影浦雅人の『兄貴』 (瑠威)
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番外編0-1 頑張れ宇佐美!! 今年こそは! 決死のクリスマス大作戦!!!

*内容はクリスマス関連です。クリスマス当日に投稿出来なくてすみません。
*時系列的には空閑が緑川をボコボコにした後ぐらいのつもりで書いています。
*本編を読まれていない方は本編を読まれた後に読むことをオススメします。


──本日の主人公──
【宇佐美 栞】
 この番外編の主人公。恋する17歳のピチピチJKな乙女。あの手この手で想い人である静雅をデートに誘おうと画策する。

──愉快な仲間達──
【影浦 静雅】
 強くて、優しい。そしてかっこいいと緑川が言いふらすため、静雅を知らない人間は菩薩を想像するが、実際会うと多分ガッカリするので、あまりいい方向に想像しないほうがいい。基本的に勉強面で誰かを殺し、鬱憤が溜まると物理的に太刀川は殺される。

【空閑 遊真】
 まだ静雅とはあったことの無い人型ネイバー。緑川が言う人物像で今のところ静雅が出来上がっているので、彼の中の静雅は来馬辰也並の菩薩が出来上がっている。

【三雲 修】
 メガネ。声はかっこいいけどそれを感じさせないメガネ。原作である主人公の1人なだけあって声はめちゃくちゃいい。きっとネイバーと共に巨人も駆逐してると思う。静雅のことはうっすら遠目で見たことあるぐらい。残念なことに今回は一言も喋らない。

【雨取 千佳】
 静雅のことは知っている。濡れ衣かけちゃった先輩と認識。あの後、東や荒船が気にしなくていいと言っていたがかなり気にしている。次にあったら絶対に謝ろうと心に決めている。

【迅 悠一】
 静雅さん大好き同盟にちゃっかり加入している実力派エリート。会長が宇佐美、副会長が菊地原、メディア対策本部長が迅、所属タレントに生駒と勝手に加入させられた隠岐と嵐山の構成で成り立っているらしい。活動内容は不明。

【生駒 達人】
 去年のクリスマスを勝ち取った一人。浪速のナスカレー。迅と共に静雅さん大好き同盟に加入し、所属タレントというよく分からない地位で活動している。が、本人が言うには「俺が所属タレントてアカンやん。何がアカンて怖い顔しとるし、静雅さんを勘違いさせるようなマネしたくないねん」と言うことで顔のいい隠岐と嵐山を連れてきた。尚、2人は何がどうなっているのかよく分かっていない様子。残念なことに今回は一言も喋らない。

【隠岐 孝二】
 去年のクリスマスに何故か静雅に認められた男。肝心な時に外すスナイパー。静雅さん大好き同盟の所属タレント。広報活動は1度もしたことは無い。残念なことに今回は一言も喋らない。

【影浦 雅人】
 一昨年のクリスマスに勝ち取った男。マンティス首ちょんぱが得意技。残念なことに今回は登場無し。

【仁礼 光】
 宇佐美の恋敵。静雅と面と向かって会うと少しテンパる。可愛いけど今回は出ない。

【沢村 響子】
 長年、忍田本部長に恋心を寄せている。しかし、様々な理由から中々告白するには至らず、いつの間にか静雅にまで応援されているとは知らない。「忍田の嫁」と静雅に呼ばれた時には様々な想いが胸の中で交差し、号泣した経験がある。時々、宇佐美から恋愛相談を持ちかけられるが、彼女に相談すればするほど上手く行かないフラグが立っていることに誰も気づかない…。

【緑川 駿】
 静雅を「しずかん先輩」と呼べるつわもの。迅も大好きだけど同じくらい静雅も大好き。三バカの1人を担う迅&静雅バカ。

【出水 公平】
 静雅を「静雅さん」と呼んだり「静雅先輩」と呼んだりする。基本的に静雅さんで呼ぶが時々たまに静雅先輩に。ちょっとだけ静雅が怖い。三バカの1人を担う弾バカ。

【米屋 陽介】
 カチューシャを外したらイケメンかもしれないイケメン。あまりにもランク戦に入り浸りすぎて学業の成績に大打撃を受けている。時々、三輪と静雅の熱血指導を受けて死ぬ。三バカの1人を担う槍バカ。

【二宮 匡貴】
 彼の名を聞いたら思い出すのはみっつ。ジンジャーエールか雪だるま。そして、スーツ。自身のことを天然だとは疑わず、かっこいい人間だと思い込んでいる。そんなところに惹かれるファンも多いことだろう。
ちなみに大学の専攻は太刀川が「めんどくせぇ」という理由からほとんど一緒である。


【風間 蒼也】
 静雅からクリスマスプレゼントと称したセ○ビックを渡された時は結構ガチな喧嘩をした。でも、セノビ○クには罪はないのでちゃんと飲んだらしい。

【太刀川 慶】
 ダメな大学生の典型的な例。周りにしっかり者が多いことから、さらに浮き彫りになる。この小説で彼が登場すると9割の確率で死んでいる。




 

「むむむ」

「あれ、しおりちゃん何してるの?」

 

 

 12月某日。場所は玉狛にて。喉が乾いたと居間にやってきた空閑は、机に向かって唸っている宇佐美を見て首を傾げた。またやしゃまるシリーズの新作を考えているのかな?それだったらここでやるはずないよな。じゃあ勉強?と色々浮かんでくるが、今の宇佐美にはどれも当てはまらないようにも思える。

 

 

「ああ、遊真くん。あのね、もうすぐクリスマスだからどうやってシズ…静雅さん誘おうかなって」

「おお、またシズカさんの名前だ」

 

 

 シズさんと言っても空閑には伝わらないだろうと思った宇佐美はすぐ様言い直す。C級になって間もない空閑はA級の静雅とは中々会えないらしく、名前しかまだ知らないようだった。

 

 

「やっぱり名前は聞いた事あるんだね」

「そりゃもちろん。緑川とか米屋せんぱいとかがよく名前出してるし」

「あ〜…駿くんはたしかに。陽介もバトルジャンキーだからよくシズさんにランク戦挑んでるのかも」

「そのシズカさんって人、強いんでしょ? それに優しくていっぱい奢ってくれるって言ってた」

 

 

 鼻息を荒くして静雅のことを語る緑川を見て若干引いてしまったのは記憶に新しい。そんな緑川を見て米屋は「いつものことだから慣れろ」と笑っていた。ふむ、実に興味深いと空閑は言う。

 

 

「んー、多分遊真くんは大丈夫だと思うけど、シズさんって結構好き嫌い別れるからね。ハマる人にはハマるんだけど」

「…人間なんだから、そりゃ欠点もあるでしょ」

「シズさんの場合は結構それが浮き彫りでさ。シズさんを嫌ってる代表的な例は…嵐山隊の木虎ちゃんとか」

 

 

 静雅は木虎以外を除けば嵐山隊とは円滑に交友関係が出来ているので、そこまであからさまという訳では無い。けれど、木虎は自分から静雅には近づかないし、やっぱり態度もツンケンしたものが多い。

 

 

「嫌われてるとはまた別の部類に入ると思うんだけど、奥寺くんって言う子がいるんだけどね。その子にはすごくビビられてて」

「なんで? シズカさんって優しいんでしょ?」

 

 

 「緑川がそう言ってたよ」と空閑は言う。「優しいというか…」と宇佐美は困ったように苦笑いを浮かべた。頬をポリポリとかきながら、どうやって空閑に説明しようか考える。

 

 

「シズさんってね、顔が意外と怖くて、それでいて感情的な人というか…暴力的な人というか…。だから、喧嘩とか普通にするし、平気で人を殴ったりとかもできるわけね。それをたまたま奥寺くんが見てたみたいで」

「ほうほう」

「ぶっちゃけると、駿くんみたいなのは結構特殊なんだよ。結構歳が離れてるのにああやってシズさんを好いてくれてるのって。シズさんはあまりいい噂とかないから、歳下の子たちは敬遠するんだよね」

 

 

 話してみれば案外優しい人だと気づけるのだが、話すのに勇気がいるし、静雅も自分から喋りに行くようなタイプではないから、こればっかりはしょうがない。けれど、みんなに静雅はいい人だと知って欲しい宇佐美は時々布教活動を行っている。

 

 

「でも、そのクリスマス…? とシズカさんに何の関係があるの?」

 

 

 宇佐美が静雅を気にかけていることは分かった。が、それと静雅にどんな関わりがあるのか、日本に来たばかりの空閑にはピンと来ない。

 

 

「それは、その…あれだよ」

「ほら、宇佐美は静雅さんに好意を持ってるから」

「迅さん!!」

 

 

 「よっ」と片手にぼんち揚を持ってやってきたのは自称 実力派エリートの迅だった。トレードマークのグラサンに青いジャージ。そして今はイタズラが成功して嬉しいと言うかのように目を細めている。

 

 

「へぇ…しおりちゃんはシズカさんのことが好きなのか」

「…まあ、別に隠してないからいいけどね」

 

 

 元チームメイトの風間隊のみんなにもいつの間にか気付かれ、そこからは隠さなくなった宇佐美。差恥等知らないし、静雅のことが好きだという感情に誇りを持っている。けれど、自分から言うのと他人から指摘されるのはなんか違う。変に緊張というか、改めて実感させられるというか。決して嫌な気持ちではないのだけれど。

 

 

「一昨年、去年とかは取られてるから今年は何としても取りたいとこだよな」

 

 

 迅の言った通りだった。一昨年のクリスマスは残念なことに影浦家に取られてしまった。家族でお祝いすると聞いてしまったら誘いづらいし、逆に空気を読んでもらい「じゃあ一緒にすっか?」と言われるのも嫌だった。…嬉しいけど、まだあの時は静雅の家族に会う勇気がなかったとも言える。

 反省しかなかった一昨年を踏まえて意気込んだ去年。家族との予定が入る前に何としても予約しておきたかったのだが、色々と邪魔が入った。主に関西人の独特な勢いにやられた。気がつけばあれやこれやと静雅の予定をかっさらわれ、連れていかれた。恋とは苦いものだと沢村から聞いていたけれどその通りだと思ってしまった。1週間は悔し涙で枕が濡れたことを明記しておこう。

 

 

「そうなの!! でもさ、少し悩んでるんだよね…」

「ほほう、それは何故?」

 

 

 色恋沙汰で言うと疎い方面の空閑ではあるが、聞く分には好きだ。それが揶揄えるネタであると尚更。それに、真剣に悩んでいる宇佐美を見て放っておくという手段は空閑の中ではなかった。助けられるなら助けてあげたいというのが本音だ。

 

 

「ほら、シズさんと初めて会った年は何としても2人っきりで!!って息巻いてたんだけど、それが失敗に終わっちゃって。去年とかも2人っきりで会おう!って思ってたけど、それもやっぱり失敗で。今回も2人っきりだと上手く行く自信がないんだよね…」

「なるほど」

「それにさ、付き合ってるならまだしも、付き合ってないんだよ? よくよく考えてみると、それでクリスマスに2人っきりは重いかな、と」

「静雅さんならそんなこと気にしないでしょ」

「うむ。オレもそのシズカさんのことはよく分からないけど、緑川が言うにはそんなことで怒る人にも思えないよ」

 

 

 「そうなんだけど、そうなんだけどさ…」と宇佐美の返事はなんとも歯切れの悪いものだった。頭の中で分かってはいても、不安なものは不安なのだろう。

 

 

「そんなに不安なら玉狛に呼んじゃえば?」

「おお! それはいい考えだ。オレもそのシズカさんに会ってみたい」

「確かに、玉狛なら毎年クリスマスパーティはしてるし、それを理由に呼び出すことは可能か…」

「んでもって、ちょっといい雰囲気になった所で屋上にでも行きなよ」

 

 

 基本的に玉狛には木崎を筆頭に空気が読めるエキスパート達が揃っていた。新人である三雲や雨取も例外に漏れず、そして一番懸念されるであろう小南も宇佐美の恋心には気づいているし、それこそ女子である。きっと手回ししてくれるに違いない。

 

 

「それでしおりちゃんが「寒っ」って言ってマフラーでも巻いて貰えばリア充の仲間入りですな」

 

 

 最近覚えた「リア充」を使えてとてもご満足そうな空閑。宇佐美は顎に手を置き、少し悩んだ素振りを見せると…迅の肩に手を置いてクワッと効果音がつきそうな勢いで顔をあげる。

 

 

「迅さんナイス!! 私、頑張るね!!」

「おーおー、頑張れ」

「遊真くんもありがとう! 私、ちょっと本部行ってくる!!」

 

 

 外は寒いだろうとコートとマフラーを持って出て行く宇佐美に抜かりはない。そんな宇佐美の後ろ姿を見ながら迅は呟いた。

 

 

「まあ、誰も宇佐美が上手くいくとは言ってないんだけどね」

 

 

 空閑が首を傾げる。そんな空閑の頭を迅は撫でながら言った。

 

 

「今年は残念なことにラスボスがいるんだ。静雅さんは絶対にそっちを取っちゃうんだよね」

 

 

 宇佐美の恋は実って欲しいと思っているけれど、これは流石に迅でもどうすることも出来ない。静かに合掌をする迅を見て、空閑も真似をして合掌した。

 

 

 

 * * *

 

 本部にやってきた宇佐美は目的である静雅を探していた。しかし、本部と言っても中は広い。手当り次第に探すよりも電話した方が早いか…と思ったが出てくれるかなと不安にもなった。とりあえず、かけるだけかけてみようと携帯の連絡先を探す。

 

 

「宇佐美先輩…?」

「お、チカちゃん!」

 

 

 前方からタッタッタッと走ってくる雨取を見つけて、宇佐美は大きく手を振る。なんで雨取が本部にいるのだろうと思って思い出す。

 そう言えばスナイパーの合同練習に行くって言ってたっけ…。雨取が廊下にいるということはきっと合同練習は終わったのだろう。「お疲れ様」と宇佐美は声をかけた。

 

 

「お疲れ様です」

「ちょうどいいや。チカちゃん、静雅さんって知ってる?」

 

 

 静雅はスナイパーだし、もしかしたら合同練習に出ていたかもしれない。可能性は限りなく低いけれど。

 

 

「あ、はい。1度だけお会いしたことがあります」

「1度だけ…ってことは今日の合同練習は来てないんだね」

 

 

 確かに静雅は合同練習に参加するような人ではない。ポイントとかにも無頓着だし、割とやりたい放題な人だから、風間に尻でも叩かれない限りはきっと姿を現さないだろう。…天敵の太一くんもいるし仕方ないかなぁと宇佐美は苦笑いをこぼした。

 

 

「はい。もしかして影浦先輩を探してるんですか?」

「うん。そうなの」

 

 

 中々静雅相手に聞けない「影浦先輩」呼びが聞けて宇佐美の頬は緩む。静雅は頑なに影浦先輩と呼ばれることを嫌っていて、何かと弟の雅人を理由に名前で呼ばせたがる。まあ、宇佐美の場合は「シズさん」と呼んでいるんだけど。

 

 

「なら、お力になれるかもしれません。ちょうどさっき、奈良坂先輩が影浦先輩に電話してて、その時…えーと、出水?先輩とランク戦をしてるって」

「ほほう、いずみんと! これは貴重な情報ですな。ありがとう! どっか行く前に向かうね」

 

 

 「チカちゃんは帰るの?」と聞くとどうやら本部には三雲も来ているらしく「修くんと帰ります」と言っていた。相変わらず仲がよろしいことで。

 

 

「気をつけて帰りなね」

「はい! ありがとうございます」

 

 

 こうして雨取と別れた宇佐美はブースへと向かう。

 

 

 

 * * *

 

「くっそー!! また負けた!」

「ねぇねぇ次はおれとしようよ!」

「いんや、ここは間をとって俺だろ」

「いやいや、泣きのもう10本!」

「…ダリィから休憩な」

「「「えー!!!」」」

 

 

 10対0で見事な勝ち星を出水相手にとった静雅は至って当然というかのように、自動販売機で飲み物を吟味する。静雅はコーヒーが飲めそうな風貌をしているが、残念なことに期待を裏切りコーヒーは飲めない。かと言って甘いものも好きではないし、ジンジャーエールはどっかのスーツが浮かぶので除外。結局、安定の美味しさ烏龍茶に落ち着いた。

 

 

「おら、お前らも選べ」

「「「ゴチになります!」」」

 

 

 ガタンガタンと各自好きなものを選ぶ3人。3人とも炭酸飲料を選んだらしく、飲んだ後にどこかのおじさんのごとく「ぷはぁあ!」といっている。

 

 

「そう言えば静雅さんの彼女さんってどんな人なんですか?」

 

 

 ふと思い出したように出水が言った。少し前にはなるが、「静雅さんがまた違う女と歩いてた…」と太刀川がショックそうに言っていたのを思い出したのだ。太刀川と静雅では色々な面から天と地の差があるので、彼女ぐらいいても当たり前だよな、が出水の見解である。

 

 

「ア?」

「えー!? しずかん先輩、彼女いたの!?」

「おお…マジか」

 

 

 「おれのしずかん先輩が取られちゃう!」と的外れなことをいい、静雅の腕にしがみつく緑川。対して、いとこである宇佐美の恋心を知っている米屋は少々いたたまれない気持ちでいた。勿論、宇佐美の恋心を知らない出水はキョトン顔でジュースを飲んでいる。

 

 

「太刀川さんが大学で見たって」

 

 

 来るもの拒まず、去るもの拒まずな静雅は時々彼女ができる。基本的に会うのは大学に行く時ぐらいなので、まあ見られていても仕方の無いことだ。

 

 

「別れた」

「えっ、なんで」

 

 

 太刀川が言うにはかなり可愛い娘だったらしい。写真を見せてもらった訳では無いが、クリスマスも近いこの時期に別れるなんて勿体ないなーと出水は思う。緑川は喜びの雄叫びをあげ、米屋は安著のため息をついた。

 

 

「さあ。よく分からん」

「お、その言い方だと振られた口ですな」

「んー、どうだろうな。あっちがいつの間にか大学辞めてただけだし」

「えぇ、でも別れたんでしょ?」

 

 

 静雅からメッセージを送ることは無い。分かりやすく言うと自然消滅である。対して気にした様子ではない静雅を見て「大人だなー」と出水は言った。自隊の隊長もこれを見習って欲しい。

 

 

「あ、いたいた。シズさーん!」

「あれ、栞じゃん」

「うさみん先輩だー」

「栞ちゃんだ」

「宇佐美?」

 

 

 ブンブンと手を振りながらこちらにやってくる宇佐美。ハアハアと荒い息遣いをしていることから、走ってきたことが伺える。とりあえず何か飲むか?と宇佐美に聞ける男、静雅。こういうとこだよなーと1人出水は頷いた。

 

 

「ううん。大丈夫。あのね、今日はシズさんに聞きたいことがあって」

「電話でも良くね?」

「シズさん基本的にどの電話もフルシカトじゃん」

 

 

 静雅のスマホは基本的に携帯していないし、珍しく携帯していても電池の残量がないだとかマナーモードでちゃんとした役割を果たせたことは少ない。しかも、静雅のスマホは国近のスマホゲームのサブと化しており、出ても国近が出る確率の方が高い。

 

 

「…ンで、なんだ?」

「あ、あの…それがね」

「(栞、頑張れ!)」

「(おっ…栞ちゃん、まさかそういうこと?)」

「(早くランク戦したいなー)」

 

 

 モジモジ モジモジ

 顔を赤らめて宇佐美はずっと何かモジモジしている。その理由を何となく察した出水と、知っている米屋は心の中で応援している。頭の中で沢山のクエスチョンマークを浮かべている静雅とランク戦のことしか頭にない緑川は1度出直してきた方がいい。

 

 

「く、クリスマス…って予定あるかな?」

「クリスマス…」

 

 

 静雅は思考を巡らせる。

 確か今年は実家でクリスマスパーティ云々の話は出てなかった。影浦隊でなんかやるらしいが、今のところ静雅はお呼ばれはしていない。風間隊は風間と静雅がプレゼントをやりさえすれど、そういうパーティを自主的に開くようなキャラはいない。生駒隊は…あれは去年出たからもう出るつもりは無い。佐鳥や時枝はクリスマスこそ稼ぎ時だし、目の前にいる米屋達とも特に予定は立ててない。

 つまるところ、そういうことだ。

 

 

「ねェな」

「本当!?」

 

 

 「じゃあお時間貰ってもいいかな!?」と宇佐美は言った。別に暇だし、と静雅は頷く。すると、出水と米屋は熱い握手を交わし、宇佐美は地球消滅回避!ぐらい喜んでいる。ちなみに緑川は全く状況を理解していなかったが、米屋達と一緒に喜んでいた。

 

 

「絶対だよ! 夕方の17時に玉狛支部ね!!」

 

 

 それはもう大層可愛い微笑みを浮かべて宇佐美は言うと、ふふんとスキップをしてどこかへ去っていった。

 

 

「…栞を頼みます」

「幸せにしてあげてください」

「ねー、ランク戦まだー?」

 

 

 この後、緑川は恋心というものについてかなり教えこまれた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 From:宇佐美栞

 To:菊地原士郎

 件名:私は勝ちました!

 

 きくっちー!! 私は遂にやり遂げました。長い長い戦いでした! ふふん、これからはお姉様とお呼びなさい!

 

 

 

 

 * * *

 

「え、なにこれ…?」

 

 

 宇佐美が風間隊をやめても、メールは続けていたし本部で会えば話す。友達をやめたわけじゃないし、隊は違えど仲間なことに間違いはない。そんな宇佐美からの突然のメールが来た菊地原は困惑した声を出す。

 

 

「どうした?」

「歌川。これ、何だと思う?」

 

 

 自分だけでは到底解けない謎だと思った菊地原は隣にいた歌川に先程送られてきたメールを見せる。歌川も菊地原のスマホを見て数秒固まると、首を傾げる。

 

 

「…宇佐美先輩、疲れてるのか…?」

 

 

 一体、何に勝ったのだろう。そして、それに勝ったことにより何故お姉様になるのだろう。たったそれだけの短いメール文も考えれば考えるほど疑問が尽きない。

 思わず歌川と菊地原は顔を見合わせる。

 

 

「…風間さんなら分かるかな?」

「えぇ…このアホらしい文を風間さんに見せるの?」

「じゃあ静雅さんに聞くか?」

「静雅さんほど女心が分からない人もいないでしょ」

 

 

 「じゃあ」そう言って歌川は頼れそうで暇であろう大人を想像し──一番最初に太刀川を想像したことで全ての考えを打ち消す。

 

 

「二人でちょっと考えようか」

 

 

 ボーダーで働く大人は基本的に忙しい。それこそ忙しくないのは、ランク戦に勤しんでいる太刀川ぐらいなものだ。自分よりバカな大人に頼るほど無駄な時間もないな、と思った菊地原もまた頷いたのであった。

 

 

 

 * * *

 

 時は過ぎ、12月22日の午前13時。

 冬休みも近いということもあり、今日から四限授業に移行した出水は迷わずボーダーに足を踏み入れた。

 

 同学年で同じ学校に通っている米屋は防衛任務により、今日は学校を休んでいたため、1人でボーダーに向かった。もうそろそろ、時間帯的にも米屋の防衛任務も終わる頃だろう。ランク戦のブースにでもいたら会えるかもな、なんて思いながらとりあえず通学バックを置くため、自隊の隊室に向かった。

 

 その時は軽い気持ちで自隊の扉を開けた。

 そして直ぐに閉めた。

 

 一呼吸おいて、出水は地面に座り込む。

 

──怖ぇぇ。なにあれ、ヤバっ!?

 

 いつもの太刀川隊の隊室とは一変した雰囲気に、出水は呑まれそうになった。そして、身の危険を感じたと共に、察しの悪くない出水は早くこの場から立ち去った方がいいことにも気づいた。

 

 

「何をしている。出水、入ってこい」

 

 

 この悪魔の声を聞いて。出水は悟ったのだ。

──ああ。俺は逃げられなかった。

 

 一言記述するならば、出水は何も悪くない。

 

 出水は恐る恐る、自隊の隊室の戸を開く。お世辞でも綺麗とは言えない隊室の中の中央部分に泣きながら正座させられている太刀川と国近が見られ、その2人を逃がすまいと鋭い目付きで睨んでいるのが静雅。その光景を淡々と見守っている風間に…二宮。オロオロとどうにかして助けてあげられないだろうかと来馬が視線を動かし、東は笑っていた。隊室の端では何故か号泣している唯我がいる。「たすけてください」とSOSを向けている後輩を見て出水は思わず苦笑いがこぼれた。

 

 

「…なに、これどうしたの」

 

 

 コソッと出水は唯我に問う。残念なことに静雅や風間が太刀川隊の隊室を出入りすることは日常茶飯事で、大して珍しいことではない。けれど、二宮や来馬、東はかなりの珍客と言える。

 

 

「──太刀川さんが、25日締め切りのレポートを終わらせてないみたいで」

「ああ…」

「しかも、同じ科目を取っている二宮さんが言うには、必修の教授が意地悪らしくて自分がどこをどう分かっているかテーマをつけてプレゼンしないといけないらしいんです」

「ぷ、プレゼン…」

「──そのプレゼンの内容すら、決まっていないと」

 

 

 出水は思わず空を仰いだ。

 太刀川隊の隊長、太刀川慶は戦闘面に関しては尊敬の出来る人間である。ボーダー本部の本部長である忍田を師とし、目の前にいる風間やこの場にはいない迅と切磋琢磨して己の腕を磨いてきた。──そう、ここだけ切り取ればかっこいい男なのだが。

 

 残念なことに戦闘以外はてんでダメで、ボーダー本部内できなこをばらまいたり、見ての通り成績は下から数えた方が早く、Danger(デンジャー)をダンガーと呼ぶ20歳である。それ故に、二宮からは毛嫌いされている節があり、よく軽蔑の目と共に「貴様と同い年など虫唾が走る」とお言葉を貰っている場面も見かける。近々、菓子折りを渡さなくてはとは思っていたが、今の状況を見る限り菓子折りだけじゃ済まなさそうだ。

 

 

「…でも、ありがたいというかなんというか、たまたまその教授が忍田本部長と知り合いだったみたいで、太刀川さんが土下座して頼んだ結果、1日だけ待ってくれるらしいです」

 

 

 隊長の土下座話なんて聞きたくなかった。けれど土下座ひとつで提出期限を伸ばしてくれるのであれば、ありがたいものである。

 

 

「で、柚宇さんは?」

「……赤点が」

「…科目は」

「数学と、英語。後、古文らしいです」

「……古文はともかく数学と英語は必修科目じゃねぇかぁぁ」

 

 

 国近も国近で結構崖っぷちだ。高校三年生の冬間近に、必修科目を落として「留年です」は流石に笑えない。隣で正座してる太刀川ですら留年はギリギリのところでしなかったと言うのに。

 

 

「おい、出水」

 

 

 出水の名を呼ぶ静雅の声はとてつもなく冷たい声だった。勉強絡みでよく太刀川にキレている静雅を目撃することが多い出水であるが、ここまでお怒りなのは初めてだった。なんだかんだ、1ヶ月前には太刀川を拘束した上でお勉強部屋という名の太刀川専用の部屋で缶詰状態になっていたのに。12月を師走と言うように、きっと風間や静雅も忙しかったのだろう。それに彼らだって学生である。自分の課題もあるだろうに、こうやって付き合ってくれているのだ。本当に一度、太刀川は本気の謝罪と感謝をして欲しい。2人だって虐めたくて虐めているわけじゃないのだ。

 

 

「こいつ、今日を含めた4日間で防衛任務は入ってっか」

「明日だけ入ってます」

「ちっ」

 

 

 隠すことない舌打ち。静雅だけの舌打ちかと思ったが、まさかの二宮、風間、静雅の3人同時の舌打ちだった。部屋の温度が数度下がったような気がする。

 

 

「まあまあ。ここでかっかしても仕方ないだろ。とりあえず始めないと──時間が無い」

 

 

 東の鶴の一声で、隊室の雰囲気がちょっとだけ緩まった。風間が「出水」と呼ぶ裏で、静雅はとある人物に電話をかける。

 

「見てわかる通り太刀川は残念ながら防衛任務に出ている暇などない。太刀川の代わりは迅が出るらしいから、それで勘弁しろ」

「は、はい」

「それと、正月明けたら補講組のバカ共を一斉にシバく。どうせ補講対象であろう米屋にも伝えとけ」

「は、はい」

 

「あ、宇佐美? …すまん、25日俺出れなくなった。……どっかのバカがやらかしてくれた。すまん、また埋め合わせはする。玉狛の連中にも謝っといてくれ。すまん」

 

 

 この日。太刀川と高校生補講組そして──宇佐美は血の涙を流すことになる。

 

 

 

 

 

 * * *

 

「そういえば歌川はもう決めた?」

「ああ、静雅さんの誕生日プレゼントか」

 

 

 12月25日。それは世間的にはクリスマスという一大イベントで盛り上がっているが、風間隊は少し違った。歌川や菊地原からしてみればいつもお世話になっている先輩の誕生日であり、風間からしてみれば幼なじみの誕生日である。

 

 風間隊を結成してから随分と時間が経っているが、菊地原達が静雅の誕生日を知ったのは去年の冬である。それまで静雅の誕生日なんて知らなくて、不意に風間が言った「そういえば今年の誕生日プレゼントは何が欲しい」で知ったのだ。

 

 

「静雅さんって与えるだけ与えて施しは要らないって言うかなり可笑しい人でしょ」

「本人がいない場合のツンはただの悪口だぞ」

「ぼくはツンデレじゃないし、悪口なわけでもなくて事実を言ってるの」

 

 

 「何が欲しいんですか?」と問えば「アン? 要らねぇよ」と返され、これとかどうだろうと悩みに悩んだプレゼントを渡せば、倍にして何かが返ってくる。全く意味が無い。一度、誕生日プレゼントというものを検索にかけて欲しい。切実に。

 

 

「もういっその事、肩たたき券とかどう。お金かけても倍で返ってくるんだし」

「それは流石に手抜き過ぎないか…?」

「じゃあイコさん連れてこよう」

「それは嫌がらせだ」

 

 

 「めんどくさ」と立ち上がる菊地原を見て歌川は「先が長いぞ…」とため息をついた。

 

 

 

 

 * * *

 

 12月25日。それは世間的に(以下略)──。

 

 

「はあああ。何でクリスマスっつー一大イベントの日にレポートなんかしなきゃいけねぇんだよ」

「全ての現況を作った貴様が言うか」

「口を動かす前に手を動かせ。諏訪が帰ってくるまでに10枚仕上げてなかったらてめぇの頭を仕上げるぞ」

「…ガンバリマス」

 

 

 太刀川が課題を溜めていたと発覚したあの日、暇そうにしていた諏訪と巻き添えにあった堤を仲間に入れ、今は必死に太刀川の課題を終わらせようとボーダーの大人組は尽力していた。

 

 

「…つか、ドイツ語とか専攻してんじゃねぇよ!」

「カッコイイなって思っちゃったんだよなー」

 

 

 面倒という理由から太刀川が大学で専攻していたものは殆ど二宮と同じものだったが、唯一専攻が違ったドイツ語。もちろん、ドイツ語に興味がある訳でもない風間や静雅が専攻しているはずもなく、今は1から勉強をしているところである。レポート以前の話だ。

 

 二宮がコピーしてくれたノートのおかげでプレゼンの方は案外早く終わったものの、まさかこんなところに弊害が隠れているとは思わなかった。夏の課題でドイツ語のレポートが出されていなかったことも理由にあげられる。

 

 

「…燃やすか」

「おい、誰かコイツをつまみだせ」

 

 

 よく分からない字が並んでいると段々腹が立ってくるのも致し方ないことである。自分のためならまだしも、成長しない馬鹿のためにやってると思うともう単位なんてどうでもよくなってくる。

 

 諏訪が帰ってきたらライターを借りるか、なんて物騒なことを静雅が考えていると部屋の扉が3回ノックされた。

 太刀川隊の隊室は22日からほぼ缶づめ状態で使われており、事情が事情なだけに当事者や関係者以外は誰も近寄ろうとはしなかった。買い物に出ている諏訪が帰ってきたのであればノックなんてするはずもないので、きっとこの3人のどれかに何かしらの用事があって来たに違いない。ようやく参考書から逃げられる!みたいな嬉しそうな顔をした太刀川を制し、静雅は立ち上がると扉を開く。

 

 

「うわ…」

「…すごいクマですね…。ちゃんと寝れてますか?」

 

 

 やって来たのは菊地原と歌川で、ここ数日ぐっすりと眠れていない静雅の顔色を見て隠すことなく引いていた。「三輪先輩みたい」と呟く菊地原に「それは三輪先輩に失礼だろう」と歌川が突っ込む。その突っ込みがそもそも静雅に失礼なのだが、疲れていてそこまで頭が回らなかった。

 

 

「とりあえずお茶とご飯に参考書」

「どれがいいのか分からなくて片っ端から買ってきちゃいました」

「ナイス」

 

 

 食料を買いに行って30分も行方をくらましている諏訪とは段違いに気が利く後輩を見て、静雅は思わず泣きそうになった。それは静雅だけではなく、風間もだったので本当に疲れていることが伺える。

 

 

「そういえば諏訪はいつになったら帰ってくる?」

「え、諏訪さんならさっきトイレの洗面所で寝てるとこを佐鳥が発見して騒いでたけど」

 

 

 風間の問いを聞いて菊地原は数分ほど前の事を思い出す。

 静雅の誕生日プレゼントを探していた菊地原と歌川だったが、結局いい案は浮かばず「もう面倒だから本人に聞こう」と菊地原の主張の元、太刀川隊に向かうことになった。道中、差し入れを買いながら太刀川隊室に向かっていると「あ、諏訪さんじゃーん!」と佐鳥の声が聞こえ「え、寝てる!? ちょっ、諏訪さん起きて!! おーい…って倒れたぁぁ!?」と1人騒がしかったのを菊地原は知っている。関わると面倒そうだったのと、両手の差し入れが重かったので早く太刀川隊室に行きたいという心情で菊地原はそれを歌川に告げることなく、素通りした。

 

 話を聞いた歌川からおいおい助けてやれよ…みたいな目で見られる菊地原だがガン無視だ。流石にC級なら助けていたかもしれないが、発見者が佐鳥なので大丈夫だろう。多分、近くに時枝もいるし。

 

 

「まあほぼ寝なしでやってるから仕方ねぇか。…1時間経ったら回収しに行くぞ」

「俺が回収に行きます! 行きたいです!!」

「当事者が何逃げようとしてんだ。殺すぞ」

「…ガンバリマス」

 

 

 逃げる気マンマンの太刀川をー睨みした静雅は、ストレス発散のためにタバコを1本吸おうとしてやめた。そもそも、静雅は喫煙者では無いので諏訪がいないとタバコはないし、この場には未成年者が二人もいる。身体に害だな、と思った静雅は息抜きを諦め参考書をまた睨み始めた。

 

 

「あ、静雅さん誕生日プレゼント何がいいですか?」

「…誕生日プレゼント?」

 

 

 太刀川、風間、静雅の視線がカレンダーに向けられる。冒頭で話していた通り今日はクリスマスであり、それは静雅の誕生日でもあった。ああ、そういえば。と静雅は納得すると同時に尻ポケットから財布を取り出し菊地原と歌川にピン札の1万円札を渡した。

 

 

「メリクリ。それで好きなモン買えや」

「いや、こっちがプレゼント聞いてるのになんでお金渡されてるの」

「これ佐鳥と時枝な。ンで、三バカとああ三上にも渡せ」

 

 

 他にも宇佐美やら烏丸やらそういえば加古も誕生日だったなと2人に渡される金額はどんどん大きくなっていくばかり。俺は俺はと待機する太刀川には参考書を渡し勝手に1人で静雅は納得し頷く。

 

 

「国近達には後で会えっからとりあえずその分渡してきてくれや」

「普通に嫌だ。後、どれだけ大金持ち歩いてるの。しかも1人1万は流石に上げすぎ」

「安心しろ。お年玉もちゃんとくれてやる」

「いや、本当に大丈夫です!!」

「…そうだぞ静雅。こんなむき出しで渡されても困るだけだろう。ちゃんと一つ一つ個装してだな」

「…風間さんも疲れてますね。1回寝ましょうか」

 

 

 ポチ袋を探し始めた風間にそれも違うと歌川は首を横に振った。ダメだ、寝不足のせいで風間すらまともに動けていないこの状況下に2人が打ちひしがれていると救世主が現れた。

 

 

「邪魔だどけ」

「「二宮さん…!!」」

「…どうした?」

 

 

 何やら物を探し始めている風間に何故か金と参考書を見比べている静雅。それを見て笑っている太刀川に大金を持って困惑している菊地原と歌川。傍から見たら完全にカオスで流石の二宮も困惑した表情を見せた。しかし、菊地原と歌川から事情を聞くと、一瞬機嫌の悪そうなオーラを出し…呆れた表情に変わった。

 

 

「流石にそこの2人は寝かせる。この後は東さんも来てくれる手筈になっているからな。短時間ではあるが寝れるだろう」

「あそこまで壊れてると流石に休憩挟まないと使い物にならないし妥当な判断ですよ」

「…本当に休める時に休んで欲しい」

 

 

 「何か手伝えることはありませんか」と進言してくれる歌川に二宮は断りを入れるといつまでも笑い転げている太刀川を蹴り、仰向けになった太刀川の腹を踏む。

 

 

「…貴様は一度痛い目に遭わないと気が済まないと受け取っていいか?」

「すみません調子に乗りました」

「貴様に笑っている猶予はあるのか?」

「ありません」

「何故この2人がこんな現状に至っているのか、分かるよな?」

「全ては自分の責任であります」

「 大 概 に し ろ 」

「ごめんなさい」

 

 

 流石に命の危険を悟った太刀川も机に向かうことになり、それを見ていた菊地原と歌川は慣れてるなと思った。どことなく静雅に似ているような気もするが、本調子の静雅の方が怖いような気もする。時々静雅が「生身の人間をトリガーで攻撃しても死ぬほど痛いけど死なねェってありがたいよな」とガチな目で呟いているので、多分何回か太刀川は行動に移されているのだろう。自業自得なので静雅を批難することは出来ないし、するつもりもない。

 

 二宮に命令され、菊地原と歌川は静雅と風間を上手く風間隊の隊室まで誘導し、仮眠させる。とりあえずこの大金は静雅の財布に戻そうと相談の元、静雅の財布の中に直し、2人は改めて買出しに出かけた。せめて食事は身体にいいものをとって欲しいと油控えめに選んだのは優しさである。

 

 

 後日、本件に関わっていたボーダー隊員全然に忍田本部長から一斉メールが送信された。大まかな内容は手伝ってくれてありがとう、太刀川の単位はギリギリ大丈夫でした。というもので、少しばかりではあるがポイントが加算され、お小遣いも貰えた。

 そして静雅と関係の深い年下組はクリスマスプレゼントという名の諭吉が配られる。

 

 

「静雅さん、お金なんて要らないからデートしよう!!」

「お、おう…?」

 

 

 クリスマスパーティをドタキャンしたせいか約1ヶ月程、宇佐美の押しが強かったように感じた静雅だがちゃんと付き合ってあげた模様。尚、恋に関しては一切の進展がなかったことだけ記述させて頂く。

 

 

 

 

 

 




 
烏丸「そう言えば菊地原が言ってたんですけど、静雅さんクリスマスが誕生日なんですね」
宇佐美「…え? 何それ初耳なんだけど…」
烏丸「…残念ながら嘘じゃありません」

 こんな感じで静雅の誕生日を知った宇佐美はこの後鬼電すると思う。



 加古さん、静雅、誕生日おめでとう!! 加古さん出してあげられなくてごめんなさい…。


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番外編0-2 影浦雅人の秘密裏計画!!

 
*日付からわかる通り影浦雅人誕生祭の小説です。
*お誕生日おめでとう、影浦雅人。本編で一言も祝われなくてごめんね!
*時系列はネイバー侵攻が終わったあとぐらいです。
*本編を読んでない人は本編から読むことをオススメします。
*終わり方が迷子になった自信があるので、書き直す可能性あり!

──本日の主人公──
【影浦 雅人】
 この番外編の主人公。あの手この手で静雅が企てている計画を阻止しようとしている。その為なら大嫌いな犬飼にも協力を仰ぐ。

──愉快な仲間たち──
【影浦 静雅】
 雅人の実の兄。お好み焼き屋の次男坊。尚、彼にお好み焼きを作る才能はない。
歳下に貢ぐ癖アリ。多額のお金を貢ごうとしては菊地原に止められ、ぶうぶうと説教される21歳。

【風間 蒼也】
 静雅の幼なじみ。静雅の貢ぎ癖は一生かけても治らないと諦めている。自分が20歳の誕生日プレゼントとして静雅に車を貢がせた。悪気はなかった。でも車も欲しかった。

【太刀川 慶】
 成長しないバカ。レポートをよく溜める癖があり、定期的に静雅と風間に殺されている。同隊の後輩である出水に「剣の腕は信用しているけれどそれ以外は一切信用していない」と言わせた男。
「レポートちゃんと提出しました?」
「おー、したした」
全ては太刀川が悪い。

【北添尋】
 ふくよかなボディにニコニコとした優しい笑顔の裏には八度にわたる雅人とのタイマンが潜んでいる。怒らせたら怖い系男子。しかし、本人の一人称がゾエさん故に、殺伐とした雰囲気も彼が喋れば一発で朗らかな空間へと様変わりする。菩薩。

【村上 鋼】
 隊長の菩薩度を分け与えられた戦士。来馬辰也の守護神として名を轟かせている。後輩の真の悪から色々と面倒事に巻き込まれたりするが、笑って許してしまうぐらいには菩薩として出来上がっている。

【荒船 哲次】
 パーフェクトオールラウンダーを目指すアクション派スナイパー。元スコーピオンの使い手であり、現スナイパーである静雅をどうにかしてこの道に引きずり込めないかと画策しているが静雅には「パーフェクトヒューマン」と間違って伝わっている。心を強く持って諦めないで欲しい。

【穂刈 篤】
 某飲料水を彷彿とさせるニックネームを持つ男。喋り方が倒置法なので、非常にめんどくさい。メールになるとキャラ変して倒置法を忘れ、やけに饒舌になるとか。普段もそれでいて欲しい。

【犬飼 澄晴】
 笑顔の裏には闇がある、を体現している男。多分左利き。雅人から超絶嫌われているが気にしていない心強き男。これからもその意気で頑張って欲しい。

【当真 勇】
 実は太刀川よりも勉強が出来ない男。それはやばい。早急に受験勉強した方がいいと思う。自主的に彼の勉強を見てくれる人が今しかおらず、それも同クラスの国近と並行してなので色々と終わっている。ちなみに同じ隊の真木理佐は彼の学業を切り捨てているらしい。

【王子 一彰】
 キラキラとした苗字とは裏腹に変なあだ名をつけてくる。一見王子様を彷彿とさせるルックスだが、過去は尖っていたらしく犬飼同様若干闇がチラつくキャラ。中々使い時が見つからないため必然的に登場回数は少ない。

【蔵内 和紀】
 一度静雅と対面で話した時があり、その時に「会長」と呼ばれたがために色々な噂を流された男。曰く、影浦静雅は蔵内の下についたとか、王子を筆頭にしてボーダーをめちゃめちゃにする気だとか、そろそろ根付(さん)殺されるんじゃね?とか。尚、この噂は静雅の耳に入る前に風間隊がもみ消したし、根付は本気にして忍田にボディガードを依頼していた。ちなみに静雅が会長呼びした理由は単純である。
(あー、雅人と同じ学年の…誰だっけ。確か荒船とか犬飼が「会長」って呼んでたな)
強く生きて欲しい。

【水上 敏志】
 よくブロッコリーとイジられる生駒隊参謀。何やら本誌で彼がまたイジられたらしいがネタバレになるといけないので敢えて明記はしない。基本、彼が出るとイコさんが出しゃばるので登場回数は必然と少なくなっていく。

【生駒 達人】
 最近、海に「静雅さんのストーカー」と呼ばれたことが悩み。確かに静雅の行動は大体把握出来るようにしてるし、見かけたら後をつけたり写真とったりしてるけど…。ストーカーでは無いと思っている。マリオに相談したところ「それはストーカーや。今すぐやめぇ!」と隠し撮り集を全削除されそうになった。特別深い思いを静雅に寄せている訳ではなく、ただただ静雅のようなイケメンになりたいと言う願いからの行動らしい。ちなみに迅も一度通った道だとかなんだとか…。

【南沢 海】
 アンパンマンよりも元気な男。よく悪気のない悪意を生駒にぶつけては撃沈させている。悪気は無い。でも、それは本心である。5歳児でも遂行できる初めてのお使いができない男。興味もへったくれもない任侠映画を片手に持って生駒隊隊室にやってきた。

【隠岐 孝二】
 肝心なところで外すスナイパー。本編では一切絡めていないが、どうやら静雅に好かれている模様。時々、焼肉を奢ってもらう仲。生駒からの飛び火が凄い。

【細井 真織】
 生駒隊の貴重なツッコミ役。ニックネームはよく攫われるお姫様を助けに行くおっさんと同じ。シルエットは某21歳と似ている。
キティちゃんよりドラえもん派。

【来馬 辰也】
 鉄壁の戦士と真の悪を手札に置く菩薩。真心込めて育てた熱帯魚を白茹でにされても血涙を流し許してしまう彼を菩薩と形容せず何と言うのか。尚、太一と折り合いの悪い静雅から一目置かれていることは本人の知らぬところである。

【宝くじ】
 三門市某所の宝くじ売り場で諏訪が購入している所を見届けていると「どうせだから静雅も買え! 一口100円だしよ!」と勧められて数枚ほど購入した。お金に頓着ない静雅は買ったと同時に諏訪に預けていたのだが、後日騒がしく風間隊の元へやってきた諏訪が「静雅の宝くじ、1等の組違い賞で当たってやがる!!」と報告に。その10万は風間隊&諏訪隊のご飯代で消えたのだが、当たったという事実だけを雅人に教えているため、雅人はそのことを知らない。



 

 5月某日。ボーダー本部内のラウンジにて。6人がけの椅子(+1)に座る男達の顔ぶれはそう珍しくない。強いて言うなら、無理やりにでもついてきた犬飼の顔を見て雅人の機嫌が悪いのだが、これもいつもの事である。特筆すべきことでもないだろう。

 

 

「王子と蔵内は」

「防衛任務に出てる」

「…別に要らねーけど当真は」

「当真も防衛任務だな」

 

 

 18歳組と呼ばれる同年齢の彼らの仲はいい方である。一部、ギスギスしている者やしていた者もいたが、片方は特に気にしていなかったり仲直り出来たりと比較的仲は良好な部類だ。そんな彼らを呼び出したのは雅人であり、一斉送信されたであろうメールを見て雅人(と北添、犬飼)を除く者達は何があったのかと心配した。ちなみに、北添は呼び出し理由を知っているためメールの送信はなく、犬飼は意図的に呼び出されていない。

 

 雅人から呼び出すことなんて専らランク戦であり、それ以外の要件と言えば「飯食いにいかね?」ぐらいのものだ。

 

「あのカゲが…」

「何があったんだ、一体」

「え、荒船達カゲから呼び出されたの? おれ、呼び出されてないんだけど!」

 

「…太一、すまん。カゲからの招集が──」

 

「カゲ君からの呼び出しは珍しいなあ」

「王子、その時間は防衛任務だぞ」

 

「真木理佐〜、今からって」

「防衛任務。アンタのそのスカスカな頭どうにかならないの?」

 

「…おー、珍しいやんカゲからの呼び出して」

「カチコミですか水上先輩!!」

「エッ、水上カゲんところにカチコミ行くん? しゃーない、ウチのイケメンスナイパー隠岐を貸したるわ!!」

「イコさん、急な飛び火と本人了承無しのレンタルはあきまへんわ」

「…海、アンタTSUTAYAで何借りてきた言うてたっけ」

「よく分からない任侠映画です!!」

「ドラえもん借りてこい言うたやろ!!!」etc...。

 

 「来れるやつ今すぐ集合。ただし、死んでもクソ犬は連れてくるな」を見て集まった彼らはよく言えば友達思い、悪く言えば暇人である。

 

 

「おい荒船! クソ犬は連れてくんなつったろーが!!」

「仲間外れは酷いと思うよ〜?」

「連れてきたんじゃない。ついてきたんだ」

「そもそも悪かったんだ、タイミングが」

 

 

 呼ばれすらしなかった犬飼はちゃんとした席に座れず、一人溢れてしまった。近くの椅子を持ってきて無理やり輪に入っている状態だ。そこまでしてこの場にいたいのか、という視線を感じるが犬飼はヘラヘラと笑って重い腰をあげようとはしない。テコでも動かないつもりだろう。

 

 

「そんなことよりも何かあったん? カゲからの招集珍しゅうて思わずイコさん連れて来よかーって悩んだわ」

「俺もいざっとなった時のために来馬さんと一緒に来た」

「せめておれにも一声かけてくれなーい?」

「死ねクソ犬」

「まあまあ、カゲもそうイライラしないで。みんなに相談したいことがあるんでしょ?」

 

 

 今すぐにでも犬飼を殴らんとする雅人を落ち着かせ、北添が言う。雅人と北添以外の5人が「相談?」と声を揃えた。そりゃそうだろう。雅人は相談と無縁そうな顔をしている。

 

 

「………」

「ほら、プライドとか要らないものはゴミ箱に入れちゃおう! 一人でも人は多い方がいいし」

「……………」

「ここで相談しなかったら後々困るのはカゲだよ?」

「……………………ちっ」

 

 

 同年代に相談を持ちかけるのが嫌だったのか、それとも犬飼に相談内容を聞かれたくなかったのか、雅人の心中は分からないが、どうやら未来の自分をとったらしい。誠に不本意です、と顔にデカデカと書いた雅人はようやく、口を開いた。

 

 

「6月4日…」

「6月4日?」

「あ! それってカゲの誕生日じゃんね!」

「黙れクソ犬」

「…さっきからおれにアタリ強くない? まあ気にしないけど」

 

 

 6月4日。それは犬飼の言う通り影浦雅人の生誕祭である。5月後半になると、北添の微笑ましい視線とソワソワし始める仁礼に絵馬を雅人は感じ取る。別に誕生日プレゼントなんて要らないが、相手が用意したくて仕方ないらしいからそのまま放って置いている。が、それは影浦隊のメンバーだけだ。

 

 

「催促か? プレゼントの」

「ほんなら飴ちゃんあげような」

「わかった。なんの参考書が欲しいんだカゲ」

「荒船は数学の参考書にすればいいんじゃないか? 俺が化学の参考書渡すよ」

「じゃあゾエさんは人の気持ちを分かれる男になりますようにって願いを込めて国語の参考書渡そうかなあ」

「カゲってばわざわざ呼び出してまでプレゼントの催促したかったの? みんなあげるならおれからは…あ! 古今和歌集とかどう? カゲが風流な男になったら面白い──」

「お前らいっぺんくたばれ!! 特にクソ犬とゾエだ!! つーか、ゾエ!! てめー呼び出した理由知ってるくせに乗っかってんじゃねーぞ!!」

 

 

 ガルルと犬のように吠える雅人をみんなは優しい目で見つめる。優しい、いや、どことなくニヤついて面白いものを見つけたと言わんばかりのハイエナの目だった。

 

 

「まあまあカゲ」

「分かっているぞ、俺たちは。カゲの気持ちをな」

「気色悪いモン向けてくんじゃねー!! 殺すぞ!!」

「いつまでもそうカッカしてると血圧上がるよカゲ?」

「………」

「(耐えてるな)」

「(耐えてるな)」

「(頑張ってるなあカゲ)」

「(相変わらず性格悪いやっちゃなあ)」

「(血圧上げてる本人が言うなよ…)」

 

 

 プレゼントの催促をしていると勘違いされた雅人の怒りパラメータは上がる一方だ。特に犬飼の存在がダメだった。

 

 

「で、結局呼び出した理由はなんなんだ?」

 

 

 このままじゃ埒が明かないと代表して荒船が雅人に問う。雅人は「はあああ」と重苦しいため息を吐き出した後に「兄貴が…」と声を漏らす。

 

 

「兄貴?」

「兄貴ってあの人だよね?」

「静雅さんだろ?」

「どうしたんだ、それが」

「カゲは静雅さん大好きじゃないか」

「いや、まあ色々とね…」

「あンだよ……」

 

 

 雅人が呼び出した理由を知っている北添も若干疲れたような顔をしている。なんなら雅人は頭を抱え始めた。

 

 

「張り切ってんだよ…」

「静雅さんがか?」

「何を?」

 

 

 いまいち状況が理解出来ない彼らは頭の上に沢山のクエスチョンマークをつける。「何か知らないけどいいじゃん」と軽く言った犬飼に噛み付く雅人。その形相は人を一人殺してきた後のような顔だ。

 

 

「いいわけねぇだろ!!!」

「…遂にキレた」

「堪忍袋の緒が切れたんやなあ」

「笑ってないで助けてあげたらどうだ、犬飼を」

「お前がこの場で一番肉体派だろ」

「お前たちも鍛えたらどうだ。世界を救うぞ、上腕二頭筋は」

「いや、世界救う前に犬飼をカゲの魔の手から救ってやれよ」

「でも犬飼楽しそうだし大丈夫なんじゃないか?」

 

 

 襟袖を掴まれ、グワングワンと前後に揺さぶられている犬飼の顔は確かに楽しそうに見える。対して、揺さぶっている雅人の顔は全く余裕がなさそうだ。

 

 

「…当たっちまったんだよ」

「「「「「何が」」」」」

「──宝くじ、10万が」

 

 

 宝くじ、10万。それを聞いた瞬間その場にいた男達が沸いた。「すげーじゃん!!」「え、めっちゃいい事じゃん!」「何がだめなの!?」決して自分達が当てた訳では無いのにこの盛り上がりよう。ラウンジの角の席とはいえ、ギャーギャーと盛り上がっていれば人の目につく。現に今も、あまりにも盛り上がっているので何かあったのか?とチラチラ視線を集めていた。

 

 

「…宝くじが当たったことは凄い。が、その前に落ち着こう」

 

 

 この場で比較的冷静だった村上が騒がしい彼らを落ち着かせる。急に騒ぎ始めたものだから、ここまで一緒に来た自隊の隊長、来馬が若干心配そうな目でこちらを見ている。それがどうも、村上はいたたまれなく感じていた。

 

 村上の一声で落ち着いた彼らは、大人しく席に座ると雅人に視線を寄こす。サイドエフェクトかそれとも肌で感じ取ったのか知らないが、雅人は某アニメでお馴染みのゲンドウポーズをとり、顔を陰らせるとこう言った。

 

 

「宝くじが当たったせいでグレードアップするんだよ。俺の誕生日プレゼントが!!!」

「「「「あっ…」」」」

 

 

 弟故の悩みだった。

 

 雅人の兄である影浦静雅は、人相故によく怖がられる男である。常人ならメガネをかけるほど視力が悪いにも関わらず頑なにメガネをかけない姿勢に、言葉遣いも悪いという理由から嫌厭されてしまう。しかし、その蓋を開けてみれば弟思いの優しい兄であり、殆ど歳下に限定されてしまうものの、見かけたらとりあえず褒めてくれる&ジュースを奢ってくれるという、良い言い方で言うなら優しいお兄さん、悪い言い方で言うならカモである。

 

 しかし、その奢り癖がいけなかった。静雅は自分に無頓着であり、他人を優先させてしまう。そのため、静雅の貯金は全て雅人の将来のために使うと公言されているし、親友の記念すべき20歳の誕生日プレゼントだからといって車を渡してしまうようなそんな男なのだ。

 

 雅人の去年の誕生日プレゼントは初代プレステから最新の5までのセットだった。しかも本体だけ持っているのもアレだから、という気を利かせて国近セレクトのゲームが何本かと、影浦隊で遊べるようにとコントローラーを4つ。それも純正のものが贈られた。

 

 

「そもそも18になったら車の免許取れるからっつー理由で俺の誕生日プレゼントが車で確定した」

「うわあ」

「凄いな、それは」

「…あの人確か風間さんにも車買ってたよな?」

「金銭感覚狂ってるな〜」

「佐鳥とかにもめっちゃ奢ってるって聞いた事あるぞ」

「菊地原がよくボヤいてるもんな…」

 

 

 今のところ交通手段は北添がいるし、ボーダーの関係上そう簡単に三門から出られないので免許はとっても車は要らないと雅人本人は考えていた。乗らないのに持っているのは税金等がかかるし邪魔なのでそこそこに迷惑な話である。まあ、貰えるなら乗るけど。

 

 

「買うなら自分で買うつってんのに頑なに買うって言い張るんだ」

「いいじゃん。貰える時に貰っときなよ」

「車をちゃんと買うってなったら結構な額になるしな」

「確かに他人からだとアレだけど、兄ちゃんからなんだし良くね?」

「考えすぎなんじゃないか?」

「いい車を選べよ、どうせなら」

「……いや、金かけすぎだろ!!」

「去年もアレは結構お金かかってたと思うしねぇ」

 

 

 年々グレードアップしていくプレゼントは、弟と言えどここまで来ると申し訳なくて仕方ない。しかも、宝くじが当たったからせっかくなのでカスタマイズとかしようと言い始めている。特に車に興味のない静雅は「とりあえずシートとか高いやつにしとけばいいんだろ?」と言っており、必死にやめてくれと言っているが止まる気配が見えない。

 

 

「…別に車が欲しいとか兄貴の前で言ったことねぇし。そこまで高いやつを強請ったこともねぇ。普通に生きて、朝に「おはよう」夜に「おやすみ」って言い合えたら俺は別になんだっていいんだよ」

「カゲ、めっちゃいい子っっ…!!」

「いや、それは欲無さすぎじゃん?」

「その顔に似合わへん言葉やな」

「本当に好きなんだな、静雅さんが」

「そういうのは未来の奥さんに言ってやれよ」

「ゾエ、ハンカチあるぞ」

「ありがとう鋼くん…」

 

