不安に思う必要はない。むしろ焦り過ぎて躓くことになる。焦らずに冷静に考えて、何が大切なのかを忘れず、前に進み続けていく。悩んでいても、歩く速度を遅くなっても、前に進むことを諦めなければいいんだ。

.....これは私の勝手な願いだけど』

 

 

お父さんの質問に小さい私が答えると、お父さんは頷きながら自身の思いや願いを話し出した。最後の言葉で、これは自身の願いであって、私がそれを守らなくてもいいのだということを言いたいのだろう。

お父さんの考えを聞き、小さい私は思考に沈み、自分なりの答えを見つけようとしている。私もその様子を見ながら思いを巡らした。

 

 

そうそう。私はこの言葉が原動力だった。両親が亡くなってからの私にとって、前を向いて生きていくために必要な言葉で、本当に大切な言葉だった。両親が生きていた時も、亡くなってからもこの言葉はずっと覚えていて、心の中で生き続けた。

 

 

両親が亡くなってからも、私が薬屋をできたのもこの言葉のおかげだ。諦めたらそこで立ち止まっているところを見られたら両親が悲しむ、両親は何があっても前に進もうとする姿を見る方がきっと喜んでくれると思いながら、私は今を生きている。

あの頃の楽しい思い出が心に残っているからこそ、それを支えにしていくことができる。

 

 

それと、煉獄さんの『心を燃やせ』という言葉にも私は救われたね。

この世界に転生したと知った時、私は不安でしょうがなかった。それもただの転生ではなく、漫画にある『鬼滅の刃』という世界だということも知った。その時に前世の世界にはいない鬼が存在する『鬼滅の刃』という別の世界に来て、とても不安だった。その時の私は記憶の整理として『鬼滅の刃』の内容を思い出していた。その中で心が惹かれ、印象に残ったのが煉獄さんの言葉だ。煉獄さんの言葉はこの先に不安しかなかった私を励ましてくれた。

 

この世界で生きるのは前世よりも難しいし、不便なところもある。だけど、この世界で生きていくことは変わらない。だから、どんなに苦しいことがあっても心を燃やし続ければ乗り越えられる。辛いことがあっても歯を食いしばって前を向こう、自分の人生に胸を張れるようにしようと思った。

そう前向きな考えを持てるようになった。

 

 

お父さんの言葉と煉獄さんの『心を燃やせ』に私は力を貰ったのだ。反復動作の試練もこの二つの言葉があったからこそ、乗り越えることができた。この二つの言葉に私は感謝している。

 

 

私は小さい私が何と答えたのかと気にしながらその様子を見ていた。今の私と昔の私では感じ方が違うと思うからね。あの時の私はどう........。

 

 

その時、私の心臓がドクンと鳴った。それと同時に、心臓のところが熱を持ち始め、その熱が体中に広がっていった。

 

 

 

あ、れ?な...んで?なんで、体が...熱くな、って........。

 

 

体温が上がり、心臓の鼓動がバクバクと大きくなっていくのを感じながら、私の意識はだんだん遠くなっていった。

 

 

『今が辛くても頑張って。私達は手を伸ばして助けることができない、見守ることしかできないけど、彩花の味方よ。.

 

...だから、諦めないで』

 

 

意識を失う前にお母さんの声が聞こえた気がした。私はそれが聞こえてすぐに手を伸ばそうとしたが、腕が全く上がらなかった。目の前が真っ黒になっていき、やがてプツンッと音を立てて途切れた。

 

 

「お父さん!お母さん!待っ......」

 

 

 

 

 

 

 

 

「...ふう。無事に着地できたわ。あの子はあの傷の深さじゃ動けないだろうし、真っ逆さまに落ちていったのかしら。

あれから随分経っているし、もう死んでいるわね。そもそもあの出血量からして長く生きられそうもなかったもの。本当に運のない子ね。

 

.....でも、最後に貴女と話せて良かったわ。

ごめんなさいね....」

 

 

上弦の伍である彼女は地面に着地し、そんなことを呟いた。その後、別のことに興味を出したようで、屋根の上に登って周りを見渡した。少し経って目的のものを見つけたのか、彼女はその屋根の上に座った。

 

 

「鬼殺隊と戦ってるのは鬼舞辻無惨だけね。他の上弦の鬼はアタシ以外にいないわね。それに対して、鬼殺隊は誰も欠けてないわ。まあ、それは当然よね。全員が二回目なんだから、一回目の彼らに負けるわけがないもの。ここまではアタシの予想通りに行ってるわね」

 

 

彼女は屋根の上からその様子を眺めていた。鬼殺隊が全員この場に揃い、鬼舞辻無惨に立ち向かっていく姿をじっと見ていた。

 

 

その目は喜んでいるようにも、悲しんでいるようにも見えた。だが、それ以上に待ち望んでいたという表現が一番正しいのかもしれない....。

 

 

「よいしょ。さてさて、アタシもあの方に加勢しないと。......やっとゴールが見えてきたんだから。邪魔はさせない!」

 

 

彼女は屋根の上から立ち上がり、鬼殺隊と無惨が戦っているところで向かおうとしたその時、

 

 

「華ノ舞い 月ノ花 月光華・草々」

 

 

その声が聞こえたと同時に、彼女はその方向を見ながらも手を振った。すると、彼女の周りを水が囲み、風のように向かってくる斬撃から彼女は身を守った。

 

 

その攻撃は彼女を傷つけることがなく、問題はなかった。でも、気になることがあった。

鬼殺隊はあそこに全員揃っているのに、一体誰が.....。....それに、この声は.......。

 

 

彼女が斬撃を防いだ血鬼術の水を消して前を見ると、その人物が立っていた。

その攻撃してきた人物を見て、彼女は驚いた。その人があまりに予想外だった。腹の辺りを血で真っ赤に染め、足元が少しおぼつかない様子でこちらへ歩いてくるのは、先程まで戦っていた生野彩花だった。生野彩花は俯いた状態で立っていた。

 

 

「あら。貴女、生きていたの?腹を貫かれて、あの高さから落とされても生きていたなんて...運が良いのね」

 

 

彼女は余裕そうな態度だった。もう既に彩花が腹を貫いて大量の血が流れ出ているから、限界なのだろうと思ったのだ。そんな彼女が彩花に声をかけるが、彩花は無言で刀を握り締めた状態で彼女に近づいていく。彼女はそんな彩花の様子を見て、何かおかしいと思った。

 

 

(あの子の様子、何かがおかしいわ.....。...あの子の怪我の状態からして、もう限界の筈なのよ。だけど....なんで歩けるのかしら、あの子。おぼつかない感じでふらふらしているように見えたけど、ちゃんと歩いている。それに、あの高さから生き残るなんて普通はあり得ないわ。

 

 

瓦礫が積まれたところに運良く落ちたのかと思ったけど、瓦礫の上に落ちたのなら、バキッとかそういう大きな音が聞こえる筈よ。いや、他の瓦礫が落ちていく音で掻き消されたのではと思ったが、それはおかしいわ。他にも瓦礫が落ちていたのなら先にあの子が落ちたということになるが、そうなればあの子の上にも瓦礫が降っていて、それらが降ってきたら怪我を負う筈よ。なのに、あの子はさっきの戦い以外の怪我をしていない。

それなら.....まさか、自力で着地したというの!だけど、あの子の腹の傷はかなり深いのよ。あの大怪我で体を動かすなんて無理に決まってる。それも、あの時のあの子は重力に従って頭から落ちていった。自力で着地したということは途中で体勢を立て直し、足から着地したことになる。あの重傷のままで、そんな行動ができるわけがない。

 

それよりも、気になるのはあの子が...あんな血だらけで、動くのもやっとのような子が.....なんで普通に呼吸を使えているのよ!止血している状態でもあの大怪我ではそれがやっとなのよ!傷口を塞ぐ物なんてない。腹を貫かれたのだから、その痛みだってある筈なのに.....。...それなのに、止血ができているうえに、刀を振るえるほど体を動かすこともできている。

 

 

....これは一体.......。...でも、体はもう限界の筈よね.....。....同じ転生者としての慈悲で、この一撃で逝かせてあげるわ...)

 

 

彼女は彩花の様子を観察しながら何が起きたのかと考えた。だが、答えは見つからず、後回しにして満身創痍の彩花にトドメを刺すことにした。

彼女はゆっくり手を上げる。

 

 

「血鬼術 鉄砲水(てっぽうすい)

 

 

彼女は彩花に向けて血鬼術の水を飛ばした。その水が彩花を貫くと思ったが.....。

 

 

 

「華ノ舞い 妖狐ノ花 狐空円輪」

 

 

彩花はその水の攻撃を全て斬り、血鬼術の水は弾け飛んだ。動きがさっきの戦いの時よりも速くなっていた。それに、攻撃の重さも全く違った。

 

 

彼女はそのことに驚いたが、彩花の様子を確認しようとして見て、今度は絶句してしまった。

 

彩花の持つ日輪刀は炎を纏っていた。だが、その刀は赤色ではなく、赫色と言った方がいいだろう。炎を纏っていてもその色の区別はできた。そのため、彼女は動揺したのだ。

何せあの真っ赫に変色した刀には見覚えがあった。間違いない、あれは赫刀だ。しかも、その赫刀には彼岸花の模様が描かれている。

 

 

さらに、彩花が顔を上げたことで、漸くその顔を見ることができた。彼女はその顔を見て、困惑した。彼女が童磨の目で見た痣は左目の近くから左耳の近くの位置にあったが、その痣は大きくなり、蔦のような痣が左目を呑み込むように広がったり首から下の方へと伸びていたりした。そこからは着物で隠れてしまって見えなかったが、風で着物がはためき、左手首に蔦のような痣が現れ、さらには手の甲に段菊の花の痣があった。おそらくあの痣は首から左腕へと広がっていき、左手の甲で止まったのだろう。

それと、今までは蔦と葉の模様の痣だと思ったが、この痣はよく見てみると、蔦に見えていた模様が茎だったのだということに気づいた。さらに、痣が今までよりも濃くなり、葉の模様もよく見えるようになり(これまでの痣は葉の形が分かるくらいだった)、それらによって本当の痣の模様は段菊なのだということが分かった。

 

それに、今まで痣が出た時に左目の色だけが変わることはあったが、今回は両目とも色が変化している。しかも、その瞳は翡翠のような緑色をしていて、光り輝いている。

 

 

「そんな....馬鹿なことがあると言うの!」

 

 

それを見て、彼女は動揺した。この状態で赫刀を覚醒させるのは予想外だった。

原作で時透君が上弦の壱との戦いに死にかけの状態で動くことができず、上弦の壱に刺さった刀が抜けないように刀を強く握り、それがきっかけで赫刀に変わっていた。炭治郎も死にかけだった状態から生還してすぐに赫刀を使っていた。だから、死にかけだろうと赫刀にすることは可能だ。

 

 

だが、彩花にそれができると思ってもいなかった。

赫刀は高熱と強い衝撃で極められた鉄のように真っ赫に変色した日輪刀であり、熱そうな見た目の通りに超高熱を発している。元々が鬼を殺せる特性がある刀に超高熱が加わったことで、より鬼の再生力を阻害し、突き刺すだけで鬼へ強烈な苦痛を与える力を宿す様になっているのである。原作によると、赫刀の発現方法は日輪刀同士を強くぶつけ合ったり、日輪刀の柄を万力の握力で握ったりすることでできた。

このことから、赫刀の発現には痣を発現させた剣士が引き出す強い衝撃か万力や圧力と剣士自身の持つ高熱の両方が必要なのだと分かる。

 

 

痣を発現させ、痣の発症に伴う高い体温を刀身に込め、その高熱が日輪刀そのものへ伝播している。そのため、赫刀の発現には痣を発現していることが前提である。

彩花は痣者であるため、この高熱の方の条件は満たしている。問題は強い衝撃(万力や圧力)というところだ。先程の戦いの様子から、彩花は力がそこまでないのは分かっている。あの子の動きは腕の力だけで斬っているのではないわ。重力などの力や勢いを上手く使っている。だが、あの子は力勝負をしたら確実に負けてしまうような子である。単純な力では鬼の頸すら斬れないだろう。そんな子が赫刀を発現できるほどの圧力を握力で加えられるのかというと、あり得ないと思っている。

それなら、日輪刀同士をぶつけ合ったのではないかということも考えてみたが、あの子の周りには誰もいなかったのだから、ぶつけ合う相手なんていない。

あの子がここに来るまでの時間は僅かで、離れたところにいる仲間と出会い、日輪刀同士をぶつけ合うことは無理だろう。

 

 

それらのことから、あの子は赫刀を発現できないだろうと高を括っていた。

 

事実、彩花には赫刀の発現に至る段階ではなかった筈だった。彩花もそれに気づいていて、華ノ舞いの方に集中していた。それなのに、赫刀になっている。

 

 

何が起きているのかは分からない。だが、これだけは言える。何らかの力が働き、何処かの歯車が噛み合わなくなり、狂い出したのだということを感じたのだ。

 

 

 

「...もう終わらせよう、この戦いを」

 

 

彩花はそう言いながら、炎を纏った刀を彼女に向けた。彼女は困惑しながらもあることに察して歯を食いしばった。

 

 

 

何が起きたのかは分からないけど、戦況が逆転したのだということを......。

 

 

そして、彩花の言葉通りに戦いは次で終わるのだということを.....。

 

 

 

それらに気づき、彼女はやられるわけにはいかないと抵抗するために右手を上げ、血鬼術の水を操った。

それに対して、彩花は炎を纏う赫刀を握り締めて構えた。

 

 

 



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笹の葉の少女は責任をとる 前編

 

 

 

あつい.....。...体が熱い。だけど....それ以上に意識ははっきりしている。頭の中に色々な情報がすんなり入ってくる。いつもよりも速く動ける。華ノ舞いの時に起きていたものと違って、主導権は私のままのようだ。この現象が何なのかよく分からないけど、今までのものとは明らかに違うようだ。それとも、これは単純に興奮状態になっているだけなのかな....。

 

 

それに......何故かこの状態だと透き通る世界も使えるようだ。

 

透き通る世界とは五感を開き、体の血管や筋肉を透けて認識できる状態のことだ。殺気を感じさせないで動くことができ、相手は攻撃されると悟ることがない。筋肉の動きを見て、相手の次の行動を予測することもできる。

さらに、自分の体の血管や筋肉を認識することができ、動きに必要のない血管や筋肉を止め、長時間動き続けても疲れない体になる。

ちなみに、透き通る世界は視力を失っても他の五感を通じて入ることができ、原作で盲目の悲鳴嶼さんも入ることができていたし、炭治郎は嗅覚から入っていた。

 

 

透き通る世界に入るには様々な厳しい鍛錬から無駄な動きを削ぎ落としていき、その末に辿り着く境地なのである。私は炭治郎達との鍛練や柱稽古でこの透き通る世界に入れるようになることを目標にしてきた。その結果、低い確率で透き通る世界に一瞬だけど入ることができたが、実戦で使えるかとなると、使うことができてもそれに頼るのは止めた方がいいというくらいだった。

なので、透き通る世界はあまり使おうとせず、それ以外で自分のできることをした。

 

 

ただ、今回の戦いで透き通る世界に入れるようになった方が良かったのだというのはよく分かった。何故なら、今の私には先程まで分からなかった血鬼術が見えるようになっている。

 

 

彼女の使う血鬼術は幾つも組み合わせたものであった。彼女の使える血鬼術は二種類であるが、その血鬼術を連結したり、多重に重ねたりしていた。そうすることで見えないようにしたり、錯乱させたりすることができたのだ。

 

 

こういう仕組みをしていたからこそ、あの血鬼術になるのだということが分かり、私は凄く戦いやすくなった。血鬼術の原理が分かるため、次にどうすればいいのかも分かり、先を読むことだってできる。

 

 

「血鬼術 鉄砲水 凍雨水砲(とううすいほう)

「華ノ舞い 妖狐ノ花 狐空円輪」

 

 

私は上弦の伍である彼女の血鬼術を斬り(もしくは弾いて方向を変え)ながら彼女へ近づく。彼女は焦った様子を見せていたが、冷静に次の血鬼術を使い、私の動きを封じようとする。私はそれに気づいていたが、それでも真っ直ぐに進んでいく。

何故だか、それで止まらなくてもいいと思ったのだ。

 

 

「血鬼術 砕氷雨(さいひさめ)

 

 

私はその血鬼術も全て斬ったり弾いたりして防いだ。それら血鬼術の氷の塊も炎を纏う刀で斬ると、跡形もなく消えてしまった。

いや、消えたのではない。蒸発や昇華が起きたのだ。僅かに白い煙のような気体が見えたから、間違いないだろう。

蒸発とは液体から気体になる変化のことであり、昇華とは固体から直接気体になる変化である。

 

 

最初の方は私もこの型について何も知らないため、どうなっているのかは分からなかった。だが、何度もこの型を使ったことで分かった。刀が纏っている炎は凄い高温なのだ。水の時はあの刀を近づけるだけで水が蒸発し出し、水蒸気へと変わっていったのだ。そして、刀が近づけば近づくほどに水はどんどん蒸発していき、やがてその水の血鬼術は全部水蒸気に変わった。つまり、斬ったように見えて、何も斬っていないということだ。

氷の時はその氷を斬ると、斬られたところから炎が氷に燃え移り、その炎があっという間に氷を包み、氷を一気に水蒸気へ変えたのだ。

 

 

「華ノ舞い 天陽ノ花 珠沙炎天」

「血鬼術 波浪壁(はろうへき)

 

 

私が別の型を出すと、彼女は血鬼術の水で目の前に壁を作り、それで防御しようとした。だが、水でできた壁は一瞬で破られ、その一太刀は彼女の肩を斬り、彼女は斬られた肩を押さえ、私から距離を取った。

 

 

また新しい型だ。空に刃先を向けて、上半身を捻りながら曲線を描いた。すると、斬撃が飛び、彼女の血鬼術で作られた水の壁に当たると、その斬撃が水の壁を数秒で蒸発させ、彼女の肩を斬り裂いた。

どうやらこの型は妖狐円輪よりも威力が違うようだ。いや、熱が違うと言った方がいいのかな。使ってみた側の感想なのだけど、刀から伝わってくる熱気が明らかに違ったのだ。

 

 

あと、気がかりな点がある。今までに出てきた華ノ舞いは全部刀の色や模様が変化したのだ。日車の時は刀が黒色に向日葵の模様になって、水仙流舞の時は刀が青色に水仙の模様で、紅梅うねり渦の時は赤色に梅の模様で、陽日紅葉の時は日車と同じ黒色であるが、紅葉の模様が描かれていた。しかし、今回はこれらとは違った。妖狐円輪と珠沙炎天は両方とも赫刀で彼岸花の模様のままだった。華ノ舞いの中で初めての出来事だ。この二つの型は他の型とは少し違うのだろう。

 

 

それと同時に、私は試していないが、赫刀と透き通る世界を発動させている時は他の九つの型は使えないのだという予感がしたのだ。

これは個人的な考えだが、今までに使えなかったものを使えるようにするための代償みたいなものだと考えた方が良いだろう。

 

 

まあ、突然赫刀と透き通る世界が使えるようになるのは明らかに不自然だし、何か裏があってもおかしくない。未だに華ノ舞いやこの仕組みに関しては謎だらけだし、分からないことがまた増えたが、それについては後で考えよう。

今はそれどころではないし、情報不足であり、華ノ舞いについての情報も調べる方法も心当たりがカナエさんぐらいしかいない状況だから、結論づけるのは早いと思っている。

とにかく、ただ実際に起きて感じたことを中心に戦うのが優先だ。そういった今後のことはこの戦いを終わらせてからだ。

 

 

そんなことを考えているうちに、彼女の怪我が回復したようだ。彼女は傷口を押さえていた手を元通りに戻った肩から離し、私を睨みつけた。

ここから本気で攻撃してくるとすぐに察し、私も彼女に刀を向けながら一歩前に出た。

 

 

「血鬼術 鉄砲水 凍雨水砲」

「華ノ舞い 妖狐ノ花 妖狐円輪」

 

 

彼女が反撃として上から水の弾を降らしてきたが、私はその水の弾を妖狐円輪で防いだ。その行動から、私はあることに気づいた。

 

まさかと思ってもう一度妖狐円輪を使ってみたら、それによってこの二つの型の構造に気づくことができた。

妖狐円輪は防御と回避の方に徹していて、珠沙炎天は攻撃の方を重視している。これを繋げることで攻撃と防御の両方ができるということだ。つまり、この二つの型は交互に使うことで良いバランスになるのだ。

 

 

「華ノ舞い 天陽ノ花 珠沙炎天」

「血鬼術 鉄砲水」

「華ノ舞い 妖狐ノ花 妖狐円輪」

 

 

私は波の壁を斬り、もう一度近づいていった。そのまま彼女の間合いに入ったと思った瞬間、彼女は別の血鬼術を使った。彼女も何度も血鬼術を斬られたことで、この型がどういうものなのか気づいたようだ。

いくら水を蒸発させることができても、至近距離から水の弾を放てば全てを防ぐことは難しいだろうと思ったのだろう。私は彼女の間合いに入ってすぐに頸を狙おうとしたが、彼女の血鬼術を見て、別の型に切り替えた。

 

 

うん。やっぱりこの二つの型は切り替えやすい。おそらくこの妖狐円輪と珠沙炎天は互いに繋がるようになっている型なのだ。だから、この二つの型は日輪刀の色も模様も変わらないのだろう。

原作でいうと、日の呼吸(ヒノカミ神楽)に近いと考えている。日の呼吸は十二の型を繰り返すことで円環となり、それが十三番目の型になるのだ。

 

そのため、原作では炭治郎が最終決戦で無惨を追い詰めようと日の呼吸の型を全て繋げようとした。とりあえず全ての型を繋げることができていたが、それで十三番目の型が完成したとなると、そこは微妙なところだと私は個人的に思っている。私はただ繋げられればそれで十三番目の型だとは思えないのだ。

何度も何度もそれを繰り返していくうちに、それらが重なって一つの型になるのではないかと私は考えている。と言っても、私は最終話を読んでいないので、もしかしたらそこに描かれているかもしれないし、あくまで私の予想とかなのだけどね....。今の私はもう聞くことができないから.....。

 

 

だが、日の呼吸の型を全て繋ぎ合わせることができれば一つの型になるというのは本当だと思うので、呼吸の型を繋ぎ合わせれば他の呼吸の型とは違う別の型になるのは確かなのだろう。

おそらくこの型も........。

 

 

「血鬼術 水魔奔流」

 

 

彼女はこのまま攻め続けられたら不利だと思ったようで、手を下に向け、血鬼術を使った。すると、地面から水が噴き出し、この周辺一帯が水溜まりに変わった。それにより、足元が水に浸かることになった。その水溜まりから波が出てきて、その波は私を飲み込もうとしてくる。さらに、渦も発生し始めた。その渦は大きいものから小さいものまであり、どの渦も引き込もうとする力が強く、引っ張られそうになる。

 

 

だが、私はそれを気にせず真っ直ぐにその波や渦のある道を通った。勿論、刀を地面に向け、呼吸を使った状態でだ。

水を蒸発させることができるのなら、斬りながら進めば私の通れる道を一つくらい作るのは可能だと思ったのだ。

 

 

少し適当で力技のように感じるが、それで良いと思う。それに、原作での炭治郎達の戦いの中って、割と力技に近いくらいメチャクチャなことをして、それが戦いに勝利するきっかけになったことがある。そのため、力技で勝利することは何も悪くない。

ただ、力技で勝つというイメージが持てず、私が押し合いで勝てるほどの力を持っていなかったため、力技で勝とうとすることに違和感を感じている。

 

 

ずっと原作を思い出して、どう行動するのかと考えながら戦っていた。

だが、それで直接戦って勝てるのかというと、微妙なところであったため、私は勝てる確率を上げようと準備をして、こちらが優位にするために相手に気づかれないように行動しながらもその機会を待ち、その絶好の機会がきたらそこを逃さないように突く。そうしていたので、力で強引になんとかするということにどうしても違和感を感じてしまうのだ。

 

 

でも、できるのではと思ったのなら、今はそれを突き進まないと。他の方法を考えて、そちらの方が良さそうならこの方法を使うのは止めるけど、何もないならこの力技で行く。だって、その方が手っ取り早いからね。

 

私はそんなことを思いながらあの激流を押し進み、彼女の間合いに入った。

 

 

「華ノ舞い 天陽ノ花 珠沙炎天」

「血鬼術 千波帯(せんはおび)

 

 

私は彼女に向けて刀を振るが、彼女は波を操って私の刀を受け止め、水が蒸発するまでに後ろに下がった。その後、私がまた彼女に近づき、彼女は再び同じ血鬼術を使って距離をとった。これの繰り返しである。

キリがない。

 

 

だけど、焦っているのは彼女の方だろう。表面上ではそんな様子を見せていないが、彼女がこの状況をまずいと感じているのは確かだと思う。

 

水と炎。こう並べてみると、有利なのは水のように感じる。だけど、私の刀に纏っている炎はどうやらとんでもなく高温らしく、水が当たっても消えることはなく、逆に水を蒸発させる。どんなに水の血鬼術を増やしても、血鬼術の水の温度を上げ下げしようとも、蒸発してしまえばその水が無くなってしまうので意味がない。

 

 

「血鬼術 鉄砲水 凍雨水砲」

「華ノ舞い 妖狐ノ花 妖狐円輪」

 

 

あちこちに噴き出した水で囲まれた空間で、その上に水の弾が雨のように降っている。それでも私はこの勢いを失速させたくなくて、そのまま真っ直ぐに突っ込むことにした。

 

捨て身のようにも感じるが、もうここまで進んだのなら押し切った方が良いと考えた。それに、不意をつける機会にもなる。

 

 

「華ノ舞い 天陽ノ花 珠沙炎天・周」

 

 

私は彼女の間合いに入ってすぐに、私が自分の周りを中心に、円を描くように刀を振った。それによって、円の斬撃は目の前にいる彼女とその周囲を斬り、私は刀を斜め後ろに振り下ろす態勢になった。すると、その方向から紺色の何かが風に吹かれて飛んできた。その紺色の何かは布だった。いや、よく見ると、それは着物の切れ端だった。

 

 

この着物の切れ端が誰の物なのかはすぐに分かった。

まず私の着ている着物は色が緑系統だ。紺色には見えない。それなら何処かから飛んできたとも考えられるが、炭治郎や禰豆子もまた紺色の布がある着物を着ていないし、獪岳や鬼殺隊の人達は全員隊服であり、この切れ端の布は隊服ではない。

隊服は弱い鬼の攻撃を防げるくらいの耐久性を持つので、布の性質が全く違うのだ。それに、隊服は黒系統の物が多い。紺色はおそらくないだろう。

そのため、この布の切れ端が誰のものか分かる。......紺色の着物を着ているのはこの場で彼女以外にいないのだから。

 

 

私が後ろを振り向くと、彼女が左肩から斜めに斬られていた。私が刀を振った向きに斬られていることから、私があの円の斬撃で彼女を斬ったのは間違いないだろう。

 

私が正面の方を見ると、先程までいた彼女の姿はなかった。おそらくこれは蜃気楼という現象を利用した血鬼術なのだと思う。彼女の使える血鬼術を組み合わせてできるものとして、蜃気楼はそれに当てはまる。

 

 

蜃気楼とは遠くから届く光が直線的に進まず、途中で屈折するために景色が通常とは異なって見える現象であり、光の屈折が温度の異なる空気の境界で起こる。

蜃気楼は温度構造の違いにより、「上位蜃気楼」と「下位蜃気楼」の二つの種類がある。その光の屈折でできた虚像が実物の上に見えたり、虚像が実物の下に反転して見えたりするものだが、彼女が利用したのはおそらく「下位蜃気楼」の方だろう。

彼女は光の屈折を使うのが上手い。そこまで操れるのなら、光の屈折の一種である蜃気楼も再現することも可能だ。最初の戦いの時は光の屈折で私の目を欺き、血鬼術を私の意識から外したところで発動させていた。

 

 

蜃気楼の血鬼術を発生させるために彼女がしたことを説明しよう。彼女の血鬼術で辺りが水溜まりになり、そこから波や渦が発生していた。あれらで嵐のように荒れていて、激しい波もあったために波で視線を遮り、彼女の姿を見ることが難しくなった。彼女から一度でも視線が外れればその一瞬の隙で血鬼術が使える。

おそらく彼女はその時に水面に映った自らの姿に光の屈折などを利用して、それを蜃気楼として表に出し、彼女自身もまた光の屈折で姿を消していたのだろう。そうすれば入れ替えられる。

 

まあ、透き通る世界に入っている今の私にはそれに気づけるのだけどね....。

分身を作っても、彼女のは光の屈折を利用して作った幻だ。透き通る世界で見れば本物と偽物の区別がつく。筋肉や血管のないものは偽物だとすぐに気づくことができたし、そもそも水の固まりのようなものが地面から出てきたことも分かった。

 

 

きっと彼女は私が透き通る世界に入っていることに気づいていない。透き通る世界に入っているのかを判断するのは難しい。痣や赫刀は見れば分かるのだが、透き通る世界は雰囲気で分かるような感じだ。殺気がなくて植物と対峙しているという感覚らしいが、透き通る世界だとすぐに見抜けないし、確信も持ちづらいと思う。でも、これがきっかけで勘づいたかもね。

 

彼女は目を見開いて驚いている間に、私は彼女の間合いに入り、刀を振るう。

 

 

「血鬼術 氷棚針(ひょうほうばり)

「華ノ舞い 妖狐ノ花 妖狐円輪」

 

 

彼女は焦りながらも血鬼術を操り、地面から針のように尖っている氷塊を出した。だが、彼女も頸を斬られていないとはいえ、かなり深く斬られたことで動揺し、体勢を崩したようで、少し時間を稼ぎたかったのだろう。

彼女を守るように立ち阻む氷柱だったが、私はその氷柱を全て斬り、彼女との距離を一気に詰めた。彼女はまだ体勢を整え終えていないらしく、避けようとしたが、上手く動けない様子だ。

 

 

「血鬼術 鉄砲水」

 

 

避けられないと悟った彼女は水の弾を地面に向けて出し、その衝撃で砂ぼこりが舞った。おそらく目くらましをするつもりだろう。私が彼女から視線を外し、私がこれ以上攻めてこないようにした。だが、私はそれを気にせず、地面を強く蹴った。私の勢いが止まらないことに気づき、彼女は歯ぎしりしながらも体勢を整えられたようで、何らかの血鬼術で迎え撃とうとしているようだ。

 

.......いや、何か違うような気がする。

 

 

「血鬼術 波浪壁・登」

 

 

彼女は地面を強く踏み締めると、彼女のいた場所に水の柱ができた。一瞬で彼女が消えたように思えるが、透き通る世界に入っているおかげで動きがゆっくりに見えているので、彼女が上に行ったところをはっきり見た。

 

私が彼女を追いかけるために型を使おうとした瞬間、私の頭の中にはある一つの型が思い浮かんだ。おそらく何度もあの二つの型を繰り返したことで成功したのだろう。そんなことを思いながら、私は空に浮かんでいる彼女の後を追い、近くにある家の壁や屋根を蹴り、彼女と同じ位置にまで上がった。

 

 

「血鬼術 千波帯 水禍織(みずかおり)

 

 

彼女は私が同じ位置まで飛んできた瞬間、彼女の周りから複数の水の衣が現れ、それが彼女を中心に広がっていき、私も包み込もうとしてくる。

 

 

空中に逃げたのは彼女の罠だったようだ。空中では身動きが取りづらくなる。そのため、絶好の機会だ。だが、それはこちらにとっても同じなんだよね。

 

私は先程頭の中に浮かんだ型の通りに空中で体を捻って回転させ、刀を振った。

 

 

「華ノ舞い 爆炎ノ花 華昇乱舞」

 

 

私は空中で炎を纏った刀を振り、八の字や円を幾つも描いた。それは八の字や円の炎の斬撃になり、複数の斬撃が彼女を巻き込んで、遠くで見ればまるで花火が上がったような形となった。

 

 

やはり妖狐円輪と珠沙炎天は日の呼吸と同じみたいだ。なので、この二つの型も日の呼吸と同様に上手く組み合わすことができ、新しい型になるのではないかと考えた。

考えていたが、まさか本当に二つの型を組み合わせたら新しい型ができるとはね。

 

 

私はその型で彼女を斬った。彼女は私に斬られたことを驚いているようだ。

 

まあ、あの型は一瞬で多重の斬撃を放ち、それらが私を中心に半径十メートルくらいの球の範囲で飛び回り、私以外のものを斬るみたいだからね。

反撃することができず、一方的にやられたことに唖然としているようだ。それに、私の行動にも驚いているのだろう。

ずっと宙にいたが、長い時間が経って跳ぶために上へ行く力は勢いを無くし、重力がその力を上回った。私と彼女は重力に従い、下へと墜落していく。

私は地面に着く前に自分が斬った彼女へ手を伸ばした。そんな私を見て、彼女はまた驚いた顔をした。これも予想外なのだろう。

 

 

.....悪いけど、まだ終わっていないことがあるからね...。

 

 

 

 

 

 

「......どうして、アタシにトドメを刺さなかったのよ」

「....まだ聞きたいことがあるのです。なので、聞かせてもらいますよ」

 

 

現在、私の目の前に彼女がいた。

いたと言っても、彼女はバラバラなんですけどね.....。

...まあ、彼女をバラバラにしたのは私なのですけれどもね....。逃げないようにするためとはいえ、ね.....。

 

 

頸は斬っていない。だが手足を斬られたことで、彼女はその場から動けなくなっていた。しかも、その斬られたところに炎が燃えていて、再生することもできなくなっている。私に攻撃することも血鬼術を仕掛けることだって、これでは無理だろう。

 

 

「聞きたいこと?そのために、態々アタシの頸を斬らなかったということかしら?」

「...頸を斬ってしまえば時間に制限ができてしまいます。貴女はあまり話したくなさそうなので、話をする時間は長い方が良いと思いました」

 

 

彼女が私に向けて冷笑を浮かべながら言い、私は気にせずに思ったことをそのまま話した。

 

そう。先程の話の通り、私はまだ彼女の頸を斬っていない状態なのだ。つまり、彼女は灰になる心配がないのだ。別の心配はあるのだろうけど.....。....それに、頸を斬るのかどうかはこの話し合い次第にしようと思っているからね...。

 

 

「話すって、もう話は戦う前にしたじゃない。一体何を話そうとしているのよ?」

「確かに。戦う前に話はしましたけど、あれは私の言ったことへの答え合わせのような感じでしたよ。私は貴女に対して何も質問していませんでしたから、そろそろ私にも質問させてください」

 

 

彼女が不思議そうな顔で言うが、私は戦う前に話したことを思い出しながらそう言い返した。

 

あの時に話したことって、彼女を転生者だと思った理由とか、私を殺そうとしていると思った経緯とかそういう話をしていた。だが、その時に話したのは主に私であって、彼女は私の予想の答え合わせをしたような形で、自分から話をしていないのだ。

 

 

「質問...ね....。アタシはもう話が済んだと思っていたのよ。何を質問する気なのか知らないけど.....」

「どうして貴女は今回で鬼舞辻側に付いたのですか?」

 

 

彼女は心当たりがないという様子でそう言うが、私の質問を聞いて、目を見開いた。

明らかに彼女は動揺している。この質問が予想外だったのか、それとも.......。

 

 

「....何でそんなことを聞くのかしら?アタシがどうなろうが、貴女には関係ないじゃない」

「確かに鬼舞辻側に付くと決めたのは貴女自身です。関係のない私がそれを知る必要なんてないでしょう。ですが、私はそれでも知りたいと思ったのです。前回のことで貴女がどんな人間なのか分かったから、もっと知りたいと思いました。本当なら、貴女はこのことを誰にも話すつもりなんてなく、貴女を思うなら聞かない方が良いのでしょう。それでも、私は聞きたいと考えてしまいます。......ですけど、私はこのまま引きたくないです。

私の身勝手でこんなことになってしまって、申し訳ないと思っています」

 

 

彼女の惚けようとする様子を見て、私は丁寧な口調を意識しながら誠意を込めて謝罪をした。

あの反応からして、おそらく私の想像したことが当たっている可能性が高くなった。それなら、私の行動で彼女の思惑が失敗になったということは確かなようだ。なので、私は彼女に謝った。きっと彼女にはこの方法しかないと考え、色々準備をしてきたのだろう。それを私が台無しにしたのは間違いない。

それでも、ここまで来てしまったのならいっそのこと聞こうと思い、私は彼女のことを話してほしいと頼んだ。

 

 

しかし、彼女は私の言葉に何も反応せずに黙ったままだった。それがどういうことなのかは分かった。分かったし、予想していたことだから衝撃を受けていないが........。

 

 

「.....話す気はないということですね。それなら、私の予想を話しても良いですか?」

「まさか気づいたの!?」

「憶測ですよ。確信は持っていないし、証拠もない。私が勝手にこうなのではないかと思っているだけですよ。...なので、確認してもらってもいいですか。私のこの予想が合っているのかどうかという、この答え合わせをしてもいいですか?」

 

 

私は彼女の様子を見て、聞き方を変えようと考えた。確認するという形でなら良いのかと聞いてみると、彼女は驚いた様子でそう言った。彼女の反応を見て、私はまだ何かあるのだというのを確信しながら彼女の質問に答え、もう一度聞いた。

 

しばらくの間は私も彼女も無言でいたが、やがて彼女は折れたようで大きく溜息を吐いた。

 

 

「.........いいわ。そのくらいのことなら別に.....」

「ありがとうございます」

 

 

彼女は諦めた様子でそう言い、私は彼女に深く頭を下げた。

 

彼女には触れてほしくなかったかもしれないことだ。それを土足で踏み込むことをしているのは分かっている。でも、私はここで終わりにしたくない。だから、私の考えていることが合っているのかどうかを知りたい。...彼女には悪いと思っているけど.....。

 

 

「単刀直入に言いますと、貴女は最初から炭治郎達と敵対する気なんてなかったのではありませんか?」

「....!どうしてそう思ったのかしら?」

 

 

私の言葉に彼女は眉を顰めてそう言った。私の言葉が外れだと言っているような行動だが、一瞬だけ別の反応をしていた。それはまるで狼狽えているかのようにも見えた。

だが、本当に一瞬であったため、私の言葉に対してどう思っているのかを正確に予想するのは難しかった。彼女の反応を見ながら話しているが、これだけでは情報が少ないし、真実かどうかは私の予想を全て話してからにしよう。

 

 

「前回のことで原作と違うところは炭治郎が亡くなっただけではありませんでした。無限列車では猗窩座が現れなかったし、最終決戦ではどうやら誰も死亡していなかったようでした。最終決戦のことは炭治郎や善逸達にちゃんと確認しましたよ。最終決戦で無惨と戦った時、その場には柱九人や炭治郎達全員がいたのかと聞いてみました。そうしたら、『柱も炭治郎達も全員そこにいた。誰一人として、欠けていなかった』と教えてくれました。

 

 

まあ、禰豆子は原作通りに終わりぎりぎりに来ていたようですが...それ以外は色々と変わっていました。

原作では無惨との最後の戦いにいた柱は義勇さん、甘露寺さん、伊黒さん、不死川さん、悲鳴嶼さんの五人でした。...この点でもう原作と前回の違いがよく分かると思います。

柱が九人全員いたということはそこに煉獄さん、しのぶさん、時透君、宇髄さんもいたということになります」

 

 

私は一度そこで話を区切り、彼女の様子を見た。

 

彼女は私の話を口を出さず、反論しようともしなかった。ただ、黙って聞いているだけだった。

そのまま続けていいということだよね....。

 

 

「煉獄さんは最終決戦の前にある無限列車で猗窩座との戦いで亡くなりました。しかし、前回では猗窩座が現れなかったことでこの戦いも無くなり、煉獄さんは生き残ることになりました。ですが、このような疑問が残りませんか。どうして猗窩座が現れなかったのかと」

「それは......猗窩座が無限列車へ絶対に現れるって決められているわけじゃない。ここが原作と全て同じだとも限らないわよ」

「私も同じことを考えました。この世界は漫画ではなく現実なのだから、全てが原作と同じように進むわけではない。炭治郎のこともあるし、この世界で無限列車に猗窩座は現れないということになっている。そう思っていました。

ですが、今回では無限列車に猗窩座が現れた。これらから、前回で無限列車に猗窩座が現れなかったのは、猗窩座が無限列車に現れることができない何かが前回で起きたのではないかと私は考えました」

 

 

私は彼女に質問形式で聞いてみると、彼女は少し思案した様子でそう答えた。私はそれに頷きながらも彼女の言葉を否定した。

 

 

無限列車のことは何度も考えた。炭治郎の死以外で原作と違うところであり、私が最も疑問に思ったところだ。

原作だと猗窩座が無限列車のところに来たのは無惨からの命令だった。猗窩座は無惨の命令に忠実だったので、それを無視することはないだろう。

 

そうなると、無惨が命令を下さなかったのか、猗窩座が行けない事態だったのかの二択に絞れた。

だが、無惨の性格から魘夢の目で炭治郎(耳飾りを身につけた鬼狩り)がいると分かって、そのまま放置しようと考えるわけがない。魘夢に何かあったのかと思ったが、炭治郎達の話を聞く限り、それもないと考えた。となると、猗窩座を邪魔する者がいたと考えた方が良いのだろう。

 

 

と言っても、邪魔する者がいたというのは可能性があるだけだ。だが、確実に言えることは猗窩座が介入できなくなるほどの何かが起こった。これは確かだと考えた。

 

 

「他にもありますよ。最終決戦での上弦の鬼との戦いでしのぶさんと時透君が亡くなる筈でしたので、私は前回の最終決戦での出来事を二人に聞いてみました。すると、何やら不自然な点があったそうです。

 

 

しのぶさんの時は童磨が行動しようとすると、一瞬だけ動きが止まったり、何か痙攣のように揺れたりということが起きていたようです。私はこれを聞いて、その動きを不自然に思い、誰かが何かしたのだろうというのはすぐに気づきました。

それを見たしのぶさんがふざけているのかと思ったくらいですから(まあ、これはしのぶさんの個人的な感情からだと思いますけど)。

私達に分かりやすい表現でいうと、テレビのバグのようなものですね。画面が乱れているように見えるようです。

毒を打った時にそれが起きるので、しのぶさんは毒が効いているのかと思っていたそうですが、童磨の反応からそれは違うというのは分かったそうです。どういうことなのかと調べてみたそうですが、何も分からなかったそうです。

 

 

時透君の時はなんだか物思いに耽っているようで、一瞬動きが止まることが多々あったそうですよ。時透君は流石に物思いに耽るのが長過ぎなのではないかと疑問に思うくらいには。ただ強かったため、片腕を斬られ、切断をした方がいいかと考えるほどの大怪我を負ったようです。片腕を失っていないことでここも何かが起きたのだと分かります。

肩を刀で貫かれて身動きが取れなくなったそうです。ここも違いますよね。この変化にもそう行動が変わるようになったのだと考えました。

まあ、一番気になるのは物思いに耽る件ですけどね。

特に、時透君が柱に押しつけられた後に相手の懐へ入って刀を刺した時にも、黒死牟は何かを思い出したように、何処か遠く見ていたそうです。その様子は時透君達が何か罠があるのかと考えるくらいに異質だったようですよ。

 

 

宇髄さんに関しては亡くなったというわけではありませんが、遊廓の戦いで左目と左腕を失っていました。

ですが、宇髄さんはどうやら五体満足で生き残ったと言っていました。

その時も不自然なことが起きたようですよ。妓夫太郎に追い詰められ、宇髄さんもその時は流石に腕一本を斬られる覚悟をするくらいだったと言っていました。

ですが、妓夫太郎のその一撃は宇髄さんの左腕の皮膚を薄く斬るだけだったそうです。腕が無くなると思っていたから、幸運だったと思ったようです。

その時、宇髄さんはあの時のあいつは目を押さえて、あのクナイに塗られた毒がまだ解毒し切れていなかったのかと呟いたのを聞いたそうです。ですが、その直前の妓夫太郎の動きから解毒していたのは間違いなく、使った毒が後から効果があるような複雑なものではなかったため、そこを妙だとは思っていたそうです。

 

全員がおかしいとは思っていたようですが、どれも目撃者が一人しかいないので、気のせいなのではないかと考えていました。それと、その後で色々なことが起こり、私が再び聞くまで忘れていたようですよ。まあ、そうなるように操作したのかもしれませんけど」

 

 

私は鬼殺隊から聞いたことを全て話した。その話を聞いて、彼女は私から目を逸らした。しのぶさん達の話も聞いて、彼女なりに思うところがあるのだろう。それとも、自分のやったことを言われて、それが気まずくて現実逃避でもしているのかな。

 

 

でも、鬼殺隊だけが分かる情報もあるから、鬼殺隊へ行ってみようと思って行動したが、鬼殺隊にいたことで得る情報は本当に多かった。私の想像以上だ。特に、これらの情報はその場にいた本人だけしか知り得ないものなので、鬼殺隊に会わないと分からないことだ。

捕まるという形でも鬼殺隊に行って話をしようと考えたのは正解だったみたいだ。そうしなかったら、私はこのことに気づけなかっただろう。

 

 

「貴女が煉獄さん達を助けてくれたと私は思っていますが、どうなのですか?」

「.......それに証拠なんてあるのかしら?アタシが煉獄さん達の死亡フラグを折ったという証拠は」

「ありませんよ。先程私が言った通り、これは私の憶測ですから。....ですが、私は無限列車や遊廓の戦いを経験して、原作の通りに行動していたら煉獄さんは亡くなっていたとか、宇髄さんはあの時にあれが起きなければ片腕と片目を失うことになり、引退していたのではないかとか、そういうことを思うくらいのことがありました。いや、危機感を感じたということが何回もありました。

原作は原作、前回は前回、今回は今回ですが、この不安から私は警戒していました。そうしているうちに私は戦いの中であることに気づきました。

これは現場に出た私の勘でしかありませんが、原作と同じことになる可能性はあったと思ったのです。そう感じたのは一度や二度ではなく、何度もありました。だから、私はその違和感が原作の流れと仮定し、その流れに沿うような形で動こうとしているのが分かります。ですので、前回もそれが起きたのではないかと思っています」

 

 

私が彼女に聞いてみるが、彼女は証拠があるのかと聞いてきた。私は最初の推理小説みたいだという話がまだ続いているのかと思いながら、私のこれまで感じてきたことを言った。

 

思えば原作に関わるようになってから、それを目安に行動していたが、その中で疑問に思うことが幾つかあったのだ。それらをよく見ると、原作のようになろうとする流れがあることに気づいた。

その流れを確信したことで、彼女が前回で関わっているのだと気づくことができた。それと同時に、今回の彼女の行動にその流れが理由であることも勘づいた。

 

 

「....それが仮にアタシであったとしても、炭治郎の件はどうなのかしら?炭治郎の件はアタシの所為なのよ。煉獄さん達を救済したのに、なんで炭治郎を殺すことになるのよ。なんで炭治郎だけを殺すのよ。意味が分からないわ...」

 

 

彼女は顔をしかめながらそう言った。その言葉を聞いて、私は彼女がどう思っているのかを察した。

 

この彼女の言葉は....おそらく自分自身が思っていることなのだろうと。

 

 

「その答えは今の貴女からよく分かりますよ」

「はっ?」

「確かに貴女は炭治郎を殺されるきっかけになってしまった。だけど、貴女は炭治郎のことを殺す気なんてなかった。そうでしょう」

 

 

私は彼女に向けて微笑みながらそう言うと、彼女は目を見開いた。

どうやら大当たりのようですね。流石の彼女もこれには動揺も隠せないようだ。

 

 

「な、何を言っているのよ。アタシが殺す気なんてなかったって.....。....何を確信にそんな......。...それに、煉獄さん達を救済したこととアタシが炭治郎を殺したことに何が....関係性があるとでも.....」

「...まあ、あると言ったらあると思いますよ。煉獄さんの時はどうなのか分かりませんが、宇髄さん達の時はどれも鬼が何か幻覚のようなものを見ているのではないかと思える行動をしていました。

だけど、宇髄さん達は見えていない様子でした。上弦の鬼には見えるのであって、宇髄さん達には見ることができません。それなら、上弦の鬼だけ(特定の人物)に作用する血鬼術なのではないかと考えました。そう仮定すると、色々繋がるのですよ。

それと、炭治郎の時は周りの記憶から炭治郎のことが消える、炭治郎を仲間と認識できないということになった。

 

一見バラバラのように見えるかもしれませんが、これらの共通点は五感と脳が関係するということです。

つまり、脳に何らかの影響を与え、見たものや聞いたもの、察知したものなどを別のものに変えたり、不都合なものを消したりできるというですね。

貴女の使う血鬼術は精神に何らかの影響を与えるものだと考えていましたが、精神というよりも脳の方が正しいと思います。本当は脳に影響を与え、記憶や認識、感覚を操作できる血鬼術なのではないですか?

....別に何かしらの関係を疑ってもおかしくはないでしょう。前回で貴女は鬼であり、無惨からの支配を解いていたというのなら、貴女は例え他の鬼の邪魔をしても、無惨から呪いで殺されることはないのですから」

 

 

動揺している彼女の様子を見ながら、私はそれでも話を続けた。その様子から知られないようにしていたのだということが分かり、ますます申し訳なく思った。

 

 

彼女と話す前はまだ彼女の血鬼術のことを把握しきれていなかった。そのため、彼女の血鬼術への認識にズレがあり、それによって私も彼女への評価を誤ってしまった。

彼女の血鬼術は普通とかそういう単純な次元ではなく、初見殺しとか反則のようなものだ。それは分かっていたが、私はこの戦いまでそれを過小評価していた。その血鬼術の範囲と具体的な力を理解して、漸く真相に近づけたと思う。

 

 

「それに、貴女はこう言っていますよね。『炭治郎の件はアタシの所為』と。貴女がそう言っているのは、前回で炭治郎に起きたことの原因が自分自身であり、また同じことが起こらないように貴女は前回と同じ行動しなかった。

そして、あの時の件から鬼殺隊の方に行かず、貴女は鬼側につくことを決めた。....まあ、鬼側にはついたけど、鬼殺隊の情報は話していない様子なので、個人的な考えから、でしょうか」

「.....!アタシがこっち側に入ったのは生き残るためなのよ!償いとかそういうのじゃないわ!」

「...私は貴女がそのために鬼側についたと思えません。別の意味があると思っています。

もし生き残るためというのなら、無惨側に入らない方が生存率は高いのではないでしょうか。煉獄さん達の救済の件を否定しても、貴女は前回で逃れ鬼となっているのなら、無惨の支配から抜け出すことが可能であるため、無惨に従う必要はありません。まあ、無惨が追手を放つことになりますが、前回で鬼側からも鬼殺隊からも逃げ延びていたのですから、絶対にこうしておかなければという感じではない筈です。生き残るためと言っていましたが、それなら貴女が柱や炭治郎達を殺した方がその確率が高くなります。貴女の血鬼術ならそれが可能ですし、鬼側から追手が来ても逃げられますので。それなのに、貴女は炭治郎達を殺そうとしなかった。しかも、地上に着いた時の様子から、貴女は何かを待ち望んでいたような様子でした。

それに、貴女は鬼殺隊の情報を鬼側に何も伝えていないことから、既に無惨に忠誠を誓っていないし、鬼殺隊を不利な状況にするつもりもないと分かります。そのことからも、貴女は鬼殺隊が無惨を倒してくれることを望んでいるのだと考えています」

 

 

私の話を聞いて、彼女は動揺しているのを隠さずにそう叫ぶように言った。それに対して、私は自分の推測を話した。

と言っても、彼女が償いのために自ら悪役になろうとしていることは確信しているんだよね。彼女が童磨以外を原作通りにしたことで、私は彼女が生き残るためというのは違うと思った。

それに、彼女の血鬼術が分かってみればますますその可能性が高くなってきた。

 

 

私の予想だと彼女の使える血鬼術は隠密に適している血鬼術だ。本来なら表に出ず、裏から動けば相手を倒せるはずだった。

 

 

だが、彼女がこうも色々準備したのはおそらく私に血鬼術が効かなかったからなのだろう。血鬼術を使えば私なんてすぐに殺せたはずだ。おそらく彼女ならすぐに殺そうと動いた。

しかし、血鬼術が私に効かず、いつものようにはいかないと考え、物理で倒せる水の血鬼術も使うことにした。血鬼術を二種類使い、それらを組み合わせたもので戦えば私に通用すると考えたのだろう。彼女の様子からして、水の血鬼術をかなり鍛えたようだったし。

その結果、私には脳や五感などを操作する血鬼術が真正面であっても一斎効かず、水の血鬼術で対抗した。

 

どう組み合わせたのかというのは、おそらく脳や五感などを操作する血鬼術を私にかけるのではなく、水の血鬼術の方にかけたのだろう。魘夢の血鬼術は夢に関係するもので、すなわち脳とか心とかそういう精神的なところを攻撃する血鬼術であった。

そして、今回の彼女の血鬼術も脳や五感などを操作する、精神そのものを攻撃できるものだった。これらのことから考えると、私は精神を攻撃するような血鬼術が効かないということになる。

 

 

まあ、水の血鬼術にかけた方の血鬼術は私に予想通り効いたのだけど、どうして自分の精神的なものにかける血鬼術が効かないのかというのは何一つ解けていない。

でも、それは彼女に聞いても分からないことなので、そのことに関してはこれ以上考えるのを止めよう。

今は彼女のことだ。

 

 

「貴女が無惨側になった本当の理由は.....前回でやってしまった炭治郎の時のことに対する償うためだったのではないですか?」

「....!どうして...そんな........そんな筈がないわよ!アタシが鬼側に入ったのは鬼だからであって....敵として貴女達の前に立ち塞がったのよ!貴女のことも殺そうとしたし、そんな奴をよく救済してくれたとか、償おうとしているとか言えるわね!...それに、アタシは今回では何もしていないじゃない!炭治郎の件を償うために、なんで前回で救済した人達を今回は救わないのかしら!」

「.....私は貴女がとても頭の良い人だと思っています。それは鬼や鬼殺隊の両方から逃げ切ったことからも戦いでの血鬼術からも分かりました。そんな貴女が前回のあの時に血鬼術に誤作動をするということが起きるのかというと、私は微妙なところだと思いますよ。

ですので、貴女に予想外な何かが起きたのではありませんか?前回では煉獄さん達を助けていた貴女が今回はやっていないことにも、貴女が私を殺そうとしていることにも関係しているのではないでしょうか?」

 

 

私の質問に彼女は大声で否定した。それを見て、私は彼女がここまで否定するのは認めたくないという気持ちが強いのだろう。

それ故に、彼女は答えを言っているような態度をしていても、それに気づいていないようだ。

 

 

「......貴女って、本当に何者なのよ?なんでそんな核心に迫るところまで来るのかしら?転生者だから勘づかれるとは思っていたけど、ここまで見破られるのは流石に予想外よ。それとも、それが転生特典なのかしら?いや、貴女の先程の力も気になるわね。そっちが本当の転生特典なのかしら?」

「それは分かりませんよ。ここまでの話は鬼殺隊や炭治郎達の話を聞いて、私がただこうなのではないかと思ったことを言っているだけですので、ほとんど勘です。.....あの力に関しては私も知らないことばかりなうえに初めてのことだったので、むしろ私が教えてほしいのですよ。

....それより、私の憶測は正解ということでよろしいでしょうか?」

 

 

彼女は私を睨むように見ながら自笑するかのようにそう言った。なので、私も正直に答えた。

彼女はしばらくの間私を凝視していたが、やがて肩の力を抜き、溜息を吐いた。

 

 

「...もう潮時かしらね.....。....いいわ。この際だから、アタシのことを全部話してあげるわよ」

「あの時のことを、前回で起きたことを全て話してくれるということですか」

「ええ.....。アタシの考えが少し入っているけど、それでも構わない?」

「構いません。むしろ、本当のことを話してくれることに感謝しています」

 

 

彼女は話を逸らすのを止め、素直に話すと言った。私が確認すると、彼女は取り繕うのを止めた様子で私に聞いてきた。私はそれに微笑みながらしっかり頷いた。

 

全てを話してもらえるのだから、その話に文句を言う気はない。話してもらえるだけでも感謝するべきなのだ。

 

 

「...全く。話す気なんでなかったのよ。....それじゃあ、アタシがこの世界に転生した時から話すわね。何処から話せばいいのか分からないから」

 

 

そう言って、彼女は語り始めた。私はそれを一言を聞き逃さないように彼女の話に注目した。

 

 

 

 

 

いよいよだ。現状がどうなっているのかは分からない。

だけど、これでこの戦いは終わり、一つの終止符を打つことができる。それだけは確信できた。

 

 

 

それと、彼女の話次第で、私は............しようと思う。

 

 

 

 

 






華ノ舞い


妖狐ノ花 狐空円輪

刀を回転させた状態で八の字を描きながらステップを踏んで前に進み、自分に向かってくる攻撃を全て斬ったり弾いたりする。


天陽ノ花 珠沙炎天

刀を回転させた状態で上半身を捻り、大きく円を描く斬撃。


爆炎ノ花 華昇乱舞

刀を回転させた状態で体全体を捻りながら八の字を描いたり大きな円を描いたりして、大小とある多重の斬撃を放つ。




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笹の葉の少女は責任をとる 後編

 

 

 

アタシの前世はただの平凡なアニメオタクだった。漫画を読んで、アニメを見て、映画化したらそれも必ず観ていたし、グッズだって購入していた。それくらい、アタシはアニメが癒やしだった。

 

 

そんなアタシはある日事故に巻き込まれて亡くなった。正直、心残りしかなかった。あの時のアタシはまだ高校生だったし、最近ハマっていた漫画がもうすぐで完結だったし、その漫画の映画だって楽しみにしていたのに観ることができなくなってしまった。

死ぬまでそういう後悔ばかり思い浮かんでいて、この世に未練しかなかった.....。

 

 

だけど、次に目を覚ましたらそこはあの世ではなく、何故だか妙に草木が生い茂ったところにいた。

あの時は本当に焦ったわよ。そこにいる理由も分からなくて、森の中を彷徨い歩くことにしたわ。だって、何も分からなかったんだもの。

そうしていたら池か湖なのかは知らないけど、水が溜まっている場所を見つけたわ。あまり喉が渇いていなかったけど、水は飲める機会に飲んだ方が良いと思って、その湖に近づいて...アタシは初めて気がついたのよ。

 

 

鬼になっていることに。

 

 

アタシは湖の映った姿を見て驚いたわ。目が縦長になっていたし、口からは牙が生えているのも見えたのだから。あと、何故か髪や瞳の色も違っていて、まるで別人みたいだった。

アタシは映ったのが自分だと気づき、変わってしまった部分からまさかと思って両手を見た。案の定、その手の爪はとても長くなっているうえに先が鋭かった。

 

 

アタシはそれらを見て、すぐにこれが何か...該当するものが思い浮かんだわ。服装は制服のままだったけど、この自然が豊かな環境や鬼の特徴が自身にあることから、アタシはここが転生する前までハマっていた漫画の『鬼滅の刃』の世界であり、その世界に転生しているのだということに気づいた。

 

 

この世界が『鬼滅の刃』なのかもしれないと悟ってすぐに、アタシはその漫画のキャラクター達がいるかどうかを調べた。と言っても、アタシは鬼だから、鬼殺隊には見つからないように動かないといけなくて大変だったわ。

幸い、アタシは飢餓が全くなかったから、人間を食べなくても行動できた。おかげで、アタシはその調査の方に集中することができた。また、人間を食べないうえに目立たないようにしていたから、鬼殺隊にアタシの情報が出ることはなく、隊士がアタシを殺しに来ることもなかった。そもそも鬼の気配があまりなかったらしく、アタシの存在に気づかれることは少なかったわね(ヤバいと思ったら即逃げるようにしていた)。

 

 

そうやって少しずつ鬼殺隊の情報を集めていき、アタシが転生した時がちょうど『鬼滅の刃』の最初の時期だということに気がついた。今でいうところの二年前ね....。

 

二年前といっても、アタシが転生した時は既に炭治郎達の家族が殺されていた時期を過ぎていたようだし、この二年間は現状を把握するために時間を費やしていた。

何せ、アタシは鬼だから鬼殺隊に近づけない。一般人も食べてしまう可能性があって、アタシから近づこうとは思えなかった。そのため、現状を知るのに時間がかかってしまった。もしかしたらその期間に救えた人がいたかもしれない。そう思うと、後悔が残るわ。

 

 

だけど、本格的に原作へ入る前に分かって良かったと思った。原作の流れは知っていたため、この後の展開は分かるし、救済は可能だもの。鬼になっているから、鬼との戦闘でも大丈夫だ。鬼舞辻無惨の支配を受けている感じではないので、太陽の光や日輪刀、藤の花以外で死ぬことはない。

 

太陽が出ている時に移動できないのは不便だけど、それでも鬼になったことで得る利点も大きかった。

だって、鬼だと普通の人間より力が強い状態だもの。戦闘時は少し有利になるわ。

 

 

なんで救済するのかって?それはこの『鬼滅の刃』という世界では登場人物が多く死ぬからよ。アタシがこの漫画を読んで、何度好きなキャラが亡くなって泣いたことか......。

 

...だからこそ、この世界はその推しキャラ達が亡くならない世界にしようと思ったわ。この世界で推しが幸せになるところを見たいと。

ちなみに、アタシの推しは主に鬼殺隊よ。鬼側も好きだけど、アタシは主人公側の方が好きなのよね。

 

 

 

アタシは炭治郎が最終選別を受けるところを見て、それを合図に計画を決行した。

 

具体的に何をやったのかは貴女の思っている通りよ。アタシは鬼だから、鬼殺隊に入ることはできないし、協力をすることもできない。珠世さん達は浅草にいるとはいえ、兪史郎の紙眼をなんとかしないといけなかった。アタシの血鬼術は操ることができても、他人のものを操ったり、察知したりすることはできなかったのよ。粘っていたのだけど、全然会える気配はなかったのよね。救済しながらも浅草をうろうろしてみたんだけど、最終決戦の時まで会えなかった。

 

....運が悪い?知っているわよ、そんなことは!

 

 

鬼殺隊も論外よ。運が良ければ話を聞いてくれる人がいるかもしれないが、鬼の話なんて聞かずに問答無用で斬りに来る人だっている。これは運ゲーであるため、アタシは鬼殺隊とはなるべく接触しない方向で進めることにしたわ。

 

 

無限列車の時はそもそも猗窩座が現れなければ煉獄さんは死なないのだから、猗窩座が無限列車へ来れないようにすればいいと思った。

猗窩座の頸を斬るのは無限城よ。それなら、無限列車で会うようにしなくてもいいと考えた。

何せ、黒死牟と童磨の使う血鬼術は初見殺しだが、猗窩座の使う血鬼術は違う。羅針は厄介だけど、戦っていれば気づけるものだと思った。

 

煉獄さんが亡くならないと、炭治郎達に何か影響がないのかということも考えたが、あの煉獄さんの亡くなるシーンを思い出すと、今でも胸が苦しくなる。多分あのシーンをもし映画で見たらアタシは泣くわ。

 

 

戦闘になっても平気だった。アタシはこの二年間で調査しかしていないと思ったら大間違いよ!調査をしている最中に、鬼殺隊と戦うことになった場合を考えて、アタシは血鬼術を修得しようと思った。でも、人間は食べたくなかった。それで、アタシは自分を鍛えることにして、あれこれしているうちにあの力に目覚めた。

いえ、おそらく元から使えていて、アタシがコントロールできるようになっただけだと思うわ。だって、目覚めた瞬間に自分の体の一部かと思うほどに意のままに操れたのだもの。

 

 

当時のアタシは驚いた。人間を食べていなかったのに、本当に血鬼術が使えたのよ。これはもしや転生特典かと思うくらいに使いやすかった。おそらく転生特典でしょうけどね。

 

 

アタシはその血鬼術を使って鬼殺隊の人達に見つからないようにしてきた。見つかったら殺されるのは間違いなかった。でも、アタシは推し達と戦いたくなかった。

 

 

アタシは煉獄さん達が生き残る結末を見たくて、原作にもかなり介入してきた。遊廓編だって誰も死なないけど、宇髄さんの左腕と左目が無くなるし、最終決戦に向けての準備という意味でもこの戦いに参加した。

 

 

アタシは推し達が生存したラストを見たかった。特に終盤は主要キャラがどんどん亡くなっていって、とても悲しかったし、凄い泣いた。最終話は見ていないけど、次々と亡くなるシーンを転生する前にずっと見ていたことから、その思いは強くなっていったのだろう。

アタシが望んだのは主要キャラ全員が生き残った最後を見ること、それだけの筈だった。

 

 

だけど、アタシは最後に欲が出てしまった。

最終決戦でも全員が生き残った状態で鬼舞辻無惨まで辿り着き、朝日が昇るまで戦い続け、無惨を倒した。主要キャラ全員が大怪我をしていたけど、誰も死ななかったわ。悲鳴嶼さんが少し危なかったけど、そこはアタシの血鬼術でなんとかした。

 

 

えっ?無惨と呼んでも大丈夫なのって?最初に話した時に無惨の名前を呼ばないから、無惨の呪いにかかるようにしたから?

ふふふっ、もう平気よ。アタシは貴女に負けたのだから、もう無惨の部下である必要はないと思って、無惨の呪いは解いたわよ。

それに、分かってるじゃない。アタシが今回で無惨の呪いにわざとかかってるって。

まあ、あの鬼舞辻無惨が呪いを解いて、いつ反逆するか分からないのを十二鬼月に加えるわけないわね。

 

ああ、そうそう。無惨にはアタシの目的を別のものに認識させたから、本当の目的は貴女しか知らないわよ。

 

 

もう、話を戻すわよ。とにかく、無事にラスボスの鬼舞辻無惨を倒せた。アタシはその様子を見て、安堵すると同時に寂しさもあった。アタシは鬼であるため、無惨を倒せば消滅することになる。それは覚悟していたけど、全ては推しのためだった。

 

 

アタシはそう思っていたけど、やっぱり何かご褒美が欲しくて...血鬼術を使った。

今思うと、無惨を倒したことでテンションが上がっていたのね。アタシは消滅するまででいいから、最期に炭治郎と話をしたいと思った。何せ、『鬼滅の刃』の世界に転生したといっても、その主要キャラ達とは話していなかった。遠目で見たり、血鬼術をかけたり、手助けしたりしていたけど、アタシは直接会ったり話したりすることはなかった。

 

特に、アタシは炭治郎が『鬼滅の刃』の中でも最推しだったから、ほんの少しの間だけその最推しと話したい。死ぬ前にそのくらいの贅沢をしたいと思い、炭治郎に血鬼術をかけた。

 

 

だけど、それは間違いだった。血鬼術を使った瞬間、何かまずいことになるのではないかと思った。それに気づけたのに、アタシは止めることができなかった。あの時のアタシはきっと何かボタンを押してしまったのだと思ったわ。何重に重ねていたもののバランスが崩れたと、全てを崩壊させてしまうスイッチを入れたと、今でもアタシはそう感じたのを覚えている。本当に一瞬で、ドミノ倒しのように崩れていったわ。

 

 

上手くいっていたのに、アタシが自分の手で壊してしまった。アタシはその惨状を見て、血鬼術で止めようとしたが、それもできなかった。アタシが何度血鬼術を使っても、コントロールは無理だった。今まで上手く操れた力が突然牙を向いたことで、アタシは動揺していて何もできなかった。ただ炭治郎が殺され、禰豆子も亡くなっていくところを見ているだけだった。

 

 

これはアタシへの罰なのだと思ったわ。アタシが調子に乗っていて、その力を過信してしまったことで、この悲劇を生み出してしまった。そして、悲劇を起こしておきながらアタシはそれを止められなかった。

それに、気づくべきだった。原作をあれこれ変えたことで、その後への影響を軽く考えていた。死亡するはずの原作キャラが生存したことで、その後でこんなことになるなんて思ってもいなかった。

 

 

だけど、これだけは確かだった。アタシが炭治郎達の人生を変え、その絆も壊してしまったのだと。

後悔しかない。善逸達が自身を責めている。遺された善逸達にアタシがやったと教えたい。それなのに、アタシはもう消えかけていて、話すこともできなさそうだ。

 

アタシのしたことが原因でこんなことになるなんて....アタシが望んだのはこんなんじゃなかったのに.....。...だけど、この悲劇を起こしたのはアタシ。それが紛れもない事実なのは分かった。望んでいたことと真逆なことが起こったのはアタシが色々行動したから。

 

 

そんなことを思っているうちに、アタシの目の前は真っ暗になった。

おそらく限界だったのね。....このことで絶望する資格なんてないのに...。

 

 

その後、アタシは気がついたら転生した時にいた森の中へ戻っていた。そのことに驚きながらも、アタシはいつまでも自分が消えないことに気づき、もしやと思って調べてみた。すると、鬼がまだ存在していて、無惨や十二鬼月だっていることを知り、年代も聞いてみた。それによって、二年前に戻っていることが分かった。

 

 

アタシはそれを知って歓喜した。今度は原作に関わらないと、あの悲劇を起こさないようにできると思った。死亡するはずの原作キャラに生きてほしいと思っていたけど、そのために他のキャラ(主人公)を死なせるのは駄目なのよ。

原作以上の悲劇を起こしてはいけないのよ。そんな悲しい終わり方は嫌よ。原作の最終話を見てないけど、あの話はきっと大団円で終わるはずなのだから.....。

 

 

でも、アタシが前回であの悲劇を起こしたのは紛れもない事実よ。やり直すことになっても、それは変わらない。

アタシがあの時の事件を起こした元凶なのよ。例え誰も知らなくても、アタシはその罪をずっと抱え続ける。罰も受ける気よ。だけど、誰もアタシがその悲劇を起こした罪人だと気づいてないし、知らないのよね。炭治郎は鬼に慈悲を与えてくれるけど、アタシにはそんなことをする必要はない。むしろ前回で貴方を殺した張本人なのだから、恨んでほしい。....そう言っても、アタシを慈悲なく恨んでくれるわけがなさそうよね。

 

炭治郎の鼻なら嘘をついてないと思ってくれるだろうけど、そもそも炭治郎に会える可能性は低い。それに、炭治郎を殺すこととなってしまった柱や善逸達にもアタシを罰する資格がある人よ。なんとかその全員がアタシを罰するようにしたいけど、それは流石に難しいというのも分かっていたわ。各地にバラついている鬼殺隊がたった一体の鬼のために集まると考えられない。その場ですぐに殺されるだけ。

 

 

それなら、上弦の鬼として出会えばどうかしら。敵側にいて、それも上弦の鬼という幹部にまでいけば殺意を抱くのは間違いないわ。何せ上弦の鬼となったら、たくさんの人を殺したと認識される。強い鬼なら複数人が集まる。それなら、その人達はアタシを確実に殺意や怒りを抱きながら殺してくれる。

そう考え、アタシは人を食べるようになった。人を食べないとなると、無惨や十二鬼月がアタシを仲間と思わない。最終決戦までに上弦の鬼にならないといけないので、あまり時間がなかった。早く信頼を得て、強くならないといけないと思い、見つけた死体とか、たまに人間を殺して食べてきた。

 

 

その結果、別の血鬼術を使えるようになったわ。出世のために鬼を斬るような人間に殺されたくなかったから、その対抗手段の一つとして丁度良いと思った。

アタシが殺されたいのは柱や炭治郎達だし、隊士を殺したら憎悪が強くなるとも考えていたし、どうしようもない悪人になろうと必死だった。

やっていることがおかしいというのは分かっていた。だけど、アタシは止めることができなかった。

もうアタシにはこれしかない。こうすることでアタシは正しく裁いてもらえる。

どうせアタシは人を殺して、人生をめちゃくちゃにしたんだから、なかったことにされるのはおかしい。そうなってしまうよりも、ちゃんと人を殺した鬼になった方がいい。その方がいいんだって。

...そう思っていたわ。

 

 

 

 

 

「それなのに......結局、それもできなかった...。....しかも、鬼殺隊の方はまさか全員が前回の記憶を持ってたなんて...思ってもいなかった.....。それに、もっと早く気づけば別の方法を考えてたわ。アタシは無意識に前回の記憶を持ってるのはアタシだけだと思ってたのよ....」

「.............」

「アタシが貴女を殺そうとした理由のうちの一つは、原作を知る貴女がアタシのことに気づきそうで、前回のことも知られたらアタシの考えていることもバレて邪魔されると困るからよ。貴女の行動は予測できないもの。貴女が何をするか分からなかったけど、原作に関わってくるなら見逃せない。

それに、あの時のことがあったからよ。貴女がアタシのように救済していけばまた前回と同じことになる。そう思って、アタシは貴女と早く殺しておこうと考えたわ。

 

その後は....貴女の言う通り、もう終わりの近い時だったから、アタシには時間がなかった。上弦の陸になれても強くなり続けないと下ろされる可能性があったから、アタシはそっちに力を入れないといけなかった。

あと、アタシは柱や炭治郎達と戦うんだから、他の隊士達に負けないためにも強くならないとと思ったのよ。

そういうわけで、アタシに貴女を殺しに行く時間はなかったから、他の上弦の鬼が殺しに行くように誘導したわ」

 

 

アタシの話をあの子は静かに聞いていた。それから、アタシは戦う前のあの子の予想通りに動いたことを教え、あの子を睨みつけた。

 

前回のようなことが二度と起こさないためにも、アタシは何でもしようと思ったわ。あの悲劇を絶対に起こしてはいけないと。

 

 

...いえ、アタシがやったことはきっと逆恨みね。あの子はアタシと違っている。あの子は人間に転生して、アタシは鬼に転生した。そんなあの子が光に見えて、アタシは真っ暗な闇にいる。そのことにアタシは嫉妬した。

 

 

アタシは転生してすぐに鬼だったから、鬼にならないという選択肢がなかった。そのため、鬼殺隊とは敵対する関係だった。だけど、アタシは鬼殺隊と戦いたくなかった。そんなアタシに味方なんていなかった。

二次創作では味方になったり協力者としての関係を築いたりしていたが、それが現実でできるなんて思えなかった。

アタシは鬼殺隊に見つからないように動き、鬼殺隊の様子を陰ながら見守ることしかできなかった。

だけど、あの子は違う。鬼殺隊の人達と一緒に行動できて、太陽の下で光を浴びながら炭治郎達と行動するあの子が眩しかった。

 

一方でアタシは誰一人も味方がいない。鬼は一緒になることなんてなく、それどころか共食いをする習性を持っているため、命を狙われることもあり得て、一緒に行動できない。

例外な鬼は累や妓夫太郎と堕姫の兄妹ぐらいだ。他の鬼はみんなどんな状況でも争い合うため、協力するなんていう選択肢がない。

信頼できる仲間はいなかった。裏切られる可能性があって、そんなことはできなかった。

だからこそ、あの子のことが羨ましかったのかもしれないわね。あの子がどんな人間か確かめずに殺そうとするくらいに。

 

 

「.....貴女が前回で起こしてしまったことは、確かにやり直しになってもその事実があったのを消すことにはならない」

「そうでしょ!それなら.......」

「だけど、貴女は悪い人ではないでしょう?」

「....はっ?」

 

 

睨みつけるアタシを見ながら、あの子は落ち着いた様子で話し出した。あの子の言葉にアタシは同意していたが、次の言葉は予想外過ぎて、アタシは口を半開きにし、目を見開いた。

 

 

何を言ってるのかしら、この子は。

アタシは前回で炭治郎を殺すきっかけになったわ。それに、アタシは貴女も殺そうとしたのよ。どうして殺そうとした鬼を悪い人ではないなんて言うの。

 

 

「前世でアニメオタクだからといっても、アニメオタクでも色々な人がいますよね。趣味や好きなものが同じであろうと、性格が違うのですから。これは前世で読んだラノベ小説からの情報(読んだ小説の設定)ですけど、その小説の中の転生者は必ず同じ行動をするわけではありません。大きく分けると、二つですかね。一つは亡くなるはずのキャラを助け、物語とは違う道を進むことです。もう一つは物語を変えないまま、その人生の中で自分なりに生きることです。

ですので、アニメオタクの転生者がみんな好きなキャラを救うわけではありません。

その人にはその人の個性があります。貴女と同じことをするとは限らないではありませんか」

「.......何が言いたいのよ...」

「誰もが救済を考えるわけではないし、それに向けて行動することも全員ができることではありません。貴女がその行動ができたことを私は否定する気なんてありません」

 

 

あの子の言葉にアタシは眉を顰めた。そんなアタシを見ても、あの子は微笑んだまま話を続けた。

あの子はアタシを否定する気なんてないと言うけど、一体どういうつもりなのかしら?

 

 

そんなアタシの心情を気づいてるかどうかは分からないけど、あの子は苦笑いしていた。

ホントにどうする気なのかしら?

 

 

「先程言っていた通り、私と貴女は違いますよ。私は原作通りに進むことを望み、貴女は救済をして物語を変えることを望みました」

「あら、貴女は原作通りに進めようとしてたの?」

「そうです。ただ、私は何もしようとも思いませんでした。正直に言いますと、私は恥ずかしいです。私は普通の町娘でいることを選び、何もしないことで原作通りに進む方を望みました」

 

 

あの子の突然の自分語りにアタシは話が見えなかったけど、とりあえず聞くことにした。あの子はアタシの言葉に頷き、悲しそうな顔をしながら言った。

 

アタシはあの子の表情を見ながら思った。

あの子は原作に関わらない方を選ぼうとして、結局はそれを選ぶのを止めたのだと。

なんで変えちゃったの。それで良かったのよ。そのままでいれば......。

 

 

「それでいいじゃない。原作を変えようとしたら、アタシと同じことが起きてたわ」

「....そうですね。私もそれが怖かった。だけど、それ以上に怖かったのは別にありました。死ぬかもしれない戦いをすることや誰かが死んでいくところを直近で見ることに恐怖心を抱いていました。

そのため、私は関わりたくないと思い、この世界から目を背けました。『鬼滅の刃』という世界から逃げました。ですが、貴女は例え好きなもののためという理由でも、この世界に立ち向かいました」

「立ち向かうだなんて.....。....それなら、貴女も立ち向かったんじゃないの。今回で貴女は煉獄さんの救済をしたんでしょ。煉獄さんの件は関係あると貴女が言ってたわよね」

「あれは流されたというのが正しいと思っています。

この世界の未来を知り、もしそれが嫌な未来なら変えようとする。少なくとも私はそうします。自分から嫌な未来に行く人はいるにはいると思うけど、そこまで多くないと思いますから。

知っていて、その未来になることへの抵抗を覚えたり、その未来に進めていき、その結果で誰かが死ぬことになることに罪悪感を抱いたりする人達だっています。

 

私がしたことを正当にするような言い方ですが、貴女の影響で変わった展開に流されていた状態の私は目の前に助けられそうな命に出会ったうえに、さらに変わり過ぎた現状が後押ししてくれて、それがきっかけで未来を変えることにしたと思っています。

だけど、貴女は違います。貴女は原作通りだった流れに逆らい、未来を変えました。貴女と私で違うのはそういうところですよ」

 

 

アタシが思ったことを言うと、あの子は一度頷いていたが、すぐにそれも否定した。さらに、アタシを褒めるようなことを言い、アタシは違うと言った後にあの子が煉獄さんを助けた時のことを指摘した。すると、あの子は流されているだけだと言い、アタシと自分自身の違いのことも話した。

 

あの子はアタシの思っていることに気がついている。アタシがあの子にどんな思いを抱いてるのかを察しているのだと思うわ。その上であの子はこの話をしている。

 

 

何故、あの子はアタシを責めないのかしら?

 

 

「原作通りの状況の中、貴女は鬼でありながらも煉獄さん達の救済を選びました。私がもし貴女の立場なら泣き寝入りしていると思います。貴女の立場になって、誰もがその行動ができるかのというと、答えは否だと思います。

口にしたり書いたりすることはできても、それを実行できるのは全員ではないのです。その行動をしたことを貴女は反省や後悔をしているかもしれませんが、反省はしても後悔はしないでください」

「はっ...!?」

 

 

あの子の話を聞いて、アタシは驚愕して声が出た。

 

あの子の存在は厄介だと感じていたし、想像できないことをしそうだと思っていたが、やはり予想外な行動をする子ね。

一体何も思って、こんなことを言っているのよ。

 

 

「確かに色々あったかもしれませんが、私は貴女が誰かを助けようとしたことを、助けたことを否定したくないのです。それに、私は貴女のことを凄いと思っています。貴女は鬼になって敵側についても、煉獄さん達を助けるのを諦めませんでした。

鬼殺隊は鬼殺隊での苦労がありますが、鬼になって味方がいなかった状態での苦労だって大きかったと思います。そんな状況でも、貴女は挫けずに努力をしていた。それは貴女が人を食べないで地道に鍛練やコントロールをしていたことからも分かります」

「....アタシが人間を食べてないなんてよく言えるわね。だけど、アタシは人間を多く殺して食べていたわ。貴女はそれに気づけないのかしら?アタシが人食いの鬼だと見抜けないなんて、今まで鬼と戦ってきたとは思えないわ」

 

 

あの子はアタシのことを人食い鬼ではないと言い、アタシはその言葉に怪訝な顔をした。

 

鬼殺隊に所属してないとはいえ、あの子は何度も鬼と対峙した筈なのに!それなのに、あの子はアタシを.....それも上弦の鬼に対して人食い鬼じゃないなんて、そんなおかしなことを言っているのよ。

何を考えているのよ。意味が分からないわ。

 

 

「確かに今回で私が貴女と接触した時、貴女から人食い鬼の気配がしました。

.....ですが、前回は違いますよね。鬼を食えばその気配に変化がある。貴女が一人でも人間を食べていたら、確実に人食い鬼の気配がするでしょう。特に、炭治郎達は血の匂いや鬼独特の音、気配などを敏感に感じる。貴女は血鬼術で隠すかもしれませんが、それにだって僅かな匂いがあります。

原作通りに動くとなると、そこにほとんど主人公の炭治郎がいる。貴女の特典の方の血鬼術が脳に影響を与えるものだとしても、何かしらの違和感を感じるはずです。と言っても、気のせいと思われるかもしれませんが....。

 

貴女の使う血鬼術がそういうのが一斎なかった場合でも、炭治郎の鼻に引っかからずに、それを長時間も一緒にいれば貴女の力にも限界が来るはずです。鬼は疲れることはありませんが、血鬼術を使えば力は消費します。そのために鬼は人を食べることで、禰豆子は眠ることで力を回復させていました。ですので、貴女もそれらの行動をすることになりますよね」

 

 

あの子はアタシの言葉に肯定していた。だが、あの子は前回のアタシのことを指摘し、前回の状況やアタシの血鬼術、鬼の特性などを挙げていき、アタシが前回で人間を食べた可能性を否定していった。

 

....前回でいなかったのに、なんでバレちゃうのよ。原作の知識があっても、これには気づかないと思っていたわ。

前回のアタシは人間を食べなくても平気だったし、たまに少し眠くなることがあるけど、その時に眠れば良かったから、力を使い果たすことなんてなかったわね。

 

 

「その点から貴女が人間を食べていないのだと考えました。何せ、貴女の血鬼術は複雑だからこそバレにくいものになっていますが、その代わりに力を多く使っています。ただでさえ自分の姿を隠すのでも多く使っているのに、自身が人食い鬼だとバレないようにするため、さらに力を使わないといけなくなる。

しかも、人間を食べれば食べるほどにその力が増すが、隠す方でもかなり複雑になるので、これでは自身の存在を隠すのに精一杯で、その状態で戦いの時に血鬼術を使うのは負担が大きすぎると思いました。特に、貴女が血鬼術をかける鬼は全員が上弦の鬼です。かけるのなら、強力な血鬼術を使わないといけませんよね。人間を食べて力を回復する場合は。

 

......それで、貴女はどうなのですか。貴女は前回で見つかることがなかったのですよね。それなら、貴女は前回で人を食べていないのではないかと思いました。

それに、貴女のことだから食べた人の数はそこまで多くないと思います。もしかなりの人数を食べているのなら、鬼殺隊で大騒ぎになっているでしょう。ですが、そんな大騒ぎなんてなく、今まで私しか気づかなかったのだから、そうなのではないかと私は考えました」

 

 

あの子は自身の推測の続きを話し出した。だけど、アタシからしたらほぼ正解よ。推測を話し終わった後、あの子がアタシに問いかけるように聞いてきたが、アタシは答えることができなかった。

 

だって、あの子の推測が合っているのだもの。話せなかった。

 

 

「....今回で人間を食べてしまったことは消すことができません。ですが、それでも貴女が前回で人間を食べずにいたことも煉獄さん達を助けてくれたことも消えません」

 

 

そんなアタシの様子に気づいたのか、あの子はアタシの答えを聞かずにそう言った。あの子は他の人達にその記憶がなくても、アタシのしたことは消えないと言った。良いことも悪いことも残ると。

 

 

その言葉にアタシは喜んでいいのかという複雑な思いと絶望のような感情を抱いた。

あの子、甘いことを言っているのか厳しいことを言っているのか分からないわね。まあ、あの子は甘やかす気なんてないかもね。

ホントに自身の感じていることをそのまま話しているみたいだけど、アタシには........。

 

...なかったことにしていた筈の感情が出てくることに気づき、アタシはそれを押し戻そうとする。

 

 

だが、その間にもあの子は話し続ける。

 

 

「貴女からしたら私を逆恨みしたくなるのも分かりますよ。転生した時から鬼として頑張っていたが、誰にも頼れない状況でした。その状況でも貴女は自分の目標を変えなかった。

本当にやりたいことをしている時、辛いことがあろうともそれを真っ直ぐに目指している。だからこそ、諦めたくないと思って前に進める。.....貴女は本当に煉獄さん達の救済するのを諦めなかったし、先程で言った柱や炭治郎達全員が生存している世界を見たいという願いは本気だというのがよく伝わります。そんな貴女がお菓子を食べるような感覚で、人間を食べようとするとは思えなかったのです。

 

例え人間を食べる決断をしても、それは軽い気持ちで決めたわけではなく、深く考えてからの行動だと思っています」

 

 

あの子はアタシを擁護するようなことを言ってきた。

 

それを聞いて、アタシはますますあの子のことが分からなくなってきた。だって、何故かアタシのことを信用しているように見えるのよ。だけど、あの子が何故アタシにそこまでしようとしているのかがどうしても分からないのよ。心当たりもない。

 

 

「こんな信頼を寄せていることを不思議に思うかもしれませんが、私は貴女がそう思っていようと、貴女の行動を私なりに評価しています。

私を殺そうとしたことだって、それは貴女があの時のことを忘れず、それを起こさないようにしていたのがよく伝わりました。

もしかしたら、私も原作のようにするために何かしていた可能性がありますから。殺すという方法でなくても、そのための行動をしていたかもしれませんね。

だから、貴女が自分のしてきたことを思い悩んでいるのは知っています。ですが、自分の行動に悔やむのではなく、何がいけなかったのかと自分の気持ちや行動を分析して、自分の前に道を開いてくれる方がいいのではないかと私は思います」

 

 

あの子の話を聞き、アタシはあの子が何を言いたいのかに気づいた。

 

 

アタシが鬼でありながら鬼殺隊を救おうとしたことは間違いなんかじゃない。あんなことが起きたけど、それを反省して次へ向かった方がいいのだと。自分を殺そうとしたことも気にしていないと。

あの子はそう言いたいのね。

 

だけど........。

 

 

「..........」

「....もし貴女が私に悪いことをしたと思ったのなら、大変厚かましいことを言っているのは充分承知ですが、お願いをしてもよろしいですか?」

 

 

無言でいるアタシに近づき、あの子は頼み事をしてきた。アタシはそれに困惑したが、話は聞いてあげることにした。

 

何を言ってくるのかは分からないけど......。

 

 

「な、何よ...」

「勝手ですが、私もその償いに協力させてほしいのです」

 

 

アタシが戸惑っていると、あの子はアタシにそう言ってきた。アタシは絶句してあの子を見た。

 

この子はアタシに協力したい。つまり、アタシの罪を背負いたいとでも言うの!何を考えているのよ!

 

 

「なっ!?」

「貴女は前回であの時のことへの責任を取ろうとしていた。貴女は罰することを望んでいて、それを自分の中で終わらせようとしていた。それは貴女が知られなくて良かったと思っていたのでしょう。....私が余計なことをした所為で、貴女の理想とは程遠いものになってしまったでしょう。その件はごめんなさい。....でも.......」

 

 

アタシがあの子の言葉に驚き、腹筋の力で起き上がっている間に、あの子はアタシを見ながら謝っていた。だが、あの子の目には強い意志が宿っていた。

 

このことから、あの子が生半可な気持ちで言っているわけではないと分かる。でも、それをすることであの子に何の意味があるのかは分からなかった。

 

 

「私は貴女を一人で責任を取らせたくないと思いました。信用していないとかそういうのではなく、個人的に心配だと思ったからです」

「同じじゃないの...」

「心配とは気がかりや気にかけて世話をするとかの意味です。貴女の身に何か起きているのかどうかと思うのであって、貴女のすることを信じていないわけではないのです。

貴女は前回のことも今回のことも含めて、償おうとしていた。貴女が貴女なりの誠意であったと思っています。それを私が横槍を入れて、台無しにしてしまいました。

.....私はそれらを予測しておきながらめちゃくちゃにしてしまい、それでも貴女を一人でそのまま放置というわけにはいかない。そう思って行動しました。

勝手に邪魔をしてごめんなさい。その謝罪として半分ください」

 

 

あの子の言葉にアタシは不満な顔をしてそう言うが、あの子はそれを否定しながら心配の言葉の意味を言い、先程の言葉を訂正した。

あの子はアタシを信じているけど、アタシの身を案じているようね。さらに、謝罪もしていることから、アタシと鬼殺隊が戦うのを妨害したことに罪悪感を感じているのかしら?

だけど、それとアタシの罪を背負うのは違うわよ!

 

 

「貴女はまだ気にするかもしれませんが、炭治郎は貴女のことを許すそうですよ」

「....嘘よ!」

 

 

あの子のその言葉を聞いた途端、アタシはすぐにその言葉を否定した。だって、信じられないからよ!

 

あの子はそんなことを言っているけど、絶対に嘘よ!だって、アタシは炭治郎達の関係を引き裂いたのよ!本当なら壊れなかったものをアタシは壊した!それを許すと言うの!

 

 

「本当ですよ。私は炭治郎に質問しました。前回のことで分かったことがあると言ったらどう思うのかって。そうしたら、炭治郎はこう言っていました。『前世のことを、あの時のことを忘れたことなんてない。されたことも、悲しかったことも、辛かったことも何一つ忘れたりしてない。全部覚えてる。だけど、いつまでもそのままにするのは止めておくことにするよ』と。炭治郎は前回のことを何も忘れていないけど、それに囚われずに前を向こうとしている。

炭治郎は何が原因でも、誰が元凶であろうとも、それよりも大事なことがある。そっちの方が本当に大切なのだと。『だから、もう何が原因だとか言わなくていい』って、そう言ったのだと思います。あの時の件の元凶を聞くより、優先するものがあると」

「.....!」

 

 

あの子から聞いた炭治郎の言葉にアタシはカッとなり、すぐにその言葉を否定しようとした。

だけど、その前にあの子が質問する方が早かった。

 

 

「この世界は原作と違うのだと、現実の世界だというのは分かっていますよね」

「それは勿論よ!」

「それなら分かりますよね。

ここは『鬼滅の刃』という世界であり、現実の世界でもある。原作でキャラクターだと思っていた人達は生きている人間であり、周辺で目立たなかった人達も生きている。どんな人達でもそれぞれの人生がある。原作だと特別なように描かれていても、ここでは全員が自分の人生の主人公なのですから。

原作では主人公を中心にして、その主人公の人生と関わるものが描かれている。でも、その視点が別の人に変われば同じ世界でも違うように描かれるでしょう。

原作ではその話の中のキャラクター達のものであったけど、この現実の世界は私達のものでもあります。私の世界だと私は主人公ですけど、別の人からはただの脇役になります。

ここは私達の世界であり、人生でもある。例えここが原作の世界なのだとしても、この先がどうなるのかを知っていても、それをどうするのかは私達が決める。原作にいない存在だから自由に動くのではなく、この世界で生きているのだから、自分の意志で動いている。

 

それが私達の人生なのだから....私達は生きているのだから.....。...何を知っていても、私達には選択する自由がある。原作の世界であろうと、私達はこの世界で生活しているのは間違いない。だからこそ、私はこの世界で精一杯生きようと思っています。

貴女も自分のできることを精一杯していて、前回も今回も自分の人生を歩んできたのです。

なので、自分の行動を自分で否定しないでください。貴女は本当に頑張りました」

 

 

あの子の質問にアタシは当然というように答えた。すると、あの子はアタシに語り出した。

 

原作では主人公は炭治郎一人だったけど、この現実の世界では全員が主人公であり、脇役でもある。意志があって動いていて、その世界の人達は精一杯できることをして、頑張って生きている。それはアタシも同じだとあの子は言いたいようだ。

 

 

その言葉にアタシは戸惑いを感じた。この世界はアタシにとって漫画の世界なんだけど、今は現実に起きていることと思っていた。だけど、アタシはそんな風に考えていなかった。

それに、アタシのことを褒めるなんて予想外にも程があるわ。

 

 

「貴女がしてきたことは、頑張り続けたことは決して無駄ではありません。貴女が頑張ってきたことで、私達はここまで来れました。

炭治郎達の話からも色々なことが前回であったそうですよ。煉獄さんのところはよく家族と話すようになったそうですし、不死川さん兄弟は今ではたまに喧嘩することがありますけど、和解はできているようです。甘露寺さんと伊黒さんも色々なことがありましたが、原作よりも仲が縮まっているように見えました。最後にあの件がありましたが、貴女のその行動によって良い方向に進んだこともあります。

 

生きている限り、その人の人生は続いていきます。生きていくことで、その人が変わったり悪くなってしまったりすることが起きる可能性がありますけど、それをより良いものにできる可能性があるのです。例え傷つくことがあっても、それを糧に成長することができたと私は思っています。

世の中に絶対の正義がないように、人がすることには必ず良い面も悪い面も両方を持っています。.....あまり気に病まないでください」

 

 

あの子が言う煉獄さん達の話はきっとホントのことだと聞いていて分かった。

 

 

原作で煉獄さんの家は煉獄さんのお父さんが妻の死で酒に溺れ、指導と育児を放棄した。それによって、家庭はかなり荒れることになった。幸いにも、煉獄さんがなんとか切り盛りしていて兄弟仲も良かったため、父親との関係以外は特に問題がなかった。煉獄さんの死後に父親が更生されたけど、煉獄さんと和解することはもうできないのだった。

不死川兄弟も最終決戦中まで仲違いした状態で、玄弥は亡くなってしまった。甘露寺さんと伊黒さんは両想いだったけど、互いに思いを告げた後に二人とも亡くなってしまった。

 

そうなるはずだったことが変わり、その人達の仲が良くなったり深まったりという結果になった。

アタシのした行動で悪い結果になったことがあったけど、良い方向に進んだこともあった。それは確かなことなのね....。

 

 

あの子の言葉を聞いた瞬間、アタシの中で何かが崩れたような感覚がした。ずっと蓋をしていた壁が音を立てて崩壊していった。

そう感じた時、アタシの目から涙が溢れた。アタシの口からも勝手に言葉が出てくる。

 

 

「...アタシは.....ホントはこんなつもりなんてなかった!」

「うん」

「人を食べる気なんてなかった!食べたくもなかった!悪役にならないとと思いながらアタシは人を殺したくなくて、死体を見つけたらそれを食べて、生きている人間を食べないといけなくなったら、盗みや詐欺、暴力、虐待、殺人などの犯罪を犯した人達を殺して食べていた!中途半端だった!」

「うん」

「悪役になろうとして成りきれなかった!どうしようもない、一方的に罵られてもいい鬼になって、鬼殺隊の前に出ようとして失敗した!アタシは結局どれもこれも中途半端だ!何一つ完遂できず、中途半端にしかできず、ただ場を掻き乱して最悪の展開にしてしまった!アタシは一体何をしたかったのよ!」

 

 

アタシはこの世界に来てからの不満や悲しみ、苦しみなどの感情を目の前にいるあの子にぶつけた。もう途中で止まることなんてできなかった。あの子は相槌を打ってくれて、アタシの話を最後まで聞いてくれた。

 

 

「誰もが完璧にできるわけがない。周りに完璧だって言われている人だって何処か欠けているところがあるかもしれないでしょう。何もかも自分の思う通りに動くわけではありません。

なので、貴女が一人で全ての責任を背負う必要はないのですよ。きっかけが貴女なのだとしても、私はそれをたった一人が背負う理由にはならないと思っています。あの件は貴女だけではなく、周りにも何か原因があったと思います。

なので、その罪の意識に囚われ過ぎるのは良くありませんよ。限度というものがあります。

まあ、殺してしまったことは貴女の罪なので、その責任を負わないといけませんけど、前回と今回で起きたことの責任を全て背負うのは違うと思っています」

 

 

もう泣き叫んでぐちゃぐちゃなアタシの頭をあの子は優しく撫でながらそう言った。

あの子の言葉はアタシに都合が良すぎて、これが夢ではないかと思えてしまうわ。

 

 

アタシは再び涙が溢れ出してきて、手でそれを拭った。その時に初めて気がついた。切断されたままだった腕が再生したことに。

さっきまで斬り口が炎で焼かれていて、その炎がアタシの再生を止めていた。それが何故このタイミングで.....。

 

そう考えていたが、溢れ出してくる感情にだんだん流されていき、思考がまとまらなくなってきた。

そんなアタシに気づいたのかは知らないけど、あの子がアタシを抱きしめてきた。

 

 

「人間には楽な方に行きたいと思う人が多いです。自分から苦しくて辛い方に進む人だっていますが、それは何か目的があっての行動です。自分に利点があるからです。

貴女はどんな形でも炭治郎達のことを思っているのは確かです。どんなに強く思っていても、願っていても辛いことは嫌だと、少しでも楽な道に行きたいと思いたくなります。人間の心ではそうなりますよ。辛いことばかりの人生が良いという人はいると思いますが、それが当たり前の常識というわけではありませんから。少なくとも、前世と今世を含めて私の周りにはそういう人がいないと思っています」

 

 

あの子はアタシの背中を摩りながらそう言った。

 

アタシのような人食い鬼を人間と呼ぶあの子に、アタシは縋り付いた。あの子が肯定してきたことで、アタシの心のタガが外れたようだ。涙も泣き叫ぶ声もアタシの意思ではもう止められない。

 

 

「私は貴女を否定しませんよ。誰が何と言おうと、貴女のしたことを正しいと言えなくても、貴女がしてきたことに頑張ったねと私は言いたいのです。

そして、貴女の頑張ってきたことを肯定したい。そう思っているから、私は貴女にできる限りのことをしよう。貴女が自分を肯定できるようになるための手伝いをしようと思いました。

貴女と私は転生者同士であり、同じ世界にいたことがあり、それらを共有し合える仲間なのですから、何か手助けしたいのです」

「...仲間....?.....アタシのような鬼を仲間と呼ぶなんて...やっぱり貴女は変わっているのね」

「あはは......。...それと....できれば友達にもなってほしいです。前回とか色々ありましたが、同じ過去(前世)を話し合える人がいるなら、その人と仲良くしたいと思っていましたので。こんなことになってしまっても、私は貴女と早く出会いたかったと、もう少し話したかったと思うのです」

 

 

あの子はアタシの手助けをしたいと、アタシのことを仲間だと、アタシと友達になりたいと言った。

アタシのことを仲間と呼ぶあの子をに対して口では憎まれ口を叩いていながらも、アタシの口角は自然と上がっていた。

 

 

今まで気づかなかったけど、アタシは相当参っていたみたいね。ずっと一人で誰にも頼ることができなかったから。

アタシはきっと仲間が欲しかったのね。頼り合い、励まし合い、信じ合うことができ、自分の思ったことを言い合える友達が傍にいてほしいと思っていた。それを最期に手に入れたかもしれないと思うと、なんだか嬉しいわ。

 

漸くこの世界で生きていると思えた。二度もこの世界で生きていたのに、心の何処かで漫画の世界という認識があって、現実と思えなくなっていたわね。

それに、誰とも話すことなんてなくて、話すことになってもその相手を信頼できないから、俯瞰して画面の向こうにいると感じるようになっていたのね。

...こうなっていることに全く気づけなかったわ.....。

 

 

もしかして、あの子も......。...あの子からしたら、話せないこともそれが難しいこともあるかもしれないから......。

 

 

「あら、別にいいわよ。敬語なんて使わなくたって。貴女とアタシは仲間であり、友達なのでしょ。なら、敬語はいらないわ」

「....それなら.......うん、分かったよ」

「アタシのことを手伝いたいと言うなら、貴女の手で終わらせて。貴女が代わりに解決して」

 

 

アタシの言葉を聞き、あの子は敬語を使うのを止めた。想像より素直に聞いてくれる子なのね.....。...あの様子から、もっと頑固な子かと思っていたわ。

もしアタシも人間だったら、あの子と良い関係を築くことができたかしら?

まあ、それを考えても仕方がないわね。もうこの際、あの子に全力で甘えることにするわ。

 

 

アタシの言葉を聞いて、あの子は驚かずに頷いた。きっとあの子もこれは予想していたのね。

 

 

「....ねえ。一つ聞いていい?」

「何よ」

「貴女の名前は何というの?貴女、転生者とは言っていたけど、名乗ってはくれなかったから」

 

 

あの子は刀をアタシに向けながら聞いてきた。アタシが何なのと思いながら聞くと、あの子はアタシの名前が知りたいらしくそう聞いてきた。

 

そういえばあの子の名前を知っていたけど、アタシは一度も名乗っていなかったから、知るわけがないわね。

前回で誰にも名乗ることはなく、今回も無惨に名前をつけられたけど、その名前を名乗ることなんてなかった。というか、アタシの名前だっていう実感がなくて、いまいちピンと来なかったのよね。

アタシにはやっぱり人間の時の名前の方がしっくりくるわ。....あの子に教えるのはこっちの名前がいいわね...。

 

 

「......いいわ。一度しか言わないから、よく耳を澄まして覚えなさい。

アタシの名前は七海よ」

「七海...七海。.....うん。それなら、改めて......私の名前は生野彩花。よろしくね、七海」

「ええ。....もうそろそろやりなさい、彩花」

「うん...」

 

 

アタシが名前を教えると、あの子はアタシの名前を言い聞かすように繰り返し呟き、その後であの子も、彩花も改めて自己紹介をした。

 

 

彩花がアタシを止めないのは、これがきっと彩花なりの誠意のようなものなのだからなのね。アタシが今までの行動への手向けとその過程での罪の清算をするためにやってくれている。

特に、罪の清算はアタシが最もしたかったことだもの。ここでアタシの頸を斬ることで、アタシにけじめを着けさせ、人食い鬼としてのアタシが死んだということを示したいんだろうね。

転生者が起こしたことを転生者が解決する。そういうことね。

 

 

.....余計なお世話と言いたいけど...ありがとうね。

 

 

「華ノ舞い 日ノ花 日車」

 

 

彩花が黒色の日輪刀を振り、アタシの目には真っ暗な夜空が映った。

 

あっ。夜空ではあるけど、夜明けが近いのか少し明るくなっているわね。最終決戦ももうすぐ終わるのね.....。もう無惨の支配を切ったアタシには現象の様子が分からない。

 

アタシの頸が斬られたのだというのは分かる。だけど、全く痛みがなく、何故か暖かいと感じている。まるで、日光浴をしているかのような暖かさを。

 

 

......そういえば、この世界に来てからは太陽の光を浴びていなかったわね...。鬼になってしまったから、できないのは仕方がないのだけど....。

.......まあ、最期に擬似とはいえ、日光を浴びれて良かったわ。きっとこれは彩花の呼吸の型の効果なのだろうけど、今のアタシにはこれで満足よ。

 

 

「後は頼んだわよ」

「うん。でも、大丈夫だと思うよ。炭治郎達なら、もう自分達でどうにかできるし、お互いに歩み寄れるから......」

 

 

アタシの願いに彩花は笑って引き受けてくれた。

最後の方の言葉は上手く聞き取れなかったけど、きっと前向きなことを言っているのだろう。

...でも、今はその言葉に救われてあげる。

 

 

アタシは二度もこの世界で過ごし、上手くいったと喜ぶことはあっても、こんな安心感を抱くことはなかったわ....。

 

 

アタシの目の前が真っ白な光に包まれ、その光に溶け込むように意識を手放した。

 

 

苦しみがなく光に包まれ、暖かさを感じながら逝くなんて贅沢だわ。

 

そう思うくらいに夢の中に行ってくるようで心地良くて、アタシはその心地良さを最期まで感じていた。

 

 

 



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笹の葉の少女は一周を終える

 

 

 

最終決戦から、数ヶ月が経った。鬼舞辻無惨を倒し、鬼は全員消滅した。だが流石は最終決戦というわけで、鬼殺隊の方にも死亡者がいる。

柱はほとんど生き残ったが、悲鳴嶼さんのみが痣の寿命で亡くなった。

前回では七海が血鬼術でどうにかしていたが、今回はそれがないので、悲鳴嶼さんの死は避けられなかった。

みんなはそのことに暗い顔をしていたが、唯一の救いは悲鳴嶼さんが穏やかな表情で亡くなったことだろう。

 

 

本来二十五歳までしか生きられなくなる痣を使ったことで、悲鳴嶼さんは戦いが終われば亡くなるのだというのは覚悟していた。だが、こうして亡くなられると、やっぱり悲しいと感じる。

炭治郎も悲鳴嶼さんが亡くなったことにショックを受けているようだ。あの面会で悲鳴嶼さんとは和解した様子だったので、もっと話せば良かったと言っていた。

 

でも、和解ができたことは少なくとも両方にとって良かったのだと私は思っている。それはそれで未練が残りそうだから.....。

 

 

獪岳は一見普通そうに見えていた。だが、たまにふらっといなくなることがある。鎹鴉達に聞いてみると、どうやら一人で悲鳴嶼さんの墓参りに出かけているらしい。

普段のように振る舞っているけど、悲鳴嶼さんの死に思うところがあるのだろう。

 

結局、獪岳と悲鳴嶼さんがどうなったのかは分からないが、収まるところに収まったのだと信じたい。お前もかというように見られたから、話し合いは成功したのだろう。とりあえず、こういう風な関係になれたことは良かったかなと思っている。

 

 

あの時に私がお節介をかけたことが良い方に進んだことを願おう。....それにしても、彼女の...七海の血鬼術は本当に凄かったんだと実感するよ。.....私では悲鳴嶼さんが亡くなるという運命を覆すことはできなかった。

 

 

炭治郎の話に戻そう。最終決戦を終え、前回で炭治郎が亡くなった時を過ぎたことで、炭治郎に少し余裕ができたのだろう。

炭治郎は善逸達と話しても平気そうで、最近では善逸達の前でも笑えるようになっている。この様子だと発作はもう起きないと思う。

 

問題は禰豆子の怒りがまだ鎮まっていないことかな。炭治郎が良いならと近づかせているが、不満に思っているのは明確だ。でも、それがだんだんと兄を取られることへの嫉妬に変化しているし、このまま放置で大丈夫だろう。

 

 

ちなみに、私はというと......今も蝶屋敷に入院中である。

他の人達はもう退院しているのだが、私はまだしのぶさん達から許可をもらっていない。

 

何せ、重傷で生きているだけで奇跡だと言われた。私はそれに驚いたけど、思い返せば当たり前だと気づいた。腹を貫かれていたわけだし、その後も普通に戦っていたからね。

 

 

七海の頸を斬った後の記憶がなく、あの後でどうやら気絶したようだ。

まあ、あの出血の量だ。アドレナリンが出ていて、痛みを感じない状態で動き回り、体がもう限界だったのだろう。

それに、華ノ舞いの新しい型を一気に三つも使ったのも原因だろう。

いつもは一つずつで、それでもかなり体に負担がかかっている。それなのに、三つも使ったことでいつもより三倍以上の負担になっているのだと思う。

 

 

それで、そういったことが積み重なった結果、入院期間が一番長くなってしまった。目が覚めるのも最後だったみたいだからね。

ちなみに、その間に禰豆子や珠世さんも人間に戻っていて、検査とかもすっかり終えていたので、本当に残ったのは私だけだった。

 

 

目が覚めた時に蝶屋敷の子達には大騒ぎされたし、炭治郎達には泣かれたし、獪岳には遅いと言っているような顔をされるし、兪史郎さんやしのぶさんには『よく生きていたな(ましたね)』と言われた。

 

 

前半は大怪我した状態で戦い続けた私の自業自得なので、仕方がないと思っているし、罪悪感も感じている。だけど、後半は少し酷いと思う。

実際に起きるのが遅かったから、獪岳の言っていることは良いとしても、兪史郎さんとしのぶさんの言葉には困惑しながらも私の体がどうなっているのかと尋ねた。

 

兪史郎さんとしのぶさんが言うには本当に生きているのが奇跡というくらい重傷だったらしい。しかし、止血ができたことと何故か傷口が塞がりかけていたことによって、一命を取りとめたそうだ。

ただ、あと一歩発見するのが遅かったら危なかったようだ。

 

 

それと、傷口が塞がろうとしていたことから、鬼になったのではないかと思われたが、太陽の光を浴びても灰にならないことや血液検査をして人間だという結果が出たことから、私が鬼ではないと証明できた。

 

炭治郎の件から慎重になっていたのだろう。おかげで、私は死なずに済んだ。

だけど、それなら何故あの傷口が塞がっていったのかという疑問が残るのだ。私が入院しているのはその調査があるというのも理由の一つだろう。

と言っても、私も何が起きたのか気になるので、検査をしたいと自分から頼んだからね。御館様や珠世さんも元から調べさせてほしいと言うつもりだったらしく、私の頼みを快く引き受けてくれた。

 

 

それから経過を見ていたが、私の体に何も変化はなかった。

この件で何度も会議を開かれたが、それでも気味が悪がられなかったのはやはり炭治郎達の件が大きい。あの件から、全員が感情のままに動いてはいけないとかそう思っていたので、私は疑いの目が向けられても処罰なんてされず、危険人物なのか調査し、結論が出るまでは放置された。ちゃんとした結果と全員での話し合い、御館様の判決により、私は今のところ危険がないということになった。

 

私はそれに安堵した。判断が下されたということもあり、私の周りは落ち着いた。

本当に害する人間がいなかったことは良かったよ。

 

 

その害する人間がいなかったことから、前回の炭治郎の件が原因で全員が反省していることが証明されて、禰豆子がこの件を出すことはたまにあっても、恨み言は言わなくなった。当時のことを考えると、すぐに殺そうとせず冷静に判断できれば結果は変わったのではないかと思っていたのは確かだからね。

 

 

ある意味で怪我の功名というものかな?

周りは今までにないことだったので大騒ぎしていたが、その発端である私は人間に戻った禰豆子やなほちゃん達と会話したり、炭治郎や善逸達と双六したりなどとかなり快適な時間を過ごしていた。

 

その代わりに他の人達がドタバタしていたけど、これで良かったと思っている。

鱗滝さんや鋼鐡塚さん、小鉄君達もお見舞いに来てくれて、楽しかったからね。

 

 

 

 

 

 

 

そういう感じでのんびり過ごしていたのだけど.......。

 

 

 

...私、何かを忘れている気がするんだよね.....。

 

 

 

私は何かしらの違和感を感じながら廊下を歩いていた。

 

 

 

何を忘れているのかは知らないけど、それでも何かをしないといけないと思っている。

だけど、それが何なのかは分からない。

 

 

しばらくの間は首を傾げていたが、きよちゃんが前から来たので、挨拶することにした。

 

 

「おはよう」

「おはようございます、彩花さん。これから、検査の時間ですか?」

「そうだよ。きよちゃんは洗濯物を干しに行くのかな。いってらっしゃい」

「はい。彩花さんもそろそろ退院できると思いますので、頑張ってください」

 

 

私ときよちゃんは少し雑談した後、すぐに別れた。私は検査しに行かないといけないし、きよちゃんも籠の中にある洗濯物を干さないといけないようなので、あまり長く話す気にはならなかった。

 

それにしても......。

 

 

「なんだか平和だな....」

 

 

私は窓から見える空を見上げながらそう呟き、微笑んだ。口角が自然と上がる。

 

 

炭治郎達と出会ってからバタバタしていた所為か、ここ最近時間がのんびり過ぎているように感じる。でも、それは鬼がいなくなって、戦う必要がなくなったから言えることである。

それが嬉しいんだよね。

 

 

 

七海。私の言った通り、炭治郎達は鬼殺隊の人達と仲良くしているよ。見ている?

もし七海がいたら喜んでくれたかな。七海がここにいたら何て言うのかな?

ねえ、七海。

 

 

 

私は心の中でそう呟きながら青い空を見て、またクスッと笑った。だって、綺麗な青空だったから、なんだか心が晴れ渡るみたいでね。

 

 

この時の私は浮かれていたのだろう。最終決戦が終わり、原作の展開はもう現代の方が少し出てきて終わりのはずだから、安心しきっていたんだと思う。前回の因縁も断ち切れたようにも感じていた。

 

 

だからこそ、私は油断していた。

気づくことができなかった。

まだ謎が残っているということを...そして、自分自身の不思議な力と体質が関係していくことも.....それらを解決しなければ本当に終われないことも.......。

 

この時の私は何も知らなかったのだ。

 

 

私は窓から視線を外し、そろそろ向かった方がいいと思って一歩前に出た。その時、周りの空間が歪んだ気がした。

 

 

「えっ?」

 

 

私はその場で立ち止まり、辺りを見渡した。一瞬だったけど、私は確かに見えたし、感じた。

床や壁が渦を巻くように捻じ曲がっていた。私はそれが見えてからすぐに警戒したが、何も起こらなかった。

しばらくの間は警戒していたが、その後も特に何も起きなかったので気のせいかと思い直し、私はしのぶさんの待つ診察室に向かおうとした。

 

 

そうして、また一歩前に出た瞬間、カチッと時の針が動いたような音が聞こえ、続けてジジジッという螺子を巻くような音も聞こえてきた。その瞬間、目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 

「......えっ?」

 

 

目が覚めたら雲一つない青色の空が見え、何故か仰向けになっていた。

その青空の下で、子どもの声が辺りに響いた。

 

 

 







今回は話が短いので、明日にもう一話を投稿する予定です。それで、この時間に第三章にいきます。




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第三章 苦労人の少女は今日も考える
苦労人の少女は戻ってしまった




昨日が短かったということで、今回は連続で投稿しました。今回から新たな章が始まり、この章は少し前の章と違う感じになっています。
是非、楽しんでもらえるとありがたいです。




 

 

 

「......えっ?」

 

 

雲一つない青空が見える。その下で私は何故か寝転がっていた。私はそのことに呆然として声を上げ、飛び起きた。

突然別の場所に移動したことも驚いたが、それ以上に驚くことがあった。信じられないという気持ちが湧いてきた。

 

 

「....なっ...何、これ.....」

 

 

私は起き上がってすぐにあることに気づいた。それは服装が変わっていることだ。記憶の最後で私は蝶屋敷で入院している最中であったため、病衣を着ていたはずだった。しかし、今の私は桃色の着物に笹の葉の羽織を着ていた。

 

あれ?いつの間に私は着物に着替えていたの?と現実逃避してしまったが、それよりも見ないといけないことがある。私の中では最も驚いているし、信じたくないことだ。

 

 

.......いい加減、現実を見ないと...。

 

そう言い聞かせながら、私は笹の葉の羽織の方に視線を動かした。

 

 

どうして羽織の方を見るのかって?

笹の葉の羽織は母親の形見であり、母親が亡くなってからずっと私が着ているものだ。いきなり着替えていることに驚いても、笹の葉の羽織に何も違和感はないと思うだろう。

まあ、この笹の葉の羽織は何の変哲もない羽織だよ。母親の形見であるから、私はいつもこれを着ているのであって、特別な力なんてない。

 

 

だが、問題は羽織の大きさだ。

笹の葉の羽織は母親の着ていた物であるため、大人が着られる大きさだ。だから、幼い頃の私は袖や裾を折って着れるようにしていたが、それでもかなりぶかぶかだった。

でも、成長していくうちに笹の葉の羽織を折らずに着ることができるようになり、炭治郎達と出会った時には笹の葉の羽織に着られている感じではなくなっていた。

 

 

....ここまで話をすれば察する人がいるでしょうか。その通り、私が驚いているのは、ぴったりの大きさになっていたはずの笹の葉の羽織がまたぶかぶかの状態に戻っていることである。しかも、その羽織は袖や裾を折っていて、昔の私がしたような感じだった。

 

私は現状に察し、現実を見たくないなと思い、本日二度目の現実逃避をしたくなった。

羽織が大きくなったのは痩せたからだと思いたい。入院生活で凄く痩せてしまったのだと。

だけど、そうは言っていられず、それを確信に変えるために手を確認することにした。室内でないのは間違いないため、この近くにはおそらく鏡がないだろう。だが、自分の手なら簡単に見ることができる。

 

 

私はおそるおそる自分の掌を見た。その手は小さくなっていて、刀を握り続けたことでできた剣だこも無くなっていた。

 

 

私はもう確信するしかなかった。幼い頃の、両親が亡くなったばかりの時に戻っているのだと。

 

私は少しの間この状況を嘆いていたが、いつまでもそうしているわけにはいかないため、一度立ち上がることにした。先程言っていたが、ここは空が見えることから室内ではなく、外なのだ。いつまでも地べたに座り込んでいるのは駄目なのだ。

 

 

立ち上がれば着物に砂がついていたので、私はその砂をはたき落とした。着物が綺麗になったのを確認した後、ここが何処なのか知ろうと思って辺りを見渡し、また驚愕した。

 

どうしてなのかって?

それはここが身に覚えのある場所だからだ。

 

 

周りには草木が生い茂っていて、その中にある家...いや、家だったものがある。だが、私にとって見覚えがありすぎるうえに、懐かしさを感じるところであり、身近に感じた場所でもあった。

どうやら私がいるこの場所は、私が炭治郎達と一緒に行く前まで暮らした私の家であった。前にも同じようなことが起きたが、これはあの時とは全く違う。

だって......。

 

 

「おかしい....。...私の家が鬼に壊されたのは二年前だった。その時の私は笹の葉の羽織の袖や裾を折らなくてもいいくらいの身長だった。だけど、今の私の姿はどう考えてもそれよりも幼い。

それに、周りに炭治郎も禰豆子もいないみたいだし.....」

 

 

私は炭治郎と禰豆子の姿がないかと周りを見渡しながら探していると、別のことにも気がつき、思わず叫んでしまった。

何せ、それも違和感のあることだったから。

 

 

「藤の花の木もない!」

 

 

私の家の近くに植えていたはずの藤の花の木が何処にもないのだ。私はそのことに困惑した。

 

 

藤の花の木は私が鬼対策として両親に頼んで植えてもらったものだ。家にいた頃は毎日世話をしていて、それを何年も行っていたために立派な木となっていた。鬼の襲撃の時も傷一つないくらいに。

私が炭治郎達と一緒に行ってからはここに戻ってくることはなかったが、あの立派な藤の花の木が枯れるなんて思えない。水やりや手入れも村の人に頼んだし。いや、例え枯れたとしても、何も残っていないのはおかしい。

辺りを見ても特に何もなかったから、土砂崩れなどの自然災害が起こったのでもないみたいだし。

 

 

両親の墓を探してみたら、そちらはすぐに見つかった。家の隣にあった。だが、その場所に関しても疑問が残る。

 

私が両親の墓を作った場所は藤の木の下であって、家から少し離れた場所のはずなのだから。藤の花の木が消えただけでなく、その近くにあった両親の墓は移動している。

明らか不自然だ。

 

 

「.....なんだか色々なことが起きすぎていて、頭が痛くなりそう...」

 

 

私は頭を抱えながらそう呟いた。

いきなり自分が小さくなって、自分の家があった場所に寝転んでいて、それも自分の記憶と違うものであったというようなことが起きたら、誰もが困惑するだろう。もう訳が分からない.....。

 

 

いや、本当にこれはどういう状況なの?

原作が終わって、鬼舞辻無惨も倒し、珠世さん達も人間に戻ったということで鬼は完全にいなくなったはずである。

だから、血鬼術をかけられたというのは流石にない。炭治郎達の件はまだ鬼が完全に消えていない時だったからその可能性があったが、私の場合はその数ヶ月経った後のことだ。このことから、今起きていることは血鬼術に関係ないのだと考えている。それなら、何が原因でこういうことになっているのか....。

 

.....だが、これは何度考えても答えが出ない。情報も少ないからね...。

 

 

私はこれから先のことを考えると、途方に暮れそうになるが、それよりも情報を集めて、現状を知っていくことが大事だと思い、気持ちを切り替えることにした。

 

 

 

....さて、現状を知るために行動しようということになったが、何からしていこうか......。

 

とりあえず、私の身に起きていることや分かっていることをまとめてみることにした。

まず....体が小さくなっているし、時間は.....おそらく戻っていると仮定しよう。そして、この時間ならまだ壊されていなかった家が何故か破壊された状態であり、その時と小さくなった体から考えられる年齢が全く噛み合わないうえに、植えていた藤の花がなくなっているということかな。

 

 

他も一応調べてみるけど、あまり期待できないかもしれない...。分かってはいたが、これだけでは情報が少なすぎる.....。

 

 

そうなると、次はその周りの情報が必要だよね。例えばこの山の近くにある町とか、炭治郎達がどうしているのかとかそういうのを知りたいかな。

となると、ここから動いた方が良さそうだね。どっちにしろ、ここで暮らすことは難しそうだから、私は別に構わないけどね。

 

 

ここから一番近いのは炭治郎の家があるところで、その次が鱗滝さんのところかな。どちらにするかというと...私は炭治郎の方に行こうと思っている。

 

何故かというと、炭治郎の方に行った方が現状を理解しやすいと思ったからだ。

炭治郎のところは原作の始まりの場所だからね。出発点だから、原作が始まっているかどうか分かるのだ。

 

 

例えば、その場所で炭治郎達は両親と一緒に暮らしていたら、私は幼い頃の私であるということが確定される。

父親を亡くなっていて他の家族が生きていたら、もうすぐでその家族は鬼舞辻無惨に殺され、原作が始まる二年前に戻ったのだということが分かる。

そして、家に誰もいない状態であり、家の近くで埋葬し終えた墓を見つけたら、もう既に原作が始まっている頃なのか、それとも時間は戻っておらず、ただ私が小さくなっているのかというところに絞ることができる。

 

まあ、もっと考えれば他にも幾つかの例が思い浮かびそうだが、それよりも現状を知るのを優先させた方が良さそう。

 

 

それに、私が炭治郎達の方へ向かってそれとなく接触し、私同様に記憶があるかどうかを確認しないとね。この現象が起きたのは私だけとは限らないし。

炭治郎達の記憶がなかった場合でも、遠目で見れば大体の状況は把握できるだろう。どっちにしろ、行った方が良い。

 

その後、鱗滝さんの家に向かえばいいからね。鱗滝さんのところに行って、そこで鱗滝さんに弟子がいるかどうか、記憶があるかどうかを確認する。その弟子によってはどのくらいの時期なのか分かるからね。

それと、記憶がなかった場合でもそこで修行しようと考えている。今の私は呼吸を覚える前に戻されているわけだし、狭霧山は修行する環境として良いと私は思っているから。

鬼がいたら鬼殺隊に入って現状をもっと詳しく調べられるし、鬼がいなくても体を鍛えることに損はないからね。いざという時に対応できるようになれるし。

 

 

とにかく、一番優先するのは現状の把握で、その次に炭治郎達への記憶の有無、この世界に鬼がいるかどうかの確認、もしものために体を鍛えること、かな。

 

大体これぐらいだと思う。今のところ、私がした方が良さそうなことって。

それと、記憶があるかどうかは分からないし、あると断定して接触したら不審に思われるから、あまり期待せずに他人として出会うことを覚悟しておかないと。

 

 

そう言い聞かせながら、私は近くの町に寄ってから炭治郎の家に向かうことにした。

 

町に行っても、今の私の現状くらいは知ることができそうだからね。炭治郎達の方より、ここで今の私の現状について聞いてから、その後で炭治郎の家に行こう。

場所は分かる。炭治郎の家の場所は入院している最中に聞いていたから、辿り着けるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「....それで、貴女もどうしてここにいるのかな?」

「いや、それはこっちも聞きたいわよ!」

 

 

現在、私は山の麓まで来ていて、誰もいない場所で座るのにちょうど良さそうな丸太を見つけ、そこに腰掛けた体勢で隣にいる人物と話していた。

 

 

 

あの山から降りて、私は近くの町で情報を集めた。その町は私が出た時と何も変わらなくて、なんだか泣きそうになったが、それを堪えて話しかけた。

そこから得られた情報によると、どうやら今は両親に亡くなったばかりの頃らしい。

誰かに話しかける度に山から降りないのかと聞かれることが多く、まだ両親が亡くなってから間もない時期なのだと分かった。前も山から降りて来ないかと言われることがあり、その時には大丈夫ですと言い続け、だんだんそう言われることがなくなっていった。

だから、両親がなくなってからまだそこまで時間が経っていないのだというのはすぐに察した。

 

 

そのことが分かった後、私は炭治郎の家へ向かった。

もし時間が戻っているなら、この時の炭治郎はまだ雲取山にいる。これを確認できたら決定的だ。

 

 

そう考えてきたのだが、雲取山でまさかの人物と出会った。

 

 

「まさか、貴女がいるとは思わなかったよ。色々聞きたいことがあるけど、現状について何か知らない?

 

前のことでもいいから教えてほしいの、七海」

 

 

私はそう言って隣にいる人間、七海に声をかけた。

 

だが、この七海は前の時とは違う。前の時の七海は鬼であったが、今の七海は人間だ。爪は長くないし、牙も生えていない。目の方も上弦の伍という文字が消え、青緑色(その中でも少し青っぽい色)の瞳になっていた。

そして、背丈は今の私と同じくらいで、背中まである水色の髪が日光を浴びて輝いていた。

日光を浴びても大丈夫だから、もう鬼ではないということは間違いない。

 

 

私の質問に七海はいじけていたが、私の方をちゃんと見ている。

 

 

「アタシも何も知らないわよ。貴女に頸を斬られて終わったと思ったら、何故かここにいたのよ。しかも、人間に戻っていて、もう訳が分からないから、情報を集めようとしてここに来て、そしたら貴女と出会ったというわけよ」

「....あの件から戻った時はどうだったの?」

「.......アタシもよく分からないわ。気がついたらそこにいたんだから」

 

 

七海の話を聞いて、私はその経験からどうかとも尋ねてみたが、七海は首を横に振った。その反応から、分からないというのは本当らしい。

 

つまり、やり直しに七海は全く関係がないということね。...だけど、それなら何が原因なの?血鬼術は関係がないのは間違いないし....。

 

 

「七海も私も気づいたら時間が巻き戻ったということは分かったよ。...それで、七海にもう一つ聞きたいことがあるのだけど.....」

「....言いたいことは分かるわ。あれはなかったわよ。今回が初めてだと断言できるわ...」

「そうなんだ.....。じゃあ、どうしてあんなことになっているのだろう...」

「ホントにそれよ!」

 

 

知りたかったやり直しのことは一度まとめて話を終わらせ、私はもう一つ聞きたかったことについて言及した。七海もそのことについて話したかったらしく、私の言葉に食い気味に乗ってきた。

まあ、気持ちは分かる。

 

私と七海が叫びたくなるほどに言いたいことがある。

それは......。

 

 

「「なんで炭治郎と禰豆子の性別が変わっているの(よ)!!」」

 

 

そう、これである。私と七海が出会えたのはこの世界の炭治郎と禰豆子を見つけたことがきっかけなのだ。

 

 

私が竈門家の様子を調べにその近くの村を訪れた時、たまたま炭治郎と禰豆子が山から炭を売りに降りてきたところだったのだ。それで、私はこっそり二人を追いかけて確認したのだけど、私はその姿に驚いた。

 

何せ炭治郎が女の子に、禰豆子が男の子になっていたのだから。これが二次創作にある性転換というものなのかと現実逃避して、頭の中が真っ白になってしまったよ。

 

 

 

『『はあ!?....えっ?』』

 

 

 

まあ。そのおかげでうっかり出てしまった声によって、互いに気づけたのだけどね。

偶然とはいえ、七海も同じタイミングで炭治郎と禰豆子を見つけるなんてね...。.....二人の性転換への衝撃から固まり、正気に戻るところまでぴったりとはと思うけど....そこは置いておこう。

 

 

その後、炭治郎と禰豆子の性転換や七海がここにいることへの混乱で頭の中がぐちゃぐちゃになったけど、とりあえず一旦落ち着くことができた。

そういうことがあり、二人で話し合いたいので、この場所まで来たのだ。この場所は人目がつかないようだから、思う存分話せる。

 

 

「どうして炭治郎と禰豆子が性転換する事態になるの!」

「それはアタシも知りたいわ!前の時に原作キャラのことを調べたけど、その時は誰も性転換なんてしていなかったわよ!彩花こそ、何か心当たりがないの?」

「私もないから!一体何があって、炭治郎と禰豆子の性別が変わることになるのか考えているけど、それらしいものも出来事もないの!」

「それはアタシもよ!もう何なのよ!」

 

 

私が頭を抱えながらそう言うと、七海は頭がいっぱいになっているらしく、私にもそう聞いてきた。それで、私は七海の言葉に言い返しというやり取りを繰り返し、私と七海は互いが納得するまで言い合い続けた。

 

 

最後はもう互いに自分の思っていることを叫んでいた。というか、色々なことが起こりすぎて、互いに困惑していたし、八つ当たりのような感じだったので、ストレス発散の意味もあるだろう。

 

 

「「はあはあ.....」」

 

 

数十分後、私と七海は叫ぶのを止め、荒くなった息を整えていた。

 

とりあえず言いたいことを全て叫び終えたおかげで、互いにすっきりできたと思う。

それと、今回ので肺が昔の時に戻っているのだと実感したから、最終決戦ぐらいまで鍛えたい。正直、せっかくあんなに鍛えたのに、それがまた鍛え直しになったことがかなりショックであった。

 

 

「....ごめんね、怒鳴っちゃって。何がなんだかさっぱりだけど、こういう不測な事態が起きるのは何度もあったわ。

たぶん...彩花の時と同じかもしれないわね。貴女のこともアタシからしたら、突然出現したんだもの」

「突然出現したって、私は一応その前でちゃんと生まれて育った人間なのですけどね......。

....でも、そうだよね。七海や鬼殺隊の人達から見たら、私がいきなり現れたように感じるよね。

...それと、私もごめんなさい。色々あり過ぎて誰かにぶつけたかったんだと思う」

 

 

七海も一通り叫んだことで落ち着いたらしい。ただ、七海の言葉に少し物申したい気分だったが、私も納得することだったので同意した。

 

 

実際に宇髄さんには怪しまれて尋問されたし、それによって柱合会議が開かれたし、七海にも困惑され、すぐに殺されかけるということになったからね。

私が炭治郎達の性転換を不自然に思うように、宇髄さん達も私の存在を怪しいと思ったのだろう。私達の存在は余程不自然に感じられると思う。

 

 

「ところで、七海の髪って元から水色だったんだね。それは前世からなの?」

「違うわよ。この世界のアタシの髪は何故か水色だったのよね。前世のアタシの髪は普通の黒髪だったわよ。アタシの通ってた学校は髪を染めるの禁止だったから、この水色に縁なんてないわ。

それに....これ、貰い物だけど、何の縁なのか着物まで水色なのよ!しかも、無地で模様がないし!贅沢を言って申し訳ないけど...。

.....というか、それは彩花も一緒じゃないの?彩花の髪だって前世からそんな黒に緑を混ぜたような色ではなかったはずでしょ」

「うん。まあ、そうだね。私も生まれた時からこの色だからね。というか、その着物はどうしたの?」

「アタシはこの世界に来た時は制服を着たって言っていたでしょ。小さくなっても制服だったのは変わらなかったのよ。水色の髪の子どもがぶかぶかな見慣れない服を着ているなんて、余計に可笑しく見えたわ。

.......だから、感謝はしているのよ。遠巻きにしないで、さっきまで着ていた制服があまりに体のサイズに合っていないからって、親切な人にこの水色の着物をもらったわよ!ついでにご飯までもらったわ」

「それは.....大変だったね。親切な人と会えたのは幸いだったかな」

 

 

私と七海は髪の色や着物などのことを話し合っていた。そのことに私は喜びと楽しさを感じていた。

 

あの時はこんな話をできる場合じゃなかったから、なんだか嬉しい。こういう感じになりたかったんだと思う。それに、良かったとも思っている。本当にゆっくり話す時間なんてあまりなかったからね。

 

そんな話をしていて、なんだか良い感じに肩の力が抜けた気がする。

 

 

今になってから、何か目標を考えていた。情報を集めようとか、炭治郎達の様子を見ようとかそういうことを決めてから行動していた。そうすることで、不安や寂しさが和らいだ気がした。

少し心細かったからね。

 

だけど、気を抜くことはできなかった。何が起きているのかと私にはさっぱりだったから、安心することはできなかった。

なので、ここでかつて敵対していたとはいえ、知っている人に...それも前回の記憶を持っていて、かつ同じ転生者である仲間に出会えたことで、気を張る必要が少なくなったからであろう。

それに、最後に和解できたし、友達にもなれたので、かつて敵対していたとはいえ大丈夫だろう。

 

 

「....それで、これからのことよね?」

「うん。私も今の状況を知りたくて...。.....それで、ここに来たの」

「なるほどね。それなら、やることは........」

 

 

しばらく他愛もない話をした後、七海が本題に入った。それは私にとっても重要なことだったので、七海の話に耳を傾けた。

 

 

 

 

 

 

「....お前ら。さっきから俺達のことを見てるけど、一体何なんだ?」

 

 

えー。只今、私と七海は男の子の禰豆子(もう略して『禰豆子?』と表記する)に睨みつけられていた。

 

 

あれから、私と七海は今後の方針について話し合った。

誰か仲間がいると分かって安心できたが、これからどう動くかというのを決めておかないと危ないと思ったのだ。

 

 

そういうわけで、私達はやるべきことを二つ決めた。

一つは情報を集めることだ。私と七海が情報交換しても、分からないことだらけだ。

特に、炭治郎と禰豆子の性転換の原因も何も知らない。前でもなかったことだから、どうして今で起きているのかも分からないのだ。あと、このやり直しの原因も分かっていないことから、これはずっと続けるべきなのだと思う。

前にも起きたことだが、いまだに原因が不明だ。私は七海が関係していると考えていたけど、どうやら違うみたいだからね。

 

 

もう一つは炭治郎と禰豆子の他に性別やそれ以外の変化がある者がいるのかだ。炭治郎達が性転換したのなら、他の人達も性転換している可能性がある。炭治郎達以外にも性転換した人がいるなら、そこから何か共通点を見つけられるかもしれない。

それと、記憶の有無についても確認しておきたい。禰豆子?達の様子を見るからして、おそらく記憶はないだろうとは思うけど、まだ確定したわけではないから、もう少し様子を見ておきたい。

何らかのきっかけで記憶が戻る可能性だってあるから、それを視野に入れて考えたのだ。

 

 

それで、最初に竈門家の様子を見ることにした。

禰豆子?達の記憶の有無を確認したいというのもあったが、竈門家全体か一部で性転換している可能性があったし、他の変化もあるかもしれないので、それを確かめたくて禰豆子?達の姿を見ていたのだ。

 

 

その結果、禰豆子?達以外に性別が違う人はいなかったし、禰豆子?達の性別以外の変化は特に何もなさそうだった。私も七海もそのことに安堵していたが、ちょっと見ただけで分かる程度の違いはなく、じっくり見てから判断しないといけないと考え直した。

 

大丈夫。あの様子だと、原作が始まるまで時間がある。すぐに決めないといけないわけではない。

幸い、ここは山だ。狭霧山より空気が薄くなっていなくても、少しは麓よりも空気が薄くなっていると思う。

それに、山の中は険しいので、ここで鍛えておくのも良いだろうと思った。

 

 

そうして、私と七海は竈門家の様子を見ていたのだが、そんな私達に向けて声をかけられたのだ。しかも、私達とばっちり視線を合わして。私と七海はそのことに驚きながらも隠れるのを止め、声をかけてきた人物である禰豆子?の前に姿を現した。

禰豆子?は私達に対して凄く警戒していた。

 

 

どうやら私達が禰豆子?達家族のことを見ていると気づかれたようで、完全に不審者を見るような目で私達を見ている。

まあ、当然だよね。私達がやっていることって、傍から見ればストーカーのようなものだからね。どんな事情があろうと、それだからね。

 

 

私と七海は顔を見合わせた。

これは予想外だった。しばらく様子を見ていて、禰豆子?達に前の記憶がないという可能性が高くなり、前の記憶がないのなら遠くから見れば気づかれないと思って、完全に油断していた。

 

 

「そもそもお前らは誰だ。村の人間とは違うだろうな。村の人間はこんな山に来ることなんてないし、何の用があってここに来ているんだ」

 

 

禰豆子?が私達を疑っている。七海は前で会ったことがないからともかく、私にもこういう対応をするということは、この禰豆子?に前の記憶がないというのは確定だ。

 

そうなると、事情は説明できないね。説明しても、ふざけているのかとか意味が分からないとか言われる。

 

 

目の前の禰豆子?は答えない私達に苛立っていた。

 

 

「俺達家族を見ている目的は何だ?まさか姉さんが狙いじゃないだろうな!」

「待って、禰豆雄。その二人は悪い人達じゃないから」

 

 

私達が禰豆子?の勢いに押されていると、その禰豆子?の前に女の子が現れ、禰豆子?を止めてくれた。

禰豆子?に詰め寄られていた私達を助けてくれたのは女の子の炭治郎(仮に略して『炭治郎?』と表記しておく)だった。

 

あの炭治郎?が呼んでいることから、あの男の子の禰豆子は禰豆雄という名前らしい。

 

 

「姉さんはそう言ってるけど、どう考えても、見慣れない奴等だし、明らかに怪しい」

「大丈夫。この子達は私達を見たけど、嫌な匂いはしなかったよ。むしろ優しい匂いをしていた。それに、何か心配とか不安とかそういう匂いがあったけど、私達に悪意のある匂いはしなかったよ。

それに、あの子達は私達を見ている間、ずっと優しい匂いがしていた。

たぶん、私達のことを見守っていたんだと思う」

 

 

あの、炭治郎?

幾ら何でも私達をそんな簡単に受け入れるのは駄目だと思うよ。私達、完全に不審者ようなことをしていたから。そういう行動をする人を簡単に信じない方がいいって。

私達にとってありがたいことなのだけど、これは禰豆雄さん?の意見に賛成したい。

 

 

「姉さん。だけど.......」

「禰豆雄。禰豆雄が私達のことを心配しているのは分かっているよ。でも、私はあの子達が悪い人だとは思えない。たぶんあの子達は何も悪いことをしていない。それに、この子は私が話している間、ずっと心配している匂いをさせている。そんな子が私達に何かするわけないよ。

事情があるかもしれないんだから、無理に話させるのも良くないよ」

「.....姉さんがそう言うなら....」

 

 

禰豆雄が炭治郎?を姉さんと呼んでいたことから、この炭治郎?はやはり女の子になった炭治郎なのだと確信した。その目を見れば禰豆雄が炭治郎?を心配しているのだということが読み取れる。

だが、その炭治郎?は私達のことを悪い人間じゃないと言い、禰豆雄は炭治郎?に説得され、それ以上言うのを止めて渋々頷いた。

 

 

少し不安があるけど、あの炭治郎?のおかげで不審者として捕まるという事態は避けられたので、とても感謝した。

 

 

もしその人が危険な人だったらどうするのかという不安はあるけど、助かったのでありがとうございます。

 

 

「あの炭治郎?に感謝ね」

「..........」

「.....うん?七海?」

「....はっ!」

 

 

私が七海に小声でそう言うが、七海はそれに何も反応してくれなかった。私が心配して七海の目の前で手を振ると、七海は正気に戻った様子で声を上げた。突然声を上げたことに私は少し驚き、どうしたのかと七海の様子を窺った。

 

 

「あの子は天使か」

「えっ?」

「何を当たり前なことを言ってるんだ。姉さんが天使、いや女神なのは当然のことだろう」

 

 

七海の言葉に私が困惑していると、禰豆雄が淡々とした声でそう言った。

 

えっ?私、ついていけないのですけど......。

 

 

「アタシ、七海っていうの。お姉さんの名前は何という名前でいらっしゃるのかしら?」

「駄目だ。お前に教えたら減る。絶対に教えないからな」

「いや、別に教えても構わないよ」

「だそうだ。それで、姉さんは.....」

 

 

七海と禰豆雄は教えるか教えないのかという言い合いをしていた。だが、あの炭治郎?の言葉を聞くと、禰豆雄は掌を返したようで炭治郎?のことを教え始めた。

 

なんか仲良くなっているな、あの二人....。

 

 

三人の様子を見ながら、私は困惑しながらも何か面倒なことが起きそうだと思い、私の頭はこれからのことを考えていた。正直に言えば、これはおそらく現実逃避なのだろう。

ちなみに、女の子の炭治郎は炭華という名前だと後で判明した。

 

 

それから、私と七海は竈門家で暮らすことになった。炭華が私達のことを家族に話したら、何故か一緒にこの家で暮らすことが確定したのだ。

 

これも予想外だった。流石にこれをされたら信頼されているのだと分かり、嬉しく思えるのは思えるのだが、私は流石に駄目だろうと思った。

まあこの時代だし、竈門家の人達はみんな優しいから、私達を快く受け入れてくれるのだろう。

でも、幾ら何でもまだ会ったこともない人を、子どもだとしても素性の知らないのに、すぐに受け入れるのは不用心だと思ってしまった。これは私達の前世の方の価値観で考えてしまうが、せめて何か事情があるのか聞いておく必要はあると個人的に思う。

 

 

別に迷惑というわけではなく、この人達に何かあったらどうしようと不安になる。私達を拾ってくれたことに感謝しているので、その優しさが原因で酷い目に合わないか心配になるのだよね。

 

 

禰豆雄が問題は起こすけど、そういったところではしっかりしているので、私は信用しているし、七海も頑張っている。

そういえば、七海が瓦を割れたとか腕力が上がったとか言っていたような。この世界に来てから、七海は強くならないといけないと言って、筋トレをよくするようになった。その結果、今の七海は力がとても強い。私を軽々持ち上げるくらいにね!

 

 

前は遠距離での攻撃しかなかったけど、今回はすっかり物理で戦っても全然大丈夫なようだった。七海曰く、前世から割と筋肉質だそうで、ムキムキというわけではないが、触るとかなり固い。私はそのことに不貞腐れてしまった。私は鍛えても筋肉があまりつかないのだよ。

七海に筋肉を見えてもらった時、凄く不機嫌だったらしい。表面ではなんともないように振る舞っていたつもりだけど、凄い顔に出ていたそうだ。その日に笹団子を渡されるくらい。

 

 

......まあ、悔しかったんだよ....。

 

 

というように心配や大変なことがあったが、私は楽しいことも多かった。炭華達と家の手伝いをすることもあったし、家族で遊ぶこともあった。買い物だって炭華と七海の三人で行って、互いに似合いそうなものを選ぶというのをしていた。

私も炭華も遠慮していて、それなら数ヶ月に一回はご褒美という形でその人の物を選び合うのはどうかと七海が提案し、それからは恒例となっている。

 

 

特に七海の羽織や髪飾りを買いに行った時も、私と炭華は嬉々として選んでいた。七海は私と炭華が選んでくれるならと言い、任された私と炭華は真剣に悩みながらも選んでいた。

 

 

羽織はすぐに決まった。青色や紫色の菖蒲が描かれた羽織が七海にとても似合っていたからだ。これには全員が賛成した。だが、髪飾りの方は凄く迷った。

 

髪飾りは良いのが二つあり、私は朱色の紐(端に白色のビーズがついている)が良いと言い、炭華は若草色の紐(端に空色のビーズがついている)を選んだため、意見が分かれてしまったのだ。

だけど、どっちも似合っていたので、どうしようかと私達が悩んでいたら、七海が両方ともつけると言った。

 

 

その結果、七海は耳の後ろで二つに結んでいる。右は若草色の紐を、左は朱色の紐を使っている。

 

 

これが七海の今の姿である。少し違和感があるが、七海は気に入っている様子なので、私からは何も言わない。誰かの格好をとやかく言うのはおかしいからね。本人も満足しているみたいだし。

 

 

 

 

そうやって過ごしていくうちに、私と七海が竈門家に来てから、約五年ぐらいの年月が経った。

 

 

.....だが炭華や私達が原作開始の年齢になっても、鬼舞辻無惨は現れなかった。

 

 

 

 

 



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苦労人の少女は謝る

 

 

 

私達が十三歳になり、原作が始まるであろう年となった。そのため、私と七海は竈門家の襲撃を警戒していたが、何も起きなかった。

炭治郎が鬼殺隊に入った時が十五歳で、竈門家の襲撃がその前の二年前だったから、十三歳になった年に鬼舞辻無惨が襲ってくると思っていた。

と言っても、今は炭治郎ではなく、炭華なのだけどね。

 

 

これは前の時に炭治郎と同い年だったし、炭治郎にもいつ頃に鬼舞辻無惨が襲ってきたのかを聞いていたから、間違いないと思っていたのだけど......。

....これも前と今回の違いなのかな...。原作では鬼の存在を知っていた三郎爺さんのところに行ったのだけど、鬼のことを知らない様子だったのだよね。もしかして、この世界に鬼はいないのかな.....。

 

 

私と七海が鬼の存在を調べるために夜に出るけど、全く鬼に出会わなかったし、鬼殺隊の人達とも出会うことはなかった。それと、おそらくまだ鬼殺隊には入っていない人達にも会おうとしたのだけど、その人達とも会えなかった。

 

 

この世界は原作と違う世界の可能性があったけど、本当に何が起こるのか分からないので、周囲への警戒は怠らないようにしていた。

 

 

だが、そう思っていても平和な時間が続いていくと、だんだんその警戒も緩くなっていった。

私は薬屋でありながら医者紛いのことを珠世さんのところや蝶屋敷でしていたため、村の医者の手伝いもするようになった。私は何か手助けできるならと思い、喜んで手伝っていた。

一応お給料は貰えたし、何か食べ物もお裾分けされるからね。何より周りの人達が良い人ばかりだ。私はこの仕事を気に入っている。

 

 

竈門家って家族が多いけど...その、貧乏でしょう。しかも、炭華達のお父さんも亡くなって、ますます余裕がなくなり、やりくりして生活しないといけなくなった。

そこに私と七海も加わったのだから、さらにお金の余裕がなくなったということなの。それで、私も七海も一緒に暮らしている身として働かなければならないと思った。

特に、七海は炭華に綺麗な着物を着せたいらしく、色々な仕事をしている。

七海は炭華が好きすぎて、崇拝の領域に入っているからね。本人曰く、この好きは推しに対しての好きだと言っていた。本当に貢いでいる。鬼や鬼殺隊の捜索も炭華に何か起きた時のために続けていた。

 

ただその仕事のほとんどが力仕事なので、私は怪我をしないのか心配になるけど、今のところは特に問題がないから大丈夫だと思う。

 

 

まあ、問題になるとしたら七海と禰豆雄が炭華にどんな綺麗な物を買って、炭華を喜ばせられるかという勝負をしていることだが....。...それについては放っておこう。

あの二人が力仕事でどっちが多く運べるかなどの勝負を頻繁に行い、最近ではそれがこの村の名物と化したのは些細なことだからね。

 

 

私からしたら、互いに勝負するだけであり、その勝負中二人は真剣に働いているため、注意をしなくてもいいだろう。

今までにあの二人が起こした問題に比べればこれは軽い方だし、仕事もきちんとこなしているから問題ない。村の人達もその方が平和だから何も言う気はないみたい。

村の人達もあの二人の暴走に頭を悩ませているからね。そのほとんどは私が対応しているので、被害はあまりないけど、かなり頻繁に起きているから.......。

あと、私以外で二人の喧嘩を止められるのは炭華だ。ただ炭華は激しい喧嘩なら止めてくれるけど、気づかないものが多くて、私が止めに行くことが多い。それでも、炭華が止めに行くのが一番効果があるので、これ以上暴れられると危ないと思ったら炭華を頼っている。

 

 

...でも、あの二人は問題を起こすけど、悪い人ではないからね。時間があったら私の仕事の手伝いに来てくれているので、二人のことを頼りになると思っているし、信じてもいる。

ちなみに、炭華の手伝いには必ず現れる。だが、全部をやろうとするので、炭華がそれに対して文句を言い、七海と禰豆雄は狼狽えながら説得しようとして折れることになり、私はよく苦笑いを浮かべながら三人のことを見ている。

炭華至上主義だからね、あの二人。

 

 

七海と禰豆雄は競争とかよくしていて、張り合うことが多いけど、いざという時には...特に炭華が絡んだ時は意見が合うらしく、連携が凄いのだ。炭華の身に何かあった瞬間、二人は互いに言い争わず、協力し合うことになる。

つまり、炭華に何かがあれば二人の暴走は確実なのである。本当に仲良く暴走していて、それは分かっていたのだけどね.......。

 

 

 

「...どうしてこうなったの....」

 

 

私は目の前の光景に頭を抱えることになった。

 

私の目の前で何が起きているのか?

それは修羅の顔をした禰豆雄が投げる斧や石から、義勇さんが避け続けながら刀を構えている。斧や石が地面に落ちたズドンッという音が聞こえる度に、義勇さんの顔が心なしか焦りや恐怖で引きつっているように見えるのだけど.....気のせいかな。

禰豆雄の背中には血だらけだが元気そうな炭華がいて、二人の様子を見ておろおろしていた。

 

そして、私の隣には七海がいて、その七海は.......。

...あれ?いない。さっきまで炭華達の姿を見て、義勇さんを睨んでいたのに.....。

 

 

 

キンッ!!

 

 

 

私が七海を探そうとした時、炭華達の方から金属と金属がぶつかり合い、擦り合う音が聞こえた。その音を聞いて、私はあちらの状況が変わったのだなと思った。

 

先程から避け続けていると言っていたように、義勇さんは禰豆雄の攻撃を避けていた。まあ、あんな音が聞こえるうえに殺気が込もっている斧や石をわざわざ受け止めたくないという気持ちは分かるけどね。

そのため、義勇さんは禰豆雄から一定の距離を保っていた。

 

 

そんな状況でこの金属がぶつかり合う音が聞こえれば何か起きたというのはすぐに察せる。特に私の隣に七海がいないとなると....。

 

顔を上げてその光景を見た瞬間、私は顔を真っ青にした。本当に顔を上げたことを後悔するくらいに見たくなかったと思った。

 

 

七海が義勇さんの刀を木の伐採用の鋏で受け止めていた。いや、受け止めただけでなく、鋏を動かして刀を挟み、刀の横に力を入れていることから、これは刀を折ろうとしているね。絶対に。

刀は縦の力に強いけど、横の力に弱いし、七海はそれを知っている。それに、七海の顔を見れば本気なのは間違いないし、義勇さんが汗をかいていることからも折られそうなのだな。このまま行くと、七海は確実にあの刀を折るだろうね。

うーん........。

 

 

「七海!とりあえず、一回落ち着いて!」

 

 

現実逃避したかったけど、流石にまずいし、収拾がつかなくなりそうだと思うので止めることにした。

 

 

 

 

とりあえず大体のことと現状の説明はできたので、詳細を説明しよう。

気になるのはいつの間に原作?(炭治郎達の性転換とかで、既に原作ではないと思う)が始まったのかだよね。

では、昨日と今日のことを話そうかな。

 

 

 

 

 

鬼舞辻無惨が竈門家を襲撃する予定の日から一年が過ぎようとした時のことだった。

ある日、医者の仕事の手伝いで離れたところにある村へ向かわないといけなくなり、二日間外泊しないといけなくなった。その時の費用は払ってもらえるため、泊まる場所は問題がなかった。

 

そう。泊まる場所に関しては何も問題がない。だが、問題は竈門家と村から離れないといけなくなることだ。

竈門家は大丈夫だが、村の方だと大変なことになりそうなんだよね....。主に禰豆雄と七海の暴走が原因で。

 

 

禰豆雄と七海が問題を起こしていることは話していたよね。その二人が起こした大きいものも小さいものもあって、私は自分がいない間に大きな問題を起こさないかと不安なのだ。

特にあの二人は炭華が関わるとなると、何でもしてくるんだよね。

 

 

だが、何故か私と一緒に七海も来ることになった。せっかく遠くに行く機会だから、鬼がいるかどうかの確認をしに行こうと思っていたし、七海も同じ考えなのだと思う。鬼の気配が一切ないことで、ここは鬼のいない並行世界ではないかという考えもあるが、それでも本当に大丈夫だという確信を得るまでは続けておくことにしたのだ。

それに、なんだか嫌な予感がするのだよね。ほっとくのはまずいという、そんな気がしてね...。

私の杞憂なら良いのだけど.....。

 

 

 

....話を戻すね。七海は私と一緒に行くことが決まった。医者の人達も人数は多い方がいいと言っていたから、七海の参加はあっさり決まった。今までの手伝いで私が色々教えたこともあって、最低限のことはできるから、仕事に関しても問題はない。炭華達は禰豆雄がいるから大丈夫だろう。

 

 

うん?村の人のことはって?

ああ。禰豆雄だけになったのなら、被害も半減することになるし、七海がいないなら喧嘩も起きないので、たぶん大丈夫だと思う。

....炭華に余計なことをしなければね。

 

 

まあ、禰豆雄と七海の暴走に困ることがあるのは事実だけど、炭華へ危害を加える場合は正当防衛だと個人的に思っている。

 

何故かというと、前に行き過ぎた行動をする人がいたんだよね。その時は禰豆雄と七海がすぐに動いてくれたから、大事にはならなかったし、他にもそういう行動する人達がいて、その度に禰豆雄と七海が動いている。

大体はあの二人でなんとかできるので、私は後片付け(そういった人達を縛ったり、大人達に報告しに行って引き渡したりなど)をして、あの二人だけでは手に負えないと思ったら、その時は私も一緒に動いている。

 

 

そんなに炭華が巻き込まれるのかって?

......えっと、巻き込まれたり、巻き込まれに行ったりという感じかな。炭華の見た目は炭治郎と禰豆子を混ぜたような感じで、かなりの美人だということもあり、村中の人達にモテる。

でも、本人はそれに自覚していないから、意味が分からないまま何処かに連れて行かれそうになることが多いのだ。

 

まあ、これは禰豆雄と七海が周りの男性に牽制していたので(片方は大事な姉を奪うなと、もう片方はアタシ達に勝てる男じゃないとダメという感じ)、仕方がない。このようなことがあって、炭華にはそういう好意を持つ人が近寄ることはなく、恋愛経験すら一度もないんだよね。

 

 

これが原因で炭華の危機感がないのではと言われるが、炭華がそういうことに鈍いのは元からだからね。指摘してもこういうことに気づかない。

そもそも炭華が禰豆雄と七海のことに気づけたら暴走もマシになっていたと思う。だけど、気づいていないからこそ、こういう事態になっているんだよね....。

 

 

それに、女の子に変わったとはいえ、本質は炭治郎と同じなんだよね。嗅覚も炭治郎と同じくらい敏感で、困っている人が即行動して助けに行くのだよ。これも炭華の性格から全く直す気配がないため、必然的に炭華が巻き込まれることになっていく。

......そして、その時は大抵私や七海、禰豆雄が駆けつけて、それでなんとかなるんだよね。主に禰豆雄と七海が瞬殺しているから。

 

 

そういうわけで、私は禰豆雄と七海の暴走を止めて落ち着かせようとしても、過保護すぎるとか大袈裟だとか言って、暴走を禁止することはできないのだ。

というか、止めたら炭華が危ない。なんだかどんどん計画的になっているから、ますます警戒しないといけなくなっているし、なんだか相手も強くなっているから、暴走状態の方がこちらの都合に良い。

それなら、別の方法を考えてもらったらと思うでしょうが、それも既に思いついて提案してみたんだよ。そうしたらさらに悪い方に行きそうになったので、今の状況の方が良いと考えて現状維持になったんだよ。

 

 

なので、村の人達も禰豆雄と七海の暴走をなんとかしたいと思っていても、それを本気で止めさせようとは考えていないのだ。

まあ、禰豆雄も七海も炭華に手を出さなければ何もしてこないからね。炭華に何もしない、巻き添いにならないようにすることの二つに気をつければ大丈夫なんだよね。

というか、もうこの村の掟のようになっている。

 

 

......それで、話を戻そうと思うのだけど、禰豆雄と七海が起こす問題は張り合いと炭華関連の事件だ。張り合いに関しては禰豆雄が勝負を仕掛けて、七海がそれを受けることで始まる。最初は普通の勝負なのだが、途中から白熱していき、それが周りを巻き込むようになっていくんだよね。それを頻繁にするため、村の人達は困り果てているのだ。

 

 

つまり、あの禰豆雄と七海の張り合いは二人ともいないと発生しないことであり、二人が起こす問題のうちの一つはこれで起こらない。

残りの問題も村の人達は炭華に何かあれば禰豆雄が動くのを知っているので、禰豆雄を暴走させないようにしてくれると思った。

 

 

 

なので、私と七海は安心して遠くの村に行ったのだ。

 

....そう。それで気を抜いてしまったのだ。誰が来ても禰豆雄ならなんとかしてくれるし、村の人達も気をつけてくれるから、あまり大きな問題は起きないだろうと、そう思ってしまったのだ。

 

 

......でも、ずっと平和だったことで油断していた。禰豆雄が守ってくれるとか、いざという時には村の人達がいるから、なんとかなるだろうとそう思っていた。

だからこそ、私は無視してしまった。自分の感じていた予感を無視しなければこの先は変わっていたかもしれない。

 

 

 

 

私達が帰ってきた時にはもう終わっていた。私と七海が遠くの村から戻り、家が見えたと思った時、風で血の臭いが運ばれてきた。

私と七海はすぐに誰かが血を流しているのだと分かり、それと同時に私達の脳裏に原作の最初の光景が浮かんだ。

 

 

家の玄関で血塗れで亡くなった弟を抱えて倒れる禰豆子に、その玄関から家の中を覗いた先には.....家族が血塗れで重なった状態で亡くなっていて、下に敷いていた布団や近くの障子は血で真っ赤に染まっていて...。

 

 

私はそれを思い出してすぐに走り出した。七海も追いかけてくることから、同じものが思い浮かんだのだろう。

時間が長く感じた。私は凄く焦っていた。今は冬であるため、雪が降って積もっているのだ。私は雪に足を取られそうになるが、それでも足を動かすのを止めなかった。

 

そうしているうちに、私達は家に辿り着いた。そこで見た光景はまさしく原作と同じものだった。

遠くの村へ出かける前まで話していた、一緒に暮らしていた人達が真っ赤になって絶命していた。

 

 

「........!」

 

 

私はそれを見た瞬間、悲鳴を上げそうになったが、口を押さえた。眩暈もしてその場で倒れそうになったが、家の柱に手をついて耐えた。

 

今は気を失っている場合ではないからだ。泣きそうになるが...信じたくないが、もう一度家の中の惨状を見た。

 

 

竈門家には七人いたはずだ。しかし、家の中にいるのは四人であり、玄関の近くには一人いた。その一人が小さいことから、竈門家の末っ子である六太で間違いないだろう。

原作では禰豆子が六太を抱えて倒れていた。だが、ここにいるのは六太だけだ。そして、その六太の周りの雪には大量の血が染み込んでいた。だが、この血の量からして六太だけではない。広範囲に広がっているし、六太の着物にも血がついていた。その場所は致命傷とは正反対のところに飛び散っていたから、この血は六太のものではない。

つまり、ここに倒れていたのは六太だけではなかったのだ。

 

 

さらに、周りをよく見渡したら誰かの足跡があることに気づいた。惨状の方に目がいっていたので気づけなかったが、その足跡は森の中へと入っている。

 

あの足跡の大きさからして、おそらく子どものだろう。しかも草履となると、鬼舞辻無惨の足跡でないことは間違いない。確か、原作で無惨は竈門家を襲った時に何故か洋風の服を着ていたので、靴も革靴であるはずだ。

 

 

たぶん、原作のように炭華が禰豆雄を背負って行ったのかな?

だが、炭華と禰豆雄は体格が一緒でも、炭華に禰豆雄を持ち上げる力があるのだろうか。炭華はずっと禰豆雄や七海が力仕事を手伝ってくれるので、炭華がどれくらいの力を持っているのかは分からない。

まあ、炭華の石頭は炭治郎の時のままだったよ。

 

 

私と七海は顔を見合わせた後、足跡を追っていった。山の中に入ったのは少しでも早く医者のところに行くためだろう。いつもの道なら安全に通れるが、その道は少し遠回りになっている。一方で、山を突っ切る方は村に早く着きそうだが、道が全く整備されてない場所のため、足場が不安定だ。

もしそんな場所で何かあったら、大変なことになる。特に、私達はこの後のことを知っているため、もう大慌てだった。

 

 

私と七海が足跡を辿った先に炭華と禰豆雄がいた。そこで、私達は予想外の光景を見て、思わず口を開けて固まってしまった。

視線を炭華から外せなかった。

 

 

今の炭華は肌が真っ白になっていて、目は猫のような縦長になっている。しかも、爪が長くなっていて、牙も生えている。

 

これは炭華が鬼になっているね.....。て、いやいや。どうしてではなくて、炭華が鬼になっているの!炭華と禰豆雄の立場逆転しているよね!

まさか、ここでは禰豆雄が主人公であると言うの!だから、一年くらい遅れ、禰豆雄が原作の炭治郎と同じ年齢になった時にあの襲撃が起きたの!

 

 

そう思ってしまったが、それよりも大変なことも起きているので、これ以上は考えるのを止めて、目の前の状況について考える。

 

 

義勇さんが禰豆雄の投げてくる斧を避けたり、振り下ろしてくる拳からも何か重い物が落ちていく音がして、その音が聞こえる度に義勇さんが冷や汗をかいているのは分かる。

なんだか義勇さんが可哀想だし、このままだと収拾がつかない状況にもなりそうなので、あの二人をなんとかしないと....。

.....この後の行動のためにも義勇さんの協力が必要なのだから。というか、七海もそれを知っているでしょうに...。

 

 

そう思いながら、私はため息を吐きながら行動し始めた。

 

 

 

まあ、そんなことがあり......そして、現在に至るということです。

 

 

 

 

 

「この度は禰豆雄と七海がご迷惑をおかけいたしました」

 

 

私は義勇さんに土下座して謝罪をした。私の隣では炭華も頭を下げている。

 

 

「....いや、別に構わない」

「本当に申し訳ありません。あの二人は私の隣にいる炭華に何かしようとする人がいたら我を忘れてしまうのです。何をしたのかは知りませんが、その様子だとかなり苦労したようで.....」

 

 

私達の視線の先には私の羽織を枕にして、炭華の羽織を体にかけて眠っている禰豆雄と七海がいた。

目が覚めた時に炭華の羽織を掛け布団のようにしていたと知ったら、どう反応するのかは分からないな...。

 

 

あの状況では説得不可能だったため、仕方がなく最終手段を使うことにしたのだ。

私が禰豆雄と七海を眠らせた手段は麻酔だ。前の時から人食い熊が出た時用に麻酔を作れるようにしていたので、作り方は知っている。

ただ、あの二人用を作るためにその調合を少し変えてみた。睡眠薬の効果を強力にしながらも、体に害がないようにし、麻酔の効果の持続を短くなるようにしていた。

 

 

だが、それでもできる限り麻酔を使わないようにしていた。害のないように作ったとはいえ、それが絶対ではないからね。

それに、何度も使用すれば耐性ができてしまうので、私はあまり使いたくない。

効かなくなれば新たにその調合を考えて作らないといけなくなるのは私だし、もしも私が近くにいない時に大怪我をして、その治療のために麻酔を打ったのに全く効かないという状況になるかもしれないから、使用は最終手段ということにしている。

私が強力な麻酔を作って使い過ぎたことで何かあったら嫌だからね。

 

 

えっ?それなら気絶させればいいのではないかって?

無理です。忘れていませんか?私はそんなに力がないことを。一応呼吸は使えるようになっているのだけど、禰豆雄も七海も私の単純な力でなんとかできる相手ではないんだよね。最初はどうにかできたけど、今ではもうどっちも耐えられるようになっていて、私はお手上げなんだよ。

 

なので、物理で止めることはできないと考え、この方法を思いついたのだ。あまり乗り気ではなかったのだけど、これ以外に有効なものはなかったんだよね...。

 

 

今は炭華と禰豆雄以外の竈門家が殺され、禰豆雄も七海も情緒が不安定な状態だったから、これ以上何かをする前に落ち着かせておきたいと思った。そういう意味でも、これが一番有効かなと思ったのだ。

 

今は禰豆雄も七海も寝息を立てている。魘されている様子がなくて良かった。これで少しは休めるだろう。

 

 

「貴方が禰豆雄....先程貴方と戦っていた少年とどうしてあのような状況になったのかは大体察しがついています。ですが、私には貴方と禰豆雄がどのような会話をしていたのかを知りません。

なので、貴方が何を話そうとしたのかを教えてもらえませんか?」

「......やっと話が通じる...」

 

 

私は一瞬炭華のことを見た後、禰豆雄に視線を向けながら義勇さんに聞いた。義勇さん、冨岡義勇は私が炭華に一度視線を向けたことで理解しているのだろうと思い、安堵の息を吐いた。

 

.....義勇さんの一言でどれほど困っていたのかよく分かりました。本当にあの暴走状態の禰豆雄を相手によく耐えられましたねと思いますよ。その後に七海の相手もしたのだから、お疲れ様でしたとも。

 

 

「まずはその娘のことだが......」

「炭華のことですか」

「....そうだ...」

 

 

私が苦笑いしていると、義勇さんが私から炭華の方に視線を向けた。私もそれに気づき、炭華の方を見た。炭華は私達に見られて、きょとんとした顔をしていた。

 

 

「お前達の家を襲ったのは鬼だ。鬼に襲われ、その娘は鬼になった。鬼は人を食う生き物だ。その娘が人を食べていたらすぐにでも頸を斬り、まだ人を食べてなければ、人を食う前に殺しておいた方がその娘のためになるだろう」

「..........」

 

 

義勇さんの話を聞き、私は何も返事をせず、この後をどうするのかと考えた。

もしかしたらと予想していたのだが、私は実際に聞くまで確信は持てなかった。何故ならあのゴタゴタの所為で、今の義勇さんがどう判断するのか分からなかったからだ。

 

 

原作では鬼になった禰豆子が炭治郎を守る動作をしたため、炭治郎達を何か違うのかもしれないと考え、二人を師である鱗滝さんのところに送ったのだ。

だが、今の義勇さんの言葉や態度からして、原作と同じ流れにならず、禰豆雄が義勇さんに襲いかかったのだろう。

 

 

.....今はそういうことを考えている場合じゃない。炭華を殺すのを止めてもらわないと.....。

....少し遅いけど、原作と同じ流れを再現すればいいのかな?...いや何をするにせよ、情報が大事だ。もっと情報を得ないと。今の鬼殺隊が私の知っている鬼殺隊と同じものなのかを確認しないといけない。

もう既に原作と変わっている炭華達がいるのだから、鬼殺隊に何かしらの変化が起きている可能性はある。その場合、鬼となった炭華を受け入れてもらえるかも分からないので、鬼殺隊に入るかどうかも考える必要があるだろう。

 

 

.......でも、今の義勇さんに色々聞いても、答えてくれなさそうだな。もう既に説明は済んだと思っているようだし....七海と禰豆雄のことを出せば少しは私の質問に答える気になるかな。

 

 

「あのですね。色々と事情があると思いますけど、きちんと説明してくれませんか?

二人が目には覚ました時に、私が事情を説明しないといけないので。炭華はこの通り話せませんし、貴方から話さそうとしても、先程の様子からまた攻撃してくる可能性もありますから。それだけの説明ではあの二人は納得しません。.....下手したら、あの二人は納得するか死ぬまで追いかけてくるかもしれませんよ」

 

 

私がそう言うと、義勇さんは動きを止めた。心なしか顔が真っ青になっている。

 

どうやら禰豆雄と七海の暴走を思い出した様子だ。もう一度同じ状況になるのは勘弁したいらしく、

軽い気持ちで言ったけど、そこまで脅えるくらいだったとは思ってもいなかったので、私は義勇さんの様子を見て、苦笑いしてしまうと同時に申し訳なく思った。

義勇さんがここまで脅えるのはあの二人の行動が原因だから、何も悪くないからね。

 

 

「炭華やあの襲撃のことは分かりました。なので、次は貴方のことを聞かせてもらえませんか。貴女が鬼を斬る人間だというのは聞きましたが、貴方と同じような人はいるのですか?もし組織とかそういうのがありましたら、その組織についての説明も聞かせてほしいです。あと、鬼の詳細もお願いします」

 

 

私は義勇さんにそう聞くと、義勇さんはそれに頷き、質問にも私が聞いた順番通りに答えてくれた。

 

 

 

その結果、義勇さんも鬼殺隊も鬼も原作と変わっていないということが分かった。話を聞く限り、特に変わったことはなさそうだ。義勇さんの様子からして、正直に話してくれたようだから、嘘をついていないだろう。

 

まあ、義勇さんが最初に『....冨岡義勇だ。...好物は鮭大根だ』と言った時は笑いそうになってしまったけど。

でも、真面目に答えようとしてくれているのは分かるから、笑わないように頑張った。

......ただ、自分の好物とかは答えなくて大丈夫ですからね。

 

 

「....ありがとうございます。おかげで、鬼のことも鬼殺隊のこともよく分かりました」

「なら...」

「では、これが最後の質問です。ここにいる鬼となってしまったのは炭華というのですが....。

......炭華は貴方の話した鬼と違う様子ですが、これは一体どういうことなのですか?貴方もさっきから炭華を見ていて、分かっていると思いますが、炭華は私達の話を大人しく聞いているだけです。誰かを襲う気配はありませんよ」

 

 

私が義勇さんにお礼を言い、義勇さんは話が終わったと思って立ち上がろうとするが、その前に私が炭華のことを聞いた。

 

 

ここが一番重要だ。今のところ、義勇さんは炭華を討伐対象だと思っている。だから、それを変えるためにこのことを追求しないといけない。炭華はまだ誰も食べていない。それに、現在の炭華は暴れる様子なんてなく、むしろ暴走する禰豆雄と七海を止めようとしていたのだ。

 

 

「...それは.....」

「あと、鬼になったばかりだと重度の飢餓状態になると言っていましたが、炭華の襲われた家には死体がありましたが、食べられたような形跡がなく、襲ったのが炭華でないことは間違いありません。ここらは山の中のため、その家以外に人もいません。

つまり、炭華は誰も食べていない状態です。にも関わらず、炭華は私達を襲う気配なんてありませんし、先程も禰豆雄と七海に羽織をかける時もそんな素振りはありませんでした。特に、禰豆雄は炭華の身内です。身内の血は栄養価が高いと言っていましたよね。ですが、炭華は禰豆雄を食べていません」

「.......確かにそうだな...」

 

 

義勇さんが目を見開きながら何か言おうとするが、私はそれを言わせないために口を開いた。義勇さんがそれに乗じて聞かせた私の言葉に同意した様子を見せたので、このまま押し切ろうとした。

 

 

「....はっ!ここは」

「...あとちょっとだったのに......」

 

 

だが、その前に禰豆雄と七海が目を覚ました。それに気づき、義勇さんは二人の方を見て警戒体勢になり、私は頭を抱えたくなった。

 

 

また目を覚ますのが早くなっている。もうすぐこの麻酔も使えなくなさそうだ。麻酔の調合を変えないといけなくなったけど.....あまり気乗りしないな...。

それと、七海のその言葉は私が言いたい。もう少しで義勇さんを説得できそうだったのに....タイミングが悪いというか.....。

 

 

禰豆雄と七海が周りを見渡し、炭華の方を見た途端に安堵したような表情を浮かべたが、義勇さんの姿が視線に入った瞬間、二人の表情が消えた。

それを見て、義勇さんの顔色が悪くなった。真っ青を通り越して、真っ白になっていると思う。

状況を見る限り、義勇さんが危ないのは分かる。....大変だし、あの状態の二人を止められるか分からないけど、止めないといけない。

 

 

私は不安になりながらも二人のことを止めようとしたが、その前に炭華が動き出した。炭華は禰豆雄と七海に近づき、二人の頭を優しく撫でた。その瞬間、禰豆雄と七海は義勇さんのことを忘れ、炭華に甘えたり頭を撫でたりというようなことをしていた。

 

 

「炭華に助けられましたね...」

「........ああ....」

 

 

私が安心してくださいという意味を込めてそう言うと、義勇さんは禰豆雄と七海が大人しくなったのを見て、少し安堵したような表情をしていた。

 

だが、安心するのはまだ早いですよ、義勇さん。今は大丈夫なだけですから。

炭華がいないとどうなることやら.....少し言っておきますか!

 

 

「今もかなり危なかった様子ですが、禰豆雄と七海からしたら、もし貴方が炭華を殺した場合は地の果てまで追ってきますよ。例えどんな理由があろうとも、あの二人はそんなの関係ないということになります。もしかしたら、貴方のことを探して鬼殺隊に乗り込むということもやりかねません」

「........それは....」

「あり得そうだと思いませんか。そうなった場合、私には止めきれません。ですので、日夜あの二人に命を狙われる覚悟がありますなら、どうか気をつけてください。これは忠告です」

 

 

私は義勇さんに禰豆雄と七海がするであろう行動を話した。義勇さんはそれを聞いて顔を真っ青にしたが、嘘だと言わなかった。あの二人ならそういう行動をしても、おかしくないと義勇さんは思っているのだ。私もそうだ。

今、義勇さんに言ったことは本当だ。行動の例も既に似たようなことをやっている。あと、止められないというのもまた本当のことだ。

 

 

確かに私は何度もあの二人の暴走を止めていたけど、その暴走を絶対に止められるというわけではない。私も二人が何をするのかを完全に把握できていないのだ。それに、二人が別々に行動したらもう無理だ。今までは私がほとんど中心だったが、竈門家の人達がいたから(家族であるため、禰豆雄達の行動を大体理解している)、なんとか暴走を止めることができた。だけど、今回の襲撃事件で竈門家の人達は亡くなってしまった。

 

 

つまり、ここからはもう私一人でやるしかない。でも、私だけではやれることにも限りがある。何せ、あちらは二人で協力し合って動き、私は一人で行動していかないといけないのだ。二体一では圧倒的に不利であり、分身の術なんて使えないし、二人の行動を抑えることはできなくなる。そこで、さらに炭華が亡くなったら二人はもう止まらない。

 

 

その二人の様子を言い表せるとしたら...車かな。車はアクセルを踏めばスピードが上がるし、ブレーキを踏めばスピードが下がっていって、最終的に止まる。

禰豆雄と七海の暴走状態をアクセルが踏まれた状態だと仮定し、ブレーキが炭華であり、壁やブレーキを踏むように言う人が私ということだ。

 

特に間違っていないし、こう言えば想像しやすいだろう。実際に、私はあの二人の前に立ったり、炭華のことを口に出したりする方が多いからね。

...それで、改めて言おう。無理である。

 

 

「問題があるのはあの二人であり、炭華は何も問題がないと思いますよ。私達を襲おうとしませんし、逆に貴方を庇っていましたよね」

「.........」

 

 

私はそう言って義勇さんに帰る前にそう言った。義勇さんは顔色がすっかり良くなったが、私にはここからだからか問題だと感じる。

 

 

これは脅しじゃないかって?

うん、きっと脅しだよね。だけど、炭華がいないと色々困るし、私も炭華に死んでほしくないと思っているからね。この世界に来てから一緒に暮らしてきたのだから、炭華には生きてほしいと思う。

この世界で楽しんでいるけど、自分の大切な人が傷つけられたら怒るし、その人のためにも私もできることをするつもりだ。

 

 

ここで炭華が生き残るためにも、義勇さんが原作で炭治郎達のように私達を見逃させる状況にしないといけないと

義勇さんには悪いですけど、これから私達はその分を償うためにも頑張りますよ。

 

 

「狭霧山へ行き、鱗滝左近次を訪ねろ。冨岡義勇に言われてきたと言え。彼女を日の中に出すな」

 

 

 

 

 

 

 

「.....ごめんなさい」

「彩花は悪くないわよ。そもそも悪いのは殺した無惨よ」

「そうだけど.......。...嫌な予感はすると思っていたのに、こんなことになってしまったのだから....少し罪悪感が......」

「油断していたのはアタシも同じよ」

 

 

義勇さんと別れた後、私達は狭霧山に向かう前に竈門家に戻り、死体を埋葬した。あのまま放置するわけにはいなかったからね。炭華は眠そうだったので、休んでもらうことにした。今の炭華には睡眠で回復することを覚えてほしいからね。

私達三人は埋葬を終え、禰豆雄は炭華を起こしに行った。七海も禰豆雄と一緒に行くのかと思ったけど、禰豆雄が走っていく姿を眺めているだけだった。

 

七海達がいない間にと考えていたが、今しかここにいられないだろうし、この機会しか言えないと思った。

七海は私の視線に気づいた後、無言で頷いた。それを見て、私は墓の前で手を合わせ、謝罪をした。

 

 

七海はそんな私に対して悪くないと言ってくれるが、私は首を横に振った。

 

あの時に私はここから離れたら駄目だと薄々感じていたのだ。なのに、私は気のせいだと思って、それを無視してしまった。もしそれに従っていれば私達は対処できたし、何かが変わった可能性もあったかもしれない...。

今更どうこう言っても仕方がないのは分かっているけど、私は納得がいかないんだよね.....。

...でも、仮定を考えていても仕方がない。もしとか、例えばとかを考えていても現状が変わるわけはないと分かっている。これから先を考えると、やるべきことがある。

 

 

.....だけど、今は竈門家の人達の死を追悼させてほしい。そして、助けられなかったことをこの時間だけは謝罪したいのだ。

 

 

七海は気に病むなという意味でそう言ってくれているのだとは分かっているし、私も七海なりの優しさでそう言ってくれていて、私の隣で一緒に手を合わせて黙祷している。

 

七海も知っていたから、私の隣から離れず、一緒に謝罪しているのだろう。七海ともかなり長い間つきあっていたので、七海がどういう考えでいるのかは分かる。七海も私と同じくらい悔しいと思っている。私達は襲撃が起きることを知っていたのに、何もできなかった。

だからこそ、私達は.......。

 

 

「......七海」

「....何?」

「絶対に...炭華を人間に戻そう。禰豆雄にもこれ以上のことが起きないように、炭華のことで無理しないようにね。そのためにできる限りのことを私達でやろう」

「....そうね。もう前提が崩れてるから、どうなるか分からないものね。なら、アタシ達がやることは原作の知識と前の経験を活かして、あの二人を守ることかしらね」

 

 

私の言葉に七海は考えている様子だったが、私の方を見て頷いた。そうしているうちに、禰豆雄が炭華を連れて戻ってきた。

炭華と禰豆雄が来たということで、今度は四人で黙祷した。黙祷を終えた後、私達は互いに無言で背を向け、狭霧山に向かって歩き出した。

 

 

 

また、ここに全員で戻ってきます。

 

 

 

 



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苦労人の少女は鬼殺隊に入った

 

 

 

私達は義勇さんの勧めで鱗滝さんのところに向かった。その道中で色々トラブルが起きた(主に禰豆雄と七海が原因で)。

 

 

まず最初に炭華に太陽の光が当たらないように炭華の入る籠を探した時だった。あの二人はもっと大きくて綺麗な籠にしようと畑にいた男性に色々聞いていたが、炭華が待っているから早く行った方がいいと言ったら、二人は籠を作るための道具を持って、炭華のところへ行った。

私も二人が迷惑をかけた男性に謝罪してから追いかけた。私が着いた時には禰豆雄が籠を作っていて、私も途中で手伝った。

禰豆雄の指示に従いながら完成した籠はかなり大きくて、立派なものだったよ....。

 

ちなみに、あの二人にどの籠にするのか悩んでいたのに、どうしていきなり手作りすることになったのか聞いてみた。すると、これ以上姉さん(炭華)を待たせたくないが、良い物を使ってほしいので、自分で作るしかないと思ったそうだ。

あの二人らしいね。

 

 

ということが何回か起きた(炭華の姿を見たいと二人が駄々をこねたり、村の人達が周りにいる中で思いっきり炭華のことを呼ぶようなことをして、変な目で見られたり、たまに姉さん(炭華)補給したいと暴れたりなど)。.....まあ、それらは問題なかった。慣れていたし、色々あっても平気だった。

 

 

...ただ、狭霧山の麓に着いた時はそれ以上に大変だった。

 

 

何が大変だった?あの御堂にいた鬼でと思った方はいるでしょうか?

 

 

......当たらずとも遠からずと言うべきでしょう...。ご安心を。件の鬼は禰豆雄と七海の手で木に縫い付けられました。しかも、その鬼が炭華に反応してしまったことで、二人は拷問のようなことをしています。

御堂の鬼は家を襲撃する前に私達を見つけ、こちらに標的を変えたのだけど.....何を言いたいのか察している人はいると思うが、要は襲う相手を間違えたということだよ。

いや、そもそも誰かを襲わないでほしいのだけど...それは無理だね。

 

 

その間、私はどうしていたのかって?

炭華を連れて二人から離れ、鱗滝さんを探していました。

あっ。炭華はちょうど夜だったことで外に出していたのだけど...鱗滝さんに会うまで籠の中にいた方が良かったのかな?

 

 

....それと、ああいう時の禰豆雄と七海には私や炭華でもあまり近づかない方がいい。色々面倒なことになる。

二人が不利な状況になったり、犯罪に手を染めそうになったり、やり過ぎだと判断したりした時は間に入り、強制的に止めるけど、相手は鬼だから大丈夫だと思った。そのため、鬼を圧倒しているところを見たら放置することにした。

 

 

鬼を相手にして大丈夫だと言うのは不自然に思われるだろうが、あの二人は鬼を泣かす勢いでやっているため、平気なんだと思う。念のためにあの二人の様子をちらちら見ているが、今のところは問題がなさそうだ。

それに、鬼は回復するので、禰豆雄と七海の猛攻を受けても大丈夫でしょう。禰豆雄と七海もあれこれしていて、幾ら鬼が回復しようともすぐにボロボロにしているから、二人が返り討ちに合う可能性は低いと思う。

 

まあ、それでも警戒しているんだけどね。竈門家襲撃の時のことを考えると.....ね。

 

 

 

でも、それは鬼が可哀想だって?

...うん。私も同じことを思っている。二人がやられることはないし、殺人犯にもならないから、そちらは大丈夫だと思う。だけど、鬼は体の傷が癒えても精神の方はボロボロになっているだろう。

だからこそ、鱗滝さんを探しているの。今の私達は日輪刀を持っていないから。

 

 

鬼の弱点は日光と藤の花、日輪刀で頸を斬られることである。

今は夜になったばかりなので、日が昇るまでかなり時間がかかる。あの二人なら夜明けまで戦えそうだが、それまで耐えないといけない鬼が可哀想だ。

 

 

次に藤の花のことだが、手に入れることができなかったので、藤の花を持っていないのだ。

私の前の家には植えてあった藤の花の木は無くなり、雲取山やその周辺の村にも藤の花がなく、藤の花を手に入れる手段がなかった。そのため、私も毒は作らず、普通の薬ばかりを作っていた。

 

まあ、それでも禰豆雄と七海の対策やその麻酔のことで忙しかったけどね....。

 

 

となると、残るは日輪刀なのだが...先程言った通りに私達は持っていない。鬼殺隊に入っていないから当然だし、隊士にも一度も会わなかったし、刀鍛冶の里の場所も知らない(私は目隠しでの移動、七海も実際に行ったことがないから分からない)ので、日輪刀を手に入れることもできなかった。

だが、今なら日輪刀を借りることができる。

 

 

私達は日輪刀を持っていなくて当然だが、鱗滝さんは確実に日輪刀を持っている。育手だし、私達の修行でも使うことになるのだからね。

 

 

私が鱗滝さんを探しているのは日輪刀を借りるためでもある。

ちなみに、炭華を連れているのはあの鬼のためでもある。あの鬼が炭華を見ただけでも、あの二人は怒るからね。これ以上の恐怖を植え付けないためにも、一度離れた方がいい。

それに、鬼になってからどうなっているのかは知らないけど、炭華は鼻が良いから、鱗滝さんを見つけられるのではないかという期待もある。

 

 

......それにしても、鱗滝さんはまだ来ていないのかな。御堂の鬼が襲撃する前に来たことから、私達がかなり早くここに来たとは思うけど、そんなに早かったのかな...。

 

....二人に炭華を籠に長時間入れるのは可哀想だから、早めに鱗滝さんの家に行った方がいいんじゃないかとは言ったよ。

あの時の私は毎回炭華のことで二人があれこれ問題を起こすので、このままだと鱗滝さんのところに行けないのではないかと思って、そんなことを言ってみた。結果、かなり効果があったようだったけど。

 

 

でも、それが原因で鱗滝さんに会えないとなると、ここで日輪刀をもらうのは難しくなるな...。

私達は夜が明けてからも鱗滝さんを探しに行けるけど、あの鬼は.......。

 

 

「ギャアアアアァァ!!」

 

 

そう思いながら禰豆雄達の様子を見ようとしたが、鬼の悲鳴が聞こえてきたので、振り向くのを止めた。

後ろから『もう殺してくれ。頼む、許してくれ!』という声が聞こえてくるけど、禰豆雄はその言葉を無視しているし、七海は『本当なのかしら?』とか言っている。

.....うん、あの二人の反応が怖いね。

 

 

私は禰豆雄と七海の様子を見たくなくて、早足で離れていった。禰豆雄達から少し距離を取っておきたくてね。

ちなみに、炭華は禰豆雄と七海が何をしているのか分かっていないため、禰豆雄と七海の行動を見ても止めようともしない。離れたいと思っているわけでもないが、私と一緒にいる。いや、私が炭華の手を引いているから、炭華は私の引っ張る方向に進んでいるだけなのだけどね。

 

 

そうして、私が炭華の手を引きながら歩いていると、誰かの気配を感じた。炭華も匂いで気づいたらしく、その気配が感じる方を指差した。その方向を見ると、波のような模様の羽織を着て、天狗のお面で顔を隠している老人の姿があった。

 

間違いない、鱗滝さんだ。

 

 

「あっ!鱗滝さんですね。初めまして、生野彩花です。隣にいるのが竈門炭華です。

本当ならゆっくり自己紹介したかったのですが、この近くに鬼が来ています。いきなりすみませんが、日輪刀を貸してもらえませんか?」

「...日輪刀を.....。....日輪刀のことは義勇から聞いたのだな。だが、お前は日輪刀を使えるのか?鬼を斬ることはできるのか?」

「義勇さんから色々聞いています。ですが、今はそれどころではありません。詳しく説明したかったのですが、もう見てもらった方が早いと思いますので、あちらに向かいましょう」

 

 

私は鱗滝さんに近づき、自己紹介をした。歩きながら少し様子を見ていたが、前回のことを鱗滝さんも覚えていないようなので、何か余計なことを言って不自然に思われないようにと考えながら、平常心を保ちつつ話し出した。

鱗滝さんも鼻が効く人なので、私が何か動揺でもすれば不審に思われるだろう。

 

 

「あれは一体........」

「.....義勇さんの手紙に何と書かれていたのかは分かりませんが、あちらで鬼をボコボコにしているのが禰豆雄と七海です」

「いや、あれはボコボコというより...「いえ、分かっています。分かっていますが、ボコボコという言い方も間違ってはいないので....」......そうか........」

 

 

御堂の鬼を斧や小刀で斬りつけたり押さえつけたりする禰豆雄と七海を見て、鱗滝さんが絶句したのが分かった。

その気持ちは分かりますよ。

 

信じられない様子の鱗滝さんに、私は苦笑いしながら二人のことを紹介した。鱗滝さんは私の紹介の中にあった言葉が気になった様子だったが、私が途中で言葉を遮ることから、鱗滝さんも言葉にしたくないと察したらしく、それ以上は何も言わなかった。

まあ、あの二人は鬼をボコボコにするのに夢中で、私と鱗滝さんがここにいることに気づいていない様子なので、自己紹介は私がしないといけない。

 

 

「それで、私は早くあの鬼の頸を斬るために日輪刀を借りたいのです」

「....日輪刀で頸を斬らなくとも、あれでは抵抗もできまい」

「でも、流石にあの鬼が可哀想に見えませんか?」

「..........」

 

 

私が二人のことを指しながらそう言うと、鱗滝さんは遠い目をしていた。私が日輪刀を借りたい理由が分かったのだろう。

だが、鱗滝さんの目から見ると、その必要はないらしい。あの二人なら勝てるだろうという判断なようだ。

 

 

私がそう言った時、二人のいる方向から悲鳴が聞こえてきた。それを聞き、私はまた斧や小刀で刺しているのだなとか、鬼だから声がかれていないのかなとか、そういうことを考えていた。

鱗滝さんはそれを聞いて、何やら考え込んでいる様子を一瞬見せたが、鬼に近づきながら日輪刀を鞘から抜いていた。

 

 

鱗滝さんもあの鬼に同情したようで、すぐに鬼の頸を斬った。私は鱗滝さんが何をしようとしているのかに気づき、禰豆雄と七海にそこまでするようにと言い、二人を鬼から離した。その間に鱗滝さんは二人の手によってボロボロになり、抵抗する気力がない御堂の鬼の頸を斬った。

頸を斬られて、御堂の鬼は怒らず、悔しがることもせず、やっと解放されたと言っているような安堵の表情を浮かべていた。

苦しむ様子もなく消滅していったことから、あの二人にされたことが余程辛かったのだろう。

 

まあ、鱗滝さんが干天の慈雨を使っていたから、頸を斬られても苦しむことはなかったということもあったのだろうけど.....。

 

 

干天の慈雨のことを覚えていますか?

干天の慈雨とは水の呼吸の伍番目の型であり、この型で斬られても苦痛は一斎ないのだ。相手が自ら頸を差し出した時のみ使う慈悲の剣撃である。

 

 

あの鬼は禰豆雄と七海が離れ、鱗滝さんが刀を持っているのを見た瞬間、すぐに頸を差し出してきた。そのため、鱗滝さんはその型を使ったのだ。

 

なんだかますます申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 

 

私は御堂の鬼が消滅していったのを見届けた後、静かに膝をつき、手を合わせた。

 

 

「何をしている?」

「少し黙祷を。......なんだか申し訳ない気持ちになって....」

「.....気持ちは分かるが、そういった情けはかけない方がいい」

 

 

私が御堂の鬼に対して黙祷を捧げていると、鱗滝さんが声をかけてきたので、正直に黙祷していることを言った。すると、鱗滝さんは私の言葉を聞いて、少し間を空けたが、そのようなことを言った。

 

 

気持ちは分かると言っていることから、やっぱり鱗滝さんも禰豆雄と七海の行動はやり過ぎだと感じでいるようだ。なので、私の行動を見て甘いとは言わず、むしろそれに理解を示してくれている。

 

 

だが、こうやって助言してくることからも私の行動を心配しているのだろう。

鬼を憐れみ、それが油断をするきっかけとならないのかと思っている。鬼に同情していれば迷いを生むことになる。鱗滝さんがそれを心配するのは分かる。

........なので、私はそれを間違いないように意識している。

 

 

「そこはしっかり分別をつけるつもりです。鬼のことを気にしすぎて、自分が怪我をしたり亡くなったりしたら、元も子もありませんから。私は流石に」

「...なら、いい.....」

 

 

私の言葉を聞いた後、鱗滝さんは特に何も言わなかった。私が分かっているのなら、そんなに言う気はない様子だ。

 

 

こうして、私達の修行が始まった。まあ、修行が始まる前にも色々あったけど、予想がついている人はいるでしょう。

 

 

簡単に言うと、最初に狭霧山から下る試練は誰から始めるかで禰豆雄と七海の間で喧嘩になりそうなので、私から始めることにした。

 

あのまま喧嘩したら鱗滝さんの家が壊れるから、そうなる前に自分から言ったのだけど、今度は次で喧嘩になると思うので、鱗滝さんと山を登っている間にどうするかを考え、その対応を鱗滝さんに話して実行してもらうことにした。

 

 

その後、鱗滝さんがあの二人を抑えられるのか分からないので、全速力で山を下りた。

一応、鍛えていて呼吸は既に使えたし、似たような罠を作って雲取山で同じことをしていたこともあり、早く鱗滝さんの家に着くことができた。

鱗滝さんは驚いていたが、二人を放置するのが心配だから急いで下りてきたと伝えると、心配するのは分かるが、それでも凄いことだと言われた。

 

まあ、本当のことは伝えられなかったので、禰豆雄と七海が今までにやってきたこととそれを止め続けていたことを話すと、それはそうなるかと納得された。

 

 

この二人がしてきたことの中には鱗滝さんが納得するようなものもあったからね。二人の起こす問題を止めていくうちにと思われているけど....正確に言うと、逆なんだよね。

私が呼吸を使えていたり鍛えていたりしていたから、最初から全部なんとかできていたのだけどね......。

 

 

ちなみに、禰豆雄と七海は私の言った方法で次に修行を受ける人を決めていた。

 

 

あの二人は最初に何の勝負をすればいいのか決めればその方法をしてくれるので、そうすれば物理的な争いにはならなくなる。

ただ、あの二人がその勝負に集中しすぎて、それがとんでもないことに発展するということがあるので、そこは要注意である。

と言っても、それを鱗滝さんに全部任せるのは申し訳ないので、私が急いで下りてきたのだけど.....どうやら遅かったみたいだ。

 

私の予想だともう少し保つかと思ったけど、どうやら勝敗が決まるのは早かったらしく、あの二人は別の喧嘩を始めていた。

何をって....炭華の取り合いだよ。

 

 

炭華と離れないといけないからとか、それよりも早く行く準備をしたらいいんじゃないかとか、そう言い合っていた。その言い合いが物理の方になる前に二人の間に入った。

そして、暴れて家が壊れたら私達も炭華も鱗滝さんも休めないとか、そんなに炭華と長くいたいなら、さっさと山を登って下りてきた方が早いなどとか言って、喧嘩を止めた。

 

 

鱗滝さんが疲れていたが(お面で表情が見えないが、なんとなくそういう気配を感じた)、とりあえず案内には行ってくれた。

勿論、鱗滝さんが帰った後にすぐに戻ってきたし、最後の人も同じようなやり取りをすることになった。その対応も私がしていて、また同じような流れになり、この試練は朝日が昇る前に三人とも終えることができた。

 

 

 

 

 

 

それで試練が終わって、本格的な修行になった時はとても大変だった。私と鱗滝さんで話し合い、禰豆雄と七海に炭華と会うのを禁止させるくらいにまでなった。

こうなった理由は簡単だ。禰豆雄と七海が炭華からなかなか離れないからである。

 

 

現在、炭華は眠ることで体力を回復をしている。そのため、炭華は全く目覚める気配がない。原作では禰豆子が二年間眠り続け、その間に体質を変えていた。今の炭華は原作の禰豆子と同じ立ち位置なのだと思うから、炭華も二年間眠り続けるのだと思う。

 

だけど、不安がある。この世界は原作と色々違っている。炭治郎と禰豆子の性別が違うことや主人公が変わっていること、原作の開始が変わっていることなどの変化が起きている。

だから、この世界で原作と同じように二年後に炭華が目を覚ますかも確信できないのである。

 

 

そういうこともあり、原作の知らない禰豆雄だけでなく、七海も炭華のことを心配して離れられないのだ。私も炭華のことが心配なので、その気持ちは分かる。だが、原作と同じように進むのかも分かっていないからこそ、修行をして早く強くなり、備えておかないといけないと思っている。

 

炭華のことを気にしていて、取り返しのつかないことになってしまったら駄目だ。この世界が本当に全体の流れが一年繰り上がったのかさえ分からない状況であるため、どんなことが起きてもいいようにしないとね。

 

 

そのためにも、禰豆雄と七海にはすぐにでも修行を始めて、さっさと終わらせてほしいのだけど.....この二人は炭華から全然離れようとしないの。

これから修行を始めようという時間になっても、炭華から離れようとしなくて、私が強制的にあの二人を(物理的に)離さないといけなくなる。

 

 

前回から言っているけど、私はあまり筋肉がつきにくい体質である。それは幾ら鍛練をしていても変わらなくて.......いや、私と一緒に七海はやるし、禰豆雄も参加することがあるから、あの二人との腕力の差は全く縮まらない。しかも、あの二人は完全に力で押し通す人達であるため、私と相性が最悪なのである。

特に、七海は前の時で上弦の伍に短期間でなるくらいの実力がある。

 

 

なので、私が毎回苦労することになるのだ。

鱗滝さんの待っている場所に連れて行こうとして、二人を力づくで立ち上がらせ、その後に押して行かないといけないのだ。途中で炭華のところに戻ろうとする時は着物の襟の部分を掴んで、地面に体重をかけて踏ん張って止めなければならない。

 

おかげで、私は疲れた状態で修行しないといけないのだ。それに、修行の時間が少し短くなる。鱗滝さんもこれを問題視していて、なんとかしようと共に解決策を考えている。

ちなみに、鱗滝さんもあの二人を修行に連れて行かせようとしてくれたが、あの二人の気迫に押され気味のため、私がほとんど対応している。

あの二人の相手をするには慣れが必要だからね。

 

 

かなり疲れている様子だが、村ではそんな感じだったのではなかったのかって?

まあ、あの二人の暴走具合は村にいた時と似たような感じだよ。だけど、今までと少し違うようになっちゃったんだよね。

村では喧嘩を止める時は両方を宥め、機嫌が悪くなった時は話題を変えて忘れさせ、暴走した時は間に入って落ち着かせていた。最悪の場合は炭華のことを出して説得したり、麻酔で眠らせていたので、私が物理的で対処することはなく、基本は会話で平和に和解?させていた。

 

 

だが、今は二人とも心の平穏である炭華がいないため、私も制御するのが難しいのである。今までは言葉で説得できたものの、今回は私の話に納得できるが、それでも炭華から離れたくないということになってしまうのだ。

でも、あまり修行期間を長くするわけにもいかない。

そう考えた結果、もう禰豆雄と七海を炭華と接触禁止にして、修行を全て終えなければ炭華と会わせないということにした。

 

あの二人には悪いけど、今回は心を鬼にすることにした。あの二人を炭華から離すことを何週間もしないといけなかったため、私もそろそろ我慢の限界だった。いや、もうすぐで一ヶ月も経とうとなると、いい加減にしてほしいと思うよ。

 

 

でも、あの二人は暴走するのではないかって?

うん。だって、これは暴走することを前提にしているからね。だけど、これで解決できるなら、全然大丈夫だよ。この中途半端な暴走の対応よりも、思いっきり暴走してしまった方がやりやすい。

狭霧山を破壊していく可能性はあるけど、それはもう致し方のない犠牲だと思っている。

ちなみに、鱗滝さんは狭霧山を崩壊させる可能性があると聞いた時、遠い目をしていたが、仕方がないことだと言ってくれた。

 

まあ、なるべくあの二人が山を壊さないように、私が気を配りますから。

 

 

えっ?なんかテンションがおかしくなっていないかって?

うん、もう色々限界なんだよね。あの二人が動かないことで、ここまで疲れが溜まるとは思ってもいなかったよ。

なんとなく分かっている人はいると思うが、半分ヤケになっていました。今ではもっと良い方法を考えられたのではないかと思っていますし、反省もしています。

 

鱗滝さんに多大な心労をかけてしまったことを申し訳ないと思っています。二人が寝ている間に炭華を別の場所に移すのも手伝ってもらいましたから。

 

 

 

 

 

それで、炭華の接触禁止なんだけど、とても効果があった。禰豆雄も七海も修行を終えるスピードが一気に速くなったからね。

もう大成功ですよ。

 

 

呼吸の方もあっという間に習得し、その後に呼吸を極めていた。原作知識のあった七海は全集中の呼吸・常中の習得に取り組んでいた。

七海が一度躓いていたが、私が少し相談に乗ったらすぐに解決していた。

言っておくけど、私は的確なことを言ったわけではないよ。その時の私達の会話は..........。

 

 

『七海、どうしたの?』

『彩花。とりあえず水の呼吸を習得できたのはいいけど、水の呼吸は何か違う気がするのよ』

『うーん。もしかして、水の呼吸が体に合っていないのかな?

....でも、私は先に華ノ舞いという体に合う呼吸を知っていたから、その違和感に気づけたのだよね。.....七海に何かそんな動きがあったの?』

 

 

当時の私は七海が悩んでいるところを見つけて話を聞いてみると、七海は呼吸について考えていた。

呼吸が体に合っているのか云々は私も前で同じことを悩んでいたので、私は自分の時のことを思い出しながら七海に尋ねた。

今回の中で七海が呼吸らしきものを使ったことはなかったから、心当たりがあるとしたら前の時だろう。

 

 

『分からないわよ。だけど、何かが違う気がするのよね...。アタシは全く心当たりがないけど、これって別の呼吸の習得したり新しい呼吸を作ったりする必要があるのかしら?』

『新しい呼吸って....私は何故か華ノ舞いを使えて、それが体に合っていたけど、オリジナルの呼吸を作るのって難しいと思う。

まあ、オリジナルの呼吸に関しては私も興味があるよ。もし作るとしたら『海の呼吸』なんてどうかな?

血鬼術は水だったけど、あの水の勢いは海のようにも感じていたし、七海には海が似合うと思うよ。せっかくだから、型を七つ作ってみない?』

 

 

七海は心当たりがない様子で首を横に振った。七海は前の時に何かなかったかと思い返していたが、本当に心当たりがないようだ。

 

 

『それは「七海」だけにということかしら?鬼だった時のことはアタシにとって黒歴史みたいなものだけど、でも気分展開にはなったわね。

それに、少しヒントになったわ。......『海の呼吸』ね.....。....いいわ。七つ作ってあげるわよ、『海の呼吸』を』

『...えっ!?ちょっと待って!それは冗談のつもりで言っただけで、本気にするとは......』

 

 

.....というような感じである。そして、七海は水の呼吸の型をベースに、前の時に使った水の血鬼術を再現したのだった。

本人は既にイメージがあったし、水の呼吸の型でどうしたら似たような感じになるのかを考えるのが楽しかったと言っていた。

型の名前も血鬼術の名前を少し変えないといけなかったけど、それも面白いと言っていたし、厨二病が刺激されたとも満足そうに言っていた。

 

 

七海。もしかして、前も血鬼術を決める時は楽しんでいたのかな...。....まあ、本人が楽しければいいと思うよ。

 

 

そんな感じで前の時の血鬼術を基に、七海は海の呼吸を完成させた。しかも、ちょうどその血鬼術が七つあったから、ぴったりだとも思ったらしい。

私が血鬼術のことを言ってくれたおかげで、呼吸のイメージとその時の感覚があって、

 

いや、私はそんなつもりで言ったわけではないのだけどね。...でも、七海の悩みが解決して良かったよ。

そういえば七海は血鬼術を自分の体の一部のように動かしていたよね。

......そうなると、あの血鬼術は七海と相性が良く、それと同じ動きをする型が体に合っているのは当然なのだろうね。

 

 

七海は海の呼吸を完成させてから、本当にもう絶好調で次々と修行を終え、一気に岩の試練に入った。

 

 

岩の試練は予想外のことが多く起きた。だけど、七海なら大丈夫だろうと思う人がいるでしょう。

 

はい、その通りです。七海は岩の試練を普通に突破できました。

だが.......。

 

 

『海の呼吸 弐ノ型 篠突き』

 

 

これは水の呼吸の雫波紋突きに七海が使っていた血鬼術「鉄砲水」というイメージを加えた突きの型である。

雫波紋突きは最速の突き技だ。刀で直線的に突きを繰り出すため、血鬼術の鉄砲水とは重なるところがあった。

 

 

七海はその型で岩を叩き斬ろうとしていた。あの試練で使う岩はかなり大きいものを使うため、七海は自分がどれほどの力を持っているのかを確かめるという意味もあって、この型を使ったのだ。

私は叩き斬ると言っている七海を見ながら叩き割るの間違いではないかと思っていた。

 

だが、どちらにも予想外なことが起きた。七海が突き技で真っ直ぐに岩を刺した。その瞬間、岩に亀裂が入り、木っ端微塵になった。

これには近くにいた鱗滝さんも、見ていた私も、それをやった張本人の七海も驚愕した。唯一、禰豆雄だけはその様子を見て対抗心を抱き、あのくらいはやらないといけないと思い、やる気を出していた。

 

 

ちなみに、七海のあれは岩を斬ったというより、岩を粉砕したの方が正しいため、もう一度別の岩でやってみることになった。これは七海の強い要望も関係していて、粉砕したものよりも大きな岩で試してみることにした。

あっ。篠突きは岩に使わないということになった。

 

 

粉砕したとしか言っていないが、粉砕した岩がどうなったのかを詳しく説明しておこう。

岩が粉砕した様子はまるで爆発したような感じで、岩は砕けて小さくなった石や砂となって、私達の上から降ってきた。おかげで、私達は石が当たって擦り傷を負ったり、目に砂が入ったりというような被害にあった。七海も全身が砂塗れになったので、また同じことはしないと思うけどね。

 

 

その後、七海があっさり岩を真っ二つに斬った。岩を粉砕したり、簡単に真っ二つに斬ったりなどの

禰豆雄がそれに触発されて、少し暴走した。

具体的に何をしたのかというと、はりきりすぎたようで、岩を斬る前に準備運動としてか、周りの木を斬りまくったのである。

 

 

何をしているのかと言いたいだろう。私もはりきっているのは分かるけど、近くの木を巻き込まないでほしいと思ったよ。

禰豆雄はよく一回斧を振っただけで木を斬っていたから、別に驚くことではなかった。.....言っておくけど、禰豆雄が一回で木を斬られるようになったのは炭華と一緒にいる時間を減らさないためだった。

特に、竈門家は炭焼き業をしているので、薪がいっぱい必要なのだ。そのため、禰豆雄はよく薪を作っているのだ。昔は弟達が幼かったこともあり、男手は禰豆雄だけだった。

 

 

禰豆雄は薪を作るために一人で何回も木を斬り倒さないといけなくなった。私も七海もその様子を見て、手伝うようになった。手伝い始めた時は邪魔するなとか、あっちに行けとか言っていたが、しばらくしてからはそう言わなくなり、そこの木を斬るようにとか、斬るのは何本だとかそういう風に指示するようになった。

今では自分から七海を引っ張っていくようになったし、弟達も成長したことから、人手が足りないということにはなっていない。

そのおかげで、私も時々手伝うことはあるが、基本的に薬屋の仕事をするようになった。

 

ちなみに、炭華を手伝おうとしていたらしいが、それは禰豆雄が止めたそうだ。姉は女の子だから、力仕事は自分がやると言っていたみたい。

 

 

私も七海も...一応女の子なのですけどね......。....まあ、鍛練になりそうだからと普通に参加していたのは私達だが.....。

 

 

禰豆雄は斧とはいえ、木を一回で斬ることができるため、刀を持っている今では肩慣らしに木を斬れてしまう。

鱗滝さんは禰豆雄が木を次々と斬り倒していくところを見て、巻き込まれる前に距離を取ったよ。

勿論、私も七海もその場から離れた。その時、岩の近くに人影が見えた。しかも一つではなく、複数あるのだ。

一瞬だったのではっきりと見ていないが、その人影は全員狐のお面を身につけていたんだよね....。

 

...一体誰なのかは少し心当たりがあるけど.....。

 

 

 

 

あれ?私の方はどうしたのかって?

私は七海が岩を粉砕する前に試練を受けたよ。

だって、禰豆雄と七海が暴走しないように見るとなると、どうしても二人と一緒に行動しなければならないのだ。つまり、あの二人と同じかそれ以上の速さで修行を終わらせないといけないということになる。

 

まあ、一度同じ修行を受けたし、この世界に来てから鍛練をしていて、呼吸を習得できたこともあり、私もあの二人と一緒に岩の修行を受けた。それで、じゃんけんで順番を決めることになり、私が最初でその次に七海と禰豆雄という順番になった。

 

 

私は前の時に岩を斬った経験から、何処から斬り込めばいいのかとか、どのくらい鍛えていればいいのかとかが分かっていた。

と言っても、本当に斬れるかどうかは分からないから、直前まで鍛練を怠らなかった。岩が何故か前の時より大きくなっているように感じていたし、これからの戦いを考えて強くなろうと思っていたのもあるだろう。

その結果、私はあっさり岩を斬り、修行を終えることになった。

 

 

最初に私が岩を真っ二つに斬れたことで、七海も気合いを入れたのだろうね。そのため、力が入ってあんなことになったのだと思う。

 

 

修行を終えた後、鱗滝さんが私達に何か言おうとしたが、その前に禰豆雄と七海が動くのが速かった。

修行を終えたので、禰豆雄と七海が炭華に会うことができるようになったのだ。早く炭華のところに行きたかったのだろう。

 

 

二人が走り去っていく背中を見ながら、私と鱗滝さんは無言で顔を見合わせ、首を横に振った。その後、鱗滝さんは私にゆっくり歩いて近づき、よくやったと言われて頭を撫でられた。

 

 

私は少し気恥ずかしい気持ちになっていた。こうも褒められると、とても嬉しく感じるのだが、顔が真っ赤になっていると思う。

本当に恥ずかしいのだから。

 

 

しばらくして、鱗滝さんが禰豆雄と七海の様子を見るためにあの二人のところへと移動しようとしていたが、私は少し寄りたいことがあるから先に言っていてほしいと言うと、鱗滝さんはすぐに山を降りていった。

 

 

あの二人が喧嘩しないか心配している様子だけど、喧嘩にはならないと思っている。炭華に久しぶりに会えることだし、互いにそちらの方を優先すると思うから、おそらく家を破壊するほどの喧嘩はしないから。

 

 

あの二人は本当に喧嘩するほど仲が良いよね。こういう時によく息が合うし。

 

 

そんなことを考えながら私は真っ二つに割れた岩に近づき、その辺りを見渡した。そして、少し離れた木影に誰かがいることに気づいた。

 

 

「.....少し話を聞かせてくれませんか?さっきから私達の方を見ていたから、少し気になってしまいまして。ここにはもう私しかいませんので、姿を見せてくれませんか?」

 

 

私がその木へ声をかけると、木影から二人が出てきた。その二人は原作で炭治郎に稽古をつけてくれていて、前でも私に色々なことを教えてくれた錆兎と真菰だった。

 

 

「.......何かすみません。色々壊してしまいましたし、ご迷惑でしたよね....」

「.....いや、少し驚いたが、平気だ。それにしても...岩を粉砕したり周りの木を倒したりと、俺達の中で(被害が)最も凄いことをした男と女だ」

「大丈夫。私達はずっと見てきたから、最終選別で生き残れる。彩花達なら勝てるよ、あいつに」

「少なくとも、生命力は強そうだからな」

「あははは......」

 

 

私が早速あの二人の行動を謝ると、錆兎と真菰は遠い目をしながらそう言った。私はその言葉を聞いて、苦笑いしかできなかった。

 

 

錆兎も真菰もあの二人が絶対に生き残ると確信している。まあ、当然だよね。あんなに被害を出しているのだから。そのため、私は申し訳ないと思って謝罪しているのだ。

 

どうして謝罪をするのかって?

だって、錆兎達は狭霧山に幽霊としてここにいるのだ。その山を禰豆雄と七海が思いっきり荒らしているのだから、迷惑だったと思うんだよね。自分のいる場所をめちゃくちゃにされたら怒りを覚える

 

 

私が苦笑いしていると、突然辺りが霧に包まれた。すぐにその霧は晴れたが、晴れた時にはもう錆兎と真菰の姿はなかった。

 

たぶん私達が苦戦していたら手助けしてくれようと思っていたのだろう。原作と前のように。だけど、その必要がなさそうで安心したのだと思う。あの二人は疲れたような表情をしていたが、なんだか安心感はあるようだ。

一応期待してくれているのかな。怒ってはいなかったし。

 

 

二人の姿が見えなくなり、私は最後に一度割れた岩の方を振り返った後、山から降りた。

 

錆兎や真菰の言う通り、たぶん負けないと思う。少なくとも期待には応えられるかな。

 

 

えっ?どうしてそんなに余裕そうなのかって?

まあ、前に手鬼に勝てたからというのもあるけど.......一番の理由は......。

 

 

 

 

 

「姉さんー!!」

「あと三日!半分になったわ!だけど、時間が経つのが遅すぎるのよ!!」

 

 

場面が切り替わって、現在は藤襲山にいます。どうやら私達が終えた時期から、数日後の最終選別に行けそうだということになり、すぐに藤襲山へと出発した。

まあ、例によっては禰豆雄と七海が炭華と離れたくないと駄々をこねたが、それは私が説得して終わらせ、渋々あの二人は頷いた。だが、その不満は藤襲山に来た辺りで限界に近づき、鬼との戦いで遂に爆破してしまった。

 

 

「相変わらず元気だね...。

.....七海。確かにこの一週間が長く感じるのは分かるけど、あともう少しの辛抱だから頑張ろうね。だから、二人とも藤襲山を鬼諸共に攻撃しようとするのは止めよう!

........あっ、怪我をしていますね。その怪我が鬼との戦いで負った傷なのか、あの二人に巻き込まれたのかは知りませんが、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。お詫びといいますか、その怪我の簡単な処置をさせてください。......これで大丈夫だと思います。それではあの二人を追わないといけないので、失礼します」

 

 

私はそんな禰豆雄と七海の様子を見ながら苦笑いを浮かべたり、禰豆雄と七海が山を壊さないように時々宥めたり、途中で出会う怪我人を手当てしたりというようなことをしていた。

 

特に、最後の怪我人に関しては鬼に襲われた時の怪我をした人、禰豆雄と七海の刀を振った風圧が原因で怪我をした人、または両方だという人などがいる。

どちらにせよ、怪我人を見つけたことに変わりはないため、私は持っていた道具で応急処置をしていた。

 

 

私は二人から離れることがないようにしながら、二人を追いかけていた。禰豆雄と七海が大暴れをするから、私は何が起きても二人を止められるようにしている。実際に木を幾つも倒そうとしたり、地面を突きで穴だらけにしたりなどをやったので、このまま放置してはいけないというのがよく分かるだろう。

 

 

うん?手鬼はどうしたって?

ああ....。.....もう最初の方で禰豆雄と七海によって手を全部斬られたり、体中を穴だらけにされたりということがあり、年号の下りは一切なく、ぶるぶる震えていたため、なんだか可哀想に感じたので、すぐに頸を斬った。禰豆雄と七海が追撃しそうだったから。

斬った後、腕が震えていることに気づき、右手でその手を握り、腕の方は優しく撫でた。完全に消滅した時、腕の震えは止まっていたから、少しは恐怖を和らげることができたかな...。

 

 

.....まあ、一番の問題は私がそうしているうちに二人がどんどん奥に進んでいったことだね。あの二人のいるところはものすごい音がしてくるから、すぐに何処にいるのかは分かったけど。

 

 

そんなわけで、襲ってくる鬼の大体は禰豆雄と七海によって倒されていった。その中には手鬼のように頸は斬られていないが、ボロボロになっている鬼がいて、また二人に中途半端な攻撃をされる前に私がその鬼の頸を斬っていた。

勿論、ちゃんと五体満足の鬼も斬ったよ。その後にどちらの鬼にも黙祷を捧げた。あんまり斬った後に放置することが申し訳ないと感じ、黙祷だけは自己満足でやっている。

 

それと、怪我人も放置することができなかった。特に、禰豆雄と七海が大暴れした所為で動けなくなった人に関しては申し訳なさしかないし、邪魔したことには変わりないため、謝りながら治療している。

そして、治療が終わった後にあの二人を追うというのを繰り返していた。途中で何度か引き止められたり、魔王に挑む勇者のような扱いをされたりということなどがあり、私は苦笑いしていた。

 

 

禰豆雄と七海は山を駆け回り、あちこち移動していた。それは二人について行っている私も同じだ。その結果、おそらくほとんどの場所に行ったと思う。ただ、気になることがある。それは善逸達に全く会えないことである。

 

えっ?それは時期がズレているからではないかって?

.......ああ。そういえば言っていなかったね。この藤襲山に着き、最終選別の説明が始まるまでの間に周りを見渡したら、善逸とカナヲ、玄弥の姿を見つけたのだ。この三人がいるということは伊之助もいると思うから、たぶん原作と同じ時期なんだと思う。

 

おそらく竈門家襲撃事件が一年遅れ、修行期間が一年短くなったことで原作と同じようになったのだろう。そう考えると、何が起こるか分からないからと早く修行を終わらせておいたのは正解だったみたいだ。

私達が鬼殺隊に入る頃には原作で起きることが全て終わっていた可能性があるし、もしかしたら鬼殺隊そのものが無くなっていた可能性もあった。

 

 

それを知った時、私は凄く安堵した。原作と違う流れになったら、この先でどうなるのか分からないからね。まあ、普通の人生なら分からないのが当然なのだけど、今はそうも言っていられない事態だから。

特に、その改変が原因で炭華の身に何か起こればあの二人が.......。....原作通りなら、炭華の身に起こりそうなことを事前に防ごうと考えている。私の手に負える範囲内で.....。

 

 

 

 

 

その後も色々なことがあったが、私達は七日間を生き残ることができた。生き残ったから終わりだとすぐに帰ろうとする二人を抑えながら、私達は最初の場所に戻った。最初の場所に戻ると、既にたくさんの人がいた。数えていなかったが、おそらく全員がここに戻って来れたということだろう。

だが、原作では炭治郎と善逸、伊之助、カナヲ、玄弥の五人しか生き残っていないはずだ。なのに、ここには善逸達以外にも多くの人達がいる。

 

私はそれに驚きながらも心の何処かで納得していた。何故この人達が生き残っているのかに気づいたからだ。

 

 

私達の行動を思い出せばその原因も簡単に分かった。では、何のことを指しているのか。

それは禰豆雄と七海があちこちで大暴れしていたからである。木を斬り倒し、地面を抉ったりしていたが、鬼を斬っていたのは確かだ。他の参加者と何回も出会っていたことから、彼らの試験を邪魔していると同時に、彼らを助けていたのだろう。

 

それに、禰豆雄と七海が通った後はあまり鬼がいないし、例え鬼がいても私が斬ってしまうから、これも原因の一つであろう。だって、鬼に遭遇する確率が低くなっていただろうから。

 

 

私が辺りを見渡すと、やっぱりそこにいたのは藤襲山て見た人達だった。その人達は私を見て、駆け寄ろうとしたり話しかけようとしたりしていたが、禰豆雄と七海を見たら顔を引き攣らせて離れて行った。

なんだか凄く申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

ごめんなさい。今、あの二人は炭華に会いたいという気持ちが強くて......。

 

 

私が周りの人達に心の中で謝っている間に、話が進んでいた。話によると、今回の最終選別で全員が生き残ったらしい。だが、そのうちの殆どが隊士になることを辞退した。

ちなみに、その理由が自分はまだまだとか、あの二人と同じにはなれない等々である。

 

 

皆さんはもう誰のことを指しているのか分かりますよね?

その通りです。辞退した人達は全員こちらを見ていました。当の本人達はその視線を全く気にしていませんが、私は苦笑いを浮かべてしまった。

 

 

そんなことがあって、生き残った人達はどんどん辞退し、私達を含めて六人になった。察している人はいると思うが、私達以外に辞退しなかったのは善逸、カナヲ、玄弥である。ここにいないけど、おそらく伊之助もいると思うから、隊士になったのは七人というのが正確だろう。

全員が生き残ったけど、鬼殺隊に入ったのは禰豆雄達(+イレギュラーの私達)というのは変わらなかったようだ。

 

 

その後、私達は鎹鴉をもらった。前は鬼殺隊に入っていなかったので、自分専用の鎹鴉がいなかったんだよね。獪岳の鎹鴉やその友達とは仲良くさせてもらったけど.....。

 

 

それで、私のところに来たのは前の時に特に仲良くなった雌の鎹鴉の遠藤だった。私はまた遠藤と出会えたことを純粋に喜んだ。七海も自分専用の鎹鴉をもらったことに興奮しているようだ。そのおかげで、七海の雰囲気が和らいでいた。七海のところに来た鎹鴉は雄らしく、禰豆雄の鎹鴉と仲が良かった。

ちなみに、禰豆雄の鎹鴉は天王寺松衛門だ。原作では炭治郎の鎹鴉であった。炭治郎の立場に禰豆雄が来たのだから、禰豆雄のところに行く天王寺松衛門が行くのは納得だった。

 

 

鎹鴉が来たことで、少し空気が穏やかになった時、玄弥が刀は何処だと聞いてきた。それを聞いて、私は玄弥の方を見た。玄弥は前で私達に説明している二人、輝利哉様とかなた様に近づいていた。

 

 

私はそれを見て、原作通りに進みそうだと思い、こちらも玄弥達に近づいた。

 

原作では刀が欲しいと気が立っていた玄弥がかなた様を殴ってしまうということが起きるのだ。流石に目の前で年下の女の子が殴られると分かっていて、それを知らないふりをする気はない。その前に止めないと。

 

 

だが、私が止める前に動いた人がいた。それは禰豆雄だった。

 

 

驚いた人がいるでしょう。私も驚いた。七海もかなり動揺していた。まさか禰豆雄が玄弥を止めるとは思ってもみなかったのだ。しかし、その後の禰豆雄の言葉を聞き、私は納得すると同時に呆気に取られた。

 

だって....

 

 

「お前が何かしたら姉さんに会うのが遅くなるだろう。七日も会ってないんだぞ。ホントなら今すぐ帰りたいんだ!」

 

 

と言ったからね。理由がもう禰豆雄らしくて、なんだか笑えてきた。

 

 

周りは呆れたまま動けていなかった。その一方で、禰豆雄は真面目な顔をして顔を傾げ、七海は禰豆雄の言葉を理解し、それに同意した。そして、私はその様子に苦笑いしていた。

 

 

 

しばらくして、玄弥が我に返った。玄弥は矛先を禰豆雄に変更したらしく、禰豆雄を睨みつけた。

 

 

「邪魔をするな!」

「邪魔?それはこっちの台詞だ。姉さんに会えないこの地獄からよく解放される時なんだよ!」

 

 

玄弥はそう言って、禰豆雄の胸元を掴んだ。だが、胸元を掴んだ玄弥よりも禰豆雄の方がイライラしている。もうすぐ帰れると思ったのに、時間が延びてしまったのが駄目だったようだ。

 

 

禰豆雄の殺気を感じ、周りは禰豆雄から距離をとった。特に、善逸なんて体をガタガタ震わせていて、今はまだ自分の意志で行動できないカナヲも顔を真っ青にして、その場から離れた。

玄弥と伊之助を含めたこの四人とはあちこち移動しても、会うことはなかった。それによって、禰豆雄の暴走を知らないのだ。そのため、禰豆雄の雰囲気にすっかり呑まれている。

 

 

...いや、会っていなかったのが良かったのかな。禰豆雄の暴走を知らないから、このくらいで済んだのかも.....。

実際に見たことのある他の人達は最終選別の時のことを思い出して、恐怖で震えている人がいれば、腰を抜かしてその場から動けない人もいて、失神している人までいた。

ちなみに、そんな感じで全員が禰豆雄の行動に注目している中、私と七海はいつもの調子でいたよ。もうこうやって殺気を放っているのには慣れているからね。

慣れていることを少し複雑に思うけど....。

 

 

.......さて、その殺気を至近距離で受けている玄弥はどうなっているのでしょうか?

はい。真っ青を通り越して真っ白になっています。

 

 

玄弥はもう禰豆雄の胸元から手を離していたが、今度は禰豆雄が玄弥の腕を離さない。

 

流石に止めた方が良さそうだね。原作では炭治郎が玄弥の腕を折っていたが、ここでは腕を折るくらいで済まないかもしれない。

 

 

そう思って、私は二人に近づき、禰豆雄の手を玄弥の腕から離させ、禰豆雄を説得した。すると、禰豆雄は渋々大人しくなり、殺気を放つのを止めた。

 

 

えっ?どうやって止めたのって?