 

 極論すぎるような気もするが、そもそも静雅はA級隊員であり定期的にネイバーフットへ遠征にも行く。本人の実力もそうだが、サイドエフェクトが有効的すぎて遠征メンバーから外されることは余程なことがない限りないだろう。その為、定期的に遺書を書いたりしているようだし、ネイバーが頻繁に現れる三門市で隣にいた友達がふとした瞬間に居なくなる、なんてザラである。そう考えると、一番の願いかもしれない。

 

 

「だからどうにかして誕生日プレゼントを車っていう考えを消したい。手伝え」

「いや、それは…」

 

 

 水上が目配せすると雅人と北添以外が「うん」と同時に頷いた。

 

 

「「「「「無理だろ」」」」」

 

 

 

 * * *

 

「嫌いな奴にまで頭下げてんだからせめて何か知恵を振り絞れやァ!!」

「急なチンピラ感!! さっきの優しいカゲ戻ってきて〜!」

 

 

 机をバン!!と叩いて犬飼にメンチを切る雅人。雅人の隣に座っていた北添が「まあまあ」と雅人を宥める。

 

 

「それこそ静雅さんの手網を握ってる風間さんの出番じゃないのか?」

 

 

 荒船が言った。その言葉に他数名も頷く。確かにボーダー内では静雅=風間という方程式が出来上がっており、静雅が何かやらかしたら風間を呼べ、は暗黙の了解になりつつある。尚、太刀川が何かした時もとりあえず風間を呼んでおけば丸く収まることが多い。

 

 

「…俺もそう思って相談したわ! ……何て言われたと思う」

「…風間さんやろ? なんか厳しいこと言いそうな気ィするわ」

「「腹を割って話し合え」とかじゃないのか?」

「うわ、めっちゃ言いそう!!」

「語り合え、拳でな…! とかか?」

「いや、何キャラ?それ」

「……で、正解は?」

 

 

 6人の視線が一気に雅人に集まる。雅人は頭が痛いと言うふうに眉間を揉みながら言った。

 

 

「『アイツの貢ぎ癖は諦めろ。言っても無駄な奴とは一定数いる。静雅の貢ぎ癖、静雅の喧嘩癖、太刀川のレポート、太刀川の学力、太刀川の逃げ癖、太刀川の餅。…ラクなのは諦めるか見捨てるかのどちらかだ。耐えられないと言うのなら縛って川にでも捨てておけ。そうすれば自分の悔いを改めるんじゃないのか』だってよ」

「…また太刀川さんのレポートで徹夜してたのかな」

「そろそろ太刀川さんは川に流されるんじゃないのか」

「でもあの人の場合は自業自得だよね」

「風間さんもなんだかんだ言って面倒見いいからな」

「絶対に相談する時期ミスっとるやんそれ」

 

 

 しかし、静雅のことでは絶対的信頼をおける風間が諦めているとなるとどうしたらいいのだろう。みんなが一斉に頭を悩ませるが全然いいアイディアは浮かばない。

 

 

「そもそもクリスマスプレゼントに現金を送ってた人だぞ?」

「夢も希望もないな…」

「まあ、さすがに半数以上は返したらしいけどな」

「受け取ったやつおるんかい」

「水上んとこの隠岐を筆頭にな」

「おい隠岐ィ!!」

「めっちゃ清々しい笑みで受け取った横でイコさんが撃沈してたな」

「でもジュース奢ってもらって機嫌直してただろ?」

「一万円の隠岐とジュースのイコさん。凄いな、落差が」

「……まあ、構って貰えるだけ儲けもんやろ」

 

 

 話が脱線した。雅人が「ゔぅん」と咳をすることで本線へと戻る。暫くして「どうするの?」という視線が交わり…もはや諦めるしかないのかと考えていたその時。神が降臨した。

 

 

「鋼、ぼくちょっと弓場くんのところに──ってどうしたの? 雰囲気重いね」

 

 

 村上と共に本部へ足を運んでいた来馬がやってきた。正しく神からの天啓。これを逃がすまいと、雅人や荒船が来馬の肩を掴む。

 

 急に肩を掴まれた来馬は困惑しながらも、流れるようにして村上が座っていた席へと誘導される。尚、元々溢れていた犬飼が端に追いやられ、村上の座っていた席に来馬が、犬飼が座っていた席に村上が座ることになった。一人「なんで??」と呟いた犬飼の声は誰一人の耳には届かない。

 

 

「え、え、どうしたのみんな」

「来馬さん、どうか力を貸してほしい」

「俺達には強すぎる相手だった…」

「くっ、まだまだ未熟だったということか、俺達は」

「…偉いノリノリやなそこの二人」

 

 

 来馬がやってきたことでこの件は解決したも同然だと思ったらしい。急に「ふっ…」と格好をつけ、荒船と穂刈がボケ始めた。

 

 

「えっ、ナチュラルに立たされたおれは無視? ねぇカゲ、なんでおれは席を立たされたの??」

「元々クソ犬は呼んでねぇだろうが」

「あっ、もしかしてぼくが来ちゃったせいで、犬飼くんの席無くなっちゃった!? ごめんね、今すぐ帰るから!!」

「おいクソ犬!! 余計なこと言うなや!!」

「わーわー、全然大丈夫です!! ちょっ、叩かないでよカゲ」

 

 

 余計なことを言う犬飼の元に雅人の制裁が下る。あまりにも犬飼が必死なので「じゃ、じゃあおじゃまさせて貰おうかな…」と来馬が空気を読んだ。さすが空気が読める方の20歳である。この場に来たのが来馬ではなく、太刀川(バカ)二宮(バカ)加古(バカ)だったら更に混沌を極めていたことだろう。

 

 いまいち状況が掴めていない来馬に代表して雅人が説明する。全てを聞き終えたところで来馬は「うん、理解はできたよ」とひとつ笑みを浮かべて頷いた。そして少し困ったようにこう言うのだ。

 

 

「──正直、ぼくには誕生日プレゼントに車という選択肢がダメなところが分からないというか…。ぼくも鋼や太一、今ちゃんが免許を取ったら贈りたいと思ってたんだけど…」

 

 

 雅人達も一瞬で理解した。そう言えば来馬(このひと)上流階級(かねもち)だった、と。常人の金銭感覚ではないのだ。

 

 

「ごめんね、期待に添えなくて」

「いや、別にそこはどうでもいいんだ」

「そうだ来馬さん。そこはどうでもいい」

「…え?」

 

 

 悲しそうに目を伏せる来馬を見て荒船と穂刈が首を横に振った。思わぬ反応に来馬は首を傾げた。

 

 

「太一に免許は危ない」

「三門市の死亡率が跳ね上がる」

「…こう言っちゃなんだが、あいつは死神だ」

「…確かに」

「まあ、上層部が許してくれないと思うけどな」

「確かカップラーメンもまともに作れへんのやろ? ハンドル握らせたら、やばいわな」

「それこそ過労で根付さんが死ぬことになる」

「…それはそれで兄貴が喜ぶな」

「いやダメだよ!? 市民のためにも、太一くんには…免許を諦めて貰わないと……」

 

 

 言われたい放題の太一である。が、太一が人を轢き殺して泣いて警察に自首しに行く姿が想像出来てしまうので、来馬も「わかった」と神妙な顔で頷いた。

 

 

「しかし、これで万事休す、か…」

「もう大人しく車受け取ったらええやん。めんどいし」

「18で車でしょ? 20歳になったら一軒家贈られるんじゃないの?」

「なまじ有り得そうで怖いね…」

「これでカゲが結婚でもしたらどうなるんだろうな」

「…確かに気になるな。ちょっくら届けて来てくれないか。婚姻届を、そこらの誰かと」

「届けるわけねーだろ! 殺すぞ!!」

 

 

 「そこらの誰かって誰だよ!!」と突っ込みを入れる雅人は正論である。またもや、来馬が来る前の重苦しい雰囲気を纏う彼ら。そこに「あの…」と来馬が恐る恐る挙手をする。

 

 

「カゲくんがちゃんと、誠心誠意込めて頼み込めば静雅さんは無下にしないと思うんだけど…」

「それで納得してたら今までの時間は一体…」

「え、頼み込んでないの?」

「まあ、無駄だと思ってたからね…」

「やるだけやってみろよ」

「案外上手く行くかもしれないしな」

 

 

 来馬を先頭に雅人達は静雅がいるであろうランク戦のブースへと向かう。ちなみに、北添が電話で確認済みなので、静雅はちゃんとブースにいるはずだ。

 

 

「兄貴!!」

「アン…? なんだぞろぞろと引き連れて」

 

 

 辻と一緒にジュースを飲んでいた静雅は、ゾロゾロと連れていた雅人を見て首を傾げた。「今からカチコミでも行くんか?」と呟いた静雅はもしかすると南沢と同レベルかもしれない。

 

 

「兄貴、ランク戦をしようぜ」

「…はあ?」

「俺、誕生日プレゼントはランク戦がいい!」

「きゅ、急にどうしたんだよ…?」

 

 

 グイグイと静雅の手を引っ張り、ランク戦を開始させる雅人を見て「あれは…無理やりだね」と来馬が呟く。

 

 

「それにしても、カゲくんは意外と欲がないんだね」

「カゲが良い子に成長してくれてゾエさん嬉しい。カゲ成長日記にまた楽しい出来事が増えたよ」

「ゾエ、お前カゲの成長日記なんてつけてるのか…?」

「最早母親の域だな、ゾエ」

「えー、面白そう。おれもつけてみようかな?」

「カゲを怒らせたければいいんじゃないのか」

「…実は犬飼ってドMだったりする?」

「ねぇ、勝手な憶測で言うのやめてくれない!?」



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序章
第1話


残酷な描写は念の為。
1週間に1回更新していきたい(願望)


  

    影浦(かげうら)静雅(しずか)

    それが彼の名前だった。

 

    目付きは悪いし、友達はいない。家庭環境は最悪。そんな彼はパジャマ姿─と言ってもダボッとした黒のパーカーに黒のズボン─で恥ずかしげもなく街を歩いていた。

 

    金は持ち歩いていない。一応、金目のものはないかと自分のポケットを探ってみたが、あったのは綺麗に折り畳められたマスクだけ。ンなモンがなんでアンだよ…と彼は過去の自分の行動を思い返すが、特に思いつくわけでもなかったので、マスクをつけることで思考することをやめた。

 

    そんな彼は途轍もなく、途轍もなく機嫌が悪かった。チッと舌打ちをするがイライラが消える訳でもなく、更に舌打ちをした。

 

    なぜ、彼が機嫌が悪いのか。

    それは彼の家庭環境にあった。

 

 

 

    最初に紹介した通り、彼の家庭環境は最悪だった。父は某企業の社長、母は専業主婦。父が何処の社長なのかなんて静雅には興味もへったくれもなかったので、気にしたことはない。

    そんな父親は紛いなりにも社長だったので、家は大層豪邸な一軒家だった。

 

    両親は静雅の生まれる前はラブラブで、愛し合っていた…らしい。今は倒されて見えない写真立ての中の写真に笑い合っている両親や、キスしあっている写真などがそれを物語っていた。

    しかし、それも静雅が生まれる前の話。静雅が生まれてからはその仲は一変し、ギスギスとした雰囲気に変わった。

 

    理由はひとつだった。

    静雅が両親のどちらとも似ていなかったのだ。父は母の不倫を疑った。勿論、母は不倫なんてしていない。夫を世界一愛し、子供を授かった。なのに、不倫を疑わられる。

 

    父は昔は優しかったらしい。周りが言うには、愛妻家だっただとか。静雅が産まれてからは、そんな素振りを見せたことがないので、静雅はしらない。

 

    優しく愛妻家だったらしい父は一変し、母に暴力を振るうようになった。「嘘をつくな。不倫をしたんだろう?」と母を問い詰めながら。していないものはしていない。母は「していない」と否定し、更に殴られる。そんな日々が毎日続いた。

 

    静雅が5歳ぐらいの時だっただろうか。母が初めて静雅に手を出した。母も精神が可笑しくなっていた。心がズタズタだったのだ。

 

 

「お前が、お前が生まれたせいで全てが可笑しくなった!!」

 

 

    バシィン!!と大きな音が部屋で響く。数秒後に殴られたことに理解した静雅は殴られた右頬を触り、涙を目に溜め…泣き出した。

 

   そんな対して母はヒリヒリとする右手の感触で息子を殴ったことに理解し、叫んだ。夫と同じことをしてしまった。それが嫌で嫌で、叫んだ。

 

   この時既に、母を精神科に連れていかなければいけなかったのだ。しかし、5歳児の静雅にそれがわかるはずもなく、可笑しくなった母がそれに気づくはずも無かった。父は、母が壊れようと放置していた。

 

   そんなそれから母は静雅の名前を呼ばなくなった。完全に壊れたのだ。そして、日頃のストレスを静雅に発散するようになった。

    最初は抵抗していた静雅だが、すぐに抵抗するのをやめた。母はこうすることでしか、心を保てないことに気づいたからだ。

    でも、それは小学生までで、中学に上がれば、反抗することはなかったものの、母のビンタを避けるようになった。

 

 

「あんたが、あんたが──」

「なんで生まれてきたの?  せめて、私かあの人か、似たような顔で生まれて来てくれれば──」

「お前なんか、死んでしまえ!!」

 

 

   そんな親を静雅は親とも思うことはなくなっていった。小さい頃はお母さんと呼んでいたのに、今では自分から話しかけることをしなくなり、学費を払ってくれる人と認識するようになった。

 

    家に帰ってもいいことなんてないので、家に帰ることも少なくなった。喧嘩に明け暮れていたのだ。喧嘩に明け暮れ、野宿する。友達なんてものは静雅には存在しなかったので、友達の家に泊まる、なんて選択肢はなかった。

 

    母がいつも一方的にギャーギャーと騒ぐ。耳障りだから騒ぐンじゃねェ、と言いたいところだが、それをいえば更に煩くなることがわかるので黙っている。

 

    高校生になって、静雅も言い返し始めた。手を出すことはなくとも、言い返すようになった。

 

 

「なんで、あんたは──」

「生まれて来たのか、って?  それはてめぇが産んだからだろ?  人のせいにすンなや」

 

 

    勝手に産んどきながら、生まれてきたことを否定される。静雅はそれが嫌で嫌で仕方なかった。否定するぐらいなら作るな。産むな、と。

 

    母は相変わらず単調な動きだった。カッとなった母は右手を大きく振って静雅の頬を叩こうとする。

    しかし、喧嘩慣れしている静雅からしてみれば、避けることは簡単だし、右手で受けることも可能だ。バンバンと何度も頬を殴られることが好きな人間なんていないだろう。

    それに、静雅は短気だ。殴られるだけで許せるような優しい男ではないのだ。

 

 

「…大人しく、殴られとけばいいのよ!!  男っていつも身勝手。コロッと人が変わる!  嫌で嫌で仕方ない!!  嫌いよ、男なんてみんな!!!」

 

 

    父は静雅が小学生に上がる頃から帰ってこなくなった。壊れた母に興味を示さなくなったのか、新たにオンナができたのか。そんなのに彼は興味を持たなかったし、持とうとも思わなかった。母は更に壊れたが。

 

    静雅は珍しく母にやり返した。いや、言い方に語弊があったのかもしれない。別に殴り返した訳じゃないからだ。

 

    彼は母をギッと大層悪い目付きで母を睨み、机を思いっきり蹴った。ガダッと音をたてて、移動する机を見て母は父のことを思い出したのか顔が真っ青になる。ガタガタと肩が震え、歯が音をたてる。そして母は地面に座り込んだ。

 

    静雅の顔に父親の面影はない。母の面影もない。でも、DNAは繋がっているから不思議だ。

 

    そんなガタガタと震える母を静雅は冷たい目で見下ろし、家を出た。その行動は完全に勢いだったし、パジャマだったことも忘れていた。おかげで無一文で街を彷徨くことになり、静雅は今日を厄日だと感じた。

 

    やることはない。やりたいこともない。はっきりと言って暇だ。かと言って、家に帰るのは嫌だ。1週間は母の顔を見たくない。でも、無一文で店に入ることもできない状態だった。せめて500円ほどあれば、適当にレストランにでも入ってコーヒー1杯で4時間は時間を潰せたのに。

 

    チッと舌打ちが彼の口から漏れる。

   静雅は目付きが悪い上に、視力も悪いため、更に目付きが悪くなる。たまたま静雅を見ていた周りの女子から悲鳴が漏れた。そしてまた、機嫌が更に悪くなる。完全に悪循環だった。

 

    あまりの苛立ちに手が出てしまいそうだったため、静雅は街を抜けて、人の少ない交差点に出た。信号は赤で、静雅は止まった。たった数秒だったが立ち止まることが、苛立っている静雅を更に苛つかせた。

 

    そんな彼は跳ね飛ばされた。

 

    トラックが彼を跳ねたのだ。

決して静雅が信号無視した訳では無い。トラックが静雅が立っていた横断歩道に突っ込んできたのだ。…居眠り運転だった。

 

    喧嘩慣れしている彼は、咄嗟に両腕でガードするが、そんなもので守りきれる訳でもなく。ダムダムとまるでボールが地面でバウンドするかのように静雅はコンクリートの上で跳ねた。

 

    トラックは静雅を引いたあと、そのままビルに突っ込んだ。人通りのなかった交差点はこの事故のせいで、人で溢れかえってしまった。

 

    跳ねられた静雅は意外と冷静だった。

    ああ、やっと死ねるのか、と安心したからかもしれない。死にたくはなかった。けど、明らかな致命傷を受けてしまったし、別にこの世に未練があるわけでもなかった。自分を愛してくれる家族がいる訳でもなければ、一緒にバカ騒ぎする友達もいなかった。彼を気にかけてくれる人なんて1人もいなかったのだ。

 

    なんで自分は生きているんだろうと彼は常に自問自答を繰り返していた。生きる意味が見いだせていなかったからだ。

    外にいても楽しくない。家にいても楽しくない。楽しいことなんて彼の周りには何一つなかった。学校で笑っている赤の他人を見て、何がそんなに楽しいのか彼は理解できていなかったし、家族で外食に行く理由も理解できていなかった。

    死にたいと思ったことは少なくなかった。自分で自分に手を下すことを馬鹿馬鹿しいと思っていた彼は自殺こそはしなかったが、今この時が丁度良かった。

 

    死にかけの自分。自殺ではなく、事故に巻き込まれただけ。別に生きていても特に楽しくないこの世界だ。ようやくこの無意味な人生が幕を閉じることが嬉しかった。

 

    視界が真っ赤になった。綺麗な雲ひとつない空は真っ赤に変わった。彼は頭から血を流していたのだ。頭の他にも腹や腕、背中など、沢山の場所から血を流していた。打ちどころが確実に悪かった。

    走馬灯が見えるわけでもなく、彼の命は花弁が散るように簡単に、消えていったのだった。

 

彼の流した涙は誰も気づかない。

しかし、彼の『願い』には気づいたのだ─。

 

 

彼の『願い』それは──

 

 

 

「笑いあえる友達、愛してくれる両親、愛しい恋人」

 

「ひとつぐらい叶えば良かったのになァ…」




※主人公はワールドトリガーを知りません。


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第2話

  

    死んで、生まれ変わった。

 

   お前、何言ってんだよって思うかもしれないが、これは本当で、物心がついた時から彼は影浦(かげうら)静雅(しずか)としてまた生きていた。

    また同じ苗字で同じ名前。この名前はもちろん、苗字もいい思い出なんてひとつもない。けれど、前の両親とは違って、この世界の両親は優しかった。

 

 

「しずか、おれとあそぼう!」

 

 

    彼には家族がいた。

    優しく時には厳しい父がいて、ほのぼのとした明るい母がいる。そして、元気が取り柄の双子の兄と、天使のような微笑みを見せる3歳年下の弟がいた。

 

    彼は、弟─雅人(まさと)を眺めていたいのに、双子の兄がグイグイと俺を引っ張って庭に出す。

    兄は、サッカーをやろうだの野球をやろうだのと1人で盛り上がっている。1人でやっとけと突き放せば、一瞬、兄はキョトンとした顔をした後、「やろーよー」と彼の腕をぐいぐいと引っ張って駄々をこねた。

 

    兄はどうしても彼と遊びたいらしい。両親はお好み焼き屋を経営して忙しいし、まだまだ小さい雅人の面倒を見るので精一杯だ。

    静雅だって、すやすやと寝ている雅人を眺めているだけで、兄と関わろうとはしていなかったので、それが嫌に感じたのかもしれない。小さな弟に双子の弟が取られたと勘違いしているのだろう。

 

    あまりにもうるさいので、彼が了承してあげれば、兄は嬉しそうに笑って叫んだ。耳元で叫ばれたので、思わず彼は耳を塞いでしまったが、それに兄は気づいていなかった。兄はすごく喜んでいる。隣にいる彼の行動に気づいていないのだから、もちろん店で叫んでいる母親の怒声にも気づいていなかった。どうやら兄の叫び声は、店にまで聞こえていたみたいだ。

 

 

「ちょっとは静雅みたいに静かに落ち着いてられないのかなあ?」

「い、いやあ、その…ごめんなさい……」

 

 

    普段怒らない人が怒ると、それはとてつもなく怖く、恐怖を味わうものだ。

    店内のど真ん中で母によって正座させられ、愚痴愚痴と怒られている兄を見てご愁傷様だと彼は思った。

 

    結局、あの後兄はサッカーをやることに決めたらしく、父に買ってもらった新品のサッカーボールでサッカーを始めた。

    しかし、数分もしないうちに兄が蹴ったサッカーボールはあらぬ方向に飛んでいき、家の二階の部屋の窓ガラスを割ってしまったのだ。ボールを高く蹴飛ばせると興奮していたのが運の尽きだったのかもしれない。

 

    窓ガラスの割れた音に反応した母が来てみれば、子供部屋となっていた部屋は窓ガラスで散らかっており、普段優しい母も鬼の形相へと変貌するのは仕方の無いことだった。

 

    両親の経営しているこのお好み焼き『かげうら』は客に愛されている店だ。子供がやんちゃして、店の中で怒られていても客は怒るどころか、ほのぼのとした雰囲気をだし、笑って見守っている。

    ちなみに兄は涙目…というか号泣していた。当たり前だ。店のガラスじゃなくて良かったが、結局家の窓ガラスを割ってしまっているのだからしょうがない。

 

 

「奥さんも兄ちゃんも元気だなあ!」

 

 

    父が抱っこしている雅人に向かって、常連は豪快に笑いながら言った。父は苦笑いしながら、「そろそろ止めるか」と呟き、仲裁に入った。

    父が仲裁に入ったことで、店中の客の視線が集まっていたことを母は知り、顔を赤くして裏へ小走りに向かい姿を消した。母は意外と乙女なのかもしれない。

    もう既に母は鬼ババだと知れてしまっているから、隠れても意味がないと思うのだが、そこはご愛嬌ということなんだろうか。

 

    走って消えた母を見て、客は楽しそうに笑い、「仲がいいねぇ」とつぶやく。父はまたしても苦笑いを浮かべた。兄は漸く助かったと安心した表情を浮かべ、弟は無邪気に笑っている。

 

 

    そんな、光景を、『今』を見て彼は

 

    嬉しそうに頬を緩めた

 

 

    ──これが“家族”か、と。

 

 

 

  ***

 

    あれから月日は経ち、静雅は小学校に入学した。

    入学式、それは彼にとってみれば憂鬱なものであった。元々、転生する前から堅苦しい式典や長々しく喋る人間が嫌いだったが、この世に転生し、更に人が嫌いになってしまったようにも思える。

 

    別に両親が何かしたという訳では無い。

    彼の両親は優しいし、気の利くいい両親だ。こんな在り来りな親を欲していた彼にとってみれば最高で、時々口煩いと感じたり、うっとおしく思ったりもするが、そこがまたいいと彼は思っている。

 

    兄弟仲も意外と良好だったりする。

    相変わらず兄は元気で考え無しで動く阿呆な男だし、弟は()()()()()()()()()()からか少々、泣き虫なところもあるが、それを受け入れてくれる彼を好ましく思っているのかいつもベッタリと後ろを引っ付いて来ている。

    彼も彼で、弟という護らなくてはいけない存在がいることを嬉しく思っているからか、いつも弟の面倒を見てあげている。兄とは違って友達がいないというのも関係しているのかもしれない。

 

    では何故、彼は人が嫌いなのか。

    それは彼が()()()()()()からだ。

 

    この世に転生したという異例もあるが、それとは()()別に違うのだ。弟が()()()()()()()()()()()()()()()()()()ように、彼も()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

    これがどんな能力なんかなんて彼は詳しくは知らない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思っているだけだ。

    でも、この能力のおかげで人混みでは酔うし、情報を処理しようとした右脳がパンクする。隠れんぼでは無敵になったが、隠れんぼで無敵になっても意味はほぼ成さないだろう。隠れんぼなんて小さい時にやる遊びで、大人になるにつれてやらなくなっていく。隠れんぼが無敵だからといって将来、有利になることはないので彼は使えない能力だと思っている。

 

    では、ここで一度振り返ってみよう。

    彼は今、入学式に出ている。入学式とは即ち、人が集まる場所だ。そんなところに彼は長時間いて、尚且つ能力はフル稼働している。しかも彼はその能力を自由にオンオフを切り替えることができないのだ。

    そして、そんな能力をフルで使っていれば、発達しきれていない彼の右脳はパンクするに決まっていた。おかげで彼のストレスは半端ないし、疲労だって凄かった。眠るのが1番効果的なのだが、途中途中起立させられるので、それは不可能に近かったし、寝た事実を両親に知られると面倒だ。

 

    そもそも、なんで俺が小学校なンざに通わな行けねェンだ、と彼は考える。もちろん、その理由として彼の周りが彼を転生者だと知らないからであるのだが、そんなことを告げたところで精神科を進められるだけで、いい方向に進むことはないだろう。

    かと言って、彼は精神年齢の低い子供に付き合う気は毛頭なかった。笑いながら手を繋ぎ、のうのうと毎日を過ごすつもりは無い。精神年齢21のいい大人がそんなことを出来るはずもなく、彼のプライドが赦すはずもなかった。

 

    聞きたくもない校長やPTAの話を長々と聞き、町内の会長だのなんだのと終わる気配のない入学式に苛立ちが募り、彼の貧乏揺すりは酷くなるばかりだ。確実に血圧が上がっているであろう彼の現状に気づいている人間は、きっと彼の()()()()()()ぐらいしかいないだろう。

 

    長々と話し続ける大人達に舌打ちを打ち、きっちりと締めてあった首元のネクタイを緩めると彼は静かに目を瞑った。これ以上は耐えられなかったのだろう。数分もすればすやすやと眠り始める。

 

    式が終わる直前に左隣りの少年が起こしくてくれたおかげで、彼は恥を晒さなくて済んだ。

 

 

 

 

  ***

 

    入学式が終わった後は教室に移動した。保護者が入ると教室がパンパンになるという理由で、保護者は体育館で説明を聞くらしい。

 

    教室に入る瞬間、彼は兄と目が合った。彼は1組、兄は2組だ。兄は、彼にブンブンと手を振るが、彼はそれを無視する。兄はショックそうな表情をするが、これが彼らの日常で、いつもの事だ。無視されて兄が怒ることもなければ、泣くことも無い。逆に彼が振り返しでもしたら、彼の体調を兄は気遣うであろう。双子なだけあって、兄は彼のことをよく知っていた。

 

    机にはひらがなで名前の書かれたシールが貼ってあった。そこに座れということなのだろう。彼の苗字は『かげうら』。か行ということもあり、窓際に近い席だった。前から3番目ということが気に食わなかったが、仕方ないだろう。

    それに、彼は授業をマトモに受けるつもりはなかったので、前列だろうが後列だろうが関係なかった。

 

    机は隣りとくっつけてあり、1人2組らしい。右隣りを見てみれば、先程の入学式で左隣りだった少年だった。

    一瞬目が合って、彼はすぐに逸らした。名前をチラ見したが、彼は覚える気がなかったのですぐに忘れた。

 

    担任からプリントが配られる。担任の説明を聞きながら、彼はふと空を見た。空は晴れ晴れとしていて、快晴だった。そんな空模様に彼は、けっと声を漏らした。



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小学生編
第3話


前半、隣の少年side


  

    入学式。

    満開な桜の通り道。

    ヒラヒラと舞った桜の花びらを頭につけ、初々しい少年達は緊張な面影で小学校の校門を潜る。

 

    それはおれも同じで、少し緊張していた。両親や、兄と離れ離れになるのは以外にも心細く、少しだけだが不安になってしまう。

    両親から言われた通りの場所にいけば、優しそうな顔をした女性がたっており、おれを招き入れてくれた。

    どうやらその女性はおれの担任だったらしく、彼女の指示通りにクラスの列に並んだ。

 

    おれの出席番号は上から数えた方が早いので、前列だ。と言っても2列目で、最前列じゃなくて良かったとおれは思った。

 

    司会の先生の「新入生、入場」という言葉で体育館におれは足を踏み入れた。在校生や、保護者からの視線がたくさん集まり、自然と背筋が伸びるのがわかった。

 

    着席した後は、教頭の開会の言葉から入学式は始まり、来賓の紹介や校長の話など、保護者向けの挨拶がつらつらと並べられていく。

    正直、興味もないし、段々と式に飽きてきていたおれは、右隣から聞こえてくるダンダンダンと地面を強く踏みつけるような音に興味を持った。

 

    ちらっと右隣を見てみれば、右隣の少年が顔に青筋を浮かび上がらせ、目を釣り上げ、貧乏揺すりをしていた。彼の足が高速で上下に揺れている。どうやら音の原因は彼のようだった。

 

    隣の少年は黒の子供用のスーツに身を包み、ネクタイをきっちりと結んでいた。

    だが、それが苦しかったのか眉にシワを寄せながら、彼はゆっくりとネクタイを緩めた。

    しかし、それがイラついている原因ではないのか、貧乏揺すりは止まらない。

 

    ダンダンダン

    ダンダンダン

 

    血圧が凄いことになっているであろう隣の少年は、深い深呼吸を始めた。多少落ち着いたのか、貧乏揺すりは止まったが、相変わらず目付きは悪く、人を5人ぐらい殺してきた目付きをしていた。

 

    次はどんな行動をするんだろうとおれは少年を眺めていたら、隣の少年は目を瞑り、スースーと寝息を立てて寝始めた。まさか寝るとは思っていなかったので、おれはびっくりする。

 

    さっきまでは眉間にシワが寄っていた隣の少年は、小学生がするような顔じゃなかったのに、今では幼い顔立ちへと変わっている。これが名も知らない隣の彼の本当の顔なのかとおれは理解した。

 

    あれから30分もすれば、入学式は終わった。

    しかし、隣の少年は未だに小さな寝息を立てて寝続けている。入学式が楽しみで眠れなかったのか、それとも緊張で眠れなかったのか。

    彼の予想は全て的を外れているのだが、彼が知る由もない。

 

    とにかく、隣の少年が深い眠りについていることは確かだった。

    しばらく彼の寝顔を見ていたが、そろそろ起こさないとまずいだろう。起立の声で1人だけ立ち上がらないで、周りの視線を浴びるなんて恥を少年もかきたくないはずだ。少なくともおれは嫌だと思う。

    おれは仕方ないなと母親が中々朝起きない息子を起こすような気持ちを感じながら、隣の少年の肩を揺すって起こしてあげた。

 

 

 

  ***

 

    担任に案内されながら、おれたちは教室へと向かう。はぐれないようにという配慮元、2列での行動で、おれは先程寝ていた少年の後ろをゆっくりと歩いていた。

 

    前を歩いていた少年は黒いチリチリでボサボサの頭をしていて、整えられているようで整えられていない。寝癖なのか、それともあの髪型が通常運転なのか。少年の名前すら知らないおれにはわからなかった。

 

    おれの前を歩いている少年は近づくなオーラがすごいかった。黒のスーツをきているせいか、殺し屋感が半端なく、懐に拳銃を隠していてもしっくりくるレベルだ。

    そんな少年が怖いのか、周りのクラスメイト達は一定の距離を保ちながら歩いていた。

 

    対しておれは、少年に興味を持っていた。

    歳の離れた兄を持ち、子供ながらに達観している彼は、少年のことを怖いとは思わなかったし、何故あんなにイライラしているのかとか、その髪型は素なのかとか、色々と疑問が沸いて来て、知りたくなっていた。

 

    教室に入る時、人懐っこそうな顔をした少年がこちらに手を振ってきていた。おれの知り合いではないことは確かなので、おれに振っている訳では無いのだろう。決しておれに友達がいないとか、そういうわけじゃない。

 

    ふと、目の前の少年が手を振ってきていた少年を睨んでいたことに気がついた。

    どうやら、少年の知り合いだったらしい。少年は普通にスルーしていたが、相手も傷ついた様子はしてなかったので、大丈夫…なのだろう。おれには少しわかりかねる。

 

    教室に入れば、机にひらがなで書かれたシールが貼ってあった。おれは小学校に入学する前に、ある程度兄と共にひらがなの練習をし、覚えたので問題なかった。ひらがなを兄に教えて貰っていて良かったと少し安心する。

 

    隣の席はおれが興味を持っていた少年で、一瞬目が合うがすぐに逸らされてしまう。傷つきはしなかったが、感じ悪いという印象を持ってしまった。

 

    『かげうら  しずか』

    これが隣の少年の名前らしい。おれは隣の少年の名前は『しずか』だと頭にインプットをした。

 

    仲良くなるにはまず、名前を覚えることだ。

    これは、おれが尊敬する兄の言葉だ。友達と仲良くなれる秘訣だと兄は教えてくれた。それに習い、おれはしずかしずかしずかと彼の名前を忘れないように、頭の中で何回も反芻した。

 

    おれは、しずかに話しかけようとしたが、タイミング悪く担任が話を始めてしまったので、話しかけることを諦める。

    正直に言えば、しずかに何を話そうか決めていなかったので、少しだけだがほっとしていた。

 

    しずかが気になって、おれはちらっと隣を見てみる。しずかは空を見ており、おれもつられるようにして空を見た。空は晴天で、入学式日和だった。雲一つない空はとても澄んでいる。

 

    そんな、空を見てしずかが舌打ちを漏らしていたのをおれは静かに眺めていた。

 

 

 

 

  ***

 

    入学式から数日が経った。

    授業も始まり、ちょくちょくと宿題を出されるようになっていったが、彼は真面目なので忘れ物をまだ1度もしたことがなかったし、宿題だってちゃんと毎日提出していた。

    そんな彼は、明日の時間割を見ながら教科書をランドセルに詰めていく。その光景を後ろから見ていた兄が彼に話しかけた。

 

 

「友達はできたか?」

「…びみょう」

 

 

    彼はクラスメイトから話しかけられれば返すし、遊びに誘われれば一緒に昼休みに遊んだりもするし、今の時点ではこの学校生活が上々だと彼は思っていた。

 

    クラスメイトと遊ぶことは楽しかったし、また遊びたいと彼は思うが、たった1回一緒に遊んだだけで、友達と呼んでいいのか彼にはわからなかった。

    それに、1番興味を持った『しずか』とはまだ話せていない。

 

 

「でも、いいいみと、わるいいみできょうみをもったやつならいるんだ」

「へぇ〜」

 

 

    楽しそうな兄の声が聞こえた。

    彼は兄の後ろをついてくるだけで、同年代の子と話したり遊ぼうとしていなかったので、兄は少し心配をしていたのだが、それはどうやら無駄に終わったらしい。

 

 

「いい意味と悪い意味って何?  気になるな」

 

 

    彼は兄に分かりやすく説明するために少し考える素振りを見せた。そして数秒後、口を開く。

 

 

「じゅぎょうをマトモにでたことがない」

「へ?」

「あさのかいがおわったら、すぐにすがたをけすんだ。いちどだって、じゅぎょうにでたことはないし、そのせいでよく、ほうかごにせんせいによばれて、おこられてる。でも、じゅぎょうなんかマトモにでてないのに、テストのてんすうはいいから、なぞなんだ」

「お、おお…。それはまた凄い問題児だな…」

 

 

    さすがの兄もまさか小学校1年生から授業をバックれる子がいるなんて思いもしなかっただろう。

    1度や2度ならまだしも、彼は1回たりともちゃんと授業に出席したことはなかった。

 

    怒った教師が静雅の両親に電話するがそれは意味をなさなかったし、双子の兄にサボり場所を聞いてもニコニコと笑うだけで答えようともしない。入学式からたった数日しか経っていないはずなのに、教師はもう既に彼のことを諦めてしまっている。

 

    逆に彼は、ますます静雅に興味を持ってしまった。嫌なものを嫌だと言える度胸はすごいと思っているし、それを行動に移せるのはもっとすごいことだと思っている。

    しかし、だからといって我儘はいけないとも思っている。出なくてはいけないものは『出なくてはいけない』のだ。それは規則であってルールであり、彼だけがルール対象外なんてことは有り得ない。それを容認してしまっている担任も有り得ないと彼は思っている。

 

 

「にいちゃん。なんで、しずかはじゅぎょうをうけないんだろう。ルールは、まもらなくちゃいけないいけないから、しずかも、じゅぎょうをうけなくちゃいけないのに……」

蒼也(そうや)

 

 

    優しい声で兄に名前を呼ばれた。

    兄はニコニコとした優しい表情をしていて、それを見て何故か安心してしまう。

 

 

「他人を理解したいなら同じ行動をとってみればいい。そして、相手に聞いてみるんだ。分からないから苦手だ、って考えることを放置するんじゃなくて、分からないから仲良くなれるかもしれないって考えるんだよ。俺の聞いている限りじゃ、蒼也とその…しずかって子は仲良くなれるんじゃないかなあと思う」

「なんで?」

「蒼也は仲良くなりたいんだろう?  でも、そのしずかって子は蒼也よりも少しばかり大人なんだよ。蒼也はそんなしずかに憧れているし、友達になりたいと思っている。しずかって子もしずかって子で、みんなよりも少し大人だから、蒼也達にどう接していいのか分からないんじゃないかな」

 

 

    彼は兄に憧れていた。

    いつも彼が分からない問題に躓いていると、優しく導いてくれる。

 

    優しくて頼りになる兄。

    かっこよくて、頭が良くて。兄のようになりたいと常々彼は思う。

 

 

「うん。もうすこしがんばってみるよ!」

「いい心がけだ!  偉いぞ〜、蒼也!!」

 

 

    わしゃわしゃと兄が彼の頭を撫でた。

    「ボサボサになるからやめてよ」なんて言って、2人で笑いあった。

 




前半の書き方どうでしたか?
違和感や、変なところがあればできるだけ優しく言って貰えると助かります。

そして、感想や評価、ありがとうございます。励みになっております!
少なくとも、この3話が3回ほど消え、やる気を削がれるという一大イベントがありましたが、感想と評価のおかげで何とか立て直すことが出来ました!!

週一の月曜日更新という目標を掲げていますが、気分屋で飽き性な駄作者はある日を境に更新をパタリとやめてしまうかもしれません。その時は、長い目で見てもらえると助かります。

これからも、末永く宜しくお願い致します!!


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第4話

先週は投稿出来なくてすみません。書き上げていたのですが普通に予約投稿するの忘れていました。連チャンで投稿するので許して!

連投その1!!


  

    授業をちゃんと受ける気なんて彼にはなかった。

    小学1年生の勉強なんて勉強では無いし、そんな授業を受ける時間は彼にとって、ただただ眠くなるだけだ。

 

    「1+1は?」とか「あの書き順は?」とか彼は既に知っている。ひらがなはもちろん、カタカナ、漢字、英語だっていけるのに今更何を教えてもらうというのか。

    だから彼はサボることに決めた。サボり場所なんて見つけていないけれど、退屈な時間を繰り返すぐらいならば、家にでも帰った方がマシだ。

    …まあ、それをすると後々面倒になるのは目に見えているのでさすがの彼もやらないが。

 

    勢いで教室から飛び出してきたのはいいものの、どこに隠れようかと彼は考える。ここはやっぱり、定番の『屋上』だろうか。

    小学校の屋上が開いているなんて普通は危ないので開いているはずがないが、ものは試しだ。普通の階段と比べると小さな階段を上り、屋上へと続く階段を上りきった。

    ドアノブを勢いよく捻ってみれば、物の見事に開いてしまうものだから拍子抜けしてしまう。

 

    おいおい、この学校のセキュリティ大丈夫かァ?  

    彼がそう思ってしまうのは仕方ないことだ。これが過保護な保護者や、PTAにバレればこの学校はかなりやばくなるんじゃないだろうか。少なくとも、校長はどこかに飛ばされるに違いない。

 

    最も、サボり場所をわざわざチクるようなマネを彼はしないし、ここを失ってしまったらまた1から探さなくてはならなくなるので、誰にも言うつもりは無い。彼に自殺願望などもないので、バレさえしなければ問題になることもないだろう。

 

    ドアを開けて、屋上に出てみれば暖かな春の風が彼を包む。気持ちよさそうに彼は目を細めると、服が汚れることも気にせず、寝転んだ。

    彼が寝転んだ場所はちょうど日陰になっており、眩しくない。今が春だということもあり、少し肌寒い気はするが、それだけで特に不満はなかった。彼は、以外にもこの屋上を気に入っているようだ。

 

    雨の日はさすがに使えないであろうこの屋上は、晴れの日だと抜群に相性がよく、彼は暖かな日差しと風に眠気を誘われていた。

 

 

    ウトウト    ウトウト

 

    彼の目が開いたり、閉じたりを繰り返す。最終的には眠気に負けてしまい、彼は寝てしまった。

 

 

 

 

  ***

 

「おい、おきろ」

 

 

    小学生にしては、低い声で呼ばれたような気がする。しかし、彼は聞き間違いだと思い、打ち合わなかった。

    何故なら、彼が今いるところは立ち入り禁止な屋上であり、そんなところに小学生が来るはずがないからだ。先生だとしたら、声変わりも終わっているはずなので、もっと低いに決まっている。でも、先程の声は声変わりどころかまだ幼い声で、明らかに小学生の声だ。

 

 

「にどねをするな。じゅぎょうにでろ。……おい、いいかげんにしろよ」

 

 

    ゆさゆさと肩を揺すられ、ようやく自分に話しかけているのだと彼は理解した。そして、理解したと同時に飛び起きる。

 

    クリクリとした赤い目に、短めな黒い髪。服は小柄な彼のサイズとあっていないのか、かなりブカブカだ。そんな彼は、少し不機嫌そうにこちらを見ていて、その顔はどこかで見たことがあるような気がした。

 

 

「…誰だ、テメェ」

 

 

    気持ちよく寝ていたのを無理矢理起こされたことと、何故コイツがここにいるのかと状況を理解できているようで、理解できていない彼は不機嫌な声で問うた。

    そんな彼の不機嫌な声に怯えることなく、目の前の少年はキョトンとした顔をした後に何言ってんだコイツ、みたいな表情に変わった。

 

 

「かげうらのとなりのせきの、かざまそうやだ。となりのせきのクラスメイトのなまえぐらい、おぼえておけ」

 

 

    なんか、偉そうだなコイツ。

    それが第一印象で、隣の席と聞いてどうりで見たことがあるような気がするわけだと思った。

    小学校に入学して、かれこれ1週間ほど経つが、彼は未だにクラスメイトの名前を1人も覚えていない。もちろん、威張って言えることではないし、彼の友達のいなさが伺える。

 

 

「ンで、なンの用だよ」

「おまえはいつもじゅぎょうをサボっているな」

 

 

    風間は小学生にしては、喋り方が大人っぽかった。表情も、どちらかといえば大人びていて、服のサイズ以外には違和感は感じられない。

 

 

「ああ。そうだな。それがどうしたァ?  テメェに関係ねェと思うンだけどォ?」

 

 

    茶化すような喋り方。風間も少しイラッとした表情をした。もし、彼が喋りかけたとしてこんな返しをされれば、殴り掛かるに違いない。それぐらい自分でもウザいとわかっての喋り方だ。遠回しに早くどっか行け、という念も込められている。

 

 

「あにに、たにんをしりたいなら、おなじこうどうをしろといわれた」

「はァ?」

 

 

    急に何を言い出すンだァ、コイツは?頭が沸いたかァ?

    そう彼は思ったが、さすがに声には出さなかった。泣かれたりでもしたら面倒だからだ。

 

 

「おまえは、いつもじゅぎょうをサボっているが、おれはそんなおまえにきょうみがある。だから、いっしょにサボってみようとおもってここにきた」

「あ゙?  興味…?  ンなもンもつンじゃねェよ。ウザってェな」

「もってしまったものはしかたない。おれは、こうきしんおうせいなんだ」

「知るかよ」

 

 

    正直、早く消えて欲しかった。一緒にサボるなんて言い始めて、折角ゆっくりできると思っていたらこれだ。無理矢理起こされるし、変なのに興味を持たれるし、本当についていない。

    帰るつもりもないのか、普通に風間は地面に座った。

 

    もちろん、会話は続かない。当たり前だ。彼は風間に興味を示していないし、風間だって半ば無理矢理居座っているようなものだ。風間だけが静雅に興味を示しているという歪な関係に、会話のタネになるようなものはなかった。

 

 

「おまえ、こんなところにひとりで、ひまじゃないのか?」

 

 

    数十分経った頃だった。風間がふと、静雅に聞いた。静雅は考えることなく、即答で答える。

 

 

「別に。好きでここにいる」

 

 

    静雅は1人でいることに慣れていた。転生する前は、喧嘩などに明け暮れていて──正直、今もあまり変わってはいないのだが──1人でいることに慣れているのでどうやって時間を潰せばいいのか熟知していた。

 

 

「そうか」

 

 

    それ以降の会話はなかった。

    1限目から5限目まで、2人は屋上でサボっていた。

    会話がなかったのに、不思議と嫌な感じがしなかったので、彼は表情には出さないが、少しイラついていた。人と一緒にいてホッとするなんて、今世の家族以外なかったので、戸惑っていたのだ。

 

 

「けっ」

 

 

    キーンコーンカーンコーン

    5限目の終わりのチャイムがなった。1年生は5限しかないので、この後帰り会を受けたら終わりだ。

    風間が立ち上がる。それに少し遅れて静雅も立ち上がった。

 

 

「かえりのかいはいつもでているな」

「親への連絡事項があったら面倒だろォ」

 

 

    パサパサと風間はおしりについた砂を叩きながら聞いた。至極当然みたいな感じを出して静雅は言っているが、授業をサボっていると母親にバレた時に「サボるのは勝手だけど、連絡事項とかちゃんと伝えなさいよ?  静雅の口から聞かなかった連絡事項はたとえお兄ちゃんから聞いていても、静雅には教えてあげないし、必要な書類とかわざわざお母さんが先生に貰いに行ったりしないから」と言われたので出席しているだけだ。

 

 

「そうか」

 

 

    ふっと鼻で風間は笑った。何も知らないはずなのに見透かされているこの感じがイラつくと、彼は思った。

 

    階段を降りて、1階まで2人は降りる。教室に入れば、クラス中の視線が集まり、風間は首を傾げ、静雅は舌打ちをした。

 

 

「風間君!」

 

 

    「どこに行っていたの!」担任は静雅を睨みながら怒鳴り、聞いた。どうせ担任は静雅に誑かされたとかそんなことを思っているのだろう。もちろん、事実は違う。

    しかし、そんな雰囲気を感じ取れなかった風間は真剣な目で「サボっていました」と担任に言った。

 

    馬鹿正直にも程があると静雅は思う。このまま、静雅のせいにしておけば何もかも楽に済んだだろうに、何故馬鹿正直に言うのか。静雅の中で風間は頭の硬いバカ真面目だとインプットされる。

 

    風間の口から事実をつけられた担任は一瞬ポカーンとした表情を見せると、「後で先生の所に来なさい!」とまた怒鳴った 。

 

    正直、静雅は担任のことが好きではなかった。怒鳴るだけ怒鳴り、こっちが理解しなかったら放置だ。放置して、静雅達に何かあったら彼女の問題になるというのに、彼女はそれを理解出来ていないらしい。見た目からして、まだ20代前半なので、経験不足なのだろう。

 

    担任の命令によって、席につかされた子供たちは静かに担任の話に耳を傾ける。そのおかげもあってか、10分もしないで帰りの会は終わった。

    終わると速攻で静雅は教室を出る。このまま教室にいても退屈なだけだからだ。担任に呼び出されていた風間が少しばかり気になるが、あれは自業自得だ。勝手に隣に居座っていたのだから、彼は何も悪くはない。

    青になった横断歩道を渡ってそんなことを考えていれば、彼は何かに気がついた。

 

    彼は普通の人とは少し違う。

    だから、後ろをコソコソとつけてきている()()に気がつくのも遅くはなかった。

 

    静雅は足を止めた。

    そして、また歩き出した。静雅の後をついてきているということは、風間は担任の呼び出しをバックれたらしい。あんな真面目そうな顔をしておきながら、意外にも風間も中々の悪のようだ。

    そんな彼は少しニヤケながら、風間につけられているとわかっていてなお、彼は足を止めることなく、風間に指摘するわけでもなく、家に帰った。

 

 

 

 

  ***

 

    ドアノブを捻り、玄関に入る。と、同時に静雅は腹に鈍いタックルを受け、倒れそうになった

 

 

「おかえり!  にいちゃん!!」

 

 

    静雅にタックルをした犯人は弟の雅人だった。雅人も人とは少し違っていて、そのせいか、外に出たがらなかった。おかげで、保育園や幼稚園に行けていない状況がこの前まで続いていた。

    頑なに幼稚園に行きたくないと雅人は言い張り、結局幼稚園に通わせることを諦めた両親は少しだけだが、店の手伝いをさせているらしい。

 

    さすがに重要な仕事を任せられるわけでもないので、お手伝いと言っても少しお客さんの相手をしてもらうだとか、簡単なことだ。店に来るのは大体、見慣れた常連だし、雅人に相手させるのも常連なので、雅人も悪い気はしないだろう。雅人本人もやりがいを感じているらしく、いつも嬉嬉として何を手伝ったのかを静雅に話てくれる。

 

    静雅の下校時間が近づくと雅人は玄関で静雅の帰りを待つのだという。時々、静雅よりも早く兄が帰ってくることがあり、その時の落胆と言葉の毒が凄いと1度兄からクレームが来たこともあった。雅人にそんなに懐かれて羨ましいとも言われたが、安定の無視だ。

 

 

「にいちゃん!  かくれんぼしよう!」

「ほォ…。俺に隠れんぼを挑むか」

「むぅ!  きょうこそは、にいちゃんにかつぞ!」

 

 

    静雅は特殊な力のおかげで隠れんぼでは無敵だ。隠れ方によっては一日中探したとしても見つけられないであろうには自信がある。

    雅人も特別な力を持っている。雅人が言うには、何かがチクチクと刺さって来るらしい。が、どうやらそれは相手が雅人を認識していた時に限るらしく、隠れんぼでは役には中々たたない。見つける側なら勝機があるのだが、隠れる側となると幾分か不利である。

 

    そんな2人でやるかくれんぼのルールは至ってシンプルで、家から出てはいけないだとか、お店の方に行ってはいけないだとか、物を壊したりしてはいけないという感じだ。

    制限時間も決められていて、時間は5分。基本、探す側、隠れる側両方に有利な静雅が勝ってしまう。全くもって大人気ない。そんな隠れんぼを体力には自信がある2人は、5セットしたりする。

 

 

「静雅!  帰ってきたなら、手を洗いなさい!  雅人!  静雅の邪魔をしないの!  ちょっと店混んでるからお兄ちゃん呼んで静雅も手伝って!!」

 

 

  いざ、かくれんぼが始まろうとしていたのに、まさかの母親から呼び出しをくらってしまった。静雅と雅人は顔を見合わせ、肩を落とした。漸くこの決着が付けられると思ったからだ。

 

 

「…また今度やろォな」

「…うん!」

 

 

   少しぶーたれた様子の雅人だったが、静雅が頭を乱雑に撫でてやれば嬉しそうな顔へと変わった。その変化を見て、静雅も嬉しくなった。

 



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第5話

連投その2!!
お手数ですが、その1を見ていない方は前のページに戻って見てもらえるとありがたいです!!
後、更新についてあとがきで触れているので、ぜひ最後まで見てもらえるとありがたいです


 

    某月某日。日曜日。天候は雨。

    雨の日だと言うのに、今日の静雅の母親はテンションが高く機嫌が良かった。いつもなら洗濯物が干せないだのなんだのと、文句の一つや二つを漏らすのに、今日はその文句は聞こえず鼻歌なんて歌っている。

 

    母親に何があったのかは知らない。誰かの誕生日でもないし、結婚記念日でもない。思いつく記念日はないし、普通に機嫌がいいのだろう。少し気になりはするが、聞こうとも思わなかった。聞いたら巻き込まれるような気がする。面倒事のような気がする、と静雅の第六感が言っていたからだ。

 

 

「あちゃ〜、お肉切らしてた」

 

 

    母親曰く、今日の夕ご飯は生姜焼きらしいのだが、そのメインのお肉を切らしていたという。しかも1切れだけ。お肉も焼き始めていたので今更メニューを変える気にもならないらしい。母親はどうするか悩んだ末に静雅に声をかけた。

 

 

「静雅、ちょっとお使いに行ってきてくれない?」

「まァ、別にいいけど」

 

 

    静雅が了承すれば、母親はホッとした顔になった。そして、いいことを思いついたみたいな顔をして、手をポンと叩いた。

 

 

「どうせなら雅人も連れて行ってくれば?  お菓子でも買ってくればいいじゃない」

 

 

    お使いのお礼も兼ねてお菓子を買ってきていいと言われた。雅人もついこの前、新しいカッパを母親に買ってもらっていた為、何気に雨の日を楽しみにしていた。

    雅人に「一緒にお使い行くかァ?」と聞けば即答で「行く!!」と返事が返ってきた。どうやら、静雅のその言葉を待っていたらしい。すごい速度で出かける支度を始めていた。

 

    静雅は母親から貰った少し多めのお駄賃と買い物袋を持ち、雅人と一緒に母親から見送られながら家を出た。

 

 

    靴が濡れないようにとの配慮で傘は少し大きめ。色はシンプルに黒。柄は入っていない。対して、雅人の傘は青をベースにした傘でカエルのイラストが入っていた。カッパもカエル柄で、しかも長靴もカエル柄だ。

 

    どれだけカエルを強調すンだよ…

    子供向けのカエルのイラストだからといって、上から下までカエル尽くしだと不気味に感じてきてしまう。一生分のカエルを見た気持ちになり、カエルが嫌いになりそうだ。

 

 

「つゥか、ンで傘は持ってきてンだァ?  カッパ着てるから要らねェンじゃねェのかよ?」

「…なんかぬらしたくない!!  それに、このかさもあたらしいから、つかってみたかった! にいちゃんもつかいたかったら、つかっていいからな!!」

「……遠慮しとくわ」

 

 

    小学生という外見的にセーフだろうが精神的には余裕でアウトだ。それに、カエルはそこまで好きじゃない。というか今、嫌いになった。

 

    新しい傘とカッパが使えることが嬉しいのか、雅人のテンションは高い。通常からそこまで人通りの多くない肉屋に続くこの道路は、雨の日ということもあって人通りは全く無かったので、雅人が多少暴れても安心だ。

    勢いよく水溜まりに入ったり、静雅を置いて走ってみたり。楽しそうでなにより。雅人を見失わない程度の速度で静雅は歩いていく。

 

    細い一本道。もう少しで、道は開け交差点が見えてくる。その交差点を渡れば肉屋はすぐそこだ。気分のいい雅人は、そのまま交差点を渡ろうとしていたのでストップをかけ、少し早歩きをし、雅人に追いついた。

    信号は青。念の為左右の確認をさせ、大丈夫だったのでゴーサインをだした。その時だった。

 

 

「雅人っ!!」

 

 

    パシャパシャと音をたてて走って行く雅人の真横に車が現れた。運転手はコクリコクリと船を漕いでいて、雅人の存在に気づいてはいない。雅人も雅人で、静雅が名前を呼んだ為に足を止めた。そして車に気づき、雅人の顔は恐怖で歪んだ。

 

    静雅はこの世界に転生する前の、死因を思い出した。交通事故だ。あの時の静雅はトラックに跳ねられ、ボールのようにバウンドをして地面に叩きつけられた。身体中は痛くて、意識は朦朧として、寒くなっていって。そして、すごく寂しかったのを思い出した。

 

 

──雅人にそンなこと体験させねェ

 

 

    傘を捨て、買い物袋を捨て、大きく一方、足を踏み出した。短い腕を必死に伸ばし、雅人の腕を掴む。そして、力いっぱいに腕を引き、雅人の身体を胸元に抱き寄せた。

 

    急に静雅が雅人の身体を引っ張ったものだから、驚いた雅人は傘から手を離してしまい、新品の傘が空中で舞った。雅人の傘は地面に落ちることはなく、車に引かれた。嫌な音をたてて、地面に落下していく。しかし、そんな光景を静雅も雅人も見ていない。

 

    本当に、本当に間一髪だった。ギリギリのところで雅人を救えたことに、静雅は安心する。

    雅人も雅人で、静雅には助けて貰えたことの安心感から、目に大きな涙を溜めて泣き始めた。

 

 

「にいちゃん、にいちゃん…!!」

「大丈夫か!? 雅人っ!!」

「にいちゃん!!」

 

 

    ギュッと雅人は静雅の腰に抱きつく。よっぽど怖かったのだろう。そんな雅人を見て、静雅は幾分か冷静になった。

 

 

「あァ。大丈夫だ。大丈夫だから泣くなァ」

 

 

    優しく、静雅は雅人の頭を撫でてあげた。先程よりも雨が強くなっていたにも関わらず、濡れることを気にせず、雅人を安心させるため、抱擁し、頭を撫でてやる。

 

    しかし、中々雅人は泣き止まない。雨の日だからか通行人はいないが、交差点なので、車通りは多少ある。人目についてしまうし、邪魔なので壊れた雅人の傘と放り投げていた静雅の傘や買い物袋を回収した静雅は、雅人をおんぶして家へと向かう。

    本当のところ、このまま肉屋に行きたいのだが、雅人が泣き止まないので家に帰ることにした。肉屋にはまた後で来ればいいだろう。別に家から遠くもないので、静雅は雅人を優先した。

 

 

「あら、早かったわね…ってあんたびしょ濡れじゃない!!  雅人も号泣だし、何があったの!?」

 

 

    家に帰れば、母親がすぐに出迎えてくれたが、静雅達を見るなり慌てて部屋へと戻っていく。おそらく、タオルを取りに行ったのだろう。

 

   タオルを持って再びやってきた母親に雅人を託し、静雅は自分の体を拭く。

 

 

「で、何があったわけ?」

 

 

    さっきまでの一部始終を母親に伝えれば、母親は顔を真っ青にした後、雅人の安否確認を行った。怪我も無かったので、母親も安心した様子だ。お使いができていないことを謝ったら母親は「別にそんなの気にしなくていいのよ! あんた達が無事で良かった…」と酷く安堵した様子で雅人と静雅の頭を撫で、言った。

 

    母親に頭を撫でられた瞬間、涙が溢れてきた。

    小学生になって約2ヶ月が経った。相変わらず風間は鬱陶しくてイライラするし、上級生とも喧嘩したことだってあった。勝ちはしたが、その代償で沢山怪我をしたし怒られもした。でも泣かなかった。けど、今は違った。

 

    怖かったのだ。

 

    前世から喧嘩馴れしていたから喧嘩に恐怖することは無い。怒られるのだって怖くはない。でも、目の前で大切な家族が死にそうになった瞬間。心臓がキュウと締め付けられて、全身の血の気が無くなって、気が気じゃなくなって、怖くなった。

    咄嗟に手を掴めたから良かったものの、掴めていなかったら今ごろ雅人はどうなっていただろう。前世の静雅のように死んでしまっていたかもしれない。

 

    助けられた安心感に、さっきの恐怖が蘇ってきて涙が止まらなかった。母親は困った顔を一瞬したけれど、「頑張ったね。雅人を助けてくれてありがとう」と雅人と静雅を抱き寄せて礼を言った。

 

    数十分後には漸く涙も止まり、母親は静雅に風呂に入るよう伝えた。お使いに行くと静雅は言ったのだが、母親は「大丈夫」と言って頑なに了承を告げることはなかった。静雅の代わりに兄が行くらしい。ダラダラとしていた兄に無理やり頼んだものだから、少しブーたれていたみたいだが、その肉がないと兄の分のご飯がないことを知り、慌てて出て行った。

 

    雅人と一緒にお風呂に入った。雅人はまだカッパを着ていたから濡れることは間逃れたものの、静雅は直で雨に打たれ、身体は冷えていた。これで季節が冬だったらゾッとする。

 

 

「…にいちゃん」

 

 

    プカプカと湯船に浮いているカエルを見つめながら、雅人は静雅を呼んだ。

 

 

「たすけてくれてありがとう。おれ、チクチクささるのがイヤだから、あんまりそとにでたがらなかったし、しょうじき、かあちゃんたちのてつだいも、したくなかった。でも、おれ…にいちゃんみたいな、カッコイイおとこになりたいなあ」

 

 

    「ケンカつよくて、おとこらしいにいちゃんみたいな!!」そう言って笑う雅人の無邪気な笑顔は破壊力抜群だった。

    正直、喧嘩なんてしてもいいことは殆どない。この歳だと金も持っていないので、勝った時に貰うこともできないし、大人が煩いだけだ。でも、男なら1度は通る道だ。あのチャラ臭い兄だっていつか通るだろう。

 

 

「まァ、頑張れや」

 

 

    静雅は雅人の濡れた頭をクシャクシャと撫でる。

 

    雅人の手本になれるような男にならねェとなァ。荷が重いねェ…。

なんて思いながら、静雅は今の人生を謳歌しようと心に決めたのだった。

 




更新について、少しお知らせがあります
先週、更新出来なかったことについては作者がサボっていた為に何も言い訳ができないのですが、来週からは作者がかなり多忙になってしまうので中々更新ができない状況になってしまいます。

1週間、休みが全くないこの鬼畜な生活を乗り越えながら、時間の合間に執筆して行くつもりです。身体中に蓄えた脂肪がなくなってしまう可能性があるほどには忙しくなっていってしまうので、正直時よ止まれ状態なのですが、現実は非道ですね。

とりあえず、更新できそうな週の月曜日には更新できますので、見捨てないで欲しいです。ぐっすり眠れる日はいつ来るのか、私には分かりませんがその時を楽しみに生きて行こうと思います。


PS.
世の中鬼畜やなあ。痩せてまうがな


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第6話

今週は諦めてたって?
あたいも諦めてたさ。でも、感想欄で「風間じゃなくて迅だと思ってた」って言われて、風間ポジションが迅だったら、それはそれで面白そうだなあって構想練ってたら気がつけば書き上がっててびっくりしたよね!
ちなみに、迅の方は需要があれば番外編で出そうかなって思ってるから、みたいなって思った人は感想欄に一言「需要ある」って言ってくれ!  
気が向けば書くかもしれない!!