これ以上やると、炭華との時間をまた短くすることになるよと言えば止まったんだよ。

 

 

禰豆雄が炭華関連で暴走している時には炭華のことを出せば大人しくなるからね。

でも、それで悪く言ってしまえば更なる怒りを買うことになるし、使い方を間違えれば完全に脅しだと思われ、本気で禰豆雄と喧嘩することになるので、時と場合、言い方などをよく考えないと駄目だ。

 

.....まあ、私は何年も禰豆雄と一緒にいて、こういうことへの対応をどうすれば良いのかは分かっているけどね。禰豆雄って、結構地雷があちこちあるから、慣れないと上手く対応するのが難しくなるんだよね。

 

 

禰豆雄が大人しくなった瞬間、輝利哉様は話を進めた。禰豆雄が殺気を放っている中、輝利哉様とかなた様はその場で静かに待っていられたのだ。

善逸達はその場から離れたのに、腕を掴まれて逃げられなかった玄弥以外で、二人だけはそこに立ったまま禰豆雄達をじっと見ていた。

 

しかし、二人の手が震えていることから、恐怖はあるのだろう。それでもこの場でその態度を表に出さず、私達の前に立っているのだから、本当に凄いと思う。

しかも、私達より年下なんだよ。

 

 

私が輝利哉様とかなた様の姿に感動している間に日輪刀の玉鋼を選ぶところまで話が進んでいた。

禰豆雄は本当に早く帰りたいので、説明が終わってすぐに手前の玉鋼を掴んだ。

 

そのまま離れようとする禰豆雄は私が止めたけどね。私達が見ない間に、禰豆雄が何か行動したら困るので。禰豆雄には悪いけど、待ってもらうことにした。

...すぐには無理だよ。私はせっかくの機会なので、じっくりそれを選ぶことにした。

 

 

私は視線に入って、これが良いと直感的に思ったものを掴んだし、七海も一通り玉鋼を見た後に選んでいた。私も七海も勘で選んでいる。

 

まあ、玉鋼はどれも似たような物だったから、ほとんど勘で選んでいるのだけどね。

それにしても、今は七海が落ち着いているね....。炭華に早く会いたいとは思っているが、それ以上にアニメで見たように玉鋼を選ぶことができて興奮しているようだ。......それに、自分の日輪刀が手に入るということを嬉しく思っているのもあるだろう。

前はそういったことができなかったからね....。

 

 

玉鋼を選び終え、隊服などの準備も全て終えた後、私達は狭霧山に帰った。七日間戦い続けたことで疲労はあったが、それ以上にあの二人は炭華に早く会いたいみたい。

 

ただ、炭華が目覚めているのかは分からないけどね...。だって、原作開始と修行期間を考えると、ここからは全て原作や前の時と同じ流れになるのではないかと思われるかもしれないが、炭華が私達の戻った時に目覚めるのかは確信できない。

 

 

そんなことを考えながら鱗滝さんの家に行くと......

 

 

「.....あっ」

「...おお。帰ってきたのか....」

「うー!」

「姉さん!!」

「炭華!!」

 

 

鱗滝さんが薪を持ち、炭華が料理の手伝いをしていた。

.....この様子だと、私達がここに来る前には...もしかしたら最終選別中に目を覚ましたのかもしれない。炭華、かなり馴染んでいる....。

 

 

私が目を覚ました炭華に驚いている間に、禰豆雄と七海が炭華に抱きつく。私はその様子を見て、炭華達のところに近づいた。

 

 

禰豆雄と七海が抱きついているから、炭華の手は塞がれているようだし、先に鱗滝さんに挨拶をしようかな。

 

 

「鱗滝さん、只今戻りました。......藤襲山の木をいくつか倒したりしていましたが、山は無くなっていません」

「....そうか...。.......よくぞ、戻ってきた」

 

 

私が鱗滝さんに藤襲山での出来事を報告すると、鱗滝さんは私を抱き締めてくれた。

 

 

おそらく抱き締めてくれたのは色々意味があるのだろうけど...今は私達が鬼殺隊に入れたことや炭華が目を覚ましたことを素直に喜ぼう。

 

 

 

 

たぶん.......この先で大変なことがいっぱい起きると思うけど....今は、ね.....。

 

 

 

 

 

 



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苦労人の少女は仕事をする

 

 

 

最終選別を生き残り、私達は鬼殺隊に入ることができた。炭華も目覚めることができて、今のところは順調だろう。

鬼舞辻無惨の襲撃が一年遅くなり、その代わりに修行期間が一年短くなってしまったことは少し心配だけど。

 

 

炭華が目覚めたことで禰豆雄と七海はかなりテンションが高い様子だ。だが、禰豆雄と七海が目を覚ました状態でも炭華から離れなかった。特に、七海は前で入れなかった鬼殺隊に合格したことで気分が凄く上がっていた。

鬼殺隊に入れたことで、二人の緊張の糸が切れたのだと思う。二人が凄く頑張っていたのは分かっているし、あまり突き詰めているのも駄目なので、最初は見逃していた。

だが、怪我をしていないのに、鍛練を休むのはあまり良いことではない。鍛練は重なれば重なるほどに実力がつくと同じように、鍛練を休めば休むほどに体が鈍ってしまうのだ。

 

 

なので、私は禰豆雄と七海をまた炭華から離して鍛練している。

文句を言われても、鬼殺隊の仕事で鬼を倒しに行く時にどんな鬼でもすぐに頸を斬れるようにしないと大変だよ、一人の鬼にかかる時間が長くなるほど、その日に斬ることができる鬼の人数が少なくなるし、炭華を人間に戻すのにますます時間をかけるよなどと言うと、文句を言うのは止めた。

さらに、炭華にも説明すると賛成してくれたので、二人は全力で頑張っている。

他にも、これからのためにも強くなった方がいいとか、鬼と多く出会えれば炭華を元に戻すことに繋がるのではないかとか、色々な人を助けたら炭華が喜ぶのではとか、そういうことを言ってみた。

私の言葉に、禰豆雄と七海は特に何も言わないで駄々をこねていた。だが、私の言っていることは炭華のことが多く、一理あると思ったようで、今では大人しく鍛練をしている。

 

 

そうやって鍛練をしているうちに、鋼鐡塚さんがやってきて、私達は日輪刀をもらった。

私は前の時と同じ無色透明に変わった。周りの反応もまた前と同じような感じであったが、全てというわけではなくても、既に幾つか知っている身としたら、あれこれ思案している鱗滝さんに申し訳ない気持ちになった。

それと、何も知らないふりをするのがとても大変だった。嘘をついたらバレるだろうし、そもそも私の場合はそんなの関係なしに気づかれる。七海がさりげなく話を逸らしてくれたこともあって、なんとか気づかれなかったと思う。

 

 

あと、七海と禰豆雄の日輪刀についても話しておこうかな。禰豆雄は炭治郎の立ち位置であるからか、黒色に変わった。これはある程度予想していたので、特に驚かなかった。

気になっていたのは七海かな。七海の日輪刀は藍色に変わった。七海の適正が海の呼吸(私が冗談で提案し、七海が採用した)であり、その呼吸が水の呼吸の派生でもあることから、この色になったのはおかしくない。

その藍色はとても濃く染まっていて、七海はこの色を気に入った。私も綺麗だと思ったし、見ていた鋼鐡塚さんも満足そうにしていた。

 

 

ちなみに、鋼鐡塚さんは禰豆雄が赫灼の子でなかったため、大暴れすることはなかったが、赤色がないことを残念そうにしていた。

そこは七海の日輪刀を見ても消えることがなかったみたいで、私には前の時と同じく、赤く染められるようになったら見せてくれと言われた。

私はそれに頷きながらまた申し訳ないと思った。

 

 

もう既にできるのだけど、どうやったのかという話になるので、できるとは言い出せなかった。

 

 

日輪刀を受け取った後、それぞれの鎹鴉から任務を言い渡された。どうやら任務先は別々のようだ。

そして、誰が炭華を背負って運ぶのかという話になった。私は薬やその道具を持っていくからと断ったが、禰豆雄と七海が全く譲る気配はなくて、時間がかかった。ただ、長時間もそこにいたわけではない。

私が二人にじゃんけんで決めるようにと言った後、私は自分の準備を終え、隊服にも着替えた。

それから、鱗滝さんから手作りの背負い箱を受け取り、その背負い箱の中に炭華を入れたり、七海と禰豆雄の荷物をまとめたりなどをして、二人が着替え終えたらすぐに出発できるようにした。

 

 

あっ。隊服と言えば、私の着る隊服はズボンで、七海は膝下のスカートらしい。まあ、スカートと言っても見た目はスカートに見えるズボン、キュロットである。私は動きやすいという理由でズボンだが、七海がこの服装になったのは前田さんという隠が原因で、その前田さんに短いスカートを渡し、七海がそれを見た瞬間に話し合いをしてくると言って、何処かへ行った。たぶん前田さんのところに行ったと思うし、七海が満面の笑みで帰って来たので、色々あってこうなったのだと想像がつく。そこは省略しておこう。

 

 

私?私のもそうだったけど、気づいてすぐに鱗滝さんへ報告したため、出発前には間に合った。

 

 

準備を終えた時に、この二人の炭華争奪戦は七海の勝利で終わり、悔しそうな顔をしている禰豆雄を慰め、任務が終わったら集まろうと言った。

その結果、禰豆雄は任務先で沼の入る三人に分身した鬼を瞬殺し、その近くにいたカップルの若者達を助けることになったのだが、詳しくは禰豆雄があまり覚えていないので、私もはっきりとしたことは分からない。

 

 

禰豆雄がすぐに任務を終えたように、私と七海も任務を問題なく終わらせた。

まあ、早かった方だと思う。

七海は炭華が後ろにいたことで、いつも以上にやる気が出たみたいで、すぐに終わらせたようだし、私は二人とも早く終わらせるのだろうと思って、急いでいたからね。

幸いにも次の任務は私達三人とも同じ場所らしいだから、合流することは可能だろう。だが、見つけ出すのは大変だと思うけどね。

 

何せ、場所はあの浅草だから。鬼舞辻無惨や珠世さん達の出会いの方が印象に残っているが、私はそもそも人の出入りが多い場所だとも思っている。あの人混みの中で上手く合流できるかという心配があった。

 

 

でも、その心配も杞憂で終えたみたいだったよ。互いに運が良かったらしく、ばったり出会うことができたんだよね。しかも、四人ともうどん屋さんの前で。

七海が炭華を背負い箱から出して、手を繋いで歩いていたことで、禰豆雄から凄い批判があったが、七海はいつまでも閉じ込めておく方が可哀想だと言って譲らなかった。

 

 

その後は炭華を巡って、また二人が言い争いになっていた。喧嘩にならないようにとは先に言っておいたし、ここはうどん屋さん以外にはいなかったこともあり、うどん屋さんに謝罪するくらいでそれ以上は何もせず、炭華と少し話していた。

ただ、迷惑をかけることは間違いないので、私はうどんを頼み、二人が落ち着くまで待つことにした。炭華は二人の様子をにこにこと見ていたので、二人のところに行ってみるのかと聞いたら、二人に近づいていった。私はそれを見ながらうどんを食べ始めた。

 

 

申し訳ないという気持ちになったのは確かだけど、ここのうどんがとても美味しくて、せっかくの機会だからと思って、食べることにした。 だけど、食べるのに夢中になってしまい、気づくのが少し遅れてしまったのだ。

 

 

私が異変に気づいた時には炭華が大通りに向けて走り出し、七海と禰豆雄がそれを追いかけていた。

それを見て、私は何が起きているのかに気づいた。急いでうどんの汁を流し込むように飲み干し、店主にご馳走様と一言告げてから、私も三人を追いかけた。

 

急いでいるのに、全部食べた理由?

あの店主が怖いからである。

 

 

私は炭華がどうして勝手に動いたのかを知っている。おそらく鬼舞辻無惨の匂いに気づいたのだ。原作では浅草で鬼舞辻無惨と遭遇するところがあったが、それは炭治郎が匂いに気づいたからである。

だが、この世界の禰豆雄は匂いに敏感な方であるが、炭華は禰豆雄よりも鼻が利くのだ。

つまり、炭華の方がとても優れている嗅覚を持っているということになる。しかも、炭華はあの場にいたことから、鬼舞辻無惨の匂いを覚えている。

 

 

もう分かっている方がいるでしょうが、炭華は鬼舞辻無惨を見つけて追いかけたということだ。

さらに、七海も浅草に無惨がいることを知っているし、少し考えれば炭華が誰を追いかけているのかというのにも気づいているのだろう。

既に知っているとなると、七海が何をするのか分からないね。こんなところで騒ぎを起こしたら大変なことになる。ここはたくさんの人がいるから、下手したら大勢の人の命が危険に晒される。なるべく、穏便に解決してすることを祈ろう。

 

 

 

それで、私が三人に追いついた時には炭華達以外にも別の人がいた。その人は私が来たことに気づき、振り向いた。その人の顔を見て、私はそれ以上に驚いて声を上げそうになった。

 

 

(兪史郎さん!?えっ!?今、何処まで進んでいるの?兪史郎さんがいるということは既に鬼舞辻無惨と接触して、鬼になってしまった人を抑えて、そこで珠世さんと兪史郎さんに出会ったということ?いや、珠世さんがここにいないからもっと先まで進んだの!

私が少し目を離した隙にそこまで進んだのかな。それとも、いくつか抜けたところとかあるのかな....?)

「彩花....」

 

 

私は兪史郎さんがいることに混乱しながらも、今は原作のどの辺りにいるのかと考えていた。

すると、私が凄く混乱しているのだと察し、七海が簡潔に説明してくれた。

 

 

炭華が私達から離れたのはやはり鬼舞辻無惨を見つけたからだったみたい。鬼舞辻無惨まで真っ直ぐに行って、そのまま突っ込んでいきそうだったため、七海がその前に炭華を捕まえてくれたそうだ。

 

 

七海が止めたのは周りの被害を考えたからというのもあるが、それ以上に炭華と無惨を会わせたくなかったみたい。炭華が逃れ鬼だとバレたら、炭華の身が危ないからね。無惨なら炭華を一目見れば自分の支配から解放されていると見抜けるだろうし、刺客を送り込んでくるのは間違いない。

何せ、原作でも前の時でも花札の耳飾りをしている炭治郎の命を狙っているからね。かつて自分をバラバラにして、殺す一歩前まで追い詰めた剣士の関係者かもしれないと考えても、凄い怖がっているよねと思ったよ。

鬼同士が協力できないようになっているのも、無惨が下剋上を恐れているからだし、反乱の火種は早く消したいと思うよね。

 

 

まあ、七海もそういうことを予想したから、炭華と無惨を会わせないようにしたようだし、炭華が振り解こうとしても離さなかったらしい。いくら炭華に甘い七海でも、流石に炭華が危ない目に合うのを分かっていて、離そうとは思わなかったようだ。

ただ、それを見た禰豆雄と口論になってしまったらしい。

禰豆雄はこちらの事情を知らないので、炭華を離すように言うが、七海はそれを拒否する。そんなことを言い合っているうちに、ついに互いが掴みかかり、喧嘩に発展しそうになったそうだ。

そこで炭華も我に返り、喧嘩を止めようとして助けを求めた人が珠世さん達だったらしい。

 

......いや、どんな偶然なの!

 

 

そう内心で叫びながらも私は兪史郎さんに向けて頭を下げた。

 

 

「三人がご迷惑をお掛けしました」

「まったくだ。珠世様に苦労をかけて」

 

 

私が謝ると、兪史郎さんは不機嫌な様子でそう言った。何かイライラしているようにも見えるし、二人が何かしたのだろう。

何をしたのか具体的には分からないけど、余程のことをしたのは確実だ。

兪史郎さん、ごめんなさい。後で珠世さんにも謝罪しないといけないね。

 

 

「それで、炭華を連れて貴方達の屋敷に行くことになったのですね」

「ああ。珠世様が言うには鬼舞辻の呪いを解いてるらしいからな。しかも、こいつらから話によると、人間どころか血すらも飲んでないそうだから調べたいそうだ」

「なるほど。私達の方も貴方達より詳しくないと思いますので、専門に任せたいと思っています。炭華を見て、呪いの区別がつくということはかなり知っているということで間違いなさそうですし」

「そうか...。......おい。こいつが行くと言ったから、早く行くぞ」

「.....ああ」

 

 

私が確認の意味を兼ねてそう聞くと、兪史郎さんは珠世さんの言葉を話してくれた。無惨は気づくだろうと思っていたけど、珠世さんも呪いのことが分かるのは予想外だった。でも、こちらには好都合でもあるし、せっかくの機会だからこの流れに乗ろうと思う。

私の答えを聞くと、兪史郎さんが禰豆雄に近づいてそう言った。禰豆雄は何故か不満そうな顔をしていた。

私は兪史郎さんの言葉と禰豆雄の反応に首を傾げた。

 

どういうこと?既に決まっていたのではなかったの?

 

 

すると、七海が小声でその説明してくれた。

 

 

「アタシは原作を知っていたから大賛成だったんだけど、何も知らない禰豆雄はとてつもなく反対したのよ。禰豆雄からしたら、会って間もないから仕方がないけど。炭華が懐いているから大丈夫じゃないのと言ったら少し大人しくなったけど、それでも珠世さん達への不信感が残っているから、どうしたらいいのかと考えて、彩花にも聞くことにしようと言ったのよ。

彩花ならアタシ達とは違った視線で何か言うかもしれないし、アタシ達の中で彩花が一番炭華の状態を知っているからって。彩花って、炭華の主治医みたいなところがあるもの。そう言えば禰豆雄も納得したし、珠世さん達にはもう一人いるから、その子にも話をしたいと言ったらそれならということで、現在に至るというわけよ」

「........七海も禰豆雄も、私を医者だと思っていない?一応手伝いはしているけど、私の本職は薬屋だよ。それと....七海。それは私に丸投げしたということじゃない?」

「いえ、アタシはそんなことしていないわ。むしろ、アタシはよくやった方よ。炭華と無惨が出会わないようにして、無惨が誰も鬼化させなかったし、珠世さん達とも会えたのよ。上出来だと思えない?

.....まあ、多少のトラブルはあったけど、結果的に禰豆雄も納得してくれたみたいだから結果オーライよ」

「いや、確かになんとかすることはできたけど...。....でも、できれば私に一言でいいから言ってほしかったよ...」

 

 

七海の話に私は医者ではないと否定しながら聞いてみると、七海は目を泳がしながらそう言った。普通なら禰豆雄を誤魔化せるけど、今回は完全に原作知識のことから賛成しまったため、言い訳を思いつかなかったみたい。

 

私は手伝いをしていても、医者というほどのことはしていない。一応薬屋であることが正しいのだから。

だって、資格とかを何も持っていないからね。医療資格を持っていないのに、医者を名乗るのはちょっと......。

 

 

「おい。貴様らはいつまでそこで油を売っているんだ」

「あっ。ごめんなさい。すぐにそっちへ行きます」

「流石にちょっと長すぎたかしら?」

「ったく。もう寝そうだぞ、そこの醜....」

 

 

私と七海が小声で話している間に、兪史郎さん達が進んでいたらしく、かなり間が空いていた。私が謝りながら近づき、七海も歩いて追いかけていると、兪史郎さんが炭華を見ながらあの言葉を言おうとした。その瞬間、強い風が兪史郎さんを襲った。しかも、その風で何かに当たったらしく、両方の頬から血が流れ出した。だが、出血量はそれほど多くなく、掠っただけで済んだようだ。

 

 

まあ、それ以上に兪史郎さんは驚いただろうね。だって、少し近くにいた禰豆雄はともかく、かなり離れたはずの七海が一気に自分のところまで来たのだから。その上、二人とも自分の目の前に拳を向けていたら、凄く驚くと思う。

 

何せ、この二人は本当に凄い勢いで兪史郎さんを殴ろうとしていたからね。.....私がぎりぎり二人の隊服を掴んで引っ張らなければ確実に...。

結構こんなことが起きそうだからと反射神経を前の時以上に鍛えることになり、今回のようなことが起きても二人が問題を起こす前に止められたのだ。

 

 

「七海!禰豆雄!落ち着いて!」

「ふふふっ.....。そういえば確かに言っていたわね。もう全然違うから、あまり頼りにしない方がいいと思っていたけど、まさか炭華に言うとは思わなかったわ...」

「彩花、止めるな。いくら何でも姉さんをあの扱いにしようとした罪は重い。今、ここで......」

「二人ともお願いだから、それは止めて!」

 

 

私が二人の隊服を引っ張って必死に止めるが、七海も禰豆雄も完全に兪史郎さんの言葉でキレているみたいで、私の手を振り解こうとしている。だが、私は強く握り締め、二人を離さないようにしながら二人を宥めていた。

しかし、私が何度も落ち着かせようとしても、二人は兪史郎さんを攻撃するのを諦めていないようで、凄い力で前に進もうとしている。私は地面を踏み締め、体重をかけていたが、二人がもの凄い力と速さで兪史郎さんの方へ向かっているらしく、少しずつであるが、引き摺られ始めていた。

 

こういう時だ。私の力が二人より弱いことを恨むのは。

 

 

「行くぞ」

「この状況で!?」

 

 

それ以上に私が驚いたことは兪史郎さんが七海と兪史郎さんの殺気を浴びながらも普通に話を進めていくところだ。私は兪史郎さんの態度に驚愕しながらも二人から手を離さなかった。

だが、力が少し抜けたようで、先程よりも私を引き摺る速さが速くなり出した。私はなんとか止めようと地面を踏み締めているが、一度進んでしまったものを止めるのは難しく、それはできなかった。

ただ、それでも少しは動く速さを抑えていることになるらしく、普通に歩いているくらいの速さで収まった。

私達の様子を見て、炭華がおろおろしていたが、しばらくして一緒にいた方が良いと考えたらしく、私達を追いかけ始めた。

 

ちなみに、私はずっとこの間も二人から手を離さなかった。私が隊服を掴むのを止めた瞬間、七海と禰豆雄が兪史郎さんに襲いかかるのは目に見えていたからだ。

 

 

そうしているうちに、兪史郎さんがある塀をすり抜けるように入っていき、原作を知っている私はあそこが入り口なのだなと思ったくらいだ。この塀をすり抜けるところを見たら少しは冷静になるかなと思ったが、あの二人は私の想像以上に怒っているらしく、そのまま兪史郎さんを追いかけて塀の中に入っていった。

私は二人とも躊躇がないと思いながら、炭華がここに入ってくるかと心配になった。原作ではあまりに突然兪史郎さんが壁を通り抜けていったから、炭治郎が信じられなくて固まっていたのだ。炭華もこの壁に驚いて固まってなければいいのだけど。

炭華の様子を見に行きたいけど、七海と禰豆雄を掴む手を離すことができなかったので、炭華が数分しても来なかったらここから出て、炭華の無事を確認しようと思う。

まあ、炭華もすぐに塀をすり抜けてきたけどね。ただ、いきなり私達がいなくなって心細かったそうで、ここに来た時に不安な表情をしていたうえに、私達の姿を見つけた後はずっとくっついていたからね。

 

 

その後、七海と禰豆雄を落ち着かせようと何度か別の話を振っていたら漸く大人しくなった。いや、大人しいとか冷静とかそういうのではないね。...むしろ兪史郎さんと楽しく話していて、賑やかな感じだから。

 

 

何を言ったのかって?

何か話を変えようと思ってたまたま見えた化粧道具のことを話題にしてみたら.....。

 

 

『それは俺が珠世様にプレゼントしたものだ。俺の贈った物で珠世様はまた一段と美しくなられた。......お前達はそいつを褒めているだけのようだが、そいつの美しさを磨こうとしないのか』

『『はっ』』

 

 

........なんて言うことがあってから、それからは三人で化粧用品の話をし始め、なんだか意気投合したんだよね。

私は途中から三人についていけなくなったが、とりあえず仲良くなっているみたいだからいいかな。

 

 

三人が談義している間に珠世さんに炭華の血を調べてもらい、少し珠世さんと話し合った後、手伝いもすると言った。

手伝いとは何かと思った人がいるかもしれないが、鬼の血を集めることである。話内容は大体原作と似たような感じだと思う。ただ、それを聞いているのが禰豆雄ではなく私であることは少しおかしいのだが、あの三人の邪魔をしたくないので、特に気にしないことにした。

後で私が説明すればいいし、鬼の血を集める手伝いも炭華を人間に戻すために必要だからと言えば協力するのは間違いないからね。

 

 

そんな感じで穏便に終わると思ったのだが、珠世さんの屋敷を何者かが襲撃してきた。私は原作通りになったのかと思いながら困惑していた。この追っ手は無惨が放つのだが、その原因は自分を追い詰めた剣士と同じ耳飾りをしている人間を見つけ、恐れて殺そうとしたのだ。

だが、原作と違って炭華達が無惨と出会っていないみたいだから、この襲撃は発生しないかなと思っていた。なので、原作通りに襲撃が起きたことに驚いた。

 

 

ところで、耳飾りをしているのは誰かって?

そういえば言っていなかったね。片方は炭華がつけているよ。いや、なんで片方なのと思う人がいると思うが、少し考えてみてほしい。耳飾りは耳に小さな穴を開けないといけない。耳に穴を開ける、つまり傷つけるような行為をあの二人が許すと思うかな。

 

 

.....うん。耳を傷つけるなんてと言って止めていたけど、炭華がどうしてもつけるのだと聞かなくて、何度も言い合った後に片方だけはつけていいということになった。

私は耳に穴が開くのが嫌と言っていたのに、それならもう両方ともにした方がと思ったけど、みんなが納得している様子なので、何も言わなかった。

 

 

まあ、それでもまだ問題が残っていたんだよね。もう片方の耳飾りは誰がつけることになるのかという問題が。

この花札の耳飾りはただ耳飾りではない。最強の剣士である継国縁壱が身につけていたものであり、日の呼吸の継承者である証のようなものでもあった。

竈門家ではその長子が受け継ぐことになり、炭華がつけるのは当然という感じだったのだが、禰豆雄が駄々をこねてしまい、炭華が片方だけをつけることになって、困ったのは二人のお父さん(炭十郎さん)だ。

 

 

代々受け継いでいる耳飾りを片方とはつけているので、約束を破ったことにはならないが、もう片方をどうするのかが問題だった。何処かに保管しておくにしても、失くしてしまったらもっての外だからね。大正時代であまり裕福でないことからなのだが、安全性は皆無だと思う。

誰かがつけている方が安心なのだが、ここで誰がつけるのかと争いになったのが禰豆雄と七海である。何故と思うかもしれないが、二人が言うには炭華とお揃いだからだそうだ。

まあ、確かに片方は炭華がつけているよね。もう片方を炭華と同じようにつければお揃いになるのか...?

でも、それでは代々受け継いできた耳飾りがなんだか可哀想だ。

 

 

それで、禰豆雄と七海の長い喧嘩の結果、私がこの耳飾りをつけることになった。

....何でと思う方がいると思いますが、私はもう慣れているので特に気にしていません。

あの二人の問題は大体私に行くことでなんとかなったものが多いからね。この時の件も私はまたかと思ったよ。

ちなみに、私はこの耳飾りをいつも結んでいる赤い紐に通して、髪飾りのようにして身につけている。

 

 

まあ話が逸れてしまいましたが、その襲撃者がどうなったのかというと.....七海と禰豆雄の手で瞬殺されていたよ。二人の行動は本当に早かった。二人が早く動いたのは家を攻撃されて炭華の上から瓦礫が降っているからという理由だった。

と言っても、その瓦礫は小さな物だったが、それでも炭華の肌に傷がつくと言って、兪史郎さんと協力して二人の鬼の頸を斬ったのは凄かったよ。兪史郎さんも珠世さんと暮らしていた家が壊されたことに怒っている様子だった。

そのため、禰豆雄と七海に協力的だった。

 

 

私は特にやることもなく、炭華と珠世さんと一緒に屋敷の地下に行った。時間的に日が昇りそうだったから、話し合うためにも日が当たらない地下の方がゆっくり話せた。

 

 

「彩花さん。炭華さんを私達に預けてみませんか?」

「えっ?」

「鬼との戦いがありますし、鬼殺隊として動いていれば炭華さんの身に危険が及ぶ可能性が高くなっていきます。それに、彩花さんはあの二人のことでも大変なはずです。炭華さんだけでも安全な場所にいて、手紙で近況報告もできますので、安心できるのではないでしょうか?」

 

 

私が珠世さんの提案にどうしようかと考えた時、私の手を誰かが握った。私が驚いて見ると、私の右手を両手で握りしめていたのは炭華だった。炭華は私をじっと見つめていて、私はその視線で炭華が何を言いたいのかが分かり、大きく息を吐いた。

 

 

私は禰豆雄と同様に炭華とも付き合いが長い。そのため、その視線で炭華が何を言いたいのかは分かる。

 

 

「珠世さんの気持ちはありがたいです。確かに炭華が安全なところにいると分かれば私も安心できます。ですが、私の個人的な願いでは炭華がそばにいてくれる方が嬉しいです。それに、炭華の好きにしてあげたいと私は思っています」

 

 

私は炭華に応えるように手を握り返した後、珠世さんに向けてそう言った。珠世さんは私の答えを聞いた後、私と炭華を見て微笑んでいた。

 

 

「ですが、七海さんと禰豆雄さんと一緒にいて、本当に大丈夫なのですか?」

「大丈夫です。あの二人とは炭華と同じように付き合いが長いですし、これからも私は一緒にいようと思っています。

色々問題は起こしますけど、それでもあの二人は悪いことをしませんから。.....たまに暴走することはありますが、それで見捨てるような関係ではありませんよ」

「...彩花さん達が大丈夫なら構いませんが......」

 

 

珠世さんの質問に私は大丈夫だとはっきり伝えた。七海も禰豆雄も炭華のことで暴走しても、そういう悪いところを補えるくらい良いところがあるので、私はあの二人と絶縁する気がないですし、むしろその繋がりを強化したいと思っている。

あの二人に絆されているのですよ。

 

 

 

 

その後、珠世さん達は新しい拠点を探しに行き、私達は鬼殺隊の仕事へと向かい........。

 

 

「とりあえず落ち着こう」

「無理無理ー!!イヤー!なんでこんなところにいるの。ここに何しに来たの。最終選別を終わった時、始まる前に微かに聞こえていた音がとんでもなく大きくなるし、周りも何故か怯えてる音をさせていたし、もうなんなの!男の方はなんか凄え怖い音がしてくるんだよ!しかも、ゴゴゴ...なんて音!もうヤダ!

女の子の方も凄え強いみたいだし、聞こえてくる音も雨が凄い降ったような音だったり、風が吹き荒れた音だったり、雷が鳴る音だったり、他にも色々な音があって、それらがいっぱい重なったような、不協和音みたいな音がする!でも、たまに穏やかな音がするんだよね。波のような音がして....」

「うるさい奴だな」

「今は眠いから、もう少し低くしてほしい」

「ギャアアアアァァ!!」

 

 

私は相手の頭を撫でながら宥めているのだが、相手が落ち着く気配は全くなかった。禰豆雄は泣き喚く相手を冷たい目で見つめていたし、七海は相手の高音が寝不足の頭に響くらしく、すっかり不機嫌だ。

 

 

なんとなく分かる人はいるかもしれないが、ここで誰なのか正解を発表をしましょう。正解は.......。

 

 

「善逸、七海も禰豆雄も不機嫌になっているだけで何もしてこないから」

 

 

善逸です。

 

 

私が七海と禰豆雄は何もしないと伝えているのだが、善逸は聞こえていない様子でまだ叫び続けている。

 

 

善逸と出会ったのは原作通りの流れだ。私達が次の任務のために歩いていると、道の真ん中で一般人の女の子に縋りつく善逸と出会った。

私は善逸がいるのを見つけた時、善逸の雀が飛んできた。

この雀は鎹鴉の代わりである。どうして善逸は雀なのか知らないけど、私はこの雀のことが可愛くて好きである。ちなみに、この雀の名前は『うこぎ』であるが、善逸は『チュン太郎』と呼んでいる。私も心の中ではチュン太郎と呼んでいるのだけどね。

 

 

私は両手で飛んでくるチュン太郎を受け止め、必死に善逸のことを伝えようとするチュン太郎の姿を見て、口元が緩みそうになるが、それでもチュン太郎の伝えようとしていることを聞き取ろうとした。

 

 

まあ、大方原作通りなのだと思う。チュン太郎の動きからして、そんな感じだからね。

 

えっ?どうして分かるのかって?

前の時に炭治郎のあの擬音語ばっかりで身振り手振りの激しい説明から聞き取ろうとしていたので、そういったことを理解するのに慣れてしまいました。チュン太郎のジェスチャーが簡潔で分かりやすかったというのもあるけど。

 

 

チュン太郎から大体が原作通りに進んだと分かり、私が善逸を一般人の女の子から引き離そうと前に出た瞬間、善逸が勢いよくこちらを振り向き、叫び声を上げた。

 

今度は何なの?

 

 

私は善逸が何を見たのかと思って振り向いたが、そこにいるのは七海と禰豆雄だけで後は誰もいなかった。

強いて言うなら、七海と禰豆雄が炭華の入っている背負い箱をどっちが背負うかで言い合っているくらいだ。

まあ、やりかねないと思っていたけど、それを今するのね。確かに、良さそうな

 

 

珠世さん達と離れる時は禰豆雄が背負っていた。浅草に行くまでは七海が背負っていたので、公平的に次は禰豆雄ということになった。

 

それなら、何故このような言い合いになっているのかって?

それは七海が交代するかと聞いて、禰豆雄がそれを断るということになっているのだ。ちょうど立ち止まっているから、交代するには良い機会だと思って言い出したのだろう。禰豆雄がすぐに断ったみたいだけど....。

その結果、互いに譲らない状況になり、今の状態に至るのだろう。

 

 

善逸を落ち着かせた後にあの二人の言い合いを止めないとね。まだ大丈夫そうだけど、そのうちに喧嘩に発展すると思う。

幸い、ここは周辺が田んぼばかりで人がいない様子だから、巻き込まれるのは私と善逸達の三人だ。ただ善逸達は私が庇えば平気だと思うけど、田んぼに被害が及ぶのは駄目ね。食べ物はいつの時代も大切なものだから。

 

そのためにも、早めに善逸をあの女の子から引き離さないとね。その後、七海と禰豆雄の喧嘩の仲裁をしよう。

 

 

私はそう思いながら何かに怯えている善逸と女の子に近づいた時......。

 

 

「もうヤダ!何でいるの、あの二人!なんか音がどんどん大きくなってるし!しかも、メチャクチャ怖い!

なんかヤバイの目覚めてない!」

 

 

ただ善逸のこの言葉を聞いた瞬間、私は漸く察した。善逸が怯えているのは禰豆雄と七海が原因だと。

 

 

いや、ごめんね。私、あの二人の喧嘩にあまりに慣れすぎているうえに、もっとまずい喧嘩を知っているため、今の段階は大丈夫だなとか、そろそろ危ないかなとかそういうのが分かるようになってしまっている。さらに、今までは村という閉鎖空間にいたり、修行中に山へ引きこもったりしていたから、あまり気づく機会がなかった。村の人達は七海と禰豆雄の暴走を全員知っているし、対処方法を大体理解できるくらいだ。狭霧山の修行の時もそもそも人の出入りがあまりなく、鱗滝さんは私とどう対処するかを決めていて、あまり動揺も見られないことから、特に問題はなかった。どんな行動をするのかは私が大体説明していたので、すぐに判断して対応していた。

 

 

なので、他の人が七海と禰豆雄の様子を見て、どう感じるのかというのをすっかり失念していた。例え私が慣れていたとしても、他の人は初めて知ることだし、全く慣れていないことであり、恐怖を感じてしまうくらいなのだということに気づけなかった。

 

 

私は善逸の様子を見て、どうするべきなのかと考えながら行動することにした。とりあえず最初に女の子に縋り付いた状態の善逸を引き剥がすことから始めた。

一応、これが当初の目的だったので。

 

 

「あ、あの.......」

「ごめんなさい。あの二人を含めて私がなんとかしますので、貴女はどうぞ行ってください。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」

「い、いえ。ありがとうございます」

 

 

戸惑っている女の子に、私は声をかけてこの場から離れるように言った。それと、色々迷惑をかけてしまったのは間違いないので、謝罪もしていた。女の子は私に頭を下げた後、すぐに走り去っていった。

 

 

急ぎの用事があったのか、七海と禰豆雄の喧嘩が怖いのかは分からないけど、どうやらこの場から早く離れたかったみたい。

....本当に彼女には申し訳ないことをしてしまったね。おそらく原作と同じ展開なのだろうから、任務に行くのを怖がって蹲る善逸に声をかけただけで巻き込まれたんだよね。彼女には何の非もないから、ますます罪悪感を感じる....。

 

 

......それにしても、さっきから善逸が静かだけど、どうしたのかな?私が女の子から引き離すまで騒いでいたのに。

 

 

「あの。さっきから静かだけど、大丈夫なのかな?私、そろそろあの二人を宥めないといけないから」

「はっ!」

 

 

私が善逸にそう声をかけた時、善逸が漸く正気を取り戻した?らしく、顔を上げて私の方を見た。そして、私の手を握り.....。

 

 

「ねえ!君って、最終選別の時にいたよね。なんか近くにヤバイ奴がいたし、怖い音をさせる子もいたけど、あそこにいたってことは君も鬼殺隊にいるんだよね!まさかこんなところで再会するなんて...!

これって、運命だよね!もう絶対に運命だよね!もう結婚するしかないでしょ!」

「ええ.......」

 

 

近寄ってそう捲し立てる善逸に私は非常に困った。善逸が女の子に対してこういうことをするのは、原作からも前の時からも知っていたけど、やっぱり自分がその対象になると、どうしたらいいのか分からなくなる。

 

 

どう対応するのが正しいのかと考えていると、善逸がまた悲鳴を上げた。善逸が怯えた目をしていたため、まさかと思って二人の方を見ると、七海と禰豆雄が善逸のことを睨みつけていた。

 

わあ、二人とも凄い不機嫌だ。七海と禰豆雄がイライラしていて、もはや周りに八つ当たりしてもおかしくない段階に来ている。確かに善逸がかなり大声で叫んでいたから、うるさかったと思うけど、そんな殺気を込めて睨まなくてもいいと思うよ。

それにしても、もう少し保つかと思ったのだけど....どうやら何か変なスイッチをどちらか押しちゃったのかな...。

.....考えるのは後回しにして、今は二人を落ち着かせることにしよう。

 

 

「とりあえず、少し離れてほしいかな。あの二人を宥めないといけないから」

「ええ!?あっち行くの!?駄目だよ!あの二人、凄い目で睨んでくるし!」

「....だからこそだよ。それに、私はあの二人と何年もいるから落ち着かせるのは得意だよ。大丈夫だから、ね」

 

 

私が善逸に離れるように言うが、善逸は手を離さないで私を止めてきた。

まあ、殺気が飛ばしてくるような相手のところに行かせたくないと思うのは普通だけど.....。

 

 

私はあの二人とは知り合いだから大丈夫だと言うが、善逸がなかなか手を離してくれず、どうにか善逸を宥めながら説得し、手を離してもらった。

その後、すぐに七海と禰豆雄も宥めて、機嫌を直してもらった。

 

 

あれ?なんだか宥める相手が増えてない?....まさか、これから善逸の宥め役もしないといけなくなるのかな.......。

 

 

 

 

よし。胃薬を作ろう。

 

 

 

 






大正コソコソ話

最初に隊服をもらった時、彩花と七海の隊服は短いスカートだったらしい。隊服を確認してすぐにそのことに気づいた彩花が鱗滝さんに報告したそうです。
その時の彩花は事前にズボンがいいと言っていた。理由は簡単。動きやすいからだそうですよ。
七海も彩花同様に動きやすいものでいいが、見た目でも可愛いのが良かったみたいで、カナヲと同じものが来たらそれを着たいと思っていたらしいけど、ミニスカだったので、少し前田さんと話し合ったようです。その結果、スカートを履かないことにして可愛いキュロットにしたらしい。



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苦労人の少女は柱に頭を下げる



今回は少しミスがあり、十分遅れの投稿となりました。
申し訳ありません。





 

 

 

七海と禰豆雄を宥めた後、善逸が私達と同じ任務だと分かり、一緒に行動することにした。と言っても、善逸は現在気絶していて、禰豆雄に背負われて運ばれたのだけどね。

 

 

どうしてそうなったのかというと、善逸は私達の鎹鴉が普通に話していることで大騒ぎしてしまい、禰豆雄にデコピンで気絶させられたのだ(禰豆雄となってもデコピンは凄い)。

それで、気絶した善逸を誰が運ぶのかということになり、気絶させた禰豆雄が運ぶことになったのだ。

 

私は気絶させなくても良かったと思うし、騒がしいと思っても穏便な対応があったのだから、反省の意味を込めてやらせることにした。

ちなみに、禰豆雄が善逸を背負うことになり、七海は炭華のいる背負い箱を背負うことができたので、七海がかなり上機嫌であった。

そのために七海が禰豆雄の責任にしたのである。

 

 

禰豆雄がかなり不満そうな顔で文句を言っていたが、気絶させたのは禰豆雄なのだから、これは自業自得だと思うよと言ったら静かになった。その代わりに禰豆雄が急に走り出し、私達は慌てて禰豆雄を追いかけた。

 

 

それにより、任務先である鼓屋敷に早く着いた。禰豆雄はすぐに善逸を下ろして、七海に炭華の入っている背負い箱を返すように言った。

そのためにさっさと目的地へ着こうと走ったんだね。

 

 

七海はそれに呆れていたが、それ以上に走らされたことが不満だったらしく、禰豆雄に文句を言っていた。私も呆れているけど、まずは善逸の様子を見ておこう。少し下ろし方が雑な感じがしたので、タンコブができていないか確認したが、特に何もなく、気絶しているだけのようだ。

 

 

私がそのことに安堵していたら、近くから物音がしたので振り向いた。すると、男の子と女の子がいた。私はその二人を見て、笑顔を浮かべた。二人が怯えているからというのはあるが、その二人のことを知っていたのもある。この二人は正一とてる子であり、原作で出ていた子達であり、前の時でも会ったことがある。

 

あの時は確か.....草笛を聞かせて、落ち着かせたな....。

 

 

その時のことを思い出しながら私は前の時と同じように草笛を吹き始めた。ただ、前回とは違うことも起きた。チュン太郎が私の肩に止まり、草笛の音色に合わせて鳴いたのだ。おそらく歌っているのだろう。

それと、チュン太郎が凄く可愛いくて、吹いている私がたぶん一番癒されている......。

 

 

私が吹き終えると、チュン太郎が正一とてる子の近くに行き、チュンチュンと鳴くと、二人は安心したらしく、その場に座り込んだ。

私は二人に視線を合わせて何が起きているのかを聞いてみたら、やはり二人の兄である清が鬼に連れ去られたようだ。

原作や前の時と同じだと確認し、私は二人の間に入って話し始めた。

....あの二人が言い合いするのは通常だから、もう省略するね。

 

 

私は鼓屋敷に生存者がいるみたいだから、早く屋敷に入ろうと言った。すると、背負う箱から炭華の引っ搔く音が聞こえた。炭華も早く行くように言っているよと私が言うと、二人は鼓屋敷に向かおうとした。だが、その前にまた炭華の引っ搔く音が聞こえた。しかも、先程の音と違うし、私も七海も禰豆雄も何を訴えているのかは理解した。

理解したのだが......。

 

 

「姉さん!駄目だよ!」

「そうよ、炭華!アタシ達は炭華を背負っていても、ここの鬼を全員倒せるし、助けられるから!何なら、彩花と禰豆雄だけでも全然平気なのよ!それなら、アタシはここで炭華と待っているわ!」

「狡い!俺が姉さんと残るから、七海が行ってこい!」

「ムー!」

「また喧嘩になっている...。.....しかも、七海も禰豆雄もそうだけど、炭華も譲る気が全くない....」

 

 

炭華の言ったことに禰豆雄も七海も反対した。そして、喧嘩にも発展した。また、炭華は炭華で自身の意見を変える気はない様子でムーと言っている。私はその三人の様子を見ながら溜息を吐きながら、箱と喧嘩しているようにしか見えない二人に怯えている正一とてる子を宥める。

 

 

普段あの二人は炭華の話に肯定的だが、例外なものもあるんだよね。炭華が危なくなることは流石にあの二人も止めるんだよ。場合によっては私も二人と一緒に炭華を説得する。

だけど.......今回の件、私はどっちに賛成した方がいいのか悩んでいる。

 

炭華が私達に何を伝えたのかというと...『私はここに置いていっていいから、早く助けに行くことを優先して』と。

 

 

....炭華の言い分は間違っていないんだよね。炭華を背負っている分、片方は少し遅くなるし、動きも少し鈍くなる。だから、炭華は少しでも多くの人を助けるためにも、ここに置いてほしいと言っているのだ。

鼓屋敷でまだ生きているであろう人達のことを思えば間違いではない。

 

 

だが、気がかりなことがあるんだよね。

......原作ではここで伊之助と出会うのだが、伊之助は背負い箱にいる禰豆子を斬ろうとするのだ。それを善逸が止めて禰豆子のことを守ってくれるという話なのだが....今回ではそれがどうなるのか分からない。

 

 

現在、善逸は気絶しているし、伊之助が鼓屋敷にいるかどうかも分からない。それに、炭華に万が一のことがあったら伊之助の命が危ないんだよね。あの二人が黙っているわけないし、私も炭華の身に何かあってほしくないし....。

.....でも、どうしたらいいのかな...。鼓屋敷での生存者はできれば全員助けたいけど、炭華を放置するのは不安だし.......。

....いや、でもそれなら.....。

 

 

 

私は喧嘩する二人の方を見た。もはや二人とも炭華を説得するのではなく、どちらが炭華と一緒に残るのかを言い合っている。たぶん、炭華を説得するのは難しいから、残る方に話を変えたね。

あの二人はなかなか折れないが、それ以上に炭華は頑固だからね。原作で炭治郎が二重の意味で頭が固いと言われているように、こちらの炭華も一度言ったら自分の意志を曲げないんだよ。

 

....この中で一番その傾向が強いのはおそらく炭華なのだと思う。と言っても、本人が納得したら渋々、本当に渋々折れてくれるけど。

 

 

でも、今回は心配があるけど、炭華の話に一理あるのは確かなので、炭華を説得することは難しそうだ。かなりの人数がこの鼓屋敷にいるかもしれないので、できれば時間をそこで使いたくない。

なので........。

 

 

「七海。禰豆雄。二人は早く鼓屋敷に入って」

「彩花!?」

「ちょっと、彩花!だって.....」

 

 

私の言葉に禰豆雄は驚き、七海は戸惑いながら何かを訴えようとしていた。

まあ、何を言いたいのかは分かる。七海がここに炭華と一緒に残りたいのも伊之助が炭華を攻撃してくるからだ。今の伊之助は鬼なら誰でも構わず攻撃してくるため、七海が心配するのは分かる。

 

 

「七海の心配は分かるよ。だから、私がここに残るよ。二人には悪いけど、怪我人を運ぶのは私に難しいから、ここに残って助けた人達の手当てをするよ。それでも心配なら早く鬼の頸を斬って、この屋敷の中にいる人達を救出してきて。炭華から離れる時間を少しでも短くするためにもね。この屋敷に鬼が何人かいても、二人なら大丈夫でしょう。

もしかしたら、私が離れないといけない時があるかもしれないけど、念のために保険はかけておくから、少しの間なら大丈夫だと思う」

 

 

私は安心させるように笑顔を浮かべながらそう言うと、七海は納得してくれた。禰豆雄も文句は言わなかった。

 

 

鍛えたおかげで一応人を運ぶことはできるけど、速く動くことは難しくなるし、少しよたよた歩いているような感じになってしまうために止めた方がいいと思った。七海と禰豆雄に運んでもらった方が安全だし、助かる確率が高くなる。

普通に走る時は私の方が速いのだが、何か重い物を持つと身動きが難しくなり、七海と禰豆雄よりも遅くなるんだよね。

 

 

少しでも多くの人を助けるためには七海と禰豆雄に運んでもらった方がいいというのは分かっているけど、どうしても悔しいと思うんだよね。

ずっと鍛えていても私が筋肉のつきにくい体質であるのは変わらないため、腕力があまりないのだ。七海や禰豆雄達の方が重い物を持てる。あれこれ鍛練して、筋力向上も目指した。

その結果、前の時よりは重い物を持つことができるようになった。凄く小さくても一歩前進したことが大事なので、このまま少しでいいから筋力を上げたい。

 

 

七海と禰豆雄ならこの鼓屋敷の鬼を全員苦戦なく倒せると思うし、例え不都合が起きても対応できると信じている。なので、私は炭華の安全を確保したり屋敷の中にいる人達を助けたりする方を優先することにした。

 

 

私は応急処置ぐらいなら可能な布や薬品などを道具が入っているポーチを二人に渡した。七海と禰豆雄は私が医者の仕事を手伝っていると、たまに来ることがあり、その時に七海も禰豆雄も医者の人に簡単な治療を教わったのだ。そのため、応急処置はできる。

こういう怪我をした時はどう治療したらいいのかというのは頭に入っているため、私は大丈夫だと思っている。

 

 

ちなみに、これらの医療道具が入っているポーチは私が余った布から作った物だ。薬を売っている時は大量の薬を持っていくために籠などを背負っていたが、現代のポーチのように物を取り出しやすいバッグが欲しいと思ったのだ。

今では非常時にすぐ出せるようにしておきたいものを入れているため、救急箱のような扱いになっている。

 

 

今回の任務、少し大変かもしれない。鬼と戦う方の意味ではなく、炭華を傷つけず、負傷者を助け出し、七海と禰豆雄を暴走状態にさせないことがかなり難しいのだ。

炭華は伊之助が来るまで特に危険がないので、今のところは大丈夫だ。だが、問題は鼓屋敷に閉じ込められた人の救出だ。鼓屋敷にどのくらいの人が閉じ込められたのかは分からない。二人以上いるのは確かだが、正確な人数が分からないため、どの程度の人がいるのかが問題だ。

あまりに多すぎると、私たち三人では手に負えなくなる。

 

 

私は七海と禰豆雄が屋敷に入っていったのを確認した後、正一とてる子に話しかけた。

 

 

「大丈夫。私達がお兄さんを助けるから」

「本当に?」

「うん。それと、お願いがあるの。この背負い箱がたまに音が聞こえたり動いたりするかもしれないけど、この中にいる子は誰にも危害を加えないから。それからね.......」

 

 

 

 

 

しばらく時間が経った後、私はたまに鼓屋敷から聞こえていた鼓を叩く音が消えたことに気づき、私は鼓屋敷の戸を開けた。

鬼の気配は感じないし、七海と禰豆雄がこの鼓屋敷の鬼を全員倒したと見ていいだろう。

 

 

私は怪我人を運んできてもいいように、背負い箱の中にある塗り薬や包帯に、タオルなどの布を準備しておいた。

ポーチの中に入っているものでは限りがあるため、ここで治療したり補充したりするという意味で用意する必要がある。

 

 

「彩花。この人をお願いできる?」

「うん、任せて。....ところで、屋敷の中はどうなの?」

「鬼は原作にいた三匹の頸を斬ったし、前の時に彩花が遭遇したという鬼も禰豆雄が斬ったみたいよ。それと、他の鬼殺隊の隊士はいなかったわ。.....じゃあ、アタシは他の怪我人を連れてくるわね。この人が一番危なさそうだから、急いで連れてきたというわけよ」

 

 

ちょうど私が準備を終えた時に七海が男の人を抱えてきた。私がカーペットくらいの大きさの青色の布を指差し、七海はその布の上に怪我している男性を横にした。その時に七海に鼓屋敷の状況を聞くと、そのように返事をされた。その後、すぐに七海は屋敷の中に戻った。

 

 

 

私は七海が屋敷に戻った後、男性を診た。

 

この男性、よく見たら原作で炭治郎達がここに来た時に二階から落とされて亡くなった人ね。前の時ではぎりぎり間に合ったそうで、鬼殺隊のところに行った後にお礼を言いに来ていたよ...。

 

 

この青色の布は村にいた時から使用しているものである。病院の手伝いの時に大怪我した人を横にさせようと思ったが、他の怪我人で場所が埋まっていて、地面ぐらいしかなかったが、流石にそのまま地べたというのは駄目だ。

この大怪我した人は背中にも傷がいくつもあり、地面で横にしたら砂や石などが傷口に入ってしまうため、そうするわけにはいかなかった。そこで、私は青色の布を地面に敷き、横にさせるということをした。

 

そのことがきっかけで、私はこの青色の布を使うようになった。ちなみに、この青色の布はたまたま布を売っている人にお金を叩きつけるような形で払って買い(緊急のために余裕がなかった)、その後からずっと使うようになった。勿論、使用したらきちんと洗っているし、消毒だってしているよ。清潔さを保つのは大事なことなので。

医者の人もこの件から下に敷く用の布が必要だと考えたらしく、後日何枚か布が置いてあるのを見たし、私の給料に布代が加算されていた。

 

 

私はその男性の容態を確認した。傷口がかなり深い。七海が上手く止血しているとはいえ、これは少し危ないかもしれない。病院に連れて行った方が良さそうだけど、私だけでは運ぶのが難しい。

それで、七海と禰豆雄にも手伝ってもらわないといけないから、二人が戻ってくるまではできる限りのことをしようと思い、色々処置していた。

 

 

そうしていると、二人がこの男性以外の怪我人を連れて戻ってきた。七海と禰豆雄が背負って来た二人のうち一人が正一とてる子の兄の清だったので、二人と再会してもらった。怪我はしているけど、命に関わるというほどではなく、足に消毒液をかけて布で押さえ、それを包帯で固定するだけで良かった。正一もてる子も安堵している様子で早く再会させることができて良かったと思った。

 

 

もう一人の方も出血がひどくないため、まだ大丈夫であろう。ただ骨折しているので、この人も病院に連れて行った方が良さそうだ。私は二人の方を診ている間、男性の容態が悪化しないかとそばにいてもらっている七海と禰豆雄に声をかけ、禰豆雄に男性を運ばせ、七海には骨折している人の方を背負ってもらった。私は重傷の男性の傷口を押さえたり容態が悪化した時のために一緒に行くということにした。

かなり危ない状況なので、何が起きてもいいようにしておかないと......。

 

それと同時に、私の鎹鴉の遠藤が空を飛び、七海と禰豆雄に何処が病院なのかを教えてくれた。

私は病院に連れて行く前に正一とてる子と少し話してから、病院の方へ向かった。

 

 

遠藤がこの近くの病院のことを知っているのは私が調べたからだ。鼓屋敷に行くことは知っていたので、事前に情報を集めた。それにより、遠藤も何処の病院が近く、どの道なら一番早く着くことができるのかというのが分かるのだ。

 

まあ、鬼殺隊に入って最初の任務の時も近辺の病院を調べていたから、遠藤も慣れたよね。怪我人がいたら放置することなんてできないので....。

 

 

その後、近くの病院に着いて怪我人の二人を預け、鼓屋敷に戻った。鼓屋敷ではちょうど善逸が伊之助から炭華の入る背負い箱を守ろうと覆い被さり、伊之助がその善逸を何度も蹴っていた。

 

 

これを見て、私はやはり原作の通りになってしまったのかと思うのと同時に、善逸が起きて炭華を守ってくれていることに安堵やら申し訳なさやら複雑な思いを抱いた。

 

 

善逸が起きているのは私が正一とてる子に起こしてくれるように頼んだからだ。緊急事態が起きたら、私もそれに対応しないといけなくなるから、いつまでも私がここに残るのは難しいと思った。そのため、二人に『私がここから離れるようなことがあったら、この人を起こしてね』と言っておいたのだ。

 

私が炭華や正一達から離れても、善逸がいてくれるなら安心だ。この時の善逸は眠っている状態じゃないと本領を発揮できないが、それでも何かが起きても三人を守ってくれると思った。

 

 

それと、気絶している善逸にも伝えておいた。

 

 

 

『私達がここを離れた時はそこにいる二人と近くに置いてある背負い箱のことをお願いね。あの背負い箱は私達にとって大切なものなの。大丈夫、味方だから。誰も傷つけないから。

.....頼んだよ』

 

 

 

私は善逸なら眠っている状態でも私の話を覚えているというのを知っているため、このように伝えた。なので、善逸に凄く申し訳ないと思っている。

これでもできるだけ離れないようにしていたのだけど......。

 

 

伊之助がまだいないことを七海から聞いた時に、既に嫌な予感がしていたけど、どうにもできなかった。炭華が無事なのは良かったけど、善逸に怪我をさせてしまったので、

 

 

私が一人で反省していたが、すぐに思考を切り替えた.....時には伊之助が禰豆雄と七海の手によって殴り飛ばされていた。

 

 

「さて、この猪をどう料理しようか」

「無難に鍋とかはどうかしら?沸騰したお湯の中に入れれば完成。簡単だし、今すぐ実行できるわよ」

「それもいいけど、俺は.........」

 

 

殴り飛ばし、鼓屋敷の壁にぶつかった伊之助の方に行って掴みながら、禰豆雄と七海が穏やかにそんな会話をしていた。ただし、会話の内容は穏やかではない。料理しようかと言っているが、伊之助を押さえていることから、どういう意味なのか分かる。

 

それに、その会話を聞いて、捕まっている伊之助は震えているし、張本人ではない善逸達も顔を真っ青にさせている。

まあ、無理もない。あの二人の様子からして、本気だというのは分かるからね。

....そろそろ止めなければと思うので、私も動かないとね。

 

 

とりあえず、炭華が無事なのかどうかの確認をしないと。あの二人を止めるためには一番重要なことだ。善逸の怪我の方も診ないとね。

 

 

「大丈夫?」

「う、うん、大丈夫」

「今はこれで冷やしていて。あの二人を止めた時くらいには少し腫れが引くと思うから、その後で薬を塗るからね」

 

 

私がが善逸に声をかけて診てみると、顔が腫れていて青くもなっている。頭にもタンコブができている様子なので、これは冷やしておかないといけないと思い、氷水の入った袋を渡した。

善逸が戸惑いながらも氷水の袋を受け取ったのを確認した後、炭華からも返事が来た。

 

あの質問が善逸だけでなく、炭華にも聞いているのだということに気づいたらしく、炭華はカリカリと引っ掻いて、怪我をしていないから大丈夫だと私に伝えた。

 

 

私はそれを聞いた後、七海と禰豆雄のところに真っ直ぐに行き、二人の腕を掴んだ。

 

 

「はい、そこまで。炭華は全く怪我してないよ。だから、落ち着こうね」

「彩花、この猪が何をしたのかは分かるだろう。それなのに......」

「同じ鬼殺隊の隊士ならあの反応が当然。私達はそれを覚悟して、それでもと思ってここに来たんだよ。

でも...善逸を蹴るのはやり過ぎだから、そこはきちんと謝ってもらうけど。ほら、二人がそんなに殺気立っているから、すっかり怯えているじゃない。

....いや、七海。まだ不満そうにしているけど、手ぐらいは離してあげよう。そんなところを持ったら流石に息がしづらいと思うから」

 

 

私が二人にそう話しかけると、禰豆雄が睨みながら言ってくるので、鬼殺隊に入る前に話し合ったことを出した。七海と禰豆雄とこのことは覚えているはずだ。私が何度も言ったのだから、忘れられたら困る。私にそのことを出されたら禰豆雄は何も言えなかったらしく、これ以上反論することはなかった。

それと、七海にも伊之助を離すように言った。最初に伊之助を見た時は二人が怖いのかと思ったが、七海が伊之助の首根っこを思いっきり掴んでいるので、もしかしたら酸欠しているのではないかと思って、解放してもらった。

その瞬間、伊之助が私の後ろに隠れ、『ゴメンナサイ』と片言で言っていたので、余程怖かったようだ。それとも、命の危機を感じたこともあるのだろうけど.....。

いくら何でも七海も手加減くらいはしてくれていると思うので、大丈夫だと思いたいが.......。

 

 

「とにかく、そんなに心配ならこの任務を終えた後、安全な場所で大丈夫かどうかを自分の目で確かめてみたらどう?そうすれば安心するでしょう」

 

 

私がそう言うと、禰豆雄も七海も渋々頷いた。

 

あの二人の優先度が一番高いのは炭華の安全確保だからね。炭華が無事であるみたいだが、どうしても不安が残っているらしいので、どうしても自分の目で確認したいと思うだろう。それを出されては二人とも勝手に行動するのは控えるはずだ。

 

 

私は善逸と伊之助の怪我の手当てをするから、七海と禰豆雄は先に屋敷の中にいる亡くなった人達の死体を外に運んできてほしいと頼んだ。

七海と禰豆雄がここに全て運び終える前に、私は善逸と伊之助の手当てをした。

善逸の方は冷やしたおかげで腫れが少し引いたけど、それでもあちこち殴られたり蹴られたりしたそうで、肌が青くなっている。

伊之助の方は禰豆雄と七海に壁まで吹き飛ばされた所為で打身ができている。

まあ、骨は折っていないと思うので、善逸と伊之助には湿布薬を塗った。

何かスースーするとか言っていたが、私はそれが怪我に効くから我慢してねと言って、穴掘りの手伝いをしてもらった。

 

 

禰豆雄と七海が戻ってくる前に埋める用の穴を掘らないといけないので、早く全員分の穴を掘っておかないと。何人分必要なのかは知らないけど、原作のあの様子だとかなり大変なのは分かる。

 

二人が塗り薬を塗る時に少し暴れてしまったので、時間が想像以上に減ったために、善逸と伊之助にも少し手伝ってもらった。正一とてる子達も手伝うと言ってくれたので、石集めなどの簡単なものをしてもらった。そのおかげで、どうにか禰豆雄と七海が来るまでに準備を終えられた。

 

 

禰豆雄と七海が運んできた死体を全部埋めた(ぎりぎり穴の数は足りた)後、みんなで手を合わせて黙祷し、正一達を村に送った。

ちなみに、これらのことをしている間、伊之助は私の羽織の袖を掴んで離れなかった。理由はなんとなく理解しているので、私は何も言わなかった。

何せ、あの二人が炭華のいる背負い箱をどっちが背負うかで争っていた時、その殺気で伊之助が震えていたからね(この時は善逸達も私の後ろに隠れていた)。

 

 

その後、私達は鎹鴉の案内で藤の花の家紋の家に着いた。私と七海と禰豆雄は怪我していないので、何も問題はなかった。善逸も数日で腫れが引くと言われていて、そこまで大怪我をしているわけではない。伊之助の方も善逸と同じく数日で治るらしい。

 

 

 

診察を終えてから、善逸が炭華の入る背負い箱のことを聞いた(禰豆雄が殺気を出したために、途中から私の後ろに隠れながら言っていたけど)。禰豆雄が大反対していたけど、私が炭華のことを分かっていて守ったことと、炭華が会いたいと引っ掻いた音を出していたことにより、善逸と伊之助に炭華のことを教えた。

七海が暴走しないなんておかしいと思うかもしれないが、七海もまた原作を知っているため、善逸なら炭華に危害を加えないというのは分かっていた。

なので、今回の七海は非常に大人しかった。だが、いざという時に動けるようにはしていた。

 

 

私はもう大丈夫だろうと思っていたので、それとは別の方の対応をしておこうと思い、そちらを意識した。

 

 

そして、案の定.....善逸が炭華に求婚し、禰豆雄と七海が動く前に引き止めた。

 

危なかった...。善逸ならやりかねないと思っていたので、すぐに動けるようにしたけど、本当にぎりぎりだった。

禰豆雄の反応は予想した通りだが、七海も同じことをするとは.....。....いや、予想したからこそ、禰豆雄よりも早く動けたのだろう。七海の拳に迷いも遠慮もなかったからね。

その風圧で少し掠って、善逸の髪が二、三本抜けたけど、直接当たらなかったから大丈夫だろう。

...善逸の顔は真っ青になって、体もガタガタ震えているけど。

 

 

その夜は七海と禰豆雄を宥めたり、怯える善逸を落ち着かせたりと忙しかった。

正直、すぐに寝た伊之助が羨ましかったよ.....。

 

 

 

 

 

それから、私達はこの近辺での任務が多く、善逸と伊之助のいる藤の花の家紋の家を拠点として動いたため、善逸と伊之助と一緒にいることが多かった。そのおかげで、禰豆雄も善逸と伊之助に気を許すようになってきた。ただし、炭華に近寄ろうとする場合は牽制している。

私と七海は原作から二人なら大丈夫だと思っているので、特に警戒はしなかった(七海は今でも善逸が炭華に近づいたら引き離しているけど)。

 

 

善逸も炭華に関わると、七海と禰豆雄が暴走するということを理解しているので、炭華に花を渡す時は二人がいないことを確認してから行動している。

ただ、あの二人は炭華のことに関してレーダーでも付いているのかと思うくらい敏感なので、見つかる確率が高い。見つかったら追いかけっこが始まるので、私がよくそれを補助しているし、追いかけっこが始まったらすぐに間に入って宥めている。

流石に人の家で騒ぎを起こすのは申し訳ないからね。

 

 

伊之助も炭華と一緒にいるのが落ち着くらしく、炭華と一緒にいることが多くなった。七海と禰豆雄はそれを引き離したいようだが、私がそれを毎回止めているので、我慢してくれている。

だって、炭華と伊之助の間に流れる空気が凄く和やかなので、それを途切れさせるようなことをしたくないと思った。それに、今の伊之助は炭華を子分ということで大切にしてくれると思うので、安心して任せられる。

 

七海も禰豆雄も伊之助に下心がないのは分かるため、少し躊躇するみたい。しかも、炭華が楽しんでいるため、どうしても離すことが難しいみたい。

 

 

ただ、その勢いで炭華を日の下に連れて行きそうになったのは焦った。体が燃える前に炭華を止めることができて良かったよ...。ちなみに、その後で伊之助にはきちんと炭華を日の下に連れ歩かないようにと言い聞かせておいた。不満そうにしたけど、七海と禰豆雄のことを出したらすぐに頷いてくれた。

伊之助もあの二人のことを大分理解しているみたい....。

 

 

 

 

そして、善逸と伊之助の怪我が治り、私達五人に任務が来た。その任務はお察しの通りの那田蜘蛛山である。

那田蜘蛛山に関しては前の時で禰豆子が丸ごと燃やすという行動をしたため、それ以上のことは起きないだろうと思っていた。

 

 

ただ、これは予想外だったよ。最初に出会う隊士に繋がる糸を斬った時に、標的を私に定められたのは。

糸がずっと私に向かってくるので、私は結果的にみんなと離れることになった。

これが分断の目的なのはなんとなく察していたが、攻撃があまりに多くて、仕方なく別行動せざるを得なくなった。

 

と言っても、善逸は原作の通りに動かなかったので、そのまま放置することにした。一応励ましたのだけど、あの様子では全く動きそうもなかったので、無理に連れて行くのは止めた。

なので、逆にここで待っているようにと言ってみたけど、たぶん原作のように那田蜘蛛山に入ると思う。

そのまま原作と同じ結果になりそうなので、善逸の方は大丈夫だろう。

 

 

 

おそらく禰豆雄と伊之助は原作と同じようなことになると思うし、七海がいることもあって、そちらは特に心配ない。

なので、私はこちらを解決しようと考えている。

何をって、この糸で体を縫ってこようとする血鬼術とその血鬼術を使っている鬼を。

 

 

私が別行動したのは攻撃が私に集中したからというのもあるが、この血鬼術を使う鬼の頸を斬るためでもある。

原作の中でここにいる鬼が使う血鬼術は人を操ったり、蜘蛛にしたり、凄い馬鹿力を発揮したり、糸玉に閉じ込めて毒で溶かしたりなどというような血鬼術を使っている。

原作やこれらの例で分かるかもしれないが、この血鬼術とは別物だというのは分かるだろう。こういった糸の使い方をする血鬼術の使い手は、下弦の伍である累の「家族」にはいなかった。

 

 

そのため、私と七海は原作で見たことのない鬼がいると思い、別々に動くことにしたのだ。私は山の中を走り回ってその鬼を探し、七海は禰豆雄と伊之助が鉢合わせた場合を考え、二人の近くにいることにした。

 

 

結果、その鬼は前世とかに関係のなかった。その鬼の姿を見つけ、仕掛けが分かれば頸を斬ることは可能だった。少し話をしてみたが、ただ人を食べてしまったことに後悔して、私に十二鬼月がいることを話してくれたので、違うと判断した。

 

炭華と禰豆雄の性転換のことから、これもその類いのものかもしれないと思い、とりあえず七海達と合流することにした。

 

 

そうして七海達を探していたら、七海と禰豆雄が凄い顔をしながら累を追い詰めているところを見て、それで色々察した。

 

 

下弦の伍は家族の絆を欲していて、原作では鬼でありながら兄の炭治郎を守る禰豆子を見て、本物の家族の絆に感動するのだけど、それで禰豆子を欲しがるという展開になる。

だが、ここで鬼になっているのは炭華である。つまり、累が欲しがるのは炭華ということになり、おそらく君の姉さんを頂戴とでも言ったのだろう。

 

 

......だからこそ、この状況になっているのだよね、きっと。

 

 

私がそう思いながらも放置することにした。

止めない理由は相手が鬼だからとか敵だからとかそういうのもあるが、そろそろあの二人のストレスをぶつけた方が良いとも思ったのですよね。

 

 

ここ最近、私は七海と禰豆雄の怒りが爆発させても、途中で止めていた。そのため、あの二人はその怒りを最後まで発散することができていなかったので、不満が少し残っているのだ。

そのため、そろそろ発散させておかないとまずいと思ったのだ。

昔、ちょっとした事件が起きてね。大暴れすることができなくなった結果、七海と禰豆雄の沸点がどんどん低くなっていくうえに、二人で何処であろうと喧嘩するようになってしまい、ついに何気ないことで他人の家を巻き込むという事態になり、それ以来何処かで七海と禰豆雄を思いっきり暴れさせるようにした。

 

 

だけど、竈門家の襲撃事件からはその余裕がなくなった。そのため、七海と禰豆雄は溜まったストレスを解消させる機会がなかったのだ。

 

 

それに、私が累の方を庇うと、それはそれで迷惑なことが起こると思うので止めておきたい。一応敵同士であるため、攻撃してくる可能性もある。

.....とにかく、そういった理由があるので、私は累を庇わず、二人を思いっきり暴れさせているというわけです。

 

そう思いながら、とりあえず炭華は回収しておいた。今のところは地面に凹みを作るくらいだから、まだ大丈夫である。木が幾つか吹き飛びそうであり、これ以上に酷い展開になりそうだと判断したら行動しようと思う。

下手すれば巻き込まれるかもしれないので...。

 

 

「お前達は....」

「あっ。義勇さん」

 

 

私が炭華と一緒にあの二人の暴走している姿を眺めていると、誰かが近づいてくる気配がした。私がその気配の感じる方を見ると、義勇さんがいた。こちらに向かってきた義勇さんは私と炭華に気づいたらしく、その場で止まった。

 

 

「お久しぶりです。元気でしたか?」

「ああ、お前達も元気そうで良かった。

........ところで、あの二人は......」

 

 

私が挨拶をすると、義勇さんは私達を見て少し安心した表情を見せた。だが、すぐに周りを見渡し出した。

まあ、七海と禰豆雄が近くにいないのは不自然に思うよね。あの二人が炭華にべったりなのは義勇さんも二年前のあの時だけで分かっているから、二人が離れようとしないということを察せた。

というより、炭華のことが気がかりであるが、あの二人がどうなっているのかも気にしているということでしょうね。

 

 

私は無言で後ろを指差し、義勇さんはその方向を見て、顔を真っ青にさせた。

これで、今がどういう状況なのかというのは分かってもらえたようだ。

 

 

「今動くと色々危ないので、ここに待機していました。義勇さんもこちらにした方がいいと思いますけど、如何でしょうか?」

「....分かった。そうすることにしよう」

 

 

私がここで一緒に待たないかと提案すると、義勇さんは即座に頷いた。

ここは七海と禰豆雄に任せてくれるという意味はあると思うが、単純に七海と禰豆雄が怖いと意味もあると考えている。

 

 

まあ、一度殺されそうになっているし、そこは仕方がないと思う。あの二人の暴走を知っている身からしたら、命を大事にしてもらえて良かったと思っている。

 

 

 

しばらくして、七海と禰豆雄が累の頸を斬った。その喜びで禰豆雄は雄叫びを上げ、七海は思いっきりガッツポーズしていた。

私は二人の様子を見て、あれだけ暴れればストレスも解消されたかなと思っていたが、義勇さんは手で顔を覆い、天を仰いだ。

 

 

「義勇さん、どうしたのですか?」

「.....前よりも強くなってる....」

「それはそうですよ。強くなるために修行したのですから」

「いや、そうではなくて.....想像以上に.........」

 

 

私が天を仰ぐ義勇さんに聞いてみると、義勇さんは静かにそう呟いた。私は最初に首を傾げていたが、漸く何が言いたいのかが少し分かったと思う。

 

義勇さんは呼吸を覚えて、鬼と戦えるようにしてくれたけど、ここまで強くなるのは予想外だったということなのは間違いない。だって、最初の時は凄い勢いで義勇さんに攻撃してきても、地面が可哀想なことにならなかったので、それが義勇さんにとってかなり予想外のことだったようだ。

 

 

まあ、私はいずれあの二人ならそれくらいできるようになりそうだと思っていたので、特に気にしていなかった。

鱗滝さんも『...すっかり強くなったんだな』と言っていて、なんだかげっそりしていたような.....。

あの時、私は七海と禰豆雄に稽古をつけていたから、かなりお疲れなのだなと思っていたけど、こっちの意味もあったのかもしれない。

 

 

私と義勇さんが話している間に近くが明るくなっていることに気づき、そちらの方を向くと、炭華から白い光が出てきて、その光が七海と禰豆雄を包み込み、光が収まった時には七海と禰豆雄の怪我が治っていた。

 

大きな怪我はなかったが、擦り傷が幾つかあり、土にクレーターを作っ?ていたために土埃で汚れていたはずなのに、それらは無くなり、綺麗になっていた。

 

 

これには七海も禰豆雄も、見ていた私と義勇さんも驚いた。

どうやら禰豆子の爆血ではなく、別の血鬼術を使うらしい。ここまで禰豆子と同じ立場ということで、炭華も禰豆子と同じ血鬼術なのだと思っていたのだけど、全て同じというわけではないみたいだ。

 

 

「炭華!この血鬼術、アタシ達を助けるために!」

「流石、姉さん。やっぱり姉さんは天使だ。いや、大天使に昇格したに違いない。はっ!それじゃあ、ついに姉さんが天に帰ってしまうのか。だけど、俺がそんなことをさせ....」

「はいはい。二人とも落ち着こうね」

 

 

全快したことに驚きながらも炭華が七海と禰豆雄を助けるために使ったので、七海はそのことに感動し、禰豆雄は炭華を褒め称えながら黒い何かを出していた。

 

大体、この後でそれが七海にも感染するので、そうなって暴走する前に止めた。

相変わらず、二人とも想像の斜め上の思考をしてくる.....。

 

 

そんなやり取りをしながらも少し穏やかな空気が流れ始めた瞬間、殺気を感じた。私はすぐに炭華の前に立ち、その攻撃を刀で逸らした。

 

 

「あら」

 

 

その声が聞こえ、私は炭華に攻撃してきた人物が義勇さんと同じ柱である胡蝶しのぶだと気づいた。それと同時に、原作でも禰豆子に攻撃してきたことを思い出し、私は頭を抱えたくなった。

 

原作にいない鬼のことがあってすっかり忘れていたけど、これがあったのだ。

 

 

「君達が庇っているのは鬼ですよ。どうして庇うのですか?それと、冨岡さんもどうしてそこの鬼の頸を斬らないのですか。鬼とは仲良くできないというのに、そんなんだから、みんなに嫌われるんですよ」

 

 

しのぶさんが私達に声をかけてくるが、私達(正確にいうと、私と義勇さん)はそれどころではなかった。

 

 

「義勇さん。あの人とはお知り合い....なのですよね?」

「ああ。......ここは俺に任せて、三人を連れて遠くに離れてろ」

「分かりました。...ほら、三人とも行くよ。緊急事態だから喧嘩をしている場合じゃない。禰豆雄が炭華を抱えて、七海は背負い箱を持って」

「もしもし。もしもーし」

「義勇さん、御武運を」

「ああ。そっちも」

 

 

私と義勇さんはそんな会話をしながらこの状況をどうするのか考えていた。とりあえずここから炭華達を離した方がいいので、しのぶさんの相手は義勇さんに任せることにした。

すぐに離れないといけないので、二人が喧嘩しないようにと私が先に決めておいた。七海に後で文句を言われるかもしれないけど、それ以上にここから離れることの方が重要だ。

 

幸いにも、二人ともこの状況が分かっているのか、禰豆雄はすぐに炭華をお姫様抱っこし、七海は近くにあった背負い箱を肩に背負い、私はその七海の手を引いて、義勇さんとしのぶさんから背を向けた。

 

 

背を向く前に義勇さんに一言かけると、義勇さんも同じことを返していた。私はその言葉を聞いて、この後の出来事を思い出した。

 

確か、この後でしのぶさんの継子であるカナヲも炭華を狙って攻撃してくる。でも、それはただ単に任務を遂行するためなのだからね。事情がどうであれ、隊律違反しているのは私達だし....。

 

 

そんなことを考えている間に上から誰かの気配を感じた。私が見上げると、カナヲが炭華を攻撃しようとしているところで、私は『ごめんね』と謝って七海の手を離した後、近くの木を足場に跳び、カナヲの服を掴んで引き寄せた。

その瞬間、先程までカナヲがいた場所に強く突風が吹き、その先の進路にあった木の枝が折れた。

 

 

ぎりぎりだったけど、何処も怪我していなかったかなと思い、カナヲの様子を見ると、カナヲは血の気が引いたような顔をして、『最終選別にいた』と呟いていた。その先はあまりに小さくて聞こえなかったが、私達のことを思い出したらしい。

 

......とりあえず怪我がなくて良かったよ。

 

 

「禰豆雄。この子を攻撃するのは止めて」

「だけど、そいつは姉さんに.....」

「彼女はただ任務に従っただけだから、責めるのは駄目だよ」

 

 

私はカナヲの無事を確認した後、カナヲを背に庇って、禰豆雄を説得する。あの様子だと追撃する気満々だったらしく、止めることができて良かったとほっとする。

 

伊之助の時と同様に、鬼殺隊なのだから鬼の頸を斬ろうとするのは当然だということを出し、それで宥めようとした。

...だが.......。

 

 

「そうか、そうだね。なら、あの女の方か」

 

 

禰豆雄がそう言って炭華を下ろした後、来た道を戻っていった。

 

あれ。....いや、そうではなくて......。

 

 

「ちょっと。禰豆雄!」

「あいつ、たぶん偉い人なんだよね!なら、きちんと責任を取ってもらわないと!」

「なんでそっちの方向に考えるの!」

 

 

私が慌てて禰豆雄を引き止めようと声を上げると、禰豆雄はかなり興奮した様子でそう言って走り出した。私は禰豆雄の斜め上の思考に頭が痛くなってきたが、あの禰豆雄を放置することができず、追いかけようとした時、腕を掴まれた。誰だろうと思って振り向いたら、カナヲが体を震わせながら私の腕に縋りついていた。

 

 

「ね、姉さんが...このままじゃ......お願い、姉さんを助けて.....」

 

 

カナヲが泣きそうな顔をしながら私に懇願してきた。私はとてつもない罪悪感を覚えた。

そういえば禰豆雄が行く前に殺気を放っていたし、顔を血走った目が飛び出るかというくらい開いていたから、それにやられたのかな。

 

 

私は何度も見ているので、暴走していると感じるくらいだけど、初めての人はやっぱりそうだよね。鼓屋敷で善逸と伊之助の反応がああだったのに、それ以上だとこうなると予想していなかったよ。

ごめんね、カナヲ。この時のカナヲは感情がまだ乏しい状態なのに、こんな表情をしているとはそうさせてしまうくらいだというのを知ったよ。

 

 

「分かった。禰豆雄はちゃんと止めるから、ここで待っていてね。炭華、ここで一緒に残ってあげて。七海は私と一緒に止めに行くよ。できることなら麻酔は使いたくないけど、あれだと止めるのは大変だから、強引な方を使わないといけなくなると思うから」

「...はあ......。分かったよ。禰豆雄が実行する方は色々まずいから、止めないといけないのは分かるわ」

 

 

私はカナヲの頭を撫でながらそう言った後、カナヲを炭華に預け、七海に声をかけて禰豆雄を止めに向かった。七海も禰豆雄の大暴れでしのぶさんに何かあるのはまずいと思っているので、協力的である。

まあ、炭華に何かあったら困るので、行く前に刀を奪っていたけどね。

 

後で七海を説得して返させようと思いながら、私達は禰豆雄を追いかけた。

 

 

すると、そこで見たのはしのぶさんに斧を投げて襲いかかる禰豆雄と、その斧を避けるしのぶさんと斧の狙いを逸らす義勇さんの姿だった。

 

 

「ちょっと、冨岡さん!これの何処かが人間ですか!鬼とは違いますけど、人間とも違いますよね」

「耐えろ。もうすぐ......」

「義勇さん、すみません!禰豆雄がそっちに行ってしまって。すぐに止めます」

 

 

私が七海に合図を送ると、七海は私の腕を掴み、私は呼吸を使って足に力を込めて踏み込み、近づいた時に思いっきり腕を振った。その瞬間、七海が私の腕から手を放し、今度は禰豆雄を羽交い締めして押さえ込んだ。禰豆雄が暴れているが、七海も力が強いため、すぐには振り解けない。その隙に私は薬を打った。

 

 

麻酔薬ではなく、少しの時間だけ体が動かなくなる薬だ。この薬はあまり害がないのだが、薬が切れた後の禰豆雄の暴れっぷりから使わないようにしている。体を思うように動かせなかったことがイライラしたらしい。

だけど、今回は仕方がないために使うことにした。.....後が色々怖くてもね。

 

 

「これで、禰豆雄はしばらく動けない、と。ありがとう、七海。暴走を止めてくれて」

「どういたしまして。今、禰豆雄に暴れられると困るからね......」

「あはは........」

 

 

私は七海に礼を言うと、七海は笑って返事をした。ただ、最後の小声で呟いた言葉には私は苦笑いを浮かぶしかなかった。

 

 

 

 

「禰豆雄がご迷惑をお掛けしました」

「い、いえ...」

 

 

私が頭を下げると、しのぶさんは戸惑った様子で頭を下げている。色々混乱しているというのが分かり、私は苦笑いを浮かべながら禰豆雄の説明をした。それで、なんとなく理解していただけたようで顔を真っ青にしていたので、炭華に手を出さない限り大丈夫だと言っておいた。

全然大丈夫そうではないけど.....。

 

 

あと、七海が炭華に手を出したらアタシを容赦はしないと宣言して、しのぶさんがそれを聞いて、私の方を見てくるので、私は静かに首を横に振った。

 

そういうやり取りを繰り返していくうちに、ガサガサという音を立てて、炭華とカナヲが草むらから出てきた。しかも、手を繋いで。

 

 

「姉さん!」

「ムー!」

 

 

すっかり仲良くなったんだと私が呑気にそんなことを考えていると、禰豆雄が炭華に駆け寄ってくる。どうやら炭華を見て、薬の効果を吹き飛ばしたようだ。

 

えっ?何でもありなのではって?

...それが禰豆雄なのだよ。

 

 

禰豆雄が炭華に抱きつこうとする前に炭華が地面を指差した。すると、禰豆雄がその場に正座した。その後、ムームーと炭華が説教をして、禰豆雄がそれを弁解しようとするが、炭華にそっぽを向かれ、禰豆雄は大泣きした。

地面を叩いているため、少し辺りが揺れているが、あまり問題はない。

 

 

炭華は禰豆雄を放置して、しのぶさんに頭を下げた後、血鬼術で怪我を治した。そして、おそらく慰める意味でしのぶさんを抱きしめ、近くにいるカナヲの頭を撫でる。そこに七海も入っていき、炭華がカナヲと七海を順番に撫でていく。

そこに義勇さんも入ろうとしたが、炭華が大変そうなので、止めておいた。

 

 

「伝令あり!!竈門禰豆雄!竈門炭華!生野彩花!生野七海!コノ四人.....エッ?何コレ?」

 

 

その時、鎹鴉が伝令を私達に伝えようとしたが、突然言葉を止めた。

まあ、無理もない。目の前で鬼の女の子が柱の一人が抱きしめ、二人の女の子の頭を撫でていて、その近くの足元で男が地面を叩き割っていて(次第に叩く力が強くなり、地面を割るほどになった)、その遠くで女の子がもう一人の柱の頭を撫でて(止めたら拗ねたので、代わりに私が撫でることになった)いたという状況だ。

結構カオスである。困惑するのも無理はない。

 

ちなみに、七海が生野と名乗っているのは竈門と名乗るのが畏れ多いという理由で辞退したからである。

まあ、それで生野を名乗るのかって聞いたのは私だけど....。

 

 

「ああ。鎹鴉さん、これが通常なので気にしないでください」

「ツ、通常?」

「はい、そうです。ところで、鎹鴉さんは私達に何か伝えることがあるのでは?」

「ハッ!伝令!竈門禰豆雄、竈門炭華、生野彩花、生野七海ヲ本部ニ連レテイケ!」

「そうですか。....本部ということはもう炭華のことで用があるのですね」

 

 

私が唖然とした様子の鎹鴉に話しかけると、鎹鴉は混乱していた。なので、私は頷きながら正気を戻すためにも尋ねてみた。それによって、鎹鴉は目的を思い出したらしく、漸くいつもの調子で伝令を言った。私はそれを聞いて、顔を引き攣りながらそう呟いた。

 

 

これから始まるのは柱合会議だ。それも柱合裁判だ。炭華に関してのね。私は原作でどういう展開になるか知っているため、この会議で何が起き、どんな結果となるのかは分かる。

.....だからこそ、凄い不安なのですよ。

 

 

私はため息を吐いた後、義勇さんに話しかけた。

 

 

 

 

何をするのかって?

 

 

作戦会議だよ!この後のための!何か行動しないと、胃に穴が開きそうだから!

 

 

 

 



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苦労人の少女は頭が痛い



今年最後ということで、今回はいつもより長くなっています。
それでは柱合会議編、楽しんでください。





 

 

 

良い天気なんだよね。雲も一つない快晴で、こんな日は洗濯物がよく乾きそうだ。

 

 

.......なんだけど、現在進行で嵐が来ているのは間違いない。矛盾だという人がいると思うが、これが正解だと私は思っている。

 

 

 

どうも。先程から現実逃避をしていました生野彩花です。これから、始まるのは柱合会議ですが、まだ始まっていないのに周りの空気はとんでもなく悪く、破壊音が響いています。

 

 

おっと、ここで禰豆雄選手が不死川選手に向けて拳を振り上げる。それを不死川選手が間一髪避けた。そこを狙って、七海選手が石を投げる。不死川選手、肩に思いっきり喰らった。

だが、不死川選手。肩を押さえながらもすぐに体勢を整えた。流石は柱だ。おっ。ここで禰豆雄選手が不死川選手に急接近し、再び拳を振り下ろした。

 

 

 

「彩花さん!何か固定できるものはありませんか!」

「おい!生野彩花と言ったな。鏑丸は無事か!それと、鏑丸。なんで俺を庇ったんだ...」

「伊黒さん、大丈夫よ!鏑丸君は元気になるって.....ぐすん。助かるんだよね、彩花ちゃん....」

「ねえ、早くあの破壊神と怨霊を止めてくれない?そろそろ屋敷が危ないんだけど」

「よもやよもやだ。あの二人を止めるのは俺には無理だ!柱として情けない!」

「いや、あいつらは人間でも鬼でもねェよ。あれは...地獄から這い出た化け物か怨霊か何かだろう。祭りの神でもあれを退治できねェ」

「南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏」

「彩花。......頑張れ」

 

 

 

状況がよく分からない方が多いと思いますので、そろそろ正気に戻りますね。すみません。

目の前の状況を認識しては気が遠くなりそうになるので、実況中継のような感じで語って、なんとか頭の中を整理しようとしていました。

 

ただ、この状況を一言で表すならカオスというべきであろう。これはなんとなく分かっていると思いますが。

 

 

大分現実を受け止めてきたので、そろそろ説明しようかな。

だけど、その前に.....。

 

 

「誰か筆を持っていませんか?筆なら細いですし、長さも結構あるので、鏑丸の体を固定させることはできるかもしれません!ですが、これは一時的なものですので、念のために治療した方がいいかもしれません」

「少し離れていますが、蝶屋敷より近い場所に蛇の治療もできる人がいます。そちらへ向かった方がいいかもしれませんね。私はその場所を知っているので、案内できます。伊黒さん、ついてきてください」

「あ、ああ...」

「甘露寺さんもできれば一緒にいてあげてください。あの様子だと心配です」

「わ、分かったわ!」

「七海と禰豆雄の件は鏑丸の治療が終わり次第に行います。

義勇さん!炭華を七海と禰豆雄の近くで、かつ日影の場所に連れて行ってください。あの二人の暴走を短時間で止めるには炭華の協力が必要です」

「ああ」

「ちょっと待て!その箱に入っているのって、鬼だがあの怨霊の姉だろう。出しても大丈夫かよ!」

「うむ!とてもじゃないが、化け「煉獄さん。それ以上言ったら貴方も標的になってしまうので、止めてください」.....うむ、そうだな」

「大丈夫です。炭華はあの二人と比べたら安全ですよ。

て。まだ出たら駄目だよ、炭華。そこは日が当たっているから、危ないよ」

 

 

.........とりあえず。一通り指示は出せたので、手を動かしながら説明しましょう。

このカオスな状況になったのは数刻前のことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「義勇さん。それくらいで大丈夫です」

「.....もう少し緩めた方がいいと思うが」

「それ以上緩めてしまうと、縛っていることになりませんよ」

 

 

私は義勇さんに背を向け、義勇さんは腕を縛っている縄を何度も結んだり解いたりしていた。

 

何をしているのかというと、本部に連れて行くために私達を縛ったのですが、その中の私の縄だけを緩めて、解きやすくしているのだ。

 

 

私達を縄で縛っているのは御館様の身を守るためにやっているわけだが、それを破っていいのかと聞くと、安全のためだと返ってきた。

 

 

「あの二人は縄で縛ったくらいで大人しくならない。引きちぎるだろう。だから、彩花の拘束を解く方が安心できる」

「私と冨岡さんでは七海さんと禰豆雄君を止めることは難しいですから。縄で腕を縛っているのも御館様の身の安全のために拘束しているのですから、そのために拘束を緩めても同じですよ。

....できることなら、彩花さんがすぐに行動できるようにしたいのですが、他の皆さんに反対されたので無理でした。申し訳ございません」

「いえ、全然大丈夫ですよ」

 

 

義勇さんとしのぶさんの認識では七海と禰豆雄を拘束しても無駄だと思っているようだ。

...私はその認識が当たっていると思う。先程義勇さんが挙げた通りのことをやりかねないので。

しのぶさんは私の拘束を無しにしたかったようだが、それはできなかったと謝られた。

 

 

柱合会議があると聞いて、私は拘束されるだろうとは思っていた。何せ、鬼殺隊でありながら鬼を連れているということは鬼殺隊にとって裏切り者のようなものだ。そんな人物を連れてくるにしても、何をしてくるのか分からないから、何もできないように拘束しておこうと思うのは当然だ。

 

だけど、七海と禰豆雄のことを知っている人(私、義勇さん、しのぶさん)からしたら、それは悪手なんだよね。下手したら死人が出るかも......。

 

 

私は遠くを見ていたけど、義勇さんとしのぶさんの声で現実に戻った。ずっと現実逃避していたいけど、この確認は重要なので、なんとか堪えた。

 

何をしているのかというと、作戦会議ですね。この柱合会議を無事に終えるための。

 

 

私が義勇さんとしのぶさんに協力を頼んだ時は何事かと思ったらしいが、柱合会議で話し合いどころでは無くなる可能性があるというと、私の話を真剣に聞いてくれた。

 

最初は問題ない、大丈夫とか言っていたが、私が『鬼殺隊の人達って、鬼に家族を奪われたのでしょう。他の柱に会ったことはありませんが、全員が鬼を庇うような行動をした人を信じるとは限りありませんし、その鬼を殺そうとしてきませんか?』と聞くと、炭華の入っている背負い箱に近づかせないようにすると言ってくれた。

 

 

どうやら私の言う行動をしそうな人が思い浮かんだようだ。...おそらく私が思い浮かべた人も入っているだろう。

 

それ以外でも、持ち物が幾つか預けることになっても、吹き矢だけは義勇さんに持っていてもらい、いざという時に使用できるようにしたり、あの二人や私の心情から視界に入る方が安心できるので、精神安定のために隠へ預けずに二人の手元に置いてもらえるようにしたり、他の柱が炭華のことで何かを言えば不機嫌になり、後で色々大変なことをしそうなので、会議が始まるまでは他の柱が何か言う前に話題を逸らしてほしいと頼んだりした。

 

 

最後のが一番難しいというのは分かっているが、何の被害もなくこの会議を終わらせるにはこれが一番最適なんだよね。理想としては。

義勇さんもしのぶさんも流石に難しいらしいが、他の柱に何もしないようにとは言ってくれるそうだ。

 

 

それで、私達は本部に行くことにした。七海は炭華の背負い箱の前に立ち、警戒していたし、義勇さんとしのぶさんが他の柱を止めてくれたので、『斬首』と言われることはなかった。もし言ったらその瞬間にあの二人の餌食となっていたので、防げて良かったと心から思ったよ。

 

....できることなら、このまま何も起きなければいいと願っていたのだけどね........。

 

 

 

 

 

 

「できれば思い止まってほしかったです...」

「すみません。私も不死川さんがいきなりあんなことをするとは思っていませんでした」

「まさか、伊黒も手伝うとは思わなかった....」

「それなら、アイツらのことを先に言え。あんな危険な奴だと分かっていれば俺は何もしなかった」

「事情を説明している最中でしたので、それを最後まで聞いてほしかったですよ。質問されたら答えるつもりでしたので...」

 

 

私がため息を吐きながら目の前の惨状を見た。着いた時は綺麗な場所だと思っていた庭も今はあちこち荒れていて、砕けた石も周りにいっぱい落ちている。しのぶさんや義勇さんが申し訳なさそうにしていたが、なんとか私達から話題を逸らそうと頑張ってくださったのは知っているため、感謝している。

特に、義勇さんは何度か不死川さんに殴られそう(口下手で煽りのようになったから)になっていたので、体を張ってまで(本人は普通に説得しようとしているだけだと知っているが)やってくれたことを非難しようとは思わない。

 

 

伊黒さんの言葉にも話を最後まで聞いてほしかったという願望だけ言った。

一度他の柱に七海と禰豆雄の暴走のことを話そうと考えて止めた(話しても軽く受け取られる可能性があるから)ので、その負い目がある。その点を突かれると痛いが、一応まだ説明の途中であったことと、必要そうであったり聞かれたりした場合は本当に答えるつもりだったことから、そのように文句は言った。

 

 

 

あの順調だった状況が一気に悪化したのは不死川さんが耐えきらなくなってからだ。鬼殺隊の隊士でありながら鬼を連れていたことへの怒りやそのことをなかなか話さない苛立ちが頂点まで達し、遂に強硬手段を取った。

その苛立ちに義勇さんへの苛立ちも含んでいるのではないかと思いますが、義勇さんに悪気はないし、わざとではないことは確かなので、義勇さんは悪くないです。

 

 

七海は不死川さんが近づいてきたと分かり、警戒を強めたが、体を押さえつけられて地に伏すことになった。禰豆雄は七海が押さえ込まれる前に蹴り飛ばされ、炭華の背負い箱から離れることになった。

その時の七海と禰豆雄は大人しく縛られた状態のままだったので、抵抗しづらくて簡単にやられてしまった。それに、炭華に危害を加えようとしたのが不死川さん以外にもいたことが予想外だったのだろう。

 

 

私もそれは予想外だった。不死川さんが何処かで爆破するというのは想像できていたが、それを助太刀する人がいるとは思ってもいなかったのだ。

七海を地面に押さえつけたのは伊黒さんだった。伊黒さんが肺のところを思いっきり肘で押さえつけたため、七海も伊黒さんを押しのけることができなかった。そうしていくうちに、不死川さんが刀を抜きながら炭華に近づいていくため、私はすぐに緩められていた紐を解き、炭華の背負い箱を持ってその場を離れた。

 

 

本当に間一髪だったよ。私がちょうど背負い箱を掴んだ時に、不死川さんが刀で刺そうとしたのだから、私の手を少し掠ったくらいで炭華には怪我一つなかった。

ただ、炭華を傷つけようとした人をあの二人が許すのかというと、許すわけがないと言える。もしこの件を許すことができるなら、防げていたであろうことが多くある。

 

まあ、簡単に言うとあの二人が暴走してしまったというわけです。

 

 

不死川さんは炭華を庇う私に何か言っていたが、私はそれどころではなくてその内容を聞いていなかった(申し訳ありません、不死川さん)。というか、私が答える時間もなかったと思う。

だって、不死川さんが私達に近づこうとした瞬間、禰豆雄が不死川さんのいた場所へいたのだから。

不死川さんは禰豆雄の気配に気づき、その場から離れたらしい。私も巻き込まれないように後ろに下がったし。

 

一度避けたからと言っても、禰豆雄がそれで終わらすわけがなくて、その後も不死川さんへの攻撃は止まなかった。たぶん、禰豆雄が満足するまでは続くだろう。

 

 

一方、七海も伊黒さんに押さえつけられていたが、一気に押し返した挙句に拳を向けていた。だが、それは伊黒さんの首元にいる鏑丸が羽織を引っ張ったことによって回避できた。

.....その代わり、七海の起こした風圧によって鏑丸が吹き飛ばされ、思いっきり木にぶつかるという大怪我を負うことになったけどね。

 

 

伊黒さんが鏑丸の方に行ったのを確認した後、七海はもう邪魔しないだろうと判断して、不死川さんのところへ行き、石を投げ始めて今に至る。

 

 

「....あれが二人の通常運転ですから、皆さんも早く慣れた方がいいと思います」

「いや、無理だろ。あんなの慣れるか!」

「うむ。あれを無視することなどできまい!それにしても、見事な剛球であるな!この庭にあった石であそこまでの威力を、ぶつけられる石も投げた石もあの力では割れるのも無理はないが.....とにかく、あれは現実逃避したくなるな!」

 

 

私は手拭いを巻いた手で差しながら言うと、宇髄さんと煉獄さんが首を横に振った。

私が掠り傷で出てきた血を見て、その怪我を呼吸や手拭いで応急処置した後、他の柱が私の周りに集まってきて尋ねた。

あの二人は地獄から来たのかと。怨霊やら破壊神やらと色々言ってきたので、私は人間だと答えると、嘘だろうと言われた。

 

信じられないかもしれませんけど、本当なのですよね。まあ、一名だけは元上弦の伍がつきますが、それは前の時のことであるため、紛れもなく人間なのは間違いありませんよ。

 

 

あの二人を止めないといけないと分かっても、今は鏑丸の応急処置が先であるため、後回しにした。

とはいえ、藪をつついてヒドラを二匹も出したので、その責任を取ってくださいねという思いはある。本当なら伊黒さんにも不死川さんと一緒でと言いたいところですが、鏑丸に免じて許します。

 

 

今回のことは私も怒りを覚えている。だって、二人が余計なことをしなければもっと穏便に終わらせる予定だったのだ。

那田蜘蛛山の任務を終えてから、あまり休まずにこの会議をどう乗り切るのかを考えていて、全く休まないであれこれ考えていたのに、こうなってしまったので、流石に私もこれには我慢できなかった。

特に、義勇さんとしのぶさんが協力してくれていたし、その二人に頭を下げさせているのですから、私はその分を本人達が支払ってくださいという気持ちである。

 

なので、私が鏑丸の治療をしている間くらいはきちんと相手していてくださいね。

 

 

 

「彩花さん。何か固定できるものはありませんか」

 

 

しのぶさんも鏑丸の方を手伝ってくれている。その鏑丸の状態だが、叩きつけられた時に何かで切ったらしく、その傷口をガーゼや包帯で塞ぐことはできたが、少し出血しているため、あまり動かないようにするために固定したい。

 

しのぶさんも同じことを考えたらしく、固定できそうな物を私が持っているか聞いてきた。

その様子だとしのぶさんも持っていないらしいので、何か代用できそうなものを考えないと.....。

....でも、蛇の動きを制限できそうなものとなると......細長くて.....そうだ!

 

 

「誰か筆を持っていませんか?筆なら細いですし、長さも結構あるので、鏑丸の体を固定させることはできるかもしれません!」

 

 

私は周りの人達に筆を持っているのかと尋ねた。すると、報告書のためなのか持っている人が多く、伊黒さんも持っていたため、本人の筆をお借りした。

 

 

「おい!生野彩花と言ったな。鏑丸は無事か!それと、鏑丸。なんで俺を庇ったんだ...」

「伊黒さん、大丈夫よ!鏑丸君は元気になるって.....ぐすん。助かるんだよね、彩花ちゃん....」

 

 

筆を受け取った時に伊黒さんが鏑丸の様子を聞いてきた。伊黒さんは鏑丸がぐったりしたところを見ていたので、とても心配しているようだ。しかも、自分が原因での怪我であるため、罪悪感があるみたい。そんな伊黒さんを甘露寺さんが慰めようとしているけど、その甘露寺さんが泣きそうになっている。

 

伊黒さんと一緒にあちこち行っていたくらいだから、鏑丸とも親しくしているだろう。その鏑丸が大怪我をしているため、凄く心配しているし、不安なのだと思う。

 

 

だが、鏑丸の体調が悪くなるのはいけないため、ここは本当のことを話そう。

 

 

「ですが、これは一時的なものですので、念のために治療した方がいいかもしれません」

「少し離れていますが、蝶屋敷より近い場所に蛇の治療もできる人がいます。そちらへ向かった方がいいかもしれませんね。私はその場所を知っているので、案内できます。伊黒さん、後でついてきてください」

「あ、ああ...」

「甘露寺さんもできれば一緒にいてあげてください。あの様子だと心配です」

「わ、分かったわ!」

 

 

私が病院のことを出すと、しのぶさんが蛇の治療のできるところに心当たりがあるらしく、そこに案内すると言っていた。

 

 

それにしても、そんなことまで知っているとは....。.....しのぶさんが医者であるため、そういった人達との交流をしているのかな。もしかして、鬼殺隊の中に蛇を連れている人(伊黒さん)がいるため、その蛇(鏑丸)が怪我をした時に備えていたのかな。

まあ、そういうちゃんとした場所が分かっているなら、鏑丸の体調が悪くなっても大丈夫そうだ。

 

ついでに、伊黒さんと甘露寺さんを落ち着かす意味も込めて、付き添わせることにした。

一番の目的?二人が結ばれるように応援することですよ。

 

 

「ねえ、早くあの破壊神と怨霊を止めてくれない?そろそろ屋敷が危ないんだけど」

「よもやよもやだ。あの二人を止めるのは俺には無理だ!柱として情けない!」

「いや、あいつらは人間でも鬼でもねェよ。あれは...地獄から這い出た化け物か怨霊か何かだろう。祭りの神でもあれを退治できねェ」

「南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏」

「彩花。......頑張れ」

 

 

私が鏑丸のことを考えていると、隣から声が聞こえてきた。

他の皆さんには避け続ける不死川さんとそれを追いかける七海と禰豆雄を見て、どうにか止めようと思っているらしいが、全く止まる気配がないし、諦めて私に尋ねてきた。

なので、まだ関わらないようにと言っておいた。

 

 

言っておくけど、これは不死川さんへの意地悪ではない。単純にあの間に入ることが危険だからである。七海も禰豆雄も途中で止めさせると不機嫌になる。それは暴走が酷ければ酷いほどに増していく。あの暴走ぐらいだと、中途半端に関わってしまえば確実に巻き添えを食らうことになると思う。なので、あの暴走を止めるにはまず自分が巻き込まれないようにするというのも意識しないといけない。

 

 

後半に関しては....。

悲鳴嶼さんは念仏を唱えているけど、これはどういう意味だろう。ただ単にいつものような感じなのだと思いたいけど、鎮める意味を込めて唱えているのかな...。....よく分からないですけど、鎮める方だとしたら七海も禰豆雄もそういう類いではありませんので、無意味ですよ。

あと、その念仏は不死川さんに向けてでも駄目だからね。あの二人を殺人犯にしないで。

 

義勇さんは......応援をしてくれているようです。私があの二人を止められると知っているので。

あの三人が私にあれこれ言っているのって、義勇さんが私ならできると話したのかな。

 

 

 

「七海と禰豆雄の件は鏑丸の治療が終わり次第に行います。

義勇さん!炭華を七海と禰豆雄の近くで、かつ日影の場所に連れて行ってください。あの二人の暴走を短時間で止めるには炭華の協力が必要です」

「ああ」

 

 

私の言葉に義勇さんは頷き、炭華の入っている背負い箱をこちらに持ってくる。それを見て、義勇さんとしのぶさん以外の柱が慌てた。

 

 

「ちょっと待て!その箱に入っているのって、鬼だがあの怨霊の姉だろう。出しても大丈夫かよ!」

「うむ!とてもじゃないが、化け「煉獄さん。それ以上言ったら貴方も標的になってしまうので、止めてください」.....うむ、そうだな」

 

 

宇髄さんと煉獄さんが炭華を出していいのかと心配する。義勇さんとしのぶさん以外は炭華に会ったことがないので、鬼でもどんな鬼なのか知らないし、その鬼が危険かも分からない。なので、私達がいきなりその鬼を出そうとすれば止めようとする。

特に、禰豆雄を見た後にその姉の炭華のことはどんな生き物なのかと思うでしょうし。

 

 

「大丈夫です。炭華はあの二人とは違って安全ですよ。

て。まだ出たら駄目だよ、炭華。そこは日が当たっているから、危ないよ」

 

 

私は煉獄さん達を安心させるように笑って宥めていると、背負い箱がガタガタ揺れた。私は炭華が二人を止めに行こうとしているのだと察し、まだ外に出ないようにと注意した。

ちなみに、義勇さんとしのぶさん以外の柱は炭華が背負い箱を揺らす度に怯えていた。

 

 

「よし、鏑丸はこれで大丈夫です。念のために病院は行かないといけませんけど、応急処置でできることはこれで全部だと思います」

「あ、ああ......」

 

 

私は鏑丸の応急処置を終えた後、伊黒さんに声をかけた。伊黒さんが返事をしたのを確認した後、すぐに七海と禰豆雄を止めるために動き出した。

 

 

まず最初にやったのは炭華のいる背負い箱を木陰まで運び、そこで炭華を外に出した。

炭華は外に出てすぐに七海と禰豆雄によって荒れた庭を見て、申し訳なさそうに顔を歪めながら義勇さん達の方を向き、頭を下げた。私も一緒に頭を下げる。ちゃんとした謝罪はこの騒動が終結してからもする気ではあるけどね。

 

 

頭を上げた瞬間、私と炭華は顔を見合わせ、互いに頷き合った。そして、私は動き出した。一応吹き矢を持っているけど、吹き矢は最終手段にするつもりだ。

 

後遺症が残ったら困るというのもあるが、吹き矢はたった一本しか持っていないのだ。吹き矢を持ってきて良いと言われても、その吹き矢自体は渡されたんだけど、替えの注射器型の矢は貰えなかったのだ。これは伝達ミスである。ここに来る前に一度荷物を預けて、その後で吹き矢は返してもらうことになっていた。だが、その中に替えの吹き矢が入っていなかった。私達の荷物はもう既に蝶屋敷へ送られた後らしく、今から吹き矢を取りに行くことはできず、柱合会議も始まってしまうため、吹き矢は中に入っている矢が一本あるくらいである。

裁判を受ける身であることを考えると、吹き矢が一つでもあるだけでも良い方だ。

 

 

だが、吹き矢を一本しか使えないので、七海と禰豆雄のどちらかを眠らせて、もう片方は自力で押さえることになる、

でも、それよりも良い方法があるため、それを使うことにした。駄目だった場合はあの吹き矢を使うしかないけどね。

 

 

私は憂鬱な気持ちになりながらも気を引き締め、七海と禰豆雄の間合いに入った。

そして......。

 

 

「(禰豆子直伝の)蹴り!」

 

 

不死川さんに攻撃している二人の間まで行き、脚を振り上げた。それにより、禰豆雄は後ろに跳んで距離を取ったし、七海の持っていた石は私が遠くに蹴り飛ばした。

ちなみに、この蹴りは前の時に禰豆子に何故か教えられたものであり、今ではそれが七海とこの世界の禰豆雄の暴走を止めるのに役立つとは予想外だったな....。

 

 

「彩花。何を.....」

「二人ともやり過ぎだよ。他人の庭をこんなに荒らして....。...七海と禰豆雄が怒るのは分かるけど、とりあえず攻撃はもう止めようね」

「でも......」

「そこまでやると、どっちが被害者なのか加害者なのかも分からなくなるから。それと、炭華も話があるみたいだから、あの木陰に行こうね」

「「行きます」」

 

 

不死川さんを庇うように立つ私を見て、七海も禰豆雄も不満そうな顔をしていたが、私はそれを無視して話しかける。それでも二人は止める気がないみたいなので、私は炭華の名前を出した。

 

 

何を始めるのかって?

説教です。流石にやり過ぎの場合は私と炭華が叱っている。特に、今回は被害が出ているので、遠慮なく言うよ。

 

 

 

 

 

「これで治療は終わりですけど、大丈夫ですか?」

「...あァ。それと、お前の『死ぬ気ですか』の意味がよォく分かったァ」

 

 

騒動が落ち着いた後、私は不死川さんの怪我の治療をしていた。あの七海と禰豆雄の攻撃を受けて、不死川さんは隊服がすっかりボロボロになっていたし、掠り傷も多かった。

 

 

禰豆雄のあれは風圧がなのだけど、それでも擦れば傷になるからね。七海は石を思いっきり投げていたことから、それは怪我になる。

しかも、七海もたまに拳を使っていた。七海の拳も下手したら禰豆雄同様かそれ以上の威力を持っているかもしれないのである。

まあ、何を言いたいのかというと、不死川さんの傷が多いのも無理はないと思っている。

 

 

とりあえず不死川さんの怪我にガーゼで消毒液を塗って、そこに新しいガーゼを貼るというのをしのぶさんと一緒にやった。治療を終えた後、不死川さんに声をかけてみたが、それによって出た言葉があれである。

 

 

詳しく聞いてみると、私が炭華を助けた時に言っていたことを指しているらしい。あの時の私はその後の対応のことで頭がいっぱいになっていた。なので、不死川さんに何を言ったのか覚えていなかったのだが.....『止めてください。貴方、死にたいのですか』と叫んでいたようだ。

 

どうやら完全に本音が漏れていたらしい。あの二人のことを知っている私からしたら、自殺志願のような行動をしていると思ったからね。

 

 

最初は馬鹿にしているのかと思ったようだが、あれを知れば納得したらしい。

確かにオメェからしたら死に急ぎ野郎にしか見えねェなと言われて、私は苦笑いしかできなかった。

ちなみに、炭華はまだ七海と禰豆雄に説教している最中である。

 

 

「にしても、よくあいつらと一緒にいるな。普通避けねェかァ」

「慣れれば平気ですよ。私、適応力は凄いですから。それに、あの段階はまだ大丈夫なので」

「オイ!まさか、あれは本気じゃねェのかよォ?」

「はい。未遂で済みましたので、あの二人もそこまで暴走させていませんでしたよ。と言っても、炭華に刀を向けてしまったことで相手が気絶するまでやりかねませんでしたけど、傷を一つでもつけてしまった場合はもっと大変なことになっていたと思いますよ。

具体的に言うと....庭が割れた石だらけでは済まず、地面のあちこちをボコボコに凹ませるのは間違いないでしょう」

「.....ああ...。そうなるな....」

 

 

不死川さんの言葉に私は笑って答えた。不死川さんは私の言葉に驚いていたが、事実なので嘘偽りなく言った。さらに、私があり得そうだと思ったことを挙げると、義勇さんに遠い目をしながら頷いていた。

 

そういえば義勇さんも那田蜘蛛山に行っていたから、あの暴走を見ていたね。あれはおそらく炭華を欲しがったことが原因だけど、それくらいは確実にやるため、否定しなかった。

 

 

周りの皆さんは頷いた義勇さんの方を見た。

 

 

「そういえば、冨岡さんはあの三人と知り合いなの?その鬼の女の子を逃していたから、何か関係があるのかな?」

「私達は義勇さんの弟弟子と妹弟子ですよ」

「ああ、そうだな」

 

 

甘露寺さんの質問に私が答え、義勇さんが頷くと、周りの人達は全員驚いた。それと同時に、義勇さんから一歩引いた。

 

 

「冨岡。一人は人間だが、他は妖怪やらそういう類いの者と鬼だ。一体何処で拾ってきたんだ」

「雲取山だ」

「なるほど。その山が妖怪の巣なのか。知らなかった!」

 

 

煉獄さんが真顔で義勇さんに聞いてきた。私は拾ってきたという言葉にツッコミたかったが、義勇さんが答えているので、声に出すのは止めた。

ただ、雲取山に変な誤解ができたので、そこは訂正しておきたいのだけど。

 

それと...もう一度言うが、七海と禰豆雄は人間である。あれこれ問題は起こすが、れっきとした人間なのだ。祈祷やら色々やっても意味がない。

 

 

「「御館様の御成です」」

 

 

私が訂正する前に二人の女の子の声が聞こえた。その言葉を聞いて、私は思い出した。

そういえばまだ柱合会議が始まっていなかった。

 

 

「七海。禰豆雄。御館様がいらしたみたいだから、一度炭華から離れようね」

「........」

「嫌だ」

「....できれば私はやりたくないけど、やっぱり注射してほし......それなら、早く行動してよ」

 

 

私が炭華に引っ付く七海と禰豆雄に声をかけるが、禰豆雄は拒否した。七海は分かっていると思うけど、乗り気ではないんだね。私に視線でどうにか説得できないのかと言っているけど、私達の立場的にそんなことを言えるわけないでしょう、

というか、七海もどういう立場なのか理解しているよね。それで、駄々をこねて.....。

 

 

私は御館様が部屋から出てきたところが見え、二人にすぐに行動してもらおうと思い、吹き矢を見せながら口にすると、七海も禰豆雄も炭華から離れ、炭華を背負い箱に戻した後に屋敷の前まで行った。あの二人、こういう時は本当に速いからね。

 

私も見てばかりではいられないので、二人の後を追うように屋敷の前に行き、ひざまづいた。柱達も割れた石の上を上手く避けていた。

私の場合は七海と禰豆雄の勢いで石が幾つか飛んでいっていたので、あまり気にしなかった。七海も禰豆雄も何の問題なしだったし。

 

 

「ところで、庭が大変なことになっているね。みんな、上に上がった方がいい」

 

 

御館様。ありがとうございます。正直に言うと、困っていたのです。

 

 

 

 

私達は屋敷の中に入り、そこで柱合会議を始めることにした。禰豆雄は炭華の入っている背負い箱にべったりで、七海はきちんと正座をしているが、視線が七海の方に行くことが多い。

七海と禰豆雄の暴走事件の後はこれね。次はこの交渉を乗り越えないといけない。御館様に対しての駆け引きは難しいけど、御館様が炭華を容認してくれているなら、柱の説得だけで済んだ。

 

 

おかげで、柱合会議は無事に終えたし、凄く疲れたよ。

何をしたのかって?まあ、私がやったことは原作と似ているようで違うことをしたんだよね。どういうことかと思うでしょうから、順に説明していきますね。

 

 

私達は屋敷に上がり、柱に囲まれた状態で裁判が始まった。私は前に一度経験したので、あの時よりも平気だ。それに、私以外にもいるというのが心強い。

七海と禰豆雄の方も炭華に話しかけることに夢中で、周りの視線を気にしていない。

まあ、柱もあまり関わらない方がいいと思っているので、あの二人に話しかける人はいないし、近づかない。

私はあの二人の行動に苦笑いしたが、このままの方が安全だと分かっているので、七海と禰豆雄に何も言わず、御館様も鱗滝さんから聞いているのか知らないが、背負い箱に話しかける二人のことは気にした様子を見せなかった。ただ、質問に答えるのは私になっているのだけどね。

 

 

話を振られる私からしたら、かなり大変だった。

 

まず原作のような流れで進めるのは難しいので、私はどう説得していけばいいのかを考えたよ。

どうして原作と同じ流れにしないのかって?確かに、原作で柱合会議で認められるという形になっていた。なので、原作と同じことをすれば炭華のことを認めてくれると思われるが、私は同じ流れにならないと思ったのだ。

 

 

どういうことかというと、問題はこれまでにやってきたことが原因である。既に原作と違うところが幾つかあるでしょう。炭華と禰豆雄という性別の違いや私達の存在が大きいが、それと同じくらい重要な違いがある。それはこの世界ではまだ私達は鬼舞辻無惨に会っていないというところだ。

原作では炭治郎が鬼舞辻無惨と接触した上に追手まで放っていたから何かあるということや御館様が認めたこと、禰豆子に三人の命が賭けられたことなどで首の皮一枚繋がったのよね。

 

 

でも、こちらは違う。私達は鬼舞辻無惨と出会っていない。御館様がこのような話をしたということは認めているということだろうし、命を賭けるところはどっちか分からない。仮にそちらも原作と同じなのだとしても、鬼舞辻無惨と出会っていないことが原因で柱に炭華の存在が認められない可能性もある。そのため、原作の流れと同じことを言っても、同じ流れになるとは限らないと思った。

義勇さんとしのぶさんは炭華を庇ってくれそうだし、他の柱も先程の七海と禰豆雄の暴走で連帯感があるけど、念には念を入れておかないと。

 

それで、私は原作の流れを思い出しながら口を開いた。

 

 

「炭華のことで色々言いたいと思いますが、この事実だけは確かなので言います。炭華は二年間人を襲っていません。というより、炭華は二年も眠り続けていました。 

これを確認したのが私達と育手だと言っても信用されないと思いますが、それは私達がいた場所やその近くの村を調べてみたらどうですか?調べたら分かるのではありませんか」

 

 

私は反論される前に全部言ってしまおうと思った。原作で禰豆子は二年間人を食べなかったと炭治郎が言っても、誰も信じなかった。それは柱がずっと色々な鬼と戦ってきたからあり得ないことだと知っていたからである。禰豆子は人を食べない特例であるということを知らない。

なら、どうしたらいいのかというと、それらを全て証明してしまえばいいのだ。

 

原作でも禰豆子が不死川さんの稀血を耐えたことで、柱は納得せざるを得ない状況になった。だから、こちらも内心不満に思っていても、反論できないように納得させた方がいいと考えたのだ。

 

 

私は自身満々にそう言うので、柱の人達は後で調べてみると言っていた。今思いついたことなので、その証拠となる情報を持っていないが、この方が良いと思う。

私が用意したら捏造を疑われそうだし、自力で調べた結果の方が納得できそうだからね。

 

 

それでも今を乗り越えなければならないので、私は現在ある証拠を提示することにした。

 

 

「炭華が食べないという証明なら、もう既にできていると思いますよ」

「....どういうことだ」

「気づいていなかったかもしれないけど、七海と禰豆雄の暴走で不死川さんは怪我をしました。血だって出ていましたのに、炭華は不死川さんを襲いませんでしたよ。

それに、私もその前に擦り傷を負いましたし、それで血が出ましたけど、あの時も炭華は何もしませんでしたよ。逆に心配してくれましたし」

「あア!?」

 

 

私の言葉を聞いて、全員(七海と禰豆雄と御館様以外)が怪訝そうな様子で見てくるので、私は正直に答えた。それを聞き、不死川さんは目を見開いて立ち上がった。他の人達も動揺している様子だ。

どうやら誰も気づいていなかったみたい。七海と禰豆雄のことでそちらを見ていなかったようだ。

まあ、あんな被害が起きたのを見たら仕方がないかもしれませんけど。

 

 

私が言ったことは全て事実である。

七海と禰豆雄が暴走する前、不死川さんから炭華を守るために、背負い箱を不死川さんから取り戻した時に少し掠って、手の甲から血が出てきたことを言ったよね。

鬼なら血の匂いに敏感である。しかも、私は背負い箱を持っていたので、炭華との距離は全然ない。なので、普通の鬼なら襲いかかって来てもおかしくない状況のはずだった。だが、私は五体満足であるし、逆に心配された。

日光があるから、外に出れなかったという言葉があったが、それなら日影に移動した時に何もなかったのはどうしてかと聞いてみた。すると、相手は困ってしまった。何せ、炭華は私を襲わず、七海と禰豆雄の方に真っ直ぐ向かっていた。私が止血していたとはいえ、巻いている手拭いには血がついているため、匂いがあるはずだ。

 

誰かが反論したくても、私が襲われていないことがそれを証明しているのだ。

 

 

さらに、不死川さんのことも例として出されていたから、不死川さんがああやって動揺するのも無理がないと思った。不死川さんは稀血なのである。それも稀血の中でも特別なものであり、希少な匂いをかいだ鬼を酔わせることが可能なのである。そのため、大抵の鬼は不死川さんの稀血を前に理性を保つことができない。

 

 

不死川さんはそれをずっと見ていたので、炭華が自身の血を耐えたということに動揺しているのだろう。それで何か言いたそうにしているので、言いたいことがあるなら聞こうと思っているが、不死川さん自身がそれを否定できないのだ。

嘘だと言いたいが、炭華が怪我を負っている不死川さんを襲わず、七海と禰豆雄を宥めていたことから、理性があるというのは分かるのだ。

 

 

これで、証明できたはずだ。原作では不死川さんに三度刺されても、禰豆子は不死川さんの稀血に耐え、それで人を襲わないという証明ができた。この人を襲わないという証明は重要であるし、鬼である炭華の処罰を求める声が無くなるようにするためにも、きちんとやっておく必要があったので、私はこれで代用した。

 

流石に不死川に証明してもらうためにやってくれとは言えない。それをやってしまえば不死川さんの命が危ない。

それでも、この証明をしなかったら色々大変なことになる。七海と禰豆雄がその声を聞いた時、その人はもう終わりになる。

私もいつも隣にいるわけではないので、それを防げるとは思えない。村にいた時も、私が薬の材料を採りに山へ行っている間に、炭華に懸想している男性がいて、今度告白すると友人に話していたところを、偶然七海と禰豆雄に聞かれ、それはもう大変なことになった。

 

 

村の人が私のところまで来て(念のために私が何処へ行くのかは共有している)、そのことを知った私がすぐに山を下りて、村の人達にどの方向へ連れて行ったかを聞いて追いかけた。

あの二人の行動がどう行動するのか分かるため、場所を特定してなんとか危ういところを助け出すことができた。

あの後、二人に説教したけど、懲りずに何度も同じことを繰り返した。しかも、私にバレないようにという隠蔽の方向へ力を注いでいるため、私は毎回苦労する。

 

おかげで、私はこのことがきっかけで足が速くなった。本当に前よりも速くなったんだよ.....。

それは良いことと言ったら良いことなのだろうけど、内心とても複雑なんだよね...。

 

 

話を戻すけど、炭華に何か恋心でも悪意でもそういう思いを抱けば七海と禰豆雄が容赦なく襲いかかる。そんなことをこの鬼殺隊でも行われたら、私は止めきれない。特に、別々の任務がある時に起きたら間に合わない可能性の方が高い。任務の場所が近くならともかく、逆方向だった場合は無理だ。

ただでさえ、雲取山と村とその周囲だけでも大変だったのに、その範囲が東京府、いや全国にまで広がったら私の手に負えない。

 

 

なので、私はここで御館様や柱が認めてくれないと困る。まあ、それでもいなくなるわけがないと思うけど、人数が少しでも減ってくれればいいから。

 

 

私の言葉に他の人達も反論しないみたいだし、これで証明したことになったと思う。

というか、私と不死川さんが血を流していても炭華は全く反応していないと誰も気づかなかったのかな。いや、それくらい七海と禰豆雄の方に視線が向いていたということだよね。流石に炭華の方にも考えが回らなかったみたいね。

 

 

「だが、生かすことで俺達に何も「はい、そこまで」.....すまない。助かった」

 

 

伊黒さんが話しているのを私が遮ったのに、何故か伊黒さんが文句を言わずに感謝したことに疑問を持つ方がいるでしょう。

伊黒さんが私に文句を言わなかったのは七海と禰豆雄が殺気を出したからである。

伊黒さんの言葉で炭華のことを非難していると思った七海と禰豆雄が、炭華に何かある前にと思って、伊黒さんに攻撃しようとしたけど、私が二人の前に出て制止したため、一歩前に出た体勢で二人は止まった。

伊黒さんは私達の様子を見て、何が起ころうとしたのか察したらしく、顔を真っ青にしながら私に礼を言ったということだ。

 

 

私からしたら、伊黒さんがこのまま倒れないかという点が心配なのだが、それよりも七海と禰豆雄を宥める方を優先した方がいいので、七海と禰豆雄と向き合う。周りには誰もいない。

二人が殺気を放った瞬間、ただでさえ距離を置いていた義勇さん達がさらに離れたからね。でも、距離が離れようと御館様を守ろうとしているのは流石というべきかな。

 

 

私は屋敷を庭のような惨状にしないためにも七海と禰豆雄に話しかけた。

 

 

「七海。禰豆雄。そんな殺気を向けないの。今は炭華の身の安全のためにも穏便な関係を築いた方がいいから。だから、そう暴れたら駄目だよ」

「でも......」

「けど....」

「はあ。分かった、ね」

「「...はい」」

 

 

私が二人を説得するのだが、七海も禰豆雄も何やらぶつぶつ言っていた。二人には鬼殺隊に入って得る利点(鬼を見つけやすくなる=炭華が人間に戻れる)を話したし、ここにいる人達に認められたら良いこと(炭華の身の安全の確保)だとも言った。二人もこれに頷いていたから、賛成したことは間違いないけど、納得がいかないらしい。凄い矛盾である。

 

 

私は七海と禰豆雄が不満そうにしているのを大きく吐いた後、吹き矢を見せながらもう一度言った。最後の方は声を低くして、そこに威圧感も加え、本気だということを表すと、二人は渋々頷いた。

 

 

私はそれを確認して、これで大丈夫だろうと思って振り向いた時、柱同士が集まって、何やら話していた。私が耳を澄ましてみると.....。

 

 

「冨岡!よく破壊神と亡霊を拾ったな!」

「まったく。確かに戦力になるが、あの二人は問題しか起こさないぞ。弟弟子と妹弟子ならそういった教育しろ。まあ、しっかり制御できる奴も入れたのは良かったが...」

「いや、余計なもんまで入れてるだろォ。あいつらだけでもヤベェのに、隊律違反までしやがって」

「今は使い手が抑えているからいいが、これからどうする気だ?冨岡」

「.........」

 

 

話の内容は明らかに私達のことだった。煉獄さんはすっかり七海と禰豆雄のことを破壊神と亡霊と呼んでいるし、伊黒さんは義勇さんのところ(鱗滝さん)の教育はどうなっているのかとネチネチ言っているし、不死川さんは遠回しの言い方で炭華のことを言っているし、宇髄さんは義勇さんに尋ねている。

その話を聞くと、煉獄さん達の位置からして、義勇さんを取り囲んで尋問しているような感じになっていることに気がついた。他の柱達に質問されるが、義勇さんは何も話さなかった。

ちなみに、何人か質問しなかった他の柱達は煉獄さんのようによくあの二人を入れたなと思っていた。

 

 

私は義勇さんが口下手なことを知っているし、それなのに尋問されて、変なことを言ったら何か目的のためにやっているのではないかと思われると困るので、私は助け船を出すことにした。

 

 

「隊律違反については私も悪いので、義勇さんばかりを責めないでほしいです」

 

 

私は義勇さんの弁護をしながら義勇さんの近くに座った。

最終的に義勇さんが決定したけど、私がそう誘導したために義勇さんだけに責任があるわけではないからね。

 

 

あと、もう既に分かっている人がいるかもしれないけど、念のために他の人にも牽制した方がいいかな。

 

 

「炭華がいないと、あの二人が暴走してしまうから止めてくださいと言ったのは私なのですよ」

「南無阿弥陀仏。だが、鬼は斬っておかなければならなかった。幾ら何でも鬼殺隊の柱が鬼を生かすことは問題だ」

「......そうしたら、七海と禰豆雄が鬼殺隊に狙いを定めたらどうしますか?」

「何?」

「七海も禰豆雄も炭華のことを大切に思っています。その炭華の頸を斬ったとなると、二人は義勇さんを地の果てまで追いかけます。そして、その義勇さんの仲間だということで鬼殺隊も狙います。おそらく一人残さずやる気だと思いますよ」

 

 

私の言葉に悲鳴嶼さんがそう言うので、私は直球に言った。悲鳴嶼さんは眉を顰めて気配が変わったが、私はそれに動揺せず、淡々と二人がするであろう行動を話した。

すると、他の柱が一斉に義勇さんを見た。義勇さんは一斉に見られたことで少しビクッと揺れた。

 

 

私がこうもはっきり言えるのはその前例があるのだが、これを話すのは止めておこう。あれは結構色々あり過ぎだから、話せる時があったら話そうと思う。

 

 

柱は何か言おうとして口を開くが、すぐに閉じてしまった。反論したいが、七海と禰豆雄ならやりかねないと分かっているみたいだ。

 

 

「酷いな。俺達がそうするって決めつけて」

「そうそう」

「それなら、もし炭華が殺されたら二人はどうするの?」

 

 

禰豆雄と七海は何か言いたげに反論するので、私が聞き返してみた。その瞬間、空気が凍ったのを感じた。

あまりに強い殺気に義勇さん達は固まったが、私はなかなか返事が来ないのでもう一度聞いた。すると、禰豆雄がフッと笑い、七海は口に手を当てた。

 

 

「貴方達なら隊士は標的になるでしょう」

「うん、そうだな。隊士は絶対にやるよ。だけど、ちょっと違うんだな。隊士で済むわけがないじゃないか。隠とかいう奴等も仲間なんだろう?なら、敵だな。

あっ。そういえば藤の花の屋敷の人達もそうだっけ。そうだとしたらまた増えるな」

「禰豆雄、藤の花の屋敷の人達は良いじゃない。あの人達は隊士に助けられたから泊めてくれているのだから。アタシは藤の花の屋敷の人に手を出す気はないわ。まあ、隊士以外に出すとしたら隠は確定で、他には....ああ。育手と刀鍛冶を忘れたら駄目だわ。育手と刀鍛冶がいるから鬼殺隊は増えるし、戦うこともできるわ。なら、先に潰すとしたらまずはそこからよ...」

「はい、そこまでにしてね。そう言ったのは悪かったけど、一度落ち着いてほしい」

 

 

私の言葉に禰豆雄は頷いた後、指を折りながら数え出し、七海は一見笑っているように感じるが、その口から出てくる言葉は鬼殺隊を滅ぼそうとすることしか言わない。

 

私は七海と禰豆雄の肩を軽く叩いて正気に戻した後、再び義勇さん達に向き合った。

 

 

「以上のことから、鬼殺隊に莫大な被害があるから止めた方がいいと申しました。それで、義勇さんも七海と禰豆雄ならそれを行うと確信したので、炭華は鬼でありますが、人を食べようという素振りはないが、鬼であるためにどうすればいいのかと悩んでいました。

その結果、私達は鬼殺隊へ入った方がいいということになりました」

「その結果って何?」

「えーと、ですね。鬼の炭華を放置することはできないし、七海と禰豆雄をこのまま普通?に生活しても、炭華を人間に戻すために所構わず暴れそうなので、鬼殺隊という鬼のことが専門のところに行ったら少しはマシになるのではないかという話になり、鬼殺隊に入ることになりました」

 

 

私の言葉に時透君が聞いてきた。省略したという自覚がある。けど、色々あり過ぎたから、何を説明した方がいいのか悩むのだよね。とりあえず義勇さんと顔を見合わせながら話している。

と言っても、話しているのは私だけなんだよね。まあ、義勇さんがちゃんと説明できるかというと、そこは微妙なところであるし、逆に言葉が足りずに不死川さんとかを煽りそうなので、説明は私がしているよ。この話し合いで不死川さんと義勇さんの喧嘩(不死川さんが一方的であるが...)まで仲裁しないといけなくなるのは嫌だからね。

 

 

えっ?私と義勇さん、全く会話していないだろうって?

まあ、私が目を見て勝手に判断しているだけだからね。そのため、私が義勇さんの考えていることを全部言っているわけではないし、当たっているとも限らない。

ただ、今のところは義勇さんが反論しないから、一応その答えで良いのだと思うことにしよう。

 

 

「炭華は鬼舞辻の呪いを解いているみたいだからね。他の鬼と違うようだ。きっと炭華には鬼舞辻にも予想外なことが起きていると思うんだ。炭華の血鬼術はとても珍しいものだし、炭華が元気なら七海と禰豆雄の機嫌もいいからね。それに......」

 

 

御館様が最後に七海と禰豆雄をちらりと見た。七海も禰豆雄もその前に殺気を放ったとは思えないほど、満面の笑みを浮かべて炭華に話しかけている。

 

 

「十二鬼月を倒しているからね」

 

 

御館様の言葉に義勇さん達は納得した様子で返事をした。

どうやらこれで裁判は終わったみたい。まあ、御館様の言葉だからというわけではなく、あの実力なら十二鬼月を倒していてもおかしくないと思っていたり、これ以上関わりたくないと思っていたりするのだろうけど。

 

鬼殺隊って、実力主義のようなところがあるからね。七海と禰豆雄が鬼の中でも強い鬼を二人でとはいえ、倒すことができたのだ。柱が強い鬼達をいっぱい斬ってきたから、尊敬されているし、優遇もされている。下弦の鬼であれど、十二鬼月の頸を斬ったことで、七海も禰豆雄もその実力を認められたことになるから、不死川さん達は反論しづらくなる。

それと、同時に七海と禰豆雄を暴走させないためにも炭華は必要であるということで、炭華の存在もまた認められることになった。

それと、私と柱の間でなんだか変な絆ができたような気がする.....。

 

 

炭華のことを認めるという結論になったため、柱合会議の裁判は終わりとなった。その後の内容に私達は関係がないので、私達は原作のように蝶屋敷に滞在することになった。

と言っても、私達は怪我とかないので、普通に任務へ行っている。ただ、滞在する場所を蝶屋敷にしているという感じかな。

蝶屋敷に戻るのは炭華の検査のためである。珠世さんに血を渡しているけど、知っている人が他にもいたら心強いので、しのぶさんにもお願いしているのだ。

ちなみに、善逸と伊之助は原作通りに大怪我を負っているから、入院している。

 

 

 

 

 

「.....それで、義勇さんはどうしたのですか?」

「胡蝶に会いに来た」

 

 

私は蝶屋敷の前で義勇さんと話していた。任務を終えて蝶屋敷に戻った時になんだか予感がしたので、その場に立っていたら義勇さんが来た。

 

うん。大分正確になってきたよ。前の時に突然やって来て炭治郎と会おうとする義勇さんの相手をしていたから、もう勘でここに義勇さんが来ることを察せられるようになった。

 

 

「しのぶさんに何か御用でも?」

「ああ。少し診てもらいに来た」

「冨岡さん。どうしたのですか?」

「しのぶさん!」

「実は鳩尾が痛い。食事している時やその後に起こる。何か食べ物にあたったのだろうか」

 

 

私と義勇さんが会話していると、しのぶさんが来た。義勇さんは頭を下げた後に本題に移った。近くに私がいたのだが、義勇さんが構わずに話すところを見ると、余程の緊急事態なのだと察した。

それと、義勇さんの言う症状に心当たりがある。

 

 

「「それは胃潰瘍ですね」」

「胃潰瘍?」

「はい。胃液が何らかの原因で、胃の組織も溶かしてしまう疾患のことです」

「主にストレスが原因になるそうですが、何か心当たりがありますか?」

 

 

私もしのぶさんも同じことが頭に浮かんだらしく、ほぼ同時にその症状の名前を言った。義勇さんは知らない様子だったので、私が簡単にどんな症状なのか話し、しのぶさんは胃潰瘍になった心当たりがないかと尋ねた。義勇さんは少し考えた後、顔を上げた。心当たりはあるみたい。

 

 

「七海と禰豆雄が何かしたいかと思うと、腹が痛い」

「「...........」」

 

 

義勇さんのその言葉を聞いた瞬間、周囲の時間が止まった気がした。私もしのぶさんも何も言えない。それと同時に、私は頭を抱えた。

 

 

義勇さんの胃潰瘍になった原因は確実に私達である。

うん。間違いなく私達だ。....いつかこうなる予感はしていたんだよ!あー!義勇さん、本当に申し訳ありません!責任は取ります!

 

 

私は心の中で善逸のように叫びながら懐から薬の入った瓶を出し、義勇さんに渡した。

 

 

 

「本当に色々迷惑をお掛けして申し訳ありません!!

 

 

これ、胃薬です!」

 

 

 

ついに出番になっちゃったな...。

 

 

 

 






今年の投稿はこれで最後です。
次回は一月七日に投稿しようと思います。
それでは良いお年を。




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苦労人の少女は後を任される



あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
今回も新年になったばかりということで、長くなっております。楽しんで読んでもらえるとありがたいです。
それではどうぞ。





 

 

 

柱合会議で炭華の存在が認められてからしばらくして、私達はある列車の前に立っていた。この列車という言葉で分かる人はいますよね?

そうです。無限列車です。現在、無限列車編に入ったのですよ。

なんだか進むのが早くないかと言われそうだが、蝶屋敷で特に何か起きたというわけではないからね。

 

 

炭華は普通にきよちゃん達と室内で遊んでいたし、私は七海と禰豆雄と一緒に任務へ出ることが多い。だが、この蝶屋敷に戻ってきて、仕事手伝いをしたり、鍛練したりしている。ここは一時的な休憩所のようなところだからね。善逸も伊之助もいるし、炭華の状態を診てもらうためにもここに滞在しているわけである。

 

それと、機能回復訓練に参加することはあった。善逸と伊之助が嫌がっていて、私が二人を連れ戻すついでにその訓練に参加していたからね。最初は見学みたいな感じだったけど、善逸と伊之助が途中で抜け出そうとするために二人を捕まえるようになった。

その後、そのまま無理に戻しても反感を抱くだけなので、それなら私も参加した方が二人もやる気を出すのではないかと言われ、途中から参加することもになったのだ。

 

 

しのぶさんとアオイさんの思いつきで始まり、それは一応効果があった。確かに私が参加すると言うと、それを善逸と伊之助が嬉しそうにしていたので、成功と言ったら成功だった。だが、私はもう既に全集中の呼吸・常中を修得している。

この時の善逸と伊之助は全集中の呼吸・常中をしていない。そのことで、どれくらいの実力差があるのかお察しの方がいるでしょう。

 

 

結果は瞬殺で私が勝ちます。それが原因で、善逸と伊之助の心が折れそうになったので、ここで私が全集中の呼吸・常中について教えた。

それでも、二人とも常中を一度やったみたら辛くて、止めようとしていたけど、そこは二人の大好物を使って頑張ってもらえた。全集中の呼吸・常中ができるようになったら、それらを食べ放題で作るからと言ったので、二人とも張り切ってくれた。そうしたら、かなりの速さで全集中の呼吸・常中を習得してくれた。

 

 

そのため、私も頑張った。

善逸の好物は鰻だけど、それでも頑張ってくれるならと思い、あちこちの村や町で買ってきた。伊之助の方も頑張るなら豪華なものをと思って、山の幸と海の幸を使った天ぷらを作った。

どちらも奮発するつもりでいたが、あまりに早く習得していたため、時間がそんなに無くて材料を揃えられず、足りないものもあったが、そこは自力で調達してきた。

本当に運が良かった。二人が常中を習得し終えた時、たまたま私の任務先が海の近くで、鬼に襲われていたところを助けた人がそこの漁師だったので、私はその人に頼み込んで一緒に海へ出た。おかげで、釣ったばかりの魚や海老を手に入れることができたし、鰻の方も協力してもらっ。私はた。素潜りもさせてくれたから貝類もあって、その日は豪華な食事になった。

 

二人とも美味しそうに食べてくれたので、私も採ってきた甲斐があったよ。

.....唯一心残りがあるとしたら、炭華に食べさせてあげることができなかったことかな。炭華が人間に戻ったら今度はあれ以上に豪華な食事を作りたい。

 

 

 

善逸と伊之助が常中を習得した後は七海と禰豆雄も参加した。

と言っても、善逸と伊之助は全集中の呼吸・常中を習得したばかりなので、まだ使い慣れていない。

それに対して、私は村にいた時には既に常中を習得していたし、七海も私が教えた呼吸法で、全集中の呼吸は一応できていた(完全という形ではないが)ので、狭霧山では仕上げるような感じであり、すぐに全集中の呼吸・常中の方に移った。七海は原作を読んでいて知っているからね。七海は海の呼吸が完成した後、常中を習得しようとしているのを見て、禰豆雄もやり始めたため、二人は鬼殺隊になる前にできるようになっている。

 

善逸と伊之助が常中を習得したと知ると、一緒に混ざって稽古をするようになり、善逸が悲鳴を上げていた。だが、ただの鍛練であるためにそこまで酷いことはしないので、全然大丈夫である。

まあ、炭華のことで何かあった時は八つ当たりをしてくるという問題はあるけど、それは些細なことである。

 

 

でも、今ではそれが普通になっていき、みんなで一緒に鍛練するようになり、その流れでカナヲとも一緒に鍛練するようになった。カナヲは那田蜘蛛山の任務から、感情が表に出るようになったと思ったけど、ここまで積極的になったのは予想外だった。

私もカナヲがあの件でトラウマになっていないかと思って気にしていたのだが、そんな様子は見えず、逆に明るくなってきたので、凄く驚いた。

 

鍛練の後も色々話してくれるし、だんだん仲良くなってきている。

炭華のおかげかな。

 

 

まあ、そんな感じで蝶屋敷でゆっくり時間を過ごしているうちに、善逸と伊之助は完全に回復し、あの任務がやって来た......。

 

 

 

 

 

 

「....無限列車、か」

 

 

私は列車を見ながら呟いた。その列車の前に書かれている「無限」という文字を見て、この列車はやっぱり無限列車なのだなと思った。

 

 

「おお!山の主!」

「山の主というより、鉄の塊だと思うよ。ほら、凄い硬いし」

「なんだ!攻撃か!それなら、俺様も「おい。何をしているんだ!」アアッ!!」

「善逸。七海と一緒に二人を連れて、ここから離れた方がいいよ。切符の方は私が買っておくから」

 

 

初めて見る列車に興奮している伊之助と禰豆雄の反応を少し微笑ましく思って眺めていたけど、禰豆雄が列車をコンコンと叩き、伊之助が列車に向けて突進しようとした時に、駅員の人達がやって来た。

 

 

私はすぐに落ち着いている様子の七海の肩を叩いて、人混みのある方向を指差し、その次に善逸には簡潔に説明して、分からないことがあったら七海に聞くようにと言って分かれた。

 

 

七海は頷いてくれたので、何をしてほしいのか分かっているし、行動してくれると思うが、善逸はやってほしいことを説明したら無理だという顔をしていたが、その時には駅員の人達が近づいていて、私は善逸の返事を聞かずにその場から離れた。

 

たぶん大丈夫だと思うから、私は切符を買う方を優先しよう。顔を見られていたら切符を買うのが難しくなるからね。善逸の髪は黄色だし、七海の髪は水色だから滅多にない色で目立つだろうし、禰豆雄と伊之助は切符の買い方を知らないだろうから、消去法で私がやった方がいいと思う。

 

 

購入方法は知っているし、私の髪は緑色と黒色が混ざっているので、私は善逸と七海より不審者扱いされないと考えたのだ。まあ、私の髪も目立つと言ったら目立つ方ではあるが。

 

 

 

七海が禰豆雄を引っ張り、善逸が伊之助を押しながら人が多い方へ行き、駅員から逃げている。私も人混みを上手く利用して撒いた。

駅員の人達が私達のことを見失っている間に、私は五人分の切符を買って、七海達と合流した。合流できた時には汽笛が聞こえたので、私達は列車に飛び乗った。

 

 

まあ、ここまでは原作と同じような流れだね。いや、原作と同じ流れにした方がいいかなと思って変えないように動いているから、変わられたら困るけど。

 

もう原作云々は関係なくていいだろう、既に色々違うだろうと思われるかもしれない。それに関しては私も同じことを思っているので同意する。だが、今回は私達の知っている原作に近づけなければならないのだ。

何せ、今回はあまりにも厄介すぎて、ボタンの掛け違いが起きそうだからである。今回は列車という密封した空間に二百人くらいの乗客がいるし、その後で上弦の参も来るので、慎重にならないといけない。何かを間違えてしまえば多くの人達の命を危険にさらしてしまう。それは避けなければならない。

 

 

なので、血鬼術もかかることにした。全員が血鬼術にかからなければ鬼が何をしてくるのか分からないから、禰豆雄達に切符をそのまま渡した。このことは七海ともよく相談して決めたので、七海も切符を受け取り、私の顔を見てゆっくり頷いた。

 

 

この切符のインクに鬼の血が混ざられていて、その切符を車掌が切ったら発動する血鬼術なのだとは知っている。だが、この切符をどうにかすることはできない。

それに、切符に関しても完全に不信感を与えてしまうからね。切符を無くすとなると、それでは無賃乗車のようになってしまうし、それはそれであちら側を混乱させてしまうことにもなりそうだ。

特に、あの列車の車掌さんはかなり追い詰められている雰囲気だったし、さらに追い詰めてしまうと、何をしてくるか分からないんだよね。

 

それなら、切符にある血鬼術を解いた方がいいのではないかと思うが、切符の方も難しい。というより、今回はそもそもその血鬼術を解除できるかというところが問題なのだ。

 

 

どういうことかというと、炭華の血鬼術が爆血ではないことはその不安を助長させているのだ。原作では禰豆子の血鬼術である爆血によって切符が燃やされ、それがきっかけで炭治郎達は血鬼術から目が覚めることができたのだ。だけど、今回はその血鬼術が違うものであり、炭華の血鬼術が鬼の血鬼術をどうにかできるものかは分からないのだ。

炭華の血鬼術が使えないとなると、最早自力で目覚めるしかない。幸い、この血鬼術を解く方法は他にある。けど、他の人にそれを事前に話しても信じてもらえるかという問題がある。

 

 

禰豆雄は信じてくれると思うし、善逸と伊之助もその耳と勘で信じてくれるだろうが、煉獄さんは信用してくれないだろう。それに、理由を聞かれても答えられない。

なので、今回の戦いは私と七海だけで解決しなければならないだろう。七海は大丈夫だと思うけど、今回でも色々なことが起こりそうで、それが凄く不安である。

 

私がそんなことを考えながら列車内を歩いていくと、「うまい!うまい!」という声が聞こえてきた。今にも窓を破りそうなその声に善逸は驚いているし、禰豆雄と伊之助は呆気に取られている。

動揺していないのは知っていた私と七海だけかな?

 

 

私と七海は顔を見合わせた後、その声の聞こえる方へ行き、次の列車への扉を開く。中から聞こえる声で扉が壊れるかと思うくらいに振動していたが、そこは全く気にならなかった。

私達が扉を開くと、その列車に乗っている人達は全員その人の方を見ていた。

 

その人というのは煉獄さんだと知っているので、私はその大きな声を止めるように言おうと思った。原作の世界だとこの出会い方はかなり印象に残るし、面白いと思うのだけど、流石に周りの人には迷惑である。

 

 

「あの、煉獄さん。「うまい!」お久しぶりです。その。失礼ですが、「うまい!」周りの人達は迷惑だと思いますので、「うまい!」声の音量は下げてもらえるとありがたいのですが....」

「うまい!」

 

 

私が声をかけている間も煉獄さんは弁当を食べ続けながら「うまい!」を連呼していた。私はそのことをあまり気に止めずに言いたいことを話し終えた。すると、私の話に返事したのかどうか分からないが、煉獄さんが振り向きながらまた「うまい!」と言った。

 

 

「そのお弁当が美味しいのは分かりましたし、もう充分です。それと、『うまい』と返事をされても困りますので、できればちゃんとした言葉で話してほしいです」

「うむ!承知した!」

「...もう一度言いますが、その声の音量は下げてください。本当に乗客の人達が驚いていますから.....」

 

 

私は苦笑いしながら再び注意すると、弁当を食べ終えたらしい煉獄さんがしっかり言葉で返事をした。ただし、大きな声のままであったため、私は顔を引き攣らせた。

 

なんだか今回は今まで以上に疲れそうだ。

 

 

 

 

先程の弁当のやり取りを終えた後、私達は自己紹介した。私は前の時のように水町少女で、善逸は黄色い少年、伊之助は猪頭少年と煉獄さんに呼ばれた。

まあ、これらは原作や前の時と同じだから、あまり気にしていなかったし、そこまでは良かったかな...。

 

 

「竈門禰豆雄です」

「うむ!.....うむ?」

「生野七海です」

「.....うむ....?」

 

 

その名前を聞いた時、煉獄さんが首を傾げながら二人のことを見た。私はそれを見て、煉獄さんが禰豆雄と七海だと気づいていないことを察した。

 

 

「うむ。その名前を名乗るのは止めた方がいい。俺の知っている二人は色々破壊してくる人?であり、異界から雲取山に出た妖怪か亡霊のような存在だ。君達がその名前を名乗る必要はない」

「雲取山はそんな場所ではありません」

 

 

煉獄さんの話を聞いて、私はもう七海や禰豆雄のことを指摘する気がなかったが、雲取山への認識が酷いため、せめてそちらの認識は正そうとした。

七海と禰豆雄の認識に関してはもう諦めた。

 

 

頭を抱えたいが、私はこの状況をどうしようかと考えていた。七海と禰豆雄ではないと思ってしまうのは柱合会議で暴れている様子が原因だろう。あれは特殊な方の例で、炭華を殺そうとしているからの態度であったため、それを見た後だと印象に違いがあるというのは分かる。だけど、本人であるために修正しなければならない。

 

善逸が悟った目をしていたので、私は頷くことで答えた。そんな私を見て、善逸は天を仰いでいた。私も善逸のように現実逃避したかったが、今はこの二人が七海と禰豆雄だということを説明しようとした。

だが、それを行う前に予想外の人物が行動してしまった。

 

 

「なあ。さっきからギョロ目が否定してるけど、何やったんだ?」

「何って、あいつと出会ったのが...確か......」

「柱合会議よ」

 

 

伊之助の質問に禰豆雄がその時のことを思い出そうとする。禰豆雄は覚えていないみたいだ。いや、忘れていた方が良かったかもしれない。だが、禰豆雄と違って七海は覚えているため、出会った場所を言った。

 

 

その言葉だけで禰豆雄も思い出すし、七海もそうするために言ったのだ。私もこの後のことを察し、すぐに禰豆雄を落ち着かせようと動き始めたが、それは遅かった。禰豆雄の周りの空気が変わり、先程煉獄さんの声で軋んでいた窓が今度は禰豆雄の威圧でガタッと音を立てる。近くにいた乗客も逃げた。

 

私は遂にやってしまったと思いながらも禰豆雄を落ち着かせようとする。既に乗客を怖がらせているが、その時間を長くするわけにはいかなかった。

 

 

「禰豆雄。あの件での怒りが収まっていないのは分かるけど、それに他の人を巻き込んだら駄目だよ」

「フッフフッ。心配しなくても大丈夫だよ。ここにいないんだから、誰にも手を出さない」

「それに、アタシ達は思い出しただけよ。.....ただ、絶対に忘れないようにしないといけないって思っているのはいいじゃない」

「七海。確かに忘れないようにしようと思うのは勝手だけど、それを実行するのは止めてね」

 

 

私が説得しても、禰豆雄は笑ってその威圧を強くするだけであった。しかも七海も禰豆雄ほどではないが、怒りがあるらしい。

七海は原作のことを知っているため、原作が始まってからはあまり怒りを表に出さなくなった。

知っているからというのもあるが、七海は鬼殺隊全体が推しというくらいなので、七海は鬼殺隊にあまり手を出さない。

まあ、柱合会議の不死川さんは殴っても構わないと思っているらしく、禰豆雄の手伝いをする気だったし、伊之助の時もやっては駄目だと教えるのに、インパクトが必要だと言っていた。

だから、鬼殺隊に関してはこの二つで暴走するのはなんとなく予想がついていた。

 

.....あと、鬼殺隊関連で大暴れするのが一つ残っているのは不安なんだけど、それはその時になるまでどうなるか分からないかな。柱合会議も騒動が起きないようにしていたのに、結局起こってしまったのだから...。....一応備えてはおくけどね......。

 

 

一方、煉獄さんは私の方を見た後に禰豆雄を見て、その後で七海の方を見た。それを二度見、三度見くらいはしたと思った瞬間、煉獄さんはポンと手を掌に打ち付けた。

 

 

「ああ!この前の破壊神の二人組か!」

 

 

煉獄さんは元気そうに言っているが、視線は七海と禰豆雄から離している。

どうやら信じてもらえたようだ。ただ、その代わりに七海と禰豆雄と目を合わさなくなった。いや、合わせないのだろうね。分かってしまったのだから、普通に接するのは難しい。何せ、最初の出会いがあれだからね。

 

 

 

その後、七海と禰豆雄が落ち着き、私が周囲の乗客の人達に謝罪している間に、煉獄さんと何か話をしていたみたいで、善逸と伊之助が継子にならないかと誘われていた。どんな話をしていてそのような内容になったのか気になるが、話が急に変わった可能性があるので、聞くのは止めた。

だって、煉獄さんは『この話はここまでだ』というように、突然話を終わらせたり、いきなり『俺の継子になるといい』と言ってきたりと、話の展開が変わることはあると思う。

原作のヒノカミ神楽での質問がそんな感じでしたからね。

 

 

ちなみに、私も継子にと誘われたが、七海と禰豆雄のことがあるので断った。

煉獄さんは七海と禰豆雄のことを聞くと、仕方がないと言ってくれたが、義勇さんが私達担当になっていることも同時に教えられて驚いた。

柱合会議の後に私達(と言っても、主に七海と禰豆雄)の話題になり、その流れで義勇さんが私達の保護者的な立ち位置になったそうだ。

まあ、保護者というよりも何か問題を起こしたら、その責任は義勇さんの方へ全部行くみたい。義勇さんが責任を取ることになったのは私達を鬼殺隊に入れた張本人であり、兄弟子だからだそうだ。それで、義勇さんも断れなかったらしい。

 

 

なので、私達が蝶屋敷に通っている間、預かるのはしのぶさん、問題が起きたら義勇さんにという感じだったらしい。

 

良かった。患者には迷惑をかけるし、薬やら毒やらあって危険だから、蝶屋敷にいる間は止めた方がいいと思って、蝶屋敷では絶対暴れないでと言っていたからね。ついでに、壊したら弁償するのは私達だよ、せっかく炭華に何かを買おうとしても壊したらお金が無くなるよとも言っておいたので、七海と禰豆雄も大人しくしていた。

そのために全然暴走することはなかったよ。炭華のために早く鬼の頸を斬るので、任務がすぐに終わるからそこは特に何も言わないけどね。

 

 

そのため、煉獄さんは七海と禰豆雄を継子に誘わなかったらしい。義勇さんが面倒を見ることになったからと言っているけど、煉獄さんは二人と目を合わせない様子から、七海と禰豆雄を継子にするのは無理だと思う。

それに、私達の保護者になった義勇さんは最近食欲がないみたい。私は胃潰瘍の影響だと分かっているけど、煉獄さんは知らないらしく心配している。逆に私は納得できた。

義勇さんが柱合会議から私達のことで気を揉んでいたから、胃薬の処方をしていると知っているし、そもそも私が渡している。けど、胃薬が必要となったのはおそらくこれも原因なのだろう。

 

義勇さん。原作の時は禰豆子のために自分の命をかけてくれたけど、今回は私達のために自分の胃をかけてくれている。

.....今度、消化しやすいものを胃薬と一緒に渡そう。お世話になっていますので、それくらいはやっておかないと...。煉獄さんが七海と禰豆雄の継子に誘わないのも義勇さんが担当だからということだそうだが、単に二人の担当になりたくないだけだと私は思う。二人と全く目を合わさないから。

 

 

 

私達がそういう会話をしているうちに、車掌さんが切符を切りに来た。煉獄さん達が切符を渡していき、私も七海と顔を合わせて頷き、車掌さんに切符を渡した。

今回は原作や前と違い、血鬼術で目覚められるか分からない。けど、この血鬼術にかからないといけない。

....それに、個人的に確かめたいことがあるからね。何せ、私は前の時にここで.......。

 

 

 

パチンッ!

 

 

 

カナエさんに出会ったのだから。それで、きっと聞くことができるはずだ。華ノ舞いのことを。

 

 

 

 

 

 

「....あれ?」

 

 

私が目を開けると、目の前に現れたのは広い草原で、その草原のあちこちに花が咲いていた。

 

 

「ここは夢の中?それとも、現実の世界で何処かに飛ばされたの?」

 

 

私は困惑しながら周りを見渡した。誰もいない。私は自分の姿を見たが、特に変わった様子はなかった。

隊服と笹の葉の羽織を着ているし.....あっ、刀がない。変化はあった。

 

 

でも、刀がないと戦えないし、もし夢の中なら自身の頸を斬って脱出することもできない。

 

 

「...痛....くない.....」

 

 

私はそう思いながら自分の頬をつねった。だが、痛みなんて感じなかった。ただ頬を摘んでいる感覚だけがあった。

 

 

ということは夢の中なの?でも、誰もいないのはおかしいと思う。だって、魘夢は血鬼術で目覚めたくないくらい幸せな夢を見せてくるので、このような夢を見せてくるとは思えないのだ。

私はもう目覚めたいのだけど、刀がないためにできないだけである。

 

 

私はいつまでもそうしているわけにはいかないので、とりあえずその場から動くことにした。

そして、歩いていくうちに花畑が見えてきた。私はその花畑に見覚えのある気がして、その花畑の方に向かった。夢の中とはいえ、花を踏まないように意識して進んでいき、そこで何故見覚えがあるのか分かった。

 

 

ここ.....あの時はいきなりここにいたから分からなかったけど、この場所はカナエさんと出会った場所、私の無意識領域だ。

 

 

私はそのことに気づけたが、すぐに疑問が湧いてきた。

 

 

どうして私はまたこの場所に来ているのだろう。魘夢の血鬼術は夢を見せるものである。その血鬼術にかかった人を中心に夢の世界が展開されるのだが、無意識領域はその世界の外にあるものであり、無意識領域への入り方もその夢の端のようなところからである。

なので、無意識領域に急に入っているこの状況は明らかにおかしいのだ。

...まあ、前の時も何故かこの無意識領域に入っていたからね。いや、カナエさんが連れて来たのかな?見せたいものがあるとか言っていたし。

 

 

私はもう一度辺りを見渡してみたが、カナエさんの姿はなかった。無意識領域ならカナエさんがいるかもしれないと思ったが、いないみたいだ。周りに広がっているのは花畑と草原だけで、私は別の場所に行けばカナエと会えるのではと期待し、一歩前に出た時...。

 

 

「おい。止まれ」

 

 

後ろから突然声が聞こえた。私はそれに驚いた。さっき周りを見渡した時には誰もいなかった。それなのに、いつの間にか後ろにいた。しかも、気配すら全く感じなかった。

私は警戒したが、それ以上に背後にいるのが誰なのか分からず、後ろを振り返った。何せ、ここは無意識領域であり、誰かがいるのはおかしい。自分の化身ならいる人はいるが、この人は違うと直感的に察した。それに、声の低さから男の子の声だと思うので、カナエさんではない。口調も全然違う。

 

 

私は意を決してその声の主を見て、さらに驚いた。そこにいたのはやはり男の子であり、しかも腰に届く程の髪を伸ばし、髪色は黒から毛先にかけて青色となっている。私はその男の子に見覚えがあった。

 

 

「時透、君....だけど、時透君じゃないよね」

 

 

私は目の前の人物に直接聞いてみた。私の質問を聞き、その人は頷いた。その姿は霞柱の時透無一郎にそっくりだが、明らかに違う。気配も違うし、表情だって凄く違う。

時透君は記憶喪失となっていて、さらに頭に霞がかかったように物事をすぐに忘れてしまうという後遺症を負っている。そのために原作の時透君は無表情でボンヤリとして雰囲気をしている。

前の時は記憶が戻っているから笑っていたが、そのどちらとも違う。

目の前にいる人は私を睨むように見ていたから。

 

 

....だが、心当たりは一つある。時透君には双子の兄がいる。しかし、その兄はもう既に.......。

 

 

「....ああ、そうだ。俺は無一郎じゃなく、有一郎だ」

「やっぱり有一郎君でしたか。でも、どうしてここに?」

 

 

有一郎君が名乗ってくれたおかげで、誰なのかはっきりすることはできたが、それでも疑問があり、それを尋ねた。

どうして私の夢の中、それも無意識領域の中にいるのかは分からない。それに...これは私も悩んだが、カナエさんと有一郎君のことを考えると、この二人は死人故にここへ入ることができるのだと思う。ただ、どうして私の無意識領域の中にいるのかは分からない。私ではなく、もっと違う人...二人の家族(しのぶさんや時透君)の方に行くべきだよね。

私、二人とは全く会っていないんだよ。

 

 

「お前がそれを気にする必要はない。言っておくが、カナエさんならここにはいない。もういいだろう。さっさと帰れ」

「いや、気になるって。それより、カナエさんはやっぱりここにいるのですか?それに、帰ると言われたってどうやって......」

 

 

有一郎君は私に冷たくそう言ってくるが、私もどうすればいいのか分からず、困り果てた。

何せ、刀がないから目を覚ますことはできない。他にも何かないのかと聞くと、あるのは花だけだ。

それに、このまま帰るわけにはいかないので、幾つか質問はした。

 

 

「....お前ならそのうち帰れる。カナエさんは今別の場所にいる。だが、その前にお前が帰るだろうな」

「待って。そのうち帰れるって、どうしてそう言えるの。有一郎君は何か知っているの?華ノ舞いのついても、何か......」

 

 

有一郎君は私の質問にカナエさんのことと刀がなくても帰れるとしか答えてくれなかった。私はこの二つを答えてくれただけでなく、他のことも聞こうとした。

私は有一郎君が色々知っていると思い、聞いてみた。確証はなかったけど、カナエさんが華ノ舞いのことを知っているのなら、同じように無意識領域にいる有一郎君も知っているのではないかと思ったのだ。

 

有一郎君は真剣な顔で私の目をしっかり見て、口を開いた。

 

 

「俺はお前より知らない」

 

 

この言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

「えっ?」

「あっ」

 

 

次に視界へ映ったのは見知らぬ女の子だった。その女の子は私が目を覚ましたことに驚き、後ろに下がった。それにより、女の子の手に縄があるのを見た。私はそれを認識した瞬間、反射的にその女の子を気絶させた。

気絶させた女の子を椅子に座らせた後、私は周りを見渡したら他にも縄を持つ人達がいることに気づいた。

 

 

それを見て、私は現状がどうなっているのかを確信した。

私はまたかなり早い段階で目を覚ましたのだと。前の時も早かったけど、今回も原作より早すぎるのだと分かった。

 

 

私はそれを理解したと同時に、周りにいた人達を気絶させた。勿論、ちゃんと縄が繋がっているかどうかを確認してからだ。

幸い、まだ縄をつけていなかったり、片方にしか結ばれてなかったりしていたから、気絶させても大丈夫だろう。

あの縄は血鬼術を用いた特殊なものであり、対象と自身の腕をその縄で繋ぐことで相手の夢の中に入れるのだ。この縄の厄介なところは日輪刀を斬ることができるが、そうすると相手が二度と目を覚めなくなってしまうのだ。

相手を死なせずに縄を断つ方法というと、禰豆子の爆血くらいしか思いつかない。だが、今回いるのは炭華であり、炭華の血鬼術が爆血でないこともあり、そうすることは難しいと考えている。

 

繋がっていた状態で気絶させればこの人達は禰豆雄達の夢の中に入ってしまうので、少し面倒なことになっていたが、繋がっていない状態であったためにその心配はなく、遠慮なく気絶してもらった。

 

 

私は椅子に気絶させた人達を全員座らせた後、背負い箱から出てきた炭華と少し会話してから、列車の上へ行った。そこで、前の時のように魘夢と戦った。

まあ、前の時と変わっていないのなら、前の時と同じような結果になると思った。でも、最終決戦まで戦った経験から、前の時のように私は血鬼術の催眠が今回もあったことで、列車の上での勝負はすぐに終わった。

 

 

だけど、既に無限列車と融合はしていたらしく、頸を斬っただけでは終わらなかった。私はすぐに列車の中に戻ると、七海と禰豆雄が起きていた。

私は少し驚いた。七海は起きているだろうとは思ったけど、禰豆雄も起きていたのは予想外だった。だけど、それもすぐに分かった。ちょうど炭華の血鬼術の光が伊之助を包み込んでいたからだ。

どうやらあの血鬼術は爆血と似たような性質みたいだ。二人で戦わないといけないと覚悟していたけど、この調子で全員が目覚めそうだ。

 

 

「禰豆雄、目が覚めたんだね。良かった。七海、鬼はもう既に列車と融合している。早く目覚めたと思ったのだけど、その段階には来ていたみたい」

「......そうか」

 

 

私はすぐに七海と禰豆雄に鬼のことを伝えた。特に七海は知っているので、私が何を言いたいのか察すると思うし、七海が頷いたことから分かっていると思う。

だけど、返事をしたのは禰豆雄だった。その声を聞き、私は禰豆雄の様子がおかしいことに気づいた。なんだか下を向いていて、表情もよく見えないために私も嫌な予感がした。それに、七海も不機嫌そうな顔をしていたし、何かあったのだろう。

 

 

「七海。禰豆雄。夢の中で何があったの?」

 

 

私は二人におそるおそる聞いてみた。これは絶対に何かあったのだと思う。大方、予想はできる。だけど、一応聞いておかないとね。後が怖いから。

 

 

「夢の中で姉さんがいっぱい出てきたんだよ。小さい頃から大人まで.....だけど、よく分かっていないんだよね....」

(ああ...やっぱり)

 

 

禰豆雄のその言葉を聞いてすぐに私は確信した。もう禰豆雄の不機嫌な原因はあれしかない。

 

 

「あの鬼、姉さんの全然再現してないんだ!小さい頃の姉さんはもっと可愛いし、大人になった姉さんはもっと綺麗だし、今の姉さんは大天使なんだ!なのに、この鬼はそれをちっとも理解していないんだよ!姉さんの偽者に囲まれて、何の嫌がらせだと思う!本当に今回の鬼は性格悪いと思わない!」

「アタシもそれに同意よ!」

「....七海。随分雑だと感じたの?怒っている様子だけど、どうしたの?禰豆雄みたいに七海も見た夢が偽物と感じたの?」

「ええ...。......せっかく一年前にあの事件が起きなかったらという感じで、竈門家のみんなは生きていて、アタシ達も刀を握っていないわ。だけど、全然違うのよ!笑ったり、怒ったりしていたけど、あれは明らかに偽者だって分かるわ!いくらアタシ達の記憶の通りに似せようとしても、違和感はあるもの!」

「ははは....」

 

 

禰豆雄の言葉に七海は何度も頷いている。私はその様子を苦笑いしながら見ていた。

七海が禰豆雄の意見に同意するのは仕方がない。それくらい七海が炭華のことを大切に思っているということである。それは私もよく分かっているから、今回の件は炭華のことだけではないと分かる。

 

 

どういうことかというと、禰豆雄はともかく、七海は炭華のことで怒っているわけではないのだ。

私も禰豆雄の言葉を否定できないし、七海が同意するのだって分かる。魘夢は他人の不幸や絶望に歪む顔が好きだそうで、私もその言葉を聞いた時はうわぁと思ったよ。

なので、禰豆雄の性格が悪いという言葉も間違いではないと思っている。それに、七海が納得していることも共感できる。

なので、私は苦笑いをすることしかできない。

 

 

「.....それで、今はあの鬼が列車と融合したから、彩花はそのことを伝えに来たと....」

 

 

私は禰豆雄と七海に鬼が列車と融合したことを話した。

ここから、私達は全部の車両を行き来しながら鬼の頸を斬らないといけない。既に何処にあるのか知っているため、探す必要がないが、それでもこの列車にいる人達を全員守れるかどうかは断言できない。

まあ、当初の予定と違って禰豆雄もいるし、少しは良い方へ進んでいると思いたいけど。

 

 

「とにかく、私達がやらないといけないことはこの列車に乗っている乗客全員を守り、鬼の頸を斬ること。なので、私達はバラバラになって、前後の列車で...「各々列車を刻み込まないといけないんだね」....はあ?」

 

 

私は七海と禰豆雄に予定として立てていた作戦を話そうとしたが、禰豆雄がその前に呟いた言葉に呆気に取られた。

 

いや、そっちに行くの!列車と融合したのなら、その列車ごと壊してしまおうという思考に!まあ、七海と禰豆雄ならできるかもしれないけど.....。

 

 

「なるほど。それは簡単ね。一石二鳥なうえに、その方がアタシもスッキリするわ」

「ちょっと待って!流石に強引すぎるから!それに、七海に話したよね!『乗客全員を守るためにはその場で襲ってくる鬼の攻撃を防ぐ必要がある。けど、それでは手を離せなくなって、鬼の頸を斬れなくなる。

だけど、細かく斬ってしまえば再生までに時間がかかるから、最初にそれを二人でした後に一人が鬼の頸を斬り、もう一人がここに残って乗客を守る。細かく斬っていれば一人でもなんとかなるだろうから。少なくとも鬼の頸が斬られるまでの時間は稼げるだろう』ていう話だったよね!」

「でも、こっちの方がいいわ」

 

 

七海が頷いているのを見て、私は七海を止めるが、七海は禰豆雄の案にノリノリだった。

そして、私が七海を説得しようとしている間に、禰豆雄が列車の壁や床、天井等々と列車全体を刀や斧で切り刻み出した。

七海もそれを見て、後ろの車両へと向かった。私は追いかけようとしたが、止めようと思った。

あの様子だと七海は止められなさそうだ。既に禰豆雄がやっているわけだし、触発されていて駄目だと思う。

それに、禰豆雄は一度やってしまうと、もう止まらない。

 

 

私は二人を止めるのを諦め、鬼の頸を斬りに行くことにした。

七海と禰豆雄が暴れているのを止めるのが難しいなら、七海と禰豆雄が暴れる理由そのものを無くした方が早い。もう二人を止めるよりもこっちの方が早いと思ったのだ。

 

 

その時、横から何かが光り、私はその方角を見ると、伊之助が体を起こした。

どうやら炭華の血鬼術によって、魘夢の血鬼術が解けたようだ。ちょうど良いタイミングだ。

 

 

「何じゃこりゃあ!?」

「伊之助、ちょうど良かった。これから鬼の頸を斬りに行くよ」

「ああ!?どういうことだ?」

「詳しい説明は移動しながらするから。炭華、煉獄さん達を起こしておいて。私もなんとか禰豆雄達が列車を全部破壊する前に終わらせておく気だけど、何があっても大丈夫なように保険としてね。....ありがとう」

「おい!壊すって何だ!あいつら、何してんだ!」

「簡潔に言うなら、あの二人がまた暴走しているということなの。そして、私達はこれ以上の被害を出さないために鬼の頸を斬って、七海と禰豆雄が暴れる理由を無くさないといけないの」

 

 

私は伊之助の腕を引っ張り、鬼の頸を斬りに行くことにした。伊之助は困惑している様子だが、早く鬼の頸を斬りに行かないといけないので、私は後で説明するからと言って、炭華に声をかけて煉獄さんと善逸を起こしてもらうように頼んだ。

炭華が頷いたのを確認し、私は炭華にお礼を言ってから向かうが、伊之助が頼んだ時の会話で気になったらしく、質問してきたので、簡単にだが話した。

 

 

そうして鬼の頸がある場所に着き、私はその近くにいた人を気絶させてすぐに前の車両へ運んだ。

既に刺してくるのだと分かっている人を放置するわけにはいかないからね。戻ってくると、伊之助が二つの刀で床を斬りつけ、鬼の頸の骨を露わにしていた。伊之助がそのまま骨を斬ろうとしたが、魘夢が骨を守るように肉体で覆い、攻撃してきたので、私は伊之助を後ろに引っ張り、その攻撃を回避した。

その後、伊之助と連携して鬼の頸を斬った。

 

 

えっ?その説明だけは簡潔すぎないかって?

うん。それくらいで大丈夫だと思う。だって、そんなに苦戦していないからね。伊之助は猪の被り物で血鬼術を上手くかけられないし、私はやはり血鬼術が効かないので、大丈夫なのだ。

それに、攻略方法は既に知っているため、伊之助にそれを話し、多少の抵抗を受けながらも無事に鬼の頸を斬ることができた。

 

 

「みんな、大丈夫?」

「平気よ。むしろスッキリしたわ。久しぶりに思う存分やれたからね。気持ち良く汗をかいたわ」

「そうだな。いやー、いい仕事をしたよ」

「そのようだね......」

 

 

鬼の頸を斬った後、私と伊之助は禰豆雄達のところへ戻った。鬼の頸を斬ったことで、鬼が絶叫して列車は横転してしまった。前の時に私は体を動かすことができず、上手く着地もできなかったが、今回は特に何もないので、怪我をせずに着地できた。伊之助も鬼の肉がクッションになって大丈夫だった。ただ、炭華や七海達がどうなっているのか分からないので、無事を確認するために合流することにした。

幸い、私と伊之助を除く全員が同じ場所にいたので、すぐに見つかることができた。

 

 

私達が着いた時に見たのはスッキリした顔で汗を拭っている七海と禰豆雄にそれをにこにこ笑って見ている炭華、いつもとは違って眉が下がり、疲れているのだと分かる表情をしている煉獄さんとその足元で息切れして寝転がる善逸の姿だった。

 

 

なんとなく察したので、まず最初に怪我はないかと確認すると、七海と禰豆雄は上機嫌で私にそう言った。私はその表情で色々察し、深くは聞かずに苦笑いした。その後、煉獄さんと善逸の方に視線を向けると、煉獄さんは私と伊之助を見て、『無事で何よりだ』と言って安堵していた。ただ、その声がいつもよりも小さいことから、相当疲れているのは分かった。

 

 

「煉獄さんは大丈夫ですか?」

「うむ...。.....大丈夫だと言いたいが、流石に疲れたな!」

「....驚かれましたか」

「目を覚ましたらあの破壊少年が列車を壊そうとしていてな!何が起きているのかは分からなかったが、そのまま放置することなんてできなくてな!それで、止めようとしたのだが、駄目だった!」

 

 

私が煉獄さんに聞くと、煉獄さんは少し悩んだ様子を見せたが、正直にそう言ったので、私は苦笑いした。だが、流石は柱というべきか、すぐに体力が回復したようで、いつものような大声に戻っていた。

 

 

まあ、煉獄さんと善逸は疲れているみたいだけど、怪我はしていない様子だし、たぶん大丈夫だと思う。それなら、乗客の人達の怪我を診ておきたいな。今回は魘夢の頸を斬るのが前の時よりも早かったわけだし。

 

そう思って、私は煉獄さんに乗客の人達の怪我を診に行くと伝えると、快く背中を押してくれた。なので、私が襲撃までは乗客の人達の怪我を診ていた。

 

 

 

 

 

 

 

ズドーーン!!

 

 

 

乗客の人達の応急処置に一通り終えた後、何かが墜落してきたような音がした。その音が聞こえた場所は七海達がいるところの近くだった。

 

 

「.....炭華!善逸!伊之助!えっ!?煉獄さん!?」

 

 

私は襲撃があった場所に向かい、現状の確認をするために戦いを見ている炭華達に声をかけようとして、その中に煉獄さんがいることに驚いた。

猗窩座が現れたのだから、相手は煉獄さんなのだと思っていたが、どうやら違う様子だった。

私が凄く驚いていることに煉獄さんが不審そうな顔をしていた。あまりに予想外だったために、私はかなり動揺していた。

以上に反応しすぎた。なんとか誤魔化さないと...。

 

 

「こ、この鬼の気配って、かなり強いですよね。それなら、煉獄さんが真っ先に相手をするものだと思っていましたので、凄く予想外でしたよ」

「うむ、そうだ!今回の相手は上弦の鬼だ!普通なら、俺が真っ先に前に出て戦うべきであろう!だが、その前に先を越されてしまってな!俺も手を出さないのだ!」

 

 

私がなんとか誤魔化そうとして口に出した。だが、煉獄さんはその言葉で納得した様子で答えた。私はその答えを聞いた時、なんだか嫌な予感がしてきた。何せ、ここで見ている人達の中に七海と禰豆雄がいないし、二人の気配が感じるのはあちらだった。

 

 

「........七海と禰豆雄はどうしました?」

「......上弦の参が現れた時、真っ先に狙われたのが竈門少女だったのだ」

「よりにもよって、どうして正確にそこへ行くかな!それはああなるよ!」

 

 

私が七海と禰豆雄のことを尋ねると、煉獄さんが遠い目をしながらそう告げ、私は天を仰いだ。そして、頭を抱えて大声で叫んでしまった。

嫌な予感は当たった。まったく、どうして炭華のところに行くかな。猗窩座は女性には手を出さないはずでしょう!鬼だから別なの!それとも、鬼舞辻無惨の命令なのかな!どちらにしろ、炭華に手を出した時点でもう弁解の余地がない。

 

あと、やっぱり相手は上弦の参である猗窩座か。

原作では猗窩座と煉獄さんがここで戦い、煉獄さんはその死闘の末に亡くなった。今回も七海と禰豆雄が動かなければ原作と同じ流れになっていただろう。七海と禰豆雄が先に動かなければ。

 

 

私は深呼吸をして落ち着いた後、戦いの方に視線を向けた。ズドンとかそういう音が聞こえる方に。

禰豆雄が刀を振り下げ、猗窩座がそれを避けると、その瞬間に斧を投げ飛ばす。その斧を避けきれないと思ったのか拳で受け止める。その時に衝撃波が生じたが、七海は猗窩座の後ろから近づき、掛け声を上げながら刀を振る。猗窩座は咄嗟に脚で受け止めるが、それによって脚が真っ二つに斬られる。その隙に禰豆雄が斧をまた取り出して投げ、七海は細かく斬り刻もうとして水明霧雨を使ってくる(細かく刻んで)

猗窩座はなんとか脚を再生させ、上へと逃げるが、禰豆雄が刀を投げる。猗窩座の表情は引き攣っているが、それでも応戦する。

 

 

.....七海と禰豆雄は凄いね。鬼を一方的に追い詰めているのだから。

まあ、地面が思いっきり大変なことになっているけどね。禰豆雄の振り下げた刀は地面を裂くように斬っているから、地面には崖のような場所が幾つもできているし、七海は猗窩座を斬ろうと思いっきり踏み込んでいるので、地面を割っている。衝撃波ですらあれこれ吹き飛んでいるのに、これでは被害が大きくなる一方である。

 

 

「それで、煉獄さん達は七海と禰豆雄の被害に遭わないようにここで待機していたということですか」

「うむ、その通りだ!上弦の鬼は絶対に斬らないといけないが、あの中に入っていくのは荷が重くてな!しばらくの間は様子を見ていようと思ってたんだ!」

「なるほど....」

 

 

私は聞いた話と現状を認識した後、煉獄さんに確認してみると、煉獄さんは頷きながら正直にそう言った。

つまり、七海と禰豆雄をどうすればいいのか分からず、無理だと考えて収まるまで待とうということである。

 

私にはその方が良かったので、その考えには賛成である。中途半端に手を出して、状況を悪化させられるよりマシなので、私は特に不満なんてない。

だが、この対応について考えないといけないため、私は腕を組み、少しの間悩んだ。

 

 

「炭華は怪我とかしていない?あの二人の暴走を止めるにはそこが重要だから」

「むー!.....むー....」

「...そう。怪我はないということね。でも、眠いんだね。まあ、仕方がないよ。禰豆雄達を助けようといっぱい血鬼術を使ったからね。ゆっくり休んでいいよ」

 

 

私が炭華に尋ねると、炭華は怪我がないことを伝えようと元気に声を出すが、血鬼術の使い過ぎで体力がなくなった様子で頭が何回か揺れ、目も今にも閉じそうになっていた。

私は炭華の様子を見てすぐにそのことを察し、炭華を寝かしつけようとした。それを見て、善逸が驚いた。

 

 

「ちょっと待って!その前にあの二人を宥めなくていいの!?上弦の参を追い詰めてくれているのはいいけど、俺達まで被害を受けそうだし、このままだと何もできないから!」

「大丈夫だよ。それに、もう止める方法は決まったから」

「えっ!?止める?いや、そうじゃなくて.....」

 

 

善逸の言葉に私は笑顔で答えた。だが、それでは安心できなかったらしく、むしろ顔を真っ青にしていた。

まあ、そうだよね。今は七海と禰豆雄が暴走しているから、このようにのんびりできるけど、それを止めてしまったらどうなるか予想がつかないものね。

けど、私は善逸を無視して七海と禰豆雄に大声でそう言った。

 

 

「七海!禰豆雄!炭華が眠いみたいだから、早く上弦の参の頸を斬って、背負い箱を渡してくれない?」

 

 

私の言葉に二人が反応した。それは確かに私の目で見た。

これで、あの二人も早く終わらせてくれるだろう。炭華が眠たいというと、すぐに終わらせてくれるのではないかという期待がある。あの二人は炭華のことになると、すぐに色々片付けてくれるという信頼があるんだよね。

 

だけど、二人は私の声を聞いて、猗窩座を攻撃するのを止めて私のところに戻って来た。

 

 

「あれ?どうしたの?」

「いや、あいつに全然当たらなくて、斧を当てるとかならできると思うけど、頸を斬るのは時間がかかると思ったんだ」

「なるほどね....。それで、頸を斬るよりも炭華に背負い箱を渡す方を優先したというわけだね。.......そう簡単にいくわけないか...」

 

 

私が二人に声をかけると、禰豆雄が眉間を皺を寄せながらそう言った。

どうやらさっさと終わらせられないと思って、後退してきたみたいだ。

 

まあ、仕方がない。先程も言ったけど、二人の最優先事項は炭華であるため、目の前のことがすぐに終わらせられないと察すると、必ず炭華の方を優先するのだ。

 

 

「というわけで、後は頼んだわよ。彩花」

「あー。それで、私にということなの」

「そうだ。俺と七海は姉さんの近くにいるから」

「うん、分かった。二人は休んでいて。さっきまで休まず戦っていたのだから」

 

 

七海に肩を叩かれ、私は七海と禰豆雄がこちらに来た目的を察した。禰豆雄は少し悔しそうな顔をしながらそう言うので、私は素直に向かうことにした。

この感じの禰豆雄にはあまり刺激しない方がいい。それを知っているから。

 

 

「あの人間?達の次はお前か。見たところ、普通の女のようだが.....」

「選手交代ということですよ」

 

 

近くまで来てすぐに猗窩座は私を見ながらそう言ってきた。猗窩座の言葉に私は苦笑いしながら答えた。

猗窩座にも人間扱いされてないよ、あの二人。

 

 

「言っておくが、俺は弱い奴が嫌いだし、女や子どもは好かん。それより、あの男がいい。あの男、柱だろ」

「そうですね。貴方がやはり煉獄さんと戦いたいと思うのは当然ですし...貴方の事情は知っているので、それをとやかく言うつもりはありません。ですが、これだけは言っておきます。あまり女性を見くびるのは止めた方がいいですよ」

 

 

明らかに私に興味を持たず、煉獄さんと戦いたいと言い出す。その言葉に私は原作のことを思い出し、頷いて納得してしまった。原作通りというわけでないけど、猗窩座は煉獄さんに興味を持ってしまうようだ。

 

 

さらに、猗窩座は女性には手を出さないことも原因だろうけど、私は鬼殺隊の一員として貴方の頸を斬らないといけないからね。女性だからとそういう風に考えないでほしいとかそういう気持ちがあり、私はそのことも口に出し、刀を握った。

 

相手は上弦の参だから、あれを使った方がいい。あれは一番効果がある。

 

 

 

 

「ちょっと!二人とも、彩花ちゃんに任せていいの!」

「なんだ、善逸。今は姉さんを優先した方がいいだろう?」

「しかし、相手は上弦の参だ!生野少女を一人で戦わせるわけにはいかない!止めないでくれないか、怨霊少女!」

「何よ!怨霊って!もうちょっと捻ってよ!」

 

 

善逸がわあわあ喚いているが、禰豆雄は炭華を背負い箱に入れてるし、アタシは煉獄さんを止めるのに忙しくて相手するのは無理よ。煉獄さんがアタシを怨霊少女と呼ぶのも納得いかないわ。もうちょっと別の呼び方があるわよね。

 

アタシはそう不満を漏らした。だが、煉獄さんはあちらに行こうとしてるから、アタシは煉獄さんを押さえる。

今、煉獄さんをあちらに行かせるわけにはいかないわ。何かの拍子で原作通りになる可能性が高いから、ここで大人しくしてほしいのよ。

それに、煉獄さんが助太刀にしなくても、ね.....。

 

 

アタシはため息を吐きながら口を開いた。

 

 

「そもそも、あの鬼は彩花一人で大丈夫よ」

「でも、七海ちゃんと禰豆雄じゃ駄目だったんでしょ!」

「駄目というわけではないのよ」

「そうだ。あの鬼に勝てるが、時間がかかるし、逃げられる可能性が高いから、彩花と交代したわけだ」

 

 

アタシの言葉に善逸はまだ不安そうな表情をしている。ただ、アタシは駄目だったという言葉の方を否定したかった。禰豆雄も同じらしく、不満そうな顔をしてアタシの言葉に同意した。

猗窩座は羅針を使えるから、アタシ達の攻撃が分かるのよ。そのため、それ以上に速く動いたり逃げ場のないくらい多い攻撃をしてきたりしてくるのよね。そのため、厄介な相手であり、決め手を見つけられるのは難しく、いづれ膠着状態になると、原作知識のない禰豆雄ですら分かるくらいだわ。それは引くわよ。

 

 

それで、彩花と交代してきてもらったの。だけど、アタシ達と違って善逸や煉獄さん達は心配しているのは彩花が猗窩座と戦うことにだそうね。アタシ達は別に心配していないわ。

 

だって、彩花はアタシ達より強いわよ。

 

 

「華ノ舞い 雷ノ花 梔子一閃 瞬花」

 

 

彩花がそう呟いた瞬間、上弦の参の頸は後ろへ飛び、彩花の手元に来た。

 

 

『はっ?』

 

 

それを見て、猗窩座は呆気にとられたような声を上げた。それはアタシの周り(炭華と禰豆雄以外)も同様だった。

 

猗窩座も煉獄さんも何が起きているのか分からないわね。だけど、アタシはあの型を知っているから、彩花が何をしたのか分かるわ。

と言っても、彩花がしたことは単純に猗窩座に見えないくらい速く動いて間合いに入り、頸を斬っただけよ。

 

 

彩花はアタシより腕力が弱いけど、総合的な強さだと彩花の方が上手なのよね。前の時とはいえ、彩花は色々変わっていたけど、原作通りの順番で最終決戦まで戦っていたのよ。それに、相手はアタシだけど、上弦の伍を一人で討ち取れる実力があったのは間違いないわ。

それに加えて、今の彩花は透き通る世界を自由に入ることができるようになっていて、あのような感じで普通の型でも使えるようになっているもの。

猗窩座の羅針にも反応されず、猗窩座の頸を斬ることができる。そう確信していたわ。

 

 

「ねえ、聞いてもいいかな。貴方は誰に向けて拳を握っているの?」

「はっ....」

 

 

彩花の質問に猗窩座は目を見開いていた。アタシも少し驚いたけど、彩花がしたいことを察した。

 

彩花、完全に猗窩座に狛治の記憶を取り戻させようとしてるわね。猗窩座の体がいつまでも崩れないところを見ると、原作のように頸の弱点を克服しようとしているのは間違いない。彩花はそれを防ぐためにも記憶を取り戻してもらおうとしているわ。

 

 

まあ彩花のことだから、そういう考えがあるだけではなくて、単純に思い出してもらいたいという思いもあるのでしょうね。

特に猗窩座の過去って、かなり悲しいものなのよ。

病気になった父親のためにスリをしていたが、その父親は自殺してしまうし、慶蔵と恋雪という人物と出会い、恋雪と結婚の約束をするが、慶蔵と恋雪が毒殺され、仇を討って自暴自棄になっていたところを無惨に鬼にされる。

アタシ、これを読んだ時は泣いちゃったわよ。なので、アタシも猗窩座に人間だった頃の記憶を戻してもらうのは賛成よ。

 

こちらの方は任せて。彩花が猗窩座に何か話しかけているのを見て、不審に思って話しかけようとしているのが何人もいるから、そこはアタシがフォローしておかないと。

 

 

「思い出せないかもしれませんけど、待たせているのだけは忘れないでください。きっと待ってくれていると思いますよ」

 

 

彩花はそう言った後、握った拳を猗窩座の頭に当てる。いや、当てると言ってもそっと触れたような感じである。その瞬間、猗窩座の体が崩れた。アタシも彩花もそれに安堵した。

もう戦う必要はないということなのね。

 

 

猗窩座が完全に消滅するまで、彩花はその様子をじっと眺めていた。

まあ、おそらくは見送りね。なんとなく猗窩座が狛治に戻り、婚約者のもとへ、家族のもとへと逝ったとアタシは感じたわ。離れたところから見たアタシがそう感じたのだから、彩花も同じように感じているわね。

 

 

 

空を見上げれば朝日が昇ってきた。アタシは戻ってくる彩花に向けてこう言った。

 

 

お疲れ様、と。

 

 

 

 



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苦労人の少女は変装しながらサポートする

 

 

 

無限列車で猗窩座の頸を斬ってから、数ヶ月が経った。

上弦の参を倒せたということで、鬼殺隊の人達は大喜びであった。猗窩座をこの時期に倒してしまったことで、今後がどうなるか分からない。だが、先のことをずっと悩み続けるわけにはいかないし、時間はいつも通りに流れるわけでもあるので、私は前と変わらずに鍛練したり任務に行ったりという生活をしていた。だが.........。

 

 

「こ、こんにちは!」

「やあ、こんにちは。夏燕花魁。相変わらず可愛らしい人だ。その簪も凄く似合っている。君にその花はぴったりだ」

(そう)さん、今夜は私を買いませんか」

「翠玲花魁か。申し訳ない。せっかくのお誘いだが、僕はそのために来たわけじゃないんだ。あまり時間もないが、少し君達のような女性と話したくてね。君と二人になるのはまたの機会にするよ」

「「こんにちは!」」

「こんにちは。君達は秋鶴花魁の子達だね。ちょうど良かった。今日は飴をたくさん持ってきているんだ。食べきれないから、良かったら手伝ってくれないか」

「本当ですか!」

「ありがとうございます、(そう)さん」

「君達も良かったら食べてみないか」

 

 

現在、私は奏と名乗り、女の子達に囲まれ、一緒に会話をしている。善逸が血の涙を流しそうだと思いながら周りにいる子達に持っている飴を配り、噂などを聞いていく。しばらく会話した後、私は屋敷を出て、人が来ないところまで歩き、そこから屋根の上に跳んだ。

 

 

「報告しに来ました」

「おう。また派手に情報を持ってきたのか」

「派手かどうかは分かりませんが、少し気になることがいくつかありますよ。おそらく関係があると思います」

 

 

私はそこで待っていた相手、宇髄さんに声をかけた。宇髄さんの言葉に私は苦笑いしながらも女の子との会話で気になったことを報告した。

 

....分かる方には遊廓編だと分かると思いますが、これまでの経緯を説明しましょう。

 

 

 

 

 

最初に言うとしたら、上弦の参である猗窩座を撃破してからの数ヶ月間は大変だったのだよ。あの時は七海と禰豆雄に頼まれたし、二人の相手をして消耗した今なら頸を斬れると思い、あそこで倒してしまったけど、その影響を深く考えていなかった。

 

 

私は猗窩座を無限列車で撃破する気がなかったし、その直前までは煉獄さんが死なずにどう追い払うかを考えていた。だけど、七海と禰豆雄によって動揺した様子の猗窩座を見て、絶好の機会ではないかと思ったのだ。

 

勿論、ここで頸を斬ってしまうことで原作と違う展開になるのは分かっていたが、同時にここで倒すことへの利点もあった。だが、現在の私はこの時期に猗窩座の頸を斬って、何か違う展開になったらどうしようと思っている。

まあ、今ではその時はその時と考え直すことにした。影響がどう出るかはその時にならないと分からないからね。

 

 

なので、今は開き直っているので特に問題ないが、大変だったのはそれではない。

何せ、この時期に私が上弦の参である猗窩座の頸を斬ったことで、百余りも変わらなかった状況を変えたので、私の見方が色々変わった。

特に、柱の人達に『お前、強かったの?』という目で見られたことが少しショックだった。

 

 

だが、それも仕方がないことだとは思っている。私の印象って、おそらく七海と禰豆雄の暴走を止められる子というのが強く根づいていて、私のことをそこまで強くないと思う人はいるのだ。

村にいた時も七海と禰豆雄にやられて、その報復して私を狙うという人がいた。あの二人が怖くて、正面に向かっても勝てないと思って、近くにいる私を狙ったのだろうけど、私はそれを受け流して反撃し、信頼できる大人に突き出すという形を取っていくうちに、そういう人もいなくなったけどね。

 

 

最初は話し合いで解決しようとしたけど、全く聞く耳を持たないから、仕方なく私も強いという印象がないと駄目なのかなと考えたのだ。七海と禰豆雄はそういった意味で有名であり、手を出そうという人はいなかったし、炭華に関しても何かあったら七海と禰豆雄を飛んでくるという印象が強いわけで、七海と禰豆雄、炭華には手出ししたら酷い目に合うというのが常識のようになっていた。

それに対して、私は腕力が七海と禰豆雄よりないことを知っている人が多いため、おそらくそれも原因だろう。

ちなみに、私が想像以上に強くて、どうしてこんなに強いのかと聞かれた。村の人達も柱達もあの二人を止めていればそうなると伝えたら納得して、それ以上は聞かれなかったけど。

前の時の話はできないし、強くなった原因の半分はそれもあるのではないかと思っているからね。嘘ではない。

 

 

言っておくけど、前の時に私は上弦の壱から陸まで遭遇している人間だからね。今は違うだろうと思われるかもしれないけど、その経験を糧に鍛練してきたのだ。

中でも、何回も華ノ舞いを練習しているうちに透き通る世界を完全に習得できたのは大きかった。前の時は低い確率で入れるという段階だったが、透き通る世界がどういうものかというのを記憶の中で知っているため、その上に重ねるような感じだった上に、その期間が七年もあったし、透き通る世界に入れる炭治郎(今は炭華)のお父さんの炭十郎さんの教えもあり、私は透き通る世界に自由に入れるようになった。

 

 

えっ?赫刀の方はって?

.....そちらは駄目でした。私の握力では条件に満たないようで、一度も赫刀にすることはできなかった。あの時に赫刀へと変化した時の状況の再現が難しいのだ。

透き通る世界はそれ以前にできてはいたが、赫刀は最終決戦で七海と戦った時に初めてできたことだ。あの時は私の記憶が曖昧で、ただ体の奥が熱いということぐらいしかはっきり覚えていない。

というわけで、赫刀の再現は無理であったため、原作での情報と炭治郎の説明(擬音語ばかりのものを自力で解読したもの)から習得しようとするしかできないのである。

 

 

それと、赫刀ができていないのが原因なのかは分からないが、あの時に使った三つの型もできないのだ。いや、正確に言うと動きは再現できた。だが、威力というか炎の勢いが違うみたいで、あの時と同じものではないのだ。

あの時に起きたことはよく分からないし、戦っていた七海も何故か立ち上がっていて、本当に驚いたと言っていたくらいだから、何かをきっかけに起きたのかは知らない。

なので、この話はあまりに情報がないためにこれ以上は考えても駄目だろうと思うことにした。なんだかモヤモヤしたものが残るけどね。

 

 

話を戻すけど、七海と禰豆雄が目立っていて、その二人のお目付け役に見られていた私が上弦の参を倒せるほどに強いということが分かり、それからは柱と稽古をしたり、任務を受けることになったりした。

だが、七海と禰豆雄の暴走を止めることができないからと呼ばれ、それをきっかけに少なくなった。

 

 

 

 

 

そして、数ヶ月が経ち、いつもの滞在場所として蝶屋敷に戻ろうと歩いている時、玄関の辺りで争う声が聞こえた。私はその声がカナヲやアオイさん、なほちゃん達の声だということに気づいた。

それらの声を聞き、私は遊廓編の始まりなのだと察した。それと同時に、炭華と禰豆雄の声も聞こえ、私はそこから全速力で走り出した。

 

 

私が蝶屋敷に着くと、そこでは禰豆雄が宇髄さんに向けて斧を振り回し、宇髄さんは顔を引き攣らせながら屋根の上を動き回って避けていた。蝶屋敷の中の方では炭華が室内でなほちゃん達を背に庇い、七海はアオイさんを蝶屋敷にまで抱えて運び、禰豆雄の加勢に入ろうとしているところだった。

あー、宇髄さんが危ない。

 

 

「そこまで!七海!禰豆雄!一度その辺で止めておいて!そして、私に事の経緯を教えて!」

 

 

そのことを認識した瞬間、私は呼吸を使って間に入り、この事態はなんとかなった。七海の方を見て、声に出さずとも『原作』と口を動かしたので、七海はすぐに落ち着いた。その後で、七海と禰豆雄、カナヲやアオイさんなどの蝶屋敷の人達、宇髄さんに事情を聞いた。

ちなみに、この順番で話を聞いていて、宇髄さんが最後になったのは禰豆雄との追いかけっこを全力で逃げ回ったことで、息を整える時間が必要であったからだ。

 

 

それにより、宇髄さんは原作や前の時と同様に遊廓へ潜入した三人の妻が行方不明になり、代わりに潜入する人間として蝶屋敷の女の子達を狙ったらしい。

三人の妻のことが心配だとはいえ、蝶屋敷の人達を....特になはちゃん達まだ私達よりも幼い子達を巻き込もうとするのは駄目なので、それについては少し説教をした。

どんな理由があれど、あれは駄目だと思う。

 

 

私が宇髄さんに説教をしていると、帰ってから宇髄さんの話を一緒に聞いていた伊之助が『俺様が代わりに行こうか』と言い、善逸も女の子を危険な目に合わせたくないと同意したことで、私達も遊廓に行くことになった。

説明は既に蝶屋敷で済んでいたわけなので、藤の花の家紋の家に着いてすぐに着替えを渡され、遊廓内に潜入するためにその着物を着るようにと言われた。

渡された着物はほとんど女物であったが、禰豆雄の分だけは男物であった。それについて聞くと、行き先が三ヶ所あるのに対して五人いるから、一人は宇髄さんの補佐をやってもらうことにしたらしい。

 

 

一人はお客をして、宇髄さんと共に情報集めをしてほしいそうだ。私達は女同士ということで同じ場所に行き、その他の場所には善逸と伊之助がそれぞれ行き、お客を禰豆雄がするということらしい。

だが、この配置はおそらく七海と禰豆雄を離れさせるものだろう。だって、七海と禰豆雄という組み合わせで色々な問題を起こしているから、遊廓が大変なことにならないようにと思われるのは当然だろう。私はそう納得していたが、七海は納得していなかったようで、宇髄さんに反対した。

 

 

「お客としての情報集めは彩花の方が適任よ。禰豆雄と交代した方がいいわ。禰豆雄は女装もできるから、それで構わないわね」

「ああ」

 

 

七海が私と禰豆雄を交換するように言い、宇髄さんや善逸達は驚いていた。私は頭を抱えていたが、禰豆雄は七海の言葉に当然という感じで頷くと、そこからは怒涛の流れだった。禰豆雄は宇髄さんを無視し、藤の花の家紋の家の人達に他の着物をいくつか用意してほしいと頼み、七海は私の腕を引っ張り、別の部屋へと連れて行った。宇髄さん達はすっかり唖然としていたし、私はため息を吐きたかった。

......あれをやるのか...。....まあ、特に反論する理由はないからね。

それと、七海と禰豆雄は近くにいた方がいいかもね。何故なら、二人でいる時は相談というものができるので、一人で暴走するよりは少しマシだと感じているのだ。

 

 

 

 

 

宇髄さん達が止める前に二人が動いていたし、藤の花の家紋の家の人達の行動も早かったため、特に問題なく私達の着替えは終わった。

私達が着替えを終え、部屋に戻ってきた時には善逸と伊之助の着替えと化粧も終えていた。二人の格好も化粧も原作通りの酷いものであり、宇髄さんは二人を見て、爆笑していた。善逸はそんな宇髄さんの姿を見て、拳を震わせていた。

だが、襖を開ける音が聞こえると、そちらを見た。その瞬間、最初に声を上げたのは善逸だった。

 

 

「えっ!?炭華ちゃ.....いや、違う!しかも、二人いる!!」

 

 

善逸が声を上げるのも無理はない。部屋に入ってきたのは炭華そっくりの女性である。その女性がなんと二人もいるのだ。それは驚くだろう。だが、炭華ではないと気づけただけでも凄い。おそらく音で分かったのだろうけど。

 

 

「なんだ。七雄と禰豆海じゃねぇか」

「お前ら、妙に慣れてるな。その格好に何度もなってるだろ」

「えっ!?」

 

 

気配に敏感である伊之助と忍びであった宇髄さんは正確に誰なのか分かったようだ。

それにしても、宇髄さんは流石だと思う。そこまで見抜くとは。

 

 

「伊之助、混ざっているわよ。私達は七海と禰豆雄よ」

「宇髄さんも正解ですよ。私達は前から姉さんに手を出そうとする人達がいるから、その人達とお話をするためにやっているのですよ」

「そ、そうか.....」

 

 

七海と禰豆雄の言葉に宇髄さんは目を逸らすしかなかった。なんとなく事情を察したのだろう。

見た目は炭華の格好でも、中身は七海と禰豆雄である。言葉遣いに気をつけて取り繕うとしても、雰囲気は完全に怒っている状態の七海と禰豆雄であるためにどうしても怖いのだ。善逸は引いているし、伊之助もなんとなく嫌な予感がするのか近寄らないようだ。

 

 

「.....ねえ。そういえば、七海ちゃんと禰豆雄を案内してきた君は誰なの?さっきからそこにいるけど」

「こいつらのことが気になったから、無視をしてたが、いつまでいるんだ。もしかして、この二人に惚れてんのか。なら、こいつらは止めた方がいいと分かっただろ。お前、なかなか良い顔してるから、他に良い女がやって来ると思うぜ。まあ、俺様と比べたら地味な顔をしてるがな」

 

 

善逸が話を深掘りしない方がいいと思い、話を変えてきた。宇髄さんも七海と禰豆雄を案内した男に視線を向けた。宇髄さんは男を見ながら七海と禰豆雄に惚れて、失恋したのだろうと思い、慰めの言葉を贈った。最後の方のドヤ顔が少し気になるけど、そこは気にしていない。

 

男は肩につかないくらいの長さのさらさらな髪が風に靡き、黒に近い灰色の着物を紺青色の帯で締め、上に藍色の羽織を身につけていた。男は切れ長目でこちらを見つめた後、口角を少し上げて微笑んだ。

 

 

「ああ。私ですよ。私、彩花です」

「「「....はっ?」」」

 

 

私が声に出すと、善逸達は声を揃えて驚き、こちらを見た。どうやら気づいていない様子だったので、声をかけてみたら今度は困惑していた。

男だと思っていた相手から私だと言っているのだから、当然といえばそうであろう。

 

 

「はあ?お前、生野か!?」

「気配だって、全然違うぜ...」

「えっ?いや、その声!どうしたの!」

 

 

宇髄さんと伊之助は唖然とした様子で呟き、善逸は困惑しながら私に話しかけてくる。

しかも、その人物の声が普段よりも低くなっているのだから、ますます混乱するだろう。

 

 

「声のことも含めて、色々あるから順番に説明していきますよ」

「ホントに何があったか気にはなる。お前ら三人ともその格好に慣れてるようだからな」

 

 

私が説明しようと座布団の上に座ると、宇髄さんも座り直し、聞く体勢になった。

 

 

 

七海と禰豆雄が炭華に変装できる時点で察しているかもしれませんけど、あの二人は炭華に告白しようとする人達を自ら追い払っていました。炭華の評判は良く、かなり有名でしたので、炭華への求婚者が多かったのですよ。

 

 

まあ、それくらい七海の化粧技術が凄かったのですけどね。本人曰く、禰豆雄は姉弟であるために顔立ちが似ていて、とてもやりやすいらしい。

だが、七海は化粧がとても上手くて、それは本物の炭華と比べて見抜くのが難しい(見慣れている私と竈門家の人達は勘で気づける)ので、炭華も七海と禰豆雄のように暴走することがあるのではないかと一時期噂になったこともあったのです。

その噂を村の人達の中には信じない人が大半ですが(というか、七海と禰豆雄の仕業だと分かる)、村の外の人達はそうではない。鵜呑みにしてしまい、それが村の外にも伝わろうとしたところにまで発展した。なんとか村の人達が誤解を解いてくれたのだが、このままだと炭華の風評被害が酷くなると思い、七海と禰豆雄にもそのような噂があると伝えたが......。

 

 

『はっ?そんな噂を広めたのは誰?何も分かってないよね?姉さんがそんなことをするわけないに決まってるのに、そんな罰当たりな人がいるなんてね。だって、姉さんは天使だよ。比べることすらとんでもないのに、天罰を受けたいそうだな』

『なんでそんなのも分からないのかしら?少し考えれば分かることなのに、炭華に何ていう誤解をしてるのよ!』

『いや、これは二人が原因だから』

 

 

それで、私は炭華に対する誤解が無くなるようにしようと思い、必死に考えてみた。私は炭華への風評被害をなんとかしたい、七海と禰豆雄はそれを踏まえた上で炭華への求婚を阻止したいと思っている。求婚の件は邪魔しなくていいと思うが、あの二人にとってはこれも重要なことらしい。本当に譲らないので、私はそちらも考えないといけなかった。だが、答えはすぐに見つけられた。

 

 

求婚を止めてもらう手っ取り早い方法として、恋人がいるということにしておいた方がいいと思った。その方がすぐに諦めると思うし、仮に諦めきれないという人がいても、その時は付け入る隙がないという感じを見せればいいと思った。大抵の人はそれで諦めると考えたために、私はそのような提案をした。

私の言葉に二人は効果がありそうだと認めたが、その偽彼氏役を誰がやるかで悩んだ。

その結果、私が男装を始めることになった。

 

 

なんで?と思う方がいると思うし、私もなんでだろうと思うよ。七海と禰豆雄はどうやら交代で炭華に変装しているので、残った私がその役をするのだと言われた。

私は男装する気がなく、やってもバレるのではないかと不安に思っている。でも、発案者であるため、責任をとらないといけないとも思い、ここまでやってきた。

毎回ヒヤヒヤしたけど、私だとバレていないようだった。

 

 

ちなみに、炭華はこの騒動について何も知らない。七海と禰豆雄は表に出ないようにしていたし、私も噂は知らせない方がいいと思っていたので、炭華は今回のことを全く知らない。

なので、申し訳ないと思っている。勝手に恋人がいるということにしているのは炭華に土下座したいくらいに謝りたい。

勝手に恋人がいるようにしているだけでも申し訳ないのに、あんな人を恋人にするなんて変な趣味をしていると言われたら駄目だと思い、かなり徹底した。

悪評に流されず、好青年に見えるようにしようと思い、言動を意識していたので、良い人を恋人にしたのだなと言われている。私はそれに安堵すると同時に、それによって求婚者が減ったことを喜ぶべきか悲しむべきか頭を悩ませた。

 

 

「それで、今の僕の格好はほとんど七海が選んでくれているんだ。村にいた時、この格好をしていたが、誰も彩花だとはバレなかった。七海は凄いな。眉毛を直線的にしたり、目を細長く見えるようにしたりして、化粧だけでみんなの目を騙せるから」

「いや、お前もその擬態が凄えから。口調も変わってるし、声まで低くなってねえか」

「まあな。僕が彩花だとバレたらいけないから、なるべく彩花としての特徴を減らしておこうと思ってな。声は薬(害のない)で低くしているから、これで女だとはバレないはずだ。それとだ。こっちでの僕は奏と名乗ってるんだ。あまり間違えないよう、気をつけてほしい」

「凄え徹底してるな。まさかその髪も...」

「ああ、これか。この鬘は僕の髪の毛から作ったものだ。保管もきちんとしていた。だから、誰にも気づかれないようにはしている」

 

 

私が宇髄さん達の驚いた表情を見ながら七海の化粧技術に関心していると、宇髄さんが顔を引き攣らせながら私に聞いた。私はそれを自慢げに答え、自分が色々してきたことを話した。

 

 

薬は偶然の産物で近いものができていたため、それを改良して完成させた。

鬘は私の頭の形に紙で型を作り、その型にのりを塗り、私の抜けた髪の毛を貼り付けた。

のりは現代のものがまだできていないので、この時代にある「でんぷんのり」というのを使うことにした。「でんぷんのり」は米や花などをお湯で煮てできる粘り気のあるもののことである。

まあ、当時の私達は裕福でないし、米などの食べ物は大切なものであるため、自らの手で花を使って作っていた。

 

一番苦労したのはどんな髪型の鬘にするかで、それは七海と相談しながら作り、鬘の髪の長さを短く整えたり、前髪を目にかかりそうなくらい長くしながらもその髪が目に当たらないようにしたり、鬘の髪で耳が見えなくならないように髪の毛の量を調整したりした。

おかげで、この鬘に凄い愛着があり、鬼殺隊に入ってからも背負い箱の中に入れ、持ち歩いている。

 

 

 

「まあ、彩花だからな。やるなら、徹底的にやるよな」

「彩花って、そういうところを意識するし、妙に頑張ったりこだわったりしてしまうところがあるからね」

「.....?ああ、この姿の時は『(そう)』と名乗っているから、見かけたら奏と呼んでほしい」

 

 

禰豆雄と七海の言葉に私は頸を傾げたが、周りは全員頷いていた。私はそれを疑問に思ったが、それよりも伝えておこうと思ったことがあり、そちらを言うことにした。

 

 

ちなみに、『(そう)』という名前ができた経緯は『彩花』の『花』を分解すると、草かんむりと化になり、化けた後に残るのは『草』で、それを音読みして『ソウ』と読み、『ソウ』と読む別の漢字を宛てたことで、『(そう)』となったのだ。

 

 

 

ということがあったが、私達は吉原遊廓に潜入できた。七海と禰豆雄は姉妹という設定で最初に売られ、善逸と伊之助も原作通りに売られていった。私はお客としてあちこちの遊廓を回って情報を集めながらも本命の三ヶ所に赴き、お菓子を渡す時とかに情報交換する。

まあ、その場に長くいたら怪しまれるので、二、三言だけ話すくらいにしている。なるべく、聞かれても大丈夫そうな言い回しをしている(伊之助の時は紙を使った字で確認するという形である)ので、問題ないと思っている。

 

ただ、毎回訪れる場所がときと屋となっているのには宇髄さんの意図を感じる。何せ、ときと屋は七海と禰豆雄がいる場所だから。何か問題を起こす前に私に止めてもらおうとしているのは分かるけど、その必要はないと思っている。二人が暴走するのは炭華が関わることであり、その炭華は別の安全な場所にいるのだから、大丈夫であろう。

 

 

まあ、炭華に会えないとストレスを溜めることもあると思うので、こっそり二人のいるところに私が炭華の入った背負い箱を持って忍び込み、炭華と会える時間を設けている。鬼に見られる可能性があるので、そこは警戒しているけど、今のところは問題ない。

予想外だったのは奏が毎回花魁に話しかけられたり、誘われたりするようになったことだ。おかげで色々な噂を聞くことができたが、目立っているよね。

 

 

私はそろそろ鬼が動くだろうと思いながら原作の流れを思い出し、少し不安になった。

私達の人数の多さから一ヶ所に集まることは無くなった。まあ、昼間にやっているとはいえ、バレてしまう危険性があると感じていたので、そこは良かったと言ったら良かったが、これでは異変に気づくのに時間がかかってしまうのではないかとも思う。

 

 

私はどうしようかと思い悩みながら京極屋に行き、そこにいる善逸の報告を聞こうと周りを見渡していると、ある声が聞こえた。その声は善逸の声だ。しかも、切羽詰まっているような感じがするし、なんだか嫌な予感もしてくる。

私は近くにいる女性へ何か物音がすると言い、その部屋の近くまで行った。すると、そこで見えたのは泣いている女の子を庇い、蕨姫花魁...上弦の陸である堕姫と対峙する善逸の姿が見えた。

それを見て、私は原作のような状況になっているのだと察した。

 

 

「おや、確か貴女は蕨姫花魁でしたね」

 

 

このままだと原作のように善逸が堕姫の腕を掴み、堕姫がそれを怒って吹き飛ばすだろう。その時に善逸が受け身を取ってしまい、堕姫に鬼殺隊だとバレて捕まるのである。今はまさにその時なのだろうから、なんとかして防ぎたい。

そう思い、私は奏として話しかけた。客として、まだ会ったことのない美しい女性に会い、静かにそのことを喜ぶ男性として対応する。緊張するが、私は心の中で何度も言い聞かした。

 

 

「初めまして。こんなところまで来てしまい、申し訳ありません。何やら声が聞こえてきたので、問題でも起きたのかと思い、ここまで来てしまいました。御気分を害してしまったようで」

「あら、ここで働いている人間ではないのね。悪いけど、アタシは気分が悪いの。今は相手をする気もないわ」

「そうですね。貴女のような美しい方とも話せるだけで幸運ですので。それ以上は求めません。.....君達、すぐにそこから出た方がいいよ。この方がゆっくり休めないから。君達もいつまでもそこに立ち続けているわけにはいかないだろう」

 

 

私は堕姫に頭を下げて挨拶すると、堕姫は一応客が目の前にいるということでその対応をしてくる。私は堕姫に客として対応してくれることに少し安堵したが、気を抜かずに話しかける。堕姫はどうやら客である私と話す気がないらしいので、程良いタイミングで話を終わらせ、さりげなく善逸と女の子を部屋から出すことに成功した。

私という客が出てきたから

 

 

「随分と丁寧に接するのね」

「僕は全ての女性には手を上げず、優しく接するというのをモットーにしています。そのため、どんな人であろうとも女性なら紳士的に対応すると決めているのですよ。...貴女様とも、またお会いしたいと思っています。いえ、一目でも見ることができたらと願っていますよ」

「まあ、気が向いたらね」

「それでは」

 

 

堕姫に対して私は頭を下げながら正直に答えた。これは間違いではない。少なくとも『奏』である私の設定上ではこの対応が正しいのだ。奏は誰にも優しく、丁寧な対応をし、特に女の子には紳士的な態度で接している。

遊廓であるため、『仕事はきちんとしていて、あまり長居しない。仕事が空いた時間にここへ来て、花魁達と話すことで疲れを癒している。短い時間であちこちに行くが、頻繁に来てくれるし、お菓子なども』

 

どうやら私が女性だとバレてないようだ。

もし堕姫と遭遇してしまったらと考え、毎日香水をつけていたことが幸いした。ちなみに、この香水は私の手作りであり、何処かで目をつけられた時のことも考え、毎回違う香水をつけてきた。その結果、花魁などの女性達に大人気である。

 

 

「大丈夫かい?ここなら落ち着けると思う。怪我は....頬、か...。とりあえず手拭いで顔を拭いた方がいいな。その頬もすぐに冷やした方がいい。この氷で冷やそうな。金平糖はその後でゆっくり食べていいからな。量が多かったり、他の子達にも渡したかったりしたら配っていい。とりあえずこれで少しは時間ができると思うよ」

「あ...ありがとうございます....」

 

 

私は外に出た後、すぐに女の子が怪我をしていないかの確認をした。怪我は赤くなった頬くらいだと分かり、その手当てをしてくるようにと言い、氷の入った透明な袋を渡した。それと、金平糖も渡した。これで少しは元気になってほしいし、また堕姫に目をつけられる前に誰かが保護してほしいと思って渡してみると、女の子は金平糖をぎゅっと握り、何度も頭を下げながらお礼を言い、宿に戻っていた。私は手を振り、女の子が見えなくなるまで腕を下ろさなかった。

 

 

 

「善子。流石にあれは危険だよ」

「ごめん、分かってるよ。だけど.....」

「女の子が泣いているからであっても、さらに刺激してしまうのは駄目だ。善子も力の差は分かっているだろう。あの女性は善子を一瞬で吹き飛ばすことのできる。もしかしたら善子だけでなく、あの女の子も一緒に巻き込まれていたからしれないんだよ」

 

 

腕を下ろした後、私は振り返り、善逸に声をかけた。善子と呼ぶのは念のためである。いくら外にいるからと言っても、周りには普通の人達がいる。その人達が噂でも流し、その噂が鬼の耳にでも届いてしまったのなら、せっかく誤魔化した意味がない。なので、私も口調を奏の時のままにしている。

 

私の考えを知らないのか、善逸は私の言葉に少し不満そうだった。だから、私は指摘することにした。善逸の気持ちは分かるが、原作でやったあの行動は危険すぎる。原作では生き残れたが、下手したら善逸自身も近くにいたあの女の子も亡くなっていた可能性もある。

善逸は私の指摘を聞き、顔を青ざめた。女の子に危険が及ぶ可能性があったと知り、後悔しているようだ。

 

 

「.....ごめん」

「反省したならそれでいいよ。だけど、次からはあの女性に反論するとかではなく、あの女の子を部屋から連れ出すの方がいいと思うよ」

 

 

善逸の謝罪に私はそう伝えた。私はそれを見て、もう二度と同じことはしないだろうと思った。ただ、女の子を助けようとしたのは責めることではないと思うので、別の解決策を話しておいた。

あの様子だと、他の子にも同じことをしそうだからね。善逸はそれを無視するなんてできないと思うし。

あと、警戒をするようにも言った方がいいかな。

 

 

「それと、今回のことであの女性に目をつけられると思うから、気をつけた方がいい。僕は一応今回の件を話しに行っておくけど、それまでは気をつけていきなさい」

「.....助けてくださらないの」

「それまでは我慢しようか」

 

 

私の言葉に善逸は顔を真っ青に...いや、それを通り越して真っ白になっていた。だが、ここで善逸を逃がしたら大騒ぎになるので、心を鬼にして善逸に我慢するようにと言った。その瞬間、善逸が叫ぼうとしたので、その前に私は善逸の口を塞いだ。

 

 

 

 

宇髄さんに京極屋でのことを話すと、本当に鬼が京極屋にいるかどうか調べてくると言って去っていた。私はその背中を眺めながら次の行動に出た。

というか、京極屋の件がなかったらやるはずだったのだけどね。そのために、私はときと屋に向かった。そこで、七海と禰豆雄を呼び、京極屋での出来事を話し、その鬼が鯉夏花魁を狙う可能性があるから、護衛するようにと頼んだ。

 

 

情報を集める人間が増えたことで、多くの情報がすぐに手に入った。そのおかげで、いなくなった女性の共通点を見つけることができたのだ。

見た目の美しい女性であり、尚且つそういった女性は身請けされる前に行方不明になることが多いのだと知り、身請けが近い鯉夏花魁は狙われる可能性が高いと考え、二人に警護してもらうことになったのである。

 

 

運が良く、あの二人は双子の姉妹という設定の所為か、鯉夏花魁に凄く気にかけてもらっているし、あの二人は強いため、二人に任せれば安全だというのが宇髄さんの判断である。私も鯉夏花魁を護れるどころか倒せそうな気がするんだよね。宇髄さんがあの二人のやる気を出すためにと炭華の入った背負い箱をしばらく預けることになり、二人は凄く機嫌が良い。だけど、私は嫌な予感がしていた。勝てるとは思っているけど、なんだか別の問題が起きそうな気がしていた。

それでも私は別のことを頼まれていて、これから元の姿に戻らないといけないので、不安を感じたままときと屋を去った。

そう。不安に感じてはいたけど.....。

 

 

「やっぱり大当たり」

「お兄ちゃぁぁぁん!」

「オイ!なんだぁぁ、この化け物はぁ!」

「七海。あのカマキリをやれ」

「嫌よ。禰豆雄がやりなよ。アタシは禰豆雄があの鬼を斬るまでの間、ちょっとあの子とお話をしたいわ」

「うわあああぁぁぁぁん!」

「妹に手を出すなぁ!」

 

 

上弦の陸は堕姫と妓夫太郎の二人で一つの鬼であり、原作では堕姫の頸が斬られたことにより、妓夫太郎が堕姫の中から出てきたのだ。それで、目の前で妓夫太郎が泣き叫ぶ堕姫を背に庇いながら七海と禰豆雄と戦っていることを考えると、堕姫の頸は一度斬られたのは確かだろう。

ただ、一番気になるのは七海と禰豆雄がどうして暴走状態になっているのかということだ。

もうこれまでの件から分かると思うが、現在あの二人は完全に暴走している。妓夫太郎もあの二人を相手にするのは厳しいようで、余裕はなさそうだ。禰豆雄と七海は妓夫太郎というより、堕姫の方を狙っているようで、堕姫はそれに怯えて大泣きし、妓夫太郎はそんな堕姫を守ろうとしている。

 

 

私は男装から隊服に着替えた後、人質の解放や周りにいる人達の避難の方に行っていて、詳しい状況は知らない。だけど、堕姫が七海と禰豆雄に(炭華関連の)何かをしたというのは分かる。

具体的に何をしたのかというのは本当に分からないけど...知りたいような、知りたくないような......。

 

 

「あれ?敵って....どっち?」

 

 

私と同様にこの状況を見た宇髄さんはそう呟いた。宇髄さんの言葉に私は何も言えなかった。だって、事情を知らない人が見れば七海と禰豆雄が妓夫太郎と堕姫を襲っているようにしか見えないからね。

堕姫と妓夫太郎との戦いが予想されるからとすぐに避難させていたので、この状況を私達以外に誰も見ていなかったのは良かったと思った。

 

 

「おい。なんとかできないか、生野」

「......そのためにも詳細を知る必要があります」

 

 

宇髄さんが私に困って声をかけてくるため、私は動くことにした。こんな状態でも上弦の陸を追い詰めているので、どうしようかと思っていたが、建物への被害が凄いし、止めた方がいい。

 

 

「七海。禰豆雄。一度落ち着いて。そのまま戦っていていいから、一体何があったのかを説明して」

「....ああ、彩花。あの女の鬼が姉さんにあれと言って......ああ!今思い出しても...」

「分かったから。それだけ言えば十分だから、もう話さなくても大丈夫」

「いや、分かんねぇよ!俺にも分かるように話せ」

「おそらくあの女性の鬼が炭華に『醜い』とか『醜女』とかそういう風なことを言い、七海と禰豆雄がそのことに怒っているのだと思います」

「.....悪口も駄目なのかよ....」

「駄目ですね」

 

 

私が二人に事情を聞くと、禰豆雄が答えてくれた。

暴走したら止めるのは大変なんだけど、暴走したままでもいいから説明してほしいと頼むと、何故かそれだけは答えてくれるのだよね。邪魔はしないみたいだから、それでいいという感じなのかな。

ただその時のことを思い出してもらうために、話している最中にさらに暴走し出すことになる。なので、普段は一度落ち着かせてから話を聞いている。

 

 

今回は周りの被害が建物ぐらいで、相手が上弦の陸であるため、大丈夫かなと思った。だが、その建物の被害がますます酷くなっているため、これ以上は聞くのを止めた。大方の状況はなんとなく察したこともあるし、宇髄さんは分からないかもしれないので、そこは私が説明して納得してもらった。

 

宇髄さんに悪口を言っても暴走するのかと呟いていたので、私は肯定した。事実、あの二人は炭華に悪口を言えばその人を叩きのめしに行くからね。

よりにもよって、炭華にその言葉を使うかな!炭華を二人のそばにいてもらうのは止めておいた方が良かったかも......うん?