 

    ピピピピと高音の機械音が鳴る。

    その音の正体である、体温計の数字を見て母親は残念そうな顔をした。

 

 

「39度。風邪ひいちゃったわね。…折角、今日はお兄ちゃんから聞いてた静雅のお友達を家に連れてきて貰おうと思ってたのに」

 

 

    残念そうに目を伏せる母親を見て、静雅は戸惑った。静雅は、友達を作った覚えが全くないのだ。しかも、その嘘情報が母親に渡っているという事実、そして思い出した。

    昨日機嫌があんなに良かったのはそれが原因か、と静雅は一瞬にして理解した。多分ではあるが、静雅と雅人がお使いに出かけている間に、静雅が居ないことをいいことに兄から何やら吹き込まれたのだろう。静雅の前で、そんなことを母親にリークできるほど静雅の兄は馬鹿ではないし、折角授かったこの命を無駄にしたくない筈だ。

 

    そして、静雅は風邪に感謝した。母親の言う『友達』が誰を指しているのかは分からないが、碌じゃないヤツなのは確かだろう。静雅の周りにまともな奴が居ないことは静雅が1番理解している。面倒事を回避できて良かった。

 

 

「お兄ちゃんまで風邪ひいちゃってもう。雅人はわかるけど、お兄ちゃんはどうしたのかしらね?  双子のシンクロ?」

「ゴホッ……ぜったい、ねてるあいだに、しずかにうつされた…しずかもおれのこと、すきだなあ」

 

 

    顔を真っ赤にして、嬉しそうに言う兄は途轍もなく気持ち悪かった。その赤い顔はなんだ。風邪のせいで赤いのなら許せるが、変な妄想でもして赤くしているのなら、ちょっとそこの市役所まで行って兄弟の縁を切ってもらわなくちゃいけなくなる。…市役所で兄弟の縁が切れるのかどうかは知らないが。

 

 

「気色悪いこと…言って、ンじゃ、ねェ……。殺すぞ…」

「こらこら、お兄ちゃんに殺すぞなんて言っちゃダメでしょ」

「…たった数分、早く生まれた…だけじゃねェか……」

 

 

    そもそも、たった数分早く生まれたアイツを「お兄ちゃん」と呼ぶのが理解出来なかった。勉強面や運動面で兄を静雅は勝ち越しているのだから、兄のメンツなんて丸つぶれだろう。なのになぜ兄と呼ぶ。ただの調子に乗ってるクソガキじゃないか。

 

 

「こほっ、くちがわるいなあ、しずか、は。よく…カザマくんはしずかと、なかよくなってくれたよね……ゴホッゴホッ」

「おい。ババアが言ってた友達って風間のことか…!!  ゴホッッ!ゴホッッ!!」

 

 

    聞き捨てのならない言葉が聞こえた静雅は、慌てて飛び起きる。射殺さんとする静雅の目は冷たく、容赦ない。病人のする目ではないことは確かだった。

    対して、「ババア」という聞き捨てならない言葉が聞こえた母親は光の速さで病人である静雅の頭に重い一撃を与えた。全くもって容赦ない女である。

 

 

「誰がババアじゃ!  もういっぺん言ってみろ!!」

「つーか、無視すンじゃねェ!! 目ェ合わせろや!!  こっち向きやがれ!!」

 

 

    兄の胸倉を掴み、前後に揺らす静雅と、静雅に「私はまだまだ若い!!」と怒鳴っている母親のその光景はカオス以外の何ものでもなかった。ギャーギャーと騒いでいた声が1階まで聞こえていたので、駆けつけた父によって事態は収拾したが、静雅の熱は2度上がった。

 

    父親のおかげで、カオス的状況を乗り越え、静かに寝ていた彼はどうにも嫌な予感がする。こんな時の嫌な予感ほど当たるものである。

 

    『風間蒼也』

    静雅にとって、いけ好かないチビの名前だ。風間はいつも静雅に付きまとい、静雅はそれから逃げるようにして姿を消す。

    風間の場所も()()()()のおかげでどこにいるかわかっているはずなのに、気がつけば見つかり無理矢理授業を受けさせられている。一時期は風間にも特別な力があるのかと疑ったが、別にそんな力は持っていなかった。完全なる静雅キラーだ。

 

    小学一年生のくせに、謎の威圧感。そして目付きや口の悪い静雅にビビることの無い度胸。後、無駄に整った顔。全てが静雅は嫌いだった。

 

    いや、()()()()()()()()のだ。

 

    影浦家では基本、両親は放任主義である。子供達がなにか過ちをおかしたら、怒ることは当然、罰だって与える。普通に殴られたりする。けれど、それは愛のムチであって仕方ないことなのだ。

    静雅が授業をサボっていることを両親は知っている。けれど、それに関して両親は怒らなかった。静雅が頭のいいことを知っているからか、子供達と考えが合わないと理解しているからかは静雅には分からない。とにかく、怒らなかったのだ。「静雅の好きなようにしなさい。授業を受けたくなったら、一緒に受ければいい」と言って。

 

    静雅は前世のこともあって他人からの干渉を嫌っている節がある。前の両親が干渉なんてしてくることがなかった為に、それが当たり前となり干渉されることを嫌うのだ。両親はそれを理解していた。だから、静雅が嫌がるギリギリの境界線を見極め、静雅を見守っていた。

 

    なのに、そんなことも知らない風間は土足で静雅の領域を荒らし、干渉してこようとするのだ。他人との付き合いはクソ喰らえと言う静雅に近づく物好きはお節介そのもので、それがまた静雅をイライラさせていた。

 

 

「…ねぇ、しずか」

 

 

    静雅の隣で寝ていた兄が静雅に話しかけた。もちろん、話しかけていた声は聞こえていたが、平然と静雅は無視をする。いつもの事だ。

 

 

「なんでしずかは、カザマくんをきらってるの? カザマくん、ふつうにいいこじゃん。しずかをじゅぎょうにだしてくれるし」

「あ゙? いい子だァ?」  

「カザマくんとね、すこしはなしてみたけど、ふつうにいいこだった。しずかにかかわろうとするひとって、どこかあたまのおかしいひとたちばかりだし」

 

 

    意外だった、とでも言うかのように兄は言った。確かに、静雅と関わる人間は大体静雅のカモであり、喧嘩という拳の話し合いでボコボコにされた使えない自称舎弟達だ。兄が「頭のおかしい」と称しても仕方ない。何せ負けると分かっていて挑んでくるのだから。

 

 

「…うぜェんだよ。アイツはいい子ぶってる訳じゃねェ。俺への好奇心、後は当たり前って言う常識で動いてンだよ。担任にいい子ぶってるわけでもねェ。授業に出るのが当たり前、宿題をするのが当たり前。その常識がアイツを動かしてやがる」

 

 

    だから嫌だった。まだ、大人の前でいい子ちゃんであろうとするのなら、むかつきはしただろうが、納得はできた。でも、風間は違う。

    何度も居合わせた筈だ。静雅が高学年の連中を1人でフルボッコにしている姿を。なのに、風間は静雅に畏怖することはなく、いつものように静雅の手を無理やり引いて授業に出させるのだ。

 

    1度、聞いたことがあった。「てめぇはどうしてそこまで俺に関わろうとする」と。風間からの返答は「当たり前だからだ」というなんとも面白みのない返答であり、やはり静雅の理解できない返答だった。

 

 

「アイツ、俺を見ても怯えねェンだ。1度、寸止めしたが、殴りかけたことがあった。でも、アイツは避けようとも、目を瞑ることもせず、俺を見てたンだ」

 

 

    有り得ないと思った。

    そして、少しだけ憧れてしまったのかもしれない。

 

    静雅は友達という存在が理解できない。最近、家族というものを理解し始めたばかりで、そんなものに構っている暇がなかったからだ。

 

    きっと、きっと。風間が静雅であれば、あの前世を風間が体験していたとしても、風間の周りには友が溢れていただろう。静雅が為すことの出来なかった『当たり前の日常』があっただろう。

 

    それは『もしも』の話に過ぎない。でも、力や頭脳では静雅が勝つであろうが、心の強さではきっと風間に負けている。それがわかっているからこそ、嫌いだ。

 

    小学一年生の小さな餓鬼に負けている自分が嫌い。

    自分のことを知ろうとしてくれている人間に素直になれない自分が嫌い。

 

    言い出せば、キリがない程に自分の嫌いな場所が出てくる。そして、出てくる度に風間のことも嫌いになっていく。

 

 

「べつに…ふかくかんがえなくて、いいとおもうけどなあ……」

 

 

    気がつけばコイツに話していた。風邪で頭が少しイカれていたんだろうが、確実に話す相手をミスった。コイツに話してもいいことなんてひとつもないだろう。

    それに、見透かされているような気分になった。全く胸糞悪い気分である。

    コイツは1を話し10を理解するなんてマネは出来ないので、全部を見透かしているわけではないだろうが、それでもコイツにだけは見透かされたくなかった。

 

 

「ふふ、おれはふたごのおにいちゃんだぜ?  わかるよ、すこしぐらいは」

 

 

    異様にドヤ顔がムカついたので、足を思いっきり蹴ってやった。




書き方が定まってないような気がする…
許してくれ……


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第7話

遅くなってしまい、すみませんでした!
そして感想ありがとうございます!!  返信は遅れてしまいましたが、しっかりと読ませて貰っています。感想が来るとやはり嬉しいものですね。これからも頑張ろうと思いました(作文?)
安定の書き方定まってません。ごめんなさい。風間sideです


 

 

    いつの間にか隣にいることが当たり前になっていた。おれがずっと隣に居座っていたことに間違いはないが、アイツも文句を言いながらもなんだかんだ受け入れていたように思う。だからこそ落ち着かなかった。

    いつも隣にあるものが、予告無しに無くなるとペースを崩されるものだ。それと一緒の状況に今おれは陥っていた。

    朝8時。いつもなら来ていておかしくないこの時間帯。しかし、しずかの姿が見受けられなく、おれは辺りを見回す。今日はちょっと遅れているのだろうかなんて考えながらしずかが来るのをずっと待っていたが、担任が来てもしずかは姿を現すことは無かった。

 

 

「…今日の欠席は影浦くんだけだね」

 

 

    出席確認の時担任は「影浦くんは風邪のため今日はお休みです」と言った。風邪とは無縁そうな顔つきをしているが、あんなやつでも風邪をひくのだと少し驚いた。そして今日一日は退屈だと確信した。

 

    その日1日は珍しく自分でもやる気のない日だったと思う。小学校に入学してから今まで、しずかはなんだかんだ隣にいた。隣にいるのが当たり前で、いないと妙にソワソワして落ち着かない。気がついたら柄にもなく心配してしまうので、そこまでおれの中の深い場所にしずかがいることに驚いた。無意識に信頼していたらしい。

 

 

「風間くん」

 

 

    放課後。担任に呼ばれた。

    担任は微笑ましそうな目でおれを見つめ、言った。

 

 

「このプリント、影浦くんに届けてくれないかな?  2組の影浦くんも風邪引いちゃったみたいで届けてくれる子探しているの」

 

 

    担任はどうやらおれがしずかを心配していることに気づいていたらしい。おれを見る生暖かい視線は擽ったくて嫌に感じたが、わざわざ口に出すほどでもなかった。断る気もしなかったので大人しく頷くと「ありがとう」と言われ頭を撫でられた。思わず担任の手を払い除けそうになったが、そこをぐっと堪えその場を後にした。

 

    担任と別れた後、ランドセルを背負い担任が書いてくれた学校からしずかの家の道順を記したメモ用紙を片手に持ち、学校を後にした。

 

 

「…いがいとちかいな」

 

 

    学校から近いという訳ではなく、おれの家からしずかの家が近いという意味で発した言葉だった。暇な時遊びに行ってもいいなと思う。

 

    数十分歩いたところで影浦と書かれた表札を見つけた。メモ用紙もここだと赤いインクで丸つけてあるので、間違いないだろう。

 

    おれはランドセルを下ろし、開いた。担任に渡して欲しいと言われたプリントを取り出すためだ。

    透明なクリアファイルに入れられたプリントはシワひとつなく、少しだけ安堵した。

 

    クリアファイルを左手に持ち、右手でインターフォンを押す。数秒もしない内に、インターフォンから『はい』と女性の声が聞こえた。

 

 

「…しずかのプリントをもってきました」

『あー、静雅のプリントを……って静雅のを!?』

 

 

    インターフォンの先にいる女性は大層驚いている様だった。ガタンガシャーンと何かが倒れる音、そして割れる音がインターフォンから聞こえる。

 

 

『も、もしかしてだけど噂の風間くんかな!?』

「はい。かざま そうやです」

 

 

   『噂の』とは一体何を噂されているんだろうか。疑問に思って首を傾げていると、勢いよく家のドアが開かれる。

 

 

「是非、上がって頂戴!!」

 

 

    あれやこれやといつの間にかしずかの家におれは上がっていた。プリントを届けに来ただけなのに…と思ったが、少しだけしずかが心配だったし丁度良かったと思うことにした。しずかの母親は途轍もなく機嫌が良さそうで、ショートケーキとオレンジジュースを出してくれた。

 

 

「馬鹿2人が風邪引いた時は店閉めなくちゃいけないし、面倒だなあって思ってたんだけど、風間くんが来てくれたから全部チャラだわ!」

「はあ…?」

 

 

    ニコニコと笑っているしずかのお母さんは優しくおれの頭を撫でてくれる。今日だけで一体何回おれは頭を撫でられるのだろう。

 

 

「ごめんね!  真逆、風間くんに会えるなんて思ってなかったからおばちゃんテンション上がっちゃった」

 

 

    「お兄ちゃんから聞いてたのよ。静雅に友達が出来たって」としずかのお母さんがおれに嬉しそうに話してくれる。

 

 

「ほら、静雅って目付き悪いし、無愛想だし、全然構ってくれないでしょ?  だから友達なんて1人も出来たことなくてねー。実は心配してたのよ」

 

 

   「街中で突然、静雅の下僕って名乗る人達に絡まれた時は本当に心配したわ」としずかのお母さんはその時の事を思い出したのか、渋い表情になっていた。

 

 

「あの子、何が気に食わないのか授業とかも自分からは受けようとしないでしょ?  風間くんに会ってからは改善されたって聞いて私びっくりしたんだから」

「しずかはいがいとおしに、よわいんです」

「あら、そうなの?  私達は静観しちゃったからねー。それがいけなかったのかしら。…でも、あの子普通に頭がいいでしょ?  だから何か考えてのあの行動だと思うのよ。そう思うと怒るに怒れなくてね」

「………」

「それにサボりって青春っぽいじゃない!  学生のうちぐらいしか体験できないことだし、成績さえ落とさなければいいかなみたいな!」

 

 

    一言で言うと、しずかのお母さんは軽かった。考えているようで考えていない。まるでしずかの双子の兄の方を見ているかのようだ。流石、血の繋がっている親子だと思う。

 

 

「でも、本当に嬉しいなあ。静雅の話を聞くなんて殆どなかったから。あの子も深く喋ってくれないし、お兄ちゃんの話だと偏るから。ありがとう、風間くん。それから、これからも静雅の横に居てやってね」

 

 

    目元に少し涙を浮かべながら、しずかのお母さんは言った。俺は少し照れくさく思い、小さく頷くだけだった。

    そんなおれを見て、しずかのお母さんはクスクスと笑い、おれの頭を撫でた。今日はよく頭を撫でられる日だ。

 

 

「おい、ババア…水、って……!!」

 

 

    階段からノソノソと降りてきたしずかは俺を見て、ゴホゴホと咳き込む。顔は赤く、まだ熱は引いてなさそうだ。

 

 

「ゴッホ、ゴホゴホ!!  何でてめぇがいやがる!?」

「プリントをとどけにきた」

「こら静雅!  折角、風間くんが届けてくれたのにその言い方は何!?  後、誰がババアだって…?」

 

 

    病人ということを忘れているのか、静雅のお母さんは容赦のない拳をしずかに振り上げ、頭に当てた。ゴスンと普通はしないであろう音と共にしずかの機嫌の悪い声が部屋に響く。

 

 

「い゙てぇ!!  てめぇ、クソババア!  何すンだ殺すぞ!!」

「本っっ当!  アンタ口悪いわね! お母さんでしょうが!!」

 

 

    ギャーギャーと喧嘩している姿は友のようで、親子の絆が見える。おれの家族とは違う、スキンシップの取り方は中々に興味をそそられるものだった。

 

 

「おいチビ…微笑ましそうな顔でこっち見てンじゃねェ…!!  邪魔者は早く帰れ!!」

 

 

    先程よりも顔は赤くなり、しずかの熱は上がっているように見えた。心做しか頭から湯気が出ているようにも見える。…しずかは大丈夫だろうか。

    しずかの安静のためにも、おれは大人しく帰ることにした。しずかのお母さんは寂しそうだったが、近いうちにまた来ることを約束して(しずかは二度と来るなと息巻いていた)おれはしずかの家を後にした。

 

    そして次の日、しずかの体調は悪化し、まさかの病院に入院することになってしまったため1週間程学校を休んでしまった。



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第8話

すっごい後悔してる。なんで原作から書き始めなかったんだろう。クリスマス番外編書きたくて、早く原作突入しようと頑張ってるけど、いけなさそう…。過ぎちゃったけどハロウィンとかも書きたかった…。
とりあえず、小学生編はここで終了です。次から中学生編へと突入。中学生編はあんまり書くことない予定なので3話終了とかあるかもしれない。高校生編も3話終了予定。その後から徐々に原作の話を入れていくので…。約6話を書ききれば私の勝ちかな? いけるかもしれない。
※あくまで願望です。


 

  卒業式。感動ムードに包まれ、正装した彼らは今日、小学校を卒業する。まだ式は始まっていないが、泣いてしまう子もちらほらと見える。ちなみに静雅はそんな感動ムードなんてへったくれもなく、若干ピリついていた。

 

  結局、風間は最後まで鬱陶しかった。行事をサボろうとする静雅の首根っこを掴むことは最早日常と化していたし、クラス替えは行われるが、この6年間1度も静雅と風間は離れることがなかった。静雅の通っている小学校は大して生徒数もいるわけではなく、1学年3クラスしかない。なので、確率としては3分の1。しかし、どうやってもその2が静雅は引けない。風間から離れなれないのだ。その事実を知る度に静雅の機嫌は悪くなるし、こうなってくると何かの陰謀すら感じていた。

  しかも、面倒なことに風邪の一件から静雅の母は大層、風間を気に入ったらしい。よく家に連れてこいとうるさいし、何なら風間の両親とも仲良くなってしまい、今では家族ぐるみの付き合いだ。

 

  運動会があれば静雅家と風間家合同で観戦は当たり前。何なら運動会が終わった後、お疲れ様会なんて称して食事に行くこともある。温泉で疲れを癒した時もあったし、わざわざ店を閉めて両親のお好み焼き屋で忘年会&新年会もやったこともあった。だらしない静雅の母は朝まで酔ってどんちゃん騒ぎ。父は飲めない酒を母に無理やり飲まされ、深い眠りについていた。そんな光景を見て、途中から酒をセーブしていた風間の両親に後片付けをさせる始末。なんだかんだ深い関係にありつつある風間の両親は笑って許してくれたが、息子としてあれは恥ずかしく感じた。仲がいいからって風間家はあくまでも他人であり、他所様だ。無様な姿を堂々と見せないで欲しい。

 

  風間家と多くの時間を共有することによって、静雅は風間の兄と知り合った。静雅は元々から年上にいいイメージを持っていなかった為、初対面時はかなり攻撃的だったのだが、風間の兄は笑って許してくれた。静雅達と歳が離れていることもあって、考えはかなり大人に近かったし、そもそも争いを好むような性格もしていなかったので、隣りにいてかなり気が楽だった。

 

  ちゃらんぽらんでもなんだかんだしっかりしている両親を静雅は尊敬しているが、両親とはまた違う人種、根がしっかりとした出来た年上を初めて見た静雅は、勿論尊敬した。尊敬しているという雰囲気こそは出さないが、風間の兄がダメだと言ったら歯止めを効かせていたし、我慢した。それほどまでには尊敬しているのだ。

 

 

「静雅、おはよう」

「……」

 

 

  グスグスと鼻の啜る音と共に感動ムードが流れるこの雰囲気の中、登校してきた風間が静雅に話しかけた。一瞬、静雅は風間に視線を移すが、返事をすることはなく中々進むことの無い時計を静かに見つめる。そんな静雅に慣れている風間は勿論、怒ることはなく話を続けた。

 

 

「前髪上げたのか」

 

 

  モサモサとしたいつもの髪型と違う静雅に鈍感な風間でも気がついた。目を隠すほど伸びきった前髪はくせっ毛のこともあって、あちらこちらと毛先をいつもは跳ねらせている。特に髪に拘りがある訳でもない静雅はセットをする訳でもなく、適当にお湯を頭にかけて寝癖を直す程度だったのだが、今日は違った。

  今日は卒業式。他所様に見られるということもあって、卒業式に出る本人よりも両親の方が燃えていた。普段はつけることの無いワックスを手に取り、伸びきった前髪を上げた。所謂、オールバックというやつだ。髪を上げたおかげで、ココ最近は見ることがなかった切り長の二重が現れる。この6年間、目付きは更に悪くなり、何なら視力も悪くなった為、更に目付きが悪くなった静雅の目を見て朝から母親の小言が出たのは余談だ。おかげで朝から静雅の機嫌が悪い。

 

 

「スーツは見苦しい。ちゃんとボタンはつけろ」

 

 

  堅苦しい服装を好まない静雅は、ワイシャツのボタンを上から2つほど嵌めていなかった。何ならネクタイすらしていない。それが気に食わなかった風間は指摘するが、静雅が直す様子は見られない。

  直す気のないことを風間は理解している。強く言ってもいいが、静雅が機嫌の悪いことは何となく察しているためそこまで強要するつもりはなかった。意外と静雅は出来る子で、本番直前になれば身嗜みぐらい整えてくれるだろうとの判断だった。

 

  風間がそんなことを考えていた時だった。

 

  ガタンを物音をたてて静雅は立ち上がった。静雅の顔は不機嫌そのもので、この状況に耐えれなくなったのだ。

 

  朝、いつもよりも2時間早くに起こされた。卒業式に出る静雅よりもやる気と元気を漲らせた母親のせいだった。朝ご飯を食べさせることなく、静雅の髪型が気に入らないだのなんだのと小言を言いながら、静雅を着せ替え人形にし、結局最後までご飯が出てくることはなく、もうそろそろ出ないと遅刻しちゃうからと無理やり家を追い出された。

  学校についたらついたで、卒業式ということもあり、いつも以上に学校は人の出入りが多く、それを感じ取ってしまう静雅にとってそれはストレス以外の何者でもなかった。

  教室に辿り着いたかと思うと、まだ式は始まっていないのに泣き始めるクラスの連中。意味が分からなかった。中学校は地区で別れるため、かなりバラバラになってしまう。しかし、まだ式は始まっていない。そして、静雅には友達という友達を持ったことがないので泣く意味が分からなかった。

 

  全てがストレス。限界。良くここまでもった。静雅は自分を褒めてやりたい。そう思うほどには我慢した。しかし、それも限界だ。

  静雅は卒業式をバックれることにした。どうせ大した思い出のない小学校だ。バックれたって両親は五月蝿いだろうが、静雅にとって問題はなかった。兎に角、人気の少ない場所に行きたかった。ここは人が多すぎる。段々頭が痛くなってきた。心做しか気分も悪くなってきたような気がする。

 

 

「おい静雅。何処に行くつもりだ」

「あー!! さっきから一々うるせェなァ! テメェには関係ねェだろォがァ!!」

 

 

  グワッと静雅が振り返れば、後ろにはキョトンとした顔の風間が立っていた。風間の行動の何処に静雅が怒っているのか、どうやら風間は理解できていないらしい。そしてやはりキレた静雅を見て怯えていないところを見ると慣れているなと感じさせられる。慣れるぐらいにはしょっちゅう静雅はキレていた。

 

 

「?  別に気にする事はない。どうせついて行くからな」

「は?  テメェ何言って──ついてくるだァ!?」

 

 

  冷静に、いや冷静に見なくてもわかる。明らかに話が噛み合っていない。

  卒業式のこの感動ムードをぶち壊しにしている2人を見て、涙ぐんでいたクラスメイト達は、ソワソワと近づき難い2人を見守っている。勿論、ここで「やめろよ!」なんて言って止めに入るクラスメイトは居ない。初期の頃は、そうやって正義感をもった子が止めに入っていたりしたが、止めてもキリが無いことや、逆に機嫌の悪い静雅に泣かされることが多いために居なくなった。上下関係がしっかりしているクラスだ。

 

  あと5分でチャイムがなる。

  チラッと時計を見た静雅は思った。そろそろ担任が来てもいい頃合いだろう。もし、担任が来てバックレようとしている静雅を見たらなんというだろうか。当たり前のことだが、止めるに決まっている。無理やり出させられることになるだろう。

 

  さて、ここで静雅は2択を迫られる。

  ▼このまま風間と茶番を続ける

  ▼風間を居ないものとして教室から出る

 

  諦めるしかなかった。大人しく静雅は風間を連れて教室を出ることを選択した。それ程までに卒業式に出たくないという気持ちが強いのだ。

 

 

「チッ。……勝手にしろ」

「元々からそのつもりだ」

 

 

  すごく、風間の顔面に拳を練り込ませたくなった。

 

 

 

 

   ***

 

  サボり場の定番屋上。静雅と風間がよくお世話になったところだ。と言っても、歳を重ねるにつれ、風間の強制力が強まり、ここ最近はちゃんと授業に出てしまっていた為に来れていなかったが。

  別棟の体育館から卒業式の音が漏れており、耳を澄ますと僅かに聞こえてくる。それと同時に数人の教師が静雅と風間の名を呼びながら走っている声も聞こえる。

 

 

「テメェの母ちゃん達は怒ンじゃねェのかよ」

「静雅も知っている通り母さんは変わってるからな。男はこれくらいヤンチャな方がいいと頭を撫でられるだろう」

「…父ちゃんは」

「母さんが許せば父さんも許してくれる。勿論、兄さんも」

 

 

  基本的にのほほんとした優しい雰囲気を纏っている風間家は風間が卒業式をバックれたとしても笑って許してくれるだろう。どうせ静雅が絡んでいることは容易く想像ついているだろうから、それも思い出だと静雅や風間の頭を撫でる想像がつく。

  それと反対に静雅の母は頭に角を生やしてキレているに違いない。あれだけ朝、力が入っていた母だ。今もきっと血眼になって探しているだろう。父はきっと今頃は雅人を抱っこしながら双子の兄の卒業式を見守っているに違いない。朝、無理やり静雅を着せ替え人形にしていた母を止めていた父だったが、それを聞かなかった為、今この現状ができていると理解している。多分だが静雅の味方についてくれるだろう。

 

 

「そうだ静雅。写真を撮ろう」

 

 

  「実はここに来る前、父さんに会ってカメラを借りたんだ」そう言う風間の手には真新しい一眼レフがあった。一眼レフを持ってきている辺り、風間家の両親は風間の卒業式を結構楽しみにしていたんじゃなかろうか。そう思うと静雅は少しだけ申し訳なくなった。

 

 

「…1枚だけだ」

 

 

  その一眼レフを使わずに返すのも気が引けたので1枚だけ了承する。まさか了承されるとは思っていなかった風間は一瞬、驚いた顔をした後、嬉しそうに笑った。

 

 

「ああ」

 

 

  あれやこれやと試行錯誤しながら撮った1枚は拙い写真だったが、如何にも青春らしい写真だった。

 

 

 

  珍しく静雅の顔は笑っていた─。

 

 

 

 



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番外編1-1

章が終わることに書いていくことにしたけど、続くかは分からない番外編です。更に原作が遠のいていく…。

感想ありがとうございます
とても励みになります!!


 『Q.静雅の印象について』

 

 【A.雅人】

 兄ちゃん?兄ちゃんは強くてかっこよくて、優しいんだよ!!この前は母ちゃんから貰ったお小遣いで俺にお菓子買ってくれたし、変な男の人に絡まれた時、助けてくれた!!パンチが早くてね、戦隊ヒーローのレッドみたいで!!最後の回し蹴りは本当に決まってて、めっちゃかっこよかったの!!兄ちゃんにそれ言ったら、男は強い方が楽だぞって言われて俺も強くなろうって思った!また兄ちゃんに回し蹴り見せてって言ったら、照れて見せてくれなかった。残念だったな…。

 

 

 【A.静雅兄】

 静雅?静雅はねー、年下には意外と甘いんじゃないかなあって思ってるよ。静雅のまだ知り合いで年下っていう年下は見てないけど、雅人とかの面倒はほとんど静雅が見てるって言っても過言じゃないし、自分の内側に入れた人にはとことん甘くなると思う。俺は基本的に優しくされた記憶ないけど、最近じゃそれが当たり前だし、逆に優しくされたら困るよね!

 

 

 【A.静雅母】

 あのバカは人様に迷惑しかかけなくてね。喧嘩は日常茶飯事、警察の厄介にもなったこともあったわ。警察から電話来た時はびっくりした!!静雅が人殺したんじゃないかってお父さんとわなわな震えてね。卒業式なんか風間君巻き込んでボイコットよ。風間君のご両親は優しく許してくれたけど違うじゃない!小学校の卒業式なんて一生に一度しか受けられない大切な思い出よ?そんな日に屋上でサボるだなんて…ブチ切れた思い出しかないわ。

 

 

 【A.静雅父】

 男の子はやんちゃって聞くけど、それを見事に体現したのが静雅だなと思うよ。俺も生きてりゃ喧嘩はしたことあるけど、静雅程はしてないね。卒業式に関しては正直、仲のいい友達もいないならそこまで受ける必要はないかなあと思うけどね。でも、両親からしてみると、卒業式っていうのは子供が成長した場をはっきりと見れる場所だから、それが見れなかったのは少し残念かな。でも、風間君のご両親から貰った静雅の1枚だけだけど、あの卒業式の写真。嬉しそうに笑ってる静雅なんて滅多に見れないし、ましてや写真で見れることもないから大事に飾ろうと思ったよ。これからもお兄ちゃんや雅人と一緒に、健やかに生きていてくれれば他は願わないよ。

 

 【A.風間蒼也】

 目を離すと何をしでかすか分からないやつだ。学校に遅刻して来たかと思えば身体中痣を作って登校してきた時もあった。何があったか詳しく聞こうとしても、絡まれた。勝った。それだけだけ言って詳しく言おうとしない。アイツは語ろうとしないタイプだ。聞けば答えは帰ってくるが10の答えが返ってきたことは無い。せいぜい2ぐらいだな。だからこっちがアイツを見てやらないといけない。知らず知らずに出しているヘルプサインを見逃さないためにも、あと出席日数を増やし、警察沙汰の喧嘩etc.を減らすためにも、アイツの行動を常に気にかけるようにしている。

 

 

 【A.風間進】

 蒼也といつも一緒にいてくれる子っていう印象が強いかな。蒼也は少し引っ込み思案って言うのかな。1体1だと大丈夫なんだけど、大勢に変わると自分から行こうってしないから、友達ができるのか少し不安だったんだ。いつも俺の後ろをついてきてたしね。でも、静雅の話を聞くようになって、家に連れてきてくれた時は本当に静雅のことを信頼してるんだなあって思ったよ。静雅は年上が苦手みたいだけど、一応俺は大丈夫だったみたいで、話はよく聞いてくれるし、注意すればだいたい1回で辞めるし、普通に顔の印象が強すぎるだけでいい子だよ。あの2人を見てると青春だなあ、若いなあって思っちゃう。

 

 【A.風間母】

 今どきの子にしてみれば珍しいわよね。小学校からサボる子だなんて、初め聞いた時はびっくりしたけれど、男の子はそれぐらいやんちゃなのがちょうどいいのかなって思うのよ。お兄ちゃんも蒼也も大人しい子だから、過激な子が珍しくて。でもきちんと礼儀は弁えててね。卒業式をバックれた後、わざわざ自分のお小遣いでお菓子買って謝りに来てくれたわ。ふふ、たしかに蒼也の卒業式は見れなかったけど、サボった卒業式はそれはそれで珍しくて面白いじゃない。不安そうに謝ってくる姿を見るとまだ小学生なんだなあって実感されたわ。あの子、言動が大人びてることってよくあるから。忘れちゃうのよね。

 

 【A.風間父】

 卒業式に出ないと蒼也が言い出した時はびっくりしたよ。でも、それほど静雅君の横にいたいんだなと仲の良さを突きつけられた瞬間でもあった。本人にそれほど卒業式に思入れがないのなら、いいかもしれないと次に使う頃には3年後になるであろうカメラを蒼也に託した。静雅君は写真とか好きそうな性格はしていないから、あの1枚はびっくりしたよ。子供らしいい所もあるじゃないかってね。



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中学生編
第9話


この話を書いてる時に、違う小説の内容にビビっと来てしまい、投稿ボタンを押してしまった…。掛け持ちなんてエタル確率が上がるだけってわかってるのに…。
掛け持ち小説は暇つぶし更新ですから!!息抜き小説ですから!!
こっちの小説を優先して投稿しますから!!安心して!!
暇でしたら、良ければ見に行ってください。まだ1話しか投稿出来てないけど。また兄妹ものだけど。

あ、モブsideです


 

  中学に入学して2日がたった。まだイマイチ、クラスメイトに慣れていない彼らは周りのクラスメイトに頻繁に話しかけ、格付けしているように見える。

  え、僕はどうなんだって? 僕は世間一般的に言われる『陰キャ』という部類に所属していて、見た目からそれが滲み出ているからか、『陽キャ』と呼ばれるキラキラした一軍からは一切話しかけられることは無く、中学に上がると同時に引っ越してきたという要因もあり、ボッチだ。

  転校デビューを夢見ていた俺は、隣の席の子に話しかけようと試みる。しかし、自分から話しかけようにも右隣の席の真面目そうな女子に話しかける勇気はないし、かと言って、左隣の男子は目付きオーラ全てが怖いので顔を向けるのさえ躊躇ってしまう。前の女子は時代遅れのギャルで肌は褐色色、金髪、化粧濃いの三拍子。もちろん話す勇気は無いし、話しかけたいとも思わない。1番最後尾の席なので、後ろはいない。

  やっぱり必然とぼっちになってしまうこの現実に、静かに僕は涙を流してしまった。

 

 

「ギャハハ!! でさぁ、あのモブがぁ、ばかでばかでマジ笑えるぅ」

「つぅかぁ、アイツ太り過ぎじゃね?」

「あんな目ぇ釣り上げてぇ、ブヨブヨの腹出してさぁ怒ってたくなぁい? あーゆーのを、身の程知らずって言うんだよねぇ」

 

 

  ギャハハと品のない声で笑う前の時代遅れのギャル達。達と言っても昭和ギャルの格好をしているのは、前の席に座っている金髪の女だけで、他の取り巻きみたいな女2人は茶髪のピアスぐらいだった。スカートは超短い。

  このクラス、目の前のギャル達のせいで荒れるかもなー、と少し先の未来を想像する。既にいじめのような発言をしているので、性格は絶対に悪い。まあ怖くて、注意できる程僕は性格出来上がってないし、やっぱり怖い。これ重要だよね。

 

  でも、それ以上に今は左隣が怖くて怖くて仕方がない。トントントンと細長い左指でリズム良く人差し指で机を叩いている。足は苛立ちを表しているのか、貧乏ゆすりが凄い。目付きはさっきよりもつり上がっているように見えるし、何なら赤のどす黒いオーラまで見えているような気がする。自分は絶対に主人公とかにはなれないタイプだとわかっているため、そんな特殊能力はある筈ないのだが、見えてしまっているような気がする。僕、もうすぐ死ぬのかな。良く死ぬ間際にそんな力に目覚めて逝く奴っているだろう? 僕もその1人かもしれない…。

 

 

「おい、そろそろその足と手を止めろ。うるさい」

 

 

  ヤンキーの若頭と言われても納得できる左隣の彼に注意したのは窓際に座っていた奥の男子だった。小柄で、制服は人一倍ダボッとしている。何となく落ち着いた雰囲気を纏っていて、クールという言葉が似合いそうな子だった。

 

 

「あ゙?  つゥか何でテメェがいンだよ」

「同じ中学校に入学したからに決まってるだろう」

 

 

  「静雅と家も近いし当たり前だ」と小柄の彼は怯えることなく言い放った。どうやら同じ小学校から来た顔見知りの仲らしい。

  怖い彼にビビる素振りを見せない小さい彼は、怖い彼とは違う威圧感があった。あんな小柄なのに一体全体どこからそんな圧を出しているのか。顔もイケメンなので多分モテるタイプ。野球とかやってそうだな。

 

  小柄な彼が獣のような彼に取って食われるんじゃないかとハラハラしてチラチラと見ていれば盛大な舌打ちが聞こえる。それと同時に椅子の倒れる音もして、ザワザワとざわめいていた教室が一斉に静かになった。もちろん、悪い意味で隣りにいる彼らは注目されている。

 

 

「ハッ、丁度いい。前々からテメェの事が気に食わなかったンだァ。決着つけようぜェ」

「決着?」

 

 

  威圧的に、そしてニヤリとよく悪者が見せそうな笑みを浮かべ小柄な彼に言った。やはり小柄な彼は怯むことなく「何で決着をつけるんだ?」と的外れなことを聞いている。

 

 

「あ゙? ンなもン拳に決まッてンじゃねェか。馬鹿か?テメェは」

 

 

  クツクツと小柄な彼を馬鹿にするような笑みを浮かべ笑っている彼に声を大にして言いたい。馬鹿は君だ。小柄な彼のことはよく知らないが、普通決着をつけようと言われ、拳を想像する人間は少数ではないだろうか。

  そりゃあヤクザとかマフィアとかは別かもしれないけど、喧嘩とか疎遠な普通の一般人なら野球とかサッカーとかスポーツを想像するのが世間的だと僕は思う。

 

  小柄な彼は数秒、考えた素振りを見せたあと、「いいだろう」と頷いた。

 

  ──え? 頷いた??

 

 

「OKしちゃうのかよ!?」

 

 

  思わず、思わず声に出してしまった。シーンと静まりかえっていた教室には、こだまするよう僕の声が響き、聞いていないフリをしていたクラスメイト達が一斉に僕を見る。

  それと同時に、獣のように目付きを釣り上げた怖い彼は、真っ黒な瞳で僕を見た。目だけで殺されそうなほど威圧的で、思わず漏らしてしまいそうになる。

 

 

「あ゙?誰だテメェ」

「………すみません、なんでもありません」

 

 

  このまま、謝らなければ、小柄な彼よりも先にボコボコにされて、窓から捨てられる未来が見えた。そんな未来は回避したい。まだ死にたくない。だって僕、中学生だもん。

 

 

「けっ」

 

  怖い彼は僕に興味を無くしたかのように視線を落とし、教室から出ていく。それを追いかけるように小柄な彼も教室から出ていった。

 

  彼らがいなくなった瞬間、重苦しい空気が一気に消え、クラスメイト達の活気が戻っていく。

 

 

「お前、すげぇな!!」

 

 

  僕の元に近寄り、肩を組みながらクラスメイトは言った。陽キャに属している男だ。

 

 

「あの雰囲気で、思わずでもよく言えたよ!!」

「一言でも喋ったら殺される雰囲気はあったよな!」

「物音すらたてちゃいけないみたいな雰囲気だった!!」

「あいつが死神に見えてたよ、俺…」

「ちっちゃい子大丈夫かなっ!?  あんな怖い人に勝てっこないよ……」

 

 

  ザワザワ ザワザワ

  先程の静けさが嘘のように皆は喋り出す。それほどまでにさっきは緊張感があったということだろう。

 

 

「なあなあ、勇者!」

「……」

「無視すんなよ、勇者!!」

「え、僕?」

 

 

  クラスメイトの1人が僕のことを勇者と言い始めた。きっと、さっき声に出した事が原因でそう言われてるんだと思う。

  それから皆は勇者という言葉を僕に向けて言ってくる。わずか入学2日目で僕のあだ名は勇者になった。そして、まさか夢にも思ってなかった、陽キャの仲間入り!! 見事な中学生デビュー!!

 

  あの一言がこんなことになるなんて。

  人生、どう転ぶか分からないね!




※ギャルたちはこの後、担任に絞られたらしい。どれぐらい絞られたかって言うと、濡れた雑巾がカピカピになるぐらい


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第10話

スパムメール被害、皆さんどうでした?
実の所、私のところにも来ていまして…作品の感想だと思って嬉々として開いたら変なURLと出会い系がどうちゃらと書かれた文でして、それを見て少し怖くなってしまったものですから、更新が途切れていました。ごめんなさい。
リンク開いてはいませんので、被害は多分大丈夫かと。急に来られるとびっくりして怖くなりますね。今後はこんなことがないようにと祈ります。

話は変わりますが、戦闘描写のようなものがあります。期待は一切しないで見ていただけるとありがたいです。

最近、Jの事務所のアイドルの虜になってしまっているのでエタらないよう精進していきたい所存です。
(感想とかくれてもいいんですよ…?)


 

  中々に、中々に風間は出来る奴だった。

  静雅は風間が喧嘩をしている所を見たことがない。殴り合いの喧嘩なんて尚更見たことがない。だからというか、静雅には珍しい『手加減』というものをしていた。これまでずっとなんだかんだ風間は静雅の隣にいた奴なので、静雅も無意識に手加減をしていた。しかし、風間は手加減をして勝てるような簡単な相手ではなかった。

 

 小柄な風間はその体格を利用した素早い喧嘩をする。対して静雅は成長期ということもあり、体格が定まっていない。少し前の喧嘩の仕方は素早さ重視だったのだが、今その戦法で戦おうとしても多少の感覚のズレが生じてしまう。

 

 しかし、前世を含め喧嘩にこれまでの人生を費やしてきた男である静雅は、少しのもどかしさと苛立ちを感じながらも、やり過ごしていた。ただ、中々に決定打にかけないだけで。

 

  1日では決着はつかなかった。

  人気のない、雅人がお気に入りの公園で静雅と風間が殴り合いをしていたところ、雅人が夜ご飯と言って喧嘩を止めた。

  2人の顔は痣だらけで、もちろんそれは顔だけではない。風間の母が風間を見た時は大層驚いていたし、静雅の母も慣れたこととはいえ、いつにも増して激しく喧嘩をしてきたことに気づいて、心配していた。

 

  唐突に始まったこの殴り合い。はたから見たら理由もなく殴りあっているように見えるかもしれない。しかし、それは違う。

 

  風間はこの殴り合いの理由に気づいていた。何としても勝たなくてはいけないことにも気づいていた。

  この殴り合いは風間にとってテストのようなものだ。勝てば、静雅は風間に心を開き、負ければ一生開くことは無いだろう。静雅は弱いものには興味が無いから。せめて、勝ち星があげられなくても、風間は静雅に認めて貰わないといけない。風間は大層、静雅のことを気に入っていた。風貌は怖いかもしれないが、根は良い奴だとわかっているし、喧嘩っぱやいだけで、普通に優しい奴だと思っている。

 

  三日三晩。寝なしとかそういう訳では無いが、学校をズル休みして2人は殴りあっていた。雅人が夕方呼びに来たら終了。約束をした訳でもないのに、2人の足は自然と公園に向かっていた。

 

  結論から言うと、静雅は風間を認めた。キラキラした目で風間と静雅の殴り合いを観戦していた雅人をふと視界に入れた時、馬鹿らしく感じたのだ。周りに心配かけていたことは気づいていたし、何より風間の横にいて静雅は苦を感じたことがないと気づいてしまったから。

 

 

「やめだ。やめやめ」

「…いいのか?」

 

 

 対して、静雅が急に喧嘩をやめてしまったことで、風間は焦っていた。こんなにもあっさりと静雅が辞めるとは思っていなかった。自分は満足させられなかったのだろうかと顔には出さないが、とにかく焦っていた。

 

 

「雅人、帰ンぞ」

「えー、もう終わりかよ〜」

「おい、口悪くなッてねェか……?」

 

 

 静雅と雅人がわいわいと喋りながら、公園を出ていこうとする。「待て」風間はそう言って静雅を引き留めようと、右腕を上げた。しかし、その言葉は喉につっかえて出てこない。手だって、静雅の服の裾を握ることはできなくて、手持ち無沙汰になっている。

 

 てっきり着いてきていると思っていた静雅は風間の声が聞こえなかったので、後ろを振り返る。風間は棒立ちしており、顔は俯いていて見えない。静雅は首を傾げた。

 

 

「おい、何してンだ」

 

 

 風間が顔を上げる。

 静雅と風間の視線が交差した。

 

 

「行くぞ…蒼也(・・)

 

 

 恥ずかしそうに静雅は言った。直ぐにスタスタと歩き出してしまったため、風間から静雅の顔は見えない。

 静雅が何を考えているのかよく分からなかった。でも、ひとつだけ分かったことがある。

 

──俺はまだ、隣にいていいのか

 

 普段、表情を顔に出さない風間が笑った。小走りで影浦兄弟の元へと向かう。

 

 

「今日はお好み焼きパーティだな!兄ちゃん!!」

「…そろそろお好み焼き飽きたッつゥの」

「お好み焼き屋の次男坊が何を言っている」

 

 

  「最近晩飯、あまりモンばかりなんだよ。そりゃ飽きるっつうの」と静雅は苦虫を噛み潰したような顔をして言った。どうやら結構本気でキているらしい。

 

 

「風間くんも来るよね!?」

「俺も行っていいのか?」

「知らね」

「パーティなんだから逆に来てもらわないと困る!! それに風間くん来ると母ちゃんの機嫌良くなるからガチめに来て!!」

「……後で家電借りるぞ」

「ご自由にどーぞ!!」

 

 

  家に帰るのが遅くなる時は電話しないと両親が心配してしまう。

  それにしても母親のご機嫌取りなんて雅人は何かしたんだろうか。…静雅の弟だ。何かしていない方が可笑しい。

 

 

──こんなに楽しい帰り道は初めてかもしれないな

 

 

 2人は漸く友達になれたような気がした。

いや、訂正しよう。『親友』だ。




原作に入っていったら恋愛要素ぶち込もうと思ってるんだけど、風間と静雅で落ち着……かないよ!?
そこらのリア充よりリア充してたけど、そっちの道にはいきません!!安心してください!!