 

 

「そういえば炭華は何処にいるの?」

「炭華は鯉夏花魁を連れて避難しているわ」

「それは良かった。鯉夏花魁も炭華もここから離れているのね」

 

 

私は炭華の姿が見当たらないことに気づき、七海に聞いてみると、七海は刀で妓夫太郎の鎌と堕姫の帯を斬ったり弾いたりしながら教えてくれた。

やっぱり七海と禰豆雄が炭華をここから離したみたいだ。まあ、あの二人が炭華を危険な場所に置いておくわけないので、当然と言えば当然である。

 

 

「...よし。毒を喰らったなぁぁ!これで.....」

 

 

妓夫太郎の声を聞き、私は七海と禰豆雄を見た。七海と禰豆雄の腕に薄ら傷ができている。私と話していたことが原因ね。

妓夫太郎は七海と禰豆雄に傷をつけたことで安堵しているようだ。妓夫太郎の鎌には猛毒があるのだ。そのため、傷をつければ猛毒が体中に回るようになっている。

 

 

私は七海と禰豆雄と話したことで二人に傷ができてしまったことに罪悪感を覚えた。だが....。

 

 

「それで、これからどうするの?」

「七海、辛いなら休んでいなよ。まだまだやれるから」

「嫌よ。アタシがやるから、禰豆雄こそ休んでなさい」

 

 

七海と禰豆雄は妓夫太郎と堕姫を挑発したり、互いに喧嘩したりと元気そうな様子だった。毒を喰らっていないというような感じで、妓夫太郎は困惑しているようだ。堕姫も混乱していて、宇髄さんも詳細が分からないが、何かあったのだということは察したらしく、私に視線を向けてくる。

一方で、私は頭を抱え、大声で叫びたくて仕方がなかった。あの二人に何が起き、どうしてそれが起きたのかを知っているので。

 

 

「オメェら、毒を喰らったよなァ!なんでそんなピンピンしてるんだァ!」

「こんな毒、全然平気よ」

「そうだ。彩花の殺虫剤よりもマシだ」

「はあ?殺虫剤?」

「おい、生野?」

 

 

妓夫太郎があり得ないという顔で二人に聞くと、七海も禰豆雄も普通に答えてくるので、堕姫も妓夫太郎もさらに混乱していた。特に、殺虫剤よりもマシと言われたことには理解が追いつけず、唖然としているように見えた。

宇髄さんは私のことを心配しているように見えるが、目では説明を求めているのだと分かる。私は観念して話すことにした。

 

 

「三、四年前くらいに村の人達に頼まれた殺虫剤を作り、殺虫剤が完成した後は瓶に詰めていたのですけど、それを七海と禰豆雄が気になって舐めてしまったのですよね。

いや、これは私の所為でもあります。瓶に詰めていた殺虫剤はできたばかりの時は粘り気があり、水飴にも見えていたのですよ。

放置していくうちに常温で温められ、殺虫剤の粘り気は消えていくのですが、その前に七海と禰豆雄が水飴だと食べてしまったというわけなのです」

 

 

私は簡潔に七海と禰豆雄が言う殺虫剤の経緯を説明した。より詳しくその時のことを私達以外の人を加えて順番に説明すると.....。

 

 

まず、私が殺虫剤を完成させて瓶の中に入れ、粘り気が無くなるまでは放置していた。殺虫剤でも毒が使われているものなので、誰かが触らないように(特に竈門家の幼い子達が触らないように)箪笥の上に置いていた。

その後、私は食事の手伝いとして炭華と一緒に山菜を採りに出かけていた。その間に炭華や禰豆雄よりも年下の子達(竹雄、花子、茂)が箪笥の上に置いてある殺虫剤の入った瓶を見つけた。

しかも、運が悪いことに箪笥の上に光が差し出され、その光を浴びた瓶に入った液体(殺虫剤)が光り出したことで、その殺虫剤を欲しいと言い出したみたい。私も殺虫剤に興味を示されるのは予想外だった。後で聞いたところ、どうやら偶然が重なり、瓶の中が万華鏡のような感じになっていたらしく、とても綺麗だったそうだ。

 

 

危険物であったために、瓶に危険と書いた(振り仮名もつけていた)紙を貼っていたが、竹雄達がその瓶の中を見ようと動かした時に外れてしまったらしい。七海と禰豆雄が近くに来た時に竹雄達は瓶を取ってほしいと頼み、二人はこの瓶が何か分からず、渡す前に調べることにしたそうで、中に液体で入っていることに気づき、特に匂いもなく、粘り気はある液体を舐めてみたようだ。

 

 

私と炭華が帰って来たのがその直後で、帰って来たら凄い音が聞こえたと驚き、その音が聞こえる方に向かったら七海と禰豆雄が倒れていた。その上で、二人の近くに私の作った殺虫剤が落ちていたのだから、何が起きたのかはすぐに察することができた。対処が早くできたため、二人とも命に別状はなかったけど、何故か二人の体は前よりも丈夫になった。何でかは私も知らないし、むしろ教えてほしい。

 

 

ちなみに、この事件が起きてから、私は薬を常温で置く必要がある時にはみんなに声をかけるようになり、竹雄達も勝手に瓶に触らないようになった。

......懐かしい話ね。

 

 

 

と懐かしんでいる場合じゃないね。確かに、こういう経緯で七海と禰豆雄が何故か頑丈になったけど、ここまでとは思わなかった。妓夫太郎の毒を喰らっても平然としているなんて、どれほど丈夫になったのかと私も聞きたい。

 

 

「....つまり、俺はもう理解するのを諦めた方がいいってことか」

「それはご自身の判断にお任せしますよ。それより、早くこの戦いを終わらせた方がいいと思います」

「いや、アイツらだけで解決しそうだが...。.....まあ、その代わりに吉原遊廓が崩壊するがな」

 

 

こうして、私達も参戦することになった。妓夫太郎の相手を七海と禰豆雄と宇髄さんが、堕姫の相手を私と善逸と伊之助がすることになった。

このように分かれた理由は堕姫の相手を七海と禰豆雄がやれば別の意味で時間がかかるし、被害も拡大することになると思ったからだ。

...どういうことなのかは察してください....。

 

 

戦いは私達の勝利です。あれこれ起きていたが、戦いの内容は要約すると、七海達の方では妓夫太郎の鎌を使った猛攻を七海と禰豆雄とサポートする宇髄さんによって持っていた鎌を止めたり、腕ごと斬ったりとして動けない状況にしたそうだ。堕姫は泣きながら血鬼術を使ってくるので、こちらはとても申し訳ない気持ちになりながら刀を振り、そうして両方の頸が斬れた。

 

 

戦いが終わった後、七海と禰豆雄が堕姫と話し合いをしたいと言い、堕姫を探しに行ったので、私はそれを追いかけた。

あの二人は平気そうでも妓夫太郎の毒を喰らっているので、私は二人を休めようとしていたのに、何故か私も探索を手伝わされることになり、個別行動になってしまった。

 

 

私はため息を吐きながら七海と禰豆雄と妓夫太郎と堕姫を探していると、言い争う声が聞こえた。私はこの声を聞き、すぐに妓夫太郎と堕姫だと気づいた。

私は七海と禰豆雄を探すか、ここで二人の鬼の様子を見るかで悩んだが、ここにいた方が七海と禰豆雄にも会えそうだからと思い、二人の様子を見ようと近づいた時、女性の声が私の耳に入った。

 

 

「アンタみたいに醜い奴がアタシの兄妹なわけないわ!!」

 

 

この堕姫の言葉を聞き、もうそこまで進んでいるのかと驚くと同時に、急いで止めないとと思い、覗くつもりでゆっくり近づくのを止めて走り出した。

 

 

「お前さえいなけりゃ俺の人生はもっと違ってた。お前なんか「そこまで」」

 

 

私は声を上げ、強制的に妓夫太郎の言葉を遮った。私はそのことに安堵し、乱れ出していた心臓を落ち着かす。

展開が早くて、本当にぎりぎりだった。

 

 

「本当はそんなことを思っていないって分かるよ。貴方達はお互いのことを大切に思っている。そうじゃないと、背に庇いながら守ろうとしないし、泣きながらも戦おうとしないよ。敵である私が言うのもおかしいけど、貴方達は凄いよ」

 

 

私は正直に思ったことを伝えた。戦っている最中、私は妓夫太郎と堕姫が七海と禰豆雄に怯えながらも必死に戦っている姿を見て、本当にお互いを大切に思っているのだなと感じた。逃げずに立ち向かうのは自分が逃げれば相手がそちらに行くのを分かっているからだ。

 

 

妓夫太郎はここで七海と禰豆雄を止めないと堕姫が危ないと知っていたし、堕姫も自分のために七海と禰豆雄と戦っているのだと分かっているから、これ以上兄さん負担にならないように泣きながらも私達と戦っていた。

時々妓夫太郎に助けを求めていたけど、それでも妓夫太郎が危ない時は血鬼術の帯で助けようとしていたし。

 

 

死にたくないし、認めたくないと思って出した二人の言葉は本音なんかじゃない。それは(原作の知識と前の時のことも踏まえているが)この戦いの時しか知らない私にも分かった。

それなら二人も分かるのではないかとも思うが、一度出してしまった言葉は取り消せない。そのことで仲直りしないと、いつまでも付き纏うことになる。だから、ここで仲直りしてほしい。

 

 

「あっ!彩花、ここにいた!」

「禰豆雄。七海。ちょっと待って」

「見て!炭華がアタシ達の怪我を治してくれたのよ!」

「.....良かった...」

「でしょう」

 

 

私がそう考えていた時、禰豆雄の声が聞こえ、堕姫達がここにいるのだとバレると思って二人を止めようとしたが、七海の上機嫌な様子を見て転びそうになった。

七海の言葉と禰豆雄が嬉しそうに炭華の手を引いているのを見て、炭華が七海と禰豆雄の毒を治してくれたことで、堕姫への怒りが完全に収まったようだ。私はそれに安堵したが、少し呆れてしまった。

まあ、それがあの二人らしいのだけどね。

 

 

その後は七海と禰豆雄による炭華の自慢話が始まった。私はいつものことだったので、相槌を打ちながらも話を聞きながら妓夫太郎と堕姫の様子を見ていた。

消滅しようとしている時に騒がしくしてしまい、それを申し訳なく思っていたが、ここで予想外のことが起きてしまった。それは堕姫が参戦してしまい、禰豆雄との兄姉自慢大会が始まってしまったのだ。

 

 

「お兄ちゃんはすっごく強くて、優しいんだから!昔からアタシのことを可愛がってくれて、食べ物も渡してくれるんだもん!アタシが困ってる時だって必ず駆けつけてくれるのよ!」

「姉さんはな! 滅茶苦茶綺麗だし、どんな表情をしても可愛くて天使だし、知らない人にも優しいし、料理も上手い!」

「そうよそうよ!村の男達はみんな炭華を見て、顔を真っ赤にしているのよ!既に婚約していたり、結婚したりしている人も炭華にデレデレしているわ!」

「あんな奴らの言葉より、お兄ちゃんがいっぱい褒めてくれるのよ!お兄ちゃんの方が勝ってるもん!」

「凄く思われているね」

「........」

 

 

堕姫と禰豆雄がそれぞれの兄と姉の良いところを言い合い、七海は炭華側につき、禰豆雄の言葉に同意する。私達は遠くから言い争う堕姫と禰豆雄達を見て、妓夫太郎に声をかける。妓夫太郎は堕姫に褒められ、顔を真っ赤にして照れている。

この様子だと、仲直りできたということになるね。

 

ちなみに、炭華は隣で微笑みながら禰豆雄達を見ている。私もみんなの様子を微笑ましく思っていた。

それは良かったのだが.....。

 

 

「彩花!姉さんの方がいいよな!」

「アンタ、お兄ちゃんをさっき褒めてたよね!お兄ちゃんの方が凄いでしょ!」

「いや、彩花は炭華の方を支持するわ!」

 

 

お願いだから、私を巻き込まないでほしい....。

 

 

 

その後も完全に消滅するまで三人の言い合いは終わることがなかった。七海と禰豆雄は言い足りない様子だったが、私は絡まれ出して困っていたので、不満そうな二人を見ながら安堵した。

 

 

 

 

 



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苦労人の少女は徹夜続きである



こんにちは。今日は遅くなって申し訳ありません。最近、体調を崩していまして、今回の投稿に遅れてしまいました。
確認をしていないので、足りないところがあり、少し修正もしていくかもしれません。
それでも読んでくださる方がいるならありがたいです。




 

 

 

遊廓での戦いが終わり、また数ヶ月が経った。上弦の参に続いて、上弦の陸が撃破されたことで私は柱合会議にまた呼ばれた。本来は七海と禰豆雄も行くはずだが、あの時の柱合会議でのことが頭に過ぎるらしく、二人を呼ぶのは止めたそうだ。

まあ、あの二人は呼ばれても炭華との時間が減ると不満に思うだろうし、私も七海と禰豆雄があの柱合会議で色々やってしまったのは分かっているため、その判断を当然だと思っている。

 

 

それと、上弦の鬼の頸を二人も斬ったということで、柱の数は足りているが、柱に就任しないかという誘いがあった。柱からの反対はなかった。柱になれる実力があると全員が認めてくれているのだと分かり、私はそれを嬉しいと感じていた。

だが、私はその誘いを断ることにした。理由は柱の仕事をしながら七海と禰豆雄の暴走を止めるのは難しいと考えたからである。柱は鬼殺隊の幹部になるというだけでなく、担当の地域とかそういうものがあり、前よりも仕事が増えてしまうのだ。

 

現在の私は鍛練したり薬の調合したりしながら、鎹鴉から七海と禰豆雄が起こした問題を聞いたら止めに行き、暴走しようとしたら落ち着かせるというようなことをしている。その上で、またやることを増やされると困る。最悪、過労死を覚悟しないといけない....。

 

 

私がそう言うと、それは仕方がないと思ったらしく、柱になるのは無くなり、私は階級が柱の一つ前の「甲」になった。

ちなみに、義勇さんが自分の代わりに柱をするのはどうかと言っていたが、それなら七海と禰豆雄の暴走は義勇さんが止められますかと聞いたら大人しくなった。正直で良い。

義勇さんの発言には周りも困惑していたし、これではまた同じことを繰り返すのではないかと思い、御館様に頼んで休みを貰い、みんなで狭霧山に帰ることにした。この「みんな」というのは私、七海、禰豆雄、炭華、義勇さんの五人である。狭霧山に帰ることから分かると思うが、里帰りのようなものである。

 

 

柱合会議の時の出来事で義勇さんが柱を辞めようとしていて、このままだと柱になるべきだと私に何度も言いに来そうなので、その前に手を打っておくことにした。

それが目的なら七海達は別に来なくても大丈夫だったが、放置したら後が怖いために一緒に連れて来た方がいいと考えた。

それで、鱗滝さんと一緒に義勇さんを諭した。何度も何度も言っていたら意固地になってしまうので、少し言い回しを変えたり、色々な方法を試してみたりと工夫を凝らしていたが、やはり義勇さんの意志は変わらなかった。

 

 

私はその凝り固まった考えに頭を悩ませることになった。義勇さんが何年も『自分は水柱に相応しくない』と思っていたから、それを変えるのは容易ではないと分かっていた。

だけど、それを短期戦にしたいと思ってここへ来たのだが、やはり長期戦になることを覚悟したままの方が良かったかもしれない。ただ色々なことがあり、私がそろそろ限界になっていてしまい、この問題の解決を早めようと行動したのだ。

狭霧山に行っても、義勇さんの説得は難しいままだ。懐かしい場所に帰ってきたり、恩師である鱗滝さんと久しぶりに出会えたりしたのだから、少しは気分が上がるのではないかと思ったが、全然変わらなかった。それほど暗い気持ちの方が強いのだと分かるが。

 

 

原作の義勇さんが暗くなった原因の一つが錆兎である。

義勇さんと錆兎は同い年でもあり、一緒に稽古に励んでいた親友だった。二人は同じ時の最終選別を受け、義勇さんは最初に襲いかかってきた鬼に怪我を負わされたが、錆兎に助けられた。その後、錆兎は他の助けを呼ぶ声の方に行ってしまい、ほとんどの鬼を錆兎が一人で他にいた受験者を助けながら倒し、手鬼との戦いで刀が折れてしまい、錆兎は亡くなった。義勇さんは最初に受けた怪我により気絶していて、その間に最終選別が終わり、目を覚ました義勇さんはその時に錆兎の死を伝えられる。その時から義勇さんは七日間生き抜いたが、鬼を一体も倒せなかった自分が柱になっていいわけがないと思い込むことになった。

 

 

私は別の説得方法を考えながらその錆兎に祈った。この狭霧山には錆兎がいるので、義勇さんの前に現れてくださいと。もう本人が出た方が早いと思っていたし、私はこれを最終手段にしていた。

ここまで来たのだから、駄目でしたという結果にしたくなかったし、おそらくこの時の私は疲れていたのだろう。死者に頼りたくなるくらいには。

私は一か八かのような感じだが、一番効果がありそうなので、とりあえず寝る前に心の中で話しかけてみた。

 

 

 

すると、その次の日に憑き物が落ちたように(いつもより)晴々した表情になった義勇さんを見て、錆兎の偉大さを実感すると同時に感謝した。その日の朝に鱗滝さんに聞いて、錆兎の好物を作って御供えした。

 

本当にありがとう。

 

 

 

 

 

その義勇さんの騒動が落ち着いてから月日が流れ、私は現在正座した禰豆雄と七海の前に立っていた。

 

 

「禰豆雄。刀は大切に扱おうよ」

「これでも丁寧に扱っているんだ。けど、それで逃がしたら意味がないだろう」

「七海。貴女も隣にいたのだから、ちゃんと止めないと駄目でしょう」

「それよりも禰豆雄の方が速かったのだから、仕方がないじゃない。アタシもちょっとやり過ぎだとは感じていたけど、流石にこんなことになるとは予想していなかったわ」

「それなら、絶対に目を離したら駄目だと分かっているでしょう!」

 

 

私は七海と禰豆雄を正座させ、説教していた。だが、禰豆雄も七海も開き直っていて、全く反省の気配はなかった。

どうして私が七海と禰豆雄に説教しているのかというと、それは最初に出た通りである。

 

 

「どうして刀を折ったの!」

 

 

禰豆雄の刀が折れたからである。普通ならそこまで説教することではないと思うかもしれませんが、禰豆雄の場合はまずかった。

禰豆雄は鬼殺隊へ入る前に斧を使っていた所為か、刀も投げてしまうのだ。斧を投げたり、刀を投げたりすることで相手の行動を阻み、鬼の頸を斬る。それが禰豆雄の戦い方だ。だが、刀は投げるための物ではないため、そんな使い方をしていたら刀が折れてしまう。

私はそのことに気づいて、何度もいつか刀が折れるから、もう少し丁寧に使った方がいいと言っていたのに、ついに刀を追ってしまった...。

 

 

「...鋼鐡塚さんに連絡は取ったの?」

「もう既に手紙を送ったらこれが返ってきた」

 

 

私が鋼鐡塚さんのことから尋ねると、禰豆雄がある一枚の紙を渡してきた。その紙を受け取って中を見ると、血のように赤い文字で『ふざけんな。絶対許さねぇ。お前にあげる刀なんてねぇ。呪ってやる』と書かれた手紙だった。確認してみたけど、その手紙は間違いなく鋼鐡塚さんの手紙であるため、私は禰豆雄を凝視した。

 

 

「....ちゃんと謝罪したよね」

「したよ。それと、斧も頼んだ」

「そうね。禰豆雄は斧が得意だし、刀を折らないためにも斧も用意しておいた方がいいかもしれないね」

 

 

私が禰豆雄に質問すると、禰豆雄は頷き、ついでに頼んだことも話した。私は禰豆雄の頼みに納得したし、刀を投げる回数が減るならいいとも思った。

ただ、鋼鐡塚さんからしたら、刀を折った挙句に刀以外に斧も欲しいと言われたので、それで怒ったのだろう。原作では短期間で刀を折ったり無くしたり刃こぼれしたりしていたから、気持ちは分かる。刀鍛冶からすると、折れる刀を作った鋼鐡塚さんが悪いかもしれないけど、せっかく作った物がすぐに壊されたらそれは怒りたくなると同情する。

 

 

今回もどちらかというと、刀を何度も投げていた禰豆雄が悪いと思うのだよね。でも、日輪刀がないと禰豆雄は日が昇るまで素手で戦い続けないといけなくなる。

まあ、禰豆雄なら一方的に殴りつけることは可能だと思うので、大丈夫そうな気もするが、効率が悪く今後のことも考えて、日輪刀は必要である。

なので、刀鍛冶の里に一緒に行って、鋼鐡塚さんに頼むことにした。

 

 

えっ?禰豆雄だけで大丈夫かって?

勿論、私達もついて行きます。禰豆雄一人で行かせたら何をするか分からない。炭華がいないので、炭華不足で暴走する可能性があるからね。だけど、禰豆雄と一緒に炭華を行かせたらその代わりに七海が不機嫌になるのだよね。

いや、仮に禰豆雄に炭華をつけても暴走する可能性があるから、どっちでも駄目なんだけどね。それなら、もう私達全員が刀鍛冶の里に行った方が良いと思うので、私は御館様に頼み込み、刀鍛冶の里へ行くことができた。

刀鍛冶の里は鬼殺隊にとって日輪刀という重要な武器を作っている大切な場所であるため、何かあったら困ると考えたのだろう。事情を説明したらすぐに許可が貰えた。

 

 

だが、少し問題が起きたのは私達も一緒に刀鍛冶の里に行くのだと行った時だった。七海は刀鍛冶の里に行くのを反対していなかったので、禰豆雄に少し怪しまれた。いつもなら炭華と一緒に居られる機会があればそれに乗り、時間が短縮させてしまうのだと分かれば反対する七海が今回だけ賛成していることに疑問を持たれた。

あの時は私も七海も凄くひやひやした。

 

私が刀鍛冶の里へ行くと決めたのはもう一つ理由がある。それはもうすぐ上弦の鬼が刀鍛冶の里を襲撃する時期であったからだ。七海も前の時に童磨の目から私達のことを見ていたため、刀鍛冶の里の襲撃の時期が分かっていた。

なので、私が禰豆雄と一緒に行くと言えばその襲撃に備えるためだと察した。それに、その襲撃が起きる場所に禰豆雄が行くのを心配したのもあるだろう。

七海はよく禰豆雄と喧嘩するが、それは炭華と一緒にいる時間を削りたくないためであり、それ以外では普通に話が合うし、緊急事態の時なんて息ぴったりである。まさに、喧嘩するほど仲が良いという感じだ。

 

 

なんとか私が刀鍛冶の里には温泉があるから、それが楽しみなのではないかと話を振った。それに七海が頷きながら炭華のためにもいいと思うからと付け加え、禰豆雄は納得した。その上、炭華をさらに輝かせられるかもしれないと上機嫌だった。

私も七海も誤魔化せたことに安堵した。それに、嘘ではないからね。私も七海も温泉に入るのは楽しみである。

 

 

 

そうして、私達は刀鍛冶の里へ行き、刀鍛冶の里の里長である鉄地河原さんと面会したら鋼鐡塚さんが行方不明と分かり、温泉に入った後に探すことにした。鉄地河原さんから勧められたし、私達の目的の一つのようにもなっているので、最初に向かったのは温泉である。その道中で甘露寺さんと出会った。

無限列車の一件から柱と交流のある私は甘露寺さんと少し最近のことなどを話していると、外に出ていた炭華も加わった。すると、甘露寺さんは炭華の頭を撫で、炭華は撫でられることに照れていて、私はそれにほっこりした。

 

甘露寺さんも炭華も天然気質なところがあって、二人ともにこにこ笑っているし、全体的に雰囲気がホワホワしているのだ。なんというか癒されるのだよね。

 

 

私がそう感じているのだから、七海と禰豆雄はどうなっているのかというと、尊いと言いながら昇天しようとしていたので、すぐに正気に戻した。それから甘露寺さんとしばらく会話をし、温泉に入った後にまた会うことを約束して一度分かれた。

 

 

温泉に着いた後、何かが飛んできたが、禰豆雄によって受け止められ、それが歯であると分かり、私も原作で玄弥の抜けた歯が飛んできたということが起きたような...とここで思い出した。

だが、それよりもあの二人が動くのは早かった。特に七海は覚えていたようで、何かが飛んできた瞬間には温泉の方へ走り出していた。禰豆雄もすぐに向かい、私はその一拍遅れで追いかけた。

....私が着いた時には既に玄弥の姿がなく、その前でバシャバシャという音が聞こえていたので、七海と禰豆雄が来て慌てて逃げたのだと察した。

 

ごめんね、玄弥。

 

 

その後で、私達はゆっくり温泉に入った後、甘露寺さんと食事をしていた。ただ、予想外の人物もいたけどね.....。

 

 

 

「美味しいわね!何杯でもいけちゃうわ!」

「凄いですね。どこまで茶碗を重ねられるか気になります。....ところで、こうすればいいですか」

「そう。こうクルクルっていう感じで、もっとビョーンっていう感じなの!」

「...なるほど。それなら、これでよろしいですか」

「うん!完璧よ!」

「いや、何で通じるんだ」

 

 

甘露寺さんの食べ終わった皿で天井につきそうなくらいの山となっているのを見た後に、まだ食べ続ける甘露寺を見ると、私は苦笑いを浮かべていた。私は甘露寺さんより食べないので、もう既に食べ終わっている。

なので、私は炭華の髪を結んでいた。炭華は先程から甘露寺さんと同じ髪型にしてみたいとお願いされ、甘露寺さんと会話しながら髪を結び、時々助言を貰い、結ぶことができたのだ。

甘露寺さんは炭治郎と同じくらい説明する時に擬音語がよく出るが、私は前の時に炭治郎の説明を理解しようとしていたので、大体は分かるようになっている。

甘露寺さんにはお墨付きをもらったし、炭華も喜んでいる様子なので、私は満足して二人のことを見ていた。

 

だが、その光景に納得できなかった人物がいた。目の前からそのツッコミの声が聞こえ、私は苦笑いしながら目の前にいる人物を見た。

 

 

 

「獪岳さん、巻き込んで申し訳ありません」

「...別に構わねぇよ。それよりアイツらが無言なのは何でだ?」

「ただ、炭華の可愛さに夢中になって、話すのを忘れてしまっているだけです。ですので、あまり気にしすぎない方が良いと思いますよ」

 

 

私が目の前で食事している獪岳に頭を下げると、獪岳は顔を背けながら七海と禰豆雄のことを聞いてくるので、私は二人を様子を見てすぐに察し、それをそのまま説明した。

 

 

なんで獪岳がここにいるのかと疑問に思う人がいるでしょう。獪岳が刀鍛冶の里にいたのは偶然だそうです。私も会った時には驚きましたよ。

 

 

まあ、何故ここにという疑問を持っている方はいると思いますが、それ以上に獪岳がどうして鬼殺隊にいるのか、人間のままなのかという疑問を持つ人の方が多いでしょう。

言っておきますけど、私は何もしていませんよ。行動する前に終わったようなので。

どういうことかと思いますので、詳しく説明しますよ。

 

 

 

前の時に言った通り、原作での獪岳は上弦の壱と遭遇し、その圧倒的な強さに命乞いして鬼になり、堕姫と妓夫太郎の後に上弦の陸になったのだ。前の時は鬼になる気がなく、人間のままでいるために上弦の壱と戦い、その戦いに私も巻き込まれた。結果、私も獪岳も生き残ったが、命の危険しか感じなかったあの時のことを忘れられず、正確な日時も覚えたままである。

 

 

なので、私は獪岳と上弦の壱の遭遇する時期にその場所へ行ってみた。命知らずだと思われるが、今の獪岳と接点が無くても前の時にはお世話になった人だ。今は他人であっても、その人の危機を知っていて、それを無視することはできなかった。

それで、その場所に行ってみて様子を見ていたのだけど.....獪岳は来なかったんだよね.......。

 

 

上弦の壱は来ていたけど、獪岳の姿は全然見えなくて、それどころか他の隊士の姿も見えなかった。私はそれを不自然に思っていたが、そのままそこで上弦の壱を見ていた。

そして、朝日が昇っても獪岳は現れず、上弦の壱は無限城に帰っていった。

 

 

私は日にちが間違えたかと思ったが、その日以降で上弦の壱の姿を見ることはなかった。その所為で、私は何が起きているのか見当もつかなかった。

だが、ここで獪岳と出会えて、漸くその理由が分かった。

何せ.....。

 

 

『げっ。テメェらは....』

『.....七海。禰豆雄。この人に何をしたの』

 

 

獪岳が七海と禰豆雄を見た瞬間の反応で色々察した。私は死んだ目になっているのだろうと思いながら二人に静かに聞いた。

 

 

七海と禰豆雄は全く覚えていない様子だが、獪岳の話によると、たまたま私が別の任務に行っている時に合同任務へ参加することになり、その任務に獪岳もいたらしい。その時の七海と禰豆雄は炭華とお月見する気満々だったのに、任務で邪魔されたため、さっさとその鬼の頸を斬って解散したようだ。

 

そういえば、あの時は少し離れたところに任務があり、上弦の壱が現れる前に私も終わらせ、その帰りに上弦の壱の方へ行ってそのままだったし、あの時に近くで合同任務があり、その鬼も早く討伐できたため、私も休んで大丈夫だとか言われたような。

だけど、私は藤の花の家紋の屋敷で休むふりをして、こっそり外に出ていたんだよね....。

 

 

........今はその話を置いておこう。それよりも獪岳の話だ。獪岳が言うにはあの時の二人は周りに遠巻きにされながら無事に任務は終わった。遠巻きにする理由は分かると思うが、二人から黒い空気がだだ漏れだったからである。さらに、鬼が目の前に現れた瞬間、あの二人はさっさと鬼の頸を斬ったり、弾き飛ばしたりということをしていて、おかげで獪岳を含めた他の隊士達は無傷だったようだ。だが、その二人の暴れる様子を見て、全員が青ざめたそうだ。

下手したら自分達に矛先が向かないかと。そう思いながら早くこの任務が終わることを祈っていたらしい。

終わった瞬間はすぐに解散という風で、全員が二人から逃げるような感じで去ったということだそうだ。

 

 

...その時のことは全員がはっきり覚えていて(むしろ、忘れられるわけがないと言っている)、獪岳もヤバイ奴だという印象が残っているらしく、関わりたくないと考えていたそうだが、そこに甘露寺さんが来て、みんなで食べようと誘われたことで、逃げることはできなかったようだ。

甘露寺さんは柱であるため、真面目なところのある獪岳は断ることができなかったのだ。

 

 

一方で、私はその件の話に安堵した。獪岳のあの件に関しては私に何も心当たりがなく、本当に解決したという確証がなかった。だから、私は時期が過ぎようとずっとそのことが気がかりだった。

だけど、このような形でそれを知ることになるとは思わなかった。

 

 

そういうことがあったが、今では穏やか?に食事の時間を過ごしている。食事の場に集まったので、炭華も参加したかったようで、周りを気にせずに炭華が外に出てしまい、獪岳が驚いた。鬼が現れたということで反射的に刀を握ったが、七海と禰豆雄の殺気を感じた瞬間、すぐにその場から離れた。炭華が認められているとはいえ、鬼殺隊としては獪岳の対応が正しいので、すぐに間に入って暴走を止めた。

その瞬間、獪岳は炭華に手を出したら命がないと悟ったらしく、私が二人の暴走を止めた後に『あの鬼に手を出したらヤベェのか』と聞いていた。私が無言で頷いたらそれ以上は何も聞かず、炭華を受け入れた。

....いや、あれは受け入れたというより、これ以上は駄目だという本能みたいなものが動いたのだと思う。

獪岳は炭華に近寄ろうとしないし。

 

 

七海と禰豆雄が静かなこともあるだろうけど....そろそろ現実に戻した方が良さそうだ。炭華と甘露寺さんを見て、なんだか浄化されているし、そのまま天に昇ろうとしているから、もう現実に戻さないと大変なことになる。

 

 

 

獪岳のことはあったが、刀鍛冶の里に来た初日は七海と禰豆雄を正気に戻すくらいで終わった。

...久々に休暇という感じがしたよ。

 

 

次の日は甘露寺さんの話に出てきた刀を探すため、刀鍛冶の里を歩き回った。

何故その刀を探すのかというと、甘露寺さんの話に興味を持ったというのもあるが、一番の理由は甘露寺さんからその話を聞いた時に炭華がとても興味津々で聞いていて、炭華を喜ばせるためにその刀を見つけようという話になったからである。

はりきっているのは七海と禰豆雄に、背負い箱の中にいる炭華で、私はあの二人が目的を忘れているようなので、代わりに動くことにしたのだ。

 

 

何が目的だったのかって?

日輪刀だよ。甘露寺さんの話に出てきた凄い日輪刀ではなく、禰豆雄の日輪刀を作ってもらわないといけないのである。

まあ、原作の通りに進むならどちらも解決できそうだが、禰豆雄が原作の炭治郎と全く同じことが起きるというわけではないから、念には念を入れて鋼鐡塚さんを探そうと思っている。

 

 

獪岳も一緒にいるけど....獪岳は巻き添えを食っただけである。たまたま向かっている途中で獪岳と偶然に出会い、獪岳はすぐに私達から離れようとしたのだが、その前に二人に捕まっていた。

おかげで獪岳は私の隣で不機嫌そうな顔をしているのだ。

 

 

「ごめんなさい.....」

「...なら、アイツらの暴走を止めてくれ。それと、殺気を俺に向けないように言ってくれ」

「私もできる範囲でやっていますけど、一人で二人を止めるのは限界がありますから....」

 

 

私が謝ると、獪岳はため息を吐きながらそう言った。昨日だけで獪岳に七海と禰豆雄の世話係のようなものだと認識したようで、途中から七海と禰豆雄に対しての愚痴などを全部私に話すようになった。

私は獪岳の言葉に頭を押さえながら苦笑いを浮かべる。

 

 

私もあれこれ行動しているのだけど、あの二人は一人の時でも問題を起こす(二人揃っている時よりはマシだが)ので、二人が別々に行動した時のことも考えている。それでも二対一のような状況であるため、私では抑えきれないところがある。

特に、あの二人が物理的に力で行動する時はもう大変である。速さなどの方ではあの二人に勝てるのだけど、力ではどうしても勝てない。

 

 

なので、あの二人が暴走した時に私は追いつくのだけど、引き摺られていってしまうのだ。というか、あの二人は逃げ切る方が難しいと考え、私を引き摺ってでも行こうとするようになったので、私は二人にしがみつきながら少しでも遅くなるように押さえたり、説得しようとしたりと色々やっている。

力で押せば通るとあの二人は分かっているので、どんどん力をつけていって、私が苦労しているのである。

その所為で麻酔を作らないといけなくなったんだよね...。

 

 

筋肉がつきにくい体質だとはいえ、毎日筋トレしているのに、効果が全然ないんだよ....。

...いや、一応効果はある。だけど、七海と禰豆雄がその倍くらいの力をつけるため、七海と禰豆雄の暴走を止める時に物理的な力で止められない。それでも、もしかしたらと思って続けているんだけど.........。

 

 

 

.......止めよう。これ以上は私が落ち込むだけだ。無駄にはなっていないから、それで良いでしょう。

まだその後のことも残っているので。

 

 

原作の展開を知っている人がいたら察すると思いますが、私達が歩いていた時に誰かの言い争う声が聞こえ、その方向に向かったら小鉄君と時透君がいた。

小鉄君は刀鍛冶の里でからくり人形の「縁壱零式」を扱うところの人なのだ。縁壱零式は六本の腕を持つ訓練用のからくり人形のことで、時透君はその人形を使って鍛練がしたいのだが、縁壱零式が壊れかけているために小鉄君は断った。時透君は縁壱零式を使おうと暴力を振るい、小鉄君の持つ鍵を奪ったところであった。

 

 

私がそれを見た瞬間、反射的に間に入った。流石に暴力問題は見過ごすことができなかった。私は時透君の前に立って、言葉で説得しようとしたが、全然聞く耳を持ってくれなかった。

だけど.....。

 

 

「君達は.......祟り神?」

 

 

私の説得は無視していたが、七海と禰豆雄の存在は無視できなかったみたいだ。この時の時透君は記憶喪失で、新しいものを覚えていることもままならない状態だったのに、記憶に残っているということなので、どれだけ強力な印象を与えたのかというのがよく分かった。

 

 

 

そういうことがあったが、原作の通りに小鉄君の縁壱零式を使った訓練が始まった。

壊れても直すからと言ったので、七海と禰豆雄は木っ端微塵にしても大丈夫だと言い出し、私は本気だと察してそれを止めるようにと言おうと思ったが、小鉄君は斜め上の方向に進んでいった。

 

 

興奮した七海と禰豆雄を見て、本気だと察したらしく、小鉄君ができる限りのことをして、縁壱零式を直していた。

さらに、時透君の壊された一本の腕を直した後に改造までしたようで、原作や前の時のものより頑丈になったようだし、強さも倍になっているのではないかと思っている。だけど、それがちょうどいいのかもしれない。

禰豆雄もやる気になっているが、それ以上にノリ気なのは七海である。七海は禰豆雄と違って知っているからね。その縁壱零式に目的の一つであった刀が入っていることを。

 

 

なので、七海は訓練もできるうえに目的のものも手に入れられる機会を逃したくないと思い、かなり張り切っている様子だ。

というか、七海は元から縁壱零式を壊す気でいたので、許可を貰えたということで堂々と縁壱零式を壊せると思い、遠慮がなくなったようだ。あの縁壱零式は小鉄君の先祖から受け継いでいった大切なものであったため、七海も刀があると分かっていながら壊すことを躊躇しているところがあった。

そのため、直すという言葉を聞いて、その心配はないのだと安心したのだろう。

 

 

そうして、小鉄君の縁壱零式を使った訓練をした。

私と獪岳も巻き込まれる形で参加することになったが、前の時の私よりはマシである。少なくとも私の訓練はそうだった。今回は休む時間を設けることができた。前の時は小鉄君の指摘が非常に為になるものであったが、小鉄君はどのくらいが限界かと考えないため、縁壱零式に攻撃を当てるまで食べたり飲んだり寝たりすることができなかった。

だが、私は前の時で縁壱零式の行動を理解したため、すぐに縁壱零式に一発当てた。

前の時の感覚が完全に思い出せず、少し苦戦したけどね。

でも、当てただけだよ。壊していない。

 

 

ただ、私が早く縁壱零式に一発当てたのが原因で少し変わってしまったんだよね。

最初は前の時のような感じで飲み食いできず、寝ることも許されなかったのだが、今ではそれがない。

 

 

何が起きたのかと聞かれると、私も詳しくは知らない。さっき縁壱零式に一発を当てたことが原因だと言っていたのに、知らないのはおかしいと言われるかもしれないが、この詳細を知っているのは本人の他に七海と禰豆雄だろう。

 

正確に言うと、きっかけは私なのだろう。私が早く縁壱零式に一発当てたことで他の人もと思ったようで、七海と禰豆雄をよく観察していた。

その所為か七海と禰豆雄の影響を受けたらしく、小鉄君がなんだか変な方向へと進んでいったらしい。

 

 

七海と禰豆雄に触発されて、縁壱零式に色々な改造を定期的にしているため、その間に私達はご飯を食べたり寝たり休憩できる時間ができた。おかげで、餓死とかそういう意味での命の危機は無くなった。

ただ、その代わりに縁壱零式がどんどん強化されていき、訓練も厳しくなってきている。

しかも、小鉄君は縁壱零式を強化していくうちにその楽しさを覚えてしまったらしく、もう実験のようになっている。

 

 

「よし!これでどうですか!当ててみてください!」

「ヤル...」

「フフフッ。今度はどのくらい保つのか試させてもらうわよ」

 

 

小鉄君がさらに改造した縁壱零式を禰豆雄と七海が睨みつけていた。このような日々がずっと続き、禰豆雄はなんだか別の生き物のようになっていて、七海は小鉄君と同様に楽しくなってしまったようで、笑い声を上げながら刀を振っている。少なくとも、禰豆雄よりはマシな方だと思っていたけど、

気になるとしたら、何やら黒いものが出ているところだけど、誰の害にもなっていないし、禰豆雄からも大量に出ているので、それを深く考えない方がいいと思う。

 

 

「......なあ。俺はお前達にいつまで付き合えばいいんだ」

「....たぶん、あの人達が納得できるまで、もうしばらく続くと思いますよ」

 

 

獪岳が死んだ目で尋ねてくるが、私は自分の予想を伝えた。これはあの二人とずっと一緒にいる私の勘なのだけど、もうしばらくは続くということをなんとなく確信している。

私はこれが現代でいう、スポ根というものなのかと現実逃避していた。だが、縁壱零式はそんな私達にも攻撃してくるため、私は刀を握り締めながらその攻撃に備えた。

 

 

 

それからまた数日が経ち、七海と禰豆雄が遂に縁壱零式を壊し、その中から刀が出てきた。その刀は錆びていたために使えないのだが、筋肉が凄くなった鋼鐡塚さんにより、その刀は研がれることになった。

ちなみに、縁壱零式を壊したのは禰豆雄なので(七海が凄く悔しがっていた)、禰豆雄がこの刀を使うことになった。

 

 

 

それで、現在は縁壱零式が直るまでの間、私達は個人で鍛練している。ただ、七海と禰豆雄が対人戦でやりたいと言うので、対人戦をしているのだが....。

 

 

「獪岳。元の場所に戻してあげて」

「...対人戦なら人数の多い方がいいだろ.....」

「それは獪岳の番にしたくないだけでしょう。いきなり巻き込んで、ごめんなさいね。確か....玄弥だよね」

「あ、ああ......。...お、俺、もう帰ってもいいか」

「ダメだ。アイツらの相手なんて命が幾つあっても足りねぇんだよ!」

 

 

私と七海が対人戦をしている間に、獪岳が誰かを連れて来たようで、私の稽古が終わった後に獪岳の方へ行って、私は口を開けることになった。

獪岳が連れて来たのはなんと玄弥だった。私は頭の中が混乱したが、すぐに冷静になって獪岳の意図に気づいた。

 

 

そして、玄弥を元の場所へ戻すようにと言うが、獪岳はそれ以上に命の危機がある七海と禰豆雄の対戦相手になる確率を少しでも減らしたいのだろうけど、何も知らないで連れてこられた玄弥が可哀想だと思うから。

気持ちは分かるけど、玄弥は巻き込まないであげて。玄弥も帰りたがっているから。

 

ちなみに、獪岳は先日ついに胃薬を処方することになった。ここに来る時にほとんど義勇さんに作っていた胃薬を渡していたが、幾つか持って来ておいて良かったよ...。

 

 

私が獪岳を説得していると、時透君が来て自分の担当の刀鍛冶の職人の鉄穴森さんを探していて、私達に尋ねてきた。

私は場所を知っているため、案内すると言ったら時透君にそんなことをして意味があるのかと聞かれた。私がそれに思ったことを伝えてみたら時透君にもう一回言ってほしいと頼まれる。私はそれに既視感を覚え、原作の内容を思い出し、原作の炭治郎と似たようなことを言ったのだと分かり、どう対応するべきかと悩んだ。

 

 

 

そういう風に大騒ぎをしていたら、突然何だか嫌な予感がして、その方角を見た。周りのみんなが私の様子を疑問に思っていたが、その方向から出てきたものを見て、驚いていた。

現れたのが上弦の肆の半天狗だったからだ。上弦の肆がいきなり目の前に現れたのだから、それは当然だろう。だが、そういった意味で驚いているのは禰豆雄と炭華と玄弥と獪岳で、私と七海は別の意味でだ。

私も七海も半天狗がこの時に現れるのは予想外だったのである。前の時よりも時期が早まっている。

 

 

私と七海は動揺を見せないようにしながら顔を見合わせた。

おそらく思っていることは同じだろう。何が起こるか分からないから、その時その時で対応するしかないと。

 

 

私と七海がそうしている間に、時透君が半天狗の頸を斬った。獪岳は頸を斬れたことに驚きながらも怪しいと考え、少し近づいていたし、私も勘で玄弥を後ろに下がらせていたためにその近くにいた。なので、私達も巻き込まれた。

 

 

半天狗は切断すれば分裂する鬼である。なので、本体でも分身の頸を斬ったことで、その分身が二人になったのである。そして、その分裂した鬼の一人に可楽という突風を起こす血鬼術を使える鬼がいる。

その鬼の手によって、私と獪岳と時透君は吹き飛ばされたのだった。

姿が見えなくなる前に七海の方を見ると、七海が口を動かしていた。

こっちはアタシ達がなんとかするから、目の前のことをなんとかしなさいと。

 

 

私は七海ならなんとかするだろうという安心感が出てきた。なので、私はこの後の着地をどうするのかを考えることにした。

 

 

 

 

私と獪岳は里の外れ辺りにまで吹き飛ばされた。時透君はどうやら私達とは別の場所に吹き飛ばされたみたいだ。私は獪岳に怪我がないことを確認し、七海達のところへ戻ろうとした時、途轍もない殺気を感じた。今回はこれ以上に強いものを受けたことがなかった。

 

 

「獪岳!」

「チッ!」

 

 

獪岳をその殺気を感じ取っていたらしいが、どうやらその威圧に呑まれているようで、その場から動けなくなっていた。私が獪岳の名前を呼ぶと、獪岳は舌打ちしながら動き出した。

そのおかげで地面までも切り裂く斬撃を避けることができた。

 

 

私はその斬撃を放ったであろう鬼に視線を向けた。その鬼は紫色の着物に黒い袴、長い黒髪を一つに束ねている。額や首元から頰にかけて炎の様な痣があり、 金色の瞳を持つ真っ赤な三対の目には上弦の壱という文字があった。

それは目の前にいるのが上弦の壱の黒死牟であるということを強く認識させた。

 

 

私はどうして上弦の壱の黒死牟がいるのかと思いながら獪岳を見て気づいた。

これ、獪岳が鬼になるあの場面だ。

七海と禰豆雄がきっかけを無くしたため、それが今になってしまったのだと分かった。

 

 

獪岳は刀を強く握り締めながら黒死牟を見ていた。目の前の存在に圧倒されながらも生き残るために戦おうとしていた。それを見て、私も戦うことを決意した。

獪岳を鬼にさせないために。

 

 

 

 

 

戦いの結果をいうと、私達は無事に生き残った。それは刀鍛冶の里での縁壱零式と小鉄君の正確な指摘があったからであり、私が髪を結ぶ紐についている片方の耳飾りのおかげでもあった。

この耳飾りを持っているで日の呼吸だと思われ、咄嗟に日の呼吸を使ってしまった。もう既に煉獄家でも同じことをやったのに。その時は私がつい反応して....色々起きたけど、落ち着かすことができた。

ただ.....今回は少し難しいかな...。

 

 

「ヒノカミ神楽 日暈の龍・頭舞い」

「月の呼吸 漆ノ型 厄鏡・月映え」

「ヒノカミ神楽 輝輝恩光」

「....違う」

 

 

文句が多いです!縁壱さんのようには行かないし、私は正式な継承者と言えないから、そんなに期待しないでよ。

こういう風に不満が大きかったらしい。ただ、そんな調子であっても何のブレもない。いや、少し怒っているところがあるし、強くなっているのかな?

 

....それにしても、私に集中しすぎていない。幾ら何でも私に飛ばす斬撃の方が圧倒的に多いのだけど!

 

 

「華ノ舞い 紅ノ葉 陽日紅葉」

「違う」

 

 

私が華ノ舞いを使って応戦し出すと、先程よりも大きな声でそう言ってきた。

確かに貴方からしたらこれは日の呼吸じゃないから違うのでしょうけど、戦っているのは私です!

なんだかんだ言って、弟のことが本当に好きなのでしょうね!でも、それに私を巻き込まないでほしいですし、期待もしないでほしい!

 

 

その後、私は透き通る世界を使いながら日の呼吸と時々華ノ舞いの陽日紅葉で戦っていた。獪岳も手助けしてくれているので、なんとか持ち堪えることができた。黒死牟は私の方に集中していて、獪岳のことをあまり気にしなかったからね。

いや、私もそれに気づいて日の呼吸を何度も使っていたわけだけどね。

 

 

そうやって、朝日が昇って鳴女の能力で黒死牟が無限城に戻るまで、私と獪岳は戦い続けた。

流石に上弦の壱と戦って無傷では済まないため、私も獪岳も蝶屋敷で治療を受けて入院した。

これは入院中に聞いた話だが、上弦の肆と伍は原作通りに倒されたらしい。それと、炭華も太陽を克服できて、目の前で日光を浴びながら洗濯物を干している。

 

それを見て、私は喜ぶと同時に不安もあった。

 

 

 

何を不安しているのかというと.......原作の刀鍛冶の里と最終決戦って、禰豆子はどのくらい出ていたか分かる?

 

 

 

 

 

後は察してください。

 

 

 






今回の話も読んでくださり、ありがとうございます。楽しんでもらえたらありがたいです。
体調がまだ悪く、次回の投稿に時間がかかるかもしれません。気長に待ってくださるとありがたいです。



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苦労人の少女は決戦でも変わらない 前編



体調が安定してきたので、投稿を再開しようと思います。今回は長めであるため、明日も投稿しようと思います。
それでは楽しんで読んでいただけるとありがたいです。





 

 

 

「お久しぶりです。刀鍛冶の里で会った時以来ですね」

「.....そうだな」

 

 

無限城の広い一つの部屋。その部屋は下に畳が敷いていて、周りは黒い柱がいくつかある。その中心で私は上弦の壱の黒死牟と対峙していた。

最初に声をかけたのは私の方である。黒死牟はボソボソという風な声を出して頷いた。

普通に会話をしているが、そうではない。黒死牟は刀を持っていて、

私も刀を握り締め、いつ攻撃が来てもいいように構えていた。

 

 

「....日の呼吸は極めたか」

「悪いですけど、私は縁壱さんではありません。縁壱さんには縁壱さんの戦い方があり、私には私の戦い方があるのです。勝手に押しつけられても困りますので、最初に言っておきますね。私は縁壱さんじゃないので、求められても私は縁壱さんにはなりませんよ。ですので、私は私のやり方で戦わせてもらいます。それに......」

 

 

黒死牟の言葉に私は首を横に振って否定した。そして、刀鍛冶の里で言えなかったことを今度ははっきり言った。あの時は咄嗟に日の呼吸を使ってしまったし、黒死牟のことを凄く気にしていた。

だが、今回は日の呼吸を使うが、私の戦い方で戦うのだという意志表示をした。縁壱さんは関係ないのだとはっきり伝えるためにこのことを伝えたのだが、それ以上になんとかして勝たないといけないという思いが強いのである。

何故そうなっているのかというと.....。

 

 

 

「七海!禰豆雄!待て!」

「七海さん!禰豆雄さん!あいつをボコボコしてくれるのは嬉しいですが、それはやり過ぎです!」

「うむ!あの二人なら跡形もなく吹き飛ばしそうだ!」

「そうです!だから、俺達がそれを止めなきゃいけねぇんですよ!今、ここを全部吹き飛ばしちまったら俺達も危ねぇんですから、もう少し危機感を覚えてください!」

「か、獪岳が敬語を使ってる...」

「当たり前だ!お前、柱は俺達の上司だ!普通なら敬わらないといけない人達なのに、お前は....。.....いや、ンなことよりアイツらを止めろ!」

「無理だろ。ああいう時の子分どもは何言っても意味がねぇ」

「私もそう思う。彩花と炭華しか止められないから...」

「彩花。早くそいつを倒して止めに来て!」

「いや、流石に彩花に負担がかかり過ぎですから」

「「..........」」

 

 

私達のいる部屋に穴が開いた場所から騒がしい声が聞こえてきた。それと、何か破壊音まで聞こえてくる。私も黒死牟もそれを聞いて、互いに無言になった。

 

 

「それに、私も貴方もそれどころではないようですので、さっさと終わらせましょう」

「そうだな.....」

 

 

私が沈黙を破ってそう言うと、黒死牟は頷いて刀を抜いた。私はその斬撃を避けながら刀を抜き、次々と向かってくる斬撃を流した。

こんな緊張感のない戦いはないと思いながら、私は避けながら一ヶ月くらい前のことを思い出していた。

 

現実逃避のようなものだ。付き合ってもらえるとありがたいと思っています。

 

 

 

 

 

 

刀鍛冶の里の騒動から数週間が過ぎた。上弦の肆と伍は原作の通りに倒すことができ、炭華は太陽を克服できたようだ。性別が違くても原作の炭治郎のように鬼としての才能があるなら、太陽の光も克服できるとは思うのだが、そうじゃなかった場合も考えて、実行はしなかった。

 

炭華が亡くなることを怖がったのもあるが、七海と禰豆雄がそれを見た瞬間に何をしてくるかと思ったらやれるわけがない。

理由だって七海には言えるけど、禰豆雄に説明できないし、そもそも七海でも色々大変なことになりそうだから。

 

 

と言っても、炭華が太陽の光で焼けるところ(この後、克服して治るにしても)を見たため、七海と禰豆雄が大変なことになった。

特に、七海は.........。

 

 

『不安で不安でしょうがないのに、まだ半天狗が倒せないから、追いかけなくちゃ駄目で。炭華はアタシと禰豆雄に大丈夫だから、行ってきてって言っているのよ!アタシ、炭華が言うから半天狗の頸を斬ってきたけど、炭華の無事が分からなくて。でも、炭華が無事でホントに良かったわ!火傷も無くなってホントに良かった!』

 

 

そう言うことを何度も何度も私の前で言う七海を落ち着かせていた。入院中の私を気遣って話をするだけにしているが、本当なら私の肩を掴んで強く揺さぶりたかったのだろうけど、私が入院中のために我慢してくれた。

それにしても...七海、余程怖かったんだね....。それに、原作を知らない禰豆雄はもっと不安だっただろうね。

 

 

その話題の炭華はというと、炭華はなほちゃん達と一緒に外で遊んでいる。

あっ。花冠を作っているよ...。

 

 

「姉さんが天使すぎる...」

「頑張ってきて良かった....」

「二人とも戻ってきなさい」

「.....お前らは元気だな」

 

 

炭華の様子を見ながら禰豆雄と七海が天を仰ぎ、私は二人が昇天する前に引き戻した。そんな様子を見て、獪岳は呆れた様子で見ていた。

 

 

七海と禰豆雄は入院していないが、私の見舞いと炭華の様子を見に蝶屋敷へ来ているのだ。一番の目的は炭華の笑顔を見ることなのだろうけどね。

 

私はそう思いながら炭華達の様子を見ていた。

炭華はなほちゃん達と協力して作った四つの花冠のうち三つをなはちゃん達の頭に乗せていた。最後の花冠を炭華の頭に乗せようとなほちゃん達が立ち上がった。炭華が乗せやすいように頭を下げていたので、なほちゃん達は容易に炭華の頭に被せられた。炭華は頭を上げた後、花冠に触れて笑顔を浮かべた。

私がそれを微笑ましく思っていると、すぐ近くで何かが倒れる音がした。私はその音が聞こえた瞬間、無視するかどうかで悩んだ。何となく予想がつくが、確認のためにも振り向くことにした。

 

 

そして、それは案の定のことだった。七海と禰豆雄がその場に崩れ落ちた。察しはつくが、念のために二人の様子を見ると、七海も禰豆雄も凄く幸せそうな顔をしていた。

うん。全然大丈夫そうだ。

 

 

とりあえず七海と禰豆雄をそのままにしておくわけにはいかないので、私が使っていたベッドに二人を寝かせた。一人ずつお姫様抱っこという形でなら運べるので。

私はベッドで寝なくても大丈夫だし、明日には退院しても大丈夫だと言われているから、このまま椅子に座って外を見ていても良いでしょう。

 

 

私はそう思いながら炭華達のほのぼのとした様子を見て、癒されようと思った時、

 

 

「きゃあああぁぁ!炭華ちゃんが外に出てる!大丈夫なの!」

「あっ。善逸が帰って来た」

 

 

甲高い声が外から出てきて、その声で善逸が帰って来たと分かった。勿論、隣にいる獪岳も気づいていて、嫌そうな顔をしている。

まあ、獪岳と善逸の関係から考えると、そうなるだろうね。獪岳と善逸は桑島慈悟郎に雷の呼吸を習った兄弟弟子であり、仲は悪いのである。と言っても、獪岳が一方的に嫌うので、善逸も不機嫌そうな音をする獪岳を嫌っていたんだよね。

善逸の方は獪岳の修行を真面目に取り組む姿を尊敬していたみたいだけどね。獪岳は桑島さんが善逸にかかりっきりになっていたことが不満だったうえに、自分のできなかった壱ノ型を善逸が修得していたことなどが重なったようだ。

 

 

だが、今の獪岳は善逸のことを嫌っているというより、なんだか面倒くさそうな感じがする。それに、不機嫌そうな顔をして、こちらを見ている。

そういえば、私は善逸のことを話題にしていなかったから、私達と善逸の関係は知らないよね。

 

 

「.....あのカスと知り合いか」

「うん。まあ、任務へ向かっている時に出会って、そこからの付き合いだね....」

 

 

獪岳の質問に私は笑って答える。少しでも善逸と獪岳の仲が良くなるようにと思い、私は獪岳に善逸の出会いとかそれまでに起きたことを話した。だが、話を聞いていくうちに獪岳は額に手を当ててため息を吐いた。

 

 

「あのカスが任務を嫌がるのは想定内だ。だが、一般人にまで迷惑をかけるのは予想外だ。あのカスは何やってんだ」

「でも、いざという時は体を張って守ろうとしていますよ」

 

 

獪岳が眉間に皺を寄せた顔で善逸を見ながらそう言うので、私は善逸を庇うように言った。私がその話をしたので、変な誤解などがないようにしないと。

 

 

「姉さんに何をしているんだ!」

「善逸、流石にそこまでにしなさいよ」

「えええぇぇぇ!いいでしょ!せっかく遠いところまで行ってきたのに、俺に優しくしてくれる気はないの!」

「それぐらいで姉さんに近づかせると思う?」

「そもそも善逸は怪我していないじゃない。なら、余裕だったというわけでしょ」

「いや、今回も死ぬかと思ったって!」

 

 

私と獪岳が話している間に、外から禰豆雄と七海の声が聞こえてきた。ベッドの方を見ると、先程まで横になっていた七海と禰豆雄の姿がない。

行動が速いし、気絶から目を覚ましたばかりなのに、元気に騒げているから、本当に元気なのだなと思った。

善逸も七海と禰豆雄と一緒にいるうちに慣れてきたから、前のように怖がるだけでなく、七海と禰豆雄に言い返すこともできるようになったんだよね。それに、先程の言っていた通り、善逸は長期任務に行っていて、今日帰って来たばかりなのである。そのため、気分的にいつもと違うのだと思う。

そこはお疲れ様だと思うけど、あのままだと七海と禰豆雄にやられるよ。せっかくの癒しみたいな空間を邪魔されて、二人ともかなり不機嫌そうな感じだから。

 

 

私はあの二人が善逸に何か行動する前に止めようと思い、部屋を出て玄関に向かった。

 

 

「お、おかえり!いのすけ!」

「「「はっ?」」」

 

 

屋敷から出た瞬間にその声が聞こえ、私は呼吸を使って炭華達のところへ向かった。

この声が誰のものなのかは分かると思うが、察しの通りに炭華である。原作の禰豆子のように、炭華も太陽の光を克服してからは喋れるため、辿々しくではあるが、いっぱい話してくれる。

それを知った(長期任務ではなかった)伊之助がそのことを知り、七海と禰豆雄のいない間に自分の名前を炭華に教えていたのである。

私もこれを微笑ましく思って見ていたのだが、今はとてもまずいことになった。

 

 

今、伊之助は蝶屋敷にいないが、ここに来たらまずい。絶対に原作のように善逸を伊之助と呼んだのだ。しかも、それに七海と禰豆雄まで反応している。

 

 

「姉さん。いつあの猪に教わったの?」

「アタシ達が任務に行っている間にこっそりと......」

「あんの...猪頭が!!」

 

 

禰豆雄は炭華に優しく聞き、七海は刀を握り締めながら察し、善逸は血の涙を流していた。

善逸はともかく、七海と禰豆雄が動いたら駄目だなと思い、とりあえず三人とも宥めることにした。

 

 

「はい。そこまでだよ。三人ともすみちゃん達が怖がるから、一度落ち着きなさい」

「彩花。まさか知っていたの?」

「知っていたし、隣で見ていたよ。七海と禰豆雄だって分かるでしょう。炭華がずっと話せなかったの。それが話せると分かって、伊之助なりに喜んでいるのだよ。私達が普通に伊之助と呼んでいたのに、炭華には呼んでもらっていなかったのだから、炭華にもと思うの。間違われてもめげずに名前を何度も繰り返して、やっと覚えてもらったのだから、それを怒らないであげて」

 

 

私が七海と禰豆雄の肩を優しくポンっと叩くと、七海と禰豆雄はこちらを見た。二人とも私が伊之助のことを容認していたと察して、こちらを不満そうに見てきた。それは炭華がここにいて、私も入院しているから、炭華のことで私が知らないはずがないと考えているのだと思う。

まあ、実際に知っているわけだけど。

一方で、善逸もこちらに向いているが、こちらは安堵した様子を見せていた。これで、何か問題が起きれば私の助け船を期待できるからね。

 

 

「.......分かった」

「じゃあ、善逸ね」

「そうだな。姉さんに抱きついていたし」

 

 

伊之助に関しては許すが、善逸は別だということになり、今度は善逸の方を見た。善逸は顔を真っ青にしながら私の後ろに隠れた。私はそれに苦笑いしながら逃げ道を作ってあげようと思った。

 

 

「駄目だよ。善逸がここに来たのは獪岳のお見舞いなのだから、ボロボロにして入院させたらいけない」

「えっ?」

「....獪岳と善逸って、知り合いなんだ」

「そうみたいだよ。獪岳の弟弟子が善逸らしい」

「なら、仕方がないわね」

 

 

私が理由をつけて善逸に何もしないようにと説得すると、善逸は困惑した様子を見せていたが、私はそれを見なかったことにして七海と禰豆雄を見た。

禰豆雄は少し驚いた様子で善逸を見て、私が獪岳と兄弟弟子であることを話すと、七海と禰豆雄は諦めたようで、その後は炭華と話している。七海がすぐに納得したことで、禰豆雄もこれ以上は何も言わないことにしたのだろう。

と言っても、七海は既に善逸と獪岳のことを知っていて、私が何をしたいのかというのも分かり、何もしないと決めたんだと思う。

七海が空気を読んでくれたことに感謝しておかないと。

 

まあ、七海も禰豆雄もこういう場合は何も手を出してこないからね。炭華の身に危険なことが起きれば違うが、そうでなければ何か理由があり、考慮しながら行動してくれる。

 

 

私はその間に善逸の手を引き、獪岳の病室まで連れて行くことにした。

その間、善逸が無言だったので、少し心配になった。

 

 

「善逸。どうしたの?」

「さっき、獪岳の見舞いって言っていたけど、獪岳が怪我したの」

「...もしかして知らないの?上弦の壱に遭遇したのが私と獪岳だということを」

「.....獪岳の怪我は」

「五体満足で無事だよ。だけど、怪我が一つもないというわけではないから、入院はしているよ。今も入院しているけど、大きな怪我はなく、意識もはっきりしているから安心してね。それでも、まだ数日は入院生活のままだけどね」

 

 

私が善逸に聞いてみると、善逸は獪岳が怪我をしているということに困惑している様子だった。私は予想外で確認してしまった。すると、善逸は震える声で獪岳の容態を聞いてきた。私は善逸の声を聞き、罪悪感を感じたために安心させようと笑顔を浮かべてそう言った。善逸は無事だと分かり、安堵していた。

 

 

そうしているうちに獪岳の病室まで来ていた。私はその近くの壁を軽くコンコンと叩き、一言掛けてから部屋の中に入っていった。善逸も私の背中を追うようにおそるおそる中に入った。

獪岳は善逸に気づくと、面倒くさそうな顔をしていた。

 

 

「おい。カスまで連れてきたのかよ」

「その窓から聞こえていたでしょう。善逸が七海と禰豆雄に襲われそうなので、ここへ連れて来たのですよ。一度ここに避難させてあげてください。

それに、せっかくの機会なので二人で話し合ってみたらどうかと思ったのです。獪岳の怪我を善逸が知らなかったことからして、二人の仲がどういう感じなのかは察しがつきますが、善逸と少し話してみてください」

 

 

獪岳の言葉に私は善逸と話すように説得した。凄いごり押しのような感じであるが、私は今の獪岳なら善逸とそこそこ良い感じのところまで行くと考えたのだ。

まあ、仲良しというところまではいかないと思うけど。

 

 

「お前.....俺にカスの世話をさせる気か」

「....すみません。この後のことを考えると、私は七海と禰豆雄で手いっぱいになるので、せめて善逸が稽古を嫌がったり、逃げ出したりした時の対処をしてもらえたらいいのです」

 

 

獪岳は私の必死さから察したらしく、私を睨みながらそう言った。私はバレたのならと思い、正直に話して頭を下げた。

欲を言えば伊之助のことも頼みたかったが、獪岳にあまり関わりのなかった伊之助を頼むのは流石に申し訳なかったので、善逸のことだけは兄弟子の獪岳に任せようと思ったのだ。

 

 

「......次の見舞いに桃だ。それも高価なもんだ」

「ありがとうございます!」

 

 

獪岳はため息を吐き、了承してくれた。

獪岳は事情を知っているし、私が本当に困っているのも分かっているから、たぶん同情してくれたんだと思う。

一方、善逸は私と獪岳の顔を交互に見ながら口をポカンと開けた。

なんだか凄く驚いているみたいだ。

 

 

「えっ?えっ!?獪岳と彩花ちゃん、いつ仲良くなったの!」

「仲良くじゃねぇが、アイツらに巻き込まれたり、修行したり上弦と戦ったりしたらな....」

「まあ、仲間意識が芽生えますよね」

 

 

善逸の叫び声に獪岳は複雑そうな顔をしながら私に同意を求めたので、私も苦笑いしながら頷き、その時のことを思い出していた。

獪岳に前の時の記憶がないので、私も獪岳も最初は他人という立ち位置で始まった。私からその距離を急いで縮めようとはしなかった。前の時は獪岳と師弟関係のような感じで、気安く話しかければ怪しまれるし、下手に距離をどんどん縮めようとしても怪しまれると考えたからだ。

 

だが、七海と禰豆雄関連で色々なことが起き、そういったことを気にしている場合ではなく、気がついたら普通に会話するし、相談や愚痴も言うくらいの仲になった。

簡単に言えば柱合会議の後の柱達と同じ感じである。そのため、善逸からの同情の視線が痛い。

 

 

「七海と禰豆雄が色々巻き込んで申し訳ありません、本当に」

「いや、別に構わねぇよ。なんかアイツらを見たり、修行したりしてたら考えてたことが馬鹿らしくなってきてな。.....まあ、ふざけんなとは思ってたが、悪くはなかったかもな...」

「えっ?獪岳が!?」

 

 

私が思い返してみたら凄く迷惑をかけていたと感じ、何度目か分からない謝罪をすると、獪岳は謝らなくていいと言った。それと、獪岳はおそらく

善逸は獪岳の言葉に驚いて叫び、獪岳に拳骨をもらっていた。

 

 

「....なあ、コイツの世話するの止めていいか」

「駄目です。そういうのが全部私のところに来るので、お願いですからやってください。私が過労死しそうなので」

「さっきから二人とも何を話しているの!俺の世話とか言ってるけど、俺はそんな小さい子じゃないから!」

 

 

獪岳が本気で止めようとしていると察し、私は必死に止めないでほしいと懇願する。その様子を見て、善逸は不満そうに言っていたが、私も獪岳も何とも言えない顔をしていると思う。

幼い子どものような扱いをされていればそう言いたくなるだろうけど、私と獪岳はそういう風に思うことがあり、これからそれが起き、たぶん大当たりするのだと考えている。

 

 

「猪突猛進!」

「ぎゃああああぁぁぁ!」

 

 

その時、伊之助が窓を突き破って部屋の中に入っていった。善逸は悲鳴を上げ、私はその場から離れて割れた窓ガラスに当たらないように回避した。ちょうど窓の近くにいたから、気配に気づかなかったら危なかったよ。

安全な場所まで避難した後、私はため息を吐きながら伊之助に話しかけた。

 

 

「伊之助。窓から入ってきたら駄目だよ」

「そんなこと、どうでもいい」

 

 

私が注意しても伊之助はそれ以上に興奮しているみたいで、私の話を聞いてくれる気はないみたい。

いや、どうでもいいことじゃないからね。

 

 

「始まるらしいぜ。柱稽古が!」

「は、柱稽古?」

「おい。カス、知らねぇのか」

「全体的な組織力強化を図るため、柱が直々に稽古をつけてくれるみたいだよ。勿論、全員参加」

 

 

伊之助が柱稽古のことを嬉しそうに話していて、私はそれを微笑ましく見ていたが、善逸は顔を真っ青にしていた。困惑した様子であるが、なんとなく嫌な予感がするのだろう。

獪岳は呆れた目で善逸を見ている。私はそんな善逸に同情しながらも後で行くことになるのは確実だから、隠しても意味がないと思い、正直に話した。

 

 

善逸は私の話を聞いた瞬間に悲鳴を上げた。最後の言葉は余計なお世話だったかな。

善逸の逃げ出そうとするので、その前に私が善逸の羽織を掴んだ。

 

 

「いやあああぁぁぁぁ!彩花ちゃん!お願い!離して!」

「駄目だよ。この後、困るのは善逸なのだよ。柱稽古は鬼舞辻無惨との戦いのために必要だから行うのであって、それがなければ善逸が危ないよ。私は嫌だよ。善逸が亡くなるなんて」

「でも、戦う前に死んじゃうって!」

「はあ。柱が最低下弦の鬼を容易に倒せるくらいにまでするって言ってたから、参加すれば確実に強くなれると思うな」

「おお!」

「ぎゃああぁぁぁ!し、死ぬううぅぅぅ!てか、なんでそんなに詳しいわけ!」

 

 

泣いている善逸の頭を撫でながら宥めようとするが、善逸はすっかり後ろ向きになってしまっている。そんな善逸を見て、獪岳がため息を吐きながらそう言うと、隣で聞いていた伊之助は凄く嬉しそうにしていて、正反対に善逸はさらに泣き叫んだ。

だが、獪岳があまりに詳しいことを疑問に思ったらしく、それについて問い詰めてくる。

獪岳は頭を掻きながら私を見てきた。私はそれに苦笑いを浮かべた。

 

 

獪岳がそういった詳しい情報を知っているのは主に私経由なんだよね。正確に言うと、私に届いた手紙を獪岳も読んだことが原因である。

私に届いた手紙はあまね様からの手紙で、夫である御館様の代わりに連絡してくださったのだ。

どうして私に連絡が来るのかというと、怪我がなければ私は柱合会議に参加することになっていたから。

 

 

言っておくけど、私は柱ではない。階級は甲という柱の次だが、柱ではないので本来は参加できないはずである。

もう既に何度も柱合会議に参加しているが、炭華の裁判や上弦の参の討伐という特例の事態が起きたり、柱への昇格の話だったりという状況であったため、今までは参加していた。

それで、今回呼ばれた理由はというと、柱稽古における七海と禰豆雄の対応についてである。

 

 

最終決戦での無惨の狙いは確実に炭華である。そのため、炭華は別のところへ避難してもらう必要がある。だが、それをしたら問題になるのは七海と禰豆雄をその間どうするのかである。

 

 

私がやるべきなのは最初に二人の説得である。事情があるとはいえ、七海と禰豆雄は炭華と離れることに抵抗するだろう。炭華を遠くに連れて行かないように、あるいは七海と禰豆雄が炭華と一緒に行くかと言い出すだろう。

だけど、七海と禰豆雄には最終決戦に参加してもらわないといけない。七海と禰豆雄は炭華を危険な場所へ連れて行こうとする気はなく、離そうとすれば間違いなく抵抗する。そのため、二人を説得してほしいと頼まれるのである。

まあ、私も炭華が狙いなのは明白な戦いが起きるのに、その炭華を放置するのは安全でないと分かるし、七海と禰豆雄が最終決戦に参加してくれたら心強いので、それに賛成している。

 

 

なので、私は七海と禰豆雄をきちんと説得してきた。炭華を狙ってきているから無惨達を倒そうとか、炭華の安全のためにも戦いの場所から離そうとか、炭華がそんなに心配ならさっさと戦いを終わらせたらいいなどと言えば、七海と禰豆雄は同意してくれた。

柱稽古に参加するのも、炭華を狙ってくる無惨をコテンパンにするために強くならないと駄目でしょうと言った。元から(炭華を傷つけて、血を体内に入れて鬼にしたという)地雷を踏んでいるので、こう言えば七海と禰豆雄が乗ってくると分かっていた。

同情する人がいるかどうかは分からないけど、最大の地雷を踏んだのが悪いと思うし、自業自得のところがある。

 

 

「......という感じで、七海と禰豆雄の説得をしたのだけど、説得するためには事情を知っておかないと難しかったから、私も知っているの。勿論、七海と禰豆雄もね」

「俺も知っているのはコイツらの説得をここでしていたからだ。コイツも俺も一応ここに入院しているからな」

「あー.....。....なんというか、お疲れ様...」

 

 

私が善逸に事情を全部話し、隣にいる獪岳もそれに補足した。善逸はなんか気の毒そうな目で私達を見ながら労った。

 

本当に大変だったんだよね....。入院中は体を休める時間のはずなのだけど、私は柱稽古のあれこれで全然休んでないと思う。いや、これは前の時と同じだから...そんなに気にしなくていいかな....。

 

 

「俺はまだ入院中だから、柱稽古に参加できねぇ。だが、数日後には退院できるから、それまでの間はサボったり逃げ出したりするんじゃねぇぞ」

「無理無理無理!死んじゃうって!俺、弱いもん!」

「だから、善逸が柱稽古に参加してもらおうと獪岳と一緒に話し合っていたの。最終決戦はこれまでと違って強い鬼と遭遇するのは確実だから、ここで鍛えておかないと」

「お前はあの二人と猪で手いっぱいだろうから、このカスだけでも見ておくかと思ったんだ。こんなカスでもお前らと行動したし、上弦の鬼とも戦えたんだから、鍛えれば使えるんだろ」

「そういうことなの!でも、俺は死んじゃうよおおぉぉぉ!」

 

 

獪岳の言葉に善逸は怯えた様子を見せた。私はその予想通りの様子に苦笑いを浮かべ、獪岳は呆れた顔をしてそう言った。

私も獪岳も善逸が柱稽古のことを聞けばそういった反応をすると分かっていた。なので、善逸のことを誰が見るかという話になっていたのだ。善逸は私と獪岳の反応でやっと理解できたらしいが、嫌なものは嫌なようで頭を抱えながら叫んでいる。

私も獪岳も善逸の相変わらずの様子に困り果てた。

 

 

「....俺が来るまではなんとかなるかと思ったが、その前に逃げ出しそうだな、これは」

「となると、伊之助に...も無理かな。私も初日は参加できないからね......」

「初日って、何かあるの?」

「明日から炭華は安全な場所に行くから、戦いが終わるまではお別れなの。だから、お見送りの時に七海と禰豆雄が駄々こねそうで....」

「あー、そうなんだ。いや、それなら俺も炭華ちゃんのお見送りしたい!」

 

 

獪岳はため息を吐きながら言い、私もどうしようかと考える。善逸は私の言葉で気になることを聞き、私はそれにも苦笑いしながら答えた。善逸は私の話に納得した後、自分も行きたいと駄々をこねた。

 

 

「...駄々こねる人が増えられたら困るのだけど.....」

「仕方がねぇが、先生に来てもらうしかねぇな」

「えっ?じいちゃん?なんで?」

「お前が逃げ出さねぇか心配だから、来てほしいと頼んだんだよ」

「私のところも鱗滝さんが来てくれて、炭華の警護につくの。それを知った獪岳も桑島さんに頼ることにしたらしいよ」

「できることなら先生の手を借りずに解決できれば良かったんだが、その調子だと無理なようだからな。ついでに、コイツから聞いた今までのことも既に報告しておいた」

「早いね」

「お前がアイツらを止めてる間に伝えてくれと頼んだ」

 

 

私は善逸の言葉に苦笑いを浮かべ、獪岳は窓を見ながらそう呟いた。かなり小さい声だったが、聴覚の鋭い善逸にははっきり聞こえたため、混乱していた。そんな善逸を見ながら、獪岳は突然だという表情をして言った。私がそのきっかけとなった出来事を話したが、余計なお世話だったかもしれない。

私と獪岳がそんな会話をしている間に善逸は顔を真っ青にしていた。そうしていると、鎹鴉が窓から入ってきた。その鎹鴉は獪岳のである。鎹鴉は桑島さんからの返事を聞いてきたらしく、私達にそれを伝えてきた。その返事は承諾で、今からそちらに行くというものだった。

これを聞き、善逸は泣き叫んだ。

 

 

「いやああああぁぁぁぁぁ!じいちゃんに殴られるうぅぅ!」

「なら、大人しく鍛練でもしてろ」

「なんか知らねぇが、そいつは強えのか」

「そりゃあ、柱を務めてた人だからな」

 

 

泣いている善逸を獪岳は冷めた目で見ながらそう言い、伊之助は桑島さんが強いのかと聞いている。

獪岳の言葉で伊之助は強そうな人が来ることを喜んでいるが、そろそろ現実を見てもらわないとと思い、伊之助に話しかける。

 

 

「伊之助。柱稽古を楽しみにしているのは分かったから、とりあえず周りを見よう」

「なんだよ......」

 

 

私は扉の方を指しながら言い、伊之助は不満そうな顔をしながらその方向を見て、ものすごく後悔した。

それはそうだろうね。しのぶさんがゴゴゴッ...という音が聞こえてくるような雰囲気を出していながら笑顔を浮かべているのだから。

伊之助はそれを見て、すっかり固まってしまったので、私は肩に手を置いて正気に戻した。

 

 

「...一緒に謝ろうか」

「ウン....」

 

 

私が優しくそう言うと、伊之助は素直に頷いた。

 

 

 

 

 

その後、炭華のお見送りは特に問題なく?一日で終わり、私達は次の日から参加できた。柱稽古の順番も内容も前の時と変わらなかった。なので、煉獄さんのところはすぐに終わり、宇髄さんの稽古から始まった。

宇髄さんのところは走り込みであり、そこにいる人達と一斉に走り出すはずだが、その人達よりも早く動くのだ。しかも、七海と禰豆雄が威圧しているから、他の隊士達は怯えている。炭華と離れたばかりだから、やる気も充分なんだよね...。

どんなやる気かって?

正確にいうと殺る気だよ。鬼舞辻無惨を殺る気。

おかげでめちゃくちゃに暴れそうになっていたけど、なんとか抑えさせた。

 

 

だが相当な力を脚に込めているようで、踏み込んだ際に足跡ができた。その足跡で転ぶ人が続出したため、休憩時間に足跡を無くそうと鍬を使ったり、レーキやトンボなどのような道具も使ったりした。

走り込みの稽古のはずだが、足腰だけでなく腕も鍛えられたと思う。ちなみに、私達三人で手分けしてやったから、休憩時間が終わる前には平らな地面に戻ったよ。

 

 

その日から私達は隊士達と離れたところで稽古をした。しっかり宇髄さんと話した結果ね。

足跡の問題は解決できなかったけど、怯えて何もできなくなっている隊士達への問題を解決することはできた。

ただ、足跡をそのまま放置することは危険なので、休憩時間や一日の終わりには三人で元通りにする。

私は七海と禰豆雄を追いかけ、二人と同じくらいの速度で走りながら他の隊士達のいる場所に近づかないように誘導し、昼飯を食べる前には地面に平らにし、配られた昼飯を食べ、終わりまではひたすら走り続け、その日の稽古が終われば地面をまた戻すを繰り返した。

その宇髄さんの稽古は一週間で終わった。時々様子を見に来てくれて、これなら次に行っていいと言われた。

適当にせず、ちゃんと見てくださりありがとうございます。

 

 

私は宇髄さんに頭を下げた後、時透君のところへ行った。私と時透君は刀鍛冶の里の件ですっかり仲良くなっていて、来た時は最近のことを話し出してしまった。その所為で七海と禰豆雄の機嫌が悪い。

時透君は私だけでなく、炭華とも仲良くなっていて、七海と禰豆雄は凄くそのことを不満に思っているのだ。

今回の稽古でその不満が爆発しないようにと思っていたのだけど、もう爆発寸前みたいだ。

すぐに宥めたのだけど、時透君が七海と禰豆雄を煽るので、全然安心できない。二人と時透君はもしかして相性が悪いのかな。

 

 

時透君のところは時透君に何度も打ち込みをする打ち込み稽古であるため、下手をしたら思いっきり時透君に木刀を打ち込みそうだ。それでも稽古はしないといけないため、私と時透が組んで七海と禰豆雄の相手をすることになった。

その間も時透君は二人を煽るので、七海と禰豆雄の怒りの熱が上がるので、私は凄く困るのだ。何せ、来た隊士達がここでも七海と禰豆雄に怯えるから。

そのことに頭を抱えたくなりながらも私は時透君を怪我させないように二人の攻撃を流している。

 

時透君のところは五日で次の場所へ行く許可をもらえた。あの二人、煽れば煽るほどに動きが洗練されていくからね。....たまにめちゃくちゃな動きをしてくる時があるけど。

 

 

甘露寺さんのところは全く問題なかった。時透君のように煽ることなんてないし、逆に少し浄化されて大人しくパンケーキを食べていた。私も今回はここが一番安全だと思っているのだが、次の稽古に行かないといけないので、稽古に真剣に取り組んだ。

 

 

それで、次の伊黒さんのところへ行ってみたのだけど、ここで予想外なことが起きた。

伊黒さんが七海と禰豆雄と仲良くなった。

 

 

何が起きたのかというと.....少し説明が難しくなるかもしれない。

その一、伊黒さんが甘露寺さんと仲良くしていたことに関して言う。さらに、甘露寺さんを褒める。

その二、それを聞いた七海と禰豆雄が甘露寺さんの良いところを認めるが、炭華の良いところを言う。

その三、伊黒さんが負けじと甘露寺さんの良いところを言い、それを繰り返して言い合いに発展する。

その四、私はしばらくの間、これを傍観する。ただ、おろおろして三人の言い争いを見ている隠を宥めてもいる。この時に止めなくていいのかと聞かれるが、今の段階で止めたらとばっちりがこちらに向かうため、少し落ち着く機会になったら間に入ることを話す。隠は納得したので、二人で下がるという流れである。

まあ正確にいうと、この展開からして予想がつくので、放置しておいた。

 

 

その結果、七海と禰豆雄は伊黒さんと仲良くなりました。仲良くというわけではないが、互いに推している人の良いところを認め合い、それに共感しながらその人をより輝かすための方法を話し合っている。

 

皆さんはこの流れに聞き覚えの方がいるでしょう。

その通りです。兪史郎さんと同じ流れです。私も伊黒さんとのやり取りを見た時に既視感を覚え、それが兪史郎さんと会った時だと思い出し、傍観した方がいいのではないかと思ったのだ。

なんだか兪史郎さんの時みたいになりそうだと思ってね......。

 

 

私は兪史郎さんと同じ流れが起きそうだと思っていたので、七海と禰豆雄が言い合っているのを見て、こうなると予想していなかった隠が凄く驚いていた。

そういう流れになったから、伊黒さんとの稽古は割と平和なものだった。度が過ぎると思ったものは私が止めているので、そこまでの騒ぎではない。周りが混乱していたが、私はもう流す方がいいと分かっているので、七海達の話についていけなくても大丈夫だ。

隠は少し困惑している様子だったが、それ以上に可哀想だったのは隊士達である。この隊士達は障害物に括られている人達であり、攻撃が掠る度にとんでもない音が聞こえ、衝撃をあるために稽古の最中はずっと気絶していた。私は同情して七海と禰豆雄がいる間は止めておいた方がいいと意見したが、それは却下された。

その時の隊士達の涙は鮮明に覚えているよ。

 

 

ただ一つ、伊黒さんと意見が合ったこともある。それは三日経ち、次の稽古へ行く許可をもらった時のことだ。

次の稽古は何なのかという話になり、次の稽古をつけてくれるのが不死川さんだと分かった。

 

 

 

『不死川実弥?.....ああ...。玄弥のお兄さんで、姉さんを刺した....』

『.....そうよね。早く不死川さんのところへ行かないと....』

『おい!『伊黒さん。私が不死川さんのところへゆっくり歩いているので、その間に不死川さんへ連絡を。それと、不死川さんに何か防具でも身につけておいた方がいいとも伝えてください』...分かった』

 

 

 

不死川さんの名前を聞き、禰豆雄と七海は不死川さんが炭華を刺していたことを思い出した。これには私も伊黒さんも面倒なことになったと思った。すぐにでも不死川さんのところへ向かう二人を伊黒さんは止めようとした。

この二人にとって不死川さんは下手人のように、あるいはそれ以上のものと感じているようだが、伊黒さんからしたら不死川さんは同僚であり、友人でもある。なので、伊黒さんは不死川さんの元へ行く二人を止めようとしていた。

 

 

だか、その前に私が動くことにした。

不死川さんに何かあったら玄弥も悲しみますからね。ある程度の時間稼ぎくらいはできるはずだ。

私はそう思い、七海と禰豆雄に怪しまれないくらいに遠回りした。私が遠藤(自分の鎹鴉)に合図を送り、それに従ってくれたおかげである。後で遠藤に何か欲しいものを買おうと思いながら、私は自分の指した道に対して頷いてくれる遠藤を見ていた。

 

 

不死川さんの屋敷に着き、七海と禰豆雄が扉を蹴り破って入ろうとするのを押さえ、私は玄関の前で中に入っていいかと尋ねた。

七海と禰豆雄は不満そうにしていたが、それが普通の礼儀だと伝えて大人しく待ってもらった。ついでに扉は蹴って開けないようにということも伝えたので、扉を壊してまでは入ろうとしなくなるはずだ。

それと、七海と禰豆雄がここに来ているのだということを伝え、心の準備をできるようにしようと思ったのだ。あと、しっかり準備ができたかどうかという確認もしたかったのだ。

 

私の声に反応し、屋敷の中から『入れェ』という声が聞こえた。その瞬間、七海と禰豆雄が扉を開け、屋敷の中に入っていった。私もその後を追いかけながら不死川さんを探していて、なんとなく稽古場にいると思った。

 

 

そのことに違和感を感じながらも私達が稽古場への扉を開くと、目の前に見えたのは剣道防具の面のところだけを身につけた不死川さんであった。

いや、どうして頭の部分しかないの!防具を身につけておいた方がいいと私は言ったよ!それとも私が言ったから、面だけはつけておこうという気になったの!私は面だけではなく、甲手や胴、垂といった部分も身につけてほしかったのだけど、どうして他の防具を身につけなかったのだろう。柱合会議の時に七海と禰豆雄にボロボロにされたのを忘れていないでしょうに。

 

 

そういうことを考えていると、不死川さんが七海と禰豆雄に向けて木刀を投げ渡す。『かかってこいィ』なんて言いながら木刀を構えている姿を見て、私は漸く不死川さんが何をしたいのかを察し、遠い目をしてしまった。

 

 

不死川さん、完全に七海と禰豆雄に再挑戦する気だ。本当に七海と禰豆雄に一方的にやられたことを忘れなかったのだろう。そのために七海と禰豆雄に勝負を申し込もうとしている。不死川さんは伊黒さんから連絡が来た時に準備したのは戦うための準備ということで間違いない。

面だけしか防具を身につけていないのは体を動かすため。動きが制限されそうなものは邪魔でしかないから。これだけでも七海と禰豆雄と本気で戦う気なのだということははっきり分かる。

その上、七海と禰豆雄に木刀を渡して、私の分はない時点で七海と禰豆雄との勝負のことで頭がいっぱいだったのだとも分かる。

 

さらに、七海と禰豆雄も不死川さんと戦う気で来たため、やる気は凄くあるのだ。なので、木刀を受け取った瞬間には不死川さんに向かっていった。

 

 

七海と禰豆雄が不死川さんと戦う様子を見て、私は頭を抱えたが、とりあえず木刀を探しに行くことにした。

こんな状況になったが、私達は柱稽古でここに来たのだ。さらに、不死川さんの稽古は持久力を向上させる稽古であり、内容は不死川さんに何度も打ち込み続けるというものである。本気具合が違うが、大体似たような感じになっているため、もうこれを稽古ということにした方がいいんじゃないかと思い始めた。

そのためにも、私はあの三人の戦いに参加することにした。どちら側につくというわけでもなく、ただ全員が再起不能の怪我などをしないようにした。

 

余談だが、不死川さんのところに玄弥が訪れたことがあった。実は原作でもが玄弥は不死川さんのところに訪れ、玄弥が不死川さんに鬼を喰ったことを言ってしまい、目を潰されかけた。こっちでも同じことが起き、それを私達三人で止めた。だが、それによって七海と禰豆雄の怒りがますます強くなり、打ち込み合いがどんどん激しくなっていった。

七海も禰豆雄も刀鍛冶の里の件で玄弥とも話していたわけなので、玄弥の目を潰そうとしたことにかなり怒っている。乱闘は私と玄弥で間に入り、その時に流れで不死川さんと玄弥の兄弟喧嘩になり、七海と禰豆雄が玄弥の味方について過剰暴力になったが、なんとか仲直りさせることができた。

後に悲鳴嶼さんの稽古よりも疲れたと私は思った。

 

 

不死川さんのところでは色々なことが起きたが、一応許可はもらえたので、次の悲鳴嶼さんの稽古に行った。

悲鳴嶼さんの稽古は筋力強化の訓練であり、柱稽古の中で最も過酷な稽古とも言われる。その内容はというと、最初に異様に冷たい川で念仏を唱えながら一刻の間滝に打たれ続け、次に丸太を三本担いで、最後に人の背丈程もある岩を一町先まで押すという課題を全てこなせた人が合格となり、最後の義勇さんの稽古に行けるのですよ。

 

 

ここでは七海も禰豆雄も特に暴れることはなかった。何故かというと、最初に滝に打たれるため、そこで二人とも少し冷静さを取り戻すことができたようだ。だが、問題は起きたのだ。

誰かと揉めたわけではないよ。滝行も頭を冷やすという意味で効果があったし、丸太だって余裕で持ち上げていた。

というか、あの二人は私よりも力があるので、私が持ち上げられたものを持ってなかったということはあり得ない。それなら岩も押すことができるのではないかと思うが、それが難しかったのだよね。

 

 

私は岩を押すことができたよ。何故と思うかもしれないが、二人が岩を押せないのはそれ故にということもある。

七海と禰豆雄が岩を押すのに失敗した理由は岩が粉砕してしまうからである。要は七海と禰豆雄の押す力があまりに強すぎるため、押される岩の方が耐えきれずに壊れてしまうのだ。

これには私も驚いたし、七海と禰豆雄はもっと頑丈な岩がないかと探し始めた。悲鳴嶼さんは盲目だから岩が粉々に崩れていくところを見ていないが、その音で察しているのだと思う。粉砕された後に念仏を唱えていた。いつものことだとも感じるが、なんとなく岩に対して唱えたように感じた。おそらく私もその岩に念仏やら謝罪などをやった方がいいのではないかと思ったからかもしれない。

 

 

それと、あの二人が岩を探すのは止めておいた。七海も禰豆雄も悲鳴嶼さんも不思議そうにしていたが、もう自分の力を制御できるようにしてほしいから、この岩で練習しようと言ったら納得された。

今までは七海と禰豆雄が大暴れするため、私達は遠まきにするかそれに加勢するしかできなかった。理由は七海と禰豆雄の攻撃があまりに強く、それを中心にせざるを得ない状況になるのだ。これまでの戦いはそれで通用したが、最終決戦でも通じるかどうかは分からない。

それに、これは私と七海しか知らないことだが、最終決戦の時に私達鬼殺隊は全員が無限城に閉じ込められる。無限城はかなり広い空間のようだが、閉じられた空間で七海と禰豆雄が大暴れすれば無限城はボロボロになり、その無限城で何か起きてしまえば中に閉じ込められている自分達も無事では済まないかもしれないし、何人かの人と行動するような事態になって戦闘中にその人達を巻き込んでしまうこともあり得る。

なので、七海と禰豆雄には最終決戦で連携を取れるように力加減を覚えてほしいと思うのだ。

 

 

このことを七海と禰豆雄に話すと納得してくれたし、悲鳴嶼さんも協力してくれた。だが、七海と禰豆雄の力の制御はなかなか難しく、訓練を全て終えても私はここで鍛練することになった。

七海と禰豆雄がここで暴れる可能性が少しでもあるなら、それを放置するというわけにはいかないからね。

押す岩の大きさを変えたりその距離も離したりしながら私は二人を待った。五日経って、漸く七海と禰豆雄は岩を一町先まで押すことができた。かなり時間がかかったのはおそらく反復動作をしながらであったからだと思う。

 

 

反復動作は集中力を極限に高めるために、予め決めておいた動作を行うことであり、七海と禰豆雄の集中力を高められるものといったら炭華の存在は間違いない。なので、炭華への思いで爆発してしまい、七海と禰豆雄は岩を粉砕してしまうらしい。

それで、七海と禰豆雄がその状態で加減できるようになったのかというと、炭華の怒った顔や悲しそうな顔をしたら不思議と力が抑えられるのだそうだ。やはり七海と禰豆雄は炭華が関わると色々なことを可能にするのだと再確認できた。

私も自分の訓練に取り組む中で、あれこれ悩みながら二人の訓練を見ていたのだけどね....。

 

 

 

私は七海と禰豆雄の訓練を終えた後、少し悲鳴嶼さんと話した。今回は悲鳴嶼さんとかなり関わりがあったので、前の時よりも気安い関係になっている。それに、ここにいる間に相談されたのだよね。何をというと、獪岳のことで。今回も私は獪岳と知り合いであるわけだし、悲鳴嶼さんも刀鍛冶の里の件で獪岳のことを知って気になっているようだった。

私はこれにも悩んだのだよね。前の時は踏み込んで色々口に出していたけど、今回も同じことをすればいいと思っていない。というか、これは私の問題ではないからと思い、獪岳にも悲鳴嶼さんと会ってみないかと手紙を送った。何回か手紙でのやり取りをして、少し渋った様子の獪岳を説得していき、悲鳴嶼さんと獪岳の二人で話す時間を設けるという話になった。これは一度腹を割って話した方がいいと思ったからね。

ちなみに、それを行うのは獪岳が悲鳴嶼さんの稽古まで終えた時に、次の稽古へ行く前に話し合おうということになっている。

 

 

 

 



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苦労人の少女は決戦でも変わらない 後編

 

 

 

七海と禰豆雄の訓練も悲鳴嶼さんの相談も終わり、次の義勇さんの稽古へと移った。今回も前の時のように義勇さんの柱ではない発言がないため、あの四日間もない。しかも、柱稽古に遅れたのが一日だけであるため、時間にはかなり余裕がある。

だが、それで油断する気はない。残りの上弦の鬼の中で上弦の参の猗窩座がいなくなり、他の方に戦力を集中できるようになったとはいえ、何が起こるかは分からない。

 

 

特に、なんだか私はまた黒死牟と戦うことになりそうな気がするのだよね。.....まあ、ただの勘なんだけどね。

でも、黒死牟と戦う可能性は全員があるため、鍛練を重ねておいた方がいいと思うし、黒死牟の方は私を見つけたら再戦を申し込むかもしれない。あと、黒死牟が興味を持つとしたら子孫である時透君だろうけど....あまり時透君を巻き込みたくないかな。原作のこともあって、遭遇する可能性が私以上に高いけど...。

 

 

私はそんなことを考えながら義勇さんのところで鍛練をしている。義勇さんのことは七海も禰豆雄も敵意なんてないし、むしろ恩を感じているくらいなので、二人とも他の柱稽古と比べて落ち着いている。そのため、私は自分の鍛練に集中することができた。たまに炭華に会えないストレスで暴走しかけたり、不死川さんが稽古で義勇さんの屋敷に訪れ、そこで七海と禰豆雄が怒りを再発したりした時ぐらいしかないので、久しぶりに自分の時間を過ごせる。義勇さんが手伝ってくれるから、鍛練も凄く忠実している。

義勇さん、狭霧山に行ってから前を向くようになっていて、柱稽古も協力的なうえに私達の鍛練でも積極的に相手をしてくれる。私には非常にありがたいことである。

 

 

それと、私が義勇さんのところで鍛練している最中に原作で上弦の肆だった鳴女がここでは上弦の参となっているのだということが判明したのだ。

義勇さんのところで修行を始めてから良い方向に進んでいるなとか思うと、その事実は非常に嬉しいことであるが、どうやってその情報を得たのかというと...ね.....。

 

 

七海と禰豆雄がこの状況とはいえ、炭華に会えないことを不満そうにしていた。日にちが経つ事によってストレスが溜まっていき、かなりイライラしているので、私は夜中に思いっきり動いてきたらどうかと提案したのだ。ストレスを溜めるのは体に良くないことだし、この状態の七海と禰豆雄が不死川さんに会うと不死川さんの身が危ないので、私はなんとかしようと思った。一番効果があるのは炭華と会わせることであるが、今の状況で私達がそこに会いに行って、炭華の居場所がバレてしまう可能性があるので、それはできないことだ。

 

 

なので、他の方法でストレスを解消させることにした。ストレスの解消となると、一般的に思いつくのは読書をしたり、音楽を聴いたり、睡眠をとったりすることだろう。その中で七海と禰豆雄に合うとするなら運動することだと思った。だが、ただの運動だとすぐに飽きられてしまう。それに、効果もそれほどないだろうと私は考えた。

何故なら既に昼間で七海と禰豆雄は鍛練で体を動かしているからである。

今までも一応効果はあったのだ。七海と禰豆雄が刀や斧を振る度にだんだん威力が増してきているしが、逆に怒りの方も落ち着いてはきているのだ。たとえ僅かであっても、下がる分に効果があることは間違いない。

 

 

そのため、私は体を動かすにしても怒りを鎮火させるくらいに思いっきり暴れようが、平気な場所で喧嘩でも何でもやってほしいと思い、七海と禰豆雄を別の山へ連れて行った。七海と禰豆雄も暴れ足りないところがあったらしく、かなりノリノリだった。義勇さんも自分の稽古や不死川さんが来た時に暴走されるのは(例え毎年鎮火できたとしても)困るし、ある意味で稽古になるだろうということで許可が出た。二人が暴れる場所は私がちゃんと調べて誰も被害が来ないかどうかも確認したから、御館様からの許可ももらえた。

 

 

 

それで、七海と禰豆雄が一日好き勝手にさせた日は夕暮れになっても帰って来ないので、私が二人を迎えに行った。二人とも広い場所であれこれできると思って喜んでいるのだろうなと思いながら二人のところへ来たら、七海と禰豆雄が鳴女の目の使い魔を捕まえていた。私は驚きながらもその目に近づいて観察した。

その目が何かは分かっている。原作では柱稽古の時に鳴女が無惨の指示で鬼殺隊士達の動向の調査と禰豆子の居場所を捜索するため、その目の使い魔を放ち、探知探索の血鬼術を使っていた。その最中に七海と禰豆雄に捕まったのだろう。七海も禰豆雄も鬼殺隊士であるので、何故かこの二人だけ別行動をしたら調査するはずだ。

 

 

暴れている間に七海と禰豆雄が見つけてしまったのだろう。具体的に何をしていたのかは分からないが、ストレス発散のために山の中を動き回っていたら発見されたんだと思う。七海と禰豆雄に捕まった目の使い魔達は必死に逃れようとしている。だが、私はそれ以上に気になることがあった。...七海と禰豆雄が予想外なことをするのは慣れてしまったために。

 

 

私が七海に頼んで目の使い魔を見せてもらい、その使い魔の目に描かれていたのが参という文字だったということを知った。私はそのことで動揺したが、すぐに冷静になって考えてみれば分かることだった。

無限列車の時に上弦の参を倒したのに、その後の遊廓の戦いで私は妓夫太郎と堕姫の目が上弦の陸のままだった。刀鍛冶の里の時もそうであり、半天狗は上弦の肆のままだった。上弦の伍は確認していないが、おそらく上弦の伍もそのままの状態なのだろうと思う。だが、違和感はあったはずだ。変化を嫌う無惨が欠けたものをそのままにしておくとは思えないのだ。

 

 

でも、それがどうしてなのかはここで確定した。鳴女は原作で上弦の肆になっていた。鳴女はかなり古株のようであるうえに、その珍しい血鬼術であるため、鳴女が上弦の参になっても特に疑問はなかった。

ただ、鳴女はそのような人間らしいところがあるのだなと思ったと同時に、ここで予想外な出来事は起き始めるのは困るとも思った。

今までに危ないことが何回か起きていたが、今回は最終決戦であるために前と違う結果にならないようにしないといけない。

何せ、あの最終決戦は人間も鬼も多くいて、特に鬼殺隊の方は誰か一人でも欠けてしまえば大変なことになる。最悪だと鬼舞辻無惨に負ける可能性がある。

それに、原作と違って猗窩座が既にいない状態であり、獪岳も鬼になっていない。その穴を埋めるような形で無限列車の後に鳴女が上弦の参になった。それなら、獪岳が埋まるはずだった上弦の陸も誰かが加わる可能性がある。

 

 

あと、不安要素がある。鳴女は上弦の参となったため、刀鍛冶の里の後に上弦の肆になることはない。その時が繰り上がったというなら問題ないのだが、上弦の肆が代わりに別の鬼が入る可能性だってあるのだ。上弦の陸に新たな鬼が入る可能性があるのに、さらにまた新たな鬼が加わると、本当に何が起きるか分からない。猗窩座達よりも弱いと思うのだが、原作にいない存在だと何をしてくるか分からないからね。.....原作にいない上弦の伍がいる可能性もありそうだ。いや、もうこれ以上悪い方へ考えるのは止めておこう。今回の件でこれを知ることができたのは大きいし、そういった可能性に気づけたのも良いと思っている。だが、悪い方だけを見ると気が滅入ってしまうので、程々にしておこう。

 

 

新たに上弦の鬼(それも私達が知らない)が増えてしまうのをどうにかしたいと思っているのだが、私に鬼の動きを止めることなんてできない。既に終わった後だと思うし、そもそもこの時期は鬼が全員無限城に集まっている。その無限城は鳴女でないと出入りできないので、最終決戦ではないと会うのは難しいよね。これは私の手に負えないよ。

 

 

 

私はそういうことを考えながら七海と視線を合わせた。七海も鳴女が上弦の参になっていることと原作と違って別の鬼が入る可能性に気づいたようだ。原作を知らず、ここにはいない上弦の参を探している禰豆雄は分からないが、私と七海は鳴女がいるのは無限城だと知っているので、落ち着いて説明したり会話したりしていた。

それと、七海が言うにはこの目の使い魔は複数いたらしいが、その使い魔達はどうやら気づいた禰豆雄が目の使い魔を一人掴み、それを日の光のある場所へ出したことで焼けてしまったそうだ。

それにより、禰豆雄も鬼だと確信したようで、禰豆雄はその目の使い魔を全部捕まえて尋問しようとして、それを察知した使い魔達が禰豆雄に入れないような場所へ逃げたみたいで、禰豆雄がそれを破壊しながら追いかけ、私の見せてもらっている一人が捕まえられたものだそうだ。それ以外は禰豆雄が破壊しながら追いかけたために、影が無くなって日光を浴び、燃えてしまったらしい。

 

 

その一方で、七海は禰豆雄のように追いかけず、その様子を見ていた。七海は原作の展開で色々察したようなので、特に追いかける必要はなかったそうだ。

でも、私は暴走しないようにしてほしかったよ...。....えっ?止め方が分からなかったからできなかったって.....。...それを私は毎回止めているのですよ!

 

 

まあそんな風に色々あったけど、とりあえず使い魔には口がないから何も聞けないからと言って、日の下に出して燃やし(そのまま逃がしたら鬼殺隊の動きを探るので)、黙祷した後に遠藤を呼んで報告した。

新たな鬼が上弦の参となっていることも、欠けた他の上弦も別の鬼が加わっている可能性も、鬼が鬼殺隊の動きを探っていることも現状で分かることを全て話した。

 

 

その後、私達は警戒しながらも鍛練を続けていた。そして、御館様のいる屋敷を襲撃したという報告が来た。だが、それは前の時よりも早過ぎた。私はその報告を聞いた時には本当に驚いた。前の時を基準に何が起こるのかを予測していたので、それより一週間も早い時期に起きてしまい、頭の中が真っ白になった。

だが、立ち止まるわけにはいかないので、私はなんとか走り出し、義勇さんを追いかけた。場所を知っているのは義勇さんだけなので、その方法でしか御館様のところに着かない。

 

 

御館様が何処にいるのかは特定できていなかった。この柱稽古の最中に隙ができたら少しずつ絞っていたのだが、完全に特定することは難しく、苦戦していた。しかし、まだ少し時間があると思い、焦らず慎重にと言い聞かせながら進めていた。だが、まさかこんなことになるなんて......。

 

 

私は義勇さんの後を追いかけながら見上げると、御館様の屋敷らしい建物が見えた。私は普通の道では間に合うのが難しいと思い、近くにある木に飛び乗りながらあそこまで行こうかと考えていると、目の前で爆発が起きた。

私はそれを直視した眩しさで目を閉じた。それにより、目の前が真っ暗になり、冷静に考えることができた。

 

 

原作で御館様は鬼舞辻無惨を巻き込んで自爆した。自爆の目的は二つ。一つは人間に戻す薬を鬼舞辻無惨に打つ隙を作るためで、もう一つは自分が亡くなることで鬼舞辻無惨に強い殺意を向けさせ、士気を上げるためだ。鬼舞辻無惨の隙を作るのは原作と同じ行動をすれば騙せるだろう。

 

 

ただ、もう一つの目的を達成するためには柱が誰も屋敷に着かず、爆発にも巻き込まれないようにするという条件がある。でも、想像以上にここへ早く着いてしまう可能性だってある。自分を心酔しているという自覚のある御館様がそれに気づかないわけがない。思いの強さを知っている御館様なら、それを予感してもおかしくない。

例え離れていても、こんなに派手な爆発が起きれば場所を知っている柱にはここが襲撃されたのだと一瞬で理解する。それなら、柱を爆発前にここへ辿り着かないようにすればいいだけだ。

それなら伝令の時間を遅らせて、確実に間に合わないようにする方がいい。

 

 

どうやら私はかなり焦っていたようだ。既に事が終わってからこのことに気づくなんてね。でも、それなら私のやるべきことはもう決まっている。これを予想できなかったのは私のミスであり、後悔しても御館様は生き返らない。そうなると、やることは御館様が命を賭けてまで行ったこの作戦を成功させることだろう。

 

 

私は頭の中が整理できたため、目を開けた。爆発により、屋敷の周りの木に炎が燃え移っている。目の前は真っ赤で、熱がこちらまで感じられ、パキパキという音が耳に残るし、原作で炭治郎の言っていた肉の焦げるような臭いというのも感じた気がした。私はそれでも足を動かし、前に進んだ。義勇さん達も御館様の屋敷に向かっている。

着いた時には鬼舞辻無惨が拘束され、珠世さんの薬を持った手を吸収していた。

私はそれを見た瞬間、珠世さんと吸収されている腕を斬り離し、珠世さんに謝罪をしながら離れた場所まで連れて行く。ちょうど悲鳴嶼さんによって無惨の頭が無くなっているため、特に邪魔されることはなかった。

 

色々申し訳ないことをしたと思うけど、今の私はまだ少し動揺が残っているし、これ以上犠牲者を出したくないので、そちらを最優先にしている。前の時に私は御館様の屋敷に行っていないことがこの動揺に繋がっているだろう。

 

 

私が珠世さんを安全な場所で離した後、無惨のところにもう一度向かった。その時、足元に障子が現れた。私は咄嗟にそこから離れようとしたが、落ちた方が都合が良かったので、そのまま落ちることにした。あと、ちゃんと着地の準備までしてね。

 

 

 

 

無限城に着き、私は向かってくる鬼達の頸を斬っていた。柱や七海達と離れていたために、私は一人で行動することになった。そんな私を好機だと思ったのかたくさんの鬼が襲ってきて、私はその度にその鬼の頸を全て斬っては黙祷を捧げ、終わった後に一歩進めばまた大量の鬼が襲ってきて、同じことを繰り返すというような感じである。流石にこれは多すぎると思う。

仲間か上弦の鬼に会えないかな。上弦の鬼とは確実に戦いになるだろうけど、それでも上弦以下の鬼は近づかないと思う。まあ、一番会いたいのは仲間の方。特に七海と禰豆雄がどうしているのかが気になる。柱を含めた周りの全員がどう分かれているのかははっきり見えていないので、分からないんだよね。

 

七海と禰豆雄が一緒ならそのうちに閉じ込められたイライラで、襖とかを吹き飛ばしそうだけど.....。....いや、その方がかえって目立つから良いかもしれない。上手くいけば全員と合流できそう。

 

 

私がそんなことを考えながらも向かってくる鬼の頸を斬っていると、ある豪華そうな扉の前まで来た。私はその扉に見覚えがあった。原作で見た上弦の弐の童磨のいる部屋にある扉である。私は周りの気配を探ってみて、この辺りには鬼がいないと直観的に思った。その後で部屋の中の気配を伺ってみると、二つの気配を感じた。一つは強力な鬼のもので、もう一つは見知った人のものである。

 

私はそれですぐに原作の場面を思い出し、その扉を開けた。

 

 

「わあ〜。女の子が増えた」

「彩花さん!?」

 

 

すると、ちょうど戦闘中であった童磨としのぶさんがこちらを見た。やっぱりしのぶさんと童磨の因縁の対決の最中だった。しのぶさんの邪魔をするのは申し訳ないと思うけど、もう既に扉を開けてしまったわけだから、部屋に入らないのはおかしいよね。それに、このままだとしのぶさんが亡くなってしまうので、それを知っていて放置したくない。

 

 

死ぬ覚悟をしているしのぶさんの作戦の邪魔をするのは悪いと思うけど、これは仕方がないよね。あと、個人的な我儘で私はしのぶさんに亡くなってほしいと思っていない。

 

 

「しのぶさん。大丈夫ですか。加勢しますか」

「大丈夫...です。が、加勢はありがたいです」

 

 

私はしのぶさんに大丈夫かどうかの確認をした。この確認はしのぶさんの状態を知るためなのと原作のどの展開まで進んでいるのかを知るためでもある。見る限り、しのぶさんに目立った外傷はない。だが、呼吸しづらそうにしているところを見ると、童磨の血鬼術をかなり吸ってしまっているようだ。

上弦の弐の童磨の血鬼術は氷であり、その中には粉凍りという自身の血を凍らせて微細な霧を発生させ、これを吸った者は肺胞が凍りついて壊死するものがある。これは呼吸を扱う剣士にとって、天敵のような能力である。

なので、私は童磨を警戒しながら一定の距離を保っている。その血鬼術を吸わないようにするためであるが、遠くに行き過ぎると童磨の頸を斬ることができないので、程々の距離にしている。童磨の血鬼術は遠距離にも特化しているので、

 

 

「ねえ、君。なんで扉を開けているの?何か細工をしたみたいで、少し開いているんだけど」

「そうですね。この空間は妙に嫌な予感しか感じなかったので、助けが来れるようにしておいているだけですよ。それど、私達がここへ閉じ込められるなんてこともありそうですからね。私達全員をここへ連れて来ることができるのならそれも警戒しない方がおかしいですよね」

 

 

童磨は気づいたようで私にそのことを聞いてきた。流石に鬼だから、人間よりも視力などの五感が鋭いみたいだね。カナヲ達には劣るけど。

私も童磨がこのことに気づくと思っていたので、特に動揺せずに話している。

それに、私がやった細工って、現代でいうドアストッパーをつけただけだからね。木材で作った葉っぱ型の。

なので、それを指摘されても大したことではない。まあ、それが一種の命綱であることは間違いない。童磨の粉凍りが部屋に充満してしまえば私達に逃げ道は無くなる。だから、そうならないように換気が必要である。空気の流れができればそこから粉凍りという汚れた空気が外に出て、部屋の中には新しい綺麗な空気が入ってくる。そうすれば私達が肺を壊死させる可能性は少しでも低くなるはずだ。

 

私はそのようなことを考えながらも嘘を交えた本当のことを話した。だって、私が言った可能性も強ちあり得そうなことだからね。

 

 

私がそのようなことを思っていると、童磨が扇を振り、その場に氷の人形が出現した。私はすぐに刀を抜き、その人形が攻撃してくるよりも先に間合いに入り、刀を縦に振った。相手が氷なので、私は炎の呼吸を使ったし、横だとまだ何か血鬼術を放ってきそうであるため、縦に真っ二つにした方が安全だと思ったのだ。

効果があったのかは分からないが、童磨の血鬼術をどうにかすることはできた。

 

 

「なかなか速いね。それに、全然動揺しないけど、君もその子のように俺のことを知ってるのかい?それなら、俺もモテモテだね」

「そういうわけではないですよ。よく見てみたら、貴方の周りに雪みたいなものがあったわけですので、氷系なのではないかとは思いましたけど」

「へぇー。目が良いんだね。俺と同じほどではないだろうけど」

 

 

その様子を見た童磨の言葉に私は苦笑いで答えた。この言葉は嘘であるため、笑って誤魔化すしかないのである。私は原作と前の時の襲撃で大体の攻撃について知っている。ただ、童磨の周りに粉凍りが漂っているのが見えたのは間違いではない。

だから、一応誤魔化せていると思うのだけど......。

 

 

「ねえ、君。見覚えがあるけど、俺と何処かで会った?」

「いえ、貴方とは会っていませんよ」

「うーん。そうか....猗窩座殿と戦ったのは君か。いやー、猗窩座殿がこんな女の子にやられるなんて。俺、猗窩座殿と仲が良かったから悲しいよ。でも、猗窩座殿もおかしいんだよね。何故か知らないけど、女の子を食べないんだから」

「それでは貴方よりまともな方だったのでしょうか」

 

 

童磨が私のことをじろじろ見ているので、それが何かと思っていたが、どうやら猗窩座との戦いで見た私のことを思い出していたようだ。

と言っても、あれは七海と禰豆雄で弱らせた状態に私が透き通る世界を使って頸を斬ったという感じなので、大体は七海と禰豆雄の手柄だと思えるのだけど。

見覚えがあると聞いた時、私は少しドキリとした。今回は会っていないが、前の時は会っていたからね。前の時に鬼がその前回の記憶を持っていないのは知っているが、見覚えがあると言われて動揺しないわけがない。とりあえず何事もないように振る舞ってみたが、どうやら気づかれていないようだ。

 

 

だが、猗窩座の頸を斬ったということで、私の情報が一つバレた。私が猗窩座の破壊殺・羅針に反応させずに攻撃できることが分かったので、童磨が氷の人形を増やし、守りを堅めている。私はどう対処すべきかと考えていて、童磨が猗窩座のことで色々言っていたことを無視していた。だが、しのぶさんはそれに反応して煽ろうとしていた。

猗窩座の話に思うところは私にもあったが、今はこの戦いを終わらせることが最優先であるため、気にしてないふりをすることにした。

 

まあ、しのぶさんの場合はただ童磨を煽りたいだけなので、猗窩座に関しては特に思い入れがあるわけではないのだろうけど。

 

 

私はそれに気づいて、しのぶさんにそれ以上は言わないようにしてほしいと思ったが、相手が因縁の童磨だから止まらない可能性が高いと考え、なんとか話題を変えようと口を開けた。

その時、凄く嫌な予感がした。私がその予感が何処から来るのかと思い、周りを警戒した。凄く知っている人達の気配を感じ、私は後ろに一歩下がった。その瞬間、横から物凄い音が聞こえてきた。その上、何故か襖が飛んできて、童磨の氷の人形に突き刺さった。

 

私はその光景を見て、ため息を吐いてしまった。なんだか安心感があるのだけど、派手にやり過ぎだと思う。私は頭を抱えたくなったが、それをやったであろう人達の様子を見た。まず最初に目を引いたのは大きな穴の空いた壁であった。その穴から歩いて部屋に入ってきたのは見覚えあり過ぎる二人、七海と禰豆雄だった。

 

 

「うーん。こっちからあのワカメの濃い臭いが感じたから来たが、上弦の鬼だったんだね。なら、あのワカメが何処にいるのか知っているのか?」

「それと、彩花の気配もしたと思ったのだけど......。....ああ、やっぱり彩花もここにいたんだ」

 

 

禰豆雄は血走った目で辺りを見渡しながらそう呟いていた。あの様子からして、七海と禰豆雄が無惨を探して大暴れしているのは間違いない。ただ、七海が私のことも探している様子なのは嬉しい。

私に気づき、七海が私に話しかけてくる。

.....この様子だと七海は冷静なのかと思われるが、私が見つける前までは七海も黒い何かを背負っていた。

 

 

「七海。禰豆雄。二人とも無事みたいだね。ところで、その様子からして無惨を探しているのかな?」

「そうよ。せっかく、鬼舞辻無惨が目の前にまでいたのに、何もすることができないままここに連れて来られたのだから、アタシ達は凄くイライラしてるの」

「早くあのワカメをこの世から消し去る必要があるんだ。それで、ワカメを探してたんだけど....外れだったか...」

「仕方がないから、代わりに殴りましょう」

「えっ?」

 

 

私は七海と禰豆雄に話しかけてみると、予想通りの反応であった。

七海と禰豆雄が炭華を狙っている件で無惨への殺意を限界まで上げられているからね。その上で何もしていないとなると、さらに高まる結果になるよね。

 

 

私に話している間にも七海と禰豆雄はますます苛立っているようで、ついに近くにいた童磨に八つ当たりをすることになった。その言葉を聞いた時、誰か声を上げたが、それは誰かも分からない。把握する前に童磨が吹っ飛んだ。七海と禰豆雄の手によって。

七海と禰豆雄が吹き飛ばした童磨の後を追っていったが、私はそれを追いかけようか悩んだ。なんだか七海と禰豆雄に任せておけば解決しそうな気がしてきたからだ。

それと、こちらに来る二人の気配があるため、それを待つという意味でもある。

 

 

「ムッ。胡蝶と彩花か」

「義勇さんと煉獄さん....。もしかして、この場所に来た時に七海と禰豆雄と一緒にいたのって、義勇さんと煉獄さんだったのですか」

「うむ!俺達四人は同じ障子に落ちたから、四人で行動していた。だが、破壊神たちが鬼だけでは飽き足らず、襖や障子を鬼諸共斬ったり、吹き飛ばしたりしてしまってな!俺達の話も聞かなくなって、どうしようもなくなってしまったのだ」

「俺達だともう止まらない。ここまで来てしまった」

「......それはつまり、義勇さんの話も煉獄さんの話も聞かずに障子や襖を壊して勝手に進んで行くので、義勇さんと煉獄さんの手ではもう止まらない事態になっている。義勇さんと煉獄さんは二人を追いかけるのに手いっぱいで、二人の暴走を止められずにここまで来てしまったと。そういうことを伝えたいのですか」

「ああ....」

「冨岡さん。もっと言葉を増やしてください。彩花さんの苦労が増えるだけなので」

 

 

私は七海と禰豆雄のことを気にしながらもその人達が待っていると、義勇さんと煉獄さんが七海と禰豆雄が空けた穴から入って来た。私は七海と禰豆雄と一緒に行動していたのではないかと思い、そのことを聞いてみたら予想通りの言葉が返ってきた。

義勇さんも説明してくれているので、私は状況と煉獄さんの説明から言葉を当てはめて、それを私なりに解釈して聞いてみると、義勇さんは頷いた。私が当たっていたことに安堵していると、隣からしのぶさんが義勇さんにそう言っていた。

どうやらしのぶさんもいつもの調子が戻ってきたようだ。それが仇の童磨が吹き飛んだ所為なのか、義勇さんの言葉の足りなさに呆れているからなのかは分からないが、これはこれで良かったと思っている。

 

 

ただそうしている間にも何か壊れたり、吹き飛んで何かに当たったりというような音が聞こえてきて、私はそろそろ止めようと思い、追いかけた。

だが.........。

 

 

「あっ」

「貴様は....」

「あれ、彩花。そういえばさっき祟り神が通ったけど、追いかけているの?」

「そうなんだよね。だから、私はそちらを追いかけたいのだけど......」

 

 

七海と禰豆雄を追いかけていると、ある部屋の中で上弦の壱の黒死牟と時透君が対峙していた。私の姿を見て、時透君はすぐに七海と禰豆雄を追いかけてだと察し、二人の行ったであろうその方向を指差していたが、黒死牟の方は刀を抜き、完全に戦闘態勢に入っている。

 

 

「...時透君。どうやらあちらは私を逃がしてくれないみたいだから、七海と禰豆雄のことを見てくれないかな。しのぶさん達もこちらに向かっているから、おそらくなんとかなると思う」

「えー。でも、そうだね。すっかり僕よりも彩花と戦いたいみたいだね。......仕方がないから、あの祟り神のことは任せて。たぶん無理だと思うから、早く戻ってきてね」

 

 

私はあの二人を追いかける方を優先したかったが、そうするわけにはいかないようだと察した。そして、時透君に七海と禰豆雄のことを任せた。時透君はあまり乗り気ではなかったが、黒死牟が時透君よりも私と戦う気であることに気づき、ため息を吐きながら了承してくれた。ただし、無理だということをはっきり言っていて、私はこれに苦笑いを浮かべた。

時透君は七海と禰豆雄の方へ行こうとしたが、何か言い忘れがあったようで顔をこちらに向けた。

 

 

「それと、そいつはどうやら僕の先祖だって言っているけど、ボコボコにしていいよ」

「あー、うん。分かったよ」

「あっ。玄弥。彩花が戦っている間に祟り神の様子を見ないといけないから、玄弥も手伝って」

「えっ?えっ!?」

 

 

時透君は良い笑顔で言うので、私は反応に困りながらも頷いた。それを見ると、時透君は七海と禰豆雄が空けたであろう穴を通る前に玄弥を見つけ、玄弥を連れて追いかけた。玄弥は困惑した状態で連れて行かれた。

そうしていると、しのぶさん達もこの部屋に来た。それで、黒死牟に気づくと刀を向けたが、私が激しく何かが壊れる音が聞こえてくる穴を指差すと、躊躇しながらその穴を通って七海と禰豆雄を追いかけた。その時にカナヲと伊之助の姿もあることに気づき、私はいつの間に合流したのかと思ったが、それは指摘せずに無言でその背中を見つめた。

 

 

時透君達と一緒に戦った方が勝率の高くなるのは分かっているが、黒死牟はどうやら私と一対一で戦いたいみたいだ。他の人と一緒に邪魔だというようにめちゃくちゃな攻撃をしてきそうなため、私が一人で戦った方がいい。

日の呼吸、いや弟の継国縁壱のことに関しては子孫以上に強い執着があるみたいだからね。なので、真剣に戦いたいという気持ちが強い。やはり初手で日の呼吸を使ったのは間違いだった。というより、耳飾りを髪飾りにつけた時点でだね。

 

 

 

黒死牟を相手に勝てるかどうかは分からないけど、ここで因縁を断たないと。

 

 

 

そして、

 

 

「あー!上弦の弐の頸が斬れてる!」

「うむ!胡蝶が良い笑顔で拳を握ってるな!」

 

 

なんだかあちらも早く収拾をつけないといけない状況みたい。

急ごう。

 

 

 

 

 



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苦労人の少女は戦いを終わらせる

 

 

 

「華ノ舞い 紅ノ葉 陽日紅葉」

「月の呼吸 伍ノ型 月魄災渦」

 

 

私は月の呼吸の斬撃の範囲の広さを警戒し、何回も使える型で応戦した。一撃一撃が重いが、それをいなすことは可能だ。そうして、黒死牟の月の呼吸と何度もぶつかっては消えてゆく。私はそれを見ながら斜めに近づき、刀を振った。

 

 

「華ノ舞い 炎ノ花 紅梅うねり渦」

「月の呼吸 参ノ型 厭忌月・銷り」

 

 

私が巻き起こした炎の渦を黒死牟は複数の斬撃で掻き消し、私は紅梅うねり渦で自身を守りながら少し距離を詰める。私は脚の動きを変え、ステップを踏むように地面を強く蹴った。

 

 

「華ノ舞い 水ノ花 水仙流舞」

「月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮」

 

 

私は黒死牟に近づこうとし、黒死牟はそれを妨害しようと斬撃を放つが、私は型の動きを上手く利用し、その斬撃を避けたり受け流したりした。

 

 

「華ノ舞い 日ノ花 日車」

「月の呼吸 陸ノ型 常夜孤月・無間」

「華ノ舞い 花ノ束 桜花しぐれ」

 

 

私は間合いに入った瞬間に縦に回り、黒死牟の腕を薄く斬り、私はそれを確認した後、すぐにその場から離れた。間合いに入った時にその場へずっといたら斬られるだけだからね。

黒死牟の広範囲から来る無数の斬撃を私は同じ広範囲の型で受け流した。

 

 

「月の呼吸 伍ノ型 月魄災渦」

「華ノ舞い 炎ノ花 紅梅うねり渦」

 

 

黒死牟が刀を振らずにできた斬撃の渦を、私はすぐに炎の渦を作り、それで相殺する。

 

 

「華ノ舞い 花ノ束 桜花しぐれ」

「月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月」

「華ノ舞い 水ノ花 水仙流舞」

 

 

私は撹乱させようとするが、黒死牟によって跳ぶのを止め、その斬撃を防ぐ方を優先した。あの斬撃は確実に避けないと駄目だ。私は避けながらも適度な距離を保った状態で、攻撃に転じる機会を待った。

 

 

「月の呼吸 玖ノ型 降り月・連面」

「華ノ舞い 月ノ花 月光華・草奏」

 

 

黒死牟の斬撃が降り注いでくるので、私は連続で斬撃を放てる型を使い、斬撃が止むまで耐えた。いや正確にいうと、黒死牟の動きが止まったから斬撃も止んだのである。

私は黒死牟を見たが、黒死牟は全く動く気配がない。私はどうしてなのかすぐには分からなかった。

 

 

「.....何故...その型を使える.....」

 

 

だが、その言葉で漸く黒死牟が止まった理由に気づけた。

 

そういえば先程使った月光華・草奏は月の呼吸が基本となっているであろう型だ。月の呼吸は黒死牟しか使い手がいないのに、何故かそれと似た型が使えたらそれは驚くだろう。

あの間の原因が分かったが、どう説明しようか。私も詳しく説明するようにと言われて答えられるほど分からないし....。

......でも、嘘をつけばバレそうだ。嘘をつく時に口や顎を手で隠したり、鼻や眉毛、耳たぶなど顔の一部を触ったりする仕草があるくらいだから、透き通る世界でそういうのがお見通しの可能性はある。

 

 

「......この型を何故使えるかと言われましても、貴方の使った型と他の呼吸の型を組み合わせてできたとしか言えませんね」

「....ほう」

 

 

私の言葉に黒死牟が反応した。悩んだ結果、なるべく分かっていることを正直に言いながらも相手が納得する言い回しをすることにした。

嘘は言ってないから、バレていないみたいだ。私の意志でやっているわけではないが、華ノ舞いを私が使えるようになった時のことを(無意識に何故か起きることを抜きに)話せば大体そういう説明になるので。

 

 

私の話で黒死牟は何か興味を持っているようだが、私はそれを気にせずにこの際にと思って言いたいことを話した。

これはどうやったのかというような説明をしないといけなくなりそうなので、そうなる前に手を打つことにした。

 

 

「貴方は日の呼吸とか呼吸にこだわっていますが、私は日の呼吸や月の呼吸のことというように、日の呼吸だからこそ最強と考えていません。.....まあ、ある意味では私も自分の呼吸のことを気にしていますが、日の呼吸以上にこの型が体に合っているから、そのように考えています。...例えその呼吸が使えたとしても、その人のようになれるというのは別です」

「........!」

「同じものが使えても、その人にはその人に合ったものがあり、私には私に合ったものがあるのです。なので、私はその人と違った手段を使いますし、どんなものであろうともそれが私に合うものであるなら、私はそれを使ってみますよ」

 

 

私は黒死牟が反応しそうなことを指摘し、黒死牟の思考をそちらに向けさせた。黒死牟は私の話に分かりやすく反応した。私はその上で話し続けた。

私は私の戦い方でやっているので、縁壱さんとのことに私を巻き込まないでほしいということを伝えたいのだ。...なんだか巻き添えになっている気がしているので。

 

 

私の発言に黒死牟は私のことをじっと見ていたが、何故か笑った。私はそれに少し驚いたが、表面ではあまり反応していないように見せた。

 

 

「......そうか。私の呼吸に...それで対抗するというのなら....」

 

 

黒死牟の呟きが聞こえた瞬間、周りの空気が一気に重くなった。私は黒死牟が本気を出してくるのだと察し、私はすぐに受け流す体勢を取った。

受け止めるのは難しいと思ったからだ。

 

 

黒死牟は月形変則刃を出している。私はここからが本番だと気を引き締める。

 

 

「月の呼吸 捌ノ型 月龍輪尾」

「華ノ舞い 紅ノ葉 陽日紅葉」

 

 

黒死牟の広範囲の一振りに対して、私は何度も刀を振る。あちらの一振りだけにそこまでするのかと言われそうだが、それくらいしないと受け流しきれない。

一振りであっても、あの広範囲に何度も細かな斬撃を纏っているとなると、それらを私の一振りで防ぎきるのは難しいだろう。黒死牟が先程と違う様子であるため、ここからは一振り一振りを見過ごすわけにはいかない。それは察したのだ。

 

 

「.....確かに呼吸を混ぜたものであるが、対抗できている。それに、日の呼吸以外の呼吸と言うと....確かにその呼吸と似た部分がほとんどだ...。だが、それを一つにまとめたのは....なかなかだ」

「そうやって、呼吸は派生していったのではありませんか。自分の使いやすいものに形を変えていったので、今も受け継ぎ、呼吸は増えてきたのは分かっていますよね」

 

 

黒死牟は私の型を見て、興味深そうにしながら呟いていた。その呟きを聞き、私は(この型が頭に浮かんだということだけで、自分でというと違うため)どう反応したらいいのか分からず、とりあえず派生した呼吸のことを話した。

黒死牟はそのことについて特に何も指摘せず、無言で立っていた。私は刀を構えた状態で様子を見ている。距離を詰めて攻撃する方になりたいが、黒死牟の反応でどうしても躊躇してしまう。

 

 

「月の呼吸 漆ノ型 厄鏡・月映え」

「華ノ舞い 花ノ束 桜花しぐれ」

 

 

黒死牟が刀を振って飛ばした五方向からの斬撃を、私は華ノ舞いの動きで避ける。先程止まった時と同じ展開に感じる。

このままだと長期戦になる。いや、最終決戦なので長期戦になるというのは覚悟していたが、できることなら無惨の方が大変であるため、そちらに時間をかけたい。

なので、この戦いを早く終わらせたい。

 

 

あっ。それと、七海と禰豆雄の問題もあった。七海と禰豆雄の方は童磨が相手らしいけど、もう童磨を倒している頃だと思うので、そろそろ止めに行かないと.......。

 

 

「風の呼吸 壱ノ型 塵旋風・削ぎ」

 

 

私がそんなことを考えながら黒死牟の攻撃を避け、近づく隙を探していると、竜巻が私と黒死牟の間を通った。いや、正確に言えば竜巻のような風の斬撃であるが、私はそれに気づき、部屋にある柱に脚をつけ、くるりと一回転した後、柱を強く蹴った。

 

 

「華ノ舞い 雷ノ花 梔子一閃」

 

 

刀を思いっきり振ったが、その一撃は黒死牟の着物と刀の一部を斬るだけであった。黒死牟に刀を受け止められたので、私はすぐに力を上手い具合に抜いて体も捻り、黒死牟の斬撃をなんとか回避し、蹴った柱の辺りにまで戻ろうとした。だが、黒死牟は追い打ちのように斬撃を飛ばしてきて、私はそれを受け流そうとして....止めた。

それは諦めたというわけではない。

 

 

「岩の呼吸 参ノ型 岩軀の膚」

 

 

振り回された鉄球がその斬撃を吹き飛ばした。私はそれに驚いて口を開けそうになったが、それを我慢して着地し、体勢を整える。

 

 

「ほう。風の柱か。戦国の世で....剣技を...高め合った......あの時以来だ.....これほど高揚したのは....。...そして、素晴らしい....。極限まで練り上げられた肉体の完成形.....。これほどの剣士を拝むのは...それこそ三百年振りか....」

「不死川さんと悲鳴嶼さん。来てくださり、ありがとうございます」

 

 

聞こえてきた黒死牟の声は大きさが変わらなかったが、高揚していると感じ取れるものであった。それにより、黒死牟の機嫌が非常に良いことが分かる。特に悲鳴嶼さんに対しては凄く....。

まあ、私は日の呼吸のことがなかったら全然興味を持たれない人ですから。流石に悲鳴嶼さんくらいを望まないけど、少しでもいいから筋肉はついていいと思う。圧倒的に少ないから、ちょっと分けてもらいたいんだよね...。

......拗ねているのかって?はい、拗ねています。即答するくらいに。

 

 

でも、不死川さんと悲鳴嶼さんが来たのはとてもありがたいことである。このまま時間をかければかけるほど私が不利になるのは明白であったので、味方が増えるのは良かった。

今の黒死牟は何故か機嫌が先程よりも良い方であるため、とても助かった。

 

 

「南無。これが上弦の壱....元は呼吸の剣士だった鬼か。なんと憐れな...」

「おい、暴走しない方の生野。動けるなら俺達の援護をしろォ。その素早さならあの攻撃の合間に入り込めるだろォ。俺と悲鳴嶼さんが頸を斬れるよう、何でもいいから隙を作ってくれェ」

「分かりました。ですが、気をつけてください。あちらはまだまだ余力を残していますし、何か奥の手を残しているかもしれません。それに、先程刀の一部を斬ったはずが元に戻っているため、おそらくあの刀も血鬼術や鬼としての一部であるのだと思います」

「.....上等だァ。殺し甲斐のある鬼だァ」

 

 

悲鳴嶼さんは黒死牟を見ながらそう言いながらもいつ襲いかかられてもいいように、鉄球を振り回している。不死川さんも黒死牟から視線を動かさない状態で私に声をかけた。私はその判断が妥当だと考えて頷いた。

 

 

私自身が黒死牟の頸を斬れるかどうか不安なのだから。私は猗窩座の頸を斬ったり、童磨にも攻撃したりしていたが、鬼の中で二番目に強い黒死牟の頸が斬れるかどうかは別の問題である。

鬼は強いものほど頸が硬くなっている。それも当然だ。無惨以外の鬼は頸が弱点であるため、その弱点を防ぐためにも頸は硬いのだ。猗窩座の頸だって硬かったし、童磨の体の一部を斬る時も苦労した。

それでも上弦の参の猗窩座と上弦の弐の童磨に通じたからといって、上弦の壱の黒死牟も大丈夫だという話にはならない。

 

 

そのため、黒死牟の頸を私だけで狙うというのは危険なことであった。もし頸が斬れなければ私は無防備になってしまうため、すぐに殺されてしまう。

私も判断を間違えたら駄目だと分かっているから、隙ができるのを待っていた。だけど、黒死牟が私のことをかなり警戒しているため、全く隙を見せない。そのため、私は劣勢になっていた。

 

 

私は悲鳴嶼さんと不死川さんの黒死牟の特徴を教えた。報告に黒死牟のことを書いていたが、それはその時の私(原作を知らない)が見たら分かることを書いた。

 

 

流石にあの一度の戦いだけで詳しい情報が多くあっても、返って怪しまれる。原作を知っていたとしても、その知識は一気に全部を話すのではなく、大丈夫そうだと判断したものを話している。不信感を募らせるて、情報を信じてもらえないのは嫌なので。

最低限でも何か情報があったら対策は練れるから、私はそちらの方が良いだろうと思った。

不死川さんも悲鳴嶼さんも長年柱を務めてきた人達だ。原作でも不死川さんが経験から黒死牟の攻撃を避けられていた。だから、僅かな情報でもあれこれ考えられるし、それが戦いを有利にしたり生存できたりとかそういう道に繋げられる可能性がある。

 

 

なので、私は先程までの戦いで分かることを話した。それを聞き、不死川さんは今にも突っ込みそうな様子であるが、それを耐えて警戒していた。

だが、その様子から不死川さんが何をしてくるのか察せられるため、私も構えた。

 

 

「風の呼吸 参ノ型 晴嵐風樹」

「月の呼吸 拾ノ型 穿面斬・籮月」

「華ノ舞い 水ノ花 水仙流舞」

「岩の呼吸 弐ノ型 天面砕き」

 

 

最初に不死川さんが黒死牟に向かって走り出し、黒死牟は斬撃を放った。私はその黒死牟の斬撃を下に受け流した。不死川さんが斬撃を放つが、それを刀で防ぎ、その後で悲鳴嶼さんが上から跳んできて、黒死牟の頭に鉄球が落ちそうになるが、それも回避する。

味方が増えたことは心強いが、あの威力の斬撃を受け流す場所が限られてきたのはキツい。一人だった時は黒死牟の広範囲の攻撃でもあちこちに受け流すことができたが、今では受け流した攻撃が当たってしまう可能性があるので、どう受け流すかを考えないといけない。特に広範囲の攻撃だった場合は互いの斬撃で相殺し合えばいいが、中途半端だった場合はその斬撃があちこちに散らばることになり、避けるだけでも大変になる。

 

 

どうして私が悲鳴嶼さんと不死川さんと連携が取れているのかって?

柱稽古で柱同士が一対一で戦う訓練はあったでしょう。あれに私も何故か参加することになっていたのだ。

本当に私は柱ではないはずなのだけどね。そのため、隊士として柱稽古に参加する側だったよ。だけど、それなら向かった先でそのまま稽古をすればいいのではないかという話になった。

ちなみに、私もこの訓練を行うことになった理由として、上弦の鬼と何度も戦っているからだそうだ。それなら七海と禰豆雄も同じだが、あの二人と連携を取れるかどうか不安だという意見が多数あったので、それは無しということになった。

 

 

こうして、柱ではないのに、柱同士の訓練に参加しながら、私は柱ではないためにそれぞれの稽古をこなすこととなった。煉獄さんの場合は全然滞在しなかったため、義勇さんのところへ来た時にした。不死川さんも七海と禰豆雄の仲裁の方が忙しく、その時に不死川さんとも打ち合いになったのだが、一対一ではなかったために義勇さんのところで一、二度訓練をした。

ただし、七海と禰豆雄に見つかった時にはすぐに中止になるのだけど....。...だから、七海と禰豆雄をどうにか不死川さんが来ていることに気づかれないように、義勇さんとあれこれ考えた。だが、バレるのだよね.....。そういったことはあの二人に。

まあ、全体的にかなり厳しい予定になったよ。でも、そのおかげで黒死牟の戦いでの連携に私も問題なく加わることができたので、そこは良かったと思っている。

特に、悲鳴嶼さんは七海と禰豆雄の稽古期間が長かったからね。実際に見て、やはりこの人が鬼殺隊最強なのだなと実感しましたよ。

 

 

「風の呼吸 肆ノ型 昇上砂塵嵐」

「華ノ舞い 風ノ花 衝羽根旋風」

「岩の呼吸 肆ノ型 流紋岩・速征」

「月の呼吸 伍ノ型 月魄災渦」

 

 

黒死牟が悲鳴嶼さんを狙ったところで不死川さんが斬撃を放ち、私も渦を描いてその斬撃を飛ばした。その斬撃を黒死牟が受け止めた瞬間、悲鳴嶼さんは次の型を使った。だが、黒死牟はそれも自身から発生する渦で防ぐ。

 

 

「風の呼吸 陸ノ型 黒風烟嵐」

「華ノ舞い 岩ノ花 野蘭咲き」

「岩の呼吸 壱ノ型 蛇紋岩・双極」

「月の呼吸 拾陸ノ型 月虹・片割れ月」

「風の呼吸 弐ノ型 爪々・科戸風」

 

 

その渦は私達の方にも来て、不死川さんが呼吸でそれを防ぎ、その間に私は黒死牟の頸を少しでも斬ることができたらと考え、自身の使える型の中(赫刀状態の時の型は除く)で最も威力の高い型を使った。悲鳴嶼さんも私の狙いに気づいて追撃する。だが、黒死牟はすぐに距離をとって別の型を使った。六つの斬撃のうちの三つは私と悲鳴嶼さんの攻撃で受け止め、残った三つは不死川さんの連撃で上手く防げた。

 

 

「風の呼吸 漆ノ型 勁風・天狗風」

「岩の呼吸 伍ノ型 瓦輪刑部」

「月の呼吸 拾肆ノ型 兇変・天満繊月」

 

 

不死川さんと悲鳴嶼さんが再び黒死牟の頸を斬るために隙を作ろうとしているが、その攻撃は全て黒死牟に防がれる上に避けるしかない状況となった。

一方で、私はその間に先程の野蘭咲きの影響で反対方向に吹き飛び、部屋の端の方にいた。あまりに遠くへいるため、黒死牟の斬撃は届いていない。この型の不便なところであるが、離れたい時には良い。

ただ、どれくらい吹き飛ばされるのかは分からないのがちょっとね.......。

 

 

でも、今回はかなり遠くまで飛ばされたおかげで、黒死牟の斬撃に襲われずに考えることができる。

黒死牟の戦い始めた時から透き通る世界を使っていたが、あまりに長時間も使い過ぎたので、このままだと疲れが原因で無惨戦は使えないという状況になりそうだ。

不死川さんや悲鳴嶼さんが来てくれて少し楽になったけど、もう終わらせた方がいい。

それに、どうやら悲鳴嶼さんも透き通る世界に入れたようだ。それなら、畳み込むのは今だね。

 

 

私はそう思うと同時に黒死牟に向けて走り出した。

 

 

「華ノ舞い 花ノ束 桜花しぐれ」

 

 

私は華ノ舞いで無数の斬撃を下に叩きつけたり飛び越えたりして進んでいく。私の行動を見て、不死川さんと悲鳴嶼さんが合わせてくれる。

どうやら私の意図に気づいたようだ。

 

 

「華ノ舞い 炎ノ花 紅梅うねり渦」

 

 

私は刀で描いた炎の渦を黒死牟に向けて飛ばし、その後すぐに呼吸を変えた。

 

呼吸の切り替えは肺に負担がかかるのだが、この呼吸とは付き合いが長い。透き通る世界は一瞬で解除することになるので、黒死牟が攻撃してくる前にまた入り直さないといけないけど......。

 

 

それでも、私はこの型を使った。

 

 

 

「ヒノカミ神楽 陽華突」

 

 

私の突きは黒死牟の刀を掴んだ指を刺し、刀を手から遠くに飛ばした。その後、私は華ノ舞いに切り替え、透き通る世界に入ろうとする。

 

武器が手元にないのだから大丈夫ではと思う方がいると思いますが、そういうことにはなりません。普通ならともかく相手は鬼であるため、しかも黒死牟の持つ刀は鬼の一部からできたものであり、その刀は何度も何処でも出現することができる。

なので、刀を遠くに飛ばしただけでは駄目なのだ。

 

 

「華ノ舞い 水ノ花 水仙流舞」

 

 

私は黒死牟の斬撃が来る瞬間に受け流しながら避けることができた。透き通る世界にはまだ入れなかったが、どうにか勘で二、三撃を避けている間になんとか再び入れた。

私は黒死牟の斬撃を受け流し続けた。だが、この状態で距離を取るのが難しい。

 

 

「風の呼吸 玖ノ型 韋駄天台風」

 

 

私が危機感を感じている間に、不死川さんが黒死牟の間合いに入り、広範囲から来る無数の斬撃を弾き飛ばすように刀を振るう。それを合図に、悲鳴嶼さんが黒死牟の斜め後ろから近づき、

 

 

「岩の呼吸 弐ノ型 天面砕き」

「風の呼吸 捌ノ型 初烈風斬り」

 

 

私が離れた瞬間、悲鳴嶼さんの鉄球が黒死牟の頭に当たるが、それでも頸を斬ることは叶わず、それを見た不死川さんが刀を振った。だが、その攻撃でも黒死牟の頸を完全に斬ることができなかった。

私は黒死牟が呼吸を使おうとしていることを透き通る世界から察し、私はすぐに頸を斬らないといけないと思い、刀を構え直した。

 

 

「華ノ舞い 雷ノ花 梔子一閃・瞬花周刀」

 

 

皮が一枚繋がった状態の頸を今度こそ斬るため、私は不死川さんの刀の反りを押した。一回転すると同時に思いっきり地面を蹴り、体を回転させながら刀は斜めに一周させるように振った。それにより、一瞬で斬ることができた。

猗窩座との戦いで似たような型を使っていなかったかって?

あー。梔子一閃・瞬花だね。あの型はまだ未完成だったんだよ。梔子一閃はその名前の似ているところから分かると思うが、雷の呼吸の霹靂一閃を基にしている。

前の時は連続で攻撃したい時に使っていたのだが、善逸の霹靂一閃を考えて思ったのだ。善逸は霹靂一閃を六連とか八連とかつけていたが、神速というものやそこから漆ノ型の火雷神ができたというように、速さの方に特化できるのではないかと。

 

 

そう思って試行錯誤したのだが、これがかなり難しかった。善逸が原作の遊廓の時に神速は脚が駄目になるから、二回しか使えないと言っていたように、脚の負担が想像以上に大きかったのだ。

それと、梔子一閃は霹靂一閃と違い、一度回ってからのステップを踏むという感じなので、速くするのは霹靂一閃よりも難しいのだ。霹靂一閃は踏み込みの強さとかが関係しているが、梔子一閃の方は回転するためにそれが難しいのだ。

なので、霹靂一閃・神速のようになるのは非常に難しかったのだ。だが、時間がかかりながらも回転や足踏みを調整していき、どうにか形にすることはできた。

無限列車の時は速くすることができても、まだ未完成な状態だった。だが、透き通る世界のおかげで猗窩座の頸を斬ることができた。

 

それでも次もこの未完成な型で成功するか分からないので、無限列車の後からずっとこの鍛練をし続け、柱稽古の時に完成させることができた。

 

 

頸を完全に断った後、私は黒死牟のことを警戒したが、黒死牟は灰となって消滅していくだけだった。原作では黒死牟の頸を斬っても死ななかったから、油断しないようにしていたのだけど......心変わりでもしたのかな?

 

 

私はそう思いながら消えた黒死牟の着物から出てきた笛を拾った。この笛をどうするのかと悩むが、せっかくなので供養しようと思い、持つことにした。

その時、凄い爆発音が聞こえると同時に激しい地震が起きた。私は何事かと思ったが、その後で聞こえた声で察した。

 

 

「おのれえええぇぇぇぇ!!竈門禰豆雄おおぉぉぉ!!生野七海いいぃぃぃ!!」

 

 

そんな鬼舞辻無惨の声が聞こえてきたら....ね...。

あの二人は私が戦っている間に何をやっているのかな.....。

 

 

 

私はそう思っている間に無限城に追い出された。このまま無限城に残っても危ないたため、身を任せておいた方がいいと分かっている。

そうしている間に私は着地の準備をする。前の時は怪我をしていたから、そのような余裕は全くなかったが、今はあれこれ考えられる時間がある。

 

 

 

私は問題なく無事に着地することができ、無惨の気配がする方向に悲鳴嶼さん達と向かった。

そこでは既に柱や隊士達が集まっていたのだが、一番目立つのは......。

 

 

「グギャアアアアアアァァァ!!」

「ここで会ったら百年目ええぇぇぇ!!」

 

 

よく分からない雄叫びを上げる禰豆雄と興奮状態の七海が無惨を斬り刻むところであった。

既に上弦の弍の童磨を倒したことで色々な意味で強くなっている。さらに凄い勢いで向かってくるため、無惨は顔を引き攣らせている。

ちなみに、一応他の隊士達も助けてくれているのだが、今回は七海と禰豆雄達の方が怒りをぶつけているため、かなり強くなっているのだ。

 

 

「......玄弥。しのぶさん」

「彩花!来てくれたのか....!」

「彩花さん。すみません。私達では二人を止められません」

「...分かりました。大方七海と禰豆雄が無惨の目の前まで来て止めることができず、そのまま吹き飛ばしてしまったのかな」

「その通りです」

 

 

私がため息を吐くのを我慢しながら端の方にいた玄弥としのぶさんに聞き、しのぶさんが謝りながらそう答えた。私は先程までの様子とその知識で予想はつき、その予想をしのぶさんが肯定した。玄弥も無言で頷いている。

色々起きて疲れたみたいで逆に落ち着いた。

 

 

 

 

私はもう一度七海と禰豆雄達の様子を見ていた。

 

 

さて、あの二人が何をしているのか分からないが、今はその未来を作ろう。

それがこの戦いの力になるだろう。

 

 

 

 

 

 



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苦労人の少女は気づかない



ここで皆さんにお詫びします。
この話を本来は二月二十四日に投稿するはずが三月二十四日に投稿するようになっていました。気づくのが遅れてしまい、申し訳ありませんでした。





 

 

 

残りは無惨のみとなった最終決戦。無惨は太陽光でしか殺すことができないため、ここで日が昇るまで無惨を足止めしなければならない。無惨は死にたくないので、逃げるという手段を取る。なので、私達はそれを防がないといけない。

まあ.......。

 

 

「七海と禰豆雄が暴走しているから、無惨は全然余裕が無さそうだけど.....」

 

 

私は七海と禰豆雄の猛攻に後退りする無惨を見ると、なんだか大丈夫なような気がしてきた。私達以外は無惨の周りに立ち、逃がさないようにしている。

七海と禰豆雄が主に動き、他の人達は二人の援護をしている。それは七海と禰豆雄なら大丈夫だという信頼があると思うが、それと同時に二人について行けるかどうかという問題もあったのだろう。

あの二人は付き合いの長さから連携が取れるし、勢いも炭華関連だとほとんど同じだ。私もこれまでの経験から二人について行けるが、他の人達はその勢いについて行くことが難しい。

 

 

私は刀を持った状態で考え、とりあえず今のまま無惨が逃げないようにすることを優先し、隙ができたら攻撃してもらうことにした。無惨はラスボスという立ち位置にいるため、本当に強いし、厄介な血鬼術を使う。

それに、無惨の攻撃は相手が傷つけば自身の血を体内に入れるものであり、自らの血を大量に注入することで致命傷を与えられるのだ。その攻撃を受けないようにするために一番手っ取り早いのは、無惨に近づかないことや攻撃に当たらないことなのだが、近づかなければ無惨に攻撃できないし、無惨の攻撃って伸縮自在の腕と管であり、その腕と管はとても速いから、掠ってしまうのだよね。さらに、無惨は全身の口から急激に息を吸うことで相手を引き寄せて、上手く動けないようにしてしまうため、あまり近寄らないようにした方が良いと考えている。

その方が被害は減らせるから。

 

 

幸い、七海と禰豆雄は無惨の腕と管を全て斬っているし、息を吸うことで相手を引き寄せるのも逆にそれを利用して、無惨に近づいては壁を壊すほどの攻撃を放っているため、全身の口で息を吸うことは止めている。

あの無惨の様子からして、完全に七海と禰豆雄に怯えている。縁壱さんとは別の意味で怖いみたいだ。

 

 

ただ、私は心配でもある。ここまで順調なのだが、逆にそれは後で心配になる。今の私達は確実に無惨を追い詰めているのだが、追い詰めた後も厄介だ。

追い詰めた相手が何をしてくるか分からないからね。

 

 

そのため、私も七海と禰豆雄に加勢して、三人で追い詰めようかと考えている。七海と禰豆雄が暴走しているため、ここで作戦会議をするのは難しいのだ。話し合うためには一度二人を落ち着かせる必要があるが、今はそんな時間がない。なので、このまま二人は暴走させたままにした方が良い。怪我していないし、勢いも凄いため、無惨が押されている。これを止めてしまうのは勿体無い感じがした。

 

 

私が無惨の間合いに入ろうと思ったその時、とんでもない殺気を感じた。私は一度止まり、原作での無惨の攻撃を思い出し、すぐに近くにいた玄弥と致命傷を負いそうなカナヲの腕を掴み、二人を後ろに引っ張った。

二人とも驚いていたが、何かを言う前に無惨が衝撃波を放つのが早かった。鬼舞辻無惨は伸縮自在の腕と管や相手を引き寄せる吸引以外にも衝撃波を放つことができるのだ。

透き通る世界で無惨の体内の動きが変わったのを見て、もしかしてと思ったが、やはりそうだった。

 

 

それと、想像以上に衝撃波の範囲が広かった。咄嗟に距離を取ったのだが.....。

 

 

「華ノ舞い 炎ノ花 紅梅うねり渦」

 

 

私は二人の前に行き、無惨の攻撃を地面へと受け流した。ここにはたくさんの人がいるため、弾くのは駄目だ。できれば受け止める方が良いのだが、私にそれができる力はないので、私は受け流すことを選択した。

他の人達に当てないように.....いや、あれは避けるのが難しいから、全員が当たって吹き飛ぶかもしれない。そうなれば受け流した攻撃が当たるかもしれないので、私は受け流した攻撃を全て地面に向けることにした。

 

 

だが、それだけでは終わらなかった。透き通る世界に入っている私の目は無惨が腿から管を生やしたのを捉えた。無惨は見た感じでは人の形をしているのだが、その形を変えてしまうことが可能である。原作でもその形に捉われずに顔を縦に割って大きな口が出現するというように、自由に自分の姿を変化させることができる。さらに、この腿から生えた管波非常に動きが速いのだ。

なので、無惨の姿を人の形で固定して見ていた隊士達は倒されてしまったのだ。原作でもその場にいた全員が動けない状況に陥った。衝撃波で吹き飛ばされているか、それに耐えているところをさらに凄い速度の攻撃が来るわけである。

 

 

私はその管を止めるか受け流すために動いた。

 

 

「華ノ舞い 花ノ束 桜花しぐれ」

 

 

かなり広範囲での攻撃であるため、私はあちこち動き回りながら防いだ。

それにしても、腿から生えた管の数が予想以上に多くて困った。原作では具体的な数がなかったが、七人くらいを攻撃できたので、管の数は最高でその人数の七つくらいかなと思っていた。だが、それ以上の数の管が生えていて、私はその管を地面に向けるか、他の管に当てて狙いを逸らしていた。

私以外にも悲鳴嶼さんとかが管を防いでくれたおかげで助かった。なんとか無惨を管を戻すまで耐えられた。

 

 

「あ、彩花ちゃん!大丈夫!?ごめんねえぇぇ!俺達が吹き飛ばされたから!」

「大丈夫だよ。ちょっと掠り傷ができただけだから。それより、善逸と伊之助が無事で良かったよ。.....いや、ちょっと打撲があるみたいだね...」

「おい、彩芽!血、出てるぞ!」

「まあ掠り傷とはいえ、少し切れたみたいだから...ね。それは血が出るよ。でも、中和剤は必要かな。兪史郎さんか隠の誰かに貰わないと.....」

 

 

善逸と伊之助が心配してくれるので、私は安心してもらおうと思い、二人に大丈夫だと言っているが、善逸と伊之助は泣きそうな顔をしている。いや、伊之助は猪の被り物をしているので、声の感じから予想しているだけだけどね。....しかも、善逸は既に泣いているね。

 

 

善逸と伊之助がどうして私にこう言っているのかというと、私が無惨の攻撃を防いでいる時に善逸と伊之助が衝撃波の影響で吹き飛ばされていたからである。さらに、そんな善逸と伊之助を無惨の管が追い打ちをかけるように狙っていたため、私は善逸と伊之助の腕を掴み、その管を受け流した。だが、善逸と伊之助を庇った時に少し動きが遅くなったみたいで、私は少し当たってしまったのだよ。

と言っても、掠り傷であるために何処も無くなっていないし、動くことに支障はない。

ただ、血を流しているために心配していた。

 

 

そういえば私は前の時の経験や七海と禰豆雄の暴走を止めているおかげで、今回は全く怪我していないのだよね。前の時は怪我が多かったけど.....。

その怪我と比べると、今回の怪我は大したことではないし、何なら呼吸の止血でもう止まっている。動くのが難しいというほどではないし、立ち上がっても全然平気なので、大丈夫でしょう。

 

 

「いや、彩花。怪我以上に髪が.......」

「髪?」

 

 

私が善逸と伊之助を落ち着かせようとしていると、玄弥が来て私の頭を指差す。なんだか動揺している様子の玄弥に首を傾げながら私が髪に触れると、一つの結んでいた赤い紐が地面に落ちた。赤い紐についている花札の耳飾り(片方)がシャンッという音を立てた。

 

 

私は驚きながらもその赤い紐を手に取って見た。赤い紐は切れていない。切り傷もないし、長さも元のままだ。一緒につけていた花札の耳飾りも何処も破損していない。地面に落ちた所為で土が少しついていたので、私は持っていた手拭いで綺麗にした。

それを確認して、私は安堵した。赤い紐は父親の形見であるため、それが切れてしまうのは嫌だ。それに、花札の耳飾りも縁壱さんの持ち物であったとか、竈門家に代々受け継いできた物とか、日の呼吸の後継者とか色々な意味を持っているが、私には炭華達の父親の炭十郎さんの形見や炭華達から預かっている物という印象の方が強い。炭十郎さんは炭華の父親であり、私も七海もお世話になった人であるため、その炭十郎さんの物が壊れてしまったら悲しく感じる。

 

 

何処も傷ついていないことを知り、次に私の髪や頭の方を触れた。どうやらちょうど結んでいた辺りの髪が切れたようで、髪の長さはバラバラだが、何処もかなり短くなっていた。

髪を下ろしても、その髪が肩につかない時点で凄く短くなっているのは分かっていたけど。

それで、頭をちょっと触っただけで赤い紐も髪飾りにしていた花札の耳飾りも外れたわけだ。本当にぎりぎりのところであの攻撃が掠ったらしい。その辺りから首の方を触っていくと、何か液体に触れた。なんとなく予想はついていたが、その液体がついた掌を見ると、真っ赤になっていた。

あー、血が出ている。けど、おそらくそんなに深い傷ではないと思う。なので、止血だけはしておこう。

 

 

怪我したことに関してはそれくらいしか思わないのは前の時に骨折したりもっと重傷だったりしたことがあったため、そんなに気にしていないし、私には赤い紐と花札の耳飾りが無事なことの方を良かったと思っている。周りが髪のことで色々言っているのを見て、私は苦笑いを浮かべていた。

今回は怪我をすることがなかったから、余計に心配をかけてしまったみたいだ。

 

 

そういえば、前にも似たようなことがあったような......。.....確か、まだ炭十郎さん達が生きていた頃、お金が足りなくて困っていたので、私が自分の髪の毛を売ると言ったことがあった。ちょうど髪も大分伸びていて短く切ろうと思っていたし、捨てる髪の毛がお金になるなら一石二鳥だと考えたのだ。

まあ、高く売るためにかなり短く切ることになるが、それでも構わないと思っていた。前の時も両親が亡くなったばかりは髪の毛を売ったことがあったから、私は特に何とも思っていなかった。

 

 

だけど、竈門家の人達全員に止められたのだよね。流石に自分より幼い子達に泣かれたらできないし、炭華や炭十郎さん達にも説教されてしまったのだよね。

それに、その後で炭華達は節約して食べ物がほとんど山で採れたものになったり、七海と禰豆雄が仕事の数を増やしたりして、お金が一気に貯まったのだよ。特に七海と禰豆雄の勢いが凄くて、その時の仕事量は今までの倍だった。私も手伝う仕事を増やしたけど、七海と禰豆雄の方が多かった。

私の髪の毛を売る発言で一番それを防ごうとしていたのは炭華なので、七海と禰豆雄のやる気が凄かったよ。

 

 

ちなみに、お金が貯まって、生活に余裕が出た後、みんなにはお詫びとして少し高い魚介類を買った。お金が必要なことは確かなのだが、それに火をつけたのは私だと思うので...。

魚介類の購入の時は私の小遣いから出したため、そこは安心してほしい。

 

 

 

あれから、髪は必ず炭華達のお母さんの癸枝さんと炭華に髪を切られるようになったのだよね。竈門家襲撃が起きた後は七海が切ってくれた。三人とも髪を結べるくらいの長さにして、この長さより短くなっては駄目だと言っていたし、約束させられた。特に炭華と七海、禰豆雄の念押しが効いた。炭華は泣きそうな顔をしていたから罪悪感が凄く、七海と禰豆雄は圧が凄かった。

これは確実にそれより短くなっているし、炭華に怒られるのは確定だよ。七海も禰豆雄もどんな顔をするか......。

 

 

 

それを想像して、私は顔が真っ青になった。

これ、七海と禰豆雄にバレたら私がまずい。どうしよう。でも、短くなった髪を誤魔化すなんて無理だ。

 

 

私が内心焦っていると、背後で物音が聞こえた。善逸達がそちらを見たが、私は振り返らなかった。勘でそれが誰なのかなんとなく気づいていたし、気配でも分かっていた。

....理由は顔を見たくないからである。

だが、顔を見なくても相手は私のことに気づくだろう。笹の葉の羽織なんて着ているのは私だけだし、その人の髪にいつもの一つに結んだ赤い紐と花札の耳飾りが無いことで、いや短い髪でもうバレてしまうだろう。

 

 

「....彩花。怪我しているの?」

「掠り傷はあるけど、大きな怪我はないよ。それより、七海と禰豆雄は大丈夫なの?あの管に当たっていないけど、衝撃波で吹き飛ばされたでしょう」

「平気だ。彩花が管を全部受け流してくれたからな。......それで、彩花の髪はあの攻撃でそうなったんだな」

 

 

私は振り返らずに七海と禰豆雄と会話した。七海が怪我をしていないかと心配してくれたので、私はそれを大丈夫だと伝えた。それと、七海と禰豆雄は大丈夫だったのかも聞いた。自分の目で確認した方が良かったが、今の私にはそれをするのができないために。

まあ、無事かどうかを聞いている時点で七海と禰豆雄が私の髪に気づいているのは察していたよ。もう私の髪がどうして短くなっているのかも確信しているし。

 

 

「...うん、そうだよ。ごめんね、約束を破っちゃって」

「いや、別にいい」

「彩花が炭華とアタシ達の約束を破るわけがないもの。それに、さっきまで短くなったのを見てたわ。.....鬼舞辻無惨がやったというのはすぐに分かるわよ」

「ああ、そうだな。全部鬼舞辻無惨が悪い」

「ひっ!」

 

 

二人がもう断定しているし、それが事実であるため、私は素直に肯定した。私が謝ると、七海と禰豆雄は怒りの矛先を無惨に向けていた。私はそれに少し拍子抜けした。

いや、髪が短くなったのは無惨の攻撃が原因であるため、それは間違いではない。だが、私にも何か言うと思っていた。それと、善逸の悲鳴も気になる。善逸達の表情を見ると、顔を真っ青にしていて、後退りしていた。

 

 

そこで、私は漸く振り返り、七海と禰豆雄の顔を見た。すぐに善逸達が七海と禰豆雄にあれほど怯えていたのか分かった。七海と禰豆雄が暴走する時、七海も禰豆雄も笑顔を浮かべているのだ。いや、笑顔?というのが正しいのかもしれない。禰豆雄は口が耳辺りまで裂けているように見えるくらいに口角が上げ、相手を睨みつけている。七海の場合は禰豆雄と違ってそこまで口角が上がらないし、口元を隠しているのだが、首を傾げていて、その目が飛び出そうなくらい大きく見開いている。

さらに、二人とも目が完全に正気ではないし、声にも雰囲気にも威圧が凄くあるのだ。

 

 

だが、今回は笑ってすらないのである。無である。七海も禰豆雄も虚無の顔をしている。しかも、静かなのだ。暴走時は必ず何か壊してもその相手を一刻も早く始末しようと動くのだが、何もせずに歩いているだけだ。

ただ、その威圧は暴走時よりも重いのだ。ずっしりとのしかかるように乗っかってくるし、その圧がまとわりついてくるようにも感じられる。

それが善逸達には酷く不気味に感じたのだろう。

 

 

だが、私は前に一度見たことがあるため、久しぶりに見たなと思うくらいである。と言っても、私も一回しか見たことがないのだよね。

それなのに、私があまり動揺しないのは......慣れ、ですかね。あの二人は色々なことを起こすため、その対応をしていくうちに何が起きても大丈夫だと感じるようになったのだ。

 

 

私がそう考えている間に七海と禰豆雄は私達の横を通り過ぎ、真っ直ぐに無惨のところへ向かっていった。私達はそれを見送った。

 

 

「えっ?何?今までと全然違うし、音だって凄いミシミシッとかピキピキッとか何かヤバい音しか聞こえないんですけど!」

「ナニ.....アレ」

「表情は何もなかったのに、目は血走ってるのが見えた....」

「彩花。あいつら、どうしたんだ!鬼みたいに第二形態でもあったのか!」

「...あー、とりあえず落ち着こうか。戦っている最中だから。七海と禰豆雄のことが気になって、それどころではないと思うけど、今は無惨との戦いが終わっていないからね!だから、無惨の方を警戒しないと....」

「「「「そんなことよりも七海と禰豆雄!!」」」」

「そ、そうなんだよね.....。でも前に見た時のことを考えると、凄く警戒する必要はないと思うよ...」

 

 

七海と禰豆雄が通り過ぎた後、それまで静かにしていた善逸達が一斉に騒ぎ出した。正確に言うと、善逸と玄弥が大声で叫び、伊之助は片言で震え、カナヲが唖然とした様子でそう言っていた。私は一度落ち着かそうと思って声をかけるが、善逸達はそういう場合ではなかったみたいだ。

あんな状態でも七海と禰豆雄は味方であるし、二人とも標的を鬼舞辻無惨にしているから、無惨の方を気にした方が良いかなと私は思ったのだけど、他はそうではないみたいだ。

 

 

私は善逸達の様子に苦笑いを浮かべながらなんとか宥めようとしていた。すると、玄弥が話していくうちに何かを思い至ったらしく、私に聞いてきた。

 

 

「.....なあ、彩花。前に見た時って、どんな状況だった?」

「えっ?えーと....前に起きたのは三、四年くらい前の時だったかな。炭華が老人を庇って男の人達に囲まれていて、それを私達が駆けつけたの。そういったことは既に何度かあったのだけど、この時は相手の人数があまりに多くて、しかもかなり体型の良い人達だったのだよ。私達は全員子どもだったわけで、その人達に押されかけたの。でも、私達の後ろには人がいて、その人は足を悪くしている人だから、私達は逃げることができなかった。背負って運ぶということができたかもしれないけど、その隙を男の人達が見せなかった。

私達が劣勢になっていき、その勢いで老人を殴ろうと拳を上げる人が近づいてきたの。炭華が前に出るが、その人は炭華ごと殴る気でいて、私はそれに気づいて、慌てて炭華の前に立ってその人の拳を受け止めた。できることなら別の方向に受け流したかったのだけど、それができる時間がなかったので、狙いを逸らすくらいしかできなかったの」

「ウン?どういうことだ?言ってること、同じじゃねぇか」

「伊之助。話は最後まで聞こうよ。それに、私はさっき受け止めたと言ったでしょう。受け流すとなると、逸らすという意味があるのは確かだけどね。私が言っていた狙いを逸らすは当たる場所を変えるという意味なの。本来は真っ直ぐに私の腹の真ん中に当たるはずのものを脇腹辺りにして、その攻撃を受け止めたということなんだ。何処でも当たれば痛いのだけど、腹の真ん中に当たるよりはマシかなと思ってね。

まあ結局痛くて、立つことはできていたのだけど、周りの男の人達が私に狙いを定めたの。

その時、七海と禰豆雄が今まで苦戦していた人達を全員吹き飛ばしたのだよ。その時の様子が今と似ているのだよね」

 

 

玄弥の質問に私は当時のことを思い出しながら説明した。ただ、その当時を思い返してみて、あれこれ思うところがあり、その説明が少しおかしくなっていた。善逸達はなんとなく分かったようだが、伊之助はよく分からなかった様子で、私はそれを宥めて話し続けた。

 

 

あの時は私も驚いていたから、記憶にはっきり残っている。七海と禰豆雄の行動を大体知っている私でも、あれはかなり衝撃を受けた。初めてのことだったし、いつもの暴走時とは全然違かったのだよね。

その特徴は先程少し話していたが、それだけではない。いつもの暴走時と比べたら静かだったと言ったが、あれは冷静に考えて行動しているように感じられた。

暴走時の二人はとにかく相手(敵)に真っ直ぐに攻撃していき、それによって何が破壊されても気にしないで相手に攻撃を当てることを優先し、邪魔をするならその障害は壊していくという戦法をしている。

だが、あの状態の七海と禰豆雄はそんな破壊行動をせず、最低限の動きと力で相手に攻撃していったのだ。その所為か動きが速くなっていた。

 

 

それと、七海と禰豆雄が素直に私の言う通りに動いてくれたんだよね。今までの暴走時は七海と禰豆雄が止まるとなると、主に炭華の関係のことだったり、二人が納得するものだったりした時に止まっていた。

だが、その時は二人とも私がそういう理由とかを説明する前に止まったり動いたりしてくれた。七海と禰豆雄が暴走している時でそんなことは一度もなかったから、私はそれに最初凄い戸惑った。だけど、それどころではなかったので、その時は男の人達の対処を優先した。

説明する時間がないため、指示する時間が短縮できたし、連携もいつもよりやりやすかったからね。

 

 

「おかげで、男の人達を追い返すことができたの。流石に七海と禰豆雄もそんな暇がないと思っていたから、私の言うことを素直に聞いてくれたと思うの。だから、今の七海と禰豆雄なら暴走時より大変なことにならないと考えたのだけど.....」

「......いや、七海ちゃんも禰豆雄も無視して動いてるよ」

 

 

私が当時のことを話し終え、自分の見解を伝えてみたのだが、どうやら違ったらしい。

無表情で攻撃する七海と禰豆雄に対して、宇髄さんや不死川さんが前に下がるように言ったり、そこに吹き飛ばすなと言ったりしているが、七海と禰豆雄はそれら全てを無視して、無惨を追い詰めることを最優先にしている。

 

あれ?おかしいな。あの時は何も反論なんてせず、私の指示に従って動いてくれたのに、どうして今回は駄目なのかな?まだ一回しか見たことがなかったから、あまり確証がなかったけど、これは結構自信があったのに.....。

 

 

「しかも、あいつらの暴走がいつもより酷くなってねぇか」

「....確かに七海と禰豆雄が全くの無反応なのは珍しいね。暴走時はあれこれ壊すけど、それは行動だけであって、誰かの声は聞こえている。...まあ、重要なこと(炭華関連)以外は特に聞く必要がないと思っているため、無視しているけどね。

でも、義勇さんにも一言も返事していないところを見ると、それはおかしいのだよね。不死川さんはともかく、義勇さんは炭華を見逃してくれた上に鱗滝さんという育手を紹介してくれてもいるので、二人とも義勇さんに感謝しているから、暴走時でも義勇さんには必ず返事をしているのだけど....。今回は義勇さんにも無反応ということは......完全に頭に血が上っているのね」

「うん。確かに凄い怒りの音が二人からしてくるから、彩花ちゃんの髪が切られたことは相当駄目なことだったみたいだね」

「まあ、炭華に髪を短くしたら駄目だと涙目で訴えられていたのに、こんなことになってしまったら、ね。無惨は元から炭華を狙っていたという地雷を踏んでいるうえに、さらに炭華を泣かすことをしたのだから、あの二人が黙っているとは思えないよ。

...それなら、怒りも通り越したら無になったという感じなのかな」

「えっ?........やっぱり彩花ちゃんは気づいていなかったんだ」

「うん?何が?」

 

 

伊之助の言葉には私も同意せざるを得ないので、隣で頷いた。私も七海と禰豆雄の様子をよく見てみると、不審な点がいくつもあると分かる。その見解を挙げると、善逸がそれに同意してくれたのだが、その後に続いた言葉には首を横に振ると同時に、何処か納得した様子で私を見ていた。私はその言葉がどういうことか分からずに聞き返した。

 

私、何か間違えたの?七海と禰豆雄のあれは地雷をいっぱい踏まれたため、それによって怒りを通り越してしまったのだと思ったのだけど.....。

 

 

「彩花ちゃん。俺がよく笹団子をお土産に買ってくるのは知っているでしょ」

「うん。笹団子は私の大好物だからね。だから、いっぱい買ってきてもらえて凄く嬉しかったよ。いつもありがとうね」

「確かに彩花ちゃんが凄く美味そうに食べているよね。.....て、いやそうじゃなくて、あれは俺が遠いところでの任務でお土産を買おうかと言った時、七海と禰豆雄にどうしてかタラの芽と笹団子があったら買ってきてくれと頼むんだよ」

「あー。タラの芽は炭華(炭治郎の時と好みは同じ)の大好物だから、例え今の炭華が食べられなくてもと思っても用意していたのだと思う。それと....笹団子はさっきも私の好物だけど...あの二人がわざわざ頼むなんて.....日頃のことで労ってくれているのかな...?」

 

 

善逸の話に私は首を傾げながらも答えた。善逸は私達や蝶屋敷の子達にお土産を買ってきてくれる。その中に必ず笹団子が入っているのだよね。私は毎回そのお土産を楽しみにしていたけど、七海と禰豆雄がお土産に笹団子を買ってきてくれるように頼んでいたとは予想外だった。

.....あの二人、自身の任務の際も笹団子を買ってきてくれるから、日頃の礼のようなものなのかなと思っていたけど、流石に多いと思う。

 

 

「なあ、彩芽」

「何度も言うけど、私の名前は彩花だよ。それで、どうしたの?」

「彩芽が原因だと思うぜ。あいつらがキレてんの」

「うん。炭華のことを狙っているのに、その上で炭華が泣かすことをしたらそれは....「違ぇ」.......えっ?」

「彩花。あの二人は彩花の髪を切る原因だから、怒っているのだと思う」

「そうだろうね。だってね......」

 

 

伊之助の言葉に私はいつものような会話をしていたが、少し様子が違った。私はそれを疑問に思っていると、カナヲが補足するようにそう言った。

私はそれを聞き、前にあった髪の騒動のことを話した。

 

 

今回のことで、炭華は私の髪が勝手に短くなっているのを悲しむからね。炭華を狙っているという地雷を踏んでいて、その上で炭華を悲しませるという地雷も踏めばああなるだろうという予測がつくよ。

 

 

「......彩花ちゃん。とりあえず、その髪をまずなんとかした方がいいと思う」

「うん?この髪型になっても戦うのに不便なことはないと思うのだけど.....。....でも、この紐と髪飾りを落としたくないし、分かりやすく頭につけておいた方がいいかもね。

分かった。ちょっと髪を整えてくるよ。戦いの最中だから、あまり時間をかけず、すぐに戻ってくるね」

 

 

善逸の言葉に私は少し悩んだが、その言葉に甘えて髪を整えることにした。戦いの最中だから、そこまで時間をかけないつもりだ。なるべく早く終わらせようと思っている。

 

 

紐と花札の髪飾りを落とさないようにするためにも、髪につけておいた方がいいよね。私は懐とかに閉まっておいた方がいいかもしれないが、無惨を相手だとあちこち動き回るため、何処かで落とす可能性がありそうだ。戦いの最中にそのことを気にする余裕はない。すぐに髪を整えようと思う。

それに、あの状態だと何をするのか予想がつかないというのもある。なので、早く七海と禰豆雄を止めに戻る必要がある。

 

この時、私はそう考えていたので気づかなかった。

 

 

 

「あいつ、全然分かってねぇぞ」

「たぶん、彩花ちゃんは七海ちゃん達と距離が近かったから、気づけていないんだと思う」

「それに、俺達も確信を持ったのはあれだからな。.....彩花のあの話を聞くと、彩花の言うことも納得できるが、それは理由の一つなんだろうな」

「仕方がない。彩花は怪我をしていなかったから、二人がこうなることを見ていなかった。彩花もあまり見ていないから、分からなくてもしょうがない」

 

 

善逸達がそのような会話をしていたとは知らなかった。善逸達は話し合いながら七海と禰豆雄、私のことで悩んでいた。

私が戻ってくると、善逸達は私に近づいて言ってきた。

 

 

「あいつら、彩芽のことが好きだから、怒ってるんだと思うぜ」

「好物を買ってくるところからして、彩花ちゃんのことを大切に思っているのは音でめちゃくちゃ伝わるよ!」

「お前。炭華のことで暴走するあの二人をよく見ているから、どうしても暴走に炭華が関係していると思うんだろ。まあ、それも原因なのかもしれないがな」

「でも、あれは間違いなく彩花のことで怒っているんだと思う」

 

 

その言葉に私は正直にいうと半信半疑である。七海と禰豆雄が私のことをそこまで大切に思っているのかと言われると、その素振りが全然なかったためにどう受け取ったらいいのか分からない。

それくらい思われているのは嬉しいと感じられるが、実感が全くないのだ。七海と禰豆雄が暴れる原因は主に炭華関連であり、それをずっと近くで見てきた私からすると、その対象に私も入っていたということを頭が受け入れるのを拒否するのだ。

 

 

「それなら、私はどうすればいい?」

 

 

困った私は善逸達に聞いた。なんとなく善逸達と私とで認識に差があるみたいなので、私はどう行動した方がいいのか分からず、善逸達の意見も聞いてみた。

善逸達の話を無視してはいけない気がするので。

 

 

 

私の言葉を聞き、善逸達は互いに顔を見合わせた後、

 

 

「彩花ちゃん。とりあえず彩花ちゃんの無事だということを言った方がいいと思う」

「彩芽に何ともなかったらあいつらも戻るぜ。絶対」

「怪我は平気だと言っておかないと。髪だって短くなっているけど、さっきよりも大丈夫になっているから、二人とも落ち着くはず」

「一応髪に関しても何か言っておいた方がいい。今回は彩花の髪がきっかけだから、髪のことが解決すればなんとかなるんじゃないか」

 

 

四人とも少し似たようなことを私に言った。善逸と伊之助とカナヲは私が無事だということを真っ先に言った方がいいのだというのは共通であり、玄弥は髪のことも伝えた方がいいと言っている。

 

 

今の私は髪の長さを顎くらいまでに揃え、ハーフアップにして花札の耳飾りを通した赤い紐で結んでいた。しっかり硬く縛ったので、外れることはないだろう。

 

 

私は善逸達の言葉に従い、七海と禰豆雄のところに行った。七海と禰豆雄は無惨を追い詰めていた。近くにあった建物類や地面などの破壊は最小限に留めているが、その時に出る被害が突然であるうえに大きいのだ。

それに、周りの人達もどう動けばいいのか分からなくなっている。連携が全くない状態になっているのだ。七海と禰豆雄は互いにどう動けばいいのか分かっていて、無言でも相手の行動が理解できるが、周りの人達はそういかない。下手に動けば足を引っ張ったり巻き込まれたりする可能性があるからね。

 

 

「七海!禰豆雄!聞こえる?聞こえたなら一度無惨から距離を取って!」

 

 

私が七海と禰豆雄に声をかけると、七海と禰豆雄は無惨の前から姿を消し、私の隣に来た。

うん、あの時と同じね。さっき見た時は義勇さんの言葉が耳に届いていなかったけど、今は普通に聞こえているみたいだ。

 

 

「少し離れていてごめんね。私はもう平気だから」

「........彩花。髪は大丈夫か」

「髪?短くはなったけど、特に気にしていない。むしろ長い髪が切れたということで、願掛けのように願いが叶ったからとも捉えられるでしょう。炭華に色々言われるかもしれないけど、約束を破ったことになるために私が怒られるよ。...それに、またすぐに伸びるだろうから。赤い紐は切れていないし、髪飾りも壊れていなかったから、私は良かったと思っているよ」

「怪我の方は?」

「どれも擦り傷だったから、呼吸で止血すれば大丈夫だったよ。だから、安心して。それより無惨が逃げないようにしないとね」

 

 

私が七海と禰豆雄に謝罪すると、禰豆雄が髪のことを聞いてきた。私は玄弥の言っていたことを思い出しながら平気だと伝え、次の七海の質問にも答えた。

そうしているうちに無惨が逃走しようとしているのを気配で感じたうえに、その素振りが視界に入った。

 

 

私の言葉に七海と禰豆雄が反応し、無惨の方を見た。無惨は顔を真っ白にさせながらその場から逃げ出し、私達は走って追いかけた。

 

 

「七海。禰豆雄。私が先回りするから、七海と禰豆雄は無惨を攻撃し続け、少しでも注意を別の方へ向けて。私が刀を振ったら禰豆雄はそれを援護してほしいの。その後、七海が追撃して」

 

 

私は七海と禰豆雄にそう言った後、先回りしようと裏道のようなところを通ったり建物の上に移動したりした。その間、禰豆雄は隠や他の隊士達から受け取った刀を投げていて、七海は呼吸の型で対応している。

 

 

「海の呼吸 弐ノ型 篠突き・雨」

 

 

この海の呼吸の型は突きを連続で放つ型である。雨のように一秒で何粒も降ってくるものであり、勢いよく刀で突くため、遠いところでも衝撃波みたいに放つことができる。

無惨は次々と来る刀と水の衝撃波を避け、時に当たりながらも足を止めずに逃げ続ける。

 

生きることへの執念、凄いですね。そう思いながらも私は無惨を追い越し、逃げ道を塞ぐことにした。

 

 

「華ノ舞い 岩ノ花 野蘭咲き」

 

 

私はその型を無惨が通ろうとする道に放った。その衝撃で砂埃が舞い、無惨は一度その場で足を止めた。

 

 

「ヒノカミ神楽 円舞」

「海の呼吸 参ノ型 飛泉万波」

 

 

その隙を逃さず、禰豆雄と七海が攻撃してくる。禰豆雄は無惨に少しでも効く斬撃にするためにヒノカミ神楽を使い、七海はこの隙に斬り刻みたいのか連続で刀を振れる型を使っていた。飛泉万波は水の呼吸の流流舞いの型から流れる水のような動きを取り入れ、さらに血鬼術の千波帯を基にしているため、波が幾重も押し寄せるみたいに何度も刀を振ることができる。

無惨は禰豆雄と七海の刀によって触手が斬れたが、すぐに触手を生やした。だが、無惨に疲れがある様子から年を取る薬が効いていると分かる。原作のように使われているのは珠世さんに直接聞いたので、それは間違いない。

それと、私達は無惨が疲れているのを見逃さなかった。特に七海は原作で知っているため、無惨に何が起きているのかを正確に理解できる。

なので、行動は一番早かった。

 

 

「海の呼吸 肆ノ型 春霖氷楔」

 

 

七海が水の中に氷が混ざったようなものを刀に纏いながら突く型である。それでは篠突きと似ているが、篠突きよりも威力も速さを上がるし、深く突き刺せる。だが、あまりに深く刺さるため、抜くのに少し時間がかかる。

まあ、前の時に私の腹を貫いた血鬼術の氷棚針だから、その鋭さは凄いよ。最初は七海が私のいる時に使おうとすると、凄く使いづらいそうにしていたし、私も見ていて少し複雑だったけど、今ではもう笑い話に済むくらいだ。

 

 

「ヒノカミ神楽 碧羅の天」

「華ノ舞い 水ノ花 水仙流舞」

「海の呼吸 壱ノ型 蒼海環流」

 

 

禰豆雄も私も七海が無惨から刀を抜く時間を作るため、無惨の触手や手足を斬る。その間に刀を抜いた七海がそのまま刀を振った。

七海の蒼海環流は水の呼吸の水面斬りを基にし、血鬼術の水の扱いによってできた最初の海の呼吸の型である。そのため、七海の中ではこの型が特に正確に狙うことができ、肝心な時に使っている。

 

今回も至近距離で刀を振り、当てたことで無惨は胴を真っ二つに斬ることができた。それを見て、私と禰豆雄が同時に動いた。すぐにくっついて復活するだろうが、私と禰豆雄は追撃することを優先した。

 

 

「華ノ舞い 紅ノ葉 陽日紅葉」

「ヒノカミ神楽 烈日紅鏡」

 

 

私も禰豆雄も連続で放てる型で攻撃していく。すると........。

 

 

「水の呼吸 参ノ型 流流舞い」

「風の呼吸 肆ノ型 昇上砂塵嵐」

「蛇の呼吸 参ノ型 塒締め」

「恋の呼吸 弐ノ型 懊悩巡る恋」

 

 

柱達も加わり、それぞれ無惨の触手や腕を斬った。私達が連携していくところを見て、だんだん私達の動きについて行けるようになったようだ。私も七海も禰豆雄も柱達の動きに合わせながらも無惨を再び追い詰めていく。全体的にいうと、禰豆雄が中心という感じで、それを私と七海が補助し、そんな私達を柱や善逸達が援護してくれるという感じになっている。

えっ?七海は補助ができるのかって?

 

 

できるよ。一応七海はそういうことに特化した型を持っている。それは........。

 

 

「海の呼吸 伍ノ型 行雲流水」

 

 

行雲流水とは血鬼術の水魔奔流を基にした型であり、広範囲に動けるものである。また、行雲流水とは空行く雲や流れる水のように、深く物事に執着しないで自然の成り行きに任せて行動する例えという意味や、一定の形をもたず、自然に移り変わってよどみがないことの例えという意味があり、その言葉の通りにどんなに多くの人や多方向から攻撃が来ても刀を振りながら避けたり斬ったりすることができ、臨機応変に動けそうな型だと私は思った。

炭華のことで何かあったら暴走する姿から、七海には使いにくいのではないかと思われるかもしれないが、暴走すると突っ込みがちな七海にとっては非常に助かるし、私も安心する。

この型があれば自動で回避できるため。

 

 

とにかく、七海はその型で迫ってくる攻撃を避け、攻撃する準備をする。

 

 

「海の呼吸 陸ノ型 暁雨白浪」

「ヒノカミ神楽 火車」

「華ノ舞い 日ノ花 日車」

 

 

七海が血鬼術の砕氷雨の時のように氷(時々水も)を発射するというわけではないが、それと同じくらいの勢いで突撃できる

またそれは氷の混じった水ではなく、白い波のエフェクトである。白い波が押し寄せる感じで突進し、間合いに入って斬撃を放つ。波という言葉がある通り、押し寄せた後に戻るようになっている。だが、無惨を相手に攻撃した後で後ろに下がるという行動ができるとは思わない。

 

そのため、間合いに入った七海が攻撃を受けないように、私が左側にある触手と腕を、禰豆雄が右側の触手と腕を斬った。その時、空を見上げると、少しずつ明るくなっていることに気づいた。

もうすぐ夜明けだと。

 

 

「海の呼吸 肆ノ型 春霖氷楔」

「ヒノカミ神楽 陽華突」

 

 

七海もそれに気づいたらしく、無惨を固定するために突き技を使った。しかも春霖氷楔であるので、壁を突き破る勢いであった。それほどまでに無惨を逃がす気はないと分かる。

だが、無惨も夜明けと七海の狙いを察しているらしく、無惨の顔が縦に割れそうなところで原作の時みたいに七海を食べようとしていると分かり、防ぐために動こうとしたが、その前に禰豆雄が突きで無惨の顔を串刺しにするのが早かった。それにより、七海は助かった。

 

 

しかし、私はそれでも気を抜かなかった。いや、気を抜くわけにはいかなかった。無惨がどういう足掻きをするのか知っているため、警戒していた。七海と禰豆雄がいてくれるし、義勇さん達が援護してくれるので、再起不能になるほどの怪我は負っていないが、擦り傷だらけで血も出ている。刀に付着している血は無惨のであるが、私のも混ざっているだろう。でも、刀を手入れする余裕がないため、そのままにしている。

 

 

それくらい疲れているが、私は気を引き締めながら刀を握り、少しでも無惨の抵抗やその後に起きるであろう被害を減らすために自分のできることをしようと思っている。

そう思いながら刀を振った瞬間、なんだか体の奥から強く熱を感じ、同時に力が湧いてきた。そして、今ならできるという謎の自信があった。

 

 

私はそれに従い、前の時のことを思い返しながら体を動かす。あれから全く再現することができなかったが、今はそれができるという確信があった。

 

 

「華ノ舞い 天陽ノ花 珠沙炎天」

 

 

私は彼岸花の模様の赫刀を振ると、前の時で七海との戦いで出たあの型を使うことができた。私はできたというのを見て確認したが、それをもう一度使えるようにすることができるのかとなると、そこは微妙である。

刻まれた腕や脚、触手は再生できない状態であり、無惨は自分の姿を保てずに危機感を覚えていたが、自分の思う通りに動かせない。原作では最期の最後まで自分の姿が原型のないほど変わっても生きようとしていたが、今回はその抵抗すらできない。赫刀で斬られたところが上手く再生できないうえに、かなり痛そうにしている。これでは衝撃波を出すのも難しいだろう。

どうやら無惨はもう弱り果てているようで、原作よりも限界が近いみたいだ。さらに、そんな状態の無惨を悲鳴嶼さんが鎖で拘束し、無惨はますます身動きが取れず、日光に当てられた。

これで、私は戦いが終わると思ったのだが、そうは問屋が卸さなかった。

 

 

日光に当たり、火傷を負い、灰になっていきながらも無惨はぎりぎりのところで肉鎧を出し、それで身を守ったうえに近くにいた人達を呑み込もうとした。

私は流石にまずいと思い、懐からカプセルを取り出し、無惨に投げつけた。呼吸を使いたかったが、先程のあれで体力が無くなってきたし、あのカプセルはこの時のために作り出したものなので、大丈夫だと思ったのだ。

カプセルが当たり、中の液体が無惨の肉鎧に取り込まれると、無惨の肉鎧が溶け出し、そこから火が出て、燃え広がっていく。

 

 

何をしたのかというと、触れたら一発で肌を崩す毒を投げただけである。藤の花を使い、様々な毒草も混ぜたあの毒は鬼が触れたらその場所から毒がじわじわ広がり、体が崩れていくような毒である。

注射型の毒は前の時から何度も使っていたが、今ではあまり使わなくなった。理由は簡単だ。毒を注入するより、日輪刀で頸を斬った方が確実に倒せるからである。原作でしのぶさんが悔しがっていたことだが、私も痛いほどそれが分かった。

前の時の私は毒も使っていた。それは強い鬼との戦いで私が勝てるかどうか、いやちゃんと互角に渡り合えるほどの実力を持っているかどうかも微妙であったため、その穴を私は自身の毒で埋めていた。だが、今回はそれを使わない。昔から鍛練をしていて、毒を使わなくても上弦の鬼の頸を斬れるほどの実力を持っていたため、その必要がなかったからだ。

 

 

それにより、私は毒を使うよりも頸を斬った方が早いと実感するようになった。だが、私は薬の調合と同時に毒の研究も続けた。透き通る世界に入れるようになったとはいえ、私は赫刀が使えないので、その代わりになるもので補うことにした。代わりとして一番に思い浮かんだのは薬や毒を使うことだ。実際に私は刀を振ることよりも長くやっていることであるため、真っ先に思いついた。

この毒も無惨用に作ってきたものである。無惨の情報は前の時でしのぶさんと珠世さんの手伝いをしていたので、ある程度知っていた。だが、しのぶさんと珠世さんのような強力なものを作れると思えないため、私は呼吸と同じくらいの長い年月を注いだ。

 

 

その結果、完成したのは触れた瞬間に腐食する藤の花を混ぜた毒である。原作の時にしのぶさんと珠世さんが無惨に対して行った、複数の薬を使い、一つ目の薬が分析して無効化された後、他の薬が強い効果を出していくということを私もしたのだ。私の場合は単純に藤の花を使った毒を最初に出てくるようにし、その後で神経毒で体を麻痺らせ、その上で腐食する毒の効果が出るようになっている。さらに、おまけに着火剤も入れていたため、日が当たって無惨の体が少しでも燃えればその炎を大きくし、炎の勢いも上がるように油を少し混ぜていた。その上、カプセルが着火材の炭や薪で作られたものであり、それによって燃え移るのを早くし、ますます燃えやすくした。

 

 

それくらい色々工夫して作り、結果は私の予想通りになった。頸を斬れない場合であり、それでいて追い詰めることができているなら、これを使えば確実に日光で殺すことができると思った。刀鍛冶の里での黒死牟の時はそんな余裕がなかったから使用しなかったけど、今回は使うことになった。

正直、これを最終決戦で使うことになるとは思わなかったよ。

 

 

 

 

そういうわけで無惨は原作よりも早く消滅し、その後の足掻きも全くできなかったため、最終決戦は無惨が灰になった時点で終わることになった。

最終決戦が終わり、その事後処理で色々ドタバタしたが、戦いに参加した主要人物達は生き残ることができ、炭華も人間に戻れた。

炭華が私の髪を見て、それで凄く悲しそうな顔をしたことで少しトラブルが起きたが、そこは省略しておこう。

.....おそらく、なんとなく予想がつくと思うので...。

 

 

御館様(正確にいうと先代の)の葬式が終わり、私達も鬼と戦うことが無くなり、元の日常に戻ることになっていた。

 

 

 

そう、なっていたのだ。

 

 

 

「なんで.....また戻っているの?」

 

 

 

 

それに、

 

 

 

この違和感は、何なの?

 

 

 

 

 

 






第三章はこれで終わりです。次は第四章と行きたいところですが、しばらくの間はこの話の投稿をお休みすることになりました。この作品はpixivにも投稿しているのですが、そちらが少し疎かになっていて、さらにスランプ気味にもなっているため、次回の投稿を四月辺りまで休もうと思っています。
楽しみにしている方には大変申し訳ありませんが、気長に待っていただけるとありがたいです。




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三度目の少女は分からない
三度目の少女は悔やむ





今週から再び再開しようと思います。毎週金曜日を目標に投稿していきたいです。今回から新章に入ります。
それでは、楽しんで読んでもらえるとありがたいです。




 

 

 

「また、なの....」

 

 

私は呆然としたまま辺りを見渡した。私の周りには木や岩、雪しかない。

先程まで私は七海や炭華達と蝶屋敷にいたはずだった。蝶屋敷でカナヲ達と話し、炭華に近づき過ぎたことで善逸が禰豆雄に睨まれ、伊之助はアオイさんの揚げた天ぷらを食べていた。私と七海はそれを笑いながら見て、きよちゃん達と楽しそうに遊ぶ炭華を呼び、ご飯の準備をしようとした。

その時、時計の針が止まる音と螺子が巻かれる音が聞こえた。私はその音に聞き覚えがあると思っていると、気がついたら山に立っていた。

私は目の前の光景が突然変わったことに長い間茫然として立ち尽くしていた。こんなのは初めて.....いや、二度目だ。最初に巻き戻った時と同じだ。あの時と同じ現象なのに、すぐに思いつかなかった。例え七年経とうと、あれは鮮明に覚えていたはずだった。

戦いを終えたことで気が抜けていたようだ。だけど、それ以上に私は何が起きているのか分からない。この巻き戻しが起きた時はどちらも鬼がいなくなっているはずだ。

 

 

「......待って。私、今は何歳なの?」

 

 

自分の手を見れば八歳でないことは分かった。手の大きさは巻き戻る前の時と変わっていない。だが、掌に胼胝ができていないため、刀を持っていないのだと察する。しかし、この巻き戻しには不可解な点がある。

 

 

それは手の大きさと胼胝の有無が一致していないということである。私は八歳の時に刀を握ったことがなかった。そのため、私は最初の巻き戻しの時に八歳の頃だと思った。手が小さくても、胼胝ができていなくても何の不思議もない。だけど、その後から私は斧を握って振ったり、木刀を自分で手作りした振ったりなどというように、何か物を握って鍛練していた。それで九歳くらいにはもう胼胝ができていた。

だから、ただの巻き戻しならこの時点で胼胝ができているはずだ。だが、今の私にはそれがない。そこがおかしいのだ。

 

 

「あれ?彩花じゃないか。こんなところで立ち尽くして何をしているんだ?」

「あっ。三郎爺さん、こ、こんばんは?」

 

 

私が考え事をしてずっとその場で立っていると、後ろから声をかけられた。振り返ると、私に声をかけたのは三郎爺さんだった。私は混乱していたが、とりあえず三郎爺さんに挨拶することができた。どういう状況なのかは分からないけど、周りが暗くなっていっているので、もうすぐ夜なのだと予想した。そのため、最後に疑問符がついたのだけど、三郎爺さんは気にした様子を見せなかった。

 

 

私は少し悩んだが、三郎爺さんとそのまま話し続けることにした。三郎爺さんが私のことを知っているなら、現状を理解できると思ったからだ。

 

それに、ここの私と三郎爺さんが知り合いということで、幾つか分かったことがある。その中で重要なのは私がいるのは雲取山だということだ。三郎爺さんがいるなら、私が両親と住んでいたあの山ではないのは確かだろう。原作で三郎爺さんは主人公の炭治郎のいる山の近くに住む、鬼について知っている人として描かれているので、私がいるのは雲取山で間違いない。

 

 

次にこの時の私が既に炭治郎達と知り合っている可能性があるということだ。私のいた山は雲取山から少し離れていて、一日で往復できるという簡単な距離ではなかった。だから、私がそのままあの山で暮らしているとは思えない。となると、両親と暮らしていたあの山に私はもう住んでいないだろう。

これで、私が雲取山に住んでいるのは確定した。だが、そうなると問題がある。ここの私は住む家をどうしているのかということだ。私が雲取山にいるということは両親と住んでいたあの家ではない。

 

 

それなら、私は何処で雨風を凌いでいるのか。私は炭治郎達の家に居候しているのではないかと思っている。それは七海と一緒にそうなった経験から考えているが、この可能性は非常に高いと思っている。既に見ず知らずの私と七海を信頼したことがあったからね。

住んでない可能性があるが、ここがどうなっているのかは分からないけど、それでも年の近い炭治郎と仲良くてもおかしくないため、炭治郎達との交友があると思う。こういう村の中で年の近い子は少ないから、何かと気にかけるんだよね。

 

少し話が逸れたけど、私の予想が合っているかは三郎爺さんの話で判明するだろう。

 

 

「炭治郎はどうですか?」

「ん?どうって、炭治郎はまだ帰ってきていないのか?いや、今日は二人で一緒に山から下ってきたからな。炭治郎のことを待っているのか?まだ炭治郎はここへ来てない」

 

 

私の質問に三郎爺さんは少し疑問に思ったが、すぐに納得して答えてくれた。情報がないため、こういう言い方でしか聞けないが、狙い通りに解釈してくれたようだ。

それと、大当たりだった。ここの私は炭治郎達のところに居候していて、今日も一緒に山を下っていた。炭治郎は炭を売りに行き、私は持っている荷物から薬を売りに行ったのだと分かり、私がこの山で炭治郎達と一緒にいるのは確定した。

 

あと、ここは炭華ではなく、炭治郎となっていた。炭華の可能性があったけど、性転換した世界と明らかに違う世界だと感じるし、七海の話からしてあれは前回と違うということなので、炭治郎の可能性の方が高いと思い、とりあえず炭治郎で聞いてみた。

すると、炭治郎の名前で反応したので、ここにいるのは炭治郎みたいだ。炭華だった場合はどうしようかと思ったが、その心配が杞憂で良かった。

炭治郎であるなら禰豆子だと思うので、炭華(炭治郎関係)で七海と暴走することもない。なら、平和?になるのかな.....。...そういえば、七海はどうなって.......。

 

 

「もうすぐ日が暮れる。このまま炭治郎を待っていたら家に着く前に夜になるだろう。私の家に泊まりなさい。鬼が出るから」

 

 

私が考え込んでいると、三郎爺さんがそう言って家に入れてくれようとした。それはとてもありがたいことだが、私は三郎爺さんから鬼という言葉が出てきたことにギョッとした。

何せ、私と七海が無惨の襲撃を知ろうとした時は三郎爺さんに鬼を知っている様子がなかった。

なのに、ここでは三郎爺さんは鬼について知っている。そのことに驚いたというのもあるが、それだけではない。

 

 

三郎爺さんのこの鬼が出るという言葉は原作であったことだ。それもこの言葉を受けて三郎爺さんの家に泊まっている間に竈門家は無惨に襲撃されているのだ。

私はその言葉を聞いた後、もう一度自分の手足を見ながら思い返した。私の身長がこのくらいの時はもう十二、十三にはなっているだろうと。その時だとすれば原作開始の年だということになる。

 

 

「....大丈夫ですよ。いつも帰れているのですから、今日も平気だと思います」

「確かに。いつもならもっと早くに帰るから言わなかったが、今日は流石に遅い。もうすぐ正月になるから稼ぐと言って、二人してこんな時間まで働いていて...疲れてもいるだろうから、とにかく中へ......「ごめんなさい!今日は少し事情があるので、早く帰ります。炭治郎には暗くなりそうだから、先に帰ると伝えてほしいです。それでは、急いで帰ります!」」

 

 

私は心臓がバクバクしているのを感じながらもなんとか平常を保とうとした。いきなり今日が無惨の襲撃だと分かっても

最後の方はもうめちゃくちゃだったが、今の私はそれを気にする余裕がなく、言いたいことを全て伝えでからすぐに走った。

後ろで三郎爺さんが何か言っているが、私はそれを無視した。私が優先しないといけないと思うのは竈門家の人達の安全だ。ここで竈門家の人達とどんな生活をしていたのかは分からないが、別の六年間の竈門家のみんなと過ごした記憶がある。とてもお世話になったし、例えその記憶を持っていない人であろうと、見過ごすことはできない。

炭治郎と私がこの世界でどんな関係になっているのかは分からないが、何も伝えずに行くのは申し訳ないので、伝言だけは残しておく。おそらく炭治郎はまだ家へ帰っていない。原作だともう少し暗くなっていた時に三郎爺さんと話していたから、今はその少し前なのだと思う。だから、私は急がなければならない。無惨が辿り着くのは今日だと分かっていても正確な時間までは分からない。原作のあの場面で布団が敷かれていたことを考えると、寝る前に襲われたか寝ている最中に襲われたのかとも思える。

これならまだ時間があるのではないかと考えるかもしれないが、準備する時間が必要だった。何せ、相手が鬼舞辻無惨という状況なので、それを回避するためには対策を練る必要がある。そのため、時間がたくさん必要だ。しかも、今の私は呼吸を使っていなかったらしく、そんなに体力もないし、

 

 

私は積もった雪で滑らないように気をつけながら走っていく。外は暗くなっていて、もうすぐ夜になる。無惨が来て、禰豆子しか生きていなかったあの夜が起きる。私は焦って抜け道を通ることにした。いや、抜け道と言っても道と言えないものであり、真っ暗な時は命の危機を感じるほどのものだが、今はこれが近道なのだ。呼吸を使えない私では家に着くまでに時間がかかり過ぎる。

ちなみに、私がこの道を知っているのはあの六年間の雲取山で過ごした時間である。竈門家に暮らした時はここで薬草を探して採っていたし、七海と禰豆雄の暴走を止めるため、すぐに駆けつけられるようにこういう道を見つけていたのだ。そして、その道はここでも同じであるため、私はその道を使うことができた。

 

 

私は足元に気をつけながら家に近づいていた。もう少しで家に着くと思った時、殺気を感じた。私は慌ててその場から離れた瞬間、そこに誰かが現れ、その地面が割れた。

危機一髪だった。私は警戒しながらその人物を見て、目を見開いて驚いた。

 

 

「.......七海....?」

「ヴヴヴっ」

 

 

私が見たのは七海だった。それも制服を着た.....高校生の姿をしていた。だが、私が呆然と呟いた声を聞いても七海は返事をせず、唸り声を上げるだけだった。私はすぐに気がついた。今の七海が鬼だということに。

私は混乱した。いきなりここへ来ることになり、しかもタイミング的に無惨の竈門家襲撃の日であり、急いで帰る途中に鬼となった七海に襲われる。色々なことが起きていて、私の頭はもうぐちゃぐちゃになりそうだ。

 

 

「なんで、どうしてこんなことに........」

 

 

私はついそんな言葉を漏らしてしまった。意味の分からないことの連続でついて行けなくなっている。だが、冷静になる暇なんて私に与えられなかった。七海は私を視界に入れた瞬間、襲いかかってきた。私は咄嗟に避けられたが、暗くなってきて足元がはっきり見えなくなってしまった所為か、崖から転落してしまった。私はすぐに岩や枝を掴み、勢いを殺そうとしたが、雪が降っている影響で滑ってしまい、上手くできなかった。

私はそのまま下まで落ちたが、ちょうどその場所は雪が積もっていたところだったので、怪我をすることはなかった。私は無事だったことに安堵するが、すぐに気を抜いてはいけないと思い直し、心を落ち着かせた。

 

 

何故こんなことになっているのかは分からないけど、今は目の前の、七海のことを優先した方がいい。あの七海は確実に鬼になっている。それもかなりの飢餓状態で意識がない。目には何も描かれていなかったし、あまり強いと感じなかった。それなら、今の七海は鬼になったばかりだと考えられる。

それでも、疑問が残っている。前の時に聞いた七海の話では人間を食べたいと思っていなかったそうだ。それなのに、あの七海は私を狙っていた。おそらく七海にも今までにないことが起きているのだと思う。どうにか七海を正気に戻したいけど、どうすればいいのかな?

七海も原作の禰豆子と同様に飢餓状態に勝てそうだという信頼は私にある。でも、あの様子では人間を見つけたら無差別に殺してしまうくらいなので、一度正気に戻さないと駄目だ。

 

 

原作だと禰豆子は炭治郎の声や子守歌で正気に戻っていたので、それと同じことをすればいいのではないかと思うかもしれないが、私が全く自信ないのだ。

子守歌はお母さんが幼い頃に歌っていたということで凄く暖かく、懐かしくて心に残っているから効くのであって、私が歌っても効くかというと全然だと思う。というか、七海のお母さんと同じ子守歌を歌うことができない。どんな歌を歌っていたのかは分からないし、そもそも七海のお母さんは七海に子守歌とかを歌っていたのかというところから問題なのである。

それなら、言葉なら行けるのではないかと思われる方がいるかもしれないが、どうしても私はそんな自信を持てない。私は七海に届くのかというところで凄い不安になっているのだけど.......。

 

 

私は深呼吸しながら七海をどうやって止めるのかを懸命に考えた。そういえば七海が鬼になったのなら、殺すという選択肢があるのではという人がいるかもしれないが、私にその選択肢はない。

だって、七海とは一度殺し合ったが、仲直りはしたし、巻き戻った後に過ごした約八年間はとても楽しく、友達や家族のように感じていた。何より、同じ記憶を共有している仲である。私はそんな人だから鬼になっても一緒にいたいと思っているし、しかもまだ人間を食べていないのならとますます希望を抱いている。

今は暴走しているけど、七海も大丈夫なのではないかという期待をしてしまう。だから、私は七海を正気に戻す方法を考えている。

 

 

それに、今の私には鬼となった七海を殺す手段がない。日輪刀は持っていない。先程三郎爺さんと話している時に持ち物を確認したが、薬を作る道具や幾つかの薬草、稼いだお金以外はなかった。護身用の刃物なんてなく、その薬草の中に藤の花もなかったため、鬼に効く毒がない。睡眠薬はあるが、それは人間用であるため、鬼には効かないだろう。となると、後は日光を待つのみになるが、私がそれまで生き残れるという保障はない。まだ成り立てで弱い鬼だとされても、呼吸の使えない私ではそこまで逃げきる体力はないだろうし、刃物などの武器もないので、戦うこともできない。

 

 

私があの飢餓状態の七海への対処で悩んでいると、上から誰かが来る気配を感じて転がって避けた。いや誰かと言っていたけど、それが誰なのかはとっくに分かっていた。素肌が雪に触れ、それを冷たいと感じていたが、私はそれを気にしていなかった。それ以上に時間切れだと思い、向き合うことにした。

やはり来たのは七海だった。どうやら先程から狙いが私となっているようだ。私はそのことに困った。今の七海は私を標的としているため、他の人を襲う可能性は少なくなっている。

 

 

だが、私が七海を正気に戻せるかどうかでどうなるかは分からない。今の私は呼吸が使えないし、護身の武器すらも持っていない。なので、七海と戦うことになったら確実に私が負ける。私はそれが嫌だ。負けるのが嫌とかではなく、七海が最初に殺すのは私ということになるのが嫌なのだ。あの飢餓状態で、制服に血すらついていない七海はまだ誰も食べていない成り立ての鬼だから、私は最初の獲物ということになる。私をきっかけに七海が戻れなくなるのは駄目だ。だから、私はここで七海の正気を取り戻さないといけない。

 

 

......私の声が届くかどうかは置いておくとして...まずやらないといけないのは七海を動けなくすることかな。今の私では少しでも油断すれば七海に殺されてしまう。呼びかける時間があまりないので、七海を止める方法を考えないといけない。

 

 

「七海!」

「ヴッ!」

 

 

私が七海の名前を呼ぶと、七海は私に向かって突進してきたので、私は避けた。

なるほど。こうすれば誘導することは可能かもしれない。

 

 

「こっちだよ」

「ヴヴヴヴッ!ヴヴッ!」

 

 

私は七海に声をかけながら襲いかかってくる七海の鋭い爪を紙一重で避けていく。今のところ当たっていないけど、何度も襲いかかってくるから、体勢を崩したら終わりだ。

私はそのことに緊張しながらもなんとか攻撃を避けていき、勘でなんとなくその場所に誘導する。本当は確認しながらやった方が正確なのだが、七海から視線を逸らせばその時点でも駄目だ。一発勝負だけど、やるしかない。

 

 

私は緊張していても、必死で落ち着くように心の中で言い聞かせながら七海の攻撃を避けていると、背中に何かが当たった。私は感触からその何かの正体に気づき、動きを止めた。その瞬間を待っていたというように七海が飛びかかってきて、私はそれをじっと見ながら横に転がって避けた。転がる私の耳にドサッと何かが落ちる音が聞こえた。

私はすぐに体勢を整え、起き上がってみると、七海が雪に埋もれていた。この時代に除雪車のようなものはない。特に、こんな山の中は誰にも手入れなんてされないから、雪は降り積もったままだ。道だけでなく、木の上にもね。

 

 

さらに、鬼は人間と違い、とんでもない力を持っている。鬼になっている七海が勢いよく木にぶつかればどうなるか。

.....まあ、木が折れてしまったのは巻き込んで申し訳ないという気持ちになる。結果として、木に積もっていた雪が七海の上に降り落ち、七海は身動きが取りづらい状況になった。

だが、それも時間稼ぎのようなものだろう。あの七海ならすぐに体勢を整えられる。私が走って近づいていく間に七海は体を震わせて雪が落ち、自由に動けるようにしていた。この状況で近づいても私が食べられるだけだ。

 

 

やはり雪ぐらいでは駄目だ。でも、それは予想していたので大丈夫だ。

私は呼吸を使い、地面を強く蹴った。呼吸を使っていなかったとしても、頭では分かっている。だから、使うことならできるはずだ。ただ、体はそれに追いつけないから、使えるのは短時間だろう。しかし、それでも不意をつく時には最適だ。

 

 

私は地面を強く蹴って跳び、近くにある別の木に蹴りを入れた。だが、私にはへし折るくらいの力がないため、木は揺れるだけであった。それでも、僅かに揺れさえすれば積もった雪が少しずつ降ってくる。特に、あの木はかなり大きい方であるため、七海の上にも降ってくるはずだ。案の定、七海の上にも雪が降り注ぎ、七海は顔を隠した。

これを待っていた。巻き込んでしまった二本の木には申し訳ないと思っているが、今は周りのものを何でも使わないといけない状況だった。こうでもしないと隙を作るのは難しい。

 

 

いや、その条件は私も同じではないかって?

そうだよ。私の方が雪の降ってくる量は多く、その雪は明らかに視界を阻害している。だが、それも分かっていたことだ。そのため、私は木を蹴ったと同時に跳躍し、七海の後ろに着地した。それでも、七海は気配で私が気づくだろうが、私は動く前に七海を勢いに任せて押し倒した。

 

 

「ヴッ!?ヴヴヴッ!ヴヴッ!」

 

 

七海は唸り声を上げながら振り払おうとするが、私が手足を完全に押さえていたので、それはできなかった。

力がないとはいえ、今の私は全体重をかけてしっかり押さえているから、そう簡単には外れない。だが、鬼は人間より力が強いし、私もそろそろ呼吸を使えなくなる。

だから、その前に伝えないと.....。

 

 

「....前の世界の苗字を聞いていなかったし、私も覚えていないからそんな話題になることはなかったけど.....」

 

 

私は誰にも聞こえないくらい小さな声で呟きながら七海を見た。この言葉は聞こえてなくていい。誰にも聞かすつもりのない一人言なのだから、これは誰にも届かなくていい。

だけど、この後の言葉は七海の耳に入ってほしい。届いてほしい。

 

 

「起きなさい!今の七海は確かに七海だけど!それと同時に、生野七海でもあるの!お願いだから、戻ってきて!」

 

 

私は七海の目を見ながら叫んだ。こんな大声は相手が七海じゃないと出ないだろう。いや正確にいうと、七海と禰豆子(禰豆雄)の場合だ。この世界に来てから色々な人や鬼達と話していたけど、大声で叫んだこととなると、主に七海と禰豆子(禰豆雄)関係である。

だけど、今回が一番真剣だったと思う。

 

 

「......か....?」

 

 

私が七海のことを見つめていると、七海の動きが止まり、掠れたような小さな声が聞こえた。

はっきり聞こえたわけではない。でも、例え風に乗ってたまたま聞こえた声だとしても、その声が誰の声かは分かる。目の前にいる人が発したのだと分かっている。

それと、なんとなくであるが.....私の名前を言っている気がする。私は七海の目が揺れていることに気づき、戻ってきているのだと察した。

私は声が震えないように気をつけながら七海に呼びかけた。

 

 

「七海。聞こえているよね。覚えているよね。私もいきなりここへ来て、混乱したよ。でも、それ以上に七海が鬼になっていたことに驚いたよ。....たぶんだけど、七海はまだ人を食べてない。だから、まだ大丈夫だよ。間に合ったから」

 

 

私の声を聞き、七海は目を見開いた。七海が驚いて叫ぶ前に私は自分の予想を伝えていく。今の七海は鬼に成り立ての段階だと思っていることや、その証拠に七海の着ている制服には血痕がなく、気配も十二鬼月のような強い鬼の威圧感がないから、鬼になったばかりなのは間違いないと言うと、七海は安心したように息を吐き、力を抜いた。

 

 

七海が人間を食べるということにトラウマがあるのを知っている。前に一緒に暮らしていた時、食事の最中の七海に違和感を感じ、七海が肉を使った料理には眉を顰めていることに気づいた。表面では笑っていたけど、それは私以外にも炭華と禰豆雄達にもバレた。私は事情を知っているから、すぐに原因も察したし、炭華と禰豆雄も七海の様子から何かあると分かったうえで、何も聞かずに食べなくていいのだと言った。それから肉料理が出てくることはそもそも貧しくてあまりなかったが、たまたま手に入れる機会があった時は七海のために私が釣りや素潜りをして魚などを確保したり、山菜をたくさん採ってきたりしてきた。そのため、みんなで肉料理を食べている間も七海はその肉に負けないくらい豪華な料理を食べている。特に、秋になれば松茸を使うので、七海はそれで満足している。

今では七海がこのまま甘えているわけにはいかないと思ったらしく、少しずつ克服していき、食べられるようになっているので、鬼殺隊に入った時には普通に食べていた。だが、七海は全体的に肉と魚のどちらを食べているのなら魚の方だと思う。

 

 

でも、それくらいのトラウマになるほどのことをもう一度やってしまったかと思うと、それは恐怖を感じる。ああ

なので、私がやっていないと言ったことにとても安心したのだろう。七海の目が少し赤くなっている。瞳の色が青系統であるため、それが凄く目立つ。だが、私は七海が涙目になっていることに気づかないフリをした。

 

私は七海が落ち着いたのを確認し、押さえるのを止めた。七海から離れると、私も安堵して力が抜け、その場に座り込んでしまった。

 

 

「...七海。私は嬉しいよ。七海が戻ってきてくれて。私の声が聞こえて、凄くほっとした。七海が戻って来なかったらどうしようって、不安にもなったよ」

 

 

私が七海の腕を掴んで握ると、七海は私の方を見て呆れたような顔をしながらも私の手を握った。私はその手から伝わる温もりにますます安堵していく。今の七海は鬼になったことで肌が真っ白だ。なので、その手にもちょうど熱があると分かるのは凄くほっとするのだ。

 

 

「七海、おかえり」

「......ただいま」

 

 

私が笑顔でそう言うと、七海は少し顔を赤くしながらもはっきり言った。その顔は笑っていた。私はそれを見て、安堵した。

七海が戻ってきたと実感し、力が抜けていく。.....いや、これは.........。

 

 

「こ、呼吸を使った反動が.......」

「彩花!」

 

 

私はその場に倒れ、七海が慌てている。私も無茶をした自覚があったが、こうなるまでだったのは予想外だ。今の私は肺を鍛えてないから、回復の呼吸を使おうとしてもかえって反動を大きくするだけになりそうだ。

となると.....時間がかかるけど、七海には待ってもらおう。

 

 

 

 

 

 

「....それで、今後のことを話し合わないとね」

「そうだね」

 

 

しばらくして、私も起き上がるくらいには回復し、七海と今後のことを話し合っていた。

 

 

「それに、彩花がさっき言っていたけど、アタシの制服に血痕がないのは流石におかしいわよ。鬼になるには無惨の血が体内に入った時だわ。その時に制服に無惨の血が少しでもつくはずよ」

「確かに、私も同じことが不可解に思っていたの。最初は七海が人を食べてしまったかどうかの判断を優先していたから気づかなかったけど、よくよく考えてみたらそれでは無惨がどうやって七海に自身の血を注入したのかという話になるよね。無惨の血の注入方法って、相手の体に傷をつけて、そこから血を注入していくものね。

もう一つ、自分からだった場合はその人の手に血を注ぎ、飲ませるという方法があるけど、七海が自分から鬼になるとは思えないし、手にも口にも血がついていないから、それはあり得ないと思う。でも、やっぱり七海が鬼になった原因は分からないんだよね.....。

.......そういえば、七海はさっきから無惨と呼んでいるけど、全然平気だよね。もう無惨の呪いを解いたの?」

「....言われてみれば...」

 

 

七海の疑問に私も頷いた。私も後で同じことに気づいたのだ。幾ら何でも血が全くついていないのはおかしいと思った。まあ、襲われている時は食べていないのだと気づきやすかったけどね。でも、それが明らかに不可解なことだと思われる。

 

 

私も七海の言っていることについて考えていると、七海の言葉の中で気になることがあった。それは七海が無惨の名前を普通に呼んでいる点である。私はそれに気づいてすぐに尋ねると、七海は少し驚いた。たぶん驚いた理由について知らないだろう。

七海も無意識に言っていたみたいだ。今になるまで七海は人間であり、私とこの世界のことで色々話をしている時に何度も無惨と言っていたから、特に意識せずにその名前を言っていたみたいだ。

 

 

「....はあ。アタシがどうやって鬼になったことも、また時が戻ったことも不可解なことがあり過ぎて、何処から整理していけばいいか分からないわ」

「そうだね。一つ一つ確認していった方がいいと思う。今はたぶん原作の......!」

 

 

七海の言葉に私は同意しながら持っている情報を頭の中で整理した時、私はあることを思い出した。七海のことで頭がいっぱいになってしまい、忘れていた。

今、竈門家が無惨に襲撃される危機だということを。

 

 

「...どうしたのよ?」

「ごめん。今日って、原作の始まりの......竈門家が無惨に襲撃される日、みたいなの」

「はっ!?つまり、二年前!?いや、一年前....それを考えている暇はないわね...。もう、真夜中になってるわよ!早くしないと、手遅れになるわ!」

 

 

私の顔を見て、七海が疑問に思って聞いてきた。私はそれに謝罪しながらそう告げた。この謝罪をする相手は本来なら竈門家の人達のはずなのは分かっているが、それでもやってしまった。

七海は今が竈門家襲撃の日であることに驚愕しながらも竈門家の方へ向かった。

 

 

家の場所は私達の記憶と同じところにあるはずだ。だから、そこには行ける。だが、問題は間に合うかどうかだ。無惨が来るのは何時なのかという情報がない。夜になってから既にかなりの時間が経っているため、襲撃されているかどうかは分からない。

 

 

少しでも早く行けるようにと、私は七海に背負われた。今の私は呼吸が使えないので、前と同じくらい速くない。一方で、七海は鬼となっているため、身体能力は高くなっている。だから、一刻も早く辿り着けるようにするには七海が私を運んだ方がいいと思った。七海も同じことを考えたらしく、手遅れになると言いながら背中を指したので、私はその背中に乗った。

 

 

鬼となった七海が私を背負った状態で木々を通り過ぎ、その跳躍力で木から木へ、岩から岩へと飛び越えていく。いつの間にか雪が降っていたが、それを気にせずに無言で竈門家を目指す。そうしていくうちに竈門家が見えてきた。

だが、遅かった。

 

 

「駄目だわ。もう襲撃された後のようね」

 

 

鬼になって五感が鋭くなり、血の臭いに敏感になっている七海がそう呟いたのを聞いた時には察していた。

だけど、それでも私は七海に下ろされた後、竈門家に急いで向かった。風に乗って血の臭いがしてくるが、雪が降り続けて前がよく見えなくなっていても私は足を止めなかった。頭の中に原作のあの場面や前に見たあの惨状などの自分の記憶に残っているものが何度も浮かんでくるが、私は走り続ける。

 

 

これから見るものがどういうものかは分かっている。それでも、私は止まらない。止まれなかった。あれが起きたから、こうなったのだという言い訳はしない。特に、忘れていたのは完全に私が悪い。

もしかしたら微かに生きているかもしれないという希望を抱いているし、私が忘れたのはこれだということを見るためでもある。

 

 

だが、結果は残酷であった。竈門家に着いて見たものは原作や前に見たのと同じであり、脈もなく息もしていなかった。体温も外から吹く風で奪われ、冷たくなっていった。唯一、禰豆子だけは体温があまり下がってなくて、私は禰豆子が鬼になっているのは間違いないと思った。

 

 

だけど、他は体温が下がっていき、だんだん温かさを感じられなくなっているのが分かり、私はそれに少しショックを受け、まだ助かる方法はないのかと考え、傷口を押さえて止血し、心臓マッサージをした。すると、僅かに心臓が動いたのだ。

竹雄の心臓だけ。

 

 

私はそれに驚き、竹雄の心臓に手を当てると、小さく動いているのが分かった。私が七海に竹雄の心臓が微かに動いていることを伝え、七海に私の着物を着せた後、竹雄を背負って山から下り、医者のところへ向かった。本当はそんな暇なんてないが、私は可能性を信じてここに残るし、七海の方が早く医者の元へ行ける。だが、七海の服装はこの辺りでは見当たらないものであり、それが相手に不信感を与えてしまい、竹雄の治療を拒否される可能性があるため、服だけは着替えさせておいた。

七海が行った後も私は癸枝さんや六太達に心臓マッサージなどをして蘇生しようとしたが、全く駄目であった。

私はそのことに落胆しながらも七海と竹雄のことが心配であるため、一度手を合わせた後に山から下りた。

 

 

 

医者のところへ行くと、七海がその家の前に立っていた。七海に竹雄の容態を聞いてみると、まだ治療中だそうだ。医者の人は七海を見て少し警戒していたらしいが、重傷の竹雄や私に行くように言われたことを話すと、すぐに竹雄の手当てをしてくれたみたい。

どうやら医者の人達にとって七海は初対面の人という認識のようだ。前の時は手伝いをしに来た仲だったので、やはり違うのだと改めて感じた。

 

ちなみに、七海が外にいるのは中にいたら邪魔になると思ったからだそうだ。私も手伝いたいが、集中している時に声をかけるのは駄目だと思い、一度隙間から覗くことにした。

医者の人達が今も必死に治療している。

 

 

最新の機械とかがないため、私達の知る現代や蝶屋敷に比べると、凄く不安になる。だけど、今の私には竹雄を助けられそうなものが何一つなかった。ここなら僅かにでも可能性があるため、賭けるしかないと思ったのだ。

 

 

私と七海は家の前で竹雄の治療が終わるのを待った。互いに無言だった。こんな状況でなければ色々話し合いたかったが、今は緊張していてできなかった。

 

 

 

しばらくすると、朝日が昇ってきた。私は七海に小さくなってもらい、薬を入れていた籠の中に入ってもらった。中身は空になっているが、薬を入れていたので、その匂いがしていると思う。でも、今はこれしかいいのがないため、我慢してもらおう。

一応蓋のある籠であったが、念のためにその上に手拭いをかけ、日光が差し込まないようにしていると、家の中の様子が変わった。中の気配はずっと動き回り、バタバタしていたのだが、今はとても静かだった。

 

 

私は表情が強張るのを感じた。これは治療が終わったことを指しているのは間違いないが、問題はその結果だ。

竹雄が助かったのか、それとも駄目だったのか。治療を終わりにするのはその二つが理由になるだろう。

 

緊張が高まり、呼吸が乱れそうになるのを必死に耐えた時、扉が開いてお医者さんが姿を見せた。私は縋るように近づきながらも医者の目をしっかり見た。

 

 

「ど、どうでしたか?」

 

 

声が震えそうになりながらも私は聞いた。もしかしたら最初の方が震えていたのかもしれなかったが、私はそれを気にしているどころではなかった。今は竹雄がどうなったかだ。医者の人は七海がいないことを気にしていたが、話してくれるようだ。

医者の人が話すまで凄く長く感じた。周りの音も聞こえなくなり、医者の口が動くのはとてもゆっくりに見えた。

 

 

「一命を取り留めました」

 

 

私はその言葉に安堵するが、同時に嫌な予感がした。これだけでは終わりような気がしたのだ。

....そして、それは当たってしまった。

 

 

 

「...ですが、意識が戻る可能性は低いです。このまま目覚めることがないかもしれません」

 

 



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三度目の少女は悩む

 

 

 

竈門家襲撃から数ヶ月が経とうとした。竹雄の容態を聞いた後、私達は竹雄のことをそのまま医者の人達に預け、一度竈門家に戻った。医者の人達には他の家族達も襲われていて、息をしていたのが竹雄だけだったから、竹雄を連れてきたことを話し、放置したまま来たので他の家族達を弔いに行ってくると言ったら送り出してくれた。中には手伝ってくれると言う人もいたが、私達はそれを断った。

私と七海には他にも目的があった。それは炭治郎達の現状を確認するためである。癸枝さん達の弔いも大事だが、今後の展開もとても大切である。

 

 

私と七海がここにいる間にかなりの時間が経っている。おそらく炭治郎は家に帰り、あの惨状を見たところだろう。そして、助かるかもしれないと思い、禰豆子を背負ってここへ向かう途中で、禰豆子が鬼として目覚め、炭治郎は禰豆子に襲われる。だが、炭治郎の呼びかけで禰豆子は正気に戻り、その時に義勇さんが現れ、禰豆子が鬼となったことを知る。義勇さんは禰豆子を殺そうとしたが、禰豆子が炭治郎を襲わないのを見て、義勇さんは禰豆子を見逃すことにしたというのが原作の始まりの流れだ。

 

 

同じ流れになるのかは分からないけど、竹雄のことが気になっていて、そちらを気にする余裕がなく、原作通りになると信じた。ただ、やはりそうなるのか気になるので、様子を見に行くことにしたのだ。

なので、他の人達が来るのは正直に言えば困る。だって、側から見たら義勇さんが炭治郎と禰豆子を襲っているように見えてしまうからね。刀を持っているわけだし、義勇さんは口下手だから誤解を解けないと思う。義勇さんに鱗滝さんを紹介してもらわないといけないし、頼みたいこともあるから、それは勘弁してほしいのだよね。

 

 

雪が降っているので、医者の人達から離れた後、七海を籠から出し、二人で山を登った。炭治郎は禰豆子を医者に診せるため、この道を辿っているはずだ。なので、途中までは私達が来た道を使っていたのは間違いない。

だが、禰豆子が暴れたことで崖から滑落したので、道中で崖のある場所から覗いて探すしかない。.....あの崖の高さだと山の中腹辺りなのかもしれない。けど、確信もないので一つ一つ確認していかないとね。

 

 

私と七海は周りを見ながら炭治郎と禰豆子を探した。その時、

 

 

「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」

 

 

その声が聞こえ、私と七海は顔を見合わせた後、すぐにそちらへ向かった。何せ、その言葉を私達は知っている。

義勇さんの言葉だ。この言葉は物語の最初の....特に印象に残っているもので、私も七海もはっきり覚えている。なので、この言葉を聞いただけで私達は原作のどの段階なのか分かる。

私と七海は義勇さんにバレないように気をつけながら少しずつ近づき、様子を見た。

 

 

どうして義勇さん達にバレないようにしているのかって?