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第一次近界民侵攻
第11話


約7ヶ月更新を止め、気がつけば初投稿から1年が経っていました。お久しぶりです。作者、生きてました。


 

 ついこの前まで「高校入学おめでとう」だとか「単位落とすなよ」とかザワザワと周りが煩かったのに。

 

 

「ンだよ、これ…」

 

 

 数秒前までは騒がしかった町が一瞬で阿鼻叫喚と化した。突然現れたよく分からない白い物体は家を壊し、人を襲う。襲う者に例外はおらず、唖然としていた静雅をターゲットにしたようで、気持ちの悪い動きをしながら静雅を追いかけ回した。

 

 

「おい、一体何がどうなってンだよ!!」

 

 

 勢いで一番上に来ていた連絡先、風間蒼也に電話をかけるが通話中になっており、繋がることはなかった。両親にもかけようと思ったが、今はそんなチンたら出来るほど静雅も余裕は無かった。

 

 一瞬、戦うという選択肢もあった。しかし、静雅は利口な男である。勝ち目のない戦いを、それも命をかけてまでやることは無いと理解していた。だから逃げる。化け物から逃れる為、足がもつれようと、転ぼうと足を進める。初めて自分のあの無駄な力が役に立った。頭をフル回転して逃げ道を探すが、何処も彼処もバケモノだらけ。逃げ道はほとんど無いと思って間違いないだろう。必死に足を進めるが、現実とは残酷なもので静雅の足を進めた先は行き止まりだった。

 

 

「…ちっ」

 

 

 静雅は終わりだと思った。生を受けて2度目、実に呆気ない最後だったと思う。もっと雅人の成長を見たかった、大学生活を就職生活を送ってみたかった。昔とは違うたくさんの願い。あの時の呆気ない終わりがまた繰り返されると思うと凄く寂しくて怖い。

 

 白いバケモノは大きく腕のようなものを振りかぶった。それで静雅を殺す気なのだろう。静雅は大人しく目を瞑る。どうにか反撃したところで、一抹どころか勝てる見込みがない。一撃入れられる未来すら見えないし、明らかに硬い装甲である。足元に落ちていた石どころか自分の拳は効かないだろう。抗うだけ無駄だ。

 

 

「……」

 

 

 しかし、待てど暮らせど痛みはやってこない。恐る恐る目を開けると、そこには見慣れた背中があった。

 

 

「ヒーローは遅れて登場、か。助けに来たぞ静雅」

 

 

 見慣れないジャージに身を包んだ彼は──風間蒼也の実の兄、進だった。好戦的な笑みを浮かべている進に蒼也の面影は見えない。

 進は大きく腕を振りかぶる。それだけで目の前のバケモノは大きな一閃で消えていく。

 

 

 

「進、さん…?」

 

 

 静雅が喧嘩をした時、優しく諭す進の姿とはまた違う一面を見て静雅は絶句する。しかし、そんなことは知ったこっちゃないと進は静雅に手を差し出し、その手を引いた。

 

 

 

「ここで止まっても事態は悪化するだけだ。話しながら行くぞ」

 

 

 どうやら進はこのバケモノについてよく()()()()()らしい。

 

 比較的、静雅は物分りがいい方である。客観的に進は思った。『近界民(ネイバー)』だ『バムスター』だと意味のわからない固有名詞を出されてもなお、今の状況を飲み込もうと必死に頭を動かしている。

 

 

「…つまり、そのネイバーってヤツが俺たちを襲ってンのか」

「大まかに言うとな」

「ちっ、めんどくせぇ…」

 

 

 わかっているだけでも既に東三門市はほぼ壊滅状態。ギリギリを保っているが、それがいつまで保てるかは分からない逼迫とした状況の中、じゃあ東三門市以外なら大丈夫なのかという訳でもない。三門市全体は『近界民』の攻撃によって機能出来ている機関はほとんどとない。この侵攻が()()()()()ボーダーが必死に食い止めてはいるものの、それでもまだ数に圧倒されている。ボーダーも人間の組織だ。神じゃない。全ての人を救える訳では無かった。

 

 

「…蒼也は」

「大丈夫だ。アイツはもう避難しているよ。俺の知り合いじゃお前がドベだ」

「…けっ」

 

 

 なんだかんだ弟を心配してくれている静雅を見て進は笑みを漏らす。こんな時に非常識だとは思うが仕方ない。だって進はもうすぐ()()()()()()のだから。

 

 

『進さん』

 

 

 不安気な面立ちで進を呼び止めたのは進の同僚である小さな少年だった。進よりも小さなその身体で、大きな世界の運命を背負ってしまっている彼を彼の師匠と同じぐらい進は気にかけていた。きっと彼が蒼也と同じぐらいの年頃だったから、重ねてしまっていたのだろう。

 

 

『行ったら…死んじゃうよ』

 

 

 死ぬことは怖いことだ。大好きな弟の成長が見守れないし、弟の友がどんどん人間らしくなっていく姿に立ち会えもしない。美味しいお好み焼きも食べられなくなってしまうし、欲を言うのなら大人しい弟の反抗期を見てみたかった。だからといって、それが進を止める理由にはならなかった。

 

 死ぬことは怖いことだ。でも、自分一人の命で弟が、家族が、救えるのなら。それは安い対価だと進は言った。

 

 

『俺の命で誰かが救けられるのなら、俺は行くよ。お前の『副作用(サイドエフェクト)』はなんて言ってる、迅?』

『…影浦、静雅って人が救けられる。おれの『副作用(サイドエフェクト)』がそう言ってる』

『なら、行かなくちゃな。静雅にはいつも蒼也が世話になってる』

 

 

 数時間前のことを思い出して進は微笑んだ。何となく、もう死ぬことはわかっている。静雅には伝えていないが、後ろには『近界民(ネイバー)』がうじゃうじゃといた。きっと、静雅のトリオン量がそこそこ多いからどうしても攫いたいのだろう。

 

 

「静雅。この先にシェルターがある。そこまで後ろを振り向かず走れ」

「おい、進さんは…?」

「俺にはまだやることがある。先に行ってくれ」

 

 

 不安がる静雅に進は「大丈夫だ」と肩に手を置いた。

 

 

「さあ、走れ」

 

 

 静雅の肩から背中へ手を置き、思いっきりその背中を押す。押された勢いで一歩、二歩と歩き出した静雅は走り出す。

 

 

「そう。それでいいんだ」

 

 

 一言、そう呟いた進は走り出した静雅の背から視線を移した。後ろを向き、静雅から進に標的を変えた『近界民』を睨む。

 

 

「さあ、戦争を始めよう。『近界民』」



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原作開始2年前
第12話


捏造過多過多


 

 

 静雅が進の訃報を聞いたのは第一次近界民侵攻が終結した二日後のことだった。近界民のせいで三門市は全滅と言っても可笑しくない状況下で、そんな時に学校が開校される訳もなく。家も店もボロボロにされた静雅は大人しくシェルターで身を潜めていた。戦いが終結されたとはいえ、まだ外には出るなと口酸っぱく言われていた静雅と蒼也だったが、慕っていた兄が死んだと聞いて気分を紛らわせたく、こっそりシェルターから抜け出し外に出ていた。

 

 

「…泣かねぇのかよ」

 

 

 静雅がシェルターに逃げ込んでからはずっと蒼也と行動を共にしていた。静雅以外の家族がたまたま祖母の家に帰省していていなかったこともあったし、気の合わない人間といつ静雅が喧嘩し始めるか蒼也が気が気ではなかったのも理由のひとつだった。

 

 どれぐらいシェルターの中にこもっていたのか分からない。それほど長く感じていたし、あっという間にも感じた。久しぶりに当たる外の風はぐちゃぐちゃな蒼也の思考をクリーンにしてくれる。

 

 訃報を聞いても一度も泣かない蒼也を見て静雅は心配していた。静雅よりも進を慕っていたのは当たり前だし、静雅だってこっそり1人で泣いた。目を腫らして泣いたし自責の念だってある。あそこで進と別れなければと何度も後悔した。

 だが、進が死んでから一度も蒼也は泣いていない。進の訃報を聞いた時、真っ先に泣いたのは蒼也の両親だった。そんな悲しみに暮れている両親の背を見て、蒼也はずっと2人の背を撫でていた。

 

 

 「泣ける時に泣かないと後悔する」これは静雅の持論である。人間は良い意味でも悪い意味でも忘れる人間である。進が死んで悲しいと思っているうちに泣かなければ、きっと悲しいと思ってしまった気持ちすら忘れてしまう。そんな兄不幸なと思うかもしれないがこれは事実である。有名人の訃報を聞いて悲しむ者はいるだろう。しかし、その悲しさも持って1週間。それを超えれば『死んだ』という事実を受け入れ、悲しまなくなる。

 

 

「ここにはテメェの親はいねぇよ」

「…そうだな」

「俺も、何も見ちゃいねぇ」

「…そうか」

「ああ。…だから自分が後悔しない選択をしろ」

 

 

 静雅は蒼也に「泣け」と命令はしなかった。それを選択するのはあくまで蒼也自身である。静雅が強要するようなことじゃない。

 

 だが、敢えて強く痛いと思うように蒼也の背中を叩いた。それは静雅なりの配慮だった。

 

 

「うっ…うぅ……」

 

 

 隣から嗚咽が聞こえてくるが全て静雅は聞こえないフリをした。それが男の約束である。

 

 

「なぁ蒼也」

「っ…」

「俺、ボーダーに入るぜ」

 

 

 前々から進にボーダーの話は聞いていた。どんな活動をしているのかなどはあまり話してくれなかったが、俺たちと同じ年頃の少年がいるだとか、眼鏡をかけた師匠がいるだとか。それは何気ない日常の話。

 

 近界民を恨んでいるのか、そう問われたのなら「ああ」としか答えようがない。が、近界民に復讐するために静雅はボーダーに入る訳では無い。

 

 

「俺は思ったよ。つくづく無力だってな」

 

 

 言い方は悪いが、進だからこれで済んでいると言っても過言じゃなかった。死んだのが進じゃなくて、雅人や兄だったら静雅はどうなっていただろうか。…きっと壊れていたに違いない。

 

「力のある者が強者。この理はどうやっても崩れねぇ。じゃあ、俺は力を手に入れてみせる」

「…」

「最低限の奴らを護れるよう力をつける。その為に俺はボーダーに入る。……蒼也、テメェはどうする」

 

 

 外に出て一度も蒼也を瞳に移さなかった静雅が初めて蒼也を見た。蒼也はいつの間にか泣き終えていて、涙の跡はくっきりあるものの、顔は晴れやかな顔をしていた。

 

 

「…愚問だな。俺もボーダーに入るさ。俺だって護りたいものの一つや二つある」

「はっ、そう来なくちゃな」

「ああ。次は…俺達が護る番だ」

 

 

 立ち上がった蒼也を見て静雅ははっと鼻で笑う。

 

 

「そう言うことを言う奴ほど早々に死んでいくセオリーなんだよ。雑魚だな」

「じゃあ静雅の位置はかませ犬ポジションか。大変だな」

「ああん!?」



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第13話

タグに捏造過多を増やしました。なんか話が合わなかったらあ、こいつまた捏造放り込みやがった…と思ってください。
分からないことがあれば、優しめに聞いてもらえるとありがたいです


 

 

 ボーダー内の自販機前のちょっとした広場に風間、菊地原、歌川、宇佐美の4人がいた。つい先程、風間が菊地原にスカウトを打診し、それを承諾してもらったという場面である。

 

 

「菊地原のスカウトも終わったことだ。うちのエースを拾いに行くぞ」

「…エース?」

 

 

 菊地原も歌川もまだC級で、ボーダーに入ったばかりだ。故に、ボーダー内にどんな人がいるのか知らないし、なんなら先程の風間の言葉を聞くまではこれでチームは完成していたと思っていた。

 そう思ったのは2人だけではなく、風間隊のオペレーターを務める宇佐美もだった。風間隊の中では一番最初にスカウトをされた宇佐美だったが、エースの話など一度も聞いたことがなかったし、なんならそんな影さえ見えなかった。流石に幻覚が見えてるんじゃない?とまではいかないが、不安なのには変わりない。

 

 

「少々気性が荒いが悪いやつじゃない。嫌わないでやってくれ」

「…何それすごい不安なんですけど」

 

 

 菊地原の言葉に歌川と宇佐美は静かに頷く。自分達の不安を代弁してくれる菊地原が神に見えてくるぐらいには本当に不安だったりする。

 

 

「…あの、この先って…」

「ああ。ロビーだ」

 

 

 次を左折したらランク戦などをするロビーに出る。ロビーに来たということは、4人の探し人はどうやらロビーにいるらしい。

 ロビー内にいけば、いつもよりも騒がしかった。騒がしい理由は案外すぐに分かり、ボーダー内でもトップの力を持つと言われている太刀川と暗殺者のような鋭い目付きのストレート男がロビー内の中央モニターの中で派手に戦っていたからだ。タイミングがいいのか悪いのか、モニターではちょうど決着が着く場面が映し出されており、あまり派手な試合を見たことの無いC級ならトラウマになりかねない映像が映し出された。

 

 「死ね」そう嗤って言い放った暗殺者(仮)は容赦なく迅によって新開発されたスコーピオンで太刀川の首を撥ねる。盛大に首を飛ばした太刀川は数秒もしないうちに緊急脱出(ベイルアウト)した。

 

 モニターに映し出された結果には影浦と書かれた男が全て白星を勝ち取っていた。その結果を見て「うわあ」と菊地原が顔を歪ませ、歌川は静かに冷や汗を流す。宇佐美はただじっともう何も映し出されていないモニターを見つめていた。

 

 

「あれ、風間さんじゃん」

「…迅か」

 

 

 ゴーグルに水色のジャージを着た男、その名も迅悠一。少し前にS級になってしまったが、先程ついて使われていたスコーピオンの開発者であり、実力のある男である。

 

 

「…さっきのはなんだ」

「ん? ああ、アレね。なんかちょっと前に外で静雅さんがヤンキーに絡まれたらしくてさ、ボコボコにしてやったみたいなんだけど、あまりにも骨がなかったもんだから骨のある奴と戦いたいって太刀川さんの顔を見るなり首根っこ掴んでそのまま…」

「…アイツは自重というものを覚えんのか」

「まあまあ。そんなに怒らないでやってよ。あれでも丸くなった方でしょ?」

 

 

 ヤンキー、ボコボコと聞き逃せない単語を聞いてとんでもない人がボーダーにはいるものだなと菊地原と歌川は思った。あれで「丸くなった」なのだから、一体過去に何を仕出かして来たのだろう。

 

 

「ん? ボーダーに来て間もない根付さんの顔面ボコボコにしたことあったよね」

 

 

 どんな理由で静雅が怒ったのかは全く覚えていないが、馬乗りになって顔面を重点的に殴っていたのだけは覚えていると迅は言う。慌てて迅と忍田が止めに入ったが、あの後の後処理が凄く大変だったらしい。話を聞いたのが忍田本部長であったことと、迅が未来を予知できるサイドエフェクトを持っていたおかげで、静雅は3ヶ月の謹慎で済んだ。その場に居合わせたのが忍田本部長ではなく、城戸司令官だったのであればきっと迅が何を進言しても静雅はボーダーに居られなかっただろう。

 

 

「…ボーダーの壁に穴を開けていたこともあったな」

 

 

 これまた根付絡みではあったのだが、静雅は根付に向かって全く萌えない壁ドン(物理)をしていた。その時はちょうど、鬼怒田がボーダー本部基地をトリオンで壁をコーティングさせようと話をしていたところで、まだそれは実行されていなかった。そんな時の物理的壁ドンである。パラパラと生身で壁を崩壊させた静雅は、また謹慎を食らっていた。

 

 

「…影浦さんと根付さんの間に一体何が…」

「さあ。でもどっちもお互いを嫌ってるし、今では会うことすら許されてないから大丈夫だと思うよ? それに静雅さんは会わないでおこうと思えば一生会わないようにだってできるからね」

「…物理で、とか言わないですよね?」

「違う違う。サイドエフェクトでだよ」

「「「「「…サイドエフェクト?」」」」」

「え、風間さんまで?」

 

 

 何やら不穏な空気になってきたところにタイミングよくブースから太刀川と静雅が出てきた。どうやら一度も勝てなかったのが悔しいのか、太刀川はもう一戦を頼み込んでいるようだが、静雅は全く相手にしていない。

 

 

「おい静雅」

「アン? ンだよ風間じゃねぇか」

「風間じゃねぇか、じゃない。それよりもサイドエフェクトのこと、何故黙ってた」

「「サイドエフェクト?」」

 

 

 風間にサイドエフェクトのことを問い詰められた静雅は小さく首を傾げた。頭のいい静雅に会話が通じないのは非常に珍しいことである。

 

 

「あ?」

「は?」

「え?」

「ん?」

「…なんか面倒な展開になってきたんですけど」

 

 

 上から静雅、風間、迅、太刀川、そして菊地原である。最早、この場はカオスと化しており、何がなんだかさっぱり分からない状態だ。とにかく場の整理をしようと、迅が声を上げた。

 

 

「え、静雅さんってサイドエフェクトあるよね?」

「ねぇよそんなモン」

「…あれ、あのさ、上層部からなんか検査の報告的な奴のメール来てなかったりする?」

 

 

 メールと言われて、静雅は携帯をだし、メールのフォルダを開く。フォルダの中には堂々と一番上に「サイドエフェクトについて」という見出しでボーダーから送られてきていた。もちろん既読はついていない。その事実を見た迅は「あちゃー、見逃してた」と小さく呟く。この状況を見るに、どうやら静雅本人も自分がサイドエフェクトを持っているとは知らなかったらしい。

 

 唯一未来視で静雅のサイドエフェクトの詳細を知っている迅が説明する。迅曰く静雅のサイドエフェクトは『特殊体質』のBのランクに当てはまる『強化空間認識能力』というものらしい。

 

 

「逆に今までそれなんだと思ってたの?」

「皆も使えンのかと思ってた」

「あー、風間さんとか静雅さんや太刀川さん見つけんの上手いもんね」

 

 

 静雅のサイドエフェクト『強化空間認識能力』とは分かりやすく言うと視野が広い。静雅は普通に目から見えている視野とは別に、真上から見下ろす感じで視野が広がっている。簡単に言うと、静雅が模型の中身を見ている感じだ。その模型の中にボーダー本部基地があったり、三門市が広がっているという感じか。歳をとるにつれ、静雅の能力の精度は上がっていき、今では三門市全体を見ようと思えば見える。ただし、かなり疲れるので日頃は半径1km圏内に抑えている。それ以上は抑えられない。

 

 

「はあ!? んなのスナイパー殺しじゃねぇか!!」

「東さんとか知れば落ち込むだろうね」

 

 

 そう、太刀川が言うように基本的に姿を隠して戦うスナイパーと静雅の相性はすこぶるいい。相手は隠れたつもりでも、静雅には丸見えだ。

 

 

「おいおいおいおい…こりゃチームでも組まれたら俺たちやべぇな…」

「いや、太刀川さんのチームってスナイパーいないでしょ」

「いやそうだけどよ。気持ち的な問題あるじゃねえか」

「…チーム」

 

 

 風間が小さくそう呟くとハッとした顔になる。そういえばここに来た目的を完全に忘れていた。

 

 

「おい静雅」

「ンだから何だよ」

「俺のチームに入れ」

 

 

 元々静雅をチームに入れるつもりであった風間だが、いつも一緒にいるのでスカウトはいつでも出来ると後回しにしていた。静雅の風貌が風貌なので、風間の他にはS級の迅や既にチームを組んでいる太刀川、東などしか近寄らず、取られてしまうなんて言う心配もなかったからだ。それに、他のチームに入ったところで宝の持ち腐れになるのは見えていたというのもある。静雅を一番上手く操れるのは風間だけだ。

 

 

「なんだそれ。ガンダムみたいだな」

「誰がアムロ・レイだ」

「あ、分かっちゃうの? いや最近、国近がガンダム無双にハマり始めてよ。ずっとアムロばっか使ってから「俺がガンダムを一番上手く扱えるんだ」しか聞いてねぇんだよ」

「どうでもいい」

「ひでぇな風間さん」

 

 

 実際問題どうでも良かった。風間としては早く返事が聞きたいし、菊地原と歌川は不安で気が気じゃないし、迅は宇佐美を見て何やらニヤニヤ笑っているし、宇佐美は何故か真剣な顔で静雅を見つめている。

 

 

「…別に退屈しねぇならどこでもいいや」

 

 

 「それにお前がいねぇと俺、忍田に拒否られるかもだし」と言った。問題児筆頭である静雅の手網を握れる風間とセットにしたいと上層部が思っても仕方の無いことだった。

 

 

「げぇ、マジか…」

「…これから賑やかになりそうだな」

「……かっこいい」

「え」「は」

 

 

 まさかのOK返事でげんなりする菊地原と歌川だったが、最後に聞こえた宇佐美の呟きに勢いよく2人は宇佐美の顔を見た。どうやら宇佐美の呟きが聞こえていたのは2人だけだったらしく、迅を除く大学生組は何やら話し込んでいる。

 

 

「絶対やめといた方がいいと思うけど」

「…人の恋路にとやかく言うつもりはないけど…あの人はあの……」

「まあまあ。時が流れるまま身を預けてみようよ3人とも。案外、楽しかったりするかもよ?」

「ちょっと急に割り込んで来ないでくれる?」

「…キミ、冷たいな」

 

 

 そんな話のタネにされていると静雅は気付かず、話はトントン拍子で決まっていき──数日後、菊地原と歌川がB級に上がったことにより風間隊が結成された。




 
PROFILE
  年齢  :19歳(原作開始時21歳)
  身長  :180cm
 誕生日  :12月25日
  星座  :かぎ座
 血液型  :A型
  職業  :大学生
 好きな物 :家族、チーム、喧嘩、ランク戦

FAMILY
父、母、兄、弟

PARAMETAR
︎︎ トリオン :10
  攻撃   :10
防御・援護 :8
  機動  :9
  技術  :7
  射程  :10
  指揮  :4
 特殊戦術 :1
 トータル :59

RELATION
静雅→風間
昔馴染みの親友
静雅→太刀川
ポイント稼ぎのカモ
静雅→迅
予知予知ゴーグル
静雅→宇佐美
元チームメイト

裏表紙風を描いてみました。
下手なのは見逃して頂けると嬉しいです
※上下左右にスライドさせながら見てください

【挿絵表示】


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第14話

ランク戦書きますかと感想で頂き、ぶっちゃけその感想をいただくまでは書くつもりありませんでした。需要あるかわかんないし、アンケート取ろうと思ってたんですけど、どうしても静雅と風間隊の関係が書きたかったので触りで書いてます。
でも、だいぶ端折ってるので、ちゃんと後で書くかも。番外編とかで。


 

 迅にとって静雅は恩人と言っても過言ではない。未来視のサイドエフェクトがあるとはいえ、勉強はどちらかと言えば苦手な方で、数学などは特に解き方を分かっていないと厳しかった。そんな時によく勉強を教えてくれたのは静雅である。赤点取りまくりで親がしょっちゅう呼び出される太刀川を引き摺り、往復練習だと太刀川の監視も兼任した風間とよく4人で勉強会を開いたものだ。まあ、今でも迅を除く3人は大学へ行っているので定期的に勉強会は開いているみたいだが。

 

 影浦静雅とは初対面時のインパクトが中々に強く、敬遠する人もいるが、迅は違った。未来視云々を除いて、純粋に彼に惹かれている節がある。それに、精神的に助けて貰ったこともある。

 

 だから、根付の暴力騒動があった時も頑張って庇ったし、本部の壁を壊した時も頑張って庇ったし、気に入らないC級をブース外で首ちょんぱした時も庇ったし、庇えるところは庇っているつもりである。が、これは流石に庇えないぞ…とダメな方に進みつつある未来を予知した迅は思う。

 

 今現在、B級のランク戦をしている風間隊の成績は著しくなかった。隊を作ってまだ時間がそう経っていないこともある。が、しかしそれだけの理由ではなかった。

 

 

「中々にやられてるじゃないか」

「あ、忍田さん。わざわざ見に来たんですか?」

「…何となくこうなる気がしていたからな」

 

 

 隣にやって来た忍田に挨拶をする。忍田なりに風間隊が心配なのだろう。何せ、あの隊はある意味爆弾を抱えている。

 

 モニターでは険しい顔をしている菊地原と明らかに機嫌の悪い静雅が映っていた。現在、菊地原と静雅で荒船隊の隊長 荒船哲次と、三輪隊の隊長 三輪と交戦しているところである。この中で2人とはいえ、合流出来ている菊地原と静雅は優位な位置にいるのだが、戦況はそうでもなかった。

 

 

「静雅は個々としての力は優れているが、残念ながら協調性は無い。それはどうやら菊地原も一緒のようだ」

 

 

 攻撃手(アタッカー)ランキング1位の静雅。サイドエフェクトの恩恵もあって、相手が隠れてもすぐに撥ねることができ、機動力もある。伊達に一位を死守していない。勿論、実力だってある。その為、太刀川はよくポイントを根こそぎ搾り取られ、未来予知が出来る迅でも頑張って五分五分に持ち込められればいい方と、静雅は非常に才能に溢れていた。

 菊地原も強化五感のサイドエフェクトを持ち、耳がいい。実力としてはまだまだではあるが、上がり立てとして見るのなら、風間の指導が効いていると思う。

 

 しかし、誠に残念なことに、この隊を結成した風間も頭を現在進行形で悩ませているのだが…菊地原と静雅が全く合わないのだ。短気な静雅と思ったことをなんでも言う菊地原。まさに火に油で、顔を合わせて数分で喧嘩を始めてしまうのだ。

 

 

[風間さん、だからぼくはヤダって言ったんですよ」

[文句ばっか言わないで少しは合わせる努力をしろ]

[…おい風間。俺、間違えてこのガキの首撥ねるかもしれねェ。仲間の首撥ねてもポイントって入んのか?]

[シズさーん、きくっちー殺してもポイントは入んないよー]

[つか、ぼくが殺されるわけないじゃん]

[[…ちっ]]

 

「あー、あれはもうダメだね」

 

 

 迅が苦笑いを浮かべながら言った。

 個々の力であれば完全に静雅が有利である。つい最近、東隊が解散し自分の隊を作った三輪と、菊地原達と同時期にB級に上がってきた荒船。サイドエフェクトを持っている菊地原が若干荒船を押しているが、部隊経験…それもつい最近までA級部隊1位に所属していた三輪がそう易々と荒船を落とさせる訳もなく…。

 一向に連携のれの字すら見せない菊地原と静雅。対して協力とまではいかないが、違う隊なのに中々の連携を見せている荒船と三輪。臨機応変に風間隊をジリジリと押していた。

 

 

「これは三輪に分があるな」

 

 

 忍田の言う通りだった。戦況は合流出来た風間隊ではなく、三輪に分がある。三輪は荒船と共に、菊地原と静雅を押し──最終的には2人を落としたあと、荒船も落とすつもりなだろう。

 

 

「荒船くんは確かに才能がある。しかし、三輪は東くんから教えを受けていたからな…」

 

 

 それに、三輪の方がボーダーにいる歴も長い。つい最近B級に上がってきた荒船とは目に見える力の差があった。

 

 それに気づかない程、菊地原と静雅も馬鹿では無い。そう易々と点は取らせない。その気持ちで戦ってはいるものの、残念ながら同じ部隊に所属しているはずの静雅と菊地原は拙い連携をしようとするが、荒船の攻撃を左右で避け合い、身体をぶつけ逆に危機に陥ったり、静雅が正面から三輪に斬り掛かるが、避けられ三輪の背を狙っていた菊地原を斬ろうとしたりなど、本当に同じ部隊に身を置いているのか疑問に思えるほど、息が合わない。

 

 そして、遂に堪忍袋の緒が切れる。

 

 

「ほら、斬っちゃった」

 

 

 迅がそう呟くと同時に顔に青筋を立てた静雅は迷うことなく目の前にいる三輪──の首ではなく、真横にいた菊地原の首を撥ねた。

 

 

『相手にポイント入るぐらいなら俺が殺す』

 

 

 静雅の次に青筋を立てたのは、迅の隣にいた忍田だった。

 

 ここから一気に戦況が変わる。菊地原をベイルアウトさせた静雅は『お荷物がようやくなくなった』と呟き、三輪に切りかかる。菊地原がいると連携を意識したり、ちょこまかと動かれて集中が出来なかったりと、静雅にとってはマイナスな面が多かった。しかし、その菊地原ももうおらず、存分に暴れられる。

 

 

『仲間を斬るとは…中々な奇行だな。……しかし、誰かが真似したらどうする。貴方にはそれ程の影響力があるだろ』

『真似だ? どうぞ皆さん、お隣に菊地原が来たら殺してやってください』

『…話すだけ無駄か』

『おいおいマジかよ…菊地原を斬りやがった…』

 

 

 スコーピオンと孤月の鍔迫り合いでは、どうしても静雅が使っているスコーピオンの耐久性で負けてしまう。荒船と静雅が鍔迫り合い、力で勝った荒船が静雅のスコーピオンを割る。バリンと音をたてて無くなるスコーピオンを見た荒船はこれを勝機だと思い、飛びかかる。しかし、そんな荒船の後ろには構えた三輪がスタンバイしており、静雅の位置からだと荒船と共倒れだ。

 

 しかし、静雅は持ち前のセンスでカバー…では無く、何を思ったのか、荒船の首を絞めた。

 

 

『!?』

 

 

 

 苦しくはない。が、人間の咄嗟の防衛反応で驚いてしまう。

 

 

『戦闘体活動限界。ベイルアウト』

 

 

 そのアナウンスと共に荒船がベイルアウトする。

 首を絞められただけで、トリオン体はベイルアウトをしない。トリオン体は「トリオン伝達脳」という脳の部分、若しくは「トリオン供給機関」という心臓の位置にある部分を壊すか、相手のトリオンを空っぽにさせるの3択でベイルアウトさせることが出来る。

 

 

『…荒船さんは大して怪我を負っていなかった。…なるほど、スコーピオンか』

 

 

 スコーピオンは身体のどこでも出し入れ可能である。その為、危険を察知した静雅は咄嗟に荒船の首を絞め、首を絞めている掌からスコーピオンを出したのだ。

 

 

『早よテメェも死ねや』

 

 

 その言葉と共に、気がつけば三輪の首も自分の胴体と離れていた──。

 

 

『戦争中におしゃべりしろとテメェは東さんに習ったンか?』

 

 

 つまらねェと言い捨てると、風間か歌川と合流すべく、移動を始める。

 

 このB級ランク戦、結果は生存点を含め5点取った風間隊が勝利だった。しかし、この結果を勝利と言っていいのか…勿論、否である。

 ブース画面が暗くなると、忍田はため息をつき、試合を観戦していた隊員に「決して真似しないように」と注意をする。

 

 

「いやいや、あんなマネできるのは静雅さんだけですって」

 

 

 基本的にボーダーには性格のいい人が集まる傾向にある。明るく、周りを照らす嵐山だったり、なんだかんだダメダメな太刀川を世話する風間、どうしても静雅が放っておけない忍田と、仲間の首を邪魔だからチョンパしようとは思わない。一時期、力でゴリ押ししていた二宮でもそんな体験はしていない。

 

 静雅がブースを出た途端、怒りを滲ませた忍田が静雅の首根っこを掴む。

 

 

「ンだよ!! 離せクソ忍田!!」

「いいから来い。お前には仲間の大事さについて話さなくてはいけないらしい」

 

 

 「離せ、離せェェェ!!」と叫ぶ静雅を見て菊地原が「ふん、ざまあないじゃん」とボソッと呟く。それを聞いた風間が菊地原の首根っこを掴んだ。

 

 

「安心しろ菊地原。お前もお勉強の時間だ」

 

 

 ズルズルと引きずられていく菊地原を見て不安気に歌川はため息をついた。2人とも仲間としては頼もしい人物である。菊地原がいつも余計な一言を言ってしまうため、喧嘩が起きてしまうのだが、中々に菊地原が言うことも的をえていて、注意しても…いや、もうここまで来るとどっちもどっちだ。

 

 

「…本当にこの隊大丈夫なんでしょうか」

「まあ、何とかなるよ。風間さんがいるしね」

 

 

 菊地原達の後にブースから出てきた歌川が不安気に宇佐美に問うた。不安気な歌川とは対称的に、宇佐美はニコニコしており、何故か自信満々だ。

 

 

「それに…うってぃーだって気づいてるでしょ? シズさんは確かに言動行動には難ありだけれど、悪い人ではないんだよ」

 

 

 色々と仕事の整理をしていて帰りが遅くなった宇佐美を家まで送ってあげた静雅。隊室に教科書を置き忘れて帰ってしまった歌川を心配して、次の日の朝わざわざ学校まで届けてくれた静雅。思い返してみれば、歌川や宇佐美が静雅に怒られたことはそうとない。

 

 

「それにしてもうってぃー見てた? シズさん凄くカッコよくてねぇ。スパーンときくっちーの首を撥ねたあの姿、思わず一瞬うっとりしてしまったよ」

「静雅さんが菊地原の首を撥ねてる時、俺は米屋先輩と戦闘中でしたから、見てません」

「そうだったっけ? じゃあ後でログを見返すといいよ。アレはねぇ、本当に職人技だったよ。きくっちーの驚いた顔、有り得ないと言うような三輪くんの顔に荒船くんの顔。やっちゃダメなことだとはわかってるけど…少しスカッとしてしまったね、うん」

「…それ、風間さんの前で言わないで下さいよ」

「分かってるって」

 

 

 そう宇佐美は眼鏡を反射させながら言った。そんな宇佐美を見て歌川は本当か?と少し疑うが、宇佐美まで疑い始めたら終わりだと、頭を横に振って疑うことを強制中止させる。

 宇佐美は静雅に対する好意を隠すことなく、かっこいいと思った時はそれを遠慮なく口にする。風間隊の面々は宇佐美の好意に気づいているが、残念なことに人の感情に疎い静雅には気づかれていない。

 

 ここで風間隊のオペレーター、宇佐美栞について少し説明しよう。宇佐美栞、彼女はこよなく眼鏡を愛し、オペレーターの支援技術も定評である。そんな彼女は、同じ風間隊の影浦静雅に一目惚れをしてしまったらしい。グイグイ行く時は行くし、引く時は引くという空気を読める女性だ。

 

 

「告白とかしないんですか?」

「告白? うーん、今のところは考えてないかなぁ」

 

 

 今、告白したところで「ア? 興味ねェ」で終わらせられそうな気がする。それを宇佐美は歌川に伝えると歌川も「確かに」と同意した。

 

 

「でもさでもさ、私噂を聞いてしまったのだよ」

「静雅先輩に関する噂ですか?」

「そうそう」

 

 

 「どんな噂です?」歌川がそう聞き、宇佐美はよくぞ聞いてくれましたと言うかのように胸を張る。

 しかし、宇佐美がその噂を口にすることは無かった。

 

 

「静雅さんが眼鏡を掛けてるって噂だろ? ほんとだよ。おれも何度も見たことあるし」

「迅さん!! 何で言っちゃうの!!」

「はっはっは。ごめんな宇佐美。ついつい言いたくなっちゃってさ」

「いや、そんなことはどうでも良くて!! ていうかアレ本当だったの!? 太刀川さんの嘘だと思ってた!」

 

 

 「おい、宇佐美。聞いたぞ〜。静雅さんのことが好きなんだってな。そんなお前にいい情報を教えてやろう。静雅さんは勉強してる時だけだが眼鏡をかける。眼鏡をかけると目付きが普通になるもんでな、それが男の俺から見ても結構かっこいいと思っちまうんだよ」そう教えてくれた太刀川の顔はニヤニヤしていて…ぶっちゃけ信じるか信じないか迷うところだった。

 

 

「んふふ、忍田さんに解放されたら頼んで見ようかな♪」

 

 

 ルンルンな宇佐美を見て歌川は思った。本当にこの部隊は大丈夫なのだろうかと。

 ちなみに菊地原の首を撥ねた罰として、静雅の減点に加え、先程のランク戦は最下位となってしまった。




ちなみに転送位置は…

     影浦   三輪
              菊地原
  荒船    
               
    奈良坂    歌川
        米屋
                穂刈

 風間          半崎



Q.何で風間隊VS三輪隊VS荒船隊なの?
A.とりあえずランク戦書きたかった。でも、この時期ってどの隊がA級とかよく分からなくて、オフィシャルブックと睨めっこしながら考え考え考え抜いた結果、考えることをやめました。いやもう、草壁隊と加古隊はこの頃ってまだ緑川もいないし、黒江もしないし、そもそもA級1位の東隊が解散してるのかも分からないし、もうパンクした為、比較的書きやすい三輪隊とアタッカー荒船さん出したかった。丁度見てたアニメで荒船さん出てたのも大きい。


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第15話

13話の伏線回収出来て良かった…


 

「菊地原」

「…分かってますよ、風間さん」

 

 

 風間にズルズルと引き摺られ、いつの間にかいつしかの自販機前の休憩場所にいた。咎めるような言葉とは裏腹に微糖のコーヒーを渡してくれる辺り、菊地原だけを責めるつもりはないのだろう。

 

 

「風間さん」

「なんだ」

「…静雅さんは何も、悪くないんです」

 

 

 菊地原はコーヒー缶をぎゅっと握りしめ、俯きそう言う。菊地原の言葉を聞いて「どうしてそう思う」と風間は菊地原に問う。実際問題、静雅が何も悪くないとは言いきれない。協調性のない静雅にも問題があるし、連携を取ろうとしない2人にも問題があった。

 

 

「ぼくが…弱いから」

 

 

 「連携を取ろうとしない」これは間違いだった。それを理解しているから、風間もそこまで責めないし、責めるつもりもない。

 

 静雅の個人レベルとしては、ボーダーの中でも上位に入る実力を持つ。それは隊長である風間もだ。しかし、つい最近B級に昇格した菊地原や歌川は違う。新人の中では上級に入るだろうが、静雅達と比べると差は歴然だ。

 

 連携を取ろうとしないのでは無く、連携が取れない。これが答えである。それはどうしてか、簡単な話だ。静雅単体のスペックが高すぎるのだ。その為、菊地原や歌川に対しての要求も大きくなる。長年静雅のバディを勤めていた風間がその要求を呑んできたので静雅の中では「出来て当たり前」だと思っている。個人としては強いが部隊としては足を引っ張ってしまっていた。

 

 

「確かに、力が足りていない節はある。が、それは仕方ない。それを込みで戦術を作っているつもりだ」

「…はい」

「問題は連携の練習をしようとしてもそれが出来ていないことだ」

「それは…」

 

 

 萎れた顔から途端に口を尖らせる菊地原。それとこれとは違うと言いたそうな顔である。

 

 

「アイツはああ見えて単純だ。何をそんなに嫌う」

「…確かに実力が追いついていないぼくも悪いです。でも、だからといってそれが「合わせなくていい」という理由にはならないでしょ。あの人は自分を軸に考えすぎ」

 

 

 個々の力が強大でも、連携が出来なければいつかは落とされると理解している風間は連携重視の戦法で戦術を練っていた。しかし、風間は兎も角、歌川と菊地原は力の差が激しく、連携するには、静雅と風間が菊地原達に合わせてあげなくてはいけない。それをしない静雅は連携以前の話だ。実力だとかそういうのを全て置いた話である。

 

 

「…ボーダーに入る前までは他人と関わりを持とうとしてこなかったからな。急に連携を意識しろと言われても難しい話ではある」

「風間さんはすぐそうやって静雅さんの肩を持つ」

「別にそういうわけじゃないが…」

「兎に角、連携云々の話はぼく1人じゃどうにも出来ませんから」

 

 

 「コーヒーご馳走様でした」そういって逃げるように去っていった菊地原を見て、風間は静かにため息をついた。

 

 

 

 * * *

 

「にしても静雅さんの戦い方今回は一段と凄かったんだって?」

 

 

 ボリボリと遠慮なく迅のぼんち揚をつまみながら太刀川は言った。残念なことに太刀川は、大学の単位上を理由に風間隊のランク戦を見に行くことが出来ず、噂話程度にしか聞けていない。

 

 

「忍田さんがカンカンなんだろ?」

「あれは結構怒ってたね。高校時代の太刀川さんが単位1個落とした時ぐらい」

 

 

 あの時は必須科目じゃない単位だったから太刀川は何とか生き残れた。が、兎に角学業がダメだった太刀川を叱ったあの時の忍田の顔は今思い出しても震える。そしてその後、静雅と風間による鬼の缶詰め生活が始まった。あれもあれで地獄だったと後に太刀川は語る。

 

 

「うわ〜、それはやべえ。下手すれば殺されるぞ」

「今も五体満足で太刀川さんが生きてるんだから静雅さんもきっと大丈夫だよ」

「あれは俺だから生きてこられた。うん」

「いやいや、頭の出来で言うなら静雅さんの方が凄いから。機転きかして帰ってくるよ」

 

 

 ボリボリとそんな他愛もない話で花を咲かせていると、噂していた本人がやって来た。それを目敏く太刀川が見つける。

 

 

「あ、静雅さんだ」

「ほら、無事に生きて帰ってこれたみたいで」

「…これのどこが無事に見えンだよ」

 

 

 静雅の両手には大量の本があった。どんな本か気になった太刀川が一番上の本を手に取る。

 

 

「「仲間が如何に大事か知ろう」…なんだこの本?」

「お前には仲間の重要性が分かってないと愚痴愚痴言われてよ。ンでもって、忍田の嫁が慌てて俺の為に買ってきたんだと」

「忍田の嫁て…」

 

 

 静雅の言う「忍田の嫁」とは補佐官である沢村響子だ。沢村は忍田に恋心を抱いているので嫁と呼んでいる。ここで勘違いしてはいけないのが、忍田と沢村は決して恋仲ではないということ。…と、そんなことは置いておいて、きっとどこかで沢村も静雅のランク戦を見ていたのだろう。息を切らしてその手の本を買い漁ってきた姿を見て静雅はそう推測つけた。

 

 

「沢村さんを忍田さんの嫁だと言えるのは静雅さんぐらいだよ」

「それを本人に言ったらそれこそ殺されるだろ…」

「号泣されたな」

「え、既に泣かせてんの…?」

 

 

 長年忍田に思いを馳せている沢村は、それはもう周りから見えてもあからさまだった。他人の感情に疎い静雅でも分かる程だ。逆に静雅ですら気づくあのアピールで気づかない忍田が凄い。そういう面ではある意味静雅は尊敬していた。

 

 

「だが、付き合うにしろ玉砕するにしろ、沢村にとってそれは早ければ早い方がいいだろ」

「…玉砕はちょっと、うん…ダメだけどね」

「沢村は曲がりなりにも女だ。子供を産むだとかそういうのを考えるなら結婚は早い方がいい。高齢になればなるほど母体の沢村や胎児にも危険が及ぶようになってくる。それを懇切丁寧に説明してやったら、急に泣き始めてよ…」

「沢村さんが泣くってよっぽどだよな」

「その場には忍田の野郎いなかったのに、沢村が泣き始めた途端現れやがってよ。…ンだよセコムするぐらいならもうくっついちまえよ」

 

 

 静雅は静雅なりに沢村のことを考えた結果だったのだが…沢村から言わせてみれば余計なお世話である。

 

 

「それからだ。アイツは俺に対してアタリが強くなった」

「うん、おれが言うのもなんだけど静雅さんはもうちょっと女心を勉強してきた方がいい」

「ア? セクハラ野郎に言われたかねェな」

 

 

 トリオン体なので、両手の本の重みは感じないが精神的に疲れてきたので静雅はそれを地面に置く。このままここに放置もアリだと感じている。

 

 

「で、結局どうするの?」

「…何がだよ」

「連携だよ。菊地原と連携するにしろ歌川にしろ、静雅さんだって分かってるんでしょ?」

 

 

 急に話が元に戻った。静雅は顔を歪ませ、サラサラストレートをガシガシと掻いた。

 

 

「静雅さんと風間さんのタッグが凄かっただけにな…あの二人にも同等の力を望んちまうのは分かるが…それは酷だろ」

 

 

 太刀川の言葉を聞いて静雅は舌打ちをひとつするだけで、反論はしなかった。そんな静雅を見て迅は苦笑いを浮かべる。

 静雅だってそんなことは分かっている。だからあの時、無理矢理にも菊地原をベイルアウトさせて、相手に点を入らないよう対策した後、自分を動きやすくし三輪と荒船を落としたのだから。

 

 

「…いっその事、ポジション変えるのはどうだ?」

 

 

 太刀川が手をポンと叩き名案だと言うように言った。静雅と迅の視線が太刀川に集まる。

 

 

「静雅さんはサイドエフェクトがあるだろ? それを有効活用してよ、狙撃手(スナイパー)に転向するんだよ。狙撃手(スナイパー)殺しの狙撃手(スナイパー)、俺これ結構アリだと思うけど」

「おお、確かにそれはいい。練習さえ積み重ねれば静雅さんの場合、サイドエフェクト使えば壁抜きだって簡単に出来るだろうし、何より攻撃手(アタッカー)の時より連携がシビアじゃない。全ては静雅さんのセンスと技量にかかってるわけだし」

「……」

「試す価値はアリ、だな」

 

 

 顎に手を置き、考え込む静雅。それを見た太刀川と迅はニヤニヤと笑っている。

 

 

「試し打ちなら手伝いますよ?」

「ようやく静雅さんをボコボコにする日が来たか」

「…ほう、いい度胸だ。ド(タマ)ぶち抜いてやる」

 

 

 すっかり忍田達から無理矢理持たされた本の存在を忘れ、太刀川隊の隊室に向かう3人。数十分後、忍田からの鬼電が静雅を襲いまた怒られるのは別の話──。




 
静雅と迅が模擬戦中時
国近「そういえば太刀川さんアタッカーランキング変動して1位になったよ〜。おめでとー」
太刀川「え、なんで」
烏丸「あー、それ静雅さんがあのランク戦で菊地原先輩の首撥ねちゃったからっすね。それで結構減点食らっちゃったんですよ」
太刀川「おいおいマジか…。出来れば自力で1位の座を奪い取りたかったが…」
烏丸「…あれを見ると暫くは静雅さんアタッカーやるつもりないみたいっすけどね」
太刀川「だよなぁ……」


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第16話

時は少し遡って…


 

「おお…かっこいいね」

「当たり前だろ。なんだって俺の兄貴なんだからな」

 

 

 風間隊のランク戦を観戦していた影浦静雅の実の弟である影浦雅人と、その友人である北添尋は目をキラキラとさせていた。特に菊地原の首をちょんぎったところがかっこいいと雅人は感じ、いつか絶対に真似してやろうと心に決めた。

 

 

「わかってたことではあるけれど、シズさん凄く強いじゃん」

 

 

 一瞬で三輪と荒船をベイルアウトさせた所を見て北添は言う。北添は何度か街中で喧嘩している静雅を目撃していたので、実力は知っているつもりだったが、まだまだ知らないことは沢山あると思った。

 

 

「ゾエさんもあんな風にスパーンてできるかな」

「ゾエ、そもそもてめぇはアタッカーじゃねぇだろ」

「お、それは盲点だった…」

 

 

 昔馴染みの北添と雅人は一度、隊を作ろうと考えた。それはもう静雅に憧れてである。残念なことに静雅は風間隊に取られてしまったが、早く隊を作ってB級ランク戦に出て、静雅と試合をしてみたいと思っていた。その為、今期のランク戦に間に合うよう隊員を募集したのだが…。

 

 

「カゲが怖いからって皆逃げ出しちゃったよね」

 

 

 あんまり女ウケしない雅人の人相のせいで、肝心なオペレーターが見つからない。基本的にオペレーターは女性が担うことが多く、雅人の顔と凄みを怖いと思わない女性がいなかったのだ。

 

 

「カゲ、落ち込まないで。ゾエさんはカゲが優しくて単純な男だって知ってるから」

「うるせぇ黙れ殺すぞ」

「せっかくゾエさん励ましてあげたのに」

 

 

 「変なモン刺してくんな」と言う雅人にもサイドエフェクトがあった。感情受信体質というサイドエフェクトらしく、様々な感情によってチクチクと針に刺されるような痛みが雅人を襲うらしい。

 

 

「なあ」

 

 

 ある意味いつも通りの掛け合いをしていた雅人と北添に話しかけた女性が一人。髪の長さはだいたいボブぐらいで茶髪の目がキリッとした女性だ。

 

 

「え、ゾエさん達に話しかけた?」

「ん? アタシはそのつもりで話しかけたぞ」

「…いつもカゲの顔が怖いって言って避けられてたゾエさん達が女の子に話しかけられた…!! ゾエさん感動しちゃって泣いちゃいそうだよカゲ…!」

「…けっ。勝手に泣いとけ」

 

 

 オロオロと泣き出す北添を見てゾッとした女性は「大丈夫か!?」と駆け寄る。彼女はアタフタと自身のポケットを探り、ハンカチを手渡してあげようとする。が、残念なことに彼女はハンカチを所持しておらず「すまん、ハンカチ持ってない…」と北添に言った。

 

 

「だいじょぶ、だいじょぶ。ゾエさん自分の持ってるから」

「おお、女子力高いな!」

 

 

 ちなみに彼女はハンカチを持ち歩かないタイプである。自然乾燥派だ。雅人もその分類で、この場で唯一北添だけがハンカチを持ち歩いている。

 

 

「…で、俺らになんか用かよ」

 

 

 北添のせいで話がそれた。うだうだと茶番を見るつもりのなかった影浦は早く話せと彼女を急かす。

 

 

「お前らはあの人の知り合いか?」

 

 

 女性の指すあの人とは現在進行形でズルズルと忍田に引き摺られブースを後にした静雅のことである。知り合いも何も静雅は雅人の兄なのでそれを伝えた。…北添が。

 

 

「兄弟!? …確かに言われてみれば面影があるな!」

「それがどうしたんだよ」

「いや、私もあの人をかっこいいと思ってな!! そしたらたまたま近くでお前たちが話してるのを聞いてついつい…」

 

 

 目をキラキラとさせながら静雅の魅力について語る彼女を見て北添は珍しいと思った。雅人があまり女ウケしないように、静雅も女ウケはあまり良くない。視力が悪い癖にずっと裸眼で生活しているのもあって、年々目付きは悪くなっていく一方だ。そのせいで、ただチラッと見ただけなのに睨みつけてきた、なんて難癖つけられ喧嘩することも少なくない。

 

 

「お前、兄貴の良さが分かんのか」

「え? ふつーカッコイイって思うだろ」

「それが残念なことに少数派だったりするんだよ」

「マジでか!?」

「マジマジ」

 

 

 北添はうんうんと頷き、雅人は静かに彼女を見つめている。さすがの彼女も雅人からの視線に気づき「な、なんだよ…」と顔を赤らめた。

 

 

「お前、名前は」

「アタシか? アタシは仁礼光だ!」

 

 

 ふん!!と胸をはり、ついでに年齢も彼女は口にした。北添が「おお、ゾエさん達の1個下ね」と呟く。

 

 

「ポジションは」

「オペレーターだ!!!」

「どっかの隊に属してんのか」

「いいや。アタシも最近入ったばっかだかんな。どこの隊にも属してないぞ」

 

 

 ブンブンと首を横に振る。サラサラな光の髪が左右に揺れた。

 

 

「じゃあ俺の隊に入れ」

 

 

 おお…珍しくカゲから女子に話しかけてる…と感動していた北添だが、最後の言葉を聞いて涙腺は崩壊した。カゲが、告白みたいなことをしている!!

 

 

「おいゾエ、何泣いてんだ!!」

「シズさん…カゲは確実に成長してますよ……ゾエさんカゲが成長した場面に出くわして嬉しい」

「いちいち腹立つ野郎だなゾエ…!! まずてめぇから殺してやろうか!?」

 

 

 急に想像していないことを言われた光は目を丸々とさせていたが、やがて嬉しそうに顔を綻ばせると大きく頷いた。

 

 

「いいぞ!!」

「ア…?」

 

 

 一瞬、空気がシーンとした。仁礼は「いいぞ」と言った。何に? 雅人が北添を殺すことに? いや、きっと違う。そんな掛け合いができるほど仲がいい訳では無い。じゃあ何に? それは──。

 

 

「カゲ!! ヒカリちゃんが隊に入ってくれるって!!」

「ふふん、アタシのサポートでお前らを1位にしてやるよ!!」

「良かったねカゲ!!」

「ふはは!! これからは私のことをヒカリさんとよぶんだな!!」

「ねぇカゲ、なんで無視するの!!」

「だぁぁぁあ!! てめぇらうっせぇんだよ!!!」

 

 

 自分の目尻に溜まった涙を一掬いしたゾエは優しい笑みを浮かべて言う。

 

 

「ヒカリちゃん、この勢いでカゲのことも貰ってあげてよ」

「流石にそこまでは面倒みきれんな!」

「…ゾエ、調子に乗んのも大概にしろよ」

 

 

 ゾエはカゲの手によってボコボコにされた。

 

 

「ちょっと冗談言っただけなのにさ、カゲってばもう短気なんだから…」




ランク戦で作者がどんな戦略つくんのかな、とか楽しみにしてる人は今すぐそれを消した方がいいです。作者、センスないんで本当にガッカリすると思います。そもそも、この小説自体にあまり期待しない方がいい。完全な自己満夢小説です。
合わないと思ったはすぐブラウザバック!!これ読者の皆さんお約束してね!!


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第17話

堤は証言する。
「静雅さん…あの人は人間じゃない」と…。


 

 堤大地が所属している諏訪隊の隊長、諏訪洸太郎は面倒見のいい人物である。諏訪も一枚噛んでいたとはいえ、サイドエフェクト酔いをした影浦静雅を引き摺って隊室に連れてきた場面を見て改めて堤はそう思った。

 

 

「ちょっとトチってんけど、悪いヤツじゃねぇからまあ、仲良くしてやれや」

 

 

 静雅はボーダー内でもどちらかと言えば古株の部類に入る。しかし、堤と静雅は特に話したことはなかった。諏訪と同い年で、ちょくちょく飲みに行っていたりするのは知っていたが、率先して関わりに行こうと思えるタイプでもなかったし、相手がそういうのを嫌いそうだったので自重していた。

 

 そんな堤の思いを汲み取ってか、少し心配そうに静雅の顔を見る諏訪を見て、堤は仲良くしないという選択肢がなかった。

 

 

「静雅さんはこれからどうするんですか?」

 

 

 気がつけば諏訪は隊室から姿を消しており、静雅もある程度元気になったと言うので、この後の日程を聞いた。時間も時間だし、お昼ご飯を食べに行くのなら一緒に誘うつもりだったのだ。

 

 最初は「影浦さん」と呼んだのだが、本人に却下された。理由はボーダーに弟も所属しているため、苗字だと区別がつかないから、だそうだ。道理でボーダーの人間は静雅のことを名前で呼ぶんだな、と思ったのは余談である。

 

 

「腹減ったし、飯食いに行く。…世話になったかんな、テメェも奢る」

「え、いいですよ!!」

「遠慮すんな。…ついでに諏訪も呼べ」

 

 

 「アイツにも世話になった」と言う静雅。勝手な思い込みでワイワイするのは嫌いだと思っていたが、どうやらそういう訳では無いらしい。後でこっそり諏訪さんに聞いとくかと思いながら、携帯を操作する。

 

 あと一歩、あと一歩堤が携帯を操作するのが早ければ、自分の行動の遅さながらに堤は後に後悔することになる。何故なら──。

 

 

「あら、静雅さんと堤くんじゃない」

「ア? ンだよ、加古か」

「……加古さん」

 

 

 綺麗に手入れされているであろう髪を揺らしながら現れたのは加古望。元A級 東隊に所属していたが、今はソロで活動している人物である。

 

 そんな加古に会い、堤は顔を真っ青にさせた。いや、別に堤が加古のことを嫌っている訳では無い。容姿は綺麗だし、加古のようなスラッとした体型を嫌う男性はいないだろう。ただ、ちょっと、少し、ほんのちょびっと、彼女にトラウマがあるだけで…。

 

 

「これからご飯でも食べに行くの?」

 

 

 アクセサリーとしてつけていたのかは知らないが腕につけていた時計を見て加古は時間を確認していた。それを見て、堤はまずいと思う。その質問に答えちゃダメだ。地獄を見ることになる!!

 

 

「ンだよ。飯食いに行っちゃいけねぇのか」

「ふふふ、いいえ。ただ丁度良かったと思って」

「…丁度いい? おい、何企んでやがる」

「企んでなんかないわ。ただ、どこに食べに行くか決まっていないのなら、私が作りたいと思って」

 

 

 やっぱりと堤は頭を抱えた。

 加古望、彼女は炒飯を作ることを趣味としている。妖艶な彼女が作る炒飯、偏見で美味しいだろうと思ったのが最後。「チョコミント炒飯」で一度死に、頼んでもないお代わりで出て来た「蜂蜜ししゃも炒飯」でまた死んだ。兎に角、彼女自身は何も悪くないのだが、好奇心が堤を殺しに来ているのだ。

 

 

「さっきたまたま桐絵ちゃんにあってね? 最近、炒飯作れてないって言ったら、今日は玉狛に迅さんしかいないから台所使っていいわよって」

「玉狛まで食いに行くのかよ」

「ちょっと場所は遠いけど、飛びっきりのをご馳走するわ」

 

 

 「2人とも防衛任務は入っていないでしょう?」と笑う加古を見て堤は悟った。あ、これは逃げられないやつだ…と。

 

 

「交通手段なら任せて。私が運転するわ。この前、免許取ったのよ」

「車は?」

「東さんのを借りるわ」

「……わーった、早く行くぞ」

 

 

 ガシガシと綺麗な髪を掻き毟った静雅の顔は大して嫌そうな顔には見えなかった。加古の驚異的な炒飯を知らないのか、はたまたは運がよく2割を引いて来なかったのかは堤には分からない。分かることといえばただ一つ。自分は死ぬということ。

 

 

「良かったわ♪ 買った材料が無駄にならなくて」

 

 

 買った食材と聞いて堤は気づいた。どう転んでもこの人は俺たちに炒飯を食べさせる気だったと。ご丁寧に食材まで用意して逃げ道を塞いで来ている。やばい、殺る気だ。

 

 さあ、早く行きましょうと軽い足取りで加古は静雅達の先導をした。

 

 加古の運転の元、玉狛支部へと向かった3人。静雅の数少ない連絡帳に名を刻んでいる迅から「おれ今急用で玉狛に居ないから勝手に入っちゃっていいよ」との連絡があった。堤は迅が逃げたことにより確実に死に近づいていることを悟り、気づかれないよう泣いた。

 

 玉狛に着くと真っ先にテーブルに案内され、「出来上がるまでこっち覗いちゃダメよ」と遠回しの死の宣告を受け、数十分。ニコニコとした顔をした加古が現れた。

 

 

「堤くんにはこれ。静雅さんはこれを食べてちょうだい」

 

 

 堤の前に出された炒飯は基本的に黄色で統一されたものだった。見た目は案外美味しそうで、まさかの初めてのアタリを引いてしまったかもしれないと、戦慄する。逆に、静雅の前には赤…いや、緑の炒飯とは言えない物体が出されていた。それを思わず凝視してしまっている静雅も「これ、食いモンか…?」と呟いてしまっている。心中お察しします。

 

 

「ささ、早く食べて感想教えてちょうだい」

「「…いただきます」」

 

 

 1口食べただけで堤に稲妻のような痛みが身体を襲った。基本的に黄色で統一してあるが、味に統一感は全くなく、甘いような、しょっぱいような、ネチョネチョしてるような、ぐちゃぐちゃしているような、なんとも形容できないこれを炒飯とは呼べない。

 

 

「…加古さん、これ何入れました…?」

「ふふ、それはね? マーマレードに卵、みかんの缶詰(中のシロップ含む)にたくわんでしょ? 後はね」

「──いえ、もう、結構です」

 

 

 少なくともみかんの缶詰の中のシロップは入れないでくれ。そんな堤の悲痛な叫びは加古には届かない。対して、静雅は意外とガツガツと食べていた。見た目は明らかなゲテモノなのに、食べてみると意外と美味しい系なのだろうか?

 

 

「あら、静雅さんの方も気になるの? 静雅さんの方は堤くんとは違ってシンプルなの。抹茶、キムチ、卵よ」

 

 

 ──絶対合わせちゃいけないやつだ!!

 堤は思わず静雅を二度見してしまう。が、静雅に無理している様子はなく、本当に普通に食べている。

 

 

「ンだよ」

「い、いえ…」

 

 

 堤の視線が鬱陶しく感じたのがガンつけてくる静雅。堤は静かに首を横に振った。

 

 

「どう? 静雅さん美味しい?」

「美味しくはねェ。まあ、食えなくはねぇけど」

 

 

 ──食べられるだけで凄いです

 ここに仲間はいなかった。静かに天を仰ぐ堤を見て、何を思ったのか静雅はそれを寄越せと言ってきた!堤はえ?と首を傾げる。

 

 

「だからそれ寄越せつってンだよ!」

「いや、でも…」

 

 

 静雅だって明らかなゲテモノを食している。それを二杯目だなんて自殺しに行くことと同意義だ。そんなことはさせられない。堤はよく知っていた。炒飯二杯目の恐ろしさを。今でも目を瞑ればフラッシュバックするほど、恐ろしく、悲しく、冷たく、死を感じた。

 

 

「俺は腹減ってンだ」

 

 

 あらあらと加古は嬉しそうに笑った。静雅は堤の手から炒飯を取り上げると、ガツガツと口の中へ入れていく。瞬く間になくなっていく炒飯を見て堤は顔を青くした。

 

 

「し、静雅さん…」

「別に大丈夫だ。死なねーよ」

 

 

 予想以上に静雅はケロッとしていた。言葉通り本当に大丈夫そうである。静雅さん一体何者…と震えている間に加古は堤の分の炒飯を作り直そうとしていたので、静雅がやんわり止めていた。

 

 

「堤ハラ痛てーんだってよ」

「堤くんお腹壊してたの? …だから中々炒飯を食べる手も進まなかったのね」

 

 

 自分の中にいる恐怖心と戦っていただけなのだが、利口な堤はそれを口にしない。折角、静雅が平らげてくれた炒飯がまた目の前に舞い戻るなんて悪夢は見たくない。許して欲しい。切実に。

 

 

「どう? 美味しかったかしら?」

「ま、どっちもどっち。不味いな」

「…そう。もっと私も頑張らなくちゃね」

「ああ、せめて食欲がわくモン提供しろ」

 

 

 目的の昼飯を食べ終えた3人に玉狛に残る理由はない。あまり長居してもあれだから、と早々に帰って行く3人。静雅は実家の店番があるからと途中下車し、加古はこのままボーダーに向かってもいいのかと堤に問うた。堤は大きく首を縦に振り、なる早でボーダーに向かって欲しいと言う旨を加古に伝える。

 こうして加古の運転でボーダーに帰ってきた堤はある人物を探し出した。

 

 

「迅!! 静雅さんって、本当に、本当に凄い人だ!!!」

「…あ、そっちの未来行ったのね?」

 

 

 ボーダーの食堂で陽太郎と昼食を摂っていた迅の肩を鷲掴み、一人ペラペラと今日あった出来事を堤は話す。

 

 

「静雅さんはサラッと俺の分の劇物まで食べたんだ!!」

「静雅さんって取り敢えず食べれれば満足する人だから」

「口は悪かったけど!! 俺の未来まで助けようとしてくれた!!!! というか実際助けられた!!!」

「あ、うん。分かったから取り敢えずおち」

「でも、アレを連続して食べれるなんて俺ちょっと心配なんだよなぁ。帰り道倒れたりとか」

「──あ、諏訪さん? ちょっと堤を回収して欲しいんだけど。え、無理? 風間さん寄越す? あ、了解しました。なる早でお願いします」




 

Q.玉狛が留守って、メンバーのみんなはどこに居たの?
 A.小南は綾辻の家で女子会をする予定なので、本部で暇つぶし。レイジさんは防衛任務、林藤支部長は本部で会議中、迅さんは陽太郎を連れ逃亡。

Q.どうして玉狛なの?
 A.加古さんや黒江はファンブックを見れば大体の入隊時が分かるが、他のメンバーは分からないため、隊を作っているのか不明。その為、ソロにしたら「あれ、ソロにしたら隊室なくね?」と気づき書き直すのもぶっちゃけ面倒だった為無理矢理ねじ込みました。

Q.加古さんは炒飯を元々から作る気で居たの?
 A.YES。そもそもは家で作るつもりだったが、小南から玉狛に今日は人がいないと聞き、運がいいことに堤という名の被害者を見つけたので、何がなんでも作るつもりだった。

Q.炒飯を食べた後、静雅の身体に異変はあった?
 A.特になかった。基本的に不味くても食べ物だったら全て完食するのがモットーに加え、味のストライクゾーンが広く、銀魂のダークマター程のゲテモノが現れない限りは、生きられる。

Q.迅の見てた未来にはどんなのがあったの?
 A.堤、静雅、そして諏訪が巻き込まれていた未来や、加古がもう少し来るのが遅かったら太刀川も合流しており、太刀川も死ぬ未来があった。他にも風間が合流してキノコカレー炒飯でアタリを引く未来もあった。ちなみに堤と静雅は1週間前から炒飯を食べる未来が確定していた。

Q.なんで最近更新速度上がってるの?
 久しぶりに投稿したら反響があったことや、ネタが思いつくから。久しぶりにアニメ見直して「イコさんかっけぇ!! それより隠岐くんの方がイケメンや!!!」とテンションが爆上がりなため。元々は風間さんやカゲ推しだったけど今は完全に生駒隊推し。どうにかして隠岐落ちの小説を作れないか模索中。


 感想をくれる皆様、本当にありがとうございます! 返信は遅いかもしれませんが、いつも噛み締めて読ませて頂いております!! 少なくとも更新が続いているのは生駒隊効果だけではなく、感想をくれた皆様のおかげでもあります!!
 これからも可笑しな点があれば(優しく)教えてください。見捨てないで頂けるとありがたいです!!!