一つは私と七海がこの後の展開に深く関わってしまうと、何が起こるのか分からないからだ。中でも、ここは炭治郎と禰豆子の今後に左右する重要なところだ。それを崩してしまったら色々終わる。物語的にも禰豆子がいなければ詰むところが多いし、私達も私情から禰豆子がここで斬られるのは避けたいところだ。

なので、私達は禰豆子が炭治郎を庇うところまで介入しないことにした。そのくらいなら禰豆子が他の鬼と違うのではないかと義勇さんに疑問を持たせることができる。

 

 

でも、私と七海は近くで待機することにした。原作と違って、禰豆子が炭治郎を襲ってしまう可能性はあるからね。禰豆子を信じたい気持ちはあるが、ここは重要なところだ。これからのためにも最初の一歩を踏み外すわけにはいかなかった。

他の鬼と違うと思わせないと、禰豆子は問答無用で斬られるので、もしもの時は炭治郎が襲われる前に止めなければならない。

 

 

私も七海も少し緊張しながら様子を見ていたが、展開は原作通りだった。義勇さんの言葉を受けて、炭治郎は斧投げをしたし、義勇さんが驚いている間に禰豆子は義勇さんの拘束から脱出して炭治郎を庇った。

私と七海はそれを見た後、安堵しながら互いを見て頷き合い、禰豆子達に近づいた。

 

 

「禰豆子。大丈夫?」

 

 

私は禰豆子に声をかけた。私の声を聞き、禰豆子と義勇さんがこちらを向いた。禰豆子は威嚇してきたが、途中で私に気づいたらしくて止めていた。少し不安だったが、ここで私と禰豆子が一緒に暮らしていたというのは間違いなさそうだ。私に気づいた途端、警戒するのを止めたということはそれくらい信頼しているのだと思う。

一方で、義勇さんは困惑しているようだった。鱗滝さんの教えで判断力は高いが、流石に色々起きて混乱しているみたいだ。

 

 

七海と手を繋いでいるのは義勇さんに無害だということを訴えているのと、いざという時に互いを助けられるようにするためである。普通の鬼は人間が近づいたら襲うので、禰豆子のように人間を庇うという行動も、七海のように人間と手を繋ぐという行動も受け入れがたいことだろう。

鬼殺隊の柱でたくさんの鬼と戦ってきた義勇さんには信じがたいと思う。だから、この光景を見れば少しは動揺して止まるはず。

そう考えていたが、どうやら上手くいったらしい。

 

 

私は義勇さんを見て、次の段階に移るために話しかけた。先程聞こえたけど、鬼とは何かということや人間に戻す方法があるかということを尋ねた。一度義勇さんが七海に刀を向けようとしたので、私が前に出ると、七海が私の前に出た。

義勇さんに七海の頸が斬られる可能性があるので、私はできれば七海が後ろへ下がり、私が中心に交渉という形にしたかったので、念のために後ろにいてほしいと七海に言ったが、七海はいざという時に避けられるから大丈夫だと言って聞かなかった。

そんな私達の言い合う様子を見て、義勇さんは無言で何かを考えた後、私達に尋ねてきた。

 

 

「.....お前達は...なんだ」

「「友達」」

 

 

義勇さんの質問に私と七海は即答した。色々あったけど、私達にとってお互いは友達だという認識だ。一度殺し合いはしたが、一緒に暮らして、鬼殺隊として肩を並べた仲だ。まあ、正確に言えば友達であり、家族でもあるなのだが、それは置いておこう。

何故かというと、こちらの世界では七海とは一緒に暮らしていない可能性があるからだ。禰豆子が七海のことを少し警戒しているように見えるので、ここでは私と一緒に暮らしていても七海も同じなのだというわけではなさそうだ。なので、言わない方が良いと考えたのだ。

 

 

私達の言葉を聞き、義勇さんは刀を鞘に戻した。鬼である禰豆子も七海も斬る気はないということだ。心配だったけど、禰豆子の様子に気づいた様子はない。いや、禰豆子が一番警戒しているのは義勇さんなので、それが原因だろう。

 

 

 

その後、炭治郎が目覚め、禰豆子の無事と私がいることに安堵していた。どうやら既に戻ったはずの私が家にいなかったことを凄く心配していたようだ。私はそれに思い当たらなかったことを申し訳なく思った。

私はそのことを謝罪した後、ここに来るまでのことを話した。家に着いた時は既に襲撃された後だったこと、その中で竹雄に僅かだが心臓が動いたので、医者のところへ運んだこと、竹雄は一命を取り留めたが意識が戻るか不明だということ、癸枝さん達をそのままにしていたから、供養しようと思って戻るところで炭治郎達を見つけたことを話した。嘘はついてないので、大丈夫だろう。七海に襲われたことは抜かしたけどね。

話がややこしいことになりそうだから。

 

 

炭治郎は竹雄が生きていることを喜んでいたが、私は嬉しいとは思えない。目覚める可能性は低いと再度言ったが、それでもまだ可能性はあると言った。私も可能性があるだけマシだと思うが、炭治郎に竹雄を助けてくれたお礼を言われても喜べなかった。あの時、忘れずに早く家に着いていればという後悔がどうしても残る。

そんな私の気持ちに気づいたのか知らないが、七海が私の背中を叩いた。少し痛かったけど、鬼である七海の力はこんなものではない。手加減してくれたのだろうし、励ましの意味でやったのだと思うから、私はそれに対して何も言わず、受け止めることにした。

七海が私の背中を叩いたことで炭治郎が七海のことに気づき、聞いてきた。それにより、この世界では私と知り合いでも七海は違うのだということを確信した。

 

 

私は七海を同い年の友達でよく会っていると紹介し、七海も禰豆子同様に鬼になっていて、私は七海を人間に戻したいと話した。それを聞き、炭治郎は納得したようだ。私は炭治郎のことが少し心配になったが、私が一応嘘を言っていない(よく会っているというか、前の世界で一緒に暮らしていたのだが)わけなので、それを信じてくれているのだと思うし、そちらの方が私達も好都合であるため、特に指摘しなかった。

まあ、私も炭治郎もお互いの交流関係を全て理解しているわけではない(この根拠は前の世界から)ので、何処かで知り合ってもおかしくないというのもあるのだろう。

 

 

私達が話していると、義勇さんが竹雄のことを聞いてきたので、竹雄の居場所を教えた。すると、義勇さんが専門のところへ預けると言った。炭治郎は驚いていたが、私と七海は安堵した。

 

 

何せ、ここで義勇さんと話す目的のようなものだったから。優先しないといけなかったことの一つ目は禰豆子と七海を見逃してもらうことだ。義勇さんには負担をたくさんかけてしまうことになるが、禰豆子と七海には生きていてほしい。二つ目は竹雄を蝶屋敷に預かってもらうことだ。竹雄が寝たきりになっている原因は鬼舞辻無惨だ。竈門家襲撃の時に無惨がどんな血鬼術を使ったのかは分からないが、背中からの触手の可能性はある。

さらに、その触手に血がついていたら竹雄は鬼の毒が原因で眠っている可能性もある。無惨の血は人間にとって毒のようなものでもあるからね。それが原因ならこの村の病院ではなく、専門知識のある蝶屋敷で診てもらった方が目覚める可能性がある。

何より、この後のことを考えると、安全な場所にいてくれる方がいい。

 

 

 

義勇さんは竹雄の話の次に鱗滝さんのところへ行くようにと言った。それも予想通りであったため、私も七海も互いの手を握るだけで、特に何も疑問に思わなかった。

私も七海もこの世界に何故か来て?からたった一日しか経っていないが、既に覚悟は決めている。

もう一度鬼殺隊に入ることになるけど、それでもいいと思っている。竈門家襲撃を防げなかったことや禰豆子と七海を人間に戻すこと、竹雄を目覚めさせることなどの理由はいっぱいあるし、これからのことを知っていて、放置はしたくない。

この世界に来た理由も原因も分からないけど、今回も鬼殺隊に入った方がいい。そう思ったのは確かだ。

 

 

義勇さんが去った後、私達は家に戻り、癸枝さん達を供養した。そして、薬作りの道具と七海が入っても大丈夫そうな籠を持って、鱗滝さんのいる狭霧山へと向かった。

道中で禰豆子は眠っていることがほとんどだったが、七海は七、八時間眠れば回復していたため、私と話すことが多かった。本人曰く、たぶん個人差ではないかと言っていた。七海が前に鬼だった時、そこまで睡眠時間は必要ではなかったと聞いていたので、その可能性は高いと思っている。

 

 

その所為か七海は夜中になると、必ず外に出すことにした。暇なのかもしれないと思って出したら私を抱えて行ってしまったため、炭治郎が追いかけるのは大変そうであった。

私はそんなに退屈だったのかと思ったが、七海は鬼になった自分がどれほどなのか確かめたいらしく、炭治郎達と離れたそうだ。炭治郎達の前ではできないことだし、話し合うのも難しいため、このような手段を取ったようだ。

まあ、確かに鱗滝さんのところではそれをする時間があるか分からないため、今のうちにやっておいた方がいいかもしれない。

 

 

炭治郎には私が最初に思ったことを理由として話し、それからは七海が私達と離れてもあまり驚かなくなった。私も心配だからと追いかける形で体力と肺を鍛える訓練になったので、一石二鳥だと思っている。ただその所為で炭治郎達を巻き込んでしまい、かなり速いペースで目的地に辿り着くことになった。疲れている炭治郎と禰豆子に申し訳なかったので、御堂の鬼(御堂を襲撃する前)は私と七海で抑えた。

 

 

藤の花も日輪刀も持っていないため、私と七海は拘束した鬼をどうしようかと話していると、鱗滝さんが来た。私と七海に止めを刺す方法について聞かれ、私も七海も(本当は知っているけど、詳しすぎて怪しまれる可能性があるので)義勇さんからそれについて聞いていないと言い(本当)、色々説明を聞いた。

ちなみに、炭治郎と禰豆子も私達の隣で一緒に聞いていた。

 

 

 

御堂の鬼が消滅し、私と炭治郎はあの質問をされた。七海と禰豆子が人間を食べたらどうするのかということだ。私は知っていたし、その時はどうするのか決めていたし、七海とも話し合っていたので、これ以上七海が人を殺さないように頸を斬り、私も同じようにして亡くなるというようなことを即答した。一方で、炭治郎は私の答えにギョッとしていたし、鱗滝さんの質問に答えられなかったので、鱗滝さんからビンタをもらっていた。

その後、炭治郎と私であの狭霧山の罠の試練を受け、二人とも突破することができた。少しだけど体力と肺を鍛えていたので、試練の時は助かった。

 

 

それから始まるのは呼吸を修得するための訓練であり、狭霧山の罠(試練よりも殺意のあるもの)を避けながら鍛練が始まった。私の最初の目標は前の世界での時のこの頃の私くらいにまでなることである。

私は体が覚えてなくても、頭が覚えているという感じだ。なので、私は鍛練ばかりをしていた。私は全然平気だが、それが原因で周りに心配されたので、少し控えるように意識している。

正確にいうと、目的を達成するためだけでなく、もやもやした気持ちをどうにかしたいという方が当たっているだろう。

 

 

私がもやもやしている原因は七海が眠ったままになったからである。あれほど元気にしていたのに、修行が始まった途端に目を覚まさなくなったのだ。禰豆子も同じように眠ったままなのだが、そちらは体質を変えているのだと原作の知識から分かっている。それなら、七海もそうなのではないかと思うかもしれないが、確証がなくて不安になる。

七海と禰豆子は同じ鬼であっても体質とか色々異なると思うから。

 

 

でも、時間というのはあっという間に過ぎていくもので、気づけば一年が経っていた。全集中の呼吸は修得でき、次は岩の試練を受けることになっている。だが、私の目標は岩を斬ること以外もある。この体でできるかは分からないが、華ノ舞いの修得を優先しようと思っている。

今までは鱗滝さんの目があったので、華ノ舞いの練習はできなかった。代わりに全集中の呼吸・常中の方を練習していたけどね。

 

岩を斬る試練の時、鱗滝さんは近くにいないので、炭治郎にバレないようにすれば華ノ舞いの訓練ができる。華ノ舞いの修得ができれば岩を斬りやすくなるから、岩を斬るための鍛練ということにもなれる。

 

 

 

それと、私は炭治郎達に隠れて密かに華ノ舞いや全集中の呼吸・常中の訓練をしていたと言っていたが、同時に狭霧山から気づかれずに出る方法を考えることもしていた。どうしてそんなことを考えているのかと思われるかもしれないけど、今がある意味のチャンスだと考えたからだ。原作の二年前だということで過去の悲劇はもうほとんど終わっている。でも、まだ時透君のところは鬼の襲撃が起きていないはずだと思った。

詳しくは七海が知っているけど、私のぼんやりとした原作の記憶だと、今の時透君は両親を亡くしているけど、双子の兄弟で協力して暮らしているはずである。それはつまり有一郎君が生きているということだ。

 

 

有一郎君が生きていて、何か良いことでもあるのか。

華ノ舞いについて何かしら分かる可能性があるのだ。華ノ舞いは御館様に聞いたけど、全く情報がなかった。それを知っている人が生きているのだと知れば会いに行きたいと思うでしょう。それに、カナエさんのことも知りたいのだよね。カナエさんがこの二年前では生きているのかどうか私は知らないけど、一応知っておきたいのだ。カナエさんも華ノ舞いについて知っているようだし、偏見なのだがカナエさんの方が有一郎君よりも色々教えてくれそうな気がするんだよね。

 

 

......まあそういったことを言っているけど、私は個人的な感情からあの二人といたいと思うのだよね。カナエさんも有一郎君も何か知っているようで、その知らない何かで私に対して思うところがあるのだと考えている。これは私が二人と夢の中で話していて、二人が私のことを何故か気にかけているように感じたからなのだよね。

それがどうしてか分からないけど、カナエさんと有一郎君が死ぬのだと原因も分かっていて放置するのはどうしてもできないのだよ。

...その後でゆっくり話したいなあとは思っているけど。

 

 

 

........でも、今はそれを止めた。何故かというと、止められたからだ。

.....鱗滝さんや炭治郎にバレたからというわけではなく、順調に狭霧山から出て動くことができそうなところまで来ていたのだ。

 

 

 

 

だけど、狭霧山から出ようとしたところを物理的に止められたのだ。錆兎が私の目の前に現れ、道を塞いでしまったからだ。

......その時は本当に驚いたよ。

 

 

 

『....えっ?錆兎?』

『ここから出るな』

 

 

突然錆兎が目の前に現れ、私は困惑した。この時、まだ炭治郎は錆兎達に稽古をつけられていないはずだった。錆兎が現れるのはもう少しだと思い込んでいた。

後で思ったが、まだ炭治郎の稽古が始まっていないから、錆兎は私のところに来れたのだと私は考えた。

 

 

『まだ出るな。今は呼吸を身につける方を優先しろ』

『確かにそうだけど.....。でも、少しだけ狭霧山から出させてほしいの。気になることがあるから、それを調べに行きたいし、会いに行きたいし...力になるか分からないけど、助けにも行きたい.....』

 

 

錆兎の言葉を聞き、私はどうしてこうなったのかと思いながらも説得しようとした。原作ではそんな情報が一斎なかったので、修行の最中に錆兎がこうして止めに来るのは予想外だ。まあ、そもそも炭治郎は真剣に修行に取り組んでいるので、狭霧山から出ようとしないのだろうけど....。

まだ混乱しているが、ここから出てもいいという許可がないと、錆兎が毎回立ち塞がって駄目だと分かるので、なんとしても納得させようとした。具体的な人物の名前は言わずに会いに行きたいとか、助けに行きたいとか口に出しているところから考えると、焦っているなあと感じる。でも、錆兎はそんな私の話をしっかり聞いてくれる。

 

 

しかし、錆兎は駄目だとしか言わないので、もう本当のことを言った方がいいのではと思い、少し暈しながら説明しようとした時、逆に驚かせられることを錆兎が言った。

 

 

『彩花がここから出て、何をしようとしてるのか知ってる。だが、それは駄目だ。.....ただでさえ、これからのことで手いっぱいになってるところを、さらに増やせば潰れるぞ』

『....えっ?ど、どうして...!?』

『......彩花は背負い過ぎるところがある。先のことだけでも十分重いはずだ。....俺達は既に受け入れてる。だから、そこまでしなくていい。彩花がやりたいからやっているように、俺達も俺達で満足してる。もう、それで充分だ』

 

 

錆兎の説教のような言葉に私はまた困惑した。錆兎の言っていることに心臓がドキッという音が鳴った。私が混乱しているけど、錆兎はカナエさんと有一郎君のことを言っているのは分かる。でも、それは錆兎が私の事情を知っているということであるし、さらに錆兎はカナエさんと有一郎君を助けなくていいと言っているのだ。

それがとても信じられなかった。原作で錆兎は藤襲山で参加者全員を助け、山の中の鬼をほとんど斬ってしまうほど正義感が強い人物だった。その錆兎が助けなくていいと言ったことに衝撃を受けた。

 

 

『......彩花が次にすることは休息だ。炭治郎は眠ってるし、まだ行動するのは早すぎる。彩花も今は備えることを優先した方がいい』

『待って。どうして充分だと言うの。錆兎も知っているの。カナエさんや有一郎君のことも、華ノ舞いのことも知っているんだよね』

 

 

錆兎は私に休むようにと言った時、辺りが霧に包まれ、錆兎の姿が見えなくなった。私は錆兎を呼び止めようとしたが、錆兎はあっという間に私の前から姿を消した。私は錆兎が死人だと既に分かっているから、隠す必要がないと思っているのだろう。

私は周りを見渡しながら錆兎に呼びかけるが、錆兎は何も答えてくれなかった。

 

 

『一体どこまで知っているの....』

 

 

私は茫然としてその場に立ち尽くした。錆兎もカナエさんと有一郎君のように知っている側なのだとは分かった。けど、私に教えてくれる気はないみたいだ。

 

 

その後も私は鍛練しながらも錆兎を探したが、錆兎はその日以来私の前に姿を見せることはなかった。狭霧山を出ようとすれば現れるのではと思って試してみたが、霧で方向感覚をおかしくして出れなくするだけだった。

 

......もしかして錆兎だけでなく、真菰とか他の弟子達もやっているのかな?

 

 

 

 

錆兎には会えず、狭霧山から出てカナエさん達に会うこともできなかったけど、時間は過ぎていくので、私は華ノ舞いと全集中の呼吸・常中の修得に集中した。

炭治郎の岩の試練を突破した時に私もできていないと、最終試練に参加できなくなるからね。

 

 

そして、私は炭治郎が岩の試練を突破したその日に岩を斬り、最終試練に参加することが決まった。

厄徐の面を貰い、藤襲山に行き、私は辺りを見渡して参加者の中に善逸達がいることを確認した。前の時は色々違いがあり過ぎていて、ここでもまた違うところがあるのではないかと身構えてしまうのだ。でも、私の心配は杞憂だったみたいだ。

 

 

 

.....だが、違うところはあった。私は人間の方を意識しすぎていたけど、他を見ていなかった。藤襲山にあの手鬼と同じくらい強い鬼がいるのは予想外だった。前は鼓屋敷や那田蜘蛛山に行った時、あまり気に止めず、特に問題なく終わっていたから、そういうのがこれからも現れる可能性を感じていなかった。それに、もしかしたら前の時は七海達が全滅させていたから、その鬼を見つからなかっただけなのかもしれない。

だけど、私は手鬼と同じくらいの強さの鬼の存在を感じ取った。

 

 

けど、今はその鬼が危ないのだとはっきり分かった。なので、私はそれに気づいた時、色々理由を言って炭治郎から離れた。炭治郎は手鬼と相手にして、その鬼に勝つので、炭治郎を少しの間一人にしておいても大丈夫だろうと考えた。手鬼でも被害者が出るだろうが、一人一人を順番に倒していくより両方とも叩いた方が被害者の人数を減らすことができると思った。

あの鬼をそのまま放置するのは駄目だ。手鬼と同じくらいなのだから、参加者達には尋常ではない強さである。手鬼でも明らかに選別の鬼と違って強かったようだから。

私と炭治郎が会うまでに何人か殺される可能性があるけど、被害者を最少限にするためにも別々に動くべきだと思った。結果、私はその鬼の頸を斬ることができたし、炭治郎も手鬼と決着を着けることができ、その後で合流して二人で行動した。

 

 

道中で鬼に襲われて危機的状況に追い込まれている人の助太刀をしたり、怪我をした人の手当てをしたりした。炭治郎の方は鬼を人間に戻す方法について聞いていて、そちらに集中しているように感じた。

まあ、炭治郎は鬼殺隊に入った目的であったわけだから、そちらを優先するのは分かっている。全く答えてもらえてなかったけど。

私はここにいる鬼に聞いても意味がないと分かっているので、鬼を倒しながら参加者を助ける方を優先している。炭治郎にも手伝ってほしかったけど、炭治郎は人間に戻す方法を鬼が知っているのではないかという希望を抱いて行動しているし、頑固なところがあると分かっているので、納得するまで止めないだろうと思っている。

そのため、私は炭治郎が納得できる(おそらくこの最終選別が終わる)まで止めずに行動させようと考えた。私は私で死者をなるべく出さないように行動するので。

 

 

互いに優先するべきと思った行動をしていて、七日が経った。前の時と比べて鬼を全滅させることはなかったが、生存者が前の時よりも少なかった。前の時は七海と禰豆雄(禰豆子)が暴走していたので、鬼も人も巻き込まれていたけど、それくらいではないと参加者全員を救えないのだと分かった。現実はそんな甘くないし、この最終選別はそれほど厳しいものなのだと実感した。

そう思うと、七海と禰豆雄は広範囲で攻撃できて周りが巻き込まそうで危ないと考えていたが、それができないと救うのは難しいのだと言われているようなものだった。だから、七海と禰豆雄の存在が凄く感じた。

 

 

炭治郎も半分くらいの人数が亡くなっているのだと知り、それほど厳しい世界だと認識したようだ。炭治郎も衝撃を受けていたわけだが、私もショックだった。前の時は救えた命がここでは救えないというのはかなり応えた。私では全員を救うのは無理だと思っていたし、なるべく最低限にしようと考えていた。でも、結果を見せられると私も悔しく感じる。

 

 

 

私は表面上で大丈夫なように見せようとしていたが、衝撃を思ったより強く受けていたらしく、気がついたら玄弥が輝利哉様とかなた様に近づいていたところだったので、慌てて間に入った。それにより、私の肩に遠藤(私の鎹鴉で、前の時と変わってない)をいたままだったので、遠藤も一緒に巻き込んでしまったのは申し訳なかったと思っている。

 

 

「急ニ動クナ!ワタシモ連レテクナ!」

「本当にごめんなさい!」

 

 

反省しています。

 

 

その後、炭治郎も私と同じように間に入り、玄弥の腕を折ろうとして、私がそれを止めるということになったが、なんとか丸く収まった。

 

 

生き残った人達のうちのほとんどが鬼殺隊を止めたり、修行し直したり、隠に入ったりすると言っていた。私は前の時と同じだったし、その方が良いと思った。前の時は七海と禰豆雄の暴走で自分が弱いのだと自覚したからというのが強かったけど、ここでは鬼を目の前にして何もできなかったことへの後悔や恐怖などが強く、どちらかというと非戦闘員の隠になるという人間の方が多かった。

なんだかんだ七海と禰豆雄はあまりに衝撃的すぎて、他の人の精神にも影響を与えるほどだったのだなというのがよく分かった。

 

 

ここで隊士になるのは私を含めて六人だけだった。正確にいうとここにいるのは五人なのだが、ここにいる人達は善逸、カナヲ、玄弥という原作や前の時から変わらない顔ぶれであるため、伊之助もいるのだと考えた。

そういえば、私も炭治郎も何故か選別中で善逸達と遭遇することは一度もなかったことに気づいた。前の時も同じだったし、それは偶然なのか どうか分からないけど、今はそれを深く考えすぎるような気もするので、そこらはあまり考えないことにした。

 

 

私と炭治郎はそれぞれ猩々緋鉱石を選び、色々準備を終えた後、狭霧山へと帰った。私は大丈夫だったが、炭治郎は枝を支えにしないといけないくらいだったので、私が肩を貸し、日が暮れ始めた頃には狭霧山に着くことができた。

原作よりも早く着いてしまったため、私はまだ禰豆子が寝ているかもしれないと思っていたが、狭霧山に着いて鱗滝さんの家に入ると、禰豆子が布団から出てきて、炭治郎の方へと走り寄ってきた。炭治郎は日の当たる場所に出る前に禰豆子に駆け寄って抱きしめ、涙を流した。

私はそれを安堵しながら見ていた。

 

 

禰豆子が目を覚まして良かったというのもあるが、あのまま日光に当たったら危なかったので、間に合って良かったという思いもあった。原作では夜だったので、外で大丈夫だったことや禰豆子が日光を克服できることを知っていると、そういう判断が少し遅れてしまうのである。一瞬、禰豆子が駆け寄ってくることに危機感を感じなかったので、それはまずいと思った。鬼の弱点が日光だというのに、危険だと認識できないのは流石に駄目だろう。

炭治郎が行動してくれなかったら本当に危なかったよ。

 

 

「炭治郎。ぎりぎりセーフ」

「いや、本当にそれだよね。まさか禰豆子が迷いなく駆け寄ってくるのは予想外だったよ。私もあまり日光に対して危機感を覚えていなかったけど、禰豆子本人もそうだとは思ってもいなかった」

「そうよね。アタシも禰豆子が止める間もなく走ってっちゃったから、慌てたわよ。下手したらアタシも禰豆子に巻き込まれて、日光に当たって消滅するかもしれなかったわ」

「七海も鬼だから、日光を浴びたら危ないものね。...........七海!?」

 

 

私が大きく息を吐いていると、隣からも安堵しながら息を吐き、同じ感想を言っていたので、私もそれに同意した。私の言葉に共感できるらしく、七海が頷いていて、私は七海の方を見て納得し、そこで漸く七海が隣にいることに気がついた。

七海は狭霧山に着いてから、禰豆子同様に二年間眠り続けていた。私はそれで七海も禰豆子と同じくらいに目が覚めるのではないかと思った。だが、それでも私は七海が本当に目を覚ますかどうか確信を持っていたわけではなかったので、不安があったのだ。禰豆子は目を覚ましても、七海は起きないのでないか、と。

だがその心配はなく、七海は起きて私と話している。

 

 

「七海。急に寝たままになったから、私はびっくりしたよ。二年前はあんなに眠くないって言っていたのに.....。というか、いつ起きたの?」

「さっきよ。ごめんごめん。て、アタシもよく分からないのよね。普通に寝て、起きた時には二年後でしたという感じなのよ。だから、アタシだって訳が分からないわ。よく寝れたと思ったけど、二年間も眠ってたらそうなるわね。浦島太郎の気持ちが分かったわ」

「いや、寝坊どころじゃないからね」

 

 

私が七海に文句を言いつつ、質問もした。七海はそれに答えた後、手を顔の前で合わせて謝った。でも、七海もどうして二年間も眠ることになったのか分かってないので、そこは答えられなかった。だが、その話の中でツッコミたかったところは言っておいた。

 

 

私と七海が会話していると、誰かに抱きしめられた感覚を感じた。私が驚いて顔を上げると、天狗のお面が見えた。鱗滝さんだ。周りを見ると、七海だけでなく、炭治郎も禰豆子もいて、どうやら鱗滝さんが私たち四人を抱き寄せているのだと分かった。

抱きしめられていることで七海とくっつき、そこに温もりがあるのを感じた。私はその暖かさに驚いて、無意識に体を動かしてしまったが、鱗滝さんの抱きしめる力の方が強く、離れることはなかった。

 

 

私が体を動かしたことに反応し、七海も少し体を捩った。それにより、私は七海が動いているのだということを実感した。

これは生きているから当たり前のことだが、七海が眠っている間は気が気じゃなかった。七海は息をしていたし、脈もあった。それは私が何度も確認していたので、生きているのだと分かっていた。

だが、それでも不安があった。七海は生きているし、布団を被って眠っているため、体温もそのまま保っていた。だけど、体を全く動かさないので、生きているかどうかは触れないと分からなかった。

 

 

確認をする度に私は凄い緊張していたし、原作でも回想されていた炭治郎の心情のように、いつ心臓が止まってしまうのか、脈を打たなくなってしまうのか、冷たくなっていないのかという心配でいっぱいだった。今はある七海の暖かさが消えてしまうのをずっと恐れていた。それでも、私は大丈夫だと自分に言い聞かせていた。原作の禰豆子のように、いつかは目を覚ましてくれると信じていた。いや、期待していたという方が正しいかもしれない。

だけど、触れる時はどうしても身構えてしまう。その温もりが感じられないと分かるのが嫌だった。

 

 

「七海.....」

 

 

私は七海を呼びながら静かに背中に腕を回した。そして、七海の存在を確かめるようにギュっと抱きしめた。七海はそんな私の様子に気づき、特に文句も言わず、私にされるがままだった。私の腕が少し震えていたからなのかは分からないが、七海は私の腕の震えが止まるまでそのままにしてくれた。

そうしていくうちに私も落ち着いていき、七海は私の背中に腕を回し、優しく撫でた。

 

 

「おかえり、彩花。その様子だと鬼殺隊に入れたのでしょ。....それと、ただいま」

「...ただいま、七海。そして、おかえり。七海が眠っている間に色々あったのだよ。修行して、鬼殺隊にも入ったし、話したいことはいっぱいあるの」

 

 

七海は微笑みながら私に確認し、私も頷きながら返事をした。口角が自然に上がり、表情がすっかり緩んでいるのに気づいていたが、私はそれを止められなかった。

 

 

 

 

 

あの後、七海と眠っている間の二年間のことを話した。原作や前の時と比べて変わったことと変わらないこと、錆兎の態度などを思い出しながら伝えた。特に、錆兎に関しては衝撃的すぎて記憶に残っていた。

 

 

「.......確かに。彩花の言う通り、錆兎も何か知っていそうね。いや、真菰たち兄姉弟子全員が共犯と考えてもいいわね」

「やっぱりそう思うよね」

 

 

七海の言葉に私も同じことを感じていたので、同意されて空を見上げてしまった。

ちょうど夜であり、雲もないため、星が綺麗に見えるのだが、私の心は曇っていた。錆兎も真菰も何かを隠しているのは間違いない。でも、それがどうしてなのかは分からない。意図的にその部分が隠されていて、上手く見えないのだ。

....だけど........。

 

 

「...錆兎達が何を思っているのかは分からないけど.....一応ヒントみたいなのは渡してくれるんだよね」

「あー。わざわざ彩花の前に現れてるようだけど...アタシもそれをする理由があるのかって疑問に思うのよね。有一郎君と錆兎達は彩花を止めようとする動きを見せてたから、彩花がバレないようにしてるんじゃないかと考えられるわね。だけど、カナエさんの場合は彩花にヒントとして花の呼吸を教えてもらったようだし、有一郎君も錆兎も止めておきながら何かを伝えようとしてるみたいにも感じ取れたのよね?そのために彩花と直接会ってるとアタシは思えるわ。そして、それらことを考えてみたら、アタシは錆兎達が彩花との間に何かしらの厄介ことが起きてるのは間違いないんじゃない?」

「....そうだね。まあ、あの口振りだと私のことをよく知っているようにも感じられるよね。でも、錆兎や真菰はここでの修行でお世話になっていたからともかく、カナエさんと有一郎君とは初対面のはずなんだよ。鬼殺隊に入った時には二人とも既に亡くなっているし、何処で私のことを知ったのかは分からない。カナヲと時透君とは友達で、その友達だからなのかとも考えたが、それは少しおかしいと思う。それだけで済むことではないと感じるの。何か別の理由があって、それで錆兎もカナエさん達も知っているのだというのは分かる。でも、錆兎達はそれを意図的に隠しているのだと思う...」

 

 

私の言葉に七海はそれに納得したような声を出し、おそらくずっと疑問だったであろうことを話題に出した。その七海の意見に私も同意した。七海に話す際に頭の中で一度まとめて言ったが、錆兎達についての情報は本当に分からないのだ。

それなら、錆兎達のことを義勇さん達に聞いてみたらどうかとも思ったが、聞いたらどうして知っているのかと怪しまれて、逆に質問されるのは間違いない。説明するにしても、前世とやり直しのことなどを話さないといけなくなるので、安易に聞くことができない。

 

 

実際に経験しているならともかく、こんな本でしか起きなさそうなことを信じてもらえるわけがない。一度前世の記憶を持っていることを話せたのも、周りの人達に逆行が起きていたからであり、その経験から私の前世の記憶を信じてくれる可能性があると思ったからでもある。それがなければ信じてもらえないし、疑われたのもあって、そのまま話すことは止めた方がいいと考えた。

それを抜きにして話そうとしても、何処かでボロが出そうなのもあり、義勇さん達に錆兎達のことを聞くのは難しいとなったが、死人となった人について調べるにはやはりその人のことを知っている人に聞くしかない。この時代だとそれしかない方法がないからね。

 

さて、どうするか。

 

 

「情報が少ない!これ以上考えても答えは出ないわよ!」

「そうだね。今日はここまでにしよう。また何か分かったら考えよう。今決めつけるのは早そう」

「はあ。彩花の使う華ノ舞いに加えて、錆兎達のことも調べないといけないなんて.....アタシ達の方が原作を読んでいるから、この世界について詳しいと思っていたのに、分からないことが多すぎるわ」

「あはは....」

 

 

しばらく考えていたが、七海はこのまま考え続けても無駄になるだけだとなり、寝る体勢になった。私も七海と同じことが思い浮かんでいたので、同意して寝る準備をし始めた。七海の溜息を吐きながら言ったその言葉に私は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

確かに知らないことが多いし、私達の知っている原作とは違うことがあれこれ起きているのもあり、私も七海も色々考えながらもそれを知ろうとしている。だが、全然分からないのだ。

七海がそう言うのも分かる。

 

 

「それにしても、錆兎達は本当に何をしたいのかしら?目的がよく分からないわ」

「何か訴えているようにも感じるし.......そういえば、前にまだ早いみたいなことを言っていたような.....」

「....何かを待ってるのかしら」

 

 

それに、悩んでいるようにも感じられるんだよね...。

 

 

 

 

 

 

 

 

「......ねえ、錆兎。彩花と炭治郎、大丈夫かな」

「分からない。だが、もう限界だろう。この状況もそろそろ崩れる。...いつまでも続かないとは真菰も分かってただろう」

「彩花と炭治郎が先ならいいけど、あいつの方が早かったら危ない」

「だが、俺達にできることは少ない。それに、あまり強い衝撃を与えられない。何かあったら前と同じだ」

 

 

彩花の斬った岩を見ながら二人、錆兎と真菰は話していた。真菰は心配そうな顔で、鱗滝さんの家で寝ている彩花の方を見ている。錆兎は狐面をつけているため、表情がよく分からないが、錆兎も真菰と同じことを不安に思っているようだ。そして、何かについてずっと考え続けている。慎重に考えて行動しているようだ。

だが、数十秒後には何かを決めたらしく、それを口に出した。

 

 

「今回もどうなるか分からない。だが、もし今回で思い出したら...その時は動くしかないだろう」

「....大丈夫よ。なんとかなるわ」

 

 

錆兎の言葉に誰かがそう言った。女性の声が辺りに響くが、誰の気配も感じられない。だが、錆兎も真菰も落ち着いた様子でその声が聞こえた方を向いた。

 

 

「カナエか。だが、放置はできないだろう。あの時と同じことが起きたらどうなる。幾らあの時と変わったからといっても繰り返すだろう。いや、今度はあの時よりも酷いことになるかもしれない。楽観視はしない方がいい」

「まあ、有一郎は過保護すぎると思うけど」

「はあ!?」

 

 

錆兎がいつの間にかいたカナエに向けてそう言っていると、真菰がカナエの隣の木の方を見ながら話しかけた。すると、その場所から突然有一郎が現れ、有一郎は真菰を睨んだ。だが、真菰は笑うだけで気にしていない様子だった。

 

 

「夢の中の時、カナエが出てくる前に有一郎が行くと言ったでしょ。本当なら彩花にあれを見せるはずだったのに、有一郎が止めちゃったから、彩花が凄く混乱してたよ」

「....あれは刺激が強いだろう。その代わりに別のことは教えただろう」

「だが、今回はあれを見せた方がいい。今のうちに少しずつ手がかりを出さないと、取り返しのつかないことになりかねない」

「........そんなの、分かってる」

 

 

真菰の指摘に有一郎は真菰から視線を外しながら答えた。それを聞き、錆兎が有一郎に告げた。有一郎は下を向きながらもその言葉に頷いた。有一郎も本当は分かっているのだろう。

 

 

「それにしても、二人があそこから出てくるのは珍しいね。柱合会議が始まる辺りだと思っていたけど」

「二人とも話し合わないといけないからな。今はここにいるんだろう。次に集まる時に何か起こるかもしれないし、この機会にやった方がいいもんな。それに、まだ一人残ってるしな。俺達が離れても大丈夫だと思った」

「追い出されちゃったのよね。それと、次は有一郎の代わりに出るとか言ってたのよ」

「おい!」

「分かった。任せるぞ」

 

 

真菰の質問に有一郎は答えていたが、カナエの言葉で顔を真っ赤にした。どうやらカナエの言う通り、追い出されたという方が正しいみたいだ。

カナエの次の言葉に反応したのは錆兎だ。錆兎は頷き、空を見上げた。

 

 

「そろそろ日が昇る。カナエと有一郎は戻ってろ。....真菰。俺は直前までここに残るが、真菰はどうするか」

「私もまだここで鱗滝さんを見ていたいから、錆兎と同じ時に戻るよ」

「そうか」

 

 

空が少し明るくなってきたのを見て、カナエと有一郎に声をかけ、最後に真菰へ聞いた。真菰は鱗滝さんの家の方を見ながらそう言うと、錆兎は頷き、カナエは笑顔を浮かべ、有一郎は頭を掻き、その場から消えた。真菰も家をじっと見つめていたが、上から光が差した瞬間、姿が見えなくなった。

 

 

 

 

 



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三度目の少女は変化を見た



来週から大型連休ということで、今回は長めにしました。
楽しんで読んでいただけるとありがたいです。





 

 

 

最終選別を終え、私と七海は狭霧山で修行していた。私は力をつけるため、七海は血鬼術を完全に修得するためである。ずっと寝ていた後なので、体力を元に戻すという意味もあるけどね。

それと、七海は自分の体質がどう変化したのかを試す意味もある。二年も眠ったのは体質を変えるためであろうが、その変化がどういうものなのかは分からないのだ。何せ、七海は一応人を食べなくても良かったし、眠ることもなかった。それなのに、急に眠ったのは絶対に何かあるということだ。それで、七海はすぐに確かめたいとなり、私はそれに付き合っている。

 

 

七海は夜しか動けないので、昼間は血鬼術の操作の練習をして、夜は私と実戦形式での勝負だ。私も七海も互いにとってメリットのある稽古になるので、異論はない。

そういう日々を過ごし、私と炭治郎の日輪刀が届いた。私は前と全く変わらない色だったが、原作のように鋼鐡塚さんは炭治郎の刀が赤色に変わることを期待し、それが裏切られたことでとても不機嫌になり、その流れ弾が私にも飛んできて大変だったが、それは置いておこう。

 

まあ、三回あったうちに今回は一番鋼鐡塚さんが暴れたが、あまり疲れていなかったので、任務が来てすぐに着替え、任務へと向かった。任務へ向かう前に鱗滝さんから背負い箱と箱型の腰袋をもらった。

 

 

背負い箱は七海を入れるためのものであり、箱型の腰袋は薬やそれを作るための道具を入れるためのものだ。どちらも軽いようになっていて、特にこの箱型の腰袋は動きやすくするためにかなり小さい大きさで、収納できる場所がいくつも付いている。ただし、入れ方を間違えてしまえば全て入らないため、そこは気をつけないといけない。

 

 

七海を背負い、腰袋を外れないようにしっかり固定し、私と七海は任務へと向かった。ちなみに、炭治郎と禰豆子は別の場所で任務となっている。

私と七海の任務先はあの沼の鬼がいるところであり、知っている場所でもあるなので、私と七海はどう動くかすぐに決められた。

私と七海が原作通りの任務で、炭治郎と禰豆子が別の任務地であるのは疑問に思ったが、とりあえず早く任務先の町に行き、鬼の頸を斬った。着いた時には夜になっていて、ちょうど襲われたタイミングだったので、ぎりぎりその人を助けることができた。沼の鬼は三人に分身するため、そのうちの一人は七海が戦いたいらしくて譲り、私は残りの二人を相手にし、攫われそうになっていた人の安否確認をしていた。

 

 

それらが終わった後、七海に話しかけてその鬼の頸を斬り、任務はそれで終わった。だって、七海は日輪刀を持っておらず、身体能力と血鬼術で鬼と戦っているのだ。七海は鬼に対抗する手段があっても殺すことはできない。

そもそも七海が血鬼術を使えるのはどうしてなのかというと、これが二年間眠ったことで七海が得たものだからだ。沼に潜る鬼に対して水を操る力で抵抗できるのかと疑問に思うかもしれないけど、そこは全然大丈夫だった。七海の血鬼術はそれを上回っていた。

....まあ後で考えてみたら、七海は前で上弦の伍になるほどの実力があったのだ。何の階級もない鬼が相手でも余裕があるのは納得できる。

七海は目に見えない水も使ったので、完全に有利である。

 

 

でも、鬼は回復でき、腕や脚などを斬り落としてもすぐに治せる。なので、私の時よりも遠慮なく試せるというわけだ。相手の鬼には不幸であろう。試しに使われることになったのだから。だけど、あの鬼のやったことを思うと、それくらいしても大丈夫かなと考えてしまう。

ある程度七海が納得できるまでしたため、私が頸を斬ることはした。鬼殺隊に入った後は怒涛の展開で進んでいくので、こういうのは最初の方でしておかないと。

 

 

沼の鬼を倒したので、私はこの町を出た。襲われた人も無事だったし、死者もこれ以上出ないだろう。あの恋人同士の二人もそのまま平和に暮らせるはずだ。

町を出てすぐに鎹鴉の遠藤に任務を言い渡された。その任務先は前に私が受けたものであり、内容は知っていたので、私と七海ですぐに終わらせた。その後でまた任務となった。

そろそろかなと予想していたが、やはり今度の任務は浅草に向かうものであった。あの人混みで炭治郎と禰豆子と合流できるか不安だけど、前の時は合流できたので、大丈夫だろうと思った。

 

 

 

浅草に着いた後、私と七海はあのうどん屋さんに向かった。うどん屋さんは必ず炭治郎と禰豆子が訪れるので、最悪そこで会えると思ったからだ。場所も既に私は二度も訪れた場所なので、迷うことなく行ける。

そう思いながら着いた時には禰豆子がうどん屋さんの屋台に座っていた。炭治郎がいないし、うどん屋さんの店主は何故か怒っているようなので、それらを見れば現状が把握できた。どうやら炭治郎達の方が先に浅草に着いて、ここでうどんを食べようとした時に無惨の匂いを察知し、無惨を追いかけていったところだろう。

 

 

私は炭治郎を探しに行くべきか悩んだが、ここで待つことにした。私は匂いで場所が分かるわけではないので、姿が見えないのに追いかけることはできない。探してもその間に炭治郎がここへ戻ってきて、そのまま会えないということになりそうなので、止めておいた方がいい。炭治郎が落としたうどんが既に片付けられていることからも時間はかなり経っていると思うし。

それに、怪我人は出るけど、死人はいないし、治療してくれる珠世さんがいるので、大丈夫だと思う。見て見ぬフリをすることには申し訳ないと思っている。だが、今から私が向かっても意味はないだろう。

 

 

私はそう思い、禰豆子の隣に座って店主に山かけうどんを二つ頼んだ。一つは私の分で、もう一つは七海の分だ。本来鬼は人間や動物以外のものを不味いと感じるらしいが、七海は他の食べ物を食べることができる。道中でも日が当たらないように背負い箱から焼き鳥や団子を渡したら普通に美味しいと言って食べていたので、特に問題がないだろう。

なので、私と七海は普通にうどんを食べながら炭治郎が来るのを待っていた。

 

 

「そういえば、禰豆子達はこの近くにいたの?」

「ムッ」

 

 

私達が食べている間に禰豆子も人混みの酔いが覚めたらしく、私達に挨拶してきたので、私も禰豆子に声をかけた。その時に疑問に思ったことを禰豆子に質問すると、禰豆子は頷いてくれたので、やはりそうだったのかと思った。

任務に行く時に炭治郎達の任務先を聞かずに急いで出てきたしまったので知らなかったが、どうやら当たっていたみたいだ。前の時は七海が最初の任務と同じであったが、私と禰豆雄(禰豆子)は違う場所であり、その中でも禰豆雄(禰豆子)の任務先はここの近くで、私達の中でも早くここへ着いたそうだ。なので、炭治郎と禰豆子の任務は前の禰豆雄(禰豆子)のものだったようだ。

 

 

ちなみに、禰豆子は竹製の口枷をしているが、七海はしていない。何故かというと、七海は禰豆子と違って話せるため、竹製の口枷は邪魔なのだ。

 

 

しばらくして炭治郎が戻ってきて、店主が炭治郎に怒り、炭治郎はうどんを二人前頼み、それを食べ始めた。私と七海はうどんの方を既に食べ終え、残るはうどんの汁のみであったため、炭治郎が二人前のうどんを一気に食べる姿を見ながらゆっくり飲んでいた。炭治郎が食べ終え、私と七海もお金を払い、そのうどん屋さんから去った。店主は爽快な気分で私達を見送っていた。

 

 

私と七海が炭治郎の後をついていくと、兪史郎さんの姿が見えてきた。兪史郎さんは不機嫌そうな顔をしていて、私はそれに一度疑問に思っていたが、それが何かはすぐに察した。炭治郎一人を連れていくはずがいきなり増えていて、しかもそのうちの二人は鬼である。そんな人達が炭治郎を連れてきたら兪史郎さんもあんな顔になるだろう。

兪史郎さんが禰豆子や七海のことを醜女と言ったので、炭治郎が怒っていたが、兪史郎さんはそれを無視する。

 

 

......禰豆子を醜女と言うのは原作で知っていたし、その後でしっかり美人だと言い直していたので、そこは別に大丈夫だ。ただ、七海を醜女と言ったのは少し物申したい。いや、七海も美人だと訂正してもらいたい。

私に言うのはいいし、気にしない。でも、二人に関しては別だ。禰豆子は可愛いと思っているし、七海も水色の髪という特徴的な髪色の印象が強いが、綺麗な顔立ちをしていると感じている。その二人が醜女と言われると、こうイラッとなるんだよね。あと、あの二人が醜女だったら大抵の女性が醜女でしょうと思う。

 

 

「......七海も綺麗だと思うのに。....あっ。勿論、好みの問題とかあると思いますよ。ですが、私はこう思うのです。七海は水色という特徴的な髪が目立ちますが、顔は整っています。目が垂れ目で少し横長っぽく見え、それが柔らかい感じを出していて、水晶ような瞳をより綺麗にしていて.....「彩花。そこまでにして!」.....えっ?」

「これ以上はもう....それより、早く行きましょう!」

 

 

私が七海の良いところを語っていこうとしたが、七海が止めてきた。七海は少し慌てた様子だったけど、恥ずかしかったのだろうか。先程まで七海は兪史郎さんにキレかけていたから、顔や耳が少し赤くなっていたからという理由で判断できないけど、それ以上は刺激するとマズいと思い、私は首を傾げながらもとりあえず七海の言う通りに止めた。

私が無言になると、七海は兪史郎さんを睨み、珠世さんのところに急かした。確かに時間をかけ過ぎているからね...。

 

 

 

 

兪史郎さんは原作の通りにあの壁の中を通っていき、炭治郎と禰豆子はそれに戸惑っていたが、私と七海は既に原作と前の経験で知っていたので、先に壁に顔を突っ込み、珠世さんの家があるのを確認した後、炭治郎と禰豆子にそのことを伝えて、壁の中へ入っていった。すると、炭治郎も禰豆子も私達の後をついてきた。

 

珠世さんとも出会い、原作と同じ話をした。例外の鬼の中に七海が入っているが、特に変わっていることはなく、私も既に珠世さんの頼みを受けると決めたので、鬼の血を集める手伝いをすることにした。ちなみに、七海の血を調べることは七海本人に答えさせてもらった。自分のことであり、ちゃんと自分で判断できる意思があり、答えることもできるので、私が判断して答えるのは違いと思い、そこは七海に答えさせた。

まあ、七海も私同様に決めていたし、それを私は知っていたが、本人が言った方が良いと思ったのだ。

 

 

その後の鬼の襲撃も原作通りであった。だが、戦う鬼が二人に対して、こちらは六人いる。それで、二手に分かることにした。炭治郎と禰豆子が矢印の鬼である矢琶羽と、私と七海が鞠を使う鬼である朱紗丸と戦うことになった。戦力が多いため、原作よりも苦戦しなかったと思う。

ただ、日が昇るまでに私と七海は朱紗丸の頸を斬ったため、無惨の呪いで死ぬことはなかった。今回の変わったところはおそらく朱紗丸の死因だけだろう。

ここから出発する前に珠世さんから禰豆子と七海を預かろうかという話があったが、炭治郎は禰豆子の手を握りしめ、それを断った。七海も自分の口で断っていた。

 

 

 

こうして私達は浅草を出て、次の任務へと向かった。ただ、少し不安がある。それは炭治郎の肋骨が一本折れていることだ。原作と違って怪我が少し軽いものに変わっているが、そこは変わらなかった。

今も思うけど、怪我をしている状態でそのまま任務に行かせるのって、相当厳しいと思うのだけどね。でも、それくらい人手不足なのだろう。

できることなら炭治郎には休んでほしいけど、その任務が善逸と伊之助と出会うところであるため、あまり無理をさせないようにしよう。

 

 

 

 

 

 

鼓屋敷も前の時とあまり変わらなかった。最初に善逸と出会った時は善逸が女の子に結婚してと迫っていて、その後で私にも求婚してきた。それで、炭治郎が必死に私から善逸を引き剥がそうとしていたし、その騒動で私の体が揺れ、背負い箱も一緒に揺れていたため、七海がバンッと凄く不機嫌そうに箱を叩いた。

起こしてしまったかもしれない。ずっと静かだったから、眠っていた可能性がある。だって、朝まで起きていたし、戦ってもいたから、疲れているのだと思うのだよね。

炭治郎と善逸は互いの声で七海の様子に全然気づいていないみたいで、その後も炭治郎と善逸は原作と同じやり取りをして、おにぎりを食べていた。ちなみに、おにぎりはいっぱい作っていたので、一人一つ食べられた。原作で知っていたので、おにぎりは善逸の分も作っておこうと考えたのだ。

 

 

 

 

 

おにぎりを食べている間に鼓屋敷に着き、鼓屋敷の前に二人の子ども、正一とてる子がいた。この二人のことは原作通りに炭治郎が話していた。二人がここにいる理由は原作や前の時と変わっていないらしい。

らしいと言っている時点で察しているかもしれないが、私はこの時に正一とてる子から離れていた。

理由はこの後に人が降ってくると分かっているので、その人を受け止める準備をしていたのだ。流石に今回はこのタイミングだと屋敷に入って探す時間がない。そのため、ここで落ちてくる男性を受け止めた方がいいと考えたのだ。

あの男性は原作で姿を現した時点で既に血だらけで傷ついていたが、致命傷はおそらく高いところから頭を打ったことだろう。実際に見ていないから分からないけど、頭を強打した時にまだ話せていたのだから、その可能性に賭けてみようと思った。

 

 

ただ一つ、問題があるとするなら私が男性を受け止められるかどうかなのだが、これは難しいと思っている。あの男性は大人だし、かなりの速さで落ちてきたから、上手くいかなければ私が下敷きになる。しっかり受け止めきれないと、あの男性も死んでしまう。

これは一発勝負だ。なので、きちんと心の準備をしておかないと。

 

 

そのため、私は正一とてる子のことを炭治郎に任せた。原作で炭治郎が二人を上手く宥めていたのを知っているが、前の時に二度私がそれをしていたため、なんだか懐かしい気持ちを感じると同時に、少し寂しい気持ちにもなるのだよね。

そんなの言っている場合じゃないのは分かっているのにね。

 

 

 

ポンッ!

 

 

それから少し経って、鼓を叩く音が聞こえた。私はその音で構えた。隣に立っていた善逸もその音に反応する。

 

 

「炭治郎。この音、何だと思う?なんか太鼓の音が聞こえる」

「音?音なんて.......彩花?どうした?」

「ごめんね。詳しく話せないけど....嫌な予感がする」

「嫌な...予感?」

 

 

 

ポンッ!!

 

 

ドクンッ!ドクンッ!

 

 

善逸が炭治郎に音のことを話すと、炭治郎は首を傾げていた。この時に炭治郎が私の様子に気づいたようで、私に聞いてくるが、私はそれに答えられる余裕がなく、嫌な予感がするからという曖昧なことしか言えなかった。

炭治郎達とそういうやり取りをしていると、鼓の音が大きくなった。このくらいの音量だと炭治郎にも聞こえるだろう。鼓の音がそれを皮切りにだんだん大きくなっていき、それと同時に私の心臓の音も大きくなっていく。

 

もう少しだ。だけど、落ち着かないと。一発勝負だから、こんなに緊張しているのは分かっているけど、それは事実である。これが成功しないと、これから落ちてくる人は原作のように亡くなるのが確定だ。命がかかっているからこそ、こんなに

 

 

 

ポンッ!ポンッ!!ポンポンッ!!ポンポンポンポンッ!!

 

 

ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!!

 

 

 

私は激しくなる鼓の音と一緒に大きくなっていく心臓を抑えるために深呼吸をした。今気持ちを落ち着かせるのに、最も適したのはきっと深呼吸することだと思ったからね。

私は心臓の音が少し平常に戻ろうとしていることに気づき、大きく息を吸った。大きく息を吸ったのは簡単だ。呼吸を使うためだ。

 

 

『深呼吸する』と『呼吸を使う』と違う言い方をしているので、察している方がいると思いますが、『深呼吸する』の方は普通に大きく吸って吐く作業のことであり、この『呼吸を使う』は全集中の呼吸の方だ。

 

 

 

ポンッ!!!

 

 

 

鼓の音が一際大きく聞こえた瞬間、私は地面を強く蹴り、前へ飛び出した。その時に私が見えたのは二階の障子が開いて、そこから男性が落ちていくところだった。だが、その前に私が二階の障子辺りまで跳ぶのが早かった。男性が外に出たのを見て、私はすぐにその男性の着物を引っ張り、自分の方に寄せた。それと同時に私は空中で一回転して着地する体勢に整え、男性をあまりその衝撃を受けないように抱え直した。

そうしている間に重力が地面へとかかり、落下を始まる。だが、すぐに体勢を整えられたので、問題なく着地できた。

 

 

 

私はなんとか男性を受け止められたことに安堵しながらも男性の容態を確認した。

頭を打っていないが、血を流し過ぎていた。怪我も酷い。早く病院に連れていかなければ危ない!

 

 

「ごめん、炭治郎。この男性、早く手当てしないと危ない!この近くの病院に行ってくる!終わったらすぐに戻ってくるから!」

「分かった!」

 

 

私は炭治郎と善逸にそう言った後、男性を抱えて病院へ向かった。病院の場所は前の時に調べていたので大丈夫だ。でも、これから容態が悪くなる可能性がある。

そう思い、私は山道を走る。木や茂みが多く、道も整理していない。だが、この山道を突っ切った方が早く着く。それと、この道を選んだのは他にも理由がある。

 

 

「七海。この人を早く病院へ連れて行きたいの。ここは日影で、日の光には当たらないと思う。手伝ってくれる?」

 

 

私の言葉を聞き、七海が背負い箱から出てきた。背負い箱から出てすぐに七海は私の前に出て、私は男性を七海に渡した。七海が男性を抱えたのを確認した後、私は七海の前を走り、道を阻む木の枝や茂みを押さえて道を作り、七海がその道を通っていく。

 

 

七海は鬼なので、私よりも力がある。まあ、元から七海は私より力持ちだけどね。私ではどうしてもあの男性を抱えていたら遅くなってしまう。だが、七海なら男性を抱えた状態でも速く動くことができる。

鬼になってからは分からないが、私は七海より速く動けるし、小柄な体型であるため、狭い隙間でも難なく通れる。そのため、私が道を作り、七海が男性を運ぶ方が早いと思ったのだ。

しかし、鬼である七海は日の光を浴びれない。太陽が空に昇っている、昼である今は七海を出せない。でも、逆に日の光が当たらなければ昼であっても七海は外に出られるということだ。そして、病院へ向かう最短での道筋は山道を通るものであり、その山道は林で日の光が見えず、当たることがない場所だ。

 

 

枝をあまり折りたくないと思っているので、強引に引っ張らずに気をつけながら怪我人の男性に当たらないように枝を別方向に逸らしている。その間に七海が通り、それを確認した後に次の道を塞ぐところへ先に着き、また枝を別の方向に向けて道を作る。

 

 

「七海。ありがとう。ここからは木陰がないから、七海は休んでいて。後は私だけで大丈夫だよ。本当にありがとう」

 

 

私が七海に声をかけると、七海は私に男性を渡し、後ろへと回り、背負い箱に入って自ら閉めた。

七海もこの背負い箱に慣れてきて、自分で開けたり閉めたりすることができるようになってきたんだよね。

 

 

私は七海にもう一度お礼を言った後、男性を抱え直し、病院へと真っ直ぐに走り出した。先に遠藤を向かわせたので、事前に知っていた(だが、喋る鴉に困惑していた)医師達に男性を渡し、私は鼓屋敷に戻った。

着いた時には禰豆子の入った背負い箱だけがぽつんと置かれているだけだった。まだ炭治郎も善逸も戻っていない。正一とてる子の姿もないから、二人を追いかけた後なのだろう。

 

 

 

炭治郎達が鼓屋敷の中に行ってからどれくらいの時間が経ったか分からないけど、私もすぐに鼓屋敷へ入ることにした。炭治郎達の姿は見えないし、伊之助の気配も感じられない。おそらくまだ時間はそんなに経っていないだろう。

 

 

私は襖を開け、中の様子を伺った。勘だけど、まだ血鬼術は残っている。となると、鼓の鬼の響凱はまだ炭治郎に倒されていないと思う。まだ戦っている最中なのかもしれない。清以外の生存者がいる可能性は低いけど、探しに行かない理由はない。

ただ響凱の血鬼術が残っているので、見つけてもここに戻れるか分からなくて少し迷ったが、それでも行くことを決めた。

 

炭治郎が響凱の頸を斬るまでは私が応急処置をして時間稼ぎしよう。

 

 

 

 

 

 

「ねえ、七海。ここって、鬼の大量発生の場所だったかな?前はそうだった?あの時は私も原作にいなかった鬼を何人も倒したけど」

「いや、アタシは原作にいた鬼しか会ったいないわ」

「じゃあ、どうなっているの」

「......アタシも分からないわよ」

 

 

日が当たらないからと外に出た七海は私の質問に首を横に振った。私は七海の言葉に頭を悩ませていた。七海も私と同じように頭を抱えている。私と七海がこうなっているのは周りにいる鬼達が原因だ。この鼓屋敷にいる鬼は響凱を含めて三人だ。

 

 

この時点で分かっているかもしれないけど、炭治郎が響凱を相手にし、他の鬼もそれぞれ善逸と伊之助が相手をしている。それなら、この周りにいっぱいいる鬼達は何なのかという話になる。

前の時にも一人増えていたけど、今回はその比ではない。鬼が複数現れた時にそのおかしさに気づき、七海も再び呼んだが、それは間違いなく正解だったと思っている。

だって、その時から一気に鬼が現れてきたので、手助けしてくれて凄く助かった。

 

 

だけど、これが問題であるというのには変わらない。今回は偶然にも私と七海に当たったから良かったけど、他の人だった場合は無事ではないし、最悪死んでしまう可能性もある。私と七海の影響で原作にいなかった鬼達が出てくるのからまだ良いけど、そうじゃなかったら鬼殺隊の隊士達全員が危ない。

何たって、鬼の数が増えるのだからね。一つの任務に複数の鬼が存在していて、数の暴力で負けるという場合もあるだろうし、過労死ということも起きそうだ。

なので、こういったことが続かないことを祈ろう。

 

 

私はそう思いながら頸を斬られて灰になっていく鬼達の採血をした。一応研究が捗りそうで助かるけどね。

でも、足りるかな?

 

 

「足りたけど、全部持っていける?」

「ニャア」

 

 

私は採った血を茶々丸に渡そうと思ったが、その次の問題に気づいた。

ぎりぎりで足りたのだけど、今度は茶々丸の背にある箱に全部入るかというのが問題だった。

茶々丸の背にある箱は既に一つ入っている。これは響凱の血だ。炭治郎が頸を斬れたということだ。色々あったが、そこは原作通りに進んでいるようだ。鬼達と戦っている間に血鬼術が消えたのを感じていたので、炭治郎が勝ったのは分かっていたが、実際に見た方が安心する。

炭治郎のことは安堵できたが、問題が解決したわけではない。

まずはこの採血した鬼の血をどうするか。

 

 

茶々丸に聞いてみると、首を傾げていたので、おそらく分からないのだと思う。とりあえず割れないように気をつけながら鬼の血を詰めた。かなり収納ペースがあったため、なんとか全部入った。茶々丸がいなくなったのを確認した後、七海を背負い箱に再び入れて、鼓屋敷から出た。

出入り口はすぐに見つけられた。どうやらすぐ近くにいたようだ。何回か鼓を叩く音が聞こえて、あちこち移動させられたのは分かっていたけど、こんな出入り口の近くにいたのは予想外だったし、驚いた。

 

 

私は幸運だったなとか思いながら扉を開けた。その瞬間に見えたのは善逸が禰豆子の背負い箱を庇い、伊之助が善逸に暴力を振るう直前だった。

 

えっ?今、このタイミングだったの!?というか、炭治郎は!?いなさそうだけど.......もしかして、清とてる子の迎えに行っているから遅れているのかな....。

 

 

「えっ!?彩花ちゃん!」

「なんだぁ?お前」

「善逸、怪我はない?」

 

 

内心めちゃくちゃ驚いていたし、叫んでいたが、体は条件反射で動いてくれたので、私は伊之助に足払いをかけて転ばせ、伊之助と善逸の間に立った。善逸は驚いていたし、伊之助には立ち上がりながら睨まれた。だが、私は善逸が怪我をしていないかの方が気になった。

遠くからだったし、結構衝撃を受けて動揺したので、あまりよく見ていなかったのだ。ただ、顔にタンコブなどの殴られた跡のようなものがなかったのは分かっている。

 

 

私は伊之助を警戒しながらも善逸に視線を向けた。目立った外傷は頭から血が出ているぐらいなので、どうやら本当に直前だったみたいで大丈夫そうだ。

いや、頭から血を流しているのは重傷だと思うが、この世界だと軽傷の方に感じてしまうのは私が毒されてきたからだろうか。それに、たぶん骨が幾つか折れていると思う。

 

うん、これはしばらく療養だね。

 

 

私がそう思っていると、全く返事がされないことに苛ついたのか伊之助が話しかけてきた。

 

 

「無視かよ!おい!女!」

「あっ。ごめんね。別のことを考えていたよ。えっと、私は彩花。生野彩花という名前なのだけど....貴方は?」

「俺に一発当てたな!おい!女!次は負けねぇ!勝負しろ!」

「......私にこの勝負を受ける理由なんてないのだけどね。それと、私の名前は彩花だとさっき言ったよ」

「彩芽!勝負だ!」

「....もう、いいよ」

 

 

伊之助の声で私は伊之助に視線を向けた。伊之助のことを後回しにしてしまったので、伊之助に謝罪した。それと、自己紹介もして名前を聞こうとした。原作や前で名前だけでなく、色々知っているのだが、それがうっかり出てしまったらマズイので、先に自己紹介をしておこうと思った。

しかし、伊之助はそれよりも戦いたいらしく、私に勝負を挑む。だが、私は戦う気がないので、なんとか断りたいと思った。あと呼び方も変えてほしいので、もう一度言ってみたら彩芽となった。これは前からの私への呼び方であったし、前の時に何度もさりげなく呼び方を変えようとしてもこれから変わらなかったため、だんだん諦めてきたのだ。.....まあ、たまに訂正しようとするけど。

なので、前と同じ彩芽になっただけでもいいと思い、その後の修正は止めた。

 

 

そういった意味で了承したのだが、伊之助は戦う方だと受け取ったらしく、私の方へ向かってきたので、私も対応することにした。

...戦う気はないので、伊之助の攻撃を受け流したり善逸達が巻き込まれそうになった時には距離を取らす意味で投げ飛ばして転がせたりしたけどね。

 

 

うん?投げ飛ばさせたって、どういうことなのか?

伊之助が投げ飛ばされたのは確かだけど、私がやったというのとは少し違うのだ。私の行動で結果的にそうなったのだが、直接やったわけではないのだ。詳しく説明すると、私がしたことは攻撃を受け流す時のを応用したものだ。相手の力を別の方向に向ける。それをした上で重心を傾かせる。その状態をさらに利用して、相手は自分の力で体を一回転させて、その時に足払いもかければ伊之助は飛んでいくし、その後でバランスを崩して転がることになるのだ。

 

ほら、私は投げ飛ばすようなことをせず、伊之助が自分の力で転がっていくので、結果的に伊之助が投げ飛ばされて転がるという状況になる。

 

 

それを何回も繰り返したのだが、伊之助は懲りずに私へと向かっていった。私はそれに呆れを通り越して感心していた。だが、その勢いが止まらない様子に私は困った。

伊之助の勢いを止めるには一番早いのは伊之助を眠らせることだ。だが、伊之助は薬が効きにくい体質であるため、麻酔が使えない。そうなると、他の方法を考えないといけないのだけど.....今の伊之助には説得とか無理だから...そうなると、物理が一番手っ取り早く解決できるのだよね。

....あまり気乗りしないけど。

 

 

私がそのようなことを思っていた時、

 

 

「何してるんだ!」

 

 

そう言いながら炭治郎が伊之助に頭突きをして、辺りに物凄い音が響き渡った。それを聞いた善逸が叫んでいて、私は原作に近い形になっていると別の感想を抱いていた。

炭治郎が来たと知り、私は鼓屋敷の方を見たらてる子と柿色の羽織を着た少年がいた。その少年が正一とてる子の兄の清だと気づき、安堵した。

 

どうやら炭治郎は清を救出できたようだ。あんなに鬼がいっぱいいて、稀血の清がその中で無事だったことは奇跡だろう。例え鬼の鼓を持っていたとしても生き残れたのは幸運だ。

少し不安だったけど、そこは原作通りのようだ。炭治郎の頭突きが早かったことから、たぶん炭治郎もこの状況についてある程度は分かっているはずだ。このまま放置していても、炭治郎と伊之助は原作と同じ行動をするだろうし、同じことも起きるだろう。

 

 

その後、やはり炭治郎の頭突きの衝撃で伊之助の猪の被り物が外れ、原作通りのやり取りを炭治郎達がしていた。その間に私は善逸の頭の怪我の手当てをしていた。流石にその怪我を放置しておくわけにはいかないので、怪我の状態を診た後に消毒してガーゼを貼り、包帯を巻いておいた。

 

 

ちょうど善逸の手当てが終わった時に伊之助が限界になり、動きが止まった。炭治郎達が伊之助の様子に首を傾げている間に私は伊之助に近づく。そして、後ろから倒れそうになっていた伊之助を受け止めた。

原作で知っていたので、私はその前に動けたし、あの炭治郎の頭突きの音や原作で既に症状も何か判明しているので、すぐに治療を始めた。

怪我の治療のため、私が伊之助を膝枕したら善逸が凄く叫んでいたが、炭治郎に引き摺られて、鼓屋敷の中へ入っていった。

おそらく亡くなっている人達を埋めて、供養しようと思っているのだろう。

 

 

私も鬼達との戦いの最中に血の跡や死体らしきものを見つけていた。生存者は入る前に救出した男性と清以外いないと考えてもいい。

まあ、もし生存者がいてもあの時の私達には余裕がなかったから、助けられたかどうかは分からない。

 

......できれば前の時に助けられたあの人も一緒に助けることができたら良かったな....。

 

 

炭治郎達全員が鼓屋敷に入った時に伊之助の治療を終えた。なので、私も炭治郎達の後を追おうと思い、バスタオルくらいの大きさの手拭いを折って枕にし、伊之助をそこに寝かせて立ち上がった。だが、その前に後ろから声が聞こえたので、私は鼓屋敷の方へ動かそうとした足を止めた。

後ろから声が聞こえたのは確かだが、振り向くことはなかった。何せ、振り返ったところで顔を合わせることはない。声だけで誰なのかは分かるので、後ろにいないことは理解しているし、背負い箱に聞こえるくらいの声で話せばいいからね。

 

 

「七海。どうしたの?何か気になることがあるの?」

 

 

私は背負い箱に軽く指で触れると、内側からトントンッというノックするような叩く音が聞こえてきた。これを聞き、私は日陰を探した。

この合図は七海がゆっくり話したいということを示しているものだ。

私は七海が背負い箱の中に入っても互いに普通に会話できる。だが、炭治郎と禰豆子以外の誰かがいた場合はこうやって決まった合図を出すことで、私達は相手の意図に気づけるようにしている。

 

 

七海を出すために日陰に行こうと思ったが、辺りに日陰はなかった。あれから時間が経ち、太陽の位置も変わってしまったからね。

 

 

「ごめん。日陰はなさそうだから、このままでいい?」

「別に構わないわよ。......それで、さっき何か気になることでもあると聞いてきたけど、アタシこそ聞きたいわ。何を思ってるのよ?」

「.......ただ、助けたかったなあとか、そういうことを考えていただけだよ」

「それって、前の時で助けられた人を今回では助けられなかったからよね?だから、そう思ってるのよね」

「..........」

 

 

七海の言葉に私は一瞬固まったが、すぐに平常心でその質問に答えた。だが、七海は彩花の思っていることに気づいているらしく、的確に言ってくる。もう最後の方は確信すら持っていた。私は黙るしかなかった。

そんな私の様子を察し、七海はため息を吐いた。辺りが静かな所為か息を吐く音がはっきり聞こえた。

 

 

「一度できたからといって、次も必ず成功するなんてないわよ。そんな保証なんてないんだから、助けられなかったことがショックでもそこまで重く考えない方がいいわ。彩花は考えすぎるところがあるからわよね。彩花のその考えって....例えば学校のテストみたいね。

テストでもあるじゃない。前はこの問題が当たってたのに、今回のテストでは間違ってたなんてこと。それで、次は正解しようと思う。彩花は反省するし、それを活かそうとするのは良いけど、一々落ち込んでいたらキリがないわ。

それに、あれは運が良かったということも含めないと駄目よ。早く着いた状況だからこそ、あの人達は助けられた。今回は善逸が道中ずっと騒いでいたし、そんな炭治郎達に合わせていたのだから、前と状況が全然違うわよ」

「でも、私が先に行くという選択肢もあった」

「善逸がくっついていたから、それはそもそも難しかったでしょ。離れた後も一人だけ先に行けそうな隙はなかったし、それを強行したら不審に思われると分かってたから、それをしなかった。....確かに間に合わなかったところもあるけど、それでも彩花はちゃんと行動していたわ。亡くなる人達全員を救えなくても、助けられた人はいるでしょ。前と状況が違う中で十分頑張ったわよ」

 

 

七海が私を慰めようとしてくれているのは分かっているが、私はそれを受け入れて許すことができず、七海の言葉に精いっぱいの反論の意味を込めて言った。だが、七海はそれでも話を続けた。

私は七海を落ち着かせる意味も込めて背負い箱を撫でた。すると、七海も静かになった。

 

 

「......ありがとう。でも、犠牲者を増やしたくないし、むしろ減らしたいと思っているくらいだから、これからも同じことをしていくよ」

「それは止めないわ。そうだと分かってるから、アタシは気に病まないでほしいと言ってるのよ。その行動自体を止めさせる気なんてないから、それだけは言っておきたかったの。分かった?」

「.....なるべく努力するね」

「...全く.......」

 

 

七海の話を聞いて、私はとりあえずお礼を言った。

私のことを心配して、慰めようともしてくれたので、そのことは嬉しかったし、感謝もしている。だけど、私には譲れないものがあるため、そこは突き通すことを伝える。七海はそれを分かっていた様子で言ってきた。七海の言葉に私は努力するとしか言えないため、七海は呆れた様子でため息を吐いた。

 

 

 

 

あの後、私も鼓屋敷から遺体を運ぶのを手伝った。炭治郎達は土を掘り、私は遺体をなるべく綺麗な状態にしようとした。....すぐに埋めるからと言っても綺麗にしない理由はないからね。

そうしている間に伊之助が目を覚ました。その時の私は鼓屋敷の中に行っていたので詳細は知らないが、伊之助が鼓屋敷で遺体を運ぼうとした時で原作と同じようなことが起きたのだろうとは思った。だが、遺体を乱暴に扱うのは別だ。

 

 

『伊之助。その持ち方は駄目だよ』

『なんだよ!こっちの方が運びやすいじゃねぇか』

『こちらが見ていられないし、そんな風にしたら傷ついちゃう。ああっ!言ったそばから....』

 

 

引き摺ったり逆さまにして運んだりする伊之助に流石に指摘すると、伊之助は少し不満そうにした。そうしている間に伊之助の持つ遺体の一つの傷口が開き、内臓が溢れ落ちそうになり、私は伊之助にその遺体を下ろさせ、裁縫セットで縫い始めた。勿論、針は消毒をしておいたし、その針も一応こういった時用の針だし、使い終わった後もしっかり拭いて消毒した。

 

 

一応綺麗に縫えたと思っている。この裁縫は前の...炭華が人間だった時に教わったものだ。炭華の手芸は当初ほとんど売れていて、炭華はもっと作ろうとして針仕事の時間が多くなった。それが気になり、薬の調合が終わったから手伝うなどと言って、私も針仕事をするようにした。その時は七海も一緒にいたが、七海は縫い物が駄目だったようで、最後に泣きそうになっていたのを私と炭華で慰めた。

 

 

伊之助には何度も気をつけて持つように言い、伊之助は渋々従ってくれた。全員で協力したこともあり、日が暮れる前に終えることができた。私達が手を合わした後、山を下り、清達と別れた。その時も原作通りの展開が起き、炭治郎が気絶した(させた)善逸を背負い、私は禰豆子の入った背負い箱を抱えながら藤の花の家紋の家に向かった。

途中で炭治郎と伊之助の言い合いはあったが、私が注意して静かにしてくれたので、善逸は藤の花の家紋の家に着くまで眠っていた。

まあ、それでも藤の花の家紋の家の人(お婆さん)を見て叫んでいたので、そのまま朝まで寝かせておいた方が良かったかなと思ったのは内緒である。

 

 

温泉に入り、藤の花の家紋の家でご飯を食べた後、先に医者に診てもらって健康だと診断された私は七海と一緒にこっそりもう一度温泉に入っていた。その間に炭治郎達は医者に診て重傷だと判断され、布団で横になっていて、原作と同じやり取りをしていたみたいだ。それで、たまたま箱の中から出てきたタイミングで、私と七海はそのことを知らずに炭治郎達の部屋へ入った。

それにより、七海のことを知ることになる。.......善逸が。

 

 

 

あの夜は騒がしかったよ。善逸が炭治郎に対して『女の子三人と一緒なんて、いいご身分だなああぁぁぁ!』と叫んでいた。炭治郎が説得しようとするが、善逸は聞く耳を持たず、面倒そうな表情をした七海が気絶させていた。

真夜中にこんな大声で叫ばれても迷惑になるだけだから、私は止めなかった。だが、放置するのは可哀想だと思い、崩れ落ちる善逸の体を受け止め、布団に寝かせておいた。そして、炭治郎と少し会話して禰豆子の頭を撫でて、一緒に部屋へ戻った。

 

 

どうしてかというと、炭治郎には療養に専念してほしいし、傍にいたらいたで目を覚ました善逸が騒がしそうなので、夜中だけは私達が預かる方がいいのではと説得したのだ。

 

 

次の日から私達は普通に任務があるため、休養している炭治郎達と禰豆子はほとんど一緒であり、私と七海は任務を終えた後、夜中に禰豆子と一緒に寝るようになった。元々炭治郎達が元気になるまではここを拠点として活動する気だったし、特に問題はなかった。鍛練も怠らずにやっている。

ここからが本番だからね。前とは違って、私は炭治郎達とほとんど同じだ。三周目とはいえ、体はそうなっていない。原作での次の任務が十二鬼月だ。何処まで通用するか分からない。

 

 

それから月日が経ち、炭治郎達も医者から大丈夫だと言われ、遂に那田蜘蛛山の任務に行くことへなった。原作通りのやり取りをしながら私達は那田蜘蛛山に着いた。

私達は着いてすぐに隊士を見つけた。その隊士が私達に事情を説明し、糸によって山の方へ戻されそうになったが、事前に知っていた私がその糸を刀で斬り、隊士は崩れ落ちた。心配になり、駆け寄って怪我を診てみた。命に別状がなく気絶しているだけであり、応急処置をした後に誰かを呼んでほしいと遠藤に頼み、先へ進むことにした。

 

 

申し訳ないけど、これから死人が多く出かねない戦いがある。この場所は山から離れているし、糸がないから何もされないはずだ。ここに放置しても生きていると思うけど、怪我している状態であるために誰かを呼んだ方がいい。もしかしたら容態が急変するかもしれないし。

 

 

私達は那田蜘蛛山に入った。その前に善逸がごねていたが、無理強いするつもりはないので、あの人のところで待っているように言った。炭治郎も同じ考えだったみたいだし、伊之助も特に反対はなかった。

まあ、私と七海は原作で善逸の行動を知っているから、それに沿うことにしたのだけどね。

 

 

私達(私と炭治郎と伊之助)は村田さんと出会い、村田さんに事情を聞いた(その前に原作通りのことが起きたが、それは省略する)。そうしていると、糸によって操られた隊士達に襲われ、下弦の伍の累とも遭遇する。その後すぐに累が姿を消すのは知っているし、ここで戦ったらこの隊士達も巻き込みかねないので、私は累の母鬼を探すことにした。

 

嫌な気配はあちらからするし、勘でもその方向へ行けと言っているので、進行方向を誘導しよう。

 

 

「炭治郎。伊之助。私達が糸をつける蜘蛛に気をつけながら操る糸を斬っても、この人達が体勢を整える前にまたつけられる。蜘蛛も小さいし、それなら本体の鬼を狙うしかないよ。本体の鬼はきっとここから離れたところにいるだろうから、この場所にずっといても体力が保たない。とにかくこの場から動いた方がいいと思う」

 

 

私は小さな蜘蛛を避けながら炭治郎と伊之助にそう言った。その私に隊士達が一斉に襲いかかり、私はその隊士達の糸を斬り、距離を取った。糸を斬ってもまたすぐにつけられる。でも、その間に時間がかかる。それを上手く利用すれば距離を取れるはずだ。

私が隊士達の攻撃を避けている間に、伊之助が母鬼の居場所を突き止めたようで、炭治郎と伊之助は私が行こうとしていた方向へ向かった。

 

 

私も距離を取りながらそちらへ向かっていたので、炭治郎と伊之助の後を追った。先導は伊之助だ。私は正確な場所まで分からないので、そこは知っているであろう伊之助に任せようと思う。

村田さんが任せて先に行くようにと言ってくれたけど、流石にこの人数を村田さん一人に任せるのは例え原作でやったとしても心配であるため、任せる前に隊士達の糸を全て斬っておいた。

 

 

 

その後、私達は母鬼のところへ向かい、母鬼は原作通りに炭治郎が頸を斬った。途中であった隊士達は私が木に二重に引っかけておいたので無事だ。炭治郎達に聞かれたが、念のためにと言っておいた。私がいざという時のために色々準備しているのを知っているので、二人は納得した。

私の座右の銘は「備えあれば憂いなし」だからね。何も準備をしないのは怖いんだよ。

 

 

その次は姉鬼を見つけ、父鬼が炭治郎達の前に立ち塞がるのだが、私はその場にいなかった。姉鬼の姿を見つける前に村田さんのところへ戻ったのだ。

負傷者の手当てや村田さんの安否確認とか色々あるが、一番の理由は戻らないといけないと思ったからである。

 

 

どういうことかと聞かれるだろうが、私もよく分かっていない。ただ、本当になんとなく行った方がいいと感じたのだ。なんだか嫌な予感がしていたし、炭治郎達には前の二つを言って先へ行ってもらった。

確認しに行って、何もなかったら炭治郎達のところへ戻ればいいからね。早かったら二人が父鬼と戦っているところを加勢できるかもしれない。

 

 

 

 

私は村田さんと分かれた場所まで戻った。しかし、そこには誰もいなかった。村田さんがこの場所から離れた可能性はあるが、それにしては不自然だ。だが、操られていた隊士達もいないのはおかしい。この辺りはおそらくあの母鬼が支配していたのだろう。ここにいた私達や村田さんを除いて全員が操られていたから、それは間違いない。でも、それならこの状況は明らかにおかしい。

 

私達を殺そうとしていても戦力を全部使うはずがない。確かに色々と奥の手も使ってきたが、それは私達が本体の方へ近づいてきたからだ。操った隊士達を村田さんに全員ぶつける理由はない。それに、もし戦力を割くなら私達の方に送るはずだ。

だけど、私がここに戻るまでの道のりで、隊士達の姿は見当たらなかった。さらに、一番不自然なのは私達が木に引っかけた隊士達もいなくなっていることだ。母鬼が消滅したことで糸が消え、隊士達は隠に保護されたとも考えたかったが、その可能性は低いと思う。

 

 

私は五感を鋭くさせ、辺りを警戒した。その時、何かを引っ張ったみたいな気配を感じ、微かに人の悲鳴ような音が聞こえた。私は慌ててその方向へ向かった。

林の中を走っていくと、開けた場所が見えた。私はその場所に真っ直ぐ走っていたが、先で何か嫌な予感を感じ、回り込むことにした。少し距離を取った位置で様子を見た。その時、何かを引くようなヒュッという空気の音が聞こえ、私は咄嗟に姿勢を低くして、前を見た。

それによって、原因が分かった。

 

 

人が宙に吊られていた。首にはついていない。だが、手足を拘束されていて、動けないようだ。数人いて、どの人も見覚えがある。全員が母鬼に操られていた隊士達だ。解放された後、あの隊士達は他の鬼によってここへ連れてこられたのだろう。

だが、それにしては人数が少ない。食べられたとしてもまだそんなに時間が経っていないから.....。

 

 

私が考えながら辺りを見渡していると、あるものを見つけた。それは木に縫いつけられた隊士達だった。腕や脚ごと縫っているわけではなく、隊服のみにらしく、血の臭いはしなかった。その隊士達も見覚えがあり、おそらくこの人達もそうだろう。

 

 

(.......どうして縫いつけられている人と吊るされている人と分かれているの。何か違いが.....まさか........)

 

 

吊るされている隊士達を視線で追った。すると、隊士達に隠れて誰かがいた。私は足音を立てないように気をつけながら近づき、漸く見ることができた。

 

 

下半身が蜘蛛だが、上半身が女性の姿をした鬼がいた。その鬼の目の前には上半身裸の隊士の姿が........。.....上半身裸?どうして?

 

 

「母さんが死んで、残ったのは君達なんだよねー。もう、持ち主がいないから、君達を貰ってもいいよねー。それにしても、服ってまずいよねー。しかも、鬼殺隊の隊服って無駄に糸がぎっちり縫い合わされてて、解くの大変なんだよねー」

「ヒッ」

「あっ。ごめんごめん。ぴったりの着てるから、こっちはたまに傷つけちゃうんだよねー。できれば傷つけずにそのまま丸呑みしたいんだけど、それはちょっと難しいんだよー。手先が器用じゃないと....よし。完成」

 

 

その鬼は隊士の服を糸に解いていた。どうして脱がすのではなく、解いているのかと思ったが、隊服の黒い糸が白に変わり、それが動いているのを見たら分かった。

どうやらこの鬼は糸全般を操るようで、隊服だった糸はこの鬼の力として使うことができるようだ。

 

 

「いただきますー」

「やっ、やめ........」

 

 

私があの鬼について分析している間に隊服を全部糸に変えたらしく、下半身の蜘蛛の口が大きく開き、素っ裸の隊士を丸呑みしようとした。

 

 

「華ノ舞い 雷ノ花 梔子一閃」

 

 

その前に私が動いた。隊士を拘束していた手足の糸を斬り、その下半身の蜘蛛の顔を真っ二つに斬った。地面に降りる前に男性の腕を掴み、茂みの方へ投げた。

 

 

ずっと観察していて、放置しすぎてしまった。ごめんなさい。あの鬼は三周目で初めて見た鬼だったので、その動向を知る方に集中しすぎてしまった。さらに申し訳ないことに裸のまま投げてしまった。

 

本当にごめんなさい。あの隊士の方が私より体格が大きくて...持てるかどうか分からないし、戦うのも難しい....。......とりあえず怪我をしない、安全そうな場所であり、クッションになると思ったところだったから.....たぶん大丈夫...だと思う....。

 

 

「何?君、罠にも引っかからなかったの?」

 

 

その鬼の言葉で、私はあの嫌な予感がした原因を知った。おそらくここの隊士達のように糸が体中に絡まり、その糸で人間を引っ張ってここまで連れていき、木に縫いつけるという風な仕掛けを施していたのだろう。

どうやら遠回りしたのは正解だったらしい。

 

 

「まあ、いいわ。すぐに捕まえればいいだけだし。大人しく私の栄養になってねー」

 

 

この鬼は余裕そうにしていた。でも、分かる。この鬼は母鬼よりも強い。鬼の攻撃を防ぐという隊服に血鬼術の糸を通せていたし、その隊服を糸にして解けるほどの力(物理)も有している。

この鬼は強い。だが、こちらは華ノ舞いがある。

 

 

私が刀を構えると、背負い箱からトンッと押すような音が聞こえた。

........分かっている。七海もいるからね。

 

 

それにしても、どうしてこんな強い鬼が現れたのかな....。

 

 

 

 

 

 

 

 

思えばこの時に気づくことができたら良かったのかもしれない。だが、私は目の前のことや次の柱合会議、無限列車などを気にしていて、それが分からなかった。

そして、それを知った時にはもう後戻りもできなくなっていることにも。

 

 

 

 



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三度目の少女は信じている 前編

 

 

 

「はあ。なんとかなったわ。ホントにどうなっているのかしらね」

「私も分からないよ。でも、はっきりしたことがある。.....それは鍛練をして強くならないと危ない」

「......どの戦いでもそうだと思うけど....一番有効なのはそれかもしれないわね。彩花が前の時と同じくらいになると決めて、原作の炭治郎達よりも何段階も上の鍛練をしていたから、今回は助かったわ」

 

 

隣にいる七海が大きく息を吐き、頭を押さえながらそう言ってくるので、私は苦笑いを浮かべながら頷いた。それと、悟った目で確信したことを伝えると、七海は呆れたような顔をした。

うん。その反応になることは知っていた。

 

 

今までに何があったのかと思われるので、起きたことを順に説明する。私は上半身が女性の顔で下半身は蜘蛛の姿をした鬼と遭遇し、戦うことになった。相手は十二鬼月ではないが、かなり強い鬼であったため、私も華ノ舞いを使用した。

その鬼は倒せたよ。上半身の女性の頸を斬れたらね。連続で使える型で下半身の蜘蛛の顔を一緒に斬っておいたけど、弱点は上半身の方だけだったみたい。頸を斬った時の感触では上半身の方が硬かった。

 

 

鬼の頸を斬った後は吊るされた人も縫いつけられた人達も全員が解放され、私はその人達の怪我を診ようとしたが、他の鬼がいるからそちらを頼むと言われた。重傷者がいないか確認だけでもしたいと言っても、後は自分達でやるからとその人達が言うので、渋々引き下がった。

ちなみに、大丈夫だと言った筆頭の人はあの裸になってしまった隊士であるため、私も後ろめたい気持ちがあり、その隊士には何も言えずにいた。現在、他の人の(かなり大きい)羽織を着物のようにして着ているので、少しマシにはなっている。

隊士達の勢いに負け、私は炭治郎達の方へ向かうことにした。一部の隊士達に村田さんのことも聞いた。村田さんの姿がここになく、鬼の頸を斬った後に再確認してみたが、やはり見当たらなかったので。

話によると、村田さんは罠に引っかからなかったそうだが、この隊士達を助けようとして、逆に吹き飛ばされてしまい、そのまま戻って来ないようだ。鬼も最初は村田さんを追いかけようとしたけど、すぐに止めたらしい。どうやら別の鬼の活動しているところに入ってしまったようで、手出しできなくなったみたい。

隊士達が心配で、何度か振り返った。全員が声をかけ合い、怪我人には手を貸している。

 

とても良い人達だよね。どうか、隠の人が来るまで無事でいてください。

 

 

 

 

 

 

私はあの隊士達と分かれてすぐに鬼と遭遇した。その鬼は二人で、そのうちの一人は前の時に何故かいた鬼だった。もう一人は知らない鬼である。原作の中にもいないし、前の時にもいなかった鬼だ。また鬼が増えている。

私は頭を抱えたかったが、一気に二人を相手しないといけないので、その余裕はなかった。七海も協力してくれたので、無事に二人の頸を斬ることができた。

 

 

 

そして、今はその戦いを終え、鬼の血の回収も終えた後だ。私も七海も流石に疲れたのだ。原作にいなかった鬼が増え続け、それと何度も接触してしまい、体力はともかく精神的に疲れている。あれこれ考えすぎて。

そのため、鍛え続けるしかないという脳筋の答えになった。一応その自覚はあるけど、これが一番最適な解決策なのだとも思っている。原作と違い、鬼の数が増え続け、その鬼もどれくらいの強さなのか分からない。それなら、どんな鬼と戦っても勝てるようにしかないだろう。というか、原作の知識を持っていない人達は全員が常にその思いなのだ。原作の知識があるという私達の方が普通じゃない。

 

 

それも七海は分かっているため、私の言っていることを否定しない。これが重要なことであり、継続していかなければならないことでもあることを七海は知っているからね.....。...当たり前のことを言えばその反応になるよ。

でも、ごめん。私の頭の中に浮かんだ解決策はそれしかなかったの。

 

 

 

 

私と七海はその後も少し会話した。こんな暗くて不気味な場所であろうとも、気分転換はしたかったのだ。しばらくして、互いに満足ができ、七海が背負い箱の中に戻ろうとした時、殺気を感じたうえにカサカサっという葉の揺れる音が聞こえた。

 

 

何かが来るという答えが頭に浮かぶ前に私と七海はその場を離れた。その瞬間、先程までいた場所の砂埃が舞った。それはすぐに晴れたのだが、できればもう少し見えない方が良かったと思った。そうすればまだここから離れられたかもしれない。

いや、すぐに追いかけられるのは分かっているし、追いつかれるだろう。だけど、少しでも距離を取れるし、考える時間も延びたと思う。

 

 

 

そんなに厄介な鬼なのかとか、勝てそうにないのとか思われるかもしれない。

うん、厄介な相手であることは間違いないよ。勝てそうかという言葉にも何と答えたらいいのか分からない。.......それに、襲って来られても戦う気がないんだよね...。だから、厄介な相手なんだよ。私も流石にこれは想定外だ。炭治郎の方にいるだろうと思い込んでいたので、この対応は考えていなかった。伊之助と戦うのとは全然違うし、気絶させるという手段がないため、時間を稼ぐという手しかなくなった。

いや、そもそも私ができないと思うから。

 

 

 

.......ここで疑問に思う人が何人もいるでしょう。

厄介な相手とか、勝てるかどうかに答えられないということはそれほど強いのか。そんな強い相手なのに、戦う気がないのは何故かとか、どうして伊之助の名前が出てくるのかとか、色々思うところがあるだろう。私が伊之助のことを挙げたのは対人戦として一番思いついたのがそうだからだ。それはたぶんつい最近だからなのだろうけど。

 

 

 

対人戦を思い浮かべた理由も簡単だ。私と七海の目の前に現れたのはしのぶさんだったからである。

 

 

しのぶさんは鬼殺隊であるため、味方なのではある。だが、今はそうだと言えない。私は鬼殺隊の隊士であり、人間なのであるが、七海は鬼だ。まだ柱合会議も始まってなくて、禰豆子と七海は柱(義勇さん以外の)に認められていないし、しのぶさんは七海の存在をここで初めて知った。

 

なので、初対面であるしのぶさんが七海を殺さない理由はないのだ。説得したいが、しのぶさんが私の話に耳を傾けてくれるか分からない。私はしのぶさんの目線からすると、まだ今年の最終試練を乗り越え、鬼殺隊に入ったばかりの人である。そんな人の言うことを信じられるかどうか。いや、信じてもらえずに問答無用で襲いかかってくるでしょう。しのぶさん、鬼嫌いだし。

 

 

しのぶさんの姿を見て、私は説得方法より逃走のことを考えた。七海も視線で訴えてきたので、同じことを思ったのだろう。

 

 

「こんばんは。隣にいるのは鬼ですよ。危ないですから離れてください」

 

 

しのぶさんは七海を見ながら私に言ってきた。

...この言葉......なんとなく流れが分かった。

 

 

「知っています。けど、友達なのですよ。ずっと昔、人間の時からの」

 

 

私は七海のことをそう言った。ずっと昔というのはまあ間違いではないし、人間の時からでもあるが、厳密に言うと友達になったのは鬼だった時である。ただ、それを言うとややこしいことになりそうなので、言うつもりはない。

 

 

「まあ、そうなのですか。それは可哀想に。では、苦しまないよう優しい毒で殺してあげましょうね」

 

 

私の言葉を聞いて、しのぶさんは刀を構えながら原作と同じ言葉を七海に言う。私も七海も察していたので、それに動揺しない。私は七海から少し離れ、七海は私の前に出る。

 

 

その瞬間、しのぶさんが七海に向かって襲いかかり、七海は血鬼術の水でその攻撃を防いだ。だが、それだけでは終わらなかった。しのぶさんの追撃は止まらず、七海は後ろに下がる。七海は構えた状態で自身を守るようにある水の羽衣を撫でる。

あの水の羽衣は七海を守るものであり、誰かを攻撃するためのものではない。

 

 

人を襲えばこの後の柱合会議で不利になる。だから、どんなに攻撃を受けようとも反撃しては駄目だ。できることなら、これで少しはしのぶさんが七海の様子に疑問を持ってくれるといいが、しのぶさんはかなり疑うと思うから、それはあまり期待しない方がいい。

 

 

七海がやれることは水の羽衣を使って、相手の攻撃を防ぐしかできなかった。連撃の場合は血鬼術で波も出しているから防げるし、力もそこまで消費していない。七海が使っている水の羽衣もその水を操作し続けていれば消費を最低限に抑えられる。

 

このまま鎹鴉に呼ばれるまで時間を稼げればいいが、いつまでこれが続くか分からない。水の血鬼術は結構使っているね。それなら、やはり.......そろそろか....。

 

 

私は考えながらも二人の様子を見て、懐を探り、あれを握った。

 

 

「蟲の呼吸 蝶ノ舞 戯れ」

「右、左、右上、右上、左下(音ゲーか!それもハードモード!!)」

 

 

しのぶさんの攻撃を防いでいる七海を見て、私は心の声みたいなものが聞こえた気がした。それは七海の呟く声を聞こえたからか、私がそう見えているからなのかは分からないが、七海がそんなことでを言っているように感じたのだ。

 

 

だが、今はそんな場合ではないので、その真意は後で聞くとしよう。

て、七海が現在大変な状況であるため、早く行動しなければ。

でも、これは七海をもろに巻き込むわけにはいかないし.........次のタイミングで......よし、今だ!

 

 

「えい」

 

 

私はしのぶさんと七海が離れた瞬間に腕を大きく振り上げ、カプセルを二人の前に投げ入れた。すると、カプセルが地面に当たって開き、中から煙が出てきた。その煙はあっという間に辺りを包み込み、周りが何も見えなくなった。

 

さて、逃げないとね。

 

 

 

 

 

 

 

辺りは煙で何も見えない。だが、時間が経てばその煙も薄くなって消えた。七海は水の羽衣や波で自身の周りを囲みながら辺りを見渡していた。その時、七海の上から誰かが降りてきた。七海はすぐに応戦しようとして腕を上げた。だが、それよりもしのぶが早かった。七海の血鬼術をすり抜け、しのぶは七海の体を何度も突き刺す。突き刺された七海の体はその場に倒れた。

しのぶは振り返って七海を見て、目を細めた。何故かというと、その場には七海の姿はなく、大きな水溜まりができているだけだったからだ。

 

 

 

「......どうやら逃げられてしまったようですね」

 

 

しのぶはそう言いながら周りを見渡し、何かを見つけたかと思うと、その方向に走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....というわけで、分身がやられたわ。相手もあの煙を利用して跳んで、上から攻撃してきたみたい」

「煙は目潰しができて、こちらに利点があるけど、相手側も自分の姿を見せなくできるという利点があるからね。やっぱりその様子だと、しのぶさんは煙を吸っていなさそうだね。それで、この状況をなんとかできるとは思っていなかったけど、少しでも好転しないかという期待があったのだけどね」

 

 

私はしのぶさんから少しでも離れようと走る。戦っている最中に七海が血鬼術で水を使い続けたから、あの辺りは水溜まりだらけだった。私と七海が相まみれた時、身代わりとして自身の偽物を作った。あの時のことを詳しく聞いてみたら、あれは血鬼術の水に自分の姿を映した後、その姿に力を注ぎ、その状態で上に持ち上げるように操作したそうだ。そうして、あの偽物は実体となったそうだ。

それと、入れ替わりの方法はあの偽物を出した瞬間に自身の体を水に換えて、足元の水の血鬼術に混ざり、それで移動していたらしい。

 

 

その言葉で私は納得した。偽物か本物かは透き通る世界で分かったけど、その方法は知らなかった。私の見えたものは突然七海と似た姿が現れたことと、本体の七海が下がっていったと思ったら消えたところだったので。

人が高速に溶けていくところはホラーだと思ったよ。そんな場合じゃなかったから、あの時は深く考えなかったけど。

 

 

あれは内心驚いたと七海に言うと、七海も透き通る世界ではそういう風に見えていたことに驚愕していた。

上弦の陸の堕姫が自身を帯に変えていたから、それを自分でもできるのではないかと思って試したらできたものらしいなので、客観的に見てどうなっているのかは初めて知ったようだ。

 

 

......このことを知ったのは前の時、つまり私からすると二週目、七海からすると三周目の時になって、ある程度慣れた時だった。

私と七海が戦った時のことを笑って済ませるくらいになり、その話をした。それが今回で役に立つのは予想外だった。

 

 

 

私と七海がしたことは最終決戦での私と七海の戦いでやったことと同じだ。まず、七海がしのぶさんと戦い、水の血鬼術を使う。水の血鬼術は攻撃を防げるが、それは七海に当たらないようにするだけで、水の方にはその攻撃が当たっている。なので、その度に水の血鬼術は地面に落ち、それが何度もやれば水溜まりになるということだ。

地面に落ちて、その水で七海の分身を作ることが可能となるのだ。七海が分身を作った後、分身の七海を外に出すと同時に、自身の体を溶かし、地面にある水へ混ざり合い、私の方へと行った。私が背負い箱を下ろすと、七海は液体のままその中に入っていき、全身が入ったら手だけを元に戻した七海に合図を出され、私はその背負い箱を背負って、しのぶさんから離れた。

 

 

地面が水浸しになったらその過程を見られないようにとあのカプセルに入った煙を使った。わざわざ声を出して投げ、視点をこちらへ向けたので、七海が水に姿を変えたところは見えていないはずだ。カプセルを投げてから私が逃げるまでにかかった時間はそんなにない。今のうちに遠くに行かないと。

しのぶさんはすぐに気づくはずだ。なので、あまり期待していなかったが、睡眠薬の成分の入った気体の薬もあの煙の中に混ぜていたのだ。持ち物を少なくしているため、狭霧山でたくさんの種類を作れなかった。だが、使いそうなものは用意していた。

しかし、それは失敗に終わった。しのぶさんにはすぐにバレるとは思っていたが、それでも少し吸うとも思っていた。

けど、それは甘い考えだった。しのぶさんがあの煙を利用しようとしたのは想定外だった。

 

 

追いつかれる可能性は高い。今の私は柱と戦えるほどの力がない。ぎりぎり反応ができるから、それで攻撃を受け流すことはできるが、逃げ切れない。足も柱と比べたらまだまだだ。特に、しのぶさんは速い。あの突き技の速さからしても、柱の中でも速いのは間違いない。

その速さを私に使われるとなると.......一所懸命に広げた距離もすぐに縮められてしまうだろう。

 

 

しのぶさんの速さは何度か手合わせしたので、それがどれくらいなのか知っている。だから、私は少しでもしのぶさんが追いつきかけた時に抵抗できるように、私は木の枝を道として使った。

 

 

木の枝の上は安定感がないし、通れる道は限られてくる。だが、地面よりも障害物が無くなる。それに、しのぶさんが真上から来るという手段もなくなる。

原作でしのぶさんは炭治郎と禰豆子を追いかける時に枝の上を通っていた。しのぶさんがそういった道を通れるのは間違いなく、それは非常に厄介だということだ。下手したら回り込まれる可能性だってある。私も地面を走っていたら前方に誰かいないかと見ているので、上にまで視線を向けるのは難しくなる。

 

 

でも、私も同じように木の枝の上を通っているなら話が変わる。私がその道を通る時にどの道なら行けるのかというのを見て知っているので、しのぶさんの通る道も分かるし、それを予測しながら進めるはずだ。下から来ることもあるだろうが、一応足元も見ているので、こちらの方がまだ分かりやすいと考えている。

 

 

「蟲の呼吸 蜂牙ノ舞 真靡き」

 

 

その声と気配を感じ、私は背中を狙う攻撃を弾いた。それと同時に、私は高く跳び、枝の間を足場にして飛び越えた。何本もの木と枝を通り過ぎているのを見ながら、私は着地場所を探したが、見つからなかった。なので、私の体重がかかっても大丈夫そうな枝を掴み、その枝を軸にして体を上げ、再び跳び上がった私は次の木の枝に着地した。

 

 

私が足場にしている枝よりも高い位置にだって枝はある。だが、その枝は下の枝よりも細く、私が足場に使ったら折れそうなものだ。だが、木の間はまだ太さがあるため、足場にすることは可能だと考えたのだ。ただ、枝の間であるために他の枝と比べたら太い。少し狭いのだが、そこは私が通れそうな場所を見つけて、そこを上手く使った。上手く行って距離を広げたが、それもすぐに縮められてしまうだろう。

 

そう考えているうちに後ろから殺気が来て........。

 

 

 

「華ノ舞い 水ノ花 水仙流舞」

 

 

私はしのぶさんの鋭い突きに対抗して、華ノ舞いを使った。柱の攻撃に耐えられるのは華ノ舞いくらいだ。誤魔化せるように水の呼吸に似た型を使ったので、華ノ舞いのことを深く言及されないだろう。前回はこのことを知られて、柱の皆さんにいっぱい華ノ舞いについて聞かれたのだよね。

まあ、私は自分もよく分からないとしか答えられなかったけど。

 

 

しのぶさんが追いつき、私はしのぶさんの攻撃を華ノ舞いで防ぎ続けるしかない状況へとなった。

七海は出さない。木の上だから、人数が多いと足場が少なくなるし、二人で同じところにいたら枝が折れてしまう可能性がある。それに、ここでの戦いはかなり難しくなっている。木の枝の上はバランス感覚が必要だ。その上、しのぶさんの速さからして、足が速くないと駄目だろう。私も鬼の七海もしのぶさんに速さで勝てない。だから、少しの可能性を賭けてここを選んだのだ。空間を上手く使えばしのぶさんと真っ向勝負にはならないはずだ。

 

 

しのぶさんに勝てる自信はないので、上手く受け流していくしかない。鍛練をしていたから、その訓練の成果が出ているけど........。.....そもそも私は鬼と戦って勝つために鍛えていたけど、しのぶさん達とも戦うためにやっていたわけではないのですけどね!

 

 

「うっ!」

 

 

しのぶさんの攻撃を受け止めていたが、あまりの鋭さや衝撃で私はバランスを崩しそうになった。体勢はすぐに整えられたが、油断も隙も見せられない。

私はしのぶさんの突きを華ノ舞いでいなしながら逃げ回っている。だが、ぎりぎりの勝負だ。この状況が少しでも崩れれば押し切られる。これが呼び出されるまで続けばいいが、そうじゃなかった場合は........。

 

 

私は内心で解決策を一生懸命に考えながら華ノ舞いを使い続け、しのぶさんの追撃を弾いていた。

その時、

 

 

「華ノ舞い 水ノ花 水仙龍舞」

 

 

私はいつもの通りに華ノ舞いを使おうとしたが、何かが違った。いつもの言葉を言ったはずなのに、それとは違った感覚がした。そして、型も違った。

動きは似ている。だけど、いつものとは違う動きが少しあるのは分かる。それに、先程から私の頭の中に二人の型が浮かんできた。一つは水の呼吸の拾ノ型の生生流転、もう一つはヒノカミ神楽(日の呼吸)の日暈の龍・頭舞いだ。

どうしてこの二つの型が出てくるのか分からないが、龍のような動きというところが共通点だった。やがてそれが止まると、日輪刀にある水仙の模様だけが黄色く光った。私はそれに驚いたが、何故か力が湧いてくるため、立ち止まらずに刀を握った。

 

 

私は回転しつつうねる龍のように刀を回転させ、その状態で流れるような動きをする。その動きの軌跡が龍形状になっている。だが、そのおかげでしのぶさんの突きを回避できた。連続で攻撃されていたけど、それらも全部弾けるほどであった。

 

 

私は木の枝を跳び回り、先回りして追いつくしのぶさんの突きを弾いては逃げ回っていた。しのぶさんは容赦なく攻撃してくるので、背中を見せないようにしている。背中には七海が入っている背負い箱があるので、七海を狙っているしのぶさんは遠慮なくそこを攻撃してくる。私は後ろのしのぶさんを警戒しながら足を止めなかった。気配だけでなんとか行けている。

 

 

踏み外した時や道が途切れてしまった場合はどうするのかと思われるだろうが、そこは大丈夫だ。七海がその補助をしてくれる。

 

 

私がしのぶさんの攻撃を避けながら進んでいると、何か空白があるような感覚がした。それでも、私はそのまま跳んだ。足はなかなか枝に着かず、浮遊感を感じた。

だが、私は動揺しなかった。こうなっても大丈夫だからである。私の体が下がり続けているのに反応したのか、背負い箱から水が出てきた(まあ、出てこないと困るのは私だけどね)。

水は私の足元まで流れ、私はその水を足場にして進んだ。

 

 

水だから通り抜けないかとか、ちゃんとした足場になるのかという疑問を持つが、それは七海の血鬼術であるために大丈夫だ。七海は血鬼術で水を操れるが、それだけではない。水だけでなく、氷も操ることができるのだ。

それを使い、七海は私が足につく前に血鬼術で一部を凍らせ、その凍らせた部分を私が思いっきり蹴り、木の枝の上に戻った。凍った部分は私の蹴る衝撃で割れて無くなるので、何も残っていない。

 

 

そうやって私は七海がしのぶさんに攻撃されないように突きを弾き、七海は私が木の上から落下しないように血鬼術で補助するというように、互いに互いを守っていた。

 

 

そうやって私と七海は互いの危機を回避していた。だが、それもいつまでも続くわけがないと知っている。七海はともかく、私の体力には限界がある。だから、現状を維持しておくのも少し難しいと考え、次の方法を考えていた。

そうしていくうちに、私は鬼の気配が消え、その気配が消えた方向から微かに声が聞こえてきた。私はしのぶさんを気にしながらもその方向に視線を向け、七海に相談した。

 

 

「気配が消えたし、この声は.........行けば巻き込むけど、私と七海ではこれが限界」

「むしろ原作に近い形に戻ることになって、それはそれで良いじゃない」

 

 

私の言葉に七海は賛成してくれた。それが背中を押すきっかけとなり、私はちょうど良さそうな木の間を見つけ、そこを強く蹴って高く跳び上がった。木を何本も飛び越え、私はある一点を見つめ続けた。

そして......。

 

 

 

「ごめんなさい!見つかって、厄介なことになりました!」

「彩花!?」

 

 

私は地面に着地すると同時に謝った。炭治郎と禰豆子と義勇さんに。

逃げている最中にこの山に入ってから感じていた鬼(おそらく下弦の伍の累)の気配が消え、炭治郎と禰豆子と義勇さんの声が耳に入ったのだ。具体的に何を言っているかは分からなかったけど、私はどんな状況でも三人がいるならと思い、義勇さん達のところへ向かった。ただ、これはこれでさらに厄介なことになるのは分かっていた。だが、この状況を変えるにはこれが最善なんだよね....。...義勇さんに負担が凄くかかるけど。

 

 

炭治郎は凄く驚いた様子だった。私がいきなり上から来たことにびっくりしているのだろう。説明した方がいいだろうが、私が止まらないのでそれは難しい。

 

えっ?着地できたのではなかったかって?