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第18話

 

 結論から言うと今期のランク戦、風間隊は惨敗だった。しかし、この負けはただの負けではない。少なくとも、静雅はレベルアップしたと思っている。

 

 

「…本当にアタッカーやめちゃうんですか」

 

 

 太刀川や迅に手伝ってもらい、スナイパーとしての実力をつけた静雅。まだ東のように上手くはいかないが、我流でここまで行けるのは中々だと太刀川達に褒められた。ちなみに誰かに師事されるつもりは無い。静雅のプライドに関わる問題だ。

 

 

「菊地原、何気にしてんだ」

 

 

 今期のランク戦で静雅はスナイパーを解禁しなかった。まだまだ修行中だったこともあったし、そんなに急ぐ必要も無いという風間の判断だったからだ。

 静雅がスナイパーに転向する意を伝え、一番驚き狼狽えたのは菊地原だった。静雅が妄想してた菊地原は「当たり前ですよ。連携ひとつ取れないんだから」とか「スナイパーに転向? ぼくの頭狙わないで下さいよ」みたいな嫌味を言われると思っていたのだが、どうやら何か菊地原のことを勘違いしていたのかもしれない。改めて認識しなおさなくちゃな、と密かに思った。

 

 

「だって、ぼくのせいでしょ。静雅さんが…アタッカーやめちゃうの」

「はあ? 誰がンなこと言ったよ」

「ぼくの実力が足りないから。風間さんみたく強くないから、だから…」

 

 

 いつもはネチネチネチネチとうるさいのに、今日に限ってはどうやら違うらしい。いや、ある意味ネチネチネチネチとうるさい。なんだ、病んでるのか。もし病んでるのなら俺を巻き込まないで欲しいと静雅は思った。

 

 

「お前、どのタイミングでもうぜぇな」

「なっ…! うざいって」

「被害妄想も大概にしとけ。また胴体とおさらばしたいンか」

 

 

 くしゃくしゃと菊地原の頭を静雅は撫でる。きっといつもだったら「やめて下さいよ。髪がボサボサになる」とか言ってくるのだろうが、病み期(仮)の菊地原では大人しく撫でられるだけだった。何となく中々懐かない猫を連想してしまった。

 

 

「確かにテメェは弱ぇよ。だから俺が後ろからサポートすんだろうが。ま、あまりにも見るに耐えなかったらテメェの頭をぶち抜くけどな」

「…また、忍田本部長にどやされるよ」

 

 

 本部長と聞いて静雅はガミガミと怒る忍田を思い出した。静雅は基本的に怒った忍田しか見たことがない。不祥事を起こして怒る忍田、太刀川とはっちゃけ過ぎて怒る忍田、大学をサボりすぎて怒る忍田。時々沢村から「忍田本部長の血圧上げないでくれる?」と小言も貰う。

 

 

「アン? あんなの怖くねぇよ。ただのお説教ジジイだ」

「そう言えば、ここ1週間静雅さんが大学に足を運んでないって聞いてカンカンだったけど」

「オイ誰だ忍田にチクッた奴!! 風間テメェか!!」

「…怖いんじゃん」

 

 

 静雅は元々大学に通うつもりはなかった。勉学は前世の記憶も相まって得意ではあるが、特段好きなわけではない。何より学校じたい人間関係というものがあり、それを面倒くさく感じてしまう静雅はボーダーに永久就職を考えていた。しかし、それは忍田と風間の手によって邪魔されることになる。

 

 全国模試だと嘘をついた風間は静雅と共に大学受験を行った。勉強は好きではないが、毎日予習復習を怠っていなかったことや、太刀川がダメ元で大学受験をすると聞いていたので、その勉強にも付き合っていた静雅は、そのお陰か余裕で大学試験に合格。気がつけば大学生となっており、ボーダー内で暴れたのはまだ記憶に新しい。

 

 通うつもりは一切なかったので、大学にほとんど足を運んでいない静雅だったが、専攻が風間と同じということもあり、半ば無理やりにいつも連行されている。

 

 

「おい、話は終わったか」

「…はい」

「ちっ、うるせぇチビだぜ」

 

 

 ランク戦では惨敗してしまったが、この後は風間隊のみんなでご飯を食べに行くことになっていた。反省会と決起会を含めた外食である。

 

 

「ねぇねぇ、ご飯どこに食べに行く?」

「どうせなら静雅さんのお店に行きましょうよ」

「えっ、私ついに親御さんにご挨拶を…! ふふふ、ちょっと照れちゃうねうってぃー」

 

 

 どんな妄想をしているのか分からないがニヤケが止まらない宇佐美。そんな宇佐美を引いた目で菊地原は見る。

 

 

「誰も静雅さんの両親に挨拶しろなんて言ってないでしょ。それに静雅さんと宇佐美さんは付き合って──」

「おっとぉ? 余計なことを言う口はどの口かなぁ?」

 

 

 グリグリとヘッドロックをかけて遊んでいる宇佐美と菊地原を見て静雅は首を傾げた。隣にいた風間が「気にするな」と言うが静雅の中で菊地原ドM説が出来たのは誰も知らないことである。

 

 

「焼くなら自分で焼けよ」

「えー、お好み焼き屋の次男坊でしょ。焼いてくれたっていいじゃん」

「次男坊だからって誰しもお好み焼きを焼くのが上手いとは限らない」

「つまり?」

「俺にお好み焼きを焼く才能は無い」

 

 

 お好み焼きを上手く焼けるかについては比べる必要性すら感じられないが、俄然雅人の方が上手い。静雅が焼くと大半焦げてしまう。それを処理するのはいつも風間なので、風間にしては焦げたお好み焼きこそ真のお好み焼きだと思っていたりする。

 

 

「風間さんが免許取ったことは聞いてたけど、いつの間に車買ったの?」

「静雅に誕生日プレゼントで貰った」

「うぇ、マジ?」

「誕生日プレゼントとは言え、車は凄いな…」

「凄いっていうか普通友達に買ってあげる誕プレじゃないでしょ」

「流石に懐が広すぎるよね…」

 

 

 何故か引かれた目で見られる静雅。とても居心地が悪い。え、普通じゃないの?と静雅は首を傾げるが「もういっそこのまま純粋な静雅さんでいてください」と歌川に肩ポンされた。静雅は更に困惑する。

 

 

「まだ車はいいとして…なんでシエンタ? ファミリーカーじゃなくて普通の軽でいいじゃん」

「いや、これだったらそこそこの人数乗れるらしいし」

「基準が可笑しい」

 

 

 何故か車の種類でネチネチネチネチと言われ始める静雅。そして次に金の大切さについて静雅は問われていた。金銭感覚について14歳に怒られる19歳の図が完成した。

 

 

「静雅さん。お金について関してはもっときっちりしなきゃダメだよ」

「は? してるじゃねぇか」

「してないから言ってるんだって。この前、佐鳥と時枝に焼肉奢ったんでしょ」

「いや、奢ったけどよ…」

「時枝が流石に週一で奢らなくていいって困ってたよ。先輩風吹かせたくなるのもわかるけど、餌付けはしなくていいから」

 

 

 嵐山隊はいつも広報活動だなんだと頑張っているのを見かける。たった1度だけではあるが、静雅もテレビに出たことがあるので、テレビに映る大変さ等を知っているつもりだ。だから思わず嵐山隊を見かけたら色々と買ってあげたりしたくなるのだ。

 

 

「…なんかきくっちーがお母さんに見えるね」

「最近、佐鳥が太り気味な理由が分かった…」

「アイツもいい仲間に恵まれたな」

 

 

 菊地原からガミガミ怒られている静雅を遠目で見ていた3人。三者三様の発言である。

 

 

「佐鳥と静雅さんが一緒に歩いてるの見たことあります?」

「私は無いかな?」

「俺も無いな」

「…傍から見たらあれは飼い主と犬です。めっちゃ佐鳥懐いてますからね。それ見て菊地原も嫉妬してるんでしょう」

「ちょっと歌川、聞こえてるけど」

 

 

 ギンと菊地原に睨まれる歌川。特に怖いという訳でもなかったし、歌川はため息をついた。怒るぐらいなら素直に懐けばいいのにと思うが、そう簡単に行動に表せないのが菊地原かとも思う。急に笑顔で「静雅さん!」なんて走って近寄られても逆に病気の心配をしてしまうだろう。

 

 

「きくっちーって静雅さんのこと好きよねぇ」

「アイツはツンデレですから」

「仲がいいことに越したことはない」

 

 

 そろそろ菊地原と静雅の茶番も見飽きたので、風間の車に乗り込む3人。置いていかれると思ったのか2人も慌てて車に乗り込んだ。

 

 みんなが車に乗り込んで数十分。風間の安全運転の元、お好み焼きかげうらに無事到着した。静雅を先頭に、何故か1列になり、店内入口である引き戸を開ける。

 

 

「あらあら…雅人だけじゃなくて静雅まで女の子を…!」

 

 

 「いらっしゃいませー」と出迎えてくれたのはどことなく静雅の面影がある…母だった。静雅が店内の入口から入ってきたのを察した母はニコニコと笑顔だったが、後ろから宇佐美を見つけた瞬間、顔つきが変わった。

 

 「ちょっとお父さん!!」と厨房にいるであろう父に静雅が女の子を連れてきたと報告をしに行く母。実際問題、静雅1人で連れてきた訳では無いが、訂正が面倒だったので静雅はそのまま放置した。勝手に一人から回っている母のことは忘れ、何故か店内に足を踏み入れようとしない宇佐美、歌川、菊地原を店内に招き入れる。「お邪魔します」と声がけして店内に入っていく3人は何と出来た後輩だろうか。太刀川に見習わせたい。

 

 出来る後輩に若干涙ぐみながらも、静雅は店内を見渡した。店内には雅人が連れてきたであろう友達と風間隊メンバー以外には人っ子一人見えず、そろそろこの店潰れるんか?とは思ったが口には出さない。出したら最後、悪魔という名の母に殺される未来が待ち受けている。

 

 

「あれ、シズさんと風間さんだ! 風間さんお久しぶりです〜」

 

 

 北添は雅人と古い付き合いであり、静雅や風間とも面識があった。静雅と北添は時々一緒にゲームをしたりする仲である。

 

 

「あ、シズさん聞いてくださいよ! カゲがね、ヒカリちゃんに告白まがいなことを」

「──ゾエ」

「ひぇ」

 

 

 北添と雅人、その向かいに北添が言うヒカリちゃんらしき女の子が座っている。ニコニコと北添が何かを報告しようとしたが、ドスの効いた雅人の声でそれは遮られた。

 

 

「は、はははは初めまして!! あ、アタシはに…仁礼光って言いましゅ!!」

 

 

 静雅の視線に気づいた仁礼が慌てて立ち上がった。何故か緊張しているようで、吃り最後に噛んでしまっている。それが恥ずかしいと思っているのか仁礼の顔は茹でダコのように真っ赤になってしまった。

 

 

「影浦静雅だ。雅人のことよろしく頼む」

「は、はい…!!」

 

 

 雅人が連れてきた奴に悪い奴はいないと静雅は確信しているので優しい目で仁礼を見、頭を撫でる。急に頭を撫でられた仁礼は「ほわわわ!!」と謎の擬音を発し、固まった。そんな仁礼を見て静雅は首を傾げるも、撫でる手は止めない。

 

 

「…あれは落ちたな」

「落ちちゃったねぇ。ゾエさんもあの笑みにやられちゃったところあるから」

 

 

 戦闘している時とのギャップに加え、頭を撫でられているという現実に仁礼はオーバーヒートしてしまった。嬉しいけれど過度なファンサは故障の原因になります。数秒も経てば遂に、仁礼の頭から湯気が出始めたので、慌てて北添が間に入って静雅を止める。

 

 

「……ねぇきくっちー。私は何を見せられてるの?」

「落ち着きなよ。妹に接するようなカンジでしょ」

 

 

 嫉妬の炎に燃えた女ほど怖いものはない。目の前で好きな人とのイチャイチャを見せつけられた宇佐美は迷わず心の中のブラックリストに仁礼の名を書き込んだ。アイツは要注意人物だ。あの目…静雅さんを狙っている…!!

 

 

「違うじゃん。私、あんな目で静雅さんに見られたことない!!」

 

 

 宇佐美が一人、ギャーギャーと騒いでいる向かい側で風間は手を挙げ静雅の母を呼んだ。

 

 

「おばさん、豚玉とミックスください」

「あら、蒼也くんも久しぶりね。なになに、これから1人の女の子でも取り合うのかな? 若いわねぇ」

 

 

 宇佐美一人に男4人というテーブルはどうやら静雅の母からするとまるでラノベのような恋愛を想像させたらしい。静雅の母の言葉を聞いた菊地原が嫌そうに「はあ?」と声を出した。

 

 

「おばさん、冗談はよしてくださいよ。誰がこんなメガネ…」

「きくっちー。キミとは1回話し合わなきゃいけないみたいだねぇ」

 

 

 宇佐美が黒い笑みを貼り付け、隣に座っている菊地原にガー!!と腕を広げた。

 

 

「ちょうど私、むしゃくしゃしてたんだよね」

「ちょっと、八つ当たりはやめてくんない?」

「おい、飯は静かに食え」

「菊地原、さすがに店内では暴れるな」

「はあ!? なんでぼくだけ…!」

「…何してンだお前ら…?」

 

 

 焦げていようが焦げてなかろうが、みんなで食べたお好み焼きはとても美味しかった。

 また、みんなでお好み焼きを食べに来れるだろうか──?




 
Q.なぜ菊地原は静雅に対してタメ語なの?
 A.基本的には敬語だけど、風間隊しか周りにいない時は時々タメ語になる。静雅本人も忍田などにタメ口を聞いているので、怒れないし怒るつもりもない。

Q.結局、ランク戦は書くの?
 A.要望が多かったので書くつもりではあるけれど、本編には間に合わなさそうなので番外編で出したいと思う。どの隊がもう結成していて、結成していないのか少し考えさせてください。


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第19話

 

 菊地原と模擬戦したり、佐鳥と時枝を連れて飯に行ったり、歌川と模擬戦したり、佐鳥と時枝を連れて…、風間と模擬戦したり、佐鳥と時枝を…、太刀川を勉強面でボコボコにしたり。兎に角、静雅は充実した日々を過ごしていた。

 

 季節は冬。半袖は仕事の行き場を無くし押し入れの奥深くに封印され、代わりにセーターや長袖、コートなどが活躍する季節。そんな季節のボーダー内では、誰が流したのか分からないが色々な噂が流れていた。曰く、次のランク戦で勝ち上がったものがA級に上がれるらしいとか、A級とB級上位は遠征がどうのこうの。信ぴょう性は全くない上に、静雅は特に興味を示していなかった。それに、そんな噂にかまけている余裕など今の彼にはなかった。何故なら──現在進行形で凍え死にそうだからだ。

 

 今日は特に防衛任務は無く、大学にも顔を出す気にすら起きなかったので、昼過ぎまでぬくぬくと暖かい布団に包まれ静雅は寝ていた。流石にあまり寝過ごす訳にもいかないと少ない良心が働き、起きたのはお昼の13時過ぎだった。若干寝ぼけながら静雅はトイレに向かい…電気をつけた。静雅の家のトイレは窓がなく、光が入らないので、電気をつけないと昼過ぎでも微妙に暗い。その為、カチカチとスイッチを押すのだが一向に電気がつく予兆は見えず、そして気づいてしまった。

 

 

「…電球切れてんじゃねぇか」

 

 

 とりあえず出すものを出した静雅は、ストックの電球を探すが、運が悪いことにストックは無く買い出しに行くしかなかった。家族の誰かに頼もうかとも思ったが、今日一日寝過ごしてぐうたらとしていた静雅の頼みを両親が聞いてくれるとは思わなかったし、双子の兄に頼むのはなんか癪に触る、雅人に頼むぐらいなら自分で買いに行こう、という決断の元、数少ない静雅のジャージを引っ張り出し財布と携帯を持って外に出た。

 

 …ぶっちゃけ後悔している。ホームセンターまでの道のりは長く、そして外も寒い。今、静雅が来ているヨレヨレのジャージでは冷気を通しすぎてしまう。このままじゃ風邪を引いてしまうだろう。目的のホームセンターは見えてすらいないが、このままUターンして帰ろうかと考えが頭をよぎった。…取り敢えず寒いからここでUターンして、今日単独で防衛任務に出ている風間にでも買ってきてもらおう。雅人には頼めないが、風間だったらいいだろうという判断だった。

 

 考えが纏まった静雅は素早くUターンする。そして、一歩踏み出すとジャージの上着のポケットに入っていた携帯が着信を知らせてくる。

 

 相手は迅だった。ぶっちゃけ出るのが面倒。寒い。帰りたい。…無視するか。数秒間、着信は鳴り続けるが無視していると、着信は途切れた。そしてまた鳴り始める静雅のスマホ。これは無視しても意味が無いと静雅は悟った。

 

 

「…もしもし」

『あ、やっと出てくれた。静雅さん、頼みがあるんだけど聞いてくれる?』

「絶対ぇヤダ」

『そんなこと言わないでさー』

 

 

 今すぐ通話を切ってしまいたい気持ちでいっぱいだった。近くでめっちゃ関西弁喋ってるダルそうな男がいるので早々にこの場を後にしたい。

 

 

「アカン、迷ってもうた。どこやねんボーダーて。そもそも普通、上京したての雛を1人で放り出すか? 俺に死ね言うてんのかい」

『静雅さん聞いてる? 多分、今日、静雅さん道に迷ってる人を見かけると思うんだけどその人助けてくんないかな? その人、この先のボーダーでかなり重要になって──』

「マジでヤダ」

 

 

 ダルい。何がダルいってめっちゃ個性がありそう。マシンガントークとかしてきそう。偏見でしかないが、兎に角関わりたくない人種だと静雅は思った。

 

 

「アカンわー。誰か助けてくれる心優しい(あん)ちゃんおらんかなー」

 

 

 めっちゃチラチラ静雅を見てくるガラの悪い男。完全に静雅をターゲットにしているようだった。凄く目が合う。早々に帰りたい。ツラツラと1人で何か喋っている迅を無視、通話を切った静雅は男から逃げるように歩き出した。

 

 

「何、俺を見捨てようとしてんねん! これかやら都会はアカンわ」

「あ、多分人違いなんで。太刀川なら多分この先の大学に──」

 

 

 面倒事は太刀川か風間に押し付けるに限る。が、残念ながら相手は手強く、押し付けられてくれなかった。

 

 

「え、タチカワ? だれそれ。そんなかっちょええ名前の知り合いなんて居らんで」

「さいですか。じゃあ俺はここで」

「おい、ちょ待てよ。どこ行くんねん。アンタ、ボーダーの関係者やろ。逃げようたってそうはいかへんで」

 

 

 「ちょ、待てよ」の部分で明らかなキメ顔をした男だが、静雅はガン無視である。打ち合うつもりは無いという意思表示でもある。

 静雅がボーダー関係者と割れているあたり、この男もボーダー関係者なのだろう。どこから情報がわれたとかは一切考えるつもりは無い。なぜなら、ボーダー内で静雅はかなりの有名人である。勿論、悪い意味で。

 

 

「間違ってたらすんませんなんやけど…アンタ、影浦静雅やろ?」

「ア?」

「ちょっと前にテレビ出てたやん。俺、それ見てアンタかっこええなって思ってん」

 

 

 嵐山と柿崎が2人で記者会見をしていた時があったように、風間と静雅で同じような会見をしたことがある。あの時はボーダーも人員増加に力を入れており、なりふり構わないところがあったし、目付きは悪いが、顔の出来は決して悪くない静雅と普通にモテる風間に白羽の矢が立つことは仕方なかった。

 

 

「あの会見後から俺、眼鏡かけてたらモテるんちゃうか思うてずーと眼鏡かけててん。まあ、モテへんかったけど!」

「…で?」

「「…で?」ちゃうわ! 俺、この前ボーダーからスカウトもろて、わざわざ京都から上京してきてん。三門駅まで来てくれ言われたけど、三門駅知らんし。迎えももう帰ってしもうたって言われたから自力で行こう思うてんけど…俺、地図読めへんこと忘れとって……」

 

 

 男が自慢げに見せてくるのはGoogleマップ。それみてボーダーに行けないのはかなりの重症だと静雅は感じた。…どことなく太刀川と同じ匂いがする。

 

 

「ほんま静雅サマに会えて良かったわ。こんまま俺一人やったら飢え死にとか有り得たわ」

「静雅サマ言うな。つか助けるつってねェし」

「てか、眼鏡かけてへんの? あん時かけとったやん」

「ダルい。うざい。1回黙れ」

 

 

 思った通り、話の通じない男だ。無視して男の横を通り過ぎようとするが、腕を掴まれてそれは叶わなかった。掴まれた腕を見つめること数十秒。静雅は頭の中で計算した。このまま、この男を無視して絡まれる方がいいのか、それともちゃっちゃと本部へ送るのがいいのか。…静雅は本部へ送ることを選択した。ぶっちゃけ非常に不愉快ではあるが、このまま絡み続けられるよりかはマシだという判断だった。

 

 

「…わーった。行くぞ、本部」

「はわわ。ありがとさん」

「はわわ…?」

 

 

 

 真顔でありながら、若干空気に星が飛んでいるように思えるこの空間を静雅は見なかったことにして足を進めた。しかしこの後、あれこれと絡まれた静雅は自己紹介させられたり、ちゃっかり三門市案内をさせられることになる。結局どっちを選んでも絡まれる運命にあるのだ。

 

 

「思ったより遅かったね、静雅さん」

「…迅、テメェ殺すぞ」

「痛た、おれは何も悪くないから!」

 

 

 本部前でずっと待ってました、みたいな顔をしている迅の頭を鷲掴んで静雅は言った。その言葉にはかなりの殺意が込められている。さすが関西人。終始テンションは高かった。

 

 

「し、静雅さん、これと交換しよう…!」

 

 

 そう言って迅が静雅に渡したのは、静雅が当初の目的としていたトイレの電球だった。

 

 

「こんなので、許されると思うなよテメェ!!」

 

 

 セクハラエリートは抹殺され、浪速のナスカレーは静雅と仲良くなれた(と勘違いしている)




 
Q.イコさんはスカウト組だけど本当にこの時期なの?
 A.分かりません。生駒隊や弓場対してなどは正確な入隊時が分かりませんので、捏造増し増しです。

Q.静雅はテレビに出ていたの?
 A.実は風間と共にテレビに出ていました。しかし、その放送はボーダー内で黒歴史となっており、上層部にその関連した話を話すと凄く怒られます(特に根付から)。勿論、イコさんはそんなこと知らないので、根付相手にマシンガントークで勝ちました。尚、影浦家と風間家にはダビングしてある当時の放送が残っている模様。


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第20話

 

 隠密機動に特化した新トリガー『カメレオン』と菊地原のサイドエフェクト、そして静雅のサイドエフェクトを駆使した戦法は強力で、確実に風間隊は成果をあげ──遂にA級に昇格することが決まった。

 

 

「A級昇格直後に済まないが、君たちには遠征部隊選抜の試験を受けてもらいたい」

 

 

 真剣な面立ちでボーダー本部、総司令の城戸は風間隊に告げる。忍田に呼び出されることは慣れていた静雅だが、何気に城戸に呼ばれることはほとんど無かったので、大きなやらかしでもしたのかと心配していたが、それが杞憂で良かったと胸を撫で下ろした。

 

 風間隊の前には重々しい雰囲気を纏った上層部が座っている。もちろん、そこには静雅と犬猿の仲である根付も例外なく偉そうに座っていた。

 

 A級に上がってそうも日が経っていない。噂では聞いていたが、まさか自分達にその白羽の矢が立つとは思わなかった。

 

 城戸はネイバーフットへの遠征選抜試験を受けて欲しいと言った。口調はこちらにも選択権があるように聞こえるが、それは聞こえだけで実質こちらに選択権など存在しない。

 

 

「城戸さん」

「何かな」

 

 

 静雅は右手をあげ、城戸に進言する。これだけはこちらも譲れないというものが静雅にもあった。

 

 

「俺と風間が行くことに関しては、何も言わねぇ。だが、他の3人は外せ」

「なっ…!」

「キミは何を言っているのかね!?」

「静雅、理由を聞いてもいいか?」

 

 

 静雅と忍田の目があった。何かしらのアクションを起こした鬼怒田と根付とは違い、城戸は何も言わず、林藤はただニコニコとしている。静雅に質問した忍田は建前上、質問をしているだけで言いたいことは分かっているはずだ。

 

 

「俺と風間は世間一般的に大人の部類に分類される。それに自分のやったことにも責任が取れる。が、他の3人は違うだろ。まだ中学生だ。遠征に行っておっ()にましたじゃ、家族になんて説明をする」

「それはそうだが…」

「だがキミ達の部隊は菊地原のサイドエフェクト有りきじゃないかね!?」

「だからだろうが」

 

 

 いちいち突っかかってくる根付を面倒だと思いながら、静雅は補足の説明をする。

 

 

「この遠征がなんのためにやんのかは知らねぇ。が、少なくとも、全部隊を投入する必要もねぇだろ。ここに全てつぎ込んで失敗した場合、本部の防衛、言い出したら足りねぇ。一番やべぇのはコイツらを連れてって失敗した場合だ。後処理も面倒だが、A級部隊がひとつ丸々無くなることになる。この3人を残しておけば、少なくとも俺と風間が帰ってこなくてもステルス戦法は無くならねぇ。キーマンの菊地原が生きてっからだ」

「……」

「それに風間だけだったら俺の援護のしようもある。コイツとは付き合いが一番長ぇから」

「…静雅の言いたいことは分かった。それはこちらでまた話すことにする」

 

 

 静雅に考えがあるように、上層部には上層部の考えがある。ここで全てを決める訳にはいかないのだろう。

 

 

「影浦は遠征に行くことを前提に話しているが…受けてくれるということでいいだろうか」

「はい。それに関して大丈夫です」

「了解した。その確認のために今日は呼ばせてもらった。下がってもらって構わない」

 

 

 下がれとの命令が下ったので、風間隊は大人しく下がる。部屋を出た途端、静雅は大きなため息をついた。

 

 

「はああああ。俺、アイツ嫌いだわ。いちいち威圧かけてきやがって」

「いつものことだろう。それにしてもよく耐えたな」

「アン? ああ、あのキツネのことか。アイツは…1周回ってどうでもよくなった」

「そうか」

 

 

 スタスタと歩いていく風間と静雅だが、後ろはついてきている気配がなく、2人は足を止めた。

 

 

「おい、何してンだ」

「…風間さん、静雅さん。おれも遠征行きたいです」

「少しでも役にたてるなら俺も…!」

「私も行きたい!!」

 

 

 風間と静雅は顔を見合わせ、またため息をつく。そして、静雅は菊地原達の元へ行くと1人ずつにげんこつを食らわせた。

 

 

「それを決めるのは本部の人間だ。俺にどうこうできる問題じゃねェ。が、例え本部の人間がテメェらを連れていくと言ったとしても俺は抗議するけどな」

 

 

 「分かったなら歩け」そう言って静雅は前にいた風間を追い越し、行ってしまう。その背を見た宇佐美が呟く。

 

 

「…私たちは足でまとい、ってことかな」

「それは違う」

「風間さん」

 

 

 風間も去っていく静雅の背を見つめていた。風間はきっと静雅の気持ちがわかるのだろう。静雅の背を見つめる目はとても優しい目だった。

 

 

「お前達に死んで欲しくないからだ」

 

 

 風間はそう言って、静雅に殴られた3人の頭を撫でると「行くぞ」と声を掛けた。

 

 

 

 

 * * *

 

「静雅も成長しましたね」

 

 

 先程までいた静雅を思い出して忍田が言った。その顔は嬉しそうで、静雅の成長を喜んでいるようだった。

 

 

「…しかし、まさか彼からあんなことを進言されるとは思いもしませんでしたな」

 

 

 あんなこと。それは菊地原達を遠征に連れて行きたくないというものだ。そもそも、上層部も彼らのことについては(あぐ)ねていた。静雅が言ったように万が一のことを考えると、年端もいかない彼らを連れていくのはどうか、と意見が出ていたのだ。勿論、これを進言したのは忍田である。

 

 

「しかし、菊地原達を連れていかないとなると、太刀川隊の出水や国近も連れて行けんことになりますぞ!」

 

 

 若い方がトリオン器官が成長しやすいという理由で、ボーダーの隊員はほとんどが学生である。しかし、それ故に遠征に行ける隊員が少ないとも言えた。

 

 

「遠征と言っても、今回は様子見でしょう。連れていかなくても大丈夫だと私は思いますよ」

「しかし! 万が一のことがあれば…!!」

「あまり隊員を増やすのもどうかと思われる。私が守るにも限界がある」

「なっ…忍田本部長まで行くと!?」

「初の遠征です。東くん1人に全ての責任を、なんて酷な話でしょう」

 

 

 この遠征で決まっているのは、A級(若しくはB級)を遠征隊員として連れていくこと。その隊員は近いうちにある試験で決めるとしているが、元A級1位の部隊を率いていた東と未来予知のサイドエフェクトを持っている迅は行くことが決定していた。

 

 

「せめて自分の身は守れる者を連れて行きたい」

「…鬼怒田開発室長、遠征艇に乗れるのは後、如何程か」

「…忍田本部長が行かれるというのなら後3人が限界でしょう。東くんと迅も乗ることが決定している」

 

 

 「3人…」と小さく根付は呟いた。少なすぎると言いたいのだろう。

 

 

「菊地原達を除くというのなら、メンバーはどうなる」

「…太刀川、風間、影浦、加古、二宮…パッと出てくるのは彼らですね」

「言動、行動には難ありですが、影浦を連れて行けたらサイドエフェクトの恩恵も受けられる」

「影浦を連れて行くのなら必然的に風間もついてきちゃいますね」

「…あの2人の連携は頭一つ抜けている。妥当な判断か…」

「加古はまだしも二宮と影浦は仲が悪い! 遠征艇の中まで喧嘩されたらたまったもんじゃない!!」

「太刀川だ」

 

 

 城戸のその言葉に異論を唱えるものはいなかった。元々、遠征試験をするはずだったがそれはなくなり、次の日上記3名の携帯に通達が行く。

 

 

──近いうちに遠征へ行くことが決定した。明日の15時、本部長室へ時間厳守で集合するように。

 

 




 
Q.太刀川や迅はまだ高校生だけど遠征行っていいの?
 A.太刀川は学校行っても行かなくても頭の中身は変わらないから大丈夫。迅はお得意の決めゼリフで確定。ま、ご都合主義ってことで。

Q.遠征艇編に入るの?
 A.入りません。カットします

Q.静雅と城戸さんは仲が悪いの?
 A.仲が悪いと言える程の仲ではありません。ぶっちゃけると静雅は林藤支部長以外はみんな嫌いです。
城戸→威圧いつもかけてくる。嫌だ。殴りたい
忍田→いつもガミガミうるさい。嫌だ。殴りたい
唐沢→いつも品定めするような目で見てくる。嫌だ。殴りたい
鬼怒田→トリガー面でガミガミうるさい。嫌だ。お腹ぽよぽよしたい
根付→静雅本人は1周回って大丈夫と供述していたが、2人きりになると確実に顔面を狙う。合わせるな危険。
林藤→いつもラーメン奢ってくれる。次こそは奢り返したい

Q.二宮と静雅は仲が悪いの?
 A.城戸の時と同じように仲が悪いと形容できるほど絡みはない。しかし、顔を合わせると5割の確率で口喧嘩をする。一度菊地原が2人に理由を聞くと「「なんか気に食わない」」との事。実は仲がいいのかもしれない。


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第21話

連投①


 

 初の遠征は無事に成功を収め、何度も遠征に向かった。菊地原達も中学を卒業し、高校に進学出来、遠征も解禁となった。

 余談ではあるのだが、菊地原が宇佐美と同じ高校に進学すると聞いた静雅が菊地原に「お前、宇佐美のこと好きなンか?」と聞いた時の菊地原の顔は見るに耐えなかったらしい。(歌川談)

 

 

「私…やっぱり玉狛行くのやめようかなぁ」

「何言ってんの。自分で行くって決めたんでしょ」

「でも、シズさんと離れたくないし…」

「中途半端な奴は静雅さん嫌うよ」

 

 

 宇佐美が静雅のことを好きになってこの約2年間。宇佐美は宇佐美なりに無駄にならないよう努力し、アピールしてきたつもりだ。

 

 風間隊を結成した年のクリスマス。どうにかして静雅と一緒に居たかった宇佐美は風間隊を理由にクリスマスパーティを決行しようとした。しかし、それは失敗に終わる。理由は「家族って…強いね」。

 だが、これで終われるような女ではない宇佐美は次の年もチャレンジした。2人っきりの聖なる夜を過ごすつもりで決死のお誘いだった。結果は「関西人…強すぎる……!!」。

 

 

「もぅぅぅ。助けてよきくっちー…。同じ静雅さん大好き同盟の隊員でしょ」

「何そのダサい同盟。入った記憶もないし」

「何っ!? この裏切り者め!!」

 

 

 風間隊の隊室に向かいながらなんだかんだ楽しそうに話す2人を目撃した人物がいた。その人物はニヤニヤと顔の頬を緩ませながら、静かに後ろから近づいてくる。菊地原のサイドエフェクトが完全に抜けている点を見ると、本当に戦闘以外は使えない頭だと認識させられる。

 

 

「よう、お二人さん。随分、楽しそうじゃねぇか。何? 付き合ってんの?」

「「付き合ってません」」

 

 

 宇佐美と菊地原の肩に組んできたのはボーダー最強(笑)の太刀川だった。何故、(笑)なのかと言うと、菊地原と宇佐美はボーダー最強を静雅だと疑っていないからである。

 

 

「…馬鹿がやってきたよ」

「おいおい、相変わらず口が悪いな菊地原。そういうのは静雅さん見習わなくていいんだぜ?」

「そうだよきくっちー。きくっちーはもう少しオブラートって言うものを覚えた方がいいと思う!」

「余計なお世話」

 

 

 「で、なになに。なんの話してたの」とゲスな笑みを浮かべ、言い寄ってくる太刀川を見て、これが風間さんとの決定的な違いだよなと菊地原は思う。

 

 

 

「シズさんのお話してたんです。いつもお世話になってるから!」

「静雅さんねー。そういや、知ってる? 静雅さん彼女出来たらしいぜ」

「は」

「え」

「おう?」

 

 

 太刀川の言葉を聞いて宇佐美の息が止まった。それに瞬時に気づいた菊地原は宇佐美の肩を叩く。それにハッとなった宇佐美は──倒れた。

 

 

「ちょっ…!?」

「おいおい、宇佐美!?」

 

 

 倒れた宇佐美は責任持って太刀川が風間隊まで送り届けた。

 

 

「うっ、うぅぅ…。私は、もう玉狛に行くもん」

「…さっきと言ってること違うじゃん」

「ううう」

 

 

 運が良かったのか悪かったのか、風間と静雅は隊室にはおらず、風間隊の隊室には使えない顎髭と菊地原、そして遅れてやってきた歌川がいた。宇佐美はあまりの失恋ショックに部屋角で体育座りをして泣いていた。

 

 

「そ、そーいえば静雅さん別れたって言ってたかなー…?」

「もう、いいよ太刀川さん。迷惑かけてごめんね。帰っていいよ…」

「(こんなお通夜ムードで帰れるわけねぇー!!)」

 

 

 自業自得とは言え、太刀川は帰りたい気満々なのだが、ここで本当に帰るとダメな気がする。自分自身の何かが死ぬ気がする…!と頭が警鐘をガンガン流しているので、帰るに帰れなかった。

 

 

「(てか、何。宇佐美、玉狛に移籍でもすんの?)」

「(遠征でネイバーのテクノロジーにやられた宇佐美さんは玉狛に移籍したいと言い張ってましたが、静雅さんのこともあり揺れ動いてたんです)」

「(太刀川さんのあの一言で宇佐美さんは風間隊を辞めることになったけどね)」

「(え、それ、俺…やばくね?)」

 

 

 自分自身の言葉が決定打になったと(アイコンタクトで)聞いた太刀川の顔色は著しく悪くなる。

 

 

 

「(確実に風間さんには殺されるだろうね)」

「(こればっかりは俺にもどうにも…)」

「(あ、フォローの達人 時枝連れてこようか?)」

「(時枝と嵐山連れてこい…! 後、迅だ!!)」

「(どうやったって確実に死ぬと思うけど…)」

 

 

 確実に死ぬ未来が見えて太刀川は泣いた。

 

 

 

 * * *

 

 宇佐美の辞める辞めない騒動が隊室で起きている中、そんなことを露も知らない静雅はランク戦をしていた。

 

──なんか調子に乗ってるウゼェC級がいたからコテンパンにしたら懐かれた

 

 

「えっ、名前静雅って言うの!? 迅さんが言ってた人じゃん」

「アー、アー、ソウデスネ」

 

 

 静雅の周りをずっとクルクル回っている少年は緑川と言うらしい。「しずかん先輩ってよんでいい?」とか聞いてくるあたり、相当人懐っこいらしい。

 

 

「勝手にしろ」

「ほんと!? やっぱり、顔は怖いけど普通に優しいんだね!! 迅さんの言う通りだ!」

「…テメェ、迅の知り合いか?」

 

 

 緑川はキラキラとした顔で「うん!」と頷く。そして、ちょっと前に助けてもらった、とも。

 

 

「ボーダーに入ってすぐ、迅さんに会ったんだ。その時言われたの。影浦静雅っていう人にあったらお前は毎日が楽しくなる!ってね!!」

「今すぐUターンして帰ってくンね? 割とマジで」

「ごめんなさい、無理です!!」

 

 

 ここ最近、歳下に懐かれることが多いなと静雅は遠い目をした。ちゃっかり自分から餌付けしちゃってる佐鳥や時枝は除くとして、あのうるさい関西人(いこま)も迅と同い年だと言うし、緑川(こいつ)は明らかに餓鬼。雅人とマブらしい荒船はパーフェクトヒューマンにならないかみたいなことを熱弁してきた。パーフェクトヒューマンとレイジにどういう関係があるのかは分からない。

 

 

「あれ、静雅さんじゃん!! うわ、ランク戦のブースにいるの久しぶりに見た!!」

「まあ、ここ最近は隊室で模擬戦の方が多かったかンなァ」

「あれ、隣にいるチビってあのスーパー新人(ルーキー)じゃね?」

「おお…! 太刀川隊の射手(シューター)の出水先輩と三輪隊の攻撃手(アタッカー)の米屋先輩じゃん!」

 

 

 「2人も強いんだよね!!」と次は2人の周りをクルクル回り始めた緑川のテンションにやられて「お、おう…?」と返事になっていないような返事をしていた。

 

 

「ねえねえ、しずかん先輩といずみん先輩ってどっちが強いの?」

「しずかん先輩…?」

「いずみん先輩…?」

「大丈夫だよ、よねやん先輩もちゃんとあるよ!!」

「「いや、そういうことじゃなくて…」」

 

 

 蛇に睨まれた蛙のように、怯えた顔をして出水と米屋は静雅の顔色を伺った。

 

 ──いつも静雅は自隊の隊長の首をちょんぱした後、隊室を片付け断末魔をあげる面子丸潰れな隊長を引き摺ってどこかへ消える。

 

 ──ネイバーにかなりの恨みを持っている自隊の隊長は静雅をかなり尊敬していた。彼曰く「ネイバーを恨んでいなくとも、あの殺し方は賞賛に値する」とのこと。

 

 廊下で会ったら普通に話しかけるし、ランク戦だって時々したりするけど、彼らの根底では静雅は“怖い人”である。それ故に、緑川まで首ちょんぱされて、呆気ない終わりを迎えるのかと思ってしまうと、2人の良心が痛む。

 

 

「ちょちょちょ、静雅さん一旦落ち着きましょう!!」

「そうそう!! 流石にこの年齢の子を躊躇いも無く首ちょんぱは酷ですって!!」

「ア?」

「…なに言ってるの?」

 

 

 出水や米屋は知らないことだが、首ちょんぱに関しては既に緑川は食らっている。いや、先程のあれを首ちょんぱと形容していいのか、それは定かではない。

 

 

「いや、だから、あの」

「そのニックネーム…」

「ニックネームがどうしたの?」

「…呼びたきゃ勝手に呼ばせとけ」

「「マジでか!?」」

 

 

 え、意外と優しいの…?と説が浮かんできたところで2人はハッと思い出す。

 

 ──確かに柚宇さんも「太刀川さんには厳しいけど、基本的に怖いのは顔だけでふつーに優しいよ〜」とアイスを食べながら言っていた。しかもそのアイスも「静雅さんに買ってもらったんだ〜」なんて太刀川さんに自慢してた!

 

 ──静雅さんってあれじゃん!! 栞の好きな人!!

 

 

「え、じゃあ俺もしずかん先輩って言っていいんスか!?」

「言いたきゃ言えばいいだろ」

「マジでか!?」

「…いや、いつかどんでん返し来そうだから、ここは静雅先輩で止めとこうぜ」

「それ敬称変わっただけじゃん」

 

 

 少し出水と米屋の心が近づいてほのぼのとしていたが、緑川がハッとしたような顔をして「違うじゃん!!」と大声で言った。

 

 

「うるせぇ」

「いたっ…。じゃなくて、しずかん先輩といずみん先輩ってどっちが強いの?」

「どっちもなにもなぁ…。まず土俵が違うし」

「静雅先輩ってアタッカーとスナイパーの二刀流だしな」

「…え、しずかん先輩ってシューターじゃないの?」

「は!?」

「…ん?」

「(ダリィから帰っていいか…?)」

 




 
Q.原作に一気に近づいたね?
 A.うん。多分、あと一 二話ぐらいで原作突入するかも!!

Q.結局、栞ちゃんはどうなっちゃうの?
 A.恋心のせいで揺れ動いていたけれど、原作通り玉狛に行きます。静雅の中で宇佐美と菊地原が付き合っている説が濃厚でしたが、同時期に烏丸も玉狛に移籍したので宇佐美と烏丸説も濃厚になりました。その為、風間隊とバイバイする1週間前程から静雅が宇佐美に護身術を教えていたそうです。

「烏丸ってファンクラブあっからな…」

Q.静雅は意外と恋バナ好きなの?
 A.全く興味はない。だが、宇佐美と菊地原がもし付き合っていたのなら、多少自分も気を読んでやろうとの要らない配慮のため聞きました。

Q.静雅に彼女がいるのは…?
 A.それはホント。正確に言うと「いた」。静雅は告白さえされれば、断るのが面倒という理由から断ることはしない(被っていなければ)ので、宇佐美達が知らないだけで色んな女の人と付き合ってきてる。

Q.「家族って…強いね」?
 A.正確に言うと家族+ゾエさんと光

Q.「関西人…強すぎる……!!」?
 A.浪速のナスカレーは尽く振られているが、肝心なところで外す狙撃手は珍しく外さなかった…!! 初対面10秒後には佐鳥と時枝の焼肉会にお呼ばれした。後日、ナスカレーが「俺も連れてってや」と泣き崩れていたらしい。

Q.静雅のシューター疑惑はなに?
 A.宇佐美にいちいちトリガーを変えてもらうのが面倒になり、自分でやってみたところ全てをひっくり返した。何がどのチップか分からず、適当に入れたらシュータートリガーが入ってた模様。ついくせで首を狙い、緑川の首から上を吹き飛ばした。

Q.荒船のパーフェクトヒューマンとは?
 読者の皆様には某サングラスのオジサンが頭の中にあると思われるが、それは間違いである。荒船は熱心に木崎レイジのことを語っており、荒船自身も「パーフェクトオールラウンダー」と正確に伝えている。静雅の頭の中で色々と変換された故に出てきた言葉。

Q.感想欄で静雅の「鬼怒田さんのお腹をぽよぽよしたい」が好評ってホント?
 A.多分ホント。本編じゃ書いてない完全な裏設定だけど、静雅は何故か宇佐美に頼らず自分でトリガーをセットしようとして全てをひっくり返すという所業を何度もしてる模様。それを聞いた鬼怒田は静雅に口うるさくガミガミと注意するのだが、静雅本人はマスコットとしか認識していない。


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番外編2-1

連続投稿②。
ただの設定番外編。見ても見なくても対して変わらない。


名前:影浦(かげうら) 静雅(しずか)

 

PROFILE

︎ポジション :スナイパー

  年齢  :21歳

  身長  :180cm

 誕生日  :12月25日

  星座  :かぎ座

 血液型  :A型

  職業  :大学生

 好きな物 :家族、チーム、喧嘩、ランク戦

 

FAMILY

父、母、兄、弟

 

PARAMETAR

︎ トリオン :10

︎  攻撃  :10

防御・援護 : 8

  機動  : 9

  技術  : 7

  射程  :10

  指揮  : 4

 特殊戦術 : 1

 トータル :59

 

TRIGGER SET

・メイントリガー

イーグレット

シールド

スコーピオン

カメレオン

 

・サブトリガー

バックワーム

シールド

スコーピオン

FREE TRIGGER

 

Side effect

 特殊体質のランクBである「強化空間認識能力」。真上から見下ろした視界を見ることが可能。オンオフは切り替えられなく最低で半径1kmまで抑えられる。が、時々処理しきれなくなった脳がパンクすることがある。

 

ガルダ様がイメージイラストを描いてくださいました。ありがとうございます!

 

【挿絵表示】

 

 

裏表紙風イラスト

 

【挿絵表示】

 

 

『すぐに貢いじゃう男 シズカ』

 根付さんの顔を見ると取り敢えず殴ってしまう問題児。目付きは怖いが一度心を許されると顔を合わせる度に貢がれる。貢いだ最高額は風間に買ってあげた車。

雅人とは違ってサラサラストレートなので、突然 野球もしくは仏門に目覚めることは無いと思われる。

実は隠れ眼鏡キャラ(勉強中しかつけない)

 

【人物像】

 転生してきたヤンキー(笑)。前世の親がクソだった理由から大人を嫌い、歳下には甘い。

 転生してすぐに風間と会えたのは本当に運が良かった。弟なのにお兄ちゃん属性を持つ風間と共に行動することで、まともな人間に近づく。

 

 ボーダーで一番最初にやらかしたのは根付をぶん殴ったこと。それも馬乗りになってタコ殴り。その原因はボーダー記者会見らしいが、詳しいことは誰も口にしないらしい。

曰く「あれはどっちもどっちだよね…」

  「あれでも静雅は我慢した方だ」

  「何あれめっちゃかっこええやん。俺もメガネつけよ」らしい…。

 もちろん、弟の雅人も静雅が根付をタコ殴りにしたことは知らなかったが、兄弟の血は抗えない。原作通り減点を食らい、B級へ降格する。

 

 怖い人相や喋り方とは裏腹に前世の記憶も相まって成績はボーダー内のトータルで見てもトップクラス。小・中・高とテストの点数は最低で90点である。大学の専攻は(いつの間にか)風間と同じにされており、静雅の単位がいつもギリギリなことを危惧した風間がよく太刀川もついでに引き摺って大学まで連れて行く。成績が悪い太刀川の勉強は静雅と風間が基本的に見ており、あからさまに逃げ出したら首ちょんぱ、隙をついて逃げ出したらカメレオンで攻撃と太刀川本人はかなり詰んでいる。何故か唯我から怯えられているが、静雅は唯我の存在に興味を示していない。

 

 風間の兄である進の師匠をしていたことを理由に、林藤とは仲がいい様子。風間隊は城戸派閥に所属しているが、静雅本人は完全無派閥。城戸の指令には独断行動もプラスされ、忍田の指令には若干の反発が入り、林藤の指令には大人しく従う。

 

 

【容姿】

 静雅本人の人相はかなり悪く、視力が弱いくせにメガネを掛けないため基本的に睨んでいるのが通常運転。頑なにメガネは勉強の時にしかつけない。尚、メガネを掛けた普通の人相の静雅はかっこいいらしい。

 

 耳たぶに2つ、軟骨に1つピアスを開けている。ピアスを開けた理由は、何となく開けてみたかった。初ピアスは調子に乗って画鋲で穴を開けた。が、血が止まらなくて少し焦っていると、ゲーム機を借りに来たゾエが目撃、テンパり救急車を呼びかけたという逸話がある。真偽は定かではない。

 

 

【交友関係】

 意外と押しに弱く、犬のように懐く佐鳥や緑川に弱い。気がつけば散財している。しかし、後悔はしていない。頑張っている人間には沢山ご褒美を与えてしまうらしく、嵐山隊はお茶請けに困ったことがないらしい。

 風間隊の隊員である菊地原も表面上には出さないが静雅をしたっており、静雅本人はそれに気づいていない。けど、無意識に甘やかす。

 

 生駒隊の隊長 生駒が大層静雅を気に入っているが、本人はそれに無視を決め込んでいる。どことなく太刀川と同じような匂いがするので、静雅から生駒への扱いは結構酷い。

 

 恋心にはめっぽう疎く、宇佐美や仁礼の恋心に気づかない。なんなら、宇佐美は菊地原か烏丸とくっついていると勘違いしているし、仁礼は雅人の女だと思い込んでいる。

 

 人相は悪いが意外とモテ、コロコロと彼女が変わる。本人から告白したことはなく、必ず相手から。家まで送ったり、デートしたりとリア充っぽいことをしたりするが、すぐに面倒になって振るのがいつものパターン。勿論、風間はそれを知っているし、時々太刀川が大学でリア充静雅を目撃したりする。

 

 サイドエフェクトを一応持っているが、何気に本編で有効活用出来た場面は少ない。サイドエフェクトの影響か人混みには近づきたくないようだが、いつもの腹いせに無理矢理太刀川が祭りなどに連れて行ったり、静雅のサイドエフェクトの存在を知らない生駒が目的場所を告げずになどに連れ出したりする。太刀川はいつもの如く死に、生駒は隠岐の存在のおかげでギリ生きる。

 

 

【戦闘能力】

 戦闘スタイルはサイドエフェクトを駆使したスナイパー。元々、アタッカーで風間の相方をしており、太刀川や迅などに勝ち越しアタッカーランク1位の座に君臨していた。ランク戦の菊地原の首ちょんぱしたことから上層部に減点を食らい、今では20位ほどに下がってしまった。尚、本人は気にしていない。

 サイドエフェクト故に、スナイパー殺しのスナイパーと言われており、遠くから殺そうと引き金を引こうとしても引く前に見つかり脳天を撃たれ、近づいて殺そうとしてもスコーピオンで首ちょんぱされる。スコーピオン使いの強化版荒船。荒船には目をつけられており、顔を合わせる度にレイジの凄さについて語られる。

 

 シュータートリガーはほとんど使ったことがないが、それなりに才能はある模様。予め弾道を設定できることを知らない静雅は、シューターはいちいち弾道をリアルタイムで設定しないといけない面倒なポジションだと勘違いしているので、その勘違いが消えない限りはシューターはしない。この勘違いの原因は近くにシューターの天才、出水がいるからである。



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番外編2-2

 

Q.影浦静雅についてあなたはどう思っていますか?

 

 A.風間蒼也の場合

 昔と比べると随分成長したような気がするな。相変わらず大学に行くのを面倒がるのは成長を感じられないが、菊地原達が懐いているところを見ると俺も感慨深く感じてしまう。宇佐美が奴に好意を持ったのはかなり意外だ。アイツは身内にしか執着しない。宇佐美の恋心がアイツをいい方向に進ませてくれるのなら、尚のこといいと思っている。どうせなら身近なもの同士でくっついて貰いたいものだ。

 

 

 A.菊地原士郎の場合

 最初は凄く嫌いだったよ。自分が一番、強い俺に合わせろ、ってな感じで。風間さんがいなかったら完全に孤立してたと思う。けれど…深く付き合っていく内に、あの人もただ不器用なだけなんだなって気づいちゃったんだよね。今じゃ嫌いって言うより、心配の方が強いよね。いくら幼なじみとはいえ、風間さんに車を買ってあげる神経は可笑しいと思う。しかもファミリーカーって…。風間さんが家庭を持つのはまだまだ先だと思うけど…。取りあえず佐鳥を太らせるのはやめてよね。根付さんの小言がこっちに回ってくるんだよ

 

 

 A.歌川遼の場合

 見た目が凄い怖い感じで、自分とは相容れない部類の人だと勝手に思ってました。けど、話してみると全然違って。隊室で勉強してて手こずってたら、さり気なく答えに誘導してくれるんですよ。教え方も上手くて。風間さんが言うには成績凄くいいらしくて、容姿で損しちゃってる部類の人かなと。でも、言いたい人には言わせておけばいいんです。俺たちが静雅さんの良さを十分知ってますから。

 

 

 A.三上歌歩の場合

 宇佐美さんからある程度お話は聞いていましたので、引き継ぎは結構簡単に行きました。でも、想像以上に目付きが悪くて、少しびっくりしたのを覚えています。静雅さんってさり気なく飲み物やお茶菓子を出してくれたり、報告書とかも気づかないうちに纏めてくれてたりして、抜かりないなと思います。強いて言うなら、2日に1回宇佐美さんからかかってくる電話が怖いです。

 

 

 A.太刀川慶の場合

 めちゃくちゃ強い!! これに限る!! 後、頭が良くて普通に怖い!! 俺を回収する時さり気なく隊室を片付けて行くからホント出来た人だよな〜。一緒に勉強してるとよ、隣り見たら静雅さんがメガネかけてんだけど、それがかっこいいことかっこいいこと。そりゃモテるわなーって思って迅と話してたら、生駒がそれ聞いてたみたいで…。後でめちゃくちゃに殺られましたな。うん。

 

 

 A.出水公平の場合

 時々、シュータートリガーを使ってる静雅さんを見て震えるよな〜。やべーもん。静雅さんってさ、トリオン量もそこそこあるし、サイドエフェクトもあってバイパーとかマジでやばいから。槍バカが秒殺されてたし。太刀川さんとの付き合いを見てるとめちゃくちゃ怖いイメージあるけど、普通に飯連れてってくれるし、時々勉強も見てくれるし、容姿はともかく俺もあんな大人になりてぇ〜。ん? 太刀川さんは戦闘面を除いて論外だろ。

 

 

 A.国近柚宇の場合

 ん〜? 静雅さん? 静雅さんはね〜、いつも隊室を片付けてくれるし、お勉強を頑張ったらご褒美にゲームを買ってくれるのだよ。飴と鞭の使い方が上手だよね〜。そりゃ、栞ちゃんも恋しちゃうわけさ。すぐ暴力に行かなければ、私も恋してたかもなー。

 

 

 A.唯我尊の場合

 影浦静雅の名を聞いた瞬間逃走。

 データ無し

 

 

 A.当真勇の場合

 お、静雅さんについて聞き回ってんの? そりゃまた命無くすようなことするなぁ。まあ、俺はそう言うの嫌いじゃないぜ。静雅さんってスゲー家族思いだよな。いつも廊下ですれ違ったら「雅人と仲良くしてくれて助かる」って言われるもん。時たまジュースも貰うな。なんやかんやカゲが純粋でいられんのって静雅さんのおかげかもしれねぇよ。

 

 

 A.緑川駿の場合

 しずかん先輩はね、迅さんが凄くべた褒めしててさ!! 全然勝てたことがないって言ってて、俺も調子に乗って戦い挑んじゃったんだよね…。使い慣れてないシュータートリガーで瞬殺だよ!? やばいよね!! 身のこなし方とか教えてくれてさ、勉強とかも教えてくれるの! 夜遅くなったら家まで送ってくれるし、本当におれが男で良かったよ!! おれが女だったら絶対に好きになってたもん!! ていうか普通に好きだし!!!

 

 

 A.嵐山准の場合

 はっはっは、静雅さんには1度も勝てたことないなぁ。あの人はなんというか…うん、近所のおじさんのような感じでいつも接してしまう。廊下で出会ったら「いつもご苦労。ちゃんと寝てんのか」って声をかけてくれるし、週一で隊室にいいとこのどら焼きを貰うしな。充と賢がお世話になってるみたいで本当に頭が上がらないよ。

 

 

 A.時枝充の場合

 静雅さんと出会ったのは…ランク戦のブースでかな。いきなり「お前、嵐山の部下だろ」って話しかけられて。カツアゲでもされるのかなって思ってたら「メディアに出ることって大変だと思うけど頑張ってくれや」ってジュースくれて。最後の去り際に「菊地原が世話になってる」ってさ。スマートだよねぇ。意外とあの二人って相思そ「余計なことは言わなくていいから」…だそうです。

 

 

 A.佐鳥賢の場合

 静雅さんがスナイパーに転向してきて、おれがトリガーを教えてあげよう!と思って近づいたのが最初だったかな。え? おれが教えてる想像が出来ない? …ごもっとも。いつの間にか立場が逆転してて、二人でツインスナイプの構造について頭悩ませてたんだよぉぉぉ。おれがさ、ツインスナイプやりたいって言ったら大抵の人ってバカにするんだけど、静雅さんと嵐山さんだけはバカにしなかったんだよね。後、とっきーも。

最近、週一でご飯連れてってくれるんだけどさ、おかげで5キロも太っちゃって!! 衣装さんと木虎にめっちゃ怒られた…。暫くは禁止だって…。うぅ…おれの癒しの時間がぁぁ…。

 

 

 A.木虎藍の場合

 時枝先輩や佐鳥先輩にはお話をお伺いしていましたが、私は相容れない人間だと思っています。すぐに暴力で解決しようとしたり、独断行動が目立つ。それに、あの人がやった記者会見の話聞いた事あります? 本当に凄かったらしいですよ。え? 生駒先輩? ああ、あの人は頭のネジが足りてないんです。あんな記者会見を見てボーダーに興味を持つなんて。……あんな人のどこが緑川くんはいいのかしら。

 

 

 A.加古望の場合

 みんなはいつも私の炒飯を美味しいと言って食べてくれるけれど、静雅さんだけは違うの。本当の感想を教えてくれてね。あの人を見てて特にスカッとするのよ。時々、太刀川さんを引き摺って隊室まで足を運んでくれるのだけれど、私の炒飯を食べさせて太刀川さんを往復ビンタした後、こう言うの。「炒飯(コレ)と勉強どちらが地獄だ?」って。私の炒飯があまりにも美味しくて地獄を見てしまうだなんて料理人としては嬉しい言葉だわ。

 

 

 A.三輪秀次の場合

 …太刀川や迅と縁が深い奴だからあまり好きではない。しかし、あのネイバーの殺し方には尊敬する。どのトリガーを使っても木っ端微塵に殺す。特にスコーピオンを使っている時は気迫も凄まじい。俺も見習いたいと思っている。

 

 

 A.米屋陽介の場合

 静雅さんって強ぇーからさ、ランク戦とかやってもすぐ殺されんだよなぁ。太刀川さんとは違う強さって言うの? 太刀川さんの強さにも憧れるけど、静雅さんの強さにも憧れるよな! え? 太刀川さんと静雅さんの決定的な違い? そりゃアレだろ? 懐のでかさと頭の中だろ。太刀川さんって加古さんの炒飯の生贄を替わってくれる人をいつも探してっし。静雅さんは飯奢ってくれるかんなー。

 

 

 A.奈良坂透の場合

 ネイバー、人間を撃つ精密射撃はとてつもない。スナイパー殺しのスナイパーと言われるだけはある。が、ほとんど訓練には姿を出さないからもったいないと思う。あれ程の技量を持ち合わせているんだ。もっと腕を磨けばいいのに、と。

 

 

 A.古寺章平の場合

 影浦静雅ってあの人ですよね。……宇佐美さんが好きな人。宇佐美さんってああいうヤンチャ系が好きなんですかね。僕はてっきり菊地原のような…。……ダメだ考えてたら病んできた。訓練行ってきます…。

 

 

 A.木崎レイジの場合

 迅と時々陽太郎が世話になっているからな。玉狛に遊びに来た時はめいいっぱい美味しいものを食わせているつもりだ。最近は玉狛に足を運ぶ回数も少なくなってしまって陽太郎が駄々を捏ねることがある。そろそろ招待しようかと思っている最中だ。

 

 

 A.小南桐絵の場合

 はあ? 私と静雅さんどっちが強いかですって? そんなの私よ…と言いたいとこだけど、さすがにそうは言いきれないわね。最後に戦ったのは私が本部のトリガーを使ってた時だから…結構戦ってないわね。双月使えば勝ち越せるかしら。思い立ったら吉日! 静雅さんを玉狛に呼ぶのよ、とりまる!!

 

 

 A.烏丸京介の場合

 静雅さんとは太刀川隊にいる時からの付き合いッスからね。あの人、意外と周り見てるんスよ。自分への好意にはめっぽう疎いですけど。何故か俺の兄弟の誕生日まで把握してた時は驚きましたけど、静雅さんは色々くれるから好きです。弟達も静雅さんに会いたがってますから、時間があればお好み焼きかげうらには顔を出そうかと。

 

 

 A.宇佐美栞の場合

 シズさんはねー、男としてのワイルドさを持っていながら、知的でもある。空気が読めないようで読めて、メガネを掛けたシズさんなんてもう!! 神!! ゴッド!! だよ!! 唯一の気がかりは、本部にいた時とは違って気軽に会いに行けないことと、みかみかが静雅さんに恋をしないかということだけだよね…。

 

 

 A.二宮匡貴の場合

 太刀川と同じ阿呆かと思ったら違う部類での阿呆だった。勉強面は強いが、戦術に対する頭脳が丸っきり足りていない。所詮あの人も風間さん有りきの力だ。…それに東さんを呼び捨てにするなど、神経を疑う。

 

 

 A.犬飼澄晴の場合

 あははー、時々二宮さんと廊下でメンチ切りあってるの見かけるなー。あれ面白くてさ。数秒間睨み合ったかと思えば同時に舌打ちして、また睨んで、胸ぐらつかみあって「真似すんな!!」って! 双子ですか、ってカンジだよねー。ん? 静雅さんとの仲? あんまり関わりはないけど良好だと思うよ? カゲには嫌われてるけど静雅さんには嫌われてないみたい。時々ジュース奢ってくれて「これからも雅人のことよろしくな」って。過保護だよねぇ…。

 

 

 A.辻新之助の場合

 ボコボコにされてボコボコにされてボコボコにされた記憶しかありません。あの時は…トリガーを間違えたとかで孤月を使っていて、それが俺と静雅さんの初めてのエンカウントだったので、弟子入りを志願しました。しかし、断られた後に太刀川さんに突っかかられてて、ブチ切れてたのが印象的です。

 

 

 A.氷見亜季の場合

 私はそこまで関わったことありませんから…。栞ちゃんが好意を抱いている人ってだけで何も知りません。

 

 

 A.影浦雅人の場合

 俺のかっこいい兄貴。それ以上に言葉があんのかよ。まあ、強いて言うなら早く光とくっつけってことだな。

 

 

 A.北添尋の場合

 カゲがボーダーに入った理由の大半は静雅さんだし…まあカゲの場合はサイドエフェクトもあったからなんだけどね。カゲがボーダーに入るってなった時、ゾエさんだけ静雅さんに呼び出されて頭下げられたんだよ〜。ね、意外でしょ? 「雅人の横に居てくンないか」って。弟のために歳下に頭を下げれる静雅さんをゾエさんは尊敬するよ。

 

 

 A.絵馬ユズルの場合

 オレが光に無理矢理隊に入れられたって聞いて凄く心配してくれた。本当に嫌なら俺に言えって言ってくれて。カゲさんとは違う兄貴タイプだなって思ったのが印象的かも。

 

 

 A.仁礼光の場合

 静雅さんってさ、こうズバババって敵を倒していくんだよ! え? 分からない? おいおい、カゲならわかってくれるぞ! …もうちょっと分かりやすく…じゃあこれだな! ズキューンのズバババだ!! ちなみにそのズキューンで私のハートは射抜かれた!! さすがスナイパー!

 

 

 A.生駒達人の場合

 え? 静雅さんのこと教えろ? んなもん簡単やないかい。「ヤバい」これに尽きるやろ。何がヤバいて…それはアレや。顔面や。隠岐とはまた違うベクトルのイケメンやで。ヤバないか? しかもメガネ掛けたらもっとイケメンて…ヤバいやろ。しかもヤンチャ系に見せかけてめちゃくちゃ頭ええやん。何あれファンごっつもぎ取って行っとるで。ええな、俺もみんなにヤバい奴言われたいわ。「イコさんは違う意味でヤバいからええんとちゃいます?」 違う意味てなんやねん。俺もあんなんなりたい。サンタに頼めばどうにかなれへんかな?「なるわけないやろ」

 

 

 A.水上敏志の場合

 あの人はなぁ。ヤバいやろ。時々、本当にウチの隊長殺すんちゃうか思うてヒヤヒヤすんねん。しかもウチの隊長も結構ヤバいから気付かへんねんなぁ…。何あの二人の歪な関係。太刀川さんとの関係とはまたちゃうやん。せやかて、一番ヤバいのはあそこまで嫌われとってもアタックするウチの隊長の図太い神経やろ。俺は無理や。心折れる。「何言うてんねん。俺は嫌われとらん」ちゃうやん。イコさんがそれ言うたらあきませんやん。イコさんアレ行きましょう。「ド派手に──」「あかんそれ怒られるやつや!!」

 

 

 A.隠岐孝二の場合

 あの人ヤバいですやん。めっちゃ焼肉連れてってくれるんですよ。「俺、静雅さんから誘われたことないわ」 …あはは、イコさんそれ一旦置いときましょ。まあ、話もどるんですけど、静雅さんってどれだけ金持っとるんですかね? あの人普通に万札出しますやん。マジでビビりますわ。盗んできたとちゃうの?って思った時もありましたね。A級ってそない凄いんですか? 固定給バンバン出るんですかね? 「なんやねんお前。奢っとって貰って金のことしか話しとらんやん」 ちゃいますやん。今からごっつかっこええ話するんですやん。水上先輩、茶々入れんといてくれます? …時々、射撃教えてもろうてるんですけど、めっちゃ優しくて本気で惚れてまいそうになりますわ。スコープ覗いてるあの人の横顔、アレホンマにヤバいんで。「スコープ覗いとる静雅さんと隠岐どっちがモテるん」 何度も言わせんといてください。俺、全然モテませんから。とにかく、あの色気はヤバいですわ。

 

 

 A.南沢海の場合

 はい!! あの人のログ2000万回見ました!!「何堂々と嘘ついてんねん」 ごめんなさい、嘘吐きました!! 影浦静雅さんってあれですよね! イコさんが求婚して尽く振られてる人!! 「気色悪いこというなや。誰がイコさんと静雅さんのカップリング見たいねん!」「ええやん、俺と静雅さんのカップリング。売れるで」「何がや!?」 ちょっと、俺のインタビュー中なんだから入ってこないで下さいよー!! …2000万回見ました!! 「また最初から始めるんかい!!」

 

 

 A.細井真織の場合

 あれや、あの人に1回話しかけられてんけど、風間さんと勘違いされてん。「おい風間、なんでオペ服着てんだ」って言われてマジでビビったわ。あれがあの人と初エンカウントやったし。勘違いって気づいてからはめっさ謝られてん。「え、静雅さんって謝れるん?」 なんやろ、あの人見とると二宮さん思い出すねん。んでな、次の日めっちゃ果物詰められたダンボールが隊室ん前に置いてあって。「あの果物って静雅さんからのやったん!?」 後から聞いた話やとそうらしいねん。せやかて、果物って生もんやろ? 10箱のダンボールに詰められた果物をさすがにウチらで対処できるはず無くて、ボーダーで配ったんやけど…。「あれはわらしべ長者だったわ」「嵐山とかめっちゃお返しくれるんやもんな」「迅さんからのぼんち揚が一番しょぼかったよね!!」「「それは言うなや!!」」

 

 

 A.東春秋の場合

 静雅を見てると若いなって思うよなぁ。なんだろ、青春してる感じに見えるんだよ。時々おじさんには眩しくて仕方ない。でもな、いつ根付さんとエンカウントするのかってこっちがヒヤヒヤするのは嫌だな。根付さんを殴りに行く時が静雅は一番素早いから。

 

 

 A.奥寺常幸の場合

 一度、見ちゃったんですけど…あの人、笑って根付さんの顔面殴ってました。サイコパスですよ!! あれ凄く怖くて、暫くはボーダーに行けなかったし、悪夢に魘されたし、ぶっちゃけ顔を直視出来ません…。

 

 

 A.小荒井登の場合

 なんかめちゃくちゃ奥寺がビビってるのは確かッスね。俺は特に怖い印象は持ってなくて、ボコボコにやられた記憶しかないです。でも、それもある意味当然で、俺の後に辻さんまでボコボコにやられてましたもん。すげーなーって思いました!

 

 

 A.人見摩子

 とりあえず奥寺くんにトラウマを植え付けてるみたいなので近づかないで欲しいかな。何かあったら忍田本部長を呼ぶ準備は出来てます。

 

 

 A.来馬辰也の場合

 一度、太一が静雅さんをブチ切れさせたことがあってね…。あれは本当に、うん、太一が悪くて…。後日お詫びに行ったんだけど、もう二度と太一と会わせるなって言われちゃって…。いや、あれは本当に、太一が悪いからなんとも…。

 

 

 A.村上鋼の場合

 荒船からカゲの兄さんだと紹介してもらった。荒船的には静雅さんをパーフェクトオールラウンダーにさせたいらしいが、本人には全くその気がないらしい。俺が1度も勝てたことの無い人の1人だ。

 

 

 A.別役太一の場合

 あの時の気迫は殺されるかと思いました…。たまたま忍田本部長が通りかかっていなかったらどうなっていたか…。もう一度、面と向かって謝りたいんですけど、もう会うなと言われてしまって……。本当にごめんなざいぃぃぃ!!

 

 

 A.今結花の場合

 私が言いたいことは一言だけ。太一がご迷惑をおかけして申し訳ございません、これだけです。

 

 

 A.諏訪洸太郎の場合

 アイツが本当にブチギレてる時って分かりやすくてよ。俺のタバコとってくんだ。基本的には周りの人間気にして吸わねぇんだけど、イライラが頂点に達した時に1本だけ吸うんだよ。え? いつ吸ったのか? アレだ。別役がなんかやらかした時に1本だけ。それ以外は吸ってないはずだぜ。

 

 

 A.堤大地の場合

 加古さんという名の魔女から命を救ってくれる僧侶。神。ずっと拝んでいたい。

 

 

 A.笹森日佐人の場合

 良く太刀川さんを引き摺ってるの見かけますね。それか風間さんに引き摺られてるか、忍田本部長に引き摺られてるか、風間さんか忍田本部長のどちらかに正座させられてるか。あれ、ロクな所見てないな…。

 

 

 A.小佐野瑠衣の場合

 んー、栞ちゃんから凄く念を押されてるっていうのだけかな? 後はすわさんと仲が良くて、つつみんに神扱いされてるってことぐらいしか知らないや。

 

 

 A.荒船哲次の場合

 カゲの兄ちゃん。時々焦げたお好み焼きを食わされる。静雅さんパーフェクトオールラウンダーになれ、それだけだ。

 

 

 A.穂刈篤

 凄く強いぞ。特にスコーピオンが。うちの隊長がご執心みたいだな。静雅さんをパーフェクトオールラウンダーにしたいらしい。多分無理だろ。カゲと似てるからな。

 

 

 A.半崎義人の場合

 戦うってなったらダルいっすよね。仲間だと心強いってカンジです。後はウチの隊長の魔の手から逃げて欲しい。

 

 

 A.加賀美倫の場合

 荒船くんと顔を合わせる度に追いかけられてて可哀想だなあとは思うけれど、助けようかと聞かれれば助けないわね。だって、静雅がパーフェクトオールラウンダーになれば戦力増強間違いなしだもの。荒船くんには頑張って欲しいわ。

 

 

 A.柿崎国治の場合

 嵐山とは違うカリスマ性があるというか…。でもあの記者会見はさすがに…凄かったな。あの記者会見のせいで根付さんの胃に穴が空いたらしい。いつか本当に静雅さんが根付さんを殺してしまうのではないかとヒヤヒヤしているよ。

 

 

 A.林藤陽太郎の場合

 しずかはな、すごいんだぞ!! レイジやこなみでも、たおせないんだ!! じんもつよいと、いっていたし、ふふん。さすがおれのぶかだ!!

 




 
Q.ここに乗ってない人達は?
 A.時間の都合上カット…ではなく大して静雅と関係性がない人達だと思ってください。え、弓場達とか王子隊とかは関係性あるだろ、そう思った人達。そこはお口チャック。私はまだ彼らを操れる気がしない…いつか本編に出すから、それまで待っててくれる!?

Q.口調がおかしい人いる?
 A.確実にいるでしょう。その時は優しく教えてくれると助かります。


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原作開始
第22話


 

『遠征艇が着艇します』

 

 

 バチバチと音を立て、(ゲート)が開く。それと同時にアナウンスが入る。

 

 

『付近の隊員は注意してください』

 

 

 宇佐美が風間隊から離脱し、三上という女性が新しくオペレーターになった。三上は宇佐美が連れてきたということもあって有能だったし、どんな話を聞いていたのかは知らないが、静雅のことを怖がりもしなかった。

 

 

「おい、早く降りろ菊地原」

「いたっ。…ちょっと蹴らないで下さいよ」

「静雅、隊員を足蹴にするな。菊地原が落ちるだろう」

「はっ、どーせトリオン体なんだから落ちても痛くねェだろ」

 

 

 狭い遠征艇からゾロゾロと遠征に行っていたチームは出てくる。遠征艇の中はあまり身体を伸ばせるような広さはなかったので、静雅の体は開放感に包まれた。

 

 

「風間達は報告だろ?」

「静雅さん、代わりに行ってくれよ」

「んじゃ冬島さんの代わりに報告もお願いしまーす」

「殺すぞ」

 

 

 これから報告だりーなー、とか船酔いした気持ち悪ぃ…、だとかわちゃわちゃしている所から静雅は抜け出す。それに気づいた菊地原が「どこに行くんですか?」と聞いた。

 

 

「雅人達がおかえりパーティやってくれるんだと。テメェらに付き合ってる程、俺は暇人じゃないんだわ」

「…勝手に帰って風間さんに怒られても知りませんよ」

「俺を帰した全責任は風間にある。目を外したのがいけねぇ」

 

 

 んじゃ、と静雅は菊地原に手をヒラヒラ振りながら勝手に帰って行った──。

 

 遠征で手に入れたトリガーを風間は城戸に渡す。しかし、遠征の話も程々に話の内容は切り替わることになる。それは、最近の話の中心にいた近界民(ネイバー)である空閑(くが)遊真(ゆうま)処分(・・)についてであった。いや、正確に言うと空閑の処分の話ではなく、空閑が所持している(ブラック)トリガーの確保について。玉狛に(ブラック)トリガーが今現在、迅の持つ風刃と空閑の持つトリガーの2つがある。それは本部から見ると大変、困る話だった。ボーダー内には派閥というものがあり、派閥にもパワーバランスがある。(ブラック)トリガーが1つ増えるだけで、ボーダー内のパワーバランスはいとも容易く崩れてしまうため、頂点に君臨している城戸派閥は面白くなかった。

 

 トリガーを確保することはもう確定している。それがどんな手段であろうと、それぐらい城戸は本気だった。

 

 

「今夜にしましょう」

 

 

 空閑と対峙した三輪隊の報告を聞いた太刀川が言った。いつもは馬鹿だが、戦闘面に関しては頭が回る馬鹿なので、太刀川が言うことにも説得力があった。

 

 空閑のトリガーは学習するトリガーだ。あまり日が経ちすぎると、こちらが不利だ。確実に奪うためにはこれが最善だろうと、作戦日時は今夜になった。

 

 

「えー、ダルいです」

「そんなこと言うな菊地原。もう決まったことだし」

「…おい、静雅はどこ行った」

「それが…帰っちゃったみたいで…」

 

 

 風間から新しい任務を聞いた菊地原は嫌そうな顔をし、歌川がそれを宥める。静雅がいないことに気がついた風間は周りを見渡し…三上の言葉に青筋を浮かばせる。

 

 

「呼べ。今すぐ呼べ」

「そ、それが…風間さんが報告に行ってる間にお電話したんですけど…」

 

『ダルい。嫌だ。眠い。…おい、ゾエ!! それは俺のモンだろォが!! ……おいコラてめ、っ』

 

「…を、最後に連絡途絶えました」

 

 

 何度も何度も三上は電話をした。が、静雅が出たのは最初の1回だけ。次に出たのは弟の雅人で「兄貴、兄貴ンとこのオペから電話」「切れ」と切られ、次に出たのは北添。「静雅さーん、電話」「切れ」。それからは電源が切られ、誰も出てくれることはなかった。

 

 

「…迎えに行きますか?」

「えー、行くなら風間さん達だけで行って下さいよー。ただでさえ、遠征終わりで機嫌悪いのに無理に関わりに行きたくないですよ」

 

 

 静雅のサイドエフェクトは遠征では重宝される。どこにネイバーがいるのか、瞬時に分かるからだ。静雅がいるといないで遠征の成功確率はかなり変わってくる。

 が、そんなサイドエフェクトもいいことだけではない。瞬時に沢山の情報が頭の中に入ってくるため、長時間広範囲の使用は静雅の脳を圧迫し、オーバーヒートさせる。本人が言うには、オーバーヒート中は頭が割れるような痛みがあり、ずっと視界がグルグルと回っているそうだ。

 

 そんな地獄と形容してもいい遠征から開放された静雅は今、最高にご機嫌なことだろう。そんな静雅に向かって「任務が入りました。至急、ボーダーに来てください」なんて言ってみろ。

 

 

「即ベイルアウトは確実かと…」

 

 

 想像した三上は苦笑いしながら言った。その結論はどうやら皆辿り着いたようで、風間隊の隊室には重苦しい空気が漂う。

 

 

(ブラック)トリガーと戦う前にベイルアウトとかぼく達普通に戦力外ですよ」

「いや…でも風間さんがいれば何とか…」

「諦めなよ。絶対近くに影浦隊がいるんだから、乱闘になるだけだって」

「でもボーダー同士の戦闘は……」

「あの兄弟がそんなこと一々考えると思ってるの? 兄弟揃って根付さんをボコボコにしてるのに」

「諦めましょう」

 

 

 話し合いの末、「やる気のない奴がいても士気が下がるだけだ」と結論に至り、静雅は放置することになった。

 

 

 

 * * *

 

『目標地点まで残り1000』

 

 

 空閑のトリガーを奪い取る為、太刀川隊、風間隊、三輪隊の三部隊は走っていた。空閑を匿っている玉狛支部に向かうためだ。

 

 

「おいおい三輪。もっとゆっくり走ってくれよ」

 

 

 三輪隊は一度ネイバーと交戦し、負けたと報告が入っている。それが理由で三輪を急かしているのか、それとも単なるネイバーへの恨みだけで急いているのか。そんなこと一々考えるような優しさも空気を読む努力も持ち合わせていない太刀川は、至って飄々とした顔で言い放つ。三輪が少し嫌な顔をした。あからさまに太刀川は三輪に嫌われている。

 

 

『目標地点まで残り500』

 

 

 後、もう少しで玉狛だった。しかし、何か異変に気づいた太刀川は声を荒らげた。

 

 

「止まれ!!」

 

 

 全指揮は太刀川がとることになっている。太刀川の命令は絶対。太刀川の声で、三部隊は足を止めた。

 

 

「迅…!!」

 

 

 太刀川の視線の先には玉狛支部所属の実力派エリート 迅悠一が立っていた。「なるほど、そう来るか」と呟く太刀川だが、どことなく楽しそうにも見える。

 

 

「太刀川さん久しぶり。みんなお揃いでどちらまで?」

 

 

 太刀川と風間がいる時点で平和な匂いはしない。それに迅は未来予知のサイドエフェクトを持っている。この三部隊がどこに行こうだなんて分かっている筈だ。

 

 

「うぉっ、迅さんじゃん。何で?」

 

 

 玉狛に空閑がいるという事実があるので目の前に迅がいる理由も分かる筈なのだが、当真も太刀川と同じ馬鹿に所属している人間だ。単純に頭に浮かんだ疑問だったのだろう。

 

 

「よう当真。冬島さんと静雅さんが見えないみたいだけどどうした?」

「ウチの隊長は船酔いでダウン。静雅さんはアレだ、カゲ達と遊んでるらしい」

 

 

 「さっきゾエから集合写真送られて来たんだよなー」と当真は呟く。風間が「余計なことを言うな」と叱責するが、それはもう遅い。

 

 

「静雅さんがいないなら…うん。良かった。おれは何としても可愛い後輩を守らなきゃいけない」

 

 

──これなら守れそうだ

 

 

 迅はそう言ってニヤリと笑った。

 

 

 

 * * *

 

 同時刻。静雅の実家である「お好み焼きかげうら」でパーティをしていたゾエは思い出したように静雅に聞いた。

 

 

「そう言えば三上ちゃんの電話出なくて良かったの?」

「ア? 別にいいんだよ。どーせ面倒事だ」

「えー、面倒事なら尚更行かなくちゃだったんじゃない? 風間さん怒ってるよ」

 

 

 角を生やした風間を想像した北添はぶるりと身震いをした。心做しか顔色も悪く見える。

 

 

「どうせ()()()()()()()。俺がしゃしゃり出るまでも無ェよ」

「いやいや!!」

「迅が出てる。だからいーんだ」

「ああ、迅さんがいれば大丈夫だね」

 

 久しぶりに食べた焦げたお好み焼きは美味しかった。




 
Q.三上ちゃんが風間隊に入るところはカット?
 A.多分、いつか、多分書く…かもしれない。今のところはカットで進む。

Q.静雅は迅と戦わないの?
 A.戦わない。遠征直後のスケジュールは遠征行く前から決まっていたのでテコでも動かない。

Q.静雅と三上の関係は良好?
 A.至って良好。しかし、三上は宇佐美からキツく「静雅さんだけは好きにならないで!!」と言われている。圧が凄かったらしい。

Q.ゾエからの集合写真って?
 A.何故か記念でとることになった。シャッターを押してくれたのは静雅パパ。静雅の横は雅人と光が陣取り、ゾエは微笑ましく思っていた。宇佐美が見たら多分、発狂する。

Q.焦げたお好み焼き?
 A.「お好み焼きかげうら」の次男坊にお好み焼きを焼く才能は無い。100%確実に焦げる。お好み焼きを焼く才能はどうやら三男坊に取られたようだ。

Q.何か書き忘れたことあるらしいね?
 A.感想欄で何度か「なんで静雅は風間のこと蒼也って呼んでたのに風間に変わったの?」と質問を頂きました。私は本編で「静雅は恥ずかしがり屋なので風間と2人っきりの時しか名前では呼ばない」と書いたような気がしてたけど、確認したところ気がしただけでした。誠に申し訳ない。
静雅は基本的に人は苗字で呼びます。風間のことは名前で呼んだりしますが、他人に聞かれると恥ずかしい、太刀川や生駒に聞かれるとウザイという観点から2人っきりの時しか名前で呼びません。その場に第三者がいれば頑なに「風間」と呼びます。

まるで初心なカップルかよ!?と思ったそこのあなた、それは間違ってない。けどカップルじゃない。恋心は絶対に抱くことはありません。


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第23話

ぶっちゃけ今回は諦めてたけど投稿出来た


 

「静雅さん、ありがとう。本当に助かった」

 

 

 そう言って迅は静雅に向かい頭を下げた。迅の突飛な行動に静雅の頭の上にはクエスチョンマークが沢山飛び交っている。

 ついこの前、静雅は風間と城戸からこっ酷くお灸を据えられた。理由は単純明快。任務を放棄したためである。

 

 

「静雅さんが来なかったおかげでおれはアイツらを助けることが出来た」

 

 

 「だから、ありがとう」そう言って姿勢の正しいお辞儀をしてくる迅。一瞬、戸惑いもしたが、静雅は優しく迅の頭を撫でる。

 

 

「…静雅さんって、可能性の低い未来を選ぶよね」

「ア? なに照れてンだテメェ」

「そりゃ照れるでしょ!!」

 

 

 わちゃわちゃと静雅と迅の周りにほのぼの空間が生まれる。花でも飛んでそうな勢いだ。

 

 

「そういやなんちゃらトリガー手放したんだって? 太刀川の勢いがいつもよりウザかった」

「なんちゃらトリガーって…ブラックトリガーね」

「そうそれだ」

「ホント興味無い事は覚えないよねぇ」

 

 

 「静雅さん聞きました!? 迅が!! ブラック!! トリガーを!! 手放したって!!」と興奮がやまない太刀川と不機嫌極まりない風間が静雅に報告してきたのは数時間前のことである。迅とのランク戦を望んでいた太刀川は嬉しいことこの上ないだろうが、迅が脅威で仕方ない風間はあまり嬉しくないのだろう。…まあ、なんだかんだ言って風間もバトルジャンキーである。顔に出さないだけでそこそこ喜んでいるに違いない。

 

 ブラックトリガーの名を出した一瞬。迅は悲しそうな顔をした。やはり、わかっていたとは言え寂しいものは寂しいのだろう。見栄を張る迅は決してそんなことは言わないけれど。

 

 

「そうだ、この後入隊式あるけど行くの?」

「視えてんだろどうせ」

「あっはっは、やっぱり口で聞きたいしさ。いいじゃない、そんな勿体ぶらないで」

 

 

 風間も大層迅が手塩にかけている餓鬼共が気になるらしく、菊地原達を連れ入隊式を見に行くと言っていた。それに誘われもしたが断った。ただただ興味なかったからだ。後、面倒だし。

 

 

 

「いいや。静雅さんは見に行くことになるよ」

「ア?」

「さん、にー、いち…」

「し、静雅さーーんっっっっ!!!」

 

 

 何かが静雅の背からドタドタと走って来る音がしたと思ったら、静雅の背に誰かが飛び乗った。

 

 

「へるぷ、へるぷみーだよ静雅さん!!」

 

 

 静雅の背に飛び乗った犯人は安定の顔窓でお馴染み、嵐山隊所属の佐鳥だった。何故かギャン泣きで何かに怯えているようだ。

 

 

「あん? ンだようるせーな」

「荒船さんがぁぁ、静雅さんを連れて来いって!!」

「どこに」

「スナイパーの訓練場ですよ!! ほら、おれ達って入隊式の説明とか任されてるから」

「…えー、ダルい。荒船がいる時点でダルい」

「行ってきなよ静雅さん。後輩の頼みなんだからさ」

 

 

 全く状況を理解出来ていない内に静雅は迅に背を押され、佐鳥に「ほらほら」と腕を引っ張られる。迅の言った通り、静雅は入隊式に行かなくてはいけないようだ。

 佐鳥に手を引かれながらも一瞬足を止めた静雅は迅の顔を見て言う。

 

 

「今度ウチに飯でも食いに来い。雅人を用意しておく」

「…ほんと、いつまでたっても敵わないな。静雅さんには」

 

 

 静雅さんが焼いてくれるわけじゃないんだ、と迅は笑った。

 

 

 

 * * *

 

「うおっ、佐鳥お前マジで連れてきたのか」

「あはは!! 静雅さんって押しに弱いからね!! おれにやらせればこれくらい」

「黙れ顔窓」

「扱いが酷いっ!?」

 

 

 顔をキランとさせた佐鳥の頭を押し付けながら、静雅は微笑ましそうに見守っていた東に小さくお辞儀をする。東はあくまで見守る立場を貫くらしく、手をヒラヒラさせるだけで近づいては来なかった。

 

 

「んじゃ、おれスナイパー志望の子連れてきますね!!」

 

 

 

 ビューンと走っていく佐鳥を見て静雅は巻き込まれた事が面倒に感じため息をつく。俺がここにいても何もならねぇだろが、が頭の大半を占めている。つか、荒船もあんまお手本にならなくね?

 

 

「つか、なんで俺呼んだンだよ。荒船ェ」

「えー、面白そうだからッスかね?」

「ど(タマ)ぶち抜くぞ」

 

 

 

 そうこうしている内に佐鳥が先導をしてスナイパー組を連れてきた。数を数え「…今回も少ないな」と東が悲しそうな声で言う。

 

 

「ただでさえスナイパーは静雅さんに揉まれて消えてく奴が多いってのに」

「おい、俺が虐めてるみてェな言い方すんな」

「いやぁ、荒船が言ってることもあながち間違いじゃないだろ」

「おいコラ東!!」

「東さんな」

 

「はいはい、そこの御三方!! 訓練始めますから指示頼みますよ〜」

 

 

 

 結局、俺も手伝わされンのかよ…と思いながらも、やる時はやる男静雅。静雅が受け持った新人にはしっかりトリガーの説明をし、撃たせる。口と顔が怖いのか、指示されているC級の子は半泣きであることを除けば静雅は完璧である。

 

 

「そろそろスナイパー用のトリガーにうつろうか!」

 

 

 顔窓がトリガーの説明をしている間、暇な静雅はここに迅の言う有望な株はいるのだろうかと隊員達を見つめる。静雅の視線に気づいてしまった数人は冷や汗が酷いが、残念なことに正隊員は誰一人として気づかない。

 

 

「まあ、百聞は一見にしかず。女の子2人に試し打ちしてもらおう!」

 

 

 佐鳥が指名したのは小さな女と目付きの悪いそこまでパッとしない女だった。そそくさとその場離れようとすると荒船が目敏く俺を止めてくる。

 

 

「おいおい、どこ行くんだよ静雅さん」

「いや、責任転嫁される前に逃げようと思ってよ」

「責任転嫁? なんで?」

「ア? 見ればわかるだろ。あのチビのトリオン…」

 

 

──ズドッ!!!

 

 

 佐鳥にアイビスを渡され、言われたように撃ったそれは射撃というよりかは砲撃に近く──。

 

 

「ほらな」

「…まあ、全責任は佐鳥にあるんで大丈夫か」

 

 

 佐鳥が泣いた瞬間だった。




 
Q.静雅はわざと任務をトンズラしたの?
 A.決してそういう訳では無い。家族をただ単に優先しただけ。

Q.静雅は東さんも呼び捨て?
 A.基本的に東さんに関しては敬称をつけている。けど、時々呼び捨てにして東さんから「東さんな」とコントのような会話を繰り広げる。

Q.静雅は千佳のことを知っていたの?
 A.もちろん知らない。けど何故トリオンのことを知っていたのか? それは次回の話に繋がる……のかもしれない。


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第24話

番外編2-1の後に2-2を挿入投稿しています。Q&Aの番外編なので見なくても大丈夫。でも出来れば生駒隊のところ見て欲しい。一番上手くかけたんやで…。


 

「コラァ!! また影浦静雅か!!」

 

 基地の壊れる鈍い音を聞きつけた鬼怒田がドスドスと足音を立てながら、スナイパーの訓練場にやってきた。有りもしない濡れ衣を着せられた静雅を見て「まあ仕方ないことだよな」と辺りの正隊員が思うあたり、静雅の素行の悪さが伺える。

 

 

「アン!? なんで俺になんだよ!!」

「貴様には前科があるだろう!! 今回はどのような壊し方をした! 出水と一緒に合成弾でも作ったか!」

「あ、あの…」

 

 

 スパァンと容赦ない鬼怒田の愛のムチが静雅の頭を襲う。C級隊員、荒船、東、佐鳥、静雅の並びだとどう見えても犯人は静雅に見えてしまう。が、残念なことに今回は本当に静雅ではない。

 

 

「誰がスナイパー訓練場で合成弾なんか作るかよ!! つか、このメンツのどこに出水いんだよ!! 視力治して出直してこい!! このぽよぽよが!!」

「貴様…毎度毎度トリガーチップを散らかすだけでは飽き足らず、年上を愚弄するか!! 今日という今日は許さんぞ!」

 

 

 鬼怒田と静雅の喧嘩はいつものことだ。静雅がシュータートリガーを使っていたら、チーター並の速さでランク戦ブースに顔を出す鬼怒田。喧嘩するほど仲がいいということである。

 しかし、正隊員はそれを知っているがC級隊員は知らない。特に本当の犯人は自分のせいで先輩が怒られている…と顔が真っ青である。貧血で倒れてしまいそうな程、顔色が悪かった。

 

 

「ち、違うんです…」

 

 

 

 ヒートアップした鬼怒田は壁を壊したことよりも日頃の恨み辛みを愚痴愚痴と静雅に言う。愚痴愚痴と言われて黙っている静雅でもないので、そこでまた言い返しと段々収拾がつかなくなってきた。

 

 

「私が、やりました!!」

 

 

 犯人の精一杯の供述。彼女の声は訓練場に響き、辺り一面静寂が訪れる。それを好機ととった彼女は震え、手を握り締めながら精一杯言葉を紡ぐ。

 

 

「せ、先輩は悪くないんです。わ、私が撃っちゃって壊したんです。先輩を怒らないで下さい。全ては私の責任にあります…! こ、壊れてしまった部分は私が一生をかけてお金を払います。だから、だから…」

「…東くん。これは本当かね?」

 

 

 彼女の必死さは彼女のことを何も知らない鬼怒田にも伝わった。この中で話が一番分かっているであろう東に鬼怒田は確認をとる。鬼怒田の言葉に頷いた東。しかし、お茶目な笑顔と共にこう言い放つ。

 

 

「確かにそうですが、彼女のトリオン量を考慮できなかったこっちに非があります。全ての責任は佐鳥がとるらしいから、安心して大丈夫だよ」

「え゙!?」

「でも、それは…」

 

 

 「なにそれ聞いてない!!」という顔の佐鳥と「それは流石に申し訳ない」という顔の彼女。

 

 

「責任はきちんと私が取ります。ほんとうに、ごめんなさい」

 

 

 そう言って深深と…いや、土下座を始める彼女。そんな彼女を見た佐鳥は2度見した後、何故か土下座をする。

 

 

「壊した壁は一生かけて弁償します」

「なっ、えっ、こ、こちらこそ…!?」

「君、名前は何かね?」

 

 

 「佐鳥は早く顔をあげんか!!」と鬼怒田に喝を入れられ、慌てて立ち上がる佐鳥。彼女は顔をあげ、自分の名と所属場所を告げる。

 

 

「…玉狛支部の…あ、雨取千佳です…」

「玉狛! なるほど、迅が一枚噛んどるのか!!」

「その可能性は無きにしも非ず…というかわざと彼女のトリオン性能を報告しなかったのでしょう」

 

 

 鬼怒田は考え込むように口をとじ…そしてため息をついた。そのため息を聞いた千佳が肩をびくつかせる。

 

 

「静雅、本当に貴様は何も起こしとらんのだな!!」

「うっせー!! 東がちゃんと報告しただろーが!!」

「うん、東さんね」

「…ならいい。静雅が壊してないのなら別に気にせん。どうせあの壁もトリオンで出来とるからな。すぐに直る。…千佳ちゃん、君はご両親に感謝しなくてはいけないよ。君はトリオンに恵まれているからね」

「…けっ」

 

 

 踵を返して、帰ろうとする静雅に「帰るんすか?」と荒船が聞いた。雨取に目がいっている鬼怒田と佐鳥は静雅が去ろうとしていることに気づいておらず、東は気づいていながらも放置している。まあ、元々静雅は入隊式の案内を任されているわけでもなかったので、帰ったところで問題は無い。

 

 

「ここにいると、エフェクトが鈍る」

「サイドエフェクトが?」

「…人間のトリオンまで感知しようと思えば出きっからな。疲れんだよ」

「へぇ…そこまでの能力が」

「誰にも言うなよ。また検査だなんだってダリィんだ」

「んじゃ、パーフェクトオールラウンダーになるって言ってくださいよ。そしたら言いふらさないんで」

「お前マジで殺すぞ」




 
Q.静雅は合成弾作れるの?
 A.作れません。静雅は出水とは違います。

Q.静雅は基地を壊した前科有り?
 A.トリオンで構築する前に根付さんの壁ドン(恐)の他に、二宮とランク戦ブースで喧嘩になり、壁を壊したことがあります。もちろん、二宮はトリガーを使いませんでしたが、静雅はマンティスで攻撃しました。

Q.鬼怒田さんと静雅は仲が悪いの?
 A.仲は悪くない。喧嘩するほど仲がいいみたいな感じ。

Q.静雅のイメージ画像があるって本当?
 A.本当。夢小説を約8年間執筆してきた私ですが、初めてオリ主の画像を頂き凄く興奮しています。いやね? オリ主がメガネを掛けたらイケメンイケメンと言ってきたけど、ここまでイケメンに描いてもらえるとは思わなかったのよ…。本当に感涙。小説描いてて良かったと改めて思った日です。イラストを描いてくださったガルダ様、本当にありがとうございます!!! おかげで筆が進む進む

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第25話

静雅のイメージイラストが好評で私は凄く嬉しいです。きっと今までの本編を見ていて「静雅こいつ、嫌いやわ」って言う人もイラスト見て「どストライク!! 好き!!!」となった人がいるはず。
本当にガルダ様描いてくれてありがとうございます!!
本当に勘違いしないで欲しいのが、あのイケメンイラストは私が描いた訳ではなく、ガルダ様が描いてくださいました。本当に、素敵なイラストをありがとうございます!!!!


 

「おいおい風間! B級に負けたんだって!!」

 

 

 「しかもぽっと出の奴に!」と腹を抱えて笑う静雅。本当は風間は負けた訳ではなく24勝1引き分けである。が、しかし引き分けたことは事実。ここで訂正しようと次は引き分けで茶化されるだけなので放置しておくに限る。決して打ち合うのが面倒だとかそんなことを思っている訳では無い。

 

 

「…風間さん、いいんですか? なんか変にテンションあげてますけど」

「気にするな。勝手にテンションあげて自分で地獄の片道切符を買うことになる。放っておけ」

「放っておけって…」

 

 

 菊地原は風間に言われた通り完全にスルーすることに決めたらしいが、歌川はどうやら踏ん切りがつかないらしい。チラチラと静雅を見ては落ち着かせようと算段を立てているようだった。

 

 

「お、静雅さんやん! ちょうどええとこに。一緒にナスカレー食いに行かん?」

「ほんとだ。見事に地獄の片道切符買ったじゃん」

 

 

 右手を上げて「おーい!」と前方からやってくるのは生駒。静雅のストーカーみたいな男である。静雅は歩く足を止め、回れ右をすると走り出す。それを見た生駒が走り出した。

 

 

「なんで逃げんねん!! 一緒にご飯でも食べようや!!」

「死ね、こっち来んな!!死ね!!」

「あーあー、人に死ね言うたらいかんってお母さんに習わんかったんかー!」

「お願いだから死んでくれ。頼む、1万円あげるから!」

 

 

 結局、捕まってしまった静雅は生駒に引き摺られ食堂へと向かっていく。「たすけてくれ」みたいな目をして見つめてくる静雅を無視するように風間は踵を返した。そんな風間を見て歌川と菊地原は「あ、さっきのことやっぱり怒ってるんだ」と思った。

 

 

 

 * * *

 

「あ! しずかん先輩じゃん」

 

 

 「ランク戦するのー!?」と静雅の周りをうろちょろするのは緑川。元気そうに見えても実はあまり元気ではない緑川だ。

 

 

「あ、静雅先輩どもっす」

「おう。…どうした緑川。あんま元気無ェな」

「あ、分かっちゃう? さっきボコボコにやられたんだよねー」

「あのやられっぷりはいっそスカッとするもんがあったな」

 

 

 ランク戦ブースには緑川の他に米屋もいた。ボコボコにやられたらしい緑川は若干落ち込み気味で、そんな緑川を見て米屋は笑っている。

 

 

「へぇ、誰にやられた。太刀川か? 迅か?」

「ちがうちがう。遊真先輩にやられたの」

「遊真…? 迅の隠し子か?」

 

 

 『遊真』。一瞬、自分の身の回りにそんな名前がいなかったか考える静雅だが、多分いないはずだ。名前的に似てる迅の隠し子だったりしないかと首を傾げる。

 

 

「えー!? 遊真先輩って迅さんの隠し子なの!?」

「いや、絶対に違うだろ」

「ま、だろうな。年齢が合わねェし」

 

 

 「だよねだよね、迅さんに奥さんがいるんじゃないかってびっくりしちゃった」と胸を撫で下ろす緑川。…え、お前迅の女狙ってるの? と疑問に思った静雅だが、首を縦に振られるのも怖いので聞かなかった。なんなら先程の言葉も聞かなかったことにした。

 

 

「つか、風間さんから話聞いてんじゃないんですか?」

「話? そのユーマってやつの? …聞いてねぇ」

「あ、そっすか」

 

 

 確実に風間は話ているであろうが、多分聞き流していたのか、それとも聞いたことを忘れていたのか。そのどちらかだろうなと米屋は見当をつける。

 

 緑川と戦ったという遊真。彼は空閑遊真という名前で、つい先日三輪隊と交戦したネイバーである。迅とA級三部隊が交戦したあの後、「静雅さんはネイバーが居ることを知ってるよ。知ってて来なかったんだ」と言っていたので、静雅はネイバーがこちらにいることには気づいているらしい。それが遊真という名前だと知らないだけで。

 

 

「そういや、近々大規模ネイバー侵攻があるらしいっスね」

 

 

 迅の未来視により報告された大規模ネイバー侵攻。そのことについては、風間から無断行動だなんだと口酸っぱく言われていたので、静雅の頭に残っていた。

 

 

「あー、それ聞いた。けどウチ隊長たちがいなくてさー。どうするんだろ」

「どうにかして自宅待機になんねーかな。エフェクトがキツいんだよ」

「いやいや、風間隊って連携の部隊でしょ。静雅さんだけ休みとかにはなんないですよ」

「連携とか菊地原いればどーにかなるンだよ。それに俺はアイツらの隙間に射撃するだけだし」

 

 

 3人の連携の隙間に射撃を入れる技術はそう簡単にできるものでは無い。それこそ、できるのは東ぐらいだろう。

 

 

「それが凄いんじゃん! だってアレ秒単位で合わせてるんでしょ?? もう変態じゃん」

「アン? 慣れれば米屋でもできる」

「…奈良坂に殺される未来見えたわー」

「けちょんけちょんにやらされそうだね」

 

 

 そもそも米屋がスナイパーに転向すると言っても「は? お前がスナイパー? 戯言も大概にしろ」と一蹴されるだけで終わりそうな気もする。

 

 

「そもそもスナイパーって頭使いそうだし無理だな」

「風向きとか考えないとなんでしょ? 槍バカじゃダメだよねー」

「おい、誰が槍バカだ」

 

 

 キャッキャと走り回っていた緑川と米屋だったが、急にピタリと動きを止めると静雅にこう言った。

 

 

「「静雅さん、ランク戦しよう!!」」

 

 

 もちろん静雅が全勝してやった。




 
Q.風間さんの24勝1引き分け?
 件のメガネの主人公ですね。詳しくは単行本5巻ぐらいを見てください(てきとう)

Q.地獄の片道切符?
 大して好きじゃないナスカレーを食べた

Q.どうして緑川はボコボコにやられたの?
 一言で言えば「調子に乗っていたから」。遊真にボコボコにされた後「くそー、またしずかん先輩に稽古つけてもらうかー」と緑川が言ったため、静雅は知らないうちに遊真にロックオンされた模様

Q.迅さんはいつA級三部隊にあの言葉を言ったの?
 A.ブラックトリガー『風刃』を手放したと教えた時についでみたいな形で言っていました。風間はブチ切れてましたが「そんなに怒んないでやってよ」と迅の一声で何とか収まった。もちろん、静雅はそんなこと知らない

Q.静雅は遊真について知ってるの?
 A.知らない。この世界にネイバーがいることには気づいているが、それが『空閑遊真』とは知らないし、なんならそのネイバーが三輪隊と交戦したネイバーだとも知らない。米屋の推理は残念ながら間違っており、風間は迅の「静雅さんはネイバーがいることを知っているよ」を「静雅はネイバーのことについて全て知っている」と解釈したため、何も教えていない。静雅がちゃんと遊真を認識する日はいつになるのだろうか…。

Q.もうすぐ大規模ネイバー侵攻来ちゃう?
 A.来ちゃう。6巻から大規模ネイバー侵攻来ててびっくりした。久しぶりに原作見るとこういう誤差あるから心臓に悪い。つか、全然プロット練れてない。ヤバい

 


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第26話

 

「ちょっとー、寝てないで起きてくださいよ」

「…無理。最近、体調悪ぃんだよ。……寝させろ」

「ここで寝ないでくれます?」

 

 

 いつも菊地原がゴロゴロしているソファーで寝転んでいる静雅を邪魔そうな目で見ている菊地原。静雅が体調を崩す時はあまりなく、それこそ最近はサイドエフェクトの副作用で人酔いしただとかぐらいだ。どうせ今回もそれだろ、と結論づけた風間は「放っておけ」と言っていた。

 

 

「大丈夫ですか、静雅さん」

「暖かいお茶飲みますか?」

「…んー、飲む……」

 

 

 三上が微笑みながら「持ってきますね」と言った。歌川も気になるらしく、チラチラと静雅に視線を向けていた。が、風間に言われた通りどうやら放っておくことに決めたらしい。

 

 

「どうせいつもの酔い(アレ)なんでしょ? ならそこ退いて下さいよー。寝てても座っててもそんな変わらないでしょ」

「静雅さんは気持ち悪いって言ってるんだから寝かせてあげろよ」

「酷いんだったら医務室行ってくれません? 変な菌でもばら撒かれたらぼく達が困るんですよ」

「誰が変な菌なんかばら撒くかよ!?」

 

 

 一度ガバッと起き上がった静雅だが、すぐに「気持ち悪ぃ…」と呟いてへなへなとソファーに戻って行った。

 

 

「これ、この後の防衛任務大丈夫ですかね」

「無理だろうな」

「ですよねー」

 

 

 菊地原は嫌そうにそう言うと、静雅の顔に冷たいタオルを乗っけた。菊地原なりの優しさだろう。

 

 

「風邪でもサイドエフェクトでもどっちでもいいんで、早く治してくれません? 後ろ守ってくれる人がいないと不安なんですよ」

「ふふ、菊地原くんがデレた」

「デレましたね」

「菊地原の後ろなら俺が守ってもいいぞ」

「ちょっと! 皆して茶化さないで下さいよ!」

 

 

 「静雅さん、お茶です」と善意でくれた三上のお茶はとりあえずテーブルに置いてもらい、静雅は顔にかけられた白いタオルをジーッと見つめる。グルグルと視界が周り、そして頭痛が酷くなってきた頃。風間隊の携帯が一斉に鳴った。

 

 

「風間さん!!」

「──ああ。どうやらお出ましらしい」

 

 

 電話の内容を聞いた三上はモニターの前に座り、準備を始める。風間は一度、静雅に視線を向けると「お前はここで留守番してろ」と言った。

 

 

「三上、静雅を頼むぞ」

「はい」

「菊地原、歌川。出動する」

「菊地原了解」

「歌川了解」

 

 

 風間、歌川と隊室を出ていく。続くように菊地原も出ていこうとしたが、一瞬足を止めると静雅の顔を見ることなくこう呟く。

 

 

「…早く復活して来てくださいよね」

 

 

 それを聞いた三上は微笑み、残念ながら静雅に向けた菊地原のその言葉は静雅には届いていなかった。何故なら、タオル下の静雅は爆睡をかましていたからだ。幸運なことに、静雅が寝ていることは誰も気づいていなかった。

 

 こうして、静雅抜きの大規模ネイバー侵攻は始まった──。

 

 

 

 * * *

 

「三上」

「は、はい」

 

 

 いつの間にかソファーから起き上がっていた静雅は三上と共にモニターを見ていた。モニターを見る静雅の瞳は真剣味を帯びており、名前を呼ばれるだけで何故かビクついてしまう。

 

 

「トリガーを変える。自分でやるから、指示だけくれるか」

「え…あ、はい。それは大丈夫ですけど、一体どのトリガーを変えるんですか…?」

「スコーピオンを孤月と旋空に変える。…そろそろ風間が落ちっから」

「え、風間さんが?」

 

 

 モニターの向こう側では風間隊は人型ネイバー、それもブラックトリガーと対峙していた。見事な風間隊の連携で人型ネイバーを押しているようにも見えるが、静雅が言うには「そろそろ風間は落ちる」らしい。

 

 

「どれがどのチップだ」

「あ、はい」

 

 

 「これがスコーピオンで、これが孤月、そしてこれが旋空です」と三上はチップを教える。先程も言った通り、静雅はトリガーのチップを変えると、隊室を出ていこうとする。

 

 

「どこに行くんですか静雅さん!!」

「俺が奴を殺す」

「体調は…」

「はっ、そんなの良いわけねェだろ。依然悪化中だ」

 

 

 やはり身体は重いし、頭だって痛い。しかし、今はそんなことで寝ている暇はない。ボーダーに所属している皆は今、戦っている。静雅だけがおちおち寝てることなど出来るはずがなかった。

 トリガーをオンした静雅は、隊室を出ると本部の通信室に通信を繋げる。

 

 

「こちら影浦。人型ネイバー補足に向かいます」

『静雅か。人型ネイバーとは風間隊が交戦中のネイバーで間違いないだろうか』

「ええ。多分、俺が急いでも風間は間違いなく落ちます。1人で殺るんで、風間が落ちたら菊地原達は別のネイバーに向かわせて下さい」

『何故、風間が落ちると…?』

 

 

 忍田の素朴な疑問だった。その疑問に一瞬、走る足を止めたが、また静雅は走り出す。

 

 

「勘です」

 

 

 あの時、モニターで戦っている風間達を見て何となく「ああ、風間はやられるな」と思ってしまった。明確な根拠は無い。ただ、そう思っただけだ。

 

 

『そうか。了解した。…三上はつけた方がいいか?』

「いや、いりません。菊地原達に専念させて下さい」

『分かった。検討を祈る』

 

 

 その言葉を最後に本部との通信は切れる。そしてすぐに、本部ではなく…三上との通信が繋がった。

 

 

『こちら三上』

「ンだよ。いらねぇつったはずだけど」

『俺だ』

「はっ。やっぱりやられたか雑魚チビ(かざま)

 

 

 通信を繋げた三上はどうやら風間に言われたらしく通信を繋げたらしい。案の定、やられた風間の声を聞いて静雅は鼻で笑った。

 

 

『…俺の分まで頼むぞ』

「珍しくへこんでんじゃねェか! どっかのB級に負けてっからそうなるんだよ! 腕落ちたんじゃねぇの?」

『………』

「風間。帰ったら修行、し直すぞ」

『ああ』

 

 

 『お前は負けるなよ』その言葉に静雅は足を止め大笑いする。

 

 俺が負ける? はっ、お前と一緒にすンなよ風間。俺はこれぐらい余裕だ。

 

 

「さァ、戦闘を始めようや。ぷるぷるのロン毛さんよォ」

 

 

 目の前に現れた風間をベイルアウトさせたブラックトリガー──エネドラを見て、静雅は不敵な笑みを浮かべた。

 




 
Q.静雅が体調悪い原因は?
 風間の推測通りサイドエフェクトの暴走のせいです

Q.菊地原はツンデレなの?
 A.ツンデレです。特に静雅に対してはツンデレ増し増しでお送りしています

Q.三上が出してくれたお茶はどうしたの?
 A.隊室を出る前に一気飲みしてきました。今の静雅のお腹はタプタプです

Q.静雅は孤月使えるの?
 使えなくても静雅には太刀川(バカ)生駒(バカ)という良きお手本がいます

Q.スコーピオンから孤月に変えちゃったら、もはや荒船じゃない?
 A.帽子かメガネか。アクション好きか興味ないか。一人っ子かお好み焼き屋次男坊か。それぐらいの差異しかないが、根本的な不良と優等生という根が違うので、一緒ではない。少なくとも荒船は根付さんの顔面を馬乗りしながら殴れないし、胃に穴も空けられない

Q.ぷるぷるのロン毛とは?
 風間隊の戦いを見ていて静雅が思いついたニックネーム。詳しくは葦原さんのキャラ評を見て欲しい。


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第27話

 

『菊地原くん、歌川くん、もう少しで東さん達と合流できるから、合流して』

「歌川了解」

「菊地原了解」

 

 

 風間がベイルアウトし、戦線離脱した菊地原達は、一番近くにいる部隊と合流を目指していた。菊地原達が向かっているのは、人型ネイバーと交戦中のB級+米屋、緑川、出水の部隊だ。交戦中のメンバーだけを見るに、菊地原と歌川はいらないような気もするが、合流を優先させるらしい。多くの部隊で各個撃破していくのが忍田の作戦方針らしいので、どれだけ戦力がいても問題ないとのこと。人型ネイバーが1人いなくなるだけでも、大分相手方の戦力は変わってくる。確実に落とせと言われていた。

 

 

「…本当に静雅さんの応援行かなくていいんだろうか」

 

 

 不安そうな顔で歌川は言った。決して歌川は、静雅が負ける未来を想像しているわけではない。ただ単純に静雅1人でブラックトリガーと交戦するという事実に不安を感じているだけ。

 

 

「ぼく達が行ったところででしょ」

「そうだけど…」

「歌川。静雅さんがどうしてスナイパーに転向したか知ってるよね」

「…」

 

 

 歌川も菊地原も決して晴れたような顔はしていない。苦虫を潰したような、何かしら後悔を含んでいる顔だった。

 

 

「…弱いぼく達には信じるしか出来ないんだよ。仇を一緒に討つことさえ赦されない」

 

 

 「だから、少しでも静雅さんの肩が軽くなるようにぼく達はぼく達で頑張るんでしょ」菊地原はそう言うと、走っていた足を止め、東に通信を繋げる。

 

 

「こちら菊地原。人型ネイバーを確認しました。指示を下さい」

『こちら東。2人が来てくれて助かる。お前たちは──』

 

 東の指示を聞いた2人は「了解」と小さく頷いた。

 

 

 

 * * *

 

「静雅さん。近々ある大規模ネイバー侵攻、死人が出るか出ないかは静雅さん次第で大きく変わってくる」

 

 

 大規模ネイバー侵攻が起こる数日前。食堂でラーメンを食べていた静雅に前触れもなくそう言い放つのは迅悠一。迅の顔は至って真剣で、嘘を言っているようにも思えない。

 

 

「言おうか言うまいか悩んだんだけど、言うよ。──この大規模ネイバー侵攻、静雅さんは負ける」

「ア?」

「おれに凄んでも意味ないよ。これは嘘じゃない。おれのサイドエフェクトがそう言ってるんだから」

 

 

 美味しいか美味しくないかで言えば普通のラーメンが一気に不味くなった。静雅は急に負けると言われて喜ぶようなドMでもなければ馬鹿ではない。

 

 

「正直、大規模ネイバー侵攻とかそういうのを抜きに静雅さんには負けて欲しくないとおれは思ってる。静雅さんはおれの目指すべき目標でずっといて欲しいから」

「誰が誰の目指すべき目標だって?」

「太刀川さん」

「は?」

 

 

 会話が成立していない。静雅はそう思った。言葉のキャッチボールが残念なことに出来ていなくて、2人とも暴投を繰り返しているだけだ。…いや、どちらかというと暴投をしているのは迅だけであって、静雅はちゃんとキャッチしようと頑張っていた。

 

 

「太刀川さんに生駒っち、他には辻とか荒船とか。おれが言った人達とひたすら個人(ソロ)ランク戦をした方がいい。そしたらきっと、静雅さんは勝てるから」

 

 

 清々しい笑みを浮かべ、去っていく迅を見て静雅はふつふつと自分の中で怒りが込み上げて来るのを感じた。

 

 俺が負けるだなんだ言いたいことだけ言って勝手に帰りやがった。ンだよ、アイツ…!!