うん。着地はできたよ。でも、流石にずっと走ったり跳んだりしていたわけであり、その勢いのままここへ来ているので、地面に足が着こうが止まらないのである。今の私は加速がついたまま地面に滑り込んでいるスライディングをしているようなものだ。

なので、私は目的地に着いたとしても止まれないのだ。

 

 

それに、これ以上に色々起きているので、それどころではないのだ。義勇さんは一早くそれに気づき、スライディングして横を通り過ぎる私とすれ違いで刀を出し、しのぶさんの攻撃を防いだ。しのぶさんは義勇さんに弾かれ、すぐに体勢を整え、義勇さんの原作と同じ言葉を投げかける。すると、義勇さんも原作と同じようなことを言った。

 

 

義勇さんに攻撃を弾かれた時のしのぶさんの表情は原作とかでは普通に笑っていると思っていたけど、よく見たら僅かに目を大きくさせていた。.....これは私がしのぶさんの表情の違いを分かってきたからなのか、それとも私の行動で色々変わっているからのかは分からないけどね。

 

 

 

そんな関係ないことを考えている間に色々進んでいたらしく、しのぶさんが炭治郎にも呼びかけて禰豆子のことを聞いていた。考え事をしていて流していたが、おそらく原作と同じやり取りをしていたと思う。

炭治郎が妹だと伝えたが、しのぶさんは原作と同じであり、私の時と同じことを言い、私と炭治郎は義勇さんによってその場から逃がしてもらった。

私は知っていて連れてきた罪悪感が凄く、義勇さんに頭を下げて礼を言ってからその場から離れた。走り出してから少し時間が経ち、カナヲが上から降りてきて、炭治郎の背中に乗った。それにより、炭治郎はバランスを崩し、禰豆子が宙に舞うのを私が受け止め、地面にゆっくり下ろした。

立ち上がった後、禰豆子に向けて攻撃しようとするのに気づき、二人の間に入り、刀を弾いた。

 

 

気になって炭治郎の方を見ると、炭治郎は気絶していた。カナヲの手(いや、この場合は足か?)によってだろう。そうなると、禰豆子をどうするか。原作ではカナヲが禰豆子を追いかけていたけど、今回は禰豆子と七海を追うだろうから、その場合はどうなるか分からない。禰豆子の方へ行くか、それとも七海が背負い箱の中にいる私の方へ行くのかも知らない。

まあ、どちろにしても私達がバラバラに動くことになるのは確実だから、どっちになろうとも困る。なので、私は考えた。

 

 

 

どちらかにカナヲが行くかというそんな賭けみたいなことになるより、別の方法にした方がいいだろう。

それはどんな方法なのかというと、私がカナヲと戦うということだ。

どうしてそんな発想なるのかと聞かれるだろうがね.......。

 

 

 

....禰豆子か七海のどちらかをカナヲが狙った時に私がその攻撃を止めたら、必然的に私をなんとかしないと任務は達成できないとカナヲが判断するよね。そうなれば私がここでカナヲを足止めすることになる。その時に禰豆子は気絶している炭治郎のところにいてもらう。禰豆子を一人にするのも不安だからね。禰豆子が人を襲うわけはないが、それを知らない人と出会えば禰豆子は確実に襲われるだろう。それに、私達が呼び出されてすぐに夜明けだったはずだ。今の禰豆子は日光を克服していない。もし呼び出された時に日光を浴び、それで克服できなかったら禰豆子は私や炭治郎の知らないところで亡くなる可能性がある。それは嫌だ。

それが心配だから、禰豆子にはここに残ってもらわないと。

 

 

私はカナヲと向き合い、禰豆子にそう言いながら前に出た。

 

 

「禰豆子はそこにいて」

 

 

私はカナヲが禰豆子に向ける攻撃を弾いて防ぎ、禰豆子は私の言う通りに炭治郎の横で大人しくしていた。カナヲが何度か禰豆子の方へ向かおうとしてくるが、私はそれを全部受け流したり弾いたりして、禰豆子から遠ざけた。

 

 

しばらくして、カナヲは禰豆子が何もしないことを不思議に思ったらしい。禰豆子を見ながら少し首を傾げていた。こういう小さな動作が原作でもあったのか分からないが、私の目にはそれがはっきりと見えた。

しのぶさんの時と同じなのかは知らないし、私の見間違いという可能性もあるが、カナヲが禰豆子の行動に疑問があるのだということは直感的に間違いないと思った。

これも三度目の影響なのかどうか......。

 

 

「禰豆子も七海も他の鬼とは違うよ。人間は家族で、守る存在だって二人は認識しているから。逆に鬼は倒さないといけない存在と思っているんだよ」

「...........」

 

 

カナヲがせっかく禰豆子は他の鬼と違うという印象を受けているのに、それをこのまま無視するのは勿体ないので、それで説得してみようと考えた。だが、カナヲは返事をせずに刀を振り続け、私もカナヲの攻撃を弾いていた。

 

 

「伝令!竈門炭治郎、竈門禰豆子、生野彩花、生野七海ヲ本部ニ連レテイケ!炭治郎、市松模様ノ.......」

 

 

そうしているうちに、鎹鴉の声が聞こえてきた。私もカナヲもその声で動きを止める。

 

 

「貴女が生野彩花で、背中にいる鬼が七海で、あっちにいるのが竈門禰豆子?」

「はい、それで合っています」

 

 

カナヲの質問に私は頷いた。七海が刀を仕舞い、私が安堵して空を見上げると、少し空が明るくなり出していた。夜明けが近いと分かり、私は慌てて背負い箱を探し、禰豆子に入ってもらった。禰豆子はすぐに入ってくれたので、日光に全く当たることはなかった。

禰豆子が背負い箱の中に戻ると、隠の人達が近づいてきて、気絶している炭治郎を運び、七海と禰豆子の入っている背負い箱も預かってもらったし、私も御館様の屋敷まで運ばれた。

 

 

 

柱合会議に参加するので、私の持ち物は全て預けないといけないし、何もできないように手も縛っておかなければならない。そのため、私の薬やその道具は別の隠に預け、私は大人しく腕を縛られた。

まあ多少不自由になるけど、問題はない。今回の鍛練で前の時の感覚を取り戻そうとあれこれしていて、その中で体幹を鍛えるために腕を縄で縛った状態で攻撃を避けるという訓練をしたので、この状態でもある程度は動ける。

それに、隠の人達がやってくれたこの縛り方だと僅かに指が使えるため、いざという時は解くことが可能だろう。......前々回で私が蝶屋敷に半分軟禁状態だった時に宇髄さんが悪ふざけで教えてくれたのがここで役立つとは.....。

...というか、宇髄さんもその時の私に拘束された状態からの脱出方法を教えないでよ!凄く助かるけど!

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きろ。起きるんだ。起き........オイ。オイコラ。やい、てめぇ。やい!!」

「炭治郎、起きないと。たぶん揃ってきているから、そろそろ始まると思うよ」

「......うっ....」

 

 

炭治郎は隠と私の声に反応しているが、まだ目が覚めない様子だった。それを見て、後藤さんは怒ったような表情をした。なかなか起きないし、後藤さんは早くここから離れたいだろうからね。柱の圧が怖くて、すぐにでも逃げ出したいのに、炭治郎が起きなければできないのだろう。

 

 

「いつまで寝てんださっさと起きねぇか!!柱の前だぞ!!」

「はっ」

 

 

我慢の限界だった後藤さんがとうとう叫び、それによって炭治郎は目を覚まし、起き上がった。炭治郎は目の前にいるしのぶさん達に困惑しながら辺りを見渡し、私がいることに安堵していた。

 

炭治郎。安心するのは早いよ。これから会議が始まって、本番になるのだから。

 

 

「ここは鬼殺隊の本部です。あなたは今から裁判を受けるのですよ、竈門炭治郎君」

 

 

炭治郎はしのぶさんの言葉を聞き、再び周りを警戒した。炭治郎からしたらいきなりここへ連れてこられて、こうして人に囲まれているのだから、この反応が当然だろう。

それに......。

 

 

「裁判の必要などないだろう!鬼を庇うなど明らかな隊律違反!我らのみで対処可能!鬼もろとも斬首する!」

「ならば俺が派手に頸を斬ってやろう。誰よりも派手な血飛沫を見せてやるぜ。もう派手派手だ」

 

 

周りが斬首に賛成している人達ならなおさらそうなるだろう。炭治郎は困惑している。私は原作通りなので、当然の反応として受け止められるけど、炭治郎はそうではない。

その後も原作通りに進み、伊黒さんによって義勇さんが攻められることになりかけたが、そこはなんとかなった。義勇さんの当たりは原作よりも凄いだろう。何せ、私達が増えているからね。おまけに誰も擁護してくれない。

 

炭治郎が必死に禰豆子は人を食べないし、一緒に戦えるということを主張しても誰も信じてもらえなかった。私は特に何も言わなかった。言っても今は証明できないため、意味がないだろうと考えたからだ。

私と炭治郎は人を襲わず一緒に戦える七海と禰豆子を知っているが、他の人は知らない。だから、信じてくれない。だけど、しのぶさんだけは私の方を見てくる。

それは那田蜘蛛山の時の私と七海を見ていて、何か思うところがあるからなのか....。

 

 

それでも、私は何も話さなかった。その代わりに準備をしていた。この後はおそらくあれが起きるだろうから......。....むしろそちらの方が重要だ。

 

 

「オイオイ、何だか面白いことになってるなァ」

 

 

その声が聞こえ、全員の視線がそちらに向いた。その間に私は起き上がり、いつでも動けるようにしておく。

 

 

「困ります、不死川様!どうか箱を手放してくださいませ!」

「鬼を連れてた馬鹿隊員はそいつかィ。一体全体どういうつもりだァ?鬼が人間も守るゥ?そんなの、無理なんだっ....て........なんだよ?」

 

 

隠の人達が不死川さんに向けて怯えながらそう言った。だが、不死川さんはそれを無視して、私と炭治郎に話しかける。その手には禰豆子と七海の入っている背負い箱がある。

原作と違って二つになっているけど、しっかり片手で持てている。そこは凄いと思うが、不死川さんのもう片方の手に持っている日輪刀は駄目だからね。

 

 

私は不死川さんが背負い箱に刀を向けた瞬間、地面を強く蹴り、縛られた状態のまま不死川さんから禰豆子と七海の入った背負い箱を取り返した。どうやったのかというと、指で背負い箱の紐の部分を摘み、腕を大きく動かして、不死川さんから遠ざけ、私は後から不死川さんと距離を取った。

例え腕を縛られたとしても、指は自由に動かすことができる。だが、指だけで二人分の体重を支えきれるかと考えると、それはとても難しいだろう。そもそも力があまりないので、指で摘んで持ち上げられるかどうかも微妙だった。思いの外簡単に持ち上げられたのだけど、それはおそらく火事場の馬鹿力だと思っている。

 

 

私は二人の近くまで来てすぐに禰豆子と七海の無事を確認すると、背負い箱から音が聞こえてきたので、二人とも大丈夫なのだろう。私はそのことに安堵すると同時に不死川さんの攻撃を警戒して前に出た。だが、振り向いた時にその心配をしなくても大丈夫だというのは分かった。

炭治郎が不死川さんに頭突きしているのなら、あちらに視線を向けると。

 

 

「善良な鬼の区別がつかないのなら、柱なんて止めてしまえ!」

「テメェ!」

 

 

原作通りのその展開を見て、私は大きく息を吐いた。こういうところは変わらないのかというのが今の感想である。

 

....えっ?あの二人を止めないのかって?

私がそれを知る必要はないからね。私が止めなくてもこのすぐ後に止まるし、それは私が止めるよりも効果があるし。

 

 

「お館様のお成りです!」

 

 

その声を聞き、私はいよいよ本番だと覚悟を決めた。

 

 

 

 








先週は投稿できず、申し訳ありません。インターネットのトラブルでこのサイトを開けなくなってしまったうえに描き途中だった話も何処かへ行ってしまい、今週になってしまいました。
なので、今週は二話投稿したいと思ったのですが、今週もまたインターネットのトラブルでサイトに何回か入れないことがあり、次話の投稿は早くて明日、遅くて明々後日って辺りになります。
本当に申し訳ありません。



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三度目の少女は信じている 後編

 

 

 

御館様が現れ、私は頭を下げた。炭治郎にも教えるべきなのだが、炭治郎とはあまりに距離が離れすぎていて、声が届かずに炭治郎は不死川さんの手によって地面に押さえつけられた。凄く痛そうな音が聞こえたが、炭治郎の頭は石頭であるため、頭は守られるだろう。私は先に頭を下げていたので、特に何もされなかった。その後は原作のように御館様は禰豆子と七海のことを容認していたことと柱もこれを認めてほしいことを話し、柱はこれに反対し、鱗滝さんの手紙が読まれた。炭治郎は義勇さんを見て涙目になり、私も義勇さんに向けて頭を深く下げた。

 

 

それ以外の話の最中に私は誰にもバレないように手を上手く使い、縄を緩めていた。いざという時に動けた方がいいと思い、表面上は縛られた状態でもいつでも解けるようにしておいた。ちなみに、縄を解く技術は前に宇髄さんから悪ふざけで教わった。それを見て知った義勇さんには上手な縛り方を教わり、それがしのぶさんにも伝わって、二人とも怒られていたな。

 

 

「御館様!証明してみますよ、俺が!鬼という物の醜さを!!」

 

 

不死川さんがそう言うと同時に血の臭いがした。私は試しが始まったと思い、禰豆子と七海の方を見た。その瞬間、風が吹いたと感じた時には既に不死川さんは二人の入っている背負い箱に足を乗せ、血を垂らす。

私はそれを見ても何もしなかった。

この後に不死川さんが何をするかも知っているため、できることなら止めたいのだが、それはしなかった。

それに、不死川さんの血は稀血で、その稀血の中でもかなり特別なものだ。その血に耐えられたのなら、禰豆子と七海が人を食べないという説得力はかなりあるし、どんな血でも二人が人を食べないと諦めがつく。

 

 

不死川さんが背負い箱を御館様の屋敷の中に持っていき、禰豆子と七海ごと刺している。炭治郎はそれを見て止めようとして、伊黒さんに押さえつけられている。私は紐を解いて駆け寄りたいのを我慢し、この試しが早く終わることを祈った。

これさえ我慢できれば柱も一応認めることができる。証拠を見せるのだと思って、今は耐えるしかない。この怪我も証拠としてより強くするためだと思って、見ていかないと。

 

最初のあれだけはこの時にどちらにしろ刺すのだから、止めてもいいだろうと判断して、私が勝手にやったことだ。覚悟をしていた七海は怒ってバンッという音を立てていたけどね。

 

 

今回は七海と話し合って、既にそうするのだと決めていた。禰豆子にも我慢してほしいと事前に頼んだ。だから、私がするのは信じて待つのみだ。

 

その時、バキッという音が聞こえた。背負い箱が壊れたのだとすぐに分かった。現実逃避したいのか知らないが、私の頭の中では背負い箱の修理代を不死川さんに請求してもいいかなということが浮かんだ。

原作ではどうなったか知らないけど、壊したのは不死川さんだから、これくらいはしてもいいよね?

 

 

頭の中でそんな馬鹿なことが浮かんでいたが、七海の様子を見ていたらそれは吹き飛んだ。七海が唸り声を上げていたからだ。瞳孔は大きく開いている。

 

 

私は七海の様子を見て息を呑んだ。それと同時に、私の頭の中には柱合会議のことで七海と話し合った時のことが浮かんだ。

 

 

 

『....やっぱり柱合会議で不死川さんの稀血に耐えるあれは必要なことよね』

『うん。不死川さんの稀血は凄い強力だし、何度も傷つけられるけど、それに耐えられさえすれば誰も反論できなくなるし、否定するのも難しくなると思う。その後の利点はかなりあるよ』

『そうよね.....。...禰豆子は耐えられるとしても、アタシは不安だわ』

 

 

柱合会議のことを話し合う時、七海がそう呟いていた。私は七海の様子がおかしいことに気づいていたが、とりあえず思ったことをそのまま伝えた。ここで嘘をつくのは駄目だからね。

七海はそれを聞いて、溜息を吐いた。表情からして不安だというのが分かる。それを見て、私は七海にしては珍しいと思ったが、同時に仕方がないのかもしれないとも感じた。

 

 

七海が人間に戻った当初は大変だった。鬼だった頃の名残があり、全然食べようとしなかったのだ。私は焦った。七海の様子を少し診たら、七海が拒食症になっているのはすぐに分かった。

拒食症は別名で神経性やせ症と呼び、体重や体型の感じ方に障害が起きるそうだ。だが、七海はそれと違った。体重や体型の感じ方というより、胃に何かを入れることを気にしていた。それも何かが入ってくると、恐怖を感じていた。もう食事制限という段階ではないし、胃から吐き出そうとする傾向が何度もあった。

 

 

普通は拒食症になるきっかけが学業などの成績の低下や人間関係の破綻、肥満と判断された体型への揶揄いなどの挫折経験であるが、七海の場合は人を食べてしまうことへの恐れで、胃に何かが入るのを避けているのだと思った。

だって、一度目の七海は人間どころか何も食べていなかった。水を飲むくらいはしていたかもしれないけど、それでも胃の中には特に何も入っていなかった。一方で、二度目の七海は人間をいっぱい食べるようになった。当時の話を聞いてみたら前の時と比べると、拒食症と反対の過食症になったのではないかと感じた。それくらいに違いかあり過ぎた。

 

 

私は七海が拒食症で痩せていく姿を見ていられなかった。このままだと精神的に不安定になっていくと分かっているからだ。いや、七海は炭華のことで暴走したり、炭華に何かしようとした相手にイライラして、その怒りをぶつけたりしていたが、それが七海の単純な暴走なのか、精神が不安定だったからなのか分からなかった。当時は拒食症の影響だと思っていたが、治った後でも同じことをしていたので、今では七海が単純に暴走していたのではとも考えている。

 

 

 

......さっきも言っていたが、七海の拒食症を治すのは苦労した。普通の拒食症と違うため、あれでは過食症も起きないと思った。神経性やせ症は拒食症の症状も過食症の症状も出るが、七海の様子だとずっと食べれないという状態になると感じた。

七海がこうなった決定的なのはおそらく人間を食べたことが原因だろう。鬼になってから何も食べず、食べるにしてもその対象が人間であるため、ずっと食べるという意識を持たないようにしていたのだと考えている。そんな状態だったのに、七海は食べないようにしていた人間を無理矢理に食べてしまい、それが現在に繋がったのだと話を聞くうちに分かった。

 

症状の原因が分かり、私は七海の精神を安定させて、食べることへの心的外傷(トラウマ)を克服させようとした。七海に肉料理は出さず、基本的に野菜類が主な食事にさせ、竈門家の人達にも協力してもらい、時間はかなりかかったが、すっかり回復したと思っている。

 

 

だが、たまに肉料理が出てくる時に一瞬固まっているので、完全に克服できていないのだと思う。それほどまでに七海は人間を食べることへの恐怖が根強いようだ。そういうことに敏感な七海は柱合会議を乗り越えられるかどうか心配なようだ。

禰豆子と七海の頸に私達四人の命がかかる。それは柱合会議で認めさせるために必要なことだが、同時に禰豆子と七海が四人の命を背負っているようなものだ。特に、今回はおそらく片方が耐えられても、もう片方が耐えられなければ駄目だ。

そういうわけで、七海は自分が不死川さんの血に耐えられなければ五人の命が失われるということで緊張しているのだ。まあ、凄いプレッシャーなのだと分かる。

 

 

その時の七海の表情が、笑っていても笑えてなく、不安そうで何処か自暴自棄になっているような七海の顔が今の七海と重なり、私は考えるよりも先に声を出していた。

 

 

「七海!」

 

 

私は七海を呼んだ。七海の体がピクッと反応し、こちらを見た。私も七海をじっと見る。

 

 

「信じているからね、七海」

 

 

私は七海の目を真っ直ぐ見つめながらそう言った。七海の瞳に私の姿が映る。

七海の頭には柱合会議のことで話し合ったあの時が再生されていた。

 

 

 

 

 

 

『七海。.....私は七海なら大丈夫だと思っているよ』

『はあ!?アタシは人間を食べたのよ。他人事だと思って。稀血がどういうものかも分かってないのに...しかも、それを上回るものに耐えなくちゃいけないのよ』

『でも、やりたくてやったわけじゃないでしょう。それに、七海は割と負けず嫌いなところがあるから、もう二度と同じ失敗はしないとか、禰豆子に負けないとか思っていけばなんとかなるという可能性があるよ』

『いや、楽観視過ぎよ!』

 

 

彩花は七海を見ながらそう伝える。先程まで不安そうな表情だった七海は目を見開き、彩花に凄むようにしてそう言った。だが、彩花は七海が凄もうが気にしなかった。その彩花の言葉に七海はツッコミを入れた。

 

 

七海は深く考えずにそんなことを言う彩花に不満そうな顔を向けた。だが、すぐにそれは収まった。彩花がこう言ったのは元気づけようとしているからなのは分かっている。

 

七海は息を大きく吸った。

 

 

『......はあ。彩花は知ってるでしょ、あの時のアタシを。アタシが多くの人間を食べてきてたのを彩花は感じ取ってたでしょ。アタシは人間の味を知っているわ。特に、稀血の人間なんて珍しいし、普通の人間よりも食べれば強くなるのは分かってたから、積極的に食べてたのよ。だから、きっとその時のことが原因で、それが本能に反応して..........』

『うん。確かに私は人知っているよ、人を食べて上弦の鬼になった七海も、炭華を傷つける人以外に甘い七海も。だけど、私が付き合いとして長いのは炭華を傷つける人以外に甘くて優しい七海の方だよ。だから、どちらを思い浮かべて信じているかと言われたら後者の優しい七海の方かな。あっ。どちらも七海なのは確かだよ』

『....幾ら彩花がアタシを信じると言っても、もう片方の鬼のアタシのことは含まれてないでしょ』

 

 

七海の溜息と共吐き出された言葉に対して、彩花は頷きながら語っていく。最後の言葉は彩花なりの慰めなのか知らないが、そんな彩花の言葉に七海はまた溜息を吐きそうになった。だが、文句も言いたいらしく、七海は不貞腐れた顔をした。

 

 

『ううん。私が信じると言っているのは私と過ごした人間の七海と、亡くなると分かっている人を助け、私の声にも反応してくれた鬼の七海だよ。でも、炭治郎達の関係を壊してしまい、自分を罰したいと願って上弦の鬼になった七海も信じていないというわけではないよ』

『.........確かにどれもアタシだけど、流石に恥ずかしいから、もっと別の呼び方はないのかしら』

『うーん。それなら、人間の七海と上弦の鬼の七海と今の七海の三つでいい?』

『もういいわよ、それで。.....できればもう少し絞ってほしかったけど』

 

 

彩花が首を横に張って答えた。それを聞いていた七海は彩花から顔を背け、彩花は首を傾げながら七海に近づき、七海と視線を合わせようとして、七海の頬が少し赤くなっていることに気がついた。彩花が気づいたと察した七海は顔を先程よりも真っ赤にしてそう言い、彩花もそれを見たら流石に止めようと思ったらしい。少し考えた後、七海に提案すると、七海は仕方がないと呟きながら頷いた。七海の最後の方の言葉は彩花の耳に入ったらしく、彩花はまた首を傾げていたが、今度は続きを話すことにしたようで、口を開いた。

 

 

『...私が言いたいのは全部というわけではないけど、七海のことはいっぱい知っていっていると思っている。どんな七海も優しいし、一生懸命で最後までやり遂げようとする』

『最初に大失敗したし、彩花に初めて会った時もできなかったし』

『あの時はごめんね』

『アタシの方が悪いからいいわ。アタシは彩花を殺そうとした』

『別に気にしてないよ。あの時に私は七海の頸を斬った。その時点であの時のことは私の中で終わったことになっているから』

 

 

彩花の言葉に七海はまた反論した。今度はこの世界に来てから上弦の鬼になっていた時までのことを持ち出し、彩花はそのことに思うところがあるらしく、話題に出されたら謝った。そうすると、七海からも謝罪があり、彩花はもう気にしていないと言って笑った。

 

 

『彩花。自分を殺そうとした相手をそんな簡単に許したら駄目よ』

そういう七海も頸を斬ったのは私だよ。そっちは気にしなくていいの』

『アタシの場合は仕方がないわよ。敵同士だったもの。それに、色々やってたし、完全に暴走してたわけだから、それを止めるためだと思えばね』

『敵同士だったからだと七海が私を殺そうとしたのも仕方がないっていうことにならない?ブーメランだよ』

『うっ』

 

 

それを見て、七海が呆れた顔で彩花に言うが、彩花は全く気にしていない様子で、逆に聞いてきた。七海は彩花の言葉に顔を背けながら言うが、彩花は七海の答えに不満らしくて反論した。その反論で七海は図星を突かれ、一度言葉が詰まった。それでも気を取り直して反論しようとしたが、その前に彩花の話し出す方が早かった。

 

 

『だから、もし柱合会議で七海が不死川さんの稀血に耐えられなくて、それで処刑されても私は仕方がないことだと思うよ』

『.......はあ』

 

 

彩花の言葉に七海は一瞬固まった。だが、すぐに正気を取り戻し、彩花の胸ぐらを掴んだ。

 

 

『どういうことよ!』

『私だって、七海と一緒に鬼殺隊へ入ると決めた時に何も考えてなかったわけじゃない。今は正気でも何かがきっかけで襲ってくるかもしれない。もしかしたらまた人を食べてしまう可能性だってある。そう考えたよ。だけど、それでも七海は耐えられるから大丈夫だと信じて、期待した』

 

 

七海が怒鳴るのを彩花は素直に受け止めた。そうなっても仕方がないと思っているのだろう。そして、正直に話した。

彩花は胸ぐらを掴まれているが、気にした様子を見せずに七海の手を握った。

 

 

『ごめんね。勝手に信じて、期待して。鬼殺隊に鬼が入ったらどんな扱いをされるか分かっていた。隊士に頸を斬られる可能性があるのにも気づいていた。原作で禰豆子が大丈夫だったように、七海にも同じことが起きるとは思っていなかった。だけど、隊律違反であり、危険なのも承知で私は七海も一緒に入れた。だから、処刑されたとしても悪いのは私も。仕方がないことだよ』

 

 

彩花の謝罪に七海は黙って手を離し、彩花を下ろした。彩花は少し乱れてしまった服を整えながら七海が話し出すのを待った。

 

 

『......彩花がアタシと一緒に鬼殺隊へ入ったのはアタシが人間に戻りたいと思っているのを分かってたからでもあるでしょ』

『うん。私も七海を人間に戻したかったし』

『信じてるからとか、期待してるからとかもあるのでしょうけど、アタシを思って、一番の近道を選んだわよね』

『七海も相手のことを思っているよね。だから、こうも気にしているでしょう。それ故に暴走することがあるけど』

『...うるさい......』

 

 

七海は確認するかのように出る言葉を、彩花は素直に肯定した。彩花は隠しているつもりなんてなかったから。

最後の方の言葉には自覚のある七海は下を向いていたが。

 

 

『.....さっき言ってたけど、人間のアタシなら耐えられると思ってるの?』

『前はよく禰豆雄と張り合っていたじゃない。それに、どんな状況でも大体は炭華への思いや気合いでなんとかしていたし』

『....まあ、否定しないわ。あの時のアタシは何が来てもそれを吹き飛ばすような感じだったわ。常にそんな気分だったもの。......でも...』

『前がずっとそうだからか知らないけど、私は七海なら大丈夫だっていう信頼が凄くあるんだよね。凄く期待し過ぎて、七海には重いかもしれないけど』

『ええ。さっきからその期待はとても重いわよ!!』

『だけどね、七海はめちゃくちゃ周りに被害を出していても、何があろうとも解決している。私がそれで頭を悩ますことになっても無事に帰ってくる。そうした実績があるから、私は七海を信用できるし、信頼もできるんだよ』

 

 

七海の質問に彩花は前の時のことを持ち出した。それを聞き、七海は苦笑いしながら言う。だけど、七海は暗い表情をしたままで、彩花はそれを知っていながらも七海に話を振る。七海はそれに対して自分の心情を思いっきり叫んだ。彩花は七海の反応を微笑ましく思いながらも、先程とは違って真剣な目でそう言った。七海は彩花の様子が変わったことで一瞬動揺したが、すぐに落ち着いていた。

これは慣れているからなのか......。

 

 

『アタシというより、あれは禰豆雄の勢いに乗ったのよ!』

『なら、今回も乗ればいいじゃない。今は禰豆雄じゃなくて禰豆子だけど、禰豆子の勢いに七海も一緒に乗ろうよ。病は気からと言うでしょう。病気が気持ち次第で良くもなれば悪くもなるように、柱合会議での試しも良い方に捉えていればなんとかなるかもしれないよ』

『それはただのことわざよ』

『いや、ポジティブになっていたら病気になりにくいというのは科学的にも正しいみたい。確かプラセボ効果って言うはずだよ』

『えっ。それはマジなやつなの』

『うん。本当らしいよ』

 

 

七海がまた不貞腐れたようにそう言うと、彩花は当たり前のように今回も乗ればいいと言ってくる。七海はそんな簡単に言うなという意味で睨みながら言ったが、彩花がそれは本当の話だと言い、知らなかった七海は目を大きく開けていた。そんな表情の七海を見て、彩花は態度を崩して少し笑った。

 

 

『だから、七海は自信を持って挑戦してね。でも、まあ結局私の言っていることは他人事だよね。耐えるのは七海の方で、私はそれを見ていることしかできない。でも、私は精いっぱい応援しているからね。今の七海は私の声に一度応えているから、もし余裕があったらまた応えてほしいな...』

『はあ。あのね.......』

 

 

そして、彩花がその笑顔のままそう言って肩に手を乗せた。元の調子に戻り、冗談半分で話している彩花を見て、七海は大きく息を吐いた。

だが、そこに不安そうだった表情をしていた七海はもういなかった。七海は呆れた様子で彩花に何か言おうとして、口角の上がっている口を開いた。

 

 

 

 

 

「.......はあ」

 

 

血塗れの腕を突き出す不死川が目の前にいて、七海はそれが特に気にならなくなっていた。稀血の匂いはするが、それに耐えられないわけではないとは思った。

 

 

(あの時のことを思い出したらなんだか頭の中がすっきりしたわね。彩花がわざわざああいう風に言ったのはアタシの緊張を解すのと慰めてポジティブに考えられるようにしようとしたんだと思うけど、結果的にめちゃくちゃ効果があったわ)

 

 

七海が心の中でそう言っていると、それが伝わったのか、あるいは七海が正気に戻ったことを察したのか分からないが、彩花は安堵した様子を見せた。そんな彩花を見て、七海は気が早いと思いながら不死川の方に向き直る。不死川は襲うのだと思ったのか血塗れの腕を目の前に出す。

だが、七海にはその気がない。

むしろ呆れたような目で不死川を見ていて、溜息を吐いた。その後、七海はゆっくり吐き......

 

 

「それ、いらない」

「ムッ!」

 

 

笑みを浮かべてそう言った。隣で禰豆子が七海の言葉に頷き、不死川の腕から顔を背けた。

禰豆子も不死川の血の誘惑に勝ったようだ。それを見て、炭治郎はほっとして息を吐く。

 

 

七海は炭治郎を見て、原作と同じことが起きていたのだと気がついた。それは彩花もだったらしく、七海と同じように炭治郎の方へ視線を向けていた。

どうやら七海は稀血に耐えることに、彩花は七海が稀血に耐えられるようにと祈るのに集中し過ぎていて、炭治郎の様子に気づけなかったようだ。

七海と禰豆子が不死川の血に耐え切ったことに信じられないという様子を見せた。だが、その中でも最も信じられなかった人物がいて、その人の額から血管が出てきたうえに刀も強く握っている。

どうやら激情を抑えきれないようで、七海も彩花もその様子を見てまずいと思った。

 

 

「巫山戯んなァ!」

 

 

不死川が禰豆子と七海に向けて刀を振り、七海は困惑してその場に立ち尽くしていた。

せっかく稀血に耐えられたのに、それを無視して殺そうとしてきた。予想外のことが起きて、反応が遅れてしまっていた。さらに、何度も刀を体に貫かれ、その傷は回復したが、それで体力を削ってしまったらしく、体が重くて思うように動けない様子だ。

 

 

(まずい.....)

「七海。私の後ろにいて」

 

 

自身の頸を狙って振られる刃を見て、七海が目を瞑りそうになった。だが、その声を聞いた時、七海は禰豆子の腕を掴み、後ろへと下がった。

それとすれ違うように誰かの影が不死川の前に立ち、その両腕を差し出した。不死川の刀とその腕がぶつかったと思ったら不死川の刀は畳に刺さり、腕の方は無傷だった。傷も縛っていた縄もない彩花の腕が見え、不死川だけでなく、周りの柱も驚いていた。

そんな中は七海は自分達の前に立つ彩花に言った。

 

 

「今のは助かったわよ、彩花。ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

動けない七海を見た瞬間、私は飛び出した。

禰豆子も七海も辛いのに、必死に耐えたのに、その頑張りを無にするわけにはいかない。

 

 

「アァ!」

 

 

私は縛られていた腕を前に出し、その結び目が刀に当たるようにし、その結び目によって刀の振る向きを変えた。不死川さんの一撃では紐や縄なんて確実に斬れる。だが、本来の斬ろうとする対象と別の物を斬ったのなら、どんな物でも動きがズレると思ったのだ。念のために結び目のところを斬るように誘導したのは紐や縄の一番堅い部分が結び目のところだ。

なので、私は緩めていた拘束を戻したうえに、さらにそれを固くしてその結び目を不死川さんの振る刀に当て、横に動かした。想像以上に上手くいき、私の手は斬られることがなかったし、擦り傷もなかった。

ちなみに、これは宇髄さん(悪ふざけで教えた)と.....義勇さん(真面目に考えて教えた)もかな?簡単に縛る方法を教えてくれたのはこの二人で、私がそれらから自分のやりやすい方法を編み出して、それを使っているからね。

 

 

「.....失礼します。事後承諾ですみません。上がらせてもらいます」

 

 

不死川さんから禰豆子と七海を庇いながら私は挨拶した。遅いだろうが、先に挨拶する余裕なんてなく、後回しにしたのだ。

 

事後承諾は駄目だと思うが、御館様に一声かけられただけでも良かったとも思う。今の私は不死川さんに説教する気満々だからだ。いや、説得する気である。何せ、禰豆子と七海が痛みにも食欲にも耐え、証明をしたのに、それを無駄にするのは許せない。

 

 

少し頭に血が上っていたが、七海の礼を聞き、落ち着くことができた。そのため、私は話すことにした。

 

 

 

「貴女からしてみたら禰豆子と七海の存在は認められないのでしょう。ですが、これは流石にやり過ぎだと思いますよ。隊律違反をした私が言うのは変かもしれませんが、貴方とやっていることはめちゃくちゃですからね。事情は知りませんが(本当は知っているけど)、貴方のしていることは間違っていますよ」

「アァ!何を言ってやがるんだァ!鬼殺隊は鬼を殺すところで.....「いえ、そちらではありませんよ」」

「貴方は禰豆子と七海が人を食べる存在であり、殺すべきだということを証明しようと思って、この行動をしたのですよね。実際に証明すると言っていましたし。その結果、禰豆子と七海は不死川さんから顔を背け、人を食べないということを逆に証明しました。ですが、不死川さんはそれを見ても禰豆子と七海を殺そうとしました。.....少し考えれば分かると思いますが、矛盾していますよね。貴方が言ったこととやっていることは色々違うのではないでしょうか」

 

 

私が不死川さんに声をかけてみたが、不死川さんは私の言っていることを意味不明だと思っているようだ。だが、私からしてみたら不死川さんがしていることに抗議したいくらいである。せっかくの七海と禰豆子が証明したのに、それを無かったことにしようとするのは駄目だ。そう思い、私は遠慮なく言った。

 

周りの人にも不死川さんが証明すると言ったのは七海と禰豆子が人を食べるかどうかだったかと尋ねたら何も言わなかった。唯一御館様が頷いてくださった。これが答えだ。

 

 

「私は禰豆子と七海が人を食べないと証明してくれることを信じ、いざという時は私も死ぬことを覚悟したうえで貴方の行動を見ていました。そして、二人ともそれに応えてくれました。....なので、これには抗議します。禰豆子と七海はきちんと証明していますよ。巫山戯てなくて真面目にです。そして、貴方もしっかり証明しましたよ、七海と禰豆子が人を食べないという証明を。貴方がしたかったものと違うにしても、これは貴方が証明したことです」

 

 

私は不死川さんに現実を言う。

原作で不死川さんの過去は知っている。母親が鬼にされ、鬼になった母親は弟達を襲い、最期に太陽に焼かれて亡くなった。そんなことがあるから、七海と禰豆子の存在を意地でも認めたくないというのが不死川さんの本音だろう。

原作ではよく耐えたものだ。今回は斬りかかろうとしたけど、それはきっと二人だったからだろう。一人ならまだ禰豆子が特殊だろうとなんとか我慢できたのだろうが、二人は無理だったのだと思う。何で自分の母親は駄目だったのだろうという思いが強くて、この行動を取ったのだと考えている。

 

でも、そう思っていても七海と禰豆子に八つ当たりするのは駄目だと思う。

 

 

「証明しようとする時にはどちらかの結果になるのは分かっていましたよね。それなら人を食べないという証明にも逆になるのだと気づいているはずです。それを覚悟して、この行動をしたのではないですか。....もし絶対的な自信があったのならそれは申し訳ありませんが、不死川さんが証明したのは人を食べない方でした。これが結果ですよ。どんなに認められなくても、禰豆子と七海は人を食べないと証明をしました。貴方の目の前できちんとですよ!ですので、ここで禰豆子と七海を殺す理由は無くなりました。......それを受け入れてください」

 

 

私は不死川さんの目を見ながら近づいた。私の話を聞いて、不死川さんは少したじろいだ様子を見せたが、逆に怒りの方へ火をつけてしまったらしい。不死川さんは刀を握る力を強めた。それを見た私は嫌な予感がした。

 

どうしよう。私、今は刀を持っていない。普通に避けたいけど、私が横に逸れたらそのまま七海と禰豆子にも攻撃していきそうだから、私がこの位置から動きたくない。だけど、刀を持っていない私ではこの攻撃を受け止められない。先程軌道を変えられたあれも拘束する縄があったからで、縄が切れた今はそれができない。他に何か変わるものを探したいけど、全部預けているから何も持っていない。

 

 

 

私が必死に考えていると、突然目の前に波の壁ができ、私は後ろに引っ張られた。私はそれが誰なのか分かり、振り向いた。そこにはやはり七海がいて、あれはやはり血鬼術だったのだなと思った。

 

 

「テメェ!」

「彩花。そこまでにしないと。もう逆ギレの一歩手前じゃないの」

「確かに。私もちょっと失敗したかなと思っていたよ。助けてくれてありがとう、七海。でも、いきなり血鬼術を使ったのは驚いたよ。もし血鬼術を使った瞬間に攻撃だと認識されたら大変だったからね」

「彩花には言われてたくないわ。先に危なかったのは彩花だったよね?」

「それは....そうだね」

 

 

不死川さんは血鬼術を使った七海に刀を向けるが、七海は気にしていない様子で、私に文句を言った。私は七海の言葉に同意したが、七海の行動が危なかったこともあり、文句は言った。だが、七海に痛いところを突かれ、今度こそ何も言えずに同意した。

七海が血鬼術を使ったことで柱が警戒していたが、私と七海が普通に会話している様子を見て、次第にその警戒も薄れていく。だが、目の前にいる不死川さんは全く警戒を緩める様子がなく、流石に困ってしまった。どうしようかと思い、七海と視線を合わせると、七海は少し考えた後に何か思いついたらしく、悪戯っぽい笑みを浮かべ、アイコンタクトも送ってきた。

私は七海に考えがあるのだと察し、七海の作戦に乗ることにした。

 

 

「ねえ、彩花。あの人の腕をそろそろ何とかしてよ」

「うん?ああ。あの腕の怪我ね。でも、治療道具がないから、少し難しいかな。いや、たぶんできるかもしれない」

「そう。なら、さっさとあの人の血を止めてよ。それと、頭も検査しておいて」

「....はい?」

「はあ?」

 

 

その後に続いた七海の言葉を聞き、私は疑問に思った。気にはしていたけど、それどころではないし、治療道具も手元になくて無視していた。でも、七海に改めて指摘され、血を止めるくらいならできるだろうと思い、それを言ってみた。と言っても、止血は既に不死川さんが止血をしているので、その必要はないと考えている。だが、その次の七海の言葉に私は混乱したし、周りの人達も意味が分からないという表情をしていた。そんな周りを知っておきながら、当の七海は笑っていた。

 

 

「だって、流石に心配にならない?自分から傷をつけてて、その傷から血が出て、それを見て喜んでいる人がいたら、なんか心配にならない?」

「あー....」

「テメェ、人を変態みたいに言うんじゃねェ!」

「えっ!?違うのか!」

「あァ!!」

「炭治郎!?」

「「ブフッ...!」」

 

 

笑いながら言う七海の話に揶揄いの意味もあるようだが、同意している私もいた。だけど、自分を三度も刺し、頸まで斬られそうになったことに怒っているね。ずっと我慢していたけど、堪忍袋の緒が切れたようだ。

 

一方で、七海の言葉に不死川さんは青筋を立てていた。七海に斬りかかりそうで、私はヒヤヒヤしたが、炭治郎が反応を見せたことで、怒りの矛先が炭治郎に変わった。それはそれでまずいような気がする。まさか炭治郎がここで反応するとは思わなかった。

伊黒さんと時透君以外の柱は笑っているし、先程の七海が血鬼術を使ったことは頭の片隅に置いているみたいだ。だが、これでは収拾がつかなくなりそうだ。

 

 

「あの。頭の検査とかはしなくても大丈夫なのは分かっていますが、せめて自分から傷をつける頻度を減らした方がいいと思います。その、体中に傷跡がありますけど、腕にある傷は自分からですよね。刀を使った切り傷みたいですし。つまり、それは今回のようなことを何度も繰り返しているということですよね。....できればそれを減らした方が良いかもしれません。おそらく事情や理由があると思いますが、事情を知らない人が見たらそう見えてしまいますので。...余計なお世話だと思いますが」

「.............」

 

 

私のおそるおそる言った言葉で不死川さんは黙ってしまった。これ以上不死川さんを怒らせては駄目だと思い、言葉を選んだのだが、駄目だったのかな。

不死川さんはずっと無言だし、何故か周り(伊黒さんと時透君以外の柱)は笑っているし、私はどうすればいいの.....。

 

 

 

 

その後、御館様の鶴の一声でその場は収まった。そこから原作通りの流れになり、炭治郎は大声で『鬼舞辻無惨の頸を斬って、悲しみの連鎖を断ち切る』と言った。

......これは指摘しておいた方がいいかな。

 

 

「炭治郎。その話は飛躍し過ぎだよ。私達はその前に十二鬼月を倒していかないと」

「そうだね。炭治郎、まずは十二鬼月からだよ」

 

 

炭治郎の言葉を聞き、私は苦笑いを浮かべながら注意し、御館様が私の言葉に同意すると、炭治郎は顔を真っ赤にして俯いた。

そこから原作通りの流れで私達は蝶屋敷に行くことになった。禰豆子も七海も背負い箱に戻り、壊れたところは私がすぐに応急処置をしたので、一応使えると思う。

背負い箱を修理してすぐに隠によって蝶屋敷に運ばれたが、一緒にいた炭治郎が何かを思い出した様子で隠の背中から降りて戻ってしまった。私は原作から炭治郎が何をするのか知っているので、困惑する隠の人達に炭治郎を連れ戻してくると伝え、炭治郎を追いかけた。

 

 

「すみま「炭治郎。幾ら何でも人が話しているところを遮ったら駄目だよ」」

 

 

私は炭治郎に追いつき、口を塞いで止めた後、引っ張って後藤さん達のところへ戻そうとした。私達の裁判が終わり、漸く柱同士で情報共有するのだと思うし、これは重要なことであるために炭治郎を止めた。あと、人の話を遮るのも駄目。

それとこれとは話が別だからね。

 

 

「それと、邪魔も駄目だよ。それはあの不死川さんだけでなく、義勇さんにも迷惑がかかるから」

「うっ、確かに。だけど、あの人に頭突きしないと気が済まない」

「その気持ちは分かるけど、今は止めた方がいいよ」

 

 

私は炭治郎にそう言うと、私の話に一理あると思ったらしい。だが、それでも不死川さんに頭突きをしたいらしく、諦められない様子だ。私は不死川さんに頭突きをするのを止める気ではないので、そこは触れずにこの場でやるのは止めてほしいと説得した。

 

 

「彩花はあの人に怒ってないのか」

「怒ってはいるけど、炭治郎のように頭突きはしないかな。私、物理はあまり強くないし。やるなら薬を盛るくらいだと思う」

「いや、毒は駄目だよ」

「毒は使わないよ。いくら何でも人殺しなんてしないから。薬を盛るにしても、一時的に腹痛か頭痛という症状が出るものだよ」

「あっ。それなら大丈夫?か?」

「ほら、あっちで待ってくれているみたいだから、早く行こう」

 

 

炭治郎の質問に私は正直に答えた。炭治郎に毒は駄目だと言われたが、私は毒を人に使う気なんてない。だけど、このままだと不安にさせてしまうと思い、使うとしたらどんな薬を使うのかも話した。

それを聞き、炭治郎は疑問符を浮かべていたが、納得はしてくれたようだ。私は炭治郎と一緒に隠のところへ戻った。

 

 

だから、私達がいなくなった後、柱が私のことで何を言っていたか知らなかった。

 

 

「オイ。なんだァ、あのガキはァ」

「不死川から箱を奪えていたし、刀の太刀筋まで完全に見切ってた」

「うむ!なかなかの身のこなしだったな!」

「なあ。あいつ、薬を盛るとか言ってたが、何か技術があるのか?」

「.....薬屋だった...」

「それなら納得ですね。あの彩花さん、煙幕に薬が混ざられていましたよ。それもしっかり薄められていて、万が一のことのないように調整されていましたよ」

「ええ〜!?彩花ちゃん、しのぶちゃんが褒めるほど凄いの!」

「不死川。食事の時は気をつけた方がいい。本気ではなかったが、念のためにも用心しておくべきだ」

「...ねえ。何で薬屋が煙幕なんて使えるの。薬屋って、煙幕も作るの」

 

 

「大丈夫。彩花はそんな子じゃない。ただ、ちょっと実弥に怒っているみたいだね」

 

 

 

 

 

 

 

(流石に不死川さんへ盛る気はないけど、こうした冗談でも少しは一矢報いられたかな)

(こいつ、怖え!)

(めちゃくちゃ怒ってる!)

 

 

実は彩花もかなり怒っていた。

 

 

 

 

 



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三度目の少女は近づき出す 前編



大変お待たせして申し訳ございません。またスランプ状態になった上に、最近の天候により体調不良になり、投稿が遅れました。次回を来週辺りにできれば出したいと思っています。
それと、次回の投稿を終えたらしばらくこの投稿をお休みしようと思います。体調が悪いのもありますが、別の話を書きたいと思い始めていて、執筆が進まなくなってきましたので.....。
ですが、終わりまでの流れはできているので、何ヶ月かしたら投稿を再開しようと思います。
度々休載してしまい、申し訳ございません。




 

 

 

「結構時間がかかるのね」

「ごめん。完全に傷が癒えるの遅くなって。彩花も何処も怪我していなかったのに、俺が機能回復訓練に行っている間は眠っている禰豆子のことを見てくれたし」

「いや、私も禰豆子があの後大丈夫だったか気になっていたからね。七海は全然平気だったけど、禰豆子もそうだとは限らないし。むしろ一緒に入れてもらって、私は楽しかったよ」

「彩花とカナヲの対決は凄かったね。俺達、最初は全く歯が立たなかったけど、やっとカナヲに追いつき始めたからな。でも、彩花にはまだ一勝もしてないから凄いよ」

「おい、彩芽!次は勝つからな!」

「彩花だよ。いや、炭治郎達は怪我していて、私は万全の状態でやっているから、有利な状況だったよ」

 

 

背負い箱に入った七海の一人言に炭治郎が謝るので、私はそれを止めようとして、蝶屋敷でのことを話す。七海も炭治郎に謝られてしまい、少し戸惑っているみたいだから、その援護はしておかないと。

 

 

柱合会議が終わり、私達は蝶屋敷に送られた。炭治郎は大怪我を負っていたので、そのまま入院した。私は念のために検査して、異常が何もなかった。

禰豆子と七海はというと、先程私が言ったように柱合会議の後、禰豆子は不死川さんによって負わされた傷を癒やし、その体力を回復するために眠り続けていた。一方で、七海は傷を治し、体力を回復するために眠ってはいたのだが、それは数時間しか経っておらず、本人も昼寝の感覚だと言っていた。なので、私と七海だけは普通に任務へ行っていた。

 

 

だが、炭治郎達のことが心配だからと言って滞在していた。本当の理由は原作の流れが分からず、気がついた時には過ぎていたということもありそうだし、一緒にいたら任務も合同になるのではないかと思ったからでもある。しばらくして、なほちゃん達とも仲良くなって、仕事の手伝いをしていくうちに炭治郎と伊之助の機能回復訓練にも参加した。

初めは見学しているだけだったが、炭治郎に誘われて気がつけば常連になっていた。その所為で善逸と伊之助の心が折れるのは前よりも早くなっていて、非常に申し訳なくなった。私が何かしてもトドメを刺すだけかもしれないので、私からは何も言わず、原作通りにしのぶさんがなんとかしてくれるのを待つことにした。

 

 

私は昼間には蝶屋敷に滞在して、炭治郎の機能回復訓練の相手をしたりカナヲとも対決したりした後、任務が来るまでの間になはちゃん達の手伝いをして、刀の手入れや薬作りなどの準備もして、空いた時間に鍛練していた。夜になったら任務があるが、早く帰ることができたらその近くの山で七海と稽古をしているのだ。七海は日が出ている間に行動できないので、夜しか時間がない。それと、山で行うのは蝶屋敷でやったら迷惑になるからであるし、七海との鍛練は激しいものとなるので、何処か壊してしまう可能性もある。それで、しのぶさんに許可を貰って行っていた。

ただ、予想外だったのはしのぶさんも私達について来たことかな。見張りかどうかは知らないけど、しのぶさんが見学すると言っていたので、私と七海はいつもの鍛練をした。

すると、その日から時々何故かしのぶさんも参加することになった。理由を聞かれても、それは私と七海が聞きたいことである。

あと、私と七海が鍛練を終えた後、しのぶさんが私達に話しかけてきたのだ。

 

 

『.....仲が良いのですね』

『まあ、なんだかんだ付き合いが長いので』

『昔からよく一緒に行動していて、こういったことでも相手になるのですよ』

『どれくらい一緒にいるのですか?』

『あー.......』

『....うーん。かなり昔から、ですかね』

 

 

しのぶさんの呟き声に七海も私も笑顔で肯定した。だが、しのぶさんのどのくらいいるのかという質問にはどう答えるか少し悩んだが、互いに目で相談し合いながら曖昧な言葉で答えていけた。納得できるかはともかく。そんな私と七海の様子を見て、しのぶさんは微笑んだ。私と七海は一瞬それを見抜かれたかと思ったが、しのぶさんの表情を見て、違うのだと察すると同時に困惑した。

私達が顔を見合わせていると、しのぶさんが私達に声をかけてきた。

 

 

『実は彩花さんと炭治郎君には私の夢を託したいのです。鬼と仲良くする夢。きっと彩花さんと炭治郎君ならできると思うのです』

 

 

私と七海はその言葉で再び顔を見合わせる。まさか私にもその話が来るとは思ってもいなかったのだ。だが、よく考えてみたら私も鬼を連れた剣士である。それなら、しのぶさんにそう言われるかと気がついた。私と七海が困惑している様子を見て、しのぶさんがまた小さく笑った。

 

 

『息がぴったりですね。彩花さんと七海さんは本当に仲良しですね。その姿を見て、私はこの夢を実現させられるかもしれないと思えました』

『......大切なのですね。その夢が』

『.......?はい。だって、鬼と仲良くできたら良いんじゃ『いえ、そういうことではなくて!』.....どうしたのですか?』

 

 

しのぶさんの言葉を聞き、私は呟いてしまった。原作ではその夢はしのぶさんではなく、姉のカナエさんが語っていた夢だ。しのぶさんは姉の意思を受け継ごうとしているが、しのぶさんはどうしても鬼に嫌悪感を抱いている。自分では姉の夢を受け継ぐのは無理だと思っていて、炭治郎に夢を託したのだ。

そういった背景を私達は知っている。だが、この目で見てしまうと、反応してしまう。しのぶさんは相反する想いを抱いていたが、その夢自体に嫌悪感を抱いていないようだ。嫌悪感を抱いてしまう鬼と仲良くするであろうとも、最愛の姉であるカナエさんの夢は大切に思っていたのだと分かり、私は意図せずに言ってしまったのだ。

 

 

それにより、七海には頭を叩かれた。私は小声で謝る。しのぶさんは私と七海の様子のおかしさに首を傾げていた。でも、七海もその後のしのぶさんの言葉を遮ったので、それでますます事態を悪化させていた。

私と七海は顔を見合わせる。いや、七海は私の体をしのぶさんの方へ向けようとしている。おそらくこうなった原因は私だから、私がなんとかするべきだということだろう。

うん。私がきっかけなのは間違いないよ。だけど、相談ぐらいはしてもいいよね。

 

 

私は大きく息を吐いた後、しのぶさんの方を向いた。

 

 

『しのぶさんの言っていた夢って、しのぶさんがというよりも別の誰かの夢ではないかと思ったのですが....』

『どうしたそれを』

『しのぶさんが私の夢と言った時、何処か他人事のような感じがしたのです。私のと言いながら別の誰かを思い浮かべているような.......。...だから、その夢というのはしのぶさんではなく、元は別の人の夢であって、しのぶさんはその人の夢を継いでいるのではと思ったのです』

 

 

私は聞いてしまった方がいいのではないかと思って口を開いた。しのぶさんはそれに驚いていて、私はそれを当然だと受け止めながら答えた。

原作の炭治郎のように匂いで怒っているかどうかが分かるわけではないので、私はそれらしいことを言った。

でも、これは嘘ではない。僅かな声の調子だが、しのぶさんの言った私がしのぶさんを指しているようではない気がしたのだ。原作で知っているからなのかどうかは知らないけど、確かにそう聞こえたのだ。

 

しのぶさんは私の話を聞き、それを認めた。話してくれたことは原作と違っていた。それは炭治郎とは違うところを指摘したからだと思うが、要約した内容は同じではあった。

ただ......。

 

 

『彩花さんと七海さんを追いかけていた時、まさかとは思っていました。私を貶めようとしているわけではなく、協力し合っていただけでした。柱合会議の時も互いに互いを庇っていて、普通の友達のように見えました。そんな彩花さんと七海さんを見ていると、もしかしたらこの夢は叶えられるという希望を持てました。ですので、私は彩花さん達に託してみたいと思いました』

 

 

しのぶさんにとっては私と七海がやっていたことはかなり衝撃的だったようだ。私と七海はいつものことと認識していたけど、周りからは...特に色々な鬼を見てきた鬼殺隊側からしたらかなり驚くことだったらしい。

想像以上に影響があったのだと分かり、困惑した私と七海の様子を見て、しのぶさんは微笑んでいた。

 

 

それから、炭治郎達が復活するまでは私と七海としのぶさんの三人で鍛練をしていた。たまに、女の子同士でと甘露寺さんも参加することになった時は驚いたし、バレた時に命がないとも察知した。でも、甘露寺さんに罪はないし、私もしのぶさんや甘露寺さんという柱に稽古をつけてもらえたのは助かった。昼間も実戦形式での鍛練もできたし。

 

 

 

ただ、問題は私が目の前で華ノ舞いを使ってしまったことかな。いや、華ノ舞いを鍛練したくてね。七海との鍛練では思いっきり使えていたのだけど、しのぶさんと甘露寺さんがいる時は水仙流舞しか使えなくて、できれば他の華ノ舞いの型も練習したかった私はついにやってしまった。一応言及された時のことを考えて、恋の呼吸に似ている桜花しぐれにしていたのだけど、それでは誤魔化しが効かなかったようだ。

それと、刀が桃色に変化したことも言及された。それで、私は漸く思い出した。私の刀も結構特殊だったことを。

普通に刀の色が変わることに慣れ過ぎて、そちらを意識していなかった。水仙流舞は水の呼吸の型と似たようなところがあったし、刀も青色のままだから、バレなくて済んだが、今回は完全にバレた。

 

 

色々言われたし、聞かれたが、なんとか乗り切ったよ。ただ大騒ぎになってしまい、今回のことは柱の間で広まったらしく、しのぶさんや甘露寺さん以外の柱にも話しかけられることとなった。

...あの時は本当に疲れたよ。

 

 

 

そういえば、前に水仙流舞ではなく、水仙龍舞ってなったよね。しのぶさんや甘露寺さんとの鍛練で物にして分かったんだけど、水仙龍舞は水仙流舞よりも威力の高い型だと判明した。それに、素早く動きやすく、水仙流舞の動きも取り入れているため、相手の懐に入りやすくなっていた。何故一段階上がったのかは分からない。あの時は無我夢中にしのぶさんから逃げていたし、水仙流舞の方も何度も使っていたから、それらが原因?......なんだかゲームでのレベルアップを思い出すよ。

 

あと、刀の模様が水仙龍舞の時は変わっていた。水仙の模様のところが黄色になっていて、この変化もよく分からない。

 

 

 

その後も色々あったが、炭治郎達の怪我も治り、任務に行けるようになったと診断され、私達に任務が来た。

その任務が無限列車だ。

 

 

 

現在、善逸は無限列車の切符を買いに行っている。やはり止められなかったのだよ、伊之助が主だと言って列車に突撃するのを。私と炭治郎で必死になって止めようとしたけど、逆に目立って駅の人達に見つかり、結局追いかけられた。大人数になると目立つからと善逸だけは別行動になった。

善逸にはどうしてとか言われていたけど、あの駅員達は善逸の姿を見えてなかったらしく、子どもが三人と言っていて、その特徴も聞いてみたら炭治郎と伊之助のことだったんだよね。

特徴的だから、炭治郎達だってめちゃくちゃ分かりやすかったし、私の場合は女の子という言葉で確定した。完全に目をつけられた私達では買えないと思うので、善逸に全員分買ってもらうために分かれてもらったのだ。

 

 

 

「そもそもアタシとも何度もやっているんだから、勝てなくて当然よ」

「.....まあね」

 

 

善逸が聞こえない位置にいないことを確認してから、七海は私にそう言った。私はそれに苦笑いしながら同意した。

七海、昼間は動けないから凄く元気なんだよね。その分、私との鍛練に力が入っているんだよ。しかも、七海は鬼となって体力が減らなくなっているため、全力の七海と常に戦っているのだ。凄く良い鍛練になるが、割とキツいものなんだよね。

 

 

「いた!切符全員分買えたよ!」

「善逸、ありがとう。流石に四人分は大変だっただろうし、お金もかかったでしょう。はい、電車代だよ」

「いや、大丈夫だよ。俺の奢りだと思って」

「それは駄目だよ」

 

 

電車代を全員分買ってきた善逸が戻ってきて、私はお礼を言いながら善逸に電車代を渡した。善逸は大丈夫だと言っていたが、それは良くないと言って、しっかり切符と交換した。

 

 

「いよいよね。これは無事に生き残れるかどうか分からないわよ。最初に体力を大きく消費しないようにしてよね」

「そうだね。ぎりぎり頑張っていたけど、あまりこの戦いで疲れていたら駄目だものね」

 

 

列車が動くまでに待っていた時に七海が私に話しかけてきた。その声は固く、緊張しているのだと分かる。私も肩に力が入っていて、そのことに気がつき、力を抜いた。だが、心臓の鼓動が速くなっていくのは感じていた。

私と七海がこれほどまで緊張しているのは今回の戦いのことが原因だ。列車の鬼は十二鬼月だが下弦の壱であり、厄介な血鬼術を使う鬼なのは確かである。しかし、私と七海が不安になるのはその鬼との戦いの方ではなく、その次に現れる鬼の方だ。

原作でも前からもあった上弦の参の猗窩座の襲撃だ。前も猗窩座と戦い、余裕で勝ったという印象を持っているかもしれないが、あの時は一応作戦みたいなのは練っていたし、前とは違って私も七海もそこまで強くない。猗窩座の頸をあの時に斬れたのは修行期間がそもそも違うのだ。今の私と七海では猗窩座の頸を斬れる実力であるとは思っていない。私達ができるのは煉獄さんの補助だろうね。

 

 

列車が出発し、私達は最終車両から列車に乗った。善逸が落ちそうになっていたけど、三人で引っ張って乗せた。その後は煉獄さんと合流した。煉獄さんの声の大きさに対して、七海がこれでは寝れないと文句を言っていた。

戦いの前に仮眠をとりたかったみたいだ。まあ、窓が壊れそうなくらい揺れる煉獄さんの声なのだから、仕方がないと同意する気持ちはある。それと同時に、炭治郎達が血鬼術にかかるまで眠り続けていた禰豆子は凄いという感想も抱いた。

 

 

 

その後は原作通りに進めた。まあ、それは私が普通に切符を受け取っているところからも分かるだろう。七海は鬼だし、血鬼術で眠るかどうかも分かっていないので、七海の分は買うようには言っていない。七海は禰豆子と一緒に私達が起きるまで待機することになっている。それと、予想外なことが起きても対応できるようにという意味もある。鼓屋敷と那田蜘蛛山の件があるし、不測の事態が起きると想定しておいた方がいいと思ったのだ。

 

 

「水町少女は刀の色が確か透明だったな!」

「私は生野ですよ。刀の色に関してはそうですけど。しのぶさん達に聞いたのですか?」

「うむ!今までにない色で、それも甘露寺の恋の呼吸と似た型が使えたのだろう!なら、炎の呼吸でも可能なはずだ!恋の呼吸は炎の呼吸の派生だからな!」

「はははは.....」

 

 

煉獄さんに話しかけられ、私は自分の名字を訂正しつつ、聞かれたことには答える。それと...予想はつくが、一応煉獄さんに聞いてみた。案の定そうだったし、煉獄さんが興味を持った理由もだった。やはりあの時のことが原因だった。

私は苦笑いを浮かべた。

 

 

もう既にありますとは答えられず、どうにかこの状況をなんとかしようと思った。

 

 

「彩花。もう顔を背けてるわよ。いつも取り繕ってるけど、今回は完全にバレバレよ」

「いや、七海。貴女もどうして背負い箱から顔を出しているの。上にいる鬼にバレたら大変だよ」

「はいはい、分かってるわよ。でも、これで煉獄さんから離れられたでしょ」

 

 

その時、七海が背負い箱から顔を出し、私に声をかけてきた。私は七海に近づき、小声で言い返した。七海は顔を引っ込めながら背負い箱を閉じる前に言った。

確かに助かったけどね。

ちなみに、善逸は伊之助の方を押さえるのに必死で私達の会話を聞こえていない。だから、私も七海も普通に話しているわけだし。

 

 

私が席に戻った時にちょうど車掌さんが来た。私は車掌さんを見て、いよいよかと思い、息を呑んだ。この車掌さんが切符を切ったら血鬼術が発動し、私達は眠ることになる。

戦いの始まりだから緊張しているのかと聞かれたら、半分正解と答える。もう一つ理由があって、それは私の夢の中でカナエさんや有一郎君と会える可能性があるからだ。

 

 

私はこの夢の中でカナエさんと有一郎君に出会った。そして、二人は華ノ舞いのことを知っていた。

......いい加減、華ノ舞いについて教えてください。使えるようになっているけど、それについて何も知らなくて、周りからの言及にも答えられなくて、そろそろ限界なのですよ。私もかなりモヤモヤしていますし。

 

 

私は内心祈るような気持ちで車掌さんに切符を渡し、切符が切られる音が聞こえたと思った瞬間に意識が遠くなった。

 

 

 

 

 

 

 

次に目を開けた時には目の前に花畑が広がっていた。私は周りを見渡し、この花畑に見覚えがあり、前にも来た...カナエさんと有一郎君と出会った花畑だと分かった。私は花畑の中を進んだ。カナエさんと有一郎君がいた方向に歩き出し、周りを見渡した。

この花畑はカナエさんが言うには私の無意識領域だと言っていた。花畑が広がる空間が私の無意識領域だと言われてもどう反応したらいいのか分からないんだよね。

 

 

下は水仙や梔子、鈴蘭、衝羽根草に朝顔、月見草が咲いていて、黄色や白色、緑色などで彩っている。季節感がおかしい。だが、上よりはマシだ。木に梅や桜が咲いていて、紅葉も赤くなり、それによって桃色の桜の花びらや赤い梅の花、真っ赤な紅葉が降ってきて.....季節が崩壊しているのは間違いない。おまけに前を見てもちょうど私の目に向日葵が現れるので、ますます頭がおかしくなってくる。

 

 

本当に私の無意識領域はどうなっているのだ。春、夏、秋、冬と咲く季節がバラバラなものがここで一斉に咲いていて、その統一の無さに私は一つにしてほしいと正直に思った。いや、そもそも自分の無意識領域に入れている時点でおかしいのだけどね。

カナエさんは何も教えてくれなかったけど、何故この現象が起きているのかは知っているみたい。それは有一郎君もだけど、有一郎君は私にそれらを話してくれなさそうなのだよね。だけど、カナエさんは話してくれそうな感じがしたから、カナエさんに聞こう。そうしよう。

 

 

「あれ?森?」

 

 

私が考えながら歩いていたらいつの間にか辺りに木がいっぱい生えていた。一面に咲いていた花もない。だが、その木には桜や梅が咲いていて、木の根元辺りにも花が咲いているのが見え、広けた道のようなところに出ただけでここが無意識領域であることは間違いない。まだ鮮やかな光景であるが、先程よりはマシである。

私がそのまま進んでいけばいくほどに生えている木が大きくなり、上がその木の枝で見えなくなっていった。

 

 

私はなんとなく最奥部に入っているのだと察した。最奥部には精神の核があるだろう。思えば私は二度ここに訪れたが、精神の核は見ていなかった。それよりも自分が無意識領域に入れたことやカナエさんと有一郎君がいることの方に驚いていて、あまり気にしていなかった。

 

 

私はカナエさんと有一郎君に会うことを目的にしていたけど、精神の核を見ることも目的にしていいかな。たぶんどちらも同じところなのだと思うし。

 

 

私が足を動かし続けていると、森を抜けて今度は湖のような場所に辿り着いた。湖の周りには彼岸花が咲いていて、私は目を見開いた。先程まで色々な花が咲いていたけど、ここだけは彼岸花のみだ。一瞬、死んでしまったのではないかと自分を疑ってしまった。だが、振り向けば通った道があり、無意識領域の中であることは間違いない。

 

 

「やあ。よくここまで来たね。だけど、一度ここで止まろうな」

 

 

聞き覚えのない男の人の声が聞こえ、私は正面を向いた。すると、先程まで誰もいなかったところに明るく屈託のない笑顔を浮かべる男が立っていた。声が聞こえた時は驚いたが、すぐに警戒を解いた。声は知らなかったが、その容姿は誰なのか知っていた。

 

 

「......すみません。自信がないですし、初対面だとも思いますので聞きますが...貴方の名前は匡近さんと言いませんか?粂野匡近と」

「うん。そうだな。会ったことはないだろうし、すぐに思い出してくれてありがとうな」

 

 

私が謝りながら聞くと、その男は笑顔で肯定した。やはり匡近さんだったようだ。カナエさん達と違って、まだアニメで出てきていなかったから、声だけでは判別できない。それは有一郎君も同じだが、少し時透君(無一郎の方)に似ていて、なんとなく気づけた。自信はなかったが、匡近さんだと分かり、私は肩の力を抜いた。

 

 

粂野匡近は鬼殺隊の隊員であり、風の呼吸の使い手の剣士でもある。さらに、風柱の不死川さんの先輩であり、兄弟子に当たる人物でもあり、命の恩人でもあり、親友.....簡潔に言えば不死川さんに深く関わっている人物だ。

そして、この人も原作前に亡くなっている。カナエさんと有一郎君と同じだ。それなら、この人も知っているはずだ。

 

 

「どうして貴方も私の無意識領域にいるのかと聞きたいところですが、他にも聞きたいことがあるので、まずはそちらから聞きますね。貴方は知っていますか?華ノ舞いのことも、カナエさん達と同じことを知っていますか」

 

 

私の質問に匡近さんは困ったような顔をしていた。

 

 

「まあ、知っていると言ったら知っているけど、彩花よりは知らないな」

「いえ、華ノ舞いのことを知っているのですよね。それだけでも知っているなら、具体的に何を知っているのかを答えてほしいです。私よりも知らないと言ってもその通りなのかは分かりません。ですので、その詳細を知りたいのです。それと、何処で知ったのかというのも。.......もし私の知っている内容を本当に知っているのだとしても、それは無意識領域にいるからなのですか?無意識領域の中では私の思考がバレてしまうのですか!」

 

 

私は匡近さんに華ノ舞いのことを聞こうと近づく。肝心なところで目が覚めるのは困るため、何が何でも聞きたい。もう何度もカナエさんと有一郎君と錆兎にやられているから、すぐに知る必要があるのだ。それに、気になることもあり、色々質問してしまったし、つい大声も上げてしまったけど、匡近さんは笑ったままだった。

 

 

 

「彩花は何でそこまで知ろうとしているのかな?」

「....はい?」

「華ノ舞いが気になっているようだけど、それはどうしてかな。原作というのを違うとか、自分が使っているからとか言ってみたけど、本当にそうなのかな。確かに彩花って、割と好奇心旺盛だったり探究心を持っていたりしている。特に最後の方は好奇心で聞いているみたいだったし。けど、それにしては気にしすぎている。完全に無意識だったようだから、指摘させてもらうね。.....それで、答えは見つかった?」

 

 

匡近さんの質問に私は呆気に取られた。私は匡近さんに他に理由はないのかと聞かれても答えられなかった。

私はずっと華ノ舞いについて知りたかった。華ノ舞いなんて原作に出ていないものだったし、教わってもいないのに使えたというのがどうしても不可解だった。そのことが気になるのだと思った。それは確かだとは分かる。でも、それ以外にもあるかと聞かれたらどうだろうか。

 

 

正直な話、それはないと否定できないのだよね。私もよく分かっていないし、何より匡近さんの指摘を聞いた時に私の心臓が反応した。それがどうしてなのかは分からない。でも、たぶん動揺したのだと思う。心当たりがないのに......。

...匡近さんの質問に答えられない。

 

 

「..........」

「.....まあ、分からなくて当然だよな。けど、覚えていてほしいんだ。そのことを忘れずに考えろ。いつか気づける時が来るから」

「そうなのですか?」

「うん。脳裏をよぎるくらいでいいんだ。そうすれば何気ないことがきっかけで分かることだってあるだろ」

 

 

答えられず、無言になってしまう私に匡近さんはそう言って頭を撫でた。何か隠しているようだけど、匡近さんの言っていることは嘘でない。それは分かる。

なんだけどね.......。

 

 

「なんだか誤魔化された気がするのですが...。結局、私の質問にはっきり答えていませんよね」

「そうかもしれないな。けど、これだけは言える。俺達は彩花の敵じゃない。味方でいるのは間違いないから。俺達は死人だから、直接助けることはできないけどね」

 

 

不貞腐れた様子の私に匡近さんは苦笑いを浮かべた。けど、何処か寂しげな様子に聞くのを躊躇してしまいそうなくらいだ。

 

 

「......それなら、華ノ舞いについて何でもいいから教えてくださいよ。情報が少しでもあった方がいいのは知っているでしょう。これから戦いも激しくなります。それなら、私にそれを教えてもいいのではないのですか。せめて助言のような感じでも」

「うーん。できることなら教えてあげたいと思っているけど、それは錆兎と有一郎に止められているんだよな。だから、はっきりしたことは言えない。けど、これはまあ言っても大丈夫だろ」

 

 

ただ、私もそれで引き返すわけにはいかないので、もう一度聞いた。匡近さんは引く気がないだと察したらしく、苦笑いを浮かべていた。だが、少し何かを考えたようで、私に耳打ちしてきた。

 

 

「最初に言った彩花よりも知らないという言葉は合っているんだ。俺達はそこまで知らない。一番知っているのは彩花なんだ」

 

 

 

 

 

 

 

「それはどういう....て、起きちゃった!」

 

 

匡近さんの言葉を聞き、私は詳しく聞こうとしたが、声を上げた時には電車の中に戻ってしまっていた。しかも、ちょうど縄を結ぼうとした時だったようで、私の声に周りにいた人達が驚いた様子で振り返った。

周りにいたのは鬼に協力している人達であり、私が目覚めたことで混乱し、私に襲いかかってきた。私はそれを避け、気絶させた。ただ、私も動揺している最中で、加減に失敗しているかもしれない。

 

 

私も困惑したままで、すぐに落ち着くことができなかったのだ。何の前振りもなく戻り、その最後には何か意味深みたいなことを言っていたし、続きを聞く方法はないかな。

 

 

「....ねえ、彩花。いつまでそうしてるのよ。夢の中.....彩花の場合は無意識領域よね。そこで何があったの?」

「うん。実は........」

 

 

動かない私を心配し、七海が声をかけてきた。私は七海に無意識領域でのことを話した。それを聞き、七海も考えてくれた。

 

 

「それは.....確かに色々思うところがあるわね。彩花の無意識領域に匡近さんもって...今のところ、その人達の共通点は全員が既に亡くなっていることよね。しかも、確実に何かを隠しているのは間違いないわよ」

「だよね」

「それと、少なくとも無意識領域に入っている人達が原作の記憶を知っているのも当たりみたいよ。彩花の頭の中にいるなら当然といえば当然だものね。それなら、アタシのことも知ってるでしょうね。思考が読まれてしまうのは仕方がないわ。死人だもの。...あと、華ノ舞いのことは彩花よりも詳しく知らないというのも......嘘じゃないけど、何かを隠しているわ」

 

 

七海はあれこれ指摘してくれるので、私も大分落ち着いてきた。まとめてもくれるので、私は頷いているだけで良かった。私と七海の出す意見が合うが、分からないことがあまりに多くて整理していた。

 

 

とりあえず、大きくまとめてみた。

気になることとして挙げられるのはカナエさん達が何処まで知っているのかということだ。華ノ舞いのこともあったが、私の記憶から原作についても知っているはずだ。だけど、カナエさん達が私の記憶をどれくらいまで見ているのかは分かっていない。一部なのか全てなのか、そういったことも確認しておかないと。あと、色々知っていると思うので、華ノ舞いのことを含めても聞きたいことが多い。

 

 

それと、無意識領域にいる理由もだ。これは色々起き過ぎていて、後回しにしていたけど、こちらにも目を向けていかないとね。カナエさん達は全員亡くなった人達であり、幽体となっていて、無意識領域を自由に行き来できると考えればそういうところは納得できるが、私の無意識領域にいる理由は不明だ。味方だと言っていて、それは本当なのだと思うが、カナエさん達がしのぶさん達から離れて、私といるのはおかしいと感じるのだよね。

いや、幽体となって見えないだけで、しのぶさん達のところへ頻繁に帰っているのかな。私は色々な人と出会っているし、特に今回はしのぶさんと一緒に鍛練するようになっているし、喜んでいるのかな。だが、生前知り合っていなかった私に、どうしてカナエさん達はついて来るようになったのは疑問なのだ。

 

 

「彩花!先に起きていたんだ」

「あっ、うん。少し前にね。今、整理していたところ」

「そうか。...この人達は?」

「その人達はね.....」

 

 

七海と考えている間に炭治郎が目を覚ました。七海と一緒に外へ出た禰豆子が炭治郎の縄と切符を血鬼術で燃やしたようだ。私は炭治郎が目を覚ましたことに動揺しながらも誤魔化せた。七海は隣で私の言葉に頷いていた。

炭治郎に華ノ舞いやカナエさん達のことは話せないからね。カナエさん達の話も繰り返しのことを含めて話さないといけないことだから、私の相談相手は七海だけだ。七海と目で戦いが終わってから話そうと伝え、炭治郎に現状を説明した。

襲ってきた人達のことと、事情があって鬼にその弱みをつけ込まれて協力していることを話した。

すると、炭治郎は気絶している人達に声をかけていた。その言葉は原作のと同じものだった。

 

 

 

炭治郎と私は話し合い、炭治郎が列車の上に登り、私は起きた煉獄さん達に状況を説明することになった。私と七海もこの配置の方がありがたい。あの鬼は列車と一体化してくるから、すぐに分かれて対応できるようにしたい。

 

 

「...そういえば、七海も血鬼術を解除とかできないの?」

 

 

切符と縄を燃やす禰豆子を見ながら、私は七海に聞いた。七海は首を横に振った。

 

 

「無理よ。禰豆子が特殊なのよ。アタシも鬼になった当初、禰豆子と同じことができないかやってみたけど、全然駄目だったわ。そもそも禰豆子は炎で、アタシは水。禰豆子のように鬼の体だけを燃やすみたいなことはできなかったわよ」

「それなら洗い流すみたいに....」

「もうあれこれ試したわよ。それでも、できなかったわ。その代わりに、あの分身みたいなものや氷などもできたわよ」

「七海の血鬼術って、水を使うから、色々な方法があるよね」

 

 

七海の言葉に私が思ったことを言ったが、それは実践済みだったようだ。でも七海の話を聞いていると、七海の血鬼術は使い方を変えてみれば他にも色々使い道がありそうだ。

その時、列車内の空気が変わった。

 

 

「...煉獄さん達が起きるよりもやっぱり早いね。七海、一人で二両行ける?」

「八両全部行けると言いたいけど、細かい作業も多いし、コントロールが大変だから、二両半かな」

「二両半って、かなり中途半端だね。.....でも、私も二両半かな。今の私ではこれが限界だと思う。七海と私で五両は守れるけど、残りの三両は.......」

 

 

私と七海が奥の車両へと向かいながら相談していると、何か壊された音が聞こえた。私が窓を開けて耳を澄ましたら伊之助の声が聞こえてきた。どうやらあの音は伊之助が列車を突き破った音だったようだ。

私と七海は顔を見合わした後、列車にいる乗客を守る方を優先した。炭治郎と禰豆子がいて、そこに伊之助も加わった。一人一両となれば乗客全員を守れる。

だが、乗客を守り続けるだけではこちらの体力が尽きるだけだ。私達だけのままならね......。

 

 

その時、また音が聞こえてきた。さっきみたいに確認しなくても大丈夫だ。この音と向かってくる気配だけで分かる。

 

 

「生野少女!無事のようだな!」

「はい、大丈夫ですよ。煉獄さんも血鬼術が解けて良かったです」

「今は互いの無事を喜ぶのは後だ!この車両は八両編成。俺が目覚めるまで協力して五両を守ってくれていたようだが、四両で構わない!俺が残りの四両をやるから、生野少女達はこの四両を守りながら、余裕があれば鬼の頸を探す竈門少年達の援護もしてくれ!」

「分かりました」

 

 

夢から覚めた煉獄さんがこの車両に来て、私はこの状況であるが、とりあえず挨拶した。煉獄さんは冷静に指示をし、私はそれに頷いた。すると、煉獄さんは別の車両へと向かった。七海にも伝えて、私と七海は四両を守りながら隠れている鬼の気配を探した。

と言っても、私も七海もその場所は知っているし、炭治郎達も向かっているところだ。万が一の場合に行動できるようにしておこう。

 

 

 

 

 



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三度目の少女は近づき出す 後編



前回の投稿からかなり待たせてしまい、申し訳ございません。ここ最近の寒暖差で体調が悪くなり、また投稿までに時間がかかってしまいました。





 

 

「どうしたの、彩花」

「いや....。...起こってはほしくないけど、ここでは他の鬼が来るということがないね」

「.....フラグを立てないでよ」

「ごめんね。フラグを立てるつもりはなかったけど、どうしても気になって...」

「まあ、確かに良いことだけど、不気味にも感じられるわね」

 

 

七海と二人で四両を守っていたが、私が浮かない顔をしていることに気づき、七海が聞いていた。私は少し迷ったが、正直に伝えた。それに対して七海が文句を言い、私も同じことを考えていたので謝った。

ただ、七海も私と同じように感じていたらしい。

 

 

原作と違うことが起きないのは良いことだ。私達の知っている道筋の通りに進んでくれた方がありがたいし、原作以上のことが起きて被害を出してほしくない。ただ、それはそれでおかしいとも感じてしまう。鼓屋敷と那田蜘蛛山で起きていたのに、その次の無限列車には何もない。

拍子抜けしたというのもあるけど、不可解に感じるというのが強い。

 

 

「何かあるのでは勘繰ってしまうけど、もうこれ以上は起きないと思うわよ。さっき、悲鳴みたいなのが聞こえたし」

「そうだよね。炭治郎達の戦いも終盤まで.......あっ」

「どうしたのよ?」

 

 

七海と話し合いながら、私は原作での炭治郎達の戦いを思い返してみて、あることを思い出し、近くの窓を開けた。七海は私の行動に困惑していたが、私はそれに答える暇がなく、窓から身を乗り出し、外を見た。先頭の車両を見上げた時、上に誰かがいることに気がついた。そして、その人の手には刃物らしいものを持っていた。

 

原作で炭治郎が一般の人に刺されることがあった。

 

 

私は咄嗟に吹き矢で刃物を弾き飛ばした。刃物がその人から離れ、林の方へ落ちていったのを確認した。私はそれを見届けた後、列車の中へ戻った。

 

 

「いや、説明して!さっきから何をしてたの!」

 

 

戻った瞬間に七海からのツッコミが待っていた。だが、ずっと無視して進んでいたし、それは当たり前のことなので、私は苦笑いを浮かべたまま口を開いた。

 

 

「原作で炭治郎達が戦っている最中に刺されることがあったでしょう」

「あー。そういえばあったわね。もう原作の知識が少し曖昧になってきたけど.......もしかしてそれで!」

「うん。それで、窓から顔を出したら刃物を持っている列車の上に立っているところを見つけたの。すぐに駆け出そうとしていたから、その刃物をさっき吹き矢で弾いたの」

「でも、あまり晴れた顔をしていないわね」

 

 

私が途中までを伝えたら七海は気づいたらしい。私は頷きながら続きを話した。七海もそれで納得したようだ。だけど、それにしては私の様子がおかしいと思ったらしくて聞いてきた。

鬼の攻撃から乗客を守っている現状でも私の様子に気づけるって、七海は随分余裕だなと思ってしまうくらいだ。けれども、私も七海も戦っている最中ということもあり、あまり深くは聞いてこなかった。

 

 

私も刃物を弾いたら大丈夫だと思ったのだけど、何か違和感みたいなのを感じているのだよね。どうしてかは分からないけど、何かまだ違和感が残っている。些細なことだと思っていたけど、顔に出るくらいに気になるようだ。

まさかあの人が他にも何か持っていたりして.......。

 

 

その時、叫び声と同時に列車が揺れていた。考え事をしていた私は一瞬対応に遅れたが、すぐに体勢を整え、列車の床を滑りながら乗客に一気に襲いかかる鬼の攻撃を斬った。七海も血鬼術の波で鬼の攻撃を防いでいた。私はその攻撃も斬った。

 

 

「七海。この血鬼術の範囲を広げて。このまま行けば列車が横転するのは間違いないから、水で周りを囲んで、クッションのようにして衝撃を吸収させて」

「分かったわよ」

 

 

七海に頼むと、すぐに鬼の攻撃に対抗しようと形を変えた血鬼術の水が窓から外に出た。私は七海が血鬼術の方へ集中できるように鬼が攻撃してくる四両を守っていた。最期の抵抗のためにその数は多いが、捌ききれないというほどではない。それに、この四両の乗客の配置は覚えたし、ここで華ノ舞いを使えばなんとかできる。

 

 

全部外に出た血鬼術の水がそこから円になるように水が列車の周りを囲み、輪になった後にまた形を変え出した。その時、抵抗で膨張した鬼の肉により、列車が線路からズレて、宙に飛んだ。その瞬間を逃さず、形を変えようとしていた水が球の形まで広がり、列車を包み込んだ。水で包んだら列車内の空気は無くなるのではと思うかもしれないが、列車と水のクッションの間に気泡があり、その気泡も線路から脱線した衝撃を和らげるものである。

 

 

列車を包む水の球はシャボン玉のように浮き、広い場所で地面に降りた。ふわりと列車が着地し、七海は手を下ろした。鬼の攻撃はすっかり無くなった。これは鬼が抵抗する力もないくらいに弱まったというより、七海が何かしたのだろう。

案の定、七海が血鬼術で列車を包んだ際に少し洗車をしたらしい。血鬼術の水で行ったため、攻撃にもなっただろうね。七海の使う血鬼術の水って、

 

 

「ねえ、彩花。あの違和感、合ってたみたいよ」

「炭治郎達に何かあったの」

「炭治郎。腹を刺されていたわ。それと、一番先頭の列車にいた一般人が二人になってたわよ」

「えっ?」

 

 

七海の言葉から嫌な予感しかしなかったが、続きを促してみると、炭治郎が腹を刺されたことと運転手だけだったはずが一人増えていたのだと知り、点と点が繋がり、頭を抱えた。何も起きてないのに、嫌な予感はすると思っていたけど、まさか鬼が増えるのではなく、鬼の協力者の人間が増えたのは予想外だった。それなら、運転手から刃物を奪うだけでは駄目だ。まだもう一人いるから。

 

 

「彩花。怪我はたぶん原作と同じ感じよ。完全に止血できていないみたいだから、治療してくれない?」

「うん。そもそもあの時にもう一人いたことに気づけなかったのだから、責任を持って手当てするよ」

「いや、アタシもこれは予想外のことだったわよ。彩花の責任じゃないわ」

 

 

七海の言葉で私は走りながら傷薬と包帯を出した。止血できてもしっかり薬を塗り、傷口を塞いだ方が治療として正しいだろう。内心で運転手の存在を確認しただけで安堵するのではなく、周りをよく見ておく必要があったのだという後悔か残っていた。七海はその様子に気づいたようで、私を慰めようとしてくる。

ただ、それだけでは気持ちが晴れなかった。

 

 

私と七海が炭治郎達のところに着き、私は炭治郎の治療をして、七海は禰豆子達を連れ、乗客を避難させた。幾ら鬼の頸を斬ったからって、鬼に支配されていたところにいつまでも一般人がいるのは危ないし、この後のことを考えると、乗客を列車から離れた場所に避難させた方がいい。

 

 

「はい。これで大丈夫だよ」

「ありがとう、彩花」

「竈門少年!水野少女!」

「煉獄さん!」

「私は生野ですよ」

 

 

炭治郎の治療を終えた時、煉獄さんが私達のところへ来た。炭治郎は驚き、私は変わらずに訂正した。

 

 

「いや、すまん!水野少女はあっちか!」

「いえ、どちらも生野なのですが.....」

 

 

炭治郎と煉獄さんが会話する様子を見ながら、私は七海への呼び方も訂正し、辺りを警戒し出した。その時、私達のところへと向かう気配を感じ、腰にある刀に手を添える。炭治郎が私の様子の変化に気づき、口を開いたが、その前に何かが降ってくるのと、砂埃が舞う方が早かった。

 

 

私は立ち上がり、前にいる鬼に集中した。砂埃が完全に晴れ、見えた鬼の目に上弦の参という文字があった。やはり無限列車には上弦の参の猗窩座が来た。猗窩座はこちらに視線を向けたと思えば、次の瞬間には炭治郎を狙って、拳を振り上げていた。私が刀を抜き、その攻撃を受け流す前に既に刀を抜いていた煉獄さんが動いた。

猗窩座は煉獄さんに攻撃を弾かれ、元の位置へと戻っていった。その後で煉獄さんにつけられた傷を見て、原作通りのことを話し出した。その間に七海が戻ってきた。七海が猗窩座に気づき、私にも視線を向けてきくるので、その意図を察して頷き、煉獄さんと猗窩座の戦いを見た。

 

 

私と七海が目で会話している時には話を終え(というより、強制的に終わらせたのかな)、煉獄さんの刀と猗窩座の拳がぶつかり合っていた。今の私と七海にできることは煉獄さんの援護であり、間に入るというのは難しいだろう。猗窩座は煉獄さんに話しかけながら戦いを楽しんでいて、煉獄さんの方はだんだん体力が削れ、猗窩座の攻撃を受けそうになっている。

 

私が七海に視線を向けて頷くと、七海は腕を真横に上げた。

 

 

「血鬼術 波浪壁」

 

 

煉獄さんと猗窩座の間に水の壁ができ、猗窩座の拳を受け止めた。煉獄さんと猗窩座がそれに一瞬動揺した。

 

 

「華ノ舞い 日ノ花 日車」

 

 

その隙に私が猗窩座の腕を斬って離れた。猗窩座の反応が遅れていて、私だけでなく煉獄さんも猗窩座から難なく距離を取れた。この斬撃は鬼に痛みを感じさせないものだ。そのため、鬼が気づくのにズレが生じる。これは慈悲で頸を斬るのに使用していたが、使い方によっては別のものがあると分かった。

水仙流舞が水仙龍舞となった時に他の華ノ舞いも(柱の目から逃れながら)試してみて、何かしらの変化がないかと試してみたのだ。水仙流舞くらいしか変わったものはなかったが、日車に関してはこの使い方ができないかと思ったのだ。

 

 

ちなみに、日車のことで後に問い詰められるのではないかと考えるだろうが、その心配はない。七海の血鬼術で煉獄さん達からは見えなくなっているからだ。猗窩座の攻撃を防ぐために煉獄さんの前には波浪壁があり、その波を通して見ることになるが、光の屈折や反射を利用して、私の刀の色が青色で、炎ではなく水を纏っているように見せたのだ。

七海の血鬼術って、本当に便利だよね。

 

 

まあ、これを行っても猗窩座には位置的にその範囲外なのだが、あくまで鬼殺隊にバレなければいいため、猗窩座に見られても問題はない。

 

 

「煉獄さん!せめて援護くらいはさせてください」

「いざという時にはアタシが防げるから」

 

 

私が猗窩座に向けて刀を構え直しながら言うと、七海も隣に来た。今の私達では上弦の参を倒せない。前の時なら私も七海も上弦の鬼と遭遇しても生き残れるくらいの力はあった。いや、頸を斬れていたよねと言われそうだが、あれは運が良かったのだ。七海と禰豆雄で追い詰められて弱っていたところを、私が透き通る世界に入って隙をついたという感じだ。前の時と今は全然違う。

可能性があるとしたら煉獄さんだ。だけど、原作で煉獄さんは亡くなった。それなら私達が煉獄さんを全力で援護し、死なせないようにする。

 

 

「...七海。お願いね」

「分かってるわよ。流石に今の彩花に何もしないで、そのまま上弦の鬼と戦わせるなんてやらないわ」

「鍛練の時はそれくらいやっているでしょう」

「そのくらいがいいって、彩花も思ってるよね。でも、今回はしないわよ。命がけの稽古をしたり、たまに任務でも制限時間や条件をつけたりしてるのはこういった時のためによ。これは同じじゃないわ」

 

 

私の声で緊張していることに気づいたのか、七海は私に軽口を叩いた。私はそれに反応し、文句を言ってしまい、七海は呆れた顔をして私を見ていた。

 

そこまではしないかなと思っているけど、やりそうだなとも思うのだよね。まあ、これらは互いの合意の上でやっていることであるとしても、今回は勘弁してほしかった。

 

 

ただ、七海のおかげで緊張が解けた。それは感謝している。そういう意味で七海に向けて笑みを浮かべると、七海は頷いて猗窩座の方を向いた。

 

 

「血鬼術 氷柱剣・蒼海」

 

 

七海が両手を伸ばすと、氷柱が二本現れ、次の瞬間には氷柱が刀へと形を変えた。さらに、その刀は刃の部分が水を纏っていて、青く光るものだった。

 

 

どうしてこの刀ができたのかというと、七海が呼吸を使いたかったからだそうだ。日輪刀ではないから、例え鬼の頸を斬ってもその鬼は死なないが、近接戦では刀を使う方が合っているのだと本人が言っていた。

....だけど、七海は拳でも割と行けるのではないかと思っている。前の時は禰豆雄と拳で喧嘩していて、刀などの武器よりも経験があるのではないかな。

 

まあ、それを本人に言う気はないけどね。

 

 

「七海。今回は華ノ舞いを惜しみなく使うから、きちんと合わせてね」

「そっちもよ。アタシも呼吸を使うのだから、ちゃんと連携を取ってよね」

 

 

私と七海は互いに手を上げ、ハイタッチした後、刀を構えて猗窩座に向かった。

 

猗窩座は相手にする気がなさそうだけど、そうは言っていられないようにしないとね。猗窩座が女性に手を出さないようにしているのは分かっているし、その理由も知っているけど、優先しないといけないことがある。

 

 

「華ノ舞い 水ノ花 水仙流舞」

「海の呼吸 参ノ型 飛泉万波」

 

 

私が猗窩座の攻撃に対応できるようにしていて、七海も同じ行動を取った。連携が一番取りやすいのはこの組み合わせだ。どちらも変幻自在に動くという面で最適だ。ただ、両方とも最も攻撃力のあるものではない。だけど、火力が煉獄さんが主なので、私達がそちらを心配することがない。あくまで猗窩座の攻撃を防いだり、煉獄さんを援護したりできたらいいのだから。

 

 

「炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天」

「破壊殺 空式」

 

 

煉獄さんが猗窩座に近づき、刀を振ったところで猗窩座も拳を向けた。だけど、流れるような動きで移動していた私達はそれを受け流したり

 

 

「破壊殺 乱式 鬼芯八重芯」

「海の呼吸 弐ノ型 篠突き・雨」

 

 

七海が猗窩座の拳を突き技で受け止めた。七海の力があるからこそ、この行動ができる。他の人だと刀が折れるのは間違いないし、私もやろうとした瞬間に吹き飛ばされるのは確実だ。刀も七海が血鬼術で作った特殊なものということもあり、七海が猗窩座の拳を受け止めることは信じていた。

だから、私はその隙に動ける。

 

 

「破壊殺 脚式 冠先割」

「華ノ舞い 炎ノ花 紅梅うねり渦」

 

 

そう思ったが、流石に猗窩座の羅針には私の動きが分かっているらしく、猗窩座が足技を放ってきた。私はすぐに型でそれを防いだ。

 

相手が猗窩座であるため、念には念を入れた。この型が原因で色々言われるかもしれないけど、今はそれどころではないし、いざという時は煉獄さんの呼吸を見てと言い訳をしよう。かなり怪しまれる可能性があるけどね。

でも、猗窩座の蹴りの威力を知っているので、徹底的に対策を練っておかないと。

 

 

私は猗窩座の蹴りを防ぎ切った。だが、それによって私の足が止まり、猗窩座が標的を七海から私に変更した。私はそれに気づき、刀を構え直した。

 

 

「華ノ舞い 花ノ束 桜花しぐれ」

「破壊殺 乱式」

「華ノ舞い 炎ノ花 紅梅うねり渦」

 

 

私が広範囲攻撃に変えると、猗窩座はその斬撃を拳で撃ち落とした。私は危機感を覚え、防御に専念した。煉獄さんが私の様子に気づいて加勢しようとするが、七海が代わりに止めてくれた。

 

 

「血鬼術 千波織」

 

 

血鬼術の波が私を包むように猗窩座の攻撃から守った。私はその間に横へ動き、刀を振った。それにより、猗窩座の片腕を抑えることができ、その隙を狙って煉獄さんが刀を振るう。

 

 

「炎の呼吸 参ノ型 気炎万象」

「海の呼吸 陸ノ型 暁雨白浪」

「華ノ舞い 花ノ束 桜花しぐれ」

 

 

煉獄さんの斬撃に合わせて七海も攻撃し、私は猗窩座の攻撃に備えて型を使う。広範囲だが、猗窩座の動きを抑えるのには良い。広範囲に動き回れるのはそういった意味でも助かる。ただ、体力は減りやすくなるのだけどね。利点はあるけど、長期戦には向かない。

そのため、煉獄さんに猗窩座の攻撃が当たるぎりぎりまで動かないようにしていたのだ。

煉獄さんには本当に申し訳なかったけど....。

 

 

「華ノ舞い 炎ノ花 紅梅うねり渦」

 

 

猗窩座が拳を握った瞬間、私は広範囲の攻撃を止め、防御を選んだ。広範囲で行動範囲を狭めてきたが、それで私達も猗窩座の間合いやその近くにいることになっている。

七海はまだ猗窩座の攻撃を普通に受け止められるし、上手くいけば押し返すこともできるが、私にはそれができない。受け流すのが可能でも、この距離でやれば煉獄さんや七海に当たってしまう。そうなると、私ができることは一番防御に向く型を使うしかない。

ただ、それで受け止められるかどうかは五分五分だ。幾ら防御に優れていても、猗窩座の攻撃を完全に防げるのかという確証はない。

 

 

私は必死に刀を振ったが、やはり防ぎきれなかった。猗窩座の攻撃が私の羽織に擦った。いや、七海が私を血鬼術で引き寄せなかったら猗窩座の攻撃が当たり、骨が折られたかもしれない。下手したら内臓に当たった可能性もあった。

 

 

「七海、ありがとう」

「どういたしまて。それより、次に意識を向けないと」

「華ノ舞い 炎ノ花 紅梅うねり渦」

「海の呼吸 壱ノ型 蒼海環流」

 

 

七海に一応礼を言ったが、私も七海もそれどころではなかった。七海は口では返事していてもそちらに意識を向けられない。私もすぐに型で猗窩座の攻撃を防ぎ、七海と連携していく。

どちらも余裕がない。やはり前と違ってあの五年間がないと駄目なようだ。七年間だったものを二年にしたが、それは無理があった。

煉獄さんが私達のことを気にしている。猗窩座の攻撃を受けていないから怪我はしていないけど、このままだと私達が押し切られる。

 

 

「華ノ舞い 水ノ花 水仙龍舞」

「ちょっと!?その型を使うの!?あー!もう!」

 

 

私が最近修得したばかりの型を使うと、七海は片手で頭をかきむしる。だが、それでも私にあわせて行動してくれている。私はそれに感謝しながらも猗窩座に確実に当てた。その瞬間、七海が血鬼術で氷柱を出し、猗窩座を貫いた。煉獄さんがそれに続き、刀を振り上げた。

 

 

「破壊殺 終式 青銀乱残光」

 

 

しかし、それに動じないところが流石だろう。猗窩座は貫かれた状態でも気にせずに血鬼術を使った。

鬼はすぐに回復するとはいえ、これは予想外だった。私はまだ範囲内にいるし、煉獄さんも入っている。このままだと猗窩座の攻撃が直撃するのは間違いない。

 

 

「華ノ舞い!」

 

 

私は華ノ舞いを使おうと構え、刀を振った。だが、迷いがあり、その刀は炎を纏わず、色すら変わらなかった。どの型でもこの状況を打破できそうになく、急所には当たらないだろうが、何処かに攻撃が当たるのは分かる。水仙流舞は受け流す型であるが、攻撃を防ぐわけではないので、仮に和幸が避けきっても煉獄さんに当たってしまう。水仙龍舞の方も同様だ。それなら紅梅うねり渦か桜花しぐれが有効なのだろうが、紅梅うねり渦では範囲が広すぎて難しいし、桜花しぐれも広範囲に動けるとはいえ、全て捌ききれない。

それでも、何か抵抗をしたくて、反射的に刀を振った。それは普通の斬撃で、猗窩座の攻撃を受ければ吹き飛ばされてしまうようなものだった。

 

 

だが、そうならなかった。猗窩座に当たる直前で刀の色が変わった。峰の部分が桃色で、刃の部分が赤色という二色になり、刀の模様も梅と桜の両方の模様が浮かび上がっていた。....これはどちらも木の上に咲く花だからなのか...共通点がよく分からないが、私の頭の中には紅梅うねり渦と桜花しぐれの二つが流れたまま、加えて別の型も頭の中に入ってきた。その型は花の呼吸の陸ノ型の渦桃だった。

どんな共通点があるのか知らないが、この三つが繰り返し頭の中に浮かび、一つの形となった時に私の口が動いた。

 

 

「華ノ舞い 燃花ノ束 桜梅跳竜巻(おうばいとうりんまき)

 

 

私はスキップのように軽く飛び跳ねながら進み、刀を回転させた状態で渦を描き、それを前へと向ける。

すると、炎を纏ったその斬撃は渦となり、その上で炎の軌跡には一緒に桜や梅などの花びらが舞った。私がそれらを集めるように刀を回転させ、思いっきり刀を振っていると、そこからも渦が発生する。その渦が猗窩座の攻撃を呑み込み、その攻撃が渦を貫くことはなかった。そして、その渦は猗窩座の進路を塞ぎ、猗窩座の身動きを封じていく。

 

 

さらに、ここで私達に追い風が吹いた。私の目にゆっくり動く猗窩座や周りの姿が映った。その姿は透明で、猗窩座の筋肉の動きがしっかり見えた。何度もこの世界で戦い、見てきたそれと感覚に私は驚くと同時に、口角を上げて歓喜した。

これは透き通る世界だ。そう確信した時には視界は元に戻っていた。やはり長時間の使用はまだできないみたいだ。

 

 

だが、これは絶好の機会なのは間違いない。透き通る世界に入れたのはあの新しい型を使っている最中だった。なので、その間は猗窩座に感知されなかったということだ。

 

私の攻撃に猗窩座は反応できていなかったらしく、両腕が斬られたうえに体も斬撃の渦によって所々斬り裂かれていた。私はすぐに追撃した。色々なことが起こっていたが、今一番優先するのは目の前の相手だ。

 

 

「華ノ舞い 雷ノ花 梔子一閃」

 

 

私ができる限り速く動ける型を使い、一気に猗窩座との距離を詰めた。透き通る世界には入れてないこの型は猗窩座の羅針に引っかかった。だが、猗窩座に反応される前に間合いに入ることができた。刀を振り、片腕を斬り落とした。それもすぐに再生してしまうだろうが、それでも僅かに時間ができる。

 

 

「炎の呼吸 壱ノ型 不知火」

 

 

私の方を向く猗窩座の背後から煉獄さんが刀を振った。刃が猗窩座の頸に当たる。猗窩座は振り払おうとするが、その前に私と七海が動いた。

 

 

「華ノ舞い 水ノ花 水仙流舞」

「海の呼吸 弐ノ型 篠突き」

 

 

私が片脚を斬り落とし、もう片方の脚は七海が突き技で地面に縫い付ける。だが、猗窩座の回復速度は速く、腕が再生しかかっていた。

 

 

「ヒノカミ神楽 陽華突」

 

 

私は再生しようとする右腕を突き刺し、これ以上の再生を止めようとしたが、それはできなかった。いや、片方の腕の再生は止まったのだ。だが、もう片方の腕はそのまま再生を続けた。それどころか私の突き刺した腕の方の再生を諦め、残った腕の再生に集中し、一瞬でもう片方の腕を再生させた。煉獄さんの刀が猗窩座の頸に食い込んでいるが、まだ半分も斬れていない。

突き刺すのではなく、何度も斬る方を選ぶべきだった。流石に慌てていて、そこまで

 

 

猗窩座は再生した腕を煉獄さんに向けて振り下ろした。

 

 

「煉獄さん!左から攻撃が来ています!」

「煉獄さん!!」

 

 

私も遠くで見ていた炭治郎も叫んだ。だが、猗窩座の腕は煉獄さんの頭を......。

 

 

「血鬼術 千波織」

 

 

その時、七海が空中から水を出し、その水により猗窩座の攻撃が弾かれた。だが、猗窩座は再び腕を振り下ろそうとする。その腕を煉獄さんが掴んで止めた。猗窩座が目を見開き、振り払おうとするが、煉獄さんはその手を離さなかった。それと、そんな状態でありながらも刀を握る手は緩めず、刀は猗窩座の頸の半分以上の位置にあった。

 

そこまで頸が斬られているならもう少しだ。

 

 

私は刀を強く握り、猗窩座から離れようにした。猗窩座は私達を振り払い、この状況をどうにかしようとしているようだ。頸を斬られそうになっているし、もうすぐ日が昇る時間だ。このまま耐えきれば勝てる。そう思うが、何故か嫌な予感がする。

 

 

炭治郎と伊之助もこちらに向かってくる。私達に加勢しようとしているのが分かる。

.....だけど...この流れは前に何処かで.........あっ。

 

 

私が気づいた時には猗窩座の姿が消えていた。刀に刺さっていたのは再生しかけた右腕と肩だけであった。七海の刀には片脚があり、煉獄さんの手にもう片方の腕があった。だが、反対の手で握っている刀は刃の部分が無くなっていた。

見上げると、両腕と片脚がなく、頸には刀が刺したままの猗窩座がいた。私はそれに既視感を感じた。

 

 

原作と似た展開になっている。煉獄さんが体を貫通されていないが、猗窩座を後一歩のところまで追い詰めたのに、そこを猗窩座が両腕を失ってまで脱出した。この後の猗窩座は林の方に逃げるはずだ。

 

 

私が林の方に向かい、七海も私の後を追いかける。猗窩座は残った脚で地面を強く蹴り、私達の上を飛び越え、林の中へと入っていった。私と七海が呼吸を使って追いかけようとしたが、その前に炭治郎が刀を投げるのが早かった。

相変わらず、炭治郎の命中率は凄い。心臓辺りに突き刺さっている。

 

 

猗窩座の体に刀が刺さったのを確認した時には猗窩座の両腕と片脚が再生したのが見えた。刀が刺さっても猗窩座は走り続け、木陰によって視界から消えてしまった。今から追いかけても猗窩座に追いつけないだろう。再生しているのだから、私達の足で追いつける可能性は低くなった。

それに、猗窩座はそんなに消耗していない。太陽から逃げるのに、全速力で走っているし、私達の足で追いつけるかどうか分からないうえに、あちらには鳴女という鬼がいて、その鬼の力で無限城に入られる可能性がある。日陰に入っているし、血鬼術は使える。あの場所で猗窩座が血鬼術を使うことはないだろうが、鳴女が使うかもしれない。

 

 

そう判断し、私はすぐに七海に羽織を被せ、列車の影に隠れた。七海の体に少し火傷を負っていたが、それはすぐに再生した。そのことに安堵している間に炭治郎達の方は進んでいる。

炭治郎の声が辺りに響いていて、少し離れたところにいる私達にも聞こえてきた。言っていることは原作と変わっていない。ただ、私と七海の名前が出てくることに違和感を感じるが、大体の流れは同じだった。

 

 

炭治郎の叫びを聞いた後、煉獄さんが炭治郎を呼んでいた。そんな大きな怪我はしていないし、命に別状はないと思うが、原作と同じ状況で不安になった。

念のために確認しに行こうか悩んだが、七海をしばらくの間放置するのが怖い。今の私は刀だけを持っている状態だ。列車の車両を守るのに、少しでも身軽になろうと思い、背負い箱と薬箱(薬が入っているウエストポーチ型の箱)は席に置いてきたのだ。影に隠れているが、何処から日の光が漏れるか分からない。早く背負い箱の中に入れないと...。

 

 

私は煉獄さんと炭治郎が向き合っている姿に背を向け、背負い箱を取りに行った。少し探し回ったし、列車が横転した衝撃で壊れていないか心配だったが、善逸が確保してくれたようで、元の状態のままだった。薬箱の方も大丈夫だった。

 

 

私はそれらを持って七海のところへ戻った。七海は自身の体を縮ませ、日の光に当たらないようにその場から動かなかった。背負い箱を開けて七海の前に置くと、七海は一瞬で中に入り、私は苦笑いを浮かべながら閉めた。

 

日の光を浴びたらそこから焼け始め、全身にまで広がり、灰になるまでその痛みが続くというのは流石に七海も嫌みたいだ。

 

 

箱を背負った後、私は煉獄さん達のところに向かい、立ち止まった。

炭治郎が泣いている。

炭治郎のことを見て、私は顔を真っ青にして煉獄さんに駆け寄り、脈を確認した。脈は動いている。口元に近づき、耳を澄ますと、呼吸音が聞こえるし、胸も動いている。どうやら眠っているようだ。

私はそれを知って安堵したが、困惑もした。煉獄さんが生きているのに、どうして炭治郎がこんなに泣いているのだろうかと。

 

 

「炭治郎。座ったまま寝ている煉獄さんの前で、どうして泣いているの?」

「どうしてって.....だって....煉獄さんがぁ.......」

「煉獄さんなら生きているよ。寝息が聞こえたし、本当に寝ているだけだよ」

「えっ?」

「はあっ!?」

 

 

あの質問に対する炭治郎の反応を見て、まさかと思っていたけど、そのまさかだったようだ。炭治郎と伊之助が驚いていた。被り物をしていてよく分からなかったが、伊之助も泣いていたみたいだ。

 

 

「けど、血が.....腹の辺りに....あれ?」

「あー...その血はきっと猗窩座の返り血だと思う。私達、猗窩座の近くにいたから」

「ギョロ目、なんで寝てんだ?」

「....普通に疲れたんだと思うよ」

 

 

炭治郎の言葉に私は苦笑いを浮かべながら答えた。あの血がついたところを目撃していたし、そもそもその返り血は私と七海が両腕や脚を斬った時についたものだし......。...この勘違いの原因って、私達だよね....。

けど、煉獄さんが寝たのはたぶん疲れが原因だと思う。これは予想だから、本当なのではないけどね。伊之助の質問には答えづらくて、お茶を濁した。

 

 

空が完全に明るくなり、私は朝日を眺めた。猗窩座の血は日光に当たって消えてしまったが、私と七海の刀に付着していて、少量は手に入った。無限列車での戦いも煉獄さんが死なず、私達全員が生き残った。猗窩座の頸をここで斬れなかったことは悔しいが、今はそれ以上にここで全員が明日を迎えられることを喜んでおこうと思う。

 

まだまだ色々あるけど、今は一つ乗り越えたと思って...休みたいなあ.....。

 

 

 

戦いが終わったと改めて認識した瞬間、体から力が抜け、意識も遠くなった。

 

 

 

 

 

 

「えっ?彩花!」

「おい!彩芽!しっかりしろ!」

「彩花ちゃん!.....いや、心臓が動いているから、たぶん眠っているんだと思う。箱からも七海ちゃんの寝息が聞こえるし」

「そうか。確かに彩花も七海も上弦の鬼と戦っていたから、疲れているはずだ」

 

 

突然倒れた彩花を見て、炭治郎と伊之助が駆け寄った。禰豆子の入った箱を背負ってきた善逸も声で状況を知ったらしく、彩花に近寄ってきた。だが、近づけば心臓の音が聞こえ、そうではないのだと分かった。彩花の背負う箱からも寝息が聞こえてきて、二人とも眠っているのだと分かる。炭治郎はそれに気づいて納得し、ほっとしてその場に座った。

 

 

「お疲れ、彩花」

「七夢もな」

「七海ちゃんもでしょ!」

 

 

炭治郎達もまたいつもの調子に戻ってきた。だが、上弦の鬼の猗窩座と出会い、自分達の力不足を痛感した炭治郎達は強くなることを誓い合った。

その話は夢の中にいる彩花や七海に聞こえてなかったが、起きた後の三人の様子でそれを察し、一緒に鍛練をするようになった。そこに仲良くなったしのぶさんと甘露寺さんが加わり、善逸が凄く上機嫌になるが、その話を聞いた伊黒さんにより、炭治郎達は柱稽古のように障害物に縛り付けられることになった。

 

 

 

 






この話で、しばらくの間はお休みさせてもらいます。次の投稿の予定は未定ですが、体調が元に戻り、なおかつ時間があれば投稿を再開しようと思います。




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