 

 

「あれ、静雅さんやん。何してん? ナスカレーでも食いに来たんか?」

「ちょうどいい所にカモが来やがった」

「…へ?」

「ボコボコにしてやる。(ツラ)貸せや」

「ちょちょちょ、なんやねん!?」

 

 

 事態が飲み込めていない生駒の右耳を引っ張りながら、静雅は生駒隊の作戦室へ向かおうとして…踵を返した。

 

 

「え、作戦室行くんとちゃうん!? 痛い痛い痛い…!」

 

 

 

 * * *

 

「ちーす」

「おーす! 水上先輩!」

「こんちわー水上先輩」

「やっと来たかいな。最後やで」

「…ん? イコさん居らへんやん」

「おるおる」

 

 

 細井の視線の先にはトレーニングルームがあり、その中ではどうやら生駒と静雅が戦っているらしかった。

 

 

「あれ、静雅さんやん。なに? またイコさん無理やり連れて来たんか?」

「ちゃうねん。菓子折り持って静雅さんがイコさん連れて来たんや」

「そうそう!! いいとこのどら焼き貰ったんですよ!!」

 

 

 ビシッと南沢が指さす向こうには、いいとこのどら焼きが入っているであろう紙袋が2つ置いてあった。生駒隊が食べていいのは、紙袋1つだけで、もう1つは食べちゃダメだと念を押されたと南沢は言う。

 

 

「…イコさん沢山遊んでもろうてるから、俺がどら焼き食べても怒られんですかね?」

「あー、どやろ。静雅さんがくれた物は何がなんでも食べたがるから、やめといた方がええんちゃうの?」

 

 

 『戦闘体活動限界 緊急脱出』そうアナウンスされすぐに、生駒の戦闘体は新しく構築される。「あーあ、またイコさん殺られちゃったよ」と南沢は呟く。

 

 

「かれこれ30分はずっとあれだよね」

「なんか迅さんが静雅さんの地雷踏んだんやろ? 生駒隊(ウチ)が防衛任務でいなくなる言うたら太刀川さん呼び出す言うて、めちゃ燃えててん」

 

 

 「この後、防衛任務やから、程々にしてください」と細井が言えば、静雅は怠そうに舌打ちした後、「次は太刀川か」と呟いていた。何があったん?とみんなが首を傾げる中、生駒がコソッと「なんか迅と言い合いしとったみたいやで」と。珍しいこともあるんやなー、なんて思いながら虐めとも取れるような模擬戦を水上を抜いた3人は観戦していた。

 

 

「え、なにそれ怖」

「太刀川さんが無理やったら辻くん呼び出す言うてましたわ」

「もはや暴力の権化やん。つか、太刀川さんなら分かるけどなんで辻? 何したん??」

「さあ? 分かることは静雅さんが燃えとるってことだけですわ」

「…念の為に風間さんに連絡入れとこ。変な責任負わされても無理やで」

 

 

 水上は風間に連絡を入れるが、既読はつくことなく生駒隊の防衛任務が始まる時間となった。どうやら、太刀川は風間と一緒にレポートを仕上げてるらしく、手が離せないらしいので次の標的は辻だと静雅は血走った目で生駒隊の隊室から出ていく。

 

 

「…うへぇ、やっぱ勝てへんやん。なにあれ、ヤバ」

「ヤバい言うてる暇ないですって。はよ支度してください」

「まーた三輪に愚痴愚痴言われるんとちゃいます?」

 

 

 生駒隊の前に防衛任務をしていたのは三輪隊である。風間隊ほどでは無いが、時間には厳しいし報告などもきっちりする隊なので、ヘラヘラと基本的に話を聞かない生駒隊を三輪はあまり良く思っていない。

 

 

「三輪先輩っていっつもこう、目がつり上がってますよね!」

「それはアレやろ。イコさんが話聞かへんからや」

「ちゃうやん。俺も聞こうとしててん。せやけど、米屋が俺の集中削いでくるねん」

「ええからはよ支度しましょ。そろそろマリオがキレますよ」

「ええから…笑っとる暇があったら、アンタらはよ支度せぇ!!」




 
Q.菊地原達は修達の方ではなく東達と合流するの?
 A.いえす。特に理由はない。

Q.静雅は何ラーメンを食べてたの?
 A.こってり豚骨ラーメン。特に好きな食べ物な訳では無いです。

Q.迅のあの人選はもしや…!?
 A.わかってても秘密で行こうね。

Q.何気に「おれのサイドエフェクトがそう言ってる」はこの小説初めてじゃない?
 A.多分初出し。ようやく決めゼリフ言えたね。おめでとう、実力派無職。

Q.やっぱり安定のナスカレーだね?
 A.困った時はナスカレー出せば何とかなる説。ナスカレーが出たら私がお気にに入れている隠岐くんも芋づる式に出てくるので嬉しい。

Q.ちなみにナスカレーとの勝敗は?
 A.いつもだったら2割の確率で負けるらしいのだが、今回は5割の確率で負けてしまった模様。そんな静雅に生駒は首を傾げていたらしい。

「どうしたんですイコさん」
「…なんかなー、あんま手応え無かってんな」
「静雅さんが?」
「せやせや。なんやろ、俺のことぎょうさん見とってん。迅となんかあったんやろうけど…あそこまであからさまやと気になるわ」
「迅さん絡みやとあんま首突っ込まん方がええんとちゃいます? 下手なことして未来変わってもうたらヤバいでしょ」
「それはヤバいな」

Q.エネドラ戦を期待してたんですけど?
 A.次回からエネドラ戦です。期待してた皆さんごめんなさい。そしてあまり期待しないで見てもらいたい。


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第28話

 

「あんま料理は得意じゃねェけど…要するにアレだろ? てめぇを微塵切りにしていけば勝手に死ぬわけだ」

「はァ? 微塵切りだァ? 雑魚トリガーのてめぇに何が出来んだよ!!」

 

 

 黒いブヨブヨした──まるでスライムのようなものが静雅を襲う。静雅は後方にジャンプし、それを避けると孤月を出し、構えをとる。

 

 

「旋空孤月──」

 

 

 迅に負けると言われたあの日から生駒を中心にボコボコにしてきた。おかげで()()()()()使()()()()()()なってしまった。

 

 旋空はエネドラの不意をついたのか、エネドラの右肩を大きく袈裟斬りした。が、すぐにズズズと音をたてて治っていく。

 

 

「おいおい、そんなチンケな攻撃じゃ」

「喋ってるその口を閉じることをオススメする。噛むからな」

 

 

 2連、3連とエネドラの身体に旋空が襲う。普通の旋空ならまだしも、静雅は生駒旋空と旋空を組み合わせて連発している。生駒旋空は射程距離が普通の旋空よりも長いので、普通の旋空と共に何度も連発されると避けるのも段々とキツくなっていく。

 

 

「チィ!! 雑魚トリガーのくせに生意気な!!」

 

 

 地面から針のような突起が飛び出す。慌てて静雅は後方に下がるが、右足を掠ってしまったようで、そこから少しずつトリオンが漏れ出していた。

 

 

「てめぇのその技は確かに脅威だが…付け焼き刃じゃ俺は殺せねェぞ!」

 

 

 静雅は後方に下がるのをやめ、グッと一歩踏み出すと、エネドラに向かい孤月の鞘を握りしめる。そして、鞘から孤月を出すと素早い居合切りを繰り出す。急に踏み込んで来るとは思っていなかったエネドラはズタズタに斬られてしまうが、どうやら核は守ったらしい。すぐにモヤのようなものがエネドラの身体を修復していく。

 

 静雅は内心舌打ちをした。自分1人ではどうにも相手のトリガーのネタが分からない。矢張り、意地を張るのではなく、三上だけでもこっちに回して貰うか…?

 

 

『あーあー、こちら仁礼。静雅さん聞こえてっかー?』

「アン? ヒカリ…?」

『中々手こずってるじゃねぇか。ったく、光さんが手ぇ貸してやるから、さっさと殺っていこうや!』

「ンでヒカリが…」

 

 

 三上をこちらに回してもらおうと、通信を繋げようとしていたところだが、仁礼からの通信が入り、それをやめた。仁礼の口ぶりからして、静雅に加担するらしい。全くもって静雅は状況が理解できていなかった。

 

 

『ゾエとカゲがこっちは雑魚ばっかだから1人寂しく戦ってる静雅さんを手伝ってやれだってよ』

「はっ、1人寂しく、ねェ…」

『お、怒るならゾエとカゲだけにしとけよ! アタシが言ったわけじゃないんだかんな!!』

「…へいへい。まあ、助かる。暇ならチカラ貸せや」

 

 

 ヒカリが手を貸してくれるのは静雅としてもものすごく助かる。影浦隊には静雅もよく顔を出しているし、ヒカリもよく雅人と静雅の模擬戦を見ているので、手の内は全て知っている。時々混合部隊だとか何とか言って生駒隊とも遊んだりもしているので、オペレートも何度かしてもらったことがある。

 

 

『…! ああ!! そのつもりで通信繋げたんだかんな!!』

 

 

 嬉しそうな声で『んじゃ、とりあえず作戦決めようぜ』とヒカリは言う。確かに、相手のトリガーのネタが割れないことには、どれだけ切り刻もうと相手を殺すことは出来ない。作戦のひとつやふたつは立てないと厳しいだろう。

 

 

『アタシがオペしながら相手のトリガーを解析してくから、さっきみたくひたすら斬れ』

「それ、作戦って言うか…?」

『はは、済まんな! あいにく影浦隊(ウチ)には風間さんのような頭脳系キャラはいないんだ!』

 

 

 ヒカリの笑い声を聞いていて静雅はふと弟である雅人の成績を思い出してしまった。ヒカリもそれと並ぶぐらい悪いと噂に聞くが──今はそんなことを思い出している時ではない。

 

 

「とりあえず…斬るか」

 

 

 

 * * *

 

「え…まだやるんですか」

 

 

 疲れたようにコーヒーを飲みながら、辻は驚いた顔で言う。静雅は至って当然とでも言うかのように頷いた。

 

 

「急にどうしたんですか? 俺は…香取さんじゃないんですよ」

 

 

 よく、気性の荒い香取が静雅に戦いを挑んでボコボコに負けているのを見かける。あまりにもやりすぎるので、定期的に静雅は上層部から減点を貰っていた。静雅のポイントがマスタークラスにならない理由のひとつである。

 

 

「テメェらをボコボコにしないと俺はやられるんだと」

「は?」

「迅からのお達しだ」

「迅さんが一枚噛んでたんですか」

 

 

 「だから…」と辻は思案顔になる。そんな辻を見て、イラつきが増したのか、「オラ、行くぞ!」と逃げないよう辻の右腕を引きながらブースの中へ入っていく。

 

 

「あれれ? 辻ちゃんが虐められてるって聞いたから慌てて来てみたけど…珍しく勝ってるじゃん」

「犬飼先輩」

「…アン、犬飼か」

 

 

 先程のランク戦を見ていたらしい犬飼が「どうも〜」と静雅に挨拶をしながら駆け寄ってくる。辻が静雅に勝つことは早々ないので、あまり表情を変えない犬飼も驚いているように見えた。

 

 

「辻ちゃんに負けちゃうなんて静雅さんどうしたんですか? 太刀川さんにでも毒盛られました?」

「盛られてねぇし、盛る前にアイツは絶対にボロ出すだろ」

「あ、そっか。じゃあ風間さんとか二宮さんとか!」

 

 

 「顔で言うなら2人ともしそうですよね」と犬飼は言う。風間ならまだしも、二宮は自隊の隊長だが、一体犬飼の中で二宮がどんな人物像なのか気になる。

 

 

「そこは一周回って…あの、太刀川隊の……お荷物の人がやったんじゃ?」

「あー、確か唯我だったっけ? 確かにあの人なら金は持ってるもんね」

「あ、でも静雅さんって基本的にイコさんに監視されてますよね? …毒盛られる前にイコさんに殺されるか」

「おい、待った。聞き捨てならん情報があったぞ」

 

 

 確かに生駒はよく近くにいるイメージではあるけど…監視…?と静雅が首を傾げていると、犬飼と辻は顔を見合わせた後、あからさまに話を変えた。

 

 

「迅さんはなんて言ってたんですか? 静雅さんが負ける未来なんてよっぽどですよね」

「迅さん…?」

 

 

 「迅さんが俺をボコボコにしろって言ったらしいんですよ」と辻は犬飼に状況説明をする。そして犬飼は辻から状況を聞き、少し悩んだ後「迅さんって多分、辻ちゃん以外の人の名前出しませんでした?」と静雅に聞いた。

 

 

「ぶっちゃけ、辻ちゃんと静雅さんの実力差ってかなりあるから、静雅さんの経験値にはならないと思うんですけど」

「そこまではっきり言われると俺、複雑です」

「……太刀川、生駒、辻、荒船…確かソイツらの名前出してたな」

「…ああ。だから静雅さんは珍しく孤月使ってるんですか」

 

 

 先程、静雅が名前を出した4人はトリガーのセットに孤月を入れている人選だった。それに気づいていた静雅もどうやらトリガーの構成を変えていたらしい。

 

 

「でも静雅さんまでトリガーの構成を変えなくてもいいんじゃ…?」

「迅とも結構昔からの知り合いだかんな。俺の扱い方がうめぇんだよ。…確かに「その人達から孤月の使い方を学んでください」って言われるよりも「静雅さんは負けるから、頑張ってね」って言われた方が燃える」

 

 

 あの時の迅も静雅が負ける未来を静雅に伝えるべきか伝えないべきか悩んでいるように見えた。が、負ける未来を伝えた方が、最善の未来になると迅は思った。だから伝えた。それに迅は未来がどうのこうの以前に「静雅さんには負けて欲しくない」と言っていた。いつの間にかそこまで懐かれていたが、そこまで言われると手を抜くことも出来ない。やれるだけやってやろうとそんな気になれたのだ。

 

 

「なるほど」

「辻と戦う前まではずっと生駒と殺ってたからな。ぶっちゃけ今なら生駒旋空使えるような気がする」

「え」

「それはヤバい!!」

 

 

 「静雅さんの生駒旋空みたい!! ちょっと辻ちゃんブースに入って入って」そうニヤニヤしながら犬飼は辻の背中を押し、また辻と静雅の10本勝負が始まる。

 

 

『旋空孤月』

『…確かに伸びてる』

 

 

 少し悔しそうな顔をしてベイルアウトをする辻をみながら何故か犬飼は嬉しそうな顔で言う。

 

 

「うわ〜、これイコさん見たら絶対泣くわ」

 

 

 泣いている生駒の涙が、嬉し涙か悔し涙かは本人しか分からないことである。

 

 

 

 

 * * *

 

『どうだった? この数分間出何かわかったことは?』

「さっき刃先が硬いモンに触れた」

『おーけー。ちょっと待ってろ…』

 

 

 カチャカチャとパソコンを弄り、ヒカリは嬉しそうな声を荒らげた。

 

 

『アタリだ!! 硬質化したトリオン反応アリだ! 反応マークするぞ!』

「…視覚支援入った。サンキュ」

 

 

 ヒカリがマークしたソレを狙い、静雅は適度な距離を保ちながら孤月を振るう。すぐに静雅がやっていることにエネドラも気づいたのだろう。馬鹿にしたような顔で笑いながら言った。

 

 

「…あーあー、なるほど。玄界(ミデン)の猿も知恵は回んのか」

 

 

 ニタリと笑ったエネドラは…硬質化反応を複数に増やした。あからさまなダミーである。

 

 

「死ぬまでそのレベルでキーキー言ってろ! どうせ勝てねぇんだからよ!!」

『おいおい、静雅さんどうするよ!?』

「全部視覚情報に入れろ。全て…斬るだけだ」

 

 

 しかし、風間がやられたタネはまだ割れていない。迂闊に近づくのは得策ではないので、旋空でジリジリと削っていく。

 

 

「(チィ! ピンポイントでダミーだけを削って行きやがる…!!)」

『静雅さん!! 辺りにトリガー反応が!!』

「…なるほどな」

 

 

 トリガー反応がない地点まで静雅は後方に下がった。そして、何となくではあるが奴のブラックトリガーのネタが分かった。

 奴のブラックトリガー、それは硬質化と気体化、液体化の3種類に変えられるトリガーらしい。部分部分でもそれは可能らしいく、目には見えないがトリガー反応はあることや、風間のやられ口を見る感じ、静雅の予想は外れてはいないはずだ。

 

 

「ネタが割れりゃ簡単じゃねぇか」

 

 

 相手はダミーを増やして弱点である伝達脳・供給機関を上手く隠しているらしいが、そんなのダミーを増やすのが追いつかないぐらい全て斬って行けばいい話だ。斬るのは静雅の得意技である。

 

 

『全部斬った!!』

 

 

 視覚情報に入っているダミーは全て斬った。が、エネドラは死んでおらず、後方に下がった。

 

 

「なるほど。猿の悪知恵か」

「調子にのんなよ。ネタが割れようと俺は勝てる。…こっちが風上だかんな」

『静雅さん!!』

 

 

 静雅は前方を見つめ──姿を消した。

 エネドラが「んなっ!?」と声をあげる。

 

 静雅の現在のトリガー構成はいつもとは大分変わっている。理由としては、迅に負けると言われたあの日から、コロコロとトリガーを変え、様々なスタイルを試してきたからである。

 そして、今のトリガー構成はカメレオンを抜き──テレポーターが入っていた。

 

 

「俺がこのぷるぷるに負けるだァ? 変な未来を見たもんだな、迅もよ!!」

 

 

 辻、荒船、生駒と3人をボコボコにしていたある日。見かねた男が立ち上がったのだ。

 

 

「忍田直伝の剣は速いぜ」

 

 

 エネドラの後ろに回った静雅は、先程の剣よりも速く、ダミーを斬り──遂に本命を真っ二つにした。

 

 

「戦いは逃げるだけじゃ勝てねぇ。覚えときな」

「くっ………そぉぉぉぉお!!」

 

 

 エネドラの雄叫びと共に回りは爆煙に覆われ…生身のエネドラが姿を現す。

 

 

『おお!! 静雅さんやったな!!』

「ああ。…とりあえず拘束するか」

『だろうな。さすがにそのまんま放置はヤバいだろ』

 

 

 さて、どのように拘束すっかな…と一瞬思考を巡らせ、孤月をチラつかせながら「おら、トリガー出せ」とエネドラに言う。静雅のそれは完全に街のチンピラだ。

 

 

「アアン!? 誰が出すか──」

「おいぷるぷる!!」

 

 

 カッと威嚇してくるエネドラの角を握り、無理やりその場から動かすと、エネドラがいた空間に針のようなものが現れた。エネドラのトリガーと似ているそれは、似ているだけで、どうやら全く別物らしい。静雅のサイドエフェクトが反応する。

 

 

「てめぇは…ミラ…!!」

 

 

 ゲートの中から涼しい顔で出てきた女性はどうやらエネドラの仲間らしい。人間にはついていない角に見かけない格好。そしてトリガー。しかし、仲間だと思われた彼女は確実にエネドラを狙っていた。

 

 

「あら、当てたと思ったのに…外しちゃったのね」




 
Q.どうしてヒカリにしたの?
 A.最初は三上にしようかなと思ったけど、出水達と人型を倒した後は三雲の援護に菊地原達は向かうので無理かなと。宇佐美にしようかなとも思ったけど、玉狛第一ってその時めちゃいい時だから無理。静雅と関係性のあるオペが光しかいなかった。

Q.カゲは原作通り頭悪いの?
 A.原作と比べると少しマシだけどやっぱり悪い。テスト近づくと缶詰状態。

Q.香取はボコボコにされてるの?
 A.フルボッコ。実はM属性なのかもしれない。

Q.なんで静雅は直前に孤月入れてなかったの?
 A.一周回ってやっぱりスコーピオンが使いやすいと落ち着いたため。でも直前になってビビって孤月に変えました。

Q.忍田直伝の剣とは?
 A.太刀川のレポート締切が近く、太刀川は使えなかったため、代わりに忍田がやってきました。「話は聞いている。さあ、始めよう」の次にぶった斬られて静雅はブチ切れたらしい。

Q.今の静雅のトリガーセットを教えて?
・メイントリガー
イーグレット
シールド
孤月
旋空

・サブトリガー
バックワーム
シールド
テレポーター
FREE TRIGGER

話によっては変わるかもしれない。現状はこれということで

Q.そろそろ雲隠れしちゃうかもって本当?
 A.実は結構ギリギリなので、そろそろ更新が止まるかもしれない。リアルが忙しくて本当にヤバい。決してリア充してるわけじゃないし、恋愛のパートナーはいつでも受け付けてます(おい)


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第29話

 


 

「未来がかなり動いたな」

「ふむ?」

 

 

 三雲と雨取の方へ向かっていた迅はふと、足を止めた。釣られるように並走していた空閑も足を止める。

 

 

「宇佐美、戦況はどうなってる?」

『陽介、いずみん、駿くんにきくっちーとうってぃーの5人がB級合同と組んで人型ネイバーを撃退!』

「それだな」

 

 

 迅は宇佐美の通信を聞いて嬉しそうに微笑んだ。隣で空閑は何が何だか分かっていないのか首を傾げている。

 

 

「宇佐美、それだけじゃないだろ?」

『えへへ、やっぱり迅さんは視えてるよね。そうなんです! シズさんがやってくれました…!』

「やっぱり静雅さんは凄いね。これはかなりデカい」

「シズカ…確か緑川が言ってた人だよね」

 

 

 ふむ、とまた考える素振りを見せる空閑。そんな空閑を見てついつい足を止めてしまっていた迅はちょちょいと前方を指さし、また走り出す。

 

 

「そうそう。駿は静雅さんのことが好きだから、しょっちゅう名前出すよね」

「その…シズカって人が何かしたの?」

「どうやら1人でネイバー…それもブラックトリガーを抑えてくれたらしいんだよね」

「ほう!」

 

 

 空閑が興味深そうに迅の話を聞く。空閑は強い人が好きだ。迅がそのシズカという人間を慕っていることは付き合いが短い空閑でも分かった。

 

 

「きっと遊真も気に入るよ。静雅さんは面白い人だからね」

「ふむふむ。いつかオハナシしてみたいね」

 

 

 近い内に静雅と遊真は会う。これは迅のサイドエフェクトが言っていた。その確定されかけている未来を見て、迅は面白そうに微笑む。

 

 

「そのシズカって人のおかげでオサムは死なずに済むの?」

「残念ながらそれは分からない。今、ちょうど分岐地点にいてね。静雅さん次第でかなり変わってくる」

「ほほう。じゃあなんとしてでもシズカさんには頑張って貰わないとな」

「いや、そういう訳にもいかない。…あんまり頑張り過ぎると静雅さんが死ぬ未来が見える」

「!?」

『え、それマジ迅さん!!?』

 

 

 通信を繋いでいたらしい宇佐美まで反応する。まあ、宇佐美は静雅に好意を抱いているし、仕方ないと言えば仕方ないようにも思えるが…。

 

 

『静雅さんは!? 静雅さんは大丈夫なの!?』

「うん、ちょっと宇佐美、声のボリュームを下げてくれない? 耳がキーンてする…」

『あ、ごめん』

 

 

 ぶっちゃけ、静雅の今の未来はかなり危ないものとなっていた。何故なら、静雅は取らないような未来をいつも選択する。それのおかげで迅は何度も救われたことがあるが、今回ばかりはその未来を選択しないで欲しいと迅は切実に思う。

 

 

「こればっかりはおれじゃどうにも出来ない。静雅さんが踏ん張ってくれないと…」

『…とりあえず風間さんに報告しちゃダメかな? 風間さんにだけでも教えてあげたい』

「…うん、風間さんには教えといて。よろしく宇佐美」

『分かった。ごめん、通信切るね』

「うん」

 

 

 ──大丈夫、静雅さんなら大丈夫。

 

 何度も何度も迅は心の中で反復する。静雅さんは死なない。大丈夫。それをずっと。

 

 迅が最初に静雅を知ったのは、風間の兄 進と話している時だった。あの時はまだ静雅とは面と向かって会ったことなかったし、容姿とかは全然分からなかったけれど、時々進が風間さんの話と共に話してくれた。

 そして、近い内に迅は静雅と出会うことになる。理由は進が死んでしまった事実を伝えるため。

 

 正直、あの時のことはあまり思い出したくない。痛々しい風間さんの顔、ご両親、そしてやるせない静雅さんの顔。視ていたはずなのに、助けられなかった未来。

 

 

『人はいつか死ぬ。気に病むな』

 

 

 そう、帰り際言われたけれど。それでも。

 

 

『アン? ジン…? え、何。俺、お前と会ったことあったっけ』

 

 

 次に会った時に言われた言葉。どういう顔で会ったらいいのか分からなくてうだうだ悩んでたらそう言われた。そして、背中を大きく叩かれたような気もする。

 

 

『テメェ、ガキだろ。笑え。それが仕事だろうが』

『アア!? おいおい、この成績なんだよ!』

『ほーん。スコーピオンね…。中々、面白いモン作ンじゃねぇか』

 

 

 確かに、人はいつか死ぬ生き物だ。それでも。

 

 

「…まだ死ぬには早すぎるよね、静雅さん」

 

 

 迅の呟きは隣の空閑に聞こえていた。



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第30話

新年あけましておめでとうございます。いつの間にか年が明けてました。
お昼の12時にクリスマスネタの番外編を投稿します。お暇だったら見てください
後、活動報告書にてリクエストを受け付けようと思います。気が向いたら番外編か本編で書くかもしれません。良ければご協力お願いします


 

 「ミラ」と呼ばれたおかっぱな女性は明らかにこのエネドラのお仲間だろう。しかし、先程の攻撃はあからさまに()()()()()エネドラを狙って攻撃してきた。人型ネイバーに仲間意識がないのか、はたまたはこのエネドラが()()()()なったのか。後半の方が説として成り立つな、と静雅は1人頷く。

 

 

「おい、ぷよぷよ。お前に残されたのは2択だ」

「あ゙!?」

 

 

 新しい人型の攻撃を避けながらエネドラと話す。流石に体格がでかく体重もそこそこにあるエネドラを抱えながらの戦闘はキツい。長く喋っている暇も無さそうだ。

 

 

「1つ目はこのまま殺される未来。あの女は俺よりもお前を殺す方に重点を置いている」

「…」

「考えられる理由はひとつだな。てめぇが俺に負けた。簡単な理由だ」

 

 

 ギィと歯ぎしりする音が聞こえた。事実なので反論する余地がないのだろう。そんなエネドラを横目に静雅は話を続ける。何故なら時間がないからだ。

 

 

「2つ目は救かる未来だ。てめぇがこれを選ぶのなら俺が何としてでも救ける」

「はぁ!?」

『ちょっ、静雅さん本気で言ってるのか!?』

 

 

 ヒカリとエネドラが反応したのは同時期でキィーンと音が耳に響く。言いたいことは分かる。このエネドラは敵であり、救ける義理なんてない。しかし、ここでエネドラを救けられたとしたらボーダーには利益しかないことも事実。ぶっちゃけ見た感じ、エネドラが何か重要な手がかりを持ってそうには見えないが、戦闘員としてそこそこやれていたわけだし、多少のトリガーなら知っているはず。それに多少なりとも情報があれば知りたいし、こんな馬鹿そうな男に縋りたいほどボーダーは何も情報がない。これも目的のためだ。

 

 

「しかしこれには条件がある」

「条件…?」

「てめぇのトリガーを寄越せ」

「なッ!?」

 

 

 確かこのエネドラのトリガーはブラックトリガーだったはずだ。この記憶が間違っていてノーマルトリガーだったとしても、少なくとも鬼怒田辺りには感謝されること間違いないだろう。そして、新たなトリガーが生み出されればボーダーとしてもきっといい方向に行くに違いない。

 

 

「お前のトリガーを狙ってきている可能性も捨てきれねぇ」

「…」

 

 

 ブラックトリガーはとてつもなく強大で、戦況を一変出来るほどの力を兼ね備えている。そう簡単に量産できる訳でもないので、このブラックトリガー(仮定)は凄く貴重な筈だ。しつこく女が狙ってくるのも頷ける。

 

 

「悩んでる時間はねぇぞ。生きるか死ぬか。生きていたらまたあの女に復讐ができるかもしれねぇし、死んだらそこまでだ」

 

 

 「選べ」そう静雅がエネドラに選択を迫るとエネドラは舌打ちをひとつした。そして嫌そうな顔と声色でこう告げる。

 

 

「あの女の名はミラ。窓の影(スピラスキア)っつーブラックトリガーを持っている。能力はワープだ。あの女のワープ装置みてーなのを俺らは『窓』と呼び、『窓』がでけぇほどタイムラグが発生する」

「ほう…」

「…生に縋るわけじゃねぇ。が、このまま死ぬのも腹が立つ」

 

 

 そう言うエネドラの顔は何処か諦め顔で、それでいて何故か晴れやかな顔をしていた。

 

 

「別に死んでもいい。あの女に一泡吹かせられるならな」

 

 

 エネドラは懐から黒いぷよぷよしたものを取り出すと「ほらよ」と言った。…トリガーまでぷよぷよしてんのか。あんまり触りたくねぇなと静雅は思ったが、ここで受け取らないと意味が無い。

 

 

「好きにしろ」

「…約束は絶対に守る」

 

 

 ワープ女の攻撃を静雅は地味に避けながらテレポーターを扱い、女と距離をとり撒く。流石スナイパー。気配を消すのはお手の物だった。しかし、これもずっと続く訳では無い。こちらが後手に回ってしまっているこの状況下である限り、必ずすぐに見つかってしまうだろう。

 

 静雅は辺りを見渡し、そこそこ大きくもう使われていない一軒家の中に入り込むとエネドラを地面に下ろす。あまりにもエネドラが重いので乱雑な下ろし方になり、思いっきり尻を打ち付けたエネドラは大声で抗議をする。大声を聞いた静雅は反射的にエネドラの口を押さえた。

 

 

「見つかんだろうが」

「もごもごもご!!」

 

 

 「黙ってろ」と制裁を一発エネドラに入れると、ワープ女の追跡を確認するため、2階に上がった。案の定、窓からワープ女が静雅を探している光景が見える。女を観察しながら「おい」とヒカリに通信を入れるとすぐに繋がった。

 

 

「ぷよぷよを確保した。誰か回収に来れっか」

『…ん〜、誰かって言われてもな…』

「アレだ。風間とか暇だろ」

『ムリだな。風間さんもベイルアウトしてそう時間が経ってない。流石にトリオン体の再構築には時間がかかると思うぞ』

 

 

 どうやら風間はまだトリオン体の構築も出来ないようだ。トリオン体の構造として、ベイルアウト機能が大量のトリオンを消費してしまうので、トリオン体を構築するぐらいならいけなくもない…と考えていたが、静雅の認識は甘かったらしい。ヒカリの報告を聞いて静雅はチッと舌打ちをする。

 

 

『菊地原達も交戦中だし…カゲ達を呼ぼうにも場所が遠すぎっからなー』

「いや、いい。アイツには暫くここにいてもらう」

 

 

 あまり静雅がこの場に長居してもエネドラの身が危険に脅かされる。そろそろ離れるかと1階に下り、エネドラに言う。

 

 

「ここから出んな。そしたら多分安全だ」

「おいおい多分かよ」

「残念なことにてめぇを回収できる人間が居ねぇ。あの女達を追い返すまでここで大人しくしてろ」

「俺が民間人に手を出すとか考えねぇのか」

 

 

 エネドラの言葉に静雅は「愚問だな」と鼻で笑った。そもそも、ここは警戒区域内で民間人なんて1人もいない。それに生身でここらを出歩けば危ないのはエネドラの方である。死にたいのであれば勝手にすればいい。静雅は「ここから出るな」と言ったのだから。勝手に約束を破り、出歩いたエネドラに全責任がある。

 

 

 

「わかってると思うが邪魔だけはすンなよ」

 

 

──まあ、トリガーの無いてめぇに出来ることなんてひとつもねェが

 

 トリガーを持っていない奴を煽る必要性もない。流石にそこまでは口に出さなかった。

 

 

 

 

 * * *

 

「ん…」

 

 

 棒付きキャンディを舐めながらカチャカチャ カチャカチャと画面を弄っているのはB級2位 影浦隊のオペレーター仁礼光である。エネドラを確保した静雅の元にどうにかして人員を回せないかと人手を探すがどうしても無理そうだった。出れる戦闘員は既に出払っているし、空いている戦闘員はボーダー基地の護衛に回っている者ばかりだ。むう、と仁礼の顔が歪む。

 

 

「静雅さんは別にいいって言ってたけど…流石に気が散るよな」

 

 

 かと言って人員を回せないのも事実。カゲなら何とか回せるか…?とも思うが、静雅の元へ向かう道中できっとネイバーの邪魔が入って来るに違いない。向かえないことは無いが、あまり期待も出来ないし早急には無理だろう。アタシが行けたらなあ〜!!とも思うが、戦闘に関してはやれる自信が無い。無理だ。ないものねだりだ。仁礼は頭をガシガシと強くかいた。

 

 

『ヒカリさん』

「お! 三上じゃねぇか!!」

 

 

 人員について頭を悩ませていたが、三上からの内部通信が入り、考えを遮断する。「どしたどした?」と三上に聞いた。

 

 

『静雅さんは、無事ですか…?』

「ん? 今のとこ五体満足のピンピンだぞ。しかもサラリとブラックトリガーを確保!!」

『──ッ!!』

 

 

 三上の息を飲む音に仁礼は首を傾げた。別に静雅さんは悪いことをしてないだろ? その反応はなんだ? もっと驚くかと思ったのに。仁礼の疑問は尽きない。三上もそれがわかったのだろう。『あの…』と暗い声で何かを言いたそうにしていた。

 

 

『仁礼。風間だ』

「お! 風間さんじゃねぇか。ん? どした?」

 

 

 風間まで出てくるとはこれは思ったよりも深刻そうだった。さらに仁礼の頭の上でクエスチョンマークが増える。

 

 

『…心して聞け。迅の視た予知だと静雅が死ぬ未来があるらしい』

「え…」

 

 

 思ったよりも、なんて比にならないほど深刻な話だった。

 急に人が死ぬと言われても「はい、そうですか」と納得できるほど仁礼は戦闘慣れしていないし、日本は危ない国でもない。

 

 死ぬ? 死ぬってなんだっけ。

 ぐるぐると仁礼の頭の中で死ぬという単語が回る。ベイルアウトのことか? いや、ベイルアウトならベイルアウトって風間さんは言うはずだ。それにベイルアウトぐらいなら伝えなくてもいい。確かに静雅は中々にベイルアウトはしないけれど、ボーダー隊員ならベイルアウトしても可笑しくない。

 

 じゃあ、死ぬって──?

 

 仁礼の顔から一気に血の気が引いた。つまり、そう言うことだ。

 

 死ぬ、それ即ち。命を無くし、もう二度と会えなくなってしまう。「おはよう」も「おやすみ」も何も言えないただの屍になることを指す。

 

 

『話を聞いていれば静雅はブラックトリガーを手に入れたと言っていたな』

「は、はい。人型ネイバーを救ける対価として受け取ってました」

『そうか』

 

 

 やばい。仁礼の頭の中はその言葉で埋め尽くされた。静雅は今1人で新たな人型と戦おうとしている。それも、戦えない人型ネイバーを背負ってだ。静雅は「救ける」と言った。静雅は守れない約束は絶対にしない。本気で守る気でいる。そうなるときっといつも以上に気が散って戦えないはず。

 

 

「三上、静雅さんを頼んでもいいか…?」

『はい…?』

 

 

 戦闘員が割けないのであればアタシが行けばいい。そんな気持ちで二礼はオペレーターに支給されているトリガーを握り、影浦隊の隊室を出る。

 

 大丈夫だ、静雅が戦ってるのは本部からそう距離がない。行ってエネドラを回収したらすぐだ。きっと往復で30分も満たない内に本部に帰って来れるだろう。

 

 大丈夫、そう何度も心で唱える。もしかしたらネイバーが私の目の前に出てくるかもしれない。けれどそれはもしかしたらで、出てこないかもしれない。タラレバを考えればたくさん浮かんでくる。けれど、そんなしょうもないことを考えてここで足踏みをして、静雅さんが死んでしまったら、きっと私は後悔してしまう。

 

 仁礼は戦えない。そんなことは重々承知だ。だから、ネイバーと出会わないように慎重に、そして最短ルートでエネドラという人型を迎えに行く。

 

 

「死ぬなよ、静雅さん…!!」




 
Q.静雅はエネドラをどのように運んでいたの?
 A.理想はお姫様抱っこ。現実は俵担ぎ。そもそも、静雅とエネドラのカップリングは誰も萌えない。

Q.三上ちゃんは本当に光を「光さん」と呼んでいるの?
 A.多分、多分…。光のことだから「名前で呼んでくれ!」とか言ってると思う。そして、光が三上ちゃんの事を「三上」と呼ぶのかも分からない。原作じゃみかみかと呼んでいる可能性もあるが、この小説では風間隊の唯一紅一点の三上を警戒して名前で呼んでない可能性もある。恋敵だと勘違いしているのかもしれない。


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第31話

すみません。最近ずっとpixivの方に浮気してました…。
早く原作進めてとあるお方の話を書きたい。なので久々に書いたけどほとんど進んでないやばこれ…。


 

 

『──静雅、そっちに仁礼が行った…!』

「ア"!?」

 

 

 

 突然の風間による通信に静雅は一瞬動きを止めてしまう。そこを目ざとく感じ取ったミラは隙を見逃すはずもなく、静雅の右肩に棘のようなナニカが襲った。

 ぶっちゃけると静雅の戦況はあまり宜しくない。そもそも、ミラと闘う前にブラックトリガー持ちのエネドラと交戦していた。そこで、まあまあな量のトリオンを削られ、今では右腕は使えない状況。こういう時、いつもならスコーピオンで空けられた穴を補強するなどしてトリオン漏れを凌いでいたのだが、生憎と今はそのスコーピオンがない。チッ、と舌打ちを打ちながらも、静雅は考えるのをやめない。

 

 静雅の戦況は著しくない。が、静雅はミラとの相性は良かった。ミラは通称「窓」と呼ばれるワープ系のトリガーを使っている。そして、静雅のサイドエフェクトは「強化空間認識能力」。ミラが繋げようとしているワープ地点を一瞬、サイドエフェクトで察知することが出来るのだ。たった一瞬。されど一瞬。ミラが繋げようとしている空間にピリッとした空気が流れる。それを、逃さず察知する静雅の集中は今までで一番高まっていると形容して間違いないだろう。

 

 

「(なんなのコイツ…! 私のワープ地点を読んでいる!?)」

 

 

 ミラが静雅にまともに与えた攻撃は先程の一撃だけだった。それ以外は綺麗に躱され、なんならカウンターを入れられる始末。ギラギラと目を光らせ、洗練された身のこなしは完全に兵士そのものだった。

 

 

「(エネドラも面倒な奴にトリガーを託したわね…)」

 

 

 ジリ貧の戦い。しかし、ミラには勝機がまだまだある。静雅のトリオンを削ればあっちは勝手に死ぬのだから。

 ミラは静雅を囲むように、ワープを配置し棘を配置した。さすがに複数個は察知しきれなかったのか、静雅の脇腹と右足に穴が空く。

 

──ヤバいな

 

 静雅は冷や汗を流した。静雅はどちらかと言えばトリオン量が多い部類に入る。が、戦闘がこうも長引くとさすがの静雅でもキツい。それに一番やばいのは、近くにヒカリがいること。ここで静雅がエネドラのブラックトリガーを持ってベイルアウトしたとして逃げきれたとしても、確実にエネドラはミラの手によって殺されるだろう。そして、それは同時にエネドラの回収に出たヒカリの死を表す。

 

 それは、静雅にとって見過ごせないことだった。

 静雅は死ぬ覚悟ができている。それはボーダーに入ると決めたと同時に死の覚悟も決めた。なんなら遺書だって書いているし、双子の兄にもそれとなく「俺は長生きできないかもしれない」と話はつけてあった。

 

 でもヒカリは違う。普通に生きて、ボーダーに入った。きっとトリオン量の問題もあったのだろうが、死線とは程遠いオペレーターにつき、ボーダーに貢献してきた。まだまだ続く後半年ほどの高校生活。なんなら大学にだって行くかもしれない。そして、好きな男と付き合って、結婚して、子供を産んで。そんな在り来りで幸せな日常を送る筈なのだ。そんな尊い命をここで摘むわけにはいかない。

 

 

『おい、静雅。何をする気だ』

 

 

 長年の勘なのかもしれない。どうやら風間は何かを感じ取ったのだろう。静雅を咎めるような声色で問うてきた。しかし、静雅は何も返さない。

 

 

「旋空孤月」

 

 

 直線上に伸びる斬撃はミラの真横を通り、頬を掠める。そこから僅かにトリオンが漏れ出す。

 

 

「もうトリオンはないでしょう? さあ、アナタはどうするのかしら」

「安心しろ。俺は逃げねェ」

 

 

 テレポーターでミラの前に移動した静雅は「旋空──」と呟く。急に目の前に現れた静雅に驚くことなく、ミラは逆にニヤリと笑った。

 

 

「視線の範囲内でないと移動できないことはとっくに見破ってるのよ。ここで終わりね」

 

 

 ミラの棘は静雅の土手っ腹に風穴を空けた。それと同時にミラの右腕が吹っ飛ぶ。

 

 

「(さっきと斬撃の速度が違う…!)」

 

 

 通常よりも数秒早く放たれる生駒旋空は、通常の旋空と絡めると相手のリズムを乱す。通常の旋空が来ると思って油断していたミラの腕を飛ばすのには覿面だった。

 

 ピキピキと静雅の顔に罅が入る。これは、静雅のトリオン体がベイルアウトをしようと準備し始めたのだ。それを察知した静雅は「トリガーオフ」とトリオン体から肉体へと、換装する。

 

 

『静雅!!』

 

 

 最後の最後に咎めるような風間の声がしたが、静雅は聞こえなかったことにした。

 

 

 

 

 * * *

 

 ──別に三門市の人間を守りたいだとか、そんな大義名分を掲げてボーダーに入ったわけじゃない。

 

 是非ボーダーの広報に!!と風間と共に呼び出された静雅は、一人ペラペラと喋っている根付の顔を見て静かにため息を吐いた。

 

 ネイバーが三門市を襲ってまだそう日が経っていない頃。せめて知り合いだけでも救える力が欲しいと、静雅は風間と共にボーダーに入ることを決意した。風間の兄である進がボーダーに所属していたこともあり、ツテを辿ってボーダーに入るのは案外簡単だった。それにボーダー側も人手不足らしく、使えるものは使っていくというスタンスだったこともある。

 

 ボーダーという組織がまだ世間に知られてそう時間が経っていない。ネイバーという驚異から救ってくれたという感謝よりも、人とは違うまた驚異の力を持っているボーダーに人々は疑いの目を向けていた。それでも街の人間を守るには人がいる。なので、ボーダーはクリーンなイメージですよ、という認識を植えつけるためにも根付はボーダーの隊員を使って記者会見を行うことを考えていた。人々の不安を聞いて寄り添う、そんな組織であると見せつけるために。

 

 それに白羽の矢がたったのが風間と静雅だった。二人の容姿は隊員の中でも際立っていた。特に静雅は眼鏡を掛けさせると目付きの印象が和らぎ好青年に見えてしまうほどの豹変ぶり。思わず根付が「キミの顔は詐欺だよ…」と呟いてしまうほどには整っていたのだ。

 

 拒否権なんてものはなく、あれやこれやと準備をさせられ、最低限のカンペと共に静雅と風間は背中を押され記者会見に出ることになった。

 

 沢山の報道陣。中にはニュースの取材まで来ていた。正直、げっそりとした気持ちだったが、風間に「しゃんとしろ」と咎められ最低限の顔は作る。

 

 記者会見という名のお披露目会は正直に言ってクソだった。ボーダー組織の在り方を問うて来る者はもちろんのことだが、中には「見知らぬ人間と家族、襲われていたらどちらを助けるか」なんて質問をしてくる人間もいた。

 

 どうやらその回答に風間は倦ねていたらしい。きっと風間としての回答は家族なんだろうが、ボーダーとしての正解は街の人だから。自分を偽りボーダーのイメージをとるのか、それとも自分の強い意志を見せつけるのか。そんな風間を横目で見つめた静雅は風間が答えるよりも早く「家族」と言った。

 

 

「なッ──!!」

 

 

 ザワザワと報道陣が煩くなる。そこから口々に開かれるのは批判の波。結局、どっちを取ったとしても批判する気満々だったであろう醜い大人を見て静雅はため息を吐いた。

 

 

「顔も名前も知らない人間よりも、俺を産んで今まで育ててくれた両親を取るに決まってる」

「じゃあキミは街の人々を見捨てると言うのか!!」

「俺は見知らぬ人間を護るためにボーダーに入ったんじゃない。今まで俺を愛し、育ててくれた両親や兄弟達を護るためにボーダーに入った。その覚悟をお前らにイチャモン付けられるいわれは無い」

 

 

 静雅の真っ直ぐとした瞳を見て報道陣は黙りこんだ。

 

 

「未成年を戦わせるのはどうだ、とか。あれやこれや突くのは楽しいか。ボーダーに入った人間は少なからず覚悟を持っている。それをお前らにあれやこれやと汚されたくない。──そして、テレビを見てボーダーに興味を持った人間に告ぐ」

 

「──お前らは護るために死ぬ覚悟があるか?」

 

 

 記者会見は批判が殺到した。主に静雅が口にした「死ぬ覚悟」について。年端もいかない少年が死について語るのはそれはそれは世間の目からすると異様で、不気味に見えたらしい。

 

 護られている者はラクだ。そして、それに慣れるがあまり、護られることが当たり前だと認識し始める。それは当たり前ではないのに。護る裏側には何かしらの犠牲がついている。それを見ないふりして、ギャーギャーと文句を言うのはラクだし簡単だ。力が無いからと言ってそれに浸るのはいけない。力がない者はない者なりに、闘う手段を見つけ、自衛をしなくてはいけない。何故なら、最後に自分を護るのは自分なのだから。

 

 きっとこの件で一番被害を受けたのは根付だろう。火消しに全力を注いだあまり胃潰瘍になったらしい。

 

 

「キミは一体自分がなにをしでかしたのかわかってるのかね!?」

「ア? 俺が言ったのは事実だろ」

「言い方って言うものがあるのだよ!! キミはどれだけ野蛮なんだね!! 全くキミを育てた両親はどんな教育を──」

 

 

 ここで明記しておかなくてはいけないことは、静雅と根付共に精神的コンディションが悪かったこと。

 知らない人間に好奇な目で見られあれやこれやとチクチク突かれた静雅に、静雅の後先を考えない発言に最大の尽力を持って火消しに勤しんでいた根付。二人ともストレスは通常の倍よりも感じており、お互いがお互いを睨み合っていた。

 記者会見に出たくなかった静雅と、余計な仕事を増やされた根付。そして、根付の発言は静雅を怒らせるのには十分な発言だった。

 

 

「死ね」

 

 

 手を硬く握り、爪が食い込むほどの拳を振り上げ静雅は根付の顔面に一発入れた。多少鍛えている静雅の拳はそれなりに重く、非力である根付は地面に身体を打ち付けた。

 

 

「な、なにを」

「俺は幸せだ。クソみたいな人生を歩んでいたのに、あの人たちは俺を見てくれた」

 

 

 焦点の合わない目で、静雅は言った。

 そして、光を映さない瞳で根付を見下ろすと静雅は言う。

 

 

「俺の誇りをお前ごときが踏みにじるな」

 

 

 ガス、ガス、と。根付の顔面に一発一発入れていく静雅。慌てて風間が止めに入るが、静雅はやめようとはしなかった。

 

 

「キミは、本当に、ロクな人間じゃない!!」

 

 

 元々、静雅と根付は合わなかった。お互い初めて顔合わせをした時も不思議と「あ、コイツいけ好かねェ」と2人はシンパシーのようなものを感じた。そして今回、回り回ってこうやって爆発してしまったのだ。

 

 それからは根付と静雅の仲は随分と悪いものになった。近くにいた風間や忍田に物理的距離をとらされた二人は和解することも無く、そして根付の発言が撤回されることなく、今を生きている。

 

 ああ見えて静雅はお人好しなのだ。自分よりも、相手を思える優しい人間。家族を一番に考え、大切な者たちを護ろうと奮起する姿は素直にカッコイイと思う。が、自己犠牲が過ぎるのも如何なものかと思うのだ。

 

 

「風間さん…」

 

 

 静雅のトリガー反応が消えた。そして、ベイルアウトはしていない。となると生身で静雅は今、ブラックトリガーと相対していることになるのだ。風間はギリッと自分の手を力いっぱいに握った。

 

 今の自分は非力だ。静雅を救けられる環境は揃っているのに、風間は静雅を救けてやれない。また、大切な者を亡くしてしまうのか。そんな負の感情が風間を覆おうとしていたその時。

 

 

『──こちら諏訪隊。影浦静雅と合流!』

 

 

 新型兵器にキューブ化された諏訪がボーダーのエンジニアの手によって、元の姿に戻り静雅と合流したらしい。

 

 

『ちっ、中々にやられてるが…死んでねぇぞ風間。安心しろ』

 

 

 『オラ、チンたらしてねぇで仁礼と日佐人を回収しに行くぞォ!!』と叫ぶ諏訪の声が聞こえて、本当に静雅の安否が確認出来た。

 風間はホッと息をつく。風間の隣にいた三上はグスグスと鼻を鳴らしながら「風間さん、良かったですね」と言った。

 

 

「ああ、本当に世話の焼ける馬鹿だ。一度やつには手痛い仕置をくれてやらねばならん」

 

 

 「もちろん、仁礼もな」と呟く風間に三上は同意を示した。




 
Q.ブラックトリガーを持ったままベイルアウトするとそれは反映されるの?
 A.多分される。されなくても、されることにしてください!

Q.諏訪さんはキューブになってたんだね?
 A.なってました。というか、記述していないところは全て原作通りに進んだと思ってください

Q.静雅の誇りって?
 A.それは家族や友人。自分を慕ってくれる僅かな後輩。それらに該当する全ての人間が静雅の誇りです

Q.静雅のイメージイラストを貰ったんだってね?
 A.コクマ様から頂きました!! ありがとうございます!! 自分じゃね、静雅は描けないので本当に貰えるとすごく嬉しいです! もし、描いてくれるよ!という心優しい人がいましたら、ぜひ送ってくれるとめちゃ嬉しいです

【挿絵表示】


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第32話

多分、次回でネイバー侵攻編は終わります。
予想以上にヒカリと宇佐美のアンケートがデットヒートを繰り広げていて、見ててめっちゃ楽しい。御協力、ありがとうございます
そして、感想ありがとうございます! 感想のおかげで更新出来てる節はある。本当に!!マジで!!ありがとうございます!!!!


 

「トリガーを解除? あなたバカなの?」

 

 

 トリガーを解除した静雅を見てミラは嘲笑った。彼女の目には静雅と殺意しか映っていなかった。

 

 

「死ね!!」

 

 

 そうミラは叫ぶと棘のような物体を繰り出し攻撃してくる。静雅はそれをサイドエフェクトをフル活用して間一髪で避け続ける。

 

 

「…中々にしぶといけれどトリガーを解除した今、あなたのスタミナはすぐに切れるでしょう? 諦めた方がラクだと思うんだけれど」

 

 

 ミラの怒涛の棘攻撃は静雅を襲い、肩や腹、足に傷をつけていく。

 

 

「(ここまで私の攻撃を避け続けるなんて少し興味深いわね。ギリギリのところで止めて持って帰るのもいいかしら…)」

『ミラ』

『…隊長』

 

 

 静雅に攻撃を繰り出しながらも考えることをやめていなかったミラの元にひとつの通信が繋がる。それは、今回の作戦の指揮を執っているハイレインからだった。

 

 

『至急こっちに来い。金の雛鳥だ』

『…泥の王(ボルボロス)が敵の手に渡っています。回収はどうしますか』

『………金の雛鳥を優先させる』

『…了解』

 

 

 ハイレインから通信が切られるとミラは静雅を見つめ、静雅を囲むようにして棘を出した。しかし、それは全てすんでのところで避けられてしまう。トリオン体じゃないはずなのに身体能力がずば抜けている。本当に、惜しい。

 

 

「…小賢しい。けれど命拾いしたわね」

「アン…!?」

「出来ればあなたごと連れて帰りたかったのだけれど…呼び出されたから()()()諦めるわ。まあ、それでも何れ私はあなたの前に現れることになるでしょうけれど。泥の王(ウルボロス)を持って首を長くして待ってることね」

 

 

 ミラはそう不穏な言葉を残すと「窓」を使ってハイレインのいる場所へとワープした。近くにミラがいないことをサイドエフェクトで感じ取った静雅は深い、深いため息を吐く。

 

 

「はああああああ…」

 

 

 長かった。ようやく張り詰めた空気が霧散する。静雅の肩の力が抜けた。それと同時にアドレナリンまで霧散してしまったのか、身体中がドクドクと痛み始めた。

 

 

「…やべ、死ぬかもなこれ」

 

 

 意外と重症な身体を客観的に感じ取った静雅は一人、呟いた。

 

 

 

 

 * * *

 

 時は数十分前に遡る。

 仁礼はひたすら走っていた。静雅が繋いでくれたバトンをここで離すわけにはいかない。そんな使命感を持って、ひたすらに。走って走って走った。

 

 

「…ここだな」

 

 

 ボーダーから近い警戒区域内のありふれた一軒家。ここに静雅が必ず救けると約束したエネドラがいるはずだ。辺りを警戒しながらも、仁礼は家の中へと入っていった。音に敏感になっていたらしいエネドラは仁礼が家に一歩踏み入れただけで気づいたらしい。「誰だ」と声がする。

 

 

「影浦静雅から応援を頼まれた仁礼光だ! えーっと、人型、で間違いないよな!」

「にれ…?」

 

 

 敬礼と当たり前だと言わんばかりの自己紹介。突如現れた仁礼を目の当たりにしたエネドラは自分が彼女の仲間になったような気がした。そして、それをすぐに打ち消し、警戒心が無さすぎると呆れる。

 

 

「ヒカリでいいぞ!!」

「……テメェ、つかお前らは警戒心をドブにでも捨ててきたのか?」

「はあ!? お前、しつれーなヤツだな!?」

 

 

 「急になんだよ!」と憤慨する仁礼にエネドラは当たり前だと言わんばかりに鼻を鳴らした。エネドラの言いたいことも分からなくもない。元々自分(エネドラ)玄界(ミデン)に攻めてきた敵だ。なのに、負けた自分を救けると抜かす隊員にその言葉を信じて遠路遥々やってきた仁礼。見るからに戦闘員ではないだろう仁礼を見て、エネドラは反吐が出ると顔を歪めた。

 

 

「お前、戦闘員じゃないだろ」

「な、ッ…!」

「俺がどれだけ戦闘に身を沈めてきたと思ってんだ。戦えるヤツかなんて目を見ればわかんだろ。…お前は綺麗な澄んだ目をしてやがる。ちっ、イラつくぜ」

 

 

 玄界(ミデン)(ぬる)いヤツが多い。それに救われてる自分はクソッタレだ。

 

 

「テメェ、俺のためだけに非戦闘員のクセに出張って来るとか…バカだろ」

「バカとはなんだ、バカとは!! …ま、間違いなくカゲ達には怒られるだろーな。想像するだけで怖い。でも、アタシは静雅さんにのびのびと戦闘をして欲しい。お前の存在が静雅さんの気を散らせるなら、どーにかしなくちゃいけねーだろーが! 今は戦闘員達が出払っててお前を回収に来れるヤツがいなかったんだ」

 

 

 「だからアタシで我慢してくれ」仁礼はそう言って笑った。

 

 ──戦闘員ではないが心は強い、か。いい戦士が揃ってるじゃねぇか玄界(ミデン)さんよォ。

 

 

「そろそろ行くぞ。あんま長居はよくねーだろーしな!」

「…けっ。………何かあったら俺は置いて逃げろよ」

「ん? 何か言ったか?」

 

 

 エネドラの数十年に1回みせるかみせないかの優しさはどうやら仁礼には届かなかったらしい。「なんでもねぇ!!」と突如怒り、一人ズンズンと歩き始めたエネドラを見て仁礼は困惑した。

 

 エネドラと仁礼のコンビは案外と仲良くなるのが早かった。口の悪いエネドラに物怖じしない仁礼と、仁礼のバカっぷりにド肝抜かれたエネドラの間にはギスギスとした雰囲気は一切流れていなかった。

 

 

「…多分、こっちだ!」

「おいヒカリ、多分ってなんだ」

「し、仕方ないだろ!? アタシのトリガーは本部とは通信出来ねーんだよ!! オペのアシスト受けられねーの!」

「だったらなんで来たんだよ!? バカか!!」

「いや、なんつーか、勢いだったんだよ…。アタシも静雅さんの役にたちたかったの!!」

「……ヒカリ、まさかおめぇあの男が好きとか抜かすんじゃねーだろな」

「え゙っ、何故バレた!?」

「…見る目ねーなお前…」

「はああ!? エネドラ、お前静雅さんに救けられた分際で何を言うか!!」

 

 

 遂には恋バナを始める始末である。お互いのことを「ヒカリ」「エネドラ」と呼び合う姿はもはや傍から見ると友にしか見えない。

 

 

「おい、ヒカリ! 止まれ」

 

 

 何かを感じ取ったエネドラは一歩前を歩いていた仁礼の肩を掴み、歩みを止めた。

 

 

「うおっ、急にどうした…?」

「気配がする。誰か近くにいるぞ」

「…敵か?」

「…複数人だな。さすがに敵かどーかは分からねーよ…」

 

 

 二人は頷き合うと近くの物陰に隠れる。息を潜ませ、攻撃手段を持たない二人は相手が通り過ぎるのを待つしかなかった。

 

 

「…おい、おサノ。本当にここら辺にいるんだろーな!」

『ヒカリちゃんのトリガー識別反応はそこら辺で点滅してるから、いるはずなんだけど…』

「あー!! 諏訪さんだー!」

「うわああ!!」

 

 

 物陰からひっそりと覗いていた仁礼だったが、前方から諏訪達が来るのを見ると、隠れていたのを忘れ飛び出した。あまりにも勢いよく飛び出したので、笹森が肩をビクつかせ大声を出してしまう。

 

 

「うおっ、日佐人ォ!! 急に大声出すんじゃねぇ!!」

「す、すいません!!」

 

 

 突如現れた仁礼に驚く笹森。笹森の大声に驚く諏訪。そして怒られる笹森。笹森が不憫すぎる。

 

 

「つーかヒカリ出てんじゃねーよ!!」

「エネドラ、安心しろ!! 諏訪さんは確かに犯罪臭のする顔してっけど意外といい人だぞ!」

「誰が犯罪者の顔だどつくぞ!!」

「まーまー、とりあえず落ち着きましょ諏訪さん」

 

 

 堤にあだめられた諏訪は大きく深呼吸すると、物陰から出てきた仁礼にドスドスと近づく。仁礼は首を傾げ諏訪の行動を見守っている。諏訪は、仁礼の目の前で止まると、拳を握りそこそこの力を入れて仁礼の頭を殴った。

 

 

「心配かけてんじゃねーぞ仁礼!!」

「痛いっ!!」

「(諏訪さんが女の子に手を出した…)」

「(体罰…?)」

 

 

 諏訪に殴られた頭を涙目で擦りながらも仁礼は大人しくお説教を聞き入れる。

 

 

「お前が静雅を慕ってんのは知ってる。けど、お前が今回やったコレは静雅を救ける行動じゃねぇ。命を投げ捨てたんだ」

「…」

「トリオン体だからどうにかなるって思ったか。付け上がるなよ。お前のそのトリガーには攻撃手段がねーんだ。一発食らえば生身になっちまうんだよ…!」

「はい、ごめんなさい…」

 

 

 ボロボロと仁礼は泣き始めた。さすがにキツく言いすぎたかと不安になる諏訪だったが、本当に死んでも可笑しくない場面だったのだ。これぐらいが丁度いいし、本気で反省してもらわないといけない。

 

 

「でも、まあ、よくやった」

 

 

 ぶっきらぼうに、諏訪はそっぽを向いてそう言うと乱雑に仁礼の頭を撫でた。そんな諏訪の行動に涙腺が崩壊したらしい仁礼はドバッ!と涙を流すと諏訪に抱きついた。

 

 

「すわさーん!!!」

「おい、コラ仁礼っ!! 鼻水付けんじゃねー!!」

「(女子高生の抱擁を受け入れる成人男性…犯罪だ)」

「(とりあえず、ヒカリちゃん見つかってよかったぁぁ)」

 

 

 ぐじゅぐじゅと顔を諏訪の胸元に押し付ける仁礼の行為は顔から出ている水分を諏訪のトリオン体に擦り付けているのと同意義だった。

 

 そこから数分ほど仁礼が落ち着くのを待ち、諏訪はその場で即席のチームを作って命令を出した。

 

 

「日佐人、お前は仁礼につけ。本部まで護衛だ」

「笹森了解」

「…ぐすっ、ずっ、……すわさん、たちは…?」

「俺たちは静雅の元へ行く。…アイツお前らを救けるためにトリガーオフりやがった」

「…!!!!」

「おサノ!! おめーは日佐人に安全なルートをナビしてやれ!!」

『小佐野了解っ!!』

「堤と俺は静雅の回収に向かう。とりあえず、アイツのトリガー識別反応を追うぞ」

「堤了解」

 

 

 

 

 * * *

 

 ボーダーには沢山の隊員がいる。その為、ボーダー隊員は分かりやすく年齢で括られることもしばしあった。21歳組、そう年齢で括られているのは風間、影浦、諏訪、木崎、寺島の5人である。そして彼ら5人の仲は、ボーダーの中でもかなりいい方だと称され、暇があればすぐに飲み会などを開き顔を合わせるほどの仲だった。

 

 諏訪は顔を歪めた。

 肩、腹、足からドバドバと血を流す友を見て。諏訪はずっとB級中位をグルグルと居座っているので遠征を経験したことは無かった。それ故に、こんなにも大量の血を見るの機会は今まででほとんど無かった。まあ中位を居座っている、と言っても本人は遠征に特に興味を示していないこともあって、A級というものにあまり必要性は感じていなかったのだ。ちなみに、固定給は超羨ましいと思っている。遠征には興味ないけどA級にはなりたい。

 

 人の血を見る機会なんて普通に生きていたらそうと無い。それこそ、その機会なんて鼻血を出しただとか指を紙で切った、膝小僧を擦りむいた、それぐらい軽いものだろう。しかし今、諏訪の目の前にいる男はそんな軽い怪我ではなかった。血の止まらない肩を抑え、足を引き摺りながら「生きてたンか」と諏訪を嘲笑している。そんな同期を見て諏訪は怒鳴りたい衝動に駆られた。いや、実際に怒鳴った。

 

 

「オイコラ静雅ァ!! 何トリガー解除なんかしてんだ!!」

「ア? これが最適解だっただろーが」

「お前ッ…死ぬかもしれなかったんだぞ!!」

「光が死ぬぐらいなら俺が死ぬわ」

 

 

 ケラっと。悪びれもなく、それが当然かのように静雅は言った。そんな静雅をジッと見つめていると静雅は「ンだよ…」とちょっとバツが悪そうな表情をする。

 

 

「諏訪、お前だって自分の命かお前んとこの…確かオサノ、だっけ? どちらかの命が高確率で救けられるってなったらオペの方取るだろ」

「それはそうだけどよ。それでも、お前に死んで欲しくねーって思うことは当然のことだろーが!!」

 

 

 諏訪はガン!!と静雅の頭を殴った。もちろん、静雅は怪我人なので力は一切入れていない。が、ガクッと俯いた静雅は色々な意味で相当堪えているだろう。そうだと信じたい。まあ、静雅を叱るのは諏訪(じぶん)の役目ではないのでこれ以上は何も言うまいと諏訪は静雅から視線を外した。

 

 

「こってりと風間や三上に叱られるんだな」

「きっと影浦隊のみんなも怒りますね」

「それで済めばいいけどな。…なんやかんや言ってお前はみんなに好かれてるよ。疲れるからっつー理由で滅多に怒らない雷蔵がキレるぐらいにはな」

 

 

 「分かったらしゃんとしろ!!」と諏訪は静雅に喝を入れた。横で堤が「まあまあ」と言うがどうやらそれは諏訪に聞こえていないらしい。

 

 ふと、堤が「静雅さんまさか自分で歩いて帰るつもりじゃないですよね…?」と呟いた。

 

 

「アン? 当たり前だろーが」

「怪我人ですよ!? それはダメですって!!」

「そーだそーだ静雅。大人しく堤に姫抱きされろ」

「え、俺ですか…?」

「俺がやると絶対ェに太刀川ら辺が爆笑すんだろ…」

『諏訪が姫抱きして連れてこい』

「オイコラ風間ボケェ!! テメェ他人事だからって余計なこと言うんじゃねー!!」

『諏訪が静雅を姫抱きすることで静雅の罰にもなる。メンタルは削れる時に削っていけ』

「鬼だ…」

「俺のメンタルも考えろよ…」

 

 

 トリオン体の諏訪と堤とは違って静雅は生身である。その為、風間の通信が静雅には聞こえていない。が、諏訪達の反応を見る限り絶対ロクなことじゃない。長年の勘でそれぐらいはわかる。静雅は一人、バレないようにUターンしようとした。

 

 

『あ! 静雅さんが逃げようとしてます!!』

『野生の勘が働いたらしい。…全く小賢しいな』

「…風間さん、口悪くないですか?」

「まあ、下手すれば死んでたからな。流石の風間でもヒヤッとしたんだろーよ」

 

 

 「オイ逃げてんじゃねーぞ静雅ァ!!」そう言って足をズルズルと引きずりながら逃亡を図ろうとしていた静雅の襟を掴み、諏訪はそれを阻止する。

 

 

「分かった、静雅。こうしよう。俺がテメェに鉛玉ぶち込んでテメェを気絶させる。そして俺らが運ぶ、これでどうだ」

「諏訪さん、それを怪我人の静雅にやると流石の静雅さんでも死にます」

「マジか」

「諏訪さんは静雅さんをなんだと思ってるんですか…」

「…まあ、なんでもいい。とりあえず傷縛って日佐人と仁礼を回収しに行くぞ!!」

 

 

 諏訪隊が静雅と合流する前に、仁礼と一旦合流していた。しかし、静雅の安否がかなり危ういこともあって、お説教も程々に念の為護衛として笹森を置いて静雅の回収を優先させた。あいにくと、ここら辺にネイバーは出ていないので、笹森が仁礼と捕虜として捕まえたエネドラを連れて本部に足を進めているらしい。陣形を整えるためにも、早急に合流したいところだ。

 

 

「…オイ、静雅。テメェ、実はギリギリだろ」

「ア?」

「血がだいぶ抜けてる。それに…熱があんのに身体が冷たい。よく見れば汗も尋常じゃねーじゃねーか!!」

「ブラックトリガー戦を2回、それに大量のネイバー出現によるサイドエフェクトの副作用。万全な状態じゃないのに更にそれを多用しましたよね…? 負担はいつも以上…下手したら遠征に行ってる時と同じぐらいじゃないんですか?」

「それに精神的負担もあったろーな。コイツがしくったら少なくとも二人の首が飛んでた」

 

 

 雷蔵に「静雅(バカ)と合流するならこれ持ってって」と押し付けられた清潔な布で諏訪達は止血しながら、静雅の容態にアタリをつけていく。何よりも静雅の口数が少ない。これは相当参っている筈だ。

 

 

「…ちっ、堤。静雅を抱えろ。早急に本部に連れていく」

「了解」

 

 

 「静雅さん、乗ってください」そう言って堤は静雅の前に屈みおんぶの体制に入る。が、静雅はそれを眺めるだけで堤の上におぶさろうとはしなかった。

 

 

「いい加減にしろよ」

 

 

 諏訪の静かな怒気を悟ったらしい。静雅は若干嫌そうに顔を歪め、堤の上におぶさった。

そして5分も経たずに静雅は気絶した。

 

 

「…傷に障らない程度に急ぐぞ!」

「はい!!」

 

 

 

 




 
Q.ミラ怖くね?
 A.原作でもそこそこやばいヤツだったけど、この小説でもそこそこにやばいヤツになった。完全に静雅に目をつけたらしい。この女なら地獄の底まで追いかけて来そうなので静雅はサイドエフェクトをフル活用して本気で逃げた方がいい。
アンケート、ミラ追加した方がいいのかな…?

Q.あれれ? 光とエネドラいい雰囲気じゃね?
 A.戦争中の吊り橋効果でそう見える…だけ、多分。きっと。そう信じてる。

Q.諏訪さんカッコイイね?
 A.諏訪さんにはたくさんの夢とロマンが詰まってる。あー見えて文系なので本当に侮れない。

Q.どうして諏訪じゃなくて堤が静雅を抱えたの?
 A.諏訪が抱えるよりも堤が抱えた方が安定するという考えから。いかにも冷静かつ確かに〜と思わせるこの考えは実は建前であり、本音は「ブチギレ風間に巻き込まれてたまるか」「太刀川のアホが絶対に何かしら突いてくる」「後々揶揄われた時に逆に静雅に殺されそう」etc...と保身的意味も兼ねている。ま、堤なら大丈夫だろという謎の絶大な信頼は外れることなく、諏訪は平和な未来を手に入れた。

Q.21歳組は仲がいいの?
 A.普通に仲がいい。風間と静雅は言わずもがなだし、口は悪いけどノリも良くて面倒見のいい諏訪に、お母さんのような包容力のある筋肉木崎、とりあえず飯を与えておけば大人しい寺島。仲が悪いはずがないと思う。ちなみに裏設定で19歳組を真似て旅行計画を立てたけど頓挫したという設定がある。

Q.勝手な独り言とは?
 A.こんなことを考えてる暇があるなら早く話を先に進めろって言われそうなんだけれど、静雅のイメージCVを考えました。個人的案としては小野大輔さんとかいい感じじゃね?と思うんですけど、皆さんはどんな声で再生してくれてるんですかね? 私がイメージしてるのはとにかく低めの声です。だってカゲも声低いし。それに小野大輔さんと杉田さんの兄弟構図は考えるだけで個人的に萌える。


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第33話

約一年更新していなかった「ぶいぶいエリートの妹」を消し、新しく掛け持ち作品を投稿しました。結局は兄妹ネタだし、中々にヤバい主人公が爆誕してしまった。書いてる本人がドン引いてる。スキマ時間に見てくれると飛んで喜びます。


 

 笹森、そしてエネドラを姫抱きしている仁礼と、数分前に合流した諏訪と静雅を背負った堤は、限りなく全速力で逃げていた。

 

 

「ちっ! なんでこんな時に限って新型なんか!!」

「また諏訪さんが立方体(キューブ)にさせられちまう!!」

「もうならねーよ!? つか、マジでやべえ!!」

 

 

 運悪く新型とかち合ってしまった彼らに、新型を倒すほどの戦力も余裕も今は持ち合わせていない。それに、仁礼とエネドラの護衛を受け持っている諏訪隊はつい数十分前に諏訪を立方体(キューブ)にさせられてしまっていた。戦力に心許ない。せめて、静雅さえ元気であればどうにかなると言うのに。

 

 

「くそっ!! 殺せるなら殺してやりたいのに…! 諏訪さんの仇っ!!」

「おいコラ日佐人ォ!! 俺が死んだみてーに言うな!!」

 

 

 風間隊のおかげで諏訪隊全員が立方体(キューブ)にさせられるという最悪の事態を逃れられた諏訪隊であるが、出来ることなら戦ってあの時の雪辱を果たしたいところだ。だが、笹森日佐人は理性のある男である。後先考えずに突っ込まず、ちゃんと隊長の指示に従っている。決して、あの時の風間の言葉と冷たい眼差しが頭を過ぎっている訳では無い。決して。

 

 

「でも本当に逃げてていいのかよ…? アタシら本部の方に向かって逃げてるけどよ」

「しゃーねーだろ! こちとら重症患者と捕虜背負ってんだ!! 静雅のためにも遠回りは出来ねぇ!!」

 

 

 最短ルートに新型が現れてしまったため、少し遠回りをしてしまっているが、諏訪隊+静雅+仁礼+エネドラは迷わず本部に向かっていた。新型を引き連れてしまっているが、こちらも時間をかけてはられない。それに、本部長が言うには本部の近くで太刀川がウロウロしているらしい。「何かあったら慶を向かわせよう」は本部長の言葉である。

 

 

「本部だろうが、新型の腹の中だろうが、黄泉比良坂だろうがどこだっていいんだよ!! 早く俺を殺せ!! 女に背負われるなんざ死んだ方がマシだ!!」

「ちょっ、エネドラ! 暴れるんじゃねー!!」

「おいコラ仁礼、捕虜ォ!! 大声出すな他の新型にも気づかれるだろーが!!」

「「(さっきから諏訪さんが一番声大きい…)」」

 

 

 プルプルと震え、剣ダコの沢山潰れた跡が残る硬い手のひらで顔を覆うエネドラ。長い髪とスラリとした体型が相まって、何処と無く儚さ、が…見えなくも、ない?

 

 なぜエネドラがこんなにも精神的面で死にそうなのか。それはエネドラが生身だからだ。生身のエネドラと一応トリオン体の仁礼では、仁礼の方が身体能力に分がある。それに、トリオン体というものは疲れを感じない。ひたすら走っていても、息が切れることも足がもつれることも無い。そういう観点から諏訪の指示の元、仁礼は一回りも大きいエネドラを姫抱きして走っていた。ちなみに、姫抱きの理由については仁礼はエネドラよりも身長が低いため、エネドラを背負うと必然的に足を引きずってしまう形になる。その事に考慮した仁礼が善意でエネドラを姫抱きすると言った。エネドラからすると地獄だが、仁礼はその事に気づいていない。善意100%がなせる技である。

 

 せめて諏訪や笹森が抱えられないかとエネドラは抗議したが、もし何かあった時の戦力として諏訪と笹森は両手が空いている状態がいい。そういう理由でエネドラの抗議は却下された。まあ、新型が出てきた途端綺麗な回れ右を見せ逃亡したため「両手が空いてよーと結局逃げるならお前らでも良かったじゃねぇぇかぁぁ!!」というエネドラの叫びは若干堤の良心を抉った。

 

 

「クソっ、執拗いな!!」

 

 

 牽制も兼ねて時折、諏訪のショットガンが火を噴くが、新型には一切効いていないようだった。ドスドスと音をたて、諦めるという言葉が頭の中にインプットされていないらしい新型はひたすらに諏訪達の後を追ってくる。

 

 

「諏訪さん、俺が時間を──」

「その必要は無い」

 

 

 決心を固めた笹森の表情は鋭かった。笹森が足を止めることで、釣られるように諏訪達の足も止まる。が、笹森は全てを言い切ることは出来なかった。何故なら、笹森の言葉の上に被せるようにして威圧のある言葉が聞こえたからだ。

 

 

「アステロイド+アステロイド=ギムレット」

 

 

 屋根の上で黒いスーツを靡かせ、大きなトリオンキューブを新型に放った男の名を二宮匡貴という。二宮の放ったギムレットは物凄いスピードで新型の身体を抉る。トリオン量が人よりも数段多い二宮の合成弾(ギムレット)は威力も相当なものだ。二宮の後ろからひょこっと現れた笑みの絶えない男、犬飼澄晴が「うひょー」と感嘆の声を漏らす。

 

 

「相変わらずえげつないですね、二宮さんのギムレット」

「犬飼、私語は慎め。まだ終わっていない」

「──旋空、孤月」

 

 

 二宮のギムレットはモロに新型の身体を抉った。しかし、抉ったのは新型の左半分であり、どうやらまだ息はあるらしい。逃がさんぞと言わんばかりに前方にいた諏訪達の方へ新型は右手を伸ばした。

 

 だが、その手は諏訪達に届くことはなかった。まるでギロチンの如く新型の首を上から降りてきた男が刎ねたからだ。その名も辻新之助という。ふぅ、と張り詰めていた息を吐き諏訪達の安全を確認しようとして…辻の息が止まった。

 

 

「助かったぞ、辻!!」

「は、はわわわわ」

 

 

 またしても善意100%の仁礼が辻に近寄る。それも、両手で顔を隠しているエネドラを姫抱きにしたまま、だ。天真爛漫な仁礼と、髪が長くて若干筋肉質にも見えるスラッとしたような女性(?)がズンズンと近づいてくる。それを瞬時に理解した辻は左右を確認すると、顔は怖いけど実際は無害な諏訪の背に隠れた。そんな辻を見て「俺を盾にすんじゃねー!!」と諏訪は怒り、二宮は呆れたようにため息を吐き、犬飼は腹を抱えて笑っていた。辻は犬飼を睨みつけるが、相手には全く効果がなかった。なんならガンバレと言われて更に腹が立つ。

 

 そんな混沌した現場で二宮は自分の仕事をする。「氷見」と呟けばすぐに二宮隊のオペレーター氷見亜季が『はい』と二宮との通信を繋ぐ。

 

 

「本部に繋げ」

『了解』

 

 

 秒もかからない内に氷見は二宮と本部の通信を繋いだ。

 

 

「本部、こちら二宮隊。諏訪隊と合流。そして新型を一体、撃破した」

『こちら本部。新型撃破了解した。二宮隊はこのまま新型撃破に向かって欲しい』

「…諏訪隊の援護に入っておいた方がいいんじゃないでしょうか」

 

 

 元々、諏訪隊に何かあった時は近くにいるはずの太刀川がヘルプに入る予定だった。しかし、強いものを探し、ひたすらに新型を切り伏せていた太刀川は段々と進路を変更していき、気づけば諏訪隊と太刀川との距離が開く一方だった。最終的には一人で新型と戦っていた村上のヘルプに太刀川が入ってしまったため、その場で諏訪隊と一番近かった二宮隊がヘルプに入ったという経緯がある。

 

 もし、また諏訪隊が新型に追われるなんてことがあった時のためにも自分達は近くに居た方がいいのではないかと二宮は考える。しかし、二宮のその言葉に本部は首を横に振った。

 

 

『いや、それはいい。この辺り一帯で新型の出現は見られていない。それにもう本部も目前だ。もし、新型が現れた時は…忍田(わたし)が出よう』

「…了解」

 

 

 忍田が言う通り、今の諏訪隊と本部の位置は目と鼻の先だ。頑張れば五分もかからない距離である。念の為に辻を援護につけようとしていた二宮は忍田の言葉を聞いてその考えを打ち消した。辻を選ぶ辺り、二宮は無自覚の天然である。

 

 

「辻ちゃん、命拾いしたよ。良かったねぇ」

「???」

 

 

 二宮隊のバランサーと名高い犬飼はどうやら何かを悟ったらしい。いつもと変わらず飄々とした笑みを浮かべ、辻の肩に手を乗っけた。辻は仁礼に怯えながらも器用に首を傾げる。

 

 本部との通信を切った二宮は目視で諏訪達の安全を確認したあと静かに目を伏せ「笹森」と笹森の名を呼んだ。名前を呼ばれただけなのに、あまりにも威圧感が凄すぎて笹森の返事は若干裏返った。

 

 

「は、はいィっ!!」

「…お前、時間稼ぎに名乗り出ようとしていたな。俺はお前を無謀な考えしか出来ないやつだとは思っていなかったが」

 

 

 あまりにも上からの物言いはひたすらに笹森を萎縮させた。それを横目で見ていた諏訪が怒ったように二宮の名前を呼ぶ。

 

 

「まーまー、諏訪さん怒らないで下さいよ。二宮さんも言葉が足りてないだけなんですから」

 

 

 「笹森も怯えないであげて」と犬飼が間に入る。さすが言葉足らずな天然隊長、女性の前になると途端に木偶の坊へと変身してしまうチームメイト、人見知りで烏丸の前に出ると人形のようになってしまうオペレーターを持つ男だ。一を聞いて十を知ることは、犬飼からすると息をするぐらい当たり前で慣れているのだろう。

 

 

「笹森の気持ちも分からないではないよ。あのまま纏まって逃げてても捕まるのは時間の問題だった。でも、囮に名乗り出るのは早計だったね。ちゃんと、オペに近くに他の部隊がいないのかとか聞かなきゃ。そもそも、おれ達を呼んでくれたのは小佐野ちゃんだよ?」

「えっ、そうなんですか!?」

『そうだよ〜。すわさん達が逃げ回ってるのを高みの見物してたワケじゃないんだから』

「…おサノ、お前はなんて出来るヤツなんだ…!」

『親戚のおじさん…?』

 

 

 あまりにも仕事が出来るオペレーターを思って涙ぐむ諏訪と堤。笹森も小佐野に感謝の言葉を述べていた。それを見守っていた犬飼は「二宮さんはこれを言いたかったんですよね?」と二宮に問う。二宮は当たり前だろうと言わんばかりの顔をしていて、その場の二宮隊以外が「マジか…」という表情を見せた。

 

 

「犬飼、お前も苦労してんだな…」

「おい諏訪さん。苦労しているとは何だ」

「アハハ、慣れたもんですよ」

「おい犬飼、何故同意をする」

 

 

 二宮をイジることで、その場の空気が軟化した。しかし、堤が諏訪の名前を呼ぶことでまた引き締まった空気が戻ってくる。

 

 

「諏訪さん、そろそろ」

「おー、そうだった。こちとら(身体的な)重症患者と(精神的な)重症患者を運んでる途中だったわ」

「精神でもなんでも抉れるものは抉っておけ。こっちに損は無い」

「…二宮、お前風間教の信者か何かか?」

「二宮さんは強いて言うなら東教の信者ですよね?」

 

 

 二宮が発したのはどこかで聞いたような言葉だった。思わず絶対零度の視線を寄越す風間を想像してしまったが、犬飼の言葉を聞いてその場にいた全員が「確かに」と同意する。相手とのコミュニケーションを取る手段が焼肉一手しかないのは、東教の信者だと確信を持たせる行動だ。そしてそれをネタによく加古に揶揄われ、三輪に呆れた視線を寄越されている。

 

 

『…ねー、流石の静雅さんでもそろそろ死んじゃうんじゃない?』

『というか救急班と一緒に待機してる寺島さんから「まだなのか」というクレームが凄いんですけど…』

 

 

 オペレーターである小佐野と氷見の言葉を聞いて、諏訪達は慌てて本部へと向かった。

 

 数十分前から静雅のために救急班を呼んで待機していたらしい雷蔵からグチグチと怒られる運命にあることを、まだ諏訪達は知らない。




 
Q.ヒカリちゃん男前だね?
 A.本人はノリノリ。怪我人静雅を言い訳にエネドラに文句を言う隙を与えなかった策士。全て善意で行っている。

Q.諏訪さんの立方体?
 A.この小説では明記されてないけど諏訪さんは立方体にちゃんとなってるし、そのネタが好きなのでイジっていくスタイル。仁礼がイジっても相手が女&歳下ということもあってお咎めはない。ただし、風間はしばかれる。

Q.エネドラに儚いって言葉は似合わないと思います。
 A.エネドラは儚い。異論は認める。しかし、容姿が容姿なだけに顔を隠したエネドラは辻に女だと勘違いされている。CVピッコロさんを聞けばきっと男だと気づくんだけどね。二宮隊の前では一言も話さなかったから…。

Q.堤の良心?
 A.そんなものを持ち合わせているがために彼は加古のチャーハンに殺されるのだ…。

Q.言葉足らずな天然隊長?
 A.好きなものが「才能のある人間」「ジンジャエール」「焼肉」というギャップしかない男。スーツを着ているため、めちゃくちゃお堅い人なのかと思いきや「ジャージだとコスプレ感があるから」という理由でスーツを選ぶ天然さ。スーツという一際異彩を放つ格好が一周まわってコスプレ感を醸し出しているが本人は一切気づいていない。もちろん、二宮隊のメンバーは「これ、コスプレっぽいな」と分かっていて着用しているし、敢えて二宮にも言っていない。犬飼に関しては面白がってすらいると思う。天然。
 犬飼という名高いバランサーがすぐ近くにいるため自分が言葉足らずなことも、天然なことも一切気がついていない。そもそも、20歳組が空気を読む人間に富んでいる(太刀川は除く&加古も敢えて除外)ので、気づける瞬間が少ない。
 諏訪隊+仁礼&エネドラという異色のチームに二宮隊で援護につけるとしたら、常人は迷わず犬飼一択するところだが、二宮はここであえて辻を選択する。二宮としては、笹森と辻が連携して敵を押し、後ろで諏訪が援護していくスタイルを想像しているようだ。だが二宮よ、辻は仁礼がいる限り本気はだせないぞ。決して二宮は辻をいじめたい訳ではなく、抜けている部分があるのだ。やけに威圧感があるため、いじめているように見えるだけ。本当は優しい人だと思う。多分。意外とお口が悪いだけ。そんなギャップに心を撃たれる。一生推していきたい。(なんかコイツだけ長くなったな)

Q.女性の前だと木偶の坊に変身するチームメイト?
 好きなものが恐竜、シュークリーム、バターどら焼きというギャップ萌えに富んだキャラクター。クールな外見故にモテるかと思いきやまさかの女性が苦手という新事実。辻がミラと戦っていたら時間稼ぎどころか即落ちしていた。ギャップ萌え。とことん推していきたい。初心故に彼は何度も女性に殺される。

Q.人見知りで烏丸の前だと人形?
 綺麗な前髪パッツンにふんわりとしたボブカットをした彼女も一見クールそうに見えるが人見知りが激しいらしい。激戦している烏丸に思いを寄せており、烏丸が目の前に現れると彼女はショートする。ギャップ萌え。とことん推していきたい。

Q.二宮隊のバランサー?
 女帝と形容して間違いない姉二人に鍛え上げられた陽キャ。社交的な性格で友達が多く見えるが、その友達の中に彼の心内を知っている人は多分いない。若干闇を持っているように思える。ギャップ萌え。それ故に雅人から「顔の表情と感情が一致しない」と一方的に嫌われているらしいが、兄の静雅とは良好の関係性を保てているようだ。「カゲのお兄さんからジュース奢って貰っちゃった♡」とわざわざ雅人を煽りに行き、ガチ喧嘩をしかけたという逸話がある。そんな彼をとことん推していきたい。

Q.雷蔵キレたんだ?
 A.そりゃ静雅が重症って聞いて清潔な布を渡すぐらいには彼も心配していたんですよ。すぐに処置が出来るように救護班まで呼んでるのに、諏訪達(アイツら)は一向に来る気配が見えない。新型に追われてたあ? 知らないよそんなこと!
 ちなみに雷蔵と共に風間も仁王立ちして待っていたため、諏訪達は本当に死にかけた


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第34話

ワートリの一番くじを25回引いた話を番外編としてあげようかと思ったけどやめた。
結論だけ言うとカゲも二宮も生駒もフィギュア&タペストリーで出てきてくれなかったし、風間隊のキーホルダーすら出なかった…。フィギュア&タペストリー&キーホルダー(簡単に言うと全部)に関しては推し以外が綺麗に出てきてくれたよ(血涙)。おのれ迅ンンン!!(三輪の気持ちが少しわかった)(迅だけタペストリー2個出た)


 

 目を覚ましたら知らない天井だった、そんな言葉から始まる物語はそう少なくない。凄く面白いと感じるラノベ小説も、在り来りに見えてしまうどこかで読んだかさえ思い出せない小説も、よくそんな始まり方だったような気がする。しかし、それは物語の世界だけだと思っていた。

 見慣れないシミひとつない白い天井に、白い壁。大きく広い部屋にポツンと自分だけがいる空間。薄水色の人生で数度しか来たことの無い薄い服に包まれた自分。自分も、左横にある小さなタンスもテレビもテーブルも全てが異質に見えた。

 

 部屋は暗く、カーテンは開いていた。窓から外を覗くと、外の世界は暗闇に包まれていた。どうやら夜らしい。カチリカチリと音をたてて日々の仕事をこなす掛け時計に視線をやれば深夜3時を指していた。一体、自分はどれほど寝ていたのだろう。

 

 この部屋には日付を知らせるものは何一つとして置いてなかった。掛け時計はアナログ式で日付は記されていない。カレンダーもなく、テレビをつけようにもリモコンが見つからないし、自分を繋ぐ点滴が邪魔であまり動けなかった。

 

 窓に映る自分は酷く無愛想で傷だらけだった。両腕を繋ぐ点滴に、グルグルと巻かれた包帯。顔の小さな切り傷は絆創膏やガーゼが貼ってある。さすがに窓に映る自分の顔色までは分からないが、きっとこの部屋の白さも相まって青白いに間違いない。

 

──まさか、生きていたとは。

 

 死にたがりでは無い。けれど、あそこで死ねていたのなら、きっと、悔いはなかった。楽しい人生だったと、そう言いきれたに違いない。

 

 窓の向こう側…つまるところ暗くて何も見えない外を眺めているとふと、ボーダー本部に行こうと思った。本当なら、今日は寝直して、朝イチで先生に身体を見てもらった方がいいのだろう。それに、きっと傷だらけのこの身体で本部に向かうのは少々キツイと自分でも思う。それでも、本当に何となくの思いつきだが行きたいと、そう思ってしまった。

 

 両腕に繋がれた点滴を乱雑に外し、ベッドから降りる。その時、腹の傷がかなり痛んだ。思わず服を捲って見てみると、腕と同様に包帯でグルグル巻きされていた。無理に動いたせいか白い包帯が赤色に染まっている。

 この身体じゃこの檻のような息の詰まる部屋から出ることすら叶わないだろう。小さくため息を吐こうとした時、ふとテーブルに視線が行った。

 

 綺麗に片付けてあるテーブルにはチリひとつ乗っていない。しかし、そんなテーブルの上にまるで自分を取れと言わんばかりに主張してくるモノがひとつ。

 トリガーだった。殆ど白しかないこの部屋で黒色の手のひらサイズのトリガーは、自分と同じぐらい異質に見えた。そしてそのトリガーを見つけた瞬間、確信した。

 この部屋から出れると。まだ起きて数十分すら経っていないのに、アレルギー並に嫌いになりそうな白と、ツンと鼻につく消毒液の臭いから解放されると思った。きっとこんなトリガーの使い方をしたら怒られてしまうのだろう。でも、そんなのは痛くも痒くもない。だって、怒られるのには慣れているから。

 

 「トリガー、オン」そうシンとした部屋で呟けば、瞬く間に自分の身体は換装されて行った。見慣れた風間隊の隊服にどうやらトリガーセットも普段のものに戻してあるらしい。カメレオンが使えたので、ラッキーだと思わず笑ってしまった。

 

 病院の外は酷く静かだった。それこそ、病院内で年中休まずずっと稼働し続けている謎の機械がない分、外の方が静かに感じた。そりゃ、そうだろう。ネイバーが三門市を襲ってきて多分、そこまで日が経っていないはずだ。それなのに、こんな夜中に歩き回っているなんてその人間の神経を疑ってしまう。きっと飲み屋街ですら人気はないだろう。それほどまでに、力を持たざる者にとってネイバーというものは脅威なのだ。

 

 瓦礫と化した建物の合間合間を縫って歩いてく。別にこんな足場の悪い所を通らずとも本部にはつく。しかし、この場所が三門病院からの最短ルートなのだ。どうせ、カメレオンを使っているため他人から視認されないのだ。これぐらいは許して欲しい。

 

 程なくして本部につき、そのままエレベーターで屋上まで上がって行った。本部に来たいと漠然と思っただけで、具体的な目的を持ってここに来たわけではない。ランク戦をしようにも、こんな夜中に人がいるはずがない。それこそ今本部にいる人間といえば、深夜のシフトに入っている部隊か、近界民侵攻の件で慌ただしく残業を重ねているだろう上層部、今日も今日とて社畜を極めていているエンジニア、少しの息抜きを兼ねて麻雀をしている見習いたくない大人たちぐらいだろう。もしかしたら、近界民侵攻で有耶無耶になったレポートを今更慌ただしく終わらせようと奮闘している馬鹿もいるかもしれない。ちなみに、それに関しては自業自得なので慈悲はない。

 

 一度も止まることはなく、エレベーターは屋上へと向かう。ピコンと音をたてて止まったエレベーターから降り、唯一の出入口から屋上へ入ると見晴らしのいい景色が現れた。警戒地区内に建てられた本部からは澄んだ空が見える。邪魔な閑散とした明かりもなく、月明かりと疎らな星が見えた。

 

 地面に座り込み、ただ星を眺める。本部に来たからと言って、屋上に来たからと言ってやることは無い。ただ、病室から出たかった。きっと今頃は病院内は慌ただしくなっているんじゃなかろうか。いや、まだ大丈夫かもしれない。サイドエフェクトを使えば容易に分かることだが、まだ完治出来ていないこの身体でサイドエフェクトを使う気にはなれなかった。最悪酔って吐くかもしれない。

 

 

「──本当に来たのか」

「!!!?」

 

 

 不意に唯一の入口であり出口が開いた。完全に気を抜いていた。入ってきたのは無表情の風間で、やれやれと言わんばかりに首を横に振っていた。

 

 

「迅が静雅はここに来るから居てやれと言っていたからずっと待っていたものの…まさか、こうも入れ違うと面白いものだな」

「……」

「ちなみにお前のトリガーも迅の入れ知恵だ」

「……」

「何を黙り込んでいる。何か喋ればいいだろう」

「……」

「病院を抜け出したことについては怒っていない。迅が()()()()()だと言っていたからな」

「……」

 

 

 

 静雅は何も言わない。ただただ、空を見つめるだけだ。隣に腰掛ける風間に目もくれることなく、静かに星を眺めていた。

 

 

「…言いたいことがあるのなら言え」

 

 

 無視を決め込んだ静雅に耐えきれなくなった風間が重圧を乗せながら言った。沸点が高いように見えて実は低い男だ。その重圧を感じ取ったのか、静雅はようやく口を開いた。

 

 

「──あそこで死ねていたら俺はヒーローだったんだろうな」

 

 

 果たして、その目は本当に空を映していたのだろうか?

 

 * * *

 

 影浦静雅は常に何かに対して憤っているように感じた。鋭い目付きをさらに釣り上げ、チッと舌打ちをする様は正しく「怒り」を表している。一体、彼は何に対して憤りを感じていたのだろう。それを静雅本人に聞いたことはなかったし、風間自身が聞いたところで理解できるとも思わなかった。

 

 静雅の隣は居心地が良かった。怖い風貌とは裏腹に静雅は優しい男だった。迷子の子供がいたら率先して助けに行くようなやつだし、年下にはたんと甘い。自分に物欲がないからと言って自隊の後輩や弟の同僚達に沢山のものを分け与えていた。その姿はまるで自分の欲望を押し付けているようにも見えた。

 

 時折、静雅は寂しそうな顔をする。それは風間隊の皆とわちゃわちゃしている時に一人一線を引いていた時だったり、親と兄弟が楽しそうに会話をしているのを眺めている時だったり。後輩がどうでもいいことで言い争っているのを見ている時だったり、人の首を刎ねる瞬間だったり。様々な場面でその表情を見た。それも気のせいだと勘違いしてしまうほどの一瞬である。

 

 聞いてみたいと思っていた。しかし、それを聞くと静雅が静雅じゃなくなってしまうような気もした。だから敢えて聞いていなかった。

 

 

『風間さん。静雅さんは今…とても不安定な状態だ。何かの狭間でゆらゆらと揺れ動いている。それから助けられるのは風間さんだけだよ。ずっと静雅さんの横で見てきた風間さんだけ。…静雅さんを起こしてあげて。じゃないと、静雅さんは──居なくなっちゃう』

 

 

 悲しそうな顔でそう嘆願する後輩を思い出した。言われなくても助ける、そう返した時のアイツはどれほどに破顔していただろうか。絶対、救ってね。そう言って、ひと袋置いていったぼんち揚は静雅と共に食べようと隊室に置いてある。菊地原に食べられないうちに隠しとかなくてはとふと風間は思った。

 

 

「──あそこで死ねていたら俺はヒーローだったんだろうな」

 

 

 風間は頭を大きく振りかぶり──静雅のおでこに自分自身の頭を打ち付けた。ゴチィィンとぶつかる音がして、静雅が涙目で「何すんだ!!」と風間の胸ぐらを掴む。正直、トリオン体である静雅にダメージはそこまでいってない。生身である風間の方が重症だ。

 

 

「誰が死ねば良かっただって?」

 

 

 風間の赤い赤い双眼はまるで死神の目のようだ。静雅はそう感じた。

 

 

「お前を助けるために仁礼は捕虜を回収しに行ったんだぞ。お前が助かって欲しいと雷蔵はわざわざ諏訪達に清潔な布を預けた。お前を助けるためにこんなにも迅は尽力していると言うのに」

 

「──お前自身は死にたいと、そう言っているのか」

 

 

 風間の怒りに静雅は困惑していた。

 

 だって俺は、親に見捨てられた子供(ガキ)

──本当に?

 

 俺は何かに跳ねられて死んだ筈だ

──それはいつ?

 

 俺に兄弟なんて居ない

──居たでしょう?

 

 俺に友達なんて居ない

──目の前に居る彼は何?

 

 ネイバーなんて知らない

──今まであなたが戦ってきた怪物は?

 

 トリガーなんて知らない

──あなたが握りしめているものは?

 

 トリオンなんて知らない

──あなたは今、生身じゃないでしょう?

 

 俺は、俺は、俺は、俺は──

──俺は?

 

 

「落ち着け。息を吸え。そしてゆっくりと吐き出すんだ。俺の呼吸に合わせろ」

 

 

 ぐるぐると視界が回る感覚がした。どうやら考えがドツボにハマったせいで静雅は息をするのを忘れていたらしい。

 風間は静雅の頬を両手で掴むとこう問うた。

 

 

「俺は誰だ」

「──かざま、そうや」

「お前は誰だ」

「──かげうら…しずか」

「お前はなんの為に戦う。なんの為にその命を張ろうとした」

「…なんの、ために…」

「ああ。お前は何故ボーダーに入ろうと思った」

「……やさしかった、から。周りのみんなは、暖かくて、心地よくて、ずっと続けばいい。そう、思った。護りたいと思ったから…」

「何だ、忘れてないじゃないか」

 

 

 そう嘯く風間の声色は優しい声だった。ウロウロと視線を動かせ、観念したように風間の瞳を見る静雅はまるで迷子の少年のよう。釣り上げた目尻を落とし、子供に言い聞かせるように風間は言う。

 

 

「静雅はもう独りじゃない。忘れるな。静雅の周りには俺や、菊地原、歌川、三上…それ以上に沢山の人間がお前の無事を喜んでくれている」

「……」

「勝手に居なくなろうとするな。静雅が居なくなったら俺はとてつもなく悲しい。何故なら静雅は俺の唯一無二の親友だからだ」

「ゆいいつ、むに」

「ああ。かけがえのない親友だ」

 

 

 ポロポロと涙を流す静雅を風間は見ていないふりをした。いつしか、進が居なくなったらあの時に静雅がやってくれたように。

 

 

「暫くしたらランク戦でもしよう。俺もお前も、まだまだ弱い」

 

 

 今度こそ煌めく星空を見ながらそう、言った。まだまだ夜は長い。

 

 尚、病院を抜け出した静雅は瞬くスピードで連絡の行った忍田に見つかり、強制連行されたことは敢えて記述しておこうと思う。

 

 

「え゙っ、なんで風間さんおでこ腫れてるの…」

「こ、氷持ってきます!!」

「…静雅さんと喧嘩でもされました?」

「トリオン体の静雅に本気で頭突きしてやった」

「「……」」

 




 



  誰かが言った。

──他人との「繋がり」がないあの子に課せられたサイドエフェクトなんて呪いよね
──だってあの子ずっとひとりじゃない、と





  彼は言った。

──ひとりじゃないよ。静雅さんは大切な仲間だ。居てもらわないと困る
──それにもう、静雅さんは呪いだなんて思わない筈だ。だって静雅さんにはおれ達がいるんだから
──人はひとりじゃ生きられないんだよ。支え合ってなんぼだ
──大丈夫、もう過去(・・)なんて忘れていいんだよ

──おれのサイドエフェクトがそう言っている



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第35話

 あ…ありのまま、今起こったことを話すぜ!
な……何を言っているのか分からねーと思うがおれも、何をされたのか分からなかった。……頭がどうにかなりそうだった…。催眠術だとか超能力だとかそんなチャチャなもんじゃあ断じてねえ。だってよォ、おれはハーメルンを開こうとしたんだッ! なのに、何故pixivを開いていたんだッ!!? これはよォ、誰の仕業なんだ…おれは馬鹿だからよォ、兄貴に面倒みてもらわねーと分からねーんだ。推しは全員死んで逝ったんだッ!!

 まあ、簡単に言うとJOJOにハマってました。


 

 病院に強制送還された次の日の朝、静雅は鬼と形容しても間違いなしの看護婦長にそれはそれは怒られた。流石「長」をつけるだけの実力はある。40代ぐらいのふくよかなおばちゃんだった。以下、抜粋。

 

 

「あなた!! 自分がどれだけ重症患者か分かってないんですか!? 一時期は本当に生死をさ迷っていたんですよ! それに2週間も目を覚まさなかったんです。そんな身体で出歩くなんて──トリガーを使用したから問題ない? 何を言っているんですか!! 私はねぇ、ボーダーのことなんて全然詳しくありませんよ。嵐山隊ぐらいしか知らないただの一般人です。でもね、医療に関わる端くれとして分かるんですよ。そんなボロボロの身体で無茶しても何もいいことなんてないんですよ。そのトリガーがとやらがどれだけの力を発揮したとしても、あなたの怪我をなかったことには出来ないでしょう。出来るんですか、ええ!! ほら、出来ないじゃないですか! なのに何を偉そうに。それに、そんな不機嫌そうな顔をしたってお説教は止めませんからね! だいたい自分の怪我の具合も分からない人に街が──」

 

 とにかく、それはもう長かった。約1時間に渡る説教は中々看護婦長が帰ってこないと顔を出した医師が止めてくれるまで続いた。それでも尚、止まることを知らない看護婦長は医師が呼んだ応援(他の看護婦達)に引き摺られてその場を退場することとなる。

 

 そんな引き摺られて退場して行った看護婦長達とれ替わる形で風間を除く風間隊の面々が病室に入ってきた。また脱走されたらたまったもんじゃないと拘束される形で寝そべっている静雅を見て菊地原が「うわ…」と声を漏らす。歌川と三上は苦笑いを見せた。

 

 

「風間は?」

「静雅さんの脱走を手伝った、見つけたのに病院に連れ戻さなかった等々の理由により(テイ)の反省文を書いてます」

「風間さんって意外とお堅い部分あるから、自主的らしいですよ」

「うえ、マジか」

「ちなみに巻き込まれて迅さんも反省文書いてます」

「静雅さんは書かないんですか? 脱走した張本人でしょ」

「書かねーよ。誰がそんな面倒なことすっか」

 

 

 ちなみに風間隊の面々は誰一人として引き摺られて退場した看護婦長を話題には出さない。どうやら見なかったこととして処理するつもりらしい。

 

 

「それにしても静雅さんはたんこぶ作ってないんですね」

「あ?」

「風間さんはたんこぶ作って帰ってきましたよ」

「どれだけ石頭なんですか」

「たんこぶ作った本人よりも菊地原くんの方が痛がってたよね」

「ねえ、余計なことは言わなくていいから」

 

 

 三上がからかうように言うと菊地原は口を尖らせながらぶうぶうと文句を言う。状況が理解出来ていない静雅が首を傾げると歌川が「風間さん、医務室に行かないでうちで手当したんです」と付け足した。それを聞いてなるほど…と静雅は頷く。

 

 

「でも、意外と元気そうで良かったです」

「一時期は本当に危ない状態だったらしいですから…」

「カゲさんとか心ここにあらずってカンジだったし」

 

 

 「犬飼先輩を前にしても舌打ちもしなければ罵倒もしないって荒船先輩が気味悪がってました」とは歌川談である。それは中々に重症だ。静雅はまだ家族とは会えていないが、風間から聞いた話では小難しいなんとか手術をしている時、雅人は心配そうにうろちょろうろちょろとそこらを歩き回っていたらしい。家族の中でも一番落ち着きが無く、徹夜してまでも静雅が目を覚ますのを待ってたりと結構心配をしてくれていたらしい。

 

 

「でも影浦先輩もやっぱり静雅さんの弟ですよね。ヒカリちゃんの独断行動を怒るだけ怒ったあと、小さく「本当に生きててよかった」って力の抜けた声で言った時は私もなんかうるっと来ちゃいました」

「ていうか泣いてたじゃん。ゾエさんも号泣してたし」

「仁礼さんも号泣だったよなあ」

「ユズルくんも涙目だったし」

 

 

 どうやらヒカリのことは静雅が寝ている間に雅人達が灸を据えてくれたらしい。雅人達が言ってくれたのなら自分は何もヒカリに言うまいと念頭に置き「そうか」とだけ言った。

 

 

「元気な顔を見れて良かったんですが、今日はそれだけのために来たんじゃないんです」

「あ? じゃあ何しに来たんだよ」

「論功行賞ですよ。要するにボーナスですって」

「ふーん」

「興味なさそうですけど、静雅さんの名前も入ってるから一応教えとけって風間さんに念を押されてるんですよ。聞き流してくれていいですから、小耳ぐらいには挟んどいてください」

 

 

 静雅があまりにも金に興味がないので見かねた菊地原が「もう少し金の使い方を〜」と金のありがたみについて語り始める。そんな菊地原を遮るようにして三上が論功行賞を言っていく。ちなみに、静雅は特級戦功らしく風間隊は一級戦功なのだそうだ。そして意外にも諏訪隊も一級戦功なのだと言う。

 

 

 

「まあ、捕虜を本部まで送り届けてますから当たり前ですよね」

「私は特級でもいいと思うんですけど」

「上には上の考えがあるんでしょ」

 

 

 ちなみに、独断行動をしたヒカリは二級戦功を貰えたのだとか。独断行動とはいえ、ヒカリは捕虜扱いとなったエネドラと中々に仲がよろしくなり、今では開発局で雷蔵を入れてゲームをする仲だという。そのため、まあ戦功をあげてもいいんじゃないかと主に鬼怒田と忍田が推薦したらしい。ちなみにエネドラの中の「仲間」という定義がミラの一件で壊れたのか、今回の遠征メンバーについてゲームで一勝ちにつき1個漏らして行っているとか。エネドラ自身もこの国のゲームに疎いため、ヒカリや雷蔵で勝てるようで頼みの綱国近を出すまでには至っていないそうだ。

 

 

「そういや、玉狛にネイバーが一人増えてるけどお前ら何か知ってんのか」

 

 

 静雅は捕虜で思い出した。サイドエフェクトで感じ取った玉狛にいるネイバー。玉狛という時点で静雅は警戒していない。どうせ迅が何かを画策しているのだろう。

 

 

「さあ。僕達は何も」

「風間さんなら知ってると思うんですけど」

「玉狛にも捕虜がいる、ってことですかね…」

「まあ、玉狛には迅もいるしいざって時は肉体の信用が出来る木崎も居る。何とかなるだろ」

「…木崎さんに対する肉体の信用度……」

 

 

 ちなみに、まだ静雅は1人目のネイバーにすら会えていない。迅からは「面白いやつだから時間ある時に会ってあげて下さいよ」と太鼓判を貰っているのだが、中々にその時間が作れていない。というか会うのが面倒くさいとも思っている。あっちから会いに来るならまだしも、なぜ俺から会いに行かにゃならんのだ、勿論それは口に出していない。これを口にだしたら風間が強制連行で空閑の元へ連れていくか、迅が空閑を連れてくるだろう。

 

 

「そういえばボーダー、記者会見したんですよ!」

「…懲りねぇ奴らだな」

「誰も静雅さんをもう1回記者会見に出そうとかしてませんから。終わった話だし」

「あれは三雲くんが凄かったよなあ」

 

 

 歌川の言う「三雲」が静雅にはピンと来ない。誰だソイツ。そんな奴居たか…?と記憶を探るが、静雅の頭の中には忌々しい太刀川や五月蝿い生駒、その他三馬鹿ぐらいしか出てこない。あ、シスコンのやつか…?

 

 

「三雲くんは風間さんに一勝した人ですよ」

「ああ、ああ…ソイツか」

「…もうちょっと他人に興味持ちましょうよ」

 

 

 確かに少し前、風間がB級の誰かに負けたと言うのを太刀川に聞き、風間を揶揄った記憶が静雅にはあった。誰に負けたのかまでは聞いていなかったし、聞いていたとしても記憶していないだろう。何故なら、興味のない他人までは静雅は覚えないからである。

 

 

「ちなみにシスコンのやつは?」

「それは三輪くんだと思います」

「三輪先輩に殺されますよ」

「一度やられてきた方が正常な頭に戻るんじゃないの」

 

 

 シスコンで通じる三輪のシスコンぶりは見ていて晴れ晴れとする。あそこまでネイバー絶許を掲げるのは些か心配にもなってくるが…まあ、あの手のやつは無駄に口を出しても聞き入れはしないだろうし、逆上してくるのがオチだ。関わらないのが賢明な判断だろうし、普通に面倒くさい。

 

 

「三雲くん面白いんですよ! 遠征のことバラしちゃったんです!!」

「…組織拡大もいいことだけじゃねぇよな」

 

 

 秘密を知り過ぎるとどこからかその秘密は漏れ出すものである。やはり馬鹿なやつはいる、ということだろう。

 

 

「でもまあ、色々と流れは変わったンか…。じゃあ俺が遠征に行かねェ未来は──」

「ありませんよそんな未来」

「それはないと思います」

「何がなんでも遠征部隊に入っちゃうんじゃないですかね…」

 

 

 被せるようにして言われた否定の言葉に静雅は項垂れた。静雅のサイドエフェクトは遠征で重宝される。しかし、その代償は重いため、静雅は遠征に行きたがらない。いつも遠征が近づくと雲隠れをしようとするため、風間隊の面々は苦労しているのだ。

 

 

「チッ。もっと頑張れや三雲ォ…!!」

「「「(んな無茶な…)」」」

 

 

 なんとも言えない雰囲気が病室を支配する。微妙な間にどうしたものかと歌川や三上が悩んでいると、病室のドアがノックされた。

 

 

「誰だ」

「俺だよ」

 

 

 病室に顔を出したのは静雅の双子の兄だった。手元には着替えなどを入れたらしきバックを持っている。兄は静雅の顔色を見ると安心したように息を吐いた。

 

 

「病院を抜け出すぐらいだから元気だとは思ってたけど、うん。顔色良さそうでよかった」

「雅人は」

「朝、静雅が目を覚ました連絡来たからそれ伝えてとりあえず寝かせた。目ェ覚ましたよって伝えたら安心したらしくて自分から寝に行ったよ」

 

 

 「ああ、抜け出したことは伝えてないよ。雅人にも母さんにも」そう兄は言った。父の名は出していないので、父には伝えたのだろう。

 

 

「三上ちゃんも歌川くんも菊地原くんもおはよう。わざわざありがとね、こんな朝早くから」

「いえいえ、全然!! 私たちが来たくて来てるだけですし!!」

「逆にこんな長時間お邪魔してすみません」

「僕たちそろそろ帰りますよ」

「え? いいのに。もっとゆっくりしていきなよ」

 

 

 兄はお見舞いのフルーツを片手に言うが、3人はそれを拒否し「お大事に」と言って病室を出て行ってしまった。去っていく3人の後ろ姿を見届けた後、兄は言う。

 

 

「あの3人と蒼也。後…迅くんに諏訪くん、木崎くん、緑川くん、米屋くん、出水くんに18歳ズ。たくさんの人達がお前のお見舞い来てくれたんだ。元気になったらちゃんと礼を言いにいけ」

「んなこたぁ言われんでも分かってるわ」

「…どうだか」

 

 

 「静雅は照れ屋だからなあ」と兄は笑う。

 兄は近くにあった椅子に腰がけると「りんご食べるだろ?」と皮を剥き始めていく。

 

 

「俺はさ、お前たちがボーダーに入ったこと良かったと思ってるよ。蒼也しか友達のいなかった静雅に、ゾエしか友達のいなかった雅人。お前たちの二人の友好関係が広がってくれて嬉しい」

 

 

 サクサクとりんごの切れる音がする。

 

 

「でもさ、今回みたいなことが続くのであれば俺はボーダーを辞めて欲しいって思うよ。機密事項とかがあるんだろ、蒼也からも言われた。でも進む道によってはお前が死ぬ未来があるのかもしれないとも言われたよ」

「……」

「でもさあ、俺や父さんがお前らにボーダー辞めろつっても話を聞くとも思えねぇんだよなあ。だからさ、覚えとけよ静雅」

 

「──もし、ボーダーの戦いでお前が命を落としたとして、お前の死に逝くときお前が晴れやかな心情だったとしても。遺された俺たちはお前を思い本当に晴れやかになることは無いと」

 

 

 「それだけは覚えておけよ」そう言って兄はりんごをひとかじりした。

 

 

 





 












PS.前書きだけを見たら形兆兄貴が推しみたいに見えるけど別に違うからねッ!! オ…オレ…、この小説を完結まで持ち込んだら学校に通うよ。更新速度遅えーのに完結出来るのかって他のやつにバカにされるのも結構いいのかもな…。

ちなみに私の最推しはイギーという犬です。最初のしわくちゃな顔も、後のキリッとした顔もどちらも好き。いつか私は彼と結婚します。ペットショップ(天敵)とヴァニラ・アイス(変態)は許さない。ディアボロはジョルノに凄い仕打ちを受けているのでギリ許します。ナランチャはあくまで二推し。

太刀川、おたおめ! 君のおたおめ閑話はありません


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